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[24623] Fate BASTARD night (fatexBASTARD)
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/04/05 18:56
この作品は、fateとバスタードです。


なにぶん無理な設定なので、最初が長いのですが、勘弁してください。
DSをマスターにしてみたらどうなるのかなと考えてやってみました。

バスタードの話が分かっている人は、成る程と思う所が、多々あるかもしれません。

話的には、DSが地獄を脱出した後の話です。DSが十賢者の箱舟の動力炉の作動で地獄を脱出した後かもしれない話です。漫画で4年間の空白があったので、その空白を利用して、物語を作っています。
地獄を脱出した後、ユダの痛みが七つしかない為に、地獄門がうまく機能せず、fateの世界に来た。という設定です。
そして、地獄から脱出して、傷ついた所を、キャスターが拾って
契約をするという感じです。

キャスターを気に入っていて、色んなSSが傷ついた、キャスターを拾うという話が多かったので、立ち位置を逆にして見ました。
キャスターが、助けられるのではなく、キャスターがDSを助ける。
これならうまくいくかなと思い書いてみました。
それでは、バスタードを知らないと少し分かりにくいかと思いますが
宜しくお願いします。


12/1 キジムナーさんに言われて、遭遇修正。台詞の精霊を大源と小源に変更。
12/3 某さんに指摘されて、題名の所を修正。



この作品は
二次小説を作ろうでも掲載されています。



[24623] 地獄の門からやってきた。
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2010/12/30 01:39


[グウゥ・・・・・・」

そういい残して、不死身の魔人ダークシュナイダーは倒れた。
彼は悪魔王たちから、ユダの痛みと呼ばれる、太陽の500万倍以上の質量を持つとされているエネルギーの塊を奪い地獄の門を破り脱出したのはよかったが。
その際、地獄の門を脱出する時に莫大なエネルギーを使用した為にDS自身、ユダの痛みに、魂と肉体を、砕かれ食い尽くされて、生きていくのが不可能な程、体力を削られていた。
本来、この“ユダの痛み”は、人間が使えるような物ではないのである。
神器“ユダの痛み”は、キリストを裏切った“ユダ”の絶えざる魂の地獄を哀れんで、神が作ったとされるアーティファクトだった。
それはたった一つで、銀河をも飲み込むブラックホールに匹敵する闇の力を無限に呼び寄せる暗黒の祭壇ともいえる力であった。
宝珠それ自体は時空に空いた。小さな穴に過ぎないが其処から流入する力は、銀河系をも破壊しかねないほどの物でもある。



これを使うものは、恐るべき超破壊的な力を振舞う真の破壊者となれるが、これを取り込んでその力を使うものに、恐ろしい破滅をもたらすのだった。
魂、肉体、感情ありとあらゆる激痛、常人であれば一瞬の内に塩の柱ともなるほどの痛みが襲い掛かるのものである。


これを所持していた。悪魔達の王の地獄の魔王ですら使用を躊躇するほどの物だった。
これを使ったDSが、無事なのは、彼がひとえに四百年の長きを生きてきて、無限とも言われている。魔力を制御し使いこなしているからであった。

そのDSでも、七つものユダの痛みを、平行励起させて臨界点を突破し制御しなければ地獄の門は破れなかったのだ。
だが、七つものユダの痛みを使った反動は大きく、リバウンドという形で肉体に現れ、DSの体は、右の肺が潰れ、内臓の臓器もいくつか損傷し聴覚も聞こえなくなっていた。


体の内側から、爆弾が爆発したかのような状態であった。
普通の、人間なら放っておけば物の数分で死んでいるような状態である。だがDSは残された僅かな魔力で再生の魔力を使い、必死に出血を抑え生きようとしていた。


◆◆◆


紫のローブを羽織った。深い紫の色の髪をした女性は、部屋の中で叫んでいた。
彼女の名はキャスターといい、聖杯戦争と呼ばれている戦争で聖杯から、呼び出された英霊の一人であった。


「いやぁああああ!」


キャスターの絶叫が部屋に響き渡っていた。
自分の着ていた紫のローブを引き裂かれ、男の目に見えるのは、穢れのないような白い肌。
それが、いっそう男の欲情を刺激し興奮させた。


「いいじゃねえか、一回ぐらい」


がっついた様な仕草で男が、キャスターに迫る。男の出した令呪の命令は単純だった。


<俺の好きなようにさせろ>


そんな令呪の使い方では、曖昧な効果しかなく、魔術師としての令呪の使い方は在り得ないものだった。
おかげで彼女は少しの抵抗力ぐらいは残していた。
だが、その僅かな抵抗は、目の前の男を更に興奮と狂気に駆り立てるだけのものだった。

嫌がる女を犯す。


それが唯の人ではなく、英霊それも神話でしか登場しない夢物語の人物。
そんな、夢のような女を好き勝手にしていい。
男の口元が下卑たように、歪む。


(嫌!こんな事の為に、私はこの世に出てきたんじゃない!)


(どうして!私は唯・・・唯・・・!)


「嫌がって、泣き喚く女を犯すのも御ツなもんだな、クク・・・興奮するぜ」


「どうせ、あんたも処女じゃなくて、魔女だろ・・・だったら貞操を、色んな男に捧げてきたんだろ」


「一人や二人増えた所で、変わるもんじゃねえじゃねえか」


(この男!)


ギリッとキャスターが奥歯を噛み締めた。

パァン

男の頬が揺れた。キャスターが怒りの一身で動かした手が、男の顔を叩いたのだった。
だが、その行動は男の怒りを買っただけだった。


「キャ!」

パン

男の手がぶれて、乾いた音が、響き渡った。


「いいぜ、そんな、くだらない事が出来ないようにジックリ調教してやるからよ」

男が女の上に馬乗りになり、その白い柔肌を蹂躙しようとした時、不意に男の胸に短剣のような物が刺さった。

ゾブリ

「・・・え」

男は、気づくのに一瞬遅れた。
自分が何をされたのか分からなかったのだろう。

ズブズブっと

肉体に刃物が突き刺さっていく音だけが聞こえた。

「・・・・・・ハアハア」

「ゴフッ」

男は、口から吐血した血を彼女の紫色の法衣に吹きかけた。


「・・・この魔女・・め・」


「うるさい、もうあんたとは関係ないんだ!あんたなんかと!」


「・・・う・・うう・・」


彼女は泣いた。
嗚咽を漏らしながら、自分の両腕で体を抱きしめるようにして、泣き続けた。


◆◆◆


――――――キャスターは、雨の中を彷徨っていた。
マスターを殺した以上、後は消え去るだけが彼女の運命だった。


(マスターを殺した所で、私の運命は・・・)


生きる気力も希望もない、それがキャスターの足取りを更に重くする。


(結局、聖杯を手に入れても何も変えられないのかもしれない・・・なら)


「もう、コレまでね」


自身の死を覚悟しようとした時、彼女の目に映ったのは、魔力を微かに持った人間だった。


(・・・人、こんな所に?)


カツカツと
重い足取りで歩み寄っていくと其処には、深い背の中ほどにまでの髪を生やした、宝石を思わせる様な銀の髪をした男が倒れていた。


(微かに、だけど魔力が、感じられるわね・・・現界ぐらいなら何とかなるかもしれない)


キャスターは、男をうつ伏せの常態から、仰向けに変えた。
そこでキャスターは、自分が仰向けにした男に目を奪われた、完璧とも言えるその美貌に目を奪われたのである。
秀でた額、高く細い鼻梁、滑らかな曲線を描いて尖った顎へと続く頬のラインと唇、そのどれもが、やはり完全な造形美と呼ぶに相応しい男であった。
男の年齢は、多く見積もっても二十~二十四ぐらいであった。


(なんて、綺麗な顔なのかしら、こんな男と契約するのも悪くないかもしれないわね・・・)


キャスターは、男の完璧とも思える唇に口付けをかわし、契約を交わした。
これで、暫くは大丈夫とも思ったが、安心したのも束の間だった。
男の体温が低く、心臓の鼓動を殆ど感じられないのだった。
キャスターは直ぐに、男の凄まじいまでの怪我に気づいた、雨が降っていなかったらもっと早く気づけたのだが、更に、男の服が、黒い法衣の様なのもキャスターが、気づくのを遅れさせる要因の一つとなっていた。


(このまま放っておいては、死んでしまうわね・・・私ったらどうして、こう土壇場で運がないのかしら・・・)


気持ちを切り替えて、すぐさま階段の上にある寺に駆け込もうとしていた。
だが、男の体は重く女性のキャスターにはきつい物があった。男の身長は長身で百九十センチ以上あり、体重は八十キログラムあるとは思えた。
強化の魔術を使えば、何とかなるのだが、それを使ったら男の命の天秤が、死の方向に傾く事は彼女にも分かっていた。


(なんて、重いのかしら、でもこれを登りきれば・・・・・・)


ようやく、寺の中に入り、玄関の入り口まで来て


「どなたか、いませんか!?」


「何用かな?」


眼鏡を掛けた、薄黒い茶色のスーツを着た、男が出てきた。
男の名は葛木と言った。

「部屋を、貸していただきたいのです。このままではこの人が死んでしまうの、お願いです。宿を貸して下さい」


男は、少し警戒をしていたようだ、何せ黒い法衣を羽織った長身の銀髪の男とそれを肩に担いでいる
深い紫のローブの女が、現れたのだから。
一般人なら追い返してしまうような格好だったからである。
だが、男はそんな事を気にせずに


「こっちだ、ついて来るがいい」

二人を、案内した。
キャスターは、男を布団に寝かせると、直ぐに服を剥ぎ取った。男の傷跡を見て少しおびえたようで
思わず、口に手を当てた。

「・・・酷い・・・これでどうして生きているのかしら・・・?」


キャスターの疑問は、当たり前だった。
何せ、男の体は、腹部からは内圧で臓腑が出ていて、右の肺には、砲丸のような穴が空いているのだった。
幸い貫通はしてないようだったが、それでも危険な状態には変わりはなかった。
魔術を行使して男から魔力を奪い取れば、体力の低下で男は死んでしまうであろう事が、パスを繋いでいなくとも誰にでもわかる事ではあった。
故に、聖杯からの知識のみで魔術もなしに手当てをするしかなかった。
魔術を一切使わないで、手当てをするなど、初めての事だった。
お湯を冷まし、傷口を拭いて、上半身を爆ぜたような傷口を大雑把に縫合したに過ぎなかった。
治療というよりむしろ、死者の体を清めるつもりでやっていた。
その時点で、男がまだ死んでいない方がキャスターには驚きであった。













・・・・・・
・・・・・・・・・


深海の其処を思わせる、重苦しく、静寂に支配された眠りであった。
二度と醒めることのない、常闇の深淵へと沈降していくかのような感覚がDSの中に微かな警報を奏でていた。


「・・・・・・て・・・起・・・お願い・・・起きて!」


意識の奥底から、途切れ途切れの声が聞こえてくる。だが、それはくぐもり、安息に身を委ねようとする欲求にかき消されてしまいそうになる。
永遠の昏睡へと導く、さらなる奈落に沈みこむ直前に、DSの意識に声が飛んできた。


「・・・起きて!」


その瞬間、魔人・・・・・・DSは覚醒した。
死神の手が迫る、奈落の其処からDSの意識は、光なき樹海から一気に浮上を遂げたのであった。


(・・・う・・・ヨーコさん・・・?)


初めに、感じたのは、彼が愛した女性の香りだった。
部屋の空気に乗り、彼の愛した女性の香りがDSの鼻孔をくすぐった。


(いや、違う・・・ヨーコさんじゃねえ)


一瞬だが、DSの思い人の顔を、その香りが連想させた。
覚醒した。目を開けてよく見ると、紫の法衣を羽織った。紫色の髪をし尖った耳をした、エルフの皇女のような出で立ちをした女性が其処にいた。
DSの深い蒼をした目が、その女性と交差し、DSが気が付いたのに気づいたようだった。


「よかった・・・目が覚めたのね」


心なしか、女性の目尻には涙が浮かんでいるように見えた。


「あなた、ここに連れて来てから、三日三晩ずっと眠っていたのよ、本来なら死んでいるような怪我をしていたのに、目が覚めただけでも奇跡だわ」


キャスターは、一般人から魔力を吸い取り、魔術でDSの体を直そうとしたが、何故か、聖杯から出現しサーヴァント随一の魔力を
持っているキャスターの魔術でも、DSの怪我は治らなかったのである。
それも、そのはずDSの傷ついているものは、魂であり、それを直さない限り彼の怪我は治らないのだった。
いくらキャスターが、肉体レベルの治癒の魔術を施したとしても、DSの傷ついた魂を直さない限り、肉体は回復に向かわないのであった。
それでキャスターは、DSの体が物質界以上の怪我をしているか、何らかの呪いの様な物と考え、魔術による治療ではなく時間によって、彼の傷が癒えるまで、介護する事にしたのだ。

本来なら、このDSを殺して他のマスターを探した方が合理的ではあった。
聖杯戦争に勝ち残る為には、こんな半死人の看病をしながら戦わなければならないとしたら、どんな英雄でも勝てる見込みはないのだが、おかしい事に不思議とキャスターは、DSを殺す気にはなれず、自分の新たなマスターになるかもしれないDSに、魔術師としての彼女の勘が、何かあると感じ取ったのだった。
加えて、殺すのが惜しいほどの美形でもあり、キャスターはせめて彼が回復するようになるまで見取ると決めたのだった。
それが、功を制したのか、三日三晩つきっきりで介護してようやく、実がなったのだ。


「・・・?」

(・・・ここは何処だ?)


もどかしそうに首を動かしながら、何かを訴えるような仕草でDSは、キャスターをみた。

「駄目よ、まだ動いたら、あなた内臓の臓器もいくつか損傷していたし、胸には、デカイ穴が空いていたんだから」


キャスターは、DSの体に、手を触れて、優しく撫でた。
ビクンっとDSの鋼の肉体が、脈を打ったかのように、キャスターの手に反応した。


「それじゃ、私は、何か食べ物でも、作って貰うわね」



(外だ、外に連れて行け・・・)

「・・・」

DSの目が彼女を見た。

ガッ

DSの力ない手が、キャスターの服の裾を掴んだ。
残った手で、DSはもう片方の手で、外を指していた。


「外に出たいの?」

コクッ

「貴方、生きてるだけでも、奇跡って分かっているのかしら?」

「・・・・・・」

DSは、片方の肺が、潰れて、聴力も殆ど聞こえなかったが、キャスターの言わんとしている事は分かっていた。


(外だ、外に出せ、まずは現状の把握だ)

DSは、地獄から脱出したばかりで外の世界が、気になっていた。
何よりも、世界が、天使という高次元の存在によっての未曾有の破壊で、どうなったのか見るのが先決であった。

DSの蒼玉の目が、キャスターの目を見つめる

――外に、出せ!――と

「駄目よ、まだ寝てなさい」

(うるせえ!まずは外だ!外に出せ!)

DSは、キャスターの服の裾から、手を掴んでいた。

「ちょっと、放してほしいわね」

「・・・・・・」

DSは放す気はなかった。
残った体力を振り絞り、キャスターの手を摑んでいるのだ。キャスターがその気になれば、すぐに振りほどけただろう。
だが、キャスターは諦めたようにため息を吐いて

「・・・ふう、わかったわ。私の負けね。その代わり少しだけよ」

キャスターは、DSの体を起こして、肩に担いで、寺の外へ連れ出した。

「本当に、重いわね貴方、一体何を食べているのかしら・・・?」

「・・・・・・」

DSは、肺を損傷している為に喋る事が出来なかった。
キャスターとDSは、柳桐寺の外に出て行き、町の景色を見渡していた。

「どう、満足した・・・?」

「・・・」

(馬鹿な、天使はどうした、地獄の門は開いた筈だ、悪魔は何処に行きやがった!?)

DSの表情は驚愕に満ちていた。
前人未到の大破壊が起きて、失ったとされる旧文明が其処にはあったのだ。
DSの世界にいるもの達ならば、誰もが驚愕していただろう。
しかもその破壊を行使した、現界して受肉しているはずの天使や悪魔がいないのだから。

「ちょっと、貴方ねえ!」

「・・・」

「ハー」

キャスターは溜息を吐いた。

(ここは、俺の知る世界じゃねえ!)

「キャ!」

ドサっ
という音ともにDSは意識を手放した。

「なんなのよー!もーう!」

周囲にはキャスターの叫びが、木霊していた。










感想  

色々と突っ込む所があると思います。
矛盾点は指摘してくれると教えて欲しいです。
頑張って書きますので、
次の話は、多分一週間以内だと思います。








[24623] 遭遇
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2010/12/30 01:17
DSは、黄泉の眠りに入るほどの魔力を失いながらも、徐々に魔力を回復させつつあった。
ここ柳洞寺が霊脈に優れた土地であって、DSがその霊脈から、失った魔力や、傷ついた魂を急速に癒していたとしても、未だDSが全快になるには程遠く、体を十分に動かす事も困難であった。

既にDSはキャスターが、人間では無いことにうすうす気づいていたが、それよりもまず、体力の回復や魔力の回復に専念することが、先決であった。
DSの体は、全身にリジェネレーション<再生>の呪文が掛けられており、魔力さえあれば、即座に体を蘇生させる事が出来たが、今のDSの状態はそうではない。
DSを聖杯に置き換えれば、話は分かり易い。DSは呪文や魔術を使うとき、この聖杯の中に入ってる
自身の無尽蔵に近い魔力を変換して、禁呪や魔術を一瞬で使用して呪文を詠唱しているのだ。
だが今は、聖杯というDSの魂の器が砕けているのだから。いくらDSが、魔力を行使しようとしても、できるわけがなかった。
普段なら、真祖や使徒にも匹敵するほどの体の再生能力が、今の状態では蝸牛<カタツムリ>ぐらいしかなく、今は何もできず。介護を受けて、ただ刻が、傷を癒してくれるのを待つのみであった。




DSからしてみれば、誰かの世話になるという事は、恥辱ですらあった。
DS自身、何者にも犯し難い孤高の存在である。他を寄せ付けず、絶対無敵の不死身の魔人として世に君臨してきたのである。
その自分が、寝たきりで介護を受けているのである。
だが、強者が正しいという、DSの概念からすれば今のDSは間違いなく弱者であり、誰かの世話にならなければ、生命の存続も危ういのである。
なので、仕方なくキャスターに体を預けて彼女の世話になっているのである。



またキャスターが、DSから供給されている魔力は、DSという魔力の器から、漏れているのを貰っているだけであり、無限に近い魔力を持っているDSからしてみれば、大海から、コップで水を掬うような行為であった。
いくらDSが、達人、魔人の領域にあったとしても、今は活動時間の殆どを傷を癒すために、半瞑想状態に費やしていた。故に起きている時間は、殆どなかった。



だから



キャスターが、DSと契約したという事については、知る筈がなかった。
キャスターが、魔力を行使すればDSならば、すぐに気づいたが、キャスターもDSの危うい状態に気付いており、魔力は現界するのみに絞っていた。

また、DSが目を開けると其処には、自分を助けたと思われる。彼の愛した女性の香りを漂わせる女が其処にいた。
彼、DSは動けない体でも、彼女だけには気を許していた。
今はもういない、その匂いが鼻孔に入るだけで落ち着くのであった。







キャスターは、かなり疲れ果てていた。
自分が助けた男は、虫の息で、しかも目覚めたと思ったらすぐに倒れる。

(・・・何をやっているのかしら、私は)

キャスターは自分のやっている事が、よく分からなかった。何故、この銀髪の男を助けて介護しているのかと
だが、彼女に残った良心と魔術師の直感が、目の前の存在を見捨てるべきではないと告げていた。
また、DSはキャスター以外の人間が食事を食べさせようとしても、絶対に口にしなかった。
意識は無いのだが、彼女以外の人間に、体を触れられるのを嫌がっているような気がした。
狼王ロボが、恋人であるブランカにしか心を許していない様に見えた。

(だとしたら貴方を瀕死にしたのは誰なのかしら・・・?)

キャスターはDSが、昼夜を問わず、覚醒するために、いつも彼の傍にいなければならなかった。
包帯を替えたり、粥を食べさせたり、何故か色々と世話を焼いていた。
一方、DSもそんな些細な事でも、今は重要だった。
傷を縫い合わせた事で、大気中に漂う病原体が、体内に入り腐敗を促進させるのも防いでいたし。
何より、彼女の献身的な介護が、回復に結びつける要因となっていた。






「貴方の怪我は、一体なんなのかしら、私の魔術でも直せないなんて、狼さん・・・」


スッと
キャスターの柔らかな冷たい絹のような手が、DSの肌に触れた。

その手に反応したかのようにDSが、唐突に目を覚ました。
そしてDSの蒼玉の瞳が、キャスターの蒼の瞳の輝きに見出されたかのように、キャスターを見つめていた。

「もう、起きてるなら、起きてるって、言って欲しいわね」

驚いたキャスターがその台詞を言った後に、彼<DS>が、喋れない事に気付いた。

「そうだったわね、貴方喋れないんだったわね」

そう、DSは肺が損傷している為に喋れないのである。DSが突然起きて、脳が少しパニックを起こし為にでた言葉であった。
だがDSの体は順調に回復し、肺も直り復元した声帯機能は、短時間程度の会話なら可能になっていた。
また、呪文の詠唱も一発、二発程度なら、何とかなっていた。
しかし、殆どの時間を昏睡してすごしていた事と、口を聞く必要もなかった事と、会話に使う体力も惜しいので、だんまりを決め込んでいた為に、話すキッカケが掴めないでいたのである。
また、キャスターと会話するのが何となく躊躇われたこともあって話すことが出来なかったのである。


しかし


「おい」


「!!」


「あら、あなた、ようやく喋れるようになったのね、いつ会話できるようになるのかと
考えて不安になったりしたけど・・・・・・ともかくよかったわ」

「それじゃ、私が世話になってる、寺の皆さんに伝えてくるわね・・・」

キャスターは、踵を返し
パタパタパタと
部屋を出て行こうとした。

「待て!」

急いで、部屋を出て行こうとしたキャスターをDSが鋭い静止で押し止めた。

「何で、俺を助けた・・・」

DSの理由は当然である。DSの知ってる人間は利己的で、猜疑心が強く打算で動き、倒れている人間がいても、無関心を決め込むのを知っていたからである。助けたとしてもそんな人間は稀であるのだ。


(ならば、何故、俺を助けたんだ・・・?今にも、消えそうな魔力量しかない女が俺を・・・)


その問いにキャスターはDSが、パスを繋いでいる事に気付いていないのではないかと考えた。


「貴方が、倒れていたからよ・・・」

「・・・違え、俺の知っている人間は普通そんな事しねえ・・・伊達や酔狂だとしてもそいつは自分に余裕があるやつだけか、権力があるかのどっちかだ、お前は、今すぐにも消えそうな存在の筈だ・・・その自分で精一杯の奴がどうして俺を助けたんだ」

DSは、一瞬だけだが、キャスターを自分の技能の一つでもある魔眼で見た。
それで彼女の生態エナジー<魔力量>が、ごく僅かしかない事に、気づいたのである。
最もその為に、DSはキャスターがサーヴァントだと気づかなかったのであるが・・・
普通、自分が生き残るのが大変な人間は、DSという大きな荷物を背負うとはしない筈である。
故にDSの脳は、キャスターが自分を助けた理由が分からないのだ。

(隠しててもしょうがない・・・か・・・)

キャスターは、DSが気付いていないなら、気付いていないで話さずにしようとした。
今だ、殆ど体を動かせないDSを負担に掛けまいとせず、言わないようにしていたのである。

「!!」

キャスターが、何かの気配を察知したようである。


「その話は後にするわ。私は少し用事があるから出て行くわ」

「待て!」

DSの静止の言葉も聞かず、キャスターは部屋を出て行った。
不意にDSは、異変を察知した。


(なんだ・・・?この寺の周囲の精霊が騒いでやがる)

「何か、やな予感がしやがるな・・・」

「!!」

「誰かが、俺の体から、魔力を消費してやがる」

DSは、ようやく気付いた。自分と契約を行使している存在に、その存在が誰であるかも、すぐに感づいた。彼の直感のような物は、うすうすキャスターと自分との関係に気づいていたが、杞憂だと思っていたのであった。
だが今は、確信に変わった。
DSの直感はキャスターの危険の警報を鳴らしていた。

「俺が行くまで、くたばるんじゃねえぞ」

立つのもやっとの体を起こして、キャスターの元に行こうとしていた。

ズリズリズリと

「この体がぁ・・・少しだけ言う事を聞きやがれ・・・」












「よー、あんたはいかにもキャスターって感じだが」


柳洞寺の階段の下で
全身を蒼で包んだ男が、キャスターに向かって問い詰めた。


「隠しても、無駄ね・・・そういう貴方はランサーかしら?」


柳洞寺の階段の上で、ランサーとマスターの二人を見下ろして、キャスターが立っていた。

「いかにもそうだが」

「構わないよな、バゼット?」

ランサーは、後ろにいるベージュの色をしたショートカットの男装の麗人に尋ねた。

「ええ、敵は、全て排除する方向でお願いします、しかし今回は偵察という事を忘れないで下さい」

「そういう事だ、あんたに恨みは無いが、運が悪かったと思って諦めてくれや」

途端にランサーが、紅い槍を出して、突進してくる、
地面を跳ねたかのような速度で、ランサーが襲い掛かってきた。
カタパルトで射失したかのような勢い、静止の状態から一気に爆発的な速度に達したかのような突進並みの人間では、コレには反応できないであろう。機先を制す初手であった。
だが、キャスターも黙って、やられはしなかった。
マスターから引き出せる、魔力を最大限使い、ランサーに仕掛けた。

「―――――――死になさい、Φλ?γα(火炎)」

たった一言。
それだけで発動する大魔術。
これこそキャスターの保有スキルである、高速神言。
どれほどの魔術であろうとキャスターは、たったの一言で詠唱を完了する。

言葉の意味通り、襲い掛かる業火。
対象を焼き尽くす為に放たれたそれは、唯の人間が受ければ骨しか残らないであろう一撃。
その一撃だけでよかった。
最初の一撃で、全力を放ち機先を制する。
これが、キャスターの考えられる最善の策であった。
最初に有利に戦いを進めておいて、交渉に持ち込むこれは彼女の賭けでもあった。

「あらもう終わりかしら、ランサーも大したことないのね」

「キャスターか・・・楽に終るかと思ったが、中々どうしてやるじゃねえか、楽しくなってきやがったぜ」

「ねえ、ランサーのマスター?」

「何でしょうか?」

「今回は様子見のつもりで、仕掛けたのなら、これでお互い止めとくわけにはいかないかしら・・・?」

「あなたも偵察で、来ただけなんでしょう。サーヴァントは七人まだ揃っていないしここで潰しあうのは愚かな事ではなくて?」

「・・・・・・」

キャスターの提案に戦いが止まり、しばしの沈黙が流れる。
実際キャスターにとっては、さっきの一撃が限界であった。これ以上魔力を放てば、マスターの生死が危うくなるからである。
それに向こうも、サーヴァントが七人揃っていないので無理はしないだろうと、踏んでの駆け引きだった。
もしキャスターが、真っ当なマスターに引き当てられていればこんなギャンブルなどせずに、この柳洞寺に陣を張り火炎や雷撃の魔術を好きなだけ撃てただろう。
だが、無いものねだりをしてもしょうがない


<サーヴァントはマスターを選べない>のである。


どんなクズだろうがゴミだろうが令呪がある限りしたがわなくてはならない、それが聖杯戦争のルールであった。

 <たら> <れば>の話をしても仕方がないのである。

今は、このギャンブルに懸けるしかなかった

負ければ 死

勝てば  生

分かり易いギャンブルではあるが、キャスターは標高数千メートルのつり橋を、渡っているかのような気分だった。
相手のマスターが、考える時間が無限にも感じられるひと時であった。

「拒否します。キャスター貴方をここで殺して、この地を拠点とすれば、我々はこの後、かなり有利になれると思います、ランサー!」

「イエス、マスターってか」

キャスターは自分に迫ってくる、ランサーを走馬灯のように見つめていた。
自分は精一杯やったのだ、そこに悔いはなかった。
現状で、考えられる最善の手はうった。唯・・・賭けに負けた。それだけだった。

(最後に、あの男の顔が・・・思い浮かぶなんて・・・フフ・・・所詮、マスターを一回でも失ったサーヴァントが長生きできるはずは無いものね・・・)

キャスターは、生を諦め、紅い魔槍に貫かれるのを覚悟した。
その瞬間だけ、最速と謳われているランサーの動きが、やけに遅く見えた。


(死ぬ前に、景色がゆっくりになるなんて、なんて残酷なのかしら・・・)


そう、生きる事に苦しんだ彼女にしてみれば、死ぬ前の時間がゆっくりになる事など残酷な事でしかなかった。
その所為か、キャスターは後ろの声に反応できた。

「伏せろ!女!」


自分が助けた、半死半生の男の声が、後ろから突然聞こえたのである。

「漆黒の闇の底に燃える地獄の業火よ
我が剣となりて敵を滅ぼせ 爆霊地獄!(ベノン)」


その言葉と共に、圧倒的な破壊酵素がランサーを襲った。


「!!」

DSが使った呪文は混沌の領域の門(ゲート)を敵の周囲に解放し、その領域から
生物を食らう邪悪な物質を呼び出す魔術であった。
コレを食らった物は、細胞が異様な速度で変質、分解して一瞬で塵に還る程の威力である。
事実ランサーの体は、所々が焼け爛れたような後があった。
だが、ランサーも最速の英霊、ギリギリのところで爆霊地獄<ベノン>を回避していた。


「今の魔術は」


英霊と呼ばれている魔術師のクラスのサーヴァントのキャスターでも見た事がない、魔術であった。コレを実行できそうなのはキャスターは、唯一人、思い当たる節があった。


「ちょっと、貴方、何で出てきたのよ!」


やはり、キャスターが助けたDSだった。
DSが、キャスターを押して後ろに下がらせ、眼前のパゼットとランサーに目をやる。
同様に、パゼットとランサーもDSを見据えた。
そして、DSの使った、魔術は封印指定の執行者でもあるパゼットでも見た事がなかった。
ランサーも同様に、目の前の黒い法衣を羽織った、銀髪の男が只者ではないと察知した。
それが、二人をうかつに近づけさせずに警戒させていた。


キャスターとDS、パゼットとランサーの四人の間に重たい沈黙が漂っていた。


「あんたが、マスターか?俺の対魔力を破るなんて中々だな」


最初に静寂を切ったのは、ランサーであった。


「さてと、どうするよパゼット?見たところ敵のマスターはフラフラのようだが・・・いいのかこのままやっても?」


事実、DSは立っているのもやっとな様子であった。


「少し待ってください、相手のマスターの出方を見ます」


「・・・・・・」


DSの体は、後、一発ぐらいの呪文の耐えれる事はできた。
問題は、その一度の呪文の詠唱であの二人を、消し去る事が出来るかという事であった。
あの二人は、生半可な術では倒せないとDSの、明確な頭脳は即座に判断した。
問題なのは、DSが精神の器に蓄えつつある魔力の回復量と、生命維持の為の消費量とが未だ際どい均衡を保っていることだった。


魔眼を使うことも、危ういこの状態でランサーとパゼットの二人を倒す。
高等な魔術の使用を行使すれば、その天秤は確実に負の側に傾き、一滴一滴を浮かすように僅かに貯めた魔力の蓄えは瞬く間に食いつぶされその傾きは止めようもなく加速度をまして、バランスを失ったDSの命は一気に、消滅への落下放射線を辿る事になりかねないのだ。


それを正確に理解しながらも、目の前のDSを助けたキャスターを見捨てるなど持ってのほかだった。
契約をしていてDSの魔力を吸っていたとしても、DSから見れば、そんな些細な事はどうでもよかった。
DSを助けて、世話を介護をしたという事実は曲げようがないのだ。


誇り高き魔人は即座に覚悟を決める。
パゼットとランサーの二人を殺し、残った魔力の全てを、キャスターに分け与える。
これで、後ろにいる自分を助けたキャスターは何とかなるだろうと考えた。


少なくとも、生死の決定権は自分にあった。
自分を助けた女を助けて死ぬのならば、異世界でのたれ死ぬのも悪くないと考えた。
凄絶な笑みを浮かべ、取り返しの付かぬ呪文喚起を始めた。

「ブー・レイ・ブー・レイ・ン・デー・ド
   血の盟約に従いアバドンの地より来たれ・・・・・・」


DSが、異世界のチャンネルを開き精霊に働きかけ、最後の詠唱を発動させようとした時


「止めてーーー!」


パゼットとランサーとDSの間に迫る影があった。
キャスターであった。
DSの使う魔術の気配を察知し、DSの詠唱する魔術の直線状に割って入ってきたのであった。


「貴方の、使う魔術がどんなものか分からないけど、それだけの大原“マナ”を行使する魔術をそんな体で使用すれば確実に死ぬわよ!」


「どけ」


「どくわけないじゃない!」


「もう一度だけいう・・・どけ!」


DSが、キャスターに向けて言った。
それが、DSにできる最終通告であった。


「俺はあいつらを殺す。最も死ぬ気はないが、黙って殺されるつもりもない」


「運が良ければ、相打ちぐらいにはできるだろうがな・・・・・・」


「!!」


その言葉にキャスターは確信した。この男は本当に死のうとしていると、敵と相打ちになったら、なったでそれで良しと思える人間なのだと、己の命を、顧みない男なのだと。
男の受けた、傷が呪いの類ではなく、戦いによって受けた傷なのだとキャスターの聡明な頭はすぐに理解した。
キャスターが、パゼットとランサーの二人に向いて、即座に提案をしようとする。

「貴方達も、分かっているとは思うけど、うちのマスターは、貴方達と相打ちを狙っているわ・・・それを理解した上でランサーとそのマスターに聞くわ、貴方達はここで相打ちになっても構わないの?」

「・・・・・・」

ランサーとバゼットが目を交わし逡巡する。


「ここは退きましょう・・・」

「パゼットいいのかよ・・・」

ランサーが残念そうに言う。

「見たところ彼はかなりの魔術師です、先程あなたが食らった魔術・・・それは英霊でもダメージを食らうものでした」

「それだけの魔術を行使できる男が、自身の命を燃焼させて魔術を行使しようとしている、恐らく英霊でも倒す事が可能なのかもしれません・・・・・・
本来、我々が此処に来たのは、偵察だけです。サーヴァントのクラスが分かっただけでも良しとすべきです」

「しょうがねえな、わかったぜ」

残念そうに、紅い魔槍を帰し、パゼットとランサーの二人は去っていった。






























うんちく   >:<


暗黒魔術/Dark Art 魔道物理と呼ばれる理論の元に成り立つ魔術で、言葉(呪文)と図形によって物理現象を引き起こす魔術。
失われたと言われるこの魔術を再構築したのは、他ならぬDSでもある。

爆霊地獄(ベノン)
Type:Dark
Spell:ザーザード・ザーザード・スクローノ・ローノスーク
   漆黒の闇の底に燃える地獄の業火よ
   我が剣となりて敵を滅ぼせ 爆霊地獄(ベノン)
混沌の領域の門(ゲート)を敵の周囲に解放し、その領域から
生物を食らう邪悪な物質を呼び出す呪文。暗黒に属するものは
一般的に生命に対する激しい憎悪に満ちており、この呪文の効果と
威力もそれを如実に顕している。
呼び出された「破壊酵素」は肉体の新陳代謝(異化)を異常加速させ、
敵の細胞を急激な速度で変質・分解し、再生が困難な程にまで
塵の如く破壊し尽くし、その後空気に触れることで壊れ消滅する。
凄まじい破壊性の呪文であるが効果範囲外には全く影響が無く、
味方を巻き込む危険性は無い。

威力 (-B~-A)
四天王のカルでも防げない威力である為に作者はこのくらいが妥当だと
考えている。


感想

一話一話が、長い気がします。
一応書いた後は、原稿を二度三度チェックしていますが、それでも
矛盾点、分からない点があったら、感想に書いて下さい。
この物語は、最初が一番難しいです。
ボロボロのDSとそれを介護するキャスターのイメージが
難しいからです。
戦闘描写やDSが暴れまわるイメージならすぐに掛けるのですが・・・
まあ、頑張って書いていこうと思ってます。
次の投稿は、多分一週間以内だと思います。
<s>では、また。<s>















[24623] 異世界の魔人
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2010/12/30 00:07
◆Fate DS night◆






ランサーとバゼットの二人が去り極度の緊張が解けて、脱力感と倦怠感がキャスターとDSの二人を襲う。
その中で膝を地に折り曲げて、大地に屈したのは、半死人のDSであった。


(チ、今の、俺様じゃあ、ここら辺が限界か・・・・・・)


「・・・クソ・・・」

ドサっ
その音ともに大地に、その体を預けたのはDSであった。
DSの意識は極度の緊張が切れた為と、地に伏した衝撃の所為で途切れてしまった。
それも当然である、全身の筋肉が蠕動し収縮して息をするのもやっとの状態で、魔術を行使したのだから、当たり前といっていい代償であった。
慌てて彼のサーヴァントである。キャスターがダッと駆け寄る。


「ちょっと、マスター!」


大事に至っていないかを確認すると、安堵したかのように一息付いた。


「よかった、気絶しているだけね」


取りあえずはいくらなんでも、地面にこのまま寝かしたままにするわけにもいかずキャスターは四苦八苦しながらDSを、彼女らに宛がわれた客室に戻すのだった。





◆◆

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

DSが気が付くと布団に、寝かされている事が分かった。
目を開いて見ると、目の前にはあのお節介焼きの女、キャスターがいる事が分かる。
彼女は、DSが気が付いたのを見て、何か話そうと思っていると思いこちらを見つめていた。
DSは眉を潜めて逡巡した。
自分が異世界の人間だと話しても良いものかと、だが隠してても始まらないラチがあかないのは、気に食わない性格でもあった。
罰がわるそうに、DSはキャスターに話しかけた。


「いいか女、よく聞け、俺はこの世界の人間じゃねえかもしれねえ・・・」


キャスターは、DSの言った言葉が一瞬よく分からず。


「・・・え・・・どういう事かしら?」


と聞き返していた。


「言葉どおりの意味だ。俺は未来か、それとも別の世界から来た人間かもしれねえって事だ・・・自分で言ってて信じられねえかもしれねえがな・・・」


「・・・・・・平行世界」


キャスターは、両眉を吊り上げて、驚き驚愕し呟いていた。
――――――平行世界の干渉―――又は移動―――それは第二魔法に他ならないからだ。魔法に匹敵する魔術を駆使できる彼女でもそんな事は不可能だった。
男の話を真実とするならば、この男に自分の事を話して、協力してもらえるかどうか分からないからである。
そんなキャスターの様子を、察したのか。


「どうなんだよ・・・俺様の話を、信じるのかよ?」


DSが尋ねた。
DSはキャスターの様子に、自分の話を疑心疑惑かと思っているのだった。
だがキャスターは、その事について悩んでいるのではない、自分の事を話しても良いのか、その一点について悩んでいるのであった。

「ええ・・・・・・にわかには信じがたい話だけれど・・・信じるわ・・・貴方がさっき行使した魔術は神代の時代にいた。この私も知らないものだったわ・・・」

「さあ俺様の事は話たぜ・・・次は手前の番だ・・・・・・答えてもらうぜ・・・・・・・・手前が何で、俺様から魔力のパスを繋いでいるかをな?」

DSは自身の魔眼で、キャスターを見つめた。瞳の色が蒼から真紅に変わり、更に猫科の猛獣を思わせる金色に変色する。

(凄い、迫力ね・・・)

その瞳には有無を言わせない迫力があった。
DSは歯を噛み締めて、舐められてたまるかとキャスターを見ていた。
初めキャスターは、魔術を行使してDSを操り人形に仕立てあげようとも考えたが、DSの精神防御や幻術、幻覚に陥らせないプロテクトは幾重にも幾層もの防壁を張っており、コレを破るのは、どれだけの魔術や魔法を駆使しても不可能だった。
それもその筈であるDSが最も嫌う行為は、自身が操られる事である。
DSは他人、第三者によって操り人形になるぐらいなら死を選ぶか、それかその糸を振りほどき、操っている者を食い千切るだろう。


例えそれが・・・神であったとしても・・・それがDSという男でもあった。


半死人状態でもありながら、精神には完璧と思える程の防壁を張っていた。DSを褒めるべきであるのだろう。
キャスターは、パスを繋いでいる事に気づいている。DSについて最早、隠し事をしてもしょうがないと感じた。


「ええ・・・実は私は・・・」


彼女は、話した。



自分は、聖杯戦争によって呼び出された七つのクラスの内の一つ、キャスターである事を。
ランサー、セイバー、アサシン、アーチャー、バーサーカー、ライダー、キャスターの
七人の英霊を召喚して、戦い合わせて、残った一人のマスターとサーヴァントが聖杯を手にするのだと。


◆◆


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・



それを聞いたDSは暫く、考えて呟いた。


「・・・うさんくせえ話だな」


その台詞を聞いたキャスターは、ポツリと呟いた。


「そう・・・やっぱり」


(・・・信じてもらえないか・・・当然よね・・・こんな荒唐無稽な話・・・信じる方がどうかしてるわよね)


彼女の頭の中を落胆と諦めの、二つの負の感情が一気に押し寄せてくる。
当然である。もしかしたらと思い話をしてみたが、結局信じてもらえなかったのだ。
期待していただけに、その落胆も凄まじいものであった。


(・・・私は・・・コレからどうすればいいのかしら)


絶望にも匹敵する感情が、キャスターの頭の中を占めようとする時、DSの声によって阻まれた。


「女・・・勘違いすんじゃねえぞ・・・俺様が言ったのは、この戦争事態が怪しいって言ってるだけで・・・手前の話を信じてねえわけじゃねえ」


その台詞を聞いて、キャスターの顔が陰から陽に変化する。


「それと・・・もう一つ聞きてえ事がある・・・今まで聖杯戦争は何回ありやがったんだ?」


不意に思考から戻った、キャスターがDSの質問に答える。


「今までに、四回聖杯戦争があったわ」


「その戦いの中で、聖杯を手に入れた奴は、いやがんのか?」


キャスターは、聖杯から送り込まれてくる情報を元に答えた。


「・・・居ないわ・・・今回で五回目になるけれど、聖杯を手にいれたという・・・勝者は過去には一人も居ないわ」



(ますます持って、うさんくせえ話だぜ・・・)


DSは思考を巡らせる。彼は誰かに命令されて、戦いをするほど気に入らない事はなかった。
DSが戦いをする時は全て自分の意思であり、其処に第三者や他人が介入する事は許されなかった。
聖杯戦争と言う戦いを仕組んだ者が居るならば、その戦争の様子を外部か内部から見ているか、介入している人物が居るはずである。
少なくともこの戦いには、人為的に捏造した何かか、この聖杯戦争という事に関する根幹か真実が隠されてる筈である。
それを紐解かなければ、聖杯は手に入らないだろうとDSは考えていた。

(それを探し出すのが先決だな・・・クックック・・・俺様を操って戦争をしようなんて千年早いんだよ・・・俺様の体が直った暁には見てろよ。誰が操ってるかしらねえが、死ぬほど後悔させてやるぜ・・・クックック・・・アーハッハッハ!)

その光景を想像するだけで楽しくなっていき、胸に深い愉悦が沸き起こる。知らずDSは深い残忍な笑みを浮かべていた。
この戦争で、もし自分を利用しようとする者がいたならば、ズタズタにして引き裂いて泣き叫び許しを請う迄、痛めつけるつもりであった。
そう人形使いを気取っている輩を、徹底的に粛清するのだ。
これほど楽しい事はない。操っていたと思う人物に殺されるのだ。特にDSは、絶頂の只中にいる人物を、地獄の底に突き落とすのが大好きだった。
コレを思い描くだけで、体に活力が漲るというものである。

「・・・クックック」


知らずDSの口からは笑いが零れていた。


「・・・いいぜ取りあえず。女、手前には借りがあるからな、それを返すまでは協力してやるぜ、元の世界に帰る方法はその後で考えるから気にすんな」


DSは聖杯を手にいれる為、そして借りを返す為に協力するといった。
聖杯を手に入れれば、元の世界に返れるかもしれないという理由と、キャスターに借りを返す。
それにDS自身、聖杯に興味があるからだ。


「マスター、貴方は聖杯には興味は無いのですか?聖杯を手に入れれば元の世界に帰れるかもしれないというのに・・・」


キャスターは、当然の疑問を聞いた。


「いや、それよりも手前に借りを返すほうが、俺様にとっては先決なんだよ。聖杯はその後でも、手に入れればいいだろうが、」


キャスターは、そのDSの言葉に嘘は無いような気がした。
聖杯より、借りを返すほうが先決だと、普通の人間ならば元の世界に帰る為に聖杯を欲する筈なのだ。


「変わった人ね・・・貴方・・・」


確かに、この男は変わっているかもしれない。


「それは違うぜ女、変わってるのは俺様じゃなくて、世界が俺様に付いて来れねえだけの話だ」


その台詞を恥ずかしげもなく、真正面からいうDSに、彼女は両目を大きく見開き


「本当に変わってるわね・・・それと私の事を、女と呼ぶのは止めて欲しいわね・・・」


「何だよ、名前なんてどうだっていいじゃねえかよ」


DSの言うとおりである、本来サーヴァントとマスターの関係は主人と使い魔のような物である
其処に、情が入る余地は、普通無いのであるが、キャスター事、彼女はそれを嫌った。


「良く無いわね、少なくとも私にとっては・・・」


それは、彼女の英霊としての誇りでもあるプライドがそういわせたのか、それは彼女にも分からなかった。
だがそれが、キャスター事、自分の真名を言わせるキッカケをDSに与える口実にもなった。


(・・・そういえば、アーシェスも自分の事をネイと呼ばれるのは嫌がっていたやがったけな、カルには絶対言わせるなと、そう呼んでいいのは俺だけだと)


DSは、今は居ない、四天王でもあり娘でもあるアーシェス・ネイと己の半身でもあるカル・スの顔を思い浮かべた。


「・・・しょうがねえな、それじゃ、手前の真名を教えろ」


キャスターは、少し考えた以前のマスターの事が脳裏に浮かぶ


(何で今になって、前のマスターの事なんかが・・・)


忌まわしい記憶が思い浮かぶ、その記憶に彼女は奥歯を噛み締める。
ギリッと


(・・・彼は、前のマスターとは違うはずだわ。そうよ、そうに決まっているわ・・・)


前のマスターとDSを比べる事は、DSに対する冒涜でもある。DSは、前のマスターなんか知る事はないし異世界の人物なのだ。
魔術師の腕を比べるならともかく、人物を物差しで計ろうとしていた。
だが、自分の真名を言った瞬間に、彼は落胆するのではないかと、キャスターはそんな不安に襲われたが、自分の真名をいう事は、最早隠す事もできないし、どうしようもないだろう。
それに、もしかしたら異世界から来た。DSは自分の事を知らないかもしれない、その事がキャスターに真名を言わせる後押しともなった。


「・・・私の名は・・・メディアと言います」


「メディア・・・メディア」


その名前をDSは、復唱していた。
DSは必死に記憶の引き出しを探していた。
どこかで聞いた事のある名前だった。
古代魔術<ハイ エイシエント>の文献か、旧世界の文献だったか、伊達に四百年以上生きてはいない。彼は、その間闘争の為だけに生きて己の力を高めてきたのである。


(・・・メディア、確か古代ギリシャ神話の中に、そんな人物がいたような気がするぜ・・・此処は、一つ探りでも入れてみるか?)


「・・・もしかして、コルキスの王女か・・・」


「・・・え・・・貴方、私の事を知っているの・・・」


「ああ、知ってるぜ」


もしかしたらと思いDSは、ハッタリで言ってみただけなのだが、当たりだったようだ。


「そう、知っていたのね・・・」


メディアは、もしかしたら知らないかもと思い、真名を告げたのである。
そんな事は、DSが調べればすぐ分かる事であるのに、メディアは自分の愚かさを呪った。
だが、次の台詞はいつものメディアを魔女と罵倒する言葉ではなかった。


「コルキスの王女メディアか・・・いい女じゃねえか。こんな女を捨てるなんて勿体ねえ事しやがって・・・メディアか・・・気に入ったぜ。特別に俺様が、名前で呼んでやるぜ」


メディアは、まさかこんな事を言われると夢にも、思わなかった。
魔女呼ばわりされるかと思ったのだが、しかも褒められるとは考えてもいなかった。
メディアは嬉しく、何か胸のつかえがとれた感じだった。


「それと俺の事を、マスターって呼ぶのは止めろ。俺様の事はDSか美しいDS様と呼べ」


この男は、本気で言っているのだろうかとメディアは考えた。


「・・・・・・わかったわ、DS」


「・・・いいかメディア、後数日もすれば俺様の体は、完全に回復する。期待して待ってやがれ・・・」


そういい残して、DSは眠りに付いた。
やっと起き上あがれるような体で、長話に付き合わせたのだ。
それも無理からぬだろう、話をする為に相当無理をしていたのだろうと、メディアは思った。


(少し、楽しみが増えたわね)


後数日の我慢であった。そうすれば異世界の魔道師DSの本当の実力が分かるのだった。

















感想

DSの<俺>と<俺様>と使う、場面があるのですがそれを表現するのが難しいです。
漫画で見ると、第三者に言う時には<俺>自分の事をいう時は<俺様>と言ってるような気がします。
多分、間違っていないと思いますが、間違ってたら教えてください。
後は、こんなのDSじゃないというかたは、スイマセン勘弁してください。
DSが、誰かの世話になるというシーンは、書くのが難しいので許してください。
それと更新遅れてスイマセン、仕事が忙しくて、
本物の作者みたいに無期限、休暇みたいになる事はないと思いますが、暖かく見守ってください。
次回の更新は、二週間前後だと思います。
それと、ギャグをお待ちの方は、もう少し待ってください。
次の話で、復活するので、ようやく本編に介入できます。
ギャグを生かすために、シリアスを生かす、コレが難しいです。
まあ、頑張っていくので宜しくお願いします。


全然関係ないのですが

ジャンプで掲載中の漫画、PSYRENが終ってしまいました。
作者は、この漫画を楽しみにしたいたので、残念です。
あの話を、週刊で書き、終り方も纏めた岩代先生は、凄いと思いました。

それでは、また次回・・・



[24623] 復活
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/02/16 23:43
◆Fate DS night◆






綺麗な夜だった。雲は一つもなく夜空に輝く、オリオン、シリウス、ペテルギウスの正座がより一層光を増して、発光しているかのように見えた。
それが、冬木氏の町の山の頂に建てられておりこの町で最も夜空が近い場所、柳洞寺にいるならば、星々もより綺麗に見えるのだろうと考えられるのだろうが、星達は聖杯戦争の運命を変える為に、この世界に訪れた魔人DSの復活を祝うかのような輝きでもあった。





一方で柳洞寺に建てられた。下に眠る聖杯戦争の根幹をなしており。大魔法陣の中に存在しているとされている。
この世全ての“ アンリ マンユ”彼は、未だにこの世界に意識や存在すらないが、物質界に現界していなくても、これから起る異変は感じていた。
物質界に存在しない高次元にいる魔王に最大の警鐘が鳴らされていた。見た事も聞いた事もなく、生まれてすらいないのにである。
否それ以前に、この世全ての悪を体現している筈の彼が如何して、此処までの危機感をたかが人間ごときに感じているのかを、理解できずにいた。
だがそれ故に、アンリマンユは危険を感じ取っていたのかもしれない。
英霊ではなく、DSが人間であるから、本能で異変を感じたのかもしれなかった。


(あの男、DSは危険だと)


何故、名前を知っているのか、それは魔王であるアンリマンユ自身知る由も無いのではあるが、唐突に頭の中から響いてきたのである。
もし自分が動けるならば、急いでDS元に駆けつけて、八つ裂きにしに行ったであろう。
だが、それは最早適わない、既にDSの復活を妨げる事はどんな力であろうが、それが例え英霊であったとしても不可能だろう。
最早アンリマンユは事の成り行きを、別の次元から窺う事しかできなかった。


アンリマンユ自身、既にどうする事も出来なく、最早自分の肉腫が植えつけられた娘に頼るしかないのであった。
“ 間桐桜”マキリの養子でもあり、アンリマンユの肉腫を植え付けられた娘、彼女がサーヴァントを取り込み聖杯として機能すれば、アンリマンユもこの世に現界する事が理論的には可能になるかもしれないからだ。


出来ることは、既に何もなくただ全ての人類を呪う事でしか、自己の存在を肯定することしかできない哀れな魔王が、其処にいるだけだった。



皮肉な話でもあった。暗黒の極限に位置している魔人DSの復活を祝うのが、魔王アンリマンユではなく、天空に輝く星々というのがである。
地の底にいる混沌の魔王ではなく、人々を祝福する星座だというのだから。







柳洞寺の広場で漆黒に見える法衣を着て、DSは佇んでいた。
大気中の大源“ マナ”と、魔力と星の輝きが、DSに集まって行くのをメディアは見ていた。


(・・・・・・コレは何かしら?全ての大源“マナ”が、あの男、DSに集まってゆくように見えるわ)



否、それは錯覚ではなかった。現に大気中の魔力と大源“マナ”が磁石のように、DSに引き寄せられているのだった。

この瞬間だけは、嵐前の静けさにも似たシジマが辺りを支配していた。



――――メディアが周囲を見渡し、DSが夜空を見上げた瞬間にそれは起きた。
夜空に輝く正座が一斉に輝いたのだ。そしてその光が、全てDSに吸い込まれていくかのように見えた。
突如とした光にメディアの視界は、暗闇からの突然の光の本流により、視界が真っ赤になりチカチカとしていた。
目はよく見えなかったが、DSの魔力の本流は感じ取っていた。


「・・・ようやく、力が戻りやがったか」


DSが、両手を開いて握るを繰り返す。自分の体の調子を確かめてる様子だった。

そしてメディアは見た。

異世界の頂点に君臨していた。覇王DSの本当の姿を・・・・・・・

--------途端にDSから繋いでいるパス“魔力回路”から、無尽蔵の魔力の本流を感じた。
まだ本格的なパスは繋いでいない筈なのに、無尽蔵に魔力が湧き上がってくる感触がメディアにはあった。
それは尽きる事のない、まさしく無限の魔力であった。


これでこのDSと本格的なパスを繋いだら、どれだけの魔力が得ることが出来るのかと、メディアは考えていた。
だが、同時にDSとの繋がりはこれで十分かとも思える所もあった。


(・・・・・・とんでもない男ね、コレだけの魔力を一人の人間の器に蓄えてるなんて・・・)


神代に生きていたメディアも遥かに凌駕している圧倒的な魔力量だった。
“普通”魔力は目には見えないが、DSから溢れ出している煙にも似た闘気が、圧倒的な魔力量をメディアに彷彿させた。
メディアは即座にDSに駆け寄っていた。同じ魔術師としてDSの魔力量は在り得ない物であったからである。
その頭の中に沸いた(何故?どうして?)の疑問を晴らさずには、メディアはいられなかった。メディアに流れていた魔術師としての血が、解答を求めていた。






それもそのはずであった。DSはこの世界の第三魔法でもある。魂の理を解明した十賢者とも呼ばれている科学者達によって、無から作られた完全な人間であるからである。
人の脳に施された。霊的なリミッターを外す事によって、無限の魔力を持たせる事に成功した兵器であった。
即ちDSとは、異世界の超科学によって作られた。魔力<霊子力>の高速無限増殖炉ともいうべき精神兵器でもあり、純粋エネルギー体である霊魂をもつ人造生体なのだ。
故に人が生まれながらに背負う“原罪”の罪を背負っていなかった。
このリミッターは、人が人として生まれてくる以上は、絶対に外せない物でもある。
どんな人間でも、生まれながらにしての罪“原罪”を背負わされているからである。
それは英霊でもあるメディアもそうだった。彼女も元は人である以上は、限界が存在するのであった。
それ故にメディアの疑問は、当たり前であった。


そしてツカツカとメディアはDSに、歩み寄っていった。


「DS、貴方に一つ聞きたい事があるんだけれど?構わないかしら?」


DSは夜空を見上げながら、これからの事を考えているようだった。不意にメディアの方に振り返り


「アンだよ?」


復活の余韻を楽しんでいるのか、少し不機嫌のような態度だった。


「貴方の魔力量についてよ、私たち英霊ならともかく、どー考えても、人一人の器に収まる量じゃないわ」


DSは、腕を組だ後に答えた。


「俺様は向こうの世界では、超絶美形で地上最強の大魔道師だったからな。まあ驚くのも無理はねえか」


(地上最強の魔道師・・・)


嘘をついているのかとメディアは思ったが、確かにそれならば納得できるかもしれなかった。
DSが異世界での、高名な魔術師だとしたら規格外の馬鹿げた魔力量にも説明は付くからだ。


「さてと・・・まずはやる事をやらねえとな」


そう言ってメディアの手を取り、自分に抱き寄せた。


「ちょっと!何をするのかしら?」


「俺様のサーヴァントになったからには、やる事は一つしかねえだろうが・・・」


DSはメディアの首筋に手を回し、首を固定して口付けを交わそうとしていた。


だが、それを阻んだのもメディアだった。

ドン

とDSを跳ね除け、拒絶をしていた。
当然である彼女はDSに唇を許しはしたが、それも現界する為であり心まで、許したわけではなかった。


「勘違いしないで欲しいわ・・・・・・貴方の傷が治るまでは看護してあげたけど、心まで許した訳じゃあないわ・・・」


その拒絶の言葉を聞いたにも関らずDSは、無造作にゆっくりとメディアに近づいて行った。


「いいかメディア俺は、お前がいい女だから抱きてえと思ったし欲しいと感じた。男が女を抱く理由なんてそれだけで十分じゃねえのかよ」


「貴方は、それでもいいかもしれないけれど、私は違うわ・・・」


DSが歩いて行きメディアとの距離が徐々に近づいていった。


「それとも魔女でも、愛して欲しいと願っているのかよ?それも女神アフロディテに掛けられた偽りの愛じゃなくて本物の愛情ってやつを・・・」


DSが、心を読んだかのような質問をメディアに尋ねた。



「・・・それは」


DSとメディアの距離がゼロになり、メディアの華奢な腰をDSが手繰り寄せた。


「言った筈だぜ、俺には、メディアお前が必要だって・・・」


そんな事はメディアは聞いた覚えがなかったが、何故だかDSの声が心の奥底に響いてきた。


「貴方は、私の事を必要としてくれるのかしら・・・?」


(何故、私はこんな事を聞いているのかしら?)


それはメディアにも分からなかった。何故だか分からないが尋ねずにはいられなかった。


「ああ・・・俺には、お前が必要だ、メディア」


「魔女と言われた、私でも構わないのかしら・・・?」


「ああ、そんな下らねえ事は気にしねえ」


その台詞を聞いた後メディアは、DSにその唇を預けていた。
そしてDSはメディアをそのまま自分達のいる客室に押し倒すように、彼女を連れて行った。




DSは、メディアを求めていた。
実際、メディアは美しかった。汚れ一つ無い乳房、括れた腰、其処から伸びるヒップのラインその全てに、無駄がなかった。
華奢でありながら抱いた男の方が、喘いでしまいそうな女性であった。
そしてDSは復活した。滾る血を静めるがごとく獣のように腰を動かしていた。
不意に馬乗りになったメディアが、両手を空に翳して、剣の柄を握るかのような行動を取った。
取ったのではない、その手には既に歪曲した歪な短剣が握られていた。


そして、DSの心臓にその短剣を振り下ろした。


(言ったでしょ、貴方には、心まで許した訳ではないって)


だが、その短剣が振り下ろされるのを、DSは驚いた様子も動じる事もなく黙って見つめていた。
良く見ると、短剣はDSの皮膚に刺さる寸前で止まっていた。
それを気にも留めずに、メディアとの行為を続け己の欲望を彼女の中に吐き出した。
そして行為を終えた後、仰向けになったDSの横で寝ているメディアにDSは尋ねた。


「・・・・・・殺さねえのか?」



「ええ、殺そうと思ってたわ、貴方が抵抗しようとしたら、間違いなく心臓を貫いていたわ」



「・・・そうか、別に振り下ろしても良かったんだぜ、それで、お前の気が済むんならな」



「もういいわ、貴方が嘘を言ってないって事が分かったもの・・・それだけで十分だわ」


メディアはDSが少しでも抵抗しようとしたなら、間違いなく心臓を貫くつもりだった。
だが、DSは自らの姿勢をもって、先程の言葉が真実である事を証明したのだった。


「その手に持っているのが、手前の宝具か?」


「ええそうよ、あらゆる契約を無効にすることができるわ」


「といっても、コレをサーヴァントに突き立てるなんて不可能に近いわね。特に三騎士と言われているサーヴァントには正面から突っ込んで行った所で、死にに行くような物ね・・・」


「何らかの策を持ちえない限りは、サーヴァントの心臓にコレを突き立てるのは不可能ね・・・」


確かに、刃渡り十数センチしかない、獲物をサーヴァントに突き立てるのは不可能に等しかった。


「そんな事はどうでもいいんだよ、それよりもまずはこっちだ」


その台詞の後にDSが、天井に掌を翳す。


「確か、手前らの詠唱はこうだったな・・・」


唐突にDSが、詠唱を唱え始めた。


「―――――――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えやがれ------
抑止の輪とかより来やがれ、天秤の守り手とやらーーー!」


「ちょっと違うけれど、まあいいわ・・・」


クスクスとメディアが笑うが、既に殆どの契約が終わっている今、さほどの間違いは大した事ではなかった。


「いいわ・・・コルキスの王女メディアの名に掛けて、ダークシュナイダー貴方と運命を共にする事をここに誓うわ」


その詠唱を終えた瞬間、DSに左手に令呪が刻まれる。それを見てDSは、自嘲気味に笑っていた。

そしてDSは一つ懸念を、抱いていた。
パスを繋いだ事により、ユダの痛みが使用不可能になるかもしれないという懸念を・・・・・・


ダークシュナイダーのステータスを作って見ました。
これは悪魔でも作者のイメージです。間違ってたらスイマセン


―――――――――――――――――――――
CLASS 反救世主<アンチクリスト>
  サーヴァント / キャスター 
   真名  /  ダーク シュナイダー
   性別  /    男
 身長・体重/ 192㎝・96㎏
  属性  /  暗黒、混沌、闇
―――――――――――――――――――――
筋力■■■■■ A++  魔力■■■■■ EX
耐久■■■■■ EX   幸運■□□□□ E
敏捷■■■□□ C  宝具■■■■■ EX
―――――――――――――――――――――
~~クラススキル~~

相克 EX     反救世主<アンチクリスト>のみが持っている、スキル。これがある限り、天使にはDSを完全に消滅させる事はできない。
          だが、サーヴァントは人間の霊である為に、全くの無意味である。 


~~保有スキル~~

魔眼       あらゆる物を、見通す事が出来る眼である、遠く離れた距離も、すぐに視野に集める事ができる。
          魔道の眼でもある。 

リミッター解除  神が人類に施した「第二の封印」(原罪)を抱えてはいない。この為に魔力量は、保々無尽蔵でありD.S.と契約したサーヴァントは無限に等しい  
          魔力量を手にいれる事ができ、宝具を使いたい放題使う事ができる。  


超絶美形    これはD.Sが、自分で言っているだけなので余り意味はないが、何故か彼の元には、色々な人間が集まってくる魅力がある。 
          天使、悪魔、夢魔、人間で無い存在からも認められている事から窺う事ができる。

持続性魔術障壁  超一流の魔術師が、無意識に纏っている、魔術障壁である。
             これを、持っている限り、たとえ不意打ちを受けたとしても、決定的なダメージは受けない。 


高速詠唱
             たった一言で、簡易的な魔術を行使できる能力。禁呪は長い詠唱が必要になるがそれ以外なら問題は無い。 
圧縮詠唱
  


不死身       何をやっても死なない、首だけになっても生き延びる事ができる。心臓を抉りだしても復活している。
            最早、主人公属性を通り越して、チートである。




~~宝具~~

炎の剣        火炎魔人イフリートの剣である、これを持っている術者は、火炎属性の威力が上昇する、また炎の剣自体
            山を断つと言われていて、かなりの威力である。剣自体が意思を持ち十賢者によって作られた兵器の一つである。  


ユダの痛み     絶対神によって作られた、正真正銘の宝具である。地獄の門をも開くほどの超エネルギーの塊であるが、使用者はあらゆる痛みに耐えなければ使いこなす事はできない。 
           使いこなせたとしても、長く使えば存在の消滅が待っている、諸刃の剣である。 

―――――――――――――――――――――








感想



感想  

ようやく、初めの一歩って所です。
バスタードも世界観の設定が、結構丁寧に作ってあるので、大変です。
自分では、結構上手く書いているつもりでも、人様からみたらつまんなかったりするので、感想はなるべく記入してください。
次の更新は、一週間以内だと思います。
それでは、皆様、暖かく見守ってください。

ついでにバスタード27巻が12月29日に発売と書いてあったのですが・・・・・・・来年の3月31日になっていました。

本屋さんに、行ってコミック発売表を見たら、12月29日と書いてあったのにです。


「なめてんのか!」


そう思いました。皆さんも本屋さんに行ったら、発売表を見てください。
これは嘘ではありません。



それでは、また次回・・・









[24623] 遭遇!!
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/01/08 01:24
(この俺様に聖痕<スティグマ>とはな、笑えねえな・・・)


反救世主“アンチメシア”とも暗黒のアダムとも呼ばれている自分が、救世主の真似事をしているとは、D.Sを知るものならば本当に笑えない冗談であった。
彼の本来の役割は悪魔の兵となり地上世界を統一して、天使達の敵となるのが彼の役割であった。
そして彼は、それに叛いたのであった。まさしく英雄や反英雄その枠組みにすら収まらない自由な男であった。


(そして・・・魔力・・・魂を通じての契約か・・・もしかしたらユダの痛みは使えねえかもしれねえな)


そしてD.Sはメディアと本格的に契約した後か、する前にある種の懸念があった。
それはD.Sの真の力を解放する、上位悪魔神族や熾天使とも互角に戦える力。


ユダの痛み“ジューダスペイン”が使えないという事である。


サーヴァントとは、マスターであるD.Sから、魔力を供給されて動いている。
仕組み的にはこうだ。D.Sが電力発電所だとしたら、その電力『魔力』でサーヴァント達は活動しているのである。
ユダの痛み“ジューダスペイン”を使うという事は、その立場が逆転するということである。


ユダの痛みとは魂、肉体、精神の痛みをこの宝具“アーティファクト”に貪り食わせる事によって無敵に近い力を得られるのであるが、
その代価として使用者は、肉体、精神、記憶も代価としてやがては全て失うのである。
つまり、“ユダの痛み”という電力発電所に、痛み、精神、肉体という代価を送り込む事によって電力『絶大な力』を得るのである。

そして、その“ユダの痛み”という電力発電所が、D.Sとパスを繋いでいるサーヴァントからも代価を吸い取ろうとしているのであれば、

どんな、サーヴァントであれ一瞬で砕け散る事になるだろうとD.Sは仮説を立てていた。






そして仮に破戒すべき全ての符“ルールブレイカー”で契約を切ったとしても、何らかの形でサーヴァントとマスターが繋がっているならば、ユダの痛みの使用は不可能であった。


この疑問に対しての回答は、一瞬で禁呪や並みの魔術師なら数十日かかる詠唱を即座に出来るD.Sの頭脳であっても予測不能であった。
試そうにも、試して、間違っていたら一瞬でサーヴァントは砕け散り、後には何も残らないのである。
サーヴァントと契約するという事は、ユダの痛みの使用禁止を意味する物かもしれなかった。
地獄の悪魔王達ですら使用を躊躇する程の宝具“アーティファクト”を、英霊とはいえども本体ではなく分霊が使用しても耐える事が出来るのかと考えれば、答えは否であった。

もしくは予測不能か、いずれにしても“ユダの痛み”は、サーヴァントと契約しているか、聖杯戦争中は使用禁止と言ってもおかしくはなかった。

(・・・まあ構うことわねえか、魔神“デビル”や熾天使クラスの輩さえ、来なけりゃいいだけの話だ。・・・そもそもそいつ等が出現してたら、聖杯戦争所って奴どころじゃねえだろうな・・・・)


そう考えてD.Sは、立ち上がり夜風を浴びに外に出て行った。





◆◆◆












「D.S、あなた令呪の使い方は、分かっているわよね・・・」


火照った体を夜風に当たりながら冷まして、メディアとD.Sは寺の中庭に出ていた。
其処で唐突にメディアがD.Sに説明をしていた。


「分かってるに決まってるじゃねえかよ、使い魔に使う言霊を最上級に強化したみたいなもんじゃねえのかよ・・・」


(意味的には的は外れていなんだけれど・・・)

メディアは左手を顎に乗せて考えながら、その台詞を聞いていた。


「間違いでは無いわね、それと、曖昧な命令では・・・」


「それも分かってるぜ、 『曖昧な命令では効力が薄いってんだろ、こういうのは単一的な命令のみに効力を最も発揮する』って言いてえんだろう、それと言霊に力を込めれば込めるほど
効力を発揮するって事だったな」


メディアの言葉を遮るように、D.Sが言葉を繋げる。

「ええ分かってるなら、良いわ・・・」

メディアが言わんとしていた事を、D.Sに言われて少々驚いている様子だった。
どうやらメディアが契約した。マスターD.Sは、規格外の魔力だけではなく、頭の回転も早いようだった。

(・・・魔力量も桁違いで容姿も文句なしだし・・・やっぱり、私の目に狂いはなかったわ・・・)

メディアはD.Sを助けた。自分の目が正しかった事に気づいた。
そういう意味では、D.Sはメディアが自分で選んだマスターとも言える。
見た目は文句ないし、魔力量も規格外、頭の回転も早い、おまけに女の扱い“閨”にも慣れているようだった。
・・・・・・後は、これからの作戦を考えるだけであった。


「ねえD.S、これからの事を相談しようと思うんだけれ・・・・・・ど・・・・・・」

そしてメディアはこれからの事を相談しようとD.Sに告げようとしたのだが・・・・・・

メディアが後ろを向いて、物思いに思いに耽ている間にD.Sはいなくなっていた。

D.Sの十八番。無視<シカト>である。

そういえばメディアが物思いに耽ている時、

「天翔(ワッ・クオー) 黒鳥嵐飛(レイ・ヴン)」

という声が聞こえたような気がしたのだが・・・それが会話の終わりの方だったような気がしたのは気のせいだろうか。

そもそも悪魔王サタンや四大熾天使が話かけてきても、ブッチギリでシカト<無視>するような男である。
そんな男から数秒でも眼を離せばどうなるかが、まだメディアには分からなかった。

「・・・あんのぉ~~~~男は~~~!」

メディアの言葉と共に、近くにあった木はバリバリと爪を立てられて声にならない悲鳴を上げていた。








◆◆◆








キィィィィィィィン


風の音と共にD.Sは空を飛んで上空から冬木市を見ていた。

(何処を飛んでも、見えるのは建物ばっかじゃねえか・・・)

「どうやら、本当に別の世界か・・・それかもしくは過去に飛ばされちまったらしいな・・・」

D.Sは此処数日の間に寺にある書物を読み漁って、この世界の知識なりを把握していたのだが、この世界はD.S達の住んでいる世界と根本的に違うという訳ではなく、細部が微妙にずれているだけである。


D.Sの知っている神話や神々などは、そのままの名前でいるし、空気や酸素の量、大気の密度、エレメンタルの濃度。
それらの全てが、此処が地球だと示している。
元々同じ世界だったのが、霊子力の発明で枝別れしただけなのである。
それ故に、D.Sがこの世界で呪文や魔術の詠唱を行使出来るのは当たり前であった。




この世界の西暦は200X年であり、その頃には破壊神アンスラサクスが発明されてた筈だ。
だが、いくらD.Sが書物を読み漁ってもそんな物は出てこないし“霊子力”の文字の一言も出て来なかった。
そしてそれらの結論を結ぶとこの世界は400百年前の別世界であって――――――――現在D.S達のいる世界を西暦に換算すると240X年ぐらいである。



すなわち、今いる世界は―――――――“四百年”昔であり、しかも霊子力の発見されていない別世界という事になる。


既にD.Sは明確で至高の頭脳は、これに気づいていたが・・・・・


「ま・・・・・いっか」

なんとかなるだろうと考える。

(俺様の舎弟どもが、そんなに柔なわけねぇだろうが・・・・・)


そうD.Sは、自分達の仲間がそう簡単に死ぬ訳はないと思っている。



(それに、あの女には借りがあるしな・・・・・・)


そうD.Sは、メディアに命を助けられたのである。
その恩を返すのもあった。


(元の世界に戻る方法も、聖杯戦争ってやつに関ってれば分かるかもしれねえしな・・・)


「まあそれまでは、俺様の強さと美しさをこの世界の連中に見せ付けてやるか・・・クックック」

そしてD.Sは、冬木市の夜のお空の散歩に洒落込むのだった。

「むっ、なんだ、ありゃあ・・・」

D.Sが疑問の付いた台詞を吐き、その場所に降りていった。







◆◆◆







マキリの長男でもある間桐慎二、彼は身長:167cm / 体重:57kgで髪は青い色で染めている。
実は彼は、今日は非常に機嫌が良かった。
マージャンで言えば、役満をテンパイしている所であり、パチンコやスロットで言えば777が揃ったと言った所か。


一言で言えばフィーバータイムだった。


何せ、ようやく彼も魔術師に手が届く事が出来るのだ。
そう聖杯を手に入れて、真の魔術師になる。それこそが、間桐慎二の目的でもあり夢でもある。

その為に、間桐慎二は偽臣の書で、妹「桜」のサーヴァントのライダーを使役しているのだった。
そしてようやく妹よりも劣っているという劣等感を覆す事ができるのだった。



ライダーの姿は、黒いライダースーツを着たような格好をしており一昔前のボディコンというとわかりやすいだろうか、足元まで伸びた紫色の長い髪。
眼に着けた眼帯、そしてモデル顔負けの長身とスタイル、顔立ちは絶世の美女といっても間違いではなかった。



―――――――そして慎二はそのサーヴァントに学校の知り合いでもあり弓道部の仲間――――――否、仲間ではない。
目の上のタンコブと言った方がいいだろうか、その弓道部の主将。美綴綾子を自ら使役しているサーヴァントに襲わせようとしていた。


その綾子とて、気に食わない奴ではあったが、何も今日襲うつもりはなかった。
だが偶然、慎二の視界に入ったのが運がなかったのか、サーヴァントという存在がどれ程の物なのか試してみたいという気持ちもあり。
ライダーをけしかけたのだった。




◆◆◆



「ハァハッハッハッハ」

カンカンカン

“少女”美綴綾子は逃げ回っていた。当然である。得体のしれない黒いボディスーツを着た女性が、殺気を持って自分に迫ってくるのである。
これで逃げない方が、おかしいというものである。
だが何故か中々襲ってこない、こちらにはいつでも襲い掛かる事ができるのにだ。
どこかに誘っているかのようにも綾子は見えた。いくら武術を嗜んでいると言っても彼女は女性である。
身長は160cm程しかないし、髪も茶髪のショートカットだし、スリーサイズも突出したところがある訳ではなく普通と言った所だ。
顔立ちはよく美少女といっても差し支えないだろう。


――――――そして逃げ回った所で、目的地に着いてしまった。冬木市の新都の公園にである。
夜中には誰も寄り付かない場所であったし、確かに此処ならば誰にも目に付かないであろう。

綾子はどうして、こんな事になったのか分からなかった。
頭がパニックになっていて、どうしたらいいのか分からなかった。
ちょっとコンビニにでも、行こうかと考えて夜道を散歩してただけなのだった。むしろ悪戯に武術をかじっていたのがいけなかったのであろうか。
そんな生半可な技術では、アレには太刀打ち出来ないと本能でわかってしまう。


――――――目の前から、黒い蛇が迫ってくるのが分かる。
きっと自分は、アレに食べられてしまうんだろうと感じてしまった。

「貴方には、恨みがありませんがこれもマスターの命令なので・・・」

感情のない機械のような声で、淡々と告げられる。

(誰か、誰か・・・・・助けてよ、誰でもいいから)

綾子は天に祈るように懇願する。祈りが夜空を散歩している魔人に届いたのか、綾子にライダーの毒蛇の牙が迫ろうとしたその時。

「わはははははーーー!」

突如、大きな笑い声が新都の公園に鳴り響いた。

キィィッィィン    ザン

風の音と共に、何か強大な塊が地面に降り立っていた様だった。
土煙が周囲の視界を遮り、視界を侵食していく。十数秒の時間が過ぎて土煙の中から現れたのは、

輝くような銀髪を持つ髪と完璧な美貌を持つ顔に190センチを思わせる身長と、鋼の肉体を持ち
漆黒の法衣と黒のマントを羽織る、威風堂々とした男であった。


この時綾子は、つり橋効果とでもいうのか、眼前に見える男に心を奪われてしまいそうになった。

(・・・・・・凄い、カッコイイ人・・・・・・)

「・・・ヘッ」

後ろにいる綾子を一瞥すると、すぐに眼前のライダーに目標を置き換えていた。
そして綾子は、D.Sの大きな背中に深い安心を感じるのだった。


◆◆◆



この時綾子の目の前に迫っていたライダーは突如飛来してきた男に、不覚にも目を奪われてしまっていた。
その佇まいと、余りにも威風堂々とした姿と美しさに、此処で言う美とは野生の獣を見て感動を覚えるそれに似ていた。
例えば、山から見下ろす景色は誰もが“綺麗”とか“絶景”とか言うだろう。
だがD.Sを見たものが思うものは、野生の獣の気高さの持つ孤高さを感じるからであろう。
そして、それは英霊としての現代に現界しているライダーも例外ではなかった。


すぐに正気に返りライダーはD.Sを見る。サーヴァントとしての気配は無いが、桁外れの魔力と威圧感。
目の前に、腕を組んで仁王立ちしているD.Sの様子を窺っていた。

キョロキョロと辺りを見回して、D.Sはライダーに尋ねた。


「手前も、サーヴァントって奴か?」


「・・・・・・そうです、貴方ほどの魔術師ならば人の身では、適わない事も存じているとは思いますが・・・何故、魔術師の身でありながら英霊の前に立つ様な愚かな行為に走るのですか?」


ライダーは答えた。D.Sでは自分に勝てないと言っているのだった。
だがD.Sは、そんな事を気にもせず。


「あそこの物陰に隠れてるのが、手前のマスターか・・・?見たところ魔力は、感じねえけどよ」


D.Sは物陰の後ろに隠れている慎二を、自身の魔導の視力、魔眼で発見していた。
それに対してライダーは、驚いた様子もなく淡々と告げた。


「ええ、彼が私のマスターです。それが何か・・・」


D.Sは、ライダーをジロジロとなぞる様に見つめた後。


(あんな腑抜けが、こんないい女のマスターだと・・・気にいらねえな・・・気にいらねえにも程があるぜ・・・)


そして大声で慎二に向かって、問いかけた。


「おい!其処に隠れてる、女一人も自分『てめえ』じゃ襲えねえ不能野郎が!手前がこんないい女のマスターだと笑わせんじゃねえ!
俺様を馬鹿にするのもいい加減にして、出てきやがれこのインポ野郎がぁーーー!」


ピクピク

D.Sの罵声が慎二に突き刺さる。慎二は突如やってきたD.Sに苛立ちを持っていた。
それもその筈である、慎二のフィーバタイムを邪魔したのだった。マージャンで言えば役満を頭ハネしたのに等しいしパチンコでいえば台からどいた直後に確変を引かれるのに等しかった。
その邪魔をしたD.Sがこれからライダーにやられるのを見る為に出てきたのだった。
このD.Sを始めて見た時から、慎二は気に入らなかった。
自分より端正な顔に身長、月光の光に反射する銀の髪。D.Sを構成する全ての部分で敗北を打ち付けられた為に、慎二は男としてD.Sを殺そうと考えた。
そしてその下知をライダーに命令する為に、物陰からでてきただけなのである。

そこで綾子は慎二を見て。

「慎二なんで・・・?」

驚愕の表情をしていた。

「やあ美綴こんばんわ。こんな夜中に買い物なんてご苦労さま」


慎二が綾子に何事も無かったように挨拶する。


「慎二・・・これは、あんたの仕業なのかい・・・?」

綾子が慎二に質問しようとするが、それを遮ったのはD.Sであった。


「おい!小娘!今は俺様が質問してんだ、少し黙ってろ!」



ビクッと綾子が震え。

「ハイ」

D.Sの怒声が綾子の質問を遮り、再び慎二との会話を仕切りなおす。


「手前みたいな、腑抜けがマスターとはな・・・過去とはいえ魔導師の質も落ちたもんだぜ・・・」

D.Sは溜息を漏らす。D.Sはてっきり四天王クラス――――――この世界で言えば英霊クラスの魔術師がサーヴァントを使役しているのかと思ったら、出てきたのは魔力も何も無い唯の小僧だった。


(まあ・・・無理もねえか、俺様のいた時代と比べるのもアレだしな・・・)


「あんたが何処のマスターか知らないけど、サーヴァントも付けずにノコノコと出てきちゃてさ馬鹿じゃないの?」


慎二がいやらしく口元を歪め笑う。D.Sの実力も第一印象で把握せずに自分が有利だと考えて疑わない短絡的思考であり、それは自分が圧倒的有利だと信じて疑わない愚かな笑いだった。
そうこの時点でサーヴァントを出していない事から、D.Sにはサーヴァントは付いていないと慎二は判断したのである。
この判断は間違っていないのだが・・・しかしD.Sはこれに全く動ずる事なく。


「・・・クックック・・・アーハッハッハ!・・・サーヴァントだと、そんな物がこの俺様に必要あるわけねえだろうが!必要なのは手前みたいな魔力の欠片もねえ、その本でサーヴァントを操る
ことしか能のない間抜けだけだぜ!」


ライダーは警戒した。一目見ただけで慎二が魔力を持っていない事に気付き、更には偽臣の書の存在にも素早く直目した、その洞察力にである。


(やはり、只者ではありませんね・・・)


「・・・もういいや、あいつ殺っちゃえよ。ライダー!」


慎二が偽臣の書をもってライダーに命ずる。



「ええ、わかりました。慎二」


「ですが殺す前に、貴方に一つだけ聞きたい事があります?」


「何が聞きてえ?」

D.Sが腕を組んで、仁王立ちのまま答える。


「せめて殺す前に貴方の名前を聞いておこうと思いまして、貴方は死んでいくには惜しい美しさですから、せめて原型を留めたまま破壊して差し上げましょう」


「・・・ククク」

D.Sの唇が邪悪に歪み、その歪みが限界に達した所でカッと開いた。


「・・・フハハハハハ!死ぬ前にってんなら、教えてやらねえとな!よく聞きやがれ女!ダークシュナイダー。それが今から手前をぶち倒し、新たなマスターになる超絶美形様の名前だぜ!
後は地べたに這い蹲った後に繰り返し覚えやがれ!」


「ダーク・シュナイダー」

綾子は一人呟いていた。反芻するように異世界の魔人の名前を・・・


そして此処に魔人ダークシュナイダーと英霊ライダーの一騎打ちの決闘が始まるのであった。
それは、聖杯戦争という運命『Fate』にD.Sが介入した事を、幕開ける闘いでもあった。





感想


長かった・・・ようやくD.Sのエンジンが0から1速『ロー』に入ったと言った所でしょうか・・・
これからどんどんギアを上げてマックス『MAX』まで上げて行きたいと思ってます。
次回の更新は一週間以内です。
ついでにFate/Zero買いました。結構高いんですねビックリしました。

後Fate、PS2版やった後パソコンのやってるんですが、同じ小説を何回も見てるようで飽きてきました。でもクリアしなきゃ・・・

それでは、また次回・・・






[24623] 怪物対魔人
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/02/16 23:41
◆Fate DS night◆




「・・・フハハハハハ!死ぬ前にってんなら、教えてやらねえとな!よく聞きやがれ女!ダークシュナイダー。-------------それが今から手前をぶち倒し、新たなマスターになる超絶美形様の名前だぜ!
後は地べたに這い蹲った後に、繰り返し覚えやがれ!」


D.Sの傲慢とも言える叫びと共に、魔人対英霊の幕が上がった。


D.Sは眉を潜めて逡巡している。
どうやって殺すかをではなく、どうやって殺さずに倒すかを考えているのである。
D.Sの操る呪文は最低でもナパーム弾クラスの火力はあるのだ。
威力の低い『鋼雷破弾』(アンセム)ですら、巨木に穴を空けるぐらいの威力があるのだ。

魔術の最大の弱点は手加減が効かないという事である。剣や素手のように100%の威力を、50や10%にできないのだ。
100%の呪文は、ほぼ100%の威力で発射されてしまうのだ。

しかもD.S級の達人ともなれば、使う呪文の威力も生半可な物ではない。
その気になれば限定された空間に核爆発すら起こせるが今は全く必要なかった。
D.Sの最大の弱点は火力が高すぎると言う事であった。
火力が高すぎる故に殺さない調節が難しい、D.S程の達人であっても呪文を50%や10%の力で打ち出す事は不可能なのだ。
しかもライダーの対魔力はランクBである。
ライダーを殺さずに仕留めるのは、至難のワザに近いと言っても過言ではないだろう。

(・・・・・・本当にめんどくせえな)




D.Sにとって『女性』とは抱く物であり、サーヴァントだろうとなんだろうと其処に差別はないのである。
例え自分を殺す敵であったとしてもその信念に全くの揺るぎはなく。
数多ある呪文から殺さずに戦いを終わらせる事を考えていた。



「チッ!!」



舌打ちをして唐突にD.Sが歩き出した。
しかもズボンのポケットに思いっきり手を突っ込んでである。
ジャリジャリと砂の音と共にライダーとの10メートルある間合いがどんどん縮まっていく。
ライダーは一瞬呆気にとられた。何かあるのかと思って警戒したのだが、何もなく自然体で唯D.Sは歩いているだけであった。
自然体には隙がないとかいうが今のD.Sは隙だらけだった。
当たり前である。何処の世界にポケットに手を突っ込んだまま、戦闘を行うものがいるというのだろうか。
要するに舐めているのである。


「・・・馬鹿にされたものですね」


ライダーは一瞬で10メートルある距離を詰め懐に入り込み、D.Sの鳩尾に蹴りを叩き込んだ。

ドキャ      

(・・・岩?)

鈍い音ともにD.Sの百キロにも匹敵する体が地面に後を残して三メートルは後退し体が『く』の字に折れ曲がる。
三~四トンにも匹敵する威力のある蹴りが鳩尾に入ったのである。並みの人間なら内臓破裂を起こしている筈だったが。
体を曲げたD.Sが顔を上げて、その前髪を上げてカッと瞳を輝かせた。

「・・・・・何だよ、そりゃ」

侮蔑ともいえる言葉だった。D.Sは鋼の肉体の腹筋の力だけでライダーの蹴りを弾いたのだった。


「クッ・・・」


ライダーが距離を取り、D.Sに鎖の付いた鉄杭を投げつける。
ヒュッ。
しかしギィンという音と一緒にD.Sに直撃する前に不可視のフィールドによって遮られていた。

「なっ・・・」

ライダーは驚愕した。
D.Sの魔術障壁である。高位の魔導師でもあるD.Sは無意識にこの鋼のように強靭なフィールドを形成している。
さっきのライダーの一撃は魔術障壁の干渉しない自己の肉体を使った一撃だったから発動しなかったが、それ以外の物に対しては遠慮なく発動する代物であった。
肉体というものは高度な霊質の塊である。これによる攻撃だけはどんなに硬度な障壁も意味をなさないのである。
しかしそれ以外の物『物質』に関しては効果は抜群である。



「英霊って奴も、大した事ねえな」




D.Sは余りのライダーの不甲斐無さに溜息を漏らした。



「・・・言ってくれますね。この私が大した事無いと・・・まずはその認識を改めるさせるとしましょう」


距離を置いた所でD.Sの言葉にライダーが行動で答える事を示した。
その言葉を遮るようにして、D.Sが間違いを正すように言語を放つ。



「勘違いしてんじゃねえ!!手加減してるのはテメエじゃなくて俺様の方なんだよ!まずは、其処の所をハッキリさせねえとな」



「いいでしょう、まずはその減らず口から塞いであげるとしましょう」


ライダーが飛び上がり、自身の獲物の鉄杭を投げつける。
D.Sを無意識下で人間と認識していた、ブレーキが外れての本気の投合である。

これがD.Sの顔面を目掛けて振り注いできた。
だがこれに完璧にD.Sは反応していた。
鉄杭を掴みD.Sの筋肉が膨れ上がる。

「フン」

掛け声と共にD.Sがライダーを引き寄せようと試みる。
しかしライダーも負けじと自身の武器の鉄杭を引き寄せようとしていた。ギリギリという歯がゆい音がして鉄杭の鎖が悲鳴を上げていた。
この事を信じられないのはライダーであった。
驚愕と共に両眉を吊り上げていた。ライダーのスキル『怪力』を駆使しているのにD.Sの筋力と互角なのだから。
しかも徐々に体を引きずられているのはサーヴァントであるライダーの方ではないか。


「貴方は本当に人間なのですか?」


ライダーの疑問は当然であった。いくら疑臣の書によって弱体化しているとはいえ彼女の筋力は怪力のスキルによってランクBはある筈なのに、目の前の男はそれすらも上回っている事になる。



「ぬぅん!!」

「クッ」

D.Sの掛け声と共に鎖と一緒にライダーの体をD.Sが引き寄せ右手で抱きしめた。
だがライダーは左手は自由が効かなかったが残った右手で、鉄杭を力任せにD.Sの胸に突き刺した。

「がっっ!!」

さしものD.Sの障壁もコレには力負けしたようだった。


「チッ・・・しつっけー女だぜ」



そう言って少しD.Sはうな垂れた。
その隙にライダーは、D.Sの体を蹴り上げて距離をとる。

「しょうがねえなぁ、少しは本気『マジ』になってやるか」

D.Sが距離を置いたライダーに対し魔力を高めて呪文の詠唱に入る。



「スー(魔界の公爵)  アン・ドア  ステー・ルー (大いなるトニムアよ) 古の契約を行使せよ」 


D.Sの銀髪が逆立ち、バチバチと両手から青白い火花のようなスパークが飛び散る。
イオンの圧縮と共にD.Sの手の平から高めた魔力が放出される。
  

「雷電怒涛!! (ライオット)」


いかにライダーの敏捷が素早くても雷をかわせるはずがなかった。

「くっあああああ!!」

バチバチという音と同時に彼女の体に六万ボルトに近い電流が流れた。
電気ショックに使う電圧でも1200~2000ボルトなのだ。
人の体はそれだけの電力でも跳ね上がったように痙攣するのに、今ライダーが浴びたのはその約30倍の電力である。
それを体中に浴びたのだ。
ショック死してもおかしくはなかったが、それも最大限D.S が威力を抑えたからであった。
それにまだ召喚されたばかりで、魔力も殆ど使っていないしここで倒されるわけにはいかなかった。

「ライダー!!ライダー!!何やってるんだ、早く立てよ!!この化け物!!」

(勝手な事を言ってくれますね・・・・・私が弱体化していると言っても・・・彼は生半可な魔術師ではありません)

手足に力を込めて立ち上がる。体の所々はまだ電撃の影響で上手く動かない事が分かる。
この分ではライダー特有の一撃離脱の戦い方は出来ないだろう。

(・・・・・・やはり使うしかありませんか・・・それに私はこんな所で倒れるわけにはいきません)

D.Sはライダーが立ち上がった事に眉を吊り上げて少々驚いていた。
彼女がこのまま立ち上がってこなければ慎二を八つ裂きにしに行ったが、立ち上がるとは思わなかったのである。

雷電怒涛(ライオット)はそんな生易しい呪文ではない。D.Sが本気で雷電怒涛を放てば数十人の人間を黒焦げに出来るのである。

(過去の英霊っていうのは、伊達じゃねえようだな・・・だとしたらアイツは何処の英雄なんだ?
それにあんな武器を使う英雄なんて聞いた事がねえぜ・・・チ・・・現時点じゃ・・・情報が少なすぎる、何とかしてアイツの真名が分かれば
封魔呪文で何とかなりやがるんだが・・・・・それまで我慢するしかねえか・・・それに・・・あの目付き・・・多分何かしてきやがるな、それで真名が分かればいいんだがな)

四百年以上生きている彼の知識は半端ではない、その中の引き出しをいくら捜してもあのような武器を使う。英雄など居ないのである。
それにライダーの瞳に力が宿るのを感じて何かしでかしてくると感じたのである。

D.Sが警戒したのと同時に、今度はライダーが無防備に突進してきてその灰色の魔眼をゼロ距離でD.Sの魔眼に焚き付けた。
さすがのD.Sもコレは予測してなかったのか、まさか目が宝具の一種だとは思わなかったのであろう。

「グッ」

D.Sが見ると膝の辺りまで石化しているではないか、あの距離で石化の魔眼を浴びて一瞬で石化をしなかったのはさすがと言えよう。
だが身動き一つ出来ない人間を倒す事は弱体化されていても、実に楽な作業である。

D.Sが頭を落としてうな垂れている。その状態は何処か諦めたかのような仕草でもあった。それを見て諦めと感じたのかライダーはD.Sに歩み寄っていった。

「アハハハハハ!!どうだ!!僕のサーヴァントの強さを見たか!!ライダー早くそんな奴、殺しちゃえよ!!」

慎二が下卑た笑い声を上げながら、ライダーに命令を告げる。

「コレで分かっていただけたでしょうか?この私が大したこと無いといった事を、後は・・・その身を持ってその事を証明してもらう事になりますが・・・」

「・・・クククククク」

不意にD.Sが笑い始めた。今この瞬間はライダーにD.Sの命が握られているといっても過言では無いのに、笑うなどと非常識にも程があった。
だがそれがD.Sという男であった。絶対絶命の窮地に遭いながらも大胆不敵に笑みを浮かべて乗り切る事が出来るのがD.Sである。


「何が可笑しいのですか?」


ライダーは表情は変わらないが、その美麗の口元を絞めてD.Sの笑った理由を問いただそうとした。


「いや、テメエの真名が分からなくて考えていたのに、まさか自分からバラしてくれるとは思わなかったぜ」


「・・・やはり私の真名が分かってしまいましたか、できれば”こんな物“は使いたくはありませんでしたが、それも致し方ありませんか・・・」


「・・・テメエ、メデューサだろう?その灰色の魔眼と、その長い髪が後に蛇になるって訳か・・・・・・成る程な怪物になる前のその姿が本当の姿って訳か」

「・・・ええ、最早死に行く。貴方に隠しても詮無き事でしょう。私の真名は”メデューサ“貴方方が”化け物“と呼んだ。怪物の一種です・・・」

吐いて言うような台詞に悲しみや悲壮感が込まれる様な気がしたのはD.Sの気の所為ではあろうか、少なくともD.Sにはそんな気がした。
そこでD.Sは意外な台詞をライダーに零した。


「・・・悪かったな、その長い髪を見たときにオマエの真名に気付いてやれなくてよ」


そう言ってD.Sはまだ石化していない手でメデューサの髪を撫上げた。
確かに彼女の髪はこの世の誰よりも美しいと称えられた事が在ったが、まさかそんなことを言われるとは思わなかったのだ。


「・・・確かにそういわれた事もありますが、それは過去の話です・・・私は所詮・・・唯の化け物の一種なのですから」

メデューサは自分に言い聞かすように言う。
自分はそうなのだと――――――そのような存在なのだと。

「なに言ってんだ、テメエが化け物なわけがねえだろうが、俺様は色んな奴を見てきたから分かるんだよ、テメエは化け物なんかじゃねえよ。
石化の魔眼がなんだって言うんだよ。俺様がなんとかしてやるから心配すんな」

D.Sの言う化け物とは、破壊神と呼ばれていたアンスラサクスやアンデットの王であるリッチの事を指しているのである。
そんな怪物クラスの魔物と戦ってきたD.Sにとっては、どうしても彼女のような女性が化け物とはD.Sには思えないのである。
それにD.Sは昔に――――――夢魔(サキュバス)を恋人にしていた事もある、最も今はD.Sを庇った為に命を散らせて故人となってしまってはいるが・・・・・・
そのD.Sがどうして石化の魔眼を持っているぐらいの女性を化け物などと呼べようか。

(この男は何を言っているのですか、この私が化け物ではないと、今まで私を彩る人々の目は恐怖や畏怖の色でした。
ですが彼の瞳は・・・・・・私の真名を知ってもまるで恐れてはいません。何故こんなにもこの男の言葉は説得力があるのでしょうか?)

彼はD.Sはずっと長い間―――――――人間を見て生きてきた。その男の台詞に説得力がない筈がなかった。


(そして何故・・・こんなにも頭に響くのでしょうか)

慎二は戦いから少し遠い所にいたので、D.S達が何を話しているのか分からなかった。
だが慎二は口元を歪めてにやけていた。
見ればD.Sは太ももの辺りまで石化が進行している。もう自分の勝ちは揺るがないだろう、そう確信していた。


「ライダー!!そんな奴といつまでも何やってんだよ!!早く殺しちゃえよ!!」

偽りの主の命令によって、ライダーは自分を取り戻した。

「・・・・やはり貴方は危険です。此処で殺しておく事にしましょう」

ライダーは眼帯を外して灰色の瞳を晒しながらD.Sの喉元に鉄杭を突き刺そうとした瞬間。

「・・・ョ・・・ヶ」

D.Sは何か呟いていた。

「・・・死ぬ前の遺言ですか、ならば聞かない事もありませんが・・・」

余裕なのか余りにも、のんびりとした態度をとっているライダーに対してD.Sが怒声を放った。

「馬鹿野郎!!避けろって言ってんだよ!!死にてえのか!!」

その怒鳴り声と共にライダーはD.Sに抱き寄せられて地面に押し倒された。

「何を・・・」

何をするのですかとそう言おうとした瞬間に爆撃のような雷撃が地面を蹂躙していく。

ドオン!!ドオン!!ドオン!!

公園の土砂が抉られて巻き上げられた土砂がパラパラと雨のように降ってくる。
土煙が晴れて夜空を見上げた時に蝙蝠の様にローブを広げたサーヴァントが其処にはいた。
ライダーは自分がD.Sに助けられたのを理解した。
よく見れば慎二や襲おうとした女は遠く離れていた、アレほどの威力のある魔力弾が大地を蹂躙したのだから当たり前だった。
サーヴァントである自分が敵のマスターに助けられて庇われるなど恥さらしもいいところだ。

「・・・クッ」


守ってもらった義理か分からずにD.Sを立たせて距離を取り、敵のサーヴァントに備える。
あれほどの魔力弾を放てるサーヴァントとなると該当するのは――――――キャスターぐらいか今の魔力弾はランクAはあった。
いくらライダーの耐魔力がBはあると言ってもあんなのを食らえばひとたまりもないだろう。


(この気配はサーヴァント・・・あの深い紫のローブとすればキャスターでしょうか・・・彼女があの男のサーヴァントというわけですか・・・とすれば真名を告げたのは
・・・失敗だったかもしれませんね)

(・・・それにしても分からないのは、キャスターのマスターあの男ですね桁外れの魔力量といい先程の行動と、一つ前の言動といい分からない事が多すぎます。
此処は一つ様子を見るとしましょうか・・・真名が判明したとはいえ、まだこちらから仕掛けるわけにはいきませんか)

見ると其処には、キャスターのサーヴァントが降り立っていた。


「よお、遅かったじゃねえか」

大地に降り立ったメディアに対して、D.Sが挨拶を交わす。

「『遅かった』じゃないでしょう!!私が一歩でも遅かったらどうなってたと思ってるのよ!!」

悠々とした主の挨拶に対してメディアがいきなり吼えた。

「いちいちやかましいオンナだな、無事だったんだからいいじゃねえか」

「よく無いわよ!!」

「それよりD.S貴方さっき敵のサーヴァントを庇ったでしょう・・・なんでそんな事をしたのかしら?」

D.Sは腕組みをして自身満々に答えた。

「俺様は女は殺さない主義なんだよ・・・それがいい女なら尚更だな」

開き直ったかのようにいうD.Sに二人は・・・・・・

「「・・・・・・」」

この答えを聞いた。ライダーもメディアも一瞬呆けた。
そして溜息を吐いて。

「・・・怒るのを通り越して呆れたわ・・・」
「ええ・・・私も呆れています・・・」

ライダーもメディアも呆れたのか一言言った。

「D.S貴方・・・馬鹿だったのね」
「ええ。敵である私が言えた義理ではありませんが・・・どうやら貴方は馬鹿のようですね」

二人の美女に言われたのが少し応えたのか、ちょっとたじろいだ後。

「うっ・・・いちいちうるせえな、それよりさっさとこの石化を直しやがれ!!」

メディアは又一つ溜息を吐いた。今日コレで溜息を吐くのは何回目になるだろうか。
マスターのピンチを助けるのはサーヴァントの役目なのだが一言言ってやりたかった。

(自業自得じゃないのかしら・・・本当に手間のかかる男ね)

そもそも彼女メディアはD.Sとの関係をサーヴァントとマスターだという主従関係とは思っていない。
もしもメディアがD.Sに助けられていたのならメディアはD.Sに対して敬語を使っていただろうが、D.Sの命を助けて世話をしたのは彼女なのである。
そして体を預けてもいる。
出合って短い間ではあるが其処までの関係なのに、命を助けた相手に対してどうして敬語を使うのであろうか。
普通はサーヴァントとマスターで在っても逆ではないだろうか。
そこでメディアはD.Sとの関係は同等(イーブン)だと思っており、D.Sに言われたとしても直す気はないのである。
むしろD.Sが何も言わないからずっとこのままで行こうと考えていた。


思い込みから我に返りD.Sの石化した部分を見つめる。

「・・・コレは無理ね、その石化の効力は魔術ではなくてそのサーヴァントの特殊能力だからよ」

重い口取りでメディアが言った。

「何だとテメエ!!それでも神代の魔道師かよ!!気合で何とかならねえのかよ!!」

(なるわけがないでしょう!!本当に手間のかかる男ね)

「・・・しょうがねえな、それなら石化の効力の源になってる古代神の名前を教えやがれ。何とかなるかもしれねえ」

石化をメディアに解いてもらう事を諦めて、D.Sがメディアに問い詰める。

「・・・・・・・・・」

「おい!!さっさと教えねえか!!」

「・・・知らないわ」

「ああ!!」

「だから知らないって言ってるのよ!!そもそも貴方が悪いじゃないのかしら、自分の実力にどれ程の自信があるのかしらないけど、勝手にでしゃばった貴方が悪いのよ」

ライダーはこのやり取りが信じられなかった。
これはサーヴァントとマスターの会話ではない。

(コレでは・・・まるで・・・唯の男女の痴話喧嘩ではありませんか・・・どうやらあの男・・・D.Sと言いましたか人柄としても慎二より上のような気がするのは・・・気のせいでしょうか)

ワナワナとD.Sが体を震わせて見上げて言った。

「・・・冗談じゃねえぞ、俺様がこのまま彫像になったら・・・」

「「・・・なったら・・・」」

「・・・さぞかし美しい彫像が・・・」

ズルッとライダーとメディアはこけそうになった。
見ればD.Sは石化の進行が腰の辺りまで来ているのに余裕を崩してはいない。

(本当に変わっている方ですね・・・)

「・・・D.Sと言いましたか」

「アンだよ」

名前を呼ばれたD.Sが振り向く。

(・・・やはり教えるのは止めましょうか・・・いいえ彼にはこの身を助けてもらいました。コレくらいは許されるでしょう)

「D.S。私の石化の魔眼の効力の源は土着神の”キュベレイ“です。コレは先程の借りを返したと思ってもらって結構です」

「なぁ、やっぱり助けてよかったじゃねえかよ」

D.Sが振り向いて答える。

「イチイチ一言多いのよ!!貴方は!!」

メディアがD.Sの耳を思いっきり引っ張ろうとしたが・・・・・・引っ張れなかった。
ちなみにD.Sの身長は192センチでメディアは163センチである。
実に30センチもの差があるのである。
しかもD.Sの広い肩幅に邪魔されて上手く手が耳までいかなかった。
背伸びまでして一生懸命に何かをしようとする仕草は滑稽ではあるが可愛らしかった。
それを見たライダーはクスリと笑い。
D.Sは・・・

「・・・オマエ馬鹿だろう」

途端にメディアの顔が、カァーと赤くなり真っ赤に染まる。
今度はD.Sの長い銀髪を勢いよく引っ張った。

「イデデデデデ、何しやがる」

そしてD.Sの耳の位置を手の届く所まで持ってきて


「馬鹿は貴方よーーー!!」


D.Sは耳元がキーンとなり鼓膜が破れたかと思えたほどだ。


(そもそも貴方が悪いのよ。ええ全部この男がいけないのよ)


そもそも先程の魔力弾だってマスターであるD.Sがサーヴァントにやれそうになってるのを心配して放ったものだ。
それをまさか敵のサーヴァントを庇うとは思いもよらなかったのである。


(何よ・・・敵のサーヴァントが綺麗だからって抱きついたりなんかして・・・馬鹿じゃないのかしら)

メディアがライダーに対して構えを取る。
そしてD.Sは耳鳴りが収まったのか体勢を整えていた。

「・・・クックック、それさえわかればこっちのもんだぜ!!」

D.Sが土着神のキュベレイに自らが契約してる古代神から働きかけて交渉して見る見る石化を解除していく。

「・・・嘘」

コレを信じられなかったのはメディアであった。いくら石化の効力の神の名前が判明したからといって一瞬で石化を解くなどとは。

(・・・本当に言うだけの事はあるわね。一瞬で石化を解くなんて・・・もしかしたら)

メディアは思う、もしかしたら神代の自分よりも上かもしれないとそんな事があるわけが無い。
サーヴァントとして呼ばれた自分よりも上の魔術師など居る訳がないのである。
例えそれが異世界であったとしても・・・・・・

「・・・さすがキャスター。魔術師の英霊というだけはありますね。いくら効力の神の名前が判明したとはいえ一瞬で石化を解除するとは・・・」

ライダーは石化の解除をしたのがメディアの力だと思い込んでいた。
それを気付いて言わんとしたのだが。

「それは私のちか」

バッと

それをD.Sが手で遮った。
そして次の展開に備えるように体勢を整えていたのである。




感想



更新が遅れた事を御詫びします。
動画で小説をUPしようとしましたが断念しました。
これは自分のパソコンでは無理と判断しました。
まあ、そんなこんなで遅れてしまいました。

なんかD.Sと一緒にいるとキャスター(メディア)のサーヴァントのメッキがどんどん剥がれてきてしまいます。
サーヴァントのメッキが剥がれて女性のメディアとしてのキャラが立っていく気がしてならない今日この頃。

それでは又今度。




















[24623] ペガスス
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/02/22 18:42
◆Fate DS night◆




D.Sがメディアの口上を手で遮ると同時に、距離を置いたライダーが魔眼でメディアを睨んでいるが、それも魔術師の英霊でありD.Sから無尽蔵に魔力を供給されている。
彼女には通用しなかった。

「無駄よ。いくら貴方の石化の瞳が優れていると言っても、既に開放した魔眼が通用しないのが分からないのかしら。
しかもその魔眼の効力の源の土着神の名前まで貴方は曝してしまっているわね。最早―――貴方の魔眼は私たちには無力に等しいわ」

メディアがライダーの石化の魔眼は無力であることを伝えた後にクスッと笑う。
それを確認したライダーは全く動じる事はなく、落ち着いた様子でD.Sとメディアに話しかけた。


「確かに・・・私の魔眼はあなた方には最早効果が無いようですね・・・・・・ですが我が呪われた魔眼を封じたぐらいで私に勝ったと思われては困ります。
・・・それに貴方達は私のクラスを忘れています」


「私のクラスはライダー。此処で戦いを望んだのは失策と言わざるを得ませんね。キャスターとそのマスター。貴方の宝具がどれだけ優れているかは知り得ませんが・・・
宝具の出し合いの前には、魔術師風情の宝具など無力だという事を教えて差し上げましょう」


「・・・それに例えどんな英霊であろうとも我が疾走を妨げる事はできない」


ライダーの綺麗な口元が緩み軽い笑みが浮かぶ。
その後に眼前の二人から更に距離を取り、鉄杭を持ち自分の首に突き刺した。

「なっ・・・」

これはメディアも予想していなかったのか、驚いてその様子を見つめていた。
一方でD.Sは全く動じた様子もなくその行為を見つめていた。


ライダーの血飛沫が蜘蛛の形を書いた紋様を彼女の目の前に展開させていき血で編んだ召喚陣が完成していく。
その行為の意味する事に気付いたD.Sは一言言った。


「阿呆が」


「・・・確かにね、いくらサーヴァントの魔力が桁外れと言ってもあんな事が何回もできるわけじゃないわ」


いくらサーヴァントの宝具が規格外といっても彼女のように毎回、自分の首元に鉄杭を刺すほどの
血液量が必要となればそう易々と使えるものではない事が理解できる。



「おい!ボサッとしてんじゃねえ!!来るぞ!!」


D.Sが吼えメディアに注意を促す。


「五月蝿いわね。分かってるわよ!!」


何故かは分からないが、どうもメディアはD.Sに対して素直になれていなかった。
見る間に血の召喚陣が完成して圧倒的な魔力と共に何かが凄まじいスピードで飛び出してきた。

ゴウッ!!

その物体が飛び出してきた後に土煙が立ち草木が揺れて、木々がバサバサと音を立てて揺れていく。
D.Sとメディアは警戒していた為にコレに反応できていた。

そこで二人は見た。

夜空に浮かび上がる白い流星の如きの天馬(ペガサス)の姿を。

「オイ、分かってると思うがな、アイツの正体は・・・・・・」

D.Sが言い終える前に横からメディアが口を挟む。

「分かってるわ、メデューサだって言うんでしょ・・・完全に予想外だわ、アレほどの宝具があったなんて」

ギリッとメディアが口元を噛み締めて、D.Sを見つめる。


(・・・魔法に匹敵する幻想種・・・どうにかして、彼だけでも逃がさないといけないわね・・・)


メディアは自分の持ちえる能力では、彼女の宝具に勝る物がないと持ち前の頭脳で悟ってしまえた。こういう時には自分の頭脳の明確さが嫌になってくる。
いくら彼女がD.Sから無限に等しい魔力を与えられていると言っても彼女はD.Sの様に真正面から戦いをしてきた経験などないのだ。
彼女の戦い方とは事前に敵の情報を収集して、用いられるだけの策を用いて戦いに当たるのが彼女の戦術である。

一方でD.Sはイノシシの様に敵に突進して行き、その戦いの中で用いられる数多の呪文で目の前の敵を蹴散らしていくのである。
そして敵が強力なれば、自身の魔力と喚起できる呪文のバリエーションの中から最も効果的な呪文を叩きつけるのである。


すなわちメディアは戦いの前にあらゆる策を練る魔術師であり。
D.Sは戦いの中であらゆる策を練る魔導師である。
この二人の長所が合わされば、どんなサーヴァントにも勝てると思われるが・・・・・・D.Sの性格が変わらない限りは皆無だといっても間違いないだろう。
それにメディアがD.Sの事を全く知らないのであるから作戦など立てられるわけがなかった。


上空にいるライダーが歓喜に満ちた表情で笑う。


「・・・フフフフ」


「どうやら分かったようですね、魔術師の英霊にしか過ぎない貴方が私と戦う事の愚かさが・・・」


「私の宝具はどうしてもその威力故に人目についてしまう。故に自由に使える場所も少ない。だが此処でなら私の宝具は最大限の威力を発揮できる」


D.S達のいる場所はかなりの広さを持った新都の公園である。
確かに此処でならあの天馬の能力を最大限に生かせるだろう。



「せいぜい足掻きなさい、貴方達では私の子に触れる事さえ出来ないのだから」


その言葉を聞いて心配そうなメディアの視線を受けていたD.Sがメディアに言った。


「おい。何しけた面(ツラ)してやがんだよ。まさか俺様があんな野郎に負けるとでも思ってやがんのか?」


その言葉を聞いたメディアは、一瞬キョトンとした顔になりD.Sに口答えをした。


「・・・・・・だっていくら貴方が強いと言っても、竜種に匹敵するほどの神秘があの幻想種にはあるわ・・・・・・悔しいけれど私には
アレに匹敵するほどの宝具は無いわ」

メディアが悔しそうにD.Sに告げる。自分ではアレには適わないと。
ライダーの乗る天馬が必要な距離を取り、最高速度に近い加速度でメディアとD.Sに突っ込んでくる。

「こうなったら、貴方だけでも逃がす方法を考えるから邪魔だけはしないで頂戴・・・キャ!!」

D.Sは黙って聞いていたが、邪魔をするなと聞いた瞬間にD.Sがメディアの首筋をの襟を掴み後ろにすっ飛ばした。
そしてメディアに指を指して言った。


「ごちゃごちゃとうるせえオンナだな、いいからオマエはそこでを黙って見てろ」


「・・・な、何よ!!人が心配しているのに貴方のその態度は!!」


D.Sはアレに勝つと言っているのだ。
メディアは空間転移の呪文を詠唱しようとしていたが、もう既に間に合わない。


最高速度に達した天馬が時速400~500キロに近い速度で魔術障壁を持って突進してくる。
それはさながら戦車がそれほどの速度を出して突進してくるようにも見える。立ち向かう事ですら愚かしく思える程の圧倒的な存在感だった。
だがD.Sはこの窮地にあっても微動だにしていない。不適な笑みを浮かべて初めてライダーに立ち向かった時と同じ仁王立ちをしている。
その姿を見たライダーは諦めと感じ取ったのか。


「どうやら、我が宝具の前に恐れをなし諦めたようですね」


「消えなさい!!」


「騎英の手綱!!(ベルレフォーン)」


否D.Sは諦めてはいない。その突進を前に両手を突き出して受け止める姿勢を見せて、結界や魔術障壁を幾重にも張り巡らせていた。
そのライダーの宝具を前にして未だに犬歯を見せて笑っていた。それは獣の如き笑みだった。


ドグシャ!!


聞いた事の無い、鈍い音が辺りに響き渡った。


「・・・なっ」

眉を吊り上げて驚愕したのはライダーだった。
この大軍宝具の突進を止めようと考える愚か者(ドンキーホーテ)が何処にいるんだろうか、いや目の前にいる男がそうだった。


「正気ですか、貴方は・・・」



ズザザー!!土くれや砂埃を辺りに巻き上げて、D.Sが天馬の突進を食い止めていた。
パリン!!ガシャ!!幾重にも張り巡らした障壁が砕けていく音が聞こえてきた。ブチブチと筋肉の千切れる音が聞こえてくる。
天馬の上腕筋、三角筋とD.Sの鋼の筋肉が千切れていく音がライダーには聞こえてきた。
土ぼこりを派手に上げて大質量を思わせて爆走してい天馬はまるで鋼鉄の塊に激突したかのようにつんのめった。
二本の足が反動で尻ごと空中に浮いて、ライダーと天馬の魔力が生み出した異常な慣性エネルギーをD.Sの作った障壁と地面との摩擦エネルギーが
ドンドンとその速度を相殺していく。
既にD.Sの腕からはおびただしい出血が見えていた。アレほどの質量の体当たりを食らって一瞬で消し飛ばないだけでもさすがと言えよう。
だがライダーにはD.Sが砕け散るのが時間の問題とも思えた・・・・・・


「愚かな事をするのですね・・・ですが貴方の蛮勇とも思える行動は私は嫌いではありません。
せめてその名前だけは心に留めて置くとしましょう」

パシン!!とライダーが天馬に鞭を入れて更に力を増す。既にD.Sの魔力で編んだ障壁や結界は全て砕け散っていた。
これ以上力を増されたらいくら魔人D.Sと言えど吹き飛んでしまう程のエネルギーがあった。
それでもD.Sの天馬を止めるのをやめようともしない、愚か者の極みとも言える行動であった。
そしてD.Sは持てる最大限の力を振り絞った。

「ががが・・・・・・ぬぅぅぅああああああああ!!」


D.Sの気合の雄叫びと共に天馬は止まった――――――派手に土くれを巻き上げて百メートルぐらいはその後が残っていたが、それでも天馬はその動きをD.Sによって止められていたのだ。
メディア、ライダーと共にそのD.Sの行為を信じられなかった。
いや信じたくなかったと言った方が正しいのであろうか。一体誰がA級にも匹敵する宝具の体当たりを止めたという事を信じればいいのであろうか。
しかもそれがサーヴァントから見れば唯の魔力が桁違いの人間だという事に。
それもそのはずである、此処にいる男は生きながら伝説になった男で核の一撃にも匹敵する魔神の一撃を止めた男なのだ。


「・・・貴方は本当に人間ですか」

「・・・嘘」



・・・
・・・・・・
「ようやく止まりやがったか」


ゼエーゼエーと息も絶え絶えにしながらD.Sが天馬を止めた事を確認してD.Sは手に魔力を収束させていくと両方の手の平に神秘象形(シンボル)が浮かび上がっていった。
その収束された魔力をライダーに向けて開放した。


「うらぁアアアああ!!」


「封邪滅相呪弾!!(ヴァーテックス)!!」



D.Sが放ったのは悪魔や魔神といった主物質界以外に存在する、より霊的に強力な生物に対して用いる呪文で封殺・調伏等の効果がある呪文であった。
この破邪の光弾を解放し敵の霊質に直接影響を及ぼすエネルギー弾を作り出し放ったのだ。
コレに身を包まれたライダーは、身動きはおろか動く事さえ出来なくなっていた。
そして魔力切れを起こしたのか天馬もその身を光に変えて消えていった。

普通の英霊ならこの呪文に対して対呪(レジスト)能力が発動するのだが、ライダーの神性はEでありその正体は英雄に倒された化け物でもあった。
それに対してはこれらの封魔呪文の威力は見ての通り効果は抜群であった。


「・・・く」


もちろんD.Sは最初っから彼女を殺すつもりなどない。封魔呪文で動けなくしただけである。
戦いが終わったのかを判断したのか驚愕の表情を浮かべて歩み寄ってきた、メディアに対して言った。


「・・・・・・何だよ、テメエは信じられねえ物でも見た顔しやがって、もしかして俺様がやられるとでも思ったか」


ニヤリと不適に笑い、メディアは信じられない物を見たかのような驚愕の表情を浮かべて口をパクパクさせていた。



「・・・何だよ金魚みてえに口をパクパクさせやがって・・・・・・そうか!!口付けでも欲しくなったか!!」


D.Sが近づいてきた、メディアの顎をクイッと上げてその柔らかな唇に接吻を交わそうとしたら、
メディアが右拳でD.Sの顔をグーで迎撃した。少々鈍い音がして、さすがのD.Sも痛がっていた。


「テメエ!!この超絶美形(ハンサム)様の顔に何しやがる!!顔が変形したらどうするつもりだ」


「あら、ごめんなさい。D.S。貴方も女性を扱うならムードぐらい弁えて頂戴」


「・・・大体あなた、あの宝具の激突にも耐えたんだから、それくらいは我慢したらどうなの?」


マスターに手を掛けた事を悪びれた風もなく、軽い口調で流していた。


(何よ・・・人が折角心配してみれば、何事も無かったかの様にケロッとしちゃって、心配しただけ損じゃない!!)



既に戦いは終わり・・・・・・最早―――身動き一つできないライダーは戦う事すら出来ないだろう。
それは素人の目にも明らかだった。だがライダーの偽りの主は違っていた。


「おい!!動けよ化け物!!僕が殺されちゃうだろ!!」

「立て、僕の命令が聞けないのかこのグズ!!」

慎二が怒声を放ち命令を言う。だがD.Sの封魔呪文はそんな偽りの命令で破れるほど甘くは無い。
それでも慎二はその手に本を持ち命令を下していた。

「折角僕がマスターになってやってるんだぞ! 立て! せめてこいつ等を道連れにして死ね!!」

遂にライダーに令呪の強制力が働いた。ライダーの体を全身に電流が走りその電流がライダーの神経一本一本を焼き尽くす。
ライダーの綺麗な顔が苦痛に歪んでゆく。
そして彼女はその苦痛に抗う為に封邪滅相呪弾の結界を壊そうとする。
しかし偽りの令呪では、本来の力は発揮できずライダーはその魔力をドンドン消費させていくだけだった。
ライダーは自身の残った体力でこの結界を打ち破れないか考えていたが、彼女の主は違っていた。
彼女の残った魔力を偽臣の書によって無理に消費させていた。全くの悪循環である。
その光景を間近で見ていたD.Sはメディアに対して言った。


「おいメディア・・・”アレ“だアレを出しやがれ」


「アレって何よ、D.S。もしかして貴方・・・本気で彼女を助けるつもりなのかしら」


「いちいちうるせえオンナだな。血を流してるのは誰だと思ってるんだよ」


さっき助けるといったのだが、なおも口答えをしてくるメディアに対してD.Sは口を尖らせて言った。
そう言われてD,Sの血まみれになってズタズタになった手を見たら何も言い返せなくなってしまったのである。


「・・・しょうがないわね、その前に」

そういい残してメディアはD.Sの手の治療をしようとしたが、よく見ると巻き戻しのビデオのようにD.Sの傷が治っていくではないか。
その光景に眉を吊り上げて驚いていたメディアは言った。


「・・・D.S。貴方のその体・・・もしかして絶えず回復(ヒーリング)掛かっているのかしら?」


「あん・・・よく分かったな、まあ俺様は不死身だからな」


(ますます、心配するだけ損じゃない)


メディアは口元を閉めて、キッとしたかのような表情を浮かべていた。


「・・・ハイ、これでいいのかしら」


メディアはD.Sに破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を手渡した。
その顔には少し奥歯を噛み締めるかの様な表情があったのは気のせいであろうか。
その短剣を取った、D.Sはライダーに短剣を刺そうとしていた。
ライダーも観念したのか、その目には力尽きて諦めの表情があった。


「・・・苦しいか、メデューサ。待ってろ、今楽にしてやるからな」


破戒すべき全ての符!!(ルールブレイカー)


その短剣をD.Sがライダーに刺すと共に魔力が収束していき彼女を繋げるあらゆる鎖が立ち切れていく。
そして、慎二の持っていた偽臣の書が燃えあがっていくではないか。
ライダーは契約の破棄による痛みの所為か膝を降りその身を大地に倒した。

「ああああ、うああああああ!!」


慎二が偽臣の書を燃えて灰になったのを見て少し硬直して、急いで逃げようとしたのだがそれを許すD.Sではなかった。
D.Sの拳が慎二の顔面にヒットして派手に慎二が土煙を上げて吹っ飛んでいく。


「確か・・・オマエだったよなこの俺様を殺せとか、自分では何もせず下らねえ事を言いやがったのは」


D.Sが慎二の顔を足蹴にしてグリグリと踏みにじっていた。


「一つだけ言っといてやる、俺様はテメエみたいな腑抜けが大嫌いだ」


D.Sの青い瞳が真っ赤に染まり猫科の猛獣を思わせるスリットに変貌していく。
そこで慎二は悟ってしまった。この男に手を出す事自体が間違いだったのだ。
最早、腰が抜けて立つ事さえ出来なくなってしまった。

「・・・ああ、お前、・・・ぼ・・・ボク、僕を殺すのか・・・・・・僕はもうマスターじゃないんだぞ、だから関係ないんだ」


「何だよ、オメエ降参してえのか」


慎二は足蹴にされた、顔をコクコクと動かしながら返事をしていた。


「フーン、降参ねえ」


D.Sは一応検討するかのように考えている素振りをしていた。


「駄目だな、テメエみたいな腑抜けが生きているのは許されることじゃねえ。苦しんで苦しみぬいて死ね・・・ハハハハハハ!!」


D.Sが哄笑を含み高らかに笑って宣言する。


「うわああああ、きゃあアアア!!」

涙と鼻水を垂らしながら奇声を発しているが、それは慎二が戦争に対して命を失う覚悟さえ見せていない証だった。
メディアもD.Sの事を止めようともしない、ただ黙って見ているだけだった。
慎二が死んでいくのを止めるものは誰もいない様に見えたが、D.Sを止めるものが一人だけいた。


「待ってください!!」


それは偽りの書によって、慎二のサーヴァントになっていたライダーであった。









―――――――――――――――――――――
CLASS キャスター(魔術師)
  マスター /  ダーク シュナイダー
   真名  /  メディア
   性別  /    女
 身長・体重/ 163cm 51kg
  属性  /  中立 悪
―――――――――――――――――――――
筋力□□□□□ E   魔力■■■■□ A+
耐久■□□□□ D    幸運■■■■□ B
敏捷■■■□□ C  宝具■■■□□ C
―――――――――――――――――――――
~~クラススキル~~

陣地作成:A
魔術師として有利な陣地を作り上げる技能。“工房”を越える“神殿”を形成することが可能である。
だがD.Sから無尽蔵に魔力を供給されている為に陣地を作る必要性が全くない。

道具作成:A
魔力を帯びた道具を作成できる。擬似的だが不死を可能にする薬を作ることもできる。

■保有スキル


高速神言:A
神代の言葉を用いて、呪文・魔術回路を使用せずに術を発動させることが出来る。
極めて便利な技能だが、神代の言葉であるために現代の人間には発音できない。
コレもD.Sも持っているがD.Sの方がレベルは格上である。

宝具

                                                   レンジ 最大補足

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー) ランク C ■■■ 対魔術宝具     一人     一人




金羊の皮:EX
かなり高価らしい。竜種を召喚できるらしいが、キャスターには幻獣召喚技能がないため使用無効。

D.Sから言わせれば「何の役に立ちやがんだよ」全くそのとおりである。
「五月蝿いわね!!」

D.Sから無尽蔵に魔力を供給されているがD.S以上の事は出来ない、本来の実力以上のことはできない。
ランクA魔力を放出することは出来る。


感想


思ったよりも早めの更新です。
それと思った事があるんですけど、アーチャーが倒したサーヴァントって
全ルートを通じてキャスターと眼鏡だけですよね、全サーヴァント中最弱のサーヴァントしか倒せていない影の主役ですね。























[24623] ヒキガエル
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/03/01 15:59
◆Fate DS night◆



「チッ」

舌打ちと共に慎二を焼き尽くそうとした手を止めたのはD.Sであった。
そして苛立ちと共に口答えをしてきたライダーに怒気を滲ませて歯をギリッと噛み締めた。

「おい、メデューサ。テメエは戦いで俺様に負けたんだぞ・・・勝者が敗者に口を挟む・・・その事の意味が分かってんだろうな・・・」

戦いの敗者が勝者に口を出す。それが意味をする所の分からないライダーではない。
敗北者が勝者に口を出す、それが許される事は敗者が勝者に勝った時だけである。
D.Sの苛立ちも、この法則によって成り立っている。
どんな理由があろうと敗者が勝者に口答えをするなどと許されることではなかった。それでもライダーはD.Sに口を挟んだ。
己の身がどうなろうとも構わないと思っての行動だった。


「・・・ええ、わかっています。私は貴方に敗れました。だからこそ彼を慎二を助けて欲しいのです。彼は最早サーヴァントも令呪も魔力すらない・・・唯の一般人です」


「・・・確かに、偽りの令呪によって使役されてはいましたが、それでも彼は私のマスターだったのです。どうか私の願いを聞いては頂けないでしょうか・・・」


(・・・それにあんな兄でも慎二が死んだら、桜が悲しむかもしれませんからね)


大地に膝を降したままライダーがD.Sに切願した。


「しょうがねえな、殺さなきゃいいんだろう」


D.Sは罰が悪そうに口を尖らせていった。


「ちょっとD.S。本気なの!!」


それに口を挟んだのはメディアであった。


「何勘違いしてんだ、メディア。俺様は殺さないって言っただけで、許すとは一言も言ってねえぞ」


D.Sが底意地の悪い笑みを浮かべた。
その笑みは邪悪であり、ライダーもメディアも背筋をゾクッとさせた。その笑みの意味を感じ取ったのか
足蹴にされていた慎二は恐怖に怯えていた。


「お前、ボクに何をするつもりだ」


その言葉に対してD.Sが足蹴にしていた足に力を込める。メリメリっと慎二の顔にD.Sの靴がめり込んでいった。


「・・・オマエじゃねえだろ、この腑抜けが!!」


「・・・いいか、あの女の願いに免じて、殺さないでやるが、俺様に逆らったオマエを許したわけじゃねえ」


「一つオマエに生きるチャンスをやろう。俺様に服従するか・・・それとも死ぬかだ」


そういうとD.Sは飛び回っていた蝙蝠を一匹焼き殺して、その羽を毟り取った。


「此処に一枚の蝙蝠の羽がある、これでオマエに呪いを掛けてやろう」


D.Sがそう言って、蝙蝠の羽を触媒に呪文を喚起していく。
メディアもライダーもD.Sのが操る呪いがどういう物なのか気になって立っているだけであった。


「キー・オーブス・プラタ・ロー 蝙蝠も羽より来たれ 夜魔の王 我が爪に宿り 契約の効力となれ」


その詠唱を唱えた後にD.Sの一指し指が青く染まっていった。


「・・・フフフ、この青い爪はな呪文と共にオマエの体に入り込んでオマエの一部となる、オマエが俺への服従を拒んだ時、又はこの爪を切り離そうとした時に
こいつは青から紫を経て赤く変色する」


「この爪が真紅に染まった時がオマエの最後だ。オマエの五体は砕け散り二度と再生できない様に、別の生き物に再構築される」


「何の知性もない無力なヒキガエルになーー!!・・・アハハハハハ!!」


D.Sが大声を上げて笑っていた。
慎二は心底恐怖した。嫌だそんな事だけは絶対ヤダと、しかし恐怖で歯がガチガチと音を鳴らしてしまい。
喋る事すら出来ない。


「青爪邪核呪詛!!(アキューズド)」


「ギャアアアアアアア!!」


慎二は余りの恐怖に失神してしまった。
D.Sは殺さないとは言ったが、さすがにコレはやりすぎではないのかという気がライダーもメディアもしていた。
コレには二人とも同情していたが、むしろ殺されないだけマシという事にしておいた。
既に失神した慎二からは興味を失ったのか・・・D.Sは少々距離を取っていた。
メディアに歩み寄って行った。


「・・・終わったわね」

緊張の糸が切れたのか・・・慣れていない戦いの空気にその身を晒していた為かメディアがD.Sに労いの言葉を掛けようとすると

「・・・イヤ、まだだ」


D.Sが未だ戦闘が終わっていない事を告げる。


「・・・いつまで、隠れて嫌がる!!さっさと姿を見せねえか!!」


「爆裂(ダムド)!!」


たった一言それだけで其処に、眩い球状のエネルギーが生じた。
爆音と共に其処に凄まじい爆発が起きて、夜の闇が紅蓮の火でもくべられたように明るくなった。


「・・・これは、これは手厳しい、このような老人に、とんだ挨拶があったものだのう」


今まで何処に潜んでいたのか。
老人―――間桐臓硯(まとう ぞうけん)は夜の闇から滲み出るように姿を現した。
この老人が現れるや否や、D.Sはメディアを手で押しのけて後ろに下がらせて臓硯と対峙していた。
この老人から発生している、肉の腐ったかのような匂いがしていた。


「・・・D.S」


D.Sもメディアも気付いていた。これは人間をやめている”人間“から発生する匂いだ。
俗に言うアンデットや不死化した物から発する独特の匂い。魔術の暗黒に携わった事のある人間なら知ってる匂いだった。


「・・・あそこに転がっている、腑抜けは・・・もしかしてテメエの知り合いか?余りにも腑抜けすぎて殺す気すらおきねえぜ」


D.Sがつまらない物を見るかのような目で慎二を見ていた。だがそんなD.Sの様子にも然したる嫌悪感を抱く事もなく。
悠々とD.Sに話しかけた。


「・・・ふむ。確かに腑抜けだが、アレでも我が孫であってな、良かれと思ってサーヴァントを譲ったのだが、どうやら宝の持ち腐れであったようじゃ
倒されるどころか、奪われるなどと間抜けが、最早・・・目も当てられぬと言ったところか・・・」


臓硯は慎二を一瞥してD.Sをジロリと値踏みしていた。


「・・・ふむ、その体から溢れる闘気、さぞや名のあるお方と見受けるが・・・良ければ名前を教えては戴けぬかのう・・・」


D.Sは両腕を組んで少し逡巡した後に、犬歯を出し背筋を凍らせる程の笑みを浮かべた後に
臓硯が思ってもいない自己紹介をした。


「・・・クックック、冥土の土産に覚えておくんだなジジイ俺様の名前はダークシュナイダー。
そして俺様の後ろにいる女はメディアだ」


「ちょっと!!D.S!!」


さすがに臓硯はいきなりサーヴァントの真名を紹介されるとは思っても見なかったのか。
眉を大きく吊り上げて驚愕して歓喜していた。


「カカカカカカカ!!そうかそうかメディアとはのう!!そこの男を自身の傀儡にでも誑しこみでもしおったか!!
さすがは生粋の魔女よのう!!」


臓硯が喜んだかのように捲くし立てて喋りだす。


「カカカカ!!何を憤る事がある。全て事実ではなかろうが、恐らく先程の体当たりを止めたのも御主が何か細工をしたからじゃろうて」


「いやはや、まっことに主思いのサーヴァントではないか、全く感心するわ!!」


それを許せなかったかのように、メディアが歯をギシリと噛み締めてD.Sを押しのけようとするがD.Sは揺るぎもしない。


「どきなさい!!」


メディアがD.Sをと叩くが、D.Sの鋼の肉体は揺るぎもしない。ペガサスの体当たりも防いだ体がどうして女性に叩かれた程度で揺るぐのだろうか。


「・・・テメエは引っ込んでろ」

見ればD.Sも奥歯を噛み締めて憤怒していた。大気をも震わせてその部分だけ沸騰した蒸気にも似た殺気が醸し出される。
D.Sは死の宣告をした。


「・・・ジジイ!!テメエはそれだけを言う為に俺様の前に現れたのか?褒美にテメエは俺様自ら引導を渡してやるぜ!!」


「ザーザード・ザーザード・スクローノ・ローノスーク
   漆黒の闇の底に燃える地獄の業火よ
   我が剣となりて敵を滅ぼせ」


D.Sが空中に魔法陣を編んでいき、その唇が詠唱を終える。
夜の闇夜に松明が光ったかのように光が発光していく。その様子を臓硯は驚くほど冷静に見ていた。

「・・・ぬぅ・・・これは」


「爆霊地獄(ベノン)!!」


異界から漆黒のゲートが開放されて凄まじい破壊酵素が臓硯の肉体の新陳代謝を加速させて、臓硯の細胞を異常に加速させて分解していった。
この呪文をくらった臓硯は、その体の大半を塵状に破壊しつくされて体は胴体と頭部を残しただけになるほどに破壊しつくされていった。
だがそれでも臓硯は生きていた。


「死なぬ・・・ワシは死ぬわけにはいかんのじゃ・・・」


体の全てを蟲状にして這い回り生き延びようとしていた。その生にしがみ付く妄執とも言える有様・・・D.Sは知っている。
こういう形振り構わずに生き延びようとする輩が一番厄介だと、ある意味ではサーヴァントより厄介かもしれない。


「チッ・・・しぶといジジイだぜ」


D.Sが苛立ちと共に、手の平に魔力を収束させていった。



「爆炎障壁!!(ガンズン=ロウ)」


炎の障壁が臓硯の残った体を焼き尽くす。先程の呪文は分からなかったが、今の呪文はメディアにも分かった俗に言うフレイムウォールというものだ。
しかしサーヴァントでもない唯の人間がこれほどの高熱を生み出す事が可能なのだろうか・・・


(とんでもない男ね・・・)


キャスターは素直に思った。
さっきの天馬(ペガサス)の体当たりを防いだ事といい凄まじいまでの実力者という事が伺える。

全てが終わった後D.Sの呪文の威力が切れたのかドサッと共に
ライダーは倒れた。

(・・・良かった・・・あの老人さえいなくなれば桜は・・・後は私の問題ですね・・・最後まで桜と一緒に居られれば良かったのですが・・・)


そうしてライダーは薄れ行く意識の中で、銀髪の人影を見た。


(・・・あの男が来ましたか・・・どうやら私はここまでのようですね・・・)


意識を手放そうとするライダーにD.Sが声を掛けていた。


「・・・よお、意識はまだあるか・・・今からメデューサ。オマエに俺様の血をやる。自分の意思で俺様の血を飲むのと
飲まされるのと、どっちがいいかは自分で選びな・・・言っとくがこのまま死のうだなんて言う選択権はオマエにはねえからな」


そのD.Sの言葉を聞いたライダーは、少し戸惑った後に必死にその体を起こしてD.Sの首筋からその血を吸った。
傍(はた)向けには仰向けになったD.Sをライダーが押し倒して覆いかぶさるようになっている構図のようにみえていた。
D.Sの血を吸ったライダーはそれだけで極上の酒にも匹敵する甘美な酔いに晒されてしまい。ビクッと体を仰け反らせてしまいそうになった。
魔力は既に限界にまで回復し暫くは大丈夫だろうとまで思われるくらいに持ち直していた。


「・・・これで暫くは大丈夫か」


やれやれとD.Sが一息を付いて、立ち上がると今まで黙っていたメディアに声を掛けた。
ライダーはこれから自分がどうすればいいのか分からずっと言ったところか立ち止まっていた。


「・・・帰るぞ」


「そうね、私も疲れたし帰るわ・・・でもその前に」


メディアはD.Sのその長い髪を掴んでグイッと思いっきり引っ張った。別に彼女も魔術師で先程の行動の一環には納得出来るから。
押し黙ってみていたのだが、全ての行為に納得出来るかといわれたらそうではない。魔女だろうと何だろうと納得出来ないものは納得できないのである。
それがD.Sの長い髪を引っ張った所以である。


「いててててて、容赦がねえな、オメエは・・・」


D.Sが、髪をさすって引っ張られた所を撫でる。それを悪びれた様子もなくメディアが口を紡いだ。


「あら、コレくらいで済んだと思ってくれて感謝してくれなきゃ。本来、乙女心って言うのは複雑なのよ・・・それをコレくらいで済んでるのだから」


「・・・フーン乙女心ねえ、それをオマエが言うかよ」


思うところがあったのか、その言葉を頭の中で反芻していたD.Sはメディアに一言さらりと言った。


「いちいち五月蝿いわね、貴方は!!」


メディアはD.Sがどれ程強いのかを試すように、威力C~Dににも匹敵する雷撃を放った。並みの人間が直撃したらそれだけで心臓が停止を起こしかねない雷撃をマスターに放ったのである。
正気の沙汰とも考えられない行動である。

「ヘッ」

ニヤリと不適に笑いその雷球を事も無げに片手でD.Sは全て弾いていた。それを間近で見せ付けられたメディアとライダーの二人はさすがに動揺を隠せなかった。


(・・・やはり只者ではありませんね・・・)

(・・・本当にとんでもない男かもしれないわね・・・)


「じゃ帰るか」


そう言ってヒョイとライダーを脇に抱えて、空中を飛翔する呪文を喚起して空を飛んだのであった。
同様にメディアもD.Sが空を飛べるのに少々驚きはしたが、それもあれ程の魔術師ならばと納得して空を飛翔していた。



後に残された綾子は、被害は殆ど無かったものの夢でも見たかのような顔をしてその夢が本当に現実の物か確かめる為に慎二に声を掛けようとしていた。
さすがに冬の寒空に学友を放置して凍死したなどと次の日にニュースで報道されでもしたら居心地が悪すぎるからだ。


「おーい慎二。生きてるかい」


失神している慎二に声を掛けて慎二の覚醒を促す。


「美綴・・・お前・・・どうして?」

驚いたものを見るかのような顔で綾子を見る慎二がいた。

「どうしても何も、アンタがあそこで気絶して凍死でもされたら嫌だから声を掛けてあげただけの事だよ」


「・・・そうか」


「・・・それじゃ、あたし達も帰ろうか・・・」


「・・・ああ」





◆◆◆




舞台は変わり、地下の墓地を思わせる一つの部屋。
ここは間桐家の地下の蟲の棲家だった。ズルズルと音がしていった音はその全てだった、本来蟲が一匹や二匹動いた所で音など人には聞こえないのだがそれが個ではなく
群体であったのなら別の話である。
其処に蟲達が肉を纏い人型を形成していき一人の人間の形を造型していくではないか。
その蟲達を苗床にしていて出来たのは、先程D.Sに焼き尽くされた筈の間桐臓硯であった。


「・・・なんと言う、男じゃ・・・よもやアレほどとはのう・・・さて此度の聖杯戦争はどうするかのう・・・」


一匹の巨大な蟲が動いて、声を喚起していた。そして蟲達が動いたかのようにその皺だらけの口元を邪に歪めた。


(さてと、此度の聖杯戦争はどうするかのう・・・?アレほどの力を持った魔術師ならばあの監督役の神父もサーヴァントも何とかなるであろうやもしれんが・・・)


(なにせ条件が悪すぎる。万全とは言いがたいしライダーは先程あの男に取られてしまったしのう・・・)


(・・・まだ、先はある此度が最後という訳でもない無ければ静観に徹して傍観するだけなのだがのう・・・)


だが臓硯は持ち駒の一つだけはジョーカー。サーヴァントでないにしろワイルドカードに匹敵するほどの手札がある。
それほどの手札を有しておきながら何もせずに傍観とは余りにも愚かしい事である。
聖杯を奪い合う場としては最悪だが、そのカードさえヤル気を起こして場に出す事が出来れば先程の魔術師も監督役のサーヴァントにも匹敵するかもしれないということである。
なにしろ聖杯の中身を植えつけた”モノ“なのだから。
十年間その神経の全てを聖杯の欠片が侵食していったものなのだから。


「・・・ふん、ワシには次があるがアレはそうは長くは持つまいな胎盤として貰い受けたがよもやアレほどの出来になろうとはな・・・」


どちらにせよ今回しか使い道のない手札ならばそれがどうなろうが臓硯には知った事ではなかった。
どちらにせよ道具が一つや二つ壊れたぐらいでどうという事も臓硯には関係なかった。
すると問題は一つだけである。アレをどうやってその気にさせるかだが。なにせアレは頑丈な鎧だ。針の穴すらつき通さぬ程の鎧となれば
その堤防を決壊させるのは外からではなく内側からしかなしえないであろう。コツコツと足音が聞こえる。


「・・・来たか、では抜け道を作ってやるとするか・・・」


その墓場に似合わない女性。間桐桜が現れていた時、既にその手に令呪を失っていた。


「・・・おじい様、先程あの令呪がなくなってしまったのですけれど・・・もしかしてライダーはその・・・」


令呪がなくなりサーヴァントとの繋がりが消えた事を意味するこの事は一つしかない。


「・・・うむ、敗れおったよ」


「・・・そうですか、兄さんはどうなりましたか?」


「・・・あのたわけめが、おとなしく死んでおれば良かったものを存外にしぶとく未だ生きておる」


「・・・では、おじい様、これでもう戦わなくていいんですね」


かねてからの聖杯戦争が始まる前の問いかけの答えを口にする。
マスターを全員殺さなくてはいけないのかと言う答えだ。


「・・・そうだのう。これでお主は晴れて殺し合いから、開放されたという訳じゃ。しかしそうなると少し癪だのう今回の寄り代の中で一番出来がいいのは
遠坂の娘じゃしのう」

そして口元を狂気にも似た笑みを浮かべて言った。


「桜よ、お主は知っておるか。先程のお主のライダーを倒したのも遠坂の娘の仕業なのじゃぞ・・・
いやはや、何ともよく出来た娘よこれではあの娘が今回は勝ち残ってしまうかもしれんのう・・・」


そうして桜を一瞥してジロリと臓硯は見た。


「・・・そうですか・・・姉さんにライダーが・・・」


「・・・許さない」


憎悪にも似た暗い感情が部屋を支配する。臓硯は不適に笑った。
誘導は成功した。後は一つの針の穴にも穿った。
これが孫を侵食していけばアレに届くようなものになる事だと・・・








感想



誤字などがあったら指摘してください。
中々進んでくれません。
まいいか。
バカボンのパパも言ってたし。これでいいのだって
そんなんで皆さんも納得してください。
これでいいのだ!!de































[24623] 受肉??
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/03/06 14:35
◆Fate DS night◆





メディアはD.Sの規格外の凄まじさに驚いていた。

(D.S。貴方って何処まで出鱈目なのよ)

メディアは空を飛べるといってもD.Sの様に亜音速に近い速度を出せるわけではなく、空を飛ぶといっても精々緩やかなぐらいの速度で飛べるぐらいである。
余りの遅さにD.Sは溜息を漏らして。


「おせえ・・・」


そう呟いて、空いている片方の手でメディアを抱きかかえた。


「ちょっと、D.S・・・」


「行くぜ」

両方の手に左にメディア右にライダーと抱えて
一気に自分たちの住処である柳洞寺の前に帰還する。その間ライダーはD.Sの血を吸った後に戦闘の後遺症か気を失ってしまったのである。
柳洞寺に着くとメディアは手足をジタバタさせて抱き抱えられるのが嫌な猫のように暴れていたが、D.Sにしてみれば小娘がジャレているようなものである。
いくら暴れても無駄と悟ったのか、メディアは口を開いた。


「・・・早く、降ろしなさい」


「何だよ我がままな野郎だな。折角俺様が抱き抱えてやってるのに・・・」


「いいから!!早く降ろして頂戴!!」


怒声を発してメディアが余りにも暴れるので、D.Sが不機嫌そうな顔をしてメディアを降ろす。


「ようやく、自由になれたわ」


それだけならば問題ないのだが、D.Sがその後にライダーをお姫様抱っこした事に問題があった。
長身のD.Sがライダーを抱きかかえる。その姿は驚くほど絵になっており満月の月明かりがD.Sの漆黒の法衣と銀髪を照らして
そこに妖美な美しさを持つライダーが重なり一枚の肖像画の様であった。
メディアはそんな自分のマスターの姿を誇りに思うと同時に抱きかかえられているライダーに少し嫉妬した。
その様子を見ていて思うところがあったのかD.Sは声を掛けた。


「・・・何だよ、まだ何か文句があるのかよ」


「・・・何でもないわよ・・・」


その感情の意味(嫉妬)にはD.Sはすぐさま気付いていたが、今はそれどころではないと考えて急ぎ境内に向かって階段を上っていく事にした。


(ここで何か言ったらこの馬鹿は・・・また五月蝿そうだしよ)


ライダーの魔力が回復したと言っても楔を失ったサーヴァントが、この世に留まる事は現世に生きている者の力を借りなければならない。
何故ならば、その楔がなければ彼(彼女)らは消失してしまうのだから。
その意味にはD.Sも気付いているらしくライダーのスキル単独行動がランクCあって一日現界できるといっても何も魔力消費しなければの話である。
さっさと契約を済ましたいと言うのが本音だった。
勿論。
D.S自身サーヴァントに遅れを取るとは微塵も思ってはいない、このような状況下で敵に襲われたらと危惧してのことだった。
いくらD.Sが数千、数多もの呪文を詠唱、喚起できると言っても両手が使えない状態ではお話にならなのである。
部屋に着いた後でもD.Sは周囲の警戒を怠る事はない。何故なら彼にとって夜伽をしている時でも自身の首を狙ってくる不埒物などは日常茶飯事だったからだ。
それに過去のサーヴァントに匹敵する程の猛者―――D.Sの配下、四天王にすら命を狙われていたのだから・・・・・・


「・・・D.S。貴方、ほんっっとうにそのサーヴァントを抱く気?」


メディアが嫉妬やら妬み、女が持ってる幾つもの顔の部分の内の一つの仮面で話しかけていた。並みの人間ならばそれだけで萎縮してしまう程の殺気がD.Sに向けられて放たれていた。
しかしそんな物でD.Sは怯むはしない、むしろ諭すような口調でメディアに語っていた。


「それが・・・一番手っ取り早いじゃねえかよ・・・何だよ・・・妬いてんのかオマエ」


その神経に障る台詞を聞いてワナワナと肩を震わせて、震えが止まったかと思うと高められた声帯の発生音がその見た目麗しい口から発せられた。


「妬いてなんかいないわよ!!この甲斐性なし男!!」


魔術で拡声したかのごときの大音量の声を張り上げて部屋から出ていって襖の戸をピシャンと閉めると。

「ハアーー」

溜息を漏らした。
D.Sの言っている事は魔術師としては正しいし、その行為に議論の一つも差し挟めない。
何せこれで現状では自分たちの手元には魔力が無尽蔵に供給される、マスターの元に二対のサーヴァントが居る事になる。
第三者の視点から見ればコレはかなりの脅威である。しかもD.Sもサーヴァントと互角に戦える戦力とするならば約三体ものサーヴァントである。
つまり聖杯戦争の約半分に相当する戦力が既にあるのである。コレに議論を挟むなど彼女の魔術師としての論点から言えば有り得る訳がなかった。
そんなことを立ち止まって月を眺めながら考えていたら。


「オメエも来るんだよ・・・」


メディアはD.Sにその紫のローブの襟を引っ張られて部屋に引っ張られていった。


「ちょっとD.S!!きゃ」


この男はズルイとメディアは考えていた。何故かは知らないがD.Sという男はこういう場面での女性の扱いを知り尽くしているかの様な男なのだ。
閨や夜伽の時には有無を言わせず女性を組み伏せる術を持っている男であった。自身は快楽には溺れず第三者かのような視点で女性の性癖を責めてくるのだった。
そうして二人は抱かれて。ライダーはD.Sとパスを繋がれてメディアはD.Sとの繋がりを強くしていった。
・・・・・・
・・・・・・・・・




やがてはライダーとメディアの二人も疲れ果てたのかD.Sの膝を枕代わりにして寝入ってしまった。




◆◆◆





「D.S」


D.Sが呼ばれて目を覚ますと目の前には一人の男が立っていた。
D.Sにしては幸いなのかライダーとメディアは起きてはいない―――否、目の前にいる男がD.Sに気でも使っているのかそうさせている事が窺えた。
この世の理の外にいるサーヴァントをそれも二人に気付かれずに起こす事もなく侵入するなど並外れた実力者ではない事がD.Sを警戒させた。


「・・・何の様だ、根暗野郎・・・」


「根暗野郎とは随分と失礼な言い方ですね・・・コレでも七大悪魔王の一人なのですが・・・」


其処にいる男は悪魔王の一人。肉欲を司ると言われている人類最古の悪魔とも言われている”アスモデウス“であった。
上半身は少しだけ露出してはいるが、其処には無駄な贅肉はなく鍛えられた腹筋が見えて真っ白い外套を羽織り
その端正な顔には切れ長の眉毛とそれに付随した眼。それだけでは悪魔には全く見えないが彼にはその額に生える一本の角が彼を悪魔たらしめる要素であった。
その見事なまでの端正なバランスは正に肉欲の悪魔を思わせる風貌であった。


「・・・何の用で、来やがった?」


別にD.Sはこの世界にアスモデウスがいる事に驚きはしない。宗教学的にいうと本来の天使や悪魔の役目とは人間を監視する事である。そうして人間が神に逆らうほどの力を手にしたとき罰するのが彼らの役目の一つでもある。
だからこそ今D.Sの世界は大変な事になっているのだが・・・・・・
彼らは火や水などを媒介に人間を監視してその魂を善や悪に導くという役割を持っている。そして天界や地獄から数多ある平行世界を監視するのも彼らの役目の一つである。
だから別に彼がD.Sの目の前にいる事は驚くべきことではない。それに上位の悪魔になれば成る程その魂を地獄に引っ張られる為に本来の力を物質界(マテリアルプレーン)で出せないのである。ましてや悪魔の王ともなれば高次元の孔(チャンネル)が開いていない世界では実力の欠片も出せないであろう。
だが腐っても悪魔の王ではあった。サーヴァントに気付かずに侵入してその存在を気付かせないのはさすがと言った所か。


「・・・・・・貴方に伝える事があります・・・貴方の愛していたと思われる女性―――ティアノートヨーコは既にこの世にはいません。有り体に言うと死亡しました」


D.Sはその言葉を聞いて、奥歯をギシリとはぎ立てて凄まじい怒気をや憤激を発したかと思うとそれを急速に収めてゆくと、次の質問をした。


「・・・それで、他の馬鹿どもはどうなってやがる」


「・・・そうですね。他には貴方を慕っていた。侍達やまた魔戦将軍達も死亡が確認されています・・・そして四天王は目下の所、行方不明と言った所でしょうか・・・」

「・・・これは、その映像です」


それはD.Sの愛した女性や仲間達が天使に蹂躙されて死体になっていく光景だった。D.Sの中央メタリオンでは確かに天使や悪魔が現界しているが、まさか全員が既に死体になっているなどとは思わなかった。
最早、自分を知っている者など数えるほどしかいないであろう。滅び行く世界の光景と天使や悪魔の戦いとやらがD.Sの目の前で映像化されて映し出されていく。
そのビジョン(映像)を見終わった後に、D.Sは目の前の男に質問をした。


「・・・それで、テメエは俺様に何をして欲しいんだよ?」


質問の異問を察したのかアスモデウスは本来の用件をD.Sに伝える事にした。


「・・・単刀直入に言います。現在・・・我々悪魔の軍勢は天使の軍勢に比べて劣勢にあります。そこで貴方に大天使長ミカエルを討ち取って欲しいのです」


・・・・・・その質問を聞いたD.Sは暫く考え込んで顎に手を乗せて。


「・・・・・・成る程なそっちがテメエの本音か・・・」


「・・・それで、ソイツはすぐやらなきゃいけねえのか・・・・・・?」


最もな質問をアスモデウスに問いただしてみた。


「・・・いいえ、暫くは劣勢とは言え・・・拮抗状態が続くでしょう。・・・それにいくら私が悪魔の王と言っても異世界の孔(あな)を開くのは時間が掛かります・・・そうですね貴方も何か厄介ごとに巻き込まれていますし・・・今年の春の桜が咲くころには貴方一人分が通る孔(あな)ぐらいなら開けることでしょう・・・」


「それまでに、下らない戦争ごっこを終わらせて置く事ですね・・・英雄如きに負けていては暗黒のアダムの名が廃りますよ」


「それでは、また」


そういい残してアスモデウスは漆黒の暗闇に消えていった。


「クソッタレが・・・」

D.Sは悪態を空間に向けて吐いた。これで聖杯に願う事は既になくなったし別に戦いを急ぐ事もなくなった。
向こうの世界に残った四天王の事が気にはなるが、彼らならば生き残ってはいるだろうと考えていた。伊達に彼らとて四天王の名を冠してはいないのだった。
それにもしもD.Sが聖杯に愛した女性(ティア・ノート・ヨーコ)の復活を望んだとしても、それはD.Sの記憶から複製された唯の贋作である。矛盾しているようだがそれはティア・ノート・ヨーコであって彼女ではないのだ。
例えるならクローン人間にD.Sが知っている彼女の記憶を植えつけた複製人形みたいな物である。
ここの聖杯に出来るのは第三魔法の真似事であって、第三魔法そのものではないのだ。
平行世界で死んだ死者を蘇らせるなどという離れ技は、例え聖杯戦争にD.Sが勝ち上がったとしても不可能であろう。
D.Sはよく馬鹿と間違われているが、こういう時にすぐ答えが出せるほどの頭脳の明晰さは残酷でもある。不可能な事は不可能と分かってしまうのだった。
だから例え数パーセントでも確率があればそっちを取るのである。


(・・・グダグダ考えてもしょうがねえな・・・こっちの事を考えるか・・・)


D.Sはそう考えて、自身の膝を枕代わりにしている二人をみて。


(・・・せめて、こいつらは守ってやるか)


そう誓い、そして天井を見上げた後に・・・


「・・・天使か・・・必ずブチ殺す・・・」


自分の仲間や愛する者を殺した天の御使い達に復讐を果たすと誓ったのだった。
・・・
・・・・・・






◆◆◆



サーヴァントは本来なら夢を見ないのであるが死の間際を経験した。ライダーは何故か、その見ない筈の夢の中で死を感じていた。
自分の本来のマスターからの繋がりは全て無くなり魔力も限界近くまで消費して体はドンドン冷たくなっていく。
腕に足に感覚がなくなっていき。まるでうまく動かずに自分の手足ではないようであり。
いくら冬木市の冬が暖かいとはいえ魔力の無くなっていく体は冬の外気が体を冷やしてドンドンと冷たくなるのを感じていた。


(・・・寒い、私は死ぬのでしょうか・・・?こんな所で桜にも会えずに・・・)


(それも仕方が無いのかもしれません・・・・・・怪物の私が人を救いたい等と思うのが間違いだったのかもしれません)


ライダーは闇夜の空間を歩いていた。其処は真っ暗な空間で唯―――何もなく広がっていた。


(どうやら、ここが私の終着駅のようですね・・・)



そこでライダーは光輝いていて、とても暖かな熱量を発する物を見た。
否―――それは物ではない光を発しているのは不死鳥(フェニックス)だった。不死鳥はライダーに気が付くとその神々(こうごう)しい体をライダーに近づかせていき、その暖かな羽でライダーを包み込んだ。

(・・・暖かい、何て暖かいのでしょうか・・・これは・・・)

それはメデューサが失った筈の家族の温かみにそっくりだった。顔を上げて不死鳥をみてライダーはこの暖かな鳥に尋ねていた。

「・・・貴方も私と一緒で一人なのですか・・・?」

不死鳥は声にならない声で答えた。その泣き声は肯定の意味を取っていたのか更にライダーを包んだ羽を狭めて寝入ってしまうのであった。


「・・・フフフ暖かいですね、貴方は・・・こんな終わり方なら悪くないかもしれません」


可笑しい話だがライダーは死を受け入れるかのようにして夢の中で眠りに入った。




・・・
・・・・・・




◆◆◆



時が過ぎていき朝日の光と共にライダーは目を覚ました。
其処にはその銀髪を朝日の光に輝かせながら、佇んでいる男―――D.Sの姿があった。規格外の魔力を持つとはいえ自分の宝具を受け止めるという離れ技をやったD.Sが其処にいた。
メディアは機嫌が悪いのか深い紫のローブとフードを被り部屋の脇によっかかっていた。ちなみによっかかるというのは方言の一種である。
なぜそんなことをライダーが知っているのかはどうでもいいが、ライダーには漆黒の法衣を着ているこの男に聞きたい事があった。


「よお、目が覚めたみてえだな」

ライダーが気が付いたのを見たのかD.Sが歩み寄ってきた。ライダーは自分が裸の事に気が付いてパスが目の前の男と繋がれたのだと自覚する。
すぐに魔力で形成した服を身に着けて、初めて会った格好と同じ服を装着していた。
其処でライダーは自分の状態に気が付く偽臣の書とは比べ物にならないほどの流れてくる圧倒的な魔力の本流。
コレだけの魔力があれば、いくら宝具を使おうとも気にはならないほどの魔力。そこでライダーは気になっていた疑問を問いただした。


「何故、私を助けたのですか?」


「・・・何だよ、オメエ死にたかったのかよ?」


D.Sはあっけらかんとした口調でライダーの疑問には答えなかった。


「質問の答えになっていません。私は何故?私の正体を気付いたのにも関らず、なお私を助けたのですかと聞いているのです」


「貴方も知ってのとおり、私は怪物です。この眼に魅入られた者を石像にする”魔物“だったのです。その私を何故助けたのかと聞いているのです?」


ライダーは疑問の答えを聞きたいのか、少し苛立ちを含んだかのような口調になっていた。
D.Sはその質問に対して黙って腕を組んでいた。答える気がないと汲み取ったのかライダーは更に苛立ちを含み話しかけようとしたが
そこにメディアが割り込んできた。


「・・・そうね、私も貴方の本心っていうのを聞きたいわ」


メディアとライダーの二人がD.Sから本心を聞くために疑問を問いた。


「・・・いちいちうるせえ奴等だな・・・じゃあ”テメエら“が死んだら何か変わるのかよ?」


「「・・・それは」」


ライダーとメディアは答えられなかった。自分が死んでどうなるというのだろうか何も変わらないのだからである。


「俺様が助けたいから助けたんだよ。なんか文句があるのかよ・・・それによ怪物か魔女か魔物だなんてどうだっていいじゃねえかよ・・・」


「・・・それにオメエあの口が五月蝿い馬鹿と気が合いそうじゃねえかよ」


確かに同じ彼女らは二人ともギリシャ神話に縁ある英霊で、その末路は神によって好き勝手にされたが。
だからと言って敵対者にいきなり隙を見せられるのはD.Sぐらいであろうか。そういってメディアをD.Sは親指でほらっと指した。
それが我慢ならなかったのかメディアは立ち上がってD.Sに指を指して文句を垂れていた。


「誰が馬鹿よ!!いいかしらD.S私が口が五月蝿いのはそもそも貴方が――――――クドクド」


「そういう所が口がうるせえっていってんだよ」


D.Sがいい加減メディアの小言を聞くのを聞き飽きたのか会話を断絶した。


「・・・変わってますね。貴方達は見ていて微笑ましい物があります」


そこをライダーがD.Sに話しかけてきた。


「・・・んでこの後オメエはどうしやがんだよ?」


この後どうするの進退をD.Sがライダーに問う。


「・・・貴方に敗れた今。私は誰にも必要とされていません・・・」


そう力なく言うライダーを見てD.Sは決めた様にライダーを指刺して言い放った。


「生きる理由がねえのなら・・・・・・生・・・き・・ろ・・」


「・・・え、どういう事ですか?」


ライダーはD.Sの言っている意味が分からずに聞き返した。


「・・・わかんねえ野郎だな、俺様の為に生きろてみろってんだよ」


「・・・貴方は正気ですか、令呪があるとはいえ自分を殺そうとした者を手元に置くなどとは・・・」


「あんなもんで、俺様が死ぬかよ・・・・・・んでどうするんだよ?」


(強がりもいいところですね私の宝具をあんなもんとは・・・事実私の攻撃を受けた貴方はズタズタだった筈です)


「其処までいうのならば・・・分かりました。貴方をマスターと認めて貴方の剣となり盾となる事を誓いましょう」

ライダーはD.Sをマスターと認めて協力する事を誓うのだが・・・
その言葉を聞いて、何か可笑しいところがあったかのようにD.Sは指摘した。


「ちょっと待てよ、剣になるのはいいけどよ”盾“になってどうすんだよ?オマエが盾になったってよ速攻であの世に行くだけじゃねえのかよ」


折角いい雰囲気だったのに、D.Sの雰囲気を察しない細かい指摘で台無しである。
それを聞いたライダーは顎に手を乗せて、少し困った様な顔をして次の言葉を続けた。


「・・・申し訳ありません、言葉に誤りがあった様ですね。貴方の剣になる事を誓いましょう」


普通の人物ならばこれで契約が完了するのだが・・・D.Sの底意地の悪さは極めつけであった。


「・・・ああ悪い、俺様の方からも訂正があったわ、メデューサ。オマエ俺様より弱いのに俺様の剣になってどうしやがんだよ?
そもそもオマエの武器は剣じゃねえじゃねえかよ?」


ピシッと空間に亀裂が入ったかの様な音がした。
ライダーは困ったかのようにメディアに目配りをした。


(・・・申し訳ありませんが、何とかしてもらえないでしょうか・・・?)


(・・・無理よ・・・頑張って頂戴)


ライダーとメディアは悟ったかのような顔つきでD.Sを見ると。ハアーと溜息を吐いた。

「・・・では貴方はどうしろと私に言うのですか?」


D.Sが腕を組んで少し考えて言う。


「・・・大体よ、オマエらイチイチ、言う事がかたっくるしいんだよ。剣とか盾とかよ。んな事しなくても一緒に生きてければいいじゃねえかよ」


ライダーは驚いたかのような顔をして、D.Sを見て言った。


「本当に貴方は変わっていますね・・・貴方の発言はサーヴァントとして何も求めない事を肯定しているかのように聞こえます」


「・・・いいでしょう、貴方と共に生きていく事を誓いましょう」


「それでいいんだよ」

その台詞を聞いてフッとD.Sは笑っていた。
メディアもニコッと笑ってライダーとD.Sが手を取るのを認めていた。







そうして手を取り合った後にライダーはいつもどおり、霊体化しようとすると何故か霊体化できないのだった。
どうしてかと考えてD.Sとメディアに疑問を問いかけた。


「・・・スイマセンが私の体に何をしたのでしょうか?・・・霊体化ができなくなっているのですが・・・」

メディアはその言葉を聞いて、マジマジとライダーを見るようにして言う。

「そんなことは無いはずよ。どんなサーヴァントであれ霊体化は出来るはずよ・・・あなた・・・もしかして」

そう言われてライダーは一生懸命、霊体化しようとするが出来なくなっていた。
D.Sは理由が分かっているらしく何も言わず見ているだけだった。ライダーは自分の状態に気付いて一言言った。


「・・・信じられませんが、受肉しています」


「・・・嘘でしょう」








感想



エート、バスタードからのキャラが一人出てきました。
悪魔の王様です。しかし彼は暫くでてきませんお休みです。
アスモデウスさんですが、コイツ悪魔王の中でも相当強そうな気がするんですが
気のせいですかね。

まあいいや

さて受肉したライダーですが、その理由はある男の血を飲んだからです。
ご存知の通り、聖杯はメシアの血を受けたものを言います。
つまりサーヴァントは救世主の血を飲めば・・・・・・・できるという事です。
そしてライダーはD.Sの血を飲みました。

まあこんなところですかね
それではまた次回・・・







[24623] 平和な一日
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/03/13 16:00
◆Fate DS night◆


ここ柳洞寺のD.S達に与えられた和室の一室で一人の男は廊下に出ていて日向ぼっこをして太陽を見つめており、髪を足元まで伸ばした妖美な女性とそれに劣らない美しさを持った
元王女は驚愕の表情をしていた。


「・・・信じられませんが・・・受肉しています」


「・・・嘘でしょう」


「・・・考えられる事は・・・一つあの男が何かしたのでしょう」


二人の女性は太陽を見ながら欠伸をしている銀髪を背の中程までに伸ばしているD.Sをバッと見た。
恐らくライダーがD.Sの血を飲み込んだのが原因だろう。
その存在が悪や闇で反救世主(アンチ メシア)とはいえ、この世に奇跡を起こせる力を悪魔の神から与えられた人間である。
なればこそ、D.Sの血の効果には聖杯を飲み干す以外に唯一つの例外としてサーヴァントを受肉させる効力、死者を蘇生させる力があるのであろう。
だが、ライダーもメディアもD.Sがまさかメシアだとは及びもつかないのであった。
そしてそのD.Sは日向に当っており悠々としていた。



(フアー・・・いい天気じゃねえか・・・そういえば何処の国を滅ぼしても、何処の世界でもアイツだけは眩しく輝いてやがんな)


D.Sは黄昏を感じながら頭上に輝く太陽を見ていた。数多の国を滅ぼしてきた男にもノンビリしたい時はあるのかもしれなかった。
だがそれすらもD.Sには許されないのか彼のサーヴァントの二人の女性がD.Sを問い詰めようとしていた。


「D.S貴方に聞きたい事があります」

「私も聞きたい事があるわ」


「・・・なんだよ、折角のいい天気なのによ」


日向ぼっこをして黄昏ていた。そんな中、この世の物ものとも思えない美人とも言える二人が顔を近づけて質問をしてきた。


「・・・どうして、私は受肉しているのですか?」


「・・・そうよ、どうしてライダーが受肉しているのかしら?D.S。貴方、私たちが寝ている間に何をしたのかしら?」


「別に何もしてねえよ」


「嘘おっしゃい!!このデカ女が受肉しているのが証拠でしょう」


メディアが金切り声を上げて、D.Sに講義をしていた。
だが『デカ女』と呼ばれたのが気に食わなかったのかライダーはその質問に杭を刺して、メディアとライダーの口論が始まりを告げた。


「『デカ女』とはまた失礼ですね。そもそもそんな暑ぼったで重苦しい格好をしている貴方に言われたくはありません」


「ふん、みすぼらしい怪物風情には、高貴な貝紫の美しさは理解できないようね。全くそんな姿で戦闘をするなんて貴方には恥じらいというものが
ないのではなくて・・・」


「悪名の高さは貴方も同じでしょう。神殿にいる私にも貴方の悪名の噂話は届いてきましたよ・・・それに私のコレは戦闘服ですから・・・」


「ええ、貴方の巨体にはお似合いね。全く何を食べたらそんなに大きくなるのかしら・・・神酒や神果を食しても、そんなにウドの大木のようにはならないはずよ。
それじゃ恋人の一人もいないのではなくて・・・」


「・・・ええですが・・・そんな私でも貴方のマスターは私を助ける為に抱いてくれました」


「――――――ッ」

フッと勝ち誇ったようにライダーは微笑を携えた。それが悔しかったのかメディアは胸元に手を当てながら悔しさを露にした。



(ったく、うるせえ馬鹿どもだな付き合っていられるか)


さもあらんという風にどこかに行こうとするD.Sであったが、それを遮るようにライダーはグイっとD.Sの襟元を掴んだ。


「何処に行こうというのですか?」

「あら、私も聞きたいわ、何処に行くのかしら?」

D.Sが口を尖らせた。そもそも何処に行こうが彼の勝手なのだがそれは目の前の女性二人が回答を得てからでないと駄目なようだった。


「俺様が何処に行こうと勝手だろうがよ」


「いいえ、そもそも誰の所為でこうなったと思っているのよ!!」


「それは、私も同感です」


D.Sは五月蝿い女どもだなと考えていた、口論するのは勝手だが何もそんなステレオで騒がなくともいいのでは無いかと彼は思っていた。


「貴方も何かあのデカ女に言ってあげなさい!!そんなレバノンみたいに大きくなってどうなるのかしらとか?なんとか?」


理不尽な理論がD.Sの前に捲くし立てられる、そもそも論点が違うのではないか・・・・・・どうやって”受肉“したかを話ていたのに何故?
身長がデカイ事で話になっているのだろうか、それとも身長で何か不利になる事があるんだろうか古来より戦いとは身長の大きい方が有利ではないのか。


「・・・いちいち下らなねえ事で、うるせえ野郎だな~~。
大体よ俺様から言わしてみればメディア。オマエの格好の方がどうかと思うぜ、オマエはよ女の癖に少しシャレっ気が足りねーよ」


「それに比べたらよ、まだメデューサの方が女らしい格好だぞ」


「・・・・・・」


ライダーはその言葉が嬉しかったのか瞳を少し輝かせているように見えた。
D.Sがまともな事を言う、身長が大きいなどそんなのは万人の好みによるものだが、そしてどんな服を着ようともそれぞれの自由なのだが目の前の男がそれを言ったのは問題だったようだ。


「大体よ、あのフードが辛気くせえんだよなぁ~~そんなもん真昼間から被っているから幸運がBでも運(ツキ)が逃げていくんじゃねえのかよ」


D.Sが思った事を口にするそれはそれでいいのだが、目の前の女性に何も考えずにストレートを投げるのは問題があったようだ。
D.Sが踵を返し去って行こうとすると其処には、項垂れた後に―――息を吹き返したかのようにメディアがD.Sの背中を思いっきり押した。


「バーカー」


ザバーンと音がして柳洞寺の庭の池が大きな波紋を浮かべた。メディアがD.Sの背中を魔術で強化して思いっきり押したのだ。
ちなみに今の季節は冬である、池の温度は十度をきっているであろう。
そしてD.Sの属性というか得意魔術は炎である。彼は水や氷とは相性が悪いのだが・・・そんな事はまだ付き合いの短いメディアが知る由もなかった。
プハっと陸から上がった魚のように顔を上げるD.Sではあったが、容赦が無いとはこの事か。


「テメエ!!何しやが―――ビビビビビ」


池にマスターがいるにも関らず雷撃を撃ちはなった。主思い?のサーヴァントがいた。


「・・・・・・」


「ああ、すっきりしたわ一度マスター相手にこういうのやって見たかったのよね」


「よろしいのですか、彼は”メディア“貴方のマスターなのでしょう。そのマスターにこんな仕打ちをするとは・・・」


すっきりした表情をするメディアに対して困惑しているのかライダー何とも言いがたい表情をしていた。


「あら、大丈夫よ威力は抑えているから」


「いえ、そういう問題ではないと思うのですが・・・」


「良いのよ、あの男の命は私の物のようなものなのよ。あの男が死に掛けていて倒れているのを拾ったのは私なのよ・・・だからD.Sの命は私の物のなのよ」


「本来なら立場が逆なのだけれどD.Sと私にとってはこの位置が逆転しているのよ」


その屁理屈は一体なんなのでしょうかとライダーが問いかけたくなる所をメディアがその手を掴んだ。


「何処に行くのですか?」


「決まってるでしょう。服を買いに行くのよ、ええ勿論。あの男に言われたからじゃないわよ」


(・・・やはり、さっきの言葉を気にしていたのですね)


ライダーは分かったような表情を浮かべるとメディアの手を握りかえした。
そうして二人は街中へ繰り出していった。
後に残されたのは感電したD.Sだけだった。


「・・・あんの~~アマ~~。日に日に扱いが酷くなってねえか・・・」



ちなみに受肉している事は、どうでもよくなったのか忘れたのかその事については触れずに二人は去っていった。




◆◆◆









D.Sは読書に更けていた。滅ぶ前の文明の時代の書物があって―――それはそれで面白くつい読みふけってしまい、別の世界に旅立ってしまいたくなるのだが、
一人の女性の声によって現実に戻ってきたのである。いや戻らされたと言った方が正しい解釈であった。


「D.S・・・これは似合うかしら・・・」


帰ってきたメディアがD.Sの背後から気にして欲しいのか見てくれといわんばかり姿勢を決める。
振り向きもせずにD.Sは本を見ながら。


「いいんじゃねえのか」


全く無関心といった感じで応対する。そしてすぐさま本の続きを見ようとし始めるのだが、D.Sの本は急に燃え出した。


「でえ!!!」


其処には、手の平から魔術を駆使してD.Sの持ってる本を燃やした。微笑んでいるメディアがいた。


「何しやがる!!このアマ~~!!」


ガァーとD.Sが捲くし立て様とするが、あいも変わらずに微笑みを崩さずに笑っているメディアがいた。


「D.S。私は似合っているかしら?と聞いたのだけれど?」


D.Sは不機嫌そうにしょうがねえなあと自慢の銀髪を掻き揚げた後に、メディアとその後ろにいたライダーの姿をジロリと見た。
メディアの服装は、青と黒を強調とした黒のシャツとそれにデニムのボレロの深い青のジャケットを羽織ってそれに薄い茶色のスカートを身に着けていた。
ライダーは黒のタートルネックのセーターに青いジーンズとまたシンプルな格好をしていた。
D.Sは何処となく二人の衣装を見ると、やはり最初の台詞を繰り返すのであった。


「フーン、ま。いいんじゃねえのか」


少しばかりの沈黙が流れて。


「・・・それだけかしら」


「・・・それだけですか」


メディアとライダーの二人が口を開いた。ちなみにD.Sにとって人を褒めると言うのは滅多に無い事でこれでもかなりの褒め言葉ではあるのだが
ライダーですらもそれが気に入らないらしく、文句を言うのだった。


「・・・んだよ・・・なんか文句がありやがるのかよ」


罰が悪そうに口を尖らせる、D.Sに何を言っても無駄と悟ったのかメディアは溜息を吐いて。


「そうだったわね、そういう男だったわね貴方は・・・ライダーも何を言っても無駄よ、この男の自分勝手で無頓着な所はどうしようもないわ・・・」


「・・・それは、私も分かる気がします」


メディアとライダーもD.Sとは付き合いが短いが、自分勝手な男だと考えている。だからこそ自分達が何とかしなければならないと思っているのだが、
いかんせんD.Sの考えと言うものが、良く分からないのだ。
パートーナーとしては、それは問題でもあるのだが、もう戦争は始まっていると言っても―――サーヴァントが二人いてD.Sもそれに匹敵するほどの使い手である。
これならばその程度の事は問題では無いのかとメディアは思っている。


そんな中D.Sはライダーの眼帯が気になっていたのか、ライダーに近づいていき指を刺して命令をしていた。


「おいメデューサ。その時化た眼帯をはずしやがれ」


ライダーはD.Sが何を言うのかと思っていたのだが、まさか眼帯を外せなどと言われるとは考えてもみなかった。
D.Sが魔術師である事を差し引いても、自分が眼帯を外せばどうなるのかをD.Sは分かっているはずだが、それを知っていて何故それを言うのかがライダーには分からなかった。


「・・・何故そんなことを言うのですか・・・貴方ほどの魔術師ならば分かる筈です、私が眼帯を外す事の意味が・・・」


「何言ってんだ。そんなもん。俺様が気にくわないからに決まってんだろうが・・・」


「・・・しかし私がコレを外せば、どうなるのか分かってて、言っているのだとしたら貴方は残酷です」


「アン?何言ってんだ、俺様は外せと言っただけで石化させろとは言ってねえだろうが・・・・・・ほらよ」


そう言って、D.Sは丸渕の石化の魔眼を抑制する眼鏡をライダーに渡した。


「・・・これは」


ライダーが驚いてそれを受け取とると、其処にD.Sが説明を促していく。


「それは、メデューサ。オマエの魔眼を抑制する魔力が籠もっている一種の道具だ。それを着けてれば石化の魔眼に苦しむ必要もねえだろうが」


「・・・D.S。貴方は私が”コレ“を着けているのが気にいらないと言いましたね。其の為だけにこの様な道具をを作ったのですか?」


ライダーが眼帯を外してD.Sの作った眼鏡を手の平にとり、感情の籠もっていないような声色で問いかける。


「・・・ったく。サーヴァントってのはどうしてこう石頭ばっかなのか・・・俺様が何をしようが勝手だろうが・・・」


何か悪い事でもあるのかとD.Sはライダーに言い放った。



「・・・メディア、さっき貴方が言った言葉が分かるような気がします」


納得した様にライダーは眼帯を取って、D.Sから渡された眼鏡を掛ける。
良く見ると、彼女の灰色の目は真珠の様な不思議な輝きがあった。
この目を見ればD.Sが彼女の眼帯を外せと言った理由も成る程と納得できるのかもしれなかった。






<救世主の血>  RANK ■■■■■ EX


サーヴァントを生き返らせて受肉させる効力がある。
この効力を持っている人間はメシアと呼ばれている人間だけだと考えられ、
そして奇跡を起こせる事が許されている者だけだと思われる。
ちなみにD.Sは文字通り―――悪の救世主なのでメデューサを受肉させる事が出来たのは必然だと思える。








感想



地震が起きて大変ですが、そんな中でもエンタメは必要なので
続きを書いていきます。

そして、仕事ですが・・・こういう時にコックさんは頑張らないといけません。
美味しい料理を作るんだ。ちなみに仕事はコックさんです。
心配なのは漁業が今回の地震で壊滅的な打撃を受けて、仕入れの値段が
上昇することです。
しかし値段を上げる事は、多分しないと思います・・・
それでは、又次回・・・






[24623] 夢と故郷 前編
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/03/17 23:43
◆Fate DS night◆



ライダーとメディアは夢を見ていた。普通サーヴァントは夢を見ない、だとすればコレは誰かの記憶であるのだろうか・・・・・・



一人の男が在った。
男は何かを捜し求めるように--------------------溢れ出る魔物が跋扈する暗黒と暴力の世界で戦い続けていた。
国とも軍隊とも魔性なる者共とも戦いつづけた。その力は凄まじく山をも砕き、海を割り天候すら変化させるほどであり、その肉体は鋼より強靭であった。


数千の呪文を操り、体から溢れ出る無限の魔力は決して体を老いさせず、余りある時が退屈を呼び込み―――彼を血生臭い戦場へと導いて行った。
そうしてその男は自分も自分以外の何者をも―――恐れず、怯まず、退かず、全世界を敵にすら回して戦い続けた。
いつからか男は、その圧倒的な能力と戦いを好む性癖から伝説の魔人と畏怖される存在となっていた。


ある時男は、ある物を渇望して大軍勢を率いて全世界に対して征服戦争を起こした。
その戦いは凄まじく長きにわたり戦乱は続いた。
しかしいくらその男が強くとも世界には勝てなかったのか―――戦の半ばに一人の英雄の前に相撃ちになった。



それは魔人ダークシュナイーダーと呼ばれた男の記憶であった。








一方でD.Sはメディアとライダーの二つの夢―――いや記憶の欠片と言った方が正しいだろう、それを見ていた。


魔女メディアと言われた女の物語であった。

ギリシャ世界において東の果てといわれた黒海東岸の国の王アイエテスの娘であり。
魔術の女神ヘカテに教えを受けて、王の娘として寵愛を受けていた王女であった。
外の世界を知らずに育っていた。純粋培養の娘は唯それだけで幸せだった。彼女は外の世界に憧れていた理由もなく、自分が育った故郷の中で平和に穏やかに生を終える事を望んでいた。


――――――だが
運命とは残酷な物である。
栄光を求める英雄達の到来によって、少女(メディア)の願いは霧散した。
外の世界から現れた英雄イアソン―――否むしろ彼女にとってはその男こそが悪魔と言ったほうが正しいのかもしれなかった。
メディアは女神アフロディテに呪いを掛けられて、イアソンを妄信的に愛する様になったからだ。
愛は人を盲目にするというが、まさしくメディアはそれに陥ったといって差し支えなかった。
メディアは愛する国と父王を裏切り、更には追いかけてきた父王の船に追いつかれないように、時間稼ぎの為に弟を八つ裂きにして海に捨てたのだから。
外敵は振り切った。
しかしアルゴー船に乗った英雄達はこぞってメディアを非難した。そんな中メディアは愛する男の労いの言葉をさえ聞ければどうにでもよかったのだが、

その労いの言葉さえイアソンは彼女には掛けなかったのである。


そしてイアソンは国に帰り兼ねてからの約束であった。王位を手にする筈だったのだが、既に両親は死んでおり約束は反故になっていた。

そうして怒りを露にしたイアソンはメディアに言った。

「卑劣な簒奪者。王ぺリアスを殺害しろ」

イアソンの恋心に捕らわれていたとはいえ、メディアはまだ少女であり弟を殺した彼女の心はボロボロであった。
そんな彼女にイアソンは連呼する――――――

「殺せ。殺せ。殺せと。そうだあの目障りな三姉妹の王女も殺してしまえ」


そこで彼女は自分が教わった魔術で王を葬る準備をしていたが、メディアは体が重くまるで鉛を背負っている様だった。
今にして思えば、何もかもが狂ったのは国を出てからだろうか・・・はたして自分が習得した魔術はこんな事をやる為に勉強をしてきたのだろうか・・・
メディアは思っていた。


「帰して下さい」


だが、そんな思いも虚しく彼女はぺリアスを姦計によって亡き者にして、更にはその王の娘の三姉妹まで葬り去るのであった。
そして、自分の手を真紅に染めて彼女は魔女メディアになっていたが―――正確には成らされたのかもしれなかった。


しかし王になったイアソンはすぐさま事が馬脚して国を追われる事になった。
イアソンとメディアは帰る所もなくなり、根無し草となりギリシャ中を彷徨う事になった。
そんな中コリントスと言われた国にたどり着き。そのコリントスの王はイアソンを歓迎して娘であるグライアとの婚姻を持ちかけた。
グライアと結婚して玉座を掴むか、魔女を妻にしたまま王の庇護を受け続けるか。
そんな中メディアは一つ思っていた。もしかしたら国に帰ったら全てが元通りになるのではないかと


(帰りたい・・・帰りたい)


だがイアソンに迷いは無かった。
イアソンはメディアとの間に二児をもうけていたにも関らず、魔女メディアを裏切りグライアとの縁談を進めた。
メディアは泣き叫ぶように懇願した。


「行かないで下さい。行かないで下さい!!
貴方の為に国を捨てたのに、貴方の為に何もかも捨てたのに、そんな私をどうして見捨てるのですか・・・」


「この子達を、私を哀れと思うのならどうか・・・」


メディアはイアソンに哀願した。
だがイアソンから帰ってきた言葉は彼女を絶望に落とす一言だった。


「何を言うかと思えば。私はオマエなど愛した事は一度もないわ」


そうして、彼女はその言葉によって絶望の淵に落とされた。
ああ―――もう何もかも遅すぎた。気付けば絶望する事しか出来なくなってしまった。

帰る国は遠く、もう何もかもが桃源の夢となっていた。
イアソンとグライアの婚姻の日にコリントスと呼ばれた国は一人の復讐者によって滅び去った。


後に残ったのはイアソンが連れて帰ってきた、一人の魔女だけだった。
その後の彼女の行方は誰も知る者はいなくなった・・・・・・

そうして彼女は、今でも黒い海から切ない願いを海に託していった。
どれだけ手が血で穢れようが、それが叶わぬ夢と知っていても・・・・・・


「―――私は、最後に自分の国に帰りたいのです―――」


贖罪の様に彼女は、思いを海に託していった・・・・・・



――――――それで彼女の旅は終わりを告げていた。
その後の彼女の行方は誰も知ることはないとされている。







D.Sの前に一つの記憶が走馬灯の様に駆け巡り、又一つの記憶が駆け巡って来る。


それはメデューサと呼ばれた女の語りであった・・・・・・

ある日メデューサと呼ばれたお姫様は―――ある存在の怒りをかい流刑島の刑に等しい罰を受けました。
お姫様であるメデューサは、華やかだった場所からいきなり何も無い場所に追い出されて、そして一人になったと思い恐ろしくて寂しくなり。
自分の何がいけなかったのかと悲しみました。


そんな切ない妹を哀れんだのか、二人の姉が彼女の元にやってきました。
彼女らはまだ皆に愛されていたのに、妹の為にわざわざ来てくれたのです。
メデューサは寂しくもなくなりました。島は相変わらず何も無かったけれど、姉たちが居てくれるだけで暖かくなりました。


恐いのは人間達だけになりました・・・・・・
―――殺せ、殺せ、怪物を倒せ。
彼らは勇ましくやって来て、自分に剣を向けるだけでは飽き足らず、二人の姉にまで剣を向けるのだった。

メデューサは殺される前に殺してしまえばいいと考えて、報復を始めました。それは自分が受ける立場から、攻める立場に変わったことを意味しました。

沢山、沢山の愚かな男たちを殺していきました・・・
逃げようにも彼女らの住処は其処しかなく、彼女は何かに駆り立てられる様に幾つ者の命を踏みにじっていきました。


「誰にも来て欲しくない、誰にも来て欲しくない」

(私たちは・・・唯、そっとして欲しい・・・)

ある時、メデューサは姉にこう言われました。


「止めなさいメデューサ。貴方の魔眼は戒める物・・・決して恐怖を与える物ではないのです・・・」


「それとメデューサ、”ソレ“を口にするのは止めなさい、私が近頃の貴方は恐ろしいと怯えているわ」



そうしてメデューサがある物を口にした瞬間から、終わりは始まっていた。
彼女の体は次第に変形していき、次に心が壊れていった。

―――最後にはその存在も別の異形に変貌していった。


その姿を見て、二人のステンノとエウリュアレは言った。


「・・・なんて愚かな妹でしょう・・・いえ何て愚かな姉妹だったんでしょう・・・今さらこんな事にきづくなんて・・・」


本末の転等とは良く言った物である、彼女等は姉を強く守ろうと誓った妹に滅ぼされる事になってしまったのだった。
妹は力を求めて、初心をどこかに置いていってしまったのである。
最後に二人の姉は妹を見つめて、手を握りながら別れを告げた。


「・・・じゃあね。さようなら可愛いメデューサ、最後だから口を滑らせてしまうけれど憧れていたのは―――私たちの方だったのよ」


・・・・・・その後、怪物となったメデューサは英雄ペルセウスに倒されていったのである。





これでD.Sのサーヴァントの二人の記憶の物語は終わりであった。
柳洞寺の一室で朝日を浴びて、D.Sが目を覚ますとメディアとライダーの二人はまだ寝ているようだった。



「「・・・D.S・・・」」


メディアとメデューサの二人の声色が重なる、恐らく自分と同じようにこの二人も自分の記憶を見ているのだろうか・・・
そう考えるとD.Sは苛立ちを隠せなかった。

(チッ!!)

心情の中で毒を吐く、確かにメディアには命を助けてもらった恩もあるし、ここの寺には客人として養ってもらっている。
だからといって、自分の記憶の中に土足で入っていい事にはならない。D.Sの嫌悪してる事の一つが自分の心や記憶に許可無く侵入してくる事である。
最もD.Sも彼女らの記憶を見たから、一概に悪いとは言えないのだが・・・
それならば、何の為にD.Sは洞察力や観察眼を養ってきたのか分からなくなってしまう、彼はそもそもそんな事をしなくとも持ち前の用心深さと狡猾さで事の本質をを見極める事には、
特化しており、更には自分の精神をプロテクトする為に幾重もの防壁を重ねていた。
そんなD.Sがどうして自分の記憶を引き合いに出してまで、他人の記憶を見たがるのであるのだろうか。


(・・・クソッタレが、今回はしょうがねえか)


溜息を吐いて、今回の事はしょうがないと諦める。
まさか契約に精神の同調や記憶の交換まであるなどとは思わなかったからだ。 D.Sは記憶を除かれたことを少し忌々しく思っていた。
確かに過去は生きていく為の道標になるかもしれないが、それに縛られるのは真っ平ごめんだった。
そこでD.Sはライダーとメディアを見た。


(もしかしたら、俺はこいつらを縛る鎖が気になっていたのかもな・・・・・・)


D.Sはメディアとライダーが過去に縛られて望んでもいない道に進むのは馬鹿げてると思っていた。



(らしくねえな・・・俺様とした事が・・・)











「・・・うん」


メディアとライダーの二人はD.Sの長い夢から醒めると、見入った様に二人は顔を合わせた。
その後にD.Sの顔を見上げるのだが、なにやら不機嫌な表情を浮かべていた。そんなD.Sにライダーとメディアは起きて間もないというのに、
まるで子犬の様に飛びつくかの勢いでD.Sに問い詰めてきた。


「D.S貴方に聞きたい事があります」


「あら、奇遇ね私も聞きたい事があるのだけれど・・・」


D.Sは二人は問い詰めるように、聞いてくるのを見て眉を吊り上げた。
だが―――まだ黒と断定できたわけではない。この後のD.Sの質問によって確信に変わることになる。


「・・・見たのか?」


それをD.Sが二人に尋ねると、メディアとライダーの二人は俯いた様に項垂れて顔を上げて質問に答えた。


「ええ・・・見たわ・・・」


「メディア、貴方も見たのですか?」


「ライダー、貴方も見たのかしら?」


「・・・ハイ」

ライダーとメディアの二人が肯定の返事をする。


(・・・チッ、ヤッパリ黒かよ)


D.Sの判断は正しかった。彼は苛立ちと共に頭をガシガシと掻いて不快感を露にした。


「・・・D.S。貴方は異常すぎます、サーヴァントを超える桁違いの魔力と言い、私の宝具を受けきった身体能力といい、サーヴァントを受肉させた事といい・・・本当に貴方は何者ですか・・・?」


「・・・私も、もう一度聞きたかったのよ、改めて聞くわ貴方は何者かしら・・・?」


メディアとライダーの二人が牙を剥くようにして、問いかけてきた。


(・・・チッ、これだから女ってのは・・・)


内心でD.Sは毒づいた。こういう時に彼の盟友ガラなどは何も聞かずに黙しているのだが、ライダーとメディアの二人は回答を求めてきた。


「・・・なあ令呪って言うのは、何でもできるんだよな・・・」


全く質問の答えになっていないD.Sの言葉だった。


「・・・質問の答えになっていませんが・・・」

「・・・そうね、なってないわ・・・」

意図した答えと違う答えに納得いかなかったのか二人は顔しかめた。
だがD.Sはここで退く理由にはいかなかった。例え何者であろうとも自分の過去を話す気はないのである。
もしここで自分達の関係に深い溝が入ろうとも、過去の話を語る事はしない漢(オトコ)である。


「・・・質問してんのは、俺だ・・・答えやがれ・・・令呪ってのは文字通りサーヴァントに関することなら何でもできんのか?」


怒気を含ませてD.Sは紅蓮の魔力を灯して殺気を叩きつけた。ライダーとメディアの二人は業火の炎に焼かれるかのような感じを一瞬覚えて冷や汗をたらしながらメディアは答えた。


「・・・ええ、一種のブースターのようなものね100%の力でもできない事も、令呪を使えば120%。140%の力が発揮出来る様になるわ。
ただ・・・その効力は時間に置いて長ければ長いほど弱くなるわ、逆に短ければ短いほど効力は強くなるわ」


「・・・フーン、成る程な」


「さてと、今度は私の質問に答えて頂戴、貴方は何者だったのかしら?」


「それじゃ、早速使うか」


D.Sはメディアの言動を無視して令呪の刻まれた、左手を翳して迷うことなくその言霊を込めてその効力を発動させた。


「ちょっと本気で令呪を使うつもり!!」


「彼女の言うとおりです。本気ですか?」


ライダーとメディアが令呪を翳したD.Sを見てその顔を驚愕させていたが、D.Sは止まる事はなかった。


「令呪において命じる!!この俺様と契約したサーヴァントはこの俺の許可無く、俺様の記憶を見ることを禁ずる!!」


D.Sの令呪の効果が現れて、その左手が光って効力を発揮させた。
ライダーとメディアの二人は黙したままで、暫くの沈黙が続いてライダーが口を開いた。


「・・・D.S。貴方は令呪を使ってでも・・・そんなにも・・・自身の事を詮索されるのが嫌いなのですか?」


「てめえらが俺様をどう思おうが俺様は俺様だ・・・そして・・・自分(テメエ)らは自分(テメエ)らだ。・・・それ以上でもそれ以下でもねえだろうが」


D.Sがメディアとライダーに指を刺して言った。


「D.S。貴方ってそんな台詞ばかりね・・・」


「ええ、私もそう思います」


D.Sの台詞に呆れた様に肩を諌めて納得したようだった。


「何だよ。お前らは・・・もう一個令呪を使わせてえのかよ」



D.Sは、これ以上自分の事を聞こうとするのなら令呪を使うと言っているのだった。それにD.Sにとっては自分が何者であろうとも関係ないではないかと思っていた。
メデューサは自分の為に生きろと言ったし、メディアについては恩は返すまでは地獄まででも付き合う気であった。
例えD.Sは自分が悪魔であっても二人の為に命を燃やす覚悟があった。


「・・・そうですね、貴方が何者であるかをもう問いかける事はしません」


「・・・私もしないわ、さすがに、其処まで貴方が嫌がるとは思っても見なかったわ」


「・・・でも、これだけは約束して頂戴。決して私たちを裏切る様な事はしないと」


メディアがそれだけはしないで欲しいと願った。


「・・・ああ」


D.Sは当たり障りのない返答をした。


「・・・それじゃ、出かけるぞテメエ等」


D.Sは上半身が裸の状態から、黒の法衣を羽織って出かける用意をした。
目指すは故郷、彼女らが帰りたがっている場所でもあった。












































感想



キャラの内面を書こうとしたら、こんな話になりました。
D.Sは自分から過去の話を語る、人間ではないと作者は思っております。
それが間違いでなければいいんですが・・・


それではまた次回。


本編に入るのはもう少し待ってください。






[24623] 夢と故郷 中篇
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/03/30 18:50
◆Fate DS night◆




「それじゃ、出かけるぞテメエ等」

D.Sが上半身に法衣を着て、マントを羽織って出発の準備をする。
ライダーとメディアはD.Sが何処に行くのか分からず、疑問を浮かべて尋ねる。


「出掛けるって何処に行くのかしら?」

「出かけるとは、何処にですか?」


D.Sはニヤリと子供が浮かべるような笑みを浮かべて笑い。


「そいつは、着いてからのお楽しみってやつだな・・・・・・それに言いだしっぺは俺じゃねえ・・・」


「それは、どういう意味かしら?」

「・・・それは、どういう意味ですか?」


メディアとライダーが質問をするが、それを無視してライダーとメディアを抱きかかえる。


「あ・・・」

「ちょっと」


D.Sが周囲のマナを取り込み、体の回りに空気を収束させていき辺りに暴風が吹き荒れる。

「それじゃ、出発でい」

その勢いに乗ってD.Sが空中に飛んでいった。




◆◆◆◆


ゴォォォォォと風の唸る音が聞こえてくる。
今D.Sは遷音速とも言えるジェット旅客機にも匹敵する速度で目的地に向かっており、もうすぐ目的地に着くかというような勢いだった。
ちなみに遷音速は、時速900~1350ぐらいである。勿論、生身の人間がそんな速度に耐えられる理由がないのだが、それをD.Sは自分達に魔術の障壁を張ることで克服していた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


ライダーとメディアの二人はまさかD.Sが音速に近い速度を出して飛行出来るとは思ってもおらず驚愕の表情を浮かべていた。


(本当に出鱈目ね・・・)


ライダーは余りの規格外さにD.Sに尋ねた。D.Sは人の身で有りながら、彼女の宝具ペガサスより早い――――――その2倍以上の速度で航行しているからだ。
その驚きのあまりにライダーは尋ねる。


「D.S。貴方は本当に何者なのですか?」


しかしD.Sは鼻でフッと笑い。


「フッ。人は俺様の事を超絶美形D.Sと言う」

良く分からない事を口にした。
会話のキャッチボールが全く成り立っていない会話だった。
D.Sはそもそも人の話という”球“を受け取ろうとしないのだから成立するわけがなかった。そしてD.Sはワイルドピッチ(暴投)を受け取る相手に投げつけるのである。
これでは会話が成立するわけがなかった。


「D.S。私は真面目に聞いているのですが・・・・・・」


ライダーが青筋に力を入れたかのように見え、真剣な眼差しでD.Sを睨んでいた。


「もうすぐ着くぜ」


D.Sがライダーとメディアの二人に伝えさっきの会話を打ち消すかの様に次の言葉を足していく。


「・・・確か、ここら辺だった筈だが・・・・・・」


D.Sが見た景色は夢の中でのおぼろげな物だったので、其処まで正確に把握してはいないが・・・山の中の野原だったのは覚えている。
とりあえず降りてみる事にした。


「・・・とりあえず、下りて見るか・・・」


ヒュウと風を切る音が、D.S達の耳に伝わり三人が大地に降り立つ。
メディアとライダーはようやく自由になれたのか、大きく伸びをしていた。


「ああ、ようやく自由になれたわ」


「それについては同感です」


サーヴァントのプライドという物がD.Sの世話になるのを拒んだのかどうかは分からないが、ともかくさすがに自由になれた事が嬉しいらしく二人は太陽の下を歩き回っていた。
そこで二人は気付いた。風の匂い、草原が運んでくる草木の音、見知ったかのような木々や樹木。
ライダーとメディアはもしかしたらと感じてD.Sに聞いてみる事にしたのだ。


「・・・D.S。もしかして此処って・・・」


「・・・ええ、私も薄々感じていましたが、貴方はまさか」


D.Sがヘッと軽く笑った。


「鈍いヤロウだな。まだ気付かねえのかよ。此処はオマエ等の故郷だろうがよ」


ライダーとメディアはD.Sに言われてようやく実感した。
そうだ此処は故郷だった。昔々に帰りたくて帰れなかった土地だった・・・


(どうして・・・急にこんな所に・・・もしかして・・・・・・)


(・・・私には彼の行動が理解できません)


ライダーとメディアの二人は同時に困惑したかのような思考に陥る、そこでD.Sを見据えて言った。


「D.S。貴方、もしかして私たちの記憶を「ああ、見たぜ」」


メディアの問いかける言葉に悪ぶる様子もなく、アッサリと白状し言葉を続けていく。


「そもそも、帰りたいって言ったのはメディア。オマエじゃねえのかよ」


D.Sはメディアを人差し指で刺して言った。


「それだけの理由で貴方は此処に来たのですか?」


呆れた様な口ぶりでライダーが言った。


「ああ」


D.Sはあっけらかんとした口調で何事も無いように当たり前に言った。


「・・・馬鹿よ」


メディアは目に涙を溜めて言った。
そもそも彼女の国はもう何処にあるのかも分からない。
だが、こんな山の中の原っぱだった筈だ。
その気持ちだけで彼女には十分だった。


「本当に馬鹿よ・・・貴方・・・」


「ええ、私もそう思います」


ライダーは嬉しそうに笑ってその台詞を言い、。
メディアは涙をポロポロと零して涙腺を決壊させながら石の上に座って涙をその手で拭っていた。
そしてD.Sが頭をガシガシと掻いてメディアに近寄った。


(・・・何だよ、流せるじゃねえかよ。サーヴァントだ何だと言っても。涙が流れる以上。昔の俺よりもよっぽどマシだぜ)


D.Sは昔は涙すら流せず、悲しいという感情すらなかった。
そんな自分に比べれば、故郷を思い涙を流せるこの二人はよっぽど人間ではないか。
D.Sは人の証でもある暖かい涙をその手で拭って取ってメディアに見せて言った。


「涙(コレ)が出る限り、オマエ等は誰が何と言おうと人間じゃねえかよ」


D.Sの言うとおり涙が出る限り、彼女らはサーヴァントではなく人間である事をD.Sは証明させたのだった。
D.Sから見れば涙を流せる以上彼らは人だった。例え戦い消え行く―――儚い存在だったとしてもだ。
それが余りにも嬉しかったのかメディアは大きく目を見開た後に――――――D.Sに抱きついて口付けをした。
そしてその後に言った。


「筋金入りの馬鹿って、貴方の事を言うのね・・・」


「D.S。”だから“貴方はクラス名で私たちを呼ばないのですか・・・?」


ライダーは気になっていた事を聞いてみた。


(今にして思えば、この男は一回も私たちをクラス名で呼んだことがなかった気がします)


「ああ・・・何言ってんだ。当り前じゃねえかよ。涙を流せる以上、化け物なわけねえだろうが」


「・・・やはりメディアの言ったとおり貴方は馬鹿ですね」


そう言ったライダーの顔は見る物を魅了するぐらいの微笑ましい笑顔だった。
余りにライダーとメディアに馬鹿呼ばわりされた所為かD.Sがメディアを引き剥がして反撃に出た。


「・・・オマエ等さっきから俺様の事を馬鹿馬鹿。うるせえなあ、俺様が馬鹿だってんなら、オマエ等はホームシック馬鹿じゃねえか!!」


「いい年こいてホームシックなんかになりやがって、ちったあ恥ずかしいとは思わねえのかよ」


折角いい雰囲気なのにD.Sはどうして二人が気にしている事を言って台無しにするのであろうか。



「誰がホームシックよ!!」


「それは聞き捨てなりません。私の何処がホームーシックなのですか?」


メディアが怒声を発して、ライダーが静かな口調で捲くし立てる。
それには並の人間ならたじろぐ筈なのだが、D.Sは並の人間ではない。そんな事は気にせず悪態を吐く。



「―――ったく。嬉しいなら嬉しいって言えばいいじゃねえかよ。素直になれねえホームシック馬鹿どもだぜ」


「貴方には言われたくないわね・・・」


「それについては、同感です」


メディアとライダーはD.Sには言われたくない言葉だった。そして二人して心で考えた。


(それを貴方が言うのかしら)

(それを貴方が言うのですか・・・)


二人の考えを表情から読み取りD.Sは口に犬歯を見せて嬉しそうに口を歪めて、小さく呟く。



「―――まっ。その”素直“じゃない所が気に入ってるがな・・・」


素直じゃないのは、お互い様であった。
もしかしたらメディアとD.Sは素直になれない所が似ているのかもしれない。


「・・・何か言ったかしら」

「何か言ったような気がしましたが」


「さあな」


三人の会話が終わり。
暫くの時が経ち・・・・・・



「オーイ!!メディアちょっと来い」


D.Sが手招きをして、メディアを呼んだ。


「何かようかしら?D.S」

メディアがD.Sに何用かと尋ねる。


「オウ。ちょっと其処に座ってくれねえか」


「あら・・・そんなことぐらいなら別に構わないわよ」


そして、メディアは野原に腰を下ろす。


「丁度。枕が欲しかった所なんだよな」


「あーらよっと。あー楽チンだぜ」


D.Sはメディアを膝枕にして暖かい日差しの下に眠りに入る。今日ギリシャの天気が晴れたのは行幸と言えるだろう。
まあ、それでも雨が降っていたのならD.Sが暗雲を吹き飛ばしていたかもしれないが。
メディアはそんなD.Sに嫌がる事もなく、唯・・・笑っていた。


「本当に勝手な男ね・・・」


メディアはD.Sが眠りに入るまで、彼の自慢の銀髪に手をやって撫でていた。
ライダーはそんな二人を、微笑ましく見ていた。












感想

涙を流せる以上、人間だなんてくさすぎますかね・・・・・・
D.Sなら言うような気がするし言わないような気がします。

化け物はヘルジングのアーカードさんの事を指すのだと思います。
勿論、彼は涙も涸れ果てています。
それに比べたら、メディアさんとライダーは人間です。涙を流せるのですから・・・





それと

メディアさんに膝枕して欲しくない男は・・・男じゃねえ!!と思う今日この頃です。


メディアさんに浴衣姿かメイド姿で--------膝枕・・・男の夢です・・・




ダークシュナイダーは男の夢の一つ。メディアさんの膝枕をコンプリートした。

ダークシュナイダーは、また一歩アヴァロン―――遠き理想郷に近づいた。


エーあんま力説すると、帰って来れなくなるのでここら辺で・・・
それでは又・・・






[24623] 夢と故郷 後編
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/04/05 19:03
◆Fate DS night◆



「D.S。私も行きたい所があるのですが、構いませんか?」


メディアとD.Sが立ち上がり帰ろうとしたのを見て、ライダーが何処か行きたい所があったのかD.Sに言い出した。
D.Sは別にどうする事もなく、分かってるような顔をして。


「ああ別に構わねえぜ・・・だが、その前に寄ってきてえ所があるんだけど構わねえか?」


「別に構いませんが、何処に行くのですか?」


「ちょっとな・・・」


D.Sが歩き出してギリシャの町場に繰り出して行った。
そんなD.Sの様子を二人のサーヴァントは見守るのだが、D.Sを見る人の目が如何せん多すぎるのだった。D.Sの容姿はすごく目立つのだった。
真っ黒い法衣に太陽に輝く気品のある銀髪。D.S自体が神秘を隠す事を否定しているかのような佇まいである。
そして、メディアとライダーを引き連れているD.Sは人々の注目の的であった。

「ハァ・・・」

溜息を吐いて、そんな自分たちを見かねてメディアは人避けの魔術を行使するのだが・・・
ピッとD.Sが魔力を行使して、その魔術を無力化してしまうのである。
そしてメディアはまた人避けの魔術を行使する。
すると、またD.Sがそれを無力化する。例えるなら彼らは、点いたり消えたりする電球の様なものであった。
姿を消そうとしているのに現れたり消えたりして、逆に目立っていた。
本末転倒とはこの事であった。

「Τα π?ντα?(何だ?)」

「Ti?(何?)」

当りの周囲がザワザワと騒ぎ出した。
そしてその余りの傍若無人ぶりにメディアの怒りが爆発した。

「D.S!!貴方は何を考えているの!!折角目立たないようにしてあげてるのに!!これじゃアベコベじゃないのよ!!」

「私が人避けの魔術を行使しているのに、貴方が無力かするから余計目立ってるじゃない!!」

メディアがD.Sに癇癪を起こして怒鳴り散らしていた。
ライダーは傍観を決め込んで何も語らずに様子を見ていた。最早人々の注目の的であった。神秘の秘匿も何もあったものではなかった。
そこでD.Sがフフンと鼻を鳴らして、自分の顔を揺らして語りだす。


「いいかメディア。メデューサ。自慢じゃねえがこの俺様は完璧に美しいそうだ」


「俺様には人間の美貌は良くわからねえ。だが色んな奴が言うにはこの俺様は完璧に美しいんだそうだ」


メディアとライダーは黙って聞いているが、この時点ではまだD.Sが何を言いたいのか理解できなかった。
そして言葉を続けるのを黙って聞いていた。


「百獣の王のライオン。そして幻想種の頂点のドラゴン。あいつ等がわざわざ姿を隠す真似なんてしねえだろう。威風堂々としているだろう」

D.Sは自分に指を刺して言う。

「そして完璧な美しさを持つ、この俺様が何で姿を隠さなきゃいけねえんだよ」

ピンと来ないメディアに指を刺して言った。
確かに生物で、どれか一つの頂点に立っているものは、わざわざ姿を隠すなどという真似はしない。
むしろ堂々と姿を現して、他者にその存在感を示している。それが王者に立つもの義務でもあるライオン然り、猛禽類の頂点の鷲もそうである。
大空を羽ばたく翼を見せ付けるように飛ぶから、その姿が美しいしライオンはその鬣の姿を堂々と晒しているから王者の風格を有しているのである。
D.Sが言っているのはそういうことである。
そして完璧な美しさを持つ自分が、何故姿を隠すような真似をしなければならないのかD.Sには疑問であった。
此処にいたってようやくメディアとライダーはD.Sの考えが理解できた。
理解できたが余りにも単純で、子供っぽくて呆れたのだ。何故ならそれが美しい自分の姿を見せ付ける為だったとは呆れて物も言えなかった。


メディアは溜息を漏らして。

「付き合っていられないわね」

霊体化して姿を消して空に上っていった。ライダーはクスっと笑って。

「貴方らしいと思いますよ。D.S」

だがそんな霊体化をしているメディアを人間扱いしていたD.Sは気に入らなかったのか、令呪を輝かせて言った。


「この俺様と契約しているサーヴァントに命ずる、今後全てのサーヴァントは霊体化を禁止する」


D,Sの左手が輝いて令呪が発動した。
その瞬間、空に浮かんだメディアの姿が人々の視線を集める事になった。
そうしていたたまれない視線を浴びて、余りの恥ずかしさにメディアは空間転移の呪文を実行した。




◆◆




そしてさっきの丘に戻って来た。


「何を考えているの貴方はーーーー!!」

「何を考えているのですか貴方は・・・」


一人の怒鳴り声と静かな怒り声が山彦となって辺りに響いていた。


「折角、この俺様が人間扱いしてやってるのに霊体化なんてしやがるからだ」


フンっと悪いのはメディアとライダーの方だと言わんばかりにD.Sは腕を組んで言った。
メディアは頭を抱えていた、ライダーも頭に手を抱えてうーんと唸っていた。


(馬鹿だと、思ってたけれどコレほどとはね・・・)


(子供が大人になった様な人間ですね・・・)


「令呪って奴を使って見たんだけどよ、本当に効果があるらしいな」


「まさか、本当に霊体化できなくなるとはよ・・・そして注目の的になっていたお前の顔は見物だったぜ・・・」


笑いが止まらないと言ったばかりに、口を歪めてD.Sは口を開けて笑っていた。
D.Sは本当に令呪とやらが効力があるかを試してみたのだ。D.Sは別に令呪とやらの効果を信じていない理由ではないが使ってみない事には効力が分からないのだ。
D.Sにとって令呪とは三回しか無いのではなく、三回も令呪があるのだった。
此処にいたって、D.Sが令呪の効力を試す為に使った事はライダーとメディアは分かったが、余りにも使い方が馬鹿らしくて呆れていたのだった。



「呆れて物も言えないわね・・・」

「私も同感です」


空いた口が塞がらないとはこの事を言うのか。
だが、D.Sにとってはそんな事はどうでもいいのか、踵を返して二人を置いてさっきの場所へ戻っていった。


「さてと、さっきの場所に戻るとするか」


「ちょっと、お待ちなさい」

「待って下さい」

そう言ってD.Sはメディアとライダーの二人を連れてさっきの場所に戻っていくのだった。



そこでギリシャの市場で着いた場所は花屋だった。
D.Sは花屋に言った。

「Παρακαλ? να μου δ?σει ?να λουλο?δι  (その花をくれ)」

そうしてD.Sは懐から金貨を取り出して花屋に純金の金貨を渡した。
最初は花屋は戸惑っていたが、それが本物の金だと分かるとすぐに態度を入れ替えてD.Sが指し示した花束を渡した。
そうしてライダーに花を渡した。


「おらよ、墓参りするのに花束が無いなんて格好がつかねえだろう」


「・・・これは、百合の花ですか?」


「ああそうだぜ、カサブランカ。たしか花言葉は純潔、無垢、威厳、壮大な美だったけか」


「オマエの姉達には、ぴったりじゃねえのかよ」


D.Sが悪戯っぽくライダーに笑みを見せるその無邪気な笑顔は見るものを魅了するほどの物があった。
純潔を守りながら散っていった。ステンノとエウリュアレのとって百合の花は正に相応しいであろう。


「・・・どうして、貴方は此処までしてくれるのですか?」


ライダーには良く分からなかった。どうしてサーヴァントの為に此処までしてくれるのかが、ライダーにとっては自分は機械と同じである。
唯、戦う為だけに存在して、マスターを勝利に導く為の道具にすぎないのだ。
そんなライダーにD.Sはただなんでもないように言う。


「気にいらねえからだ」


「・・・何と言ったのですか?」


「オマエ等の何もかも諦めているかのような、表情が気にいらねえ。だからぶち壊してみたくなった、それだけだ」


「貴方はそれだけの理由で、こんなにも手間をかけたのですか?」


「・・・ああ」


D.Sはどうでもいいような口調で言葉を吐く。
ライダーはフッと笑い


「やはり、貴方は愚かですね」


「どうでもいいけど、行くのならさっさとしないと日が暮れるわよ」


ライダーとD.Sの会話に水を挿したのはメディアであった。


「何だよメディア、妬いてんのかよ」


D.Sの冷ややかな声にメディアが肩を震わせて、大声で叫ぶ。


「妬いてなんかいないわよ!!馬鹿じゃないのかしら!!」


「フーン、ならメデューサと二人だけで行くとするか」


D.Sはどうとでもいいように口を開いてライダーに話しかける。


「オイ、メデューサ。メディアが機嫌を直すまで暇だから、二人で墓参りに行かねえか?俺もオマエが何処で祭られているか興味があるしな」


D,Sがそう言ってライダーの腰に手をやり、何処かに行こうとするとメディアが子供の様にD.Sの服を掴んで涙ぐんでいるではないか。


「どうして、貴方はそんなに意地悪するのよ、いいじゃないのよ、やきもちの一つや二つぐらい焼いたって」


メディアは子供の様に涙ぐんで、尖った耳をたらしながらD.Sの服を掴んでいた。
D.Sもコレには弱った。
最愛の人と同じ香りを漂わせながら、しかも涙ぐむその仕草が愛娘に似ているのだった。
こうなったら折れるのはD.Sである。どれだけ女性には慣れていても涙には勝てないのである。
D.Sは罰が悪そうに頭をガシガシと掻いて。


「あー悪かったなメディア、一緒に連れて行ってやるから機嫌を直せよ」


D.Sが謝っていた。これはD.Sを知る者がいたら驚く光景である。
もし盟友のガラがいたら隕石が降って来るのではないかと言いそうだ。


「そうね、今回は許してあげるわ」


メディアの顔に光が射して機嫌が直ったかのような顔つきになった。


「それじゃいくか」


D.Sは暴風を撒き散らして、空を飛翔した。










感想


最近スランプです。

一応キャラに沿って書いていますが、本当にこれでいいのか・・・?
と悩んで書いています。
アニメもゲームも小説もhollowも全部コンプリートしていますが
それだけでキャラが立つとは限らないし、イメージとはかけ離れていくような気がします。

スイマセンが皆さん一文字だけでもいいから、かけるぐらいの元気を下さい。







[24623] 名前
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/06/25 13:19
◆Fate DS night◆





旅から戻り、和室で一息ついているD.Sにメディアとライダーが話をしていた。

「D.S貴方に言いたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

「アンだよ、急に」

腕を組み、不機嫌そうに答えるD.S。

「私たちを人間扱いしてくれるのはいいのだけれど、真名を他のサーヴァントの前で言うのを止めて欲しいのよ」

「勿論、貴方ならこの意味を分かるわよね・・・?」

メディアとライダーはサーヴァントの真名を曝け出す意味をしっかりと説明していた。
それこそ二人係でステレオで右から左からと、その時のD.Sのうんざりする様な表情をしていた。
そして、会話の流れでここに至っている。
だが・・・
そんな事はD.Sという男には全く関係なかった。
D.Sは踏ん反り帰って、口を尖らせて言った。


「・・・・・・嫌だ」


「聞こえなかったわ・・・何て言ったのかしら?」


「私も聞こえませんでした。何と言ったのですか?」


「聞こえなかったのか、嫌だって言ったんだ」


メディアとライダーの顔に青筋の怒りマークがいっぱい出来た気がするが気のせいではない気がした。


「コレだけ言っても、まだ解らないのかしら」


「貴方は、今まで何を聞いていたのですか・・・いいですかサーヴァントの真名を晒すという事は・・・」

「そうよサーヴァ・・・」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
三十分後・・・


メディアとライダーの二人が息を絶え絶えにしていた。

「・・・解ったかしら・・・?」

「解りましたか?」

「・・・全然わからねえ」

「・・・!!」

メディアとライダーの二人は溜息を吐いた。
そしてこの後のD.Sの一言は彼女らの怒りを沸騰させた。


「だってよ、オマエ等、俺様より弱えじゃねえか・・・・・・ったく俺様に意見するなら。俺様より強くなってからにしろってんだよ」

さすがにその言葉は聞き捨てならなかったのか、ギギギと人形のようにメディアとライダーが口に笑みを浮かべて口を開いた。


「聞き捨てなら無いわね、誰が貴方より弱いのかしら・・・?」

「ええ、私も今の言葉は聞き捨てなりません。誰が貴方より弱いのですか・・・?」

メディアとライダーもサーヴァントであって一人の人間より弱い等と言われた事がなかったのだろう。
そんなD.Sの無神経な一言には彼女らのプライドの炎に火を燈すのは十分だった。D.Sは面白そうに笑みを浮かべると。

「面しれえ、じゃあ勝負すっか。お前等と俺様の実力がどれくらい離れてるか見せてやるよ」

「望む所よ」

「望む所です」

D.S達は柳洞寺の中庭に出て行った。



◆◆◆


「たしかルールはこうだったわね。宝具とC級以上の攻撃は禁止だったわね。それで制限時間は十分。私たちが一撃を入れたら勝ち。
貴方はそれまで逃げ切ったら勝ち。そして貴方は魔術障壁を使わないだったわね。後は勝負は一人ずつだったわね・・・」

「ああ、解り易くていいだろう」

「私たちも随分と馬鹿にされたものですね・・・」

その台詞を零したのはライダーだった。十分の間サーヴァントの猛攻を凌ぐなどサーヴァンと中最速の速度を持ってるかもしれない自分でも可能性が無いわけではないが、不可能に近い。
それでも目の前の男なら何とかするのでは無いかと思える物がライダーにはあった。

「何をしているのですか・・・?」

D.Sは地面に半径三メートル程の円を書いていた。

「ああ、お前等にハンデをやろうと思ってな、俺様が此処の円から出たら問答無用で負けでいいぜ」

そう言って、D.Sは自身が書いた円の中に入っていった。

「とことん馬鹿にされた物ね」

メディアは心の中で色々と考えていた。

(ああ、やっと・・・今までの鬱憤を晴らす事ができるわ、覚悟しなさいよ。マスターに公然と攻撃できるなんて・・・癖になるかもしれないわ」

メディアは天邪鬼な笑みをフフフと上げていた。その様子にライダーは若干引いていた。

最初の勝負はメディアであった。立会人はライダーである。
二人の距離は約十メートル程離れていた。

「それでは、始めますがいいですね?」

D.Sはニヤニヤと笑いながら、余裕の構えをしている一方でメディアはフードを被って表情は分からないが集中をしているのであろう。
だが、彼女の態度から窺えるのは何とかしてD.Sの笑みを崩すかという一点である事がわかる。

「いつでもいいぜ」

「私も構わないわ」

「初め!!」

先手を取ったのはD.Sであった。すぐさま集中を開始して魔印を行使してミスティクマークを空間に作り魔術を行使して
呪文の詠唱を開始した。

「ジ・エリオ・フィル・アレ 我は求める 太古より継がれし 神秘なる象徴を以って為されん」 

メディアは一瞬D.Sに見とれてしまい機を逃してしまったが、それでも構わずに魔中の集中を開始したがワンテンポ遅れてしまった。
そこで勝負はついてしまった。D.Sの魔術が発動したらメディアに勝ち目は無いのである。

「減極渦雷球!!(デフ・レイ・バー)」

柳洞寺の中庭に漆黒の球体が浮かび上がった。
そのワンセコンド後程にメディアの魔術が発動した。

「Ατλασ(アトラス))圧迫」

普通ならD.Sは重力の塊に押しつぶされて、ダメージを受けるはずなのだが何も起きないのである。
不可思議に思ったメディアはD.Sに問いかけた。

「何をしたのよ・・・?」

「ひ・・・み・・・つ(^o^)」

ブチッとメディアの血管が切れる様な音が聞こえた。

「Κεραινο疾風(ケライノー)」

暴風が吹き荒れて、D.Sに衝突するはずの疾風は全てD.Sが生み出した漆黒の魔力球に吸い込まれていった。
ここに来てメディアは頭を冷やして、冷静にD.Sの生み出した魔力球を見つめる。

「D.S。貴方まさか・・・?」

D.Sは息を漏らして、遅すぎるといった感じで説明を促していく。

「ようやく分かったかよ、あの漆黒の魔力球はなあ、周囲の魔力を瞬時に無力化して吸収して無効にするんだよ!!」

「つまりだな・・・オマエの行使する魔術は全て、俺様が生み出した漆黒の雷球に吸収されるんだよ!!」

「まっ。その間は俺様も魔術を行使できねえから、諸刃の剣だがな・・・」

「しかし、魔術を行使できない魔術師なんて俺様の敵じゃねえぜ!!ちなみにその雷球は三十分は消えねえぜ」

ニヤリと笑って、D.Sは余裕の笑みを崩さなかった。
確かにこれはD.Sにとっては諸刃の剣である。もしもこんな魔術をランサーやセイバーの前でやったらD.Sは嬲り殺しにされるであろう。
三十分魔術を行使できないなどとは戦闘において致命的であるからだ。これは恐れく魔術の使用できない戦士などを援護するために開発された魔術なのであろう。
そしてその効果はキャスターのクラスである。メディアには絶大であった。

「っつ、そんな事が」

メディアは自身の使用できる、あらゆる魔術を行使するがその全てが無駄であった。
いくらD.Sから無尽蔵に魔力を供給されていると言っても、その全てがD.Sの生み出した漆黒の魔力球に吸収されていくのでは意味がなかった。
もしもメディアがD.Sの行使する魔術を知っていたなら打つ手はあっただろうが、それを知らない現状では打つ手はなかった。


「ああ、無理無理、それは俺様でも苦労したからな」

やがて、五分ほどメディアが魔術を行使してその全てが無駄と分かると。
遂にメディアはペタンと地面に座り込み、ヒックヒックとシャックリを上げて顔を手で覆って泣き出してしまった。
それをライダーがジト目で見つめていて呟いた。

「泣かせましたね」


「いやだってよ、しょうがねえだろうが」


「貴方は容赦がなさ過ぎるのです。たまには負けてあげるなどの優しさを見せたほうがいいのではないですか?」


「挑発に乗ったやつ等が、何をいってやがる」


この展開はD.Sも予想していなかった様である。まさか泣き出すとは思っていなかったのである。

(・・・なんでこうなるんだよ、めんどくせえなあ、これだから女ってのは・・・)

ハアと溜息を吐いて、頭を掻いて自分が書いた円から抜け出してメディアを慰めにいった。
メディアは泣きじゃくりながら言葉を続けていた。

「・・・ようやく・・・今までの鬱憤・・・痛ぶろうと・・・どうして素直にやられないのよ・・・」

途切れ途切れの言葉を聞いて、D.Sは同情心がなくなっていく気がした。

「あー、今回は俺様の負けでいいや」

D.Sにしては珍しい台詞だった。

「もう一回よ・・・」

「めんどくせえなあ」

「今度はさっきの魔術はなしよ・・・」

「ああ!!??」

「なしよ」

「はぁい」

なんとも情け無い男であった。
其処にライダーがやって来て、今度は私の番だという表情をしていた。

「次は私ですね」

(めんどくせえなあ)

D.Sは心中で呟いていた。



更新が遅れました。
スイマセン












[24623] 戦闘の結果
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/06/25 13:21
◆Fate DS night◆



D.Sは次はライダーと模擬戦をやろうとしていた。
D.Sは円の中に入っていく、それを見たライダーが不満そうに言葉を吐いた。

「私の場合も、その円から出ないで勝つつもりですか・・・?」

「俺様は贔屓はしない主義なんでな・・・いつでもいいぜ」

距離は十メートル程離れている。
ライダーにとって見れば、この程度の距離などあって無いようなものである。
ライダーはその間合いを詰めて、意表をついてD.Sが呪文を喚起する前に仕掛けた。
十メートルの距離が瞬きをする瞬間に、なくなりライダーは手に持っている鉄杭で攻撃をD.Sに仕掛けたが、その攻撃は空を切るだけであった。

「ったく。あぶねえなもう少し遅かったら、食らってたぜ」

ライダーの頭上から、声が聞こえてくる。見るとD.Sは漫画や御伽話に出てくる魔法使いのように空に浮かんでいた。
其処でD.Sは一言言って空中に去っていった。

「俺様は女をいじめるのは閨の時だけって、決めてるんでな、じゃあな」


「待ちなさい!!」

ライダーの静止の声にも関らず、DSは天空に逃げていった。
確かに、円から出ていないしDSは自分で決めたルールは破ってなどいなかった。



その後の時が経過して、DSが空から降りてきた。
ニヤリと笑みをこぼして。

「俺様の勝ちだな」

確かに勝ちは勝ちである。
円からは出ていないし、空に逃げただけである。
そんなDSにライダーは、拳を握ってプルプルと肩を震わせて。

「・・・納得がいきません」


「・・・ああ、どう考えても俺様の勝ちだろうが」


自信満々に宣言するDSに対してライダーは珍しく声を張り上げた。

「何処が、貴方の勝ちなのです!!貴方は唯、空に逃げただけではないですか!!アレの何処が戦いなのです!?
確かに貴方は円の外から出てはいません!!しかしやり方というものがあるのではないのしょうか?」

ライダーとメディアは負けず嫌いであった。
最もDSは負けるぐらいなら死を選ぶであろうが、それとは違う悔しさであった。
ライダーとメディアはDSの知恵に敗れたのであって、純粋な力の差で敗れたわけではないのである。
それが二人の悔しさであった。
それを見たDSは面倒臭そうに頭を掻いた。


「うるせえな。お前等は俺様に敗れたんだよ。そんなに悔しいなら今度は二人で来やがれ」


「その言葉に依存はありませんね」

「あら、それなら私も遠慮なく行かせてもらおうかしら」


ライダーとメディアの二人がそのDSの言葉に賛同すると、二人が同時に掛かってきた。
メディアは上空を押さえて雷の雷撃を仕掛け、背後からはライダーの鉄杭がDSに襲い掛かってきていた。

「即席にしては、中々のコンビーネーションだな」

DSが、素直に感想を述べる。

「だが、超絶美形の俺様には通用しねえよ」

DSが、両手をバッと広げると黒い制空権のような丸い塊がDSの周囲に展開された。
それに軌道を逸らされて、雷撃は地面に命中して、さらにライダーの鉄杭は上空に逸れていった。

「空間歪曲(ディスートション)・・・」

メディアが忌々しげに呟いた。

「貴方はそんな代物まで使えるのですか・・・?」

DSはメディアとライダーの攻撃を空間を捻じ曲げて逸らしたのだった。
つまり、このDSの作り出したこの空間内にいる限り、あらゆる攻撃は通用しないという事になる。

「ああ、俺様を誰だと思っていやがる」

((・・・馬鹿・・・))

ライダーとメディアは二人して頭に浮かべた。

「こら!!今、お前等、俺様の事を馬鹿にしただろう!!」

DSが指を指して、ライダーとメディアの思考を的確に突いた。
二人とも黙していたと思うと、

「少しいいかしら」

DSから離れてライダーとメディアは二人して相談し始めた。

「ですから、思うに私は・・・・・・」

「私もそう思うのだけれど・・・・・・」

相談する事、約三十分・・・・・・


「さあ、準備はできたわよ!!」

勝気な顔をしたメディアと少しばかり、唇を不適に歪めたライダーが立ち上がっていた。
・・・・・・が其処には誰もいなかった・・・・・・


「何処かに行ったようですが・・・・・・」

ライダーの的確な突っ込みが横からメディアに入る。

「はあ・・・あの男はしょうがないわね。ライダー探してきて頂戴」

「何故?私が探しに行かなければならないのです。そもそも相談を持ちかけたのは貴方ではないですか?」

「あら?どうして私が、そんな事を言われなければいけないのかしら?責任を私一人に押し付けないでくれるかしら」

「押し付けているわけではありません、事実を述べているだけですが・・・・・・」

「それを、押し付けていると言っているのよ、そんな事も分からないのかしら」

そんなこんなでライダーとメディアの罵り合いが、暫くの間続いていた・・・・・・










「ったく、やっていられるか」


DSは愚痴を吐いて、天空を飛んでいた。
正直言って彼、DSは女と戦うのは余り好みではない。むしろ何処の世界に一度抱いた女性と嬉々として戦う奴がいるのだろうか?
そんな中で彼は、くぐもりのような声を聞いた。

――――――死にたくない――――――


DSと言えども感覚を研ぎ澄ませなければ、聞こえないほどの微かな願いにも似た声だった。だがそれは確かに聞こていた。


―――死にたくない―――

DSは意識を瞑想させて、五感を集中させて第六感までも駆使させるほどに研ぎ澄ました。


「あそこか」

声のする場所に気付き其処に向かった。それは人が死ぬ時に漏らす感情・・・・・・
生きたいと願う意思である。何度も聞いてきた声ではあるが、せめて死に間際ぐらいは見に行ってやろうとの唯のDSの好奇心だった。










一度に二つの更新です。
どうぞ見てください。
少しペースを上げようと思ってます。

それでは








[24623] バゼット
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/09/17 23:09
バゼットが目を覚ますとまず自分の目の前に飛び込んできたのは銀髪のDSであった。動揺して思わず、声を荒げそうになったが其処は戦士としての自覚があるのか声を荒げるようなことはしなかった。

(この男はキャスターと一緒にいた魔術師……どうして私の目の前で寝ている……!?)

バゼットは洋館のベッドで横になっていて…

(寝ていた…?)

バゼットは意識をハッキリ表層させて自分に掛けられた真っ白いシーツを取ってみた。すると自分は生まれたままの姿であった。

「~~~~~~~~~ッッッ!!」

バゼットは声にならない叫び声を上げて絶叫した。

(どうして? 自分が裸で…もしかして私はこの男と…いやそれはいくら何でも…)

頭が沸騰して思考の処理が追いつかない。自分はどうしてしまったんだろうそればかりが思考に渦巻いていた。
チラッと目の前の男を見てみる。誰もが羨む美形の男であった。

(…本当に私は、この男と寝たのでしょうか…?)

もう一度、眼前にいる男に目の集約を合わせてみる、ボンっと頭から煙が溢れて来て既にバゼットはまともな頭脳が働かないでいた。
処女ではないと言え恋愛経験が皆無な彼女は、こういう状況になれていないようだった。

「…うるせえなあ」

DSが目を覚ますと、目の前のには先ほどまで血まみれだったバゼットの目が覚めている。

「…お、生きてやがったか…まああれだけ魔力を流し込んでやったんだから当たり前か」

DSはあっけらかんと答える。

「貴方は、私に何をしたのですか!?」

バゼットが、怒声を含めてDSに尋ねる。

「抱いて、魔力を流し込んで蘇生させてやっただけだ…こっちも予想以上の魔力を流し込んだ所為で本調子じゃねえんだ、いちいちうるせえ女だな」

「誰が!!五月蝿い女ですか!それに本人の許可なく女性を抱くとは何事ですか!?」

「本当にうるせえ女だな、じゃあお前はあそこで死んでもよかったのかよ?」

DSはバゼットに指をさして睨み付けた。

「…それは」

バゼットは罰が悪そうに項垂れる。だがすぐに顔をあげて次の質問に移った。
これだけはどうしても聞いておきたかったからだ。

「どうして、私を助けたのですか…?」

DSは、目の前のバゼットが本当に自分をどうして助けたのかがわからないので驚いていた。
DSは頭をガシガシと描いて、髪を掻き揚げて答えた。

「男が女を助けるのに理由がいるのかよ、いちいちそんなくだらねえ質問するんじゃねえよ」

「下らないとは何ですか!?私は貴方の敵ですよ!!」

バゼットは怒鳴っていると、体の力が抜けていくのを感じた、あれだけの血を流したのだ。
いくらDSが生命力の源の魔力を分け与えたとしても血までは生成できないのだ。
ガタンと音ともにバゼットは地面に膝をついた。

「…クッ」

「当たり前だろう、あれだけ出血して一日で回復して目を覚ましただけでもすげえのに、その上戦闘までしようなんて…馬鹿じゃねえのかお前…」

「貴方に言われたくはありません!!」

バゼットが吼える。

「本当にうるせえ女ばっかりだな、この世界は…」

「じゃあ、おれは行くからな…あばよ」

そう言って、DSは踵を返してバゼットの前から去ろうとしていた。

「待ってください!!」

バゼットはもじもじとしながら何かを言わんとしていた。
その仕草に、余り我慢強くないDSは少し怒りを覚え。

「何だよ!?言いたいことがあるならハッキリと言えよ。死んでからじゃおせえぜ」

確かにバゼットは今日一回死んでいるのだから、言いたいことは言ったほうがいいだろう。

「…あのできれば、私も連れて行って欲しいのですが…」

バゼットがその台詞を言った後にどれだけの沈黙があったのかはわからなかったが、しばらくしてDSが口を開き。
頭をガシガシと掻いた後。

「別にかまわねえぜ」

その瞬間バゼットの表情は夜なのにパアっと明るくなった様に見えた。

「有難うございます」

「その格好で行くのかよ、まあ俺様はそれでもかまわねえんだけどよ」

ハッとなりバゼットは自分の格好を見つめなおした。

「……」

DSはニヤニヤとバゼットの体を見ている。

「~~~~~~!!」

バゼット今度は声を出しての絶叫だった。








■■■■■



柳洞寺の階段をバゼットは息切れをさせながら上っていた。
元々死ぬ寸前だった所を蘇生させられたのだから無理はない。

また此処までくるのにはDSに空を飛んで連れて行ってもらったのだから疲労が余りないとはずなのだが、それでも辛いものは辛かった。
その際にDSが空を飛べるほどの魔術の使い手だった事に驚いたはいうまでもない。

「ちょっと、待ってください…」

「アンだよ」

DSは不機嫌そうに返事をする。
それはそうだった、DSは今は自分の二人のサーヴァントに言い訳を考えるのに必死なのである。

(…どーすっかな、なんかいい考えねえかな)

一昔前のDSだったら『俺が、何処で何しようが勝手だろう』そう言って自分の事を嫉妬の眼差しで見つめてくる女性ですら抱いていた。
そうしていた筈なのだが…今は言い訳を考えている。
彼の盟友ガラなら『少し、変わったな』とでもいうだろう。

「少し、待っていただけないでしょうか」

バゼットが息を切らした状態で彼に頼み込む。

「しょうがねえな」

そう掃き溜めしてから、バゼットの腰に手を当てると彼女を抱き上げた。

「ななななにをををを」

ロレツが回らない口調でバゼットが何か言いだしているが、そんなことは全くしにしないDSである。

「五月蝿えなあ、ちんたらやってたら夜が明けちまうぜ。急ぐときは急ぐんだぜ」

そうやって柳洞寺の長い階段を登って行くとDSが、バゼットをドサリと腕から落っことした。

「イタッ」

「何をするのですか!!」

バゼットがDSに文句を言おうとするが、DSの見据える先には蛇と魔女がゴゴゴゴゴゴという擬音を立てて、さらに嫉妬という般若の仮面を被って立っているように見えた。

(めんどくせえ事になるな)

盛大にため息を漏らしたDSだった。


■■■■■



六畳ほどの畳の間取りの和室で小さいテーブルで四人が囲みながら、一人の女性がズズズという音を立ててお茶を飲みながら、綺麗な笑顔でニコリと笑い。
顔に青筋を立てながら自分の主に話しかけた。

「説明してくれるかしら」

「見ろよ月が綺麗だぜ。後二日三日で満月だぜ」

彼女らの主は、障子を開けて茶をすすりながら現実逃避していた。実際夜空は雲が余りなく月明かりに照らされていて自分たちの今いる和室との色合いのコントラストが優美さを表している。

「あら、本当に綺麗ね……今はそんなことはどうでもいいのよ」

怒りを顕著にした口調でメディアはDSのイヌ耳を引っ張りながら、説明を求めた。

「イテテテ」

メディアは自分の手にしている感触を不思議に思い疑問顔をした。

(こんなところに耳があったかしら、それにこの感触…)

「DS貴方その耳…」

良く見るとDSの耳にはテレビのCMに出てくる様な秋田犬の耳が頭から生えていて、さらにはお尻からイヌの尻尾まで生えていた。
それを見た彼のサーヴァントが我慢できずに動き―――ニギリという音が聞こえた。加減を間違えたのかライダーが握力の加減を間違えてDSの尻尾を鷲掴みにしたのだ。

「ああ、この感触たまりませんね」

ウズウズという耐え切れずに意見を述べたのは新参者のバゼットであった。

「私も触っても構わないでしょうか」

「ええ、貴方もどうぞ、すばらしい感触です」

「ああ、これはたまりません」

別の世界に旅立っている女性が二人いて、その混沌ぶりに拍車を懸ける様に説明を求めた。
メディアまでもが、尻尾を触りだした。

「私にも触らせて頂戴!!」

二人のサーヴァントと一人の魔術師がDSから生えた尻尾の取り合いをしていた。
その取り合いをされているDSからはキャインキャインとイヌの様な叫び声が聞こえたのは気のせいではないだろう。

「いい加減にしやがれ、テメエラ!!」

怒気と共に魔力を放出して、三人の女性を弾き飛ばしたのはDSであった。

「説明が聞きてえんだろう。早くしねえと夜が明けちまうぜ」

部屋から良く見ると先ほどの月がずいぶんと傾いている、夜が明けるまでそう長くないだろう。

「そうだったわね」

軽く咳払いをして、メディアとライダーとバゼットが取り直す。

「それじゃあ、説明してもらおうかしら」






後書き




更新がおくれてすいません。
もう少し早くします。



[24623] 英雄王と覇王
Name: 無謀◆d7bb9f58 ID:f25f26c1
Date: 2011/09/21 23:41
◆Fate DS night◆







柳洞寺の一室でメディアがため息を吐いて。

「事情は分かったわ。つまり貴方が来たときにはサーヴァントもいなく死にそうになっている、この女から事情を聞くために助けたと言うことなのね」

メディアも大体の事情は把握した。
戦いにおいて情報というのは戦況を左右すると言うことは理解している。
そしてDSがバゼットを助けたのはこれらの事情を聞くためと言うのがDSの言い分である。誰に令呪を盗られたのか等聞き出す情報はいくらでもある。
――――――だがしかしメディアは思った。

「貴方ほどの魔術師ならば、他に方法があったんじゃないのかしら?」

ジト目でメディアがDSの方を見つめる。

「あの方法が一番手っ取り早いからな、それに女を死なせるのは趣味じゃねえしな」

「まあいいわ、貴方に何を言ったところで無駄だろうし」

ため息を吐くメディア。
メディアは付き合いが短いがDSの事をなんとなく理解はしていた。この男は女性の事となると甘い―――それも激甘である。
もしかしたら…昔に何かトラウマとなるような事でもあったのかとは思うがそれを聞く気にはなれなかった。

「それで、バゼットとか言ったわね貴方は誰にやられたのかしら?」

メディアはバゼットと向き合い事情を話すよう求めた。
もしも此処でバゼットが断ればDSが何を言おうとも魔術で口を割らせる気でいた。彼女ほどの魔術師がその気になれば造作もないことだった。

「……そうですね、私を襲ったのは言峰 綺礼という協会の監視役です」

少々の沈黙の後にバゼットが自分を襲った協会の監視役の事を話した。
言峰の事と協会の監視役である彼が令呪を奪った事と、自分のサーヴァントであるランサーを奪われたこと等である。

「そう、つまり貴方は協会の監視役にサーヴァントと令呪を全部奪われたってわけでいいのかしら?」

「そして、敵に命まで助けられて…本当どうしようもないわね貴方」

メディアの嫌味にも聞こえる口調がバゼットの耳には痛かった。
事実とはいえ改めて言われてみると情けない話である。
魔術協会の封印指定で執行者と言われている自分が手も足も出せないまま令呪を奪われてサーヴァントを奪われ。
更には一度殺そうとした敵の魔術師に情けを掛けられて命まで救われたのだ。

(……本当に情けないですね…私は…何をやっているんでしょうか…)

バゼットは自分の余りの情けなさに、余りにも自らがいたたまれなくなり涙をポロポロと流し始めた。
封印指定の執行者とも言われて自惚れていたのかもしれない。それが現実はどうだ一人のサーヴァントも魔術師も倒せなく聖杯戦争が始まる前にリタイアする所だったのだ。

(これが情けなくて、何だというのでしょうか…)

そんなバゼットの涙を見たのかライダーとDSはメディアの事を黙って肩をすくめたかのように見てた。
視線に耐えられなくなったのかメディアは気持ちをぶつける様に吼えた。

「何よ!その目は!!元はと言えばその魔術師が悪いんじゃないのかしら!」

「そこまでにしときな」

それをDSが制して止めに入る。

「とにかくお互いによ、わけわかんねえ争いごとで殺されそうになったんだろ」

「どーしてこうなっちまったんだろうって考えるよりは…これからどうするかを考えるを考えようぜ」

そのDSの言葉にそこにいる三人がハッとしたように顔色を変えてDSの言うことを聞いていた。

「バゼットとか言ったけな、テメエには聞いて置かなきゃならねえ事がある」

DSはバゼットを指差して質問をする。

「テメエの奪われたサーヴァントの真名と宝具の特性…それと協会の監視役の情報だ」

「…それは」

それはバゼットにとってランサーを売るという行為だった。

「嫌がるのを無理やり吐かせるのも…それはそれで楽しみの一つだな」

DSが歪に口元をゆがめて笑った。
バゼットは少しばかり考えた後にどうするかを思考していた。此処には魔術専門のサーヴァントのキャスターがいるその気になれば自分の情報を全部吐かせる等も簡単なことだろう。

「…分かりました…話します」

幾許か考えた後に彼女はランサーの真名のクーフーリンとそれと言峰の事と持っている情報をDS達に話した。

「フーン、まあいいさそいつが何をしようが勝つのは俺様なんだからな」

DSは話を聞き終えた後は興味をなさげに畳にゴロリと寝転がりライダーをその手に引き寄せて膝枕をして眠りに入る。

「…あっ」

「少し疲れたから俺様はもう寝るぜ。後は勝手にやってるんだな」

「…なんというか凄い勝手な人ですね、あなた方のマスターは…」

バゼットは呆れていた。メディアとライダーはクスリと鈴のように笑って。

「「そうね「そうですね」」

二人して答えた。














■■■■■



(どうして、こんなことになっているのかしら)

…翌日昼下がりの冬木市の町をDS達一行様は歩いていた。
何故こんなことになっているのかと言えばDSの一言が原因だった。

「腹減った。飯食いに行くぞ」


それだけの事である。
バゼットが賃金を持っていると分かっているとなると決行は早かった。町に繰り出して食事をできるところを探していたのだが…少しばかり道に迷っているのではないかとメディアは思っていた。
時刻はもう夕焼けにもなるし
そもそもサーヴァントが二人もいて更に彼女の主であるDSもサーヴァントに匹敵する魔術師である。町を歩き回らずに柳洞寺でメディアが張った結界の中に立てこ持っていればいいだけの話である。
しかしDSの考えは違っていた。町が戦場になるのならできるだけ町の地形を把握したいというのがDSの見解であった。
何処が自分の魔術が最大限に発揮できるのか何処で戦えばより勝ちを拾いやすいのか考えるのが戦いの基本ではあった。そもそもDSは勝つための努力なら惜しまなく油断はしても慢心はしない。そうやって王者として君臨してきたのだ。
でなければとっくの昔に反逆した四天王に首を撥ねられていたであろう。

今メディアは郊外の冬木市の屋敷が立てられている場所に来ていた。
そこに金髪で赤い目のしている身長百八十センチ程の男がなにやら屋敷の前に立っていた。



そこに立つ金髪で赤眼の男は思慮に更けていた。

(…出来損ないの様子を見に来てみれば留守とはな…まあいい)

そして金髪の男はその端正な顔を少し歪めさせて踵を返して自らが主と認めた神父の下へ帰ろうとする。
そこに男の興味を引く人間が現れた。

「…ほう」

銀髪で長身で馬鹿でかい魔力を隠しもせずに歩いてくる魔術師であろうか、ガッシリとしたその肉体は到底魔術師とは思えない。
紛れもなく戦士の肉体であることが王として様々な人間を見てきた彼には分かった。しかもサーヴァントを二体も連れている。それだけでも聖杯戦争の最有力候補になるだろう。
そして彼から漂う血の匂いである。
もしかしたら英雄王である自分よりも上かもしれない…そのことが彼を少々苛立たせた。
言ってみれば頂点に立っている自分よりも殺戮という面で目の前の銀髪の男に世界全土を平定した王が―――たかが人間の魔術師で脆弱なサーヴァントを引き連れている魔力の高い人間に―――殺戮という一点で劣っていると事実が癪に触ったのだった。


「…気に入らんな」







メディアとライダーは郊外を渡り歩いていて、不思議な金髪の青年を見た。
雰囲気もさることながらその青年は威圧感を放っていた。自分達の主であるDSにも匹敵するほどの存在感であった。
一瞬サーヴァントかとも思いきや目の前の青年は人間であった。

なればこそ恐れる存在ではないが…ライダーとメディアの二人が全身で警戒の鐘を鳴らしていた。
どうして唯の人間に恐れを抱いているのかライダーとメディアは二人して二人を両脇に挟んでいるDSを見た。

(DS!!)

「…なーに人の顔をジロジロ見てやがんだこら」

微動だにしていなかった。それどころか全く気おされてもいなく不遜な態度である。
金髪の青年とDSの視線が交差しあいバチバチと紫電を放っているようにも見るものには感じられたであろう。

「だから!!何時までジロジロ見てやがんだよ」

常人ならばここら辺でDSに怯んで逃げる筈なのだが目の前の男は余裕綽々と構えていた。

(…きにいらねえな)

英雄王と覇王DSは此処で二人ともハッキリと確認し合った。

((…コイツは敵だ!!))

DSが呪文の詠唱に入ろうと瞑想状態に入ろうとする。
そこに命知らずなKYこと空気の読めない男が現れた。






■■■■■



夕刻学生が帰宅する時間帯そこで衛宮士郎の赤毛のショートカットが夕焼けの色に溶け出して赤く染まっていた。
今の時代では、そんな髪の色も珍しくもないのか彼は弓道部の後輩である間桐桜を家に送ろうと一緒に帰宅していた。他人からみれば仲の良い恋人同士にでも見えただろうが衛宮士郎の中では間桐桜は学校の後輩でありそれ以上でもそれ以外でもなかった。
それも現段階ではあるが……そんな二人が間桐の家に辿り着く前に見たのが長身で銀髪の男だった。士郎なぞ彼の前にしたら小人にしか過ぎないだろう何しろ身長さで言えば三十センチの定規分ほど違うのだから。
その長身の端正な顔の男とそれに負けじとしない金髪の紅い目をした男が睨み合いをしていたからだ。
そんな中で後輩の桜は自分のサーヴァントであったライダーを見て驚いた。

(…ライダー…どうして)

ライダー自分の味方でありその姿を見間違えよう筈もない。死んだと言われており様々な憶測が桜の頭脳に浮かぶが―――

(…生きててくれてよかった)

それだけである。
ライダーも桜を見て視線を返して軽く頭を下げた。

(…よかった…本当に)

「おい!!あんたら何をしてるんだ!!」

普通の一般人ならこんな割合に絶対入り込まないであろう諍いにも入ろうとする人物。それが衛宮士郎という馬鹿である。その声に反応して士郎を軽く視界に納めた金髪の男は、士郎など目にもくれず桜の方に歩みより呪詛を言い残した。
一方で桜は士郎の影に隠れて脅えていた。

「今の内に馴れておけよ娘。さもなければ後で苦しむ事になるぞ」

それだけ呟いてDSの方に優雅に歩いて一言だけ言った。

「命拾いしたな…雑種」

DSは何も言わなかった。呆然と立ち尽くしたままである。
DSは自身の最大の呪文である七鍵守護神(ハーロ・イーン)を放とうと考えていた。悪魔でもないかぎり七鍵守護神(ハーロ・イーン)を放たれて生き残ろうものなどいない筈なのだが、むしろ目の前の男はそれをも打ち破る何かを持っているかもしれないと期待していた…
久しぶりに血が騒いだDSは金髪の男が去った後にDSはポツリと漏らして笑っていた。

「…命拾いしたのはテメエだろう…クックック」

DSは口元を歪めながら其処から去って行き。
士郎と桜だけがおまけのようにその場に残されていた。

「…何でさ」



■■■■■



去っていく道中でDSはライダーを引き寄せて確認をした。

「あの女がお前のマスターか?」

その事を聞かれてライダーは戸惑いを隠せなかったが…ライダーは観念したように答える。

「…言っておきますが桜に手を出したら、いくら貴方と言えども容赦はしませんよ」

「そうかお前のマスターは桜って名前で…あそこにいた女か…カマを駆けてみたら本当だったようだな」

DSはニィと笑う。
ライダーは自分の中に眠る疑問をDSにたずねようとするが、それよりも早くDSが解説してくれた。

「…どうして分かったか教えてやろうか?簡単な話じゃねえか…この町には魔力を持った人間が皆無だ。そんな中で霊脈に沿った屋敷が一つあって其処に魔力を持った女が帰ってこようとした。
しかもその女は令呪を持っていなかった…其処までくればその女はサーヴァントを失った人間か…それともサーヴァントをこれから召喚するかどっちかの人間だ。後は『メデューサ』お前にカマを賭けてみれば答えは出るはずだと思ったのさ」

「知らないと言えば関係ない。何か言えば当たりって奴だろう」

ニタリとDSが笑う。

「あの状況で其処まで見ていたのですか…?」

「…ああ」

「…貴方は敵に回したくはありませんね」

「良く言われるぜ」

そんな会話をやっているとメディアとバゼットが駆け寄って会話の詳細を聞こうとしていた。

「何を話していたのですか…?」

「何を話していたのかしら?」

「・・・さあな」

DSは、はぐらかすだけだった。




後書き的な物

台風凄いですね…
帰れない…


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