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[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない(俺の妹がこんなに可愛いわけがない)
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/09/27 23:59
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の2次創作です。

下品はあってもエロはない方向性で行きたいと思います。
なお、序章は「ベルフェゴールの呪縛」になっています。



[22119] ベルフェゴールの呪縛
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/09/28 00:00
「あたしキリノ。マル顔のくせに、読モもやってる超絶美少女中学生(自称)」
 読モとは、一般的にファッション雑誌のモデルの読者モデルことを指す。
 そんなキリノには、兄がいた。
 キョウスケという、決して不細工ではないが幸薄い顔の男だ。
 そして家庭内では、キリノとキョウスケは徹底的な相互不干渉を貫いていた。
 時折キョウスケが思いついたように気にかけるが、キリノからは強烈な拒絶だけが返った。そして、兄妹はお互いを空気のように扱うようになり、互いに相手を認識しなければならない場合は嫌悪の表情を浮かべるまでになっていた。

 しかし、2人は気づいていなかった。思春期に家族に嫌悪を抱けば抱くほど、それは近親相姦を抑止するための心理的プレッシャーであるということに。
 踏み外してはいけない領域に踏み出す性癖を持つものほど、ことが起こってしまうまではそれを忌諱しようとするものだ。

 しかし、キリノはある日、ついに一線を踏み越えた。
「……はあはあはあはあ。これがアニキのぱんつ……ゴクリ……くんくんくん」
 ――兄のぱんつをじっくり堪能したキリノは、脱衣所から退避し。今度は階段を上ってゆく。向かう先は兄の部屋だ。兄の部屋には鍵がかからないので、キリノは自由に出入りすることができるのだった。
 キリノがケツをエロティックに突き出して、兄のベッドの下をごそごそあさっている。そこから出てきたのは、なんとキョウスケ秘蔵のエロ本コレクションだ。
「……チッ、なんで眼鏡ッ娘ものの本ばかりなのよ……妹ものにしとけっつーの」

 隠れブラコンのキリノには、天敵ともいうべき存在がいる。
 キョウスケの幼馴染み・マナミであった。
 マナミは、表面上、地味な見てくれをした人畜無害の女の子なのだが、実は悪魔ベルフェゴールの転生体であり、キョウスケの魂を堕落させようとしている。
 なぜならキョウスケは、かつて天界を追放された堕天使ルシファーの、無自覚なる転生体であったからだ。
 キリノはキョウスケへの愛を神に見込まれ、聖天使黒猫から聖なる槍(ロンギヌス)を授かり、悪魔の化身(デモンズ・アバター)マナミへの最終決戦(ハルマゲドン)へと望む。

キリノのロンギヌスに追い詰められたマナミは、弟を生け贄に捧げ、最後の賭けに打って出る。
瞬間、名状しがたい冒涜的な魔力がマナミの全身から暴風のごとく吹き荒れ、人類世界を忌まわしき混沌(カオス)に書き換えた。
清浄な大気は猛毒の瘴気に、豊饒の大地は粘着質の肉へと変貌したのだ。
それはまさしく、おぞましき地獄の再現に他ならない。
さすがのキリノも戦慄を禁じ得ず、絶望的な呟きを口にした。

「………そんな………地味子(ベルフェゴール)が“堕天(フォールダウン)”を引き起こしたというのか……?」

 其は、天地開闢より生きとし生けるものすべてが背負う、原罪の総和。
 其は、常世より溢れ出ずる、命亡き者の絶望の怨嵯。
 其は、地味子(ベルフェゴール)の、堕天(フォールダウン)。

「そろそろあきらめてくれないかなぁ、キリノちゃん」
 堕天(フォールダウン)し、忌まわしき混沌(カオス)と化した世界の中心で、マナミは普段どおりの口調で話かける。
「クッ!」
 ロンギヌスで貫くにはあまりにも混沌(カオス)は広大だった。

「キョウちゃんの愛は、わたしのものなんだよぉ。だってほら!」
 キョウスケの寝室に無造作に散乱した眼鏡ッ娘もののエロ本が、猛毒の瘴気をはらんだ風を受けながら。禍々しくも爛々たる輝きを放ち始めた。
 この世の全ての冒涜により奈落から呼び出される赫々たる破滅の力が、物理を捻じ曲げ眼鏡ッ娘もののエロ本に有り得ざるかりそめの命を与える。

 そのひとつひとつが異にして、同一。
 OLの、大学生の、和菓子屋・田村屋の看板娘の、若奥さんのお母さんのおばさんのおばあさんの……地味子(ベルフェゴール)の全てがそこに存在した。
 マナミが平行宇宙において有り得た可能性のすべて微妙に異なる年齢、姿かたちをとっているのだ。

「これが、あたしの世界! 三千世界を薙ぎ払い、天道地察のすべてを曲げてなお到達する真世界だよぉ!」
「……」
 キリノは、冒涜的な瘴気と腐熟した肉と地味子(ベルフェゴール)だけの世界を無言で睥睨する。

「……キリノちゃんの愛はね……うーん、『至ってない』の」
「……アタシのいったいどこが足りないっていうつもり、この地味メガネ!」
「地味メガネ……ありがとう。最高のほめ言葉だよ、キリノちゃん……その言葉に免じて教えてあげるね」
 大地の果てまで埋め尽くす地味子(ベルフェゴール)が、一斉に答える
「「「「積み重ねた時間、だよ」」」」

「なん……ですって」
 あたしは生まれてからずっと一緒に住んできた。そしてその間に育んだこの気持ち……キョウスケへの愛は、聖天使黒猫からロンギヌスを託されるまでに『至った』のだ。
風呂に入っているアニキのパンツをクンクンするだけでは、まだ足りなかったというのか!

「妹ということに甘え、ただ同じ屋根の下に住んできただけのキリノちゃんでは、幼なじみの私には勝てないよお」
それに、何年も家庭内別居をしていた長い期間もある。
「……そもそも、べふぇごーるのわたしが、ただの人間のキリノちゃんに負けるはずがない……っておもったことは、ないかな」
「そ、それは……」
「そもそもあたしの見てくれと性格がおっとり地味メガネなのは、堕天使るしふぁー……『キョウちゃんがそれを望んでいるから』だよ」
 今ここにある自分は、まったく逆だった。その一見不利そうなおばあちゃんみたいな地味な性格も見てくれもメガネも、すべてキョウスケの性癖に沿ったもの。
 地味子(ベルフェゴール)は、自分自身のありようすらキョウスケの性癖に合わせていたのだ!
 キリノはその差を認めざるを得なかった。
 アニキの脱ぎたてパンツをクンクンする以上の境地となれば……

《つづく》



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その1
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/09/28 00:02
 わたしときょうちゃんは、ノートに書かれた文章を読み終わった。
「続きを書いたからっていうから読んだのに、結局また『つづく』かよ! っていうかなんなんだよ、兄パンをクンカクンカ以上の境地ってのは!」
 はわわ、そんなに怒っちゃダメだよ、きょうちゃん。
 いま読んだノートに怒ってるのは、わたし田村麻奈実と同じ3年生で幼馴染みの高坂京介くん。
「……それは……構想中よ」
 少し頬を赤らめながら応えるのは、長い黒髪がとてもよく似合う、ものすごい美人の新入生・五更瑠璃(ごこう るり)さん。インターネットでは黒猫さんで通ってるし、本人もそう呼んでほしいみたい。
「けっきょく思いつかないからまた放り出しただけだろ、設定広げすぎなんだよ。あと、せめて性癖って書くのだけはやめてくれ」
 きょうちゃんは、黒猫さんの書いた文章を批評している。
「……性癖? ……ああ、ややぽっちゃり気味の地味メガネが大好物だってこと?」
「ち、ちげーよ馬鹿! 俺と麻奈実はそんなんじゃねえ。とにかく麻奈実の前ではやめろ!」

 きょうちゃんは、わたしのことをとやかく言われると、時々いきなり手が付けられないほど怒り出す。
「……クッ! ……やはりベルフェゴールの精神侵食は相当に進んでいるようね……」
 黒猫さんは、めったに変わらない表情を変えて考え込んでいる。
 そういえば、きょうちゃんの持ってるエッチな本は、全部メガネをかけた女の人だったなぁ。
 きょうちゃんは……やっぱり地味でメガネの女の子が好きなのかな。それって……わたしも入ってるってことなのかな。それはともかく

「黒猫さん、小説書くんだねぇ」
わたしは感心した。
「こら麻奈実、ツッコミどころはそこじゃないだろ。おまえ悪魔ベフェゴールの転生体にされてるんだぞ」
きょうちゃんに呆れられちゃった。
「それは小説じゃなくて、漫画の字コンテよ。そこからネームを切って、マンガにするの」
黒猫さんは、ちょっと誇らしそうに説明してくれる。
「……よく麻奈実本人に見せられるよな、いい根性してやがるぜ」
「ところできょうちゃん……桐乃ちゃんにぱんつ取られてるの?」
「ちょっとまてーい! そりゃフィクションだからな! あくまでも黒猫の描く漫画のキャラクターのキョウスケであって断じて俺じゃない! 黒猫、そもそも、なんでこれを俺たちに読ませるんだよ」

「……創作のヒントが欲しかったからよ」
「変態関連の質問だったら、瀬奈にでも聞きゃいいだろ……ったく、なんでぱんつクンクンされてる兄と、悪魔ベルフェゴールに聞くんだよ」
「ねえ、きょうちゃん。瀬奈って、だーれ?」
「ああ、赤城浩平の妹だよ。黒猫と同じクラスで部活の友達」
「友達とか言うなッ!」
 わ! 黒猫さんが、人が変わったように怒鳴った!

「分かった分かった、じゃあお前から説明しろよ」
 きょうちゃんは、手を振りながら黒猫さんを促した。
「……ふん、クラスと部活で一番うざったい女よ。でも手を組まなければ創作活動ができないのは認めざるを得ないわね」
 黒猫さんは、日本人形みたいにつややかな黒髪を掻き上げながら答える。
 赤城くんの妹さんかぁ……どんな感じの妹さんなんだろう? かっこいいサッカー部員の赤城君に似てるのかな?
「なーんだ、やっぱりなかよしなんだね」
「仲良しとか言うなッ!」
 きょうちゃーん、私も怒鳴られたよー……

「五更さん、大声で怒鳴るなんてあなたらしくないでしょう? 世の中にはルールというものがあるんじゃない? たとえ今が修羅場だとしても」
そう言いながら、メガネの女の子が近付いてきた。同じメガネでも、あたしと違ってとても「ちゃんと」してる感じがするなあ。
「……ふん、なにを勘違いしてるのかしら赤城さん? こんな妹に生まれ持った幸運を全部持っていかれたような不景気な顔の先輩なんて取り合ってないわ」
黒猫さんは、ぷいと顔を背けて言う。へえ、この女の子が赤城くんの妹さんかぁ。
「あのなぁ……今、ちょうどおまえの話をしてたんだよ。コイツは田村麻奈実、俺の幼なじみだ」
 きょうちゃんは一瞬だけ黒猫さんを見て、赤城さんに向き直った。
「あ、あなたが田村さん?!」
 赤城さんのメガネが、光を反射する。
「は、はい」
 わたしは赤城さんの迫力に圧倒される。
「……お、お兄ちゃんとの会話で、高坂先輩とほぼ同じ頻度で出てくる田村さん……」
 あ、あれ? 赤城さんの眉間に、ものすごい皺が寄ってる。

「お、お兄ちゃんを返せ、このドロボウ猫ッ!」
 きょうちゃーん、また怒鳴られたよー……



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その2
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/09/28 00:03
「なん……だと」
 きょうちゃんの顔が見る見るうちに阿修羅になっていく。
「うぉのれ出てこい赤城ェ! 今すぐ殺してしんぜよう!」
「高坂先輩そこどいて! そいつ殺せない!」
「きょ、きょうちゃん! 赤城さん! わたしは赤城くんとはなんでもないよ!」
 なんで? なんで赤城さんときょうちゃんが鬼瓦みたいな表情になってるの?
「……まったく、みっともないわね。ちょっとみんな落ち着きなさい、いま事情を整理するから。いいかしら?」
 黒猫さんが、鬼道に堕ちそうになっている赤城さんときょうちゃんをなだめる。
「……ああ」
「……わかりました」
黒猫さんすごい、一瞬で2人を静まらせた。

「……まず、このベルフェゴール田村先輩が赤城先輩と付き合ってるという証拠は?」
「お兄ちゃんが、高坂先輩とほぼ同じぐらいの頻度で田村先輩を話題に上げるからです!」
「……それが根拠だとしたら、この貧相なルシファー先輩も赤城先輩と付き合ってるということにならないかしら?」
「もちろんそうです! 当然高坂先輩がヘタレ受けです!」
 赤城さんが、鼻をフンフン鳴らしながら断言した。

「うわ即答したよ! 気持ち悪い、キモいじゃなくて気持ち悪い!」
「……じゃあルシファー先輩」
「なんでルシファーなんだよ、普通に呼べよ」
 きょうちゃんが憮然としながらもツッコミを入れる。
「……じゃあ兄さん、赤城先輩と付き合っているのかしら? ヘタレ受けで」
「だれがヤローとなんぞ付き合うかっつーの。あと兄さんも変な誤解を呼ぶからやめろ」
 やっぱり、わたしもきょうちゃんのことをおにいちゃんって呼ぶべきなのかなぁ。

「……これで答は出たわね。赤城先輩は高坂ヘタレ先輩とは付き合っていないと証言している。同じ頻度で会話に出てくるベルフェゴール田村先輩も付き合っていないと主張している。つまり……」
「つまり……なんですか?!」
「……この疑惑そのものが、赤城さんの腐った脳が生み出した妄想ということよ。Q.E.D.(証明完了)ってやつかしら? 千葉(せんよう)の堕天聖黒猫には、この程度の推理が可能です」
 黒猫さんは、制服のスカートの裾をつまんで一礼する。
「……おいチバの黒猫、おまえそれ重大なキャラかぶりのうえに、原爆級の死亡フラグだぞ」
 なにを言ってるのか、ぜんぜん分からなかったよぉ……。

「早合点とはいえ、ほんっと~に失礼しました!」
 赤城さんは、ペコペコと頭を下げる。
「そうだぞ赤城、麻奈実に近づくヤローは容赦しない、誰であろうと俺が全力で邪魔する!」
 きょうちゃんは力強く断言する。
「そんな! お兄ちゃんへのラヴはどうなるんですか?!」
「そんなモンは元々どこにも存在しねーから」

「『妄想は個人の自由だけど、妄想で他人に迷惑をかけてはいけません!』……といつも私にご高説を垂れてくれるのは誰だったかしらね? 赤城さん」
 あ、今の赤城さんのマネ、そっくりだなぁ。
「わ、分かってますゥ~! これでも自重してますゥ~!」
 赤城さんも、しっかりしてるように見えても、まだ子供みたいに無邪気なところがあるんだねぇ。
「自重してKONOZAMAなのかよ」
 今のきょうちゃん、なんだかおじさんっぽい。

「……じゃあ、そういうわけだからこれを読んで」
 黒猫さんは、おもむろにノートを手渡す。
「どう『そういうわけ』なんだか……なんですか、新作のプロットですか? えーと……実の妹が兄に恋愛感情って……キモい! キモすぎます!」
「あらそう……キモいのは重々承知で聞きたいのだけれど、生ぱんつクンクン以上の兄妹愛って、何かないかしら?」
「そんなもの、ありません!」
 赤城さんは力強く断言した。
「……じゃあ、実の弟が兄に対して行うものだったらどうかしら?」
 黒猫さんは、質問の方向性を変える。
「ざっと思いついただけで、108式まであります!」
 赤城さんは、また鼻をフンフンさせながら即答する。

「……うぐっ! さ、さすがね……その中で、兄本人にバレずに済ませることができる方法は何通りかしら?」
「20通りぐらいになるかなぁ」
 あとの88通りはバレるんだ。
「……その中で、弟がTSした場合でもやれそうなことは?」
「うーん……7通りですね」
 今度は、熟考しながら回答する。

「おい黒猫、TSってなんだ?」
 きょうちゃんが2人に問いかける。わたしも、TSって何なのか分からなかった。交通安全マークのことじゃないよね。
「トランスセクシャル……性転換よ」
 黒猫さんは優雅に腕を組みながら答えた。
「それってもう、妹さんなんじゃないのかな」
 わたしは普通に思った。

「……そうとも言うわね。ちゃんとあるじゃないの、7通りも」
「しまった!」
 何がしまったんだろう?
 赤城さんは機密情報を吐かされたスパイのようにうな垂れてる。赤城さんが、黒猫さんと話している内容はぜんぜん理解できない。
 理解できないまま、黒猫さんは赤城さんをどこかに連行していった。たぶん部活なんだろうな。
 でも、きょうちゃんも含めて、なんだかみんな楽しそうだな。
「楽しいね、きょうちゃん」
「どこがだよ」
 きょうちゃんはフンと鼻で息をつき、わたしの頭をワシャワシャッと乱暴に撫でる。
 でもその不景気な顔は、楽しいときの不景気な顔だよ。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その3
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/09/29 18:14
「……じゃあ、きょうちゃん。今日はここで」
 帰り道、わたしはいつもきょうちゃんと別れるずっと手前で、きょうちゃんに言う。
「ん? どうしたんだ麻奈実? 買い物か?」
「うん、ちょっと友達と待ち合わせしてるの」
「なに!? 麻奈実、男か! 男なのか!?」
 きょうちゃんの表情が変わる。
「ち、違うよぉ。女の子だよ」
「そ、そうか……な、ならいいんだ。麻奈実も俺とばっかりじゃなくて、たまには女の友達も大事にしないとな。うんうん」
 きょうちゃんは、自分で納得してる。
「うん、じゃあ、ゴメンねー!」
「お、おう。また明日な……」
 きょうちゃんは、独りで高坂家に向かって歩いていく。さてと……

「……いつからそこにいたのかな?」
 わたしは、5メートルほど後ろの塀に隠れている人物に声をかける。
「えーと……10分ほど前から尾けていました」
 あやせちゃんは、ティーンズ雑誌のモデルをやってるだけあって、隠れてるつもりでも目立つ。
「そう。じゃあ行こっか、あやせちゃん」
「ハイ、麻奈実さん!」
 あやせちゃんは駆け寄ってくる。

「桐乃ちゃんの状況は?」
「相変わらず、麻奈実さんについては大絶賛ネガティブキャンペーン中です。お兄さんについては全く喋りません」
「具体的には、どんな感じかな?」
「アニキと幼なじみだからって調子こいてるとか……あとはメガネだとか地味だとか地味だとか……そ、その……ぽっちゃりさん気味だとか……」
 アハハ、あいかわらず言ってくれるのね、桐乃ちゃん。
「なるほど、でもソレが悪口になると思ってるのかな。きょうちゃんは、そのぽっちゃり気味のメガネが大好物だってのは、桐乃ちゃん自身が見せてくれた、きょうちゃん秘蔵のエッチ本でも分かってることなのにね」
 桐乃ちゃんは、『自分のほうがかわいいはずなのに』『きょうちゃんの好みじゃない』ことが、どうしても納得できないみたい。

「たぶん、お兄さんを『いつでも狩れるのに狩らない余裕』が桐乃を苛立たせてるんじゃないかと思うんですけど」
 あやせちゃんは、ズバリと言い切る。
「『いつでも狩れるのに狩らない余裕』なら、あやせちゃんも同じじゃなかったっけ」
 そう、見た目だけならあやせちゃんのほうがわたしよりきょうちゃんの好みみたいだけど。
「い、いりませんよ男なんて! わたしは一刻も早く麻奈実さんの手でお兄さんにとどめを刺してほしいからお手伝いしてるんじゃないですか!」
 ん? 何かなこの違和感。
「わたしじゃなくても、黒猫とか瀬菜とか、あやせちゃん的には使える駒はいくらでもあるんじゃないかな?」
 わたしは、あえてあやせちゃんが知らなそうな名前を挙げてみる。
「……誰ですか? それ」
 あやせちゃんは、怪訝な表情になる。
「んっとね……きょうちゃんと桐乃ちゃんが、わたしたちに見せてくれない方面のお友達」
 つまり、オタク方面の友達。しかも女。

「ああ、でも……その……こう言っては失礼ですが、オタク方面の女性はあまりパッとしない地味な見た目の子ばっかりじゃないんですか?」
 あやせちゃんも、モデルだけあって大した自信家なんだね。
「ふえ? ……黒猫も瀬菜も、加工前なのにわたしよりはるかにかわいいけど?」
 この2人は、化粧をすると間違いなく大化けするんだよ。
「加工前なのは麻奈実さんも同じじゃないですか」
 たしかに、わたしもここ一番での勝負を考えて、化粧は控えてる。
「でも、わたしは性格と挙動が加工済みだからなぁ……」
「いえいえ、麻奈実さんの堂に入った猫かぶりっぷりには、加奈子でもかないません」
 なぜかあやせちゃんは、わたしの右手を両手で握り締めて言う。

「加奈子ってだぁれ?」
 わたしは左手の指を頬に当てて小首をかしげる。
「それです! 大半の女ならムカつくけど大半の男には効果抜群のそのかわいい挙動! 加奈子も弟子入りさせたいぐらいです!」
 あやせちゃんは、鼻息をフンフンさせながら断言した。
「まだ加奈子ちゃんの説明をしてもらってないよ?」
 わたしはふんわりと、笑いながら答えた。この表情を完成させるのに3年かかったのよね。
「か、かか加奈子はわたしと桐乃の学校の友達で、以前麻奈実さんにヤキの入れ方……あわわ、禁煙方法を教えてもらったアイツです」
 途端に両手を離すあやせちゃん。
「わたし、群れるのあんまり得意じゃないんだぁ」
「こ、心得ました。ところで、黒猫と瀬菜っていうのは、どういうオタクなんでしょうか?」
 あやせちゃんは、無理やりのように話題を変えた。

「わたしもオタクには詳しくないけど、黒猫は黒髪ストレートで日本人形みたいな、あなたを暗くした感じだけど顔の造作はあなたと同レベル。瀬菜は、わたしを大人っぽくお洒落にした感じで巨乳」
 偶然2人とも、見てくれ的にはなんとなく互いに似ている系統だということは理解している。
「オタクも侮れませんね。でもどういう系統のオタクなんですか?」

「2人とも、なにかを作ってる系だってことは分かるけど、作ってるもの自体の意味は分からない。でも見てる限りだと黒猫は電波文章だけど『いきなり本質を突いてくる』し、瀬菜はまじめっ子だけど『根本的に頭が切れる』って感じかな。賢いって意味でも、変態って意味でも」
 わたしは、さっきまでの会話で分かっている情報を公開した。
「はあ……一筋縄じゃいかなそうですね」
「あやせちゃん的には、目的が達成できるならどっちかに乗り換えてもいいんじゃないかな?」
 ついでに、あやせちゃんを揺さぶってみた。

「とんでもない! わたしも勉強しました。『幼なじみは無条件で最強かつ魂の還る場所』なのは男子にとってセオリーなんです! 桐乃もそれを無意識で感じてるからこそ、必死で麻奈実さんのネガキャンをしてるんですよ? あんなかっこ悪い桐乃は……」
 あやせちゃんは言葉に詰まる。
「……嫌い?」
 私は先を促してみる。
「……それもまたアリかなぁ、と思わないでもない自分が恨めしいです!」
 ……なるほどね。
「女子の場合、『幼なじみはとりあえず踏み台、というかわらしべ長者のワラ』がセオリーなんだけどね。黒猫はその構図を直感的に見抜いてるし、瀬菜は桐乃ちゃんの劣勢をひっくり返す智謀を持ってると思う」
 女子は本質的に『薄情で義理人情を重んじないから』男子は絶望する。だからわたしは、その薄情さを徹底的に排することでこの戦いに勝つつもりでいる。黒猫はその構図に気付いているが何もしていないし、瀬菜は何とかできる頭があるのに大局が俯瞰できていない。

「どちらも一人で状況を把握してて戦略もある麻奈実さん相手には、とうてい勝ち目がありません。3人がかりで桐乃を推さない限りは、この局面はひっくり返ることはないと思います」
 あやせちゃんも、けっこう俯瞰して局面を見ているんだね。
「普通にきょうちゃんを落とすだけならいいんだけどね……わたしも、ブラコンをこじらせた彼氏の妹に嫌われるのは避けたいことろなんだ」
「わたしも、桐乃がシスコンをこじらせたお兄さんの毒牙にかかる前に、なんとかモノにしたいところです」
 とりあえず、いまの失言は憶えておこうっと。
 うん、やっぱりそうなんだ。これからは出来るだけ、あやせちゃんとは2人きりになる事態は避けよう。
「さあ! これからメイクの個人レッスンですよ! 早く二人っきりになりましょう!」
 ……もう遅かった。弟のロックを呼んで立ち会わせよう。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その4
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/10/03 23:25
『ベルフェゴールの呪縛』
 コウサカ家といえば、読モをやってると自称している妹とマスケラの漆黒にそっくりなうらやましい兄が、日々陰鬱な家庭内冷戦を行っていることで、この地方に知られている。
 冷戦のあと、兄のキョウスケは風呂場に現れ、普段着をパジャマに着替えて寝る。
 ぱんつは、激しい冷戦でドロドロボロボロになるから、使い捨てで、ゴミとして出される。
 妹・キリノはいつもそれが狙いだ。
 捨てられているぱんつ、できるだけ陰険な冷戦後の汚れてる日のをこっそりさらって部屋に持ち帰る。
 そして、深夜、キリノ一人の祭が始まる。

 俺はもう一度汚れたぱんつのみ身に付け、部屋中にかっさらってきたぱんつをばら撒き、ウォーッと叫びながら、キョウスケのぱんつの海の中を転げ回る。
 汚れたぱんつは、雄の臭いがムンムン強烈で、俺の性感を刺激する。
 ぱんつの中に顔を埋める。臭ぇ。
 汗臭、アンモニア臭や、股ぐら独特の酸っぱい臭を、胸一杯に吸い込む。溜まんねえ。
 臭ぇぜ、ワッショイ! 雄野郎ワッショイ! と叫びながら、嗅ぎ比べ、一番雄臭がキツイやつを主食に選ぶ。
 そのぱんつには、我慢汁の染みまでくっきりとあり、ツーンと臭って臭って堪らない。
 そのぱんつを締めてたキョウスケは、一番テンションがあがっていた、マスケラの漆黒にコスプレしてたときのキョウスケだろうと勝手に想像して、鼻と口に一番臭い部分を押し当て思いきり嗅ぎながら、ガチムチ野郎臭ぇぜ! 俺が行かせてやるぜ! と絶叫し、他のぱんつはミイラのように頭や身体に巻き付け、ガチムチのぱんつを口に銜えながら、ウオッ! ウオッ! と唸る。
 そろそろ限界だ。
 俺は、キョウスケのぱんつの中に、思いっきりオシッコゆーれいする。
 どうだ! 気持良いか!俺も良いぜ!と叫びながら発射し続ける。オシッコを。
 本当にガチムチキョウスケを犯してる気分で、ムチャクチャ気持ち良い。
 ガチムチキョウスケのぱんつは、俺の雌汁でベトベトに汚される。
 キョウスケ、貴様はもう俺のもんだぜ!
 俺の祭が済んだあと、他のぱんつとまとめて、ビニール袋に入れ押し入れにしまい込む。
 また近々、喧嘩でぱんつを手に入れるまで、オカズに使う。
 押し入れにはそんなビニール袋がいくつも仕舞ってあるんだぜ。
《つづく》


 わたしときょうちゃんは、また「ベルフェゴールの呪縛」を読まされ、感想を求められている。しかも今度は、赤城さんから。
 ……というか前にこれにそっくりな文章、どこかで見たことがあるような気がするなぁ。
「き、筋肉モリモリなのに桐乃ちゃんだって分かるところがすごいね、きょうちゃん!」
 わたしはいいところを探してみる。イラストは結構上手かな。
 今回はお尻にのところに『肉便器』という刺青がしてある筋肉モリモリのきょうちゃんと、同じようにいかめしい顔で筋肉モリモリの桐乃ちゃんのイラスト付きになっている。
「なんで俺も桐乃もガチムチのおっさんになってるんだよ赤城! オマエも俺のことマスケラの漆黒に似てるって書いてくれてるんじゃないのか」
 マスケラ? 漆黒? ……もしかして、きょうちゃんに似た人が出てくる、ロックがよく見てたテレビまんがのこと?
「ふふーん、どう? 五更さん。わたしの添削してあげた『ベルフェゴールの呪縛』は」
「『どう? 五更さん』って……そもそもベルフェゴールがまったく出てきていないじゃない。っていうかなんで妹のキリノの一人称が『俺』になるのかしら」
「妹さんの性別を聞いてなかったからですゥ~」
 女の子以外の妹って、いるんだ。まあ中学生までなら男子でも全員妹だって人もいるらしいね。
「それ以前の問題だろ、この文章」
「……そうね、キリノは読モだって書いてなかったかしら?」
「いえいえ、最近は実は男でしたって読モが結構いますから~」
 いくらなんでも、そんなにはいないと思うな。

「……それ以前にどうして俺と麻奈実まで、この高坂家に対する誹謗中傷以外のなにものでもない文章を読まされてるんだ?」
 きょうちゃんは、今度は企画書になった『ベルフェゴールの呪縛』を赤城さんに突き返す。
「なん……ですって! わたしの芸術が、誹謗中傷?!」
「……ほらごらんなさい。まあ大したことじゃないわ、今度のゲー研の新作タイトルが『ベルフェゴールの呪縛』に決まっただけよ」
「人んちへのネガティブキャンペーンがゲーム化! ほかに対案はなかったのかよ!」
「……対案は『滅義怒羅怨ブラックレーベル』か『強欲の迷宮2-漢(をとこ)の謝肉祭(カーニバル)-』しかなかったわ」
 めぎどらおん? ごうよくのめいきゅう? 難しそうなゲームを作るんだねえ。
「まあ五更さんだけに任せると、独りよがりの暗黒邪気眼百合設定になるのは明白ですから、まともにするべくこの赤城瀬菜が協力をしようということになりました!」
 赤城さんは元気に宣言する。

「部長はまだ百合をガチホモで中和できると思ってるのか……まあ設定練り直すなら、せめてベルフェゴールが出てくるところまでは頑張れよな。そもそも桐乃は『妹はオシッコゆーれい』なんて暗黒物質、持ってたか?」
「……ええ。ただ誰かさんみたいにあんまり隠してる性癖を追求しすぎて居直りカミングアウトされても怖いから、敢えて追求しなかっただけよ」
「その話を設定に反映させてみました!」
「させてみるなよ! ってゆーかおまえの中で俺の妹はどういう存在になってるんだ!」
「えーと、『エル・シャダイ』に出てく……」
「わかったもういい」

「言葉の意味はよく分からないけど、とにかくすごいイメージだね、きょうちゃん」
「……で、ジャンルは?」
「ファンタジーワールドガチホモシミュレーターです!」
「「……はい?」」
 わたしときょうちゃんは、聞き返す。
「……『ゲームシステムは』強欲の迷宮2のシステムがベースになるわ。もうあるから」
 黒猫さんが、代わりに説明してくれた。

「今回はiOSやAndroidのような開発環境がオープンなハイパワー携帯機をターゲットに開発していますが、『強欲エンジン』上で稼動する世界に存在するアイテムや登場人物、モンスターといった物体はすべて干渉可能です! いちおう俯瞰型のリアルタイム2Dですが、全ての物体は物理エンジンとAIを通して並列的に扱われます。もちろんガチホモです」
 わたしゲームに詳しくないから、赤城さんがなにを言ってるのか分からないよ。
「オーケー赤城の世界観からは、妹も男という世界だってのだけは分かってるから。それより強欲エンジンっていったいなんだ」
「わたしが独りでチマチマ拡張してたゲームエンジンで、出来は部長のお墨付きです」
 赤城さんはすごい胸を張ったが、すごかった。日本語として破綻してるけど、そのぐらいすごい。

「……わたしにもまだ全貌が把握しきれないのだけれど、たとえば畑からジャガイモを拾うことから肉とたまねぎを集めてカレーを作って、それを一緒に冒険中の彼氏にふるまって好感度を上げることまで可能よ……自分は男だけれど」
「きょうちゃん、なんだか凄そうだね」
 黒猫さんも、認めているみたい。ゲームでカレーを作るのって、難しいの?
「ああ、俺もよくわからんぐらいに凄いらしい」
 きょうちゃんも、なんだか分かってないみたい。そんなわたしたちを見た赤城さんが、白くてテカテカした携帯を取り出した。
「なにを隠そう、わたしが書いたプロローグもゲーム内で再現可能です! ほらこのとおり!」
 画面の上では、顔に男もののぱんつを装備した筋肉モリモリのキリノちゃんがゴロゴロ転がりまわっている場面が、ポケモンみたいな感じの画面で再現されていた。
「もうあいほんで動いてるよ、きょうちゃん!」
「残念! iOSは開発者登録が面倒なので、とりあえずAndroidにしました!」
「どうでもいいよ、そもそもそんな自由度はいらない!」
 きょうちゃんは呆れている。ゲームって難しいんだなぁ。
「……このシステムにシナリオを実装していくから、デバッグを手伝ってちょうだい」
 黒猫さんはそう言いながらかわいい黒猫のキーホルダーをきょうちゃんに渡した。
「なんだこれ?」
「……USBメモリよ。デバッグのためのパソコン用Androidエミュレータとゲームのアルファ版が入ってるわ。バグ報告はパスワード付きの専用Blogを用意するから、そこで報告して頂戴」

「げっ、マジかよ……まあいい、あんまり多くは手伝えないし、ロープレはあんまやったことないけどいいか?」
 きょうちゃんは、渋々ながらも引き受けた。
「きょうちゃん頑張って!」
 きょうちゃんを応援しているわたしにも、同じキーホルダーが渡される。
「……こっちは田村先輩のぶんです」
「ご協力よろしくお願いしまーす!」
 赤城さんが元気よくキーホルダーを押し付けてくる。
 え? ええ? わたしも?!
「……ま、出来る範囲でいいから手伝ってやってくれ。俺からも頼むわ」
 わたしは無言で、例の3年がかりで会得した笑顔でうなずいた。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その5
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/10/15 01:13
「……というわけで、俺と麻奈実はUSBメモリを渡されたわけだが……」
 きょうちゃんは、黒猫形のキーホルダー型USBメモリを指にくるくる回す。
「ぶっちゃけ、このゲームをパソコンに入れる方法が分からん!」
 きょうちゃんは、自信を持って言い切った。
「ロックに聞けばいいよ、きょうちゃん。ロックはぱそこんに普通に詳しいんだよ」
「あのハゲ、いつの間にパソコンに詳しくなったんだ?!」
「えーとね、お父さんが昔3ページだけ読んで挫折した、うぃりあむ・ぎぶすん? の小説に感動して『ちば・してぃのあうとろー・てくのろじすとに俺はなる!』って言い出したんだよ」
「あいつ、バカのくせに無駄に飲み込みは早いからな。今から行くか、おまえん家」
 きょうちゃんは、私の家に来ることになった。

「ヒョー、あんちゃん! あんちゃんマジあんちゃん!
 あのさー、頭にエクストリームエッジなバーコードのタトゥ入れたいんだけど、どうしたらいいか知らない?」
 家に帰るなり、弟のロックがきょうちゃんにまとわりつく。
「頭に毎日マーガリン塗ってりゃ、毛穴が死んでそのうちナチュラルバーコードヘアになれるぞ」
「そのコクのあるツッコミ! さすがはあんちゃんだ!」
「つーか今はQRコードで商品管理だろ伝統の和菓子・田村屋でも。それよりロック、おまえパソコンに詳しいんだってな」
「ああ! ハイテクと汚濁の都市チバ・シティのアウトロー・テクノロジストとは俺のことだぜあんちゃん!」
「……おい麻奈実、ロックは黒猫とは別系統の厨二病を発病したのか?」
「そのおかげでロックはぱそこんに詳しくなったんだよ」
「……で、今回のタスクはなんだい、あんちゃん」
「タスク? 日本語でしゃべれハゲ」
 きょうちゃんは、黒猫のキーホルダーをロックに投げ渡す。
「ヒュウ! こいつは法外だな。ヤバい匂いがプンプンしやがるぜ」
「お前の言うヤバいってのは、どうせマジコンとかいうやつだろ」
「マジコンは限りなく真っ黒に近いグレーだぜ、あんちゃんみたな一般人が触れていいようなシロモノじゃない」
「おまえはどういうキャラを目指してるんだよ。それに今の小学生の90パーセントは特殊人なのか」
「まじこんってなーに?」
「「女子高生は知らなくていいの」」
 なんでこういうときだけ、きょうちゃんとロックはピッタリと息が合ってるのかな。きょうちゃんとロックは、いつもこうして話が脱線していく。

「あのねロック、この中にはげーむが入ってるんだよ」
「ああ、パソコンに入れる方法がわからないんだよ」
 きょうちゃんが、ロックに説明する。
「え? 普通にインストーラーが入ってるだろ……ほら」
 ロックはパソコンに黒猫型のUSBメモリを刺して、操作を始める。
「あれ? なにこれ。変な携帯みたいな画面が出てきたぜ」
「あんどろいど? っていってたかな」
「なんか、ゲーム開発用のエミュレーターとかいうやつらしいぞ」
「マジかよ! Androidなんて使ったことねえよ! しかもこれ、ゲームそのもののインストーラが付いてないし!」
 インストーラーというのが付いてないと、パソコンに入れるのが面倒なんだって。ロックは五厘刈りの頭を抱えた。


 そして1時間後
「……なんとか起動したぜ、あんちゃん……脳神経が焼き切れそうだった」
 ロックは色んなホームページを見ながら悪戦苦闘し、ついにゲームの起動に成功した。
「おう、偉いぞロック。うちの妹とチューしてもいいぜ」
 携帯みたいな画面の中に、『ベルフェゴールの呪縛』というタイトルが表示されている。その画面を見ながらきょうちゃんがロックの頭をザリザリ撫でながらを褒めた。
「やったー! ……って、あんちゃんの妹って桐乃じゃんかよ! カンベンしてよ」
 ロックは一瞬喜びそうになって、微妙な顔になり、喜ぶのをやめた。

「ロック……てめえ俺の妹をなんだと思ってるんだよ」
「女ジャイアン」
 ロックは即答した。
「ちょ、おま……」
「それも、ジャイ子じゃなくて、あくまでも女ジャイアン! 正確にはしずかちゃんの皮をかぶったジャイアンだな!」
 ロックはきっぱりと断言した。
「桐乃ちゃんは、すっごいキレイになったんだよっ!」
 わたしも一応、きょうちゃんの手前フォローはしておく。
「じゃあ、しずかちゃん部分がきれいになった分だけジャイアニズムも増大してるに違いない! ……だろ? あんちゃん」
「……おまえの認識は正しいよ、ったく」
 きょうちゃんも、認めた。
 色々悪戦苦闘してたけれど、まったく使ったことがなくてもなんとかするところがロックのすごいところなんだよ。なんだかんだ言って三味線も弾けるようになったしね。

「……んじゃ、インストールマニュアルはUSBメモリの中に入れといたから」
「おう、悪いな」
「あんちゃん、おれと姉ちゃんも遊んでいいんだろ? これ」
「いいけど、未完成のゲームなんてそんなに面白いもんじゃないぞ?」
「いや、この桐乃があんちゃんのぱんつ被って部屋の中で転げまわってるのだけでも充分面白いって。なんでぱんつが頭に装備できるんだよコレ、ブラジャーも頭に装備できるし! ってゆーかベルフェゴールとかいう奴以外、女がまったくいなくね? 桐乃もどう見ても北斗の拳に出てきそうな男だし」
 中学生は、そういうところが楽しいみたい。
「じゃあ、バグを見つけたらベルフェゴールの呪縛開発Blogに報告だ。頼んだぜロック、麻奈実」
「はーい、きょうちゃん」
「はーい、あんちゃん」
「麻奈実の声真似してんじゃねえよこのハゲ!」
 ロックときょうちゃんのこの心の距離のなさ……ロックが妹じゃなくてほんとに良かった。

 ロックはさっそくエミュレータで『ベルフェゴールの呪縛』を遊んではプログラムを眺め、またちょっと進めてはプログラムを見ている。
「このエンジン作った人……かなりデキる人だな。姉ちゃん」
「え? 画面はわりと地味だと思うんだけど……」
「いやいや、あとあとゲームシステムやデータをプラグイン形式で追加して、集中管理できる構造になってる。アメリカの最新のゲーム開発メソッドを導入してるぜ」

 ロックはしばらくゲームに熱中し、いくつかのあとあと問題になりそうな仕様の不整合をまとめた。
 そして開発Blogを開いたわたし達が見たものは……『きりりん@このゲームマジクソゲーな件』という名の荒らしが草を生やしまくってるところだった。



[22119] ベルフェゴールの呪縛 開発チャットログ
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/10/19 23:48
きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
うちのボンクラがPCに変なゲームをインスコしようとしてたから
検閲してみたけどwwwなにこれwwwウンコすぎワロタwww

PG赤城:
ちょっと、あなた誰ですか?!
私たちのゲームのどこがウンコだって言うんですか!

†千葉の堕天聖黒猫†:
……ぱんつ泥棒本人よ。降臨乙、ってところかしら。
おおかた、兄ぱんコレクションがなかなか集まらなくて発狂してるんでしょう。
安心して、あなたが愛好してるゲームより変なゲームじゃないから。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
盗んだぱんつが1回しか使えない使い捨てアイテムとかwwwアリエナスwww
しかも4回に1回しかかわいい妹の絵が出てこないとかwww金返せwww
払ってないけどwww

PG赤城:
あなたが『あの』桐乃ちゃんですね?
パンツ使用時のイベントグラフィックは、わたしと五更さんで平等に分担したから
2回に1回はキリノちゃんの絵が出てるはずですけど!

†千葉の堕天聖黒猫†:
もしかして……PG赤城が描いたキリノも男性に見えてるんじゃないかしら?
たまに出てくる無精ヒゲが生えてない茶髪のマッチョは、妹だから。
ていうかアナタなのだけれど。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
ふwざwけwんwなwww
このラヴリーきりりんが、あんな細マッチョのはずないだろ常考www

PG赤城:
わたしの男体化が気に入ってもらえた!
やだなあ、謙遜しなくていいですよ! もう!

†千葉の堕天聖黒猫†:
本当に嫌がってると思うんだけど……
……まあいいわ、兄ぱんつは何枚ぐらい集めたのかしら?

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
58枚wwwもうこれ以上はむりぽwww
ていうか本当に108枚もあんのかよwww分かるかこんなもんwww

PG赤城:
ぱんつ収集のヒントだったら、ちゃんと石版に全部書いてますが。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
あの石板に書いてる邪気眼電波ポエムwwwいちいち解読するのかwww
そもそも石版自体がレアドロップだろwwwなめてんのかっつーのwww

ロックマン:
おいーす。バグ報告はここでいいのか? あんちゃん。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
あんちゃん? 誰コイツwww
なんかムカつくwww

PG赤城:
すいませんが、どなたの関係者ですか?

ロックマン:
お、高坂京介の未来の義弟だ、よろしくな。

†千葉の堕天聖黒猫†:
……あら、きりりん俺の嫁宣言が入ったのかしら。
こんな草生やしでも貰い手がいるなんて、良かったじゃない。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
誰だオマエwww返答次第では頃すwww

ロックマン:
ああ、語弊があったな『おれの未来の義兄の妹』がアレでごめんなさい、と。
おれは高坂京介の嫁でおなじみの田村麻奈実の弟、ロックマン。
チバ・シティのアウトロー・テクノロジストとは俺のことだ。

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
これはwww勝手に俺の嫁宣言よりムカつく発言があるとはwww
このハゲを今すぐ頃してえwww

†千葉の堕天聖黒猫†:
……バカな、ベルフェゴールの『堕天(フォールダウン)』の際のいけにえになったはず……

PG赤城:
彼女の弟シチュktkr!

ロックマン:
ん? おれのことだったら『高坂京介の彼女の弟』って自己紹介が一番分かりやすいと思ったんだけど。
なにか問題でもあった?

きりりん@このゲームマジクソゲーな件:
いわおマジ殺す

†千葉の堕天聖黒猫†:
……草を生やすのも忘れるほど取り乱すものじゃないわ。

沙織:
みなさん、はじめまして。沙織と申します。
ベルフェゴールさんの弟さんもいらっしゃるんですのね。

PG赤城:
沙織さんは、どなたの紹介ですか?

†千葉の堕天聖黒猫†:
……わたしよ。
3Dツールを持っててポリゴンキャラをモデリング出来るから、助っ人を頼んだの。

沙織:
シスカリプスの妹MODなどを嗜んでおります。

ロックマン:
……へえ、あんたがシスカリのキャラMOD神の沙織か。
つーか、ベルフェゴールってうちの姉ちゃんのことなのか?

†千葉の堕天聖黒猫†:
怠惰と好色と人間不信を司る悪魔ベルフェゴールとキリノの戦いが、
このゲームのテーマになっているわ。

ロックマン:
ふーん、じゃあ『誰にとって』おれの姉ちゃんはベルフェゴールなわけ?

ロックマン:
あれ? なんでいきなりみんな黙りこむんだ?

ロックマン:
おーい

ロックマン:
……フッ、おれはどうやら相当ヤバい件に首を突っ込んでるみたいなんだぜ。


 わたしは半泣きになったロックから、上記の開発ブログの付属チャットルームのログを受け取った。
 ロックは文字通り生け贄になって、泥棒猫をあぶり出してくれたということになるのかな。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その6
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/10/25 15:34
「きょうちゃんおはよー!」
 今日も登校途中の待ち合わせの場所に、きょうちゃんが歩いてきた。
「おー、麻奈実おはよう。今日も相変わらず普通だな」
 今日のきょうちゃんは、普段より2割増しでどんよりした目つき。
「きょうちゃんは眠そうだね」
「ああ、我が家の妹様が『いわおマジ殺す!』って息巻きながら真夜中に乱入してきてな……おかげで寝不足だ。ロックって桐乃と同じ中学だったっけ、何やったんだアイツ?」
 ごめんソレ理由知ってる。

 昨日、、ロックにはちゃんと『お姉ちゃんのこと、「きょうちゃんの彼女」って言ったらダメだよ、桐乃ちゃんが怒るからね』と言っておいたら、いきなり自己紹介で自分のことをきょうちゃんの彼女の弟と言い切ったんだよ。
 予想通りに。
 あまつさえ、『「誰にとって」おれの姉ちゃんはベルフェゴールなわけ?』という女子にはありえない空気読まない発言をして全員を沈黙させている。
 威力偵察を頼んだだけなのに敵陣内の火薬庫を爆破してきたレベルのスーパーアシストだった。というかむしろ、そこまでやれとは言ったつもりはなかったんだけどな。本当にロックが妹じゃなくてよかった。
 あまりの威力に、やぶれかぶれになった桐乃ちゃんがそのままきょうちゃんを押し倒すという展開を恐れてたんだけど、あたしにボヤくということは……まだそこまでは行ってないということだ。
『兄ぱんつ』と『義理の弟』と『誰にとって』の3つのトピック、順列が狂っていたら桐乃ちゃんが怒りのあまりオオカミに変身して、きょうちゃんをおいしくいただいていた可能性すらある。

「うーむ、麻奈実が桐乃に好かれてないのって……そもそもロックと桐乃の間になんかあったせいなんじゃないだろうな?」
 うん、わたしが桐乃ちゃんに良く思われてないこと以外はだいたい間違ってる。
 その嫌われっぷりを何とかするのと、またぞろ寄ってきたオオカミの群れ退治のために今いろいろしてるんじゃない、きょうちゃんの鈍感。

 こないだ会ってみて再確認した。桐乃ちゃんは、もうきょうちゃん専用の番犬としては使えない。本人がオオカミに化ける寸前だから。
 番犬は羊を守ってオオカミと戦ううちに、知らないうちに自分もオオカミになっていました。
 そして、自分もオオカミだと気付いてきょうちゃんという羊を襲うのは時間の問題です。
 ならば牧童は、どうしたらいいんでしょうか? できれば番犬のままでいてほしいけど、こっちもそろそろ『妹離れ』を覚悟する必要があるんじゃないかなと思う。

「……あらあら、人目もはばからず夫婦同伴登校? 朝っぱらから見せつけてくれるじゃない、爆発してほしいぐらいのリア充っぷりってやつを」
「なんだよ黒猫、冷やかしなんてらしくないな。そもそも俺は麻奈実とは毎日一緒に登校してるだろ」
「浩平お兄ちゃんとは遊びだったんですか先輩!」
「おまえはなぜその台詞を麻奈実じゃなく俺を見ながら言えるんだ赤城?」
 校門で、ゲーム研究会の後輩女子2人がきょうちゃんに絡んでいる。昨日のチャットに参加してた、ゲーム製作の責任者2人だ。
 この2人はオオカミ候補だとは思っていたけど、まさかこのゲームの開発を手伝うスタッフが事実上全員オオカミ予備軍だということが、いいニュースでもあり悪いニュースでもあるかな。
 想像してたより今回のオオカミは多そうだけど、今回は巣そのものは押さえてる。ロックを使っての間接的所有権主張は思ったより効果が大きかったうえに男子特有の予想外の空気の読まなさのおかげでオオカミの群に対して大きな先制攻撃を与えることもできた。

 あとは、どう動くか。その欲求をどう振り向けるかの問題だ。幸運にも今回のケースはまさにおあつらえ向きと言えるんじゃないかな。
「……姉ちゃん、中学生には高校は敷居が高いってばよ!」
 ロックは放課後、文句を言いながらも学校までやって来た。きょうちゃんには、先に帰ってもらった。
「昨日、げーむ研究会の皆さんと気まずくなったんでしょ? お姉ちゃんと一緒に謝ろ?」
「……うう、嫌だなぁ……」
「でも、赤城瀬菜さんと黒猫さんとは仲良くしておきたいんでしょ?」
「うん、あの2人はマジで次世代の超大作RPGを作れるからな。ただ『強欲の迷宮』では作り方を間違えただけなんだぜ。俺も来年、ここに入ってゲー研スタッフになりたい!」
「だったらなおさら、機嫌を損ねたことは謝らなきゃだよ」
「……分かった」
「『「誰にとって」おれの姉ちゃんはべるふぇごーるなわけ?』というのは、やっぱり失礼だったよね」
「そうかぁ、そっちが失礼だったのか……俺ダメだな、鈍いから」
 そう、全員黙ったことで、全員オオカミ予備軍だということはよく分かった。今はそのオオカミの群の興奮を鎮めなきゃ。そして、『彼女の弟』発言については、当然謝らせない。これについては謝る必要がないから。

 わたしとロックは、今まで訪れたことがないゲーム研究会の部室の扉を思い切って開ける。
 そこには、何人ものメガネの男子生徒と、赤城&黒猫コンビがいた。
「なんだ? 入部希望者か?……って、クリリンのほうは制服が違うな」
「中学生ですよ。近隣の中学校の制服です」
「なあ、姉ちゃん……」
「どうしたの? ロック」
「あの偉そうでデカい人、明らかに大人じゃね? 先生?」
「……そう言われれば、確かに」
「ここゲーム研究会だけど、なんか用かー?」
 その大人の人が、声をかけてくる。
「……“兄さん”いえ“きょうちゃん”なら、いないわよ」
 黒猫さんが素っ気無く返答する。
「あ、すいません。赤城さんと黒猫さんが作ってる最中のげーむの件で来ました」
 わたしは、ロックの肩を押して部室に入る。
「おーそうか! 今回は外部からもスタッフを集めるって言ってたけど、本当なんだな」
 部長は一瞬驚いた顔をしたあと、豪快に笑う。
「アウトソーシング(外注)できる部分はそうしようと思いまして!」
「……そのための開発用ブログよ」
 赤城さんと黒猫さんは、それぞれに答える。

「昨日はうちの弟が、失礼しました」
「……なんのことかしら?」
 黒猫は硬い表情で言う。
「ロックマンです。昨日は空気読まずにどーもすんませんでした!」
 ロックは、ぺこりと頭を下げた。
「……いいのよ、気にしてはいないわ。あなたが悪いわけじゃない」
「そうですよー、気にしないで」
 黒猫さんは無表情に、赤城さんはにこにこと笑いながら答える。
「『「誰にとって」』俺の姉ちゃんがベルフェゴールなわけ?』ってのは、そういう設定なだけですよね! うがちすぎてました!」
 黒猫さんと赤城さんが目を見合わせている。
「そ、そう……わ、分かってくれればいいのよ」
「いえいえ、あれは確かにちょっと失礼な部分だしねー……こちらこそ、ごめんなさいね」
 2人はそれぞれに答える。

「そうですか、ありがとうございます」
「……そ、それで? 他に何か言うことはないのかしら?」
 黒猫は、用心深くロックに聞く、
「え? それ以外は別になにも……ああ、ありました!」
 ロックは考え込んだ後、目を見開いて答える。
「そう、言ってごらんなさい?」
「高坂がご迷惑をかけてるみたいで、すいません!」
 ここで、ロックが桐乃ちゃんと小学校時代の同級生だったことを話始めた。本当に訂正してほしいことを訂正されないことに黒猫さんは表情を固めていたけど、桐乃ちゃんの小学校時代のわんぱくエピソードを聞いているうちに表情が崩れる。

「……そう、あの草生やしの小学校時代の男子からのあだ名は『剛田先輩』だったのね。いいことを聞いたわ」
「あいつ普通の男子より背が高いうえに偉そうだったからなぁ。きっとついたあだ名があまりにもアレだったから、中学デビューするために別の中学に行ったんだな!」
「さっきから言ってる『剛田先輩』って、誰ですか?」
「……昨日きりりんっていたでしょ? 昨日と2ちゃんねるの同人ゲーム板のスレで、わたしたちのゲームを叩いてたビッチのことよ。高坂きょうちゃんの妹さん」
「な、なんですってー!?」
「兄の高坂きょうちゃんも制御できないレベルのビッチっぷりで、聞いてのとおり小学生時代から剛田先輩と呼ばれるほどのジャイアニストよ。しかもリアルで兄ぱんつを収集してるわ」
「うーん、妹には許されないレベルの変態ですね!」
 たぶん赤城さんは、自分で書いたバージョンのベルフェゴールの呪縛を思い浮かべてると思う。
「さすがにきょうちゃんのぱんつは集めてないと思うな……」
 まだTシャツに顔を埋める程度だと思う。

「……あら、わたしのPCのスカイプが反応してるわ」
 黒猫さんが部室のパソコンの前に戻る。
「……どうしたの? 沙織……ええ、ええ。いまは部室よ。ええ、分かったわ。いまヘッドフォンからスピーカーに切り替えるから……みんな、今回のゲームの3Dモデラーの沙織よ」
『いやあ、どうもでござる! 拙者、沙織・バジーナと申しまする! 通ってる高校は違えど、同じくサムシングをクリエイトする者として、微力ながらお力添えをしたいと思いまして……ニン!』
 スピーカーを通して、大きな声が響く。不思議な口調の女の子だなぁ。

「シスカリMOD神の沙織っていえば、最近だとガイナックスの新作アニメの『パンティ&ストッキング』のパンスト姉妹キャラMODを光の速さで同時リリースして話題になってたよな! まるで元々作り置いてたみたいなタイミングで!」
 ロックが興奮気味にまくし立てる。
『いやいやなんの、どれもありものをチョチョイと加工しただけでござるよ』
 パソコンの向こう側の声は、ちょっと謙遜気味に答える。
「へえ……大きなお友達用アニメのパンストMODなんて作ってたのね……」
『そうでござるよ。言っておりませんでしたかな?』
 黒猫さんはPCを操作し、シスカリプスのMOD倉庫を開く。
「……沙織、ちょっと待ちなさい」
『なんでござるかな? 黒猫氏』
「このストッキン……どこかで見たことがあるんだけど、わたしの気のせいかしら?」
『さすがお目が高い! 以前京介氏専用ハーレムで披露した黒猫氏のMODをベースにストッキンを、きりりん氏をベースにパンティを作ったのでござる! ……どうですかな?』
 なんかこの人たち、互いに互いをネタにしあってるんだね。

「あ、あの! シスカリではマスケラの漆黒MODでお世話になってます! これまた高坂先輩に激似で敗北時キャストオフもしっかり作りこまれてて……うへへ……」
 今度は赤城さんが興奮気味にまくし立てる。
『なんと、お目が高い! あれは確かに『京介氏がコスプレした漆黒』のMODに相違ございませぬゆえ』
「……聞き捨てならないわね、知らないうちにそんなものをリリースしていたなんて……なんで教えてくれないのかしら?」
『はて……言っておりませんでしたかな?』
「……そんなこと、忘れるわけないでしょう。呪うわよ」
 あとでシスカリとかいうのを確認しなきゃ、特に漆黒を。

 ともあれ、これで今回の大まかな方針は決まった。
 土は土に、灰は灰に、わたしにはきょうちゃんを、みんなはその欲求不満をバネにゲーム製作に。
 ……それが、今回の平和な落としどころになるかな。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その7
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/11/03 07:01
 さて、『わたしの』きょうちゃんこと、高坂京介くんについて振り返ってみよう。
 今でも背が高くてとてもきれいなお母さんの血をそっくりそのまま引いているだけあって、いわゆる美男美女の兄妹。事実として、妹はティーン雑誌で読者モデルをするまでになった。
 でも妹の桐乃ちゃんがモデルになったためか、それと比べて自分のルックスを過小評価している。過小評価してるから、自分のおしゃれに無頓着になる。そのせいで、地味な印象になっている。
 あくまでも地味であって全く不細工ではないところが、その造りのよさを示してる。

 サッカー部の赤城浩平くんとは、イケメンコンビの地味なほうとしてセットというかカップルということで女子の羨望を集めている。さっき話をしていた赤城くんの妹の瀬菜ちゃんによると、『ホモゲ部』というガチホモゲームの箱に描いてるキャラクターと『マスケラ~堕天した獣の慟哭~』というアニメの主人公・漆黒を足して2で割った感じだと言うと分かりやすいみたい。

 そしてここが一番重要なところだけど、きょうちゃんは自分がかなりモテるほうだという事に気付いていない。
 もちろん、気付かせなかったのはわたしと桐乃ちゃんの利害の一致と、そして結果論だけれど赤城くんによるところが大きい。
 桐乃ちゃんは、きょうちゃんに自分が不細工だと思い込ませるように仕向けていたみたいだし、赤城くんは瀬菜ちゃんが来る前からきょうちゃんとデキてるという噂が女子の間で流れていた。
 そしてわたしは、きょうちゃんに付きっきりで接近する女子を平和的かつ自発的に諦めてくれるように誘導していた。そこに、今回の落とし穴があった。
 高校に入って、散発的に来る野犬……同級生と上下1学年を用心深く個別で始末して制圧していたつもりだったけど、うかつにも高校3年生になってからの1年生や中学生以下にまでは目が行き届いていなかった。
 そもそも、きょうちゃんにはいい男特有の問題があった。

 ほぼ2年に1回づつ、モテ期が来てしまうのだ。

 そのたびにきょうちゃんの周りには、フェロモンに惹きつけられたオオカミが集まり始める。いままで2回、オオカミの群を退けてきたわたしの経験が告げている。きょうちゃんの、高校時代のモテ期が到来したことを。
 そして今回のオオカミは中学校入学時並みに数が多く、中3の夏並みに士気が高い。
 今までで一番厳しいゲームになりそうだ。
 なにより、わたしが中3、桐乃ちゃんが小6の時点で引導を渡したはずの桐乃ちゃんが、今回もまた復活参戦する……しかも今回は、おそらく一番危険なオオカミとして。

 桐乃ちゃんは、たぶんもう覚悟は決めている。
 無意識だろうけど、いくつかの本能的に思春期の女の子が肉親の異性に対して抱かなければならない感情を、自分の中で強引に解決してきているはず。
 つまり桐乃ちゃんの理性の砦は見た目は立派だけど中身はもう虫食いだらけになっていて、きょうちゃんが何か一線を越えることをするだけで瓦解するし、放っておいても遠からず内側から崩壊する。
 たとえば普通の年頃の女の子は異性の肉親の体臭は臭く感じるはずだけど、がんばり屋さんの桐乃ちゃんは2年間でそれに対応してきて、きょうちゃんの匂いに適応しているだろう。

 そのために兄ぱんつにはまだ手は出していないけど、Tシャツぐらいには手を出していて、きょうちゃんの汗に含まれた男性ホルモン・テストステロンの中毒になっている可能性がある。
 きょうちゃん由来成分限定のテストステロン中毒により桐乃ちゃんがテストステロンの吸入摂取から経口摂取に至るまでに、あとどれだけの猶予があるかという問題だ。
 つまり、このテストステロンが桐乃ちゃんの理性を蝕むシロアリだ。しかも常習性がある。
 桐乃ちゃんはきょうちゃんのテストステロンの影響で男性的性衝動が増大し、いつきょうちゃんの背中や胸板、あるいはもっと核心的な部分から分泌されるテストステロンを直接摂取したいと考えるようになるか分かったものじゃない。
 仮に兄ぱんつにまで手を出している状態ともなれば、桐乃ちゃんはいつその中身に手を出してもおかしくないということだ。

「そ、そんな……桐乃がそこまでひどい状態だなんて!」
 わたしは、今回の最大の障壁となる桐乃ちゃんについて、こんな感じであやせちゃんに解説した。
「そんなにぱんつが欲しいなら、桐乃はなぜわたしに相談してくれないんですか?!」
 わたしや桐乃ちゃんにとって、女の子の小汚いぱんつときょうちゃんの男臭いぱんつじゃ比較対象すらならないでしょ、ということをいかに説明しようか悩む。
「桐乃ちゃんが欲しいのは、きょうちゃん由来のテストステロンだよ。女性ホルモンのエストロゲンが欲しいなら、似たような成分のイソフラボンをたっぷり含んだ特選国産大豆が田村屋の裏の倉庫に山盛りにあるからね」
「どうして桐乃はテストステロンじゃなきゃダメなんですか! エストロゲンでもいいじゃないですか! そもそもエストロゲンをイソフラボンなんかと一緒にしないでください!」
 それ、男子が男子に向かって
『ぱんつなんて男でも女でも同じようなもんだろ、俺のぱんつならやるから遠慮なく使え』
と言ってるのと同じなんだけど。
 そもそも人類に限らず脊椎動物のメスはほとんど全部テストステロンのほうが好きで、あやせちゃんが例外なだけじゃないのかな。
「……まあまあ、大豆あげるから落ち着いて」
 わたしは、大豆の入った業務用の大袋から、枡五合分の大豆を掬いだして綾瀬ちゃんに渡す。
「ボリボリ……大豆を食べてたら本当に落ち着いてきた自分が恨めしいです」
 あやせちゃんは、大豆をゴリゴリ音を立てながら咀嚼する。大豆をそのまま食べて平気な人間って初めて見た。前にロックが食べたときは前歯が欠けたうえにおなかを壊して寝込んでたのに。

「……で、お兄さんは第3回目のモテ期に入ってて、桐乃はいまゲームの中でお兄さんのぱんつを集めるのにのめりこんでる、ということですね?」
 大豆を頬張りながら、あやせちゃんがまとめる。

「そうね、なんだかんだ文句言いながら一番やり込んでるかな」
「きっと、ゲームの中でお兄さんのぱんつを集めるうちにゲームの悪影響が出て、桐乃が本当にぱんつを集め始めてしまいます!」
 そもそもぱんつ泥棒疑惑があるからこそ、このゲームが作られてるんだけど。
「もしそうなったら、桐乃を犯してお兄さんをブチ殺します!」
 あやせちゃんが、なんか勢いに任せて面白いことを言ってのけた。

「ずいぶん偉くなったのね、あやせちゃん」
「……あ」
 あやせちゃんは、何かを言ったことに気づいた。わたしが、言う許可を与えてないことを。
「わたしのきょうちゃんを……なんて言ったのかな? わたしの聞き間違いかな?」
「いえあの麻奈実さん……それは言葉のアヤというもので……」
「桐乃ちゃんはあやせちゃんが煮るなり焼くなり犯すなり、好きにすればいい。だけどこのわたしが、沸点が低いだけのクソガキに、きょうちゃんにまで何かをする権利を与えたと勘違いしちゃったのかな?」
「……わきまえて……ませんでした」
 あやせちゃんの顔から血の気が引き、大粒の汗が浮かび始める。
「髪の毛一筋でもきょうちゃんに手にかけたら……お父さんが偉い人じゃ『いられなくする』よ? とりあえず」
 わたしは虹彩を消して、あやせちゃんの瞳の奥を覗き込む。まだこの子は虹彩を消すことしか出来てない。虹彩を消しながら相手の視線を一瞬たりとも外さず覗き込めるようになってからが、一人前なのに。
「……勘弁してください、麻奈実さん。あやせは調子にのった悪い子でした。もう心を入れ替えたので許してください」
 そして30秒ほどあやせちゃんの瞳の奥を覗き込んでから、許してあげることにした。

「今回のモテ期は、ゲーム造りというゲーム。オオカミの質も士気も高いけど、拠点は押さえてる。だから今回は、ロックとあやせちゃんに働いてもらうことにする」
 その方法は……。



[22119] わたしの幼なじみがこんなにモテるわけがない その8
Name: うどん◆60e1a120 ID:eade24a7
Date: 2010/11/12 12:49
 その方法は、ゲーム造りに参加すること。ロックとあやせちゃんが。
 ロックは、中学生のうちにスーパーハカーというのになったらしい。ハンドルネームは『闇プログラマー・ロックマン』。
 いまアメリカのスーパーハカー集団『LoD(リージョンズ・オブ・ドゥーム)』の皆さん相手に一人で戦争ごっこをしている。
 うん、そう。本物のテロ組織のアルカイダのホームページにブッシュとビン・ラディンが抱き合いながらキスしてるコラ画像を貼ったり、嫌いな人を勝手に国際指名手配犯にしたり、GPS衛星に介入して旅行中のメキシカンマフィアの親玉をラオスのゲリラ支配地域に迷い込ませたりする人たちと遊んでもらっている。そんな人たちから、ロックは
「ふぁいばー・おぷてぃっくの再来」
と呼ばれて可愛がられているらしい。
 まあ、ロックが手土産に作っていったネットワークエンジンとかいうのが瀬菜ちゃんと部長さん以外には誰にも理解できないぐらい凄かったらしいから、瀬菜ちゃんのお手伝いぐらいは出来ると思う。

 あやせちゃんは、基本的にゲームを作るのにはわたし同様なんの役に立たない。でもただそこに一緒にいるだけで、きょうちゃんの頭がおかしくなるという使い道がある。
 あやせちゃん自体も高坂兄妹に関することには若干キチ▲イ……もといアグネス気味なのが玉に瑕だけど、それだけに精神鑑定の結果が超法規的存在になるのは確定的に明らかなので、誰かを裏山に埋めるなどの汚れ仕事は安心して任せられる。

 そしてあやせちゃんとロックをゲーム研究会に潜り込ませてから数日後。わたしの携帯に、あやせちゃんから電話が入った。
『大変です! 桐乃がお兄さんに振られました!!』
「そっかぁ、また振られたのかぁ」
『最後の一線をお兄さんが自分で押し戻したのは意外でしたが、それはそれとして私の桐乃を泣かせるなんて許せません! ところで、「また」ってどういうことですか?』
「え? ……桐乃ちゃんがきょうちゃんに告るのって、恒例行事だから」
『……どういう意味ですか?』

「毎回毎回経緯は複雑なんだけど、ようするに
 桐乃:お兄ちゃん大好き!(女として)
 京介:おう俺も大好きだ!(兄として)
 → 疎遠になる(徐々に関係修復)
 というのを、だいたい2年周期で繰り返してるみたい」
『な、ななななんですって! 嘘よ嘘! 嘘ですよね! 桐乃のほうがブラコンだなんて!』
「まあ落ち着いて」
『落ち着いてていいんですかお姉さん! 桐野が振られたのはいいとして、お兄さんが高校の後輩の女の子と付き合い始めたって話もあるんですよ!』

「うん、知ってる、五更瑠璃ちゃんね。桐乃ちゃんの親友で、きょうちゃんも入学からずっと気にかけてたからねえ」
『し、親友なんですか! 桐乃の! ……聞いたこともない名前です!』
「そうか、本名は言ったことなかったかな……前に説明した、黒猫よ」
『たしか同じ部活の1年生の黒髪ストレートのほうですか……終わったorz』
「あやせちゃん的には大誤算みたいね。ここから黒猫に乗り換えてみる? 桐乃ちゃんがきょうちゃんから離れた時点であやせちゃん的には目的達成でしょう?」
『……麻奈実さん、なんでそんなに落ち着いてるんですか?』
「だって、戦いは終わったわけじゃなくて『始まったばかり』だから『また』」
『……え?!』

「きょうちゃんってほら、放っておくと女の子にもてるでしょ? 心当たりはない?」
『そういえば……私はもう騙されませんが……よく考えたらお兄さんのコミュニケーション能力は異常です』
「うん、きょうちゃんは自分で気付いてないけどリア充ってやつなんだ」
『な……あの地味顔でモテキャラ?!』
「あやせちゃんだって、最初は「やさしそう」とか思ったでしょ?」
『うぐぐ……そこは否定できません……』
「もっと言うと、『割とねらい目っぽい感じ』がしたでしょ?」
『それはありません。というか、そもそも男がありえません』
「そうだったね、ガチせちゃん」
『変なあだ名をつけないでください! ……そもそも、なんでモテてる自覚がないんですか?』

「そんなの決まってるじゃない。わたしと桐乃ちゃん双方にとって、都合が悪かったから」
『……どういうことですか』
「そもそも、『幼なじみ』って、なんだと思う?」
『小さい頃からのお友達ですよね』
「あやせちゃんには、幼なじみの男の子って、いる?」
『いませんね』
「じゃあ、小さい頃よく遊んだ男の子って、いた?」
『いたような、いないような……』
「そう……あやせちゃんにも幼なじみは、いない」
『!』

「うちの弟のいわおと、きょうちゃんの妹の桐乃ちゃんも、小さい頃の知り合いだけど幼なじみじゃない」
『子供の頃から今まで、そしてこれからも関係が継続するのが、幼なじみ。ということですか……』
「そう、今まで関係を途切らせずに生き残った勝ち残り、それが幼なじみ」
『……まさか、そのためにお兄さんに何かしていたんですか?』
「違うよ? モテるという自覚を与えないようにしてたのはあくまでも桐乃ちゃん。女の子が近付かないようにしてたのがわたし。役割は、時と場合により逆になることはあったけどね」
『だったらなんでこんなことに……』
「わたしと桐乃ちゃんが隠している『きょうちゃんは実はモテる』という真実がもたらす矛盾の圧力が、2年に1回ぐらい鬱屈してオオカミの群を呼び寄せるんだ」
『……でも今は黒猫さんが恋人宣言をしてしまいました!』

「だからどうしたの? わたし、田村麻奈実はきょうちゃんの幼なじみ。
 今までオオカミの群を2回に渡って退けてきたもの。血の河を渡り屍の山を踏み越えてでも勝利を目指す。きょうちゃんという羊の首をくわえた程度で、勝ち名乗りなんて挙げさせない。絶対に」
『なぜ、そこまでお兄さんにこだわるんですか?』
「あやせちゃん。……いい男は、女が育てるものなの」
『あの変態さんがお姉さんにそこまでさせるほど人には、どうしても見えません』
「あやせちゃんにとっては桐乃ちゃんのお兄さんでしょうけど、そのうち分かるよ。
 きょうちゃんが桐乃ちゃんのお兄さんなんじゃなくて、『いずれ高坂桐乃が高坂京介の妹として認知されるようになる』ことが……単に女の子のほうが成長が早いだけなんだよ」

 こうして3回目の戦いは、前回の最終敗者の桐乃ちゃんがのっけから告白して撃沈し、その様子を至近距離で観察していた黒猫ちゃんがその轍を踏まないように行動して一歩リードした状態から始まった。
 ここは一手先取した黒猫ちゃんに敬意を表して、拍手をしておこうかな。
 桐乃ちゃんの自爆をよく観察したその洞察、きょうちゃんの心を射抜いた瞳、そしてなによりわたしをベルフェゴールと表現したその直観に。
 そしてもうひとつ、宣言しておこうかな。
 ……田村麻奈実は、容赦しないわ。


※ 田村麻奈実先生の次回作にご期待ください(完)
※ 次からは、あの人主観の新連載『お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない』が始まります。



[22119] 堕天した獣の慟哭
Name: うどん◆60e1a120 ID:eade24a7
Date: 2010/11/14 23:17
 活目せよ!
 聖なる乙女の清らかな肌は今や、内より溢れ出ずる血潮の真紅に染め上げられた。
 三千世界の存亡とキョウスケを賭けた闘争の坩堝に沸き立つ両極の闘争者達、大悪魔ベルフェゴールの転生体マナミと聖天使黒猫の加護を受けた戦乙女キリノの刻(とき)が、軋りあげながら静止する。
 それは、1人の敗者を生み出しながらも、対極の闘争者を勝者とはなしえなかった。
「ど、どういうことなの……」
 敗者でもなく、勝者ではない者が問う。
「ど、どうして……」
 敗者もまた問う。

 敗者の名はキリノ。
 その速やかならざる死を与えるのは、ホーミー式口唱術で術式生成過程および呪力増幅処理そして魔術起動詠唱を並列超圧縮口訣していたさなかのキリノの体幹を深々と刺し貫くのは、まさに聖天使黒猫から与えられた神槍ロンギヌス。
 無限遠にまで伸延した神槍の矛先は、キリノの手の中にありながらにしてキリノを刺し貫いている。
 それは、マナミの虚数秘術(ホロウ・ゲマトリア)の空間干渉関数陣による空間湾曲ではない。
 虚数空間もろとも刺し貫く物理干渉の無効化自体が、神槍の神槍たるゆえんである。いや、ゆえんであった

 しかし今や神槍ロンギヌスは聖遺物でもなんでもなく、またしても神の独り子を貫く裏切りの槍と成り果てていた。
 一度ならず二度までも神の独り子を刺し貫いたロンギヌスは、その分子構成の一個に至るまで組成自体を完全なる悪へと変性させ、その神性は水面を穢す一滴の汚水のごとく冒涜される。
 そしてその冒涜が、内側から戦乙女キリノを焼き焦がす。

『どうしてええええぇぇぇぇっ!!!!』
 それが、果たしてキリノが上げた絶叫だったのか、それともキリノの肉が激しく焦げ爆ぜる際にあげた単なる爆発音がそう聞こえただけであったのかは、今となっては分からない。
 理不尽な己の死に対する問いかけのような音を残し、キリノはその全質量を圧倒的なエネルギーへと転換し散華した。

 神の独り子を刺し貫くことにより、ただの量産品の兵士の槍から莫大な神性を帯びるに至った神槍ロンギヌス。
 そして神性を得たのちにただの物質でありながら得るに至ったロンギヌスの槍の魂は、自らの意思に関係なく再び神の独り子を刺し貫くことにより絶望し、漆黒よりもなお暗い闇色へとその槍身を塗り替えた。
 そしてここに顕現したるは、物質から魂を獲得し、そしてその魂を堕落させた真なる魔槍・ロンギヌス。

「……堕天(フォールダウン)できるのは、あなただけじゃない」

 そしてその漆黒の槍身を握るのは、白い黒猫。
 白き千葉の堕天聖・黒猫であった。
「まさかあなたがキリノを生贄に捧げるなんて……ちょっとばかり甘く見ていたことを認めざるを得ないわ」
 もはや戦いは善と悪の彼岸を越え、腐食と混沌を司る混沌の悪・ベルフェゴールと、虚無と消失を司る白き絶対悪・黒猫が対峙する。
 世界とキョウスケの命運は悪と悪が相食む絶望の渦へと叩き落された。

 2人の戦乙女……いや2柱の強大な魔神が声帯を媒介に高次元の二重詠唱螺旋を紡ぎ始める。

 之は、呪文にして音声化された有り得ざる存在の遺伝情報
 之は、暗黒物質(ダークマター)を媒介にした現世への顕現
 之は、堕天した獣達の慟哭

 そして白き黒猫とベルフェゴールの2柱の魔神は、ついにその真の姿を顕現させた。

 キョウスケは……
≪つづく≫



[22119] お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない その1
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/11/22 22:04
 私が部室でパソコンを起動し、開発用にアカウントを取ったオンラインストレージ・Sugersyncを立ち上げる。
 これには、開発を直接担当する私こと赤城瀬菜、五更瑠璃、田村いわお、槇島沙織、そしてゲーム研究会の真壁先輩、三浦部長がアクセス可能な状態になっている、ネット上の素材置き場で、アカウントさえ知っていればどこからでも引っ張ってこれる。
 ここで製作用の素材を貯めて、ゲームの形にしてから配布してテストプレイを行っているのだ。
 ちょっとしたゲームの管理だったら、SkypeとgoogleカレンダーとSugersyncの無料版で充分だからね。

 そして、今日の朝のタイムスタンプで、この『堕天した獣の慟哭』という新しいイメージテキストと画像ファイルが上がっていたというわけです。
 
 ……ちょっともー、こういうヒロインいきなりイベント強制死亡とか止めましょうよ五更さん。ただでさえ女しか出てなくて萎えまくりなんですから。
 そのうえ、せっかく私が添削してあげたリアリティ溢れるベルフェゴールの呪縛・ガチムチキリノの兄ぱん祭編は即断で没にされるし!

 しかもこの続編、いくら草生やしだからって、桐乃ちゃんの死に様があまりにも雑魚過ぎて哀れになってきた。
 しかも変身後の白い黒猫って、コミケのときに五更さんがしてたエロゲキャラのコスプレそのまんまだし。まさか高校生にもなって創作系の中でも厨二病の中の厨二病、自分自身がヒロインとして登場する『ドリー夢(む)』系に移行するとは!
 そもそも、このイメージテキストファイルのタイトルの『堕天した獣の慟哭』自体がマスケラのサブタイトルまんまじゃないですか!

 私がブツブツ言いながら開発用のドキュメントを整理していると、両手に紙袋を提げた坊主頭の中学生が制服のままで部室に入ってきた。
「ちぃーっす! 田村ですけど。あんちゃんか姉ちゃんいませんか?」
 むさ苦しい部室に、元気な声が響く。坊主頭でいつも元気いっぱいだけど、一瞬黙ったり考え事をしたりするときにドキッとするほど可愛かったり、次の瞬間にはものすごくクールな雰囲気を一瞬だけ漂わせたりする、めぐるましい男の子だ。
「二人なら、まだ来てないですよ」
「そうかー、まあいいや。今日はおみやげを持ってきたッス!」
 そう言いながら、ロックくんは田村屋の紙袋を差し出す。田村先輩とロックくんのご実家は老舗の和菓子屋・田村屋だそうだから、何か甘いものでも差し入れてくれたのかな? だって頭脳労働者のプログラマには糖分補給が必要不可欠だからね。
「あら、ありがとう……」
 ロックくんの差し出す紙袋の中を見て、絶句した。
「こ、これ……なに?」
 紙袋の中には、NintendoDSぐらいの大きさの黒いノートパソコンのようなものが大量に入っていた。

「うん、アンドロイド携帯の実機しめて10台。やっぱエミュレータで開発するのはダルいっしょ」
 ロックくんは、限りなくNintendoDSに似た黒や水色のスマートフォンを、てきぱきと配り始める。
「ど、どうやって手に入れたの? ものすごく高いんじゃ……」
 この手の携帯は高いから、今まで実機は私の携帯だけで開発していて、他のテストはパソコンで動かすエミュレータ上で行わざるを得なかった。
「ああ、これ? 気にすんなって、1台マイナス3万円で買ってきたから、マイナス30万円しかかかってない」
「マイナス30万って……どういうこと?」
 マイナス30万円の出費という言葉の意味が分からない。
「このスマートフォン、無駄にキーボード付いてて図体がでかいから高性能で画面がきれいなのに不人気機種なんだよな。新規契約だと1台ゼロ円&キャッシュバック3万円付いてくるんだよ」
 この話、なにかおかしい。
「げ、月額の維持費がかかるでしょ?」
「そのとおり、『携帯として使わなければ』1台ごとに月8円で済む。10台で月80円×24ヶ月で……最終的に1,920円払うことになる計算になるかな。まあ間違って携帯として使わないようにSIMカードは全部抜いて、オイラんちで厳重に保管してるから」
「……それ、違法行為じゃない?」
 そんなドラクエのカジノでのインチキ無限コイン増殖バグみたいなおかしな錬金術、あっていいの?
「……わかってねーな! これがライフハックってヤツっスよ!」

「なにがライフハックだこのハゲ!」
 高坂先輩が、部室に入ってくるなりロックくんの頭をハタいた。
 この赤城先輩が、お兄ちゃんの彼氏の人なのです。
 超美少女の妹の桐乃ちゃんとはあまり顔は似てないけど、さすがに桐乃ちゃんのお兄さんだけあってスラリと手足が長く、顔の作りもなかなかどうして悪くありません。例えて言うなら、『磨けば光る理系男子』ってところかな。

「おお、あんちゃん! これはあんちゃんの分な。もう一台は高坂妹のぶんだから渡しといてよ。あいつはiPhone使いなんだろ?」
 高坂先輩に今頭をハタかれたことも全く意に介さず、高坂先輩にDSみたいな携帯を2台渡した。
「おめーのやったことはインチキじゃないのか?!」
 まるで危険物を受け取るような動作で、おっかなびっくり2台の携帯を持つ。
「……なあ、あんちゃん。世の中はシステムが複雑すぎてあちこち矛盾だらけだ。オイラはその矛盾を突いて賢く立ち回ってトクしただけじゃん?」
 ロックくんは、全く悪びれた様子もない。むしろ誇らしげだ。

「おおイガグリ坊主! オマエは本物のハッカーだな! そういう事情なら、端末はありがたく貰っておく。来年の入部を待ってるぞ」
 三浦部長は鷹揚に笑いながら携帯を受け取る。他の部員も同様だ。
「よろしくお願いしまっす! 今度は部室用のPCも調達してくるッス」
「なに褒めてんですか部長まで! っていうか来年も居座る気ですか」
 高坂先輩が、反論する。

「なあ兄弟、ハッカーというのはコンピュータにいたずらをするヤツのことだけを指すんじゃないぞ、ハッカーとは生き様のことだ。システムが間違ってるからって単純に反抗するのはただのテロリストだが、その間違いを利用して『気の利いたやり方でスマートに利益を得ることにより』世間に警鐘を鳴らすのがハッカーだ」
「そうそう、俺はチバ・シティのアウトロー・テクノロジストなんだぜ」
「まあ携帯の本体はもういい、……30万はどうした?」
「決まってんじゃん、ゲーム開発用の資金だよ」
「……ロック、中学生がそんな不正蓄財をするのは感心しないぞ」
「不正じゃないって、ライフハックだって」
「不正というのは留保しよう。それでもやっぱり、中学生が大金を持つのは感心しない」
「うーん、そう来られると厳しいぜ」
「……というわけで、そのお金はあんちゃんが預かってやろう、な? ロック」
 いま高坂先輩は、ものすごくいやらしい顔で手をワキワキしてる。

「ハァ? ……あんちゃんにカネ渡しても、どうせメガネもののエロ本かエロDVDか、らぶドールの大人買いで無駄遣いするに決まってんじゃん。ウチの姉ちゃんの裸でも見とけよ、カネがもったいないから」
「な……ななな、なにを言ってるんだね、いわおクーン!」
「せんぱいサイテー」
 メガネといえば私か、先輩といつも一緒にいる田村先輩で、かわいい感じのメガネっ娘だよね。身の危険を感じるから、気をつけよう。
「未開封新品の田村麻奈実なら、今ならあんちゃんだけの特別価格ゼロ円でご奉仕中だぜ? ただし他のヤローなら通常小売価格の100億万円な!」
 そして、自分の姉を欲望のハケ口にしろと推奨する弟がここに。
 ……私のお兄ちゃんは、こんなこと言わないよね?

「まあ、この30万はiPhone移植のための開発環境整備に使おうじゃないか。MAC用にはiPhoneとAndroid共通のSDKもあるし。中古のMACなら3台ぐらい買っても釣りが来るだろ」
 部長が、振って沸いた予算の使途を提示する。
「SDKってなんだ?」
「ゲームに限らないけどソフトの開発ツール群のことだよ、あんちゃん」
「MACってなんだ?」
「……Windowsじゃないマッキントッシュってパソコンのことだよ、あんちゃん。つーか、本当にゲー研の部員なの?」
 ロックくんは、高坂先輩に呆れた顔を向ける。
「自慢じゃないが、俺にも自信がない」
 高坂先輩は、ドヤ顔で答える。

「……まあいいや。それより『ハッキントラッシュ』って手もあるぜ部長!」
「ハッキントラッシュ? なんだそれ」
 部長ですら知らない言葉が出てきた。
「フッ……自作パソコンに無理やりMAC OSをインスコしてMACにしてしまう荒技なんだぜ! 元は、捨ててあるジャンクPCからパーツをかき集めて組み上げた自作PCにMAC OSを入れて使うハックから来てるんだ」
「フム、そうしたほうがトクなのか?」
「……うーん、ググてみたら大人しくMACminiを3台買うほうが楽チンかもしれねえな。OS付いて約6万だから。……ちょっとPC借りますよっと」
 いきなりネットで検索し、オンラインショップを開き、なにかゴソゴソ作業して、全キャッシュ消去したあとでパソコンを再起動した。
「明日には届くよ、MACmini3台とiPod Touch3台」
 何この異様な決断の早さ!
「ハッカーはハッカーでも、ウィザードとかグルっていう最高レベルまで行くかもしんねーな、コイツ。末は大ハッカーかIT企業の風雲児ってとこか」
 部長は感心したようにつぶやいた。
 ……中学生でありながら、すさまじい勢いで機材と開発費を調達してきて着々と環境を整備しはじめた田村弟。……いったい何者?



[22119] お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない その2
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/11/26 00:49
「……す、スマートフォンくれたぐらいで、アンタのこと許したりなんかしないんだかんね!」
 桐乃ちゃんは、待ち合わせのドーナツ屋で大大大好きなお兄ちゃんを親友に取られたツンデレ妹丸出しのような勢いで、五更さんから顔を背けた。
 そう言いながらも、ちゃんと呼び出しに応じたのは偉いかな。

「……あ、ありのままに起こったことを今話すわ。わたしが2日ぶりにゲーム研究会部室に来てみたら、部室がゲーム開発会社みたいになっていた。お遊びの同人サークルとかそういうレベルでは断じてないわ」
 五更さんは、桐乃ちゃんの怒りに思うところがあるみたいだけど、をとりあえずはスルーしていきなり本題から切り出す。

「まず部室のパソコンがことごとく新しい機材に変わっていた。次に、全員が高性能Android端末を持っていて、しかもいつのまにかiPhoneとのクロスプラットフォーム(同時開発)環境まで完成している。そしてわたしには、Mac miniとAndroid端末とiPod touchが支給されていた」
ここまで言い切ると、五更さんはウーロン茶を啜った。
「それどこのスクウェア絶頂期?」
 桐乃ちゃんは、半分馬鹿にした調子で応える。
「……ついでに、なぜか部室にwiiも5台あるの」
「なんでそんなに資金力があんの? あの甲斐性がなさそうな部長に」
 そういえば、ゲー研と桐乃ちゃんは今年の夏コミで面識が出来たのでした。
「桐乃ちゃんの幼なじみのロックマンという男の子が、スマートフォンを使った錬金術で手に入れたものなんですよ」
「ロックマン……っていわお? 地味子の弟の? なにそれせなちー、意味わかんないんですけど」

「……特定のスマートフォンをゼロ円で買うと、なぜか1台につきお金が3万円づつ貰える&2台以上同時に買うと漏れなく1台wiiも付いてくるという錬金術よ。しかもそのタダケーが、ゲーム開発には最適の機種だった……そういうことよ」
「なにその世界の矛盾! ご都合主義? なんかそれ超ご都合主義じゃない?!」
 桐乃ちゃんは普通にツッコむ。そりゃそう思うよねえ……。
「そんなご都合主義、ムシが良すぎて思いついても使う人間なんていませんよ。そもそも事実なんだからしょうがないですか。なにより、そのムシのいい話の利益を一番受けたのは他ならぬゲー研なわけだし……」
「……もしかしたら、メーカーはこういう若い真性のハッカーにこの機種をバラ撒きたかったのかもしれないじゃない。そして見事この機種をゲットしたロックマンは紛れもなくハッカーだし、最低でも赤城さんと同レベルのプログラミングスキルがあると思う」
 五更さんは、私の感想を引き継いで話を続ける。 
「いやいや、同レベルなんてとんでもない! 私はロックくんの作ったものがかろうじて理解できるというレベルで、とてもあんな前衛的なコードは書けません……」
 実はロックくんのプログラムは、私の目をもってしてもソースコードレベルで奇天烈すぎて『とりあえず目的どおりに動いている』ということしか分からなかったりする。
 要するに、『バグってない』ということしか分からないのだ。

「わたしだって多少はプログラミングをかじっているのだけれど……確かにあれはコンピュータにしか理解できないタイプのプログラムだわ」
 独学でかじった程度の五更さんや、多少は本腰を入れているけどまだまだ半人前の私ですらそう思う。
 このコードは私たちが産まれる前のプログラマのイアン・ベルやナーシ・ジェベリが書いてたような『呪文』そのもので、現代の『誰もが理解しメンテナンスできる』というプログラミングの哲学とは明らかに対立してる。
「しかも、それをわざとやっているんですよ! パフォーマンスを上げるために! く、くやしい……! でもロックくん自作のグラフィックエンジンに換装したら3倍以上軽くなったから使っちゃう!」
 ナーシ・ジェベリが作ったゲームは『本人以外には移植できない』ことでも有名だった。他人には、何がどういう機能を果たしているのか理解できなかったからだそうだ。だからファイナルファンタジー3は、見ながら仕様を書き起こして完全に1からプログラムし直した別モノのDS版まで移植されたことがなかったのだった。
 ロックくんのプログラムは、仕様を必要充分以上に満たしていることしか理解できない。

「あと、彼のネットワークエンジンのおかげでwifiや無線のマルチプレイにも対応したわ……正直これの実装は諦めていたのだけれど」
 マルチプレイ実装の煽りでシナリオの大幅追加と改変が発生した五更さんが、溜息混じりに脱帽する。彼女が時速6キロバイトで書いているスクリプトを、それを上回るスピードで実装して追い立てているのだ。
「うそ! このゲームの自由度でマルチプレイ出来るの?! まじ神ゲー……あわわ、まあまあ、すごいじゃん?」
 しばらくの沈黙の後、桐乃ちゃんが切り出す。
「言葉の意味は半分ぐらい分かんないけど、だいたい分かった。ねえ黒猫、せなちー……つまり、現状は『いわおTUEE! いわおSUGEE!』のいわお無双状態ってワケ?」

「うん……」
 私は認めた。
「……そうね」
 五更さんも認めざるを得ない。

 いわお君の一騎当千というか、冗談抜きでアメリカの一流大学院出のリードプログラマ10人分ぐらいのプログラミング能力により、ゲームに対する夢や希望が自分たちの実力を超えて実装されている。特に、五更さんの書いた超分厚い設定資料集が、全部ゲーム内に『世界の謎を探求する断片』として実装され、完全に飲み込まれた。あの電波設定を全部飲み込んたうえで私のガチホモRPG『強欲の迷宮2』の設定まで貪り食われ始めている。
 私が書いてたのはBLゲーなのに、実装すると丁度世界の足りない部分をほぼ補完する形にぴたりと納まるのだ。
 部長は五更さんの百合と私のガチホモで中和できると思っていたけど、実際に出来たのだ。ただし、ロックくんという触媒を経て。
 まるでゲーム開発というより、私や五更さんの煩悩や毒電波をゲームという形で際限なく吸い込まれていくブラックホールみたいだった。

「ロックくんのおかげで、システムは従来の5倍以上の効率で組みあがっていってます。この特にネットワークエンジンは秀逸です……ただ、設計思想自体が理解不能で謎の機能が内包されてるんですけどね」
「謎の機能って、なに?」
「……ひとつとして、同じ展開にならなのよ。そのうえ通信した先には自分そっくりのNPCが現れて、自分そっくりの行動をするようになるの。これは、そういうRPG。いまだかつて存在したことがない形態のね」


「おーい麻奈実、ロック。行くぞ!」
「はーい、きょうちゃん」
「待ってくれよ、あんちゃん。今いいところなんだよ!」
「俺の彼女の黒猫と赤城のゲームを手伝ってくれてるのはありがたいが、おまえじゃ足手まといになってねえか?!」
「大丈夫だよ、きょうちゃん。ロックはすーぱーはかーなんだもんね」
「オイラとしても、渡りに船だった。作りたいものを五更&赤城先輩のゲームに実装できそうなんだ」
「ロックの作りたいものって、何だよ」
「聞いて驚けあんちゃん!『神様ツクール・デウスとエクスとマキナ』ってんだ」
「そっか、それどんなギャルゲー?」
「すげえギャルゲー、さらに言うなれば、超すげえギャルゲー」
「わかんねーよ、アホ」
「ロックはいつでもそうなんだよ、きょうちゃん。絶対五更さんとも赤城さんとも『仲良くする』から安心して」



[22119] お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない その3
Name: うどん◆60e1a120 ID:eade24a7
Date: 2010/12/06 15:34
 私は自分の部屋で、ロックくん作成のネットワークエンジン『マキナドライバ』を解析する。
「……うん、まったく分からない」
 ゲームデータ以外の何かが頻繁に送り出されているが、そもそもこれの解析が出来ない。
 ゲームプレイによって発生した、暗号化されたされたパケットデータは他のPC内で何らかの処理に使われているらしく、それにより、何かが評価されている。
 このゲームのマルチプレイ化は、実質ロックくんが主導されている。
 その際に、私と五更さんが思わず広がりんぐして口走った超壮大な妄想は、恐ろしいことに少なくともシステム的にははほとんど実現されてしまった。
 私は究極のシングルRPGを作っていたんだけど、ロックくんはそのプログラムを含めたあらゆる素材を利用してマルチプレイ化している。
 ポリゴン素材の発注作業もいつのまにか五更さんから原案が上がって来たと思ったら、1日2体ぐらいの速度で携帯ゲーム用のローポリゴンモデルが仕上がってくる。キャラクターの輪郭や陰影が強調されてアニメ調になるオリジナルトゥーンシェイダー自体は私が書いたけど、それに対応したモデルを量産できる沙織さんも常人ではない。

「いやいや、美少女や美少年は『統計的に平均化された顔』ゆえ、既存の素体データを加工すれば新キャラ完成になるでござる。味のある顔なんかより、よっぽど簡単なのでござるよ」

とは言っていたけど、それでも凄い。
 どうやるか全く考えずに口走った「ひとつとして同じシナリオにはならない」も、五更さんにも私にも理解できない仕様で実装された。仕組みの説明はされたけど、『エクスコア』というAIプログラムがゲームプレイやシナリオ自体を制御しているということ以外は理解できなかった。
 
「どうしたんだ、瀬菜ちゃん?」
 お兄ちゃんが、パソコンの前で唸る私の机にホットミルクとクッキーを運んできた。
「年下の男の子が書いたプログラムが難し過ぎて、分かんないの!」
 お兄ちゃんにはパソコンについて詳しいことを言っても分からないから、大ざっぱに説明する。
「大丈夫だよ、瀬菜ちゃんならきっと分かるよ」
 お兄ちゃんが、私の机の上のBLアンソロジー本『アラフォー受 漢全攻略(田亀源五郎ほか著)』をどかしながら、ホットミルクを置く。
「エクスコアとマキナドライバってプログラムなんだけどね、ぜんっぜん意味が分かんないのよ」
 お兄ちゃんは、にこにこ笑いながら『アラフォー受 漢全攻略』を、私の本棚に戻す。
「……ちょっとお兄ちゃん! それはVol16でしょ。なんで『肉体派』アンソロジーの11と12の間に仕舞うのよ!」
「ご、ごめんな瀬菜ちゃん!」
 お兄ちゃんは、私が『ちゃんとしてない』ことが大嫌いだって知ってるのに、なんでこんなに大雑把なのかな。
「え、えーと、ほらなんだっけ、エクスとマキナだっけ?」
 私はいつもどおりお兄ちゃんに『ちゃんとしなさい』『ずぼらな性格を治しなさい』『そろそろ彼氏を作りなさい』の3点セットの文句を言おうとするのを遮って、お兄ちゃんが言った。

「ちょっと待ってお兄ちゃん! 『エクスマキナ』って、なんか聞いたことがある感じがする!」
 なんだっけ? とても有名な言葉だった気がする。
「よし、瀬菜ちゃん! 早速ググってみるんだ!」
 私は早速ググってみる。エクスマキナ……と。
「日本製CGアニメ映画……評価65点。CGは頑張ってた、らしいね」
「なるほど。意味が分からんことは分かったよね、瀬菜ちゃん」
 どこかで聞いたことがあるような気がしてたのは、気のせいじゃなかったのか。


「……ねえロックくん、エクスコアとマキナドライバって結局なんなの?」
 ロックくんが、お姉さんに用があるとかで学校に来たついでに、部室に直接遊びに来た。普段はスカイプで会議が中心になるから、会うのは久しぶりだったりする。この機会に私は、恥をしのんで直接聞いてみることにした。
「……なんのことかしら? 聞いたことがない名前ね」
 たまたま居合わせた五更さんが、横から口を挟む。
「あれ? 説明しなかったっけ。エクスコアはプレイ動向を判別してプレイヤーの趣味趣向やゲームの腕前を分析し、そのつどゲーム内容を作っていくんだ。マキナドライバはエクスコア用の評価データも込みで送り出すんだぜ」
 ロックくんは、得意げに説明する。
「難易度は勝手に自動調節されてるっていうの?」
 そういえば、開発者のうえにゲームの腕にはちょっと自信がある私が『やりごたえがある』と思うレベルが、普通のプレイヤーにとって『無理ゲー』に近いのは想像に難くない。
 しかし、難易度に関しては、誰からも文句が出ていない。
「柔軟かつ流動的にプレイヤーの腕前や好みに合わせる、と言ってくれよ」
 ……確かに、誰に聞いても一様に「ちょっと手ごたえがある」と答えている。私や五更さんのようにゲームが得意な人でも、高坂先輩や桐乃ちゃんみたいに下手な人でも同じように答えるというのは、本来ならば有り得ない調整だ。

「……このゲーム、そこまでリアルタイムに難易度を調整してるのね」
「難易度だけじゃないぜ? ゲーム時の入力の癖やプレイスタイルから、プレイヤーの人格まで評価抽出してるよ。でなけりゃ『性格がそっくりなNPCのAI』を作れないじゃん。あと、2度と同じ展開にならないシナリオも」
 ロックくんは、元来一本道だったシナリオを全部イベントレベルにまで分解して、それを毎回プレイごとに替わるけどそれでも筋道の通ったシナリオに見えるような造りに変えていた。
「……ということことはつまり、ゲームそのものが行き当たりばったりになってるのかしら?」
 さすがの五更さんも、自分のストーリーの順番や配置がバラバラにされて毎回再構築されるように改変がされたことを静かに怒っている。
 五更さんは、いくらテストプレイしても自分の立てたシナリオどおりに進まないことに苛立っていたから、無理もないかな。
「……なんでこんな複雑なシステムにしたのかしら?」
「え? だって言ったとおりのことを全部一番マトモな形で実装したらこうなっただけだし。難易度どころかシナリオまでが実はプレイデータを参照しながらリアルタイム生成されてることも、誰も気づいてないじゃん?」
 私と五更さんを含めて、という言葉をロックくんは省略した。正直、シナリオだけは最初に生成してると思ってた。

「そ、そんなことまでできるんだ……」
 ゲームを作ったことがあるならば、これがどんな離れ業か分かると思う。プレイヤーが望むシナリオ・展開をAIが推測して繰り出してくるってことなんだから。
「まあ、プレイ時間が長ければ長いほど、詳細なプレイヤーの人格分析が出来る。逆に言えば、短時間のプレイだったら大まかなことしか分からないってことだな。プレイすればするほど、人格がはっきりと分析できて、それがゲームに反映される……って言ったの、黒猫さんじゃん?」
「そ、そんなこと……言ったかしら」
 ……私は覚えてる。なぜならばそれは、私が『ムリ』と即答した仕様だから。なにこの『漠然とした制作意図から自分で設計を進められる人』! あなたスクエアエニックスならスクリプターの契約社員になれるわよ! よその会社だったら開発スタジオくれるだろうけど。


「ロック、げーむはちゃんと出来てるの?」
「おうよバッチリ! 『デウス』モジュールももうすぐ完成だぜ姉ちゃん!」
「『でうす』ってなーに?」
「へへっ! ……俺たちが、神様になるゲームだよ。姉ちゃん」



[22119] お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない その4
Name: うどん◆60e1a120 ID:684a1f32
Date: 2010/12/14 23:47
「……つ、ついに完成したわ……『ベルフェゴールの呪縛』……」
「やった……ゴールデンマスターの完成ですッ!」
 ゲー研の部員と五更さんの人脈のすべてを駆使して、ついに『ベルフェゴールの呪縛』は完成した。全てのスタッフのポテンシャルを限界まで飲み込んで、このゲームはついに完成した。
 そして私は、この開発の日々の中でなんとも言いようのない『ロック流プログラミング術』がある程度分かるようになってきた。
 なんのことはない、『コンピュータは脳の一部機能の単純な模造品であり、自分の脳で直接プログラムを生成できる』ということを自覚するだけだった。本当はとても簡単なことだった。
 私はついにこの境地に到達し、この真理をまずは五更さんに伝えた。

「……それ、『悟りなんてものは、開けばいいじゃない』というのと同レベルの発言よ」
 なぜ分からないかなぁ? こんなに簡単なことが。 
「分からないですかねぇ、仕組みを完全に理解しさえすれば、あとは考えただけでプログラムは出来ているんですよ!」
 私は、できるだけ分かりやすくコツを伝えた。
「天才はみんな言うけど誰も理解できない『大脳旧皮質でダイレクトコーディング』ね。そんな境地、本当に到達できるのは100万人に1人ぐらいのものよ。もしくは……」
「もしくは……なんですか?」
「……マジキチ乙」
「だ、誰がマジキチですか!」

 ダメだ、プログラマ的にはせいぜいスクリプトどまりの五更さんには、この単純にして高尚な真理が理解できない!
 お兄ちゃんに教えてあげよう!
「……というわけで、脳幹を使えばどんな難しいプログラムでも無意識下で組めるようになるの! すごいでしょ!」
「分かったよ、瀬菜ちゃんは偉いね、頑張ったね……」
「えっへん!」
「ご褒美に、今から、BLゲーを、買いに行こうね……クッ! なんでも、好きなものを買ってあげるよ……グスッ!」
 お兄ちゃんは、涙で顔をグチャグチャにしている。
「あ、あのー、お兄ちゃん? ……まさか、お兄ちゃんまで私がクルクルパーになったと思ってないよね?」
「大丈夫だよ、瀬菜ちゃん。田亀源五郎発禁作品集でもなんでも買ってあげるから! 喪ったものは、またゆっくり取り戻せばいいよ、瀬菜ちゃん」
 こ、こんな優しさは要らない! 

 ……どうやら、これは『分からない人には絶対分からないし、分かったらデンパ扱いされる』類のことらしい。
 自発的に悟るしかないから、分かってる人間も敢えて説明はしない。でも……
「こ、高坂せんぱい! 先輩なら……」
 私は最後の望みをかけて、高坂先輩に説明してみる。
「……あー、赤城妹。ゲーム開発が終わってハイになってるのは分かるけどさ、おかしさの方向性が変わりすぎだぞ」
 やっぱり『ハイハイお疲れ様』扱いだった。
「そ、そんな……! あの五更さんを彼女にした先輩だったら理解できると思ったのに!」
「おまえ黒猫がデンパだとでも言うつもりか?! ……ちょっとイタいだけだ」
「それ、私がデンパだっていう意味ですよね! ひどい……ロックくんのお姉さんを泣かせたくせに!」
「……なっ、ま、麻奈実は関係ないだろ……そうくるのなら、こちらにも考えがあるぞ」
 明らかに動揺した素振りを見せたあと、高坂先輩は開き直った。
「?! な、なんですか?」
「いいか、よく聞け……赤城いや瀬菜!」
「な、なんですかセクハラ先輩! 名前で呼ぶのはお兄ちゃんだけにしといてください!」
「誰もオマエのアニキのこと浩平なんて呼んでねえよ! フッ……まあいい、おまえの残りカウントは『5』だ。そして、俺は『フラグを折らないことにした』ッ!」
 差し出した掌をこちらに向けて左手の指で『5』を宣告する姿は、マスケラの漆黒にどことなく似ている。最近、マスケラの漆黒に似ていることを意識しだしてからは、そこはかとなく憎たらしい感じがする。
「5? ……ど、どういう意味ですか!?」
 私は、おそるおそる聞いてみる。
「それは、そのうち分かるぜ……これからは、よく考えてから俺と会うんだな」
 私をビシッと指差したあと、これ以上ないというほどのドヤ顔で高坂先輩は立ち去った。

「こんにちは、赤城くんの妹さん、げーむの完成おめでとう」
『5』という謎のカウントを残してどこかに行った高坂先輩と入れ替わるように、田村先輩……ロックくんのお姉さんが寄り添ってきた。
「そ、そんな! ロックくんがいたからこそ市販ゲームにも全く引けを取らない完成度になったわけですし……」
 この人は、見た感じ癒し系の、男子にはとても人気がありそうな感じの……女子にはあまり友達がいなさそうなタイプの人だ。でもあの天才児ロックくんのお姉さんということは、警戒してしすぎるということはないだろう。勉強も千葉大A判定の上位クラスらしいし、間違いなく見た目より切れる人だと私は見た。
 そもそも、『ベルフェゴールの呪縛』のモチーフになった人物こそ、この田村麻奈実さんだ。そして、高坂先輩が振ったとかで浩平お兄ちゃんが憤慨しながらも色めき立っている。
 ある意味、今回の騒動の中心人物ともいえる。

「そうだ、わたしはこれから家に帰るけど、ロックに伝えておくことがあるなら聞いておくよ?」
 田村先輩が、振り返りながら私に尋ねる。どこからともなく、コツコツという音と一緒に。
「そうですか……ロックくんにご苦労様『※※※※※』と伝えてください」
 私はこのコツコツいう音に不思議な一体感を感じながら、感謝の言葉を口にした。
「え? ごめん今聞こえなかったんだ。もう一回お願い」
 まだ、コツコツという音が聞こえ続ける。
「え? ええ、『※※※※※』と」
 コツコツ音は、田村先輩の踵が地面を叩く音だった。
「こちらこそ、『※※※※※』完全に同期したわ」
 コツコツ音は、私の何かと完全に一致した。
「いえいえ、『※※※※※』先輩」

 その決定的なキーワードにより、唐突な開放が訪れた。
 一切の音が消滅し、田村先輩の視界が私と同期する。私が田村麻奈実であり、わたしが赤城瀬菜。その感覚は、『ロック流プログラミング術』を悟ったときと同じ共振。
「『※※※※※』」
 双方の口が同じ音を発した。

「『※※※※※』きょうちゃんと何か話していたけど?」
「『※※※※※』きょうちゃんは、ひどいです。わたしとお兄ちゃんを捨てて五更さんを選んだから」
「『※※※※※』あなたはまだ赤城瀬菜でもある。そして捨てられたわけじゃない。これはまた始まったばかりの緒戦に過ぎないの」
「『※※※※※』緒戦ですか。始まったばかりですか」
「『※※※※※』うん、この闘いを理解してない証拠なんだよね。それより、きょうちゃんは何か言ってなかった?」
「『※※※※※』きょうちゃんなら、わたしに『5』と言い残していきました」
「『※※※※※』5ってなに?」
「『※※※※※』分かりません。分かりませんか?」
「『※※※※※』分からないわ。でもいい、調べてもらうから」
「『※※※※※』瀬菜が会うと、減るらしいです」
「『※※※※※』瀬菜はまだあなたよ。分かった、瀬菜が会うと減る何かなのね」
「『※※※※※』だからよく考えて会えと言ってました」
「『※※※※※』もう家に帰って寝たほうがいいんじゃないかな? とても疲れてるみたいだし」
「『※※※※※』そうですね、わたしはとても疲れています」
「『※※※※※』じゃあ、ここから後のことは忘れていいわ」
「『※※※※※』わかりました、そうします」


「……という夢を見たの」
 私は昨日、ゲーム完成でクタクタになって帰ってきて、玄関で寝てたらしい。それをお兄ちゃんが見つけて、部屋まで運んでくれたようだった。そのわりにはパジャマに着替えてたのが気になるけど、聞くと怖いことになりそうだからやめておこう。
 そして、上のような夢を見たという話を、いまお兄ちゃんとしている。
「どこから夢なんだ? 瀬菜ちゃん」
「うーん……なんせ、昨日はゲーム完成以外のことは全部夢みたいなもんだから」
「田村が出てきたのか、俺と代わってほしかったぜ」
「コラ! 浮気はしないの!」
「ごめんごめん、俺は瀬菜ちゃん一筋だよ」
「そうじゃないでしょ! きょうちゃんのことよ!」
「……おまえ、なんで高坂のこときょうちゃんって言ってんの? なにそれ、あいつ俺のマイスイートエンジェル瀬菜たんに何かしたのか? されたのか!」
「アハハごめんごめん、寝ぼけてただけよ……お兄ちゃんの彼氏を取ったりしないってば……ちょっと待って、メール来た」
 私はお兄ちゃんを制しながらメールを読む。


From:ロックマン
『5』の件は、既に解決済み。
とりあえず『5』の対象を瀬菜ちゃんのあんちゃんに書き換えさせてもらった。
姉ちゃんも、男はノーカンにするってさ。

P.S.
ああ言いながらやっぱ怒ってんな、姉ちゃん。


「そういや、高坂の『5』って、なんなんだ?」
 お兄ちゃんが、私の話の中で出てきた数字を何気なく聞いてきた。
「さあ……でも『5』はもう大丈夫みたい」
「そうか、良かった」
「お兄ちゃんに引き継がれたってさ」
「……オラ、なんだかゾクゾクしてきたぞ」
 もう、今日は秋葉原のエロタワーで実写BL(別名:ビジュアル系ホモビデオ)のDVD買ってくれる約束でしょ!


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