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[27655] 【習作 IS 転生 チラ裏より】 へいお待ち!五反田食堂です!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2013/03/18 01:45
はじめまして、釜の鍋といいます。

沢山の作品に後押しされ、初投稿しました。

どうかよろしくお願いします。


設定としては以下の通りです。


1、一夏の友人である。五反田弾の憑依モノです。

2、性格改変が嫌と思われる方はご注意ください。

3、メインヒロインはすべて一夏の嫁です。お相手はサブキャラになるかと思われます。

4、原作沿いですが、多少オリジナル路線になります。

5、基本的にコメディー、時々シリアスです。

6、最強モノではありません。一夏達と共に成長して強くなっていく方向です。

以上。


誤字脱字等の指摘は大歓迎です。



興味の惹かれた方は、どうかお付き合いくださいませ。
よろしくお願いします。


5/8 第二話の「織村」を「織斑」に修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/9 第二話の台詞の後に、」を付け加え修正しました。ご指摘ありがとうございます。

5/9 皆様に更新と勘違いさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。今後このようなことがないよう気を引き締めます。本当にすみませんでした。

5/11 所々修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/13 文章を修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/15 文章の修正と、間違いを修正しました。ご指摘ありがとうございます。

5/18 文章修正をいたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/22 文章を修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/30 恥ずかしすぎる間違いを修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/5  文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/12 文章を所々修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/19 文章と違和感のある部分を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/27 文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

7/3  文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

8/1  歌詞はヤバいとご指摘され内容変更しました。ご指摘ありがとうございます。

8/19  文章修正、間違い修正をしました。ご指摘ありがとうございます。

10/30 全話見直し修正、および改正を行いました。見やすくなったら幸いです。

11/29 ご指摘を受け、全話見直し修正及び改正を行いました。ご指摘ありがとうございます。

12/12 ご指摘を受け、所々修正しました。ご指摘ありがとうございます。



[27655] プロローグ
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 15:22
                  


眼が覚めたら赤ん坊になっていました♪

はい、みなさんこんちは初めまして、母親と思しき人の腕の中から失礼いたします。私の名前は五反田 弾というらしいです。

あれ? おかしいな? 俺の記憶の中では確か、自分は今年から大学に通うことになっている十八歳の学生だと記憶しているんだが?

いいぃヤッフー!! 受かった!! 俺受かったよ俺!! 来年から花の大学生だ、バラ色のキャンパスライフが待ってるぜ―! と、知人がドン引きするぐらい狂喜乱舞していた昨日の俺は何処へ?

酒を浴びるようにして飲み(おいコラ未成年)、そのまま倒れるようにマイベット(アニメヒロインの画像付きシーツ装備)の中で熟睡したまでが昨夜の記憶(記憶力良し)。

うん。思い返してみても、今現在の状況に繋がる要素は無いな。むしろ寝相悪くてベットから落っこちて悶絶して朝を迎える事の方がより現実的な筈。

間違っても自分を愛おしそうに覗き込み、優しい頬笑みを向ける母親っぽい人に抱かれるモーニングベイビーな朝を迎える事なんか皆無の筈。しかし美人ですね、最高です。


「ふふふ。だーん♪」


そう言って俺の頬をプニプニ触る美人な母親っぽい女性(面倒だから母親でいいかもう)。

おおう、何をするんですかお母さん。いいぞもっとやれ。


「…だぅー(貴女のお名前は何ですか、マダーム。)」
「あらあら? なーに? 弾?」
「んぶぅー(お美しいですね。結婚してください。)」
「うふふ、そうねー。とってもいい天気ねー。」
「あーうー(貴女の前では太陽の輝きすら霞みますマダーム。)」
「…はぁ、かわいい♪ 私の坊や♪」


むむ、流石は貞淑な若妻、俺の口説き文句を軽く流すとは・・・・出来る女性は違いますね。(通じてないことに気付いていません)

しかし、これはまいった。
こいつはもしかすると憑依転生というものではないか? 今流行りの。いや、死んだ記憶もないし唯の憑依かね?

・・・・いや待て!? まさかアルコール飲み過ぎて、寝てる間に中毒死したのではないか俺って!?

なんてことだ!! ちくしょう・・!! まだまだやりたいことは一杯あったのに! 昨夜缶ビールを三本も(一本250ml)呑むんじゃなかった! 俺の馬鹿! せっかく大学にも受かったのに(近くにある三流大学)、あんなに勉強したのも台無しじゃないか!(一夜漬け)

うううぅ!! ちくしょう!!


「ぶ・・・ぶぅぅええええええええん!(俺の人生バットエ―――ンド!?)」
「あら? どうしたの弾?」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!(花のキャンパスライフ―――――!!)」
「あらら?・・・・うーん、お漏らしじゃないわね?」
「ほぎゃぁぁぁぁ!!(彼女いない歴五年―――――!! あ、中学の時彼女いました。)」
「あ、お腹すいたのね? 弾ったら食いしん坊さんねぇー?」
「ぶええええぇぇぇん!!(とにかく俺の一生返してくれ―!!)」
「はいはい、ちょっと待ってね?…(ポロリ)はいお乳ですよー?」
「あぶ!?(あぶ!?)」
「うふふ、一杯飲んで大きくなってね? 弾♪」
「あむあむ(もちろんですお母様。これから立派な息子として生きていきます【キリッ!】)」


ふ…俺の前世なんざもうどうでもいいやぁ。目の前の母性の塊にくらべりゃ些細な問題さ!(二束三文で他人に譲れる人生です)

これから俺は五反田 弾として生きていきますお母様っ!!

目の前の母親に向かって(母性の塊を惜しげもなく俺に授乳する聖母様)に向かって、俺は決意するのだった。


しかし、はて?

五反田 弾。何処かで聞いたような名前だな?



こうして、俺のインフィニットなもう一つの人生が授乳と共に幕を開けた。



後書き

始まってしまいました。どうか広い心でお付き合いくださいませ。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。



[27655] 第一話   妹一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 15:30
妹が生まれました。


ちわーっす。どうも1才になったスーパーベイビー五反田 弾です。さっそくですが妹が出来ました。

俺の横でスヤスヤ眠っているお猿さゲフンゲフン、もとい初妹な赤ちゃん。そんな妹の横でふてぶてしく座っている俺は、じーっとその顔を覗き込みます。


…男の子じゃね?


うーむ? どう見たって女の子にゃ見えんのだよねー。猿っぽいし? つか猿やん。家のお母様は何処かで拾って来たのではなかろうか?

時折、んぶんぶと寝言らしき謎の声を発する妹的な存在に、もうちょっち近付いてみる。


…猿じゃね? いや猿じゃね?



「……(猿やーん、おーい猿?)」
「(スヤスヤ)」


むぅ、俺の念話(厨二病)にも気付きもしないとは、やるな妹よ!!(意味不明)

とりあえずなんか寒そうやからタオル掛けてやるぞほれ?

無造作に蹴りどかしているタオルを掴み、起こさないよう優しくかけてやる。


ファサ…ゲシ。(掛けたタオルを蹴りどかす妹)


……。


ファサリ…ゲシ。(も一度掛けるけど、普通に蹴りどかす妹)


…ほほう、そうきますか。


寝蹴りの良い子や。将来は立派な蹴りを放つ女傑になるだろう。兄として鼻が高いね、将来自慢できるかね?


【ほらほらみんな見てくれ! 今テレビに映っている選手は俺の妹なんだぜ! いけ! そこだ! うおおお見事な空中回し蹴り! 勝った―――――!】


うむ、中々いい未来じゃね? 頑張れ妹よ、兄は応援する。


「…(じー)」


おう? いつの間にやら起きたのか。妹が兄である俺をガン見していた。

泣きもしないとは好感度アップだぜ妹よ。ただいま妹魂度200パーセント。臨界なんざとうに超えたわ!

ふっしかしこの俺にメンチ切りとは。妹よ、お前にメ○チビームは一カ月早い。見よ!!これが兄の本場メン○ビームだ!!


「…(ギュピ―――――ン!!)」
「(じー)」
「…(バチバチバチ!)」
「(じー)」
「…(〇才児に負けた兄の図)」


恐ろしい奴だ、まさか負けてしまうとは。さすが俺の妹だ、兄は嬉しい。


「うー。」


モゾモゾと動き出す妹。
おう? どうした妹よ? 兄に分るよう喋ってみろほれ。


「あー。」


なるほど、おしめね。兄に任せろ。


「うー?」
「かーしゃーん! らんがおみょらししたー!」


…ぱたぱた。


「あら本当に? どれどれー?」



俺の声を聞いた母さんは、奥の方からやって来てひょいと妹を抱き上げる。

奥の方からは爺ちゃんの「おーう! 弾! 良く知らせたじゃねーか! 流石兄貴になった男は違ぇなぁ!」という声と「へー、しっかりした子だな」「あれで1才? 凄いなぁ」という声が聞こえた。

それに続く爺ちゃんの「だろう!? そうだろう!? 家の孫は凄ぇだろう! なんてったて俺の孫だからな!!」という爺馬鹿節にちょっと照れる。

その声に母さんも苦笑して見せ「ちょっとお店をお願いねお父さん。」と、爺ちゃんに声を掛けて蘭のおしめを確認しはじめた。


五反田食堂。本日も大好評営業中です。


あ、紹介がまだでしたね。
俺の妹の名前は五反田 蘭です。覚えてね?(今更)


「あ、本当だわ。すぐにおしめを替えようねー蘭?」
「ぶー。」
「きもちわりゅいってー」
「はいはい、すぐに替えてあげますからねー。弾もありがとうねー。蘭を見ててくれたのね。さすがお兄ちゃんね。偉いわねー。」
「うーあー。」
「いいっちぇこちょよー。きにしゅるなーらんー。」
「(会話できてるのかしらこの子達?)」
「キャッキャッ!」
「てりぇりゅじゃねーかーちくしょうめー。」
「…弾? 蘭はなんていったのかしら?」
「ありがちょーおにぃりゃってー。」
「…そう、なの?」
「ぶぇぇぇ…!!」
「はやくおしめかえちぇりゃってしゃー、かーしゃん。おしめとっちぇくりゅねー?」
「…うん、そうねー。お願いねー弾。(凄いわね家の子達って。)」


何処か衝撃的なものを見たような母さんに、ちょっと首をかしげながら。俺はよろよろと立ちあがり。おぼつかない足取りで部屋の隅に置いてあるオムツへと足を進める。

くぅ…!! まだ立って歩いて三歩だというのにもうHPがレッドゾーンだ!! ええい!燃費の悪い身体だ!!


プルプル…ボテっ!!(転んだ)


「あ! 弾っ!? 大丈夫!? 無理しないでいいのよ、母さんが――――。」


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ―――――――ッ(床を転がる弾)


パシッ!(オムツをGETする弾)


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ―――――ッ(転がり舞い戻る弾)


ヒョイ(オムツを母に差し出す弾)


「はい、かーしゃん。」
「…タダじゃ起きない子なのね弾って。」
「おちょこはたおれちぇも、ただじゃおきるものじゃねーっちぇ。じーちゃんが。」
「…とりあえず、ありがとう弾。(お父さん・・・後で覚えてなさいよ)」
「キャッキャッ!」
「おだちぇにはにょらないじぇーらんー。あちょでいっしょにねんねしちぇやるじぇー。」
「ぶー。」
「しょんないやにゃかおしぇんでもいいだりょー、きじゅちゅくじぇー」
「…はーい、おしめ替えようねー? 蘭?(家の子達って一体?)」


母さんが何処か驚愕してるっぽい雰囲気を出しているがなんだろう?
おもらしの度合いが凄いのだろうか?下品ですね、申し訳ありませんでした。

とりあえず、我が妹の蘭がおしめを替えてもらっている光景を、視界の隅に写しながら俺は、ふーと一息つく。


しかし五反田 蘭ね。

この名前もどっかで聞いたことはあるんだが、何処だっけ?

記憶力は良い方なんだがね?ままならんもんですね記憶力。もっと気合い入れろや俺の脳! …え? ちょっと無理? この頃徹夜続きでって、すいません激務の中空気読めない事言って。

むぅ、手詰まりだ。弾…蘭…団欒? 良い事じゃん団欒。(意味不明)


「ふー。ままにゃらんことだじぇー、じんしぇいっちぇもんはよー。」
「…。」


すくっと音も無く立ちあがった母さん。うん? どうしたのだろうか? あ、おしめ替えが終わったらしく妹な生き物の蘭が気持ちよさそうに笑ってる。

ローリング弾(転がって移動する俺の技)で蘭に近付いて、蘭の様子を見守ることにする俺。

母さんも爺ちゃんも、五反田食堂で大忙しだから、蘭の面倒は俺が見ていなきゃならんのだよ。うん流石だ俺。兄の鏡だ俺。


「らんー、ねりゅこはしょだちゅぜー? だかりゃねりゅんだじぇー。」
「あーあー。んまー?」
「こみょりうちゃ?おれはへちゃだじょー?」
「うーうーうー。」
「わかっちゃじぇい。ねーんねーん♪こりょーりーよー♪」
「すぴー…。」
「おおう。しゅげーな、おれのうちゃって。」


今日も五反田家は平和です。


奥の方から


「お父さん! お父さんが変なことばっかり教えるからっ! 弾が変なことを真似ちゃうんでしょ!」「はぁ!? ま、待て!? 俺は別にってうおおおお!? 馬鹿よせ! 中華鍋を振り回すなこらっ!!」「なんてことしてくれたのよーっ!?」「俺は知らねぇぇぇって言ってんだろうがぁぁぁっ!! ぎゃぁぁぁぁ!?」


なんて声がするけど。妹の安眠のため戸を締めた俺には聞こえない。



今日も五反田食堂は平穏無事に、大好評営業中。平和です。




後書き

五反田食堂のメニュー。どんなものがあるんでしょうか?業火野菜炒めは食べてみたいですね。



[27655] 第二話   友達二丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 15:37
あれから月日は流れて早いもので。


ちわっす! 中学生になりました五反田 弾です。

え? 幼稚園とか小学生時代はどこいった? 聞きたいの俺の幼き時代なんて? 別に普通だったよ。

幼稚園では、野郎を束ねる紳士になったり、

インフェ二なんちゃらんが世に出たとかで、騒いでいる世をぼへっと流したり、

小学校の入学式で校長のヅラ疑惑を証明したりとか、

女子達の使い走りに奮闘したとか、

蘭を泣かせた上級生の男子三人をトラウマ植え付ける程殴って泣きじゃくらせたとか、

遠足の日に教室で一人真面目に勉強してたとか、

蘭の蹴りを受けて空を飛んでは同級生達に「ああ、なんだ弾か」って普通に日常として受け取られていたりとか、

なんか超有名人が突然引退して世を騒がせたのを、ラーメン啜りながら聞いたとか、

運動会の日に五反田食堂出張屋台を持ってきて爺ちゃんと一緒に腕を振る舞ったとか、

バレンタインデーで、他の女子を凌ぐチョコを作って、義理チョコすらもらえない野郎共に『哀』を込めて渡したりとか、

卒業式で泣いてない男子達全員に催涙スプレーかけて無理矢理泣かしたりとか、

中学進学と同時に、蘭にフラグ立てやがりましたイケメン少年に決闘挑んで熱い友情を結んだ後、保護者呼ばれて二人して地獄見たりと、まぁ一般的な子供の成長録ですよ。


ダイジェストでお送りしました俺の半生。俺も早いモノで中学生です。


さて、今現在俺は一体なにをしているのかというと―――。



「へいお待ち! 業火野菜炒め一丁! カツ丼一丁! 上がり!!」
「はーい! 今もっていくわー!」
「おい弾!! こっちも上がりだ!! 盛りつけろ!」
「あいよー!!」
「お爺ちゃん! 日替わり五反田定食一つに業火野菜炒め二つお願い!」
「よしきた! 毎度あり―!!」
「蘭!お会計お願いできるかしらー!?」
「はーい!」
「ついでに三番テーブルにこいつも頼むわ蘭!」
「ちょっ! もうお兄! 人使い荒くない!?」
「爺ちゃん! 五反田定食の鯖の味噌煮は俺がやっから、業火野菜炒めに集中してくれー!」
「ああん!? 出来んのか弾!?」
「この前味見してもらって合格もらっただろうが!? 忘れたのかよ爺ちゃん!」
「けっ! 粗末なもんだしやがったらタダじゃおかねぇからな!?」

ただいま夏休みの真っ最中。五反田食堂、昼食時のピークタイムのお時間で絶賛奔走中です。

厨房では爺ちゃんの剛腕が休む暇なく振るわれ、俺も盛りつけに簡単な一品の調理と大忙し。母さんと蘭は二枚看板として接客に行ったり来たり。

ああ、折角のロングサマーバケーションだというのになんでこんなことに、食堂の息子の悲しい運命です。本当なら今頃かわいい彼女と一緒にキャッキャウフフな一日を過ごしている筈なんだけどな。

良い汗ながしてるじゃない俺!見習いは辛いぜ!! でも負けない! 野郎だからさ!!


「俺の夏休み返せ―――!! ってな勢いで揚げ上がった唐揚げができたぜ!! 五反田弾特製唐揚げ! お子様に大人気ですよ奥さんっ!! 今晩の一品にどうですか!?」
「妙なこと叫ぶんじゃないわよ馬鹿兄っ!!」
「うふふ、でも本当に人気なのよね。弾の作った唐揚げって。」
「ふんっ! あんなもんまだまだだ! 調子に乗ってねぇでもっと腕を磨け腕!!」
「あら? でもお父さん、お酒飲む時よく弾に作らせてるじゃない?」
「あ、ありゃツマミには向いてるって意味だ!! 食堂に並べるにゃまだまだで――!」
「って爺ちゃん!? 炒めすぎ! 火! 火!!」
「どわぁぁ!? ええい畜生が!! 弾! なんでもっと早く教えねぇっ!?」
「俺のせいかよっ!?」
「注文入ったよー! カボチャの煮漬け定食一つ!!」
「「毎度あり―――――っ!!」」




今日も五反田食堂は平穏無事に絶賛営業中。一度おいでよ五反田食堂。



*   *   *



さて、昼食時のピークも過ぎ。客足も落ち着いて、店内には数名のお客さんのみとなって一段落ついた五反田食堂。

ぶはーっと、椅子に座って水を飲み干す俺。

やー疲れました。見よ!腕が小気味にプルプル震えてるぜ!! そんな俺を見て、爺ちゃんがフンと鼻を鳴らした。


「ったくだらしねぇ。これくらいで音を上げるとはまだまだヒヨッ子だな。」
「うおーい、爺ちゃん? 俺まだ子供よ? ヒヨッ子に決まってんでしょーに。」
「憎まれ口だきゃあ一人前だな」
「爺ちゃんこそ、何処にいんだよ筋骨隆々の八十才過ぎの爺さんなんて。ギネスもびっくりだぜ。人間?」
「やかましい!」


ビュン!! スカ――ン!!

飛んできたお玉を、中華鍋でガード。これぞ五反田家秘伝!中華鍋バリアー!! 生みの親は我が母です!


「ちっ! いらん技術だけは磨きやがって。」
「磨かせたのは誰のせいだってーの。ってか振動で微妙にダメージが…。」


一見仲が悪そうな俺達だけど、これは俺と爺ちゃんのコミュニケーションの一つなのだ。

お互いに遠慮がないから、気持ちもぶつけ合える。色々考えるより正面からぶつかる方が俺達には効果的なんだよねー。まぁ、お陰で生傷絶えないけど。

そんな俺に近付く影が一つ。

そこにいたのは我が妹であり、五反田家最強の蹴り技を放つ女傑、五反田 蘭の姿が。


ズンっ!!


「俺の足の小指にクリーンヒットーォォォォッ!?」
「今失礼なこと考えたでしょ? お兄?」
「なに女傑って嫌なのか? 最高じゃん女傑。」
「…。」
「ふぬぉぉ!? グリグリはヤバい! 捻じるように痛いっす蘭さ―――ん!?」


うぉぉ…なんて暴力的に育ってしまったんだ。兄は悲しい。

昔はお兄、お兄と、俺の後ろを中華鍋を振りまして涙目になりながら追いかけてくる可愛い子だったのになぁ。

なんでこんな風になっちゃんたんだろうね? 中華鍋どうした。


「なんでだろうな? そこんとこどうよ蘭?」
「いきなり何!? いつもいつも唐突に主語の抜けた質問しないでよっ!!」
「なんで分かんないの!? 以心伝心五反田食堂名物兄妹『弾&蘭』は何処行った!? 再放送も決定したんだぞ! ちょっとマネージャー! どうなってんの!?」
「ああああもうっ! また馬鹿なことを叫ぶな―――っ!!」
「ごふぁっ!?」


蘭の蹴りが俺の腹部に突き刺さる。

ぐふっ…さすがだ蘭、衝撃の全てを内部に留める高等技術を使うとは。惜しい、K-1の世界に赴けば、さぞ有能な選手になっていただろうに。何故諦めたんだ蘭、兄は悲しい。(最初から目指していません)

そんな俺にやれやれといった溜息を吐く爺ちゃんに、いつものように微笑ましく笑う母さんの姿。そして不機嫌そうに俺を見下ろす蘭。ん? 今日はスカイブルーか?

うむ、いつも通りの日常と書いてパンツだね。平穏サイコー。


と思っていたら。ガラッと食堂の入口が開き、男女二人組が入って来た。


「おーい、弾。約束の―――って!? どうしたんだ弾!? 床に這いつくばって!?」
「相変わらず謎の行動とる奴ねーアンタって。」


食堂にやって来たのは、中学校に進学してから知り合った二人の友人の姿。
何でか知らんが妙に馬が合ってよくつるんでいる奴らです。

片方の男は、お前は一体どこのギャルゲーの主人公だと思わんばかりのイケメンで、史上最強のフラグゲッターにして、難攻不落の鉄壁鈍感要塞の異名を持つ男『織斑 一夏』。


もう片方の女は、五反田食堂に突如として現れた最強のライバル中華店の娘にして、ツインテールの映えるチャイナっ娘。微乳の暴走特急、恋に生きる健気な少女『凰鈴音』。愛称は鈴。


「おう!一夏に微乳じゃねーか!」


バキゴシャドゴベキャゴッゴッガツンガツンドゴシャッ!!!(ゲージ3消費)


「あ? 今なんつった? おいコラ。」


血だらけになり倒れ伏す俺の襟を絞めあげて、ハイライトの消えた瞳を向ける鈴。そうでした。禁句だったねすみません。


「弾ーっ!? 待て落ち着け鈴!」
「こんなもんじゃねーぞ! こんなもんじゃねーぞ!! コラ!?」
「落ち着けって!! 口調がヤンキーになってるぞ鈴!?」
「あ、あの! 一夏さん! こんにちはっ!」
「ああ、蘭! こんにちは…って違う! 蘭も鈴を止めるの手伝ってくれ!」
「だ、大丈夫ですよ! お兄は復活は早いし不死身ですからっ!!」
「そうだぞ、心配するな一夏。」
「うおおおっ!? いつの間にか俺の横に移動してるっ!?」
「ふー、死ぬかと思ったぜ。(フキフキ)」
「そして慣れた手つきで、血を手拭いで拭き取ってる!?」
「どうすりゃ殺せんのよアンタはっ!!?」
「美女が全裸で愛の言葉を囁いてくれれば、心置きなく死ねるぞ?」
「「そりゃお前(アンタ)の願望だろ(でしょ)うが!?」」
「うるせーぞガキ共!!」
「爺ちゃんが一番うるせーと思う人ー。はーい。」
「「「喧嘩を普通に売るなっ!!」」」


なんだ騒がしい奴らだな、いかんぞ。ここは食堂。憩いの場。



*   *   *



とりあえず二人を近くのテーブルに案内してやる。蘭も昼飯はまだだからついでに座らせて、俺はメニューを片手に注文をとる。


「へい! 注文は?」
「あんたって本当に自分勝手というか、マイペースというか…!」
「まぁ弾だしなぁ。あ、俺は『弾特製スぺシック炒飯』な。」
「何よそれ? そんなものあったけ?」
「裏メニューです。」
「お兄また妙なもの作って…お爺ちゃんに怒られるよ?」
「安心しろ、親しい奴にしか作らん特別親愛メニューだ。蘭も食うか? 一夏とお揃いだぞ。」
「これが結構いけるんだよなぁ。蘭は食べたことないのか?」
「た、食べてみよっかな!? き、気になるますしっ!」
「あたしも! あたしもそれっ!!」
「それ? …どれ? 何を言ってるのかねこのチャイナっ娘は?」
「分ってて言ってんじゃないわよ! 馬鹿弾っ!!」
「はいよー『弾特製オフラ―ンス牛丼』三人前ね。毎度。」
「「「違うっ!」」」
「ところで馬鹿弾と爆弾て似てるよな?」
「「知らないわよっ!!」」
「…。(確かに)」


五反田食堂、特別親愛メニュー。本日も好評です。



*   *   *



「それで?一体今日は何の用だね?二人そろって、デート?」


『弾特製スぺシック炒飯』を、おいしそうに頬張る三人の幼子達に向かって、俺はカウンターから素朴な疑問を投げかける。たんとお食べ。

デートの単語に、敏感に反応する二人の乙女を無視して(というか普通に気付いてない)一夏が口を開く。

この子はホンマ困った子やねー。


「違うって、この前の約束の続きを話しに来たんだ。忘れたのかよ? 俺と弾と鈴、それから蘭も誘って近くの祭りに行こうって話したじゃねーか。」
「おおう、すっかり覚えてるぜ。」
「面倒臭い答え方するなよ…。」


はぁぁ、と溜息を吐く一夏。隣では何か不機嫌そうな鈴と、ほっとした溜息を吐くマイシスターの姿。

溜息吐きたいのはお前の鈍感さじゃね? と思う俺は正しい筈。

そういや祭りにみんなで行こうぜってな話をしていたな。

もう一人『御手洗 数馬』というジェントルメンも誘う手筈だったんだが、あいにく夏休みの間は親戚の家に行ってしまっているらしく断念。

無論、心優しい俺はしっかりと内容を親切丁寧に電話で伝えてやり


『てめぇ弾この野郎ぉぉぉ!!帰ったら覚えとけ畜生!!うわぁぁぁん!!』


という、心温まる返事を貰った。はっはっは、照れるぜ。


「俺も蘭も準備OK! 浴衣も準備してるぜ!!」
「へー、浴衣か。いいなそれ。蘭も着るのか?」
「は、はい! あの、い、一夏さんは浴衣って好きなんですか?」
「ん? ああ好きだな。日本人に浴衣、祭りといえば浴衣ってもんだしな。」
「そ、そうなんですか。」
「良かったなぁ、蘭。新調したかいがあったな。」
「う、うっさい馬鹿兄!!」
「…ふんっ!!」
「横で不貞腐れているチャイナっ娘にも耳より情報! 実は鈴にも浴衣は用意してある! やったね!! 流石だ俺!」
「はぁぁっ!?」
「実は鈴の親御さんに『祭りで浴衣を着ていない女の子は浮きますぜ』と、お話ししたところ、鈴の為に浴衣を用意する事を承諾してくれたのさ! ちなみに浴衣の寸法は母さんが聞いて、色合いは鈴のお母様に一任。鈴専用浴衣の準備も整ったということさ!!」
「ちょっ! 聞いてないわよ私っ!!?」
「言ってねーもん。驚いたね!!」
「へー、良かったな鈴。」
「ぬぐっ…ううぅ。ま、まぁいいわ。と、とりあえずありがと。」
「着付けは私がするから、お祭りの前に家にいらっしゃいな。ね? 鈴ちゃん。」
「は、はい! ありがとうございます。蓮さん。」
「なら待ち合わせはここでいいんじゃないのか?弾?」
「お前馬鹿じゃない?」
「な!? なんでだよ!?」


分ってない、こいつは本当に分ってない。お兄さんはがっかりだよ!!


「こういう時は、野郎は黙って先に祭りに行って、女の子がやって来るのを待つのがマナーだぞ坊主!! ああ、一体どんな浴衣かなぁと野郎はいつもと違う雰囲気になる女の子の浴衣姿に思いを馳せ! 女の子は野郎が待っている場所に行きつくまでに、似合ってるかな? 変じゃないかな? 喜んでくれるかな? という期待と不安に後押しされながら祭りへ赴く! その上で初めて女の子の浴衣姿を見て最高の褒め言葉を送る。それが日本紳士の務めだ。分ったか坊主!? 時代に乗り遅れるな! 野郎はいつでも紳士を目指せ!! 女性は尊く、そして繊細なんだぞ!! このフラグ野郎!! 刺されちまえっ! バーカ!!」
「長い説明だな!? 結局祭りに行くなら同じじゃねぇかよ!! それと最後は完璧に俺に対する悪口じゃねぇか!?」
「一夏、認めたくないようだけど弾が正しいわ。座りなさい。」
「お兄、たまには良い事言うね。・・・・いつもしっかりしてくれれば私だって…(ぶつぶつ)。」
「うふふ、流石私の息子ね。良い事言うわ。」
「おう、何か知らんが蘭が言うなら蘭が正しい。良く言ったぞ弾。」
「あれ? なにこの疎外感。間違ってるの俺? 俺なのか? 俺に対する暴言へのフォローはなし?」
「存在が間違っていると、近所から声高々に言われている俺よりはマシだ。落ち込むな一夏! 明日があるさ!!」
「弾…苦労してるんだな。」


おおぅ、何故みんなして俺を憐れむような視線で見るんだ? そんなに見るなよ!興奮するぞ?

しかし、一夏の朴念仁ぶりには俺もびっくりだぜ。ワザとやってんのかね?

まぁ、身近に『千冬さん』という超美人な無敵に素敵お姉様がいるとなると、そん所そこらのちょっとかわいい女の子じゃ、一夏は落せんな。少なくとも鈴や蘭くらいのレベルじゃないと厳しいだろう。

一夏のシスコンぶりも大概だが、この弟にしてあの姉ありってな具合で、千冬さんのブラコンぶりもとどまる事天井知らずやし。

しかし、千冬さん最近見ないな? 一夏の話じゃ連絡もあんまりないらしい、たまに一夏に顔を見せに帰って来てはいるようだけど・・・・まぁいいか、家庭の事情だろ。

あーあ、千冬さんも彼氏でもつくりゃ一夏も姉離れ出来るかもしれないのに難儀だ、なんだかんだ言っても、絶対千冬さんの好みのタイプは『一夏みたいな男』だろうね!

…こんな傍迷惑なフラグ乱立野郎二人もいらん、滅びるぞ地球。

はー、一夏の花婿姿を拝めるのはいつになることやら。


「なんだ弾? 人の顔見て溜息吐くなよ。」
「いやぁ、ただお前ってシスコンだなって思っただけだ、気にすんな。」
「おいコラ!? 気にするわ!!」
「気にするって、おいおいダメだぞ一夏? 俺とお前には性別という世間の壁が…。」
「何の話しだよっ!? 気にするの意味が違う!! 誰がシスコンだ誰がっ!?」
「え? 俺だけど? 俺シスコンだよ? 蘭愛してるよ? 結婚してくれ。」
「ぶふぉっ!? いきなり気色悪い事言わないでよ馬鹿兄っ! ひぃぃ! 鳥肌立った!」
「そんなに喜ぶなよ。だが俺達には兄妹という壁がある。悪いがお前の気持ちには答えられない。諦めてくれ蘭。お前にはきっと良い人が現れるさ。」
「なんで私がお兄に告白したような話になってんのよおぉぉぉっ!?」
「というわけで、一夏。蘭を貰ってやってくれ。俺が義兄さんになるってことで我慢してくれないか? お前の俺への想いは嬉しいが、これが一番ベストな未来だ。」
「えええぇぇぇぇっ!? ばばばば馬鹿兄ぃっ!? なななななにゃに言ってんのよー!?」
「だから違うって言ってんだよぉぉぉ!? なんで俺がお前に恋してるような話しになってんだコラァ!? 別に好きじゃねぇよお前なんか!!」
「…ひっで。親友だと…思ってたのに…。」
「…いや待て。マジで傷ついた顔するな。俺も友達だと思ってる。すまん。言い過ぎた謝る。」
「まぁそんなことはどうでもいい。で? 蘭は嫁に貰ってくれんの?」
「…うわ、こいつマジムカつく…!!」
「ちょっと弾! 何自分の妹売り込んでんのよっ!? そんなの認めないわよっ!」
「え!? まさか鈴お前、蘭のことを!? ダメだダメだ! 女同士なんて!! 家の蘭をその道に引きずり込まないでくれ!!」
「ちっがぁぁぁぁぁうっ!」
「喧しいぞガキ共っ! 騒ぐんなら外に出ろっ!!」
「全く、しょうがない奴らだな。三人とも静かにしろ。ここは食堂。憩いの場だぞ?」
「「「お前のせいだ―――――――――――っ!」」」



その後、きれいに一夏と二人揃って爺ちゃんの拳骨をもらった俺達でした。

ちなみに鈴と蘭は対象外。鈴は女の子やから大目に見てもらって、爺ちゃん蘭に甘いからな。損な役回りだぜ野郎ってのはよぅ。

とりあえず、四人で祭りに行くことになったとだけ記しておこう。


五反田食堂、俺達四人集まれば毎日騒ぎが起こります。寄ってみようよ五反田食堂。


しかし、『織斑 一夏』ね。

なんかものすごい面倒に巻き込もうとする要注意人物って感じがするんだが。

まさか俺にまで妙なフラグ立てやがったかこいつ? あらイヤン。

なーんか予感めいたモノを感じる今日この頃です。





後書き

弾の性格がものすごい破天荒になってしまいました。この先どうなるのか自分でも展開が分りません。でも頑張って書きつづけたいと思います。さて、弾は原作知識はあるようですけど、どうやら記憶から引っ張り出すことは出来ないようです。次回、あの天災が来襲です。



[27655] 第三話   天災一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 15:43
ちわーっす。毎度お馴染みの五反田 弾です。

途中、ライバル店のチャイナっ娘である鈴が、事情により故郷の中国に帰る別れイベントが発生し、ちょっと周りが静かになりました。

見送りの時は盛大に泣いてあげました『捨てないで―!!』って。鈴に殺されかけぜ。最近リカバーが追いついていない気がする。

そういや最後に一夏と何か話してたけど、そこは空気読んで離れたから何話したのかは分らん。一夏の様子を見るに告ったわけじゃなさそうだが・・・・ま、いいか。

蘭の奴もなんだかんだ言って最後は泣いちゃったしなぁ。

泣く所を一夏に見せたくないのか、俺の服に顔を埋めて涙を拭いていましたよ。こらこら、兄をハンカチ代わりに使うな。

こういう時は一夏に縋り、か弱さをアピールするべきでしょうに、チャンスを生かせん妹ですな。不憫な。






それから特に目立った事件も無く、平穏無事に日常が過ぎていったなぁ。






『嘘吐かない! この馬鹿兄!! 私の通う女子校に来て、校門を強行突破したくせにっ!! あの後、シスター達に呼び出されて散々だったんだからぁぁぁっ! というかいつの間に学校に配達メニューを配ってたのよ!? おかげで毎日毎日新メニューないのか聞かれてるんだからぁぁぁぁ!! あげくになんかお兄にまで興味もったこ…と、とにかく何て事してくれたのよお兄の馬鹿ぁぁぁぁぁ!』


『おいこら嘘吐くな!? 俺の写真を勝手に売り捌いてたくせに!! というか、風呂上がりの時の写真なんていつ撮ったんだテメェ!? 回収するの大変だったんだぞコラァッ!? しかも何でお前が千冬姉の携帯番号知ってんだ!? ちょっと表に出ろや!? 事と次第によっちゃ容赦しねぇぇぇぞぉぉぉぉっ!?』


『最近、なんだかお父さんが弾の作った料理の残り物を口にして、妙に寂しそうにしていたのよね。この前なんてお酒飲みながら『上手くなりやがって畜生め』って笑いながら泣いていたのよ。…弾? あんまり早く上達しないでね? お父さん、弾に料理を教えている時が一番楽しそうなの。ゆっくり上がってらっしゃい。』


『…弾、父を忘れないでくれ。』



うん? 何か外野が煩いな?おいおい、落ち着けよ。クールに行こうぜみんな。

さて、気を取り直してと・・・時は流れて今現在。俺は今何をしているかというと―――。



―――― 五反田 弾、ただいま自転車に跨り出前の配達中!!!



五反田食堂の頼れる配達の相棒、『四代目五反田号』のペダルを漕ぎながら、街を爆走中ですッ!!(ちなみに歴代達の息の根を止めたのは全部俺です。)

最近特に評判の、五反田食堂です!!


――――――期間限定。出前、始めました…(エコー)――――――


の、看板が映える五反田食堂!! 早い!! 美味い!! 安い!! が自慢です!!

さぁ今日も、腹を空かせるお客さんの元へ! 貧乏学生の救世主となるべく風になりますっ!!


出前の予約は午前十時から午後一時まで承っております御贔屓に!! それ以外のお時間はどうぞ足を運んでみてくださいなっ!!



五反田 弾。五反田食堂二代目を夢見て絶賛配達中。いつか貰うぜ『業火野菜炒め免許皆伝』!! 今日も良い汗掻いてます。



*   *   *



さて、出前も無事終了した俺こと弾です。

後は、食堂で俺を待つ店主爺ちゃん、二枚看板の母と妹の元へ帰るだけなんだが・・・・・


ここで問題発生。


目の前に、なんか地面からウサミミが生えている場面に遭遇。

横に【優しく引っこ抜いてね❤】の張り紙がしてある凝り具合。匠の技だ。


フム? 何かのアートかなにかか? ちなみに俺は美的センスはないから良く分からんです。昔、蘭をモデルに粘土細工したら――― っおおおおおおおおおお!?

 何故だ!? 記憶にロックが掛かってる!? ええい鍵は何処だ俺の脳! …え、破棄した? 開けない方がいい? 協議会で議した?

なんだよ畜生、最近俺だけのけものにして、右脳も左脳もひでぇや…。

まぁ、なにはともかく。俺はどうするべきかね?


1、引っこ抜く。

2、踏む。

3、無視する。

4、電話を掛ける。

5、愛を囁く。


さてどうしようか? 答えは…まぁ最初から一つしかないな。この状況で選ぶならこれしかないだろう。


ピッ。

プルルルル――――――ガチャ!


『はい! お電話ありがとうございます! 五反田食堂です!』
「今夜はうさ鍋だっ!!」


ドガチャンッ――――――!!


ツー、ツー。


「―――――しまった!? 姿焼の方が好みだったか!? ええい年頃の妹の好みが分らん! 最近カロリー気にしてたしヘルシーなモノをチョイスした方が良いのか!?」
「【ズボッ!】結局私を食べる事前提なのっ!? というか遅いっ! 引っこ抜けよ―! 先に進めないだろー!!」
「え…頂いても?(じゅるり)」
「あわわわわわ、てて貞操ピンチ!? いっくんの話し以上に変だよコレ!?」
「『いっくん』? え? あなた一郎の知り合いですか? なーんだ、そうか! どうも、いつも一郎には大変お世話に――――」
「誰だよっ!? いっくんはいっくんだよ! なんで分かんないの!?」
「謝れコラ。いくら女性でも言っていい事と悪い事がある。全世界のいっくんに謝れ。」
「いきなり切れだしたよっ!?」
「『いっくん』といえば一郎に決まってんだろう。常識だ。」
「いっくんといえば『織斑 一夏』じゃないの!? というか誰だよ一郎っ!? はっ!? こ、この私が突っ込みにまわってる!? そんな馬鹿なっ!」
「ああ…いたなぁそんな奴も。ふふ、もうそんなに経つのか…。」
「何で過去形!? いっくんをどうした! 私の興味対象に何かしたらっ!?」
「昨日、赤点取ったからなぁ。あいつ千冬さんにばれて生きてられるかな?」
「…わぁ。」
「…いい奴だった。」


横に居るウサミミ女性と一緒に空を見上げ、俺達はしばらく黙祷した。


ところで、誰だこのウサミミさん?




*   *   *




とりあえず、近くの公園のベンチに腰を下ろす俺とウサミミ。ジュース片手にお喋りタイム。

傍から見たどんな感じに見えるかね? 片や不思議の国のアリスさん、片やバンダナ、エプロン姿の食堂ルック。

うん、微妙な関係には見えるね。


「やぁやぁ! 聞いた話し以上に変な奴だね君は! 名前は覚える気なかったから良く覚えていないんだよこれがまた。まぁ別にいいよね名前ぐらい」
「うん、まぁ困らんな? ところでゴンゾーさん聞いても良いですか?」
「やっぱり自己紹介って大切だね! ちーちゃんにも怒られたし! 別に妙な名前で呼ばれたのがイラッときた訳じゃないよホントだよ?」
「…自信作だったんだが。」
「勝手に人の名前を決めるなんて何調子乗ってるのかな君は?」
「で? 貴女のソウルネームは?」
「どうしよう!? 本名聞くきないよコレ!?」
「ちなみに俺は本名、ソウルネーム共に五反田 弾という。愛のこもった我が名前! これ以上の名は蘭以外無いと思う今日この頃です。」
「私は篠ノ之 束さ! 参ったか!!」
「ふっ…勝った!!」
「勝敗の判定基準が分らないね?」
「俺の胸三寸。」
「ムカつくね! というか私の名前聞いて驚かないの? テレビ見なよ。」
「大食い早食い対決? ふざけんな畜生。料理人が魂込めて作ってんだ! 味わって食え!」
「…どうしよっかな? 流石に此処まで変だとは想定外。うんうん、流石ちーちゃんといっくんが興味もっただけはあるね。」
「ん? 千冬さんのお知り合い? …千冬さん。友達選ぼうよ…。」
「その言葉そっくりそのまま君に返すよっ!? というかなんでちーちゃんのことは普通に分るんだよ!?」
「女性を間違える訳なかろう!…後、友達ですんません。」
「律儀に受け止めたよっ!! あはははははは!! うんうん! おもしろいね!! 準興味対象に認定してあげよう!」
「副賞つきます!? どんな物ですか!?」
「まさかのオマケ狙いだね。うふふ私なんてどう?」
「ちょっと、そこの茂み行こうか…?」
「嘘ウソうそっ!! やめて離せそんな真剣な顔でよるな手を掴むなうわぁぁぁぁぁぁんほうきちゃぁぁぁぁぁぁぁん!?」


もう少しで警察呼ばれる所でした♪

昼間の公園って人が多いよね。冗談で済まない女尊男卑社会! 紳士な俺は昔からそうだから特に気にしない世の中です! 野郎共! 黙って女性を受け止めよ!!


ところで、本当に誰このウサミミさん? 束さん?

特に一夏からも千冬さんからも聞いたことのないレディだ。しかし俺のことは知っていると。ふむ、まぁいいか。

その後、逃げるように(本気で逃げた)走り去り、何処にあったのか人参型のロケットに乗って夢の国へ飛び立った束さん。

不思議の国で為すべき事を為しに行ったようですね。…頑張れ!! ちなみに空から紙切れが降って来て、掴んで覗き込んでみると、



『覚えてろー!!バイバイキーン!』



……デキる。



最大の強敵の出現に俺は戦慄を隠せなかった。



その後すぐ食堂に帰った俺を待っていたのは、爺ちゃんと蘭のコンビネーションアタック『五反田クロスブレイク』だった。爺ちゃんの剛腕と、蘭の美脚に挟み撃ちにされる天国と地獄を味わえる一品です。



何はともあれ、五反田食堂。本日も絶賛好評営業中。








【???SIDE】


「ふんふん! なるほどね、変な奴だけど面白い。私に耳かき一杯分でも興味を持たせたことに驚きだよ! 五反田 弾くん。ダっくんと命名しようねイエ―。アヒルみたいだけどなかなかどうして良いあだ名だね。」



そこは真っ暗な場所、誰にも探せない私の世界



君は辿りつけるかな。



「ふんふん、おもしろい、良いね実に。久しぶりに気分が良いよ。」



―――― 君もそう思わない?



視線の先、淡い光を放つ私のコドモ。



――――― 468体目の、作り上げる気はなかった私のコドモ。




「さてさて、どうしようかな? 楽しいね。君はどんな舞台に仕上げてくれるかな? 笑わす道化? 姫を助ける騎士? はたまた悪い魔法使いかな?」




一目見て分かったよ。君は私に少し似ているよ。




この世界を、どこかブラウン管の外側から眺めている様な君の姿が眼に浮かぶ。




傍観者でいられるかな?




器と中身がチグハグな君という存在。





楽しいな、愉しいな、たのしいな。






この日、





一人の天災が、楽しい玩具見つけたように嗤っていた。






後書き

束さん登場です。さて目を付けられた弾は一体どうするのでしょうか?五反田食堂二代目の道は険しさを増すようです。さて次回、ついに弾がISと接触。続けてどうぞ。



[27655] 第四話   試験日一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 15:56
「ちわっす。貴女の隣人、五反田 弾です。」
「おい、いきなりなんだよ弾?」
「挨拶だぞ? 初対面の人や、親しい人に会った時に行う礼儀の一つでな―――?」
「誰も説明頼んでねぇよ! なんで頭上見上げていきなり挨拶したのか聞いてんだよ!」
「は? なんでそんなことお前に説明する必要があるの?」
「…なんでだ。こいつに素っ気なくされるとすごい傷つくっ!?」


ウサミミ束さんが夢の国へ旅立ってからまた少し月日が流れた。

ちなみ一夏に確認したところ、いきなり電話があって『ちーちゃんの言ってた変人って誰さ? いっくんがよく知ってるって聞いたんだけどなんじゃらほい?』と聞かれ、俺のことだと普通に気付いたらしい。変人じゃない! 紳士だ! 失礼な。


ただいま俺こと五反田 弾は、五反田食堂にて早朝の仕込みを行っております!

目の前には、我が友一夏がカツ丼を頬張る萌え時空が発生中。女の子の黄色い歓声が聞こえてきそうな今日この頃です。


ちなみに現在、まだ五反田食堂は開店していない。

それなのに何故、一夏が朝食を家でとってんねんて話だが。何を隠そう今日は一夏の『藍越学園』の受験日当日なのである。

心優しい俺は、一夏の家に襲撃をかけ、まだ眠いと愚図る一夏を蹴り飛ばし覚醒させ我が食堂で『これを食べれば受かるかもカツ丼』を食わせてやっているのだ。

ああ、なんて美しい友情か。

あ、ちなみに350円な?毎度。


「うぷっ! 朝からこってりした飯食わせた挙句に金取りやがって…!! なんか俺に恨みでもあんのかよ。」
「…。」
「おいコラ待て。思い詰めた表情で包丁を眺めるな怖ぇよ!?」
「ふむ? 最近研いでねぇな。後で研ぐかな? ん? どうした一夏?」
「…もうヤダこいつ!!」
「あれはお前用じゃねぇよ?」
「安心できない台詞ありがとうよチクショウっ!!」
「いや~」
「褒めてねぇよ!! ああくそ俺一人じゃ突っ込み追いつかねぇ!!鈴がいた頃が懐かしいぜっ…!!」
「ところでゆっくりしていて大丈夫か?電車に間に合うか?」
「え? ああ、大丈夫だろ今から出ても十分間に合――――。」
「あれ三十分遅れてるんだが。」
「早く言えよぉぉぉぉぉぉ――――――――っ!?」
「うっそーん! ははは騙されてやんのうぼろげぇあっ!?」


一夏の唸る拳が俺にクリーンヒット!! 弾は150のダメージを受けた!

さすがは千冬さんの弟だ。良い拳もってるじゃねぇかっ!!

とりあえず立ち上がり、肩で息している一夏に向き直る。俺のリスポーン能力を甘く見るなよ後悔するよ?


「心臓に悪いわ馬鹿野郎!!」
「リラックスさせようかと思った友心だ。まぁ大目に見ろ。」
「いらんわそんな気遣い!!」
「それと、餞別としてこれを持って行け一夏。試験で役に立つこと間違いなしだ。」
「ん? なんだこの紙?暗記シートか何か?」
「カンニングペーパー。」
「昨年のカンニング事件を俺に再現させたいのかお前はっ!?」
「大丈夫、前回は失敗し――――――。いやなんでもない。」
「お前まさか黒幕っ!?」
「おい、そろそろヤバいぞ。電車の時間。」
「だぁぁぁぁ!? 色々言いたいことあるのに狙ったようなタイムアップに腹が立つ!!」
「頑張ってこい、一夏!」
「そこだけ見りゃ良い友人だと誤解するけど、色々台無しだからなっ!?」
「落ちて、滑って、転ぶなよっ!!」
「禁句を連発すんなこらぁっ! 行って来るよ!」



食堂の扉を乱暴に開け放ち、一夏は駅へと走り出しっていった。
うむ、素晴らしき友情の一コマだな。



走り去る友人の背中を見送り、俺は食堂の暖簾を上げる。



五反田食堂、本日も平穏無事に開店です。



*   *   *



――― さて、時間はちょっと過ぎて。

いつものように、爺ちゃんと一緒に厨房にて奮闘を繰り広げている俺。

ん? お前は受験どうしたって?

ああ、俺はもう終わったよ自分の志望校の試験は。俺は家から最も近い、市立の高校に通うからな。就職難なご時世だが、俺は五反田食堂二代目を目指しているのさ!!

学校が近けりゃそれだけ早く食堂に帰れるからねぇ、修行中の身としては願ったりかなったりですよ。

あ、もちろん落ちないよう勉強したぜぃ! 高校にも行けん奴に、家は継がせられんて爺ちゃんに脅されたからな…マジで必死こいて勉強したぜ。

入試の為学校も休校中、そんな時は食堂で腕磨くにもってこいだね!!


「一夏さん、大丈夫かな?」
「駄目じゃね?」
「なんでさも当然のように酷い事言うのよ!? 馬鹿兄!」


客足も落ち着いたころ、蘭がカウンターで一夏のことを案じていた。

いや、おそらくアイツ絶対何かやらかしそうな気がするんだよね? それも高い確率で。何故だろうね? なんかそんな気がする。・・・はて?


「ま、もし駄目だったら盛大に祝ってやるさ。」
「祝うなっ! お兄は心配じゃないの!? 薄情者!」
「落ちた瞬間、あいつの未来は強制的に蘭の婿になるからなー。くく、こき使ってやるぜ!」
「…え? な、何それ?」
「今ちょっと『落ちても良いかな?』って思ったな?」
「そそそそそそそそんな訳ないじゃないっ!! ばばば馬鹿じゃないの!?」

ピッ

「あ? もしもしー? 今、蘭がなー?」
「きゃあああああっ!? 何やってんのお兄ぃぃぃっ!?」
「あ、こら兄の携帯でゴハッ!?」


蘭の蹴りが俺の顎を跳ね上げ。俺の手から滑り落ちた携帯電話を、素早く取り上げ耳にあてる蘭。

―――― ふ、相変わらず良い蹴り持ってるじゃねぇか…!!

しかしな蘭?


「あ! いいいい一夏さん!? 別に何でもありませんからねっ!? 試験頑張って――っ!」
『は? 俺一夏じゃないよ? もしかして蘭ちゃん? 俺は数馬だけど?』

そいつ御手洗 数馬くんだよ?

「間違えました。すみません。それでは。」


ピッ


ゆっくりと蘭が俺に振り返る。

その顔は、羞恥と怒りで真っ赤になっていて、涙目になってプルプル震えていた。
ふおおおおぉぉぉ!?


「兄を萌え殺す気か蘭!?」
「お、おお、お兄の馬ぁ鹿ぁぁぁ――――――――――――――――っ!!」
「うるせぇぞ弾!! お前また蘭に何かしたのか――――っ!?」


妹の怒声が響き渡った! 爺ちゃんが現れた!! 敵の攻撃。二人の合体攻撃!!


「え? あ、ちょい待って? さすがに『五反田クロスブレイク』はちょっとって!? ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





五反田食堂に俺の絶叫が響き渡って、12時の時刻をお伝えしました♪



*   *   *



―――――ガシャガシャガシャ(ペダルを漕ぐよ何処までも)


「へいへーい! 退いた退いたー! あ、おばぁさん横断歩道一緒に渡りましょうね。…あん? なんだじぃさんあっち行け。荷物? テメェで持て。急いでんだよこっちは! あ、おばあさん!? 危ないよ! てめこら止まれや下手くそドライバー!! おお!? 流石は美しいお姉様! 見た目同様美しい心お持ちですね! 自動車の運転も素敵です!」


只今、『六代目五反田号』(!?)に跨り、俺は配達のため街を絶賛疾走中!

途中お年寄り(女性限定)の気遣いも忘れない。しかし最近の運転野郎はマナーがなっちゃいねぇ! 先程の女性のように横断歩道で一時停止もできんのかカスがっ!!

そんな日本紳士達の心が薄れる世に憂いながら、今日も元気に出前の配達です!!

さて? お次は何処のお宅だったかね?


【らら♪ らん・らら・らんらんらん♪ らん・らんらららーん♪】(蒼き衣を纏う少女の歌)


ん? 俺の携帯から妹のテーマソングが?

ちなみに俺のテーマソングは『ターミ・ネー○ー』にするか、有名な作曲家の『運命』にするか悩んでいる。難しい問題だ。


ピッ


「どうした蘭? オー○の襲撃か? 虫笛どうした?」
『まだ私の着信音変えてないわね馬鹿兄!? やめてって言ってるでしょうが!!』
「今配達中なんだ、すまんが巨○兵は準備できんぞ?」
『…グスッ!!』
「すまん悪かった!! マジ調子乗ってましたすんません!!」


携帯を地面に置き、その前で土下座をかます。

周囲がメチャメチャ変な視線を向けて来るが知った事か!! 兄妹の絆のピンチだ!!

悪かった!! 名前ネタは止めます!! 帰ったら蘭の好きな『弾特製ミルフィーユパフェ』も作ります!! なんなら一夏の最新生写真も付けます!!

だからマジで泣かんといて―――――――っ!?

五反田 弾。愛する妹の涙にゃ滅法弱い弱点露呈。頭を擦りつける地面の冷たさが身に沁みます。




*   *   *




「えーと? 蘭から聞いた住所ならここら辺なんだがな?」

『六代目五反田号』に乗りやって来たのは、多目的ホール。

人の出入りが激しい為、『六代目五反田号』は駐輪場にドッキングさせ、出前片手に店内をウロウロ彷徨う。

しかし無茶な注文だったな?

俺は蘭との会話を思い出しながら、ホール内を歩き続けた。


~回想~


『注文したお客さんが、どうしても外せない用事で出かけちゃったらしいの。だからお客さんの向かった場所に届けてくれないかって電話があって。』
「だからって。よりによって四駅先の多目的ホールの一室だぁ? 無茶すぎるだろう?」
『ならキャンセルしますかって聞いたんだけど、どーしても食べたいって言ってるらしくてさー。断る?』
「野郎? 世界にときめく淑女達?」
『…聞いてどうするの?』
「判断する。」
『…おん―――。』
「っしゃああああぁぁ!! 六代目!! もう一仕事だっ!!」
『…じゃあ住所教えるね。はぁぁ。』


~回想終了~


ふむ、全く日本紳士の特性を上手く掴んだ話だ。

五反田食堂の出前を心待ちにしている女性がいるとなれば、俺が動かん筈がないだろう!

さてさて? お腹を空かせたレディの待つ部屋は何処かね?

しかし分かりにくい構造してんなこのホール。構成したの絶対野郎だ、ふざけんなコラ!

心の内でブチブチ文句を呟きながら進むこと数分。


「お? 此処だな『第二IS学園試験会場』。つーことは第一もあんのか。広いホールだから当然か?」


蘭に教えてもらった住所を殴り書きした手元の紙と、一室の横に張り付けてある名前を確認する。うむ間違いない。


「さて、気合いを入れなおしてー。」


バンッ!!


「ちわーっす!! 毎度五反田食堂です!! お頼みの出前を御届けに参上しましたー!!」


元気よく腹の底から声を出す!! 食堂は第一印象が大事です!!


…っておろ?


しーん。



「真っ暗じゃねーか。誰もいない? 場所が違うのか?」


もう一度部屋を出て確認。

ふむ。間違いなくここだよな?


「まだ来てないとかか? いやでも…ふむ?」


部屋を見回してみても真っ暗。

明りが点いてないというよりも、ついさっきまでこの部屋を使用したっていう様子が感じられない。

そんな妙な違和感を感じ、俺は内心頭をひねった。

なんだろうか、このなんともいえない空気。あれだ、なんか釈然としない。


なーんか、嵌められたような気がする。まぁ誰がってな話になるが、俺を嵌めてメリットがある奴なんているかね?


きな臭い。頭で警報が鳴っている気がする。


「…入りますよー?」


とりあえず中に入って電気を探す。

こう真っ暗じゃ待つこともできんしな、えーと電気電気と。


ボゥ――――。


暗闇の先で、淡い緑色の光が浮かんだ。


「おう? なんだ? 怪談にゃ時期が悪いぞ?」


光を目指して進む。



そこに浮かんでいたのは―――。



「…おいおい、こんなもん放置してお出かけって。マジかよ。」



世界にその名を轟かす、全世界の女性達の矛。

歴史を刻んだ数々の兵器を『鉄屑』へと変えた、稀代の産物。



【インフィニット・ストラトス】通称【IS】が、悠然と鎮座していた。


その神々しくも、何処か不気味な空気を漂わせる目の前のISを前に、俺は思わず口を開く。


「…まさかとは思うけど、お前が俺を呼んだとか? もしかして出前頼んだのお前だったり? 笑えねーな。さてどうするか?」


目の前のISはただ鎮座している。
まるで何かを待っているように―――――。




己が主を待っているかのように。



「いやいやまさかなー。だってISだぜ? 野郎呼ぶ訳ねーわな! 女の子にしか使えないって話だし!! それに、俺にそんな何処ぞの主人公のような展開ある訳ないわっ!!」


だははははー! と笑い飛ばす。いや、なにシリアス気取ってんだか俺は!!

ISがあろうが無かろうが、俺の出前にゃ関係なし! さっさと用事を済ませて食堂に戻るとするかね。


「とりあえずどうすっかなー? 第一試験場に行って聞いてみるか。もしかしたらそっちに行ってるかも知れねーし。」


やること決めてさっさと出るか。そう思って踵を返そうとして――――ふと止まる。


「っと、そうだった。ISに出会えたら言いたい事あったんだ」


良い機会だし言っとくか。


目の前のISに向き直り、出前をちょっと横にどかす。
さて、俺は少し顔を引き締める。


「ま、とりあえずは。お前を通して全てのISへ向けて―――――。」


――― 俺は心内を、そのままに言葉に乗せた。




「―――――――― ありがとう。生まれてくれて。」




心からの感謝を。


「お前達のお陰で、女の人達はより強くなれた。」


過去を紐解くと、そこにあるのは女性には辛く悲しく厳しい現実。


時代の為に、望まない運命に全うした女性もいた。


悲しい生涯に身を閉じた女性もいた。


女だからという理由で、評価されない人もいた。


なんでそんな酷い事出来るんだ?


理解出来ているのか? 子供を宿し産んでくれるのは女なんだぞ?


忘れてないか? 時代を繋いでくれているのは女なんだぞ?


女は本当は強い、力じゃない。心は男なんか比べられないくらい強い。


そんな彼女達を力で抑えつけた俺達男には、いつか報いが来る。


「―――― そして、お前達が現れた。」


最初聞いた時は驚いたぜ? 話し流してた俺が恥ずかしい。


女性にしか扱えない最強の矛であり楯。


男達に贖罪の時代の到来を突き付けた、全ての女性の救世主。


「―――――――― ありがとう。」


もう一度感謝を。


願わくば、どうかこれからも、この先もずっと―――――・・・・・


「―――――― その翼で、世界中の女の人を護ってくれないか?」


意識した訳じゃない。


ただ自然と俺の指先が目の前の、ISに伸び――― 触れた。








【操縦者の接触を確認―――――起動開始。】







「…は?」


途端に目の前に光が走る。


「―――っおいおいおいおいおい? マジかよ!?」


流れてくる情報、基本動作・操縦方法・性能・特性・現在の装備――――。


吸いつくように絡みつく思考。


この時を、この瞬間を待っていたかのように産声を上げる、目の前のIS。



「っ動く、のかよ!?」



【フォーマット・フィッティング開始】



…ああ成程ね。理解したぜ、こんちくしょう。

絡みついてくる思考のの中で、俺はこのISの中に眠る意思を、僅かに・・・だが確かに感じ取ることができた。


「マジで、俺を呼んだのはお前って訳か?」


俺の問いかけに応えるように、目の前のISは一層輝きを増していく。

ああそうかい。



「――― どうすっかね? ああクソッ! とりあえず!!」





















―――――――― 出前だっ!! 協力しろこの野郎!!



*   *   *



「ちわーっす!! 毎度五反田食堂です!! へいお待ち!!」
「あー、どうもどうもありが――――― あ?」
「お頼みの『業火野菜炒め』です! いやすんません遅くなって!!」
「…あ、いや。」
「その分安くしときますんで!えーと・・・」
「…あの。」
「はい? なんすか?」
「…それ。あ、IS?」
「ですね。」
「あ、あれ? 君って男じゃ…?」
「はい、野郎っすよ?」
「…な、なんで動―――っ!?」

『そこのIS!! 止まりなさい!!』

「ちぃ!? もう追いついて気やがった!?」
「…。」
「すんません! 先急いでますんで!! ツケときますから今日はこの辺で!!」

『私的でのISの運用は―――――って!? ええぇぇ!? 男ぉ!?』

「…。」
「すんません!! 大目に見てください!! まだ三つ出前が残ってんですよ!!」


『はぁ!?』


「―――――よし行くぞ!! 【七代目五反田号】!! 次は二丁目の鈴木さんだ!」
【目的地を表示します】
「おお!? 流石ハイテク!! 最短距離で頼む!!」
【了解。最短コースを提示】
「よっしゃ行くぜ!!」


キュボッ――――――ドヒュ――――――ッ!(風になる)



『…(呆然と見送る)』
「…(思考停止中)」




『「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」』




この日、世界初ISの起動が出来る男子が二人見つかり。


世界初、ISで出前を行う男子が現れ、世界中を混乱と驚愕の渦に巻き込んだ。


ちなみに世界最強の称号を持つ女性は、含んでいたコーヒーを盛大に吹き出し、隣に居た巨乳眼鏡の後輩にぶちまけ。


とある天災は、盛大にズッコケ、すぐに爆笑し呼吸困難に陥いり。


もう一人のISを起動させた少年は「誰も予想なんてできねぇよ・・あいつの行動は」と、悟った様な眼差しで虚空を見上げていたそうな。



五反田食堂に『ISでの出前承ってます。』って付けるべきかね?

うーん。何気にありだな。うむ。

とりあえず、爺ちゃんや母さん、なにより蘭になんて言おうか?
悩み多き今日この頃です。




後書き

弾にとって、IS起動は即座に『出前の運用手段』として導き出されたようです。さて、次回、ついに一巻の物語軸が開始です。本当にこの先の展開が自分でも分かりません。



[27655] 第五話   入学一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/12/12 12:28
ちわっす、撲滅寸前の日本紳士こと五反田 弾です。

みなさま世界中で阿鼻叫喚なニュースが飛び交う昨今、いかがお過ごしでしょうか?

俺こと弾は、【七代目五反田号】との出会いにより、色々周りで起きました。

あの後、普通に食堂に戻った俺ですが、ISを見た瞬間に母さんが、


『こらっ弾! 元の場所に戻してらっしゃい! 家には置きませんからね!?』


と、出会いがしらに『七代目五反田号』返却するよう窘められました。

そんな! ご無体なお母様!?

もちろん俺は必死に説得した。今度はちゃんと面倒みるから! と、でも母さんは譲らない。『その言葉は聞きあきました』の一点張り! ええい! なんて頑固な!!

横では、妹の蘭が

『ああ…やっぱりお母さん、お兄のお母さんだ。』

と、なにかすごく絶望した顔をして泣いてたけどってどうした!? さっきまで『弾特製ミルフィーユパフェ』を頬張り、一夏の生写真を見てご機嫌だったというのに!?

誰だ蘭を泣かした奴は!? ぶん殴ってやる! と息巻くと、普通に爺ちゃんに殴られた。顔はやめろよ!! 爺ちゃんみたいに潰れてねぇんだから!!

…もう一発殴られました。

その後は、やれ六代目はどうしたとか、やれ見てくれ弱火! 中火! 強火も思いのままだぜとか、やれ掃除機が今欲しいの母さんはとか、やれほらほら食材もこんなにきれいに微塵切りとか、やれまな板切るな馬鹿野郎とか、わんわんぎゃんぎゃんと家族会議勃発。

途中誰か『…ただいま』とか聞こえたが誰も気にしない。やかましい!! 今大事な家族会議中だ!! と全員で怒鳴り散らした。全く! 空気読めん親父だ!!

でもその後すぐに食堂の扉が勢いよく開いて、なんか黒服の連中が突入してきた。

でも今は家族会議中。爺ちゃんの剛腕一薙ぎで店の外へ吹っ飛んだ。

もう閉店時間だというのに何を考えているのか、マナーのなっていない客は客じゃねぇ! 五反田食堂十カ条の一つだ覚えとけ野郎共!!



そしてさらにヒートアップする家族会議の中現れたのは。



俺の親友、『織斑 一夏』の無敵に素敵なお姉様。『織斑 千冬』さんだった。


スーツ姿でビシッと決めた姿に心奪われかけるも、『へいらっしゃい!!』と返事を返す俺、女性の為なら二十四時間営業も辞さないこの俺です!

あ、爺ちゃん何その溜息?

そんな千冬さんが、俺の姿を捉えた瞬間―――――。









身の毛もよだつ、狂った様な笑みを浮かべ突進してきた。








思いっきりぶん殴られた上に、襟を掴み片手で俺を空中へ持ちあげる!!

そして、両手で首を絞めあげ左右にガックンガックン揺すり―――。


『貴様は私に何度薬局に向かわせれば気が済むんだ!!? あ゛ぁっ!? 店員に顔覚えられた挙句! 当然のように胃薬を差し出された私の気持ちが、お前に分かるかぁぁぁっ!? ポイントも貯まって栄養ドリンクがついてきたぞこの馬鹿者がああああぁぁぁぁぁぁ!!』



血走った眼で睨みつけられ、怒鳴り散らされました。

お、落ち着いてくれ千冬さん。蘭が怖がって震えてるからマジやめてください。

その後、千冬さんを追って来たらしい、眼鏡巨乳の美人さんがやってきて千冬さんを羽交い絞めにして泣き叫んで止めようと奮戦。


『先輩ぃぃ!! ブレイク!! ブレイクゥッ!! おおおお落ち着いてくだしゃいいい!!』
『離せ――――っ!! こいつだけはもう勘弁ならん!! 一夏の教育にも私の胃袋にとっても害悪にしかならんこいつだけは――――――――っ!!』
『へい! とりあえずお二人とも落ち着いて! 『弾特製胃に優しい卵粥』でも作りますから! そんなに興奮しないで!』
『――――――――― 我嗚呼ああああああアアアアア゛ア゛―――――ッ!!(店内の窓全てにヒビ)』
『ひぃぃぃっ!? 先輩人語を喋ってくださいぃぃぃぃぃ!!』


とまぁ、そんなすったもんだの挙句。なんとか千冬さんを宥めすかすことに成功。

途中、一夏も加わり合同家族会議へ進展する。


あ、こらこらそこの姉弟? 隅の方で


『一夏、何が不満だ? 私の何が気に食わない? 言ってみろ? 優先的に直す努力をしよう。』
『ち・・千冬姉!? どうしたんだよ!?めっちゃ震えてるぞ!?』
『いくら私に不満があるからといってもな? …一夏っ。これは無いだろう…!?あんな奴と友達になるなんて、お前、それは無いだろう…!? なぁっ!? いくらなんでも、お前っ、これは…駄目だろぉぉぉ…っ!?』
『千冬姉っ!? しっかりしてくれよ千冬姉っ!? 大丈夫! 俺が付いてる! 俺が傍にいるから!! 俺千冬姉のこと大好きだからっ!! な!?』


ってな感じで、弟の肩掴んで訴えてないでこっち来なさい。

そう言うと、千冬さんに修羅の様な形相で睨みつけられました。

疲れてんのかな? 毎日大変そうだもんな千冬さんも。

うん? 何だ一夏? は? その言葉を絶対千冬さんに言うな? なんで? 労ってるだけ・・・分かった分かった、血の涙流して肩掴むな。分かったよ。



まぁ、その後はようやく一夏に癒された千冬さんが正常に起動。



一夏と俺、二つの例外である俺達の、今後の事についての話し合いが始まった―――――。




*   *   *




そして日が少し経ち。


俺は荷物の入ったバックを肩にかけ、爺ちゃんと母さん、そして蘭と共に五反田食堂の入り口前に立っていた。

ま、早い話が、IS学園に強制入学って話だ。今日はその見送り。


「んじゃ、行ってくるぜ! 爺ちゃん、俺が帰るまで店潰すなよ?」
「ああん!? 馬鹿な事言ってんじゃねぇ!! そんことあるわきゃねぇだろう!」
「本当かよ? ま、休日とかにゃちょくちょく帰るから。それまで出前も一時休業ってことで頼むぜ。」
「けっ! 帰って来ない方がせーせーするわっ!!」
「もう、お父さんたら無理しちゃって。弾がようやく『業火野菜炒め』の味を受け継いでくれことにあんなに喜んでたくせに♪」
「なぁっ!? ば、馬鹿言え!! 喜んじゃいねぇよ!! 遅すぎて呆れてたんだ俺は!」
「はいはい♪」


そう、俺はようやく五反田食堂鉄板メニュー『業火野菜炒め』の免許皆伝を得ることが出来たのだ!!

ま、といっても爺ちゃんみたいに、二つ同時に調理する荒業はまだまだ精進が必要だけどな?

…ったく遠すぎんだよ爺ちゃんの背中はよ。


「いいか弾? あっちで修行を怠けてみろ? 一発で分かるからな!? そんときゃ容赦しねぇぞ!」
「分ってるって! ま、俺も良い機会だと思ってるからなー。くくく! 俺の腕がどれだけIS学園のエンジェル達に通用するか試してやるぜっ!!」
「…その前に、お兄が避けられそう。」
「失礼な! 紳士である俺が避けられる筈は無いぞ!!」
「…は~、全くもう! IS学園には料理修業の一環で行くわけじゃないでしょうお兄!? 自分の立場理解してる!?」
「次期五反田食堂二代目!! そして紳士!!」
「違うでしょ!? 一夏さんと同じ、世界でたった二人のISを起動させられる男子でしょ!? そんなんで大丈夫なの!? ISの訓練は厳しいって話したでしょ!?」
「あーISな。『七代目五反田号』の為にも頑張らんとなー」
「そうそう!なんだ分ってるじゃない!もうお兄ったら―――。」
「どの位で免許とれんだろうな?」
「――――――んなのある訳ないでしょうが馬鹿兄!?」
「さすがに不味かったよな~、俺無免許運転だったんだし。ん!? 待てよ!? 免許ということは筆記試験もあるのか!? うわぁ、『七代目五反田号』で出前配達するには、まだまだ道は険しいぜ。」
「自動車学校とIS学園を混ぜ込むなぁっ!! ISで出前なんて政府が許すかーっ!!」
「おいおい良いか蘭? 時代は変わるんだぜ?五反田食堂だって、変わっていかなきゃ!」
「けっ! いっちょ前な事言いやがって!」
「飯が美味くてIS出前速達便も可能な五反田食堂!! 明るい食堂の未来の為!二代目は努力を惜しまないぜ!!」
「ああああ、駄目だ…! 本気の眼だ…!」
「ついでに嫁も探してくるか。」
「本当に何しに行く気なのよぉ!? この馬鹿兄ーっ!?」
「もちろん! 『五反田食堂IS学園店』を開店する事も視野に入れてるぜ!!」
「「おお!」」
「『おお!』じゃなーいっ! お爺ちゃんもお母さんも関心しないでよーっ!!」




妹の絶叫が蒼い空に響く中、とりあえず『五反田食堂』二代目筆頭候補 五反田 弾。
本家離れて、いざIS学園へ武者修行!待ってろよレディ達!!




ちょっと静かになるけれど、




五反田食堂は絶賛好評開店中。みんなでいこうぜ五反田食堂。




*   *   *




そして今現在。


場所はIS学園へ移り、只今俺は、クラスの一番後ろの席に座っています!!

ああ、何と素晴らしき空間!! 周りは一夏以外は全て女の子!! 夢のようです!!

そして教卓には、あの巨乳眼鏡の女神さま。

やばい! 此処は天国か!?

そんな中、一夏はガチガチに緊張しているようでブルブルと、小気味に震えていた。

チワワかお前は? うむ萌える。

そんな一夏に向かうのは、女子達の容赦ない視線。やはりフラグ乱立王の名は伊達じゃないということか。

ちなみに俺にも多少視線を感じるが、すぐに視線は一夏へ向く。そりゃそうだ。

俺は『まぁまぁかな?』止まりの準イケメン。一夏は『はぁ、はぁ、堪んないっ!!』レベルのイケメンだ、どっち見るかなんて比べるまでもない。羨ましいぜチクショウ!!

でもな? 一つだけ妙な視線を感じるのだよ。

俺はすぐ隣の席へ顔を向ける。そこに移るは一人の女子生徒。

ぶかぶかな制服が素敵な、どこかのほほ~んとした子だ。

ふむ、少し話して見るか?


「…出前の人だ~。お~。」
「YES! 出前のひとです。」
「おー、こんにちは~」
「ちわっす! どうも五反田 弾です。」
「えへへ~、私は布仏 本音っていうんだよ、よろしくねー」
「可愛い名前だな。萌えます。」
「えへへ~、ありがとー。」
「お近づきの印に、これを食えばいいじゃない。」
「なになにー・・・・おー!チョコレートだー。」
「ハイ口あけて?」
「あ~♪」
「もごもぐ。うむ流石俺、美味いじゃないか」
「あー!? ひどいー! ひどいよだんだん~!」
「だんだん?」
「そー、だんだん~。チョコレートちょうだいよー」
「SHR中に間食なんて駄目だろう? 何を言ってんだ全く。」
「さっきだんだん食べたじゃないのー! ずるいー! ずーるーいー!」
「そうだな大人ってずるいよな…分かる。凄い分かる。」
「話しきいてない~。ううぅ~っ。お菓子ー…。」


あらやだ、可愛いじゃないこの娘!

しょぼーんとした姿が俺の心をダイレクト!! うむ萌える。


「そんな貴女に朗報です! 二択問題、次の内正解はどれ?」
「なに~?」
「正解すれば、『弾特製スペシャルムースパフェ』を御馳走!」
「する~! する~!」
「そうか、では答えてもらおう!! 正解はどっち!?」


1、一夏(攻め)×弾(受け)

2、弾(攻め)×一夏(受け)



「―――――― シンキングタイム一分! レディGO!」
「え~!? どっちかなのー!?」
「あ、あのちょっと? 何騒いでるの? 先生に見つかるよ?」
「あ~、いい所に~! 一緒に考えて~!」
「え?一体何ってぶふぉ!? ななな!? えー!? 何!? 何これ!?」
「さぁ!残り四十秒!」
「どっちだと思う~?」
「え!? そ、そうね…1、あ、でも!?」
「私は1! 絶対1よ!」
「ちょっと待って! 2の方がおいしいじゃない!?」
「何言ってんのよ!! 断然1よ!!」
「あれ~? 答える人が増えてるー。」
「ちょちょちょっと!? みなさん何をしてるんですかー!? 今はSHR中で、自己紹介の時間ですよー!?」
「…おい弾? お前また何かやってんのか?」
「ただのクイズだ! さぁ!残り十秒!」
「ごごご五反田君!? 一体何をしているんですかー!? あうう! どうしよう! 織斑先生から、目を離すと危険って忠告されてたのにー!!」
「はぁ全く。おい弾、SHR中に一体何を――― って何だこれ?」
「俺とお前の関係を指している。正解はどっちだと思う?」
「意味分かんねぇぞ。」
「まぁ深く考えずに気楽に答えな少年!」
「「「「「(ゴクッ。)」」」」」
「攻め受けってなんだよ。まぁ、どっちかって言うなら俺は攻撃がいいな。」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!」」」」」
「―――― なんだ!? いきなりなんだよ!?」
「一夏、優しくしてくれよ…?」
「何だ急に!? やめろ気色悪い!?」
「ねー? だんだん~? パフェは~?」
「うーむ、答えられなかったしなー?」
「う~っ。(しょぼーん)」
「ゴフッ(鼻血)! 何この萌え動物…!?」
「いきなり鼻血吹くなよ!?」
「吐くのはいいのか?」
「なお悪いわっ!?」
「どっちだよ!? 我がままだな!!」
「もう黙ってろよお前!?」
「それはそうと、しょうがない。今回は特別に作ってやるぜ!! 感謝しろよ!!」
「わーい!やった~!」






「――――――――― そうか、では私からも褒美をやろう。」






時が止まった。


全員が押し黙り、先程の騒動が嘘のように静まり返る。


「…山田君? すまなかったな。害虫のようなとんでもない奴がいるクラスの挨拶をおしつけて?」
「いいいいいいいいいいいいえぇぇぇ!? ととととととんでもにゃいでしゅ!?」


コツ…コツ…と、近付いてくる足音。

おおおぉぉぉ!? な、何だこのプレッシャーは!?

全員がガタガタ震え、中には半泣きになっている娘もいる! 大丈夫か!?


「―――――― 全員、席に戻れ。」


シュバッ!っと、全員が残像を残し席に着戻る。

すげぇ!? 忍者か君達は!?


「くくく…今日も絶好調じゃないか? ごたんだぁあ?」


俺の席の前に立ち、千冬さんが俺を見下ろす。

わお、眼が殺人者のそれになっているっ!?

これはまずいな。此処は俺の冴えわたる機転で和まそう! それしか手は無い!!


「――――― 織斑先生。」
「…何だ?」
「今日もお美しいですね!」
「…で?」
「…最近お疲れ気味で?」
「…ああ、私の目の前の奴のせいでなぁ?」
「そうですか~。そりゃ大変ですな。あっはっはっは~♪」
「…。(ビキッ!)」
「そういやお腹の調子どうですか? なんかこの前つらそうでしてから心配だったんですが。」
「…おかげさまで。まぁた胃薬が切れてなぁぁ?」


一夏が千冬さんの後ろで、必死に俺に合図を送っているのが見える。

うん?どうした顔が真っ青だぞ?


『そ・れ・い・じょ・う・は・や・め・て・く・れ・!』


落ち着け一夏分ってる。このままじゃ駄目だってことくらい。

だが俺を甘く見るなよ!?

これぞ起死回生の一手だぁっ!!


「おおう! それなら丁度良かった!」
「…あ?」


ゴソゴソと鞄をあさり、それを取り出す!

くらえぃっ! これぞ秘密兵器!!






「実は俺、胃薬を用意してきたんですっ!! 新商品みたいですが要ります?」









――――― 五反田 弾。IS学園の初の授業は、天井から吊るされて受けました。




後書き

弾がIS学園に入学しました。でもその分千冬さんの胃の調子がカオス状態に。不憫すぎます。今回はあまり話しは進んでいませんね。さて次回、弾のIS『七代目五反田号』の待機状態が判明します。



[27655] 第六話   金髪一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 16:30
「―――――ちわっす! いつも貴女に真心を。五反田 弾です。」
「おー。戻って気たか弾。今日は長かったな?」
「だんだんが生き返ったー。わ~いパフェ~♪」
「ふー危ねぇ。あんまりにも深くまで落されたから戻って来るのに苦労したぜ。流石は千冬さんだな。」
「むしろ、あれで死なないお前が怖いわ。」


千冬さんに、地獄の底深くまで落された俺。いやほんと苦労した。


一夏と布仏に手伝ってもらい蓑虫状態を抜け出す。


首をコキコキ鳴らして、時計を確認。

ふむ?


「今って二限目の休み時間で間違いないか? だいぶ復活に時間くったもんだ。なんで誰も起こしてくれないんだ?」
「織斑せんせーが『下手に触るなよ?刺激すると動き出す、放置しとけ』ってー。」
「成程。それなら仕方ないな。」
「納得するのかよ。お前本当にどうしたら死ぬんだ?」
「蘭が花嫁衣装を着て、俺の前で三つ指ついて『お兄。今までお世話になりました』と言ったら、馬骨野郎道連れにして死ぬ。」
「能面のような無表情で言うな!? 近い近い! 怖えええぇぇぇ!!」
「そんで俺だけ戻って来る。」
「死んでねぇじゃねぇか!?」
「いやー、しかし本当に苦労したぜ戻って来るのに。」
「なんで普通に戻って来れんだよ。意味分かんねぇホントに。」
「いや、あっち行ってもな? なんか妙に偉そうな風体で、手にしゃくを持った髭面野郎が、いつも俺見るたびに『く、来るなぁぁ―――!! お前はまだ来るな―!! 近づくなぁ! もう嫌だ! 嫌だ―――!! はうっ!? 胃が…!?』とか叫んでな、門前払いされるんだよ。失礼じゃね? あの髭。」
「お前あっちで何やらかしたんだよっ!? 最高責任者怯えまくってんじゃねぇかよっ!?」
「まぁ、その後はいつも通りに。歴代の『五反田号』を乗り継いで帰って来るんだが、いやー今回は特に深くてなー」
「…歴代達あっちにいるのかよ。」
「失敬な。六代目は健在だ。多目的ホールに今でも置き忘れたままだ。」
「取りに戻れよっ!?」
「行きは電車で帰りは自転車って、おいおい一体何キロあると思ってんだよ?」
「実際その距離走ったお前が言うな!!」
「さっきから何興奮してるんだ一夏。いくら周りが女子ばっかりとはいえもう少し落ち着けよ。」
「お前のせいだろうが!?」
「俺のせい? …待て、一夏。そんなお前こんな場所で。駄目だぞ…?」
「顔赤らめて妙なことほざくなぁぁぁぁぁぁっ!?」
「おりむ~大変だね~。」


大声出してはしたない奴だな。ほら見ろ、女の子たちが怯えまくってんじゃねぇか。

いや、何人かは俺の発言も元をとろうとガン見してる。うむ、素晴らしき腐女子ソウル。頑張れ。

しかし、授業を二時間も逃すとはこれは痛いな。ISに関して全く知識がないからなー。免許に響きそうだ。


お、そうだ授業といえば。


「ところで話しは変わるが一夏? ひとついいか?」
「はーっはーっ!! 今度は何だよっ!?」
「あの、入学前に貰う参考書って持ってるか? ちょいとミスって無くしちまってよ。できたら貸してほしいんだが。駄目か?」
「え、参考書? …あーいや、持ってたことは持ってたんだが。」
「おりむ~、参考書を古い電話帳と間違えて捨てちゃったんだよー? さっき、それで織斑せんせーに怒られてた~。」
「はぁ捨てた? …馬鹿かお前?」
「…お前に馬鹿といわれる程ムカつくことはねぇなぁ…!?」
「マジ使えねー。」
「よーし、表でろや弾。久しぶりに拳で語ろうぜ?」
「だんだんはどうして無くしたの~?」
「そうだ! 俺に何か言える立場じゃねぇぞ弾!」
「あー俺のか。俺のは――――」
「「俺のは(~)?」」
「食われた。」
「ヤギでも飼ってんのかお前は!?」
「いや、本当にうまそうに食うから止めるタイミングを外して。ははは。」
「だんだんの家ってぼくじょー?」
「『五反田食堂』って近所で評判の飯屋さ。暇なら足を運んでくれ。サービスするぜ!」
「わ~! いくー!」
「ま、宣伝は置いといて。いや本当に美味そうに食ってたな――――」
「おい、マジで食ったのか?」
「―――――― 一郎の奴。」
「…おい、それヤギだよな?」
「一枚一枚千切って、そりゃもう美味そうに―――。」
「おい、そいつヤギだよな!?」
「お代はいらないって言ったんだが、律儀に支払いを―――」
「人か!? 人なのか!? 一郎って誰だよ!? お前以上の変人がいるのか!?」
「バカ言うな!? 俺が認める数少ない紳士だぞ!? 謝れこの野郎!?」
「化け物って言うんだよそれは―――――!!」 

おのれ何と失礼なこと言うんだこいつは!?

一郎ほど日本紳士の心を理解している奴はいないというのに! いくら親友でも許せん!

一夏とお互い胸倉を掴み合い言い合いを始める。

『変人!!』『鈍感野郎!!』『変態!!』『フラグ乱立馬鹿!!』『今世紀最大汚点!!』『顔だけ野郎!!』『この害悪!!』『無自覚女垂らし!!』『シスコン!!』『それは認める』『千冬姉に迷惑かけるな!!』『蘭に期待させる行動とるな!!』『意味分かんねぇ事言うな!』『蘭可愛い!超可愛い!』『千冬姉の方が美人だ!』『蘭の方がピチピチだ!』『千冬姉方が格好いい!!』

――― と、ギャンギャン言い合う!おのれ!譲らんぞ!?

家の姉、妹が一番対決がヒートアップしていく中、女子達はあきれたように『どこか別の場所でやれ』みたいな視線を向けて来る。

俺達に挟まれた本音ちゃんが『あうあうあああああ~!?』とオロオロする姿に密かに萌えつつ一夏と論戦を繰り広げていると――――。





「―――― ちょっと、よろしくて?」




――――――金髪少女が空気を読まずに話し掛けてきた。

ピタッと、一夏と同時に停止し少女の方へ顔を向ける。

腕を組んで、やや釣り目の青い瞳をした美少女だ。ロールがかった髪と上流階級であると、口にせずとも理解できる雰囲気を放っている。


おう? 凄い美人だが誰だこの子?

うーむ、声かけてきたのはいいんだが。いかにも「女尊男卑」社会で育った感じがひしひしする。

ふむ。俺は別段構わんのだが、一夏がどう出るか分からん。

世界全ての女性の味方である俺だが、あんまり『力』を振りかざす女性を見たくはない。愚かな男と同じ道をたどる事だけはして欲しくないからねー。

強く、気高く、美しく空を舞ってほしい――――。

それが俺の願いです。

まぁとりあえずは――――――――。


「「――――――――――後にしてくれ!!」」



一夏とユニゾンしました♪




【一夏SIDE】


「な、なんですってぇ!?」

弾の馬鹿と口喧嘩し、自分でも何言ってるか分らない俺は勢いに任せ答え。
その言葉がお気に召さなかった金髪の女の子は、顔を怒りで赤く染めた。


「この私が声をかけて差し上げたというのになんですの!? その態度は!?」
「今取り込み中なんだよ! 見て分かんないのか!?」
「その通りだお嬢さん!! アポ取ったのか!? ちなみにどこぞの伝説のレスラーの使う『アポ~』じゃないぞ!?」


おいこらアポってなんだ。またこいつは意味不明な事を!? いま必要ないだろそんな説明はっ!


「なんですの貴方達!? これだから下々の男というものは――――!!?」


あー、なんか一人で喚き始めたぞ。

憤慨する目の前の女子を見つつ、面倒なことになる予感を感じた俺は弾の襟を掴んでいる手の力を抜き、弾と視線を合わせる。

すると、あいつも俺の襟から手を離し俺に視線を返してきた。


―――― 一時休戦しないか?


―――― あいよー。


中学時代から培ってきたやり取りに、内心苦笑し、俺は弾と共に目の前の事をまず片付ける事にした。


まったく、ふざけた言動さえなけりゃいい奴なんだけどなぁ。


「あー? で、何にか用件か?」
「まぁ!? なんですのその言葉は!?私を散々蔑にしておいて謝罪の一つもございませんの!?」
「サーセン。」
「なんですのそれはっ!?」
「え? 謝ったんだが? もしかして通じてない? 日本では凄く流通している謝罪の言葉なんだが?」


本当、何でこいつは毎度毎度ナチュラルに大ボラ吹けるんだ?


「そ、そう、なんですの?」
「いや、嘘だからな? こいつの事は流してくれ。」
「なっ!? 嘘を吐くなんてどういうことですの!? 最低ですわ!!」
「ホント最低だなお前。」
「お前に言ってんだよ!? アホか!!」
「へい! ところでお嬢さん! 貴女はお名前は?」
「おいこら!? 無視すんな!?」


こいつは本当に人のことお構いなしだな!?

ああ、マジで千冬姉のストレスが心配だ。マッサージでもケアが追いつかないとか、どんだけだよ!?


「私を知らないっ!? セシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして入試首席のこの私を!?」
「乳歯がどうした? 俺は全部永久歯だ。」
「乳歯ではありませんわ! 入試です!!」
「おい弾、とぼけたこというなよ。初心者にお前の扱いは酷なんだぞ?」
「…ごめん、実は一本だけ差し歯です。」
「「どうでもいい(です)わ!?」」
「あ、ところで一ついいかな? 麗しいお嬢さん?」
「ふん! 今頃取り繕っても無駄ですわ! ま、でも私はやさ「代表候補生とはなんぞや?」まだ私が喋っている途中でしてよっ!?」
「あ、それは俺も気になる。代表候補生って何?」


がたたっ!!

と、俺達のやり取りを聞き耳していたクラスの女子数名がズッコケた。

パァンッ!!

ついでに弾が、何処からか取り出したクラッカーを鳴らした。


「なんでクラッカー鳴らしてんだお前っ!? というかどっから出した!?」
「いや、ズッコケたレディ達にナイスリアクションって意味で景気づけに。」
「お前はホントに、どうでもいい事に全力投球するなっ!?」
「紳士だもん。」
「もう喋るな。お前もう喋るな!」
「そんなに俺が他の女の子と会話するのが嫌なのか? 全く独占欲が強いんだから。」
「だぁぁぁぁっ!! 誰かこいつ何とかしてくれ!!」
「だんだん~? 静かにしよーよー。」
「…【ズビシ!】」(サムズアップ)
「てめっ!?」


ム・カ・つ・くぅぅぅぅっ!?

お、落ち着け俺。冷静になれ、今この場でこいつに対処できるのは俺だけだ。そうだ、突っ込むから図に乗るんだ!

こいつはもう無視しよう。うん我ながらいい考えだ。


「あ、ああ、貴方達本気でおっしゃっていますの!?」
「え? ああ、知らん。」
「(書き書き)【こいつホント使えねー】」←カンぺ。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら?常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら」
「(書き書き)【こいつマジ使えねー】」
「…で、代表候補って?」
「国家代表IS操縦者の、候補生として選出されるエリートの事ですわ。…あなた単語から想像したら分るでしょう?」
「(書き書き)【あったまワルーイ♪】」
「…そう言われればそうだ。」
「そう! エリートなのですわ!」
「(書き書き)【ザワ…ザワ…!】」
「…。」
「ほ、本来なら私のような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡、幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「(書き書き)【ピロリン♪一夏はまた一つ利口になりました。】」
「そそそそうかっ! そそそれは、ら、ラッキーだ…っ!!」
「ば、ばば馬鹿にしていますのっ!?」
「(書き書き)【ばーか】」
「――――――っ!!―――――っ!!(ギリッ!!)」
「…あ、あの? む。無理は身体に悪いと思いますわ私…?」
「――――――っだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! お前は黙ってても鬱陶しいな!?」
「(書き書き)【喋っていい?】」
「むしろ喋っていた方が幾分かましだお前は!?」
「だろ?」
「お前…っ!?」
「というか貴方何ですのさっきから!? 邪魔でしてよ!?」
「邪魔してるからなー? 喧嘩いくない。」
「「あれで止めてるつもりだったのか(でしたの)!?」」


こいつだけはマジで意味分からん!?

あああもう、くそぅ!! こいつに対抗できる奴なんて束さんくらいじゃないか!?


「まぁ、とにかく仲良くしようぜ! 俺達はISの操縦に関しちゃド素人だからなー。野郎でIS動かせたってだけだし。ならこのセシリーちゃんに色々教えてもらえりゃ恩の字じゃね?」
「そりゃあ。まぁそうだけどよ。」
「ふん! 男がISを動かせるからどんなものかと思ってみれば。拍子抜けですわ。というか馴れ馴れしくセシリーって呼ばないで頂けるかしら!? なんですのその呼び方は!?」
「え? 可愛いじゃん? 駄目?」
「駄目ですわ!!」
「…俺達に何かを期待されてもな?」
「ふん! まぁでも? 私は優秀ですから、貴方達のような人間にも優しくしてあげますわよ。泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?なんせわた――――。」
「あ! 馬鹿そんなこと言ったら!?」
「はい?」
「――――――教えてぐだじゃい…っ!!(ボロボロ)」
「ひぃぃぃっ!? 近い! 近いですっ!? というか本気で泣いて―――って怖い!! 怖いですわぁぁぁっ!?」
「あー、言わんこっちゃない。」
「だんだんー、泣かないでー? はーいチ―ン。」
「ズビズバボッボ!! ふー! すっきりしたぜ。(ケロッ)」
「にゃー!? 汚いー!?」
「何なんですのこの方はーっ!?」


弾に下手なことは言えないぞ。全部実行に移す奴だからな?


「信じられませんわ!! こんな方と一緒のクラスだなんて!? 私にこのような苦行を一年も耐えろとおっしゃいますの!? この私に! 入試試験で唯一教官を倒したエリート中のエリートであるこの私に!?」
「俺は中学以来からの付き合いなんだがな。今だに慣れねぇよ。」
「ふむ? 入試で教官を倒したねー。…あり? 確か一夏、お前も倒したんじゃなかったっけ?」
「…は?」
「ん?ああ、俺も倒したぞ。いやあれは倒したって言えるのか?」
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「「女子ではってオチじゃないのか?」」
「おー! 息ぴったりー。おりむーとだんだんは仲良いねー?」
「ただ最近。俺、一夏からの想いが少し重くてなぁ。」
「黙れこの野郎。」
「…。」
「カンぺ持ちだすな!?」
「あなた! あなたも教官を倒したっていうの!?」
「へ? ああ、うん、まぁ。たぶん。」
「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」
「どう説明したらいいのか…うーん?」
「実際に見てみりゃいいじゃない♪」
「は? 何言ってんだ弾? 一体どうやって?」
「ふむ、では俺が一肌脱ごう!!」
「「は?」」


そう言って弾は自分の服に手を掛けて――――って、ちょっと待て!? お前文字通り脱ぐ気か!?

周りの女子達もギョッとした様子で見て――――ってなんで誰も反らさない!?

ちょ! おま――――!?

制止しようとする俺を無視して、弾がバッと制服を取り去り――――。


その下から、『五反田食堂』で働く弾の前掛け姿が現れた。


「――――っお前下に着込んでたのかよ!?」
「当然だ。料理人たる者。いつ何どきでも調理ができる状態でなくてはならん。常識だ。」
「…ああそうかよ。でも、今その姿になる必要性が全く分らんのだが?」
「おいおい一夏。良く見ろよ! いつもと違うだろ?」
「は? 別段いつも通りのって、うん?」


いつも見慣れていると姿だと思っていた俺だけど。よく見ると、前掛けが明らかに変わっている。

碧と黒をで統一され。真中にやたら達筆に【七代目五反田号見参!!】と書いて―――――って!?


「な『七代目五反田号』だってぇぇぇぇ!? これってお前のISなのか!?」
「その通り!! これが俺の相棒『七代目五反田号』の待機状態! 紳士の前掛けだ!」
「…いや紳士いらんだろ?」
「ちなみにこの前掛けだが。俺の心情に応じて真中の文字が変わる!! 目で楽しませるという粋な作り!さすが俺の相棒、分ってる!!」
「なんじゃそりゃってホントに変わった!! 【妹魂】…お前何考えてんだ?」
「蘭のこと。あいつ泣いてないかなー? 俺が居なくて。」
「むしろホっとしてそうだ。」
「な、なぁっ!? あ、貴方それは!? まさか専用機ですの!?」
「いや出前機。」
「で、出前機ぃ…?」
「まぁ、それはともかくと。―――『七代目五反田号』。レシピ展開。オーダー【一夏、入試試験】一丁!」


弾が、客の注文を投げかける感じで声を上げると、前掛けの文字が【毎度あり!】と瞬時に変わる。

お、何気におもしろいなこれ。

そのまま数秒経って、また文字が変わる。


【へいお待ち!】
「よっしゃ!『七代目五反田号』展開!」


パッと現れたのは、店でよく見掛けるメニュー表。

そこに映っていたのは――――。


「―――これって俺の入試試験の時の映像か? いつ撮ったんだお前?」
「ん? ああ、あん時俺は見学してたろ? その時ちょっと『七代目五反田号』の機能調べてたら『記録』ってのがあって試しにやってみた。」
「…お前、千冬姉が知ったらまた怒りそうなことを。」
「まぁまぁ、ちなみに後、四つの機能がある。」
「…どんな?」
「焼く、切る、叩く、貯蔵。」
「その前掛け状態で出来んのかよ!?」
「いや俺もびっくりだ。ちなみに『七代目五反田号』には『弾特製特別親愛メニュー』やら『五反田食堂秘伝調味料』など、俺の持つ技術と知識が全部詰め込んである。まさに俺の分身だな。」
「ほー? そりゃすげぇ。」
「だろ? って、ほらほら始まるぞ。飴いる子―?」
「はーい!」
「ほいよ。」
「えへへ~、うまうま♪」


何してんだお前。紙芝居かよ。

展開されている画面に、俺達だけじゃなくクラスの女子達も目を向けている。

あ、箒の奴もチラ見してる。堂々と見ればいいのに



突っ込む山田先生。 かわす俺。 壁にめり込み動かなくなる山田先生。




「「「「「「……。」」」」」」



なんともいえない空気が蔓延した。


「…理解したか?」
「え、ええまぁ。確かに微妙ですわ。」
「わー、ほんとに微妙だ~。」
「でもそこが萌えるな。うむ。」


うんうん頷く馬鹿は無視する。

おいどうするんだこの空気、こういう時こそ何とかしろお前は。


キ―ン・コ―ン・カ―ン・コ―ン♪


お、三限目開始のチャイムだ。助かったぜ!

ぞろぞろと全員が自分の席へ戻っていく。弾の奴も、一瞬で制服姿へ早変わりし席に着いた。お前は何処の手品師だ。



ガラガラ―――。


「全員席に付いているな?では授業を始める。」


千冬姉が入って来て、その後にやって来た山田先生。その山田先生に、皆からの生温かい視線が集中する。無理も無い。

当の本人も、その視線に「?」と困惑顔。


「…。」
「へいお待ち!」
「…チッ!!」


弾の復活した姿を見た千冬姉が、盛大に舌打ちしたのを皮切りに、授業が開始される。


ちなみに、千冬姉がなにげに胃に手を当てた所を、俺はしっかりと目撃した。


千冬姉、頑張れ!俺もフォローするから!








後書き

セシリアさん登場です。そして『七代目五反田号』の待機状態は前掛けとなりました。さて次回、セシリア宣戦布告に部屋割りです。弾の同居人は誰にしましょうか?悩みどころです。



[27655] 第七話   激突一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2013/03/18 01:39
ちわっす。
『弾! しっかりしろ弾!』『一夏俺はもう駄目だ…これからはお前が蘭を守ってくれ…!』『馬鹿野郎! あれほど千冬姉の味の中途半端な手作りには気を付けろと言ったのに!』『後は頼んだぜ…三代目。(ガクッ)』『弾!? だああああああんん!?』
という夢を見た、五反田 弾です。


千冬さんに盛大に舌打ちされて始まった三限目。

ふむ、俺もようやくまともに受ける事が出来るようだ。さぁ! ドンと来るがいい!


「―――― それではこの時間は実戦で使用する各種装備について説明する。」
「包丁まな板鍋お玉っ!」
「お前達よく見ておけ、今実際に使ってやるからな?」
「織斑先生っ!? 落ち着いてください!」


む? 違ったか。ISとは難しい。

教卓の前で、流れるような動きでの銃口を俺に向ける千冬さん。間違えただけで死刑コースとは。IS学園。なんと恐ろしい場所だ。

山田先生が必死に千冬さんを止める姿に、ちょっと萌える♪


「大丈夫だ山田君。私はいたって冷静だ。いたって冷静に事を運ぶ。 何も心配はいらない。」
「運んじゃ駄目ですぅ!? 一応生徒! 生徒なんですから!?」
「生徒? はははははおもしろい冗談だ。私の視線の先には害虫しかいないぞ? ほら山田君、離さないか。駆除できないだろう?」
「ふむ?(後ろを向く)せんせー? 虫なんていないっすけど?」
「いるさ、世にも珍しい口を利く害虫がなぁぁぁあ!?」
「落ち着いて! 落ち着いてくれ千冬姉!? あんなんでも一応友達! 友達だから!?」


バシンッ!(出席簿アタック)


「織斑先生だ。」
「…すみません織斑先生。(理不尽だ…弾の野郎っ覚えてろよ!)」
「災難だな一夏の奴。」
「だんだんって怖いもの知らずだねー?」

怖いもの知らず? 何を言っているんだ本音ちゃんは? 俺にだって怖いモノはあるぞ。本気で切れた母さんとか。うん、洒落にならん程マジで怖い。


「んんっ! 話がそれたな。では気を取り直し、使用する各種装備の特性を――――っとそうだった。その前に再来週行われるクラス対抗戦にでる。クラス代表を決めないといけないな。」


気を取り直して授業開始と思いきや、ふと思い出したように千冬さんがそう口にした。

―――はて? クラス代表? なんじゃそら?


「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…簡単にいえばクラス長だな。ちなみに、クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。」


ふむ、成程ね。そうと聞けば話は簡単だ。


「―――― ならばうちのクラスからは、俺が出よう!!」
「「「「「まさかの衝撃発言!?」」」」」
「…胃が…!」
「織斑先生!? しっかりしてください!?」
「おいおいおい!? お前本気かっ!? 弾!?」
「俺は嘘など言わん!!」
「お前さっきの休み時間に堂々と嘘吐いたよなっ!?」
「ほほう? 既にそんな逸話があるのか。俺も有名になったもんだ。」
「ほんの十分しか経っとらんわ!?」
「小さい事に気にするようじゃまだまだだな一夏!!」
「お前が大雑把過ぎんだ! それよりクラス代表になるの本気かよ!?」
「言ってみたかっただけだ。気が済んだし、もういいや興味無ぇよ。」
「撤回が早すぎるわっ!? やっぱり嘘じゃねぇか!?」
「嘘ですが何か?」
「最悪だこいつっ!?」
「という訳で、 一夏が良いと思う人手を上げて? HAI!」
「ちょっと待て!? なんで俺なんだ!?」
「俺やりたくない。でも女子に押し付けるのは死んでも出来ない。なんだ一夏がいるじゃない。という訳だ。 理解できたか? じゃあ問題ないやれよテメェ。」
「勝手に決めるな!? お前がやれよ!? 有言実行は十八番だろうが!?」
「俺の十八番は『津軽海峡冬景色』だぞ?」
「何気に渋いなお前!? 歌じゃねぇよ!! クラス代表を一度やるって言ったんだ! やれよ!!」
「日本語って難しいな? お前が言ってる意味がサッパリ分からん。」
「しばき倒すぞ!?」
「―――― わたしも織斑君が良いと思います!」
「私も!」
「というか五反田君以外なら誰でもいいです!」
「「「「「織斑君!! 頑張って! というか五反田君の暴走止めて!?」」」」」
「ちょっ!?」
「大人気じゃん一夏! お前一日で何人にフラグ立てたんだ!? 記録更新した?」
「知るか! というか、お前もう問題児扱いだぞ!? 何か言い返さないのか!?」
「野郎ならぶち殺す! でも、女の子やし。特に? むしろもっと罵って欲しい位だ!」
「ほんと女子に甘いなお前!? 日本男児の大和魂どこいった!?」
「そんなもん、一郎の腹の中だ。」
「またそいつか!? なんでも食うなそいつ!?」
「酸味が強くて食えたもんじゃないらしいぞ?」
「味あんのかよ!?」
「おいおい、そんなに興奮するな。いくら大好きな千冬さんの授業だからって張り切り過ぎだぞ? ふふ、全く困った奴だ。」
「喧しいわ!?」
「さすが俺の『妹魂』に匹敵する『姉魂』を持つ男よ。俺も負けてられん! 見ろ! 昨日三十分で作った『お手製蘭人形』だ!! 可愛いだろ?」
「何作ってんだお前はーッ!?」
「いや、寂しくてつい。(スリスリ)」
「「「「「キモっ!?」」」」」
「…織斑、席につけ。邪魔だ。他にいないか? 自薦他薦は問わん。いないなら無役票当選だぞ? むしろとっとと決めろ…!(胃がキリキリ)」
「へ? って、ちょっちょっと待った! 俺はそんなのやらないぞ!?」
「全くわがままだな。小学生か?」
「お前は黙ってろ!? なら俺は弾を―――!」
「…織斑? 五反田を・何・だ・っ・て?」
「――――何でもありませんっ!(泣)」
「ぷっ♪」
「笑うな畜生っ!!」


さすが千冬さん。一夏を一睨みで黙らせた。教育が良く行き届いている。うむ素晴らしき姉弟愛だな。

ふむ。このまま行けば一夏がクラス代表になるのは避けられないな。クラスの看板背負って、行け一夏! 骨は拾って一郎に食わせるから!!

―――― が、その時、セシリーちゃんが音を立てて立ちあがった。

うむ、やはり反対してきたね。さっきからギリギリ机から妙な音立ててたし。
すげぇ。机に指で削られた痕があるよ。

英国淑女とフラグ野郎。第二ラウンド――――――ファイト!


「待ってください! 納得がいきませんわ!」
「ロールがドリルじゃないことが?」
「そうなんですの、折角のお嬢さまキャラなのに―――って違いますわよ!?」
「流石は英国淑女! ノリ突っ込みをマスターしているとは!?」
「お前絶好調だな…?」
「紳士だもん。」
「貴方は黙っていてくださいまし!!」
「一夏、カンぺくれ。」
「持ってる訳ねぇだろ!? 持っててもやらんわ!」
「とにかく! このような選出は認められませんわ! だいたい男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
「ふむ? 俺以上に恥さらしな野郎がいるとは思えんが?」
「お前自覚あっての行動だったのかよ!?」
「――――山田君? ちょっと職員室に行って来てくれるか…?」
「はっはい! いつものですね!?」
(((((織斑先生が、胃を押さえて教卓に突っ伏した!?)))))
「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然、それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」
「一夏お前猿だって。『ウキッ』っていってみ?バナナやるから。」
「殴る蹴るの暴行加えるぞこの野郎。」
「私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」
「サーカスに猿って居たっけか?」
「いるっちゃいるが。日本猿は見たことねぇな俺。」
「いるのかね?」
「さぁなぁ。(弾に鍛えられている為、沸点が何気に高い一夏)」
「い、良いですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは私ですわ!」
「ふむ? じゃあなんで立候補しなかったんじゃろな?【ズバッ!】」
「あれだ、推薦してほしかったんじゃねぇか?【グサッ!】」
「「「「「あー。」」」」」
「だ、だだ大体! ぶ、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体! わ、私には耐えがたい苦痛で―――――!」
「イギリスってそんな大層な国だっけか?」
「ふむ? 俺は英国淑女と英国料理以外は大して興味ないからどうでもいいな?」
「あれ? イギリスって世界一まず―――。」
「一夏、俺の前で他国の料理を貶して見ろ? 『あの事』を千冬さんにバラす。」
「――― イギリスの紅茶って美味いよな!? 英国サイコー!!」
「―――っ決闘ですわあああああああぁぁぁぁ!!!!」
「「何でさッ!?」」
「何ですの何ですの!? さっきから私の話しを受け流すなんてどういうことですの!? 一人喋っている私が馬鹿みたいじゃありませんのっ!?」
「「寂しかったのか? そりゃ悪かった。」」
「なんでこんな時だけ息ぴったりなんですか!?」
「愛かな?」
「気色悪い事言うな!?」
「とにかく決闘ですわ!! お二人揃って私の召使い―――― いえ! 奴隷にしてやりますわ!」
「そして俺達を絡ませる気か!? なんという腐女子ソウル!?」
「お前ちょっと黙っとけ!?」
「イギリス代表候補生である私の実力を! とくと見せて差し上げますわ!!」
「ふむ? 女子から決闘を申し込まれるとは、俺は日本紳士だから、真剣勝負を求めるレディには全力を持って応えるぞ?」
「え? 本気でいくのか? 女性至上主義のお前が?」
「だからこそだ。俺は絶対に女性を下に見ない。負けようが勝とうが全力で行く。それが礼儀だ。ハンデ手加減なんざ野郎が女性にふっかっけた侮蔑以外のなにものでもないと俺は思う。」
「…そういう考えも確かにありだな。」
「という訳だ! セシリーちゃん。俺達二人揃って、全力で応えるぜ!!」
「ふん! 二対一なら勝てるとでも思っていらっしゃるのかしら? 浅はかな男の考えは見苦しいですわね?」
「いんや? 代表候補ってことはセシリーちゃんは相当な腕前なんだろ? 素人同然の俺達が挑むなら、確かに浅はかだけど数で勝負だ。 それにセシリーちゃんは俺達二人に宣戦布告したんだ。二人揃ってじゃなきゃ意味ないじゃん。」
「――――え、ええ。そ、そうですわね。」
「俺はちょいと乗り気じゃないが。まぁ、今回は弾に乗るぜ。」
「悪いな一夏。(キラキラ)」←見つめる
「今に始まったことじゃねぇだろ? 気にすんな。(キラキラ)」←見つめ返す
「「「「「「「「…ゴクッ。」」」」」」」」
「―――チャンスだぞ! 今シャッターチャンスだぞ皆!?」

ピロリロカシャカシャピョロリンパシャパシャ(携帯カメラ同時押し音)

「って何やってんだ!?」
「大事にしろよ!?」
「「「「「「「ありがとう五反田君!」」」」」」」」
「みんな弾に毒されてないかっ!?」
「『話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、五反田、オルコットの三名は用意しておくように。そしてこれ以上騒ぐな胃に響く…っ!!』と、織斑先生がおっしゃっていますっ! 先輩っ!? しっかりしてください先輩っ!?」
「「「「「「「先生ぃぃぃぃっ!!!?」」」」」」」


教卓の上で千冬さんが脂汗をビッシリ掻いていた。
大丈夫かね?



*   *   *




そして時間は放課後。

俺の目の前では机の上でぐったりした一夏の保護欲誘う萌え姿。こいつは誘ってんのかしらん?

「うう…。」
「生まれる? 認知はするぞ?」
「意味分からん事言うな!?」
「へいどうした少年!? 元気ないな! 幸せ逃げるぜ!?」
「ISのことだよ。何でこんなにややこしいんだ。」
「安心しろ。 俺もさっぱり分からん。」
「慰めにもならんわ。はぁぁ。」
「ふぅ、仕方ない。慰めてほしいならそう言えよ?」
「別にんなこと言ってねぇ。」
「全く、一体何回『愛してる』って言ってほしいんだ?」
「頼んでねぇよ!? やめろ気色悪い!?」
「元気出た?」
「別の意味でな!?」
「別の? …だから一夏? まだ人がいるじゃないか。」
「頼むからもう黙れやお前!?」

ふむ、意気消沈したり、いきなり喚いたり忙しい奴だな。
日本紳士ならもう少し慎みを持たなきゃあかんよ?

一夏、日本紳士への道はまだまだ前途多難です。


「何か、果てしなくどうでもいいこと押しつけられた気がする。」
「大丈夫。俺が付いてる♪」
「むしろしばらく何処か行け。」


ガラガラ―――、

一夏とそんなやり取りをしていた所に、教室のドアが開く音が耳に入り、一夏と共にドアへと視線を向ける。

するとそこには、メガネ巨乳の狙ってるとしか思えない天然女神。我が一組の誇る副担任。山田 真耶先生の姿があった。

教室を見回していたマヤたんだったが、視界に俺達を捉えると安心したようににっこりと笑顔を向けてきた。うむ萌えます。


「ああ、織斑君に五反田君。まだ教室に居たんですね? 良かったです。」
「へいマヤたん!」
「その呼び方止めてくださいっ!?」
「マヤマヤン!」
「それも止めてください!」
「――― 真耶。(真剣な瞳で愛情込めて)」
「はうっ!? あうあうあうあうあう…!?(真っ赤)」
「何やってんだお前。」
「からかってる。」
「うん、相変わらず最低だな。」
「ま、冗談は横に置いて後で拾い上げるとして。」
「回収はするのかよ!?」
「マヤたん? 何か用かね?」
「へ!? あああの! おおおりむりゃくんちょごちゃんだくんにょっ!!」
「やりすぎたか?」
「この馬鹿。先生! しっかり気を持って!」
「はう! す、すみませぇん。」
「全くしょうがないな。」
「お前のせいだからな!? 少しは悪びれろ!」
「ええぇと、お二人の寮の部屋が決まりました。はい、お二人ともこれが部屋の番号とキーです。無くさないでくださいね?」
「そうか、ついに俺達の愛の巣が。」
「きめぇよ!?」
「でもなんで? 確か一週間は掛かるって言ってなかったすか? 一夏はしばらく自宅から通って、俺は寝袋に包まって食堂の休憩室にお世話んなるはずですよ?」


ちなみに食堂のマダム達には了解を得ている。さすがは懐深いマダム達。
ちょいと時間ある時は色々教えてもらおうかね。まずは皿洗いと皮むきでお役に立とう。

五反田 弾。 人様の聖地(食堂)には最大の敬意を持って臨みます。いつか一緒に厨房に立てる日を楽しみにしていますよマダム達。


「そうなんですけど。事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。…お二人は、そのあたりのことって政府から聞いてます?」
「あの黒服野郎共? なんかうっさいし『五反田食堂』の営業の邪魔だから、爺ちゃんと二人でゴミ捨て場に転がしてきた。」
「厳さんって何気に最強種の一人だよな。」
「妖怪の間違いじゃね?」
「酷いなお前。」
「ま、まぁそう言う訳で。政府の特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。一カ月もあればお二人の個室も準備できるますから。しばらくは、それぞれ相部屋で我慢してください。」
「――――うん? 部屋の番号が一夏と違う? 一夏とは別々なんすか? というか俺達それぞれの個室も準備なんて、エライ豪華じゃね?」
「てっきり弾と一緒かと思ってたんですけど? 問題ないんですかそれ?」
「え?え、ええぇまぁ。い、色々ありまして。(言えない、先輩が『絶対にあの害虫と一夏は引き離せ!! 女子? 知るか!! 今は女の方が強いんだろうが!? 自分の身は自分で守れ! 問題起こせばそれを口実に私が直々にとどめを刺してやる!』って激高したなんて言えない教室の位置も先輩が決めたしっ!)」
「ふっ。所詮叶わぬ運命か。残酷なもんだぜ。」
「俺は少しほっとした。こいつの相手は体力使うからなー。」
「い、一夏? お前、一体何ラウンド俺に求める気だったんだっ!? この獣!?」
「うん。やばい。超嬉しい。個室最高だな。」
「あ、あのー?」
「あ、すみません。それで部屋は分りましたけど、荷物は一回家に帰らないとじゅんびできないですし、今日はもう帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら―――。」
「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」


ダダンダンダダン♪! ダダンダンダダン♪!(未来からやって来る鋼の戦士の歌)


「何処からか俺のテーマソングが!?」
「マジで鳴ったな!? 何処からだ!?」
「あ、『七代目五反田号』だったみたいだ。」
「タイミング良いなおい!?」
「…くくっ。IS揃って言い度胸だなぁぁあ?(ビキビキ!)」
「せせ先輩っ!? 興奮するとまたっ!」
「チッ。分かっている。織斑、生活必需品だけだが用意してやった。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう。」
「ど、どうもありがとうございます。」
「あれ? 一夏? お前の部屋の引き出しの二重底にある『アレ』は必要ないのか?」
「ハハハハハ! ナニヲ言ッテイルンダイ弾クン!? ヨク分カラナイナ!?」
「…一夏?」
「何でしょうか!? 織斑先生!?」
「今は姉として話しをしている。ちょっと話を聞かせてもらおうか?」
「へいマヤたん! 他になんかない? 連絡事項とか。」
「弾!? 待て! 煽っておいて逃げんな!?」
「ひぇ!? え、えーと。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂でとってください。」
「部屋で調理とかは出来ます?」
「あ、はい。システムキッチンがありますから。」
「スゲェな。」
「――― で? 『アレ』とは何だ? 答えろ一夏。」
「ままま待った! ちょっと待った! 如何わしいモノじゃないって!?」
「各部屋にはシャワーがありまけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間がちがいますけど。その、織斑君と五反田君は今のところ使えません。」
「そりゃそうですね。大問題になります。下手すりゃ警察でカツ丼モノだ。」
「はい。ご理解いただけて助かります。」
「いえいえ。紳士ですから。」
「ふふふ、そうですか。」
「――― 私に隠し事とは言い度胸だな?」
「あだだだだだだだ!? 頭が!? 頭がミシミシと痛い!!」
「ちなみに『アレ』とは、現役時代の千冬さんの載った初回限定幻の写真集です。すでに手に入らない超激レア物。一夏の宝です。」
「「「「「「何だってーっ!?」」」」」」
「だあああああん!? バラすなっつったろうがああぁぁっ!?」
「織斑君!? 一週間ぐらい貸してくれない!?」
「コピーさせて!?」
「言い値で買うわ!? に、二万円。ううん! 三万円までならなんとか!!」

「――― さて、山田先生。そろそろ会議の時間です。行きましょう。」

「ええぇ!? ちょっと待ってください!? 私も見たいで――――!!」
「では一夏。気を付けて帰れ。」
「ちょ!? この状況でどう気をつけろって言うんだ!?」
「知らん。自分で何とかしろ…五反田?」
「へい?」
「問題を起こせば…その時は、ワカッテイルナ?」
「へーい!」


そもまま、マヤたんの襟を掴んで退場する千冬さんを見送る俺達。

うむ、さすがだ。最強の『弟魂』を持つ千冬さんが少し上機嫌になったようだ。これで少しは胃も良くなってくれると嬉しいが。(おい元凶)


「だああああああんっ!? てめぇ覚えてろぉぉぉぉぉっ!!」


うん? 一夏が女子の集団に追いかけられながら去って行ったな。さすがフラグ乱立王だ。

もう追っかけがいるのか。あいつ将来、一夫多妻とか平然と作りそうだ。

そんな親友に『グッドラック!』といい笑顔でサムズアップした俺は、一夏の姿が見えなくなると同時に、自分にあてがわれた寮の部屋へと足を向けたのだった。




*   *   *




「――――― おおうっ! 結構いい所だ。」


あてがわれた部屋にやって来た俺は、室内を見渡し感嘆の声を上げた。

大きめのベット二つに、十分すぎる程の広さを持つ室内スペース。ちょっと奥に行けばシステムキッチンも見える。やったね♪


「――― そんじゃ! はじめますか!」


制服を脱いで、俺の戦闘衣装(五反田食堂仕事用黒シャツに『七代目五反田号』)にチェンジした俺は、キッチンへ向かう。

今日から一カ月という短い間ではあるが、一緒に生活する女子に、よろしくって意味も兼ねて美味い物を御馳走しようじゃないか。

『七代目五反田号』に【貯蔵】してある。あんまり数はないが食材の一覧を目の前に展開し、献立を考える。

ふむ? 何が良いかね?


――― と、その時。


ガチャッと部屋のドアが開く音が聞こえてきため思考を中断する。

おう? もう来ちゃったか。しょうがないから何が好きか聞くか。

一覧を消し、出迎えようとした時――――――。


「おー!ふかふかベットだー。わーい♪」


うん? こののほほんボイスはもしや?


キッチンから顔を出して眼を向けると。

そこに居たのは、クラスで一番に知り合った萌え少女。ブカブカな制服が素敵です。


「んー? あー♪ だんだんだ~。」


ベットからほにゃりとした笑顔で、布仏 本音ちゃんが笑いかけてきた。



――――― ふむ? まぁとりあえず。



「―――お帰りなさい♪ 和食にします? 洋食にします? それとも ちゅ・う・か?♪」
「ちゅうか~♪」




五反田 弾。 今日の夕食は中華です。






後書き


無駄に長くなってしましました。色々考えた結果、もうシンプルにのほほんさんにしました。この話が一番書きづらかったです。ちなみに最初は食堂のおばちゃんと同居させようか真剣に悩みました。そうすると別のロマンスに発展しそうなんでボツにしましたが。さて次回、ようやく侍少女が登場です。一体どうなる事やら。



[27655] 第八話   日常一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 17:13
ちわっす。最近妹分の不足がちな五反田 弾です。

今、俺の眼の前では、萌えの塊、布仏 本音ちゃんが、美味しそうに『弾特製ムースパフェ』を頬張っているところです。


しかし謎だ。

食事中の時もだが(献立はチンジャオロース)。
なぜブカブカな裾の上から、あんなに巧みな箸使いと、今なお、裾を汚さずに食べるスプーン技術を扱えるのであろうか?

青い猫型ロボットもびっくりじゃなかろうか?


「うまうま~♪」


むぅ、なんという癒し動物。どことなく母さんを思わせる天然振りだ。ちなみに今は、もう結構遅い時間だ。もう寝る準備をしなくては。


なーんか、ちょっと前ぐらいに廊下が騒がしかったが。多分、一夏が何かやらかしたんだろう。(確信)


『織斑 一夏あるところに女難あり!』
『五反田 弾あるところに騒乱あり!』


中学時代に名を馳せた。俺達のキャッチフレーズは今も健在です。

さーって。寝る支度するかねー。



*   *   *



それからまた少し時間は過ぎて、ベットの上に寝そべった本音ちゃん。

パソコンを弄って、なにやらお楽しみ中の様です。しかしそのパジャマ姿は狙っているのか?

最高ですね。思わず拝んでしまった。ありがたやありがたや。


「へい。本音ちゃん? もう寝る時間だぜ?」
「ん~、もーちょっとー。」
「明日も学校、寝る子は育つ。もう寝なさい。起きれなくても知りませんよ?(主夫)」
「ん~、あー、この壁紙いいなー。」
「おう? スル―されちゃったよ?」
「ほぞんほぞん~。」
「俺は自分で作った団子の試食して寝るからね~?」
「えー!? ずるいー! だんだんずるいー!?」
「はははは、好きなだけパソコンしてたら良いじゃない?」
「わたしの分は~?」
「無いよ?」
「そんな~! お団子~!」
「パソコン、お団子。二兎追う者は一兎も得ず、どっちがいいかね?」
「うー! あーうう~!?」
「おやすみー」
「寝る~! もう寝るからー! お団子~!?」
「はい口あけて。」
「あ~。」
「ほいさ。(団子投入)」
「む~♪ うまー♪」

しゃかしゃか・・・・(二人して歯磨き)

「はいベットに入って?」
「はーい」
「おやすみ~。(パチンと電気を落す)」


「…。」
「…。」


――― ヴォン。


「…布団かぶっても駄目。」
「…てひひ♪(パチ)」



五反田 弾。IS学園一日目、本日無事に終了です。

ちなみに、夢の中で『初代五反田号』を駆った俺は、途中一夏を轢いてしまったのは余談である。




*   *   *




「――― へい! 皮むき終了! 何処置きゃいいっすかマダム?」
「ああ、そこに置いといてくれ。いや助かるね~、こんな朝早くから手伝ってくれるとは思わなかったよ。」
「いえいえ、お役に立てたようでなによりです。――――お、そろそろ戻って準備かね?」
「そうかい、ありがとうね坊や。」
「それじゃこれで! また後で朝食をいただきに参りますが! 美味しい朝食楽しみにしてます!」
「はははは、待ってるよ!」


まだ日も上がっていない早朝。

目を覚ました俺は、朝食の仕込みをする食堂のマダム達の元へ赴き、下働きを手伝ってきた所です。

学園中の淑女たちの食事を用意するのだ。そりゃもう大変だったさ。いやー、『五反田食堂』とはまた違った忙しさだ。

でも、俺はあくまでIS学園の生徒。手伝いくらいしか出来ない上、時間制限付き。むむ、もっと技術力と瞬発力を磨かんといかんな。

寮に戻る途中、朝練に精を出す淑女にミネラルウォーターを差し入れ、まだボケーっとした淑女に大声出して挨拶し『びっくりするじゃない!』と、可愛く怒る姿を愛でたりしながら、部屋へと戻る俺。

うむ、今日も良い天気だ。

そんな俺が自分の部屋に戻ってきて、目にしたものはというと――――。


「…すぴ~。」
「おおう。」
「むにゅむにゅ。」
「ふむん? この子はホントにしょうがないね~」


幸せそうに眠る本音ちゃんの姿でした。その可愛らしい様子に少々苦笑しながら、時間を確認。

ふむ、そろそろ起こさなくては朝食の時間がガリガリと削られてれてしまうな?
まったく、手の掛かる子だね?(兄属性発動中)

蘭は逆に手のかからないスーパー優等生だから、こういった子は新鮮だ。


「へい! 朝だぜ本音ちゃん! 起床の時刻だ!」
「ううぅ~。」


モゾモゾ布団にくるまり丸くなる萌え動物が現れた。


どうする?


1、起こす

2、見捨てる 

3、引っぺがす 

4、添い寝する。


4が凄く魅力的だが、ここは素直に1かね?


「ほれほれ~! 起きれ―? だから早く寝なさいって言ったじゃないの。」
「ううぅぅ~。後五分~。」
「でたよ朝の定番台詞。」
「…ぐぅ。」
「起きろ―? 朝食摂らなきゃきっついぞ―?」
「うううぅぅ~。持ってきてー。」
「さらっとわがまま発言だよ! 俺びっくり。」
「うううぅぅ~。」
「ほらほらほら!! 起きろ起きろー!!」
「…うーるーさーいぃぃ~。」
「おう! 怒られた。 ふむ? そんなに布団から出たくないのかね?」
「…うんー。(モゾモゾ)」
「ふーむ? 仕方ないな。」







―――― 持ってくか。




*   *   *




所変わって食堂。

ガヤガヤと朝の妖精たちが、おのおの食事をとっております今日この頃。とりあえず、まずは場所の確保だな。

食堂内に足を踏み入れた俺は、周囲を軽く見回しながら歩き出す。

歩くたびに『え? 何?』『ちょっと、アレ何?』『あー、なんだ五反田君か。』『朝からまた飛ばしてるねー。』という声と視線が帰って来るが、ま、気にしない。


「なぁ。」
「…。」
「なぁって、いつまで怒ってんだよ?」
「…怒ってなどいない。」
「顔が不機嫌そうじゃん。」
「生まれつきだ。」


うん? この声は一夏か?


声の聞こえた方向に目を向けると、そこには黒髪ポニーテールの少女と、一緒に並んで食事をとる親友の姿。


お! ラッキー。丁度良く隣空いてんじゃん。というか、さすがは一夏。周囲の視線を独占しまくりだな。


「よう一夏! 隣空いてるか?」
「ん? おお弾か!? 空いてるからすわ――――― はっ!?」
「…? なっ!?」


フレンドリーに話し掛け、一夏がどこか助かったっといわんばかりの笑顔を浮かべ俺に振り向き、驚愕。

となりの黒髪ポニーちゃんも、一夏の声にいぶかしむ様な視線を向け、こちらも同様に振り向いて硬直。


おう? リアクションが一緒とは仲良いなお前ら?


「ん? なんだ?」
「なんだ? じゃない!? お前何してんだよ!?」
「何が?」
「それだよそれ! お前が肩に担いでる布団だよ! 何やってんだ!?」
「おりむ~。たーすーけーてぇぇ~…。」
「この声は、まさかのほほんさん!?」
「のほほん? おお成程。 一夏お前天才だな?」
「なんで布団に包まったのほほんさんを担いでるんだよ!?」
「同じ部屋だからに決まってんだろ。」
「答えになってねぇよ!?」
「いや、布団から出たくないって言うもんだから。布団ごと持ってきた。」
「何でそうなる!?」
「抱っこの方が良かったか?」
「そういうことじゃねぇ!」
「お、落ち着け織斑。とりあえずその子を降ろしてからにしろ。」
「あ、ああそうだな。おい弾、いい加減におろ――――。」
「そぉい!」
「にゃーっ!?」
「「投げたーっ!?」」


空中に放り出される、のほほんちゃん。

―― ババっ! (外れる布団。)

―― シュバッ! (加速する俺。)

『あわ~~~~~っ』 (落ちるのほほんちゃん。)

ボふっ。 (抱きとめる俺。)


「眼覚めた? のほほんちゃん?」
「うーあー、目が回る~。」
「寝過ぎのせいだな。」
「「お前のせいだ!!」」


突っ込みの息ぴったりだなお前ら? 夫婦か?

腕の中ののほほんちゃんをお姫様だっこで席へとエスコート。椅子を引いて座らせる。

うむ流石俺、紳士の鏡。ちなみに布団はきれいに畳んで食堂の隅へ。


「つ、疲れる! 朝からなんでこんな疲れなきゃないけないんだ・・!」
「なんだ一夏? お前も夜更かしか? 早く寝なきゃ疲れなんてとれるはずないだろう?」
「お前のせいだろうが。」
「部屋が別なのに? お前それは理不尽すぎるぞ?」
「今の一連の出来事で疲れたんだよっ!」
「へい、のほほんちゃん? 朝食は何が良い? 取って来るぜ?」
「わーい♪ ありがとーだんだん~。」
「聞けよ!?」
「忙しい。」
「てめっ!」
「な、何なんだこの男は? 一夏の知り合いか?」
「おう、中学から世話をしてやってます。」
「…突っ込まないからな。」
「期待してねぇよ?」
「本当に殴るぞお前?」
「ところでお嬢さん? 貴女のお名前は?」
「…篠ノ之 箒だ。」
「あー、弾に紹介するのは初めてだったよな。前に話したろ? 俺のファースト幼馴染の箒だ。一緒のクラスだぞ?」
「ああ、成程。ところで箒ちゃんて、お前の初恋の相手だったりする?」
「―――――なっなななななあああああぁぁ!?(真っ赤)」
「はぁ? 何馬鹿なこと言ってんだよ? ただの幼馴染だよ。」
「へい箒ちゃん? よく切れるナイフいる? 今ならフォークもセット。」
「頂こう。一夏そこに直れ。」
「ちょっ!? 待て!? 俺何も変なこと言ってないだろう!?」
「「黙れこの鈍感男」」
「なんで二人ともそんなに息ぴったりなんだ!?」
「だんだん~? 朝ごはんは~?」
「おっとぉ? ごめんごめん。 今とってくるぜ! 箒ちゃん後は任せた。」
「うむ。」
「ちょ!? 任せるな! 待て落ち着けーっ!?」


数分後。

のほほんちゃんの朝食と、自分の分を両手に戻って来た俺は、頭から煙出して机に突っ伏す一夏と、不機嫌そうに黙々食事をとる箒ちゃんを目撃することになった。

そして、そんな倒れ伏す一夏をつんつん突く、のほほんちゃんと一緒に朝食を開始する。


しかし本当にこいつは鈍感だね~。

あんまり鈍感が過ぎると、恋する乙女の敵とみなしぶち殺すよ?(本気)


「うぐぐ!? ひ、酷い目に会った。」
「ザマぁっ!」
「弾!? お前なぁっ!?」
「のほほんちゃん? 朝食の量は大丈夫か? もちっと少ない方が良かった?」
「えへへ~、大丈夫。丁度いいよ~♪」
「そりゃなにより。おい一夏? 食事中に煩いぞ?」
「お前な…。」
「ほれほれ飯を食って体力つけろよ? 俺達にゃ一週間後にセシリ―ちゃんとの決闘が待っているんだ。食って勉強。 精進あるのみだぞ?」
「お前って、ホントに我が道を行く奴だな。」
「わっ、だんだんもおりむーも朝から一杯食べるんだー?」
「野郎だからな?」
「弾は知らないけど、俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん採らなきゃ色々きついんだよ。」
「千冬さんの真似しただけろう?」
「う、うるせぇな。いいだろう別に!」
「ちなみに、俺は飯作ってくれた人に感謝の意味も込めて朝昼夕とたくさん取るタイプだ。自分の作ったもんを、美味しくたくさん食べてくれる姿ってのは、料理人にとって最高の報酬だからな。」
「だんだんそんなに食べて、その体系なの~?」
「おう、その分体を動かしてるから問題なし! 結構ハードな生活送ってます。」
「自慢する事じゃないだろう? それより女子って朝それだけで足りるのか?」
「デリカシーのない奴は紳士の敵だぜ? 一夏?」
「うお!? 待て待て! 箸を突きたてようとするな!?」
「大丈夫だよ~、お菓子よく食べるし―」
「何? それはいかん。 間食の取り過ぎは体に悪いんだぞ? これからはお菓子は制限するか?」
「ええええぇぇぇ!? やだー! だんだんそれだけは許して~!?」
「まずは新作スウィーツの試食を大幅カットかね?」
「そ、そんなぁぁ~!?」
「…仲良いな二人とも。」


そりゃそうだ。同居人なんだ、仲が良いに越したことは無いだろう。

涙目ののほほんちゃんに萌えつつ、食事をと取る。流石はマダム。メッチャ美味いです!


「…織斑、私は先に行くぞ。」
「ん?ああ、また後でな。」
「ふむ?」


さっさと食事を終えてしまった箒ちゃん。

なんか妙に素っ気ないがどうしたのかね? 一夏昨日なんかやらかした?


「箒ちゃん。なんか妙に不機嫌だな?」
「ん? ああいや、まぁ、ちょっと昨日な」
「なんだやっぱり一夏が原因か。というか箒ちゃんと一緒なのか部屋?」
「ああ、まぁ幼馴染だし。ちょっと助かったな。」
「ほほう。で? どっちが悪いんだ?」
「あ、あれは事故で。」
「野郎ってなんでいつも、自分が悪いのに事故の一言で片付けようとするのかね?」
「ぐ!? …はぁ。まぁ俺が悪いのは本当だしなぁ。」
「反省しな一夏。」
「…おう。」
「ところで話しは変わるが大丈夫だったか?」
「は? 何が?」
「夢の中の話だが、お前を『初代五反田号』で轢いちまったんだが?」
「…おい待て?本当にお前だったのかよ!? おかげで夜中飛び起きたわっ!?」
「すまんすまん。悪か――――ぎゃあああああ!?(ミシミシと音が響く)」
「おわぁ!?いきなりなんだ!?」
「お、おぉぉぉ…!? 『七代目五反田号』がジェラッたようだ…。」
「お、おまえのISって一体?」
「うまうま♪」



その後は、一年の寮長である千冬さんの厳しい声が食堂に響き渡り、みんな慌てて朝食を摂り、教室へと向かった。

ちなみに足の遅いのほほんちゃんを、俺がおんぶして向かったのだが、

ここで痛恨のミス。

のほほんちゃん。パジャマのままでしたっ!


慌ててのほほんちゃんを部屋に送り届けて、着替え終わったのほほんちゃんをまた背負って激走したが。間に合うはずなく大遅刻。


『入学早々遅刻とは言い度胸だな?』(胃薬片手に魔人覚醒)


俺とのほほんちゃんは揃って出席簿アタックを受け。
何故か俺だけ校庭を5週も走らされる羽目になった。


ふー。全く疲れたぜ。 


ちなみに校庭の隅に、自転車が置いてあるのを発見。
途中からそれに乗って校庭を走っていたら。千冬さんが飛んできて思いっきり殴られた。

ダメだったのか? 足で走れって言ってなかったしOKかと思ってたんだが? ちなみに自転車は途中で大破し使い物にならなくなった。

ふむ。やはりそん所そこらの自転車は使えん。やはり五反田号でなくてはな。


更に5周追加され、結局走り終わる頃には午前の授業が終了していた。


あれ? 俺って陸上選手志望だっけ?



*   *   *



疲労困憊で教室に戻ってきた俺。

周囲から『お疲れ―』っと苦笑交じりの女子達から激励をもらう。


おう?サンキュー淑女たち。


『――― 心しましたわ ――― 練機 ―――。』


そこにふと、小さな会話が耳に入り、その方向に視線を向ける。

ん?あそこで話しているのは一夏とセシリーちゃんか?

なんだなんだ?仲良さそうってあー、セシリーちゃんが一夏の机をバンバン叩いてる。仲がいい訳じゃないのか。


「よう? お二人さん?」
「うっ!? あ、あなたは!?」
「どうも五反田 弾です。クラスメイトと聞こえのいい他人です。」
「地味に嫌だなそれ。しかし災難だったな弾?」
「まー、のほほんちゃんが走らずに済んだだけでも幸運だ。」
「えへへ~ありがとー。」
「おう?のほほんちゃん、ただいま。」
「おかえり~」
「な、何なんですの? あの空気? 妙にぽわぽわしてる気が。」
「なんか二人とも随分打ち解けたな? 箒との関係改善の為にも話を聞かせてくれ。」
「餌付けた」
「うん、聞いた俺が馬鹿だった。予想できる答えだった。」
「だんだんのご飯はおいしんだよ~♪」
「まぁ、こいつ料理に関してはエライ真面目だからな。その誠実さを日常にも向けりゃいいのに。」
「何で? 俺真面目じゃん凄く。」


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


「…。」
「だんだん~、元気出して~?」


さすがの俺も、淑女たち全員から『何言ってんのこいつ?』みたいな意味を含んだ声は応えた。そんな声揃えなくてもええやんか。

教室の隅で膝を抱え『の』の字を書く。

そんな俺の頭を撫でてくれるのほほんちゃん。君だけだ俺の天使は。(好感度UP)


のほほんちゃんに癒しをもらい、再び一夏達のもとへ。


「そんで? 二人して何の話してたのかね?」
「あー、なんでも俺にもISを用意してくれるらしいぞ?」
「マジで? すげぇな。『専用機』か?」
「は? お前知ってるのか?」
「これでも一応、勉強はしてんだぞ俺?」
「昨日はわたしが教えてあげたんだよ~」
「嘘っ!? マジかよ~俺も誰かに教えて貰いたいな。」
「…そういえばあなた、既に『専用機』を持っていましたわよね?」
「『七代目五反田号』の事か?」
「な、何ですの? その品性の欠片も無いネーミングは?」
「立派な俺の相棒の名だぞ? 一回だけ出前した時は大助かりだったぜ。」
「あ、貴方でしたのね!? 人類の英知の結晶をそんな事に使ったという男は!?」
「なんか変か?」
「まー、普通はそうかもな。でもいいんじゃないか? 使う奴の自由だろ?」
「よくありませんわっ!? いいですか!? ISというのは――――!」
「ところで一夏? 飯食ったか?」
「ん? いやこれからだ。」
「なら丁度いい、一緒に食堂行こうぜ。のほほんちゃんも一緒に来る?」
「行く~♪」
「箒ちゃんも誘えよ。もう怒ってないかもしれんし。」
「そう、だな。うん、そうするか。」
「そうしろ。あ、それとセシリーちゃん? よかったら一緒にって、おおう?」
「あ、ああ、あああ…!」
「「「あ?」」」


「あなた達なんて嫌いですわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」(一夏に散々馬鹿にされた(と思っている)揚句、三人に無視された事が引き金になった。)


そう叫んでセシリ―ちゃんが、怒号の勢いで教室から出て行ってしまった。


「おい一夏? お前セシリ―ちゃんに何かしたのか?」
「い、いやーどうだろうな? 俺の態度に妙に腹立ててたのは確かだけど?」
「ふむ? よく分からんレディだ。」
「お腹すいたんじゃないのかな~?」
「食堂とは反対方向っぽいけど?」
「まぁ、いいか。ほれ。箒ちゃん誘って来い!」
「分かった分かった。おーい、箒ーっ!」


ま、とりあえず。これから四人で昼飯だ。

ちなみに、なぜか過剰反応した箒ちゃんが一夏を投げ飛ばし、俺の方向に飛んできたので、足を用意してやったら、一夏の背中にクリーンヒット。

一夏がしばし、体をえび反りにし悶絶するという一幕があったのはこれまた余談である。




後書き


箒さん登場―――って極端に出番が少ない。次回はもっと出ると思いますのでご勘弁の程を。さて次回、特訓開始です。



[27655] 第九話   友情一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 17:38
―――― え、何? は? っこんないきなり!? あ、あのこんにちは。
いつも家のお兄がご迷惑を御掛け…え? 終わり? ちょっはや――


「ふむ、突然の事態には不慣れだったか蘭の奴。」
「ん? どうした弾? いきなりなんだよ?」
「いや、別に。いつもと同じだぞ?」
「そうか? ならいいんだが。」


昼食を摂りに、俺と一夏、箒ちゃんとのほほんちゃんの四人組。

今は四人が向かい合うように、テーブルでそれぞれ食事を摂っているところだ。俺の隣はのほほんちゃん。一夏の隣に箒ちゃんという構図です。

おー、箒ちゃん。むすっとしているが頬が僅かに赤く染まっている。うむ、なんというツンデレ。いやリンデレ?どっちだろ。

ちなみに一夏と箒ちゃん、のほほんちゃんは日替わり定食。俺だけ蕎麦を食っている。さすがだ、いい味出している。

ズルズルズル。


「―――という訳で、ISの事教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で、俺だけなにも出来ずに負けそうなんだ。頼むよ箒」

そして現在。

一夏はというと、俺にさえ遅れをとっているという事実が後押ししているせいか、只今熱心に箒ちゃんへ教えを乞うている真っ最中です。

いやはや将来の力関係が眼に見える様だな。

ジュルジュル。


「…あれは明らかに相手を怒らせたお前らが悪い。後先考えない行動をするからだ馬鹿め。」


ズズー。ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ。

あー、出汁うめー。


「い、いやそれはその。そ、そこを何とか頼むっ!」


ゾーッ。チュルルルルルルルルルルル。最後の一口まで残さずに。


「「……。」」


ベコッ! ベコッ! ギュポン。


「今、人が鳴らしちゃいけない音しなかったか!?」
「というか何ださっきから貴様!? 静かに食えんのか!」
「げふー。ん、終わったか?」
「だんだん食べるの早いねー。」
「「…はぁ。」」


気が付いてみれば、俺だけが蕎麦を平らげ、他の三人はまだ半分も食っていない。
うむ、味わって食うことはいいことだ。ゆっくり食え。

腹も膨れた事だし、とりあえず会話に加わるとしようかね。


「ふむ? 箒ちゃんは、一夏に教えることが身の毛がよだつ程嫌な訳か。すごいな一夏、視界に入ると強い刺激に思わず体を背けんがばりの嫌われようだな?」
「…お前は友人の心を抉る事に躊躇いなしか?」
「い、いや。流石にそこまで嫌っている訳では。」
「言われてみれば。こいつなんかキモいもんね?」
「「そんなこと誰も言っとらんわ!」」


やはり息ぴったりじゃないかこいつら。さすがの幼馴染というべきかねー。ブランクあっても錆びる程脆い絆じゃないって事ね。ごちそーさん。


「それ以外の理由なんて俺には思いつかないが。一夏お前分かる? 嫌われてる理由。」
「俺に聞く事じゃないよなそれは!?」

ふむ? それじゃあ。

「のほほんちゃんは?」
「あむあむ♪」
「なるほど、ウザいってさ?」
「その言葉、のし付けて返すわ!?」
「箒ちゃんに向かってなんて事言うんだ貴様は!!」
「私じゃないだろう!?」

ギャイギャイ騒いでいる中、それとなーく、一夏と箒ちゃんを観察。

ふむ? どうやら昨日のことが尾を引いている感じじゃねーな?

それじゃ単に、箒ちゃんが気恥ずかしがっている――――ってこともないな。

見た感じ、一夏がどうこうじゃなくISに関して思うとこあるような気がする。単にISとあまり関わり合いたくないのかね? ここの生徒にしては珍しい子だ。

さて? どうしたもんか。

俺としては、一夏が箒ちゃんの教えを受けることは大いに賛成だ。

一週間じゃ基本中の基本しか学べんだろうが、雀の涙程度でも戦力アップに繋がるなら拒否する理由は無い。むしろ喜ばしい。

唯でさえ代表候補なんて存在と一戦交えるんだ。やるだけの事はやっておきたいもんだ。

でもあんまり乗り気じゃない箒ちゃんに無理強いするのも、紳士的にどうよ?

気が付けば、二人して立ちあがって俺を見つめて(睨んで)いる一夏と箒ちゃん。
のほほんさんは相変わらず食事に夢中。うむ癒される。

ま、考えてもしょうがない。 聞くのが手っ取り早いか。そう思って、口を開を開こうとした時。


「ねぇ。君って噂の子でしょう?」
「「「ん?」」」


突然声を掛けられて、俺と一夏と箒ちゃんは一斉に声のした方向へ顔を向ける。


グリン! ゴキンッ―――(弾の首が曲ってはいけない方向に)


――――― こ゜?


「代表こ――― ってひぃぃぃぃぃ!?」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!? いでででっで!? 勢いありすぎたあああああっ!?」
「お前は何処のホラー映画の悪魔だぁぁぁっ!?」
「というか何故死なんのだ!? ひぃ!? 寄るなッ! ここここっちに来るな!?」
「たーしけてー。」
「存外余裕あるなお前!? というか立つな! 動くなキモいわっ!?」
「おわー!? だだだ、だんだんが凄い事にー!?」
「あれ? 戻らんな? ふん!」
「「「戻せるの(かよ)!?」」」

――― ゴキュ。

ふー、戻った。(ケロリ)

コキコキと首を鳴らし首の状態を確認。 うん問題なし。 


「―――で? 噂って何でしょう?」
「何ごとも無かったように話を進めるな! お前大丈夫かよ!?」
「あー。心配ない心配ない。蘭の蹴りに比べりゃ大したことないぞ?」
「こ、こいつはもう妖怪の類ではないのか?」
「だんだんはきっと、だんだんっていう生き物なんだと思うなー。」


失敬な。ただ人よりちょっと復活が早くて不死身なだけだ。(既にその時点で普通ではない。)

ほら見ろ。根も葉もない事言うから、目の前の淑女が顔面蒼白にして俺を見ているじゃないか。

全く。純粋無垢なレディになんて事を。信じたらどーする。


「はーい。真人間の代名詞。五反田 弾さんですよ?」
「さらっととんでもないホラ吹きやがった。」
「お前が真人間なら。世界中の人間すべてが賢人だ。」
「馬鹿はいいけど嘘は駄目って誰かが言ってたよな?」
「うむ。その通りだ。嘘はいかん。」


ええい! さっきから喧しい男め!(女子なら良し。)

まぁ、それはともかく。とりあえず話を進めよう。


「で? 噂って何ですかね? 一夏がトイレ探して学外まで激走したってのは俺が広めた噂ですよ?」
「待て!? お前何してんだ!?」
「女子ってすごいね。 もう噂が広まったんだなぁ」
「何しみじみとしてんだ!? やっぱりお前とはガチで拳で語り合う必要があるな!」
「望むところだ! ならば俺は先にチョキを出す!」
「おー、心理戦だー♪」


ギャイギャイ


「あのー?」
「しばらく待っていただけますか? 今黙らせますので。」



スラッ―――――――――【木刀抜刀】



*   *   *



「お待たせしました。それで? 何のご用でしょう?」


頭からダクダクと血が流れるが、あいにく手拭いを持っていないから放置で。
まぁそんな俺を無視して、箒ちゃんがサクサク話を進めていく。
でもなぜ俺だけ? 一夏は無罪ですか? 贔屓はいけないと思うぞ。

しかし流石箒ちゃん。
まさか一撃で俺の意識を刈り取るなんてね。将来さぞ立派な剣豪になるだろう。

あ、復活は2秒で済んだ。やはり長時間俺を地獄の底に落せるのは千冬さんくらいじゃないと厳しいみたいだねー。

あ、のほほんちゃんがタオルで血を拭ってくれた。 もうなんて良い子なんや。


まぁ、その後の話は簡潔に言うと次の通りだ。


『あなた金髪の子と勝負するってマジ?』
『そうですね。』
『この素人が! 調子にのるな!』
『そうですね』
『仕方ない。私が教えてあげるわ。二人っきりで』
『そうで――クぺッ!?』
『こいつは拙者の弟子。すっこんどれ』
『青二才が身の程をわきまえろ』
『お姉ちゃんに言いつけてやる。』
『調子乗ってすんません。帰ります。』


という感じだな。
まぁ、間違ってはいないから大丈夫だろう。


しかし『篠ノ之 箒』って、何処かで聞いたかと思ったら。
あのウサミミ束さんの妹だったのか。


ふむ?


姉が実は副賞の景品だったという。衝撃の事実を知ったらどうなるのかね?


ま、それはさておき。
箒ちゃんが一夏の実力を測るため、放課後に一夏を剣道場に呼び出す次第となりその場は解散になった。ちなみに俺とのほほんさんも一緒に行くことになったぜ。(箒ちゃんに心底嫌そうな顔されたが)


ふぅ疲れた。

お? 丁度いい所に布団が。 休み時間もまだあるし寝かせてもらうか。おやすみー。
(食堂で堂々と布団を被り寝る男)


「だんだん~!? それ私の布団だよ~! かーえーしーてー!」
「クンカクンカ。ふむ素晴らしい。甘く、それでいてどこか清潔な―――」
「~~~っにゃああああああ!? かか嗅いじゃ駄目ぇぇーっ!?(真っ赤)」






【一夏SIDE 】


「どういうことだ?」
「いや、どういうことって言われても…」


放課後になって、いざ剣道場にきた俺は。
只今幼馴染に、上から冷たい眼で見下ろされている状況下に居る。

まぁ、手合わせ開始10分で俺の一本負け。我ながら不甲斐ない。


「どうしてここまで弱くなっている!?」
「いやどうしてって言われても?」
「あの男か!? あの男と一緒に居たせいで鈍ってしまったのだろう!? ええい許せん! 今すぐ叩き斬ってくれる!」
「待て待て。落ち着け箒。そうじゃないから話し聞け。」


今にも斬りかかりそうな勢いで、弾の元に突貫しようとする箒を後ろから羽交い絞めにして止めてやる。猪かお前は?

ちなみに弾はというと。


「のほほんちゃん機嫌直してくれないかね?」
「…。」
「さすがにやり過ぎた。ゴメン。」
「…。」
「お詫びに何か作るから。すごいの作るから。」
「…。」」
「あ、今ちょっとピクッてした。」
「~~~っ。(プイッ)」
「かーわーいーいー♪」
「…も。」
「ん?」
「も―――――っ!も――――――っ!!(ぺしぺし!)」
「いたた。痛いって。わはははははははは。」


剣道場の端っこで、真っ赤な顔をしたのほほんさんに叩かれ笑っていた。


…うん。何か邪魔しちゃ悪そうだ。(!?)


しかし弾の奴。のほほんさんを怒らせるなんて何したんだ? ダボダボな袖でぺしぺしと弾を叩いているが、弾にとってはそれが楽しくてしょうがないようだ。

なんというか平和だな。あれだ、じゃれて来る猫を可愛がる飼い主のような――。


「い、いいい一夏!? いい意加減に離せ!」
「うん? 離したら弾に突貫するだろうが」
「い、いや今は流石に…なぁ。」
「それもそうか。」


箒から腕を離して解放してやる。

なんかちょっと残念そうな顔が見えたが、お前そんなに弾を仕留めたかったのか?やめてくれよ? あれでも一応友達なんだから。


ま、とりあえず説明。受験勉強していたこと。帰宅部に所属の3年間皆勤賞だったこと。弾に振り回されたこともちょっとだけ白状する。


まぁ案の定。


「――――― 直す。」
「はい?」
「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後3時間、私が稽古を付けてやる!」
「え。それはちょっと長いような――― ていうかISのことをだな。」
「だから、それ以前の問題だと言っている!」

うわー、怒りまくってる。こりゃ何言っても駄目そうだ。

「情けない。ISを使うならまだしも。男が女に剣道で負けるなど…悔しくは無いのか一夏!」
「そりゃ、まぁ格好悪いとは思うけど。」
「格好? 格好を気にすることの出来る立ち場か! それともなん「よっ! お二人さん。終わったか?」――― 貴様っ!」


激昂している箒の言葉を遮るように弾が近付いてきた。
はー。正直助かったぜ。サンキュー弾。


「いやーしかし箒ちゃん強いね。流石全国大会優勝者、一夏もかたなしだな?」
「うるせぇ。それよりお前。のほほんさん怒らせるなんて何したんだ?」
「若さゆえの衝動が暴走ってとこかね?」
「何だそれ?」


いつものようにヘラヘラした顔で近付いてくる弾に、俺も言葉を掛ける。

って、おい箒? そんなに睨むな。こういった軽い感じの人間が好きじゃないお前にとって、弾はまさにその通りの性格だか仕方ないかもしれないが。いつにもまして眼が鋭いぞ。


「…何故私が全国大会の優勝者だと知っている?」
「うん? ああ、一夏が新聞見て妙に懐かしそうな、それでいて楽しそうな、だらしない笑顔してたもんだから気になってね。教えて貰ったんだ。」
「色々余計だ。」
「はっはっは。間違っちゃいないだろう?」
「…まぁいいか。ま、そういうことだ。」
「…ふん。」


お、箒が引き下がった。流石に自分の優勝を褒めてくれる相手に噛みつくことはしないか。若干嬉しそうだし。

はー、しかし参ったな。
こうまで簡単に負けると逆に清々しいな。でもまぁ・・・悔しい気持ちもあるにはあるんだが。

『織斑くんってさあ』『結構弱い?』『IS本当に動かせるのかなー』

ぐっ。やっぱり男が女に負けるなんて情けないことこの上ないよな。



『――――――― 千冬様の弟なのに』


――――――― ギリッ。


いつか言われると思ったが。流石にきついな。

そりゃそうだ。あんなに凄い千冬姉の弟である俺が、こんな体たらくじゃそう言われてもしょうがない。

比べられることなんて慣れてる。大丈夫だ、寝て目が覚めれば忘れているさ、



けど、けど俺だって…。




「よっしゃあああ! 第二ラウンドだ一夏ぁっ!」
「――――――っ!! いきなりなんだよ弾!? うるせぇぞ!?」


いきなり馬鹿みたいに大声出した弾が、剣道場の隅に走り。
一本の竹刀を片手に戻って来る。

おい。お前は今度何をしでかすつもりだ?


「第二ラウンドだ! 次の相手は俺だ! さぁ、かかって来るがいい!」
「は? お前何言ってんだ? というか剣道やったことあんのか?」
「ノリと勢いでカバー。」
「貴様っ!? 剣道を馬鹿にしているのか!?」
「いやん。箒ちゃんてば怒ったら可愛い顔が台無しだぜ? ほらほら一夏の前だよ。笑って笑って♪」
「なななっ何を言う! べべべ別に私は一夏が居ようと居まいと・・・・!!」

こいつはまた。なにを言ってるんだ?
付き合ってられるか。


「嫌だよ。箒と一戦交えて疲れてんだ。帰って寝る。」
「くくくく、だからこそだ! 今のお前なら簡単にぼこれる! この好機を逃す俺ではないわ!」
「「お前はどこまで腐ってるんだ!?」」


なんて卑怯な奴!? ふざけんな俺はやらないからな!?
流石の箒も、弾の外道極まりない言葉に激昂している。自業自得だアホ!

箒の罵声を受けてなお、ヘラヘラしている弾を尻目に。

俺は剣道場の更衣室に向かおうと足を進め――――




「大丈夫だって、万全の状態じゃない一夏を倒しても誰も気にしないって。それに理由効くじゃん?『疲れてたから本気を出せなくて負けました』ってな? ま、万全の状態でも同じ事だけど。あいつ弱いし。」




―――――― 止めた。




――――――― あ? 今こいつ何て言った?


「――――― 弾? お前今何て言った?」


空気が軋む。

俺の纏う空気が変わったことを敏感に察知した箒が、慌てて止めに入ろうとするが知った事か。

今の発言だけは許せない。

弾とは中学時代から、ずっと競い合ってきた。

負ける事もあれば、勝つこともある。でもそれはお互いに認め合った上での結果だ。

次は負けねぇ。今回は俺の勝ち。どうだ超えてやったぜ。畜生抜きやがった。

認め合ったからこそ、笑いながらそう交わし合う関係。

けど今こいつは。 あきらかに俺を下に見やがった。

許せない…友達だからこそ許せない!

俺の顔を見ても、弾はへらへら笑ったままだ。ムカつくっ! 何笑ってんだよてめぇ!


「ん? なんだよ一夏? そんなに怖い顔すんなよ?」
「…誰が弱いって?」
「お・ま・え♪」
「―――――― てめぇっ!?」
「だってそうだろー? これ以上負けんのが嫌だから俺との第二ラウンド避ける訳だし―?」
「上等だ。 受けて立ってやる! 後悔すんなよ!」
「疲れきっているお前に勝ち目などないわ! ふはははははははははは!!」


そうやって馬鹿みたいに笑っていられるのも今の内だぞ弾!!
吠え面かかしてやる!







「―――― では、両者構え。」


箒に立ち会って貰い、互いに睨みあう俺と弾。(弾の奴だけはニヤニヤしていたが)

後悔させてやる。覚悟しろよ弾。


「くくく! 一夏よ。俺の『本気』を見せてやるぜぇ!」
「あーそうかよ。なら俺はその上をいってやる!!」


男二人が真剣勝負ということで、さっきよりもさらにギャラリーが増えた。

おい。部活の格好した奴もいるぞ? いいのか?


おっといかん。勝負に集中しなきゃな。

竹刀を正眼に構え弾を見据える。
弾はといえば、竹刀を肩に担ぎヘラヘラと笑っている。


「五反田っ! 何をしているっ構えろ!」
「構えてるよん? はじめちゃってくれ。」
「そんなふざけた構えがあるかっ!?」
「今ここにある事が全てさっ!!」
「き、貴様っ!? 一夏! 遠慮はいらん! 叩きのめしてやれ!」


おいおい良いのかそれは? 立ち会い人が片方に付くなんてありか?

だが、まぁいいか。
弾の構えかどうかは知らないが。見た感じ全くの素人。いくら鍛錬を怠っていたからといって。剣道を全くしたことも無い奴に負けるかと聞かれれば、それは否。

油断さえなければ負ける事は無い筈。

あきらかに俺が有利な戦いだ。疲れもあるが、それを差し引いても負ける道理は―――――。


―――― 待てよ?


そう言えばこいつ『本気』をみせてやるとか言ったな?

よく考えろ。惑わされるな俺。

相手は【あの】弾だぞ? 考えろ。あいつの行動パターンを、思考を。



―――――――― あ、そういやあの祭りの日の時こいつ。



~回想~


あれは鈴が、まだ引っ越す前の頃の話。

浴衣の着付けで時間が掛かる鈴と蘭を置いて、一足先に祭りの行われる神社で、弾と共に二人が到着するのを待っていた時の事だ。

あきらかに時間がかかり過ぎている事に疑問を覚えた俺達は、祭りの入口まで様子を見に戻った。

その時目にしたのは、中年のおっさんに絡まれている鈴と蘭だった。

どうも酷く酔っているおっさんに、ほとほと困り果てている様子の二人、鈴が怒鳴っても聞かずに逆に切れ出すおっさん。

まぁその時に弾が動いた。理由は簡単。蘭がちょっとだけ涙目だったから。

弾はというと


『あのクソに俺の『本気』を見せてやる。』


そう凶悪な表情を浮かべ、おっさんに近付いた弾は―――――。


『はーいおっさん?』
『ああん!? 誰だて―――!』
『プレゼントフォーユー!』

ブシュー!(痴漢撃退スプレー)

『っぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!? 目がぁ!? 目がぁぁぁあ!? 痛い! いでででで痒い!? ぐわあああああ!?』

『ダアアアアイッ!!』

メキョッ!!(ドロップキック)

『ぶふぉおあっ!?』
『フンッ!!』

ガッ! ミシミシミシィ!(倒れ込んだ相手を持ち上げバックブリーカー)

『あんぎゃああああああああ!?』

バンバンバンッ!!(弾の体を激しくタップ。顔中が痛くて痒いのに手でおさえる事も出来ない地獄)


『ああん? 聞こえんなぁあ?』
『――――――――ッ!――――――っ!?』(もはや声も出ない)
『ひゃははははははははっ!! ケタケタケタケタケタ!!』(悪顔)


後に語られる。『祭りの夜の悲劇』の【序幕】だった。


~回想 終了~





――― お、思い出したあああああああっ!?


そうだ! コイツの『本気』は。

『あらゆる手段を駆使して、勝つ。過程なんざ知るか。勝てばそれが正解よ』がモットーの卑怯上等外道戦法だった―――――――!?

ということはだ!


「始めっ!」


箒の開始の合図と共に、走りだす俺と弾。

そして――――― 思った通り!!


「死にくされやあああああぁっ!!」
「やっぱり目潰し用催涙スプレー隠し持ってやがったな!?」


吹きかけられる直前で体を捻り、弾のスプレーを持つ腕を掻い潜り、互いに距離をとる。


「「「「「「「うわ! 卑怯っ!?」」」」」」」」
「ふざけんな! 正々堂々勝負しろ!」
「俺は剣道で勝負するなんて言ってないぞ?」
「ご、五反田ぁぁぁぁぁ!? 貴様それでも男かぁ!? 恥を知れ!」
「耳に心と書いて『恥』ですね。知ってます。」
「一夏ああああああああぁぁあぁっ!! 叩き殺せぇ!! 今すぐこの馬鹿を叩き斬れええええええええっ!!」


うわぁ。箒がいまだかつてない怒髪天を迎えた。


「ダアアアアアアイッ!」

妙な叫びと共に、弾が突っ込んできたが―――――甘いっ!


体を低くし弾に向かって、こちらも走りだす。

そしてすれ違いざまに――― 一閃!


痛快な打撃音が響き―――。


「ごばああああああああああああああっ!?」



弾の馬鹿が盛大に吹っ飛んで、剣道場の壁に激突。

そのままズルズルをずり落ち、逆さまの状態で停止した。


「一本! それまで! 勝者 織斑 一夏!」


わあああああああああああああああああああああああ!


剣道場に拍手喝采が起こる。

お、恐ろしい奴。すれ違いざまに俺の急所を狙ってきやがったよ弾の奴。

だが、まぁ。今回は俺の勝ちだぜ弾。これに懲りて言葉には色々気をつけろよな?


『凄いね! 見た今の!』『悪は滅びたわ。』『織斑君カッコイイー!』


うぐ。ち、ちょっと照れるな。


「ぐふぅ…! さ、流石だ一夏。だがこれで終わりと思うなよ…っ!?」
「相変わらずの不死身ぶりだなお前?」
「くくく…! 俺が倒れても、新たに第二、第三の俺が現れ必ず貴様を…!」


何処の悪役だお前は? というかやめろ。第二、第三なんてお前が複数いたら世界が崩壊するわ。

その後は、まぁ興奮冷め止まぬって感じだったが。しばらくしてみんなそれぞれ戻っていき。ようやくお開きとなった。

あー、疲れた。






【本音 SIDE】


「うへ~疲れた~。」

おりむーとの対決からしばらく経って、だんだんが剣道場から出てきた。

勝負に【負けた】だんだんは、一人で剣道場の清掃をさせられることとなって、今の今まで時間をとられていた所でした。

たいへんだねー。だんだんは。


「だんだんー。お疲れさま~」
「へ? おお、のほほんちゃんじゃないか! もしかして待っていてくれたの!?」
「そうだよー?」
「やばいっす。マジこの子良い子っす。天国の親父見ているかい…?」

だんだんが空を見上げてブツブツつぶやくけど、気にしない気にしない。
だんだんはこういう人なんだから。


帰る部屋も一緒なんだし。一緒にかえろー。


夕陽を背にして二人して歩く。


「いちち。くそー一夏の奴。何気に尾を引くダメージの与え方は。千冬さんそっくりだぜ。」
「大丈夫ー?」
「もう駄目。死にそう。のほほんちゃんの布団がないと俺死ぬかも。」
「そ、それはもういいよ~」


うう~不覚~。いまだに顔が赤くなるのが分かる。
そんな私を見て、ニヨニヨ笑うだんだんは、いじわるだと思う。

破天荒で、とんでもない事を引き出すびっくり箱で、ご飯がおいしくて、女の子には甘いけど時々いじわるな、だんだん。


――― そして、とっても友達思いの優しいだんだん。


「そういえば。今日のおりむーとの対決は~。」
「おおう、のほほんちゃん。敗者の俺に追い打ち掛けるとは。悪かったって。もう布団の話はしないからさ。」


違うよ。だんだん、知って欲しいの。私が知っている事を。







「――――― だんだんの【勝ち】だね~。」







「…はい?」


おお~、だんだんのきょとんとした顔はレアだ。
なんでだろ~、とっても嬉しい。


「だって、だんだんは、おりむーに『負ける』ことが。だんだんにとっての【勝ち】だったんだよねー?」
「ほほーう。面白いね。何を根拠にしているのか聞いても?」


いつも道理の、にへらとした笑顔だけど。ちょっとだけ目が驚きに揺れているのが分るよ。


「だんだんはー。おりむーが『織斑先生の弟』とか『ISを動かせる男子』っていう見方しかしない女の子達の言葉が、許せなかったんじゃないかなー。」
「俺が? ははははは、何をおっしゃるかと思えば。 野郎がどんな評価受けようが知った事じゃねぇすよ?」

ヘラヘラ笑うだんだん。
へへへ~、そうじゃないよねだんだん。


「男の子がじゃなくて、『友達』であるおりむーだからこそじゃないのかなー。」


「…。」


「だからみんなに、純粋なおりむーを知って欲しかったんだよね。だからだんだんは、わざとおりむーを怒らせて、勝負に持ち込んだんだよね~。」

自分が咬ませ役になってでも。

だんだんは、おりむーがみんなの言葉に傷ついている姿を見たくなかったから。

とっさに仕組んだんだよね。 あの張りぼてだらけの舞台劇を。


「だんだん言ってたよ。 『俺の『本気』を見せてやる』って。 その言葉におりむーは、何か閃いた顔になった所を、ちゃんと見てたんだ~♪」
「眠そうな目だというのに、そりゃ大変だったね?」
「そうでもないよ~。」


だんだんの顔に浮かんでいるのは苦笑。
その表情もはじめてみたよ~。


「だんだんの『本気』が、どういった行動なのかを、おりむーは知っていたんじゃないのかな。だからこそ、だんだんがおりむーに『本気』を見せるって言った事の意味を考えたらピンときたのー。」
「ふむ、してその答えはいかに?」


そんなの決まってるよー


「今から『お前の知ってる本気の行動をとるから、ちゃんと俺をぶっ飛ばせ』かなー?」

「――――――。」

「もちろん、手加減なんかしたらおりむーにもばれちゃうから、全力で『本気』の行動をとったんだよね? だからこれは勝負だったことには変わりはないよー? 『勝ち負けが正反対』になってるね~。えへへへ」


だからね? だんだん。


「だから、だんだんの『負け』は【勝ち】ってこと~。証拠におりむーの見方が『そこそこ腕の立つ男の子』になったみたいだし~♪ 皆に聞いてみたから間違いないよー♪」


「ふむ。なるほどねー…。」


私の答えに、考え込むように腕を組んだ、だんだん。
空を見上げて、しばらくぼーっとしていた。


しばらくそのままだったけど、次はガシガシと頭を掻いて――――。


ゆっくりと視線を私に向け



「――― やっぱり。女ってすげぇなー…。」



今まで見たことも無いような表情で、そう言った。


…お~。


「しっかし、のほほんちゃんて意外に鋭いのな? 俺びっくりだ。」
「てひひ。 私は実はすごいんだよー!」
「しばらく見ない間に、こんなに立派になって…! うぅっ!」
「まだそんなに経ってないよ~?」


あはは、いつものだんだんに戻っちゃったー。
でも、だんだんの評価は下がっちゃったのに、そこは気にしないのかな?


「そんじゃまぁ、のほほんちゃん?」
「なにー?」



だんだんの方へ目を向け―――――。


そこで私は一つの幻を見る。


いつもの様な、何気ないしぐさで。


小さな舞台を閉めるように。


王子様やお姫さまが笑う舞台の隅で、花びらを撒き周囲を鮮やかに彩る彼を。






「俺の、ちっぽけな【勝ち】を祝って。 一緒にディナーでもいかがですか?」





仮面を被る、心優しい道化師が、そう口にする姿を。





「よろこんで~♪」


もちろん、私は断ることなくその手を掴んだのでした。



【箒SIDE】


つい先ほどまで、二人の男女がいた場所を見つめる。
それは、私だけでなく。私の隣に居る一夏も例に漏れずに佇んでいた。


二人はというと、

『食堂まで競争、負けた人の奢りな!』『ええ~!?』『アディオース!』『あー!待ってぇー!?』『ふははははは、甘い! 甘いわー!』

と、叫びながら帰ってしまった。


あの男はまた【勝って】、あの妙にのんびりとした娘に、食事を奢るのだろうか。


私の隣に居る一夏は、何も言わない。
ただ、なにも言わずに、友人の走り去っていった方向を見つめていた。


「――― 箒。」


短く。だが力強く私を呼ぶ声に、心臓が小さく音を立てる。


「…なんだ?」
「これから一週間。遠慮はいらない。徹底的に俺を鍛え直してくれないか?」


振り向いた瞳は、今までの輝きを凌駕する程強く、そして決意に満ち溢れていた。

何を言うのかと思えば。


「当然だろう。徹底的に叩き直してやる。」


もう【負ける】訳にはいかないんだろう?


そう呟くと、一夏は一つ頷き笑う。


「ああ、あいつに【負けた】まんまってのは真っ平御免だからな。」


そう言って、私達は小さく笑い合った。


――――― 五反田 弾。


全く、本当に妙な奴だ。








そして、それから一週間。特訓に次ぐ特訓が繰り返され。
一夏はもちろん。五反田もついでに鍛えてやった。
奴を、一夏と二人して追いかけ回す日々も、考えてみたらこの日から始まったといえるな。





そして―――――――― 決闘の日はやって来る。






後書き


―――――長い。の一言。時間が掛かり過ぎだと思いちょっと反省です。さて次回、ようやくVSセシリア戦です。ここまで持ってくるのに、こんなに時間掛かったのは、わたしだけでしょうか? 



[27655] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 17:54
「ちわっす! やってきました決闘日。ゲストの五反田 弾です。」
「お前な。」
「おい、勝手にゲストになるな主賓の片割れ。」



ついにやって来た、セシリ―ちゃんとの決闘の日。
只今俺と一夏は、第三アリーナ・Aピットにて、来る戦いに備え準備中。

俺と一夏の隣には、箒ちゃんが一人付いてくれている。
のほほんちゃんは、なんでもアリーナの客席で応援するとのことで、ここにはいません。

ああ癒しが、癒しが足りない!

まぁ、箒ちゃんもダイレクトに美人だからいいんだが、こう、優しさが…ねぇ?


「お前失礼なこと考えてないか?」
「師匠、貴女との修行の日々。この弾、生涯忘れません!」
「誰が師匠だ。全くお前という奴は。」
「まぁ、箒には色々世話になったし、あながち間違いでもないんだよなぁ。」
「シャワー浴びてる姿は眼福モノだったしな? うん世話になったな。」


ビシィッ!

おう、俺の発言に空気が凍った。箒ちゃんは顔が引きつり、一夏はモアイ像のような顔をしている。


顔芸のバリエーションが増えたなぁ。


「な、何っ今なんと言った!? の、覗いたのか貴様ら!?」
「してない! してないぞそんなこと!」
「このお兄ちゃんがどうしてもって言うから。僕は止めたんだホントだよ。」
「俺を主犯に仕立て上げる気か!?」
「僕良く分かんない。」
「そのムカつく子供声を止めろ!」
「こっこの変態共め! 許さん、成敗してくれる! そこに直れ!」
「まっ待て箒。出鱈目だ、そんなことしてないぞ!」
「黙れ! 聞く耳もたん!」
「聞けよっ!? 俺は別に興味ないって!?」
「…お前って、マジで馬鹿じゃない?」
「は? なんだよ弾。何を言って――――どわぁ!?」
「――興味ないっ!? 興味ないとはどういう事だ!?」
「なんで怒るんだ!?」


おおう。鈍感要塞はいまだ健在のようだ。

竹刀片手に、一夏に黒いオーラを向ける箒ちゃんを横目に、俺は今日までの事を振り返ってみた。

おー? 一夏の奴凄いな。真剣白刃取りとは腕をあげたな。感心感心。


あれから今日までの一週間。

俺達の修行は、簡潔に言うとこうだ。

放課後は、師匠と一夏に追いかけ回されるデットヒートを繰り広げ(捕まれば即剣道場へ強制連行)。

少しは仲が良くなった師匠に、名前で呼んでもらえるようお願いして、渋々OKもらったり。

『七代目五反田号』で基本動作の復習を行い。勝手に訓練場使った事がばれ、千冬さんに追い回されたり。

二人して部屋に集まり、あーでもねーこーでもねーと参考書開くも、ちんぷんかんぷんで揃ってダウンし、のほほんちゃんと箒ちゃんに縋ったり。

夜食作ると、のほほんちゃんや箒ちゃんが、いつの間にかテーブルに付いていたり。

人生ゲームで白熱のバトルを繰り広げ、怪我人が出たりと激動の一週間だった。

うん? 修行と呼べるかこれ?
まぁ、俺は自分なりに作戦もいくつか立てたし、一夏も何故か気合い入れて剣の稽古に打ち込んでいたし、悪かないとは思うがね?


―――――で、だ。別にそれはいい、それは良いんだが問題は。


「なんで決闘直前なのに、一夏の『専用機』が届いてないのかねぇ?」
「おい。お前人を散々な目に遭わせといて何言ってるんだよ一人で。」


ん? 一夏が戻って来たか。

おーおー、箒ちゃんもまた随分不機嫌そうで。


「なんだ生きてたんか。この覗き魔。」
「死にかけたわドアホっ!? 人を犯罪者扱いすんな!」
「まぁ、そんのことより。なんで未だに一夏の『専用機』が来ないのかね?」
「話をすり替えやがった…。」


ぶつくさ言う一夏は放置。ふむ、まぁ届いてないモンは考えてもしょうがないか。

それじゃ俺は一足先に自分の準備でも始めますかね?

少し一夏達から距離をとり、待機状態の相棒に目を向け言葉を発する。


「『七代目五反田号』展開。」


まぁ。いつものようにIS装着の言葉を口にした俺だったのだが―――。







【ライダー風、宇宙刑事風どちらで?】







相棒に表示された文を見て、硬直した。




―――――なん…だとっ!?


「い、一夏ああああああっ!? 緊急事態だ! 俺に力を貸してくれええええ!!」
「ど、どうした弾!? 何があった!? ISのトラブルか!?」
「な!? 待っていろ! 今先生をよ――――っ!」
「ライダーと宇宙刑事ならどっちを選ぶ!?」
「「は?」」
「だから! どっちか聞いてんの! やはり変身ポーズの決まるライダーか!? それとも瞬間装着の宇宙刑事か!?」
「…何を言ってるんだお前は?」
「あーいやまぁ、なんとなく分るが。それは重要なのか?」
「ここはやはり腰に巻いてることだし、変身ポーズの決まるライダーで…いや待て!? 宇宙刑事なら『もう一度スローで見てみよう』とかナレーションが入ってリプレイが流れるんじゃないか!? 駄目だ! どっちも捨てがたいっ!」
「…聞いてないようだな。」
「もう好きにしろよ。はあぁ。」


おのれ『七代目五反田号』!

この究極の二択の一方しか選ばせないというのか!?

ええい、どうする。どうしたらいい。俺はどうしたら良いんだ――――!?


「若さって何だ!?」
「来ないな、IS。」
「うむ。」


苦悩する俺の背後で、二人のそんな呟きが聞こえた。




*   *   *



数分後。

しばらく苦悩した末、今回は宇宙刑事をとった俺。

やはりリプレイが流れやがった、恐るべし『七代目五反田号』。何気に一夏も「すっげ!」とか言って目を夏輝かせていた。野郎だもんね。


とりあえず、ISの装着を無事完了した俺は、腕を回したり、ハイパーセンサーやら各駆動系のチェック、エネルギーの確認等をして戦闘の準備を始めていた。

ふむ。特に異常なしだな。

カラーリングは碧に統一され、他のISに比べるとかなり武骨な外見をしている『七代目五反田号』。 見た目は強そうだから結構気に入っている。


そのまま黙々と準備を続ける俺の周りには、幼馴染コンビが並び、しげしげと俺の行動を観察していた。 


「ふむ? 二人してなんばしよっとね?」
「いや、いつ見てもなんかゴツイなぁと思ってさ。」
「うむ。 貫禄のある姿だ。 操縦者は別として。」

失敬な。
何処に出しても恥ずかしくない紳士な俺にむかって何てことを。

他愛もない会話を続けつつ、一夏の『専用機』の到着を待ち続ける

ちなみに視界の端には【待機状態のISを確認。ISネーム『ブルー・ティアーズ』。操縦者 セシリア・オルコット】と、表示されている。

もう待っているのかセシリーちゃん。 むぅ、レディを待たせるとは紳士としてあるまじき行い。

こうなったら、俺が出向いて担いで持ってくるか?

半分本気でそう思った時。


「お、織斑くん織斑くん織斑くん!」


男の夢の詰まった塊を揺らして、マヤたんが駆けこんできた。
おお、眼福眼福。

何? 『記録』した?

相棒っ! お前って奴ぁっ! まぁそれはともかく。


「俺の一夏を馴れ馴れしく呼ぶとは言い度胸だマヤたん。」
「え? ええええぇぇ!?」
「山田先生、コイツは無視してください。それよりも落ち着いてください。はい深呼吸。」
「箒ちゃん! ここで『一夏は私のだ!』って言わなきゃ駄目じゃないか!?」
「あっアホか!? そそそんなこと言えるかっ!」
「す~~~は~~~す~~~~は~~~。」
「はいそこで止めて。」
「うっ。」
「じゃあ、ちょっと上着脱いでみようか?」
「ぼほぉっ!? げほげほっ!」
「普通にセクハラ発言をするな馬鹿者!」


パァン! ガンッ!

ピット内に、軽快な音が鳴り響く。

おう、千冬さん登場ですか。
IS装備中の俺まで叩くとは、律儀な人やね? 全然痛くない。

隣で一夏が「お前だけずるいぞ・・」と呟いているが、知らんがな。


「ち、千冬姉。」


パァン!


「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね。」
「ようし、介錯は俺が受け持とう。だれかフライパン持ってきてー。熱せられた表面で、顔を往復連打するから。」
「介錯ではなく拷問だそれは!」
「くくく、楽に死なすかよ…。(暗笑み)」
「ここここ怖いです! 五反田くんがすごく怖いです!?」
「はぁ。話が進まん、山田先生。」
「へ? あっはい! えーと、来ました、織斑くんの専用ISが届きましたよ!」


おーついに来たか。さて? 一体どんなISかね。






【一夏 SIDE】


――――― そこには『白』がいた。

白、真っ白、飾りの気のない無の色。 眩しい程の純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
弾のISを『剛』とするなら、こちらは『勇』といえるだろうか。洗礼された姿の奥に、強い力を宿しているように見える。

「これが…。」
「はい! 織斑くんの専用IS『白式』です!」
「おーすげぇな。真っ白で綺麗じゃないか―――いでで、やめい。お前が一番だから圧迫してくんな。おちおち、他のISを誉めることもできんのかい。」
「何をしているんだお前は」


周囲の雑音を無視して、千冬姉が近付いてきた。


「体を動かせ。すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。出来なければ負けるだけだ。分ったな?」

「―――――― ふむ。」

せかされるまま、千冬姉の言葉に従い、ISに体をあづけていく俺。
その間も、体が馴染むようにISと繋がっていく。

集音率が高まったせいか、千冬姉の言葉を聞いた弾の、何かを考え込むように呟いた声も鮮明に聞こえる。

【戦闘待機状態のISを二機感知。右方向ISネーム『r【削除】七代目五反田号』。操縦者『五反田 弾』。戦闘タイプ中距離・近接戦闘型。特殊装備有り。前方上空。ISネーム『ブルー・ティアーズ』操縦者『セシリア・オルコット』―――――】

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
「聞こえってかー?一夏。」


いつもと同じような声。だけど、その二つの微妙なブレに気付く。

―――― 二人とも心配してくれているのか。


「大丈夫、千冬姉。いける。」
「そうか。」
「弾の方こそ大丈夫か?」
「俺はいつも通りよ。 毎日絶好調! でも最近妹分がっ!」
「そんなことまで聞いとらんだろうが。馬鹿者め」


いつも通りの台詞の奥に見える、あいつの緊張を解そうとしてくれる気遣い。
ホント。良い相棒に出会えて幸せもんだな俺は。

箒の方に意識を向けてみる。何か言いたそうな、けれど言葉に迷っているようなそんな表情。

弾が、そんな箒に気付いたようだけど、手を軽く振って止める。

一瞬キョトンとした弾だが、次にはヘラっとした顔で笑い、俺に頷く。


「箒。」
「な、なんだ?」
「行ってくる。」
「あ、ああ。勝ってこい。」
「帰ったら、のほほんちゃん含めた四人で祝勝パーティー開こうぜぃ! 俺の腕が唸るぜ!」
「…ふっ、気の早い奴だ。」
「ははは。ま、それくらいの意気がなくちゃな。―――行くぞ。弾。」
「あいよー。」


弾と並び立って、ピットゲートを進む。不思議な事に緊張はさほどないな。

弾の奴も鼻歌を歌いながらゲートを進む。まぁ、いつも通りだな。


「っと、そうだ一夏。一ついいか?」


不意に、弾の奴がこっちに振り向き声を掛けてきた。

なんだ? トイレか?


「どうかしたのか? 弾。」
「おう、ちょっと話があってな?」
「何だよ?」
「な~に。大した話じゃないんだがな?」


そう言って、ヘラりと笑いながら。話を続ける


「ちょっとした作戦を思いついてな。乗らないか?」
「作戦?」
「おう、セシリ―ちゃんとこのまま戦りあっても、俺らの勝率は一割にも満たないんだぜ? 単純計算しても」
「うげっ。マジかよ?」
「相手はイギリスの代表候補だ。当然だろう? 何人退けているか聞きたいか?」
「いやいい。聞かないでおく」


ぐぐ、知りたくない情報を。

こういう時は嘘でもいいから、勝率半分くらいとか言ってほしいもんだぞ。気合と根性でどうにか…弾にそれを求めるのは無駄か。


「だが。」


そう言葉を区切った弾が。先程までの表情とは一変し、戦いに赴く男のそれへと変わる。


「勝率を引き上げることくらいは出来る。後は俺達次第な策だが、どうする?」
「――― 乗った!」
「――― そうこなくちゃな!」


中学の時と同じように、俺達はニヤリと笑い合う。

悪いなセシリア・オルコット。

こうなった俺達は――― 強いぞ。





【セシリアSIDE】


「あら、逃げずに来ましたのね。」

ゲートから出たきた、二体のISが私の前に現れた。

このわたくしを恐れずにやって来た、その心意気は認めても良いですわ。

いえ、勇気と無謀を履き違えた、勘違いを起こしている男二人に憐れみすら感じますわね。

「待たせたなハニー!」
「誰がハニーですか!? 待ってもいませんわ貴方達なんて!」
「戦闘待機状態って待ってる事にならんのかね?」
「なるんじゃないか? よく知らんが。」
「やっぱり待っててくれたんだねハニー! 照れんなよ!」
「だから止めなさいと言っているでしょう!?」


碧の、他のISに比べやけに装甲の厚そうな機体から、不愉快なあの男の声に、つい反射的に応えてしまいました。

全く腹立たしい! このわたくしを、あそこまで散々馬鹿にした挙句、今なお馬鹿にし続ける男は貴方達が初めてでしてよ!

ふん。まぁでも、それも今日までですわ。一体貴方達が、誰に挑み、また無知であったか思い知らせてあげますわ。

でも、最後の慈悲として一応降参も受け入れて差し上げましょう。


「最後のチャンスをあげますわ。」
「マジで!? 撮影はどのくらい近づいて良いんですか!?」
「はい? 何を言ってますの?」
「おい弾? 意味分からんぞ。」
「馬鹿野郎! 見ろ! あのISを纏ったセシリーちゃんのきわどい格好を! この姿をこんなに近くで撮影できるなんて確かに最後のチャンスだぞ!?」


―――――――― はっ!?

カッと、顔中熱が集まるのが分ります。

そして、勢いよく自分の肌が露出している部分を、大急ぎで押さえてしまいました。


「どっどど何処を見ていますのぉぉーっ!?」
「くい込みとか! チラチラ見える生肌とか最高ですね!」
「いやあああああああ!? 変態!! 痴漢がいますわああああ!?」
「お前は何処のエロ親父だ!?」
「そんなこと言って、一夏も好きなくせに♪」
「巻き込むな!」


目の前で、白と碧のISが、お互いギャンギャン言い合っている隙に、わたくしは自分の格好を、大至急チェックしました。 

く、くい込みってなんですの!? そんな所ありませんわよね!?

うううう! こ、このような辱めを受けるなんて!?

やはり男なんて獣ですわ! IS装備の女性をそんな目で見るなんて、これですから極東の猿は嫌なんです!


もう良いですわ。

慈悲を掛けて差し上げましょうと考えた。私が間違っていたようです。

身に程を弁えない、愚かな猿には調教こそが必要ですわね!?


「―――― 覚悟なさい。」


手に持った【スターライトmkⅢ】を二機のISに向け、エネルギーを装填する。
自分のISからの警告があったのか、二機がこちらに目を向ける。


「―――って! 狙われてんじゃねぇかよ!?」
「おう。せっかちだなセシリーちゃん?」
「ふざけてる場合か! 来るぞ!」
「――― 武装展開っ!」


「――― お別れですわ!」


狙いを定め、トリガーを引く。

同時にキュイン! と鋭い音が響き、二機に向かって閃光が走る。

―――まずは挨拶ですわ。 存分に受け取りなさい!

そのまま、二機を貫く閃光――――のはずだったのですが。



「五反田食堂秘伝!【中華鍋バリアー】!」


キュワン!


「なっ!?」


甲高い、聞き覚えのない音が響くと同時に、私の放った砲撃が、碧のISの手前で霧散してしまった。

そんなっ!? 一体何が起きたといいますの!

理解できないまま、碧のISを纏う男に視線を向ける。

視線に映る碧のISは。先程までは持っていなかった、身の丈を超える程の円盤状の巨大な楯を持ち、白いISを守るように自ら前に出ていた。


「ふいー、危ねぇ。なんとかなったか。」
「お、おい弾!? お前今何したんだ!」
「ん? ああ、ちょいとコイツを使ってな、なんとか防げたな。」
「それは一体なんだ? さっきまで持ってなかったよな?」


ごく自然に、そう返した男の言葉に驚愕する。

そんな馬鹿な! わたくしの初弾を防いだというのですか!? 素人同然の男が!?


「そんなに驚く事じゃないぜ。そういう武装なんだからな。『七代目五反田号』についているこの武器はな?」


カンカンと、男が手に持つ巨大な楯を指で弾く。

あの楯は一体? ビーム兵器を無効化する特殊なシールドなのかしら・・・?


「これぞ! 『七代目五反田号』の主力武器。【業火鉄板鍋】だ! この鍋に耐えられないモノは無い!」
「鍋ぇ? 楯じゃないのかよ? なんだそれ?」
「鍋だ! 誰が何と言おうとこれは鍋です! 俺が決めた今!」
「やっぱりお前が勝手に命名したのかよ…。」


ま、また妙なネーミングの物が出てきましたわね。まぁ、でも調べればすぐに正式な情報が――――――。


【敵ISの武装確認。武装名称【業火鉄板鍋】。砲撃の威力を弱め、霧散させる能力有り】


…。

こ、これは突っ込んだら負けなのでしょうか?


「まぁ、それはそれとして。随分過激な挨拶じゃないかセシリーちゃん。」


男が私に話しかけてきた。

くぅ、まさか防がれるとは。けれど、いくらその楯が優れていようと、私の【ブルー・ティアーズ】にいつまで耐える事が出来るのかしら?


「ふん、わたくしの初弾を防いだことがそんなに嬉しいのかしら?」
「超嬉しい! やったぜ! 防がれてやんの! だはははははははははははは!!」
「―――――――ッ!(わなわな)」
「嘘だよ?」
「大笑いした後に、そんなこと言われて誰が信じるというのですか!?」
「一夏、お前は信じてくれるよな?」
「素で爆笑したよなお前。今。」
「ちっ! 話し合わせろよカスが。」
「おいコラ。どさくさに何言ってんだお前。」
「やっぱり馬鹿にしたんじゃありませんのっ!!」


く、屈辱ですわ! こんな風にコケにされるなんて! 許しません! 絶対に許しません!

良いですわ、全力を持って排除してあげますわ!


「【ブルー・ティアーズ】!!」


四つの『ブルー・ティアーズ』を展開し、砲身を二機のISに向ける。


「「げっ!?」」


展開された私の『ブルー・ティアーズ』を見て、二人の男が驚愕の言葉を口にし、盛大に顔を顰めた。


ふふっ! もう遅いですわ! わたくしをコケにした報い。存分に受けるといいですわ!


「おいおい冗談だろ! ビットなんて反則だ! セシリーちゃんてもしかして、『種』持ってたりする!? ストライクなフリーダム好きですか!?」
「訳分かんない事言うなよ!? 何とか防げないか!?」
「そう言うお前こそ何か持ってないのかよ!」
「俺のは――― あ、【近接ブレード】が一つだけ。」
「帰れ役立たず!」
「なんだと! お前こそ楯以外の装備ないのかよ!?」
「料理人が武器持ってる訳あるか! 今はこの【業火鉄板鍋】だけだ!」
「お前なんか攻撃手段持ってねぇじゃねぇか!? お前こそ帰れ!」
「なんだと!?」
「なんだよ!?」
「「――――っ!!」」


お互いの顔を突きつけて、睨みあう男二人。その二人を私は冷めた瞳で眺めました。

呆れてものも言えませんわね。協力するどころか、お互いの欠点を罵り合ってこの状況で仲間割れ。

なんというか、先程までむきになっていた自分が、馬鹿みたいです。

ふぅ、とんだ茶番ですわね。

所詮、男なんて無知で馬鹿な人種ということを再確認しただけの結果となりましたわ。


「さあ、終わりにしましょう。」


もう、終幕まで後わずか、せいぜい踊って下さいな。


「―――― 踊りなさい! わたくしと【ブルー・ティアーズ】の奏でる円舞曲で!」


四つの【ブルー・ティアーズ】が、わたくしの命令に従い、愚かな二人の男へと向かっていった。





【千冬SIDE】

「あわわわわ!? どうしましょう! どうしましょう~!? 織斑くんと五反田くんが喧嘩しちゃってます~!」


二人の罵り合いを見ていた山田君が、オロオロと慌てふためく姿を視界の端に収めながら、私は、二人の姿をモニター越しに見つめ続ける。

ふと。篠ノ之が、真剣な表情で画面を食い入るように見つめている姿を見つけ、近づく。


「どうした篠ノ之? そんなに二人が心配か?」
「っ!? あ、いえ。別にそう言う訳では。」
「…ふん。しかしこの状況で【喧嘩】とは、のん気なものだな。」


そう言って、モニターに視線を戻す。

モニターの中では、一夏が【必死】に『ブルー・ティアーズ』の攻撃を避け続け、五反田は、我武者羅に楯で【護り】に徹している。


ふん。全くとんだ【茶番】だ。


「さて、篠ノ之? お前はこの状況どう見る?」
「…二人は勝ちます。」
「ほう?」


確信めいた声に、少々目を見張る。こうまで断言するとはな。

そのまま、篠ノ之はモニターに視線を戻し、真剣な眼で二人に無言のエールを送り続ける。

その口に、僅かな微笑みを宿して。


「――― ふふっ。」


いつの間にか、私も小さく笑いをこぼしてしまった。まったく、本当にとんでもない【茶番】だ。

モニターに映る。金髪の少女に目を向ける。


「早く気付かないと、大変な目に遭うぞセシリア・オルコット。」


お前の言う円舞曲は、まだ始まってもいない。

気付いたころには、道化師によって作り上げられた舞台が始まってしまうぞ?


騎士と道化師の奏でる【協奏曲】が。











後書き

更新が遅くなり申し訳ありません。ちょっと忙しくなってきましたのでSSを書く時間が極端に減ってしまいました。気力は衰えてませんので、どうかお付き合いください。さて次回、弾と一夏が暴れます。



[27655] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2012/09/17 17:49
【箒 SIDE】


む? 挨拶? なんだそれは?


「セシリアさんの二人に対する『危機感』の低下ですか?」
「おそらく、五反田の最初の狙いはそれだろう。」


モニターを見つめつつ、織斑先生がそう口にする。
画面の中では、一夏がビットの攻撃を巧みにかわしている。

馬鹿、素早い行動の割に、顔が【必死】とはおかしいだろうに。
まぁ、一夏に高い演技を求めるのは酷だろうが、それにしてももっと…。

弾、あいつはあいつで攻撃を楯で上手く受けている。

かわすと見せかけて、かわせなかったという態度で攻撃を楯で吸収。受けた射線上の先には一夏の姿。

こちらは言うだけあって、上手い。一夏が捌ききれないかもしれない攻撃を見極めて【護り】に徹している。

凸凹コンビだとは思っていたが、お互いに役割は果たしていた。


「元々、セシリアは二人対し警戒心も危機感もさほど感じていなかっただろう。だからこそ、二人は【喧嘩】して見せた。自分達の低い警戒心を、さらに地に落とす為にな。」
「え? どうしてです?」
「セシリアに最初からある程度の本気を出させないためだろう。 セシリアは女尊男卑の傾向が高い。 元々男を下に見ていた所、対戦相手の男二人が自分との力の差で動揺して、さらには互いを罵っての喧嘩を始めたとしたらどう思う? 少なからずもこう思った筈だ『本気で戦うことすら馬鹿馬鹿しい』とな。」


―――― 流石は、織斑先生だ。

二人の狙いを一瞬で見破った。この策は冷静な人程見破られやすい。逆にいえば頭に血が上った人程嵌りやすい。


「それじゃあ、織斑くん達のさっきの【喧嘩】は。」
「セシリアに本気を出させない為の策の一つだろう。 それにセシリアは短期戦を望むタイプではない。 場を盛り上げるだけ盛り上げて、自分の力を周囲に誇示する長期戦を望むタイプだ。 最初から本気で来ないとしても保険はかけておきたかったのだろう。そして、本気でないビット攻撃はIS起動が二回目である織斑にとって、練習相手に申し分ない。」
「練習…あっ!」


山田先生が、今気付きましたとばかりに声を上げて、モニターを覗き込む。

一夏の動きは、すでに最初のようなもたつきはほとんどなく。いくらか余裕も出て来ている。

はぁ。だから、表情と動きが矛盾しているだろうに。全く。


「少々荒療治だが。織斑の短い時間でのIS機動の向上も狙いの一つだ。攻撃より回避に専念させるのも、下手に攻撃してダメージを受けることは無論。一次移行もすんでいない初期設定状態時に無駄なエネルギーを消費させない為だろう。後は、一次移行まで悟られないよう挑発し続け冷静さを奪ってやればいい。途中違和感に気付き攻撃のレベルを上げても、それは織斑の成長の糧にしかならんし。なによりセシリア自身のエネルギーと弾薬の消費にしかならん。・・・・まぁ、セシリアのエネルギー浪費も狙いの内だろう。」
「ほ、ほあ~!? ご、五反田くんて策士ですね~!?」
「悪知恵が働くと言うんだああ言うのは。それに五反田自身も隠し玉を持っているかもしれんな。織斑の一次移行が作戦の全容とは思えん。作戦内容の一つだろう。」


策士か。

一夏はどちらかというと、考えるよりも先に体が動く性質だ。それに対し弾はある程度、観察と調査を行い行動する性質。

なるほど、お互いの長所と短所を補っているという訳か。二人が妙にウマが合うのも少なからず納得できるな。

そう思いモニターの戦闘に視線を戻す。


『無駄無駄無駄無駄ぁ!』
『さっきから煩いぞ弾! 集中できないだろうが! 静かにしろ!』
『【しょうがないな】』
『腹話術!? いらん技術身につけやがった!?』
『ちょこまかと鬱陶しいですわね! 観念なさいな!』
『そうだ! いいかげんに観念して『IS/VS』を貸せよ一夏!』
『いきなりなんだよ!? というかその前に、貸したままのゲーム返せよ! もう半年も貸したままなんだぞ!』
『そんなもんとっくに金に換えたわ。』
『その発言待てえええええっ!? 何してくれやがるんだボケナス!?』
『うるせぇよ!』
『なんでお前が切れるんだよ!?』
『しょうがないだろ! 行き先で駄菓子屋のう○棒が目に入っちまったんだから!』
『どんだけ購入したんだお前!? 俺のゲームは○ま棒の誘惑に負けたのかよ!?』
『一個だぞ? 何言ってんの? いや無性に食べたくなってなー。』
『十円の為に売るんじゃねぇ!? 残りはどうした!?』
『お前に返そうと思った行き先で、お使いの買い物の商品を、道端に落して駄目にしちゃってグスグス泣いてた女の子に近付いて。商品確認して『ちょっと待ってな』って一言告げて、手持ちなかったから仕方なくゲーム売った後に近くのスーパーで同じ商品買ってきて、女の子の所に戻って『よかったら、お兄ちゃんのと交換してくれないかい?』っていう一コマの中で消えた。すまん一夏、いくらなんでもその為にお前のゲームを売るなんてどうかしていた。遠慮はいらん、盛大に罵ってくれ。』
『できるかああああああ!? 何の感動を届けてるんだお前は!?』
『出来もしないなら始めからするな!? そんなんだからお前は一夏って影で呼ばれるんだ!』
『本名だよ!? 別に困らねぇよ!!』
『あ、あの? 私忘れてません事? そ、それとお二人ともまず落ちついて。』
『外野は黙ってろ! 取り込み中だ!』
『レディに向かってなんだその態度は!? でもセシリーちゃんも、ちょっと空気読もうな?』
『す、すみませ―――――って!? 何で私があやまらないといけないんですのおおおおおおおおっ!?』
『悪いことしたら謝らないとな?』
『あーもう! 貴方という男はホントに! ホントにホントに―――!?』
『らーいーおーんだ!♪(古)』
『『お前(貴方)はもう喋るなあああああああああっ!!』』
 


…あいつは本当に考えて喋っているのだろうか?



「あ、あの。あれも冷静さを奪う為。な、なんですよね?」
「…。」
「…あ、水。入れますね…。」



静かに胃薬の蓋を開ける織斑先生の背中が、やけに小さかった




と、とりあえず頑張れ! 一夏! 弾!






【弾 SIDE】


「は――――っ! は―――――っ! さ、三十八分っ! も、持った方ですわねっ! ほ、誉めて差し上げまっえほえほっ! は―――・・!」
「…なぁ、弾。」
「言うな。それが紳士だ。」
「お、おう。」


むしろ誉めてあげたいのは俺らの方なんだがね?

いやー、さすがセシリーちゃん。すごいわ体力。野郎二人相手に。

うむ、マジすごい。一対二の状況の中で、ここまで体力が続くとは感嘆の息しかでない。


「それよりも一夏? どうだ?」
「後もう少しだと思うんだけど・・・。」


ふむ、まだ一次移行は成らずか。時間稼ぎもそろそろ限界なんだがな?

セシリーちゃんに視線を戻す。

ありゃー、不味い。

なんか警戒の色が、表情ににじみ出てる。さすがに戦闘の途中で違和感に気付いたか。そりゃそうかもね? 俺達一切攻撃しなかったし。


「貴方達っ! 一体何が狙い何ですの!? こんな時間稼ぎなどして! 私のエネルギーの枯渇が狙いなのでしたら無駄ですわ! そんな幼稚なミスを犯す私ではなくってよ!」
「ん? 気が付いてたのセシリーちゃん? どのあたりから?」
「ふん! そんなものすぐに気が付いてましたわ! あえて幼稚な策に乗ってあげた私に感謝してほしい位ですわね。」
「でもなんか途中激昂しなかったか? お前。」
「おいおい。そこは黙ってようぜ相棒。紳士なら」
「あ、あれは貴方達のせいではありませんか! わ、私を無視して!」
「「寂しかったのか? そりゃ悪かった。」」
「その台詞は二回目ですわっ!? なんでまた息ぴったりなんですの!?」
「愛かな?」
「「それも二度目!?」」


ほほー、時間稼ぎと感づいても攻撃してきたのか。

ふむ成程ね。俺達の策にあえて乗ってくれたのか。

その上で俺達を超えて勝利する自信があると。

恰好良いねぇ。 強い淑女さんだ。 眩しい位に気高い心。最高だっ!!

でも、今回その余裕はちょっとばかし悪手だぞ? セシリーちゃん。


「まぁまぁ、別に俺達に大層な狙いなんて―――。」
「っ!? 弾!」
「…来たな? 手札がようやく揃ったぜ。」


俺が会話を続けようとした時。

一夏が、待ちに待ったという表情で声を上げ。―――次の瞬間。

『白式』が、強烈な眩い光を放つ。

――――――― キィィィィィン

静かな高周波音を立てながら、『白式』の姿が劇的に変化していく。光に粒子を放ち、一夏という宿主のために、己を形成していく。

装甲からまだ僅かな光の粒子を生みながら、一夏の【白式】がこの場に誕生した。


ようこそ、歓迎するぜ! 『白式』!


「ま、まさか一次移行!? あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたんですの!? この為の時間稼ぎでしたのね!?」
「そ。ついでに起動に不慣れな一夏のレベルアップも兼ねたね? 練習相手ありがとうなセシリーちゃん。」
「おかげで十分練習になったぜ。俺からも感謝する。」


俺と一夏の感謝の言葉に、セシリーちゃんの眼元が引き攣った。
うむ、その顔も美人だ。どんな表情も似合うね♪

一夏は、体の調子を確かめるように腕を回し得たりしている。
手の中の【近接ブレード】も形を変え、神々しさを発している。

――――― 凄ぇな。 『七代目五反田号』が、あの刀に特A級警戒信号を発している。そこまで凄いのかアレは?


「それも狙いだったという訳ですのね!? 私とした事が…! ッ!? では最初の【喧嘩】も!?」
「セシリーちゃんの手を抜かせる為の作戦の一つ。練習を始めるなら最初はEASYモードの方がいいだろう?」
「少しづつ射撃の正確さとスピードが上がって来てたけど。なんとかなったぜ?」


いやいや、それはお前の順応能力の高さがおかしいんだよ。なんだよ、一発二発は覚悟してたのに避けきるって。

成程、千冬さんの弟という肩書は伊達じゃないってことか。あの姉にして、この弟ありって奴かね?

まぁ元々一夏の身体能力の高さは身をもって知ってる。今は体が心に追いついてないだけだから理解はできる。にしても潜在能力高すぎるだろお前。

いつか、こいつは誰もが放っておけない人間になるだろうな。

調子に乗るから絶対言わないがね?


「あとはセシリーちゃんのエネルギーを無駄遣いさせようと目論んだんだけど。」
「そんなミスは犯しませんわっ!?」
「でも、いつもよりも消費は大きいんじゃない? 一対多向きでも、当らなければ消費はでかい筈だ。その辺どう?」
「――― くぅっ!」


俺の言葉に、セシリーちゃんがビットを前面に展開。自分を護るように、俺達に構える。

どうやら【敵】として認められたようだぜ相棒。光栄だな。

一夏も一夏で、真剣な表情で相手を睨みつけている。

手に持った刀も、一層光を放ちその存在を周囲にしめいている。一夏が動かないのは、おそらく合図をまってるからだろうな。


ここからが本当の勝負だ。作戦もいよいよ大詰め。そろそろ決着つけようか? 

奥の手】も準備はOK。いつでもいける。


「さてと、ここからが本当の勝負だ。さっきとは違って、一次移行した一夏の『白式』の段違いの機動力。そして防御から、攻撃へと戦法を変える俺の『七代目五反田号』。凌げるもんなら凌いでみなってね。」
「攻撃っ!? 武器がその楯以外にあるのですか!?」
「一夏の言葉に勘違いしたね? 俺は攻撃手段ないなんて一言もいってないぜ? ナイス一夏。やるじゃん。」
「い、いや。俺も持ってないと思ってた。」
「「……。」」
「や、やめろ! 二人してそんな目で見んなよ!?」


…まぁいいか。

想定よりもエネルギー消費の多い自身のIS。

さっきとは性能と戦法をガラリと変えて来る敵のIS。

それも二人同時に相手をする。

しかも片方は所持武装の詳細が鍋(え?)以外一切不明。


かなり厳しいハンデをぶつけてやった思うが、どうなるか。相手は代表候補生。何か温存している可能性もあるし油断できないな。


これを凌がれたら、もう打つ手なし。最初から出し惜しみはなしで全力で行くぜっ!!


「一夏。」
「なんだ?」
「セシリーちゃんだけに集中しろ。背中は任せてくれ。」
「その方が分りやすくて良い。了解だ。頼んだぜ。」


俺に背中を預ける事に一瞬の躊躇いもなしか。カッコイイじゃない!

なら、その信頼にこたえるために全力を尽くさせてもらう。


「そんじゃ行くぜ? レディ――――。」





「「――― GO!!」」





――――――― ドンッ!!

空気が弾ける音が鳴り響き、同時に動き出す俺と一夏。

一夏がセシリアちゃんへ真っ直ぐに向かっていくのを、ハイパーセンサー越しに見ながら、俺は真っすぐに、アリーナの地面を目指す!


「っ!? 速いっ!? 【ブルー・ティアーズ】!! 撃ち落としなさい!」


一夏の機動力に、セシリーちゃんが驚きの声を上げるが、すぐにビットで対応する。しかし、撃ちだされたレーザーを、素早い機動でかわす一夏。


――――― 流石! さっきまでとは比べる事すら馬鹿馬鹿しい程の機動だ!


そんな一夏から意識を外し、地面に激突するような勢いでさらに加速。
右腕の装甲に、バチバチと閃光が走り。輝きが増していく。


――――― これが【奥の手】!!



「――――― いっけええええええええええええええええええ!!!!」




『七代目五反田号』の右腕装甲が、アリーナの地面に叩きつけられると同時に。

岩を砕くような轟音を響かせ、俺を中心とした。エメラルドの電磁波のフィールドがアリーナ全域に一気に広がる。


「「っ!?」」


突如現れた電磁波のフィールドに、一夏もセシリーちゃんも驚愕する。

――― うげっ! ごっそりエネルギーを持ってかれた!? 

表示されたエネルギー残量を確認しても、残りわずかしかない。 
やっぱり使いどころが難しい代物だぜ!


「な、何ですのこれは!?」
「弾っ!? お前何をしたんだ!?」


ふふふっ! よくぞ聞いてくれたな相棒! これぞ【奥の手】!


「これぞ! フィールド発生兵器【食の寝台・まな板領域】! 『七代目五反田』の特殊武装だ!」
「なんだそりゃ!?」
「また妙なネーミング武装ですの!?」


驚くのは名前じゃないぞ!
この【食の寝台・まな板領域】の力をとくと見せてやるぜ!!


「『七代目五反田号』。【敵IS所持武装選択】!【武装指定・ブルー・ティアーズ・レーザー射撃型】! 発動しろ!」


俺の発言と共に、フィールドの電磁波が輝きを増し―――――。


「なっ!? 【ブルー・ティアーズ】が!?」


エメラルドの電磁波が一斉にそれ伸び、セシリアちゃんのビットに喰らいつく。
そのまま一気に引き寄せ、電磁波のフィールドの地面へと縫い付けた。

よっしゃあ!! 


「私の【ブルー・ティアーズ】が!? ま、まさかそのフィールドは!?」
「その通り! この【食の寝台・まな板領域】は、敵のIS武装を封じる効力を持ってんのさ! 俺が指定した武器は例外なくこの電磁フィールドへご招待だ!」
「す、すげぇぞ弾!!」
「って言っても、エネルギー消費が激しい上に形成時間が短くてな。使いどころが難しいんだが…。」


そう言いつつ。
俺は【業火鉄板鍋】を構えて、命じる。


「【業火鉄板鍋】! 【貯蔵】解放! 武装展開だ!」


俺の命令に、【業火鉄板鍋】が、その内部に【貯蔵】していた武装を、俺の前に展開する。
解放された武装は、『七代目五反田号』が引き寄せ装着。

これで、『七代目五反田号』も準備完了だ!


「楯の中に隠し持っていましたの!? そんな!?」
「行くぜぇ! 【五反田包丁・初代・二代】! 【食の寝台・まな板領域】が消える前に、ビットを料理する!!」


両脇に装備してある二振りの刃を引き抜く。
そしてそのまま一気に、地面に縫い付けられているビットへ加速。

まな板の上なら俺の独壇場だあああああっ!!


「――――― させませんわっ!?」
「こっちの台詞だぁ!」
「くぅっ!?」


俺に向かって、セシリーちゃんが銃口を向けるが、一夏が素早くセシリーちゃんに肉薄。刃を一閃するが、紙一重でかわされる。
けど、どうやら一夏は、それが狙いだったようだ。


「弾っ! こっちは任せろ! やれぇっ!!」
「ナイス一夏! 後で奢っちゃる!」


相棒のフォローを受け、ビットの二つに接近。
そのまま、【五反田包丁・初代・二代】を素早く振るい【切る】!!

――――― あらよっとぉ!

一閃、二閃と光が走り、ビットが切り刻まれた。


「微塵切り! かつら剥き! どっちも完ぺきに決まったな! お次は!」


自分の位置から、かなり距離のあるビット二つへ意識を向ける。
突っ込んでも【食の寝台・まな板領域】が消える方が先だな…ならば!


両腕に装着された砲身を残りのビットへそれぞれ照準を合わせる。


エネルギー馬鹿食いしたからな。威力は弱火で【焼く】としますか!!


「焼き加減は弱火だが十分だろ! 【特注コンロ・炎の料理人魂】! 発射ぁ!」



小さな発射音と共に、二つの小さな火球がビットへ放たれ――――― 命中!!
黒こげになり、小爆発を起こし消滅した。

それと同時に【食の寝台・まな板領域】も消滅。

くそ、やっぱり効果時間が少なすぎる。 できればもう一つぐらいセシリーちゃんの武装を破壊しときたかったんだがな。


「――――― ッ!? よくも私の【ブルー・ティアーズ】を!!」
「余所見は禁物だぜっ!!」
「ちょこまかと鬱陶しいですわ! 喰らいなさい!」


セシリーちゃんが一夏に向かって攻撃――――って!? あれは【ブルー・ティアーズ】じゃないのか!? まだ持ってたのか!? それも二機かよ!
でもそれならなんで【食の寝台・まな板領域】が反応を示さなかったんだ?


「っ!? 射撃型じゃない! 弾道型か!?」


一夏の声にハッとする。弾道型…? しまった。

指定したのは射撃型のみだった! 弾道型を備えている【ブルー・ティアーズ】は対象外という訳ね。
くそ、融通聞かないなコンチクショウ!!


ああもう!


「【業火鉄板鍋】!【剛鉄球お玉】! 行くぞぉ!」


【業火鉄板鍋】を地面に寝かせ、背中の【剛鉄球お玉】を大きく振り上げる。
こっからじゃ救援は無理だ。

なら――― コイツで! どうだ!


「【剛鉄球お玉】!その【叩く】威力は未知数だ! 行くぜ! 某寝ぼすけ兄貴を起こす為に編み出された妹の想いのこもった究極秘儀! 死者の―――――――っ!!」


お兄ちゃん朝ですよっとぉぉ!!


「―――― 目覚めええええええええぇぇぇぇっ!!!!」



【剛鉄球お玉】を思いっきり【業火鉄板鍋】に叩きつけた瞬間。



ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンン―――――ッ!!



―――― 大気を揺るがすが如く、火山が大噴火するかのような物凄い轟音がアリーナ中に響き渡った!!



「「「「「「「――――― 耳があああああああああああっ!?」」」」」」」


うおお!? 凄い威力だ。
観客の淑女たちにもダメージが行くとは、すまん!


けれど、とてつもない衝撃波は観客席のシールドが護ってくれたようだ。さすがIS学園!

だが――― ミサイルはどうかな!?

上空に視線を向けると、二つの弾道型【ブルー・ティアーズ】に大きな亀裂が入るのをハイパーセンサー越しに確認することができた。

そしてそのまま発生した衝撃波にやられ、二つの弾道型が途中で大爆発を起こし消滅。

黒煙で一夏の姿は確認できないが、まぁ無事だろう。上手くいったか。


『IS【七代目五反田号】。残量エネルギー0を確認。戦闘不能、リタイア。』


あー、しまった。最後のでエネルギー使いきっちまったか。

すまん、一夏。後は頼んだ。


「~~~~~~~~~~!? そ、そんな無茶苦茶ですわぁ!?」


耳を押さえ、セシリーちゃんが叫ぶが。

―――おいおいセシリーちゃん? それは、大きすぎる隙だぜ!


黒煙の中を突っ切るように、白い弾丸が猛スピードでセシリーちゃんに接近。

その存在に気付いたようだが、反応が間に合わず硬直する『ブルー・ティアーズ』

刀を振り上げ―――――


「――――― 俺達のっ!!」


一気に振り下ろすっ!!


「勝ちだあああああああああああああっ!!」


白が青を切り裂いた瞬間。ブザーが鳴り響く。






『試合終了。 勝者――――― 織斑 一夏。五反田 弾 ペア』






「「―――― よっしゃあああああああああああっ!!」」


空と大地で、俺達の雄たけびが木霊した。


ギリギリの勝ちだったがまぁいいか――――― ん?

何気なく空を見上げ―――― そこには重力落下していく『ブルー・ティアーズ』の姿が鮮明に・・・・っておい!?


「―――― 一夏ああああ!? セシリーちゃんキャッチしろおおおお!?」
「――――― は? …はああああっ!?」


俺の言葉にセシリーちゃんに視線を向けた一夏だったが。その先には重力落下するセシリーちゃんの姿があり、それを見て思わず素っ頓狂な声で叫ぶ。

おいおい待て!? エネルギー切れにしても空中落下するなんて聞いてないぞ!?
ISって安全性は超高い筈だぜ!?


「セシリーちゃん!? どうしたんだ!?」
「わっ分かりません!? せ、制御が効かないんですの!?」
「「なんでさっ!?」」
「――― も、もしかしてさっきの衝撃波のせいでどこか破損を…!?」
「なんだってぇえ!? 俺のせいっすか!? やべぇ!? 一夏ぁ! 頼む!」
「――――― 任せろっ!!」


お、恐るべし『死者の目覚め』! こ、この技はよほどの事がない限り使用は制限しよう!

俺も『七代目五反田号』を動かそうとするが、機体が重くてどうにもならねぇ!!
くそ! 紳士としてあるまじき失態だ!

視線の先には、地面に向かって落下していくセシリーちゃんの姿…やべぇっ!!


「―――――――――――ッ!?」
「一夏あああああああぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」
「間に会えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ―――――っ!!」


地面に激突する瞬間。

白の閃光が瞬き、間一髪でセシリーちゃんを横からかっ攫う。


おっしゃぁ!! ナイスだ一夏っ! 後で【弾特製フルコース】を作ってやるからな! セシリーちゃんにもお詫びを兼ねたスウィーツも作ります!


「ナイスキャッチだ一夏! でかしたぜ!」
「あ、危なかった! 大丈夫だったか?」
「―――― え? は、はい。」
「そっか。そいつは良かった。(眩しい笑顔)」
「…あ、はい。(キュン)」


あ、一夏セシリーちゃんにフラグ立てやがった。

見境ないなあいつは本当。見ろよ。セシリーちゃんの険がとれた、あの乙女な表情。

あー、箒ちゃんの激怒する顔が目に浮かぶぜー。楽しいね!(他人の不幸は蜜の味)

あ~~~。それにしても最後の最後でどっと疲れたぜ。

大きく息をついて、俺はアリーナの地面に大の字になって寝っ転がる。今は唯、ゆっくりと体を休めたい。


こうして、俺達の勝利とセシリーちゃんのフラグが立った事で。決闘は終了した。




【本音SIDE】


アリーナに寝そべるだんだんの姿を見つ続ける。

お~勝ったよー! おめでとうだんだん~!

今まで見たことない、『男の子』なだんだんは、なんかカッコ良かったな~


あれ? なんだか顔が熱いな~。


「あはははははは! 何あのネーミング!? あっははははは! ちょっと待ってお腹痛いぃ~~~~♪ あはははは!!」


席で笑い転げる楯無お嬢様。
あはは~。確かにそうだけど、それでこそだんだんって感じだね~。


「あー♪ おかしい。噂の男の子達は想像以上に面白い子達みたいだね。」


パンと、扇子が広げられ。書かれていた文字は『痛快』。
おー、結構好評価だ~。

もう一度だんだんに視線を向ける。
おりむーに手を貸され起き上がっているところで、へらへら笑っている。
うんいつものだんだんだー。


「…。」


あれ? さっきからお姉ちゃんが妙に静かだなー?

お姉ちゃんを見ると。視線はじっとアリーナに向けられている。

…あれ?


「お姉ちゃん~? どうしたのー?」


私の声にハッとするお姉ちゃん。 一瞬慌てたようだけどすぐにいつもの表情に戻る。


「な、なんでもないわ。 初戦で勝利なんて凄いわね。二人とも。」
「う、うん。そうだね~。」


なんだろう? なんだか嫌な予感がする。

よく分かんないけど…なんだか変な感じがする~~~~? なんでぇぇぇ~!?

そしてまた、お姉ちゃんの視線はアリーナに戻る。

その視線の先にいるのは、一体誰~!?

なんでこんなに気になるの~~~~~~~~~!?



「――― これはっ!?♪(ギュピ―――ン!)」



そんな私達を、楯無お嬢様がキラキラした表情で見ていたことを。
その時のお姉ちゃんも、私も気付かなかったのでした。







後書き

まさかの生徒会メンバー登場です。さて一体どうなることでしょう。ちなみに弾にハーレム願望はありません。紳士ですから。さて次回、IS授業及び祝勝パーティなどの日常編です。――――― そしてもうすぐあの娘が帰ってきます。



[27655] 第十二話  帰還一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 18:33
ちわっす。 みんなの頼れるお兄さん。 五反田 弾です。


決闘翌日。
クラス内は決闘の話題で大賑わいです。

そりゃそうか。代表候補生に素人二人が勝ってしまったんだからな。
しかも男。話題性十分すぎる。

このまま、一夏がクラス代表に決定するかと思いきや。
ここで、思っても見ない事態が発生。
この劇的な勝利のお蔭で、ちょと妙な話になってしまった。

目線の先では、マヤたんが楽しそうに声を発していて、隣の千冬さんは、何だか眉間に皺を寄せて不服そうにしている。


「それでは、一年一組のクラス代表は、織斑 一夏くんに決定です。そしてさらに、副代表に、五反田 弾くんに頑張ってもらいます。男の子二人なんて頼りになりますねっ。」


わあああ!
パチパチと、淑女たちが大いに盛り上がっていた。

一夏の奴は、「まぁ、俺だけってのは割に合わないからな」と言って頷き。
箒ちゃんは、「正直不安だな。」と渋面。
セシリーちゃんは、「負けた手前文句が言えません。なんて羨ましいポジションをっ!」と、ものすごく悔しそう。


…俺が副代表?


何という事だ。どうしてこうなった?
ふむ? とにかく理由を知らねば話が進まんなー。

そう思い、俺は勢いよく右足を上に突き上げた。


「へいマヤたん。SO★MO★SAN!?」
「その呼び方止めたくださいっ!? 足じゃなく手を上げてください!? それから普通に質問がありますっていってくださいぃっ!?」

体が柔らかいことは良い事だ。
まぁ、それはともかく。俺にはどうしても納得できんのだよ。マヤたん。

「小さな頃に、軟体動物目指した俺の努力はこの際置いておくとして。」
「お前って、本当に無意味な事に全力投球するよな。」
「なんで俺が副代表? 此処は流れ的に、風紀委員じゃないんですか? おかしくない?」
「「「「こいつ今、どの口が言ったの!?」」」」
「風紀に真向対立している貴様が言うことかっ!? この学園設立以来の問題児がっ!!」
「これでも未熟児だったんだぞ? 俺頑張ったんだ! 生きることに!」
「少しホロっとする発言ですわっ!?」
「頑張って努力したら、気が付いたらこんなだよ?」
「今のお前は努力した上での結果だったのかよ!? 努力の方向性を最初で間違えたか!?」
「『変○仮面』、あの衝撃のバイブルに、幼稚園の時に出会った事が全ての始まりだったな。」
「「「「「子供時代に取り返しのつかない出会い!? しかも目指したの!?」」」」」
「まぁ、一分で『はっ、ねぇわ。』って投げたけど。」
「嫌な子供だな!? というかその時点でもうお前の基本が出来てるじゃねぇか!?」
「今だ完全には至らんが。」
「まだ不完全なのか!? これ以上の高みあるのか!?」
「マヤたん。どうして俺みたいな奴が生まれたの?」
「そんなこと質問されてませんよっ!? それと自分に自信持ってください!?」
「よし、分かった! 俺は自信を持って副代表の権力を有効活用させて貰うぜ!! ふはははは! 今日からこのクラスの秩序は俺のものだ!! マヤたんのお墨付きも貰ったしなぁ?」
「ええええええええええええっ!? 私のせいですかっ!?」
「「「「「承諾したけど、ものすごく陰湿だ!?」」」」」
「貴方の好きにはさせませんわっ!? 副代表になったからには相応の責任と覚悟を持っていただきますわ!」
「思い通りになると思わぬことだ弾っ! この私の眼の黒いうちは好き勝手はさせん!」
「クラス代表は俺だから、あんまり無茶なことはさせないからな?」
「まずわ、感謝を込めて。みんな学園中を綺麗に清掃だ! 終わったら『弾特製ミックスサンド』+『くらぁ!? 紅茶。』を出すから、みんな頑張ろうなっ!?』
「「「純粋かつ善意に溢れた行動(ですわ)!?」」」
「明日から。」
「「「お前(貴方)やる気ないだろ(でしょう)!?」」」
「俺の都合も考えてくれよっ!?」
「「「「「「「「知るかああああああ――――――――――っ!!」」」」」」」」
「…。(空が青いな。四月も後少しか)。」
「先輩が空を見上げて遠い眼を!? 先輩っ! しっかりしてください!?」


とまぁ。
このように色々盛り上がり。一夏の補佐として俺が副代表に就くことになった。
ちゃんとした理由をのほほんちゃんに尋ねたところ。

『戦っている姿が、意外に頼りになりそうだったし。少し格好良かったかも? 後耳が痛いんだけど、どうしてくれる。』

という意見が少数あったからだそうな。

ふむ? まぁ、淑女たちのお望みとあらば。喜んで引き受けるぞ?





*   *   *





そしてさらに数日が経ち。現在。
俺は今、クラスのみんなと共に、千冬さんの授業を受けています。

おー、グラウンドも桜が彩られて綺麗なもんですたい。
やっぱり淑女の為に、見た目の美しさにも力を入れとるんだな~。


まぁ、そんなものよりも。

俺は周りの淑女たちへと視線を走らせる。ISスーツに身を包んでの授業だから、当然みなさん悩ましい姿であります。

いやしかし、眼福もんですな!?
見てよ、周りの女の子達の格好。たまりませんな!


「ぬふふふふふ。」
「「「「「「「「…うわぁ。」」」」」」」」
「…むー。」


淑女たちの引いた目に悶えていた俺だが。
なぜか頬を膨らませているのほほんちゃんに、かわいく睨まれたので、目の保養を断念する。

なんだか最近、のほほんちゃんの様子が変です。
この間まで抱きついてきたりとスキンシップ旺盛だったのに、少し減ってしまった。

ふむ? 遅い羞恥心の芽生えかね? 少し寂しいが、気にしといてあげよう。


いや、でも意外な事に。のほほんちゃんてスタイルいいのね? 最高ですね!


「う、うぅ~っ。(照)」


ごうふっ!? な、何だあの萌え生物は!? 頬を桃色に染める姿が俺の心をわし掴んで離しませんっ!?

そ、そげな風に体をモジモジさせたらあかんでお嬢はんっ!? 胸が!? 割と大きめのバストに括れた腰がっ!? ヒップが太腿がああああっ!?(何気にしっかり見てる)


い、いかん! このままでは萌え死んでしまう! 回避! 回避―っ!?


そのまま。かなり抵抗の強い俺の視線を強引に前方にずらす。


目線の先には、マヤたんに千冬さん。二人ともジャージなんだね。

ちっ! 空気読んでくださいよ!


「…むーっ!」


あ、ごめんなさい。

あれ? 迫力は皆無なのに、なんか従ってしまうぞ? 恐るべしのほほんちゃん!


「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。」


む、いかん。授業に集中せねば、千冬さんのきりっとした声に思考をカット。授業に集中する。


「織斑、五反田、オルコット。試しに飛んで見せろ。」


おー、話し半分聞き流してたから。何の事か分からないかと思ったがセーフだ。
これぐらいなら理解できる。

千冬さんが、俺達三人を呼び、跳ぶように指示をしたんだな。

ほほー、跳べか。なるほどなるほど。


…なんですと!?


「なにをしている。三人とも早く前に出ろ。」
「え? あ、はい!」
「分かりましたわ。」
「俺、今は金持ってませんよ!?」
「では、それぞれISを展開し――― っ誰が、カツアゲなんぞするかこの害悪野郎がああああああっ!?」


メキャッ!(出席簿アタック角バージョン)


残像を残し、俺に一撃を加える千冬さん。

あだぁっ!? さ、流石千冬さん。的確に俺の脳天を捉え、瞬時に俺を殺しに掛かるとは。

胃を押さえ顔を顰める千冬さんを、マヤたんが宥める光景を目にしながら、呼ばれた俺達は前に出る。

おおう。あんなにジャラジャラ胃薬飲みこんで平気なのかな?

とりあえず頭に突き刺さったままの、出席簿は誰か取ってくれないかね?
悩み多き今日この頃です。





それから少しして、千冬さんを前に横に整列し直す俺達。

しかし千冬さん。出席簿引き抜くにも、俺の顔面を踏みつけながら抜くことないでしょうに。スカートじゃないじゃないか!?

それにしても、一夏も俺もISスーツを纏っているが。このへそ出しルックはどうにかならんものかね? 一夏以外需要はないだろう。お婿に行けなくなったらどうするんだ。

おお、セシリーちゃんは今日もきわどい格好だね。ありがたやありがたや。


「お前は一体千冬姉を、何だと思ってるんだよ?」
「いやーすまんね? ISで飛ぶってことよりも、そっちの方がリアリティがあり過ぎてな。」
「何で今、私を拝みましたの!?」


パァンッ!!
ベキョッ!!(ブシャァ!)
パァンッ!!


「織斑先生と呼べと言っている。それから五反田、黙っていろ。オルコットも私語は慎め。」
「す、すみませんでした。織斑先生。」
「誰か手拭い持ってない? 血が止まらなくて前が見えんのです。(ダバダバ)」
(((((でも平気なんだ!?)))))
「…何故私までぇ…!?」
「さっさとISを起動させろ、馬鹿共。」


千冬さんの言葉に慌てて集中する一夏とセシリーちゃん。

瞬間、セシリーちゃんの周囲が青白く閃光を発し、ISを展開。
『ブルー・ティアーズ』が、セシリーちゃんの体にそう着されていく。
ほー、『ブルー・ティアーズ』の待機状態は、あのイヤリングだったのか。女の子らしくオシャレでいいな。

さすがはセシリーちゃん、ISの展開も慣れたモノですな。


「くっ。」
「一夏。お前はライダー風で頼む。」
「出来るか!? 集中の邪魔するなよ!」
「じゃあ美少女戦士風でいいよ?」
「出来ねぇっつってんだろ! ああもうっ!」


一夏が、右腕の真っ白なガントレットを握り再び集中。
膝かっくんしようかと思ったが、千冬さんが修羅の如く睨んできたので断念。

刹那、一夏を中心に白い光が発光。次の瞬間には『白式』を纏った、一夏の姿が現れた。

…なんだこの、無駄に主人公補正の高い姿は。白なんて普通に主人公カラーじゃねぇか。お前一体どこの主人公だ!(IS)

いやー、それにしても『専用機』が二機並ぶと、中々壮観です。
やっぱり、訓練機の『打鉄』もいいけど、個性高い『専用機』は違うわ。
あー、でも『打鉄』を装備する淑女達の姿も、アレはアレでそそるモノが!


ベキャア!(ブシュウウゥゥ!)


「(くるっ) 誰か呼んだ?」(既に慣れた)
「五反田さん!? 血が! 頭から噴水のように血が出てますわ!?」
「一夏。輸血パック持ってない?」
「ここで輸血する気か? それと血は臓器扱いだから個人で所有できないんじゃないか?」
「ほほー。そうなんか?」
「とりあえず拭けば、いつものように止まんだろ?」
「だな。(ごしごし)」
「そういう問題ですの!?」
「「「「「織斑くん、手慣れてる!?」」」」」
「こいつの不死身振りには突っ込まん事にしたんだ。俺。」


遠い眼をする一夏の姿を、視界の隅に置いて。
とりあえず、俺に一撃加えた人に向直る。

まぁ、千冬さんですよね。ありがとうございます。


「へい、なんでしょうか? 織斑先生。」
「なんだじゃない。お前もさっさとISを展開させんか馬鹿者。」
「先輩!? それだけで頭を割るのはどうかと思うんですけど!?」
「え? そう?」
「そうか?」
「加害者と被害者の意見が一致してます!? 私がおかしい流れになってます!?」


はははは、おろおろとしていて微笑ましいね。マヤたんは。

ふむ? しかしISの展開かぁ。今はちょっとなー。

片足上げて、織斑先生に声を掛ける。


「織斑先生。発言良いですか?」
「…。」
「ものすごく嫌そうな顔しないでください! 先輩! それと五反田くん、足じゃなくて手を上げてください!」
「犬って前足なのに、『お手』っていうのはおかしいと思います。」
「何の話をしているんですか!?」
「『主人を足で踏むとは言い度胸だ駄犬がぁ!?』と、世の飼い主は怒っていい。」
「お手をさせておいて理不尽すぎます!?」
「マジックハンドを使えよと常々思います。」
「犬に求める事じゃありません!?」
「それで、ISの展開のことなんですけど。今ちょっち無理なんすよ。」
「何か問題でもあるのか、五反田?」
「あれー!? なんで普通の会話に戻っちゃうんですか!? お二人ともー!?」

(山田君を挟めば、割とストレス感じないな【キュピン】)
(先輩がものすごく、ニヤリとしてるぅぅ!? 絶対碌でもない事です!? 主に私にとって!?)


なんて弄りやすいんだマヤたん。
おー、千冬さんも。「我が意を得たり」って顔で悪い笑みをうかべてる。
どこぞの、デス○ート所有者も顔負けですね。


「へい、オヤビン。【ベキャア!】実は今、『七代目五反田号』が手元にないんです。(ブシュウ!)」
「何だと? ISの修理、メンテナンス等の話は聞いていないが?」
「普通に会話しないでください!? 血が! とんでもない量が!?」
「預けてきました。」
「…それは誰だ? 学園の関係者だろうな?」


先程までとは打って変わった。千冬さんの真剣なまなざし。おおう。凄い気迫だ。

いや、別に大した所じゃないんですがね?






「いえ、だいぶ汚れたんで。クリーニングに出してきました。」
「今すぐ取ってこいドアホオオオオオォォォッ!!?」






とりあえず、ISの基本飛行や武装基本的な展開行動は、一夏とセシリーちゃんが行い、無事終了。一夏の奴がグラウンドに巨大クレーター開けたのは余談だがね。

俺は、学園のすぐ近くにあるクリーニング屋のおばあちゃんに頭を下げて『七代目五反田号』を返してもらった。

ちなみに『七代目五反田号』。
クリーニングしてもらえなかったことに対して、【残念】と文字を表示。

すまんなー。部屋の洗濯機で我慢してくれ。






【??? SIDE】


「ふぅん、ここがそうなんだ」


国を離れて、ようやくIS学園へとたどり着いたあたしは、学園を見上げてそう呟いた。

中々いい所じゃない。ま、あたしが通ってあげるんだからこの位は当然よね。

「えーと、受付って何処にあるんだっけ? 本校舎一階総合事務受付…って、それ何処にあんのよ」

手元の紙をイライラしながら見る。
場所の名前じゃなくて、その場所の地図くらいつけときなさいよ。適当にも程があるじゃない。あたしを誰だと思ってんのよ、あーもう!

上着のポケットに、再び紙をねじ込んで歩き出す。
自分で探せばいいんでしょう、自分で探せばぁ。あー面倒くさいわね。

とりあえず、歩いていれば誰かしら人に会うだろうと思って、そのまま歩き続ける。待ってるだけなんてあたしの性に合わないしね。
きょろきょろと、周囲を見回しながら進むけど、行けども行けども人の影は見えない。

まぁ、時間が時間だししょうがないか。

(あーもう、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな…。)


一瞬、それは名案! って思ったけど。学園の規約事項を思い出して止める。

それと同時に、情けない表情であたしに懇願してくる政府高官の姿を思い出し気分が少し晴れた。

自分の倍以上もある年齢の筈の大人が、ヘこへこ頭を下げる姿は見ていて気分が良い。

昔から『年を取っているだけで偉そうにしている大人』や『男っていうだけで偉そうにする子供』が嫌いなあたしにとって、今の世の中は非常に居心地が良かった。
そんなことしでしか誇れない小さな輩は、今頃肩身の狭い思いをしているに違いないと思うと笑えて来る。

けれど、二人の男の姿が脳裏に鮮明に映し出され、知らずにあたしは、先程とは全く違う笑みを浮かべてしまった。

―――― でも、アイツ等は違ったなぁ。

真っ直ぐな意志の強い瞳を持つ少年と、いつも気楽そうな笑みを浮かべる少年。
その二人の男だけは別。絶対言わないけど、あたしが信頼している男はあいつら以外には存在しない。
そしてその二人の存在が。あたしが日本に来た理由の一端を担っていたりするのよね。

―――― 元気かな二人共。っていうか考えるまでもないか。間違いなく元気よねー

あの台風みたいな奴がいる限り、毎日が騒動づくしだろうし。
昔の大騒ぎを思い出し、笑ったり、イラッとしたりと百面相しながら歩き続ける。


その時、ふと誰かの話し声が聞こえてきた。
ラッキー。ちょうどいいや、場所聞こうっと。

そう思って、声のする方向に耳を傾け―――――、


「おい弾!? お前また俺の写真を無断で売りやがったな!?」
「え、俺が? いつ何処で何時何分何秒? もうちょっとその辺明確にしてくれんかね?」
「小学生か!!」
「何故、俺が『小学○年生四月号』を買った事を知っている!?」
「小学生だ!?」
「だって今月の付録超かっこいいんだぜ!?」
「またおまけ狙いか!? お前本当に付録好きだよな!?」
「失敬な! 連載中の【打鉄~その魂の行方~】だって毎月読んどるわ!?」
「何だそれ!?」
「町工場の老夫婦が、『打鉄』のパーツの制作するに至るまでの、苦悩と挫折、そして絶望を描いたアクション漫画だ。」
「驚くほど救いのないダークストーリーじゃねぇか!? 小学生が読んで問題にならないのかよ!? そしてアクション要素が全く見られんわ!?」
「今月はお婆さんが、七十才年下のつとむ君と駆け落ちしてな・・・続きが気になって夜も寝られねぇ!?」
「普通に誘拐じゃねぇのかそれ!?」


ゴガン!

会話を聞いたあたしは、思わず壁に頭を打ち付けてしまった。

~~~~~~~いったあああ!? 

ものすごく聞き覚えのある、二つの声。
そしてその会話内容のアホらしさに頭痛が走る。物理的にも精神的にも!

か、変わってない…!
いや、あたしの知っている。昔の二人のままだということは嬉しいのよ?
嬉しいけど、ちょっとは成長しなさいよアンタら!? 特に弾!

あんまりにも早過ぎて、ある意味衝撃的な再会に、あたしはこめかみを押さえ立ちあがる。

と、とりあえず、声を掛けよう。そう思い、あたしは足を動かす。

突きあたりから顔をのぞきこませると、思った通り。言い合いを続ける二人の姿。

一年前よりも、背が少し高くなった二人の姿にちょっと驚く。

へ、へぇ~? い、一夏ってば、また少し格好良くなったじゃない?
弾は…あはは、あんまり変わらないけどちょっと逞しくなった?

懐かしい二人の姿に、あたしの心が少しずつ穏やかになっていく。

あたしって気付くかな? まぁ一年しか経ってないし大丈夫よね? 気付かなかったら、それだけあたしが美人になったてことだし?

そう思って、意気込んで声を掛け―――。


「ここに居たかああああああああ!?」


――― ようとして。般若の形相をした黒髪ポニーテールの少女の怒声に遮られた。

はいっ!? 何アレ!? ものすごい殺気放ってるけど!?

その鬼は、二人に近づき、いきなり弾を絞めあげた。


「だああああああん!? 貴様またくだらんことしてくれたなあぁっ!?」
「ん? どうしたの箒ちゃん?」
「しらばっくれるな!?」
「お、おいおい、どうしたんだよ箒!? 何があった!?」
「あったも何もっ! これを見てみろ!!」


そう言って少女が出したのは、一振りの木刀。

何の変哲もない、ただの木刀かと思いきや―――――― あ。

木刀に、達筆な文字が書かれていた。



【京都にて。1000円。】



それなんて、修学旅行のお土産っ!?


「これのおかげで、顔をだした剣道場で大恥かいたわぁ!? こんなくだらん真似するのはこの学園でお前以外いるかああああっ!?」
「出来心だったんです!」
「自白早っ!?」
「箒ちゃんの周りに笑顔が溢れれば良いかなと思って。」
「理由が何気に善意だった!?」
「指さして笑われたわぁ!? 部長には「私も買ったよ?」などと慰められたんだぞ! どうしてくれるんだあああ!?」
「よっ! 箒ちゃんナイスボケ! 明日から剣道場の人気者(笑い者)だね!?♪」
「貴様ああああああああああああああああああああああああッ!!」
「待て箒!? 木刀で滅多刺しはやめろ!? 後始末が大変だ!!」
「骨は灰にして、サンオイルと混ぜ込んだ後に、美女の体に余すことなく塗り込んでくれ!」
「「お前は黙ってろ!」」


そう言って、ギャンギャンと盛り上がる三人。



目の前で繰り広げられる光景に、胸がチクリとする。

なによ。楽しそうにしちゃってさ。

誰よ、あの女の子。妙に親しそうにじゃない。




―――――  そこはあたしの場所でしょう?




さっきまでの嬉しさや穏やかさは消え、湧き上がるのは冷たい感情に、小さくない嫉妬だった。




*   *   *




その後、すぐに総合事務受付は見つかった。
手続きはすぐに終わったけど、あたしの心は酷く荒れていた。


思い出させてやる。あの馬鹿二人に。
教えてやる。周囲にあの場所は誰のものなのかを。


その感情のまま、あたしは目の前の受付の女性に質問する。


「織斑 一夏。それと五反田 弾って何組ですか?」
「ああ織斑くんと、あの子のこと…。」
「え? な、なんでそんな顔してるんですか?」
「…もしかして貴女。二人の知り合い?」


あ、あれ? 何か妙な雰囲気になったような?

どこかレイプ目なその女性の迫力に、若干引きながら答える。


「は、はい、中学の頃一緒によく遊んだ仲です。」
「…一緒に?」
「は、はい。」
「…毎日?」
「まぁ、大体は。一年前にあたしが引っ越したんですけど、二年くらい一緒に遊んだりしました。ちょっと疲れるけど、そんなに苦じゃなかったし。」
「苦じゃ…ないッ!?」
「―――― はい? どうし――――。」


その次の瞬間だった。

ぐわっしぃ!! 

と、擬音が轟きそうな勢いで、いきなり受付の女性に肩を掴まれるあたし。

――― はい!? なっ何!? 一体何事!?

驚いて、目の前の受付女性を見ると。

目を血走らせて、今にも泣き出しそうな顔であたしをガン見してる!?

しかも、肩に掛かる力は、絶対逃さんとばかりに握られてる!?


「――――――― こそ…っ!」
「はい!? 何!? 何なのコレ!?」


あれ!? さっきまでのあたしのシリアスムードは何処へ!?
そう思った私の耳に届いたのは―――。





「―――― ようこそっ! IS学園へっ!! 学園は貴女を歓迎しますっ…!」





万感の思いのこもった言葉だった。



と、とりあえず。


弾!? アンタ何したのよおおおおおおおおおおおおおおっ!?


二人の傍に相応しいのは誰か、あの馬鹿二人に思い出させてやると息込んでいたあたしは。

とりあえず学園から熱烈歓迎されている事に驚愕してしまった。




後書き

すみません。パーティまで書ききれませんでした。ものすごい量になってしまうので次回に持ち越しです。帰って来た、対弾用抵抗戦力の友人トリオのラストカード。これからどうなることやら。さて次回、持ち越してパーティ編に、ついに弾と会長が接触します。



[27655] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 19:08
ちわーっす。一組の影の支配者 五反田 弾です。


さて、前置きは置いといて。


「―――― 織斑くんクラス代表決定、同じく五反田くんの副代表任命おめでと~~~~!」
「「「「「おめでと~~~~~~~~!!!!!!」」」」」
「クラッカーあるよー? 持ってない人~?」
「だんだんこっち~。」
「ほいさ。(ドサドサ)」
「お前どっからそんなに出したんだ!?」


パァン! パンパァン!! ドッパ―――――ン(五発同時)!!!!! ダ――ン! ん? 呼んだ? 呼んでないよー。


時刻は夕食後の自由時間です。
只今、『織斑 一夏 クラス代表就任・五反田 弾 クラス副代表就任パーティ』が開かれています。

クラッカーが打ち出され、紙テープが宙を舞い。
『七代目五反田号』が、場を盛り上げる快調な音楽を流す。
さすが相棒、粋な心意気。

場所は、一年の食堂。話しの分かるマダム達の懐の広さには完敗っすよ。一組の淑女達全員で、一夏と俺のことを祝福してくれています。

なんて優しく慈愛に充ち溢れた心を持っているんだ! やっぱり女性は最高だ!

そんな淑女達が各々飲み物を片手に、やいのやいのと盛り上がっている桃源郷を視界に写しながら。


五反田 弾! 只今特別に簡易厨房をお借りして、調理中です!!

流石は最先端のIS学園。移動式の簡易キッチンがあるとは恐れ入るね。

いやー! 最近自分の部屋以外で修行ができなかったし、決闘だのあって忙しかったじゃん。

思いっきり腕を振るう機会がなんかないかねーと探していた所、パーティなんて聞いた日には俺が黙っているはずないだろう!?

次々と『特別親愛メニュー』を作り上げては持っていきます! じゃんじゃん作るぜ! カロリーは控えめだ! 安心してくれ淑女達!
『七代目五反田号』も、食材を切ったり、叩いたりと大活躍さ!


【簡易キッチン風情が、片腹痛いわっ!!】


…お前、そんなに簡易キッチンに対抗意識持たんでもよくね?


「へいお待ち! 『弾特製唐揚げ』『弾特製スペシャルミックスサンド』『弾特製シーフード?スパゲティ』『弾特製でもないサラダ』出来上がったぜ! カロリー控えめ! 一口サイズだから気軽に食ってくれい!」


わああああああああっ!!

歓声が上がり、机に置いた瞬間に料理に群がる淑女達の姿を愛でながら、簡易キッチンへ。
さぁ、今度は何を作ろうかね。


「よぉ、弾。生き生きしてんな。」
「全く。主賓の一人が、パーティーそっちのけで調理とはな。」
「くっ!? ま、まさか料理でも敗北を味わうなんてっ!?」
「やっほ~だんだんー♪」


そんな俺に近づいてくる、四人。

おーおー、一夏の野郎。女の子に囲まれて羨ましいね? 俺だって女の子とキャッキャウフフな時間を過ごしたいわ!

でも、今はそれより目の前の淑女達の笑顔が大事! 紳士だからさ!


「どんどん食えよ! まだまだ作るからなー?」
「お前は食わないのか? 作るばっかでいいのかよ。」
「なーに。俺も適当に摘まんでるぜ? 『七代目五反田号』も手伝ってくれるしな?」
「おー、偉いね。ごたんだご~♪」
【歴代とは違うのだよ。歴代とは(チラチラ)】
「文字表示なのに、小技も覚えたのかお前。」
「つくづくおかしいISだな。一体どういう目的の為に用意されたのだ?」
「出前。」
「お料理~♪」
「だから、ISをそのような事に使ってはいけないと言っているでしょう!? 五反田さん! 布仏さんも毒されてはいけませんわ!?」
「だって、それ以外よく知らんからねー? 出前先で出会って以来。学園に一時の間、調査のために預けたけど、なんも知らされとらんし?」
「ミステリアスだねー。」
「つまり良く分からないISってことか? お前そっくりじゃないかよ。」
「確かに俺自身、よく自分でも分からん事が多々あるしなぁ(しみじみ)」
「多々あるのか!? 自分をもっと理解せんか! 特にお前の場合は!」
「メンドイ。」
「ご自分の事でしょうっ!? 全く、今日の授業の時だってそうですわ! ISをクリーニングに出すなんて前代未聞なことをやってのけて!?」 
「だって、汚れが付いてたんだぞ? 淑女の前では綺麗にしていたいじゃないか。紳士としては。」
「ISには修復機能が備わっています! 汚れなんて自動的に消去するに決まっているでしょう!?」
「マジで!? 『七代目五反田号』、どういうことだ?」




【   あ。  】




「今思い出したのか? ははは、このうっかり屋さんめ♪」
「ちょっと待とうか?」
「ちょっと待て。」
「少し待ちましょうか。」
「おおー。これは予想外だー。」
「何がだ?」


「「「なんでIS自身が忘れてるんだ(のだ)ああああ(ですのおおおお)っ!!!!?」」」


一夏と箒ちゃんとセシリーちゃんの絶叫が響き渡る。
こらこら、そんなに大声出すなよ。ほら見ろ、他の淑女達が何事かと驚いてるじゃねぇか。

あ、のほほんちゃん。耳を押さえて「あう~~~」と唸ってる。
可愛いね~。相変わらず。

まぁ、それはそれとして。


「そりゃ誰だって忘れる事くらいあるだろ? そんなに責めんなよ。可哀そうだろ?」
「ごたんだごー。うっかりさんだねー?」
【説明書をください。】
「ISがISの説明書を読むのかっ!? おかしいだろうが!?」
「変だ! 持ち主同様ISも変だああああっ!?」
「ふ、ふふ、ふ、もう嫌ですわ…。この方に出会ってから私の世界が次々と崩壊していきますわああああああっ!?」
「ま、とりあえずこれ食って落ち着けよ。ほら。」
「あむ♪ うまうま。」
「「「お前(貴方)達が、落ち着き過ぎなんだよ(です)!?」」」


はー、全く騒がしいね。

パーティーだからってはしゃぎたい気持ちは分からんでもないが。あんまり騒ぐと周りに迷惑になるだろうに?
マナーは守らんといかんぞ? 一般常識だ。
のほほんちゃんを見習え。こんな癒しを放って可愛いじゃないか。

しかし、修復機能か。
まったく俺の相棒は案外うっかりしてるな。もう少しでクリーニング代が無駄になる所だったぜ。


何はともあれ。
五反田 弾。只今絶賛調理中。どんどん食えよ幼子達。



【本音SIDE】

「はいは~い、新聞部でーす。学園の超新星、織斑 一夏くんと、胃袋の死兆星、五反田 弾くんの二人に特別インタビューをしに来ました~!」
「ほほー。ギャラは?」
「意地汚ねぇぞ!? それと凄い渾名が付いてるなお前!?」


だんだん達と一緒に盛り上がっている中。
新聞部の副部長さんが、クラスのみんなの間をぬって近づいてきて、だんだん達にボイスレコーダーを向けて話しかけてきた。

わー。薫子先輩だ~。
楯無お嬢様と、仲良しさんなんだよねー♪


「あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺。」
「ども。薫子さんですか、花の薫りの『薫』に、無垢な子供の『子』。素敵な名前ですな。」
「そう? ありがとう。」
「ここでKYな奴は。『画数が多くて、大変そうだな』なんて思うんだろうけど、そんな屑はうちにはいないですからね。なぁ一夏?」
「え? あ、あぁ! そ、そうだな! ははは!」
「「…一夏(さん)。」」
「マジそんな奴死ねって感じだよな。ゴミ屑同然だよな。なぁ一夏?」
「…お前分かってて言ってるだろう!?」
「は? 何がだ? ゴミ野郎。」
「張っ倒すぞ!? 仕方ねぇだろうが! 思いついちまったもんは!?」
「あはははは、噂通り面白い子達みたいだね? それじゃインタビュー始めさせてもらうね!」


和気あいあいとしながら会話が進んでいくのを見ながら。
私は、無意識にぷくっと頬をふくらましていた。

むー、だんだんが薫子先輩を誉めてる。

女の子には、優しいのは知ってるけど。

わ、私だって、かわいいって言われたもん~!

むーっと、だんだんを睨むと。だんだんが気付いて、「フグの真似? 負けんぞ!?」と、対抗して頬を膨らみ返してきた。

ちーがーうーのー! もぉーっ!

プイッとそっぽ向く。
その後すぐ「よっしゃ勝った!」って聞こえた声に、また、むーっと膨れる。

だんだんの馬鹿ぁー! 

…あれ? 何で私、だんだんにムッとしてるんだろー?

疑問を浮かべて「? ? ?」となっている私を置いてけぼりにして、だんだん達のインタビューが始まる。

あ~待って~。私も聞きたい~。


「ではでは、まずは織斑くん! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「えーっと…まぁ、なんというか、頑張ります。」
「えー、もっといいコメントちょうだいよー。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」
「自分、不器用ですから。」
「うわ、前時代的!…じゃあまぁ、適当にねつ造しておくとして。次は五反田くん! 感想をどうぞ!」
「オツキミ山でピッピとしか遭遇しません。」
「「「「「凄っ!?」」」」」
「いや凄いけど!? クラス副代表になった感想はないの!?」
「俺に近付くと感染するぜ!!」
「何に!?」
「ランダムだから何とも言えんな。」
「ランダムなの!? 流石はIS学園の問題児!! コメントも一味違うわね!?」
「一夏は塩、俺は味噌だ。」
「味あったんだ!?」
「あ、CMいいすっか? 近所で評判『五反田食堂』。一度来てみてくれよな。」
「売り込み!? この場では意味なくないかな!?」
「じゃ、セシリーちゃん後よろしく。」
「他の人に投げたよ!?」
「この流れで私にどうコメントしろと!? 無理ですわああああ!?」


わー、だんだん節が絶好調だ~♪

だんだんのコメントから、テンヤワンヤの大騒ぎになっているインタビュー。
薫子先輩も、だんだんのコメントに表情がころころ変わっていて、おもしろいー。
あんな先輩は珍しいね~♪

ワイワイと賑やかに騒ぎながら、さらにインタビューは進んでいく。


「クラス代表戦は盛り上がったね! 五反田くんの心温まるエピソードに、女の子達の好感度アップだね。」


…むぅー。


「所々嘘だが。」
「「「「「自分で評価を下げる発言!?」」」」」
「お前やっぱり嘘か!? 何処から嘘だよ!?」
「う○棒食いたかったって所と、グスグスじゃなくワンワン。スーパーじゃなくて、デパートだ。」
「嘘をつく箇所の必要性が分らんぞ!?」
「そして自腹だ。あ、一夏ゲームサンキューな。面白かったぜ(返却)」
「責め立てる所のない美談になりましたわ!?」
「責めた俺一人が嫌な奴じゃねぇかよ!?」
「大丈夫。俺はお前がそんな奴だってこと知ってるからさ!(爽やかな笑顔)」
「喧しい! 最初から嘘吐くのも悪いわ!?」
「そして実は、もう一人登場人物がいる。長くなるから割愛した。聞く?」
「あ、あのー? またの機会でお願いできる? 写真撮りたいんだけどなー?」
「よし、一夏脱げ。」
「脱ぐかドアホ!?」
「俺だけ脱がせる気かお前!?」
「「「「「脱ぐ気だったんだ!?」」」」」


その後は、
服に手を掛け出した、だんだんをおりむー達が必死で止めて。
色々と大騒ぎしながらみんなで写真を撮った。

だんだんが、手招きして私を隣にしてくれたのは、ちょっと嬉しかったなー。
へへへー、後で焼き増し貰おー。


「それじゃ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え? えっと…2?」
「ぶー、7「今計算中なんすから答え言わんでください!」そんなに真剣になること言った私!?」
「「「「「紙に書いてる!?(カシャ)―――ああ!?」」」」」


みんな、写真が上がった時どんな顔しているのかなー?




*   *   *




パーティーが終わったのは、十時過ぎになってからでした。

後始末を終えた後は、みんな解散してそれぞれの部屋に戻って行っちゃったー、

私も、今はだんだんと一緒に部屋に戻っている最中なんだよー。
といっても、歩くの遅い私をだんだんがおんぶしてくれているけど。

うーっ。この前までは、気にしなかったけど。

今はなんだか気恥ずかしいよー。(照)


「今日は楽しかったなー、存分に腕前を披露できたし淑女達のウケも良し。いうことなしですな。」
「んー。よかったねー…?」
「おろ? のほほんちゃんお眠かい?」
「むー! そんなにお子様じゃないもーん!」
「お腹一杯で、眠くなるなんておこひゃまいぎゃいにゃいって、こりゃー? ほっへをのはうなー。」
「えへへー、おしおきー。」
「【だが俺には効かん!】」
「おー、腹話術―♪」
「【今日は結構な量食べてたけど大丈夫なの。のほほんちゃん?】」
「むふー、ちょっと食べ過ぎたかもー。でも大丈夫だよー。」
「【嬉しいねー。美味そうに沢山食べてくれる女の子程、見ていて嬉しいモノは無い。好きだわーそういう子。】」
「っ!? う、うぅ~。(照)」
「ん? ほっぺ攻撃が終わって―――ってぬおおお!? おでこを背中に押し付けグリグリだとぉぉ!? なんだその萌え攻撃はああああ!?」
「う~、うぅ~。(グリグリ)」
「いかん!? このままでは萌え死する!! 駆けろ青春! 消えされ煩悩! 俺は紳士だああああああああ!」


そう言って、私を背負ったまま走りだすだんだん。
背中の私を、振り落とさないよう手に力を込めるだんだんの小さな気遣いに、また顔が熱くなった。

うぅ~。だ、だんだんが。だんだんが悪いんだよー。

そのまま廊下を激走するだんだん。
「なんだこれはなんだこれは―――――!? どこのイベントフラグだ――!? やべぇ! ギャラリー登録あるのかこれ!? 永久保存しときたいワンシーンだぞこれはああ!?」って、叫びながら走っている。

そして、突きあたりの廊下を曲った瞬間。


「―――っ!? この巨大なプレッシャーは何だ!?」


ギャリギャリと音をたてながら急停止して、走るのを止めてしまった。
んー? どうしたんだろー?

まだちょっと照れくさいけど、だんだんおの背中から表情を窺う。

だんだんが、とっても戦慄した表情で前方を見据えている顔が見えた。


「ど、どうしたの~? だんだん~?」
「とんでもないプレッシャーを感じる…! のほほんちゃん。悪いけどおろしても良いかな?」
「んー、アイアイさー。」


私の承諾を受け取った後、私が降りやすいようにしゃがんでくれた、だんだんの背中からゆっくりと降りる。

こういう小さな気配りが、だんだんの魅力なんだよねー。

立ち上がり、前方を見据えるだんだん。
一体どうしたんだろー?


「何というプレッシャーだ! 一体何者だ…!?」
「ぷれっしゃー?」
「ああ、こんなに強大な気配は。一夏や千冬さんに出会って以来だっ!」
「? なんのこと~?」
「――― そこにいるのは誰だ!?」


だんだんが叫んで、前方の薄暗い場所を指差す。

そして、カツカツと足音が鳴り響き―――――――



「こらこら。 廊下を走っちゃダ・メ・だ・ぞ★」



扇子を口元に当て、いたずらっぽい笑みを浮かべ姿を現したのは。

私とお姉ちゃんが、お仕えする家の現当主にして、IS学園生徒会長。


更識 楯無お嬢様でした。


わーい、楯無お嬢様だー♪ あれ? なんでお嬢様がここにいるんだろー?


「会長ー。こんばんはー♪」
「やっほー。本音ちゃん。んふふ、お邪魔だったかな?」
「え、えーと? 何がー?」
「んー? 別に何でもないわよー?」


うー、楯無お嬢様の視線が、面白がってる~。


「のほほんちゃんの知り合い? それにしても『怪鳥』だって!? なんと強そうな二つ名なんだ!?」
「怪鳥じゃなくて、会長よ。 私はこの学園の生徒会長をしている更識 楯無っていうの。よろしくね。」
「なんだ生徒会長かよ。」
「あれ!? 露骨にがっかりされちゃった!?」
「学園の謎のキャラっぽい人って、大抵が生徒会長だったり生徒会関係だし。まぁ、いいけどさぁあ?」
「うぐっ! な、なんだか妙な説得力があるわね…!?」
「のほほんちゃん。どういったお知り合い?」
「えーっとね。私の家が代々お仕えしている家のお嬢様でー。この学園の生徒会長さんなんだよー。実は私は生徒会で書記をしているのだー。」
「何だって!? のほほんちゃんが実はメイドさん!? その上生徒会書記!? ここにきて衝撃事実だ!?」
「あー! 何よー! 本音ちゃんだけリアクションが大きくてずるいじゃない!」
「ちなみに、IS学園の生徒会長っていうのはね~、学園で最強ってことなんだよー。」
「本音ちゃんナイス! どう? これで少しは驚いたでしょ。」
「そんなことはどうでもいい! のほほんちゃんてメイド服着るの!?」
「そんなことっ!? 私の存在は、本音ちゃんのメイド服に劣るというの!? 確かに可愛いけど!」
「写真は!?」
「手元に五枚! 一枚二千円!」
「買ったぁ!」
「売ったわ!」
「買っちゃ駄目えええええええー!?」


すると2人は示し合わせたかのように、廊下の隅に移動して。

『税込?』『もちろん』『他には?』『こっちは和風バージョン』『いくら?』『同じく二千円』『一夏トレードで、【五反田食堂アルバイトバージョン】』『嘘!? 激レアじゃない!?』
っていう会話を繰り広げる。

やーめーてー!!




*   *   *




「良い買い物だった。」
「儲けたわ♪」
「むーっ!」


ホクホク顔の二人をむーっと睨んでも。
二人は、「「かわいいなー」」って笑うだけで、全然反省してないー! もー! お姉ちゃんに言いつけてやるー!


「そんじゃ改めまして。初めまして、五反田 弾です。」
「うん♪ 噂は聞いてるわよ、五反田 弾くん。」
「弾でいいすっよ?」
「そう? なら、私も名前で呼んでくれて構わないわ。堅苦しいのは無しで行きましょう。」
「了解っす。しかし楯無さん。まさか、あれ程のプレッシャーを放てるとは恐れ入りました。マジで戦慄したっす。」
「プレッシャー? 何のこと?」
「んー? さっきからだんだんが言ってるんだよー。」
「ふむん? しかし妙だ。今でもプレッシャーは感じるが…楯無さん。ちょっといいですか?」
「やん。スリーサイズはヒ・ミ・ツ♪」
【測定終了】
「流石だ相棒。」
「こらこら? 勝手に測っちゃ駄目でしょう? もう仕方ないわね★」
「それで、楯無さん。ご兄弟っていますか?」
「え? あ、あーうん。まぁ、いる…わよ?」
「かんちゃんっていう妹さんがいるよー。私が専属でお仕えしてるんだー。」
「妹っ!? ということは俺と同じく妹魂を持っているのか!! ならばなおのこと解せん! この妙な気は一体何だ!?」
「あ、あの? 弾くん? な、なにを言っているのかお姉さん分からないな~?」


あ、楯無お嬢様が、触れてほしくない話題になって少し怯んだー。
んー、でも楯無お嬢様とかんちゃんは、すれ違ってるだけだと思うんだけどなー。


「『七代目五反田号』! 妹魂スカウターだ!! 楯無さんの妹魂力を調べろ!」
【スキャン開始】
「妹魂スカウター? な、なにそれ?」
「妹魂力を計測する代物です。これで相手の妹魂力が分かります。」
「へ、へぇ~…?」
「ごたんだご~って、本当に不思議だね~?」
【スキャン終了】
「よし! 楯無さんの妹魂は、どのくらいだ!?」
「っ。(ゴクッ)」

【妹魂力 180000】

「じ、18万だとおおおおおおおおおおお!? そ、そんな馬鹿なあっ!?」
「え? 高いの? それって高いのよね?」
「おー。楯無お嬢様すごいー。18万ってきっとすごいよー。」
「そ、そうよね? ふ、ふふふふ。 どうかしら、この私の妹魂力は?」


「馬鹿な!? 低すぎる!?」


「って、ちょっとおおおおおおおおおお!? どういうことなのそれはっ!?」
「18万なんざ、俺が幼稚園の時の数値じゃないか! 意味分からん!」
「よ、幼稚園児並み…!?」


カランと、お嬢様の手から扇子が滑り落ちた。
おあ~。やっぱり、楯無お嬢様にかんちゃん関係の話は鬼門だねー。


「この数値であれほどのプレッシャーを放つとは説明がつかないっ!! 一体どういう事だ!? 俺は標準で5千万を軽く超えているというのに!?」
「何よそれ!? ご、5千万!? 勝負にすらならないじゃない!?」
「原因が分らない。妹魂スカウターの故障か?」
「故障? そ、そうよ! うん、私もそう思うわ! きっとそうよ!」
【失敬な。原因は分かっています】
「なんだって? どういうことだ?」
「何が原因だっていうの。納得の行く説明をしてくれないかな?」


【おそらく、想いが一方通行で妹さんに届いていない事が原因かと】


「あ、成程(ポン)。嫌われてるのか。」
「【ドスッ!!】―――― かはぁっ!?」


だんだんの言葉に、楯無お嬢様がその場に崩れ落ちた。

だんだん~!? もっとオブラートに包んで~!?

胸を掴んで『痛い・・・!? 心が痛いよう・・・!』と呻く、楯無お嬢様に近づいてその背を撫でる。


「成程、想いが届いていなければ真のシスコンとは言えん。プレッシャーのわりに数値が低いのはそのせいか。」
「うぐぅっ!?(グサ)」
【敵、体勢を崩しました】
「そっかぁ。妹さんと不仲なのか。これは辛いよなぁ? 俺だったら耐えられんな! っていうか何してんの?」
「あぐぅ!?(ドシュ)」
【続けてどうぞ】
「きっと、妹さんのことほっといて『私TSUEEEEEEE!!』とか『私SUGEEEEEEE!!』とか言ってたんだろうなぁ。なんたって最強だしね?」
「ごほっ(ザクッ)!? ち、違うのよぅぅっ! わ、わたしは別に蔑にするつもりなんて、これっぽちも…!!」
「だんだんー! もう楯無お嬢様のライフはゼロだよー! もうやめてあげてー!」
「甘い! 妹魂を持つ者が出会った時、そこにあるのは殺るか殺られるかだ!! この時ばかりは紳士も淑女もないんだ!!」
「そうなのー!?」
「ふっ! ではトドメと逝こうか。」


そう言って、だんだんがポケットから携帯電話を取り出した。

な、何をするんだろー?

楯無お嬢様も、困惑の表情。


「―――― 今から俺は、妹に電話を掛ける。」
「な、な、んで、すって…!?」
「他の兄妹のごく普通で、かつ和気あいあいとした姿に、果たして耐えられるかなぁ? くっくっくっく。」
「な、何て奴なの!? こ、この外道!? 鬼ぃ!?」


楯無お嬢様が、今まで見た事のない戦慄の表情を浮かべてる―――!?
え、えーと、私はどうしたらいいのー!?

そんな私達を無視して、だんだんが携帯のボタンを押し耳に当てる。


「『七代目五反田号』、聞こえるように、俺の会話を周り流してくれ。」
【了解】
「さぁ、覚悟はいいかな? 生徒会長殿?」
「うぐっ…!?」

ピッ。

「あ、もしもし? 蘭か―――?」




【―――――お掛けになった電話番号は現在使われておりません。】




…え、えぇ~。


「…(ピッ)妙だな。」
「実は私の事を、とやかく言う程仲良くないでしょう!? ねぇ!?」
「あれー? おかしいなー? かからないなー?(カチカチカチカチカチ)」
「あ、あら? 不味いわ。ダークサイドに落ちかけているわね。」
「だんだんしっかりしてー。」
「きっと伝えるのを忘れちゃっているだけよ。 元気出して!」
「そ、そうだよな? うん、そうだよな。は、ははは。」
「きっとそうだよー。」
「うんうん。私なんて掛けても『…今、忙しい』って言わ、言われ…!(半泣き)」
「大丈夫だ! きっと本当に手が離せなかっただけさ! 時間が合わなかっただけだ楯無さん!」
「かんちゃんは、ああ見えて忙しいからー」
「そ、そうよね! きっとそうよね!」
「もちろんさ! きっと『今日は、掛かってこないのかな?』って思っているに違いないさ! 自信を持つんだ!」
「――――― っダーリン!!」
「ハニー!!」


ガッシィ!! と、手を握り合って見つめ合う二人。意気投合したようで何よりだけど。

むーっ! 二人とも近いー!


「楯無さん。お互い、上手くいくよう頑張ろう!」
「ええ、もちろんよ。お互い協力していきましょう。」
「俺も、妹さんとの仲が上手くいくよう、協力を惜しみません!」
「あ、ありがとうダーリン!」
「当然さハニー!」
「むー…。」
【二代目。送信者不明のメールです。】
「ん? メール? 表示してくれ。」
【了解】

ピッ。


【お兄へ。 携帯を新しく買い替えたから。新しいメルアド登録しといてね。電話番号もつけとくけど、調子に乗って掛けまくってきちゃ駄目だからね。それから、たまに家に連絡しろ。この馬鹿兄。】



「「……。」」
「おー。もしかして、だんだんの妹さんのメールみたいだねー?」
「…うん。まぁ、協力するからさ。」
「や、優しくしないでよおおおおおおおおおおっ!! う、羨ましくなんてないんだからあああああっ!!」


そう言って楯無お嬢様が、床に落ちたままの扇子をだんだんに向かって投擲。

サクッと、だんだんの額に突き刺さるも。だんだんは顔色を変えず気遣うような瞳を崩さない。
だんだんは、妹さんとすごく仲良しさんなんだねー。

そのまま楯無お嬢様はダダダダーっと、何処かへ駆けだしていってしまいました。

大丈夫だよー。かんちゃんは、楯無お嬢様のこと大好きだよー。

扇子を抜こうともせず、それを見送るだんだんと、私。
なんだか、変な空気になっちゃったねー。どうしようー?


「ふむ? 面白い人だな。」
「だんだんも十分面白いとおもうよー?」
「そうかね? ま、明日また会うことになるし。話しはまた明日ってことか。」
「んー? 会う約束なんていつしたのー?」
「うん? この扇子が招待状だろ?」


そう言って。額の扇子を指差すだんだん。
しょうたいじょー…おー、なるほどー。


「『この扇子を私の所まで返しに来てね♪』っていうメッセージだと思うんだけどね。どうだろうね?」
「んー。きっとそうだと思うよー?」
「やれやれ、分かりにくいことしてくれる人やねー。」
「返しに行くのー?」
「まぁね。朝にでも尋ねてみるかなー? のほほんちゃん。何処に楯無さんがいるか知ってる?」
「朝は、たぶん生徒会室だとおもうよー? 案内するー?」
「おう。それは願ってもない! そんじゃ、朝も早いしとっとと部屋に戻って寝るとしようか。」
「おー!」


そう会話を交わして、だんだんと一緒に部屋に戻る私。
むー、それにしても生徒会室に、だんだんを連れていくことになるなんて思いもしなかったよー。

あれ? 何か忘れているようなー?


「のほほんちゃーん? 置いてくよー?」
「あ~、待って~。」


先に行くだんだんの後を、パタパタと追いかける。
だんだん、とりあえず額の扇子は抜いたほうがよくないかなー?


こうして、今日の出来事は終了しましたー。



生徒会室。

そこにいるのは楯無お嬢様だけじゃないって事を忘れて。





【??? SIDE】


「うぅぅ~! く、悔しい~。悔しい妬ましい~っ!」
「はぁ…。一体どうされたのですか? お嬢様。」


朝も早くから、生徒会室にて仕事に専念する。
そんな私の横で、生徒会長であり。私がお仕えする家のお嬢様である。楯無お嬢様が机にかじりついて悔しがっていた。

今日あってから、ずっとこんな調子なので少々困惑を隠せない。

それでも、机の上の書類を次々と片付けていくのは流石としか言えませんね。


「お嬢様はやめてよー?」
「失礼しました。いつもの癖で。それで一体どうされたのですか? 会長?」
「…うぐぐ! ムキ―――――ッ!」
「ふぅ。」


理由を尋ねてもこんな調子。一体どうしたらいいのかしら?
こんなお嬢様の様子は珍しいから、何をしたら良いのか見当もつかないわ。


とりあえず、気を紛らわすために紅茶でも淹れようかしら。


そう思って立ちあがり、紅茶を淹れる準備を始める。

そんな私の行動を見たお嬢様が、『あっ』と小さな声を上げた。

? 何か要望でしょうか。

振り向く私の視界に映るのは、どこか楽しげなお嬢様の笑顔。


「虚ちゃーん。紅茶を入れるなら四つお願いねー♪」
「四つですか?」
「そ♪ 私でしょ、虚ちゃんでしょ、そして本音ちゃん。」
「本音の分もですか? まだ来ていませんが?」
「もうそろそろ来る頃だと思うからね。」
「それでは三つではないでしょうか?」
「ノンノン♪ もう一人とってもビックなお客様が見えるのよ。」
「お客様、ですか?」
「そ♪ んふふふふ。」


そう言って、意味ありげに微笑むお嬢様。

あの顔は、大抵がいたずらを企んでいる時のそれなので、内心溜息を吐く。

一体、今度は何をしでかす気なのでしょうか。

考えても答えは出ないので、言われた通り紅茶の準備を始める。
もちろん四人分で。

それにしても、一体お客様とは何方でしょうか?


そう思った矢先――――。


ダダダダダダダダダダダ!!!!!!!


「…足音?」
「あら♪ 来たわね。思っていたよりも早いわね。」
「はい?」


意味ありげに笑うお嬢様の言葉に、私が疑問の声を上げた瞬間。


バタ―――――ン!!


豪快な音をたて、生徒会室のドアが開け放たれた。

そして――――――。


「―待たせたなハニー!! 扇子を返しに只今参上! 五反田 弾です!! ついでに、のほほんちゃんもお届けだ!! 流石俺! サービス満点!!」
「あう~~~。まだ眠いよ~~~。」


――――――― え?


突如、扉の開け現れたのは、私に強烈な印象を与えた人。

私に、今まで抱いた事のない感情を植え付けた男の人。

な、なんで、この人が此処に!?


突然の事に感情が追いつかず、ボワっ!っと顔に熱がかかるのが自分でも分かる。
お、お客さまって―――― まさか!?


「来てくれたのねダーリン! 嬉しいわ♪!」
「当然さハニー! それで妹さんとはどんな感じ?」
「き、昨日の今日でどうにかなる訳ないでしょう? お姉さん今傷心中なのよー?」
「俺なんか、昨晩は実家に電話してさー。もう参っちゃった♪ 蘭の奴、何だかんだ言いながら、電話を切るのを先のばしにしてさー(でれでれ)」
「――――― っ憎しみで人が殺せたら…!?」
「はいよ、扇子。ご招待どうも。」
「あら? んふふ。意味に気付いてくれて嬉しいわ。歓迎するわ弾くん♪――ってちょっと待って!? 私の扇子がジュリアナトーキョーっぽくなってるんだけど!?」
「サービスだ!!」
「そ、そんなぁ・・お気に入りだったのにぃ!?」
「ほらー、忘れるからそんなことになるんだぞ?」
「ど、どうしようかな!? お、お姉さん。い、今本気でキレそうになっちゃったよっ!?」


会話を交わす、会長と彼―― 五反田 弾くん。
その横で、妹の本音が『うー…。眠いぃ~。』と席に着き、机に突っ伏す。

と、とりあえず深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


だ、大丈夫。いつものように冷静に構えていれば問題ない筈よ。
そう思うものの、自分の身だしなみや、髪のセット具合が気になりだして落ち着かなくなってしまう。

か、髪は撥ねてないかしら? こ、紅茶はこれでいいかしら?
小さな事にも気になりだして、埒が明かなくなってしまう。

彼が来るって知っていれば、もっと色々準備していたのに―――――!?

お嬢様のあの笑みは、こういう事だったんですね!? あ、後でお話がありますので覚悟しておいてくださいっ!


そんな思いを込めて、お嬢様に視線を向けた時―――――。


「おろ?」
「―――――――――っ!?」

彼と視線が重なった。

心臓がバクバクと落ち着かない。
何か言おうとするものの、頭が真っ白になって何を話せばいいのか分らなくなっていまいました。

あ、あう、あ…!?

そんな私をマジマジと見ていた五反田さんはというと――――。


「――― あ。」
「どうしたの弾くん? あ、紹介がまだだったわね。この眼鏡の似合う子は―――。」


彼の視線の先に、私がいる事に気が付いたお嬢様が、楽しそうに紹介を始めようとした時―――。




「―――― 貴女はいつぞやの眼鏡美人さん!! お久しぶりですね!! お元気そうでなによりっす!!」




あの日と同じ、温かな笑顔を私に向けてそう言ってくれた。




「――――――― え? え!? どういうこと!? 二人とも知り合いなの!? こ、これは思わぬ展開だわっ!?」
「むにゅむにゅ…。」
「本音ちゃーん! 寝ている場合じゃないわよー!? とんでもない衝撃展開よー!」


お嬢様と本音の会話も頭を通り抜ける。

覚えていてくれた。

嬉しい。

先程まで混乱していた頭と心が、次第に落ち着きを取り戻していき。穏やかな気持ちになっていく。

話したい事は、山のようにあるけれど――――― まずは。


私は、五反田さんの瞳を見返して小さく笑みを作って言葉を発した。



「――――― お久しぶりです。また会えましたね。」





後書き

・・・・・長いですね。生徒会メンバーは大好きなので、どうしても色々かきたくなってしまいこのようなことに。そして実は姉の方と先に出会っていた弾。いったいこの先どうなっていくのか。やっとラヴコメっぽくなってきました。さて次回、チャイナっ娘が本格的に参入です。日曜出勤だけは勘弁してほしいです本当。





[27655] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2012/09/17 16:43
ちわっす。 野郎魂狩りまくる。五反田 弾です。


早朝に、生徒会室を訪ねてみたら、あらびっくり。
愛しのハニーの他にもう一人、眼鏡の似合う清楚なお姉様系美小女と遭遇した。

しかも、この淑女様。実は以前一度であっているというおまけ付き。

なんじゃろねー? 俺にどこぞの主人公張りの、運命っぽい出会いを演出させてどうしたいのかねー。一夏のフラグ体質がうつったか? 


そしていつの日か、世界中の野郎がフラグ乱立野郎に? 普通に世界崩壊じゃねぇか!? やはりあいつは消しとく方がいいか?


親友をどうやって闇に葬るか計画する俺。
そんな殺伐とした俺を置き去りにして、生徒会室は朝の優雅なティータイムに入っていた。


「それじゃ改めて、IS学園生徒会室へようこそ。歓迎するわ五反田 弾くん♪」


扇子をパンっと開き。にっこりとほほ笑む楯無さん。
広げられた扇子には、『歓迎』の文字。おおう、匠技だね。

【文字表示は、自分の専売特許だ!!】

そして相棒よ。少しは寛容さも見せてはどうだ。お兄さんは心配です。

相棒の将来を心配する俺。
そのとき、俺のテーブルの前に薫りの香ばしい紅茶の入ったカップが置かれた。
ほほー、良い薫りだ。
横に目を向けると、そこに映るのは眼鏡美人のお姉さん『布仏 虚』さんの姿。

まさか、のほほんちゃんの実のお姉さんだったとは驚愕だったぜ。いやはや世間ってのは案外狭いもんだねー?


「どうぞ五反田くん。…ごめんなさい、来ると分っていれば色々と歓迎の準備をしたのだけれど。急な話だったものだから。」
「いえいえ、大丈夫っすよ。おいしい紅茶と、ついでにケーキでもあれば十分ですから俺は。」
「あ、そういえばケーキの買い置きが…少し待っていてください。」

そういって、奥の方へと消える虚さん。
ケーキあるんだ。言ってみるもんだね!!

「わー。流石ダーリン。遠慮を知らない豪胆さね。逆に清々しい位。」
「「ケーキっ!ケーキっ!♪(バンバン)」」
「はいはーい。そこのお二人さん、テーブル叩いてユニゾンしないの。」


のほほんちゃんとユニゾンする俺。
ん? ハニー。今俺の事遠慮を知らないと言ったか? 聞き捨てならんぞ!!


「何を言うんだハニー! 俺程遠慮を知っている紳士はそうはいないぞ!?」
「えー? ほんとに~?」
「当然だ! 具体的に言えば、バスに乗り込んだ荷物多めのジジィに、席を譲る事を遠慮する位に、俺は遠慮している!」
「そこは譲ろうよ!? 道徳的に!」
「ちなみにお婆さんの場合。席を譲った後、荷物を首から下げ、背中にお婆さんを背負い家までエスコート。縁側でお茶をすすりながら話し相手を務めるフルコースをもれなくプレゼントだ!!」
「お~。 だんだん優しいね~♪」
「話し前半聞いてなければ美談なんだけどね~?」
「さらに、遠足のバスの中でカラオケの番が回って来た時『あ、俺パス』と、他の人に出番を譲るほど遠慮がきいているぞ!!」
「歌いたくないだけでしょうが。」
「俺が歌うと何故かみんな倒れるんだ。危険すぎる。」
「歌声はジャイ○ン級!?」
「幸せな顔で。相変わらずスゲーな俺の歌って。」
「それってまさか『うたう』って技じゃないかな!?」
「運転手まで寝ちまうかもしれんし。」
「た、確かに危険ね。ダーリン、ナイス判断だったのね。」
「でも眠った後はみんな必ず『騙されたぁっ!?』って奇声を上げて飛び起きるんだが何故だろね?」
「いったいどんな夢を見させてるのダーリン!?」

カチャカチャ……。

「あら? 何の話しをしているのですか?」
「だんだんバスの中で、お婆さんに席を譲った後に、いえまで送っていったんだって~♪」
「あら、そうなの。ふふ、やっぱり優しいのね?(優しい眼差し)」
「そうですかね?(ポリポリ頭を掻く)」
「良い所だけを見せつつ好感度アップ!? そして、さも当然の事をして『誉められている理由がいまいち分っていない』と、暗に相手に思わせるその仕草!! ダーリン…恐ろしい子っ!?」


ははは、朝からIS学園生徒会長は元気だな。流石だ会長。凄いな会長。
そしてケキーを切り分けて持ってきた虚さん。
おお、美味そうです。のほほんちゃんなんか目がキラキラ光っています。あ、これこれ涎は拭きなさい。(主夫)

その後、四人それぞれにケーキと紅茶がいきわたり、ようやく全員が席に着く。

しかし、早朝からケーキとはね? それでいいのかIS学園生徒会。(注文したくせに随分な態度)


「だんだん~♪ ここのケーキはね~、ちょおちょおちょおちょお~おいしいんだよ~。」
「ほほう? 俺の特製ケーキは?」
「おいしいよ~。」
「なぬっ!? まさかの辛口評価!? ぬぅぅ! まだまだ本場のパティシエには敵わんかっ!!」
「特製、ですか?」
「あ、俺実家が食堂やってて、そこの二代目を目指し日々修行中なんです。だから色々作って腕磨いてんですよ。」
「へ~? それじゃあ、本音ちゃんいつも弾くんの手料理を食べさせてもらってるんだ?」
「ばんごはんだけ~。だんだんのご飯はちょおちょお~おいしいのー♪」
「パティシエ半端ねぇな!? 俺にまた一人強敵(とも)が!?」
「……」
「なんでしたら弁当でも作りますぜ? 五反田食堂お弁当サービス! おお、イケそうな試みだ。」
「あ! それじゃあお願いしちゃおっかな~♪」
「オフコース! 虚さんもどうっすか?」
「え!? あ、そっそうですね。お、お願いしちゃおうかしら(照)」
「む~っ。だんだんわたしもー!」
「おおう、開始数秒で予約三件入ったぜ。流石俺だな。」
【よっ! 五反田食堂二代目!】
「おいおい、そんなに煽てても何も出ないぜ?」
【五反田食堂希望の星!】
「わはははははははははははははははは!!」
【…『世界IS特集』という駄本のことだが、釈明は…?】
「相棒、話し合おう。お前はごげええええええええええっ!!?(メキメキッ!!)」
「「「ダーリン(五反田くん)(だんだん~)!?」」」



それから数分後、
ようやく相棒の許しを終えた俺は、痛む腹部をさすりながら再び席に着いた。

ええい、全く嫉妬深い奴め。

生徒会三人娘様に、心配そうな眼を向けられるが大丈夫だ。ちょっと内臓を捻られただけだ、いつものことさ♪


「だ、大丈夫? 五反田くん。」


気遣う眼を向ける虚さん。へいもちろんです。

お? そういや初めて会った時もこんな会話したな。


「大丈夫っすよ。虚さんにそう心配されるのは二回目っすね?」
「――え? あっ。そう言えばそうだったわね。ふふっ」


そういって、慎ましやかな微笑みを浮かべる虚さん。
おお、まさに年上のお姉さん特有の穏やかな笑みだな。いいもんです。


「そう言えば、二人は初対面じゃなかったのよね? ねーねー! どんな出会い方したのか教えてちょうだい♪」
「むー。お姉ちゃんずるいー。」
「俺と虚さんの出会いかぁ。ふむ……実はカクカクシカジカというわけだハニー。」
「へ~、そんなことがあったのね~?」
「会長? 今ので分るんですか?」
「もっちろん♪ 私とダーリンの仲だも~ん★」
「ハニー!! 病院へ行こう!! まだ間に合う! 大丈夫きっと良くなるからっ!?」
「まさかの裏切り!?」
【落ち着けブラザー。】
「これが落ち着いてられるかブラザー!? くっ! 迂闊だった、『私YABEEEEEEE!!』なんて言ってる『……うわ痛ぇ』な予兆があったというのに俺って奴ぁ…!!」
【冷静になれブラザー。二代目を目指す男とあろう者が情けない。】
「だが愛するハニーがっ!?」
【心配いらない。騒ぐ程のことじゃない。】
「何、どう言う事だ相棒? それと一々文字読むのが面倒臭いな!? 喋れよいい加減に」
【前掛けが喋る訳ないだろう。】
「「「え?」」」
「おおっ盲点だった。それで? なぜ大丈夫と言い切れるんだ相棒?」
【あれはただの厨二病だ。】
「厨二病? ……な、なんだそうか。驚かさないでくれハニー。心臓に悪いぜ……」
「ダーリンと七ちゃん!? 色々と酷い!? 私の事が嫌いなの!?」
「何を言うんだハニー!? 俺はいつも君の事を、野に咲く花のように想っているというのに!?」
「あ、あの。五反田くん? それって割とどうでもいいってことではないかしら。」
「酷い! 私はダーリンの事を、ジャージについてるチャックと同じくらい必要としているというのに!?」
「……何だってハニー……!? そんなにも俺の事必要としてくれていたなんてっ!!」
「だんだんは、ジャージにチャック必要派なんだー」
「ハニー!!」
「ダーリン!!」


ガシィッ!!

手を握り合い、至近距離で見つめ合う俺とハニー。
きっと、今の俺達の周りには満開の花が咲き乱れている事だろう。


「…ハニー。(真剣な眼差し)」
「ダーリン…。(潤んだ瞳)」
「む、むぅー!」
「オホンッ! 会長。少しおふざけが過ぎますよ?」
「や~ん♪ ダーリン。二人の視線が怖ーい♪(抱きつき)」
「おっとぉ? ははは、ハニーは甘えん坊んだな! 可愛い奴め!」
「むぅぅぅ~っ!! あむあむあむあむあむあむあむあむっ!!」
「HEYのほほんちゃん!? それは俺の分のケーキだYO!?」
「本音。駄目でしょう? 一つ余りがあるからこっちを食べなさい。」
「いや~!? それは私の分ってあ――――!? そ、そんな一口で!?」
「むぅぅ~!(もぎゅもぎゅ)」


仲良し姉妹のコンビネーションアタックが炸裂。
なんてこったい。せっかく現れた強敵の腕前を知るチャンスを奪われてしまった!

ハニーも、がっくりと首を垂れ。机に突っ伏している。
気持ちは分る。
見た目でも超美味そうだもんな、あのケーキ。

しょうがない。今日は虚さん印の紅茶だけで良しとしよう。

とりあえずヒートアップした場を一時冷ましてから、再び会話へ移る。


「うう、酷い。私のケーキがぁ。」
「自業自得です。会長。」
「はいはい、私が悪かったでーす。それで? 虚ちゃんとダーリンは、どういった出会いだったのかしら?」
「あ。それは――」
「待つんだ虚さん! 説明すると長くなる! どのくらいかといえば一話分に匹敵する位に!」
「い、一話分ですか?」
「この話はいずれ、『番外編』で語る事にしよう。楽しみにしていてくれ!」
「え~!? つまんなーい。」
「我慢してくれハニー。ちなみに番外編は、俺の戦友『六代目五反田号』が大活躍するぜ!」
【相棒。多目的ホールへ行こう。そろそろ迎えに行ってあげないと】
「む? そうか。それじゃ今度の休日、食堂に帰る前に迎えに行くとするかね?」
【アア……ソレガイイ。オムカエニ行コウ。カカカカカカカカ……ッ】
「…そんなに先代が嫌いかお前は。」
「ねぇねぇ! ダーリン? 少しだけ話してくれなーい?」
「と言ってもなー。ほれ、そろそろ教室に行かんとSHRに遅れるしなぁ。」
「わ、ほんとだ~。」
「少々、話が長すぎたようですね。」
「ふむ。仕方ない予告だけしとくか。相棒!」
【ちょっとだけよ?】


~番外編予告!!~

『HEY! 大丈夫かねレディ&ガール?』
『…(呆然)』
『あ、あの? あそこから悲鳴が聞こえるんですが・・・?』

【ヴォオオオオオオオ!!】
【ギャオオオオオオオ!!】
【グオオオオオオオオ!!】
『『ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!?』』

『ああ、大丈夫。ちょっとカプセル○獣使っただけだから。三匹とも張り切ってんな~。』
『『…(汗)』』

~終了~


「――以上だ!! さて行こうかのほほんちゃん!!」
「待って!? ダーリンって何者!?」
「背中に乗ってくれ!」
「アイアイさ~~♪(ガバ)」
「――っ!? こ、こら本音! 貴女何をしているの!?」
「それじゃあ、俺達はこれで!! 紅茶美味しかったです虚さん! ハニーもまたな!?(ガラガラと窓を開ける)」
「ダーリン!? なんで窓から出ようとするの!? それと予告の三匹って何なの!?」
「――ジェアッ!!」
「飛んだあああああああああああああ!?」
『『ああああああぁぁぁぁぁぁ~~~!?』』
「落ちたあああああああああああああっ!?」
「本音!? 五反田くん!?」


――展開ッ!

カッ!!(IS起動)


『やはり宇宙刑事風を選んで正解だったな!! 起動が一瞬だぜ! 行くぞのほほんちゃん。しっかり掴っててくれよな?(お姫様だっこ)』
『あ、あう~(照)』
【リプレイは?】
『今夜にでもじっくり見よう! 行こうぜ相棒!』
【了解。のほほん嬢の安全を最優先で加速します】
『流石相棒だ!! IS紳士の鏡!! 行くぜ!!』


バシュウウウウウゥゥゥッ!!(風になる)


そのまま、俺はのほほんちゃんを抱きかかえて教室へと直行する。
そして流石相棒。振動を殆どのほほんちゃんに伝えない気配りを忘れない。
素晴らしい!



――ふむ。

しかしハニーは何故俺を呼んだのだろうか。

なーんか、面倒臭い事に巻き込まれそうだったら。色々うやむやにしたが、きっと気付いてんだろうな~。


ま、後はなるようになれだ。
思考をカットし。生徒会室を後にして、教室を目指す俺とのほほんちゃん。




五反田弾。今日も一日張り切ります!!(自重しろ)





【楯無 SIDE】


「ふー……流石ダーリン。侮れないわね。」


窓の外を眺め、小さくなっていく碧のISを見送り。
私は、ゆっくりと椅子に腰を降ろした。

五反田 弾。成程ね……とても面白い子だわ。


「はぁ……学園内のISの無断使用は厳禁なのですが。」
「んふふふ♪ でもやっぱりダーリンは凄いわぁ。私に会話の主導権を奪わせないなんて、中々出来る事じゃないんだけどな~?」
「それにしても会長? 一体何故五反田くんをお呼びしたのですか?」


怪訝そうな虚ちゃんの顔に、私はにっこりと微笑む。
そんなの決まってるじゃなーい♪


「んふ♪ チャンスがあんまりない誰かさんの為に決まってるじゃないの♪」
「…コホン」


小さく咳払いし虚ちゃんが席について書類をまとめていく。その頬は、照れによって若干桃色をしている。

うふふ。まさか本音ちゃんと虚ちゃんの、二人の心を動かす人が現れるなんてね~。

背もたれにギシっと、体を預け虚空を見上げる。


虚ちゃん。本音ちゃん。


更識家に、代々仕えてきた布仏家。
幼馴染である私は、二人の事を良く知っている。二人とも優秀な私の部下であり、大切な友達。

人を見極める眼は特に優秀であると私は確信を持っている。


――そんな二人を瞬く間に魅了した男。


「……欲しいなぁ」


自然と、そう口から洩れていた。


「お嬢様?」


そんな私を虚ちゃんが怪訝そうに見ている。

あは。大丈夫大丈夫♪ 二人が想いを寄せている男の子だもんねぇ。手荒な事はしないわよ。絶対に♪


――けどね。


思い起こすのは昨晩の事。

私の気配に気付いたあの察知能力。

本音ちゃんを護るように自ら前に出て、己を楯にした行動。

おちゃらけた言動で、本音ちゃんに不安を与えないようにした心配り。

私に一瞬向けた、鋭い眼光。

そして極めつけは今日も魅せてくれた、会話の主導権を私に取らせないあの巧みさ。


「――うん♪ 欲しいなぁ」


にっこりと笑う私に虚ちゃんがふぅと小さく溜息を吐く。そして、ちょっぴり呆れたように呟いた。


「それは『生徒会』にという意味でしょうか? それとも『更識家』にという意味でしょうか?」
「んー? んふふ♪」


今日は一日良い日になりそうね。


私はもう一度、彼の出ていった窓から青い空を眺めた。





【一夏 SIDE】

「――その情報、古いよ。」


クラスの皆で、クラス代表戦の話で盛り上がっている途中。
会話を遮るように、懐かしい声が響いた。

ん? この声ってまさか。


「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝なんてできないから。」


腕を組み片膝を立ててドアにもたれていたのは――


「鈴…? お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ。」
「何格好つけてるんだ? すげえに合わないぞ?」
「んなっ!? なんて事言うのよアンタは!」


そのまま、ズンズンとこっちに歩み寄って来る鈴。
おいおい待て待て、落ち着けって。

俺の近くまでやったきた鈴が、不機嫌な顔で俺を指差した。


「ちょっと!! 一年ぶりに再会した幼馴染に対してその態度は何よっ!?」
「わ、悪い悪い。でも普通に喋らないお前も悪いと思うぞ。」
「い、良いでしょう別に!? こういうのは雰囲気が大事なのよ雰囲気が!」
「そんなもんか?」
「乗りの悪い奴ね~! 弾も何か言って――ってあれ?」


そう言って、キョロキョロと周囲を見渡し。
怪訝そうな表情を浮かべる鈴。

あー、そういや弾の奴朝食の時もいなかったな。
たしか、のほほんさんもいなかったような。


「弾の姿がないけど、どういうこと? 同じクラスって聞いたんだけど?」
「あー、今日は姿を見てないんだ俺も。」
「なんだ、またサボりなの?」
「どうだかな。良く分かんないな。」
「「「「「否定しないんだっ!?」」」」」


いやいや。あいつたまに意味不明な事言ってどこか行っちまうからなぁ。

この前は『ちょっとラピ○タまで、行って来る』とか言って、三日間ぐらい姿消して。
なんかしらんが青い石持って帰って来たし。

怖いから滅びの言葉は言わないようにしているが。


「お、おい一夏。この女は一体誰だ? 知り合いか?」
「わ、私も是非知りたいですわ!! 妙に親しそうですけど、一体どんなご関係ですの!?」


箒とセシリアが、俺に詰め寄って来た。

ああー。そういや箒は知らないんだった。当然か、入れ違いだったし。
鈴も、二人見て『なにこいつ等』って眼でみているし。紹介ぐらいしておくか。


「ああ、そうだな。紹介しとくぜ。こいつは俺と弾がよく――」



カラカラカラー……(窓が開く音)


……。(全員窓を見る)

ガッ!!(窓の淵を掴む手)

……。(数人ビビる)

ニョロリ。(弾登場)

……。(やっぱりお前かって顔する)


「ん。呼んだか?」
「「「「「普通に出てきなさいっ!!」」」」」
「お前どっから入って来てんだよっ!?」
「いやお前何処って……」
「『コイツ何言ってんだ?』みたいな顔で、さも当然そうに窓を指差すなっ!?」
「へい、のほほんちゃん! 到着だぜ!」
「わ~い♪」
「のほほんさんも順応してないで止めてくれっ!」


弾の背中から飛び降りるのほほんさん。
隋分と弾と仲良くなったみたいだけど、できればストッパーになって欲しかったぜ!!

そのまま。俺達の方に近づいてくる二人。


「何故普通に扉から入って来んのだお前は。」
「いやー、途中まで『七代目五反田号』で来たんだけど。教員の人が飛んできて厳重注意受けちまってなー。しょうがないから、のほほんちゃん背負って登って来た。」
「階段を使うって選択肢は浮かばなかったんですのっ!?」
「窓から出たんだ。なら窓から入ってこないと、つり合いとれないだろ?」
「お前何処行ってたんだよ!? 窓から出るってどんな状況だそれは!?」
「ちょっと朝から優雅なティータイムをしてきただけだが?」
「「「状況が分らない!?」」」
「あんたって、本当に変わってないのね~。」
「ん?」


そう言って鈴に視線を向ける弾。

あ。待てよ? そういえばいつも、弾が鈴にあった時は必ず――!?


「――おお!? 誰かと思えば巨乳(笑)じゃないがはああああああっ!!?」
「(笑)ってなんじゃゴラあああああっ!!?」
「「「「「シャイニングウィザードッ!!?」」」」」


鈴の見事なシャイニングウィザードが、顎に決まり仰け反る弾。
さらに、俊敏な動きで背後に回り込んでチョークスリーパーを決める鈴。

――流石だ。腕は衰えていない!!


「アンタはどうしていつもあたしの逆鱗に触れることしか言わないのかしら~!?(天使の笑顔で締める)」
「――――ッ!!(パンパンと激しくタップ)」
「うふふふ♪ な~に~? 聞こえな~い。」
「……♪(パンパンパパン♪パパパパン♪)」
「リズムに乗せてんじゃないわよ!? この馬鹿弾!!」
「駄目だ! すぐ順応しやがったぞ!?」
「一夏! 掃除用具入れを開けて!!」
「え!? お、おう! 【ダダダッ! ガチャ!】開けたぞ!!」
「――フン!!」
「げはあああああっ!?」


ドッコーン!!

チョークを解いて弾の背中を蹴りつける鈴。吹っ飛んだ弾は、掃除用具入れに一直線に向かってホールイン。

ツカツカと歩み寄った鈴は掃除用具入れのドアを乱暴に閉め、ガムテープを入念に張り付け弾を封印した。
パンパンと手を払い『フンっ!』と鼻息を吐く鈴。

一部始終を見ていた。一組の全員の顔が驚愕に染まった!!


「馬鹿な!? な、なんという見事な手際の良さだ!? あの弾を封じた!?」
「い、一体誰ですの!? 何者なんですのあの方は!?」
「さ、さすがだ鈴! やっぱ凄いなお前!?」
「は? な、何!? なんでみんなしてあたしを凝視してんの!? 怖いんだけど!?」


そりゃそうだ! 弾を手際よく葬る奴なんて、千冬姉を除いたら片手で数える程度しか存在しないんだぞ!?

ああ、鈴! 帰って来てくれて嬉しいぜ!!


「――鈴……お帰り。」
「ちょちょちょ!? な、なんでそんな優しい顔で…あ、あう。(真っ赤)」
「い、一夏!? 誰なんだその凄乃皇の化身は!?」
「誰ですの!? 誰なんですのこのアルティメットウェポンは!?」
「ちょっと!? アンタらあたしを何だと思ってんのよ!?」
「こいつは俺や弾と一緒に良くつるんでいた奴で。俺の幼馴染の鈴だ。弾を止められる数少ないストッパーの一人なんだぜ?」
「「「「「IS学園に!! 待望の人材キタアアアアアアアッ!!!!」」」」」
「怖いってば!? なんで会う度、皆同じ反応なのよおおおおお!?」
「それは――」
「あ、ちょっと待って一夏。」
「は?」


言葉を紡ごうとした時。
鈴が俺の言葉を遮って、近くの机に置いてあった教科書の一冊を手に取った。

教科書? 一体何に――?

そう思った瞬間。教室の天井が、カパッと開き――。


「それは俺が説明し――!! 【バァン!】ぶべらばっ!?」


そこから何故か現れた弾が顔を出した瞬間。
鈴の手から放たれた教科書が、弾の顔面にクリーンヒット!!

そのままドべシャッ! と地面に落ちる馬鹿。

全員が静まる中、鈴がまた一つ鼻を鳴らし――


「アンタは寝てなさい。この馬鹿弾。」


弾を見下ろし、そう静かに告げた――


――わああああああああああああああああああああああああっ!!


瞬間クラス中が歓声に包まれた。


「ひいいいいいいい!? 何!? 何事よっ!?」
「……鈴! 本当に……! お帰り……っ!!」
「い、一夏!? な、なによ!? そ、そんなに泣く程喜ばなくたって!?(真っ赤)」
「だ、駄目だ。勝てる気がせんっ!?」
「な、なんて方ですの!? 本当に人間ですの!?」
「そしてアンタらはあたしを何だと思ってんのよ!?」
「いででで。酷いじゃねぇか鈴? 一年ぶりだってのに手荒すぎね?」
「そして、あんたはあんたで、相変わらずの不死身ぶりね。」


起き上がった弾が、顔をさすりながらやって来た。
流石に、鈴でもこいつを地獄の底まで落す事は無理なようだが、あの突っ込みの手際の良さは驚嘆の一言しか出ない。

本当に、良く帰って来てくれた! 歓迎するぜ鈴!


「なんだよー。夢と希望を壊さないようにした俺の配慮の言葉じゃん?」
「あたしの胸成長は、そんなに脆い夢だとそう言いたい訳ねあんたはぁ!?」
「じゃあチッパイ! 相変わらずぼおあッ!?」
「ぶっ殺す!!」


マウントポジションで、弾を血祭りに上げる鈴を横目に。俺は窓のから青い空を見上げた。

ああ、これで少しは千冬姉の胃も――って、ん?

ここで気付いたが、そう言えば千冬姉は一体どうしたんだろう?
もうとっくにSHRは始まっている時間だというのに、一向に姿が見えない。

変に思って、教室の扉に眼を向けると――

そこには無表情で立っている愛する姉の姿が――ってうおおおおおいっ!!?


「ぜ、全員! 席に着けえええええ!? ち…じゃない! 織斑先生がもう来てるぞおおおおお!?」
「「「「「え? ええええええええええええええええええっ!?」」」」」


驚いたクラス全員が、扉に目を向け硬直。
そして、大慌てで自分の席に戻る。

そんな、クラスを尻目に。コツコツと千冬姉が、弾を血祭りに上げている鈴へ近づいていった。


「ま、まずい!? 鈴! 後ろ! 後ろ見ろ!?」
「はぁ!? 何よ! いまこの馬鹿を血祭りに上げるのに忙し――っひいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「……」


振り向いた瞬間。
自分を無表情に見下ろす千冬姉の顔を見た鈴が、真っ青になって飛び起きた。

ちなみに弾は、血を流しながらピクピクと痙攣している。

おお!? まさか弾の奴リカバーが追いついてないのか!? す、凄すぎるぞ鈴!?

そんな弾を一瞥した千冬姉は、次に真っ青になってブルブル震える鈴に視線を移した。
相変わらずの無表情で超怖いぞ!? 千冬姉!?


「ち、千冬さんっ!? お、おひ、お久しぶりですっ!?」
「……」
「あ、あわ、あわわわわ…!(ガクガクブルブル)」


そんな鈴を見下ろしていた千冬姉は――





「――よく帰って来たな。凰鈴音」





ポン。っと鈴の肩を優しく掴み、今まで見せた事もないよな、優しい笑顔を鈴に向けてそう言った――って、えええええええええええええ!?

全員が驚愕に顔を歪め、千冬姉を凝視した。
というか鈴本人も、とんでもない物みたように驚愕している!!


「もうSHRは始まっているぞ。早く自分の教室に戻れ。ああ、そうだ。なんならここで受けて行くといい。二組には私が話しを付けておいてやろう。」
「へ!? いい、いえ結構です!? 戻ります!! 戻りますから今すぐに!?」


そう言って、脱兎のごとく走り去る鈴。
うん気持ちは分る。今の千冬姉は別の意味で怖い。

そのまま、ドアまで走り、くるっと振り向く鈴。


「また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏! ついでに弾も!」
「おうまたな~。」
「「「「復活早っ!?」」」」」
「いや、いつもより少し遅いな。流石鈴だな。三途の河のほとりまで俺を導くとはねぇ~」
「いいからお前も席につけよ弾。」
「あいよー」
「ならばなおの事このクラスで受けていけ。凰鈴音。」
「い、いいいいいいえ! けけけけっこうですううううう!!」


二組へ向かって猛ダッシュする鈴を、名残惜しそうな眼で見送る千冬姉。

ヤバい、あんな千冬姉見たことねぇ!?

そのまま、教卓の前にやって来た千冬姉は教卓から窓の外を見やり――




「――ああ……今日は良い天気だな」



……そう呟いたのだった。

穏やかな顔でそう口にした千冬姉を見て。クラスの何人かが『先生…!!』と、呟き。ぶわっと涙を流し口元を押さえていた。

ふ、不憫すぎる。

……うん。良かった。本当に良かったなぁ千冬姉……。俺も思わず目頭を押さえて天井を見上げてしまった。


「ふむ? 千冬さん。どうかしたのかね?」
「「「「「こいつ……!?」」」」」
「……ところで五反田。貴様また朝から問題を起こしたようだな?」
「へ? ああ、IS使った事ですかね? いやーすんません。緊急事態だったんで。」


そしてさっきとは打って変わって、不機嫌そうに弾を睨む千冬姉。
うわぁ……さっきよりもこっちの方が千冬姉らしいと思ってしまうのは俺だけか?

そんな俺の思考をよそに、会話は続いていく。


「学内でのISの無断使用は規約により禁止されている。もう一度頭に叩き込んでおけ馬鹿者が。」
「だから緊急事態だったんですって、のほほんちゃんと一緒に生徒会室の窓から飛び降りちゃったんですよ。」
「おい待て!? 落ちたんじゃないのかよ!? 飛び降りたのか弾!?」
「俺ならともかく、のほほんちゃんがいた事すっかり忘れててなぁ? てへっ♪」
「まぁ、お前はともかく。他の者では多々じゃすむまい。」
「これは人命救助なのでしょうか? いえ、でもご自分から飛び降りている事ですし。相変わらず面倒を起こす方ですわね。」
「すまんなー。のほほんちゃん。」
「んーんー。気にしてないよ~♪役得もあったし~。えへ~♪」
「すでに弾の不死身さに慣れたなみんな?」


そんな風に思っていた時。


――カラーン……


と、何かが落ちる音が響いた。……ん? なんだ? 

音の発生源を辿ると、そこには出席簿を取り落し信じられない物を見るような眼で弾を凝視している千冬姉の姿があった。

な、なんだ? どうしたんだ千冬姉?


「……生徒……会室……だと……?」
「へい。生徒会室です。」
「……何の用事……でだ?」
「ああ、特に大した理由じゃないですけど。ここのIS学園の生徒会長さんに招待されたんす。」
「「「「「え?」」」」」
「お前それで朝食の時いなかったのか。」
「おう。」
「……」


しばらく、呆然としていた千冬姉だったが――


ダッ!! と、いきなり教室を飛び出し弾丸の如きスピードで俺達の視界から消えさり――



『――今すぐ凰鈴音を一組に寄こせえええええええええええええええっ!!』



学園中を揺るがす怒声を響き渡らせたのだった。


「ち、千冬姉?」
「おおう? 千冬さん。久しぶりの暴走モードか。」
「な、なんだ? なにがどうなって織斑先生は、あの状態に?」
「まぁ、おそらく。五反田さんのせいでしょうけど。」
「え? 今の会話で怒らせるようなことあった? ISの無断使用は注意されたけど、他に理由なんてもんなくね?」
「ん~? 私はなんとなーく分るよ~?」
「「「「「え?」」」」」


のほほんさんは、理由が分るようだけど一体何が原因だ?

とりあえず、この場はどうしたもんか。担任である千冬姉がいないんじゃどうしようもない。

副担任の山田先生も姿が見えないしなぁ。


『織斑先生!? 一体何事ですか!? 今はSHR中ですよ!?』
『今すぐ凰鈴音を一組に引き渡してもらう。何、私は顔見知りだ。故郷を離れ心細い思いをしているだろうし、一組には彼女の友人がいる。鈴にとってもその方がいいだろう。さぁ渡せ!』
『何を言ってるんですか!? くじ引きの時恨みっこなしって、教員全員で誓い合ったじゃないですか!? そんなの認められませんよ!?』
『喧しい!! 大体、生徒をくじ引きで振り分けるなど失礼な事だと思わんのか!?』
『だってそうしなきゃ実力勝負で織斑先生の一人勝ちになっちゃうじゃないですか!?』
『せせせせせ先輩ぃぃ!? なななな何事ですかあああ!?』
『山田君か。緊急事態だ! 山田君も凰鈴音を一組に再編入させるよう説得してくれ!!』
『えええ~!? でもくじ引きの時恨みっこなしって―――。』
『山田君。落ち着いて聞くんだ。五反田が、更識と接触した。』
『え……あ、あはは……そんな嘘ですよね? ……は、はは……もぉやだぁ……!』
『もはや四の五の言ってられん状況だ!! だいたい一組はとんでもない爆弾を抱えてるんだぞ!? 戦力はこっちに全部回すのが筋というものだろう!?』
『何を言っているんですかあああああああああああ!!? こっちにだって余波が来てるんですよ余波がぁ!? わ、私が! 私がどんな目にあったのか知りもしないで好き勝手言うなあああああああああああああ!!?』



何故だろう。目頭が熱くなってきた。


「おい。お前他のクラスにまで迷惑かけてんのか?」
「ん? そんなことした覚えないが?」
「無自覚、か。性質が悪いのも程があるな。」
「…大変なのは、どのクラスも共通ということですわね。」
「だんだんはハリケーンだからねぇ~」




とりあえず。本日のSHRは潰れる事になったことを明記しておく。

しかし鈴。大人気だなお前。







後書き


遅くなりました。誰か休日をプレゼントしてくださいぃぃ。まぁ愚痴は置いときまして、今回も長いです。やっぱり生徒会メンバーが絡むと書きたい事ありすぎて収拾がつきません。まだ朝の一幕ですよ? さて次回。鈴を交えた日常編? です。会長も動き出したようでどうなることやら。あ、ちなみに番外編はちゃんと書いてあります。載せるのはもう少し先かと。他にも色々ありますが、まぁそれもいずれということで。








[27655] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 19:53
ちわっす! いつも心に花束を。五反田弾です!


微乳の暴走特急チャイナっ娘である。鈴との一年ぶりの再会を果たした一夏と俺。

いやー、まさか鈴がIS学園に入学してくるとは思いもしなかったぜ。
これで、数馬や花梨ちゃん達三人娘が揃えば、中学時代の主力メンバー勢ぞろいの夢の共演が再現できたんだが。まぁ、そこまではさすがに無理かね?

あの後、マヤたんに付き添われ戻って来た千冬さん(胃をおさえながら)だが、その機嫌は最悪。
授業中何処か上の空の、箒ちゃんとセシリーちゃんに毎度おなじみ出席簿アタックが振るわれていたが、威力がケタ違いだったしね?

パァン! じゃないよ。
バアァンッ!! だよ? 二人とも大丈夫かね~。

そして、千冬さん暴走のSHRと、緊張感五割増しの授業から時間は過ぎて、現在お昼休みです。

授業が終了し、千冬さんとマヤたんが教室から出て行った瞬間――――。


「――――― 貴様らのせいだああああ!!」
「――――― 貴方達のせいですわああああ!!」
「地球温暖化は俺達だけのせいじゃない。」
「二人が言ってんのはそこじゃねえよっ!?」


開口一番、若干涙目の箒ちゃんとセシリーちゃんが、まだ痛むらしい頭をおさえ一夏と俺を怒鳴りつけてきました。

いやー、そう言われても。千冬さんの授業でボケっとするのが悪いと思うぞ? 大方、鈴という一夏に近しい女の子の出現に色々考えこんじゃったんだろうけどねー。

ちなみに俺は真面目に授業を受け、ノートにしっかりと記入。分らない所はしっかりと手を上げて質問するという優等生ぶりだったがね。(クラス一同ドン引き)

マヤたんには『なんでいつも、そんな風にしていてくれないんですか~~~~!?』って、泣かれ。
千冬さんには『お前何を企んでいる? 今度は何をする気だ吐けぇ!?』と、激昂される隠しイベントも見れたし、中々有意義な授業タイムだったと言えよう。


「納得いかん!! 何故貴様は叩かれなかったのだ!?」
「真面目に授業受けてる生徒を叩く理由なんてなくね?」
「だんだん。まじめにノートとってたもんねー。」
「そこがおかしいんです!! いつもなら意味不明な事おっしゃっているのに、何故今日に限ってあんなに真面目だったんですの!?」
「そんな気分だったからさ!!」
「「~~~~~~~~~っ!?(ビキィ!)」」
「お、落ち着け二人とも、千冬姉もこいつ叩くに叩けなくて舌打ちした所見ただろ?」
「「それもあって、さらに機嫌が悪かったのではないか(ないですか)っ!!?」」
「ひ、否定はしない。」
「まぁまぁ、お二人さん! 積もる話は食堂に行ってからにしようぜ!」
「お? それには賛成だな。とりあえず食堂に行こうぜ。話は食べながらでもいいだろ?」
「…むぅ。」
「し、仕方ありませんわね。」
「のほほんちゃんも来るかね?」
「んー。きょうは用事があるから無理かも~。」
「おう? そりゃ残念だ。なんの用事か知らんが頑張ってな~? 手伝える事なら遠慮なく頼ってくれよ?」
「ほいほ~い、ありがとー♪ じゃあねぇー。」


ぽてぽてと、やたら遅い足取りで教室の扉に向かうのほほんちゃん。
ようやく到達したと思ったら。出て行く前に、もう一度こちらを振り返りヘロヘロ~っと手を振る姿に衝撃が走る!
馬鹿な!? 一体彼女は、どこまで萌えのポイントをおさえているんだ!?

そんな色々駄目っぽい俺の思考はおいといて。ふむ、用事か。もしかしたら生徒会関係の仕事かもしれんな。

頑張れ敏腕生徒会書記のほほんちゃん!


のほほんちゃんを見送り。
俺と一夏、箒ちゃんにセシリーちゃんの四人で食堂へと移動する。
他にも数名俺達の後をぞろぞろとついてくる為、ちょっとした行進になっている。
流石は一夏。望む望まず選ばず、女の子が寄って来るな。

食堂についた俺達は、それぞれ券売機で思い思いの食券を購入する。
ちなみに俺は今日も蕎麦だ。
いや、これが美味いのよ本当。安いし、量もあるし。流石マダム達だね!

一夏はいつものごとく日替わりランチ。
箒ちゃんはキツネうどんで、セシリーちゃんは洋食ランチをそれぞれ購入。

あらま、全員いつも通りですな。
変わり映えのない日常ですね。良い事だ。
四人で食券をマダム達に渡す為に、列に並ぶ。

――― と、その時。


「待ってたわよ一夏! それに弾っ!」


俺達の前に、デデンッ! と色々と小柄な影が立ちふさがった。
両手に持つ盆の上にある、ラーメンが素敵です。
さすがはチャイナっ娘。キャラに合わせた昼食チョイスも素晴らしい。

まぁ、当然。微乳の暴走特急の鈴さんですね。

ほほう。待っていたとな?
あっけにとられる一夏達よりも先に、俺は口を開く。


「サインが欲しいのか? しょうがない奴め。」
「出待ちじゃないわよっ!!」
「色紙がないから、ブロマイドで良いか?」
「何でそんなモン持ち歩いてんだよお前。」
「話聞きなさいよ!? いらないわよそんな物!」
「一夏ブロマイド【うたた寝バージョン】。レア物なのに?」
「そんなの知らないぞ俺は!? いつ撮った!? いつ作った!?」
「『七代目五反田号』が一晩でやってくれた。」
【加工に妥協は無い。】
「何やってんだよ!? このアホ主従コンビ!!?」
「…全くしょうがない奴ね~。(ゴソゴソ)」
「待て! 何事もないように受け取り、懐に収めるな! ず、ずるいぞ!? 交換だ! 交換を要求するぞ!」
「そうですわ! 私まだそれは持ってませんのよ!? お寄こしなさい!」
「はぁ? 早いモン勝ちよ、早いモン勝ち!」
「他にもあるのか!? というか、箒にセシリア! なんで持ってんだよ二人とも!?」
「ところで君達、通行の邪魔だから早く移動しなさい。後ろの淑女達が食拳出せないだろう。全く食堂で騒ぐなんて、慎みを持たなあかんよ。慎みを。」
「「「「事の発端はお前(貴方)(アンタ)だろ(でしょう)があああっ!!!?」」」」


騒がしい友人達に溜息を吐きつつ、俺は食券をマダムに渡し蕎麦が来るのを待つ。
その後に続いて一夏達も食券を渡し、列に並び直す。

ふむ、やはり鈴がいると騒がしくなるな。無論良い意味でだ。
さすがは元気が取り柄の特急娘だ。素晴らしいね。

そのまま、一夏と俺に追従するように鈴も着いてきた。
おいおい。ラーメンがのびるぞ? 先に食ってりゃいいのに。
そんな鈴に、一夏が口を開く。


「のびるぞ。」
「わ、分ってるわよ! だいたいアンタ達待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」
「一夏が途中『やっぱ草だよな、草』とか言って、道草を食い始めてな? 止めるのに時間が掛かった。いい加減にしろよお前。」
「食ってねぇよっ!? 捏造するにも限度があるだろうが!!」
「雑草は以外にイケるのは知ってるが、いくらなんでもお前・・・」
「なんで雑草の味知ってんだよ!? 食ったのか!?」
「はぁ? 馬鹿じゃないお前? 食うわけねぇだろ。常識考えろよなー。」
「俺もうマジギレていいよなっ!!? いいよなぁ!?」
「落ち着きなさいよ一夏。今黙らせるから我慢して。」
「ははははは、ラーメンを持っている状態で何がで【ズッドン!!】足の甲にも急所があるって知ってたか一夏ッ…!?(脂汗かきながら半泣き)」
「お、お前大人しくしてた方が良いぞ。」
「はぁ~。ホンッと変わってないんだから。」
「そう言う鈴こそ、ちょうど一年振りだけど変わりはなさそうだな。元気してたか?」
「…。」
「? 鈴?」
「ふむ? 一夏よ。お前ホント女心に鈍感だよな。少し綺麗になったなとか、ちょと大人っぽくなったなとか、気の利いた言葉くらいないのかお前?」

「「「「「「うんうん。」」」」」」← 食堂の淑女達が頷く

「んな事言われても。鈴は鈴だろ? 変わりがなくて元気なのは良い事じゃねぇかよ。」
「か―――!! 駄目だこりゃ! 鈴もちょっと期待してただろうに残念だったな?」
「は、はぁ!? ば、馬鹿言わないでよ!? そんなのちっとも期待してないわよ!?」
「まぁ、たしかに胸はチッパイのままだし、バストも控えめなままだし、オパーイも成長の兆しが見当たらんし一夏の言葉もあながち間違いではあっつ!? 熱ッ!? ラーメンの汁とばすのは駄目だろう!? スープを無駄にするのは許しませんよ!?」
「アンタ今三回連続で胸のこと言ったわね!? ほんとにぶっ殺されたいのかしらっ!!? これでもちゃんと成長してんのよ!! 馬鹿にすんな!」
「何? もちょっとその辺の話し詳しく。【キリッ】」
【記録準備完了。いつでもどうぞ】
「こっこの助平!? 話す訳ないでしょうがっ!!?」
「「「「「あの、早く進んでほしいんだけど?」」」」」
「わっ悪い! おい二人とも、飯持って早く席にいこうぜ!」
「席はあちらが空いているぞ一夏。」
「早く参りましょう。昼食時間が終わってしまいますわ。」

「おーい、早くこっち来いよ。そこいると邪魔だぞ四人ともー?(既に着席)」

「「「「早ッ!!? お前(貴方)(アンタ)いつのまにそこまで移動したんだ(ですの)(のよ)!?」」」」


蕎麦をGETした俺は、早々に席につき一夏達を待つ。
全く、迅速な行動がとれんと駄目だぞみんな。
一夏達も、それぞれ昼食を受け取り俺がキープしているテーブルへとやって来て席についた。
これでようやく昼食をとることができる。

しかし。蕎麦に、うどんに、ラーメンとは。
天下三麺の計が成った瞬間ですね。ある意味凄いことじゃなかろうか?(意味はなし)

俺が蕎麦を啜り、一夏が味噌汁を啜り、箒ちゃんがうどんを啜り、セシリーちゃんがスープを啜り、鈴がラーメンを啜る。
啜ってばっかじゃねぇかという周囲の心の声が聞こえる。

ズズズズズズズズー。

「「「「「ふぅ」」」」」

五人揃って一息つく。傍から見たらかなり珍妙な光景でしょうね。


「しかし、本当に久しぶりだな鈴。いつ日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタ達こそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない。」
「この雑誌のスリーサイズは捏造だろ? この妙な決めポーズはなんぞや? 趣味は読書ってこれはネタか? 超うけるねぶわはははははははははははっ(バンバンッ!!)!!?」←テーブル叩いて爆笑
「あ、あんた何であたしの出てる雑誌をもってんのよおおおおおおお!? か、かか返せ! 見てんじゃないわよ!?」
「ほれほれ見てみ一夏。ありえない表情の鈴さんがの【パァン!!】ってべるぐばうっ!!? ビンタはあんまりじゃね!? 精神的にもきついんだぜ!?」
「アンタが悪いんでしょうが!? 返しなさいよ馬鹿弾!!」
「ははは、ほんとに変わらねぇよな。俺達三人のこのやり取りも。」
「んんっ! 一夏。先程の教室の騒動でも聞いのだが。 改めて説明してもらえないだろうか? この凄乃皇とは幼馴染ときいたが、どういう事だ?」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの最終兵器と付き合ってらっしゃいますの!?」
「だからアンタ達はあたしを何だと思ってんのよ!?」
「チッパイ。」


ガッ!(弾の口をこじ開ける)

ドバドバ(まだ熱々の蕎麦を喉に流し込む)

バッタンバッタン!!(弾が全身を暴れさせ悶える)

ギュ(鼻を塞ぐ)

ビクンビクンッ(弾が痙攣し動かなくなる)


「―――― で? なんの話だっけ?」
「「「本当に凄すぎるぞ(ますわ)!? 鈴(お前)(貴女)!?」
「ま、まぁ、弾なら。食べ物無駄にすることは信念に反するだろうと思ったけど。まさか一滴残さず飲み干すとは私も思わなかったわよ。こいつ一年前よりパワーアップしてんじゃないの?」
「そこまで計算してるのか。やっぱ鈴は、弾対策に必要不可欠な存在だな!」
「凄いよな。」
「そして相変わらず復活早いなお前は!?」
「三途の川の船の船頭がな? 俺見た瞬間凄いスピードで向こう岸まで船漕いで逃げちまってさ。」
「お前本当に何やったんだよ!?」
「まぁ、いいじゃん。ほれ一夏、レディを待たせるな。説明説明。」
「簡単にすましていい問題じゃない気もするけど、まぁいいか。(諦め交じり)」
「「「あの世って一体?」」」
「えーっと、改めて紹介するな。こいつは鈴。俺と弾が中学の時に一緒に良く遊んでた奴で、俺とは小学五年の時からの幼馴染だ。」
「中学二年の終わりに国に帰っちまってさ。ま、一年振りの感動の再会って訳ですな。」


そう説明する一夏と、補足する俺。
ちらっと鈴の様子を伺えば、「フン。」と、鼻息一つ吐き。箒ちゃんやセシリーちゃんをジロジロ観察している。

ふむ?

そんなに二人をガン見して何をしたいのかね? 喧嘩はあかんよ?


「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染で、俺が通ってた剣道道場の娘。」
「…ふぅん。そうなんだ。」


バチィッ!!
 
箒ちゃんと鈴の視線が交差した時、火花が散った!

おおう!? スイカップVSチッパイの頂上決戦開幕か!?
どちらも需要はある上、どちらも捨てがたい!! この勝負、どっちが勝利するのか全く分からんぞ!!?
だが、二人は互いににっこり笑顔(作り)で言葉を交わすだけにとどまった。


「初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
「ドロー!! 初戦は引き分けか。長い戦いになりそうですな解説の一夏さん。」
「何言ってんだお前は。」
「ンンンッ! 私の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「――― おおっと!? ここでセシリーちゃんが乱入だ!」
「お前楽しそうだな?」
「…は? 誰?」
「だがどうやらアウトオブ眼中だったようです。これは痛い! まるっきり不審者見る目です!」
「なっ!? わ、私はイギリスの代表候補生。セシリア・オルコットでしてよ! まさかご存じないの!?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし。」
「これは手厳しい鈴の一言。どう思います解説の一夏さん?」
「俺に振るな俺に。」
「い、い、言っとおきますけど、私あなたのような方に負けませんわ!」
「「それって負けフラグじゃ…。」」
「~~~~~さっきから何なんですの!? また声まで揃えて!? 少しはフォローしてくださいませんの!?」
「はぁ。全くこいつらときたら。」
「アンタ達って、本当に妙な所で馬が合うわね。ま、でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
「最近厨二病が流行ってるなぁ。予防接種を学園に申請するべきかね?」
「違うわよ!? 本当に強いのよあたしは!!」
「そうだねー。すごいねー。」
「ぶっ殺すわよアンタ!?」
「ま、まぁまぁ落ち着けよ鈴。」


ズズズズー。

俺と一夏が茶を啜り、箒ちゃんがうどんの汁を啜り、セシリーちゃんが紅茶を啜り、鈴がラーメンの汁を啜る。

「「「「「ふぅ」」」」」

傍から見たら、きっと色々微妙な光景なんだろうなと常々思う。


「そいえば、アンタ達クラス代表になったんだって?」
「それは俺で、弾は副代表だ。」
「『こんな事もあろうかと思って準備しておきました』ってな感じで主人助ける老紳士的なポジションです。」
「あっそ。」
「「軽く流した(ましたわ)!?」」
「そうなんす。」
「「こっちも軽く受け止めた(ましたわ)!?」」
「ふーん…。」


小さく頷くと、鈴は一夏に視線を投げかけた。
その視線はどこか照れが入っている感じがする。

お? 鈴がアタック開始しはじめたな。


「あ、あのさぁ。ISの操縦みてあげてもいいけど?」
「え? 鈴が?」
「おおう、良かったじぇねぇか一夏。」
「なんなら、弾も特別にみてあげるけど?」


そのまま、俺にも視線をよこしそう言ってくれるチャイナッ娘さん。
おおう、何とも嬉しい事を言ってくれるね!

ふむ、やはり一年前の鈴のままだなー。小さな優しさが素敵です。


「「おお! そりゃ助か――――!!」」

ダンッ!!

「呼ぶなら口で呼んでくれ。何か用かね箒ちゃんセシリーちゃん?」
「「違う(いますわ)っ!!」」


そのままキッと鈴を睨みつける二人。
鈴も鈴で、そんな二人をじろりと鬱陶しそうな目で睨む。

…ふむ?


「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは私だ!」
「貴女二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ!」
「…あたしは二人に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ。」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれたのだ。」
「あながち間違いじゃないよなぁ。一夏必死だったし。」
「あれはしょうがないだろうが。」
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。貴女こそ、後からでてきて何を図々しい事を――――」
「図々しいねぇー? あたしの方が付き合い長いんだけど?」
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに一夏は何度も家で食事している間柄だ。付き合いはそれなりに深い。」
「…あっそ。家での食事でならあたしもそうだけど?」


ねぇ、と鈴が俺達二人に視線を投げかける。
『そういやそうだな。』と、答える一夏の言葉を受け流し俺は鈴を見る。
周囲の淑女達がざわついているが、そこも今だけは聞き流す。

…俺は気にしてねぇよ?

そういう思いを込めて鈴を見るが、鈴は俺の視線に気付くと僅かに顔を顰める。

不味いな。どうしたもんかねー?


「いっ一夏! どう言う事だ!? 聞いてないぞ私は!」
「私もですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」
「説明もなにも、幼馴染でよく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だよ。」
「これが美味くてさー。我が五反田食堂に戦慄が走った瞬間だったぜ!」
「別にばらさなくてもいいのに…馬鹿一夏」
「やーい馬鹿!」
「二人して馬鹿って言うなよ!?」
「な、何? 店なのか?」
「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね。」
「親父さん、元気にしてるか? まぁあの人こそ病気には無縁だよな」
「まさにそうだな。」
「そこで頷くなよ。それ以上に色々無縁なくせに。」
「俺にだって出会いくらいあるわいっ!! 馬鹿にすんなこのフラグ野郎!! 泣くぞしまいには!?」
「それはどっちの意味だ!? 病気とのか!? 人とのか!?」


そんな風に騒ぐ一夏と俺に反し。
鈴の表情に影が落ちる。


「あ…。うん、元気――――だと思う。」


…ふむ?

鈴の違和感に、俺だけでなく一夏も気付いたようでお互い顔を見合わせた。

そのまま一夏が声を掛けようとするが、それよりも早く鈴がパッと表情を変えて言葉をまくしたてた。


「そっそれよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりだしどこか行こうよ。ほら駅前のファミレスとかさ。」
「あー、あそこは。」
「去年潰れたぞ。俺のせいで」
「「「ちょっと待て(ちなさい)!? どういうこと(ですの)だ!?」」」
「まぁ、あそこは接客も微妙だったし当然と言えば当然かもな。まぁ一番の理由は、そこで飯食ってた弾が女子に対して礼節取らない男店長にブチギレてなんかやったらしい。怖いから聞いてないけど。」
「アンタここ以外でもそんなことやってたの!?」
「ここ以外って、何もしとらんがなIS学園じゃ。」


「「「「「「「「「「嘘吐くな―――――――――――――――――――ッ!!!!!?(教師含み)」」」」」」」」」」


おおう? どうした皆。
此処は食堂。憩いの場だぞ? 静かにしなさい。


「色々聞いてんのよ!? アンタが此処で起こした騒動とかね!」
「お、俺も気になってたんだ。こいつ何したんだよ鈴?」
「まぁ軽い所から言えば…学校中の職員室の時計を一時間戻したとか。」
「「「何やってんだ(ますの)!? お前(貴方)はーっ!?」
「いや、職員室通りかかったら『誰か時間を戻して~』ていう淑女の叫びを聞いてな? 頑張った。」
「「「それは比喩表現だ(です)!!」」」
「おかげで授業に遅れるわ、大事な会議に無断欠席だわ、他国の高官との会合もすっぽかしそうになるわ大変だったそうよ?」

『ううっ!』『どれだけ資料集めに苦労したと!?』『懲戒免職寸前だったんですよ私!?』


「そ、それで軽い方なのか!? もうそれだけで腹一杯なんだが俺!? むしろ聞くのが怖い!?」
「それで、その後のことなんだけど。危うくすっぽかしそうになった高官に、謝罪を込めたもてなしをする事に決まったらしいんだけど。」
「こいつか? またこいつが何かやったのではないか!?」
「高官? お、もしかしてあれことか?」
「心当たりあるのか!? 何したんだよお前!?」
「いや、俺は特に何もしてないんだが実は――――――――――。」


~回想~

『こちらになります。どうぞお入りください。』
『ははは、ありがとう。そんなに気にしなくてもよろしかったのに。IS学園は激務で忙しいことは承知の上です。お構いなく。(ナイスミドル)』
『い、いえ今回の事は…イレギュラーと申しますか。』
『それでは失礼して…おや?』
『? どうかまさいましたか――――って、ひぃ!?』
『ん? 何か用っすか?』←通りかかった弾
『な、何でもありません! ええ何もありませんとも!? ははは早く教室にもどりなさい!!』
『君は…?』
『どうも! 日本を支える日本紳士! 五反田 弾です!』
『紳士?』
『ええっと! こ、この男子生徒は。日本で確認されたISを起動できる男子の一人の―――――っ!』
『その言動…日本…そして紳士。も、もしや貴方は『DANSHAKU』ではありませんか!?』
『―――――― はいッ!?『DANSHAKU』!?』
『ッ!? まさかアンタ【世界紳士連合】の一員か!? しまった!! 迂闊だった!!』
『なんですかそれ!? 何なんですかそれは!?』
『おお! やはり『DANSHAKU』なのですね!? お会いできて光栄です! ずっと貴方を探していたんです!』
『やめてくれ! その名は捨てたんだ!!』
『何なのこの超展開!? あ、あの!? と、とりあえず中へ!?』
『戻ってください『DANSHAKU』! 貴方が抜けて以来我が【世界紳士連合】はっ!?』
『それは出来ない! 分ってくれ!』
『あのちょっと!?』
『紳士の誉れと謳われた貴方が! 何故脱会など!?』
『分かってくれ! 受験だったんだ!!』
『何ですって!?』
『そこ驚く所なんですか!? いやあああ、何これ意味分かんない!?』
『もう話す事はない。アンタみたいな紳士がいるなら連合も大丈夫さ! じゃあな!!』←バッと窓から飛び降りる。
『ま、待ってください『DANSHAKU』!? まだ話がっ!?』
『お、落ち着いてください! と、とりあえず中へ!』
『離せ! 離してくれ! ようやく彼に会えたんだ!! 『DANSHAKU』!!『DANSHAKU』―――――――――――――――――――っ!!』
『もういやああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

~回想終了~


「―――ってなことがあってな?」
「「「「「お前(貴方)(アンタ)一体何者なんだよ(ですの)(なのよ)!!?」
「今はただの弾さ…(遠い瞳)」
「いや意味分かんねえ!? 【世界紳士連合】ってなんだよ!? 」
「世界の裏から、淑女達を見守り、時に救いの手を差し伸べる秘密組織だ。入会にはまさに血を吐くような試練が待っている。一夏、今のお前じゃ無理だ。もっと力を付けるんだ。」
「入りたくねぇよ!?」
「ま、まぁそれも気になるけど。本当の騒動はこの後なのよ。」
「「「まだ序章!?」」」
「その後、その高官をはじめとした沢山の電話やメールがIS学園に来たらしいのよね…国籍問わず。」
「「「はぁぁぁ!?」」」
「全員一概に『DANSHAKU』と話をさせてくれとか、彼をIS学園に留まらせておいてくれとか、昼夜をとわず引っ切り無しに連絡が来て。一般人なら軽くあしらえばいいけど。中には耳を疑うような地位の役職の人もいるらしくて…総合事務受付は火の車で、教師陣も対応に奔走したそうなのよ。本当に何やってんのアンタ?」

『嫌ぁ! もう嫌ああああ!』『帰して! アパートに帰してよおお!!』『出たくない! 電話怖いっ!!』『うふふふ…殺せっ! いっそひと思いに殺せっ!』

「ん? 騒がしいな。」
「「「「お前(貴方)(アンタ)のせいでだろうが(しょうが)!? この世界レベルの問題児!?」」」」


騒がしくなった食堂に、内心妙に想いながら茶を啜る。

あー落ち着く。
とりあえず俺の話はおいといて話を戻そうぜみんな。


「そんな訳で、あのファミレスは今はない。というか飯食うなら『五反田食堂』をご利用してくれると俺超嬉しいんだが?」
「話すり替えやがった。ま、そういうことだ鈴」
「そ、そう。でも『五反田食堂』はここからじゃ遠いし…なら学食でいいでしょ? 二人とも積もる話もあるでしょう?」


そんな風に会話を続けはじめたが。
ここで箒ちゃんと、セシリーちゃんが火を噴いた。

おう。やっぱり噛みついてきたね。


「あいにくだが、一夏と私はISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている。」
「そうですわ、クラス対抗戦に向けて特訓が必要ですもの。特に私は専用気持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なんです。」
「…。」


そんな二人の言葉をきいて。



―――― 鈴の二人を見る瞳が、汚物を見るようなそれに変わった。



口をギリリと食いしばり、その瞳は敵を食い殺さん獣の如き鋭さを発し、二人を睨みつける。

そんな鈴の急激な変化に、一夏も驚愕するが―――――――――――。
しょうがないね全く。


「―――― アンタらさっきから聞いてれ「おお、モテモテだな一夏! まぁ、俺はこれからちょっと野暮用でよ。二人のレディにしごかれて来いよ!」――― 弾っ!?」
「は? あ、ああそうだな…?」


アイコンタクトで、一夏に頷くよう指示を送る。
そのまま鈴に向き直り、鈴の瞳を見つめ返す。その瞳は『何でよ!?』と、非難と困惑の色が濃い。

はー、全く手の掛かる友人達だこと。


「そう言う訳だからさ。鈴も一夏の訓練が終わってから尋ねてみろよ。そん時は俺も時間が空くと思うしさ。どうよ?」
「っなんでアンタはいつもそ「頼む。」…!! 分かったわよ!!」


乱暴に席を立ち、テーブルから離れていく鈴。
突然のことに一夏はもちろん。箒ちゃんもセシリーちゃんも困惑している。

そしてもう一度こちらを振り返り、一夏と俺に声を張り上げた。


「特訓終わったら時間空けときなさいよ二人とも! いいわね!?」
「お、おお。分かった。」
「あいよー。また後でなー?」
「…フン!」


そのままヅカヅカと食堂を出ていく鈴。そんな鈴を見送った俺は茶を一口飲みこむ。

隣の一夏は、何が何やらって感じだが…まぁ、こいつだしな。

しかし一夏。おまえはある意味流石だな。
鈴の奴ちっとも変っちゃいないな。うん、そこを見ぬけただけで賞賛ものだ。


鈴は変わっちゃいない。





鈴は、一年前から止まったままのようだ。





「どうすっかねー?」
「だ、弾。あのさ?」
「ん?」
「いや、鈴の奴。何か変じゃないか?」


どうやら一夏も、なんとなくだが鈴の今の状態の【危険性】にきづいたようだ。

おおう。流石親友、それでこそだな。
ま、細かい事はいいから。お前は大事な所さえ見逃さなきゃいいんだよ。

細かい事は俺に任せな。


「ま、今のお前に出来んのは。なるべく鈴を気に掛けといてやる事だな。」
「え? あ、ああ分かった。」
「さてさて? 本当に野暮用が出来ちまったぜ。」


いまだ困惑中の箒ちゃんとセシリーちゃんに、小さな苦笑を返す。
別に悪くないよ二人ともさ?


恋は盲目っていうから、そのまま突っ走る姿は美しいもんですぜ? ちょっと気を配れるようになれば問題はないから大丈夫だって。


さてと、まずは情報がいるな。
やれやれ、手の掛かる友人持つと大変だね~♪


また一口茶を飲み。頭を整理していく


「…どうすっかね~~~~~~?」


俺のそんな気の抜けた呟きが。
わいわいと賑やかな食堂の中に溶けて消えた。





後書き

どうも、久しぶりの休日に今の今まで爆睡して一日無駄にしてしまった私です。・・・気が付いたら外が暗いんです(泣)。あわてて更新しました。さて、今回ちょっとシリアス臭わせる雰囲気ですがどうなるでしょうね? さて次回。弾が色々動きます。自分で書いててなんですが・・・弾よ。お前は何処へ向かっているんだ(汗)。



[27655] 第十六話  迷子一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 20:19
【一夏 SIDE】


…あー。
あ? ああ、どうも…織斑 一夏です。
こ、こんな挨拶だけど今は許してくれ。か、体が悲鳴をあげて辛いんだ…!


時間は過ぎて放課後。
俺はいつものようにIS操縦の特訓を終えて、ピット内で倒れ伏している所だ。


し、しかし今日はいつにも増して厳しかった。
いや、箒に徹底的に鍛えなおしてくれって頼んだのが俺だが、それにセシリアも加わるなんて聞いてないぞ俺は。
あんなの特訓じゃない。唯のイジメじゃねぇか!
畜生。二体一なんて卑怯だぞ。二人して俺をフルボッコしやがって!!(クラス代表決定戦を棚に上げる)


あー、弾がいりゃもう少しマシだったのによー。
なんだよ野暮用って、そういうのは早く言えってんだあの野郎…!


此処にはいない相方に、心の中でブチブチ文句を言いながら。俺はゆっくりと立ちあがる。


日はとっくに落ちた夜のアリーナ。
箒は先に部屋に帰り、俺だけピットに残っている状況だ。
流石に動けんと箒に言って、先に帰ってもらったのだが『・・・全く、軟弱者め。』と溜息吐かれたのはお約束。

心優しい幼馴染のお言葉は身に染みるぜ畜生…!! 見てろよ、次は必ず…必ず、勝てると、いいなぁ。(二人にフルボッコの結末しか想像できなかった。)

はぁ、と一つ溜息を吐いて。
俺はゆっくりと、シャワールームへと重い足を引き摺るように動かした。

とにかく今は思いっきり頭からシャワーを被りたい。落ち込んだ気分と一緒にさっさと洗い流しちまおう。
うん、それがいい。この後、弾と鈴。二人との約束もあるし。
部屋に戻る頃には、箒もシャワー浴び終わって着替えもすましている事だろうしな。

そう思った矢先―――――。


バシュッ。


「一夏っ!」


スライドドアが音をたて開くと同時に、俺のセカンド幼馴染がピット内に入って来た。
おお。来るの早いな鈴。

食堂では、急に不機嫌になり何処かに行ってしまったが。どうやら機嫌はなおったみたいだな。良かった良かった。

そんな俺に、鈴が近づき手に持っていたタオルと、スポーツドリンクを差し出してきた。


「おつかれ。はいこれ、タオルにスポーツドリンク。感謝しなさいよ?」
「おお、サンキュー鈴!」


これですよ。これが本当の幼馴染の対応というモノですよみなさん。
どこかのファースト幼馴染にも見習わせたいもんだ。…後が怖いから口が裂けても言えないが。

鈴の手からタオルを受け取り、顔を拭き。
続いて、スポーツドリンクを受け取り飲み込む。おお、温めとはこれまたありがたい。

そういや、中学時代の時もこうやって俺と弾に差し入れ持ってきてくれてたよなー。
少し懐かしくなって口元がゆるんでしまった。


「何をニヤニヤしてんのよ? 気味の悪い奴ねー」
「ぐ! 気味悪いって失礼な奴だな。昔を思い出してただけだよ。」
「昔って?」
「中学の時さ、俺と弾が何かと張り合って勝負した時とかに、汗だくになってる俺達によくこうやって差し入れ持ってきてくれたよなーってさ。」
「ああ、そういえばそうだったわねー。だってしょうがないじゃない? 汗臭い男が二人、
グラウンドで大の字になって寝てんのよ? さっさとどかさないと迷惑だと思って。」
「うわ、お前それはひでーぞ?」
「あはは、事実じゃん!」


楽しそうに笑うと、鈴はすぐ横の椅子に腰を落し俺を見上げてきた。
その表情に、不覚にも少しドキッとなる。

…こいつ、こんなに可愛かったけ?

弾じゃないけど、今の鈴はその、なんというか一年前よりも綺麗で、そして確かに女っぽくなったと思う。

あー。弾が今だけはいなくて助かったかもな、ぜってーからかわれる所だった。

そんな俺の心情を知りもしない鈴は、キョロキョロと周囲を見回しながら、俺にたずねてきた。


「そういえば弾の奴は? まだ来てないの?」
「ああ、まだ来てないぞ。野暮用ってのが長引いてるんじゃないか?」
「…野暮用ねぇ?」


野暮用という言葉に、鈴は急に顔を顰めて不機嫌な表情を作った。

どうしたんだ?
弾がまだ出来てない事が不満なのか?

疑問を受かべる俺に、鈴が言葉をもらした。


「一夏さぁ? 何で言い返さなかったのよ? あの馬鹿女二人にさ。」
「ん? 何の事だ?」
「何の事って…昼休みの時のことに決まってんでしょ?」
「昼休みって、何か言い返さなきゃならない事ってあったか? あったとしたら、鈴が急に怒って食堂出て行った位だし。」
「は?」
「なんで急に怒ったんだよお前? それと馬鹿女二人って、もしかして箒とセシリアのことか? お前それはちょっと酷くないか?」
「――― アンタそれ本気で言ってんの!?」
「へ? お、おう。」


俺の返事に、鈴がダンッ!! と音をたて立ちあがった。
先程までとは違って、その表情は憤怒に染まっていて、俺を見る瞳は驚愕に彩られていた。

な、なんだ急に? どうしたんだ?
そんな俺に向かって、鈴がピット内に響く程の怒声を上げた。


「信じらんない!! 何で一夏が気付いてないの!? あんた親友でしょうがっ!!? 真っ先に! 誰よりも先に!! あの馬鹿女達に言い返すのが当然じゃないの!!」
「お、おい。 一体何の事だよ?」
「弾の事よっ!! 何で分かんないのっ!? 鈍い鈍いとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかった!! あんた最低よ!! よくそれで友達面してられるわねっ!!」
「はぁ!? 何だよ急に!! 弾がどうしたってんだよ!?」
「あの馬鹿女達にハブられてたじゃないっ!! あいつら揃いもそろって一夏一夏一夏っ!! 弾が隣にいるって言うのにまるで眼中にないみたいな態度で!! 何を言っているのかも理解しようともしないで!! 自分の事ばっかり!! 弾が何も言わない事を良い事にあいつら――――!!!」
「弾がハブられてた? 何言ってんだよ鈴?」
「はぁっ!? あんたここまで言ってもまだ分かんないの!? 一体どういう頭の構造してんのよ!? あんたこそ何言ってんのか理解してるの!?」
「いや何言ってんだって、それは俺の台詞だ。弾がハブられてたって言うけど、そんなことある訳ないだろうが。」
「…はぁ?」
「というか、それが理由で怒ったのかお前? 何で弾がハブかれてるって考えつくんだ? 」
「…はい?」
「お前こそ何言ってんだよ?」


鈴がポカンとした表情で俺を見る。いや、それは俺がしたい事なんだが?

弾がハブられてたっていうけど、そんなことある訳ないだろうが。


俺と鈴の間に妙な沈黙が落ちる。


それから数秒して、鈴が一度深呼吸する。
うん。心を鎮めるのに深呼吸は効果的だぞ?

そして、米神を指で押さえながら眉間に皺をよせて考え始める。
なにやらちょっとした混乱が起こっているようだ。

さらに数秒して、鈴が口を開いた。


「え~…ちょっと待って? なんか一夏とあたしで色々噛み合ってないようだから。少し整理して冷静に分析しようか?」
「おう。別に構わないぞ。」


とりあえず二人で向き合って、近くの椅子に座る。
何故かお互い、椅子の上で正座するという傍から見たら珍妙な事この上ない体勢で。

よし、では存分に語るか鈴くん。


「えーっとまず先に、あの女達が言っていた台詞は覚えてる?」
「ん? ああ『一夏と訓練するのは私だ』とかなんとか言ってたやつか?」
「そう! それ! 他には?」
「えーっと…すまん、良く覚えてない。」
「こう言ったのよ。『一夏と私は特訓するのだ。放課後は埋まっている』『一夏の訓練には私は欠かせない存在なんですの』って。」
「おお、お前良く覚えてるな!」
「そんなことどうでもいいでしょ。それで? この言葉聞いてどう思う?」
「んー。言われて見りゃ変だな。」
「でしょ! そう思うでしょ!? あいつ等揃いも揃って弾を―――!!」
「なんか俺一人の為だけの訓練って聞こえるよなそれじゃ。実際は俺と弾の二人なんだし。」
「…は?」
「うん、言われてりゃ変だな。何もあんなに俺と特訓って強調する必要なかったんじゃねぇかな。 弾も一緒なんだし、言われて見りゃ変な事言ってるな? 箒にセシリアも。」
「ちょ、ちょと待ちなさい? なんでそこで弾が出てくるの?」
「へ? 何が?」
「だって! 今の話の中で、弾の事なんて一言も触れてないじゃない!?」
「何言ってんだ? 弾が一緒なのは当たり前だろ。」
「はい!? どういうこ…あ! わ、分かった! 弾とは、あの二人よりも先に約束してたとか!? 先約があるのも知らずに、勝手にあの二人が食い込んで来て、盛り上がってただけってこと!?」
「いや、特にそんな約束してねぇな。」
「はああああ!? じゃあなんでよ!?」
「なんでって、そりゃそうだろ。俺が特訓するなら弾が一緒なのは当然だろ?」
「え?」


さっきから鈴は何言ってんだ?
俺のことを、不思議なものでも見るような表情の鈴に、ちょっと呆れる。
UMAか俺は。

俺が特訓するのに、なんで弾が出てこないんだよ?
そっちの方が摩訶不思議だ。








「弾はいつだって俺の隣にいるんだぜ? 俺が何かするにしても、弾が一緒だってのは別に言わなくても分かんだろう? 前からそうだったじゃねぇか。」
「―――――――――――――――――っ。」







何やってても、すぐ隣で歩んでくれる。

何をするにも、すぐに手を差し伸べ支えてくれる。

いつだって横を向けば、あの気の抜けた笑顔でそこにいる。

いつだって俺と隣り合わせで立って、肩を並べていてくれる。




そんな親友が、なんで話の中に含まれてないなんて思えるんだ? 意味分かんねぇぞ。


「というか、弾がハブかれるなんて考えもしなかったぞ。なんだそりゃ? そっちの方が意味不明だ。」
「そ、それじゃあ。こういうこと? 一夏の中では、弾が一緒に特訓するっていうのは最初から確定だったていうこと? 約束もしてないのに?」
「ん? まぁそうだな。というか俺だけ地獄の訓練受けて、あいつだけ逃げるなんてそうは問屋が卸すかってんだ! だっていうのに、何だよ野暮用って、おかげで酷い目にあったぜ特訓で…二体一とか反則だろ~。」


そんな愚痴をこぼす俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか分からないが。
鈴が小さく顔を伏せた。

どうかしたのか?


「…弾が隣にいることが、一夏の中ではそれが至極当然の事だから。あの馬鹿女達が何言おうが、弾がハブかれてるなんて考えつきもしなかったってこと? だから私が怒った理由が一夏には分からなくて、そして弾も一夏がそう思ってくれているって分かっていたから、本当に気にしてなかった…?」


ん? なんだ鈴の奴、 何か呟いてるな。
聞きとろうにも、声が小さくて聞きとりにくい。

おい、まさか俺の悪口じゃないよな?
今は体力的にも色々きついから、そういのは勘弁してほしいんだが。


「そっか…一緒にいるのが当然って思えるくらい、お互い必要としてるんだ。こいつら…。」
「おい、なんだよさっきからぶつぶつと。変な奴だな?」
「…。」
「おーい? 鈴? 聞こえてるかー?」


急に大人しくなって、顔を伏せる鈴。
なんだ? 笑ったり、怒ったり、困惑したりと忙しい奴だな。

何か様子が変だから、俺は椅子から立ち上がり鈴の傍へと歩み寄る。

ちょっと失礼かもしんないけど、仕方ないよな。
そのまま腰を屈め、伏せている鈴の表情を覗き込んで見た。

そこにあったのは―――。


「…ずるい。」
「は? 何が?」
「なんか、そういうのずるい。」
「何言ってんだお前? っていうかお前、何拗ねてんだよ?」
「何よ。二人だけで分かり合っちゃってさ。男って、何かずるい!」
「いや、ずるいって言われてもなぁ?」


唇を尖らして、俺の視線をプイッと避け、拗ねた顔をした鈴の表情だった。
なんだよ、今日はホントに意味分かんない奴だな。

とりあえず、鈴の言っていた言葉を少し頭の中で思い浮かべる。

えーっと、つまりこいつは。
何でか知らんが、弾が仲間外れにされてるって思って、それで二人にくってかかったてことか?

んー? やっぱり何か変だ。
なんというか、鈴らしくない返し方だ。

仮にそんな事があったとしても。
前まで鈴なら、『ちょっとー、弾。あんたハブられてるわよ~?』って弾に振って、弾の奴が『いいよいいよ。どうせ俺なんて…!!』ってな感じで冗談交じりに返して、周囲の人が慌てて謝って、全員を交えた話に発展させていく。
そんな光景が、俺には鮮明に思い起こせる。

場の空気を悪くするのを嫌う、弾の性格を知っている鈴なら、そうするのが自然と思えるんだけどな?


もしかして、弾が言っていた『鈴の事を、気に掛けといてやれ』ってのは、この妙な違和感を含めてってことか?


あいつ、本当に鋭いな。特に親しい奴に関しては。
全く、言われなくてもそうするっての。


今はいない相方に、内心苦笑し。
俺は鈴に視線を戻す。…まだ拗ねてんのかよ。


まぁでも、弾の為に怒ってくれたってのは、友達としては嬉しいもんだ。
しかし、あの鈴がな~?


昔を思い出し、ニヤニヤしてしまった俺に、鈴が気が付いて怪訝そうな視線を向けてきた。


「何ニヤニヤしてんのよ? 何かムカつく!」
「いや、だってなー? あの鈴が、弾のことでここまで怒るまでに変わるなんて思いもしなかったからさ。」
「はぁ? 何がよ。」
「だって、お前一番最初の頃はさ。弾の事嫌ってたろ? それが今じゃここまで仲が良くなるなんて最初は思えなかったからよ。」
「あ、あれはしょうがないじゃない!」
「いや、まぁそうだけどよ。」


そう、鈴の奴は最初。弾の事を嫌っていたんだ。
理由は単純。俺と弾が中学時代にファーストコンタクトをした翌日の事だ。


~ 回想 ~


『おはよー』
『あ、一夏おは…って!? いっ一夏!? どうしたのよその怪我!?』
『あ、ああこれか。ちょっと隣のクラスの奴と昨日やらかして。あ、ちなみに頭のコブは千冬姉のだからな?』
『そんな事聞いてないわよ!? なんで喧嘩なんかになったのよ!?』
『いや、何か知らんが突然『死に腐れこの外道が――――!! 喰らえシスコン釘バット―――!!』って、背後から襲われて。』
『な、何よそれ!? 大丈夫だったの!?』
『ああ、回し蹴りで返した。伊達に千冬姉に鍛えられてないぜ? その後、何か知らんが『蘭いの―――ち!!』とか叫んだ奴と乱戦になってこの様だ。いや、あいつ以外に強くてよ。』
『誰!? そいつ名前は!?』
『名前は確か、五反田とか言ってたな。いやでもその後の事の方が地獄だったんだ。学校に連絡がいったみたいで、千冬姉呼ばれて散々怒られてさ~。あいつも、たぶんお姉さんだと思う人に空き教室に連れ込まれて『ま、待ってくんろ! ネギは! ネギは嫌ああああ!?』って絶叫が聞こえたから相当な目にあったんじゃねぇかな?』
『隣のクラスの五反田ね!?』

ダダダダダダダダダダダ!!

『え? あ、おい鈴!?』

――――― ガラッ!!

『―――― このクラスにいる五反田ってどいつよ!? 今すぐ出しなさい!!』
『こいつですっ!!』
『え?』
『あんたね!? よくも一夏をっ!! この最低野郎――――!!』

バキィ!!(顔面蹴り)

『ごはああああっ!? ち、ちがっ!? 俺ちがっ!?』
『この! このっ!! このおおお!!』

バキ! ドカ! ゴス!

『おおう。見事な蹴りだ。すごいな~』
『――― お、おい!? 鈴!? お前何してんだよ!?』
『止めないで一夏!! こんな最低な奴、蹴られて当然よ!!』
『あ、お前昨日の。織斑だっけ? はよー。』
『お、お前!? 五反田っ!?』
『へ?(ピタ)』
『昨日ぶり。お互い大変だったな昨日は。』
『あ、ああ、そうだな。って、なんで鈴がお前じゃなくて他の奴攻撃してんだ!?』
『ご…ふ…(ガクッ)』
『数馬ーっ!? しっかりしろ!! くっ!! 誰がこんな酷い事をっ!?(駆けより抱き起し、悔し涙を流す小技披露)』
『『『『『お前だ―――――――――――――――――――――――っ!!』』』』』
『はぁ!? こいつが五反田!? そ、それじゃあこの倒れてるのは!?』
『御手洗 数馬というジェントルマンだ! なんてひどい事を!!』
『わ、わああああああ!! ごめんなさい! ごめんなさいいいいい!!』
『良いってことよ。』
『何でお前が答えるんだ!? というか何があったんだよ!?』
『身代りにした♪(爽やか笑顔でサムズアップ)』
『『この外道おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』』


~ 回想終了 ~


何故だろう。目頭が熱くなってきた。
今度、数馬に電話しようかな…。

鈴も昔を思い出していたのか、何ともいえない微妙な顔になり、視線を泳がしていた。
うん、気持ちは分かる。弾は最初からあんな感じだったからな。最初は苦労の連続だったよな。


「ま、まぁ何にせよ。最初の頃とは変わったよな。鈴も。」
「それを言うならあんたもでしょ? なんだかんだ言いながら、すぐゲーセン一緒に行ったりするまで仲良くなってたじゃない。」
「ん? ああ、まぁなんだか変に馬があってな。気付いたらそうなってた。でも、その中にいつのまにかお前も入ってたじゃないかよ。」
「う…ま、まぁ。弾もそんなに悪い奴じゃなかったしね。極度のシスコンなだけで。一夏と同じで。」
「なっ!? お、俺は違うぞ!」
「はぁ? 何言ってんのよ。いつも千冬さん、千冬さん言ってたくせに。あんた達ある意味似た者同士だから馬が合ってんじゃないの? シスコンなのも大概にしときなさいよ。」
「ち、ちげぇよ!! 人聞きが悪い事言うなよ!」
「そうだそうだ!」
「はぁ? いい加減認めなさいよ。このシスコン♪」
「だから違うって!!」
「俺はマザコンぶりも大概じゃないぞ!?」
「「そんな事カミングアウトせんでいい!!」」
「当り前だ!! あんな美人で優しくてちょっと天然入ってる母親持ってみろ! 誰だってマザコンになるわ! 俺の母魂舐めるなよ!? 妹魂に匹敵するぞ!!」
「た、確かに蓮さんは美人だけど…って、いつの間にか弾が混じってる!?」
「でも姿見えない!? おい弾! お前何処にいるんだよ!」
「上見てみ?」
「「上?」」


いつの間にか、俺達の会話に入り込んでいた弾の存在に驚愕する俺と鈴。
でも、姿が見えず困惑する俺達は、弾の言葉に沿って頭上を見上げる。

そこには――――――――――――。

何処から持ってきたのか、吸盤を手と足にとりつけ。
天井に張りついて、俺達を見下ろす弾の姿が―――――――って怖っ!!?

不覚にもビビって、尻もちをつく俺。
鈴も『ひいいいいい!?』って、顔を青くし同様に尻もちをついていた。

なんでお前は毎度毎度、妙な登場をするんだ!?


「よう。おっ待たせー♪ 良い子にしてたかマイフレンド共!!」
「お待たせじゃねぇ!? なんで天井に張りついてんだお前は!? 気色悪い上に怖いわ!!」
「だから昔、軟体動物目指したっていったじゃないかよ。話聞いてたか?」
「あれマジ話だったのか!!」
「というか、いつから居たのよ!? 入って来る気配なかったじゃない!?」
「え? 鈴が入った時俺も入った。その後ずっと頭上で待機してた。」
「「ずっと上で見てたの(か)!? めっちゃ怖いわ!!?」」
「いや~」
「褒めてない!! リッ○ーかあんたは!?」
「話してみたら、これが意外と良い奴だったぞ。」
「話した事あんのかよ!?」
「おう、『これ、うんめぇよ~? 喰ってみれ、ほれ。』って言ってくれてなぁ」
「なんか妙になまってないか!? というか何を分けてもらったんだお前!? 死肉じゃないだろうな!?」
「え? 大根。」
「「なんでだよ!?」」
「いや、肉ばっかで栄養バランスが偏ってるの気にしててさ。今じゃもっぱら野菜中心らしい。自分で栽培するまでになってる。『今じゃ、ベジタリアンですわな。はははは』って笑ってたな。」
「「内容は良い事だけど、色々台無しだ!!?」」
「ところで、そろそろ脚立持ってきてくれないか? 降りられなくなった…!!(半泣き)」」
「「木に登った子猫かお前(あんた)は!!? なら最初からするなっ!!」」


頭上でプルプル震えだした馬鹿に、俺と鈴の怒声がピット内に木霊した。

本当に何やってんだお前は。




*   *   *




「いや~助かった。持つべきものは脚立だな。」
「おい、礼ぐらい言えよお前。」
「報酬はいつも通り、スペイン銀行の口座でいいか…?(劇画風)」
「口座持ってねぇよ!!」
「はぁ~。全くあんたらは本当に成長してないわね。」
「…一夏の奴の、成長した部分、興味ないか…?(コソコソ)」
「――――――っ!!? ばばばば馬鹿じゃないの!! なな何を言ってんの!?」
「え? 何の話だ?」
「これは風呂場での一品でな…?」
「そそそっそんなのきょきょ興味にゃいわよ!?(真っ赤になりながらも、視線は弾の手元へ)」
「おい、二人して何コソコソしてんだよ?」
「ほいこれ、一夏ブロマイド【風呂掃除バージョン】、風呂掃除の腕前はそりゃもう達人の極みへとぼるぐらっしゅ!!!」
「こんの馬鹿弾ーっ!(羞恥と怒りと、そして少しの落胆の混じったローリングソバット)」
「なんでいきなり喧嘩してんだお前ら!?」


脚立を用意してやって、天井から降りた弾を交え。
俺達は談笑を始めていた。

うん。やっぱ俺達三人集まると、なんかしっくりくるよな。

中学時代メンバーには、他に数馬や人里さん。中入江さんに灯下さんっていう友人もいるけど。
俺と弾と鈴の三人は、その中でも特に一緒に行動する事が多かったからなぁ。うん懐かしい。


それからまたしばらくして。


とりあえず、一気にシャワーを浴び終えた俺。

その間、弾と鈴が離れた場所で談笑していて、着替え持済ませた俺は、そのまま二人に合流して現在に至っている。ちなみに今だピット内だ。

まぁ、他に行く所なんて食堂くらいしかないし。
それに食堂に行くのを、何故か鈴が渋ったからな。

『ひ、久しぶりなんだし。私達三人水入らずでいいじゃない?』『え!? ミネラルウォーターいらないのか!?』『そっちの水じゃないわよ!!』って会話が繰り広げられた末の事だ。

やっぱり違和感を感じる。

弾に視線を向けても、弾も『ま、今は鈴の希望に沿ってやれボーイ』ってなアイコンタクトを返すだけだった。・・・まぁそれは別に構わないけど。


なんか、鈴が他の奴ら避けてる気がするんだよな。


思い起こすのは、鈴が箒やセシリアを見るあの眼だ。
最初から、あの二人に対して小さな敵意みたいなのを持ってた風に見える。そして最後は明確な敵意をぶつけていた。理由は聞いたけど、それだけじゃない気がする。

でも、鈴がそんな行動をとる理由が分らない。
たぶんだけど、弾の奴は大体察しが付いているんだと思うが、それを俺に言わないのは、まだ確信を持っていないからだろう。

そういう大事な話は、弾は必ず情報を集め、自分で確信を持った上で俺に打ち明けてくれるからな、昔から。
だから俺からは絶対に弾に聞かない。

俺達が二人で問題を解決する具体策を一緒に練るのは、弾からの相談という合図が出てからだ。下手に俺が動くと、弾の邪魔になるからな。その辺の事は暗黙の了解って奴だ。

でも、まぁ何をしていたのか気になるのは人の性って奴だ。


「そういや弾。野暮用って一体何だったんだ?」
「―――! だから一夏! それはっ!!」
「へい! 鈴さん! ストップだ! 野暮用があったのは本当だぜ?」
「…本当に?」
「おう。でも俺の為に怒ってくれたのは嬉しいぜ! サンキュー鈴! 俺涙が止まらないっ!(ダバダバダバ)」
「べ、別にそんなんじゃ…!!(照れ)」
「まぁそれはいいから。とりあえず涙止めろ弾。」
「おう(キュッ!)」
「今、蛇口を捻る音しなかったか!?」
【背景彩る効果音は任せてください】
「やっぱりお前か!? 『七代目五反田号』!? いらん小技はせんでいい!!」
「な、何この前掛け? 気になってたんだけど、まさか弾のISの待機状態なの?」
「おうよ! 俺の相棒『七代目五反田号』だ!!」
「七代目? あんた三代目どうしたの? あんなに大切にしてたじゃない?」
「待て鈴!! その話はきげえええええええええええええ!!?(メキメキ!!)」
【鈴嬢。 その話もう少し詳しく。】
「い、いいけど。あんた本当にIS?」
【勿論です。二代目の為に怒ってくれた事。AI(心)より感謝します。鈴嬢。二代目は誠に素晴らしいご友人を持ったようです。】 
「あはは、なんか照れるな。鈴で構わないわよ?『七代目五反田号』。」
【承知しました。鈴…さて二代目。キリキリ話せやおんどりゃあっ!?】
「ごあああああああああああ!? (ボキボキ!!)」
「「とりあえずちょっと待ってみようか!? 『七代目五反田号』!?」」


ある意味では、『七代目五反田号』も弾のストッパーだよな。
持ち主同様、悪乗りするのは勘弁してほしい所だが。

とりあえず、主人を痛めつける『七代目五反田号』を宥め。
俺達は談笑へと戻った。

本当に変なISだ。『七代目五反田号』


「ふー。助かった。サンキュー二人とも」
「まぁ、いいけどよ。それで? 今まで何をしてたんだよ弾?」
「ん? 人に会ってた。ちょっと調べ物を頼んでた人から、内容が揃ったから来てほしいって連絡あってな。お前が特訓してる時にな?」
「調べ物?」
「まぁ、ちょっとな。淑女には少々過激な物を…。」
「あ、あんた何調べてんの!? この助平!!」
「俺程オープンな助平そうはいないぞ!!」
「威張ってんじゃないわよ!?」

鈴の言葉をそれとなくかわす弾。
成程ね。鈴のことで何か動いてたのか。ま、弾らしいな。相変わらず行動が早いな。

「で? その調べ物は役に立ったのか?」
「一夏も、さりげなく助平だよな。気になるなんて♪」
「一夏っ! あんた!!」
「ち、違うぞ!? そうじゃなくてだな…!! だあああ! 結局野暮用は終わったのかって事だよ!」
「ふむ、実はそれほど成果がなかった。というか、罠だった。」
「「罠っ!!?」」
「ああ。まさか、あんな事になるなんてな…(劇画風)」
【激しい攻防だった。】
「一体何があったんだよ!? 罠!? 物騒すぎるぞ!?」
「ちょ、ちょっと弾!? あんた危ない事したんじゃないでしょうね!?」
「いや、まさか俺もあんな事態になるとは思わなくてなぁ――――――――――――・・・」



~ 回想2 ~

『よ! 待たせたな。』
『いえいえ、待っていませんよ。』
『そうかい。しかし悪かったな~・・・脱会した身なのに図々しい事頼んでさ。』
『いえいえ、そんなお気になさらず。』
『そう言ってもらえると助かる。』
『ええ本当に…こちらも手間が省けたというモノですらねぇ?』
『…何だと?』
『クククククク…(パチン!)』

ザザザザザザザザザザザザザザザッ!!(周囲に現れる黒い影)

『――――――――っ!? これは一体どういう事だ!?』
【周囲に敵影あり。二代目、申し訳ありません。ハイパーセンサーの索敵を怠っていました。】
『ふふふ、まさか貴方の様な子供が、かの有名な『DANSHAKU』だったとは…まぁ、今となってはどうでもいい事ですが。』
『お前!? 『セバスチャン』じゃないな!? 誰だ!?』
『(びりびり)…お初にお目にかかります『DANSHAKU』、私は『ドーベル』と呼ばれております。まぁ、覚えても貰わなくても結構です。ここで貴方には消えてもらいますからねぇ?』
『『セバスチャン』はどうした!?』
『ああ、彼ですか? 惜しい所で『いっくん』の邪魔が入り取り逃がしてしまいましたが…まぁいいでしょう。おかげで貴方と言う大物を仕留める事ができるのですから。』
『一郎か…お前達【世界紳士連合】じゃないのか!?』
『いえいえ、勿論【世界紳士連合】ですよ。といっても貴方達のいた頃とは大きく変わっていますがね? ようやく貴方と、『いっくん』という障害が消え。動き易くなったというのに、今再び貴方と言う存在が現れるというのは私共としては困るんですよねぇ。』
『…どうやら、俺と一郎が抜けた後【世界紳士連合】に何かあったようだな。お前らの目的は?』
『選りすぐりの淑女のみを支える。それが我らの目的。素行の悪く、品性の欠片もない女などに、救いの手を差し伸べようなど一体何の大義がありましょう? 淑女として相応しき女性のみ残し、他など見限ってしまえばいい。その先に我らが望む真の『紳士と淑女の世界』が待っているのですから。』 
『クズだな。それは紳士じゃない、凝り固まった野郎そのものの考えだ。どんな女性であれ救いの手を差し伸べる。それこそが紳士だ!!』
『ふん、昔堅気な考えだ。しょせんガキか。まぁいい、どうせ貴様はここで消えるのだから。』
『舐めるなよ? 俺が【世界で二人、ISを使える男】の一人だと忘れてないか? 『七代目五反田号』!!』
【展開。いつでも行けます。】
『もちろん忘れてません。――― お前達。』

『『『『『『『『『『装着完了』』』』』』』』』』

『―――― これは!?』
【正体不明の敵影を多数補足! ロックされています!】
『ISだけがパワードスーツだと思われては困りますねぇ? ISには遥か遠く及びませんが【世界紳士連合】は、独自のパワードスーツの研究を重ねてきました。ISを扱う淑女を支えようという理念の名の元に。世界はこれだから愚かなのです。何故ISだけの研究のみを追求するのか。全く嘆かわしい事です。』
『まさか、実用化まで漕ぎつけたのか!?』
『そんなまさか、まだまだ試作段階です。今回は特別です。貴方を仕留める為ここまでしたのですから、これで心置きなく逝けますね?『DANSHAKU』?』
『…。』
『ISには性能で大幅に劣ります…が、IS一体に対し数十体で掛かればどうでしょう? 装着している同志達は訓練を積んだ精鋭です。まだISを使いこなせない貴方で対処できますか?』
『…。』
『ふふふふふ。もはや言葉もありませんか? 『DANSHAKU』とは名ばかり、所詮ガキですねぇ? ははははははっ!!』

『…御託はそれだけか?』

『何?』
『お前ら、俺が『DANSHAKU』と呼ばれている所以を忘れたか? 『DANSHAKU』は【男爵】であり、そして同志達が『弾爵』と親しみ込め俺を呼ぶからだ。』
『それが何か? 唯の呼び名でしょう?』


『違うな【世界紳士連合】で、呼び名が付くこと…それは同志達が認め。紳士に恥じない存在であるということだ。【ギュピ――――――ン!!!!!】』


『―――――――――っ!!? ば、馬鹿な!? こ、この凄まじいプレッシャーは!?』

『『『『『『『『『『ひぃ!?』』』』』』』』』』

『お前達に、本当の紳士の力というものを魅せてやる。全員まとめて掛かってこい! 『七代目五反田号』!! 展開!!』

カッ!!!

『ひ、怯むな!! 相手は子供で、しかも一人だ!! かかれっ!!』
『『『『『『『『『う、うおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』


ドガアアアアアアアア――――――――――――――ンッ!!!!!!


~ 回想2終了 ~


【続く】
「次回もお楽しみに。」
「「一体何やってたんだあああああああああああああああああああ!!?」」


駄目だ!! こいつ一体何やってたんだ過去に!? 意味分からん!!

【世界紳士連合】!?
IS以外のパワードスーツ!?
そして『弾爵』ってなんじゃそらあああ!?

お前此処じゃない何処かで、なんか主人公やってないか!?


「しかし、俺の抜けた後に【世界紳士連合】に一体何が…?(窓から空を見て、シリアス顔)」
「いやいや待て!? その前にお前体は!? 無事なのか!? 襲われたんだろう!?」
「そ、そうよ!! 数十体に襲われたんでしょ!?」
「あ、瞬殺したから。」
「「敵弱っ!? あの前振りの割にザコだった!!?」」
【最後は見物です。相手のパワードスーツを、一枚一枚目の前で引き裂いてやりました。『や、やめてくれえええ!? それを造るのにどれだけの予算をか【ビリリッ!!】うわあああああああああああ!?』と、叫んでいました♪(ゾクゾク)】
「「鬼だ!? そして真性のSだ!!?」」
「まぁ、そんな割とどうでもいい事はほっといて。あんまり収穫はなしでな? ま、別の手で調べ直すさ。」
「いや、割と重要っぽいぞ…?」
「あんた本当になんなのよ一体?」
「紳士!」
「「…はああぁぁ。」」


と、とりあえず。まぁ、大事にならなくて良かったってことで良いか。
真剣に考えると、色々疲れるからな。こいつの場合は特に。

しかし収穫なしか。それはちょっと俺も残念だ。鈴に関する事だろうし。
しょうがないか、俺は俺で鈴を気に掛けておくかな。

そう思って、ふと時間を確認。

結構遅い時間だし、そろそろお開きかな?

弾に視線を向けると、弾も小さく頷く。


「―――― さて、そろそろ部屋に戻ろうぜ? 随分遅くなっちまったしな。」
「え? あ、本当だ。流石に不味いわね。」
「夜更かしは、紳士の肌に悪いんだよな~。」
「はぁ。またこの馬鹿は変な事を。」
「気にしたら負けだぞ? 鈴。」
「今、気にしたから俺の勝ちだな!!」
「…。」
「あ、痛っ!! 無言で拗ね蹴りは…!! 痛っ!! ちょ、待てぎゃあああああ!!?」
「ははは、何やってんだよ。行くぞ二人とも」


騒ぐ二人に呼び掛け、ピットを後にする俺達。

しかし、結構時間を掛けたな。なんだかんだ言いつつも、やっぱ楽しいよな。三人で馬鹿騒ぎするのは。

そのまま、三人で並びながら廊下を歩く。
その間も、ワイワイギャンギャンと騒がしい俺達だけど。
やっぱり居心地は良かった。うん、楽しい。


そして――――― それは起こってしまった。

それは、廊下で別れ道にたどり着いた時の事だった。


「おっと? そんじゃ俺はこっちだからよ。また明日なマイフレンド共!!」
「ん? そうか。それじゃあな弾。また明日。」
「…え?」
「おう、一夏よ。お前鈴を部屋に連れ込んだりするなよ? この狼野郎! 無理矢理事を運ぼうとした時は…ターミネートモードに移行する。(眼が赤く点滅)」
「するかアホ!! というかお前本当に人間だろうな!? 俺の部屋には箒だっているんだぞ!!」
「…は?」
「いなかったら連れ込む気だったのか!? 辞世の句は済んだかこの外道っ!?」
「違うってんだよ!! 話聞け!」
「俺という者がありながら!!」
「気色悪いこと言うなっ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? 一体どういう事よ!? あんた達一緒の部屋じゃないの!?」
「「ん?」」


お互い胸倉掴むまでに接近した時、鈴の声が響き渡った。

俺と弾が一緒の部屋って、あー。そうか普通に考えりゃそうだよな。
とりあえず、弾とは一時休戦して鈴に向き直る。

俺と弾の視線の先には、あり得ないって表情の鈴がいた。
なんか、物凄く驚いてるな。
まぁ、気持ちは分からんでもないが。俺も理由は良く知らんからなぁ。


「お、おう。部屋は別だぞ。俺と弾は。」
「はぁ!? 何でよ!? 男二人なんだし一緒にするのが普通じゃないの!?」
「まぁそうなんだけど、俺も理由は知らないんだ。色々あったとしか聞いてなくて。」
「あー…あれだ、早く淑女達だらけって状態に慣れるようにって意味じゃないかね? ほら、やっぱ野郎二人って環境は色々きついしな。」
「お、そう言う考えもあるか。実際どうなんだかは不明だけどな。」
「そ、それじゃあ!? 二人とも女子と一緒に寝食共にしてるって事!!?」
「ん? そうだけど。まぁ、俺の場合は箒だから助かってるな。幼馴染だし、これが他の娘だったりしたら緊張して大変だったろうしなぁ~」
「あー…俺はのほほんちゃんって言う萌え生物だったおかげで、毎日癒されてるぜ!!?」
「箒って…あの昼間の?」
「ん? そうだけ「おい待て一夏。それ以上は言うな。」ど?」
「あいつが…一夏と同じ…部屋…!?」
「…やべ、不味った。」
「へ? 何か言ったか弾?」



―――――――― その瞬間だった。俺達のいる廊下に、何かを叩き付けるようなとんでもない音が響いた。


その音の大きさに驚いた俺は、音の下方向に咄嗟に視線を向けた。

発生源は鈴の足元。思いっきり廊下に足を振り落としたらしい。

お、おい? 廊下でそんな音立てたら…っていや平気か? 部屋は防音だって聞いたし。
――――って、そんなこと考えてる場合じゃない!!

鈴の様子が変だ。
うつむいて表情は見えないが、体中を怒りに震わせている。
はっきり言って、こんな鈴は初めて見た。

な、何だ? どうしたんだよ鈴!?

隣の弾も、いつもと違って表情を引き締めてる。こいつがこんな表情する時は・・・・とんでもない緊急事態ってことじゃねぇか!!?


「あいつが…!? あの、弾を蔑にしたあの女が…!? 一夏と一緒に居る!? 一夏の隣にいるですって…!?」
「お、おい鈴?」
「待て、一夏。下手に口を開くな。お前じゃ刺激しかねん。それに…今の鈴に何言っても聞こえてねぇよ。」
「ど、どういうことだよ?」
「不味った。俺とした事が…久しぶりに三人で盛り上がったから気を抜いちまった。完全に俺のミスだ。」
「だ、だからどう言う事だよ!?」
「お前は悪くない。よく鈴を気にしてたしパーフェクト。俺のせいだスマン一夏。」


弾のミス?

何言ってんだ? それこそ変だ、こいつはいつだって人の事を考えてる。きっと、俺が余計な事を言ったに違いない。

くそ!! 何やってんだ俺は!

何を言ったのかも分からない自分に腹がたつ。でも今はそんなことより――――!!


「…ったら…いいわけね…。」


鈴が低く唸るように呟き。
俺と弾は、揃って鈴に視線を戻した。


「り、鈴?」
「幼馴染なら、いいわけよね…!?」


そう呟いた鈴は、ギッと顔を上げる。


その表情は―――― 憤怒と憎悪――― そして…怯え?


なんだ? なんで鈴はこんな顔をしてるんだ?
この一年の間に、一体何があったんだよ鈴?


「渡すもんか、絶対渡すもんか! あんな女に…私に残った最後の居場所を絶対渡すもんか…っ!」


「―――― っそういうことかよ!!」
「弾?」
「おい鈴! ちょっと待――――!!」


弾が鈴を呼んだ瞬間。

鈴はその声も聞こえてないのか、俺と弾をおいて走り去ってしまっていた。









嫌な沈黙が落ちる。
弾も苦い表情を隠せないまま、鈴の走り去っていった方向を見ていた。

鈴、一体どうしちまったんだよ。

そんな風に考える自分にまた苛立つ、なんで分かってやれないんだ俺は!
弾は気付いてるって言うのに!!


「…悪い。一夏、最悪の展開になっちまうかもしれん。」
「お、お前のせいじゃねぇだろ!? 俺がどうせ余計な事言ったんだろ!?」
「遅かれ早かれ、鈴には話しとくべきだったんだ。そうすりゃ今みたいにあそこまで激昂はしなかった筈だ。突然の事に鈴の感情が堪え切れなかったんだ。先延ばしにした俺のせいだ。お前は悪くねぇよ。」
「―――――――っ!」


まただ。

なんでお前は、全部抱え込んじまうんだよ…!
辛いだろ? 痛いだろ? 悲しいんだろ?

だったら半分俺に渡せよ。
俺はお前の相方だろ? 俺にも頼ってくれよ。 俺にも支えさせてくれよっ!!

そんな俺の表情に、弾はヘラリと笑顔を返す。
いつも通りの気の抜けた顔を。

とぼけた表情という【仮面】を。


「何て顔してんだよ? イケメンが台無しだぜ一夏?」
「…。」
「―――― ま、何にせよだ。」


そう言って、弾は鈴の走り去った廊下の先を見据え―――――



「――――― 鈴は、絶対助けるぞ。力を貸してくれ、一夏。」
「――――― 当り前だ。捨て駒だろうが何だろうが好きに使え、弾。」



沈黙の降りた廊下に、俺達二人の声が力強く鳴り響いた―――――――。














それは暗く深い森の中。

何も見えず、ただ手元の小さなランプを頼りに、迷子は進む。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

今にも消えてしまいそうな小さな光。

それだけが、迷子が縋る唯一の希望。

深い深い森の中。

暗い暗い森の中。

出口も分からず、迷子は進む。

でも迷子は知らない。

そんな深く暗い森に、足を踏み入れる者がいる事を。


――――― 白い騎士と碧の道化が、自分を探しに森に踏み込んだその事を。


迷子はまだ、その事を知らない。



後書き

更新しました。どうも釜の鍋です。―――― なんでしょうかこのシリアスは!? うわぁ鈴が大変な事になってます。でも、二人と過ごした日々が楽しかった分だけ、彼女に落ちる影は深いんじゃないかと。で、なんか裏で弾が主人公してますね(笑)。さて次回。一夏との約束に、弾のフォローにクラス対抗戦前の一騒動です。次回はちょっとだけ鈴もケアします。はっきり言ってダーク過ぎますから(汗)。



[27655] 第十七話  約束一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 20:43
【ピッ】よう。なんだ弾か、どうしたんだ急に? は? 挨拶? なんだそれ? 鈴が出来る状態じゃないからって…え、鈴帰って来たのか? そりゃ良いニュースじゃねぇかよ。は? もう時間がって、おいちょ待――――――――【ブツッ】。


『――― 役に立たんなあいつは!? 連続出演だってのに!』
『弾、何してんだ? それよりどうすればいい?』
『まぁ、まずは鈴を冷静に戻すことが先決だな。あのまま一夏の部屋に向かったら色々不味いしなぁ。』
『俺の部屋に向かったのか鈴の奴。』
『いや、まずは最低限の荷物を取りに自分の部屋まで戻ってるはずだ。その間に上手い手を考えんと。』
『上手い手か、こういうのは苦手なんだよな…。』
『一応策はあるんだがな?』
『マジか!?』
『上手くいきゃ、鈴を正常な状態に戻せるかもしれん。上手くいけばの話だが。』
『やらないよりマシだ! 教えてくれ! 何をすりゃいい!?』
『―― が、問題がある。人手が足りない。最低でも二人は欲しい所だ。』
『人手!? って言っても協力してくれそうな人なんて何処にも―――』

『あ~♪ だんだんにおりむ~♪ や~ほ~。』
『え? あ、本当だ。こんな所で何してるの?』

『『―――――――― ナイスタイミング!!』』

『ほえー?』
『え、何?』
『頼む! ちょっと協力してくれないか!? 弾、これでいけるよな!』
『流石は一夏、女運が良いのか悪いのか分からんなー。時間がないから手短に話すぜ? まず―――。』



【鈴 SIDE】


バタンッ!!


部屋に戻って数分。
自分の部屋から、ボストンバック一つを持ち部屋を出る。
突然入ってきたと思ったら、会話もせずにバックに荷物を詰めて、再び出て行ったあたしにルームメイトはどう思っただろう? 正直悪い事したと思う。


けど、今のあたしに他の事を気にする余裕なんてなかった。
部屋を出た勢いのまま、あたしは廊下を進む。


一夏が他の女子と寝食を共にしている。


その事実だけで、あたしの機嫌を悪くするには十分な理由だといえる。

けど、それだけならここまであたしの心を荒立てはしなかったかもしれない。
『部屋代わって』と、同居している女子にそう言ってやればいい。
その後は、まぁいざこざはあるだろうけど、それだけで済む話だと言える。


けど、一夏と同居しているのが、あの馬鹿女の一人だというなら、話は別だった。


あたしの大切な物を蔑にした女が。

あたしの居場所だった席に平然と居座っているあの女が。

あたしの大切な二つの宝物を、一つはいらないと放り投げ、一つを掻っ攫おうとするあの女が。


一夏と、何食わぬ顔で過ごしているですって?



――――――――― ふざけんじゃないわよ。



ドンッ!!

身の内から抑えきれなくなった激情に身を任せ、あたしは壁を殴りつけた。

手がジンジンと痛むけど、それすらも今はあたしを抑える鎮静剤にもなりはしない。


「―――――― ざっけんじゃないわよっ!!!」


ギリギリと、そのまま壁に拳を捻じり込む。
また痛みが走るけれど、これでも足りない。解消にもならない。


一夏が二人を怒っていない理由は分かった。
それだけ二人は強い絆で結ばれていたことにちょっと嫉妬するけど、喜びの方が格段に上だった。

弾が本当に気にしてない事も知った。
騒動起こす、とんでもない奴なのは相変わらずだけど。昔と変わらない、さりげないフォローや心配りにくすぐったくも嬉しかった。


一夏が怒らないのも、弾が気にしてないのも十分理解している。


―――――――――――― でも。


「――――――――― あたしは、あんた達ほど寛容になれないのよ…!!」


あいつらは、あたしの居場所を汚そうとした。
あたしの大切な場所を壊して、自分達の都合のいい場所に塗り替えようとしている。

渡すもんか。
絶対渡すもんか。
あの馬鹿女二人にだけは、どんな手を使ってでも渡したりするもんか…!!


やっと戻ってこれたのよ?


居心地が良い一夏の隣に、暖かい弾の背中に、戻ってこれたのよ。


やっと、やっと…やっとっ!!


一年前失った二つの居場所。
その一つが、あたしに追いついて来てくれたのよ。追いかけて来てくれたのよ…!!


もう手放すもんか。
絶対離したりするもんか、渡したりするもんか。
その為だったら、何だってやってやる。
どんな事してでも死守してやる。


今のあたしにはそれだけの力があるんだから。
一年前の無力なあたしじゃないんだっ!!


壁から拳を離し、再び足を進める。
目指す場所は一夏の部屋、そしてあたしの怨敵のいる一室。


話し合いで済めばいいけどねぇ?
もし、一度でもグズるようなら、容赦はしない、力尽くで追い出すだけだ。
どうせなら後者である事が望ましいなぁ…。
まぁ、どうせそうなるでしょうけど。





その時のあたしは、知らず知らずのうちに―――――――――――――――― 嗤っていた。




*   *   *




「【1025】。一夏の部屋はここね。」


事前に調べていた一夏の部屋の番号。
それを確認したあたしは、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。

もしかしたら、一夏が既に戻って来ているかもしれない。
でも構わない。あの女は絶対に叩きだす。それは決定事項だ。

さっき、あんな別れ方したから弾もいるかもしれないわね…調子狂わせられないよう用心しないと、絶対目的は達成する。

叩きだす。あの女を。

教えてやる。その場所に相応しいのは、あんたじゃないってことを。

数度息を繰り返し、ドアノブを掴む手に力を込める。
―――――――― 覚悟しなさいよ、馬鹿女っ…!!

ガチャリと捻る。鍵は開いてる。

バンッ!!

その勢いのままドアを開け放ち中に入る――――――― そしてあたしが部屋で眼にしたのは―――――――――――。








「お、お姉様…(真っ赤)」
「うふふ、可愛い子…。」








ベットで情熱的に見つめ合う二人の女子生徒の姿だった。(片方同級生、片方上級生、共に服は乱れてる。二人の世界に入っている為鈴に気付いていない。)





……。




スタスタスタスタスタ。(引き返す鈴)


カ、チャ…(そっと扉を開ける鈴)


…パタ、ン。(なるべく音を立てずそっと閉める鈴)


……。(扉に手をつき、項垂れる鈴。耳が僅かに赤い)


……。(ゆっくりと部屋番号を確認する鈴【1025】)


……。(ふと扉の横に、先程までなかった張り紙を見つける鈴)


……。(ゆっくりと読み上げる鈴)



『残念。ハズレだね!! ドンマイ次があるさ!!』




―――― ふっ。



バリィッ!!

張り紙を破り取り、地面に叩きつける!!

そのままドカドカと踏みつけ、あたしは荒い呼吸を繰り返し――――――――――。


「――――っだあああああああああああ――――――んっ!?」


廊下中にあたしの怒声が響き渡る!!

あ、あああああの馬鹿!! やりやがったわねええええ!!?

どういうこと!? 部屋番号は合ってるのに、なんで中にいるのが一夏と馬鹿女じゃなく、あんな――― その…げ、激烈に仲の良い先輩後輩なわけっ!?

意味が分らず羞恥と怒りと困惑に、あたしの頭の中は混乱状態に陥る。

なんで!? どうしてよ!? 
部屋が代わった? でもそんな話聞いてないし。


「ん?」


その時、廊下の先からあたしに向かって緑色の紙飛行機が飛んでくる事に気が付いた。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと不安定。でも何故か地面に落ちないという怪しさ満点の。

こ、この妙にイラッとする飛ばし方は…!

ズンズンとこっちから近付き、バシッと紙飛行機を乱暴に掴み取る。
表面には、『や~ん。捕まっちゃったぁ~ん♪』という女の子文字。

あ、あいつぶっ殺そうかしら…!?
とりあえず破りたくなる衝動を必死に堪えて、私は紙飛行機を解き中を確認する。


『説明期待した?』


バリッ!! ドカドカグリグリ!! ガッ!!

おおおおお落ち着くのよあたしいいいいいっ!? ここここれはああああああの馬鹿の策略よおおおおおおおおっ!?

ヒッヒッフー! と、何故かラマーズ方法で落ち着こうとするあたし。

ま、まずいわよあたし! の、呑まれそうになってるから! 大丈夫、落ち着くのよあたし! お、落ち着いて深呼吸するの、落ち着くのよ…!!(傍から見たら、既にテンパってる)

けど、そんなあたしに追い打ちを掛けるように、キュロロロロローっと登場したラジコンが、足元で停止する。・・・・封筒を張りつけたラジコンが。

封筒を剥がし、ラジコンは思いっきり蹴りあげ壁に激突させスクラップにしてやる。
ほ、他になにも仕掛けは無いわね?

念入りに封筒をチェックし、恐る恐る開くあたし。

どうやら何もなさそうね。安全を確認した上で、あたしは中の手紙を開いて読み上げる。


『ふははははは。どうだ、これぞ! 紳士技が一つ! 【ロシアン・ザ・ドア】!! 別名!『寮内の部屋番号を、ランダムに適当に張り替えちゃいましたてふぇっ♡』だ!! さぁ、お前は目的の部屋へとたどり着けるかな!? あ、ちなみにISでの探索は、千冬さん召喚したけりゃ使ってもよかよ? 絆と運と労力が試されるこの試練! チッパイの挑戦がい【バリィッ】』←途中で破いた。


「―――― よし殺そう。」←良い笑顔


うふふふ、もう弾ったら♪

―――― そんなにあたしに殺されたけりゃ、望み通り殺ってやるわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?


『お、おい。鈴がものすごい事になってるぞ!? 何書いたんだお前!?』
『ん? 特に何も?』
『わ~。凄く怒ってるよー?』
『はぁ、まさか。部屋番号を張り替える悪戯に手を貸す事になるなんて。』


――――――― 今、話し声が!?

バッと、振り返ると。
そこには、つきあたりから顔をだし、こちらを窺う馬鹿と一夏、それから今朝弾におんぶされていた女子に、見覚えのない女子生徒の姿があった。

私と視線が絡み合う四人。
一夏は、あたしの表情を見て『あ、やべぇ…!』と蒼白になり。

獣っぽいナイトキャップを被るのほほんとした女子は、だぼだぼの裾を振り、ほにゃっとした笑顔を向ける。

もう一人の女子生徒は顔の前で手を振り『ちがっ!? 私こんな事になるなんて知らな…!!』と、涙目で必死に弁解。

そして、事の主犯は―――。


「―――――― ジャンボ! ナイス般若顔! うわすご「そこ動くなああああっ!!」おおう!? ダッシュ!」← のほほんさん背負い走りだす。
「「来たあああああああああああああああああっ!!!?」」← 必死で逃げる。
「お~~~~~~~~♪」← 弾に揺られつつ楽しそう。
「待ちなさいよコラアアアアアアアアアアッ!!!?」


つきあたりから消えた四人に向かってダッシュするあたし。その時、バタン! と、音が聞こえる。

すぐに通路に出て、前方を確認するけどそこに四人の姿はなかった。

くぅっ!? 何処かの部屋に逃げ込みやがったわね!? 見回しても、どの部屋に逃げ込んだのかは分からない。

あ、あの馬鹿。くだらない割に厄介なことしてくれちゃって…!!

部屋番号も無茶苦茶で、判別がつかない【1037】の次に【1107】なんて、本当にランダムに張り替えられていた。

とりあえず、手近なドアをから確認していくしかないわね!

すぐ横のドアに手を掛け、強引に開いていく。

ガチャ!!

「え? な、何?」
「あれ? 貴女確か「ごめん間違えました」…へ?」

バタン! 次っ!

ガチャ!!

「最近胸が大きくなってきてさー?」
「そうなの? 実はあたしも、困るよねー肩こるし「削ぎ取ってやりましょうか?」ひぃぃぃ!? 何っ!? 誰っ!?」
「般若!? 誰この娘!? 眼が怖いんだけど!?」

バッタアアアアアアンッ!! 次ぃいいいい…!!

ガチャ!!

「…っ。(体重計を睨む女子生徒)」
「…!?(真剣に体脂肪率測定機を見つめる女子生徒)」

…パタン。 次。

ガチャ!!

「あら? あ、貴女は…!?」
「チッ、金髪の方か…ハズレね。」
「ハズレって何ですの!? しかも舌打ちっ!?」

バタァンッ!! 今は用はないのよ次ぃっ!!

ガチャ!!

「――――――――― こっちのベタお願い!! 急いで!」
「ここ背景描いてないよ!?」
「トーン貼り終わったよーっ!!」
「ああもうっ!! またズレた! 修正液どこ!?」
「インクがもうないんだけどー!?」
「締め切りまで時間がないわ! 今日も徹夜よ! これだけは落すわけにはいかないのよ!! 気合い入れなさい!!」
「「「「お――――――っ!!!!!」」」」

バタン。…忙しそう。でも描かれていた登場人物が凄く気になる。あれって…いや、うん次。次行かなきゃ(ちょっと赤面)

ガチャ!!

「…ガ、ガハァ…!?」
「ゴホ! ゲハッ! ば、馬鹿な。これだけの人数を…お、おのれ『DANSHAKU』め「そいつ何処行った!?」ごあああああっ!!?」
「言いなさいよホラぁ!?」←ガスガス蹴る。
「げぼぉ!? ごはっ!? あ、あちらのベランダからぁ…と、隣の部屋に…!」
「チッ!」
「げふぉっ!! …ぐふ。(気絶)」←乱暴に放り出される。

バタン!! 隣の部屋っ!!

ガチャ!!

『準備中』←看板。

バタァン!! 次ぃ!!

ガチャ!!

「さっさぁ、始めるザマすよ!!(ヤケクソ)」
「いっいくでガンす!(赤面)」
「んが~♪(袖をパタパタ楽しそう)」
「(ピッピッピ)…あ、もしもし病院ですか? 急患二名大至急お願いします。ええ、きっと脳に致命傷が。」
「「何で二人!?」」
「一夏、お前ザマすって。はは…ねぇわ。(痛々しい笑顔)」
「お前がさせたんだろうがっ!!」
「それから、かなりん。女の子がガンすなんて言っちゃいけません。」
「五反田くんが言わせたんじゃないのっ!!」
「のほほんちゃんは可愛いから許すっ!!(サムズアップ!)」
「んが~~~~~♪(パタパタ)」
「…テイクアウトしていいかな?(鼻血ぼたぼた)」
「「いや、部屋ここだろ(でしょ)」」
「ようし! 許可も出たからさっそ「死ねえええええええええっ!!」【ゴギャァ!!】くどばあああああああああああああああああああああっ!?」


開けた瞬間、くだらないやり取りをかわす馬鹿に、狙いを定め飛び蹴りを放つあたし。
見事に弾の顔面に右足がめり込み、弾を部屋の壁まで蹴り飛ばした。

壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちる馬鹿を尻目に、残り三人に眼を向ける。

「はぁっ! はぁっ! …う、うふふふ。おっ面白い事してくれたわねぇ? あんた達ぃぃぃ!?」
「い、いやこれは! これには深い訳があるんだ鈴!!」
「あ、あたしどっちかと言うと巻き込まれなんです! 本当!」
「だんだん大丈夫~(つんつん突く。)」


あたしの眼力に、ビビる二人に、弾を指で突く女子生徒。
な、なに? なんか凄くマイペースな性格してんのね。

それはともかく訳? 何よ訳って。


「訳? 聞いてあげるから話しなさいよ、ほら。蹴るけど。」
「蹴るのかよ!? い、いや訳は―――」
「俺が説明しよう!!」
「チッ! 生きてた。」


また、いつのまにか復活した弾が一夏の横に並び立ち、腕を組んでいた。
いつもの如くヘラヘラした顔で。

こいつは本当に!
まぁいいわ。理由とやらを聞いてやろうじゃないの。

説明を眼で促すと、弾がヘラリとした顔を向けてきた。


「おおう。説明ね。まぁたいした理由ははっきり言って…ないなっ!!」
「はーい。じゃあ一夏、弾。ちょっとそこ座んなさい。蹴り抜くから。」
「いや待て! おっおい弾!?」
「へいへい。分かった分かった。おーい鈴さんや?」
「何よ?」


腕を組んで、あたしを見下ろす弾。
そして顔をぐぐーっと寄せて、あたしの顔を覗き込む…って近い!

思わず身を引くあたしに弾は。

ヘラっとした、いつもの気の抜けた笑顔を向けて口を開いた。


「――― ふむ。少しは冷静になったかねー? 少しは頭の血は抜けたか?」
「――― え?」
「さっきと比べて気分はどうだってこと。あんな情緒不安定な姿見たら心配すんだろう? なぁ弾。」
「ま、そういうこと。ふむ、いつもの鈴だな。作戦成功ですな。」
「せいこ~♪」
「え? 悪戯じゃなかったの?」
「手伝ってくれてサンキュー! のほほんちゃん! かなりん!」
「俺からもありがとうな。」


そう言って、笑顔を振りまく二人を。
あたしは呆然として見つめた。

頭の血は抜けたって…え?

少し胸に手をあててみる。

…数分前とは違って。だいぶ感情の波は治まっているみたい。怒りに身を任せていたというのに、体中から熱が抜けたような感覚を覚える。

まさか。

慌てて、眼の前の二人に顔を向ける。
そんなあたしに、一夏と弾は、悪戯が成功した子供の様な笑顔を向けてきた。


「あ、あんた達まさか!? ワザとあたしを怒らせて…!?」
「少しは発散になったか? 鈴?」
「まぁ、矛先が俺らってのは。内容聞いた時は、若干ビビったけどな。」
「このチキンが。」
「お前な。」
「ま、それはそうとどうよ。気分は? まだ興奮は冷めてなかったりする?」
「うっ。むぅ…。」


そう言われて、口をつぐんでしまう。

あの馬鹿女が許せない気持ちは変わらない。
でも、感情に身を任せて、行動したことは流石に不味かったかも。
さっきとは違って、冷静に物事を考えられてる事に驚く。

そうか。あたし感情が暴走して、自分をコントロール出来たなかったんだ。
うわぁ恰好悪い。

あたしの冷静さを取り戻す為に、一夏と弾は。あたしの怒りの矛先を自分達に向かせて、感情を発散させたってこと?


…う、ううううううううう…!!


あたしの為に動いてくれた事が、嬉しいやら、照れくさいやら、申し訳ないやらで。

あたしは赤くなった顔を隠すように伏いてしまった。

そんなあたしの頭に、ポンポンと誰かの手が添えられ撫でられる。この撫で方は――― 弾だ。


「突然の事で、感情が爆発しちまったんだろ? あんま気に病むなって。伝え損ねた俺も悪いんだからよー。…本当に悪い。ごめんな鈴。ちゃんと話しときゃ良かった。」
「べ、別に弾のせいじゃ。」
「えーと、俺もとにかくすまん! なんか余計な事言ったみたいでさ。本当悪かったよ。」
「ははは、理由気付かずに謝られてもなー?」
「ぐっ! か、返す言葉もない…!!」
「…ぷっ。あははは。」
「お…んだよ笑うなよ。ははは。」
「ぶわはははははははははははははははははははは!!(バンバンと机叩いて爆笑)」
「お前笑い過ぎじゃねぇか!?」
「あははははっ!」


あたしが笑い出すと同時に、それを見た一夏と弾も顔を見合わせ。つられるように笑顔になる。

ああ、やっぱり居心地がいいなぁ。
あたしの醜い部分も、全部受け止めてくれる。否定せず、包み込んでくれる。

本当に、戻って来れて良かった。
だからこそ思う。もう絶対手放したりなんかしない。絶対に。

と、あたしがそう思った時。
弾が口を開いた。


「そんじゃ、一夏の部屋に行きますか? なぁ鈴?」
「え?」
「なんだ? 俺の部屋に用事があったんじゃないのかよ。」
「いっいやそれは…弾?」
「ま、俺ら二人が一緒に行くし。箒ちゃんに言いたい事あんだろ? なら遠慮せず吐き出しちまえよ。でも実力行使だけはご法度だからな? OK?」
「…ん。分かった。」
「そう言う訳で、おーい。のほほんちゃんにかなりーん? 俺達一夏の部屋に行くけど。二人はどうする?」
「私は部屋でお菓子たべて待ってる~♪」
「あたしは部屋に戻るわ。流石に疲れたし。」
「そっか。手伝いサンキュー二人共! ほんじゃね~?」
「行ってらっしゃーい♪」


バタン。

二人の女子生徒を部屋に残したまま。
あたし達は一夏の部屋まで、足を進める。


「あの妙にのんびりした娘。お菓子食べながら待ってるって言ってたけど。もしかして。」
「ああ、のほほんさんは弾と同室なんだよ。」
「…ふーん。」
「おおう? なんだ鈴? のほほんちゃんにまでヤキモチかね?」
「…そんなんじゃないわよ。」
「良い娘だぞー。可愛いしなー?」


そう言って、歩き出す弾の背中を見る。
見た感じ、悪い奴には見えなかったし。弾がそう言うなら良い娘なんだろうけど。

それでも、弾にそう言ってもらえてるあの娘が、ちょっぴり羨ましく思って・・・イライラしてしまう。


はぁ…あたしって嫌な奴。


そんなあたしの気持ちなんてお構いなしに、あたし達は一夏の部屋に向かったのだった。




【弾 SIDE】


鈴のヤンデレモード回避に成功して数分。
いやー上手くいって良かった。鈴の短気さに感謝だね!

そして所変わって、今現在一夏の部屋です。
まぁそれは良いんだけど。ただいま絶賛修羅場発生中です。

いやー、ヤンデレ回避は成ったものの。
元々我の強い箒ちゃんと鈴じゃ、話こじれるのも仕方ないが。

二人に挟まれてる一夏も大変だ。
俺は傍観するがね。


「いいから部屋代わって。今すぐ」
「ふざけるな! 何故私がそんな事せねばならない!!」
「いやーだって、あたしの方が一夏も遠慮はいらないし? 弾だって気兼ねなく部屋に訪ねて来られるし。そっちの方が良いと思うんだけど?」
「むぐ…! そ、それは。」
「ん? 箒?」
「何があるかな♪ 何があるかな♪(ガチャ)」
「まぁそう言う訳だから、はい決定。」
「なっ!? ふざけるな!! それとこれとは話が別だ!! これに関しては私と一夏の問題だ!」
「ふむ? コーラがないな? なんで伊○衛門しかないんだ?」
「あたしは幼馴染だし部外者じゃないわよ?」
「そんなの理由になるものか!!」
「お、落ち着けよ二人共。」
「にんじん・じゃがいも・タマ~ねぎ~♪(ひょいひょい)」
「「「そしてお前(あんた)は、人様の冷蔵庫を物色するな!?」」」
「むしろ食材投入して潤してるんだが?」
「「勝手に入れるな!!」」
「けち!!」
「「大人しくしてろお前は!!」」


とりあえずは、俺の出る幕はないと判断した為。
一夏と箒ちゃんの私生活を覗く為、冷蔵庫チェックに勤しんでみたんだが…なんて悲しい冷蔵庫事情。食材がそんなに入ってない。
見事にスポーツ飲料関係にお茶ばっか。ええい、この体育系どもが!!

いや、それにしても。
箒ちゃんも鈴も、お互い一歩も譲らんね~。いつまで経っても話は平行線。
こりゃ先は長いな。


「とにかく出てけ! 自分の部屋に戻れ!」
「一夏もそう思うでしょ? そ、それにほら。約束の予行にもなるし?」
「ん? 約束?」
「む、無視するな! ええい! こうなったら力ずく――――。」
「ふんふふん♪(書き書き)」
「ってコラああああああああっ!? 貴様私の竹刀になにを書いてる!?」
「え何って【大好き♪ワンサマーラヴ】。おおう、我ながら見事な達筆ぶり。」
「書くなああああああああああああああああああ!?」
「ワンサマー? 夏が好きなのか?」
「あんた…(残念な瞳)」
「返せええええええええ!! ―――って消えない! 油性ではないかあっ!?」
「作品は残しておきた【バシィイン!!】、今の普通の人には危険だから気を付けてね♪」
「ぐっ! おのれこの怪人め…!」
「本当に不死身ねあんた。何者よ本当?」
「もう弾だからってことで片付けていいんじゃないか? こいつの事は?」


なんか三人共、反応が慣れてきたね。うん良い事だ。

ふむ、ちょっと脳が揺れたがまぁ気にする程のものじゃないな。

それにしても約束か。
俺も知らないとなると、二人が小学校の頃の話だろうね。

おおう、やるじゃないか鈴。二人だけの約束イベントとはポイント高いぞ!
あの一夏と約束か~。

…一夏と?

うん? なんか嫌な予感が?

ものすごく、なんか嫌な予感がするのだが? はて?

そこはかとなく、嫌な予感がビンビンするものの。俺はとりあえず一夏と鈴の会話を見守ることにした。


「まぁそれはそれとして、約束っていうのは。」
「う、うん。覚えてるよね?」


顔を伏せて、チラチラと上目遣いで一夏を見る鈴。

ふむ? この態度から見るに、物凄く恋愛レベルの高い約束だろうことは分かるが。

…恋愛…約束…一夏…鈍感。

あ、不味い。

何が不味いって―――― 色々と不味いぞこの流れはっ!?


一夏の恋愛に関する鈍さは戦艦ヤマト級だ!!

それが恋愛関係の約束ならば覚えていても、別の意味に捉えている可能性が大だああああ!?

焦る俺、でも時は既に遅しだった。


「えーっと、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そ、そうっ。それ!」
「――― 奢ってくれるってやつか?」


――――――― その瞬間。ピシリと音を立て、時が確かに止まった。

…なんだその約束は。

毎日酢豚を奢るって――― アホかこいつはあああああああああああああ!!?

話の前半ちゃんと聞けぇ!? 料理の腕が上がって、毎日酢豚をって所で何故気付かん!?

まるっきり『毎日味噌汁を~』のアレンジバージョン! 鈴なりの遠まわしな告白じゃないかよおおおおおおおおおおおおおっ!?

いや、約束したってこと覚えてる所だけは誉めてやるべきか? こいつの場合。


「――― はい?」
「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺に飯を御馳走してくれるって約束だろ?」
「…。」
「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心―――――。」



パァン!!



…うわっちゃー。

思わず顔を覆って、天井を仰いでしまう。
やっちまったよ。あーもー。

俺の目線の先では、鈴にビンタされ呆然とする一夏。

そして、その様子を驚いて見守る箒ちゃんに。

体を小刻みに震わせ、顔を伏せている鈴。

でも口元はギュッと引き結ばれて、何かに耐えるように見てとれた。

…はあぁ~。本当に手の掛かる親友達だこと。まだまだ、フォローが必要だねぇ今日という日は。

立ちあがって、一夏と鈴の傍に近づく。


「あ、あの、だな、鈴。」
「ほい。一夏ストップ。」
「だ、弾?」
「全くお前は…はぁ、とりあえず。」


鈴に近づき、その体をひょいと担ぎあげた。
鈴がビクッとしたが、今は無視。


「チャイナっ娘確保ーってな? おお、なんだ随分軽いな鈴? 飯ちゃんと食ってるか?」
「―――――――――っ」
「お、おい弾。」
「ああ、それと一夏。明日凍らせた豆腐用意してくるからな? 頭ぶつける覚悟しとけよ貴様ぁ!?」
「なっなんでだよ!?」
「喧しいアホ! お前のオメデタイ頭で考えろ! 今日はもんもんと夜を過ごすがいいわ!!」


口ではそう言いつつ。
アイコンタクトで、『今は退け。鈴は任せろ』と伝える。

それに気が付いた一夏は。また自分が、何かやったと思い少し落ち込んだ様子になるが。今は鈴のフォローの方が先決。


「ほんじゃ、俺達はこれで。あばよ~!」
「あ…。」
「ん? 箒ちゃん。どったの?」
「い、いや。なんでもない。」
「そうかね。ほんじゃね~!」
「お、おい弾!?」


床にあった鈴のバックを回収し。

そのまま一夏達の部屋を後にする俺と鈴。ふむ、箒ちゃんの最後の仕草が妙に気なるが…まぁ今はいいか。

背後でバタンという音を聞きつつ、俺は鈴を担いだまま廊下を歩く。

担がれているというのに、鈴は先程から無言。

体はさっきか小刻みに震えているから、何か我慢してるのは明白…はぁ。

さて、どうするか。とりあえず、この状態の鈴を部屋に返すのはまず除外。

なら残っているのは―――。


「さーて。ほんじゃ俺とのほほんちゃんの愛の巣まで行こうかね? 久しぶりに俺の飯食わしてやるぜ~鈴。」
「―――。」
「弾特製メニューもバリエーション増えてなぁ? お前も知らないメニューも色々あるぜー?」
「…っ。」
「ま、とにかくだ。」


そう言って、俺は鈴の体を担ぎ直し。
鈴に向かって口を開いた。


「気が済むまで愚痴くらい聞いてやるからさ? 我慢すんなよ鈴。吐きだせ嫌な気持ちは。」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


ビクッと一度大きく震えた鈴。そのまま、俺の服をギュウッと掴み。

――― ようやく、堪えてるモノを吐きだした。


「~~~~っだ、ん゛ぅぅぅ…っ!!」
「はいは~い。日本紳士の弾さんですよ?」
「いっい゛ぢが、お、おぼえ゛でながっ…!!」
「なーに言ってんの? 覚えてたろ? 意味は間違ってたけどなぁ? 全く鈍感にも程があるよな~。」
「う゛う゛~~~~っ!! い゛っい゛ぢがのばがぁぁ~~~~!!」
「おー馬鹿だな~。あいつは馬鹿だ。大馬鹿だ。」
「―――ッ!! う゛ん゛~~~!」
「おーし! 鈴よ! お前の好きなもん作ってやるぞ!! やけ食いだ! 食って食って…ふむ体重が心配だな?」
「だん゛ぅぅぅっ!!!」
「わはははは。冗談だよ、何が食いたい鈴?」
「だ、だん゛どぐぜい゛ズベジッグぢゃーばん…。」
「おお、あれか。おーし任せろ! 善は急げ! 飛ばすぜー!!」


そのまま一気に自室へと走りだす俺。
さーて、今夜は腕によりを掛けて作ってやらなきゃね~?





鈴の内にある、こいつを縛る厄介な闇。
それを取り除いてやるには、ちまちましたやり方じゃ駄目だ。


取り除くなら、一気に吹き飛ばさなきゃ意味がない。


でも、今は手札が足りない。全く足りない。
情報も不足してる。

でも…なんとかしてやらなきゃなー。




そんな俺の心情はとにかく。
俺は、鈴を担いで廊下をひたすら走ったのだった。




後書き

更新遅れて申し訳ないです。今回、できればクラス対抗戦前くらいまで書こうとしましたが・・・・駄目だ、どうあっても長々となってしまいます。ああ・・・早く、シャル書きたい、ラウたん書きたいぃぃぃ・・・。さて次回、のほほんさんパワー炸裂に、何気に鈴編で影薄いポニー&パッキンが頑張ります。そして生徒会も。鈴じゃないですが、ちょっとプライベートで問題発生してしまい。更新が少し遅れるかもしれませんが、どうかご容赦ください。



[27655] 第十八話  始動一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/11/27 21:13
【本音 SIDE】

こんにちはー。おはようからおやすみまで暮らし見つめる、布仏 本音です~。

だんだん達が、おりむーの部屋に行ってる間。部屋でお菓子を食べて待っていたんですが。
ここで思わぬハプニングが発生しました。

だんだんがついさっき帰って来たんだけど。
大きなお土産も一緒に持ち帰って来ちゃったんだー。

んー?
担いでるのって、今朝教室にやって来た転校生さんだねー? たしか、だんだんの中学校の頃からのお友達さんだよねー。名前はたしか、凰鈴音ちゃん? にへー、それじゃあ、りんりんだね~♪

さっきも、その娘と鬼ごっこしたから覚えてるよ~。楽しかったねー。


あれ?
なんで泣いてるのかな? あ、あれー? どうしたの? 何で泣いてるのー? だんだんが泣かしちゃったの? むー、駄目だぞーだんだ…え、違うのー?


んー。
とりあえず、お菓子食べなよ。美味しいよー? …え? だんだんお夜食作るの? えー! いいな、いいな~! わたしも食べるー。

色々、込み入った事情があるようだけど。お腹一杯になればすぐ元気になるよー。


ところでだんだん。


いい加減に、りんりんを降ろしなさいー! むー、なんだか面白くないぞー。


だんだんがキッチンに向かった後。
私は、まだグスグスしているりんりんに近寄り、事情を聞くことにしました。

さぁ~、この本音さまーに話してみなさい。
にへ~♪ 一度言ってみたかったんだこの台詞ー。あ、ポッキー好き? ポテチもあるよ? オレンジジュースもー♪


だから泣きやんでー。いいこいいこ~(なでなで)。


だんだんがお夜食を作っている間。私は泣き虫さんを慰めようと頑張りますよー。

ん? 私の名前? 私は布仏 本音っていうんだよ。よろしくねーりんりん~♪ ありゃ? 怒られたー。えー、可愛いよりんりんってー。








それから少し時間が過ぎて。


「むー。それはおりむーが悪いよー!(ハムハム)」
「一夏の馬鹿、一夏のボケ、一夏の鈍感、一夏の誑し、一夏の…(ハムハム)」
「おおう。なんだこの萌え時空は…!? ハムハム喰ってる姿が俺の心臓をわし掴んで離さねぇ!! 相棒!」
【既に記録済み。抜かりは無い(キリッ)】
「流石だ。もはや言葉なんて不要だな俺達には…」
【会話は大切です相棒!?】←ちょっと必死
「文通があるじゃないか!? 手紙の力舐めるなよ!!?」
「…何、くだらないやり取りしてんのよぅ。(スン)」
「りんりん~。あーん♪」
「だから、りんりんって呼ばな…ハム。」
「えへー♪ 美味しい~?」
「…うん。(もぐもぐ)」
「俺、もうゴールしても構わないっ!!(鼻血ドバドバ)」
【メールです、二代目『頼むから来ないでくださいっ!!』とのことです。】
「三途の川の近場をキャンプ場にしから今度はそうだなー? ペンションでも建てるか!」
【しつこいメールですね『極楽からの苦情も来てるんです!! 地獄の方が良いって魂が増えて困ってるんです!! 勘弁してくださいいやホントお願いします後生ですからあああ!!』。流石二代目。】
「ふっ。当然だ!」
【またメ…『三代目さんがビキニ姿で勧誘活動してるんですが!? ってか何で人になってんの!? 魂だけだからって、歴代さん達は何でもありか!?』 おい、三代目って雌か? 雌なのか? ん?】
「は、はは、はははは。こ、困った娘だな~? 三代めえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?(ボキボキベキャ!! コチョコチョ。)ぶわははははははははははははは!? 誰だあああああ!? 相棒にいらん事吹きこんだのはああああ!?」
「何やってんのよ。」
「二人(?)共仲良しさんだね~。」 


だんだんが夜食を持ってきて。
私とりんりんは、それをレンゲですくって黙々と食べながらお話ターイム。

『だんだん特製すぺしっくちゃーはん』だっけ?
まだ食べた事なかったけど、これは美味しいよー。極楽極楽、うまうま♪

むー、それにしても。
話を聞いてみるに、おりむーは乙女心を猛勉強した方がいいと思いまーす。

女の子の約束を、間違えて覚えるなんて絶対に許せる事じゃありませんー!
よーし、りんりん。やけ食いだー。私も手伝うぞー!


それから私は、りんりんと一緒に。ちゃーはんを綺麗に完食するまで、黙々と食べ続けた。
その間、だんだんの絶叫が止まなかったのはお約束~。






「んに~♪ お腹ぽんぽんだねー。」
「うっ、少し食べ過ぎたかも。はぁぁ…それもこれも、全部一夏のせいよ!!」
「そうだそうだー!」


ちゃーはんを全部たいらげ。お腹一杯になった私とりんりん。
んー。お腹一杯になったおかげかな? りんりんに少し元気が戻ったみたい。よかったよかったー。


そんな私達に、ごたんだごーのお仕置きから解放されただんだんが、ゆっくりと近づいてきた。
あ、お帰りー。

だんだん手には、いつの間に用意したのか。
コップに注がれた烏龍茶が二つお盆の上にのかっていて。流れるような動きで私とりんりんの前に置いてくれる。

わ~。


「だんだん、ありがとー♪」
「紳士だからな!! 当然だ! へい鈴さん。どうだった? 『弾特製スぺシック炒飯』の味は? 一年前よりもさぞ美味かろう。」
「ん、まぁね。」
「…軽くね? ねぇ軽くね? まぁ俺は別に気にしないがな!! …ねぇ軽くね!?(半泣き)」
「気にしてんじゃないの!!」
「べ、別にそんなんじゃないんだからね!?」
「だんだんツンデレ~。」
【気持ち悪っ】←瞬間削除
「今あんた相棒に罵倒されたわよ?」
「ふふんっ♪」
「何で胸を張って誇らしげなのよ!?」


りんりんの突っ込みに、だんだんはヘラヘラっと笑い。
りんりんの頭を、数回くしゃくしゃ撫でた後。自分のベットに歩みより、その上に腰を降ろした。

んー、なんだか。りんりんのお兄さんみたいだね~。だんだんはー。
りんりんも、だんだんに撫でられた頭を「う~~~~」と恥ずかしそうに、おさえてるしねー。


「いやはや、それにしても。まさか鈴が一夏とあんな約束をしていたとは。隅におけんな~? このこの~♪」
「このこの~♪」
「ふ、二人してからかってんじゃないわよ!! い、いいでしょうが別に!!」
「俺はてっきり、空港で俺と蘭が離れた時に何か約束でもしたのかと思ったんだがね?」
「あ、あれは! その…。」
「まぁ大方、最後に告白しようとしたけど結局言えずにズルズルと時間引きのばして終わっちまったーってオチだろうけど。」
「りんりん…。(ちょっと残念な瞳)」
「うっうっさい!! 予想つくなら察しなさいよ!! それとそんな眼で見ないでよっ!」
「まぁそれはそれとして、本命の約束内容は一夏のアホが間違えて覚えてるとはな~。あいつ本当に馬鹿だな。」
「むー! 女の子との約束は、何をおいても優先される事なんだぞー。おりむーはお馬鹿だー!」
「全くよ!! あいつってホントにアホなんだから! 鈍いにも程があるわよ!! あたしが一体どんな気持ちで言ったっか…! 言ったか…。」


威勢よくりんりんが、おりーむーに文句を言っていたけど。
急に、暗い顔になってしょんぼりしちゃった。りんりんのツインテールも、しょぼーんとたれ下がっちゃってるよ~。

元気出してー、りんりん~。

顔を伏せたりんりんが、ぽそっと声を発した。


「…一夏にとって。あたしとの約束なんて、どうでもいい事だったの…かな。」


…りんりん。
うー、そんな悲しい顔しちゃやだよー。


「そんなこ「んなことねーだろ? 何言ってんのかね、このチャイナっ娘は?」…だんだん。」
「弾?」


りんりんの言葉に、私は否定しようと声を出そうとして、だんだんに遮られた。
隣をみれば、いつもと同じヘラヘラとした気の抜けた笑顔のだんだんが居て。何故だかとっても安心できる。

ん~♪ なんだか、ほっとするなー。だんだんのこの笑顔は~。


「ちょっと違う視点から考えてみようや鈴。確かに約束の内容を間違えて覚えてた一夏が全面的に悪いがね~。鈴と約束をした事を覚えていた点だけは、俺はあいつを評価するね。」
「どういうこと?」
「む~?」
「確かに内容は間違えてた。けど、重要なのは『一夏が、間違えて覚えてしまった約束を、今でも覚えていた』ことだ。」
「はい?」


だんだんの言葉に、りんりんは怪訝そうな顔をするけど。
私は、だんだんのその台詞にピンときたよー。あー、なるほどねー?

でも、私は空気の読める子なのです。お口にチャックします。むぐむぐ。


「思い出してみ? 一夏の奴『鈴の料理の腕前が上がったら、酢豚を毎日奢ってくれる』てのが、あいつが鈴と交わした内容だと本気で思ってたろ?」
「…うん。」
「まぁ、変換された内容のアホらしさに頭痛はするがね~? けどよー鈴。」
「何?」
「普通さ? 『~を奢ってくれる』なんて、そんな日常生活でよくありそうな内容をパッと思い出せると思うか? それも小学校の頃の話で、何年も経ってるってのに? 『誰かが飯を奢ってくれるって約束をした』じゃなくてだぜ? まぁ、『毎日』って所は、ちょいと特殊だけどなー。」
「―――――――――っ!! あ。」
「他の『誰か』じゃない。『鈴が』だ。つまり、あいつは『鈴が毎日酢豚を奢ってくれる』って覚えたヘンテコな約束を、ずっと覚えてたって事になるな~。ってことはだ鈴。」


だんだんは、りんりんの眼をしっかりと見て言葉を続ける。
りんりんも、さっきとは違って少しづつだけど、瞳に輝きが戻っていく。


「一夏にとってお前との約束は、間違えて覚えてヘンテコな意味になってしまっていても。今でもすぐに思い出せるくらい、大事な思い出の一つになっているってことじゃね? 少なくとも俺はそう思う。」
「…。」
「紳士としては0点だ。うむ、淑女との約束を間違えて覚えるなど言語道断。許せるもんじゃない!」
「…うん。」
「けど、友人としては、まぁ情状酌量の余地あり…てとこが妥当かねー?」
「…友達、かぁ。」
「そう、友達としては、な? ま、何を言いたいかって言うとだな? 鈴さんや。」
「ん。」


だんだんの言葉を噛みしめるように頷くりんりん。
そんな、りんりんの様子を何処か優しげな眼でみるだんだんは、言い聞かせるように言葉を放つ。




「一夏の心の中。それもけっこう深い場所にお前はちゃんと存在してるよ。自信を持て鈴。 俺が太鼓判押して断言してやるぜ。」



そう、だんだんはニヤーっと笑い。りんりんに笑い掛けた。
りんりんは、そんなだんだんの顔を穴があほど見つめて―――。

不意に顔を伏せて、ゴシゴシと眼元を拭い。
そして、ちょっと赤くなった眼をだんだんに向けて、声を発した。


「そ、そんなの、あんたに言われなくても分かってるわよ!! と、当然じゃない!!」


ちょっぴり照れ臭そうなりんりんの姿に、だんだんはヘラヘラっとした顔で笑い。どこか満足そうに頷いている。

んー♪ よかったー。りんりんが、、また元気になったよー♪
だんだんグッジョブー!


「えへへー、 りんりんが元気になった~。元気りんりんだねー?」
「む! 聞き捨てならんぞ、のほほんちゃん! そこは勇気だろう!?」 
「バッ! だから止めてよその呼び名!」
「えー? なんでー。」
「何でだよりんりん?」
「止めろつってんでしょ!? 昔それで散々からかわれたんだから!」
【チャ~ン、チャ~ン♪ チャチャチャチャチャ~ン♪】(愛と勇気だけが友達の、孤高のヒーローの歌)
「何をピンポイントでタレ流してんのよ七代目ええええええええええええっ!!?」
「鈴、大丈夫だ。俺と一夏もお前の友達さ! これで四人だ!」
「私も、もう友達だよー。だから五人ー。」
「勝手にあたしを寂しい人間にするなああああああっ!!」
【ああ胸が寂しかったんでしたね】
「…おいコラ、このポンコツ今なんつった?」
「おおう、中々言うじゃないか相棒!! 俺も負けてられないと思う次第だがへい鈴さん何故足を振りかぶっているのでせうかちなみに相棒は俺の腰の下半身に巻かれているという事を想定した上で冷静に考えてくれると嬉しいなと愚考致しますが待って止めてお願いしますその蹴りの先には紳士のデリケートゾーンがあるんだあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「りんりん体が柔らかいんだねー?」
「のほほんちゃん止めてええええええ!!? ピンチよ!? 紳士のデリケートゾーンがピンチですよ!? 数年後にオカマバーにビックママとして俺君臨しちゃうよ!? 待て落ち着「このポンコツ――――【ヒラリ】って避け…!? あ!?」 ああもうどうにでもなれー(逃避)」



この日。IS学園に入学して初めて。私はだんだんの声にならない絶叫を聞いた。




その後、壁に手を突きトントン小気味に跳んで耐え忍ぶだんだんの背中を、りんりんと一緒に撫でてあげました。

りんりんも「ご、ごめん! ごめん弾!」と、だんだんに謝ってたねー。だ、大丈夫~? だんだんー?

そんな私達に、脂汗をびっしり浮かべ、青白く苦い笑顔を浮かべてサムズアップするだんだんが、妙に輝いて見えたのは気のせいじゃないと思った。









そして―――――――――――――。









「…んにゅ…?」


―――― 深夜。


どうしてか分からないけど、私はいつもなら絶対に眼を覚まさない時間に眼を覚ましてしまった。


「ん、うー…?」


うー?
ぼけーっとする頭で、私は自分の隣に眼を向ける。

そこで小さな寝息をたて、ぐっすりと眠っていたのは―――。


「…すぅ…すぅ。」


ツインテールをおろして、寝間着姿で私の手を握って眠るりんりんの姿だった。

んー。
そぉいえばぁ~、確かりんりんに、今日は泊っていってよーってお願いしたんだったね~。


あの後、流石に就寝しなきゃ不味い時間になっちゃって。
お開き~ってなった時に見えた。りんりんの寂しそうな顔がほうっておけなかったんだ~。


えへー、お友達になった記念に~って言った時のりんりんの驚いた顔が、可愛かったな~♪


だんだんはというと。


『よし! じゃあ鈴。俺のベット使え! 安心しろ! 俺はバスルームで寝るから心配無用!』
『何でバスルーム!? 止めなさい! 他にあるでしょうが!』
『ふむ? なら『河』の字になって一緒に寝るか? よし待ってろ人数集めてくる』
『なんで『河』の字!?』
『―――【ピ】あ、もしもし? 一夏、実は今よー』
『何でよりによって一夏呼ぶのよおおおおお!!? 気まず過ぎるでしょうがあああああっ!!?』
『わははははははははははははは!!!!!!!』


って、相変わらずのだんだん節を連発してたけどねー。

でもきっと、おりむーに電話したのは。りんりんの怒鳴り声を聞かせて、元気になった事を暗に伝える為だと思う。

んー、だんだんはやっぱり優しいな~♪

その後は結局、私とりんりんが一緒のベットで寝る事で治まったけど、だんだんとしてはちょっと不本意そうな様子だったよー。
だんだんは紳士さんだからねー。私達が二人で一つベットで寝るのに、自分だけベットを一人で使うことに抵抗があったんだと思う。

そんなに気にしなくてもいいのになー。

そこまで寝ぼけた頭で思った私は、何気なくだんだんが気になって隣のベットに視線を移した。
りんりんを起こさないように、ゆっくりと顔を動かし―――。






――― ベットの上で沢山のパネルを展開し、それらを真剣な瞳で眺め、操作するだんだんの姿を見た。





ベッドの上で胡座をかいて腕を組み、一つ一つのパネルの内容を確認。
時折口元が動いてるのが見えるのは、きっとごたんだごーと何か話しているんだと思う。
けれど、その度に眉を顰めているから、きっと、だんだんが欲しい返答じゃなかったんだと思う。

それでも、だんだんは次々とパネルを操作し、確認し、必要な事項を保存し、そして再び眉を顰めては苛立ち気に頭を掻いて操作を続ける―――――――。


そんなだんだんの様子を、私は気付かれないようにじっと眺める。


寝ぼけは何処かに消えてしまい。私は唯一心に、だんだんの横顔を眼に焼き付けることに没頭する。

さっきから心臓がドクンドクンと高鳴って仕方ない。
だんだんに気付かれちゃうかな。

胸を抑えるけど、一向に治まってくれないどうしよう…。


お願い治まって。
もうちょっとだけ、今のだんだんの姿を見ていさせて。


そんな私に気付く様子もなく、作業に集中するするだんだんにホッとしながらも。だんだんから眼が離せない。


ど、どうしよう…明日、絶対に寝坊しちゃうよ~(赤面)


それから数分経っても、だんだんは作業に没頭し。私はだんだんに気付かれないように横顔を眺め続けた。

その中で変化した事と言えば…だんだんの表情が険しさを増した事。
それはきっと、だんだんの望むモノが得られなかったから。


だんだんが困ってる。


何を調べてるの?
それは誰の為なの?
どうしてそんな苦しそうなの?

そんな顔しないで欲しい。

何が知りたいのかも、それが誰の為なのかも分からない。そしてそれは、私が知る必要もないことかも知れない。


だけど―――。


―――― 私は、だんだんの力になりたい。
―――― 困ってるだんだんの為に、私が出来る事をしてあげたい。 


そんな考えが、純粋に私の心に生まれた。


ねぇだんだん。


私が、だんだんの為にしてあげられる事って、何かないかなぁー…?




結局。

だんだんの横顔を眺めていたけど、いつの間にか眠ってしまった私は寝坊してしまい。
だんだんにいつものように起こされ、寝ぼけて抱きついてしまったりんりんに怒られるという朝を迎えることになっちゃいました。


あ、あうあ~~~~。ねぶしょくだぁぁ。

う、う~~~~…。


「もーっ! だんだんのせいなんだからーっ!(真っ赤)」
「なんでさっ!?」
「あんた何したのよ? ほら言いなさいよ、裁いてあげるから。」
「ふむ? まさか引き出しの中のエロ本の事かね? そのことを注意しようかどうか迷って寝付けなかったとか?」
【ああ、アレですか。】
「あんた何持ち込んでんのよ!? というか知ってんなら注意しなさいよ七代目!?」
「ちなみに厨房にもっと凄いのがあるぜ!?」
【ああ、それもでしたね。】
「オープン過ぎるわああああああっ!? そして何容認してんのよ!? このポンコツIS!! 処分よ! 全部処分!!」
「む~~~~~~っ!! しょっ処分だーっ!」
「昨日ゴミに出したが?」
「「潔い(~)!?」」


そんな朝の一幕を過ごしながらも。
私は何か自分に出来る事を探そうと決めたのでした。

私も頑張るよ~、だんだん♪




【セシリアSIDE】

【…以上、お天気でした。では次のニュースです。今から二日前、IS操縦者育成教育機関『IS学園』にて、『IS学園』の校門前に数十人の男性が下着姿で倒れていた事件についての新たな情報が入りました。】
【世も末ですね。】
【この事件は、IS操縦者育成教育機関『IS学園』の校門前に下着姿の男達が倒れていると地域住民から通報が入り発覚した事件で、『IS学園』に侵入を試みたのではないかと駆けつけた警官が判断し、現行犯逮捕しました。】
【日本の警察も中々やりますね。】
【調べによると、男達は全員一概に『我らは秩序ある真の【紳士と淑女の世界】の為に行動したのだ!』と、支離滅裂な言動を繰り返すばかりで捜査は難航しているとの事でしたが、この男達の中の一人が女性物の下着を握りしめていたことから、集団での下着の盗難を目論んだ線が濃厚となった模様です。】
【最悪ですね。】
【この事に対し、男は犯行を否定しており。『奴が握らせたに違いない! 調べてくれ! それはきっと新品だ!』と訴えているようです。】
【何言ってるんでしょうか?】
【この事件に対し、政府側は『IS学園』のセキュリティーシステムの不備を問題視し、強化及びセキュリティーの再メンテナンスを検討。各国を交えた会合での議題の一つとして取り上げる事を決定しました。】
【心配せずとも大丈夫でしょう。…あそこには彼がいるのだからっ!!】
【では次のニュースです。日本の農家にツチノコが大量発生し、駆除に対する効果的な―――】
【『DANSHAKU』―――――――――――――ッ!!】
【―――― ふぅ。えぇとスタンガン何処だっけ? え? 待ち合い室? 今すぐ取って来てくれる? ああ、それから青酸カ―――】

【――――――――― しばらくお待ちください。――――――――――】


食堂。
昼食時わいわいと人で溢れる中、私はテレビから流れるニュース耳を傾けながら優雅な食後のティータイムを過ごしている所です。

「…ふぅ。全く、最近は嫌なニュースばかりですわね。」

紅茶を一口飲みながら、私は溜息を一つ吐いた。

全く、この学園に侵入を試みるなんて。これだから男という生き物は。

…何か妙な名称が聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。ええ、気のせいですわ絶対に。

朝のSHRでも、先生方から十分な注意をするよう念を押されましたが、まぁ気にする事でもありませんわ。

もし現れたとしても、返り討ちにして差し上げますもの。


でも今はそんな事はどうだっていいですわ。今、私が頭を悩ませる事と言えば…はぁ。

溜息をついて、私は紅茶の入ったカップをテーブルに置く。


「最近、一夏さん達と時間が合いませんわね…。」


今から二日前。

そう、あの凰鈴音という中国の代表候補生が転入した来た翌日の事。

登校して、一夏さんの元に足を向けたら。

豆腐を頭にぶちまけて気絶している一夏さんの姿に絶叫し。

その一夏さんの手を取り、豆腐の水で机に『しんし』とダイイングメッセージを自らの手で書かせている五反田さんの姿に唖然とし。

そんなお二人の様子に『はんにんは、おまえだー♪』と楽しそうな布仏さんに脱力したあの日からでしたわね。

――― 何故かしら、急に空を眺めたくなりましたわ。

ま、まぁとにかくです。あの日から、妙にお二人共落ち着きがなくなってしまいました。

それというのも。
五反田さんが休み時間、昼食時間、そして放課後も姿を消してしまい、ここ数日会話らしい会話ができなくなってしまったからです。

そのせいか、いつも行動を共にしている一夏さんが、五反田さんの事を気にしているようでソワソワと落ち着かない上に、調子が出ないご様子なのです。

今日も食事を誘った所『悪い、今はちょっと一人で考え事したくてさ』と断られてしまいました。

きっと五反田さんに何かご相談があるからなのでしょうけど、その五反田さんがいないのですから仕方ありません。

本当なら私に相談してほしい所なのですが…はぁ。

また一つ溜息をつく。

何を言っているのでしょうか私は。私など相談される程の大層な人間ではないというのに。


「はぁ。」
「ふぅ。」
「「……。」」

「「…ん?」」


溜息をついた所。
私以外の溜息をつく存在に気が付き、そちらに目を向けてみました。

するとそこには、きつねうどんをテーブルの前に置き、こちらに同じタイミングで視線をむける篠ノ之さんの姿がありました。

お互い視線が絡み合い―――。


「っはあああああぁぁぁぁぁぁぁ~…。」
「…何故私の顔を見て、今まで以上に深い溜息をつくのかご説明願いたいところですわ篠ノ之さん!?」
「いや、特に意味は無いが。なんとなくだ。」
「凰さんには舌打ちされた上ハズレ扱いされるわ、貴女には盛大に溜息つかれるわ最近私の扱いが酷くありません!?」
「何を言っているんだお前は?」


そんな私に、意味が分らないという表情を向ける篠ノ之さん。
くっ…!? 貴女は私と同じような扱いを受けていないからそんな事が言えるのですわっ!! 色々とキツイ上に結構傷つくんですのよ!?

そんな私の様子を見ていた篠ノ之さんでしたが、不意に顔を曇らせ私に言葉を投げかけてきました。


「それに…私の溜息の理由など、お前だって知っているだろう。」
「それは…まぁ。」
「「……」」

「「っはあああぁぁ~。」」


二人同時に溜息をつく。
私たちの様子に、周りが妙に訝しげな視線を向けてくるのが分かります。
すみません。楽しい昼食時中だというのに。

それでも私と篠ノ之さんの表情は変わらず曇っている。
それというのも―――――――――――――。




『―――あの馬鹿女達にハブられてたじゃないっ!! あいつら揃いもそろって一夏一夏一夏っ!! 弾が隣にいるって言うのにまるで眼中にないみたいな態度で!! 何を言っているのかも理解しようともしないで!! 自分の事ばっかり!! 弾が何も言わない事を良い事にあいつら――――!!!』




―――――― あの日の凰さんの怒声が頭をよぎった。

思い返し、二日経った今でも。
彼女の言葉は、私の心に突き刺さって来る。


あの日、一夏さんの特訓を終えた私は。

まだピット内にいるであろう一夏さんの為に飲み物とタオルを用意して意気揚々と向かったのでした。

そして偶然、部屋に戻る途中の篠ノ之さんと遭遇してしまい『唯の差し入れですわ!』『そんな物必要ない!』『私がしたいからしてるんですの!』『媚びるというのだそれは!』『なんとでも! 貴女はさっさと部屋にお戻りになればよろしいじゃありませんの!?』『わっ私も行くぞ!』『何故ですか!?』『わっ忘れ物をしたのだ! 取りに行くだけだ!』と、互いに口論しつつピットへ赴き――――。


彼女の怒りを知り。

己の愚かさを知り。


――――― 私たちは、静かにその場を離れたのでした。


なんて酷い事をしてしまったのでしょうか。

無意識だったとしても、そんな意図はなかったと訴えても、そんなモノ言い訳にしかなりません。

彼女が食堂から去った後に見た。あの五反田さんのいつもの笑顔が眼に浮かぶ。

私達は、あの時彼の寛容さに、咄嗟の言葉に助けられたという事に今更ながら気付いたのです。

自分の愚かさが恥ずかしい。自分の無神経さに目眩がする程落ち込みました。

けれど、私が一番、自分自身で信じられない事は―――。


なら何故、あの時彼は言い返さなかったのですか? 自分の事だというのに、他人のことばかり気遣って。言い返さない彼も悪いのですから自業自得では?


―――― ふと、そう考えてしまった事だ。

凄まじい自分の考えの醜さに、嫌悪感が湧きでた。

なんてことを考えているの!?

そう自分に言い聞かせても、心の片隅ではその考えを捨てられない自分がいる。

そして何故、こんなにも苛立っているのか。私には分からなかった。

何故? どうして? 自分に苛立ち、五反田さんのあの笑顔に苛立ち。
分からない。

彼に対する罪悪感、そして謝罪をしたいという気持は確かにあるというのに。
それにストップを掛ける私がいる。


私は一体どうしたというの?


そんなこんなで、私は結局ズルズルと考えこんでしまい。

二日経った今でも、五反田さんに謝れないでいる。

…はぁ、それも言い訳ですわね。

本当に謝る気があるなら、五反田さんを探すべく行動すればいいだけなのですから。

それをしないということは、私は彼に謝るのを心の何処かで拒絶しているから。

はああぁぁ…私って、こんなにも心の狭い女でしたの?

そして同時に思う。あの五反田さんの表情を、あの気の抜けた笑顔を思い出して、何かが心に引っ掛かる事に。

そう、その引っ掛かりさえ取れれば…きっと私は彼に謝ることが出来る。

でも分からない、何が引っ掛かっているのか。

脳裏に浮かぶ、彼の行動。

自分よりも、周囲を気にしているあの態度。

そして、私を一番苛立たせる要因である…あの気の抜けた表情。

男なのでしたらもっとシャンとしたらどうですの。

なぜそんなにヘラヘラとしているのですか。

どうして酷い事言われて笑っていられるのですか。

何故言い返さないのですか。

何故自分の事より、周りを気にするのですか?

それではまるで――――――――――――。







『―――― セシリア。』







「―――――――― ッ!?」 


ガタァン―――ッ!!


「―――― なっ!? なんだ突然!! どうしたのだ一体!?」
「―――ッ!!」
「お。おい? どうしたのだ? 顔色が悪いぞ?」


椅子を倒して乱暴に立ち上がるという、本来なら決して淑女としてあるまじき行為であるにもかかわらず、私はその事に考えが及ばない程に動揺を隠せなかった。

耳元に心臓があるかのようにドクンドクンと鼓動が聞こえる。

篠ノ之さんが、気遣うような視線を向けるも、私は繋がった一つの答えに驚愕し…そして全ての感情が一つへ集約するのを感じた。


「あ…ない…。」
「む? 何だ? 今なんと言ったのだ?」


うわ言のように、小さく呟く。少しづつ、少しづつ私が今すべき事を口にする。


「あ、会わないとっ。」
「会わないと? 誰に?」
「会わなきゃ…彼に、五反田さんに会わないとっ!!」
「弾に? しかし、私も先程まで探してはいたんだが、何分行動に一貫性がなく、今も何処に居るのか――――」
「そんな事関係ありませんわっ!! 絶対に探し出します!!」
「ど、どうしたのだというのだ突然に!?」
「篠ノ之さん! 五反田さんを探すのを手伝ってくださいっ!!」
「今からか!? わ、私は今からこのキツネう――――――――――!!」
「さぁ!! 行きますわよ!!」
「ま、待てええええ!? だから私は今から昼食だと言っておろうがっ!!?」
「昼食一つ抜いたくらいで死にはしませんわっ!! さぁ早くっ!!」
「死ぬぞ!? 次は織斑先生の実習なんだぞっ!? 食事を抜くなど自殺行為そのものではないかああああああああああっ!!?」
「絶対に見つけますわ!!」
「待て! せめて油揚げだけでも! いや汁の一口だけってだから待てえええええ!! ぐぬぬぬ! わ、私が引き摺られているだと!? い、一体その体の何処にこんな力があるのだ!? これが代表候補生の力だとでもいうのかあああああああ!?」


篠ノ之さんを引きづりながら、私は食堂を後にする。


繋がった答え。

私が、何故彼に苛立ち、同時に自分にも苛立っていたのか。

そして、何故こんなにも、五反田さんに会って、話しをしたいのか。







―――――― お父様…っ!!







彼は、五反田さんは…似ているのです。

あの笑顔も、行動も、全部とは言いませんが…けれど、似ているんです。


私が軽蔑した人に。
私が苛立った人に。
私が情けない男だと思った人に。


―――― けれど、大好きだった人に。


話したい、五反田さんと。
謝りたい、五反田さんに。
知りたい、五反田さんを。
そして理解したい。


貴方を通じて―――――――――――――お父様の事を。


もう知る事が叶わないと思っていた。





――――――――――――――― 本当のお父様の姿を。





私は、逸る気持ちをそのままに、廊下を進んだのでした。





【虚 SIDE】


「おねぇちゃあぁ~~~~ん!! へ、へるぷみー。 えぐえぐ。」
「…どうしたの本音?」

昼休み。
生徒会室で仕事をしつつ、その合間合間にサンドイッチを食べ昼食をとる私に、生徒会の招集以外に、こちらに寄り付かない本音が珍しくやって来た。

それもお弁当箱を持って、泣きながら。

はぁ。今度は何?
少々呆れつつも、私は本音を椅子に座らせ事情を聞くことにしました。

それでもパカっとお弁当の蓋を開け、唐揚げ一つ摘まんで口に含むと。いつも通りほにゃっとした笑顔に戻る。

相変わらず単純ね。


「うまうま~♪ だんだん特製おべんとーはおいしいよー!」
「…。(ピク)」
「あむあむ。」
「んんっ! 本音? それは五反田くんが作ってくれたの?」
「ん~? そだよー。最近はいそがしーから、一緒にご飯、食べ…うええ~~。」
「ど、どうして泣くのよ? ほらこれで拭きなさい。」
「えぐえぐ…ちーん。う~。」
「それで? どうしたの一体。」


少し鼻の赤くなった本音に、もう一度訪ねる。
すると本音が、また大きな瞳を潤ませ口を開いた。

それから合間に挟んでお弁当食べるのはやめなさい行儀が悪いわよ。


「う~、だんだんがねー? はぐ、何か調べ物をしててー。んぐ、はむはむ…忙しいから…あむあむ、いっ一緒にご飯食べることが減っちゃって~んぐ。最近はりんりんと私にお弁当手渡した後にー、はむんぐ…何処かに行っちゃうの~。あむあむ、うまうま。」
「…。」

―――― ゴチンツ!!(愛の鉄拳)

「―――― っうええ~~~~!? い、いったあああぁぁぁいぃぃぃっ!」
「食べるのは後にして、ちゃんと話しなさい。」
「ご、ごめんさいぃ~~。」
「全く。」
「う~~~でも、なんだかいつもより威力があったようなー…?」
「気のせいよ(サラリ)」


そんなことある訳ないでしょう? いつもと同じです。
全く人聞きが悪いこと言わないで欲しいわね。
決して、羨ましいとかそんな事思っていません。

ええ、思っていませんとも。

本音が訝しげに私を見るけど、あら? 何かしら? 何か言いたい事でもあるのかしら?(スッ)


「な、何も言ってないよぉー、言ってない~。」
「コホン。それで? 五反田くんがお弁当を手渡してくれた後、何処かへ行ってしまって寂しいって話なの?」
「んー、それもあるけど~。」
「?」
「うー。だんだんが、困ってるから。私も何かしてあげられないかなーって思ったの。」
「…そう。」
「そうなのー。」


そう言って、しょんぼりする本音に、私は小さく苦笑する。
本当に、のんびり屋の上にお人よしなんだから。

それにしても、あの五反田くんが困っているという話を聞いて少なからず驚く。

五反田くんは、何事もそつなくこなす印象が強い。
そんな彼が困っている事態というのは一体どんな事を調べているのかしら。


「困っている事。本音? 五反田くんは何に困っているの?」
「んー。分からないー。」
「はい?」
「それが分らないからー。私も何をしてあげればいいのか分からないの~!」
「な、なんなのそれは全く。はぁ…。」
「おねえちゃん~~~~~。へるぷみー。」
「それで私にどうしたらいのか聞きに来たって訳なの?」
「そー。」
「この娘は全く…。」


鋭いのか、鈍いのか。
何に困っているのか、それが分らないと私にもどうしたらいいのか教えてあげられる訳がないでしょう。

再びしょんぼりとした本音に、私は内心呆れながらも。
とりあえず机の書類から意識を外し、本音に体ごと視線を向ける。


「まずは、五反田くんに話を聞くべきでしょう? 何に困っているのか、何を調べているのか。まずはそれが分らないと手の打ちようがないでしょう。」
「んー・・・でも、なんだか話題を反らされて気が付いたら、パフェ食べてましたー♪」
「誘導されてどうするのよ。」
「んーでもそれって、だんだんが私に迷惑がかかるのを嫌がったからだと思う~・。むー、そんな事気にしなくてもいいのに~!」
「成程ね。でも、それじゃいつまでも先に進めないわよ?」
「が、頑張ってるんだけど…うわーん! だんだんお菓子で誘導は反則だよ~。」
「お菓子でつられてどうするのよ貴女はっ!? 全くもう。」


頭を両手で押さえて『にゃあ~~~~~』っと叫ぶ本音に呆れつつ、私は溜息をつく。
この子は本当に。

それにしても、五反田くんは一体何を調べているのかしら?


――― そう思ったその時。


スパアァン!!(扉オープン)


「―――― 話は聞かせた貰ったわ!!」
「「会長(~)っ!?」」


パンッと扇子を広げ『盗み聞き』という文字と共に現れた楯無お嬢様。

…いえ、それはいいのですが。盗み聞きって。

そのまま生徒会室に入って来たお嬢様は。
私達に近づくと、そのまま流れるような手つきで本音のお弁当から唐揚げを一つ取り口に含む。

―――って、何をしてるんですか何を。


「~~~~~美味しい! 流石ダーリン! 料理の腕も大したものだわっ!」
「あー!ああ~~~!! 唐揚げっ! さ、最後の一個に取っておいたのに~~~!! うわああああん!」
「か、会長。本音が割と本気で泣いちゃったんですが?」
「え? あ、あれ? そんなに?」
「うえええぇぇ~~~~~! だんだんが作ってくれたのに~~~~~っ! 私のなのに~~~~~~~~~~っ! うええええええええぇぇぇぇぇん!!」
「もしかして、ダーリン分が足りてなくて、本音ちゃん結構まいっちゃってたの!? あ、あら~。これは不味い事しちゃったわね~(汗)」
「な、なんですかそれは?」
「ダーリンと一緒に居ることで補充される素敵成分よ? ダーリンと親しければ親しいだけ、ダーリン分がないと精神的に弱くなってしまうの。」 
「そうですか。はぁ…。」
「んふふ♪ 虚ちゃんの場合は、その成分が足りないから、仕事に没頭して寂しさを紛らわせてるのよね?」
「は、はい? なっ何を言って「だぁって。この書類まだ処理する必要のない案件よ? 昼食時間に生徒会室に来てやる程の事じゃないと思うんだけどー♪」そ、それは…っ。」


会長の言葉に、少し赤くなる。

い、いえ、別に寂しいとかそんな訳ではなくてですね?

ほ、ほらあれです。は、早いうちに片付けていた方が急な事態に対応できるじゃないですか。

ですから別にそんな意図は決した私にはなく―――。

そんな私の思考もお構いなしに、お嬢様がニコニコした笑顔で話を続ける。


「ま、それだけダーリンは周囲に与える影響力が半端じゃない存在ってことよ♪ 知れば知る程夢中になるよ。あの子は…ねっ♪」
「コホンっ!」
「ひっく。うううう~、ぐしゅ…ハム。あむあむ。」
「ああ~~~ごめんね本音ちゃん~。謝るから許してちょうだい。」
「む~~~~~~~~っ!!(お弁当ガード)」
「もう獲らないってば~。」


頬を膨らませ、お弁当を両手で固めながら楯無お嬢様を威嚇する本音。

そんな本音を微笑ましげに眺めるお嬢様。

そんな二人に視線を向けつつ、私は話を戻す。


「それで会長? 先程話を聞いたとおっしゃいましたが?」
「あ、そうそう。それなのよ。」
「む~?」
「もう、本音ちゃん! そんな面白…大事な話をどうして早く教えてくれなかったの!?」
「え~?」
「今副音声が…?」
「気にしちゃ駄目よ♪ まぁそんな事はともかく!」


パンッ!! 

もう一度、お嬢様が扇子を開き『助太刀』の文字と共に、高らかに宣言する。


「これより! IS学園生徒会は、ダーリンに全面協力する事をここに宣言します!!」
「え~~~~~~~っ!?」
「か、会長!?」


突然の宣言に、私も本音も驚いの声を上げた。

ぜ、全面協力って!!

はっきり言うと、それはとんでもない事です。

知っての通り、IS学園生徒会の力は学園内では相当の力を持っています。そして、さらに言えば、生徒会長であられる楯無お嬢様は、更識家現当主でもあります。

IS学園生徒会が全面協力。

つまりそれは、更識家の力も使う事も視野に入れた上でのという意味になります。
い、いくらなんでもそれは…!! 

事の大きさに私も本音も驚くけれど。そんな私達に、楯無お嬢様はウィンク一つしてニコリと笑う。


「んふふふ♪ そんなに驚く事じゃないわよ? ちゃんとこちらにもメリットはあるんだから♪」
「メリットですか?」
「そう。IS学園生徒会の力をダーリンに魅せるいい機会になるし。んふ♪ 私達と仲良くすると色々お得だって、教えられるじゃなーい。」
「え、えーと?」
「会長。まさか本気で…?」


私の呟きに、会長は―――― 楯無お嬢様は、瞳の輝きを一層強くし微笑む。

獲物を狙う鷹の如く。

悠然と、堂々と野を行く王者の威風をたたえながら、会長席に腰をおろす楯無お嬢様。


「――― ねぇ二人共。覚えてる?」


にっこりと笑うお嬢様に、私も本音も呑まれて。
ただ、自分達の主の姿を瞳にうつし―――――――見惚れる。


そうでしたね。
お嬢様は、昔からそうでした。

本音がほにゃっとした笑顔を向け。
私が小さな苦笑を洩らした事を確認した楯無お嬢様は満足そうに頷き――――。







「私って、本当に欲しいモノを手に入れる為なら…出し惜しみなんてしないの。最初から自分が出せる最高額を啓示するってこ・と♪」


そう、楽しげに言葉を漏らした。





後書き

お、遅くなりました・・・・すみません。まさかここまで更新が遅れるとは・・・さらに言えばまだバタバタしてまして、SS書く時間が取れないという悪循環におちいっております。まぁそんことはさておき、いよいよ動き出した弾に生徒会メンバー。さらにポニー&パッキンも交えて、鈴救済に向け本格始動です。さらに言えばパッキンも救済なるかもです。さて次回、情報収集に奔走です。手札が揃うのはまだ先か・・・? あー・・・早くなんとか落ち着かせないと・・・・。番外編で繋ごうかと思いましたが・・・・一巻軸終了させてからじゃないと切りが悪いのでやめときました・・・・・。



[27655] 第十九話  光明一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/11/27 21:56
ちわっす。最近シリアス続きで糖分足りてない五反田 弾です。


いやもう本当にどうしたもんですかねー?
二日前の出来ごとを思い出してみたものの、鈴の暴走を鎮めた後、せっかくいい感じになるかと思いきや、一夏のアホの鈍感ぶりのお蔭で台無しです。

まぁ、その次の日に豆腐を一夏の頭にブチ付けてやったがね。(その後、気を失った一夏の口の中に、豆腐がもったいないから醤油と一緒に流し込んでやった。)
あの野郎。木綿であった事に感謝しろよ…!!

まぁ~鈴の方は俺もフォローいれたし、のほほんちゃんの癒しパワーのお蔭もあって何とかなったが、根本的な解決にはなっとらんのもまた事実。

そしてさらに厄介な事態も発生したりするから、もう本当どうしろってのよ。

厄介な事って言うのは。
あれから二日経ったものの、一夏と鈴の間にどこかぎこちない空気が流れている事だ。

いきなり睨みつけてそっぽ向くとか、そんな分かりやすい事なら別に構わんのだが。鈴が一夏と視線が合っても、どこか気まずそうに視線を泳がせ、一夏の奴もそんな鈴の様子に何て声をかければいいのか分からないって態度が目立つ。

鈴は、俺の言葉を真摯に受け止めたから一夏の事を友人としては大目にみているものの、女としてはまだ許せずいる為、どう対応したらいいのか分からないって感じで。
一夏も一夏で、鈴を泣かせた上に、その理由も分からず、謝りたいものの、原因も分からず謝る事が出来ない為、行動出来ずに居るって感じだ。

ふむ、まぁ一夏にしてはいい傾向だ。
とりあえず謝ろうとは考えず、しっかりと原因を考えて、自分の非を明確にした上で謝ろうと考える姿勢は好ましい。うむ、やれば出来る子なんです。
しかし、恋愛面激鈍な一夏が、理由に気付いて本当の約束の意味に考えが至るのはとんでもない時間を有することは間違いなしだ。

うーむ。手を貸してやりたいがこれは一夏一人で気付かねばならん問題だから、俺は下手に助言できん、一夏の為にもならんしね。
それに俺も俺で忙しいからな~? 頑張れ一夏。

まぁ、いきなり暴発する様な事態になる事はないから今は二人共様子を見ておくだけで十分だろうね。
しばらくお互い色々と考えておくんなせぇ。俺も俺で調べなきゃならん事が多くてねー。ある意味では二人の今の現状は俺にとって都合が良いといえる。

それでも、いつまでもこの空気のまま放置はしておくのは不味いから、俺も迅速な情報収集が必要とされる為、少々焦っている感はいなめない。
おいおい、頼むぜ二人共。あんまり急かさないでほしいんだがなー。

ぬぅぅ…!! 後少しなんだが、確信がもてんと行動に移せん。もし勘違いでいらん手札を使っちまったら大惨事にもなりかねんからな。慎重にいかんとねー?


さて、長い前置きはこのぐらいにして。
今現在、俺は何処で何してるのかというと――――――。



五反田 弾! 只今、IS学園のPCルームで情報収集に勤しんでおります!!



流石に『七代目五反田号』頼みの情報収集じゃ限界が見え始めた俺は、IS学園のPCからアクセスを掛け情報収集をする事にしたんだが。

むぬぅ…!! やはりガードが固くて欲しい情報まで辿りつけんな。
流石はIS学園、簡単にはいかんか。 
『七代目五反田号』も、何かとアクセスを試みてくれているんだが、どうやら成果はないっぽい。

全く参ったねー?
とりあえず、椅子の上で胡座をかいて相棒と密談を繰り広げてみる。


「むぅ。やっぱりそう簡単にアクセスできんか。」
【あまり派手な侵入を試みると危険です。二代目。】
「流石淑女の花園IS学園。情報漏洩対策は万全だなー。」
【この二日で自分が集めたモノでは不足ですか?】
「いやー、確かにアレでもいいんだがな~? 俺としてはもっとガチッとした確信持てる情報が欲しいのよね。ほら、何か偏りが多いじゃんこれって。」
【そうですか。…折角集めたのに。】
「…いやうん、感謝してるぞ?」
【…折角集めたのに。】
「大事なことだから二回言ったんだね。分かります。」
【頑張ったのになー。】
「どうしろってのよ!? 役に立たなかったとはお兄さん言ってませんよ!?」
【あ~あ。】
「何が望みよ!? このいやしん坊め! どうしたら機嫌直してくれんの!?」
【愛してるって777回言ってください。】
「口が攣るから7回にまけてくれ!」
【ヘイカモン】
「愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! どうだ!?」
【歴代達は?】
「言葉じゃ表現のしようがねぇよ…(慈愛の瞳)」
【…もういいもん。】
「しまった! よけいに拗ねちまった! 相棒機嫌直してくれよー。」


拗ねて黙ってしまった相棒を宥めつつ、俺はキーボードを操作する手は止めずに作業を続ける。

最近、相棒が見返りを要求してくるんですが。

何でこんな子になっちゃたのかしら? お兄さんは悲しい。
お悩み相談室にそろそろ電話掛ける時期だろうか? 昼食時当たりの時間帯に。


まぁ、それはおいおい考えるとして。
さてどうすっかね~?
俺一人の情報収集もそろそろ限界が見え始めてきた。
ここは誰かの助けが必要となる場面だが、気が進まんのよね~。
ええいクソ。情報収集に特化した紳士『セバスチャン』とコンタクトを取れさえしたらこんなことにはっ!


「ふぬがああああ! ええいクソ! おのれ『ドーベル』! いらん時に余計なことしやがって! 空気読めってんだ! これだから最近のなんちゃって紳士は!?」
「…。(カタカタ)。」
「全く! 選抜試験はどうなってんだ? あんなのが簡単に入れるようなぬるい試験じゃない筈だぞ!」
「…。(カチカチ)。」
「一次選考から二次選考! そして最終選考! 三つの難関を越えてようやく手に出来る【世界紳士連合】の会員証は、あんな野郎思考の輩が持っていいもんじゃないというのに!!(バァン!!)」←勢いに任せて机を叩く。
「っ!?(ビクッ)」
「嘆かわしい! 実に嘆かわしい! 全くマジありえねー。」
「?(ブルブル)」←ちょっと怯える。
【相棒。気持ちは分るが落ち着け。興奮しすぎて周りが見えてないとは相棒らしくない。】
「む? 七代目、何の事だ?」
【右手をご覧ください。】
「ふむ? (さっと右手を眼の前に持ってきて眺める)…手だな。」
【右向けつってんだ。】
「そう言えよ!」
【言ったじゃん!】
「…あ、あの…静かにしてほしい…。」
「おおう? 何かしらん。この右鼓膜を震わせる保護欲そそる控えめボイスは? 」


聞こえてきた控えめボイスの方角に顔ごと視線を向ける。

その視線上の先にいたのは。
俺と同じくパソコンを使って、何やら難しそうな公式をパネル上に展開してキーボード
操作をしている控えめ雰囲気溢れる可愛らしい水色髪の眼鏡っ娘さんでした。


おおう。こんな可愛い子がすぐ右隣に居た事に気が付かなかったとは。

俺に向ける視線に若干眼が怯えを含んでいる所をみると。どうやらさっき俺が机を叩いてたてた音で怖がらせてしまったようだ。

な、なんたる失態!? 紳士としてあるまじき行いだ!

慌てて椅子の上で姿勢を正し、DOGEZAを行う俺。
ぬぐおおお…五反田 弾! 一生の不覚なり!!


「すんません! 驚かせた上に、怖がらせてしまうとは本当に申し訳ない! お詫びに『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を差し上げますから許してください! ちなみに中身はどれも安心安全味見済みのハズレ無しだから安心して喰ってくだせい。(ササッと弁当箱を差し出す)」
【美味いよ】
「え…? べ、別にいらない…。」
「そう言わずに! さぁ!」
【さぁ!】
「え、ええぇ…?」
「さぁ! さぁさぁ!」
【喰ってやってください。お願いします。じゃないと今晩あたり相棒泣きます。】
「…い、一個だけ…。」


俺と『七代目五反田号』に勧められるまま、恐る恐る弁当箱に手を伸ばし『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を一つ掴む眼鏡ちゃん。
そのままこちらをチラチラうかがいながら、おにぎりの頭部分をカプリと一口含み食べ始める。

ははは。具まで辿りつくまで少々時間を有する模様です♪(慈愛の瞳)

ああ、なんだろう。小動物を連想させる仕草がグッときます!!
何故だ! 俺の魂が雄たけびをあげている!? 一体何故だ!?

モソモソ食べる姿をしばし愛でていたが、ようやく具に辿りついたようで驚いたように僅かに眼を見開いた。
おおう? 何が当ったのかね。


「…卵。」
「おおう、味付け卵が当たったか! これは何気に美味いのよねー。どうかね?」
「…美味しい。」
「やったぜ相棒!」
【自分のお勧めは『ご飯で○よ』です。】
「捻りがない! つまらん!」
【相棒のお勧め『具がない? 愛が入ってるのさ!』の塩ニギリよりましだ!!】
「具なんか飾りです!! 偉い人にはそれが分らんのです!!」←自らコンセプトを否定。
「…え、ええぇ…?(汗)」


騒ぐ俺と相棒に、何処か戸惑った視線を向ける眼鏡ちゃん。
その表情も可愛らしいね。

しかし、ふむ? なんか誰かと似ている気がするねー。

そのまま眼鏡ちゃんがオニギリを食べ終えるのを待ち、ようやく自己紹介へと行き着く俺と相棒。
ちなみに俺は椅子の上で正座しとります。特に意味は無いがね!(何故か得意げ)


「そんじゃ改めまして。どうも、五反田 弾です。こいつは俺の相棒【七代目五反田号】といいます。よろしくなー。」
【よろしくお願いします。】
「…知ってる。」
「おおう? そいつは嬉しいね! でも何故かね?」
「…ISを扱える男子の一人だし…名前くらいは。」
「それもそうか。」
「…それに。」
「ふむ?」
「…本音に。」
「おおう? のほほんちゃんと知り合い?」
【相棒、もしや彼女は楯無嬢の。】
「っ! …。(フイッ)」←視線をディスプレイに戻し、操作に戻る。
「む? …おお! もしかして――――!?」
「…。(カタカタ)」
「君がかんちゃんかっ!!」
「――――――――(ゴンッ!!)―――っ!? っ!?」
「へい、どうしたかんちゃん!?」
【大丈夫ですか、かんちゃん!?】


いきなりキーボードに頭を打ち付けて、額を抑えて悶絶するかんちゃん。
一体何が彼女を駆り立て、こんなリアクションを求めたのだろうか?

いや、額をゴシゴシと撫でる姿も可愛いからこれはこれで良しだが。あー、少し額が赤くなっとるねー。

しばらく撫でて痛みが引いたのか、ちょっと涙目のかんちゃんがこちらに振り向いた。
うむ、萌えます。
成程、先程から俺の魂を揺さぶっている正体が分ったぜ。
かんちゃんの妹属性が、最近妹分の足りてない俺の魂に揺さぶりを掛けていたのだな!

くっ流石ハニーの妹さんだ。妹度が半端ねぇぜ!!! まさか蘭以外にこれ程の妹度を持つ娘がいたとは!?

全く、こんなに可愛い妹に嫌われるなんて何してるんだハニーは。 あの未熟者が!!



【楯無 SIDE】

「――――――――――【ドシュウッ!!】 はぐうううぅぅッ!!?」
「―――っど、どうかしましたかお嬢様!?」
「大丈夫ー?」
「がっ!? 胸、に…急に、鈍い痛みがぁ…っ!?」
「「はい?」」


【楯無 SIDE END】



【―――― 相棒、暫定シスコン? の苦悶の叫びをキャッチしました。】
「ふむ? 愛の遠距離ムチが届く位は、妹魂力は回復したか。ハ二―も世話が焼けるね~、やれやれ。」
「…あ、あの…。」
「へい呼んだかい! かんちゃん!」
【額は大丈夫ですか、かんちゃん。】


再び、鼓膜を擽る控えめボイスに即座に反応する俺と相棒。

どうかしたのかね?
何やら訴えるような視線を俺に向けているが・・・ふむ。


「よし、弁護士を呼んでくれ。」
【相棒、色々ブッ飛びすぎです。】
「そ、その呼び方止めて…。」
「何がだいかんちゃん?」
「だ、だから…か、かんちゃんて呼ばないで…!」
「え? そんな、会って間もないのに呼び捨てで呼んで欲しいなんて。結構大胆なのね。」
「そ、そうじゃなくて…!?」
【名字で呼んで欲しいのでは?】
「味気ないが、それで良いならそうするがね?」
「…それもちょっと。」
「ふむぅ。それじゃあ良い呼び名が必要だね~? かんちゃんの本名は『更識 簪』だから~…相棒何かないか?」
【―――― サテライト式 KANZASHI。】
「メチャメチャ強そうだなオイ!? 月は出ているか!?」
「だ、だから…っ!? は、話を聞いて…!?」
「おう、勿論聞くともKANZASHIちゃん!」
【どうかしましたか? お望みならダブルも付けます。】
「…も、もうかんちゃんでいい…。(がっくり)」
「うむ。やっぱその方が可愛いもんな?」
【良い響きです。】


無事呼び名が決まったことに安心した俺は。
ふと、かんちゃんの目の前に展開されているパネルが気になり少しだけ覗き込んで見る。

―――― なんじゃこれ?

俺には理解不能な公式やら数字の羅列やらが並んでいて、はっきり言って何が何やらちんぷんかんぷんです。
しかし、かんちゃんが先程からこのディスプレイを眺めながら操作していた所をみると、どうやら彼女には理解出来ているようだ。


…もしかしてかんちゃんって、かなり凄い娘?


俺が若干呆気にとられているのに気が付いたかんちゃんは、少し顔を固くし、そのまま俺を無視して作業に戻った。

うん?


【これは、ISを構築する制御システムの基礎組織の数式ですね。まさかその若さで手を加える技術をお持ちとは御見逸れしました。かんちゃんSUGEEEE!!?】
「おおう? それって凄いのかね?」
「…。(カチカチ)」
【凄いです。どの位かといえば、盆踊りから驚きの転身でサンバを踊りだすお婆さん並みに凄いです。】
「――――(ゴンッ!)」←再び頭を打ち付ける。
「かんちゃんスゲェっ!?」
「…そ、そんな驚き方されても…嬉しくない…!」
「いやいや、相棒にここまで言わせたんだ。相棒はおいそれと他人を素直に賞賛したりせん捻くれ者やからねー? かんちゃんが凄い子だってのはそれだけで十分理解出来るぞ?」
【色々失敬ですね。】
「…別にこんなの。」


…ふむ?
何やら小さく呟いて再び作業に戻るかんちゃんに、俺は小さな違和感を覚える。
その横顔が、少し暗い事に気付いて、内心頭を捻る。

何故か分からんが、思考がネガティブに入ってるのかね?

さっきの一連の流れで落ち込ませるような事あったっけか?
純粋に賞賛しただけなんだが、誉められるのが苦手って訳でもないよな?

ふーむ?


【相棒、一つ提案があります。】
「おおう? なんじゃらほい?」


少し考えこんでしまった俺に、『七代目五反田号』が提案を申し入れてきた。
一体何だろね。


【此処で出会えたのも何かの縁。ここは一つかんちゃんの力を借りてみてはどうでしょう?】
「かんちゃんの?」
【はい。彼女の技術力は眼を見張るモノがあります。今の自分達に彼女の力は大変魅力的です。】
「…いや、でもなぁ~?」
【相棒の気持ちも分かります。が、時間がないのもまた事実。このままでは目的を達成できません。】
「…会って間もないのに図々しすぎないか?」
【そんな事言っている時間がありますか? 相棒、決断を。】
「…。」




【――― 相棒。意地を通す為に、あなたは鈴を見捨てる気ですか?】




…ずるい言い方するねぇ?



―――― 全く、本当に最高の相棒だよお前は。



やれやれ、しょうがない。
俺の意地なんざ、その辺の屑カゴに捨てて、目的という果実をもぎ取るとしようかね?

俺はかんちゃんに視線を戻す。
するとかんちゃんの方も、先程の俺達のやり取りをチラチラうかがっていたようで、俺が視線を向けると、慌てたようにディスプレイに視線を戻し手を動かす。

あっはっは。別に気にせんよ~?

ま、それはともかくと。


「へいかんちゃん! ちょいとお時間よろしいですかね?」
「…今は、忙しい。」
「そんな連れない事言わないでよ~。かんちゃんの力を借りたいんだ。」
【お願いします。】
「…私?」
「そう! かんちゃんの!」
「…別に私じゃなくても…もっと他に頼れる人…いるでしょう。」
「ふむ? …え、誰?」
「誰って…ね、姉さん…とか。」
「ふむ? 何故にハニー?」
「…え…?」
「ああ、いや別にハニーじゃ不満だって訳じゃないよ? けど何故に今ここでハニーが出てくるのかね? 頼りになるのは分かるがね?」
「だ、だって…私なんかに頼るより…姉さんの方が…。」
「私なんかって、いやいや、十分凄いってかんちゃん。何言っとるのよ?」
「こんなの全然凄くない…姉さんに比べたら…私…なんて…。」


そう言って、顔を伏せるかんちゃん。

…ふむ。

どういった経緯かあったのか詳しく知らんが、どうやらかんちゃんはハニーに対して強い劣等感を持っているようだ。

まぁ、ハニーは只者じゃない感バリバリだからねー? 持っている存在感とカリスマも半端ないし。学園最強って言ってたしなぁ。

ふむ成程、完全無欠な姉を持った事に対する負い目か。
しかしいくらなんでも、自分を此処まで卑下にするのはちょっと変過ぎ…ん?

完全無欠?

…おい、ハニーまさかとは思うが…まさかとは思うが。いや、ハニーなら上手くやりかねん。

俺は頭に浮かんだ一つの懸念を確かめる為に、かんちゃんに話掛けて見る。


「かんちゃん? 一つ質問があるんだがいいか?」
「…?」
「かんちゃんさ? ハニー…じゃない、お姉さんの楯無さんが何かで失敗したり、躓いたりしてる姿って見た事ある?」
「…え?」
「ちょいと大事な事なんだ。教えてくれるかね?」
「何言ってるの…?」
「ふむ?」
「…姉さんが、失敗なんかする訳ない…。」
「ほほう?」
「姉さんは…私なんか足元に及ばないくらい…完璧な人なんだから…そんな事ある訳ない…。」
「ふむ? つまりかんちゃんは、お姉さんが失敗を起こす姿を見た事がない。そう言う事でいいかね?」
「(コクン)」
「今まで一度も?」
「…う、うん。」
【相棒、これは】
「おおう…マジかよ。」


戸惑いがちに、俺の質問に答えるかんちゃん。
その顔は、何でこんな質問するのか理解できないって感情がありありと浮かんで見える。

おいおいハニー! とんでもない大失敗起こしちゃってんじゃないかよ!? こりゃ姉妹仲が拗れるのも仕方ない事態だぞ!?

なんてこったい! と、俺は内心頭を抱える。何をやってんのよハニー。
いや、気持ちは分かるぞ?
痛い位分かるとも、俺も妹を持つ身だ。ハニーの気持ちは物凄く理解できるが…上手くやりすぎだ。

いや、ハニーの事だから自分の失敗に気付いてるんだろうが。

だったら何でこんなになるまで放って――――っああ成程そういうことか…引くに引けなくなっちゃったのか。

ええい! 全く最近次から次へと問題発生のオンパレードだな!? セールでもしてるのかね? 買った覚えないわ!


…しょうがないね~本当に。


内心苦笑し、俺はかんちゃんに視線を戻して口を開く。
問題山積みで目眩を起こしそうだが…まずは、このすれ違いを起こしまくってる仲良し姉妹をなんとかしますか。


「かんちゃん。お兄さんからの提案、もといお願いがあるのだが?」
「…お願い?」
【相棒、同級生です。】
「んなことは今はどうでもいいのよ! へいかんちゃん!」
「っ!?(ビクッ)」
「お姉さんが、完全無欠の存在だと思っているその考えを、今すぐポイしなさい。百害あって一利なしだそんなモン。」
「…え…!?」
「この世に天才とか、優秀な人とか、凄い人とかは確かに存在する。けど、完璧な人ってのは存在しないよ。今までも、そしてこれからも絶対に現れない。だから今すぐポイしちゃいなさい。お姉さんが完璧だなんて言葉遊びにもならない考えは。」
「…っ!? な、何で…!?」


俺のお願いに、表情を驚きと困惑に染め上げるかんちゃん。
まぁ、いきなりこんな事言われたんじゃ仕方ないかもしれんが。んちゃんのその考え方をどうにかせんと碌な事にならんからね。

かんちゃんにとっても、ハニーにとっても。その考え方はお互いに苦しみしか与えてくれないから。

だから、まずはそれを取り除かんといかん。


「かんちゃん。聞くけど…完璧って何さ?」
「…え?」
「頭が良くて運動も出来て性格も明るくお茶目で、その上カリスマも半端なくて家が代々続く名家。かんちゃんの完璧ってこういう事?」
「そ、それは…。」
「うん違うよな? そりゃ唯の凄い人だ。完璧ってのはそんなもんで片付けられるもんじゃない。そもそも完璧ってのに明確な定義なんてないからね? 何やったって、どうしたって完璧なんてモノはありえないもんなんだよ。周囲がいくら完璧だと言っても、一人でもケチをつけられたらそこで終了しちまうからな?」
「!?」
「完璧ってのは理解できない代物だ。想像することも明確な物を例える事もできない未知の領域。誰にも理解できない存在。」
「…。」
「そして、そんな理解の範疇を超えている存在に、人が行き着く感情は一つ。」
「…な何…?」
「決まってる、恐怖だよ。」
「っ!?」


俺の言葉に、かんちゃんが衝撃を受けたように体を強張らせる。
その様子を見るに…やっぱりそうか。

かんちゃんはハニーに、完璧な存在だと思い込んでる姉に。恐怖を抱いてるんだ。
けど、それだけじゃない
完璧ってモノは…そう見られている存在にも牙を向ける碌でもないモノなんだよなぁ。

その事をかんちゃんが理解しないと、姉妹の溝は広がるばかりだ。
その為にも、今ここで考え方を変えてやらなきゃならない。


「その様子だと。やっぱりかんちゃん怖がってたんだね? お姉さんの事をさ。」
「あ…あ…何で…っ!?」
「そりゃ分かるさ。人は理解の範疇を超える存在を恐れる生き物だかんねー? それが何であれ至極当然の事だよ。それが肉親であっても例外じゃない。」
「っ!!」
「でもな? かんちゃん。さっきから言ってる様に完璧な人ってのは存在しないんだぜ? お姉さんだってそうだ。凄い人だけど完璧な人じゃない。だから、怖がる必要ないんだぞ?」
「で、でも…!」
「あー、それからもう一つ。かんちゃん勘違いしてるから言っとくぞ。」
「な、何…?」
「かんちゃんさっき、お姉さんが失敗なんかする訳ないって言ったけど。そりゃ間違いだ。お姉さんは恐らく何度も失敗を経験してる筈だぜ?」
「な…!? そんなこと…!!」
「ない筈ない。というか失敗した事もない人間なんてこの世に居ねぇと思うよ? 何かしら失敗して、それを教訓に成長するのが人間だし。『失敗は成功の母』っていうじゃん。いや父か? 野郎はいいから母でいこう。」
「でも…!! 私はっ!」
「もし、かんちゃんが本当にお姉さんが何かに躓いたり失敗したりする姿を見た事がないって言うなら・・・・理由なんて簡単に説明つくぞ?」
「!?」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳が大きく見開かれる。
そんなに驚く事じゃないと思うがね? 誰でも抱くごく普通な理由なんだから。

かんちゃんが、姉が失敗する姿を見た事がない理由は一つ。


「理由は単純。――― お姉さんが、大好きな妹に自分の格好悪い姿を見せたくなかったから、だよ。」
「――――――――っ!?」
「俺も妹を持つ身だからね~? お姉さんの気持ちは分かるわ~。そりゃ、妹には自分の格好悪い姿なんて見せたくないわな・・・自慢の姉だと、こんなにも凄い姉を持っているんだと妹には思ってほしいよな。」
「そんな…こと…。」
「あり得るねー、お姉さんの事だ、良い所だけ格好良い所だけを見せて、それまでに至る努力も、失敗も全部隠してしまう。その位の事なら、やってのけて見せると思わないかね? お姉さんならさ。」
「――――――――――。」
「けど、それこそが最大の失敗だった事に気が付いた時のお姉さんの絶望は・・・正直どれ程のものだったか。考えるだけでゾッとするね。」
「――――――っ!? さ、最大の…失敗?」
「ああ、最大の失敗だ。そしてそれは、今でもお姉さんを苦しめて、かんちゃんをも縛り付けてる。」
「――― そ、それは…何…!? 何、なのっ!?」


かんちゃんが身を乗り出して、俺に訪ねてきた。
長年、自分と姉との間に存在する溝。

俺の放つ言葉は、その溝を埋める手掛かりの一端を見つけたようなものだ。是が非でも知りたい事だろうから当然の反応だろう。

なんだかんだ言いながらも、かんちゃんだって姉との関係を改善したかったんだな。麗しい姉妹愛だねー。

勿論、俺はそんな二人に手を差し伸べる。


「――― 妹の前で、完全無欠な姉である自分を上手く演じ過ぎてしまった事だよ。」
「…え?」
「『完全無欠な存在、更識 楯無』。それを妹であるかんちゃんの前で上手く演じ過ぎてしまったから、お姉さんはかんちゃんの前で失敗する事ができなくなっちまったんだ。」
「な、何…で?」
「怖いんだよ、お姉さんは。」
「…?」
「―――― ずっとずっと、完璧な姉を演じて来てしまったからこそ。もし何かで失敗してしまい、その姿を見られて―――― 愛する妹に失望の眼を向けられてしまうかもしれない事が――― お姉さんは一番怖いんだよ。」
「―――――――ッ!?」
「失望されるのが怖くて、嫌われるのが怖くて。他の誰でもない、大好きな妹にそう思われてしまう事が。」
「…そ、んな…。」
「だからこそハニーは我武者羅に上を目指した。努力して努力して、ただ純粋に上を目指した。怖くて怖くて仕方なかったから、妹に失望されるのが、嫌われるのが、蔑まれる事が。けど、その結果は…かんちゃんとお姉さんの間に大きな溝しか作らなかった。」


そこで言葉を区切り、俺はハニーを思った。

この結果に行き着いた時の絶望は…どれ程彼女を苦しめただろうか? どれだけ後悔の念に苛まれただろうか?

妹に失望されるのを恐れたからこそ、姉は上を求め努力し続けた。
妹との時間を犠牲にしてまで、唯ひたすら完璧を求めた。

けれど、そんな姉の姿に妹はいつしか劣等感を抱き、やがてそれは恐怖に変わった。姉と自分は違うと、比べる事すらおこがましいという考えに至る程…自分が無能であると思い込んでしまった。

意図的ではなくとも姉は妹と距離をとり、そしていつしか妹も姉を避けるまでになった。
お互い嫌われる事を恐れた故のこの結果。


お互い心の底では大切に想っているというのに。皮肉な話だ。


――― けどそんな悪夢。そろそろ終わらせようぜ?


思考を区切り、俺は色々とショックを受けているかんちゃんに視線を戻す。
この問題を解決する為の最大の鍵。

それは、かんちゃん自身。

かんちゃんならきっと大丈夫。きっと上手くいく。
かんちゃんは唯受け止めてあげれば良いんだ。

大好きなお姉ちゃんを、ただ純粋に受け止めてあげればいいだけ。
かんちゃんにはそれが出来る筈だ。

その為にも。かんちゃんの本心を引き出してやらなきゃな!

そのまま俺はヘラっと表情を崩して、かんちゃんに話掛けた。


「なぁ、かんちゃん?」
「…っ! な、何…?」
「もし、お姉さんがかんちゃんの眼の前で失敗を起こしてしまったら・・・かんちゃんどうする?」
「!」
「完全無欠が崩れたお姉さんに失望する? 笑う? 蔑む? 騙したなって罵倒する? 自分に惨めな思いをさせてきたお姉さんを憎む?」
「――――っな!?」


突然の俺の言葉に、かんちゃんが驚愕の表情を向ける。

―――― 良い反応だ。

そのまま俺は続けて言葉を紡ぐ。


「そう思って良いんだよ、かんちゃんは? だって今まで騙してたんだからお姉さんは君を。罵ったって良いんだ。失望したって言ってやっても良いんだよ?」
「――――――――――――っ!」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳に一つの感情の波が浮かぶ。
視線をキッと強めて俺を睨みつけ、膝の上に置いてある小さな手がブルブルと震えているのが見てとれた。

―――― もう少しだ。

そんなかんちゃんの姿に、俺は気が付いてない様を装いながら、さらに言葉を続けた。
さぁ来い! かんちゃん!


「今まで散々比較されて嫌な思いしてきたでしょ? 言ってやればいい。スカッとするよ~? この大嘘つき、見栄ばっかり張って来た貴女みたいな姉を持って恥ずかしいって――――――――」
「―――――――――――ッッ!!!!!!」




――――――――― パァンッッ!!!!



左頬に鋭い痛みが走り、その勢いのまま顔を仰け反らせる。

…おおう。流石想いの籠った一発だね、ジンジンと痛いわ。

頬を抑え、俺は顔を正面へと戻しかんちゃんに視線を向ける。
右手を振り切った体制のままの、かんちゃんの姿最初に映り――――

そして次に俺の瞳に映ったのは、瞳に怒りを宿したかんちゃん…いや。


姉の為に怒りを露わにした少女。更識 簪の姿があった。


「――――― 勝手な事、言わないでっ…!!」
「…。」


さっきまでのオドオドした態度はなりを潜め、俺を睨みつけるかんちゃん。
俺と視線がぶつかり、若干の怯えが瞳に映っていたが…それでもグッと踏み止まって真正面から俺と対峙する。

ふむ。やっぱり強い子だね。


「そんな事、思ったりしない…! 騙されたなんて、思う訳ない…!」
「ふむ?」
「か、完璧じゃなくても…! ね、姉さんは凄いんだから…! し、失敗したって…か、完璧じゃなくたって…そんな事どうだっていい…!!」
「…。」
「失敗する姿なんて…そ、そんなのまだ想像すら出来ないけど…! でもっ! 例え、失敗する姿を見たって…し、失望なんかしたりしない…!!」
「…へぇ? それは何で?」


俺の気の抜けた質問の仕方に、再び瞳に怒りを宿しキッと睨みつけてくるかんちゃん。
そして、俺に挑むように、叩きつけてやるように言葉を放つ。


「――――――― お姉ちゃん、だから…!」
「…。」
「わ、私の! たった一人の…! お姉ちゃん、だから!」
「―――――。」






「――――― そんな事ぐらいでっ!! お姉ちゃんを嫌いになったりなんか、しないっ!!」







「…。」
「だから…! か、勝手に私の心内を…決めつけないで…!」


そこまで言うと、ギュッと膝の上に置いてある両手を握りしめ顔を伏せるかんちゃん。
次に発せられる俺の言葉に不安なのか。体を小気味に震わせているが…絶対に引かないという意思の強さは見てとれる。

控えめな気質のかんちゃんが、逃げもせずこの場に留まっている事がその証拠だ。

…内にたまった想いようやく口にしてくれたねー。
なら、もう大丈夫。

あとは、ただそっと背中を押してやればいいだけだ。


「――― そんじゃま、次はその想いをお姉さんに話してみなよ。かんちゃん。」
「――― え…?」


俺の言葉に、さっきとは変わった呆けた声をだすかんちゃん。ゆっくりと顔を上げて、視線を俺に向ける。
そんなかんちゃんに、俺はヘラリと笑い返した。


「俺に向かって、あそこまで言ってみせたんだ。もう、想いを口にする事にそんなに抵抗感はでないでしょ?」
「あ…え…?」
「俺は練習台。舞台の本番はお姉さんだからね~?」
「え?…え、え…!?」
【中々の小悪党ぶりです。二代目】
「俺としてはご免被りたい配役だがねー? 何が悲しくて淑女の悪口言わねばならんのよ?」
【時には、それも紳士の務めです。相棒。】
「それもそうか。」 
「あ、あの…? ど、どういう事…?」


一気にガラリと変わってしまった空気に、かんちゃんが戸惑った表情を浮かべる。
まぁ無理もないか。

とりあえず、俺はかんちゃんに向き直り、話を進める。


「かんちゃんに必要なのは、今言った気持そのままにお姉さんに伝える事だな。そうすりゃ後は順次上手くいくと思うぜ? かんちゃんとハニーには、きちんと話しあう時間が必要なだけだからな。」
「な…!?」
「リハーサルは終了ってな? 次はお姉さんに、さっきみたいに想いをぶつけてやんなさいな。きっと、お姉さんもかんちゃんのその言葉を・・・・誰よりも望んでいる筈だからね?」
「っ!…う。」
「もし、一人じゃ不安なら俺が付き添っても良いし。のほほんちゃんに頼んで一緒にお姉さんに会いに行ったって構わない。大事なのはかんちゃんの言葉で、かんちゃんの口でお姉さんに伝える事だからさ。」


俺の言葉に、かんちゃんが驚いたように眼を見開いた。
そんなかんちゃんに、俺はまた微笑んで言葉を放つ。


「話をしてみようぜ。お姉さんきっと待ってるよ? 大好きな妹を。かんちゃんと笑って話が出来る―――― そんな些細な幸せな時間が訪れる事を。」
「――――――――――――っ。」


言い聞かせるように、俺はかんちゃんに言葉を告げた。
今すぐって訳にはいかないかもしれない。

それだけ長年にわたって二人を縛っている溝は深く。そして暗い。
けれど、きっと俺の助言は何かしらのきっかけにはなる筈だ。

今まで恐怖に埋もれて、口に出来なかった姉への想い。知らなかった姉の苦しみ。
それを知ったかんちゃんなら…きっと大丈夫だ。

願わくば、一分一秒でも早く、この姉妹の悪夢が覚める事を…ただただ願う。



「…して…?」
「おおう? 何か言ったかね、かんちゃん。」


ぽつりと、かんちゃんが小さく呟く。
余りにも小さい声なため聞き逃したしまった。むぅ、不覚!

そんな俺の事などお構いなしに、かんちゃんは戸惑った視線を俺に向ける。


「…どうして、そうまで…言ってくれるの…?」
「ふむ?」
「だって…会って間も無いのに…何でそこまで…言ってくれるの?」
「ああ成程ね、そう言う事か。んなもん決まってるぜ! 俺が紳士だからだ!」
「…な、なにそれ…?」
「俺は紳士だからね~? 困っている淑女、悲しんでる淑女、苦しんでいる淑女には例外なく手を差し伸べるのさ。」
「…そ、それだけ…?」
「それ以外に理由はない! って言いたい所だけどね。今回はちょいと理由があったりする。」
「?」
「友達の友達を助けたいって思うのは――― 別に変な事じゃないと思うがね?」
「っ!」


びっくりしすぎたのか、眼を見開いて俺を凝視するかんちゃん。
ふむ? 別におかしな事は言っとらんと思うがね?

のほほんちゃんの大切な友達であるかんちゃん。
そして、ハニーの妹さんで。きっと虚さんにとっても大切な存在であるかんちゃん。

助けたいって思うのは至極当然だろうに。
それになにより、女の子には幸せになって欲しいのよ俺はね。

しばらく固まったままのかんちゃんだったが。
少しづつ表情が緩んで、ちょっぴり頬を桃色に染めて視線を落とし、ポソポソと言葉を発した。


「あ、あり…がとう…。」
「おおう! 最高の報酬だぜ! やったぜ相棒!」
【記録しますか? 売れますよ、主にシスコンとかシスコンとか…あとシスコンとか。】
「より取り見取りだな!?」
「…あ、あの。」
「おう? どうしたかんちゃん?」
「わ、わたし…お、お姉ちゃんと…話してみる。」
「おおっ!? その意気だかんちゃん!! 応援するぞ! もし不安ならいつでも付き添ってあげるからなっ! いつでも呼んでくれよ?」
「…う、うん。」


小さくうなずいて、そっと笑うかんちゃん。
―――ぐおおおおお!? 何だこの可愛さはっ!?
静まれ! 俺の魂ぃ!

流石はハニーの妹さんだ! これなら即シスコンになるのは仕方ないなぁ。

そんな俺のニヨニヨした表情に、かんちゃんは恥ずかしそうにしていたが―――
ふと、俺の顔を見てハッと顔を強張らせた。

ん? 何か憑いてるか? 守護霊なら俺が小学生の時にマジ泣きして、あの世に帰って行ったからいない筈だが。(大丈夫かこいつ・・・)

そんな俺の思考などお構いなしに、かんちゃんは一人オロオロし始める。
一体どうしたんだろね?


「あ、あ…あああの…! ほ、ほっぺた…!」
「ホッペター…? 何その新種のポケ○ンみたいな名称の生き物は? どこよ? 何処に居るの?(キョロキョロ)」
【弱そうですね。】
「ち、ちがくて…! あの叩いちゃって…! ご、ごめん…!」
「あ・・・あーその事か、別に気にしてないよ? 叩かれて当然やからねー。あと五発ほどいっとくかね? ヘイカモン!!」
「っ!(ブンブン)」
「えー…そう。(ガッカリ)」
【相棒、マゾいのは自重しましょう。】


そんな俺と相棒のやり取りも耳に入っていないのか、かんちゃんはオロオロとするばかりで落ち着かない。

その後も、色々と押し問答があったが、かんちゃんは納得いかない様子。
本当に気にしなくても良いんだがねー?

かんちゃん的には、ちゃんとお詫びをしたいらしいけど…ふむ。
別段してもらいたい事なんて今は特に――――。


……。


あ。


「―――っあるじゃないのよ俺の馬鹿ン!! 当初の目的忘れてましたよ!?」
【かんちゃんの力を借りる事が目的でたね。】
「…?」


すっかり当初の目的を丸投げしていた事に気が付いた俺と相棒。
ええいしまった! 一つの問題が解決する目途が経って気を抜いちまった!!

まだ俺には片付けなきゃならん問題がゴロゴロしてるってのに!

その為にも―――!!

俺はかんちゃんに向き直り、その手を握りかんちゃんを見据える。
突然の行動に、かんちゃんは驚き…ボッと顔を赤らめる。

恥ずかしがり屋なのねー…ってだから和んでる場合じゃないって俺!


「――――― へいかんちゃん!!」
「―――ひゃ、ひゃい…!?」
「少しでいい! かんちゃんの力を俺に貸してくれ!!」
【お願いします。かんちゃん。】
「は、はい…!」


俺と相棒の言葉に、かんちゃんは小さく―――でもしっかりと頷いてくれた。





*   *   *





カタカタ。

ピッ――― ヴォン…。


「…アクセス完了。」
「――― おおう! 流石かんちゃん!!」
【素晴らしいの一言ですね】
「…べ、別に…ただ教職員の先生のアクセス権限を…利用させてもらっただけだから…。」
「いやいや十分だ! 俺が知りたいのは機密でも何でもないからね、ある程度の権限で見れるもんだからなー。つってもそれすら侵入する事が出来なかったんだがなぁ。」
【強引に行けば可能ですが間違いなく大問題になりますからね。】
「流石に俺が動けなくなるような事態は避けたいからな。本当に助かった。ありがとうかんちゃん。」
「う、うん(照)」
「えーと鈴の奴は…あ。あったあった! かんちゃん、このツインテールのチャイナっ娘さんの資料を開いてくんない?」
「…分かった。」


カタカタ―――― ビュワン!


「―――― っ!? これは!!」
「ど、どうしたの…?」
【何といことでしょう…!?】
「なんてこったい…! 鈴の奴…!?」
「…?(びくびく)」
【まさか、4センチもサバを読んでいたとは!!】
「無茶しやがってっ!!」
「…どこ見てるの…?」
「【ごめんなさい】」
「…もう。」
「さて、冗談はこの位にして――― っとぉ、これだ。かんちゃんお願い。」
「…うん。」


ビュワン―――。


「――――――――――――っ!!?」
「…。」
【相棒。】
「こ、これって…。」
「成程ね…まさかここまでとは…。」
「あ、あの…これって…!」
「相棒、文面を【記録】。やれるか?」
【勿論です。】
「…だ、弾。あの…。」
「ん。大丈夫だ。しかしこれは参ったね~…」
【――― 完了です。】
「さて、長いは無用だ。面倒臭い事になる前に、かんちゃんさっさと撤退だ!」
「…う、うん!」


カタカタ。


【相棒。】
「分かってるよ。こりゃあ中々一筋縄じゃいかんなー。」
【ですね。】
「――――だが、情報に確信は得られた。これでようやく動けるぜ。」
【では?】
「ああ、情報は十分だ。色々と問題は多いし厄介なことこの上ないが―――。」
「…?」







「――――― 集めなきゃならない必要な手札が何かも、ようやく判明したぜ。」







後書き


盆休み  仕事に追われた  盆休み (字余り)あんまりですご先祖様。みなさんお久しぶりです! 未だに色々忙しい状況が続く釜の鍋です・・・・・・。流石に更新しなきゃ忘れ去られそうなんで勢いのまま執筆して更新しました。さて、ようやく情報が集まり、まさかのかんちゃん参入です。この姉妹には早く幸せになって欲しいです。さて次回、手札を集めに動き出す弾! そこに問題抱えた金髪登場、さらに生徒会がやって来てもう大忙しです。ワンサマー・・・ほとんど出番なしです。・・・・SS書いてる時が一番心休まります・・・・早く一巻軸終わらせたい。



[27655] 第二十話  幻影一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/11/28 01:59
【箒 SIDE】


…以前の礼を失した振る舞い、心よりお詫び申し上げる。では、ゴホン。
篠ノ之 箒だ。どうかよろしく頼む。

私は今、イギリスの代表候補生でありクラスメイトである。セシリア・オルコットと一緒に弾の捜索を行っている最中で、校内を歩き回っている所だ。

…はぁぁ。

小さく溜め気を吐いて、私の目の前をズンズンと歩いて行くオルコットの背中を少しだけ睨む。

…何故こんな事になったのだ。

別に私は、弾を探す事に関してはなにも異論はない。むしろ私も弾に謝罪をしたいと思っていたので、一人で探すよりは効率が良い為喜ばしい事だと思っている。

ただ、これで昼食をしっかり食べる事ができ、次の授業が織斑先生の実習じゃなければ言うことなしだったのだがなぁ。


「篠ノ之さん! 何をゆっくりしていらっしゃいますの!? そんなことでは五反田さんを見つける前に昼休みが終わってしまいますわ!」
「私の中ではもう昼休みは終わったも同然だ…。」
「それにしても・・・全く五反田さんは何をしているんですの!? 目撃情報を入手しても、一つの場所に留まらないから探し出すのに一苦労ですわ!!」
「…そうだな。」←米神が若干引き攣る


一瞬、食べ物の恨みがどれ程恐ろしいモノか叩きこんでやりたい衝動に駆られたが、此処はぐっと我慢だ。

ようやく弾が、PCルームに入っていった所を見たという生徒の目撃情報を入手したのだ。
此処まで来て、また行方が分らなくなるという事態だけは何としても避けたい。昼食まで犠牲にしたのだ、こうなってはもう意地だ。何としても見つけ出す!

本当ならば廊下を走ってでも移動したいのだが、ついさっき職員室前で織斑先生に出会ってしまい…こう言われたのだ。



『…貴様らまさか、あの害虫の起こす問題で手一杯な私に、一々注意させる気じゃないだろうなぁ…?』



はっきり言おう――――― 殺されるかと思った…!!

生気を失った瞳で、何処ぞのホラー映画の人形のようにカクンと首をもたげた姿は、とんでもなく恐ろしかった…!

逃げ出した私達の背後から。

『誰か! 胃薬持ってきて! 申請して配備された奴よ!』『織斑くんの写真は!?』『ここに!』『山田先生は!?』『書類処理を終わらせて、燃え尽きてるわ!』『昼休み中は寝かせておいて! 目蓋を冷やしてあげてください! 他の雑務は手が空いてる人が処理を!』『私が対応します。他の先生方はお二人のケアを。』『さ、榊原先生っ! 助かりますっ!』『私なら構いませんから。それにしても。ふふ、全く五反田くんには困ったものね。(優しい笑み)』『…え゛?』『まさか…え? マジ?』『いやでも十歳以上も歳離れてるし流石にそれはないで『五反田くん、年上って好みかしら?』こいつ本気だーっ!?』

という、教職員の先生方の人情溢れる言動が聞こえて。不覚にもホロリとしてしまった…一名言動が意味深な先生もいたが。

その一幕のせいで、廊下を走るなどという命知らずな事を行うことなどできず、今もオルコットと共々、早足での移動しか出来ずにいるのである。


「そ、それにしても、何故織斑先生はあのような極限状態になっていたのだ?」
「…あれですわ。二日前の一年の生徒のほとんどが大遅刻したあの一件です。」
「…ああ、あの部屋番号がランダムに張り替えられて、部屋を出た生徒達が自分の部屋が分らなくなってしまい早朝から大混乱になったあれか・・・。」
「私は運良く自室で全ての準備を整え部屋をでましたから気が付きませんでしたが、あんなことするのはこの学園で五反田さんしかいませんわよ。」
「織斑先生は一年の寮長だから、後始末に追われたという事か?」
「ええおそらく。一連の経緯説明から対処案、生徒達への配慮、正しい部屋番号の割り振りに事後報告書の作成。やる事はそれはもう山のようにあるでしょうし。」
「…そういえば弾の奴。あの日は織斑先生に首根っこ掴まれて連れて行かれた後、ズタボロになって屋上から吊るされていたな? 昼休みには戻って来たが。」
「きっと織斑先生の指導(という名の死刑)を受けたんでしょうが…。まるっきり堪えていらっしゃらない様子がまた、織斑先生の神経を逆撫でしていますわよね。」


移動しながら今日までの事を思い返して、二人して溜息を吐く。というかまだ終わっていなかったのか、あの騒動の後始末。

織斑先生、山田先生、他の教職員の先生方、心中お察しします。どうか挫けないでください…!

織斑先生達への激励の祈りを込めつつ、早足で移動し続ける事数分。
ようやく『PCルーム』と表示されている教室のプレートが見えてきた。

後はあそこに弾が居ればいいんだが。

―――― バシュッ。

オルコットと共にPCルームの扉の前にたどり着き、ドアが開くと同時にPCルームへと入り込む。
そして、そのまま二人して室内をグルっと見回し弾の姿を探し始める。

室内にいる他の生徒の数は、幸いな事に数人程度のものだったので確認がしやすかったが、肝心な弾の姿はというと――――。


「―――――っいない!? くっ! 一足遅かったか…!」
「ああもうっ! あの方はどうして一つの場所に留まっていられませんの!?」 


弾の姿はPCルームには既に無く、数人の生徒がPCの前で各々作業をしている光景だけがそこにあっただけであった。

くっ! また振り出しかっ!


「篠ノ之さん、もしかしたら室内に五反田さんの行方を知っている方がいるかも知れませんわ! 聞き込みをしましょう!」
「う、うむ。そうだな。場所は知らずともどの方角へ行ったかは見掛けた者が居るやもしれん。」


オルコットの提案に頷きつつも、私は少したじろいでしまった。

…これ程、弾を探すことに熱意を出すとは、オルコットはどうしたというのだろうか? 
この様子を見ると、ただ謝罪だけが目的とは思えない。

オルコットの様子が少々気になるものの、とりあえず私達は室内の生徒から聞き込みを行うことにした。

オルコットと二手に分かれ、それぞれ聞き込みを始める。


「―――― もし? 少しよろしいだろうか?」
「…え?」


私は手初めに、PCルームの端の席に座っている一人の女子生徒に話し掛けることにした。
この位置からなら教室内を良く見渡せる為、もしかしたらと思い最初に声を掛ける事に決めたのだ。

それに、眼の前の女子生徒はPCの作業を中断しているようで、手の中にある携帯電に視線を落していた為、比較的声を掛けやすかったのである。

やけに上機嫌の様子だったとういのも理由としては強いかもしれんな。

口元に小さな笑みを浮かべ携帯画面に視線を落とす姿は、可憐の一文字しか浮かばない。
同姓であるにもかかわらず自然とそう思えてしまった。


「失礼。ここに五反田 弾という男子生徒がいたと聞いたのだが。見掛けなかっただろうか? 学園に二人だけの男で、赤髪の長髪に黒のバンダナを巻いている方なのだが?」
「…え、弾の…知り合い?」
「む? 弾を知っているのか? それでは話が早い、此処で見かけなかっただろうか? 用向きがある為ずっと探しているのだが。」
「え…っと。弾ならさっきまで…私と話を。」
「それは本当かっ!? オルコット、こっちに来い! 弾とさっきまで話をしていたと言う生徒を見つけたぞ!」


これは運が良い! 聞き込み一人目で情報を持っている生徒に当たるとは。
もし行き先を聞き出せれば、今なら追いつく事が可能かもしれん!

私の声を聞いたオルコットが、会話をしていた生徒に慌てて頭を下げ礼をした後、早足でこちらに向かってきた。


「――― 本当ですの!? 五反田さんは今どちらにっ!?」
「―――ッ!?(ビクゥッ)」
「おい、いくら何でも突然過ぎるだろう。少し落ち着け、怯えているではないか。」
「―――っす、すみません。私とした事が、いくらなんでも焦り過ぎでしたわね。申し訳ありません。」
「…あ。だ、だいじょうぶ…だから。」


頭を下げるオルコットに、少々焦ったように言葉を返す女子生徒。どうやら人に頭を下げられる事に慣れていないようだ。

純粋かつ、控えめな少女だ。一体弾とどういった経緯で知り合ったというのだろう? 

あの歩く自然災害のような奴との接点が全く見出せんのだが。(汗)


「それで話を戻すが―――っと、失礼した。自己紹介がまだだったな? 私は一組の篠ノ之 箒だ。そしてこっちが」
「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ。」
「あ、四組の…更識 簪です。」
「―― で、だ。先程まで弾と話をしていたと言っていたが?」
「う、うん。あの…相談に乗ってくれて…。」
「弾が? あいつは本当に所々で色々行動する奴だな。」
「それが今の様な、善意溢れるものだけであれば言うこと無しなのですが…。」
「まぁ、それはいい。それで、弾はその後何処に行ったか知っているだろうか?」
「えと…考えをまとめたいって、教室から出て行った…けど。」
「ど、何処に行ったかまでは分かりませんの? 方角も?」
「う、うん。…『考えをまとめるなら、やはりあそこが最適だな!』って言った後…何処かに、それ以上の事は…その。」
「あ、ああいや。更識が悪い訳ではない。気にしないでくれ。」
「そ、そうですわ! 気に悩まないでください。」


申し訳なさそうに小さくなる更識に、私達は慌てて言葉を加える。

こういった大人しい気質の人間が、私達の周りにはいない為どう接していいか分からんな。

下手な事言えば傷つけてしまうかもしれないし、難儀なものだ。

しかし、さてどうしたものか。
これで弾の捜索が振り出しに戻ってしまった。

…此処は大人しく教室に帰った方がいいだろうか?


「…仕方ない、諦めて教室に戻って次の休み時間を狙うとしよう。授業前には弾もクラスに帰って来るだろうしな。」
「それを狙って何度も失敗をしているのは私たちなのですが…? 教室に戻って来るのも授業開始ギリギリですし、終わったかと思えば先生の授業終了の挨拶と共に『シュバッ』っと消えますのよ? こう…『シュバッ』っと。」
「忍者かあいつは。はぁ、こんなことならあいつの携帯の番号を聞いておくのであった。」
「私もですわ…いつもすぐ近くに居らっしゃいましたから、聞くのを失念していましたわ。」
「いつもすぐ近くに、か。…考えてみれば、そう思われるというのは凄いことだと痛感する。」


はぁ…と二人で溜息をつく。
何だかんだんで、弾は私達の中でも重要な存在になりつつあるようだ。

と、そんな私達の会話を聞いて、更識がおずおずと声を掛けてきた。


「あ、あの…。」
「ん? どうかしたのか。 ああ、私達の事なら気にしなくても良い。手間を取らせてしまったな。」
「それは別に…あの。」
「「?」」
「弾の、携帯の番号なら…知ってる。」
「なっ!? そ、それは本当ですの!?」
「う、うん。…さっき、番号交換して。…友達、増えた♪」


そう言って、手元の携帯電話に視線を戻し、嬉しそうに小さく笑う笑う更識。
…不覚にも可愛らしいと思ってしまった。

本当に弾との接点が分らない。
この先、弾に振り回されない事を静かに天に祈ることにして会話に戻ろう。


「それはありがたい。すまんが、弾に電話を掛けてもらえないだろうか?」
「私からもお願いしますわ!」
「う、うん。わかった…。」


そう言って、更識は自分の携帯を操作し―――― ようとして、ピタっ止まった。

どうかしたのか?

更識の様子に、オルコットと顔を見合わせて首をかしげる。

そんな私達に、更識が不安そうな顔を向けてきた。


「だ、大丈夫かな…?」
「ど、どうかしたのか?」
「突然電話して…だ、弾に迷惑だって…お、思われない?」
「い、いえ! それはないですわよ!? 絶対に!」
「で、でも、考え事をまとめたいって言ってたし…じゃ、邪魔しちゃうんじゃ…!(捨てられた子犬のような瞳)」
「そ、それなら安心して良いと思うぞ!? うむ、弾は女子には観音菩薩の如く懐が広いのだ! な、なぁオルコット!?」
「え!? ええ、そうですわね! 紳士を自称してらっしゃいますから、女性に対しそのような事を思う筈がありませんわっ!」
「…ほ、本当?」
「勿論だ!」
「私達が保証しますわ!」


私体の言葉に少し安心したのか、更識が小さく頷いて携帯の操作を始めた。

な、なんだか年下を相手にしているようだ。

ピッっとボタンを押して弾に電話を掛け携帯を机に置く更識。

そして―――。


『―――【プルr…ピッ!】へいお待ちっ! 淑女にはいつでもどこでもワンコール対応! 五反田 弾です! もしもしー? かんちゃんどうかしたのかね? いきなり電話くれるなんて嬉しい限りだねー♪』


携帯から、いつもの陽気な声が響いた。

…電話越しでも騒がしい奴だなお前は。そんな私を置いて、更識が言葉を発する。


「う、うん。ちょっと用事があって…あの、いきなり電話して迷惑じゃなかった…?」
『いつ何時でもウェルカムだっ! 気にする必要ないぞ! ラスボス戦の魅せ場であっても『あ、待って電話。ちょっとタイムね。』って迷うことなく中断するさっ!』
「…そ、それは流石に…。」
『それでどうかしたのかね? もしかして例の件? おおう! もしや今から!? 即断即決だねかんちゃん! 俺も付いて来てほしいってラブコール?』
「そ、それはまだ、心の準備が…」
『ふむ? では何故に?』
「えと、弾に用があるのは私じゃなくて…。」


そう言って、こちらに視線を向ける更識に一つ頷き。
私とオルコットが口を開く。

―――――――― ようやく話ができるな。


「私達だ、弾。」
「五反田さん! ようやく話が出来ますわ!」
『おおう!? そのボイスは箒ちゃんにセシリーちゃん!? 何故にかんちゃんと一緒に居るのか分からんが、とりあえずどうしたのよ?』
「う、うむ実は、お前に言わなけらばならない事があってな。会って話せないだろうか?」
『電話じゃ言いにくい事かね? 構わんけど、一体何事?』
「五反田さん! 今どちらにいらっしゃいますの!?」
『地球にいますが?』
「大雑把過ぎるわっ!? というか、その言動だといない時があるのか!?」
『あっはっはっは。』
「笑って煙に巻きましたわ!?」
『ふむ、まぁ俺の居場所の詳細を事細かに説明するとだなー。五反田 弾。只今学園の校門―――』
「…校門? 校門の前か? 何故そんな所に―――?」
『―――― の上にいます。』
「「なんでそんな場所に居るのだ(ですの)っ!?」」
『いやー、やっぱり考えるポーズとるなら、門の上じゃないと駄目じゃね?』
「…あ【考え○人】?」
「偉大な芸術家の作品を表現していますわ!?」
「何故そんな所にこだわりを見せるのだお前はっ!?」
『まぁまぁ、とりあえずそっちの戻っからさ? ちょいとそのまま待っておいてく『死ねぃっ! DANSHA【ボキャッ!】クボォォアッ!?』れるかね三人とも?』
「「会話の合間で何か倒したあああああっ!?」」
『ほんじゃね~? 今行くぜぃっ!【ピッ】』
「…だ、弾って、何やってるの…?」


私とオルコットの突っ込みに、更識が困惑の表情を浮かべてこちらに向き直る。

―――それは私が聞きたいっ! あいつは普段何をやっているのだ!?

と、とりあえずいったん落ち着くとしよう。
色々思う事はあるが、こちらに弾が戻って来ると言ったのだ。それで良しとしよう。


「え、えっと…これでいいの…?」
「あ、ああ。色々世話になったな。礼を言うぞ、更識」
「とりあえずは、五反田さんがこちらに来るようなので、後は待つだけですわね。はぁ、此処まで辿りつくのに苦労しましたわ。」


そう言って、近くに席に腰を下ろすオルコットの言葉にわたしも頷く。
何故探すだけなのにここまで苦労する羽目になるのだ?

まったく、あいつは本当に意味不明な奴だな。


――――っ!? ―――――――――――――…! ―――――――ぁっ!


…ん?


「おい。何か聞こえないか?」
「え? 何がですの?」
「…?」


二人に訪ねて見ても、たりとも困惑の表情を返すのみ。

…空耳か?

今一度耳をすましてみる。


―――――て―――――…! ―――――ップ―――――て――――――…!?


「――― あら?」
「…声?」
「二人も気が付いたか。 やはり何か聞こえるな、廊下からか?」


何やら廊下から声が聞こえてくる。
それもだんだんこちらに近づいてきているようだ。

…一体何だ?

顔を見合わせた私達は、そのままPCルームのドアまで揃って移動し、ドアを開ける。

そして廊下に顔を出して見ると、そこには――――。


『ふははははははははははははははははははははははっ!♪(シタターン! シタターン!!)』

【~~~~~~♪~~~~~~♪】← アルプスに住む。長ブランコの上でも笑みを絶やさない少女のメロディ。

『――― っなんか来たああああああああっ!!?』
『いやああああああっ!? 怖いっ! なんか怖いいいいいいいっ!?』
『凄い笑顔っ!? なんか凄い笑顔でこっち来るーっ!? いやああああぁぁーっ!?』
『きぃやあああぁぁーっ!? メチャクチャ速くて怖いいいいいいぃぃぃっ!?』
『ひぃぃっ!? お、お母さああああああぁぁぁぁぁーんっ!』


―――― 腰に手をあて、物凄い笑顔で超速のスキップをしながらこちらに向かってくるという不気味な事この上ない弾の姿と。


その弾に怯え全力で退避する生徒達の姿だった。


「「――――っ何をやっているんだ(ですの)!? お前(貴方)はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「――――ひっ!?」←弾を見てビビる。




――――― その直後、私とオルコットの飛び蹴りが弾に炸裂した。




*   *   *




「全く! 貴方は一体何をしていますの何を!?」
「いや、廊下は走っちゃならんだろうと思ってね? スキップしたら相棒がナイスチョイスなメロディ流すもんだから途中から楽しくなっちゃってさー。」
「楽しむな! 腰に手をあて、もの凄い笑顔張りつかせ、その上走って逃げる生徒を追いぬかす程のスピードでスキップしている男など不気味以外の何物でもないわ!?」


数分後。
弾を迎え、一組のクラスへと戻る私達。

あの後、なんとか場を収拾した私とオルコットは弾を連れ教室に戻ることにしたのだった。
そろそろ昼休みも終わりそうだった為、仕方なく歩きながら会話を続ける。

更識とはPCルームで礼を述べた後そこで別れた為、今は私とオルコット、そして弾の三人だけだ。

…はぁ、それにしても本当に疲れた。

もう駄目だ、絶対に今日の午後の授業は持たない。


「…死にたくない。」
「へいどうしたの箒ちゃん! 死ぬなんて言っちゃ駄目だぞ! 話し付けてあげようか? 髭に。」
【相棒。なんか物凄い勢いでメールが来ました。【こないて】の一文字だけですが、焦りまくってるせいか文字が変です。】
「誰ですの髭って? はぁ、全く本当にいつもいつも…。」
「なんだ二人共元気ないな! 幸せ逃げるぜ!? ほれこれでも食って元気出しなさい。『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』! 残りもんだけどいるかね?」
「――――――っお、おおおおおおおぉぉぉぉぉっ…!?」
「ん? 箒ちゃん。どったのよ? まるで救世主見るような眼を何故俺に向けるのかね? オニギリ好きなの?」
「あ…篠ノ之さん昼食を摂っていらっしゃらなかったんでしたわ。」
「なんですと!? それはいかん! 昼食摂らなきゃ午後に変調をきたすぞ!? へい箒ちゃん! 全部食っちまえ! そして茶もあげるぜ! 相棒!」
【無論【貯蔵】してあります。へいどうぞ(にゅるり)】
「なんだか妙な出し方しませんでした!?」
「―――っはぐんぐ!!はぐはぐ! ―――っぐ! あむ!」←必死食い。
「おおう。見事な食べっぷり。犬耳と尻尾が見えるのは幻覚かね?」
「何ですのそれは?」


二人が何か言っているようだったが、今の私にそんなこと気にする余裕などないっ!!
弾の手からひったくる様にオニギリを貰い受け、口の中に詰め込む!

―――う、美味いっ! 美味いぞぉっ!
オニギリとはこれ程にも美味いものだったのかっ! 中の具も、色々詰まっていて良く合っている! 

歓迎に打ち震え、差し出された茶と一緒に胃に流し込む私を、二人が妙に生温かい瞳で見たいたのを、私は終始気付く事は無かった―――。

そして私が食べ終えた時には、既に教室の扉の前に到着していた。
そのまま教室内へ入り、手近な席に腰を下ろす。


「へい到着! そんで話って何ですかいお嬢さん方? スリーサイズまでなら答えるよ?」
「もの凄くどうでもいいですわ!!」
「オルコット、落ち着け。一々突っかかっていては話が進まんぞ?」
「うぐ…そ、そうですわね。」
「クールダウンだぜセシリーちゃん!」
「貴方は黙っていてくださいまし!」
「だから…はぁ。」


二人の様子に、また一つ溜息を吐く。
次は実習が待っているのだから、移動も兼ねると時間は残りわずかだと言うのに。

そんな風に呆れた私だったが ――――。


「あれ? 箒にセシリアと…それに弾!? お前何処行ってたんだよ!?」

背後から聞こえてきた一夏の声に、そのまま体ごと振り向く。
むぅ、タイミングの悪い。余計話がややこしくなりそうだ。

一夏と弾。

この二人が揃うと、色々と騒がしい事態になる事が多いからな。


「およ? どうした一夏? 何か用か?」
「何か用かって、お前この二日何やってたんだよ? 授業以外全然姿見えなかったじゃねぇか。」
「おおう。すまんのー? 寂しかったのか? この甘えん坊め!」
「茶化すなよ。はぁ…ちょっと厄介な事が起きてさ。話を聞いて欲しいんだよ。」
「い、一夏さん!? あ、あのちょっと待っていただけませんか? 今は私達が、その…。」
「え? 二人も弾に話があるのか?」
「うむ、まぁそうだ。」
「おおう? 俺大人気だな? まぁとりあえず、話が早く済む方から聞くかね?」
「は? 話が早くって、そんなの分かるのか?」
「箒ちゃんとセシリーちゃんの話は想像もできんが、一夏の話ってのはあれだろ? クラス対抗戦。一回戦の相手が鈴だって話じゃね?」
「お、お前知ってたのか!?」
「二日前に発表された事だぞ。知ってるに決まってんでしょうに。忙しくてもその辺の情報くらい掴んどるよ。ま、その点も含めて、俺もお前に話があるんだがね?」
「は? 弾、それって…。」


少し驚いた様子で一夏が弾に視線を向け。
そんな一夏に、弾も視線を返す。

…む? 何だ? どうしたというのだ二人共。

二人の様子にオルコットも困惑しているようで、二人に交互に視線を向けている。

そして―――。


「――――よう一夏。ちょいと【相談】に乗ってくれないか?」
「――――っ! 待ちわびたぞ馬鹿野郎…っ!」


顔を見合せながら、ニヤリと笑い合った。

な、なんだ? 何でそんなに嬉しそうなんだ二人共!?

状況を把握できていない私とオルコットを置いて、男同士だけでトントン拍子に会話をつなげていく一夏と弾。


「とりあえず今は時間も無いし、詳しい話は放課後か?」
「そう言いたい所だがねー? …悪い。時間くれね? 俺も頭整理してる途中なんよ。今日一日でいいんだが。」
「そうなのか? じゃあ明日にするか。時間と場所はどうする?」
「ちょいと人の耳にゃ入れたくないからねー? 寮の部屋がベスト。んでもってじっくり話す必要があるから、放課後だな。」
「じゃあ明日の放課後。場所は、俺の寮部屋でいいだろ?」
「へいへい。んじゃ明日、放課後お前の部屋で。」
「おう。…で? 俺はそれまで何やってりゃいいんだ?」
「舞台はクラス対抗戦って言えば分かるかね?」
「それに向けて猛特訓ってか? 随分、厳しい事言ってくれんじゃねぇかよ弾?」
「でも、ただ待ってるだけなんてしないんだろ?」
「当然だろ?」


そう言って、またどちらからともなく笑う二人。

…なんだこれは。

なんというか、面白くない。

なんだか…全く面白くないぞ!?

何だお前達は!? 二人だけで分かり合って! 
ちゃんと分かるように私にも説明せんか!

そんな想いを込めて、二人を睨みつけ無言の非難を放つ私。
オルコットも、妙にブスっとしているから私と似たような心境なのだろう。

そしてそんな私に一夏がようやく気付く。


「な、なんだよ箒? なんで睨んでるんだ? ってセシリアもかよ!?」
「…ふん! 別に何でもない! この朴念仁が!」
「なんですの? なんですのそれ? 何二人だけで分かり合っちゃってるんですの?とても不愉快ですので止めてもらえません!?」
「何言ってんだ?」
「あっはっはっは! まぁまぁお二人さん。紳士にゃこういったやり取りが結構あるもんなのよ。気にしなさんな!」
「「むぅっ…」」
「そんな訳で、こっちはこれでOK。そんで淑女お二人の話は、放課後に時間作るからそん時でいいかね? そろそろ次の授業が始まっちまうから移動せんと不味くね?」
「――― なっ!? もうそんな時間か!?」
「うわぁ!? マズい! お、おい弾! 更衣室に急ぐぞ!」


弾の言葉に慌てて時間を確認し、バタバタと動き出す私達四人。
し、しまった! のんびりとし過ぎてしまった!

せっかく空腹のまま授業を受けると言う危機を回避したというのに、遅刻しようものなら…考えただけで恐ろしい!

そのまま教室を出て行こうとする一夏と弾。
その背中にオルコットが声を上げる。


「五反田さん! 放課後ですわよっ!? 忘れないでください!」
「淑女との約束を忘れる事など、紳士な俺がする訳なかろう!! 一夏じゃあるまいし?」
「――― ぐっ!? う、うるせぇ! 余計な事言うな! 俺なりに思い出そうと頑張ってんだよ!」
「ほんじゃね~?」


そう言って、バタバタと教室を出て行く二人を尻目に。
私達も大急ぎで次の授業の実習に向け、ISスーツに着替え始めたのだった。



ちなみに。
実習の時に姿を見せたのは、織斑先生ではなく他の教職員の先生だった。山田先生の姿も見えない。

理由は――――。


『…昼休みに、五反田くんが幸せそうにスキップする姿見てね? …なんかもう、ほら…察してあげて。』


とのことだそうだ。

…不憫な。



【弾 SIDE】

千冬さんマヤたん不在の実習からしばらく時間が過ぎて。
只今、放課後の時間帯へ突入しております。

しかし、千冬さんもマヤたんも一体どうしたのかね~?
昼休みの時、スキップ移動で職員室通りかかった時見たが割と元気そうだったのに妙だな?

『――― 何を幸せそうな顔しているんだ貴様ああああああああっ!?』

てな感じで。
ふむ? 急に調子が悪くなったのかね。よし後で見舞いに行ってあげよう。(←トドメ)

まぁそれも重要なんだが。
只今俺こと弾は、昼休みの約束通り箒ちゃんとセシリーちゃんの話を聞く為学園の屋上へとやってきています。

そして俺の視線上の先には、日本淑女に英国淑女の夢の競演が広がっている!!
最高ですね!

そんな二人に感涙している俺をよそに、二人は同時に動き―――。


「弾。」
「五反田さん。」
「へい、日本紳士の五反田 弾ですが何か?」
「――― すまんっ!」
「――― ごめんなさいっ!」


と、いきなり頭を下げられた。

…え? なんぞこれ? どういう事よ?

あれ? ちょい待って。これってもしかしてアレか?
俺に頭を下げる二人に視線を向けながら、俺のマイドレインはある一つのを事態を導き出した。


「…相棒。淑女二人に何故か突然フられてしまう珍しい事態に遭遇した時。一体どうしたらいいだろうか? はは…おかしいな。今日はやけに風が目に沁みやがる…!(ボタボタ)」
【相棒…辛いなら、いつだって自分に甘えてもいいんだよ…?】
「―――っ!? 相棒っ!(ガバッ)」←前掛けを外し、顔を寄せ付け抱きしめる。
【自分はいつも相棒と一緒だ…今は何も考えず泣けばいいさっ!】
「――― 何を突然くだらん事やっておるのだお前達は!?」
「え? 俺フられたんじゃないの?」
「そう言った意味の『ごめんなさい』ではありませんわっ!?」
「なんだよ!? 紛らわしいなっ!?」
「「その考えに行き着くお前(貴方)の、思考がおかしいんだ(です)っ!」」


ふー、何だフられた訳じゃないのか。あービックリしたぜ。

…ん? じゃあなんでいきなり謝って来たんだ?

別に二人に謝られる様な事をされた記憶はないんだが?
腕を組んで首をかしげる俺は、疑問の視線を二人に向ける。


「ふむ? じゃあ何で謝って来たのか分からんね? 何か俺に謝らなきゃならん事ってあったの? 特に覚えはないんだがねー。」
「あ、いや…それはその。」


俺の質問に、箒ちゃんが言い淀む。
んー? はっきり物事を言う箒ちゃんにしては珍しいな。一体何事?

箒ちゃんの様子に、また首をかしげる俺だったが。
その時、箒ちゃんの隣に居るセシリーちゃんが、一歩踏みだして口を開いた。


「私達が謝った理由は、その…三日前の食堂での一件の事ですわ。」
「ふむ? 三日前?」
「実はその…私達、聞いてしまったんですの。」
「聞いたって何を聞いたのかね?」
「三日前、一夏さんとの特訓が終わった後に、私達、一夏さんのいるピットまで足を運んでいましたの。」
「ピット…あー、なーるほど。聞いちゃったわけか? 鈴の言葉。」
「ぬ、盗み聞きをするつもりはなかったのだぞ!? ただその…。」
「ああ、その辺は大丈夫よ? あれだけ大声出してりゃ聞きたくなくても聞こえるだろうし。その辺は疑ってないから安心しておくれやす。」
「す、すまん。」
「ですからその…ごめんなさい! 気付かなかったとは言え、五反田さんを軽んじる様な事をしてしまい。なんて謝ったらいいか…!」
「…私もだ。本当にすまなかった! 弾!」
「おあ~…参ったねこりゃ?」 


もう一度、俺に向かって深く頭を下げ謝罪する淑女二人の姿に。
俺は居心地悪い事この上ない気持ちになってしまった。

あー。こういうのは慣れとらんのだよね~。

まさか、此処まで思い悩んでいたとは。こりゃ俺のフォロー不足だな…。

とりあえず、俺はこの場を治める為に口を開くことにした。


「そんな気にせんでもよかよ~? 俺は全然気にしとらんからさ?」
「――― っだが!?」
「二人にそんな意図は無かったってのは、今のお二人さんの姿見りゃ痛いほど分かるよ。大丈夫だって、二人の気持ちも分かってるつもりやし?」
「私達の?」
「気持ち?」
「二人共、焦っちゃっただけだろ? 突然現れた、一夏に近しい淑女の登場にさ? 鈴は付き合いで言えば俺以上に一夏と付き合いが長いし。箒ちゃんは長年のブランク、セシリーちゃんは出会ってまだ一カ月に満たないって事が、二人に危機感を煽ったんじゃない?」
「「――― なっ!?」」
「そうなると、なりふり構ってなんてられないと思うぜ? 恋は戦争だ。二人の行動は仕方ない事だと思う。だから気にしなくても全然構わんのよ俺の事は? 恋は盲目。恋せよ乙女ってな?」
「…弾。」
「…っ!」


俺の言葉に、呆けたように呟く箒ちゃん。
セシリーちゃんは、顔を少しだけ伏せ唇を轢き結んでいる。

…ふむ?
少々、セシリーちゃんの様子が気になるが、とりあえずこの場を治めちまおう。


「そんな訳で! この話はこれにて終幕! 俺の事を気にするより、あの鈍感要塞を落城させる手段を考えた方が、よっぽど良いと思うぜ? お二人さん?」
「弾。…本当にすまなかった!」
「だーから気にしとらんてば。今日はやけに素直じゃないのよ箒ちゃん?どったのよ?」
「―――なっ!? それはどういう意味だ!?」
「おおう!? やべ、ついのほほんちゃんがポロっと。」
「のほほん…?」
「布仏姉妹の妹と掛けまして、人の心の声と解きます。」
【その心は?】
「どちらも本音というでしょう♪」
「誰が上手い事言えと言ったぁ!? 全く! お前は何故いつもそうなのだっ!? 人が素直な気持ちで真面目に謝罪をだなっ!?」


ギャーギャーと騒ぎ出す俺と箒ちゃん。

ふはははっ! いつまでもシリアスな空気なんて、俺はご免被るっ!!
みんなで愉快に楽しく騒がしく! 人生明るく行こうじゃない♪

ついには、どこから持ち出したのか木刀を抜いた箒ちゃんが俺を追いかけ回し始めるまでに事態は発展。
ちなみにその中で、何気に木刀に『京都にて 1000円』と書かれているのを発見する。

…え? 実は結構、気に入ってたりするの箒ちゃん? ナイス趣味だ!!


――― とその時だった。
どうやら、シリアスの女神様は、いたく俺と戯れたいらしい。



「――― っ! 何故、人の事ばかり気に掛ける様な事しか言わないんですのっ!?」



突如、まるで悲鳴のような叫びが屋上に響いた。

突然の大音声に、俺と箒ちゃんが追いかけっこを中断し、声の発信源であるセシリーちゃんに視線を向ける。

その先では、セシリーちゃんが射抜くような瞳で俺を睨みつけており、両手をきつく握りしめ何かを堪えるよう震えていた。


「オ、オルコット…?」


箒ちゃんの戸惑った言葉も無視し、セシリーちゃんが言葉をまくし立てる。
まるで、溜めこんでいたものを吐き出すかのように。


「言い返せばいいじゃないですかっ!? 怒ればいいじゃないですかっ!? 蔑めばいいじゃないですかっ!? 責め立てればいいじゃないですかっ!? どうして私達を気遣う様な事を言うのですかっ!? 何故貴方はそうやって笑っていられるんですのっ!?」
「お、おおう?」


セシリーちゃんの様子に、俺は少し怪訝な呟きを洩らす。

…何かセシリーちゃんの、心の底に触れるような事があったのだろうか?

特に思い当たる節がない為、どう返したらいいのか分からん。

此処は慎重に行こう。

こんなにも激情に呑まれたセシリーちゃんは初めてだし。

それにきっと、これはセシリーちゃんにとって大きな分岐点になると、俺の紳士の勘が告げている。


「うーん? 責めるも、蔑むも。特にそんなことする必要なんてないと思うんだがね?」
「だからそれが理解できないと言っているんです!! 五反田さんは、ご自分の事をそこらの石と同じような扱いをされたのですよ!? どうして笑って許せるのですか!?」
「うーん…そう言われても。当の本人である俺がそう言っているんだしどうしようもないなぁ。」
「悔しくないのですか!? 私…女である私にそのように扱われて!?」
「俺は紳士だからねー? 女性にならそんな扱いされても、特に気にせんな!」
「―――っまたそうやって濁さないでください!! 男なのでしたらもっと堂々と構えてはどうですの!?」
「おおう? こいつは手厳しいねぇー? あっはっはっは。」
「―――っ何がおかしいんですか!? 男らしくない言って言われてるのに気付いてらっしゃらないんですか!? 笑ってないでちゃんと答えてください!!」
「うーん? セシリーちゃん。 何か変だぞ? どうしたんだ一体?」
「私の事は今はどうでもいいでしょう!! 話を反らさないでください!!」
「そう言われてもなぁ?」
「―――っいいから気にしないでください!!」
「いやでもね?」
「いいと言っているじゃないですかっ!!」


けほけほと、そのまませき込むセシリーちゃん。
呼吸を整えようと肩で息をする様子に、俺は内心頭を捻る。

うむん? セシリーちゃんて…たしか女尊男卑の傾向が高い娘じゃなかったっけか?

けど今の言動を聞くに、実はそれほど男って存在を否定していない気がする。

ってことはだ…。

セシリーちゃんの男に対する偏見は、何かしら理由がある。もしくはトラウマ。

その点を踏まえて頭を整理する俺。


――― もしかしてセシリーちゃん。俺と誰かを重ね合わせてるのか?


それもセシリーちゃんの男嫌いを構築する極めて重要な存在と。

誰かは知らんが、その人物と俺の行動、もしくは性質が似ているせいでセシリーちゃんの奥底の感情を荒立てちまったってことか。

おおう? これまた、厄介な問題発生か。


さてさて…どうするかねー?


困惑する箒ちゃん。
俺を誰かと重ね合わせ、感情に呑まれているセシリーちゃん。


そんな俺達三人のいる屋上に、五月の風が吹き抜けていった―――。



【楯無 SIDE】


「あらら、ダーリン探してたら…まさかこんな事態に遭遇しちゃうなんて。これは予想外ね。」
「会長? 流石に此処に居るのは少々不味いかと、盗み聞きですこれは。」
「あわわ…だ、だんだん大丈夫かな~?」


屋上の入り口付近の壁の死角から頭だけ覗かせ、ダーリン達の様子を窺う私と虚ちゃんに本音ちゃん。

本音ちゃんに、ダーリンが二人の女子生徒に連れられ屋上に行ったという情報を得た私は。二人を連れやって来たんだけど。

まさかこんな事態になるなんてね。
本当、ダーリンってば所々で騒動を起こす子ね。


「ん~。私としては、もしかして愛の告白っ!? て事態を期待してたんだけどなー?」
「期待通りではなく残念でしたね。会長。」
「あら? さっきまで不安そうに成り行き見てた生徒会会計さんのお言葉とは思えない発言ね~?」
「な、何を言っているのか分かりかねますね?」
「あら? ダーリンって結構優良物件よ? ん~♪ いらないなら私が貰っちゃおっかなー?」
「―― っな!? ほ、本気ですか…?」
「うっそ★」
「…お嬢様?」
「やーん♪ 虚ちゃんがこわ~い。 本音ちゃん助けて~。」
「…む~っ。」
「あ、あら? もしかして私ピンチ? ふ、二人共眼が怖いよ?」
「…。(ポキポキ)」
「…む~っ。」
「ほ、ほら! 今はダーリンの様子を見守る事が先決よ!? ダーリン大丈夫かしらね~? あ、あははは。」


ちょ、ちょっとからかい過ぎたみたい…危ない危ない。

今だ怖い視線を向ける幼馴染二人から強引に意識を外して、向かい合う三人の姿を視界に収める。


――― さて? ダーリンはどうこの場を治めるのかしら?


内に湧きあがった一つの興味に、私は口元に小さな笑み浮かべ成り行きを見守る事に専念する。
今一度、見極めさせてもらうわ。五反田 弾くん?


本当に、興味が尽きない子っていうのは面白いなぁ♪



生徒会が見守る中――― ダーリンはどこかやれやれといった様子で、頭を一つ掻き苦笑を浮かべていた。





後書き


更新を待っていただいた方々、大変お待たせして申し訳ありません。釜の鍋です。本当ならもっと早く更新する筈が、二十話目書いてる途中、パソコンの電源が落ち、しかもマメに保存しとらんかったせいで半分以上消えるという不幸に見舞われてしまいました。今度からマメに保存する事にします。さて次回、セシリー救済。生徒会本格介入に、凹凸コンビがこちらもようやくエンジンかかります。自分、物語をポンポン進めるのが恐ろしく下手みたいです。次の更新は出来るだけ早くしようと頑張ります。



[27655] 第二十一話 協定一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/04/26 12:52
ちわっす、淑女に笑顔を野郎に拳を。五反田 弾です。

さぁ、のっけからシリアス全開でお届けする紳士クオリティ!最近シリアスの女神様に大人気な俺です。

いや~、ははは参ったなー。



“――チッ!”



あ、すんません……怖っ!? シリアスの女神様怖っ!?


まっまぁそれはともかく……いや実際激しく気になるが、とりあえずは今目の前で発生した問題を片付けることが先決。

俺の目の前には興奮冷め止まぬ雰囲気絶好調のセシリーちゃん。そして俺の横には思っても見ない事態発生に固まる箒ちゃん。

わずかに視線も感じるが、これは今のところ無視しても問題なさそうだから放置。

さてさて、どうしよっかね~?

とりあえず場を和まそうと、今現在俺はセシリーちゃん相手に色々と話を振って見ているのだが、効果の程はというと――。


「――っ五反田さん! 聞いていますの!?」
「ああうん。女神様の舌打ちはバッチリ聞いたよ?」
「なんの話をしているんですか!?」
「あー、とりあえずは一端落ち着こうぜセシリーちゃん? お菓子あげるから」
【すみません、相棒。今切らしてます】
「なんですと? 結構【貯蔵】しとらんかったっけ? 『こなこともあろうかと~』ってのが、紳士の嗜みだというのに。おいおい頼むぜ相棒?」
【申し訳ありません。相棒の目を盗んで、のほほん嬢がねだるものですから、つい】
「……のほほんちゃん、お菓子の食べ過ぎは良くないとあれ程言ってるのに!?(主夫)しかしこれは参った……期待させてごめんねセシリーちゃん今お菓子ないみたい」
「っですから!! そうやって話を逸らそうとなさらないでくださいと言っているじゃありませんの! いい加減にしてくださいっ!」
「い、いやオルコット。 弾はとにかく一端この場を落ち着かせようと、その……なんだ、あのような物言いをだな?」
「俺にそんな思惑があったのか……っ!?」
【スゲー】
「っ何を客観視した物言いをしているんだお前達はっ!? この馬鹿者共っ!? 火に油を注ぐような事をするなっ!」
「やっぱりふざけているんじゃありませんのっ!」


と、まぁこのようにさっきからこんな調子が続いている。

うーん? ある程度感情煽って心内を吐き出せば落ち着くかと思ったんだが……この方法は逆効果だったかね?

さっきから同じ様な押し問答を繰り返すばっかで埒が明ない。やれやれどうしたもんですかねー?

けど、セシリーちゃんが先程から俺に向かって投げかける言葉を反芻してみて一つ気付いた事がある。それは問い掛けの言葉が多い事だ。

『何故』、『どうして』など、全部が俺の行動に対する問いが話の大半を占めている。けどなー、このセシリーちゃんの問い掛けに、俺は答えてあげるべきだろうかね?

俺の推測通りであれば、セシリーちゃんは俺に誰かを重ねて見ている可能性が極めて高い。そして、その誰かさんと俺を重ねているのであれば、さっきから俺に投げかけている問い掛けは、全部その人に向けて話しているということになる。

けど、俺はその誰かさんじゃない。いくら行動や性質が似ているといってもあくまで似ているというだけの全くの別人。だからこそ俺の出す答えが、その誰かの答えと一緒である保障など何処にもない。その考えが頭に浮かんじまったから俺も下手なこと言えんのよ。

……ふむ。

まぁ、色々と思考に没頭した結果。とりあえず今の俺にできるのは、セシリーちゃんから情報を聞き出すことぐらいだろう。

そう判断した俺は、視線をセシリーちゃんに向ける。

重ねている誰かさんの正体。そしてその人物の詳細を知る事が出来れば……俺なりに力になれるかもしれんし。彼女の望む答えには、彼女が自分で考え、納得し、理解し、認めた上で辿りつくべきだしね?

ほんじゃま、やる事も決まった所でそろそろ行動に移すかね? なんかこれ以上話を受け流すとセシリーちゃんに武力行使してきそうだし。


「ふむ? 俺は別にふざけている訳じゃないのよセシリーちゃん」
「何処がですの!? 信じられません!」
「弾……いい加減に真面目に答えてやらんか。このままでは時間を無駄に浪費するだけで埒が明かん」
「ん? 何言っとるのよ箒ちゃん? これが俺の答えよ?」
「は? 何を言っておるのだ?」
「――っど、どういうことですの!?」
「俺の態度見て分からんかね? 俺はセシリーちゃんの質問に答える気がないってことよん」
「「――っな!?」」


思っても見ない俺の言葉に二人共驚きの声を上げ俺に視線を向ける。

まぁ無理もないか。日本紳士である俺が、淑女の質問に答える気がないなんて信じられる話じゃなかろうて。【世界紳士連合】もビックリだ!

でも、今回ばっかりは仕方ないと思うがね? その質問の対象が俺ではないのだから。固まるセシリーちゃんに、俺はヘラリと笑みを向け口を開く。


「質問に質問で返すのはマナー違反だが。へいセシリーちゃん! その質問は俺が答えるべき事かね? セシリーちゃんは本当に俺に答えて欲しい事なのかね?」
「な、何を言ってますの!? さっきからそう言って――」
「ふむ……じゃあ言い方を変えよう。セシリーちゃん? 一体俺に『誰』の代わりに答えて欲しいの?」
「っ!?」
「さらに言えば俺に一体『誰』を重ねているのかね? 悪いけど俺はセシリーちゃんが本当に答えて欲しい相手じゃないよ。俺の持つ答えが、必ずしもその誰かさんと同じ答えだという保証なんて何処にもない。それでもセシリーちゃんは俺に答えて欲しいの? それでもいいなら答えるけど? 日本紳士である『五反田 弾』の答えを」
「――っあ、あ……!?」
「オルコット?」


俺の言葉にセシリーちゃんは両手で顔を覆った。その考えに至った所で、よううやく自分が何を本当に求めているのか理解したらしい。


そして――


「あ……ご、ごめんなさい! わ、わたくし……!? 私っ!? また五反田さんを……!? あ、ああ……な、なんてこと…! 私は……わ、わたくしはっ……!?」


そのままうわ言の様に俺に謝罪を返してきたセシリーちゃん。その表情は、まるで迷路に迷い込んでしまった子供のように不安げで弱々しいものだった。

……まぁ、仕方ないか。今にも手が届きそうだった答えが、眼の前で霞みの様に消えてしまったも同然だろうしね? その胸中は穏やかじゃいられないだろう。

さらに言えば俺という存在を誰かの代わりにしてしまった、俺を別の誰かとすり替えて見ていたという自分の行いに嫌悪感を感じてもいるように見てとれる。

ふむ? まぁ俺の事は別に良いんだがねー。でもまぁ、セシリーちゃんを落ち着かせるなら今しかないな。こういった時こそ紳士の出番さ!

少し不安定なセシリーちゃんに向かって、俺は数歩近づいた。

俺が近づいてきた事にセシリーちゃんがビクリと体を震わせ、怯えの含んだ瞳を俺に向ける。

ちょっと弱々しい今のセシリーちゃんに萌えつつも、俺は少し体をかがめセシリーちゃんの顔を覗き込む。気分は幼子を愛でる大人の心境デス!

そしてそままヘラリと笑い、セシリーちゃんに話掛ける。


「だーいじょーぶよセシリーちゃん? 俺は別に怒ってる訳じゃないからさ」
「あ……で、でも! わ、私は五反田さんをまた…!?」
「蔑ろにしたって? あっはっは! 俺にとっちゃそれこそどうでもいいことよん。気にせんで良いよ」
「――っで、ですが……!」
「ふむん……お? そんじゃこうするか。へいセシリーちゃん!」
「な、なんですの?」
「それじゃ俺にお詫びをって意味で。セシリーちゃんが一体俺に『誰』を重ねて見ていたのか教えてくれないかね? 駄目?」
「え?」
「いやー実際気になるじゃん? 俺に重ねるってことは、その誰かさんは俺とよく似ているってことでしょ? 俺として是非ともその人が誰か知りたい所だ! 紳士かもしれんしね」
「え、ええ……まぁ男性ですから、紳士ではありますが……」
「……何だ野郎かよ」
「そこで露骨にがっかりするのかお前は……女性ならば良かったのか?」
「俺に似た淑女かぁ……色々と傍迷惑だね」
【全くですね】
「自分で言うのかそれをっ!?」


箒ちゃんの突っ込みに、そのままヘラヘラと笑いを返す俺。

ふむ、少し空気が緩んだな。箒ちゃんの怒声にセシリーちゃんもちょっと苦笑いをしているし。うむ、落ち着いたようで何よりだ。

俺と箒ちゃんの様子を見ていたセシリーちゃんは、しばし考える素振りを見せた後、一つ頷いて俺に視線を向ける。

おおう? どうやら話してくれるみたいだ。


「……お父様ですわ」
「OTOUSAMA?」
「何故疑問形なのだ?」
「ですからその……私が五反田さんに重ねていた人は、私のお父様なんです……」
「……あ、あ~! お父様ね。親父、父親、パパン、Fatherのことね? 俺には馴染みのない単語だからピンとこなかったぜぃ」
「弾、もしかしてお前……お父上が?」
「昔のことさ……ふっ……もう顔も思い出せねぇ(哀愁)」
「そ、そうか……すまない。辛い事を思い出させてしまったようだな(しゅん)」
【いやいやいやいや、ピンピンしてますって】
「いいさ。それにしても似ているのがまさかセシリーちゃんのお父様とは思いもしなかったぜ」
「似ている……いえ、似ているとは正しい表現ではありませんわね。お父様と五反田さんでは、似ているようで全く似ておりませんから…。」


そう言って少し寂しそうな表情を浮かべ、顔を伏せるセシリーちゃん。うむん? どうかしたのだろうか。

良く分からないといった表情を浮かべる俺と箒ちゃんの顔を見たセシリーちゃんは、自嘲気味に小さな苦笑を返し呟いた。


「父は……お父様は、五反田さんと違って弱い人でしたから」


そう告白したセシリーちゃんの姿は何処か寂しげで、瞳も悲しみに揺れているようだった。セシリーちゃんの姿に、箒ちゃんが戸惑いがちに口を開く。


「弱い? それはどういった意味なのだ……?」
「言葉通りの意味ですわ。お父様はとても弱い人間だったんです。……もし、父が五反田さんの気性にもう少し似ていればもっと違ったのでしょうけど」
「……成程ねー? 全部が全部似ている訳じゃなくて、ふとした仕草が俺と重なる部分があるって意味なのね?」
「……はい。そうですわ」
「ほうほう……ん? 弱い人間……だった?」
「……まさかっ!」
「……ええ、お察しの通りもうお父様はいらっしゃいません。三年前、事故で帰らぬ人になりましたわ……お母様と共に」
「「っ!?」」


その言葉に思わず息を呑んだ。箒ちゃんもセシリーちゃんが両親を亡くしているという事実に言葉を無くしている。

それと同時の俺は理解した。先程までのセシリーちゃんの剣幕と行動の根本にあるものを。

セシリーちゃんは……もう聞く事が出来ないんだ。本人に、お父さんに直接訊ねることが二度と。

だからこそ必死だったんだ。父親を思い起こさせる仕草をとった俺に、答えを持っているかもしれないという小さな希望を胸に問い掛けた。

もう知る事が叶わない、お父さんの姿を俺に見て……長年の想いが爆発した。


やれやれ、こいつは参ったね~? まさかここまでヘビーな問題とは思わなかった俺は、少し頭を掻き内心小さく息を吐いた。

全く本当に勘弁してほしいぜ。本当に最近問題発生のオンパレード、今日で二件目ですよ? そんな寂しそうな顔でそんな事言われちゃぁ――。


――何とかしてやりたくなるじゃねぇかよ。


「――へい! セシリーちゃん!」


突然の俺の少し大きめの声に、セシリーちゃんが驚いた顔を向ける。


「! は、はい。なんですの?」
「セシリーちゃんが何を俺に求めてるのかは大体分かった。けど、俺はセシリーちゃんの求める答えを持っている訳じゃない。それはいいかね?」
「え、ええ……それは先程理解しました」
「よし、そんじゃその点を踏まえて……話してくれないかね? セシリーちゃんのお父さんの事をさ?」
「え?」
「俺は答えを持っている訳じゃない。けど、セシリーちゃんは俺にお父さんの姿を見たってことは俺がセシリーちゃんのお父さんに通じる何かを持っていると感じたからだよね?」
「は、はい」
「ならもしかしたらだけど……セシリーちゃんのお父さんの事を俺がもっと正確に思い浮かべる事が出来たら、お父さんの根本に近づく鍵を見つけられるかもしれない」
「――っ!?」


俺の言葉にセシリーちゃんが弾かれたように眼を見開き、俺を凝視する。その瞳は僅かな希望と救いを求める子供のように淡く光っている。

そんな彼女に俺はヘラリと笑い返し頷く。


「あくまで俺がセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべた上での俺なりのビジョンだけどな? それでも構わないなら話してくれんかね? 俺も今度はおふざけ無しでちゃんと返すよん。どうかね?」
「――は、はいっ! お願いしますわ!」
「わ、私は席を外した方がいいか?」
「いんやー、此処まで来たら一蓮托生だぜ箒ちゃん! 箒ちゃんも協力しておくんなせぇ。いいかねセシリーちゃん」
「構いませんわ」
「そ、そうか。うむ、承知した」


そう言って、表情を引き締める箒ちゃんの姿に微笑ましく思いながら、セシリーちゃんに視線を移し一つ頷く。

その俺の仕草に、セシリーちゃんも小さく頷き。ゆっくりと口を開いた。



父親の事、母親の事、オルコット家の事、入り婿であった事、母の顔色ばかりうかがっていたこと、そんな父を母が拒んでいた事。



その一つ一つの情報を呑みこみ、俺はセシリーちゃんのお父さんの姿を構築していく。何故そうなのか、どうしてそうなってしまったのか。

それら全てを、俺だったらと、こうだったのではないかと、俺は徐々にセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべ――。


――一つの答えに行き着いた。


……ああそうか。もしかしてセシリーちゃんのお父さんは……。俺が一つの姿を幻視した時にはセシリーちゃんは話を終えてた所だった。


「――以上が私のお父様の事ですわ。娘の私が言うのも何ですが……弱い人でしょう?」
「オルコット……」


寂しげに呟くセシリーちゃんに、箒ちゃんが気遣わしげな声を漏らす。

どうやら箒ちゃんはセシリーちゃんと同様の姿しか思い起こせなかったみたいだ。まぁ仕方ないか、女心は難解だけど男心もまた複雑だかんねー? 意地だらけじゃない分女心の方が美しいがね!

さて、そんじゃ俺の行き着いたセシリーパパンの姿を語るとしますか。


「ふむ。成程ねー……セシリーちゃんや?」
「――っは、はい。何ですの?」
「セシリーちゃん。俺とお父さんが似てる所があるって言ったけど――」
「は、はい」
「ぶっちゃけ何処が似てんのかね? 失礼にも程があるぞ?」
「「――っ!?」」


俺の言葉にセシリーちゃんは表情を硬くし、箒ちゃんに至っては怒気を込めた瞳で俺を睨みつける。

いや、そんな睨まれても困るんだがね。そんな俺に表情から色を無くしていたセシリーちゃんが、乾いたような諦めに近い苦笑を漏らした。


「……そう、ですわね。……確かに失礼でしたわ」
「うむ全く持って失礼だ。セシリーちゃんそりゃあんまりってもんだぜ?」
「――っ弾! 貴様何を言っているのか分かっているのか!?」
「勿論だ。何を怒ってるの箒ちゃん? 俺は至極当然の事言ったまでだよ?」
「――っ見損なったぞ!? まさか貴様がその様な男だったとは思わなかった! 恥を知れ!」
「……いいんです篠ノ之さん。五反田さんは正直に答えてくださっただけですわ……五反田さんの捉えたお父様の姿を」
「――っだが! いくらなんでも今のような言い方は!?」
「いいんです。ふふ……これで確信を持てましたし。お父様は……私の父は誰が見ても……」


そう呟き顔を伏せるセシリーちゃん。そんなセシリリ―ちゃんに、俺はしっかりとした声で告げた。

――俺の捉えたセシリーちゃんのお父さんの姿を。



「――ああ。俺なんかと比べるなんて恐れ多すぎる程偉大な人だ。はっきり言って俺なんかと似てる部分なんて見つける事すら難しいぜ。いくら何でも……俺と比べるなんてそんなのお父さんに失礼だぜ? セシリーちゃん」



「――え?」
「――っ!? ど、どういうことだ?」


俺の発言に戸惑った声を漏らす二人に向かい、俺は沙汰に言葉を紡いでいく。

ああ、本当に…凄ぇ人だぜ。セシリーちゃんのお父さんは。


「うむ。聞けば聞く程惚れぼれするぐらいに凄い人だぜ。むしろそんな人に似てるって言われるとは光栄以外の何物でもないなぁ」
「――っ先程の言葉はそういった意味だったのか!?」
「勿論よん♪ 箒ちゃん、早とちりしちゃった?」
「ま、紛らわしい言い方をするからだ! この馬鹿者!」


口調は怒っているようだけど、その表情は嬉しげでほっと安堵した色を浮かべている箒ちゃんに俺もヘラリと笑い返し、続けてセシリーちゃんに向き直る。

呆けたように俺を見据えていたセシリーちゃんだったが、ようやく言葉の意味が頭に回ったようで……次の瞬間には怒号の勢いで捲し立ててきた。


「――っそ、それはどうしてですの!? な、何故そう思えるのですかっ!? わ、私の話を聞いて何故そういった結論に至るのですかっ!? お、お父様が! わ、私のお父様が偉大だなんてどうしてそう思えたのですかっ!?」


必死に俺に問い詰めるセシリーちゃん。その瞳には大きな混乱と驚愕に彩られ、そして期待に満ちていた。

うーむ、これは俺の考えであって答えではないからなぁ……でも、話を聞くに俺はそうとしか思えなかったんだよね。


「そんなに期待されても困るよ? あくまで俺の捉えた姿だから、その点を忘れちゃならんよ? そこは理解してね」
「――っわ、分かっています! けど、ですけど! そのように捉えた人は五反田さんだけなのですっ! 教えてください! 何故、何故そう思えたのですか? 五反田さんにはお父様は一体どう映ったのです!?」
「俺がその答えに行き着いたのは……セシリーちゃんが『家族』としてお父さんを見てるのと違ってまるっきり他人として見たからだよ」
「他人? しかし私から見てもお前と同じような意見には至らなかったが?」
「そりゃセシリーちゃんのお父さんを『個人』として見りゃね? けど俺はもっと視野を広げて見たんだよ。お父さんを取り巻く環境を見据えてみたら、俺はセシリーちゃんのお父さんが凄い人じゃねぇかと思えたんだ」
「そ、それは一体?」


いまいちピンとこないセシリーちゃんと箒ちゃんに苦笑し、俺は言葉を紡ぐ。


――さぁセシリーちゃん、君に鍵を渡そう。


その鍵を持ってどういった答えに行き着くのかは……君次第だ。

お父さんの本当の姿。それを本当に知る事が出来るのは……娘である君しかいないんだ。

俺は唯の推測でしかとらえられない。けど、お父さんを間近で見たいた君なら行きつける筈だ。


それじゃあ語ろう。俺の捉えたセシリーちゃんの父親を。


――オルコット家を、奥さんを、そして娘である君を愛して止まなかった男の姿を。


――悲しいまでに不器用な深い愛情を注いだ……大嘘つきの姿を。





【 虚 SIDE 】


――バンッ!


屋上の出入り口のドアが派手な音をたてると同時に、金色の髪をたなびかせた少女が駆け抜けて行った。

その姿を見送る五反田くんの姿に、私は小さく心臓の鼓動が跳ねるのを実感した。

突然走り去ってしまった少女の姿に、もう一人の黒髪の女子生徒は困惑した様子だったものの、その後すぐ五反田くんと一言、二言交わした後、静かに屋上を後にした。


「はー……流石ダーリン。捉え方が違うわねー」
「だんだんはいろんな所に目を向けられるからねー? それがだんだんの良い所なんだよねー」
「ええ、そうですね。後は彼女が自分で解決するでしょう」
「そうね、これから先は彼女の問題。う~ん♪ ダーリンも引き際を心得てるわね! ますますウチに欲しくなっちゃった♪」


壁越しにそう密談を交わす生徒会一同。……とてもシュールな光景ですね、まぁ仕方ないですけど。それにしてもこれで完全に盗み聞きになってしましましたね。

うぅ…今から話掛けなければならないというのに、なんて言ったら良いんでしょうか?

盗み聞きをする趣味でも持っているのかと思われでもしたら……ど、どうしましょう? 急に不安がこみ上げてきました……!?

一人オロオロし始めたそんな私に、それを敏感に察知したお嬢様が悪戯っぽい頬笑みを向けた来ます。


「な、なんですか?」
「うふふ、そんなに不安に思わなくても大丈夫よ? きっとダーリンことだから怒りはしないと思うなぁ。それに私の指示でこうしてこの場に留まっている訳だし、あんまり気に病まないでいいのよ虚ちゃん♪」
「そ、そういう訳にも」
「だんだんの事だから怒りはしないと思うよ~? でも注意くらいはされちゃうかもー? セッシーの事情を無断で聞いちゃったしねー?」
「あらら……うーんそれに関しては確かに誉められた事じゃないし、潔く謝りましょう」


本音の言葉に、苦笑を浮かべたお嬢様。その様子に私も一つ頷く。理由はどうあれ覗き見をしてしまったのは事実。なら、ちゃんと謝らないといけないですね。

お嬢様の言葉に賛同の意を伝えようと言葉を開こうとした……その時でした。


「――さって? いつまでかくれんぼしてる気かね? そろそろ出てきたらどうだい」


五反田さんが屋上の入り口に視線を向けそう口にしたのでした。

――っ! や、やっぱり気付いてたのね。

五反田くんの言葉を聞いて本音が『に゛ゃ!?』と小さく驚き、お嬢様は五反田くんが私達に気付いている事に察しがついていたようで、扇子で口元を隠しクスクスと嬉しそうに微笑んでいらっしゃいました。

うう……正直な所出て行きたくないです。こんな醜態をさらすなんて。

内心落ち込む私。そんな私にお構いなしに……いえ、むしろ気付いていながら楽しんでいるであろうお嬢様は面白げに忍び笑いを漏らした。

何を笑っていらっしゃるのでしょうかお嬢様は? うふふふ。後で『OHANASHI』の時間を設けるべきでしょうか……?


「あ、あわ……あわわわわわわわ~……っ!?(ガクガクブルブル)」
「――あ、あはははは!? さ、流石ダーリン! やっぱり私達に気付いてたのね!? 嬉しいわっ!!」


急に大きな声を張り上げて壁の死角から踏み出し五反田くんの前に姿を現すお嬢様。逃げても無駄ですよ?

本音も何をそんなに真っ青になって小さく震えてるのかしら? 変な子ね? うふふふ。……何よその涙目で『ひっ!?』って、失礼ね。


「おおう? 誰かと思えばハニーじゃないか! って、何そんな震えてるの? どったのよ?」
「……ダーリン助けて私殺されるっ……!(涙目)」 
「登場と共にいきなり助けを求める美少女との遭遇フラグっ!? へい! 何にがあったのよ!?」
【非殺傷だから死にはしないでしょう。潔く逝ってらっしゃい】
「七ちゃんっ!? 事情を察しながらも見捨てようとしないでぇっ!?」
【自分の集音率を舐めちゃいけません。前掛け舐めんな】
「流石だ相棒!」
【自分は、いずれ全ての前掛けの頂点に立つ存在。この程度朝飯前よ】
「いろいろ突っ込みどころ満載だけど、とりあえず助けてぇっ!?」


ワイワイと騒がしくなった屋上の雰囲気に、私は小さく溜息をつく。……とりあえずいつまでも隠れている訳にはいかないわね。

そう思った私は、まだちょっと震えてる本音に目線で促し立たせる。そんなに怯えなくてもいいじゃないの。……冗談だから怒ってないから本音には。

あからさまにほ~~~っと、息を吐く妹に色々思う所はあるものの、本音と一緒に物陰から踏み出してお嬢様から一歩下がる位置に並ぶ私達。

私達姉妹の登場に五反田くんは「おおう、やっぱり美人姉妹のお二人も一緒か! 眼福眼福。」と笑みを零して頷いていました。

そ、そんな煽てには乗りませんよ? もう……。(赤面)

『ダーリンGJ!』と、お嬢様が何やら叫んでいますが。何を喜んでるんでしょう『OHANASHI』はしますよ?

そしてその後すぐ『神は死んだっ……!』と膝をつくお嬢様を尻目に、私は小さな会釈を五反田くんに返したのでした――。



――そして数刻後。


「ええええええええええ~~~~っ!? もう悩みは解決しちゃったって! それは本当なのダーリン!?」


屋上にお嬢様の大声が木霊した。

そんなお嬢様の様子に、五反田くんが少々戸惑った表情を浮かべつつも、頷いて言葉をつづける。


「お、おおう。その通りだぜハニー。え? 何か不味かった!?」
「そ、そんなぁ~。折角私達が大活躍する筈だったのに酷いわダーリン!?」
【マジKY】
「最近相棒が俺に容赦ない件について。そろそろ議会を開かにゃならんと思う今日この頃です」
「お嬢様…そこは残念がる所ではないと思いますが。悩みが解決したようで何よりです。良かったわね五反田くん。」
「虚さんの優しさが身に沁みるぜ! サンキューです!」
「そんな事言って、虚ちゃんだって内心は残ね「お嬢様?」良かったわね! ダーリン! 私も祝福しちゃうわ、おほほほほっ!(冷汗ダラダラ)」
「ハニーもサンキュー! といっても、実は小さな妖精ちゃんが力添えをしてくれたおかげなんだがね?」
「…小さな?」
「…妖精? え? そ、それって他の女の子の力添えがあったって事?」
「おう! 超可愛らしい妖精ちゃんだ! いやマジで助かったなー。感謝感激だぜぃ!」
「…あら、そうなの。」
「ダ、ダーリン…! お、お願いだから今は軽はずみな発言しないでぇ…!?」


お嬢様が何か弱々しく呟いていますが…そうですか、可愛らしい妖精さんがですか。そうですか。

いえ、別に良いんです。悩みが解決したのなら喜ばしい事です。ええ、本当に。

そんな事を思う私に、五反田くんが妙な顔を浮かべてきました。…何ですか?


「およ? 虚さん、眉間に皺が寄ってますがどうかしたんですかね?」
「…別になんでもありません。(プイッ)」
「おおう? そ、そっすか。いやその表情もお美しいですから別に何でもないならいいですが。」
「口が上手いのね。五反田くんは、そうやって誰に対してもそう言ってるんでしょう?」
「本心ですが?」
「…っ! そ、そんな事聞いてません!(真っ赤)」
「…むぅ~…!!」


五反田くんの言葉に、ちょっとドギマギしつつ返す私でしたが…その横で、私以上に機嫌の悪い子がいる事に五反田くんは気付いているのかしら?

私の横で、頬を膨らましながら半眼で五反田くんを睨んで…いえ、この子の場合迫力が皆無だから凝視の方がしっくりくるかしら?

そんな様子の本音が、さっきから『ぶっすぅぅっ』とした擬音が聞こえるぐらいの表情を浮かべ、五反田くんに非難がましい顔を向けていた。


「…そんでさっきからムスッとしてる萌えっ娘ちゃんですが。へい! のほほんちゃん! 一体どうしたのよ!? 俺なんかしたっ!?」
「…むーっ!」
「え? 何にもしてないから怒ってる? どゆこと?」
「むーっむーっ!」
「えー、そんな事言われましても。解決した事は事実な訳でしてね?」
「むいぃ~っ!?」
「あー…いや、妖精ちゃんの事は今この場ではちょっと。時期が来たらって事で此処は一つお怒りを鎮めて貰えないでせうか?」
「むぅぅ~っ!」
「…ところでのほほんちゃん。俺が【貯蔵】していたお菓子の一件だが…?」
「……。」
「…目を反らすんじゃありません! お菓子は一日三つまでと言っているでしょう!? ちょっとそこ座んなさい! 相棒も甘やかすんじゃありませんっ!(主夫)」
「あ、あうぅぅ~っ!? だ、だってぇ~! 物足りなかったんだも~ん!?」
【サーセン】
「…私としては、本音ちゃんとの以心伝心ぶりと、扱いの上手さにビックリなんだけど。」


なんだか話が変な方向に向かいそうだったので、とりあえず話をいったん区切った私達は、お嬢様に言われ水筒に淹れてきた紅茶を取り出し、その場で振る舞うことにしました。

屋上の芝生の上で向かい合って座りながら、少しの間他愛のない話を続ける私達。

ちなみにお嬢様と本音、そして私の下には、五反田くんが『七代目五反田号』から取り出したシーツが敷かれ、その上に腰を下ろしている状態です。

よ、用意が良い人ですね本当に。

…本当なら、その場で淹れた方がいいのですが。

一応温度によって、その都度味が変わる趣向にしましたが…どうやらお嬢様と五反田くん、そして本音の口に合ったようですので良かったです。

そしてまた数分の時間が流れ――――― 話はようやく佳境に入りました。


「ん~? つまり、ハ二ー達美人生徒会のお三方は、俺の手助け、もとい協力を申し出てくれてるって事で良いかね?」
「そう♪ 悪くない話しだと思うけど? 私達と仲良くすると色々お得よ~?」
「何? 特典が付くのか…!?」
【相棒、オマケ狙いは程々に。】
「そうよ~? オマケで生徒会役員の肩書が付いてくるプレミア特典付きよ? どうかしら?」
「それ勧誘って言わなくね?」
「そうよ?」
「ストレートな君が素敵だハニー!」
「や~ん♪ そんなに褒めないでダーリン♪」


軽口を叩きつつも、お嬢様の眼が真剣なことに気が付いている五反田くんは、小さく「ふむ」と呟くと。紅茶を一口飲んで考える素振りをみせる。

その様子を、私と本音は黙って見守る。

しばらく考えこんでいた五反田くんでしたが―――。


【相棒。この話お受けしてみてはどうです?】
「おおう? 相棒何故にそう思うのかね?」


そう進言した『七代目五反田号』に視線を向けて、五反田くんは少しだけ眉をひそめる。

私達も、まさか彼のISから援護射撃がくるとは思いもせず少々驚愕する。


【相棒も知っての通り、クラス対抗戦まで時間はあまり残されていません。ならば、彼女達の力を借りて、手札の一つを集めてはどうでしょう。その方がより相棒も色々動き易くなりますし。メリットは大きいです。】
「ふむ。」
【妖精さんの事もあります。かえって好都合では?】
「…成程。確かにメリットはでかいな…。」
【ええそうです。それともう一つ。】
「ん? 何よ?」
【もしこの話を断ったりしたら、のほほん嬢の機嫌が急転直下すること間違いなしです。あれ程、相棒の手伝いをすると言ってくれていたのに、妖精さんの力は借りたのに自分には頼ってくれないのかって。】
「……。(チラっ)」
「…むぅ~っ…。」
「――― よろしく頼むぜハニーっ!! 別に後が怖いからって訳じゃないからね!?」
「任せてダーリン! んー。でもま、ちょっと強引過ぎるから、初回はお試しって事でいいわ。いくらなんでも急に生徒会に入ってもダーリンも戸惑っちゃうでしょうからね♪」
「なんてサービス精神だ!? 素敵過ぎるぞハニー!!」
「そうでしょう? んふふ♪もっと敬ってくれてもいいのよ。」
「ハニーって結構メンドクサイ人やね!」
「ちょっ!? 敬ってないわダーリン!?」
「すみません。」
「そこは謝らないで欲しいわ虚ちゃん!?」
「それよりもー、だんだんは結局何を今まで調べてたのー?」
「それよりもって本音ちゃんまで!?」
【ちょっと、うるさいんですけど。】
「……。」


ちょっと離れた所で『の』の字を書き始めたお嬢様。そんなお嬢様の姿に、小さく苦笑を浮かべあう私と本音、そして五反田くん。

…少し悪乗りしすぎたかしら? 

それからしばらくして、いつもの調子に戻ったお嬢様を交えて。私達は、今まで五反田くんが何を調べていたのか、そして何の為に調べていたのか詳しく話を窺うことになったのでした。



――― 数分後。



五反田くんから、全ての話を聞き終えた私達は、先程までとは打って変わった真剣な面持ちで、『七代目五反田号』が表示した情報に目を向けていました。

…まさか、五反田くんはこんな事まで調べていたなんて。驚愕の一言しかありません。

そして同時に理解しました。

五反田くんが、心の底から彼女を…『凰鈴音』を救い出したいと思っている事を。どれだけ大切に思っているのかを。

少しだけ妬けてしまう位に。この『凰鈴音』と言う子は、幸せね。

その情報端末を見据えつつ、お嬢さまがにっこりと頬笑みを浮かべ五反田くんに向かって話し掛けました。


「ダーリン。結構凄い事調べてたのね? うんうん♪ さらに高評価しちゃうな~」
「んー。まぁ、これ位しなきゃならん事態だったしね? 仕方ないさ。」
「えへ~♪ りんりんの為だったんだね~? だんだん。」
「しかし…これは結構厳しいですね。五反田くん、一体どうするつもりなの?」
「とりあえず…切り札は任せられる相方がいるからね。出来る事なら・・・ハニー達にはこれを頼みたいんだ。」
「これって――― 成程ね。確かに時間が掛かる上に、一番情報が少ないから、これは私達が適任ね。けど判明した後は?」
「そんときゃ俺に連絡を。後は俺の役目だと思うしね?」
「分かったわ…虚ちゃん。」
「承知いたしました。」
「よろしく頼みます。で、のほほんちゃん!」
「なにー?」
「実はのほほんちゃんには別の任務を頼みたい!」
「お~! らじゃ~♪ なになに~?」
「おそらくクラス対抗戦まで俺も忙しい日々になると思うから…その間、鈴の様子をちょくちょく見に行ってやってくれないかね? おそらく鈴にとって、この学園で気を許せるのは一夏と俺を抜かしたら、のほほんちゃん位だと思うんだ。一夏とはすれ違いの最中だしね。」
「うぃ! りょーかいです。ぐんそー♪」
「うむ! 貴官の尽力に期待するっ! …ってことで、どうかよろしく頼んます! お三方!」
「任されたわ♪ 大船に乗ったつもりでいてね? ダーリン♪」
「私も全力を尽くします。安心してください。」
「がんばるぞ~。」
【心強いですね。相棒?】
「おう。頼もしい淑女さん達だ。」


力強く頷く私達生徒会の面々に、嬉しそうに表情を緩める五反田くん。そんな彼を見て、お嬢様と本音、そして勿論私も満足げに頷く。


―――― さぁ、これから忙しくなるわね。



忙しくなるということは確定だと言うのに…何故か私は、それが待ちどうしくて仕方ない。


―――― そう、小さな子供のように胸を弾ませていたのでした。






【 蘭 SIDE 】


「―――― ふぅっ。こんなもんかな?」


『五反田食堂』の入り口前。

そこの掃除を、終えた私はゆっくりと息を吐いてあたりを見回した。

――― うん。どこも取り残しは無いみたい。上出来上出来。

満足そうに頷いた私は…ふと、夕暮れの空を見上げた。


「お兄がIS学園に行って、もう一カ月かぁ…。」


そう呟いた私。

――― っまったくあの馬鹿兄! 誰のせいでお店の表の掃除を私がするようになったと思ってんのよ!

お兄の事を思い浮かべ…私はふつふつと怒りが込み上げてきた。

お兄がIS学園へと強制入学して早一カ月。

『五反田食堂』は灯りが消え――― ううん。嵐が過ぎ去ったかのような穏やかな時間が毎日のように続いている。

まぁ、そうだよね。

あんな騒がしいだけのお兄がいないだけで、こんなに平穏な毎日がやって来たんだもん! 本当に、あの馬鹿兄の傍迷惑さを実感するわー。

お爺ちゃんだってそう。


『あの馬鹿孫がいないってだけで、随分と気が楽だわっ! がはははっ!』


って豪快に笑い飛ばしてたしね! うんうん。お爺ちゃんだって年なんだもん。あんな馬鹿兄に毎日構ってたら、寿命が心配になっちゃうもんね!

そりゃ食堂の営業中につい癖で『おい弾! 盛り付―――ああ、そういやそうだったな。…チッ!』って時々そんな事もあるけど。

…馬鹿兄いない事に『大将もこれでホッとしたでしょう! 色々と心労も絶えないでしょうからあんなお孫さん持ってると!』って言ったお客さんに『それ食ったら、とっとと出てけ!』って怒ったりもしたけど…お兄の包丁…毎日研いでる姿も、見たり…。

い、いやいや。別に寂しいとか思ってないもん!

私だってお兄にはずぅっと! 迷惑してたんだから!

お母さんだって! ち、ちょっと元気ないけど…い、いつも通り笑顔で看板娘してるもん!

だから別にお兄がいなくたって、『五反田食堂』は平穏無事! 全く問題なし! お兄がいなくたって! 

お兄がいなくたって! 

…いなくたって…。

…。


「…馬鹿兄。」


たまに連絡しろって、言ったのに。

そりゃ最後に電話がきて、まだ数日しか経ってないけどさ…。

……。

……。

「――― っああもう! いなかったらいないで本当にムカつく!! あの馬鹿兄が―――っ!!」


どうせあっちで女の子のおしり追っかけ回してばっかりで、家の事なんか忘れてるに決まってるんだ!

何よあの薄情ものっ! お兄なんか、バカやって大怪我でもしちゃえばいいのよっ!!

…。

あ…や、やっぱり…転んで膝を擦り剥く程度で…か、勘弁してあげよう…うん。


「…~っ! はぁ、何言ってんだろ私。」


もうお店の中に戻ろう…お客さん捌かなきゃならないし。

あーあー。看板娘も大変だな~。

何処となく重くなった心を引き摺るように、私は店内へ戻ろうとした時―――。


「――― 失礼。そこのお嬢さん? こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」


そう声を掛けられた。

その言葉に、お兄の名前が挙がっていた事に驚いて。私は思わず、自分でも驚く位な反応で振り向いた。

そこに立っていたのは。どこか裕福そうな出で立ちの男性が一人、私に視線をむけていた。

…誰だろう? お兄の知り合いにしては、年上過ぎるような?


「…失礼。こちらは五反田 弾さんのお宅ではなかったでしょうか?」
「―― あ!? す、すみません。あの、どちら様でしょうか?」
「おっと、これは失礼を。私はこう言うものです。」


私の言葉に特に気分を害した様子もないその人は、私に名刺を差し出してきた。それを思わず両手で受け取る。

えっと…。


「『IS学園 理事会』って、IS学園の人ですかっ!?」
「ええそうです。それで…こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」
「あ、はっはい! そうです! あの、いつも兄がお世話になっております!」
「ほう? では貴女が、五反田 弾さんの―――?」
「は、はい! 妹の五反田 蘭っていいます!」
「そうですか。これは実に可愛らしい妹さんを持っていらっしゃいますね?」
「そ、そんな事…それ程でもないです。(照)」


ストレートに誉められて、少々顔に熱が登って来るのが分って顔を伏せがちにモゴモゴと口ごもっしまう。

うう、あたしこれでも生徒会長やってるのに…!

そんな私に、男の人は構わず話を続ける。


「成程、こちらで間違いなかったのですか。いや安心しました。何分地理には疎くて不安だったんですよ。本当に良かった。」
「そ、そうなんですか。…あ、あのそれで…一体どういった御用件で?」
「ああそうですね。実は私がご自宅まで窺ったのは・・・五反田 弾くんの事で少しお話があるからなんですよ。」
「え…お兄の事…ですか?」
「はい。」


そう言って微笑むIS学園の人の言葉に、私は頭が真っ白になっていくのが分かった。


IS学園の理事会の人が…直接家に訪ねてくる?

それって…どういう事?

それって、一体どんな事態があったっていうの?

何かあった?

…お兄に?

あの、お兄に…?

―― お兄の身に…何か―――っ!?


持っていた竹箒を放り出し。


―――― 私は気付いたら、IS学園の理事会の人に詰め寄っていた。


「―――っな、何かあったんですか!? お、お兄の身に何かあったんですか!? お兄は!? もしかして怪我をっ!? お兄は!? お兄は無事なんですかっ!?」
「おっとっと! お、落ち着いてください。」
「――― 落ち着いてなんかいられる訳ないでしょ!? お兄は無事なのか聞いてるのっ!! 答えて! 早く答えてっ!!」


私の剣幕に、理事会の人が慄いているけど…そんな事気にしている余裕なんて今の私には無かった。

だって!! だってお兄がっ! 私のお兄がっ…!!

そりゃ破天荒で、無茶苦茶で、とんでもない性格してるけどっ! わ、私にとっては…!! 私にとっては…!! 

目の前が歪んでいく。鼻の奥がツンといなって、涙腺が開くのが分かる。

お兄…! お兄…っ!


「――― っ! ふぇ…っ!」
「だ、大丈夫です! 落ち着いてください。私が来たのは唯少しばかり、五反田 弾さんのお話を伺いに来ただけですから。五反田くんは今も元気に学園で過ごしていますから、どうか安心してください。」
「…ふぇ…?」


グスッと鼻を啜る私に、男の人は柔らかい笑みを浮かべ笑いかけてきた。

――― お兄が、げ、んき…?

呆然とする私に、男の人は頷いてハンカチを差し出してきた。


「どうやら勘違いをさせてしまった様ですね? 申し訳ありません。私の配慮が足らなかったばっかりに。」


柔和な笑みを浮かべるその男性の言葉に、私は自分の勘違いにようやく気が付いて顔を真っ赤にして両手で押さえてしまった。

か、勘違い!?

そ、それじゃあ、私っ今!?


「―――ごっゴメンなさい! あ、ああああ! わ、私ったら何て失礼な事…! うわぁ! わあああああぁぁぁっ!?」
「いえいえ、大変可愛らしかったですよ? リトルレディ。」
「はうっ!? うう…面目ないです。」


ハンカチを受け取り、それで涙を拭く私を…その人は優しく見守っていてくれた。

うう、一生の不覚。

涙を拭き終えた私は、ハンカチをオズオズと返そうとするけど『安物ですから、よろしければ貰ってください。ハンカチも私よりも可愛らしいお嬢さんに使われた方が幸せでしょうから』と、言ってくれた。

…うう、凄くいい人だ。そんな人に私ってばなんて事を。

小さくなる私に向かって。IS学園理事会の男の人は話を続ける。


「それで、五反田 弾さんについてお聞きしたい事があるのですが?」
「あ、はっはい。あの、それなら店内へどうぞ! おじ…じゃなくて、私の祖父と母も今お店にいますからっ!」
「ああいえ、お仕事中にお邪魔するのは忍びありませんから。簡単な質問ですので妹さんでも構いませんよ。」
「え? わ、私ですか…?」
「はい。」


その言葉に、少々面食らう私に向かって。

その男の人は一層笑みを深くして、私に微笑んできた。

う、う~ん…さっきの事もあるし。私で答えられるんなら良いかもしれない。

そう思った私はコクリと頷いて、口を開いた。


「は、はい。私で答えられる事なら喜んで!」
「おお、それは助かります。ありがとう可愛らしいお嬢さん。」


そう言って、人の良い笑みを浮かべるIS学園理事会から来た男の人は、とても嬉しそうに微笑んでくれた。

質問かぁ? 一体どんな事なんだろう…?

なんとなく、私は手元の名刺にもう一度視線を下ろして見る。

…はー、やっぱりIS学園って日本にあるけど、世界中から沢山の人が集まる所なんだ。

この男の人も、絶対に日本人じゃありえない名前だし。

それにしても、この名前からして一体何処の国の人なのかな?

フランスかな? イギリス? もしかしてドイツ?

う~ん? 一体何処の国の人なんだろう。

この名前だけじゃ、ちょっと分からないなぁー。




















―――― ドーベル なんて。







後書き

どうも、釜の鍋です。更新頑張ると言ったのにこの体たらく・・・!! 返す言葉もございませんっ! しかも内容全く進んどらんし! 何やってんの自分・・・!? 本当にすみません。言い訳言わさせてもらうと・・・書いてる量が膨大なモンになっちまいまして・・・こりゃ二話に分けんと長すぎるっ! と思った次第であります。・・・ですので次話ですが。早けりゃ今日の夜中。遅くても明日には更新しますっ! 絶対します! ですので・・・どうかご勘弁を・・・! 最近本気で転職考え始めた釜の鍋でした。



[27655] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/09/17 16:51
【 蘭 SIDE 】


こんにちは。五反田食堂の看板娘、五反田 蘭です。いつも馬鹿兄がお世話になっています。


ドーベルさんと名乗る『IS学園理事会』の人が家を訪ねてきて数分が経ちました。

一応私でも答えられる内容ばかりのものだから今でも答えれているけど……うーん? これって何の必要性があるのかな?


「では、五反田くんは特殊な訓練を受けていたり何か他とは違う事を学んでいたりした事は無いということでしょうか?」
「あ、はい。お兄って結構面倒臭がりでして、何か部活やったり習い事したりとかそういうのは今までないんです。唯一興味を向けたのが調理でして」
「何か隠れて特訓をしていた可能性はありませんか? もしくは何か特殊な施設に出入りしていたとか」
「う~ん? 毎日のように調理の修行ばっかりだったから……それ以外の時間となると一夏さんや他の友達と遊んだり、近所の子供と大人気なく本気になって遊んであげたり、近くのお年寄り相手にゲートボールで白熱の対決したりとか、まぁお兄らしいといえばお兄らしい毎日をすごしてましたけど」
「……うむむ!」


私の言葉にドーベルさんは眉を寄せて考え込むように顎に手をあてて唸る。

……どうかしたのかな?

別に私変な事言ってないと思うんだけど……いや、お兄の行動は変だけど。というかお兄が習い事をしてるしてないがそんなに重要な事なのかな?


『解せん。あの年齢であれ程の洞察力と窮地に落ち居た際の冷静さと機転、高い身体能力に……何よりもあの神業と言っても過言ではない紳士技の数々……それを訓練も無しに!? まさかあの噂は……いやいや馬鹿な! 生まれながらにして紳士技の全てを持って生まれるてくるなど!? だが待てよ? もしやこの娘……?』


……な、何かブツブツ呟いてるけど、どうしたんだろう? 

そう言えばこの人IS学園理事会から来たって言ってたけど……本当なのかな?

なんだかさっきまでと雰囲気が違うんだけど。

急に怪しくなって来た空気に私は少しずつだけど距離をとる。

するとドーベルさんはブツブツと呟くのを止めると、おもむろに私をジーッと凝視し始めた。

……な、何? 何なの?

そして――





「――(ババッ!)ああぁっ!? あんな所にペリカンがぁっ!?」





―― 突然明後日の方向を指さして大声で叫び出した。




…………


―― カサカサと風に吹かれて落ち葉が舞い上がる。



……うん確信した。



―― 絶対に関わっちゃいけない類の人だああああああああああああああああっ!?



心の中で悲鳴を上げた私だったけど、そんな私を見てドーベルさんは不的にな笑顔を向ける。

いやいや何得意気な顔してるのっ!?


「―― クククッ! やはりそうか危うく騙される所でしたよ。流石はあの『DANSHAKU』の妹と言うべきですか。然も自然な口調で偽情報を私に信じ込ませようとするとは……! その可憐な容姿と年齢とは裏腹になんと狡猾なのでしょう。末恐ろしいですね」
「いやいやいやいやっ!? な、何言ってるんですか大丈夫ですか!? 主に頭とかっ!? それから……頭とかっ!?」
「ですが残念でしたねぇ? 私は新しき【紳士と淑女の世界】の一端を担う紳士。見破れないと思ったら大間違いですよフフフフフ」
「ああああ……! 駄目だものすっごいお兄と何か関係ある人だ……!」


紳士って言ってるし! また紳士か!? やっぱりそれ関連なの!?

そんな私の心内など気付いてもいないだろうドーベルさん……いや変な人は突然私の腕を掴んだ。

ちょっ!? 


「―― さぁ! 観念して『DANSHAKU』 のあの強さの秘密を洗いざらい吐いていただきましょうか? 奴の強さの秘密を解き明かせさえすれば今度こそ奴を葬る事が出来るはずっ!」
「い、意味分かんない事言わないで! 離してっ!」
「ククク! 抵抗しても無駄ですよ? 私の服の下には改良を施したパワードスーツが装着されています。貴女の様な小娘程度にどうにか出来る訳がない。さぁ吐け! 『DANSHAKU』の力の秘密を!」
「――っ痛! 痛い! 嫌、離し――!!」


手を捻りあげられ腕に痛みが走った―― その時だった。


―― ァァァァァアアッ!!


遠くから何かがやって来る音が聞こえて――


「ん? 何だこのお【ドギャギャギャギャアアアアアアッ!!】ごああああああああああああああああああああっ!?」



―― 突如現れた黒い影が物凄いスピードで変態に突撃するようにと突っ込んで来た。

その衝撃で私の腕を掴んでいた変態の手が離れ、私は後ろにバランスを崩して尻もちをついた。


「キャッ!? あいたたた……こ、今度は何!?」

 
何が起きたのか分からず変態が吹っ飛んでいった方向に目を向けると……


『ぐわああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!』


そのまま変態は黒い影に地面にギャリギャリと引き飛ばされながら……黒い影と共に遠くへ消えて行き―― ついに完全に姿を消した。


…………


後に残されたのはいつも通りの静かな時間と、何が起こったのか訳も分からず尻もちをついて呆然とする私だけだった。


「……な、何なのよ一体?」


とりあえず立ち上がりお尻についた砂を軽く手で払う。

さっきまで掴まれていた腕の調子を確かめてみたけど……良かったぁ特に痣にもなってないみたい。うー痛かったぁ。

ううう……あの変態っ! 乙女の肌を何だと思ってるのよ!? 何が紳士よ! 『友愛や親愛の表れ程度なら許容できる! だがそれ以外の理由で女性に手をあげる奴は生きる価値もないクズだ!』ってお兄が言ってたもん!

そしてハッと気付いて、ポケットの中からあの変態から貰ったハンカチを取り出す。

う~! 良い人かと思ってたのに……こんな物ーっ!


「てやっ!」


ぺいっ! と、近くの排水溝に投げ捨てた。

あんな変態がくれた物なんて気色悪くて持ってられないもん! ふんだ!

ちょっとスッキリした私は満足げにうんうんと頷いて……もう一度変態と黒い影が消えて行った方向に目を向ける。


それにしても……うーん?


「もしかしてあの黒い影……私を助けてくれたのかな?」


うーん変な事ばっかり起こり過ぎたせいか何故かそう思えてしまう。なんでだろう?


『―― おおーいっ蘭っ! 掃除にいつまでかかってんだぁ!?』


その時、『五反田食堂』の中からお爺ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。


「―― はぁいっ! 今戻るからーっ!」


その声にとりあえずそう返して、私はもう一度黒い影と変態が消えて行った方向に目を向ける。


―― もしかしてあの黒い影って……お兄の?


「あははっまさかね! ないないそれはない!」


あーもー何だか変な事が起きたせいで私まで馬鹿な事考えちゃう忘れよう。うん、覚えていても良い事なさそうだし。

はぁぁ……全くっそれもこれもあの馬鹿兄のせいよっ! あんまり変な人とかかわらないで欲しいわ! 


また心の中でお兄への怒りが再燃し。私はちょっと不機嫌になりながらも『五反田食堂』の入り口を開けて店内へ戻ったのでした。



たまに変な事もあるけれど。

五反田食堂は今日も元気に営業中。お客様のご来店を看板娘共々お待ち申しあげております! 一度お越しに来てください♪



【 ??? SIDE 】

『が、がはあああぁぁっ……!?』
『ドーベル様!? ドーベル様しっかりしてください!?』
『そんな馬鹿な!? 改良型パワードスーツがボロ雑巾のように無残な姿に!?』
『2tトラックの衝撃にさえ耐える耐久力だと言うのに!?』
『一体何があったというのだ!?』
『―― おおいっ来てくれ! ようやく捕獲したぞ!?』
『だ、だがその前に医療班を呼べ! 急げ!』
『なっ!? そ、そんな!? 我が同胞の精鋭部隊が捕獲する為だけだと言うのに壊滅寸前まで追い込まれるとは……!!』
『こ、こんな馬鹿な!? こんな化け物を『DANSHAKU』は従えていたと言うのかっ!?』
『む、無理だ! 勝てない……勝てるわけがない!!』
『お、落ち着け……! 同胞達よ……!』
『『『『ドーベル様!?』』』』
『こ、これは我らが迎えた好機だ……! く、くくくくっ! ま、まさかアレの捕獲に成功するとは何たる行幸よ……!』
『そ、それは一体……!?』
『分かりませんか? こ、これを使って、今度こそ奴を仕留めるのですよ!』
『こ、この化け物をですか!? 危険すぎます!』
『危険を冒さねば奴に……!! 『DANSHAKU』を葬る事など出来はしないっ!! さぁラボへ運べ!!』
『『『『―― ハッ!』』』』
『―― ックククックハハハッ!! やったぞ! これを利用すれば今度こそ! 今度こそ……クハハハ!! 奴の嘆き苦しむ姿が目に浮かぶようですっ!! フハハハハハ【ポキッ】はうっ!? ……ぐふ【ドサッ】』
『『『『ドーベル様ーッ!?』』』』











―― マスター……



【 弾 SIDE 】



―― ピキィィィィーンッ!



「―― っ!?【ガバッ!】」
「キャ!? どうしたのダーリン?」
「……五反田くん?」
「だんだん~。どうしたのー?」
【……相棒?】







「―― 『六代目』……っ?」








【テメェいきなり何ほざいてんじゃあああああああっ!?】
「ぎゃああああああああああああああっ!?【ボキバキボキャメキィ!】」 
「「「ダーリン(五反田くん)(だんだんー)!?」」」





【 セシリア SIDE 】



―― 見つけてきなセシリーちゃん……お父さんを。



五反田さんの話を聞き終えた私は、そう最後に五反田さんに背中を押され……その瞬間走りだしていました。

今の私の心を閉める思いは一つ。ただ確かめたいという一心のみでした。

自分の寮部屋へと向かって全速力で廊下を駆け抜ける私に、すれ違う生徒が何事かと驚きの表情で私を見送っていくのを肌で感じますが、そんな事にさえ気にする余裕は今の私にはありません。


―― お父様……っ!


渦巻く感情のまま私は心の中でお父様を呼ぶ。


―― そうだったのですか?


―― お父様そういう事だったのですか?


心の中で何度もお父様に呼び掛ける。これ程お父様を呼んだ事は未だかつてあったでしょうか?

それ程五反田さんの話は私の心を揺さぶり、そして同時に私の中のお父様の見方を変えさせる程のものでした。




『セシリーちゃん? 話を聞くとセシリーちゃんのお母さんはとっても凄い人だったんだね?』


その言葉に私は頷きました。

勿論ですわ。お母様は強く、厳しく、美しく……私が目標とする憧れの人ですわ。

私の返した言葉に五反田さんは頷き言葉を繋げる。


『女尊男卑社会以前からいくつもの会社を経営しそれらを成功へと導き、そして同時にオルコット家を率いた女性か……成程確かに凄い人だ。流石セシリーちゃんのお母さんだね』


そう微笑む五反田さんでしたが……それは純粋な賛辞だけでは無く、私に対する確認の意味も兼ねているのだと理解できました。

ですがそれは私のお母様の事です。お父様の事ではありません。一体それがお父様とどう関係がありますの?

怪訝な表情を浮かべる私に五反田さんは話を続ける。


『それ程凄い人ってだったてことはきっと人望も厚かったんだろうねー? 沢山の人に憧れられて、セシリーちゃんのお母さんの力になりたいって人も沢山いたんだろう。そしてお母さんもその信頼や羨望応えられるだけのカリスマ持って、道を切り開いていったんだな……『強く・厳しく・美しい』人かぁ。うん、話を聞いてみれば俺もそう思うね』


そうお母様を賞賛する五反田さん。そう思ってくれている事に私も嬉しく思います。

ですが今はお母様の事でなく―― そう言いかけた時だった。


『けど、それはセシリーちゃんのお母さんを好意的に受け止めてくれる人の意見だ。そうじゃない人だったら……一体どう思うのかな?』


―― え……?

私を見据えてそう漏らした五反田さんの言葉に、私は息を呑んだ。

お母様を好意的に思ってくれない……人?


『数々の成功を収め、それを為せるだけの能力を兼ね揃えているセシリーちゃんのお母さんの事を好意的に思わない人達だったら、全く違うんじゃないかな?』


そんな人……いる訳。


『お母さんの才能に嫉妬して、その手腕に苦渋を舐めさせられ、その存在を妬む人間。そんな人が本当に存在しないとセシリーちゃんは思ってる? お母さん個人じゃなくても構わない。セシリーちゃん達の家『オルコット家』に対して反感の意を持っている存在がいないと本気で考える事が出来る?』


五反田さんのその言葉に、私は反発の言葉を返す事が出来なかった。

そんな事……ない筈がなかったから……。

私は知っている。

知っていながら私はその事から目を背けていました。

知っている筈だったのに……あの日から。

お母様とお父様を亡くした私の元へ、欲を張り付けた金の亡者が押し寄せ、あの手この手で私に残された莫大な遺産をかすめ取ろうとした人間を目の当たりにした……あの日から。


『酷な事を言うかもしれないけど、お母さんに否定的な感情を持つ人はいる筈だ。お母さんの成功の裏で苦渋な思いをさせられたり、会社同士の競争に敗れたり、『オルコット家』の権威に歯噛みしたり……お母さんの立場を考えれば、それは当然でてくる事で仕方のない事だと思う』


……その通りです。

お母様の成功の裏では起きていても仕方のない事。

少しだけ暗い気持ちになった私に、五反田さんは苦笑を浮かべつつも言葉を続ける。


『そしてそう言った人達は……なんとかして意趣返しをしてやりたい、自分の味わった苦渋を味あわせてやりたい、今いる場所から失脚させてやろうと色々な手段を駆使して動きだすのは自然な事だと思えない? 人ってのはそういった醜さと狡猾さを持っているからね? 残念な事だけどそれは否定しようがない人間の一つの姿だ』


小さく頷くことしか出来ない。それは生きていれば当然起こりえる事なのですから。

そんな私を見て―― 不意に、五反田さんはヘラリと表情を崩した。

まるでここからが本題だと言わんばかりの……そんな表情。五反田さんの雰囲気の変化に少々戸惑いながらも私は彼の言葉に耳を傾け続けました。


『さて、ネガティブ極まりない事ばっか話したけど……へい! セシリーちゃん質問だ。そう言った考えを持つ人間が、まず最初に取ろうとする事は一体何だと思う?』


―― お母様の失脚を望む人達の最初に取る行動?

……それは。


『俺だったらまず、セシリーちゃんのお母さんの弱点……っていうよりは弱味を探すね。もしくはそれに成りえる材料。別にそれはお母さんの個人的な事でも『オルコット家』全体を踏まえた事でも構わない。お母さんや『オルコット家』が成り立つ上で、その立場が危うくなるに足る【穴】を探し出す。例えばそうだな――?』


そこで一つ言葉を区切り、その瞳に悪戯を思いついたような子供の様な色を含んで五反田さんは告げた。


『―― セシリーちゃんのお母さんに最も近い場所に居て。『オルコット家』の中核に居ながら立場の弱い人間を見つけて近づいて、お母さんを貶める為の足掛かりの駒として利用する……とかね?』



―― その言葉に心臓が音もなく跳ねた。

『オルコット家』に名を連ねながらも……立場の弱い存在……?

そんなの……そんな人……っ


『その人に近付いて甘言で囁いて駒にしてもいい。持ち上げるだけ持ち上げて何かのプロジェクトを持ちかけても良い。成功すれば自分の功績にして、失敗したって構わない。その人に責任を全部押し付けてやれば『オルコット家』やお母さんに何かしらの打撃を与えられる。成功しようと失敗しようと、お母さんや『オルコット家』に痛烈な被害を与えて貶める事が出来る程の立場が弱く、それでいて中核の中に位置し、最も扱い易い自分達にとって都合のいい駒となりえる人物……そんな『弱くて、自分の意思も考えも口に出来ず、セシリーちゃんのお母さんの顔色ばかり窺う情けない存在』。そんな人物がいたら……俺は迷いなくその人に近付いて利用してやろうと目論むね』


口から出る五反田さんの言葉は、どれも私の家にとってみれば軽視できない程のものばかり。

だと言うのに五反田さんはヘラっとした表情を崩さず続ける。


『そんな考えを持つ人達にとってそれ程『都合のいい存在』に成りえる人に……セシリーちゃん心当たりある?』


―― そんな人は一人しかいません。

私の表情を見た五反田さんは察したように一つ頷く。そして―― 告げた。


『―― けど、もしもそんなに話しが上手すぎるくらいに『都合のいい存在』ってのが本当にいるとしたら―― その人こそ警戒するべきだね。だってそうでしょ? そんな人が中核に居るなんてこと事態がおかしいって言うのに。『情けなくて弱い存在』だと言うのに。そんな人が中核に居続けている事を『強く・厳しく・美しい』お母さんが許しているんだからね? その事に疑問を持たずに近づく人間がいたら……それ程の愚か者か欲に目の眩んだ亡者か……まぁ碌な考えを持つ人間じゃないのは確かだね』


―― 五反田さんの言葉が私の胸を突く。

―― その言葉が私の中に構築された『あの人』の姿に亀裂を生んでいく。


『もしかしたらその人は―― 『情けなく、弱い存在』という自分に向けられる評価を、己の持つ『最高の武器』へと変えて。邪な考えを持つ人にとって『都合のいい存在』を演じる事で、そんな輩を自分の元に集めているんじゃないか? そしてそれら全てを撥ねのけ、押し込み、叩きつぶせるだけの才能と知略、力を持って自ら囮を担い『罠』を張り巡らせているんじゃないか? もしそれが事実だとしたら……その人はとんでもない偉人だ』


―― 砕けて行く私の中の『あの人』の姿が。

―― そして次々と溢れてくる。『あの人』の温かい笑顔が、声が、大きな手の温もりが。


『なぁセシリーちゃん? そんな人に心当たりないかな? もしそんな人がいたとしたら……俺はその人を心の底から讃えたい。自分が周りから何と言われようと、どう蔑まれようと、自分の成すべき事を貫いた『強い心』を持ったその人を』


―― そんな私に優しい光を宿した瞳を向け、五反田さんは言ってくれた。


『―― 愛する人を大切な『家』を、そして何より掛け替えのない家族を守る為に戦い続けた……『大嘘つき』なその人を』


その言葉に、私はただ呆然と立ち続ける事しか出来ませんでした。

―― さ……ま?


『もっともこれは俺の考え、都合よく捉えた俺の思い込みでしかない……けど俺にはそうとしか思えなかったんだ。セシリーちゃんのお母さんが、その人の事を唯、家の為に権力の為だけに側に置きたいと考えるなんてどうしても思えなかったからね?』


―― う……さ、ま?


『俺には確かめる術なんてない。確認する事もできやしない。俺は会った事もなければ、その人と過ごした事もないから……その人を想像でしか捉えられない―― けど』


―― と……さま……


『セシリーちゃんなら……確かめられるんじゃないかな? その人と過ごして、話して、共に歩んだセシリーちゃんならその人に辿りつけるんじゃないかな?』


―― おとう……さまっ


『他の誰でもない。その人が心の底から愛し、護り続けた存在である君なら』


―― お、とうさまっ……!


『お父さんの愛情を一身に受け育った最愛の娘である『セシリア・オルコット』である君なら……きっと辿りつける』



―― お父様っ!


『―― 見つけてきなセシリーちゃん……お父さんを』




*   *   *




―― バンっ!

自室へと戻った私は息を切らせつつも、すぐに自分の私物をしまっている棚に飛びつくように近づきました。

棚を開け中から今の私には必要のない物を次々と放り出し、目的のものを探し出そうと躍起になる。

レディとしてそれは如何な事かと思いになられるかと思いますが―― そんな事でさえ今の私にはどうでもいい事でした。

―― そして


「――……あった!」


中から取り出したのは小さな写真立て。

それを胸に抱きかかえるようにして、私は自分のベットへと移動し腰を下ろしました。

そしてゆっくりと息を吐いて、胸の中の写真立てを覗き込みました。そこに写っていたのは――

まだ幼い私が満面の笑みを浮かべていて……その私を優しい微笑みを浮かべ胸に抱いているお母様の姿。

そしてそんな私達を愛おしげに眺め、母の肩を抱き寄せ笑うお父様の姿が写っていました。

私達家族三人が写っている唯一の写真……それをなぞりながら私はお父様に問い掛ける。

―― そうだったのですか? お父様は本当に……護ってくださっていたのですか?

―― お母様を、『オルコット家』を、そして私を……。

今まではどうしても眼に映る場所に飾る事が出来なかった私達家族の写真。

亡くなった両親を思い出すからなのか。

それとも過去の幸せな時間を思い出すのが辛かったのか。

父の姿を思い出すのが嫌だったのか……どれが理由だったかは思い出せません。

けど今は唯見ていたい。そんな思いだけが今の私の胸を占めていました。


―― しばらくそのままの状態でいた私ですが、制服のポケットから一つの携帯端末を取り出しおもむろに電話をかけました。


プライベート用、オルコット家の業務用と用途別にいくつもの携帯端末を持っている私ですが。プライベートでもオルコット家の業務でも携帯の端末にその名前を連ねている人物に私は電話を掛けた。

そしてコール音が二回程鳴った後、電話越しにいつも通りの声が聞こえてきた。


『― はいチェルシーでございます。お嬢様どういった御用件でしょう?』


落ち着いた声でチェルシーが。

長年連れ添った幼馴染の声が電話の向こうから心地よく響いてくる。

その声を聞いて私は少しだけホッとした心境になる。そして――


「―― チェルシー……?」
『っ!? お嬢様どうかなさいましたか!? 何かあったのですかっ!?』


私の呟きにそれを聞いたチェルシーの焦った様な慌ただしい声が耳に響いた。

昔からチェルシーは、私の心内に関する事には鋭いですわね。

そのことに妙に嬉しくなりながらも、私は一つ小さく笑い言葉を続ける。


「大丈夫ですわ何もありません……いえ、あったとうのは間違いでも無いですけど」
『お嬢様それは一体……?』
「ねぇチェルシー? 聞いて欲しい事があるんですの」
『……お嬢様?』


私の言葉にチェルシーが訝しげな声を漏らす。その声を聞きながら私は告げた。


「―― お父様のことですの」
『―― っ旦那様の事……でございますか?』
「ええ聞いて欲しいんですの……チェルシーに、お父様の事知っている貴女に」
『……』
「ねぇチェルシー……? お父様は、私のお父様はもしかして――」


―― そして告げた。

今まで側に居てくれた大切な幼馴染に。

今現在……私以外にお父様を知る存在に。

先程聞いた五反田さんの捉えたお父様の姿を。

それを通して私が知る。今までのお父様の行いを。

それら全てを隠すことなく私は言葉に乗せて、幼馴染に告げた。



―― しばらくして全てを話し終えた私は、唯静かにチェルシーからの言葉を待ち続ける。

それはほんの数秒の事だと思うのに、今の私にはとても長く感じられました。

全てを聞き終えたチェルシーは、唯静かに沈黙を守り続けている。

どう思ったのかしら? 

チェルシーは一体どう捉えたのかしら? 

今まではお父様がどういった人なのか、私はチェルシーに問い掛けた事などなかった。きっと私と同じように思っているに違いないと私はそう思っていたのですから。

でも、もしチェルシーがそう思っていなかったとしたら……チェルシーの眼には一体どのようにお父様は写っていたのかしら?

その考えが頭をよぎり私はチェルシーに訊ねてしまいました。

お父様を知る彼女に。


『―― お嬢様』


電話越しに……チェルシーの柔らかい声が聞こえてきた。

それは何処か優しく、妹に話し掛けるような姉の様な声音で。


『私がお嬢様に対し、旦那様の事で申し上げる事はなにもありません』


そう呟くチェルシーの言葉に私は思わず息を呑みかけ――


『私が申し上げる必要なんてないのです。だってもうお嬢様は『答え』を持っていらっしゃるのですから……違いますか?』


少し嬉しそうに呟くチェルシーの声に、私は口を噤むしかありませんでした。

だってその言い方だと……それは、それじゃあお父様は……?


『もし私が今お嬢様に申し上げる事があるとしたら……それは一つだけです』


呆然とする私の耳に届いたのは――


『―― 旦那様は奥様が『オルコット家』の婿に望まれ、そして同時に心から愛した唯一の男性であり……そして旦那様も奥様を心から愛し、奥様との間に授かったお嬢様の事もまた深く愛していらっしゃったという事。それだけが今私がお嬢様に言える……否定しようもない真実でございます』


―― 私の中の『答え』を確証付けるには十分な……一つの真実でした。


『―― お嬢様。今宵はゆっくりと御休みくださいませ』


そう一言告げたチェルシーはそのまま電話を切り―― 後は小さな電子音だけが耳に響いていた。

………

ゆっくりとした仕草で私は携帯端末をベットに放る。

そして胸の中に抱きしめたままの写真に目を向けると―― そこには幸せな一つの家族の姿が変わらず写っていました。


「……そう、だったんですの? お父様……?」


辿りついた一つの答え。

今までその上っ面に遮られ見つける事が出来なかった……父の本当の姿。

そこにあったのは――


一つの信念を貫き己の成すべき事に全てを注ぎこみ。母と『オルコット家』を護り続けた―― 優しくも強い父の姿。


どれだけ蔑まれようともそれすらも己の糧として、大切なモノを見失う事のなかった―― 哀しくも誇り高い『大嘘つき』の姿。


のろのろとした仕草で……私は写真に写る父の顔をなぞった。

優しい微笑みを浮かべる父の姿に私は――


「……ようやく見つけられましたわ……お父様」


唯呆然と……そう呟くしかなかった。


―― ああ、そう言う事だったんですのね?


今までの事を思い浮かべても、本当のお父様を見つけた私になら理解できる。


『……ははは。そ、それを言われると手厳しいな…・…』


母の叱責に情けない表情で返すお父様。そんなお父様を失笑と共に侮蔑の眼を向ける周囲の人間。

―― 違いますわよね。お父様は……『情けない婿』である事を周囲に見せつけているんですわよね? でなければ、こんなに人がいる場所でお母様に近づいて話し掛けませんもの。本当に情けない人なら、近づかずに離れた場所に避難するか隠れてしまうかのどちらかですもの。


『け、喧嘩だって? あ、あはは違うよセシリア。僕がお母さんに怒られてるんだよ。その……恥ずかしい事にね』


そう言って私に困ったように苦笑するお父様。


―― それ嘘ですわね。本当は喧嘩をしてしまったんじゃないですの? けど……それを私に悟られたくなかったんじゃありませんの?

自分がお母様に怒られているって私に思わせれば、私が両親が喧嘩したという事に不安を抱かない……そう思ったんじゃありませんの?


『―― どうして貴方はそうなのっ!? どうしてっ!?』


その父に浴びせられる母の叱責。

けど、お母様が本当に怒っていたのは……娘の私の前でさえ『情けない男』を演じるお父様の姿を見ていられなかったから。

だってそうでしょう? 私の父を見る眼が……そんな色を持っていた事にきっと母は気付いていたんです。

一度お母様に訊ねた事がありますわ。『どうしてお父様みたいな人と結婚したのですか?』と。

その時のお母様は――


『―― っお願いセシリア……お願いだからそんな事言わないで……っ!』


そう私を抱きしめ声を漏らす母の声―― 抱きしめられた私はお母様の表情を見る事が叶わなかったけれど。

きっとあの時お母様はとても辛そうな顔をしていたのではないでしょうか?

あの時は自分の過ちに悔いているのでは? と、そう思ってしまったけれど……そうではなかったんですね。

お母様は……娘である私がお父様をそういった目で見ている事が身を切られるように辛くて・・…同時に、それでも前へ進むお父様の事を嘆き悲しんでいたのではないですか? 

それ程お父様の事を愛していらっしゃったのではないですか?

だからお母様はお父様との会話を拒んでらっしゃったのですね。

私の前でも『情けない男』であり続けてしまう。そんなお父様の姿を見ている事が何よりも辛かったのではないですか?

……何故ですか?

何故お父様は娘である私の前でも『情けない男』であり続けたのですか?

それもまた答えはすぐに浮かんだ。


「っ反面教師……そう言う事ですかお父様?」


情けない自分の姿を見せる事で、私に……!


『将来お父様のような情けない男とは結婚しない』


自分が情けない男であり続ける事で、私にそう思わせる為に……!


「―― 反面教師であり続けたのではないですかっ……!?」


胸の中の写真をギュウッと抱きしめ、私は唇を噛みしめる。


嘘つきです……お父様は大嘘つきです。


自分がどう思われようと関係ない自分の幸せなど二の次、自分の評価が落ちようが蔑まれようが。

自分の大切なモノを護る為なら―― ご自身の事なんてどうでもいい……!

それが――


お父様が五反田さんに重なった最大の理由……っ!


「……やっぱり嫌いです」


そんな生き方しかできなかったお父様なんて……嫌いです。


―― ははは……参ったなぁ。許してくれないかなセシリア?


駄目です許してなんかあげません。


―― ぼ、僕はその、雑用しかできないから……お母さんとは全然違うね


嘘吐かないでください。本当は―― お母様や家を護る為に多忙だったのでしょう? 嘘つき。


――  僕に出来る事なんて高が知れているからね


……お父様の様な生き方が出来る人なんてそういる筈ないじゃないですか……嘘つき。


嘘つき。

嘘つき、嘘つき。

嘘つき、嘘つき、嘘つきっ!

―― お父様の……大嘘つきっ!!

心からまるで破れた紙袋の様に溢れ出てくる想い。

気付けなかった自分への苛立ち。

何も話してくださらなかった両親への怒り。

自分に向けられていた―― こぼれ落ちんばかりの、お父様の哀しくも不器用な愛情。

嫌いです……嫌いです……っ!

お父様なんか……っ! お父様なんか――っ!


―― セシリア。僕はいつもお前の傍にいるからね


―― っお父様なんか……大っ嫌いですっ!!

もう居らっしゃらないじゃありませんか、嘘つきっ!

傍にいるって言ったくせに居ないじゃないですか、嘘つきっ!

何も言わずにいなくなってしまったじゃないですか……っ! 嘘つきっ!


私を置きざりにして―― お母様と共に逝ってしまわれたじゃないですか……っ!!


「―― も……! ……ない、ですっかぁ……っ!?」


嘘つき……!! 

お父様の大嘘つき……っ!! 

傍にいてくれなきゃ、そこにいてくれなきゃ……っ! 困るじゃないですか……

もう二度と……


「――っじゃないっです、か……ぁぁっ!!」


もう二度とあの笑顔を見る事も、あの大きな手で撫でられる事も、抱きしめられる事も……ないじゃないですか。

そして何よりも――

言えないじゃないですか。


お父様にもう言えないじゃないですか……!


もう二度とその機会がくることが、叶わないじゃないですか……っ!


どうして逝ってしまわれたんですか? 何故私を置いて逝ってしまわれたのですか? どうして何も言わずに居なくなってしまったのですか?

過去に戻れるならば今すぐにでも戻りたい。

そして伝えたいお父様に。

今の気持ちをお父様に向かって、私の今の気持ちを。

―― けれどそんな事は不可能です。

もう二度と私がお父様に会う事は、二度とありません。

二度と……っ。

もう二度とっ――!!

私が……! 私はっ……!! もう――っ!!









「――っもう、ゴメンなさいってっ!! 言えないじゃありませんかああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」









胸の中の写真を掻き抱き、私は悲鳴のように声を上げ……そう叫んだ。


「―― ふぁぐっ! ふ……ふぅぅっ!! う、う゛う゛うぅぅぅぅ……っ!!」


溢れ出た感情は留まる事を知らずに私の瞳から涙となって流れ出す。

酷いですっあんまりです……!

気付けたというのに、ようやく知る事が出来たというのに――

お父様はもう、手の届かない場所に逝ってしまわれた。


神様―― これは罰なのですか? 愚かな娘である私への罰なのですか?


二度と会えないなんて、二度と伝えられないなんて……これはいくら何でも酷すぎますわ。

私からお父様に謝る機会を、永遠に奪ってしまわれるなんて。

―― これはいくら何でもっあんまりじゃありませんか……っ!?


「―― ごっ……! ごめんな、さいっ! ごぇ……な、さいっ! お父ざま゛ぁ……っ! ごめんな゛ざいっ! ご、ごめ……ふっ! う、あ、あぁぁ……っ! ひっ……ふぇぇぇ……っ!!」



涙は留まる事を知らず流れ落ち、私は写真を抱きしめながら泣き続けた。子供のころに戻ったように。

泣いていたら優しかったお父様が慰めに来てくれるのではないか……そんなありえない事を頭の片隅に浮かべながら―― 私は泣き続けた。


両親の葬儀の時でも決して流れなかった涙が時を経て、今私の元へやって来たかのように。


私は唯、泣き続けた。



大嫌いだった―― 大嘘つきなお父様が。

許せなかった―― 何も言わずに、いなくなってしまったお父様が。

悲しかった―― もう二度と会えない事が。

嬉しかった―― 私を護ってくれていた事が。



そして何より――



そんなお父様やお母様の娘として生まれてきた事が―― 何よりも誇らしかった。




*   *   *




―― サアアアアァァァァッ。

それから随分と時間が経ち、日も落ちて既に夜も遅い時間。

あのまま泣き疲れてしまったのか。そのままベットの上で眠ってしまた私は、眼を覚ましてすぐ浴室へと足を動かし頭からシャワーを浴びています。

起きた時、私の体には毛布が掛けられていた所を見ると……どうやら同室の方が戻って来ていて私に掛けてくださったようです。

そして眼を覚まし、真っ赤な眼をして少々腫れぼったくなっている私の姿を見ても何も聞かずに『シャワーでも浴びてきたら?』と、優しく微笑んでくださいました。

……感謝の言葉もありません。

促されるままにシャワーを頭から浴びる。まるで何かを洗い流すように―― 唯一心に浴び続ける。

しばらくして蛇口を捻りシャワーを浴びるのをやめた私は、ゆっくりと鏡の中に映る自分の顔へと視線を移しました。


「酷い顔……していますわね……」


眼元は真っ赤に腫れていて、とても人様にお見せできるようなモノではありません。

あとでキチンとケアをしないと……明日に響きそうですわ。

そんな醜態だというのに、鏡の中の私は妙にスッキリとした表情をしていて口元が僅かに緩んでいました。


「……ふふっ、何を笑っているんですの?」


鏡の中の私にそう呟き、そっと鏡をなぞる。

ただ泣くだけ泣いてスッキリしたのか、お父様の姿を知り得た事で満足したのか、それは分かりません。

けれど……今の私はそれとは違う晴れやかな心境でした。それは何故?

そんな事決まっていますわ。


「私も自分の成すべき事が……分かった気がしますわ」


全てを知り得た私。

お母様が心の底からお父様を愛していらっしゃった事。お父様がとても強く、優しく、誇らしい方であった事。

そんなお二人に溢れんばかりの愛情を注ぎこまれていた事。

そんな私の胸の内に浮かび上がった一つの大きな思い。


それは―― 戦う意思。


「―― 護ります『オルコット家』を」


そう口にする。そうするだけで私の中に生まれた思いをより一層強固なものへと持ちあげてい行く気がしました。

今までの私は両親の残してくれた遺産を金の亡者になどに渡したくはない。ただそれだけの思いだけで『オルコット家』を継いだ。

自分でも呆れてしまう程幼稚な、覚悟も思いもない考えだけだったと……今ではそう思えてならない。

―― けれど今は違います。


「護ってみせます……私が『オルコット家』を」


お母様が築き上げてきた『オルコット家』を。

お父様が護り続けた『オルコット家』を。

両親が愛した『オルコット家』を。

私達家族の思い出が詰まった……愛すべき『オルコット家』を。


「私が必ず護り切って見せますわ……!」


他の誰でもないこの私が―― お母様とお父様の愛情を一身に受け育った私が。

お二人の娘である―― この『セシリア・オルコット』が。


「お二人の遺志を継いで、必ず成し遂げて見せますわ……!」


目を瞑り、心の中で愛しい両親へと語りかける。

―― どうか見守っていてください。お母様、お父様。

必ずやり遂げて見せますわ……お二人の娘である私が、絶対に。

ですからどうか天国で私を見守っていてください。これからの私を――

失敗もあるかもしれない困難や挫折が待っているかもしれない。

けれど私は誓います。それでも歩みは止めないと、強い心を持って―― 歩んでいきます。

心配せずとも大丈夫ですわ。私の心はそんなに軟ではありません―― だってそうでしょう?

―― だって私はっ!


「お父様とお母様。強い心を持ったお二人の―― 娘なのですからっ!」


眼を見開き鏡の中の私を見つめる。

そこにはさっきまでの子供の様な私は既に無く。


『オルコット家当主』である私。『セシリア・オルコット』の力強い笑顔があった。


シャワーを浴び終えバスローブに身を包んだ私は、髪をとかしながら浴室を出る。

同室の方はというと、仕切りをして既に御休みになっていました。机を見るとそこにはコップとミネラルウォータ―が置いてあるのが見えます。

……小さな気遣いに頭が下がる思いです。

仕切り越しに頭を下げ、ベットに腰を下ろした私はこれからの事に考えを走らせる。

何をするにしてもまずは私がすべき事……それは。


「……何れにしろ明日にならなければ何も出来ないですわね」


小さく苦笑し、用意していただいたミネラルウォーターを一杯だけ淹れ飲み干した後。

私はベットに横になり、まだ灯っている小さな備え付けランプの灯りを消し就寝することにしたのでした。


お休みなさい……お父様、お母様。




―― その夜私は、久しぶりに両親の夢を見ました。




―― それは哀しくも優しい……とても幸せな夢でした。




*   *   *




翌日。

いつもより早くに目を覚ました私は、登校の準備を素早く整えるとすぐさま教室へと向かおうと足を動かしました。


「―― っいけない! 大事な事をしていませんでしたわ」


寮の部屋のドアノブを回す前に、私は自分の机へと足を動かしそれに目を向け微笑む。

そこに飾られているのは・……あの写真立て。



私達家族が幸せに笑い合い写っている―― 世界で一つだけの私の宝物。


その写真立てが、今は私の机の中央を独占するように堂々と飾られています。


「―― 行ってまいりますわ! お母様、お父様」


そう両親に告げ私は今度こそ寮の部屋を後にしたのでした。




―― 行ってらっしゃい




―― そう、私の背中を優しく押してくださったような両親の声を聞いた……そんな気持ちになりながら。



【 一夏 SIDE 】


「妙に嬉しそうだな? 一夏」
「ん? そう見えるか?」
「朝も早くからそわそわとしていれば嫌でも気付く。遠足前の子供かお前は」
「あーその例えは……あながち間違っちゃいなかもな?」
「……はぁ」


箒と並んで食堂へと足を向けながらそんな会話を交わす俺と箒。

そう言われてもだってようやくこの日がやって来たんだぜ? 嬉しいに決まってるだろうが。

弾から『相談』の合図を受けた翌日。

ようやく俺達が行動に移る時が来た事に、俺は逸る気持ちを抑えきれずいつもよりも早起きして部屋を出た。

箒はそんな俺の様子に何処か憮然としているが、なんでそんな顔をするのかが分らない。

もしかして低血圧で朝が弱い―― 訳ないよないつもピシッとしてるし。駄目だ原因が分らん。

箒の様子に首をかしげながらもそのまま歩き続けて食堂へとやって来た俺達は、いつものように食券を選んで列に並ぶ。

ちなみに二人揃って日替わり定食だ。うん、栄養バランスが整っているから朝食にはもってこいだな。

食券と日替わり定食を交換した俺達は朝の食堂内を少しだけうろつく。


えーと何処か適当に空いている席はっと……?


キョロキョロと周囲を見回していた俺だったが。


「―― おう? やっと来たか……おーい一夏ぁ!」
「っお! この声はだ「こっち向けやゴラァ!?」っ何でいきなり喧嘩腰なんだよお前はっ!?」
「相変わらず早朝でも騒がしい奴だな。」


いつもの如く騒々しい呼び声に振り向くと、そこにはテーブルに座って朝食をとっている弾と、その隣でヘロヘロと袖を振っていつものようにのほほんとしているのほほんさんの姿があった……紛らわしいな。

スペースも十分空いていたから箒と共に連れだって弾達の元へと移動し腰を下ろす。

弾は朝っぱらから蕎麦か……いつ見ても蕎麦しか食ってないなこいつ。お前蕎麦しか食わないのかよ。


「二人ともおはよー」
「おはようのほほんさん。二人共早いな」
「おりむー達を待ってたんだよー?」
「そうなのか?」
「達? ということは私もか?」
「そー」
「野郎のくせにタラタラしやがって……このカスがっ!?」
【女々しいですね。あーやだやだ】
「お前等俺のこと実は嫌いだろうっ!?」
「好きだぞ? ゴキ○リよりは」
【愛らしいですよ? ハイエナよりは】
「比較する基準が最悪すぎるわっ!?」


俺の怒声に弾はいつものようにヘラヘラと笑い。そんな俺達にやり取りに箒が小さく溜息をつき。のほほんさんは相変わらずほにゃっと笑う。

そんないつも通りの一幕を過ごしていた時。


「―― あら、みなさんお揃いですわね?」


すぐ横から俺達にそう声を掛けてくる声が聞こえてきた。おっこの声は。

いつも良く聞いて馴染みのある声に反応した俺は声の主へと視線を向ける。するとそこには思った通り――


「よう! セシリアも今日は早いじゃないか、おはよう」
「おはようございます一夏さん……ええその、なんというか目が覚めてしまいまして」
「おはよーセッシー」
「セ、セッシー? え、ええまぁ呼び方は特に気にしませんが。おはようございます布仏さん」
「……オルコット」
「あ、篠ノ之さん……」
「ん?」


なんだ? 箒とセシリアが眼を合わせた瞬間二人共様子が……これは戸惑ってるのか?

訳が分らず俺はただなんとなく弾に視線を向けると。弾はそんな俺に苦笑し肩をすくめてみせる。

んー……俺が気にしなくても大丈夫ってそう言う事か?


「その何だ……昨日は大丈夫だったか?」
「ええ、御蔭さまでもう大丈夫ですわ。ご心配をお掛けしたようですわね」
「そ、そうか、もう平気なら良い。うむ」
「はい。気にしていただいたようでありがとうございます」
「べ、別に……大したことではない。あの場に居た者なら至極当然のことだ」
「それでもです。ありがとうございます篠ノ之さん」
「……む」
「? どうかなさいましたか?」
「……箒だ」
「あら……では私の事もセシリアで結構ですわ」
「そ、そうか。ではこれからはそう呼ぼう。セシリア」
「はい構いませんわ。箒さん?」


そう言ってセシリアが微笑むと、箒は『……ふん』と小さく呟いて照れくさそうにそっぽ向いた。

な、なんだ? なんだかセシリアの雰囲気がいつもと違う。

なんだかこう若干大人びているみたいな……落ち着きがある涼やかな雰囲気がある。以前までの様なちょっと押しの強すぎるような所がなりを潜めて、それでいて存在感は増した。そんなオーラみたいなのを感じる。

すると箒から視線を外したセシリアは、今度はテーブルに座って『ズゾゾゾゾゾーッ!』と豪快に蕎麦を啜っている弾に視線を向ける。

……お前な。

セシリアの視線に気付いた弾は『ゴキュッ!』っと蕎麦を呑みこんで、ヘラっと表情を崩しセシリアに話しかける。


「へいっおはようセシリーちゃん! 今日も綺麗だね!」
「はい、おはようございます五反田さん。ふふ……社交辞令として受け取っておきますわ」
「おおう? いつもと違った返し……ふむ?」


セシリアの表情を少しの間しげしげと見つめていた弾だったが―― すぐにヘラっと表情を崩して笑い掛ける。


「その様子だとちゃんと見つけられたようだね? 『探しモノ』をさ」
「―― っはい。五反田さんのくれた『鍵』の御蔭で……私はやっと見つける事が出来ました―― 本当に何とお礼を言ったらいいのか……!」
「俺はそんな大層な事なんてしとらんよ? 俺は自分の想像、一つの可能性を話しただけだかんねー? その可能性を踏まえた上で『真実』に辿りつけたのはセシリーちゃんの力だよ。そんなに感謝されると俺が困っちまうぜ! お釣り足りるかね? 一夏小銭」
「俺が出すのかよ!? というか何の話だよ!?」
「三円玉も無いのか貴様っ!?」
「存在が無いわっ!?」
「……やっぱり貴方もお父様と同じ……」


いつもの如く騒ぎ出す俺達に向かって、そう小さく呟いたセシリア。

ん? どうしたんだ。

するとセシリアは少し考えた込んだ後、少し表情を引き締めたかと思うと一歩だけ弾に近づいた。

セシリアの行動に少し驚いた様子の弾だったが、それにも構わずセシリアは言葉を発した。


「五反田さん」
「お、おおう? どうしたのよセシリーちゃん」
「五反田さんにとって、それは本当に些細な手助けだったのかも知れません……ですが、五反田さんが私になさってくださった事は私にとって何よりも必要な事であって、また何を置いても大切な事だったんです」


そう真剣な瞳で弾に話しかけるセシリアの姿は……いつも俺達が見ていた彼女とはほど遠く。


「ですからちゃんと言わせてください。そしてどうか受け取ってください。」


―― 今この場の誰よりも気高く、そして輝いていて。


「―― まずは謝罪を……今までの私の貴方に対する非礼な行いの数々、心よりお詫び申し上げますわ。本当に申し訳ありませんでした。そして――」


―― とても綺麗だった。


「貴方に心からの感謝を―― 本当にっ……本当にありがとうございました―― 弾さん」


ふわりと、今まで見た事も無いような魅力的で―― それでいて綺麗な笑顔を浮かべたセシリアは。

―― 初めて弾の名前を呼んでそう微笑んだ。


「……」
「……」
「……ほあ~……」
「…―― はっ!?」


その笑顔を、俺はただ呆けたように見つめ続けることしか出来なくて――


―― 右足にとんでもない激痛が走ると同時に、正気に戻る事になった。


って!?


「いってえええええええええええッ!? な、何するんだよ箒っ!?」
「―― ふんっ! だらしなく鼻の下を伸ばしているからだ! この軟弱者めっ!」
「い、いやそれはっ!? っだからって思いっきり右足を踏みつけることないだろうが!?」
「うわわわ~♪ セッシー今、すっごく綺麗な笑顔だったよ~♪」
「え? え? わ、私は別に何もしておりませんわよ? ただ弾さんにお礼の言葉を述べただけでして」
「はっはっは! いやまいったね~? あんな魅力的な笑顔でそんな事言われちゃ受け取る以外にないじゃ無いのよ? ありがたく受け取るぜセシリーちゃん! どういたしましてだっ!」
「―― は、はい!」
【おお、相棒に感謝の言葉を受け取らせるとは。一皮剥けたようですねセシリア嬢。】


その後はまぁいつもの通りワイワイギャンギャンと騒がしい、いつもの光景が繰り広げられ。

そしてセシリアが朝食を持ってきて、テーブルに座ったと同時にまた会話に戻る。

うーん……セシリアの奴何だか凄く良い顔してるな。

ちょっとセシリアの様子を窺うけど……その度に箒から殺気の様なものが飛んでくる。なんでそんなに不機嫌なんだよお前。

―― と、そうだった忘れる所だった。


「そういや弾? 俺達を待っていたって言ってなかったか?」
「ん? ……おおう! そうだったそうだった。いやすっかり忘れたぜ。それ程セシリーちゃんあの素敵スマイルの威力が凄まじかったって事かね?」
「キラキラってしてたもんねー」
「で、ですから! 私は別に意識した訳ではなく! その……っ!」
「いやいやスゲェ綺麗な笑顔だったぜ? セシリア」
「っ! そ、そうなんですの? そ、そうですか……(真っ赤)」
「……一夏っ!」
「な、なんだよ? 箒だってそう思っただろう?」
「そ、それは! そうだが……だ、だからと言って人様の顔をジロジロと物珍しく見るモノではないぞっ!」
「うぐ、それは……」
「まぁまぁ、とりあえず話を進めさせてもらうとするけどな? 二人を待っていたのは今日の放課後の『相談』についてなんだよ一夏」
「―― っ! 何かあるのか弾」


途端に俺は表情を引き締め弾に視線を向ける。もしかして何か問題でも発生したんじゃないのか?

そう思っていたのだが、弾の奴は特に緊迫した様子も無くヘラっと笑い返してきた。


「なーに、そんなたいした問題じゃねぇよ。実は『七代目五反田号』と話してみたんだが、俺達の『相談』の席に箒ちゃんも加えられないかね?」
「え? 箒を?」
「わ、私か?」


弾の突然の提案に俺の隣に座る箒が戸惑いがちな声を上げる。

箒を加えたいって、一体どういう事だ?


「どういう事なんだ弾?」
「いや実際の話。クラス対抗戦までの残された時間だが……はっきり言ってお前の特訓には箒ちゃんの近接戦闘による特訓が極めて重要になるんだ。ならここは箒ちゃんにも協力を仰ぐ為にもちゃんと話しておいた方が良いんじゃないかと思ってさ?」
「成程そう言う事か。俺としては反対する理由は無いから構わないけど……箒? 今日の放課後の時間って空いてるか?」
「き、今日の放課後か?」
「あ、何か用事があるんなら構わないよ? 箒ちゃんの都合を優先してほしいからね?」
「い、いや問題ない! ちょうど今日の放課後は空いている。わ、私は別に構わんぞ?」
「おおう! そいつはラッキー! それじゃ放課後寮の部屋で一夏と待っててくれんかね?」
「悪いな箒助かるよ」
「ふ、ふん。仕方のない奴等め」


そう言って朝食の味噌汁を啜る箒。

なんだか嬉しそうに見えるのは気のせいか? まぁ機嫌が良いのは良い事だけど。

よし、これで後は放課後の時間が来るのを待つだけだな。そのためにもしっかり喰って体力を付けないとなっ!

そう思って、朝食に箸を伸ばした俺の耳に。俺達の会話を聞いて何か考え込むようにしていたセシリアが口を開き話し掛けてきた。


「あのっ! 一夏さん弾さん。よろしいでしょうか?」
「ん? どうかしたのかセシリア」
「どぼじゅじゃじょ? じぇじゅじーじゃん? 【ゾゾゾゾゾー】」
「蕎麦啜りながら喋るな行儀が悪すぎるわ。」
「【ゴックン!】 うむ美味し! そんでセシリーちゃんどったのよ?」
「はい。あのもしよろしければ私も、その『相談』の席に加えては貰えないでしょうか?」
「え?」
「セシリーちゃんを?」


セシリアの突然提案に俺と弾は思わず顔を見合わせる。

そしてすぐさまセシリアへと視線を戻し俺は口を開く。


「一体どうしたんだ? セシリア」
「ええ、お二人の『相談』とやらが一体何の事なのかは存じ上げませんが、私にもどうかお二人に力添えさせて頂けないでしょうか?」
「おおう。そりゃ嬉しい申し出だけど……セシリーちゃん? もし俺に対するお詫びって意味ならそれはもう十分だからね? 本当にそんな気にせんでもいいんだぜ?」
「そうではありませんわ……あ、いえ少しはその思いがあるのは事実です。ですがそれだけではありません。私が唯純粋にお二人のお力になりたいとそう思った上での申し出ですわ」
「うーん俺としてはOKだけど。弾お前はどうだ?」
「ふむ?」
「―― あら? 弾さんが断る理由はありませんわよね?」
「は? どういう事だ?」
「うむん?」
「うふふ、だってそうでしょう?」


セシリアの言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる俺と弾。

そんな俺達の表情を見て、悪戯っぽい……それでいて綺麗な微笑みを向けたセシリアは、心の底から楽しそうに。




「―― 淑女のせっかくの厚意を無碍にするなんて、紳士のする事ではありませんわ♪」




―― 少し弾んだ声音で、そう弾に告げたのだった。

その言い様に俺と箒、そしてのほほんさんも驚愕に固まってしまい。唯呆然と鳴り行きを見続ける事しか出来なくなってしまった。

その言葉を聞いた弾はと言うと。

驚いたように目を見開いてセシリアを凝視し、パチパチと数回瞬きした後に――

二ヘラっと表情を崩して突然笑いだした。


「―― あっはっはっはっはっはっは!! なーる程ね!? そりゃ確かに紳士のする事じゃないわっ! あっはっはっはっは!」
【これはこれは、一本取られましたね相棒?】
「うふふ。それで返答はいかがですの弾さん?」
「それは勿論っ!!」


セシリアの言葉に弾はというと。

妙に芝居がかった仕草で手をセシリアの方向へ差し出したかと思うと―― 片眼をつぶっておどけた表情を浮かべる。

そんな弾にセシリアも微笑みを浮かべ手を差し出し――


―― まるで、道化師が姫君の手を引くように。



「―― どうかこの私に、お力をお貸しくださいませんか? レディ?」
「―― ええ勿論、しっかりエスコートをお願いしますわ。ジェントルマン?」



そう楽しげに言葉を交わし合ったのだった。


……あ、あの弾を言いくるめた、だと……!?


「お、おい? どうしたんだよセシリアの奴!? なんか、何か凄いぞ!?」
「わ、私に言われても分からん! わ、私とて信じられん思いなのだぞ!? い、一体昨日あの後何があったのだ……!?」
「……」
「う、うん? どうかしたかのほほんさん?」
「……むぅー」
「え!? なんで膨れてるんだ?」
「……む? もしや布仏お前……?」
「むーっ!」
「何で怒ってるんだのほほんさん!?」
「一夏放っておいて大丈夫だ。これは弾と布仏の問題だ……そうか、そうなのか。私は応援するぞ布仏」
「は?」
「む~っ!」


何故か不機嫌で頬を膨らませ、笑い合う弾とセシリア二人を凝視するのほほんさん。そしてそんなのほほんさんを微笑ましげに眺める箒。


え? 状況把握できてないの俺だけ!?


そんな俺の心の呟きとセシリアの『相談』への参加が決定すると共に、朝食時間は過ぎて行ったのだった――





そして放課後。

俺達は知ることになるのだった。

鈴の抱えている闇を、鈴を取り囲む大きな問題と、その厄介さを。




けど―― そんな事関係ねぇ。




―― 待ってろよ鈴! 必ずその場所から俺達が救い出してやるからなっ!!








それは暗く深い森の中。

何も見えず、ただ手元の小さなランプを頼りに迷子は進む。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

今にも消えてしまいそうな小さな光。

それだけが迷子が縋る唯一の希望。

深い深い森の中。

暗い暗い森の中。

出口も分からず迷子は進む。

けれどその時遠くから、自分を名を呼ぶ声がする。

足を止めて振り返る。

けれどそこに続くのは、何も見えない暗い闇。

空耳だと思い込み。

そして迷子は再び歩き出す。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

そう自分に言い聞かせ。迷子はひたすら進んで行く。

そして迷子がその場を後にして、しばらくし時間が経った後。

その場に佇む二つの影。


―― 白い騎士は闇を払い。碧の道化は注意深く地面を見つめる。


そして小さな足跡を確認し。騎士と道化は顔を見合わせ頷き、呟いた。


―― 見つけた! ――


辿り着くまで―― 後少し。




後書き

なんとか今日中に更新しました。釜の鍋です。ついに安否が判明した六代目! いや無事かどうかはともかく…いや難関でした。マジで今までで一番長くなりました。あー・・・ようやく此処まで来た。さて次回・・・・クラス対抗戦一歩前! ・・・まで行けたらいいなぁと思うしだいです。どうなるかな・・・? 話しの構成は出来てるのになぁ・・・マジで休み欲しい。それでは次の更新でお会いしましょう。釜の鍋でした。



[27655] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/02/06 19:27
【 鈴 SIDE 】


…へ? 何? 挨拶しなきゃならないの? しょうがないわねー。

私が中国の代表候補生にして二組のクラス代表でもある凰鈴令よ。よっく覚えておきなさいよね! よろしく。



一夏の馬鹿の愚痴を垂れまくったあの夜から、もう早くも一週間が経った。



私の周りはというと、来週に行われるクラス対抗戦に対する準備と、その話題で持ち切りな日々が続いている。

あの日から。まぁ一夏とは休み時間とかにすれ違ったりするんだけど。

……はぁ……

はっきり言って、私と一夏の間に流れる空気は険悪とはいかないまでにしても、微妙な上にちょっとぎこちない空気が流れているのが現状なのよね。

一夏があたしとの約束をちゃんと覚えて無かった事に関しては、女としてはまだ許す気になれないけど……友達としては大目に見てやってもいいとも思ってるしね。

友達かぁ……はぁぁ~っ……

深い溜息をついて、あたしは机の上に顎を乗せるようにして脱力した。

う~~~っ! なんであそこまで言ったってのにあんな斜め上な解釈をしちゃうのよぅっ!? 一夏の馬鹿! 鈍感! 

机に突っ伏したあたしは「う~~~~っ!」と唸りながら、一夏を心の中で非難する。


うー……で、でもすれ違う度に思うんだけど一夏の奴なんだか元気なかったわよね? なんか、言いたい事があるのに言えないみたいな。

ここ最近の一夏は、なんだか妙に忙しそうに動いてるせいかよく廊下ですれ違うんだけど。
その度に見る横顔がなんか元気ないというか、余裕がないというか……目が合ってもなんだか気まずそうだし。

まぁ、クラス対抗戦も近いし忙しいのは分かるけど。今思い出したけどあいつ一組のクラス代表だったもんね。でもそれだけじゃない気がする。

……もしかしてあたしとのあの一件を、あいつなりに考えてくれてるのかな?

そんな考えが浮かんだけど、すぐにあたしは一夏の性格を思い出し『でもなぁ』と、また溜息をついた。

あの鈍感で『まぁ、過ぎたこと気にしても仕方ないな。何とか何だろう』って結構淡泊な面が強いあの一夏が。いつまでも一つの事に執着……特に女の子関連に関して深く考えないあの二ブチンが、そこまで考え込むとは思えな――



『一夏の心の中、それも結構深い場所にお前はちゃんと存在してるよ。自信を持て鈴。俺が太鼓判押して断言してやるぜ』



――っ!

瞬間、弾があたしに言ってくれた言葉が心の中でリプレイされパッとあたしは突っ伏していた机から頭を上げた。

も、もしかしてそう言う事?

あたしとの事だから? あたしに関する事だから、一夏の奴真剣に考えてくれてる……?

その考えが私の頭の中に浮かんだ瞬間―― ポッと顔を赤らめる。


……う。


う、ううぅ~~~~~~~~~っ!


赤くなった顔を隠すようにしてあたしはまた机に突っ伏して悶える。心の中はさっきとは違い気恥ずかしさと、嬉しさやらで悶々としている。


『ねぇ? 何かしらあの可愛い生き物』『仕草が猫っぽいのがまたいい味出し得るわね』『ハグさせて! 今すぐあの子ハグさせて!?』『駄目よっ! 見て愛でるだけって決めたでしょ!』『流石は代表候補生ね。ああ、かぁいいなぁ~』『代表候補生関係あるの?』『持って帰っていい?』『誰か先生呼んで。こいつクロロ○ルム沁み込ませたハンカチ持ってるわ』


なんだか周りが騒がしいけど今のあたしには良く聞こえなかったから特に気にせず、あたしは自分の思考に没頭する。

……うー。ど、どうしよっかな? は、反省してるみたいだしそろそろ許してあげようかな?

い、いや駄目よ! そこはちゃんとしないと! 間違えて覚えてる一夏が悪いんだからっ! ここで甘やかしちゃったら一夏の奴また同じこと繰り返すに決まってるんだから!

……で、でもあんまり放置しといても……ま、不味いわよね? 仲直りの切っ掛けを逃すことにならない? ここは大人の余裕を見せつけてあたしの寛容さをアピールするチャンスじゃない?

い、いやいや……あんまり簡単に許しても駄目よ。安い女って思われる可能性だってある訳だし……それに一夏ひっぱたいちゃったからなぁ。

なのに簡単に許しちゃったらあたしとの約束が軽いものだと思われるし。

なにより逆に一夏が怒りそう『簡単に許せる程度の事で、俺は叩かれたのかっ!?』て。

う~~~~! でもでもっあたしと一夏がこのままだとそれに託けて、他の娘達に付け入る隙を与えちゃうし~~~っ! 

特にあの馬鹿女二人。そ、それだけはなんとしても阻止しないとっ!

机に突っ伏したまま、あたしは両手で頭を抱え『う゛ぅ~~~~っ! う~~~~っ!』と唸りながら考え込む。


『離してっ! 今、あの子猫ちゃんには私の抱擁が必要なのよっ!』『誰が離すかぁ! 抜け駆けは禁止っつったでしょうが!?』『これで理性失ったの何人目だっけ?』『鈴たん……はぁはぁ……!』『次々と堕天していってない!? 既にヤバいわよこの娘!?』『ヒャッハァーッ【バチバチバチィッ!】アババババババッ!? あふっ(がくり)』『はぁ……これ護身用なのになぁ【バチバチ】』『なんでそんなモン持ってんの!?』『え? 購買部に普通に』『おい学園っ!?』『というか女の子がヒャッハー! って何よ』


なんだかやたら周りが騒がしくなった上にちょっと焦げ臭いにおいもするけど放置する。気に掛けている暇なんかない。

うー……どうしたら、どうしたら。

―― そうだっ! 弾に相談してみたらいいんじゃない!? 弾ならきっと協力してくれる筈よ!

破天荒で色々ブッ飛んでる奴だけど。ここ一番って時にはいつも頼りになる親友の存在に、あたしはパッと表情を輝かせ――

途端にがっくりと脱力した。

って駄目かぁ・・…何でか知らないけど、弾の奴とは一夏以上に顔を合わせてないしなぁ。

溜息をついて、あたしは項垂れるようにして机にヘタれる。

あの日以来、弾は何でか知らないけど姿を見かけなくなった。何をしているのかは全く知らない。本音にそれとなく訊ねてみたりしたけど本音も詳しくは知らないみたい。

まぁ……本音とあたしに毎日『弾特製愛込めまくってます弁当』を用意してくれるのは感謝してるし嬉しいんだけど、なんだかなぁ……。

しかもあたしと本音で弁当の中身が全く違う上に、それぞれ好物ばっか。栄養バランスも考えてる凝り具合。主夫かあいつは? でオカズ交換が絶えないじゃないのよぅあの馬鹿。

昼食時間のささやかな時間を思い出したあたしは、知らず知らずのうちに顔が緩みそうになっている事に気付いて慌てて表情を引き締める。

あ、危ない危ない変な子だと思われる所だったわ。

全く何してるんだか……本音だって寂しがってるってのに。

っていうか本音って弾に気があるわよね絶対。

まぁ、本音ならあたしも応援してあげてもいいんだけど……でもあたしとは違った意味で苦労するわねぇ~あの弾が相手だもん。

あー…また思考が別の方にいっちゃってる。

机に頬杖をついて、あたしはまた溜息をはいた。最近溜息の数が増えたなぁあたし。


―― っと、そんな事を考えていた時だった。


―― ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!


「―― ん? 何よこの音?」


突然響き渡って来た音にあたしは眉をひそめる。

うるさいわね一体何の音よ? 考えに集中出来ないじゃないの全く。

地鳴りのような騒音の方角にあたしは顔ごと視線を向けた。音は廊下の方から聞えて来る。

音の大きさは次第に大きくなってきてる所をみると、どうやらこっちに近づいてきてるみたい。一体何よ? 騒がしい。

まるで何かがこっちに向かって突進してきているような・・・…って待って? 

そこまで考えてあたしはピンと頭に閃きが走った。

もしかして、いやもしかしなくともっ! IS学園でこんな地鳴りのような音響かせて移動する奴なんて一人しか思い浮かばないというかっ! 一人しかいないじゃないの!

そのまま二組の扉に目を向けたその瞬間―― っ!


「【スッパァァーンッ!】ったぁのもおおおおおおぉぉぉぉぉぉーうっ!!」
「「「「「自動ドアなのに手動で開けたっ!?」」」」」


強引に二組のドアを手で開けた、ついさっきまで思い浮かべていたあたしの親友であり。

この学園始まって以来の問題児。

ここ最近姿を見せなかった弾がいつもの如く騒音と騒動を引っ提げて現れた。

―― ってやっぱりあんたか!? 姿を見せないかと思ったらこれよ! 本当にまた突然に現れる奴ねあんたって!


「だ、弾!? あんた一体今まで何処にっ!?」


思わず声を上げたあたしだったけど……その瞬間、弾があたしに視線を向け『クワッ!!』っと目を見開いて凝視してきた。


な、なに!? 何でそんなに目を見開いてあたしを――っ!?


そしてそのまま大きく息を吸い込んだ弾は――


「―― っバストオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!」



……あ?(ビキっ)


叫び声と共に身を屈め――


「―― チッパアアアアアアアアアアァァーイィィィィ!!」


―― ドンッ!! と空気を弾く音と共にあたしに突進してきた。


「……」


あたしに向かって突撃してくる馬鹿を見つめ続けながら、あたしはそれを笑顔で迎え――



ガラッ!(窓を開ける)


『イイイイイイイイイィィィィッ!?』(馬鹿が横を素通りしていく声)


―― ガッ!(足を掛ける)


『イ?』(キョトン)


―― にこっ♪(花のような笑顔)


ヒュー(馬鹿が窓から落ちて行く音)


―― ピシャッ!!(窓を閉める)


―― ドグシャアッ!! ボキボキャッ!!(何かが潰れる音)


『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
『五反田くんが、転落してきたあああああああっ!?』
『メディークッ!? 誰か来てえええっ!! あたり一面が血の海にいいいいいっ!!』
『……うぼぉあああああ……!!(ズリズリ)』
『嫌あああああぁぁぁっ!? 血塗れで動きだしたぁ!?』
『何で生きてるのっ!?』
『(ごそごそ)そ、促進成分配合……パイビタンD……!【シャキーン!】』
『何かビン取り出して宣伝してるっ!? 動ちゃ駄目だってば!』
『せ、【世界紳士連合】の……【シルクハットマーク】が、めじ、るし……(バタッ!)』
『ち、力尽きた……!』
『でも何だか最後までやりきった漢の顔を浮かべて満足そうだよ!?』
『あ、あれ? なんか指先に文字が書いてある?』
『ダ、ダイイングメッセージ? なんて書いてあるの?』
『え、えーと……“モップ持ってきて”』
『『『掃除する気でいるの!?』』』


騒がしくなった外の喧騒を無視して、あたしは乱暴に自分の席に腰を下ろして腕を組む。

ったく! あの馬鹿は毎度毎度あたしが気にしている事をズバズバとっ!!

―― と、その時二組の教室のドアが開く音が耳に届き。


「し、失礼しまーす」
「失礼する」
「失礼いたしますわ」
「しつれーしまーす」


二組の教室に入室の断りの声と共に入って来た四人の姿が目に写って、あたしはギョッと目を剥いた。


「い、一夏っ!? それに本音も!?」
「よ、よぉ鈴」
「やっほーりんりんー」


突然二組の教室を訪ねてきた一夏達の姿に、あたしは思わずそう声を洩らしてしまった。そんなあたしに向かって一夏は片腕を上げてぎこちない笑みを浮かべる。

本音はといえば一夏とは対照的に、いつものようにほにゃっとした表情を浮かべたまま、ぽてぽてとやたら遅い足取りで近づいて来た。

そしてあたし達の様子を一夏から一歩下がった場所から眺めている馬鹿女二人……なんでこいつらまで居んのよ。

顔を顰めたあたしはそのまま馬鹿女達に睨む様な視線を向ける。けどそんなあたしに本音がいつものように話しかけてきた。


「あれー? りんりん。だんだんがここに来なかったかな~?」
「へ? 弾?」
「うん。私達よりも先にこっちに向かったと思うんだけどー」
「…あー、あの馬鹿ならなにを血迷ったのかそこの窓から飛び降りて行ったわよ」
「えー?」
「な、何があった?」
「あたしに聞かないでよ」


一夏の呟きにあたしは疲れたように息を吐き出して机に突っ伏した。そんなあたしを本音が慰めるように頭を撫でて来る。

どうしよう……なんかすごく癒されてるあたしがいる。


『―― う~む流石俺の血、頑固でしつこいな。モップ掛けじゃだけじゃビクともせん!! 誰かーアレ持ってきてアレ。多分それで落ちるから(ゴッシゴシ)』
『なんで普通に起きて掃除してるの!? しかもなんか腰入ってて様になってる!?』
『あ、アレって何? 石鹸?』
『油汚れに~♪』
『『『『ジ○イ!?』』』』


―― そしていつもの様に復活したらしい弾の声が窓の外から聞こえ、あたしはまた項垂れるのだった。

っていうか、案外ノリが良いわね学園の生徒って……。





*   *   *




「賭け?」
「おうそうだ! 普通にやったんじゃつまらねぇ。だから今度のクラス対抗戦で俺達と賭けをしねぇか? どうだ乗らないか微【パァンッ!!】お、おぼぉぉ……っ!?(鼻血ブクブク)」
((今、右腕が見えなかったっ!?))


弾がようやく戻って来て、あたし達は今向かい合うようにして話をしている。

突然やってきた弾達の用件を聞いたあたしは、その内容に少しだけ怪訝な表情を浮かべる。

話しの内容は今度のクラス対抗戦で自分達と賭けをしないかという話しだった。詳細は至ってシンプル、負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くという物。

また突然に妙な事をもちかけてくるわね? 今度は何を企んでるんだか。

ちょっと警戒するような視線を向けるけど、弾はふがふがとティッシュを鼻に詰めながらもヘラヘラとした顔を向けて来ている。

一夏に視線を向けても、若干強張った顔をしているだけでその真意までは読み取れそうにない。一体なんだってのよ?


「また突然ね。何企んでんのよあんた?」
「えーいいじゃんやろうぜ賭けー? 普通にやったんじゃつまんねーじゃん。減るもんじゃな……まさか減るのか!? 馬鹿っ何でそんな悲惨な事になるまでやったんだ!?」
「―― 殺すっ!!」
「りんりんビークルだよー。落ち着いてー? 良い子良い子ー♪(なでなで)」
「やっ!? ちょ! 本音やめ……ああもう分かったわよ! さっさと話を進めなさいよっ!(赤面)」
「あ! ずりぃっ!? 俺もなでなでしてもらいたいっ!」
「弾さん。良い子ですから話しを進めましょうね?(なでなで)」
「お、おおう!? っさぁ、話を続けようか(キリッ!)」
「……最近、マジで凄いよなセシリア」
「う、うむ。ああも手際よく弾を抑え込むとはな」


金髪に頭を撫でられた弾が俄然やる気を出した所で会話が続行される。

なんか随分と仲良くなってるみたいだけど。何があったってのよ? 撫でられて大人しくなった弾を見て本音が「むぅ~」と唇を尖らしてるじゃい。

その様子に気付いた金髪が困ったように「あら」と声を洩らして、弾の頭から手をどかしニッコリと笑顔を本音に返す。それに本音が「う、う~~~っ!」と唸り拗ねた顔を隠すようにあたしに抱きついてきた。

……なんか雰囲気が違くない? 金髪。


「何でも一つって言ったけどそれって何でもいいの? 本当に?」
「おう出来る範囲での事ならなんでもOKだぞ? 一夏に『俺は神だ!』って叫ばせながら町内を走り回せるといった、多少無茶なモノでも全然構わないさっ!!」
「おいコラ待て、色々待てコラ!」
「大丈夫だ一夏。人としての尊厳を捨て去れば君にもきっと出来る」
「出来るけどな!? 出来るけど絶対にしたくないぞっ!! どこが多少だ無茶すぎるわ!?」
「うわ男らしくねー」
「男らしい関係ないだろっ! 本当にやれって言われたらどうすんだっ! 俺に社会的に死ねってか!?」
「カモン! こっち側へ!」
「自分がそっち側の住人と認めてるお前の潔い姿勢に脱帽を禁じえないが絶対に嫌だからなっ!?」


目の前で馬鹿騒ぎする一夏と弾を尻目にあたしはしばし思考に没頭する。

あたし達でも出来る範囲の事であれば、多少無茶な命令でも可。

そしてその対象は一夏に限らず弾や本音、そして後ろの馬鹿女達でも構わない……ね。つまりこれはあたし一人に対し一夏達五人が勝負を申し込んでるって事よね?


「もしアンタ達が勝った場合はどうするの? まさかとは思うけど、あたしにあんた達五人それぞれの言う事を聞けってんじゃないでしょうね?」
「いやその点は安心しろ。俺達が勝ったらお前に命令権を持てるのは一夏って事で話はついてる。つまりお前が勝ったら、お前は俺達の内の一人に好きに命令できて、俺達が勝ってもお前に命令出来るのは一夏一人って内容だ。どうだ? 悪くない内容だと思うがね?」
「成程ね。それじゃぁつまり――」


そこであたしは言葉を区切って、挑発的な視線を一夏と弾の後ろに突っ立っている馬鹿女の黒髪の方へ向けた。

あたしが突然投げかけた視線に黒髪は一瞬驚いた様子だったけど――


「―― あたしがそこの女に『一夏の部屋から今すぐ出ていけ』って命令しても、全然構わないって事よね?」
「―― なっなんだと!?」
「あら」
「ふむ?」


あたしの言葉に黒髪は血相を変えた表情になり、横の金髪は少し意外そうに眼を瞬かせ頬に手を添え、弾は少し考え込む様に手を顎の下に持ってきながらあたしに視線を向け続ける。

黒髪の表情を見てあたしは挑発するような笑みを浮かべた。

はは、焦ってる焦ってる。その事に頭が回らないなんて本当にオメデタイ女ねぇ?


「何驚いてんのよ? 別に難しい事でもそれ程無茶な事を言ってないでしょあたしは? 十分『あたし達でも出来る範囲』を守っている命令だと思うんだけどなぁ」
「っ!? い、いやそれは、そうだが……!」
「はぁ? まさかその覚悟も度胸も無くあたしに賭けを持ちこんだっていう訳? 何それ? ふざけてんのアンタ」
「ぐぬっ……!」


言葉に詰まる黒髪にあたしは心底見下している表情を浮かべてやる。

そんなあたしの表情を見ても、黒髪が何か言い返そうとするも言い返せないでいるようで悔しそうに表情を歪める。

それを見て少し気分が良くなったあたしは、さらに追撃を行おうと口を開こうとした―― その時だった。


「あら、別によろしいじゃありませんの箒さん? その程度の事であればそれ程思い悩む必要なんてありませんもの。」
「―― なっ!? セ、セシリア?」


不意に黒髪の横にいた金髪が微笑みながらそう呟いた。

突然の言葉に黒髪は驚いたように金髪に目をむけるけど、その視線に金髪は余裕を持った眼差しを向け、そして黒髪の体を支えるかのようにその両肩に手を添えると優しく微笑んでみせたのだった。

その微笑みに黒髪は少し戸惑った感じだったけど、その体からゆっくりと強張りが抜けていくのが傍目からでも明らかに分かった。

そして次に金髪はあたしに視線を向けて―― あたしは息を呑む。

睨んでもいる訳でもなく、敵意を含んでいる訳でもない視線だというのに、

―― 力強い光を持つ視線に不覚にも気押されてしまったからだ。

慌ててあたしも、すぐに負けじとグッと眼に力を込めるけど、そんなあたしの視線を受けても金髪は微笑んで見せた。

な、何なのよ……!? 一体何だってのよこいつ!? 以前とは別人じゃないの!?

そんなあたしの心情を知ってか知らずか、金髪が口を開く。


「『一夏さんの部屋から出て行け』ですか。凰さんは随分と小さな事を御望みになるのですね?」
「ち、小さい!? ど、どういう事よ! ―― っあ、分かった! アンタにしたってあたしのこの命令は自分にも都合が良いからそう言ってんでしょ? 挑発して、あたしこの命令を実行させようって魂胆? はっ! 意地汚い奴ね。素直にそう言えば良いじゃないっ!」
「いえ全然? むしろこの際箒さんが部屋から出ていこうとも、それを機に貴女と一夏さんが同室になろうとも、私は大いに構いませんわ」
「な、何ですって!?」
「セ、セシリア。一体どういう事だ?」
「箒さんもそんなに思い悩む必要はありませんわ。ほんの少し我慢をするだけでいいのですから」
「が、我慢? 何を我慢するというのだ?」
「それは勿論『別の部屋に移る日が少しだけ早まる事』を、ですわ」
「「「は?」」」
「おおう。成程そう言う事か、セシリーちゃんクールだねー」
「あ……そ、そっかー……」


金髪の言葉にあたしと黒髪、ついでに一夏も揃って首を傾げるけど、弾は納得のいったような声を上げる。本音は……なんだか寂しそう? ど、どうしたってのよ。

部屋から移るのが少しだけ早まる事を我慢する、ですって?

困惑するあたし達に向かって金髪は視線を向けると、再び口を開いて話を続けた。


「一夏さんお忘れですか? 一夏さんも弾さんも『別の部屋の準備できるまでの間だけ』という条件で、箒さんや布仏さんと同室になっている事を。」
「―― はっ!? そ、そうだった。わ、私とした事が忘れいた」 
「あ……そういや最初にそんな事言われたな」
「はぁ!? な、何よそれ!? あたし聞いてないんだけど!?」
「ついでに言うと部屋は一カ月位で準備できるって言ってたぜマヤたんは」
「な、なんですって!?」
「ええ、つまりはそう言う事ですわ。今の部屋割りが行われたのが先月の始め頃ですから、そろそろ一カ月が経ちますわね」
「う、嘘っ!?」
「いやホント。あー…のほほんちゃんと一緒に過ごせんのも後少しかぁ……寂しくなるな」
「うー……」
「今はクラス対抗戦の事もありますし、もし部屋を移るとしたらその後になると思いますわ。その事を踏まえると……凰さんが箒さんに提示した内容はとても小さい事だと思うのですが? もし凰さんが賭けに勝ったとしても、その内容が有効になるのはクラス対抗戦の後ですもの。数日か一日、もしくは数時間か……恐らくそれ程長くは無いと思われます。凰さんがその程度の日数でも構わないと言うなら、箒さんも特に悩む必要がないと思うのですが、どうでしょう?」
「う、うぎぎっ!?」
「た、確かにそうだな……というより寧ろこっちがそれで良いのかと聞きたくなる内容になってしまうな?」
「さらに言えばその後は先生方の介入がありますから。一夏さんがそれ以降で女子生徒と同室になるという可能性は今後一切無いと考えていいでしょう。もしその事で文句を言われても、これ以上は『私達の出来る範囲』の事ではなくなりますのでどうしようもありません。それでもよろしいのですか凰さん?」
「く、くぬぅぅぅ~~~~~~っ!?」
「りんりんー。どーどー♪」


本音がまたあたしの頭を撫でるけど、今度はそれでもあたしは落ち着けるようになかった。

は、腹立つっ! 至極もっともな事を指摘された事もそうだけど、それ以上にあの金髪の諭すようなあの態度が心底腹立つ……!!

そんなあたしの様子に、弾はニヤニヤした表情を向ける。


「で? どうすんだ鈴それで良いのか?」
「い、いい訳ないでしょうが! な、なし! 今のはなしよ!」
「ええ、それがよろしいと思いますわ」
「う、うっさい! アンタは黙ってなさいよ金髪っ!」
「あら? ふふっ余計な事でしたわね。申し訳ありません」
「ぐぎぎぎ……!!」
「よ、余裕だなセシリア」
「……むぅ」
「へい! そこの言い負かされて膨れっ面のチャイナッ娘」
「ま、負けてないわよっ!」
「へいへい。まぁとにかくちょいと密談があるから耳を貸せ」
「は? な、何よ密談って」
「いいからいいからちょっとこっち来い。一夏、悪いけど席外すがいいかね?」
「へ……? あ、ああ」


そう一夏に言葉を投げかけた弾。

そのまま席から立ち上がりあたしに手招きをして教室の隅まで移動する。一体なんだってのよ?

多少訝しみながらもあたしは渋々といった感じで教室の隅まで移動すると、弾と一緒にしゃがみ込んでボソボソと会話する。


(一体何よ? 一夏達には聞かれたくない事なの?)
(んー実はだな鈴?)
(何?)
(最近俺どうかしてるみたいでな?)
(んなのしょっちゅうでしょうがっ!?)
(だろうな。まぁそれはいいとして、実は今回お前にこの賭けを持ち込んだのには深い理由があんだよねー)
(はぁ? 理由って何よ?)
(……お前一夏と仲直りする切っ掛けを掴めてないだろ)
(―― ぐっ! そ、それは……!)
(やっぱり。まぁ俺も最近忙しかったから偉そうなこと言えんが……いつまでもこのまんまってのは不味い事に鈴も気付いてんだろ? いい加減何か行動を起こさんと、このままズルズルと引き摺る事んなるぜ?)
(う、うぅ……そ、それはそうなんだけど……どうして良いのかわかんないのよぅ)
(―― で、だ。そんなお前等親友の為に俺が考え出した策ってのが今回の賭けって訳なんだよ。驚いた?)
(ど、どういう事っ!?)
(どうもこうもない。今回の賭けの本当の狙いはお前等の仲違いを修復するのが目的って事だ。だからお前にこの賭けに乗ってもらわねぇと困るんだよ)
(ホ、ホント!? それ本当なの!!)


驚きすぎて思わず念を押すように弾に聞き返してしまったあたしに、弾はゆっくりと頷く。その顔は相変わらずヘラっとしているがその瞳に冗談は一切見られなかった。

パァっと笑顔になった私だったけど、次の瞬間には表情を引き締めもう少しだけ弾に近づく。


(く、詳しく聞かせてっ!)
(この案を用いた理由は一つ。お前等二人添って結構頑固な所があるからなぁ。下手に小細工すると返って反発し合って逆効果になりかねん。だからこそこの賭けを用いた作戦は有効なんだ)
(ど、どういう事?)
(だって分かりやすいだろ? ぐだぐだ口で言い合うより思いっきりぶつかった方がお前等の性に合ってる。負けたら相手の言う通りにする。シンプルかつ明快だ)
(んー……た、確かに)
(此処だけの話。一夏の奴もし賭けに勝ったらお前に謝罪を受け取らせる気だ)
(へっ!? な、何それ!?)
(一夏の奴あの日以来、真剣にお前との約束を思い出そうとあいつなりに頑張ったらしいんだが……結局駄目みたいでさ? これじゃあ何時まで経っても、お前と仲直りできないって悩んでるんだよ)
(……そ、そうなんだ)
(約束は思い出せない、けどお前とは仲直りしたい。そこで今回の賭けだ。賭けに勝ってお前に謝罪を受け取らせる事。『約束の内容はまだ思い出せてない。けどお前にはちゃんと謝りたい。だから俺に謝らせてくれっ!』てな? もちろんお前に謝罪を受け取らせた後も、約束の事は放置せず必ず思い出す事も誓う筈だ。つまりあいつは今現在の鈴との関係を修復したいだけなんだよ。だからこそこの賭けに乗ったんだ。)
(ば、馬鹿じゃないの……あいつ)
(おう馬鹿だ。けど馬鹿なりにちゃんとお前の事考えてるんだよ。言ったろ?『一夏の心の深い部分に鈴はちゃんと存在してる』って)
(……うん)


弾の言葉がじんわりと心に沁みて、あたしは胸の内が温かくなっていく。顔の表情が緩んでいくのも分かったけど、それすらも気にならないぐらいあたしは喜びに震えていた。

あの馬鹿……本当に何処までも馬鹿正直に真っ直ぐなんだから。

一夏の気持ちが嬉しくて、弾のあたし達を想っての行動がくすぐったくて。

その幸せを噛みしめるようにギュッと胸に手を押しつけた。

そんなあたしの仕草に苦笑を浮かべて眺めていた弾が、再びあたしに向かって口を開く。


(つー訳で鈴。この賭けに乗ってくれないかね?)
(ふ、ふん! しょうがないわね。の、乗ってあげるわよ!)
(やーん♪ 照れちゃってきゃーわイイー♪)
(う、うっさい馬鹿! ……で? あたしはどうしたらいいの? クラス対抗戦で一夏に勝ちを譲れっての? 流石にクラス代表として、というか代表候補生としてそれはちょっと不味いんだけど)
(アホか! んな事したら全部台無しじゃい。むしろ全力で迎え討て、というか勝っても構わん)
(へっ?)
(あのな? 一夏は今日までの間お前に勝つ為に特訓をしまくってるんだぞ? 体力作りから接近戦での立ちまわり、そしてお前のIS対策も練りに練ってる。お前の過去の戦闘データも掻き集めるなんて慣れない事をしてでもな)
(い、一夏が!?)
(だからお前が少しでも手を抜いたりしたら速攻で一夏にバレるぞ? そしたら不完全燃焼な試合になって色々とオジャンだ)
(そ、そっか。でも本当に勝ちに行っちゃっていいの?)
(勿論だ。お前が賭けに勝っても関係修復はちゃんとできんだから安心しろ)
(……へ? ど、どうやって?)
(んなもん簡単だ。お前が勝ったら一夏に『次の休日、一日あたしに付き合いなさい! もちろんお金は全部あんた持ちだからね!』って言えば良いんだよ)
(……はへ?)
(つまり、丸一日一夏とラブラブデートに行けって事。金は全部一夏持ちで一日中一夏を振り回してやれ。それで万事全て上手くいく)
(デ、デデデッデートっ!? あ、あああたしと一夏がっ!?)
(おーそうだ。ショッピングにカラオケにレストランで食事と思いつく限りの事を、一日中一夏に求めろよ。時に小悪魔に、時に子猫のように、わがままに甘えまくっちまえ!)
(あ、甘えろって! な、なななにゃにを言ってんのよ!?)
(そんでもって散々一夏を振り回した後に、デートの締めくくりにこう言えば良い『今日は楽しかった。仕方ないからこの位で勘弁してあげるわよ。』ってな)
(……へ?)
(つまりそのデートの一件で一夏を許してやるって言えば良いんだよ。そうすりゃ一夏も、まぁ色々と思う事もあるだろうが納得するだ。)
(……)
(んで、肝心の約束内容に関しては最後の最後に『それはあんたの宿題よ。ちゃーんと思い出しなさいよね!』って可愛らしさ全面に押し出して言ってやれば、一夏も約束の事をしっかりと意識するだろし、かつ鈴とも仲直りができた上にいい思い出の一ページとし一夏の心に刻み込まれることだろう。もしかしたらそれ以上にお前を意識し始める可能性もなくはないな)
(……)
(一夏とごく自然な流れでデート出来る上に仲直りも出来て、かつ約束の事も忘れさせない……むしろ一夏との賭けに勝った方がお前のメリットはめちゃデカイと思うんだが? 無論デート中は邪魔が入らないように俺が全力でバックアップする)
(……弾)
(ん?)
(あんた天才よ)
(ふっ……それ程でもねぇよ【キラン!】)
(―― 全力で一夏を叩きつぶしてやるわっ!!)
(おう! その意気だ!)


右手をきつく握りしめ思わず立ちあがったあたしは、猛然と心に誓った。

ふ、ふふ、ふふふふふふっ! 勝つわ来週のクラス対抗戦! 何が何でも一夏に勝ってやるわっ!

あたしへの対策を練っているようだけど。

ふふ! 甘い甘いわよ一夏っ! 過去の戦闘データなんて見ても無駄よ! あたしは常に成長するんだからっ! 

悪いけど来週のクラス対抗戦、もといあんたとの賭けはあたしが勝たせてもらうっ!

そっそして……いいいい一夏とデ、デートに……!! ふ、ふふふふふっ!!


―― 滾ってきたあああああああああああああああああああああっ!!


闘志に燃え上げる乙女心を滾らせ、あたしはクラス対抗戦への意気込みを最大限に引き上げる。

色々と燃え上がっているあたしだったけど、しばらくしてすぐあたしに向かってなんだか生温かい視線を向けていた弾と一緒に一夏達の元へと戻って行った。

戻ってきたあたし達に一夏が言葉を投げかける。


「ん、終わったのか? 一体何を悪だくみしてたんだ」
「おう! どんな命令がお前にとって一番苦痛なのかを話し合ってきた!」
「本当に悪だくみだったのかよ!? 何話しあってんだお前等!」
「一番有力なのは、一夏に千冬さんの部屋で下着を物色させて、千冬さんに『千冬姉!  家から予備の下着持って来たよ!』と、職員室に飛び込ませるって案なんだが」
「―― 待て本気で待て。それ洒落になってねぇ……っ!?(顔面蒼白)」
「ふふん♪ 一夏っ! あたしに賭けを持ち掛けるなんていい度胸してるじゃない? いいわよ受けて立つわっ!! 後悔するんじゃないわよっ!!」
「俺は今物凄く後悔してるんだが!? 弾の話は嘘だよなっ!? なぁっ!?」
「さて、鈴が承諾してくれた事だしこれで決まりだな! 来週のクラス対抗戦、負けた方が何でも言う事を聞く事! 異論は無いな!?」
「覚悟しなさいよ一夏っ!」
「ヤバい・・…!? クラス対抗戦絶対に負けられねぇっ! 絶対に負けねぇぞ鈴! そっちこそ覚悟しとけよ!」

「……賭けの対象に私達も入っているのを忘れてないか?」
「うふふ。どうやら鈴さんの眼に、私達の姿は既に入っていないようですわね」
「おー二人共燃えてるねー♪」


本音達が何か喋っていたようだけど、弾を挟んで正面から睨みあうあたしと一夏には聞こえておらず、お互いに闘争心を剥きだしにして相対する。

勝っても負けても、仲直りは出来るけど―― あたしに負ける気なんかこれっぽちも無い! 絶対に、ぜーったいに一夏に勝って! デ、デートに行くんだからっ!!



恋する乙女心を熱く燃やし、あたしは来週のクラス対抗戦に向けて全力で取り組む事を決意したのだった。




―― そこに色々な思惑があった事にまだ気付かないままで。





【 弾と愉快な仲間達 SIDE 】


『……なんか妙な呼称で呼ばれた気がすんな?』
『おりむーどうかしたのー?』
『ああいや、なんでもない。それよりも弾上手くいったか?』
『おう勿論だ。来週のクラス対抗戦、鈴は本気でお前に向かってくるぜ? 気合い入れろよ一夏。後はお前にかかってるんだからな?』
『ああ分かってる。箒にセシリア、これからも俺の特訓に付き合ってくれるか? クラス対抗戦まで時間は無駄に出来ない』
『うむ分かった。アリーナが使用できない場合は剣道場で私が鍛えてやる。まだまだ太刀筋が甘いからな』
『アリーナが使える時は私がISでお相手致します。一夏さんも大分ISに慣れてきたご様子ですが……射撃武器に対しての間合いの詰め方が少し強引すぎる節がありますから、まずはそこを課題として取り組みましょう』
『ありがとう二人共。助かるよ』
『『一夏が鈴に勝つために、この二人に特訓をお願いしている。』……これで一夏の傍に箒ちゃんとセシリーちゃんがいても、鈴が不快に思わない納得のいく理由ができたな。やれやれ、最近色々とナイーブなチャイナっ娘には気を使う事が多くて困るぜー』
『仕方ありんませんわ。私も箒さんも凰さんに快く思われておりませんから……』
『その通りだな。』
『大丈夫だよー。二人ともちゃんとりんりんとお話すればきっとすぐに仲良くなれるよー』
『……そうだといいのだがな』
『なーに大丈夫だって、鈴の奴だって【ピリr――ピッ!】へいお待ち! いつでも何処でも淑女の為にワンコール対応! 五反田 弾です!』
『なんで電話の相手が女子って分かるんだ?』
『気にした所で意味は無いぞ一夏』
『―― おおう虚さんじゃないですか! どうしたんですかね一体? ……ふむ? ほほー……』
『電話はお姉ちゃんからみたいー』
『お姉ちゃんて……え!? のほほんさんのお姉さん!? お姉さんいたのかのほほんさん』
『いるのだよこれがー。えへへ驚いた~?』
『―― 了解っす。どうもありがとございました。そんじゃまた後で【ピッ】』
『だんだんー? お姉ちゃんは何てー?』
『んー? 手札の一つが手に入りそうって連絡よ? ちょっとこれから会って来るわ虚さんに』
『なっ!? それ本当かよ弾!? というかお前他の人にも協力を頼んでたのか?』
『まぁ時間も無いしな、しょうがないさ……あーそれからセシリーちゃん。ちなみにそっちはどんな感じかね?』
『そうですわね……集まるにはもう少々時間が必要だと思います。何分調べ上げる事が多いので、ですが必ず間に合わせますわ。ご安心ください』
『ん、ありがとねセシリーちゃん。悪いねこんなことまで頼んで?』
『構いませんわ。どうかお気になさらないでください』
『だんだん~、私も一緒に行っていいー?』
『勿論だ! そんじゃここいらで別行動といくかね?』
『だな。剣道場に行こうぜ箒』
『うむ分かった。では行くとしよう』
『私は部屋でチェルシーに連絡を入れてみますわ。経過を確認したいので』
『あんまり無茶やって当日に動けなくなるなんて事になんなよ一夏?』
『分かってるよ。お前こそあんまり派手な事しでかすなよな!』
『箒ちゃんも一夏をよろしくね?』
『大丈夫だ。私がしっかりと見ておく心配は無用だ』
『セシリーちゃんもチェリー……じゃなかった! チェルシーさんによろしく言っといてね!?』
『……ですからそのチェリーって何ですの? というかチェルシーが電話で『ま、まさかその声はバロン!? バロンなのっ!?』って叫んでましたけど一体どういった関係ですのっ!?』
『『また変な名称がでた』』
『―― 色々あったのさ(遠い目)。そんじゃ行くぜのほほんちゃん! 背中へカモン!』
『ぱいるだーおーん♪(ガバっ)』
『ほんじゃねー?』


シュタタタタタタタタ――ッ!!(風になる)


『あっ! はぁ・・…本当に謎な人ですわね』
『まぁ今に始まった事じゃないだろう? ……それじゃ俺達も行くよ』
『そうですわね…・…はい、どうかくれぐれもお体には気を付けてください。一夏さん』
『……セシリア、お前は来ないのか?』
『ええ私もしなければならない事がありますので、一夏さんをお願いしますわ箒さん』
『そ、そうか承知した』
『それじゃあなセシリア』
『はい……一夏さん?』
『ん? どうかしたのか?』
『―― ふふっ。貴方が一刻も早く立派なナイトへと成長する事を祈っていますわ♪』
『へ……? な、何だよ急に』
『何でもありませんわ。では……』


コッコッコッ…。


『何なんだよ一体?』
『―― むぅ、セシリアめ……』
『ん? どかしたのか箒?』
『ええい何でもない! さっさと移動するぞ一夏! 早くしろ!』
『な、何だよ急に? 言われなくても行くって』







様々な思いを乗せ――


クラス対抗戦の日はやって来る――













【 おまけ 】


「……なぁ」
【……】
「いい加減に機嫌直してくれよ相棒~」
【……】
「ごたんだごーごりっぷくだねー?」
「しょうがないだろ~~~! 『六代目』の魂を感じ取っちまったのは事実なんだからさー!」
【……そんなにあっちが良いならあっちに行けばいいじゃん】
「ようやく口をきいたかと思ったらこれだよ。あーもー悪かったってー」
「ごたんだごー許してあげよー? ねー?」
【……のほほん嬢】
「ん? なにー?」
【昨日の夜、相棒が寝言で『ぬふふふ虚さーん♪』って言ってましたよ?】
「何? 俺そんな事寝言で言ったのか? そんな素敵な夢を見た記憶はないんだがねー?」
「……」
「う、うん? どったののほほんちゃん? め、眼がなんか怖いな~と思う今日この頃ですよ?」
「……」
【……】
「あれ!? なんだか俺メッチャ責められる!? 何だこの状況!?」







後書き

・・・・・超お久しぶりです。釜の鍋です・・・・・・。いやー・・・・その・・・更新遅くなりまくって申し訳ないですっ! 日付見て見たら一カ月もほったらかしでした・・・。言い訳は・・・はい特にないです。なんですかねー・・・パソコン向かっても書く気になれないというか気が乗らないというか・・・もしやこれが俗に言うスランプか!? まぁ、それは置いといて、さて次回。ようやくクラス対抗戦が始まります。弾が、一夏が、箒が、セシリアが、鈴が、生徒会に簪が大活躍しますっ! さーてどうなることやら。それではまた次の更新で・・・・・が、頑張ります。



[27655] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/02/06 18:38
【 千冬 SIDE 】

…ああ、なんだ私の番か?

私の名は、織斑 千冬だ。IS操縦者育成機関【IS学園】の教師及び一年寮の寮長を務めている。以上だ。


机の上にある、コーヒーを淹れたばかりのカップを手に取り口に含む。

程良い苦みが口内に広まり、ゆっくりとカップから口を離すと小さく一息ついた。

窓の外を眺めると、日が沈みかけている夕焼け空が広がっている。


―― ああ、平和だ。


「―― ふぅ、これでよしと。織斑先生。明日のクラス対抗戦に措ける日程表ができましたので確認をよろしくお願いします」
「ああ。どうもありがとうございます山田先生」


向かい側の席から、笑顔を向ける山田先生に用紙を差し出され、それを受け取りざっと目を通す。

うん、特に問題は無い様だ。

視線を用紙から外し、変わらず笑顔をこちらに向けている山田先生に視線を向け頷く。


「結構です。では明日のSHRで生徒達に配布致しますのでコピーをお願いします」
「はい、分かりました。っはぁ~、いよいよ明日ですか。ようやくって感じですね~」
「ええ。クラス対抗戦の【代表同士の対決】は明日、という意味なら間違いではありません」
「はい、そうですね」


私の言葉に、山田先生がにっこり笑顔を浮かべ同意の言葉を口にした。

さて、クラス対抗戦。これの真意を明確に理解している生徒が一年生に一体どれほど存在するのかは甚だ疑問だが、たんなる学園行事の一つと捉えている生徒のほうが多いだろう。特に今年入学したばかりの一年生では、な。

正確に言えば、クラス対抗戦は既に始まっているのだから。

そう、これは『クラス代表同士の対決』ではなく『クラス同士の対決』。つまり、一クラスとういう一つの『組織』同士の争いなのだから。

代表同士の対決などと考え、自分には関係ないと考えている生徒は、恐らくクラス対抗戦後に少なからず後悔するはずだ。

クラス対抗戦は代表同士の『個人の技量』を評価するのではなく、そのクラスの『組織力』『団結力』が試されており、対抗戦でクラスの代表が敗れたとしても、総合的評価には代表同士の勝敗は、その中の一つの評価としてしか認識されない。つまり、相手のクラスの代表に自分達の代表が敗北したとしても、全体的評価で相手のクラスよりも上位に位置づけられる事だってある。

まぁもっとも、クラス代表の勝敗がそのクラスの評価対象の中でも、一番の重要な評価に繋がるのは間違いではないが。いくら周りが頑張ろうと『結果』に繋がらなくては意味がないのだから。
だがそれでも目覚ましい『組織としての技量』が高く評価されれば、総合的に優勝をする事も不可能な話ではない。その証拠に過去を紐解けば、代表が敗れたものの、クラス対抗戦で『総合優勝』を果たしたというクラスの記録が確かに残っている。

そして、各クラスへの視察や監査を行う『クラス対抗戦監査員』を任じられている教職員の先生方の、今日までに措ける各クラスの評価も既にほぼ終了した所だ。


「山田先生。現在の各クラスに措ける評価はどうなっていますか?」
「はい。やっぱり二年生、三年生ともなるとお互いに牽制し合っている姿が多く見られています。ですがやっぱり、一年生はただの学園行事としか捉えていない生徒が大半を占めているようです。まぁしょうがないと言えばしょうがないですね」
「そうですか。全くなんとも緊張感に抜ける話しだ。【IS学園】は一般の学校とは違うという事は入学前に分かっているだろうに。最初に私は言った筈だぞ。クラス対抗戦は『各クラスの実力推移を測るものだ』とな。クラスの評価の底上げの為にクラス代表を鍛え、支援し、代表同士との対決までに優位な状況を作り上げる事が、自分達の『組織』としての力を示す事に繋がると考えつかんのか。その結果がその後の自分達のクラスの評価になるというのに」
「あ、あははは。まぁその、みなさんまだ高校生になって間もないですから」


私の言葉に山田先生が困ったように乾いた笑いを浮かべる。

緊張感のない一年の現状に溜息を吐きつつも、クラス対抗戦後に痛い目を見るであろう一年生達に呆れる。

まぁ、その後の自分達の在り方を考えさせるには十分に効果が期待できる事には変わりはないが。


「あ! ですけど、一組のクラスの評価は高いようですよ! みなさんクラス対抗戦の真意に気付いたみたいで色々と動いてるようですから! 私達としては鼻が高いですね~」
「……」
「あ、あれ~? な、なんでそんなに不服そうなんですか織斑先生? わ、私達の受け持つクラスのことですよー…?」
「…不服などない。まぁガキ共にしては上出来だと思っていますよ」
(えぇー…? そ、その割には表情が険しいんですけど、言葉にも棘が)


不服などない、ああ不服などないさ。現に一年のひよっ子共にしては中々良い動きを見せていたと思っている。

アリーナの使用の権限を他の組よりも多く獲得しようと動く者。
他の組のクラス代表の特徴や情報を集め、織斑や五反田に伝える者。
織斑の重要な情報を隠し、他のクラスへの漏洩を防ごうと呼びかける者。
普段通りの態度で、日常会話からそれとなく偽情報を他のクラスの生徒に流す者。
織斑へISの整備、調整、点検に名乗りを上げサポートを進みでる者。
クラス対抗戦の真意に気付いていない他のクラスに、その真意を気付かせないよう行動を徹底し暗躍する者。

と様々だが、それぞれクラス対抗戦に向け各々が一組の優位な状況を作り上げようと動いていた。

―― それも一人の漏れもなく一組の生徒全員が、だ。

入学し一月程しか経っていない一年生にしては、これは珍しい事であり。監査、視察を行っていた教職員の先生方を少なからず驚かせたようだ。

この事で『流石織斑先生の教え子ですね。素晴らしい』などという言葉を掛けられたのも記憶に新しい。

ああ本当に良くやったと思っている。いい傾向だとも。
クラスが一つになって事に望む、それは素晴らしく尊い事だ。この経験はあいつらにとって何事にも代えがたい人生の財産になる事だろう。

理解しているさ、理解しているとも頭では分かっているんだ―― だがな?


「これをあの害悪小僧が触発し、引き起こした事だというのがどうしても納得がいかん…!!」
「あー…や、やっぱりそこですか」
「いつもいつもいつもいつもいつも人の胃に痛みと重みを与えん事しか引き起こさんくせにっ!! 今回の様な事態に持って行ける能力を持っていながら何故それを常日頃から実行しようとせんのだあの小僧…っ!」
「あ、あは、あははははは」
「しかも忙しい一夏の代わりにクラスのまとめ役に、自分以外にもオルコットを当てたり、近接訓練に篠ノ之に実戦剣術を組み込むよう頼んだり、クラスの手持ちぶたさな女子に各々仕事を頼んで仲間意識を高めるのを促したりと、そういったさり気ないフォローを加えるくせに、私には胃痛しか与えんとはどういう事だ……!? 嫌味か? 嫌味なのか? 私に対する挑戦か? 喧嘩売っているのか良い度胸だ買うぞ幾らだ…?」
「お、織斑先生。ず、ずれてます論点がずれてきてますよ? 落ち着いてくださいぃ」
「だいたい見舞いに来た時もそうだ。誰のせいで寝込む事になったと思っているんだ害悪野郎が……っ!」
「ああ……ありましたねぇ。そんな事も(遠い眼)」


私の言葉を聞いた山田先生が、ふと窓の外へと視線を向け夕焼け空をその瞳に映し遠い眼をした。

心なしか哀愁が漂っている。ああそうだ山田君も被害者だったな。

そんな山田君に釣られるように私も再び窓の外の夕焼け空に視線を移した。


【 回想 】

『―― へいお待ち! お見舞い品片手に只今参上! 五反【ヒュッ! トスッ】っておおおおおおっ!? 額がっ!? 額にペーパーナイフがサクッとおおおおっ!?』
【見事な投擲術ですね。しかもノーモーション。素晴らしい】
『―― 即刻消え失せろ』
『酷くねっ!? お見舞いに来たのに!』
『貴様がそれを言うのか? 良い度胸だ今すぐ潰してやろう』
『というかいきなりナイフスルーとか危ないなぁ、俺じゃなきゃ死んでるよ。【スポッ】お、取れた』
『いやいやいや! おかしいです!? おかしいですよそこっ!? ご、五反田君何で平気なんですかっ!? 普通に抜かないでください!』
『あ、俺バンダナの下に鉄板仕込んでるんで。』
【厚さ1cm。相棒の頭突きにはご注意を。軽く死ねます】
(ど、どこの全身包帯姿の剣客ですかっ!?)
『ちっ、もういい何の用だ五反田。騒ぐだけなら何処か余所でやれ、私の手を煩わせん範囲で、遠くで。いやむしろ何もするな。すぐに私の前から失せろ』
『だからお見舞いに来たんですってば。えーと…ほい織斑先生にはこちら! 『弾特製やっぱこれだね茶碗蒸し』! どぞ』
『…何故茶碗蒸しなんだ?』
『胃に優しいんです』
『貴様本当に潰されたいらしいな』
『せ、先輩……』
『あ、そうそう。そしてマヤたんにもお見舞いの品を』
『な、なんですか……?(身構える)』
『相棒』
【へいどうぞ(にゅるり)】
(…なんだその妙な出し方は)
『そ、それはなんですか?』
『マヤたんにはこれ! 肉じゃが――』
『えぇ? な、なんで肉じゃがなんか……』
『―― をご実家のマヤたんのお母様から預かって来ました。』
『…はい?』
(ん? 温かい。出来たてかこの茶碗蒸し?)← 巻き込まれ回避。
『どうぞ』
『え、ああどうもありが――ってち、違いますよ!? ど、どどどどどういう事ですかああああぁぁっ!? 五反田君っ!?』
『え、何が?』
『ななななんなんっなんで五反田君が私のお母さんの肉じゃがを持っているんですかあああっ!?』
『? そりゃ預かってきたんですから当然でしょう』
『そういう事じゃないですっ!! だから! なんで五反田君が私のお母さんから肉じゃがを預かって来てるんですかっ!?』
『…そりゃ頼まれたんですから、別に不思議でもないでしょう』
『不思議ですよ!? 今までの私の半生の中でトップに立つ程、摩訶不思議で奇想天外な出来事ですよっ!? なんでお母さんの肉じゃがを五反田君が預かっちゃた上に頼まれたりしちゃってるんですかあああああああああああああああああああああ――――っ!?』
『…いや、成り行きで』
『何でですかっ!? 一体どういった経緯でそんな事態が起こっちゃうんですか!?』
(うむ、筍が柔らかいな。味も効いてる)← 超他人事。
『……』
『その『おいおい、大丈夫かこの人?』みたいな視線止めてください!? 会ったんですか!? 私のお母さんに会ったんですか!? いつ何処で何時何分の事ですかああああっ!?』
『先生疲れてるんだよ…。ほら、横になって布団被ってください』
【大丈夫。安静にしていればきっと良くなりますから、ね?】
『こ、ここここれ、これが大人しく眠ってなんていられる訳ないじゃないですかああああっ!? どうしてですか!? なんでお母さんに会っちゃってるんですかあああっ!?(半泣き)』
『ああうん、分かったから。俺が悪かったですから。…そうか、まさか此処まで情緒不安定になる程、【IS学園】の教師ってのは過酷な激務なのか。認識甘かったなぁ俺』
【改めましょう相棒】
『そういことじゃないでしゅ!! にゃんじぇお母さんに会えたんですか!? まさか行ったんですか!? 私の実家まで行ったんでしゅかあああああっ!?』
『ああついに呂律まで…くっ! もう見てらんねぇよ相棒っ!』
【耐えろ相棒。現実を受け止め、正面から受け止めてやることが一番の特効薬だ】
『くっ、そうだなっ! …あ、そうだマヤたん。いくら激務で忙しいからって嘘はいかんよ嘘は(ケロッ)』
『う、嘘って何ですか!? 一体何の事ですか!?』
『…おい五反田。茶碗蒸しは一個だけか?(完食)』
『あ、おかわりあります。相棒』
【へいお待ち(にゅるり)】
『どぞ。熱いので気を付けてください』
『すまんな』
『うわああああああああんっ!? 先輩ってば他人事だと思ってえええええっ!? あんまりですぅぅっ!』
『それはそうとマヤたん。嘘はいかんよ本当。お母さん大事にしなきゃ駄目じゃないか』
『何の事ですかっ!? というかお、おおお、お母さんに何を言ったんですかああああっ!?』
『ここ最近のマヤたんの近況を事細かに親切丁寧にご報告しました。そしたらお母さん泣き出しちゃって大変だったんですから全く』
『いやああああああああああああっ!? 何を言ったんですかあああああああっ!? お母さん泣きだす位、私の恥ずかしい失敗でも話したんですかああああああっ!?』
『いや、近況話し終えたらマヤたんのお母さん『―― 良かったっ! 本当に良かった…! あの子電話でもメールでも【しっかりやってる】【私も大人なんだから心配いらない】【私は出来る女なんです!】なんて事ばっかりしか言わないからっ! ああ、良かったわぁ全く見栄張っちゃって、おっちょこちょいなのは変わらないのねぇ……いつも通りで安心したわぁ』ってそれはもう本当に安心したように嬉し泣きを』
『おかああああああああぁぁ――さああああああああああああああぁぁ――んっ!?』
(…美味い)


【 回想終了 】


―― ああ本当に。


「美味かったな。あの茶碗蒸し」
「そこですかっ!? 五反田君のお見舞いに関して覚えてるのはそこだけですか先輩っ!?」
「それ以外は特にどうでもいい事だからな。それから山田先生。学園内でその呼び方は控えてください」
「ううぅ、あんまりです…! ええまぁ美味しかったですよ肉じゃが……実家のお母さんの味でしたからねぇ!? 電話で確認したらお母さんに『いい教え子さん持ったわね。真耶?』って言われましたよっ! ううぅ何でこんな目に……」


そのまま机に突っ伏した山田先生は、しくしくと啜り泣きを洩らし始めた。

その様子に私は小さく苦笑する。まぁ、五反田を押しつけた私のせいでもあるのだがその辺は諦めて貰おう。(生贄)

あいつの居るクラスを受け持ってしまったからには、騒動に巻き込まれるのは回避不可能なのだからな、本当に少しは自重というモノを覚えろあの馬鹿が。

―― そうだ騒動と言えば。

ふと、【ある事】を思い出した私は自分の仕事机の引き出しを開き、一枚の用紙を取り出しその内容に目を走らせる。

その内容は――


『【IS学園】のデータベースに何者かが不正にアクセスを試みた痕跡有り。教職員は十分な警戒を持つ事。なお、アクセス元の特定には情報に不可解なモノが混ざり、データ上に酷い混乱も見受けられ。特定不可』


目を通し終え―― 私は小さく溜息をつく。


(今回は当りだったか……やれやれ、全く無茶な事をする)


この内容を目にした瞬間、私の脳裏に浮かんだのは―― 一人の道化師の姿。

何を調べるつもりでアクセスを試みたのかは皆目見当もつかないが、毎度の様な馬鹿げた珍騒動目的だとは思っていない。

悪戯にしては度が過ぎている、それはあいつも分かっている事だろう。ならばこのような事をしなければならない事態にあいつが遭遇してしまったという訳か。

あいつがやった事だと確認もしていないのに、私の中では既にあいつの仕業だと確定されていた―― それは何故か。


(―― 時期が一致している)


この【IS学園】のデータベースに不正アクセスを試みた時期と。

私達教職員が、『寮内の部屋番号をランダムに張り替え、生徒達及び学園に大混乱を招いた珍騒動』の処理と後始末に四苦八苦し、『他の事に目を向ける暇もない』くらいに混雑していた時期と―― 一致している。

単なる偶然と片付ける事は簡単だが。 

実際この報告書の存在を知ったのはあの騒動の後始末を終えてしばらく経った後だった。その他の溜まりに溜まった書類の中に埋もれていた中からこれは出てきた。

その後色々と調査したがそれ以来何者かが不正にアクセスを試みる事態は起こらず、結果として今後十分に警戒を敷く事で一応の決着となった。

それに今はクラス対抗戦の事もある。表だって行動し生徒に余計な不安を与えるのは得策ではない。


(まさかとは思うが…此処まで読んでいたのかあいつは? …あり得ないと言い切れん所がまた厄介だ)


また小さく溜息を吐いた私は、その書類を今一度眺め―― そしてすぐに小さく丸めると近くの屑籠の中に放り投げた。

私は忙しいんでな? いつまでも終わった事に構ってなどいられん。

それに今後もあいつの行動には目を光らせていなければならない。

大抵が意味のない、こちらの頭を悩ませる事にしかならん珍騒動ばかりだが―― またいつ、起こした珍騒動の裏で、この道化師が暗躍するか分からんからな?


(今度は一体何をしでかすつもりなんだピエロめ……。全く私の周りには能力は高いくせに、色々と問題のある奴しかいないのか? 頭の痛い事だ。……まぁいい、今はせいぜい泳がせておいてやる。……いずれ何かしら役に立ってもらうぞ五反田?)


少し温くなってしまったコーヒーを口に含みつつ、私は小さく苦笑した。



*  *  *



【 一夏SIDE 】


―― 意識を深く落とし、全身の神経の隅々まで意識を張り巡らせるように瞑想する。

薄暗い闇の中。

自分以外には誰も存在しない、人ならば誰しも持っている己だけの精神世界。

その中で俺は自分に問いかける。


体に異常はあるか? ―― 問題なし。

疲れは? ―― 無し。昨日は体を解す程度の鍛錬後一日十分に休んだ。

やり残したことは? ―― 無いとはいえない。俺はまだまだ未熟だ。いくら鍛錬してもその思いは消える事は無い。今この時でさえ己の未熟さを痛感する。

自信は? ―― 良く分からない。有ると言えばあり、無いと言えばない。後は俺次第だ。

勝算は? ―― 僅かだがある。ならそれを手繰り寄せる事に心血を注げ。

気合いは――


「―― 十分だ」


閉じていた瞼を見開き、俺はゆっくりと自分の意識を浮上させ前方を見据える。開けた視界の先には、ピット内から第二アリーナへと続くピットゲートが伸びていた。


―― いよいよだ。


『白式』を纏い体の緊張を解しながら、俺はもうすぐ開始されるクラス対抗戦に、鈴との対決に意識を高めていた。

俺の隣ではそんな俺の緊張が伝わったのか箒が気遣うような視線を向けてくる。その後ろでは、千冬姉と山田先生がピット内のコンソールを前に会話をしている姿も見える。


「一夏あまり緊張に呑まれるな。戦いに措いて適度な緊張は己の武器となるが、それが過ぎると自分の首を絞める物にしかならんぞ」
「分かってる。大丈夫だよ箒」
「それにしては先程からそわそわと落ち着きがない様に見えるが?」
「これは気持ちが逸ってるだけだ、心配いらない」
「…そうか、ならばいい」


俺の言葉に少し呆れたように苦笑する箒。そんな箒に俺も小さく笑みを返す。

箒には……いや、箒だけじゃないな。みんなには今日までの間にホントに世話になった。

今日までの事を振り返ってみる。


―― 何度も叩きのめされる度に、自分の弱さに憤怒し。

―― 何度も打ちのめされては、みっともなく倒れ伏す自分の不甲斐なさに憎悪し。

―― 何度も挑む度に、実力の違いと、その遠さに絶望し。

―― そんな俺を見限る事無く何度でも受けて立ち、叱咤してくれる幼馴染の少女に感謝し。

―― 俺の成長を少しずつ、だが確実に促し、導き、諭してくれる英国の少女に感謝し。

―― 俺を支え、見守り、応援してくれるクラスの仲間達の存在の尊さに感銘し。

―― 何時も何処でもどんな時でも、肩を並べ共に歩んでくれる親友の心強さに激励された。


本当にみんなには世話になった。

支えてくれた仲間達の為にも、クラス代表としてクラスの今後の為にも、自分自身の為にも。

―― そして鈴の為にも。

今日のクラス対抗戦―― 無様な姿だけは、絶対に見せられない!

今一度気合いを入れ直しもうすぐ始まる試合に向けて意識を高める。


―― シュン。


「へいお待ち! 俺にしては地味な登場五反田 弾です! 何とか間に合ったようだね~」
【今日も元気に前掛けやってます。七代目です】
「お待たせしました。一夏さんの調子は如何ですか? 箒さん」
「弾にそれとセシリアか。少し緊張が見られる意外特に問題は無い様だ。それにしても遅いぞ二人とも」


その時、ピット内のスライドドアが自動的に開くと同時にいつもの調子でヘラヘラとした気の抜ける表情を浮かべた弾と、それに追従するようにセシリアがゆっくりとした足取りでピット内に姿を現した。

そんな二人に箒が少し呆れたよう苦笑を浮かべ二人を出迎える。

うん、ここ最近色々と協力する事が多かったせいか俺達の間に流れる雰囲気はかなり良好なものになっている。箒も随分打ち解けて来たみたいだし…良いよな? 何かこういうの。

二人が入ってきた事に千冬姉も気付いたようだけど、若干溜息を吐いたものの特に気にした様子もなく作業に―― ってなんだか山田先生が涙目になって『うう~~~!』と弾を威嚇している―― 何があったんだ?

その視線に弾が『肉じゃが!』と手を上げて挨拶すると、山田先生が『あうあうあ~~』と、目を細目にして滝の様な涙を流した……おい、本当に何があった?

色々気になるけど、そのまま弾とセシリアは俺と箒の近くまで歩み寄って来る。


「もうすぐ試合が始まるぞ? 一体何をしていたのだ」
「ちょっと野暮用でね? まぁ間に合った事だし気にしない気にしない!」
「野暮用?」
「お、お花摘みに(もじもじ)」
【大か小か、それが問題だ】
「だ、弾さん……」
「お、男がそんな事口にするなっ! やめんか気色悪い! 後下品なこと言うなそこの前掛け!」
「一気に騒がしくなったな。それで本当は何してたんだよ?」
「うむん? まぁちょいと人に会ってきた所だ」
「人に? ……また妙な連中じゃないだろうな?」
「妙なって酷いなお前? レディに対して」
「レディ? 相手は女の人か?」
「はい。私の家『オルコット家』で私付きのメイドをしている。チェルシーに会ってきた所ですわ」
「チェルシーって、確かセシリアの幼馴染の?」
「ええ、そのチェルシーです。ようやく調査結果がまとまったとの連絡を受けたので、調査データを受け取ってきた所ですわ」
「調査データって……もしかして!?」


その言葉を聞いて、俺は思わず弾に視線を向ける。

俺の視線を受けた弾はヘラリと表情を崩すと、しっかりと頷き返してきた。―― ってことは!


「おう。必要な手札は一応全部揃った所だ。一応は、な?」
「―― っそうか揃ったのか! 試合前に良いニュース聞いたぜ」
「そうだったのか。セシリアも良くやってくれたな」
「え、ええまぁ。それ程でもありませんわ……」
「ど、どうかしたのか? 何やら随分と疲れているようだが?」
「大丈夫ですわ…ちょっと色々ありまして」
「色々……弾か?」
「はい、実は――」
【回想開始! 良い子は部屋を明るくして離れて見てね? 悪い子は……シラネ】


【 数十分前 IS学園校門前 】


『……ふむ? まだ来てないようだな。ちょいとばかし早く来過ぎたかね?』
『そのようですわね―― あっ弾さんあちらを』
『おおう?』
【黒のリムジンキターッ!】

ブロロロロー……キキーッ!

『お、来たみたいやね?』
『ええ、時間ピッタリですわ。流石ですわね』

ガチャ、バタン。

―― コッコッコッコ。


『―― お待たせいたしましたお嬢様。』
『チェルシー! よく来てくれましたわ! 変わりは無いようですわね』
『はい。お嬢様は……ふふ、少し見ない間にまたお綺麗になられたご様子で』
『そ、そうかしら? 自分では良く分からないのだけれど』
『ええ、お綺麗になられました。まるで奥様を目にしているようでございます』
『チェルシー……あ、ありがとう。でも私なんてまだまだですわ。お母様には遠く及びません』
『ふふ、そんなにご謙遜なさらずともよろしいと思いますよ? 奥様も、そして旦那様もお嬢様のご成長をきっと喜んでいらっしゃいますよ』
『う、うぅっ!』
『あらあら。真っ赤になって如何なさいましたセシリアお嬢様?』
『も、もう! チェルシーもうっ!』
『クスクス♪ はいはい。申し訳ありませんお嬢様』

―― ザッ

『―― っ!?』
『……』
『あ、貴方、は……!』
『あ! そ、そうでしたわ。そういえばチェルシー? 貴女以前電話越しで妙な事を――』


『―― 初めまして……かな? どうも五反田 弾です』
『―― っ! え、ええ……は、初めましてチェルシーと申します。以後お見知りおきを……っ』
『チェルシーさんですか……素敵な名前ですね』
『……ありがとう……ございます』
【~~~~~~~♪】←ムード溢れる洋楽。


『ちょ、ちょっとお待ちなさい? ちょーっとお待ちなさいそこのお二方?』
『お、おおう? どうかしたセシリーちゃん?』
『ど、どうかなさいましたか? お嬢様』
『どうかしたのですかではありませんわ! 何ですの? その、お互い相手の事を知りながらも初対面を装うみたいな会話は!? 何でそんな態度とる必要があるんですの! 一体どういった関係なんですか!?』
『な、何を言うんだセシリーちゃん? お、俺とチェリ……チェルシーさんは今日が初対面デスヨ?』
『え、ええその通りですわお嬢様。私とバ……ご、五反田様は今日が初対面です』
『今何か言いかけましたわよねっ!? 隠す気あるんですの貴方達は!?』
『か、隠すも何も本当に初対面だぜ? ……プライベートでは(ボソッ)』
『え、ええその通りですお嬢様。……プライベートでは(ボソッ)』
『今何か呟きませんでした!?』
『あ、あー! お、お嬢様! そ、そういえばこちらがお嬢様に頼まれた調査結果のデータでございます。どうぞご確認を!(バサッ)』
『話をすり替えましたわねチェルシー!? いえ確かにこちらも重要なのですが私としてはもう一つ確認したい事があるのだけれど!?』
『ま、まぁまぁセシリーちゃん! ほら一夏の試合まで時間も無いし、調査結果の確認をしちまおうぜ!』
『そ、それはそうですけど……ま、まぁいいでしょう。とりあえずこの件は保留にしておく事に致しますわ』
『そ、それがよろしいかと―― コホン! それでは調査結果のご報告ですが、全てを調べ上げるのは情報が情報なだけに量が膨大なものになってしまいましたので、時間内に全てを完全に調べ上げる事は出来ませんでした。力及ばず申し訳ございません』
『そうですの……それは仕方ありませんわ』
『ふむ』
『はい。ですがその中でも特に重要な物をピックアップし、その重要度別に仕分けをしてあります。細かく小さな事は省いていますが大まかな事はそのデータに記されている筈です。おそらく今回はそれで問題無いかと』
『ほほう……? (ペラ)―― おおっこいつは良いな! 見やすい上に重要性別に区分けしてある! それに……ああイケる! 十分この情報は使えるぜ!』
『確かにそうですわねっ! これだけ調べ上げられていればおそらく』
【文面を記録、バックアップ致します】
『もう少し時間があればさらに詳細を詰める事が出来たのですが、至らない事ばかりで面目次第もございません』
『何を言ってるんだ! 十分役に立ってくれる物だぞコレは! 良くここまで調べ上げてくれた! 大したもんだ!』
『その通りですわチェルシー! 良くやってくれましたわっ! ありがとうチェルシー』
『恐縮です』

『―― ありがとうチェリー。大事に使わせてもらうよ(慈愛の瞳)』
『―― バロン・・…(切ない瞳)』

『……それは振りですの? 私に追求しろという振りですの?』
【押すなよ? 押すなったら押すなよ? 絶対だぞ!? という振りですね分かります】
『―― おっといかん時間が無い! へいセシリーちゃん第二アリーナのピットへ急ごうぜ!』
『……ええそうですわね。色々と思う所は有りますがっ!』
『セシリアお嬢様、五反田様。どうかご武運を』
『ありがとうチェルシー。どの位日本に滞在致しますの?』
『申し訳ありませんお嬢様。『オルコット家』の業務が残っておりますので、今日の夜には本国へ戻ります』
『そうですの……久しぶりに一緒に食事でもと思いましたのに』
『申し訳ございません。次の機会を楽しみにお待ち申し上げております』
『ええ、私も楽しみにしていますわ。―― では五反田さん戻りましょう』
『そうだねー急ごうか?』
『行ってらっしゃいませ。セシリアお嬢様、五反田様』
『ええ、それではまた』

『―― チェリー本当にありがとうっ! このお礼は必ずっ!』
『―― っ! いいのバロン。貴方の役に立てただけで私は……っ!』
【従者の鑑ですね。素晴らしい】

『貴方達本当は隠す気ないでしょうっ!?』



【 終了 】


「―― という事がありまして。」
「……そうか、色々と大変だったなセシリア……」
「お前過去に本当に何してたんだ?」
「…昔の話さ。お前が気にする程大した事じゃないさ(何かを懐かしむ瞳)」
(((いつか絶対に聞き出してやる【やりますわ】)))


弾の様子に密かにそう思った俺達だったが――


ビーッ! ビーッ !


【間もなくクラス対抗戦第一試合を開始します。一年一組、二組の各クラスのクラス代表は第二アリーナ内へ入場してください。】


その時ピット内にブザーが鳴り響くと同時に、アナウンスからの放送が響き渡った。

―― っついに来たか!

表情を引き締め、俺は瞬時に思考を切り替えてビットゲートの先を睨みつける。


「間もなく試合開始だっ! 織斑は至急第二アリーナへと入場を開始しろ! そこのガキ共っ! そこにいると邪魔ださっさと離れろ!」


千冬姉の厳しい声が響き、その声を聞いて慌てて三人が俺から距離を取って離れた。

俺の視線の先ではピットゲートの先からゆっくりと光が差し込む―― アリーナへの入場口が開いたようだ。

ドクンドクンと、俺の心臓が早鐘を打つ。

落ち着け! 落ちつけ俺! 俺に出来る事を全部出し切るそれだけでいいんだ!

そう自分に言い聞かせるも腕が小気味に震え、喉もカラカラに乾いていく。

―― くそっ何震えてんだっ! 怖気づくには早すぎるぞ俺! シャキッとしろ!

自分自身を叱咤するもそれは大して効果は無い。

くそっ! こんな時に……こんな体たらくじゃ試合にならねぇだろ! 弾の! 箒の! セシリアの! クラスの皆の頑張りを無駄にする訳にはいかねぇんだよっ!

認識が甘かった、考えが至らなかった。此処に来て初めて俺は自分の肩に乗っかっている重圧の重さを認識した。

クラス代表としての責任、覚悟。そしてそんな俺に対するクラスの仲間達の期待と思い。

そしてこの一戦で左右される―― 鈴の今後の運命っ!

それが今全部俺の肩に、この一戦に掛かっているという事を。

こんなに重いなんて、これ程キツイものだったなんて……!

くそっ馬鹿か俺は……! 平和ボケにも程があるだろ! 生半可な気持ちじゃ勤まらないって何でもっと自覚しないんだ! 何が大丈夫だ! 覚悟決めたんじゃねぇのかよ!?

時間が圧している。早くアリーナに入場しなければ―― けど体が……! 

足が震える、腕が上がらない、頭が真っ白になっていく。

―― 駄目だ俺っ…このままじゃ――っ!? 


「「「―― 一夏っ(さん)!!」」」
「―― っっ!?」


硬直する俺の耳に自分の名を呼ぶ声にハッとし、瞬時にそちらへと顔を向ける。

その視線の先には―― 俺を支え続けてくれた頼もしい仲間達の姿。


「何を怖気づいている一夏っ!! 今日までの特訓を思い出せっ! お前は私との特訓で何度倒されても! 何度打ちつけられても! 私との力量差を見せつけられようとも! それでも立ち上がり果敢に挑んできたではないかっ!? この程度撥ねのけて見せろっ!!」

―― 箒っ!

「そうですわ一夏さんっ! 貴方の頑張りは! 努力は! 貴方を傍で支え、応援してきた私達が誰よりも理解していますっ! クラスの皆さんだってそうです! 皆さんも一夏さんの事をちゃんと分かってくださっていますわ! 何も臆する事はありません! 一夏さんは、貴方が成すべき事に全力を注ぐだけでいいのですっ! 自信を持ってください一夏さん!」

―― セシリアっ!

「一夏分かってんな!? この一戦、鈴の為にも絶対に失敗できねぇって事はよっ!?」
「弾っ!?」
「弾さんっ何を!?」


弾の言葉を聞いて箒とセシリアが焦った様な声を上げるが、俺はそんな弾の言葉に耳を傾け続ける。


「俺の集めた手札がどれほど効果を発揮するのかは、この一戦の結果に響くのはお前にも分かってんだろ!? 絶対にモノにしろ! 今頃怖気づいたなんて不抜けたこと言うんじゃねぇぞ!!」


そう言って叫ぶ弾の表情は―― 悔しさと、言いようのない憤りがにじみ出ていた。

弾、お前……?


「はっきり言ってな……? お前にこんな重大なモン背負わしちまって悪いと思ってる。出来る事ならこの一戦変わってやりたいくらいだっ!! ―― けどなぁっ!?」


その顔は―― 久しぶりに見た。親友の今にも泣き出しそうな表情。


「―― 俺じゃ駄目なんだよっ! どう考えても何度頭捻っても俺じゃ駄目なんだよっ!!」


その声を聞いて―― 俺は瞬時に理解した。

そうか・・…弾お前……っ!


「この一戦は! お前じゃなきゃ最高の結果に届かせる事が出来ねぇんだよっ!! ―― だからっ!!」


お前―― 悔しかったんだな?

自分には、出来ない事だと。自分では成し遂げられない事だと理解してるから―― 自分の力で切り抜けられない事が心底悔しかったんだろう。

お前今までずっと―― それを隠して押し殺してきたのかよ?


―― 馬鹿だ。

―― ああ馬鹿だよ。

―― 本当に救い様のない位にっ…!!


「貸してくれ……! 俺じゃどうにもできねぇっ! だから必要なんだよ! お前の! 『織斑 一夏』の力がどうしても必要なんだよっ! だから頼む一夏っ!」


―― 俺って奴は、救いようのない大馬鹿野郎だっ!!!


親友の苦しみをっ悔しさを! 何一つ気付いてやれなくて! そして今ブルって震えて弾を不安にさせて! あいつが必死に隠してきたもんを! 知られたくなかった思いを暴露させるなんて事させて! 


何やってんだよ……っ? 


―― 何やってんだよ!? 織斑 一夏っ!!


体中が熱くなる。

緊張も、震えも、恐怖も全てに呑みこんで―― 俺は自分自身に激しい怒りを覚える!

不甲斐ない心など、不抜けた思考など、弱い心など全てを焼き尽くす炎の如く、俺は自分自身を奮い立たせるっ!!

弱音だ? 不安だ? 恐れだ? 

―― そんなもんっ! 後にしやがれこの大馬鹿野郎がぁっ!!!

そして―― 俺の耳にそれは届いた。



「―― お前の力を! 俺に貸してくれっ一夏っ!!」



―― ッッ!!!


親友の叫びを聞いた瞬間―― 俺の中で何かが激しく燃え上がった。

あいつが、俺を頼っている。

あの弾が、俺の力を必要としている―― 

親友が、俺に助けを求めてる――っ!

体中に力が漲る。心が歓喜に激しく震える―― っ!!

俺はその感情のまま……弾へと視線を向ける。

俺の瞳を捉えた弾は、一瞬驚いたように目を見開き。


さっきとは打って変わった、眩しい笑顔を向けて声を上げた。


「―― 頼んだぜっ!! 親友っ!!」
「―― 任せろっ!! 親友っ!!」


互いに拳を突き出し、お互いに最高の笑顔を向けそう言葉を放った。

そんな俺達の様子を、箒とセシリアがどこか呆れたように……けど心底嬉しそうに見守っている様子が視界の隅に映る。

千冬姉は『全く、男という奴は。』と苦笑を洩らし。山田先生に関しては『ゆ、ゆうじょうっで、ずばらじぃ~でずね゛ぇー!』とハンカチ片手に号泣。

そんなピット内の様子から視線を戻し、俺はピットゲートに向かって一歩を踏み出した。

何も恐れる必要なんかない。俺は俺の成すべき事を成すだけだっ!!


(―― 頼むぞ『白式』。お前の力を俺に貸してくれっ!!)


身に纏うISに、俺のもう一人の相棒に心の中で語りかける。

すると、まるで俺の声に応えるかのように『白式』が淡い光を放出し始めた。


(―― お前も気力十分って訳か……頼りにしてるぜ? さぁて行こうかっ!!)


『白式』のクラスターから光の粒子が放出され、ゆっくりとピットゲートを進んでいく。

―― 待ってろよ鈴!!



「―― 織斑 一夏! 『白式』行くぞっ!!」



俺の叫びと共に『白式』がクラスターに一気にエネルギーを加え―― 俺はアリーナへと飛び立った――


【 簪 SIDE 】


ワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ――ッ!!


ピットゲートから真っ白いISがアリーナへと姿を現した瞬間、アリーナ中から歓声が響き渡る。

その声の大きさに顔を顰めた私は、耳をふさいでアリーナへと目を向け続ける。

あれが弾以外のこの学園に在籍するもう一人の男子、『織斑 一夏』。

その姿を見た瞬間……私は機嫌が急激に悪くなって行くのを自覚した。

あの男子がいなければ、私の専用機は今頃……。

あの男子が悪い訳じゃないって事は頭では分かっている。けどそれと感情は別問題だ。

貴重な『ISを起動できる男子』を優先したいのは分かるけど、だからって私の事を蔑にするのはどうかと思う。

そんな私だったけど隣に座る本音に肩を叩かれたので、耳をふさぐのをやめて本音に視線を向ける。


「もう耳から手を外しても大丈夫だよ~かんちゃんー。それにしてもー……ひゃー流石おりむー大人気だねー?」
「……そうみたいだね」
「あれー? かんちゃんおりむーの事嫌いなのー……って、それもそうかー」
「……別に嫌いでも何でもない。どうでもいいから。」
「おりむーが悪い訳じゃないんだけどねー? あーあー、おりむーもだんだんみたいに最初から完成していたISを持っていれば、かんちゃんに嫌われる事もなかったのにねー?」
「……え? 弾の専用機って最初から完成していたの?」
「そーみたいー詳しい事は分かんないんだけどねー……ってはれ? かんちゃんだんだんの事知ってるのー?」
「え? う、うん……その、とっ友達……」
「……なんですと?」


ピタリと動きの止まった本音だったけど、私はそんな本音の様子を無視して思考する。

弾のISってあの妙に感情豊かな前掛け……だよね?

そのISは既に完成された状態で弾の手に渡っていたって言う事?

組み立てるまでの過程を無視して、用意されていた? 

それは何時? 何処の研究所が先頭に立って? 倉持技研は―― 恐らく無関係。もしそうなら私にも情報が来る筈。

あの白いISが用意されるのにだって恐らく結構な時間を必要とした筈……なら、弾のISは誰が?

……考えても仕方ないかな。また今度弾に聞いてみよう……うん。

弾との会話の話題が一つ増えた事に、私は妙に嬉しくなりながら視線を上げ―― そこでまだピタリと固まったままの本音が、じっと私を凝視しているのに気づいた。

え……な、何?

少し動揺した私に本音が声を掛けてくる。


「えー……かんちゃん? だ、だんだんとはいつお友達になったのかなー?」
「え? な、なんでそんな事聞くの……?」
「やーだってだんだんの事を下の名前で呼んでるしー? いつの間にそんな親しい関係になったのー? 私も知らない衝撃の事実なのだよー?」
「え、えっと……少し前に」
「ふむふむ~?」
「えと、相談に乗ってくれて……その時に」
「ほーほー♪」
「その後……け、携帯の番号を交換して……その」
「おー携帯の番号をこうか……交換ーっ!?」


突然大声を上げた本音に、私はビクッと体を震わせた。

な、なに? どうしたの本音? 

そんな私の様子を気にした様子もなく、本音が言葉をまくし立てる。


「こ、交換!? 交換ですとーっ!? な、なんでいきなりそんな展開になるのかな!? あ、会ってすぐ携帯番号交換するまで仲良くなるなんてどんな事があったって言うのー!? わ、私だって交換するのに時間が掛かったって言うのに何だその急展開はー!? こ、こらー! だんだんー! おりむーの事いえないよー!? 手が早過ぎるにも限度あるぞーっ!? 妹か! やっぱり妹属性が好きなのかー!? そんなに妹が好きかーっ!? わ、私だって妹なのに何だこの差はーっ!?」


あ、あれ? なんだろう本音が遠い。

立ち上がって、袖をパタパタ振り回し錯乱する本音。

あ、本音の裾がぺしぺし当って周りの人迷惑そう。


「ほ、本音。周りの人の迷惑だから……あ、暴れちゃ駄目だよ」
「だんだんは内緒にしてる事おおすぎるよ~~! なんでかんちゃんと友達になった事黙ってるのー!? だんだんの馬鹿ーっ! こ、こうなったら私も内緒でいろいろしちゃうぞー! 後悔してもしらないんだからーっ!」
「ほ、本音? わ、分かったから……分かったから落ち着いて、ね……?」
「う、う~~~っ! うぅ~~~~っ!」


少し涙目になった本音が渋々と席に着く……ほっ。

それにしても本音ってばあんなに取り乱すなんて……少し意外。いつもならゆるゆると柳のように受け流すのに。

これも弾のせいかな?

そう思っていた私だったけど……不意に本音が私に視線を向ける。

あ……嫌な予感。


「むぅ~~っか~ん~ちゃ~ん~?」
「な、なに?」
「だんだんとは一体何のお話をしたのかなーと、私は気になったりするのですがー?」
「あ……そ、それはその……」
「相談って何かなー? 私じゃなくてだんだんに相談するってそれはどんな事なのかなー? おしえて~?」
「え、えっと……」
「…(じ~)」
「…」
「……(じ~~)」
「……」
「………(じ~~~)」
「ほ、本音…?」
「なに~?」
「ポ、ポッキー食べる…?」
「……」
「……」
「かんちゃん」
「な、なに……?」
「……それってムースポッキー?(ワクワク♪)」
「え、そっち……?」


本音は色々と普通とは感性が違う事を改めて再確認しました。おかげで助かったけど。


【それでは両者、既定の位置まで移動してください】


その時アリーナにアナウンスの声が響き渡り、私は促されるようにアリーナ中央へと視線を向ける。

いよいよ始まるみたい。

ゆっくりとそれぞれのISがアリーナの中央に移動し空中で向かい合う。

その様子を私は見つめる。

相手は中国の代表候補生。ISを知って一カ月そこらの素人が勝利する確率なんて無いに等しい。

一体どこまでやれるのかそこは見学させてもらう事にする。そんな私に本音がアリーナに視線を向けながら言葉を掛けてきた。


「いよいよだねー。おりむー頑張れ負けるなー♪」
「……勝つのは不可能だと思うけど」
「んー? そうとも言い切れないよー? おりむーは必死に特訓を重ねてきたからねー?」
「……そうかな?」
「そうだよーっ! そ・れ・に~♪」
「それに……?」


言葉を区切った本音に私はいぶかしむ様に視線を向ける。そんな私に本音はほにゃっとした笑顔を向け―― 言った。


「おりむーは、だんだんが心の底から信頼している親友なんだよー。もしかしたら~もしかするかもしれないよー♪」
「―― え……っ?」


弾の……親友?


その言葉を聞いた瞬間――



【それでは両者、試合を始めてください】


ビーッ! とブザーがアリーナ全体に響き―― アリーナ中央で、二機のISが火花を散らして激突した――っ!




【後書き】
どうもこんにちは釜の鍋です。…えー今回、思い切ってチラ裏よりその他版へ移動致しました。どうかこれからもよろしくお願いします。さて次回、ついに激突一夏VS鈴。弾達の策とは? そして勝負の行方は? そして忍びよる不穏な機影。一体どうなる事やら。それではまた次の更新でお会い致しましょう。



[27655] 第二十五話 乱入一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/12/26 18:09
ちわっす! この世に野郎ある所、そこに紳士の影はあり。五反田 弾です。

さてさて、開始早々いきなり何ですが。


……誰か助けてください。


一夏を試合に送り出す際、らしくもなく暑苦しくも恥ずかしい心内を晒してしまった俺だった訳なんですが。

いやうん特に後悔はしてないんだがね? 何と言うかこうあれだ。

ちょっと皆さん今の俺の置かれている現状把握の為に、お手数ですがあちらをご覧ください。(何処だよ)


「しかし意外だったな五反田がまさかあそこまで心内を晒すとは。くくく、珍しい物を見た、なぁ?」
「何を言っているんですか織斑先生! とっても素晴らしい友情の一コマだったじゃないですか! お二人はやっぱり固い友情で結ばれているんですねぇ~」
「あれ程まで心内を吐き出す姿は初めて見たな。全く一夏といい弾といい男という奴は素直じゃないな。最初から素直に話していれば良いものを。まぁ結果的にそれが功を制したのだから文句は無いが」
「よろしいじゃありませんか箒さん。殿方には決して悟られたくない一線があるのです。友人の為に目的の為にご自身の心を押し殺してでも己の成すべき事に全てを注ぐその姿勢、それはとても尊く素晴らしい事だと私は思いますわ。……本当に弾さんはそういった所がお父様によく似ています」
「む? 何か言ったかセシリア」
「何でもありりませんわ。ふふっ♪」


はい、これが今の俺の置かれている現状でございます。

まぁ詳細を詰めますとね? 少し離れた所から淑女達四人がさっきから俺のに生温かい視線を向けつつ揺さぶりを掛けてくるんですよ。

うん何かしらんこの状況? 何ぞこの羞恥プレイ。そして何故そんなにも俺の耳に入る様に、俺そっちのけで会話を続けているのかねそこの淑女達よ。

しかも何か超楽しそうですね?

千冬さん、何でせうかその意地の悪い笑みは。

マヤたん、何ですかその微笑ましいものを見るような慈愛の瞳は。

箒ちゃんにセシリーちゃん、何その『しょうがないなぁ、全く』みたいな優しい視線は。

俺をからかう気満々ですね、分かります。……まぁとりあえず。

―― いやあああああぁぁーっ!? 見ないで! そんな生温かい目で俺を見ないでくれ淑女達よっ!(魂の悲鳴)

ち、違うんです! ちょっと熱血しちゃっただけなんです! あんなの俺のキャラなんかじゃない! 俺の本質はあんなんじゃないやいっ! 俺は紳士なんだっ!! 

ぬおおおぉぉぉ…っ。 まさかこのような状況に俺が陥ってしまうとは計算外だ……まずい、なんというか色々とまずい! 非常に良くない状況です!

このままでは俺のキャラ像が崩壊しかねんっ! こ、これはいかん! なんとか話を別方向へと持っていかねば。


「えー、ゲフンゲフン」
「……おい、なんだかワザとらしい咳払いし始めたぞ」
「とても不自然ですわね」
「ゲホゲホゴホンゴホンゲ…ッ!? エホッ! ゲフォゴホッ! …ぅえっ!」
「途中で詰まって本当に咳き込みましたよ!?」
「馬鹿者が……」
「はーっ……えー本日はお日柄もよく決闘には大変恵まれた日和となり――」
「何を言っておるんだあいつは」
「……話題を逸らそうとしているのではありませんの?」
「ああ照れてるんですねー(ニコニコ)」
「照れているのだな。なんだ可愛い所もあるではないか」
「……さて織斑は凰相手にどう立ち向かうか」
「そ、そうですわね近接武器しか持っていない一夏さんだと、やはり相手の懐に如何にして潜り込めるかが重要になると思われますわ」
「あれ? どうかしたんですか織斑先生?」
「セシリアまでどうしたというのだ突然?」
「……いえ何だか嫌な予感がしまして」
「……ああ、これ以上五反田をからかうのは危険だと私の勘が告げている」
【慧眼ですね】
「「え?」」


くっマヤたんに箒ちゃんめ、俺をまだ弄ろうと言うのか!? 千冬さんとセシリーちゃんは控えたというのに……っ!

ええい紳士の失態をからかうとは、それは淑女として如何なものかと俺は思うぞっ!?

……いやそれはそれで条件付きであり……か?(何がだよ)

だ、だがしかし! この現状は俺にとって何とも如何しがたい事には変わりない!

ぐぅぅ……何とか! 何とかこの状況を打破する話題をピックアップせねばっ! こうなったら色々話を展開させて煙に巻いてくれるわぁっ!


「―― さて皆さん御立ち合い! 今現在一夏と鈴のデッドヒートが繰り広げられて熱い展開が巻き起こっている訳なのですが。ここで少し一息ついて俺のちょっとした最近身の回りで起こった出来事を小話としてお話しようかと思います!」
【チャンチャンチャンチャカチャンチャン♪】←三味線の音
「最近の五反田君の周りで起こった?」
「出来事だと?」
「……オルコット水の準備を頼む」
「お、織斑先生? 胃薬をいつもポケットに常備していらっしゃるんですか?」


困惑するマヤたんと箒ちゃんの声が聞こえ。さらに千冬さんとセシリーちゃんが何かコソコソ準備している様子が視界の端に映ったが、俺はそれらに構わず言葉を告げた。


「―― そうあれは、俺がマヤたんのご実家へ『逆家庭訪問』を行った日の事です」
「―― 御免なさいっ!?」
「山田先生が即座に謝った!?」
「最近マンネリ化が問題視される学校行事に、新しい風を呼び込むべく行った今回の『逆家庭訪問』ですが」
「もう言いません!? からかったの謝りますから止めてくださいぃぃっ! 大事にしましょう!? 学園の古き良き学校行事の伝統はそのままにしときましょうよっ!?」
「最初のターゲットは山田先生か……駄目だ山田君が壊れた」
「……不憫ですわね」
「……弾? わ、私はもう言わんぞ。もう言わんからな?」
「結構距離があったものの『七代目五反田号』のステルス機能をフル活用し、最高速で山田先生のご実家まで文字通り飛んでいき」
【ようやくISらしい働きをしました。いやー自分最近ISなのか前掛けなのか分からなくなって来た所でして】
「何をしてるんですかあああああっ!? といか国は何をしてるんですか何をっ!? 何で気付かないんですかっ!」
「途中戦闘機に乗ったパイロットのおっさんに『グッドラック』と合図を返され、勇んで向かった山田宅では、マヤたんのお母様が温かく迎えてくれました」
「クビにしてくださいそんな役立たずのパイロット! お母さんも何してるのおおおぉぉっ!」
「……ぐっ! まだ見ていない報告書の中にありそうだな……」
「……お水持ってきますわ」
「重ねて言うが私はもうからかったりせんからな?」
「マヤたんのお母様とのお話は多岐に渡り色々と興味深いお話ばかりで、とても有意義な時間を過ごせましたぶふっ!」
「何を吹き出してるんですかっ!? い、い一体何を聞いたんですかあああぁぁっ!?」
「しかしその後思っても見ない事態が発生しました」
「何ですか!? 何をやったんですか五反田君!」
「発端は弾さんだと山田先生の中では既に確定事項なのですね……」
「……当然だな」
「そう、あれは俺が一風呂浴び終え良い湯加減だった事に上機嫌になり。ソファーに座って『すんませーんコーヒー牛乳ありますかー?』と台所のマヤたんのお母様に話しかけた時の事だった……」
「何を人の実家でお風呂入った挙句に寛いでるんですかぁっ!?」
「突然リビングのドアが開き『ただいまー』などと言って図々しくも大胆に不法侵入して来た中年不審者野郎が現れたんです」
「それは仕事から帰ってきた私のお父さんですよおおおおおおおおおおっ!?」
「室内に人が居るとは思わなかったのか、その不審者は俺の姿を見て驚愕に固まったんですが……俺は迅速かつ冷静にこれを迎撃。近所のゴミ捨て場に簀巻きにして放り出してやりました」
「「お前……っ!?」」
「……さ、最低ですわ」
「嫌ああああああっ!? お、お父さんになんて事するんですかああああああっ!?」
「しかし敵も然る者。その後再三に渡って攻防を繰り返し」
「繰り返したんですかっ!? っていうかお父さん抜け出せたんですかっ!? 攻防って何ですかっ!?」
「三度目の攻防中。その時マヤたんのお母様が現れ『あらアナタ、真耶の教え子さんと何をしているの?』とその野郎に話しかけたんです。……そう! なんとその不審者の正体はマヤたんの実のお父様だったのだっ!」
「気付くの遅すぎですよおおおおおおおっ!? 馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ーっ!」
「―― だって初対面だったんだもん!」
「何を怒ってるんですかっ!? 最初の『ただいま』で気付いてくださいよっ!?」
「双方の誤解から起きてしまった今回の一件ですが、その後の話し合いの結果無事に和解。まぁ俺も大人気なかったんで許してやることにしました」
「一方的な誤解じゃないですかっ!? しかも何で上から目線なんですかっ!?」
「そして翌日。マヤたんのご両親に見送られ、昨晩の夕飯の残りの肉じゃがを手渡された俺は『七代目五反田号』に貯蔵しマヤたん宅を後にしたのでした」
「泊ったんですか家にっ!? しかもあの肉じゃがって夕飯の残りだったんですかぁっ!?」
「……お前は何を無断外泊してるんだ?」
「……そう言えば一晩姿を見なかった日がありましたわ。本音さんが探しに私の部屋まで訊ねてきた位ですもの。というか何故本音さんは私の部屋を訪ねて来たのでしょうか?」
「布仏……まさか弾とセシリアとの関係を疑って? い、いやそれよりも今は……弾? 小話はもういいから黙――」
「―― で、その帰り道の途中『篠ノ之神社』という名の何だか妙に聞き覚えのある神社を見掛けたんでちょっと寄り道し」
「真っ直ぐ帰れえええええええっ!? 何をしたっ!? 貴様そこで何をしたあああああっ!?」
「色々あった後、近くの薬局で『この胃薬に【ブリュンヒルデも愛飲】という見出しを出しても良いですか?』と訊ねてきた店員の淑女さんにGOサインを返し」
「……五反田表に出ろ」
「色々とは何だっ!? 何をしでかした貴様っ!?」
「さらに帰り着いた寮内で、たまたまセシリーちゃん部屋の前を通りかかった時……あ、いやこれは流石にマズイか……」
「……何を聞いたのです?」
「『オルコット家』の反勢りょ――」
「弾さん幾ら欲しいんですの?」
「財力を持ち出す程の事なんですかっ!?」
「―― 以上っ! これにて今回の小話は此処までとさせて頂きます!」
【お目面お汚し致しました! チャチャン♪】
「そこで終わらせるなぁっ!? 神社で何をした吐けえええええっ!」
「何処の薬局だ……? CM出演のオファーが来たのも貴様の仕業か? あぁ?」
「弾さん幾ら出せばお墓まで持って行ってくれますの?」
「何で私だけフルオープンなんですかああああああああっ!?」


俺の周りに集まり、それぞれ俺の小話の内容を問い詰めてくる淑女達。その姿に俺は内心、ふーっと溜息を吐いた。

ふっ……流石俺だな。巧みな話術で話題を別の方向へと反らすことに成功したぜっ!! これで俺のあの恥ずかしい一幕の事などきっと誰の記憶にも残らん事だろうっ!

見たか! これぞ紳士技『紳士トーク』をさらなる高みへと昇華させた俺専用固有奥義! その名も『DANSHAKU小話』!

この技に逸らせぬ話題などありはしないっ! ふふふふ……どうやら腕は鈍っちゃいないようだったぜ。

未だ俺に対し詰め寄って来る淑女達を愛でながらも、俺は先程の恥ずかしいやり取りが誰の記憶に者こらないであろうことを確信――




【あ、ちなみに相棒の熱いあの台詞は『記録』してありますんで。そこん所よろしく】




―― しようとした所で、身近に最大の敵の存在が居る事に気付いたのだった。




「……ほう? いい仕事をするなお前のISは……よし、その音声データをこちらに渡せ」
「私にもだ! 事と次第によってはこれを使うのも辞さんぞ弾っ!」
「取引には持って来いですわね。私にも頂けます?」
「私にもくださいっ! お仕置きに使いますっ! あ、明日のHRで流してやりますっ!」
【ボロイ商売だなぁ。】


途端に淑女達に追い風が流れ始め、相棒に音声データを要求する淑女達の姿に俺は内心そっと涙を流す。

ふっ……相棒、お前もか……

身近に味方が誰一人いない事を悟った俺は、再び孤立無援の戦いを強いられる。

い、いかん! このままでは俺の恥ずかしい音声データが大量流出という危機に……!?

くっ何とかしなければ……! だが最早この局面を乗り切る起死回生の一手を打てる物が無い……万事休すか……!

そう諦めかける俺だったが――

その瞬間、今の今まで忘れ去っていたスクリーンから圧縮された何かを打ち出すような爆音が響き渡った。

―― ん!? まさかこの音……?

淑女達から視線を離した俺は、スクリーンへと目を向ける。

するとそこには、一夏に対し意地の悪い笑みを浮かべる鈴の姿と、その鈴にから離れた位置で左腕装甲にシールドを展開した一夏の姿あった。

何かしらの攻撃を受け止めはしたものの、その衝撃であの位置まで弾き飛ばされた様で一夏の浮かべる表情は険しい……どうにか攻撃を防御したって感じだ。


その瞬間――


【 ワアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ! 】



ピット内のスクリーンからアリーナの歓声が響き渡った。

その歓声に、今まで騒いでいた淑女達も弾かれたようにスクリーンに視線を向ける。

おおう! やった今こそ好機っ!


「―― へい! そこの淑女達! とりあえずこの話は置いといて試合に集中しようじゃないか! おふざけは無し無し♪ 集中しよう。一夏が戦ってるんだから」
「お、お前どの口が……っ!?」
「……箒さん言っても無駄ですわ。納得いきませんが弾さんの言う通り、今は一夏さん達の試合に集中する方が先決です」
「ちっ、まぁ絞めるのは後でもいいか……山田先生状況は?」
「私が一番納得いきませんよぅ……! うぅぅぅ! 『七代目五反田号』さん後で音声データちゃんとくださいね?」
【それは勿論――】
「……三代目は俺に優しかったなぁ……(ぼそっ)」
【―― 渡す訳ないでしょう。何言ってんですか? 教師としてそれはどうかと思いますよ?】
「いきなり掌返されました!? ひ、卑怯ですよ五反田君!?」
「……衝撃砲。空間自体に圧力をかけ砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す。私の『ブルー・ティアーズ』同様第三世代型兵器ですわね」
「くっ……! あれ程相手に射撃武器を使わせる隙を見せるなと言ったというのに、何をしているのだっ!」
「あいつにそんな難易度の高い器用な真似など期待しても無駄だ。山田先生その馬鹿の相手は後にしてこっちに集中してください」
「……いいですよいいですよー。どうせ私はこんな扱いですよ……ぐすん」
「へい! 悩みがあるなら相談しなっ! 力になるぜマヤたん!」
「ぶっていいですか!? 一発二発と言わずぶっていいですか!?」


いじけてるマヤたんに励ましの言葉を贈った俺は、その後他の淑女達同様にスクリーンへと注目する。

―― が次の瞬間、俺達の目に映った一夏の姿に全員が驚きに目を見開く。

画面の中では一夏と鈴が互いの武器をぶつけ合いアリーナを飛び回っている。鈴から放たれる不可視の砲弾に苦戦しつつも、一夏は何度も果敢に前へと『白式』を動かし鈴の懐へと潜り込もうとしていた。

『白式』を駆り距離を取らせまいと、鈴に張り付き間合いを詰めながら追従する一夏。

『甲龍』を操り己に張り付き追従する一夏に衝撃砲を打ち出し応戦し、それでも不可視の砲弾を掻い潜ってきた一夏に目を見張りつつも、こちらも負けじと両端に刃の付いた青龍刀『双天牙月』を巧みに扱い、一夏の振るう『雪片弐型』から繰り出される攻撃を何度もはじき返す鈴。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 一合っ! 二合っ!! 三合っ!!!

獣の如き咆哮を上げ互いの刃を打ちつけ合い、鋭い剣戟の音が鳴り響いてはその度に火花を散らす。

次の瞬間、鈴の『双天牙月』から繰り出された重い一撃が一夏を襲う。それを多少危ういながらも受け止めた一夏は、その一撃の重さに顔を少しばかり苦渋に歪ませる。

が、瞬時に『雪片弐型』を僅かに反らし、鈴の一撃の力を受け流す。一夏の捌きに、若干の驚きに眼を見開いた鈴だったが、すぐさま反射的に顔大きくを後ろへ反らした。

その時、先程まで鈴の顎があった場所に『雪片弐型』から右手のみを離した一夏の右掌打が空を切る。

隙ができた一夏に鈴が『双天牙月』を下から切り上げ、その攻撃に気付いた一夏はギリギリで避けたが刃先が若干掠ったようで僅かに顔を顰めるも雪片を横薙ぎに一閃して負けじと反撃する。

しかし既に後方へ回避した鈴には届かず、鈴が距離を取ろうと一夏から離れる。それに気付いた一夏は距離を取られては自分に不利な状況となる為、そうはさせまいと加速し追跡を開始。そしてまた二機のISが再びアリーナを縦横無尽に駆け巡る。

互いに一歩も譲らず、交差する度に激しく打ち合う様が俺達の眼前に繰り広げられていた。



―― その姿まさに竜虎の如し。圧巻の一言だった。



モニターに映る一夏の姿を目の当たりにし、しばし呆然としていたピット内の面々だったが……ハッと我に返った瞬間一気に湧き上がった。


「す、凄いですっ凄いですよ織斑君っ! 少しばかり技量の差が見え隠れしてますけど、 それでも臆することなく果敢に前に出て一歩も引いてませんよっ! あの短期間でよく此処まで……!?」
「……どうやら気迫負けはしておらんようだが、また随分と気合いの入っている事だ。……衝撃砲の対処には誰かの入れ知恵でもあったか?」
「―― おおう? なんです千冬さんその流し目は?」
「よしそれで良い! 自分の間合いから相手を逃すなっ! ――って何故そこで突きを繰り出す必要があるのだ馬鹿者っ! それは悪手……ほら言わん事ではないっ! 何をしている私との特訓を思い出せ一夏っ!」
「確かに素晴らしい技量ですが、まだ少し強引さが見え隠れしています……あまり無茶な真似をしては危険です。警戒を怠ってはなりませんわ一夏さんっ!」


淑女達の歓声と応援がピット内に響き渡る。

あの千冬さんですら一夏の姿に少なからず驚きを覚えてる様だ。胸の下で組んだ腕から見える手が小さな握り拳を作っている。

……おー凄げぇな一夏。

画面の中の親友の雄姿に俺も内心感嘆の息を洩らした。それにしても気合い入り過ぎだろう……。

そんな一夏の姿と、その一夏の雄姿に湧く淑女達から視線を外した俺は……スクリーン上の『ある画面』にそれとなく視線を向ける。



―― 今の所は上々か。



「ふむ……この調子なら問題ないか?」
【始まったばかりです。まだまだ分かりませんが掴みは良好かと】
「ま、そうなんだけどねー……しっかしまぁ凄ぇな一夏の奴? 実際今の一夏って確実に俺より強いんじゃね?」
【相棒と一夏殿では戦闘スタイルが全く違います。が、現状では一夏殿の方が上ですね】
「はー熱くなったあいつ程敵に回すのは御免だなこりゃ」
【相棒の熱い言葉の賜物ですなー】
「……相棒。」
【何でしょう?】
「後で貴様を漂白剤にブチ込んでくれるわぁっ!」
【脱色は嫌ああああああああああああああああっ!?】
「……何を遊んでいる貴様等」


相棒に極刑を言い渡す俺の元に、マヤたん達から離れた千冬さんが近づいてきて溜息を吐く。

おおう? 千冬さんが俺に近寄って来るとは珍しい。何の用でしょうね?

俺の隣に並んだ千冬さんは、そのままスクリーンに視線を移したままで、俺に話しかけてくる。

あ、視線は合わせたくないのね? ……だが、それが良い……っ!(馬鹿)


「……随分と気合いが入っているようだなあいつは? お前一体何をあいつに吹き込んだ?」
「はっはっは! 吹き込んだなんて人聞きの悪い! 一夏の特訓の賜物っすよ?」
「それだけでは無いだろう。……今の一夏からは何か覚悟のような気迫を感じる。まるで何かを成し遂げようとしている、そんな覚悟をな」
「おー流石一夏の事となると鋭いっすねー? まぁ俺は別に大した事なんざしとりませんよ」
「……弾」
「……へいへい分かりました。ったくもぉ、そこで名前呼ぶんですか千冬さん」


チラリとこちらに視線を向け俺の名前を呟く千冬さん。俺を下の名前で呼ぶって事は……今は教師としてではなく『親友の姉』として俺に接しているってことだ。

一夏の……いや弟の様子が気になるからって、そこで弟の親友である俺に状況説明を頼むってのは卑怯じゃないかねー? 

けど俺は紳士! 淑女さんだから気にしませんよ? 麗しい姉弟愛ですなー。

俺は若干表情を崩し、ヘラリと笑い掛ける。


「ま、色々とこの一戦に関しちゃ俺が動いてんのは事実ですし。その辺は千冬さんも気付いてるんでしょうけど。俺はただ一夏の力が最大限に引き出せるよう舞台を作り上げただけです」
「先程貴様が叫んでいた時言っていたな? この一戦は鈴……『凰 鈴令』の為にも絶対に失敗できないと」
「……その通りです。実際千冬さんも感づいてるでしょ? 鈴の今の危機的現状とその問題に」
「……まぁな」


俺の言葉に千冬さんはもう一度スクリーンに視線を戻す。その視線の先には激しい戦いを繰り広げる一夏と鈴の姿。

しばし無言の千冬さんだったが、なんとなくそれが話しの先を促している事に気付いた俺はそのまま話しを続ける。



「―― このまま放っておけば鈴は……近い将来代表候補生から外される。そして最悪二度とIS関連に携わる事もできなくなる。云わば用無しなった時点で切り捨てられる。ISと言うあいつの―― 鈴の最後の拠り所さえ奪われちまう。そうなるとあいつに待ってるの絶望。最悪身の破滅だ」



そう呟いた俺に千冬さんが僅かばかり目を細め視線を投げかけてきた。その瞳には若干の呆れが写っており、次には小さく溜息を吐いた。

……およ? 何でしょうかその仕草は。


「……お前学園のデータベースに侵入したのは、その可能性の確信を持つに足る情報を得るためだったのか……?」
「あ、やっぱり気付いてたんすか? ……あっちゃー、やっぱ俺ってその辺の技量って低いなー」
【自分の隠蔽が不十分だったのです。面目ありません】
「反省の色は無いのかお前達は……安心しろ。お前等の行いだと感づいてるのは私だけだ」
「え? そうなんすか?」
「まぁな。その事に関してはいずれ何かで返してもらう。覚悟しておけ」
「お、俺初めてなんです……どうか優しく手解きを……!」
「殺すぞ?」
「すんません。……けどまぁ、そのおかげで欲しい情報と確信を持てたんすけど」


鋭い視線を向ける千冬さんに本能的な恐怖を感じ即座に謝罪。おっかなー……。

そのまま俺はスクリーンに映る鈴に視線を向けた。

鈴の今の現状は―― はっきり言ってかなり危ない状況だった。

鈴が俺達の前で見せたあの情緒不安定な姿、そして何かに縋りつくかのような瞳と俺と一夏に対する執着と言っても過言ではない依存性。

それを垣間見た俺は真っ先にこの一年で鈴の周り起こった事を調べ上げのだが、いくら調べても俺の下に集まるのは鈴に対する『一般の人間の評価』だった。

代表候補生ってのは国の宣伝目的の為あらゆる面で活躍している。雑誌のインタビューやらファッション雑誌の写真撮影。中には映画に出演するなど芸能人ばりの仕事をする人だっていた。

けどその中で得る評価ってのは外見の評価。メディアを通した上での外面でのもんしか集まらなかった。実際鈴はその中でもあの容姿だ。一般からの人気は中でも群を抜いて高かった。けど俺が知りたかったのはそんなもんじゃない、もっと内面的な深い部分だ。

一応ゴシップ関連も見たけど……それは嘘か誠か確信を得るには不十分だった。性格悪いとか勘違いしてるとかそんなもんばっか。

だから俺はさらに細かい情報が載っているだろう『IS学園』のデータベースに侵入を試みた。鈴が『IS学園』に転入する際、必ず国からの詳細な情報が送られてきている筈なのだ。おそらくそれには鈴の個人的な情報そして国からの評価等も載っていると考えたからだ。

そして簪ちゃんという思いがけない力添えを貰った俺は、鈴の情報を得る事が出来たという訳だった。



そこに載っていたのは――



「……鈴の言動と態度に対して国が代表候補生として疑問視。多くの高官が高い評価も期待も持っていない事が分りましたよ。実力と才能、ISの適正の高さは評価してるようでしたけどね」
「そのようだな」
「で、それから先はその情報を元にもう少し突っ込んで詳しく調べてみたら……案の定嫌な予感的中。中国政府の中に鈴を代表候補生から排斥、その肩書を剥奪しようとしている動きがあるって情報をゲットしました。……出来れば外れて欲しかったんですがねー」


何やってんだかあいつは……と、小さく零した俺はスクリーンの中の鈴に視線を向け続ける。

恐らく鈴は国の高官達に対し代表候補生としてそれはどうかと思われる態度を取り続けているのだろう。しかも現在進行形で……気持ちは分らんでもない。

あいつの周りで起こった事考えりゃ理解してやれるが……それは違う、違うぞ鈴。いくら誰も頼れる存在がいなかったからって。

―― 『最も信頼している大人』に裏切られたからって。

それを他の大人にぶつけるのは違うだろう? きっと中にはお前に歩み寄ろうとしてくれた人だっていただろう?

代表候補生になる為に必死になって頑張って、自分の力だけで歯を食いしばって登っていったからって……色々な相手を蹴落とさなければならなかったって。

その結果、周囲にいる全てが敵だなんて考えるのはそれは違うだろう?

鈴? お前気付いているか? お前は今―― お前が一番大嫌いな人間に自分自身がなっているって事によ。


「……一応そんな動きがあるってだけでまだ中にはそれを止めようと動いてくれてる人がいるみたいすっけど……それも時間の問題。早急にあいつの在り方そのもの変えてやらなきゃ鈴は確実に見放される。代表候補生から外されたとしても、その間に繋いだパイプがあればIS関連の事に携わる事が可能だけど……あいつにはその繋がりが無いといってもいいほど浅い。鈴には自分の受け皿となる確固とした地盤が無いんですよ。この状態で切り離されれば……あいつはISと言う拠り所さえも奪われることになる」
「……ふん」
「だからまずは鈴の奴の在り方を正さなきゃならない。そして代表候補生としての在り方を再自覚させる。んでもって……俺や一夏、それから周りに頼れる存在、鈴を支えてくれる存在がいるって事を教えてやらなきゃねー。まずはそこからっす。鈴の地盤を固めるのはその後だ。一つ一つ確実に地盤を固めていきますよ時間が掛かるでしょうけどねー」
「それはまた随分と気の長い話しだな? 鈴の中国側の評価を考えると、そんなに悠長な事を言って――っ!? お前まさか……っ!?」


一瞬にして瞳を鋭く細めると、千冬さんは厳しい瞳で俺を睨みつけてきた。

おおう……流石千冬さん気が付いたようだ。そんな千冬さんの姿に俺はヘラリと笑いを返す。

そんな事は百も承知だ。鈴の現状を考えると時間はあまり無いと言っていいだろう。だからこそまずは時間稼ぎをしなきゃならない。

なぁそうだろ? ―― 親友。

スクリーンの鈴から視線を外し、俺は今も様々な思いを乗せて戦う親友……一夏の姿を己の眼に映す。

いつも以上に素早い動作、重い太刀筋。どれをとっても普段の一夏とは一味も二味も違う。

それはそうだろう。あいつは今己の持つ全ての力が引き出される戦いに。

―― 大切な者を守る為の戦いに身を投じているんだからな。

それが一夏の真骨頂。何かを守り誰かを守る戦いこそあいつの力が最大限に引き出される。

……本当ここまで持ってくるのに苦労したぜ。


「だからこそこの一戦は絶対に逃せないんですよ。この一戦の結果で一体どれくらいの猶予が稼げるか決まるんですから」
「……お前っ!」
「……千冬さんにとっちゃ全然笑えない話でしょうけどね? まぁその事に関しちゃ俺は申し開きも無いです。……この一件が終わったらどうぞ遠慮なく俺をぶちのめして貰っても構いません。それだけの事を俺は一夏に任せたんだから」
「…………あいつは」
「へい?」
「一夏の奴は全て承知しているのか?」
「一応は、全部話してちゃんと説明しました。……まぁその上であいつが引き受けたってのも事実ですけど。あいつの性格を考えた上で引き受けさせるように俺が仕組んだってのも隠しようもない事実ですが?」
「……ふん。そうやって自分だけを悪者に仕立て上げる魂胆か? あいにくその手には乗らんぞ」
「およ? 何時も俺を殴りたさそうにしている千冬さんとは思えない言葉っすねー? はっ!? もしや俺って結構愛されてるっ!?」
「……いい事を教えてやる弾。世の中には殴られるよりも、かえって殴られない方がそいつにとって最も辛い事である場合もあるんだそうだ」
「……おおう」
「殴れて楽になろうなどといった甘えは許さんぞ。最後まで貫け馬鹿者が」
「……ご指導痛み入りまーす」


俺の返事に千冬さんは小さく苦笑し、再びスクリーン上でこの一戦に様々な思い出挑んでいる弟の姿に目を向ける。

そこには若干の呆れと―― 無茶で無鉄砲な弟の雄姿を見守る姉の優しさと、そんな弟の身を案じる光が確かに映っていた。



―― ああ……こりゃ本当に散々に殴ってもらった方がマシだったわ……



表面上はそれを表に出さず、俺はポケットに突っ込んだ左手を力一杯握りしめる。痛みが走るがそんなもん何の戒めにもなりはしない。

自分の不甲斐なさが心底憎い。そしてこの策しか浮かばなかった自分の頭の悪さに苛立つ。そしてこの話を一夏に持ちかけたくせに友人面している己の狡猾さに反吐がでる。

だが俺に……親友を利用し、その姉にこんな瞳をさせた俺に―― そんな表情を浮かべる資格などありはしない。

急に黙った俺を不審に思った千冬さんが視線を向けてくる。

すると小さく苦笑し、再びスクリーンに視線を戻し俺に会話を振ってきた。

……あー格好悪。気を遣わせちゃったよ淑女さんに……


「―― ふん成程。つまりお前等にとってこの試合の勝敗など最初からどうでもいいという訳だな? 重要なのは試合の内容である……と」
「……まぁぶっちゃけるとそう言う事ですかね。最初っから一夏が勝とうが鈴が勝とうがどっちの転んでも構いませんよ。仲直りもそれで上手くいくしねー」
「何だ? 喧嘩でもしているのかあいつ等」
「まぁ仲直り云々はオマケみたいなもんです。けど勝ち負けはどうでもいいってのはクラスの皆には内緒です。負けてもいいやーなんて思ってるなんざ、何にも知らない皆に流石に悪いんで。もし負けたとしても、一組が十分高評価されるようクラス対抗戦の真意を皆に伝え総合評価向上の為に俺が動いたのはそれが一番の理由です。」
「……ほう?」
「そうすりゃ負けても勝っても一組は十分上位を狙えます。総合優勝は負けても狙えるかは微妙ですけどね? 実際現時点で一組は一年の中じゃトップじゃないですかね?」
「さぁな? そこまで教える訳にはいかん。」
「けどかなりの高評価ではある筈です。それにクラスの皆がクラス対抗戦の為に動いてくれたおかげで、全員が一夏をバックアップしてくれました。アリーナも多く使用出来た上に、一夏に助言をしてくれる淑女さんもいた。一夏自身も能力アップ出来た上でこの試合に臨めてるし、クラスの総合評価も高められた。負けたとしてもみんなが苦い思いをする事はない。っていうか一夏も負ける気で挑んでる訳じゃないし? 最終的にはクラスが全力を出した上での結果って事になります。まさに一石二鳥……いや三鳥か?」
「ふん……四鳥の間違いではないか?」
「四羽目は獲ろうとしてるとこなんで今はそれでOKです」
「……相変わらずそう言う事には頭の回る奴だ」
「おおう? それは誉め言葉ですかね?」
「さてな」


素っ気ない言葉だが、それが俺には誉め言葉に聞こえた。あー……誉められるような事じゃないんだがねー?

実際、俺なんてそんな事ぐらいしか出来なかった訳だし。

本当に誉められるべきは―― 今も俺の代わり戦ってくれている一夏だ。あいつは俺のこの策が最大限に発揮できるよう戦ってくれている。

俺の力になろうと体を張ってくれている。


「……そこまで考えが至るなら。この一戦はお前が引き受けても問題は無かったのではないか?」
「……駄目なんですよ俺と一夏じゃ土台が違う。確かに俺と一夏は同じ『果実』ですが……一夏は極上のブランド品、対して俺は有り触れたセール品。しかも毒入りときたもんだ」
「分かってるじゃないか」
「ひでぇっ!? ……まぁ事実ですから良いけど。ぶっちゃけ俺でもいいんですがねー? それじゃ最高へと届かないんです」
「最高でないとならない理由は?」
「中途半端な気持ちで鈴を救おうなんてふざけた考えは最初から無い。やるなら全力を出す! それが紳士! その場凌ぎの救いなんざ偽善の自己満足だ」
「……その通りだ。全く……何故いつもその状態でいないんだお前は……」
「へ?」
「何でもない……で他に一夏を推した理由は?」
「俺と一夏の戦い方……っていうか方向性の問題です。一夏は一つの事を極める戦法に向いた特化型。対して俺は色んな手段を駆使して状況に合わせる戦法に向いた万能型。どちらも利点がありますが……今回みたいに時間が無い状況での成長の向上が早いのは特化型の一夏だったからです」
「成程な……短期能力向上での違いか?」
「その通りです。短期間での能力向上に関しては特化型の一夏に分があります。俺の場合はそうはいかないですからねー? 一つの技量に集中してたら他の技量との開きに問題が出来る。そうなっちゃあらゆる面で状況に合わせた戦い方を得意とする俺にとって、他の未熟な部分を突かれたら致命的な弱点となりかねない。一つの技量が少し高い程度でそれで他の未熟さをカバーするなんて到底無理。短期間での能力向上に関しては、全方面の技術の向上を必要とする万能型には向いてないんですよ。その点特化型は一つの事に集中するから短期間での高い能力向上は狙えます。他の事を犠牲にする分問題もありますが……それでも一つの事がズバ抜けてる分、敵にとっては十分驚異だ」
「つまり……」
「この試合までの短期間、鈴との一戦で一夏が十分に戦えるよう全力を注ぎました。肉体面、精神面全てを含めた上で。それでも他のクラス代表とは十分渡り合えるだろうし? 実際の所……鈴の動き見た瞬間思いましたよ。俺じゃあそこまで鈴に喰らいつくなんて真似はできそうにない。開始数分で負けてたってね?」
「……弾?」
「へい? 何すかね?」
「自分の限界を理解した上でのその言動……お前本当に十五か?」
「精神年齢は三十三ですが何か?」
「……聞いた私が馬鹿だった」


はぁーっと大きく溜息を吐き、再びスクリーンに視線を戻す千冬さん。

……いや実際嘘じゃあ無いんだがね? けど気分は永遠の十代ですっ!(と書いて馬鹿と読む)

スクリーンに視線を戻した千冬さんに続いて、俺も再び画面の中の一夏と鈴の戦いを見守る事にする。

衝撃砲を掠りはするものの、クリーンヒットにはならない事に驚く鈴に一夏が何度も攻め行って接近戦を挑む。

鈴もどっちかってーと接近戦を得意とするから、一夏も奴も中々ダメージを与える事は出来ていない。けど、それでも一夏は何度でも挑んでい行く。

まさに一進一退の攻防を繰り広げている。……まさか此処までやってくれるとは……流石一夏だ。

その瞬間―― 俺はこの策を一夏に持ちかけた時のあいつの言葉を思い出した。

あの日あいつは少々考え込んだものの、それでも俺の目を強い光を宿した瞳で真っ直ぐ見返して言ってくれた。



『今頃水くさい事言うなよ弾。前に俺が言ったろう? お前忘れたのかよ』



そうあいつを……一夏という存在を利用させて欲しいと頼んだ俺に対して―― あいつは笑顔で俺に言ってくれた。



『―― 捨て駒だろうが何だろうが好きに使えって……な?』



その言葉を思い出した俺は、それを頭で繰り返した後――

はっ! と小さく笑い飛ばすように息を吐いた。……全く何言ってんだかねー? あの馬鹿野郎は。

本当あいつは自分って言う存在がどういうもんか理解できてねーみたいだねー? 確かに鈍過ぎる。こりゃ箒ちゃんやセシリーちゃん、そして鈴が苦労する気持ちが分るわ。

また鋭い剣戟の音を響かせ、鈴を相手に必死になって喰らいつく一夏の姿に俺は眩しい物を見るかのように目を細めた。

捨て駒? 好きに使え? 馬鹿かお前? そんなにポンポン好きに使える訳ねーだろうが。



―― だってそうだろう?





「―― お前は何時だって……俺の最高の『切り札』なんだからよ」





そこんとこちゃんと理解しろよ? なぁ親友。

そんな想いを込めて、俺はスクリーンに映る最高の『切り札』に向かって心内で呟いたのだった。













【―― 今のも『記録』取ったどおおおおおぉぉぉぉぉぉっ! 】
「はーい落ちが付きましたー。流石相棒空気読めないなぁこの野郎」
「……何を遊んでいる。そこの似た者主従」


ええいっおのれ『七代目五反田号』! 良いシーンを台無しにしおってからに!? とにかく後は頼んだぜ一夏っ!



【 一夏SIDE 】


圧縮された見えない砲弾がまた俺を掠ったが、だがその程度だ。『白式』から伝わる『予測』通りの場所を不可視の砲弾がすり抜けていく。

そして俺はそれに臆することなく前へと進み、鈴へと接近した瞬間『雪片弐型』を振り落すっ!

だがまたも鈴の『双天牙月』に阻まれ、もう何度目かの剣戟音と共に火花が散った。

―― くっ! そう簡単にいかねぇって事かよ!


「―― はっ! やるじゃない一夏! よくこの短期間でここまで戦れる様になったもんだわ! 大したもんじゃない、褒めてやるわ……よっ!」
「ぐぅっ!?」


弾き返され、バランスが崩れそうになる体を何とか持ち直す。

その俺の隙を突いた鈴から再び一撃をくらいそうになるが、それに何とか反応し『雪片弐型』で受ける。

火花が散るが―― 大丈夫だまだまだやれる!


「―― っお誉めに預かり光栄だな! 悪いけどこの一戦、俺には絶対に退けないもんがあるんでねっ!」
「退けない……? あ、あんたそこまであたしと……ごにょごにょ……」
「―― っ! 貰った!」
「は? って、きゃあっ!」


何故か知らんが鈴が一瞬隙を見せたので、その隙に乗じて俺は体を捻り鈴に向かって蹴りを放つ。

けどそれは咄嗟に反応した鈴に間一髪で避けられ空を切る―― が、それに続いて体を回転させた俺はその勢いに任せたまま再び『雪片弐型』を振るうっ!

だがそれにさえ反応した鈴に再び攻撃は阻まれ、火花が散るのみに終わった。

―― くそっ! 良い反射神経してやがる!


「―― くっ!? ちょっと一夏何すんのよ危ないじゃない! 乙女の純情を揺さぶっておいてその隙に攻撃なんて最低よっ!」
「は……? 何言ってんだ今は戦いの最中だろ! 隙を見せたお前が悪いっ!」
「こ……のっ!? 少しは成長したかと思ったあたしが馬鹿だった! 絶対許さないっ! あたしが勝ったら覚悟しときなさいっ! アンタの財布空にしてやるからっ!」
「おい待て何の話だ!? 何だよその不吉な発言! 何を買わせる気だっ!」
「うっさい馬鹿! あたしが勝ったら嫌という程教えてやるわよっ!」
「知りたくねぇよ! それにそれは俺に勝ったらの話だろうが! 悪いけど負けるつもりなんて俺には毛頭ないからな勝つのは俺だっ!」
「はんっ! 言っとくけどあたしは半分も本気出してないからね? 今まではあんたに合わせてあげただけってこと今から教えてあげる!」
「そうかよ俺は三分の一の本気も出しちゃいないぜっ!」
「な……さっきのは嘘よ! あたしは四分の一も出してないんだから!」
「俺は五分の一も出してないっ!」
「子供かあんたはっ!? 馬鹿じゃないの!」
「お前が先に言ったんだろうが馬鹿!」
「馬鹿って言うな馬鹿!」


少しばかり緊張感に欠ける言葉の応酬をしながらも、俺と鈴はアリーナ中を飛び回り斬りつけ合っては火花を散らす。

さっきから、アリーナ中から湧く歓声が聞こえるけど……

―― これは……もしかして結構高評価されてるんじゃないか?

一瞬そんな事を考えそうになったが、すぐに打ち消して俺は自分の事のみに専念する。

余計な事は考えるな俺! そんな事は弾が見てくれてる筈だ。俺は自分の全力を持ってこの試合を戦い抜けばいんだ。

もし負けるにしても―― 無様な負け方だけは絶対にしちゃならねぇんだからな。何処までも喰いついてやる。


【――――】
「おわっ!? 危なっ」


『白式』から伝わってきた警告に、俺は『白式』から提示された『予測』を元に咄嗟に回避行動を取った。

瞬間、俺のすぐ真横を不可視の砲弾が通り過ぎて行きアリーナの地面が爆ぜる。

衝撃砲から繰り出される砲弾か!?

間一髪でかわした俺に対し、少し俺から離れた場所に居る鈴から少し苛立った声が掛けられる。しまった距離を取られてたか……


「やっぱりかわしたわね……どういう事? 砲弾が見えないって言うのによくかわすじゃない」
「それを教えると思うのか?」
「……ふーん? あたしの過去のデータを調べ上げたってのは本当みたいね。何を思いついたのか知らないけど、あんたが思いついた事じゃないってのは分かった」
「な、何の事だ?」
「……弾ね? あんた何か弾に入れ知恵されたんでしょ!? 何言われたのか知らないけど卑怯よあんたっ!」
「ばっ!? ひ、卑怯じゃねぇよ! いいだろうが別に弾はこっちの陣営なんだから助言もらっても!」
「弾の悪知恵の厄介さは身を持って知ってるのよあたしはっ! しかもあんたと組んだらそれが更に厄介さが増すんだからっ! ズルよズル!」
「俺と組んだらってどういう意味だよ!? とにかくズルじゃねぇ!」


再び言葉の応酬しながらも鈴は俺に対し不可視の砲弾を浴びせ掛かる。

それを『白式』の『予測』を元に回避していく俺。あくまで『予測』だから完全回避は厳しいが……それでも直撃は避けられる。

―― 『予測』をする為の必要な情報は既に『白式』が覚えている。後はISの持つ演算能力を持ってすればこの位は簡単だった。

だからその為にも、俺は最初の内で衝撃砲から繰り出される不可視の砲弾を『受けた』んだからな。

最初の一発をシールドを展開し防御した俺は―― その時、受けたシールドにぶつかった砲弾の衝撃範囲を『白式』に覚えさせた。

これで一体どれほどの大きさの砲弾で、どこまで範囲が致命打になり得るかの情報を入手。

次にその時の俺と鈴までの距離を『白式』に測定させ、その後の鈴の衝撃砲から砲弾が放たれるまでの空間の歪み値、大気の流れ、そして弾丸が放たれた瞬間と思わしき空気の爆発的な空気振動を『白式』に測らせる。

最後に俺に着弾するまでの時間を測らせれば―― おのずと導き出される砲弾の速度。

砲弾の衝撃範囲、着弾までの時間と距離、それによって導き出される砲弾の速度。これらの情報が『白式』に伝わった瞬間―― 不可視の砲弾の輪郭が少しずつ見えてくる。

砲弾はあくまで直線状だ。ならそれらの情報を元に『予測』を立てれば……完全回避は出来ないとしても直撃を避ける事は可能だ。

動いてれば鈴との距離が随時変り続けるけど、そんなものISにとっちゃ導き出すのにコンマ一秒だって時間は要さない。

空間の歪みから着弾までの情報―― それを持ってすれば『予測』は立てられる。ならそれを元に俺が回避を取り続ければいい。

実際何発か掠ってはいるものの、『白式』から伝えられる『予測』のおかげで直撃には至っていない。

掠った分のシールドエネルギーの減少はあるがそれも微々たるものだ。それに弾も言っていたしな?

完全に衝撃砲を無力化する必要なんてない。掠っている様を見れば、弾丸がいつか直撃するかも知れないという考えが鈴の中に浮かぶ。ならその考えに乗じて無駄玉を撃たせてやれって。

完全に使用するのを止めさせるよりも、いつか当るという考えの元に無駄玉を撃たる。……あいつが思いつきそうな意地の悪い作戦だよ本当。

―― けどっ!

俺は不可視の砲弾を掻い潜りもう一度鈴の懐へと飛び込んでいく。砲弾がかわされ続け苛立っている様子の鈴の表情が見えたが、俺は鈴に向かって『雪片弐型』を叩きつけた。

だがすぐに反応した鈴に攻撃は阻まれてしまったものの、そのまま鍔迫り合いを続ける。


「―― んのおおおっ! 何を入れ知恵されたのよあんたぁ!?」
「入れ知恵だろうが何だろうがいいだろうが! けどこれで分かったよな鈴!?」
「な、何がよ!?」
「俺とお前のこの一戦で……お前の衝撃砲は決定打にはならねぇって事によっ!」
「――っ!? く、くぉんのおおおおおっ! 一夏のくせに生意気よっ! 弾のアホーッ! あんたどっちの味方よ!? 後で覚えときなさいよおおおっ!」


鈴の怒声が響き渡るも、それを上回る程の大歓声がアリーナ中に響き渡っていた。

どうやら俺と鈴の一戦はそれぐらいの出来栄えらしいな……いい傾向だ。

けど重要なのはそんなもんじゃない最も重要なのは俺自身の事だ。

俺がしなきゃいけない事……それはどれ程まで俺という存在を知らしめることが出来るかにかかっているんだからな!

だからこそ俺はこの一戦で無様な様だけは見せられない! だからその為に足掻く! 戦う!

俺はこの一戦で俺という存在を認めさせる。



俺は俺をっ! 『織斑 一夏』をこの一戦で証明するっ!



それこそが俺の、弾の、俺達の―― 鈴を救うに必要な時間を稼ぐ事に繋がるんだからなっ!

弾に聞かされた鈴の置かれている切羽詰まった危機的状況には俺も耳を疑った。何故そんな事になってしまったのかを詳しくはあいつは話してはくれなかったけど。

でもきっとそれは、俺が鈴の口から直接聞かなきゃならない事だからだと思う。

何故そうなってしまったんだ? どうしてそんな事になるまでになってしまったんだ? 一体鈴に何があったって言うんだ?

疑問は後から後から膨れ上がって来る……けどこれだけは分かる。

俺達は―― そんな状況に置かれるまでになってしまった鈴に気付いてやれなかったって事。苦しんでる鈴の傍に居てやれなくて支えてやれなかったってことだ。

鈴……ごめんな気付いてやれなくて、支えてやれなくて、助けてやれなくて。

だからこそ弾は言った、これは俺達に残された最後のチャンスなんだと。

『世界で二人だけのISを起動させる事の出来る男子』これはもしかしたら鈴を救えっていう何かの啓示なんじゃないかってな?

同じ舞台に立った。俺達は追いついたんだ、暗い道先に迷い込んでしまった鈴のすぐ近くまでに。

だったらもう大丈夫だ。

もうお前を一人になんかしない、これからまた俺達が一緒に歩んでやるから。

険しい表情で俺と鍔迫り合いをする鈴に俺は少しだけ表情を緩めた。それに気付いた鈴が怪訝な顔を浮かべるが、それでも腕の力は弱まらない。


「……おい鈴」
「―― 何よ勝負中に変な顔してっ! 言っとくけど今更手加減なんてしないわよ!」
「お前何馬鹿な事言ってんだ?」
「なっ!? もうあったま来た! 本気でぶっ飛ば――!」
「弾がどっちの味方だーとかさっきって言ったけどよ」
「な、何そっち!? そ、そうよあの馬鹿ったらあたしに発破掛けたくせに!」
「お前の味方に決まってんだろう?」
「はぁっ!? な、何言ってんのよ! 実際あいつあんたに入れ知恵――」


「―― 俺も弾もいつだってお前の味方だよ。」


「……は?」


ポカンとした表情を返す鈴に俺はそのまま言葉を紡ぐ。


「俺達だけじゃない。箒も、セシリアも、他のみんなだってきっとお前の力になってくれる」
「な……何を言って……!?」
「もう背伸びしなくたっていい、我慢しなくたっていい。俺達が今度こそお前を守ってやる」


何を言っているのか分からないという表情で困惑する鈴。その動揺に揺れる瞳を真っ直ぐ見返して俺は言った。

こいつが忘れている事を、気付いてない事を。

そして何よりも―― 欲しくて欲しくてずっと誰かに言って欲しかったであろう言葉を。


「大丈夫だ鈴。ちゃんと此処にあるから―― 此処にちゃんと変わらずあるから」
「さ、さっきから何言ってんのよあんた!? 動揺を誘おうとしても無駄――!」



「―― お前の『居場所』はいつだって此処にちゃんとある」



「――――っ! ……は……い?」


鍔迫り合っていた鈴の腕から僅かばかり力が抜けるのが分った。

けど流石にその隙を突こうだなんて事はしない、俺は真っすぐと呆然する鈴の瞳をしっかりと見返してやる。

―― 何で忘れちまってるのかなぁこいつは?

こいつの……鈴の『居場所』はいつだって俺達の傍に変わらずあるっていうのに。一年目と何ら変わらずあるっていうのに。

誰も鈴の代わりになんかにはなれず、その場所を壊す事なんて出来やしないのに。

そんな事を―― 俺達が許す筈がないだろうって事をよ?

しばらく形だけの鍔迫り合いを維持したまま、俺達は互いの瞳を見つめ返し続ける。


そして――



「い……ちか……?」
「おう。何だよ鈴?」
「……あ……あんた……もしかして私の――」



―― その瞬間だった。



アリーナ中に轟かんばかりの轟音が鳴り響き、それと同時にアリーナの遮断シールドを貫通する程の高威力を持った衝撃波がステージ中央に叩きつけられたのは。

その轟音と突然の事態に俺達は会話を中断し、驚きに『それ』へと視線を向ける。


「―― な、何だ!?」
「っあれは……!?」


ステージ中央の黒煙が上がっている場所へと、俺達は同時に視線を向ける。そしてさらに――


【――――】
「――っ!? え……?」
「ど、どうしたの一夏!?」
「いや『白式』が……」 
「はぁ? と、とにかく試合は中止よ! あんたは早くピットに戻って!」


鈴からそう言われるも、俺は『白式』から伝わったってきた事を頭の中で反芻した。



―― 魔女の人形……? 狙いは俺と……? 危険……『■■』を呼んで……? 



一体何の事だか分らないが。『白式』この場が危険である事、そして誰かを呼ぶ事を俺に訴えかけてくる。

だがその事を考える暇もなく、即座に所属不明のISからロックされているという警告が俺の前に表示された。

それに驚き俺は黒煙が立ち上るステージ中央へと視線を向ける。するとそこには、黒煙の中を悠然と立ちあがる一体の異形のISの姿が目に入った。


「―― 一夏! 早く!」


鈴が何かを訴えかけてくるがそれが遠くに感じる。一体何が起こっているのか理解できなかったが、それでも先程の鈴の言葉が俺の頭に重く残っていた。


……試合が中止……だって?


おい待てよ……何だよそれ。もう少しだったんだぜ? 此処まで喰らいついて来たんだ、ようやく此処まで来たんだぜ? 俺達は……


それが中止? それじゃあどうなるんだよ俺達の頑張りは、努力は? 思考が固まる中、俺は異形のISへと視線を送り続ける。


固まる思考の中で、それでも一つだけ分かっている事がある。


そうあの異形のISは―― 見るに堪えない薄汚い容姿の鉄屑は ―― 俺達の舞台を滅茶苦茶にしてくれやがったって事だ。


「……何だってんだよ……」
「一夏……!?」


鈴の言葉を無視して俺はそのISへと視線を向け続ける。


それに向ける感情は一つのみ―― 腹の底から湧きあがる『怒り』だけだった。



「……何だってんだよお前……?」



低く唸る様に、俺はそのISに向かって言葉を紡ぐ。


せっかく此処までやって来れたってのに……俺達が、弾が、箒が、セシリアが今日この日の為に頑張ってきたってのに。


ようやく此処まで辿りついて、もう少しで手が届きそうだって所で――!




「―― っ何だってんだよ!? テメェはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」




邪魔者の姿を射殺さんばかりに睨みつけ、俺の咆哮の如き叫びを上げた――



【 後書き 】

遅くなりすみません釜の鍋です。……えーかなり時間が掛かりました今回は、お待ち頂いた方には面目ないです。……今年中にできれば一巻軸終わらせたかったです、自分の遅筆と色々目移りしてしまう優柔不断さに呆れます。さて次回、お邪魔虫との乱戦開始。弾達は一体どう動くのでしょうか? おそらく更新は来年になるかと思いますが、少し早いですがよいお年を! 釜の鍋でした。



[27655] 第二十六話 優先一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/09/17 16:46
【 真耶 SIDE 】


皆さんこんにちは、IS学園一年一組の副担任の山田 真耶です。……し、下から読んでも名前が変わらないっていっていう突っ込みは受け付けませんよ? ヤマヤって言うのも認めませんからねっ!?

――って私は何を呑気に挨拶なんてしているんでしょうか!? 何故かしなければならないという使命感に襲われてやってしまいましたけど、今はこんな事している場合じゃないっていうのに!

うぅぅ……自分の緊張感の無さが恨めしいです……だから落ち込んでいる暇も無いんですってば! 

雑念を振り払うようにして、私は通信機に向かって声を張り上げます。


「織斑君! 織斑君!? 落ち着いてください! 凰さん織斑君を止めてピットに避難を――っ!!」

『――っの野郎おおおおおおおおおおおおおっ!!』 
『一夏この馬鹿! 考え無しに突っ込んでんじゃないわよっ! ああもうっ一体なんだってのよぉっ!? 落ち着きなさいよっ!』


私の呼びかけにも応えず、スクリーンに映る織斑君は突如として乱入して来た未確認のISに向かって突撃していく。

敵の腕から放たれるレーザーを掻い潜り『雪片弐型』を振るう。だけど力任せに振るったとしか見えない攻撃は簡単に避けられ、再び敵に攻撃を与える隙を作ってしまう。

巨大な腕を横薙ぎにして振るった敵ISの攻撃を受けて織斑君が吹き飛ばされる。さらにそれに続くレーザーの追撃。

それに気付いた織斑君が間一髪で避けて直撃は避けたものの、それでもダメージを受けた織斑君がさらに吹き飛び空中に投げだされた。

そこで体勢を何とか整えた織斑君だったが、まるでさっきの事など忘れたかのように再び敵に突撃していく……その姿は蛮勇ともとれない愚行にしか見えなかった。

怒りに我を忘れている織斑君の姿に凰さんもどう対応していいのか分からないようで、援護に回る事さえ出来ないでいる様だった。いけないっこのままじゃ!

無謀な行為を繰り返す織斑君に危機感を覚えた私は、再び回線が開いたまま通信機に向かって声を張り上げた。


「織斑君話を聞いてくださ――!」
「無駄です山田先生。ああも我を失っていてはこちらの声など聞こえていないでしょう」


その時、いつの間にか私のすぐ隣まで近づいて来ていた先輩―― 織斑先生の言葉にハッとして顔ごと視線を向ける。

視線の先の先輩は、この状況に置かれていても眉一つ動かさずいつものように冷静な表情を浮かべそこに立っていた。

実の弟さんが危ない状況に置かれているというのに、何故そんなにも冷静でいられるのか……それとも表面上に出さないよう努めているだけなのでしょうか?


「で、ですが織斑先生このままじゃ!」
「分かっています。まったく……世話の焼ける」


目を瞑って小さく……それでも深く溜息を吐いた先輩は、次に目を見開いた瞬間通信に向かって凛とした鋭い声を発した。


「凰鈴音! その馬鹿の援護にまわれ! 折を見て二人で避難をするか、そのまま敵ISの排除に乗り出すかはそちらで判断しろっ!」
「え、えええええっ!? な、何を言い出すんですか織斑先生っ!?」

『へぇっ!? い、良いんですか!?』

「この状況じゃ仕方無いだろう。頭に血が上っている馬鹿の手綱はお前に任せる。後の事はお前達で状況判断した上で動け、分かったのなら返事をしろ」

『りょ、了解です!』

「……愚弟の面倒を押しつけてすまんが、頼んだぞ」

『は、はいっ!』


凰さんの返事を聞いた先輩は、小さく頷くとそのまま通信を切る。

それが当然とばかりの行動を取った先輩に向かって、私は慌てて声をかけた。


「お、織斑先生よろしいんですかっ!?」
「この状況じゃ仕方ないだろう……頭に血が上った奴の説得に時間を割くだけ無駄だ。それにこれを見て見ろ」
「え? これって……っええぇ!?」


先輩が軽くキーを空中ディスプレイを指で叩き、そこに表示される情報を私に見せる。そして私は、そこに表示された情報と事実に驚愕の声を上げてしまいました。


「遮断シールドがレベル4に設定っ!? そ、それからアリーナ内の扉がロックされ……っ!?」
「恐らくあの未確認のISの仕業と見て間違いないだろう……ふん、やってくれる。これでは避難することも救援を回す事もできん」
「そ、そんな……!?」
「山田先生、政府に緊急救援要請を。それからアリーナ内の三年にシステムクラックの実行を開始させて下さい。今は猫の手も借りたい所だ、現在使える者は全て使うよう通信を」
「は、はいっ! ……ってあれ?」
「どうかしましたか?」
「さ、三年生が既に遮断シールドのシステムクラックを実行しているみたいなんです」
「……そうですか。ならそのまま続行させてください」
「は、はいっ! ですが流石三年生ですね。緊急時に自分達で率先して行動を起こすなんて」
「……まぁな。自分達で動いた事か……それとも更識が瞬時に動いたか……まぁいい、残る問題は――」


小さく何かを呟いた先輩は、そのまま視線を目の前の画面へと移しました。

そこに映っているのは正体不明のISと、それに対して攻撃を開始している織斑君と凰さんの姿。

凰さんが何とか織斑君のフォローを加えようとしている見たいですけど、当の織斑君は先程まで凰さん相手に素晴らしい戦闘を繰り広げてたとは思えない……まるで癇癪を起した子供の様に無謀な突撃を繰り返していました。

あ、あのままじゃ幾ら代表候補生である凰さんがフォローに回ったとしても、撃墜されるのは時間の問題です……っ!?


「それまではあいつ等に、あの未確認のISの相手を任せるしか成す術がない……と言う一点のみか」
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「さぁな」
「さ、さぁなってそんな先輩っ!?」
「どちらにせよ今はあいつ等に敵を引きつけて貰う意外に選択肢がない。遮断シールドが解除され次第、すぐにでも教師陣のIS部隊を投入の出来るよう配備させておこう。その間はあの二人の働きに任せましょう。馬鹿の一人が異様にも乗り気で、凰の奴も何だかんだい言ってヤル気になっている事だしな?」
「で、ですけどこれは非常事態の起こした実戦ですよ!? 凰さんはまだしも織斑君にとっては――!」
「なに、実戦経験が早まっただけの事だ。あちらは二人に任せてその間にこっちはこっちで事態に対応させてもらうとしよう」
「何を呑気な事をおっしゃってるんです!? 初の実戦でしかも非常時に起こった事だからこそ織斑君が危ないんじゃないですか! 凰さんだって織斑君のフォローしながらなんですよ!? 何かあったらどうするんですか!?」


切羽詰った声を上げる私でしたが、織斑先生はそんな私の様子に小さく笑みを浮かべつつ、近くのテーブルの上に用意されているコーヒーセットへと歩み寄ると、余裕を感じさせる動作でコーヒーを入れ始めました。

……うぅぅ、実の弟さんの危機だって言うのにこの落ち付きよう。上に立つ者としては大変心強い印象を抱きますが、それにしたってもう少し心配する素振りくらい見せても良いんじゃないかと思います。何でこんなにも冷静でいられるんでしょうか? それ程織斑君達を信頼しているのか、もしくは何かしらの思惑を働かせているのか――



「まぁ落ちつけ。こちらが慌てた所でどうにもならん。胃薬でも飲――……ゲフンゲフンっ!」



――あ、何か駄目っぽいです。



「……き、聞き間違いですよね……? 今、胃薬って・・…?」
「い、いや違うコーヒーだ。コーヒーでも飲めと言いたかったんだ。言い間違えただけだ」
「どうやったらコーヒーと胃薬言い間違えるんですかぁっ!?」」
「ち、違うぞ? 最近コーヒーよりも胃薬飲んだ後の方が落ち着いた気分になるとか全然感じてなどいないぞ私は」


聞いてもいないのに本音が見え隠れしています。何故でしょう視界が滲んで良く先輩の顔が見えないです……!

ああ……もう先輩はそんなにも……っ!

そして先輩は冷静を装っているだけで、実は少なからず焦っていたんですねっ!? そうじゃなければこんな風にポロッと本音をこぼす事なんて、いつもの先輩なら絶対にしないと思いますからっ!

『気分を落ちるかせる=胃薬を飲めば良いじゃない』って考えが直結するまでに思考が染まってしまっていたんですか……! それだけで先輩が日常でどれほどの忍耐を強いられ、また精紳が削られて行っているのかが垣間見えるようです……主な原因はわかっているんですけどねぇっ!?


「……せ、先輩大丈夫ですか? 実際は結構この状況を焦っているんじゃ……!?」
「ふっ、何を馬鹿な事を。山田先生は確か砂糖は二杯でしたね」
「……あの織斑先生。誠に言い難いんですが……それ塩ですよ?」
「…………」
「…………」
「……何故塩があるんだ?」
「……いえ普通に塩って書いてありますけど」
「…………」
「…………」


先輩がゆっくりとラベルを確認し、そのままピタリと動きを止めてしまいました……嫌な沈黙がピット内に訪れます。

しばらくそのまま静寂を守っていた先輩でしたが……『フッ』と小さく口元に笑みを浮かべました。

そして次の瞬間にはごく自然に流れるような動作で、然もそれが至極当然の行動だと言うかのように手に持ったカップに口を付――


「――って、ちょっと待ったああああああああああああっ!?」


瞬間、体中のバネを総動員し私は過去に類を見ない反応速度で先輩の腕へガッチリとかじり付きましたっ! ナイスですっナイスファインッ私っ!

実家のお母さんに見せたかったくらいのファインプレーですっ! 私、今輝きました頑張りましたっ! 私はやれば出来る子なんですっ!

自分の限界を超えた働きにぶりに感動し、そのまま余韻に浸っていたい気分ですが今はそれ所じゃありませんっ!


「織斑先生っ!? 自棄にならないでくださいっ飲んじゃ駄目ですっ! 胃にとっても悪いですからあああぁっ!」
「自棄になってなどいない私は冷静だ冷静にこのコーヒーを処分しようとしているだけだ塩入り? 笑わせてくれるそれがどうした上等だ飲んでやろうじゃないか私の胃の経験値を舐めてもらっては困るこんなもの蚊ほども効かん事を証明してやろう何です山田先生手を離してください飲めないだろう?」
「息吐く暇も無く言い切っている所が十分冷静じゃないですっ!! そんな証明しなくても結構ですよっ! ちょっと本当に駄目ーっ!?」


今にも手の持っているコーヒー(塩入ブレンド)を飲み干さんとする先輩の腕にかじり付き続ける。いけませんっ! このままじゃ先輩の胃に致命傷を与えてしまいますっ!? っていうより先輩の目が焦点が合ってない上に一切の光が浮かんでなくてトンでもなく怖いんですけどおおおおおっ!?

って力強いですっ!? ちょっと本気ですよこの人! いけません私一人の力じゃ先輩を止められな……そうです助っ人をっ! 助っ人を呼べば良いじゃないですか! 幸い此処には五反田君達が居る事ですしっ! 

そう瞬時に判断した私は、先輩の腕に縋りつきズルズルと引き摺られながらも首だけを動かし、そのまま泣き叫ぶ様にして現在私と先輩意外にこのピット内に居る五反田君達三人に向かって救援を求め声を上げる。


「ご、五反田君! 篠ノ之さんにオルコットさんっ! 三人ともさっきから黙って見てないで織斑先生を止めるの手伝ってくだ――っ!?」


半ば叫ぶようにに三人の方へと視線を向けた私は、そう口にした瞬間に驚きに口をつぐむ事となりました。

だって私の視線の先には――……


「お、織斑先生! 織斑先生大変ですっ!」
「大丈夫だ大事には至らない私は自分の限界を試そうと――」
「そう言う事じゃありませんってばっ!? いい加減に戻って来てくださいいいいいぃぃっ! さ、三人が……五反田君達がっ!?」
「今度は何だっ!? 何をしでかしたあの口を利く害虫はっ!?」


五反田君という単語を聞いた瞬間、先輩の表情が修羅の如き表情になりました。けれど瞳に炎を纏った理性の光が戻ります……そ、そこで正気に戻るんですか先輩……。 

い、色々と先輩の事が心配になって仕方ありませんが今はそれよりも伝えないといけない事がありますっ!

そのまま私は視線の先を指差しながら、先輩に向かって――




「ご、五反田君が……っ! 五反田君達三人の姿がありませんっ!!」




――そう大声を発した。

そうなんです。さっきまで三人が居た場所に視線を向けても、そこには誰一人としてその場に存在しなかったんです。ピット内を軽く見回しても、三人の影も形も見つける事は出来ませんでした。


「――何だと?」


私の言葉に眉を顰めた先輩が、そのまま五反田君達が先程までいた場所に視線を移しました。けれど其処に五反田君達の姿は見当たらず、先輩の視線はすぐにピット内の扉へと向けられます。


「あのガキ共が……何処に行った?」
「も、もしかして三人とも織斑君達の元に助けに向かったんじゃ……!?」
「……いや、馬鹿とは言えあの五反田がそのような安易な行動を取るとは思えん……なら奴め何処に……?」
「と、とにかく三人の現在位置を割り出しますっ!」


即座にコンソールの前に体を移した私は、椅子に座ると同時に五反田君達の現在位置の割り出しを開始しようと行動しました……けど、その時ふと視界に映った光景にピタリと動きを止めてしまいます。あれ……?


「山田先生? 何か?」
「……いえ、何だか織斑君達の様子が気になって」
「織斑達の……ん? あいつ等何をしている?」


私の言葉をいぶかしんだ先輩が、スクリーンに映し出されている織斑君達の姿に疑問の声をあげます。スクリーンの中の織斑君達はさっきまで考えなしの攻撃を行っていたとは思えないほどに、敵ISから距離をとって二人で並び立つように制止していました。

未確認の敵ISもそんな二人を観察するかのように動きを止めています。

そして制止している二人の様子と言うと……何だか会話しているかのよう口が動いている様子が、二人の姿を映し出しているモニターから見て取れます。

二人だけの会話ならそれは別段変な所は無いのですが、けど方耳に手を当てている織斑君の様子から会話相手はどうやら凰さんだけでは無いみたいに見えるんです。

……あれってもしかして。


「もしかして通信でしょうか? としたら通信相手は……」
「……十中八九五反田だろうな。一体何を話しているんだか……山田先生」
「はい。回線を繋ぎますっ!」


キーを操作し、私は織斑君達との通信回線を繋ぐ作業を即座に実行。これで二人の――いえ正確には三人ですね。とにかく会話の内容を聞く事が可能です。

そして回線を繋いだ瞬間に耳に入った内容は――


『――分かった。こっちは俺達に任せてくれ、何とかやってみる』
『全く相変わらずねぇアンタって……ま、御蔭で一夏も頭が冷えた事だし感謝しとくわ。――はぁ? アンタ誰に物言ってるの? あたしを誰だと思ってるのよ! 大船に乗った気分でいなさいっ!』
『そっちこそしっかりやれよ? おう、じゃあな。……さて、と……それじゃ俺達もぼちぼち戦闘再開と行くか。行くぞ鈴っ!』
『いきなり仕切ってんじゃ無いわよ一夏っ! アンタこそあたしに遅れるんじゃないわよっ!』
『分かってるっ! ――行くぞ屑鉄っ! そらそらこっちだっ!!』


というものでした。

織斑君と凰さんの言葉は聞こえましたが、残念ながらプライベート通信のせいか五反田君の声を聞く事は出来ませんでした。織斑君達の言葉からして何かをお二人に頼んだみたいですが……一体何を頼んだんでしょうか。あの敵ISの撃破……が狙いではなさそうですね、先程の言葉から考えて出来るならば撃破しても構わないと言った様子でしたし。

そして会話が終わった瞬間。織斑君の叫びと同時に、凰さんもそれに呼応するかのように二機のISが動きだしました。

敵のISもそれと同時に両腕からレーザーを撃ちだしましたが、それを二人は左右に分かれて回避。

その後織斑君が敵のISに向かって突撃を開始。それに反応した敵ISが迎撃に映りましたが――瞬間織斑君が急激な方向転換。

咄嗟の織斑君の動きを追う敵ISでしたが、その時その場で緊急回避。それもその筈です。背後から凰さんの衝撃砲が迫っていたのですから。

それを回避した敵ISでしたが、そのまま凰さんに反撃を開始しようとした所で自身の体に衝撃。

そう。凰さんの衝撃砲を回避した敵の一瞬の隙にを突いた織斑君が懐には入り込み、手の『雪片二型』を振るうよりも、突撃利用した強烈な蹴りの一撃を加えて敵を吹き飛ばしたんですっ!

いきなりの攻撃に敵ISは吹き飛びましたが、それでも体勢を立て直――そうとした所で凰さんの衝撃砲により体勢を整える事も出来ぬまま回避行動を起こすしかありませんでした。

さらにそれに続いて、衝撃砲の中を織斑君が突き込み敵ISに再び攻撃を加えるべく追従を開始。

その背中を凰さんが援護するように、織斑君を避け衝撃砲を敵ISに浴びせ続けます。その二機の連携に何とか体勢を整えようとする敵ISでしたが……二人の連携攻撃がそれを許しません。

さっきとは比べるのも馬鹿馬鹿しい程の、息の合ったコンビネーションがスクリーンに映し出されていました。


「わぁ……っ! 即席だって言うのに何て息の合った……!」
「さっきまで戦い合った者同士だ、少なくとも相手の動き方は読めるだろう。それにこの場合は織斑の動きに瞬時に合わせた凰の技量を評価するべきだな」
「それでもですっ! どうやら五反田君の御蔭で最悪の展開は回避できたみたいですね。冷静さの戻った織斑君とそのフォローに回る代表候補生である凰さん。この分なら――」
「ああ、とりあえず現状で敵ISの相手は二人に任せても問題ないだろう。後は二人が敵抑えてる間にシステムクラックが終了すれば……」
「はいっ! すぐにでも部隊の投入は可能ですっ!」
「……最も、もしかするとそれより先にあいつ等が敵を無力化してしまうかも知れんが……まぁそれならそれで構わんか。さて……残る問題は五反田達か」
「そ、そうですね……一体何処にいるんでしょうか」


私の言葉に、織斑先生は少し考えるように目を瞑りました。

その邪魔をしないように、私はコンソールを操作して五反田君達の位置を割り出します。

そして少しの時間を有した後――小さな電子音を響かせ空中ディスプレイに三つの小さな光が点滅しました。


「あっ見つけました! 五反田君は現在アリーナ内の通路を移動中。続いて篠ノ之さんとオルコットさんもそれに続いて移動しているようです」
「三人とも一緒か……一体何の目的で――っ! そうか……全くあの馬鹿共が無茶な事を」
「織斑先生?」


空中ディスプレイに映し出された五反田君達を表すマーカーを見て、その後何かに気付いた様子の先輩は小さく呟くように声を発しました。

一体何に気付いたんでしょう? 先輩の表情は苦々しくも、けれど何処か仕方がないと言った小さな呆れを含んだ感情が見受けられます。

そして織斑先生は小さく溜息を吐くと同時に私に指示を出しました。


「山田先生。至急手の空いている教員の何名かに緊急通信を、これから起こる事態に対応できるよう準備を」
「こ、これから起こる事態ですか? そ、それは一体?」
「すぐに分かる……とにかくこちらはあの馬鹿共の起こす事態にすぐさま対処出来ればいい。やる事は二つ、避難場所とそれに続く安全ルートの確保を最優先。念の為教員はISを着用するよう指示を。急げ」
「避難場所と安全ルートの確保……? ――っもしかして!?」


その意味に瞬時に気付いた私は、スクリーンに目を向け移動を続ける五反田君達の進行先に目を向けました。

するとそこには……やっぱりっ!!

すぐさま私は他の教職員の先生方に緊急回線を繋げ――様とした所で、コンソールからけたたましい程のアラームが鳴り響き、思わず動きを止めてしまいました。

そして次の瞬間私の前に映し出された『緊急事態警報』と書かれた真っ赤な空中ディスプレイが表示される。

そこに書かれていたのは――


「っ!? ア、アリーナ内部でISの機動を確認っ! これは……っ!?」
「……始めたか……」


小さく呟くようにして、織斑先生がその情報端末に視線を移し―― そして私はそれを読み上げる。


「起動を確認したISは――『七代目五反田号』っ!! 五反田君ですっ!」
「やれやれ……全くあいつの無茶な行動には毎度頭を悩まされる……」

 
大分呆れた声を洩らした先輩は……それでも何処か愉快そうにそう声を洩らして、スクリーンに目を向けそう呟く。

ほっ本当に無茶な事します五反田君はっ! それに続く篠ノ之さんとオルコットさんも五反田君の行動に賛成したと見て間違いないですね……。

――もおおおおぉぉぉっ!! 戻ったらお説教ですからね三人ともっ! 覚悟しておいてくださいっ!!

そう心の中で叫んだ私は、これから起こる事態に備える為に至急他の教職員の先生方に回線を繋いだのでした――









「……っ!! っっっ!?!?」
「――って何してるんですか先輩っ! 飲んじゃ駄目って言ったのにいいいいぃぃぃっ!?」



【 本音 SIDE 】


「おわーっとと……! ちょ、ちょっと通りますよー? ふにゅにゅりゃ~」


人波の中を掻い潜る様にして先へ先へと体を潜り込ませる。うあ~狭いー。

まるで芋洗い状態だねー。みんなでおしくらまんじゅうでもしてる感じかな? けど今の状況はそんな楽しい事とはかけ離れ、とっても大変な状況なんだよねーこれが。


『此処も開かない! どうしてっ!?』
『そんな……此処が最後なのに……!』
『誰かぁっ! 此処を開けてっお願い出してっ!』


耳を澄ませる必要も無く、周りの女の子達の不安で一杯の悲鳴が其処彼処から聞こえてくる。

そんな女の子達の悲鳴が飛び交っていても状況は変わらない。女の子達が殺到している避難口は無情にも固く閉ざされたままで、叩いても押してもビクともしない。

中には不安に押しつぶされ蹲って泣き出しちゃっている子の姿も見えた。……わー、これは大変だぁ。

それでも私は足を止めずにその人混みの中を足を踏ん張って進んでいく。ゴメンねーちょっと通して……あ痛ー! こらー! 誰だ私の足を踏んずけたのー!

小さなアクシデントに見舞われながらも、私は何とか人混みを抜け出した後……キョロキョロと軽く周囲を見回す。

えーと、確かこの辺で離れたから……あっ! わぁーい見つけられたよー。見つけられた事にちょっと嬉しくなりながら、足をそちらへと向ける

私にの視線の先に映るのは、避難口に殺到する女の子達から離れた場所にいる子。その光景を少し不安気に眺めながら、キョロキョロと周りを見回して誰かを探している仕草を取っている女の子。

私のお仕えしている子であり、仲良しのお友達……かんちゃんの姿があって、人混みに押されながらも一直線にその元まで近づくと、私はそのまま声を掛けました。


「やっほ~い。かんちゃんただいまー」
「っ! 本音……!? 良かった……!」
「えへへへ~心配掛けちゃったかなー?」
「……ほ、本当に心配したんだから……本音ってば……少し目を離した瞬間に……急に姿を消しちゃたから……」


私の姿を見て、かんちゃんがシュンと気落ちしたような顔を浮かべて言葉を紡ぐ。私がかんちゃんの傍を離れて何処かに行っちゃったから心細い思いをさせちゃったみたい。

ごめんねーかんちゃん? かんちゃんを第一に考えてお仕えしなきゃならないのに、この非常時にその傍を離れちゃうなんて。むぅ『布仏家』の人間としてあるまじき失態。ご先祖様にも顔向けできないし、後でお姉ちゃんにも怒られそー。くわばらくわばらー。

けどねー? それでもかんちゃんの傍を離れたのにはそれなりの理由があるんだよー。そうでもなければこの非常時に、私のお仕えする主であり、大切な友達でもあるかんちゃんの傍を離れたりしないよー。

だって私は『布仏家』の人間でもあるけどー。この学園の『生徒会』に所属する生徒会役員の一人でもあるんだからねー? 日頃あーんまり役に立ってない私だもん。こんな時くらい良いとこみせなきゃねー♪


「本音……一体何処に行ってたの?」
「ん~? ちょっと観覧席まで戻って来ただけだよー。ちょっと忘れモノしちゃってねー?」
「か、観客席……!? だ、駄目だよ本音何してるの……!? あそこに居たら危ないのに……! いくら障壁が降りていても、アリーナのシールドを簡単に破る程の武器とエネルギーを所持したISが障壁のすぐ外に居るって言うのに……!」


観客席まで戻っていた事を伝えた瞬間、かんちゃんが焦った表情を浮かべて私に詰め寄って来た。あ、あわ~ちょっと正直に答えすぎたかな? さらに不安にさせちゃったみたい。

そしてギュッと胸元の前で両手を握りしめたかんちゃんが顔を伏せると、小さく体を震わせる。……ってわ、わぁー! じんわりと目尻に涙まで浮かんできちゃったよ~!? ま、不味いよー泣かせるつもりなんて無かったのに私の馬鹿ーっ! トウヘンボクー!

心の中で自分の迂闊さに焦っていると、かんちゃんがか細い声を洩らす。


「危ないことしないで……! ほ、本音にもしもの事があったら……私……っ!」
「ご、ごめんかんちゃん~! 謝るから泣かないでー。もう黙って傍を離れて危ない事しないよ~。反省します、海よりも深く反省してますぅ~……」


小さく震えるかんちゃんを抱きしめて、泣いてる子供をあやすようにして頭をなでなでしながら謝罪の言葉を告げる。

うー考えなしだったなぁ~。かんちゃんにこんなにも心配掛けさせちゃうなんて……でも、ちょっと不謹慎だけど、それでもこんなに私の事を大切に思っていてくれている腕の中の掛け替えのない存在に、私の心がほわ~っと暖かくなる。

私って本当に果報者だね~♪ こんなに自分を想ってくれているかんちゃんに早くから出会えて、お友達になれて、そしてお仕えする事ができるんだから。これからもより一層お仕えする事に身がはいっちゃうってものだよ~。

かんちゃんの頭を撫でつつも、私はかんちゃんに話しかける。慰める目的じゃなくて、それは私がかんちゃんの傍を離れて、危険だっていう観客席に何故戻ったのかという理由を教える為だ。


「本っ当~に心配掛けさせちゃってごめんねー。……だけどね~? 危険だからこそ私は観客席に戻ったんだよー」
「……グスッ……ふぇ……?」
「危ないもんねー? だってすぐ外では怖ーい謎のISが暴れてるんだもん。もしかしたら障壁だってドッカーンって壊しちゃうかもしれないしねー」
「そ、そうだよ……だから戻ったりなんて危険な事……!」
「うんそうだねー? 危ないよねー」
「……本音……?」


私の言葉をいぶかしむ様に、腕の何かのかんちゃんが涙で濡れた視線を私に向ける。はぁ~可愛いなぁかんちゃんは~♪

そんな可愛いかんちゃんの体をギュ~っと抱きしめ返して、私は笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。私が危険だっていう観客席にまで戻ったその理由を。


「――だから万が一にも~。障壁がドッカーンって壊されちゃったりしたら……もしもその時、観客席に逃げ遅れちゃった子が居たらとっても大変なことになっちゃうよねー♪」
「――ッ!! ほ、本音……! もしかして……逃げ遅れた人が居ないか……確かめに戻ったの……!?」
「ん~? そうなるかなー。でも戻ってみたら誰もいなかったから私の取り越し苦労だったみたいけどねー?」
「……あ……」
「あっでも見て見てかんちゃんっ! だーれも居なかたけど避難する時に私が座ってた席に置き忘れてきちゃった、まだ一袋開けてないポッキーを回収する事が出来たよー♪ 良かった良かったぁ。もう少しで食べそこなっちゃうところだったよー!」
「……本音……」
「かんちゃんも食べる~? 分けっこしよー。心配掛けちゃったお詫びに多く食べていいよ~♪」
「……本音ってば……そんな事聞かされたら何も言えないよ……するいよ……もう……」


拗ねた口調でそう呟くかんちゃん。それでも口元を綻ばせて私の胸に甘えるように頭を寄せて来てくれた。

良かった~どうやら許してくれたみたいだよー。私の取った行動に少しまだ不満は残っているみたいだけど、話しを聞いて理解を示してくれた見たい。むー、急いでたとは言えちゃんと話しをしてから動けば良かったなぁ……私のうっかり屋め~。

その後抱きしめたままの状態から体を離して、観客席から戻って来る時に回収した袋に入ったままのポッキーを開けて口にくわえる。そしてもう一本取り出してかんちゃんの方へと向けると、それに少し呆れたような苦笑を浮かべたかんちゃんが、それでも手を伸ばし受け取って同じ様に口にくわえてくれた。

今は非常時だけど、こんな時こそ慌てず焦らずお菓子を食べてリラックスするべきだよね~♪

二人で並び立つようにしてポキポキと音を鳴らしながら食べる。ムースじゃないけど、やっぱり馴染み深い王道のポッキーも美味しいね~。

さてと……此処で改めて周囲を見渡して見る。

赤い警報ランプが回っていて辺り一面が赤暗く、それが一層不安を煽っている。他の子達の様子と言えば、まだ悲痛な声が飛び交っていて軽いパニック状態に陥っているようだった。

う~ん……ちょっと不味いかなぁ。このままじゃ何時か感情が暴走して何が起きてもおかしくない状況になっちゃうかも……一番居起きて欲しくないのは、混乱中に起きる閉じ込められた子達同士の争い。そんな状況下に陥っちゃったら出なくても良い怪我人がでちゃう可能性があるもんね~。それだけは何としても回避したい事態だよ。けれど今はただ助けが来るの待つ事しか出来ないのが現状。むぅ~……残念無念。


「……本音は強いね」
「ポキポキー……んぃ? 何がー?」


ふと、私の隣でリスのようにポッキーを食べていたかんちゃんが、ポッキーを口に含みながらポツリと言葉を洩らす。私が強いー?


「ん~? 強くは無いと思うけどなー? かんちゃんも知っての通り運動はあんまり得意じゃないしー。ISの適性も高くないし、特技と言えば良く食べて良く寝ることぐらいだもーん」
「……うぅん……本音は強いよ。今だって……自分に出来る事を……進んでやって……こんな状況でも全然怖がってないし……何も出来ずに震える事しか出来なかった私に比べたら……本音は何倍も強いよ……」


自分の事を少し避難するように、かんちゃんはそう呟いた。うーん、またかんちゃんの悪い癖が出て来てるみたいだよー?

とことん自分の事を卑下に見て、他の人と自分を比べて自分の悪い点だけにしか目を向けない、ネガティブ思考に染まりやすいのが、かんちゃんの悪い癖なんだよねー。本当は色んな可能性をその小さな体に秘めている、とっても凄い子なのに。

人見知りが激しくて自己主張が極端に控えめな性格も、それに拍車をかける燃料にしかならないから……本当に放っておくと何処までも自分の事を小さく見ちゃうんです。……むー楯無お嬢様~……半分はおじょーさまのせいですからね~?

そんな困った癖を出しているかんちゃんに、私は明るい口調で話しかけた。


「ぜーんぜん凄く何か無いよー? その場で思い付いた事を後先考えずにやっちゃって、それでかんちゃんに不安な思いをさせちゃったんだもん。ねー? ダメダメさんでしょー」
「……けど、それは本音が他の子達の事を考えての行動だから……!」
「だからって、かんちゃんを不安な気持ちにさせて良い理由にはならないよ? ダメダメだよー。後、かんちゃんはなーんにも出来なかったって言うけど、そんな事無いよー? だって私が傍を離れて居なくなったのを心配して、私を探してくれてたんだよねー? ほらぁ♪ かんちゃんだってかんちゃんの出来る事をやってるよー! 何処かに行っちゃった私を必死に探してくれていた事、これは私が居ない事にいち早く気付いたかんちゃんだからこそ出来た事だよ~」
「……っ! ほ、本音……」
「うぅ~そんなかんちゃんにほっぽって勝手な行動とった私って何て薄情な奴なんだろ~……ごめんね~かんちゃんごめんね~。ポッキーもっと食べていいよー!」


袋の中から五本ほど取り出して、それをかんちゃんにズズいっと押しつけるようにして手渡す。

私のその行動に少々面食らった様に目を白黒させるかんちゃんだったけど……最後には小さく微苦笑を浮かべて『……こんなにいらないよ』と言いながら、二本引き抜いて受け取ってくれた。

ありゃ? もー遠慮なんかしなくていいのにー。本当に遠慮深いなぁ私の主さんは。

そう思いつつ、二本目のポッキーを口にくわえた私は――ふと、かんちゃんのさっきの台詞に含まれていた言葉を思い出す。


「……んー。ねぇかんちゃん」
「……ん……何? 本音」
「さっきかんちゃんが私が強いーとか言ってた台詞の中に、私が怖がってないって言ったよねー?」
「え……う、うん……だって本音……こんな大変状況の中でも……全然焦った様子が無いし……普段通りの態度だから……」
「おー成程ねー? けどねかんちゃん? 私だって別に怖がらないって訳じゃないんだよー? 怖い時に怖いって思うのは当然だもーん」
「……え……で、でも本音全然怖がった様子じゃないし……あ、もしかして……表面上に出さないよう無理してたの……?」


私の言葉にかんちゃんが少し心配した様子で、顔を覗き込むようにして私の事を窺う。けど私はそんなかんちゃんに向かって表情を緩めて話を続けた。


「無理なんかしてないよー♪ けど私だってちゃーんと怖いって思う時だってあるんだよーってそう言いたいだけー」
「え……じゃあ……今は……?」
「んー今は別に怖くなんてないかな? と言うよりも、なんで怖がる必要があるのかなーって不思議に思う位うだよ?」
「……ど、どう言う事……?」
「えー? だってそうでしょー? 確かに突然正体不明のISが現れて、訳も分からず避難して、そしてこんな所に閉じ込められちゃって、普通に考えたら怖がって当然な状況だけどー……うん♪ 全然なーんの不安も、怖さも感じないかなー? あっでもでも私が無神経って訳じゃないよぉっ!? そこは誤解しないで~!」
「う、うん……それは分かってる……けど、それならどうして……本音は怖がってないの……?」
「んぃ? ん~……それはねー、私は知ってるからかな~」
「……知ってる……何を……?」


キョトンと、小首を傾げてこっちに疑問の眼差しを向けるかんちゃん。そんなかんちゃんに、私は笑顔を深めて真っ直ぐにその瞳を見つめ返す。

――私は知ってるから。こんなに切羽詰まった状況の中でも……きっと大丈夫だって、何も心配する必要なんて無いって。

閉じ込められて……唯助けを待つしかできない心細い状況の中で……沢山の『女の子』達が不安と恐怖に囚われて、悲痛な声を上げているこの場所に――



一刻も早く、誰よりも早く、どんな状況であっても必ず私達の元へと辿りついてくれる。


きっと今こうしている間も、此処に助けに向かってくれていると確信を持って言える。


女の子の危機には颯爽と現れて、たちまち笑顔に変えてくれる。


そんな人が、そんな男の子が――確かにこの学園に存在してるっていう事を。



「――大丈夫だよーかんちゃん♪ 怖がる必要なんてないよー。かんちゃんだって知ってる筈だよー?」
「……私も……知ってる……?」
「そうだよー。だってこのIS学園には――」


一人の男の子の姿を思い浮かべながら、私は言葉の続きを口にし様としたその時。

――ドオオオオォォンッ!!

突然、女の子達が殺到していた扉から耳を劈くような轟音が響き渡り、同時に今までビクともしなかった隔壁が大きく振動したのでした。


『『『『――キャアアアアアアーッ!?』』』』』


それに驚いた女の子達が反射的に扉から蜘蛛の子を散らすように離れる。みんなその表情は驚きと困惑、そして僅かばかりの恐怖の色が浮かんでいるようでした。

おお~……凄い音がしたねー。私も少しビックリだよ。あ、かんちゃんが驚き過ぎて咄嗟に私の腕に抱きつい来た。大丈夫だからね~、何があってもかんちゃんは私がしっかりお守りするから~。


『な、何……!? 何なの!?』
『扉の外から何かが強い衝撃を与えた見たい……外に誰かいるッ!?』
『まさか……あの突然乱入して来たISが、内部に侵入して来たんじゃ……!?』
『『『『――ッ!?』』』』


女の子の一人が呟いたこの場では最も考えたくない最悪の展開に、それを聞いた女の子達の顔が恐怖一色の染まる。

……おりむーとりんりんをの二人を退けて、この短期間で内部に侵入かぁ……その可能性はゼロじゃないけど~、そう簡単におりむー達が負けるなんて私には到底思えないんだけどなー。

どちらかと言うと、私は前者の子の意見の方が高いと思うよ? 悪い方向へと考えちゃうのは、この場合は仕方のない事かもしれないけどちょっと考え過ぎだと思うしー。

一人そう思う私だったけど、それを聞いた私の腕に抱きついていたかんちゃんは、その表情を一瞬強張らせ――次に瞬間にはそれを真剣な物へと変えると、腕を離し前に進み出て、まるで私を背に庇うように立った。


「かんちゃん?」
「――本音下がって……! もし敵なら……私が……!」
「え?」
「……まだ完成してないけど……腕一本ぐらいの部分展開なら……やってみせるから……! その間に他の皆を……!」


そ言って真剣に扉を睨みつけるかんちゃん、その姿はさっきまでのか弱い印象とは打って変わって、とても心強い印象を人に与える物だった。

もしも扉の外に居るのがあの謎のISなのだとしたら――まだ未完成の専用機を無理にでも部分展開させてでも時間を稼ぐ――そう、かんちゃんは私に言っているようでした。……そのかんちゃんの小さな背中を見て、私は胸が熱くなる感覚を覚えた。

良く見れば、かんちゃんの足は小さく震えていたけど……本当は自分だって怖い筈なのに、それでもかんちゃんは自ら進んで前に踏みだしたんだ。

――ほらね? 私のお仕えする主さんは、全然ダメなんかじゃないよ。

その小さな体の中には、優しさと、勇気と……恐怖に押しつぶされそうでも、それでも踏ん張って、沢山の人を身を挺してでも守って見せると言う……気高く、上に立つ者としての資質の片鱗を見せつける、そんな強い意志を宿している。

それが――私の大好きな主『更識 簪』なんだから。

えへへ~鼻が高いよー。あ、でもねかんちゃん? 色々覚悟してる所悪いんだけど~、そんなに構える事は無いと思うんだー私。

背中を向けて扉を睨みつけるかんちゃんの背中を後ろからギューっと抱きしめる。私のその行動に、かんちゃんは驚いて顔をこちらへと向けてくれた。


「っ!? ほ、本音……!?」
「かんちゃん格好良い~! やっぱりかんちゃんは強い子だよ~! ハグハグ♪」
「本音……い、今は遊んでる場合じゃ……!」
「でもねーかんちゃん? そんなに身構える事ないよきっと~。多分だけど、きっと扉の向こうに居るのは、怖―いISさんじゃないと思うからー」
「……え? ど、どうしてそんな風に思えるの……?」
「だってもし、そのISさんが中に入って来ちゃったんなら~? 扉の向こうからくるのは変だよー? 来るんならきっと客席の方向から侵入して、私達の後ろから来るのが普通だと思わない~?」
「――っ!? あ……それじゃ……扉の向こうに居るのは……?」


体から緊張がぬけたかんちゃんが、再び扉へと視線を戻す。それに続く様にして私も扉へと視線を向けた――その瞬間ッ!


――ドジュゥウウウウウーッ!!


扉の中央部分が真っ赤に染まり、そして真っ赤に染まった高温の刃が扉を突き抜けてその先端を表す。

その光景に周りの女の子達が顔を強張らせるけど……その次に起きた、グリングリンとまるで穴を広げる様に動く高熱の刃の姿に、『……な、何あの動き?』と顔を呆けさせた。

小さな穴程度まで広がった所で、高熱の刃は『ズボッ』と音を立てて、その姿を扉の向こう側に引っ込ませた。

――そして、その刃の持ち主の声が響き渡る。


『――よっしゃああああああああッ!! 全世界の紳士のロマン! 『秘密の覗き穴』大・完・成ッ!!』
『『『『『――え?』』』』』


この場に渦巻いていた不安も、恐怖も『何それ美味しいの?』とでもいうような、緊張感の抜けた叫びを耳にした女の子達が、一斉に扉へと視線を集中させてポカンとした表情になる。さっきまで蹲って泣いてた子も、その声を聞いた瞬間に涙を引っ込ませて呆然と扉に視線を向けていた。

おおぉ~! ようやくご登場だね~? もぉー遅いよ全く~~。

心の中で愚痴を溢しちゃったけど、その声を聞いた私は顔が緩むのを止められなかった。ちょっと遅刻気味の『彼』の登場に、心が温かい感情に染まっていくのが分る。

私の腕の中のかんちゃんも『……今の声……もしかして……?』と、小さな期待の光を宿した瞳で扉を凝視して、少しずつその顔を笑顔へと変えて行った。


『此処まで来るのに苦労したぜ! 最初は俺の華麗なピッキング技術で何とかなったが……もう途中で面倒臭くなって強行突破したのが功を制したなっ!』
『最初からそうしていれば良かっただろうっ!? 御蔭で時間を無駄に消費したではないかっ! というかどうやったら鍵穴も無い遮断扉をピッキングで開けられるのだっ!?』
『壊す事は誉められた事じゃありませんし、最終手段でしたけど。それでも本当に最初の方は小さなクリップ一つで開けてしまったのですから……本当に弾さんに常識は通用しないんですのね……今に始まった事じゃありませんけど』
『うん。実は俺逆上がりが出来なくて……』
『何の話だ突然っ!?』
『小学校の体育……当時の俺はどうやっても逆上がりが出来なかったんだ。今でも片手大車輪やトカチェフは出来ても、逆上がりだけがどうやっても出来ないんだ……っ!』
『おかしいぞッ!? それはおかしいだろう色々とっ!?』
『その事で当時のクラスメイトに馬鹿にされたよ……あっでも、馬鹿にした野郎共は全員報復済みだからそこは心配しないで?』
『弾さん? そんな事は別に聞いてませんわ』
『だからそこで俺は考えた……そうだっ! 逆上がりが出来ないならピッキングが出来るようになれば良いじゃないかとっ!!』
『何故その考え方に至るのだっ!? 馬鹿か! 予想はしていたがお前はその頃から馬鹿だったのか!?』
『え? だって逆上がりが出来るよりピッキングが出来る方が凄くね?』
『……』
『ま、待てセシリア? 何故そんな『言われてみれば確かに』という顔になるのだっ!? 戻ってこい! こっちに戻ってこいセシリアっ!?』


扉に空いた小さな穴の向こうから聞こえるそんな会話。それを聞いた女の子達の数名ががっくりと脱力する姿がちらほら見えた。……おわぁー、どんな時でも相変わらずだねー?

『さ、さっきまでの緊張感が……』『怖がってた私が馬鹿みたい……』『助けが来るにしても……感動できないのは何故かしら?』『逆上がりかー。私も苦手だったなー』『私っ! 私もピッキング出来るよっ!』『ああうん。そんなカミングアウトは要らないから黙ってなさい』

所々でそんな会話が耳に入って来る。不安は恐怖に染まっていた空気が払拭され、みんなそれぞれ小さな微苦笑を浮かべていた。

うんうん♪ すごーくシリアスな状況が台無しになっちゃたけど、こっちの方が何倍もマシ。そう思ってるのは私だけかな?


『さて、まぁ俺のメモリアルエピソードはこの位にしてと……はぁはぁ……っ! こ、この穴の向こうに淑女達の乙女の園が……! じゃ、じゃあちょっと……お先に失礼して……っ!?』
『馬鹿者っ! それより先にやる事があるだろう!』
『先に……え? もしかして箒ちゃん先に覗きたいの? で、でも箒ちゃん淑女さんなのに……はっ、まさか……!? だ、駄目だ箒ちゃん!? いくら一夏が超鈍感で救いようのない位女心に鈍い上に、学園の麗しい淑女達の姿に魅せられたからって、女の子に走るだなんてそんな事――っ!?』
『……ふふっ♪ もう五反田君ってば……ちょっとその手に持った得物を私に渡してくれません?』
『――どうしようセシリーちゃん!? 箒ちゃんが今まで見た事も無いような穏やかな笑顔と猫撫で声で、俺にブツを要求してくるんだがっ!? 紳士として、此処は渡さない訳には……!?』
『とりあえずこの扉を切り開いた後にしては如何でしょう?』 
『成程その通りだ!』
『箒さんも、事が終わった後でしたら存分になさって構いませんから』
『今宵ノ私ハ血二飢エテイル……』
『では五反田さん。お願いしますわ』
『ほんじゃ行くぜっ! 扉の前にいる淑女達よっ! 危ないから下がっててくれよー? ――『五反田包丁 初代・二代【炙り刃モード】』! 千切りスラアアアァァァッシュッ!!』


叫び声が響くと同時に、固く閉ざされていた扉に幾筋もの高熱の線が走った。そして――


『フンッ!』


今まで叩いてもビクともしなかった扉が、瞬時に瓦礫として吹っ飛ぶ。回りは扉の欠片が飛び散るけど、距離を取っていた私達の所まで飛んで来ずに床に散乱する。

壊された扉……その向こう側から扉を壊して私達の前に姿を現したのは――私がきっと助けに来てくれると信じていた男の子。

碧色の武骨なISを身に纏い、高温に赤く染まる二振りの刃を手に持った……仮面を被った心優しい道化師。


「――へいお待ちっ! そこに淑女が居るのならっ天岩戸も抉じ開ける! 五反田 弾ですっ! 待たせたなっ淑女達っ!」


――いつものように、何処か安心するヘラっとした笑顔を浮かべる。だんだんの姿が其処にあった。

わーい♪ やっぱり来てくれたー。待ってたよーだんだん♪



【 おまけ 】


「――モウ斬ッテ良イカ? 良イヨナ良イダロウ得物ヲ寄コセ……!!」
「……箒さん落ち着いてください。今の貴女はとても人様に見せられる表情ではありませんわよ?」
「「「「「何だか凄い血走った眼の鬼女まで現れたああああぁぁぁっ!?」」」」」
「――ヒッ……!?(ビクゥッ!)」
「大丈夫だよかんちゃんー。食べられたりしないからねー? 良い子良い子~♪」
「――さて、ここの事は箒ちゃん達に任せても大丈夫だな……一応逃げ遅れた子がいないか確認しに行くかね」
「あ、それなら心配無いよ~? この先の客席には誰も取り残された子はいなかったからー」
「マジで!? それは良い情報だサンキューのほほんちゃんっ! ……なら後は他の所を見て廻った後、俺は一夏達の元へ向かうとするかね? いい加減エネルギーも限界だろうし……ちょいと急ぐかっ! のほほんちゃんもかんちゃんも早く非難してくれよっ! 箒ちゃんにセシリーちゃんも後は頼んだぜ!」
「分かりました――皆さんこちらへ! 慌てず迅速に避難をっ! 私達が誘導しますわっ!」
「ソノ前二貴様ノ首ヲ差シ出――【ぺシッ!】はっ!? わ、私は一体何を……?」
「だんだん頑張れ~♪」
「弾……気を付けて……!」

「おうっ! 行くぜ相棒っ飛ばすぜええええええぇぇぇっ!!」
【……え? 今回自分の出番これだけ……?】





――舞台に突如乱入してきた狼藉者。


――それを駆逐するために奏でられる、鎮魂歌。


――白き騎士、碧の道化、猛る猛虎の織りなす三重奏が……今、奏でられようとしていた。




【 後書き 】

お久しぶりです。……いやもう本当に『え? お前誰?』と言われても仕方のない程お待たせしました……! 原作打ち切りの衝撃にごっそりヤル気を奪われてしまって……マジで打ち切りなんでしょうか……重大な謎がまだいっぱいあったのに……弾のお父さんの名前と職業とか、数馬君と三人娘の容姿とかっ! 天災さんの目的も不明なままですし……もうこの辺は自分で考えて導き出すしかないのかな……。とにかく長らくお待たせして大変申し訳ありませんでした。他の所で書いてる物と両立が大変ですが、がんばって書き続けようと思います! なんとなく最近買ったISのプチフィギアでのほほんさんを見事一発で当て(しかもなんだかシークレットっぽい)ようやく動きだせた釜の鍋でした。



[27655] 第二十七話 三位一体【前編】 へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/09/17 17:13
「ちわ【ちわっす、ご存じ歴代『五反田号』最強の称号を欲しいままにするプリティーキュートな前掛けアイドル、『七代目五反田号』です】――えっ!? まさかの横取り!?」
【ああ、相棒を出し抜くこの感覚……堪んネェなぁ……!】


……どうしよう。相棒をそろそろ本格的に点検に出した方が良い気がしてきた。一体どういう内部構造もといAIしとるんだこいつは。(今更)

悩み多き今日この頃、改めてちわっす! 淑女の有料スマイルに、金を全く惜しまない。五反田 弾ですっ!

『七代目五反田号』に前口上を掠め取られつつも、たった今も目の前の遮断扉を粉砕し、只今アリーナ内を絶賛激走中です!

結構遮断障壁を突破して来たと思うが、まだ先は見えない今日この頃。俺と淑女達との甘美な邂逅を邪魔するとは何と不届き千万な扉共か。あの乱入してきたIS同様に本当邪魔な事この上ない。

けどまぁ、あっちの乱入ISの方は今後の俺達の動き次第じゃ『金の卵』に成りえる分だけ、まだマシかもしれんが。

あちらさんは一夏と鈴にしばらくの間相手を頼んだが……対戦の最中に乱入されたから二人のエネルギー残量がちょっと心許ない、特に一夏。一夏は全力で鈴に臨んでいただろうし、鈴も一夏の予想外の善戦振りに、出し惜しみなんて事頭から抜け落ちていただろうしね?

しかも敵ISの詳細な情報も無い上、相手はアリーナのシールドを破壊する程のスペックを持っている。なーんて奴相手に二機がかりとは言え、エネルギー残量が心許ない状態で何処まで喰らいつけるか疑問だ。

うん。さっさと淑女達の避難を完了させなきゃ不味いなこれは。観客席に取り残された子がいるかもしれんから、観客席に敵の攻撃が向かないよう立ち回ってくれって、さっき通信で二人に頼んだから行動だって制限される筈だしねー。

とにかく何とか持ちこたえてくれよ、お二人さん!

色々と思考を張り巡らせ、通路を激走し続ける。――だがその時、俺の視界一杯に『七代目五反田号』から【注意】を促す空中ディスプレイが表示された。

おう? どうした相棒。 


【相棒。どうやら次の障壁で最後のようです。次の扉の向こうに淑女達がいるかもしれませんので、今まで見たいに破壊するのはNGですよ】
「やっとか! よし任せろ。次は細心の注意を配って派手にブチ壊してやる」
【ふぅ……それにしても今まで壊した障壁だけで一体どの位の損害になるんでしょうかねぇ。そしてアリーナ内部の被害が、あの乱入者よりも相棒の行動によっての被害が大きいというこの事実。千冬様、マヤたん乙ー】
「緊急事態だからしょうがねぇ! しかし流石に此処まで派手にやっちまうと少々やり過ぎな気もしないでもない。……ふむ、後でガムテで修復をしとくか」
【止めなさい相棒。千冬様達が赤い暖簾を潜りに行ってしまいます】
「じゃあ『ア○ン・アルファ』か……あれ量の割に高いんだよなぁ……」
【千冬様、マヤたん。タダ券用意しときます。何もかも忘れて飲みなさい】


内部の修復は後できっちりやるとして(千冬胃痛フラグ)、まぁ今はそれよりも――おっし見えた! あれが最後の障壁だな! 扉の向こうに淑女がいるかもしれない事を考えると、今まで粉砕して来たようなやり方じゃ、吹っ飛んだ瓦礫の破片で淑女の玉のお肌を傷つけかねん。ここは抉じ開ける方が無難だっ!

障壁の前まで接近した俺は、障壁の下に『七代目五反田号』のIS装甲で覆われた両手を食い込ませ上へ抉じ開ける体勢をとる。


「おっしゃああああああああっ行くぜ相棒っ!」
【――おや? これは……相棒ちょっと待ってください】
「抉じ開け――! って何よ相棒、良い所で」


突然の相棒の制止の言葉に、今まさに抉じ開けようとした俺は一端行動を止め憮然とした表情を浮かべて口を開く。あんまり他の事に時間を割いている暇は無いんだが。

だが、そんな俺の様子を見ても相棒は気にした様子も無く、俺の眼前に言葉を並べた。


【いえ、何か違和感を感じまして……】
「違和感……? もしや昨日、相棒に誤って白玉ぜんざい溢しちまった所か?」
【いや其処じゃないです。っていうか本当冗談じゃないですよ。年頃の前掛けのお肌に何て事すんですか】
「えー、何だよお前まだ根に持ってたのかよ。俺ちゃんと謝ったじゃん。今の状況で蒸し返す様な事じゃないだろー、も~っ!」
【話を振ったのは相棒でしょうが。っていうかあの状況じゃ話を打ち切る以外の選択肢なんて無かったじゃないですかっ! 漂白剤とシンナーという究極の選択を迫られたんですよ!? どんな二択ですか!?】
「やれやれ全く贅沢な奴だ……」
【どこがっ!?】
「って言うか相棒。お前が最初から普通に自己修復機能を使ってれば良かっただけの話じゃね? それなのにお前ときたらグチグチと――」
【嫌ですよ。何でそんな事に労力(エネルギー)を使わなきゃならないんですか。面倒臭い】
「お前スゲェ事平然と言うな……」


文句の文字の羅列を並べまくる相棒に適当にあしらう。もう済んだ話なんだからもう良いでしょうに。何気にしつこい所あるなぁ俺の相棒は。

ちなみに漂白剤を用意したのは俺、そしてシンナーを持ってきたのは……何と俺と同室の同居人。萌えの塊のほほんちゃんその人である。

いやしかし、のほほんちゃん……あんなシンナー缶何処にしまってたのよ? 『業務用だよ~♪ 綺麗に落ちるよ~』って君……そりゃ色々と落ちるだろうけどね? 何でそげな危険物持っとるのよ。

ああ、そう言えばのほほんちゃん『IS』の整備科志望って言ってたな。持ってても不思議じゃないのか……? いや、そもそもシンナーなんて『IS』の何に必要なのよ?

普段ぽや~っといてる分、たまに度肝を抜く行動を起こすよなーあの子は、そこがまた魅力だけどね!


「――って!? だから今はそんな事はどうでも良いのよ!! 結局違和感って何なんだよ! 話が脱線しすぎるにも程があるわ!」
【だから話を振ったのは――ああもう良いです。このままじゃ埒が空かないのは確かですし……話を戻します。違和感と言うのは他でもありません。この扉の向こうに淑女達の反応が感じられないんです】
「――何っ!? そぉいっ!!」


相棒の言葉に、俺は瞬時に腕に力を込めて思いっきり遮断扉を上へと持ち上げ抉じ開けた。

鈍い音を響かせながら扉を押し上げて、その先に視線を向けると――そこには相棒の言った通り、閉じ込められている筈であろう淑女達の姿が唯の一人の影も形も見られなかった。

――マジだっ! 誰もいねぇ!?

そんな馬鹿なと驚愕する俺だったが――その時、最悪の考えが頭を過る。……お、おいおいまさか……!


「相棒……こいつぁもしかすると……」
【ええ、考えたくありませんが……最悪の場合、未だ観客席内に閉じ込められている可能性があります】
「相棒っ!!」
【承知っ!】


この場で話をしている時間すら惜しいと悟った俺は、声を張り上げる。

俺の声に、その意味を瞬時に理解してくれた相棒が、クラスターにエネルギーを爆発的な勢いで注ぎ込み始めてくれた。

この先の事を考えると、全速力での移動はエネルギー消費の面で悪手にしかならないが……そんな事言ってる場合じゃねぇっ! 淑女達のピンチに出し惜しみする紳士が何処にいるっ!?

一夏、鈴っ頼むぜ! もう少しの間でいい、敵さんを上手く引きつけておいてくれよっ! 


【――準備完了! 相棒どうぞ!】
「全速全開っ! 飛ばすぜえええええええええぇぇぇ――」


――ピッ!


『――はぁい♪ ダーリンお元気かし――』
「すまないハニー! 後で掛け直すっ!」
【遮断します】


――ブツンッ!

全速力でぶっ飛ばそうとした瞬間に、愛しのハニーから通信が入ったが今は緊急事態だ! 相棒に通信を切ってもらう。

すまないハニー! 淑女の通信には随時応えてやりたいが、今は急いでるんだっ! 後でちゃんとお詫びするから許してねっ!

空中ディスプレイに一瞬映ったハニーは、それはそれは普段通りの軽さで『はぁい♪』と手を振ってくれていた気がする。

……流石ハニー。この緊急時の中でもブレないな。それがハニーの強みだとは思うがもう少し緊迫感を持ってもらいたいと思う今日この頃ですっ!

再び全速力で飛ばす体勢を立て直し、行動に移す。


「――相棒っ!」
【参ります。クラスター全開――】


――ピピッ!


『――ちょ、ちょっとダーリン何で切――!?』
「ハニーっ! 今ちょっと急いでるんだっ!!」
【話なら後にして下さい】


――ブツンッ!

再びハニーから通信が入るが、断腸の思いでそれを切る。

俺も君との会話を楽しみたい所だが、今はその時間すら惜しい所なんだっ! 後で絶対にお詫びするから、その時にどんな責め苦も受け入れるから!

もう一度体勢を立て直し、前方を見据える俺。今度こそ行くぜっ!!


「行くぞっ!」
【では、行きましょう相棒。出力全開――!!】


――ピピピッ!


『――ちょっとダーリン待って!? 私の話を聞――!!』
「緊急事態なんだハニーっ! いくら紳士な俺でも時と場合によっては怒るよっ!?」
【空気読めよっ!】


――ブツンッ!

流石に三度目ともなると、俺も少しキツめな対応を取ってしまった。ごめん! 本当にごめんねハニー! でも俺の今の状況も少しは察してくれないかなっ!? 話なら後でいくらでも聞くから! 

これは後で土下座も視野に入れたお詫びを考えねばならんか……だが、とにかくそれも後回しだ。今は一刻を争うんだ!

そう思いつつ、再三体勢を立て直す。閉じ込められた淑女達の為に、五反田 弾っ! 今こそ風になりま――!!


――ピピピピッ!!!


「…………」
【……チッ】


……こら相棒。気持ちは分かるが舌打ちなんかしちゃ駄目だろう。……あーもー仕方ないなハニーは……。

内心溜息を吐きつつ、俺は若干半眼になりながらも相棒に回線を繋ぐよう指示を出して空中ディスプレイを表示させる。

特有の表示音と共に表示されたディスプレイに視線を向けつつ、俺は口を開く


「……なぁハニー? こんな事言いたくは無いんだが、もう少し状況を理解して――」
『五反田君? 今、大丈夫かしら』
「――っ虚さんじゃあーりませんかっ!?」


視線を向け開いた空中ディスプレイに映っていたのはハニーでは無く、眼鏡美人の虚さんのお姿だった。

てっきりハニーかと思ってたもんだから驚きもひと押し。ふむ? しかしこの状況で虚さんから通信とは……一体何事だ?


「何かトラブルでも?」
【こちらも緊急事態が発生しておりまして、出来れば内容は簡潔にお願いします。もしこちらで対応できそうであれば力になりますが?】
『いえ、少し連絡しなければならない事があるだけですから。……あの、会長? 五反田君、普通に返答を返してくれていますが』
『――なんで虚ちゃんの時だけは普通に出てくれるのよおおおおおっ!? ねぇ何!? 何なのこの差は!? 私だって時と場合くらい考えて通信してるのに、何なのかしらこの仕打ちはっ!? 私と虚ちゃんで何でこうも違う訳っ!?』


すると虚さんの横から割り込む様にしてハニーが現れた。何故かちょっと涙ぐんでいる様子。おおっ虚さんと一緒だったのか。

と言う事はハニーと虚さんの話の内容は一緒だったりすのかね? するとさっきからハニーが俺に通信を入れて来たのは、俺に何か連絡があるからだったのか……いやはやこいつは失敬失敬。

いやだがね? あんな緊張感の無い態度見たら、今現在、正に余裕の無い俺には重要な話だとは思えんかったのよ。


「おお、ハニーも一緒だったのか。……ふぅ、やれやれ……そう言う事なら先に言ってくれよハニー」
『話を切りだす前に即切ってたから先に言うも何もないわよねぇっ!?』
【いえ楯無嬢。緊急時に通信して来て、その瞬間『はぁい♪』なんて事言う人の話が、その場で重要事項であると誰が考えると言うのですか?】
『……確かに少し非常識だと思います』
『な、何よぉ!? ちょっとしたお茶目じゃない! ダーリンだって通信とか電話掛けて時だって『へいっ!』って言うじゃないの!』
【相棒ですから】
『まぁ五反田君ですから』
「いやーはははっ。照れるなぁ♪」
『贔屓だわっ! 贔屓反対っ!!』


俺の事をよく理解してくれている相棒と虚さんの言葉に照れつつも、俺は通信越しに映る虚さんの顔を見つめ、瞬時に表情を引き締める。

さて、虚さんからの緊急連絡事項とはこれ如何に? 時間も割いてられないからおふざけは無しだ。(キリッ!)

俺の表情が切り替わった事に、虚さんは少し目を見張り――ちょっと頬を染めたようだが、あちらも真剣な瞳になる。ふっ……緊急時に魅せる、真剣な紳士の表情は淑女に対してやはり効果は抜群らしい、虚さんの俺に対する好感度アップだぜ! やったね!

それにしても流石は見目麗しい年上お姉さん。その真剣な凛とした表情も最高ですねっ!! 俺の虚さんへの元から高い好感度もアップして天元突破する勢いです! やったね!


「――それで一体何事っすかね?」
『え、ええ。実は五反田君に伝えなければならない事が……会長』
『……まぁ良いわ。それでダーリン? 今、何処に向かおうとしていたのかしら?』
「ああ、実は今、アリーナ内に閉じ込められたままの淑女達の避難を最優先に動いてんだがね? ここで緊急事態発生! 通路内に閉じ込められてるものとばかり思ってたんだが、どうやらまだ客席に閉じ込められてる可能性が出てきた所なんだっ! だから今は俺凄く急いでんのよ!」
『成程ねー? ダーリンらしいと言えばダーリンらしい行動ね。けどその必要は無いわよ』
「――なんですと? それは一体どういう意味?」


ハニーの言葉に思わず疑問符を浮かべ首を傾げる。

そんなの俺の反応を見て、ハニーが茶目っ気タップリの笑顔を浮かべウィンクしてきた。うむ流石ハニーだ可愛い。


『うふふ♪ ダーリン、私達の事を忘れて貰っては困るわねー? 私達はこの『IS学園』の生徒会に所属してるのよ? 私達には『IS学園』の生徒達を護る義務があるの。だから――ね、虚ちゃん』
『はい。五反田君達が他の場所で生徒達の避難に尽力してもらっている間に、私達も別の所から生徒達の避難を率先して行っていたの』
「マジっすか!? と言う事は!!」
『ええ、アリーナ内に残されていた生徒達の避難は完全に完了したわ。観客席にも残されている子はいないわよ? ちゃーんと確認したから間違いないわ』
『はい。五反田君の御蔭で、避難が当初の予測よりも遥かに早く完遂できました。生徒会として、個人としてもお礼を言います。ありがとう五反田君』
『私からも。……ありがとう弾君。生徒会長として、私個人としても貴方に感謝するわ』
「お礼を言うのはこっちの方ですっ! ありがとうハニーに虚さんっ! 流石、頼りになるぜっ!!」


ハニー達から聞かされた内容に、俺はこれでも無いかってくらい歓喜する!

道理で俺が今いる場所に淑女達の姿が見えない筈だ。既に避難が済んでいたからだったんだね。成程納得だっ!

しかし流石ハニー達だ対応が早い! そうだよ、冷静に考えてみたらこの非常事態にハニー達『IS学園生徒会』が動かない筈がない。

のほほんちゃんだって危険を承知してなお、客席まで確認しに行ってくれてたみたいだし……何て頼りになる淑女さん達だっ! どうやら俺もこの状況で少しテンパってたようだ。俺にはハ二ー達『IS学園生徒会』という心強い味方がいた事を忘れていたとは……いやはや面目ない。

だがこれで心配事は無くなった。さらに嬉しい誤算で、これ以上遮断扉を突破するのに余分なエネルギー消費をしなくて済む。【七代目五反田号】のエネルギー残量を確認しても、こっちも想定していたよりも遥かに余裕が残されてある。

これだけあらば、莫大なエネルギー消費を必要とする【食の寝台・まな板領域】も、範囲指定してやれば一回なら使用できるかもしれん……!

さて、ならば俺もそろそろ次のステージへと上がるとしますか。


【では、参りましょうか相棒】
「おう。そろそろ無粋な輩、もとい引き立て役にしかならん奴には御退場願うとしますかね」
『五反田君?』
『あら? もしかしてダーリン。織斑君達の救援に行く気なのから?』
「まぁね? 二人の事考えると、エネルギー残量が残り少ないだろうし」
『……ふーん? でもダーリン。ダーリン一人が救助に向かっても何も変わらないんじゃないかしら? むしろダーリンのIS操縦の腕じゃ、行っても戦力にはならないと思うんだけど』
『……言い方はキツイかもしれないけど、会長の言う通りです。五反田君、貴方のISの起動時間は既に一夏君と比べて大きく下回っている事を忘れないで。今の貴方じゃ二人の助けになる所か、最悪枷にしかならない』


途端に固い声で俺にそう忠告する虚さん。ハニーも笑顔ではあるものの、その瞳は鋭い光を宿している。

あらまぁ、何とも痛い事を言ってくれます。けど、これは俺の事を想ってくれての言葉だ。キツメな発言をするのも、俺を止めようとしてくれてるハニー達の優しさなんだって理解できてる。

確かに今の俺の力じゃ大して役には立たんだろうがね? エネルギー残量が少ないとはいえ、二機のIS相手に互角以上に渡り合う程の力を宿した敵が相手だ。ここ最近、他の事に忙しくて碌に特訓もしてなかった俺じゃ相手にもならんだろう。俺もそこまで自分の力を過信してる訳じゃない。むしろ邪魔にしかならんだろうが……。


――俺達には、きっと一夏達の助けになる物を一つだけ所持してたりするんだよね。


ヘラリと表情を崩した俺は、ディスプレイに映るハニー達に笑い掛けながら言葉を紡ぎだす。


「なーに、別に俺は窮地に駆けつけて、颯爽と敵をやっつける英雄願望なんざ持ち会わせて無いのよん。自分の事ならしっかり理解できてますよ」
『……ふーん? と言う事は、ダーリンには何か考えがあるってわけね?』
「まぁねー。紳士は何時でも隠し玉の一つや二つ持っている物なのだよ!」
【相棒には自分が付いています。お任せを】
『……そう。なら私からはもう何も言わないわ。でも無茶だけはしちゃ駄目よ? ダーリンにはこの先色々と役に立って貰うつもりなんだから♪』
「おおう? それはまた意味深な一言だなハニー」
『はぁ……言っても無駄みたいですね。分かりました。でもくれぐれも気をつけて』
「ありがとうございます虚さん! ――ほんじゃ行くぜ相棒っ!!」
【了解です】
『あっ! ちょっと待ってダーリン。行くのは良いけど、どうやってアリーナ場の中に入る気なの? もしかしてバリアを破壊する気? 言っては何だけど、ちょっと無茶じゃないかしら』
『アリーナ内の通路も、アリーナ場に続く道は遮断されてますし。システムクラックも完了していませんし……』
「……ふむぅ? 問題は其処か」


確かにハニー達の言う通りだ。まずどうやってアリーナ場に入るかが問題だ。

バリアを強行突破するって案も、他に思い付かなきゃ視野に入れてたが……無茶すぎるな。そもそもバリアが破壊出来る程の威力となると『特注コンロ・炎の料理人魂』の『強火』しか無いし。チャージに時間も掛かる上にエネルギーを多く消費する。

最短距離で壁を突破するか? それもエネルギーを多く使う。今まで普通に壊してきたが、唯でさえ固いんだ。折角想定していたエネルギー残量よりも多く残せているんだし、それも微妙。

何処かにアリーナ場へ続く通路でもあれば……流石に都合良く見つけられる訳無いか。

はてさて困ったと首を捻る俺だった――が、その時だった。


【御心配には及びませんよ相棒】
「おおう? 相棒、何か案があるのかね?」
『『?』』


相棒の言葉に、俺だけでなくハニーと虚さんも疑問の表情を浮かべる。そして――。




【――フッ。自分に秘策があります(キュピーン!)】




……はて? 相棒が誰かの台詞を盗った様な気がするのは何故だろね?



【 とあるドイツの最強部隊 SIDE 】



――ガッタアアアンッ!!


『――それは私の台詞だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?』
『っうきゃあああああっ!?』
『お、お姉様が突然ご乱心ーっ!?』
『いやーっ! 私のプリンがー!?』
『衛生兵っ! 衛生兵ー! お姉様がーっ!?』


「……何事だ……?」(渋い素敵ボイス)
「司令、王手です」
「……何……?」
「王手です」(ドヤぁ)
「…………」
「…………」
「……フッ……投了だ。強くなったな……」
「……いえ、これも司令の教えの賜物です」(照れ笑顔の黒兎)


『私の台詞ううううううううううううううううっ!!』
『お、お姉様落ち着いてー!』
『いきなりどうしたんですかああああ!?』
『ほらほらっ! 隊長の寝顔の生写真ですよ!? 今朝の撮り立てホヤホヤですよ!』
『ちょっと待て。アンタそれどうやって撮ったの!?』
『……プリン……上だけならまだ……!?』


「……賑やかだな……(ボリボリ)」
「司令、よろしければもう一局――あっ王将が……!?」




――遠く離れたドイツの空の下。最強部隊の夜は平和に過ぎて行く。




【 一夏 SIDE 】


「っ!? 一夏危なっ――くぅっ……!!」
「鈴っ!? くそっ!!」


敵の攻撃から俺を護って前に出た鈴がシールドを展開するが、その衝撃に苦悶の表情を浮かべるのを見て、これで何度目か分からない悪態を吐く。

だがそんな俺達の様子をあざ笑う用に、続け様に追い打ちを掛けてくるレーザーから慌てて二人同時に回避行動を取る。

――畜生っ! エネルギーさえ余力があればあんな奴、俺の【零落白夜】でぶった斬ってやるのに……!!

起死回生の一手さえも封じ込まれた今の現状に歯噛みする俺だったが、そこに鈴からの声が耳に届く。


『――ボサッとしてんじゃないわよ一夏っ! 止まったら落されるわよ!? あんたは常に動き回ってなさい!』
「そんな事言われなくても分かってる! けど、あんまり下手に動きまわって客席に当たったら元も子も無いだろうっ! ある程度は受けなきゃ――!」
『だからそれはアタシに任せて、アンタはなるべくあいつから離れなさいって言ってんの! それにアンタ私よりもエネルギーがほとんど残って無い状態でしょ!? そんな状態で攻撃を受け続けたら最悪命に関わるわよ!』
「お、お前だって俺の程じゃ無いにしてもエネルギー少ないだろう!? 鈴だって危険な事には変わりないじゃないか!」
『アタシの【甲龍】はアンタの【白式】程、大喰らいじゃないからまだ余力はあるわよ! って言うか何なのよアンタのIS!? 欠陥機も良いとこじゃない!』
「欠陥機っていうなっ!! その欠陥機相手に苦戦した『代表候補生』は何処のどいつだよ!?  俺の【白式】を馬鹿にすんな!」
『う、うっさい! 大体、一夏がさっさとアタシに負かされないのが悪いのよ! そうすればエネルギーの心配なんてせずに、あんな奴さっさと倒せてたって言うのに!』
「無茶苦茶言うなーっ!?」
『無茶苦茶って言うなら弾だってそうよ! 全く無茶な注文寄こしてくれるわね本当……!』


軽口を交えた言葉の応酬をかわしつつも、その間も敵ISからの攻撃は続いており。俺と鈴は必死でその攻撃を避け、そして時にシールドを展開させては防御に徹する。

さっきまではこちらが優位に敵の行動を牽制した攻撃側に回っていたが、エネルギーが心許ない状態になると途端に攻守は一転し、今度はこっちが相手に翻弄される状態へとなっていた。

お互いにこのやりにくい状況でも、そんな会話をするは今の現状から少し逃避したいって気持ちが一割、お互いの安否を気遣う気持ちが五割、そして互いに鼓舞し合うと言う気持ちが四割って所だろうか。それだけで、今の俺達の状況が切羽詰まったものだと言うのが分って貰えるだろう。

ついでに言えば、何故か俺と鈴が会話をすると僅かばかり相手の動きが止まるって言うのも理由の一つ。こちらを観察するように動きを止めるから、その理由が分らないにしても、それを利用しない手は無い。けど、流石にいつまでも止まってくれる訳じゃないが。


『――そうだ。弾の通信って言えば気になってる事があるんだけど!』
「何だ!?」


再び迫る敵の攻撃を回避しつつも、鈴の言葉に反射的に返事を返す。ていうか結構余裕あるよな俺達って……。


『アンタってば弾の通信入るまで頭に血が上ってたくせに、弾の妙な言葉を聞いた瞬間にウソみたいに治まったわよね!?』
「――あ、ああその事か……いや別に鈴が気にする事じゃないぞ?」
『何を言ってんのよ! あんだけ我を失ってたくせに! 弾のあの『金の卵』って何の事!? 内容から察するとあのISの事よね!? どう言う事よ!』
「い、いや俺も詳しくは……けど、あいつが言うなら恐らく――」


弾が俺達に通信を介して話掛けて来た内容――それはアリーナ内部に残されている学園の生徒達の避難が完了するまで敵を引きつけていて欲しいと言う事だった。

確かに敵の保有する戦闘能力を考えてみれば、観客席のシールドを貫通する恐れがある。だから俺達は学園の生徒達の避難が完了するまで、なるべく敵の攻撃の射線が観客席に向かわないようさっきから行動を徹底して動いていた。

その分動き方に制限が掛かる為、はっきり言って動きにくい事この上ないんだが――それでも俺達はそれを止めようとは思わない。全員の無事が確認されるまでの辛抱だと己を叱咤し、時に回避し、防御しと行動を徹底し続ける。

だがそれよりも俺が一番気になった弾の言葉に含まれていたある言葉だった。

それは――。



『――へい一夏っ!! 気持ちは分かるが落ちつけっ! まだ全部台無しになった訳じゃねぇっ! むしろこの状況は使えるっ! 熱くなり過ぎて、折角飛び込んできてくれた『金の卵』さんを、一時の感情に身を任せブチ壊すなよっ!? 我に秘策ありだっっ!!』



(――アレが『金の卵』って、どう言う意味なんだよっ!?)


『金の卵』……全てを台無しにされたと思って怒りに我を忘れていた俺だったが、その言葉のお蔭で少しだけ冷静さを取り戻す事が出来た。

俺には、未だあのISがそんなモノには到底見えず、唯の舞台を滅茶苦茶にした鉄屑以外のなに物に見えていないけど――弾にとっては、どうやら違うらしい。

もしかしたら、弾の『金の卵』って言葉は本当は俺に理性を取り戻させる為の物で、その場凌ぎの以外の何物でもないんじゃないか……そんな考えがさっきから俺の中に浮かんでは消えて行く。

それは心の奥底では今すぐにでも、あの鉄屑をぶった斬ってやりたいと言う感情から派生した代物だったが、俺はその奥底で蠢く感情を深く呑みこんで必死に抑えつける。

それは一重にあの弾が、そんな安易な考えであんな事を口にする筈がないという確信が、俺の薄暗い感情よりも遥かに勝っているからに他ならないからだ。

こんな状況であいつに何か考えがあるっているなら、それはきっと本当の事だ。あいつは何時だって、ここぞという場面ではいつだって頼りになってくれた。俺の力になってくれていた。

なら、俺がするべき事は簡単だ。ぐちぐち悩むより、感情に身を任せて暴走するよりも――あいつを信じて力の限り突き進むっ! 昔からそうやって、俺達は突っ走って来たんだっ!


「とにかくっ! きっと弾には何か考えがあるんだろ。なら今は、俺達は任された事をやり遂げれば良いって事だ。それでいいだろうっ!?」
「っ! ……ああもうっ! あんたも弾も揃いも揃って……っていうかその弾は何をしてんのよっ!? 通信から結構たつけど、あれから何も音沙汰無しじゃないっ! まだ避難に手間取ってんのあいつ!?」
「……確かにそれは言えてるな。それに、そろそろこっちも限界が近いし、結構ヤバいな」


鈴と並び立つようにして、敵を警戒するように睨みつける。

敵は俺達から少し離れた場所で制止し――まるで俺達の事を観察するかのように不気味な静けさを伴い存在していた。

派手に動けない分こちらが不利な事には変わりがないが、さっきから敵の攻撃が次第に俺達を正確に捉える様になって来た。

動きが制限されてる為、俺達の動きが単調になってしまうのは仕方ないが……どうやら敵は俺達の動きを把握し、的確に読んできはじめている。最初から不利な状況なのは解っていたが、それでも動きを読まれるようになって来ると、状況はさらに厳しくなってくる。

くそ……っ! このままじゃ良い的だ。『白式』だって、後何分動けるか分からなくなって来た所だ。

あちらさんは、ハンデ付きな俺達を考慮してくれる様な相手じゃ無いんだぞ……!? まだか? まだなのか弾っ!?

そんな俺の焦りを見透かしたように、敵のISが再び攻撃の体勢を取った。それを見た瞬間、俺と鈴は即座に身構えて相手の動きに注視し、いつでも動ける体制を取る。

だけど、はたして次の攻撃を凌ぎ切れるかどうかは正直分からない。けど、此処でやられる訳には――


「一夏、来るわよっ!」
「分かってる! 何とか凌ぐぞっ!」
「ったく本当に面倒だったらありゃしないっ! しかも頼んできた張本人はこの場に居ないとか……! あーもーっ!! 弾っ!? アンタ今一体何処で何してんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!?」


痺れを切らしたらしい鈴の絶叫ともとれる声がアリーナに響いた――その時っ!!





『――此処に居るぞおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォっ!!!!』





鈴の叫びを打ち消すような音量で、あいつの――待ちに待った声の返答が辺り一面に響き渡った!

まさか返答が返ってくるとは思わなかったらしい鈴は目を白黒させて驚き、敵のISも突然の第三者の声を聞いて、攻撃に移ろうとしたいた体勢から、瞬時に声の発信地点を探すように周囲を見回す。

そんな鈴と敵のISとは裏腹に、俺は口元を笑みを浮かべた。全く……! 遅いんだよお前はっ!


「――なっ!? この声っ!」
「――ははっ! やっと来やがったなっ!」


そして俺も弾の姿を見つける為周囲を見回したその瞬間。アリーナを震わせる轟音と共にあいつは姿を現した――

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!




『――っ御免なさいよおおおおおおおおおおおおっ!?』
【つちーのなーかかーら、こーんにーちはー♪】




――地面から。

――っておいいいいいいいいいいいいいっ!?

驚愕目を見開いた俺と鈴の事など無視するように、アリーナの地面を砕き、その中から跳び上がる様にして姿を現した弾は、既に碧色のIS『七代目五反田号』を身に纏い、何だか無駄に華麗な動作でアリーナに着地する。

そしてビシィッ!! と一指し指を敵ISに付きつけ、言葉を叩きつけ始めた。


「――はっ! 見たか其処のISめがっ!? この俺を差し置いて派手な登場など出来ると思うなよっ!? 貴様が空から来るならばこっちは地底よっ!! 俺を出し抜くには一万とんで二千年早いわっ!? 穴夫婦大好きだっ! もうお前等結婚しちゃえよ!!」
【既に通路が開いていた観客席まで一端戻り、そして観客席の床下に穴を掘り、そしてアリーナの地表下まで掘り進むっ!! 特殊コーティングされた壁を壊すよりも土を掘る方が断然エネルギーの消費は少なく済みますからねー。これぞ我が秘策っ!】


どうやら敵のISがアリーナのシールドを貫通し、空から現れた登場の仕方に変に対抗意識を燃やした弾の、敵ISへの意趣返し込めた上での行動みたいだ……。

お、おお、お前なっ!? そんな事に対抗してんじゃねぇよっ!?

そして言いたいと言ってスッキリしたらしい弾は、そのまま俺と鈴の方向に顔を向け、いつものようにヘラっとした笑みを浮かべた。

――って敵のISが何だかポカーンとして固まってるぞ!? い、いや確かに一体どんな反応返せばいいのか困るのは当然だが……シリアスな雰囲気が台無しになってるぞ!? 何処行ったさっきまでの緊迫感溢れる空気はっ!?


「――ようっ! お二人さん待たせたなっ!」
「「お前(アンタ)は一体何処から出てきてんだよ(のよ)っ!?」」
「…………?」
「『こいつ見て無かったのかな?』みたいな顔で地面の穴指差してんじゃねぇっ!? 何で地面から出て来るなんて登場するんだよ!?」
「驚いた?」
「そりゃ驚くわっ!!」
「…………ッシ!」
「右手握り絞めて小さくガッツポーズ取ってんじゃないわよ!? 何がしたいのよアンタはっ!? もっと普通の登場の仕方があるでしょうがっ!」
「そんな事、教科書に載ってねーよ?」
「載ってる訳ないでしょうがああああああああああっ!?」
「あっと、そうそう一夏。危ないからその穴ちゃんと埋めとけよ?」
「はぁっ!? ちょ、ちょっと待て何で俺がしなきゃならないんだよ!?」
「じゃあお前一体何なら文句言わずにやるんだよっ!?」
「何をちょっとイラッっとしてんだよ!? ちゃんと自分で埋めろよっ! お前の後始末なんて御免だからなっ!」
「……何かお前必死だなぁ(しみじみ)」
「――っだあああああああああぁぁぁぁぁっ!? お前やっぱもう帰れっ! 少しでもお前の事を当てにして待ってた俺が馬鹿だったわっ!!」
「一夏……そんな事は俺が一番良く理解してるよ」(馬鹿な子を見守る優しい瞳)
「――ッ!! ……ッッ!? っな、なぁ鈴? ああああ、あいつ先に殺っちまわないかっ? 残り僅かなエネルギー全部使って、あの馬鹿ぶった斬っちゃ駄目かなぁぁぁああ!?」
「ま、待ちなさい一夏! 気持ちは分かるけど落ち着いて! あんた今凄い顔してるわよ!?」
【はいはーい、お三方共落ち着いてー。状況分かってるー?】


ギャーギャーと喚き合う俺達に向かって、パンパンと手を叩く音を響かせ【七代目五反田号】が仲介する。

ぬぐっ……!? まさかISに仲裁されるとは……! でも確かにその通りだ。今はこんな事してる場合じゃない一端落ち着こう。

それにしても【七代目五反田号】……お前って本当に無駄に小技が多いよな。どんだけ効果音内臓してんだよ……主人同様にこいつもまた変方向に力入れてるな。

それを見た弾が『おっとそうだった!』と一言口にすると、飛び上がり俺と鈴の方まで飛んで来て、俺達に並び立つようにして空中で静止する。

……今こいつ十分俺の間合いに入ってるな……って違う違う、そうじゃないだろう。

あーもういいや……こいつの行動に一々突っ込んでたら話が進まん。とにかく今は目の前の事に集中する事の方が先決だしな。鈴も大きく溜息を吐いて気持ちを入れ替える事にしたようだ。


「ほい到着! いやーしかし待たせたなー二人とも」
「お、お前なぁ……どうしてお前って奴はそう毎度毎度……!」
「はいはい愚痴は後にしなさい。でも本当に遅いわよ弾っ! 御蔭で動き辛いったらありゃしなかったわ。それで? アンタが来たって事は生徒の避難は済んだって事で良い訳?」
「おうバッチリだ! もう観客席を気にする必要はないぜ?」
「あーそうかよ。ならこっちも後ろを気にせず派手に動き回れるって事だな。――丁度良い。さっきまでやられてた分、この憤りも含めて存分に返してやるっ!」
「そう言うのは良いんだけど……一夏、あんた大丈夫な訳?」
【意気込みは良いのは結構ですが一夏殿? 【白式】のエネルギー残量は残り僅かでは?】
「うっ……!? そ、それは……」


その指摘に俺は言い淀む。ハッキリ言って【白式】に残されたエネルギーはほとんどないと言っていい。後数分動ける程度しか残っていない。

だけど此処まで来て、後の事を弾と鈴の二人に任せるだけなんてのは許容できない。俺はまだあのISに何もやり返しちゃいないんだ……!!

俺の表情を見て、俺の内心を悟ったのか、弾が『ふむ?』と呟いて鈴に視線を向ける。


「鈴。お前は後どん位エネルギーは残ってる?」
「アタシは全体の三分の一程度ね。でもこれだけあればまだ十分戦えるわよ」
「一夏は?」
「俺は……十分の一あるか無いか位だ」
「なーる程……って事は7:3で良いか……」
【そうですね。対比的にそれが妥当でしょう】
「は?」
「何の事だ?」
「――なぁに、安心しろ一夏! 此処まで来てお前だけ仲間外れになんかにゃしねぇよっ!! 現時点で戦力的にはお前の方が俺よりも上だからな? 最後まで付き合って貰うぜぃ! 相棒っ!」
【武装展開! 【業火・鉄板鍋】っ!!】


弾の叫びに呼応し、七代目五反田号が瞬時に『業火・鉄板鍋』を粒子展開させ具現する。

そしてすぐさま、弾は【業火・鉄板鍋】を掴み取ると、高々と頭上に持ち上げた。

い、一体何をする気なんだ!? 困惑の中俺は弾に注目し――それを見た。


「行くぜ! 今こそ『業火・鉄板鍋』のもう一つの特性を魅せる時。これぞ勝利への隠し玉っ!! 相っぼおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
【――【業火・鉄板鍋】! エネルギー射出っ!!】


「【エネルギーッギフトオオオオオオオオオオオオオッ!!】」


――瞬間。【業火・鉄板鍋】から眩い光を放つ膨大なエネルギーが大空目掛けて解き放たれた。

俺も鈴も突然の高エネルギーの射出に驚くが、驚きも冷めやらぬまま大空目掛けて飛んで行ったエネルギーは、途中で二つに分かれたかと思うと――


「――なっ!? こっちに戻ってくるっ!?」
「ちょっ!? 嘘でしょおおおおおおおおおっ!!」


軌道を変えた二つに分かれたエネルギーが、俺と鈴に向かって迫り来ていた。咄嗟に俺達は回避行動移るとするが、それを弾の厳しい声が押し留める。


「――避けんなっ!! そいつは味方だっ!!」
「はぁっ!? 何言って――うわあああああああああああああっ!?」
「きゃああああああああああああああああっ!?」
【しっかりと味わってくださいな。【白式】に【甲龍】♪】


途端に俺と鈴に射出された高エネルギーが直撃する。思わず両手を交差させて身構えてしまうが――直撃を受けたと言うのに、俺の体を吹き飛ばす様な衝撃など一切起きなかった。

な、何だ? 一体何が起きたんだ? 恐る恐る交差させた両手から顔を上げる。周囲を見回しても、何処か悪戯っぽく笑う弾と、俺と同じように困惑した鈴の姿しか見えない。


「何が起きたんだ……? オイ弾! お前一体何をしたんだよ!?」
「それは自分で確認しな♪ 鈴。そっちはどうよ?」
「あ、あたしは別に何ともないみたいだけど……一夏は?」
「ああ、俺も別段変わった所は無いみたいだけど……?」


鈴の言葉に思わず自分の体を確認してみる。体は特に正常だ。身に纏った【白式】にも見た所目立った外傷無く、シールドエネルギーの残量にも問題は見られない。一体何だったんだ……? 弾は俺達に何をして――

瞬間。其処まで考えた所で、ハタッと思考を中断させた。

――待て、何か変じゃ無かったか? 今までの一連の考えの中で俺はある違和感に気が付いた。

待て……ちょっと待て……! 


――『シールドエベルギーの残量にも問題も見られない』だって!?


それに気付いた俺はすぐさま【白式】のエネルギー残量を確認する。そんな俺の行動を見た弾が『気付いたな?』といった笑いを浮かべた。

そして――やっぱりだ! 【白式】の残量エネルギーが回復してるっ! 十分の一程度だった残量が、今確認したら三分のニ位までに跳ね上がっていた!

驚く俺と、そしてその事に気付いたらしい鈴も、揃って弾へと視線を向けた。


「――だっ弾!? お前まさか自分の持つ残量エネルギーを俺達に譲渡したのか!?」
「バッ……バッカじゃないのアンタ!? 何してんのよ!? そんな事したらアンタがっ!!」
「うーん? その解答は半分は当ってるが、正解とは言えんな?」
「ど、どう言う事だ?」
「確かに俺はお前等にエネルギーを譲渡した。一夏に七割、鈴に三割って配分でな。けどな? 【七代目五反田号】のエネルギーはビタ一文だってお前等にはやってないぞ?」
「はぁっ!? どう言う事よ!? それ以外のエネルギーなんて何処から持ってきたってのよ!?」
「おいおい良く聞いてたか鈴? 【七代目五反田号】のエネルギーはって言ったろ?」


弾の言葉に俺と鈴は揃って疑問の表情を浮かべる。

【七代目五反田号】のエネルギーは使ってない? ならさっきのエネルギーは一体……? そんなの俺達に向かい、弾は再び口を開いた。


「おい一夏。セシリーちゃんとの決闘の時の事を思い出して見ろ。俺はお前の【白式】が一次移行するまで、お前の守りに徹して攻撃を防御してたろ?」
「あ、ああ。そうだったな」
「此処でおかしいと思わないか? 俺はお前が一次移行するまでセシリーちゃんの攻撃を受けて、その分のエネルギーを消費していた筈。けど、お前の一次移行が済んだ後、俺はそれでも尚エネルギーをフル活用して動き回ってたろ? 膨大なエネルギーを一度に消費する【食の寝台・まな板領域】。それから【五反田包丁 初代・二代】。さらには【特注コンロ・炎の料理人魂】と【剛・鉄球お玉】の連続使用。――普通なら最初の【食の寝台・まな板領域】を使用した所でエネルギー切れを起こして即リタイアしていた筈だ。だけど俺は試合終了の直前まで動いていた……三十分近くも攻撃を受けてシールドエネルギーを消費していたのにも拘わらず……だぜ?」
「――あっ!? 言われてみれば……一体何であそこまで動けたんだ!?」
「……もしかして、アンタの今手に持ってる楯のお蔭なんじゃないの?」
「うん鍋な?」
「いや楯でしょ」
「鍋な」
「いやだから――」
「……鍋なんだってばよ……!?(涙目)」
「あ……うん鍋ね……もうそれでいいから。とにかくその鍋とやらに秘密があるんじゃないの?」
「その通りっ! 流石鈴だ。すぐに気が付いたな」
「どう言う事だよ?」
「変だと思わない一夏? 元々ISにはシールドエネルギーを消費して形成されるシールドが備わってるのよ? だからご丁寧にも態々たt「鍋」――な、鍋なんて装備を準備する必要なんて何処にも無いの。だって言うに弾はその鍋とやらを常備して持ってる」
「確かに変だな……その……な、鍋? を態々使って防御しても、シールドエネルギーを使う事には変わりないんだから、むしろ普通にシールドを展開してやった方が楽だし速い。それにそんな馬鹿デカイ代物を持って行動するのは……正直色々と邪魔になるだろうし、持っていたって仕方ないよな……?」


そう疑問を口にした所で――俺はふと一つの事に気が付く。

いやちょっと待て? もしもだ……もしも弾の持っている楯が、エネルギーの消費が必要の無い物だとしたらどうだ? いやエネルギーの消費が必要無いんじゃない。その楯で敵の攻撃を防御したとしても――



――弾の纏うIS【七代目五反田号】の保有する内包エネルギーに、何の影響も及ぼさないとしたらどうだ……!?



その事に思い至った俺は、弾の持っている【業火・鉄板鍋】へと視線を向ける。まさかこの武装って――!


「もしかしてお前の持つ【業火・鉄板鍋】って! 【七代目五反田号】からのエネルギー供給が必要ない武装なんじゃないのかっ!?」
「――その通りっ! この【業火・鉄板鍋】と【七代目五反田号】はそれぞれ独自の内包エネルギーを持っていて、完全に独立し合ってんのさっ!! お前等に譲渡したのは【業火・鉄板鍋】が内包していたエネルギーなのよん。ちなみにこの【業火・鉄板鍋】の持つ内包エネルギー量は【IS】一機分に相等する! そして俺は此処に来るまで、一切【業火・鉄板鍋】を使用していない。エネルギー満タン!! 【白式】、【甲龍】! 美味かったかい!?」
【腹が減っては戦は出来ませんからねー。エネルギーの出前一丁上がりです。ISのISによるISの為の出前! 我っ! 出前機の名に偽りなしっ!!(ドヤぁ)】


「【これぞ【業火・鉄板鍋】に隠されたもう一つ技能! 【真・岡持エネルギーギフト】っ!!】」


弾の言葉に、俺も鈴も愕然とする。

こいつの話からするとだ……つまりこいつは、弾はいつも【IS】ニ機分のエネルギーを所持しているって事になるんじゃないかっ!?

これはとんでもない事だぞ! 長期戦に関してはこいつ――いや【七代目五反田号】程有利に事を運ぶ【IS】はいないって事になるんじゃないか!?

そして味方への【業火・鉄板鍋】によるエネルギー譲渡も可能……味方にすればこれ程心強い奴はいない。そして反面、敵に回したら厄介所の話じゃ無い……!! 団体戦でのこいつのアドバンテージはかなりの物だぞっ!?

【七代目五反田号】……こいつはもしかしたら団体戦でこそ、その真価を発揮する機体なのかもしれない。

そして、俺は改めて自分の認識が正しかった事を実感する。


――弾は……俺の親友は本当にいつも…っ! ここぞという場面で頼りになりやがるっ!!


「――さて、ネタばらしは此処までだ。あちらさんもそろそろ痺れを切らしてきた所だぜ?」


不意に弾がそう口にして、ヘラヘラした表情から一転、表情を引き締め前方を睨む。

その視線を追うようにして、俺達も前歩へ視線を向け――こちらを観察している敵ISの姿を捉えた。

弾の規格外の行動のせいで敵は戸惑っていたのか攻撃は仕掛けて来なかったけど……少しずつこちらへと攻撃を仕掛ける体勢を取りつつあった。

それを見て、俺達も瞬時に迎撃の体勢を取る。


「さーてお二人さん守備はどうよ? 準備はOKかね?」
「――はっ! 全く余計な事してくれるわね。……まっ別にエネルギーの供給なんてあたしには必要無かったけど、一応感謝しとくわ」
「一応かよ~手厳しいね~このチャイナっ子さんは? 一夏はどうよ?」
「ああ、何時でもイケる。……むしろあの鉄屑を今すぐ打った斬ってやりたくてウズウズして仕方ないんだ……!」
「戦意は上々ってか。ほんじゃま行きますか? アリーナ内の避難は完了した所だし、どれだけ派手にやっても人的被害は無いから、思う存分暴れられる。俺達三人のエネルギーも大体同じ位の残量で、容量も十分と……舞台は整ったな」


瞬間、弾が両手に【特注コンロ・炎の料理人魂】を粒子展開させ装着。それを敵に向けて両腕を構える。

鈴も【双天月牙】を演舞の様に振り、そして敵に付きつけた。

そして俺も【雪片弐型】を下段に構え腰を落とし、敵ISを鋭く睨み据える。


「鈴、お前は俺達に中じゃ一番技量が高いからな、出来るだけ一夏を気にして遊撃を心掛けつつ、相手を翻弄してくれ」
「……まっしょうがないわね」
「一夏、お前は敵に接近して近接戦闘に持ちこめ、鈴と協力して奴を叩け」
「お前はどうすんだ?」
「現段階じゃ俺はお前程の技量が無いからな~。特訓不足が祟ったぜ。俺はお前等の後ろで援護しつつ防御と回避に徹するわ。頼めるかいお二人さん?」
「「上等」」
「――さぁ行くぜっ! 『鈴と愉快な仲間達』!! 中学時代の俺達の三位一体トリプルフォーメーションが今蘇るっ!!」
「ちょっと待て! 何だその『鈴と愉快な仲間達』って!? 俺らはオマケか!」
「何驚いてんのよ? 当然じゃない」
「おい!?」


思わず弾の言葉にツッコミを入れ、それに然も当然のようにケロッとした表情で返す鈴に反応を返してしまった。

――が、その時不意に


『そうだぜ一夏? 俺らはオマケだ。此処で重要なのは『代表候補生の鈴が、世界で二人だけの【IS】を起動させる事の出来る男子である俺達を率いて、襲撃者を鎮圧した』っていう事実だ』


――プライベートチャンネルが開き、俺の耳に弾の言葉が聞こえてきた。

驚いた俺は思わず弾に視線を送るが、弾は俺の方へ視線を向けず前方を見据えていた。

……どうやら小声で話してるみたいだ。


『こっちを見んな鈴に感づかれる。説明は後でしてやる。お前は奴を叩く事だけを考えろ。――『金の卵』取りに行くぞ?』


それを聞いた俺は、慌てて弾から視線を外して敵に意識を集中させる。だが弾の言葉をしっかりと頭に刻みつけた。

……確かに今は細かい事は考える場合じゃないな。聞きたい事は山ほどあるけど、それも後でも構わないか。分かったよ弾。お前を信じる。

そしてその時同時に、俺の眼が敵がハッキリとこちらに向けて攻撃態勢を取る姿を捉えた。――来るっ!!


「――来るわよ! アンタ達! アタシの足を引っ張んじゃないわよ!?」
「――分かってるよっ! 自分の身位自分で守って見せるっ!! 弾っ!!」
「――へいへい……一丁派手に行きますかぁっ!!」


瞬間、敵のレーザーが俺達に向かって打ち出され、それに対抗するように弾の右腕に装着された『特注コンロ・炎の料理人魂』から、高熱減の火球が打ち出される

そのままその二つは、敵と俺達の間で衝突し――激しい轟音を響かせ大爆発起こしたっ!!


暴風が起こり、その衝突の激しさを物語る様な閃光に、俺は思わず眼を細めてしまったけど――


それが俺にはまるで……俺達の反撃の狼煙が上がる合図のように見えたのだった。



――覚悟しろよ鉄屑……っ! この俺達三人を相手にして、まさか無事で済むと思ってないだろうなっ!!!


【 後書き 】

お久しぶりです。ようやくと言うか何というかssを書く時間が何とか確保できました。……連休……何て素晴らしい響きでしょうか……!? 一日そこら休んでも家の事とかで本当一日潰れますよね。とにかくお待たせしました。さて次回は後編ですが……何ていうかやり過ぎ……? これコア無事なのかな。では次の更新でお会いしましょう。……内容思い出す為読み返してみたんですが、最初の方の誤字脱字や文字並びの悪さが半端ないですね……改正しようかな……でも時間が……。

【追伸】リハビリついでに此処のチラ裏に『アクエリオンEVOL』の一発ネタを投稿しました。興味の惹かれた方は覗いてやってくださいませ。



[27655] 第二十八話 三位一体【後編】コースは以上へいお待ち! 
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2013/03/18 23:04
【 セシリアSIDE 】


皆様ごきげんよう、セシリア・オルコットと申しますわ。イギリスの代表候補生を務めさせて頂いております、以後お見知りおきを。

クラス対抗戦最中の所属不明のISによる襲撃。

極度の混乱が予想される中、アリーナ内部に閉じ込められた生徒達の避難を最優先事項として動きだした弾さんと、同じくその避難の手伝いに名乗りを上げた箒さんと共に、私達は即座に行動を開始しました。

やり方は閉鎖された遮断障壁を解除、もしくは破壊すると言う強引な物であり、先生方の指示を待たずの独断行動と褒められた内容ではありません。が、お叱りを受けるのは重々承知。容易く予想できる後の我が身の事より、今この場で自分に何が出来るかが重要でした。

弾さんと別れた私達が避難を誘導する途中、織斑先生から指示を受けた教職の先生方が見えられ、避難誘導を引き継ぎ無事に生徒達の避難を完了させてくださいました。今はIS学園の体育館に集まっている生徒達の中に漏れがないか、先生方が点呼及び確認を行っている所です。

IS学園の体育館は非常時の生徒達の避難場所として機能する様に特殊な構造を施されており、普段は全校生徒を収容しても有り余る広さを持つこと以外は何の変哲もない建物ですが、非常時となればそれは一転し――簡単に言えば小さな防壁要塞のような代物と化します。その強度は恐らくIS学園の中でも屈指の物でしょう。地下には救援を呼ぶための簡易情報施設や、もしもの為のシェルターも存在するとの事です。

その中で私はISを纏った数名の先生方と同じく、万が一の襲撃に備え周囲を警戒、及び警護に名乗り出て一人体育館上空で待機中です。こういう時、専用機持ちで良かったと常々思いますわ。

皆さんが避難した体育館を眼下に写しつつも、私は視線をアリーナへと向けます。……こう言ってはなんですが、最悪の展開も予想し何時でも狙撃できるよう準備した方が良いですわね。

一夏さん達が負けるなどと信じてはいませんが、最悪の展開を予想しておく事と、そうでない時とでは全然違います。迅速かつ冷静な判断を下す為には必要な思考です。

(『1%でも可能性があるなら、最悪の展開を予想し、それ対処すべき案を持ち迅速に行動に移せる判断力と決断力を持つこと』、それが上に立つ者としての資質の一つ……)

亡き母の教えを頭の中で反芻し、私は【スターライトmkⅢ】を何時でも使用できるように構え直し、周囲の状況から見て標的が出現する可能性の高い箇所を順に確認していきます。……この行為が無駄になる事を切に願いますわ。

するとその時、小さな電子音が響きました。これは……誰かからの通信? とりあえず警戒体制を維持したままその通信を繋ぎます。

「はい、セシリアです」
『――すまないセシリア、私だ』
「箒さん? どうかなさいましたか?」
『私達もいるよ~』

空中ディスプレイを開いた先の相手は、片耳に通信機器を取り付けた箒さんの姿と、その両隣でこちらに手を振る本音さんと、小さく会釈する簪さんの姿。

箒さんはともかく、両隣のお二人はアリーナ内部に閉じ込められていたとは思えないほど元気そうです。いえ、一息つけて安心したと言った方が正確なのでしょうか。とにかく大事無い様子でなによりです。

『警戒中にすまない。だが、お前にも伝えておきたいと思ってな』
「私に?」
『良いニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい~?』

箒さんの後ろで本音さんがこちらに手を振りつつ質問して来ました。良いニュースと悪いニュース……? 一体何のことでしょうか。

周囲の様子を視線の端の空中ディスプレイに写し、一旦構えを解いて私は通信越しの箒さん達へと視線を向ける。もし通信の最中に非常事態が起きても即座に対応できるよう【ブルー・ティアーズ】のビットを私の周りに四機展開し、その状態を維持するのも忘れず行う。

「……それでは良いニュースからお聞きしますわ」
『分かった~。えっとねー、さっき点呼の確認が終わったんだけど、生徒はみんな無事だってさっき先生が言ってたよー』
「まぁっそれは本当に良いニュースですね。大事に至らずホッとしました」
『本当にね~』
『……けど、悪いニュースもある……よ』
『ああ、これはまぁ仕方のない事だが……』
「……何ですの?」
『先程織斑先生から連絡があってな……事が済んだら覚悟しておけとのことだ。私とお前、それから特に弾は、とな』
「……そ、それは覚悟していた事です」

若干表情が強ばっている箒さんが、私から視線を逸らし言いにくそうに告げてくださいました……私も笑顔は浮かべてはいますが、表情が引き攣るのを止められません。

そんな私達に気の毒そうな視線を向ける本音さんと簪さんの姿が見えます。あれです、よく弾さんが織斑先生に連行されて行く時に、クラスメイトの皆さんが浮かべる『可哀想だけど、明日お店に並ぶ運命なのね』といった、養豚場の子豚を見るような視線ですわ。……せめて骨は拾ってくださいまし。

織斑先生の指導ですか……脳裏に浮かぶのは毎度毎度ズタボロのボロ雑巾みたいな姿で吊される弾さんの姿。

嗚呼何故でしょう。天国にいらっしゃるお母様とお父様の姿が今はハッキリと見えますわーうふふっ。

……ちょっと待ってくださいお母様何を年甲斐もなくバカップル宜しく『私を捕まえてご覧なさーい』などとやってるんですか止めてくださいまし私のイメージが音を起てて崩れますわお父様も苦笑してないで止めてくださいSAN値が私のSAN値がガリガリと削られてますの嗚呼だから止めてっていえストップですストップ待てと言ってるんです聞こえてないのですか花園の中で何をおっ始めようとしてるんです人がいるでしょう周りに人がって其処カメラを構えてんじゃねぇですわよ何を撮る気ですか一体誰です貴方は何です四代目? まさかいえそれ以前にちょっと寄らないでください気持ち悪いです漢女って何ですか愛の伝道師って何をふざけた事を――。

『――リアッ! セシリアッ!?』
「――は、はいっ!? な、何でしょう箒さん?」
『大丈夫か!? 今虚ろな瞳でブツブツと独り言を口にしていたぞ!』
「え、ええ勿論です。……ただ綺麗な花園の中に人目も憚らず仲睦まじい両親の姿が見えただけですわ……」
『それは大丈夫とは言えないだろう!? ……セシリア。お前少しずつ弾に毒されていないか? いい病院を紹介するぞ』
「……箒さんのその言い方も大概弾さんに毒されてると思いますけれど」

真顔でそう言ってのける箒さんに少々思う所がありますが……今は良いでしょう。とりあえず小さく深呼吸して私は気持ちを切り替えることにしました。……色々と幸せそうな両親の姿を垣間見た気がしたのも気のせいだと思うことにします。

さて、生徒の皆さんの避難及び無事が確認された所で、残す懸念は依然アリーナ内で所属不明機と戦闘を行っている一夏さん達三名の安否だけとなりました。

敵ISのジャミングによる通信妨害のせいか、アリーナを出た瞬間に一夏さん達との通信が出来なくなってしまった為、今中で何が起こっているのか全く情報を得る事ができません。アリーナ内部での通信は可能……しかし内部から外部への通信、またその逆は不可能。……本当に嫌な妨害をしてくれます。

アリーナ内部には数名の教職員の先生及び、他のISも配置されている事ですから、現在も行われているシステムクラックが終了次第、部隊の投入が可能だというのは不幸中の幸いでしたわね。果たしてシステムクラックが終了するのが先か、一夏さん達が敵を撃退するのが先か、それとも――いえ、きっと一夏さん達がやってくれる筈。

ですがもし万が一の自体に陥った場合……その時は。

(――『蒼の雫』。この言葉の真意を存分に教えて差し上げますわ)

【スターライトmkⅢ】を握りしめ、私はアリーナへと再び視線を向けました。そして、その私の思いに呼応するかのように、【ブルー・ティアーズ】から青白い粒子が立ち上ります。

それと同時に、私が命じていないのにも関わらず私の周囲に展開していた四機のビットが、私の傍を離れ、辺りの空を巡回するように飛び周り始めました。まるで意思を持っているかのように。

……最近になってからですが、私は以前よりも強く【ブルー・ティアーズ】を身近に感じられる様になりました。

弾さんが良くご自身の専用機である【七代目五反田号】を機械としてではなく、ご自身の友人、パートナーの様に接し話しかけている姿を見習って、私も【ブルー・ティアーズ】に何気なく話しかけるようになった結果でしょうか、以前よりも【ブルー・ティアーズ】が私の思いに応えようとしてくれているのを感じ取れるのです。

――『ISは道具でなく、あくまでパートナーとして認識してください』

以前の授業で聞いた山田先生の言葉が脳裏に響きます。

……そう、ですわね。私は代表候補生としての技量や格式ばかりに囚われて、本当に初歩的な事を、そして一番大事な事を忘れていたのですね。

(――御免なさい【ブルー・ティアーズ】。そしてこんな私ですが、これからもどうか……)

小さく、ですがそれでも深く想いを載せて、私は私の大切なパートナーにそう呟く。そして再び私の想いを感じ取った【ブルー・ティアーズ】の意思が私に流れ込んできます。

それはまるで『気にしないで』『こちらこそ』と、コロコロと笑っているかの様に優しく、暖かい『感情』でした。……私は本当に素晴らしいパートナーを得ていたのですね。

――気持ちをまた一つ入れ直した私は、再び【スターライトmkⅢ】のスコープに目を当てて構え直し、頼もしいパートナーと共に再び周囲の警戒と、生徒の皆さんの警護に思考を集中させた。





『――あーっだんだんと言えば、かんちゃん! だんだんといつ友達になったのか答えて貰ってないよー?』
『え、えぇ? 今それを掘り返すの……?』


…………。


『ねーねー。教えてーかんちゃん、それって何時の事~? だんだんは何でかんちゃんと友達になった事を私に黙ってるのかな~? 別に友達になった事は悪くないよー全然。とっても喜ばしい事だと思うよ~うんっ!……けど黙ってるってどういう事……?』
『ちょ、ちょっと本音落ち着いて……っ!?』
『むっ幻覚か? 布仏の後ろに巨大レンチを素振りする黄色い着ぐるみの姿が霞んで見える様な……』
『……私がかんちゃんにお仕えしてて、一番の友達だって事をだんだんは知ってる筈なーのーにーなー? なーんで黙ってるのかな~……それとも友達になった時に私に知られると何か拙い事でも、かんちゃんに……しちゃったのかなぁぁぁ……っ!?』
『ほっ本音笑顔が、笑顔が怖いよ……っ!? どうしようポッキーがもう無い……っ!?』
『――ぬぉっ!? もしや気迫が形を成したのか!? これ程の気迫を、あの布仏が発するとはっ!』


…………。


『あ、後で本音にもちゃんと話すから……そ、そうだっ! その時に弾も一緒に呼ぼうよ。だから話はその時まで……ね?』
『……本当ー?』
『う、うん……本当』
『……分かったよー。だんだんにも言いたい事あるし、これが終わったら三人で、そこの所くわしーくお話しましょー』
『……(ほっ)』
『――ふむ。二人共それは少し待って貰えないだろうか』
『……篠ノ乃……さん?』
『どうしたの、ほっきー?』
『……その渾名に関しても言いたい事があるが、それは置いておくとして、弾に関しては少し待ってもらいたい』
『……どういう事ー?』
『……(嫌な予感)』

『ああ、実はこの後の弾の予定についてなのだが――悪イガ奴ノ首ヲ私ガ殺ルト言ウ、大事ナ先約ガ入ッテイテナァァァァ……?』

『――にゅわあああぁぁっ!? 鬼が出たああああぁぁぁっ!?』
『――ひっ!?』


…………。


『クカックカカカカカカッ……!』
『そ、そうは行かないぞー! だんだんとはお話があるんだからー! 首がなかったらお話できなよー!』
『そ、そう言う問題じゃ……あ……でも弾なら首なしでも……ひぃぃっ!?』←首無しの弾が超速スキップで軽やかにやって来るのを想像した。
『何人モ私ノ目的ヲ阻ム事叶ワズ、邪魔スル者ハ全テ血トナリ肉ト化セ』
『むむむむむ~っ!』
『クカカカカカッ!』
『ひぃぃぃ……っ!?』

『ねぇ虚ちゃん。私疲れてるのかしら? 何か巨大レンチを手に持った黄色い着ぐるみ狐と二振りの刀を持った赤甲冑の鬼武者が鍔迫り合いしてる幻覚が見えるんだけど――って言うか簪ちゃんの近くで止めて欲しいわね。お姉ちゃん本気を出しちゃおうかなー』
『無事を確認しに来てみれば……はぁ』





――綺麗に終われないと言うのは、何かしらの宿命を感じますわね。通信を切っておくべきでしたわ。

あら? ビットの一機が……いけません。駄目ですわよ『ブルー・ティアーズ』。気持ちは分かりますがお止めなさい。折角良いシーンだったのにと怒るのは分かりますけど、あそこに居るのは私の大事なお友達です。良い子だからお止めなさい。ちゃんと体育館の扉からピッドを入れようとしても駄目です。


――そう、それで良いのです。貴女は賢く良い子ですわねーうふふふ……ふぅ。



【 鈴 SIDE 】


『汚れはっ!?』
【洗剤で綺麗に落とします。漂白剤駄目絶対】
『汚物はっ!?』
【消毒っHYAHAAAAAAAAAAAAAAA!!】

――弾と七代目の、ある意味気合の入った言葉と共に、両手に装着されている銃口から連続で小さな火球が敵に向かって乱射された。

アタシはそれを見届け瞬時に位置を移動し、敵の回避先を予測して動く。敵ISは襲いかかる火球を縦横無尽に空を飛び、回避する。まぁ狙いも何もあったもんじゃないから、そう易々と当たってはくれないわよね。

けど、それでも相手の回避先はある程度は予測は付く、アタシは【衝撃砲・龍砲】の照準を合わせ――入ったっ! その回避先はアタシの領域よバーカッ!

「――喰らえっ!!」

【衝撃砲・龍砲】から打ち出された不可視の砲弾が、爆音を響かせ敵へと真っ直ぐに伸びていく。そしてそのまま、回避行動先から瞬時に次の行動に移せなかった敵へと命中する。

不可視の弾丸の直撃を喰らった敵ISが吹き飛ぶ姿が視界に映り、アタシは口端を釣り上げた。よっしゃあ命中、もう一丁! 敵の体制が崩れた隙を逃さず、二発目、三発目と続け様に【龍砲】をお見舞いしてやった。

だけど流石にそれは喰らってくれずに、敵は瞬時に体制を整え回避して――弾の放った火球をモロに受けて再び吹っ飛んだ。おぉっ! やるじゃない、褒めてやるわよっ!

「――あはっ! ナイス弾っヤルわね!」
『お、おおおうっ。どどどっどんなもんよ!』
【ととと当然ですっ。けけけ計算通りッスよ!】
「吃り過ぎよ!? アレまぐれなのっ!?」

空中ディスプレイを開いて通信越しに褒めてやったら、物凄い顔を引き攣らせた弾の笑みと、七代目の文字羅列。……マジでまぐれだったのね。って言うか七代目! あんたISの癖に計算なしで撃ちまくるのはそれってIS的どうなのよ!?

思わずツッコミを入れたアタシだけど、【甲龍】から敵にロックされた警報が鳴り響き、ハッと思考を切り替え敵を見やる。向けた視線の先のISは、左右に両腕を開き、それぞれ射線上の先にアタシと弾の姿を捉え、既に銃口にエネルギーの粒子が光っていた。

「まず……っ!? 弾、上手く回避しなさ――」
『上空の一夏さーん!』
「へっ?」
『――ッ!!』

焦って回避するよう弾に向かって口を開いたアタシだったけど、その言葉は弾の言葉によって遮られる。そして弾の言葉に返答する様に、両腕を左右に開いた敵の胸元へ飛び込むように、今まで敵から僅かに距離をとって上空を旋回していた一夏が、一気に加速し懐に飛び込んだ。

その速さは正に白い弾丸。速……まさか『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』!? 何時の間にそんな技を!? あいつっこのアタシとの戦いには使わなかったくせに、まさか手を抜いて――いえ、切り札的に隠していたって所が妥当ね。

アタシだけじゃ無く、アタシ以上に一夏のそのスピードに驚愕している敵ISだったけど、その隙を逃さず一夏が手に持った【雪片弐型】を、斜め下から切り上げるようにして一気に振るう。

『せあああぁぁぁっ!!』

一夏の振るった【雪片弐型】は、そのまま光の剣の残照を残し敵ISを切り裂――かなかった。惜しくも敵は間一髪で後方へと回避を行い、一夏の一撃はその胸元の装甲を掠め、浅い傷跡を残す程度で終わる結果となる。

あの状態でギリギリ躱す普通!? 一夏ってば後一歩強く踏み込んでいれば届いてたのに、千載一遇のチャンスを逃してんじゃないのっ!

だけど敵も突然の回避行動を行ったせいで、アタシと弾に向けていた腕の銃口の照準が狂い、直後放たれたビームが上空のあらぬ方向へと飛んでいく結果となる。一撃を外したのはどっちも同じって所を見れば、痛み分けって所か。

剣を振るった一夏、ソレを無理な体勢で躱したIS。どちらも大きな隙を晒してる。此処は一夏の援護に回るべきだと、アタシは敵と一気に間合いを詰める為に加速しようと体制を取る。

――けど。

『まだまだぁっ!!』
「『!?』」

其処で何を思ったのか、一夏が体ごと敵に向かって体当たりを食らわせる姿を見て、アタシと、同じく通信越しに弾が息を飲む。

た、体当たりってそんな状態から体当たりしてもダメージなんか与えられるわけ無いでしょうが何をトチ狂ってんの!? そう思って思わず悪態を口にしかけたアタシだったけど。其処で一夏が別の動きを見せる。

体当たりした瞬間、一夏は唯一の武器である【雪片弐型】を粒子に変えて消し、さらに体制が崩れた敵の右腕を左手で掴み、胸部装甲の隙間に右手を差込む。そして一夏は体を捻り――あの体制……!?

「まさか投げ飛ばす気なの!?」
『おおう、思い切るじゃないの一夏の奴』
【普通しますかねー】

弾の妙に関心した声を耳にする中、アタシは一夏の行動に理解が追いつかない。IS相手に投げって何を考えてんの! 思い切るにも程があるわよ!

『――飛んでけえええええええええええぇぇぇぇっ!!』

その中で一夏は気迫の声と同時に、敵ISを力いっぱい投げ飛ばした。投げ飛ばされた敵もその行動に理解が追いつかないのか、固まったまま投げとばされるまま。

一夏の投げた方向は――アリーナの地面。だけど一夏の場所とアリーナの地面からは距離が開きすぎてる。相手を地面に叩きつけようと考えたんだろうけど、それじゃ効果無しに決まってるっ! 途中で体制を立て直されるに決まって――!

『――弾ッ!』
『任されたっ! バックオーライ!』
「はっ!?」

その時、一夏の声に反応した弾がアリーナの地面から飛び立ち、一夏に投げ飛ばされた敵ISに向かって高速で接近していく姿が目に映った。

そのまま弾は敵に向かって一直線に近づいていき、その手には巨大な鉄球を先に付けたハンマーが握られている。ハンマーは何かの力が加わっているのか、光を纏いながら小さく振動している。

そして――。

【――敵接触まで残り3、2、1!】
『――って言った後に、振ればいいんだよな?』
【今あああああああああぁぁぁぁぁっ!?】
『ですよねー。どっせい!!』

弾が飛んでくる敵と接触した瞬間に、その巨大な鉄球が振るわれ――敵の体を真横から捉え相手に打ち付けられたっ!!

ハイパーセンサー越しに映り込んでくるその光景は、敵の体が側面からの衝撃によって無理な体勢で『く』の時に折り曲げられている姿が鮮明に映し出されている。敵の左腕も巻き込んでいる為に、見ているこっちが気の毒に思うほど痛そうな光景だった。

鉄球が打ち込まれている左腕装甲と、左側面の体の装甲にビシビシと亀裂が入って行くのがよく見える。そして弾の鉄球が一際大きく振動した瞬間っ! 弾が鉄球を振り抜くと同時に、敵ISが高速でアリーナの地面に向かって吹き飛ばされるっ! 

轟音を響かせアリーナに叩きつけられた敵ISは、その勢いのままアリーナの地面を激しくバウンドして転がっていき――客席下の壁に体がぶつかり、その壁に大きなクレーターを作った所でようやく停止した。

……それだけで、あの鉄球がどれだけの破壊力を持っているのかが嫌でも理解できるわ。敵ながら同情するわ。アタシは顔を引きつらせて妙な冷や汗を掻きながら、一人そう思った。弾と戦う事があったら、あの鉄球は要注意ね。一撃で特大ダメージだわ。今の一連のモーションを『甲龍』に記憶させておこう……。

『――鈴! 『龍砲』砲撃用意!』
「はぇっ!?」

ちょっと場違いな事を考えていたアタシに、弾の声が通信越しに聞こえてきたので思わず弾の方向へと顔ごと視線を向け聞き返す。

するとそこには鉄球を片手で担いだ弾が、空中で静止している姿があって……右手の人差し指を敵が激突した壁に向かってビシッと指した。

『奴は今無防備だ! 畳み掛けろ!』
「――任せて!」

弾の追い打ち要請に、アタシは瞬時に『龍砲』の照準を敵に合わせる。そしてアタシの両肩から『龍砲』の不可視の弾丸が撃ち出され――クレーターから這い出そうとしていた敵に直撃する。

『――――ッッ!?』

襲いかかってきた追い打ちの砲撃に、敵は再びクレーターにその体を打ち付ける。さらに深く壁に減り込むその姿にをアタシはハイパーセンサーで確認する。

「まだまだ行くわよ!」

そのままアタシは不可視の弾丸を連続発射して、敵に反撃する隙を一切与え無いようにして撃ちまくった。敵は成す術もなく砲弾をその身に受けるがまま。

アリーナに響くのは、アタシの『龍砲』の砲撃音と、それによって起こる爆音が連続して響くだけ。だけどアタシは休む暇なく『龍砲』を撃ち続ける!

ハイパーセンサーから見える敵は、壊れた玩具のように跳ね回りながらアリーナの壁にその体を何度も叩きつけられている。


――あれ? これってもしかしてパターンに入ったんじゃない?


そんな中で、アタシの頭にそんな思考が思い浮かんだ。

……。

『うわぁお。スゲェ敵が成す術も無くやられてるぜ!』
『あれは敵ながら少し酷いな。良くこんなとんでもない事を平気で思い浮かぶな?』
『いやー俺も流石に彼処まで上手く行くとは思わなかったんだが……これは勝負ありかね?』
『……俺ってまだ何にも、アイツに借りを返してねぇんだけど?』
『まぁまぁそう言うなよ! 後で『弾特製ドンマイ茶漬け』を食わせてやるから!』
『何で茶漬けなんだ!? 手抜きか!』

一夏達の会話が耳に入るけど、アタシは唯無真になって砲撃を撃ち込み続ける。唯一心に、何も考えず唯無心になって、砲弾を撃ち込みまくる。

――砲弾の数と、砲撃のスピードを更に上げた。リロードが遅い、何やってんのよ?

爆音の音が矢次に響いて、既に敵の姿は黒煙で隠れて見えない。でも続ける、敵がいるんだから、あの黒煙の向こう側にいるんだ。撃ち続ける。



唯一心に、ひたすら撃ちまくる。



――くふ。

『……何か、砲撃の速度が上がってないか?』
『……敵が黒煙で見えんな?』
『……鈴の奴、笑ってないか?』
『……瞳孔が開いて瞳に光が見えんな?』
『『…………』』

――くふふふ……っ!

「――あはっ、あははははははははははははははははははッ!!」

【――はーい。鈴嬢にスイッチが入りました~】
『『――トリガーハッピーかアイツは!?』』

あははははははははははははははははははっ最高ねコレ! 超面白いわ! ほらほらほらっ一発じゃ終わらないわよ!? どんどん行くわよっどんどんねぇ!!

感情に身を任せるままにアタシは『龍砲』を連続発射して、不可視の弾丸の雨を敵に向かって降り注ぐっ!

爆音と砲撃の音がアリーナ中に響き渡る音が耳に心地良い。嗚呼もっと、もっともっと、もっとよ! もっとアタシを楽しませて!

「アハハハハハハハハハッ!! オラオラオラオラァ!! 簡単に消し飛ぶんじゃないわよ、この的があああああああぁぁぁっ!!」
『……うわぁ』
『……まさか鈴にこんな隠された一面があったとは』
【衝撃事実ですねー。きっと随分ストレスを溜め込んでたんでしょう】
『一夏お前……』
『お前だからな!? 鈴のストレスの大半は確実にお前の方が上だからな!? どうすんだよアレ!?』
『別にこのままでも良くね? 普通に敵さん終了のお知らせだぞ』
『いや、それはそうだけど!』
「――アハハハハハハハハハハッ! 消えろ消えろ消えろ! 皆ふっ飛じゃえアハハハハハハハハハハ! キャハハハハハハケタケタケタッ!!」
『――と思ったが止めよう! 淑女としてそれはどうよって笑い方してる! 人様に決してお見せできない場面だ!』
【とりあえず記録しました】
『後で焼きまししてくれ』
『すんな!?』
『良しっ! では止めてこい一夏!』
『俺かよ!? 嫌だよ、今の鈴って何か禍々しいオーラが出てる! お前が行けよ! 不死身のお前なら大丈夫だ!』
『いや死ぬよ? いくら俺でもギャグ面なら不死身だが、シリアス面だと普通に死ぬよ?』
【相棒はシリアスの女神様に嫌われてますからね】
『これってシリアスな場面かなぁ!? 良いから何とかしてくれ、お前紳士だろ! 女の為なら幾らでも体を張れるだろうが!』
『こんな時だけ俺を紳士って呼ぶとは卑怯だぞ貴様!? 照れるだろぉ』
『照れてる場合かよ! 逝ってこい弾!』
【一夏殿、字が違います】
『仕方ない、此処は公平にジャン拳勝負だ!』
『ジャンケンをしてる場合でも―ああもうっ分かった恨みっこなしだからな!』
【ジャン拳のルールは簡単。先にグーかチョキ、またパーを出して相手の顔面に拳を打ち込むか目潰し、もしくは顔面を張り倒した方が勝者です】
『では行くぞぉ! ジャン・拳っ!』
『待てルールがおかしい! ジャンケンだろう!?』
『ジャン拳だよ? 正式名称は『邪運拳闘』、略してジャン拳。『世界紳士連合』内部で良く行われる紳士の簡単な勝負方法だ。良く販売支部で最後の商品を巡って繰り広げられている』
『何だその勝負方法!? それから『世界紳士連合』ってそんなに血生臭い所なのか!?』
【ちなみに後出しOKです】
『だから何!?』

アハハハハハッ! あれー? 何か一夏達の話し声が聞こえるけど……まぁいっか! そんなの気にしてる暇なんてないし! 的はまだ消し飛んでないんだから!

――的が消し飛ぶまで、撃つのを止めない!

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! もう最高!



※   ※   ※



――ごめん、アタシってどうかしてたわ。

しばらく経って、アタシは『龍砲』を敵に撃ち込むのを止めて、現在アリーナの地面に一夏達と一緒に降り立っていた。

敵の姿はメラメラと燃える炎と黒煙で肉眼では認識出来ない。熱源も炎の中だから上手く探知出来ないけど……多分、倒したんじゃ……無いかしら?

うん、そうようね。きっとそう倒してると思う。原型が残ってるかどうかは別として倒してなきゃ困る。あれだけ撃ち込んで倒しきれてなかったら、それはそれで驚異だし――何よりも。

『『…………』』

――さっきから一夏達に微妙に距離を取られてるアタシが救われないじゃないの……!!

ち、違うのよ! あれはほらっ敵を倒そうとちょっと必死になってただけで! べべべべ別に楽しむ気はなかったの! 本当なの! そ、そりゃ途中から楽しんじゃった事は認めるわよ! で、でも良いじゃない敵は倒したんだから!

だ、だからさぁ。ふ、二人してそんな距離を取らないでよぉ……(泣)。

【やっちまったなぁ】
「――う、煩い! 態々アタシの回線に送信してくんな馬鹿IS! 敵は倒したでしょ! なら良いじゃない、ねぇっ!?」
『あ……そ、そうですね』
『鈴様の仰る通りかと』
「……な、何で敬語なのよ、ねぇ? ねぇちょっと。ふ、二人共私の目を見てよ。ねぇ?」
『……あのさ鈴。何か何時も色々ゴメンな?』
「な、何よ急に?」
【相棒が謝った……】
『……鈴、あんまりストレスを溜め込むなよ? 大丈夫、俺も弾も何時だってお前の味方だ』
「――ならこっち来なさいよ!? 何で距離を空けてんのよ!? それと妙に優しい顔を向けるな馬鹿ぁ!」
『『いや別に他意は無いぞ?』』
「ハモるなぁ!!」

視線を向けろと言ったけど、妙に優しい眼で見返してくる二人に向かって、アタシはその場で地団駄を踏む。やめなさいよ! 何か腹が立つのよその目! 

そのまま二人はお互いに顔を見合わせ後に一つ苦笑して、アタシにようやく近づいてきた。二人が寄ってきた事に、表情には出さずに内心で少しだけホッとした……嫌われたかと思ったじゃん……馬鹿。

「しっかし派手にやったなぁ」
「煩い! 蒸し返すな!」
「あれだけ苦戦してたってのに。随分早くケリが着いたな……俺の分も残しておいてくれよ鈴」
「ふん! そんな事は知らないわよ」
「はぁ……消化不良だけど仕方ない、それで弾この後はどうするんだ? 『金の卵』って言ってたけど、多分消し飛んでるぞ?」
「いや別に消し飛んでも問題は無いんだが……アレが一体何だったか調べたかった教職員の方々には悪いことしたなぁ」 
「う……」
「誰かさんの所為で?」
「そう何処かのチャイナっ子さんの所為で」
「何時まで引っ張る気なのよ!?」

事後処理の様な会話をしだしたアタシ達。センサーにも敵の反応は見られない。恐らくこの事件はこれで終了ね。

後の事はもうすぐアリーナに突入してくるだろう教職員の先生達によって後始末が行われて、アタシ達には事情説明と恐らく箝口令が敷かれる。そんな風にだいたいこれから起こるであろう内容を思い浮かべているアタシだったけど。

――だけど此処で一つの違和感に気づき、頭を切り替えた。

待って、おかしい。敵を倒したなら敵のアリーナへのハッキングも同時に消滅してるはずよ。なのに何で先生達はまだ突入して来ない訳?  

もしかして突入したくても出来ない? まだアリーナのロックが開かない? 敵のハッキングがまだ続いてる……本体は倒したのに……倒した? それは本当に? 

ハッとして顔を上げる。一夏は私の顔を見て眉を潜めて、だけど何かを感じ取ったように表情を引き締め、まさかと言う表情で視線をアタシの背後へと向ける。弾はアタシと同じ違和感に気づいたのか、表情を真剣な物に変えて、こっちも視線をアタシの背後へと向けた。

其処でアタシも、二人と同じく敵のいる背後へと振り返ろうとする。まさか、あいつはまだ――っ!?

その直後、アタシその場から横へと強い力で突き飛ばされる衝撃を受けた。驚いて振り向くと、そこには驚愕の表情を浮かべ、アタシと同じように突き飛ばされた弾の姿と。

――そして両手を左右に広げ、それぞれの手でアタシと弾を突き飛ばした一夏が……高出力レーザーの直撃を受けて吹き飛ぶ姿だった。

……なっ……!?

「い、一夏ぁぁぁああっ!?」
『――野郎っ!!』

庇われた事に気づいたアタシは、アタシ達の身代わりになり敵の攻撃に晒されアリーナの地面を転がっていく一夏にむかって叫んだ。

弾は突き飛ばされた体制から立て直して、表情を憤怒の形相へと変えると両腕の銃口をレーザーが飛んできた方向へと向けて射撃を開始しようとする……だけど!

その時には黒い巨体が弾のすぐ正面まで迫っており、それを見て驚愕の表情を弾が浮かべる。そして次には弾の腹部に巨大な左腕が打ち込まれ、弾が驚愕と苦悶の入り混じった表情を浮かべ、その体が跳ねて宙に足が浮く。

『がは……っ!?』
「だ、弾!?」

苦悶の声を上げた弾。だけど続けて弾の頭がもう一つの巨大な手――弾の一撃によって亀裂が入った敵ISの右手に掴まれ、そのまま大きく掴み上げられて、そしてアリーナの地面に力いっぱい叩きつけられる!

破壊音を響かせて、弾の頭がアリーナの地面に叩きつけられたと同時に地面に小さなクレーターが広がる。其処まで見て、アタシは硬直していた体と頭を瞬時に再起動させ、内心の激情に身を任せ、弾をアリーナの地面に叩きつけた敵に向かって『双天牙月』を振りかぶって突撃した!

「――くぉんのぉぉぉおおお!!」

コイツよくも……!

よくもよくもよくもっ!

 よくもよくもよくもよくもよくもっ一夏をおおおおおおおぉぉっ!! その薄汚い手から弾を離せこの死に損ないの廃品物があああああああああああああああああああああぁぁっ!!

怒りのままに敵に向かって振り落とそうとするアタシ。だけど敵ISはその時トンでもない行動に移った。あろう事か、右腕で叩きつけていた弾をそのまま片手で持ち上げて、アタシに向かってその体を突きつけたのよ!

こいつ、弾を盾がわりに……!? 

敵の卑劣な行動に再び怒りが燃え上がるけど、それよりもこのままじゃ弾を切り裂く事になる! アタシは振り下ろそうとしていた『双天牙月』を、弾の体ギリギリで何とか止める事に成功する。

だけど敵はその隙を逃してはくれなかった。残っていた左腕がアタシに向かって向けられる。その腕に取り付けられた銃口には既にエネルギー粒子の光が――拙い!

回避行動も取れず硬直するしか無いアタシだったけど……その時、弾がアタシを右足で蹴り飛ばし突き飛ばした。そして間一髪で、アタシの顔の側面を敵のレーザーが通過する。

「――だ……っ!?」
『がああああああああああっ!!』
【スラスター全開!】

弾の名前を呼ぶよりも先に、弾の口から咆哮とも取れる叫びが発せられて、『七代目五反田号』のスラスターで逆噴射を開始した。

そして掴まれたまま弾は体ごと背中を押し付ける形で、敵もろとも後方へと向かって持って行く。地面を削るように移動してるから、ガリガリと敵の装甲が地面に擦れ火花が散る。

――火花……? 装甲が削られ……敵にはシールドを張る力も殆ど残ってない!?

その事に気付いたアタシは、敵も消耗してる事に気付いた。そりゃそうよ、あれだけアタシの砲撃に晒されていたんだもの! 恐らく、アイツはアタシ達を仕留めるために攻撃に残された僅かなエネルギーを全部使ってる!

チャンスよ! 此処は一気に畳み掛けて、今度こそ引導を渡してやる!

逆噴射してアタシから敵を遠ざけたくれた弾だったけど、やはり堪らなかったのか途中で敵に振り払われる様に投げ飛ばされ、体が宙を舞った。

馬鹿っ無茶な事するから! そう思って投げ出された弾の体に目が向いて――其処で、白い機影が地面に落ちる寸前で滑り込む姿が視界に映った。その白い機影は弾の体を受け止め、自分の体を楯にするように地面を転がり停止した後に体を持ち上げ弾の安否を確認し始める。

それを見てアタシはパッと表情を輝かせた。――一夏っ! あんた無事だったの!? 良かった……!

『――弾! 馬鹿野郎無茶してんじゃねぇ!』
『ゴホッ! しょ……『食の寝台』……っ!!』
『!?』

一夏に抱えられたまま、弾が敵ISに向かって右手を突き出す。その右手の装甲にはエメラルドに輝くエネルギーが淡い光を放っていた。

――あれって……確か前に弾の戦闘記録を見た時の『七代目五反田号』に備わっている特殊武装発動直前のエネルギーの点滅っ!?

『――『食の寝台・まな板領域』範囲指定版っ!!』

瞬間、弾の右手が眩い光を放つと同時に……敵の足元に小さなエメラルドの電磁フィールドが浮かび上がった!

それが発動したと同時に、敵の両手がフィールドの電磁波によって絡め取られ、両腕が電磁フィールドへと叩きつけられる姿がアタシの目に映った。

敵の武装であるレーザーは両腕に組み込まれていた。そして弾の特殊武装は敵の武装を電磁フィールドに縫い付け封じ込める力を持っている――つまり、今あいつは両腕を地面に縫い付けられて身動きが出来ないって事になるわ。

その証拠に、敵ISは腕を電磁フィールドから何とか外そうともがいてる。だけど強力な電磁波がそれを許さない――正に絶好のチャンス!!

『――た、唯で俺が投げ飛ばされると思ったか! 紳士舐めんな!』
『――ははっ! マジかよ!?』
『最後の締めだ! 相棒っ!!』
【エネルギー回路接続【業火鉄板鍋】。さて一丁ド派手に決めましょう】

立ち上がった弾が直ぐさま一夏の元から離れて、アリーナを高速で移動する。そして立ち止まった場所で【業火鉄板鍋】を粒子展開、それを左手に持って右手には【剛・鉄球お玉】を持つ弾。

そして立ち止まった場所は、アタシの正面に敵を置いた向こう側――私と弾で敵を挟み打ちにする位置だった。

一体何をする気で――あ。

其処でアタシは弾の意図を瞬時に理解し、即座に【龍砲】のエネルギーを最大出力で放つ為にっチャージを開始する! 成程ね。それじゃド派手に行きましょうか!!

『――鈴っ合わせろ! 相棒行くぜぇ!! セシリーちゃん戦に続いて第二弾! 某寝坊助兄貴を起こすために編み出された、妹の愛の詰まった超絶秘技――死者のおおおおおおおおぉぉぉっ!!』
「――【甲龍】! 『龍砲』出力全開っ!! 行くわよおおおおぉぉっ!」

強力なエネルギー反応が、アタシと弾で形成されて行く。それを察知したのか敵ISが其処で初めて動揺した素振りを見せる。

瞬間、敵の足元の電磁フィールドが消え、敵の両腕が自由となるのが見えたけど……残念。もう遅いっ!!

そして――それは放たれた!!

『――目覚めええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!』
「――発射あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

爆音と轟音を織り交ぜた凄まじい音を響かせ、アリーナ全体が揺れる程の衝撃と共に、二つの巨大な衝撃が敵に向かって飛んでいく。

間に挟まれた敵ISは成す術無く強力な衝撃を左右から同時に受け――全身に夥しい亀裂を起こしながら、その巨体が衝撃と衝撃の間でのたうち回るかのように激しく痙攣を起こす!!

体が中に浮いてるけど、それでも身動き取れずに体中から火花を散らして、その体が有り得ない角度に曲がり、装甲が外れて砕け散る!! もう見ていて悲惨の一言しか言えない姿がアタシの視界に広がる。

――敵ながら酷いわね。でも同情はしないわ。それに……これで終わりだと思った?

アタシの【甲龍】のセンサーに、もう一つの巨大なエネルギーの反応が映る。その反応の位置には――白い機影。一夏の姿がある。

『【零落白夜】発動――』

激しい轟音の中。そんな中でも一夏の小さくも静かな呟きが妙に耳に響いてきた。

一夏の周りには凄まじいエネルギーの波が蠢き、そのエネルギーが一夏の両手に持つひと振りの刀――【雪片二型】の一点に注ぎ込まれ、寒気がするほどの高エネルギー反応を巻き起こしていた。

さぁて……終局と行きましょうか!! 派手に決めなさいよ一夏っ!!

「――一夏っ!!」
『――良いトコ持ってけぇっ!!』

アタシと弾から同時に一夏に向かって言葉が発せられる。それを聞いたと同時に、一夏が高速で敵へと接近して行った!

二つの強大な衝撃に晒され、既に見るも無残な状態でアリーナの地面を覚束無い足取りフラフラしている敵IS。まだ立っていられる所は、敵ながらアッパレ見事って事かしら。その頑丈さは素直に賞賛する。

だけど大人しく倒れればいい物なのに。既に反撃する余力も残ってないでしょうね? 本当あんた往生際が悪過ぎよ?

――さっき大人しく沈んでいれば、こんな目に合わずに済んだのよ。恨むなら往生際の悪い自分を恨みなさい。まぁこれで許してあげるわ。

敵ISに肉薄した一夏は。そのまま上段に大きく振りかぶり、敵へと鋭い視線を向けて言い放った。


『――ようやく借りを返せる。じゃあな鉄屑』


そして――一夏の凄まじい一刀のひと振りが……今度こそ敵を切り裂いたのだった。



【 ???SIDE 】


「……あ、消えちゃった」

反応が消えてしまった愛子の事を思って、残念そうに呟く小さな影。其処には確かに悲しみの感情が込められていた。

「……よく頑張ってくれたね。ありがとう。流石は私の『最初の子』だね? ふふふふっ後は君の兄弟達が変わりに頑張ってくれる筈だよ。君が送ってくれたデータはきっと役に立つ。今はゆっくりお休み♪」

愛しそうに画面を撫でる影。そして次にはニッコリと楽しそうな笑顔を浮かべた。

「――あああああっ凄い! それにしても凄いよいっくん! まさか彼処まで強く成長するしてるだなんて格好いいにも程がある! この束さんの予想数値より0.3%とも上回るだなんて凄い事だよこれはっ!? これは箒ちゃんと結婚したら姉妹丼もプレゼントするのも視野に入れよう!」

狂喜乱舞するように飛び跳ねる影。その頭のうさみみがピコピコ跳ねている為、正に兎状態であった。その時足元にあった何かを踏ん付け盛大にスッ転ぶも、そのままゴロゴロと転がる。

そして再び立ち上がると、にへら~っとだらし無い笑顔を浮かべた。

「うふふふっだっくんも良いねえ。『あの子』を彼処まで変えちゃうだなんて、流石イレギュラー同士は相性がいいって事かにゃ? お礼に武器の名前に関しては、この私が正式名称として認めてあげましょう! しかしエネルギー譲渡かぁ……『あの子』も面白い能力を『創った』もんだねー? そんなにだっくんが気に入ったんだね!」

ニコニコと笑顔を浮かべる影。其処には成長した我が子の姿を喜ぶ母親の姿と酷似していた。

だが其処で――ふと影は首を傾げて小さく呟いた。

「――だけど何でだっくんは本当の『名前』を呼んであげないんだろう? 『あの子』まだ教えてあげないのかな? まぁ確かに呼んで欲しくない気持ちも分かるけど、でもなぁ……」

うんうんと頷くが……しかし次には悪戯を思い浮かんだ子供の様な表情を浮かべて忍び笑いを浮かべる。

其処には邪気もなく悪意もなく――唯単純なる興味の色だけが浮かんでいた。

「良いこと思いついちゃった! うふふふっ私は見たいんだよー。真に『あの子』を纏った、だっくんの勇姿を! あの力を使う事が出来る程の覚悟があるのか、真の意味で『あの子』のパートナーとなれるのか……時期は何時が良いかなー? そうだなぁ箒ちゃんがお姉ちゃんにおねだりしてくれたら、その時に一緒にやったるかー! うふっうふふふふふふ!」

ピョンピョンと影は跳ねる。楽しく、まるで遊園地に連れてって貰える約束を交わした子供が、その時を待ち侘びるかのように、兎は跳ねる。

自分の目的の為に、月の兎が月に帰れる事を願うかのように、彼女は『夢』に向かって手が届けとばかりに……大好きだけど大嫌いな世界で、ピョンピョンと跳ねる。

何時か彼女の望む世界が訪れるその日まで……兎は跳ねる。その子供の様に無邪気な笑顔の裏に、魔女のように恐ろしい冷酷さひた隠して、兎は跳ねる。



「――教えてあげなよ『■■』。君の本当の名と……その醜い姿を。そうしないと君は何時までたっても一人ぼっちの異物のままさ……」



暗闇の中で小さく呟いた兎が、その時どんな表情をしていたかは……誰も知らない。



【 おまけ 】


「……」
「……」
「……」

『い、いやああああぁぁぁ!? 貴重な情報源がああああぁぁ!?』
『うわぁ……酷い』
『アリーナも酷い状況ね……どうやったらアリーナ中の地面に亀裂が入るのよ』
『ねぇ見てご覧なさいよ。観客席の壁が崩れてるわぁ。うふふふふ……今度は徹夜が何日続くのかしら』

「……おい貴様ら」
「「「はい」」」
「あそこに横たわっている塊は何だ?」
「……えーと残骸?」
「……し、侵入して来た敵ISの成れの果てです」
「炭火焼に失敗した魚ですかね?」
「この悲惨なアリーナの状況は何だ?」
「弾です」
「弾です」
「封印を解きました。今耳鳴りもちょっと酷いっす」
「……成程。見事撃退した事は褒めてやろう」
「あ、ありがとうございます!」
「きょ、恐縮です!」
「あっはっはっは! お礼なんて良いですよ!」
「さて、そんなお前らに選択肢が一つある。好きに選ばせてやろう」
「え、いや千……じゃなくて織斑先生?」
「あ、あの選ぶって選択肢が一つしか……何でもありません!?」
「強制イベント確定ですか!?」

「何、難しい事じゃない簡単なことだ――三人とも歯を食いしばれ」

「な、何で俺達頑張ったんですよ!? 手段を選んでる状況じゃなかったんだ!」
「そ、そうです! アタシ達は必死で――ゴメンなさいすいません許しください! それ死んじゃう! それを付けた千冬さんの力で叩かれたら死んじゃいます!?」
「落ち着け! ちゃんと見ろ、あのメリケンサックには『害虫専用』って書いてある! きっとあれはアリーナに湧く害虫駆除用で俺達に使う訳じゃ――ごぼぉおあっ!?」
「「だ、弾んんんんんっ!?」」


「――やり過ぎだ馬鹿どもがあああああああああああああぁぁっ!!」



【 あとがき 】

祝IS再起動! ……長らくお待たせしてすみません。



[27655] クリスマス特別編  クリスマス一丁へいお待ち?
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/12/25 22:00

注意・時は少しだけ未来のお話です。本編にまだ出てきてないキャラが普通にいて、問題も解決後となっていますのでご了承ください。それでも構わないという方はどうぞお楽しみくださいませ。


【 時間軸不定 IS学園弾の寮部屋兼『五反田食堂IS学園支店』 】



「ねー? あんた達ってさーサンタクロースを何歳まで信じてた?」
「何だよ急に?」
「あーそう言えばもうすぐクリスマスだもんね」
「私は随分と幼い頃までだったな。確か小学校に上がるか上がらないか位の時までだったぞ」
「私は確か小学校の低学年までは信じていましたわ」


スタスタスタ


「へいお待ちだ『オカン特製あ~ん♪掛けうどん』だ。残す事は許さん全部食べきれ」
「あ、それ私~♪ ありがとうラウラウー。わ~あったか~♪」
「あれ? 今日はラウラだったのか」
「そうだよー。今日はオフだから私はお客さんー」
「今日のシフトは私だ。嫁のくせにオカンを手伝わないとはどういう事だ。嫁姑問題になるぞ」
「なる訳ないだろうがっ!?」
「あっ! そうだラウラ? ラウラってサンタクロースって何歳まで信じてた?」
「三田九郎……? 誰だそれは?」
「あー……あんたの場合存在そのものを知らない訳ね。」
「サンタクロースってい言うのはねラウラ? クリスマスの夜にプレゼントを持ってくる赤い帽子と服を着た白髪白髭のお爺さんで、眠っている子供達の家にやって来ては、子共達の枕元に背負った白い大きな袋から出したプレゼントを置いて行ってくれる優しいお爺さんの事だよ」
「む? 何だその奇抜な服装の老人は? それにそれは不法侵入ではないか」
「な、何て夢のない事を言うのだこいつは……」
「えーとなんと説明すればよろしいのかしら……?」
「あーそうじゃなくて、子供達の喜ぶ姿が大好きなんだよそのサンタクロースってお爺さんは。決して泥棒とかそんな事じゃなくて、ただプレゼントを貰って喜ぶ子供の姿を見たいだけなんだよ」
「物好きな奴だな」
「まったくこいつは……そんな事言ってると、あんたの所にプレゼントを置いて行ってくれないわよサンタは?」
「ふん! そもそも眠っている私に察知されずそんな芸当ができるとは思えん。そんな事が可能なのは織斑教官か我が隊の司令官ぐらいのものだからな」
「「「「……はぁ」」」」」
「うまうま♪」


スタスタスタスタスタ。


「お待たせしました『弾特製愛の気持ち(キムチ)鍋』『弾特製スぺシック炒飯』です」
「後は『業火野菜炒め』が二つに『弾特製かもオムレツ』……お待ちどう様」
「あ、どうも虚さんに簪。えーと『業火野菜炒め』は俺と箒で、『弾特製かもオムレツ』はセシリアで『弾特製スぺシック炒飯』は鈴。そして『弾特製愛の気持ち(キムチ)鍋』はシャルです」
「はい。熱いので気を付けて」
「……どうぞ」
「「「「ありがとう(ございます)」」」」
「お姉ちゃんとかんちゃんも今日は入ってたんだー」
「まぁね。今日は生徒会の仕事も無いから、こんな日ぐらいは」
「……私は今日シフトだから」
「そっかー。あ、そうだ! かんちゃんってサンタクロースどう思うー?」
「え……?」
「何の話をしてるのかと思えば……もうすぐクリスマスだったわね」
「それで簪はサンタってどう思う?」
「……サンタさんはいるよ?」
(な!? 簪は今でも信じてるのか……こ、これは意外だ)
(ど、どうしましょう? まさか今でも信じてる方がいるとは予想外ですわ)
(……簪ちゃん可愛いなぁ)
「おお~♪ かんちゃん可愛いい~! ハグ~♪」
「え……? な、何本音? あ、こぼれるから止めて……!」


スタスタ

―― シュバッ!


「へいお待ち! 『五反田食堂IS学園支店』のボス! 五反田 弾ですっ! おーなんだ勢揃いだな?」
「そしてそのNO1看板娘! 更識 楯無ちゃんよ! は~い♪」
【ついでに前掛けアイドルの自分もお忘れなく】
「弾に楯無さん! 厨房はいいのか?」
「おうよ! 今は落ち着いたとこだから問題なし! んで? みんなお揃いで何話しとんのよ?」
「あ、そうだ二人ともサンタクロース信じてる?」
「おおう?」
「サンタ? サンタなんて居る訳――」
「……(しょんぼり)」
「―― 無い筈ないわね。いるわ必ず! それはもう世界中に!」
「……お嬢様……最近特に簪お嬢様に甘くなりましたね」
【流石相棒と二分する妹魂ですね】
「オカンはそのサンタとやらを知っているのか?」
「ああ、還暦彷彿させる服着こんで、幼い子供のいる部屋に忍び込み子供の小さい靴下の中にプレゼント突っ込んでは、靴下のゴムを伸ばしプレゼント箱をひしゃげる事に喜びを感じる特殊思考を持った爺の事だろう? 知ってる」
「「「「色々最悪な認識をしてるっ!?」」」」
「だ、弾くん? ……その認識はどうかと……」
「だんだんは何かサンタさんに恨みでもあるのかなー?」
「……弾は……信じてないの……?」
「ちょっとダーリン! 信じてないかっらってその言い方は無いんじゃないかしら!? サンタさんは居るのよ!」
「ああその通りだ。驚いた事に奴は確かに存在している……!」
【衝撃事実ですね】
「「「「その言い草で信じている(のかよ/の/んですの)!?」」」」
「そうか……オカンが言うならそいつは確かに実在するのだな。一体どれほどの訓練を受けた精鋭なのだろか」
「違うよ!? 色々違う認識だよラウラ!? だ、弾! ラウラに変な事吹きこまないでよっ!」
「楽しいね♪」
「ワザとか!? あんたワザと言ってんのか!?」
「いやー実際いるぜその爺? 俺一回だけ会ったことあるからな」
「……ほ、本当っ!?(キラキラ)」
「おう勿論だかんちゃん! 確かまだ俺が小学校一年生の時だったな」
「……こいつが言うと頭ごなし否定できん所が怖いな?」
「い、一体どういった経緯なのでしょうか?」
「ダーリン。その時の事話してくれないかしら? 簪ちゃんが凄い興味持ってるみたいだし」
「私も聞きたいな~だんだんの小さい頃の話ー」
「弾くんの小さい頃の話ですか……興味ありますね」
「僕も聞きたいな。なんだか面白そうだし」
「オカンの昔話か。私も是非聞きたい」
「……なぁ鈴? 俺何だか色々読めてきたんだけど……」
「……やっぱりあんたも? あたしもなのよね……」
「いいぜ? あれはその年のクリスマスイヴの夜の事でなぁ……実は家の可愛い妹の蘭が、その爺宛てに欲しいプレゼントを書いた手紙を幼稚園から持って帰って来たらしいんだが」
「む? 私も幼稚園の頃にそんな思い出があるな」
「可愛らしい行いですわね」
「ここで問題発生してな? 蘭の奴、どうやらその欲しいプレゼントを書いた手紙を持って帰って来る途中で無くしちまったみたいなんだ。あん時は大変だったぜ? 蘭が『これじゃサンタさんにプレゼント貰えない~!』ってわんわん大泣きしちゃってよ」
「あらららら……それは大変だったわねー」
「……可哀想」
「弾の妹さん可愛いなぁ♪」
「それでその後どうしたのかしら?」
「その後なんとか宥めすかしたんだが……そしたら蘭の奴、その爺に会って直接お願いするって言い出したんだ。名付けて『サンタさんにお願いしよう夜更かし大作戦』! 俺も蘭にお願いされて付き合う事にしたんだ」
「おー♪ だんだん優し~」
「うむ。それでこそオカンだ」
「うふふふ微笑ましい行いですわね」
「……何故だ嫌な予感が?」
「あ、箒いらっしゃい」
「……弾が一緒ってのが激しく嫌な予感がするよな」
「そしてその夜、蘭の部屋で『サンタさんにお願いしよう夜更かし大作戦』が決行されたんだが――」
【回想入りまーす】



~ 回想 ~


『……おーい蘭? 俺が起きてるからお前は寝てても良いんだぞ?』
『……やらぁ……サンタしゃん……会うんだもん……』
『さっきからコックリコックリ首が船漕いでるのは何故かね? もう寝なさいな』
『……やぁ……』
『くっ! なんて可愛い拒否の仕方だ……! ええいおのれサンタの爺めっ! 蘭にこんなに待ち望まれてるなんて何て羨ましく妬ましい野郎だ……!?』
『……サンタしゃん……会う……』
『ぐぎぎぎっ! 畜生腹立つ! 俺だってこんなに蘭に想われたい! もう寝るんだ蘭! そんな健気に待つ必要なんてないじゃないか!?』
『……やらぁ……』
『俺とその爺のどっちが大切なんだっ!?』
『……お兄……』
『――っ!? わが生涯に一片の悔いなしっ!! ぶはっ!(鼻血吹いて気絶)』
『……むにゅむにゅ……(コテンと弾の横で夢の中へ)』


―― それから数十分後


『―― っ母さんそれ捨てないでって言ったじゃん!?(ガバッ!)』
『……っ!?(ビクゥッ!)』
『っておろ? おおう何だ夢か、いやー驚いた』
『……すぅ……すぅ……』
『おおう? 横を向けば天使の寝顔とは何て目覚めのいい。結局寝ちまったのか蘭は……まぁしょうがないか』
『……(ドキドキ)』
『さてと……可愛い妹の為だ。俺が代わりに起きておいて――』

『……(プレゼントを持った赤い服着た人物)』

『……(それを見て無表情になる兄)』

『……っ!?(能面の様な表情の弾にビビる赤い服着た人物)』

『……(そいつが可愛い妹のすぐ傍まで接近している事に気付く兄)』


『『…………』』


『や、やぁ! 今晩は! 私は良い子の元にやって来るサンタ『ふざけてんのか?』――って超ドライ!? ま、待て俺は――!?』


『―― ってめえええええええええええええっ! 俺の可愛い妹の部屋に忍び込んで何するつもりだったこの変態野ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』
『ち、違う! 俺は蘭にプレゼン――』
『蘭の名前まで調べ上げてんのか貴様あああああああああああっ!? ぶち殺したらあああああああああああああああっ!?』
『まっ待て弾!? 俺だ! お前達のお父さ――っ!?』
『死ねええええええええええええええええええええええっ!!』
『何処にあったその金属バッ――ぎゃあああああああああああああああああああっ!!』


―― その夜、駄突音が響き渡った。


~ 回想終了 ~



「―― という事があってな? あん時程蘭の傍に居てやって良かったと思った日は無かったぜ……」
【流石相棒ですね。妹君の危機を事前に察知するとは感服します】
「「「「―― っなんて事をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」」」」
「……弾のお父さんだったんだ……」
「大丈夫よ簪ちゃん。サンタさんは必ずいるから落ち込まなくてもいいのよ?」
「い、いえ突っ込み所がおかしいですよお嬢様方?」
「……やっぱり二人とも姉妹だねー」
「流石オカンだ。まだ未発達の肉体で自分の何倍もの大きさの相手を撃退するとは」
「そうじゃないでしょう!? お父さんになんて事するの弾っ!? プレゼント持ってきた上にサンタクロースの格好までしてくれたのに!?」
「え? 親父なんてさっきの話の中で出てきてないよ? 何言ってんのシャロさん?」
「まだ気付いてないのっ!?」
「……なんだかもう色々と台無しですわね……はぁ」
「……やはりこう言う話だったか」
「……弾のお父さん、昔から酷い目にあってんのね……」
「……俺、今度何か差し入れしてあげよう」
「で、次の日の朝冷静になって考えたらそいつがサンタだったんじゃないかって事に気付いてな?」
「気付こうよ!? 最初で気付こうよそこはっ!?」
「いや暗かったし?」
「うわあああああぁぁぁぁっ! もうっ! 本当に弾といい爺といい紳士ってこんな人ばっかりだよ!」
「苦労してんのねあんた……」
「爺だって去年のクリスマスプレゼントに『シャルロットお嬢様? 油田と島どちらがお好みで?』なんて事普通に聞いて来るんだよ!? どっちもいらないって言ったら『ああそうですか。では両方で……』とか言って本当に油田の権利書と買った島の写真を手渡して来たんだよ!?」
「「「「それはそれで色々凄い(な/ですわ)っ!?」」」」
「うわああああん! いらないって言ったのにいいいっ! 『シャルロッ島』ってなんなのさ爺の馬鹿あああああああああああああああっ!!」
「さ、流石『仏国の賢人』と呼ばれる方ですわ……やる事が常軌を逸脱しています」
「会った事あんのかいアンタ!?」
「社交パーティの時に挨拶程度ですが……」
「『仏国の賢人』……? そういえば我が隊の司令官とも交流があると聞いた事があるな?」
「いやもういい……頭痛くなりそうだから話さなくいいラウラ……」
「……そう思うのも無理はない」
「それでその後蘭に『お兄の馬鹿あああっ! なんで起こしてくれなかったのー!』って泣きながら怒られて……マジで悪い事したぜ蘭に」
「蘭にかいっ!? というかその状況で眠り続けてた蘭も凄いわねっ!? やっぱ兄妹だわアンタ等!」
「けどその時母さんがやって来て『サンタさんから預かっておいたわ』って言って蘭にプレゼントを持ってきてくれたんだよ。……あの爺……あそこまでやったのにまだ動けたとは……しかも今度は母さんの元に行っていたとは……余程死にたいと見える……まぁ我が『五反田食堂』最強の爺ちゃんがいるから大丈夫だったろうけど」
「お前もう何か色々最悪だな」
「生きてる弾のお父上もある意味凄いな……」
「……それで結局プレゼントは何だったの……?」
「そうそう。ダーリンの妹さんは一体何をサンタさんにお願いしていたの?」
「ん? ああ蘭へのプレゼント中身は『ヘアバンド』だったよ」
「ヘアバンド……ですか?」
「それってだんだんが頭に巻いてるのと一緒の~?」
「おう! 色違いのお揃いだ! しかもどうやらそれが蘭が欲しがっていた物だったみたいでな~? 開けた瞬間、大喜びだったぜ蘭の奴『サンタさん凄いっ!』ってなー。けどその後の、蘭がヘアバンド巻いて『お兄とお揃い~♪』って俺の元に小走りで近づいて来た姿がそりゃもう可愛くて可愛くて……!!」
「……良かったね弾♪」
「いいなー私も簪ちゃんとお揃いで何か欲しいなー」
「微笑ましいですね」
「だんだん良かったね~♪」
「うむ、中々面白かったぞオカン」
「いい話か……これ?」
「あたしに聞かないでよ……」
「……いい話なんだが納得いかんぞ」
「……ええ本当に、話の後半さえなければ……」
「うぅぅ……今年のクリスマスは普通に過ごせますように……」



―― こうしてIS学園の日常は過ぎていく。この後、来るクリスマスに向けて各々が想いを胸に行動を開始するのだが……それはまた別のお話。




【後書き】

メリークリスマスッ!



[27655] 短編集一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/04/23 23:29
どうもこんにちは、釜の鍋です。

常日頃のみなさまへ感謝の気持ちと、作者自身の息抜き及びリハビリ目的で始めた『へいお待ち!五反田食堂です!』の短編集です。日常の中のほんの些細な出来事などにスポットを当てたストーリーになっていますので、ちょっとした寄り道程度のものとお考えください。

これからも少しずつ増やしていこうと思いますので、お楽しみいただけたら幸いです。


*   *   *



~ 短編その一 【 五反田号の秘密  】 ~


「……」

「店長またあの子ですよ。一体何してんでしょうか?」
「ああ……あの子か。良いから放っておきな邪魔だけはすんじゃないぞ」
「は? はぁ……分かりました」

「…駄目か。次行くか。」



*   *   *



「…。」

「ママー? 弾お兄ちゃんゴミ捨て場で何してるのー?」
「しっ! いいからこっち来なさい! お兄ちゃんの集中の邪魔しちゃ駄目よ!」
「んー? はーい。」


「【キュピーン!!】――― あった! こいつだっ!!」



*   *   *



「ふんふふーん♪(ガチャガチャ)」

「―――― おーい弾! どっか遊びにって何やってんだ?」
「ん? 何だ一夏か。悪いけど今手が離せんから後にしてくれ。」
「手が離せないって…あー、成程。これ何代目だ?」
「五代目。いやーようやく俺とフィーリングが合うチェーンとホイールを見つけてな? 後はサドルを見つけりゃ完成だっ! 早く一緒に街を駆けまわりたいぜ! 次は隣町の自転車屋にでも探し行くかね?」
「なんで自転車を買うんじゃなくて、一から創作なんて回りくどい事するんだよお前は。」
「馬鹿野郎。自分と相性の悪い部品だらけのモンなんざ乗れるか! 愛情込めて制作してこそ真の相棒だぞ。」
「あーそー。物好きな奴。」


―――あ、に、き…。


「―――」
「どうした?」
「いやなんでも。…『五代目五反田号』早く一緒に出前に行こうなっ!」





*   *   *




~ 短編その二 【 蘭のア・レ 】 ~


「―――― ないっ!? ないないないないっ!」

ドタバタガサゴソ!!

「どうして!? 何でないの!? 出かける前はちゃんとあったのに!! …まさか!!」

ダンダンダンダンッ!



*   *   *


「だから音じゃなくて、口で呼びなさい。なんぞ用か我が妹よ?」
「――― お、お兄!? 私の部屋に勝手に入ったりしてないでしょうね!?」
「三日前は入ったが、今日はまだ入ってないぞ?」
「そ、そう。なら良い…訳ないじゃない!? 勝手に入るなって言ってるでしょうが馬鹿兄っ!(ゴシャッ!)」
「べふぉっ!?」
「おう蘭、食堂で騒ぐんじゃねぇぞ。客がいんだから。」
「あ、ご、ゴメンなさい。」
「分かればいいんだよ。で? 何を慌ててんだ?」
「爺ちゃん蘭に甘すぎじゃね? そんな爺ちゃんが超好きだ!! で? 一体どうした蘭? なんか問題発生か?」
「い、いや別に何でもないよ? お、お兄は気にしなくていいからっ!!」
「ふむ?」
「あ、あのお爺ちゃん? 私の部屋に勝手に入ったりなんて事は…。」
「可愛い孫娘が嫌がる事を、この俺がする訳ねぇだろう。」
「だ、だよね。そ、それじゃ一体。」

タンタン。

「あら? 一体どうしたのみんな揃って。」
「俺は気にしなくていい事態発生らしいようはははははー妹に除け者にされたよ母さん慰めてっ!!(ヒシッ!)」
「あらあら、何時まで経っても弾は甘えん坊さんねぇ。(ポンポン)」
「子供だからね?」
「お、お母さん! お母さん私の部屋に入ったり―――。」
「蘭の? さっきお掃除する為に入ったけど。あっそうそう、蘭のベットの上に置いてあった…。」
「わぁーっ!?  わーっわーっ!?」

『あー? 何だよ煩ぇな、静かに飯も食え―――。』

「「あ゛ん? 家の可愛い(妹 / 孫娘)の声が煩ぇだぁ?」」

『てめぇ何処のもんだ? あぁん?』
『蘭ちゃんの可愛い美声が煩ぇとは、てめぇ何処のモグリだコラ?』
『五反田食堂の常連である俺らを前に、いい度胸してんなぁ?』

『…い、いえ。何でもないっす…はい。』

「お、おおおお母さん! そ、そそそそれは今何処に…!?」
「クスクス♪ 解れてたから、お母さんが直しておいたわよ。今はお母さんの部屋に―――。」
「―――(シュバッ!!)」
「あああああああああああああああああっ!? ば、馬鹿兄!? コラ待てーっ!(ダダダダダっ!)」
「ったく騒々しい孫達だ。」
「うふふふ♪」



*   *   *



「(シュタッ!)到着! ふふふ! 此処に蘭の秘密が! いざっ! オープ―――!!」
「―――― み、見たら泣くよっ!? 泣くもんっ!! ほ、本気で泣ぐがら゛っ!! じぇっじぇっだいに゛ゆるじゃな゛っ…!!」
「―――― ま、待て蘭! 落ちつくんだ、早まった真似をするんじゃないっ!? 深呼吸して冷静になって話をしようっ!! な、何が望みだ? 要求は何だっ!?(汗水ダラダラ)」



*   *   *



【 夜 】

「はぁぁ~。あ、焦ったぁ。う~…さ、裁縫セット。これからはちゃんと用意しとかないと」

ぽふぽふ。

「流石お母さん。綺麗に直してある。…うー、それにしてもあの馬鹿兄っ! 人の知られたくない事に普通に首突っ込もうとするんだから! こ、これだけは絶対にお兄に知られたくないもんっ!」

むぎゅ。

「う~、こ、この年になっても、これがなきゃ安心して寝られないなんて…ち、違うもん。私は、ブラコンじゃないもん~~~!!」

むぎゅ~~~~~~~~。





私の腕の中には【弾特製 それ行け弾人形】。




幼稚園の頃に、寂しがる私にお兄が作ってプレゼントしてくれた。




ヘンテコで、間抜けな作りをしてるけど、どうしても手離せない――― 私の小さな大きい宝物。





*   *   *



~ 短編 その三【 御手洗 数馬 幸運な日常 】 ~



「あ~~~~暇だ。何か面白いこと無いかな~? こういう時、彼女のいない独り身の寂しさが身に沁みるぜ。」

ゴクゴク…ポイ。

――― ガチャン。(ゴミ箱へホールインワン)

「ナイッシュー。…はぁ、一夏も弾も、IS学園に行っちまったからな~。っていうか俺の男友達二人が、IS起動できるなんて何処のマンガだよ。あー畜生羨まし~~~~! 今頃女の子に囲まれて楽しい思いしてんだろうな~~~。…あいつら何気に女子にモテるからな。一夏は言わずもながら弾は、一部の娘に人気あったし…なんだこの疎外感!? 俺にも何かあっていいだろう!? 理不尽だーっ!」

「ママー、あのお兄ちゃんどうしたのー?」
「しっ! そっとして置きなさい。色々と辛い事があるのよ。」
「んー? はーい。」


……。


「帰って寝よ。あれ、おかしいなははは。何か視界が滲むなぁ…。」

「――― あれ? そこいるのって御手洗君じゃん。何してんの?」
「あ、本当だ。おーい御手洗ー。」
「え? あ、み、御手洗君?」

「んー?って、中入江さんに灯下さん? それから人里さんも。奇遇だね。三人ともこれからどっか遊びに行くの?」
「んーまぁね。ちょっと買い物に。御手洗君は何してんの? こんな所で一人で。」
「寂しい奴よの~。」
「う、うるさいな。一夏も弾もIS学園に行っちまって、遊びに誘う奴がいないんだよ。他の奴は…大抵彼女いるし。はは、言ってて空しくなってきた畜生!」
「そうなの?」
「そうなの。もう今日は帰って休日をダラダラ過ごす事にするよ。あー…空しい。」
「そうなんだ。…文、枝理? ちょっといい?」
「ん? どうしたの花梨?」
「なになに?」

ボソボソ。

「ん? 何してんだろ?」

で――― から――― よ。

ん――― った――― 別に。

わた――― それで――― だね。

「???」

「――― よし決まり! おーい御手洗くーん。」
「んー? どうかしたの中入江さん?」
「そんなに暇ならさー? あたし達の買い物付き合わない?」
「――― What?」
「だからー、暇なら一緒に街に買い物に行こうって言ってんの。」
「―― マ、マジで!? いいのっ!?」
「ぬっふっふ。といっても荷物持ちという仕事が付いて来るけど、それでもいいのかにゃー?」
「も、勿論だ灯下さんっ! 女の子達と一緒に遊びに行けるなら荷物持ちでも何でも喜んでするよっ! 本当に一緒に行っていいの!?」
「うん。御手洗君が良ければ、私達は構わないよ。ね、文、枝理?」
「うんうん。それに御手洗君と一緒なのはこれが初めてじゃないしねー。」
「そだね。中学の頃もこんな感じだったし? 今更今更♪」
「―――って二人も言ってる事だし。遠慮しないで良いよ? 私もその、御手洗君が一緒なのは。う、嬉しい、かな。」
「ひ、人里さん…! ――― いぃやったああああああああっ!! 神様は俺を見捨ててなんていなかったんだ!! サンキュー神様! 世の中捨てたもんじゃないぜー!!」
「うはーさっきまで落ち込んでたくせに、現金な奴ー♪」
「ねー、それよりも私お腹すいちゃったー! まずは何処かでお昼にしようよ。腹が減っては良い買い物は出来ぬだよ?」
「うん、そうだね。それじゃあ何処かでお昼にしてからにしようか。」
「さんせー! ってことで、おーい御手洗くーん。いつまでも喜んでないでこっち来なよー! 置いてっちゃうぞー!」
「空腹じゃぁ荷物持ちはきっついよ?」
「御手洗君。二人も待ってるから…行こう?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ三人とも!? 今行くってーっ!!」


タッタッタッタッタ!!



*   *   *



「―――― ん? なんか数馬に幸運が舞い降りた気配が。」
「カズマって誰ー?」
「ふむ、俺が認めた数少ない野郎の一人でな? 俺と一夏の親友で、御手洗 数馬っていうジェントルマンだ。これが中々気さくな奴でいい奴だぞ? 俺、一夏、数馬。三人合わせて『三友士』と呼ばれていた位だ。」
「おー。だんだんが男の子を誉めるなんて珍しーねー?」
「あいつは他と違って、色眼鏡なしで一夏と鈴に接してたからなー。あの裏表のない性格はあいつの美点だ。中学時代は良く一緒に馬鹿やったなー。」
「ふーん。」
「けどまぁ、中学時代仲良しメンバー勢ぞろいで遊びに行く時は、俺と一夏と鈴で行動する事が多かったんだがね?」
「えー? なんでー? 親友じゃないのー? むー、仲間外れは駄目だぞだんだん~!」
「いやそうじゃなくてね? 他にも中学時代仲良しメンバーには、鈴の他に人里ちゃん、中入江ちゃん、灯下ちゃんっていう三人娘がいるんだが。」
「んー?」



「…この三人娘。どうやら全員数馬に気があるようでね?」
「おー♪」



「俺としては三人娘の応援もしたいし、親友の恋愛事情を見守ってやりたいしねー。まぁそんな訳で、よくこの四人で行動させようと目論んだ訳ですよ。しっかし数馬の奴、中学時代仲良しメンバーの中じゃ、一番モテてるくせに。本人全然気付いてねぇんだよなぁ。彼女出来ねーとかどの口がほざいてんだか。…三人娘の女の子達、中学校美少女ランキングベスト5に入ってる娘ばっかだぞあのドアホ。モゲロ!」
「だんだんも大変だね~」
「というか中学時代メンバーの中じゃ俺だけ寂しいじゃねぇかよ? 結構きついもんですよこれって?」
「ん~? 私は全然良いと思うけどな~。」
「ん? 独り身の何が良いのよ?」
「な、なんでもないよー?」
「ふむ? まぁ、そんな訳で。中学時代仲良しメンバーで行動する時は、数馬と三人娘の四人にさせる事が多かったって事よん。理解できたかな?」
「できた~♪」
「はてさて? 数馬は一体誰とくっ付くのかね~?」
「楽しみだね~」
「…いやむしろ不安だ。」
「なんでー?」



「一夏よりも先に…ハーレム作るかもしれん。あいつの場合。」
「お、おー。」




*   *   *



「―― ま、待ってくれよ!? 人里さん! 中入江さんっ! 灯下さん!? いくら何でも荷物多すぎないっ!?」
「あっはっは! ほら早くー御手洗君!」
「走れ走れー、女の子の買い物を甘く見た御手洗の失敗じゃー。」
「ふ、二人とも。御手洗君よければ少し手伝うよ?」
「――― い、いや大丈夫! な、なんのこれしきっ!」
「じゃこれも♪(ドサ)」
「ほいさっ♪(ドス)」
「あ! こら文! 枝理!」
「ふむおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」





*   *   *



~ 短編その四 【 絆 】 ~



【 小学校時代 公園 】

「おーい弾! お前シスコンだろ~!」
「あ、妹も一緒なのか。やっぱりそうなんだお前ー。」
「おにぃのともだち?」
「うむん? …お前等誰だ?」
「覚えてないのかよ!? クラスメイトだろ! 何度か一緒に遊んでんじゃないかよ!」
「野郎なんざ覚える気にならん。クラスの野郎なんざ山下と鈴木という名字しか覚えとらん。」
「なんだよそれ!? というか鈴木はうちのクラスにいないぞ!?」
「すまんどっちが山本だ?」
「「いねぇよっ!?」」
「蘭、離れなさい。いきなり喚きだしてこいつら変だ。兄の後ろにカモン!」
「んー。わかった。」
「おい! ふざけんなよこの野郎! ぶっ飛ばすぞ!」
「いい度胸だ掛かって来い。妹を背にした俺は最強だぞ?」
「お、おい馬鹿!」
「あ、い、いやいやうそ嘘。じょ、冗談だって!(弾って喧嘩強いもんなぁ)」
「―――っ俺は嘘がでぇ嫌ぇなんだ! 吐くのは好きだが?」
「どうしろってんだよ! や、やめろって、ゴメン謝るから!」
「おにぃ…けんかするの?(哀しい瞳)」
「はっはっは! する訳ないだろう? おい、蘭に感謝しろよ。」
「わ、わかったよ…ってそうじゃねぇだろ! お前やっぱりシスコンだろ!」
「しすこん?」
「何だ突然。お前意味分かって言ってんのか?」
「知ってるよ! シスコンってのは妹が好きで好きで仕方ない奴の事だろ? まんまお前じゃん!」
「今だって妹と一緒だしなー。お前ってシスコンなんだろ?」
「おう。俺はシスコンだが何か?」
「うわっ! 認めたよコイツ!」
「やっぱそうなんだ! うわ変なのー、気色悪ぃー!」
「むしろ妹を嫌う奴の考えが分らん。俺は蘭が大好きだ! 兄が妹を好きで何が悪い。」
「ん。(むぎゅ)」
「うわー、本気で言ってるよ。」
「っていうか妹の方も嬉しそうじゃないか? ってことは妹はブラコンってやつか?」
「うっそ! うわホントだ!」
「ぶらこん?」
「ブラコンってのはな? お兄ちゃんが大好きで仕方ないって奴の事なんだぜ? 弾の妹。」
「!?」
「おいコラ、お前何蘭に気安く話しかけてんだ? ぬっ殺すぞ?」
「おいおい止めろって、シスコンがうつるだろー。」
「知っているなら話は早い。うつしてやろう。」
「え、うつんの!? や、やめろよ馬鹿!?」
「シスコンにブラコン兄妹か。うわー変態だ。変態兄妹だ!」
「!?!?」
「あー、お前等。ガキにありきたりな挑発はその辺にしとけー。うん、なんと言うか蘭がこのままいくと―――。」
「「変態兄妹! 変態兄妹!」」
「おーい。」
「おい、みんなに教えてやろうぜ! こいつら変態兄妹だって!」
「だよなー。うつったら大変だもんなー。」
「聞けよ。」
「…もん。」
「ん? 何か言ったか? ブラコンの妹。」
「なんだよ。言いたい事があるならはっきり言えよブラコンの妹」
(あーどうすっかなー? ガキを殴る趣味は無いんだが黙らすにはその方が良いかねー?)
「わ、わたし、ぶらこんじゃないもん。」
「えーだって見ればわかるじゃん。今だって弾にくっついてるし。」
「説得力ないぞー。」
「―――― (パッ)ち、ちがうもん! ぶらこんじゃないもん!」
「気にすんな蘭。馬鹿の言う事だからな? というかお前等それが言いたくてわざわざ来たのか? 暇だな。」
「お兄ちゃんに守られてるよ。やっぱこいつ等変態兄妹だ!」
「シスコン! ブラコン!」
「ち、ちがうもん! ちがうもん!」
「…はぁ。お前等いい加減にだな?」


「お、おにぃなんてきらいだもんっ!!」


「―――――― ゴバァッ!?(吐血)」
「「ぎゃあああああああああああああああっ!? 弾が血を吐いたああああっ!?」」
「お、おにぃなんてきらいだもん! すきじゃないもん! なんともおもってないもん!」
「ゲフォっ!? グヘッ!! ガハァァっ!? (倒れ伏しさらに吐血)」
「「ひいいいいいいいいいいいいいぃぃぃっ!?」」
「お、おにぃなんか、おにぃなんか…!」
「や、やめろって!? わ、分かったから! 俺達が悪かったから!! それ以上はやめてやってくれよ!?」
「オーバーキル! それ以上はオーバーキルだから!! 弾のHPはもうゼロよ!?」

「――― おにぃなんか、べつにいらないもんっ!!」

「――― ごああああああああああっ!? (吐血、鼻血、耳血の三拍子)」
「「うわああああああああああああああああああああっ!!? 弾んんん―――――っ!!?」」
「……。(ビクンビクン)」
「――――――― っ!!(タッ!)」
「お、おい妹! 何処行くんだよ!? 忘れてる! 弾忘れてる!」
「きゅ、救急車! 誰か救急車―――――っ!!」



【 その夜 布団の中 】

「・た、足りねぇ…!? 血が足りねぇ…! 喰いもんじゃんじゃん持って来い…! まぁ夕飯食いましたがね? 無論おかわりましたが何か?」
(…。)
「それにしても。あー、あいつ等余計な事言いやがって! 明日学校で覚えてろよ! 小学生時代の記憶に忘れたくても忘れられんトラウマをプレゼントしてやろう! くくくくくっ!(邪悪な笑み)」
(…。)
「まずはそうだなー。手始めにあいつを…ん? あ、ヤバい顔忘れた。どうしよう?」
(…。)
「ま、いっか。クラスの野郎全員にやりゃヒットすんだろ。連帯責任。うむ良い響きだ、社会は厳しいのだよ。」
(…。)

もぞもぞ。

「おおう? 寝込みを襲うとは何奴か! ワシの命は安くは無いぞ!?」
「…。」
「正体を見せろ曲者めっ!(ガバッ!)――― およ?」
「…。」
「あ、なんだ天使か。いやーびっくり…え!? 天使!? 俺死んだの!? またかよ!? 今度は何処よ!?」
「(ギュッ)」
「はいはーい。冗談は此処までにしますよー。へいどうした蘭? 何事よ? 怖い夢でもみたのかね? 爺ちゃんでも夢に出た? そりゃたしかに怖いわ。」
「(フルフル)」
「ふむ? 違ったか。そんじゃ寒いのか? 確かに最近肌寒いが、兄を湯たんぽ代わりにする程ではなかよ?」
「…おにぃ。」
「へい。お前の兄ですが何か?」
「あ、あのね…?」
「おう?」
「…えと…んとね?」
「何この可愛い生き物。」
「わたし…お、おにぃのこと、きらいじゃないよ…?」
「…。」
「い、いらないなんて…お、おもってないもん…。」
「…。」
「…ぐすっ…。」
「…知ってるよ。」
「っ(ギュゥ)」
「もう寝ろよ? 今日はこのままでいいからな? おやすみ蘭。」
「…おやすみなさい。」





――― 本当、最高の妹だよお前は。



【 後日 】


「―――― さて? 覚悟は良いか貴様等。」
「「「「「「ちょっと待て!? これどういう状況!?」」」」」」
「昨日、俺の妹を悲しませたクソ野郎がこの中にいる。だが大変残念なことに、俺はそいつ等の顔を覚えていなくてな? 連帯責任だ、全員恨むならそいつを恨め」
「「「「「「理不尽すぎるぞっ!?」」」」」」
「そう言ってくれるな。俺だって辛いんだぜ?(にやにや)」
「「「「「「嘘吐け―――――っ!?」」」」」」
「はははは、まぁいい。それよりどうだ? 野郎共よ、全員椅子から動けんだろう?」
「「「「「「何しやがったんだお前!?」」」」」」
「野郎の椅子全員に超強力瞬間接着剤を塗りたくった。いやーニ十本も使っちまった。」
「「「「「「アホかあああああああああああああっ!?」」」」」」
「くくくく…何を慌てている? 地獄はこれからだぞ?」
「「「「「「!?」」」」」」
「動けないだって? 何を言っているんだ方法はあるだろう? そう、ズボンを脱げばいいんだからなぁ?」
「「「「「「―――――っ!?」」」」」」
「ちなみに体操服のズボンという逃げ道はないぞ? 俺が全部隠したからなぁ?」
「「「「「「あ、あああ、ああああああっ!?」」」」」」
「理解したようだな? さて貴様等全員―――――。」
「「「「「「――――――――っ!?」」」」」」

「――― 今日はパンツ一丁で下校しろ。この変態共。」

「「「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」」」」」」

「じゃ、俺帰るから。じゃーなー。」
「ま、待ってくれ!? 待ってくれよ五反田!? 俺無関係! 俺は無実だ!!」
「俺だってそうだ! 俺昨日家から一歩も出てねぇってば!?」
「俺もそうだ!!」
「僕だってそうだ!」
「わいも!」
「too me!」
「あっそうなの? ご愁傷様ー。」
「「「「「「いやああああああああああああ!! 待ってえええええええええええ!?」」」」」」

「あ、あれ? 俺動ける?」

「「「「「「何だと!?」」」」」」
「あん? 何してんだ数馬。早く帰ろーぜ?」
「「「「「「なんで御手洗だけ!?」」」」」」
「こいつだけは識別つくから。いくぞー数馬。」
「あ、ああ! じゃ、じゃあな皆! お先っ!!」
「待てコラ御手洗!? お前だけズルイぞ!」
「テメェのズボン寄こせコラ!?」
「嫌だよ!? わ、悪いみんな! 俺はまだ清いままでいたいんだ!」
「「「「「「俺達だってそうだボケえええええええっ!?」」」」」」

「ま、待ってくれ弾! 悪かった! 俺が悪かったから勘弁してくれ!」
「もう言わない! 変態兄妹なんて言わないから!!」

「「「「「「――――― テメェらのせいかああああああああああああああ!? やっちまええええええええええ!!!」」」」」」
「「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」」



「うわぁ、パンツ一丁の集団が一斉に…地獄絵図だな。行くぞ数馬ー、変態がうつる。」
「お、お前マジで男に容赦ないのな?」
「体操服のズボンは掃除用具の中だ。誰か気付くだろ? 行くぞー。」
「お、おう。(俺、絶対コイツ敵に回すのだけは止める。)」






*   *   *



~ 短編その五 【 仏国の老紳士 】 ~



【 とある上流階級の屋敷 】



ヒソヒソ……


(……あれが旦那様の。)
(……全く、一体どの面下げてこの屋敷に来たんだか。)
(……本当、母親の顔が見て見たい……あ、もういないんだっけ?)
(おいおい、聞こえるぞ。あれでも一応社長の娘なんだから。)


「………。」
「何をしている? さっさとこっちへ来い。」
「あ……ご、ごめんなさい。」
「フンッ。……ったくなんで俺が、社長の命令じゃなければ……。」
「………っ。」



――― ここが、あの人の住む家……。



ギイイィィィッ。


「おい、しばらく此処で待っていろ。社長がお帰りになるまで大人しくしてろ。」
「あ……はい。分かりました。」


ヒソヒソヒソ…………。


(……綺麗で、広い部屋だな……。)


―――っ! ―――っ様!


お―――! 止め―――っ!


(……ん? 何だろう?)


『お、奥様お待ちください! 旦那様からは決して会わすなと命令されておりまして!』
『退きなさいっ! 私はアンタ達の雇い主の妻! この家の本妻よっ! 私の命令が聞けないって言うの!?』
『し、しかし―――っ!?』
『退けと言っているのが分らないの!? クビにされたいのっ!?』
『!も、申し訳ありません……。』


――― バンッ!!


「―――っ!?」
「っ! ……へぇ? 貴女がそうなの? よくもまぁこの屋敷に顔が出せたものねぇ?」
「……え?」
「お、奥様。あまり問題を起こされては旦那様に……!!」
「うるさいわねっ!? 黙ってなさいこの使用人風情が! 誰に口をきいてるのよっ!?」
「も、申し訳ございません!」
「あ……あ、の?」
「……っ(ギリィッ!)」


ツカツカツカツカ……!


「!?」
「この……!」
「!?!?」
「泥棒猫の娘がっ!!」
「―――っ!?」


バシィィンッ!!


「―――っ!」
「……なっ!?」
「……?」

「おやおや、これは何とも強烈なご挨拶ですね? マダム。この老体には少しばかり刺激が強いので、これからはお控え願えませんかな?」

「あ、貴方確か! 先週この屋敷に来た……!?」
「はい、しがない老いボレの使用人でございます。マダム。」
「だ、誰……?」
「おやおや? こちらにも可憐なお嬢さんがいらっしゃいますね? 初めましてお嬢さん。私はこの屋敷の使用人の一人でございます。お見知りおきを。」
「あ、ど、どうも初めまして。えと、シャルロットと言います。」
「おお! なんと名前も可憐ですね? やはり可憐な女性には、おのずとそれに見合った名前が付いて来るものなのですね? ほっほっほ。」
「そ、そんな。そんな事無いです。(照)」

「貴方っ!? 一体どういうつもりなの!? 使用人の分際でこの私に逆らう気なのっ!? そこを退きなさい!」

「それは出来ない相談ですマダム。今私が此処を退いたら、可憐な少女に危害が及んでしまいますから。」
「……え?」
「私に逆らう気なのっ!? クビにされても構わないって事かしら!? 覚悟は出来てるんでしょうね!?」
「ほほう? 私をクビになさる? それは何とも困りましたねぇ。」
「あ、あの! も、もしかして、さっき僕の事庇って……!?」
「はて? 何の事でしょう? 私はただ、愛用シークレットブーツを探していまして、たまたまお嬢さんの前を通りかかっただけですが?」
「シ、シークレットブーツ?」
「はい。見ませんでしたかな?」
「す、すみません。見てないです……。」
「何処行ったんでしょうねー? 老いボレとはいえ、身長は気にするんですよ。」
「あ、あ、ああ、貴方私を馬鹿にしているのっ!?」
「誰が馬鹿ですとっ!? まだボケてはいませんぞっ!?」
「言って無いわよ!? いいからそこを退きなさいっ!! 本当にクビにするわよっ!」
「今は別に退職金は要らないのですが?」
「っ!! なんなのよコイツっ!? 誰かっ! この男を屋敷から摘まみだしなさいっ!!」
「あ、あの! ぼ、僕の事は良いですからっ! は、早く謝って! でないとお爺さんっ!」
「ほほう? 『此処は任せて先に行けっ!』というシチュエーションですかな? お嬢さん。貴女とは美味いミルクが飲めそうです。」
「違いますよっ!? って何でミルクっ!?」
「最近は、健康を考えお酒は控えてまして……一日、ウィスキーを二杯しか飲んでないんです。」
「控えて無いよっ!? っていうか質問の答えにもなって無いよ!?」
「いい加減にしなさいよ!? 誰かっ! 早くこのふざけた老いボレを早く―――っ!!」


タッタッタッタ……!!


「――― っお、奥様っ!」
「遅いわよ! このノロマ! 何をしていたの!? 早くこの男を―――!!」
「お、お待ちください奥様っ!! この方は!」
「何よっ!? 貴方達まで私に逆らうっていうのっ!? 全員クビされた――!」
「落ち着いてください奥様っ!!」
「――― っな、何!? な、何でそんな切羽詰まった顔してるのよ……?」
「お、奥様……お耳をお貸しください。」
「はぁっ!? 一体何事よっ!? 何でそんな事する必要があるのよっ!?」
「いいですから! お早くっ!」
「な、何だって言うのよ……!? ああもう! 何っ!?」


ボソボソボソボソ……。


「おや? どうしたのでしょうかね?」
「あ、あのお爺さんっ! 早く謝らないとお爺さんがっ!」
「ああその事ですか? 大丈夫ですよお嬢さん。心配いりません。」
「で、でもっ!」



「―――……え?」



「……どうやら、話しは済んだようですね。」
「……え? ど、どういう事?」


「……え? う、嘘でしょう?」
「―――っ!(ブンブン!)」
「……(血の気が引く)」



「……さて、と。」



ビクゥ!!


「……どうやら、マダムにはお話が伝わってなかったようですなぁ?」
「あ……あ、その……!」
「いえいえ、責めてる訳ではありませんよマダム。どうせ無能でカスで屑で見栄しか張れないこの屋敷の主人(笑)が、話してなかっただけでしょうからね? ……あれ程、サンドバックにして肉体言語で話しを言い聞かせたというのに……あの野郎はまだ分からないようですなぁ……? ククククク。」
「「「「「―――ヒッ!?(ビクゥッ!!)」」」」」
「に、肉体言語?」
「まぁ、あの野郎への処置は後回しとして……マダム?」
「は、はい! な、ななななんでございましょう!?」
(え!? 何だか怯えてるよっ!? しかも敬語!?)
「今回の事ですが……マダムがこの場から引き下がって頂けるのでしたら、今日の事は私の胸の中のメモリアルボックスの中へと閉まっておきましょう。どうですかな?」
「そ、それは!」
「――― どうですかな?」
「ヒッ!? わ、わわわわ分かりました! そそそそそれで結構ですっ!!」
「おお! それはありがたい! マダムの広い心に感謝致します。」
「……。(唖然)」
「そ、そそそそそそれでは! わわわ私はこれでっ!!」
「はい。またお会いしましょう、マダム?」
「え、ええええ! そそそそそうですわね! オホホホホホ!」
「お、奥様っ!?」


カッカッカッカッカッカッカッカッ!!

――― バタァン!!


「……。(呆然)」
「いやー、まるで嵐の様に激しいマダムでしたなぁ。」
「……あ、あの?」
「おおっと、これは失礼しましたお嬢さん。どうかしましたかな?」
「い、いえその……お爺さんって、一体何をしている人ですか?」
「ほっほっほ。何をしているも何も、見ての通り唯の老いぼれた使用人ですよ? お嬢さん。」
「そ、そうですか?」
「ええ、そうなんです。ほっほっほっほ!」
(……絶対嘘だ。絶対なんか凄い人だ!)
「確かに、私は脱ぐと色々凄いですよ?」
「そっちじゃないよ!? っていうか人の心読まないでくださいよっ!?」
「いやーはっはっは! 申し訳ありません。お嬢さん。」
「もー。」


…………。


「あ、あの……さっきはありがとうございました。」
「おや? 何のことでしょうか?」
「……さっき、僕があの人に叩かれそうになった所を、助けてくれたんですよね……?」
「はて? 何のことやら? 私は唯シークレットブーツを探して……。」
「……あ。あそこに落ちてるのそうじゃないですか?」
「え!? 嘘、本当にあるのですか!?」
「……。」
「何と言う事でしょうっ! まさか本当に―――ってあれ? 何もありませ……あ。」
「……。」
「……。」
「……今、『え!? 嘘』って言いましたよね?」
「……ふっ、まさかこのような巧妙な手段を使うとは……流石はお嬢さん。侮れませんね……。」
「……。」
「……。」
「……ぷっ。なんですかそれ? クスクス。」
「いやーっはっはっは……これは何とも気恥ずかしい。」
「あははは。…えっと、とにかくありがとうございました。」
「いえいえ、いいのですよお嬢さん。女性を助けるのは紳士として当然です。」
「あは、そうなんですか?」



「それに……あの方の、大切な娘である貴女が傷つけられるのを、黙って見ているなど……私には到底出来ません。」



「……え?」
「お美しくなられた。本当に、若い頃の貴女のお母様にそっくりです……シャルロット様。」
「っ!? は、母を。僕のお母さんを知ってるん、です、か……!?」
「まだ貴女のお母様が、貴女位の年齢の時に、少しの間でしたが…お世話をさせてもらった過去があると言うだけですよ。もう二十年以上も前の事ですが……もうそんなに経つのですね。」
「っ! そ、うですか。」
「……お母様の事は、本当に残念でした……。もっと早くに私が気付いていれば、こんな事にはならなかったと思えてなりません。……本当に、貴女には何と謝ったらいいか。」
「そ、そんな! 謝るだなんて! ……その気持ちだけで、十分です。……お母さんの死を、僕以外にも悼んでくれる人がいる。それでけで……じゅう、ぶん、で……っ!」
「………。」
「……ふっ! ……っ!」
「シャルロット様。」
「っ! ……ふぁ、ふぁい……グスッ。」
「これからは私が貴女のお母様に代わって、貴女をお守りいたします。辛い事、苦しい事、悩み事。何かあったら、いつでも私に頼ってください。必ずお力になります。」
「え! えぇっ!?」
「私では不服ですかな?」
「そ、そんな事無いです! だ、だけど……! ぼ、僕なんかに味方したら……!」
「シャルロット様っ!!」
「――― は、はいっ!」
「お母様の愛情を一心に受け育ったご自身の事を! なんかなどと言ってはなりません! 胸を張りなさいっ! 貴女がご自身のことを卑下にしてどうするのですっ!?」
「―――っ!?」
「愛人の娘? 妾の子? そんな物がなんですっ!! 貴女はお母様の最愛の娘! シャルロット・デュノアなのです!」
「―――っ!!」
「……ですから、どうか。ご自身の事を、蔑に扱わないでください……でなければ、天国のお母様だけでなく、私も悲しくなってしまいます。」
「……あ。」
「ご理解いただけましたかな? シャルロット様?」
「は、はい…。……ごめんな、さい……。」
「いえいえ、私の方こそ。いきなり大声を出してしまい申し訳ありません。」 
「そ、そんな事! ……あの、ありがとうございます……ちょっと、嬉しかったです。」
「ほうほう……シャルロット様は怒られて喜ぶ傾向があると……メモっときましょう。えーとペンは何処だったかな?」
「ちょっ!? な、何をメモしようとしてるんですかっ! 止めてください! ちょっ! もー! お爺さんっ!!」
「ほっほっほっほっほっほ!」
「……全くもぉー。(でも、なんだか温かいな……。)」
「それではシャルロット様。これからもよろしくお願い致します。この命続く限り、シャルロット様をお支えする事を、ここに誓います。」
「えぇ!? お、お仕えって……!? で、でもお爺さん。このお屋敷の使用人じゃ!?」
「ああその事ですか? 大丈夫です、私もシャルロット様のお住みになっている別荘へと参りますから。」
「え、えええええええ~っ!? そ、そんな事して大丈夫なんですか!?」
「ええ大丈夫です。後で、あのカス野郎に『承諾させてください』と、頼ませますから。……さーて……何分持つでしょうねぇ……(二ヤリ)。」
(な、何する気だろう?)
「……それに、この屋敷ではシャルロット様も安心して暮らせないでしょうから……ねぇ?(ギロリッ!)」


「「「「「…………うっ!(サッ!)」」」」」



「と、言う訳でして。これからよろしくお願いします。シャルロット様。」


………。


「ほ、本当にいいんですか……?」
「はい。」
「た、頼っちゃいますよ……?」
「はい。」
「ぼ、僕。結構わがままですよ……?」
「女性はその位が可愛らしいのです。」
「め、迷惑だって掛けるし、きっと色々困らせちゃいますよ……?」
「ドンとこいです。」
「……ほ、本当に、本当に! ぼ、ぼく……! あ、あみゃえ……ちゃっ!」
「――― シャルロット様。」
「……ふっ! ……ふぅっ!!」




「――― この老いボレを、どうか貴女の『家族』に、迎えて頂けないですかな?」

「――― っ!? うっ……!! っうわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」








――― お母さん。

――― 僕ね、とっても素敵な……新しい家族ができたよ。



*   *   *



【 おまけ 】


「シャルロットお嬢様っ!?」
「う、うわぁっ!? なな、何の用なの爺っ!? いきなり部屋に入って来ないでよっ!?」
「何ですかこの際どい黒の下着は!? こんな物持っているなど私は存じませんよっ!?」
「わあああああああああああーっ!? な、何で持ってるのさー!? か、返して! 今すぐ返して!」
「いけませんお嬢様!! お嬢様にはまだ早すぎますっ!! ……はっ!? も、もしや意中の男性が!? な、なりませんよお嬢様!? 何処の馬の骨かは知りませんがっ! この爺は絶対に許しませんぞっ!?」
「い、いないよそんな人っ!! そ、それはちょっと魔が差したというかなんというか……! と、とにかく返してったら!!」
「おのれ何処クソ野郎だっ!? 大事な大事な孫のように愛らしいシャルロットお嬢様を誑かす不届き千番な輩はっ!!」
「聞いてないっ!?」
「こうなったら本家の財力使って……いや駄目だ、私自ら動くのはマズイ……デュノア社に出させるか……?」
「何不吉な事言ってるの爺っ!? 止めてよ! この前、デュノア本家のお義母さんから電話あって『お願い……! あの方何とかして……!! 止められるの貴女しかいないのよ……っ!!』って懇願されたばっかりなんだからね!?」
「ぐぬぬぬぬ……ハッ!? そうだ! 『あのお方』ならいい案を出してくれるかもしれん!! 至急連絡を取らねばっ!!(シュバッ!!)」
「って早!? ちょ、ちょっと待ってったら爺! 後下着も返してってばーっ!! もおおおぉぉぉっ!! 爺ぃぃぃっ!?」



*   *   *



チリリリリーン……ガチャ。


「はいっ! お電話ありがとうございます! 五反田食堂です! ご用件はなんでしょう? ……はい? 兄ですか? 少々お待ちください。……お兄ーっ! 電話ーっ!」

シュバッ!!

「おう! 呼んだか蘭?」
「……なんで二階にいたのに、一瞬でここまで来れるのよ。」
「……っ!?(二階を見上げながら愕然)」
「自分でも分かってないの!? あーもーとにかく、お兄に電話だよ。」
「誰から?」
「分からない、お兄に代わって欲しいって。男の人から。」
「すぐ切れ、俺忙しい。」
「嘘吐かない! 早く代わってよ! 電話の人が待ってるんだから!」
「えー? んだよ、野郎の為に割く時間なんか持ってねぇってのに……ったく。」
「はい。」
「あいよー。はい、代わりました五反田 弾です。どちら様でしょうか?」
「愚痴言ってたわりには礼儀正しいっ!?」
「……おー? 何だよお前かー。電話なんて珍しいな? 元気にしてるか?」
(……知り合いだったんだ。向こう行ってよっと。)


スタスタスタ……。






「――― で? 何の用だよ『セバスチャン』? 何か問題発生か?」





*   *   *



~ 短編その六 【 紳士の娯楽は大人気? 】 ~



【 五反田食堂 日曜の昼下がり 】


―― ガヤガヤ


(……ふぅ、少しだけお客さんが減ったかな。はぁ……お兄が居ない分こっちにしわ寄せが来て堪ったもんじゃないわよったくもぉ……!)

『もぐもぐ……ング……! ごちそうさまーっ!』
『あら? まぁっ! たくちゃん偉いわねぇ! 嫌いなニンジンも全部食べきるなんて!』
『うん!』

(それにしても、最近子供連れのお客さんが多いな。今いるだけでも四組は家族連れだし……)

『じゃぁもう行くか? すいませーん、お勘定お願いします』
『おーい蘭。会計っ!』

「―― あ、はーい! ただいまぁ!」


タタタタ……


「ありがとうございました! えーと『業火野菜炒め定食』が一つ、『五反田日替わり定食が』一つ、『おこさまごたんだランチ』が一つで……計1560円です」
「はい、じゃこれで」
「2000円お預かりいたします。お釣りが440円ですね。毎度ありがとうございましたーっ!」
「美味しかったです。いやタマには家族で来るのもいいものだな」
「そうねぇ。なんだかホッとするし」
「へへ♪ そう言って貰えて嬉しいです。またのお越しをお待ちしています!」
「さてと! じゃあ遊園地に行こうか?」
「そうね。ほらたくちゃん? 行きましょうね~」
「……?」
「……あれ、どうかしたのかなボク?」
「たくや?」
「どうしたのたくちゃん?」


「……カードは?」


「「「カード?」」」
「うん」


パタパタパタ


「あらあらそうだったわ。ごめんなさい」
「お母さん!」
(……やっぱり綺麗な人だな)
「……あなた?」
「な、何でもないぞ!?」
「ごめんねぇ? お姉さんすっかり忘れていたわ。それでボク? 好き嫌いしないで全部綺麗に食べられたかしら?」
「うん! おやさいもぜんぶたべたよっ!」
「ええそうみたねぇ。―― はい、それじゃあカードは5枚です。頑張ったわねぇ♪」
「やったー!」
「……成程こいつめ。カードが欲しくて、この食堂でお昼を食べたいだなんて言い出したんだな? 全く仕方ない奴だな」
「でへへへ~♪」
「そう言うサービスもしてるのね。この食堂って」
「お……お母さん? カードって―― って食堂の子達が集まって来た!?」

『なにがあったったの!?』
『みせてみせてー!』
『う~~~んっと……うげっ! 【ナンパヤーロン】だ……』
『野郎カードかぁ……ほかのは!?』

「な、何これ……?」
「実は弾に頼まれててね? 『おこさまごたんだランチ』を頼んだお子さんには、この袋のカードを渡して欲しいって頼まれてるのよ」
「お、お兄の仕業か……! お爺ちゃん許してるの?」

『……まぁ、な。こっちにとっても悪い話じゃねぇからよ』

「ええ♪ 残さず全部食べ切れた子には5枚。残しても野菜だけはを全部食べれた子には3枚。野菜も残して全部綺麗に食べれなかった子には1枚渡してって」
「そ、そうなんだ?」
「御蔭で此処に来る子はみんな、カード目当てで頑張って全部食べようとしてくれるの。片付けが随分楽になったわ~♪ ご家族揃ってのお客さんも増えて家も万々歳よ♪」
「そうか。だからあいつ全部綺麗に食べたのか」
「カード目当てって言うのはどうかと思うけど……まぁいいわ! それで好き嫌いせずに食べてくれるなら。ねぇあなた?」
「ははははは。そうだな!」
「ふ~~~~~~ん……?」
「あら、どうしたの蘭?」
「……別にぃ?(……お兄ってば……何で私にそう言う事話して行かないのよっ! 馬鹿っ!)」

『……【ストッ漢】、【ヒキコモニート】……うわぁまた【カマセドック】だ……これで8枚目だよぉ』
『うわぁ……全部、野郎カードだよ』
『あ~あ……さいごの1まいかぁ……』

「あのカードって此処意外にも売っている物なんですか?」
「いえいえ。どうもこの地域限定の物みたいで……というか家の上の子が何処で手に入れたのか突然広めた物みたいで……売り物じゃないみたいなんです」
「え? じゃあどうやって集めてるんだ、たくやの奴?」

『……ああ、そう言やあいつ。この辺の年寄りや小さな女の子、困っている女とかに優しく親切にしたり、ちゃんと挨拶や礼儀をしっかりとしていたり、公園のゴミ拾いをしたりとかしたガキ達に褒美としてタダでやってるとか言ってやがったなぁ?』

「……ははぁ。成程ねぇ? 最近よく素直に言う事聞くのもその延長かぁ」
「道理でこの辺りの子達が元気に挨拶を返してくれてると思ったわ。素敵じゃない!」
「うんうん。いや素晴らしい事をするお子さんですね」
「うふふふ♪ 少しヤンチャなのが困りモノなんですけど。自慢の息子です」

『―― へんっ! やる事がガキ臭いだけだあいつぁよぉ! っとイケね火が強すぎんな』

「……断じてそんな生易しい例えじゃないよ……歩く人災だよあの馬鹿兄は」

『―― やったあああああっ!! 【超越紳士 DANSHAKU】だあああああああっ!!』
『ええええっ!? 超レアカードの!? み、みせてみせて!』
『ほ、ほんとだっ! すっげえええええっ!』
『こ、こうかんしてっ!』
『やだよっ! やっとあてたんだからっ!』
『それじゃオレのもってる【究極武帝 GENSUI】とならどうっ!?』
『えぇっ!? う、う~~~~ん……!』
『ぼ、ぼくもはやくぜんぶたべてカードもらおっ!』
『オレもっ!』

「はははははは、たくやの奴欲しいカードが当たったみたいだな」
「そうみたいねぇ。ほらたくやっ! 早くしなさい。遊園地行くんでしょ?」

『―― あ、うん! それじゃかえってきてからねっ!』
『わかった! そのときバトルもしようねっ!』
『もちろんっ!』

「……なんだか妙な名前のカードがあるような?」
「うふふふ。子供って元気よねぇ♪」


―― カラカラカラー……


「―― あっ! いらっしゃいませー……ってまた家族連れっ!?」
「あらあら♪ 大変」
「ママっ! 早く早くっ!」
「はいはい。全くこの前も此処に来たのに飽きない子ね」

『らっしゃいっ! おい二人とも仕事に戻れっ!』

「は、はーい! いらっしゃいませ何名様ですか?」
「二人です」
「二名様ですね! こちらへどうぞーっ!」
『すいませーん! 会計お願いしまーす』
『うえっぷ……ぜ、ぜんぶのこさずたべたぞぉ~』
「あらあら♪ はーいこちらへどうぞ」


スタスタスタ……


「いらっしゃいませ! ご注文は如何いたしましょう?」
「ボク『おこさまごたんだランチ』!」
「もぉこの子ったら……それじゃぁ私は『カボチャの煮漬け定食』を」
「……ご、ご注文ありがとうございます! 少々お待ち下さいませ!」

「はいどうぞ♪ カード5枚ね」
「やったぁっ! はいお父さんは2枚ねっ!」
「あははは……よーし、良いのが当たっても交換しないぞぉ? 慎重に選ばなくていいのかぁ?」
「ちょ、ちょっと待って! う、う~ん! うぅ~~ん……!」
(―― 大人にも浸透してるのっ!?)

『おかあさーん! はやくぅ!』
『そんなに急がなくたって大丈夫よ』
『へぇ~此処が『五反田食堂』か。初めて来たなぁ』
『だんおにぃたんいるかなぁ?』
『いいな? おまえも『おこさまごたんだランチ』たのむんだぞ?』
『わかったの』


(また来たっ!? ま、また忙しくなる! せっかくお客さんの波が治まったかと思ったのにぃ!? ―― そ、それもこれも……あの馬鹿兄のせいだああああああっ!! 帰ったらおぼえてなさいよぉっ!?)


カラカラカラー……


「「「―― いらっしゃいませ!! ようこそ五反田食堂へっ!!」」」



*  *  *



【 IS学園生徒会室 】


「―― ぐぉぉぉっ!? そ、そんな馬鹿な……っ!? この俺が一方的にやられているだとっ!?」
【相棒。残りのソウルが僅かですよ】
「おお~♪ だんだん弱いなぁ~」
「こ、この俺が……ルール覚えたばかりの素人である、のほほんちゃんに負ける……だと……!? や、やらせん! やらせはせんぞっ!?」
「あはははは、ダーリン頑張ってぇ~★」
「……それにしても珍しいカードゲームですね。一体何処のメーカーなのかしら?」
「この【乱立の旗騎士 ワン・サマ】とか、何処かで見た気がするのは何でかしらね~♪」
「ドローッ!! ―― 来たああああっ! これで流れは俺の物だ! 行くぜステージの野郎カードを2枚地獄に落し! さらに1枚の淑女カードを楽園へ誘い【超越紳士 DANSHAKU】を降臨っ! ふはははっこれで俺の勝機が見えてきたぜっ!」
「ところがどっこい罠カードだよ~」
「ふふふふ甘いぜ、のほほんちゃん! 【超越紳士 DANSHAKU】は三回まで、このカードに対しての罠カードや妙技カードを無効化し! かつステージ上の淑女カードの枚数分攻撃力、防御力が上がり! さらには淑女カード以外の攻撃を受け付けないという最強レベルの超レアカード! 何をしようが無駄だっ!」
【流石は最高レベルの紳士カード。能力もケタ違いですね。相棒の切り札とも言っていいでしょう】
「うわ何その反則レベルのカード……ってこれ何かダーリンに似てない虚ちゃん?」
「そうですね(……ち、ちょっと欲しいかも……)」
「罠カードオープ~ン! 【お兄ちゃん大好き♪】」
「―― 何ぃっ!?」
「ふっふっふ~♪ ステージに兄属性のカードが存在する場合に発動する罠カード~。このカードの効果でデッキから妹属性のカード1枚直接降臨しまーす。ほんでもって私は【妹愛天使 ランラン】を降臨するのだった~」
「ば、馬鹿な……そのカードはっ!?」
「そして【妹愛天使 ランラン】の限定特殊効果によりー。敵側の【超越紳士 DANSHAKU】の使用権限は私のものだよ~♪」
「しまったああああああああああああああああっ!?」
「ふっふっふっふ~。覚悟は良いかなだんだんー?」
「か、壁になるカードが無い! なら罠カード―― 駄目だ! 【超越紳士 DANSHAKU】に全て弾かれる! ちょ、ちょっとタンマ! タイムッ!?」
「駄目~♪ 直接攻撃ーっ」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
【相棒のソウルが0となりました。勝者のほほん嬢です!】
「うわぁ~い♪」
「お……俺の……無敗神話が……っ!?(ガクリ)」
「凄いじゃない本音ちゃん。ルール覚えて1時間しか経ってないのに」
「本音はこう言ったゲームに本当に強いものね?」
「えへへへ~♪」
【驕りを持つからそうなるのです。製作者だから強いなどと言うのは間違いですよ相棒? いい薬です】
「……ぐぅっ……! か、返す言葉も無い……」
「「「製作者なの(~)っ!?」」」
「いや、全部俺が作った訳じゃないんだがね? 少しアレンジ加えただけさ。【世界紳士連合】内で作られて、その中の娯楽の一つになってるのよこのカード。」
「そ、そうなんだ……?」
「しかし……はぁぁ~……これで俺の無敗神話も終わりか……正直悲しいぜ……」
「元気出してダーリン♪ 負けを知ってまた強くなればいいじゃない?」
「そうですよ。あまり気を落さないでください」
「私もいくらでも相手になってあげるよ~」
「……そう、だよな。おう! 俺は今よりも強くなって見せるぜ!」
【その意気です相棒】
「ああっ! 頑張るよ!」
「頑張れダーリン!」
「ふふふっ、子供っぽい所あるのね」
「ファイト~♪」


「――これで三戦二勝一敗だっ!!」
「「「その対戦回数で無敗を誇ってたの(ー)っ!?」」」
【というかいい加減、話し合い再開しろよ】


――それは、鈴の問題に対する為の手札が一つ揃った時の、穏やかな息抜きの一時





*   *   *



[27655] 短編集二丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2012/09/17 17:24
【短編集一丁へいお待ち!】からの続きになります。


*   *   *


~ 短編その七 【 淑女の為のお悩み相DAN!! 】~


【ある日の五反田食堂(弾中学三年生時)】


「……はぁ……」
「……蘭分かってくれ……俺達は兄妹なんだよ……」
「いきなり妙な事口走ってんじゃないわよ馬鹿兄!?」
「え? 兄妹の禁断の愛の垣根について悩んでたんじゃねぇの?」
「そんな気味の悪い事考えてすらいないわよっ!?」
「俺は週三で考えてるのにっ!?」
「考えなくていいわよっ!? しかも無駄に多いしっ!」
「ちなみに残りの週三で母と子の禁断の愛について考えてるよ?」
「何考えてんの馬鹿じゃないの!? お母さん! お兄がまた変な事言いだしてる!」
「あらあら♪ でも息子が最初に異性として意識するのは母親だって聞いた事あるわよ?」
「何その要らない情報!? っていうか満更じゃなさそうな顔しないでお母さんっ!?」
「母さん愛してるっ!」
「私も大好きよ弾♪ でもゴメンね? 私には愛する父に可愛い息子と娘がいるの」
「構うもんかっ!」
「その中の息子がお兄でしょうがぁ!? 構えっ! お母さんも悪ふざけしないで!」
「「割と本気だぞ(よ)?」」
「うわあああああん! おーじーいーちゃーんっ!?」
「――おう弾っ! お前何蘭を困らせてやがんだっ!!(厨房から出撃)」
「ちなみに残り一日で、どうやったら遠い爺ちゃんの背中へ追いつけるか考えてる」
「最後の一日だけ凄く真面目な事考えてるっ!?」
「……馬鹿言ってねぇで腕磨きな(厨房へ退場)」
「必ず追いついてやるさ! 待ってろ爺ちゃん!」
『……へっ! 口だきゃあ一人前だな』
「何だか、段々お兄がお爺ちゃんの対応に慣れて来てない!? もうっ! だからふざけないでよっ! 私今凄く悩んでるんだから!」
「よし分かった兄に任せろ。何を悩んでいるんだ蘭? この兄がバッチリ解決してやる」
「……いい」
「大丈夫だ安心しろ蘭! ……かわいいいもうとをこまらせるそんざいは、みーんなおにいちゃんがけしてあげるからね……?(シャッシャッと刃物を研ぐ、虚ろな笑みを浮かべる妹想いの優しい兄)」
「何する気なの!? 何をする気なのっ!? 止めて何だかすっごく怖い!?」
「ねぇかあさんあまがっぱどこだっけ……?」
「あらあら。ちょっと待っててね? 今探してくるわ」
「探さないで!? 絶対にお兄に渡さないでお母さんっ!? お兄が明日の朝刊に乗っちゃう!?」
「だいじょうぶだよらんあしたにはおまえにやさしいせかいがひろがってるからね……?」
「正気に戻れ馬鹿兄ぃぃぃっ!」
「――で、結局何を悩んでるんだ? あっ爺ちゃん研いだ包丁、此処置いとくぜー?」
『おう、置いとけ』
「ん? 蘭、何を頭を掻き毟って机に突っ伏してんだ?」
「お、お、おおおお、お兄の所為でしょうがああああっ!? ああもうっもうっ!」
「お前が正気に戻れって言ったんだろう。可愛い妹の願いは即叶える。兄として当然だろう?」
「~~~~~~っ!!(涙目でキッと睨む)」
「はい俺が悪かったっ!! だから泣くなっ!? ねぇ泣かないで!? 俺も泣くぞっ!?」
「……泣いでな゛いも゛ん……っ!!(ゴシゴシ)」
「ああそうだな俺の目の錯覚だったよ! ……で、結局お前の悩みって何なのよ? お前の自慢の兄に明確になっている不可能な事は一つしかないぞ? 逆上がり」
「まだ出来なかったんだ!? ……話せばいいんでしょう話せば……」
「あ……でも無理に話す必要ないんだぜ蘭……? 大丈夫、お兄ちゃんはお前が話してくれるのを何時までも待つさ……(優しい瞳)」
「聞け」
「はい」
「んんっ! ……実はね、私の通ってる学園での事なんだけどね……?」
「ああ、『私立聖マリアンヌ女学園』な?」
「う、うん……それで何だけど――」

『おや? もしかして若大将、蘭ちゃんの悩みを聞いてあげてるのかい?』
『悩み……それじゃあアレの時間だなっ!?』
『いつでも行けるよ若大将っ! スタンバイOKだっ!!』

「……え? 何? 常連さん達が騒がしいけど……」
「――ふむ? 確かに蘭の悩みを解決するなら……ついでに『アレ』もやっておくかっ!!」
「は……? アレって何?」
「まぁ見ていろ蘭っ! お前の悩みの必ず解決してやるから……そんじゃ行くぜぇ!! 五反田食堂常連客のみなっさああぁぁぁんっ!?(パンパンッ!!)」

『『『『『――イエス! マイロードッ!!』』』』』

ドタドタ! バタバタ! ガチャガチャガチャガチャッ!! サッサッサ!

「――なっ何ぃ!? 何なのおおおおっ!?」


*   *   *


――ダダンダンダダンッ! ダダンダンダダンッ!♪(未来からやって来る鋼の戦士の歌)


「――さぁ今日も始まりましたっ! 淑女達の悩みや相談事をしっかりバッチリ瞬時に解決するこのコーナーッ!! 五反田食堂ラジオ局! 五反田 弾の『淑女の為のお悩み相DAN』!! 本日もこの五反田食堂より、五反田食堂二代目筆頭候補であるこの俺、五反田 弾が司会進行を務めて行くぜっ!! 準備は良いか野郎共ぉっ!?」

『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』

「――っ何よこれええええっ!? って言うか食堂の机を並び替えただけじゃないのっ!? しかも常連の皆さんまで何してるんですかっ!?」
「安心しろ。ちゃんと編集、音響もばっちりだ! 即席だけどな?」
「そんな事聞いてないし!? 何なのコレ!? ――って本当に音響とかちゃんとある!? このマイクも何処から持って来たの!?」
「蘭。五反田食堂をこよなく愛する常連さん達の幅の広さを舐めちゃいけない。これ位朝飯前さ!」

『『『『『常連客を舐めちゃいけないよっ!?』』』』』

「聞いてないって言ってんでしょうがっ!?」
「おいおい言葉使いに気をつけろよ? これこの地域一帯に生放送中なんだぞ?」
「……え? 嘘っ!?」
「いやマジで。地域限定だけどな? 結構人気なんだよこのコーナー。ファンレターも沢山届いてるんだぜ!? 凄いだろっ!?」
「凄いだろじゃないわよ馬鹿――じゃ無くてお兄っ! ああもう何て言ったらいのっ!」
「――さぁ早速始めよう! だがその前にゲストの紹介だ! 本日のビックなゲストはこの方っ! 我が最愛の妹にして、五反田食堂の大人気看板娘っ! 私立聖マリアンヌ女学園に首席合格まで成し得た才女にして天使っ! 食堂の年下癒し系アイドル、五反田 蘭ちゃんだあああああっ!!」

『『『『蘭ちゃあああああああああああああああああああああんんんっ!!!!!』』』』』

「――ば、馬鹿止めてよお兄っ!? 恥ずかしいじゃない!(真っ赤)」
「はははっ! 赤くなった可愛らしい蘭の姿をリスナーの皆さんにお見せ出来ないのが残念です! さて本日も沢山のお悩み相談のお便りが寄せられましたっ! ありがとう淑女達! 今日もバッチリ解決して行こうと思いますっ!」
「何処に寄せられて来たの!? 何処に届くの!?」
「ではではっ! 最初のお悩み相談のお便りはこちらっ! 近くの小学校に通う女の子。ペンネーム『ももこ』ちゃんからのお悩み相談です」
「……ほ、本当に手紙が来てるんだ……」
「『だんおにいちゃんこんにちは、いつもたのしくラジオをきいてます』――はい! こんにちはっ! おおう、嬉しい事言ってくれるねぇ。字もとっても可愛らしくて最高だねっ!?」
「いつも聞いてるっ!? いつこんな事してるの!? 私知らないよっ!?」
「『じつはとってもこまってることがあって、きょうはおなやみのおてがみをかきました』――ほうほう? 何を困ってるのかな? 『ももこにはとってもなかのいい、いぬのダルタニアンがいます』……どこかの銃士に出てきそうだね?」
「其処は別に良いでしょうが……その子の勝手じゃん……それで?」
「ふむ『いつもいっしょだったダルタニアンなんですが、じつはこのまえのおさんぽのときにはぐれてしまって、それからずっとかえってこないんです。どんなにまいにちさがしてもみつけられないんです』――何だって……!?」

『『『『『それは一大事だっ!?』』』』』

(……常連さん達生き生きしてる……それにしても大事なペットが行方不明かぁ……)
「『いまごろおなかをすかせてるのかもしれません。さびしくてふるえてるかもしれません。もしかしたらけがをしてうごけないんじゃないかとおもうと、ももこはしんぱいでよるもねむれません』――そうだよな心配だよな……!」
「張り紙をして協力を頼んでみたりしたのかな? もしまだしてなかったら、やらないよりはマシだから試してみたらいいんじゃないかな?」

『『『『『蘭ちゃん優しいいいいいいいいいいいっ!!!!!』』』』』

「――ふっ当然だ。俺の自慢の妹だぞ?」
「だからそう言う事言わないでってば!?(赤面)」
「『おねがいですだんおにいちゃん! ダルタニアンをみつけてください。みつけてくれたら、ももこのちょきんばこをあげてもかまわないです。おねがいします。おねがいします』――ふっ、その貯金箱は『ももこ』ちゃん。君の為に大事に取っておきなさい……手紙にも薄らと何かが濡れた痕があるな……きっとこのコーナーが『ももこ』ちゃんにとっての最後の頼み綱なんだな……」
「ど、どうすんのお兄? 何だか凄く大変な事頼まれちゃったんじゃ……この地域だけでも結構範囲が広いんだよ?」
「心配無用だっ! 『ももこ』ちゃん! この俺に任せろっ!! ……ほう? この手紙と一緒に付いてる写真に映ってる犬がダルタニアンか……『ももこ』ちゃんの笑顔も最高に可愛らしいねっ! ――お前等ぁっ!!(シュバッ!)」

『『『『『(パシィッ!!)――イエス! マイロード!』』』』』

「ちょちょちょっと!? 何をする気なのお兄っ!?」
「――まぁ見てろ……五反田食堂の絆の力を特と見よっ!!」

バタバタバタッ! ザザー……ッ!! ピピピッ! ブルルルッ――ガチャ! ドタドタドタッ!

『此処一カ月以内の白の大型犬に関する情報は――』『地域住民からの目撃情報を絞込んで――』『身元不明の白の大型犬を保護したと言う人物は――』『人工衛星からの写真から割り出し――』『人員を回せ機動隊も――』『消防局より入電。ダルタニアンらしき――』『警察庁からも協力が――』

「――って何だか色々と凄い事を始めちゃってるううううううっ!?」
「――ふっ、だから言ったろう? 五反田食堂常連客の皆さんの幅の広さを舐めるなってな?」
「いやいやいやおかしいでしょう!? 何か人工衛星とか聞こえたんだけどっ!? そんなの動かせる職業の人なんていたのっ!?」
「うん。週二でくるぜ? ほら、いつも端の方で『業火野菜炒め定食』を食ってる禿げのおっさん知ってるだろ?」
「あの人そうだったんだ!? ――あ、どっどうもこんにちは! いつも御贔屓にして頂いてありがとうございま――ってええええっ!? 何でいきなり泣き出すのぉ!?」
「そりゃお前、お前の大ファンだからだろう? 営業時以外で声を掛けられて感無量だったんだな……うんうん。あのおっさんは中々の節度を守った紳士だ」

『良かったなぁアンタ!』『常連客やってて正解だったな!』『羨ましいぜこの野郎!』『ありがとう……ありがとう……! 私はこれからもずっと常連客でいるよ……!!』

「そ、そうなんだ……家の食堂って一体……?」
「――ふむ? そろそろか……?」
「……えっ何が……?」

『『『『『――若大将っ!!(シュパンッ!)』』』』』

「――(パシィッ!)ジャスト三分……中々のタイムだ」
「はいっ!? ど、どう言う事!?」
「さてさてー?(パラッ)……ふっ! 流石だなお前等……! 今この放送をきっと聞いくれてるだろう『ももこ』ちゃん!? ビックニューースだっ!! 君の大切なダルタニアン――見つけ出したぜぇっ!!」
「嘘ぉっ!? は、早っ!?」
「ダルタニアンは此処から一駅離れた町の、老夫婦の住むお家で保護されていたよっ! 大丈夫元気だっ! 迷子のダルタニアンをその家のお婆さんが見つけて、首輪を付けている事からきっと飼い主と逸れてしまったんだろうと思って、家で保護してくれてたんだってさ! 情報網を駆使して、老夫婦が飼い主を探してるのを五反田食堂の常連客達が突き止めたよっ!!」
「……(唖然)」
「さぁ『ももこ』ちゃん! この放送を聞いていたら小学校の校庭までダッシュだ! ダルタニアンを乗せたヘリが学校の校庭に向かってるぜぇ!!」
「ヘリ!? 学校の校庭!? 何時用意したのそんなのっ!?」

『……ああ御苦労。そのまま校庭に着陸しろ……問題はありませんよね?』『勿論ですよ。――(ピッ)私だ、校庭から生徒及び教師の避難は……よろしい』

「――とまぁそう言う訳だ」
「自衛隊っ!? 小学校の学長までいるのっ!?」
「五反田食堂を愛して止まない方々だ。お客さんは大事にしなきゃならない事の大切さが良く分かるだろう?」
「これもうお客さんとかそう言うレベルの話じゃ無くなってるんじゃないの!?」


チリリリリーン! ……ガチャ。……パタパタパタ。


「弾ー? 貴方に電話よー?」
「おおう? 電話?」

『『『『『蓮さあああああああああああああああああああんんんっ!!!!!』』』』』

「あらあら♪ 皆さん、どうぞごゆっくり♪」

パタパタパタ……

「――って何も言わないのお母さんっ!? 既に認めちゃってるのこの状況!?」
「さて一体誰からだ……? へいお待ち! 五反田食堂二代目筆頭候補の五反田――っておおう!? もしかして『ももこ』ちゃんかな? 随分早いね……タクシーのおじちゃんが送ってくれた? ――お前等……」

『『『『『――ふっ……!(良い笑顔でサムズアップ)』』』』』

「それでダルタニアンとは――そうか良かったね! 無事に会えたんだ! え? ……はははっそれは俺に言う事じゃないよ。うんうん……じゃあちょっと待っててね? ――お前等ぁ! 耳の穴かっぽじって良く聞けぇ! 良いよ『ももこ』ちゃんっ! せーのーっ!(受話器を常連客の方へ向ける)」


『――おじぢゃんだぢっありがどおおおおおっ!! ふえええぇぇぇんっ!!』
『バウバウッ! ワオオオオオォォォーンッ!!』


『『『『『――おっしゃあああああああああああああああああああああああっ!!!!!』』』』』

「これからもダルタニアンと仲良くね『ももこ』ちゃんっ! また何か困った事があったらいつでもお便りを送ってくれっ! いつでも即時解決してやるさっ!! ――俺達への報酬はっ!?」

『『『『『悩み事が消えた女の子の笑顔ですっ!!』』』』』

「百点満点だ……! それじゃあね『ももこ』ちゃん! ――良しっ! 悩み事の一つを無事に解決っ! ……ふっ全く、五反田食堂の常連客達はみんな連合に紹介したい奴等ばかりで困るぜ……ん? どうした蘭?」
「……ぐしゅ……ううぅ……良かったね……私こう言うのに弱いのよぉ……!」
「はっはっはっは! 全く蘭は涙脆いんだから! そこが可愛いんだけどなっ!」
「あのお兄が人様の役に立ってるなんて……うぅぅ……! これ夢じゃないよね……?」
「うん。蘭がいつも兄である俺をどう思ってるのか良く分かる一言だな。――さぁ続いてのお悩み相談にいくぜぇ! 張り切って行くぞお前等ああああああっ!?」

『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』』』』』

「それじゃ次のお悩み相談の手紙なんだが……此処は蘭に呼んで貰うとするかね?」
「……え? えええええっ!? 私が読むの!?」
「そりゃゲストなんだし。そう言う役割もゲストの仕事の内だぜ! さぁ呼んでくれ!」
「わ、分かったわよ……コホン! え、えーとでは続いてのお便りは。ペンネーム『メロン』さんからのお便りです。『五反田くんこんにちは。私は近くの高校に通う女子高生をしています』」
「はいこんにちはっ! おおう……! 年上のお姉様からのお悩み相談か……!」
「はいはい……『相談って言うのは他でもありません。実は私、仲の良い三人の友達がいるんですが、些細な事で喧嘩をしてしまって……それ以来、仲直りが出来ないでいるんです』ってこれはお兄でもすぐに解決無理なんじゃない?」
「ふむ? ……もしやこれは……続けてくれ」
「う、うん……『どちらが悪いとも言えませんが、私も売り言葉に買い言葉を口にしてしまって……私にも非があったんだと今では反省しています。けど……中々仲直りの切っ掛けが掴めなでいるのが現状なんです。……お願いです五反田くん。私は一体どうしたらいいのか教えてください』――だって。ううぅん……素直に謝れば解決すると思うんだけど」
「そう簡単に行かないってのが友達ってもんだぜ蘭? 些細なすれ違いで微妙な関係になっちまう。友情って言うのは深くて繊細なんだよ」
「お、お兄が……何だか凄く真面目な事言ってる……!? ねぇこれ本当に夢じゃないよね!?」
「確かに俺が紳士の夢を具現化したような存在なのは事実だが?」
「あ、大丈夫いつもの馬鹿兄だ」
「――さて! この『メロン』さんからのお悩み相談だが……実はこれ別に俺が解決する必要は全く無かったりしちゃうんだよなぁコレが!」

『『『『『――何だってえええええええっ!!!!?』』』』』

「ナイスリアクション! クラッカーは何処かね?」
「そんなのある訳ないでしょうが! って言うかお兄、解決する必要が無いってどういう事なの?」
「おう! 実はだな? この『メロン』さん意外にも、似たようなお悩みのお便りが他に三通届いてるんだよ」
「……え? 三通って……もしかしてその手紙の送り主って言うのは……」
「まぁ、まず蘭の考え通りで間違いないと思うぜっ! と言う事は後俺がやる事は唯一つだ! 聞いてるかい『メロン』さん! そして他の三通のお便りを送ってくれた淑女さん達っ! 四人の心の中の想いはこのコーナーでバッチリ理解できただろう? 後はどうするべきかは分かってるよね!? もうお互いに意地張ってないで! 今すぐ携帯にでも電話を掛けて街に遊びに行ってきなよ! そうすりゃ明日からまたいつもの楽しいスクールライフが送れる筈さっ!!」
「え、えっと! お兄の言う事が珍しく的を得てると思いますんでっ! これを切っ掛けだと思ってください! いつまでもすれ違ったままっていうのは寂しいですよっ! 仲直りできるように私も願ってます!」
「その通りっ!! それじゃぁ俺達が背中を押せるのは此処までだっ! 健闘を祈ってるぜ! それじゃあね『メロン』さんっ!」
「頑張ってください!」

『『『『『俺達も応援してるよっ!!!!!』』』』』

「――よしこれにて二つ目のお悩み相談も完了! 後は『メロン』さん達次第だな。それにしても流石蘭だな。何だかんだ言っても初めてとは思えない働きぶりだ! 兄は鼻が高いぜっ!」
「べ、別にこれ位普通でしょ……それにしても、『メロン』さん達って一体どんな理由で喧嘩なんてしちゃったんだろう? 四人とも悩み相談に手紙を出す位、ホントはとっても仲が良さそうなのに」
「…………」
「ん? どうしたのお兄?」
「……聞きたいか? 理由?」
「え……何知ってるの?」
「ああ……『メロン』さん以外の三通のお便りの中に、その理由をちゃんと書いてくれているお姉様がいてな……で? 聞きたい?」
「な、何よ……まぁ此処までやったからには、ちゃんと知りたいとは思うけど」
「……『ビックプリン』『牛子』『スイカ』」
「……は? 何それ?」
「……他の三通のお姉様達のペンネームだ」
「……はい?」
「そして先の『メロン』さんと合わせると……蘭? この四つを並べてお前なら何を連想する?」
「…………」
「ちなみに喧嘩の内容だが……女性のとある部分がとっても発育してしまっている仲良し四人組が、だれが一番大きいのか……と言う理由で、お互いに『私そんなに大きくないもん!』『普通よ普通っ!』といった口論になってしまったらしい。全員それぞれコンプレックスだったみたいだ」
「…………」
「しかもその内悪口に発展して『牛乳!』『ホルスタイン!』『無駄脂肪!』と互いに罵り合ってしまって……まぁそう言う事らしい」
「……何で……四人とも……そんなペンネームな訳……?」
「喧嘩してしまった自分への戒めというか罰と言うか……そう言った理由でそのペンネームにしたんだって」
「…………」
「…………」
「……【ピ――】ば良いのに……」
「ナイス音響! 放送禁止用語を良くカットしたっ!!」
「……何なの? ねぇ何なの? せっかく……せっかく人が真面目に考えて答えてあげたのに……何なのそのくだらない喧嘩の理由は……!?」
「本人達は酷く真剣みたいだったようだし良いんじゃね?」
「自分達だけで勝手にやってれば良いのよっ!! 馬鹿じゃないの!? 本当馬鹿じゃないのっ!? 何よこれあたしに対する当てつけ!? コレが狙いで私にお便り読ませたのこの馬鹿兄っ!?」
「おいおい、何言ってんだよ蘭」
「うぐ……! ご、ごめん……ちょっと我を忘れちゃって――」
「――当然だろっ!!」
「――【ピ――】ええええええええええええええええええええぇっ!?」


【 しばらくお待ちください 】


「――途中皆様にお聞かせ出来ない音が鳴り響いたりしましたが、気を取り直してお悩み相談を続けて行くぜっ!」

『『『『『若大将不死身いいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!』』』』』

「――フンッ!」
「おいおい機嫌直してくれよ蘭? ちょっとしたお茶目じゃないか♪」
「……次こんな事したら、しばらく口利いてあげないから……!」
「あれ? お前腹話術出来たっけ?」
「そう言う事言ってんじゃないわよっ!?」
「まぁまぁ、とにかく次のお便りに――って既にさっきので一気に四通処理したから、もうお悩み相談のお便りは無いんだよね。後はファンレターばっかで嬉しい悲鳴だね!」
「良かったね~? ……さっきのお便りのお姉さんも達も、ついさっきお礼を言いに食堂の前までわざわざ来てくれてたし~?」
「ああ、あれはマジで驚いたぜ……あの四人のお姉様方は本当に高校生なのか? 全員高校生離れしてる美貌とバディの持ち主だったな……」

『まさか……あの藍越学園の誇る『魅惑の果実四人衆』だったとは……!?』『凄まじいオーラだったぜ……!』『最近の娘は発育が良いんだな……』

「……これだから男は……! 何よあんなの……!」
「ちなみにお姉様全員にメルアド交換されてしまったが……俺にこれをどうしろと? 『今度遊ぼうね♪』って言われてもなぁ」
「何よ嬉しい癖に、この助平兄」
「まぁ嬉しい事は否定しないが……あのお姉様方にはそれぞれちゃんと彼氏いるんだぜ? ただ本当に遊ぼうって意味だろう。その辺を勘違いしないのが紳士ですっ! だから妬かないの」
「ばっ……!? や、妬いてないもんっ!!」
「それに大体俺、淑女は大好きだが付き合うとなれば全く別だからなー。その辺はちゃんとしてます紳士だから!」
「へ? どう言う事?」
「うん。俺って『この娘は俺が幸せにしたい! 他の野郎がこの娘の隣に立って幸せにするのなんて我慢ならないっ! 俺の手で幸せにしてやりたいんだっ!』って思える娘以外と付き合う気なんて一切ないからねぇ? お試しで付き合うとか論外。紳士に最愛の淑女は唯一人のみで十分だ」
「そ、そうなんだ……ち、ちなみに今お兄がそう思える人って……?」
「残念ながら未だ現れてないなっ! まっ何時か見つけるさっ! ちなみに今の俺の一番は蘭だぞっ!?」
「だから変な事言うなって言ってんでしょうが馬鹿兄っ!!」

「――さて、ぶっちゃけどうでも良い俺自身の恋愛理論を語った所で――ここでメインディッシュ!! さぁ最後のお悩み相談の相手は……何を隠そうゲストにして俺の最愛の妹っ! 五反田 蘭ちゃんのお悩み相談だああああああああああああっ!!」

『『『『『蘭ちゃああああああああああああああああああんんんっ!!!!!』』』』』

「え……えぇぇと……」
「さぁっ蘭!! 可愛いお前を悩ます事とは何だ!? 兄に相談するんだ、バッチリ解決してやる!」
「……分かった言うわよ。……実は私の通う『私立聖マリアンヌ女学園』での事なんだけど……」
「おう、俺も出前で何度か足を運んでるぜっ!!」
「――だから来るなって言ってるでしょうが!? 男子禁制なんだからっ!! って言うか誰よ出前頼んでる人って!?」
「俺は紳士だ!」
「関係ないわよっ!? しかも何でいつも正門を堂々突破して行くのよっ!?」
「やましい事が無い事をアピールしようと思って」
「警備員さん達をその度に撃退してる奴は十分不審者よっ!」
「全く……あの程度の護りで淑女達の安全を護れている気でいるとは正気を疑うぜ! 女学園の理事長さんとも話し合ったが、もう少し何とかしなければならんな」
「何で理事長先生と話しあってんの!? いつ!? 何処で!?」
「メル友だ」
「いつの間にそんな関係にっ!?」
「ところで女学園のシスター達は、何故全員スタンロッド持ってんだ? 正門の警備員よりも戦闘能力高い気がするんだが」
「お兄を追いだす為よっ!? 何だかシスター達いつも『今日は何時来るのかしら……?』『警戒を怠っては駄目よ』って随時警戒態勢取ってるんだから!」
「俺のお蔭か!」
「お兄のせいよ馬鹿っ!!」
「ふむ? しかし、そんな淑女達の聖域の中だというのに、愛しい妹であるお前にどんな悩みが振り掛かったというんだ?」
「………っ!!(キッ!)」
「お、おおう……!? な、何だ蘭急に……?」
「……実は昨日学園から帰る時……私の下駄箱の中に手紙が入ってたの……」
「手紙……? え? それってまさか……」

『まさか蘭ちゃんにラブレタアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』『一体何処の身の程知らずの男だっ!?』『そいつの名前と社会保障番号を調べろ』『俺達の蘭ちゃんにいいいいいいいっ!!』

「――落ちつけお前等ァ!! ……蘭、確認したい事がある」
「……何よ」
「……学園のお前の下駄箱に入ってたんだよな?」
「……そう言ってんじゃん」
「……聖マリアンヌの?」
「……そうよ」
「……聖マリアンヌ『女』学園の?」

『『『『『――あ』』』』』

「……」
「……男子禁制だよな?」
「……うん」
「……野郎は入って来れないよな?」
「……お兄は無理矢理入って来てるけどね」
「……って事は……手紙の差出人は……淑女と言う事になるんだよな?」
「……そうね」
「「……………」」

『『『『『――こいつはヘビィな問題だああああああああああっ!!?』』』』』

「お、おおう……! 流石我が妹だ……まさか可憐な他の淑女まで虜にしちまうとは恐れ入ったぜ……!? こいつは中々デリケートな問題だっ!!」
「……(ムスッ)」
「で、どうすんの蘭? 兄としてはお前にその道には行ってほしくないのが正直な気持ちなんだがね?」
「……(ゴソゴソ)」
「うむん? どうした?」
「……ん(可愛らしい手紙を弾に差し出す)」
「え? これが例の恋文か? 何、読んでみろってのか? 流石に淑女の想いが詰まった恋文を勝手に読むのは紳士として許容できんのだが?」
「……ん!(ズイッ!)」
「なんだよ全く……分かったよ。言っとくけど中身は読まないぞー? おおっ可愛らしい封筒だな! その淑女さんのセンスの良さが分る代物だ!」
「……」
「裏に差し出た淑女の名前は書いてないな。書いてあっても口にはしない! それが紳士! きっと照れ屋なんだろうなぁ――お? 何なに? 『蘭お姉様へ――』っておお年下かっ!! 我が妹がお姉様なんて言われるのは何だか新鮮――…………『――お姉様の素敵なお兄様へ渡してください』………?」

『『『『『―――え?』』』』』

「…………」
「…………」
「……読まないの?」
「……ちょっと失礼」

ガタッ。――スタスタスタ……ピシャッ!

『『『『『…………』』』』』

………ガラッ!

『……蘭ちょっと来てくれ』
「……(ガタッ)」

――スタスタ……ピシャッ!

『『『『…………』』』』』


――って娘を――
――ってる――清楚で可愛――
――って――家名――
――有名――嬢様――


『『『『『…………』』』』』


――ガラッ! ピシャッ! スタスタスタスタ……ガタガタッ。


「「…………」」


『『『『『…………』』』』』



「……蘭。兄はどうしたら良いと思う?」


『『『『『――若大将が相談しちゃったっ!!!?』』』』』


「――当然だドアホッ!? 手紙の内容見るにマジで本気みたいなんだよっ!? こっちも真剣に考えてあげなきゃ失礼だろうがあああああああああっ!!」
「――知らないわよ馬鹿兄っ!! 勝手しろっ!! ――フンッ!!」






*   *   *



~ 短編その八という名の間幕 【 第三の男 】 ~


【 ある高校の通学路 】


テクテク、スタスタ、コツコツ (道を歩く見目麗しい三人組の女子高生)


「――っだぁぁ……今日の試験何とか乗り切ったぁ!」
「もうこれは自分へのご褒美に何か甘い物を買ってあげるべきだね! という訳で今から駅前のケーキ屋へ直行すべきだと、本官は愚考する次第であります中入江隊長っ!」
「うむ! その通りよ灯下軍曹! それじゃあ今から三人で――」
「駄目よ二人とも? 試験で午前中に帰れるのは遊ぶ為じゃないんだから。これから図書館で勉強するって話だったでしょう?」
「「ええぇ~~っ!?」」
「ええ~じゃありません」
「そ、そんな殺生な事言わないでよ花梨~~っ! このまま勉強漬けだなんてアタシおかしくなっちゃうよ~!」
「糖分が! 糖分が足りないでありますっ!」
「もう……二人ともそんな事している暇なんてないでしょう? 今日の試験の手応えはどうだったの?」
「うっ!? そ、それは聞かないで……どうか赤点だけはご勘弁……っ!」
「ふふ……燃え尽きたよ……真っ白にさぁ……」
「だから言ったでしょう? ちゃんと勉強しておかないと後悔するよって。今日の分を取り返す為にも明日の為に頑張るべきじゃない?」
「うぅ~……そ、そういう花梨はどうだったのよ?」
「姉さん……そいつを聞くのは野暮ってもんだぜぇ……」
「うーん? まぁいつも通りかな。試験範囲もそう広くなかった事だし」
「まぁ聞きました奥さん? 流石優等生の花梨さんねぇ? なんて余裕のあるお言葉かしら」
「本当ねぇ奥様? 私達とは頭の出来が違うのでしょうね、おほほほほ」
「……私帰る」
「ちょっ!? 嘘ウソ冗談だってば花梨! 待って待って待ってぇ~!」
「知らない。二人だけで行ってくればいいじゃない。勉強会はキャンセルでいいわよ」
「見捨てないでお代官様ぁっ!? 明日の古文本当に拙いんだってばぁ!?」
「日本人である私にイングリッシュは解読不能ですっ!」
「……真面目にする?」
「しますっ! もうふざけたりしません!」
「私も授業中もそれくらい真剣になれよと思う位集中しますっ!」
「……そう言えば、この先に美味しいシュークリーム屋さんがあったよね?」
「そ、それはまさか……巷で美味しいと評判の、あの一個五百円という超高価なシュークリームの事でございますか……!?」
「あ、あっしらの様な貧しい身でおいそれと手出しできるもんじゃねぇべさぁ……!?」
「私は別に全然、全く、微塵も、これっぽっちも興味なんてないんだどね?」
「「……」」
「けどもし、どうしてもって食べて欲しいっていうなら。私も貰ってあげても良いと思ってるんだけどなぁ?」
「「……ぜ、是非奢らせてくださいませ花梨様……」」
「あら本当に? もうしょうがないなぁ二人とも♪」
「……枝理あんた今手持ちある?」
「こ、今月はピンチであります……! けど、あの花梨の様子を見るに一個二個じゃ治まらないかと思うんだにゃー……!」
「うぅぅ……そうよねぇ。なんであんな小さいのに一個五百円なのよぅ……っ!」
「こ、こんな時に五反田君がいれば……っ!」
「それ財布扱いしてないあんた……?」
「うぅん? きっと買うよりまず作ってくれると思って……」
「……ああ成程……あああ……今月欲しい靴があったのにぃ……!」
(……少し意地悪すぎたかな? 仕方ないなぁ。一個で許してあげようっと……ふふ♪)


テクテク、スタスタ、コツコツ……


「――(ピタッ)うん? 何だろうあれ?」
「ん~? 何なにどうしたの?」
「文? どうかしたの……あら?」


『……はぁはぁ……っ少し無茶をしすぎたようですな……この程度で息を切らせるなど老いたものだ……。とにかく……一刻も早く『あの御方』のこれを届けなければ……ふぅ……』


「……何だか様子がおかしくない? あのお爺さん」
「本当だ。今にも倒れそう……何か持病持ちなのかな? かな?」
「そんな大変じゃない! 行こう二人ともっ!」
「分かった分かった、流石に見て見ぬ振りは後味悪いしね」
「あらほらさっさ♪」


タタタタタタタタッ……!


「あのっ! 何処か具合でも悪いんですか?」
「む……?  おやおや、これは見目麗しいお嬢さん方ですなぁ……こんにちは」
「随分疲れてるみたいだけど、どうしたんですか?」 
「いえいえ大した事ではあろませんよ。年涯もなく動き回ってしまい、少し疲れているだけです。ちょっと休めばすぐに元気になりますから……ふぅ……」
「大丈夫そうにはみえないにゃー? 顔も青いし、汗びっしょりだし? 飲み物買ってきてやろーかい?」
「ほっほっほ、何とご親切なお嬢さん方でしょうか、この爺感無量です……大丈夫です。本当になんでもありませんから、どうぞお気になさらず。何処かへ遊びに行かれるご予定なのでしょう?」
「でも……」
「とてもそうは見えないんですけど……」
「遠慮しなくても良いんだぜぃお爺ちゃん? 花の女子高生三人に介抱してもらうまたとないチャンス到来だぞ!」
「おおっ! それはそれは魅力的なお話でございますなぁ。とても興味ありますし本当に残念ですが、何の心配も――むっ?」


――ザザザッ!(黒い男達に囲まれる)


「――な、何この人達っ!?」
「いきなり現れたっ!? っていうか何か変な物着てるっ!?」
「でもこんな現れ方する人が身近に一人居る気がするのは何故だろね? デジャビュ?」
「ぬくっ……!? しまった囲まれたか……此処まで接近に気が付かぬとは不覚……! お嬢さん方は早くお逃げなさいっ!」
「え、ええっ!? 一体どう言う事何ですかっ!?」
「お爺さんの知り合いなのこの人達っ!?」
「友達は選ぼうよ、オールドマンッ!」


カッカッカッカッカッカ……


「――ククク……見つけましたよ『セバスチャン』殿? 随分とお疲れのようですねぇ?」
「……え……誰? 野郎の声は耳が腐るので話しかけないで貰いたいものですな。唯でさえ最近耳が遠くなってきてるんですから……。全くっ! これだから最近の『ドーベル』はっ!!」
「知らない振りして私の事を普通に非難するなっ!? どう言う意味だ貴様っ!?」 
「うわっ! 何か偉そうなおっさんが出てきたっ!」
「ドーベル……え? 犬?」
「あー……言われてみれば何か負け犬臭い雰囲気してるなぁ」
『『『『『……ぷっ』』』』』
「――ぐっ……!? ふ、ふんっ! 初対面の人間に対して失礼極まりない小娘共ですねぇ……! 全くこれだから日本の女は……やはり大和撫子など、既に過去の産物でしかないのだな……お前たちも笑ってるんじゃないっ!」
「そうですなぁ笑う所なんて何一つありません。本当つまらない若造だ。マジさみーですな」
「黙れこの耄碌爺がっ!!」
「え……あの、気分を悪くしてしまったのなら御免なさい」
「謝る必要無いんじゃない花梨? いきなり大の男数人で周りを囲むような人に、そんな事言われたくないし」
「そうだそうだー!」
「屁理屈を……! まぁいい……今はそんな事で問答している暇は無い。さて『セバスチャン』殿? 貴殿が私達から盗み去った物を返していただきましょうか? あれは私達の物なので……誉れ高い紳士であった筈の貴殿が、まさか盗人に成り下がるとは嘆かわしい事ですねぇ」
「人聞きの悪い事いうものではないっ! ただお前達の秘密ラボ内の厳重にロックされた中央ブロック最深部に捨ててあったの物を『勿体ない……まだ使えるのに』と思って持ち帰っただけではないかっ!!」
「設置してあったんだっ!! いい歳した爺が非行少年みたいな言い訳をするなっ!!」
「な、何か私達そっちのけで話が進みだした……」
「おおっ! 何か陰謀のにおいがするじぇい!」
「え、枝理……」
「アレをあそこまでカスタマイズしたのは私達ですっ! アレは私達の物だっ! 我等が目的の為にも今すぐ返していただきましょうっ! さぁ今すぐ渡すのですっ!」
「私の一存ではなんとも……」
「主犯は貴様だろうがっ!? ええいっ埒が明かん! 貴殿の意見などどうでもいい!!……答えなさい。アレは今何処にありますか?」
「めしゃあまだかいのぉ?」
「都合良くボケた振りをするなっ! 答えろアレは何処だっ!?」
「アレアレと言われても……若造、お前はさっきから何の事を指して言っておるのだ?」
「……耄碌爺が……! ちっ……仕方ありませんねぇ……おい、お前達」
『『『『『――ハッ!』』』』』


――ガッ!!


「――キャアッ!?」
「うわっ! 何すんのよっ!?」
「離せこんにゃろ~っ!!」
「……何の真似だ若造? 繊細な少女達を羽交い絞めにするとは……」
「耄碌した貴殿が思い出せるようにして差し上げようかと思いましてねぇ? この娘達にも協力をしてもらおうと思ったまでですよ、ククククク……」
「……今すぐお嬢さん方を解放させろ。外道が」
「ではもう一度だけ聞きます。アレは何処だ? 『セバスチャン』」
「……こちらも、もう一度言う。その薄汚い手を離せ外道共(ギラリッ!)」
『『『『『――うぐ……っ!?』』』』』』
「……強情ですねぇ……おい」
『ハ、ハッ!』


ザッザッザ……


「ではまず貴女から協力してもらいましょうか?」
「――ヒッ!?」
「花梨っ!? この離せ変態っ!! 花莉に何かしたら承知しなわよっ!!」
「離せ~ッ! 離せってばぁっ!!(ガジガジッ!)」
「……何をする気だ?」
「さて……? 唯、私は真の淑女でない女などに、如何なる事をしても何の罪悪感も感じない男でしてねぇ……? 自分でも困った性格だと思いますよ……ククククク……!」
「あ……あ、う……ひっく……!」
「花梨っ! 止めなさいよっ泣いてるじゃないっ! 」
「私が代わるから花梨をはなせーっ!」
「おやおや……美しい友情ですねぇ? そうは思いませんか」
「……淑女に涙を流させたな……? 若造……楽に死ねると思うなよ……?」
「おやおや……口ではそう言う割に、何も行動を起こさないのは何故です『セバスチャン』殿? ああ、そうでしたね。貴方は私達との攻防に次ぐ攻防で大分お疲れの様ですから……行動を起こせないと言った方が正確でしょうか?」
「…………」
「どうやら図星の様ですね? ククク……ッこれがあの『DANSHAKU』の盟友と言われた紳士の限界かっ!? 恐れるに足らんっハハハハハハハハハッ!!」


――ヒュッ……ドカァッ!!


「――ぐあっ!?」
『『『『『ドーベル様っ!?』』』』』
「――っ勝機っ!! フンッ!!」


シュバババッ! ドスドスドスッ! ヒュババッ!


『『『ぐあっ!?』』』
「――ふぅ……お怪我はありませんかお嬢さん方?」
「花梨っ!」
「うわーん花梨ぃっ!」
「文ぃっ! 枝理ぃっ!」
「ぐ……!? しまった! 何をしている貴様等っ!」
『『『『『も、申し訳ありません』』』』』
「……ふぅ、私の十八番『カードスルー』の腕もまだまだ現役ですな。肝心な所で油断するとは何たる愚かさか……紳士を自称する事すら貴様に取って大罪だ若造。名前も『駄犬』に改名してはどうですかな?」
「だ、黙れ! 先程まで手も足も出せなかった耄碌爺が偉そうに口を開くなっ!」
「ほっほっほ! 御覧なさいお嬢さん方、あれが正に負け犬の遠吠えと言う物でございますよ」
「ぐ……ええいっ一体何が……ん!? これは……鞄? これが私の顔目掛けて飛んできたのか……!? 一体誰がこんなふざけた真似を――」




「――おいテメェ等。人里さん達に何してんだよ……!?」




「み、御手洗君……っ!?」
「嘘……! 御手洗君が鞄を投げて助けてくれたのっ!?」
「お、おおおおお……!? ドラマチックが止まらない……!?」
「貴方が隙を作ってくれたのですか……感謝致します。日本にも見所のある若者がまだ居たのですなぁ。この爺、感無量でございます」
「――っ!? 小僧っ貴様の仕業か!?」
「だったら何だよ? 聞き覚えのある声を聞いて来て見れば……大の大人が寄ってたかって女の子を羽交い絞めにしやがって……胸糞悪い事してんじゃねぇよっ!」
「小僧が……!!」


ダダダッ……ズザッ(三人娘の前に、守る様にして男達と対峙する数馬)


「人里さん、中入江さん、灯下さんっ! 大丈夫だった!? 変な事されてないかっ!?」
「う、うん……! で、でもどうして御手洗君が……?」
「学校はどうしたの?」
「サボり?」
「ち、違うよ人聞きの悪い事言わないでくれよ……今日は試験で午前授業だったんだ。その帰りだよ。たまたま通りかかったら、人里さん達の声が聞こえて何事かと思ってさ」
「そ、そうなんだ……ありがとう御手洗君」
「今凄く格好良いよアンタッ!」
「惚れ直したたじぇいっ!」
「「ええぇっ!?」」
「そいつはどうも。それで、こいつ等は?」
「……普通に流しちゃうんだね」
「……まぁ、友達期間が長かったからなぁ……」
「……枝理は乙女心に大ダメージを受けたっ!」
「ほほう? これはこれは……この先の展開が実に興味深い方達ですなぁ」
「ん? アンタは?」
「初めまして御手洗様。私は困っていた所を、このお嬢さん達に声を掛けて頂いたしがない爺でございます」
「そうなんですか……で? あいつらは?」
「唯の変態です」
「やっぱり変態かっ!?」
『『『『『『違うっ!!』』』』』』
「似たようなものじゃないですかっ!」
「そうよ変態っ!」
「痴漢っ!」
「最近この辺りには集団で行動する変態が多発するようで……多分彼等で間違いないでしょう」
「白昼堂々最低な奴らだな……警察に突き出してやるっ!」
「違うと言っておろうがっ!?」
「変態はみんなそう言うんだよっ! 変態っ!」
「最もな意見ですな」
「わ、私警察に連絡を入れるっ!」


――ギュンッ! ガシッ!


「――キャアッ!?」
「人里さんっ!?」
「「花梨っ!」」
「――さてはパワードスーツを着込んでいるな……全く悪知恵だけは働く『駄犬』だ」
「チッ……手を煩わせてくれる……っ! 下手な真似はしないでもらいましょうか」
「お前っ……人里さんから手を離せっ!」


――ブンッ! ドスッ!!


「――か……はっ……!?」
「「「御手洗君っ!?」」」
「小僧が調子に乗るなよ? さっきは不意打ち喰らったが、貴様のような奴に遅れを取る私では無い。身の程を弁えろ」
「て……めぇ……!?」
「『セバスチャン』殿も、妙な真似をしない事です。さもなくば……」


ドガッ! メキメキ……!


「――うぎっ……あああああっ!?」
「御手洗君っ!? や、止めて! 酷い事しないで下さいっ!」
「足を離してよっ! 馬鹿っ! 最低っ!」
「止めてっ! 止めてってばぁ!」
「では大人しくしていてもらいましょうか……さて、色々遠回りしてしまいましたが、答えて貰いましょうか『セバスチャン』殿? あれは何処に――」
「――むっ!? この巨大なオーラは……!?(何かに気が付く)」


――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「――ん? 何だこの音は……って待てよ? 確か以前にもこん【ドッゴオオオオオオオォォォンッ!!】なぐぼおおおおああああああああああああああっ!?」
『『『『『ドーベル様あああああっ!?』』』』』
「――いかんっ! ハァ!」


シュバッ!! スタッ。


「キャアッ!?」
「ぐ……っ!?」
「花梨っ! 御手洗君!」
「二人とも大丈夫っ!?」
「お怪我はございませんかお二人とも?」
「わ、私は大丈夫です……! で、でも御手洗君が……!」
「あ、ああ平気平気。何とも無いよ……あんな奴のパンチなんて屁みたいなもんだ。……ててっ……!」
「ご、御免ね御手洗君……私のせいで……」
「いや、人里さんが謝る事じゃ無いよ。気にしないでくれ」
「……御手洗君……(キューン)」
「……(イラッ)はいはーい。今はラブコメってる場合じゃないでしょうが」
「そうだそうだー!」
「え? い、いや別にそんな事してるつもりは無いんだけど」
「……二人とも……意地悪……(ムスッ)」
「ほっほっほ……どうやらお元気そうですね。――しかし、一体何故此処にコレが……? 御蔭で助かりましたが」
「これって……? ってうわっ!?」


――ヴォンヴォオオオオオオォォォン!


「む、紫色のバイクッ!? しかも誰も乗って無いのに動いてるっ!?」
「う……嘘っ!?」
「な、何なのコレ……?」
「でも格好良いよねっ!」
「まさか単独で動いたと言うのか……? いや、だが『あの御方』意外に適格する筈がないコレが……一体何故?」


――ピピピッ!


【――アナザーマスター『数馬』の存在を確認。現時点での命令優先順位を変更】
「何ですとぉ!?」
「キャッ……!?」
「うわ喋ったっ!?」
「す、すごーい」
「って何で俺の名前を知ってるんだ!? 俺こんなバイク知らないぞ!」
「アナザーマスター……? まさか……御手洗様とおっしゃいましたか!?」
「おわぁ! な、なんすか突然っ!?」
「御手洗様『六代目五反田号』と言う名に聞き覚えは?」
「ろ、『六代目五反田号』……? それって、確か弾の使ってる自転車の名前じゃなかったか……?」
「――何とっ!? ご、五反田様のお知り合いで!?」
「あ、ああ。小学校の頃からの付き合いで友達だけど……」
「お、おお……! では貴方が、『あの御方』が認めた数少ない男性のご友人だったのですか……!? だがご友人と言うだけでこの『六代目』が反応を示すとは思えん……一体どう言う事なのだ……?」



「……あ、そう言えば俺……弾の奴に『五反田食堂』の手伝いを強制させられて……何度か弾の自転車を借りて出前の配達をした事があるけど」



「――な、何ですって……!? 乗りこなしたのですかっ!? 拒絶反応は起こらなかったと言うのですか!?」
「いや何だよ拒絶反応って……普通に乗っただけだぜ? っていうかこれバイクだし。俺が乗ったのは自転車だし」
「さ、流石は五反田様のご友人でございます……! それ程の偉業を為し得ながら、それを誇る事無く平然と言ってのけるとは……! すみません後で是非サインを頂けませんか?」
「え、えぇぇ……? な、何なんだよ一体? っていうか……弾絡みなのか?」
「そうみたいだね……」
「相変わらず、居てもいなくても存在感が半端ないなぁ」
「そこにシビれる憧れる?」
「「「いやいやいやいや……傍迷惑なだけ」」」


「――ぐふっ……! ま、まさか『DANSHAKU』意外にも適格者が……!?」
『『『『『ドーベル様、しっかりしてください!』』』』』


「……で、バイクに轢かれたのに元気なあの変態は……その弾のお客さんって所だな」
「……凄く納得」
「……ねぇもう帰らない? アホらしくなって来た私」
「えー? でもあの変態達は帰してくれそうにないよ?」
「「「……はぁ」」」


「――ふ、ふふっ! だが飛んで火に居る夏の虫とはまさにこの事……! 全員! アレを捕えなさいっ!」
『『『『『――御意!』』』』』


「――この方ならば……! 御手洗様これをっ!」
「な、何すか? 俺達もう帰りた……って腕時計?」
「綺麗……紫色に透き通ってる」
「高そうな時計だね」
「色々ボタンも付いて、色んな機能がありそうな、よ・か・ん♪」
「これを貴方に託します。貴方ならきっと使いこなす事が可能な筈ですから」
「……は、はぁ……そうですか」


「――油断してる今が好機! かかれっ!」
『『『『『――ハッ!』』』』』


ビュバッ!!


「――御手洗様っ時計の右上のボタンを!」
「あ、ああもう何なんだよっ!? 右上!? こ、これか!?」


――カチッ! 

――ギュイイイイイィィィィン!!


「――な、何だぁ!?」
「キャア!?」
「眩しっ!?」
「ぎゃああ~! 溶けるーっ!?」


【――Fighter mode】


――カッ!! バキャァッ!!


『『『『――ぐわあああああああっ!?』』』』』
「――なっ!? 馬鹿な……!?」


ブシュウウゥゥゥゥ……!! ズズン……!(スモークの中から立ち上がる巨影)


「――なんか人型ロボットに変形したあああああああっ!?」
「う、嘘……!?」
「ちょ、ちょっと待って!? 何か色々追いつけないっ!」
「か、格好良い~……!」
【敵ターゲット確認】
「素晴らしい……! 何をしても反応しなかった『六代目』が……! 御手洗様の手に渡った瞬間、ああも従順に……!」
「……やべぇ……なんか凄く面倒臭い事に巻き込まれた気がする……!」
【心配無用】
「大丈夫じゃねぇだろう……」
「げ、元気出して御手洗君」
「巻き込まれたの御手洗君だけじゃないと思うから……」
「六ちゃん! 悪者退治だ行っけー!」
【命令を寄こせ。アナザーマスター】
「え……俺がするの? まぁいいや……あいつら何とかしてくれ」
【掃討を開始する】


――ギュオンッ!! 

――ドッゴオオオオオン!! チュドドドドドドドドドドドッ!!(爆炎と轟音の嵐)


「ヒッヒイイィィッ……!? 【ズズゥゥン】――あっ……!? ま、待て! お前を此処までカスタマイズしたのは【バキョ!】げふぉッ! 【ドスドスドスッ!】 ゴフッオウェッ!? や、やへ……やめて……助け……!? 【メキョメキョ……!!】ゲェアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!?」
『い、嫌だぁ! 死にたくない死に――あぎゃあああああっ!?』
『ま、待ってくれ! 命令だったんだ! 仕方なかっ――いぎゃあああああっ!!』
『うわああああああっ!? 嫌だ俺は帰るん――あっ――……』
『どうした? 殺れよ? もう十分生き――嘘です助けてぎゃああああああああっ!!』
『オレ……お前みたいな正義のロボットに倒されるのが夢だったんだ――あ、ちょっと待って? 流石にその武器は正義のロボットにしては猟奇的――ひぎゃあああああああああっ!?』


「ママー? あのおじさん達何してるのー?」
「しっ! 良いから放っておきなさい。世は常に因果応報なのよ……」
「んー……? はーい」


ギュルギュル! ガスガス! ビターンビターンッ!


「……うわぁ……えげつなっ……!?」
「……ふぅ……(パタリ)」
「わぁ!? 花梨しっかりして!」
「デストローイッ!!」
「素晴らしい戦闘能力です……流石は『あの御方』が所有していただけの事はある。――ぐっ……少々無理をし過ぎたようですな……! み、御手洗様……後の事を……!」
「――っておい!? 大丈夫か爺さん! ていうか後を頼むってどう収拾つければいいんだよこの状況っ!?」
「……シャル……ット……嬢……さ、ま……(ドサァッ)」
「うおおおおおいっ!? 何か意味あり気な名前を呟きながら倒れんなああっ!?」
「と、とりあえず気を失った花梨も連れて何処か休める場所に行こうっ!」
「そ、そうだよな! とにかくこの場を離れよう!」
「了解ー! ってなわけで……おーい六ちゃん! このお爺ちゃん運ぶの手伝ってー!」
【了解】
「「いや呼ぶなよ!?」」


ポイッ(ボロ雑巾のような物を投げ捨てる)

ズシン……! ズシン……!


【運搬を開始する】
「ありがとねっ六ちゃん!」
「……何か枝理が速攻で馴染んでるんだけど……」
「……何なんだよ一体もう……あーもう、後で弾の奴に連絡取って見るか……」
【マスターは多忙。連絡は控えるべきだと愚考するアナザーマスター】
「あーそうなのかー……って何なんだよさっきから!? 俺の事アナザーなんとかって呼んで!」
【アナザーマスターだ】
「~~っ! ……はぁ……もう何でもいいや……じゃあとにかく二人を運ぶのを手伝ってくれ」
【了解】
「そっとだよ? 落しちゃ駄目なんだぜぃ六ちゃん!」
【了解】
「へぇ~……何か意外に素直なロボットね」
「――ああ……何か本当に面倒臭い事が待ってる気がする……弾絡みで、こう言った予感は外れた試しが無いんだよなぁ……」
【心中察する】
「余計な御世話だよっ!?」
【……】
「な、何だよ? 急に黙って……?」
「お、怒ったとか……?」
「六ちゃん?」
【……御免……】
「落ち込んでたのかよっ!? 別に怒ってないよ俺っ!?」
「後少し涙声じゃなかったこの子!? 無駄に高性能ね!?」
「御手洗よ~? 六ちゃんに悪気は無かったんだから許してやれよい」
「だから怒ってないってば!?」
【……嫌わないで欲しい……頑張るから……】
「……御手洗君……あのさ、私が言うのも何だけど……この子も反省してるみたいだし……さ?」
「ここは器の大きさを見せつけてやろうじぇい?」
「――だあああああもうっ! だから怒って無いってば!? 畜生っ俺の平穏な午後の時間を返せえええええっ!!」



――この日。もう一つの戦いの物語幕が上がった。(注意・此処はISの二次創作の世界です)



*   *   *



――ギュピーン!!


「――っん!? ……この感じは……?」
「どうした弾っ!?」
「何か問題でも?」
「いや別に大した事じゃないんだが……何か数馬が凄く主人公してる様な気がしてね?」
「数馬……?」
「ご友人ですの?」
「――まぁいいか、今はそんな事気にしてる場合じゃないし……っくそ! 中々開かないな……!」
「だからまずピッキングで開けようとする事がおかしいだろうにっ!?」
「よ、よく此処までこれで開けられたものですわね……」
【――相棒自分を纏ってください! 今すぐに、さぁ早くっ!! さぁさぁさぁっ!!】
「おおう? どうしたんだ相棒。ヤケにやる気だな?」
【いえ、何だか此処で活躍しないと色々と持って行かれそうな予感がヒシヒシと……! くっ……一体何でしょうこの迫り来るような危機感は……!?】
「ふむ? まぁいいか……いい加減面倒になって来たしなっ! 強行突破だ行くぞ相棒っ! 展開ッ!!」


――カツ!!


「――へいお待ち! 行くぜ相棒っ!」
【やらせはせんっ! やらせはせんぞおおおおっ! 見せてくれる! 【特注コンロ・炎の料理人魂】の熱エネルギーを 【五反田包丁 初代・二代】へと流し込む連動技! これぞっ!】
「『五反田包丁 初代・二代【炙り刃モード】』!! 切れ味倍増の二振り包丁っ! その切れ味を特と見よっ!! 行くぜええええええええええええええええええっ!!」


――ズギャアアアアアアアアアアアアアアァァァァンッ!!


「――な、何と言う破壊力だ……!? 」
「私との戦闘では見せなかった技ですわね……全く、色々と秘密にしている事が多い方ですわ――さぁ私達も参りましょう箒さんっ!」
「承知っ! ――っとコラ弾少し待たんかぁ! 私達を置いて行くなぁ!」


タタタタタタタタタタタッ!!



――閉じ込められた淑女達の元まで……残す遮断扉は後四つ。







*   *   *




~ 短編その九 【 仲良し中学メンバーの日常 】 ~


【中学二年生時代 】


キーンコーンカーンコーン♪


「――一夏ぁ! 一緒にお昼食べてあげるわ。お昼っ!」
「鈴か、別に良いぞ」


ガラッ!!


「――一夏ぁ! お前のお昼をたかりに来てやったぜ。たかりにっ!」
「来なくていいっ!! それより今頃登校して来たのかお前っ!」
「は? 何言ってんだ、ちゃんと朝の点子には出ただろう。携帯で」
「朝のホームルームで先生がお前の名前を呼んだ瞬間に、先生の携帯電話が鳴ったから先生が廊下に出て行ったけど、あれお前からだったのか!? それは出たとは言わねぇよ!」
「って言うか何でそんなドンピシャに携帯掛けられるのか謎よね……」
「展望台の展望鏡から見てたからな」
「「朝っぱらから何処行ってたんだ(のよ)お前(アンタ)はっ!?」」
「でも『へいっ!』って返事したら『……五反田出席……と』って言ってたから、きっと出席扱いだぞ?」
「……先生……一体こいつに何の弱味を握られてるんですか……!?」


スタスタスタ。


「――おーっす一夏。昼飯食いに食堂……って弾。お前今日休みじゃ無かったのか」
「心配してくれたのね数ちゃん♪ でも安心して! 元気良く病院に行ったら『どうせまた仮病だろ』って受付で診察結果を受けたから♪」
「それ診察じゃ無くて受付で追い返されただけじゃねぇのっ!? 何だその常連さんに対する様な病院の受付の反応っ!?」
「人に言われて初めて分かる自分の体調って世の中割と多いんだぜ。ちなみにこれまで一度も『仮病』以外の診断結果を申告された事が無くてな? 全種コンプリートにはまだまだ遠いな……」
「何のコンプリート目指してんだよ!? お前のそれは最早妨害行為以外の何物でもねぇぞっ!? 病院の迷惑を考えろこの馬鹿っ!もう二度とそんな理由で行くなっ!」
「……はいはい分かったよ。もう二度と行かねぇよ」
「は……? 何よ随分素直じゃない……え、やだアンタまさか本当に体調悪いんじゃないでしょうね?」
「お前今日は本当に休んだ方が良かったんじゃないか?」
「……そこで真顔で心配する一夏と鈴にビックリだわ、俺」
「一週間後に大手術を控えて不安に怯える病弱な小学生の女の子を励ましてやるのも、事故で右足が上手く動かせなくなったサッカー少年のリハビリに付きやってやるのも今日で最後か……午前中は誰もお見舞いに来れないから、俺が行く事で少しでも寂しさがまぎれればと思って始めた事だったんだが……」
「おい待て何だその裏事情!?」
「……くそっ! 絶対また会いに来るって約束したのに……!(ドン!と机をたたく)」
「そう言う事だった訳ね……ねぇ数馬さぁ……」
「そう言う事情なら……その、少し位目を瞑ってやれないか? いや学校が大事だって事も勿論分かってるんだけど」
「何でお前ら三人は俺が絡んだ時に限って息ぴったりの三位一体の反応返すかなぁっ!?  だぁぁっもう! 別にお見舞いを止めろなんてって言ってねぇだろう! むしろ、お見舞いになら行って来いよっ!」
「お前それが人にモノを頼む態度か?」
「ウッゼぇぇぇぇ!? こいつ果てしなくウッゼぇっ!?」
「って言うかサッカー少年……? あれ男の子だよな?」
「男には慈悲の欠片も無いアンタにしては、随分優しいじゃない」
「そいつのお母さんが凄い美人でな?」
「うん、凄くお前らしくて失望も湧ねぇわ」
「しかも巨乳」
「――よし弾。次は俺も一緒に行こう(キリッ!)」
「そして数馬も結構自分の欲望に正直だよな」
「少しでも見直したアタシが馬鹿だったわ……頭痛い」
「何? 俺の仮病がうつったか?」
「「「うつるかっ!!」」」


テクテク、スタスタ、コツコツ。


「何だか騒がしいと思ったら……やっぱり」
「流石は五反田っ! 人間台風の異名は伊達じゃないじぇ~!」
「廊下まで声が響いてたよ? あんまり大きな声だしちゃ駄目じゃない。四人とも」
「あっ花梨と文に枝理じゃん。三人ともこれから一緒にお昼?」
「まぁね。鈴達も?」
「そうよ。あっ何なら全員で一緒にお昼食べない? ……数馬もいるし(ニヤニヤ)」
「んなっ!?」
「! な、なな何を言ってるの鈴ちゃん!? わ、私は別に……!」
「いや~ん♪ 照れるにゃー」
「ん? 俺がどうかした?」
「……数馬。お前って本当鈍感だよな――(ドゴス!!) ぐはっ!? 何すんですか!?」
「いやぁ……テメェが言うと嫌味にしか聞こえねぇんだよ一夏」
「その通りだ。先輩から後輩、そして教師。挙句には他校の女子生徒にまでフラグ立てまくってやがるくせに全然気が付かないお前にだけは言われたくねぇわ。――って何だかこのやり取り何処かで見た気がするぞ?」
「あっ! じゃあ俺金髪グラサン! 妹いるならやっぱ俺だろう!」
「なら俺は青髪か」
「「イエーイッ!(パァン!)」」←両手を打ち合わせる弾と数馬
「……お前等って妙な所で意気投合するよな」
「何だかんだ言っても付き合い長いからな俺達。なぁ弾?」
「おっと、後でちゃんと両手を消毒しとかねぇと」
「おいコラァ! お前何だその反応はぁっ!?」
「だってお前便所じゃん。うわ、バッチぃ」
「馬鹿っそれ数馬の前では禁句!!」
「――あっはっはっは! こいつどうしてやろっかなあああああああああああああっ!?」

「――五反田君。御手洗君に酷い事言わないで(キッ!)」
「――人の名前を冗談でも侮辱するとか最低よアンタ(キッ!)」
「――五反田よ~♪ ……テメェ煮えた鉛飲ますぞ……?(ギョロッ!!)」

「……すまなかった数馬。いやマジで御免なさい。貴方と同じ地面を踏みしめてすみません。……ちょっと校門横の伝説の木の下で首括って来るわ……」
「い、いや反省してくているなら良いぜ……? むしろ落ち込み過ぎて生気の無いお前が逆に心配だ……っていうか止めろ! 別の逸話ができるだろ!」
「馬鹿……花梨達の前でそんな事言うからよ。はいはい三人ともそんなに目くじら立てない! あいつ等にとってはじゃれ合い程度で済む事なんだから」
「そ、そうなの?」
「いや、それでも親しき仲にも礼儀ありっていうじゃない」
「御手洗はそこんとこどうなのよい?」
「う~ん……まぁこいつ等なら、腹立つ事には変わりないけど別に本気にはしないな」
「サンキュ便所」
「こいつ凝りねぇな!?」
「二度目はねぇぞゴラアアアアアアッ!?」
「「「……はぁ……」」」
「やっぱり鉛煮て飲ませよーかい?」



*   *   *



【 下校中・ゲームセンター内 】


ブオオオオオオオオオオオオォォォォォォン!


【 YOU WIN ! 】


「――よっしゃ俺の勝ちっ!!」
「っだあああああっ! くそっ最終コーナーで追いつけたのにっ!? も、もう一回! もう一回勝負だ!」
「はっはっはっ見苦しいぞ数馬君! ハンバーガーセット、ゴチになりまーす!」
「くっそ~……! 前までは俺の方が一枚上手だったのに、何時の間に腕上げやがったんだ……!」


――ピカーン! ドゴバキャベキドスドスグシャッ!


【 K・O! YOU WIN! PERFECT!】 


『――我に屠れぬ野郎無し』
『……ま、負けた……? こ、この俺一撃も当てられずに……!?』
『嘘だろ!? 店内ランキング三位の『大トロ好き三佐』が!?』
『誰だあいつ!?』
『分かんネェ!? 『DANSHAKU』ってランキングにいたか!?』
『野郎の使う野郎キャラ風情が、紳士の扱う淑女キャラに触れるなど海の水を飲み干すよりも困難な事だと知れ、未熟者め』
『い、意味が分らないけど強ぇぇ……っ!?(ガクリ)』


「……あっちはあっちで盛り上がってんなぁ」
「……色んな意味でゲーム強いよな弾の奴」


ツカツカ、テクテク、スタスタ、コツコツ


「ちょっとアンタ達ー。何男だけで盛り上がってんの?」
「おっと、悪い悪い」
「鈴達は何処行ってたんだ?」
「UFOキャッチャーを見て周ってた所……けどサッパリだったわ」
「残念……あのヌイグルミ凄く可愛いかったのに」
「ああ言うのって本当に取れる物なの? アームが弱過ぎよ」
「此処は魔窟だぜー? 小銭が面白いように消えて行くっ!」
「そりゃ災難だったな」
「……ちょっと一夏。此処は『俺が取ってやる』とか言えない訳?」
「え? 俺は別にヌイグルミは其処まで欲しいとは思わ「死ね」――って何でだよ!?」
「そう言う事じゃねぇだろ馬鹿。ったくこいつは本当に……よっしゃ、俺がやってみるよ! 人里さん、欲しいヌイグルミって何処にあるの?」
「え? み、御手洗君が取ってくれるの?」
「ふーん?」
「おおー! 何か展開が分る気がするけど、その意気や良しっ!」



――数分後。



「…………」
「……色んな意味で期待を裏切らない奴よね数馬って」
「数馬……お前下手にも程があるだろ」
「――うがああああああっ!? 何でだよ!? 三千円も使ってるってのに!?」
「あ、あの御手洗君? そんなに無理しなくても良いよ? 気持ちだけで十分だから。ね?」
「あははははははっ!! やっぱりこうなっちゃたか~」
「くそっ! も、もう一回だっ!」
「御手洗よ~。諦めも肝心だぜー? だぜー?」


――チャリーン。

――ピコピコピコ。キュルルルキュルルル♪


「お、結構良い位置っぽいぞ数馬」
「良い感じじゃ無い?」
「よーしよーし……! そのままそのまま……っ!」


――ガチッ。ウィーン♪


「あっ! 上がった! 持ちあがったよ御手洗君!」
「っしゃああっ! 落ちるな落ちるなそのまま来い!」
「へーやるじゃない。まぁ流石に三千円も使えばね」
「ラストスパートッ!」


――シュバッ!


「――へいお待ちっ! 貴女の街の五反田 弾ですっ! って言うかみんな俺を置いてくなんて酷いぜっ! 寂しいじゃないか!?」


――バァン!! ←(UFOキャッチャーに思いっきり手を付く弾)

――ポロッ。←(衝撃で落ちるヌイグルミ)


「「「「「あ」」」」」
「………なっ……!?」
「おう?」


キュロロロロロ……パカ。(スカ)



「「「「「…………」」」」」
「…………」
「……おぉ」



「「「「「「「…………」」」」」」」



「――すまん数馬。封印された右手が勝手に……」
「言い訳にしても、もう少しマシな言い訳ねぇのかテメェエエエエエエエっ!!?」
「お、おいおい弾……今のは流石に無いぞ」
「あーあー。アンタ少しは空気読みなさいよ全く」
「五反田君……」
「あんたねぇ……」
「まさかの友の裏切り! 御手洗の運命やぁ如何にっ!?」
「待て次回っ!!」
「灯下さんにノっかってんじゃねぇよっ!? お、お前ふざけんなよっ! 折角、せっっっかく取れそうだったのに何してくれてやがりますかお前はあああああっ!?」
「すまんスマン悪かった。……でも仕方ないじゃん!? 気が付いたらみんな俺一人置いて楽しそうな事やってんだもんっ! 俺も早々に混ざりたかったんだっ! だからちょっと勢い付け過ぎちゃったんだよ!」
「あー、それはお前一人で格闘ゲームやってたからだろ? 勝ち続けてる所声掛けちゃ悪いかと思ったんだよ。……あれ? って事はお前格闘ゲーム負けたのか?」
「おうっ負けた負けた! 全力で挑んだら、初心者の小学生の女の子に手も足もでんかったわ」
「何言ってんだかこいつは……」
「どうせアンタの事だから、その子の為にワザと負けてあげたんでしょう?」
「いや、昔に蘭とゲームやってる時にな。ゲームの対戦で俺が連勝すると蘭が泣いて悔しがって『もう一回! もう一回やるのっ!』って蘭が勝つまでずっと付き合わされてよ。それ以来どうやったら全力を出した上で蘭に勝たせてやれるか試行錯誤を繰り返した結果。紳士技『接待敗北』が『全力敗北』に昇華して、遊びの範疇内だと年下の女の子相手に無条件で発動する変な癖が出来ちまってなぁ……俺、真剣勝負以外での勝負となったらどんな競技でも年下の女の子に完全敗北する自信がある」
「何だその捻くれた自信!?」
「でも酷いよ五反田君っ! せっかく数馬君が取ってくれる所だったのに……」
「……何ですと? ま、まさか数馬っ! 花梨ちゃんの為にUFOキャッチャーやってたのか!?」
「そうだよっ! もう少しだったのにお前のせいだぞ!?」
「お、おおう……! そ、それはマジですまんかった。紳士たるこの俺が何たる愚行を……!」
「う~ん……? でも取れなかったのはある意味、幸運かと思うんだけど? アタシ」
「へ? それはまた何でだね鈴?」
「取れなかった事が幸運な訳あるかっ!」
「いやだって。此処で数馬が花梨の為に『だけ』ヌイグルミとったら……ねぇ?」
「あん? 何だよ?」
「! おおう……成程、確かに……ちょっとしたトラブルの種がまかれるか」
「……あ……」
「な、何よその目はアンタ達……?」
「見つめられると照れるにゃ~」
「ん? ……ああそうか。後二つは確実に取ってやらなきゃいけなくなるよな数馬は、必然的に。数馬の腕だと残りの二つを取るまでに、幾ら金を消費する事になるか分かったもんじゃないし……むしろ取れなかった事は数馬にしてみれば幸運とも言えなくもないか」
「「!? い、一夏が察したっ!?」」
「おい待てっ!? 何だその反応! 普通気付くだろう、これ位っ!?」
「これ位……? ……ねぇ弾? アタシ、常日頃これ位の事に気付かないコイツ殴っても構わないと思うんだけど、どうかしら?」
「ニ、三発殴ってもお釣りはくんじゃね?」
「何でだよ!? 俺何もしてないだろう!」
「何もしないのが問題だって言ってんのよ馬鹿っ!」
「ちょっと待ってくれよ!? 何で俺が怒られてるんだよ!」
「――あっ! そうか、人里さんだけじゃ無くて、中入江さんと灯下さんにも取ってあげなくちゃなくなるか」
「えっ!?」
「おおう!?」
「おっ!」
「えぇっ!?」
「なっ!?」
「わぁおっ!?」
「そうか……そうだよな。何で俺気付かなかったんだろう」
「か、数馬……!? もしかして気付いたの!?」
「数馬……お前やっと人里さん達の気持に……!」
「ふむ? だが今の発言からすると……貴様っ! それはハーレム発言ともとれるぞ!」
「えぇぇえっ!? み、御手洗君て……まさかそんなっ!?」
「御手洗君まさか……!? だ、駄目よそんなっ! 私はそんなの……!」
「ちなみに私は花梨と文なら別に良いぞよ~? 仲良く分け分けバッチ来いだじぇ~?」
「ちょ、ちょっと枝理!? 何を言ってるの!?」
「わ、私は……ヤダからね!? こ、恋人には私だけを見て欲し――」



「人里さん達は仲良し三人娘だもんなっ! 三人ともお揃いでヌイグルミは持っていたいだろうから、後二つは確実に取ってあげなきゃならないよな。うん」



「「「――駄目だこいつ」」」
「は? 何がだよ一夏、弾? それと鈴まで何だよ」
「「「…………」」」
「……あ、あれ? どうしたの三人とも?」
「……御手洗君ヌイグルミ取って」
「え? そ、そりゃ取るって言ったんだし頑張るけど……」
「きっかり三人分ね。私達仲良し三人組だからお揃いで欲しいから」
「あ、ああ分かった……よ?」
「御手洗が! 三つ取れるまで! お金入れるのを止めさせない!!」
「いぃっ!? ちょ、ちょっと待ってそれは――!?」


――シュバ! シュババン!


「へいお待ち! お札を全部両替してきてやったぜ!! 硬化で中身ギッシリ♪ 軽くない財布って最高だよね? はーい連続で行ってみよーっ!(チャリチャリチャリチャリチャリチャリーン)」
「は? 両替って――っうおおおおい!? 弾お前何してやがんだああああああああっ!? お前その手に持ってんの俺の財布じゃねぇかああああああああああ!?」
「千……! 二千……! 三千……! 馬鹿な!? まだ入るだとっ!?」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」
「天罰だな」
「一夏。アンタが言うとイラッとするから黙って」
「だから何でだよ!?」


その後、数馬はヌイグルミを苦悩の末三つゲット。

そして弾も挑戦し、お金をしっかり入れた後ピッキングでUFOキャッチャーの窓のカギを普通に開け、『金は入れたろ? だから何も問題ない』と素手で掴んでヌイグルミを取るという性質の悪い行動を取り、店員に見つかる前に全員でゲームセンターから大急ぎで逃げるように出て行くことになる。


彼等の日常は、今日もまた騒がしくも平穏に過ぎて行く――


(後書き・中学時代メンバー書くのが楽しくて仕方ない……)


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