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[25368] バカと乙女とGクラス (バカとテストと召喚獣二次創作・オリ主)
Name: お腹が頭痛◆481636d5 ID:93ce6ad6
Date: 2011/01/10 18:37
タイトルの通り、『バカとテストと召喚獣』の二次創作です。
オリジナル主人公を使うため初っ端から色々と原作と違いますが、生暖かい目で見て頂けると幸いです。
宜しくお願いします。



[25368] 第一問 01
Name: お腹が頭痛◆481636d5 ID:93ce6ad6
Date: 2011/01/10 23:51
 俺たちが文月学園に入学して、ようやく二度目の春。
 果たして俺はこの時をどれだけ待ちわびたことだろうか。
 一年次には先輩達が廊下で大声を張り上げ戦っているのをただ眺めることしかできなかった試召戦争……、ようやく、ようやく俺も自らの召喚獣を駆り、戦争に参加することが出来るようになるのだ!
 楽しみでたまらない。ああ、本当に楽しみでたまらなかった。校舎へと続く道の両脇で咲き誇る桜は、俺の進級と試召戦争への参加資格を得たことを心より祝福してくれているに違いない!
 ありがとう桜、センキュー桜! 俺は軽やかな足取りで坂道を登っていく。
 さあ――、俺の配属クラスはどうなっているのだろう!





「……吉井に続いてお前か、都筑《つづき》」
 玄関に辿り着くと、そこに立っていた浅黒い肌の筋骨隆々肉ダルマこと西村教諭が苦々しげな顔でそう言った。
 トライアスロンが趣味であだ名は鉄人というとんでもなく肉体派の生活指導担当教諭で、俺の去年の担任。彼に泣かされた生徒の数は知れないという。
 しかし何だか出会い頭にいきなり敬遠されている気がしてならないのはどういうワケだろう。ここは俺が実に社交的な生徒であるところを見せないといけないようだな。一応頭を下げて挨拶だ。
「おはようございます。それにしても随分と失礼な挨拶じゃないですか西村先生。俺は少なくとも吉井よりはまともだと自負しています」
「どっちもどっちだ」
 ひでぇ。
 吉井明久と言えば我が文月学園の誇るバカで、そのバカさ加減はエレベストよりも高くマリアンヌ海峡よりも深いと言われている。要は超世界級のバカだ。彼とは去年同じクラスで所属していたが、彼のバカさ加減は身を持って知っている。俺はそんな世界を制するバカと一緒にされてしまったのか……。
「エレベストに謝ってください」
「お前の頭の中では一体何が起こったんだ? 何が言いたいかはわからんが正確にはエベレストだ」
「し、知ってましたよ……」
 危ない危ない、内心の動揺を悟られるところだったぜ……。
 そんな俺の心情を知ってか知らずか、鉄人は嘆息しながら何かの封筒を取り出した。
「なんです、これ。俺の名前が書いてあるじゃないですか。……はっ、まさかラブレター……!? いや、でも、初めてのラブレターがこんな筋肉ダルマからげふぅっ」
 鉄人の鉄拳が腹に入り、俺は膝から崩れ落ちた。予備動作無しの鉄拳なんて避けきれるわけないだろぉ……。
 俺が怨嗟の籠もった視線で見上げると、対照的に冷ややかな目で俺を見下ろす鉄人が同じく冷ややかな声で告げた。
「その封筒の中身にはクラス編成の結果が書かれている」
「……組分け試験のですね?」
「そうだ」
 成程クラス編成ね。
 俺の通う文月学園は学力によるクラス編成方式を取っており、一年終わりの組分け試験の結果に応じ成績順でクラスが決まっていく。AからFまでの計6クラスで、頭が良いものはA、対照的にバカはFクラスに配属される。まあ滅多にFクラスに配属されるようなバカはいないだろうから、俺のように滲み出る知性に彩られたスーパーボゥイからすればBクラスが妥当なところだろうか。Fクラスに配属された日には首をかっ切っても良いだろう。それはもう屈辱過ぎる。生きていく希望を見失ってしまいそうだ。
 それにしても随分と開けにくい封筒だ。開け口が瞬間接着剤で止められているようにも見える。
 ていうか絶対そうだろこれ! 鉄人め妙なところでいやらしい事しやがって!
「……都筑。俺は今だから言えることがある」
「はい、何です? 瞬間接着剤で止めたってことですか?」
「俺は去年一年間お前を見ていて、『お前はきっとバカだろう』と思っていたんだ」
「先生の目は飾りですね。あだ名に『節穴』も追加した方が良いですよ」
「さっき吉井にも言われたよ」
「い、いだっ、いだだっ!」
 笑顔を見せながら蹴り入れてくるのは止めて頂けませんかねぇっ!
「だが先生は間違いに気付いた。大いなる間違いに」
「じゃあ今すぐ俺に土下座して今までの非礼を詫びるべきだと思います」
 くそっ、埒が明かない。こうなったら封の上部分を破るしかないか。ていうか何で今までその方法を採らなかったんだろう。俺はバカか。
 封筒を覗けば、一枚の紙。ここに、俺の去年の振り分け試験の成果が書かれている。
 俺としては実力を出し切れなかったので若干悔しい結果に終わってしまったが、それでもBクラスは下らないだろう……。
「都筑、お前は真性のバカだ。喜べ。学校の歴史を変えたぞ」
 折りたたまれた紙を抜きだし、中身を確認。


『都筑松一郎……Gクラス   ※参考成績 クラス振り分け試験:0点』


「お前は校内一のバカだ」
「いやちょっと待ってくださいGクラスって何ですか!?」
「お前は校内一のバカだ」
「繰り返さないで良いですから!」
「お前は世界一のバカだ」
「日本すっ飛ばしていきなり世界!?」
 こうして、俺の新しい学園生活が幕を開けた。幕を開けてしまった。
 やはり問題だったのは選択問題を全部サイコロで決めたからか? 
 それにしたって全部外してしまうなんて……。一体どういう事なんだ……。
 だが、振り分け試験の結果は絶対だ。今更覆せようはずもない。
 俺は涙を呑んで、新しい教室へと向かった。




テスト

問 選択肢の中から正しい答えを選びなさい。

sin45°= ?

1. 1
2. 1/2
3. 1/√2
4. 3/2

都筑松一郎の解答
『17』

教師のコメント
『後で職員室に来るように。サイコロ持ち込みは禁止です。……補足ですが24面サイコロは試験には向いていませんよ』



[25368] 第一問 02
Name: お腹が頭痛◆481636d5 ID:93ce6ad6
Date: 2011/01/10 23:53
「へぇ……。大きいな」
 三階に足を踏み入れると、左手にいきなり巨大な教室を発見した。
 凄まじい広さを持つ教室、きっとAクラスだろう。扉の窓から覗いてみると、Aクラスの担任であろう女教師が自分の受け持つ生徒達に様々な説明をしているところだった。
 ていうか、何? 黒板使わないの? プラズマディスプレイ?
 生徒の机は小型パソコンやら個人用照明やらリクライニングシートやら、逆に豪華すぎて勉強に集中できなさそうな環境が整っている状態。見れば冷蔵庫まで着いていた。
 この豪華さはただの教育機関にしては異常だと思う。まあ、その分下のクラスの設備は目も当てられない状況なんだろうけど。
 そんなことを考えている間に、もうすぐ授業が始まってしまいそうな雰囲気だ。
「やばい、急がないと」
 俺は全速力で廊下を走った。急ぐ必要なんて無かったんだ……本当は……。





 比較的まともな教室の揃う新校舎を抜け、旧校舎へと足を踏み入れる。
 その瞬間俺の体にひしと伝わる負の思念! こ、これは振り分け試験の結果に満足のいかないであろう憐れな生徒達のマイナスオーラか……!
 だが俺の存在に比べれば些細な問題ではないかと思ってしまうのだが。
 Gクラスの俺に比べれば、EだろうとFだろうと所属する人たちみんながAクラスに見えてくる。ああ、何だか泣きそうだ……。
 って、んな事考えてないでさっさと教室へ……。
「って、んん?」
 二年F組――今までは最下層のクラスだと思っていたが俺の存在がそれを塗り替えた――の教室の手前までやって来て、俺は首を傾げた。Gクラスってどこに教室があるんだ?
 文月学園の新校舎にはAからDクラス、旧校舎にはEとFクラス、後文化部の部室しか存在していない筈だ。
 となると俺の教室は一体どこへ……。
「あ、やっと来た、ね……都筑」


 バッ ←全速力で俺が新校舎へと走る音

 シュタタタタッ ←もの凄い勢いで迫り来る恐怖

 ガシッ、ズルズルズル ←あえなく捕縛され廊下を引き摺られていく俺


「いきなり逃げ、るなんて酷いよ都筑……」
「止めて止めて怖い怖い僕はまだ生きていたいの……」
「食べない、から……ね? 性的な意味なら歓迎す、るけど……」
「止めて俺はまだ清らかでいたいんですまだそういう方面へ走るつもりはないんですごめん許してああ神様ゴメンナサイ馬鹿でゴメンナサイ」
 怖い怖い怖い怖い。
 俺をズルズルと旧校舎の階段まで引き摺り、何の躊躇いもなく俺の体をロープで簀巻きにして丸太よろしく転がして、天使のような微笑み――訂正、悪魔が如き微笑みを見せるどこかアクセントのおかしいこの少女が怖い!
 ていうか何故こいつがここにいる!? なんで、どーして、何があってこうなった!
「な、何故貴様がここにいるんだ御子柴伊織……ッ!」
 俺はガチガチと震える自分の口に渇を入れ、とりあえず訊いておかねばならぬ疑問を口に出した。
 彼女、御子柴伊織は。俺の知り合いで……簡単に説明すれば俺の天敵だった。
 物静かで深窓の姫君といった印象を抱かせるこの女、実際はもの凄い行動力と欲望に塗れ執念深く俺を追い詰めてくる、超がつくほど残念な美少女なのである。
 そうだ、美少女だ。一本一本が艶やかで、あまりの純粋な黒さ加減に青みがかって見えさえするほどの立派な黒髪を持ち、肩口あたりまで伸ばしたそれをポニーテールに纏めていたり。うなじ綺麗だったり。
 すらっと細くてモデルのような体型なのに出るところはしっかり出ていて自己主張を忘れていなかったり。顔はまるでお人形さんのように完璧に整っていたり(学園一の才女霧島翔子や、それに並ぶ姫路瑞希にも匹敵するかもしれない)。
 若干言葉を句切るところがおかしいけれど逆にそれが可愛いと評判だったりと、学園でも密かにファンが多いと噂される程の美少女なのだが。なのだが!
「何故お前が今廊下に出ている!? Aクラス配属だろお前は!」
「都筑のことが好きだか、ら」
「理由になってません」
「愛し、合う二人にこれ以、上の言葉が必、要……?」
 この少女、そんな美少女なのに何故か俺のことが好きだと言って色々とちょっかいをかけてくる。
 具体的には今のように簀巻きにされて転がされたり催眠術かけられたり教科書類に書いた名前が全部『御子柴松一郎』になったりとその種類は多岐に渡るが、とにかく疲れる。
 なまじ美少女なだけに俺が彼女から逃げ回っているのをイチャイチャしてるものだと勘違いして嫉妬の視線を向ける奴らもいたりするし……。
 俺からすると彼女の行動は色々怖くて仕方がない。羨ましいならいくらでも変わってやるぞ畜生。
「まず愛し合ってないです」
「……」
 やばいカッターナイフ取り出した。
「訂正します! 愛し合って無くはないけど無いですかね?」
「回り回っ、て愛し合ってな、いことになって、る」
「すいませんすいません! 間違えたんです僕馬鹿だからミスったんです!」
 丸太状態のままひたすら平謝り。ていうか結局御子柴がここにいる理由を聞けていない。
 この御子柴伊織、霧島翔子らに匹敵する頭脳の持ち主なのだ。まあ雰囲気もどことなく似ているけど、とにかくAクラス配属は間違いない筈なんだが……。
 そう思って御子柴を見つめたら、返ってきたのは何故か頬を赤らめ視線を逸らす仕草とこちらへ突き出された何らかの誓約書……ってこれ婚姻届ー!
「視線だ、けで都筑の言いた、いことはわかった」
「わかってないだろ! 一ミクロンたりとて俺の言いたいことをわかってない! 俺の言いたいのはだな」
「脱がな、いとダメ?」
 ちょこんと首を傾げる御子柴と、その動きに追随するポニーテール。畜生仕草は可愛いから外から眺めていたいと思うがいざ当事者となると厄介すぎる!
「んなこと言ってねえし思ってもない! 俺はただ、Aクラス所属のお前がこうして廊下に出てたら叱られないのかとだな……」
「それな、ら問題ない」
「何が……」
 そう言って、御子柴が上着のポケットをごそごそと探り、何かを取り出しこちらへ見せた。

『私と都筑の愛の日記 ~結婚七年目~』

「おい待て! 色々と突っ込みどころがあるだろその日記!」
「シミュレーショ、ンはバッチ、リ」
「いらん!」
「……ちょっ、と間違え、ただけ。はいこ、れ」
 そう言って御子柴が俺に差し出したのは――。


『御子柴伊織……Gクラス   ※参考成績 クラス振り分け試験:0点』


「……What's happen?」
「都筑と同、じクラスがよかっ、たから……。全、部無回、答」
「君は何をしているの!? ねぇ、君は大事な振り分け試験でなんてことを!」
 愛が重い! 激しく愛が重いぞ御子柴伊織!
「大丈、夫。……Gクラ、スは二人だけ。一緒に色々出来、る」
「一緒に色々したくないから俺は叫んでるんだって何故わからないんだ御子柴ァ!」
「恥ずかしがり、や?」
「違う! 俺はただ自分の学園生活がお先真っ暗になってしまったことに対して絶望しているだけだ!」
「都筑を悲しま、せるなんて許せな、い。そん、な人は今すぐ私が地獄、へ墜としてあげ、る」
「じゃあお前は今すぐにでも自分を地獄へ墜とす羽目になりそうだな!」
「?」
「素でわからないような顔をするんじゃないよ! いいからこのロープを解いてくれ!」
「ハ、グし――、ベッドで抱い、てくれる?」
「女子がそう言う言葉を易々と口に出すな! しかも何間違えたかのように言いなおしてるんだよ!」
「これ、が私の交渉、術」
「激しくいらない交渉術だな……。もういいや、それより……」
「?」
「Gクラスの教室ってどこにあるんだ?」
「……あの踊り、場」
 見上げると、四階へと続く階段の踊り場に申し訳程度に置かれたミカン箱が二つ。
 そして踊り場の掲示板に、『二年G組』と書かれたポスターがあった。


「…………マジ?」
「う、ん。マジ」
「担任は?」
「いな、い……」
「何で?」
「あまりに、も成績が酷すぎ、るから緊急隔離措置」
「バカが移るとでも言いたいのか!」
 教室(と呼ぶにもおこがましい空間)と、たった一人のクラスメイト。
 俺の学校生活、華やかなる学園生活はどこへ行ってしまったんだろう……。


「保健体、育は実技にしよ、う? 踊り場でなん、て興奮す、るから……」
「一人妄想に耽るのは良いんだけどこのロープ解いてくれ」
「……う、ん声は押し殺、すから。そっちの方がもっ、と興奮すると思う……」
「俺の発言とその返答は全く噛み合ってないことにいい加減気付け!」
 この女はいったいどこに返品すれば良いんだろう。金を払うから誰か引き取ってはくれまいか……。
 一人静かに涙を流す俺とは対照的に、御子柴は可愛らしい笑みを見せていた。……はぁ。



[25368] 第一問 03
Name: お腹が頭痛◆481636d5 ID:93ce6ad6
Date: 2011/01/10 22:20
 相変わらず御子柴に転がされたまま将来の学園生活について悲嘆に暮れていると、廊下から覚えのある声が二つ聞こえてきた。
 HR中に教室を抜け出すということはあまり誰かに聞かれたくない話なんだろう。
 しかし……彼らは階段の方へと向かってきているようだが、ここに俺たちがいることを知っているのだろうか。

『……姫路のため、か?』
『ど、どうしてそれを!?』

 会話しながら、Fクラス側の廊下をのんびり歩いてきたのはやっぱり俺の知った二人組だった。
 いつも思うが、野性味溢れてワイルドな男と線が細くて女顔な男、この二人が並んで歩いているとその手の趣味の人たちが黄色い声を上げる気持ちがわからないでもなかったりする。
 とりあえず挨拶だけはしておこう。助けて貰うためにも。
「おーっす、坂本、吉井」
「本当にお前は単純だな……って、都筑!?」
「え、都筑君、何してるの!?」
 階段の踊り場で転がされている俺を見て、その二人、坂本雄二と吉井明久――共にバカの代名詞的存在で、彼らがFクラスに所属していることは想像に難くない――は目を剥いた。
 まあ、手足を縛られ身動きの取れない状態になっている奴がいたら誰だってこういう反応を返すだろう。俺だってそうする。
 二人は驚いた顔のまま少し固まっていたが、俺の側でのんびりと読書している御子柴に視線をやって納得したように頷いた。
「お幸せにね」
「お前の幸福を願ってる」
「ちょ、ちょっと待てそれだけなのか!? 一年の時に同じクラスだったよしみだろ、助けてくれ!」
「「断る」」
「ハモるな!」
 畜生、元同じクラスの仲間だったというのになんて冷たい奴らなんだ。
 確かにこいつらとはそこまでつるむこともなかったが、仲が悪いというわけでもなかったはずなのに。
 俺がそんな思いを込めた視線をぶつけると、吉井がおずおずと口を開いた。
「幸せな二人の邪魔は出来ないっていうかさ……。なんていうか、二人の未来に幸あれって感じだね」
「今こんな状況になってる時点で幸せは訪れないだろ! どう考えても!」
 何故か吉井の隣で坂本がしきりに頷いていたのが気になる。
「都筑うるさ、い。官能小説に集中でき、ない」
「しなくて良い!」
「み、御子柴さん、是非朗読を!」
 興奮した面持ちの吉井が鼻息荒く言った。
 なんていうか、こいつよりも下のクラスにいるってのがもの凄く屈辱だ……。
「ところで都筑、まさかそこが教室だったりするのか?」
 青い欲望に身を委ねていた吉井を遮り、坂本が問う。その視線は踊り場に置かれたミカン箱と、掲示板に貼られた『二年G組』のポスターだ。
「教室です。まさかのGクラスでね」
「……明久、お前より下の奴がいたぞ」
「雄二は一体僕をどういう目で見てるのさっ!」
 バカ以外の何物でもないと思う。
「しかし……、これが教室の設備ねえ……」
「問題はな、い。これか、ら二人の愛の巣を作、るから」
「作らないし作る予定もない!」
 自信満々に受け答えする御子柴だが、問題しかない。こいつ勉強以外のことに関しては頭が無茶苦茶悪いような気がする。
「一体どんな点数を取ったらここまで酷いことになるんだ……?」
「「0点」」
 俺と御子柴の声が被る。
 どうやら流石の坂本も、俺たち二人の点数に固まってしまったようだ。
 俺もまさか自分がここまで酷い点数を取ってしまうなんて思いもしなかったからな……。
 吉井にも馬鹿にされてしまうのか。憂鬱な気持ちでそっちにも視線をやると、坂本の横で首を傾げている吉井の姿が目に入った。
「あれ、おかしいな……」
「何、が?」
「試験中に退室した姫路さんがFクラスなんだから、この二人もFクラス所属じゃないの?」
 ウチの学校は体調管理も学業の一環という思いが強いのか、試験途中の退室は等しく0点に換算されてしまう。そして、吉井の話では姫路瑞希(霧島、御子柴と同レベルの才女)がFクラスに所属していることがわかる。
 つまり、0点の姫路がFクラス所属なら同じく0点の俺たち二人もFクラス所属ではないのか、ということか。
 あれ、これに気づけた俺ってすごい? 
「姫路、は体調不良が原、因……でしょ?」
「うん」
「……私は意図、的だから」
 なるほど。御子柴は不慮の事故があったわけでもなく、ただ意図的に全てのテストで無回答0点を叩きだしたがために、Gクラス配属になってしまったわけだ。
 じゃあ俺はどうなのか。みんなの視線が俺に集中する。
 何、答えはたった一つしかございません。



「俺は本気でやって0点だったからだな」



 何故かみんなの視線が冷たい高校二年生の春。
 し、仕方ないんだ! サイコロが、サイコロが24面だったから悪いんだ! 
 次回のテストから記述問題対策にサイコロ以外の何かを用意するぞ! 絶対だ!


「で、二人とも何でHR中に廊下に出てきてんだ?」
 気を取り直して、俺は坂本と吉井の二人に尋ねた。
 二人きりで話したかったんだろうが、俺たちに見つかってしまったのが運の尽きだ。
 坂本は別に隠すことでもないか、と呟き――その裏には俺たちを馬鹿にする坂本の心情が見え隠れしていた――口を開いた。
「なに、俺たちFクラスはAクラスに試召戦争を挑むつもりだってだけだ」
「発案、者は?」
「明久」
「「姫路か」」
 俺と御子柴のハモり。
 そして慌てたのか無駄に背筋をピンと伸ばす吉井。何と分かり易い生き物だろう。
「……俺はこいつに負けてしまったのか……」
「ねぇちょっと待って、都筑君が僕に対して酷い印象を持ってるみたいなんだけど!」
「五十歩百歩だろ」
「目、くそ鼻くそを笑、う」
 失礼な! 俺は吉井ほど酷いバカじゃないと自負しているぞ!
 しかし、御子柴も俺と同じ0点なのに、こいつの頭の出来の良さは有名なので同列に扱えないのが非常に悔しい。
 ああ、俺は卒業するまでずっと、こんな風に卑屈な学園生活を送らなきゃならないのか……?
「うう、せめてまともな教室とクラスメイトが欲しい……」
「まともな頭はいらないんだな」
「シバくぞ坂本」
「冗談だ冗談」
 勢いよく笑う坂本だったが、多分殆ど本気の声音だったぞあれは。
「もし設備が気に入らないなら、試召戦争で上位クラスに挑めばいいだろ」
 そして、坂本がそう続けた。
 酷いクラスに酷い教室、酷い設備、酷いクラスメイトと、酷いこと続きでずっと頭から閉め出されていた試召戦争の文字。
 そうだ、俺は二年生になったから、試召戦争に参加する権利を得ているんだ。
 試験召喚戦争、略して試召戦争は、科学とオカルトと偶然の調和によって完成した『試験召喚システム』を利用して行われる、クラス間での疑似戦争である。
 無制限に出てくる問題を制限時間内に解いていくという一風変わったテストを受験し、その点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を喚び出して戦わせるというものだ。
 学力低下が嘆かれる今日この頃、生徒達の勉強に対するモチベーションを高めるため、ここ文月学園で提案されたいくつかの試みの中、中心にあるのがこの試召戦争だった。
「なるほど……、試召戦争か。すっかり忘れてたぜ」
「どうせそうだと思ったがな」
 皮肉な笑みを浮かべ、坂本が言った。
 良いことを思い出させてくれた。こいつには感謝しても仕切れないな。
 坂本に礼を述べた俺は、官能小説から目を離さないままの御子柴に呼びかける。
「御子柴。やろう、試召戦争を起こしてこの教室から――って何故制服を脱ぐ!」
「都筑、が今ヤろ、うって」
「カタカナとひらがなの違いはとっても重要! よく覚えておけ御子柴ァ!」
 前途は多難だろうが、俺の学園生活に光明は差した。
 目指すはAクラスのリクライニングシートだ。こっちには実力さえ出し切ればBクラスレベルの俺と、真の実力はAクラスのトップレベルに位置する御子柴がいる。
 ははは、負ける要素がない、負ける気がしないとはこのことだぜぇぇぇぇぇ――!
「やる気を出しているようで何よりだ。じゃ、俺たちはそろそろ戻るぞ、明久」
「う、うん。じゃあね、二人とも。その……頑張ってね」
「ありが、とう。都筑と頑張るか、ら…………子作、り」
 背後で不穏当な会話が聞こえてきたが、俺は気にせずこれからのサクセスロードを脳裏に思い描いていた。
 勝つ、勝つ。絶対に勝つ。勝った先に俺を待つのはAクラスのリクライニングシートと教室だ!



『ゆ、雄二。変なこと言って焚きつけちゃって良いの?』
『あのな、明久。いくらFクラスでも、学内トップクラスのバカを抱えた人員二人だけのクラスに負けると思うか』
『あ……。雄二、君って奴は……』
『御子柴というイレギュラーもいるからな。勝手に潰れてくれるに越したことはない』
『はぁ……。悪知恵というか、人を騙すのだけは得意だね……』


「ふふ……聞こえ、てる」





 昼休み。ようやく簀巻き状態から解放された俺は、御子柴と二人連れ立って屋上へと向かっていた。昼食を食べるためだ。
 何だか隣にいる御子柴は妙に上機嫌だが、何かあったのだろうか。俺が女性の心の機微を読み取るという高等技術など所持しているわけがないので、真相は闇の中だが。
 ちなみに先ほど会話した坂本がクラス代表(クラス内での振り分け試験最高得点者)を務めるFクラスは、格上であるDクラスに宣戦布告したようだ。使者になっていた吉井がDクラスの面子にボコられているのをこの目で見たので、間違いないだろう。
 流石は坂本と言うべきか、動きが速い。あいつはクラスを纏める力を持っていそうだからなあ。
 そんな事を考えながら屋上に通じる扉を開けると、太陽の光が容赦なく俺たちを照らしつけた。眩しい。
 どこか適当な場所を探して食べようとしたら、屋上のフェンス際に見知った顔がずらずらと並んでいるのが見えた。
 件のFクラスメンバーだ。
「あ。Fクラ、ス」
「だな。しかも殆どが知り合いだ」
 坂本、吉井を始め、『寡黙なる性識者《ムッツリーニ》』なる異名を持つ男土屋康太、男と女の境界線が非常に曖昧であることを教えてくれる少年(女)木下秀吉、そしていつも元気な姿が眩しいまな板少女島田美波と、全員が俺と御子柴とは去年同じクラスで一年を過ごした仲だった。
 学年次席の才媛と謳われる姫路瑞希も同席しているが、彼女とはあまり面識がない。
 向こうは向こうで話があるのだろうと思い、少し彼らから距離を置いて腰を下ろす。
「あ、都筑君に御子柴さん!」
 が、それも束の間。
 どうやら俺たちの存在に気がついたらしく、吉井の脳天気な声が屋上に響いた。直後、聞こえてきた殴打音はおそらく坂本による吉井への制裁だろう。
 吉井の奴、多分何も考えないで俺たちのことを呼んだな……。
 坂本はきっと作戦会議を進めようと思っていただろうに、他のクラスの生徒を呼んでどうするんだ。
「呼ばれ、たけど?」
 御子柴がそう言って、Fクラスの面子を指し示す。
「じゃ、ちょっとだけ話してすぐに退散するか」
「うん。邪魔し、たら悪い」
 謙虚な俺たちGクラス。頭の中身も謙虚です。


「よう、島田に木下にムッツリーニ」
「こんにち、は」
「あら、都筑と御子柴さんじゃない。……Gクラスですってね?」
 片手を上げつつFクラスメンバーの元まで歩いていくと、真っ先に口を開いたのは島田だった。
 ニヤリと口の端を吊り上げ、面白そうに笑っている。
「ふ、恐れおののくが良い」
「アンタのその無駄に得意げな態度は少し恐ろしいわね……」
 失礼な娘だ。
「しかし、Gクラスとは不憫な事じゃのう。教室が教室ではないと聞いたぞい」
 続けて口を開いたのは、木下。
 Gクラスの存在とその設備については、既に二学年中に知れ渡っているらしかった。
 しかし、こうやって少しでも同情してくれるとはなんて優しい娘なんだろうか……!
「心配ありがとさん。ま、試召戦争もあるしなんとか――」
「都筑、鼻を伸ばして、る」
「いた、いた、いたたたた! 離せ御子柴! 俺の耳がすごく痛い!」
 俺の後ろにいた御子柴が、耳を思い切り引っ張ってきた。千切れる、千切れる千切れる痛い痛い痛い!
「浮気、はダメ、ゼッタイ」
「ほんに主らは仲の良いことじゃのう」
 木下は今、御子柴に女扱いされたことに気付いていないらしかった。良いのか、それで。
「ところで、そこで伸びてる吉井は……」
「バカに制裁を加えただけだ」
 事も無げに答える坂本。なるほど、やっぱり俺たちが来るべきではなかったようだ。
 俺が、とりあえず皆に挨拶もしたということで踵を返そうとしたら、それを遮るかのように御子柴が口を開いた。
「坂本。私たちGクラ、スは台風、の目になる」
 ダメだ、御子柴が何を言っているのか理解できない。
「……ほう?」
「私たちは二人だ、け。でも《観察処分者》と私がい、る。その意味ゆめゆめ忘れな、いようにね」
「なるほど? どう掻き回してくれるのか楽しみにしてるぜ」
 坂本は御子柴の言いたいことがわかっているようだが、俺には全然理解できない。
 唯一わかったのは馴染み深い《観察処分者》という単語だけだ。
「都筑。お昼食べ、よう?」
 俺が御子柴と坂本の会話について思いを巡らせていると、もう用事は済んだとばかりに御子柴が言った。
 見れば坂本は何だか楽しげな笑みを浮かべているが……。
「それじゃ、Dクラス戦頑張れよ」
「ああ。お前らもな」
 最後まで、坂本がその楽しげな笑みを崩すことはなかった。
 まるで何か新しい玩具を見つけたかのような……、そんな輝きを放つ瞳を見せていたのが、何だか気になった。



「はいあー、ん」
「いや、良いです。俺にはサンドイッチがありますから」
「……あー、ん(ゴキッ)」
「ひょっとまふぇ、おふぇのくひをおひゃえてなにをひゅる」(ちょっと待て、俺の口を押さえて何をする)
「食べさせ、る」
「何をだ!」
「媚薬――ミス、私を見、て興奮す、る薬」
「それ別に訂正する意味ないからな!」
「……食べたくない、の?」
「さも傷付いたように言ってるけどそれ別にお前が作ったわけじゃないだろ!」
「御子柴印の媚、薬」
「お前が作ったのかよ!」
「食べてくれるよ、ね」
「これは最早食べるとかじゃなくて流し込むとうぉええぇええええ。は、腹がなんかぎゅるぎゅると……」
「下剤が入っ、てる」
「何でだよ!」
「……観察(ぼそっ)」
「待て、何を観察するつもりだお前、今なら引き返せるから戻るんだ、ていうか戻れ御子柴。お前は今人としても女子としても越えてはならない一線を越えようとしているぞ」
「私の愛、は広い、から。問題ない……よ」
「ありまくりじゃぁぁぁっ!」


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