<ヨアヒム・ラドル>「楽しみですねえ、【紅蓮の修羅】。
いったいどんな奴なんだろうなぁ…」
入港したミネルバの出迎えに向かうその道中。
なにやら【紅蓮の修羅】を英雄視しているらしき下士官に「そうだな」とおざなりな返事を返しつつ、さてさて【紅蓮の修羅】はどう言った人物なのやら?と想像を巡らす。
先の大戦で家族を失ったオーブ出身の若造、ミネルバ艦所属インパルスの正パイロットでZAFTレッド。
プロフィールを簡単に纏めるならそれでおしまいなんだが、果たして内面は如何な物やら…
確かにユニウス7降下の際に『戦争を殺したい』と告げた彼の言葉に、私は深い共感を覚えた。
戦争なんか、軍人なんかこの世から無くなってしまえば良い。
心からそう思う。
だが、今思えば彼の発言は些か表現が乱暴過ぎやしなかっただろうか?
加えて、なにより敵をして【紅蓮の修羅】とまで表現される気性の持ち主なのだ。
10代と言う血気盛んな年齢と、これまでの言動から人物像をざっと推測するに相当やんちゃな奴に違い無い。
そんな結論にしか到達出来ないのだ。
それだけでも相当不安が募るのだが、加えてアーモリー、ユニウス7、オーブ、インド洋とシン・アスカは立て続けに戦功を重ねている。
彼くらいの年頃の少年なら相当有頂天に、天狗になっていたとしてもなんら不思議は無いだろう。
どう考えても、期待より不安が先に来るんだがねぇ…
更に【紅蓮の修羅】に関しては、不安を募らせる材料に事欠かないと来ている。
戦意鼓舞の為、市民にZAFT軍の活躍をアピールして安心感を与える為だとは言え、シン・アスカの活躍をプラント本国では大々的に報道してしまっているのだ。
プロバガンダの必要性は理解出来なくは無いのだが、ZAFT全体の評価をこうも個人の戦功に頼ってしまうのは如何な物だろうか?
確かに開戦直後の核攻撃阻止を除けば、彼ほど華々しい活躍を魅せた者が皆無だと言う現実もある。
なまじ戦功が誇大でも無いだけに考え物だ。
もしもの話だが、このままシン・アスカが戦功を重ね続けたとすればどうなる?
プラント内での彼の支持者が増え続けるだろうし、そうなれば或いは近い将来、シン・アスカの言動がプラント全体の動向を左右するような結果にも成りかねない。
それは非常に恐ろしい事ではないか?
そんな不安を抱きながら対面に臨んだと言うのに…
俺が心配してた事なんて単なる杞憂に過ぎないんじゃないか?って思わず自問してしまうくらい、実物の第一印象は冴えない物だった。
櫛すら通してないんじゃないか?って疑ってしまうくらいボサボサの髪の毛、印象的な筈の紅蓮の瞳は半分以上閉じられた瞼の下に隠されて輝きを曇らせている。
そんなまるで覇気と言う物を感じさせない姿を前にすると、とてもではないが目の前の少年がプラント全体をどうこう出来る器だとは思えない。
それどころか、あまりに想像していた人物像と異なってしまっている当人を前にして、思わず引率してきたグラディス艦長に「コレは本物か?」と真偽を確認しようか真剣に迷ってしまったくらいなのだ。
それくらい、【紅蓮の修羅】の第一印象はパッとしなかった。
何処にでもいそうな冴えない少年。
お世辞でもZAFTレッドに相応しいとは言えたもんじゃない少年。
それが今、私の目の前にある現実だ。
…これでは警戒し過ぎた私が馬鹿みたいではないか。
膨らませすぎていた不安が解消された事には安堵感を覚えるのだが、同時に何処か心の片隅で【紅蓮の修羅】の事を英雄視していた自分の期待が裏切られたかと思うと、失望の念を抱く事を禁じえない。
■■■
だが、やはり私は甘かったらしい。
人を観る目には自信が有ったのだが、どうやらそれは自惚れに過ぎなかったようだ。
シン・アスカの本領が、私の様な一般人がただの第一印象なんかで把握出来るほど、底の浅いもので有る筈が無かったのだ。
そうだ、仮にもシン・アスカはこの歳でデュランダル議長の秘蔵っ子と称される人物じゃないか。
あの議長が第一印象で見透かしてしまえる程度の小者を重宝する筈が無いではないか。
ローエングリンゲート攻略作戦会議を行う為に会議室に向かうその道中、私は思い切ってシン・アスカに声を掛けてみた。
別に何かを期待していたと言う訳ではない。
ただ、第一印象で彼が薄っぺらい人物だと判断していた私は、簡単な追従でもって【紅蓮の修羅】を手懐けておこうと判断したに過ぎない。
いくらその人間性が薄っぺらいとは言え、彼が優秀なパイロットである事実は変わらないのだ。
せいぜい煽てあげておいて、ローエングリンゲート攻略の際には役立って貰おう、ただそれだけの腹積もりだったのだ。
「インド洋沖の戦闘でもお手柄だったそうだな、シン・アスカ。
ニーラゴンゴの艦長からも報告は上がっているよ。
その艦長から強い要請も有ってな、議会に報告と共に勲章授与の方も申請しておいたぞ。
この調子でローエングリンゲート攻略の際にも活躍を期待してるからな」
今思えば勲章授与の申請の際に抱いていた不安も杞憂に過ぎなかったが、な。
どう見ても権勢や政治に興味の有りそうな人間には見えんし。
勲章授与されたところで、せいぜいが年金の支給額が若干増額される程度のもので、他に影響するとはとても思えない。
そう言った意味じゃ、勲章はちょうど手頃な報酬だったかもしれんな。
それで気を良くしてこの先も1兵士として活躍してくれるなら万々歳だ。
そう、心中でほくそ笑んでいたのだが…
「凄いじゃないシン! 勲章だって! 勲章!」
等と喜びの声を上げるのは、シン・アスカ当人ではなく隣を歩いていた女性パイロット。
確かルナマリア・ホークと言ったか? の方だった。
彼女が前方を歩いているレイ・ザ・バレルと隣のシン・アスカの背中をバシバシと景気良く叩きながら全身で喜びを表現している姿には微笑ましい物が有るのだが、肝心のシン・アスカの反応は?と言うと、
「…はぁ。 いえ、有難うございます」
と、なんとも素っ気の無い反応だった。
一応、感謝の意は示してくれているのだが、どうにも「有難迷惑だ」と言った風情なのだ。
「? ひょっとして迷惑だったかね?」
勲章が授与される名誉を厭う者が居るとは思えないのだが。
なにせ勲章が授与されると言う事は、その活躍を公式に評価され、認められたと言う事実に他ならない。
シン・アスカには関係無いだろうが、仮に将来は政界へと進出するつもりなら、その際にも有利に働くであろう事は間違いない。
他にも退役後の年金の支給額にも有利に働くと言うのに、それを迷惑がる必要が何処に有ると言うのだ?
…後に。
私はその様な浅はか極まりない疑問を浮かべてしまった事、それ自体を恥じる事になる。
シン・アスカは私の問いに少しだけ億劫そうに、
「…自分は評価されたくて戦っている訳では有りませんから。
勲章を頂けるよりも、1日でも早く退役出来る日が来る事を望みますよ」
そう、告げたのだ。
■■■
それはまるで雷に撃たれたかの様な衝撃だった。
シン・アスカのその言を聞いた瞬間、比喩ではなく全身を衝撃が走り抜けたのだ。
そうだ!
そもそも私は何の為にZAFTに入隊したのだ?
立身出世の為? 名誉栄達の為?
違うだろう!
そんな個人の栄達なんて、私は決して望んでいなかった。
では、血のバレンタインで亡くなった同胞の仇を討つ為だったのか?
…確かにそれも有る。
あの事件を目の当たりにした時、私は腸が煮えくり返るくらいの怒りを覚えたものだ。
だが、けっして安易な復讐に走りたいが為にZAFTの一員になった訳では無かった筈だ。
私がZAFTに入隊した理由。
なによりもまず最初にプラントに住む同胞達の平和を守る為、ただそれだけの為に志願したのではなかったか?
コーディネーターと言うだけで、宇宙に暮らすと言う事実だけで、同胞達が理不尽に命を踏み躙られる世界が許せなくて、争いの無い世界を夢見た。
そんな世界を作る為の力になりたくて、ただそれだけの為に、今まで己の全てを注いで来たのではなかったか?
シン・アスカの言葉に、私は当の昔に忘れ掛けていた初心を思い出せた気がする。
そうだったのだ。
過去の私がそうであった様に、きっとシン・アスカもまた私と同じ理想を抱いていたのだ。
…今なら分かる。
やはり私はシン・アスカの事を見誤っていたのだ。
シン・アスカの本領は外見だけで判断できる底の浅いモノではなかったのだ。
きっとデュランダル議長はシン・アスカの実力も去る事ながら、内面の部分、『純粋な想い』と言った部分を高く評価していたのだろう。
なぜZAFTに数多く存在する精鋭パイロット達の中で、未熟な、新人パイロットに過ぎないシン・アスカが議長の秘蔵っ子とまで呼ばれるのか?
その答えは、きっとその辺に求める事が出来るのかもしれない。
ならば。
私がこれ以上迷う理由など、もう何も無い。
共に同じ理想を目指す同志として全力で支援しよう、シン・アスカの事を。
例え他人から修羅と評されようとも己の信じた道を純粋に突き進む、この若者を。
それが私の戦いだ。
■■■
「~の坑道を抜け、ローエングリンゲートの破壊を行う。
非常に困難だが重要な任務だ。
その役目をシン・アスカ、君にお願いしたい。
君の力を持ってすれば、それさえも可能だと私達は信じている。
もちろん我々も全力で敵の陽動に当たり、君をバックアップさせてもらおう。
…すまないが、頼む」
会議に臨んでいる現在、最早、私の中に【紅蓮の修羅】に対するわだかまりなど欠片も無かった。
そもそもがくだらない先入観から生じた疑念に過ぎなかったのだ。
現実に本人と会い、言葉を交わす事で思考・人間性と言ったものを確かめられたのだから、後に残るのは『頼もしい同志』と言う確固たる事実、ただそれだけだ。
だから私は迷わない。
作戦の肝となる高難度のミッションをシン・アスカに一任する事にも躊躇はしない。
信頼すると決めたのだ、ならば我々は彼が成功する為に命を掛ける。
ただ、それだけで良い。
…だが。
その発言に異論を唱えた人物が居た。
初対面の時とは一転、第一印象の時とはとても同一人物だとは思えない真剣な眼差しで会議に臨んでいたシン・アスカ本人が、
「………少し、意見を述べさせて頂いても構わないでしょうか?」
と、遠慮がちながらも確りとした口調で口を開いたのだ。
会議に臨む真剣な姿勢を目の当たりにして先の態度とのギャップから「真の大人物とは力の入れ所を把握している、緩急の付け方を理解しているものなんだな」と改めて見直していたのだが、そのシン・アスカが私の説明し終えた作戦内容に口を挟むと言う。
その一言を切欠に会議室内は水を打った様に静まり返り、反比例して緊張感が増していく。
他の参加者は皆、彼の発言を聞き漏らすまいと一斉に耳を澄ませるその中で、真剣な表情を浮かべたシン・アスカが慎重に口を開いた。
「申し訳有りませんが、私はこの作戦に反対です」
「っ!?」
たったその一言で会議室が騒然となった。
それもそうだろう、なにせほぼ確定していたと言っても過言では無い今作戦に、核となる人物自ら否を唱えたのだから。
「…理由を聞かせて貰って構わんかね?」
どうにか各人の発言を抑え、未だ動揺から回復し得ないでいる思考のままに、辛うじてそれだけを口にする。
シン・アスカを信じたのだ。
シン・アスカの望む未来が、私の理想と共に有ると。
そう信じてはいるのだが、それでもやはり真正面から作戦内容を否定されたならば、動揺は抑えられない。
そんな必死に動揺を押し隠す私を尻目に、シンアスカは淡々と私見を述べ始めた。
「了解しました。
確かに司令の考えられたミッションでも任務の遂行は可能でしょう。
ですが、今作戦ではあまりにも被るであろう犠牲が大き過ぎる様に考えます。
今回のミッションにて焦点となるのはローエングリンゲートの存在だと考えますが、幸い現在のミネルバにはオーブからの協力としてアスラン・ザラとアカツキが搭乗しています。
彼と彼のアカツキならば、最小限の被害でローエングリンを無効化する事が可能なのではないでしょうか?
彼を作戦の核に据える事で、奇策に拠らず、正面からの突破が可能になると考えます」
「むぅ… だが、彼はあくまでオーブの人間だと報告を受けている。
外部の人間である彼に作戦の要となる役割を任せるのは、いささか問題が有るのではないかね?」
シン・アスカの意見に一理有る事も認めるのだが。
確かにアカツキの性能が報告に有る通りならば、あるいは彼1機でローエングリンを無効化する事も可能なのかもしれない。
パイロットのアスラン・ザラの腕もまた、折り紙付きなのだから。
だが、それでもその意見を採用出来ない理由が存在するのだ。
例えば彼とアカツキが、あくまでオーブからの客将だと言う事1つ取ってみてもそうだ。
確かにアカツキの性能を持ってすれば今作戦の被害は抑えられるのかもしれない。
だが、もし彼の身に万が一の事が有ればどうなる?
オーブとの関係に不要な軋轢を生じさせかねない真似だけは、絶対に避けなければならない。
…それに、だ。
あまりこのような事は言いたくないのだが、最も危険な任務を他国の人間に任せるのは体裁が悪い。
ZAFTとしての沽券に関わる問題なのだ。
私個人としてはくだらないプライドに過ぎないと思うのだが、そうは考えない人間は多い。
何時の世にも外面を必要以上に気にする人間は必ず居るものだ。
そして、その様な人間が立場の高い地位に多い事もまた、1つの事実なのだ。
彼等は絶対アスラン・ザラを主に添えた作戦の遂行を認めないだろう。
そして、極めつけが彼個人の問題。
彼の過去の行動が問題となってくる。
ZAFTでアスラン・ザラと言えば、まず最初にあのパトリック・ザラの息子である事があげられる。
そして、それ以上にプラントとZAFTを裏切った男として認識されている。
これは非常に重要な問題なのだ。
いくら彼の裏切りに、彼なりの正義や大義名分が有ったとしても関係が無いのだから。
軍人が己の思想の為に同胞を裏切る、その様な行為を行える軍人を誰が信用出来ると言うのだ?
同じように、もし彼が新しい彼なりの正義を見出したなら、平気でまた自分達を裏切るんじゃないか?
一般のZAFT兵がそう考えたとしても、なんら不思議は無い。
何処まで信用出来るか定かでは無い男に、作戦の中核を任せる事に抵抗を覚えたとしても無理は無い。
それらの件を理を説く様に懇々と説明したのだが、シン・アスカはそれらの話を聞き終えた後、しばし内容の理解に務め、それから言葉を選ぶように紡ぎ出した。
「…確かに、アスランはオーブの人間で、パトリック・ザラの息子なのかもしれません。
そして過去に1度、プラントとZAFTを裏切ったのも事実なのでしょう。
ですが! 彼はオーブ脱出の際にショーンの危機を身を盾にして救ってくれました。
私はそれだけで十分だと考えます。
いくらアカツキの装甲が有ったとは言え、自ら敵の攻撃の前に身を晒すのは並大抵の事では有りませんから。
今の彼は、既に私達ミネルバの一員なのです。
彼が過去に裏切ったのであれば、是非、彼に名誉挽回の機会を与えては貰えないでしょうか?
その為なら私は協力を惜しみません!
ZAFT内に面子を気にする方が居らっしゃると言うのであれば、後でいくらでも頭を下げます。
それだけの事で、少しでも味方の犠牲が軽減するのならば土下座だってしてみせます!!」
「!」
一同、言葉が出ない。
シン・アスカが、まさかそこまでの覚悟で発言していたとは。
素直に当初の作戦に従って己の活躍で終えてしまえば楽だろうに。
仲間であるアスランの信頼を取り戻す為、ZAFTの同胞の被害を軽減する為。
ただ、その為に己のプライドを捨てる覚悟すら有ると言うのか…
なんて奴だ。
これが【紅蓮の修羅】なのだな…
…だが。
それでも、だ。
それでも結論は別だと言わざるを得ない。
確かに今のアスラン・ザラは信頼に足る男なのかもしれない。
シン・アスカを信じるのならば、シン・アスカが信じるアスラン・ザラを信じられるとも思う。
だが、それでも彼がオーブに所属する他国の人間であると言う事実は変わらないのだ。
事が国家間の政治的問題に発展する可能性が有るだけに、こればかりはどうにもならないのだ。
「………」
その件に関しては流石に返答に窮したのだろう。
私としても心苦しいのだが、シン・アスカも苦虫を噛み潰した表情を垣間見せる。
だが、こればかりはどうにもならない。
国家の違い。
所属の違い。
こればっかりは幾ら【紅蓮の修羅】とは言え、どうにもならん問題なのだ。
「残念だが、やはり作戦は当初の予定通り「発言しても宜しいでしょうか?」…何かね?」
やむなく私が結論を口にしようとしたまさにその時、今まで沈黙を守っていたグラディス艦長が口を開く。
この期に及んで何を?と思わないでもないが、とりあえず「どうぞ」と肯定の意を伝える。
「ありがとうございます。
双方を意見を拝聴させていただきましたが、私はシン・アスカの案に賛同したいと考えます」
「!?」
「私もラドル司令のおっしゃる問題は理解しているつもりです。
ですが、ZAFT軍が被るであろう被害を軽減できると言う点は無視出来ません。
また、奇策に頼らないで済むと言う点からも作戦の成功率が増すと考え、総合的な判断からシン・アスカの出した作戦がこの場合はより有効だと判断します」
出てきた意見はシン・アスカの案を全面的に肯定するモノ。
だが、それに対する私の回答は既に決まっているのだ。
例えグラディス艦長の意見とは言え、早々撤回は出来んのだ。
「…分かっている。
私としても作戦内容自体に異論は無いのだ。
もしアスラン・ザラの所属の問題さえ無ければ、諸手を振って賛同していただろう。
だが、今件はその問題が全てだと言って良い。
こればっかりは私の責任ではどうにもならんのだよ」
そう、苦渋に満ちた表情で否定の言葉を唱える。
だが、それに対しグラディス艦長は凛とした瞳を浮かべ、
「ご心配には及びません。
アスラン・ザラはミネルバが全力で守って見せますから」
そう、答えた。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅 オーブでミーアさんの姿を見掛けたのを切欠に、俺は再び深夜ラジオに嵌っていた。
プラントでは干されてしまったミーアさんだけど、ひょっとしたらオーブのラジオ局で復活してるかもしれない。
そんな発想に至ってしまったのだ。
そんな訳でインド洋での戦闘以来、戦闘らしい戦闘が無いって事も相まって、すっかり夜更かし三昧の日々を満喫していたりするのだ。
だからって言うのもなんなんだけど。
待機任務が午後担当だった事を良い事に毎日昼まで寝てた俺に、早朝のマハムール基地への着艦挨拶は非常に厳しいモノが有る。
って言うか、着艦挨拶の事なんかサッパリ忘れてたし。
って言うか、いくらZAFTレッドとはい言え、なんで着艦挨拶に俺達が必要なんだ?
数合わせか? ミネルバってあんまり地位の高い人いないし。
まあ、それはさておき。
今朝もルナが起こしに来てくれなければ、今頃、俺は此処には居ない。
きっと着艦挨拶なんて奇麗にすっぽかして夢の中の筈だ。
だから、そんな寝起きで意識もぼんやりしてるうちにマハムール基地の着艦挨拶に同行させられてて(それにしたって、あんまり起きた記憶も着替えた記憶も無いんだけど…)、それでもってなにやら話の流れも分からんままに会議室に向かう事になってて、その道中に知らんおっさんから「勲章授与されるってよ」みたいな話を聞かされたところで、生返事しか返せなかったのは俺が悪いんじゃない。 …と思う。
あまつさえ「嬉しくないのか?」っぽい質問内容に「それよりもZAFT辞めたい」ってぶっちゃけ本音トークを返してしまった気がするんだけど、それだって俺が悪いんじゃなくて、きっと赤道直下の太陽が眩しかったからなのさ。
だからそこの名も知らぬおっさん、「尊敬すべき馬鹿を見た」みたいな目で俺を見るのは勘弁して下さい。
■■■
さて、おふざけはここまでだ。
流石に会議ともなると、いい加減、俺のオツムも起きてくる。
って言うかさっきのおっさん(…ひょっとして偉いのか?)の話が物騒過ぎておちおち寝てらんない。
なにやら「インパルスが単機で~」とか、「目標付近に繋がる洞窟を~」とか、「ローエングリン砲台を破壊して~」なんて不吉な単語が飛び交わせられた日にゃあ、何時までも暢気に呆けてる場合じゃ無いってもんよ。
いや、いっそ夢の世界に逃避したいと思わないでもないんだけど、そんな事をしてた日にゃあ全てが終わってしまう。
とりあえず相手は俺より偉そうなんで、せめてもの抵抗とばかりにさっきから「何言ってんじゃワレ?」的な意思を込めておっさんをガン睨みしてるのだった。
…効果無いけど。
くっ! 俺の眼力も鈍ったもんだぜ。
…お願いだから今までの事は全部が全部、悪い夢だった。
そんな夢オチにして下さい。
■■■
当然と言えば当然なんだけど、そんな俺の儚い希望を叶えてくれる神様はこの世に存在しないらしくて、
「~の坑道を抜け、ローエングリンゲートの破壊を行う。
非常に困難だが重要な任務だ。
その役目をシン・アスカ、君にお願いしたい。
君の力を持ってすれば、それさえも可能だと私達は信じている。
もちろん我々も全力で敵の陽動に当たり、君をバックアップさせてもらおう。
…すまないが、頼む」
なんて結論に達しちゃわれました。
なにやら頼まれちゃったみたいだけど… 当然却下だ!
そんな青春片道切符みたいな任務なんかしたくないったらしたくない。
「流石シン、この任務を達成すれば英雄ね!」ってなルナの声だって耳に届かないったら届かない。
英雄なんてなりたくない。
良い英雄は死んだ英雄だけだって死んだ婆ちゃんも言ってたし。
あまりの理不尽っぷりに俺の心の大沢親分も「渇っ!!」って大激怒してる事だし、なんとしてもこの任務は取り消させなければなるまい。
じっちゃんの名には賭けないけど、とりあえず俺の命に賭けて!
「申し訳有りませんが、私はこの作戦に反対です」
胸を張ってそう告げる。
だって死にたくないんだもん。
100%嘘偽りの無い俺の本音だ。
だけど、それだけじゃ流石におっさんも許してはくれない訳で、
「…理由を聞かせて貰って構わんかね?」
なんて、当然の事ながら反対の理由を聞いてきた。
うーむ… 理由か。
ぶっちゃけ「怖いから」なんだけど、それじゃあ納得してくれんわな。
…考えろ! 考えるんだ俺!
ここが命の掛かった正念場なんだ!
きっと何か良いアイデアが浮かぶ筈なんだよ。
それが主人公ってもんだろう?
「………」
「………」
「………」
「!」
閃いた!
しかも思わず頭の上に電球マークが浮かんじゃう程のナイスアイデア。
さすが俺。
ふっ、時々自分の才能が恐ろしくなるぜ。
「了解しました。
確かに司令の考えられたミッションでも任務の遂行は可能でしょう。
ですが、今作戦ではあまりにも被るであろう犠牲が大き過ぎる様に考えます。
今回のミッションにて焦点となるのはローエングリンゲートの存在だと考えますが、幸い現在のミネルバにはオーブからの協力としてアスラン・ザラとアカツキが搭乗しています。
彼と彼のアカツキならば、最小限の被害でローエングリンを無効化する事が可能なのではないでしょうか?
彼を作戦の核に据える事で、奇策に拠らず、正面からの突破が可能になると考えます」
これなら俺が楽できて、尚且つアスラン大活躍。
『デスティニープラン』も全う出来るベリーグッドなアイデアなのだ。
おまけにZAFT軍の被害も減るかもしんないよぉ~ってのがポイントな訳で。
内心は自信満々なんだけども、ここは殊勝な態度を取って外面上は控えめに提案、ってスタンスで自案を告げてみた。
「むぅ… だが、彼はあくまでオーブの人間だと報告を受けている。
外部の人間である彼に作戦の要となる役割を任せるのは、いささか問題が有るのではないかね?」
…だけども、だ。
そうは問屋は卸さないとばかりに、司令かもしれないおっさんは俺の意見を否定しよった。
やれZAFTの沽券に関わるだの、やれアスランは信頼できないだの。
そんなもん、俺の命と比べれば屁でもないわ!
ZAFTの沽券なんかの為に俺は死にたくないんじゃあっ!!
…もちろん、そんな俺の本音は外に出したりなんかしない。
議論では熱くなった方が負けなのだ。
クールに、クールに行くんだシン・アスカ!
諦めたらそこでゲームセットですよ!
「…確かに、アスランはオーブの人間で、パトリック・ザラの息子なのかもしれません。
そして過去に1度、プラントとZAFTを裏切ったのも事実なのでしょう。
ですが! 彼はオーブ脱出の際にショーンの危機を身を盾にして救ってくれました。
私はそれだけで十分だと考えます。
いくらアカツキの装甲が有ったとは言え、自ら敵の攻撃の前に身を晒すのは並大抵の事では有りませんから。
今の彼は、既に私達ミネルバの一員なのです。
彼が過去に裏切ったのであれば、是非、彼に名誉挽回の機会を与えては貰えないでしょうか?
その為なら私は協力を惜しみません。
ZAFT内に面子を気にする方が居らっしゃると言うのならば、後でいくらでも頭を下げます。
それだけの事で、少しでも味方の犠牲が軽減するのなら土下座だってしてみせます」
…なんて言うか、自分で言ってて歯が浮くような言葉だな。
裏を返せば、それだけ今の俺が必死だって事なんだけど。
アスランは俺の希望の星なんだ!
過去に裏切ってたなんて知らなかったけど、とりあえずそれは聞かなかった事にしよう。
だって、アスランならきっと俺の『デスティニープラン』を完遂してくれるんだから。
そう言う意味じゃ、アスランを信じてるって言う俺の言葉にも嘘は無い訳で無問題だよな?
あ、ちなみに言わなくても分かってるとは思うけど、『味方の犠牲』ってのはイコール『俺の命』って事ね。
その為だったらプライドを捨てる事に躊躇は無い。
例え土下座する事になったって、死ぬよりはマシなのさ。
って言うか、頼む! そろそろ了承してくれ!
正直、精神的にもネタ的にもいっぱいいっぱいなんだよ!
おまけに自分で言っといてなんなんだけどさ、青臭い言葉に蕁麻疹すら出そうなんだ。
…後、ルナもレイも俺を聖人君子を見るような目で見るのは止めてくれ。
汚れてる俺にその視線は眩しすぎる。
後ろめたさで胃がキリキリ言ってるんですよ!
「………」
なんだか静まり返った会議室内に、「ひょっとして勝ったか?」ってぬか喜びを覚えたのも束の間。
「…そうだな、確かに沽券に拘って同胞の命を軽んずるのは間違っている。
アスラン・ザラの事も信頼すべきなのかもしれない。
シン・アスカ、君の言う事は全てもっともだと思う。
…だが、それでも、なのだ。
アスラン・ザラの身に万が一が有ってはならんのだよ」
ぐぅっ!
オーブとの関係に軋轢が発生したなら「更に多くの同胞の命が危険に晒されるかも?」ですと?
国家間の問題ですか?
政治的な問題なんですか?
1パイロットの俺にどうしろと?
俺の命が掛かってるんですよ?
諦める訳には行かんとです。
だけど、返す言葉が無え…
何か!
何か起死回生の手は無いんですかぁ!?
■■■
結果から言うと、そんな俺のピンチを救ってくれたのはグラディス艦長だった。
やべえ、ちょっぴり惚れかけたよ。
今なら抱かれても良い。
…その後の言葉さえ無ければ。
曰く。
「シン、レイ、ルナマリア、貴方達がアスランを守りぬくのよ」と。
あまつさえ、
「最悪の場合は、シン、貴方がアスランの盾になりなさい」ですって。
…アスランに万が一の事が有れば、漏れなく俺にも万が一の事態が付いてくるそうです。
連帯責任ぽくて仲間って感じがするよ。
あれ? なんだか泣けてくらぁ…
つづく(まで待とう、ホトトギス)
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<後書きみたいなもの> お久しぶりです。
忘れられてたらちょっぴり寂しい。