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[31156] コードギアス 帝国のルルーシュ 【第10話(ニーナ回)更新】
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:ce789aa4
Date: 2012/12/15 14:41
初投稿のしまうーと言います。よろしくお願いします。


・ 『 もし特区日本の式典で、ギアスが暴走しなかったら 』
・ メインはルルーシュ、スザク、ユーフェミアの3人(多分)
・ オリジナルのキャラ、舞台などはナシ

こんな内容のSSです。
ルルには特区日本のために働いてもらいます。


特にカップリングのようなことはしない予定です。
スザクとユフィは甘酸っぱくキャッキャするかもですが
過度に三角関係みたいのを期待する方は回れ右、が吉かもしれません。
(ルルとスザクまで×で繋げるよーなのを希望する方は特に)


目指すは 『 ほのぼの政治暗闘劇 』
最後まで(書ききるか分かりませんが・・・)お付き合い頂ければ幸い。



[31156] STAGE 1 魔 人 の 死 ん だ 日
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:ce789aa4
Date: 2012/02/07 15:39
リヴァル・カルデモンドにとって、ゼロという名の持つ意味は複雑だ。

オレンジ事件での華々しいデビュー以来、
リヴァルはゼロのことを好意的に捉えていた。

たしかに彼の思想や言葉が理想主義的で
彼を盲目的に支持する「日本人」には閉口もした。

だが、この世界に正義や真実が一つしかないと思うほど頭脳が子供でもない。
ブリタニアという国の大原則に関して少なくない疑問を持っていた彼としては
黒の騎士団をある程度支持していた。

しかし友人シャーリーの父親がゼロの行動に伴って死亡したことにより、考えを改めねばならなくなる。
これまでリヴァルにとってゼロはどこか物語上の人物だった。
けれど彼のコミュニティー内の人物を傷つけたことで
ゼロの行う革命を他人事でない、現実として評価しなければならなくなったのだ。

しかし・・・

「あぁ~、もう何やってんだよぉ。ゼロも、副総督も!」

生徒会室でミレイ・アッシュフォードと共に
テレビを見ていたリヴァルはたまらずに叫んだ。

今日はユーフェミア副総督による行政特区日本の式典日。
ゼロへの評価を決めるためにも
授業をサボって中継の様子を見ていた。

しかし式典会場にゼロが見たこともないナイトメアで現れたかと思ったら
そのままユーフェミアと二人きりで会談したいと言い、
舞台の奥に姿を消してしまった。
そしてそのまま二人が密室に入ってから30分が経とうとしていた。




「本格的に交渉してるんじゃないかしら。だとしたら1,2時間じゃ済まないかもね」

同じく授業をサボタージュしたミレイが答える。
リヴァルが振り返ると
普段は「明るく楽しく」がモットーのような彼女だが、
セミロングの金髪に飾られた美貌に遊びの色はない。

「えぇ? フツーはそういう協議って式典前に済ませておくモンじゃないんですか?」

「普通なら、ね。でもテロリストのワンマンリーダーと、・・・まだ若い皇女様よ?
 そういう下準備ができてない方が自然かもしれないわ」

口元に手を当ててテレビ画面を見たまま考えこんでいる。
普段の天真爛漫なキャラもいいが
貴族の娘然とした今の姿も見惚れるほどだ。
しかし茶々を入れる雰囲気でもないので言わないでおく。

「あ゙~、今日はバイトもあるから早く決まってくれないと・・・」

言いかけたところでテレビから歓声が聞こえてきた。
慌ててテレビに向き直る。
画面には式典会場の舞台奥から現れるゼロがユーフェミア副総督が映し出された。

ミレイ共々息をのんで画面を注視するなか
こちらが焦れるほどゆっくりと歩を進め、檀上につくとまずはゼロが口を開いた。




『黒の騎士団よ! 行政特区日本に参加せよ!!』

『現在の団は解散するが、それは我々の敗北を意味しない!』
『黒の騎士団よ! 行政特区日本の中で生き続け
 潜在的な脅威として私の為すことを見張るがいい!』
『もし私がブリタニアに取り込まれ、殺されたと思ったのであれば』
『諸君が仮面を被り、新たにゼロを名乗るのだ!』

『ゼロの真贋はその行いで決められる』
『全ての「ゼロ」よ! 私の為すことを見届けるがいい!!』




「いや、ムリでしょ・・・」

テレビからは万雷の拍手が聞こえてきたが、リヴァルはそう呟いた。
ブリタニア側にとって必須条件である武装解除に応じる、というのは評価できる。

しかし彼らは帝国に反逆したテロリストなのだ。
司法取引をするにしても、ユーフェミアを前に
実力行使の大義名分を失ったテロリストに
ブリタニア側が大きく譲歩する理由はない。

そもそもこの特区日本は『 お飾りの副総督 』であるユーフェミアの独断らしい。
武闘派として名高い姉コーネリアとの関係は良好だと聞いていたが
早くも特区日本絡みで姉妹の仲が拗れたというゴシップも流れている。
はたして総督がブリタニアの敵を許すのだろうか。

そもそもこの演説は何だ?
まるでゼロ本人は武力を放棄したがっていて
黒の騎士団を説得しようとしてるようにすら感じる。

いや、あるいはゼロの何らかの陰謀か?
今のゼロが殺された事にして
新ゼロが旧ゼロ殺害を大義名分に特区日本を潰す、とか・・・




リヴァルがまとまらぬ思考を続けるうちに
ゼロからマイクを渡されたユーフェミア副総督が演説を始めた。
特区日本の理念に関する話だったが
ゼロの言葉と比べるといかにも「誰かが用意した原稿を読んでます」感が強い。

『・・・最後に、この特区日本への参加者が日本人だけでないことをお伝えさせていただきます』
『信じられないかもしれませんが、ブリタニア人から私以外にも参加者はいるんです』
『その、特別というわけではないのですが、その人を紹介させてもらいます』
『少し・・・ええと・・・ワケありなので舞台にあがってきてもらいましょう』

「なんだあ?プロレスじゃないっての・・・」

リヴァルの疑問が声に出てしまう。
前半の原稿丸暗記演説が一転、妙な流れになっている。
口にしているユーフェミア自身、躊躇っているような感じで歯切れが悪いし
カメラマンも明らかに撮るべき場所が分からず慌てている様子だ。

しばらく画面が右往左往したあと
テレビは人ごみをかき分けて前に進む一人の青年のを映し出した。
角度から後姿しか見えないが制服のようなものを着ていて・・・

「あれ、もしかして、アレってうちの制服じゃん!?」

「・・・っ!まさかっ!」

血相を変えて立ち上がるミレイ。
驚いて振り返りかかるリヴァルだが、
好奇心か不安か、画面から目を離せない。

徐々にアップになっていく後姿。
制服がアッシュフォード学園のものである事はもう疑いようもない。
問題はその痩せぎすな体格に、
やや無造作な黒髪に、
妙に貴族然とした歩き方に見覚えがあることだ。

護衛がその男を止めようとするのを副総督が制し、男は壇上に上がった。
神聖ブリタニア帝国第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアから悠然とマイクを受け取り
聞きなれた、しかしどこか初めて聞くような口調ではっきりと言った。




『この中継はこのエリア11全体に流れています。
 特区日本に関して様々な立場の方が様々なこと考えているでしょう。
 なので色々と話す前に、まず私から大事なことを言わせてもらいます』

『私、神聖ブリタニア帝国の第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは皇籍を返還し、
 皇籍返還特権に基づき黒の騎士団の恩赦を要求します。』




リヴァルは




フリーズした。



[31156] STAGE 2 敗 者 の 笑 み
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:599ebe0a
Date: 2012/02/07 15:39
窓からはやわらかい朝日が差し込んでいた。
誰もいない廊下を栗色の髪をした青年が歩く。

顔付きはまだ幼さを残しており、服装もいわゆる学生服だ。
しかし服の下の筋肉は無駄なく鍛えられているのが外見からも分かる。
隙のない身のこなしで颯爽と歩を進める。




青年はある部屋の前で立ち止まると、やや躊躇してからドアを叩いた。

「ルルーシュ、殿下。枢木スザクです。お迎えに上がりました。」
「入っていい」

そっけない言葉を聞き、枢木スザクは自動扉を開ける。
部屋の主は机に向かって何やら書類に目を通していた。
着替えも既に済ませており、一分の隙もない恰好はその人の内面を表すようだった。

「悪いなスザク。2、3分待ってくれ」

神聖ブリタニア帝国の第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはしかし、
肩書には似つかぬ言葉を口にする。
わかったよ、とこちらもぞんざいな口調で返しながら
手持ち無沙汰になったスザクは部屋を見回してみた。




行政特区日本の式典で
彼が『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』を名乗ってから
ひと月が経とうとしていた。

「ユフィの補佐をする」

ルルーシュがそう言ったのは正直な所意外だった。
7年前の別れ際に彼が叫んだ言葉、

「ブリタニアを、ぶっ壊す!」

あの言葉は彼の全てのように感じたからだ。

新宿の地下で偶然彼に再会した時も
その憎しみの火は消えてはいなかったし、
学園でゼロに関してちょっとした言い合いになった時も
ゼロの武力による改革に関して一定の理解を示していた。




(まぁ心強いのは確かなんだけどね)

正直な所、行政特区日本が
ゼロとユフィの二頭体制では不安が大きすぎるのは確かだ。

あまり大声では言えないが、今のユフィはあらゆる面で経験不足である。
コーネリア殿下やシュナイゼル殿下からも
優秀な人材を送ってもらってはいる。
しかし彼らがユフィの夢を理解しているかが疑わしい上に
そもそもユフィの人を使う能力が圧倒的に不足しているため
信頼できたとしても適材適所に使うことができないのだ。

一方でゼロの側からは何人かの幹部を送り込む要望をされた。
最悪、特区日本がゼロの傀儡になる恐れすらあったのだ。




だがルルーシュがユフィの補佐に入ると状況が変わる。
ゼロの出す案に修正を入れ、
スタッフに的確な指示を出し、
ユフィの夢を具体化してそのロードマップを考える。
今やルルーシュは特区日本に不可欠な存在になりつつあった。

今日は放課後に予定されたコーネリア殿下との会談にかこつけて
前日の深夜にトウキョウ租界まで移動し、
租界に訪れるブリタニア貴族用のゲストハウスで一泊。
会談までは久しぶりにアッシュフォード学園に登校することになっている。




澄んだ表情で書類に目を通すルルーシュの姿は
流石と言うか、王族としての気品を感じさせるものだった。
なるべく落ち着いた内装の部屋を希望した、ということで
調度品も落ち着いた色使いのものが多いように感じる。
もっとも、彼が書類を見ている机1つとっても恐ろしい価格なんだろうが・・・

「高いぞ。この机1つでお前の給料10年分は下らない」

書類から目を離したルルーシュと目が合った。
口元には邪悪な笑み。
皮肉で応戦する。

「猫に小判ってやつじゃないか?その書類、『ルルーシュ・ランペルージ副会長』のヤツだろ?」

そう言うと、リヴァルによればファンクラブまであるという美貌が見事に苦く歪んだ。

「ああ・・・。そう、そうなんだ。まったく会長は何を考えているんだか。
 アイデアをだすのはいいが、事務仕事をやる身にもなってくれないと・・・」

「手伝おうか?」

「いや、もう済んだ。待たせて悪かったな。行こう」

ルルーシュはそう言って立ち上がり、手早く書類を鞄に詰めて廊下に向かった。




車に乗り込んで運転席との間の仕切りを上げさせると
ルルーシュは再び話し始めた。

「悪いなスザク。こんなことにつき合わせて」

「いいよ。・・・というか僕もユーフェミア殿下の命令で登校してるわけだしね」

今日のスザクの公式なスケジュールはルルーシュ殿下の護衛だ。
これは
『皇籍返還を申し出て、特区日本への参加を表明したブリタニアの皇子』
というのが極めて微妙な立場であるため。
黒の騎士団や他のテロリストだけでなく、ブリタニア側からも襲われる可能性があり
信頼できる護衛がいない、という理由による。

加えてユフィに学業のことを言われ
ルルーシュの会談と登校にスザクも付き合うことになったのだ。

そのことはいいのだが・・・




「不安か?ユフィのことが」

再びこちらの心情を察してかルルーシュが話しかけてきた。

「まあ、ね。殿下は大丈夫だって言ってるけど、ゼロの行方は分からないわけだから・・・」

特区日本の式典以後、ゼロは姿を現していない。
メールで意見を述べてきたり、
重要な案件では液晶越しにで会議に参加したりはしているが
正直な所、特区内にいるのかどうかすら分かっていないのだ。

今日もユフィには何度もゼロに注意するよう言ったが
彼女は笑って大丈夫、と繰り返すばかりだった。

不安は尽きないが、今言ってもしょうがないので
やや強引に話題を逸らす。

「それより君が特区の仕事を手伝ってくれてることに感謝してるんだ」
「ユフィも君が出てきてくれて本当に助かってるよ」

「俺がしていることは本来はスザク、お前の仕事だぞ?」

「ゔ」

藪蛇だった。

「騎士が剣の腕前だけ、なんて時代は遥か昔に終わってる」
「ユフィを支えたいのであれば、こういう仕事も・・・」

耳に痛すぎる小言が始まった。
確かに現在の騎士は有事の際の武力よりも
平時での補佐能力が求められることの方が多い。

最近は腕力に不安があ(りすぎ)るものの、
この男がユフィの騎士になった方が良いのではないかと思うことすらある。

もちろん譲るつもりはない、が。

小言がひと段落した後
ルルーシュはぽつりと呟いた。




「負けたからな、お前たち二人に」




え、と言ってルルーシュの方を見ると
彼は「これ以上話すことはない」と言うように窓の方を向いてしまった。




何のことかは分からなかったが
その顔は「ブリタニアをぶっ壊す」と言い放った時の憎悪のソレではなく。

恥ずかしそうにそっぽを向いた横顔は
純粋さをプライドで隠そうとする、『 あの夏 』 の表情に見えた。



[31156] STAGE 3 ラ ン ペ ル ー ジ の 日
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:599ebe0a
Date: 2012/02/07 15:41

「ポイントα(正門)にて標的の降車を確認しました~」

「よろしい♪」と手短に応え、
報告を受けたミレイはゆっくりと椅子から立ち上がった。

ミレイ・アッシュフォードは小さい時から自分の立場を理解しているつもりだった。
没落貴族の娘であることも、いずれ政略結婚のカードとなるであろうその将来のことも。
そのことに不満はない。
ノブレス・オブリージュ、などという大げさなモノではなく
「誰かと結婚し、子を産む」という漠然と考える将来像の中に
「その相手を自分から選ぶ」選択肢が初めからなかっただけのことだ。

そう思えばこの豪華絢爛な学園生活はその反動なのかも知れない。
自分の欲望に従って人を使い、友と笑い、
立ち止まることを恐れるように青春の日々を駆ける抜けてきた。

今日のイベントはおそらく最後の乱痴気騒ぎとなるだろう。
全精力をかけて遊ぶのも、これでおしまい。

ガラス越しに見える標的が近づいてきた。
幸せそうな兄妹とその友人。
車椅子に乗る妹は、後ろから彼女を押す兄を心の底から信頼しているようで
彼らの友はそれを暖かく見守っている。

..........................................
あの幸せなな三人組に、私が何者であるかを思い知らさねばならない。

ポイントβ(正門と昇降口の中間地点)まであと少し。
さあ幕を開けようじゃないか。

『 STAGE 3 ラ ン ペ ル ー ジ の 日 』。

青春時代の終わりを告げる、祝砲の引き金を引いた。




「・・・会長、どういうことですかこれは?」

花火が盛大に打ち上げられ、紙吹雪が空を覆う。
妹ナナリーの車いすを押しながら予期せぬ歓迎を受けるルルーシュ。
万雷の、だが暖かさもある拍手に迎えられた彼はしかし、
引きつった笑みを浮かべていた。

「ふふ~ん、アレよ、ア・レ♪」

ルルーシュとは対照的に、
見せつけるような満面の笑みを浮かべたミレイは
正面の校舎に取り付けられた垂幕を指差した。

「『ランペルージの日』?」

「そうよ~。未だルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであらせられる殿下に
 今日1日は副会長ルルーシュ・ランペルージとして授業を受けてもらいま~す」

ルルーシュが『あの宣言』をしてからもう一月近くになるが
未だ彼の皇籍返還は行われていない。
そのため前回学園に登校した時には
彼を神聖ブリタニア帝国の皇子として扱わねばならなかった。
(もっとも生徒会室に入った後は
 彼の頼みもあって普段通りに接してしまったのだが)

だから今日は彼にルルーシュ・ランペルージとして過ごしてもらう。
ルルーシュ以外への通知は徹底しておいたので
「ルルーシュ君~」、と黄色い(?)声を飛ばす観衆にも遠慮はない。

「ほら年末にイベントやるって言ってたでしょ?」
「ちょ~っと予定は前倒しになったけどね~」

そう言いながらミレイはルルーシュの鞄を引ったくった。
中から彼の作った書類を取り出すと
これ見よがしにヒラヒラと彼の眼前にかざす。

「・・・あぁ、そういうことですか。」
「忙しい公務の間を縫って作ったその『ゴスロリの日』の企画書は
 俺にこの乱痴気騒ぎを感づかれないようにするためのダミーだった、と」

そう言ったルルーシュが音速で振り返ると
一緒に歩いてきたスザクは光速で目を逸らした。
そのとおり。
この企画は事前にルルーシュの登校日を知ることが必須であり、
彼の予定をこちらに知らせる裏切り者の存在は必要不可欠だ。

「いやいや、これも引き継ぎ作業の一環よ~」
「このイベントの企画・立案はリヴァルだしね」

受け取った書類をリヴァルに渡しながら言うと
頭が痛いという反応をしていたルルーシュの顔に理解の色。
言外に忍ばせた意図を察したらしい。

すなわち
『ルルーシュが近いうちにアッシュフォード学園を辞めるのではないか』
と私たちが思っているということだ。

まぁ普通に考えれば分かることだろう。
特区日本への参加を表明した以上、
その旗頭の一人がトウキョウ租界の学園に居続ける訳にはいかない。

しかも彼の不安定な立場を思えば
ブリタニア側からの「ちょっかい」にも配慮しなくてはならない。
ブリタニア人であるナナリーをあえて特区日本に連れ出したのも
そのあたりのことを心配したのだろうが、
そうなると移動の事を考えても毎日の長距離通学は難しくなる。

「どうします、ルルーシュ殿下? 」

ふざけた振りをしながらリヴァルがマイクを差し出す。
彼だってルルーシュとの別れは理解しているだろう。
しかしこのイベントのため、
もしくは今日の思い出のために努めて明るく振舞おうとしている。

「・・・」

別れ話を避けるこちらの意図を察し、
ルルーシュは不承不承という顔でマイクを受け取る。
少し間をおいてから高らかに宣言した。

「アッシュフォード学園副会長ルルーシュ・ランペルージが命じる、
      ランペルージの日を、開催せよ!!」




ルルーシュが特区日本で行った演説は
アッシュフォード家に空前の衝撃を与えた。

アッシュフォード家がルルーシュ達兄妹を匿っていたのは
なにも温情や同情だけが理由ではない。
いくら皇帝になる目がなくなったとはいえ彼らはブリタニア皇帝の血を引いているのだ。
それを私(わたくし)するということは多大なリスクを伴うが
同時に「いつか何かの役に立つかもしれない」という打算もあった。

しかし彼は公の場に姿を現し、あろうことか皇籍の返還を申し出たのだ。

ポーカーで言えば
不正をするために袖の中に隠していたはずのカードがテーブルへ零れ落ち、
しかもそのカードはジョーカーからクズ札にすり替わっていたに等しい。

(こうなるともはや喜劇ね)

放課後、生徒会室で一人作業をしていたミレイは思う。

彼女自体は零落したアッシュフォード家を「そういうもの」として受け入れてもいたが
両親にはまだ野心があったということなのだろう。
しかしルルーシュの行動によりその芽は完全に摘み取られたことになる。

不幸中の幸い、というべきか
ルルーシュがカメラの前に姿を現す直前に両親は彼から連絡を受けていたらしい。
その内容は言わば口裏合わせの確認だった。

・アッシュフォードがルルーシュ達を匿ったのは皇帝の子として命令されたから
・本国に知らせなかったのもルルーシュの命によるもの

突然の連絡に両親は困惑・・・いや正直に言えば激怒したらしい。
それはそうだろう。
こんな言い訳が通るとはミレイにも思えない。
ましてエリア11の総督コーネリア皇女殿下は苛烈さと同時に、身内への情愛も深いことで知られている。
異母とはいえ殿下の弟を攫っていたのだからお家の取り潰しすら手ぬるい程の重罪だ。

ルルーシュと、彼によれば総督の妹でもあるユーフェミア皇女殿下の取り成しもあって
アッシュフォード家は現在のところ、目に見える形での罰は受けていない。
だがブリタニア皇族との縁はまず切れたと見ていいだろう。

ミレイとしても不思議な点はある。
それはルルーシュが事前に連絡をしてこなかったことだ。
ルルーシュはアッシュフォード家を庇おうとしてくれている。
それは間違いない。
しかしそれならばもっと早くに連絡があってもいい筈だ。
ユーフェミア皇女殿下は学園祭でナナリーを見つけた、と言っていたが
そこから今回の事に繋がったにしては、ルルーシュの行動が突発的に過ぎる。

(何かあったのかも知れないわね・・・)

背もたれに身を預けながら、ミレイは知れずため息を漏らした。
しかし人の秘密を探るのは好きだが
皇室の内情にまで首を突っ込んでいいとは思わない。




「それよりお前~、ユーフェミア殿下とはどーなんだよっ」

そんなことを考えていると廊下から騒がしい声が聞こえてきた。

「じゅ、順調だよ」

生徒会室の扉が開かれ、入ってきたのは
リヴァルと、彼に首を絞められているスザク。

「最初は混乱もあったけど特区の仕組みも出来てきたから」
「まぁ最近はユf・・・
 ユーフェミア殿下が『みんなルルーシュばかり頼る!』って膨れたりしてるけど、ね」

「俺が言ってるのはそーゆーことじゃないでしょ~?」

言いながらリヴァルはヘッドロックから首投げに移行。
二人はもみ合いながら床に倒れる。

「仕事の話じゃなくてアッチの話でしょ~」
「キミ、やっぱりわざとやってるだろっ!」

「そ、そんなことは・・・」

それを見て「フフッ」と控えめに笑うニーナと、
酷く疲れた顔で「天罰だろう」と言うルルーシュ、
彼に車椅子を押されながら「ダメですよお兄様・・・」と兄をたしなめるナナリーも後に続く。

ルルーシュの疲労の原因は分かる。
休み時間は『ルルーシュ・ランペルージ』目当てに押し寄せる生徒の相手をし、
ただでさえサボりがちだった体育の補習を
『ルルーシュ・ランペルージ』としか見てない教師達にガッチリ入れられたらしい。

ルルーシュにナナリー、リヴァル、ニーナ、スザク、そして私。

今の生徒会はこれで全員だ。
そしてルルーシュ、ナナリー、スザク、私はもうすぐここを去ることになる。

今にして思えば私はいつの間にか
『大人になるのが嫌な子供』ではなく
『子供のフリをする大人』になっていたのかも知れない。

「ルッルゥシュ~♪ お疲れのようだけど『ランペルージの日』はまだまだこれからよ~!」




今日が最期かなと思いつつ。
この高校生活で演じてきたように、ミレイは満面の笑みでそう言った。





[31156] STAGE 4 偽 り の キ ャ ス テ ィ ン グ
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:b336a8a5
Date: 2012/03/09 17:05

「続いてチュウブ・ブロックの各数値についてご説明致します。
 まず・・・GBP(Gross Blocke Product)に大きな変化はありません」
「ですが正確な調査ではないものの、このエリアでも失業率などに改善傾向が見られます。
 地勢状、特区日本への人口流失が大きく経済規模としては横ばいに近いですが
 一人あたりのGBPは上昇の兆しが見えています。
 ですから治安の安定が経済の安定に繋がっている、という形はこのブロックでも変わりません。
 次の四半期報告でGBPがどうなるかは特区の動向にも依るので不透明さを残しますが・・・」

冬晴れのトウキョウ租界。
その中心に位置する総督府の執務室で
地方から来た内務官僚が端末に表示された各種数値の説明をしていた。

神聖ブリタニア帝国第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアが
エリア11の総督に就任して以来、官僚が報告に虚飾を混ぜることはなくなった。
理由は簡単なことで、それをした者をコーネリアが明確に冷遇したから。
チュウブ・ブロックの次官として会議に出席したこの男もそのことは知っているらしい。

(ま、考えなきゃいかんのはそれだけじゃないがね)

ブリタニア軍の将軍アンドレアス・ダールトンは
コーネリア総督とその騎士ギルバート・G・P・ギルフォードと共に
各ブロックから招集した官僚たちの報告を聞いていた。

彼らの報告の内容は概ね一致していた。
すなわち、『特区日本の成立以降、政治・経済ともに安定した』ということだ。
それは本来エリア11の為政者として喜ばしいことなのだが。

「・・・コーネリア様?」

コーネリアはどこか心ここに在らず、という様子だった。
苦虫を噛み潰したような顔で報告書を睨み付けているものの
官僚の言葉に反応する様子はない。
それを見たギルフォードが心配そうに訊ねる。

「あぁ、すまない。続けてくれ」

険しい表情で物思いに耽っていたコーネリアだったが、報告の先を促した。
しかし官僚が口を開くより先に、今度はダールトンが口を挟む。

「いや、急がんでもいいでしょう。
 どうやら姫様は次の客人に心を奪われているようだ」

ダールトンはそう言うとチラとギルフォードの方を窺う。
彼も苦笑いしており、会議は一時中断する運びとなった。

事実、報告は火急のものではなかった。
特区日本の宣言以降、エリア11の治安は飛躍的に安定しつつある。
テロや暴動への対処なら一刻を争わねばならないが、
自分が軍人だからということか、平時の事務にそういった緊急性は感じない。

(まぁ安定したからこそ、姫様の悩みも深くなるわけだが・・・)

特区日本に関するコーネリアの思いは複雑だろう。
根本にあるのは『「ブリタニア人とナンバーズを区別せよ」という国是に乖離することへの怒り』。
しかし『最愛の妹ユーフェミアの為すこと』でもある。
彼女の強情さを愛し支えたくもあり、翻意を促したくもあるはずだ。

そして最も問題なのはゼロの存在だ。
コーネリアは常日頃から「エリア11はキレイにしてからユフィに渡す」と口にしていた。
しかし皮肉にも現在の所、彼女が「ブリタニアの敵」と評したゼロの存在が
エリア11の安定に大きく寄与している。
もしこのまま時が進み、皇帝にもうエリア11にコーネリアは必要ないと判断され
ゼロを生かしたまま異なる戦地へと赴かねばならなくなったら・・・。

(官僚君らに「特区日本」を連呼せぬよう釘を刺しておくべきだったかな)

今日は夕方頃よりその特区日本からの使節として
神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが訪れる予定だ。
コーネリアの意識がそちらに向いてしまってもおかしくはない。

また特区日本に関する話し合いも勿論重要事項だが
ここのところ、コーネリアと最愛の妹の仲は微妙なものになっている。
彼女の腹心を自認する身としてはその改善にも努めねばならない。
コーネリアの騎士ギルフォードも忠義と智謀を備える男ではあるが
このような腹芸めいた仕事は自分の担当になるだろう。

(そのためにもこの会談は成功させねばならないのだが・・・)

ソワソワと異母弟を待ちきれぬ様子のコーネリアを尻目に
ダールトンは小さくため息をついた。




「なんなのだこれはッ!」
激情に任せてコーネリアが叫んだ。

彼女の目の前の端末には

『特区日本 特別委員会(仮) 草案』

と書かれた文章が映し出されている。
行政特区日本・代表ユーフェミアの補佐官、ルルーシュが持ち込んだ資料だった。

ルルーシュが執務室に入った時、コーネリアは総督の顔ではなかった。
苛烈な軍人として知られるコーネリアだが身内の者への情は人一倍篤い。
また彼女がルルーシュの母、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアを尊敬していたことは
彼女の腹心なら誰もが知るところだ。

彼が入室早々、自らを「姉」と呼ぶように言うなど会談は和やかな雰囲気で始ったのだが。

「・・・姫様、ともあれ説明を聞いてみましょう」

総督の、というより戦場での顔を見せるコーネリア。
ダールトンは躊躇いがちにルルーシュへ助け船を出した。


実はダールトンはこの会議の前日に
ネット上でルルーシュと会談を行っていた。
ダールトンとしてはこの会議を足掛かりに
コーネリアとユーフェミアの連携を取り戻したかったし
ルルーシュの側も特区日本の成功にエリア11総督の協力は不可欠な筈だ。
両者の利害が一致しての、いわば会議に向けた事務レベルの調整である。


・ 新たに特区日本の意思決定機関を作ること
・ そのメンバーに『日本人』を加えること


そこで知らされた今日の議題はこの2点。
ブリタニア側の人間にしてみれば過激どころか
その皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアの定める国是

『 イレブンとナンバーズは区別せよ 』

という言葉に真っ向から反している。
その狙いやブリタニアへのメリットを事前に説明する代わりに
コーネリアが話の途中で席を立つのだけは止めてくれ。
これがルルーシュからの言葉だった。

(細かい『お願い』はもう1つあったんだがね)

.                 . . . . . . . .
「いいだろう。聞かせてくれ、ルルーシュ補佐官」

コーネリアは激情を露わにしつつ、言葉使いも公に向けたものに改める。
それに対してルルーシュは、

「では説明します」

ほぅ、とダールトンが感心するほど落ち着いた口ぶりで話し出した。




「まずこの機関の必要性からお話ししましょう」
「『イレブンが日本人の名を取り戻す』『国籍による差別の撤廃』」
「そのほかの部分に関しては一切の取り決めなく、
 特区日本はこの2つを公約に掲げ、参加者を募りました」
「ブリタニアからすれば特区日本はユーフェミア副総督の直轄地以外の何者でもないのですが
 『日本人』達はある程度特区内の自治も行えると思い込んでいる節があります」

「さて、そもそもこのエリア11ですが元々はアジア有数の経済力を持つ国でした」
「ブリタニアの一部となってから、ある程度の復興を果たし」
「特区日本の宣言以後は治安の安定もあり
 ブリタニアの基準で言えば衛星エリアへの昇格も見える位置に来ていると思われます」

ここでコーネリアが自分の方を見る。
意味するところは「ルルーシュに今日の官僚からの報告を流したのか?」ということだろう。
ダールトンは小さく首を横に振った。
事実、昨日の会談でもそんな話はしていない。

(どこか・・・アッシュフォードあたりから情報をもらったのか?)

ダールトンの疑問を余所に、ルルーシュは端末を操作しながら説明を続けた。

端的で的確な情報を並べ、
『イレブンに権利を与えることでどれだけ経済的なメリットがあるか』
ということを淡々と述べていった。

(前に会った時に生徒会で扱かれて身に付けた事務能力とか言っていたが・・・)

先程、執務室に来ていた内務官僚と比べても見劣りしないほど理知的な説明だった。

しかし。


「もう十分だ、ルルーシュ補佐官」

コーネリアが声を上げた。

「エリア11の現状の認識と執るべき方策に関して、正確に纏まっていると思う」
「しかし、問題はそこではあるまい」
「本題に入ってくれ。貴公もそんな話をしに来たのではないはずだ」

冷静に、と自分に言い聞かせるようゆっくりと話すコーネリア。

「・・・では委員の人選に関してお話しましょう」

(ここからが本番だ)

ダールトンがそう思うなか
ルルーシュは端末を操作し、全員の画面に同じ文章を表示させた。




・ ユーフェミア・リ・ブリタニア
・ 枢木スザク
・ ルーベン・アッシュフォード
・ アリシア・ローマイヤ
・ ゼロ
・ 小島源三郎 (名誉ブリタニア人・NPO団体代表)
・ 栗本拓磨 (日本人・元民自党政調会長)

「これが現在考えている委員のメンバーです」
「先程説明したとおり、委員の一番の仕事は各自の専門分野において代表の補佐をすることです」
「また重要事項と認められた事案については彼らが評決をとることになります」

ルルーシュは軽く前置きをした後、各委員の説明に移った。

「枢木スザクについては総督もご存じかと思われます」
「所属が特派・・・特別派遣嚮導技術部なので
 現在の所、シュナイゼル殿下の配下ということになっていますが
 これは近いうちにユーフェミア殿下に譲っていただくことになるかと思います」

「次にルーベン・アッシュフォード卿」
「エリア11に馴染みが深く、学園業もしているということで
 特区の住民と協力して教育機関の構築に努めてもらう予定です」

「続いてアリシア・ローマイヤ卿」
「彼女はシュナイゼル殿下から送られた文官です」
「保守的な人物で・・・まぁ特区はかなり革新的な構想なので
 シュナイゼル殿下なりの心配の表れなのでしょう」
「シュナイゼル殿下からの、そしてブリタニアからの後見人として参加してもらうつもりです」

「ゼロ・・・については説明を省きましょう」

「小島源三郎」
「名誉ブリタニア人であり
 貧困なゲットー居住者への生活支援を目的としたNPO団体の代表です」
「彼には衣食住など短期的な視点での意見を述べてもらうつもりです」
「付け加えれば彼は武力を用いた活動はしないとして、かつてのゼロの活動にも否定的です」

「最後に栗本拓磨」
「彼は旧日本において政権を担当していた民自党の政調会長務めていた人物です」
「官僚出身ということで仕事も出来ますし、何より広い人脈があります」
「特区日本に必要な人材を確保する上でも必要と思い、選びました」

「以上のメンバーに特区日本の代表、ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下を加えたものが
 委員会のメンバーになります」

一通りの説明を終えるとルルーシュは一度黙った。
コーネリアの言葉を待っているようだが
過度に顔色を窺うような気配はない。

(なかなかのものじゃないか)

ダールトンは素直にそう思った。
まだルルーシュら兄妹がブリタニアにいた頃、
・・・いや、正確には「閃光のマリアンヌ」ことマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが存命だったころ
コーネリアに付き添って彼ら親子に会ったことがある。

その時からルルーシュは利発そうな男の子だとは思っていたし
チェスで異母兄を負かした、というような話も聞いてはいた。
昨日の会談で特区日本に関する説明を聞いたときにも
頭脳に関する印象は高いものだったのだが。

(知恵だけでなく、器も備わってきている、か)

ダールトンの感心を余所にいよいよコーネリアが反論する。

「では尋ねよう」
「ルルーシュ補佐官、貴公が先程言った通り
 特区日本はユーフェミアの直轄地として認められている」
「だからその代表たる者が賛同しているのであれば
 私のほうから異見を唱えるのは間違いなのかもしれない」

「だが、このキャスティングはどうだ」
「細かい部分は目をつぶるとしてもブリタニア人が3人しかいないこの人数比は」
「あくまでユーフェミアの直轄地であるから特区は赦されているのだ」
「この案ではイレブンに特区の決定権を渡すことになるのではないかな?」

これは昨日のダールトンと同じ疑問だった。
ブリタニア人からすれば名誉ブリタニア人も含めるとはいえ
4人が反ブリタニアで纏まるようにも見える。

「総督のお怒りは尤もです」
「そしてそうであるからこそこの人選が有意義になるのです」

「どういうことかな」と口を挟んだのはギルフォード。
彼もコーネリアに従っているだけでなく
彼自身の判断として特区構想には反対している。

「7人の委員のうち間違いなくブリタニアと歩調を合わせるのは」
「ユーフェミア代表、枢木卿、ローマイヤ卿、そしてアッシュフォード卿」
「この4名です」
「ギルフォード卿は枢木をお疑いかもしれませんが」
 この特区日本という壮大な実験が失敗に終わった場合
 富士山周辺に確実に血の雨が降ります」
「枢木がそれを望まないことは私は旧知の仲ゆえに知っていますし
 軍の報告書にもそういう記述はあるのではないでしょうか」

コーネリア・ギルフォードの両名がこちらの方を見る。
ダールトンは今度は頷いてみせた。
昨日、同じことをルルーシュに言われて報告書取り寄せてみたところ
たしかにそういった記述があった。
(正確には「殺生を避ける」という部分を「ブリタニアへの忠義が云々」と曲解されたものだったが)

「彼らがその立場を理解している限り、特区の住民が何を思おうと・・・
 悪い言い方をすれば提案を握り潰すこともできます」



            . . . . . . .
「そしてこうも見える。ゼロも含めて日本人が4人いる、とね」




「枢木スザク、ゼロ、小島源三郎、栗本拓磨」
「『日本人』である彼らが話し合いのテーブルに着くことで
 武力による解決を図ろうとする勢力はその大義を失います」
「さらに言えば小島源三郎はアンチ・ゼロの立場ですし
 栗本拓磨も現実主義者の政治家だったと聞いています。
「彼らがブリタニアの中の孤島たる特区日本で
 突飛な行動に出るとは考えられません」

「言わば首輪のついた委員が
 反ブリタニア的思想のイレブンを押さえつける丁度良い首輪になるのです」


『 4+4=7 』


これがルルーシュの考えだった。
確かに理には適っている。
しかし、しかしだ。

「ルルーシュ補佐官、1つ聞かせてくれ」
「貴公はゼロの正体をどう思っている?」

コーネリアが尋ねた。
ルルーシュの言う「武力による解決を図ろうとする勢力」とはイレブンの側だけではない。
ブリタニア側もゼロに『最終的な解決』を行う大義を失うのだ。

(いや、あの言い方は姫様のリアリズムをこそ否定しているのか?)

この会議に参加しているのはルルーシュを除きみな軍人だ。
ブリタニアの敵たる彼を消すことに異論があろうはずもない。




「それを知ることができるのは姉上かと思いますが・・・?」




「!!」

(まずい・・・!)

ルルーシュの言葉にいよいよダールトンが腰を浮かせる。

ゼロは国家反逆罪を犯した大罪の徒だ。
そしてユーフェミアは神根島にて彼と接触している。
そして彼女がゼロと通じていたとみなせば
特区日本構想を利敵行為として認定することができる。



. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
つまりコーネリアには妹を断罪する材料があり
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
彼女にリフレインを用いればゼロの正体を知ることもできるかも知れないのだ。




(そんなことを姫様に進言する命知らずもいないと思っていたが)
(まさかここで・・・)

「ルルーシュ、貴様・・・」

怒りに燃える眼でルルーシュを睨みながら席を立とうとするコーネリアに
ルルーシュは流石に多少慌てたように言葉を足す。

「つまり、ユーフェミア皇女殿下を信じろと言いたいのです」
「彼女に聞いたところ、最近は総督との間で連絡も取っていないと聞きます」
「同じ皇族で、それどころか同じ母から育った姉妹なのに信じることができませんか」

「ゔ」、と中腰になったコーネリアが詰まった。
ユーフェミアが未だに皇族なのは
彼女が自らの皇籍を返還すると言い出した時に
ルルーシュが身代わりのような形でそれを行ったからだ。

(杞憂だった、か)

ダールトンは静かに腰を下ろす。

「おふたりが協力すれば特区、そしてエリア11もますます安定します」
「実際問題、枢木をシュナイゼル殿下から切らなければ
 彼を殿下の人形と見なすことでローマイヤ卿には退席してもらい
 コーネリア殿下からのスタッフを委員に入れることもできました」
「しかしそうしなかったのは
 総督と代表の意思が疎通していれば、必要ないと思ったからです」

目を閉じて渋面で考え込んでいたコーネリアだったが
ルルーシュの話を最後まで聞いたところで
小さく息をつき、

「分かった。ルルーシュ補佐官」
「細部についての説明を聞こう」

そう言いながらゆっくりと総督の椅子に腰を下ろした。




その後の会議は波乱もなく進み
概ねルルーシュの持ってきた資料の通りに、
という方針でこの日はお開きということになった。

ルルーシュの帰り際にコーネリアが尋ねた。

「ルルーシュ補佐官、いやルルーシュ」
「お前は皇籍を返還すると言い
 同時に特区日本への参加を表明した」
「お前の望みは何だ? なぜユフィに協力している? 」

これはダールトンも同じ思いだった。
彼ら兄妹は人質としてかつての日本に送られ
そのまま見棄てられた過去を持つ。
政治の舞台に上がることを好まないだろうとは容易に想像がつくし
逆に何らかの目的でこの世界に戻りたいのであれば、皇籍返還は納得がいかない。
特別委員の1人に自分の名前を挙げることだってできたはずだ。

「ナナリーは目も見えず、脚も動きません」
「世界がやさしくないと、彼女は生きていけないのですよ」
「やさしい世界」
「それが私の望みであり、ユフィに協力する理由です」

ルルーシュが感情を押し殺すようにそう言うと
武人であるコーネリアは少し複雑そうな表情を見せた。
それを見て立ち去ろうとするルルーシュにコーネリアが続けた。

「ではもう1つ」
「お前は説明の中でブリタニアの一員としての意味で
 『我々』という言葉を一度も使わなかった」
「お前はもう『我々』ではないのか?」

そう言うコーネリアは微かに悲痛な色さえ見せる。
最愛の妹、ユーフェミアの身代わりとはいえ
異母弟妹が皇族でなくなるのだ。

 . . . . . . . . .
「Royal Weは使えない、というだけの事ですよ」
                        . .
「ユフィにも報告は入れさせます。では姉上」


ルルーシュは誤魔化すようにそう言うと
今度こそ背中を向け、執務室を出て行った。




執務室の扉が閉じても
しばらくの間、緊張した空気は去らなかった。
主の心境を思いやってかギルフォードも何も口に出さず
沈黙が室内を支配する。

やがてコーネリアが長い息をつき
少し冗談めかした顔で口を開いた。

「・・・ところでダールトン、お前はルルーシュの書類のことを知っていたな?」

確かに頼りない主を支えるのもいいだろう。
だが、

(優秀な主に仕えるのも悪くない、か)

ダールトンはそう思いつつ黙って頭を下げた。



[31156] STAGE 5 紅 の 憂 鬱
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:599ebe0a
Date: 2012/04/11 12:18

『・・・というわけで』
『私、ユーフェミア・リ・ブリタニア』
 . . . . . . . . . . .
『アンドレアス・ダールトン卿』

『ルーベン・アッシュフォード卿』
『アリシア・ローマイヤ卿』
『ゼロ』
『小島源三郎さん』
『栗本拓磨さん』

『以上のメンバーと共に復興に関する話し合いを進めていこうと考えています』
『ゼロ、何か意見はありますか?』

『フム・・・』
『説明を聞いた限り、私はダールトン卿よりも
 そこにいる貴女の騎士、枢木スザクの方が委員に適任だと考えるが』

『え・・・』
『いや、私が、ですか?』

『! ゼロ! それではイレブンが票の過半数を握ることに・・・』

『日本人、です。ローマイア卿』
『ゼロ、続けてください』

『・・・よろしいかな?』
『確かにエリア11総督との繋がりは重要かもしれないが
 聞けばユーフェミア代表はコーネリア殿下の実の妹だとか』
『中央と特区日本の連携はそれだけでも十分に取れるだろう』
『ならばダールトン将軍よりも日本の事情に明るく
 旧日本とブリタニアの架け橋、その象徴としても枢木卿の方が委員にふさわしいのでは?』

『・・・分かりました』
『確かに彼の見識はもっと活かされるべきかもしれませんね』

『副総・・・代表! しかしこれはブリタニアの国是に反するのでは!?』

『おっと、ここは特区日本ですよ、ミス・ローマイア』
『総督が掲げた理念はブリタニア人も日本人も差別せず、だと聞いていますが』

『そのとおりです、ゼロ』
『そしてその実現のための第一歩としてこの委員会を立ち上げたのです・・・』

(中略)

『・・・枢木スザク』
『あなたはかつて私に誓ったように、特別委員として特区日本に忠誠を捧げると誓いますか? 』

『イエス・ユア・ハイネス』




「日本人としては礼を言うべきかしら?ゼロ・・・」
 . . . . . . .
「いえ、ルルーシュ」

ゼロ、ユーフェミア、ローマイア、スザクによる映像通信による会談が終わり、
ルルーシュが回線を切ったところで同じ部屋にいたカレンが訊ねた。

特区日本が成立するにあたって
最初にできた建物の1つがユーフェミア代表の邸宅だ。
カレンは今、その敷地の中に建てられた簡素な離れ屋、
ルルーシュとナナリーの兄妹が暮らす家を訪れている。

「・・・あぁ、委員にスザクを加えたことか」

カレンの問いかけに対し、ルルーシュは少し考えた後
仮面を外しながら事もなげに答えた。

「礼も何もユフィが出してきたダールトンの名のある原案、作ったのは俺だぞ?」

「ふぅん、そ・・・んなぁっ!?」

思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「日本人に向けた印象操作だよ」

カレンを見たルルーシュは小馬鹿にしたような笑みを浮かべつつ
淡々と説明を続ける。

「最初から『ゼロを含めて日本人4人』にしても
 スザクと小島、2人の名誉が含まれている上にスザクはユフィの騎士だからな」
「ブリタニアの傀儡、という印象は否めない・・・実際の所そうなるだろうしな」
「しかし正義の味方たるゼロがダールトンをスザクに変えろ、と言えば
 いかにもブリタニア側が譲歩したように見える」
「そもそもダールトンにはこのための道化として名を借りる事しか許可は取っていないしな」
「ブリタニアは実を、日本人は名を取ったという所だ」

「あんたねぇ・・・!」

なんて奴だ。
カレンは言葉を失いそうになるのを堪えて何とか抗議の言葉を吐き出した。

「そもそもあんたは、ゼロは日本人じゃないでしょう!」

「そうとは限らないんだが・・・ちょっと待て」

こちらの怒りなどどこ吹く風とばかりに
誰かから連絡が入ったのか
ルルーシュは携帯のマイクスピーカーを取り出し、耳にはめた。

「ディートハルトか? どうだ・・・」
「あぁ・・・そうか・・・いや、ローマイヤだけだ。ユーフェミアにはするな」
「それとあまりやりすぎるなよ。肝心な時にショーが飽きられていても困る・・・」

こちらのことなど気にも留めない、この天上天下唯我独尊っぷり。
話しながら立ち上がったルルーシュは背後に掛けられたカーテンを外す。
すると午後の日差しと芝生の緑が眼に飛び込んできた。

「あぁ・・・。タイミングは任せる・・・」

電話の相手、ディートハルトに指示を出すルルーシュを尻目に
カレンは眩しさに目を慣らしながら窓の外に視線を向けた。

この場所は本来なら特区日本代表補佐、という肩書の人間が住む場所ではない。
特区日本の代表、というより神聖ブリタニア帝国第3皇女の邸宅の敷地内なのだから。
カレンも今日ここに入るために『カレン・シュタットフェルト』の名を使わなければならなかった。
(もっとも『紅月カレン』として特区日本に参加すると言った時点で
 シュタットフェルト家からは勘当されているも同然なのだが)

ルルーシュによればユーフェミアはブリタニア人の護衛と共に
どこか別の場所にキチンとした彼ら兄妹の家を用意する予定だったらしい。
しかしブリタニア人は信じられないとしてルルーシュがこれを拒否。
さりとて日本人の中に放り出すわけにもいかず
結局、戸別に護衛は付けずにすむ、副総督の邸宅内に仮住まいすることになったという。

悲しい事だともカレンは思う。
ブリタニアはどうか知らないが日本人の間では
『本国に棄てられ、特区日本に参加したブリタニアの皇族兄妹』について同情的であり
好意を持って受け入れる雰囲気の方が強い。
しかし彼ら兄妹はこうして誰も信じず、今日まで生きてきたのだろう。

(私は信じられているのだろうか・・・?)

彼が特区日本の式典でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして名乗りを上げたあの日、
カレンはゼロの正体を知った―――




「ゼロ、カレンです」

控えめに扉をノックした後、カレンはできるだけ明瞭な声で言った。

「入ってくれ」

ゼロの操作で扉が開かれ、カレンは室内に入った。

行政特区日本の式典にガウェインが乗り込んで数十分後、
突如として富士山周辺に展開していた黒の騎士団に撤退命令が出された。

カレンの紅蓮二式はトレーラーに載せられ、
事前に用意されたルートから速やかに撤退。
助手席で式典の中継を見ながら
カレンは戦闘行為に陥ることなくトウキョウ内にあるアジトにたどり着いた。

アジトで待ち受けていたのはカレンと同じ混乱と怒号。
         . . . . .
いや、ゼロに心酔していた自分でもそうなのだから
他の団員の怒りは自分以上だったかもしれない。

そんな中に遅れて撤退してきたゼロだったが
1時間足らずで特区へ参加するように幹部たちをまとめて見せた。

そして各人に新たな役割を割り振ったゼロは
最後にカレンの名を呼び、彼の部屋に来るように指示した。

(何か、特務だろうか・・・?)

先程、幹部の前でもゼロは特区日本への参加を表明していた。
しかしこの男が単に『黒の騎士団が特区に吸収される』だけで済ますとは思えない。
ディートハルトが前に言っていた暗殺、という言葉も頭によぎった。

「カレン、銃は持っているか」

カレンが部屋に入ると言われたのはそんな言葉だった。
胸中を隠しつつ持っています、と答えると「見せてくれ」とくる。
カレンは言われるままに手渡した。



そして、ゼロはカレンの目の前で
あっけないほど簡単に仮面を外して見せた。



「えっ」

仮面の下から現れたのは見知った顔だった。
ルルーシュ・ランペルージ。
つい先ほど特区日本の式典にルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして登場した男。

「そんな・・・!どうして・・・」

嘘、嘘、嘘。
意味のない言葉が頭の中を巡った。

すぅ、と、体の力が抜けていくのが分かる。
思考がまとまらない。
自分はゼロに従っていけば日本は解放されると信じて闘ってきた。
ルルーシュはいけ好かない無気力なクラスメイトの筈だった。
気が付くとカレンは床に跪いていた。

しかし、

(式典の後に入れ替わったのか!?)

その考えが浮かぶと猛然と立ち上がり、
偽ゼロ、ルルーシュを叩き伏せるべく立ち上がろうとする。

「落ち着け」

しかしルルーシュは
そう言いながらカレンから取り上げた銃を構え、

「く・・・って、えぇ!?」

カレンが一瞬躊躇するのを見るや、
その銃を部屋の片隅に放り投げた。

「紅月カレン」

そのまま呆気に取られるカレンを尻目に
ルルーシュは近くの椅子に腰かけた。

「私・・・いや、俺は君と話をしたいだけだ」
「内容に納得がいかなければ、腕づくで俺を拘束すればいい」

長い脚を組みながら話すルルーシュ。
真剣な表情からすると余裕の表れ、というよりも
無意識に出た彼の癖のようなものなのかも知れない。

「さて・・・何から話すかだが」
「まずは俺がゼロということの証明からかな」

そう前置きするとゼロ、ルルーシュは様々なことを話し出した。
ゼロとしての発言や行動など、彼と黒の騎士団しか知り得ない事。
シャワー室でカレンを騙した(こうして言われるとひどく稚拙な)トリック。
そして彼がゼロとして動くことになった動機―――

彼が公にその正体を現してから数時間のうちに、
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに関して様々な情報が発表されていた。
ルルーシュの母親が宮中でテロリストに殺されたこと。
生き残ったルルーシュら兄妹が人質として日本に送られたこと。

(そして、にもかかわらずブリタニアは日本に宣戦布告し、兄妹を見殺しにしたこと・・・)
(ゼロの行動目的は「ブリタニアを壊すこと」)
(動機を含めて一応筋は通る、けど・・・)

「信じられないか?」

「あ、当たり前です・・・いや、当たり前だっ!」

徐々にまとまっていく思考は「彼がゼロである」ことを認めつつある。
しかし納得できるかは別問題だ。

「大体なぜそれを私に言う!?扇さんや他の団員に知れれば・・・」

「ゼロがブリタニアの皇子だと知れれば」

真剣な表情のままルルーシュが言う。
話すほどに口ぶりやその仕草がゼロのそれに重なっていく気がした。

「日本人、少なくとも黒の騎士団のメンバーは特区日本に参加しないだろうな」
「そして烏合の衆となったテロリストに何が待っていると思う?」
「コーネリアはブリタニアの敵に容赦する人間ではない」
「騒動が他の日本人に拡大すれば、日本中で血の雨が降ることになるだろう」

考えられないことではない。
ブリタニアの統治方法はアッシュフォード学園で学ばされた。
この国は、あの総督は、反逆する人間への粛清と弾圧を厭わないだろう。

「勿論、俺もそんなことは望まない」
「なぜ君にこんなことを言うのか、と言ったな」
「協力してほしいからだ、紅月カレン。君個人に」

(私に・・・?)

「これから私の闘争は戦場から政略の場へと舞台を移す」
「イレギュラーはなるべく避けたいが
 どうしても私の正体を知っている人間が必要になることもあるだろうからな」

ゼロに選ばれるのは嬉しい。
この身は彼に捧げると誓ったのだ。
彼こそが日本の独立を成し遂げてくれると信じてきたのだから。

しかし、それは・・・

「それは誰としての言葉なの」
「ゼロとして?」
「ルルーシュ・ランペルージとして?」
「それとも、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして?」

カレンの縋るような問いかけに、

「ゼロはあくまで仮面だ」
「特区での演説で『ゼロ』が言った通り、その真贋は行為によってのみ計られる」
「そしてその判断は各人が行う」

ルルーシュは突き放すようにそう言うと黙って目を閉じた。

(私が決めろ、ということか・・・)

熱病のように救世主であるゼロを慕い
盲目的に彼の言葉に従ってきた。

カレンは深呼吸をする。

(それと何も変わらないかもしれないけど)
(今の日本には彼が必要なんだ)

確証はなかった。
しかしゼロなしでは日本人の未来はない。
そんなところまできてしまっていた。

「・・・分かったわ、ゼロ」
「少なくともあなたの言葉には従う」





カレンはそう言って
当面はゼロ―――ルルーシュに従うことを決めた。

式典から1月程が経ったが
硬軟、善悪を織り交ぜた彼の手法は一定の結果を出している。
元黒の騎士団の面々も概ね彼の施策に納得していたし
ゼロをテロリストのリーダーとしか見ていなかった穏健派の日本人も
彼への評価を改めつつある。

(そして私も・・・)

目の前にいる男は、多分、本物のゼロだ。
感情はともかく理性ではそう認めつつある。

複雑な想いを押しとどめつつルルーシュを眺める。
するとディートハルトとの会話を中断し
何やら端末を操作していた彼と目が合った。

そして、

「カレン、客だ」

「へ?」

視線の交錯に少し赤面したと同時にルルーシュが口を開き、
言い終えるや否や背後の扉が開かれた。

「ルルーシュ、こんなところに・・・」

ノックもなしに入ってきたのは枢木スザク。
驚いて振り返ったカレンと完璧に目が合った。

「ス、スザク!」

「・・・ッ、カレン! 君はっ!」

お互いの姿を認めたスザクとカレンは咄嗟に身構える。

神根島でカレンは彼に自分の生い立ちを話してしまった。
スザクは自分が黒の騎士団だと知っている―――

「あぁ、スザクか」

しかし、ルルーシュの平静な声が緊迫した空気を砕いた。

「スザクの言ったとおりだったよ」
「お前が前に『カレンは特区日本にいる』とか言ったときには
 冗談だと思ったんだが・・・どうした、2人とも?」

(この男は・・・!)

その呑気な口調にしばし呆気にとられていたカレンだったが
気が付けばルルーシュは仮面とマント、スカーフも外して
簡素なブリタニア貴族の平服、という装いになっている。
スザクが『ブリタニアの皇子』たる自分の前では
カレンの正体を明かすまい、と読んでいるらしい。

「い、いや、何でもないよ」

ルルーシュの思惑通り、というべきか、
そう言いながらスザクはルルーシュの傍へと歩く。

ここでカレンはスザクが身構えた理由が
『自分が黒の騎士団のメンバーだから』だけでなく
『その自分がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの部屋にいた』ことも
あったのだとようやく気付く。

「ほら、前にスザクには話しただろう?」
「学園の話だよ」
「『アレ』をカレンに頼もうかと思ってね」

「あぁ、『アレ』ね。でも・・・」

雑談をしながら端末を操作するルルーシュ。
そういえば、この離れの警備システムは彼自身が管理すると言っていた。
多分、今はさり気なく監視カメラのソフトを閉じているんだろう。

(スザクが来てるならもっと早く私にも伝えなさいよ・・・!)

怒りを目線でだけで示してスザクの背中越しに抗議するが、
ルルーシュは意にも介さない。

「ところで、何か用事があったんじゃないのか?」

「え・・・あ、そうだ」
「今日の会議でゼロが・・・あ、いや」

スザクは何か言いかけるが、
カレンの方をチラと見て慌てて言い直す。

「ええと、ちょっと予想外の事があってね」
「キミの意見を総督が聞きたがっているんだ」

予想外の事、とは特別委員がダールトンからスザクに代わったことだろう。
アレも一応は機密事項、ということなのだろうが
先刻『ゼロ』がディートハルトに会談の内容をネットに流すように指示を出していた。
カレンの中ではスザクもブリタニア側の人間、という認識だが
コイツもルルーシュに遊ばれているのかと思うと同情を禁じ得ない。

「そうか。分かった」
「悪いな、カレン」
「また今度」

(今度、ね)

ルルーシュ・ランペルージのものとも
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのものともとれる
笑顔でルルーシュはそう言った。




そのまま3人は揃って部屋を出てると
ルルーシュはスザクに連れられてユーフェミアの元へと歩いていった。

(親友にも正体を隠して・・・)
(一体、誰を信じて生きていくのだろう)

スザクと話しながら遠ざかる背中が、ひどく薄っぺらく見えた。



[31156] STAGE 6 ふ た り の 妹
Name: しまうー◆ebd7de2b ID:62c6ca91
Date: 2012/05/17 17:06
「んっ・・・ふぅ」

執務室の椅子に座るユーフェミアは大きく伸びをして
手に持っていた書類を机の横に積んだ。

執務机から応接用のテーブルにまで積み上げられているのは
特区日本の内政に関する重要書類の写し。
ユーフェミアが初めて目を通すそれらは
本来なら自分の承認が必要なモノだったが
すでに特別補佐官の名でサインが済まされている。


特区日本が成立して以来、
自分とルルーシュの仕事量を比較すると 1:100 位の差があると思う。

理由は簡単。自分が未熟だから。

最近は改善してきたと思・・・いたいが
初めのうちなど簡単な書類に判を押すだけでも戸惑ってしまい
ほとんど仕事にならなかった。
「ルルーシュのサインはユーフェミアのサインに準ずる」という
不文律が出来てしまうのに、そう時間は掛からなかった。

しかしユーフェミアとてそんな状況を甘受した訳ではない。
作業するルルーシュの隣に机を並べ
彼のサインした書類を見たり、その判断の仕方を学ぶうちに
徐々に処理できる書類仕事を増やしていった。

今では

・ 大体の書類はローマイヤの元に集められる
 → ヤバそうな内容の書類は(直接彼の元に行く分も含めて)ルルーシュへ
 → 無難な内容の書類は自分へ
  → 判断に迷うものは保留し、後でルルーシュと相談
・ ルルーシュが判を押した書類も目を通す(特区の代表としてと、後学のため)

という形で作業を分担するようになった。

ただ、書類に判子を押すだけが首脳部の仕事では勿論ない。
今日も補佐官であるルルーシュがトウキョウ租界で働いている中、自分は特区でお留守番。
しかも特区に残ってやっているのが
ルルーシュが判を押した書類の確認作業とは・・・

(特区日本の代表になって)
(私がもっとみんなを笑顔にしようと思ったのに・・・)


お飾りの副総督。


コーネリアの下で散々言われたであろう嫌な言葉を思い出す。
思考が後ろ向きになり始めたとき
執務室の扉が控えめにノックされた。


「ユフィ姉様、私です。ナナリーです」
「ちょっとお茶にしませんか?」

ナナリーの声を聞いたユーフェミアは「どうぞ」と言い
ボタンを押してすぐに執務室の扉を開けた。

特区日本の発足以来、ナナリーも官邸の敷地内に住んでもらっている。
電動の車椅子に乗った少女が入ってくると
それだけで部屋が明るくなったような気がした。

元々執務室には大きめの窓があり
午後の陽気がいっぱいに差し込んでいたはずなのだが。
少し根を詰め過ぎていたのかもしれない。

「咲世子さんが日本のお菓子を作ってくれて・・・」
「ええと、よ、よう・・・?」

「羊羹、ですわ。ナナリー様」

ナナリーの後を続いた女性がそう言って優しく微笑んだ。

篠崎咲世子はナナリーに仕えるメイドだ。
本来はこの兄妹を匿っていたアッシュフォードの人間らしいのだが
ルルーシュたっての願いで特区日本に連れてきたらしい。

しかし咲世子がナナリーに向ける眼差しは
ただの従者が主人に向けるそれよりも温かみのあるもの。

あの特区の式典の日、
舞台裏でルルーシュに『ナナリーのために特区を作る』と言っておきながら
警備の観点からろくに外にも出られず
彼女には半ば軟禁のような生活をさせてしまっている。

そう考えれば友人としてもナナリーに接してくれる咲世子の存在はありがたい。
それにブリタニアの皇女と日本人。
2人の柔らかい笑顔を見ていると
ユーフェミアも特区日本は間違いでないと心から思えた。

「あ、あの、お邪魔だったでしょうか」
「お仕事中でしたらまた後にしますけど・・・」

微笑ましい2人を黙って眺めていると
不安そうに眉を寄せたナナリーがたずねた。
天真爛漫な彼女を見ているとつい忘れそうになってしまうが
彼女は目が見えないのだ。

ユーフェミアは慌てて否定する。

「そんなことないわ!」
「実はちょっと煮詰まってて、丁度お茶にしようと思ってたの」

そう言うとソファの前のテーブルにまで散乱した書類を片付けるべく
ユーフェミアは立ち上がった。




「あの、私にもお手伝いできる仕事はないでしょうか?」

ナナリーのこの言葉が発せられるまで
お茶会はユーフェミアにとっても、久しぶりに心休まる時間になった。

ナナリーもこの敷地内に閉じ込められて
さぞ退屈しているだろうと思っていたのだが
ルルーシュやスザクの他に紅月カレンも時々訪ねてくれているらしい。

ユーフェミアは神根島でカレンと顔を合わせている。
「人形の皇女」だの「ひとりじゃ何もできない」だのと、
好き放題言ってくれたブレーモノにあまり好意は持っていないが
ナナリーの退屈を紛らわしてくれているのならありがたい存在だ。

しかし、カレンの言動を思い出してついた溜息が余計だった。
「お疲れですか」、というナナリーの気遣いから
こんな流れになってしまい・・・

「うーん、気持ちはありがたいんだけど・・・」

「私じゃお役に立てませんか?」

そう言って悲しそうな顔をするナナリー。

ルルーシュはナナリーを特区に連れてきたものの
彼女をその政治の一部に組み込むことを望んでいなかった。

彼自身が(都合よく皇族としての名を使うこともあるが)
一般人としてユーフェミアの補佐官になっているので
ナナリーが皇族としての職務を行わないことに不自然はない。

縁を切りたいブリタニアの仕事を、
よりによって不安定極まりない特区日本の補佐という形で
ナナリーにさせたくはないのだろう。
このあたりはユーフェミアも同感だった。

ただ、大事な人の力になりたくてもなれない。
少し前まで(今でもだが)の自分に重なりいたたまれない気持ちになる。
それで、

「あー、そうじゃないの!」
「ええと・・・」
「実は私もあんまり仕事ができてないのよ」

・・・

あーあ、言っちゃった。
ナナリーの前ではなるべく愚痴なんて言いたくなかったのに。

「そうでしょうか・・・」
「お兄様もユフィ姉様は頑張っていると言ってましたよ」

「あら、ホント?」

小首を傾げながらのナナリーの言葉に思わず聞き返してしまう。
面と向かっては誉めてくれないルルーシュだから、ちょっと嬉しい。

「えぇ」
「今ではお兄様の5分の1位のスピードで書類仕事ができるようになったって」

満面の笑みで断言するナナリー。
一瞬本当に褒められたように錯覚したユーフェミアだったが。

「それって・・・」

全然褒められてない!

「もう、ナナリー!」

フフ、と笑いながらユーフェミアの追及をかわそうとするナナリー。
脹れるフリをするユーフェミアだが、
ナナリーを閉じ込めてしまっている自覚があるだけに
彼女が冗談を言ってくれると少し救われた気分になる。

こうしてふざけ合っていると7年の断絶が埋まっていくようだった。
マリアンヌ様が生きていたあの頃のような―――

『ユーフェミア様、ローマイアです』

しかし、和やかな時間を止める再度の来客。
ノックの後の言葉にユーフェミアは「どうぞ」と応えた。

「ルルーシュ様と枢木卿がお帰りになりましたが」

「そ、そうですか」

あたふたと机の端に積んであった書類をローマイアから隠しながら応える。
写しの上に発表済の内容とはいえ、一応は特区の重要書類。
ナナリーはともかく、咲世子にも見られたと知れればローマイアは快く思うまい。

「では執務室に来るように伝えていただけますか?」

「・・・もうこちらに向かっているそうです」
 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
「代表は執務室をもう少し片付けておいて下さい」

視線をちらと咲世子の方に送った後、
ローマイアはそれだけ言って執務室を後にした。

(バレてるわね・・・)

ローマイアの中のユーフェミア株が更に下落した気がした。

「お兄様が帰ってきたんですか・・・」

気を取り直そうとした時にポツリとナナリーが言う。
彼女の方を見ると、寂しげな気配。

おそらくナナリーは『ルルーシュ達が戻ってくると執務室を追い出されること』や
『ナナリーが特区に参加するのをルルーシュもユーフェミアも望んでいないこと』
を理解しているのだろう。

「じゃあ私は部屋に戻りますね・・・」

そう言うと車椅子を反転させて部屋を後にしようとする。
その小さな後姿を黙って見送るのは、

ユーフェミアには不可能だった。




特区成立から1月も経つと
順調に進んだ点もあれば、急務となる問題点も出てくる。

医療問題は後者の代表例だ。

旧日本がブリタニアの一部となって7年。
その間にイレブンと呼ばれた人々はまともな教育も受けてこなかった。
名誉ブリタニア人になった者の子供はそうでもなかったが、
特区日本は名誉ブリタニア人の参加者が少ない。
少しでも『持つ者』からすれば
何の保証もない特区に参加したがる人間は少数派だったのだ。
(それどころか「特区は日本人を殺すためのブリキの罠」「あれは虐殺皇女だ」
 などという、『とんでもない流言飛語』まで飛び交った)

その結果、特区の参加者はそのほとんどが社会的弱者となり
20万を超える参加者の医療問題が特区成立と同時に持ち上がったのである。
旧日本で所有していた資格に関しては免許などがあれば
仮の免許を発行して職務に当たらせるなど、当座を凌ぐための措置も取ってはいる。
しかし現状は無免許医がボランティアで診ている、というのでもいい方で
ほとんどの住民は医療と無縁の生活になってしまっている。

今日のルルーシュの東京租界行きの主な目的は、この問題の改善だ。
医療に携わる名誉ブリタニア人は横の繋がりを持っていることが多かったため
その会合に参加して、彼らに特区への協力を促す。
例えば子供がいる場合は学校などが整備されていないと中々参加に踏み切れないが、
医療機関や関係者のための宿舎などは優先的に建設しており
短期でも特区で働いてほしい旨を説明して回ってもらった。


「もう少し事前の準備があれば、状況はマシだったとも思うがな」

執務室のソファにどっ、と座りながらルルーシュが口を開く。
特区と東京租界の往復でかなり疲れているようだ。
いつもなら彼の皮肉にヘコまなければならないがしかし、今日は違う。

「大体20万人を集めておいて準備が水と食糧だけ、というのは・・・」

「あら、だからこそお兄様の出番があるんじゃないですか?」

ルルーシュの言葉にナナリーが言い返した。
ここは政庁の執務室で、非生産的な愚痴も混ざっているものの
ルルーシュとスザクから租界の報告を受けている所だ。
そこにナナリーがいるということはつまり、ユーフェミアの譲歩を意味する。

今や特区日本の最重要人物になりつつあるルルーシュだが
彼も妹に頭が上がらないのは変わらないらしい。
恨めし気にルルーシュがこちらを見る。

仕方がないじゃないか。
ナナリーにあんな悲しそうな顔をされて、『仲間外れ』のままにしろと?

(だったらルルーシュが追い出しなさいよ・・・)

視線に力を込めて睨み返す。
意思が通じたのかルルーシュは苦々しげに首を振って目を逸らした。
彼にそんなことが出来るはずないのはよく知っている。

ただ、ルルーシュによれば日本に渡ってからの、
・・・いや言葉を飾るのはよそう。
母親と、そして光と脚を失ってからのナナリーは
ユーフェミアの記憶の中の彼女よりも大人しい少女になっていたらしい。
こうして冗談を言い返す明るさが戻りつつあるのは
苦い顔をしつつルルーシュにとって喜ばしいことなのだろう。

「・・・分かった。じゃあ復習をかねて
 ナナリーにも特区の現状を説明していこうか」

ルルーシュが折れるのに、そう時間はかからなかった。




ルルーシュが提案した特区日本の経済政策の基盤は大きく4つ。

① 特区に集まった労働力を使い、とにかくインフラを整備すること
② 桐原泰三に先陣を切らせ、名誉ブリタニア人を民間資本ごと呼び込むこと
③ 研究機関を先行させ、付随する形で各種先端産業を育成すること
④ アッシュフォードの協力の元、研究機関と連携しつつ教育機関を整備すること

『 From Top and Bottom (上から下から) 』
と内々に称されるプランは概ね順調に進められている。

①について。
幸か不幸か、イレブンと蔑まれてきた日本人は
土木作業などに習熟している者が多かった。
特区の人口構成を見ても『独り身の成人男性』の割合は特筆して高く、
彼らを桐原重工の非正規社員として雇うことで特区はまとまった労働力を確保した。
強制労働抜き、かつ重機はおろかツルハシなどの道具すら不足する中
勤勉さや旺盛な意欲も作業を押し進め
ルルーシュが驚くほどのペースでインフラの整備は進んでいる。

②について。
桐原泰三はサクラダイトに関する利権を全て失い、
もはや『権力』という面ではかつての力はない。
しかし彼の手元には莫大な個人資産が残されており
『ゼロ』が特区日本をその運用先とするように『説得』したらしい。
また名誉ブリタニア人の富裕層には未だ租界に身を置きつつも
枢木ゲンブの恩を忘れていない者もいる。
そういった人間の取り込みにはスザク(ルルーシュ曰く「その名前」)が活躍している。

③について。
研究機関に関してはラクシャータ・チャウラーなる女性技術者に一任している。
彼女は中華連邦・インド軍区の出身で黒の騎士団に参加していたらしい。
しかしブリタニアにも留学経験があるなど彼女の人脈は貴重だ。
また医療サイバネティック技術の権威として名を馳せた時期もあるということで
国籍を問わず特区日本に参加する、という研究者が集まりつつある。

ただし産業育成の方は全く進んでいない。
特区日本参加者の住宅や医療機関の建設を最優先にしているため
(部分的に産業育成もすべき、と言うルルーシュと意見の対立もあったが)
企業向けのインフラ整備などは全て後回しになっているからだ。
一応、誘致活動はしているが実際に雇用先として機能するまではまだ時間がかかるだろう。

④について。
エリア11は治安さえ安定すれば
遠からず総督をユーフェミアに代えることが既定路線となっている。
そうなった時を考えると特区日本は経済から農業から
全て網羅した独立型の都市である必要はなく、何かに特化した存在であるほうが望ましい。

となれば日本復興の先駆けとなる特区日本が目指すべきは学術都市となること。
日本が戦前、ブリタニア・中華連邦・EUの3極に属さない独立国としては
破格の経済力を持っていた理由はサクラダイトだけではない。
ルルーシュもどこかの組織で一般教育の重要性を骨身に沁みて理解したらしく
ブリタニア式のエリート育成のみを目的にした教育システムには否定的なようだった。


ホワイトボードも使わずに淡々と説明を続けるルルーシュを見て
ユーフェミアは改めてこの男の優秀さを感じていた。

天才という人種は得てして余人から理解されないというが
類まれな扇動者でもあった彼には当てはまらないらしい。

(相手がナナリーだから、という気もするけど・・・)

しかし順序良く説明していくと、なぜかナナリーの表情が曇っていく。

「どうしたんだい、ナナリー?」

ルルーシュの隣に座っていたスザクがたずねた。

「いえ、お兄様達のされているお仕事が思った以上にすごくて・・・」
「何かお手伝いしたいと思っていたんですけど
 私の出る幕なんてないのかも知れません・・・」

しゅん、と下を向きながら答えるナナリー。

「え、いや、大丈夫だよ!」
「僕だって半分くらいしか解ってないけどなんとか出来ているし」

「お前、それは・・・」

スザクのフォロー(?)に呆れて突っ込んだルルーシュ。
励ますのはいいが、ナナリーを特区に引きずり込むのはあくまで反対なのだろう。

しばしの沈黙。
やがて下を向くナナリーに堪りかねたように
ルルーシュはため息をひとつついたあと、

「その気持ちだけで十分・・・と言いたいところなんだが」
「そうだな、もう少し話が具体的になってから言うつもりだったんだけど
 実はナナリーに頼みたい仕事があるんだ」

(えっ?)

そっけなく口を開いた。



[31156] STAGE 7 ウ イ ン ナ ー の 騎 士
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:62c6ca91
Date: 2012/06/11 16:43

「その、朝ご飯、の用意が、できたのですが・・・」

朝の薄暗い部屋。
扇の目の前、鼻先数センチメートルにいる女性は
つっかえながらそれだけを言った。

待て。
なんだこの状況は。

自分は居間のソファーで寝ていて
誰かから「オウギサン」「オウギサン」と意味不明な言葉を掛けられた。
眼を開けると、自分を覗き込む人影があり
レジスタンス時代の名残なのか何なのか、
反射的に上体を起こすとともに、なぜか相手の両肩を掴んでしまった。

「あの・・・」

目の前でどうしていいか分からない、という困惑顔をしているのは千草だ。
記憶を無くしたブリタニア人の女性。
特区に参加することを選び、祖国を棄てた女性。
そして俺にとって ―――

「あ、そうか、いや、す、すすまない!」

寝起きの頭を強引に回転させ、
扇は後ずさりながら謝罪の言葉を吐き出した。
普段なら自分の方が早く起きるのだが
今日は同じ部屋で朝食を作られても高いびきのままだったらしい。

(なんてことだ・・・)

「いえ、昨日も遅くまでお仕事してたみたいですから・・・」
「えっと、ご飯とお味噌汁よそいますね」

そう言うと千草は仄かに頬を赤くしながら立ち上がった。
料理の邪魔になるからか長い髪を後ろで束ね、
エプロン姿も様になっている。
彼女の後ろのテーブルには卵焼きや漬物が並べられており
先程から味噌汁のいい匂いがしていたのにも漸く気が付いた。



特区の食糧事情は芳しいものではない。

なにせ生産能力を持たない者が20万人、
ほとんど何もない土地に押しかけて、特区として半ば独立したのだから。
最低限の衣食住に関しては無償とするようにされていたが
3食レーションの者がいたりと中々向上しないのが現状だ。

しかし嬉しい誤算もある。
例えば地方の農家から米や野菜が無視できない頻度で送られてくること。
「特区日本頑張って」という個人からの援助物資らしいのだが
農家の方々はほぼ間違いなく「イレブン」だろう。
苦しい暮らしの中で我々「日本人」を気遣ってくれたことに
幹部一同で泣きそうになった。

今日の食卓に並んでいるのはそうしたものの一部だ。
本当は他の日本人の方々に回そうと言ったのだが
居合わせていた藤堂さんに「我々が痩せてこけていたら誰も特区についてこない」
と言われ、押し付けられてしまった。

「じゃあ食べましょうか」

いつの間にか配膳を終えてた千草が言った。
扇も慌ててソファを降りて机の前に座る。

思えば奇妙な状況だ。
ブリタニア人(しかもどう見てもアフリカ系の血の混ざった)と
日本人である自分が食卓を囲み、向き合って手を合わせている。

「「 いただきます 」」

『今は矛を納める時』

特区日本の式典後、
そう言ったゼロの姿を扇は思い出していた ―――





ゼロが特区日本の式典に単騎突入してからしばらくして
黒の騎士団に撤退命令が出た。
富士山周辺に待機していた団員達は
無為に終わった作戦に不満を唱えつつ
予め用意された幾つかのルートに分かれて撤退を開始した。

その車内、ラジオなどから特区日本の中継を聞いた団員は
ゼロ独断での黒の騎士団解散宣言にあるものは怒り、混乱した。
玉城などは「このまま引き返して式典をブチ壊そう」などと叫び
一時的に指揮系統が麻痺しかけたが
「こんな状態では作戦行動は無理」という藤堂の言もあり
とにかく一旦は撤退することになった。

トウキョウのアジトで待つこと数十分。
ゼロが戻ったと伝えられ、扇ら幹部一同は会議室に集まった。

「キュウシュウ戦役の際に言った通りだ・・・」
「日本に独立国を造る、と」
「もっともトウキョウから富士へ、場所は変わってしまったがな」

射殺すような視線の中、部屋に入ってきたゼロは
さも当然のように言い放った。

「フザケンな!ユーフェミアに降伏するっていうのかよ!」

ゼロの言葉に対して真っ先に声を上げたのは玉城。
しかしゼロは事もなげに応える。

「黒の騎士団は『弱者の味方』だ」
「ならばユーフェミアと敵対する意味はない」

「言葉遊びだろう、そんなものは!」

今度は千葉凪沙が叫んだ。
そうだ、と扇も思う。
黒の騎士団は武力集団だ。
基本的にゼロを信用している自分とてこれには納得できない。

「我々は戦って独立を勝ち取ると誓ったはずだっ!」
「それにゼロ、お前もブリタニアとの全面戦争を・・・」

しかし、千葉が言葉を続けるのを半ば遮る形でゼロが疑問を口にした。

「戦って戦って・・・それでどうする?」

「待て、ゼロ!それはっ」

声を上げたのは藤堂鏡志朗。
彼や四聖剣の戦いは日本の独立に向けての7年間だけではない。
まだこのエリア11が日本と呼ばれていた頃から
彼らは日本の軍人として生きてきたのだ。

しかしゼロは藤堂の言葉も遮って言葉を続けた。

「では聞こう!」
「ブリタニアを日本から追い出したとして・・・その後はどうする?」
「日本がサクラダイトを持つ極東の島国である限り、この国の戦略的重要性は変わらない」
「ブリタニアは再びこの国と全面戦争をするだろう・・・」
「歴史の針を戻す愚を、私は犯さない」

「先日の沢崎の一件、まさか中華連邦が好意のみで軍を出したとでも?」
「2つの大国を相手に戦って、戦って・・・屍が独立を謳うとでもいうのか!」

一同はぐ、と言葉に詰まる。

(しかし、そもそも独立戦争を起こすと言ったのは・・・)

皆が思ったであろう文句だが、流石に口には出せない。
扇は行動理念までもゼロに預けてしまっていたことを改めて痛感した。

「そもそも日本の独立とは何だ?」
「地政学的に見て、この国がブリタニアと中華連邦の影響から逃れられるとは思えない」
「それでも日本人から選ばれた人間が首相になれば
 傀儡政権であろうとも、それが日本の独立なのか」

ここで両手を広げて部屋にいる幹部たち全員に話していたゼロが、藤堂の方を向いた。

「藤堂に聞こう!」
「日本人とは、民族とは何だ?」
「言語か?土地か?血の繋がりか?」

突然の問いかけに
少し考え、しかし確信と共に藤堂が答える。

「違う!それは・・・心だ!」

それを聞いたゼロは小さく頷いた。

「私もそう思う」
「自覚、規範、矜持・・・」
「つまり文化の根底たる心さえあれば支配者が違えどもそれは日本人なのだ」
「私は特区日本であれば、それは十分に為せると判断した」

「もう一度、藤堂に聞く」
「お前は争い、殺しあうために軍人になったのか」

「諸君にも聞こう」
「今、日本人に必要なのは血か?」
「それとも融和か」

両手を広げ、皆に問いかけるゼロ。
急にすぎる事態の変化に一同はぐ、と押し黙った。

(ゼロの発言は的を得てはいる、が・・・)

ここまでじ、と黙っていた扇はようやく口を開いた。

「ゼロ、1つだけ聞かせてくれ」
「君はブリタニアを壊す、と言っていた」
「我々は利害が一致していたからこそここまで来れたんだと思う」

戦わずに済むならばそれに越したことはない。
だがその理想論は結局はこの男、ゼロを信用できるのかがネックになる。

そもそも扇はゼロを徹底したリアリストだと思っていた。
突然リベラルへと宗旨替えされても戸惑うだけだ。

しかも彼の言う融和はどこの馬の骨とも知れないユーフェミアへの信頼が前提になっている。

その劇的、というよりも不自然な変化をもたらしうる事象とは。
扇は言葉を続けた。

「仮面を、外してくれないか?」



ざわ、と周囲に緊張が走る。
扇の発言の意図は『あの式典会場の舞台裏で本物のゼロが殺され
ここにいるのは偽者ではないか』という事だ。

もちろん扇はゼロの正体を知らないので
誰が出てきたとしても「こいつはゼロじゃない」と断言などできはしない。
それに先程の演説を聞いても
あれ程の扇動者がそういるとも思えない。
このアジトの場所を知っていた事実も含めてゼロはゼロだと思うのだが。

しかしその裏に「やはり顔を見せれない者は信じられない」という思いがある。
レジスタンスという組織形態を考えれば
むしろトップの顔を知らないことは利点となりうるが
そこから脱却しようというのならば。

(ゼロ、信じさせてくれ・・・)

部屋に集まった皆の視線が今まで以上にゼロに集まる。

「やはり、そこがネックになる、か」

ため息をつくように言うゼロ。

「いいだろう」
「だが、見せるのは顔ではない」
「要は信じるに足ればいいのだろう?」

ゼロは懐から携帯端末を取り出すした。
ひとつふたつ操作すると、何処からか枯れた声が響いた。

『さて、ようやく儂の出番かの・・・』

扇が何だ、と思う間もなく
ゼロの背後、会議室の正面に置かれた大型モニターに1人の老人が映し出された。

「き、桐原公!?」

「桐原泰三・・・サクラダイト採掘業務を一点に担う桐原産業の創設者にして、柩木政権の影の立役者。
 だが敗戦後は身を翻し植民地支配の積極的協力者となる。通称、売国奴の桐原」
「しかし、その実態は全国のレジスタンスを束ねるキョウト6家の重鎮」
「もっとも今は」
「テロリスト幇助が露見し免罪と引き換えに
 サクラダイト関連の利権を失った歯牙なき飼い犬だが」

集まった幹部一同に驚きの色が走る。
機密保持の観点からキョウトに関する情報をなるべく隠していたので
多くの団員は桐原泰三がレジスタンスに協力していたことを知らない筈だ。
(どうも何人かには玉城が喋ってしまっていた風があるのだが)
以前の会見で桐原と対面していた扇にしても
彼のレジスタンス支援がブリタニアに露見していたのは初耳だった。

『フ・・・大層な紹介よ・・・』
『さて、儂はそこなゼロの仮面の内を知っている』
『そして今日の式典、そのゼロの変心の理由も先程説明を受けた』
『端的に申そう』
『そやつの今の目的と我等の目的、利害は一致しておるよ』

『黒の騎士団には治安維持と各所の調整をしてもらおうと思っておる』
『まぁ言うなれば官僚かな』

『儂は確かに牙を抜かれた』
『しかしブリタニアの走狗となるつもりはないよ』
『日本の、日本人のための猟犬となるつもりじゃ』
『さて、貴公らはどうする?』

一日で事態が急変しすぎて多くの者はついていけていない。

「無論」

黙り込んでいる幹部一同に向けてゼロが言葉を継ぎ足す。
 . . . . . . . . .
「初めて会ったばかりのユーフェミアを、私とて完全に信頼している訳ではない」
「ナイトメアの内、無頼の一部は作業用重機として武装解除の上で桐原重工に引き渡すが
 月下や紅蓮二式など主力に関しては秘匿する方針だ」
「特区日本を信じられない者はこちらの潜伏班に回ってもらうことになるが・・・」

「いいじゃねえか!」

ゼロの言葉を遮って明るい声を上げたのは玉城。

「考えようによっちゃ俺達が暴れたからこそ特区日本ができたんだ!」
「どこかで日の光の下に出るなら、それが今だってことだろ」

玉城の発言は図らずも(?)皆の不安を指摘していた。
藤堂や四聖剣とは異なり、黒の騎士団のメンバーは
その多くがブリタニアに顔が割れていない。
しかし黒の騎士団として特区日本に参加することになれば
名を明かさねばならなくなる。

ただし、実際問題として特区構想を蹴るのはほとんど不可能だ。
ゼロだけでなく支援者たるキョウトまで特区支持に回っている。
仮にカリスマ指導者の首を挿げ替えた所で
肥大化した組織を養うカネと、『キョウトの支持』という錦の御旗を失ってしまうのだ。
黒の騎士団がキレイに分裂すればいい方で、
内ゲバをしている間にブリタニアに制圧され
日本独立への灯が消えることもありうる。

(そうやって壊滅したレジスタンスも少なくないんだ・・・)

隣の藤堂を窺うと図らずも目が合った。
彼も同じような考えらしく、黙って頷く。

(乗るしかない、か)

扇と藤堂の賛意は皆に広がり、黒の騎士団は特区参加でまとまった。

「日本万歳!」

皆を鼓舞しようとする藤堂となぜか玉城の唱和に、他の幹部も声を揃えた。

一同の歓声を前にして。
それを眺めるゼロの表情は、知れない。






ゼロが黒の騎士団の幹部達に用意した椅子、
特区日本での職務は「特務局」という機関だった。

主な仕事は特区に暮らす日本人とゼロの中間管理。
各種工事の進捗から、医療品や食糧の配分まで
大小様々な報告はこの機関に集められるようになっている。
その情報に彼ら自身が調査した内容を添えてゼロに送り、
ゼロが指示を出せばその内容を各機関に伝達する。

扇自身はは特務局の局長となることになった。
ゼロという半ば実体を持たないリーダーのための耳目、
そして手足となることが特務局には求められていた。

この仕事に必要なのは『足』と『経験』だ。
特区を駆けずり回って各機関との調整をこなさなければならない上に
細かい部分はどうしても各自の判断で動かなければならなくなる。
特務機関の母体となった黒の騎士団は総じて若く
『足』はあったものの『経験』という部分では全く不足していた。

そこを補ってくれたのが顧問として派遣されてきた小島源三郎氏だ。

NGO団体の代表としてゲットーで活動していた小島氏は当初、
反ゼロの姿勢を隠そうともしなかった。
しかし特区日本の、彼曰く「現実主義的な姿勢」に共感したと言い
今ではキチンとした協力関係が築けている。



「「 ごちそうさまでした 」」

食事を終えた扇は食器を片づけてくれる千草を尻目に
特務局への出勤支度を始めた。

扇と千草の住むアパートは特区日本の中心部からやや離れた場所にある。
そもそも富士山周辺にはサクラダイトに関連する産業の工場や
そこで働く従業員のための施設がある程度揃っていた。
その重要施設が特区日本の範囲内となることはなかったが
扇達の住むアパートなど周辺施設のいくつかは特区の持ち物になることになった。

扇がこのアパートを選んだ理由は
サクラダイト産業に関連して、名誉ブリタニア人が比較的多い地域だからだ。
特区日本の参加者はブリタニアに迫害されてきた者も多いため
元イレブンによる名誉やブリタニア人への逆差別も問題になっている。

(どうにかしなければいけないんだが)

チラと台所の方を窺えば
流しの前で何かしている千草の後ろ姿が見える。

扇自身には解決の難しい問題だった。
しかし光明も僅かだが、ある。



ゼロによると、いずれユーフェミアは特区を去ることになるらしい。

『エリア11の治安が安定すれば、総督コーネリアがその座を妹のユーフェミアに譲る』

ブリタニア人が日本復興のロードマップを
勝手に考えることについて、日本人としては腹立たしくもあるが。
ともあれ、これがブリタニアの共通した青写真だとゼロは言っていた。

このあたりのブリタニアの政情に関しては正直なところよく分からない。
しかしブリタニアの事情に多少でも詳しい者、
例えばディートハルトあたりにすれば言わずもがな、ということだそうだ。

元黒の騎士団のメンバーからすれば
ユーフェミアが去り、いよいよゼロが特区の全権を・・・と期待したいところだ。
しかしディートハルトは


 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
「元皇子ルルーシュが特区に残るのではないか」



とも言っていた。
何でもエリア11総督コーネリアがルルーシュの母親に憧れていたとかで
コーネリア・ユーフェミア姉妹と、ルルーシュ・ナナリー兄妹の間には
「奪え、競え」のブリタニアには珍しく、浅からぬ縁があったらしい。

『ブリタニアの元皇子』と『元テロリストの親玉』。
ルルーシュが残るとすれば、肩書では勝負にもならないだろう。

(彼ら兄妹を敵視するのは間違いかもしれないが・・・)

扇は何度か行われた公開会議や
ディートハルトの流す裏動画の中でルルーシュの言動を目にしている。
カレンと同い年ということだか、とてつもなく優秀、というのが扇の印象。
特区の発展を考えつつブリタニアにも配慮する、現実的な器用さも持っていた。

ルルーシュ・ナナリー兄妹への特区住民の評価は概ね良好だ。
ブリタニアに棄てられた皇子を、『敵の敵は味方』と判断しているらしい。
幹部の中にもユーフェミアを含め『親日派のブリタニア人』を認める者が出てきている。

このあたりは扇にとって大きな順風だ。
何しろ彼の同居人、千草はブリタニア人なのだから。
扇自身は『日本』に対して裏切るようなことはしていないつもりだ。
しかし反ブリタニアの気勢が強まれば強まるほど、
千草と共に暮らす問題が大きくなってくる。

(だからこそ日々の働きが重要になってくる、か)

特区日本が成功すれば、エリア11が安定する。
親日派ブリタニア人の政権になれば
千草との暮らしも『安定したもの』になるかもしれない。



支度を終えて玄関に行く。
千草が用意した弁当を差し出してくれた。

彼女の出自は知らないが、
今日の朝食といい、自分のためにここまで尽くしてくれる女性だ。

(彼女は幸せにしないといけない、よな)

彼女との将来を不安に思うこともある。
しかし毎朝玄関で新たにする思いを、
あえてブリタニア風に表現するなら。



弁当を授けられ、
その笑顔に忠節を誓う、

騎士の叙任式だった。



[31156] STAGE 8 軍 服 の 乙 女
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:62c6ca91
Date: 2012/06/24 12:42

特区日本式典後のゼロとの会談にて。
四聖剣は主力の自在戦闘装甲騎と共に潜伏班をまとめ
藤堂は警察機構の長として特区に残れ、とゼロは言った。

軍人・千葉凪沙としては異議はなかった。
藤堂と四聖剣、戦力の分散は理想的ではない。
しかし万が一特区で何か起こった時に一網打尽にされてしまっては
日本解放の灯が消えてしまうことになる。
リスクの分散はむしろ現実的、と言えた。

しかし千葉の思考を余所に、朝比奈省悟はゼロに噛み付いた。

「気に入らないね、ゼロ」
「藤堂さんと、我ら四聖剣を分断しようとしているように感じるんだけど?」

「適材適所、と言ってほしいな」

返答するゼロは予想の範囲内、といった様子。

「特区の治安維持をブリタニア人に任せるわけにもいくまい?」
「現在、特区日本で集団的に機能する団体はこの黒の騎士団しかない」
「そしてその中でも特区の日本人が信じるに足る名は『奇跡の藤堂』くらいだろう」
「先に言ったように扇には特区での情報収集を任せるつもりだ」
「となれば他に幹部で潜伏班を任せられそうなのは・・・」

ゼロの顔が室内の一角に向けられる。
その行く先を目で追うと、
間の抜けた顔を、自分で指差した男がいた。

「え、俺?」

やや明るい色をした短髪の男、名はたしか玉城。

(いや、それは・・・!)

黒の騎士団に入って日の浅い千葉だったが
それでも幹部連中の人格はおおよそ掴んでいる。

「いやー、でもあれだろ?」
「特区日本では色々と細かい事もしなきゃいけないわけだし」
「そーなると長年経理を預かってきた俺の経験が・・・」

何やらゴチャゴチャと言っているが
万が一の時、この男に日本解放の灯を託せるかと言えば、

(断じて否、だ)

千葉が抗議の声を上げようとすると

「あー、分かった、ゼロ」
「潜伏班は四聖剣が引き受けよう」

朝比奈は両手を上げてあっさりとゼロの提案を呑んだ。
ゼロも満足そうに頷く。
朝比奈としても、そして恐らくゼロとしても
玉城に潜伏班を任せられるわけがない。
ゼロからすれば予定通り、という問答だったのだろう。

(この男のこういう所が信用ならないんだ)

そう思いながら千葉が
この茶番の仕掛け役になった朝比奈を見る。
ゼロにやり込まれた格好だが
朝比奈にしては物分り、というか諦めが良すぎる。
丸メガネの顔には皮肉屋特有の笑み。

「でも四聖剣が雁首揃えて潜伏しなくてもいいんじゃないかな?」





発言の意図を察した千葉の顔を
横目で窺いながら朝比奈は続けた。

「もちろん自在戦闘装甲騎を抱えての潜伏なら補給とかの支援は必要だけど」
「それさえあれば、潜伏は慣れたことだよ」
「自分で言うのは何だけど指揮もそれなりにできるしね」
「逆に藤堂さんは不慣れな仕事、ならば補佐役が必要だと思います」

話を聞きながら必死に冷静さを装う千葉だが、顔が赤くなっていない自信はない。
何やら理屈を並べる朝比奈だが、
これは、つまり、そういうことだろう。

問われた藤堂は思案顔になっている。
『特区での警察活動』と
『潜伏及び特区崩壊時に日本解放の意志を遺すこと』を天秤にかけているのか。
そういう真面目な所が憧れであり、鈍感な所は憎くもある。

代わるようにゼロが口を開いた。

「フム・・・」
「潜伏班を特区崩壊後の保険と見ることを止めはしない」
「もっとも私は特区日本を成功させてしまうだろうがな」
「私からすれば潜伏に足る能力さえ残ってくれれば十分」
「・・・となれば藤堂の補佐は経験豊富な仙波あたりか?」

もっともな理由でお鉢を回された仙波崚河。
「分かっているのか」という朝比奈の視線に軽く手を上げて応じながら仙波が答える。

「いや、私は民間人との折衝は不得手」
「そういうことは若い人間の方がいいんじゃないか」

仙波の言葉に従ってゼロや皆の視線が自分に集まる。
一人話から置いて行かれた卜部巧雪が
頭の上に大きな『?』を浮かべながら
「俺が残ってもいいが」という顔をしているのは無視。

「わ、私が残ろう」

努めて。
努めて冷静に。
正面のゼロだけを見据えて千葉はそう言った。

「いいだろう」
「では特区日本に参加しない者の中から潜伏班のリストアップと
 特区日本で警察業務をするに足る者のリストアップを・・・」

ゼロは何事もなかったかのように受け入れ話を進める。
そして朝比奈、こちらを振り返り渾身のドヤ顔。




彼の気遣いに心から、心では感謝する。
しかしそれを口にするつもりは、微塵もない。



[31156] STAGE 9 奇 跡 の 末
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:213d2a54
Date: 2012/10/08 13:14

行政特区日本、南地区。
疎らな街灯と月明かりを頼りに
藤堂鏡志朗は部下と共に未だ舗装されていない裏道を走っていた。

特区は南北で開発の速度が異なっている。
北部は元々あったサクラダイト産業の関連施設を一部とはいえ組み込んでいた。
部分的に道路が舗装されていたこともあり開発のペースは速い。

それに比べると南部の開発はやや緩慢だ。
今藤堂が走る道も左右にはバラックが立ち並んでおり
ゲットーさながらの様相となっている。

この『南北問題』とでも言うべき格差の原因は首脳部にある、と藤堂は見ている。
特区の二頭、ユーフェミアとゼロは共に弱者救済の姿勢を示している。
しかしユーフェミアは経済力のある名誉ブリタニア人の呼び込みにより執心なようで
基本的に北部を彼らの居住地として考えているらしい。
そのため特区の開発は北部優先であり、南部開発は後回しになりがち。
貧困層からの支持を集めようとするゼロとはこの部分でやや対立している。

君主制の、トップダウンの利点か
戦前の日本のように議会で「どちらの開発を優先するか」
と時間を空費しないだけマシではある。
北部と南部で速度の違いこそあれ、開発は共に進められているのだから。
現にこの道も頼りないながら、街灯に照らされている。

しかし名誉ブリタニア人の呼び込みは別の問題も生む。
それは『心』の問題。

今宵、藤堂が砂利を蹴り飛ばしながら闇夜の裏道を走る理由。





(このあたりだ)

連絡を受けた地区に着いた藤堂は、立ち止まった。
呼吸の乱れに若干ながら加齢を感じるが今は無視。
耳を澄ませると複数の怒鳴り声と鈍い打撃音が遠く聞こえてきた。

「てめぇはブリキだろうがっ! 名誉ブリタニア人様なんだろう?」
「誇りを売った名誉が! 日本人を! 名乗るんじゃねぇ!」

音を頼りに声の方へと向かう。
長年の潜伏生活のお蔭か、耳や夜目は効くようになっていた。

街灯と街灯の狭間、廃材でできた家の前の薄暗い空間に
5人、いや6人の日本人の若者が円陣を組んでいる。
彼らの中心には『同じく』日本人らしい1人の青年が地面に突っ伏していた。

『元名誉ブリタニア人の青年が絡まれている』

夜警の見廻りをしていた藤堂の受けた通報はそれだけだったが、
どうやらここに来るまでの間に事態は悪い方へ進展があったらしい。
どう考えても倒れているのが絡まれたという元名誉ブリタニア人だろう。

取り囲む若者は凶器の類も持っておらず、
今のところは命に関わる様子はなさそう、か。

「よせ!それ以上は!」

藤堂が声を上げながら駆け寄ると、若者達のリーダー格らしい男が怒鳴り返してきた。

「何だテメエは!」

歳は20代半ば。やや小太り。身長は180cm程。
はっきりとは分からないが酒の色は見えない。

(それが良いことか、悪いことか・・・?)

話し合いができる状態なのは良いことだが
計画的な襲撃だとすれば最悪だ。
藤堂は無造作に間合いを詰める。

「自警隊の藤堂だ!」
「これ以上の暴力は認めん」

こちらは藤堂の他にようやく追い付いてきた部下1名のみ。
しかし相手が6人いるとはいえ
素手の民間人相手に後れを取るとは思わない。

「あの藤堂?」
「奇跡の藤堂か」

若者達の表情には、はっきりと動揺が広がった。

藤堂は未だに旧日本軍の軍服を着ている。
これにはブリタニア人はもちろんのこと、
特別委員の小島源三郎などもいい顔をしていない。
藤堂としてもあからさまに文民でない者による民間人の統制は
好ましくないとは思っているが、
代わりの服かないのだから仕方がない。
早く制服を作ってくれとも思うものの
世間体に予算を振る余裕がないことも理解している。

(だが、ソレが役に立つこともある、か)
                  . .
性悪な言い方だが自称愛国者にこの服は効く。
『奇跡の藤堂』が1歩踏み出せば、若者たちは1歩下がった。

倒れていた青年の足元に膝をつき、怪我の具合を見る。
青年は藤堂を見ると一瞬驚いた顔を見せた。
身体を起こすと、顔は腫れ上がり腹部を苦しげに押さえているものの、おそらく軽傷。
無防備に背中をさらした藤堂だったが、その隙に襲われる事もなかった。

軽く手当をしていると同じく連絡をうけたのであろう千葉と数名の部下が現れた。
彼らに手当を任せて藤堂は立ち上がり、周囲の若者に立ち去るように言った。
彼らが今後もこういうことをしないとは思えないが
実際問題として特区の貧弱な収監施設に彼らのような者まで入れる余裕は全くない。

「ゼロも言ったはずだ、武器を持たない者を襲うなと」
「そもそも日本人が日本人を憎んでどうするというのだ」
「特区に参加する以上は誰であれ・・・」

効果の期待できない、しかも苦手な説教。
だがやらねばならない。
特区をかつての自分たちの歩んできた血と硝煙の道にしないために。

しかし見てきたモノが違えば信じるモノも違う。
若者の1人が食ってかかってきた。

「うるせぇ!奇跡の藤堂が何だ」
「てめえはブリキと日本人、どっちの味方なんだ!」

ズシリ、と心にのしかかる言葉だった。
口を開いた若者を睨み付け腰を浮かせる千葉を手で制し、即座に言い返す。

「弱者の味方だ」
「お前達も咎なき日本人を傷付けるのか」
「それではブリタニアと同じではないか」

このあたりはいつかのゼロの言葉の引用、なのだろう。
口下手な自分だが敵は倒せばいいという軍人の頃とは違う。
苦手でも、詭弁でも、奇跡の名を持つ者として言葉を用いねばならない。

「騙されるな、こいつはゼロとは違う!」
「こいつはブリキの、強者の犬だ!」
「何が奇跡の藤堂だ!売国奴の桐原と同じじゃないかっ!」

叫ぶと同時にいつの間にか若者の右手に握られていた小石が藤堂に向かって投げられる。
当たる、と思ったそれを藤堂は避けなかった。
. . . . . . . . .
いや、避けられなかった。

(俺がブリタニアの犬、か)

額に軽い衝撃。
同時に皮膚が裂ける微かな傷み。
つ、と血が滴る感触。

「貴様ァ!」

「止せッ!」

激昂する千葉と殺気立つ周囲の部下を止める。
若者達に目線で「去れ」と示すと
千葉らの剣幕に圧されてか彼らは黙って後ずさりし、程なく藤堂の視界から消えた。


昏い夜空の下、その後の指示を出すのも忘れて。
藤堂は立ち尽くしていた。





「ひどい顔だ」

翌日の昼頃。
自警団本部の仮眠室から出た藤堂は
洗面所の鏡を前にそう言った。

結局、昨夜はそのまま夜警を続けた。

(部下にあんな顔をされては、な)

あのあと軽く切れた額の治療のため藤堂は南部の屯所に戻った。
そこで簡単な手当てをしてくれた千葉の心配顔を見るうちに
「自分が今どんな貌をしているのか」、その時になってようやく気が付いた。

これまで守ろうとしてきた日本人に石を投げられただけで
自分は憔悴した顔を晒してしまったのだろうか。
部下に心配されているようでは示しがつかない。
胸にある複雑な思いを義務感で塗り潰して、藤堂は再び夜警に出向いた。

夜が明けるころに本部に戻り、仮眠室で倒れるように眠った。
頭の整理はできていなかったが
軍人としての習い性か体を休ませることはできた。

(しかし心は休まってない、とでも?)

心の中で自嘲する。
思えばブリタニアとの開戦から日本解放戦線に身を投じてからも
自分には明確な「倒すべき敵」がいた。
藤堂は軍人としてその目標を倒すための手段を考え、それを実行すればよかった。

だが特区日本に倒すべき敵はいない。
特区では住民の間で元イレブンが元名誉ブリタニア人を迫害する、
逆差別の問題が深刻化している。
治安維持を命じられた藤堂とすれば
暴力こそが憎むべき敵、ということになるだろうか。

実際に昨夜のような襲撃事件は見過ごせる数ではなくなってきている。
今のところは組織だったモノではなく
怒りを抱えた徒党が偶発的に手近な元名誉を襲っているだけ。
しかしそれだけに「根拠地を叩いて根絶」することもできず、
大規模化するリスクを常に抱えているのが現状だ。

(今できるのは騒ぎが小さいうちに収めることだけだ)

今できることを、やる。
顔を洗い、絆創膏を代え、髭も剃った。
こういう時だからこそ周囲に疲労を気取られたくない。
藤堂は足早に会議室に向かった。





「おはよう」

藤堂が会議室に入ると、皆が伺うようにこちらを見た。
どうやら『藤堂襲撃事件』は尾ヒレを付けて
かなりの耳に入ってしまっているらしい。

中でも心配顔な千葉に「問題ない」と目配せする。
すると千葉は顔赤くしてお茶を淹れに行ってしまった。
通じたのかやや不安だが、とりあえず自分の机に向かう。

ふ、と会議室にいる面々を見渡すと、どの顔も疲労の色が濃い。
週休1日は認めているのだが誰も彼も中々休もうとしない。
もっともこう言うと千葉に「藤堂さんこそ休んでください」と返されるのだが。
いや、自分が率先して休まないと皆も休めないということだろうか。
このあたりは如才無い朝比奈を見習うべきかもしれない。

席に着くと千葉が書類とお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」と言うとソソクサと自分の席に戻ってしまう。
・・・どこかで本格的に話し合う必要がありそうだ。





書類の中身は扇からの情報だった。
彼の所属する特務局の主な職務は
表向き「首脳部と日本人の橋渡し」となっているが、
実際には「裏の顔」も持っている。

黒の騎士団は特区日本成立にあたり幾つかに分裂した。
・特区の二頭としてのゼロとその護衛のカレン。
・藤堂が指揮し千葉が補佐する治安維持のための自警隊。
・四聖剣が率いる自在戦闘装甲騎を隠す潜伏班。
・扇が長を務める特務局。

組織的に動いていうのはこれくらいで、
残る大多数の団員はバラバラに特区に加わることになった。
しかし各所に散った元黒の騎士団団員だが
潜伏時代に作った情報網は部分的に温存できている。

つまり扇の裏の顔とは彼らの情報の統括者、というもの。
今手元にある書類は扇がまとめた「名誉狩り」に関する資料だ。

藤堂は千葉の淹れた茶を口にしながら読み進める。
やはり南部の開発の遅れは住民の大きな不満らしく
元団員の中にも元名誉ブリタニア人に対して
暴力を振るうケースが出てきているらしい。
また名誉贔屓のユーフェミアに対する不満から
特区そのものへの疑問も日々大きくなっており、
元黒の騎士団ということで反体制運動の神輿に担がれそうで困っている
という報告もあったそうだ。

(見通しが甘かった、か?)

特区は仮初の自由を与えられてはいるものの
所詮はブリタニアの掌の上でのことだ。
反体制運動が盛んになれば、特区という名の実験はすぐに終わりを迎えるだろう。

しかも嘘か真か、コーネリアは身内への情は人一倍篤いとゼロは言っていた。
実妹のユーフェミアは勿論、異母弟妹のルルーシュやナナリーにも傷一つ付けば
それだけで特区という砂の城は簡単に消え去ると、
自警隊の発足時に最重要護衛対象として釘を刺されたのだ。
そしてもしユーフェミアが日本人に殺されるようなことがあれば、
20万の特区参加者全てが殺されるだろう、とも。

背筋に冷や汗が走る。
まだ今の所は日本人が大規模に暴発するとは思えない。
しかし特区の発展がかれらの不満に追いつき、追いやるかといえば際どい所だ。

さらに特区の死は間違いなく日本中に波及する。
ゼロによればここ数か月はエリア11全体で
反ブリタニア運動による日本人の死者が減少しているらしい。
ブリタニアと手を結ぶことに
未だ全面的な賛成はしていない藤堂としては複雑な部分もある。
特区が暴発すれば各地で日本人が蜂起することだろう。
だが、そうなれば黒の騎士団は勿論、日本解放戦線も壊滅した今
各地で立ち上がった烏合の衆は間違いなくブリタニアに駆逐される。
それでは再びあの戦後の混乱期に戻るだけだ。

(この薄氷の上を歩き切るしかないのか)

「藤堂さん」

特区にミスは許されない。
思考をまとめようとしていると誰かから声が掛かった。
書類から顔を上げると部屋の入口には
声を掛けたであろう自警隊員と何人かのブリタニア人が立っていた。





「情報部のスティーブン・スミスだ」

応接室のくたびれたソファに腰かけた男は
そう言うと見慣れぬ手帳をサ、とかざして見せた。
歳の頃は40代半ば、やせ形の背広姿はブリタニア人にしてはやや小柄だ。
背後に控える4人の軍服は単なる護衛のようだ。

「トウキョウ租界から忙しい中ワザワザきたんだが・・・
 ソファは酷いし、正面の男の服装も気に入らんね」

スミスは不快さを隠さずに言った。
ソファの座り心地に関しては同感だが、
自分の着る日本軍の軍服を貶されるのは心中穏やかではない。

「我々としても軍服で民間人と接するのは問題だと思っている」
「しかし予算がないのでやむを得ずだ」

が、吹けば飛ぶのが特区日本だ。
言葉には細心の注意を払う必要がある。

「ではブリタニア警察の制服を支給してもよいが」

スミスの言葉に隣にいた千葉が気色ばむ。
日本人がその服を着る者にどうされてきたかを分かった上での挑発だろう。
千葉を片手で制しながら藤堂が応える。

「ここはあくまで日本、遠慮させてもらおう」

スミスがフン、と鼻を鳴らし
「ブリタニアだろう」と呟くのを無視し藤堂は本題に入った。

「忙しいのは我々も同じだ」
「要件を聞かせてくれ」

「リフレインだ」

問いかけに対しスミスは来訪の理由を端的に述べた。
藤堂はギクリとして言葉を失う。

「租界からこの特区にも販売ルートがあることを突き止めてね」
「間違いなく、リフレインの売人が特区にいる」

極めて、極めて遺憾なことだが。

ありえる話だ。

そもそも発足時に集まった20万人の移民に対して
所持品の検査などできなかったし
特区日本はあくまでブリタニアの特別自治区なので
エリア11との間に『国境』はない。
外の世界、ゲットーや租界と同様に
ヒト・モノの移動はある程度制限されているものの
リフレインの持ち込みは不可能とは言い難い。

さらに言えばユーフェミアが具体的なカタチを示さずに
特区日本の呼びかけを行ったため
「来たはいいが想像と違う」と言う参加者は少なくない。
物質的にも豊かとは言い難く、リフレインが蔓延る下地はあると言える。

「とは言っても我々が掴んだのは売人1人」
「我々からすればイレブンの薬物問題など知った事ではないのだがね」
「総統閣下のご命令とあらば動かざるをえない」

芝居がかった動作で肩を竦めて見せる。
口数の多さといい目の前の男があまり優秀な工作員には見えなくなってきた。

「それで我々に何を求める?」

藤堂が問うと、

「この男を」

スミスは手にしていた封筒から資料を取り出しながら答えた。

「引き渡してほしいのだ」
「我々が捕えてもいいのだが、騒ぎを大きくするなとのお達しでね」

妥当な判断だろう。
元名誉ですら排斥されかけているというのに
ブリタニア人が日本人を逮捕するなどという事件を目撃すれば
周囲にいる者がどう動くか分かったものではない。
藤堂の側としても愚かな工作員の起こす騒ぎで
ブリタニアに介入の口実を与える訳にはいかないのだ。
しかし、

(走狗)

藤堂の頭にブリタニアの犬という言葉が浮かぶ。
昨夜、元名誉の青年を襲っていた若者の言葉だ。
ブリタニアの工作員にアゴで使われて、日本は再び立ち上がれるのか。

だがこの命が日本人のためにあるとするならば捨てるのは今ではないはずだ。
ゼロはかつて奇跡の二つ名がボロボロになるまで働けと言った。
下らないプライドなどは犬にでも喰わせるべきだ。

「分かった」
「だが男からリフレインに関する証拠品が出ることが条件だ」

藤堂は内心の葛藤を隠して、
努めて、努めて冷静に言った。

証拠を求めたのは最後の抵抗だ。
ブリタニアにもここまで手間をかけて不当逮捕などする理由はないから
恐らくその書類の男は実際にリフレインの売人なのだろう。
しかしブリタニア主導で捜査を進める前例は作りたくなかった。

こちらの苦渋の決断を分かっているのかいないのか。
よかろう、と言うとスミスは簡単に書類を渡してきた。
写しのようだが簡単に捜査資料を見せるあたり
本当に単なる末端の、チンケな売人なのだろう。





手渡された資料にはクリップで顔写真が添えられていた。
そこに写っていたのは昨夜助けた、元名誉ブリタニア人の青年の顔だった。



[31156] STAGE 10 去 り 際 の 友
Name: しまうー◆5ca8d63b ID:2d489b24
Date: 2012/12/15 14:40

空港のロビーは大勢の人で埋め尽くされていた。

ハネダ空港はトウキョウ租界の外、ゲットーに位置する国際空港だ。
旧日本とブリタニアの戦争でナリタ空港が再建不能になって以来、
本国とエリア11の間の移動はこの空港が大半を占めるようになった。

戦前は中華連邦やEUとの関係から
キュウシュウとホッカイドウにもそれなりの国際空港があったらしい。
しかしそれらの国が敵性国家となった今、
ここがエリア11ほぼ唯一の国際空港となったそうだ。

利用客のほとんどはブリタニア人で
エリア間の移動に制限のあるナンバーズの姿は少ない。
しかし名誉となった者が商用でブリタニア本国と行き来したりするらしく、
そういう顔立ちの人が近くを通る度に
ニーナ・アインシュタインは身体を小させねばならなかった。

「大丈夫?」

ベンチの隣に座るミレイ・アッシュフォードが声を掛けてくれた。
普段は何だかんだ言って貴族の令嬢然とした服装が多い彼女だが
今、隣にいる彼女は珍しくパンツルックだ。
今日はあくまでも私人ということなのだろうか。

「うん、へいき・・・」

あまり心配を掛けたくなかったので
ニーナは出来るだけ大きな声で返事をした。
実際、『スザクと同じ』名誉ブリタニア人だと思えば
それほど怖くもないと思える。

「そう」

ミレイは少し安心したように微笑みながら返事をして、
そっとニーナの方に体を寄せて優しく手を握ってくれた。





シャーリー・フェネットがブリタニアに帰る。
ニーナがその話を聞いたのは
あの、ルルーシュの『皇子様宣言』(女子生徒の間での通称)
からしばらくしてのことだった。

考えてみればシャーリーは父親の研究の都合で
エリア11に来たと言っていた。
ゼロによるテロに巻き込まれてその父親が亡くなったのだから
もうエリア11にいる理由がないのだろう。
今日はその見送りのために空港へやってきたのだ。

「会長ぉ~、もうじき手続きも終わるそうです」

人ごみを掻き分けながらリヴァル・カルデモンドが近づいてきた。

「あれ、リヴァル、荷物は?」

「大きい荷物はもう預けちゃったから」
「シャーリーが『手荷物は私だけで十分』だって」

ニーナの問いに、手を閉じたり開いたりしながら応えるリヴァル。
今日はみんなで寮からシャーリーに付き添った。
途中で合流したシャーリーのお母さんは少し痩せたみたいで、
リヴァルは終始荷物持ちだった。

「だいたい俺って何時から肉体派になったわけ?」
「『あの馬鹿』はともかく、スザクがいればこんなことにはならなかったのに・・・」

「そーゆーこと言わないっ」

愚痴るリヴァルにミレイが軽くチョップを入れる。

『あの馬鹿』とは、当然ルルーシュ・ランペルージのことだ。

正確にはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである彼は
今日の見送りに参加していない。

先日、生徒会室でルルーシュに見送りについて電話をしたリヴァルは
ルルーシュに「多忙につき行けない」という返事をされ
通話の切れた携帯に向かって悪口雑言をまき散らしていた。

生徒会に入って日が浅いスザクや、
正式参加じゃないナナリーはいい。
また先日特区に参加するからと言って学園を去ったカレンも来ることはないだろう。
しかし、副会長たるルルーシュは来なきゃダメ、という事だろうか。

結局集まったのはミレイ、リヴァル、ニーナの3人だけ。

「特区日本が忙しいんだから仕方ないでしょ」
「今生の別れという訳でもなし、また会えるわよ」

なおもルルーシュへの愚痴を言うリヴァルにミレイがそう言った。
ニーナは不意に出てきた『特区日本』という言葉にビクッと反応してしまう。

手を繋いでいたミレイは周りを見渡して、
(イレブンもいないのに?)と不思議そうにこっちを見る。
ニーナは顔を赤くしながら「ごめん、何でもないのっ」と早口で言った。
すこし首を傾げた後、ミレイは再びリヴァルとの言い合いに戻っていった。



特区日本という言葉に驚いてしまったのは、
ニーナもそこへ行くことになるかも知れないからだ。





『特区日本に来ないか?』

ロイド伯爵から電話でそう誘われた時。
最初、ニーナ・アインシュタインはお断りしようと思った。

電話を掛けたのはニーナの方からだった。
以前彼から貰ったウラン鉱について、お礼を言いたかったから。
本当ならもっと早くにしたかったのだが、
ユーフェミアの特区構想発表やルルーシュの皇籍返還宣言など
ニーナは心身共に振り回される事が多すぎた。

直接会ってお礼を言いたいとメールしたところ、
ロイドに「なんで?」と言われてしまった。
最初は「メールで十分、そんな必要ないよ」という意味の社交辞令かと思ったが
後でスザクに話すと「あの人は礼儀作法とかホントに知らないから」と言われた。
仕方ないのでスザクから連絡先を聞き出して
せめて電話でお礼を言うことにしたのだ。

電話に出たロイドは誰かと一緒にいるようだったが、
ニーナが掛け直すかと訊くと、気軽に「大丈夫だよぉ」と応えた。

「にしてもワザワザ電話なんかしなくたっていいのに」
「キミも意外と律儀なんだね♪」

・・・。
まぁここも私が気を使わないように社交辞令で言っている、ということにしておこう。

電話越しにお礼を言った後、
ウランの濃縮や核分裂反応に関する質問を2、3したと思う。
彼にとって核物理など専門外のはずだが色々と参考になる話が聞けた。
そしてニーナが最後にもう一度お礼を言って電話を切ろうとした時、
まるで昼食を誘うような気軽さでロイドが言ったのである。

「キミも特区に来ないィ?」、と。





ロイドは近々特区日本でエネルギー開発に関する研究機関が立ち上げられる、と言った。
特区の科学研究はラクシャータ・チャウラーという女性技術者が責任者となっている。
彼はそのラクシャータと旧交があるとかで、
メンバーの一員としてニーナを推薦したいらしい。

確かに魅力的な提案ではあった。
アッシュフォード学園の設備では大規模な実験などは望むべくもない。
核分裂に関する実験は個人のレベルを超えている事もニーナは理解している。



しかし、そこは特区日本なのだ。
特区日本にはイレブンがいる。



ロイドの説明によると、
核分裂に関する研究はブリタニアにおいて主流ではないので、
ラクシャータのコネで集めた技術者と共同研究することになるそうだ。
エネルギー開発部門の中で独立した形で
核分裂に関する研究チームを作ることになるだろうとも言っていた。

今の自分が一番興味のある、ウランの核分裂やウラン濃縮の分野において
日本人に著名な科学者がいるとは聞かない。
(イレブンは7年前の戦争で研究機関などが壊滅したのだから当然だ)
だから研究チームに日本人が加わることは考えにくいのだが。

特区北部の住民は名誉ブリタニア人が多く、
研究機関もそういう場所に設置されるらしいのだが。

しかし・・・。

できる訳がない。
ミレイの後ろに隠れて生きてきた自分に。
そんな場所で生活するなんて不可能だ。



渋っていると急に電話の向こうが騒がしくなってきた。
誰かがロイドに向かって話しかけてきているようで
女性の声で「誰と話している」「不敬」といった言葉が断片的に聞こえてくる。

「ニーナ君だよ」
「ホラ、スザク君やボクの元フィアンセと同じ生徒会の・・・」

ロイドがその女性に大声で応えると、
今度は別の女性の声が小さく聞こえてきた。

(あれ・)
(今の声は・・・?)

最初の女性よりも遠くにいるらしいその声は
さらによく聞きとれないが、
なにか記憶に引っかかるような、聞き覚えのある声だった。

同時に、
ロイドが『その人』との会話を中断することが『不敬』であること、
ロイドがスザクの上司であること、
そしてスザクが『あの人』の騎士であることを結び付けていく。

「ハイ、こっちに来ないかって誘ってるところで」
「あら、そーですか」

遠くに向かって大声を出していたロイドが声の調子を戻す。

「もしもしぃ」
「なんか『あの方』が電話代わりたいんだって」

(え、えっ)

「という訳で、こうたーい」

ニーナは顔を真っ赤にしながら
電話越しにも関わらず慌てて姿勢を正す。

(ちょっと待っ・・・)

「ニーナさんですか」
「お久しぶりです。私です。ユーフェミアです」





ユーフェミアと何を話したのかはよく覚えていない。
ニーナが覚えているのは、
ユーフェミアがニーナと会ったから今の自分がある、と言ってくれたこと。
その結果が特区日本だと言っていたこと。



そして、特区日本に来ないかと言われて「はい」と答えてしまったことだ。



・・・仕方がないじゃないか。
電話越しのユーフェミアは、以前にも増して明るく前向きな印象だった。
それが「前にニーナが訪ねてきてくれたから」だと彼女から言ってくれたのだ。
そして熱っぽく特区日本の良さを語った後で
そこに誘っていだたいたのだから。

しかし首肯した理由は正の感情だけではない。

このままでは『ユーフェミアが遠くに行ってしまう』ような気がしたのだ。

彼女は自分の夢に向かって走っているようだった。
ニーナもユーフェミアと話して、
少しだけ『なりたい自分』になれる気がしたのだ。
そして今自分も歩き出さないとユーフェミアが
本当に、遠く手の届かない場所に行ってしまうだろうとも。

正直に言えばニーナは今日の見送りも欠席しようかと思っていた。
しかしユーフェミアと話して、少し苦手だったけど
一緒に学園生活を過ごした友人とキチンとお別れをしようと思ったのだ。

(少しずつ)
(少しずつでいいから前に向かおう)



そんなことを考えていると

「あれ、もう行っちゃった!?」

突然聞こえてきた覚えのある声が
ニーナを記憶から現実へと引き戻した。

「カレン!それにナナリーと咲世子さんも!」

リヴァルが嬉しそうな声を上げる。
声のした方へ顔を向けると
少し慌てた様子のカレン・シュタットフェルトと
メイドの咲世子さんに車椅子を押されるナナリー・ランペルージ、
いやナナリー・ヴィ・ブリタニアの姿があった。

「まだシャーリーは手続きしてる所よ」
「でもどーして・・・」

ミレイも嬉しそうに立ち上がって訊ねる。
見送りが少ないことにセンチメンタルになっていたのは
どうやらリヴァルだけではなかったらしい。

「お世話になったシャーリーさんがブリタニアにお帰りになると聞いて」
「カレンさんに頼んで抜け出して来ちゃいました」

ミレイは優しい表情で「そう」と言った後、
少し心配顔になってカレンの方を見た。
冷静に考えればナナリーは最早立派なVIPの1人だ。
それを顔見知りとはいえイレブンの血の混ざった女に預けていいのだろうか。

「過保護なお兄様から死ぬほど着信は入ってるわ」
「一応、連絡も取ったから少なくともナナリー誘拐犯にはなってないハズよ」

カレンは携帯を取り出し、悪戯っぽくストラップを揺らしながら答えた。

特区日本が始まるにあたって。
カレンは紅月カレンとしてそこに参加すると
生徒会メンバーに告げ、学園を去っている。
シュタットフェルト家の籍がどうなっているかは知らないが、
ルルーシュがカレンを信頼する理由などあるのだろうか。
ニーナとしてはやや納得がいかないが、言及はしない。

「あ、ナナちゃん!」

そうこうしていると後ろから元気な声が聞こえてきた。
搭乗手続きを終えたシャーリーだ。
彼女はナナリーの姿を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。

「ナナちゃんも来てくれたんだ」
「ありがとう、嬉しいよ」

腰を落として手を握りながら話しかけるシャーリー。
以前の生徒会室ではよく見た、姉妹のような優しい一枚絵。

「シャーリーさんにはお世話になりましたから」
「お仕事が忙しくて来れない、兄とスザクさんの分も」
「・・・という訳には行きませんが」

「ううん、嬉しい」

首を振りながら返事をするシャーリー。
そして、満面の笑みのまま続けた。

 . . . . . .
「ルルーシュ君が来れなくても」

「シャーリー!!」

何か言いかけたシャーリーの言葉をミレイの大声が遮った。
ニーナが驚いて隣の友人を見る。
ミレイとは付き合いの長いニーナでも滅多に見ない表情だった。
彼女はそのままシャーリーに抱きつくと
絞り出すように、言った。

「アンタが決めたことだから変に口出しはしない」
「でもこれは別れじゃないから」
「やり残したことは、いつでもしに来ていいんだからね?」

目に涙を浮かべながらそれだけ言うと
ミレイはさらに強くシャーリーを抱きしめた。

「やだな会長・・・」
「何だか『大事なこと』を忘れてるみたいな・・・」

ミレイの行動に戸惑い顔のシャーリー。

「アレ?」
「変だな・・・」
「泣きたいワケじゃないハズなのに」

その表情が見る見る崩れていって。
頬に涙が伝った。





いよいよ飛行機が飛び立つ時間が迫ってきた。

順々に最後の言葉を言っていく。
ニーナも苦手だった友人に抱きしめられ、
思わず鼻の奥がツンとなった。

「ありがとう」

何に対してのありがとう、なのか。
自分でもよく分からない言葉が口から出てしまった。
シャーリーは少しだけ驚いた顔を見せて

「私も、ありがとう」

と言ってくれた。



ミレイは簡単にまた会えると言っていたが。

アッシュフォード学園は高校までしかなく、
基本的に大学進学となればブリタニア本国に戻ることになる。
しかしミレイはアッシュフォード家の令嬢なのだ。
最終的にはエリア11に戻ることになるだろう。
イレブンになることを選んだカレンや
特区に参加するルルーシュ・ナナリー兄妹とスザク。
この5人は少なくともエリア11で暮らすことになるだろう。

そして、たぶん私も。

だがエリア11がいつまでも安定している保障はない。
今はユーフェミアの特区構想のお蔭か
イレブンの反ブリタニア活動も落ち着いているものの、
属国の政情など何がキッカケで急変するかも分からないのだ。

やはり、今日シャーリー会いに来れてよかったとニーナは思う。

(特区日本で頑張ってみよう)

ミレイの後ろに隠れるだけじゃない、自分で前に進める自分へ。

「じゃあ、行くね」

私から離れたシャーリーは明るく言うと、
少し先にいる母親の元に歩いていった。

「お元気で」
「また会おうね」

みな、名残を惜しむように最後の最後の言葉を言う。
らしくない姿を見せたせいかミレイは一歩引いて手を振っている。

シャーリーは何度も振り返り、手を振りながら搭乗ゲートを越える。
小さくなっていくシャーリーの背中。

(もっと仲良くなってればよかったな)

去り際の友を見ながらそうニーナが思う。



その時だった。

「あの後ろにいるのって・・・」

と、不意にリヴァルが言った。
奥の通路に目をやると、見たことのない仮面を左目につけた大柄な男が
こちらに向かって歩いてきていた。

「え、オレンジ卿?」

カレンが呟く。
そうだ。
仮面を付けて、やや雰囲気も変わったように見えるが
オレンジ事件で有名になったジェレミア、
ジェレミア・ゴットバルト卿だった。

ジェレミアはシャーリーを見つけると少し驚いた様子をしたあと
彼女に近づいて何か話しかけた。

(え、なんで・・・?)

ジェレミアとシャーリーに面識なんてあるはずがない。
オレンジ事件の当事者であるスザクなら顔見知りかもしれないが
彼すらいない状況で何を話しているのか。
ニーナの疑問を余所に事態はさらに進展。

「え」

ジェレミアと話していたシャーリーが突然気を失ったように崩れ落ちた。
事態についていけないニーナは硬直。
ジェレミアは彼女を抱き止めると、表情を変える。

「シャーリー!」

カレンが飛び出そうとするが、後ろにいるナナリーを見て躊躇する。
目の見えないナナリーは何が起こったかも分かっていない。

あっけないくらいに。

その一瞬の間にジェレミアはシャーリーを肩に担いで
人ごみの中へと消えてしまった。




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