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[31959] 赤い屋根の家〜黒い記憶【ホラー】
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:96ea29d9
Date: 2012/03/18 22:54
※このお話はフィクションです。実在する人物・団体・事件とは関係なく、全て架空のものです。





 赤い屋根の家を買った。
 少々年代物のその家は中々趣があり、幼い頃に見た人形のお家のようで気に入っていた。

 しかし暮らし始めてみるとおかしな事に気づく。
 二階の廊下の奥の部屋。そこがどうも外観より狭い気がする。

 もしかして隠し部屋でもあるのだろうか。
 この古めかしい家ならありえそうだと、少年のように無邪気に探してみる。

 廊下の突き当たりの壁紙をはがしてみると、ドアノブの無い扉が封印されていた。
 もはやテンションは天頂に達し、躊躇いもせずに扉を開け放つ。

 高揚した気分は一気で冷えて体を固めた。

 扉の中は暗かった。
 窓は一つも無く、電灯のあるはずの天井には、代わりに縄が一本ぶらぶらと揺れている。
 床には何かが這いずったような跡があり、扉の内側には無数のひっかき傷。どちらの跡も茶色く染まっていた。

 それが何の跡か、考えずとも理解する。
 異様な光景に止まる思考。様々な臭いの混じり合った異臭に体までもが異常を訴える。

 それでも部屋を観察してしまうのは、くだらない好奇心か。そして見つけたのは、茶色い跡に混じった文字らしきもの。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
『おとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさん』
『出して出して出して出して出して』
『もうしませんもうしませんもうしませんもうしません』
『許して許して許して許して許して』
『助けて助けて助けて助けて助けて』

 部屋中に書かれた茶色い文字に、魅入られたように足を踏み出す。
 ぐにゃりとした何かを踏み、ずるりと何か動く音がした。

「……たす……けて」

 かすれた声がして、何かがすがりついてきて、そこで意識を失った。





「……で?」

 心底つまらないといった顔をして、私はそう聞いた。
 すると机の向こうに座った幼なじみのユウヤは、大袈裟に手を上げた体勢のまま固まる。肌寒い中であるにもかかわらず、その額にタラリと汗が流れた。

「……怖くなかった今の話?」
「実際に遭遇したら怖そうだけど」

 要するにほとんど怖くなかった。私がそう言うと対面に座るユウヤはガクリとうなだれてみせる。
 教室に残り今のやり取りを見ていた何人かも、やっぱり駄目だったかと苦笑していた。

「やっぱルナちゃんは強いよね」
「人形姫は伊達じゃないってか」

 人形姫。
 そう呼ばれて私は内心で苛立つ。

 私の代名詞となっているあだ名には、二つの意味がある。
 全体的にミニマムで、整った容姿がお人形みたいだという、一応の誉め言葉。
 そして表情がまったく変わらない鉄面皮を指して、人形みたいだという忌み言葉。

 後者の意味は勿論、身長にコンプレックスがある私にとっては、前者の意味でも愉快なものではない。

「ルナだって取り乱すことはあるんだぞ。ゴキブリが出たら騒いで……いや最近は速攻で叩き潰してたか。無表情というかゴミを見るような目で」

 とりあえず、フォローを入れようとして盛大に失敗した幼なじみにデコピンをしておいた。





「ルナが可愛くなーい。いや、すんごい可愛いんだけど可愛くない」

 学校からの帰り道。よく分からない不満を言いながら追従してくるユウヤ。
 中学の頃からすくすくと伸びやがったユウヤの背は、私と並ぶとお互いの低さと高さが際立ってとても同い年に見えない。
 私の身長はユウヤに吸い取られたに違いない。寝る前に呪っておこう。

「何でついてきてるの? 部活は?」
「休んだ。最近不審者が居たって先生言ってただろ。ルナ一人で帰せるかよ」
「……過保護」
「そりゃ過保護にもなるって。ルナ一回誘拐されてんだぞ」

 呆れて言った私に、ユウヤは少し怒ったような口調で答えた。

 確かに私は、小学生の頃に誘拐されたことがある。
 犯人は当時何人もの女子児童を誘拐、殺害した変質者。一歩間違えれば、私の命も無かっただろう。
 だけど私には、誘拐された記憶がない。帰宅中に意識を失い、気づいたら病院だった。
 そのおかげで特にトラウマなどは無いのだけど、そんな体験をしておいて警戒心が薄い私がユウヤは心配でたまらないらしい。

「私もう歳16」
「別の意味で危ないじゃん。いや、見た目小学生だからやっぱ危ないじゃん」

 人のコンプレックスを突いてくる不届き者に蹴りをいれる。しかし体格差のせいか、ユウヤは痛くも痒くもないらしく、落ち着けと猫でもあやすみたいに頭に手をおいてくる。
 その行動にまた腹が立ったので、効かないと分かりつつもお腹を一発殴っておいた。



[31959] 一章 追いかける影
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:08a25c8c
Date: 2012/03/18 22:54
 暗い暗い部屋の中、車椅子に座った少女が一人。

「かわいいかわいいあなた。そのかわいい服をちょうだい」

 少女はそう言うと私の服を剥ぎ取って纏った。

「かわいいかわいいあなた。そのかわいい髪をちょうだい」

 少女はそう言うと、私の髪を引きちぎって頭にかぶった。

「かわいいかわいいあなた。そのかわいいお鼻をちょうだい」

 少女はそう言うと、私の鼻を切り取って顔に貼り付けた。

「かわいいかわいいあなた。そのかわいいお口をちょうだい」

 少女はそう言うと、私の口を奪い取った。

「かわいいかわいいあなた。そのかわいい目はいらないわ」

 少女はそう言うと、二つの玉を床に投げ捨てた。





「……において、不審な男性の目撃があいついでいます。生徒は速やかに下校し、遅くなる場合は保護者等に……」

 放課後になるなり始まった校内放送を聞き流し、私は「速やかに」帰宅する準備をしていた。
 それは別に不審者に気をつける意識からなどでは無く、単に学校でやることがないから。空手部エースの幼なじみとは違って、私は特に取り柄のない、平々凡々な女子高生なのだ。

「帰ろうぜルナ」

 そしてエースのはずな幼なじみは、今日も部活をさぼる気らしい。過保護にも程がある。

「私はいいから、部活行って」
「ルナより大切な事なんて無い」

 聞きようによっては告白とも取れる言葉に、感動なんて湧かずにため息がもれた。
 そういうのは恋人に言ってほしい。

「心配しすぎ。まだ日がある内から、そんな危険なんてないから」
「ルナは危機感薄すぎなんだよ。せめてスタンガンくらい持ち歩け」
「『せめて』の使い方がおかしい」

 ドラマならともかく、実際に護身用にスタンガンを持ち歩く人なんて居るのだろうか。下手に反撃するくらいなら、防犯ブザーでもならした方が良さそうだけど。

「とにかく、私は大丈夫だから。ユウヤは部活にちゃんと出て」

 そう言い聞かせると、納得いってない様子のユウヤを置いて教室を出た。

 ――傾き始めた太陽は、まだ山よりも高い位置にあった。





 閑静な住宅街の中を自宅目指して歩く。コンパスの短い足は本当に子供みたいで、我ながら歩くのが遅い。
 小学生みたいな幼い身体。少なくとも五年前までは人並みに育っていた体は、あの日を境にピタリと成長を止めた。

 原因は不明。記憶はなくとも、あの事件が心の傷となり、成長を阻害しているのでは。というのが医者の見解。
 幼いから誘拐されたのに、そのせいで幼いまま。なんて皮肉だろう。

 ユウヤが心配するのも当然。私の成長しない体は、私の無自覚な声にならない悲鳴。少なくともユウヤにはそう見えているはず。
 だけどユウヤに甘えてばかりではいられない。例えこの体が成長しなくても、いつか私は大人になり、一人で生きなくてはならないのだから。

「……?」

 ふと違和感を覚え足を止める。
 後ろから足音。いや、それは本当に足音なのだろうか。

 ずるり。べた。
 ずるり。べた。

 重たい何かを引きずるみたいに、耳障りな音は規則的な周期で近づいてくる。

 ずるり。べた。
 ずるり。べた。

 引きずられている何か。それは水を含んだ布みたいな音をたてる何か。
 山に隠れ始めた太陽に照らされて、私の倍はある影法師が足元に顔を見せる。

「っ!?」

 悲鳴をあげるのも忘れて、私は駆け出した。
 見なくても確信する。不審者なんて曖昧なものじゃない。私にとって害となるそれが追いかけてくる。

 ずる。べちゃ。
 ずる。べちゃ。

 背後に迫る影は速度を増し、地面に叩きつけられる何かの音の激しさも増す。

 知っている。私はこの音を知っている。
 あの日、あの家、あの部屋で、確かに私は聞いた。

 だけどそんなはずはない。
 あの日、あの時、あの男は、あの家とともに炎に呑まれて消えたはずなのだから。

 ずる。べちゃ。
 ずる。べちゃ。

 いくら必死に走っても、音から離れることができない。小さな体が恨めしい。
 息をつく暇もなく、渇いた喉は痛みすら訴え始めた。
 住宅街を抜け、田んぼに囲まれた道に出ても私は走り続ける。どんどん人気の無い方へと向かってしまっているのに、他に逃げ道が無くて焦りが増していく。
 足元にのびた影は次第に長くなっていき、音がすぐ後にまで迫る。

――駄目。捕まったら私は……


「ルナ!」

 突然聞き慣れた声がして、私は我に帰った。

「……ユウヤ?」

 目の前にはどこか焦っている様子のユウヤ。片膝をついて私の顔をのぞき込んでいた。

「……あれ?」
「あれじゃないだろ。なんで道の真ん中で立ったまま寝かけてんだよ」
「……?」

 ユウヤの言っていることの意味が分からず、現状を確認するために辺りを見渡す。
 そこは薄暗い閑静な住宅街。駆け抜けたはずの場所に居た。
 何故私はここにいるのだろう。そもそも何故私はここを走り抜けたのだろう。

「マジで大丈夫かルナ? どっか悪いとか」
「……大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけだから」

 心配そうなユウヤにそう返す。実際おかしな事など何もなかったのだから。

 ――傾いた太陽は、山の向こうに姿を消していた。



[31959] 二章・赤い屋根
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:da518c41
Date: 2012/03/21 09:51
 最初に認識したのは、ギシギシと何かが軋む音だった。
 目覚めたばかりの体は、神経が麻痺したみたいに反応が鈍く、未だ自分が夢の中にいるのではと錯覚しそうになる。
 ようやく瞼を開けば、見知らぬ天井が見えた。最初は黒く見えたそれは、どうやら赤色だったらしく、目が慣れると天蓋だということに気付く。

「……あれ?」

 疑問の声が漏れた。
 起き上がって見渡せば、そこは冗談みたいに広い寝室らしき部屋。見知らぬその部屋に何故居るのかと思ったが、そもそも私の見知った部屋とはどのようなものだったか。

 ――そもそも私は誰だっただろうか。

「ルナ……?」

 誰かが私をそう呼んでいたのを覚えている。だけどやはりこの部屋の事は覚えていない。
 赤い屋根の家。
 そんな単語が浮かんできて、すぐに首を振った。
 五年前に私が連れ込まれたその屋敷は、私が助け出されたその時に焼け落ちたのだから。

「……五年前?」

 鮮明になっていく記憶。その中でもこの五年間が曖昧なのは何故だろう。
 もしかしてこの五年間は夢で、今私は誘拐されている最中なのでは。そう考えてすぐに否定する。
 あれから五年経ったのは間違いない。

 とりあえず情報を得ようと部屋を歩き回る。
 鉄格子みたいな窓に近寄ると、暗い闇に包まれた外が見えた。他の家の灯りはもちろん星の光も見えず、ガラスが黒く塗られているのではと疑いたくなってくる。

 今は夜らしい。
 ――私があれに捕まったのは夕方だから、夜なのは何もおかしくない。

 とりあえず外に出よう。
 誘拐されたのなら、逃げだすべきだ。

「……駄目」

 やたらと頑丈そうな木のドアはびくともしなかった。鍵がかかっているのかと思ったけれど、鍵らしきものは見当たらない。
 せめて鍵穴は無いだろうか。そう思いドアを観察するけれど、暗くてよく見えない。
 そんな私の不満に応えるように、部屋に突然灯りがついた。

「!?」

 驚いて振り返ると、部屋の片隅の机の上、古びたランプに火が揺らいでいた。
 緑色のスマートなフォルムのランプ。自己主張するように火を揺らすランプだが、そのそばに人は居ない。明るくなった室内を見渡したけれど、やはり誰も居ない。
 誰も居ないはずなのに、言い知れぬ不安に苛まれる。今この瞬間にも、誰かが私を見ている。そんな感覚が消えない。

「……」

 重い空気をかき分けるように、ランプへと歩く。
 ランプのそばには、黒い装丁の本が置かれていた。百科事典みたいに分厚い本を開くと、そこには何も書かれておらず、白い紙が延々と続いていた。
 それでも頁をめくっていくと、一番最初の頁にだけ、お手本みたいに綺麗な字が並んでいた。
 そこにはどうやら私と同じ境遇だったらしい書き手の心境が、日記のような形式で書かれていた。





 ガチっと音がして私は黒い日記から視線を放し背後を振り向いた。
 そこには分厚いドア。そばにいるのはランプに照らされて浮かび上がる私の影だけで、他には誰も居ない。

「……」

 ドアの向こうに誰か居るのかもしれない。そう考えて私は息を潜める。

 どれくらいそうしていただろうか。
 ドアが開くことはなく、誰かが入ってくることもない。ただ自分の影と見つめ合い、時間だけが過ぎていく。

 このままでは埒があかない。
 私は意を決すると足を踏み出す。踏みしめた板張りの床がミシリと鳴り、影が驚いたように揺れるのが目に入る。

 ミシリ。
 ミシリ。

 嫌がらせのように鳴く床。それを踏み越えてドアへと近づく。
 ドアは何事もなかったかのように立ちはだかっている。その向こうに誰か居る気がして、知らず知らず息を殺す。

 もしかしたらと思いドアに手を伸ばし、ノブを押した瞬間背筋に何か走った。

――あいてる。

 鍵があいたならば外に出られる。しかしランプの件といい、明らかに私は誰かに行動を促されている。
 誰が鍵をあけたのか。この家の住人か。それとも別の誰か。そもそも、この静まり返った家の中に私以外の誰かは居るのだろうか。
 居たとしても、それは私にとって害にならないものだろうか。

「……」

 いつの間にか口内にたまっていた唾を飲み込む。
 ここに居ても何も分からない。とにかく外に出なくては。そう決意すると私はドアをゆっくりと開く。

 ドアの向こうには誰もおらず、闇に包まれた赤い廊下が続いていた。



[31959] 黒い日記
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:5fdb16cf
Date: 2012/03/25 12:40

 ここは何処だろう。
 お姫様が寝ているみたいな大きなベッド。ランプで照らされた部屋は魔女の家みたいな不気味な色。

 ここに来るまでの記憶がない。
 気を失った私を誰かがはこんでくれた?
 それとも誘拐?

 お父さんは心配してるかな。
 お母さんは怒ってないかな。

 早くお家に帰らなきゃ。
 早くお家に帰らなきゃ。

 窓の外が見えない。
 最初は夜なのかと思ったけど、いくらたっても外の闇は晴れない。
 まるで世界が終わって、私だけが取り残されたよう。

 窓は開かない。椅子で破ろうとしたけど、跳ね返って手を痛めた。
 なんて頑丈な窓。ガラスに罅一つ入らない。

 開かないドアは不思議な扉。
 開かないと思ったら勝手に開いて、いつの間にかまた閉まってる。

 何とか玄関にたどり着いたけれど、外には出られなかった。
 出ることはできたけれど、あの先には進んではいけない。進んだら戻れなくなる。

 仕方なく家の中を探る。
 時折物音がするけど誰も居ない。
 閉まっていたはずの鍵が開いていたり、物が移動していたりするけれど誰も居ない。

 この家の中には私以外誰も居ない。
 この家には誰も居ない。


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