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[22750] 【チラ裏より】やきうをしよう。あの打席に戻るまで(転生最強モノ)
Name: H&K◆6803d1d7 ID:daca760b
Date: 2012/05/02 22:44
主人公が一度死んで二度目の野球人生を頑張る話です。

本職が行き詰っているので息抜きがてらに。

それではどうぞ。

6月25日
お待たせしました。第十話です。野球界と言いながら加奈子の下地となる話が一本挟みました。次回は本当に試合です。

6月26日
感想欄のご指摘の通り、祐樹のステータスが間違っていました。細かいデータが多い都合、投稿間隔が開いたことによりそう言った間違いがまだまだあるかもしれません。こちらでもチェックして随時修正していきますが、これからもご指摘よろしくお願いします。

2012/05/02
ブリジットが終わったのでこちらを本連載にします。
よって作者名もあちらのものに変更。


これからも一層精進して、楽しんで頂けるようなSSを投稿しますのでよろしくお願いします。

追記

日本シリーズは十五回まででは?

A 十二回を最終回と描くような記述があったけ? と見直したところしっかりと描いてました。ご指摘有難うございました。あれは最終回ではなく、ホームチームの十二回の攻撃という意味でした。リリーフエースが登板するのでさすがに十五回は苦しいという判断でした。(尚且つ打者を出しつくしている必要があったので)
これで矛盾はない、ハズ。


リトルリーグではなく、ボーイズリーグでは?

A それはもう、この世界ではこういう規定であると想定して頂けたら幸いです。加奈子が登板する都合上、リトルリーグの方が勝手が好く、尚且つ変化球を交えた対戦は中学生のように身体が大きくなってから描写したかったので。
現実では他にもスクイズや健二のように完投してからのリリーフは出来ないです。
似たような並行世界ということで勘弁して頂ければな、と思います。





[22750] 第一球目【日シリ代打で自打球強制退場の巻】
Name: H&K◆6803d1d7 ID:daca760b
Date: 2012/05/02 22:44
 誰もが恋焦がれるようなボックスにその男は立っている。

 十二回裏、ツーアウト三塁。

 スコアは0-0のイーブン。

 カウントはツーエンドツー。

 ピッチャーは誰もが一度は耳にしたことがあるリリーフエース。

 男はアオダモで出来た得物を構え、再度リリーフを睨んだ。





 ぼたぼたとリリーフの額から汗が零れている。

 先頭打者を歩かせ、バントと一塁への内野ゴロでサードにランナーを進められた彼の表情は震えていた。

 だが彼は、“打たれる”ことに対する恐怖を微塵も感じていなかった。

 そこにあるのはこれ程にも痺れるマウンドに立っていることに対する喜びだけ。

 まさにピッチャーの本懐といえるマウンドで彼は酔いしれていた。

 額の汗を手の甲で乱暴に拭い去り、キャッチャーのサインを覗き込むように身を乗り出す。同時にバッターが頭上よりやや高いところにバットを構えた。

 これから仕留めなければならないのは自分の勝手知ったるバッター。

 同時期にドラフトで指名され、彼是五年間細々とプロ野球人生を歩んでいた同輩だ。ここ二三年で豪腕で名を馳せた自分とは違い、未だにスタメンを勝ち取れない代打屋。

 別段勝負強いとか、一発長打があるわけでもない。今シーズンの――現在行われているポストシーズンの成績を含めても打率は二割がやっと。本塁打に至っては事故で打ったような二本だけ。

 なら何故この場面に起用されてるかといえば、単純に出せるバッターは全て出し尽くしているのである。

 最後の最後、苦渋の選択として、監督からもファンから期待されているわけでもなく彼はバッターボックスに立っていた。

 そっと彼がボックスを外す。静まり返ったスタジアムの中で、深呼吸を繰り返している。

 そして再び――右打席で構え始めたとき、リリーフはバットが先程よりも数センチ短く持たれていることに気が付いた。どうやらボールをカットした際、絶対に適わぬ球威を感じ取ったのだろう。

 リリーフはその様子を哀れだと笑うと同時に、まだ彼が諦めていないことにさらなる喜びを感じた。

 キャッチャーが落ちる変化球を要求してきても頑なに首を振る。

 彼はここまでのし上がるきっかけとなったストレート以外、投げるつもりはさらさら無かった。

 この哀れな代打が幾らでも食らいつけるよう、ど真ん中に剛球をねじ込む。

 クイックも何もお構い無しに、自分が思うベストのフォームでリリースした。

 パキン、と快音とは程遠い打撃音が響く。

 辛うじてバットに当てられた白球は強烈なバックスピンをしながら一塁側のネットに突き刺さった。たった一瞬の出来事だったが、スタジアムにいた両軍のファンは一様にどよめいた。

 リリーフはプレートに足を掛け、キャッチャーのリードを無視し、さらに同じ球を同じコースに投げた。

 バッターは先ほどと全く同じようにギリギリでカットする。あと数ミリずれていれば完全に三振コースだ。

 滝のような汗がリリーフから滴り落ちていた。


「なかなかやるじゃないか。祐樹くん」


 必死の形相でこちらを睨みつけるバッターを笑う。侮蔑の意味は無い。ただ純粋な賛美だけがあった。

 ロジンバックを握り締め、一応キャッチャーのサインを確認する。

 すると、もう精密なリードは諦めたのか『好きなコースにストレート』のサインが出されていた。彼是三年間専用キャッチャーを務めていたためか、こちらの性格は良く知っている。

 白球が痛いほど握りこまれ、ストレート勝負の三本目が始まった。

 グラブに手を隠し、三塁ランナーを一瞬見やって投球フォームを開始する。リトルリーグ時代から何万回、何十万回と繰り返された動作に今更迷いは無い。

 それは対戦するバッターも同じだろう。アベレージヒッターでもパワーヒッターでもない彼だが、一度バッターボックスに立てばそれはもう立派な対戦相手だ。

 リリーフは自分の腕が作り出す空気のうねりと風切り音を聞く。

 同時にスタンドから流れるチャンステーマにベンチからの応援。

 最後に白球を弾く指バネの音に全神経を傾けて、腕を振り切った。

 内角高めの伸びのあるストレート。打者からは殆ど無い落差の所為で浮いたように見えるボール。

 リリーフ最大の切り札にして、これ以上ないウィニングショット。

 バッターがゆっくりとステップを踏む。内角球だとわかっていても、決して身を引かず敢然と立ち向った。バットを数ミリ戻し微調整。ヘッドを少しだけ立てて、早い段階でのスイングを可能にした。

 技術も筋力も無いバッターだったが、この時はまさに本能で反応していた。身体を巻くようにヘッドが繰り出されて、白球にバットが接触する。

 二人の間には彼らにしか感じえない、最大の緊張感と最高の興奮が入り混じった時が流れていた。

 バキッ、とバットがへし折れる。

 スイングスピードと球速がきっ抗し、遂に耐え切れなくなったのだ。

 リリーフもバッターも弾け飛ぶ木片を見て、勝負が一つお預けになったことを悟った。その証拠にボールはまだフェアゾーンに飛んでいない。二人の視界から、いや、スタジアムにいる万人の視界から消えて、強烈なスピンの音だけを響かせていた。

 最初にボールの行方を知ったのはキャッチャーだった。

 彼はミットを構えたまま、凍ったように防具の隙間から白球を見つけた。砕けたバットを舐めるようにして、白球は残されたバットの芯を駆け上がっていた。

 そして一刹那置き――、







 時速百六十キロ近い七センチの硬球がバッターの側頭部、ヘルメットの耳当てが存在しない部分に直撃した。







 日本シリーズ上の悲劇、選手を襲った魔の100マイル

 昨日、シリーズ第七戦十二回の裏に代打として出場していた神崎祐樹選手(27)の頭部に自打球が接触。
 意識不明の重態となるアクシデントが発生した。
 球団側は予断を許さない状況と発表しており、都内の病院に駆けつけたファンからは容態を心配する声が上がった。


 



 ◆◇◆◇



 一人の少女が、その手にはまだ大きい軟式球を持って、幼稚なフォームで球を投げた。

 肩口で切りそろえられた髪、額に浮かんだ球のような汗が健康的な印象を周囲に与えている。

 一方、やや弓なりで投げられてた球はストライクゾーンからやや離れた所に飛び込んで来た。

 だが、バットを持ってボールを待っていた少年はやや体制を崩しながらもヘッドの先で白球を捕らえ、少女の頭を越して二遊を抜けていくヒットになった。

「わー、ゆーくんすごーい!」

 ボールを投げた少女は転々と転がるボールを見て歓声を上げた。そしてグラウンドの端まで転がっていったボールを追いかけていく。

「おい、加奈子。別に無理して付き合わなくてもいいんだぞ」

 少年は持っていたバットを地面に置き、外野に走っていった少女を追いかける。丁度セカンドベースが置かれるその位置のところで戻ってきた少女と出くわす。

「いいよ別に気にしなくても。私はこれが好きなんだから」

 にこーと加奈子は歯を見せて笑い、ゆーくん――神崎祐樹にバッターボックスまで戻るよう指示する。彼は苦笑しながらも打席に着くと、少女が振りかぶってボールを投げるのを、ゆったりとしたバッティングフォームで待った。

 ある日の夕暮れ時、微笑ましい市営グランドの一風景である。




 
 あの痺れるようなバッターボックスで、一人の選手が命を落とした。

 技術も、パワーも、身体能力も全てプロの一流とは言えない彼は、大した活躍も出来ないままに球界を、果てはこの世から去ることとなった。

 だが野球の神様は寛大なのか気まぐれだったのか、彼に一つチャンスを与えた。

 それは前世の記憶をそのままに、今とは少しずれた世界でもう一度人生をやり直すことだった。

 初めて彼がそれに気が付いたとき、薄気味悪さや前世に対する後悔よりも、もう一度あの場面に立てるという不思議な高揚感が湧いて出ていた。

 神崎祐樹という個人はあの打席に縛られたまま二度目の人生を送ることとなったのである。




 十二回裏、ツーアウト三塁。

 スコアは0-0のイーブン。

 カウントはツーエンドツー。



 祐樹は願いそして誓った。再びあの日のボックスに立ち勝負の決着を付けることを。自打球なんかで命を落とさず、勝者と敗者を結論付けた、存在し得なかった未来を見つけることを。

  その為に、前世で培った野球の知識と身体トレーニングの知識を総動員して文字通り生まれ変わる。

 代打屋ではなくスタメンとして、中軸選手としてあの打席に立つ。

 最高の選手になって、最高の試合をしたい。

 それだけが彼の目標であり、また夢でもあった。

 彼はまだ幼い。リトルリーグに入団する資格すらない。だが着実に、一歩ずつ、神崎祐樹は再起を誓って今を生きている。

 後に、平成の大打者として知られる彼の原風景がそこにあった。



 


 



 ◆◇◆◇



おまけ プロスピ的ステータス


神崎祐樹(6) かんざき ゆうき

右投げ左打ち

右巧打力 E
左巧打力 G
長打力  F
走力   E
守備適正  右翼 D
        中堅 E
        左翼 E


特殊能力  成長◎(パワプロ的?)

 ◆◇◆◇ 

投手はBBH風

佐久間 加奈子(6) さくま かなこ

右投げ右打ち

球威     5
変化球    3
コントロール 10
スタミナ    7
守備力    7

合計  35

変化球 特殊能力なし









[22750] 第二球目【因縁のあいつとこんにちはの巻】
Name: H&K◆6803d1d7 ID:daca760b
Date: 2012/05/02 22:45
 神崎祐樹がこの世界が少しずれた世界だと思うようになったのは、自分が好きだったプロ野球選手がいなかったり、名前が変わっていたり、所属球団が違っていたという事実からだった。
 
 そもそも自分を生んでくれた両親も変わってしまっていたし、神崎祐樹という人間も名前を残して姿形には微妙な差異が出ている。

 彼は、「過去に戻ったのではなく、よく似た平行世界に転生した」と結論付けていた。

 だからこそ心置きなく神崎祐樹という人間を作り変え、あの日に忘れてきた打席を取り戻すべく、日々野球に取り組む。

 彼がこの世界に生を受けてから既に十年。

 神崎祐樹という天才少年バッターの名は、リトルリーグという限定的でも確かな野球の場に置いて、知らぬものはいなくなっていた。




「おい神崎、放課後から練習あるから一緒に行こうぜ」

 返却されたカラフルなテストを眺め、膝の上に通学鞄を載せていたら悪友に肩を叩かれた。同じリトルリーグに所属する弥太郎という少年は日焼けで剥けた黒い肌が特徴的だ。

 祐樹は緩慢な動作でテストを仕舞うと、先に教室を出て行くことで返答とした。

「あれ? 何でおいてくんだ? なあ!」

 慌てて鞄を引っさげ、ユニフォームとグラブが入った袋を引っさげながら弥太郎が祐樹の後を追いかける。祐樹は階段を一つ下りると三組の教室に入っていった。

「加奈子、練習に行くぞ」

 教壇の上で友人と談笑していた加奈子が振り返った。一昨年までは肩口で切りそろえていた髪が今では肩甲骨の辺りまで伸びている。

 リトルリーグの新生エースを勤める彼女は祐樹の呼びかけに表情を弾けさせると、友人二人に別れを告げて教室から出て行った。祐樹と弥太郎もそれに続く。

「ねえゆーくん。誘ってくれるのはとっても嬉しいけど、太郎君はいらないよ。つれてきちゃ駄目」

「連れてきてないよ。勝手に着いてきた」

「うわひっで。いくら夫婦仲がいいからってそれはないだろー」

「ピッチャーとキャッチャーをやってるんだから、夫婦はお前らだろうに」

 何気なく言った一言だったが、よっぽど癪に障ったらしく加奈子がとび蹴りをした。何故か弥太郎に。いらぬ暴力を受けた弥太郎が猛抗議を開始するが所詮低学年の男子児童である。発達に勝る同年代の少女に適うはずも無かった。

「うっさいわねー、あんたこの前隣クラスのアキちゃんに泥団子ぶつけたでしょう。知ってるんだからね」

「あ、あれはわざとじゃねーよ。偶々だ!」

 慌てて両手を振る弥太郎だったが、残念ながら祐樹は弁護してやることが出来なかった。テレビで見たファン球団のエースの真似をして、土で作った即席ボールをぶつけてしまったのは事実だったからだ。

 相手が快く許してくれたから良かったものの、下手をすれば同学年の女子を全て敵に回すことになる。

 祐樹もいらんいざこざに巻き込まれると碌なことにならないのは前の人生から痛いほど学んでいたため、今回のことは完全に第三者の立場を取っている。

 加奈子が鬼の首を取ったよう、弥太郎を睨み付けながらこう言った。

「はん、ピッチャーでもないのに慣れないことするからでしょう。キャッチャーはキャッチャーらしくキャッチングを練習しなさいよ。まったく、ぽろぽろ落とさないでよね」

 祐樹以外には全く懐かず、弥太郎には敵意を剥き出しにする加奈子を見て男二人は溜息を吐くしかなかった。

 とある日の放課後の出来事である。

 


 ボールネットにビニールシートを巻いた、簡易つい立の向こう側で衣擦れの音がする。祐樹は不埒な輩が加奈子の着替えを覗かないよう監視する役割を任されていた。

「ねえ、誰か来た?」

 つい立越しに声を掛けられて、ユニフォーム姿の祐樹は誰もいないと答える。彼は手の中でボールを弄びながら皆が練習しているグランドの方を見ていた。

「じゃあさ、ストッキング履くの手伝って。あとベルトも」

 にょき、と肩の上から突き出された足に野球用のストッキングを履かせてやる。そういえば昔、自分もストッキングが上手く履けなくて前の父親に履かせて貰っていたことを漠然と思い出していた。

 あれから彼是もう三十年。遠い日の記憶に思わず頬が緩む。

「にゃ、今笑ったでしょ。ふーんだ。どうせストッキングも一人で履けないお子ちゃまですよ、私は」

 何を勘違いしたのか加奈子は頬を膨らませて足を引っ込めた。まだ左足が残っていたがそれは自分で履くようだ。

「別に加奈子を笑ったわけじゃないよ」

 弁解しながら、加奈子の腰元に手を伸ばしてベルトを嵌める。何でも自分ではベストの長さが調節できないらしく、この作業は祐樹の特権でもあった。

「どーだか。最近ゆーくんが全然構ってくれないから加奈子はお怒りなんだよ」

 ぷんぷんとわざとらしく振舞う加奈子は確かに機嫌が悪かった。随分懐かれたものだな、と祐樹は人知れず感心する。

 前の世界では全く女の子にモテず、彼女モドキもプロ野球選手になってから一人しか作れなかった彼からしてみれば、ある意味で新鮮な体験だった。

 そして何より、人から好かれるというものは心地が良いものである。

「さて果てエース様のお通りだー。がおー」

 いつの間に機嫌を直したのか、若干意味不明な文言を残して加奈子がグラウンドの方へ駆けていった。祐樹は自分専用のバットと弄んでいたボールを拾うと、皆が練習しているグランドへ一人で向かっていった。

 もうすぐ県大会が始まる。





 最近入団した三人の低学年生を見て、練習を見守っていた監督は目を細めた。

 一人は最近珍しくなくなった女子のピッチャーである佐久間加奈子。幼少の頃から投手の真似事をしていただけあって、投球フォームも様になっている。何より、小学生とは思えない精密なコントロールが最大の武器だ。

 本人もピッチャーというポジションに遣り甲斐を感じ、尚且つエースの意地のようなものまで持ち合わせているので将来が非常に楽しみである。

 二人目は加奈子の女房役を勤めるキャッチャーの木田弥太郎だ。何故か入団して早々捕手希望という変わった少年だったが、持ち前の身体能力の高さでチームの中軸選手となりつつある。キャッチングがややお粗末なのが玉にキズだが、それでもこれから中学生、高校生となる度にどんな選手になるのか心躍った。

 例年ならばこの二人が入団しただけで監督は十分満足し、子供たちが大好きな野球をプレイする様子を見守っていただろう。だが今年はもう一人入団した少年によって地区大会突破も狙えると心の何処かで感じていた。

 神崎祐樹。三人目の外野手として入団した彼が、リトルリーグの監督として十年間務めてきた男の度胆を抜いたのだ。

 先ずその身体能力の高さ。

 木田弥太郎も全国でも上位に食い込めるだけの能力を誇るが、祐樹は桁が違っていた。

 小学校四年生にして遠投は八十メートル近く、五十メートル走も七秒台が目に見えている。背筋、握力も立派なもので下手な大人より断然発達していた。

 さらに卓越したバッティング能力が最早小学生という枠組みを乗り越え、まるでプロのそれを見ているかのような錯覚を覚える。

 水平に構えたバットから繰り出されるレベルスイングは打席の度にヒットを量産していた。極度に引っ張るプルバッティングから適度に力を抜く流し打ちまで何でもこなして見せるのだ。

 現在に至っては、彼を完璧に抑えることの出来る同年代の投手は皆無と言って良い。

 このチームの黄金バッテリーの加奈子弥太郎コンビも苦渋を舐めさせられっぱなしだ。

 カキン、と加奈子が放り投げた白球が低弾道で外野フェンスに向かっていく。風向きがいいのか右翼方向へ飛んでいく打球はそのままホームランゾーンへと消えていった。祐樹少年は特に喜んだりするわけでもなく、淡々とダイヤモンドを回った。打たれた加奈子と弥太郎は普段は仲が悪いくせに、今は二人してグラブ越しに密談を交わしている。

 どうやら少し感傷に浸ってる間に、また一つバッテリーは黒星を喫したようだ。だが二人は打たれること事態は仕方がないと思っているのか、何事も無かったかのように次の打者へと相対する。

 加奈子が投げた球は祐樹の打席を覗くとこの回たったの七球。

 それだけで六年生のレギュラーを料理した加奈子と弥太郎もやはり只者ではなかった。





 甲子園にやっとの思いで出場して、でも初戦で涙を飲んで、大学でやっと指名してくれた球団に何一つ報いることなく、神崎祐樹の人生は終了した。

 何とか同輩のリリーフエースに喰らいついていた打席はもう遠い遠い過去のこと。

 それでもあの打席は神崎祐樹を捕らえて離さない。

 彼がこうして黙々と素振りをこなし、野球理論を勉強しているのも全てはいつかやってくるリベンジマッチのため。

 六歳から始めた遠投は既に前の人生で自分が投げていた最高距離を更新していた。

 走力もこのまま順調に行けば間違いなくハイスコアを叩きだせる。

 バッティングもとても小学生が真似できないような領域まで到達した。

 けれどもこの世界で十年間生きてきて、何処か愕然と足りないものがあるような気がしていた。

 彼がそれを見つけるはもっとずっと後のことになる。


 

「祐樹、いよいよ来週は県大会だな」

 食卓の席で我が家の大黒柱である父が祐樹に声を掛けた。上機嫌にビールを注ぐ様はいかにも父親と言った感じだ。

「お兄ちゃんはまた四番を打つんだよね。凄いよね、六年生だって一杯いるのに」

 祐樹にご飯を注ぐ母親がころころと笑った。二児の母とは思えない容姿が目を引く。祐樹は随分と母親似だったから、容姿の面で苦労することはこれからも無いだろう。それは隣でピーマンと格闘している妹も同じことだ。

 四番を打つと聞いてさらに機嫌を良くした父親は、自身の皿から豚カツを数切れ祐樹とその妹の皿に移しながらこう言った。

「お祖父さんに続いて職業野球選手が家から生まれるとなると、胸が熱くなるな」

 父の言う通り、神崎の家には既にプロ野球の経験者がいた。それは昨年の冬に亡くなった祖父のことで、現役時代はそこそこ名の通った外野手だったという。

 祐樹も祖父から教わることは殆どなかったが、それでも一人の野球人として尊敬し、ある意味でこの世界における目標のような人だった。

 そんな祖父の口癖は

「祐樹は絶対に俺以上の外野手になる。必ずプロになってスターになれる。そしたら肉をたんまり食えるぞ」

 最後の肉云々が戦後直ぐの選手だった祖父らしくて、祐樹は好きだった。祐樹も前世では一般人以上には年棒を受け取っていたので、そこそこ裕福な暮らしをしていたから、こういったハングリー精神はとてもありがたい。

 今の水平に寝かせたバットから繰り出す打撃も祖父譲りのものだ。

「試合日は来週の土曜日か。何とか休みは貰えそうだから、父さん応援に行くぞ」

「いくいくー。タマもいくー!」

 黙々と夕食を食べ続けていた妹の珠がそんなことを言ったので食卓は笑いの席に包まれた。

 プロ野球選手をやっていた頃、久しく忘れていた光景に祐樹は人知れず笑っていた。





 祐樹と加奈子、そして弥太郎の三人の日課に放課後特訓というものがある。

 クラブチームの練習がない日を適当に繕って、打者対バッテリーの模擬戦を河川敷で行うのだ。

 ルールはとてもシンプル。バッテリーが打者と対戦し、討ち取ったらバッテリーの勝ち、ヒット性の当たりを打ったら打者の勝ちだ。

 三人が出会ってから、正確には加奈子と祐樹が出会ってからずっと続けられている特訓である。

「いっくよー」

 弥太郎のリードに従って加奈子が白球を投げた。振りかぶってからリリースするまでの動作が様になっていて、少女だと思って舐めてかかると凡打の山を築くことになる。だが打者を務める祐樹は誰よりも加奈子の凄さを、そして弥太郎のリードの巧みさを知っていた。彼に油断は微塵もない。

「ボール!」

 弥太郎が判定をコール。最初から狙って外した球なので加奈子に動揺はない。足元をスパイクでひとつ均し、次の投球に入る。

 祐樹は加奈子の手から白球が離れた瞬間、外角低めだ、と読んだ。

 一球目には沈黙していたバットが二球目にして強振される。芯で捕らえた完璧な当たりは、整地されたグラウンドを悠々飛び越えて、セイタカアワダチソウの森林に落ちた。 

「げ、またホームランかよ。水平スイングの癖にどうやったらそんなに飛ぶんだ」

「加奈子の球のノビが良い所為だよ。典型的な一発病だな。女子だからどうしても軽い」

「これでフォークやチェンジアップを覚えると手が付けられなくなるんだけどなー。リトルリーグは変化球禁止だけど」

 二人が話し合ってると、即席マウンドから加奈子が降りてきた。彼女は祐樹に打たれたためかそれほど意気消沈することなく、ピッチャー交代と祐樹にグラブを投げて寄越した。

「次は誰がバッター?」

「俺がやるよ。ピッチャーは祐樹で。こいつの球は速いから防具付けろよ」

 加奈子が弥太郎からキャッチャー防具を受け取り、かちゃかちゃと身に纏っていく。祐樹はマウンドに上って、弥太郎に対し軽いキャッチボールを始めた。

「準備できたよー」

 加奈子が手を振り二人に合図を送る。弥太郎が打席に入り、祐樹がボールを握った。

「プレイボール!」

 今度は加奈子が構えて弥太郎を討ち取るべくリードを要求する。彼女もまた、こうした特訓を繰り返すうちにキャッチャーとしての能力を開花させていった。キャッチングに関しては多分弥太郎より上達している。

「こいやぁ!」

 無駄に気合が入っている弥太郎を見て祐樹は警戒した。イカサマをしている自分ほどではないものの、この少年もバッティングに中々のセンスを秘めている。

 一球めの要求は真ん中やや低め。弥太郎が若干ホームベース寄りに立っている為のリードだ。祐樹はこれもまた小学生では珍しいサイドスローモーションから白球を放った。オーバーで投げると加奈子が怪我をする可能性があるのだ。

 ひゅんと腕が振り切られ、白球は加奈子の要求どおり吸い込まれていく。判定はストライク。どうやら弥太郎の狙い球は低めに無いようだ。

 二球目は一球目より少し下。完全なボールコース。

 ざっとマウンドを蹴飛ばし、ムチのように腕をしならせて二級目が投げられた。

 弥太郎が下半身を崩しながらも、鋭いスイングで白球を捕らえる。

「どうだ!」

 高々と打ち上がった打球は角度も速度も十分だ。だが如何せんタイミングが早い。直ぐに切れ始めるとファールゾーンに指定したラインを超えた。

「ファール。焦りすぎだよ。馬鹿」

 回収可能な地点にボールが落ちたので加奈子がボールを拾いに行く。祐樹も向かおうとしたが、「ゆーくんはゆっくりしてて」と謎の気遣いを頂き、マウンドの上で手持ち無沙汰。

 そんな三人の下へ来客が訪れたのは加奈子が戻ってきた時だった。

「君たち野球してるの? 俺も混ぜてよ」

 河川敷の横を通る遊歩道から降りてきたのは自分たちと同じぐらいの年の少年だった。野球帽にTシャツ姿で中々に容姿が整っている。

 体つきから、何かしらスポーツ――まあ普段から野球をしていることは明らかな少年だった。

「君たちが余りにも熱心だから、今までは声を掛け辛かったんだけど……」

「けっ、これは三人用だぜ」

 何故か敵意剥き出しの弥太郎が威嚇するが、加奈子の蹴りで沈黙する。祐樹は少年をいぶかしみながらも、取り合えずOKを出した。

「なら一回だけ投手をさせてよ。君が投げてる球を見たらとても投げたくなったんだ」

 少年の台詞にまたもや弥太郎が喚くが、とっとと打席に入れという祐樹と加奈子の熱い指導を受け、渋々バットを持った。簡単なルールが守備に就く祐樹から説明される。

 カウントはリセット。一打席勝負。変化球はなし。キャッチャーのリードに従うこと。

 少年はわかったわかったと笑顔で答え、キャッチャーをしている加奈子からボールを受け取った。

 今始めて出会ったはずなのに、祐樹は少年を何処かで見たような気がした。

「それじゃあいくよ」

 少年が振りかぶり、投球動作へ入る。小さく纏まったオーバースローが祐樹の投球動作と対照的だった。

「あっ」

 祐樹はそれを見て、思わず声を上げた。

 低重心のしっかりした下半身から繰り出される身体の回転。

 祐樹のサイドスローとはまた違った美しい腕のしなり。

 何よりリリースした瞬間に発せられた指バネの音。

 間違いない。今はどれも荒削りだが、そこにあった投球は――、

「嘘だろ……」

 バシン、と小学生ならない球が加奈子のミットに納まる。予想外の衝撃に彼女は悲鳴を上げていた。さらに打席でボールを待ち受けていた弥太郎もぽかん、と大口を開けて立ち尽くす。

 祐樹は守備位置から一歩も動くことが出来ず、ただただピッチャーの少年を呆然と眺めていた。

 理由は至極簡単だ。

 何故なら、彼を縛り付けているあの日の打席、あのマウンドに立っていた男がこうして目の前に現れたのだから。

 あと二十年近く経たなければ対戦できないピッチャー。

 祐樹にある意味で引導を渡した男が幼い頃の姿でこうして目の前に立っている。もちろん、別世界に転生したわけだから同一人物なわけがない。

 だが祐樹にそう錯覚させるほど姿かたち、そして野球の動作実力が酷似していた。

 加奈子と弥太郎はそのピッチングに驚き、
 
 祐樹は予想外の出会いに言葉を失う。

 少年は外野や打者の驚きを意にも返さず、二球目の投球に入った。

 バットの空振り音とミットを打ち据える音が夕暮れの河川敷に轟く。




 結局、結果を記すまでもなく弥太郎は三球三振。一応満足したのか少年は礼を一つ言って三人の前から去っていった。

 弥太郎は悔しそうに臍を噛み、加奈子は球を受けた手に息を吹きかけていた。どうやら相当重たい球だったようだ。一方、外野に立ち尽くした祐樹は二人に声を掛けられるまで、少年が消えた方角を見ていた。

「あいつ名前言わなかったな」

「ほんとだ。何処の子なんだろう? うちの小学校にはいないよね」

 三人で自転車を押し、帰り道を共にする。

 弥太郎と加奈子は突然の乱入者を延々と語らっていた。

「ねえ、ゆーくん。ゆーくんは誰だか知ってる?」

 突然会話が振られた。祐樹は足を止めて後ろを歩いていた二人に振り返る。この時夢遊病者のようにふらふらと祐樹が歩いていなければきっと「知らない」と答えたに違いない。

 だが、ある意味当然の、しかし衝撃的だった出会いは完全に祐樹をおかしくしていた。

 ぽつり、と祐樹がこぼす。

「大塚、大塚健二。ストレートが決め球の豪腕だよ」

 言って、しまったと思ってももう遅い。けれども二人は何で祐樹が知っているのかも気にすることなく、どうやったらあの球が打てるようになるのか大激論を始めた。

 祐樹はこの二人が野球馬鹿で助かったと思うと同時に、前世での大塚健二という男を考えていた。

 同時期にプロ入りしただけで特に接点が無い他球団の選手。

 リリーフエースとして名を馳せて、代打屋だった自分とは決定的に違う選手。

 そして、彼の剛球を加速させた自打球は自分の命を奪ったという事実。

 もしかしたらあの打席で生じた因果を持ち越してしまったのかもしれない。

 祐樹は祐樹なりに、今日出会った前世の天敵について、後ろの二人までとは言わないにしろ、それでも結構真面目に思案するのだった。






 あとこれは完全な余談だが、

 祐樹がかの少年の名前が「大塚健二」とは限らないことに気がついたのは就寝前のことである。





 ◆◇◆◇ 
 
おまけ プロスピ的ステータス(verリトルリーグ)


神崎祐樹(10) かんざき ゆうき

右投げ左打ち

右巧打力 S
左巧打力 A
長打力  A
走力   A
肩力   S
守備適正  右翼 S
        中堅 A
        左翼 A


特殊能力  成長◎(パワプロ的?)
        アベレージヒッター
        チャンスメーカー
        盗塁↑2
        走塁↑3
        助走キャッチ
        レーザービーム

 ◆◇◆◇ 


木田 弥太郎(10) きだ やたろう

右投げ左打ち

右巧打力 B
左巧打力 D
長打力  C
走力   C
肩力   B
守備適正  
        捕手 B
        右翼 D
        中堅 E
        左翼 E


特殊能力  なし

 ◆◇◆◇ 


投手はBBH風

佐久間 加奈子(10) さくま かなこ

右投げ右打ち  スリークォーター

球威     12
変化球    15
コントロール 18
スタミナ    15
守備力    13

合計  73

変化球 特殊能力なし

 ◆◇◆◇ 

大塚 健二(10) おおつか けんじ

左投げ左打ち オーバースロー

球威     18
変化球    15
コントロール 15
スタミナ    17
守備力    14

合計  79

特殊能力 打球反応○ 威圧感 剛球

 ◆◇◆◇ 

神崎 祐樹(10) かんざき ゆうき

右投げ左打ち サイドスロー(ただしオーバースロー時は不明)

球威     14
変化球    15
コントロール 16
スタミナ    17
守備力    14

合計  76

特殊能力 打球反応○ 

 

 

 



[22750] 第三球目【県大会でガチンコなの! の巻】 前編
Name: H&K◆6803d1d7 ID:daca760b
Date: 2012/05/02 22:45
 今更隠す必要も無いのでぶっちゃて言うと、私こと佐久間加奈子は神崎祐樹が好きだ。
 
 我ながらませていると思うけど、愛していると言っていい。同学年の女の子が男の子を好きになる好きとは一線を画していると自分では思っている。

 家が殆ど隣同士だから、生まれたときから隣にいた少年。普段は殆ど喋らないけど、実はとても熱血さんで、尚且つ優しく大人っぽい子。

 こんなカッコいい少年のそばにずっといたらそりゃあ惚れてしまう。

 一度異性として意識してしまえば、もう後は簡単だった。自分の気持ちに素直な私は自分の欲望のままにゆーくんへ付きまとう。

 例えば毎朝、私は彼が家を出るより早くに彼の家を訪ね、恭しく幼馴染を迎いにきた女の子になるのだ。

 ほら、若干眠たそうにしながらもしっかりと手を振りながら家から出てきた。

 母親から体操着を受け取り、今日はいつぐらいに帰宅するだの、夕飯は何が良いだのを話して私の元にやって来る。

 これが私の一日の始まり。これが私たち二人の始まりなのだ。

「さっ、ゆーくん。学校にいこ♪」

 さりげなく手を繋いで道を歩く。後からやって来た弥太郎から夫婦とからかわれようと、私はその手を離さない。

 女の子にも意地というものがあるのだ。

 まあ意地云々はさておき(全然良くないけど)手の平関係で一つ懸案事項がある。

 それは明日に迫った県大会の話だ。

 ゆーくんと繋いだ手の平に残された小さな痣。大塚健二とかいうオロナミンだかポカリだかそういったものを作っている会社の回し者見たいな苗字の少年。

 彼の速球を受けたとき、恥ずかしながら左手を痛めてしまった。もちろんこのことは監督にもゆーくん達にも言っていない。もしそんなことを告白してしまえば明日の先発は立ち消えになる。

 それだけは、何としても避けたかった。

 そもそも私が野球をしているのは弥太郎と談笑を続けるゆーくんの側に少しでも一緒にいることだから、明日の県大会でベンチスタートになると全く持って無意味極まりない。

 そんなことになるくらいなら、いっそのこと風邪でもでっち上げて休んでやろうと考えている。

 もちろん余りにも刹那的過ぎる最終手段なので試合に先発して大人しくしているのが一番よろしい。

 だから私は痛みを悟られないよう、敢えてゆーくんの手をいつも通り握って平静をアピールしているのだ。ま、握ってるだけなら痛みもそれほどじゃないんだけど。

 とりあえず、さっきから夫婦夫婦五月蝿い馬鹿を蹴飛ばしてゆーくんの腕に抱きつく。

 ああ。やっぱ好きな男の子の体温は気持ち良いなぁ。お腹がきゅんきゅんする。

 これが私の幸せの原点なのだ。





 
 大学四年生の時に、ドラフト四順目でとある球団に指名された。

 観客動員数は常にトップを走り続けるリーグの人気球団だった。

 指名会見の後、人知れずホテルのトイレで泣いたのは今では良い思い出になっている。それほどそのチームの選手になれたことが嬉かった。

 当時の野球雑誌で見た自分に対する評価は『広角に打ち分けるシェアなバッティングと確実性のある守備』だったように思う。

 結局入団二年目で故障を抱え、一軍への定着も出来ず、自由契約の恐怖と戦いながら得た場所は代打の代打だったが。

 広角に打ち分けることも、ミートすることも出来なかったけど、左打者という一点だけで何とか生き残ることが出来た。

 もちろんプロ選手として生きていくための努力はした。

 一軍レギュラーの選手が祝勝会とは名ばかりの夜遊びに出かけている間も、自宅に戻って素振りを続けたし、珍しく打席が回ってきた日は試合ビデオをテレビ画面に穴が開くほど見つめていたものだ。自慢じゃないが同世代の選手の中ではダントツの練習量だった。

 それでもスタメンなんて夢のまた夢。才能が無かったといえば諦めがつくのだが、なまじ故障を抱えていた所為で故障さえなければと自分の身体を恨むことも多々あった。

 いつ出番が来るかも全く解らず、二軍で調子の良い選手がいれば直ぐに入れ替えられてしまう日々。

 自分より年下の選手が次々と活躍し、ファンに囲まれてサインをねだられている光景を遠目からいつも見ていた。そこに嫉妬が無かったといえば嘘になるけど、やはりまともにプレイできない悔しさとチームの役に立てないやるせなさが胸を貫いていた。

 気がつけば、逃げるようにして人目を避ける自分がいた。

 端的に言えばもう限界だったのだろう。バットを握ることが時が経つにつれ億劫になったし白球を見れば吐き気が止まらなくなった。

 何度か実家に電話しようと思ったけれど、親に心配を掛けたくない一心で出来るだけ連絡は取らないようにした。

 そして何時の間にか自宅での自主練もしなくなって暇さえあればどうして野球なんて始めたのか、どうして野球なんてしているのかを延々と考えるようになった。

 チャンスで打てなければファンにも監督にも罵倒されスポーツ新聞では面白おかしく報道される。

 どんな思いで毎日プレイしているのか考えたこともない癖に翌日のスポーツニュースでは能天気な声色で球界の大御所がケチを付けてきた。

 昔はこんな悩みとは全くの無縁でそして全くの無心で白球を追っかけていた。

 気の会う仲間と草野球をした小学生時代。学区のエースとして君臨した中学生時代。そして甲子園のスタメンとしてチームメイトと涙を呑んだ高校生時代。

 大学野球も仲間と勝つことは勿論、日々のプレーが充実することだけを願っていた。

 あの頃は野球が出来るだけで幸せだった。意味もなく白球を見つめることだけが生き甲斐だった。

 神崎祐樹として二十二年間積み上げた野球人生はそれはとても素晴らしく、美しい日々だった。でもそれはたった五年間のプロ生活で鈍色に塗り替えられ絶望と嘆きの毎日に摩り替わってしまう。

 とにかく野球を恨み、こんな思いを抱いてしまった自分を憎み続けた。

 最早バットを握るのもおこがましく、白球を見るのも全てに対する冒涜だった。

 でもそんな腐りきったプロ野球人生で唯一、全てのプレイヤーに胸を張れる打席が一つだけあった。

 
 日本シリーズ第五戦。勝てば日本一のあの試合。 

 十二回の裏、ランナー三塁。ツーアウト。

 
 もちろん周囲から望まれて、増してや自分から望んで挑んだ打席ではない。だが間違いなくあの打席では己が主役だった。

 リリーフエースとして君臨し、自分とは全て対極にいた同輩に食らいついていた最高のステージ。

 あの時の興奮は今でも手に取るように覚えている。手が震えるような錯覚、剛球をカットしたときの目の覚めるような打撃音。全てが静寂で、全てが色を持って、勝っても負けても決して悔いの残らないような夢のカケラ。

 今までの野球人生を全部チャラにしてくれる最後のチャンス。

 だがそれも自打球を頭部に受けることで全て不意にしてしまった。

 失ったものは余りにも大きく、悔やんでも悔やみきれない。

 そのまま死んだことよりも、あの打席の結果を知ることが出来なかったことだけがとても惜しい。

 神崎祐樹は野球を続ける。

 多分それは、前の世界で失った野球の面白さをあの打席を再現することで取り戻すため。

 そしてもう一度、心から野球がしたいと思えるような、そんなプレイヤーになるため。

 彼の戦いはまだまだ続く。




 
 リトルリーグ県大会は最大で三試合戦うことになる。初戦と準決勝、決勝といった具合だ。

 その内、チームのエースである佐久間加奈子の先発は初戦と決勝が予定されていた。

 球場に到着し、ウォーミングアップが終了した時点で監督からオーダーが発表されたのだ。

「やっぱ四番はお前か。まあ打率が六割超えてるもんな」

 ベンチで靴紐を結ぶ六年生がぼやいた。祐樹の前を打つ“元四番”である。祐樹はただ曖昧に笑って見せた。

 昔、奪われ続ける立場にいた身としては安易な励ましは掛けたくなかったし、自分が活躍することでこの六年生が報われる何て綺麗事を唱えるつもりもさらさら無かった。

 六年生は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、ドスドス足音を響かせて試合プランを伝える監督の下へ歩いていった。

「嫉妬してるんだよ。あの上級生は。ゆーくんは沢山練習して来たんだから堂々としてればいいの」

 そんな祐樹の脇では加奈子は髪を纏めていた。ポニーテール気味にヒアバンドを止め、尾っぽを野球帽の中に仕舞う。

 この小さなエースは試合前だというのに緊張感の欠片も無かった。まあそれは向こうで下級生相手に馬鹿をやっている馬鹿(弥太郎)も同じことだったが。

「誰かが言ってたじゃない。スポーツは実力主義だって。私はまさにその通りだと思うな」

 祐樹は同意しなかった。彼は六年生にやったようまた曖昧に笑った。それでも加奈子は何を勘違いしたのかにこー、と微笑んでくる。今の自分には勿体ないほど可愛い女の子だと祐樹は思った。

 試合がもう直ぐ始まる。

 祐樹は思い出しそうになるうだつの上がらない昔の自分を抑えて、グラブの甲で頬を叩いた。彼の横では加奈子が真似をして同じことをしている。弥太郎も目ざとくやって来ては、加奈子のデコを叩いて平手を食らっていた。(流石にスパイクを履いているので蹴りはしない)

 異色の四年生トリオは共に駆け出すと、守備の為にグラウンド――それぞれのポジションにつく。

 加奈子はマウンドへ、弥太郎はホームベースへ。

 祐樹は外野の芝を踏みしめ右翼のポジションについた。背後ではしっかりと応援席を確保した両親と妹が声援を送っている。プロ時代に見ていた外野スタンドに比べると何とも貧相なものだが、今のほうが断然彼の力になった。

 生前、守りたくても守れなかった守備。

 祐樹は自分の定位置を、聖域を守るように芝を蹴る。空を見上げれば雲ひとつない青空があった。絶好の野球日和に目を細める。

「プレイボール!」

 審判のコールが響き、加奈子が振りかぶった。

 祐樹は空を見上げたまま白球が飛んでくるのを待つ。今はこうするだけでも、野球の楽しさがわかるような気がした。
 
「さあ、野球をしよう」

 呟きは鈍い打撃音と、自軍の歓声に掻き消される。




◆◇◆◇◆◇◆




 程よい疲労感が全身を包んでいる。ベンチで二回戦――事実上の準決勝を眺めながら私はスポーツ飲料の入ったペットボトルを傾けていた。

「加奈子、決勝は投げれるか?」

 監督が私に聞く。ベンチに備え付けのスコアボードを見れば、既にうちのチームは十点以上リードしていて準決勝突破は確実だった。

「大丈夫です。それほど球数は多くないです」

 私の言質をとって満足したのか監督は控えが座ってる反対側のベンチに向かった。大方主力温存の為の守備固めを打ち合わせに言ったのだろう。

 私は監督が去った後、痣が残った手の平を見た。利き腕でないのが救いではあるが、投球で揺さぶられている間に痛みがぶり返してきた。何よりさっきの試合で小さなピッチャーライナーを捕球したのが致命傷だった。咄嗟にグラブを出してしまった自分を呪うしかない。

「どうしよう……」

 集中力の乱れはあるものの、投球自体にこの痛みは関係がない。だがもう一度ライナーを取る自信はない。それどころか平凡なゴロですら痛くて取ることが出来ないだろう。

 顔を上げれば我が軍の戦況が映る。丁度うちの六年生ピッチャーが投げたボールがライナーとなって弾き返されていた。

 ヒット性の当たりだったが、飛んだ場所が良かった。

 右翼前方に飛んだライナーはライトの手前に落ちるか落ちないか。それでもそこにいる少年は敢然と猛ダッシュを仕掛けて、殆どスライディングに近い形で白球に飛びつく。

 球場が一瞬静まり返り、そして保護者や応援席の拍手に包まれた。起き上がったゆーくんのグラブには見事白球が収まっており、審判が甲高い声でアウトをコールした。

 そのあんまりな結果に、打った打者はとぼとぼと自分のベンチに引き上げていく。

 私も手を叩くことは出来ないけれど、精一杯の賛辞をベンチから贈った。





 もう一度自分の手を見る。私は、私が野球をする理由を考える。

 
 好きな男の子に褒めてもらいたいから。

 少しでも側にいたいから。

 
 私はとても自分勝手な理由で野球をやっている。でもそこに嘘偽りはない。

 がやがやとベンチが騒がしくなった。見れば守備を終えたナインの皆が引き上げてくる。私は無意識にゆーくんの姿を探した。彼は弥太郎の馬鹿にファインプレーを褒められながら(だからってミットで頭を叩くな)皆に囲まれて帰ってくる。

 私は自分の飲みかけだったペットボトルを差し出した。

「さんきゅ、加奈子。次の試合は頼むぞ。やっぱ加奈子じゃないと守備のしやすさが断然違う」

 きゅん。

 笑顔で答えるゆーくんはやっぱカッコいいし、大好きだ。彼は自分が考えている以上にこっちが参ってしまうようなことを言ってくれる。

 私はさっきまで悩んでいたのが嘘みたいに親指を立ててこう言った。

「まかせて!」

 不安も痛みも何もかも吹き飛んで私は幸せで一杯になる。


◆◇◆◇◆◇◆


 昼休みを挟んで決勝戦が始まった。祐樹たちが所属するチームは無事準決勝を勝ち進み、今もこうして試合前のミーティングを開いている。

 監督は相手チームのメンバー表に目を通しながら注意すべき選手やチームの特徴を説明した。

「……あー、バッターはこれで終わりだ。一回戦で当たった所に比べれば打力は低い。だが問題は投手力だ。次の先発が予想される六年生エースは実力も十分だし、何よりこのチームにはこいつがいる」

 監督がメンバー表を指差し、スタメンの野手全員に見せた。息を飲んだのは弥太郎と祐樹だったか。二人はメンバー表の最後に書かれた控え投手の名前を知っていた。

「大塚健二。四年生でエースを務める実力派だ。この少年はリトルリーグ界ではかなり有名でな、何でも地方の名門校から既にスカウトの息が掛かっているらしい」

 監督が健二について概要を説明していく。だが祐樹と弥太郎はそんな説明を聞かずとも痛いほど健二の実力を知っていた。

 実際、弥太郎は健二の剛球の前に一度もバットをボールに当てることが出来なかった。

「大塚は幸い準決勝を投げていて、先発してくる可能性は低い。だがリリーフでの登板が予想される。皆頼んだぞ」

 監督の激励を終えて、各人がグラウンドに展開する。今回も後攻側。控えのキャッチャーに投げ込んでいた加奈子と弥太郎が合流し、先ほどのミーティングの内容を伝えていた。

 祐樹は一人ライトに駆け足で向かって、複数ある定位置を行ったり来たりしながら試合開始に備える。

 流石に決勝となると球場の雰囲気も別のものに入れ替わっていた。



 
「センター!」

 加奈子の球が弾かれ、センターに飛んでいく。ただ、ずん止まりな当たりの所為で何事もなくセンターフライに終わった。

「ふう、あぶねえ……」

 弥太郎はアゴを伝う汗を手の甲で拭い、マウンドで白球を握る加奈子に目線をやった。球のノビは申し分ないが、さっきからコントロールが甘くなっており、今のようにバットへ合わせられることが多くなっていた。

「疲れてんのか?」

 内角低めを要求しミットを構える。加奈子が一つ頷き投球モーションへ。

 カッコいいからという理由で始めた振りかぶりと、一瞬だけ上げた足を止める動作。

 そして巻き取るように伸びてくるスリークォーターの腕。

 パシン、と小気味良い音を立ててボールがミットに収まり、球審がストライクをコールする。

「よし、この調子だ」

 次は外角高めのボール球。空振りが取れれば恩の字。カウントを作るための捨て球だ。

 だが、

「馬鹿!」

 要求よりボール二個は内角に入ってくる完全な投球ミス。マウンド上の加奈子もしまった、と顔を歪ませており、狙って投げたものではないと弥太郎に伝えている。

 やはりと言うべきか白球は弥太郎のミットに納まらず、右バッターが差し出したバットの先に弾かれてライト方向に良い当たりが飛んでいった。抜ければ長打コースだ。

「祐樹!」

 果たして叫びは届いたのか、回り込むように走りこんだ祐樹が一歩ジャンプして白球を捕球した。本日二度目のファインプレーに場内が沸き立つ。それでも弥太郎と加奈子のバッテリーは気不味い雰囲気のまま、この回三人目の打者と相対した。

 今日の加奈子は何かおかしい。

 弥太郎は漠然とそう感じながらも、加奈子の不調の原因がてんでわからなかった。




 やばいやばいやばい。

 頭の中でやばいがゲシュタルト崩壊を起こすぐらいやばかった。

 鈍痛だった手の痛みが回を追う毎に加速している。さっきの回なんか痛くて痛くて全然指に力が入らなかった。

 大した怪我じゃない筈なのに身体を動かすたびに刺すような痛み。もしかしたらライナーを捕球したとき、完全に傷めたのかもしれない。

 私は周りに怪我を気取られないよう、グラブをはめたまま戦況を見守った。

 そうでもしないと、余計なことを弥太郎当たりに詮索されるのが目に見えていたのだ。こっちも熱心に応援している限り誰も声を掛けてこないだろう。

 私はグラウンドを見やる。
 
 すると目に飛び込んで来たのは、ここまで自分を痛めつけながらも、私がマウンドに立ち続ける動機をくれる少年だった。

「行けー! かんざきー! かっ飛ばせーっ!」

 チームメイトの野次にも似た応援に小さく手を振る。バットを手にし、いつもの左打席へ。内野の守備位置を確認し、バットを頭上に掲げた独特のフォームで相手ピッチャーを見据えた。

 自然と、私の目線は彼を追う。

「プレイボール!」

 ピッチャーとバッターの一騎打ちが始まる。ここまでゆーくんの成績は二打数二安打。長打も一本打ってるけど後が続かなかった。因みにチームスコアは0-0のイーブン。

 バッテリーはやはり警戒しているのか、まともな勝負を避け外角の一辺倒の攻めを始めた。

 それを見て私と――私の女房役である弥太郎は思わず笑みを浮かべた。

 そう、その攻め方は私たちが一年も前に通った道。

 ゆーくんに弱点のコースなんてありゃしない。彼を討ち取りたければリトルリーグで禁止されている変化球を交えて緩急を付け、打ち損じを狙うしかない。

 今の相手バッテリーのように外角に同じ速さのボールを続けると――、


 水平軌道から繰り出されたのは芸術品にも似たレベルスイング。

 外角低めを打ち据えたのに、バットの軌道は乱れることなく白球に吸い付く。

 バッターの手には芯で捕らえたという感触のみが伝わった。

 弾けるように、バットを振り切る前に打ちあがった打球は失速を知らない。

 ナインの頭を次々と越していった打球は外野フェンスを越えて、観客席に飛び込んでいった。


「よっしゃー!」

 弥太郎が拳を突き上げる。私も痛みを忘れて飛び上がっていた。

 先制のソロホームラン。私と弥太郎が予感したとおり、ゆーくんはやっぱりやってくれた。

 ダイヤモンドを一周し、皆に祝福されながらゆーくんがベンチに帰ってきた。弥太郎がミットでゆーくんの頭を叩いて(今だけは許す)馬鹿みたいに喜んでいる。

 そんな手厚い歓迎をされたゆーくんはベンチに腰掛ける私の目の前まで来た。

「何とか一点取った。頑張ってくれよ、加奈子」

 うん、と気の抜けた声が口から漏れる。

 メットを脱ぎ、守備用の野球帽に着替える少年を惚けた眼差しで見つめた。

 三度自分の手を見る。

 痛みはあった。でも、それ以上に胸の高鳴りが私を支配している。私は次のイニングの準備をするゆーくんに後ろから抱きついて、背中に顔を埋めた。

 外野が悲鳴にも似た声を上げるけど私は気にしない。

「頑張るから、ゆーくんも私を助けてね」

 応、と力強い返事が聞こえる。イニングはまだ三回の裏。守備回は後二回残っている。

 私は絶対に負けるもんか、とゆーくんの背中の上で意気込んでいた。

 彼が私を褒め続けてくれる限り、彼が私のそばにいてくれる限り私は投げ続ける。

 随分と男らしい内心だな、と思いつつも決意は変えない。

 やっぱ大好きな男の子のために頑張る少女というのは、存外乙女だと思うのだ。



 さあ、野球をしよう。







[22750] 第四球目【県大会でガチンコなの! の巻】 中編
Name: H&K◆6803d1d7 ID:2f24f78b
Date: 2012/05/02 22:45
 マウンドに駆け上がった見知った姿に、僕は自然と頬が綻んだ。

 彼女は確か河川敷で僕のキャッチャーを努めてくれた女の子だ。

 さらにバッターだった少年はキャッチャーに。外野守備をしていた少年はライトに立った。(どうやらピッチャーではなかったらしい)

 何となくこの県大会でもう一度出会えるような気がしていたけど、まさか決勝の舞台で戦うことになるとは思わなかった。

 野球の神様はほんと気まぐれで粋なことをする。

 僕は控えとして、彼らの戦いぶりを存分に見学することにした。




 ――さて果てさっきまでのそんな暢気な気分は何処へやら。

 僕のいるベンチ内が段々騒がしくなってきた。理由は至極簡単。先制された上、こちらはまともな反撃を一度もしていないからだ。

 前のイニングは良い当たりを連発してピッチャーの女の子を揺さぶったけど、彼女は味方に先制してもらった途端、まるで別人のようなピッチングをし始めた。コーナーに速球がビシバシ決まり、見逃し三振の山を築いている。

 スタメンを組んでいるレギュラーの六年生にも焦りが出始め、守備の回もエラーが出始めた。

 何とか後続を断って追加点は防いだみたいだけど、ベンチムードは最悪。このまま無駄にイニングを喰えば敗北は必死だ。

 僕はこの全ての元凶とも言える敵のライトを見やった。ライトで芝を慣らしている彼は三打数三安打。うちホームランが一本と大金星の活躍をしている。

 また守備面でも堅実なプレーを披露し、保護者の喝采を一身に浴びていた。

「すごいなあ」

 溜息にも似た賞賛が口をつついて出てきた。河川敷で良い球を投げていたから、何処かのクラブチームでエースでもやっているのかと思えば、まさか四番のスラッガーだったとは。

 少しだけ湧いていた仲間意識とライバル意識が、完全に打者と投手という敵対意識に変わっていた。

 そして、彼とエースとして相対したいという欲求が際限なく溢れ出してきた。

 本当に準決勝を完投した選択が悔やまれる。どうせあのままリリーフにマウンドを譲っても勝ち進んでいたのだから、少しでもスタミナを温存して決勝戦で使えばよかった。

 まあ登板のチャンスがないかといえばそんなことはない。

 もし味方が向こうのエースを攻略して――、最悪同点にでもしてくれればリリーフとして投げることが出来る。

 そうすれば彼と対戦することがもしかしたら出来るかもしてない。

 どっちにしろ望み薄な願いだが、僕はベンチから精一杯激を飛ばしながら味方の発奮を待った。





「にゃはは、絶好調~!」

 弥太郎からボールを受け取るたびにボルテージが上がっていく。面白いくらいコーナーに決まるストレートが楽しくて私はハイになっていた。

 現在は四回の表。カウントはツーアウト。あと一人討ち取ればラストイニングを残すのみとなる。

 私は弥太郎のリードを覗き込んでプレートを踏んだ。

 ゆーくんのために学んだフォームで振りかぶり、

 ゆーくんのために練習したスリークォーターでボールを投げる。

 やや斜め上から打者の内角へ入っていくストレート。

 慌てて身体を引いてバットを出すバッターだけど、そんな小細工をあざ笑うかのようにボールはミットへ吸い込まれていく。

 空振り三振。

 球審がコールしたアウトのコールに、私は利き腕を突き上げた。

「よし!」

 わああああ、と外野スタンド、そして私のチームのベンチが揺れた。弥太郎がマウンドに上がってきて肩をポンポンと叩いてくる。いつもならウザイと振り払うけど今日は気分が良い。彼の好きにさせながらベンチの前で外野から帰ってくるゆーくんを迎えた。

「ナイピッチ!」

 親指を突きたてたゆーくんに同じ仕草で答える。遂にここまでこぎつけたという充実感で胸が一杯になった。

「あと1イニングで優勝だ。このチーム始まって以来の快挙になるぞ!」

 監督が上機嫌に笑う。ナインの顔にも笑顔が溢れていた。別段甲子園とか地区大会とか言う大きな大会じゃないけれど、それでも優勝は優勝なのだ。

 私も笑顔の輪に混ざりながら、最後の味方の攻撃を観戦する。ゆーくんに打席が回るわけじゃないけど、それでも最後まで皆と同じことがしたかった。

 あれ? 野球ってこんな感じのスポーツだったけ?





 いよいよ絶望的な展開になってきた。四回表の攻撃も三者凡退。次の五回で一点をもぎ取らないとチームの負けになる。

 僕は別にそれでも良かったけど、彼と対戦できないまま終戦は是非とも回避したかった。

「おい大塚!」

 ベンチの端で腐ってたら突然声を掛けられる。見上げた先にいるのは監督だった。監督は僕を呼び出すと控えのキャッチャーを呼び出してこう言った。

「次の回の途中からお前はマウンドに上がれ。最後のリリーフだ」

 うん? と僕は首を傾げる。チームは負けているのに監督は投げろと指示してくる。これはあれか、思い出登板とかそんな感じなのか。

「次で最後のイニングだ。そこでサヨナラは勘弁したい。このイニングは今投げているあいつに頑張ってもらうが、次のイニングは途中からでも投げて欲しい」

 なるほど、典型的なビハインド時のセットアッパー起用だ。

 ただ作戦としては現在取りうる最善策でもあるので僕は大人しく指示に従う。

 せいぜい味方が追いついてくれるよう天に祈るか。

 弓なりのキャッチボールを繰り返しながら、僕は対岸のチームを見つめた。

 そこには河川敷で楽しそうに野球をしていたあの三人組がいた。

 思えばずっと前から三人のことは知っていた。クラブチームの練習帰り、夕暮れの河川敷で野球を続けるあの三人。彼らは本当楽しそうに白球と戯れていた。僕はそれが少しだけ羨ましくて、いつも横目で見ながら遊歩道を歩いていた。

 そんな僕が彼らに声を掛けられたのは、僕が対戦を熱望する彼のプレーを見てしまったからだ。

 後からスラッガーと判明した彼だけど、あの時彼が投げていた綺麗なストレートが今でも目に焼きついている。球威も、コントロールも特筆する程のものではないが、あの美しい軌道が僕を捉えて離さない。

 彼のプレーが僕を駄目にする。

 今日のファインプレーもそうだ。回り込んで一歩飛ぶだけで捕球したあのプレーはプロ以外で見たことがない。

 さらにバッテリーの外角攻めをホームランにしてしまった完璧なレベルスイング。

 あのスイングで僕自慢のストレートが巻き込まれてしまったら、それはどんなに爽快で屈辱的なのだろう。
 
 もしあのスイングを潜り抜けて空振りを取れれば、きっと僕はイカレてしまうに違いない。それほどの快感をあのバッターは持っている。

 ああ、見れば見るほど対戦してみたいという欲望が膨れ上がる。彼と毎日対戦できるあの女の子はなんと幸せ者なのだろうか。

 僕は投げたい。
  
 彼に向かって渾身のストレートを投げ込んでみたい。

 自然とキャッチャーに投げ込む球が熱をおび始める。

 エース対スラッガー。

 このスポーツが誕生して以来、最も栄えある不文律の対戦にこの身を投じたかった。

 そして――、

 僕の願いは奇跡的に適うこととなる。

 それも僕が熱望したスラッガーのお陰で。





 ぽーんと微妙な音を立てて白球が打ちあがった。弥太郎はセンターを叫び、呼ばれたセンターも若干ライトよりに走って捕球体勢に入る。

 滞空時間が長いためか、打ったバッターは俯きながらも一塁ベースを回った。

 祐樹はセンターの後ろでその様子をぼんやりと眺める。

 なんでもないフライ。マウンドの加奈子も安心しきった表情でこちらを見ている。ラストイニングの先頭バッターはセンターフライ。誰もがそのシナリオを信じて疑わなかった。

 


 ――そう、野球の神様以外は。




「あっ」

 
 声がして、祐樹が視線を加奈子からセンターに移す。センターはまだ白球を捕球しておらず、グラブを天に掲げていた。

 しかしセンターはもう知っていたのだろう。

 己の描いた軌道予測と実際に落ちてくるフライボールとのズレに。

 白球がグラブを弾く。芝の上をワンバウンド、ツーバウンドし、祐樹の目の前に転がった。

 静まり返っていた場内が糸が切れたように沸き立つ。

「祐樹っ!」

 弥太郎が再び叫ぶ。祐樹は舌打ちを一つすると、転がってきたボールを素手で掴んで肩に力を込める。

 イメージはカタパルト。

 レーザービームと謡われた数々の強肩達。

 全身をしならせ、痛いくらいに握り締められた白球が悲鳴を上げる。ランナーはまだ一塁ベースと二塁ベースの間。全力疾走していたなかった分若干遅れている。

 祐樹はいける! と判断し、小学生離れした――絶え間ない努力の末に獲得した送球技術を惜しげもなく披露した。

 まさにレーザービームと呼ぶに相応しい矢のような送球がセカンドに突き刺さる。

 だが悲しいかな。弓を射る技術がライトにあっても、小学生では決してお目にかかれない送球に驚いたセカンド――ベースカバーに入っていた野手は送球をグラブに掠らせることも出来なかった。

 滑り込んできたランナーに遅れて、無情にも白球は転々とレフト方向に転がっていく。

 このイニング二つ目のエラーに調子付いたのか、ランナーは素早く立ち上がると猛然と三塁ベースに駆け込んだ。

「くそ!」

 確実にアウトのタイミングだったプレイが、祐樹の送球エラーという結果になってしまった。セカンドがグラブに捕球できなかったため、送球した祐樹にエラーが記録されたのだ。彼は渾身のプレーを潰された悔しさ以上に、マウンドに立つ加奈子を救えなかった不甲斐なさでいっぱいだった。

 祐樹ら外野陣を残して内野陣が急遽集まる。この試合初めてのピンチに、チームは確実に乱れていた。

 さっきまで漂っていた勝利ムードが急速に拭い去られる。





 ドーピング効果が今のエラー二つで消えてしまった。や、別にゆーくんの送球はエラーとも何とも思わないけど。その代わりセンターとセカンドはしっかりしてね。

 ……いやいや、そんなふざけたことを言ってる場合ではない。何とセンターフライから一転、ランナー三塁の大ピンチである。

 しかもノーアウト。犠牲フライでも内野ゴロでも同点に追いつかれるカウントだ。確実にアウトを積み重ねるには三振しか許されない状況。

「おい、加奈子……」

 恐らく動揺を全く隠せていない私を気遣ったのだろう。弥太郎が私の背中を二三度叩いた。でも今はリアクションを返している余裕がない。

「一点は仕方がない。三振を狙いに行ったら痛打されるのがオチだ。内野ゴロとフライで確実に仕留めるぞ」

 弥太郎が最もな提案をする。多分それはキャッチャーとして最良の策だ。

 けれど私は――、

「いや。絶対追いつかれたら駄目。このリードは守りきる」

 肩で息をしながらの訴えは果たしてナインに伝わっただろうか。ただ弥太郎は私の真意を悟ったのか馬鹿野郎と罵った。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ! 一点入ってもまだ同点だ! これ以上傷口を広げてどうする!」

 どこまでも弥太郎の馬鹿が言っていることは正しい。でも私はそれがとても腹立たしくて、グラブで口元を隠しながら小さく叫んだ。

「ならどうしてもっと点を取ってくれなかったの! どうして援護してくれないの!」

 それは大抵の投手がいつも感じている憤り。でも絶対に口にしてはいけない言葉。なのに、手の痛みと投手としての焦りから思わず口を突いて出てきた言葉。

 後悔してももう遅い。周囲のナインが殺気立つのが肌で感じられた。そうだ、彼らだって別に遊んでいるわけではない。必死に点をもぎ取ろうとして……、でも結果的にゆーくんのホームランでしか取れなかった。

 それだけのことなのだ。

 だが私はその唯一の得点――、ゆーくんが私のために取ってくれた点を不意にはしたくなかった。

 私はさっきとはうって変わって、今にも消え入りそうな声で訴える。

「早く守備に戻って。絶対三人で仕留める。ゆーくんの得点は誰にもあげない」

 これ以上の説得は無駄だと感じたのか――それともマウンドで駄々をこねる私を見限ったのか内野を守っていた六年生が引き上げていく。弥太郎だけは何故か最後まで残って私に何か言おうとして、でも諦めて渋々持ち場に戻っていった。

 私は次の打者がバッターボックスに入ったのを確認して弥太郎のリードを睨む。

 外角低めのストレート。

 振りかぶって球を投げる。

 指にしっかり掛かったボールはスイングの下を抜けてストライク一つ。三振まであと二つだ。

 次も同じコース。弥太郎は打者が対応し切れていないと踏んだのだろう。私も異論無く頷き、二球目を投じた。

「ボール!」

 打者は振らない。カウントは今のでワンエンドワン。まだ投手有利とも打者有利とも言えないカウント。問題はこれからどうやってカウントを整えるかだ。出来れば次のボールでストライクを取って追い込みたい。

 弥太郎は真ん中やや低めを要求し、尚且つ指を一本立てた。あれはリリースの瞬間力を抜けというサイン。こうすればストレートに球速差が生じ、外角の速い球に目を慣らした打者を翻弄することが出来る。

 ゆーくんを討ち取るために会得した投げ方だが、こういった場面でも十分に役に立つ。

 私はいつも通り振りかぶり、いつも通りスリークォーターで投げた。

 リリースの瞬間、周囲の喧騒が全てなくなる。

 まるでそれは、世界に私一人だけ取り残されたようで。

 マウンドとはかくも孤独な場所だったのかと回想する。

 投手はいつも一人。

 指を抜けていくボールがスローで流れた。手の平の痛みがピークに達し、身体が震える。

 その微細な振動は憎たらしいことにしっかりとボールに伝わった。

 私の気持ちなんて誰にも伝わらない癖に。

 ボールだけは正直に私を映すのだ。






 加奈子の視界の端で三塁ランナーがスタートを切った。加奈子の投じたやや高いボールにそっとバットが差し出される。回転も角度も無かった白球はそれだけでいとも簡単に全てを殺され、転々とピッチャーマウンドに向かって転がった。



 スクイズ!



 弥太郎の叫びに加奈子の身体が反応する。汗を散らせ、野球帽を飛ばしながらマウンドを駆け下りてくる。小さなバウンドを繰り返すボールが転がったのは幸いにもグラブの先。

 このままボールを掬い上げ、弥太郎にトスをすれば十分間に合う距離だった。

 だが加奈子の左手は言うことを聞かない。

 痛みで痺れた感覚からか、ボールへの握りが浅かった。トスをする前にこぼれた白球がまたグラウンドに転がる。

 三塁ランナーがホームに滑り込んだと同時、加奈子がそのまま勢い余って転倒した。それでも彼女はグラブのしていない右手で視界から消えた白球を探した。


 ――その小さな手が触れたのは白球でも土でもなくキャッチャーの少年の指だった。


 彼は加奈子がこぼした白球を拾い上げ、祐樹程ではないものの、自慢の強肩で一塁手に送球する。

 アウトのコールが球場に鳴り響いた。




 ワンアウト ランナーなし 1-1のイーブン。

 スコアボードに刻まれた文字を加奈子は呆然と見上げた。彼女は最早何も言えず、ただマウンドとバッターボックスの間にへたり込んでいる。完全な敗北が彼女の胸に刻みつけられていた。

「加奈子!」

 送球を終え、キャッチャーマスクを外した弥太郎が加奈子に近づく。同時に交代を言い渡しに来た連絡員も彼女の元へ駆け寄った。

「おい、大丈夫か!? 加奈子!」

 声を掛けられるたび、彼女の涙腺が崩壊した。ぽろぽろと先ほど落としてしまった白球のように涙が零れ、やがてそれは嗚咽を伴って数を増す。

「……うぐっ、ひくっ……ご、ごべんなざい……」

 加奈子は謝罪を口にした。それは心無いことを言ってしまったナインに対して、提案を無視する形となった弥太郎に対して、そして自分が台無しにしてしまった先制点を取ってくれた大好きな男の子に対して。

「ほんとう、……わたし……ごめん、なさいっ」

 頬に泥を付け、加奈子は号泣する。エースが見せた突然の少女らしさに、ナインは先ほどまで抱いていた殺気を完全に霧散させて心配そうに集まってきた。

 加奈子は悲しかった。

 自分の身勝手さが悲しかったし、それでも心配してくれる弥太郎に申し訳なかった。全幅の信頼を寄せていた監督にも裏切る形になった。

 もう何だがとても悲しくて涙が止まらなくなった。

 そんな彼女を宥める術をナインは知らない。付き合いの長い弥太郎もどうしていいのかわからず、ただおろおろするばかりだ。

 だが果たして、そんな彼女を唯一慰めることが出来る少年が外野から走ってきた。

 いつも少女のそばにいた少年は二三言連絡員と言葉を交わす。連絡員は直ぐにベンチに駆け戻ると監督に何かを伝えに行った。
 
「加奈子!」

 びくっ、と加奈子の肩が震えた。彼女は背後に立つ少年を見ることが出来ない。彼から罵倒されるのが怖くて、彼から見放されるのが怖くて少女は振り向くことが出来ないのだ。

 加奈子の涙は加速し、グラウンドに小さな染みを作る。

 少年はそっと加奈子の頭に手を置いた。野球帽が脱げ、ポニーテールが剥き出しになった頭に手を置いた。そして声を掛ける。

「まあ色々言いたいことはあるけどよく頑張った。痛いのによく我慢したな」



「え?」

 加奈子が思わず振り返る。涙でぐしょぐしょにした赤い顔で祐樹を見上げた。

「しって、たの?」

「半分推測だけどな。えらいぞ、加奈子」

 ぐしぐし、と頭を撫でられる。加奈子はそれだけで今までの投球が全て報われたような気がした。そうだ、こうして褒めてもらいたいが為に頑張り続けたのだ。

 彼女が野球を続けた原点が今祝福される。

「後は俺達に任せろ。必ず勝つ」

 うん、と加奈子が頷く。相変わらずぽろぽろと涙を零したままだが、それでも祐樹に答える。

「グラブを貸してくれ。お前のグラブで勝ちに行く」

 うん、と加奈子が立ち上がった。祐樹にグラブを渡し、祐樹から外野手用のグラブを受け取る。

「だからベンチで待ってろ。我が軍のエース。エースはそうやってふんぞり返ってればいいんだよ」

 ナインが次々と加奈子の背中を叩いていった。それはここまで力投を続けたエースに対するねぎらいであり、激励でもある。グラウンドに立っていた全員が加奈子のピッチングを認めていた。加奈子をエースと認めていた。

 最後に、祐樹が加奈子の頭を一つ小突いて告げた。

「もう一点、取ってやるよ」

 加奈子は熱い目元を押さえながら、力強く頷いた。




 イニングの途中からマウンドに上がったのは祐樹だった。

 ここまでスラッガーとして君臨していた少年の緊急登板に健二のチームは浮き足立っていた。

 小学生の間では珍しい、サイドスローから繰り出される横の角度がついた速球は誰一人として打つことが出来なかった。

 もともと前世では中学までエースだった祐樹だから、小学生如きを料理するのにそれ程手間は掛からなかった。

 監督も投手転向を強く勧めた時期があったが、野手一本に専念したいという祐樹の要望から今回のような形でしか彼は登板しない。

 それ故、どこのチームも彼に関するデータを持っていなかったというのも大きかった。



 
 時をそれほど待たずして、サヨナラのイニングに試合は突入する。

 先頭バッターは一番の弥太郎。彼以降一人でも出塁すれば祐樹まで回る計算だ。

 祐樹の成績はここまで三打数三安打一本塁打。

 ランナーを置いた状態で彼が打席に立つとすれば、リリーフとして準備している健二が出てくる可能性が高い。

 天才バッターと剛腕ピッチャーの対戦を予感してか、球場のボルテージは徐々にギアを上げつつあった。






続く 

 


 


 



[22750] 第五球目【県大会でガチンコなの! の巻】 後編
Name: H&K◆6803d1d7 ID:c40e641e
Date: 2012/05/02 22:46
 久しぶりの公式戦登板は流石に緊張した。

 ノーコンが怖くてオーバーからではなくサイドで投げたが、ストレートだけで果たして何処まで討ち取れるか不安で仕方なかった。

 途中、何度もシュートやスライダーを投げそうになるのを堪えながら打者と相対する。

 左バッターには外から入ってくる角度を、右バッターには内角を抉る角度を付けて投げ込んだ。

 もう一点も――いや、ベンチムードを考えると一人のランナーも許されない状況。

 彼女は、加奈子はこれよりも重圧が掛かるマウンドに一人で登っていた。緊張の糸が切れて泣き出してしまった彼女を誰が責められようか。

 あの小さな身体で、一人で相手チームの打者陣と対峙し続けた加奈子は賞賛に値する。実際彼女が残した成績も素晴らしいものだ。

 だからこそこのイニングは後続を断ち切って、裏の回で何としてもサヨナラを勝ち取りに行かねばなるまい。それが力投を続けたエースに対する最低限の礼儀であり、祐樹たち打者の義務なのだ。

 振りかぶらず、セットポジションでストレートを投げ込む。

 弥太郎の要求したコースから見れば逆球だったが、突然内角に飛んできた白球に腰が引けたのか出鱈目な軌道でバットが振られた。

 もちろんバットは祐樹の球にミートする筈もなく空しく宙を切る。

 空振り三振。

 それがこのイニング三つ目のアウトを記録した祐樹の投球成績だった。

 観客席から、味方ベンチから声援が飛んだ。

 祐樹は無事討ち取ったという歓喜を微塵も見せず、相手ベンチ前でキャッチボールを続ける豪腕を見た。一瞬、目が合ったような気がしたが弥太郎と監督に呼ばれて味方ベンチに走る。

 五回の裏。 文字通りのラストイニングが今始まろうとしていた。




 プロの技術で小学生の中でプレーする。

 我ながらインチキだと常々思うが、ベンチで目を赤くしている加奈子を見ると今はこの能力ほど頼もしいものはない。さっきはプロに投げるつもりで送球したためセカンドの捕球ミスが生じる痛い結果となったが、それでもこの身体で得られる恩恵は計り知れない。

 自分のため、そして無意識のうちにチームの為に頑張った可愛らしい幼馴染を救うため祐樹はバットを取る。このイニング、打席が回ってくるかどうかは味方の打撃成績頼みだが、彼には勝算があった。

 それはベンチ前で気合十分にバットを振り回す馬鹿を見てのことだ。

「加奈子! 必ず塁に出てやるからな! 精精応援してろ! 祐樹も準備しとけよ! お前まで必ず回すからな!」

 弥太郎は散々ベンチに叫んだ後、意気揚々とバッターボックスに向かった。

 リードオフマンを任されながらもここまで三打数無安打。少々心もとない成績だが、逆にそれが、そろそろ当たりが出るのではという期待感に繋がる。

「まだヒット打ってないくせに」

 加奈子がぼそりと呟いた。泣き腫らした目を再びタオルで拭っている。呟きに若干喜びの色が聞こえたのは祐樹の気のせいではないだろう。

 普段から馬鹿馬鹿言いながら、加奈子ほど弥太郎を信用している選手はいない。

「かっ飛ばせー! お前の取り柄は何だーっ!」

 ベンチから飛ぶ荒々しい声援。弥太郎は一々それにジェスチャーで答え、バットを構える。尊敬するプロ野球選手を真似たというオープンスタンス。祐樹ほどではないが、何百回と繰り返してきたフォームはやはり様になっている。

 続投を任された向こうの六年生エースはサイン交換もそこそこに球を投げ込んだ。

「ストラーイクッ!」

 外角に決まった速球はまだノビとキレがある。弥太郎は今の球をホームランにした祐樹に驚くと同時に、自分に出来ないはずがないと己に言い聞かせ続けた。

 心なしかバットを短く持ち、二球目を待つ。

 小学生独特の身体の柔らかさから繰り出されるストレートが高めに来た。

「くそっ!」

 振ったバットに白球が触れ、バックネットに飛んでいく。完全な力負け。タイミングと角度は完璧だっただけに、今の打球がヒットゾーンに飛ばない限り弥太郎は敗北する。

 一旦バッターボックスを外しスパイクの靴紐を結びなおすふりをして、弥太郎は作戦を練り直した。

 体格差の所為か、ミートしても打球が前に飛ばないのである。

 いっそのこと、ここで空振り三振をしてしまえば無様にフライを打ち上げるよりは楽になれるだろう。ベースランをして衆人環視に晒される必要がないからだ。

 でもそれは絶対に出来ない。ベンチを盗み見れば、いつも自分を馬鹿馬鹿罵ってくる少女の姿が見えた。

 「まだヒット打ってないくせに」と皮肉を叩きながらも、心配そうな、それでいで何処か嬉しそうな表情でこちらを見る少女。

 誠に遺憾ながら初恋の相手に認定してしまった大好きな女の子。

 弥太郎は再びバッターボックスに立つ。

 相手ピッチャーを視界に入れずに、バットの先端を睨んだ。

 第三球目が投じられた。打ち損じた高めよりさらにボール一個ほど高い速球。空振りを狙いに来た釣球だ。

 もう遮二無二にバットを振る。ボゴッ、と鈍い音がしてボールがサードに転がった。バウンドがやや高い。弥太郎はバットをかなぐり捨てて一塁にダッシュする。クリーンヒットでなくとも彼は諦めなかった。

 サードが前進してきて打球を捕球する。ジャンピングスローで投げられた送球は若干弓なり。

 一歩、二歩と足を進めるたび一塁手にボールが近づく。そして彼が四歩目を踏んだとき――、一塁ベースが目の前に現れた瞬間、叫んだ。

「男だろうがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 最後の一歩はまさに飛ぶが如くの勢いで駆け抜けた。

 有りっ丈の思いと情熱を込めて、ベンチで泣いていた加奈子に全てを捧げるため彼は走った。力及ばずとも決して手を抜かず、怪我を恐れずにベースを踏んだ。

 息を切らしながら駆け抜けた一塁ベースを振り返り、審判のジャッジを待つ。

 そしてそれは無事報われた。

「セーフッ!」

 審判の手は上がることなく、腕が宙を横に薙いだ。

 微妙に勢いを殺されたバウンドが幸いした。ギリギリの三塁内安打。彼は加奈子との約束を果たした。

「いよっしゃあああ!」

 天高く突き上げられた勝利宣言にベンチが沸く。様子を見守っていた加奈子が目尻を押さえてしきりに「バカ、ほんとにバカ」と繰り返した。弥太郎の意地は加奈子に届いていた。

 ノーアウト ランナー一塁。サヨナラに向けてのカウントダウンが無事始まったのだ。

 祐樹はそっと笑みを浮かべるとメットを取ってベンチを出た。この限りない晴天の下、皆が野球をしている。

 異色の三人トリオが息を吹き返した。





 弥太郎が出塁したことにより、健二の周りがいよいよ騒がしくなり始めた。現在のスコアは1-1の同点。イニングは最終回の裏の攻撃。弥太郎がホームベースを踏んだ瞬間、健二たちの敗北が決定する。

 試合の経過を観察すれば、相手方の二番バッターは手堅く送りバントをした。ここまでは野球のゲーム展開における定石といえる。

 問題は弥太郎を帰す役割を与えられた三番バッターだが、彼に打順が回ったところで交代のコールが鳴り響いた。

 監督からしてみれば六年生のプライドも考えて行けるところまで投げさせたかったのだろうが、最早限界だ。健二はキャッチボールを切り上げ、試合用のグラブを手にし監督の下へ向かう。

「ここからクリーンナップだ。大丈夫、お前なら出来る」

 随分と使い古された定型句な気がしないこともないが、健二は黙って頷いた。

 彼は今、いよいよ迫ってきた天才バッターとの対戦に対する興奮を抑えるので精一杯だった。余計は思考は一切存在しない。これから相対する三番バッターなんて所詮前哨戦だ。

 本番はその後ろに控える怪物――神崎祐樹にある。

 マウンドから降りてきた六年生とすれ違う。彼は決して敗者ではなかったが、だからといって勝者というわけでもなかった。この決着を――試合における責任投手を決めるのはエースとスラッガーだけ。

 言いようのない満足感と、まだ見ぬ天才バッターの実力に恐怖しながら彼はマウンドに登った。

 若干高く盛られた土の上からホームベース側を見下ろせば、緊張で顔を引き攣らせている三番が見える。背後に目をやれば今か今かとスタートを待っている弥太郎(ランナー)

 そしてグラウンドから視線を外し、敵チームのベンチ前を眺めればそこに彼がいた。

 ここまで三打数三安打、一本塁打の――、六年生が果敢に挑み、無残に散ることとなったスラッガー。

 健二は震える手足を押さえつけ、マウンドで息を吐く。

 手早くサイン交換を終えた後は、セットポジションで構えた。

 ベンチ前で調整した体重移動と、己の豪腕を信じて彼はストレートを投じた。

 加奈子とも、六年生エースとも違った、唸るようなストレートがラインを滑ってミットに吸い込まれていく。

 悲しいことに、三番バッターはそれだけで手が出なくなってしまった。

 ストライクのコールが声援乱れる球場に酷く木霊した。





 祐樹にポジションを奪われた“元四番”、現三番は臍を噛んでベンチに引き上げてきた。

 結果は空振りの三球三振。投手と打者の対戦としては完全な敗北である。

 祐樹たちのベンチはサヨナラムードが一転、再び言い表しようのない焦燥感に覆い尽くされていた。

 それもそうだ。ついこの間まで四番として君臨していた六年生が、四年生のしかも前試合で完投をしているピッチャーに手も足も出なかったのだ。

 絶対的な実力差を感じ、誰も声を上げることが出来なくなっていた。

 完全に沈黙したこちらのベンチとは打って変わって、向こうのベンチはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。

 彼らの勝ちは既になくなって、引き分けに持ち込むにしか無いとしても(この場合優勝チームは地域大会の成績で決まる)、クリーンナップを押さえてピンチを乗り切るというのは、野球というスポーツにおいてこれ程快感なものはない。
 
 ましてや追いついた後のピンチなのである。無事押さえることが出来た時の喜びはひとしおだろう。

 だが徹底的に明暗が分かれた両チームの中で、ベンチに腰掛けた加奈子だけは冷静にラストバッターを見つめていた。

 文字通りどちらに転んでもこれが最後のバッター、神崎祐樹は軽く握り手を繰り返しながらバッターボックスに向かう。

 加奈子は知っている。弥太郎が最後にやってくれる選手ならば……、

 祐樹は最初から最後まで、全てを成し遂げる天才であることを。

 物心覚えた頃から自分は投手役を務めてきた。対戦すること数え切れない敗北を喫してきた。しかしそれは加奈子が彼に全幅の信頼を置く原点でもある。
  
 野球に対し、惜しみない才能と絶え間ない努力を注いできた少年。

 いつも共にプレーし、自分たちをここまで引っ張ってきてくれた少年。

 これ程までの選手を野球の神様が見捨てるはずがない。いや、野球の神様なんかいなくたって彼は必ず栄冠を手にするだろう。

 加奈子は静かに祐樹へ声援を送った。それは「頑張って」でもなく「打って欲しい」でもない。

 ただ一言、「ここで待ってるよ」と告げるだけで彼はこのベンチへ戻ってくる。

 最高の土産を手にして、ホームベースを踏んだ弥太郎に頭を叩かれながら。

 加奈子は立ち上がった。ベンチから身を乗り出し祐樹の一挙一足を注視する。手の治療なんて後回しでいい。今はただ、彼がエースを打ち負かして勝利を手にする瞬間を見逃したくなかった。

 遂に天才の世界が始まる。



 

 祐樹が打席に入り、バットを一回転させて構えた瞬間、球場のボルテージはトップギアに入った。

 歓声は決して多くはないが、それでもグラウンドに溜まった熱気はプロのそれと異色ない。

 健二がキャッチャーからボールを受け取る。マウンド上で二三事これからのピッチングについて話した。

 小細工無用、正々堂々。変にかわせば粉砕される。

 二人の見解が一致し、キャッチャーがホームベースに戻っていった。球審がプレイボールを宣言。健二の投球が解禁される。

 彼は全力で投げ込むためセットポジションを封印。普段から使用しているワインドアップのモーションに切り替えた。祐樹は頭上にバットを構えるあの独特のフォーム。天秤打法にも似たフォームだが、プロでもアマでもあのフォームで打っているバッターを健二は知らなかった。

 手に息を吹きつけ、一球目のサインを確認する。それは小手調べ無しの内角ストレート全力で。

 はやる気持ちと、震える手足を押さえつけて、彼はグラブを突き上げた。

 踏み込む足が宙に浮いた瞬間、身体の動きを静止する。十分な瞬発力が全身に生まれるよう、バネの力が全てボールに伝わるよう白球を握り締めた。

 そして手首のスナップを利かせ巻き込むカタチで腕を振る。全身の力が込められた、強烈なスピンが掛かったストレートが空を切り裂く。

 今健二が投げうる最高のストレートが走った。

 ホップするとまでは言わないが打者の手元で失速せず、その高低差の少なさにノビを感じずにはいられないボール。

 今まで数多の三振を築き、打者をプライドとともに切り捨ててきた必殺のウィニングショット。

 健二は本気だ。初球から討ち取るだのカウントを取るだの関係無しに、打者に与えうる究極のボールを投じて見せた。彼を取り巻く興奮と、祐樹から発せられる殺意にも似た雰囲気がそうさせた。彼らは小学生ながらプロ選手がやり取りする真剣の勝負を挑みあっていたのだ。

 指バネの音を聞いて打者が空振りする姿が目に浮かぶ。今までこのボールを痛打したものなど誰もいない。野球を始めてこの方、恵まれた肩と体格でリトルリーグを牛耳っていた彼は負けを知らなかった。

 僕のストレートは打たれない。

 健二は確固たる自信と実力に変わる畏怖を持ってピッチングに身を焦がしている。

 だがそれも、打席で待ち受ける怪物の目の前では児戯に等しいものだと彼は思い知らされた。

 カキンッ!

 鋭い打撃音を残して白球が視界から消えた。慌てて振り返れば引っ張られた強烈な打球がポールを捲いてファールゾーンに飛び込んでいく。球場にはどよめきが走り、両ベンチの人間は皆身を乗り出して打球の行方を追った。

 健二は思わず打った祐樹を見る。

 こちらと目が合ったスラッガーはにこりともせず、健二を透き通った眼差しで睨みつけていた。

 この瞬間、彼らの決着は付いてしまったのかもしれない。


 



 さっきまで感じていた複雑な心境はたった一球のストレートで霧散した。

 加奈子を救うと言いながら打席に立っても、頭のことは前世のあの打席のことが渦巻いていた。

 同一人物だと断言は出来ないものの、マウンドに立つ大塚健二という少年はあの日相対した彼の片鱗を強くみせる。

 余りにも早すぎるリベンジマッチの機会に戸惑いを覚えるなと言う方が無茶だった。

 だがしかし。

 ストレートを痛打したときに感じた、手から全身に伝わったその威力に触れたとき、祐樹の脳の中身は野球人としての思考回路のそれに切り替わった。

 ストレートの角度、スピンの数、球速、全てのデータが高速で相手の実力を割り出す。本能にも似た演算が余計な思考を全て燃やしつくしバットを本体とした、ただのバッティングマシーンに身体が作り変えられる。グリップが軋みを上げるほど握り締められ、ゆらゆらと揺れていたヘッドがピタリと静止した。祐樹は健二が投じる二球目を静かに、だが溢れ出る殺気を隠そうともせずに待った。

 果たしてそれは一秒以内に到達する七センチのボールを、秒速三十メートル以上の速度で繰り出したバットで撫で切る競技。

 一瞬で決まる静寂の中、二球目のストレートが外角低めに飛来する。

 祐樹は身をかがめ、最短距離でヘッドを回転。限りなく真に近いところでボールをミートする。再び鋭い打撃音が轟き、打ち返した打球がライト側のファールフェンスに直撃した。まだタイミングが早い。祐樹は前世でこびり突いたイメージの所為でまだ最適なミートポイントを割り出せないでいた。

 必死に食らいついていた昔の自分と、プロとして報われなかった自分が交互に身体を支配する。

 もしもミートするその瞬間に、報われなかった自分が表に出てきたら祐樹はこの勝負に敗北する。彼がここまで二球ともファールにして見せたのは、まだ必死に食らいつき続けた我武者羅な自分が残っているからだ。

 だがそれでも、健二の球をフェアゾーンに飛ばすにはパワーも技術もまだまだ足りない。

 健二は祐樹を討ち取るだけの力量はなく、

 祐樹にも健二を打ち砕く力量が備わっていなかった。

 野球における千日手はこうして誕生する。もちろんプロとしての生活を前世でしていた祐樹はそのことを良く知っていた。

 この勝負を勝ち抜くには前世の自分が持ち得なかった、今の自分が手にしたものを武器にして戦うしかない。それは技術でもありパワーでもあり、経験でもある。

 しかしこの打席、祐樹が感じていたのはもっと別のものだった。

 バッターボックスとマウンドの延長上、二塁ベースの上で弥太郎が激を飛ばしている。自分はここまでやった。俺より上手いお前が打てない筈がない。このチームの四番はエースに屈しない。

 さらに祐樹の背後、チームメイトがたむろするベンチの一角にただじっとこちらを見つめる加奈子の姿があった。

 彼女はただ一言だけ、「待っている」とだけ告げて祐樹を送り出した。彼女は祐樹が勝つことを微塵も疑っていない。いや、最初から負けるなんて頭の中に存在していないのだ。

 外野フェンスの向こうで声を出す両親と妹も、ベンチで声援を送るチームメイトも監督も、全て前世では手に入らなかった祐樹の味方だった。

 彼らのことを考えるたびに思考が澄み、健二が投じる球の縫い目まではっきりと見えた。

 祐樹は若干戸惑いを感じる。恋焦がれたあの日の打席とは違った濃密な空気。圧倒的にあちらの方がスケールの大きい打席なのに、どうしてこれほどまで痺れる感覚を味わえるのだろうか。

 リトルリーグのレベルなどプロに比べれば遊びみたいなものだ。だがそこにある思いの大きさは結局のところそう違わないのかもしれない。

 第三球目が健二の指から離れる。真ん中高めのストレート。
 
 もう強打はしない。アドレナリンで満ちていた頭が軽く叩けと間逆の指示を送ってきた。

 腰を基点にバットをスイングし、自分の身体のやや前方でミートする。

 接触の瞬間、綺麗に手首を返し止めの力をボールに流し込む。

 カッキーン、と間延びした打撃音がした。打球が低く打ちあがり、低弾道のライナーでセンターの頭の上を越える。







 外野の芝生上で白球が転々と転がった瞬間、ベンチからナインが飛び出す。
 弥太郎がホームをしっかりと踏み、歓喜の輪の中に飲み込まれた。



 五回の裏、ツーアウトから、サヨナラが決まった瞬間だった。








◆◇◆◇◆◇◆






 そして四年後……。





「ってなことがあったよねー」
 
 夕暮れの帰り道、河川敷を歩く三人は昔話に花を咲かせていた。真ん中に制服姿の佐久間加奈子が立ち、両サイドに彼女より頭ひとつ身長が高い大塚健二と木田弥太郎が立っている。

 健二は頭をぽりぽりと掻くと、その整った顔を線にして困った風に笑った。

「うーん、いい加減にその話題を蒸し返すのは勘弁して欲しいなー。あれでも結構悔しかったんだぜ。初めてのサヨナラ負けだもん」

 そんな健二に突っかかるのは昔から弥太郎と決まっている。今日もその例から外れることなく、わざと声を荒上げて威嚇するように言った。

「はん、優男はそれぐらいが丁度いいんだよ。お前も祐樹もどいつもこいつもモテやがって。何だよ、俺もお前らと同じ野球部じゃねえか」

 確かに容姿の整っている健二と祐樹は同学年ならず、他学年の異性からも人気があった。野球部の期待のエースとスラッガーという肩書きもそれを後押ししている。野球という分野でなら弥太郎も決してそれに引けを取らないのだが、如何せん普段の行いが不味い。加奈子はそれを三白眼で指摘した。

「太郎がデリカシーがないのよ。ちょっとはゆーくんと大塚を見習いなさい。早弁したかと思えばドカ食いするわ、授業中はいびきかくわ。どこにモテる要素があるのよ」

 うるせー、と弥太郎が反論するが、どれも事実のため第三者が弁護できないのは小学生時代から変わっていなかった。祐樹でなくとも健二でさえ弥太郎が女子に不人気なのは仕方のないことだと思っている。

「それより神崎くんはどうしたの? 下校時に君たちを見つけたから追っかけて来たけど、彼はいなかったよね」

 健二のそれは素朴な疑問だった。この中学の二年生トリオと呼ばれる程、いつも行動を共にしている三人組だが、今日は祐樹だけ欠番で姿を見せていない。しかしその疑問は不意に加奈子の逆鱗へと触れていた。

 健二の脇腹に拳が炸裂し、加奈子の怒りのボルテージが上がる。

「あんっの女狐が人の幼馴染に色眼使いやがってっ! 何よ何よっ! 私と祐樹くんはただならぬ関係だからって! 私だって十年以上幼馴染してます!」

 謎の憤怒に首を傾げる健二だったが、そっと弥太郎は耳打ちする。

「実は三年の咲下先輩と祐樹が最近付き合い始めたって噂があるんだよ。だからこのところ加奈子は超不機嫌」

 なるほど、と健二は納得するが口には出さない。先ほどからどす黒いオーラを発しているトリオの紅一点は何で爆発するかわからないからだ。

 触らぬ神にたたりなしと言わんばかりに、健二は無言を貫き通す。




 夕暮れの帰り道、彼らは野球部の練習もそこそこに三人肩を並べて河川敷を歩く。

 ふと右手を見れば、彼らがはじめて出会った小さなグラウンドで小学生たちが草野球をしていた。

 そこにはいつか対戦した自分たちの姿が重なって見えた。





   
 やきうをしよう。あの打席に戻るまで。


 リトルリーグ編    了












[22750] 第六球目【それは不思議な出会いなの? の巻】1
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:46
 おもしろくない。面白くない。オモシロクナイ。

 ぐるぐるになる頭と内に渦巻く雑念に舌打ちをしながら加奈子は読書をしていた。

 一ヶ月の小遣いの半分をはたいて購入した投手の教則本を貪り読む。決して楽な買い物ではなかったが、今はそんなこと犬の餌にでもくれてやった。

 時刻は午後九時。中学で出来た友人たちは芸能人が下らないトークを繰り広げている番組に夢中の時間帯だ。それなのに同じ女子中学二年生である加奈子はバラエティ番組とは無関係の世界に生きていた。

 野球、という競技がある。

 150キロの直球を悠々と18メートル先のミットに投げ込み、それを150メートルを越す飛距離を持ってスタンドに叩き込む。

 或いは160キロ以上のスピードで飛ぶライナーを飛びついてキャッチングし、50メートル5秒台の俊足で次の塁をまんまと盗む。

 これまで様々な先人たちが凌ぎを削り、切磋琢磨してきたこの国の国技とも言われる魅力のスポーツ。

 少年ならば誰もが一度は夢見、その中で実力と幸運に恵まれたものだけが続けることの出来る真剣勝負の世界。

 彼女は女という性別ながら、一人の野球人として白球の世界に身を投じるピッチャーだった。



 加奈子はもう何度も「面白くない」と呟きながら教則本を机に置き、ベッドに飛び込んだ。

 そして枕元に座する己のグラブが嫌でも目に入った。

「…………」

 彼女がここまで不機嫌だったのは中学に入学してから生じた様々な出来事が原因だ。まず中高大学とエスカレーター式の名門校のスカウトを蹴って、まんまと同じ中学に入学してきた大塚健二のことが気に入らない。

 あの容姿端麗、成績優秀、野球才能抜群の優男は端的に言えば加奈子の敵だ。

 ライバル、とはとても言えない。

 彼の中学野球界における代名詞である「剛球」と進学して会得した「魔球」フォークは到底加奈子が適うものではなかった。

 コントロールやクイックといった細かな技術では加奈子に分があるものの、投手としての総合力は足元にも及ばない。彼の真似をしてフォークを会得したことは加奈子にとって何物にも変えがたい屈辱となっていた。

 勿論実力で適わないのだから、チーム内における加奈子の立ち位置も「エース」から二番てピッチャーに降格してしまった。

 周囲の評価は健二には及ばないものの、彼女に対する周囲の評価はかなり高い。

 が、小学生時代に守り続けた椅子を奪われたのはやはり面白くなかった。

 また、勉強と部活両方面の忙しさのせいでいつの間にか日課となっていた放課後特訓がいつの間にか消滅してしまっている。

 その所為で彼女が敬愛する神崎祐樹との対戦がめっきり減ったのだ。

 彼が対戦するのはもっぱら「エース」である大塚健二となっていた。

 これも面白くないどころか不愉快通り越して殺意が芽生えそうだった。

「あー。殺意といえばアレだ。あの女だ」

 自らの機嫌を損ねる癌細胞共に回想をめぐらせていた彼女は一人の女を思い出した。

 それは野球部とはなんの接点もない、読書部とかいうドマイナーな部活の部長をしている咲下という三年生だった。

 咲下 井塚。

 最初部活勧誘のチラシを見ていたとき、その名前をなんと読めばいいのかよくわからなかったことを覚えている。

 後から「さきした いづか」と読むと祐樹に教わったが(今思えばその辺りから彼女のことが嫌いになった)率直な感想は変な名前である。

 しかしながらその変な名前の先輩に大好きな幼馴染の男の子を取られたとなると、間抜けもいいところだった。この話については一年ほど時を遡らなければなるまい。

 加奈子は汗臭いグラブをわざわざ手にはめて、もう年々も付き合っている木張りの天井を見上げた。





 健二が投じたストレートを二年先輩の上級生が空振りする。それは彼が入学してから半年の間、もう何度も繰り返された光景だった。

 三つのアウトカウントをしっかりと稼いだ彼は、上級生の捕手から利き腕とは逆の肩を叩かれながらマウンドを降りる。その様子を背後から右翼を守っていた外野手が見守っていた。

 そしてその外野手はベンチに戻ると控えの女子投手――加奈子からバッティングセットを一式受け取り、ベンチの前で次々と身に着けていく。

 スポーツドリンクを手渡そうとしていた一年生のマネージャーは加奈子の目線の所為か、気まずそうにベンチの周辺を行ったり来たりしていた。

「やあ祐樹くん。そろそろ援護点を頼むよ」

 身体を温め続けるためのキャッチボールには参加しなかった健二が祐樹の背後に立つ。一年生にして先発を任された彼はここまで無失点の好投を続けていた。

 さすがに入学早々、エースを冠するだけはある。

 一方、祐樹は三年間慣れ親しんだ四番からは一旦離れて俊足の二番バッターとしてスタメン出場していた。如何せん、対格差の生で上級生の四番ほど遠く飛ばすことが出来ない。

 祐樹自身はとくに気にも留めていなかったが。

「まあ、出塁した後二塁は確実に盗めるだろうから、問題は後続だな。四番の須藤先輩はともかく、三番の田中先輩が全然振れてない。三つやってみるか?」

「うーん、三盗か。まあ出来るんじゃない?」

「おっしゃ。じゃあそれでいこう」

 打ち合わせとも言えるかどうか微妙な会話を交わした後、祐樹はバッターボックスに向かう。それと同時、対戦校のナインに緊張が走るのが見て取れた。

 それもその筈。ここまで三打数二安打、以前の試合では本塁打も放っている恐怖の二番バッターだからだ。彼と健二の二人はすでに県内の野球部の間ではちょっとした有名人になっていた。

 実力と容姿が伴う二人は、色んな意味で目立つのである。

 投球開始の合図が鳴った。

 キャッチャーがミットを差し出し、サインを繰り出す。相手投手が二三度首を振った後、オーソドックスなフォームでストレートを投げ込んできた。残念ながら健二のものとは比べるべくもない、球威も球速も無い、平凡なストレートだった。

 祐樹は黙ってそれを見逃しながら、これがプロで戦える才能の違いだと思っていた。

 そして自分も今の立ち居地を維持し続けなければ、前世の二の舞であると叱咤した。

「おーい! 今の振れよー!」

 グリップを握りなおし、バッターボックスを外したらベンチから野次が飛んできた。ここ最近ベンチスタート続きの木田 弥太郎である。加奈子の専属キャッチャーとなっている彼は加奈子が控えのときは必然的にベンチスタートなのだ。

 一年生ながらベンチ入りしているというのはそれなりに評価されるべきことなのだが、比較対象が健二や祐樹のためイマイチ報われない弥太郎なのである。

「うるさい! あんたは黙ってて!」

 ドカ、と背後から拳が弥太郎の脳天に突き刺さった。それは加奈子の一撃だ。ある意味でいつも通りの光景に、祐樹は固くなりかけた身体が柔らかくなっていくのを感じた。

 笑い声がベンチに木霊する。

 笑みを浮かべながらバッターボックスに戻った祐樹は再度バットを構えた。バットを水平に寝かせた天秤打法にも似たフォーム。それはこの十年間、片時も忘れなかった祖父譲りの変則打法。

 さすがに中学の監督からフォーム指導を受けたこともあったが、祐樹はそれを頑なに拒み、さらに結果を残し続けて監督を黙らせた。前世とはなんの関わりもないものの、彼が一番しっくりくるフォームである。

 もしかしたら、前世でこのフォームを会得していれば少しは違った結果が待っていたのかもしれない。

 やや雑念が多すぎる嫌いはあったが、相手投手の投げた球に祐樹の身体は自然と反応した。一度ステップを踏み、重心の位置を整える。

 ヘッドを立て脇を絞り、長打狙いではない単打を狙ったスイングを心掛ける。

 だが彼が理想のフォームでバットを振ることは叶わなかった。

 その理由は多分リリースした相手投手が一番理解している。キャッチャーが要求したのは外角低めのスライダー。空振りを誘い、追い込むための勝負球だ。

 しかしその勝負球は投手が抱えたいらぬ力みの所為で力なくリリースされる。俗にいうすっぽ抜けだ。変化もしないコントロールの甘い球など打者から見れば鴨葱のような打ち頃の球。

 投手と捕手の顔が青ざめる。




「で。怪我の様子は?」

「小指骨折。全治一ヶ月」

「しかしついてないね。あんな格下投手にぶつけられて怪我なんて笑えないよ」

「……結構きついこと言うな」

「まあね、これでも怒ってるんだぜ? ライバルを取られたから。でも、ま、佐久間さんほどじゃないよ。彼女なんか木田くんが抑えなかったら相手投手を殴ってた」

 試合終了後、接骨院に駆けつけた祐樹は見舞いに来た監督たちと別れたあと、ファミリーレストランで遅めの食事を取っていた。ちなみにこの場にいるのは健二+いつもの二人だ。

 加奈子と弥太郎は二人仲良く? ドリンクバーに群がっている。

「でも珍しいね。君があんなボールをかわせないなんて。体調でも悪いの?」

「いや、俺がぼーっとしてただけだよ。反応が遅れた」

「……それで相手投手を攻略しようとしていた君も大概失礼だね」

 二人して談笑している中、祐樹は包帯が巻かれた己の小指を見た。前世で体験した故障に比べればどうってことなかったが、それでも怪我に対する意識が低下していたことを痛感する。

 故障で棒に振っていた野球人生とも言えた為、この油断に早期に気がつけたことは何よりのプラス材料と言えた。

「そうえいば、さ」

 注文した「チーズ入りハンバーグ」が届くのを待ち続けていた健二だったがふと窓の外を見やりながらポツリと言葉を零した。

「僕の知り合いでスポーツ外傷の専門病院があるんだ。うちの学校の先輩の実家なんだけど」

 遠目で、ドリンクバー前で喧嘩している弥太郎と加奈子を見ていた祐樹の視線が健二に固定される。健二は頬杖をつきながら携帯電話を操作した。そして画面には一人のアドレス帳プロフィールが表示された。

「今度行って見たら?」

 携帯電話を受け取った祐樹はその人物の名を目に焼き付けた。

 そこには「咲下 井塚」の文字が躍っている。

 ……また嫌な名前に遭遇したと、彼は健二に悟られないよう内心でため息をついた。

 それは前世で忘れたくても忘れられなかった、元恋人の名前と瓜二つだったのだ。

 

 やきうをしよう。でもその前に少しだけ生きてみよう。




 ◆◇◆◇ 
 
おまけ プロスピ的ステータス(ver中学生)


神崎祐樹(13) かんざき ゆうき

右投げ左打ち

右巧打力 B
左巧打力 A
長打力  B
走力   B
肩力   S
守備適正  右翼 A
        中堅 B
        左翼 B


特殊能力    成長◎(パワプロ的?)
        アベレージヒッター
        チャンスメーカー
        盗塁↑2
        走塁↑2
        助走キャッチ
        レーザービーム

 ◆◇◆◇ 

大塚 健二(13) おおつか けんじ

左投げ左打ち オーバースロー

球威     17
変化球    13
コントロール 14
スタミナ    16
守備力    14

合計  74

特殊能力 打球反応○ 剛球




 ◆◇◆◇ 
 
お久しぶりです。続きを期待してくれた方々にしばしお礼を。
あくまでこちらはおまけ的扱いですが、その内オリジナルに移転するかも。
別作品がエタりかけたらこちらに逃げてきたヘタレですがこれからもよろしくお願いします。



[22750] 第七球目【それは不思議な出会いなの? の巻】2
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:46
 ファミリーレストランでスポーツ外傷病院を紹介されて丁度二週間。その日祐樹の運命が奇妙な方向に捻じ曲がった日でもあった。



 結論から言ってみれば祐樹が紹介された病院に足を向けることはなかった。

 やはり健二の携帯電話で確認した咲下井塚という文字列がどうしても引っかかったのである。前世で同じ名前をしていた大塚健二が非常に今の健二と似ていることを含めて、咲下という人物に無警戒のまま近づくのはどうしても躊躇われた。

 だからこそ怪我の治療は一般病院に任せきり、空いた練習時間は休養期間と割り切って自宅に引きこもったのである。

 ややブラコン気味である珠が喜んだのは言うまでもない。

 だがその安寧の日々も決して長くは続かなかった。


「……え?」


 テレビでは甲子園の熱闘を伝え続ける八月の終わり。マスコットバットを片手で振り回し、トレーニングを続けていた祐樹に電話があった。相手は最近スタメン出場を果たした弥太郎だ。

 彼は非常に言いにくそうに、だがはっきりとした声色で言葉を続けた。

「いや、俺も先輩伝手だから断言できないけど、お前の怪我。随分と深刻だって他校に受け取られているらしい」

 最近ギプスも外れ、後は練習復帰を目指すだけだった祐樹だったが弥太郎が告げた連絡に思考が停止した。

 突然動きを止めた兄に妹の珠は怪訝な表情を見せたが、祐樹はそれに気がつかない。

「多分ベンチ入りすらしなかったのが原因だろうな。うちの監督は結構放任主義だから何も言わなかったけど、他校や地区の高校はお前をDLリストに指定したと思う。それも大怪我を負ってな。あの日のデッドボール、手首とかに当たったんじゃないか、って推測してるぜ」

 不味いことになった、と祐樹は天を仰いだ。頬を伝っていた汗がフローリングの床に落ちる。彼は片手で握り締めていたマスコットバッドを手放すと、頭を掻き毟りながら受話器に耳を傾けた。

「疑惑を晴らしたいのならとっとと試合出場して活躍するのが手っ取り早いんだけど、今のお前でいけるか?」

 弥太郎の声と共に反射的に祐樹は自身の右手を見た。ギプスはもう外れているものの、まだ片手でしかバットを触れないのは完治とは言いがたかった。

 だから彼は電話の向こうの弥太郎に不可能の旨を伝えるしかない。そしてそれを聞いた弥太郎は「あー」と間延びした声を上げた。

「やばいよやばいよ。一年から故障持ちと思われたら進学先がねえぞ」

 祐樹と弥太郎、この二人がここまで焦っているのは彼らのこれからについてである。特に祐樹の場合、中学入学時のゴタゴタ(ここでは割愛)によって地元の名門高校に通うことが難しくなっており、進学先はほぼ県外の高校に中学一年生時点で決定しているのだ。

 だがここで故障者リスト入りがネックになってくる。その高校進学というのは勿論野球の才能を買われてのものだ。しかし今のように傷有りの選手として認識されてしまった場合、神崎祐樹という一野球人の価値は半減とまでは言わないものの大幅に下がることは覚悟しなければならない。

 そうなってしまっては彼に食指を伸ばす高校が激減してしまうのだ。

 何としても最短でのプロ入りを狙う祐樹にとって、それは最大の障害になりかねなかった。

「……なあ祐樹。お前この前健二から聞いたよな?」

 何とか解決策を模索しようとしていたとき、ポツリと健二が呟いた。祐樹は彼が台詞を言い切る前に、そこに込められた意味を推測した。

 それはすなわち、

「咲下先輩の実家を訪ねろよ。で、治療カルテを書いてもらって身の潔白を証明するんだ。あそこは他校の選手や監督も通っているから、すぐにお前の怪我は大したもんじゃないと知れ渡るぜ」

 やはりそうか、と諦めにも似た感情が祐樹の中に渦巻いた。結局のところ、あの日のファミリーレストランで健二に道を示されたときから避けては通れなかったのだ。

 むしろ変な警戒を持たずに、おとなしく紹介された病院に通っていればここまで面倒なことにはならなかっただろう。

 祐樹は二、三事弥太郎に礼を告げ、受話器を置いた。

 怪我とは別の意味で曇った表情は、テレビの向こうの熱闘甲子園とは正反対だった。



 そしてこれは翌日のこと。

 弧を描くように飛ぶ白球の押収が彼是二十分ほど続いていた。

「つまり纏めれば、神崎くんはデッドボールの影響が全く無いことを証明するため、僕が紹介した病院に行ったと。そういうことだね」

「ああ。お前も昔言ってたけれど、あそこは野球クラブの監督たちの情報源でもあるわけだろ? だからそこで影響がないと診断されたのなら、他校の関係者もそう思う筈だぜ?」

 変化球を交えながらの軽いキャッチボール。弥太郎と健二は実戦形式の試合を続けるチームを他所に、ファールグランドの片隅で祐樹について話していた。

「しっかしうちの中学にも俗に言う高校スカウトが来ていたんだね。で、彼らの目に神崎君が全く露出しないから余計な噂が立ったんだ」

「大事を取って休養したのがまずったか……。サボってたわけじゃないんだけどな」

「そんなこと皆知ってるさ。どうせ君と電話しているときもマスコットバット振ってたんだろ? 彼は才能もあるけど何より努力の人だからね。でもさ、彼が復帰しないことを喜んでいる輩が残念ながら身内にいるよ」

 ぽーん、と健二の持ち球ではないカーブが投げられる。弥太郎はそれを救い上げるようにキャッチすると、今度はセカンドベースを刺すような球筋で返球して見せた。健二のグラブから心地よい音がする。

 彼は弥太郎から球を受け取った後、実践練習を続けるグラウンドを見やった。

 そこでは三番手として投球した加奈子が荒い息を上げ、次の打者を睨んでいる。ランナーを二人背負いながらも、何とかツーアウトまでもぎ取ったようだ。

「ちっ、あのキャッチャー加奈子の扱い方が全然だな。四球が嫌なのか全然コーナーを要求しねえ」

 そう。先ほどからリードを観察してみれば、キャッチャーのミットはやや真ん中よりの低目が多かった。球威で男性に劣る加奈子はそのゾーンに馬鹿正直にストレートを投げ込むわけにはいかず、何とか変化球でかわそうと四苦八苦している。

「……違うよ。あれはわざとさ。あの先輩、僕が投げたときは逆にどんどんコーナーを要求してくるよ。でも僕には佐久間さんほどのコントロールはないからとても厳しいんだ」

 健二の侮蔑するような一言を聞いて、弥太郎は頭に血が上るのを感じた。それはいまだに思いを寄せている少女が下らぬ先輩の嫉妬でいびられていると気がついたからだ。

「よくも悪くも僕たちは目立ちすぎたんだ。特に神崎君と僕が。あそこで練習している人たちが絶対に届かないような名門校からのスカウトを蹴ったのが駄目だったみたい。でも本来僕らに向けられる筈の嫉妬は、僕たちが先輩たちを叩きのめしたことで叶えられることはなかった。そこで君たち二人に捌け口が向かっているんだ。本当、あいつらなんか大嫌いだ」

 普段はにこにこと女子生徒に人気の笑顔を振りまく健二だったが、今回ばかりは勝手が違った。弥太郎は静かに怒りに燃える健二を見て逆に冷静になっていく。

「けれどそれも後二年の辛抱だ。二年たてば俺たちは最上級で誰も文句を言わなくなる」

 ボールを返球するよう弥太郎がミットを掲げた。健二は「そうだね」と同意の言葉を告げながらも、背後でマウンドに立つ加奈子のことが気になった。


「……それまで、四人そろって野球をしているとは限らないけど」


 健二の呟きは直後の快音でかき消される。音だけで判別がつく痛恨のスリーランホームラン。見事先輩の術中に嵌り、被弾した加奈子は目に涙を込めながら、ダイアモンドを回るランナーを睨みつけていた。

 ここでもまた、歯車が少しずつズレていく。




 自転車で十五分ほど漕いだ場所に件の病院はあった。

 表の看板には スポーツ外傷 ご相談下さい と掲げてある。

 祐樹は深く深く深呼吸を繰り返すと、意を決したように表の自動ドアをくぐった。

 そして外で感じていた熱気とは別の、冷房独特の冷機を一身に浴びる。咄嗟に肩が冷えないよう汗拭きタオルを首の周りに巻きつけた。

「すいませーん」

 薄暗い院内受付には人影が見えない。もしや診療時間を間違えたのでは? と潜ってきた自動ドアを振り返るが、そこに表示された診療時間に問題は無かった。

 病院という名を冠しながら、人影一つ見えない室内に違和感を覚えながら祐樹は少し奥にある診察室に足を進めた。もしかしたらそこで医師が休憩でも取っているのではないかと考えて。

 だが祐樹のそんな淡い期待は見事に打ち破られることになる。診察室に足を向けたとき、廊下で鉢合わせた人物の所為だった。

「あらあらごめんなさい。今父は外先診断で席を外してます。もう十分程で戻りますので、少しお待ちくださいな」

 ぱたぱたとナースサンダルで駆けてきたサマーワンピースの女性。

 祐樹は申し訳なさそうに頭を下げるその女性から目線を外すことが出来なかった。

 だってそれは、余りにもあれだったのだから。

「咲下……先輩」

 震えるように搾り出した声から滲み出るのは懐かしさではない。むしろこの世界で出会ってしまった恐怖にも似た感情だった。

 腰まであろうかという艶やかな黒髪も、

 こちらの深淵まで見透かされそうな澄んだ瞳も、

 そして前世で祐樹を捕らえて話さなかった静かな声色も、

 いつか溺れたあの蜜地獄と全く同じだった。

 

 神崎祐樹を縛りつけたのは何も日本シリーズのあの打席だけではない。

 唯一彼が前世で愛していた恋人までもが彼を呪う。

 彼の打席への再現の道は、易々と上り詰めることの出来るものではなかったのだ。



 やきうをしよう。でも本当にそれでいいの?

 
 

 


 ◆◇◆◇ 
 
 こんな時間に更新。
 更新ペースは若干文章量を減らすことで対応。
 人物パートはどうしても短くなりがち。高校野球編で一気に増えそうなので、しばらくお付き合い下さい。
 誤字脱字は今晩一括で修正します。ご指摘ありがとう御座います。



[22750] 第八球目【それは不思議な出会いなの? の巻】3
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:46
 二回三安打三失点。

 言い訳はしないと決めている私だけど、余りにも作為的な先輩のリードに文句の一つも付けたくなっていた。

 そりゃあ、球威が格段に劣る私の球筋が悪い。でもその球筋を克服するために精密なコントロールを私は持っている。少しでもゆーくんと野球をするために磨き続けた私だけの武器だ。

 その武器さえ生かすリードをしてくれれば、私はまだまだ打たれる気がしない。

 だが、いらぬ嫉妬や侮蔑を買っている今の私では、目の前に立つ打者を打ち取ることは出来なかった。

 単純に実力が及ばないならともかく、まともに投げさせてもらえなかっただけ苛立ちが沸き立つ。

 それに大好きなゆーくんが怪我で休みというのも私の精神上芳しくは無かった。

 別に慰めてもらおうとはこれっぽっちも思っていないものの、上級生たちを叩きのめすあの圧倒的なプレーをこの目に焼き付けたかったのだ。


# 


 涙を溜めた瞳を洗面所で乱暴に拭う。

 更衣室のロッカーに放り込んでおいた制服に着替えて制汗スプレーを振った。未だ立ち込めるやるせないイライラを振り払うように私は廊下に飛び出す。

 すると見知った同級生たちが歓談している様子を見つけた。それぞれ運動部のマネージャーを務めている女の子たちだ。

 会話の内容は主に何部の何先輩がカッコいいだの、好きだの、女三人集まればなんとやら、姦しいとしか言いようのないものだった。

 そして、そういった席で自らの思い人の名前が挙がることなど最初から予想できていたことだった。

「ねえ、野球部の神崎君、彼かっこいいよねー。カレシにするならあんな感じ?」

 一々抑揚に飛んだ口調に閉癖しながらも、私はそっと耳をそちらに傾ける。

 こんなもの聞かなければいいのに、どうしても耳を欹ててしまうのはやっぱり悪癖なのだろう。

「でもさー、神崎君もう彼女持ちらしいよー」

 別の女の子が返した合いの手に私の身が強張る。それはもしかしてあれなのだろうか。まだまだ噂だけど他生徒には私がゆーくんの彼女ということになってしまっているということだろうか。

 これは彼是十年近く付きまとった甲斐があったというものである。ゆーくん本人がその説を否定してもこれをダシに外堀を埋めていけば良いのだから。

 先輩の嫌がらせに対する鬱憤は何処へやら、私は静かに己の感情が昂ぶるのを感じていた。

 それは後から考えてみたらある意味で中学生活で一番幸せな瞬間だったかもしれない。

 けれど。

 世の中がそんな都合の良いように進むのなら、この世界から紛争や飢餓はなくなるのである。

 女の子はこう告げた。

「この前陸上部の先輩が言っていたんだけど、彼、二年の咲下先輩と付き合ってるらしいよ」

 ……。

 …………。

 ……………。

 …………………。

 ………………………へ?


# 


 振りかぶって、投げる。

 振りかぶって、投げる。

 振りかぶって、投げた。

 加奈子が投じた白球は、弥太郎のミットを大きく反れて見事明後日の方向に飛んでいった。

「つっ。おいおい! 何そんなに荒れてんだ! 大体スカートでキャッチボールとか馬鹿じゃねえの! せめて私服に着替えろよ! ライトグリーンかよ!」

「うるさい! 死ね!」

 咄嗟にスカートを抑えるものの、直ぐに弥太郎の返球を力いっぱい投げ返した。今度は何とか彼のミットに納まったものの、球筋も無茶苦茶で決して褒められたホームとは言えなかった。

 加奈子は怒りの形相で弥太郎を睨み付ける。久しぶりに怒りの感情をぶつけられた弥太郎は「ひっ、」と情けない声を上げることしか出来なかった。

「……僕も見えたんだけどねえ……。そもそも夏場にそんだけ無茶したらもう透けてるし……」

 欠伸を一つ遠慮なしにしながら、二人の様子を健二が見守っていた。彼は自販機で買ったスポーツドリンクを足元に三本置いている。うち二本は加奈子と弥太郎のためだろう。

 彼は加奈子の怒りの原因を友人から聞いていた。それは同学年の女子生徒の無責任な発言が原因らしい。だが健二がその発言を耳にしたとき、はじめに感じたのは違和感だけだった。

「神崎君は今日病院に言ったんだよな? 何で付き合ってることになってるんだ? 面識があるなんて聞いてないぞ」

 そう。二週間ほど前にファミリーレストランで咲下井塚の連絡先を祐樹に教えた健二だったが、アレから祐樹がそこへ連絡していないのは今の状況の通り事実だった。もしそこで連絡したのなら故障者リスト入りの噂など流れるわけが無い。

 ならば二人に面識がないと考えるのが普通だったが、友人からの話を聞く限り井塚と祐樹が恋人同士というのはかなり信憑性のある話らしい。
 
 何故なら本人がそのことを認めているというのだ。

「けど祐樹君は決してそんなこと言わないだろうし。……言ったらどうなるかなんて火を見るより明らかだもん」

 ストレス発散のキャッチボールにつき合わされている弥太郎を見て健二は一人納得していた。そもそも恋愛感情を抱いているかは全くの不明だが、祐樹は基本的に加奈子の味方だ。そして祐樹自身は加奈子の好意をある程度認識しているようなので、火に油を注ぐような真似をする筈が無かった。

 と、すれば。

「問題は咲下さんか。何を考えているんだあの人は」

 加奈子ほどではないものの、微かな怒りを覚えながら健二は携帯電話を手に取った。もちろん通話先は井塚である。

 だがまだ昼過ぎだというのに、電話口から聞こえてきたのは「電源が入っていない」という携帯会社お決まりの台詞だった。


# 


 あれはいつの頃だったか。

 故障に悩んでいた祐樹にコーチが勧めた病院があった。都内のオフィス街に戦々恐々としながら足を運んだことは覚えている。なにぶん上京してから初めて東京らしい場所に来てしまったのだから。

 もう少し先輩や監督が催す食事会に出席していればと後悔したものだった。

 そして地図を片手に訪れた病院は、医療機関というより理容室と言った方がしっくりくるようなお洒落な内装で、受付の女の人も綺麗に着飾っていた。

 決して自分だけに向けられる笑みではないと自覚していても、受付に立った瞬間、顔が火照るのを感じていた。

 だがそこまで来るのに「やっと、」としていた祐樹に止めを刺す出来事が発生する。

 看護婦に呼ばれ、診察室に足を踏み入れた時。

 白衣を着こなし、ボールペンを無名ポケットに刺した色白の女。

 彼女は祐樹に薄く微笑みこう告げたのだった。

「こんにちわ。神崎祐樹さん。東京ジャイアンツの方ですね。お待ちしておりました」

 その笑みは彼を捉えて離さない。

「これからゆーくんと呼んで良いですか?」


 

 咲下井塚との出会いは、そうして果たされたのだった。


# 


 これが悪夢ならさっさと覚めてくれと願う。

 十年近く唾を付けていた思い人が、ぽっと出の女に寝取られるなんてあってはならないことなんだ。

 肩の痛みと、目に溜めた涙で何も見えなくなったとき、私はついに地面に座り込んだ。

 そういえば、いつだか試合中に駄々を捏ねてこうして泣いたことがあった。

 今思えば幼かったと笑っていられるが、よくよく考えれば今もあんまりかわってない。

 でもこんなとき、私の大好きな人はそっと私の頭に手を置いて慰めてくれた。

 私のヒーローは決して私を置いていかず、いつでも私のことを助けてくれたのだ。

 そう。

 だってほら。

 今だってこうして頭に手をやって慰めてくれる。

 嬉しい。

 とても嬉しいんだけど……。

 何でだろうなあ。


 どうしてゆーくんじゃなくて、弥太郎なんかに慰められてるんだろう。



 ごめんなさい。

 当り散らして本当にごめんなさい。

 だからもう少しだけ私を慰めて。



 ついに泣き出した加奈子を弥太郎はそっと頭を撫で続けた。正直当り散らされたときは迷惑千万だったがこうなってしまっては、出来ることなど唯一つだと思う。

 惚れた弱みはなんとやら。

 弥太郎は随分と複雑な気持ちで、加奈子の涙を見守ったのだった。









 














「私はね、あなたがそろそろ来るころじゃないのか、って当りをつけていたんだよ」
 
 待合室で手渡されたのはグラスに入った麦茶だった。少し古びたソファーに腰掛けた祐樹の隣に井塚は同じように腰を下ろす。そして瑞々しい薄くルージュが塗られた唇で一口グラスを傾けた。

「他の学校の監督があなたのことをここで噂していたの。西南中の神崎は深刻な故障持ちだって。でも同じ学校に通ってる私はそんな話聞いたこともないし、何より健ちゃんから軽症だって聞いていたから」

 健ちゃん――おそらく健二の事だろう。どうやら二人はそれなりに面識があるらしい。祐樹が前世から背負う呪縛の二人が知り合いだったとは何たる皮肉なのだろうか。

 祐樹は手渡されたグラスを傾けることなく、早く外先診断とやらに出かけた医院の主が帰って来ることを願っていた。

「でも驚いたな。実際こうして見てみると君のイメージが私の中で抱いていたものと全然違うの。周りからチヤホヤされて――、健ちゃんからは才能の塊って聞かされていたからもっと自信満々な、堂々とした人間だと思ったんだ」

 遠回しに覇気がないと言われた祐樹はその通りだと一人納得していた。この世界では自分のほうが内心は年上で、尚且つ実力も伴っているのだからもっと堂々と彼女に振舞うべきなのだ。だが前世からのイメージの所為か、それを実行することは出来ない。

 そしてその様子を観察し続けていた井塚は、そっと祐樹に顔を寄せた。

 まるで恋人がそうするかのように。

 祐樹の身体が思わず強張る。

 彼女は祐樹の耳元でこう囁いた。

 それはきっと、悪魔の囁きに違いなかった。



「ねえ、一体何でそんなに怯えているの? 久しぶりの再開なのにつれないね、ゆーくん」



 その時、祐樹の中で全ての時間が止まった。




 ◆◇◆◇


 おまけ 



佐久間 加奈子(13) さくま かなこ

右投げ右打ち  スリークォーター

球威     13
変化球    13
コントロール 18
スタミナ    14
守備力    14

合計  72

変化球 シンカー1 特殊能力なし







 



[22750] 第九球目【それは不思議な出会いなの? の巻】4
Name: H&K◆03048f6b ID:4b21aec7
Date: 2012/05/02 22:47
 咲下井塚について少しだけ語りたいと思う。彼女は祐樹が前世で唯一恋人関係となった女性であるが、なにぶん特殊な性分の持ち主だったので二人の関係は世間一般のそれとは違っていた。

 もちろん普遍的な恋人がするように愛を語り合うこともあったし喧嘩もした。セックスも言わずもがな、だ。

 たとえ万年二軍で補欠代打でもそこらじゅうのサラリーマンよりかは高い給料を受け取っていた祐樹は、結婚相手としてならばそれなりの物件だった。

 第三者から見ればそう言った側面が少なからず井塚を惹きつけていると評していたし、祐樹もそれについては認めていた。

 だが井塚だけは祐樹の野球選手というステータスを全面的に否定し続けていたのだ。

 ある時、彼女はこう言った。

「ねえ、野球選手なんかやめて私と静かに暮らしません? 私が養ってあげますから」

 丁度極度の不振で二軍ですらバットが振れていなかったときだった。互いに情事の余韻を感じていたひと時に落とされた一つの爆弾。祐樹はいたく困惑した。しかし彼女のその台詞に救われたのもまた事実だった。

 井塚は当時、スポーツ外傷を専門とした接骨院に勤めていた。有名プロ選手が大勢通うちょっとした穴場で、給料もそれなりに良かった。

 祐樹と井塚が出合うことになったのも、プロ野球選手と女医という関係から来たものだ。

「いや、ごめん。俺はまだ野球がしたい」

 井塚が決して冗談を告げているわけではないと知っている祐樹は己の気持ちを素直に打ち明けて見せた。井塚の思いやりは痛いほど感じていたが、彼が培った二十年近い野球生活を否定することは出来なかった。

 彼女もその意思を汲み取ったのか、その日はそれ以上何も言わなかった。



 出番も無いのに遠征というものが一番辛い。

 選手バスの中前席の片隅で音楽プレイヤーを弄っていた祐樹はそう思った。一軍の左代打要因として昇格した彼だったが、チームは交流戦に苦戦しまさかの五連敗。代打を出してまで勝ちにいける雰囲気では無かったため、結果的にベンチで声援を飛ばすしかやることが無かった。

 ふとその時、携帯電話でバイブレーターがなった。隣に腰掛けていた先輩に一言礼を詫びると彼は背面ディスプレイに表示された文字列を見た。

 メール  咲下さん

 恋人同士だというのに何処か他人行儀なのは患者と医師という関係だった頃の名残だ。井塚は早々に「ゆーくん」と登録していたらしいが、祐樹はまだ初対面に登録したときのままになっている。

 数ヶ月前、この表示が彼女にバレたときは、三日間口を聞いてもらえなかった。そこで修正するように約束をしたのだが、何だかんだ言ってそのままにしている。

 祐樹は届いたばかりの未開封メールを画面に表示した。


 件名  おつかれさまです。

 本文  今日も出番がありませんでしたが、いずれ活躍のときが来ます。それまで身体に気をつけてください。あと一週間ほど実家に帰るので、鍵はいつものところではなく私の車のダッシュボードにしまっています。
     取っといてくださいな。


 実家に帰る、という文面に祐樹は眉を潜めた。親元で何かあったのかと思いその旨を問いただす。すると十秒ほどで返事のメールが返ってきた。


 件名  Re2:おつかれさまです。

 本文  妊娠したので。


 たぶんこのとき、祐樹は久しぶりに野球のこと意外を考えたに違いない。野球以外のことには井塚以外てんで関心が無かった彼だが、彼女が送って来た文面はそんな祐樹の心に一つの杭を穿っていた。

 歓喜なのか困惑なのかよくわからない感情を抱えながら、祐樹は一人携帯電話を閉じた。

 そして宿泊ホテルに到着する寸前でとある事実に気がつく。

「そうえいば、ゴムなしでしたことなんてあったっけ?」

 まあ、穴くらいなら彼女は開けていたとしても不思議ではない。そう結論付け、祐樹は固まった身体を解しながらバスを降りた。夏特有の生ぬるい風がシャツに張り付いて快適とは言えなかった。




 相手投手が投じた球は祐樹から逃げるような軌道を描くカーブだった。祐樹は無意識のうちに踏み込んでそれを打ち返す。だがタイミングが外されたのか、快音とは裏腹に打球はセンターの前で失速してしまった。

 初のスタメン出場で4の0。

 明日の出場を望むには余りにも心もとないスコアに、祐樹は重い足取りでベンチに下がる。今日もビハインドを追っている所為か、祐樹に労いの声を掛けたのは彼の昇格を推薦したコーチだけだった。

 最近慣れ始めてしまった負けムードの中、球場には選手交代が告げられる。大量得点でリードしている相手チームが、終盤のこの回で経験を積ませるために若手を起用するのだろう。

 誰が出てくるのかとスコアラーたちは鼻息を荒くするが、ベンチでペットボトルを傾ける選手たちは大して興味を抱かない。

 ただ、祐樹だけはその時コールされたその名を何故かはっきりと聞いていた。

『ピッチャー、川村に変わりまして大塚ー。ピッチャー、川村に変わりまして大塚ー』

 マウンドで若い投手が息を吐く。祐樹はその仕草を見つめただけで、彼が自分と同じ立場、心境にあることを知っていた。万年2軍から抜け出すためには結果を残さなければならない。渦のような重責と周囲からの視線に耐えながら、孤独にプレーをする。

 だがこの日、祐樹と彼で一つの相違点が生まれた。

 それは『大塚健二』が見事三者三凡に押さえ込み、祐樹と違って評価を上げたことである。


# 


 病院のタイルに二人の影が重なる。咲下井塚に組み敷かれた祐樹は抵抗する気力も沸かないまま、されるがままにされていた。床には二人分の麦茶と氷、グラスが散乱している。

「……何の真似ですか、先輩」

 咲下さん、と呼ばなかったのは最後の彼なりの抵抗だった。認めたくない、前世で彼を追い詰めたあの女が目の前にいる女と同一人物であることを認めたくないという心情の表れだ。

「何って押し倒しているんですよ。ゆーくん」

 頬に手を当てられながら、祐樹は息を一つ呑む。井塚の黒い瞳は奥行きが見えなくて、彼の原始的な恐怖を誘った。

 井塚は薄ら笑いを浮かべたまま、小さな唇で語りを始めた。

「前世というものがこの世に存在するのかはわかりません。でも私は時々夢に見ます」

 彼女の声は呪文だ。それも呪詛の類の。井塚が口を開くたびに組み敷かれた祐樹の身体が見えない言葉の鎖で締め上げられていく。

 逃げる手段など、どこにもない。

「驚きましたよ。夢の中で身体を重ね続ける見知らぬ男の人が、同じ学校に通っているんですもの。それに名前も同じ。あなたは私のことを気が狂った女かと思うかもしれませんが、あながち間違いじゃないかもしれませんね。こうして肌と肌を重ねているだけで私は愛情に溺れそうになる。……会った事などないはずなのに」

 ねえ、と井塚は続けた。

「私たち、前世で恋人とかだったりしたのでしょうか?」

 限りなく確信を突く、井塚の声に祐樹は何も言えない。


# 


 それは秋雨が深い昼下がりのことだった。首位を快走するライバルチームの背中を負う事も諦め、何とかAクラスにと奮闘し続けるナインの中に祐樹の姿があった。

 幸い、本拠地をドーム型球場としている祐樹のチームは雨の影響もなんのその。着々と試合開始に向けてカウントダウンを刻んでいた。

 ベンチの奥に貼り付けられたスターティングメンバーには「八番 右翼 神崎祐樹」と書き込まれている。

 守備練習で祐樹はバックホーム風の返球をキャッチャーに送る。だが、彼の投じたボールはマウンドを越えたすぐに失速し、俗に言うレーザービームには程遠かった。

 彼のその様子に落胆するものもいなければ、叱咤するものもいなかった。

 誰も祐樹を見ていない。


 
 試合は3対3の同点のまま、七回の裏を迎えていた。2アウトランナー二塁。ラッキーセブンの名に恥じない勝ち越しのチャンスだ。

 しかしチャンステーマを演奏するファンも、ベンチから声援を飛ばす選手もその顔は一様に冴えていない。それはバッティンググローブを装着し、相手の投手交代を待ち続ける選手に問題があった。

 右翼出場の神崎祐樹である。

 入団してから早三年。ファンの期待を故障などで裏切り続けた彼に対する風当たりは強い。それはこういった重要な場面で如実に現れる。打撃も守備もイマイチの彼はいつトレードの弾に使われるかが、専らファンの話題だった。

 そして相手投手が右投げにシフトしたとき、監督が祐樹の肩を叩いた。言葉などなくとも、その意味は良く知っている。静かにバットを置いた祐樹の横を代打職人で名を売っている選手が歩いていった。

 自分とは比べ物にならない歓声を聞きながら、祐樹は唇を噛んでいた。


 試合は勝った。代打職人が放った値千金のタイムリーでの勝ち越し点を最後まで守った。監督は全員で掴んだ勝利と豪語し、スポーツ新聞は一打席で決めた英雄を称えていた。

 球場を殊勲選手のコールで支配する。

 ロッカールームで一人、バットを振っていた祐樹の携帯電話が鳴った。

 いつもの慰めのメールかと溜息を吐きながら携帯を開いた祐樹だったが、相手は彼女の実家からだった。

 そこにはこのようなことが書かれていた。





 井塚が流産をした。


# 


 蝉の声はどこか遠い。むせ返るような夏の熱気がアスファルトを焦がし、陽炎を生む。歩行信号の青色点等を知らせるメロディは間抜けだった。

 暑い暑い夏なのに、井塚と重ねた唇は冷たい。それがさっきまで飲んでいた麦茶の所為だと、祐樹は漠然と考えた。けれど直ぐに井塚の熱い唾液を流し込まれ、麦茶の冷気は幻想に消える。

「……やっぱり何か知っているんですね」

 祐樹の上から降りた井塚が乱れたワンピースを調えた。祐樹も井塚に肌蹴られたYシャツの襟を戻す。何処からか雑巾を持ってきた彼女は床に散乱した麦茶を片し始めた。

「父はもう直ぐ帰ってきます。私から伝えておきますから、もう診察室に入っていて下さい。三番の部屋です」

 こちらを見ずに淡々と告げる井塚に祐樹は言葉を返さない。ソファーで二人分の体重に潰された鞄を背負いながら、彼は黙って井塚の横を通り過ぎる。

 そんな彼の背中に井塚の声が届く。

「また、学校で会いましょう。放課後、図書準備室に来てもらえればお茶くらい出しますよ」

 振り返った先の井塚が麦茶の入っていたグラスを振っていた。先ほどまで感じていた呪縛は既になく、少し大人染みた先輩の顔をしていた。

 祐樹は頭を一つ下げ、診察室に逃げ込むように入っていった。





◆◇◆◇

あとがき

少し遅れました。次回から野球回。
そして感想が三桁超えて、安定するようならオリジナル板に移転します。



  



[22750] 第十球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その1
Name: H&K◆03048f6b ID:91d01a3d
Date: 2012/05/02 22:47
 本当に美しいカーブというのは打者から見て、止まって見えるカーブだと思う。私がそういう結論に思い立ったのは、恋愛にも人間関係にも嫌気が差し始めた二年の夏休みのことだった。テレビでたまたま見つけた甲子園の中継でそれはあった。

 投手がいる。変化球を多投する軟投派投手だ。ストレートに球威はなく、あるのはコントロールくらい。彼の投球フォームはお世辞にも綺麗とは言えず、ストレートとそうでないときに差が出来てしまっている。世間一般では駄目なタイプに分類される投手だ。

 けれど、どうしてだか彼の投げるカーブだけは打者が空振る。投げてくるとフォームの違いで分かっているはずなのに、球速も80キロを割っているはずなのに打者は打てない。

 気がつけば私はテレビの録画ボタンを押していた。そして教本で見たカーブの握りをしたまま、一日をそうやって過ごしたのだ。

 蝉が五月蠅いとある夏の日。それはある意味でゆーくんとの出会いには及ばないけれど、とても重要な出会いだった。




 変化球というのは150キロ超のストレートを軽々と打ち返してしまうモンスターから逃げるために生まれたボールだ。祐樹は少なくともそう考えている。ルールで示されたストライクゾーンに真っ直ぐ飛んでいくボールなど打者から見れば児戯に等しい。容易に軌道を予測し、恐怖を感じさせるスイングでスタンドに白球をたたき込む。

 投手からすればまさに悪夢であり、彼らの存続意義に繋がりかねない問題だ。だから変化球が生まれた。リリースの作法、編み目への握りを工夫し、空気抵抗を武器にボールを曲げる。

 あるときは横に滑るスライダー。またある時はバットの下をくぐり抜けていくフォーク。

 古今東西あらゆる変化球が生み出され、打者を手玉にとり、

 そして研究を重ねた打者がそれを打ち返す。

 すると投手は新しい変化球を模索する。

 新しい変化球は魔球と呼ばれ打者から畏怖される。

 もう何十年も続くこの世界の規律にプレイヤーは翻弄され続けるのだ。


「次スライダー!」

 防具を身につけ、ミットを構えた弥太郎が叫ぶ。祐樹は一つ頷き、中学になって解放したオーバースローで玉を投じた。リリースの瞬間、左手中指に力を入れると、ちょうどバッターボックスの上でボールが右打者の方向に滑った。

「へえ、曲がりだけなら僕より上手いね。投げ方を教えてよ」

 投げ終わった後、マウンドの後ろで見守っていた健二が近づいてくる。彼はいつも通りの顔のパーツを線にした笑顔を浮かべ、ライバルと称する祐樹を讃えていた。

「まあこれとチェンジアップくらいしか投げられないけどな。それにピッチャーはしないって決めてるから投げれても意味はないよ」

 打者としての至上の到達目標を持つ祐樹は、投手としての野球人生に微塵の興味も抱いていない。目の前で祐樹のスライダーの握りを真似している健二との対戦こそが彼の悲願だからだ。

 いや、対戦というだけならもうとうの昔に叶っている。彼らは小学生のリトルリーグで出会い、エースと四番として火花を散らした。軍配は祐樹に上がったが、あれから同じ中学の野球部に所属する二人は練習という名の対戦を続けている。戦績は祐樹が未だに圧勝しているが。
 
 祐樹が求めるのはそういった対戦ではない。日本シリーズの、決着を付けることなく散ってしまったあの打席に立つことが彼の願いだ。ある意味で押しつけ願望にも近いが、祐樹は己の努力と目標の意義を疑ったことはない。

「で、いつもならここで加奈子にチェンジなんだけど何処行ったんだあいつ?」

 キャッチャーマスクを脱いだ弥太郎がマウンドに登ってきた。そう、部活が終了した日曜日の夕方。いつもの四人組は自主トレというお題目で練習を続けているのだ。普段なら祐樹の後にピッチング練習をする加奈子の姿が見えるはずだが今日は影も形もない。

「あー、彼女なら一人で練習するとか言って今日は自宅だよ。試したいことがあるんだって」

 弥太郎の疑問に答えたのは意外にも健二だった。普段からは祐樹、弥太郎に比べて加奈子と交流のなさそうな彼だが、ここ最近は同じ投手のよしみでよく雑談をするらしい。

「ふーん。なら今日は三人で実践練習するか。健二ピッチャー、祐樹バッター、俺キャッチャーな」

 防具を着け直し、のそのそと持ち場に戻っていく弥太郎を祐樹と健二は並んで見つめていた。ひぐらしの音と何処か遠くから聞こえてくる子供たちの声が響く夏の夕暮れだ。



 診療所で出される飲み物は一年前のあの日から麦茶と決まっている。あの白昼夢のような日から祐樹は蜘蛛の巣にとらわれた蜻蛉のように、井塚の下を訪れていた。

 辺りの風景が赤から濃紺に変わった頃合い、待合室で二人並んで腰掛ける。

「成る程、幼馴染みが先輩からの嫌がらせですか。大変ですね、それは」

 言葉だけなら同情しているように取れるも、その口調から心底どうでもいいと言った感じで井塚は告げる。だが彼女は別に冷たい人間というわけではない。祐樹以外の人間に対してひどく無頓着なのだ。

 一年前のあの日から、彼女が前世の記憶について語ることはない。もう井塚の中では夢の話だと決着がついているのか、敢えて口を噤んでいるのかは祐樹には判断しかねていた。

「本来ならあなたに向く嫉妬が加奈子ちゃんに向いている。いや、もう加奈子ちゃんの実力を考えたらそうでもないのかな?」

 二人して麦茶を啜って、待合室のテレビを眺める。夕方のニュースでは本日行われていた甲子園のハイライト放送が行われていた。何でも今年注目のとあるカーブピッチャー特集らしい。最初から結論は出ないとわかり切っていた話題だったのか、祐樹も井塚もそれ以上加奈子についての話題を蒸し返すことはなかった。

 結局は祐樹や健二みたいに「ぐう」の音も出ないくらいに実力的に叩きのめすか、嫌がらせを繰り返す先輩が卒業するのを待つしかないのだ。

「難しいですね、人間関係。みんな生きて必死に考えているからどうしても軋轢が生まれる。私はそういうの面倒くさくてこりごりです。あなたも気をつけた方がいいですよ。私や幼馴染みはあたなが才能だけの人ではないことを知っていますが、そうは思わない人もたくさんいます。人は無いものに憧れ、そして恨む」

 説教臭くなってしまいましたね、と井塚は笑ったが祐樹は一言も笑えなかった。

 何故なら彼女の指摘は、前世の祐樹そのものだったからだ。彼は己の才能と運のなさを恨み、溢れる才能でプレーする人間に嫉妬していた。今は真逆の立場にこそ立っているが、いつ自分がそちら側に落ちていくのかわからない。

 ふと、栄光の端に佇む絶望を見た気がした。

 それは嫌に前世で見慣れていた景色だったと言うことに、祐樹は戦慄を覚えた。



 ついにこの季節が来た、と部員たちは色めき合った。

 苦しい合宿に炎天下の夏を乗り切った彼らが目指しているのは関東地区大会の予選だ。県内の中学でトーナメント戦を行い勝ち残ったチームが地区大会出場の権利を獲得する。ある意味で中学野球の最終到達地点がそこにはあった。
 
 地区大会で優勝すれば次は全国、という非常に魅力的な大会だが、もちろんレギュラーメンバーには限りがある。控え含めて野手は13人、投手は5人まで登録可能だ。三年生はもちろん、一年生を除いた全ての部員がレギュラーメンバーに滑り込むべく切磋琢磨を続けてきた。

 今日はそのレギュラーメンバーを定めるべく、最終テストが行われる日だった。

 校時の全てを終え、ユニフォームに着替えた部員たちがグランドを走る。ある者は白球を投げ、ある者はそれを打ち返し、ある者はそれに飛びついていた。トライアウト形式の最終テストに部員は自然と力が入る。

 そうした熱気にまみれた一段の中で一際異彩を放つグループがあった。エースナンバーの1を背負い、マウンドでバッターボックスを見つめる少年と、彼にサインを送り続け最善のリードを模索する少年だ。そんな彼らに相対するのは10番の背番号を身につけたやや長身の少年だった。

 整った顔立ちと細い身なりからは少年の実力を窺い知ることは出来ない。だがバッテリーの配球の慎重さが彼の実力の一端を教えてくれる。失投など論外、いくらベストピッチを投げこもうともコースを数ミリずらせばスタンドに運ばれてしまうと、彼らは慎重に慎重を喫していた。

 ピッチャーの少年はおのが才能である剛球を投げ込んだ。うなりを上げたストレートは中学生離れした魔球だ。だがバットを水平に構えた特徴的フォームを持つ少年はいとも簡単にそれに食らいつく。ボールはフェアゾーンぎりぎりに落ちて、少年に2ベースヒットを与えてしまった。

「はあ、ますます仕上げて来てるね、彼。今のを打たれるか」

「くっそ、最近化け物染みてるなあいつ。この前も他校との練習試合で2ホーマーだぜ。たしかアベレージ6割超えてる」

「これでも僕はここらへんの投手4冠なんだけどね。ちょっとこれはやってられないなー」

 はあ、とため息をつく二人。彼らはバッターの少年、祐樹に敗北したがそれ以外では負けなしの黄金バッテリーだった。今回の地区大会予選でのレギュラーがほぼ確定している二人組である。もちろん祐樹は言わずもがなだ。

「ま、いつものことだから気にしても仕方ねえよ。ところで俺たちのお姫様はどうした?」

「ん? 佐久間さんのことかい? 彼女なら向こうでおもしろいことになってるよ」

「おもしろいこと?」

 怪訝な表情を貼り付けたまま弥太郎はフリーバッティングスペースを睨んだ。そこでは上級生を相手にピッチングを続ける加奈子の姿もあった。バッターボックスでメットとグローブを外した祐樹が二人に合流する。9月になり、指すような日差しもなりを潜め始めた頃、三人は静かに仲間のピッチングを見つめた。



 ストレートに球威も球速もない。

 あるのは誰にも負けないコントロール。
 
 でも女だから、非力だから、といよいよ体格差の出始めた男子プレイヤーに負けを重ねていた。

 最初は大好きな男の子を追いかけるために野球を始めた。根本では今もそれは変わらないかもしれない。でも、ここ最近の苛つきは、モヤモヤは、こうして振りかぶって白球を投じたときなぜか忘れられる。

 本当に不思議な感覚だった。いつもはいつ打たれるか恐怖しながら、先輩たちへの恨み辛みを込めながら投げていたのに、今は何も考えず自然と力を抜いて投げることが出来る。以前はヘナチョコと馬鹿にされていたカーブも面白いくらい抜くことが出来て三振を築くことが出来た。


 加奈子は休みの殆どを、カーブの握りを続けたまま一日を過ごすことに当てていた。

 それは何もやる気が起きない、何もしたくは無いという脱力感の証明でもあったが、彼女に自然な感触での握りを約束させた。

 ずっとずっと連敗続きだった恋愛も野球も、一度無気力になることで全て忘れてしまいたかったのかもしれない。あれほど好きでいたのに横から幼馴染みをかっ攫われそうになる危機感、野球が上手く出来ず置いてけぼりにされてしまうと言う恐怖感、全てが彼女を力ませていたが、小さな体に宿した虚無感で全てをリセットした。

 祐樹と触れあわない日々が何日も続いた。四人の練習に参加しない日々もずっと続いた。でもそれは一つの充電期間だった。

 誰にも負けないなんてたいそうな決意は固められない。決して彼女は特別な存在では無い。

 それでも前に進みたいから、すこしでも祐樹を好きでいたいから彼女は努力を続ける。

「指はそえるだけ!」

 彼女の投じたカーブは円を描いてキャッチャーのミットに収まる。それは直球勝負を諦めた、されど不退転の意思を持ち続ける彼女の意思そのものだった。

 小さく突き上げられた拳は女の子らしからぬマメが沢山出来ていた。 



[22750] 第十一球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その2
Name: H&K◆03048f6b ID:91d01a3d
Date: 2012/05/02 22:47
 世の中には滑るようにキレがあるストレート、差し込まれるようにノビるストレートとあるが、彼の投じるストレートはそのどちらとも違った。痛いくらい握り込まれたボールが爆発するかのようにキャッチャーのミットに向かって飛んでいく。
 
 球筋は唸りを上げ、バッターのスイングに勝ること本の一瞬。三振の山を築き上げる。

 ブラスバンド部と応援団の歓声が響く中、最後の一球が投じられた。

 マウンドで弾けるように振り下ろされた腕から飛び出したボールは内角高めを抉り込み、ストライクバッターアウトのコールを審判から引き出して見せた。

 珍しく健二が拳を突き上げる。それは一週間前に見た練習仲間の仕草を失敬したモノだった。


 105球二安打15奪三振 完封勝利。

 マネージャの女子が記録するスコアシートにはそう刻まれた。最早名実共にエースと化した健二を打てるバッターなど同チームにしか存在しない。その唯一の例外である神崎祐樹は6打数5安打4打点と相変わらずの怪物っぷりを発揮していた。

 エースとスラッガーの二枚看板を掲げる清祥中学の野球部は快進撃を続けていた。全ての試合で二桁得点、三失点以下を続け圧倒的な強さで予選トーナメントを勝ち進んでいる。まさに向かうところ敵なしで遂に決勝まで駒を進めた。これを無事勝ち抜けば関東地区大会への切符を手にすることになる。

 野球部結成以来の快挙に自然と応援にも熱が入っていた。



 蝉の声も死に絶えた9月半ば、予選決勝の日が差し迫った夕立降りしきる日だった。野球部の練習はお流れとなり自主的トレーニングとして幾人かの部員が廊下で短距ダッシュを繰り返していた。その中にいつもの四人組の姿は見えない。祐樹は加奈子を伴って市内の方へ買い物に向かい、弥太郎は弥太郎で夏期実力テストの補講を受ける羽目になっていた。

 ならば大塚健二は、というと、雨粒ぶつかるガラスが続く薄暗い廊下を一人して歩いていた。

 彼が足を止めたのは校舎の外れにある図書準備室だった。

「……失礼します」

 ちょうどノックを二回、返答が帰ってくる前に扉を開けた健二は中で読書に勤しむ女子生徒の姿を目にした。まるで一つの彫刻のように洗練されて、それでいて生き生きとした血色を称えた女子生徒の名は咲下井塚という。

「おや、珍しいですね。君がここに来るなんて。私のことが嫌いだったんじゃないですか?」

 からかうような口ぶりと裏腹に目線を上げた井塚の瞳は冷たかった。いつも祐樹に向けている親愛の色など微塵も感じさせない、他人に無頓着な彼女そのものの瞳だった。
 
 だが健二はその瞳の色に何一つ怯むこと無く、彼女の対面に置かれていた椅子に腰掛けた。締め切られたカーテンの向こうから雷鳴が轟き、校舎のどこかで女子生徒の悲鳴を引き出している。

「……いろいろと言いたいことは前からありますけどね、今日は少しまじめな話ですよ。咲下先輩」

「あら、いつから私はお悩み相談所になったのかしら。ゆーくんもそんな感じだし才能あるのかもね」

 けらけらと笑い声を上げる井塚とは対照的に健二は何処までも静かで冷静だった。いつもの彼らしくない真剣な目つきを見たら、いつもの三人組はおそらく目を剥くだろう。井塚は己の挑発に最初から何も期待していなかったのか、すぐに笑い声をやめ健二をすっと見据えた。

「本当はうちみたいな小さな診療所じゃ無くて大きな病院の方がいいんだけどね。それにこういうことは父に聞いて欲しいな」
 
 井塚が立ち上がって私物として勝手に持ち込んだコーヒーメーカーからコーヒーを注ぐ。いつも祐樹には麦茶を出していたが、自分一人で飲む場合はコーヒーと決めているのだった。

「生理痛にはね暖かい飲み物がいいの。自分の体温と同じものが一番体によく作用する。あなたも同じよ、健二君。オーバーワークによる筋肉の発熱は余計なモノしか生み出さない」

 ことり、とカップが置かれる。カップの縁に着いた桜色のルージュの跡がやけに生々しく、健二は目の前の従姉妹から逃げ出したい気持ちに駆られていた。自分と一つしか歳が変わらないはずなのに、昔からこの人物は健二を圧倒し続ける。

 健二は努めて冷静でありながらも、内心の何処かでそういった焦りと戦っていた。

 対して井塚は内心の形を決して悟らせること無く台詞を続けた。内容こそ怒りを伴っているものの、そこに抑揚は無い。

「野球選手っていつもそう。ねえ、そこまで自分の体をいじめ抜いた先に何があるの? あなたたちはこの先の人生を考えたことある? 今使い潰し続ける体の資産てどれくらいだと思う? あなたもゆーくんもどうしてこれがわかってくれないのかしら」

 返す言葉など見つからなかった。井塚に責め立てられた健二は静かに次の言葉を待つしか無かった。そして井塚は全く同じ調子でこう続けた。

「左腕に抱えた爆弾、基本的に悪化しかしないわ。爆発したら最後。もう二度と投げられないわよ」

 もう何度も聞き続けた最後通牒の内容は、以前から全く代わり映えしていなかった。



 違和感に気がついたのはもう随分と前だった。彼が魔球と称されるストレートを会得したのと同時、常に左腕に違和感がつきまとうようになった。最初は筋力変化か何かだと勝手に判断していたが、親類である井塚の父親に検診されたときから状況は一変する。彼が魔球と引き替えに差し出していたのは左腕の命そのものだったのだ。

 過剰に付きすぎた筋肉が幼い体の関節を締め上げた故に生まれた、負の資産だった。

「それを抱えたままそこまで成長したら、もう切り開かない限り治らないと父は言っているわ。この前大学病院への紹介状を送ったでしょ」

「冗談はやめてください咲下先輩。そんなことをしたら野球が出来なくなる」

「ふん、だからあなたたちは馬鹿なのよ。別に野球を馬鹿にしようとは思わないけれど、それでも優先順位ってものがあるわ。君のはね別に選手生命が終わるだけじゃ無いの。文字通り左腕が死んでしまうのよ」

 もう幾度となく聞かされた井塚の説教に健二が答えを用意することは未だ出来ていない。彼はいつも通りに口を閉ざし、そして表情を若干絶望に染めながら井塚の前を後にする。

「もう何度来ても結果は同じ。次検診に来たときは紹介状じゃ無くて強制的に治療させるかもよ。医師としては最低だけど親類としてなら私も父も躊躇わないわ」

 図書室を去る健二の肩は小さい。

 それは到底、完封と三振の山を築く怪腕エースの姿には見えなかった。

 夕立はまだ止みそうに無い。



 試合当日は快晴だった。前日まで降っていた夕立はアスファルトに残った水たまりでしか無く、水はけのよいグラウンドはちょうどよい湿り気を帯びていた。外野で相変わらず黄色い声援を受け続ける祐樹と、守備体系に指示を出し続ける弥太郎、そしてマウンドの上で土を踏みならす健二がそこにいた。

 プレイボールの合図と共に増した熱気の中、清祥中学は着実にゲームを組み立てていった。初回の守備はエース健二がきっちりと三者凡退に抑え、次の攻撃では祐樹が放ったタイムリーで見事先制を果たした。理想的なゲーム展開に応援団もプレーする選手もボルテージが上がっていく。

「いっけー! 三塁行ける行ける!」

 四回の表、ここまで順調にゼロ失点を続けていた清祥にチャンスが訪れる。スコアは1-0。中盤の中押し点が欲しいイニングでの出来事だった。この回、ツーアウトから打席に立った祐樹がライト線を突き破るスリーベースヒットを放ったのだ。外野がもたつくうちに彼の俊足が遺憾なく発揮された。

「へえ、やっぱり彼は凄いね。今ので三つ行くのか。これは何としても返さないとな」

 バッティングローブにメットを装着してバッターボックスに立ったのは5番の健二だった。彼はピッチングはもちろん、卓越したバッティングセンスを持つ中軸を打てる選手だった。黒いバットをスタンダードに構え、ツーアウトからのピンチに動揺する相手投手を見据える。

「……キツイよね。こういう場面て。でもここを押さえてこそエースだよ」

 一球目は内角高めのストレート。魔球のストレートを持つ健二からすれば児戯にも等しいストレートだった。だがコースが良い。苦しいピッチングを続けながらも、決勝まで投げ続けた相手チームのエースの意地が窺えた。

 対する健二は投じられたボールを無理に打ち返すことを恐れていた。痛みも痺れもない左腕だが、ここ最近の検診でわかった悪化具合を考えれば嫌でも慎重になる。まだこの故障のことは井塚とその父以外には知らせていない。祐樹という最高のライバルがいるから、弥太郎というベストパートナーがいるから、加奈子という切磋琢磨できる投手がいるから、彼はこうして野球を続けている。

 健二はふと、今となっては懐かしいとある原風景を垣間見た。




 そのとき自分は泣いていた。

 リトルリーグのレギュラー争いにも負け、チームメイトにも馬鹿にされ続けた彼は涙していた。

「サウスポーだからあいつは投手をやらせてもらえる」

 同級生の心ない一言が彼を苦しめ、傷つけていた。

 本当は投手なんてやるつもりは無かった。彼が憧れたのはテレビの画面の向こうでバットを振り回す強打者達だった。彼らがバットを振るえば投手の投じたあらゆる球が消滅し、気がつけばスタンドに突き刺さっている。

 その姿は幼い健二の目を釘付けにし、彼を野球の世界に引きずり込んでいった。

 でも彼は不幸なことにサウスポーだった。入団したリトルリーグでは自然と投手といポジションに着かされた。野球におけるサウスポーというのは、野手の分野では形見が狭い。内野守備では味方の足を引っ張り、まともに守備できるのは外野と一塁だけだ。

 だが投手という場にサウスポーが立った場合、状況は一変する。普段見慣れないコースから飛んでくる球は小学生の心を惑わせる。まだ技術もパワーも無い年頃なら、サウスポーというのは強力なアドバンテージなのだ。

 だからこそ彼は投手をやらされた。そして失敗してしまった。

 一言で言い表せば、彼は祐樹が羨ましかった。

 堂々とスラッガーを名乗ることが許され、そして最強野手へと成長していくライバルが妬ましかった。

 確かに投手として健二が築き上げたものは最早誰にも得ることの出来ない資産だった。それでも彼はそこに大した価値を見いだすことは出来なくなっていた。



「なら、投げるのも止めたら良いのにな」

 二球目がキャッチャーのミットに突き刺さる。ストライクがコールされ、スコアボードに彼が追い込まれたことを伝えるカウントが刻まれた。健二は息を一つ吐き出すと、もう一度投手を見つめた。

 そして、左のバッターボックスから三塁に佇む祐樹を見据えた。

「本当なら僕もそこに立ちたかったよ。神崎君。怪我を押してまでここに立ち続ける意味は、もしかしたら君のところにあるのかもね」

 三球目が飛来する。三振狙いの落ちる変化球だ。健二はその変化球を見逃せばボールであることを知っていた。投手としてのキャリアが一枚も二枚も上手の彼は容易に配球を読んでいた。

 だが彼はバットを出した。それもハーフスイングではなく、大振りのフルスイング。

 一番恐れていた無茶なバッティングだった。

 もしかしたら、原風景を垣間見てしまったときから少しおかしくなっていたのかもしれない。

 三塁からこちらを見つめる祐樹に自然と自分を照らし合わせていた。

 それは今となってはもう手に入らないスラッガーの幻影。

 エースという呪縛に縛られ、スラッガーという夢を見ることが出来なかった健二の少しばかりの抵抗。

 バットは見事空を切り三振が告げられる。

 相手チームからは歓声、自チームから失望の声が上がるが、健二はそんなことどうでも良かった。

 すでに一点を憎い憎いライバルからプレゼントされている。あとはいつも通り球界までゼロを重ね続ければ良いだけだ。

 夏の死骸のような日差しがバットを持った健二を映し出した。彼が見た地面に伸びる影はテレビで憧れた強打者のようだった。

 バットを振り切った状態から、少しだけ放り投げてみる。

 すると存在しない綺麗な放物線がスタンドへ吸い込まれていくのが彼には見えた。

 左腕が痛い。健二は一つだけ朗らかに笑うと、「ごめんね」とベンチに頭を下げるのだった。



[22750] 第十二球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その3
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:47
 僕はね、七回のマウンドが一番好きなんだ。

 地区大会予選、決勝。一対ゼロで一点リードのまま進行した六回の裏。健二はこんなことを祐樹に告げた。祐樹は最初、どう返事したらいいのかわからず曖昧に返してやることしか出来なかった。

 バッティンググローブを用意し、交代した相手校の投手を観察していた祐樹にしてみれば本当に突然の話題だった。

「いや、ラッキーセブンだとかよく言われるよね。七回の攻撃は。あれは大リーグの選手がインタビューで語ったエピソードが元ネタなんだけれども、理論的に考えてもとても利に適っている。先発している野手が三巡目に入るわけだから、先発投手の調子、球筋が読まれ始めるんだよね。さらに先発投手が疲れを感じ始めるのもこのイニングが多い。つまり投手有利で進んでいた前半戦に打って変わって打者有利の後半戦になるんだ」

 まあ一概には言えないけれどね、と彼は付け加えた上で、

「もちろん投手はこのイニングをいかに押さえるかでエースかどうか判定されていく。六回無失点で降板した投手より、九回一失点まで投げた投手の方がエースぽいよね。僕はそんな投手を目指すべきだと思うんだ。何が言いたいのかというと、僕はエースの格が問われる七回の登板こそ完璧に押さえたいと思っているんだ」

 健二との対談は祐樹がバッターボックスに向かったことによりここで終了した。バットを片手にグラウンドへ出て行く祐樹を大塚が見つめる。

 彼は一つ肩を回すと、少し離れていたベンチで観戦していた加奈子に近づいてこう言った。

「ゴメン、佐久間さん。キャッチボールの相手してくれるかな?」



       ◆



 放物線ではなくライナーで白球がスタンドに突き刺さった。ライトは呆然とフェンスの向こう側を見つめ、ダイアモンドを一周するランナーを見る。

 怪物と称され、敵ながら自軍の監督が絶賛する選手だ。同じ中学生ながら、天と地ほどの差もある敵軍の右翼手を見る彼の目は暗い。それは嫉妬と畏怖が入り交じった不思議な視線だった。

 そして視線を敵軍のベンチ前にやれば、のんびりとキャッチボールを続ける相手エースが見える。唸るような剛速球と巧みな変化球の組み合わせに彼は既に二打席連続三振を喫していた。これでもチームの三番を任されている彼は主軸打者としてのプライドも存在していたのだが、そんなもの早々に砕かれてしまっていた。

 全てに於いて格が違う。

 そう思わされるような相手のエースと四番に、彼は憎悪染みた台詞をこっそりと吐き捨てた。

「怪我でもすればいいのに」



       ◆



 あれ、と疑問を抱いたのは祐樹が本塁打を放ったのと同時だった。

 健二の球をキャッチボールで受けていた加奈子はボールの微妙な回転に違和感を覚えたのだった。いつもはプロペラが回るように飛んでくるボールが少し違う回転をしている。

 彼の利き手である左方向に少し曲がる球。ただ加奈子は疑問を抱いただけでそれを健二に伝えることはなかった。何故なら大事な決勝戦の最中だったし、もし彼がそうなるように投げているのであればいらぬ気遣いというものだからだ。
 
 それに健二なら何も問題はないというある一種の安心感が彼女をそうさせていた。

 祐樹が打ち、健二が押さえる。そういった勝ちパターンに慣れきった彼女に今更疑問を抱けと言う方が酷なことだったのだ。

 わー、と歓声が上がる。味方チームが攻撃を終えた。祐樹のソロホームランで二対ゼロにスコアが切り替わる。投手から見れば限りなく理想に近い中押し点だ。二点のリードというのはエースが投げている限りこのまま主導権を握り続けることが出来るスコアだった。

 本塁打を打った祐樹が観客でもあり応援団でもある同校生徒から祝福の声を掛けられる。

 黄色い声が多数混じった声援は加奈子を若干不機嫌にさせつつも、チームの士気はそれに比例するように上昇していった。

 残りイニング三回。これを押さえれば関東代表として夢にまで見た全国に駒を進めることが出来る。
 
 普段は祐樹と健二を疎ましく思っていた三年生もこのときばかりはそんなことを忘れていた。彼らはたとえ後輩に負んぶ抱っこでも全国レベルのチームに在籍しているという誇りに酔っているのだ。

 健二が静かにマウンドへ上がる。

 エースの登場に場内の歓声が一際大きくなる。彼は腕を振り上げ一球目を投じた。

 内角高めのストレートは見事打者の空振りを誘い、ストライクのカウントを一つ刻んで見せた。

 彼らの夏の集大成が今始まる。


 

 健二は弥太郎のリードに首を振ったりはしない。

 それは弥太郎のリードを信用しているという証拠でもあったが、何より自身のストレートに絶対の自信を持っていたからだ。いくら爆弾を抱え込む理由になった魔球とは言え、己の野球人生はこのストレートと共にあったと言っても過言ではない。

 強肩の祐樹ですら健二の投げるストレートは真似できなかったし、真似させるつもりもなかった。

 何れはこのストレートが何処まで通用するのかやってみたい。

 投手というキャリアに祐樹が野手に対して抱くほどの固執は見せていないが、彼は自分のストレートだけは認めていたのだ。

 だが違和感がある。

 左バッターの内角に切り込まれたストレート、それは弥太郎のリードから見て少し逆球気味になっていた。

 本来なら大した意味は無い。ただのコントロールミスだと笑ってみせるところだが、咲下から告げられた台詞が脳裏からこびり付いて離れない今、嫌な汗を内心彼は流した。

 幸い弥太郎や外野にいる祐樹が気づいた節は見受けられないが、健二自身が事の重大さをいち早く感じ取っていた。

 弥太郎からボールが返される。

 縫い目に指を掛け少し息を吐く。

 正直言って打たれる気はしない。

 でも、何処かで二球目を投げるのが怖いと思っている自分がいる。

 弥太郎が真ん中高めにミットを構えた。高めのストレートをもう一球見せて、フォークで打ち取ろうという作戦なんだろう。定石と定石と言えるリードだが別に悪くない。むしろ今の試合展開を考えてみるに、定石のリードはむしろどんどんしていくべきである。そして、確実に勝利を掴まなければならない。

 健二は腕を振り上げた。オーバスロー特有のモーション。足を振り上げ意識をボールを握り込んだ手先に集中する。

 イメージはいつもと同じ。

 軌跡を頭に描いて、そこを貫くように投げるだけ。

 なのに今日はやっぱり何かがおかしい。

 肘が綺麗に回らない。いつまで立っても握り込んだ指がボールから綺麗に離れてくれない。

 健二から見て左、つまり利き手方向への回転がリリースの瞬間始まる。

 思い描いていた軌跡を貫くはずだったボールが少しずつ軌道を逸れていく。一度手から離れたそれを止める術はない。

 あ、と声を上げたのはバッターだったのかそれともキャッチャーである弥太郎だったのか。

 ともかく健二は声すら上げる暇がなかった。ただ振り抜いた左腕に鈍痛を感じ、眉根を歪ませるだけだったのだ。

 バッターの脇腹に白球がめり込んでいく。痛みで身体を縮込めてしまうバッターだったが、その表情は健二とは対照的だった。痛みに眉根を歪ませた健二とは違い、バッターは理由がどうであれ塁に出られる喜びを感じていたのである。

 絶対的な支配者だったエースから生じた小さなほころび。

 バッターはバットを控えに手渡し、小走りで一塁に向かう。掛かるコールは「デッドボール(死球)」

 健二がロジンパックを握り、マウンドに静かに落とした。マウンドに上がってこようとする弥太郎を制して、静かに次のバッターを見据える。

 内心掻いていた冷たい汗は現実の肉体から嫌に成る程吹き出し、ユニフォームを濡らす。

 呼吸が速くなって、今の自分の投球を振り返る余裕もない。

 ただ確かだったのは、彼にとって人生で一番長い七回の表が始まったということである。




 
 



[22750] 第十三球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その4
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:47
 健二は止まらない汗を拭いてマウンドの土を均す。利き腕方向にボールが抜けていく謎の現象に襲われながらも、彼は持ち前の球威で二人を打ち取った。流石エースとも言うべき貫禄あるピッチングだった。

 だがまだ彼の中に渦巻く焦燥感が拭い去られることはない。肘の鈍痛は相も変わらず続き、いつものイメージ通りに投球が出来なくなっていた。調子が悪いと一言で片付けられたのならどれだけ楽なんだろう、と彼は自嘲にも似た笑みを零す。

 弥太郎から返されるボールをグラブに収め、彼はふと背後を振り返った。

 そこにはこのチームの核である、己がライバルの姿がある。ライトを守備している彼は定位置より少し前を守っていた。それは次健二が相対するバッターがノーパワーの二番であることが原因だった。

 彼は今、健二に起こっている異変に気がついている節はない。
 
 ただ、珍しく健二が死球を出している程度にしか考えていないのだろう。

 とても理不尽な感情であることは痛いくらいにわかっていたが、健二はそんな祐樹に対して少しだけ反感を抱いた。

 それは悲鳴にも似た彼のSOSコールだ。

 二番打者が打席に入る。健二が得意とする左バッターだ。内角を突くようにストレートを投げ込み、外角に逃げていくスライダーなりバットの下を通過していくフォークで料理してやれば良い下ろしやすい相手だ。しかし今日は勝手が違う。

 健二を苦しめ続けるものが相手バッターではなく、己自身であることはある一種の皮肉にも見えた。

 弥太郎からリードが告げられる。要求されたのは外へ変化するスライダー。このリードに健二は思わず首を振ってしまった。

 何故なら弥太郎の方から初球に変化球を要求することなんてなかったのだから。

 健二はこの時、弥太郎が何を考えているのか手に取るように分かってしまった。彼は健二が投げ込むストレートの異変に気がついている。そして、気がついた上でストレートでは勝負出来ないと判断したのだ。

 そう、健二の魔球でもあるストレートが女房役である弥太郎に否定されてしまったのだ。

 健二はマウンドの上で絶句したまま動くことが出来ない。そうしている間にも相手バッターは投球が今か今かと待ち受け、弥太郎は変化球の要求をする。

 からん、と健二の中で何かが壊れた。

「!?」

 驚愕に顔を染めたのはバッターもキャッチャーも同じだった。

 間延びな声色で「ストライク」のコールが告げられる。

「おいおい何考えてんだ」

 呟きを零したのは誰だったのか。

 バッターは突然投じられた打ち頃の球筋に、キャッチャーは自分のリードを無視して投げ込まれた無謀とも言えるストレートに目を剥いていた。

 弥太郎は遮二無二にマウンドへ駆け上がった。

「おい、どういうことだ」

 問い詰めるような口調。それに対して健二は反抗するわけでもなく、静かに、だが弱々しくこう告げた。

「ごめん。サインを読み違えた」

 嘘だ、という言葉を弥太郎は寸前のところで飲み込んだ。そして彼は気がつく。自分が女房役として、健二の球を受けるキャッチャーとして大きな失敗を犯してしまったことを。

 よかれと思って、不調になったかもしれない健二の事を思って、変化球で一球逃げようと思った。だが健二がストレートに抱いていたプライドがそれを許す筈がなかったのだ。

 ぽつり、と健二が言葉を続ける。

「僕はこの回で降りる。必要なアウトカウントはあと一つだ。点差は二点。流れを考えると失点は不味い」

 だから、と。

「お願いだからストレートで勝負させてくれ。変化球じゃもう太刀打ちできない」

 ダメだ、とは言えなかった。

 弥太郎は健二の台詞一つでほぼ完全に彼の心境を悟ってしまった。間違いない。今健二は不調なんかじゃない。もっと根本的なところでおかしくなっている。それは仲良し四人組の歯車が中学に入って狂い始めたように、彼も何かも決定的にねじ曲げ始めていたのだ。

 弥太郎は一つ頷いてマウンドを降りていく。彼からはもう何も言わなかった。



 ただマウンドに取り残された健二の背中は何処か寂しそうで、今までゲームを支配していたエースにはとても思えなかった。





 ワンストライク、ノーボール、ツーアウトから試合が再開する。

 弥太郎はサインを出すことなくミットを下段に構えた。

 長打だけは避けなければならない。何とか低めに球を集めて相手の打ち損じを狙いに行くしかなかった。普段の健二からは考えられないとても後ろ向きなリード。だがもう健二が首を振ることはなかった。

 唸りを上げてボールが飛来する。

 最初から予想していたのかバッターは迷うことなく振り抜いてきた。だがまだ健二の球威が勝ったのか白球はバックネットに突き刺さる。

 弥太郎は思わず舌打ちする。もう少しタイミングをずらすことが出来たなら、間違いなく今の球でフライアウトが誘えていた。

 まだ甘いと自分を叱咤する。次構えるのは健二がデッドボールをぶつけてしまった相手バッターの内角だ。ここで空振りを狙いに行く。

 果たして健二が振りかぶった。

 ゆったりとした動作から、バッターの視界から一瞬、握り込まれたボールが消える。

 そして次の瞬間、指バネの音を残して白球が表れた。コースは狙い通りの内角。

 やや内に入ってきているがそれでも球威が圧倒的な渾身のストレート。

 バットがボールの下を叩き、快音からはほど遠い音を残して放物線の軌道を描く。向かう先は右翼定位置やや後ろ。そこは健二が最も信頼する野手が守備しているチームの聖域だ。

 健二の表情から険が取れ、安堵したような表情に変わる。内野で守備していた野手も一様に自分たちの勝利を確信していた。

 ふらふらと上がった白球に祐樹が捕球体勢に入った。




































 だが、野球の神様は気まぐれも良いところだった。











 異変が起こる。祐樹が何か焦ったように叫び声を上げた。しかしながら場内の歓声でそれも掻き消されてしまう。

「っ、おい!」

 健二達の視界に入ったのは突然猛ダッシュを掛けた祐樹だった。彼は何故か捕球体勢を解除し、センター方向に走り始めた。

 ボールから一端視線を外し、彼にしか見えない落下地点に向かいだしたのだ。

「え?」

 健二が気の抜けた、彼らしくない声を上げる。一塁にいたランナーが何かに気がついたのか、ジョグ程度で掛けていたダイヤモンド上で加速し始めた。

「くそっ! セカンド!」

 弥太郎が指示を飛ばす。彼は打ち上がったフライを見上げた。それは完全に回転が止まり、ライトに到達する以前に失速してしまった白球の姿だった。

 彼が予測した落下地点はセカンド、ライト、センターを結ぶ三角形のちょうど中心。

 野球でもっとも捕球が難しいとされる、魔のトライアングルに野手三人が突っ込んでいく。

「間に合って!」
 
 ベンチから加奈子の悲鳴が聞こえた。背面でボールを追いかけるセカンドは殆ど見失い掛けている。センターもスタートダッシュが遅れ、間に合う可能性は限りなく低い。

 ならば、かの白球を捕らえることが出来るのはただ一人だけだった。

「神崎くん!」

 健二が叫ぶ。祐樹が飛んだ。もう足では間に合わない。できる限り姿勢を低くし、ボールと地面の接触地点に身体を割り込む様に滑り込んでいく。

 ナインには全てがスローモーションの様に映った。観客の声援が耳から離れ、滑り込んでいく祐樹のスパイクの音しか聞こえない。

 そして――、







 
 白球は無情にも祐樹のグラブの数センチ先に落ちた。



[22750] 第十四球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その5
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:47
 白球を拾い上げた祐樹がサードを刺す。だが体勢を完全に崩した……半スライディングの体勢から投じた送球に力はなく、一塁走者をアンラッキーなヒットで三塁まで進めてしまう結果になった。

 手をついて立ち上がった祐樹がこちらに背を向け、呆然としている健二に声を掛けようとする。だが捕球をし損なった負い目からか、彼の口から言葉が出てくることはなかった。ただ、ズレた帽子を被り直して再びライトに戻っていく。次の守備位置は定位置よりやや後ろ寄りだった。

 ツーアウト、一三塁。野球におけるピンチに於いて、最もナインの精神を蝕む場面が今完成した。

 残されたアウトカウントはあと一つ。だが単打で確実に一点、長打で二点入りかねないという微妙なシチューエーション。ワンアウトなら併殺打を狙いに行くことも出来るが、ツーアウトとなるとその打ち取り方が余りにも多すぎて、逆に投手と守備陣の心を惑わせる。

 また打者もアウトカウント残り一つという極限の緊張感の中、そこに油断はなく、最も下しにくい相手と化すのだ。

 守備陣不利、打者有利のチャンス。

 その紛れもない事実の中、誰も言葉を発することはなく、ただマウンドの上で相手を仕留め損なったエースが短く息を吐いていた。

 彼はもう一度ボールを握りこみ、バッターボックスに入ったバッターを睨み付ける。
 
 まだ彼にはエースという自負心が残っている。彼が語った七回を切り抜けられる投手にならなければ、本当のエースとは呼べない。


 三番という、チャンスでランナーを帰すことを目的とした主軸打者との対決が始まろうとしていた。



    ◆



 思わぬ形で打席が回ってきた。

 もう誰も相手のエースを攻略することなど不可能かと思われた先、デッドボールから始まったチャンスのシーン。魔物とはよく言ったもので、ツーアウトまで追い詰められていた打線のボルテージが上がり、逆に相手チームを追い詰めようとしている。

 三番打者の彼、鳥飼誠は今までの野球人生で、ここまで緊張する場面は無かったと回想する。

 怪我をすればいいのにと憎悪を吐き捨てた相手だが、チャンスシーンで相対するには十分すぎる格を持ったエース。

 二点ビハインドという場面で、一人でも走者を帰せれば確実に流れが変わるであろう場面。

 地区大会の決勝は中学野球で考えられる中でも非常に高い地位に位置づけられる試合だ。ここで打てばこれからの野球人生、間違いなく変わるはずだった。

 鳥飼はバットのヘッドでホームベースを二度三度叩き、サイン交換を済ませたエースを睨んだ。

 彼の主軸打者としてのプライドが、一人の野球人としての矜持が今息を吹き返す。



    ◆



 今までずっと押さえてきた。はっきりとした敗北はただ一度のみ。

 神崎祐樹というチームメイトに返されたあの打球は今でも脳裏にこびり付いている。でもあれはとても気持ちが良いものだった。自身が投じた最高の球が最高の打者に打たれたのだ。不快感なんてあるはずもない。

 だが今はどうだろう。

 この身体の奥底から沸き上がる焦りは?

 もしかしたらまた打たれるかもしれないという恐怖は?

 自分はエースではなかったのか。

 野球というゲームの絶対的な支配者ではなかったのか。

 魔球のストレートも手に入れた。最高のバッテリーを組めるキャッチャーも居る。バックで守備をするナインにも不足はない。

 なのに震えが止まらない。

 歓喜の震えなんかでは決してない。

 四年前に感じた、エースとして主軸打者に相対する喜びなんてどこにもない。

 ただ何処か空しい寂寥感だけがあった。



    ◆



 エースが振りかぶった。一瞬視界からボールが消える。だがこれで今日三度目の対戦。何処からボールが出現し、どのような軌道で飛んでくるかはもう覚えている。後はそれに身体がついて行けるかどうか。スピードガンなど存在しないが、優に130は超えてくるスピードの球を打ち返す技術は彼にない。だからコレは一か八かの賭だ。

「しっ!」

 ボールが通過するであろう軌道にバットを振り抜く。掠りもしない完全に振り遅れたスイング。やっぱり早い。そして初速と終速の差が殆ど存在していない。所謂ノビのあるスレートだ。彼の、鳥飼の手元で伸びるように白球は投げ込まれている。

 だがコースはあっていた。

 読める。読めている。

 エースの投げるストレートの軌道が完璧に読めていた。不思議な感覚だ。今までの野球人生でも経験したことのない不思議な感覚だった。まるでエースが何を考えているのか手に取るようにわかる。今の彼の心境も、これから自分を打ち取りに来る配球も。

 そして彼は己が勝負すべき球は次の球ではなく、ウィニングショットを決めに来る三球目だと定めた。

 彼はその球に全力を注ぐため、内角低めに飛来したストレートをカットするだけにとどめた。

 想像していたより遙かに重い球だったが、気後れすることはなかった。

 大丈夫、予想通りだ。

 自分に何度も言い聞かせて、自分がエースを攻略する姿だけを思い浮かべる。ここではもう負けのイメージなんて必要ない。今日六回までこちらを完璧に押さえていた投手とはまるっきり違う人物が投げているのだ。そうだ、自分には打てる。

「俺は、打てるっ!」

 三球目、痛いほどにバットのグリップを握りこみ、彼はエースの投球を待った。



    ◆



 振りかぶったとき、思い出したのは自分の原風景と今まで積み上げてきたモノたちだった。

 彼は野球が好きだった。辛い思いも沢山してきたがそれでも野球が好きだった。野手に適正がなくなっても、彼は少しでも野球がしたいから嫌いだった投手を続けた。

 そしていつの間にか、彼の周りには同レベルのライバルなど存在していなかった。誰も打てない、誰も打ってくれない。野球をするのは自分一人だけ。いつも自分一人で戦ってきた。

 それでもいつの間にか、仲間と呼べるチームメイトが出来ていた。ライバルと呼べる宿敵が出来ていた。

 何度も何度もスラッガーの夢を見てきたエースは、ライバルに勝ちたいが為に過去の原風景を忘れようとした。

 肘が壊れると警告されても、投げることを止めなかった。正直に怪我を打ち明け、セーブしながら投げていたら恐らくここまで酷くならなかったはずだ。

 相手打者に祐樹の面影が重なる。

 実力なんて、それこそ比べようもないほど開いている二人だが、一野球人として対戦に応じてくれているのは二人とも同じだった。

 

 彼は辛かった。

 彼は気がついた。

 今まで自分が積み上げてきたモノがどれだけ歪だったのかを。

 常に対戦相手を見下し、試合を支配しようとしていた自分が如何に愚かだったのかを。

 肘が悲鳴を上げる。もうこれ以上投げ込んではいけないと必死に訴えてきている。それでも彼は投球動作を止めない。もう何千回も、何万回も続けてきた動作を信じ切って、いくら歪んでいようともこれが今の自分の姿だと心に焼き付けながら。

 ボールが手から離れた。大きく弧を描いた軌道は彼の魔球であるストレートではない。

 健二は選択をした。

 健二は逃げた。
 
 健二は、背後でボールを待つナイン達から逃げた。

 もう、力でねじ伏せることは出来ない。

 勝ちたいと思った。積み上げてきたプライドを土台にして、彼は先発投手として、チームのエースとして成すべき事をしようとした。

 だがそれはもう叶わない夢であることを彼は知る。プライドを棄てても、今この場面に一人で立ち向かえるほど彼は強くなかった。

 ボールが落ちていく。美しい、止まるような軌道を描いて落ちていく。それは彼が初めて投じた、みんなを信じたカーブ。

 打者がバットを繰り出した。

 タイミングはずれている。でもスイングの軌道は正確だ。

 白球がすくい上げられ、綺麗な放物線が空に伸びていく。

 ライトの祐樹が見上げる。彼はもう打球を追えない。





 すとんと落ちていった打球は逆転のスリーランホームラン。




 そして、マウンドの上で健二が静かに膝をついた。もう、これ以上投げることは出来ないと悟りながら。

 



[22750] 第十五球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その6
Name: H&K◆03048f6b ID:894910c5
Date: 2012/05/02 22:48
 交代は静かに告げられた。七回の表、二対三のスコア。逆転のスリーランホームラン。

 最悪の展開に陥った決勝戦のなか、健二は静かにマウンドを降りていく。弥太郎が静かに健二の背中を叩くが、返答はない。ただ彼は左肘を押さえたまま幽鬼のようにふらふらで、ベンチの奥に姿を消した。

 観客席から飛ぶ拍手の雨も今の彼には届かない。七回までの力投といえば聞こえはいいが、いわば彼は敗者。エースとしての責務を全うできなかった、勝負に勝てなかった人間なのだ。

 己の弱さと身勝手さ、そして歪さをまざまざと見せつけられた彼がベンチに戻ることはない。非難する人間など存在しないことを知っていても、彼自身が自分を許せなかった。

 ごめん、とはいわない。

 大塚健二、ただ一度の敗北しか知らなかった少年の、人生で最も大きな挫折だった。



「……佐久間、いけるか?」

 監督に声をかけられた加奈子は「はい」と短く答える。

 ベンチから試合を見続けていた彼女は、監督の言葉の意味を痛いほどに理解していた。

「うちの攻撃イニングは残り一回だ。後は神崎に託す。……だがそれまでに相手を零封する投手が必要だ」

 加奈子はグラブをはめた。肩はもう出来ている。もともと速球派ではない彼女の生命線はコントロール。

「頼む、健二を、全員を全国に連れて行ってくれ」

 
 もともと、野球を始めた理由は幼馴染みが原因だった。片思いを続ける男の子が恋しくて、少しでも一緒にいたくて始めた野球だった。けれど少しだけ、ほんの少しだけ加奈子の野球に別の意味が付いた。

 散々先輩にいびられて、男子女子の体力差に絶望して、けれど甲子園であのピッチャーを見て、

「わかりました。任せてください」

 髪を結い、帽子を目深にかぶる。二、三度屈伸をして場内の雰囲気に体を慣らす。逆転した相手チームの士気はまだまだうなぎ登り。ここで追加点を許すような展開になれば、チームの勝利は絶望的なものへと変わる。ここは何が何でも無失点で切り抜けなければならない場面。

 マウンドに上がった彼女はこちらに手を振る弥太郎を見た。そして背中側の延長線上にたつ祐樹の存在をそっと感じる。

 いける。

 彼女は唇を一つ舐め、バッターボックスに立つバッターを見た。彼は相手チームの主砲。料理するには歯ごたえのありすぎる選手だが、怖じ気づいている暇はない。

 投球練習もそこそこに、彼女はマウンドの上で白球を握る。

 確かに清祥中のエースは大塚健二だ。だが、清祥中の投手は彼だけではない。

 弥太郎がコースを構えた。ストライクゾーンからボール一個分しか余裕のない、無謀とも言えるゾーン。だが加奈子はそれに対して特別な反応をすることなく、淡々と投げ込んだ。

 平凡な速度、全く存在しない球威。

 だが問題はない。弥太郎の構えたミットに正確に投げ込むことなど、彼女が悩む恋に野球にと比べるべくも無い。

 全ては簡単なことで、全ては難しいこと。

 快音とは言い難い、軽くミットを叩く音が球場に響き渡る。だがバッターは手を出すことが出来ない。あまりにも臭いところに投げ込まれたボールに彼はスイングを躊躇してしまっていた。

「さあさあ、見てばっかりなら見逃し三振だよ」

 
 健二の戦いは終わった。だが試合はまだ終わっていない。

 加奈子の戦いは今始まる。長い長い夏の集大成が今始まる。


 外角高めのコース。ボール一個ずれればスタンドインオメデトウ。

 笑い事では済まされないコースに二球目を投じる。狙い通りの軌道を描いたストレートは痛打されながらもファールゾーンにしか飛ばなかった。
 
 大丈夫、タイミングが合っていない。

 弥太郎とアイコンタクトを結びながら、加奈子は次の投球動作を開始する。ボールを返球されてから一呼吸置く間もなく、彼女はテンポ早く投げ込んでいく。これは彼女が彼女なりに試行錯誤した独自の投球スタイルだ。

 つまりコントロールのみでタイミングを外させていることを、相手に考えさせる間もなく投げていくのだ。

 真っ向から攻めることが苦手な彼女は搦め手で打者を支配しようとする。それは彼女がこの夏で生み出した孤高の投球術。至高に届かなくても、孤高なら手が届く。それが加奈子の結論だった。

 三球目は一球目二球目とは真逆の内角高めのコース。外角に意識が跳び、特に落ちる玉を警戒している打者に効果的な一球。裏を完全に掻かれた四番はそれを苦し紛れにカットする。

 これでいいと思う反面、このままでは千日手になりかねないと弥太郎にサインを送った。

 加奈子はストレートで相手打者を打ち取ることは出来ない。だからこそ彼女の四球目は浅い握りから繰り出される。

 イメージされるのはストレートと同じフォーム。スリークォーターから違和感なくそれを投げ込むには、前に引っ張っていかれる体のベクトルを修正しなければならない。

 極限のバランスと感覚に裏打ちされた投球モーション。ストレートと寸分違わず繰り出されるそれは一度空を見上げた後、止まったように落ちていく。

 加奈子はこの球に逃げる。

 だがそれは自分から負けて逃げるのではない。この球に逃げることこそが彼女の勝利に繋がるのだ。

 重力に逆らわず落ちていくのは美しい軌道のカーブ。打者はストレートのフォームから繰り出される変化球にバットを泳がす。振り切ることは出来ない。だが止めることも出来ない。

 ハーフスイング気味で止められたバットに場内が一瞬静まりかえる。だが審判が高らかに「バッターアウト」を叫んだとき、割れんばかりの完成が場内を揺らした。

「すごいよあの女の子!」

「やべー、めっちゃ可愛い!」
 
 女性投手という珍しさにまず喜び、そしてその実力に舌を巻く。加奈子は自らに降りかかる歓声に身を任せながらマウンドを下る。

 そして感じた。

 ああ、ここが帰ってくるべき場所だったと。



「健二!」

 イニングが切り替わる幾ばくかの時間、ロッカールームにはチームメイトが押しかけていた。そこでは学校から連れて来られた保険医と主催者が用意したスポーツ外傷専門の医師が健二を診断していた。

「ああ、みんな本当にすまないね。油断しちゃったよ」

 いつも通りの、まさに優男といった口調でも表情は優れない。むしろ痛みに耐え続けているせいか脂汗さえ浮かべている。

 それだけで、ナインはエースに何が起こったのか理解してしまった。

「悪いのか?」

 問いただしたのは現キャプテンである三年生だった。彼は健二たちに主力の座を奪われた一人だったが、そんなことも臆面にも出さずにプレーしていた数少ない上級生だった。

「すいません。もうしばらくは投げられませんよ。肘が回りません」

 アイシングと止め木で固定された左腕は痛々しい。健二は少し押し黙った後、徐に祐樹を見た。

「神崎君、君が作ってくれたリードなのに台無しにしてしまったよ。だから頼む」

 フライアウトを捕球できなかったことを、健二は責めなかった。もう少し判断が速ければ、もう少しスタートが早ければ取れていたであろう打球。祐樹だからこそ健二はそれを信じていた。
 
 そしてこれからもそれは変わらない。彼は台無しにしてしまったリードを、作り出してしまったビハインドを、祐樹なら書き換えてくれると信じている。

「おう、まあ任せとけ」

 安請け合いに聞こえるかもしれないが、二人の間ではそれだけで充分だった。

 もともと敵チームのエースとスラッガー。二人のこの関係だからこそ、言葉にしなくても伝わるモノは存在する。

「清祥中学の皆さん! そろそろベンチに戻ってください!」

 負傷者治療の為に与えられた時間が切り上げられる。ナインがそれぞれベンチに戻っていった。そして最後、祐樹と健二が拳を付き合わせる。

「頑張って」




 快投を続ける加奈子を援護したい清祥ナインだったが、エースでもあり強打者でもあった健二が抜けた穴は大きい。

 息を吹き返した相手投手に祐樹以外は凡打の山を築き、一向にビハインドを覆すことが出来ない。

 だがそんな状況下でも投手である加奈子は七回以降、ヒットを一つも許すことのない完璧なピッチングを披露して見せた。そこには祐樹と再び野球をしているというシチュエーションがプラスに働いていた。彼女は四年前の再来を願って、祐樹が相手投手を打ち崩してくれるのを待ち続けているのである。

「ストライク、バッターアウト!」

 そして九回の表、相手チーム、最後のバッターのスイングが見事空を切る。

 加奈子は拳を叩き、マウンドで飛んで見せた。

 女性投手だからと、奇異の目線で見続けられた二年間を精算してしまうような、そんなピッチングだった。

 加奈子はライトから帰還する祐樹とハイタッチをかわす。

 残された攻撃のイニングは残り一回。

 でも打順は最悪祐樹に回る打順だ。

 ここまでアベレージ六割強、本塁打も四本放っている強打者ほど頼もしいものは無い。

 ナインはまだまだ勝利を諦めていなかった。

 彼らは舞台から去らざるを得なかったエースの分まで、白球を追いかけ続けるのである。

 



 

 
 



[22750] 第十六球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その7
Name: H&K◆03048f6b ID:e31ddf34
Date: 2012/05/04 04:01
 九回裏の攻撃が始まる。先頭バッターは俊足の二番バッター。ここまでは四球を一つ選べているが、慎重になりすぎているきらいがあり、見逃し三振も一つしている。
 彼は相手投手が投じたストレートをなんとかカットしながらも、臭いコースに投げ込まれる変化球に対応出来ないでいた。止めたバットの先に当たったボールはボテボテのファーストゴロ。
 どれだけ俊足を生かそうとも、歩数にして二歩ほどの距離に陣取っているファーストと競り合うことは出来なかった。清祥ナインのため息と「どんまいどんまい」という空元気な声がグラウンドに響く。
 心なしかスタンドの応援も陰りを見せていて、ナインの士気と怖いくらいシンクロしていた。
「祐樹!」
 その様子をベンチの前で見ていた祐樹に弥太郎が声を掛ける。強心臓が評価されたのか、何かとチャンスで回りやすい六番に抜擢されている弥太郎のものだ。
 彼は手早くバッティンググローブを装着しながら、祐樹の肩を叩く。
「相手投手は七回以降見違えるほど球威が上がっている。多分余裕が出来た所為だ」
 ここまでのスコアは3-2の祐樹達から見て一点ビハインド。だが、たかが一点と侮ることなかれ。終盤の逆転されての一点ビハインドは何よりも思いビハインドだ。
 ましてやイニングは最終回の九回。堅実にランナーを重ねなければホームランが出ても同点止まり。
 延長は12回まで続けられるが、こうなれば七回にエースが降板し、三イニングもリリーフした加奈子を抱える祐樹達が不利となる。
 さらに12回まで戦い抜いても、そこで引き分けになれば大会規定によって、去年優勝した相手チームが全国への切符を手にすることになっていた。
 何処までも不利な状況であると理解しているからこそ、ナインの表情には焦りが見受けられる。
 弥太郎はネクストバッターズサークルに向かう祐樹に己の持論を説く。
「だからホームラン狙いは止めろ。今日は逆風も吹いていて余程ミートしない限り飛んでいかない。さっきのホームランはライナー性だから入った。打ち上げたら押し戻されるぞ。だからお前はなんとしてでも塁に出てくれ。五番、六番を信じろ」
 弥太郎の言葉を聞いて祐樹は空を見上げた。何処までも快晴な空。しかし弥太郎の言うとおり、微風ながらスタンドからグラウンドへの逆風が吹いている。グラウンドでは然程感じられないものの、スコアボードの上に掲揚された国旗のはためきでそれを知ることが出来た。
 恐らく高弾道の打球が飛べば押し返されるほどの。
「…………」
 だが祐樹はそれを確認しても、何か言葉を発することがなかった。
 怪訝そうに弥太郎が口を開くが、突如としてスタンドを覆った歓声に掻き消されてしまう。
 見れば、スコアボードに赤いランプが二つ。つまりたった今清祥のツーアウトが決定したと言うことだ。
 二、三度の屈伸をしたあと、背中に回したバットに沿って伸びをしながら祐樹がバッターボックスに向かう。
 その後ろ姿が、七回の健二のマウンドでの姿に重なって見えるのが、弥太郎にとって気掛かりだった。



 日差しを遮るような大きな日傘を差して、咲下井塚はスタンドに腰を下ろした。それは丁度七回の表、ワンアウトの時だった。
 別に誰かに誘われた訳ではない。
 祐樹も健二も簡単な日時を伝えただけで、来てくれと頼むことはなかった。祐樹も健二も、井塚が野球を好いていないという事実に薄々気がついていたからだ。
 彼女は作り置きしていた麦茶を傾けると、隣でメガホン片手に応援していた女子中学生に声を掛ける。
「今、どんな感じですか?」

 柏木愛はとくに野球のファンというわけでも、野球部のスラッガーとエースの追っかけというわけでもなかった。
 ただのミーハーな同級生に引っ張られて、休日にかり出された哀れな女子生徒の一人だったのだ。そんな彼女は飲み物を買いに行くとつげた同級生に取り残され、ひとり寂しくスタンドに座していた。
 ルールもよく分からない、試合状況もよくわからない彼女は当然応援が面白いはずもなく、夏の日差しに嫌気を覚えながらだらだらと試合を見守っていた。
 そんな彼女に転機が訪れたのはそう時間が経った頃ではない。
 ふわりという擬音が似合うような、大きな日傘の影に一瞬覆われた時だった。
「今、どんな感じですか?」
 一目見て上級生と分かったのはその落ち着いた雰囲気ではなく、彼女が来ていた制服の校章だった。清祥中学の校章は学年によって色が分けられる。柏木のような二年生は青、そして目の前の女子生徒のように赤は三年生と。
「ランナーが二人で点差は二点ですか。なかなかスリリングな展開ですね」
 上級生はスコアボードを一目見て、そう嘯いた。柏木は内心面白くない、と眉間に皺を寄せた。試合展開を聞かれたときはどう答えれば良いのか、たった数秒の間に考え抜いたのだが、目の前の上級生はそんなこちらの気持ちを冷やかすように呆気カランと試合を分析してみせたのだ。
 だから返しの言葉の口調はややきつかった。
「好きなんですか、野球」
 上級生がこちらに振り返る。
 彼女は眼を細めて笑った。睫の長い美人だな、と柏木は思った。
 そして美人はその小さな唇の薄い歯を見せて、言葉を告げた。
「まさか、大嫌いに決まっているでしょう」
 渡された答えが意外すぎて柏木の時間が止まる。呆気にとられて動けずにいると、スタンドが地震のように揺れた。空を見上げると何かがこちらに飛んでくる。
 反射的に身構え、その場から飛び退こうとした柏木だったが、上級生にそれを押さえつけられた。
 すると、逃げようとした方向で白球がベンチに衝突し、かなりの音量を立ててバウンドする。またもや驚きに満ちた表情で柏木は上級生を見た。
「ほら、危ないでしょう? あそこにいる人たちはここにいる人のことなんて何一つ考えていないの」
 それが咲下井塚と、柏木愛の初めての出会いだった。

 上級生は井塚と名乗った。彼女は手にしていた水筒をまたもや傾ける。
 ちなみに柏木の同級生は健二が逆転スリーランを打たれた時点で帰ってしまっていた。残された柏木は何故かこうして井塚と試合観戦を続けている。
「飲みます?」
 差し出された水筒にかぶりを横に振る。彼女の手には同級生が買ってきていた炭酸が握られていた。もともと炭酸もあまり好きな方ではないが、彼女は同級生に押しつけられたそれを仕方なく口にする。
「先輩は――――、あの大塚君と従姉妹って本当ですか?」
 マウンドから利き腕を押さえて降りていったエースは九回の表になっても帰ってくることがなかった。代わりに投げているのは同じクラスの加奈子という少女。美人というよりかは可愛い系の女子で、目の前の井塚とは対極的な人間だった。
「そうですね。確かに私は彼の従姉妹です。それが何か?」
「いえ、心配じゃないんですか? 彼、出てきませんよ」
 野球に詳しくない柏木でも、健二を何かのトラブルが襲ったことに気がついていた。ならば目の前にいる健二の従姉妹とやらはもう少し心配しているそぶりを見せても良いのではないか、と思った。
 なのに井塚は時折麦茶を口にするだけで、健二のことには一切触れていない。まるで興味がないかのように。
 果たしてその推測は正しかった。
「私は彼に警告しました。父の口からでは駄目だから、私を通じて何度も警告しました。その代償が今更来たのです。知ったことではありません」
 涼しげに答える井塚に対して感じたのは、怯えというよりかは、寒気だった。
 だが不思議とそれが不愉快だとは思わなかった。目の前にいる人物がそういう人間なんだな、と納得した瞬間、彼女は井塚のことを少なからず理解した。
 それにもともと興味のない連中が、興味のない試合をしている場に無理矢理連れて来られたのだ。柏木の中で、グラウンドで戦っているナイン達は所詮モブのようなものだった。
 柏木は井塚の顔を覗き込む。こちらを見ていない彼女は覗かれていることに気がついていない。
 そして柏木は気がついた。
 一瞬だけ、本の一瞬だけ井塚のミステリアスな視線が、はっきりとした人間の色を持つ瞬間を。
 今までとは明らかに違う視線の色を確認しながら、柏木は井塚の目線を追った。
 炎天下の中、応援のマーチに体揺さぶられる中で柏木はグラウンドを初めてまともに見る。
 井塚の視線を一心に受けていたのは一人の選手。バッターボックスに立った彼は左バッターで、やや高身長、やや痩せ形。
 顔はヘルメットでよく見えないが、彼が何を見ているのかはよくわかった。少なくとも彼はこちらを一切見ていない。それは井塚の言った通りだった。
 彼が見ていたのはマウンドに佇む、一人の投手。
 柏木は自身がペットボトルを強く握り込んでいることに気がついていない。もちろん左バッターに釘付けになっている井塚も。
 半開きだった蓋が弾け飛ぶまであと十秒。


 前二人は呆気なく凡退した。
 祐樹はそれに対してとくに感情を抱かなかった。期待していたわけでもないし、期待していなかったわけでもない。
 ただ何となく、ランナーのいない状態で、正真正銘の投手とのワンマン勝負になることだけを予想していた。
 彼は打席に立って、バットを構える。今まで何度も何度も繰り返してきた動作を今更意識することはなかった。だが、彼は何処か言葉に出来ない焦りを感じていた。
 それは、
「くそ、グラウンドってこんなに広かったか?」
 前世の最終打席、スタンドと自分の距離は限りなくゼロだった。浴びせられる応援が、罵声が、全て彼とシンクロしていた。
 それに比べて今はどうだ? ばらばらに演奏されるマーチの一つ一つが耳に残って仕方がない。時折聞こえてくる応援の文言も頭の中でぐるぐると回る。
 何より投手との距離が遠く感じられた。
 それまで感じていた約一八メートルと、今感じる一八メートルは全くの別物だ。
 投手の一つ一つの動作がよく見えない。遠く感じるからこそ、祐樹の眼にははっきりと写らない。
 言葉に出来ない焦りを振り払うように、祐樹はバットを一回振った。唇を舐め、相手投手が投球動作に入るのを待つ。
 球の出所は祐樹から見て左側。外から入ってくるボールはそれほど球速のないストレート。彼を打ち取るには球威も伸びも足りない平凡なストレートだった。
 だが祐樹はそれに手を出さない。
 コースが臭い、と自分に言い訳を繰り返しながら、審判のストライクコールを聞く。キャッチャーからピッチャー(投手)に返球された白球が祐樹の視界の後ろから飛び出てきた。それを見るだけで、祐樹の精神は揺さぶりを受ける。
「次はフォーク」
 ピッチャーが第2球を投じる。それは祐樹の読み通り、空振り狙いのフォークだった。だが降りさえしなければただのボール球。カウントをイーブンに戻すため祐樹は余裕を持って見送った。
 しかし、
「ッストラーイクッ!」
 審判のコールに祐樹は思わず振り返った。見ればキャッチャーのミットが地面を叩いていない。何とも不運なことに投手の投じたフォークは握りが浅かったのか、それとも力みすぎたのか、殆ど変化することなくキャッチャーミットに到達していた。それを見た審判がストライクと判定したのだ。
 意図せずして追い込まれた祐樹は慌てて視線を投手に戻す。
 すると彼は既にキャッチャーとサイン交換を始めていた。完全に相手の間合いに飲み込まれていると祐樹は気がつくがもう遅い。
 彼はバットを再び構えて、ただボールを待った。
「ゆーくん!」
 加奈子の声が聞こえる。
「祐樹!」
 弥太郎の声が聞こえる。
「神崎くん!」
 スタンドの声が聞こえる。
 黙ってくれ、と思った。
 自分に打たせたいのなら、静かにしてくれと祐樹は思った。
 第3球目が投じられる。一球目と同じ、臭いコースのストレート。祐樹の中にもう見逃すという選択肢はなかった。
 グリップを強く強く握り込み、バットを振る。軌道は完璧、寸分違わずストレートの飛来するコースにバットは出現した。
 だが彼の焦りが、苛立ちが、ミートの瞬間バットを通じてボールへ確かに伝わっていた。


 
 手元のペットボトルの蓋が弾けたと思ったら、ボールも弾けた。
 再び打ち上がった打球は真っ直ぐこちらに向かってくる。だが柏木は逃げようとしなかった。隣に腰掛けている井塚が動かないというのもあるが、何より彼女自身が、あのボールが危険ではないと判断していた。
 そう、つまり――――。



 やや後退していたライトはフェンスに自身の背中がついたことを知った。
 これ以上はもう下がれない。あとはボールが落ちてくるのを待つだけ。きわどい辺りはふらふらと逆風に押し戻されながら高度を下げ、どんどん近づいてくる。
 ライトがグラブを構える。そして一瞬ボールがグラブによって消される。だがその後に感じた軽い衝撃がこの試合の結果を彼に知らせた。


 井塚は言葉を発しなかった。ただ二つの瞳に涙を讃えながら、バッターボックスで膝をつく打者を見ている。
 右飛とスコアボードに表示された。同時にアウトカウントを示す赤いランプの三つ目が点灯する。スタンドの一部分から歓声が弾け、一部分からは失望の声が漏れた。
 膝を屈した打者は自力で立ち上がれないのか、ベンチから飛び出してきた少年と少女に肩を支えられてやっと立ち上がった。
 柏木はスコアボードに刻まれた清祥の四番打者の名を見た。
「神崎、祐樹」
 彼女が人生で初めて観戦した野球の結果は、己が所属する学校のチームの、呆気ない逆転負けだった。


 


 マウンドの上でカーブに逃げたモノ 完




 次回中学編のエピローグ。
 次は高校野球編です。ブリジットよりも先にこちらを投稿。そしてオリジナル板に移転です。




[22750] 第十七球目【それは何の告白なの? ある意味で幼馴染みの意地の巻】
Name: H&K◆03048f6b ID:e50e8188
Date: 2012/05/04 21:40
 九回の裏、ツーアウト満塁。二点リードのマウンド。
 昨年の関東地区予選でのリリーフを評価された加奈子は、監督からチームの守護神を任せられていた。健二が怪我で暫く投げることが出来なくなった今、完投を繰り返すことが出来る投手は少ない。
 そこで低い被打率を誇り、短いイニングなら完璧に押さえることの出来る加奈子が七回から九回のマウンドに立つことが多くなっていた。
 そして今日この場面。
 三年生になり、キャプテンと四番を受け持つようになった祐樹が放った満塁ホームラン。
 先発した二年生も粘りのピッチングで二失点に抑えている。そのまま両チームゼロ行進を続けた上での九回裏。
 マウンドに立つのはもちろん加奈子だった。
 だが今日の調子ははっきりいってよくない。
 ここのところ連続登板をした所為か、肩の疲労が酷い。ウィニングショットのカーブもすっぽ抜けることが多くなり、ストレートのコントロールもボール一個分はずれている。
 何だかんだ連打されたり四球を出して、でもアウトを二つもぎ取るとこまでは来ている。
 今相対している打者も、ツーストライク、ツーボールまで来ていた。
 肩で息をし、滝のような汗を流す加奈子は弥太郎のサインに首を振る。執拗にストレートのサインしか出してこない彼に苛立ちすら覚えていた。
 彼の目線は語っている。
「逃げるな、真っ直ぐ向き合え」と。
 加奈子が投球動作に入る。この一年間でスリークォーターだった投球フォームはややサイドスロー気味に変化していた。それは新しい球としてスライダーを覚えたことも関係しているのだが、今はそんなことどうでもいい。
 加奈子は弥太郎に対する恨み辛みを吐き捨てる。
「あんたに、そんなこと!」
 二人いる幼馴染みの、好きじゃない方。
 二人いる幼馴染みの、鬱陶しい方。
 二人いる幼馴染みの、野球が上手くない――――、
 
 加奈子の脳裏に昨年の大会でバッターボックスに崩れ落ちた祐樹の姿が蘇る。彼女は直前に祐樹と弥太郎がかわしていた言葉を聞いている。
 弥太郎は言った。
「ホームラン狙いは駄目だ。後ろを信じろ」
 加奈子は祐樹の打席の結果をベンチの前で見守っていた。打ち上がった打球は野球素人ならば打球音も相まってボルテージが上がる最高の打球だった。
 けれど、この世界に足を踏み入れてもう十年近くなる彼女から見れば、奇跡を祈るべくもないただのライトフライ。
 結局、弥太郎の告げたことは正しかった。
 今思えば、あの日正しかったのは弥太郎だけだった。普段はエースとスラッガーの影に隠れている彼が、済んでのところでチームを支えていることがわかった。
 健二が抜けた清祥がそこそこの勝率を維持しているのも、彼が投手陣を牽引しているからだと、祐樹も告げていた。
 そして今日も彼は正しい。

 
 加奈子の手から離れたボールは最後の最後でコントロールを失った。
 昨年の地区大会のように、綺麗に力を抜いた球ではない。ただ力を伝えきれず、失速していくど真ん中の失投だ。
 相手のバットがボ殆ど変化しなかったカーブをすくい上げる。伸びていく打球は祐樹が打ったライトフライトは違って、美しい放物線を描きながらライトスタンドに突き刺さった。
 逆転満塁サヨナラホームラン。
 加奈子が現実を認識したとき、膝から力が抜けた。
 ホームベースの向こう側から駆けてきた弥太郎が加奈子の肩を揺さぶる。後ろから祐樹が走ってくる気配を感じた。
 加奈子は彼を振り返るのが怖くて――――、



 目が覚めた。





 
 加奈子は寝ぼけ眼で目覚まし時計を見た。セットした八時までまだ一時間近くある。
 早く起きすぎたともう一度ベッドに倒れ込むが、外から聞こえてくる蝉の声と、彼女にまとわりつく寝汗がそれを許さなかった。
 のろのろと起き上がった彼女は素早くパジャマを脱ぎ捨てると、朝食の匂いが漂っている階下に向かう。暑い暑い八月の終わりのことだった。


 一年なんてあっという間だった。憎き泥棒猫はとっとと卒業し、今度は自分たちが受験生になった。新しく野球部のキャプテンになったのは夢の中では祐樹だったものの、現実世界では弥太郎だった。
 キャッチャーとして誰よりも試合を見ていたことと、その性格が後輩受けしたことが大きい。
 良くも悪くも祐樹はプレイヤーとして孤高の存在だった。
 そして健二はまだ復帰していない。
 いや、既に何試合かは登板できるまでに回復したのだが、本格的な手術無しでは以前のように投げられないと彼は語っていた。そしてその手術は成長期まっただ中の今ではなく、ここ二年以内に行うということ。
 そんな新生清祥ナインは去年の雪辱を晴らすべく、今年も地区大会予選に出場した。
 結果は前回の準優勝にすら届かないベスト4入り。
 前回よりダウンした投手力の差が埋まらなかったことと、去年決勝で戦った中学と早くに対戦したことが駄目だった。
 健二からスリーランを打った鳥飼誠は謎の覚醒を遂げ、祐樹とまではいかないものの関東地区最強の打者に近づいていた。
 先発した二年生は彼に滅多打ちにあい、それまでのらりくらりとかわしていた中継ぎの加奈子も捕まった。結局は祐樹と鳥飼二人による乱打戦になったが、十七対十六の馬鹿試合で競り負けることになった。
 こうして、祐樹と加奈子、そして弥太郎や健二の中学野球は終わりを告げた。
 何とも呆気ない終わり方に四人して笑ったことは覚えている。もっと感慨深い終わりがあると思っていたら、いつの間にか終わっていたということだ。

 変化はまだある。

 それは加奈子に一人友人が増えたことだ。
 野球部を引退する直前。地区大会が終わった直後。つまり今年の八月の頭。
 受験補修というお題目のもと、学校に呼び出されていた加奈子へ声を掛ける女子生徒がいた。今まで彼女に声を掛けてくる女子生徒というのは、特別仲が良い友人を覗けば、祐樹や健二に紹介してくれと群がってくる野次馬ばかりだった。
 だからその時もとっとと追い返そうと加奈子は投げやりに応答して見せた。
 だがその女子生徒が告げた台詞は少し変わっていた。
「私に野球を教えて」
 名を聞けば柏木愛と名乗った女子生徒は、自分とは違い髪の毛を肩口で切りそろえた色白の少女だった。
 何でも吹奏楽部の副部長を務めている文化系で、とても野球に興味を持つようなプロフィールではなかった。ところがその感情がよく読めない無表情を貫きながら、柏木は続ける。
「ルールは一応本を買って覚えた。けれど本にはプレイヤーからの視点が書かれていない。だからあなたの体験談、聞かせて」
 入道雲が空を支配し、蝉の音が世界を満たす終戦記念日前。
 加奈子は思わず首を縦に振っていた。


「あら、加奈子。夏休みというのに随分早起きなこと。これはあれかしら。神崎君と行く今日のお祭りが楽しみなの?」
 顔を洗い、朝のシャワーを浴びた加奈子は朝食を用意している母とリビングで出くわした。既に寡黙な父はテーブルに着き新聞を広げている。
「馬鹿いわないでよ。暑いから目が覚めただけ。あ、お母さん、今日ゆーくんは六時くらいに来るから」
 テーブルに置かれていた牛乳をラッパ飲みし、加奈子は父の対面に腰掛ける。
 寡黙な父はそんな娘を一瞬だけ視線に捉えるが、直ぐに新聞の字面へと視線を戻した。そこには甲子園の結果が書かれている。
「なら夕飯は少し多めに作った方がいいのかしら。きっと木田くんや大塚くんも来るだろうし」
 食材はまだあったかしら、と母はぱたぱたと冷蔵庫の確認に向かった。どことなく嬉しそうな口調の母に加奈子はため息を一つつく。彼女は対面に座る父が広げる新聞を睨み付けると、朝食が出てくるのを大人しく待った。
 そんな加奈子へ今まで沈黙を貫いていた父が口を開く。
「……そういえば加奈子」
「何? お父さん」
「さっき大塚君から電話があったぞ。昼前に河川敷グラウンドに来て欲しいそうだ」
 久しぶりにかわした父娘の会話は実に味の無いものだったが、加奈子はとくに何を考えるでもなく、心のスケジュール帳に『昼前、河川敷』と書き記した。


 
 朝から一人自転車を漕いだ祐樹の体は汗に塗れていた。張り付くYシャツをぱたぱたと煽りながら、彼は一人夏の日差しに照らされた校舎の中を歩く。
 途中ですれ違うのは部活で登校している生徒達。中には彼が引退した野球部のメンバーもいて、暑苦しい挨拶を廊下を進む祐樹に放っていた。彼はそれらを適当に裁きつつ、目的の教室にたどり着く。
 進路指導室と銘打たれたそこの扉をノックすると、短く「入れ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
 そういえば前世でも何度かお世話になったな、と取り留めのないことを考えつつ、祐樹は一つ頭を下げて部屋に足を踏み入れた。
「やっときたか」
 目の前の席に腰掛けていたのは三人の中年男子。一人はこの学校の長たる校長。そして一人は祐樹の担任。
 最後にこちらを分厚いメガネ越しに睨み付けてくる野球部の監督だった。
「まあ座りなさい」
 担任に促されて、祐樹は目の前に置かれていたパイプ椅子に腰掛ける。
 ネジが少し緩いのか、耳障りな軋みの音が部屋を一瞬支配した。
「今日登校して貰ったのは他でもない。先の高校から連絡が届いたからだ」
 祐樹が腰掛けた途端、口を開いたのは校長だった。彼は封筒を一つ取り出すとこちらに見せつけるように持ってみせる。
「君が希望していたとおり、県外の名門高校の一つから推薦の枠を頂いた。もちろん簡単な受験もあるが、殆どフリーパスだと思ってくれても良い。これは喜ぶべきことだ。何せ、我が校の学力では到底手の届きそうにない学校なのだからな」
 祐樹が志望していたのは県外に開校されている高校、つまり甲子園の常連である強豪校だった。
 ただ甲子園の強豪であると同時、全国的にも非常に高い学力を誇る高校でもある。お世辞にも座学の成績が良いとは言えない野球部面子では到底入学など適わない高校だった。
 そこで祐樹が目を付けたのは野球の実力をアピールする推薦受験である。
 学力如何せん関係無しに、推薦ならば純粋な野球の実力で合否を決定される。一年生の頃から地区大会で大暴れした祐樹はもちろん相手方のメガネに適う存在だった。
 そこまで考えて、自然と祐樹の頬は緩んだ。
 プロに入るための最短距離は甲子園でスカウト相手にアピールすることだ。実際、前世でも甲子園に出場経験があった彼はそれが有利に働いた面もあった。
 しかしそんな祐樹の上昇気分を打ち砕く一言が無情にも下される。
 それは監督が告げた言葉だった。
「ただし我が校が獲得できた枠はただ一つ。つまりお前のための枠だけだ。今日はこの資料を持ち帰って親御さんとよく相談しろ。締め切り日は来週までだ。もちろん辞退してくれても構わん。だがこれからのお前の人生だ。よーく考えるんだな。…………まあ、お前なら上手くやれるよ。俺が見てきた中でもお前は特別素晴らしいプレイヤーだ」
 監督の賛辞は祐樹には届かない。
 ただ彼の頭にはいつも共に過ごしてきた三人のことばかり浮かんでいた。


 加奈子が河川敷に到着したのは昼前と呼ぶには難しい時間帯だった。一学期の成績について数学の教師に補修を組まれていたことを忘れていた彼女は制服姿のまま河川敷に飛び込んできた。
 そこには既に到着していた健二と弥太郎がアイスキャンデーを咥えて日陰に座り込んでいた。足下に転がっているコンビニ袋から、彼らがコンビニまで行って帰ってくることが出来るくらいの時間、遅刻したことを加奈子は思い知らされる。
「ごめんごめん!」
 スカートを翻しながら、河川敷を下ってくる加奈子に弥太郎が一言。
「おっ! 今日は白か。似合ってないぞ」
「ぶち殺すぞエロガッパ」
 加奈子のローファーが弥太郎の額に突き刺さり、弥太郎は咥えていたアイスを地面に落とした。その様子をみた健二が「あはは」と声を挙げて笑う。
「いつ見ても君達は面白いね」
「「どこが!!」」
 弥太郎の胸ぐらを掴み上げ、左右に揺さぶっていた加奈子と、落ちたアイスのことをとやかく叫ぶ弥太郎の声がシンクロした。
「で、こんなところに呼び出してどういうこと? 見たところ野球もしてなさそうだし」
 河川敷にはコンビニ袋が転がっていても、バットやボールの類いが見当たらなかった。
 そんな珍しい光景を見た加奈子の素直な疑問だった。
「いや、今日は野球をプレイするのではなく、もっと根本的なことを見直そうと思ってね」
 咥えていたアイスキャンデーがはずれであることを確認し、健二は手にしていた新品の炭酸飲料を加奈子に手渡した。
 なんの気もなしにそれを開封して傾けてみせた加奈子に、健二は言葉を発する。
 それは短くとも、彼女の喉の動きを止めるには十分すぎる言葉だった。

「ねえ、佐久間さん。君はいつまでプレイヤーを続けるの?」









[22750] おまけ。BBHかーど。本編未来。随時追加  2011/11/15追加。
Name: H&K◆03048f6b ID:91d01a3d
Date: 2012/05/02 22:48
神崎祐樹(25) WBCデータ レアリティ(GREAT)

右翼
右投
左打

パワー 18
ミート 19
走力  18
肩力  18
守備  15

計 88
威圧 PH CM サヨナラ 逆境 初球 選球眼

裏パラ
チャンス 3
対左 4
バント 2
盗塁 4
弾道 4
エラー回避 5
走塁 3
送球 5
安定度 3
捕手リード 1

守備適正
左翼B
中堅A
右翼A
三塁C

球界を牽引するご存じミスタープロ野球。
的確にミートするテクニック、スタンドへ運ぶパワー、さらに卓越した走塁に
矢のような送球などどれをとっても一級品。
昨年は200本安打も達成し、今年も気合い十分。
さらにはWBCへの初出場の期待もかかり、日本の覇権奪回の日も近いとされる。
まさに日本プロ野球の切り札である。




神崎祐樹(25) 前世データ (白カード)
右翼
右投
左打

パワー 10
ミート 10
走力  15
肩力  13
守備  13

計 61

裏パラ
チャンス 2
対左 3
バント 3
盗塁 2
弾道 2
エラー回避 2
走塁 3
送球 2
安定度 1
捕手リード 1

守備適正
左翼D
中堅D
右翼D


ハイセンスな守備とパンチ力に溢れるバッティングが持ち味の未来の主力。
昨年シーズンは一軍に初出場しヒットを放つなど大器を予感させた。
今シーズンは怪我で出遅れるも代打での活躍が期待される。
レギュラー奪取へ。彼の挑戦は止まらない。



木田 弥太郎(25) WBCデータ レアリティ(Super)

捕手
右投
右打

パワー 13
ミート 16
走力  12
肩力  18
守備  17

計76 
初球 選球眼

裏パラ
チャンス 3
対左 2
バント 2
盗塁 2
弾道 2
エラー回避 5
走塁 2
送球 5
安定度 3  
捕手リード 3

守備適正
捕手B

常勝獅子軍団の司令塔たる技巧派捕手。
卓越したリードと、投手との堅い信頼を武器に数多の強打者に挑む。
またチャンスに強いバッティングも評価が高い。
埼玉ライオンズの新たなる黄金期にこの男は欠かせない。


鳥飼 誠(25) WBCデータ レアリティ(GREAT)

遊撃
右投
右打

パワー 15
ミート 17
走力  16
肩力  15
守備  15

計 78
CM サヨナラ 逆境 選球眼

裏パラ
チャンス 5
対左 2
バント 3
盗塁 2
弾道 3
エラー回避 4
走塁 3
送球 3
安定度 3
捕手リード 1

守備適正
遊撃B
三塁C

気迫溢れるプレーが魅力の、虎の核弾頭。
猛虎のショートストップを任されるだけあって能力は超一流。昨年は首位打者争いにも加わるなど近年確実な成長を遂げた。
チャンスにも滅法強く、是非とも彼の前には出塁率の高い野手を並べたい。


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