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[30608] サスケという病
Name: ぷりんこ◆a66baa4e ID:e9adabe3
Date: 2012/02/12 16:46


「ふ、ふざけんなッッ」

私は飛び起きると同時にそう叫んだ。私の叫びに呼応するかのように周りの人間は心配しているように-事実しているのだろう-私の顔を覗き込む。

「どうしたのよ、サスケ」
「大丈夫だってばよ?」

春野サクラ、そしてうずまきナルトである。
あぁ、体中が痛む。切り傷に刺し傷だらけのこの体が今の、頭を使わなければならないこの状況ではとても恨めしい。畜生。
今、私は波の国にいる。サスケとして生まれ変わった私にとって第二の危険なイベントであった。
そう、私はサスケとして生まれ変わった。憑依、というものかもしれない。そういったオカルト染みた現象を私はよく知らないのだ。



赤ん坊として生まれ変わった最初は夢だと思っていた。しかし、いつまでも夢から覚めず、痛みを感じ、味を感じ、五感を通して全てが現実だと知った。元々は漫画よりは小説のほうが好きで、小説よりもギャンブルのほうが好きな大学生であった。この世界が舞台であるNARUTOも読んだ事があるが、それは人気があったから読んだようなものだった。それも中学生の時に、である。確か、中忍試験、だったか、正式名も思い出せないがそんなのが行われていた。なにやら蛇みたいなオカマが暗躍しているようなシーンもあった気がする。きっとラスボスであろう。そんな風格があった、気がする。
とりあえず、現実だという事を受け入れるしかないのだ、と諦めた。なにせ他に選択肢が無い。記憶の中では主要キャラクターに死亡者は出ていなかった、と思う。ハンターハンターやドラゴンボールじゃあないのだ。下手な事をしなければ死にはせんだろう、とその時は楽観的に考えていた。この漫画を熟読しているのならば元の世界に戻る手段を知りえたかもしれない。


とある日、手裏剣術を教えてやる、と珍しく兄さんの方から言ってくれた。兄さんの名前はうちはイタチという。原作には出ていなかったが兄さんはどうやら一族きっての秀才のようで才能の上で胡坐を掻かず日頃から修練を重ねる人間だった。同年代では張り合える者が存在せず、時折見せる寂しそうな瞳が印象的な方であった。当然のようにすでに写輪眼を会得している。初めて見た時はグロテスクな目だとしきりに凝視していたら教えてくれた。体が子供なせいか実際には年下である兄さんに失礼のないように言葉を選ぶことがそれほど苦に感じなくなっていった。寧ろ、自然体で自分が本当に子供なのだと認識し始め、今ではそれに順応している。故にだろう。そのような兄さんに私は尊敬の念を抱いていた。こんなに実力者なのにうちは一族は全滅してしまうとは、この方だけは生き残ってもらいたいものだ、とさえ思っていた。とまぁ、そんな兄さんからの修行のお誘いである。断わる理由も無く私は嬉々として後をついていった。そういうところが変化してきているのだと自覚はあるのだが喧嘩しても絶対に勝てないので大人しくしているのがいいのである。そう思いつつ、鬱蒼と茂る森の中、大岩や大木の裏側、つまり死角に多数用意されていた的を複数同時にクナイを命中させていく兄さんに私はいたく感服したものだ。

「緩急をつけたクナイ同士を弾け合わせて方向変換をさせたんだ」

「そうだ。サスケは賢いな」

兄さんはいつも通りに儚くも笑みを浮かべる。悲観さえ伝わってくる。最近は家族同士の会話さえ少なくなってきているのには気がついていた。父上と兄さんの間に特に感じる。兄弟間だけでも円滑にしていきたいものだと私は痛感してしまうのである。元々の生活では家族主義で親とも兄弟ともとても仲が良かったというのもあるやもしれない。
私は徐に手にしていた2つのクナイを兄さんが当てた大岩の裏にある的に命中させるべく投げた。兄さんは6つ同時に投げていたので私は2つからが妥当であろう、という考えがあったからだ。先ず、1つ目を比較的緩く投げ、2つ目は早く投げた。上手く2つのクナイが大岩の上で接触しようとした時、クナイは交差し1つ目のクナイは失速し地に落ちた。2つ目はそのまま茂みに突っこんでいく。つまり投げた2本のクナイは互いに衝突せずに通過していったということだ。

「これは、中々に難しい」

「なに、明日からサスケも忍者学校に入るんだ。サスケならすぐに習得出来るようになるさ」

頑張ります、と私は元気よく告げ、投げたクナイを拾いに走っていった。元々、成功させようと投げたわけではない。兄さんは口下手なので会話の機会を増やす為の行為であった。それも成功したのか、はたまた感づかれたのか分からぬが結果オーライである。

家へ帰る際に父上の勤務先である木ノ葉警備部隊の本部の前を通りかかった。私の一族の家紋が目立つ位置に飾られた建物である。きっと創立者はうちは一族の者だろう。それが誇らしいとうちはサスケとして生きている私は感じた。元々、私の家にも家紋があり大して歴史にも介入していないものであったが私の目にはカッコよく見え、誇らしく感じた。
私はうちは一族の家紋が木ノ葉隠れの里に大きく貢献していることに誇りを感じていると素直に兄さんに伝えた。

「昔からうちは一族はこの里の治安をずっと預かり守ってきた。今ではうちは一族も小さくなってしまったけど、ほぼ全員が里の治安維持に貢献している」

誇り高い一族の証だ、と兄さんは言った。

「ほぼ全員ということは、兄さんも警備部隊に入るの?」

「さぁ、どうかな」

「どうせなら火影になって欲しいな」

「どうして」

「優秀な人が火影になるものだよ」

「それならサスケがなれよ」

「面倒なことは全て兄さんに丸投げするよ」

久しぶりに兄弟で笑った。

帰路の終には門の前で父上が待っていた。うちはフガク、実力競争が激しい中、素晴らしい成績を残している兄さんの自慢が好きな方だ。基本的に悪い人ではない。世が世なら厳格な父親であるがこのような荒くれた舞台ならば一族の頭領として十分なのだろう。

「明日の特別任務だが……」

なにやら重大な話のようなので私は口を挟まない。どうせ私が話す内容は明日の忍者学校の入学についてだけだ。忍者社会において特別任務とまでいわれる仕事ならそちらを優先すべきであろう。

「この任務が成功すれば、イタチの暗部への入隊がほぼ内定する。それは分かってるな」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

それより、と兄さんは私の顔を見て頷く。どうやら私に明日のことを伝えろ、ということだろう。私は軽く頭を左右に振った。この緊迫感のなかで水を差すことは良くない。父上も真剣に兄さんとの会話を求めているのだ。といってもただこの父親に横から口を挟む度胸が無いだけなのだ。

「明日の任務はうちは一族にとっても大事な任務となる」

「やっぱり、明日の任務はやめるよ」

「なにを血迷った事を言っているんだ! 明日がどれほど大事な日かお前にも分かっている筈だ!」

ああ、やっぱり怖い。自分から言わないでよかった。

「明日はサスケの忍者学校の入学式についてくよ。忍者学校の入学式には身内が参列するのが通例と通達にもあったでしょ、父上」

「分かった。忍者学校へはオレが――」

「母上と行きます」

さすがに見過ごせなくなった。なにやらただの緊迫感から危機感へと移り変わるのを感じた。

「母上も身内です。確かに警備部隊の仕事はあるだろうけど、入学式は午前中、それに一時間も掛からないでしょう。その間は母上の代わりを誰かに頼んでもらってはいけないですか」

そう言って私は翌日、母上の手を握って忍者学校を訪れた。きっと父上と兄さんは特別任務を無事に果たす、と願いつつ入学式が始まり、そして終わった。一人の教官に兄さんの褒め言葉を聞き、母上と私は自分のように喜んだ。



忍者学校が始まってからが悪夢だった。
この物語はジャンプ作品、様々な特殊能力が跳梁跋扈する作品群の1つであり、当然のようにNARUTOの世界にもそれは該当する。所謂、チャクラの存在である。ドラゴンボールの気、ハンターハンターの念、有名どころしか知らないのが悔やまれるが、そのようなものだ。この世界で生きていれば当然のように得られる能力だと思っていた。そう、思っていたのだ。

現実は無情である。

「あれってうちはだよな…やっぱすげーのかな」

「そうじゃない?」

等と後ろから子供達が囁いているがそれどころではなかった。忍者学校の初等部ではそれほどまでチャクラを扱う忍術を教えることがないのが救いであったが、原作が始まる頃には状況は変わる。善は急げ、思い立ったが吉である。

「キリン先生」

「おう、どうしたサスケ」

私は素直に中忍であるキリン先生の門戸を叩いた。まだイルカ先生が教職についていないのでなるべく温和そうな人を選んだ。原作に出ていたのかさえ分からない。ガリガリでメガネが良く似合う先生だ。見たとおりならば神経質そうであると共に目が細く狡猾そうに思える。

「チャクラってなんッスか?」

家では丁寧な言葉を使う。何故なら父上が厳しいお方だからである。案外、家族以外とは素で話す。

「いきなりだな。家族に教えられなかったのか?」

なんたってあのうちは一族なんだろ、と言外に目で語っているのを感じた。もちろん、皮肉ではない、とは思う。どちらかというと驚きのほうが近いだろう。とにかく糸目であるから一々感情を把握するのが大変な人だ。

「うちはだから聞けないんッスよ。私は出来損ないです、だなんてあの父上に伝えるようなもんじゃないッスか」

うちは一族の人間なんて気がついたらチャクラを感じ取って操っているのがデフォルトだと思っている人間ばかりだ。

「あぁ、あのフガクさんなら聞き辛いか」

でしょう、と私は全力で頷いた。兄さんもストイックな方だが、父上はそれプラス責任感の塊もついてくる。世のエリート2世もきっとこんな苦しみを感じていたのだろう。

「まぁいい。チャクラについてだったな」

「おう」

「チャクラってのはだなぁ、体が持つエネルギーと修行や経験で蓄えた精神力を合わせたもんだ」

「おう?」

「それを体中に張り巡らされた経絡系という神経を通して俺たち忍びはチャクラを感じることが出来る」

全然理解ができない。特に精神力の件が理解不能だ。そもそもキリン先生が言っていることは最初の座学で教えられたこととほぼ同じだ。それでも理解できないのだから尋ねているというのに。いやはや、困ったぞ。私が頭を悩ませていると、

「まぁ、君もうちはの人間なら自然と分かるようになるさ」

話は終わりだ、という風にキリン先生はデスクに目を戻した。新学期ゆえに色々と情報整理が大変なのかもしれない。

「ありがとうございました」

そういって私は職員室から出た。
これからどうしようかと思ったが、体が持つエネルギーと経験等で蓄える精神エネルギーを体感するにはどうすればいいか、というと修行しかないだろう、と結論付ける。そうか、修行しかないのか。下手な事をしない限り、死なないだろうけど、最低限の実力がないとさすがに死にそうだ。死にたくはない。ならば頑張るしかないのだろう。そういえば、いつぐらいに一族は滅亡するのだろう。もしかして唐突にそれが起こるのであれば、運に任せるしかあるまい。私はその日は素直に家に帰った。こっそり兄さんに尋ねてみたが「気が付けば使えた」という言葉に絶望した。その日は素直に寝た。次の日から本気を出そう。


私にとっての修行とは体を虐めることである。こちらに来るまでは一時期筋トレに熱中していた頃があった。ある程度の目標を立ててそれを達成する。苦しいがそれ以上の達成感を得られ、継続し、やがては快感にもなった。筋肉がついてくると自信を持ち始め、ポジティブな思考を持てるようにもなった。
今だからこそ分かる。
それは別段、命の危機感を持っていなかったからこそ感じることである、と。目標を立てたとしてもすぐ脳裏に「その程度で大丈夫か?」という言葉が過ぎる。故に達成感など感じることもない。ただ苦しいだけである。しかし、継続はする。何故なら命が懸かっているからだ。筋肉がついても自信は生まれない。ポジティブな思考も持ち得ない。やはり命が懸かっているからだ。その上、修行を始めてかなりの日数が経つというのにチャクラというものを感じない。故に、自信などというものは生じない。寧ろ、コンプレックスが生まれるだけだ。欝だ。
様々な修行を試行する。これらを修行というのは甚だ疑問ではあるが。腕立て、背筋、腹筋は当然のように何時間も鉄棒にぶら下がったりもした。バランス感覚を得るために屋根の上や突き刺した杭の上をいつまでも走り回った。やはり忍者として手裏剣やクナイ、刀の扱いも覚えようとした。やればやるほど焦燥感は大きく膨れ上がっていく。何故なら筋力がついただけだからだ。神秘的な力を体得することはなかった。

更に時間が過ぎて上期の終わった。担任から成績表を受け取った。大人になっても慣れない作業である。生徒がざわめく。私もその中にいた。欲しくもないモノを受け取るというのはどれほど時間が過ぎても嫌なのだ。なぜなら、上期が終了しても私は未だにチャクラというものを感じることが出来ていないからだ。上期とは約半年である。肉体的には格段に強くなってきていると感じる。それでもまだ足りないと感じているが。しかし、NARUTOという作品においてチャクラは必要不可欠なのだ。チャクラを持ちえなければドラゴンボールのMr.サタンとなんら変わらない。ドラゴンボールではMr.サタンはそのやさしさや人情で物語を切り抜けたが、殊NARUTOの世界ではそんなもの手裏剣一枚にも劣るだろう。
とにかく、私は素直に成績表を受け取った。諦めの精神である。そして開く。成績表には項目ごとに升目があり、忍術という項目は30人中30位と書かれていた。そのほかは全て一位である。いやはや、これはもう欠陥といってもいい、と私は感じた。

「諦めないで努力を続けなさい」

成績表を受け取る時の担任の言葉だ。同情の念を感じた。これを父上に見せるのか、と思うと私は両肩に質量の篭ったプレッシャーを感じた。





「お前は本当にオレの子か?」

第一声がこれである。そして父子の会話がこの第一声で終了した。ピシャリ、と障子を閉める音と共に父上は私の目の前から姿を消した。
ふぅ、と大きくため息を吐いた。これはどちらかというと安堵の息である。私はてっきり殴られるものだと想像していた。失望させてしまったか。物語に大きな変化を与えないように努力してきたつもりだが、結果を出せないのであれば無駄な時間だったようだ。きっと忍術の項目も1位と表記されていれば「さすがオレの子」と兄さんのように褒められていたやもしれない。きっと原作では褒められたのだ。つまり私はたとえ実際のサスケよりも精神的に成長をしているとしても質を考えれば劣った存在だということだ。私は父上と対面した時の正座の姿勢で居続けた。

「オレが疎ましいか」

突然、背後から兄さんの声が聞こえた。障子を開ける音もしなかったから内心では少なからず驚いたが、忍者の世界なのだから一々驚いていると疲れるので慣れた。そんな内心を察知されないように私は努めて冷静に返す。

「いや、それだとただの八つ当たりだよ」

振り向くと兄さんは写輪眼を開いて私の顔を見てきた。私はそれに慄きはしない。何故なら本心だからである。そして兄さんの背景の空は青色から茜色へと変わっていた。

「なぜオレのことを憎まない。こんなオレがいなければサスケもああ言われずに済んだかもしれないのに」

「こんな風にならないように努力はしたつもりだけど、こうなった。努力して大成する人もいる。大成しない人もいる。きっとこうなるべくしてこうなったんだよ」

「………」

まぁ、まだ諦めた訳じゃあないけどね、と私は肩を竦めて言った。

「なら、サスケがオレよりも強くなった時は『さすがオレの弟だ』と言うさ」

「いいね、それ」

「オレとサスケは唯一無二の兄弟だ。お前の越えるべき壁としてあり続けるさ」

それが兄貴ってもんだ、とイタチは寂しげに笑った。



「イタチはいるか! 出て来い、話がある!」

勢い良く玄関門を開ける音と共に聞こえる怒号。どうやら兄さんに用事があるようだ。兄さんはスッと音もなく立ち上がり玄関へ向かった。私はそのまま縁側で静かに兄さんを待っていた。別にトラブルに巻き込まれたくなかったというわけではない。多分。
続く怒号、聞き取れないほどの荒い怒鳴り声が幾つかの打撃音と共に静まった。本当に行かなくて良かった。

「止めろ、イタチ!」

そして父上の声も聞こえた。どうやらのこの騒動に終止符を打ちに出たようだ。なにごとも起きなければ良いのだが、以前感じた不穏な空気が濃くなってきているのをいま改めて感じる。
そろそろ大きなイベントが起きるのかもしれない。兄さん、父上、母上の身の安全を願いながら遅くまで修行に明け暮れることを私は決意した。



数週間が過ぎ、忍者学校のほうでは修行の成果が如実に現れたのか、忍術を除く全てに他の生徒とは差を感じ始めた。しかし、未だにチャクラの存在を感じたことはない。8時間は寝た筈なのに疲れが全然取れていないのは家にいない間は全て修行に回しているからだろう。
そんなある朝、私が縁側を歩いていると兄さんとすれ違った。

「おはようございます」

「……おはよう」

兄さんはどうやら低血圧のようだ。返事を返すのに時間が掛かる上に抑揚もない。任務が忙しいのだろう。父上とすれ違ってもお互いに朝の挨拶はなかった。もしかしたら以前の一悶着でなにかあったのかもしれない。心配であるが、家族とはいえ重大な問題は当人同士で解決するのが一番だと考えた。解決までの手助けならばするに越したことがないとは思うが、第三者が解決すれば、それは解決したつもりになっているだけであり確実にしこりは残る。そして私は自己満足には浸りたくない。故に今はなにもしない。
とはいっても肉親への挨拶は大事なことであり当然のことだ。

「おはようございます」

「ああ……おはよう」

成績表を見てから父上は中々私の目を見て話さない。理由はある程度の推測が可能だが、元いた世界の常識を持つ私から言えば嫌な現状だ。家族で否定しあうなんて求められる展開なんかじゃない。
そう思っていると、

「忍者学校のほうは……どうなんだ?」

父上はしどろもどろと私に語りかけてくれた。私はそれが嬉しくてつい張り切って答えてしまった。

「忍術はまだ進歩してませんが別の授業だと他の生徒と差を感じてます」

決して声を荒げているわけではないが、自分でも分かるほどにその声は張りがあった。

そうか、と父上が言うと、

「オレの目に焦点を当てなさい」

そういい、始めからちゃんと目を合わせていた私は父上の写輪眼に意識を飲み込まれた。



一瞬であったが意識が鈍くなるような感覚がした。そしてその直後、元に戻った。私は自宅の縁側に立っていたと記憶しているが、今現在、私は森の中にいた。木々が生い茂り、私の周りを囲んでいる。音はなにもしない。風が存在しないから葉は揺れず、枝と葉の隙間に見える細かい雲の群れも動かない。

「今のお前はオレの幻術の中にいる」

「そうですか」

「動揺しないな。まぁ、いい」

そういって父上は複雑な印を組む。知らない印の組み方の上、私の目では追いつけないほどの速度で父は指を動かす。その動きが止まった時、私の体の表面に湯気のようなものが発ちこみ始めた。一体なんであろう。父上が私に害のあることはしないだろう、と願っているが実際問題、父上の真意が分からない。そう考えていると、

「これが可視化させたチャクラだ」

「………」

言葉が出なかった。呆気に取られている私を見て父上は冷たく見下ろしている。

「もっとも、その感覚はオレがチャクラを練る際に実際に感じているものだ」

「はい」

「チャクラをどう感じるか。それは個人によって差異が生じる」

ならなぜこんなことを、と私は疑問に思った。

「チャクラを感じるということは感覚的なものだが体質にも関係が出ると研究報告にも書かれていた。もし、お前が本当にオレの子ならばきっとチャクラの感じ方も似ているのだろう」

最近、非番でも家をよく空けると母上が言ってたがもしかしたらこのことを調べていたのかもしれない。
いや、考えすぎだろう。
楽観的な思考はやめておく。今は話を聞きつつこの体を覆うチャクラを感じたい。父上はそれっきり喋らなくなった。つまり今はこの感覚を覚えろということだろう。

「お前がチャクラを扱えるようになった時、この幻術は解かれる」

「はい」

「この幻術はここで過ごした時間だけ現実でも同じ時間を消費する。忍者学校に早く行きたいのであればすぐにチャクラを扱えるようになれ」

オレは仕事がある、と言って父上の姿は消えた。同時に体を包んでいた父上のチャクラも消えた。普通ならばこんな自分にも父上は期待してくれている、と思うのだろう。私は違った。故に、心が焦り、逸る。やはりここは私がもと居た世界ではなく、容易に死ぬ可能性もあるのだ、と再確認する。これは試験だ。これが私がチャクラを得られる最後のチャンスなのだ。そして、もしチャクラを得られなければこのまま幻術の中に居続けることとなる。そうすれば発狂するか現実の体が先に朽ちる。やはりこの世界は残酷だ。やさしさと人情なんて手裏剣一枚にも劣る。
結果として私はチャクラを得た。そして幻術が解けて現実へ帰ったのは次の日の正午だった。



「やっぱりね。父さん、私と話すときはアナタのことばっかり話してるのよ」

「本当に?」

「ただ、父さん……いつもムスッとして不器用だからね」

「兄さんも同じだね。やっぱり親子だよ」

そうね、嘘がつけないのもそっくり、と母上が笑い、私も笑う。現実へと帰ってきて、チャクラを得た私は若干の余裕があった。父上にうちはの基本忍術を教えてもらったことが原因の一端でもあろう。やはり忍術、それも強そうなものを知るとワクワクするのだ。男だから。しかし、数日頑張ってみたが中々合格をもらえない。兄さんは教えてもらってすぐに出来たようだが素材が違い過ぎるとしかいえない。まぁ、いい。一歩どころか数歩も前進した気がして浮き足立ってしまっている。まぁ、これがこの世界にきて初めての余裕であった。もうしばらく浸りたい。それに、母上との会話が楽しかった。気を張らずに済むオーラが母上にはあった。だから私は緊張と焦燥の毎日から逃げるように母上と一緒にいることが多くなっていた。

「ふふ、きっとサスケは私似ね」

「え、なんで」

「だって元気で素直なのはウチじゃあ私とサスケくらいだもの」

だったらそうなのかも知れないね、と私は曖昧な笑みを浮かべた。血こそ繋がっているが、この人格はこの家系で築かれたものではない。その事実がなによりも辛かった。こちらに住み始めてもうすぐ両手の指の数に近い年月が経つ。私はこの世界に順応し、この家族にも順応した。深く考え込まないようしていたのもあるが、今にして久しぶりに目の前の女性が他人に見えた。軽い吐き気と不快感が体の内面から外へ押し出ようとするのを感じる。

「修行に行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

私は逃げるように、されど家族に見せる歳相応の笑顔でそう告げ、家から出た。



南賀ノ神社の本堂裏には森がある。うちは一族の土地にあるので基本的にうちはの人間以外は立ち寄らない。そして祭日や集会がない限りうちはの人間も近づかない。
小高い丘の上にあるこの場所は風が良く吹き入れ、空が近い。住宅街の音も聞こえない。自然から生じる音以外は私の耳に届かない。そして神社がもつ張り詰めた空気がぞわぞわと背筋をピンとさせる。精神集中にはうってつけの修行場である。
ここで私はチャクラの修行をする。原作にもあった木登りはとても魅力的であるが今はまだそれが出来る段階ではない。確か中忍試験の件ではナルトは温泉の上に立っていた、ような気がする。地面に立ち、水に立つ。最終的には空中にも立ちそうだな、と私は苦笑する。
とりあえず、今の私がするべきことはチャクラを練る時間の短縮である。つまりはチャクラに慣れることが今日の目標だ。忍術のほうは追々、父上か兄さんにでも教えてもらう。
そしてあっという間に時間は過ぎる。


しまった。チャクラ切れで寝ていた。高い場所にいるせいか、いつもよりも月が大きく見えた。満月だ。
それにしても肌寒い。外で寝ていたからだろう。早く家に帰って母上か父上の説教を受けてあったかいごはんにありつけたいものだ。
時には兄さんに怒られるのもいいかもしれない。今まで怒られたことがなかったような気がする。そういうことがあってもいいものだ。兄弟なのだから。
それはそうとさっさと帰ろう。しかし、チャクラを使いすぎると体を酷使するのとはまた違った疲れ方をするということは勉強になった。疲労感はそれほどないのに力が入らないのである。痺れているといってもいいだろう。しかし、それでも私は南賀ノ神社の400段ほどの階段を5段飛ばしで駆け下りていく。元居た世界では出来なかったことだ。
そして一番下まで降りた私はうちは一族の商店街を通りかかって、

「今日だったのか」

なんとなく理解した。今日、うちはは滅びるのだ、と。至る所で死体が転がっている。
私は駆け寄り、脈を確かめる。ほとんどの人が死んでいる。体はまだ温かい。惨劇は始まったばかりだということなのか。それとも短期間でこれほどの人数を殺めたということか。とてつもなく後ろに向かって走り出したくなった。死にたくない。しかし、それもできない。他の人間はどうでもいいが家族は守りたい。故に、どちらにしても今考えるべきは家族の安全である。原作ではサスケ以外は全滅しているのだ。私が介入した影響で1人くらい、否、3人くらい生き残っていて欲しい。
そう願った。
自宅へ辿り着き、扉を開けようとしたとき、

「サスケッ!? 開けちゃダメッ」

「来てはならん!」

両親の声がする。まだ生きている。生きてくれている。なら私が出来る事は両親を救うだけだ。
草臥れた体に喝を入れ、扉を勢い良く抉じ開けた。そこで目にしたのはちょうど事切れた両親とそれを目の前にする兄さんであった。

「サスケ……」

兄さんが私の名前を呼んだ。久しく呼ばれていないような気がした。それが寂しいとも感じ、これはなにかの間違いであるという期待を抱かせた。
そして兄さんの目を直視していた私はぐるんと視界が一転し、影で私のことを褒めている父上、それを自らのように喜ぶ母上、いつか他愛もない話しをしていた兄さんが現れ、その兄さんが父上と母上を刺し殺す場景が映し出される。
舞台は現実へ移り、気が付けば私は地に伏していた。あれは幻術であったか。直接脳を弄られたかのような不快感が体中を駆け巡る。

「お前が望むような兄を演じ続けていた。それは俺の器を確かめる為だった」

兄さんの目、あれは普通の写輪眼なんかじゃあない。もっと凶悪ななにかだ。分からない。元より疲れきっていた体に強烈な幻術をぶつけられて体中が麻痺しているのが現状。
しかし、ここで立ち上がれなきゃ今後を望んでも無駄になりそうだ。立たなければならない。

「お前はオレの器を確かめる為の相手になる。お前もオレと同じ万華鏡写輪眼を開眼しうる者だ」

万華鏡写輪眼……兄さんが私を見ているその目か。

「万華鏡写輪眼が欲しければ、最も親しい友を殺すことだ」

「兄さんは…つまりあれだ、殺したってことだ、ね」

喉が乾燥しきっていて上手く声が出せない。緊張か、恐怖か、まぁどちらもなのだろう。今はどうでもいい。

「そのおかげでこの眼を手に入れた」

最も親しい友を殺す、か。通りで近頃の兄さんの様子がおかしいと思った。
兄さんは突如、家から飛び出て駆け出した。私も足に力を入れて追いかける。2度、3度倒れるが痛みよりも先に体が動いた。街灯に明かりが灯っていない。外はもう真っ暗だというのに。これはそのうちにうちは一族以外の警備部隊が異変に察知して近くへやってくるだろう。兄さんは塀を飛び越えた。同時に私は2組のクナイを放る。1つ目は7割の力で、2つ目は全力で。塀の頂点付近でふたつのクナイはぶつかり、弾ける。そして進行方向を変えた2つ目のクナイが兄さんの肩口へ吸い込まれるかのように進んでいくのを塀を飛び越えた私は見た。そのクナイは兄さんの刀で簡単に止められてしまった。
しかし、

「この手裏剣術、覚えていたのか」

兄さんは立ち止まって私の方を向き直った。

「正直、これ以外は覚えてない」

もっと色々教えて欲しかった、そう言外に目で語った。これが私が出来る最後の行動であった。もう気絶寸前である。兄さんが2人にも3人にも見える。

「南賀ノ神社の本堂……その右奥から7枚目の畳の下に一族秘密の集会場がある」

兄さんとの会話はこれが最後であった。


再び、あの万華鏡写輪眼とやらを見つめてしまってから気が付いたら病院だった。救助隊に拾われたようだ。四面全て真っ白な壁、真っ白なカーテン、真っ白なシーツ、なにもかもが真っ白な部屋であった。どれくらい日にちが経過したのかが分からない。次に人が来るのがどれくらい後かも分からない。ただ、いなくなってやっと気付く、というのは本当のようで、最初こそ他人としか思えなかったうちは夫妻、私の両親は本当に両親であったのだと分かった。泣きはしない。ただただ家族の喪失感に心に穴が開く思いをしただけだ。兄さんはうちは滅亡の首謀者として指名手配となった。私はその弟として色々と事情聴取を受けることとなるがずっと黙っていた。事件が起こる少し前に兄さんと他のうちはの人間とのいざこざがあったがそれに逆上して皆殺しにするほど短気な人でもあるまい。ただ、親を殺すのだからよっぽどの事情があったのだろう。今となってはどちらが悪かったか分からない。世論では兄さん1択であるが、まぁ1000人の内に1人くらい無効票を入れてもいいだろう。
しかし、うちは滅亡の原因が兄さんだったとは……。原作のサスケが殺したいっていっていた人は兄さんなのやもしれん。私の場合はとりあえず話し合いたいものだ。原作をあまり読んでいないので今後会えるかどうか分からないが、きっと会うのだろう。今のところ、その時まで生き抜くことが目標である。
私の物語、原作介入がそして始まった。そして冒頭へ戻る。

「ふ、ふざけんなッッ」

私は飛び起きると同時にそう叫んだ。波の国へ赴き、白という名の女にしか見えない男に半殺しにされた。
体中が奴の千本による切り傷に刺し傷だらけでまったくもって痛々しいものだ。あまりの痛さに気絶してしまった。
漫画の波の国編で私が覚えていること、それは概ね3つだ。1つは強い敵が現れる。2つは木登りする。最後が私にとって重大なイベントであった。それは私が写輪眼に覚醒することだ。
確か、友達を助けて覚醒する、みたいな感じだったと思う。あやふやな記憶を頼りに原作よりは親しくなっていたナルトを白の攻撃から身を持って助けた。
その結果、私はボロボロになりナルトはなんだか凄いチャクラを纏って白を撃退した。
つまり、何が言いたいかというと、私は波の国編を終えて未だに写輪眼を得ていないということだ。
死ぬかもしれない。

誤字脱字の報告をお願い致します。



[30608] Re:サスケという病
Name: ぷりんこ◆a66baa4e ID:e9adabe3
Date: 2012/08/04 05:38

今、この時点が人生の岐路なのではないだろうか、と私は深く考えている。再不斬達との戦いで原作のサスケは写輪眼を会得していたのは気のせいだった、と片付けれたらどれだけ心が救われるだろう。私はすでに波の国を発ち、木ノ葉隠れの里に戻ってきた。次のイベントはなにであっただろう。物語りの流れでいうなら、以前よりも、つまり波の国編以上の困難が待っている。先日のあれでさえ私は死に体だったのにも関わらず、だ。

「どうしたのよ、サスケ。一人でなんか喋ってるわ」
「サクラちゃん、サスケってば帰ってきてからずっとこんな感じだってばよ」

私の周りが煩い。そういえば、修行に明け暮れて忍者学校をサボっていたら勿論、成績は落ちてナルトと同格扱いになってしまった。原作では『サスケくん』とか呼ばれていたような気がするのに。今では呼び捨てだ。サバイバル形式のテストも快く賛成してくれた。ナルトから誘ったのにも関わらずだ。まぁ、これは私とナルトなら出し抜けるだろう、とサクラが思っていたからだと考える。私もナルトにサクラなんて落ちても構わないから組もうぜ、と誘った。

「サスケってばいつも自問自答ばっかりしてて暗いのよねぇ」

さすがにこれは酷いのではないだろうか。さすがに、精神年齢30歳を過ぎている私が年端もいかない娘とあれこれ親密に会話をするというのも変だ。娘に限定せず、男子であろうとおかしいだろう。
話がそれた。
今考えるべきことは年の離れた同僚とのコミュニケーションについてではない。原作において、サスケが写輪眼を持ってして攻略していく物語の節々を写輪眼なしの私がどうやってこなしていくかだ。まして、私が知っている物語はもう少しで終わる。確か、中忍になれる試験があり、それに参加した私達はオカマ言葉を使う物凄く強い敵と遭遇する。予選を勝ち進み本戦となり、ナルトが初戦を辛勝する。サスケはどういうわけか中々登場しなかった。なんで登場しなかったんだったかあまり記憶にない。闇討ちにあったか敵に拉致されたか、それすらも定かではない。うちはサスケというキャラにスポットライトを当てて漫画を読んでいたわけではないのが悔やまれる。ちなみに、うちは一族が全滅した際、兄上に教えられた秘密の会合場所にいっても読めない石碑があっただけだった。うちはの秘密の会合に使われるものなのだからきっと写輪眼がなければ読めないのだろう。もう写輪眼を手に入れられないかもしれないので読めない可能性もある。

「なにブツブツ言ってんだってばよ」
「え、オレなんか言ってた?」
「終わってる、オレ、死ぬわって言ってたわよ」
「うわ、マジかよ」
「きっと疲れてんだってばよ」

二人の暖かい視線が骨身に染みた昼下がりであった。

「くだらないことは抜きにして、修行でも続けっかね」
「おう!」

勢いの良いナルトの返答を受け止め、腰を上げる。今、私は河の上にいる。水上歩行という木登りの発展版のような修行をしつつ休憩していたのだ。最初こそ体が沈んだり服が濡れたり、河に流されたりと一片たりとも気の抜けないものであったが、要点を掴めば座っていても横になっていても服は濡れない。チャクラの扱いを上達させるには良い修行である。波の国で私以外の二人は木登りをやっている傍ら私はずっと水上歩行をやっていた。なんでって、木登りは最初から出来ていたからだ。
私達3人は河辺から離れて平野に移動した。そこで私達はいつも組み手をしている。ただし、ゆっくりである。両手足のに重りをつけてゆっくりと組み手をする。徐々に速度を上げていき、最終的には全力でやる。全力といっても重りをつけているのでそれほど早くはできない。

「私はパス。そんな重りなんてつけられないし」
「わかった。だけど、救急箱の近くからあまり離れないでいてくれよ」
「分かってるわよ」

サクラは平野の一本だけ生えている木の木陰におかれた打ち身や傷に使う医療パックが詰められた箱の傍に腰を下ろして本を読み始めた。
私はナルトの正面に立つ。ナルトは重りにはまだ慣れていないように手足を伸ばしたり曲げたりをしきりにしている。私は先ほどの水上歩行のときからつけている。両手首と足首、計4つの重りだ。1つ約10キログラム。合わせて40キロほどだ。1つ1000両で街の雑貨屋で売っていた。マイト・ガイ上忍に教えてもらったのだが良い店である。忍具も豊富に揃っていて金さえ持っていればいつでも一端の忍者になれるだろう。ナルトの分は私が出している。奴は金がないらしいが私と同じ修行がしたいと言っていた。一人でもいいんだがやはりそれだと寂しいので二人分出した。

「始めようか、ナルト」
「今日こそサスケに勝ってやるってば!」

ナルトが馬鹿正直に右拳を突き出す。勿論、かなり遅い。いつもの速度で体重移動に40キロの重さを加えたら怪我ではすまない、というのも最初はゆっくりやるという理由のひとつだ。私はそれに左手の甲を添えて捌く。同時に右の足刀蹴りをナルトの鳩尾に放つ。勿論、避けられた。
私は家族と離れてから、どうすれば強くなれるかについて考えてきた。修行についてである。効率よく修行すればいいのか。そのようなものは度外視でひたすら体を虐め続ければいいのか。私は忍びだ。忍術という選択肢もある。体術と忍術のバランス良い忍びとなれば最強か、どちらか片方を極めるのがよいか、7対3ほどで体術か忍術を優先させるか。
私は前の世界で麻雀というゲームに熱中していた。麻雀と忍者を置き換えて考えてみると、どういう型が一番強いのだろう。麻雀では答えは簡単だ。やられずに高い役で上がり続ける人が最強だ。もしくは安い役でも上がり続けて相手に攻撃させない人だ。
ナルトが密着してくる。体当たりと頭突きをしてくるつもりだろう。それを無傷に回避し攻撃を与えられる確率は2割程度だ。なんせ私は攻撃を避けられた直後で体が固定されている。私は体を反転させてしゃがんだ。そのまま飛びかかろうとしているナルトの軸足を蹴り上げれたが私は一端退避した。倒れ際で攻撃を受けることを嫌ったからだ。成功率が2割程度なら私は逃げる。

「そろそろ、速度を上げよう」

全力の3割ほどの速度で私達は手足を動かし続ける。ナルトが重りのせいで避け方が杜撰になってくる。体幹トレーニングをしていないから機敏な動き、粘りのある動きが出来ないのだ。私の手刀がナルトの体に掠り始める。
私はチャクラを得た。だからといってチャクラの扱いが得意となったわけではない。忍術の修行も容易ではない。下忍には下忍の忍術、中忍には中忍の忍術、そして上忍には上忍の忍術を学ぶ権利が得られる。私の身分では今すぐ強力な忍術は取得できない。ならば新たな忍術を自作すればいいのだが、忍術の基礎も知らない上にどうやって忍術が発生しているのかさえ分からない。印を組めば発動するなんて理解の範疇外だ。
ナルトのパンチを避けようとしたら頬に掠った。痛くはないが心象穏やかというわけではない。年下の小僧に殴られた訳である。腹立たしいことこの上ない。たとえ原作の主人公であろうと、周りに嫌われていて可哀相な子どもであろうと、私は差別しない。対等に向き合って、その上で腹が立ったら周りの人間にするように手を下す。
今は私が主人公なのだ。

「速度を上げるぞ」
「お、おう!」

最初こそ私には40キロの重りは厳しかった。日常生活も満足にこなせない。時間をかけて体に慣らせ、体を鍛えて、今の私がある。話しを修行についてのところへ戻そう。どういう修行がもっとも効果が良いか。元の世界では高山トレーニングというものがあった。簡単に言えば過酷な環境に身を置けばそれだけ体は鍛えられるのだ。10倍の重力下で生活をする人と通常の重力下で生活をする人、どちらがより強いだろうかなんて答えは決まっている。今のところ、私が選んだ選択肢は、効率を度外視して我武者羅に体を虐めることだ。体を動かしておけば思考する時間が減る。とても気が楽になる。自分は頑張っていると疲れれば疲れるほど満足感に浸ることも出来る。
今は全力の5割ほどの力だ。ナルトの動きは先ほどからあまり変わっていない。私の攻撃を避けることから受けることに変えたようだ。避けれないのかもしれないが私は構わず拳を振るい蹴りを繰り出す。ナルトの戦闘方法は我流だ。私もそうである。ただ、戦い方の重点の置き方が違う。ナルトは攻めを大切にしていて私は守りを大切にしている。人を殴るなんて子供でも出来る。しかし、それを防ぐ事は難しい。守る方のほうが難しいのだ。ナルトが私の服の襟を掴んできた。私は体を引き、釣られて寄ってきたナルトの足元を払う。簡単に倒れてしまう。重心の置き方がなっていない。
強い弱いに関わらず、戦い難いタイプもいる。それは弱点がない奴だ。どこを攻めればよいか分からない敵ほどやり難いことはない。体術をこなし、忍術を扱い、幻術にも精通している。これは理想だ。私の目標は生き続けること。この世界で、だ。しかし、そんな奴でも負けるときは負ける。どういうやつに負けるか。それは、必殺が可能な敵だ。絶対に避けれない、そして絶対に殺せる技を持っているような、いわばバグのような存在。この世界に存在しないと誰が言えるだろうか。寧ろ、そういうバグキャラこそ敵に、まして私にとって邪魔な存在として現れるのではないだろうかと私は恐ろしく感じる。故に私には余裕がなく、あるのは焦燥感のみ。
気が付けばナルトは気を失っていた。私の上段蹴りがナルトの側頭部に当たったようだ。サクラのほうを見る。本を読んでいる。私はため息を吐いた。

「サクラ、ナルトがリタイアした」
「今日は早かったわね」
「考え事をしてたからな」
「酷い奴ね、あんた」
「そうか」
「そうよ。酷い奴、ナルトが可哀相だわ」
「ナルトには酷いことしたな」
「組み手の合間、ナルトはちゃんとあんたを見てたわ」
「そりゃあそうだろ」
「あんたは誰を見てたの」

いつか対峙する敵、なんて言えないので「ちゃんとナルトを見てたよ」と答えた。サクラは救急箱からシップや包帯を取り出す。この世界でもこういった道具は普及されているのだな、と今後の修行の予定を考えていると1つ閃いた。そうだ。実力で不足している部分は武器や防具で補えばよいのだ。今日くらいはナルトと修行をして良かったと思った。



「一番安い刀で3000両だよ」
「んじゃ、一番高いのは?」
「13000両はするぞい」

マイト・ガイ上忍に教えてもらった店に私はやってきた。予算はある。何故か私の父は多くの遺産を残していたらしい。相続税を考えてもかなりの余裕はある。
武器を使うということは盲点だった。ずっと体術や忍術ばかり気にしていたが、堅い拳を作るよりも刀一本購入するほうが時間はかからないし面倒も少ない。まぁ、壊れてしまう可能性は見過ごせないが良い武器を買えばそれだけ丈夫で長持ちするだろう。とりあえず、基本的な武器である刀について聞いているところだ。この店主、古ぼけた顔している爺だがところどころ目付きが鋭い。

「チャクラ刀なんてのも売ってるのか」
「昔と違って性能がいいから値も張る。一番安いのでも20000両はする」
「輸入品ばかりだからか」
「それもあるが素材が違うからのぉ。中でも鉄の国から取り寄せてる刀は天上知らずの値段ばかりじゃ」

そういわれてショーケースに飾られた刀に目をやった。一、十、百、千、万、十万と零の桁が先ほどまでの普通の刀とは段違いである。

「チャクラを覆うだけなら修行次第でどんな素材でも出来ちまうが、チャクラを伝播させて浸透させることが出来るのがチャクラ刀の真骨頂だわい」
「んじゃ同じ素材ならどういう武器が一番強いんだ」

昔の合戦場では刀は非常手段等でしか使われないんじゃなかったか。基本的に弓と槍が主力だったと思う。忍者の場合はどうなのだろうかとこの店に来るまでずっと考えていたのだ。いかんせん、私には専門知識が足りなすぎる。幸い、この店には多くの実力者が来るらしいのでそういった情報整理には助かる。

「自分のチャクラの波長にあった武器が一番じゃろうて」
「ほう」

個人でチャクラって違うのか。そういえばうちはって火遁が得意なんだったか。原作でもサスケがよく火を吐いていた気がする。

「風なら刃物、土なら槌といったところかのぉ。雷といえばカカシっちゅう奴が有名だが特に得物は決まってないようじゃ」
「なんなんだそりゃ。風とか土とか、んなもん決まってるのか」
「なんじゃ、性質変化すら知らんのか……いや、性質変化っちゅうのは個性でな」

なんだこの爺、人の顔見て言うこと変えやがった。

「忍び一人一人、性格と同じように個別なチャクラの波長ってのがあってな。その波長が火水土風雷の五つのどれかに適しているのが普通だわいな」
「忍術の得意不得意ってのはそれが原因ってことか」
「うむ。小僧はうちはの人間じゃから火の性質をもっとる可能性が高い」
「ってことは俺の性質は火か」

火か。熱血漢とか正義の味方が似合いそうな能力だな。色で言えば赤か。

「リーダーみたいでいいな、それ」
「なに言っとんじゃ小僧」
「気にすんな。んで、だ。火はなんなんだ。刀か、弓か、槍か」

そこで爺は「ちょいまっとれ」と背後にある暖簾を潜って奥に引っ込んだ。なんだろう。武器でも持ってきてくれるのだろうか。私は爺が戻ってくるまで店の中に展示されてある武器を見続けていた。
数分程度で爺は戻ってきた。その手には一枚の紙があった。紙を武器にするのか。貧弱そうだが、意外に漫画とかゲームのキャラで本を武器にしているキャラもいた気がした。量産も利くし、俺の性質が火なら燃えやすくてよいかもしれない。持ち運びも楽だしな。決め手に欠く武器だと思うが悪くない。

「これは自分がどの性質を持つかを確かめる紙じゃい」
「なんだよ。武器じゃないのか、期待しちまったよ」
「こんなもん武器にすんなら百枚あっても足らんわい」
「今更確かめる必要あんのかよ。火なんだろうが」

チッチッチ、と爺は舌を鳴らしつつ指を振った。
どういうこっちゃ。

「優秀な忍びってのは性質が複数あるもんってな」
「マジかよ」
「小僧も1つとは限らんぞ。もうおらんが、小僧の身内は優秀揃いみたいじゃったしな」
「みたいってのは適当過ぎだな」
「適当もなにも他所者だからしょうがないわいな」
「鉄の国からか」
「うんにゃ、元々は水の国生まれじゃけど、実家が行商人で武器を仕入れては国を渡って売っとった」
「歳で旅が辛くなったから落ち着いたってわけか」
「おう。昔とった杵柄っちゅうもんで他国からも仕入れるからな」

ほれ、と紙を渡された。都こんぶみたいな形だ。何故か涎が出てきた。もう食べれないのかな。

「チャクラを通してみ」
「おりゃ」

気合をいれてチャクラを通す。プスプスと角から煙が出てくる。

「そりゃ」

おお、火が出た。

「ふん」

更にチャクラを込める。紙を摘んでいる指付近まで一気に燃える。

「もうええわい。やりすぎじゃ」

爺が持ってきたバケツに焦げ付いた紙片を落とす。私はなぜか「やってやったぜ」という達成感を感じた。

「小僧の性質は火じゃな」
「だな」

どうも想像が付かない。火を纏った刀、火の玉が収束した弓矢、熱の篭った槍、想像できることなんてこんなところだが大して効果はなさそうだ。普通に攻撃して当たれば十分に効果は得られそうだ。特に槍は地味すぎる。この作品には合わないだろう。やはり忍術に力をいれるべきなのだろうか。
目の前の爺は私の顔を見つめ、急にハッとしたような顔つきで一言いった。

「うちわじゃ」
「なんじゃそりゃ」
「だからうちわじゃ。小僧の武器はうちわしかない」

私の苗字は『うちは』だが、うちわとなにか関係があるのだろうか。そういえば家紋がうちわに見えなくもない。

「ウチん家の家紋が確かにうちわに見えないこともないが、なにか関係してんのか」
「さぁのぉ」
「あん?」
「さすがに噂話でしかないし、ワシなんかよりもお前さんのほうが詳しいじゃろ。うちはは独自のコミュニティーで武具を揃えていたらしいし情報が出回っておらんかったし当時は物騒で火の国なんぞ近づきたくもなかったわい」

ダメじゃん、と口に出して合いの手をいれてしまった。そういうのに詳しくないから聞いているのにいったどういう態度だろう。というか、そのコミュニティーもなにも一族が壊滅状態なのだから私はもううちはの武具は揃えられないということなのだろうか。たとえまだ残っていたとしても、私には連絡を取る手段がない。知っているとしたら兄上くらいだろう。今度会った時にでも聞くとしよう。そう思わなければやってられない気分だ。

「しかたない。普通の武器から選ぶしかないか」

うちはの武具が手に入るまでの代用品として、だ。どんなロールプレイングでも市販の武具はそこまで強くないからな。
しかし、なにがいいのだろう。刀は嫌だな。ちょっとした間違いで人を殺しそうだ。まだ殺した事もないから不安でたまらない。弓なんて殺傷用以外の用途が見当たらない。槌は目立つし使いづらそうだ。しかし、腕力はなくはないから使用に困ることはない。斧はすばらしい。なにやら浪漫を感じる。この場合は戦斧というのだろうか。しかし、人を切るか木を切るかしか使えない上に移動中が邪魔だ。
こう考えると槍しかないのだろうか。既に考えた他の武器のメリットとデメリットを考えた上で槍のことを考えると悪くないなと思う。こん棒のように使えるし、持ち運びも筒かなにかに入れれば背負える。うん、悪くないのではないだろうか。地味だけど。まぁ、防衛にしか使わないんだけどねえ。

「爺、槍だ。槍をくれ」
「爺じゃねぇ。まだ現役だ。材質はどうすんだ」
「どうみても爺だろ。勿論、最高級のを頼む。金はある」
「昔は美丈夫として通ってたんだ。なにか注文つけとくか。オプション代は別途で貰うぞい」
「今じゃどうみても枯れ木が服を着てるようなもんだろ。うちはの家紋をつけといてくれ。あと扱いやすいようにそれ以外はシンプルに頼む」
「うるせぇ。小僧は忍びじゃから3割引、まあ、オーダーメイドじゃから高すぎて焼け石に水みてぇなもんだがな」
「うちはの金は火影が管理してっからそっちに領収書は頼むわ」
「届くとしたら来月か再来月か、まぁその辺じゃろうて」

楽しみにしておく、と私は告げて店を出た。防具を買い忘れたが、まぁ、武器を手に入れてから残りの予算と相談してから買うこととしよう。
私は先ほどまでナルトと組み手をしていた広場に向かった。やっと武器が手に入る、と思うと体が軽く感じ、いつもよりも2割増しの早さで歩いた。

「オレ、火影になるのが夢なんだってばよ」
「確か、忍者学校の時から言ってたわね」

近道で広場の周りの茂みを突き抜けていこうとしていたら広場の中央からナルトとサクラの声が聞こえた。ナルトが目を覚ましたようだ。ナルトはサクラの膝に頭を置いている。その額には水に浸したのか、濡れた布が置かれている。

「先ずはみんなに俺のことを認めさせてやろうとって思ってたんだ」
「自己紹介のときも言ってたわね。」
「手始めに歴代火影の顔にらくがきをしようとしてさ」
「死んだほうがいいわね、それ」
「ペンキとか筆とか、バケツも買ってから、よし、いくぞ、って思ってたらサスケに止められたんだってばよ」

うん、なんか私の名前が出ている。二人とも陰口でも言ってるのかな。遠いからうまく聞き取れない。あぁ、原作でも仲は最悪だったし私の場合はサクラとも険悪気味だ。ちょっとくらい仲良くしてやろうとしてたのに裏切られた気分だ。軽く欝である。

「サスケがねぇ。ちょっと信じられないわ。自分の事だけ考えてナルトのことどうでも良さそうだけど」
「言ってやったんだってばよ。オレは火影になってやる。オレを認めさせてやるって」
「そしたらサスケのやつどうしたの」
「なんかオオカミ少年って話をしてくれたんだってば」
「知らない話ね」

そういえばさっきの二人、夢だかなんだか言っていたような気がする。
私はなんで生きているんだろう。夢ってなんだろう。とりあえず、この先こわいことが起こりそうだから備えているだけで、ただそれだけなんだ。
うちは再興なんて、一人から始めたら血は薄くなっていくだけで最終的には普通の人とそう変わらないだろう。遺伝子とかそういうの分からないしな。

「嘘ばっかりいう男の子が村にオオカミがやってきたときに助けを呼んだんだけどまた嘘なんだろって誰も助けてくれなかったって話だったってばよ」
「なんか怖い話ね」
「サスケってばよく覚えてないけど忘れられない話だって言ってた」
「私も忘れられなくなっちゃったじゃない。もう嘘はつけないわね」
「火影は里の大黒柱で一番困ったときに一番頼れる人だってサスケに言われたってばよ」

私は茂みで寝転がりながら雲を見ていた。手足につけた重りが妙に心地よい。大地に縛り付けられているようで抱きしめられているようにも感じた。
原作でサスケは重要人物だった、と思う。ジャンプ作品だからきっと最後は最良の終わり方をするだろう。私の場合はどうなのだろう。途中までしか知らないから原作を再現するなんて無理だ。サスケにとってのハッピーエンドってなんだろう。先ず、この作品、女の登場人物が少ない。ナルトはサクラが好きだった。忍者学校で名前を確認したが、日向ヒナタという娘もナルトが好きそうだった、気がする。ということはサスケにとって女と結ばれるような終わりはないということ。伏線的にはうちはイタチ、つまり兄上との再会と仲直りというとこだろう。

「文字通り、火影の顔に泥を塗ろうとしている奴を誰が頼るんだ。サスケにそういわれてオレってばすごく考えた」
「だから急に真面目になったのね。忍者学校の女子の間でなにを企んでるんだって話題になってたわよ」
「サクラちゃん、そういわれるとすっごくへこむってばよ」
「でもいいことよ。そっか……サスケのやつ、ちゃんとナルトのことを考えてるのね。後で謝らなきゃ」
「オレが寝てる間なんか言ったってば」
「うん、ちょっとね。サスケ、実は良い奴だったのね」
「おう、サスケは良い奴なんだってばよ」

兄上との再会が目的というのならやることは決まっているだろう。機を見つけて里を抜ける。
そうだ。旅に出よう。

「恥ずかしいけどさ。オレ、家族とかよく分からないけどさ」

このまま里に残っても任務だなんだと無駄に時間が過ぎていきそうだ。
忍びの世界とか戦い方のノウハウを学んだらさっさと消えよう。

「サスケと一緒にいるときは兄弟ってこんな感じかなって思っちまうんだってばよ」



[30608] Re:サスケという病
Name: ぷりんこ◆a66baa4e ID:e9adabe3
Date: 2012/02/13 05:02
中忍試験が始まる。それを知ったのはナルトとサクラが砂隠れの忍びと諍いを起こしているのを見かけたときだった。

「おいこらサスケ、見てるだけじゃなくてちゃんと助けろい!」
「悪い悪い、相手が怖かったのもあるが立ってた木の枝の位置が高すぎて腰が抜けてた」

そんな感じにナルトのいうことを流しつつある種の感覚が私の背中を走った。
それは、緊張と興奮である。恐怖に対して私は再び対峙することになる。
現代人である私がこうなってしまったというのも、正直な話で納得はしている。
これは漫画だ。私はその登場人物。私が主人公。周りはサブキャラ。物語は私を中心として動いている。
ならばこれはゲームなのだ。私はとてもリアルなゲームをしているに過ぎない。レベル上げに疲労と痛みが伴うだけの、ひたすら時間を浪費せざるを得ないゲームだ。
死にたい、と思うときがある。終わりにしたい、と嘆きたい時がある。生きたい、と思うときもある。明日を知りたい、と考えてる事もある。
死ぬ理由もあれば生きる理由もある。判定はイーブンだ。
今の私のスタンスは、死んでも良し、生きても良し、ということなのだろう。
サスケ一人がいないだけでどうにかなるような世界なんてダメだ。人間は消耗品であるべきなのだ。

翌日、私達は普通に集い、普通に中忍試験に挑んだ。最初こそリーダー風を吹かせていたサクラは今では名実共にリーダーである。行動力、統率力も下忍としては十分にある。
私とナルトは、個人プレーが多いほうなので素直にサクラの言うことを聞けるのだ。

「よく手をあげなかったな」
「だってサクラちゃんが手をあげなかったもんな」
「だな」

最初の中忍試験、それは筆記試験だった。各自10点ずつ持っており、これはチーム戦で各チーム30点持っているということであり、その上でこのテストは減点方式で行われた。
カンニングが一度バレる度に2点減点される。チーム内に一人でも問題の生回数が0だったら3人道連れで不合格である。そう言う意味では私達はよく統率のとれたチームなのかもしれない。
私達のブレインであるサクラが続行を決めたのだから0点組である私とナルトは黙ってついていくしかない。

「さすがサクラちゃんだってばよ」
「他国の忍びの試験資格を永久に剥奪だなんて、んなもん一発で戦争よ」
「おお、なるほど」
「すっげぇ」

やばいやばい、マジで信じてた。私の場合は白紙どころか居眠りしてしまって涎の跡が残ってしまっている。
序盤でいきなり死にはしないだろう、ということと興奮しすぎで寝不足だったためだ。皆には悪いが落ちてしまったら里を抜けようと思っていたところだ。
無事に第一の試験が終わった安心感を感じつつ私達は試験会場に突如派手に登場したみたらしアンコという女性の後をついていっている。
木ノ葉に点在する数々の演習場を通り過ぎ、人気のない林道を歩き続けているとそこは現れた。1
0メートルほどのフェンスで囲まれた広大な森だ。そのフェンスには立ち入り禁止区域という看板が張られている。

「ここが第二の試験会場、第44演習場……別名、死の森よ」
「なんか薄気味悪いところね……」

サクラの言葉通り、私からしてもこの森からは不気味な雰囲気を感じていた。質量のある冷たい空気が私の両肩に圧し掛かるような、そんなストレスを感じる。
目の前でナルトとみたらしアンコ、そして異常に舌を伸ばしている男が一悶着を起こしているが私はそれを無視した。これから殺し合いが始まるのだ。
殺し合い、嫌だなぁ。



「始まったようだな」
「ええ」
「おう」

悲鳴が聞こえた。私達は放り込まれたばかりで上手く地理を把握していないので最初のゲートからさほど離れていない場所を歩いていた。
まさかこんなに早く行動に移る者がいるとは楽観しすぎていたようだ。

「オレってばちっと小便したい」
「ナルト、始まった今だけなんだぞ。落ち着いて小便できるのは」
「さっさと草陰にいってきなさい」
「お、おう」

サクラと二人きりになる。草陰の向こうで少し音が聞こえるがまぁエチケットだ。聞かないでおこう。
というか、あまり聞きたくない。
しかし、この試験、中々難しい。各チームに2種類の巻物の内1つ渡されている。それを2種類そろえて中央の塔へ辿り着かなければならない。
勿論、他のチームは殺しにかかるだろう。つまり我々が今後対面するチームのほとんどが殺気に溢れていることとなる。
まぁ、殺気だなんてよく分からないだけどな。気配とかなら分かるようになってきたんだが、殺気ってなんだろう。

「あー、すっげぇ出たあ」

そういってナルトが草むらから出てきた。また女が居る前でそんな下品な事をいいやがって、と思っているとひとつ気が付いた。
ナルトの手裏剣をいれるホルスターが左右逆になっている。最初に音を聞いていたからわかるが、んな鉄器が入った重いものを外すような音はしなかった。
偽者かな。偽物だよな。偽物でいてくれ。

「ナルト、手はこれで拭けよ」
「サンキュー」

私は手拭を右手に持ち、ナルトへ渡そうとしながら全力で手刀をナルト(仮)の喉仏に突き刺した。全力である。
足にチャクラの吸引を使った腰を入れた初速からの最大速である。同じ下忍であるなら反応も出来ない筈だ。出来たら私よりも相当の実力者である。そうならば運がなかったと諦める。
ぐえ、という変な声をあげてナルトはパタッと地面に伏した。その直後にボン、という音と共に煙がでてボンベみたいなものを加えている忍びがでてきた。

「ふぅ、偽物でよかった」
「よっしゃ、巻物ゲットよ」

手に残る嫌な感触を振り払うように掌を開いたり閉めたりを繰り返す。運がよければまた声を出せるようになるだろう、という力の入れ方だった。
サクラは倒れ伏している忍びの持ち物を物色している。服も脱がし始めた。実に男らしい脱がし方だ。奴の服がどんどん宙を飛んでいく。

「なかったわ」
「よし、ナルトが心配だから向かうか」

私が奴を昏倒させてサクラが服を脱がせ、そいつを縛り終えるまで実に10秒程度しか経っていない。
サクラの奴、追剥業も達者に出来るのではないだろうか。
私とサクラが木々を飛び移って移動してさほど元の位置から離れていないところでナルトはさきほどの忍びと同じ額宛をした奴等と応戦していた。

「生きてたか」
「し、死にそうだってばよ」
「足止めナイスよ」

ナルトはどこかの忍びか知らないがそいつらの分身体に囲まれている状況であった。
どこかぶれていたり透けて見える分身体であった。
こういう少数対多数の場合こそ忍術が活躍する。
私とサクラは一瞬でアイコンタクトを交わす。
私は指先に神経を集中させる。
独特な形で構成されている印というものを指が次々と模っていく。
それが終わると体の中心から灼熱を感じた。
これがうちは一族の伝統的忍術であり俺の基本忍術だ。

「ナルト、飛ぶのよ!」
「もうちょい待ってくれってばよ!」
「無理ッ!」
「こ、殺されるってば!」
「火遁、豪火球の術!!」

長身の人間の身長を軽く越す大きさの火球がさきほどまでナルトがいた箇所にぶつかり、弾ける。
軽い爆発のような現象が起きて、煙が晴れるとさきほどまで十数体はいた分身共は消えていた。
さすがに人間を一瞬で蒸発させるほどの威力がないのにも関わらずそこにはなにもなかった。
私は即座にまだ奴等が生きていると判断した。

「奴等をとっちめるぞ」
「オレってばそういう単純なのが大好き!」

サクラは司令塔である。
私とナルトを線で結び、その中央の位置に常にいる。
そこから指令を送る。サクラが鋭い瞳で周りを見渡す。
一瞬目を見開いてそこを指差した。
私とナルトがそれを見て、ナルトがクナイを片手に駆ける。ナルトの方が近い上に加速状態に入りやすい地点にいたからだ。私は木の枝に立ち、ナルトがやばくなったらすぐに駆けつけれるように、その上、もしサクラが狙われたら助けられるように、または3人一組のこの試験、もう一人隠れている可能性が高いのでサクラが再び見つけ次第に迎えるようにする。
サクラは目だけではなく耳でも敵を探そうとしている。ナルトのほうは上手く自分の土俵に相手を乗せているようで、影分身3体で敵を翻弄させつつダメージを蓄積させていっている。
これは時間の問題だろう。
そして、突如サクラの背後の地面が少し盛り上がったように見えた。私は即座に豪火球の術をサクラ目掛けてはなった。
サクラなら余裕で避けられる筈だ。案の定、サクラは余裕を見て私の攻撃から避けた。

「よし、なんとか生きてるな」
「蒸し風呂状態だったみたいね、潜ってたところ」
「死んでなきゃどうでもいいさ。ナルトもそろそろ終わるだろう」

私がそういうと大木の裏側から鈍い打撃音が響いた。
幹から枝へとその振動が伝わり葉っぱが降り注いでくる。
髪に乗った葉を振り払うように手で叩く。

「なんとかとっちめたってばよ!」

ナルトが引きずってきた忍びを再びサクラが物色し始める。私とナルトはその間は周りの見張りだ。
しかし、ナルトの成長速度は目を見張るモノがある、ということを認めなければならないようだ。
目の前の大木、4人の成人男性が手を目一杯に伸ばしてやっと囲めるほどの太さだ。それをあそこまで揺らすなんてよほどの力がなければ無理だ。だって、ナルトはまだ13歳程度だろう。中学校に入ったばかりの子供と同じだ。
馬鹿げている。ありえない。そんなことばが出てくるが、とりあえず諦める。日本の常識は非常識だと留学にきたタイ人の友人に言われたのを思い出した。同じようなものだ。
ナルトが引っ張ってきた忍びを見やると白目をむいてのびている。そこまで弱くも無いように見えたのだが、もう少し苦戦すると思えばこれである。忍者学校での成績が低いだけで資質でいえばトップクラスなのだろう。特に羨ましくもない。何故なら原作では主人公はナルトだからだ。

「しゃーんなろーッ!」
「どうしたんだってば、サクラちゃん」

どうやら手に入れた巻物は天の巻物だったようだ。ダブりである。また振り出しか、と思った直後、風が吹いた。
それも特大の台風のようなものだ。体が浮き上がる浮遊感、私は即座にナルトとサクラの手を握った。2人とも一瞬あとに理解したようだ。これが敵の忍術であることを。

「やばいね、これ」
「なにがってば」
「バカたれ、こんなもん下忍の忍術の筈がないだろ。私達は今、空を飛んでるんだ」
「ああッ!」

私達の眼下には森が広がっている。私達を吹き飛ばし、周りの木をなぎ倒すほどの風遁忍術。
こんなもん下忍の実力じゃあ再現不可能だ。つまり下手人は中忍、または上忍レベルだろう。

「どうすんのよ」
「先ず、勝つのは無理だろうな」
「やっぱりそう?」
「うむ。だが、巻物を取られるのはシャクだな。おい、ナルト」
「あん?」
「お前が巻物持ってろ。足止めは私がする。なに、運が良ければまた会えるさ」

2つの天の巻物をナルトの上着の中に突っ込み、両手に握ったサクラとナルトを明後日のほうへ放り投げる。
奴等はまだ空の旅を、私は2人を放り投げた反動で失速し落下し始める。
冷静に考えなくてもこんな行動、自殺行為である。
まぁ、私がそんなことをする理由は恐らく3つある。
1つ目は今の時点ではナルトとサクラの二人よりも私一人のほうが強いからだ。
2つ目は、ナルトは私にはない運がある。ある日試しに麻雀を教えたら半荘3回やって天和を2回出した。天和というのは最初に配られた14枚の牌が最初から完成されていることである。天和が出る確率は33万分の1と言われている。『運がよければまた会えるさ』という言葉は私の運についてではない。ナルトの運である。十中八九、会えるだろう。
そして最後の理由であるが、もしかすればこれは写輪眼を開眼するチャンスなのではないだろうか、ということだ。
発動条件が分からないのが痛いが、原作でサスケはナルトを庇い、死に掛けて写輪眼を会得した。条件がとても似ているのである。
ならばかなり危険であるが挑戦する価値はあるだろう。
私は元私達が居た場所の方を睨みつける。
恐ろしい速度で地を這う蛇の如く駆け寄ってくる存在がある。
それが持つ恐ろしいプレッシャーが私の体を這うように脳髄へ駆け巡る。
下手人は確実に中忍以上のようだ。なぜ中忍試験なんかに参加しているのか問い詰めたくもなるが、そんな時間はなさそうだ。
枝で織られた天井を突き破る。
空から大地へ舞台を移したのだ。
久しぶりの地面との対面、そして四肢から感じる重力に安心する。
大丈夫、緊張していない。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

前途にはどんな運命が待ち構えているのか予測ができないという意味だった気がする。
遅かれ早かれ、人生にはそんな選択肢が阿呆のようにあるだろう。私は腹を括った。出たとこ勝負である。
移動しつつ両手足の重りを外す。途端、羽が映えたかのように体が軽くなる。
腰につけたホルスターから三粒ほどの兵糧丸を取り出し飲み込む。1粒で三日三晩戦場戦い続けられるというものだ。
過剰摂取であるが今はこれくらいがちょうどいい。カリッ、と周りの殻を噛み砕いて咀嚼する。
そうすると物の数秒で体の中で太陽が出来たかのように熱を感じる。
頭の中にどこまでも広がる草原と雲の青空を連想させるほどのすっきりとする感覚、タバコ程度では味わえない明瞭感だ。
体中の細胞が活性化していくような感覚に身を委ね、チャクラというガソリンで体というエンジンを稼動させる。

「いい目ね。中々にそそらせる」

下手人は先ほど試験官と口論していた下忍であった。
長くまっすぐな黒い髪が特徴的である。
そいつ自身が持っているチャクラは言葉に出来ない嫌な感じがした。
粘着質的ななにかを感じる。

「巻物の奪い合いって時点では貴方達の勝ちね。中々のチームワーク」
「命の奪い合いについては勝てそうにないよ」
「始めましょうか。命の奪い合いを、命がけでね」

突如体に襲い掛かる恐怖、重圧が増えた気がする。
重苦しい空気というのはこういうことだったのだ。
今まで感じてきたそれが一瞬で吹き飛ぶほどの殺意を私はいま感じている。
私は殺気というものを感じたことがなかった。
よくわからないのだから仕方ない。
再不斬の時でさえなにも感じなかった。
視線を感じる程度であった。
しかし、学んだ。これが殺気、そして殺意。
人に向けたくもないし向けられたくもない。
まぁ、毎晩自分が死ぬ夢で飛び起きる私に死角はなかった。
それに加えて兵糧丸の過剰摂取で興奮作用が増幅されているのですぐに恐怖なんてものは吹き飛ぶ。
今私の内に充満しているのは破壊衝動のみだ。
最速で駆け出す。後ろへ。

「悪くない。写輪眼も持っていないのに、期待していなかったんだけどね。審査してあげる」
「頼むから関わらないでよ」

奴は私の後ろを余裕で並走している。
下忍で私の全速力についてこられる奴はいないと思っていたからこそ逃げの一手を講じたのだが、やはり奴は規格外なのだろう。
反転しつつ、私は即座にこの前の武器屋で購入した刀(一番安い使い捨て)と手裏剣を口寄せする。
非生物の口寄せは印さえ覚えれば下忍でも出来るのだ。
刀を構えつつ手裏剣を投げる。
それを両手なり片手なりで防いでくれたのならその隙に刀で攻撃を加えようとしたのに奴は糞長い舌で手裏剣を打ち払った。
んなアホな! と私の動きが一瞬止まってしまった隙をついて奴は急接近してくる。
その片手にはクナイ、私の刀をぶつかり合い拮抗する形で両者の動きが止まる。

「下忍にしては腕力はある方ね」
「恐怖で悴む一方だよ」

奴の横腹に蹴りをいれようとするが突如現れた大量の蛇に足を絡め取られる。
最悪の状況である。
仕方ないので小規模の起爆札で足回りを爆破する。
灼熱の爆発が鼻先で生じる。
爆発の直前で奴はニヤリと笑い私から離れていった。
私も全速力で後ろへ飛ぶ。
手足や顔の表面がチリチリと焼ける。
蛇の群れのおかげで足に直接爆風は受けていないのが幸いだった。
一息入れる余裕もなく私の視界に奴の顔が映った。
体を動かすギアをマックスにまであげる。
実を言うと、先ほどまでは6割程度の力だった。
アリと象が戦っているかのような実力差を感じた。
全力でも結果は変わらないだろう。
だがそれだけ時間は稼げるだろうし生還のチャンスも増えるだろう。

「やっぱり強いね、こりゃまいった」
「興味の無い人は殺したくなるのよ」
「ありがとう。頑張るよ」

木と木の間をすり抜けるように動きつつ、手持ちの手裏剣を投げ続ける。
奴が近づいてくれば私は離れ、奴が離れるならば私は近づく。
中距離を保ち続ける。
なぜなら接近戦は厳しく、長距離戦いでは天と地の差で奴のほうが強いからだ。
先ず、奴の印を組む指が霞んで見える。
術の発動のキレもカカシ以上だ。
威力など中忍級の忍術が上忍級のそれに思えてくるほどだ。
こいつはカカシよりも遥かに強い。再不斬との戦いで手加減をしていたのなら分からないが、あれは本気だった筈だ。
口寄せで出し続けられる手裏剣の枚数は50枚、既に20枚ほど投げた。
同じ手法で奴もクナイを私に向かって放ってくる。
クナイの軌道、速度、私達の進行方向にある障害物、私の手裏剣の枚数から投げる力を方向、一瞬の間で計算しなければならないことが多すぎる。
思考を簡略化させて複数同時に思考する。頭に熱を感じる。
機関部に大量の石炭を詰め込んで風を送り灼熱を作るように、今の私は限界を楽しんでいる。
一杯一杯と同義であるがなんと楽しいことか。
恐怖もある。焦りもある。それでも楽しいと感じる。

「手裏剣が切れたようね。さぁ、次はどうするのかしら」
「無いものねだりはダメダメ、手持ちで勝負するしかないのさ」

私の手持ちの忍術は下忍の忍術しかない。しかも補助系ばかりで攻撃系は豪火球の術のみ。ならば接近戦しかない。
私はもう一本の刀を口寄せする。二刀流である。
未だに特製の槍が完成していないのが悔やまれる。
こういった状況の為に購入した筈なのに、もう一ヶ月近く経っているのにいまだに手元にない。
まぁ、しかたない。
それに、片手で刀を振るえるくらいには体を鍛えている。
左右別々に攻撃が出来るように体幹トレーニングもこなしている。
ならばこれが今の時点での最良の攻撃の筈である。

「やはり決断力がいい。手裏剣も体術もそれほど悪くない」
「そうかい、ありがとう」
「でもね」

左右の手で切り付けつつ、手が交差した時に刀を一瞬手離し、私は豪火球の術の印を組み上げ火球を放つ。
目暗ましと攻撃を同時に行い、かく乱させる。
火球は避けられるが大量の煙幕が生じる。煙に乗じて身を乗りだす。

「イタチ以下ね。出来損ないというのは本当らしい」

煙の中には私の刀がおもちゃの刀のように思えるほどの刀を携えた奴がいた。
振りかぶった腕はもう戻せない。
ならば、と刀が砕け散ってしまうほどの力を込めて2本の刀を奴のそれに振り下ろした。
キィンッ、と硬い金属の砕ける音が予想通り鳴り響く。
少しでも奴の刀に傷がつければと思ったのだが、奴の刀の光沢は暗い森の中の、更に煙の中でさえも変わらず輝き続けている。
即座に閃光弾を地面に叩きつけて私は逃げた。
3歩走るたびに私は手持ちの閃光弾を尽きるまで投げ続ける。無くなれば煙幕弾だ。
数百メートル、呼吸をするのも忘れて私は走り続けた。気配を隠し音も立てず、走り続けた。
視界一杯に白い点が交わり始めたころに呼吸することを思い出した。
酸欠直前になっていたようだ。
後ろを振り返る。
静かな森が広がっているだけである。
ホッと一息ついて私はナルト達とどう合流しようかと考え、前を向き直ると奴はいた。
それも不機嫌そうな顔で、だ。
どうやらここまでのようだ。

「付き合ってくれてありがとう。つまらなかったわ」

奴は私の脇腹に蹴りを入れる。
恐ろしく速い蹴りだった。
気が付いた時には間合いを詰められ蹴りのモーションに入っていた。
数メートル吹き飛んで2転、3転する。
猛烈な吐き気がして頭も痛い。

「期待はずれもいいところよ。こんな出来損ないがあの天才うちはイタチの弟なんてね」

そういえばさっきも兄さんの名前を出していたような気がする。
動転してそれどころじゃなかったから聞き流していたが。
そうか、こいつ、兄さんを知っているのか。

「まるで出涸らし。攻撃はしていても殺気はない。実力差を実感しても対処しない。ただの死にたがり。下忍にしては悪くないけど所詮は凡庸、欲しくもないわ」
「……笑えないね、どうも」
「貴方、本当にイタチの弟?」

そんなことも私のこともどうでもよいが、聞かなければならない事がある。やはり、兄さんのことだ。

「……1ついいかな、聞かせて欲しい」
「あの世への土産話ね。私の名前は大蛇丸、いいわ。聞いてあげる」
「まぁ、それでもいい。あんたは兄さんのことを知ってるようだけど、今どこであの人はなにをしているのさ」
「もう貴方には関係ないわ。それにたくさん答えるのは面倒だから殺す」
「そうかい」

聞いてくれるんじゃなかったのか。
私は殺されるだろう。理不尽だ。なんて理不尽。
まるで世界はゲームのようで、命はとても安っぽくて、私は死んでもいいとずっと思っていた。
だけどね、死にたい死に方ってのはあるんだよ。
死ぬなら誰かを守って、とかラスボスと相打ちとか、そういうのがいい。
なんの魅力も感じない死に方なんて絶対に嫌だ。
だから理不尽に死ぬのなんか嫌なのさ。
今はそう思える。だから徹底抗戦してやるのさ。
絶対にぶっ殺してやる。
寅の印、いつも通りの豪火球の術。
火球を噴出す瞬間、可視化するほどのチャクラを両手に集めて輪を作る。
まるで仏に祈るように。
手の輪の向こうに奴は見える。
そいつを焼き殺せるだけの熱量をチャクラの性質変化で作り上げ、形状変化で噴出した火球を覆う。
超豪火球の術。
私が唯一作った新しい忍術である。
ドラゴンボールのオマージュとも言える。
大きく、熱く、ただ豪火球の術の威力を追求したものだ。
規模でいえば通常の4倍ほどの威力はある。
通常の豪火球の術の5倍ほど消費してしまうが効率云々を無視してでも得なければならない破壊力というのは絶対にある。
いつか、その破壊力が必要な場面が絶対にくる。
私は見た。
巨大化する豪火球の術を見て意外そうにする奴がそれに飲み込まれる様を。

「ざまぁみろってんだ」

私は中指を立ててそう言い残して全力で逃げ出した。
背後で森の木々を圧し折って突き進む火球が巨大な爆炎を放出するのを感じつつ、はやくこの場から逃げたいと思った。



木の根元の空洞に辿り着いた私は周りを見渡して誰もいないことを確認してからそこへ入った。
風の吹く音とそれで揺れる木と葉の音、それしか聞こえなくなってから私は改めて先ほどの男、大蛇丸が原作に出ていた『なにやら暗躍していたラスボスのような男』なのではないだろうかと疑い始めた。
特徴は蛇と女言葉を使うこと。限りなく当人だろう。
原作でサスケ達と遭遇してなにをしたのかは覚えていない。
ただ実力を確かめる為だったような気もする。
なにかアクシデントを残していったような気もする。
いかん。立ち読み派だったからところどころが飛んでしまっている。

とにかく状況確認だ。
先ず、私はいま仲間からはぐれてしまっている。次にこの試験は殺し有り。周りは敵であること。巻物が二種類必要であること。先ほどの凶悪な奴が単独という保障もない。
先ほどので一人は上手くいけば始末できたかもしれない。
そう思った直後に私は予想も付かない不快感を感じた。
これは外から感じるものではなくて内側からのものであった。
原因は、きっと人を殺してしまったかもしれないからだろう。
現在人として絶対にやってはいけないことだ。絶対に人を殺してはいけないのだ。
理由はない。こっちには法律がないとしてもだ。
現代人としてのプライドとか関係なく、私を築いてきた、構成している感情や論理などが否定するのである。気持ちが悪い。
話がそれた。
試験には、奴は3人組で参加していたところから同程度の敵があと2人いる可能性もある。
『審査してあげる』と奴はいった。
勧誘だろうか。良い素材を己の里に連れ帰る算段なのだろう。
この試験に参加している木ノ葉のルーキーは皆、木ノ葉隠れの里を古くから守っている一族ばかりであり、良い素材ばかりなのだと思う。
皆が危ない。
しかし、私は動かない。安心によるものだろう。
急激な心境の変化でアドレナリンの低下したようだ。
頭が押さえつけられるような感じがする。まるで冷え切った鉛の頭だ。重く鈍い。不快だ。
体が冷え切った。拾ったクナイを握り締めるが、本当に握り締めているのか不安になるほど感触がない。
兵糧丸が切れたか、と一瞬思ったがそれはないだろう。
三日三晩戦えると謳うものを過剰に摂取しているのだ。
きっと怖かったのだろう。
精神よりも肉体がそれに堪えていたようだ。少し疲れた。


十数分ほど寝ていた。
微かに射す日の光の動き具合でそれが分かる。
体調も少しはよくなったようだった。
改めてみるとこの森はどういう目的で放されているのか分からないほど複雑で面妖なつくりである。
樹と樹の間に距離があまり空いていない。
普通ならば成長不良でか細いものにしかならない筈なのに樹齢100年は超えてそうな大木が点在している。
苔は覆い、そして厚い。あまり人が出入りしていないのだろう。
外から見た時は広く感じたが、体感してみると更に広く感じる。
最奥がどれほどか分からなくなる。
本当に摩訶不思議アドベンチャーだ。
私は音を立てないように枝伝いに駆けていた。
耳を澄まして目を凝らしながら駆けているのだが、何一つヒントのようなものはない。
そう思ったときに悲鳴が聞こえた。
女だ。

「サクラじゃあ……ないか。一応見に行くか、めんどくさいね」

木の葉の人間かもしれない。
もし違っても実力差を判断して可能なら巻物を奪取したい。
私はまた枝伝いに音を殺して声の元へ向かった。
ある程度進むと馬鹿のようにでかいクマとメガネをかけた女がいた。
気配を確認する。女は仲間とはぐれたのか、どうやら一人のようだ。

「ねぇ、みんなどこ!?」

手に持った巻物は天の巻物。
私達と同じである。
保険として持ち帰るのもいいが、それで天の巻物が3本となってもあまり意味が無いだろう。
どうせこいつも敵になるのだ。
無視しよう。女も忍者だ。対処する術くらいあるだろう。
なければどうせいつか死ぬ。そうだ。どうせ死ぬのだ。関わる必要はない。
私は別方向を向いて駆け出した。
早くサクラ達と合流すべきだ。
先ほどの大蛇丸の動向が気になっている。
どちらにしても急がなければならない。

「さっきの、女だった。それにまだ子供だ」

私の独白。
人間の心は多くの心的事象の上で保たれている、と言っても過言ではない。
人間はそういった不快な出来事から解放されようと行動する。
嫌なこと、不快な出来事が起こるたびに我々の心は自動的に緊張という警戒態勢に入る。
その警戒態勢を解除しようと我々は快感を求め、その結末へ向かって尽力する。
この心のプロセスを快感原理という。

「これは、フロイトだったか」

人間が感じ取る大抵の不快は実際、知覚の不快であって、それは、満足されていない欲動が迫りくることの外的知覚である。
外的知覚とは、それ自体としての知覚の苦痛、または心の装置の内に不快な予期を換気して、装置によって危険として認識される知覚である。
心の装置が予期する不快とは、本人が望まない出来事に対する感情であると考える。
何をいいたいとすれば、私はあの女の見捨てることが不快なのだろう。
殺すことは絶対に嫌だ。
殺されるところを見過ごすのも同義語ということらしい。

「よし、行くかッ」

私は意を決して反転し、来た道を戻る事にした。
どうも心がムカムカする。
果たしてこの選択が正解なのかを確かめたいのかもしれない。
頭の中に浮かんだフレーズは「かも」や「しれない」ばかりだが、やはり分からないのだからしょうがない。
分からないのなら確かめるしかないのだ。
こればかりは他人に任せられない。
自分で答えを見つけなければならない。
女の悲鳴が聞こえる。
目を凝らしてみると女が倒れてメガネが地面に落ちている。
このままではやはり殺されるだろう。
クマまで止めだといわんばかりに襲いかかろうとしている。
頭の中でもう一人の自分が囁く。
やはり見過ごそう、と。
もう私はどちらでもいいのだと思う。
どちらにしてもメリット・デメリットがない。
ならばどうするか、それは気分で決める。
人の死を見過ごすか、助けるか。
そして私は見過ごす気分ではないのだ。
その選択肢ならば絶対に助ける。
私は全力疾走のままクマの額を蹴り上げた。
鈍い感覚が足越しに伝わってくる。
言葉で表せられないクマの悲鳴が木霊する。
人以外に危害を加えてもこんなにも気持ちが悪いのか。
ならば人を助けてよかったのだろう。
女は何が起きたのか分からないといった様子でメガネを拾い私を見た。
今のお前は天秤の皿だ。
偶々私がそちらに乗っかったようなものだ。
だから私はいった。

「運がよかったね」

そう言いつつ、私の胸の中は歓喜に満ち溢れていた。
その喜びを一言でまとめるときっとこれだろう。『やって良かった』だ。
自分の傘が盗まれて、腹が立った。
自分のを盗まれたのだから他のを盗んでやれ、と思った。
実際に盗んだが、どうも気分が悪い。
気持ち悪くなる。
原因が分からないままに私は傘を元にあった場所に戻して雨の中を歩いた。
どうも気分がよかった。今と同じほどにだ。つまりは同じなのだろう。
身体が軽い。
ずっと頭を紐で縛られたようで窮屈だったのがそれがなくなったようだ。
重力を感じない。
私は女の反応を確かめずに走り出した。
サクラ達を探すためだ。
きっと今の私は笑顔なのだろう。私は笑っていた。



誤字脱字の報告と感想が欲しいです。



[30608] Re:サスケという病
Name: ぷりんこ◆3fd4a793 ID:e9adabe3
Date: 2012/08/04 05:39

雲水《くもみず》
雲と水。また転じて、行く先の定まらないこと。うんすい。



気が付けば私は見渡して一番太い枝の上で居眠りをしてしまっていた。
疲れやすい体質なのかもしれない。いや、それだけじゃない。
疲れると眠い。嫌なことがあると眠い。難しいことを考えていると眠い。
一種の逃避行為なのだろう。
一次試験の筆記テストでもほかの事を考えていて眠ってしまった。
今はそのおかげで多少、身体も軽くなった。思考も障害物なしに淀みなく進んでいく。
解放された気分とはこのことを言うのだろう。
その癖、寝すぎると嫌な夢を見始める。
だから自然と常に浅い眠りになってしまう。
変な映像が流れたら即座に起きる。
毎日が寝不足だ。
剣戟が聞こえる。軽い金属のぶつかり合い。手裏剣かクナイか。
サクラ達かもしれない。そう思うと私は力強く枝を蹴る。
宙を駆ける。風が気持ちいい。
今までこんな気味の悪い森の空気なんて嫌いだったのに、今はそんなことが気にならない。

「嫌なら引っ込んでろつってんだよ、このデブ!」
「ボクはデブじゃない! ポッチャリ系だコラー!!」
「ネジとサスケって奴を狩らなきゃいけねぇってのに、先ずはこのデブからだな」
「サクラ、後ろの二人のことは頼んだわよ」
「ったく、めんどくせぇことになりそうだ」

広場に出るとどうやら複雑な状況のようだ。
茂みの中から観戦中である。
シカマルが敵の体を止めている。あれは、影か。便利そうだよなぁ。
どうやら自分以外は敵というルールの中ででシカマル達が私達の味方になっているらしい。
今も「いのチーム全力でいくわよ!」と音符の記号の額当てを身につけている三人と抗争中である。
そいつらはどうやら私が目当てのようだ。あとネジって誰だ? そんなのいたっけかなぁ。
いのが言っていた後ろの二人とは、ナルトとリーのようだ。お互いに気を失っている。
サクラもふらついているようだ。真っ直ぐに立てていない。
よろめきながらナルトの傍へ寄り倒れかけるように座り込む。
私を狙っているようだからあまり前には出たくなかったのだが、そうは言ってられないようだ。

「あまり無事とは言えないみたいだね」
「気配を消して後ろに立たないで。間違えて刺すわよ」

サクラは半目で私を睨め付けながらそう言った。
怖い怖い。冗談のつもりじゃなかったのだが。

「ナルトはどうしたんだ。そこまで痛めつけられるほどの奴等か」
「あいつ等じゃない。大蛇丸って奴が来た」
「こっちも同じだったよ。なんなんだ、あいつ」
「天災みたいなものね。死ぬかと思ったわ」
「あー、それだ。それ。どうやって助かったんだ」

大蛇丸の強さはそれこそ天災だ。
人は自然の前ではちっぽけなものだと、同じことを奴の前では感じた。
サクラとナルトの二人協力したそれよりも私のほうが強いと思ったから一人で残ったのだ。

「サスケのほうに影分身を送ったって奴が言った。殺すとも言ってた。そしたらナルトが急にキレて大蛇丸ってやつをブッ飛ばしたのよ」
「私は影分身にも殺されそうだったんだが、本当にナルトがやったのか」
「凄いチャクラだった。でも大蛇丸に何をされたか分からないけど急にそれがなくなって、大蛇丸もいなくなってた」

それでこいつ等に襲われたってことか。しかも私狙い。本当に大蛇丸って奴は厄介な事を残していくな。

「これでおしまいよ!」

いのが敵の女の体を乗っ取ったようだ。あれも便利そうだよなぁ。
敵に巻物を置いて遠くに行けと言う。しかし、奴等はそれを聞いて笑みを浮かべた。
頭がおかしいんじゃないかと思ったが、サクラは違ったようだ。

「いの! そいつ等から離れてッ」
「バーカ」

どうやら私も馬鹿の仲間入りのようだ。
男の腕から衝撃波のようなものが発射された。
いのが乗り移った仲間に向けて。

「がはっ」
「ふんっ、油断したな。俺たちの目的はくだらねぇ巻物じゃなければルール通りにこの試験を突破することでもねぇんだよ」
「ネジ君とサスケ君だよ」

どうやらその中でもサスケ君は腑抜けで出来損ないのようですが、と奴等は笑う。
いのは吹き飛ばされて大木に激突する。本体からも口から血が流れているところからみて危険な状況だ。

「サスケ」
「なんだ」
「さっさと行ってぶっ殺してきなさい」
「殺すのは勘弁な」

やれやれ、と私は敵を見やる。
いのを吹き飛ばしたほうは衝撃破のようなものを掌から出す術を持っていて。
もう一人の奇抜な服装と顔中が包帯塗れな方は一次試験の時にカブトという先輩を倒したよくわからない術を持っている。
女のほうは気絶中だからどうでもいい。
相手は私のことを出来損ないやら出涸らしやら、または失敗作だと思っているだろう。
つまり油断している。特に衝撃破の方は調子に乗りやすい性質だろう。キバとそっくりな気がする。

「ようやくお出ましか! ビビッてんじゃねぇぞ、おい!」
「まてザク。少しは冷静にいきましょう」
「お前までビビッてんじゃねぇ、ドス!」

ザクとドスか。よし、決めた。
ザクの手足を折ろう。徹底的にだ。
チャクラを体中に巡らす。静かに満遍なく充実させる。
兵糧丸の効果はまだ続いている。
全身を活性化させると間欠泉のようにアドレナリンが噴出してくる。
まるで脳髄が沸いているようだ。
体重を足の裏にかけて歩き出す。いつでも最大速度で走れるようにだ。

「余裕こいてんじゃねぇぞッ」

衝撃破、眼前まで空気の膜が広がってから気付く。
範囲が思っていたよりも広い。
受けたら致命傷ではないが、痛いだろう。
いのが乗り移っていた女を見やる。血を吐いて倒れている。
絶対に当たりたくないと思った。
地面に逃げた。高速で地下を掘っていく。手が痛い。
頭上を衝撃が通り過ぎていく。
穴を残さずに天井を作ってから目暗ましに起爆札を爆発させて更に地面を掘り進んでいく。
手が痛い。畜生、クナイの1つでもサクラから借りて置けばよかった。

「どこに消えやがった! 逃げたか!?」
「いや、さすがに逃げない」
「ぐはっ」

起爆札で巻き上げられた砂煙の中でザクは私を探していた。
背後から地下で掘り出した岩石で殴り倒す。
こぶしよりも3回りほど大きい岩石に血が付着した。
気持ち悪い。後ろに放り捨てる。
眩暈がした。血の臭いがする。鉄の臭いだ。くさい。
ぐったりと地面に伏しているザクの右腕を掴んで、肘を逆間接に折る。
チューベットのような小気味な音ではなく軟骨を噛み砕くような音がする。
嫌な感触だ。気持ちが悪い。
こんな状況じゃなきゃ絶対にやりたくない。
でもやらなきゃこいつらいつまでも私を殺しにくるんだろう、と思うと俄然力が篭る。
痛みで叫びだしそうだったので顔面を踏みつけ地面にめり込ませる。
そうすると声が出なくなった。
すかさず反対の左のほうも同じように圧し折る。
肘を膝の上に乗せて曲らないほうに一気に体重をかける。
嫌な感触が掴んだ手と膝に伝わる。
両膝が震えてくる。胃がムカムカする。
もう限界だったので足を折ることはやめる。
多分、いや、確実に次で吐くだろう。
だが、まだまだ終わらない。終われない。
もう一人いる。虚勢を張らなくてはならない。

「だから冷静に対処しろと言ったのに」
「サスケ! 残った方は超音波を使うから近寄らないで!!」
「うるさいですね、あの女。殺しておけば良かった」

煙が晴れると同時にサクラからの助言、なるほどと思った。
だからカブトは嘔吐し倒れ、サクラもまっすぐに歩けないほど消耗していたのか。
ならば怖くはない。
豪火球の術を放つ。直径2メートルはあるだろう火球が地面を抉って進行していく。

「こんな術に」
「いいから避けろ!」

私は叫んだ。
ドスはハッとなって直前で避けようとするが左手、手甲が取り付けられていないほうが火球に飲み込まれた。
火球は我にも関せずといったように直進し続ける。飲み込まれたドスの左手は肘から先が真っ黒になっていた。
嫌なにおいがあたりに漂った。火球は背後の大木を薙ぎ倒して爆発する。
この場全体が緋色に染まる。

「さっきの衝撃破ならいざ知らず、お前程度の超音波で私の火遁が掻き消せるわけがないだろう」
「くっ、うちはの基本忍術ですか。さすがに得意技なようですね」
「得意なんじゃない。これしか教われなかっただけだ」

だからこれだけは練習した、と私は続けた。
緊急事態を除いて、丁寧に練り上げた私の豪火球の術は中忍や上忍が放つそれと遜色がない威力だと私は思う。
もうこれしか残っていないのだ。よく研磨し、昇華させなくてはならない。


「早く残った奴等を連れて消えろ」

私に人を殺させるな。さっきも死ぬところだったんだ。
死ぬなら私の知らないところで死んでくれ。

「君は強い。全然話と違うじゃないですか。今の君はボク達では倒せない。これは手打ち料、ここは引きます」

ドスは巻物を置いて仲間を背負い消えた。地の巻物であった。
これで揃った。2種類揃った。
肩の荷が下りたような感触、気が抜けた。
少し疲れた。




ある男と出合った。栗毛の男だ。
髪は短くとても小ざっぱりした、とても優しそうな目をした奴だった。
お互いに魚を求めているという変な状況だった。



ナルトが目を覚ました。
第一声は、

「サクラちゃん、か、髪がっ」

え? うわ、本当だ。短い。気が付かなかった。
いの達と離れ、リーが目覚めて待ち合わせに遅れると焦ってどこかに行った。
私達はどこか落ち着ける場所を求めてナルトを背負って歩いていた。
大木が連なって壁のようにそそり立つ場の中央に大きい岩が転がっている。
厳かな雰囲気のある所であるが急襲にも対処しやすいだろうと休憩地点はここに決めた。

「イメチェンよ。似合うでしょ!」

そういえばあの後いのがサクラの髪になにかしていたような。
放心状態だったからあまり覚えていない。

「私は長いほうが好きなんだけど、ほら、こんな森だと動き回るのに邪魔なのよ」
「そういや、あの後どうなったんだってばよ。あのオカマ野朗ッ!?」
「いの達やサスケ、あとリーさんが助けてくれたわ」
「ふぅーん」
「あとね、一人になってちょっとだけあんたの大事さがわかったわ。ちょっとだけ強くなれた気がする」
「サクラちゃんは最初から強いし頼りになるってばよ! なぁ、サスケ!」

そこで俺に振るか。ずっと蚊帳の外だったのに。

「サクラは隊長だからな。そうじゃないと困る」
「生意気だってば」
「うっせ」
「二人ともありがと」

妙な空気になった。しんみりする。
だが、ナルトの腹が鳴ったと同時にサクラも、私も同じようにグゥと鳴った。
そういえば一日なにも食べてなかった。緊張が解けて自然体になってしまう。

「腹が減ったな。ここらで食料の調達でもするか」
「そうするってば、腹へって死にそうだぜ」
「私とナルトで果物とか探してくるからサスケは他のをお願いね」

また蚊帳の外か。
まぁ、あの大蛇丸が出たときにナルトは一人でサクラを守った。
わからないでもない。

「まぁいいさ。それじゃあ1時間後にここで集合だ。この大岩の前で」
「そうね、あんたたちたくさん食べそうだし一時間は必要ね」
「よっしゃー! ついでに肉も探すってばよ!」

サクラが果物、ナルトが肉、なら私はどうしようとトボトボと歩いていると川原を見つけた。
魚にしようかと座り込んで、拾った千本を曲げて針金を作っていると背後に気配を感じた。
いつでも対処出切るように千本をまた真っ直ぐに戻して投げれるようにしている。
動いた、と思ったらそいつは私の隣に座った。
短い栗毛に細目。
肌は雪のように白い。
服装は緑色のフードが付いた厚手のシャツ、濃紺の長ズボン。
両手には私と同じように捻じ曲がった千本があった。
笑みを浮かべて私を見てきた。
私は呆気に取られて、私も笑っていた。

「巻物は持ってないし、もう必要ないから緊張しないでよ」
「どうやって信用しろってんだよ」
「仲間はみんな殺されたし、巻物も取られたんだ。もう合格なんて出来ないでしょ」

クスクスと笑って何事もなさそうにそういった。

「やけに落ち着いてるな。どうかしてるよ」
「かもね。ボクは止めたんだけど、みんな勇猛果敢に挑んで砂にまみれてぺしゃんこになっちゃったよ」
「勇猛果敢ね。そりゃ五分五分の相手に挑んだ時に使われる言葉じゃあないか」
「命知らずでも間違ってないね、それじゃあ」

ナルト達よりも会話がしやすい。ただそんなことを考えてた。
久しぶりに話すのが楽しかった。

「ボクの名前はくもみずうんすい。字にすると雲水雲水だから、言いやすいほうの雲と水でいいよ」
「うちはサスケだ。それじゃあ雲水《うんすい》のほうで呼ぶ」
「ボクは草隠れの里からきたんだ」
「私は見ての通り、木ノ葉隠れの里だよ」

少し間が空いてから雲水が「う~ん」と唸りだした。
どうしたのかと聞くと、

「針はお互いできたみたいだけど、糸はどうするサスケ君?」

1つ分かった事は雲水はマイペースな奴だということだろう。
嫌いじゃあない。

「そこらの蔓か草の繊維で任せようと思ったが、雲水はどうするんだ」

ボクはこうする、といって雲水の指先から光る糸のようなものが出てきた。
なんだこれ、チャクラか。

「傀儡の術に使うチャクラの糸だよ。モノにくっつければ引っ張れるし持ち上げられる。生活と家事に便利なんだ」
「簡単なのか」
「わかんないや。ボクは簡単だったけどサスケ君はどうだろ。形状変化とか分かる?」
「分かる」
「その要領でやってみなよ。慣れてきたら何本も出せるようになるよ」

ほら、と雲水は右手の人差し指から一気に10数本の糸を出した。
私は同じように人差し指にチャクラを集中させた。指を凝視する。
イメージはそれこそ糸、髪の毛、細いもの。つらつらと指から垂れるようにそうイメージする。
ボッと、勢い良くバットくらい太い棒が出てきた時、雲水は大笑いしていた。
絞めてやろうか、と睨みつけると雲水は笑いを止めずに言った。

「筋はいいよ。もういないけど仲間にも同じように教えたらなにもでなかったしね」
「黙って釣ってろ。あと必要以上に釣れたらよこせ」
「いいよ。もとからそのつもりだったんだ」

横からパシャパシャと次々と魚を釣っていく雲水を横目に私はチャクラコントロールの調整をする。
「餌はつけないのか」と俺が聞くと「これも修行なんだ」と雲水は言った。
指から出てままのバット級の太い杭を徐々に細めていく。ゆっくりであるが細くなっていく。
雲水が10匹ほど魚を釣った時には杭は手首サイズにまでなっていた。我ながら遅い進歩だ。

「ボクの両親は普通の居酒屋なんだ」
「なんで忍者になったんだよ」
「才能があるって言われたんだよ」
「いいね、羨ましい」
「人を殺す才能はなかったけどね」
「嫌々やってんのか」
「そうじゃあないんだけどね。のらりくらりと続けてたら中忍試験に推薦されちゃったんだ」
「優秀なんだな」
「サスケ君だって今は同じステージに立っているよ。ただ、里の人たちはボクを普通の忍びにしたいみたいなんだ」
「いい迷惑だな。平和が一番だ」
「そうだね、本当にいい迷惑だよ」

雲水が20匹ほど魚を釣った時には杭は親指サイズにまでなっていた。格段に細くなったとは思う。

「君は血の臭いがあまりしないね」
「まだ一人も殺したことがない」
「だと思ったから隣に座ったんだと思うよ」
「適当だな」
「直感を信じたんだ。ボクの勘ってよく当たるんだ」
「いいね。そんな能力、私も欲しいよ」
「分けれたらいいんだけどね」

雲水が30匹ほど魚を釣った時には、雲水は飽きたといって私の様子を窺っていた。
杭の太さは人差し指ほどに太さになっていた。つまりあまり変わっていないということだ。
雲水が私に寄ってくる。

「ちょっと指を見せてよ」
「ほれ」
「チクってするよ」
「なにしやがるッ!」

こいつ、俺の指に千本を刺しやがった。とっさに雲水の頭を叩いていた。

「はは、イメージだよ。
このちっちゃい傷から血が出るのと似たイメージでやると僕はすぐにできるようになったよ。
あとチャクラ込めすぎ。
込めると確かに丈夫にはなるだろうけど、そんなの出来るようになってからでもいいんだ」

ほら、と雲水が指を見せてきた。奴の指先にはいくつもの微かな刺し傷がある。
実際に、先ほどよりも指先に集中しやすくなった。
他の箇所など目向きもせず傷がある指先に一直線で意識が向かう。
また先ほどと同じようにチャクラを練る。
そうするとさっきまでの中指サイズから一気に釘サイズにまで細くなった。

「おおっ」
「でしょ。サスケ君は集中力が凄いんだよ。ボクほどじゃあないけど知ってる中じゃあ一番早い覚えるのが早いよ!」
「今までに何人くらいにこれを教えたんだ」
「仲間だった二人とサスケ君だけかな」
「ぬか喜びさせんな!」

また雲水の頭を叩く。今度はもっとやさしくだった。
こんなやり取り、ずっとやってなかった。楽しい。
もっと話していたい。そう思った。
おっと、気が付けばチャクラ糸はほぼ髪と同じ太さといえるほどに細くなっていた。
動け、そう念じると糸の先端がピョンピョンと跳ねる。
石の上に糸を乗せてくっつけと念じて糸を引っ張ると一緒に石も浮かび上がった。

「言ったでしょ」
「ああ、こりゃあ確かに」
「「生活と家事に便利だ(なんだ)」」

私達はなんとも馬鹿のように笑う。この空間だけ現代に戻ったかのようだった。
期待するわけではないが、私は聞きたかった。

「雲水には変な記憶が残っていたりしてないか」
「いやだなぁ。ボクはまだボケてないよ」
「そうか」

変な記憶を持っていたからといってどうするわけでもない、と自分に言い聞かす。
ただ、私はこいつと一緒に秘密を共有したかっただけなのかもしれない。

「サスケ君、仲間は大丈夫?」
「今頃食料を集めてるだろう。時間は、あまりないな。そろそろ集合だ」
「それじゃ魚の分配といきましょうか!」
「ほとんど雲水が釣ったんだ。3匹でも残しておいてくれたら十分だ」

雲水はニコニコしながら魚の数を数えている。
そういえばこいつ、餌をつけずに釣ってたな。
魚を見つけて糸を移動させて引っ付けるか引っ掛けて釣っていたのだろう。
恐ろしいほどの精度だな。私と会話しながらそんな感じに30匹も釣ったのか。
敵として出会わなくて本当に良かった。

「おっと、魚は置いていきな。俺たちが頂く」
「他国の忍びと仲良くしてんじゃねぇぞ!」
「ついでに巻物も置いていけ。それなら命は取らない」

木ノ葉の先輩かね。随分と血の気が上がっているようだ。
返り血も拭かずにそのままのところから察するに戦闘直後か。
興奮している奴等に説得は無理だろう。

「私がやろうか」
「いや、もう終わったよ」

雲水がそういうと奴等はパタッと倒れた。
良く見るとチャクラ糸が奴等の首に絡まっている。

「殺した、わけないか」
「気絶させただけだよ。言ったでしょ、便利だって」

見事な手並みである。
いつのまに糸を動かしていたのか横にいる私も分からなかったし対面している奴等も気がつかなかっただろう。
本当に敵として出会わなくて良かった。
私がそんなことを考えていると雲水は魚の数を数える作業に戻っていた。

「全部で27匹だね。う~ん、そっちは3人だし18匹がそっちで9匹がボクでいい?」
「しかし、一人で9匹か。そんなに食べそうにないのに良く食べれるな」
「いやいや、そこで寝てる人たちの分もこっちにいれてるんだ。ボク自身は3匹あれば十分だよ」
「こんなにもらえるなら文句は言えないな。あと2日もあるから助かる。そうだ。雲水も一緒に行動しないか」
「ボクはいいよ。この人たちも言ってたけど敵国の忍びだからね。それに、この魚を食べたら移動して安全なところに行きたいんだ」

失格になれば森の外に出ても文句はないだろう。
危ない奴がいるようなこんな場所、私でも失格になったら早く出て行きたい。
だから無理強いはできないな。

「そうか。それじゃあ、ここでお別れか」
「そうなるね。でもきっとまたどこかで会うと思うよ」
「勘か」
「うん」
「良く当たるならしょうがない。きっと会うんだろうな」
「だからまたね、が正解だと思うよ」
「あぁ、またな。それとありがとう」
「うん、またね」


大量の魚を覚えたてのチャクラ糸で吊るして持ち帰る途中、そこにはどでかい豚を背負ったナルトとサクラと鉢合わせになった。
2日どころか5日くらい過ごせそうだなと私は思った。
サクラが塩を非常食として持ち歩いてなければ悲惨な味になっていたかもしれない。


誤字脱字の報告と感想を頂けたら嬉しいです。



[30608] ナルトという病
Name: ぷりんこ◆3fd4a793 ID:e9adabe3
Date: 2012/08/04 05:40
初めて 面と向かって話した人間っていうと、やっぱりサスケなんだろうなぁ。
その時の情景は今でも忘れない。
公園で俺と同じくらいの年の奴等が親に迎えに来てもらって皆帰っていった。
俺だけ公園に残った。日が沈んでいくのと同時に寂しくなっていく。
酷く、嫌な気分だったってばよ。
一人ぼっちなのを誰にも見られたくなくて場所を移した。
トボトボと、ずっと歩いていたら疲れて池の辺に座り込んだ。
そのままウジウジとしてたらアイツは、サスケは俺に声をかけてくれた。

「よぉ」

うちはサスケ、忍者アカデミーで同じクラス。
あまり周りとつるまねぇ暗いヤツ。
それがその時の俺のサスケに対する認識だったてばよ。
今でもそう変わらないかもしれない。

「家には帰らないのか」
「そんな気分じゃねぇ」
「そうか」

サスケはその時、それだけで会話を止めて本当に帰ろうとしやがった。

「ちょっと待てッ、普通は理由くらい聞くってばよッ!」
「悪い悪い、腹が減ってるんだ」
「嘘つけ、こんにゃろーッ! テメェの口からラーメンの匂いがするってばよ!!」
「鼻が利くなぁ」

サスケの適当さは当時からだったってばよ。
大して問題のない嘘なら平気で言う。
結局、サスケは、その場に留まって俺の話に付き合ってくれた。
内容はアカデミーの話やイルカ先生の愚痴、キバやチョウジのこととか。
サスケは、「へぇ」とか「ふぅん」みたいな返事ばかりだった。
だけど、ここまで俺の話に付き合ってくれたヤツはサスケ以外にはいなかった。
他のやつらはいつも俺からの一方通行で、「話す」というよりも「喋る」のようなもんで、
味気ないサスケの言葉は、とても楽しかった。
突けば鳴る鐘のようで、言葉を口に出せば絶対にサスケは返事をくれた。
最後には、

「ずっと暗いヤツ暗いヤツって思ってたけど、やっぱりサスケって暗いヤツだってばよ!」
「ずっと馬鹿だ馬鹿だと思ってたんだが、やはりとんでもない馬鹿なんだな、ナルトは」

そう言って笑いあった。
その日の帰りは一人でも寂しくなかった。
月がこんなにも明るいなんて知らなかった。


時は過ぎて、幾らかの出来事はあったけど、無事にアカデミーを卒業することができた。
下忍として俺もデビューできたってわけなんだが、なんと同じ班にサスケとサクラちゃんがいた。
サスケは俺と同じサボり魔。授業中は寝ているか、又は参加すらしていないらしい。
成績も同じくらいってキバが言ってた。
安心した。やっぱり俺らは同じようなもんだって思った。
サクラちゃんは俺の憧れのようなもんだ。
可愛くて、成績もアカデミーで一番良い。
元気でよく笑う。アカデミーで苛められて、それでも負けなかった。
俺はサクラちゃんが好きなんだってばよ。


「まずは自己紹介をしてもらおうか」

そう言ったのは俺たちの班の担当上忍、カカシ先生だってばよ。
真っ白い髪をツンツンさせて額当てで左目を隠して、ついでに顔の下半分がマスクで隠れている。
どっからどうみたって怪しいヤツ。遅刻した上に謝りもしねぇ。
ぜってぇ碌なヤツじゃねぇってば。

「先生から言ってください。どういう風に言えばいいかわかりません」

そう言ったのはサクラちゃん。そうだそうだ、と俺も手を上げて連呼した。
一瞬、サクラちゃんは俺のことを変な目で見た。
嫌な感じがしなかったから特に気にしなかったが、もうちょっとアカデミーでまじめにやっとけばよかったと思った。

「そうだな」

カカシ先生はそういって自己紹介をしてくれた。
俺の知ってる自己紹介とは違ったってば。
事前に好き嫌いや将来の夢、趣味とかを言えって言っていたのに、結局自己紹介で分かったのはカカシ先生の名前だけだった。
やっぱり変な人だってばよ。
しょうがねぇ、本当の自己紹介ってもんを見せてやる、ってな感じに俺は手をあげた。

「俺の名前はうずまきナルト! 好きなものは一楽のラーメン! 嫌いなもんは特になし! 
 将来の夢はぜってぇに火影になってやることだってばよ! そんでもって趣味はいたずらだ!!」

一瞬、シーンとなった。
サクラちゃんは、「サボり魔がなれるわけないじゃない」と目で訴えている。
サスケは、「へぇ、そうだったんだ、へぇ」と分かってるんだか分かってないんだか興味なさ気だ。
カカシ先生は、なんだか生暖かい眼差しで俺のことを見ていた。
あれ、これが普通の自己紹介じゃなかったてば?

「気合があってよろしい、よし、次!」

カカシ先生が一気にこの空気を吹っ飛ばしてサスケを指差した。
おい、こら、「言わなきゃ駄目?」って顔してんじゃねぇぞ!

「うちはサスケ。好きなモノはギャンブル、嫌いなものは絶対に勝てないモノと子供、
 あと将来の夢とか分からないけど、ある人と会って話がしたい。以上」

ぼけー、っとしながらサスケは言い終えた。
子供が嫌いってオメェも子供だろう!ってツッコミを入れたかったが、
サスケのヤツ、冗談でも叩くと本気で殴り返してくるから困ったヤツだってばよ。
なにが、「すまん、条件反射だ」だってば。
それからサクラちゃんの自己紹介。将来の夢は綱手様のようになりたいって言ってたけど、誰だってばよ。

俺達はこっから始まったんだと思う。波の国にいって、死にそうになったり、でも助け合ったりして、毎日俺は強くなってるって実感がある。
そしてこの中忍試験、途中で襲ってきた大蛇丸なんかサスケが一端は俺達を助ける為に囮になってくれけど、また襲ってきたってば。
サスケのやつが殺されちまったのかと思ったらすんげぇ力が出てきてなんとか倒せた。
正直、もう戦いたくねぇ相手だったってば。
大蛇丸以外は特に問題も無く塔へ向かった俺達は途中で木ノ葉隠れの先輩下忍だというカブトという人に会った。
第一試験の時に音の下忍共になんだかしらないけど攻撃されてた人だってばよ。
仲間とはぐれたらしく合流する為に一緒に行くことにした。
悪い人じゃあなさそうだ。サスケのやつが忍具をなくしたらしいってことでカブトさんが補給してくれた。
だらしねぇやつだってばよ。マジでカブトさん良い人だ。
そんでもって、カブトさん曰く、塔の周辺に巻物を奪おうとする奴がいる可能性がある、らしい。

「んなもんブッ飛ばしてやるってばよ!」

と、言ってみたけど、

「嫌よ。巻物が揃ってるならもうリスクを負う必要はない筈だわ」
「そうだな。ナルトの案だとリスクはあってもリターンがない」
「ボクも猪突猛進でいくよりはリスクを避けたほうがいいと思うよ。第一の試験の揉め事から左の耳がまったく聞こえないんだ。もし、戦う事になればボクは足を引っ張ってしまう」

まさかみんなにこうまで言われるとは思わなかったてばよ。
ひでぇなぁ。
んで、だ。塔に辿り着いて巻物を開いて見ると、

「人と…人?」

なんかわけわからねぇ。なんだってばよ、人と人って。
俺がそう思っているともわもわと煙が立ちこんできて、

「ナルト、サクラ!! さっさと離れろッ!」

なんでサスケってば、サクラちゃんは押して、俺だけ蹴っ飛ばすんだってばよ。
もしかしてサクラちゃんに気があるってばないってば。
はは、俺達は色々なライバルだなぁ、と思いながら俺は壁に激突した。
一瞬だけイルカ先生の姿を見た気がしたけど、一瞬で視界が真っ暗になった。
最後に、「やべ、強すぎた」って呟いたやつ、あとでとっちめる!

「今回は第一と第二の試験が甘かったせいか、少々人数が残りすぎてしまいました」

周りがざわめく。俺もざわめく。
気が付いたら知らない場所にいて、しかももう半ば説明が進んでいる状況だったってばよ。
回りにゃあ人がたくさん居やがるし、つか、空気が重い。
あとサスケの野朗が「やれやれだ」ってぐあいにため息を吐いているのが頭にくる。
ついでに、審査官の試験が甘かった云々で色々やばいってばよ。頭の整理がおいつかねぇ。
あれが甘かったのかってば。マジで死にそうだったてばよ。
もしかして俺達だけがあんな目にあったってことで、いつも運がいいっていわれるけど、実は運がないんじゃねぇのか。
隣を見る。サスケのやつもげんなりした顔で新しい審査官を見てるってばよ。
俺達、苦労したもんなぁ。あとサスケは後で一発殴る。

「第三の試験には多くのゲストがいらっしゃいます。よってだらだらと試合はできませんので第三の試験の予選が必要なんです」

ゴホゴホ、ってさっきから咳ばっかしてるってばよ。
月光ハヤテ、といってたけど、なんか今にも倒れそうだってば。

「というわけで体調のすぐれない方や今までの説明でやめたくなった方はすぐに申し付けてください」

これからすぐに予選が始まりますので、と咳をしつつ続けた。
おめぇがすぐに棄権しろ!! とツッコミをいれるところだったってばよ。
もう見た感じ死にそうだぜ。他に人がいなかったのか。

「あの、ボクはやめときます」
「え、カブトさん……」
「わかってくれ、ナルトくん。ボクは弱い。ボクがそれを一番理解している。だからこれ以上は危険なんだ」

え、マジで!? とまたもやツッコミをいれてしまいたくなっちまった。
なんでカブトさんが、と思ったけど、
『第一の試験の揉め事から左の耳がまったく聞こえないんだ。もし、戦う事になればボクは足を引っ張ってしまう』
森の中でそういっていたことを思い出しちまった。
誰も好き好んで棄権なんてしてぇわけがねぇってばよ。
仕方ねぇ、俺がカブトさんの代わりにいっちょ張り切って優勝しちまうってば。

電光掲示板に名前が出た2人が会場の中央で戦う、らしい。

ちなみに会場の中央にいるのは俺とサスケだってばよ。
サスケの後頭部には中々に大きいタンコブが出来ている。
背後からの不意打ちだった。助走をつけて思いっきり振りかぶった。
だけどサスケのやつ一瞬で気付きやがって、クリーンヒットはしなかった。
もしかしてたら一発でKOしてた自信があるね!
ちなみのその後は一方的なリンチだったってば。鼻血がやばい。
これは普通の鼻血の出方じゃないってばさ。なんか視界も不明瞭だし。
7発くらいは殴られたかな。マウントポジションから抜け出す忍術を考えなくちゃいけねぇな!
それと、2回くらい本当に気絶しそうになったけど、なんかしらねぇけど俺ってば気絶しにくい体質なんだってばよ。
本当に地獄の時間だったってば。気絶したくてもできねぇってすっごくつらいぜ。
カカシ先生とサクラちゃんが止めてくれなければ逝くとこまで逝ってた気がする。誤字じゃないってば。
別にこれ、第三の試験の予選ってわけじゃないってば。
最初か軽く小突くだけで済ます心算が隙だらけのサスケを見て、
勢い余ってフルスイングしちまったから予選さながらの戦いに発展しただけ。

「そろそろやめないと二人とも失格にしますよ」
「チッ、殺し損ねた」

サスケがマジで物騒なことを言ってる。やっぱり拳に乗っかった気配が物騒すぎた気がしたってば。

「では、掲示板に示された2名を除くみなさん方は上のほうへ移動してください」

そう、これは予選でも何でもないんだな、これが。
掲示板に書かれた名前は、ウチハ・サスケVSコウヨウ・モミジ。

「気張っていけってばよッ!」
「ぶっ殺すぞ!」
「やってみろってば! つかもう半殺しにされてるぞ、テメェッ!!」

コウヨウ・モミジってヤローとサスケを除いて俺達は上の階に移動した。
吹き抜けってやつかな、一つ下の階の全貌が見えてる。
2人だけで戦うにはかなり広いってばよ。

「カカシ先生ェ! サスケってば勝てるよな!」
「んー……オレもサスケの実力は測りかねてるんだな、これが」
「でもでも、アイツが負けるところは想像つかねぇってばよ」

負けて悔しがるサスケ……やべぇ、面白すぎる!!

「あ~、それは私も想像出来ないわ」
「でしょ、でしょ! サクラちゃん!!」
「お前達、本当に仲がいいのね」

まぁ、サスケが負ける筈ねぇってばよ。
だって俺がそれを一番知ってるんだ。
あいつは強い。

「では第一回戦対戦者、うちはサスケと紅葉モミジ、両名に決定。異存はありませんね」
「ええ」
「ああ」

そろそろ始まりそうだ。
モミジって奴は、なんか薄緑色のひらひらした服を着てて顔はなんか真っ白い布みてぇなのを巻いててよくわかんねぇ!
あんなのでよく前がわかるなぁ。俺だったら壁とかにぶつかっちまいそうだってば。

「ねぇ、カカシ先生、相手はどこの忍びなの。見たこと無い額当てだわ」
「あー……あの国は生い立ちが複雑だからなぁ。若い子は知らないのも無理はない」
「それってどういうことだってば」
「教科書や地図上では存在しない国だからね」
「それってどういうこと?」

意味が分からないってばよ。
存在しない? 幽霊みてぇだな。

「んー……国の名前は花繁みの国、花盛りの隠れ里っていうんだがな。
 花繁みの国の地図ではちゃんと独立しているんだが、木ノ葉の国の地図では木ノ葉の領土となっていた。
 そして雲の国の地図では雲の国の領土となっていたんだ。
 それで両国が反発し合って戦争を起こした。
 その時は木ノ葉の国が勝ったんだがすぐ後に独立したらしくね。ま、色々とあの国は複雑なんだ」

花盛り、ねぇ。だから花びらみてぇのが3枚くらい書かれてるのか。
そういや、その花盛りの隠れ里の奴の仲間2人の姿が見えねぇ。応援くらいしてもいいってのに。

「カブトさんが辞退した時に一緒に2人も辞退したわよ」
「んじゃさ、担当の先生ェはどうしたってばよ。まさか怪我して来れねぇとか」
「花盛りの隠れ里は慢性的に忍者不足なんだ。木ノ葉と雲が決めたことなんだけどね。両挟みしている独立した国が強力な軍を持ってはいけない、ってこと」
「ってことはあの人が担当の先生も兼ねてるってこと!?」

サクラちゃんも驚いてるってばよ。俺はなんか難しい話はよくわかんねってば。
それよりもすぐにでも始まりそうなサスケの試合にしか関心がないのが自分でもわかった。

「それでは、始めてください!」
「行きましょうか」
「頑張るよ」

お互いに一言、言葉を交わした瞬間に2人の姿が消えた。
早すぎて分からない。
隣を見る。サクラちゃんもどこを見ればいいのか分からないようで唖然としている。
周りを見る。木ノ葉のルーキー達も同じだ。
ひょうたん抱えてる変なやつとか1つ上の木ノ葉の下忍達は上を見てる。
よく見るとヒナタもそうだ。あと担当の先生ェ達も同じように上を、天井のほうを見ている。
だから俺もそうしてみた。
そうすると、いた。
舞台を下の床から天井に変えて戦っている。
それでも早すぎて目が追いつかない。
時々、金属同士がぶつかる堅い音と一緒にサスケとその相手が鍔迫り合いをしているところが映る。
それでもすぐにまた見失っちまう。
チチチチッ、と手裏剣が中央でぶつかり合って下に落ちていく。
俺だったら一度にあんな沢山は投げれないし、それに合わせて応戦も出来ないってばよ。
隣でカカシ先生ェが「不味いッ」とか「それにしても…」とかぶつぶつ呟いている。
俺が必死にサスケの跡を目で追っているとカカシ先生ェが肩を叩いた。

「今ちょっと2人が距離を取った時にサスケが兵糧丸みたいなのを口にしてたんだが、もしかしてサスケって医療忍者とかだったりするのか」
「アイツはただのジャンキーだってば!」

邪魔すんじゃねぇってばよ! というか距離を取ったのも見えなかったぞ、おい!
カカシ先生ェの話だとサスケの奴、重りを外して薬中モードに入ってるってばよ。
つまり本気ってことだ。
サスケのやつ、いつもは頭の中がぼんやりしてる、ってぼやいてた。
兵糧丸ってのを食べるとタバコなんて目じゃねぇくれえにすっきりしやがる、と感想を残していたけど、
タバコを吸った事ないってばね、俺。よくわかんね。
しっかし、それにしても目が追いつけねぇくらい速く動いているってのに足音もなにも聞こえねぇ。
頑張って見ても時々影が見えるくらいだ。なんつー動きだってば、うねうねしてて目が回っちまう。
あいつってば、こんなに強かったんだなぁ。
そう思っていると突然、壁に穴が開いた。

「戦局が変わった。体術と手裏剣術だけじゃなくて忍術も使い始めたぞ!」

今度は火遁だ!、とキバの声が会場に響いた。
サスケの火遁は牽制とか捕獲とかまるっきり考えてないからなぁ。
あんなおっかねぇ術を平気に放たせるってことは相手もメチャクチャ強いようだってば。
案の定、サスケの豪火球の術(それ以外に使っているところは見たことない)は地面を削って壁に激突した。
なにも巻き込まなかったようだけど、空気を震わせて2階までグラグラと揺れるような衝撃が伝わる。
爆心地は綺麗な円形に抉れている。
相変わらずの威力だ。あんなもんまともにくらっちまったら骨も残らねぇぞ。

「なぁ、カカシ先生ェ…」
「ん、なんだ」
「サスケのあれ、絶対に威力がおかしいってばよ」

カカシ先生ェは「そうだなぁ」と呟いてポリポリと頭を掻いた。

「木登りで教えたチャクラの配分があの豪火球の術においては完璧と言ってもいい」

サスケは最初から出来てたようだけど、と先生ェは言う。
サスケの奴、あの術の練習を俺が「もう必要ないってばよ!」と何度言ってもやめなかった。
おかげで演習場は穴だらけだってば。
でも、

「それって無駄がない、っつうことならカカシ先生ェにもあれくらい楽勝ってことだってばよ?」
「いや、無理だな」
「どういうことだってばさ」

無駄がねえってことは教科書通りってことじゃねぇのか。
つうことは、同じようにすればみんなあんな術が出切るようになるんじゃねぇのかってば。
カカシ先生ェは言葉を選ぶようにして言った。

「うちは一族は火に愛されている。殊更、うちはサスケはそれが顕著に出ている。無理矢理チャクラを多く込めて似たものは出せるが、オレにああは出来ん」
「でも、サスケの豪火球、スパッとやられたってばよ」

そう、サスケが出しただろうでかい火球が突如、スパッと2つに斬れた。
そのまま左右に散って爆発する。耳がキーンとした。

「近距離がチャクラ刀で中距離がカマイタチの術、遠距離が烈風弾。いい練度だ」

そういっているとさっきぶった切られたやつよりもずっとでかい火の玉が現れて壁に激突した。
どこの戦場だ、と思えるほどの爆発音が鳴り響く。
そしてやっとまともにサスケの姿が見れた。サスケは天井に張り付くようにしてモミジって奴を見下ろしている。
モミジは天上を睨みつけるようにして会場の中央に立っている。
2人とも無傷だ。

「なんでサスケが上にいるんだってばよ」
「分かるわけないじゃない」

俺とサクラちゃんは同時にカカシ先生ェのほうを向いた。

「んー……、あれはな、サスケは相手が自分の火遁を避けるために上に跳ぶだろうと思った。
サスケは術を放ってすぐに先回りのために跳んだんだが、相手はそれも先読みして烈風弾で地面に穴を開けて逃げ道を作った」

つまり読み合いでサスケが負けたってことか。
なんでサスケのやつ、いっそ清清しくしているのか理解が出来なかった。
サスケがなにか呟いた。モミジって奴も同じように呟いたのか、顔に巻かれた布が微かに動く。
こっからじゃあ聞き取れねぇ。

「これが最後だ、ってサスケは言ったんだよ」

いつのまにか、カカシ先生ェは写輪眼を使っていた。
ああっ! それでサスケの口の動きを読んだのか。
便利だなぁ、写輪眼。

「開始してから約10分か、忍び同士の戦いだと異常の長さだよ、ほんと」

サスケの奴は手慣れた手付きで印を組む。
それすらも速すぎて霞んで見えた。
もちろん、豪火球の術なんだってばよ。
繰り返すけど、サスケがそれ以外の忍術を使ってるところは見たことがない。
足を止めての本気の豪火球の術、隣でカカシ先生ェが「あれは怖かったなぁ」と呟いている。
サバイバル演習の時のことを思い出してんのかな。
あん時は念入りに俺とサスケ、サクラちゃんで罠を張った。
俺とサクラちゃんを囮に完璧に隙を作らせた。
そっからサスケに豪火球の術を打たせたってばよ。
なんかサスケが「カカシ担当上忍にも通用する忍術がある」とか言うから任せてたんだが、
その時は俺とカカシ先生は死に掛けた。
あの時、カカシ先生ェが水遁で守ってくれなければ……、想像するだけでもう一発殴ってやらなきゃ気がすまなくなったってばよ。
サスケェ……終わったら覚えとけよ。

「カカシ先生! モミジって人も印を組んでますがあれって何の忍術ですか!?」

サクラちゃんはあの時、本当の恐怖を味わってないからな。
俺はサスケがあの印を組む度に体がビクっとするんだってばよ。

「ん、あれは風遁大突破の術だな」
「それって広範囲に攻撃する奴ですよね」
「チャクラで吐く息を増幅させる忍術だからな。あれは中忍級の忍術の筈だが……まぁ、あいつらを枠に嵌めてもしょうがないか」

うん、しょうがないってばよ。
俺が思うに、サスケとその相手も簡単にそのまま忍術を出し合って終わりなわけがないってばね。
きっと俺達が驚くようなことをしでかすに決まってる。
サスケの奴は印を組み上げて大きく息を吸った状態で面前で両手の掌を拝むように合わせた。
始めて見る動作だってば。
モミジって奴も印を組み上げて大きく息を吸った。
サスケと違うところは、懐から銀色の筒を取り出して口元にまで持ってきたところだってば。
サスケの術が完成した。

「サスケのばっきゃろーッ!!!!」

強く両手の掌の隙間に噴出した豪火球の術は俺が知っているものよりも3倍、いや4倍ちかく大きかったってばよ。
それはもう、舞台に収まるギリギリの大きさで、完全に俺達も巻き込まれると思った。
直径10メートルくらいあったんじゃないか、って大きさだってばさ。
その時、見えた。
あの馬鹿でけぇ火の玉を迂回するように飛んでいく手裏剣が4枚、文字通り四方からサスケに向かっていくところを。
風遁はフェイクだった!? サスケは驚いたような表情を浮かべた。
何故ならあの術を放った反動で天井にぶつかって落下している最中だったからだ。
手裏剣が刺さる、と思った直後、サスケの体が不自然に逸れた。空中にいるのにも関わらずだ。
どういうことだってばよ。わけがわかんねぇ。あいつ飛べたのか。

「ん、チャクラの糸を天井に貼り付けて体を動かしたみたいだ」

マジでカカシ先生の写輪眼が活躍してるってばよ。俺にはなにも見えねぇぞ。
チャクラの糸ってあれか、なんかサスケが森で覚えたっていう引っ張ったりできる糸か。
そして、サスケが手裏剣を無事に避けたと思ったと同時に、なにかがあの馬鹿でけぇ火球を突き抜けた。
突き抜けたそれはサスケにぶつかって、

「サスケってば、天井ぶちぬいて吹っ飛んじまった……」

天井には人が2人ほど入れる程度の穴が空いていた。その穴から外の日の光が差し込んでくる。
ぽっかり穴の開いた火球がゆるやかに失速し、地面に激突したのはそのすぐ後だった。
俺とサクラちゃんはカカシ先生ェが作った3重の水の壁(サバイバル演習の時もこれだったってば)で襲い掛かる熱風を凌いでいる。
耳をつんざく爆音、視界が真っ白になる発光、そして水の壁越しに伝わる空気の振動。
半端ない忍術だ。
だけど、その忍術を放ったサスケの姿は見えない。
見えるのは各々、あの惨劇から身を守った(守られた)人たちと、未だに燃え盛る会場だ。
モミジって奴も見当たらない。まさか蒸発しちまったとか。

「まさか、サスケは豪火球の発展版ともいえる忍術を使い、相手も同じように術を昇華させるなんてな」

写輪眼を見開いてカカシ先生ェはそう言った。
少なくとも、俺は2人がなにをしたのかも分からなかったってば。

「2人ともなにか聞きたそうな顔をしてるな」
「いや、本当に何がなんだか…」
「うんうん」

俺はサクラちゃんの言葉に頷くだけだった。
もうなんか悔しいとかどうとか関係ない。
俺とサスケじゃあスタート地点も修行の量も色々と違うのだ。
同じ舞台に立てるなんて思ってもいない、と思わせられた。

「順を追って説明するぞ」
「はい」
「はい、だってばよ」
「ん、サスケがしたことは単純だ。
 豪火球の術の周りに更に両手で作った性質変化と形状変化で作った擬似豪火球をくっつけたんだ」
「性質変化って?」
「形状変化、ってば?」
「まぁ、性質変化はチャクラに属性を持たすこと。
 形状変化はチャクラに形を持たすこと。サスケはチャクラを火に、そして形を豪火球のように円形にしたってことだな」
「なるほど……」
「サスケってば、いつのまに……」

普通の豪火球の術でさえすんげぇ破壊力だってのに、またとんでもねぇ忍術になったってばよ。
サスケは誰と戦っているんだ。
あんなもんにしなくても十分殺傷力はやばいってばさ。

「そしてモミジって子のは更に複雑だ」
「ああっ、あの人なんか筒みたいのを出してた!」

確かに、そんなこともしてたってばよ。
でも複雑なのかぁ、理解できっかなぁ。

「あの子のしたことは大まかに分けると5つだ。先ず、忍術を組む。これは風遁大突破だ。
 2つ目は、手裏剣を投げること。あの大きさの火球を迂回して真反対にいたサスケを狙い撃つ技術が必要になる。
 3つ目は、広範囲に効果を現す風遁大突破の術に形状変化を加えて矛先を一点に絞ること。
 4つ目は、サスケが手裏剣をどう避けるかを予測してそこを風遁で狙い撃つこと」

その4つをあの一瞬でしたんだ、とカカシ先生ェはまとめた。
また形状変化かってばよ。チャクラの形を変えるんだっけ。

「まさかッ」
「そうだ。あの筒はそのためのものだ。チャクラを通すだけでその形を固定させる道具は忍具の中でも珍しくない」
「つまり、チャクラ刀等と同じ要領ですか」

そうだ、とカカシ先生ェは頷いた。
俺が分かった事は1つだってばよ。あの筒は風遁の術のなんかすげぇ範囲の攻撃を狭めたってことくらいだ。
あと2つだけわかんないことがある。

「なんでサスケの術が負けたんだってばよ。あと最後の1つってなんだってばさ」
「最後のは秘密だ。残念だが、言えない。術に関してだが、
 サスケは範囲を広げた対多人用の術であって、モミジという子は範囲を狭めて威力をあげた術なんだ」

つまり、術の性質(せいしつ)の相性よりも術の性質(たち)の相性が悪かった、とカカシ先生ェは言うがよくわからない。
サクラちゃんはなにやら頷いている様子からして理解はしてるんだろう。あとで教えてもらうってば。
会場の様子も落ち着いたのか、2階にいるみんなは冷静に舞台を見始めているみたいだ。
1階のほうも火が自然に鎮火して、黒く煤けた床が見えてくる。
そこにやはりモミジって奴の姿はない。本当に蒸発しちまったんじゃねぇのか、と俺は心配になった。
完全に火が消えた。やはりモミジの姿はない。これ勝敗はどうするんだってばよ、と思ったとき、
カラッ、と石の破片が天井から落ちてきた。差し込む日の光の中に見慣れた影があった。
サスケだッ!

「死ぬかと思った」

そういうと上から飛び降りてくる。
その姿は満身創痍と言ってもよかった。
服も髪もボロボロで頬には最後の手裏剣で傷がついたのか一筋の赤い線が見えた。
着地の際に左の腹部を片手で押さえていた。更に傷を負っているみたいだ。
そうやってサスケの状態を観察してると、また1つの変化が生じた。
地面がムクムクと膨らんできた。
まさか、と思った。

「……熱い」

地面から這い出てきたのはやっぱりモミジだった。

「やる気ないんじゃなかったのか」
「ちょっと勝ちたくなっただけ」

ほぼ同じ文句を言う2人の姿が、認めたくないけど、似合っていた。
サスケは怪我だらけ、比べて、モミジのほうは外装が少し焦げ付いているだけだった。
まったく正反対だったけど、それでもサスケが負けるところが想像できない。
アイツはきっとなにかする。そう思わせるなにかがある。
サスケは苦笑いを浮かべてモミジを見やる。
モミジのほうは顔を包む布のせいでよくわからなかったけど、似たような仕草だった。

「こんな強いなんて思ってなかった」
「ありがとう」
「私もちょっと勝ちたくなった」

そう言った直後、カツッ、と地面になにかが刺さる音とサクラちゃんの「影縫いッ!?」という声が聞こえた。
そして喋っていたサスケの姿が再び霞み、背後から表れてモミジの腕を掴んだ。避ける暇さえ与えずに。
なぜ簡単に捕まえられたんだ、と俺は思った。
よく見ると、モミジの手足がキラキラと光って見えるってば。
あれは、チャクラの糸だってばよ。
あれで動けないようにしたってわけか、だけど、なんで最初からやらなかったんだってばね。
そして、同時に上から物凄い速度でなにかが降ってきた。
サスケだった。天井の穴から風を切って飛び出してきた。
落下する力を利用して加速して、そのまま押さえつけるようにモミジの上に覆いかぶさった。
その衝撃で最初にいたサスケはボン、と煙となって消えた。
これは、影分身の術だってば。サスケの奴、本当にいつのまに。

「……これは」
「奥の手ってやつだな」

やっぱりまだ奥の手を残してやがったってばよ。
つか、チャクラの糸も奥の手ってことだったのか。
サスケの両腕はモミジの首元を締め上げる。
あれは痛かったなぁ、と俺は自分の首元をなぞったってば。
全然外れねぇんだ。あの馬鹿力で締め上げられると。
もうサスケの勝利を確信した。あれからは逃れられないってばさ。

「影分身の術は本戦で使いたかったな」
「……同意見」

モミジが苦しそうにそう言うと、さきほどのサスケと同様にボン、と白い煙となって露と消えた。
たまたま見えたんだけど、天井に刺さってた手裏剣の一枚がボン、とモミジになったってばよ。
俺も、サクラちゃんも、「え?」と一言あげた。きっとほとんどの下忍がそういったにちげぇねぇ。
そのまま天井を踏み絞めてモミジはサスケ目掛けて加速した。

「なんでだってばよ!?」

なんでサスケは、後ろに振り返ってるんだってばよ。
音は上からした。あのサスケに飛んで行った手裏剣に変化して。
それなのにサスケはわけも分からずに後ろを睨みつけた。
そして落下、モミジはサスケを組み伏せて首元にクナイを添えた。
さっきと全く同じ感じだってば。

「あれは幻術、いや風遁の一種だな」

カカシ先生が写輪眼で舞台を睨みつけている。
風遁って、いつのまにそんなことできる余裕があったんだってばよ。

「おまけにあれは性質変化と形状変化を同時に行い、その上で消費するチャクラの量が少ない。とても繊細な術だ」
「難しい術なのにチャクラがあんまいらねぇって矛盾してるぞ! あとやっぱりどうなってるかわからねぇってばよ!!」
「あれは空気の流れがない密室空間でしか使えないものだろう。音の伝達を滅茶苦茶にされたんだ」

音の伝達、意味がわからねぇぞ。サクラちゃんは一端驚きの表情を浮かべた後に納得したような顔になった。
同じような説明を受けたのか、あのキバでさえ驚いている。

「カカシ先生ェ……意味が分からないってばさ」
「音の伝達が狂わされた。つまり音の出所が違う場所から聞こえるようになったんだ。
モミジという子は手裏剣に変化していた。そして思い切り天井を蹴って落下した。
その時に生じた音はサスケにはまったく違う場所から聞こえるようにされていた」
「きっとサスケは今頃、自分の声が背中から聞こえたりしてるんだわ」

だからサスケは後ろを振り返っていたのか。
あまりの勢いで落ちたのが原因か、サスケの体が少し地面に陥没している。
考える事から行動まで、最後までそっくりだった。
その上で、奴はサスケの上をいっちまったってことか。
サスケがなにか呟いた。
そのお返しか、サスケの耳元に顔を近づけてモミジも同じようにする。
サスケは一瞬驚いたように顔を崩し、また苦笑いを浮かべた。

秘密だった5つめを今になって理解したってばよ。
カカシ先生は苦々しく現場を見つめていた。
「あと二月くらい、サスケに時間があれば」と呟いて。
サスケがこうなる前に影分身に気付けていれば、もし写輪眼さえ持っていれば、
そんな顔だった。

「まいった」

と告げた。
サスケは負けた。
どうやら、オレってばサスケとは戦えないみたいだってばよ。




[30608] Re:サスケという病
Name: ぷりんこ◆3fd4a793 ID:e9adabe3
Date: 2012/08/03 11:45
長い説明を終え、無事に第三の試験の予選が行われようとしている。
会場は緊張と静寂に包まれている。平らで広い、障害物のない舞台だ。アクシデントは生じそうにない。
つまりは実力が大きく反映されるのだろう。
目の前にいる月光ハヤテという審査官、その前に火影が説明をしていた通りならば、
これは同名国内の戦争の縮図だ。運よく第一回戦目に他国同士の戦いが始まるという事だ。
相手はコウヨウ・モミジと現行掲示板には書かれていた。
身長は私よりも指2本ほど高い。
服装は全体的に淡い緑色で統一された服装で、特徴と言えば少しオーバーサイズなのか袖が余っていることだろう。
表情は分からない。木乃伊のように顔中に真っ白い布が巻かれていて、それを固定するように額当てが掛かっている。
見たことのない額当てだ。なんの花かは特定できないが花弁が舞っている様な模様をしている。
観察していると急にズキン、と後頭部に熱が篭った。
軽く頭を摩る。瘤が出来ていた。先ほど急にナルトに殴られた箇所だ。
理由はよくわからない。なんとか避けることができたが、当たり損ねでこれだ。
そのまま殴られていたらと思うとゾッとする。
最近甘やかしすぎたのが原因かもしれない。軽く反撃はしといたがやりきれない想いだ。

「では第一回戦対戦者、うちはサスケと紅葉モミジ、両名に決定。依存はありませんね」
「ええ」
「ああ」

返事だけをして私はやっと真剣に対戦相手を見やる。
第一回戦だってのに妙に落ち着き払ってやがる。
どうやら自分に自信があるようだ。その天狗鼻を圧し折ってやりたい気持ちになる。
運よく、すでに重りは外してある。ナルトに軽いお仕置きをした時に外したのだ。
私は重心を静かに後ろに移動させる。軽い半身の状態だ。右足を後ろにして一気に加速させる。
そこで微かにだが、相手の、モミジの挙動に変化が生じた。
私と同じように半身で右足を後ろに、重心をずらした。
全ての感情は目に表れる。顔の部分で唯一露出している目を私は睨んだ。
一切の揺らぎもない。
私は悟る。

「それでは、始めてください」
「行きましょうか」
「頑張るよ」

モミジは本当に自信があるのだ。
全力で後ろに下がった。
チャクラの吸引で靴底と床の摩擦を強め、体の反動で背後に跳ぶ。
私が元居た位置の、大体首下あたりに煌く銀色の一閃。
モミジの手にはいつ取り出したか分からない小刀があった。しかも微かに青白く発光している。
滅茶苦茶だ。なんで私ばかりこんな化物と戦わなければならないのだ。
ホルダーから補給したばかりの手裏剣を3枚取り出して投げた。
2枚は誘導、1枚が足元を傷つけるための本線、先に飛んでいく2枚の手裏剣の影に潜ませた影手裏剣の術であった。
ちょうど私とモミジの中間地点辺りで誘導も含めて全てモミジが放った千本で落墜された。
有無を言わせぬ速攻といい容赦ない追撃は私の脳裏に絶望を与える。
相手の動きが速すぎる、というわけではない。
速さにしたら全力のロック・リーのほうが圧倒的に速い。中の上の中忍のほうがもっと速い。ただし、それらは直線の動きに限るだろう。
奴の特徴は、縦横無尽に動ける柔軟性と速度だろう。
考えるに初速と最大速度が限りなく近いのだ。だから錯覚を起こす。
そうこう考えつつのらりくらりと回避していたら一瞬、モミジの姿がぼやけ、背後から風を切る音が聞こえた。
しゃがみこみ、両手足を地面につける体勢を取る。
そうだ。モミジという奴の動きには音が伴わないのである。
無音、といってもいい。どこの再不斬だ。嫌なものを思い出させる。
奴の蹴りの風圧で後ろ髪が逆立つ。
それはムエタイの蹴りのように直線的で、速く無駄の無い蹴りだった。
故に軌道が読めた。
私はその蹴り足を掴んで捻った。それと同時に軸足である左足を伏せた体勢のまま蹴り上げる。
いわゆる水面蹴りだ。
体勢を崩させて乗りかかって殴りつけようとしたのだが、蹴り上げた筈の足に感触はなかった。
「あれを往なすのか」と私は世界の広さを感じた。
私の蹴りの威力を殺すために身を捻ったのか、モミジは私に背を向けていた。
パッと掴んでいた手を離して、ホルダーからクナイを取り出す。
私達の位置はとても近接しており、私が下からモミジを見上げるような状態だ。
そこからすくい上げるようにクナイを振るった。
モミジは、振り返り様に一種のチャクラ刀だと思われる小刀を振り下ろした。
一瞬の拮抗、その一瞬後で何事も無かったかのように私のクナイはモミジの面前を通り過ぎていった。
私の背中に一筋の汗が流れる。所謂、冷や汗だ。
これも往なされた。そう思案した直後に思い切り伸びきっていた横腹に衝撃が走る。
モミジの肘鉄だ。
今になって始めてのクリーンヒット、終わってしまった、と思った。
しかし、予想よりも6割は痛みがない。あまりにも軽い攻撃に私は困惑する。
判断材料はあった。遠距離の武器が豊富なこと、接近戦でさえチャクラ刀といった特殊武器を使っていること。
決定的な判断材料が身近にある。未だ手にしたクナイと自分の立ち位置だ。
クナイはチャクラ刀との激突に半分ほどまで切り込みがある。
そこまでの切れ味があるのにも関わらず、奴は私の攻撃を往なした。
そして私に肘鉄をいれたモミジがいつのまにか後退している理解の出来ない行動。
なぜ先攻したモミジが距離を取る。
仮説、奴は力がない。攻めきる腕力が不足している。だから武器に頼っている。

「無傷で接近、まぁ三割くらいの確率か」

チロリ、と唇を舐めてみる。乾ききっていた唇に湿りが生じた。
緊張している。だが、試す価値はある。採算も立つ。
チッ、と舌打が聞こえた。左後方からだ。
またか、またいつの間に移動したんだ、と私は奴の動きの速さに呆れた。
そして驚くほどに良い立ち回り方。動きが曲線を描き、それでいて最大速度から減速せずに走り続ける。
簡単に視界から外れ、軌道も残さない。だから姿を見失ってしまう。
こういった動きは訓練で得るものではない。戦場での動き、なのかも知れない。
振り向くと面前には幾本の千本が飛来してきている。
恐れず、焦らず、冷静に、言外に念じる。
最大速度で負けている心算はない。所詮は初速のみ。動き始めれば後は覚悟の差量だ。
低体勢を取り、踏み込む。それと同時に、脳裏に記憶した千本の軌道に合わせるようにこちらも手裏剣を投げた。
けたたましい金属同士がぶつかり合う音を耳元で聞いた。目線をあげる。
千本は軌道がまっすぐで変更が利かない。手裏剣は予想通りに千本の弾幕をこじ開け、私の道を作ってくれた。
勢いをなくした千本の隙間を縫うように私は駆け抜けた。
当然のように数本の千本が私の体に刺さったが、それも予定通り。
両手でクナイを逆手に持ち、殴りつけるように手を振るう。拳が当たってもいい。避けようとしてもクナイで切り刻む。
私とモミジの距離が零になる。
それにしてもありえない技量だ。目まぐるしく振るっている2本のクナイと拳、全てを紙一重で避け、または往なしていく。
縦横無尽に駆け回るモミジに私は距離を空けずに追随する。
舞台は床のみではなく壁も走り、そして天井でも私達は駆けた。
キィン、と高い音を立ててクナイが折れる。最初に切り込みをいれられたモノだ。
モミジの顔に巻かれた布が微かに揺れる。口元の付近だ。表情を緩めたか。
阿呆が、と私も表情を緩めた。
そして1本だけになったクナイ、持ち方を変える。両手持ちに切り替えて即座に全力で振り下ろした。天井に足をつけているので振り上げた、なのかもしれない。
金属同士がぶつかる音、そして砕けた岩とその破片が床に落ちていく音がした。
金属同士は単純に私のクナイとモミジのチャクラ刀がぶつかっただけ。これもクナイの半分近くまでチャクラ刀が食い込んでいる。
そしてもう1つは勢いよくモミジの膝が天井の岩にぶつかった音だ。
体勢を崩し、膝をつけた。
結論、奴は非力、だ。

「まるで柳に風だ」
「酷い言い草」

手ごたえが無い、と言外に告げる。
クナイから手を離す。これ以上の力を込めればクナイがもたない。
手持ちの接近戦の武器はもうない。だが、もう離すつもりもない。
近距離ならばそれほどにまで警戒する必要が無い。だが、遠距離と中距離ならば恐ろしい速度と技量で圧倒されてしまう。
徒手空拳しかない。奴の速さに間接を極めれらる自信もなければ投げ技で距離を作るのも馬鹿馬鹿しい。
襟首を掴もうとしたその時、まるで私の思考を読んでいたかのようにモミジは私の手を叩いて私の顎に頭突きを喰らわせた。
同時に水月に蹴りが入る。
頭突きと蹴りがもろに入ってこの程度の痛み、私ならば確実に意識を刈り取れるだろう。

しかし、再び距離が空いてしまった。
もう警戒されているだろうから接近しようとしても容易には掴めまい。

「あとは理詰めか」
「ならばこちらが有利」
「言うは容易いね」

ホルダーから兵糧丸を取り出し、噛み砕く。
クッ、と呼気が溢れて思わず笑ったかのように口が動く。
叫びたくなるほどの爽快感、疲れ、怒り、葛藤、悩み、そんなマイナスの要素が全て吹っ飛ぶほどの上昇気分。
引っ張られるような重力は消し飛び、体中から力が漲ってくる。
同時に私達は印を組んだ。



「つまらなそう」
「そっちは楽しいのかよ」
「やる気がでない」
「周りが納得しないんだからしょうがない」
「かもね」

当事者同士でしか聞こえないような声量だが、確かに交わした会話。
しかし、会話のキャッチボールは下手糞だ。途中途中でデッドボールが飛んでくる。
言い終わると同時に圧縮された空気の塊が眼前に飛び込んでくる。
幾度も放たれた攻撃である。
しかし、慣れることはない。
紙一重で避ける。当たっていないのに顔の肉が風に押されて大きく歪んだ。
当たっていたら首の上だけ観客席まで吹っ飛んでいただろう。
見えない上に高威力、そして機動性が私の豪火球よりも遥に高い。
冗談であってくれ、と思うくらい、まともにくらうと致命傷だ。
お返しだと私も豪火球の術を放つ。
なんという気の抜けた火球であろうか。
込めたチャクラが散漫、形も球体であるがどこか曖昧だった。
もみじの動きが多彩すぎて術の構成に集中出来なかったのだろう。
威力や精度を度外視、速さだけを求めていた。
それくらいにモミジとモミジの攻撃の速度と連射性が高すぎた。
その中途半端に出来上がった火球、しっかりとモミジの姿を追って直進したが、
あろうことか途中で真っ二つに切り裂かれた。
切り裂かれた火球が左右に散り、爆発する。

「戦うのは好きじゃないんだ」
「同じく」
「全く、なんでみんなこんなに戦いたがるんだ」
「忍が政治をしている時点で諦めた」
「それは考えてなかった」

何故か、交戦中の会話が増えてきた。
最初はモミジがため息を吐いていたところを私が、「どうした」と尋ねたところから始まった。
「ダレた」という一言、私はその言葉に納得した。
所謂、千日手という状態になっていた。
実力は拮抗している。
お互いに相手のミス待ちである。
そしてお互いにミスはしない。
いい加減に疲れた。緊張と集中力が精神的に相当圧迫してきている。
時間制にしてくれればよかったのだ。
話が逸れた。
なんだかんだいって私はモミジとの対話が気にいっている。

「野菜を食べたい」
「ずっと川魚か肉ばかりだったからなぁ」
「生えてるのは全て毒草だった」

私も基本的な忍術は体得しているが、そのどれもがもみじには通用しないだろう。
実体の無い分身の術、影縫いの術、身代わりの術、実用性の高い術であろうが、試す気にもならない。
私が最も好んで使う忍術は、うちはの基本忍術だ。
最も練習し、最も私の期待の応えてくれてきた豪火球の術。
車やバイクで例えるなら、まめに手入れをしている愛車。
信じて全力でアクセルが踏める。
途中で故障するなんて頭の片隅にもない。

「負けてはくれない、か」
「里の代表だから」
「どうやってそこまで強くなったんだ」
「戦争」
「嫌な時代だ」
「どちらが原因を作ったと思っているんだか」

当然、大国だ。私が生まれた国だ。
私はその考えに破顔し、笑う。
風景が常に変わっている。周りの全てが線。
目まぐるしく動き続ける私達、空気の塊が面前を通り過ぎていく。
モミジの基本忍術は風遁だ。
発動は、べらぼうに速い。狙いも精確だ。
なるほど、確かにモミジの実力なら普通の戦争くらいは上手く立ち回れるだろう。
しかし、小手先の技だと私は思う。
小器用で使いやすいが、大局的に見ると大したことはない。
長くてよく切れる刀を振り回しているようなものだ。
私の本気の豪火球の術は、城壁も打ち砕く。
十全を尽くして印を組む。
先ほどの豪火球の術とは見違える出来のモノが出来た。
それは大きく、堅く、速く。
モミジもカマイタチを放つが、それすら飲み込む。
これで決まるとは思っていない。
左右上下、モミジはどこへいったか。
私が選んだのは上だ。
特に深い考えがあるわけじゃない。
モミジが上に逃げていない事は知っている。
私の豪火球の術以外の何かが地面を抉る音がした。
きっと地面に潜ったのだろう。
一気に思考が凍りつく。
脳内で渦巻いていた熱気が去った。
集中して作業しているときに「なんでこんなことをしているのだろう」と思うのと似た感傷だった。
モミジの「ダレた」という一言、私も同意する。
いい加減、終わらせて一風呂浴びて布団で寝たい。
大技で決める。
超豪火球の術だ。
参考としたのが超かめはめ波だというから安直な名前だ。
唇が歪む。きっと笑っている。
天井に張り付きながら下を睨む。
モミジが地面から這い出てきた。
見たところ無傷だ。
目線が交わる。

「これで最後」

この豪火球の術、真に完成すれば城も沈められる、だろう。
モミジは腰から銀の筒を取り出した。
目が語る。
この術は、城をも貫通する、と。
初めて見る印だった。この試合ではまだ使われていない。
印の数からみて私の豪火球の術と同じように中忍以上の者が扱うものだろう。
まとめて叩き潰す。
両手に豪火球の術を五つは放てるだけのチャクラを込めて、一気に性質変化させる。
同時に形状変化で口内から吐き出した全力の火球を覆うように包み込む。
視界を覆いつくす巨大な火球、それが舞台目掛けて下へ加速する。
構成、密度、速度、回転、現時点では最高の出来であった。
原作のうちはサスケにも負けていないと自負している。
元より主人公のライバル、こんなところで負ける筈がないのだ。

「え」

なんという間抜けな声、私の口から出ていた。
風を切る音と共に手裏剣が4枚、四方から飛んで来た。
超豪火球の術の反動で私は天井に叩きつけられる形で身動きが取れない。
浮遊感、天井で体がバウンドして地面へ落下している。
全力で右手からチャクラ糸を伸ばして天井に付着させる。
人間一人を持ち上げることができるのか、試した事がない。
眼前に手裏剣が迫ってきた。
体は持ち上がらない。仕方なく左手からも出す。
全ての指から一本ずつ、計10本のチャクラ糸、全てが天井にくっつく。
一瞬、ガクッと体が揺れる。それでやっと落下が止まった。手裏剣が頬を掠る。
助かった、と私は安堵の息を吐いて豪火球の術の終止を見届けようと下を見た。

「あ」

安心感、突如それが恐怖へと変わる。
超豪火球の術を何かが貫いた。
核である火球が消し飛ばされ、自然落下していく出来損ないの火の輪を見た。
そしてそのまま豪火球を貫いた何かが私を押し潰した。
背中のコンクリートを打ち抜く音、体の内部で硬い物が折れる音がした。
景色が暗色に変わる。



「痛すぎて逆に目覚めもいいわな」

ぼそぼそと言葉にならない息を出す。
風が気持ちいい。地面が冷たく、そして体が重い。重力を感じる。
モミジの術で私は天井を突き破り外へ吹き飛ばされたようだ。
一瞬、気を失った。目が覚めるとまだ空を泳いでいた。
全身が軋んで痛みを発していた。吐き気がする。頭が痛い。
身動きがとれずに落下し、地面にバウンドしてしばらく転がっていた。

「奴さんは持久戦狙いだったようだし、さっさと終わらせようとしたのが失敗だったのかね」

敗因は意識の差だ。
私とモミジは互いに実力が拮抗していると判断し、私は短期決戦で臨み、モミジは持久戦で臨んだ。
口に出してなにか喋っていないと意識が飛びそうだった。
しゃべると舌を切った。どうやら歯が欠けているようだ。
とりあえず現状の確認だ。
腹の中で3箇所ほど尖った物が刺さった感覚がする。肋骨が折れてるのだろう。
視界が真っ白だ。何も見えない。酸欠状態だ。無理に喋っているからというのもあるだろう。
全身がたたきつけられて肺から酸素が全て飛び出した、もう言葉を出せるほどにはなったが眼がチカチカする。
頭から落ちたのだろうか、額が割れている。髪が濡れている。鉄の臭いもする。
ついでに首が痛く熱く曲らない。

「指は折れていないから忍術は使える。足はやばいかもしれない。痺れて動かない。首は折れちゃいない」

ゆっくりと上半身だけを持ち上げる。顔が左手の方を向いてから動かない。
両手で頭の側面を掴んで無理矢理に正面を向かわせる。嫌な音が頭に響く。
視界が明瞭になっていく。私は立ち上がった。

「構成が雑すぎたんだ。モミジは機会を待ち続けていた。ぶつける忍術も一極集中だった」

私のはただのやけっぱちだ。さっさと終わらせたいだけだった。
そもそもモミジ一人相手になぜ多人数用の術で挑んだのか。
あれはただのゴリ押しだ。全く、なさけない。
足を引きずりながら未だに煙を吐き出し続けている塔に向かう。
ポーチから増血丸を取り出して飲み込み、割れた額に止血剤を塗りこむ。
裂けた額から溢れる血の量が一瞬だけ増えたが次第に止まる。
すごい効果だ。多用は止めておこう。なにか怖い。

「こんなキャラじゃないと思ったんだけど」

喉に詰まったものを吐き捨てる。血が混ざった、ではなくまるで血のような色だった。
ついでに一緒に白い欠片も跳んでいく。
印を組む。奥の手、最後の切り札、影分身の術だ。
これは本戦で使うつもりだったのに、思わぬダークホースが表れたものだ。
ムカムカする。後でナルトでも虐めよう。

「死んでも動きを封じろよ」

白煙と共に表れた私の分身は今の私よりも幾分か軽傷であった。
影分身に先行させて、私はゆっくりと足を引きずり塔へ向かう。
あの影分身でチャクラがほぼ尽きた。もう煙も出ない。



「いやぁ、完敗だ」

私はナルトとサクラの肩を借りながら上階へ移動していた。
からっ欠のチャクラで影縫いの術を上の穴からする。
他は無理だが、モミジの腕力なら一瞬くらいは止めれるだろうチャクラ糸で動きを止める。
上からのしかかり突進する。
影分身なんて誰も出来ると思っていないだろう、という考えが甘かったのだろう。
モミジも陰分身で応対し、まさか未だに原理が理解できない幻術なのかなんなのか分からない術で混乱してしまった。
そして想像もできなかった手裏剣への変化。ナルトみたいに型破りな戦い方をする。

「いやぁ、完敗だ」
「2回目だってばよ、それ」
「いやね、もう、惚れ惚れするくらい上をいかれたからね」
「そういうものなのかしら」
「そういうもんなの」

あと一瞬顔が見れた。
なんと女だったんだな。名前的に女だとは思ってたけどね。
でも声質がハスキーであの喋り方じゃあ男女区別つかなかった。
寂しそうな顔立ちと青い目、笑みを浮かべ、
私の「お見事」という言葉に小さく「やった」と返した。
そのギャップに私は魅了されたのかもしれない。
一気にファンになってしまった。感情は抜きにして。
私の表情が気になったのか、

「悔しくねぇのかってばよ」

とナルトが睨みつけてきた。
なに人様のこと睨みつけてんだ、こん野朗。
というよりも顔に出ていたのか。負けて喜んでる奴は確かに変かもしれない。
まぁ、しかし、

「ただの黒星1つだ。トータルの負けじゃないからな」
「意味がわからねぇってば」
「負けたくらいで一々へこんでられないんだよ。全戦全勝なんて夢の見過ぎだ」

はて、そういえばなんで私は強くなろうとしたのだったか。
脳汁が沸いているのか、とでもいうかのように興奮している。
兵糧丸の効果が続いているだけなのかもしれない。
だが、気分がとても良い。
そう思っているとナルトの手が襟首にまで伸びた。

「……だから」
「なんだ」
「悔しくねぇのかって聞いてんだってばよ!」
「ちょっとナルトッ」

首が絞まる。直後、私は目を見開いた。
首から地面に叩きつけられた瞬間が思い出される痛みが走った。
私は振りほどくようにナルトの肩を殴り飛ばした。
力が入らないせいか、ただ押しただけのような結果となった。
ナルトは私を睨みつける。

「オレはサスケと……お前と戦いたかったってばよ」

意味が分からない。返す言葉も見つからない。
怒りに任せてもう一度殴りたくなったが、私は天井を見上げた。
「なんでお前が悔しそうな顔してるんだ」と問い質したくなったがもう全てが面倒に感じた。
穴が開いているそこからは空の色が見れた。
それが結果を思い出させた。
ここは挑戦者と勝者の居場所だった。私が居ていい場所じゃあない。

「次の試合が始まります。あとサスケ君は医務室に行くように……ゴホッ」
「……わかった」
「ちょっと! 次はナルトの試合よ。見終わってからじゃダメなの!?」
「うるせえ」

悔しいに決まってる。
うちはサスケが負ける筈がないだろ。


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