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[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ 【完結】
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2013/06/25 23:43
初投稿 2012/07/16

※未来日記・HELLSING【CROSS FIRE】・BLACKLAGOON のクロス作品です。
※BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~ の外伝的ストーリーです。











20XX年 中東


 私は、その日、家族で市場にと訪れていた。多くのテントが張り巡らされ、暑い日差しを遮りながら、青い空の下、窮屈そうに並ぶ店同士の間を縫うように、多くの人々が所狭しと流れ込んでいく。中東諸国の市場は日本よりも活気があり、その日に採れた野菜や魚などを店にと広げ、そこを多くの人が行き交いしていた。私も父親、母親と共に、その珍しい色をした魚や、野菜を目を輝かせながら見回っていた。父親の転勤で、訪れたこの異国の地で。私は、日本では知り得なかった新しい経験を小さな身で感じていた。

「みねね、勝手に走っていったら危ないわよ」
「そうだぞ、みねね」

 母親の声が聞こえる。
 私は笑顔で振り返り母親と父親に向かって手を振る。
 二人は笑顔で私を見つめていた。



 大きな音と共に、私の視界が揺れる。



 爆音とともに舞い上がった、目の前の人影。私の前で、炎と煙が舞い上がり、私を笑顔で見ていた両親の体は、そのまま宙にと舞い上がって、地面にと突き刺さる。爆発は、周りのテントを燃やし、建物を吹き飛ばす。人がコンクリートに顔を突っ込み、手足を吹き飛ばされ、血が吹き上がり、悲鳴があがる。私は、小さな体を両手で支えながら、ゆっくりと体を起こす。私は、周りから聞こえる悲鳴と、うめき声を聞いた。私は両足で立ち上がり、先程までいた自分の両親を探す。

「ママ?パパ?」

 私は、ふらつきながら、歩いていく。
 そこで、私は見つけた。

 全身を血まみれにし、体の一部を欠損している両親を。
 何が起きたのかわからなかった私は、倒れている両親をゆすり、起こそうとした。だが、もう両親は動くことはなかった。わずか数分の出来事で市場は地獄とかし、多くの命が容易く奪われた。


『……昨日、イスラエルの市場で起こった自爆テロの死傷者12名とイスラエル政府は発表。今回の爆破テロに関して、イスラム過激派組織から犯行声明が出ており、依然として、中東諸国のテロの連鎖が止まっていないことを、世界に伝える結果となりました。イスラエルは報復を宣言。これに関して米国、ホワイトハウスは声明を発表し……』


 皆が神を信仰している。
 だが、その神を信仰しているものたちは、互いの神を嫌悪し殺し合いをしている。そんなものが世界を、作り上げたというのか?


「……私は神を信じない」


 そして、それは、あれから数年経った今も変わりはしない。世界は混沌に満ち、そして、経済大国はそれを見て見ぬ振りを続けている。これが、神の所業というのか?これが神が人間に与えたものだというのか。ならお前は神などではない。それでも尚、神を語るというのなら……。


「……寝ちまったか」


 ゆっくりと身を起こす女は、揺れるトラックの上、目的地である街並みが見えてきたことを知る。それは、その手の人間なら知らないものはいないだろう場所。天国に一番近い街、ヨハネスブルク、アングロタウン等にならぶ街の一つ…。


悪徳の街、ロアナプラ……。


 東南アジアに位置する港町であるそこは、ロシア・イタリア・中国マフィア、様々な国の諜報員などなどが混在する場所である。様々な組織は、その場所で幾度ともなく、血で血を洗う抗争を繰り返し、今は相互協力を行いながら、その街を牛耳りながら微妙なバランスの上で成り立っている。

 だからこそ、問題が絶えない場所とも言えるし、様々な裏の顔を持つ連中が出入りできる場所ともいえる。双子の殺し屋・メイド姿の元S級のテロリスト【狂犬】なんていうのもいた。……最近でいえば、【鉄の闘争代行人】に、ウイルスをばら撒く国際テロ組織【蛇】なんていう輩もやってきた。

 ようは、この街は、まったくもって眠ることが出来ない町なのだ。
 どいつもこいつも、まるで光に集まる虫のように集まってくる。その光が青白い光を放つ、電流であることをその虫は死ぬ寸前まで知ることはないのだろう。だが、鉄の闘争代行人や、蛇みたいに、その電流を掻い潜りながら、人の耳元を飛び続ける輩もこの街には多く現れる。ようはそういった部外者でもここは居心地がいい場所である。自分のような輩にはもってこいだ。


「……此処が、ロアナプラか。……どんな街かと思えば」


 ため息を吐いた私を強い日差しが頭から浴びせてくる。街の出入り口に掲げられた吊るされた白骨化した骨を額に手を当てて眩しい日差しを遮って眺める。長い髪の毛を靡かせた女は、そのまま街の中にと足を踏み入れた。そんな彼女の隣に止まっている窓があいた車からラジオの音が漏れている。

『……21日、X国カトリック教会での爆破事件および、そのほか数十件のテロに関与しているとされる、国際テロリスト、雨流みねねは現在も逃亡を続けており、インターポールは彼女の捜査に全力をあげてはいますが、教会爆破事件から三カ月が経過しようとしていますが、犯人逮捕には至ってはいません、またカトリック教会では声明を発表し……』




未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】


逃亡日記×十三課

第1話 雨流みねね




「……」

 フードを被りながら、雨流みねねは、古びた酒屋にと足を踏み入れる。酒屋内は、昼間にもかかわらず、客足は多く、皆、腰に鉛玉を装填させた大きな鉄をぶら下げている。みねねは、この街の状況を把握しながら、カウンターにと座る。

「ビールを……」

 マスターはこちらを一目見て、答えることなく、こちらにとジョッキを渡す。みねねは、グラスを手で掴みながら、一口、その冷たい水を喉にととおす。この亜熱帯の気候の中、喉が渇いていたみねねにとっては、生き返る飲みものであった。喉を鳴らしながら、ジョッキの水の量を半分ほどまでに減らしたみねねは、ジョッキを口から離す。大きく息を吐きながら、肩で息をするみねね。そんなみねねが、ふと先ほどまで騒がしかった部屋が、今は少し静かになっていることに気がついた。

「……」

 みねねは、ジョッキのグラスに映った自分の背後の様子を伺いながら、テーブルに座っている数人のものたちが、こちらにと興味の視線を注いでいるのを知る。どうやら、自分は、此処では珍しい。まあ、こんな街に日本人がいるというのも変な話だ。

「おいおい、こんなところで……あの通訳日本人以外で、日本人を見るとは思わなかったなぁ?みんな。しかも、これはなかなか美人な日本人じゃないか?はじめまして」

 そんなみねねの背後で、髭面の男が声を高らかにあげ、まるでどこかのテレビのクイズ司会者のように周りを見渡しながら寒い台本を読みあげている。彼は、みねねのカウンター席の隣にと腰かけ肩にと腕をかけて、こちらを見る。

「街案内が必要なら、通訳も含めて、俺たちがつき添ってやるぜ?この街は危ないからな~色々と」
「あいにくだが、自分の身は自分のみで守る趣味だ。それに、お前が私を守れるほどのケヴィン・コスナーのようには見えないんだが?」
「ふ、ふははは。俺は、そんな映画の世界の俳優ではなく、本物の戦場を知っているつもりだぜ?」

 そういうと、男は、腰から銃を抜きみねねにと向ける。

「此奴がなきゃ、ここでは生きてはいけない。そして、俺は今こうしてここで生きて行けている……ってことはだ。俺はジョン・マクレーンのように、悪運で物事をこなせる力を持っているということだ」

 みねねは、ポケットから何かを取り出す。一瞬、警戒した隣に座る男は、その銃とは思えない装置を眺める。何かのコントローラーのようなものだ。黒くマッチ入れのような大きさのもので、いくつかのボタンが取り付けられている。みねねは、それを銃のように、男にと向ける。

「ん?なんだこれは?」
「これが私の身を守るものだ」
「プッ……あはははははは」

 男は、ゲラゲラと笑いながら、周りにいるほかの仲間にと顔を向ける。男たちは、同じように笑いながら、みねねのその玩具のような物体を眺める。みねねは、そんな男たちの笑いを見ながら、白い歯を見せた。

「こいつは驚いたぜ、おたくは、マジシャンか何かかい?武器っていうのはいつだって筒丈のものだ。女を責める武器だってそうだ」
「そうかい?たしかに、そういうのは多いかもしれないな」

 みねねは周りの男たちの笑顔を見ながら、そのコントローラーのスイッチを入れる。すると、コントローラーが赤く輝く。

「コイツはな、時限爆弾だ。さっきお前の体のどこかに忍び込ませてもらった」
「!?」

 そのみねねの言葉に、周りで笑っていた男たちの声が消える。
 隣にいた男が、額に汗を流しながらみねねを見る。

「あ?な、なにいってるんだ?お前」
「さっき、スイッチを押した。お前は後数分でお星様になる。なんだ?そのしけた顔は?ここは笑うところだ、笑えよ、ほら」

 みねねは、ビールを飲み干すと、白い歯を見せる。たまらないのは男の方だ。男は、立ち上がると、銃をみねねにと向ける。その手は震えている。

「は、はっ、ハッタリだ!!爆弾がそんな簡単に取り付けられるものかよ!!」
「そうかい?」

 みねねは、そういうと、咄嗟にカウンターのイスからカウンターを飛び越え、前にいた店主を押し倒す。瞬間、男の体が光り輝いた。それは、昼間の明るさに負けない輝きを、店内につくりだした。店内の窓・出入口をすべて光で満たしながら、それは爆発した。

閃光爆弾。

 敵対象に対するめくらましに使用するたぐいのものだ。みねねは、ゆっくりと立ち上がり、カウンターを乗り越える。店内は皆、視界を失ったものたちが、その場にと倒れ、四つん這いになっている。みねねは、その場で呆然とする店主を見て、ビールの代金を支払う。

「じゃあ、ビールうまかったぜ」
「待ちやがれ!!」

 そういって立ち去ろうとするみねねに、まったく別方向を見ている先程の男が銃を握りながら、声を荒らげる。みねねは、ため息をつきながら。

「視界ゼロの中で夕陽のガンマンをやりたいのならかまわないが?」
「くそっ!!くそったれ!!」

 みねねは、笑いながら、店を後にとする。
 あんまり、問題は起こしたくはなかったが、まあ、これくらいなら問題はないだろう。みねねは、そう思いながら、その手にある車のキーを取り出す。先程の男からくすねたものだ。みねねは乗り込みながら、車のエンジンをかけ、発進させた。


今回の爆破テロは、X国のカトリックの教会。


 偉そうに説教垂れるジジイにもっと多くの人々に御高説をお願いするために、天高く飛んでいってもらった。みねねとしては、その後の逃亡のために、この街にと訪れていた。爆破・暗殺は、テロリストとしては最初の準備段階がもっとも大変である。逃亡に関しては、常日頃からいくつかのパターンがあり、自分はそれを淡々と行なっているだけである。逃亡の際、みねねは日記をつけている。その日記をもとに、自分の逃走経路を導いていることも多々あるわけだ。

「さてと、これからどうするか……まずは寝床を確保しとかないといけねぇーな」

 みねねは、そう思うが、まったくもってこの場所の地理に詳しくないことを知る。先程の酒屋の奴に素直にガイドを頼むべきだったか……、みねねは、大きくため息をつきながら、路肩にと車をとめて、誰かに道を聞こうとする。

「ん?あれ?日本人か……もしかして」

 路肩の売店にて、この暑い中なぜかスーツ姿の男を見つけたみねね。

「ちょっと?」
「わああ!!!」

 あえて日本語で声をかけた直後、突然声をかけられたことに、そのスーツ姿の男が驚いて声を上げ、こちらにと振り返った。その驚いた声に逆に、みねねが驚いてしまう。目を見開いて、振り返ったスーツの男を見る。

「どうしたロック!?敵か!?」

 慌てて店内から出てきた黒髪の女が腰から二梃拳銃を抜き、みねねにと向ける。思わずみねねは、両手を上げる。

「ちょ、ちょっと待て!!私はなにもしてねぇーぞ!!」
「あ、ああ……大丈夫だ、レヴィ。急に日本語で話しかけられてびっくりしただけだ」

 そのスーツ姿の日本人、ロックは、苦笑いを浮かべて、みねねに銃を向ける隣にいる米系華人のレヴィにと告げる。レヴィは、ため息をつきながら、銃をしまう。

「ったくびびらせんじゃねぇ!蛇女がまた現れたかと思ったじゃねぇか」
「あはは……」

 レヴィは黒い髪を掻き毟り告げる。
 みねねは、相手が銃を下ろしたことで、ほっと胸をなでおろす。

「どうなってんだ!この街は!?どいつもこいつも、人を見れば撃とうしやがる」
「ところで、貴方は……観光客っていうわけでもないと思うんだけど」

 ロックは、冷や汗を拭くみねねにと声をかけた。
 みねねは、改めてロックにと向き直る。

「すまない、宿屋を探してるんだ」

 みねねは、ロックにと問いかけた。
 ロックは振り返り、レヴィがいる店内にと声をかける。

「レヴィ、ここらへんで安全なホテルってどこかな?」

 店内では、大声と銃声が一発響きわたり、レヴィが商品をもって出てくる。レヴィは機嫌がかなり悪い。ロックはそんな湯気だっているヤカンに触れないように、丁寧に声をかけていた。

「知るか、この街のどこにだって安全な場所なんかねぇよ、そんなに安全を求めたきゃ、ドラム缶にはいって死体の振りでもしてればいい」

 みねねは、そのレヴィの言葉に拳を握りながら、ロックにと視線を移す。

「いつもこんななのか?」

 日本語での問いかけに、ロックは、また苦笑いを浮かべる。

「いや……勝負に負けて苛立っている、それだけさ」

 レヴィはふてくされた表情で車にと乗り込む。食べ物をぼったくろうとしていた店主に対してカトラスを一発ぶち込み、しっかりと原価で売買契約を成立させた、こういった荒い方法であっても彼女の機嫌がもどるわけではない。



話は1ヶ月ほど前にと遡る。

 この街に訪れた二人の女がいた。ひとりは、世界を相手に幾度ともなくテロを行う『蛇』の名を持つ女。もう一人は、その女を追う『鉄の闘争代行人』、この街はその二人の戦いに巻き込まれた。戦いは、レヴィの協力をもあり鉄の闘争代行人の勝利でおわりを告げたものの、犠牲を払った。鉄の闘争代行人は、教会に墓を立て、その管理をかけてレヴィと勝負をした。

「あ~~~!!あの女、いつか必ずリベンジしてやる!!」

 と、まあ、こんな調子なわけだ。

「ふん、なるほど、此処は火薬庫ってわけだな」

 後部座席に座るみねねの言葉に、レヴィは助手席で、窓の外を眺めながらタバコの煙を吐きながら口を開けた。

「神から見捨てられた場所だよ」
「……神から見捨てられた……」

 三人を載せた車は、そのままオレンジ色の日差しに照らされる中、海沿いを走っていく。



 ロアナプラの街から少し外れた小高い場所……そこに教会がある。


 ロアナプラに存在する唯一の場所であるそこは通称『暴力教会』。一般人は、その存在は知ってはいるものの、まともな人間はほとんど来ない。来るとすれば、様々な組織が武器調達にと訪れるぐらいだろう。ロアナプラでは、武器売買は基本的には認められていない。この場所が唯一の場所である。教会が武器売買、それこそが悪徳の街ロアナプラを象徴している。この場所には様々なものが置かれている。それこそ、ミサイル、核兵器も以前は置かれていた。それをきっかけにして、一度は壊滅まで追いやられたこともあるわけだが。

 ステンドガラスの光に照らされた室内にて、教会のイスに寝転びながら寝ていた教会のシスターである金髪の髪の毛、そしてサングラスをかけた女……エダがいた。先のロアナプラを震撼させた、恐怖のウイルス事件にて裏の顔での仕事に忙殺されていた彼女にとって久方振りにゆっくりとできる時間であった。

そんな真下、扉を叩くノックの音。

「今日は店閉めだよ、他をあたんな」

 次の瞬間、扉に放たれる銃弾。

 その銃声に慌てて起き上がったエダは、その手に銃を握り、撃ち返す。
折角の休暇を邪魔された、エダの怒りはでかい、相手の開けた穴にと的確に銃を撃ち込みながら、相手が再度扉を突き破るような攻撃を想定しながら、距離を詰めていく。そして、その銃声に気がついた、シスター見習いのリカルドも慌ててやってくる。その手にはひときわ大きなM60機関銃を握って

「姐さん!また敵ですか?」
「姐さんじゃないっていってんだろうが!ったく、教会に銃をぶち込む奴なんて、神様なんかまったくもって信じていない愚か者だね!」

 そう叫ぶエダの前、扉が切られる。
 そして、その中から姿を表すのはシスター服を着た女。その女は刀を握りながら、一気にリカルドに目掛け距離を詰める。まずいと思ったエダ。機関銃を寝そべりながら撃っていたリカルドには、突如距離を詰めるその相手に、反応できない。

「そこまでだ!!」

 その声に、リカルド、そしてそのリカルドに切りかかろうとする黒髪のシスター、その黒髪のシスターに銃口を向けるエダ。そんな三人の視線が向けられているのは、壊れた扉の奥、サングラスをかけた金髪の女の頭に銃を突きつけるシスター・ヨランダ。

「まったく、同じシスター同士で撃ち合いだなんて神もへったくれもないだろう?そうは思わないか?十三課」

 その言葉に、メガネをかけた金髪の女は、銃を握っていた腕を下ろす。

「……由美江。刀を下ろせ」

 由美江と呼ばれた女は渋々、刀を鞘にと戻す。眼鏡をかけた金髪の女は、ヨランダの方にと向き直る。

「十三課、ハインケル・ウーフー、高木由美江……制裁を下すために、この地にと参りました」













[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep2
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/02/10 23:54





教会の別室にて……。

ハインケルと由美子の両名が並んで座りながら紅茶を飲んでいる。
テーブルを挟んで座っているヨランダとエダ。


「連日続いている爆弾テロ事件ご存知ですか?」


ハインケルの言葉に、ヨランダは小さく頷く。

「此処が電気も何もない島国のように見えるかい?」
「失礼。異教徒に対する爆弾テロ事件、これは大いに結構なんですが……雨流みねねは、今回我らに標的を向けた。しかも、今回のテロ事件においてはかなりの死傷者がでました。我々は、我々の役割を果たし、この女……雨流みねねを始末する」

 テーブルに置かれた一枚の写真、そこに映し出された女の姿。

「この女がこのロアナプラにいると?」
「確かな情報です。我々としては彼女以外を巻き込むつもりはない、ぜひ協力を」

 ヨランダは、紅茶をテーブルにと置く。

「部外者同士の争い事を持ち込んで欲しくはないというところだが、これはもう起きちまっていることだから仕方がないとして、あとはどれだけ早く問題を処理できるか。エダ、あんたに二人にロアナプラの案内を任せるよ」
「え!?わ、私ですか?」
「同じシスターとして協力は当然のこと。いいかい?」

 思わぬ言葉に、思わず声をあげるエダ。そんなエダに、ヨランダは視線を向ける。エダは抵抗もできぬまま、口を開ける。

「ヤー……シスター……」

「短いかもしれませんが、これからやっていく仲間としてよろしくお願いします!」
「お願いするよ、エダ」

 二重人格の女に、性別がよくわからないような男女。
 エダの短い休暇はこうしてあっけなく幕を閉じた。




未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第2話 神から見捨てられた場所





「……それじゃあ、此処で」


 既に日が落ちた暗闇の中、みねねは、ロックから案内されたホテルにて、車の後部座席からおりたみねね。ロックは車の窓ガラスを開け、みねねを見る。

「君、名前は?」

 ロックの問いかけに、みねねは偽名を使おうか少し悩んだが、もう会うこともないだろうと思い。

「雨流みねねだ」
「俺の名前はロック、こっちは……」
「レヴィだ」

 不貞腐れ、みねねを見ることなく答えるレヴィ。ロックはそんな愛想のない応対に相手の機嫌を損ねないように苦笑いを浮かべる。

「いい旅を」
「ああ、ありがとう」

 みねねは、そう答えて目の前のホテルにと足を運ぶ。

 みねねの前にあるホテルと言われた場所は……ホテルとは名ばかりの安い宿のような場所だ。だが、まあ、仕方がないだろう。みねねは割り切りながら、ロックに愛想笑いを浮かべ、建物の中にと入っていく。そんな彼女を車から見送るロック。


「……これでいいのか?レヴィ?」


 ロックは、助手席にと座るレヴィを見る。

 レヴィは、タバコにと火をつけて。そのホテルを眺める。それは、かつて偽札偽造を行なった女を止めていたホテルだ。ここにはちょっとした細工がされている。エダから聞いた場所であるこの場所は、逃走経路が示されているのだ。

 まず到着したところで、ベットで横にとなる。そうすると、天井には、逃走経路を示す文字が書かれている。最初は意味が分からないだろうが、もし襲われた時の場合は、それを見て逃走することとなるだろう。エダの受け売りだが、勝率は、6割といったところだ。

「こんなところに、日本人が普通くるはずがないだろう?だとしたら目的はある程度限られてくる。ケツを追われているのか、ケツを追っているのか……まあ、それを判断させてもらうだけさ」
「同郷を、騙すのは何か気が引けるな」
「今更なにいってやがる?ここんところ、まったくいい話がなかったんだ、タイミングと、チャンスは逃さないぜ」

 ロックは渋々、車をそのホテルの裏にと走らせる。
 レヴィは、時計を見ながら、助手席にとよりかかる。今まで、あのウイルス事件以降、燃え尽き症候群となっていたレヴィにとってみれば、藁にもすがるも気持ちであった。彼女は、ソードカトラスの銃弾を確認しながら、あの日本人の女に期待を託す。せいぜい、踊ってもらわなくては……。

「なぁ、レヴィ?」
「ん?」

 ロックの問いかけに、レヴィが答える。

「まだ、あのときの事件のこと考えてるのか?」
「……」

 考えていないと言えば嘘になるだろう。
 あのウイルス事件で得た刺激は、レヴィにとっては初めて飲んだウォッカのように強く、体の中に熱い塊を覚えさせた。あの蛇女の言葉を時折、思い出す。あの鋭い目で、あの青いコートを着た女は、私と銃を握り対峙しながら告げる。

『お前の居場所を提供してやろうか?お前の内部に潜む獣を解放できる場所を?』

 そんな言葉を思い出してはレヴィはかき消す。銃を持って私利私欲で暴れる、そんなのは、ナンセンスだ。理由はよくわからい……だが、そんなことをすれば自分はきっと大事なものを失ってしまう。そう思ってしまうから。

「……ばかばかしい、話だ」

 レヴィは、ロックを見ることなく窓の外を見ながら口を開く。





 一方その頃、夜の市街地を走る一台の車。
 エダは携帯をしまうと、隣で運転をする由美子を見る。

「ビンゴだ。今日、泊まっている客の中で、亜細亜人は一人だけだ。場所もここからは近い」
「……意外と早かった。教会の力が行き届いているということか」

 ハインケルは後部座席で、エダにと声をかける。

「あんた達にはわからないと思うが、ここは力関係が複雑なんだ。マフィア連中が力をだせない今の状況では、私たち教会に頭があがるのはほとんどないといっていい」
「……マフィアの力というのも、政府軍に介入されれば、そこまでということか」

 ハインケルも、この場所の情報はある程度事前に調べていた。
 この場所が、マフィアの相互協力によって成り立っているということ。そして、その相互協力の真下で起こったウイルス事件により、政府軍の介入を許したロアナプラでは、マフィアのトップがこぞって、その身を隠したということ。

「どっちにしろ、あんた達が揉め事をまた起こせば、すぐに政府軍がすっ飛んでくる。それだけ忘れてくれなきゃいい」
「それは、こちらも同じだ。できる限り穏便に物事を進めていきたい」

 エダが車を止める。
 ハインケルは、窓の外からそのホテルにと目をやる。暗闇の中で薄暗く看板だけが光っている。

「到着だ、お客さん」
「送迎感謝する。ここから先は私たちの仕事だ、貴方には、待っていてもらいたい」
「ふん、一銭にもなりゃーしない仕事なんかこっちから願い下げだ」

 エダはハンドルをつかんだまま、後部座席、そして助手席から降りるハインケルと由美子を見る。ハインケルはその手に銃を握り、シスター服を身にまとった由美子は、一度目を閉じ、ゆっくりとその目を開けると、その表情は先ほどとは異なり、鋭い目にとかわる。由美江が目を覚ましたのだ。彼女は、その手に刀を握り、ホテルにと向かう。エダは、そんな二人の様子を見ながら、月明かりがなくなったことに気がつく。


「イヤな天気だねぇ……」


 エダがそうぼやく中、ハインケルと、由美江がホテルの中にと足を踏み入れる。足を踏み入れると途端に、由美江は、ため息をつきながら、大きく口を開けた。

「なんだあのクソアマ……、あれが私たちと同じ信徒とは思えないね」
「そういうな由美江、いちおは信徒で協力をしてくれている」
「ちっ、わかってるけど……早いとこ終わらせよう。ここは気分が悪い」
「それには同感だ」

 ハインケルと由美江は事前に手に入れた部屋の番号を元に階段をのぼっていく。極力、音をさせないようにしながら、二人は問題の部屋の前にとくる。由美江が刀を片手で握りながら、ノックをする。だが、反応はない。由美江とハインケルは、視線を交わす。由美江は距離を取り、ハインケルが銃を扉にと向かって放つ。数発撃ち込めば、木製の扉など木っ端微塵だ。

「由美江」
「応っ!!」

 由美江がその壊れた扉にと一気に刀を握りながら、部屋にと入っていくために、足を踏み出した。だが、そこで、由美江は、自分が、何かを踏んだことに気がつく。何かのワイヤーだ。そして、そのワイヤーは、部屋の壁と壁をつないでおり、ワイヤーを踏むことで、起爆スイッチがはいるようになっていた。

「!?」

 爆音とともに、ホテルの部屋の一室から炎が噴き上げる。
 それに目をやるエダ、そして別の箇所でその光景を見ているレヴィ、ロック。

「な、なんだ!?何があった?」

 車の中からはっきりとわかる、その燃えさかる炎。
 ホテルの一室が突如爆発したのだ。レヴィは、白い歯を見せて笑みを浮かべる。

「どうやら、追われている方だったみたいだな」
「でも、彼女こっちにこないみたいだけど……まさか、あの爆発で死んじゃったとか」

 前回であれば、銃声と共に対象者が走ってくるんだったが、今回はまだきていない。ロックが、隣にいるレヴィをジト目で見る中、レヴィは、そんなロックの痛い視線を感じながら、髪の毛をかく。

「わかったって、ちょっと様子を見てくる。お前はそこで待ってろ。なにがあっても外には出るなよ?」
「わかった」

 レヴィは、二梃拳銃をしっかりと握りながら外にと出る。燃えさかる炎のあかりが灯る中で、レヴィは当たりを探しにとでる。車に残ったロックは、タバコに火をつけながら、今日出会った女が、あの爆発に巻き込まれていないことを祈る……。日本人がこの街にと訪れる。どんな理由があるにしろ、それは普通の理由ではないだろう。年齢的には、自分と同じくらいか、下くらいだろう。あんな若い女の子が、どのような理由で、この街にと流れ着いたのか。想像することもできないが、それでも、この世界は、まだまだ暴力と狂気に渦巻いているということを改めて知る。

「戻ったぜ、ロック」

 顔をあげたロックの隣、助手席にと座るレヴィ。

「どうだった?彼女はいた?」
「あ、ああ……、あの爆発だ、助かったかどうかはわからないが、炎が強くて近づけない」
「そうか……無事だといいんだけど」

 そう告げるロックの頭にと冷たい感触がささる。
 ロックは、隣にとゆっくりと視線を向ける、そこには、レヴィが自分と銃を向けて笑みを浮かべている。ロックは、突然のことでなんのことだかわからなかった。

「車を出せ」
「わ、わかった……」

 ロックは、言われるがままに、エンジンをかけ、アクセルを踏む。

「ロック!!」

 外から聞こえる声。
 ロックは、バックミラーからこちらに向かって二梃拳銃を向け放つレヴィの姿を見る。それを見て、再度、隣にいるレヴィを見る。思わず二度見してしまうロック。

「れ、レヴィがふ、二人!?」
「それだけ驚いてくれると驚かしがいがあるってもんだ」

 思わずハンドルを強く回して、車が大きく揺れる。隣に座っていたレヴィは、片手で自分の髪の毛に手をやると、マスクを引き剥がす。そこに現れた顔、それは……雨流みねね。彼女は、こちらに発砲するレヴィに対して、ポケットから取り出した、手榴弾を握り、それを口で安全ピンを引き抜くと、レヴィ目掛け投げつける。

「マジかよっ!!?」

 レヴィは慌てて、路地にと隠れる。
 爆音が響きわたる。
 爆音と炎が再度、路地裏で起こる。ロックをのせた車は、そのまま路地裏から離れていく。

「君は一体!?」

 銃をつきつけられながら、ロックが声をかける。そんなロックの問いかけに、追跡があるかを警戒していたみねねが、ロックの方にと振り返る。

「あらためて自己紹介するか!テロリスト、雨流みねね様っていうのは私のことだ!」
「て、テロリスト!?」
「ああ、ついこの間あったX国での教会爆破は私の仕業だ」
「まさか、君が……」

 そこでロックは先程の部屋の爆発のことを思い出す。
 あれはみねねを狙ったものではなく、みねねが仕掛けたものだったのだろう。ロックとしてみれば完全に心配をして損をしたといった感じだ。そしてそれでレヴィが様子を見に行って、逆に自分が捕まるんだから……ついていない。

「いいから、さっさと前を見て運転しやがれ!同じ日本人だからって容赦しねぇーぞ」

 みねねの言葉に、ロックは頷きながら、車のハンドルを強く握りしめる。みねねは、追跡がないことから、後ろから視線を逸らし、助手席にと座り直す。相変わらずみねねの握る銃は、ロックの頭にと向けられている。

「それで、どうするんだ?この街からは逃げられないぞ?」
「ふん。まあ、安全な場所をお前から教えてもらうとするさ」

 みねねは笑みを浮かべながら、答える。


 炎と煙が広がるホテル……。


 それを車から飛び出して眺めていたエダは、突然のことに何がなんだかわからないでいた。これは誰がやったのか?アイツらはどうなったのか?そんなことが頭に浮かぶ中、炎の中から現れる影。それは、ハインケルと血まみれの由美江であった。ハインケルは意識を失っている由美江の担ぎながら歩いてくる。

「おいおい、すぐに病院に連れていかなきゃマズイんじゃねぇーのか!?」

 エダが状況を見て、声を上げる。
 ハインケルは後部座席にと由美江を寝かせると、その拳を強く握り締め、車の窓ガラスにと叩き込む。それは軽々と粉砕され、砕け散る。エダはハインケルの行動に呆然とするしかなかった。

「シスター、エダ……すぐに病院に向かってくれ!!くそったれ、この借りは必ず返してやる!!奴の首をつかみ、その頭に、脳みそに、胸に、足に、手に、腹に、撃つ、撃つ、撃って撃ち抜いて撃ち殺す!」

 ハインケルのその目を見開き、歯を食いしばる狂気の表情にエダは頷くことしかできなかった。

「おーい!エダ!!」

 そのどこか聞きなれた声で、エダはその狂気から現実にと戻ってくる。レヴィは、その服や体の汚れ具合から、何かしらの事件に巻き込まれたことを察する。そして、その事件は、今、目の前で起こっている事件ぐらいしか検討がつかない。

「エダ!車貸せ!」
「ヘイヘイ、レヴィ、こっちが先約だよ」

 レヴィの問いかけに、エダが答える。
 エダと一緒にいるサングラス姿の金髪女……この街では見かけない奴だ。





 ウイルス事件から一ヶ月……。



 政府軍介入により一切を除菌されていたロアナプラは、再び暗闇の街にと戻ろうとしていた。それは、あの戦いの快楽を味わったレヴィにとっては甘美で待ち遠しかったもの。レヴィは、ソードカトラスを握り、再び戦いの中で、あの味を味わおうとしていた。神の制裁代行者、そしてテロリスト雨流みねね……それらを利用しながら。その行き着く先が、何かがわからないまま……。










[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep3
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/02/24 23:32





 安ホテルが真っ赤な炎で燃えている。


 夜の闇に、その炎はよく目立っていた……。炎の明かりに揺られる影、レヴィ、エダ、そしてハインケルの三人が、炎の前にと立っていた。レヴィは黒いコートに身を包むハインケルの姿を見る。彼女の顔はこの街では見たことがない、部外者だ。だがエダとは知り合いらしい……。レヴィは、そんな人物関係を考えながら、エダを見る。

「先約だ……女の首を追いかけなくちゃならねぇ」

 エダはヤレヤレといった感じで、首を横に振って告げる。
 レヴィは白い歯を見せ

「オーライ、ちょうどいい……こっちも、変な女にロックを攫われたところだ」
「女……どんな女だった!?」

 その言葉にハインケルはレヴィに詰め寄る。
 レヴィはサングラスの奥、ギラついた目をするハインケルから、自分たちと同じ血の匂いを感じる。

「変な女だったぜ、私そっくりに変装してやがった。ったく、なんなんだ?あの女は?」
「雨流みねねは、変装もできるというのは情報だったな」
「うりゅ……う?それがアイツの名前か!!」

 レヴィはそういうと、エダが乗ってきた車にと乗り込む。

「お、おい!レヴィ!!」
「こんなところで、女同士でお茶会でもやりたければ好きにやってくれ」

 そんなレヴィにすぐに反応したハインケルもまた車にと乗り込み、後部座席に寝ている由美江を、外にと下ろす。ハインケルは苦痛に顔を歪める由美江を見て、エダに視線を移す。

「彼女を……頼む」

 エダにそう言い残し、ハインケルは助手席にと乗り込むと、レヴィはアクセルを踏み一気に車が走り出す。





未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第3話 ドッグ・ファイト






「……さあ、ロック。安全なホテルもしくは、脱出経路を教えてもらおうか?出来ることなら、この街からはおさらばしたいけどな」

 みねねは、拳銃をロックの腰に押し付けたまま、告げる。ロックは、車を走らせたまま、隣に座るみねねを何度か見る。みねねは、バックミラーを確認し、追跡がないことを再度確認する。

「いいのか?俺を撃てば、車はそのままどこかにと突っ込む。君も怪我をすることになる。そうなれば、レヴィたちに殺されるがオチだ」

 ロックの言葉に、みねねは笑みを浮かべ、拳銃をロックから離す。ロックには彼女の行為の意味がわからなかった。素直にこっちの言う言葉を信じるとは思えないが。

「あの追跡者は、殺らなきゃ、いつまでも追ってくるだろう。この街に来たということを知っている以上、相当正確な情報をもってきているんだろうからな。目の前に飛び回るハエはたたき落とすのが私の性分だ」
「どうするつもりだ?」

 ロックの問いかけに、みねねは、持っていたバックを開ける。
 そこには大量のなにかの装置が大量に入っていた。ロックは視線を戻し、運転にと意識を向ける。みねねは、ロックがこちらを見たことを知ると、ロックに装置の一つを見せる。それは黒い何かの発信機のようなものだ。

「これが気になるか?」
「……」

 ロックは答えない。
 みねねは、ロックの視界に入るように手を伸ばしその装置を見せる。

「これは爆弾だ。さっき、部屋が爆発したのはコイツのせいだよ」
「君が、それを部屋に仕掛けていたのか?」
「ああ……、案の定、私をただのバカだと思った連中は、罠に気づきもせず吹き飛んだけどな、アハハハハ、傑作だったぜ」

 みねねは、笑い飛ばしながら、装置を再度バックにと詰める。ロックにはこれが、同じ日本人だとは思えなかった。彼女の行動は、レヴィたちに通じるものがある。人種など関係なく、環境が彼女を変えてしまったのだろうか。ロックには推測することしかできなかった。ただ、彼女の狂気は危険だということだけは察知した。


「私を狂っていると思うか?」


 みねねが再度ロックにと問いかける。

「俺には……わからないよ。誰が狂っているのかなんて。狂った世界にいれば、それが正常になりえてしまう。誰を基準にして人を狂人と正常者に分けるのか……。それがそもそもの問題だ」

 それはロックがそういった世界により狂わされた人々を幾度ともなく見てきているからである。それは女の子であったり……小さな子供であったりした。皆、いい人たちだった。話してみれば……、だが、彼らは自称健常者が呼ぶ、まともな世界では生きられない人々ばかりだった。皆、狂わされた。家族に、友人に、国家に、世界に……。彼らを敵として、狂っているとして、訴えている人々は、きっと自分たちがそういった狂気を作っていることを知らないのだろう。

「フ……面白いことを言うな?」

 みねねはロックの答えにそう返答する。

「私は、この世界は狂っていると思う……そして、この街も」

 ロックはみねねの言葉をただ聞くことしかできなかった。
 なぜなら、こういったものたちを助けることは自分には出来ないからだ。元の世界に引き上げることはできる。ただ……その根本を変えることはできない。

「君に、なにがあったかはわからない……だが、ひとつ言えることがあるとするならば、君が言うとおり、早く此処から出るべきだ」
「ほぅ?なぜだ?」

 みねねの問いかけに、ロックは、ハンドルを強く握りしめる。

「……君が言う狂ったものたちが、ここでは日常であり、健常者だからさ」

 マフィアという名を着飾った軍隊が街を徘徊し
 少女がチェンソーで死体をバラバラにして処理する。
 金のためなら、昨日まで友人だった相手を後頭部から躊躇いもなく引き金を引く。
 マフィア同士が結託し、賞金をかけて対象を町中で追い回す。

 そんなことが日常となっているその場所で……。

「遅いな……その狂気が本当なら、それはすぐ傍まで来て、寝首をかくぜ?」

 そう、みねねが呟いた瞬間。


 自分たちの道に突然、突っ込んでくる別の車。


 車のガラスが割られ、身を乗り出すのはサングラスで短い金髪姿のシスター!?ロックは、暴力教会の仲間と察する。どこどうやってきたのかはわからないが、そうとう無茶な早道をしたのだろう。車のあちこちが傷だらけだ。サングラス姿のシスターは、飛び出した勢いのまま、銃を放つ。それはまっすぐ飛んできて、フロントガラスを破壊する。

「おい!!お前、ロックにあてんじゃねぇーぞ!!」
「わかっている……」

 ハインケルは、運転席で怒鳴りつけるレヴィを見て告げる。ハインケルはそのまま、銃を放ち続ける。

「へ、へへ……やってくれんじゃねぇーか」

 みねねは、こっちにと向かって走ってくるレヴィ・ハインケルが乗る車を見ながらぼやく。みねねは、その手に、爆弾を片手に握り、もう片手には銃を握る。

「ロック!!車を走らせろ!!さもなきゃ、私たち二人とも死ぬぞ!」
「くそっ!!」

 ロックはやけくそとばかりに、アクセルをふむ。
 二つの車が一気に距離を詰めた。その間、ハインケルの猛烈な銃撃の雨が、車にと浴びせられ、車体にと穴を開けていく。ガラスが割れ、ロックはハンドルを握りながら、頭を隠す。みねねは、相手に銃撃の前に、反撃できず、その手に握る爆弾を投げつけた。

「おい!!やりすぎだ!!ロックにあたっちまう!」

 レヴィの声を無視して銃を放ち続けるハインケル。
 だが、そこでハインケルは、雨流みねねが投げつけた物体が車体にぶつかった衝撃を覚えた。それは怒鳴りつけたレヴィもまた。一瞬にしてすれ違った両者の車。ロックは、振り返り、レヴィたちのほうを見る。

「逃げろ!!爆弾だ!」

 ロックの声にハインケルとレヴィが一瞬顔を合わせる。

「「!!」」

 ヤバイと思い、二人はドアから一気に飛び降りた。
 雨流みねねが、取り付けたのは投げつけた箇所に取り付く爆弾だ。それが光を放ちながら車を宙にと浮かせ吹き飛ばす。爆発音と炎をあげながら、車は、天高く飛び上がり、そのまま道路にと鉄クズとなって落下する。

「ひゃははははは!!!最高な吹っ飛びかたしてくれたぜ!」

 みねねは、声をあげて笑う。
 思った以上の爆発をしてくれた。まるで映画のワンシーンのようだ。みねねは、こうして、この絶対的状況を打破し、悠々と脱出できる……そういうシナリオを頭にと思い描いていた。だが、みねねを乗せている車の速度は遅くなり、そのまま、止まってしまう。

「おい……ロック、誰がこんなところで止めろなんて言ったんだ?」
「俺だって好きで止めたわけじゃない」
「じゃあ、なんだっていうんだ!!」
「車を見てみろ、こんな状態で走れっていうのなら、この車はタイヤがなくなったって空を飛んで走るさ」

 ロックはハンドルにぐったりと身を載せて告げる。
 みねねは、自分の車がどうなっているかをしっかりと把握した。ガラスはすべて割れており、車の車体には数え切れないほどの穴があいている。みねねは、くそっとぼやきながら、車のドアを蹴り飛ばす。車のドアは、そのまま、音を上げて外れて、コンクリートの上を転がる。

「車がない以上、逃げれないぞ?」

 みねねは、銃をロックにと向ける。

「こんなところで諦めちまうようだったら、テロリストなんかやってねぇーんだよ」

 銃声が鳴る。
 みねねが、振り返ると炎の中、影になっているものの姿。みねねからは炎の影で、その姿がよく見えない。みねねは、ロックの襟をつかむとそのまま車から引きずり出し、車を壁にして身を隠す。

「ちくしょう、向こうも相当タフなようだな」

 みねねは、銃を握り、こちらにと近づいてくる相手に銃を放つ。相手も銃を放ち、車体に穴があく、相手は、こっちの居場所を的確に狙ってきている。どうやら、なかなかの銃の腕らしい。

「だけどよぉ……銃がいかに凄かろうが、纏めて吹っ飛ばせば関係ないぜぇ!!」

 みねねは、手榴弾のピンを口にくわえて外すと、それをこちらにと向かってくる相手目掛け投げつける。ロックは慌てて耳を塞ぐ、すぐに爆発が置き、みねねとロックの二人にコンクリートの破片が落ちてくる。

「さて……地獄に、いってくれたかな?」

 みねねが、自動車の盾越しに顔を出す。

「初めまして……クソ女!!」

 そこには血にまみれた割れたサングラスをかけているハインケルの姿があった。ハインケルは、みねねの髪の毛をつかむと、そのまま、自動車のボンネットにと、みねねの顔面を何度もぶつける。さらに髪の毛をつかんだまま、ハインケルは、みねねを引きずり出す。

「貴様が雨流みねねだな!?」

 ハインケルは、同じく、血まみれになっているみねねを見ながら、問いかける。みねねは、血の唾を吐きながら、ハインケルを睨む。

「フェアーじゃないな?そっちはこっちの名前を知っていて、私は知らないままっていうのは!?」
「死に際に教えてやる」

 ボンネットの上、みねねの髪の毛をつかんだまま押さえつけたハインケル。銃を握り、それをみねねの額にと押し付けたハインケルは、みねねの体を自分の体で押さえつけるようにしながら、大きく息を吐いてる。やはり車で受けた爆発と、先程の手榴弾が効いているらしい。ハインケルは、みねねに体重をかけ、体を何とか支えている。

「我らはカトリック教、十三課……神罰の地上代行人、ハインケル・ウーフー」
「な・る・ほ・ど」

 みねねは、彼女の正体を知り笑みを浮かべる。

「どうした?死ぬ前に、頭がおかしくなったか?」
「いや、嬉しいのさ……お前みたいな偽善者にあえて」
「偽善者?」
「ああ……そうだ」

 そう告げるみねねは目を閉じる。

 ハインケルが異変に気がついたときは遅かった、瞬間、背後で爆発音が聞こえ、体を押さえつけていたみねねは、ハインケルを突き飛ばした。爆弾はただの爆弾ではなかった。噴煙爆弾。ハインケルの視界は一気にゼロとなる。ハインケルはその場にいるすべてに銃を向け放つ。この状況下、敵に狙われるよりかはマシだ。少しずつ、視界が戻ってくると同時に、自分を呼ぶ声が聞こえた。


 視界に垣間見えたのは、自分の助手席に座っていたレヴィとかいう女。


「くっ……気をつけろ!まだ近くに奴がいる!」

 そう叫んだハインケルであったが目の前のレヴィの表情が驚きの表情から変わらない。レヴィの表情の意味が分からずに、ハインケルは、周りを見渡す。すると、そこには自分と同じ黒いコートに身を包み、血まみれの女……よく鏡で見る自分がそこにはいた。ハインケルは、銃を相手にと向ける。だが、それも同じだ。

「れ、レヴィ!奴だ!みねねが変装している!」
「ふざけるな!それはそっちだろうが!!」

 互いに言い合いになる二人、そんなやりとりを見ているレヴィと車の影から姿を見せたロック。

「レヴィ!」
「ロック……、はやいとこ、そこから離れな」

 レヴィはカトラスを握り、二梃拳銃を構える。

「私が本物だ!騙されるな!」
「違う!私だ、私が本物だ!」

 二人のハインケルは互いに銃を向き合いながら、レヴィに対して言い合う。レヴィは、そんな二人のやりとりを聞きながら、ゆっくりと銃を向けたまま距離をを詰める。口論する二人のハインケルに対してレヴィは、目を細めたまま、大きく息を吐いた。

「なるほど、確かにそっくりだ……テキーラ飲み込んで辺を見回してできるような幻みたいな感じだな?だからよ、こういうときは……」

 レヴィが両腕をあける。
 それを見て目を見開く二人のハインケル。彼女が何をしようとしていたのかを察知したのだ。


「両方ぶっ飛ばす!」


 レヴィが引き金を引き、銃を放つ。

 弾丸は、そのまま、二人に向かって容赦なく放たれる。二人のハインケルは車の影にと隠れて、その銃弾の嵐から身をかばう。みねねは、その相手の突然の行動に、驚きながら、ハインケルを見て

「おい!アイツ、お前の仲間なんじゃないのか!?」
「知るか!!だから、神を信じない現地人なんかと一緒に来るべきじゃなかったんだ」

 此処に来てからやることなすことすべてが裏目に出るという状況に、ハインケルは頭を抱えながら一人愚痴る。みねねは、舌打ちをしながら、荷物の中をまさぐる。ハインケルはその間も、自分を落ち着かせるために、聖書の一説を読み上げている。みねねは、荷物からあるものを取り出す。そしてそれと同時に、ハインケルも聖書の一説を読みあげ、改めて銃を隣にいるみねねにと向けた。

「私は死を恐れない、十三課を舐めるな!」

 それと同時に、二人を影が覆う。
 それは二梃拳銃を握りしめるレヴィの姿。

「オーライ……、死を恐れないのなら、先にお前からぶち殺そうか?」
「いや、私は生きたいね。死ぬのなんてまっぴらごめんだ」

 みねねが、取り出した爆弾を起爆させる。

 閃光爆弾。

 先ほどのモノと違い、今度は視界と耳を奪うものだ。レヴィはその爆発に、車から降りて、影にと隠れる。ハインケルもまた、身をコンクリートに伏せ回避することしかできなかった。


「カトリック教、十三課、ハインケルか……」


 みねねは、閉じていた目を開き耳栓を外すと銃を握り、蹲るハインケルにと向ける。こいつが追跡者。こいつを殺さなくては、また永遠にと追いかけてくるだろう。ここで消しておくのが吉。

「……今、ここでお前を助けないのも神の意思なのかよ?」

 みねねは、苛立ちながら、拳銃の引き金に手をかけた。
 神を信じる者でさえ、神は見捨てる……。それが現実なんだ。



「そこまでだ……」



 みねねの後頭部にあたる銃口。
 どこかで聞いた女の声が、みねねにと告げる。












[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep4
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/03/02 23:40





シャワーを浴びるみねね……。
鏡に映る自分の顔には疲労がたまっているようだ。

頭からシャワーを浴びるみねねは、壁に手をあて、大きく息を吐く。


 シャワーの水滴は、長い髪の毛を濡らし背中にと張り付いている。自分の肩から、なめらかに胸にと流れ、そのまま、雫となりタイルにと落ちていく。シャワーの水は、彼女の全身を覆い、無駄な肉のないその体を覆う。久しぶりのシャワーは、みねねにとっては一瞬の安らぎを与える。これから訪れるであろう戦場。体は万全にしておかなくてはいけない。

「くそったれ……あのとき邪魔さえ入らなければ」

みねねは、鏡に映る自分を見ながら告げる。



 みねねは、ハインケルの目の前で銃を突きつけていた。敵は無防備、邪魔をするものもいない。こいつを殺せば、追跡もなくなり終わるはずだった。だが、みねねが引き金を弾こうとした瞬間、みねねの背後から銃が突きつけられた。冷たい鉄の感触が頭にあたる。

「なにもんだ?私を雨流みねね様だと知ってのことだろうな?邪魔するっていうのなら、あんまりオススメしないぜ?ぶっ殺すぞ……お前」

 背後にいるため顔も何もかもわからない相手に、みねねははっきりと告げた。

「よく知ってるよ、お前のことならなんでもな?だからとっとと失せろ。此処でぶち殺さたくなきゃな?」

 どこかで聞いたことのあるような女の声だった。

 みねねは、その声に、抵抗することができず、そのまま、ハインケルを撃つこともできずに、その場から離れることしかできなかった。あれも神様の力だっていうのなら、あんな口の悪い神様がいるとは思いたくはない。



「まあ……いい、例えあいてが誰であろうと、かまわねぇ……私の邪魔をする奴は、神だろうと殺すだけだ……」

 みねねは、鏡に映る自分を見て、白い歯を見せて笑みを浮かべた。






未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課




第4話 蛇の毒





「とまあ、結果、ラグーンのガンマンと、我が国のエージェントは仲良く出し抜かれた……と、そういう話さ」

 車内で話をしているのは、イタリアンマフィアであり、ロアナプラのマフィアで連携をとるために設立されている連絡会の一員としても名前を残している、イタリアンマフィアの一人である、ロニー、その隣に座っているのは、彼の右腕であるトマーゾである。ロニーは、葉巻に火をつけながら、くわえると大きく息を吐く。

「ですが、ボス。連中【十三課】は、宗教のみの武力介入と聞いています」
「ああ、確かにそのとおりだ。ローマでの爆破テロ報復による新興宗教メシアの真理の会集会での銃乱射事件、死傷者51名。イスラエル周辺で起こったカトリック教徒人質事件での犯人を全員殺害。カトリックに対する驚異は皆、ひとり残らず食われてしまっているわけだ」

 車が止まり、サングラス姿をした運転手が扉を開ける。ロニーは、葉巻を咥えたまま、車内から外にとでて、青空が広がる中、目の前に聳える病院を見る。ロアナプラでも有名な病院だ。ここもこの場所では中立地帯とはなっているようだ。まあ、病院に担ぎ込まれてそのまま殺されてしまうとなっては病院という面目が立たないわけだから仕方がない。だいたいの人間はここまでくるのに勝負を決められてしまうわけだが。3階建ての古びた病院のドアをくぐり、なかにと入るロニー、そして彼の隣にと立つトマーゾ。

「十三課は、異教徒及び、対カトリック教徒勢力に対する暴力部隊だ。その戦力は、一個師団に匹敵すると言われている。詳しいところは俺もよくわからないんだがな」
「そんな得体のしれない連中を引っ張れるものなのでしょうか?」

 病院内にて、トマーゾは睨みを利かせながら、足を進めていく。ロニーは、トマーゾの言葉を聞きながら、目を細める。

「なに、恩を売っておくのに越したことはないだろう。うまくいけば、連中にローマ・カトリック教徒の力を存分に思い知らせてやることができる。ロシア正教?仏教?知ったことじゃない。軍隊には、軍隊だ……、いい加減にあのフライフェイスの顔を見るのは、健康によくないしな」


 病室の前にと立つロニー。

 トマーゾがロニーの前にとたって、病室の扉を開ける。ベットに寝ていた由美子……由美江とは違う人格が、こちらにと顔を向ける。トマーゾは警戒しながら、その手にはいつでも撃てるように銃が仕込まれている。ロニーは、そんなトマーゾを隣におきながら、由美子の前にと歩いてくる。由美子は、不思議そうな表情で、二人を見た。

「この度は、災難だったようだね?えーっと……由美江だったかな?あの爆発に巻き込まれておきながら、やけどと、軽い打撲……ぐらいだったか?……で済んだというのは、奇跡的というか、日頃の成果というか、僕らにも、君のような美人で凄腕のエージェントがいれば、毎日、臭いシチ、カーシャなんていうものじゃなくて、ピザやパスタっていう美味しい料理が食べれるんだけどねぇ」

「は、はあ……あの、貴方達は、どちら様で?」

 突然の来訪者に、どう反応していいかわからない由美子。ロニーは、そんな由美子の言葉に気がつき、改めて由美子を見る。

「おっと、すまない。すまない。君は日本人だったね?では、こうは考えないかい?毎日、毎日、サムゲタンやら、ビビンバ?だったかな、あーいったモノを食べるよりかは、寿司や、ウドン……フジサン?そういったもので楽しんだほうがいいだろう?」
「ボス、富士山は山です」
「ああ、失礼」

 由美子はこの二人が新手の詐欺師かいいところ漫才師のようにしか見えなかった。

「とにかくだ。私たちは、君を助けに来たわけだ。色々と苦労をしているようだからね。同じローマを愛するもの……カトリック教徒である者として、君たちの力にとぜひ、なりたいわけだ」

 ロニーは立ち上がり、腕を伸ばして、由美子にと差し伸ばす。
 その光景を見ているトマーゾは、額を抑えていた。

「ほ、本当ですか!?」

 由美子の目が輝く。
 今まで戦い、暗殺ばかりを繰り返してきた自分たちの成果が認められたと、由美子は目を輝かせる。ロニーは由美子を見つめながら、その手をとる。

「この地には、カトリックを信じぬバカな奴らが多い。君たちの力で、ここを一掃してくれると非常にありがたいんだけれどねぇ、どうだろうか?君たちの力が付けば、ここを世界一、立派な宗教都市として繁栄させることを誓おう」
「ボス……そんなこと本当にされるのですか?」

 耳元で告げるトマーゾ。

「話だけ合しておけばいい。結果、この市場を支配できて、あのフライフェイスの首を並べてワインが飲めるのなら、カトリック教徒の聖書ならよろこんで音読してやろう。なんだったら、逆立ちして踊ってみてやってもいい。それだけ、俺はあのフライフェイスの顔が見たくないんだ、わかるか?トマーゾ?」

 ロニーは、そうささやきながら、視線は由美子にと向けられている。

「あの?」
「ああ、すまない。こっちの奴にもしっかりと聖書、そしてカトリック教徒が何たるかっていうのを教えておいてやらないといけなくてね。いやはや……、うちもこう見えて結構な所帯持ちなんでね」
「このローマから離れた場所において、カトリックの信仰を求めるのはさぞ大変だったでしょう」

 由美子は両手を合わせながら、ロニーとトマーゾを見つめる。

「きっと、神は貴方たちの行いを、お褒めになります。そして、神を冒涜する者たちには、必ずや裁きの鉄槌が下ることでしょう」
「はい……出来ることなら、可及的速やかに処理を進めて欲しいところなんですけどね、そうですね……なんだったら、明日、いんや、遅いか……12時間以内、うん?足りない?なんだったら、6時間……3時間、いや1時間、うーん……できるならば今すぐに!!」
「え?」

 由美子が、首をかしげる中、ロニーは、距離を詰め、ベットの手すりをつかみ、由美子の顔をのぞき込む。由美子は、ロニーの表情を見て、ベットの上でうずくまる。

「あなたがたの力であるなら、ここにいる標的と共に、この街にいる異教徒すべてを殲滅できる力があるはずだ。違うか?」
「え、あ……で、でも、それは……」
「ならば、こうしよう。私たちが貴方の標的を探すのをお手伝いしよう。これなら、問題はないだろう?」
「そ、それは……私の判断では」

 扉が急に音を立てて開かれる。そこに現れるのは、サングラスをかけたハインケルの姿。彼女は、サングラスを指でかけなおしながら、その場にいるロニー、トマーゾを視界にと定める。

「我ら十三課、如何なる国、団体、立場とその主義主張を同じにするべきものではない。我らは我らの邪魔をするものを、神の制裁の下、その命の一片も残らず、絶滅させることにある。残念ながら、そのお話をお受けすることはできないな」

 ハインケルの禍々しい雰囲気に黙ってしまう由美子。
 トマーゾは、その手に銃を握り、この邪魔をした女に向けようとした。

「やめておけ、トマーゾ」

 ロニーはトマーゾを連れて、その場から立ち去ろうとする。扉の前ににたつハインケルの隣で足を止めるロニー。彼は、身動きをしないハインケルの方にと横目を向ける。

「ここの流儀を知らないのだろう?あんまり、敵は増やさないほうがいいことをオススメするよ。仲間だろうと寝首をかかれるのがこの街だ。せいぜい……気をつけるがいいさ」

 そういって、ロニーとトマーゾは立ち去っていく。
 由美子は、そんなハインケルの行動に、大きくため息をつく。折角、信仰するべき方が増えそうだったのに。

「あーあー……また敵が増えちゃったじゃないですか?」
「かまわねぇーな、『私』の知ったことじゃないし」

 その言葉遣いに、由美子は、再度ハインケルを見た。だが、そこにハインケルの姿はない。変装を解き、髪の毛をなびかせる女……雨流みねねがそこにはいた。彼女は、その手に銃を握りながら、解いた変装の中、今度は看護婦姿となっていた。そして、彼女は、由美子の前にと立つ。

「今度こそ、邪魔はさせねぇ……もう一人の男女と纏めて始末してやる」

 みねねは、その手にあるスイッチを押す。



 暴力教会にて……。



「おいおい、つれねぇーな、レヴィ。此処まで絡んでおいて、サヨナラはねぇーんじゃねぇーのか!?」

 教会から出ていこうとするレヴィとロックを見ながら、エダが止めようとする。それは突然だった。閃光弾を受けた後、気がついたときには、既に雨流みねねの姿はどこにもなく、ハインケル、そして、レヴィ、ロックが残されていた。結果的には、また逃げられてしまったということになる。一行は、遅れてやって来たエダとともに一度、教会まで戻ってくることとなったのである。その時間になれば、既にロアナプラの夜は明け、眩しい日差しが地平線から顔を出し始めていた。それを合図にして、レヴィは帰ると告げたわけだ。
 
レヴィは振り返りエダを見る。

「銃の弾だってタダじゃないんだ。慈善事業なら、そっちの管轄だろう?」

 レヴィはどこか不貞腐れた表情で、タバコをくわえながら、そのまま、再度、前をむいて教会の扉を開ける。エダは、金髪をかきながら、舌打ちをする。エダは、教会の中、手を握り、ステンドガラスの先にある十字架の前で膝を付き頭を下げている。十三課というのは名ばかりだというのか、それとも、雨流みねねが強いというのか……。エダとしては判断ができない状態だ。



「おや、おかえりかい?」


 レヴィとロックが教会から出てきた姿を見つけたのはヨランダである。彼女は、まるで彼女たちが出てくるのを待っていたかのように、腕を組みながら、壁に寄りかかり立っていた。

「ああ、あんまりドンパチやっても、面白くならなそうだしな、バカが捕まってたのを助け出しただけで、十分だ」

 レヴィはヨランダを見ることなく、そう愚痴る。
 ロックは、そんな無愛想に答えるレヴィに一言、声をかけようとしたが、自分が原因でレヴィを奔走させてしまったことで、何も言い出せない。ヨランダは、眼帯のある目ではない、唯一の生き残った目を、レヴィの背中にと向ける。


「今回のネタじゃ、蛇の代わりはできなかったかい?」


 その言葉に、立ち止まるレヴィ。
 ヨランダは、反応を示したレヴィを見ながら、言葉を続ける。

「……あの日から、ウイルスの一件以来、お前さんは、それこそ『蛇に噛まれた』かのように、気持ちが入っていないようだね」
「……黙れババア。棺桶に早く眠りたくなきゃ……」

 ヨランダの言葉にレヴィは目を細め、告げる。

「知っているかい?蛇の毒はジワジワと聞いてくる。お前さんは、蛇と戦い……その毒を受けた。致命傷にもなりかねないような強い猛毒だ。お前さんの血は、あの戦いを求めてしまっているのさ、無意識に……。そして、それはやがて、あんた自身を殺す」



 フラシュバックスする記憶。

 レヴィの目の前で、黒い髪を風になびかせる女……。彼女は銃を握り、そして、レヴィもまたカトラスを握り、対峙する。


『お前にも……私が居場所を提供しようか?』


『お前の内部に潜む獣を解放できる場所を……』


 そういって彼女は白い歯を見せて笑みを浮かべる。

 その目……。
 
 すべてを射抜くような、見通すようなその目が……レヴィに突き刺さる。


 レヴィは銃を抜いて、ヨランダにと向ける。
 だが、その目の前……ロックが、ヨランダをかばうように割って入る。レヴィは、目をぎらつかせながら、ロックを見る。

「ロック、そこをどけ!」

 ロックは首を横にと振る。

「ロック!!」
「レヴィ……、シスターの言うとおりだ、最近のお前はどうかしている!」
「どうか?はは。今更、私がまともだとでも言うのか?そんな言葉は、私と出会ってすぐにいう言葉だぜ?」


「違う!!」


 ロックは大声で怒鳴る。
 その迫力のある言葉に、レヴィは、言葉を止めた。ロックは拳を握り締めながら、うつむく。

「お前の目が……アイツと、アルファルドと同じ目をしているんだ」
「……」

 そのロックの言葉に、レヴィは、銃を握る手が微かに震えた。

 車の音が遠くから聞こえてくる。

 それも一台ではない、数台の車がこちらにと向かってくる音が聞こえてきた。レヴィは、振り返る。車にと乗り出しているスーツを着た男たち。彼らは銃を握り、こちらに向かってくる。これが砂漠の幻覚なんかでなければ、十中八九、銃を持った男たちが……自分たちのところにとやってくる、そういった構図だ。

「……シスター、ロック。話はあとだ」

 レヴィはそうつぶやいて、銃をしまった。

「嵐が来るぞ……」

 それは、昼の日差しの中に訪れる嵐。

 鉄の嵐。













[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep5
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/03/16 23:31





「扉を全部閉めろ!」


 走って教会にと戻ってきたレヴィが声を上げる。それを聞いたエダと、教会にて祈りを捧げていたハインケル。エダは最初、レヴィが何を行っているのかわからなかった。だが、この悪徳の街にて培われた危機管理能力が、エダに告げる。嵐がくるということを。エダは、教会にと入ってきたロックを見る。

「レヴィ!ロック!!イスとテーブルでバリケードを張ってくれ!」

 ハインケルは、一体何が起きているか、皆目見当がつかない。

「なにがあったんだ?」
「そうだね、これからそろってハイキングに行こうなんていう洒落た状況ではないということだけは事実だ」

 ヨランダは、その腰から銃を取り出し、弾を確認する。外では多くの車が止まる音が聞こえた。その数を考えながら、レヴィは、敵にの大体の数を把握する。車の数×人数4人と考えればだいたいの数はわかる。そんな中、走ってやってくるのはリカルドである。

「ハインケル……あなたに電話だ。由美子と名乗ってる」
「!?」

 ハインケルは、その名前を耳にして、投げられた電話の子機を受け取り、耳にと当てる。彼女は病院で療養中だったはずだ。回復したというのか?

「由美子?どうした?なにかあったのか!?」
『あ~~お前の相棒は、今、イスに縛り上げられながら、哀れなお前の最後の声をきかせてやっているところだぜ』

 雨流みねね……。

『そろそろ着いている頃だと思うけどな、今いる連中は、自分たちの親玉を吹っ飛ばされてテールランプのように真っ赤になっている。まともな交渉が効くとは思えないし、お前の姿を見たら八つ裂きだろうな。なんせ、お前が爆発させたわけだしな』
「……」
『お得意の神に祈りながら……私のところまで来てみろ』

 ハインケルは、子機をそのまま、握りつぶす。





未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課



第5話 もう一人の登場人物




 病院にて、イタリアンマフィアであるロニーはベットの上で、寝ていた。車の爆発は、予想外であったが、部下がドアを開けたため、自分とトマーゾは九死に一生を得た。だが、もし、自分が開けていたと考えると……。相手が、誰であれ、関係はない。そんなに、自分に逆らうなら、神様に直接合わして、そこで宗教でもなんでもやってくれればいい。ロニーは、そう思い、彼らに対する殲滅を命令したわけだ。彼自身、傷があるわけではない、これは一種の演技でもある。そのほうが、部下が奮起すると考えたわけだ。


「思ったより、元気そうじゃないか?ロニー」


 その声にロニーは振り返る。
 それはロアナプラを取り仕切る一人、三合会の張である。

「どうしたんだ?てっきり、本国にとんぼ返りして、震えているかと思ったんだがな?なんだったら、そのまま大人しくしてくれていたほうが、よかったかもしれないぞ?バラライカのようにな」
「俺もできればそうであればよかったんだが。これがなかなか、うまくいかなくてな?一番去ってまた一難。この街は少しの休みも俺に与えてくれはしないらしい」

 そういって張は、一枚の写真をロニーにと見せた。
 そこに写っているのは、どこかで見たことのある女の写真。そういえば、最近見たテレビで、こんな女の顔を見たことがあった。

「知っているな?」
「張。物事にはまず結果が伴う。どんなことだって、そうだ。その間にある過程というものはすべて、結果から付随したどうでもいことであることが多いわけだ。結果に至った理由というのは、大したことじゃない。張……お前は過程を現してはいるが、結果が見えてこないな?」
「そうかい」

 張は、写真をベットの寝ているロニーの上に置くと、タバコにと火をつけようとするが、病院であることを思い出し、渋々、タバコを咥えたまま、口を開ける。

「確かに、結果は変わらない。お前は爆弾で襲われた。だが、過程を重視しないというお前の考え方には賛同できないな。なぜならば、その過程から新たなる状況が生み出されるからだ。この女……雨流みねねは、先日、カトリック教会を爆破したテロリストだ。彼女は、宗教関係ばかり、狙うテロリストで、その特技は変装だそうだ。それも、相手そっくりに身を変えることが出来るようでな。実際に見たことはないわけだが……」

 張の言葉に、ロニーは黙る。
 張は、そのロニーの様子を見ながら、言葉を続ける。

「例えば、このみねねという女がだ……お前に、変装した女の姿で、接触したらと、そうは考えないか?」

 ロニーの頭の中で、張の言っている言葉が、事実だとするのなら、すべてが成り立つ。そして、それが真実だとするのならば……。

「まんまと一杯食わされたな、ロニー。自分の部下の安否を確認した方がいいぞ」

 そういって張は、部屋から出ていく。



 暴力教会の外では、車列を組んだ車の中から、イタリアンマフィアの連中が、大量の銃火器で武装をして車から出てきていた。それらの銃口はすべて教会にと向けられている。トマーゾは、面倒そうに、拡声器を手に取り、教会にと向き直る。

『あーあー……、俺たちは、お前たちが隠している余所者の女を引き渡せ。引き渡せば、関係ないものに対する攻撃は一切行わないことを約束する。これは、俺の意志じゃない、ボスの意志だ。答えを聞こう』

 その声は、しっかりと教会の中にまで聞こえる。
 ロックとレヴィは、ハインケルにと振り返る。ハインケルは、握りつぶした子機を床にと捨てる。そして、そのまま、ゆっくりと顔をあげた。髪の毛が揺れる中、彼女は、そこにいる者たちを見た。

「あの女だ。わざわざ、御丁寧に、自己申告してくれたよ」
「おいおい!マジかよ!?」

 エダが声を荒げる中、ヨランダは壁にもたれかかり腕を組んで、ライターに火をつける。

「あれは、街の一角を占めるイタリアンマフィアだ」
「ふぅ……どうやら、私は嵌められたらしいな」

 ハインケルは、大きく息を吐きながら、弾の確認をする。

「嵌められた!?冗談じゃねぇーぞ!例え、こっちが武器弾薬が多くあるって言っても、向こうは数が違う、それにだ?連絡会を敵に回すってことは、他の連中だって、もしかしたら賞金だってかけられるかもしれねぇー!!」
「うっせぇーよ、エダ」

 動揺するエダに、レヴィは一括する。レヴィは、ハインケルに目をやり、

「お前が受けた喧嘩だろう?どうするんだ?」

 レヴィを見るハインケル、レヴィはそこで、息をのむ。サングラスの奥にかくれたハインケルの瞳は、大きく開かれ、血走っている。口調こそ冷静だが、良く見ればハインケルは、歯を食いしばり、唇をかみしめ、血を流し、拳を握りしめ爪が食い込み、その手からも血を流している。ハインケルは、銃を握りながら、ゆっくりと扉に向かって歩き出す。その場にいる全員がハインケルを見る中、両手に銃を握り、扉にと向ける。



「殺すさ……ああ、殺す。神を冒涜する者、邪魔をする者、喧嘩を売る者、信奉しない者、皆、皆殺す。誰一人例外はない、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……雨流みねねを殺す!」



 銃声が轟き、扉に再度穴が開いた。

 それがきっかけとなり、イタリアンマフィアは一気に、銃口の火を噴かせる。激しい銃声が、教会にめがけ放たれる。窓ガラスが割れ、扉にも大量の穴が開く。ロックは身を隠し、レヴィ、そしてエダも、撃ち返そうとするが、相手の銃の多さに、反撃の糸目がつかない。

「おいおい!!これじゃあ、こっちから攻撃が出来ねぇー!!」
「こんなときのために、なんか用意しとけ!」
「ふざけんな!ここは教会だってーの!!」

 ハインケルは、最初に放った銃弾で大きく穴が開いた扉の穴に対して、腕を勢いよく伸ばした。その手から長い鎖のようなものが伸び、扉の穴を大きく開けて、攻撃を繰り返すマフィア達の方にと向かう。マフィアたちは、その突然こちらにと飛び出してきたものに、目が行く。トマーゾは、その鎖についているものに目をやり、目を見開いた。そこについているのは大量の爆薬。

「……爆導鎖!」

 教会の外で爆発音が響き渡る、

 それは複数の爆発だ、車が吹き飛び、人も吹き飛ぶ。密集した敵陣営は、その攻撃により、壊滅的な打撃を与えられた。暫くの爆発後……そとは静まり返る。ハインケルは、そのまま、ゆっくりと歩き、教会の外にとでる。青い空に、太陽の日差しの中、外は、焼け焦げた匂いがする、ハインケルは、その場に倒れている者たちに目もくれることなく、歩きだす。

 ハインケルの目的は一つだけだ。

「なんだ……今のは」

 呆然とするエダ。
 外を見れば、車がひっくり返ったり、人が木にぶら下がっていたりと、凄惨な光景である。これだけみれば、まるで爆撃が合ったかのような惨状だ。レヴィは、先ほどのハインケルの目を思い出す。あんな狂気に満ちた目をしている奴はそうそういない。それは彼女の興味を注いだ。レヴィは、彼女を追いかけようとする。

「レヴィ!!」

 レヴィの足をロックが止める。

「……レヴィ。今回の戦いには、金も、街の危機というものもかかわってはいない。俺たちが手を出すのは此処までだ。これ以上、彼女たちに関わっても、何も得られない」

 それはロックなりに考えた、レヴィを今回の舞台から下ろす方法だった。レヴィは、やはり、あの蛇との戦いの刺激を覚えてしまい、それを求めている。ロアナプラで繰り広げられた闘争で蛇に噛まれた好奇心・刺激という毒がレヴィに回っている。今回の事件が彼女にその興味を抱かせてしまっている。このままいけば……彼女は、この街の刺激さえ物足りなくなってしまう。その行きつく先は……蛇と同じ末路だ。

「戦いを求め、彷徨った先にあるのは……孤独だけだ」

「……今の、私にはまだ帰る場所、私の居場所がある、か」

 レヴィは、腰に手を当てて、タバコにと火をつける。
 大きく息を吐いたレヴィ……。

「……私は」


 再び病院にて……ロニーは、携帯にと目をやる。攻撃命令をだして暫く立つ……頭の中で、張の言葉が回る中、躊躇したが手を伸ばしてトマーゾにと電話をかけた。ロニーの中では、張の言っていることが間違っていると、信じたかった。

「トマーゾ、どうなった?」
『ボス、どうやら一杯食わされたみたいです……。俺たちと十三課をぶつけ合わせたかった奴がいるようです』
「なんだとっ!?」

 ロニーの耳に入ってきたのはにわかには信じられない話だ。そして、張の言うとおり、ハインケルと名乗る女は雨流みねねを追いかけて、この街にとやってきたということだった。そして、雨流みねねは、変装の名人であることも暴力教会のヨランダから告げられた。

「ちっくしょうっ!!!」

 病院内にロニーのどなり声が聞こえる。

 ロニーは、携帯を切り、三合会にと連絡する。自分をはめた奴=雨流みねねに仕返しをしなくては、この怒りは落ち着かない。雨流みねねのことを知っていた張にもっと情報を詳しく聞かなくてはいけない。なんだったら、連絡会でも開いて、賞金をつけてやってもいい。ああ、そうだ……この街全体で、そのテロリスト女の首をとって……。

『はい、こちら三合会』
「ロニーだ、張はいるか?」
『ロニーさん、今、張の兄貴は国に戻ってますぜ?』
「はあ!?なにいってやがる、俺はついさっきまで、話をしていたんだ!その奴が国にいないっていうのは面白い冗談だな?」
『何を興奮してるか、わかりませんが、本当です。なんだったら、張の旦那から改めて電話させましょうか?今、上海にいると思うんで少し時間がかかるかもしれませんが』

 落ちついている三合会の部下の言葉にロニーは言葉が出ない。確かに、良く考えれば、張がいるとかいないとか、そんな嘘をついても何の得も奴にはないわけだ。子供のような悪戯をする意味がない。それよりもだ……。

「それじゃあ……俺とさっきまで話をしていた張は一体誰なんだ」
『もしもし、ロニーさん?もしもーし』

 携帯を手から落としたロニーは、今日一連の自分で起こったことに、何がどうなっているか理解できないでいた。あれも嘘で……これも嘘で……。

「一体、なにがどうなってんだあああっ!!!!」





 そこはロアナプラの繁華街の外にある寂れた教会。かつては暴力教会が来るまでは、教会であった場所だ。今では、外から日差しが漏れるような廃墟となっている。ロアナプラの街は危険であると判断した、雨流みねねが偶然見つけた場所であった。いまだに割れずに残っているステンドガラスに照らされて、イスに縛り付けられている由美子の姿がそこにはあった。彼女の体には、しっかりと爆薬がセットされており、その様子を、みねねは、黙って眺めていた。

「おかしいな……まだ、教会に向かった連中からの状況が伝わってこねぇ」

 イタリアンマフィアの何人かに取りつけた盗聴器からは先ほどの銃声の後、一切、連絡が取れなくなっていた。

「まさか、やられちまったとかいうんじゃねぇーだろうな」

 盗聴器の音を聞き取ろうとしながらみねねは苛立ちを募らせる。

「……ハインケルは、そんな簡単にやられたりしません」

 由美子は、つぶやく。

 そんな由美子の言葉に、ため息を漏らすみねね。この虫も殺せないような女が、自分を狙っている刺客とはどうしても思えないからだ。しかも、同じ日本人。あのサリーマン風の男といい、日本人はどうやらこういった裏稼業の仕事でも世界に羽ばたいているらしい。まあ、こいつが敵であることに変わりはしない。こんなシスター服を身に纏っているような奴は。

「神が私たちを、見捨てるはずがないのですから」

 目を閉じ、そうつぶやく由美子。

 神……神……。

 そんな居もしないものにすがりついているこのバカな女。みねねは、小さくため息をつくと、銃を抜いて由美子にと向ける。

「そっか、なら死ね」

 引き金を引こうとしたみねねに、銃声が轟き、みねねの前にと銃が放たれる。みねねは慌てて、由美子の背後にと隠れて、どこから敵が銃を放ったかを捜す。まさか、こんな短時間に、自分の元に、追っ手がやってきたというのか。だが、それでもみねねは有利である。こっちには人質がいるのだから。

「誰だ!!姿を見せねぇーと、人質を殺すぞ!」

 銃声が轟き、人質に当たらないように、背後に隠れるみねねを狙って銃弾が飛び交う。みねねは、顔を隠し、由美子は、飛び交う銃声に怯えながら、目を閉じて震えている。みねねは、相手が一切の迷いもなく攻勢を強めていくことに、その手に、幾つかの爆弾を握る。閉鎖された場所での効果的な爆弾は……。みねねは、白い歯を見せて笑みを浮かべる。

「くたばりやがれ!!」

 投げ出された爆弾が、教会内で爆発する。
 それは閃光弾……こちらを狙っている者がいれば、この閃光弾により、耳と視界を奪われることとなる。みねねは、銃弾を確認しながら、立ちあがる。相手がだれであれ、この状況下ではまともに動くこともできないはずだ。みねねは、由美子から離れ、敵を捜す。だが、周りからは一切、音がない。視覚と聴覚を奪われれば、それなりに動揺し、音の一つや二つたてそうというのに……。

「どこに隠れてやがる」

 みねねは、銃を握り、周りを見渡す。

 まさか……、私の閃光弾を受けていないのか!?

 そう思い、振り返ろうとしたみねねの背後、背中に銃を押しつけられる。みねねは、しまったと思いながら、背中にあたる冷たい感触、そして、背後に立つ者に身体を押しつけられる感触に、苛立ちを覚える。

「言っただろう?お前のことなんかなんでもお見通しなんだって。ちなみに、シスターの拘束も解いてやった」

 それは、自分がハインケルとレヴィを襲い、あと一歩で殺せそうだったところを、止めた女の声だ。みねねは、歯を食いしばり、またコイツに邪魔をされるのかと、悔しみに震える。

「お前は誰だ?あの宗教連中の一味か?それともICPOか?はたまたどこかの国に雇われた殺し屋か……へ、私ももてるなぁ」

 みねねは、背後にいる奴にそう告げる。

「……大人しく、とっととこの街から出ていけ。私が言いたいのはそれだけだ」
「忠告、わざわざ恐れ入ると言いたいところだけどよ、アイツらをやらなきゃ、こっちがやられる。だから……」
「やる前に、やる、それがお前の流儀だな」

 みねねは、自分の台詞がとられたことに、舌打ちをしながら、この背後の女に対する怒りだけが高まっていく。後……この声、思い出せないが、やはりどこかで聞いたことがある。私はこいつを知っているのは間違いない。だが、一体どこで……。

「お前……随分と私に詳しいけどよ、どこかで会ったか?シスターに設置してあった、あの拘束だって手順を踏まなきゃ爆発するんだ。それをあんな短時間にやってのけるなんて、仕掛けた私じゃなきゃできないぜ……お前は一体だれだ?」
「……」

 その言葉に、背後の女は何も告げない。みねねは、相手と話をしながら、腕時計型の、起爆スイッチにと手を伸ばす。それは、この建物に設置されている起爆スイッチだ。全部吹き飛ばせば、このうざったい女も、そしてシスターもみんな纏めて始末できる。

「私は……」

 背後の女が口を開けた直後、みねねは、起爆スイッチを押す。

 教会の屋根、壁が爆発する。みねねは、それと同時に、体勢をかがめ、背後にいる女の足を払う。相手はバランスを崩し、地面にと倒れる。みねねは、銃を握り、倒れた女を見る。あたりな爆発音が響き渡り土煙があがる。みねねは、この邪魔ものだけは直接、始末してやろうと、女の顔にと銃口を向ける。女は、その顔を布のマスクで隠しており、誰だかは判別できない。

「最後だ、お前の顔、見せてもらうぞ?」

 みねねは、そういって、マスクにと手をかける。












[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep6
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/03/23 23:28





 病院にて、ロニーは携帯を握っていた。

 いろいろと引っ掛かるところは多いが、十三課の連中は、敵ではないようだ。暴力教会が言っていた通り、敵はテロリスト雨流みねね。十三課に手を出した自分の部下はやられてしまった。これ以上の戦力低下は望ましくはない。ならば、ウイルス事件で身を潜めていた奴らを叩き起こすことが一番手っ取り早い。

『ボス、ロアナプラ繁華街にて、爆発があったとのことです』
「部下を走らせろ、後、トマーゾ、街の連中に懸賞金をかけろ、相手は雨流みねねだ。見つけ次第、殺して、俺の前に塩漬けにして持って来いと言え」
『了解ボス』
「トマーゾ、これ以上、この喜劇に振り回されるのはごめんだ。邪魔立てする者は皆殺しにしろ」

「了解です、ボス」

 トマーゾは、ロニーからの携帯を切り、顔を上げる。そこには、暴力教会のヨランダ、そしてエダがいる。

「三合会、そしてホテルモスクワの主な幹部がいない以上、今のロアナプラの決定権は、ボスにある。そのボスからだ。雨流みねねに懸賞金をかける」

 トマーゾの言葉に、エダは、ガムを食べながら、視線を移す。それはロック、ヨランダもそうだ。教会のイスに寝転んでいたレヴィがゆっくりと身体を起こす。レヴィは、ロックの言葉に自分を抑えた。蛇の思い通りになってたまるかとそう思い、負けるという気持を胸にして、自分を制御したのだ。自分の居場所を、レヴィは守るために。

「レヴィ、どうする?」

 エダの問いかけに、レヴィは、タバコの煙を見ながら、天井を眺めていた。

「また戦いに身を投じれば、蛇の毒がまわるかもしれねぇ……そのとき、私が止まることが出来る保証はどこにもない」
「何しんみりしてんだよ、二挺拳銃。いつもの威勢はどうした?」

 ため息をつくエダに、ロックは、レヴィのほうにと足を進め、天井を眺めるレヴィの視界にと入り込む。

「安心した」
「?」

 ロックの言葉にレヴィは首をかしげる。

「俺の言葉だけで自分を抑えられるなら、お前は大丈夫だ。もし……また、毒がまわりそうになったら、俺が血清代わりに、お前を連れ戻す」

 ロックの言葉に、レヴィは身を起こす。
 髪をかきむしりながら、大きく肩でため息をついて、立ち上がる。





未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第6話 神罰の地上代行者





 みねねは、マスクにと手をかけて、女の顔を、正体を知ろうとした。だが、そこで、私の手をマスク女が握る。

「おいおい、自分の状況がまだ分かっていないようだな?抵抗したら……」
「死ぬぞ」

 そういって、握った腕を引っ張り、みねねの身体は、バランスを崩し女の身体めがけ膝を床にとつき倒れる。だが、その最中、みねねの頭の上を空気が強く斬られる音がした。みねねは、そのまま、女の身体にと倒れた中、ステンドガラスの光に照らされていたみねねと、そしてマスク女を影が覆う。みねねの視界に入った女……それはあのシスターの姿。だが、それは先ほどまでのシスターではない。眼鏡を失ったこの女の目は、瞳孔が開き、白い歯を見せて笑みを浮かべる。

「さっきはよくもやってくれたな?」

 そういって、由美子と人格が変わったバーサーカー、由美江は、握っている鉄パイプを振り下ろす。みねねの身体を、マスク女は突き飛ばし、自分も反対側にと床を転がりながら離れる。みねねは、舌打ちをしながら、立ち上がり、握っていた銃を、由美江にと向けた。だが、由美江は、鉄パイプを握りながら、みねねの目の前まで既に距離を詰めていた。みねねは銃を放つが、至近距離では、銃を定められない。

「ぐはっ!!!」

 鉄パイプで殴られ、みねねの体は、宙を舞い、床にと倒れる。由美江は、倒れたみねねにとそのまま、走りながら、みねねの身体を掴み、壁にめがけ投げつける。その衝撃で手からは銃が落ち、木製の壁は、みねねの身体の衝撃を吸収できず、脆くも音を立て壊れる。みねねは、その衝撃に口を大きく開ける。みねねは、大きく息を吐く中、目を開ければ、そこには、由美江が、鉄パイプをみねねの腹部に当てて押し付けている。

「はあ、はあ……」
「どうしたさっきまでの威勢は?ああっ?」
「んぐっ!!」

 腹部に押し当てられる鉄パイプが、みねねの身体に強く押し付けられる、それはまるで、そのまま腹部を貫かんばかりだ。みねねは激痛に顔を歪めながら、目の前の化け物を見る。

「神に逆らう奴は、誰であろうと地獄に落ちるんだよ」
「あっ、はあ……あっ」

 口を金魚のように何度もあけながら、みねねは、それでもその両手で由美江の肩を掴む。みねねは、息を漏らしながら何かを喋ろうとしている。由美江は鉄パイプの力を緩め、みねねが何を話そうとしている聞こうとする。みねねは、由美江の耳元で小さく口を開ける。

「神もろとも、くたばりやがれ……」

 そう告げたみねねを前に、由美江は腕に力を込め、みねねを殺そうとした。だが、その寸前、由美江目掛け、銃が放たれる。由美江は、咄嗟に回避行動に移り、銃を放った音の方にと、掴んでいたみねねを投げ飛ばす。みねねは力なく、床を転がり、銃を放ったマスク女の足元の前で止まった。みねねは、吐きながら目の前に立つマスク女を見上げた。

「な、なにしてやがるんだ……お前」

 みねねは、目の前の女に弱弱しく話す。

「おいおい、銃を撃つ相手、間違ってんじゃないのか?助けてやったから見逃してやろうと思ったのに……死にたいのか?」

 由美江は鉄パイプを床に引きずりながら、こっちに向かって歩き出し答える。マスク女は、銃を由美江にと向けたまま、引き金を引き、由美江の足元にと放つ。それは由美江に対する威嚇である。由美江の足が止まり、マスク女を睨みつける。

「こいつを殺すわけにはいかない」
「ああ?」

 マスク女の言葉に、由美江がバカにしたようにつぶやく。その言葉に驚いたのは美寧々も同じだ。

「何言ってやがる!?お前、一体どういうつもりだ?私の邪魔をしたり、助けたり……」
「五月蠅い、話は後だ……どうにかして此処を逃げ切るぞ」

 はっきりと告げるマスク女に、腹部を抑えながら立ち上がるみねね。教会が崩落するとおもったが爆発はもう起きず、教会の崩落は起きてはいない。

「爆薬の量をミスっちまったな?だが崩壊は時間の問題だ。外に出れば、なんとかなる」
「いや、外はまずい……」
「なんでだ?」

 そう告げるマスク女の言葉の後、教会の扉が開かれる。視線を移せば、そこには一人の眼鏡を輝かせる女がいた。そしてその女は、握っていた日本刀を由美江にと投げる。由美江はそれを受け取ると、鉄パイプを捨てて、鞘から、輝く日本刀を取り出した。ハインケルは、銃を握り、自分たちにと向けた。

「無事か?由美江、由美子」

 ハインケルの言葉に、由美江は日本刀で足を前に出し、いつでも踏み込める体勢をとりながら頷く。ハインケルは、傷があるわけでもなく、無事であることに胸をなでおろすが、それで怒りが収まったわけがない。

「此処で決着をつけるぞ、由美江」
「応っ!!」

 由美江は、ハインケルが放つ銃弾の雨の中、走りだす。彼女の狙っている獲物はみねねに他ならない。マスク女はその服から、爆弾を取り出し、投げ捨てる。

「起爆前に切り捨てる!!」

 由美江は、日本刀で、その爆弾を真っ二つにと切り捨てる。

「ただもんじゃねぇーってことか!!」

 みねねは、銃を握り、向かってくる由美江に放ちながら、その彼女の動きを止めようとする。だが、そんなみねねには、ハインケルが銃を向け放ちながら、彼女の銃を放たないようにとけん制する。オフェンスの由美江に対して、バックからの支援砲撃に徹するハインケル。おそらくは、本来の動きがこれなのだろう。みねねは、悔しがりながら攻撃を繰り出そうとするが、彼女の手を握りマスク女が、建物の奥にと引っ張る。

「お、おい!バカッ、はなしやがれ!!」
「広い場所じゃ勝ち目がねぇだろう!お前だってわかるだろう?」

 そう言いながら、奥にと進みつつ、マスク女は、手にある起爆スイッチを押す。すると、入ってきた入口は爆発し、天井が崩れ落ちる。マスク女はそのまま、携帯を見ながら、足早に廊下を進んでいく。

「離せ!離しやがれ!!」

 そういってみねねはマスク女から、握られていた手を強引に離す。みねねは、瓦礫を背にして、マスク女から距離をとる。

「てめぇーは誰なんだ!?一体何が目的なんだ!!」
「今、そんなこと言っている場合かよ?」
「私の邪魔をしているような奴と一緒に動けるかっ!」
「少なくとも、今はお前の味方だ」
「どこにそんな根拠が……」
「……くるぞ」

 マスク女は、そういうと、再度、みねねの手を引き、その場から離れる。すると瓦礫を切り裂く由美江の姿。みねねは、舌打ちをしながら、銃を向けはなつ。由美江は、放たれた銃弾を、その場で、真っ二つにと切り裂く。由美江は、白い歯を浮かべる。

「にげるぞ!」

 そういって、みねねはマスク女にと手を引っ張られながら建物の奥にと進んでいく。由美江は、そのまま、二人を追いかけるために足を進める。由美江にとっては狩りを楽しむような感覚だ。ハインケルは、そんな由美江を前にと進めながら、建物の構造を把握していた。追い詰めているのは間違いはないが……建物に設置してある爆弾は、まだある可能性は高い。

「由美江、遊ぶのは構わないが、傷ついた獣は面倒だ」
「わかってるよ、最初の爆弾で足をふっ飛ばされかけたんだ、しっかりと首を切りとってやるさ……」

 舌舐めずりをする由美江。

「神罰の地上代行者の名の元に……Amen」

 ハインケルもまた、大きく息を吐く。



「バカとなんとかは高い所に上るとか聞いたことあるけどよ」

 みねねは、そのマスク女の後をついていくように、その時計塔の上にと螺旋階段を登っていく。みねねとしては、もはや、彼女についていくことしかできない。だが、此処でまた、この女に邪魔をされたらことだ。みねねは、そう思い、時計塔に爆弾を張りつけようとする。だが、既に壁には爆弾が貼られている。みねねは前を見る。マスク女が、どうやら歩きながら貼っているようだ。

「……お前が、もしシスターをあの場で殺していたら、お前は間違いなく死んでいた」

 マスク女はまるで独り言のように告げる。

「奴らは、ローマカトリック教が用いる唯一の武力集団だ。奴らはそれの殺し屋。奴らを殺したところで、出てくるのは、もっと強い奴だ。それが何人も出てきて、お前を殺す」
「まるで見てきたことがあるようなことを言うじゃねーか。私がそれで……助けてくれて、ありがとうとでも言うと思ったか?」

 そんなみねねの言葉にマスク女は、隠した口元で笑みを浮かべ

「いいや、私だったら思わないだろうな」
「だったら……」
「私は、お前に死んでほしくない、少なくとも、過去に囚われたままの状態じゃな?」

 マスク女の言葉に、みねねは、立ち止まる。
 立ち止まったみねねの足音を聞いて、マスク女もまた足を止める。

「いい加減にしろ!誰かもわからない……お前に、私の過去のことまでいちいち、諭されたくなんかねぇ!!」

 怒鳴り声とともに爆発音が、地響きの中聞こえる。それはどうやら、逃げている最中に仕掛けた爆弾に、誰かが引っ掛かったようだ。この場合、引っ掛かる相手は、誰かというのは言うまでもない。

「やったのか!?」

 みねねが、下を見ながら告げる中、階段を上ってくる足音が不気味に聞こえてくる。しかも、その足音は、徐々に早くなってくる。

「急げ!」

 逃げるように告げるマスク女の言葉に、みねねは、銃を握りながら、迎え撃とうとする。みねねとしては、もうこれ以上、振り回されるのはごめんだった。得体のしれない敵に、得体のしれないマスク女。聞こえてくる足音とともに、螺旋階段の下にと向けて、銃を放つ。

「来て見やがれ!ハチの巣にしてやる!!」
「バカ!こんなところで、まともにやり合うつもりかよ!」

 マスク女がみねねを止めようとする。

「うるせぇ!こっちは死ぬ覚悟はできてるんだ!こんなくそったれな世界、ブチ壊せないんだったら、私は……」


 みねねの脳裏に浮かぶのは、あの地獄の世界。
 目の前に倒れている、父親と母親の亡骸を見つけながら、涙を流し、その誰も身寄りのいない中で、食べ物をあさり、奪い、走りまわり……ナイフを握り、銃を握り、そして爆弾を使い、生きるために、あがいた。それを自分に与えた連中は、いまだに、頭を下げ、神によって自分たちは救われるとバカみたいに言い続けている。そんな、そんなくだらない世界を破壊するために、みねねはいる。そして、それが出来ないなら、出来なくなるというのなら。

「……自爆してでも、道連れにしてやる」

 そうつぶやくみねねの言葉の中、螺旋階段の下から姿を現すシスター服の女、前髪は垂れ下がり、その手には日本刀が握られている。垂れた前髪の隙間から覗き込む眼は大きく開かれ、みねねを視界にと定める。

「くたばりやがれ!!」

 みねねは、銃を放ち、由美江を狙う。だが、それは由美江にと届く前に、真っ二つにと切り捨てられる。その早技にみねねは、言葉を失いながらも、銃を撃ち続ける。由美江は、白い歯を見せて、螺旋階段を一気に駆けあがる。

「!!」

 すると、突如、爆発が起きる。
 それは、この古びた教会の時計塔全体を大きく揺らした。みねねは、顔を上げる。そこにはマスク女が起爆スイッチを押している姿があった。

「掴まれ!」

 みねねは、時計塔が崩れ、倒れていくのを感じた。建物が、崩れ落ちていく中、階段の端と端に足を広げてバランスとる由美江。爆発音が響き渡り、建物が、崩壊していく。時計塔の崩壊は、ロアナプラの街に、大きな煙をあげることとなる。爆音と、煙が湧きおこる中、みねねは、自分がどうなっているのかわからないでいた。

「はぁ……はぁ……」

 大きく呼吸をしながら、顔をあげるみねね。
 どうやら生きてはいるようだ。立ち上がり、瓦礫をどけていきながら、青い空と眩しい日差しが、彼女の視界の中にと入ってくる。

「どうやら、生きているみたいだな……」

 みねねは、足元をふらつかせながら、道路にと足を踏み出した。崩れた教会の周りは、車が立ち往生し、近くで露店をしていた人々は、その爆発と崩れた時計塔を眼にして、驚きながら、その場を離れていく。

「みねねぇっっ!!!後ろだ!!!」

 自分の名前を呼ぶ声、そして、身体が、その危機的状況下に咄嗟に反応した。後ろにと身体を引きながら振り返ったみねねの前、そこには、頭から血を流し、顔を半分血に染めた由美江の姿があった。彼女は、刀を振り下ろし、みねねの右手首を切り落とす。

「ぐわああああああっ!!!!」

 みねねは、悲鳴を上げて、血を噴き出す、その腕を抑える。激痛に、みねねは、その場で膝を落としてしまう。由美江は、息を吐きながら、刀を握ったまま、倒れているみねねの前にと立つ。

「これでおしまいだ……、神の制裁を受けろ、Amen」

「うわあああああ!!!」

 そんな由美江にと向けて、大声を上げながら銃を連射して走るマスク女。由美江は、その銃撃の嵐に、刀での防戦を余儀なくされる。みねねの元まで走り抜けた、マスク女は、うずくまるみねねに、ポケットから取り出した包帯を、みねねにと渡す。

「大丈夫か!?くそったれ……これで止血しろ」
「も、もういい……こうなったら全員、道連……」
「バカ野郎!諦めんな!天下の雨流みねねなんだろう!?お前は!!」

 マスク女はそういうと、みねねの残された手を引きながら、走りだす。そんなマスクい女とみねねに銃を放つのは、追いかけてきたハインケルだ。ハインケルは、みねねたちを仕止めるべく、銃を放ち、そして、由美江は刀を握り、再度攻勢に向かおうとする。

そんなさなか、4人の間にと車が一台、割って入る。

 ハインケル、由美江、そしてみねねとマスク女が、その車を見る中、止まった車から、降り立つものの影。

「パーティーには間にあったようだな?」

 二挺拳銃……レヴィが、ソードカトラスを握り、車から降り立った。











[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep7
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/04/01 00:14





 青い、青い空の下。



 崩れ落ちた時計塔から煙が上がっている。

 時計塔の中間部分に設置された爆弾により、時計塔はくすれ落ち、いまだに土煙を上げていた。時計塔は道路を寸断し、周りの露店の人々は逃げ惑い、そして、その建物周辺に今回の登場人物が一堂に揃っていた。腕を切られ、歯を食いしばりながら止血するみねね、みねねを守ろうとするマスク女、そしてそれを狙う、ハインケル、由美江。

 そんな4人の間に割って入る一台の車。

 みねねは、車から姿を現した二挺拳銃を握り、マスク女にと銃を向ける。マスク女は、銃をレヴィにと向ける。

「……これで、賞金は、私たちのものだな?」

 レヴィは、眼をギラつかせながら、倒れているみねねを見つめる。賞金が設定された……それはこの街すべてが、みねねを狙う敵となったということだ。

「おい、お前ら邪魔するんじゃ……」
「由美江。彼女たちは、私たちの味方だ」

 ハインケルは由美江をなだめながら、レヴィのやり取りを見ている。

「お前、誰だ?この街では見かけないな……まあ、邪魔をするなら……」

 一方、レヴィは見たことのないマスクの女に対して問いかけた。
 みねねは、マスク女が銃を持つ腕を握る。

「此処までだ。私は私なりに蹴りをつける。お前は関係ないからさっさと消えろ」
「……逃げるのは私たちの専門だろう?どんな状況だろうと、いつだってそうだった」
「お前……」

 みねねは、自分の前に立つ女を見て言葉を漏らす。
 そんな中、立ち上がるマスク女は、レヴィたちにと銃を向けたまま対峙する。






未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課



第7話 重複





 みねねは、片手で、ポケットから閃光弾の安全ピンを抜く。対峙するマスク女とレヴィ達の間にと転がした。それに察知したのは遠くから様子を見ていたハインケルである。

「爆弾!?」
「おせぇえーよ!!」

 みねねの声とともに、爆弾が爆発し、辺りは閃光にと包まれる。眩しい輝きが辺りを覆う中、みねねは、片手で銃を抜くと、マスク女の手を引き、その場から脱出を図ろうとする。だが、マスク女を引っ張ろうとした手が引き戻される。

「!?」
「そんな何度も何度も、同じ手喰らうわけねぇーだろうが」

 レヴィが被っていたのはガスマスクのようなもので、顔を完全に覆っており、閃光弾、煙幕等の防止のためにエダが教会にある武器庫から調達してきたものだ。レヴィは、マスク女のマスクを掴み逃げれないようにとしていた。マスク女は、舌打ちをしながら、体勢を引くくし、そのまま、マスクを脱ぎ捨てる。

「逃がすかよ!!」

 レヴィは掴んだマスクを投げ捨てると、銃を逃げようとする2人に向けて放とうとする。だが、そこでレヴィは気がつく。コンクリートにと転がる複数の爆弾に。レヴィは慌てて、反対側の方向にと飛んで、爆弾から離れる。爆音とともに、コンクリートを抉るような爆発が起こる。瓦礫が、車などに飛ぶ中……レヴィは立ち上がり、銃を握りながら、敵の影を眼で追う。だが、その姿はどこにもない。おそらくはこの周りで様子を見ていた多くの群衆に紛れた可能性がある。

「お前たちのせいで、逃がしちまったじゃねぇーか!!」

 由美江は怒鳴り散らしながら、レヴィとエダにと詰め寄る。そんな由美江を抑えるハインケル。

「協力は感謝したいが……奴は私たちの獲物だ」
「そういうわけにはいかなくなっちまったんだ?シスター?」

 エダは、ハインケルを見ることなく、ガムを噛みながら告げる。

「奴は……雨流みねねは、このロアナプラで賞金首をかけられた。ようはこの街すべてがアイツの首を狙っているっていうことだ」
「人狩り……」
「ああ、そうだ。賞金を求めて皆がアイツを狙うだろう」
「おい!こっちは仕事でやってるんだ!?お前たちみたいに遊びでやってるんじゃ……」
「ヘイ、こっちだって金を手に入れるために命がけで戦ってるんだぜ?」

 エダは由美江に向けてそう告げると、視線をレヴィにと向ける。

「レヴィ、街の連中が動き出してやがる。どうする?」
「こういうときは獲物の立場になって考えなくちゃいけないな、奴は傷を負っている、奴の仲間がいるとしても、この場所から脱出を図るか、傷の手当てができる場所にと向かうだろう」
「その獲物は、化けられるんだぜ?どうやって追い立てるんだ?」

 レヴィは、白い歯を見せて、笑みを浮かべる。

「そこだ。奴らはまだ自分たちが上であると思っている。私たちが掌を踊っていると思っているってことだ。だからこそ、奴らは逃げないし、私たちを出し抜くつもりだろう」
「レヴィ、能書きはいいんだよ、奴らはどこに……」
「2人は病院さ、病院といえば、この街にはひとつしかない。エダ……行くぞ」

 レヴィの言葉にエダは、車にと乗り込み、レヴィは運転する車のエンジンをかける。そんな2人を立って眺めているハインケルと、由美江。ハインケルはサングラスを指でかけなおして、レヴィとエダに向けて口を開く。

「私たちは神罰の地上代行者として雨流みねねを倒す。邪魔をするものは……」

 そこで、レヴィが車の窓を開ける。

「……ひとつ、忠告してやる。お前たちが神を信じていようがいまいが、どうでもいいけどよ?この街には神なんかいやしない」

 レヴィはそれだけ告げると、車を走らせる。

 神なんかいれば、この街の惨状を見た神様があまりのひどさに憐れみ、全員に1ドル札を恵んでくれるかもしれない。それがこの街だ。誰かが助けてくれることなどない。もし、それがあったとしても、後で金銭を要求される。それがこの街の構造だ。




「……ふぅ、噂以上のようだな。この街は」

 ハインケルは、大きくため息をつきながら、そう答える。
 空を見上げれば、青い空が広がり、それだけみれば、ローマからみる空と何も変わりはしないというのに……。金のために、動く。そこには信仰も何もない。

「どうするんだ?ハインケル。なんだったら宗教裁判にかけるまでもない、全員皆殺しにしてやるぞ!」

 由美江は、周りをギラついた眼でみながら、つぶやく。こうみるとただの獣に近い。ハインケルは、冷静に考える

「放っておけ……むしろ好都合だ。奴らがけしかける中で、あの女を狙う」

 ハインケルの言葉に、由美江は白い歯を見せて笑みを浮かべる。現地人に頼ったのが今回の失策だ。この場所は穢れているのはよくわかった。ならば穢れた者同士で争うがいい。その間を縫い、雨流みねねの命を奪う。





「……はぁ……はぁ」


 漏れる息。

 痛みが走る中、みねねは、意識を覚醒させる、痛みに耐えるように、口に押し込まれたタオルを強く噛む。ベットの上で輸血用の点滴をうたれ、自分の切られた腕を包帯で巻き直している影。みねねは、その影を眼で追った。その姿を見て、みねねは、眼を見開いた。

「わ、わたし……?」

 呆然とするみねねの前、口にはさまれていたタオルが口から床にと落ちる。その音に、目の前にいたみねねが気がついたのか、振り返り、みねねを見る。交錯する視線。2人の間に鏡が存在するのではないかと思うほどに、目の前の自分は自分そっくりだった。そんな……2人の自分が存在することに、みねねは、一体何が起こっているのか、一瞬、思考が停止した。

「ヤバ、マスク脱げてるの気がつかなかった。はぁ……とうとうバレちまったか。こうならないようにいろいろとやってきたんだけどな」

 髪の毛をかきむしりながら、みねねは、大きくため息をついて、イスにと座る。みねねは、自分の今の状況を確認する。それは、点滴を打たれながら、ベットに寝かされている状況。場所を見渡すが、そこがどこの部屋なのか、みねねにはわからなかった。

「お前……誰だ?」

 みねねは睨みつけながら、もう一人の自分を見る。もう一人のみねねは、睨みつけるみねねに対して、再度ため息をつく。

「私は……雨流みねねだ」
「は?……ふざけんなぁっ!!みねねは私だ!!」

 もう一人のみねねは、腕を組みながら、この目の前の自分に対してどう説明をしてやればいいか迷いながらも、睨んだままの自分を見て

「信じないかもしれね―けど、よく聞けよ?」
「……」
「私は、別の世界から来た……詳しく言えば、この世界の前の世界からやってきた、お前だ!!」
「……全然、詳しくなってねぇーけど」

 冷静に自分に突っ込みを入れるみねね。
 そんなみねねに対してもう一人のみねねは、立ち上がり、ベットで寝ているみねねにと指を差す。

「あああ!!!だから、説明できないっていうんだよ!とにかくだ!私はお前の味方だ。無条件でな。これも、未来を変えるためにやることだからな、私の言うことをよく聞けよ!」
「そんなこと突然言われてもな……見ての通り、私はもう……」

 輸血を行っているとはいえ、片手を失った以上、戦うことは難しいかもしれない。しかも相手は、この街にはびこる多くのアウトロー連中だ。逃げることだって容易じゃない。みねねは、視線を天井に向けながら、次の言葉を出すことが出来なかった。そんなみねねを、もう一人のみねねに頭突きをくらわす。

「ってぇ!!!なにすんだ!このバカ!!」
「お前が、あんまりふざけたこといってるからな……」

 そういってもう一人のみねねは、片方の腕を、みねねにと見せる。もう一人のみねねは、片方の手で、もう片方の手を取り外す。それは義手であった。もう一人のみねねは、無言で、その腕を戻す。ベットに寝ているみねねは、そんなみねねの行動に、小さく息をつく。

「……」
「ちなみに、片方の目は義眼だ」

 もう一人のみねねは、そう告げて、静かにイスにと座る。ベットに寝ているみねねは、視線をもう一人のみねねから逸らす。

「やっぱり、お前……私じゃないだろう」
「悪運が強いのが、お前=雨流みねね=私っていう証拠だ」

 もう一人のみねねは、そこで携帯を取り出し、携帯に書かれてあることを見る。

「移動するぞ、奴らが来る」
「どこに逃げようっていうんだ?この街中、敵だらけだぞ」
「逃げ回るのは、私たちのオハコだろう?」

 もう一人のみねねの言葉に、みねねは、小さく頷く。
 点滴を終え、血液が戻ったのか、みねねは自分の体が動きが軽く感じた。だが、そうはいっても、片腕を亡くしている状態では、あの二挺拳銃、そしてあの2人の殺し屋相手に対等に戦うのは難しいだろう。脱出すら至難の業といえる。

「どうするんだ?」
「ついてこい……さっさと、こっから脱出するぞ」

 携帯を握りながら、もう一人のみねねは、ドアにと張り付く。みねねは、そんなもう一人のみねねが眺めている携帯を横から覗き込む。そこには、自分がいつもかいているような日記が書かれている。

「なんだこれ?私の日記じゃんか」
「これは、未来日記だ」
「未来日記?」
「ああ、未来で起こったことがこの携帯にと書かれる。だから、これを見ながら、移動をすれば、無事に脱出することが出来るってことだ」
「……私は夢でも見てるのかもしれないな」

 目の前の自分そっくりの人間といい、こんな得体のしれない携帯といい……今のみねねにとってはどれも、現実とは程遠い出来ごとのように感じる。もう一人のみねねは、携帯を握ったまま、ゆっくりと扉を開ける。

「このまま、廊下を走りきるぞ」
「……」

 2人のみねねは、そのまま、廊下を走り切り、角を曲がる。携帯を見ながら走るみねねと、銃を握りながら、周りを見渡し警戒するみねね。だが、その表情は曇っている。二人が角から曲がった直後、そこから姿を現したのは、二挺拳銃、レヴィと、エダである。2人は、銃を握りながら、周りに露骨に見えないように隠しながら、部屋の一つ一つを確認する。だが、むやみに扉を開けて爆発は避けなくてはいけないために、慎重にならざるを得ない。

「ったく、捜すだけで一苦労だぜ」

 エダは、扉を開けた先が誰もいないのを確認して、額にかいた汗をぬぐいながら、レヴィにと告げる。レヴィは、窓の外を見ながら、イタリアンマフィアが、多くその場所にいるのを見る。

「おい、エダ……ここって、もしかして奴ら【イタリアンマフィア】が入院しているってところか?」
「ああ。そうだ……なんせ、この街にある唯一の病院だからよ」
「……あいつら、まさか」

 レヴィが、みねねたちのやろうとしていることを考えている最中、病院内で爆発音が響き渡る。それと同時に廊下に溢れだす噴煙。

「おいおい……まさか」
「ちっ、アイツら!!」

 レヴィが爆発があった方にと走りだす。



「……全員、武器を捨てろ!!こいつの命がどうなってもいいのか!!」



 響き渡る声……。

 病室から、外を見ながら、大声を上げる雨流みねね。彼女の握る銃の先には、マフィアのボスであるロニーの頭がある。目隠しされている彼は、状況が理解できていない。病院前にと集まっているイタリアンマフィアは、彼女の言葉に、動けないでいた。それは他のアウトローもそうだ。出資者が死ねば、当然、賞金が出ることはない。そうなれば本末転倒である。叫ぶみねねの後ろ……病室には、二週目のみねねと、そして病室を護衛していた、マフィアの部下の死体が転がっていた。部屋は鍵を閉め、爆薬で封鎖しており、簡単にははいってこれないだろう。

「こ、こんなことをしてどうなるかわかっているのか?」

 ロニーは、目隠された状態でみねねにと告げる。
 みねねは、そんなロニーに対して、まったく動じることなく、床にと膝まづかせる。

「お前が、あいつらを動かしているのなら、さっさとやめさせるんだな?私たちは、お前たちの望み通り、この街から消える。それでいいだろう?」
「……」

 ロニーは歯を食いしばりながら、何も言えないでいた。
 そんな中、部屋の外から聞こえる声……、みねねは、顔をのぞかせる。そこに立っていたのはハインケルだ。

「いいたいことだけは、それだけか?」
「……そうだったな、部外者のお前には、コイツが死のうが関係ないか」

 みねねの言葉に周りにいたイタリアマフィアが、ハインケルを取り囲む。ハインケルは動じることなく、みねねをサングラスの奥からその視界にとらえている。

「貴様っ、ボスになにかをして……」

 最初に声をかけた男の首が、滑り落ちる。
 それに驚いて後ずさりをしようとした男の足が足の付け根から毀れおちる。周りから悲鳴が上がる中、その男達の部位が、次々と落ちていく。ハインケルの背後……由美江が眼を輝かせながら、日本刀を握り、その刀からコンクリートの駐車場にと、赤い血を垂らす。

「神の名の元に、私たちは、お前に裁きを与える、それを邪魔する者もすべて」

 ハインケルは口を開けて、みねねにと告げる。

「神を信じぬ、愚かな、哀れなものたちに……。我々を救ってくれると信じていたものたちを殺した、罪人に」
「……く、クククク……」

 ハインケルは、その漏れる声に耳を澄ます。
 やがて、その声は大きくその場に響き渡る。

「アハハハハハハハハ!!!」

 黙るハインケルと、由美江。
 その2人を前にして、みねねは、笑っていた。やがて、その笑い声は静まり……みねねは、身を乗り出しそうな勢いで、2人を睨みつける。

「教えてくれ……神の地上代行人様よ?」


 みねねは、眼を見開く。


「私の、父親、母親は、お前たちがいう神様の争いごとに巻き込まれて死んだ!

 くだらねぇー……どっちの神が正しいかのもめ事に巻き込まれて死んだ!!!

 私の親が、私が……なにをした!?

 私たちが日本人だったからか?
 私たちが裕福層だったからか?

 親と両手を繋いで……一緒に、歩いていたからか?

 私が……家族といれて……幸せだったからか?

 ……私が、私が……家族と…一緒にいて笑っていた……からなのか?

 それが、そんなに悪いことなのか?
 それが……そんなにいけないことなのか?

 お前たちの言う、神様は……そんなことも許してくれないのか?

 なあ……教えてくれ!!


 教えてくれよっ!!!!」









[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep8
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/04/13 23:48




……ロアナプラ渡航 3日前

日本



「今日も帰りは遅いのか?」
「ああ、フランスで起きた爆破テロの犯人、雨流みねねが日本にくるかもしれないとかいうからな?」
「アハハ……ああ、せいぜい死なない程度に頑張ってくれ」

 どうやら、三週目の私もいい感じで暴れているようだ。

 みねねは、玄関に立ちながら、靴をはくスーツ姿の男……西島を見る。西島は、鞄を持ち、立ち上がると、振り返りみねねを見る。彼はみねねを捕まえるべく奔走する警察だった。そして、みねねはテロリスト……本来なら一緒にいることなどあり得ない関係であるはずだったというのに……今は、こうして一緒に生活をしている。西島は、みねねを見ながら、肩にと手を置き、顔を近づけた。

「……いってくる」
「あ、ああ……」

 西島は、そう言いながら、家を出ていく。
 みねねは、少し照れながら、頬をかいて、部屋にと戻ってくる。あの混乱と、殺戮の日々の中、自分はこうしている。未来日記というゲームのでの闘争で、殺し合った中……崩壊する2週目の世界で、唯一生き残った2人の中の一人。一人は、天野雪輝、今は、2週目の世界を再構築していることだろう。そして、自分はそんな2週目の世界から、この別次元の世界、3週目の世界にと移住した。

「ふぅ……今思えば、随分な無茶をしていたもんだ」

 何度も死にかけ、私の片腕、片目は失われた。
 自爆だってしているのに……こうして生きていることが、みねねにとっては不思議なことであった。あの地獄の日々から、みねねはようやく幸せを手に入れ……。

「久し振りじゃな?雨流みねね」

 その声に顔をあげたみねね。

 いつの間にか、ソファーに座っていたのは、未来日記で殺し合いを互いにさせた実行犯である、使い魔のムルムルである。





未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第8話 存在する意味





 ソファーに座ったまま、みねねは、美味しそうに菓子を食べているムルムルを見る。みねねは、そんなムルムルに対して、にらみつけている。

「なんじゃ~、そんな顔をしておったら、あの男も怖くて逃げてしまうぞい?」
「お前がくるとろくでもないことしか思い浮かばないからな」

 そういってムルムルから視線を逸らすみねね。

「随分と嫌われたものじゃな~~。折角、お前にいいことを教えてやろうと思ったというのに」
「いいこと?」
「そうじゃ、聞きたいか?」

 ムルムルは、みねねに顔を近づけて話す。
 みねねは、ムルムルのその顔を見ながら、再度、視線を逸らす。

「いんや、聞きたくないな」
「なんじゃと!!此処まで、いっているのに……ふん、そこまでいうならいってやらん!お前がこの後、浮気をされて、別れる羽目になるということであっても、いってやらんぞ!」
「んだとっ!!!」

 そのムルムルの言葉に身を乗り出すみねね。その表情は先ほど澄まして聞いていた顔とは一変し、殺気だっている。

「西島の奴、あれだけ私のことを好きだ、愛してるなんていっておきながら……フ、安心しろ西島、お前だけじゃなくて、この私から、『奪う』という、バカな女も纏めて地獄に仲良く送ってやるからよ!」
「ほらなぁ?ワシもいいことをいうじゃろう??」
「いいことがどうかはさておき、どうせならもう少し詳しく聞きたいな?その相手のこと。西島はもうその相手と出会っているのかどうかとか」


 ムルムルは、笑顔で既に空になってしまった皿を無言で差し出す。


「……」

 ムルムルは、腕を組み、お菓子を頬張りジュースを飲みながら、真剣な表情で、話を続ける。

「まだ、西島はその相手とは出逢ってはおらん」
「なるほどな、ってことは、この後、出逢うってことか?相手は、警察関係者の可能性が高いな、だいたい、そこぐらいしか西島に出会いはないだろうし」
「ブッブー、警察関係者ではないぞ」
「違うのか!?だったら、4thに教えられた、いかがわしい店での女と……!!」
「ブッブー、それも外れじゃ」
「んだよ!?それじゃあ、誰なんだよ!!はっきりいいやがれ!」

 イラついた、みねねが声を荒げる中、ジュースを飲むムルムル。

「相手は、雨流みねねじゃ」
「……そりゃー仕方がないだろうよ、これだけいい女はそうそういないしな……ってどういうことだよ!!みねね様は、今、ここで、一緒に暮らして……」

 そこまで言った後、みねねは思い出す。
 先ほど西島が言っていた言葉を。『雨流みねねを捕まえる』この世界は、自分がいた二週目ではなく、三週目の世界であり、自分は二週目の世界の住人である。ようは、この世界には、2人の雨流みねねが存在する。そして、彼女は、三週目の雨流みねねは、今もテロリストを続けている。そして……以前の自分と同様、この世界でも、みねねは、日本にとやってくるだろう。そして、必然的に、みねねは出逢うこととなる。西島と……。

「さすがは、勘が鋭いのう」
「ふざけんなっ!!アイツから私と一緒に暮らそうっていい出したのに、そんな私よりも、テロリストで暴れまわっている私を選ぶっていうのかよ!!」
「2週目のお前も、そんな中で出逢った西島と結ばれたのじゃから……まあ、当然と言えば当然かもしれんなぁ」
「認められるか!!他の女ならいざ知らず、いやそれはそれで困るけれどもだ……。私自身に浮気されて、奪われるなんて!」
「これも、他の日記所有者が、天野雪輝により未来の改変が行われたのに対して、お前は海外にいたからな、その未来改変の影響を最小限にとどめられてしまったというのが、今回の主な原因じゃろう」
「くう~~~!!」

 みねねは、自分に対する嫉妬という異様な状況においやられる。このままでは、本当に、自分自身に今の立場が奪われて……西島にとっては、今までと何も変わらない生活があるのだろうが。逆に私に訪れるのは……孤独。それは、今まで忘れていたものであった。

「おい!ムルムル!何か、何か手はないのか!?」


 そのみねねの言葉に、ムルムルは笑顔で空の皿を差しだす。


「……」

 再度、お菓子でいっぱいになった皿とジュースを飲みながら、ムルムルは、真剣な表情で言葉を続ける。

「ないわけではないがな」
「……ああ、教えてもらおうか」
「まず一つは、男自身をどうにかすることじゃ……例えば警察をやめさせ、雨流みねねとの接触を断つこと」
「無茶だ、私が言って聞くような奴じゃない、あいつも一度言い出したら、警察やめたって、テロリストを単身追いかけかねない男だ」

 それは自分にプロポーズをしようとしたことから、執拗に求婚を求めてきたところから、あいつの性格はわかっているつもりだ。

「なるほどなぁ……なら、男の方ではなく、女の方……こっちの世界の雨流みねねをどうにかするという選択肢じゃな」
「まあ、そうなるな」
「いちばん簡単なのは、対象者を除去するということだな」
「私が、私を殺せって言うのか?」
「簡単にいえばそうなるな、そうすれば、この世界に雨流みねねが2人いるという、ありえない状況は、改善されるわけだし、一番、楽な方法だと思うがの~~」

 ムルムルは、そういって、ジュースを喉を鳴らして飲む。

「ふざけんな……後から来た私が、元いた私を排除するなんてできねぇ」
「じゃが、未来を変えるには、それしか方法がないぞ?安心せい、その方法は以前、我妻由乃が実践済みじゃ」

 かつて、未来日記を所有するゲームを行った際、我妻由乃は、勝利をしたが、死んだ者の魂を呼び戻すことが出来ず、世界を放棄、新たな二週目の世界で再度、未来日記のゲームを行い、別の未来を作ろうとした。そこで彼女は二週目の我妻由乃を殺害し、成り変わるという行為を行った。それを今度は、ムルムルはみねねにやらせようとしている。みねねは、淡々と語るムルムルを見ながら、立ち上がる。

「それがお前の、目的か?」

 ムルムルは、お菓子を食べながら、みねねを見ることはしない。ようするに、彼女の目的は、みねね同士で殺し合わせようとしているのだ。これが、神の力を持つことがやることかと思えば、吐き気がする。

「私は、お前の思い通りにはならない」
「ほぉ?」

 みねねは、ムルムルを見下ろしながら、笑みを浮かべる。

「未来を変えるのは、得意なんだよ、私はな」


 ロアナプラに渡ったのは、その後すぐだ。

 日本に渡る前に、立ち寄ったその場所……、懐かしく見覚えのある場所で、みねねは、かつての自分を見る、敵意をむき出しにして、すべてに憎悪を抱く自分を。みねねは、そんな自分と接触をして、彼女を脱出させることで、未来を変えようとした。だが、この過去は自分の知っている過去とは違った。ハインケル・ウーフー、由美江なんていう刺客はいなかったわけだ。

「……結果、えらい、面倒なことになっちまったな」

 小さく息を吐きながら、みねねは、窓の外に立つものを見る、一人はサングラスをかけた黒いコートを着る金髪女、一人は、乱れた長い髪の毛を舞わせながら、路面をマフィアの黒い血で染めているシスター服を着る日本人女だ。

「お前が、神を信じない理由はわかった」

 ハインケルは、小さくため息をついて、口を開ける。


「確かに、この世界に不条理は多い。なぜ?どうして?そんなことの連続だろう。だが、それらは神には関係ない些細なことだ。神は、求めている者に対して、おりてくるものではない。語りかけるものではない。どのような状況下であろうと、我々とともにある。我々の隣にいてくださる。だから、我々は孤独ではない。寂しくない……。国に捨てられ、家族を捨てられ、焼かれ、失っても尚、私たちは孤独ではない。常に、神が……傍にいてくださる。お前は、不条理を神のせいにしようとしているだけだ」


「なるほど……神のせいじゃないってか?この世界を想像したのは神様だっつってるのに、この世の不条理、神様同士の争いは、神様のせいじゃない、ただの不幸だったっていうのか!?」
「……そういうことだ」

 ハインケルは、一言、それだけ告げると銃をみねねにと向ける。

「だから、お前も決して死ぬ間際、孤独ではない……お前の不幸な想いは、神により赦されることだろう」
「……ざけんな」

 みねねは、小さな声でつぶやく。
 拳を握りしめ、眼を見開く。

「ふざけんな!このクソ野郎っ!!!」

 みねねは、片手で、手榴弾を投げつける。
 その手榴弾を、ハインケルの隣で、鞘を握り、待ちかまえている由美江。手榴弾を見ると、そのまま、鞘から眼にもとまらぬ速度で、刀を抜くと、手榴弾を真っ二つにとする。みねねは、その様子を見て、部屋にと引っこむ。

「さてと、この人質はもう使えないな」

 みねねは、倒れているイタリアンマフィアを見ながらそうつぶやいた。この街の人間ではない、ハインケルと由美江には、通用しない。まっすぐ自分たちを殺そうと動くことになるだろう。みねねは、銃を向ける。

「待て、奴らには効果はないが、この街の人間には効果はある筈だ!」

 マスク女がそう告げる。

「……そうだろう?レヴィ」

 マスク女の視線の先、ゆっくりと扉が開き、二挺拳銃を向けるレヴィが、姿を現す。レヴィの視線の先には、マスク女と、みねねの姿が映る。

「レヴィ!撃て!あいつらを撃てば……」

 叫ぶエダ。
 マスク女は、銃を向けたまま動かないレヴィを見ながら、口を開ける。

「わかっているんだろう?このまま、私を殺したところで、賞金は手に入らないって……、今や、あの二人組は、この街の敵となった」

 レヴィの目の前……銃を突きつけられるイタリアンマフィアのボスと呼ばれている今は哀れな男を見下ろしながら、二挺拳銃を向けたまま、レヴィは、マスク女と、みねねを見る。そして、窓の外……うめき声、発砲音が響き渡る音を聞く。ハインケルがイタリアンマフィアを撃ち殺し、そして、もう一人……こちらにと猛然と向かってきている由美江。その手には日本刀を持ち、邪魔立てするものはすべて、切り裂いて、白い廊下を、潜血に染めながら……。

「二挺拳銃!!」

 エダの叫ぶ声。

「ロニーの旦那?」

 レヴィの問いかけに、ロニーが顔を上げる。

「旦那の命と引き換えに、こいつらをこの街から追い出す。私は、旦那の命を助けたっつーことで、賞金を手に入れる。どうだ?悪くないプランだと思わないか?」
「……二挺拳銃、俺を人質として、悠々と逃げようとしている奴らを助けた揚句、金を出せっていうのは、随分と、俺が不利な話だとは思わないか?自分が出したクソを、自分で踏むくらいだ、そんなバカな話は!?」

 ロニーは、吐き捨てるように告げると同時に、頭に強く冷たい鉄の塊が押しつけられる。みねねは、ロニーを見ることなく、レヴィを見る。

「取引商材がグチグチ喋ってるんじゃねぇーよ。質問にだけ答えな?頭ぶっ飛ばされたくなきゃな」

 みねねの言葉にロニーは、レヴィを見る。

「こんな失態が、フライフェイスや、他の奴らに知られたら、それこそ俺は生きてはいけない。だから、口止め料として、支払おう」

 ロニーは、吐き捨てるように告げる。その答えに、みねねは白い歯を見せる。その笑みにレヴィも答える。

「契約成立だな、エダ。そういうことだ」
「おいおい、レヴィ、ってことはだ?私たちは今から、そこの2人を連れてラグーン号に乗って、海を渡っていくってことか?」
「ああ、いいピクニックになるぜ?」
「そ、それなら、さっさと逃げたほうがいいぜ……」

 エダは、視線を廊下の奥にと向ける。
 強烈な殺気が、暗い廊下の奥から聞こえてくる……それは足音ともに、やってくる。

「おい!!どうすんだよ、外にはハインケル、中からは、あの日本刀女がいるんだぜ!?」

 動揺するエダに、みねねは、携帯を開く。
 未来日記……みねねにあるのは、逃亡日記。どうすれば、此処から逃げるかが書かれている。

「外だ……窓の外から、逃げる」
「はあ?おいおい、ふざけてんのか!?」

 ロニーがぼやく中、みねねは、煙幕の爆弾を外にと数個投げる。下で待っていたハインケルやイタリアンマフィアたちにと投げ込まれる爆弾は爆発し、煙幕が、視界を遮る。みねねは、窓の外を見ながら、足場を探し出す。ベランダが設置されてあるその場所。足場となっているその場所にと外にと出て、足場となっている場所から、下にと降りていく。マスク女……三週目のみねねが、最初に降り、次にロニー。そしてエダ、レヴィと続く。

「あの刀女のことだ、ただ切り裂いてくるだけだろうからな」

 みねねが、外にと飛びだした直後、部屋の壁が真っ二つにと切られ、壁に大きな穴が開く。そこから姿を見せた由美江。扉に仕掛けられた爆弾を危惧し、道を作り出したのだ。由美江は誰もいない部屋を見て、ベランダを見る。

「ちょっとばかし遅かったな?」

 みねねはそういいながら、煙幕で覆われている下にと飛び降りる。

「ちっ!」

 由美江は、吐き捨てながら、そのまま、地面にと身を投げる。日本刀を抜いたまま、由美江は、地面にと降り立つと同時に、日本刀の切っ先を正面にと向けて駐車場のコンクリートを縦に切り裂くように突き刺す。と同時に、その衝撃と威力で風が吹き、煙幕を一瞬にして、吹き飛ばす。


「……化け物め!」


 車のエンジンを駆けて走らせるエダ、そして助手席にと座るマスク女…三週目のみねね。後部座席には、レヴィと、みねね、そして真ん中にはロニーが座っている。みねねは改めてその強さを実感する。こんな奴らとまともにやり合おうとしていた、三週目の自分に……いや自分自身に驚く。


「船につけば、私たちの勝ちだ」
「ああ。奴らが見逃してくれればだけどな」


 レヴィが車の窓を開けて外にと身を乗り出し、二挺拳銃を握る。レヴィの視界にとらえられたものは、由美江が運転し、猛スピードで追いかけてくるハインケルの車を捉えていた。











[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep9
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/04/27 23:43



 青い、青い空の下、露天商が、偽物を笑顔で売りさばくのが日常のロアナプラで、鉄火場で聞こえてくる爆音が響いてくる。猛スピードで、港に向かって走るエダたちの車、そして追いかけるハインケルたち。車は、周りの物を追い抜き走り抜く。車は左右に揺れ、路肩にと飛び出し、露店を吹き飛ばし、建物の柱を破壊しながらも突き進む。由美江はアクセルしか踏んでいない。車は、そのまま、突き進み、みねねたちが乗る車にと距離を詰めていく。ハインケルは、二挺拳銃を見ながら残弾数を確認する。

「今回は酷い任務になった……相手も相手だが、この街の狂気には驚かされるばかりだ」
「私たちの任務がこれまでで一度たりとも、楽な任務であったことはあったか?ハインケル」
「そう言われればそうだったな」

 ハインケルは、口元に笑みを浮かばせる。

「私たちの敵は、異教徒である。異教徒は人間ではない、化け物と同じ。それらに鉄槌を下すのが私達の仕事。どんな時であろうと、どんな場所であろうと、同じ。何も変わらない、何もだ……。だから、私たちは今回も何事もなく、何の迷いもなく、食事をするように、祈りを捧げるように、脈を急がせることも、瞬きを速めることもなく、殺す」

 ハインケルは、助手席の窓から、身体を乗り出す。バランスをとりながら、二挺拳銃を前を走る車にと向ける。サングラスの奥に光る瞳。ハインケルは、引き金を引いた。ハインケルが放った銃弾は、放った方向にと飛びながら、銃弾を高速で回転させつつ、まっすぐ、ただまっすぐと飛んでいく。そして、それは、前の車の窓ガラスにと命中し、ガラスを割る。

「さあ、踊れ。踊れ……あがいてもがいて、私達に殺されるがいい!!」

 銃弾を放つ中、エダの操る車にと、次々と飛んでくる銃弾の嵐。ハインケルの命中精度は高く。それらは車体にと穴を開けていく。そんな中、前の車から同じように身を乗り出す女……黒い髪を靡かせながら、同じ二挺拳銃をハインケルにと向ける。目を細めたレヴィは、ハインケルと走り抜く車に乗りながら、対峙する。




未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第9話 神の悪戯




 車の振動に揺れる身体、だが、2人の視線はぶれることなく、その腕を上げる。バランスの悪い状態、逃げれる体勢にはない中、ハインケルとレヴィは、銃を握り、相手にと狙いを定める。そんな状況を見ていたロニーは、割れた窓ガラスから相手の状況を把握する。

「おいおい、こんな状況で撃ち合いをはじめようっていうのか!?」
「黙ってろ、おっさん」

 みねねがそう告げる中。
 レヴィの脳裏には、この緊張と、興奮、命のやり取りに、あの時の状況が思い出される。それは、蛇……アルファルドとの戦いだ。引き金にかかる手に力が入る。これだ、これが求めていた戦いだ。あの刺激を……また味わえる。レヴィの目は、いつしか獣の目つきにと変わっていた。それは……ロックにより、止められていた毒がまた回り始めたことに、レヴィ自身、気がついていない。

「はあ……はあ……」

 呼吸を速めたレヴィが引き金を引く。
 それと同時にハインケルもまた引き金を引いた。二挺拳銃という同じタイプの二人の銃が火を吹く。互いに銃を放ち合いながら、互いのドライバーが、直進から、右に左にと揺れ始める。

「くそ!向こうのほうが、有利だ!」

 エダはバックミラーを見ながら、相手の動きを見て、運転するしかない。相手は、しっかりと運転をしながら、回避できるわけだから、有利である。レヴィと、ハインケルの銃撃戦は続く。エダは、滅茶苦茶に車を動かす。レヴィは、そんな中でも、照準を定める。

「こっちは、船でいつも、不安定に仕事してんだっ!!」

 レヴィの銃撃が、ハインケルにと放たれる中、由美江が上手く、車を動かし、ハインケルを回避させる。ハインケルは、そんなレヴィとのやり取りに、笑みを浮かべる。思ったのだ、楽しいと。

「フっ……フフフフ」

 ハインケルの身体に掠める銃弾。2人は、腕を伸ばしながら、銃を放つが、レヴィのほうがやはり不利だ。みねねは、そう悟る。そして、それは同じみねねであるマスク女も悟った。エダの運転を見ながら、ブレーキを踏む。

「おいいい!!!」

 突如、スピードがダウンし、レヴィの体が落ちそうになったところを、みねねが、掴み、支えながら、由美江もまた、いきなり速度が落ちた相手の車にぶつからないようにとハンドルを握り、路肩にとはみ出しながら、周りの物を跳ね飛ばす。車が平行に走るようにとなり、マスクをしているみねねは、自分もまた銃を握る。ハインケルとレヴィは、車の中にと戻る。

「こっちの方が数は多い!!撃ちまくれ!!」

 マスクをしたみねねの声とともに、レヴィ、そして後部座席にいるみねねが、銃を握り、平行して走る、ハインケルたちに向けて銃を放つ。二つの車に間に、銃声が轟く。車体に大きく穴が開く中、由美江は、身をかがめながら、ハンドルを回して、相手の車にとぶつける。その衝撃に、車は大きく揺れ動く。

「こなくそっ!!」

 エダも負けずと、ハンドルを回して、相手にとぶつける。由美江の乗る車も、大きく揺れるが、さらに反動をつけて、ハンドルを回し、エダの車にと叩きつける。エダはハンドルをしっかりと、握りながらも、エダの車は、そのまま、路肩にと飛び出し、目の前の木造の建物にと突っ込む、はげしい音と衝撃を起こしながらも、そのまま、元の道のと戻ってくる。そして、それと同時に、マスクを被ったみねねと、そして後部座席にいたみねねが2人して爆弾を由美江たちの乗る車の前にと投げつける。

「っ!」

 ハインケルは、二挺拳銃を握り、投げられる爆弾めがけ放つ。それは着地前に、命中し、爆発が起こる。それは、走る由美江たちの車もよけきれず巻き込むことにとなり、煙にとハインケル達の車は包まれた。視界を失った由美江は、ハンドルをさばききれない。視界が開けたときは、目の前には、建物があり、そこにと突っ込む。


 意識が、途切れる。




「……此処で待っていてね、お母さん、大事な用事があるから」



 私の親はそう告げて、駅にと吸い込まれていった。


 私は、その場所で待っていた、きっと迎えに来てくれるだろうと、そんなことを思いながら……私は、その場所で、行き交う人々の中から親の姿を捜しだそうとしていた。陽が落ち、周りには人工の光にて照らされ出しながらも、私は多くの人々が行き交う中で、何も変わらず、そこで待っていた。やがて、その人の歩く音が聞こえなくなっていくと、辺りは静寂だけが支配する闇の場所となっていた。疲れ果てた私が座り込んでいると、周りにとやってきた大人。彼らは、私を見下ろす。

「こんなところで、なにをやっているんだい?」
「お母さんを待っているの」
「いつから?」
「朝から」

 短い問答の中で、その大人たちは、私が捨てられたことを察したのだろう。白い歯を見せて、ヘラヘラと笑う。当時の私には、それが何を意味するのか理解できなかった。子供とは、知識の少ない小動物である。だからこそ、私は、その大人たちが、笑顔で口を開いた言葉を聞いて、理解が出来なかった。

「お前は、捨てられたんだよ」

 私は膝を抱えたまま、顔を上げる。

「誰に?」
「お前の親に捨てられたんだ」
「捨てられた?」

 『捨てる』それは私が、何か物をいらないときに処分する際に行う行為であることはわかっている。だけど、どうして?なぜ?私はいい子だった。悪いことなんかしていなかった。なのに、どうして?どうして……私は。

「そんなこと……ない」

 私は大人の言葉を否定した。
 だが、彼らは嘲笑うことしかしなかった。私を見て、ただ口を大きく開けて笑った。大きな声で、笑い続けた。やがて、その2人の表情が変わる。笑顔が、驚きの表情にと変化した。私は、自分の姿が影に覆われていることに気がついた。振り返った私の前には、並みの男よりも身長がある男がいた。

「何かおかしなことでもあったのですか?私もぜひ、そのお話……聞きたいですね」

 私はそれが、神父であることにすぐに気がついた。なぜなら、私の目に入ったのはその十字架のネックレスだったからだ。2人組の男達は、そのまま、立ち去っていく。私は、神父様と二人きりになった。神父は、私を見下ろす。

「此処にいたら風邪をひいてしまうよ」
「でも、お母さんが……戻ってきて私がいなかったら、心配するから」
「……そうですか」

 そういって神父は、その場から立ち去った。
 夜になり気温が下がっていき、私は、膝を抱えたまま、その場で白い息を吐きながら、待つしかなかった。体力が削られ、眠気が押し寄せてくる。私は捨てられた……そんな言葉が反芻する中、私の肩にかけられた毛布。私は、顔を上げる。そこには先ほどの神父が私を見つめていた。

「……私も待ちましょう。2人で」
「神父……様」

 私は、虚ろな意識の中で、神父と2人で親を待った。
 神父は私に毛布を与えながら、食事も与えた。寒い夜の闇の中で、私は、ただ黙って誰もこない静まり返った駅を眺めていた。人通りもなくなる中で私は、神父を見た。神父は、何も言わず同じように、黙って駅を眺めていた。

「……ねぇ、神父様、私は……お母さんに捨てられてしまったの?」

 私の問いかけに、神父は、私を見ることなく、ゆっくりと口を開けた。

「……それを聞いて、私の言葉を信じますか?」
「……」

 私は、答えられなかった。

「……私、何も悪いことなんかしなかった。怒られたり、ぶたれたりしたこともあったけど、泣かなかったし、お母さんの迷惑になるようなこと、何もしなかった……。邪魔だって言われたりしても、産まれてこなければよかったって言われても……私」
「……一人になるのが、怖かった?」

 私は神父の言葉に小さく頷いた。

「……貴方は、一人ではありません」
「え?」

 私は神父を見る。
 神父は、私を見ながら、優しく笑った。

「私たちは、常に神様が隣にいてくださいますから」
「神……様?」
「ええ。どんなに辛く、寂しく、不安で、孤独であったとしても……一人ではありません。常に、隣に、一番近い場所に、神様はいらっしゃる。だから……何も不安に感じる必要はないのです」
「……」

 私は黙って頷いた。
 暫くして、私と神父は、その場から立ち上がり歩きだした。私は孤独ではない、親に捨てられたとしても、孤独じゃない……。私は涙を流しながらも決して取り乱したりなんかしなかった。神父が私の手を握り、一緒になって歩いてくれるから。そして……私は一人ではないのだから。私は神父を見上げて問いかける。

「私は、ハインケル・ウーフー……、神父様は?」
「私の名前は……アレクサンド・アンデルセン」
「私も……神様のこと勉強したら、もっと神様と仲良くなれるかな?」
「きっと……できます、私が言うんだから、間違いない」
「私、頑張ります、頑張って……神父様のように……」

 孤独だった私に生きる希望をあたえてくれたのは、誰でもない……アンデルセン神父だった。私は、そこで出会った兄弟達とともに、この世界を浄化する、そのために、私は……。



『そうじゃな、だから……お前には最後まで頑張ってもらわくてはいかん……』






「はあ、はあ……なんとか振りきったな?」


 エダは、大きく息を吐きながら、後部座席の様子を見る。すると、ロニーはあまりの揺れに顔を青ざめさせている。レヴィとみねねも、はげしい揺れに、天井に足を投げ出すような形だ。

「殺す気か!?」
「仕方がないだろう?あーでもしなきゃ、こっちはハチの巣になってたんだからな」

 エダが、ぼやくなか、助手席にと座るマスクを被ったみねねは、大きく息を吐きながら、やがて見えてくる青い海を見た。

「もう少しだ、さっさとこんなところおさらばしようぜ」

 後部座席からみねねが、大きく息を吐いて笑みを告げる。それと同時に、車体が大きくぶれた。見えていた青い景色が一転、背景が傾き、車体も傾いた。そして、速度あげているはずの車は、その速度を落としていく。

「お、おい!!今度はなんだよ!?」

 レヴィが前にいるエダに怒鳴る。

「スピードがでねぇんだよ!!」
「タイヤが片方パンクして潰れて、バーストしてやがる!!」

 みねねが、窓の外を見ればコンクリートに既にタイヤが跡形もなくなった骨組だけがコンクリートを引きずるようにして動いている。火花が散りながら、コンクリートにはしっかりと黒い跡だけを残している。

「エダ、この車はもう駄目だ」

 レヴィの声に、エダじゃ舌打ちをしながら、車を路肩にと止める。既に、車は廃車状態だ。窓ガラスが割れ、タイヤはパンクし、一部は焼け焦げている。それと同時に車体には穴が開いているような状態だ。ロニーを車から降ろすみねね。マスク女はそんな様子を見ながら、携帯を見る。

「急げ、来るぞ」
「来る?おいおい、まさか……」

 エダが、元走ってきた道を見る。
 まだ、そこには姿がない。だが、その元来た道からはまがまがしい何かを感じ取ることが出来た。それは、レヴィやみねねも同じだ。こういった稼業を行っている彼女たちには、常人にはわからない、危機感というものが冴えわたっている。だからこそ、自分たちは、生きてこれたというのもあるだろう。

「こっちだ」

 マスク女は携帯を見ながら指示を与える。
 逃亡日記……未来日記である、それは確実に安全な場所を教えてくれる。

「おいおい、街の場所なんてわからないのに、よくそっちが安全だなんてわかるな?」
「まあ、言うことを聞いておいた方が身のためだ。少なくとも今は共闘中だしな。お前たちを騙すことはないから安心しろ」

 みねねは、そういいながら、背後を気にしながら再度振り返り、マスク女を見る。マスク女はそこで足を止める。

「未来が変わった!?」

 それは未来が変化したことを示している。でもなぜ!?

「全員伏せろ!!」

 みねねは絶叫とともに、エダやレヴィを押し倒す。それと同時に、建物が横一線に、切り裂かれる。もしあのまま立っていたら、今頃は全員、上半身と下半身を切り裂かれていただろう。崩れ落ちる建物とともに、レヴィがすぐに立ち上がり、二挺拳銃を抜き、煙の中見える影にと向けて放つ。

「おい!!どうなってんだよ!?」

 レヴィが怒鳴る中、二挺拳銃を抜いて反撃しながら、路地を走り出す。みねねとマスク女は顔を見合せながら、携帯を見つめる。明らかに未来の改変が行われた……でも、ここに未来を変えるための、携帯は存在しない。だから、こんなことはありえるはずがないのだ……。そう、たった一人を除いて。

「ムルムル!!」




「奴らは、このまま……海に向かっているようじゃな?」
「……」

 光を反射させる青い海を見ながらハインケルは、隣を自分と同じように走る小柄なシスター服を着た子供を横目で見る。

「なんじゃ?折角手伝ってやっているというのに、その疑いの目は!」

 子供=ムルムルは、疑いの眼差しを見て声を荒げる。ハインケルは思わずため息をつく。

「お前の目的はなんだ?この場所で、そして、そのどこで拾ってきたかわからないシスター服を身にまとって、私に協力をする理由が聞きたいだけだ」
「なに、簡単なことじゃ……」

 ムルムルは、ハインケルの言葉を聞いて、目を見開き笑みを浮かべる。

「ゲームは一方的では楽しくはないからなぁ??」











[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep10
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/05/11 23:39






雨流みねね……ロアナプラ渡航、6日前


因果律大聖堂

 ムルムルの前にその巨大な姿と、仮面を被る時空王デウス。彼は、神に等しい存在であり、様々な能力を持ち合わせていた。そんな彼はかつて、自分の後継者を決めるために始めた遊戯……未来日記を持つ所有者のサバイバルゲームを始めた張本人である。結果としては、一週目の優勝者、我妻由乃が過去に戻り世界の新たな創生を行わず、二週目の優勝者である天野雪輝が世界の新たな再生を放棄するなどのことから、三週目のデウスはこのゲームを放棄した。様々な世界の介入を起こしてしまい、その混乱を収束にと導かせたデウス、そして三週目のムルムルではあったが、どさくさ紛れに、姿を消した一週目のムルムルの件もあり、いまだに三週目の世界の因果律は不安定なまま……。

「それも、そのはず……この世界には、本来居てはならない存在がいるからだ」

 デウスの言葉に、三週目のムルムルは、頷く。

「二週目の存在、雨流みねねがこの世界にいる。結果、この三週目の世界には、本来いるはずのない同じ人間が2人存在してしまっている状態となってしまっておる。2人の雨流みねねがいることで、因果律の乱れはそのまま維持され続けておるわけだ、今のところは、そこまで大きな乱れはないようじゃが……」
「どちらにせよ、何かしらの手は打たねばなるまい」

 デウスの言葉に、ムルムルは、白い歯を見せて笑みを浮かべる。

「ならば、因果律を守る役目として、ワシがなんとかしよう!」

 ムルムルは、小柄な体で胸を張りながら、デウスにと告げる。
 退屈な、そんな日を打ち破る、そんな予感があったからだ。結果、そのムルムルの予測は的中したのだが……。同じ人間同士の戦いというものがどんなものかを見てみたかったのだ。自分の幸せを求める同じ人間の争い……。そのために、本来なら、雨流みねねを迎撃をするのは別の人間であったはずのを、十三課の暗殺者2人に設定したのだから。

「だが、なかなかどうして……逃亡日記を新たに再構築して所持しておるとは、予想外じゃった。上手く逃げおるわ。じゃが、此処からが本番。雨流みねね……選択するがよい。どっちの自分を、生き残らすかをなあ!!」

 ムルムルは、ハインケルと、由美江を見ながら、笑みを浮かべた。






未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課

第10話 DEAD END





「ったく、だから部外者は信用できねぇ!!」

 レヴィは、建物の影に隠れながら、建物を破壊した強力な刀裁きに驚きながら、銃撃をやめない。やめれば、それこそ、今度こそ、切り裂かれるだろう。この銃撃を、続けることで、あの刀女の動きを封じることはできる。だが……

「レヴィ、弾がたりねぇーぞ!」
「なんとか移動しなきゃ、ジリ貧だ……くそったれ!」

 レヴィは、そういいながら、マスク女とみねねを見る。

「爆弾だ!相手をかく乱させなきゃやられる!はやくしろ!」

 レヴィの声を聞きながら、みねねは、片手で、手榴弾を握り投げつける。爆音と共に、煙が舞い上がった。みねねは、携帯を握りながら逃亡日記の経路を見る。相手が未来日記の何かしらのものを持っている考えれば、こちらの動きを先読みされる可能性もある。どちらにしろ、急がなくてはいけない。

「おい、次はどうするんだ!?」
「こっちだ!」

 みねねは、レヴィたちにそう告げると、ハインケルたちにと背中を向けて走り出す。この煙の中では、敵もこちらを見つけるのは容易ではないはずだ。

「勝手にいくなって……ったく」

 レヴィとエダもまた、みねね達を追いかける。
 マスク女とみねねは、先行しながら、携帯を見ている。

「……聞いてないぞ、あいつらが同じものを持っているなんて」
「私だって、さっきまでは知らなかった!」

 ムルムルが、どうして介入をしてきたのか……。
 みねねは考えていた。敵についているということは、狙いは私というのは間違いない。走り続けていたみねねたちは再び大きな道路にと戻ってきた。日記を見るみねね。やはり、先ほどと違って、また未来が変わっている。この大きな道を通り抜けるのは危険だ。だが、このままでは、海……レヴィの持つ船にたどり着くことができない。

「どっちにしろ、ここで立ち止まってばかりでは居られない」

 みねねは、後ろを振り返り、走ってくるレヴィたちがついてきているのを確認しながら、道路を見回し、携帯を確認する。逃亡日記では、自分の逃亡経路が記されている。そして、敵に捕まってしまう可能性があることも書かれている。ようは敵がどこからどうやって自分を捕まえようとしているかを、知ることができるというわけだ。

「ようは……敵がくるならば、そこを叩き潰す!!」

 みねねは、手榴弾のピンを口にくわえて引き抜くと、携帯で書かれている場所……民家にと投げつける。爆発音が響きわたる中、再度、携帯にノイズが走り、未来が変わったことを知る。

「走るぞ!」

 みねねは、そういって、手榴弾を握り投げつけながら、道を走っていく。

「……爆弾だって、そこまであるわけじゃない。あとは、どれだけ時間が稼げるかだ」

 みねねはバックの中にある爆弾の残量を確認しながら、ただ走り続ける。みねねは、そこで、携帯を見た。敵の動きを再度確認するためだ。そこで、みねねは、目を見開く。そこに書かれているのは、DEAD ENDという文字だった。

「どうした?!早く爆弾を投げろ!」

 そういって、マスク女……二週目のみねねが、携帯を覗き見る。そこに書かれていたのは、未来日記による、確実な死の未来の通告である。みねねは、それを見て歯を食いしばる。

「……後、30分後に雨流みねねは、刺殺される。これって……私が死ぬってことか」
「……」

 二週目のみねねは何も言うことなく、彼女が握っていた爆弾を、敵が向かってくる方向にと投げつける。爆音と共に、煙がその場にと広がった。

「教えろ!!」

 三週目のみねねは、二週目のみねねの胸ぐらをつかみ、怒鳴る。走っていた足は、その場で止まった。二週目のみねねは、マスクの隙間から、もう一人の自分を見る。

「DEAD ENDフラグは、死の予想だ」
「……っていうことは、やっぱり、私は死ぬってことか」
「あきらめるな!まだ、こうなってから生き残ったやつだって……」
「五月蝿い」

 胸ぐらをつかんでいた手を離す三週目のみねね。彼女は、二週目のみねねにと背中を向ける。

「どうするつもりだ」
「私が奴らと戦って、まとめて吹き飛ばす。お前も知っているだろう?私には、心音爆弾がある。あれなら、半径数十メートルは、跡形もなく吹き飛ばせる」
「お前っ!!」
「お前も!お前も……私ならわかるだろう?もういい……もう十分だ。これ以上、誰かに頼ったりするのは、私の趣味じゃねぇーんだ」

 三週目のみねねは、そう言って顔だけを、二週目のみねねにと向ける。その顔は、哀しみに満ちていた。二週目のみねねは、それを見て、自分がいつもこんな顔をしていたのかと思う。笑っているつもりだった。どんなときだって、すべてを破壊して、吹き飛ばして、気分が爽快になっている……そういうつもりだった。だが、私は……そうやって、自分を騙し続けているだけだった。本当は……。


「本当は、救われたかったんだろう?」


 宗教というものに、神というものに、弄ばれて……私の人生は狂った。親を失い、言葉も通じない国で地獄を味わった。それからも、ずっと、私は……。人を殺し、命を狙われ、逃げて……逃げて……そんな生活だけを過ぎしてきた。

「フ……そうなのかもしれないな。けど、すべては無駄だ。私にあるのは死だけだ」
「……」
「わりぃーな、折角、助けに来てもらったのに……」

 みねねは、自分を見て微笑む。
 私は、拳を握り締め、自分のマスクを剥ぎ取った。そして、それを、目の前にいる、三週目の自分にかぶせる。

「お、おい!?なにして……」
「わりぃーな……、死ぬのは、私一人だけで十分だ」
「な、なにいってやがる!?」

 そういって、二週目のみねねは、携帯を奪うとそこに書かれてあることを再度、確認する。マスクをかぶせられた、三週目のみねねは、二週目のみねねの腕をつかむ。

「日本に行け」

 二週目のみねねが、つぶやく。三週目のみねねは、黙って、その言葉を聞く。

「住所は、お前が寝ているときにポケットにいれてある。そこにいけば……お前を守ってくれる奴がいる。ちょっとばかし面倒で、バカなやつだけど……きっと、気に入るだろう」
「なにいってやがるんだ!?」

 まるで遺言のようなその言葉に、三週目のみねねは、大声で怒鳴る。そんな言葉など、自分は求めてはいない。

「本来なら、お前の居場所であった場所を私が、奪っちまった。私の居場所は、本来お前がいるべき場所だ。それをお前に返すだけだ。それに、私は本来、死んでいるはずの人間だ。それがまた灰と化すだけだ。お前が……私が、いつも行っている行為、それだけだ。だから何も気にすることはない。」

 自分はこの世界にはいなかった。
 きっと西島と一緒になるべきみねねは、今、私の目の前で、必死な表情で、私を止めようとしている、三週目のみねねなのだろう。

「お前には、幸せになる権利がある。まだ、男の味もしっかりと味わったことがない奴が、死に急ぐんじゃねぇよ」
「なっ!?ば、バカ!!」

 顔を赤くして怒鳴る、三週目の自分を見て、笑うみねね。やがて、そんな二人にと向かってやってくる、一台の車。二人が、視線を向けるとそこにはレヴィと、エダが乗っている。その車は、二人の前で止まる。

「乗って行きな。走るより、こっちのほうがいい」

 レヴィの言葉に、みねねは視線を向ける。

「私はいい、こっちを連れていってくれ」
「待て!私は……」

 怒鳴る三週目の自分の腹部に、二週目の、強烈な膝が入る。その場で、意識が遠のく三週目のみねね。顔を見上げれば、二週目の……もう一人の自分が、自分を見下ろしている。

「ぐっ……お、お前」
「いいから行け、こんなところで死ぬな……お前には、私の代わりに、私が叶えられなかったことのために……生きろ」

 後部座席の車を開けて、三週目の自分をそのまま、乗せてやり、扉を閉める。その様子を眺めていた、レヴィ。二週目のみねねは、その場からゆっくりと歩き出す。

「行ってくれ……、そいつのこと頼む」
「……今更、はやらねぇーぜ。そういうの」
「なんでだろうな?人のために命をかけるのって柄じゃねぇんだけど……、命をかけられる相手がいるっていうのは、悪い気はしない。お前には……いるか?」
「……」

 レヴィは何も言わずにアクセルを踏むと、そのまま車を走らせる。車の音が遠くなるのを感じながら、みねねは、大きく息を吐いた。携帯を眺めながら、相手の動きを知る。

「さてと……ほら、私は一人だぜ。さっさと出てきたらどうだ」

 みねねの言葉に、みねねを挟み込む形で、道路からでてくるハインケルと由美江。みねねは、片目で、二人の動きを確認する。

「どういう風の吹き回しだ。さんざん逃げてきたというのに……」

 ハインケルの問いかけに、みねねは、白い歯を見せて笑みを浮かべる。

「おい!ハインケル!ほかの仲間たちがいない!」

 由美江の言葉に、ハインケルはサングラスの奥の視線を動かす。由美江に追いかけさせるか……ハインケルは、そんなことを一瞬考えたが。

「お前たちの狙いは私だろうが!」

 みねねが大声で怒鳴る。
 由美江とハインケルの視線が、再度みねねにと戻った。そんな様子を建物の上から眺めている、ムルムル。彼女は、みねねの決死の覚悟を見ながら、笑みを浮かべている。

「なるほど、なるほど……、三週目の自分を生かし、イレギュラーである自分は、此処で、討たれるという算段か。因果律の修復のためには、この方法が一番いい方法じゃからな。せいぜい、立派にデリートされてくれ」

 みねねは、由美江とハインケルを見つめながら、爆弾のスイッチを握る。





 視界が開ける。



 三週目のみねねの視界に広がるのは、どこかの部屋であった。窓もなく、汚い蛍光灯が光っている。みねねは、身体を起こす……思わず目をつむる。あの二週目の私の蹴りが効いているようだ。アイツ……強く蹴り過ぎだ。みねねは、そう思いながら、立ち上がり、腹部を抑えながら、出入り口である扉を開けた。そこには、青い青い空とどこまでも境が見えない、青い海が広がっている。眩しい太陽の光を感じながら、思わず目を細め、空を眺めた。こんな風に、空を眺めるのは、初めてだ。

「ようやく目が覚めたか」

 その声に、みねねは振り返る。
 そこには、レヴィが船の手すりにつかまりながら、タバコを咥えていた。

「……結局は、私だけが蚊帳の外か」

 みねねは、自嘲気味に笑う。
 レヴィは、振り返ると、その手にマスクを握っている。それを見て、みねねは、自分がマスクをしていないことに気がついた。レヴィは、タバコの煙を吐く。

「お前たちからのギャラが確かに受け取った。マフィアのボスは解放され、お前は、私たちの船にと乗り、ここから近い場所で逃がし屋と合流。そこからはお前は、自由気ままにどこへなりとも逃げるがいいさ」

 レヴィの説明を聞きながら、みねねは、壁際に背中を押し付けて、腰を落とす。

「レヴィ、タバコ……くれ」
「吸えんのかよ?」
「いいから」

 レヴィは、ポケットから取り出したタバコの箱をみねねにと投げる。みねねは、そこから、タバコとライターを取り出して、口に咥えた。

「……まずい」
「無理すんな」

 みねねは、ポケットに入っていた紙を見る。

「……西島、か」


 船が到着後、みねねは個人的希望で、逃がし屋ではなく、個人で逃げることを望んだ。金もかからないし、レヴィはすんなり条件を承諾。結局、レヴィは一切、みねねが2人いるという状況を聞くことはなかった。興味がなかったのか、面倒だったのかはわからなかったが。レヴィと、そして冴えない日本人であるロックが見送る中、みねねは、東南アジアのどこかしらの港にと足を踏み出した。

「……こういうのも変かも知れないけど、元気で」

 その言葉に、みねねは笑いながら、ロックとレヴィを視界に定める。

「ドッグに小型爆弾がある、取り外しておけ」
「え!?」

 レヴィとロックが目を見開く中、みねねは、再度笑う。

「アハハハハ……冗談だよ。もう二度と会うことがないことを祈ってる」

 みねねは、そういって足を踏み出した。そんな足を踏み出したみねねの前、大きな影がみねねを覆う。太陽の日差しを遮った影に、みねねが顔を上げる。そこには、長身の黒い神父服を身にまとった男が立っていた。

「失礼します……」
「……」

 そういってみねねの隣を通り過ぎようとする神父に、みねねは振り返った。

「なあ、神父様?」

 その声に立ち止まる神父。
 眼鏡をかけたその神父もまた振り返りみねねを見た。

「神様っていうのは、なんで残酷なんだ。助けてほしいときにに助けてくれない」
「……神様は見守っている。どんなときだって傍にいてくれる。ですが、決して助けはしてくれません。ただ見守るのみ」
「……どんな矛盾と理不尽があろうが」
「それが、神の存在です」
「……私は、イヤだな」

 みねねは、そう告げると、小さくため息をついた。どいつもこいつも、同じことを言う。そんなのが神であるのなら……自分が神になってやる。神になって、この理不尽な世界を、変えてやる……。私は、そんなことを思い浮かべ足を一歩と前にだした。

「貴方の旅路が良きものであらんことを……Amen」

 アレクサンド・アンデルセン神父は、みねねにと告げる。








 こうして、雨流みねねのロアナプラでの一連の出来事は終わりをつげた。


 ロアナプラでの出来事から一週間後。


 日本 
 桜見市

 あれから私は、日本にと流れついた。

 私こと、雨流みねねの名前は、テレビのワイドショーから姿を消した。おそらくは、私……雨流みねねが死んだことによるものだろう。正確には二週目の雨流みねねなのだけれど。私は、ベランダから外を見ていた。アイツの言うとおり、この場所に来たことで、私の安全は保障されている。警察が旦那だなんて、二週目の私はやり手というか、なんというか。確かに、西島は優しい。私に気を使って、女として忘れかけていたものを、私にとくれた。きっと、二週目だろうが、三週目だろうが関係なく、雨流みねねにとって、彼は必要な存在なのだろう。

 だけど、この生活は、元々は、二週目の自分のものだ。私のじゃない。そんな、ジレンマに私は悩まされていた。私はベランダの手摺を握りしめ、自分の片手の腕を見る。

「くそったれ……、譲られたものなんかで、私が納得すると思ってるのかよ。かっこつけやがって……勝手にやってきて、勝手に死ぬな!!」

「なら……どうしたいんだい?君は……。三週目の雨流みねね」

 その言葉に顔を上げる。
 そこには、宙に浮かぶ、一人の少年と少女がいた。未来日記なんていう訳のわからないものを見て、今度は宙を浮かぶ人間。もう今更何が出てきたって驚くものか。みねねは、目の前の少年と少女を見る。


「私は、神に成り代わって……未来を変える」


 その言葉に、少年……二週目の世界で神となった天野雪輝が頷いた。













[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ ep11
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/06/01 23:13





天野雪輝


 二週目の未来日記での神の後継者争いにて自分の周りすべてを予知する無差別日記を手にして、神の後継者となった少年である。二週目の世界で勝利者となった彼がなぜ三週目の世界にといるのか。それは彼が愛する雪輝の隣にいる我妻由乃の存在に他ならない。二週目で彼は愛する我妻由乃を失った……だが、彼は、そして彼女は諦めなかった。それが結果、二週目と三週目の境界さえ打ち砕いたのだ。


 此処まで来るのに大きな時間がかかった。

 それこそ、気が遠くなるほどの時間を。


「でも、今こうして僕が此処にいるのは……最後まで僕の我儘に付き合ってくれた、二週目の雨流みねねに他ならない」
「……恩返しか」
「そう思ってくれてもいい」

 神様か……。
 そんなものが、私を助けようと言うのか。

「……乗ってやる。だが、お前に全部乗っかるつもりはない!!自分の命は、自分で救う」

 雪輝は、そんな言い方をするみねねの言葉に、懐かしさを覚える。二週目だろうが、三週目だろうが、中身は変わらない。どの世界にいこうが、由乃は由乃であると同時に、みねねはみねねである。雪輝は、みねねの言葉にと頷く。


「僕たちは、今から過去にと戻る。そこで、君は二週目の、雨流みねねを救えばいい」






未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課


第11話 過去と未来






 雪輝の言葉に、三週目のみねねは、その眼を相変わらず雪輝にと睨みつけたままでいた。

「なにか、納得がいかないっていう顔だね?」
「……それで、『此の世界』の二週目の私は救われるかっていうことに疑問をもっただけだ」 

雪輝が、みねねの言葉を待つ。

「あの、もう一人の私が言っていた、二週目、三週目。最初はチンプンカンプンだったけどよ。今ならなんとなくわかるぜ。この世界っていうのは、過去に何らかの事態が起こって生まれ出来た、別世界のことなんだろう?過去を変えたとしても、私が今いる世界に変化は訪れず、別の世界が生み出される……違うか?」

 結果……私が、過去に戻ったとしても、その世界の未来は変化するが、私の世界の未来は変化しないということになる。それでは意味がない。

「……確かに、君の言うとおり、この世界に直接の影響はない。だけど、間接的には、救うことができる」
「わからねぇ!!どういうことか、説明っ!?」

 そこで、みねねは、雪輝にと腕を掴まれた。

「お前!?」
「時間がない、移動するよ」

 瞬間、みねねの体が、浮き上がった。

 驚くみねねを余所に、雪輝と隣にいた由乃は、瞬間移動する。驚き慌てふためくみねねの姿がその場所から消え失せる。光に包まれた瞬間、目を閉じていたみねねが、次に目を開けると、そこは、星空が360度にわたり広がる光景。自分の手を掴む雪輝は、その星空の中、片手には、我妻由乃をしっかりと抱きながら、星空の中を飛んでいる。

「合わせ鏡、知ってる?」
「……鏡と鏡を合わせて、その中に立つと、鏡同士の作用で、自分が無限に映し出される奴か?」
「そう。僕らが、過去の世界にと戻り、その世界の二週目の雨流みねねを救うこと。だけど、それを、三週目の、そう……君自身には知られてはいけない。過去の世界の知らなかった君は、その世界での二週目の雨流みねねを救おうとして、その世界にいる僕たちと出逢い、同じように過去にと戻る」
「どういうことだ!?」
「過去の君を救うということを無限に繰り返すことで、僕たちの世界にも未来から来た別の三週目の雨流みねねが現れ、そして、二週目の雨流みねねを救っている可能性があるってことだよ」
「合わせ鏡の前の鏡の世界に行くことを全員が繰り返すことで、私たちの居場所にも別の私たちが、現れるってことか」

 星空を通り抜け、見慣れた街が、みねねには見えた。

 爆音とともに、由乃、雪輝、そしてみねねが地面にと降り立った。みねねは、着地というよりかは落下したような衝撃に、なんとか立ち上がる。雪輝もまた、由乃とともに立ち上がり、周りを見渡す。どこまでも青い空に潮の香り、間違いない、此処は……ロアナプラだ。みねねは、建物の屋上であることを確認し、外を見る。カモメの声が聞こえてくる。みねねは、この街がこんなに穏やかな場所であったことを知りながら、その音を、かき消す、爆音に意識をうつした。

「きやがったか!」

 屋上から音のほうを見れば、二台の車が並走している。
 片方には、十三課のメンバーがいるであろう、そして、もう片方には、自分たちがいる。みねねは、不思議な感覚を覚える。三週目の雨流みねねを助けに来た二週目の雨流みねねを、さらに助けに来た自分。苦笑いを浮かべながら、みねねは、その二台の車の片方がぶつかり、建物に突っ込む様を見る。

「……分かっているとは思うけど、三週目のみねね……過去の自分達に気がつかれてしまえば、そこで未来が改変されてしまい、この世界は救われても、今いる世界は救われない」
「ようは、隠れながら……やれってことだろう?」

 みねねは、雪輝に問いかけると、屋上から、下にと降りる階段にと向かう。そんなみねねに雪輝は、視線を向ける。かつて、自分は同じようにして、二週目のみねねにと助けられたことがあった。三週目の世界を救ったのは、みねねの協力なしでは考えられなかったことだろう。こうして由乃と一緒にいることもできなかったはずだ。

「……9th、いや、雨流みねね」
「なんだ?」
「成功を祈ってるよ」

 みねねは、そんな雪輝の言葉に、うすら笑いを浮かべながら、失った片手を上げる。



 爆音が響き渡る中、みねねは、周りを見渡しながら、建物に設置されてある爆弾を手にする。自分が設置した場所だ、どこにどのように設置されているかは、わかっているつもりだ。武器がない、みねねには、貴重なものである。建物の外壁から幾つか手に入れたみねねは、近くで銃撃戦を繰り広げる十三課、ハインケルたちと、過去の自分達の戦闘を横目で見ながら、移動する。

「あんまり近くに行くと見つかっちまうかもしれないからな」

 三人のみねねが対面したら、それこそ、大変なことになる。それだけは避けなければいけないと思いつつ、みねねは、銃を握りながら、過去の記憶を思い出し、外の幹線道路にだけは近づかないようにした。そこで、2人の自分が、言い合っているのを思い出したからだ。みねねは、爆弾を設置しながら、対ハインケル・由美江のために準備をしていく。連中が凄腕なのはわかっている。まともにやって勝てなかった相手だ。

「……ならば、あいつらが諦めるようにしてやるだけだ」

 みねねは、覚悟を決めながら、そろそろ過去の自分同士の話にも決着がつくころだろうと思い、出向こうとする。すると、そこに見知った顔が、路地から姿を現した。

「わ、わ!!!」
「みねね?お前、こんなところにいたのか?さっき、別の道にいってなかったか?」

 レヴィ……二挺拳銃。
 まずい、どうしてこいつが、こんなところに。

「あ、いや……私はだな。えーっと」
「なんだ?こっちは、まだあの訳わからねぇー狂った信奉者に追われてるっていうのに。しかも、なんか服とかいろいろ、違ってるな?」

 みねねは、誤魔化すことが出来ないと判断。
 信じるか信じないかは、それこそ、天にと任せることにとする。

「……私は、未来から来た」
「はあ?」

 ま、そうなるよな。
 みねねは、深いため息をつきながら、自分が最初に二週目のみねねを見るまで、同じことをずっと思っていたことを思い出す。だが、こんなところで時間を食っているわけにはいかない。みねねは、考えながら何と説明していいものかを考える。

「ああ、面倒だ!とにかくだ!」

 そんなことを説明している最中、聞こえてくる銃声。

「レヴィ!!なにやってんだ!切り刻まれちまう!」

 泣き言を告げるようにエダが叫んでいる。

「とにかく、早く来い!今は手助けが必要だ」
「いや、レヴィ。お前達にはやってもらわなくちゃならないことがある」

 みねねは、指を差した方向に車がある。

「あれで、この進行方向の先にいる私たちを連れていってほしい」
「お前、さっきから何わけわかんねぇーこといって……」
「ヤクでもやってなきゃ、こんな訳のわからないこといわねぇーよ、早く行ってくれ。頼む」

 みねねは、装置のスイッチを押す。
 爆音が聞こえ響く中、レヴィはボロボロのエダを連れて、車の元にと走っていく。みねねは、振り返りレヴィを見て

「船で寝ているマスク女のマスクを剥ぎ取っても、私のことは言うなよ。どうせ説明できないんだしな!!」

 レヴィはそんなみねねの言葉を聞いているか聞いていないか分からないが、車にと乗り込んだ。爆音が響き渡る中、みねねは、その場から離れる。どうせ、こんな爆発でくたばる奴らではないのだから。
 爆音が聞こえなくなった際、瓦礫を切り裂くもの……シスター服は、破られ、ところどころから垣間見える肌からは血が流れているのが見える。刀を、瓦礫にと突き刺して立ち上がる由美江。口を開けて犬のように息を吐きながら、周りを見渡す。

「ハインケル!ハインケル!!生きてるのか!?」
「ああ……なんとかな」

 瓦礫の中から、姿を見せるハインケル。サングラスが割れ、彼女もまたコートが破れている。

「くそったれ!くそったれ!!どこにいきやがった!?」
「待て、この携帯を見れば、奴らの行き先を判別することができる」

 ハインケルは、ムルムルから手に入れた未来日記を見ながら、みねね達の後を追う。ムルムルは、そんな様子をニヤニヤ、白い歯を見せながら笑みを浮かべる。みねねは、レヴィたちが、車に乗り込み、もう一人の自分達のと向かっていく様子を伺いながら、自分もまた移動する。走るみねね……見えてきたのは、一人立っているみねね。三週目の自分は、レヴィ達にと連れて行かれたのだろう。何も知らずに、不意打ちを受けて。

「さてと……ほら、私は一人だぜ。さっさと出てきたらどうだ」

 二週目のみねねが、その場で声を大きくして怒鳴る。
 そんなみねねの言葉に、現れるハインケルと由美江。

「どういう風の吹き回しだ。さんざん逃げてきたというのに……」
「おい!ハインケル!ほかの仲間たちがいない!」
「お前たちの狙いは私だろうが!」

 そういって相手の視線を釘付けにとする。
 なるほど、それで自分は勝手に死のうっていうのか、人のことをとやかく言えないだろう?でも、こいつもまた、私自身か。

「お前たちを纏めてぶっ飛ばしてやる」

 みねねは、そういってスイッチを握る。あれは心音爆弾……自分の命と引き換えに、相手を巻き添えに。いや、そうではない……。自分が死んだことを見せることで、三週目の私を助けようとしているのだろう。

「そんなんで、私が喜ぶと思ってるのかよ」

 みねねは、そういうと、その手に合った爆弾を、投げ捨てる。それの行き先は、ハインケル、由美江、そして二週目のみねねの間だ。急に投げ込まれたそれに、三人は、驚き、その場から離れる。

「なんだ!!?」

 爆音とともに、未来日記にノイズが走り、二週目のみねねは、日記を見た。

「DEAD ENDフラグが消えた!?」
「こっちだ!」

 そういって、二週目のみねねの手を握り、走り出す三週目のみねね。その姿を見て、目を見開く二週目。

「お、お前!?レヴィたちと一緒に!!」
「ああ、おかげで、お前を助けにわざわざ、舞い戻ってくる羽目になったぜ!!」
「まさか、未来からきたっていうのか!?」
「ああ、どこかのガキが、お前に恩があるんだってよ」

 それを聞いて、二週目のみねねは、それが誰なのかを悟ったのだろう。何も答えなくなった。三週目のみねねは、そのまま、二週目のみねねの手を引きながら、建物の影にと隠れる。

「雪輝の奴か、余計なことをしやがって……」
「どうでもいいけどよ、私は、お前に死なれたくない!」

 みねねは、銃の弾数を確認しながら、敵が向かってきているかどうか見る。二週目のみねねは、大きくため息をついて

「だからって、お前が死ぬのも私は見てはいられない」
「アハハハハ。自分同士で、そんなことを言い合ってるんじゃ話が進まないな」
「笑い事じゃねぇーよ……、なんで戻ってきたんだ?」

 隣で座りながら、三週目のみねねを見ることなく、二週目のみねねが問いかける。

「お前だったら、こんなことされて素直に受け入れられるのかよ?」
「……自分との問答は面倒だな」
「お互い、考えていることは一緒だ。ムルムルは、あのガキたちがなんとかしてくれている。後は、私たちとあいつらの問題だ」
「なるほどな。わかってるんだろう?やることは」
「ああ……此処で、雨流みねねは死んでもらうさ」

 そこで、私たちは、初めて互いに顔を向ける。



「どこにいきやがった!!でてきやがれ!?またかくれんぼのつもりかよ!」



 由美江が怒鳴り声を上げる。苛立つ由美江を前にして、ハインケルが、その隣にと立つ。すると、銃声と共に、二人に向かって銃弾の嵐が襲いかかる。しかも同じ方向ではない。別方向からの銃撃。ハインケルは、身を隠しながら、その予想できない方向からの攻撃に、驚く。

「此処まで来て、敵の増援!?」
「あいつらが戻ってきたんじゃないのか?!」

 ハインケルは、冷静に状況を分析する。敵が罠にはめた可能性は考えられる。ほかの連中を遠ざけたようにみせかけて、こつらの動揺を誘っていると。ハインケルはそう考えながらも、隣にいる由美江を見る。

「由美江……奴は、こっちを分断させるつもりだろう。混乱に乗じて変装でもしてしまえば、私たちをまた混乱に落とし込むことができるからな。それに……一人で残ったということは、それなりに奴にも考えがあってのことだろう。安い挑発には乗らず、アレでしとめろ」

 その言葉に、由美江は、白い歯を見せる。

「ヘヘヘ……喜んで」

 由美江は、周りの瓦礫とかした場所を見渡しながら、日本刀を握りしめる。

「……縮地」

 由美江の姿がその場から消え失せると、周りの瓦礫が一気に吹き飛ぶ。ガレキの破片が、粉々に飛び散る中で、ハインケルの背中にと再度、その姿が現れる。日本刀を鞘に収める由美江。すると、同時に、瓦礫が崩れ落ちると共に、周りの遮蔽物が、なくなっていく。その瓦礫の中、見えてくる影。

「!?」

 ハインケルと由美江たちの視界に入り込んだのは、雨流みねね。だが、その視界に入り込んだ雨流みねねは、二人

「なんだ、これは……」

 息を呑むハインケル。
 そして、雨流みねねは、動揺するハインケルと由美江を見ながら、爆弾の爆破スイッチを握りしめる。











[31368] 未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】 ~逃亡日記×十三課~ 最終話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/07/16 23:59






「おいおい、ハインケル!一体どうするんだ!?私は、奴らが二人いるなんて聞いてないぞ」

 驚いている由美江。
 ハインケルは、二挺拳銃の弾を確認しながら、眼球を左右に動かして、2人の雨流みねねを見る。どちらも、片腕であり、その容姿から見て本物なんか、偽物であるのかの区別はつかない。だが、それがどうした。敵が一人から二人に増えたところで、自分達のやることは何も変わりはない。変わりはしない。

「驚くことも慌てることもないさ、由美江、私たちはいまだもって、有利であることは変わりない。私の二挺拳銃、お前の抜刀術。爆弾や変装にこれ以上、振り回されはしない!」

 由美江はその言葉に力強く頷く。
 由美江は精神的に不安定なだけに、こうして常に強気でいなくてはいけない。

「とはいえ……」

 ハインケルは危惧する。
 遮蔽物がなくなった状態、こちから雨流みねねの姿は丸見えだ。どう考えても、こちらが有利。有利過ぎる。

……この状況を予知できなかったか?

予測できなかったのだろうか、テロリストが。
二人になったことで、それに対しての対抗策であると言えるのか。
こちらが何度も追いかけて、何度も追い詰めるたびに奴は逃げた。そんな一方強い、獣並みの危機感を、持っている女が、この程度で、勝負にでるか。

 ハインケルは二挺拳銃を握る手に力を入れながら、笑みを浮かべているみねね二人を見る。





未来日記×HELLSING【CROSS FIRE】

逃亡日記×十三課


最終話 逃亡日記×十三課 ~神の存在を、信じますか~





 ハインケルは、握りしめる銃を左右……両脇にいる二人のみねねにと向けるように広げた。それに対抗する雨流みねねの掌の中にあるのは、爆弾のスイッチ。

「何を考えているかは知らないが、この状況下で、貴様たちに勝てるすべはない。無駄な抵抗を続けるか?」
「あいにくだな、私は、いや、私たちは……往生際がわりぃーんだ」
「だから、最後の最後まで、お前達に抵抗するぜ」

 由美江が、そんな二人の言葉を聞いて、白い歯を見せて笑う。

「アハハハハハ、バカじゃねぇーの!?お前たちの周りに遮蔽物はないし、私が切り捨ててやった。この瓦礫の山じゃ、肝心の爆弾も設置できないだろうよ!?」

 実際、建物は、雨流みねね、ハインケル、由美江を中心とした、場所から、数十メートルは瓦礫が粉々になっており、まともな建物は残ってはいない。爆弾が設置できるような場所はないのだ。あったとしても、瓦礫の下、地面とはなるが、地雷原を突破するような危険な真似は犯さずとも、銃撃で、敵を一網打尽にできる。

「そういうことだ、お前たちが仕掛けた爆弾が、瓦礫の下にあったとしても、わざわざ踏まなければいい、言っておくけど、私はこの位置から十分にお前達を殺すことが出来る」
「躊躇するなよ?男女」

 みねねの言葉に、ハインケルの引き金と、2人の雨流みねねの爆破スイッチが同時に押された。

「!?」

 ハインケルの引き金がひかれたと同時に、爆発の振動で、銃身がぶれる。弾丸は、正確な軌道を描くことが出来ず、だが、それでも二人のみねねの肩を掠めた。二人のみねねは、ハインケルの目の前で、後ろにと倒れる。すぐに、ハインケルは、仕止めようと銃に二発目を放とうとした……が、できなかった。

「くっ、これは!!」
「あ、あああああ!!!」

 ハインイケルと、由美江が耳を抑え、その場にうずくまる。銃撃の勢いで倒された二人のみねねは傷を負った肩を抑えながら、なんとか立ち上がる。

「へ……」
「……へへ」

 二人の耳には、防音用の耳栓があった。仕掛けた爆弾は、音響爆弾。逃げながら、様々な個所に設置した爆弾は、暫くの間、効力を残すだろう。この絶対的な状況をみねねは作り出したかった。二人のみねねは、足元に置かれてあった銃を手に取ると、聴覚を失っている、ハインケルと由美江目掛け、放つ。銃撃の音さえわからなかったハインケルと由美江は回避が出遅れた。みねねがまず狙ったのは由美江。由美江の肩、そして、足にと銃弾が貫かれる。

「ぐわあああああ!!」
「由美江!!」

 由美江はそのまま、瓦礫の中にと、崩れ落ちる。ハインケルは片手で耳を抑えながら、目を見開きながら、銃を無作為にと放つ。だが、それは、みねねには当たらない。狙いが定められないのだ。

「奴らめ、ここまで来て、まだこんな罠を!」

 ハインケルがぼやく中、由美江は、激痛に声を上げながら、シスターの服から、爆弾を取り出す。

「ゆ、由美江!?」
「このまま、好き勝手させるかぁああああああ!!」

 そういって、彼女は箱型の爆弾を投げる。
 それはみねねたちと、ハインケルの対角線の間にと置かれて爆発する。爆音とともに、煙が上がる中、ハインケルの聴覚の感覚が徐々にと取り戻されていく。時間を稼がなくてはいけない。ハインケルは、二挺拳銃を再度握り直し、煙の中、足を進める。人影を見つけ、銃を向けはなつ。煙の中、伸びてくるのは、長い足

「ぐわぁっ!!」

 みねねの蹴りが、ハインケルの腹部に突き刺さり、思わず口を開け、握っていた銃を落としてしまう。

「武器ばかりで、こっちのほうは鍛え不足か!?」
「舐めるなぁ!テロリスト風情が!!」

 ハインケルは、自分の腹部に突き刺さっていた足を両手で掴むと、掴んだ足を引っ張りそのまま、横にと投げ飛ばす。

「うあっ!」

 瓦礫の中を転がるみねね。ハインケルは、落ちていた銃を拾おうとするが、その手を掴まれる。顔を上げたハインケルの前にいたのは、みねね。先ほど投げ飛ばしたばかりだというのだが……。彼女は、笑顔を向ける。

「そんな焦るな、もう少し楽しませろ」

 もう一人のみねねはそういって、ひざ蹴りをハインケルの顔面にと突き刺す。赤い血が飛び散る中、ハインケルは、後ろにと後ずさりながら、顔を抑えつつ、倒れないようにと堪える。

「おおおおおおお!!!!」

 ハインケルは、拳を握りしめ、みねねにと殴りかかる。みねねは、その拳を額に受け、、彼女もまた、崩れかかりそうになるを堪えながら、再度、拳を握りしめ、ハインケルを狙う。だが、ハインケルはそれを身体を落とし、避けると、みねね目掛け、蹴りをくらわそうとする。その蹴りをみねねは片手で防ぐ。

「はあ、はあ……、なぜだ!?なぜこうも無駄に戦う!お前達の死は、既に、決まっているというのに……」
「決まっている?ふざけるな!私の、私達の……雨流みねね様の生死は、私が決める!お前たちみたいな、ましてや、高みで見物しているクズ野郎に左右されてたまるか!」
「貴様あああっ!!」

 紙を侮蔑した言葉に、ハインケルは、掴まれた足をそのままに、拳を握りしめ、みねねを殴りかかろうとする。みねねは、相手の足を脇に掴み、しゃがみこむようにして投げ飛ばす。ハインケルはそのまま、地面を転がりながら、立ち上がった。

「神を信じぬものに幾ら説いても無駄だなっ!だが、ここでお前たちは死ぬ!必ず!」
「……そんなに言うなら、見てきてやるさ」

 みねねは、大きくため息をつきながら、ハインケルを見た。ハインケルは、みねねの言葉を聞いて、その言葉の意味をわかりかねた、不思議な表情で、みねねを見ている。みねねは、荒々しく息を吐きながら、ハインケルから視線を外し、振りかえるとゆっくりと歩き出す。

「おい!待て!どこにいく!?」

 ハインケルは声を上げながら、足元をふらつかせながら、追いかけようとする。みねねは、そのまま瓦礫の中、倒れているもう一人の自分の元にとたどり着くと、何かのスイッチを取り出す。爆弾!?ハインケルは、みねねを見る。みねねは振りかえり、足元に倒れているもう一人のみねねに目配せしながら、再度、ハインケルのほうを見た。

「私は、神を信じない。憎いのは、お前たちじゃない……、お前や私の人生を狂わせた、神っていう存在自身さ」

 スイッチを押したみねね。
 まばゆい光が、その場を包み込み、ハインケルの目を奪う。

「ここにきて、閃光弾か!?」

 視界をゼロにされた、ハインケルは、その場で、暫くの間、立ちつくすことしかできなかった。



 視界が戻った時には、その場には、2人のみねねの死体だけが残されていた。脳天に一発。銃の痕が残っているということで自殺と、十三課では断定。雨流みねねにおける一応の処置は行えたこととなる。だが、街でのカーチェイス、および破壊活動、さらには由美江とハインケル、ともに負傷し、随分な対価を支払う羽目となったわけだが。

「……どうしたんですか?ハインケル?」

 船にて、ロアナプラという街を見つめるハインケル。
 ここで出会った者たちは、皆、変わっていた。そして、彼らは皆、神という存在を信じなかった。神に見捨てられた街というべきか。

「いや、なんでもない」

 ハインケルは、松葉杖を片手にした由美江を見ながら、小さく息を吐いた。

「しかし、この街は酷かったですね。ここまで皆が皆、銃を撃つなんて。神も何もあったものじゃないです」

 由美江は、ため息交じりに告げながら、頬を膨らませて告げる。ハインケルは、そんな由美江を見ながら、小さく笑った。

「由美江、なぜこの世界には、私達の神とは別に多くの神が存在していると思う?」
「さあ。でも、どれもこれも私達の神を信じない愚かな宗派であると私は認識ていますけど」
「確かに。私たちは私達の神が絶対であり、邪魔立てするものは撃滅させなくてはいけない。……ただ、私はこう思う。人は、その時の環境、状況で己の信じる神という存在が変わるのだと」
「?」

 由美江はハインケルの言葉に首をかしげる。
 もし、もしだ……親に捨てられた自分の前に現れたのが、アンデルセン神父でなく、別のものであったのなら……きっと、そこには、今とは違う神を信じる自分がいたかもしれない。この街の神というのは……きっと、私たちでは考えもつかないものなのかもしれない。それこそ、人を殺すための道具であるかもしれない。



……一週間後。


日本 

桜見市



「ただいま」
「お帰り」

 夫であり、刑事である西島と久し振りに対面するみねね。つい昨日までは、三週目の自分が西島と一緒に過ごしていた。同じ自分同士、違和感はなかったはずだ。みねねは、久し振りに会えた西島を見て、自然と笑みを浮かべてしまう。西島は、スーツを脱ぎながら、みねねの頬にと顔を近づけ唇をつける。その行為に、みねねの顔は一気に赤く染まり、西島を、突き飛ばす。

「なあああ!!!い、いきなりなにすんだ!?」

 みねねの言葉に、西島は、腰を抑えながら、みねねを見上げる。

「ったたた。なんだよ、つい昨日まではそっちから抱きついてきたりしてたのに」
「ええ!?わ、私がか!?」

 みねねはソファーから立ち上がり、自分を指差す。

「覚えてないのか?」
「お、おい!それは、あんなことやこんなこともしたってことか!?」
「あんなやことやこんなことって……セック」

 はっきり言おうとする西島の頬を引っ張るみねね。

「そうだ、それだ。わざわざ言わなくていい」
「最近では毎日」
「!!!?」

 その西島の言葉にみねねは、歯を食いしばり、頬を染めながら、拳を握りしめる。

「か、かっこつけたこといって、やることはしっかりとやってるじゃねぇーか!!あのバカ!!!」

 みねねは、もう一人の自分に対して、吐き捨てるように言う。
 そんな一人、愚痴ったり悔しがるみねねを見て西島は、頭の中で?マークが浮かぶだけだった。そんな部屋の様子を、遠く……月明かりが照らす中、ビルの屋上から眺めている三週目のみねね。彼女は、双眼鏡を外して、部屋の中で、案の定のリアクションをしているもう一人の自分を見ながら、笑みを見せる。

「お前が言ったんだぜ?男のことも知らずに死ぬなって」

 みねねは、そう一人告げる。
 ふと、そこでみねねは自分が影に覆われていることに気がつき、顔を上げた。そこには、自分を過去の世界に飛ばした、天野雪輝が、そこにはいた。みねねは、そんな雪輝を見ながら、小さく息を吐く。

「何しに来たんだ?礼なら言っただろう?」

 自分たちのダミーの死体を作り出し、そして生き延びたことで、自分は、2週目のみねねを結果的にすくうことが出来た。ハインケルや、由美江にも、自分達の死体を見て確認させた。自分を遮るものはもはや存在しない。

「……雨流みねね、あなたはいつまで、神と戦うつもりなんだ?あなただってわかっているはずだ。神というのは、信仰する者によって作り出されたものであると。その存在は、信じる者にだけ見えるものだって。このまま、テロを起こしていけば、また彼女たちと戦うことになる可能性だってある。それを繰り返して……」
「だったらなんだ?雪輝」

 みねねは、目を見開き、雪輝を睨みつける。

「お前に私の生き方を否定する権利があるのか?」
「……」

 そのみねねの言葉に、雪輝は言葉を詰まらせる。

「私は、私の気持ちを貫く。例え、何があろうと……」

 雪輝は、みねねの言葉を黙って聞くと、携帯をみねねの前にと落とす。みねねはその携帯を掴むと、雪輝を見た。

「未来日記だよ。それさえあれば、貴方なら、逃げ切れるはずさ」
「お前……」
「僕も……貴方の気持ち、わからないわけじゃないから」

 そういって雪輝の姿は消える。
 みねねは、携帯を握ると、顔を上げ星空を見上げた。


 神なんていない。


 今あるのは、自分だけの力。
すべてが運命によって、神の掌に踊っているなんてまっぴらごめんだ。雪輝の言うように……信じれば、それが神になる。だが、自分が作り出した妄想に自分達の運命を委ねる。そんなバカな話はない。だから、私は神など信じない。信じるものか。




お前は……。

神を信じるか?









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