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[2139] 紅蓮の修羅(ガンダム種運命)
Name: しゅり。
Date: 2006/06/13 22:04
******************************
 注意:多分15禁物。
    露骨な性描写は無いけど性行為を連想させる記述有り。
******************************





<ルナマリア・ホーク>


 まるで紅玉石のようだと思った。
 一目見た瞬間にアタシは魅了されてしまったんだと思う。
 アカデミーの入隊式の時だったんだけど、アイツの周囲だけまるで空気が違ったし。
 なんて言うのかな、息苦しくて、そして物凄く熱かった。
 式の最中は当然みんな一列に並んでるんだけど、アイツの周りの生徒の緊張っぷりったら可哀想だったな。


 そう言った訳で第一印象からアタシはバッチリ惹き付けられちゃったんだけど、それだけで直に惚れるほどアタシは尻の軽い女じゃない。
 むしろ簡単に惹き付けられた自分に嫌悪したし、簡単に人を惹き付けられるアイツに嫉妬した。
 アタシなんかじゃ比べ物にならない魅力を持ってるアイツが心底羨ましかったんだ。
 ま、今だからこそ、そうやって過去(と言うほど昔でもない)を冷静に振り返る事も出来るんだけどね。
 いやぁ、アタシも大人になったもんだ。 …訂正、大人の女になったもんだ。 ウフッ♪


 幸い?な事にアイツはアタシと同じパイロット専攻だった。
 メイリンはアイツの存在に圧倒されたのか、凄く怖がっちゃってたから専攻が違って喜んでたけど。
 アタシ的初対面(アイツからしたら未対面)で植えつけられた劣等感の挽回機会には事欠かないってもんっすよ!
 …なーんて、井の中の蛙だったなぁ、当時のアタシって奴は。
 ライバルはアイツだけじゃなかったんだよねぇ。
 レイ・ザ・バレルって完璧超人までいたの。
 しかも美形。
 なんか背景に薔薇の花が見えるの。
 風の噂ではオペレータ女子の間でファンクラブ(もちろん非公認)まで有るって言うから驚き。
 って驚いてたんだけど、メイリンまで入会してた。
 メイリン、アンタ美形に弱かったのね…
 アタシ的にはレイみたいな美形も良いけど、アイツみたいにワイルドな方が…って、何言わせんのよ!
 ゴホンッ! ンン゛ッ!
 は、話が逸れたわね。
 つまりアタシは3番目だった訳だ。
 格闘能力・射撃能力・運動能力・整備能力…言ってて空しくなってきちゃうけど、全部レイに負けた。
 唯一勝ったと言ったら連携能力くらい。
 ダメダメなのだ。


 そして、アイツはそんなレイの更に上に居たのだ。
 本当に同じ演習用ジンに乗ってたのかしら?
 今でも信じられない。


「ツノはどこ?! 付いてるんでしょ、ツノが!」


「やっぱアレっすか!? 赤けりゃ3倍って奴っすか!? 瞳が赤くても有りっすか!?」


 …昔のアタシは馬鹿な事を叫んだもんだわ。
 取り乱したアタシに、普段あんまり喋らないレイが珍しく、


「ルナマリア、その認識は間違っている。
 そもそも初期設定では専用機の能力は3倍では無く1.3倍となっていた。
 それが世間に3倍と認識されるようになった間違いの大本は…」


 なんてココリコミラクルタイプに出てきそうな長台詞を喋ってた。
 覚えてらんないからカットしちゃったけど。
 ゴメンね、レイ。
 今思えば表情が変わらないなりにレイも動転してたんだろう。
 いっつも無愛想だから気付かなかったけど、なかなか可愛い所も有るでは無いか。


「うわっ! レイって設定オタくさーい」


 なんて言っちゃって悪かったかなぁアハハハ。
 もともとレイって暗いイメージ有ったんだけど、本当に暗くなっちゃったしね…ドンマイッ!


 どうも話がどんどん逸れてくなぁ…
 悪いのはアタシじゃなくて設定オタのレイね。<断言
 とにかく!
 アタシが言いたかったのはアイツは凄腕のパイロットだったって訳だ。
 アカデミー卒業して直に新型のパイロットに選出されたのは伊達じゃないのよ、明智君。
 あの先の大戦の英雄の一人、アスラン・ザラの再来だ!って教官達も騒いでたもんね。
 そうは言っても学科と連携の成績に関しちゃあアタシより劣るけど。
 つまり、なんとアタシは連携能力はアイツとレイを抑えて堂々の№1なのだー!
 凄いでしょ?


 …まあ、そんなこんなでアタシのプライドはズタズタよ。
 学科で勝ると言っても実技は完封負け。
 ライバルだと勝手に思ってたアイツはアタシなんかより遥かに高い次元に居たんだ。
 そういって一方的にライバル視した挙句に負けた(人それを自爆と言ふ)人間の末路なんて2つくらいしかない。
 今以上に反発するか、尻尾を振って媚びるか。
 そしてアタシの選んだ道は…


 どうしても越えられない壁を感じたアタシはお酒に逃げたのだ。
 プラントじゃあアタシの年齢でも飲酒可能年齢って事になってるの。<ここ重要
 陽もまだ高いうちから(って言ってもプラントなんで微妙な表現ね)部屋の電気を消して制服をだらしなく着崩して。
 ベッドに寄りかかって日本酒の一升瓶を片手に一人で手酌で呷ってた。
 …今思えばワインにしとけば良かったわ。
 だって一升瓶じゃあまるで親父じゃない、アタシってば!


 同室のメイリンも最初はアタシを励ましたり、さんざん文句を言ってきたりしたんだけど、アタシが聞いてるのか聞いてないのか分からない態度で呑み続けると部屋を出て何処かに言っちゃった。
 だからアタシは止める人間は誰も居なくなっちゃって、どんどん一升瓶の中身が減っていったんだな。


 部屋の様子に違和感を感じたのは一升瓶の中身が2割くらいになった時だった。
 朦朧とする意識の中で、アタシは薄暗い部屋の中に紅く燃え滾る2つの輝きを見付けた。
 最初はなんだか分からなかったんだけど、だんだん焦点があってくると、それがアタシの自爆の大元だと悟った。
 一瞬で酔いが覚めた。
 アタシはいったい何をしてるんだろう?
 震える手から一升瓶を取り落としたアタシを、アイツは何も言わずに見てた。
 アイツは口に出して何も言わなかったんだけど、2つの瞳は誠実に語ってる。


「ルナマリアはその程度の女なのか?」と。


 その瞬間だったと思う。
 アタシがアタシに本当に絶望したのは。
 それからのアタシは我ながら酷かった。
 ありとあらゆる、思いつく限りの暴言をアイツにぶつけた。
 あまつさえアイツの頬を殴っちゃったような気もする。
 酔っ払いのパンチなんてたいして痛くなかっただろうけど、後で見たら薄っすらと赤くなってたし。
 そうして、アタシの一方的な八つ当たりが続いてる間、アイツは少しも動じなかった。
 こんなどうしようもないアタシの、暴言も、暴力も、ただ黙って受け止めてくれたんだ。
 そしてアタシが最後に泣き崩れて床につっぷした時、初めてアイツは動いた。


 ぽんっ


「………えっ?」


 それは予想外の行動だった。
 部屋を出て行くでもなく、アタシに反撃するでもなく。
 アイツはアタシのくしゃくしゃになった頭に手をのせて、優しく撫で始めたのだ。
 そして、正直何がなんだか分からなくなって、パニックになったアタシに向かってこういったのだ。


「ゴメンね」


 惚れ惚れするような微笑だった。
 いままで誰も笑った所を見た事が無いアイツ。
 それが今アタシに微笑んだのだ!
 それまでは灼熱の炎だと思ってた瞳を、その時アタシは全てを優しく包む陽光だと思った。
 そして、その時だった。
 アタシの胸の一番奥の所で、確かに何かが勢いよく燃え上がりはじめるのを感じたのは。


 ゴメンね、ってどう言う意味なの?
 悪いのはアタシのほうじゃない。
 勝手にライバル視して、自爆したからってお酒に逃げた馬鹿な女。
 心配して慰めに来てくれた(のかは知らないけど)にも関わらず暴言、暴力を振るうような女。
 謝るのはアンタじゃない! 悪いのはアタシ。
 馬鹿なのはアタシの方じゃない!


「!?」


 そんな自己嫌悪のスパイラルに陥りかけた時。
 アイツの掌がアタシの頬に触れた。
 アタシの涙を拭ってくれてる掌は大きくて、そして暖かかった。
 また涙が溢れてきた。
 そして涙の止まらないアタシに困ったような表情を浮かべるアイツの顔を見た時。
 アタシは衝動的な行動に出てしまったのだ。
 今考えても自分が信じらんない。
 きっと酔った勢いとか、アイツの隠された一面だとかが、アタシの乙女回路に火を付けたんだ。
 つまり、ぶっちゃけて言っちゃうと、驚くアイツを無理矢理ベッドに引きずり込んでしまったのだ。
 抱きついて唇を貪るように奪って、そのままベッドに重なるように倒れこんだ。
 アイツの心底ビックリする顔を見た時に、アタシは何をそんなに落ち込んでたんだろう?って馬鹿馬鹿しくなった。
 それからの出来事は2人だけの秘密。
 主導権はアタシに有ったとだけ言っておこう。
 ぐふふ。


 明日、アタシ達はミネルバに搭乗する。
 なんと! ZAFTの最新鋭艦なのだ。
 無事に総合成績3位のまま、赤服を纏って卒業したアタシの最初の搭乗艦。
 そして総合成績1位のアイツの搭乗艦。
 ついでに言うと総合成績2位のレイの搭乗艦でもある。


 隣で疲れ果てて眠ってるシンの顔を見ると頬が緩む。
 この閉じた瞼の内に秘められた灼熱の瞳が、本当は温かいんだって事をアタシだけが知ってる。
 細身ながらも引き締まったシンの胸板に頬を寄せて、アタシは眠りの世界に落ちていく。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 なんでこんな事になっちゃったんだろう?
 自分の上で跨り喘ぐルナの恍惚とした表情を見上げながら、シンは思考の海に溺れて行った。
 いや、これだけだとルナとそう言う関係になっちゃった事に対する感想っぽいけど、そうじゃないですよ?
 なんだか良く分からない成り行きでこんな関係になっちゃったけど、ルナの事は好きだし。
 とりあえず最初から話すね。


 そもそもの発端はオーブを出てプラントに来た事。
 そのままオーブに残っていれば被災保障とかも十分に受けられたって言うのに、


「この国に居ると、家族の事とか思い出して辛いんです」


 なんて言っちゃったんだ。
 くさっ! 俺くさっ! 格好付け過ぎ!
 その結果プラントでフリーターしてたら世話無いよ、本当に。
 素直にトダカさんの養子になっとけば良かった。


 そんな繊細な一面を見せつつプラントに来たんだけど、生きていくのに繊細さはあんまり必要無いって事が骨身に染みた。
 世知辛い世の中で生きていく為には繊細さじゃなくて頑強さが重要なんだ。
 弱い15にしてアルバイト漬の毎日っすよ。
 そして、今思えば選んだアルバイトも不味かった。
 なまじ父さんの手伝いとかでMS搭乗経験が有ったばっかりに、給料の良いプラント外装補修を選んでしまったんだ。


 アルバイト自体は順調だった。
 MSの操縦は得意だったし、親方も涙もろい頑固親父だったけど良い人だったし。
 でもね、転機はいきなり予想もしない方向からやって来るんだ。


 その日も俺は絶好調だった。
 なにせ歩合制なもんだからガンガン外装張替えとかしてた。
 今思えばそこで調子に乗りすぎたのが悪かったんだと思う。
 作業後に親方に呼び出された。


「流石だなシン、今月の成績もダントツでトップだ」


「ありがとうございます。
 こう見えてもMSの操縦だけは得意なんですよ」


「親父さん、モルゲンレーテの技師だったんだろ?」


「はい。
 よくテストパイロットさせられたもんです。
 あの頃は嫌で嫌でしょうがなかったけど、今となっては懐かしいですよ…」


「そうかぁ… すまん、悪い事聞いちまったな」


「いえ、気にしないでください。
 父さんは死んじゃったけど、残してくれた技術が今の生活に役立ってる訳だし」


「へへ… そうだな。
 なんか湿った話になっちまったな」


「いえ。 じゃあ、俺はこれで」


「おうよ! またなっ …て、忘れる所だった。
 シン! 明日はバイト来なくていいからコレに書いてある場所に行ってこい」


 そういって一枚のメモ用紙を差し出される。


「? なんですか、これ」


「行けば分かる」


「はぁ… 分かりました。
 じゃあ失礼します」


「おう! …元気でな」


 その時の俺は気付けなかった。
 もう2度と会えないかのような親父さんの一言の意味と、渡されたメモ用紙が所謂【赤紙】だって事に。




■■■




 メモに指定された場所は何の変哲も無いビルだったんだけど、今、俺はギルバート・デュランダル議長の前に居る。
 …なんでさ?


「やあ、突然呼び出してすまなかったね、シン・アスカ君」


「はぁ…」


 差し出された右手を握り返しながら、本当に突然過ぎるんだよ! と脳内でシャウト。
 だって相手は最高議長。 俺、難民フリーター。
 まさかシャトルに乗せられて最高議長の前まで浚われる様に連れて来られるとは思わなかったなぁ…


「早速だけど、本題に入ろう。
 シン・アスカ君、是非、君にZAFTに入隊しては貰えないだろうか?」


「………へ?」


「君には申し訳ないんだが、君の事を調査させて貰った。
 これは大戦後プラントに移住した全市民に対して行っている事なんだ。
 悪く思わないでほしい」


「…はい」


 正直、自分の事を勝手に調査されて良い気はしない。
 でも連合からのスパイとか考えたら身辺調査とかは必要なのかもしれない。


「御家族を先の大戦で亡くされたそうだね。
 ご冥福をお祈りするよ」


「あ、ありがとうございます」


「なんでもシン君、君の父上は大変優秀な技術者だったそうだが?」


「はい。 優秀かどうかは分かりませんが、モルゲンレーテの技師でした」


「ふむ… そして君はその父上のサポートでテストパイロットをしていたそうだね。
 大変優秀なMS操縦技術を持っていると聞いている。
 その腕前を是非プラントの為に活かしては貰えんものかな?」


 冗談じゃない!
 軍人、しかもMSのパイロットと言ったら殉職率№1の職業じゃないか!
 なんで議長がわざわざ俺なんかにそんな事言うんだよ!


「いえ、自分はそんなたいした技術なんか持ってません。
 残念ですが俺は…「そう言えば資料が有ったな」


 話を切らないでください…って、ゲッ!
 議長がリモコンを操作すると、スルスルとスクリーンが降りてきて映像が始まった。
 スクリーンの中では1台のジンが軽快に外装補修をしている。
 すまん! 軽快ってのはちょっと良く言い過ぎた。
 スクリーンの中のジンは頭に花が咲いてんのか!ってなテンションでノリノリに作業してた。
 外装補修の最中にトリプルスピンはいらんだろ! って操縦してんの俺だ!


「…な、なかなか軽快な操縦じゃないか」


 意表を付かれたのか、議長もちょっと動揺してる。
 しかし動揺具合じゃ俺のほうが大差勝ちだ。
 自分がお馬鹿に浮かれてる映像を観せられるって、なんたる屈辱。
 画面の中で高速ターンしはじめたジンを呆然と見つつ、給料日だからって浮かれてた過去の自分に後悔した。


 で、話の主導権を全力で投げ捨てた過去の俺の偉業の結果、気が付けばZAFTへの入隊が規定事実となっていたのだった。




■■■




 そして入隊式。
 実は俺は寝不足だった。
 昨日入居した寮にはレイ・ザ・バレルと言う同居者が居た。
 まぶしいくらいに美形だ。
 そう、背景に薔薇の花が見えるくらい。
 薔薇?
 そこでふと気付く。
 レイには薔薇が似合いすぎているんじゃないか?
 背筋に冷たい汗が走る。
 …ひょっとして801系の人か?


 だから俺は寝不足なのだ。
 目に力を入れとかないと閉じちゃうのだ。
 睨んでるわけじゃないよ。
 だから皆そんなに脅えるような目で俺を見るのはどうかと思うよ?
 これってイジメじゃない?


 それから1週間。
 レイが寝返りをうつ度にお尻を押さえてドキドキしてたけど、なんとか清い身体は守ってます。
 でもシャワーとかの後に俺の裸体(上半身だけね)を見詰めるレイの視線、アレは絶対恋する乙女のソレだ。
 油断しちゃいけない。
 俺のお尻は狙われている。




■■■




 どうやら俺は怖がられてるらしい。
 なんだか誰も目を合わせてくれない。(レイは合わせてくれるけど俺が逸らしちゃう…)
 それでもなんとか友達になったヨウランから聞くところによると、俺は『復讐に狂う殺人鬼』ってな風に思われてるそうだ。


 ショック!! orz


 なんでも入隊式でガン飛ばしすぎたのが発端。
 赤色の瞳と合わさって物凄く怖かったそうな。
 全力で言い訳したいところだが、レイのお尻を狙われてて寝不足だったとはとても言えない。
 だから、こんな瞳の色にコーディネートした草葉の陰の両親をそっと恨んでおこう。


 そして頭2つ飛び抜けたMS操縦技術が戦争を心待ちにしてるんじゃないかって疑惑を生んでるそうな。
 ズブの素人とテストパイロット上がりじゃ飛び抜けるっちゅーの!
 戦争を心待ちにする訳無いじゃん!
 どっちかって言うと俺は平和を愛する慈愛に満ちた人間よ?


 最後に何処から情報が漏れたのやら、先の大戦で家族を亡くした事。
 オーブと連合の戦闘に巻き込まれて、プラントに移住してZAFTに入隊って事実が復讐に燃えてるって誤解を産んでるらしい。
 勘弁してくれ!




■■■




 そういった訳で他称ハードボイルドなリベンジャーな生活を送っていた訳なんだけど、転機は突然やってきた。
 俺の転機はいつも突然やってくるらしい。
 そして俺に選択権は無い。


「アナタの所為でお姉ちゃんがあんなになっちゃったんだから!
 責任とってよ!!」


 なんじゃらほい?
 突然女の子が部屋に押しかけたと思ったら謂れの無い誹謗中傷。
 なんでも俺の所為で彼女の姉が大変な事になってるそうな。
 うむ、まったく持って身に覚えが無い。
 だけど世の中は切れた者勝ちって言うくらいで、切れ返しそこなった俺は彼女の指示に従うしかないのだ。


 そんな訳で俺は今、ホーク姉妹の部屋に来ています。
 目の前ではショートカットの女の子が一升瓶片手に管を巻いています。
 俺にどないせい言うねん?


 どう行動したら良いのか分からんまま立ち尽くしてると彼女と目が合った。
 合った彼女の目は完全に据わってた。
 そしてまたも浴びる謂れの無い誹謗中傷。
 あと暴力。
 今日は厄日です。


 挙句の果てに泣き出してしまった彼女の前に右往左往するしかない。
 こんな時はどうすれば良いんだ?
 女の子が泣き出した時…、女の子が泣き出した時はぁ…
 そこで思い出したのは妹のマユ。
 そういえばマユもよく泣いて俺に当たったような気がする。
 ひょっとして女難の相でも出てるんだろうか?<正解
 そんな時は…そう、宥めて謝ればいいのだ。
 この際、謝る理由の有無なんかは重要じゃない。
 謝ると言う事実だけが重要な時も世の中にはあるのだよ。


 調子に乗りすぎました。
 なに格好付けて涙を拭ってんだよ、俺!
 いや、頭を撫でた後のきょとんとした表情が可愛かったからだけどさ!


「□※▼△☆★!?」


 うっわーキスしちゃったよー!
 ってか、キスされちゃったよー!!
 初めてだったのにー!
 ファーストキスは日本酒の味なんだぁー! orz


 もう何がなんだか分かりません。
 気が付いたらベッドに押し倒されてました。
 俺の服を脱がしながら、


「アタシ、初めてなんだからね」


 って言う彼女の初めてが、Hの事なのか人を襲う事なのかを真剣に悩んでいる内に取り返しの付かない所まで進んでました。
 あれだけ必死にレイから守ってた操はあっさりと散らされたのです。


 それからなし崩し的に付き合う事となった彼女の名前はルナマリア・ホークと言います。
 ルナでもマリアでも名前として通用するなぁ… とかしょうも無い事を考えたりした事も有りました。
 すったもんだの末、どうにか世間的にはラブラブだそうです。
 アグレッシブなルナのオフェンスにたじたじなディフェンスが精一杯な俺だけど。


 俺の胸板に頬を寄せて眠るルナを見詰めながら、女って怖いな、って考えさせられます。
 明日はミネルバへの搭乗日です。
 ルナマリアと出会ってから、体重が5Kg痩せました。


 つづく(か続かないかはお天道様に聞いてくれ)




 後書きみたいなもの


 南極条約さんに有る『機動戦士ガンダム Voice Of The Earth』を読んで無性にガンダムFunFictionが書きたくなった。
 黒き魔女の書さんにある『ダークサイドソウル』を読んで無性にダークなお話が書きたくなった。
 年末のDESTANY特番を今頃観て呆れた。


 よし! シンがばったばった主要人物を殺すダークなお話を書こう!
 まずはそんなダークなシンに惹かれたルナマリアからだ!
 ルナマリアのシーン完了間際にそう言えばオススメ板の勘違い物って面白かったなぁ…と頭に過ぎる。
 結果、こんな作品に… orz
 連載物っぽい作品だけど続くかは微妙かと。
 スクエニ板の作品ほったらかしてこんなの書いてました。



[2139] 2話目。 続いてしまったよ…
Name: しゅり。
Date: 2006/05/25 22:53
<レイ・ザ・バレル>


「君の目から観て、どう思うかね?」


 ギルの呼びかけに、自分がスクリーンの中の機体に虜にされていた事実に気付いた。
 どう思う? 決まっている。


「非常に優れたパイロットだと考えます。
 行動の意味は分かりませんが、流れるように優雅な挙動、熟練の技を感じます」


 なぜ外装補修の作業中に、トリプルスピンやブレイクダンスと言ったアクションを行う必要が有るのかは、サッパリ分からない。
 しかし、その操作技術は間違いなく一級品。
 ただでさえ機械的な挙動を示すMS、しかも旧式のMSジンを操縦しての物だと考えると、その凄さが分かるというもの。


「熟練、とはなかなか興味深い表現だな。
 ただ… これを君と同じ歳の少年が行った、と言ったらどうかね?」


「!? なんですって!」


 そんな馬鹿な!
 映像の中のパイロットの持つ技術はにわか仕込みで手に入る代物じゃない。
 それを自分と同じ歳の少年が行っている!?
 信じられる訳がない。


「ジンを駆るパイロット、シン・アスカ君と言うんだがね。
 私は彼がシードを持つ者では無いかと考えている」


「!? …シード」


 その言葉の重みは知っている。
 コーディネートされた存在、コーディネーター。
 そのコーディネーターの中でも、ほんの一握りの人間にだけ開花される可能性が有る能力。
 それをシン・アスカと言う少年が持っている?


「彼の強い希望でね、今年アカデミーに入学する事になっている。
 そこでだ、レイ、君にもアカデミーに通ってもらいたいと考えている。
 是非、君がシン・アスカと言う少年を見定めてくれないだろうか?」


「…分かりました。
 自分も彼に興味が沸いてきました」


 そんな議長室の思惑を知る由も無く、スクリーンの映像の中では1機のジンが華麗にロボットダンスを踊っていた。




■■■




 そう言った経緯で自分はアカデミーに入学した。
 ギルの計らいで当然シン・アスカと自分は同室の学生寮だ。
 初対面の印象は剣呑。
 友好的な姿勢で社交的な雰囲気を醸し出してはいるが、その紅の瞳に油断の色は見られない。
 自分は警戒されている。
 或いは、シンは既に自分の背景をすら、見透かしているのかもしれない。
 彼が敷いた見えない壁を感じる。


 就寝時間に彼の能力の一端を感じ取る事が出来た。
 自分に背を向けてベッドに横になっているが、間違いなく彼は自分の視線に気付いている。
 自分が微かにでも身動きすると、必ず見えない壁が圧力を増すのだ。
 まるで自分にそれ以上の接近を禁じているかのような威圧感。
 間違いない。
 ギルの部屋で観た映像のパイロット、目の前の彼は一流の戦士だ。




■■■




 オペレーター専攻のメイリン・ホークがシンを訪れてから彼は更に変わった。
 週に2・3度、彼は部屋に帰ってこない日が有るようになった。
 そして、それと合わせるように日々、彼の表情は精悍になっていく。
 風呂上りの上半身を見ても明らかに無駄な肉が落ちている。
 美しい日本刀が研ぎ澄まされていくのを見ているような錯覚を受ける。
 今考えると、或いはシンはこの先の戦闘から始まる戦争を予期していたのではないだろうか?


 それと関連性が有るのかは分からないが、シンが不在の夜に限ってメイリン・ホークがシンのベッドで一夜を明かすようになった。
 彼女が何を考えているのかも、さっぱり分からない。




■■■




「…ふむ、君がそこまで評価するとは正直思わなかったよ」


 卒業を来月に控えた自分は、ギルにこれまでのシン・アスカに関する報告を行っていた。


「ならばちょうど良い。
 当初の予定通り、レイ、君とシン君にはミネルバに搭乗して貰う事にするよ」


「はい」


「彼には… そうだな、インパルスのメインパイロットをお願いする事にしよう。
 インパルスはモジュール変換機能を搭載した、多様性に富んだMSだ。
 それと同時にセカンド・シリーズの試作機的な意味合いも帯びている。
 テストパイロット経験者で、かつ優秀なパイロットだと言うのなら絶好の組み合わせだとは思わんかね?」


「いえ、自分も賛成です」


「レイ、君にはザクファントムと呼ばれる機体をお願いしたい。
 インパルスまでとは言わないが、こちらも優秀な機体だと聞いている。
 よろしく頼むよ」


「はい! ありがとうございます」


 果たしてシンはインパルスをどのように駆るのだろうか?
 シンは未来にどのような光景を見ているのだろうか?
 彼と歩むこれからの興味深い未来を思って心躍が踊る。




■■■




 そして今、モニターに映るソードインパルスに目を奪われている。
 3機のGを相手にまわし、一歩も引けを取る事がない。
 大剣を振り回すその雄姿は、まるで演舞を踊るかのようだ。
 非常事態だと言うにも拘らず、不謹慎にも優雅だと感じてしまった。
 ふと、アカデミー入学前にギルに見せられた映像を思い出す。
 あの時ジンを駆っていたパイロットは、自分が想像していた以上の戦士だった。
 どうしようもなく心が躍る。


 不運な事に自分の愛機、ザクファントムは瓦礫の撤収が終わるまで起動できないそうにない。
 早くシンの傍に行きたい。
 シンと共に戦いたい。
 そうすれば自分はもっと強くなれる。
 今の自分にはシンの後姿しか見えないが、何時の日かシンの隣に立ってみせる。






起動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 ミネルバの出航式典を明日に控えていたとしても、パイロットがするべき事は特に無い。
 故に今日はお休み。
 だもんで今日はヨウランを誘って街に繰り出すつもり。
 ただでさえ周囲からは敬遠されてる俺にとって、ヨウランは数少ない大事な友人。
 せっかくの休日だけど、友人とのコミュニケーションに使うのは有意義な事なんだと思う。




■■■




 待ち合わせ場所にはルナが居た。
 あれれ?
 なんでも、ルナが言うにはヨウランにはどうしても外す事が出来ない急用が出来たそうな。
 それで俺が1人で寂しいだろうと、ルナがわざわざ来てくれたんだって。
 なんでヨウランからの連絡がルナに行くのか、ヨウランからの連絡が俺にないのかが不思議だったんだけど、指摘しない事が処世術だと草葉の陰の両親も言っている。
 君子、危うきに近寄らず。って奴だ。
 でも危うきのほうから近寄って来た時に君子はどうすればいいんだろう?


 後日、ルナと一緒の時にヨウランと出会った時、脅えるように逃げ出したのも気のせいだ。
 きっと急にトイレに行きたくなったとか、そういった事だ。
 少なくてもルナが居ない時は普通だったし、気にしない気にしない。


「ねえ、シン。 あたし達ってカップルに見えるかな?」


 上目遣いで、どこか自信無さそうな表情で、ルナが聞いてくる。
 しっかり腕を絡ませた上での発言だから猛者だ。
 周囲から見ればラブラブカップル以外の何者にも見えないだろう。
 だけど、俺の所感はもちろん違う。
 俺的設定では『蛇に睨まれた蛙』ならぬ『蛇に絡め取られた蛙』。
 脳内バックミュージックもお約束なドナドナ。


「………」


 だから無言。
 と言うか、発言できない。
 だって肯定しても否定しても末路は悲惨な気がするし。
 あと、右腕に押し付けられたルナのたわわな膨らみが気になって口が動かないと言う噂も有る。
 ルナの事はちょっぴり怖いけど、それでも美人の女の子で俺の彼女(らしい)。
 そして俺は健全な青少年。
 顔には出さないけど心臓はばっくんばっくん言ってるんですよ、お客さん!


「…ゴメン、変な事聞いちゃったね」


 俺の無言をどう受け取ったのか、ルナは落ち込んだ表情を浮かべて、俯いてしまった。
 だけど何故か右腕に巻きつくルナの締め付けは圧力を増すから不思議だ。
 ここはそっと手を放す場面じゃなかろうか?
 だんだん『気持ち良い』を通り越して『痛気持ち良い』になってきた。
 右手に視線を移すと、なんか紫色っぽくなってるし。
 だから…


「そんな事はない」


 って言ってしまったのだ。
 ルナの落ち込んだ表情の所為なのか、右腕が可哀想な事になってきたからなのかは俺にも分からない。


「本当!?」


「…あぁ」


 途端に向日葵が咲いたような笑顔を向けられる。
 か、可愛いやんけ…
 このギャップが男心をギュッと握り締めて放さない。
 あと、右腕も放さない。
 初めてだったくせに恋愛上級者なルナマリア・ホーク。
 俺は『後戻りできない所まできてしまってたんだなぁ…』と心の中でほろりと涙した。




■■■




「!?」


 それは不幸な事故なんだよ?
 ルナとウインドウショッピングを繰り広げていた時に交差点で他人とぶつかったのだ。
 よくある事じゃないか。


 倒れかけた通行人を左手で支えたのにも他意は無い。
 なんせ右手はがっちりとロックされてるんだから仕方ない。
 だから左手1本じゃあ、抱きかかえる形になっちゃうでしょ?
 まあ、ある事じゃないか?


 その結果が、まあそのなんだ。
 俺の左手が通行人の女の子のおっぱいを揉むような形になったのも運命の悪戯って範疇じゃない?
 よ、よくある事じゃ…ないよね。


 ごめんなさい。
 …だから、そんな般若みたいな表情で俺と、通行人の女の子を睨むのは止そうよ。
 ビクッとして、おじさん思わず左手に力を入れちゃったじゃないか。


「あんっ!」


「!?」


「ぐぇっ!」


 ①右腕の拘束に圧力が増す。
 ②痛くてビクッとした俺は思わず無事な左手をにぎにぎ。
 ③モニュッっとした弾力がルナよりもおっきくて気持ち良…ゲフゲフッゴホンッ!
 ④通行人の女の子が可愛らしい声を上げて、①に戻るべし!


 まさに天国と地獄のスパイラル。
 う、動けない。
 いや、左手は元気に動いてるんだけど、たぶん俺の意思じゃないはず。
 そろそろ右手がお亡くなりになるんじゃなかろうか?
 そして終局が訪れた。


「…手、放したら?」


 疑問形なんだけど命令形。
 そんな感じ。
 俺? もちろん直に手を放しましたともさ!


 ところが、それで一件落着、ってな訳には問屋が卸さなかった。


「お兄ちゃんの左手、気持ちよかった。
 ステラのおっぱい、もっと握って」


 なんですとー!?
 これはとんだサプライズ!
 ステラなる少女は、俺の左手を再び桃源へと導いていくではないか!
 ああ、時代が見えるよ。
 人は分かり合える生き物なんだね?
 幸運な俺の左手は再び彼女のたわわな果実へとパイルダーオン!!
 もゆんっ♪って感じ。
 ううむ、こいつはあなどれないぜ!
 脳内鑑定団の先生方も『良い仕事してますねぇ』と御満悦で太鼓判を押す。
 これは家族が亡くなってから不幸続きだった俺への神様からのプレゼントかしら?
 なんて真剣に考え始めたところで…「いぎっ!?」…右腕に激痛が走る。


 神様、今度プレゼントをくれる時はもう少しTPOを考えてください。




■■■




 そんな幸福で不幸なプレゼントをしてくれたステラって名前の少女は迷子だったらしい。
 探しに来た2人の少年と会うと、幸運の女神はあっさりと去っていった。
 俺の何処を気に入ったのかは分からないが、奴はなかなか剛の者だった。
 ルナの存在を無視してたし。
 彼女とは何処かでまた会うような気がする。
 だから今はサヨナラだ、イノセンスで豊満な美少女ステラ。
 できれば今度会う時は1人っきりの時にしてください。




■■■




 それは突然だった。
 プラント中に響き渡る爆発音。
 ストレスを溜め込んだルナが、或る特殊な事を行う為だけに存在する宿泊施設に俺を連れ込んで部屋を物色してる最中に起こった。


「!? ルナ!」


「えぇ!」


 慌てて外に飛び出しながら、不謹慎ながらちょっと爆発音に感謝してしまった。
 昨晩もルナの部屋に連れ込まれた俺としては、現在非常に充填率が低かったのだ。
 何の充填率かは言えない。
 悲壮な覚悟で戦場に臨む戦士の心境だったと言っておこう。


「なんてこと…!」


 なんと軍施設ではMS同士の戦闘が繰り広げられているではないか!
 しかもそれは全機ZAFTのMS。


「まさか、反乱!?」


「わからない。
 ルナ、直にミネルバに行くぞ!」


「了解!」


 幸いミネルバは主戦場から離れてる。
 そういえばMSの戦闘中に生身で駆け出すなんて家族を失った時と同じじゃないか!
 あの時は理不尽な戦闘に巻き込まれて大切なモノを失った。
 そして今、俺の隣には大切に為り掛けていた少女。
 もう2度とあんな思いしたくない。
 気がついた時、俺はルナの手を引いてミネルバの運搬口に駆け込んでいた。
 あの時と違って、掴んだ手は放さないですんだ。
 心から安堵してルナを見ると顔色が赤い。


「あの…シン、手、引っ張ってくれたんだ。
 ありが「シン! コアスプレンダーの出撃準備は出来てるぞ!」…チッ!」


 チャレンジャー現る!
 今日は急用で忙しかった筈のヨウラン。
 よりによってルナの台詞を遮るなんて…
 悪気はなかったんだろうけど、最悪のタイミングだった。
 頬を染めて照れてたルナが一転、ヨウランに向けて筆舌し難いガンを飛ばした。
 阿修羅マンも真っ青に急変化だ。


「ヒエッ!」って悲鳴を上げてタラップから転げ落ちそうになるヨウランに、「すまん!」と色々な感情を込めて返答した後、俺はコアスプレンダーの搭乗に向かった。
 なにせ今は緊急事態。
 だから後ろから聞こえてくる生肉を殴打するような音にも、一つの生命が消えそうな悲鳴にも振り向いてる暇は無い。




■■■




「ブリッジ! 状況はどうなってるんだ!?」


 コクピットに座って直にブリッジへと回線を繋げる。
 出撃するにしても現状を把握しない事にはどうしようもない。
 ZAFTのMS同士の戦闘だけに、どっちに加担するべきなのかも分からないのだ。
 間を置かずに繋がったモニターには、ルナの妹のメイリン。
 そういえばオペレーターだったんだな、とか思ってると、突然「ヒッ!」と悲鳴を上げて回線が切断された。


「…なんでさ?」


 繊細な俺は当然のように傷付いた。
 テンションも一気に急降下さ。
 まがりなりにも俺ってば、メイリンの姉貴の彼氏ですよ?
 アカデミーでは怖がられてた俺だけどさぁ…、その反応はあんまりなんじゃない?


 そのまま何も映さないモニターに向かってぶつぶつと愚痴を呟く事、数十秒。
 突然、モニターは再びブリッジの様子を映し出した。
 モニターの向こう側には、引きつった笑みを浮かべるメイリン。
 無理してるのがバレバレだ。
 かなり傷付く。
 そんな経緯は有ったけど、どうにか現状を説明してくれた。
 これは反乱なんかじゃなくて、何者かにG3機が強奪されたんだそうな。
 だから俺はGを奪還しなきゃいけないらしい。
 なんでもブリッジにはデュランダル議長が乗っていて、その人の指示だそうな。
 無茶言うよな、最新鋭のG3機だぜ?
 って言うか、最新鋭機を簡単に強奪されんな!
 管理体制はどうなっている!?
 と、言ってやりたい。
 でもデュランダル議長は苦手だ。
 波風立てて目立ってはいけない。
 ここで俺の存在がデュランダル議長にばれたりしたら、更に良からぬ事が待っているような気がする。


 更に間の悪い事に、レイとルナのザクは現在瓦礫撤去の作業中で出撃が遅れるそうな。
 そして現場ではノーマルのザクが1機で孤軍奮闘してるだけらしい。


 更に更に間の悪い事に、オーブの姫さんが戦闘に巻き込まれて現在行方不明らしい。
 誤って踏み潰すなとの事。
 何時の間にオーブの姫さん、――カガリだったけ? はプラントに来てたんだ?
 あの姫さんも運が悪い人だね。
 聞く所によると、ヘリオポリスに行ったらZAFTに襲撃される。
 オーブに戻れば連合に侵攻される。
 そして今回だ。
 ひょっとして疫病神なんじゃないだろうか?
 運が悪いのはオーブの姫さんじゃなくて、オーブの姫さんに来られた俺達じゃね?


 あんまり考えてると怖い事になりそうだ。
 それでなくても悪条件だらけで、ジェントルな俺としても不機嫌になるっちゅうねん。
 で、顰めっ面してたらしく、メイリンはまた脅えてる。


「…了解した。 モジュールはソードを選択。
 シン・アスカ、コアスプレンダー出るぞ!」




■■■




 そんな訳でやってきました主戦場。
 カオスやらアビスやらガイアやら言う3機のGが大暴れしてた。
 それにしてもガイアはともかく、カオスとかアビスって名前有り得なくない?
 どう考えても悪役じゃん。
 名前の通り凶悪なGに対して、こちらはやられっぱなし。
 出てくる戦闘機もMSもばっさばっさ打ち落とされてる。
 ちょっと弱すぎじゃない?
 唯一マシなのはガイアと応戦してるザクくらいなもんだよ。


「あ、やられそう」


 と言いながらもすぐさまガイアにミサイル全弾射出。
 見殺しにするのは寝覚めが悪いもんな。


「………あ、やべっ!」


 無事に着弾したミサイルはガイアを吹き飛ばしたけど、1発だけ外れたミサイルがザクに命中。
 見事にザクの頭は吹っ飛ばされてしまった。
 いやあ、失敗失敗。
 でも街に落ちるよりは良いよね?
 だから許して?


 慌てて上下ユニットと接合し、シルエットフライヤーともドッキングしてソードインパルスに換装。
 そしてザクとガイアの間に割って入った。
 このままこのザクが落とされたら俺の責任になりかねんし。
 助けたんだから許してくれるよね?って意味を込めて熱い視線を送る。
 すると、後方のザクは俺の視線に応えてくれたのか、コクピットハッチを開いた。
 ってか、俺が頭部メインカメラを壊したからじゃん!
 視界を確保するとこっちに一瞥してミネルバの方に走っていった。
 たぶんあれは許してやるよ! って意味だと思いたい。


 だけど俺は見てしまった!
 ザクのコクピット内には確かに2人、人が居た所を。
 しかもZAFTの制服を着ていない良い歳した男と女!
 …なんてこったい。
 孤高の戦士足る俺とした事が、よりによって戦場でまでいちゃつくバカップルの手助けをするとは!
 一生の不覚!
 許さん!
 さっきの誤爆だって謝らんからな!


 それからしばし3機のG相手に戦闘。
 強奪犯は機体の操縦に慣れていないのか、たいして手強くなかったから3機相手でもなんとかなった。
 それでも多対一と数的不利な事、プラントの被害を考慮して重火器の使用が制限されている事、そしてなにより未だに俺の右腕が麻痺してる事なんかが有って、奪還とまでは至らない。
 ルナ…やりすぎだよ!


 それにしてもガイアのパイロットは何を考えてるんだろう?
 砂漠のような不安定な地形での使用を前提とした獣形態で街中を駆け回ってる。
 頭が可哀想なんじゃないだろうか?
 街中は障害物が多い。
 獣形態で全力疾走なんかしたら…あ、やっぱりビルに躓いた。
 慌てて人型に変形して、よろめいて転んで尻餅ついてる。
 きっとガイアのパイロットはドジッ娘だ。
 俺の直感がそう言っている。
 間違いない。
 これが万が一、男パイロットだとしたら明日の太陽は拝ませない!


 そんなガイアのドジッ娘振りに和んでると、何時の間にやらレイとルナが合流してた。
 よーし!


「レイ!ルナ! カオスとアビスの相手を頼む。
 俺はガイアを落としてみせる!!」


「「了解!」」


 例えレイやルナにでも、ドジッ娘(脳内妄想設定)は譲れんのだよ。
 さあ、狩りの時間ですよー!




 つづく(のか?)




 後書きみたいなもの


 続いてしまった。
 感想の多さに作者が喜んだのか、一日でできてしまいましたよ?


 そして気付いてしまった。
 種運命の作者知識がかなり欠如している事を。
 カオスとアビスがどっちがどっちなのかすら覚えてないし、パイロットの名前も記憶にない。
 そしてユニウス7が地球に落ちてからのストーリーはさっぱりと言う体たらく。
 設定とかにも疎いほうなんで、矛盾とかも有ったかも。
 細かい事は気にしないでいただけると嬉しい。
 あらすじくらいは調べ直そうと考えてますけど、詳細設定まで勉強する気力は無いっす…



[2139] 3話目。 ちょっとピッチ早いかな。
Name: しゅり。
Date: 2006/05/25 22:56
<アレックス・ディノ>


 突如現れた戦闘機が俺とカガリの危機を救った。
 敵MS―――後で聞いた所に拠るとガイアと言う名の機体らしい―――にミサイルを次々と命中させる。
 なかなかパイロットの射撃技術は高いらしい。
 助かった、そんな事を考えて安堵の息をついたその時だった。
 突然メインモニターが砂嵐になったのだ。


「――やられた!」


 砂嵐になる寸前、戦闘機の放ったミサイルの、最後の1発がこのMSの頭部に命中したのだ。
 敵MSが爆風で姿勢を崩した瞬間、その敵MSの影を縫うようにして、こちらの認識を遅らせると言う超難度の高等技術。
 俺は馬鹿だ!
 考えが甘かった。
 なかなか、なんて代物じゃない。
 あの戦闘機のパイロットは超一流の腕の持ち主だったのだ。
 そして敵MSに攻撃を加えたからと言って、なぜ俺は無条件にこちらの味方だと判断したんだ?
 自分の甘さ加減に反吐が出る。
 ZAFTに取っては俺の機体も敵の機体も同じアンノウンに違いないじゃないか。


 モニターが死んでしまってはしかたがない。
 だからと言ってここでジッとしてる訳にはいかない。
 そんな事をすればたちまち撃墜されてしまうだろう。
 そうはさせない!
 今の俺は1人で操縦してる訳じゃないんだ。
 後ろには不安そうな表情を浮かべているカガリが居るのだから。
 簡単に諦めるわけにはいかない!
 どのような行動を起こすにしても、まずは視界を確保する必要が有る。
 ここは危険だけどコクピットハッチを開くしか術はない。
 この危機を脱するには、どうにかしてこの場所から離脱しなくちゃいけない。
 そして安全に離脱する為には、戦闘機のパイロットに俺達が敵じゃない事を認識させなければいけない。
 幸い、良くも悪くもカガリは有名人だ。
 それに現在は国賓としてプラントに来てる。
 戦闘機のパイロットがモニターでカガリの姿を確認できれば、攻撃を控えてくれるだろう。


 だが、ハッチを開いた視界に先程の戦闘機の姿は無かった。
 そして、その代わりに俺の駆るMSと敵MSの間には、新たな1機のMSが佇んでいた。
 それは何処かキラの駆るストライクを彷彿とさせる機体だった。


 俺のMSに背中を向けて立つ、赤と白を基調とした機体。
 しかし俺は自分達がその機体のパイロットに見られてる――否、睨まれていると感じた。
 それはまるで俺達の事を観察しているかのように、視線が全身を這い回る。
 その視線の鋭さに、俺は先程の戦闘機のパイロットと通じるものを感じた。
 あくまで俺の直感に過ぎないが、おそらく同一人物なのだろう。
 どのようにして僅かな時間の間に戦闘機がMSに摩り替わったかは分からない。
 だが、戦場で鍛えた直感を俺は信じている。
 直に攻撃してくる様子は無いようだが、迂闊に動く事は出来ない。


 !?


 唐突に俺達の身を縛る強烈なプレッシャーが消えた。
 まるで、もうお前たちに用は無い、とでも言わんばかりにきれいさっぱりと。
 俺達は見逃して貰えたのだろうか?
 そうだった場合、この好機を逃すわけにはいかない。
 此処にはまだ敵MSがいるのだから。
 俺は脇目も振らず一目散にMSを逃走させて、戦場からの離脱をはかる。
 目指すはZAFTの新鋭艦、ミネルバだ。
 軍施設が壊滅的な被害を受けている今、一番安全な場所はそこだろう。
 ストライクに似た機体のパイロットの意図はよく分からない。
 小さくなっていくMSの姿を振り返って、俺はひょっとするとあの機体のパイロットとは長い付き合いになるんじゃないか、と、ふと思った。




■■■




 その後、なし崩し的にボギー1なる未確認艦を追跡するミネルバに同乗し続ける事になってしまった。
 状況が状況だけに仕方が無いが、カガリをZAFTの戦艦に乗せると言う事が、今後、微妙な政治問題になりはしないだろうか?
 それに間違いなくデュランダル議長は俺の正体に気付いている。
 どういう腹積もりかは知らないが、その上で気付いていない事にしてくれているのだ。
 ここは決して安全を約束された場所じゃない。
 油断は禁物だ。


 だが、デュランダル議長は自ら俺達に艦内を案内してくれると言う。
 グラディス艦長がデュランダル議長に非難の声を掛けているが、軍人としては彼女の判断の方が正しい。
 招かざる客である俺達を、あえて軍事機密に触れさせる必要など何処にも無いのだから。
 デュランダル議長の思惑が読めない。


 そして事件は艦内を見学中に起こった。
 いや、事件と言うのは正しくないのかもしれない。
 ただ、視線を向けられただけなのだから、事件と表現するのは大袈裟だろう。
 おそらく視線を向けた本人にとっては、事件でもなんでも無いんだろう。
 だが、少なくとも向けられた側、俺とカガリにとってソレは事件と呼べる代物だった。
 なぜなら視線に込められている物が尋常じゃなかったからだ。
 物理的な重さをすら持っているんじゃないか?と錯覚させられるような殺気を帯びた視線。
 『鬼気』とすら表現してもいいだろう。
 灼熱の紅い瞳が一対、視線だけで俺達の行動を束縛する。


 ………!?


 だが、それも急に逸らされる。
 かの少年は何事も無かったかのように周囲の人間の輪に紛れて消えた。


「デュランダル議長、彼は…?」


「ん? あぁ、シンですか。
 いや、失礼。
 まさか彼が貴方方にあのような瞳を見せるとは思いませんでした。
 後でじゅうぶん、注意しておきましょう」


「いえ。
 ただ視線が合っただけですから」


 とは口にしながら俺もカガリも、視線が合っただけ、等とはとても考えられない。
 カガリにいたっては、未だ視線に捉えられたまま口を聞く事も出来ない有様である。


「ただ、彼が何故、我々にあのような視線を向けたのかが気になるんです」


「ふむ…
 これは私の想像の範疇を出ないのだがね、それには彼の経歴が関係しているのかもしれない」


「経歴? もし差し支えがなければお聞かせ願えませんでしょうか?」


「あぁ、それは構わないだろう。
 少なくとも視線を向けられた君達には、聞く権利が有るんじゃないかと私は考えている」


 そしてデュランダル議長の口から語られた内容は、俺とカガリに少なからぬ衝撃を与えた。
 彼、シン・アスカと言う少年がオーブ出身者である事。
 先の大戦で連合軍がオーブに侵攻した際に、戦火に巻き込まれて家族を失い孤独な身の上になった事。
 戦後、プラントに移民してZAFTに入隊した事。


「そのような過去が…」


 であれば、先程の視線の理由も理解できるかもしれない。
 彼が俺の正体に気付いているとは思えないが、オーブ出身者ならばカガリの事は知っている筈だ。
 そして、カガリが連合のオーブ侵攻の際にクサナギにて宇宙に上がったと言う事実もまた有名。
 シン・アスカはそれらを知ってどう考えただろう?
 彼の御家族が巻き添えを喰らって命を落としたその時に、(悪く言えば)戦争の当事者が逃げ出したのだ。
 そして、逃げ出したのは俺も同じ。
 連合軍の侵攻を防ぎきれず、結果として宇宙にあがった。
 そこに戦略上・戦術上の意味が有ったとはいえ、逃げ出した事実は変わらないのだ。
 彼が俺達を恨んだとしても、俺達にはそれを八つ当たりだとか責任転換だと言う権利などない。


「お父様…」


 か細く呟いたカガリの言葉に、先の大戦の傷跡の深さを改めて思い知らされた。




■■■




「ああ、そういえば」


 格納庫を後にしてしばし経った時、先程から続く暗い雰囲気を打ち払うかのようにデュランダル議長が喋り始めた。
 だがそれは新たな火種を投下したに過ぎなかった。


「アレックス君、君と姫が乗るMS、ザクと言うんだがね。
 そのMSの頭部を誤爆したのが、彼の乗るコアスプレンダーだったんだよ。
 ふむ、やはり彼には1度、正式に謝罪させるべきだな。
 仮にも一国を代表する人間が搭乗する機体に被弾させたんだ。
 事故だったとしても、知らなかったで済まされる問題じゃない」






起動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 1対1、しかも右腕のしびれも回復してきた、今の俺にガイア1機は敵では無かった。
 所詮は獣になるしか脳の無いMS。
 話にならんよ。


 それにしても獣形態に変形するMSの存在価値って有るのかな?
 だったらいっそ人馬一体型のMSでも開発しとけば、よかったんじゃね?
 武者Zみたいな。


 そういった訳で、彼我の戦力差は歴然。
 それでも流石は獣、敵わないとみるや逃げに徹するその心意気や良し!
 だがそれも此処までだ。
 追い詰めるのに手間取ってしまったけど、もう逃がさない。
 おとなしく刀の錆になってもらおうか。
 今宵の虎鉄は血に餓えているぞ…


 そして決着はあっけなく付いた。
 やぶれかぶれこちらに突進してきたガイアに、すれ違いざまに剣戟をお見舞いする。
 振り払う事4度。
 たった一瞬の交錯の間に4度も剣撃をお見舞いするとは、さすが俺。
 空中で四肢の全てを失ったガイアは胴体着陸して数十メートルを滑走し、ショッピングモールの近辺で止まった。
 そういえばあの辺ってさっきルナとデートしたあたりじゃないか?
 そして天然で美少女なステラちゃんと出会ったあたり。
 そういえばステラちゃんどうしてるかなぁ…
 こんな危なっかしい事になっちゃったけど、ちゃんと避難してるよね?
 1人じゃ危なっかしいけど、知り合いもいたし大丈夫だよな。


 おっと、そんな事考えてる場合じゃない。
 ガイアをミネルバに回収してさっさとルナとレイを助けにいかねば!
 んじゃ、ミネルバに戻りますか。
 つくりかけのゾイドちっくなガイアを小脇に抱えてドッグに向かうべし。


 …あれれ?
 ミネルバ無いですよ?
 ドッグは閑散としててミネルバの影も形も無い。


「…なんでやねん」


 慌ててミネルバに通信を繋げると、「ヒッ」と声をあげたメイリンが接続を遮断して(以下略
 どうやら俺の知らない間に出航してしまって既に宇宙空間を航海中だそうな。
 気付かなかったけど、レイとルナの2人も逃げるカオスとアビスを追って宇宙空間に出てたらしいし。
 なーるほど、どうりで静かだと思ったんだ。
 って、そうじゃないでしょ!
 ちょっと! 置いてくなんて酷いんじゃない!?
 そもそも何時の間にブリッジとの接続切れてたんだよ?
 戦闘中は繋ぎっぱなしにしとくのが常識でしょ!?
 …まあ、たぶんメイリンが切ったんだろうけど。
 彼女は俺に恨みでも有るんだろうか?
 今度2人っきりで腹を割って話し合おう。


 本当は言いたい事が山ほどあるがぐっと我慢。
 シン・アスカは男の子だ。
 これくらいの事じゃへこたれない。
 だけど、とりあえず事情だけは聞いときたかったから


「…これは、どういう事だ?」


 って、穏やかに問いかけてみた。
 でもちょっと涙ぐんでしまったから目が真っ赤になってたかもしれない。
 そしたら…


「………だってぇ、怖かったんだもん」


 とメイリン。


 ………目から熱い汗が零れ落ちそうです。


 後ろで聞こえるタリア艦長の


「気持ちは分かるけど、戦闘中は我慢しなきゃダメじゃない」


 って言う、フォローになってないフォローなんかいらんわ!
 余計落ち込むっちゅうねん!
 …俺っていらない子だったんですか!?




■■■




 そんな不幸なすれ違いも有ったけど、なんとかミネルバとの合流に成功。
 ボギー1とか言う未確認戦艦の追跡中だそうで、ガイアを抱えて追いつくのは至難の業だった。
 と言うかどうやって快速船ミネルバに追いついたんだろ?
 モジュールはソードのままだし、お荷物付きだし。
 きっと深く考えてはいけない。


 格納庫に着艦しても、皆微妙によそよそしい。
 流石に置いてきぼりを喰らわしたのが後ろめたいんだろうか?
 なんだろ、この疎外感。
 ちょっと非行に走りそうです。




■■■




 とりあえず、そんな人間不信になりそうな出来事は置いておこう。
 あんまり引っ張ってもブルーになるだけだしね。
 問題はアレだ、捕獲してきたガイア。
 四肢を切断しちゃったけど、捕獲成功って言うのだろうか?
 まあ、逃がしちゃうよりは良いよね。
 パイロットはたぶん死んでないから尋問とか出来るし。


 たくさんの拳銃がコクピットに向けられる中、ハッチが強制開放される。


「………」


「………」


「………」


 誰も出てこないですよ?
 ひょっとして逃げられたのか?と思考が向かうその時、


「………ZZZ」


 なにやら可愛らしい寝息が聞こえてきました。
 どうやら敵パイロットはかなりの猛者です。


 近付いて覗いて見る事にする。
 銃を構えたお兄さん達も呆れた顔で頷いてくれたし。
 そして興味深々覗き込んだコクピットの中には―――


「………ステラ?」


 出会った時の格好のままのステラがいました。
 なんで?
 いや、ステラがガイアに乗ってた事もビックリだけどさ、ヒラヒラのスカートでMS乗ってる事のほうがビックリだよ!
 って事はアビスとカオスに乗ってるのはあの時の2人の少年なのか?
 お前ら注意しろよ!
 何処の世界にスカートでMS操縦する女の子がいるんだよ!?


 いやいやいやいや、予想外の出来事にちょっと思考が混乱してる。
 落ち着け、落ち着くんだ俺。
 とりあえず、このままステラの寝顔を眺めてても始まらん。
 起こそう。
 いや、本当に起こしていいのか?
 起こさなければ話は進まん!
 でもでも、俺の背後霊様は彼女を起こすなとお告げじゃ。
 しかし、起こさないといけないんだよな。


「…ステラ、起きるんだ」


 ゆっさゆっさと揺する。
 もちろん肩に手をあててだ。
 俺が胸を揺すったと思った奴!
 明日までに400字詰めの原稿用紙に反省文書いて提出する事!


「ん……… ? アレ? …シン?」


 無事にステラを起こすミッション成功。
 だけどそれは案の定サバトの始まりだった。


「シン! また会えたね!
 ねえシン、ステラのおっぱい揉んで♪」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………シン?」


 格納庫の時が凍った。
 どうやら神様への俺の願いは届かなかったらしい。
 彼女は勿論TPOをわきまえないし、格納庫には人が沢山いる。
 だけど、今、この格納庫内で行動しているのはステラ1人だけだ。
 彼女は嬉しそうに俺の左手を掴んで勝手に楽園へと導いてくれる。


 もゆんっ♪   「あん♪」


 もゆんっ♪   「きゃっ♪」


 もゆんっ♪   「くゆん♪」


 ―――終わった。


 何かは分からないけど、とにかく色々終わった…
 その後の騒動は思い出したくも無い。
 嫉妬に荒れ狂ったルナマリア大明神が御光臨なされた、とだけ言っておこう。




■■■




 後日ヨウランに聞いたところ、俺の評判は悪化の一途を辿ってるらしい。
 正直、予想通りの展開だ。
 ただでさえ復讐鬼みたいな人物設定だったのに、更に『女の敵』って評価が加わった。


 ―――曰く、初対面の美少女の胸を揉みしだいた。


 ―――曰く、にも関わらずその美少女の駆るMSを容赦無く攻撃して亡き者にしようとした。


 冤罪です!
 誰か弁護士の先生を呼んでぇっ!
 胸を揉みしだいたのは不幸な(ちょっぴり嬉しい)事故だし、そもそもガイアにステラが乗ってただなんて知らなかったんだよ!
 と、心の中で激しく号泣。
 ルナまで


「アタシの事も遊んで捨てるつもりだったの!?」


 と、よりにもよって人の多い格納庫で抱きついてきて泣き出す始末。
 いやいや話の出所はルナが吹聴したからだろ!?
 どう考えてもルナしか知らない内容が評判に含まれてるYO!
 なんでその噂を聞いてルナが泣いてるんですか!?
 昨晩あんなに御奉仕したじゃない!?


 そんなこんなで修羅場です。
 昨日の今日だ、整備員の皆さんの視線は風邪をひきそうなくらい冷たい。
 おかれた状況は、さに針の筵。
 弾劾裁判が始まりそうな雰囲気です。


 そんな俺が置かれた危険なポジションに気付く素振りもまったく見せず、ルナはさんざん泣き続けた挙句、


「でもアタシはシンが好き!
 遊びでもいいの! お願い! 捨てないで!」
br>
 と勝手に自己解決。
 めでたしめでたし。
 って、めでたくねぇーー!!
 そもそも浮気なんかしてないし、って言うか、浮気する活力全部ルナに搾り取られてるよ!!
 むしろ俺のほうが泣きたいっちゅうねん。


 ―――!?


 その時だった。
 急に上方から俺を見る視線を感じた。
 最近人間不信気味で他人の視線に敏感になってたからな。
 案の定2・3人の人間が此方を見下ろしてる。


 おらぁっ! そこ! 何こっち見とんじゃあ!
 見世物ちゃうんやぞ!


 速攻、逆ギレ気味にガンを飛ばしてやる。
 知ってる顔立ったら後で修正してやろうと目を凝らしてみたら、なーんとザクに乗ってたバカップルじゃ、あーりませんか。
 更に怒り心頭。
 MSを相乗りするようなバカップルに見られるのは我慢ならん!
 本当なら愛の篭った教育的指導をお見舞いするところなんだが、なにせ今はルナに抱き付かれてて身動きとれません。
 仕方が無いから復讐鬼の称号を勝ち得たガン飛ばしだけで今日のところは見逃してやるよ。


 すると俺の視線に恐れを為したのか反省したのか。
 バカップルはすごすごと去っていきました。
 うむ、許す!


 …だけど、その直前に俺は重要な事実に気付いてしまった。
 バカップルの隣に、なんと! デュランダル議長の姿が…
 サーーと全身から血の気が引いてく音が聞こえました。


 あ、あのう… デュランダル議長、勘違いしてないよね?
 俺がガン飛ばしてたのバカップルだけですよ?
 だからお願い!
 勘違いしないでね!<切実




 つづく(と思われる)




 後書きみたいなもの


 流石にこの更新ペースは無謀じゃないかしら?
 しかも今回はシン主観パートを全て書き直す羽目に。
 何も考えずに書いてたらシンがただのエロ親父になってしまって流石にそれは不味いだろ、と。



[2139] 4話目。 ステラ完結編らしきもの。
Name: しゅり。
Date: 2006/05/27 21:34
<ギルバート・デュランダル>


 先の大戦で我々は多くの同胞を失った。
 理不尽な災厄に見舞われた者、戦場で命を散らした者、そして去って行った者。
 そのような状況下で議長と言う地位を得た私の使命は、新たな人材発掘が大きな割合を占めている。
 特に深刻なのは衰退が著しい軍部だ。
 パトリック・ザラが議長をしていた当時の負の遺産と言えるだろう。


 このまま何も手を打たなかった場合は、プラントの人口はそう直には増えやしない。
 コーディネーターの出産率云々という問題も有るが、ここで言う人口は直に就業可能な人間を指しているので置いておく。
 実際、そのような状況下では私が取り得る選択肢は限られていた。
 そう、プラントに人が居ないのなら違う場所、つまり地球から連れて来ればいい。
 つまり移民の募集である。


 幸い先の大戦ではプラント本国が戦禍に晒される事は無かった。
 強いて言うならば、開戦の切欠となったユニウス7だけ。
 この情報は大いにプラントの強みになる。


”プラント本国は戦禍に晒されない”


 地球で被災した人々にとって、プラントは魅力的な地だったのだ。
 プラントは多くの国民を得る事に成功した。
 その後、各種調査機関を総動員して人材の不足している分野に適した人材をリストアップさせる。
 後は簡単だ。
 別に非人道的な手段を取らなくても問題は無い。
 斡旋した職を選んだ場合と、選ばなかった場合とで得られる給与の額面を操作してやればいいのだ。
 それだけで人材の問題はほとんど解決し、戦後の復興は順調に進み始めた。




■■■




 ある日、私の元に一通の報告が上がった。
 曰く、MSの操縦に非常に優れたパイロットがいる。
 別段珍しい報告でもなく、


「ならばZAFTにスカウトしたまえ」


 と、当然の様に指示を下した。
 しかし、部下からはそれが不可能だと告げられた。
 なぜなら、そのパイロットとはZAFTの入隊規定の年齢制限を満たしていない少年だったから。
 その報告を聞いた時、私はその少年に対して興味が沸いた。
 今まで、年齢制限に引っ掛かるような年頃の人が、報告に上がった事など1度も無かった。
 私は直にその少年に会えるよう手配した。


「さて、どのような少年なのかな、君は?」


 部下を下がらせた後、少年の経歴書を眺める。
 久しぶりに心が高揚している自分に気付いた。




■■■




 超一流のパイロットと呼ばれる人種は、みんな何かしら特別なオーラみたいなモノを持ち合わせている。
 それが私が過去の経験から得た持論だ。
 ラウにしてもバルトフェルト隊長にしても、何処か他人とは異なる雰囲気みたいなモノを纏わせていた。
 だが、それに引き換えると目の前の少年はどうだ?


 あまりに普通の少年ではないか?
 とても優れたMSの操縦技術を持っているとは信じれない。
 アカデミーへのスカウトにもさして興味を示さず、明確な個人主張を持っているとも思えない。
 何処にでも居る普通の少年だ。
 結果として、なし崩し的にアカデミーへの入学を約束させたものの、私は軽い失望感を拭いきれなかった。


 少年を退出させた後、なにをするでもなく、改めて少年の経歴書に目を通す。
 シン・アスカ。
 オーブ出身のコーディネーターでテストパイロットの経験有。
 先の大戦で家族を失った後、プラントに渡り、現在は外装補修のアルバイトで生計を立てている。


 ―――?


 何かが引っ掛かった。
 そのような悲惨な境遇に陥った者が、果たして普通で居られるモノなのだろうか?
 些細な疑問だったが、一つ気になると次々と疑問が持ち上がってくる。
 そもそも、なぜ、彼はプラントに来たのだ?
 オーブならば父の職場であるモルゲンレーテに知己も居ただろう。
 それに十分な戦災補償を受ける事だって出来た筈だ。
 それを蹴ってまでプラントに来たその意図は?
 外装補修のアルバイトを選んだのだって、本当に経験を活かしたかっただけなのだろうか?
 先の映像のような奇抜な動きは本当に意味の無い動作だったのだろうか?
 ひょっとすると、全ては我々の目を惹く事を目論んだ、計算ずくの行動だったのではないか?


『―――彼は、演技をしていたのか?』


 ふと、そんな突拍子も無い考えが頭を過ぎった。
 だとしたら理由はなんだ?
 簡単だ、復讐しか考えられない。
 そうか…それで全てが繋がった。


 シン・アスカと言う少年は復讐を果たす為に最善を尽くす男なのだ。
 今日の対談だって、おそらく演技の結果でしかない。
 それで彼は最低限の支出で最大限の結果を得た。


 そう考えると全ての疑問に納得が行く。
 彼の経歴によると、連合軍の侵攻により家族を全て失ったらしい。
 憎んだだろう、理不尽な侵攻を行なった連合軍の事を。
 いや、それだけじゃない。
 オーブを出た事実から考えるに、市民を戦禍に晒した無能なオーブ上層部にも思うところが有るのではないか?
 そして単身プラントに渡り、MSと関わりの深いアルバイトを選ぶ。
 後は少しずつ才能の片鱗を見せ付けて、ZAFT軍へのスカウトを狙えばいいのだ。
 そして、事は全て少年のシナリオ通りに運んだ。


 なんて事だ!
 まさか成人すらしていない少年に、危うくこの私まで手玉に取られかねないとは。
 面白い。
 面白い存在じゃないか!
 良いだろう、私は敢えて君のシナリオに乗ろうじゃないか。
 私は君に翼を与えよう。
 その代わり、君の思い描く未来図を最前列で観賞させてもらうがね。




■■■




「タリア、ガイアを強奪したパイロットについての情報は聞いているか?」


「ええ、ステラちゃんでしょ?
 シンも隅に置けないわね、ルナマリアが居るのに他の娘にまで手を出すなんて」


「…タリア、私が聞きたいのはそう言ったゴシップじゃなくてだね」


「冗談よ、ギル。 ごめんなさい。
 ちょっとショックが大きかったから…」


「気持ちは分からないでもない。
 だが我々は、その上で先に進まなければいけない」


 艦長に割り当てられた一室。
 周囲に聞かれたくない話題を振るにはもってこいの場所だ。
 しかし、行為の後の会話としては聊か適切ではない話題だったかもしれない。
 だが、この先避けて通れない話題でもある。


 初戦を終えたばかりだと言うのに、既にシン・アスカはミネルバのエースとの評価を得つつある。
 彼の活躍を予想していた身とは言え、想像以上の手際の良さに空恐ろしいモノを感じてしまう。
 彼の目が連合とオーブに向いているうちは良いが、それが何時プラントに向けられるとも限らない。
 例えそれが殆ど有りえない事だとしても、一国の指導者としては常に最悪の可能性を考慮しておかなければならない。
 そして、それを回避すべく策も。


 シンが捕獲してきたパイロット、ステラ・ルーシェ。
 私は彼女の処遇がこの件に関してのひとつの鍵になると考えている。


「生体強化、薬物投与、おまけに洗脳まで…
 よくぞここまで人間を弄り回したって医療部の人間も感嘆してたわ」


「で、肝心の敵戦艦の情報は得られなかったのだったな」


「ええ、恐らく初めから情報そのものを与えられていないみたい。
 知らないんだから失敗率の高い任務にも遠慮なくあてられる、そう言う事でしょう」


「ご機嫌斜めだな、タリア。
 ふむ、しかしそうなると彼女の扱いが問題になってくる…」


「ええ。 でも彼女、元気そうに見えるけど、それは見掛けだけらしいわ。
 早いうちに専門の治療を受けさせなければ将来の保障は出来ないそうよ」


「ふむ、困ったね…」


 だが好都合だ。


「すまないがタリア、彼女の処遇は私に一存させては貰えないだろうか?」


「? ええ、それは構いませんが、ギル、アナタ彼女をどうするつもり?」


「いや、なにね。
 彼女には皆が幸せになる為の役に立ってもらおうと思ってね。
 もちろん、その中には彼女自身の幸せも含まれているがね」


 ステラ・ルーシェ、彼女にはシンとプラントを繋ぐ『楔』になって貰う事にしよう。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 未だボギー1追撃中だと言うのにデュランダル議長に呼び出された。
 やっぱり先日のガン飛ばしを根に持ってるんだろうか?
 そんな事で怒るなんて大人気ないなぁ…


「シン・アスカ、出頭しました」


 ノックをして出頭を告げる。


「ああ、入ってくれたまえ」


「ハッ! 失礼します」


 と、形式通りの挨拶を経てデュランダル議長に割り当てられた執務室に入室する。


「え… ステラ?」


「シン!」


 そこには場違いな人物がいた。
 なぜにステラが議長の執務室に?
 などと思考の海に溺れ掛けそうになったが、ステラはそんな事を気にしちゃくれない。
 付き添いだと思われる医療班の人と警備の人を押しのけて一目散に駆け寄ってくる。
 まるで子犬のようで心が和む。 って、和んでる場面じゃないから!
 コレって、どういう事!?
 碌に思考が纏まらない内に、俺の左腕はステラの肩を抱くようにまわされる。
 もちろん俺の意思ではない。
 だがそんな事知ったこっちゃないと言わんばかりに、ステラは俺の胸に嬉しそうに頬を寄せて、マイ・レフト・ハンドを桃源に押し付けてる。


 議長のまん前で。


「んげっ!? ス、ステラ!?」


「ん… シン? 今日は揉んでくれないの?」


 いや、可愛らしく小首を傾けられたって!
 って言うか、俺の意思で揉んだ事なんて無いのに、その言い方じゃあ誤解されまくりですよ!?


 ほら! デュランダル議長も医療班の人も警備の人も目がまん丸になっちゃってるよ!
 デュランダル議長が驚いた顔ってちょっと新鮮で面白いかも。


「ん… んん゛ん…
 ずいぶん仲が良いみたいじゃないか、シン・アスカ君」


 それでも一番最初に立ち直ったのはデュランダル議長。
 伊達にプラントで一番偉い人はやってない。


「は、い、いえ!
 それほどでもありません!」


「いや、彼女が敵方のパイロットだと言う事を気にしているのなら、気にしないでくれ。
 既に事情聴取は済ませてある。
 彼女自身に我々に対する隔意が無い事は確認済みなのだよ。
 むしろ友好な関係が築けるならそのほうが好ましい」


「は、はぁ…?」


 あ、そうか。
 そういえばステラってガイアのパイロットだったんだよな。
 その後のインパクトの方が強すぎてさっぱり忘れてたけど。


「早速、本題で悪いのだがね。
 調査の結果、実は彼女はある病に侵されている事が判明したのだよ」


「え? ステラがですか!?」


 確かに年齢の割りは幼稚だしな。
 その豊満ボディで男への警戒心が無いのは何処かおかしいと思ってた。
 現に今も自分の病が話題だって言うのに、ニコニコと聞いているのかいないのか分からない様子だし。
 きっと頭が人よりちょっと可哀想な病気なのだろう。


「そうですか…やはり」


「ほう! 君は気付いていたのかね?」


「気付いていた、って程のものでもないですけど。
 彼女がどこか他人とは違う、って感じてました」


「なるほど…(流石に一流のパイロットは洞察力が違うな)」


「? 何かおっしゃいましたか?」


「いや、なんでもない。
 そういった理由で、彼女は治療を必要としているのは分かって貰えたと思う。
 できれば直にでもプラント本国に連れ帰って専門的な治療に当たらせる必要があるんだよ」


「…そうなんですか?」


「ああ。 だが一つ、困った事が有ってね」


「?」


「彼女には身寄りが無いんだよ。
 私としては彼女の治療費を議会で負担してやりたいんだが、いかんせん彼女は敵パイロットだ。
 悪意が無かったとは言え、そのような人間に国家予算を割く事など出来ない、と言う声も多い」


「…だったら、ステラはどうなるんです?」


「そこで君に提案が有るのだよ。
 シン・アスカ君、君が彼女、ステラ・ルーシェ嬢の保護者になってはくれないだろうか?
 そうすれば彼女の治療費にいくらか融通が効く」


「保護者に、ですか?」


「ああ。
 そうだな、具体的に言うとだね、ステラ嬢を君の妹にしてやってはくれんかね?
 幸い君達の仲は非常に親密そうだし、問題は無いだろう。
 そうと決まれば、早速こちらの方で複雑な手続きは行っておこう。
 心配する事は無い。
 そうそう、彼女をプラント本国へ届けるまでの間、面倒は君に見てほしい。
 レイの方には私の方から事情を説明して部屋を開けさせておこう。
 これで彼女はプラントに戻り次第、適切な治療を受ける事が出来ると言う訳だ。
 いやあ、良かったよ、君が自ら申し出てくれて。
 艦内での治療についてはそこの彼女に相談してほしい。
 では、私は他の用事があるので失礼するよ」


「…え? ちょっ!? 待っ!?」


 なんでそんなに早口なんですか?って言うか、自ら申し出たって何?
 顔を合わせないで早足で出て行くのはなぜ!?


 警備の人も議長と一緒に退室し、議長の執務室には呆然とした俺とニコニコしたステラ、後、ちょっと困った顔した医療班のお姉さんが取り残された。


「…シンは、ステラの、お兄ちゃん?」


 う゛っ! …ちょっと良いかもしんない♪




 その後、部屋に戻るとレイが荷物を纏めてたり、(なんでも議長の執務室に引っ越すそうな。)、風呂上りのステラは予想通り全裸で出て来ると言う嬉し恥ずかしサプライズが有ったり、そんな時に限ってこれまた予想通りルナが部屋に遊びに来たり。


 …ちょっと室内が台風の後みたいになってますが、どうにか元気です。


 でもステラさん、レイのベッドが有るってのに同じベッドで寝るのは不味いんじゃないでしょうか?
 いや、ほら? 一応義兄妹になった訳だし倫理的に、ね?
 予想通りと言うかなんと言うか。
 俺の左腕を腕枕にしてついでに身体は抱き枕って言う嬉し悶々カーニバルが有ったり、これまた予想通り狙ったタイミングでルナが(以下略。


 …ちょっと室内がゴジラがタップダンス踊った後みたいになってますが、辛うじて元気です。


 その後、一昼夜に渡る激しい家族会議の末、どうにかステラはルナの部屋で生活する事になって引き取られて行きました。


 …ちょっと残念。




 つづく(と良いな)




 後書きみたいなもの


 暴走(妄想)は止まらない。
 と言った訳で、今回はデュランダルが八面六臂の大活躍!
 シン・パートでも殆ど主役だったような気が… orz
 こんなのが僕の考えたステラ救済策だったんですけど、如何でしょうか?
 この先ミネルバが地球降下する前に、ステラは治療の為プラントへ行ってしまう予定です。
 なんせシンに対する『楔』ですからね、地球には降ろせません。
 それまではルナの苦難の日々が続くでしょう。
 さて、次のシリアス・パートは誰にしよう?



[2139] 番外編の1話。 まさか彼が!?
Name: しゅり。
Date: 2006/05/27 21:36
<アーサー・トライン>


「副長ですか!? この私がぁ!?」


 思い掛けない辞令を受けて、思わず声が裏返ってしまった。
 だって仕方ないじゃないか!
 この私がZAFT中が噂で持ちきりの最新鋭艦ミネルバの副長なんだよ!
 驚かないわけ無いじゃないですか!
 これは出世だよ! 出世! 大出世ですよ!
 …ああ、思えば苦節十数年。
 当然の様に赤服とは無縁の裏街道を歩いていたこの私に、スポットライトが当たる日が訪れようとは!
 母さん、生んでくれてありがとう!
 アナタの息子は遂にスターダムへの一歩を踏み出しましたよ!


「―――だから、水曜までに乗艦しておくように。
 うん? 君! 聞いているのか?」


「はいっ!
 不肖、このアーサー・トライン、立派にミネルバの副長を勤め上げてみせます!」


「ああ、うん、もういい。
 一応、必要な事はこちらの用紙に書いてあるから。
 何か分からない事が有ったらこれを見なさい」


「はっ! 了解であります!」


「ああ、じゃ、さがってよろしい」


「はっ! 失礼するであります!」


 今夜のご飯は赤飯だ!
 待ってろよーミィちゃん(愛猫)、今夜はペティ○リーチャム(プラチナム)だからねぇ~♪




■■■




「この度、ミネルバの副長に任命されましたアーサー・トラインです。
 よろしくお願いします!」


「アーサー、遅刻よ!」


「はっはい! すいませんです、はい」


 搭乗は10時からの予定だったのに6時にはミネルバのドッグに着いてた。
 昨日の晩は嬉しくて眠れなかったのだ。
 流石に早く来すぎたかと、近くの喫茶店で時間を潰したんだけど、それが不味かった。
 気がついたら10時を30分ほどオーバーしてたのだ。
 人間、本当に眠い時はコーヒーを飲んだところでどうにもならない事をこの歳になって知った。


「まあ、いいわ。
 私は当艦の艦長に任命されましたタリア・グラディスよ。
 よろしくね」


「はっはい、よろしくお願いします、ですはい!」


 よぉーっし!
 とりあえず艦内で唯一の上官とのファースト・コンタクトは成功だ。
 寝坊した時は冷や汗が止まらなかったけど、グラディス艦長、良い人そうで良かったぁ~
 この艦の任務は月軌道の哨戒って暇な任務だって聞いてるし、艦内の人間関係って大事ですよ!
 幸先良いぞぉーって浮かれてたらオペレーターの女の子がクスクス笑ってた。


「トライン副長って面白いんですね」


「アーサーで良いよ。
 君は確か…メイリン・ホーク君だったかな?
 いやあ、まいったよ。
 私とした事がそこにある喫茶店で4時間も寝てしまった」


「そうなんですかぁ? 結構おっちょこちょいなんですね」


「うぐっ! そう言われると傷つくなぁ…」


 ってな感じで艦橋のメンバーとのコミュニケーションもバッチリさ!
 メイリンちゃんは可愛いし、人妻だけどグラディス艦長も美人ですし。
 これから毎日こんな環境で仕事が出来るなんて、私は幸せ者だぁー!
 まさに春!
 人生の春が来ましたよぉー!!




■■■




 ―――なにわのことも ゆめのまたゆめ。




■■■




 なんでデュランダル議長が乗ってくるんですかぁー!?
 まったくどこのどいつだ! ZAFTの軍基地を襲撃したのはー!
 私の桃色計画を返せー!!


『ブリッジ! 状況はどうなってるんだ!?』


「ひぃっ!?」


 突如聞こえた通信に思わず声が裏返ってしまった。
 メイリンちゃんも吃驚したのか通信切っちゃったし。
 うんうん、気持ちは分かる。
 彼の声って人を畏怖させる力が込められてそうだもんねぇ…


「って、ええっ!?」


 ダメじゃないですか!?
 今のってシンの声でしょ?
 インパルスのパイロットの。
 フルネームは確か、シン・アスハ。
 って違う違う!
 アスハだったらオーブの代表じゃないか!
 そうそうシン・アスカ、アスカね。


 ってそんな事考えてる場合じゃないですよ?
 メイリンちゃん!?
 今って緊急事態なんだからパイロットからの通信を切るなんてダメじゃないか!
 艦長はおろか、議長まで呆れてるよ!
 よぉーし!
 ここは一つ、副長としてこの私、アーサー・トラインが直々に”ビシッ!”と言ってやろう!


「…メ、メイリンちゃん!
 彼、通信切っちゃ不味いんじゃないかなぁ?」


「えー! だってシンって急に声掛けられると怖くないですかぁ?」


「いや、そりゃ怖いけど…」


「ですよねぇー。 お姉ちゃんってよく付き合ってると思いません?」


「確かに。 僕もシンに指示を出す時、目を合わせられないからなぁ…
 女の子って危険な香がする男に惹かれるって言うけど、ああいうのが良いの?」


「アーサー! それにメイリンも!
 2人して馬鹿な事を言ってるんじゃないの!
 今は非常事態なのよ!」


「「はっはい!」」


 慌ててメイリンが回線を繋ぎなおしたけど…おっかねぇ!
 あれは人を殺した事の有る人間の目だ。
 間違い無い。
 不覚にもちょっと腰が引けてしまった。
 メイリンの隣に立ってたのをちょっと後悔した。


 とりあえず今度からシンに用事がある時はルナマリアに仲介を頼もう。




■■■




 慌しい出航になったけどミネルバはボギー1と言う未確認艦の追跡任務に就く事になった。
 出撃中だったMSを収容して、いざこれから加速!となった処で突然に通信が繋がった。


『…これは、どういう事だ?』


「………」


『………』


「………」


 ブリッジの時が止まった。


 そう言えば何か忘れてる気がしてたんだよなぁ~私も。
 最後まで忘れてたかったかなぁ、ハハハ。


「………だってぇ、怖かったんだもん」


 うん、私も怖かった。
 って言うか、現在進行形で怖いです、はい。


「気持ちは分かるけど、戦闘中は我慢しなきゃダメじゃない」


 ええっ!?
 か、艦長も怖かったんですかぁ!?
 議長まで「やむをえん」見たいな表情するのは流石にどうかと思いますよ。


 そう言った不幸なすれ違いは有ったけど、シンとも無事合流。
 …よくソードモジュールで合流できたな。
 アカデミー開設以来の風雲児って評判は伊達じゃないって訳か。
 結局奪還に成功したのもシンだけだったし。
 よし! 今度遭った時にはジュースでも奢ってやろう。
 …だから今日の事は忘れてね、お願い!






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅の番外編






 おわり。




 後書きみたいなもの


 以前、感想板でアーサーさんの出番の無さを指摘されました。
 やべっ! 忘れてたよアーサー。
 そんな彼にゴメンネの意味を込めてアーサーさん主役の番外編です。
 読み飛ばしても本筋に何の影響も無い話となってます。


 …流石にアーサーさんでは本編のシリアス・パートを任せるには荷が重かった。
 今後もたまに影の薄いキャラ達の番外編が書けたらいいな、と考えています。
(本編の進行に行き詰まった時の時間稼ぎとも言う。 …orz)



[2139] 5話目。 ぼちぼち頑張ってま。
Name: しゅり。
Date: 2006/05/29 20:41
<ネオ・ロアノーク>


”失敗するような連中なら俺だって最初っからやらせやせんしな”


 何が”俺だってやらせやせん”だ。
 その結果がこれだ。
 3機用意された揺り籠で眠るのは2人。
 1人は帰って来なかった。


 ―――ステラ!


 仮初の感情だとは言え、自分に一番懐いていた少女。
 彼女は帰って来れなかった。


 今回の任務の失敗、それは即ち死を意味している。
 ごく少数の人数での敵地に潜入、MS強奪、コロニーの破壊、そして離脱。
 それらの行為を戦時下に無い状況下で行うのだ。
 任務の成功率は高まるが、失敗時の生存率は反比例するように減少する。
 なぜなら、それらの行為を軍事行動と認識されずに、テロリストとして処置される可能性が多分に有るからだ。
 万が一、殺される事無く捕虜になれたとしても、軍事裁判に掛けられれば死刑は間違いない。
 そして、仮に死刑判決を逃れられたとしても、彼女は十分な治療無しに生きられる身体では無いのだ。
 何処の誰が自国に破壊と殺戮をばら撒いたテロリストに十分な治療を施すと言うのだ?


 つまり、死に至る経緯に違いは有るかもしれないが、任務の失敗と共に彼女の死は約束されているのだ。


 俺にこんな事を言う資格が無い事くらい、じゅうぶんに理解している。
 そして、それが他人には偽善だと評価されるであろう事も。
 だが!
 結局、最後まで道具としてしか生きられず、短すぎる人生を終えてしまった少女の事を思うと、言葉が口から零れ落ちるのを止められない。


「―――すまん」


 あまりに短すぎる謝罪の言葉が、2度と本来の主が眠る事の無い無人のポッドに空しく響いた。




■■■




 現在もZAFTの戦艦の追跡を受けている身としては、何時までも過去の人間に囚われている訳には行かない。
 薄情に感じるかもしれないが、明日の命をも知れぬ戦場に身を置く人間としては、それが当然なのだ。
 なにせ俺達はまだ生きていて、任務はまだ終了していないのだ。
 無事に任務が終了したら、今回の犠牲になった者達に対していくらでも泣いてやるさ。
 だから、まずは泣ける立場に立たないといけない。


「アンカー打て! 同時に機関停止! デコイ発射!
 タイミングを誤るなよ!」


 流石にZAFTの最新鋭艦だけあって船足は我々に勝る。
 一時はかなりの距離を引き離したが、既に位置を捕獲されていると判断して間違いないだろう。
 だが戦闘の主導権を握っているのは未だ我々の方だ。
 さて、どう出るかな? ZAFTの諸君。


「さあーて、進水式もまだだと言うのにお気の毒だがな。
 仕留めさせてもらう!!」


 カオス・アビスの2機をデコイに随伴させ、ミネルバには自らエグザスを駆って当たる。
 その他にもダガーLが2機随伴するが、若干の戦力不足は否めない。
 だが俺も伊達に大佐と呼ばれてる訳じゃないんでね。
 人的不足はパイロットの腕でカバーさせて貰うさ。


「ネオ・ロアノーク、エグザス出るぞ!!」




■■■




 だが、そんな意気込みも長続きしなかった。
 作戦の破綻が1機のMSとそのパイロットに拠って齎されたのだ。
 それはアウルやスティングが強奪した機体とは異なるタイプのG。
 おそらく報告に有ったステラと敵対していたと言う機体だろう。


 ―――なんだ?


 初めて見る機体だと言うのに、その機体はどこか俺に懐かしい気持ちを抱かせる。
 まるで俺がこの機体の事をよく知っているかのように。


 ―――ストライク。


 不意に頭を過ぎった単語。
 仮面の下の古傷が痛みだす。


「―――ちいっ!?」


 だが、そんな感傷は突然打ち切らされた。
 僅かな油断の間に、ガンバレルの1機が撃墜されたのだ。


「この俺が、物思いに耽る暇も与えて貰えないとはね」


 ステラを倒した事と言い、俺のガンバレルを落とした事と言い、たいした腕をしてるよ、お前さんは。
 おそらくミネルバでも最有力な戦力なんだろう。
 まさかそんな戦力をデコイに当てず、出し惜しみしていたとはね。
 我々も侮られていたもんだ。


 ―――いや、違う!


 これは出し惜しみなんかじゃない。
 何処の世界に敵艦の攻撃に手を抜くお馬鹿さんが居るって言うんだ?
 ミネルバの護衛だけならあそこで奮戦中の白い坊主頭君1機で十分じゃないか。
 って事は、つまり…


 ―――作戦が読まれていた?


 まさか罠に嵌められていたのは俺達の方だったとでも言うのか?
 そんな馬鹿な!
 いや、しかし!
 考えてる暇は無い。
 戦場では僅かな気の迷いが即に死に繋がってしまう。
 計画は破綻していたんだ。
 既に破綻している作戦にこれ以上拘るってのは、あまり利口な選択じゃあ、ないな。


「艦長! 状況が変わった。
 撤退する。 直に信号弾を上げろ!
 あいつ等を回収次第、全速で戦線を離脱するぞ――ちっ!」


 その間にガンバレルがまたも1機、撃墜されてしまった。
 まったく、指示する隙も見逃して貰えんとはね。
 なるほど、こりゃあステラが敵わない訳だ。
 そんなおっかないの相手に真っ向から勝負してやるほど、俺は気前良くないんでね。


「また会おう! ZAFTのストライクもどき君!
 後ろの白い坊主頭君にもよろしく言っといてくれたまえ!」


 退くも兵法、ってね。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 う、うーーん…


 朝もまだ早い時刻。
 未だ睡魔に勝てない俺は、寝返りをうってまどろんだ時間をまったりと寝て過ごす。


 もゆん♪ もゆん♪


 うむ、丁度良い抱き枕を発見ナリ。
 大きさと言い、抱き心地と言い、文句無しである。
 何より左手に包まれた膨らみが素晴らしいぞよ。
 柔らか過ぎず、硬過ぎず。
 俺の左手にフィットする為だけに生み出されたかのような、まさに至高の一品。
 かの海原先生もこれには文句を言えまいて…


「海原先生って誰?」


 うん? 海原先生は美食倶楽部の…って、そもそも俺は誰と話をしてるんだ?


「ねえ、シン。 美食倶楽部って何?」


 いや、美食倶楽部って言うのはだな…って、そう言えば俺、抱き枕なんか持ってたっけ?
 確かめる為に目を開けるべきなんじゃないだろうか?
 でも俺のセブンセンシズが目を開けちゃいけない!って全力で訴えてる。
 シャカ先生も目を開けずにエイトセンシズまで辿り着いた訳だしな。
 開けない方が無難だろう。


「ねえ、シン。 シャカって誰?」


 ………すまん!
 現実逃避はそろそろ止める事にする。
 分かってる。
 分かってはいるんだ。
 夢だったら良いな、と考えないでもなかった訳だが認めよう。
 どうやらこれは現実だ。
 いくら辛い現実だからって目を背けてたら前には進めやしないさ!
 そうだろ? マユ…


 脳裏には悲しげな表情で十字を切るマユの幻影が。
 そして、目を開くと視界いっぱいに金色の髪が広がっていたのであった…


「…ステラ、ルナの所で寝なさい!って昨日あれほど言ったじゃないか」


「うん。 でもステラ、シンと一緒の方が良い」


 …こやつ、可愛い事を言う。
 侮れん!


「………と、とにかく起きよう。
 こんな所をルナに見られちゃ、せっかく昨日徹夜して片付けた部屋が台無しになっちまう」


 だけどそんな心配は当たり前のように無駄なのだ。


「シン! 一緒に寝てたステラの姿が見えないん、だ・け・ど…」


 自動扉とは思えないくらい、勢い良く扉が開いてルナ様登場。
 慌てていたのかパジャマ姿のままだ。
 ピンク色と言うのが乙女ちっくで実に良い。
 ふむ、普段のパイロットスーツや制服姿、裸は見慣れているけど、これはこれでそそるものが有りますな…


「――――――シ・ン?」


 ってな具合に、思わずお馬鹿な現実逃避をしてたんだけど、現実の方は逃避なんかしてくれない。


 ―――!?


 この感じ!
 頭の中で何かが閃いたみたいだ。
 だんだん思考が澄み渡っていく。
 なんだろう? 俺は近い未来、理不尽な暴力に晒される気がする。
 シャカ先生! ひょっとしてこれがエイトセンシズに目覚めたって奴ですか?


 …もちろんそんな都合の良い展開は無くて、


「お・や・す・み♪」


 起きたばかりの俺に言うには不相応な台詞をルナから頂戴する。
 俺に反論は許されていない。
 彼女が「おやすみ」と言えば俺は寝るしかないのだ。
 何事も無かったかのように部屋を出て行こうとするレイ(昨日から戻ってきてた)の後姿を絶望の想いで眺め、振り下ろされるルナの右拳から繰り出される鈍い音を聞きながら、俺は本日2度目の就寝に着いたのだった。




■■■




「例え格上の相手だとしても、守りに徹すればそうそう負けるもんじゃない」


 何時だったか、俺がルナに言った言葉だ。
 ごめん、アレは嘘だ。
 守りに徹したって言うのに、全身が痛くて堪らない。
 なんでだろう?
 ルナはきっとパイロットなんかより、全日女子プロとかそう言う道へ進むべきだったんだ。
 ルナの右は世界を狙える。
 体中が痛いんだけど、重傷じゃないって手加減具合まで絶妙だ。


 まさかこんな理由で出撃出来ないなんて恥ずかしすぎる!
 ルナやショーンさん、ゲイルのおっさんも出撃して行ったのに、俺だけお留守番だよ。
 格好悪すぎる!
 後で絶対グラディス艦長に怒られるよ!


「シン、大丈夫?」


「…あぁ、大丈夫さ、ステラ」


 って言うか、君が原因での瀕死だって分かってる?
 絶対分かってないでしょ!?
 お願い! 分かって!


「メイリン、シン、大丈夫だって」


 ………へっ?


『だったら直にインパルスで出撃して下さい!
 ただいま本艦は敵の罠に嵌って非常に危険な状態です。
 現在レイも出撃に向かっていますが、急いでお願いします!』


「だって、シン。 出撃するの?」


 ………へっ?


 どうりで先程から船が揺れるなぁ…って思ってたんだ。
 てっきりパンチドランカーが原因なんだとばっかり思ってたよ。
 まさか攻撃されてるとはね。
 うーむ、納得。


 って!
 納得してる場合じゃ無いでしょ!?


「………分かった。
 シン・アスカ、出撃する」


 「いってらっしゃい」と手を振るステラを部屋に残し、パイロットルームへと急ぐのだった。




■■■




「レイ、MS2機を頼む。
 俺はあのMAを相手する」


『了解。 シン、油断するな』


「ああ、お前もな!」


 敵さんはどうやらMS2機とMA1機と言う編成。
 俺は迷わずMA1機を相手に選んだ。
 MS2機を相手にするよりMA1機の方が楽だもんな。
 たかが戦闘機に撃たれたって、このインパルスは落ちはせんよ!
 ぬははははっ!、って、なんだよ?その触手みたいな奴は!
 聞いてないよ!?
 戦闘機の癖に触手からビーム撃つのって反則じゃない!?
 レ、レイ! やっぱり俺がMSの相手しちゃ駄目かなぁ…


 駄目だった。


 だけど流石は俺!
 伊達にMSでのロボットダンスをマスターしてないぜ!
 触手からのビームを避けるなんて朝飯前よ!


「!? ―――そこっ!」


 一瞬、触手が動きを止めたんで迷わず撃墜。
 ふっ…この俺を相手に隙を見せるとは舐められたもんだぜ。
 くぅーー! 決まった!
 なあレイ! 今の俺、格好良くなかったか?
 って言おうと思って振り向いたらレイはMSを1機撃墜していた。
 負けた…
 レイはMS1機撃墜したって言うのに、俺はMAの触手を1機落としただけ…
 これはアレだ!
 ルナの所為で体中痛いのが原因だな、うん、間違いない。
 道理で身体の動きに普段のキレが無いと思ったんだよ…


 …負け惜しみじゃないやい!
 むっ!?


「―――隙有りっ!」


 なにやら動きが単調になった瞬間にもう1機、触手を撃墜する。
 どうだ! これで落とした数では俺の勝ちだぞ、レイ!
 って言おうと思って振り向いたらレイはMSをもう1機撃墜していた。
 …完敗だぁ。
 レイ、お前凄いよ。
 MS1機で敵MS2機を落としちゃうんだもんな。
 俺なんてMA1機しか相手してないって言うのに、落とせたの触手2機だけだぜ?
 MA本体は逃げていっちゃうし…


 伊達に薔薇の似合う男じゃないって訳か。
 よし、お前の事を今日からローゼンリッターと呼んでやろう。
 直訳すると薔薇の騎士。
 お前にぴったりだぜ!
 少し惚れちまいそうだけど、俺の尻はまだまだ許せないぜ!


『シン、レイ、お疲れ様でした。
 帰艦してください』


 メイリンの連絡を聞き、今回の戦闘は幕を閉じたのだった。




 つづく(と思っていませんか?)




 後書きみたいなもの


 別段、オリジナル色を出そうとしてシンをミネルバに残した訳じゃないんですけど、結果としてそう言う事に。
 シン・パートの前半がやたらとお馬鹿になってしまいましたが、ネオ・パートとの対比を意識した結果です。
 ステラが死んだと悲しんでるネオ、だけど実際は能天気に生きてました的な。
 若干、ネタに走りすぎた感が有るので賛否両論頂きそうで怖いです。


 戦闘シーンは嫌いだ!<原作の殆どを否定。
 コメディの介入できる余地が少ないんですよ…<己の力量を棚に上げた発言。


 なんとなく次回予告。
 ルナ&ショーン&ゲイルの3人組は果たしてカオス・アビスから生き延びる事が出来るのか?
 乞うご期待!(嘘



[2139] 番外編の2話。 問題の彼女。
Name: しゅり。
Date: 2006/05/30 19:49
<メイリン・ホーク>


 突然だけど、私のお姉ちゃんは趣味が悪い。
 始業式だって言うのに目付きの悪い子に見惚れてるんだよ?
 どうかしちゃってるよ、絶対に。
 どうせ見惚れるなら絶対にレイ・ザ・バレルに決まってるじゃない!
 金色の髪、空色の瞳、凛とした佇まい、心に響くバリトンの効いた声…まさに王子様よね!!


 と言う訳で早速ファン倶楽部を発足してみたの。
 会長がアビーで私が副会長。
 オペレーター専攻の女の子の間で地道に勢力拡大中なのだ!


 主な活動は写真の隠し撮りだったりするんだけど…、邪魔なのよね、シンが。
 なんでいっつも一緒に居るかなぁ?
 殆どの写真にシンまで一緒に写ってるじゃない!
 アンタ目が怖いのよ! 目が!!
 お陰で写真の売れ行きが悪いったらありゃしない。
 このままじゃ不味いわね。
 何か対策を考えねば…




■■■




 お姉ちゃんが壊れた。
 いや、壊れたって言うか、荒んだ?
 麗しき乙女が日本酒片手に自棄酒ってのは、正直どうかと思うよ?
 って言うか、他の場所でしてくれないかなぁ…
 此処って私の部屋でもあるんだけど。


 とりあえず怒ったりお酒を取り上げたり色々と試したんだけど、ダメ。
 てんで効果無し。
 ブツブツと何やら呟きながらコップに注いだ日本酒を呷る呷る。
 中年リストラサラリーマンも真っ青な呷りっぷり。
 コレと同じ遺伝子が私の中にも流れてるかと思うと、ちょっと凹むわ。


 他にする事も無かったんで、お姉ちゃんの愚痴を聞いてたんだけど、出てくる単語は『シン』とか『負けた』とか『敵わない』とか。
 つまりお姉ちゃんが壊れたのはシンが原因だったのね!?
 なんて奴かしら!
 まったく、アイツはレイ様の写真は邪魔するわ、お姉ちゃんを壊すわ!
 1度とっちめてやらなくちゃ!


 思い立ったら直行動、シンの部屋に押しかけた。
 …無駄に行動的な処なんか、やっぱお姉ちゃんの妹なのかもしんない。
 シンの部屋の前に着いた処で激しくブザーを連打よ連打!
 まいったか! 高橋名人もビックリな高速連打をお見舞いしてやったわ!
 シンめ、私のストレスの恐ろしさを思い知れ!


「…ブザーは1度で十分だ。 何か用か?」


「げっ!?」


 んきゃーーーーーっ!!!
 やっちまったーーーーーー!!!


 で、出てきたのはレイ様だった。
 って言うか私の馬鹿ちんーーー!
 レイ様とシンが同室なのすっかり忘れちゃってるなんてーーー!!
 それもこれも全部シンがわ(以下略


「あの、えっと…
 シンは居ますか?」


「ああ、シンに用事か。
 ちょっと待っててくれ」


 そう言って室内に消えていくレイ様。 閉まるドア。
 アレ? これってひょっとした私がシンに会いに来たってレイ様勘違いしてる?
 ちょ、ちょっと待って!
 私が本当に会いたいのはレイ様で、でも用が有るのはシンなんだし、あれあれ私なんか変な事言ってる?
 そもそもなんでこんな事になったんだろう?


「何か用か?」


 お前だー!
 全ての元凶はお前じゃーー!!


 顔を出したシンに魂のシャウトをお見舞いする。
 でもシンってやっぱ怖いし、説教は心の中だけにしといてあげる。
 顔は普通なんだけど、目がやばい。
 絶対、過去に穢れない乙女を何人も手篭めにしちゃってるに違いないわ。
 あれは境界線を越えちゃった人間の目よ。
 私の短い人生経験がそれを裏付けてくれる。
 間違いない。


 …来るんじゃなかったかも。
 無性に帰りたい。
 だからと言って、このまま何もせずに帰してくれないだろうなぁ…


 …ごめんね、お姉ちゃん。
 このままだったら私、シンの毒牙に掛かっちゃう。
 私はこんなところで純潔を失う訳にはいかないわ!
 お姉ちゃんなら分かってくれるわよね?
 勇気の無い私を許して。


 この日、私は姉を売った。


「アナタの所為でお姉ちゃんがあんなになっちゃったんだから!
 責任とってよ!!」




■■■




 シンが私達の部屋に向かって数刻後。
 場所は私とお姉ちゃんの部屋の前。
 結局、心配になって戻ってきちゃった。
 流石にお姉ちゃんが本当に手篭めにさせられてたら罪悪感が沸くしね。
 さっきはあんな事言っちゃったけど、いっくらシンでも本当にヤっちゃったりsないわよねぇ…


 恐る恐る勇気を振り絞って部屋のドアを開いてみた。


 …開くんじゃなかった。


 うっわ~~~
 身内の行為の真っ最中に出くわすのって、精神的にクルもんが有るわ。
 って言うか、シテるんなら鍵閉めといてよシン!
 お姉ちゃんが逃げ出した時の事とか考えたりしないの!?


 って、なんで私がシンの犯行の心配しなくちゃいけないのよ!?


 ごめん、取り乱しちゃった。
 でも、これってばお父さんとお母さんが…って事実を知っちゃった時よりもショックでかいわ。
 まさか本当にヤられちゃうなんて…
 見損なったわシン!
 ゴメンね、お姉ちゃん。
 私の所為でお姉ちゃんが汚されちゃうなんて…


 あれ?


 今、行為の最中のお姉ちゃんと目があっちゃったんだけど、「よくやったわ、メイリン」ってな表情はなに?
 どう言う事?
 お姉ちゃん的にはアリなの?
 だって相手はシンよ?
 百人切の1コマとかにされちゃってるんだよ?
 そんな初体験で良いの?


 恍惚とした表情を浮かべるお姉ちゃんから視線が外せないまま、呆然と立ち尽くす。
 するとセンサーが働いたのか、自動扉が勝手に閉まった。


「………アビーの所に行こ」


 とりあえず今夜は部屋に帰れないらしいし。
 なんせ私のベッドは使用中だ。


「………って、なんで他人のベッドでシテんのよ!? お姉ちゃーーん!!!!」




■■■




 それから私、メイリン・ホークの受難は始まった。
 週に数回シンが泊まりに来るのだ。
 お姉ちゃんは「部屋に居ても良いよ」って言うけど、居ても構ってもらえないだろうし居たくない。
 なにより私のお姉ちゃんは私が居ようが居まいが関係なくヤる事はヤる。
 そんな女だ。
 流石にそんな場面には居合わせたいとは思わない。


 と、言う訳で今の私には新たな寝床が必要なのだ。
 流石に毎回アビーの所って訳にもいかないしなぁ…
 百合の関係だと誤解されちゃ気まずいし。
 仕方ないから諸悪の根源であるお姉ちゃんに相談したんだけど、


「だったらシンのベッド使えばいいじゃない」


 と来たもんだ。
 お前は阿呆か?
 なんでこの私が好き好んでシンのベッド使わにゃならんのだ!?
 どうせ男のベッドで寝るんだったらレイ様の方が良いっちゅうの!
 シンのベッドなんかで寝た日にゃあ、妊娠してまうわ!!


 ―――!


 そうよ!
 そうだったのよ!
 お姉ちゃん、ナイスアイデア!
 そうよね、シンが私の部屋使うんだから、私がシンのベッド使うのは等価交換って奴よね?
 仕方が無いんだよね?


 むふふ… 良い事思い付いちゃった♪




■■■




 そう言った訳で、私、メイリン・ホークはただ今レイ様の寝室にお邪魔してまーす!!
 時刻は草木も眠る丑三つ時。
 隣のベッドからは皆の心の王子様、レイ様の穏やかな寝息が聞こえてます。


 …隣のベッドにこーんな可愛い女の子が寝てるって言うのに、手を出さないなんて。
 レイ様ちょっと酷くない?
 襲ってほしいとまでは言わないけどさぁ、もう少し意識してくれても良いんじゃないかなぁ?
 自分で言ってて悲しくなってきちゃった…とほほ。


 ダメよメイリン!
 落ち込んでる場合じゃ無いわ!
 アナタには崇高な任務が有るんじゃなくって!?


 そうだったー!
 私が此処に来たのは、ファン倶楽部の副会長としての重要な任務が有るからなのよ!
 今の私の両肩は、全宇宙1000万人のレイ様ファンの期待を一身に背負ってるんだから!
 落ち込んでちゃダメ!
 速やかに任務を遂行せよ!
 その名もずばり、『レイ様の寝顔を激写! キャッ♪ レイ様ったら寝顔もス・テ・キ(はぁ~と』大作戦!!
 さっそく私はヴィーノから巻き上げた暗闇でもバッチリ撮影!な高性能カメラを構えて、匍匐前進開始。
 右良ーし! 左良ーし! 目標まで残り2m。
 作戦の成功に私の鼻息もだんだん荒くなる。


 にやり。


 敵はこちらの接近に気付いていない。
 私はこの任務の成功を確信した。


 だが…


「―――なっ!?」


 アイマスクだとぉ!?
 くぅ! こいつは計算外だぜ!
 流石はレイ様、一筋縄では行かないお方…
 私の左の瞳から一筋、熱い雫が零れ落ちた。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅の番外編






 おわり。




 後書きみたいなもの


 今回も有っても無くてもどうでも良いような番外編。
 メイリンの話は筆が進む進む!
 なんと構想から執筆時間を合わせて3時間の問題作!


 でも、ちょっと危ない女になってしまった感が拭えない。
 でも原作でアスランを助けた件を考えると多分、奴はこんな女だ!
 間違いない!<長井風に。


 メイリンをシンの毒牙に掛けるかが今後の検討事項。



[2139] 6話目。 第1回ルナ祭り。(次回未定)
Name: しゅり。
Date: 2006/06/03 21:30
<ルナマリア・ホーク>


 アカデミーを卒業したシンとアタシは晴れて同じ職場に配属になった。
 ZAFTの最新鋭艦でミネルバって言うの。
 これは前にも言ったかな?
 ま、嬉しい事は何回言っても良いよね?
 ありがとう神様。
 きっと愛し合う2人を引き離すのが忍びなかったんですね!
 やっぱりシンとアタシは運命の赤い糸で結ばれてるのね。


 …メイリンやレイ、ヨウランにヴィーノまでも一緒だけど、運命とは関係無い。


 そしてこれも前に話したと思うんだけど、アタシってば赤服を支給されたのだ。
 エリートの証なんだけど、ちょっとダサいのよね。
 やたらと偉そうに見えるって言うか、軍人みたいに見えるって言うか。
 …軍服なんだけどね。
 こんなデザインじゃアタシの魅力をシンに伝えらんない。
 だからこっそり改造してしまったのだ。
 だけど直に見付かって、グラディス艦長にはちょっぴり怒られた。
 でもそこは女同士。
 誠意を込めて説得した結果、なんとか改造の件は見逃してもらっちゃった。
 いやー良かった良かった、ZAFTが軍規に煩くない組織で。
 男性陣にも結構評判良いのよ。
 やっぱミニスカートにして正解だったわ。
 アタシの魅力ってば脚線美だもんね。
 健康的なうら若い乙女の太股ってヤツ?
 これでシンもメロメロっすよ!
■■■
 ミネルバの進水式を明日に控えてるって言うのに、暢気に私服姿で遊びに出掛ける途中のヨウラン&ヴィーノの整備班コンビとすれ違った。
 だからと言って、その2人に興味も無い私は軽い挨拶程度で通り過ぎようとしたんだけど、ヨウランとヴィーノの話し声の中に「シンが」とか「駅前で待ってる」なんて聞こえてきたからには平静では居られない。
 通り過ぎたヨウランの肩をむんずと掴んで、説明をお願いしたのだった。
 なんでもヨウランの話に拠るとシンと街へ買出しに行く約束をしているらしい。
 その時に、ついでだから整備士仲間のヴィーノをシンに紹介しよう、って事らしいけど、それもう無理よ。
 なんでだか分かんないけど、ヴィーノならさっき走って何処かに行っちゃったわ。
 その事を教えてあげたら、ヨウランは「裏切り者…」って呟きながら屠殺場に連れて行かれる子牛みたいに泣き崩れちゃった。
 ヨウランってば体調が悪いのかな?
 なんだったらアタシがシンとの買出しを代わってあげようか?
 そう提案すると余程感謝したのだろう、泣きながらお願いされた。
 そんなに体調が悪かったのかしら?
 明日は進水式なんだから体調管理はしっかりしなくちゃダメよ。


 そう言った経緯で、シンとの買出しを引き受けた訳なんだけど…これってやっぱりデートよね?
 そう言えばアタシ達って付き合いだして結構経つけど本格的なデートって初めてじゃないかしら。
 今まで2人っきりで会う時はアタシの部屋ばっかりだったし。
 つまり初デートなんじゃないですか!?
 大変! こんな格好じゃダメだわ。
 直に着替えなくちゃ!


 うーん…
 やっぱりアタシの魅力は脚なんだし、ラインが出るパンツルックにするべきか…
 でもでもシンってば結構、鈍ちんな処が有るし、パンツルックじゃ弱いかなぁ…
 若いんだし、生脚で勝負よね!
 太股が出るくらいの短いので冒険してみよう。
 そうなると上も少し露出したほうが良いわよね?
 男って女性の鎖骨が好きらしいし、サービスしちゃおかな。
 うん、ちょっと恥ずかしいけどワンピのキャミソールで勝負よ!
 ミニよミニ!
 しかも紐のノースリーブ。
 太股も鎖骨もバッチ来ーい、よ!


 シン、喜んでくれるかしら…


『ルナ、今日のルナは大胆だね。
 可愛いよ、いつもより凄くセクシーだ』


『…うん、アリガト。
 今日のシンもすっごく格好良いよ』


『ルナ、愛してる。 今すぐ君が欲しい』


『えっ? でも買出しの途中だし、まだ明るいし、恥ずかしいよぉ』


『ごめんルナ! 俺、もう我慢できないんだ!』


 そして抵抗できないアタシは、御宿泊と御休憩ってカテゴリが有る宿泊施設に連れ込まれちゃうのね。
 むふふ。


 って妄想してる場合じゃないわ!
 早く行かないと待ち合わせ時間に遅れちゃう!!
■■■
 むっすーーー


 今のアタシは不機嫌なのだ。
 途中までは最っ高のデートだったのに、一つのアクシデントで台無しになってしまった。


 待ち合わせ場所に来たシンはアタシを見付けて驚いてた。
 アタシが来てた事に驚いたの? それともアタシの格好に驚いてくれたの?
 聞きたかったけど、怖くて聞けなかった。
 アタシの弱虫!


 ウィンドウショッピングは楽しかった。
 何を話す訳でもないんだけど、シンと腕を組んで街を歩けるんだもの。
 それだけでもう幸せっすよ!
 ヒールの有る靴を履いてきたんだけど、シンはちゃんと歩くペースを合せてくれるし、惚れ直しますよ?
 他人から見たらアタシ達ってラブラブに見えちゃったりするのかな?


 …だけどアクシデントは突然訪れたのだ。
 曲がり角でシンが女の子とぶつかっちゃったんだ。
 優しいシンは女の子を抱きとめたんだけど、その時、偶然にもシンの左手が女の子の胸を鷲掴みにしてしまった。
 アタシはビックリしちゃって、シンと組んでた腕に思わず力が篭っちゃった。
 その時だ!
 シン、見たわよ。
 アナタの左手が、確かにニギニギ動くところを。
 揉んじゃったら事故じゃ済まないじゃない!?
 普通、彼女の目の前で他の女の子の胸を揉むか?
 悲しくなって、アタシの方に意識を向けようと更に組んでた腕に力を込めるんだけど、シンはちっとも気付いてくれない。
 そりゃあ、その女の子ってばフランス人形みたいに可愛らしくて、おまけに胸もアタシよりちょーーーとだけ大きいけどさ。
 アタシとのデート中だって言うのに、あんまりじゃない!


「…手、放したら?」


 落ち込んじゃって何時もの陽気なルナマリアさんが影を潜めてしまった。
 やっと搾り出した声は陰気になっちゃったし、自分に自信が無くなっちゃって意味もなく疑問系だ。
 アタシが一緒に居てシンは迷惑だったの?
 初デートだって喜んでたのはアタシだけだったの?


 そんなアタシの尋常じゃない様子に気付いたのか、シンはあっさりと女の子を放してくれた。
 良かった、さっきのは何かの間違いよね。
 だけど、これにて一件落着、ってな訳には問屋は卸さなかった。


「お兄ちゃんの左手、気持ちよかった。
 ステラのおっぱい、もっと握って」


 ………初対面のこの女の子の事はよく知らないけど、一つだけ分かった事が有るわ。
 この娘はアタシの敵だ。
■■■
 アクシデントはそれだけじゃ済まなかった。
 やっとの事で女の子から開放されて、晴れてデートに戻れたって思ったのに!
 当初の予定通りに謎の宿泊施設に連れ込まれて、いざこれから!って時だったのにぃ…


 非情にも軍基地の方から爆発音。


「!? ルナ!」


「えぇ!」


 せっかくのデートが台無しだ。
 あーあ、気合入れてメイクして来たのになぁ…
 今日は厄日だ。
 張り切ってただけに落ち込んじゃうよ。


 だけど!
 だけど!だけど!だけどっ!!


 なんと! シンがミネルバに向かってる間中ずっとアタシの手を引いてくれたのだ!
 足手まといのアタシなんか置いてった方がシンにとっては安全なのに。
 繋がってる手と手を通してシンの想いが伝わってくる気がした。
 やっぱり良い日かも♪
 初めてのデートは散々だったけど、シンの心に触れる事が出来た気がしたからアタシは満足だ。
■■■
 やっぱ今日は厄日だわ。


「シン! また会えたね!
 ねえシン、ステラのおっぱい揉んで♪」


 シンが捕獲したガイアから天敵再降臨。
 この娘ちょっと頭のネジが足りてないんじゃないだろうか?
 アタシだってそこまで露骨にシンにおねだり出来ないわよ。
 ましてや人前でなんて。


 シンもシンよ!
 頼まれたら誰の胸でも揉むの!?
 流石に腹が立ったんでシンの頬を思いっきり引っ叩いちゃった。


 それで部屋で涙ぐんで落ち込んでたんだけど、メイリンが慰めてくれた。
 やっぱり持つべきものは優しい妹よね。
 涙ぐむアタシの背中を優しく摩りながら、嫌な顔一つせずに愚痴を受け止めてくれた。
 アリガト、メイリン。
 お陰でだいぶ落ち着いたわ。


 落ち着くとさっきのアタシの行動を思い出してしまう。
 どうしよう? アタシったらシンの事、思いっきり引っ叩いちゃった…
 乱暴な女だと思われてないかな…?


 そんな心配は杞憂だった。
 やっぱりシンは優しい。
 アタシが落ち込んでるのを察してか、ちゃんと部屋に来てくれて。
 その夜はいっぱい可愛がってもらっちゃった♪
 惚れ直すぜコンチキショウ!
■■■
 と思ったのも束の間。
 艦内ではシンの悪い噂でもちきり。


 ―――曰く、初対面の美少女の胸を揉みしだいた。


 アタシ、昨日のデートの事は誰にも話してないわよ?
 メイリンに相談しただけなんだから。
 って事はなに?
 シンってば、あのステラって言う娘以外にもそんな事してたの!?
 昨日のも偶然じゃ無かったって言うの?
 酷いっ!
 酷いじゃない!
 シンを目の前にした時、涙腺が一気に緩んだのか、涙が溢れて止まらなくなった。
 混乱しちゃって、アタシはそこが何処だったのか、シンに何を言ったのか全く覚えてない。
 ようやく落ち着いて、そこが格納庫だって事に気付いて急に恥ずかしくなった。
 ひょっとして大勢の人に見られてた?
 うっわー恥ずかしい!
 とりあえずそれは置いといて。
 ひょっとしてアタシって今、シンの暖かい胸に抱きすくめられてる?
 あの他人に壁を作ってるシンが、人の多い格納庫で、アタシの事を抱きしめてくれてるんですよ?
 これって凄くない!?
 気の抜けちゃったアタシは、安心したのか眠くなっちゃってそのまま寝ちゃった。
 …やっぱりアタシはシンが好き。
■■■
 シンに妹ができた。
 あのアタシの天敵、ステラちゃんがそうだ。
 なんでも酷い病に掛かってて、ちょっと言動がゆるいのもそれが原因なんだそうだ。
 アタシとしても、シンが普段浮かべる寡黙な表情の裏側にマユちゃんって言う亡くなった妹が影響してるって理解してたから、シンに妹ができるのは良い切欠になると思うんで賛成なんだけど…
 よりによって、ステラちゃんってのがねぇ…
 微妙だ。
 あの娘のシンに対するスキンシップって兄妹の限度を越えてると思わない?
 シンの前だって言うのに裸で風呂から出てくるし、シンと一緒の布団で寝ようとするのよ!
 シンはシンで妙にステラに甘いし。
 妹が出来て嬉しいのは分かるけど、彼女としては不満だよ。


 一昼夜に渡る激しい家族会議の結果、ステラちゃんはアタシの部屋で引き取る事にした。
 そもそもいくら軍規の緩いZAFTでも、戦艦で男女が同棲してるのは不味いでしょうし。
 ステラちゃんがシンの妹だって言うなら、アタシの妹も同然だ。
 アタシの事、お姉ちゃんって呼んでも良いよ。


「…ルナ、お姉ちゃん?
 シンのお嫁さんなの?」


 …こやつ、可愛い事を言う。
 侮れん!
 シンもステラのこういうところにやられたのだろうか?
 保護欲がどぱどぱ湧いてくるぜ。


 ともかく!
 この娘に人並みの常識を教えるのが、お姉ちゃんとしてのアタシの義務よね!
 特に羞恥心は念入りに教えこまねば!


 それからアタシとステラちゃん(とメイリン)の共同生活が始まった。
 一緒にご飯を食べて一緒にお風呂に入って一緒に寝る。
 恋敵として見た時は強力なライバルなんたけど、妹として見た時は従順で純粋ですんごく可愛い。
 こんな可愛い妹が欲しいと思ってたところだ。


「ルナお姉ちゃん、おっぱい揉んで」


 …これさえ無かったら。


 一緒のベッドに入ったステラちゃんは偶にそんな事を言う。
 どうやら気に入った人間にだけお願いするらしい。
 今の所、アタシとシンだけらしいんだけど、アタシはそれを素直に喜べない。


 揉んだら今より大きくなっちゃうじゃない!
 アタシに敵に塩を送れって言うの!?


 …結局、この娘は子供なのだ。
 良い意味でも、悪い意味でも。
 たまたまおっぱいを揉んでもらう事を気に入っちゃっただけで、本当は家族とのスキンシップが欲しいんだと思う。
 だからアタシはステラちゃんの頭を胸に抱いて寝てあげる。
 母親役は嫌だけど、お姉ちゃんとしてこれくらいのサービスは良いよね?


「ん………
 ルナお姉ちゃんのおっぱい吸いたい」


 ――――――え゛っ!?


 うわっ! ちょっ! パジャマ捲くらないで!!


「あんっ!」


 くわえ込まれた。
 体勢が不利だぜ。
 懐に潜り込まれた状態からの攻撃じゃあ防ぎようが無い。
 シン、ゴメンね。
 アタシ、貴方以外の人間におっぱい許しちゃった…


 だけどそんなステラちゃんの行動は、あくまで愛情表現の域を出る事も無く。
 お乳が出る訳じゃないおっぱいを一心に吸ってるステラちゃんに、愛情にも似た感情が湧いてくるのが分かった。


「…今日だけなんだからね」


 これが母性本能って奴なんだろうか?
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅
「ショーン下がって!
 ゲイルはアタシの左に!」


 左腕部に被弾したショーンのゲイツRを後方に下がらせ、ゲイルとアタシで前衛に立つ。
 敵は先日強奪された機体、カオスとアビス。
 まんまと敵の策に嵌ったアタシ達は、出会い頭にショーン機が被弾してしまった。


『どうする嬢ちゃん。
 数では勝るが戦力的にはこっちが不利だぜ!
 ショーン機も被弾しちまったしよぉ』


『…すまない。 油断が有ったとは言わないが、足を引っ張ってしまう事になった』


「気にしないでくださいショーンさん。
 …ねえ、ショーン、ゲイル。
 アタシの指示に命を預けてくれる?」


 作戦は有る。
 だけど、年齢的にはショーンさんもゲイルさんもアタシより上の人だ。
 アタシみたいな小娘の言う事を聞いてくれるのか、それだけが心配だった。


『…ああ、ルナマリアの指示に従おう。
 片腕の役立たずでも構わないならね』


『一応、アンタは俺達の隊長さんなんだしなあ!
 ルナマリア、赤色のザクは3倍凄いんだろ?
 いっちょ頼むぜ!』


 だから、そんな返事が返ってきた時、戦闘中だって言うのに嬉しくなってしまった。
 きっと100%信頼されてる、って訳じゃないだろう。
 アタシはアカデミー出たてのヒヨッコに過ぎないんだし。
 それでも信用してアタシに命を預けてくれるんなら、アタシはその信用に応えたい。
 だからアタシは考えてた作戦、皆が生き残る為の作戦を告げる。
 例えそれが強奪されたMSを前にして執るには後ろ向きな作戦だったとしても。


「聞いて、アタシ達は守勢に徹します。
 良いですか? 決して迂闊にこちらから攻撃にでない事。
 フォーメーションは現状維持。
 被弾したショーン機を中心にアタシが右前方、ゲイル機が左前方に配置で。
 付近のデブリやコロニーの残骸を有効に利用しつつ、時間を稼ぐ事だけ考えて!」


『なんだってぇ!?』


『…それで良いのか?』


「ええ。
 こちらにデコイが向けられたって事は、ボギー1は逃げたかミネルバを奇襲している筈です。
 そして、ここに強奪された2機が居る事からおそらく後者。
 アタシ達がデコイだと気付いたこのタイミングを狙って、ミネルバが奇襲攻撃を受けているんじゃないでしょうか?
 本当は直にでも戻るべきなんですが、黙って逃がしてくれる相手じゃありません。
 それに、正面からまともに戦った処でアタシ達の勝率は低いでしょう。
 だからアタシ達はミネルバの事を忘れます。
 アタシ達が心配しなくても、ミネルバにはシンが残っていますし。
 今回、シンがなぜ出撃せずに残ったのか不思議だったんですけど、或いは敵の策を読んでいたのかもしれませんね。
 だから、あちらの心配は必要ありません。
 逆にアタシ達が此処で2機のGを引き止めておく事の方がミネルバにとっても重要でしょう」


『ヒューー♪
 ヒヨッコの癖に結構しっかり考えてるんじゃないか!
 ちょっとばかし惚気くさかったけどよぉ』


『…指示に従おう』


「ありがとうございます!」


 この瞬間、アタシ達3人は1つのチームになれた気がする。
 だけど戦力的に劣るアタシ達に、G2機の相手は困難を極めた。
 でも相手の攻撃には連携が取れていなかった事も有って、付け入る隙は見出せた。
 敵の銃撃はデブリ等の障害物を盾に防ぎ、接近してくる機体には3機で弾幕を張る。
 廃棄されたコロニーの残骸に逃げ込んで時間を稼ぎ、ひたすら負けない戦いに徹したのだ。
 結果、アタシ達は誰一人欠ける事もなく、最後まで耐えしのぐ事が出来たのだった。


 信号弾を確認したのか、撤退していく2機のG。
 強奪された2機のGの奪還って言う任務は果たせなかったけど、アタシの心の中は達成感でいっぱいだ。
 そして、近付いてくるミネルバの姿を確認した時、張り詰めてたアタシの気持ちがやっと緩んだ。
 今回は生き残れたんだ。


 …シン。
 無性にアナタに会いたい。
 何時かシンが寝物語で話してくれた『例え格上の相手だとしても、守りに徹すればそうそう負けるもんじゃない』って台詞、早速役に立ったよ。
 シンは近くにいなくたって、アナタの想いは何時もアタシを包んでくれてたんだね。
 つづく(ぞなもし…)
 後書きみたいなもの


 6話目にして遂に主人公シンの出番無し。
 今回はルナ祭と言う事で。
 さて、今までシン・パートでは痛い処も見せていたルナですが、フォローになったでしょうか?
 …余計に痛いとか言われると泣いちゃいます。


 そして掲示板で噂の2人組、ショーン&ゲイルも初登場。
 内容は100%オリキャラですが。
 有りですか? 無しですか?
 なんかちょっと良いキャラになっちゃったよ… orz



[2139] 7話目。 ライオン娘。
Name: しゅり。
Date: 2006/06/03 21:35
<カガリ・ユラ・アスハ>


 シン・アスカ。
 格納庫で私に向けられた彼の瞳が目に焼き付いて離れない。
 必死に溢れ出しそうになる激情を押さえ込んだ表情、燃え盛る炎を宿したかの様な紅い瞳。
 あの瞳に見詰められた時、私は不覚にもシン・アスカと言う少年の存在に圧倒されてしまった。
 仮にも一国の代表を自任するこの私が、だ。
 それからと言うもの、空いた時間ができると直に彼の事を考えてしまう自分が居る。


 議長から聞かされた彼の経歴は、一国の政治を担う者としてショックだった。
 自分の国を捨てられるのは正直、辛い。
 シン・アスカは何が不満だったのだろう?
 戦後の被災者に対する保障が十分に行なわれる事を、政府は国民に約束していた。
 実際、終戦協定の締結後に我が国を離れた人間はごく僅かなのだ。
 それらの人々にしたところで、外国の親類や知己を頼っての事が大半だと報告を受けている。
 だが、シン・アスカはプラントに知己はいないらしい。
 当然、移住当初は生活の保障すら無かったそうだ。
 にも関わらず、彼は単身オーブを出た。
 オーブに居難い何かがシン・アスカには有ったのだろうか?
 私はそれを知りたいと思う。


 勝手に想像する事は簡単だ。
 例えばシン・アスカと言う少年がオーブを否定している、とか。
 正確に言えばオーブの理念を否定している、と言う事。
 敢えて生活が保障されるオーブを捨て、他国で命の危機に晒される軍人へと身を投じる。
 確固たる信念が無ければとても歩めない。
 それは茨の道、修羅の道だ。


 だけど、格納庫で私を目にしても彼は何も言わなかった。
 私が国を焼いた男の娘だと言う事を理解していただろうに。
 ただ、何かを訴えかける視線を向けるだけ。
 まるで「お前はそこで何をしてるんだ?」と問い掛けるように。
 だから私には分からないのだ。
 いっそ罵倒してくれていたならば、こんなに悩む事も無かっただろう。
 怨まれていた方が楽だ、そんな馬鹿な事を考えてしまったのは生まれて初めてだった。
 相手の意図が読めない事がこんなにも心を掻き乱すなんて!


 彼と話がしてみたい。
 彼の考えを聞いてみたい。
 ただ、彼と言葉を交わす事が今の私には必要な事だと思えた。




■■■




 その願いは直に適う事になった。
 ユニウス7が地球降下軌道を移動中だと言う、衝撃の事実をデュランダル議長から告げられた後の事。
 アスランと食堂の前を通りかかった時に偶然、彼、シン・アスカとすれ違ったのだ。
 私は咄嗟の事で何も口に出す事が出来ず、会釈だけして通り過ぎようとしたシンを見送るしかなかったのだけど、アスランがシンを呼び止めたのだ。
 きっと私がここ数日思い悩んでいるのを知ってくれていたのだろう。


「君は確か、シン・アスカ君だったね?」


「? …ええ、そうですが何か?」


 立ち止まったシンが胡乱な表情で私達を窺う。
 何かを警戒しているかのように。


「議長から君の事を聞いてね、少し君と話がしたいんだが。
 今から構わないかな?」


「! …ええ、構いませんが」


 アスランの口から議長と言う単語が出た時、彼は一瞬だけ苦々しい表情を浮かべた。
 おそらく彼の過去に私達が土足で踏み込んだ事を忌諱しているのだろう。
 だけど直に観念したような表情を浮かべ、拒絶はされなかった。
 立場を笠に切るようで心苦しいが、今の私には彼の心情を慮る余裕は無かった。


 シンを伴って食堂に足を踏み入れると、賑わっていた食堂が一瞬にして静まり返った。
 どの顔も呆気に取られた顔で私達を見ているが、敢えて意識したりはしない。
 場違いなのは重々承知の上なのだ。
 私達が席に付くと時を置かずして食堂に賑わいが戻ったが、何処か白々しいモノだった。
 皆がこのテーブルに意識を向けているのが分かるから。
 でも無理も無いのかもしれない。
 仮にも一国の代表が、自分達の仲間を伴って食堂に現れたのだ。
 意識するなと言うほうが難しい。


 …場所を誤ったな。
 これから行おうとする話の内容を考えると、そう思わざるを得ない。
 今更どうにかなる事でもないが。


「…で、話は?」


「あ、ああ、そうだな。
 まずは自己紹介をさせてもらおう。
 私の名はカガリ・ユラ・アスハと言う」


 私は自分の名を告げる。
 おそらく彼は既に知っているだろうが。
 案の定、私の名前を聞いても彼に目立った反応は無い。


「俺の名はアレックス・ディノ。
 先日は危うい処を助けていただいて感謝している」


 それを察したのだろう、続けてアスランが自己紹介を行なう。
 自己紹介の中にアーモリー1での一件を混ぜるあたり、なかなか狡猾だ。
 感謝している、と言いつつも暗にオーブ代表が乗る機体を狙撃した事実を非難しているのだ。


 だが、それに対するシンの反応は私達の意表を突いた。


「…似合ってませんね」


「「?」」


 あまりに突拍子の無い一言だった。
 彼がアスランの言葉の裏に気付いていれば謝罪されただろう。
 気付いていなければ謙遜していたかもしれない。
 だが、それのどちらでもなかった。


 どういう意味だ?
 アスランの一体何が似合ってないと言うんだ?


「! …まさか、俺の正体に気付いているのか?」


 ぼそりとアスランが呟く。
 その事実が意味する事を知って危うく私は声を上げそうになった。


 シンがアスランの正体に気付いている。
 まさか、と言う思いが強いがシンの表情を見てそれが事実であると確信してしまった。
 シンの瞳は揺るぐ事無くサングラスに隠されたアスランの瞳を射抜いている。
 名を偽るアスランを咎めるかのように。
 そして、それは同時にアスランの非難に対する返答をも意味しているのだ。
 仮にも先の大戦の英雄である貴方が、あの程度の攻撃すら防げないとは思わなかった、と。


 ―――なんて奴だ!


 一国の代表と先の大戦の英雄を前にして、一歩も引く事のない堂々とした態度。
 自分と自分の信念に余程の自信が無ければ取れるものではない。
 彼の底が見えない。




■■■




「ご存知でしょうが、俺の名はシン・アスカです」


 私とアスランが言葉を切り出し兼ねていると、不意にシンの方から会話の突端を開いた。
 正直、先程の発言が無かったかのように振舞うシンの態度に安堵した。


「それで話したい事とは?」


「あ? ああ、すまない。
 実は君の事を議長からいろいろ伺ってね、聞いてみたい事が有ったんだ。
 質問しても構わないだろうか?」


「…構いませんが」


「私が聞きたかったのは君がなぜプラントに移住したのかなんだ。
 オーブは戦災者にじゅうぶんな保障を約束していた。
 君がなぜ生活の保障を放棄してまで国を捨てたのか?
 命が危険に晒される事を承知だろうにZAFTの軍人になったのか?
 聞かせては貰えないだろうか?」


「………………」


 シンは何かを懐かしむように、そして悲しみを押さえ込むような表情を浮かべる。
 その時、私は何時も強い輝きを放っている瞳が揺らいだように感じた。
 今のシンはどこか迷子の子供の様に見える。


 ―――ああ、私は彼の心に踏み込んでしまったんだ。


 無遠慮に質問した自分を恥じる。
 自分の興味を優先させて、シンの心を思いやってやれなかった事に後悔の念を抱いた。
 だが、シンはしばしの逡巡の後、言葉を選ぶように1言だけ紡ぎだした。


「………曲げられないモノが有ったから」


 ああ、そうか、そうだったのだ。
 結局、シンが口にしたのはひどく抽象的な言葉だった。
 だけど、私の胸にストンと落ちるものがあった。


 彼はきっとオーブの理念とは異なる、自分だけの信念を抱いたのだろう。
 ひどく純粋で、そして不器用な男なのだ。
 信念を曲げて生きるほうが楽な事くらい百も承知している。
 例え信念を曲げても誰もシンを非難しないだろう。
 だけどシンはそんな自分が許せないのだ。
 だから誰に頼るでもなく、己の身1つでオーブを去らざるを得なかったのだろう。


 それはオーブの理念を否定する事とは似て非なるものだ。
 オーブの理念を否定するのではなく、新たな信念を抱いて道を別っただけなのだ。
 シンが抱いた信念がどんなものなのかまでは分からない。
 知りたいとは思う。
 だけど、それを聞くのは流石に失礼だ。
 いつか、シンの口から聞かせて貰える日が来るのを待つとしよう。


 格納庫での彼の視線、あれはきっと叱責だったんじゃないだろうか?
 細く切れやすい平和の糸を必死に繋ぎとめる事がオーブの理念に適う事なのか?と。
 私はもっと大局を見るべきではなかったんじゃないだろうか?
 プラントが戦備を増強している、その事実を非難するよりも、何故プラントが戦備を増強する必要が有ったのか?その事を考えてみるべきだったのだ。
 まだまだ未熟だな、私は。
 だけどその事実に気付けた。
 シンと話をできた事だけでもプラントに来た甲斐は有ったと思える。


 今、ユニウス7が地球に降下しようとしている。
 阻止すべく行動するのは当然として、私はその先の事を考えよう。
 世界は再び混乱の渦に飲み込まれるかもしれない。
 だけど、お父様が命を掛けて貫いたオーブの理念を私も貫いてみせよう。


 いつか、シンと私達の歩む道が再び交わる日が来る事を信じて。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 俺は食堂へと向かっていた。
 今夜の夕食はミネルバに配属されたアカデミー同期で集まって食べよう、って事らしい。
 発案者はヨウランだ。
 アイツはこういうイベントによく気が回る。
 アカデミー時代に恐怖の象徴だった俺の友人になった手腕は伊達じゃない。


 …言っててちょっと悲しくなった。


 俺に少しでもヨウランの社交性が有ったらもっと陽気な人生を送れたのになぁ…
 父さん、母さん、目の色を赤色にコーディネートする茶目っ気が有ったんなら、性格の方ももう少しどうにかなんなかったのかなぁ…
 ラテン遺伝子とかそう言ったのは無いんだろうか?


 まあ、そんな事をグチグチ言ってても仕方無い。
 そんな事よりも早く食堂に行かねば。
 あんまり待たせるとルナに怒られるし。
 それになんでも今日はヨウランが整備士仲間を紹介してくれるそうだ。
 ヴィーノって奴らしいけど、新しい友達が増えるチャンスかもしれない!
 やっぱ、ヨウランは良い奴だよ。




■■■




 いざ、これから食堂へ!と言う所で邪魔が入った。
 例のバカップルだ。
 俺が構ってくれるな!って意味を込めて会釈を交わし、食堂に入ろうとしたのに呼び止められたのだ。


「君は確か、シン・アスカ君だったね?」


「? …ええ、そうですが何か?」


 室内なのにグラサンをしたちょっと頭が弱いんじゃないか?と思う男の方が声を掛けて来たのだ。
 しかもちょっと偉そう。
 思わず胡散臭げな目で見てしまった。


「議長から君の事を聞いてね、少し君と話がしたいんだが。
 今から構わないかな?」


「! …ええ、構いませんが」


 いや、本当は全然構う事ないです。
 俺は今から新しいフレンドが増えるかどうか、って言う人生の大イベントなのに。
 …だけど、悲しいかな。
 議長の名前を出されたら俺には断れないじゃないか!
 無碍に断って議長に告げ口をされたらたまったもんじゃない。
 ただでさえZAFTに入隊させられたって実績が有るし。
 インパルスのパイロットに選ばれたのだって議長の口利きが有ったからだってレイが言ってた。
 議長は俺の疫病神に違いない。


 バカップルに連れられて食堂に入ると、賑やかだった食堂が一瞬にして静まり返った。
 う゛っ! 皆、冷たい目で俺を見てる。
 そんな目で俺を見ないでくれよ!
 俺だって本当はそっちに混ざりたいんだ。
 好きでバカップルと一緒に居るんじゃないんだよ!
 約束を破りたい訳じゃないんだ。
 だけど議長が! 議長が! うぅ…


「…で、話は?」


 俺の出会いを潰したんだ。
 しょうもない話だったら許さないからな。


 …って、ルナがこっちに向かって来ますよ。
 ひょっとして俺を此処から連れ出してくれるのか?
 なんて良い奴なんだ!
 流石俺の彼女だな。
 議長もルナが原因で会話を打ち切ったとしたら何も言うまい。
 ルナ! カモーン! 愛してるよ!


「あ、ああ、そうだな。
 まずは自己紹介をさせてもらおう。
 私の名はカガリ・ユラ・アスハと言う」


 その一言でルナの足がピタッて止まった。
 なんで?
 バカップルの女の方が自己紹介しただけじゃないか。
 って、ビデオの巻き戻しみたいにヨウラン達の方に戻ってってるし!
 助けてくれるんじゃなかったの?


「俺の名はアレックス・ディノ。
 先日は危うい処を助けていただいて感謝している」


 絶望した!
 ルナ、君には絶望した!
 ルナだけは俺を助けてくれると思ったのに。
 やっぱり俺を癒してくれるのはステラだけだよ。
 今日は病気の治療で此処に来れなかったけど、君だけが俺の最後の希望だよ。


 それはそうと自己紹介ね。
 えーと、女の方がカガリで男の方がアレックスだっけ?
 それにしても態度悪くない?
 自分から誘ったんだからサングラスぐらい外すのが礼儀でしょ。
 それに何と言うか…


「…似合ってませんね」


 あ。
 思った事をつい口にしてしまった。
 でも正直、ちょっぴり広いオデコが強調されてるみたいで似合ってませんよ。


「! …まさか、俺の正体に気付いているのか?」


 なにやらぼそりと呟いてるみたいだけど、ひょっとして気にしていたんだろうか?
 それは悪い事をした。
 きっとアレックスは人見知りで他人の目をまっすぐ見られない臆病な人なんだ。
 偉そうな口調はその裏返しなんだろう。
 よし、ここはひとつ、俺の方から話題を変えるべきだな。


「ご存知でしょうが、俺の名はシン・アスカです」


 まずは自己紹介。
 議長から聞いて知ってるだろうけど、自己紹介されたんだから返すのが礼儀だろう。


「それで話したい事とは?」


 そして早速、本題に入る。
 俺としてはさっさと話を終わらせて皆の方に混じりたいのだ。
 友人を増やすと言う野望はまだ諦めちゃいないぜ。


「あ? ああ、すまない。
 実は君の事を議長からいろいろ伺ってね、聞いてみたい事が有ったんだ。
 質問しても構わないだろうか?」


「…構いませんが」


 『議長から』と言う部分を問い詰めてみたい気もするが、聞いたら後悔しそうで聞けない。
 君子危うきに近寄らず、だ。
 さっさと質問に答えて打ち切ろう。


「私が聞きたかったのは君がなぜプラントに移住したのかなんだ。
 オーブは戦災者にじゅうぶんな保障を約束していた。
 君がなぜ生活の保障を放棄してまで国を捨てたのか?
 命が危険に晒される事を承知だろうにZAFTの軍人になったのか?
 聞かせては貰えないだろうか?」


「………………」


 答えにくい事を聞く。
 議長は目の前のバカップルに何を吹き込んだんだ?


 プラントに移住したのはアレだ、柄にもなくセンチメンタルに浸ってたからだ。
 ちょっと格好付けて言ってみたら後戻り出来なくなってしまっただけなのだ。


 そして、ZAFTの軍人になった事に俺の意思は一片も無い。
 議長に逆らえなかっただけだ。
 あの時の事を思い出したら悲しくなってきた。


 つまりは…


「………曲げられないモノが有ったから」


 そう言う事だろう。
 1度口にしてしまった事を曲げられなかったのだ。
 親身にプラント移住の手続きをしてくれたトダカさんに向かって今更止めた、とはとても言い出せなかったんだ。
 そして議長の考えは俺に曲げられない。
 つまりはそう言う事なのだ。


「…そうか、いや、聞きにくい事を聞いてしまって悪かった。
 ありがとう、お陰で私も進むべき方向が見えてきた気がする」


 そう言ってカガリと言う女の方はアレックスなる男を連れて行ってしまった。
 ちょっとギラギラしてた目が怖かった。
 って言うか、今の話から見える彼女の進むべき道ってなんだ?
 なんにしても碌なもんじゃない事だけは確かだな。




 つづく(らしいよ)




 後書きみたいなもの


 食堂での会話のシーン、最早原作の面影は微塵も無し… orz
 カガリ成長の巻。
 人の心境を都合の良い方向に無理なく捻じ曲げるのは難しい…
 多少の違和感は見逃してください。


 それにしてもルナやカガリが成長していくのに、全然成長しない主人公って…


 更新ペースは流石に落とします。(と言うか、落ちます… orz)
 とりあえずは週2回を目標に。



[2139] 8話目。 デコッパチ。 別名アスカガ完結もどき。
Name: しゅり。
Date: 2006/06/08 19:43
<アスラン・ザラ>


 格納庫での一見以来、カガリがシン・アスカの事で悩んでいるのは分かっていた。
 でもカガリだってオーブの代表に就任以来、ここまで全てが順調に来たわけじゃ決してない。
 大小様々な目に見える物から見えない物まで沢山の悪意をその小さな身体に受けてきたんだ。
 それでも折れる事なく、背負う事で一心に歩んできたんだ。
 そんなカガリだから、俺は側で支えてあげたい。
 そう思ったんだ。


 だけど、カガリは今、折れようとしている。
 たった一人の少年の瞳に射竦められた、ただそれだけの行為で。
 彼の過去には同情するし、俺達に少なからず非が有るのは認めざるを得ない。
 それでも似たような境遇の国民はオーブにも沢山居るし、もっと直接的な行為に出られた事だって数え切れない。
 カガリはそれを乗り越えてきたんだ。
 だと言うのに、今回に限ってどうしてこうも挫けそうになってしまっているのかが不思議だった。


 …今の俺じゃカガリの力になれない。
 悔しいけど、それが現実だ。
 名を偽り、カガリの側にボディーガードと言う身分で存在しているアレックス・ディノと言う男に、出来る事は何も無い。


 今のカガリに必要なのは俺の慰めなんかじゃない。
 悩みの原因であるシン・アスカとの対話こそ必要だ。
 なによりカガリがそれを欲している。
 短くない付き合いの中で、今の俺でもその程度の事くらいは彼女の事を理解できると自負している。




■■■




 機会は直に訪れた。
 食堂の前で偶然にもシン・アスカと出くわしたのだ。
 会釈をして通り過ぎようとしている彼を、カガリが呼び止めたがっているのが分かる。
 普段の強気なカガリなら迷わず呼び止めただろう。
 だけど弱っている時のカガリが途端にか弱い内気な女の子になってしまう事を俺は知っている。
 いくらオーブの代表だとは言え、鎧を脱げば一人の女の子に過ぎないのだから。
 だから俺がシン・アスカを呼び止めた。
 そういった時にフォローをしてやる為に俺はカガリの側に居るのだから。


 呼び止められたシンは胡乱な表情で俺達を見やる。
 その声色から彼が迷惑がっているのは理解できたが、こちらとしても譲れない。
 そもそもの事の発端はシンなんだし、申し訳ないとは思うが俺にとってはカガリの方が大事なんだから。




■■■




 彼との話は驚きの連続だった。
 彼がカガリの正体に気付いているとは分かっていたつもりだったが、まさか俺の正体にまで気付いているとは思わなかった。
 それを踏まえた上での彼の発言。
 安っぽい挑発に見えてこちらの核心を深く抉る。
 対話の中で彼が発した言葉は数えられるくらい少なかったが、そのどれにも深い意味が込められていた。




 …対話の後、カガリは急に気力を取り戻した。
 いや、取り戻したと言うのは正確じゃないな、落ち込む前以上に強い輝きを放ち始めたんだ。
 彼の言葉がどのようにしてカガリの心に火を付けたのかは俺には分からない。
 だけど、カガリは壁を乗り越えられたんだろう。
 そんなカガリの事を俺は心から嬉しく思う。


 だけど、少しばかり悔しく思ってる自分が居る事も確かだ。
 どうしてカガリを高みに導いたのが、この俺じゃなくて碌に面識も無いシンなんだ?
 俺じゃカガリを導くのに不足だって言うのだろうか?
 それじゃいったい、俺がカガリの側に居る理由はなんなんだ!?




■■■




 寝静まったカガリの瞳から一滴の涙が零れ落ちる。
 まるで過去の弱い自分を洗い流すかのように。
 きっと明日からのカガリは今まで以上に光り輝くのだろう。
 オーブの理念を貫く為に。
 そして何時かはアレックス・ディノなんて人間が必要無い世界へと踏み出すかもしれない。


 …俺は酷い人間だ。
 カガリの成長を喜んでいる自分と、喜べない自分が居る。
 俺一人が置いていかれるようで酷く惨めな気分になる。
 俺はどうしたら良い?
 俺がカガリと共に在る為にどうしたら良いんだ?


『…似合ってませんね』


 ふと脳裏を過ぎったのは昼間のシンの台詞。
 それはアレックス・ディノと言う存在を全否定する言葉。




 …シンの言う通りかもしれないな。
 アレックス・ディノと言う人間はこの世に必要無い存在なんだ。
 俺がこのままアレックス・ディノと言う存在に固執してカガリの側に居ようとし続ける限り、俺は本当の意味で何かを得る事は決して出来やしなかったんだ。
 シンは俺にそう伝えたかったんだろう。
 ならば俺はどうする?
 年下の少年に叱咤されて、おとなしく引っ込むのか?


 覚悟を決めろ!アレックス・ディノ! …いや、アスラン・ザラ!!
 例え進む道が茨の道だったとしても、己の道を進まない限り本当にゴールは見えてこないんだ。
 必要なのは覚悟だ!確固たる信念だ!!
 お前より年下の少年が、お前よりも早くその道を歩みだしてるんだぞ!
 今こそ偽りの殻を脱ぎ捨てる時なんだ!




 …シンは強いな。
 俺が母上を失った時は安易な復讐の道を選んでしまったって言うのに。
 俺がようやく辿り着けたスタート地点を、迷う事なく進みだしたって言うんだから。


 カガリ…俺は俺の道を歩むよ。
 例えお前の側に居られなくなったとしても。
 俺が居たいのはお前の側なんかじゃなかった。
 俺が居たいのはお前の隣なんだ。
 その道の途中で、君の道と違う道を進む時が来るかもしれない。
 でも、目指す終着点はきっとお前と変わらない筈さ。
 だから俺は迷わず進むよ。




■■■




 艦橋に足を踏み入れた俺をミネルバの乗員が出迎えてくれた。
 と言っても彼等はユニウス7破壊任務の為だけにそこに居るのだけれど。
 就寝時間を過ぎていると言うのに議長までも艦橋に詰めている。


 デュランダル議長のそういった姿勢は素晴らしいと思う。
 議長と言う身分でありながら前線に在ろうとするのは、或いは愚かな事なのかもしれない。
 だけど俺はその姿勢に彼の誠実さを感じるし、尊敬すべき点だと考えている。
 或いはそれが、カガリと共通する在り方なのだからかもしれない。


 俺はグラディス艦長にMSを貸して貰えないかと願い出た。
 それが無茶な願いだと言う事を俺も承知している。
 案の定、返答は「民間人にMSは貸し出せない」と言う当たり前の内容。
 確かにアレックス・ディノは民間人だ。
 だけど!
 だけど、今からの俺はっ!!


「…タリア、すまないが議長権限と言う事で彼にMSを貸してやっては貰えんだろうか?
 責任は全て私が取る」


 俺が葛藤を口にする寸前、思いも掛けない言葉が議長の口から飛び出した。


「議長!?」


「確かこう言った場合、議長権限の方が上だったと思うんだがね。
 無理を言うのを承知で、ここは私に任せて貰えんかね?」


「…分かりました」


 個人的にはグラディス艦長の意見こそ正論だ。
 だけど議長の提案は俺に取って願ってもない物だった。
 例え議長に借りを作ってしまう事になっても、今の俺にはありがたい。


「そう言う訳だ、君にMSを提供しようと思う。
 なに、正直パイロットは1人でも多い方が良いというのが本音だがね。
 だが、1つだけ確認しておきたい事が有る。
 私がMSを提供する男は、いったい誰なのかな?」


「!?」


 唐突に、思い掛けない質問が来た。
 一瞬、艦橋内に静寂が走る。
 誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。


 デュランダル議長の表情は柔らかい笑みを湛えているが、瞳だけが鋭く俺の一挙手一投足も見逃すまいと研ぎ澄まされている。


 ―――覚悟を決めろ! アスラン・ザラ!


「俺の名はアスラン・ザラ!
 元ZAFTのアスラン・ザラとしてMSをお貸し願いたい!」


「…ふむ、いや、わかった。
 ありがとう、アスラン・ザラ君。
 改めてお願いしよう。
 プラント最高議長としてユニウス7破壊任務への協力をお願いしたい」


「はっ! 了解しました!」


「いや、これで君にガイアを委ねる事が出来る。
 例え強力な協力者とは言え、流石に民間人に貴重なGを委ねる訳には行かないからね」


 デュランダル議長が満足そうな笑みを浮かべてそう締め括った。




■■■




 実戦に投入される前に敵に強奪され、奪還されて戻って来たG。
 そして元ZAFTであるオーブの人間に操縦を委ねられると言う、数奇な運命を辿るG。
 細身で黒い光沢を放つその姿は、何処か自分の身代わりに戦場に散った戦友の愛機に似ている。


「―――ニコル…」


 未熟だった当時の自分を思い出す。
 あの頃と比べて俺は前に進めただろうか?
 進みたいと思う。
 その為に『地球』を意味する名のMSを駆り、地球の危機を救ってみせる。


「思いも拠らないもんだな、人生は。
 だけど、後悔だけは2度としない。
 誰でもない、この俺が!アスラン・ザラがそう決めたんだ!!」


 今は再びその身を漆黒の宇宙に委ねよう。
 例えユニウス7で何が待っていようとも。
 俺が俺で在ろうとする限り、俺は俺でいられるんだから。


「アスラン・ザラ! ガイア出撃する!!」






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 『一期一会』と言う四字熟語を知っているだろうか?
 簡単に説明すると『一生に一度だけの機会を大切にしろ』って意味だ。
 なんで改まってそんな事を言うかと言うと、話はバカップルと分かれた後に遡る。
 思ったよりも短い時間で済んだバカップルとの対話を終えた俺は、意気揚々と新しい出会いの待つルナ達の席に向かったんだ。


「…待たせたな」


 弾む心を抑えて謝罪を述べる。


「う、ううん! ぜ、全然気にして無いから!」


「そ、そうだよな、シンもいろいろ大変だったんだろうし…」


 ???
 なんかルナもヨウランも妙に余所余所しい。
 どこか俺に遠慮してる、って言うか気を使ってるって言うか。


「…どうかしたのか?」


「い、いや! なんでもない!
 そ、それよりもシン、お前オーブの代表にあの態度は流石に不味いんじゃないか?」


 何時も流暢なヨウランまで言葉に滑らかさが足りない。
 はて?
 オーブの代表って何の事だ?


「…オーブの代表?」


「あ、ああ。 ほら!
 カガリ・ユラ・アスハって言ったらオーブのアスハ家だろ?
 獅子の娘って有名じゃん!」


 …そうだったっけ?
 やべ!
 俺ってTVはバラエティと音楽番組しか見ないタイプだから知らんかった!
 仮にもオーブ出身だって言うのにサ!
 って事は知らぬ事とは言え、俺ってば元祖国の偉いさんに不遜な態度取っちゃった訳?
 他にもミサイル打ち込んだりガン飛ばしちゃったりしたから、今更な気もするけど。


「…どうって事ない」


 って、俺なに言ってんだーー!
 皆「おおーー!!」って尊敬の眼差しで俺を見てるよ!
 だって、今更「実は知らなかったんだもん♪」なんて言えねえYO!


「…シン、ゴメンね。
 話、聞いちゃった」


 そんな俺の心のシャウトの事なぞ露知らず、ルナが謝ってくる。
 悲しそうな、辛そうな顔。
 ルナにはそんな落ち込んだ顔は似合わないぜ。
 ちょっと保護欲を掻き立てられてグッとくるもんが有るけど、太陽みたいに元気溌剌な何時ものルナの方が俺は好みだ。
 それにお話の内容なんてアレックスのサングラスの話題と、若かった俺、議長の横暴くらいだしな。
 別に謝られる事でもないと思うんだが。
 だから…


「気にするな。
 ルナに聞かれて俺が困る事なんて何も無い」


 って告げた。
 正真正銘、俺の本音だ。
 だけどステラとの事を聞くのは簡便な!
 それを聞かれると、俺は明日の太陽を拝めない。


「シン…! シン、好き! 大好き!
 でも、アタシじゃ頼りないかもしれないけど、シンの力になりたいって思ってるんだよ?
 シンが悩んでる事、アタシにも相談してくれたら嬉しいな…」


 う゛っ!
 グッとくるじゃないか。
 なんだ? 今日のルナは乙女ちっくモード突入中なのか?


 でも俺が今悩んでる事と言うと、ずばり『ZAFTを辞めたい。 今すぐに』って事なんだが。
 相談しても良いもんなのだろうか?
 確かにルナなら議長にも勝てそうな気がするけど。


 とりあえず、ここは無難に…


「…ありがとう」


 って答えといた。




■■■




 え?
 一期一会の話はどうした?って?
 それはこれからだよ、明智君。


 話はそんな心温まるルナと俺のエピソードの後だ。
 いざこれから新しい友人との出会いを!って思って振り向いたら、そこには不貞腐れてジュースを飲んでるメイリンしかいなかった。
 どうでもいいけどメイリン、女の子なんだからストローの端をガジガジ噛むのはどうかと思うぞ?
 お姉ちゃんの彼氏としてちょっと心配。<お義兄ちゃんとは言えない。


「メ、メイリン、皆はどうしたの?」


 恐る恐るルナが切り出すと…


「あ゛!? 場所も弁えずにラブラブビーム振りまくバカップルに呆れ果てて、当の昔に撤収したわよ!」


 と、『特攻の拓』でしか見ないような言葉使いで睨まれた。


「私だってね、帰っちゃいたいわよ本当は!
 レイ様だって帰っちゃったし。
 でもこんなんでも一応お姉ちゃんなんだから説明するのは私の役目だろうと残っててあげたのよ?
 こんなお馬鹿空間に!」


「そ、そう、ゴメンね?
 お姉ちゃんちょっと舞い上がっちゃってたわ、ハハハ…」


「…ま、いいけどね。
 今頃格納庫ではお姉ちゃんの浮かれっぷりが吹聴されてるだろうし。
 覚悟しといたほうが良いかもしんないわよ」


「ゲッ! そうなの!?
 それはちょっち洒落になんないかも…」


 …確かに洒落にならんがな。
 え? つまり何ですか? 格納庫の皆さんにワイドショー的な話題を提供ですか?
 また俺の悪評が増えそうなヨカーーン!


 増えました。
 ―――曰く、一国の代表を前にしても不遜な態度。
 ―――曰く、ルナは俺にゾッコンLOVE。 実は恋のテクニシャン。


 微妙だ。


 そんな訳でヴィーノとの出会いはお預け。
 果たしてヴィーノと友人に為れる日は来るのだろうか?


 P.S.
 後日、格納庫に行ったら俺のインパルスとルナのザクウォーリアにお揃いの相合傘がペインティングされてました。
 これって地味なイジメじゃない? …ルナは喜んでたけど。




■■■




 ユニウス7への出撃前に格納庫でアレックスと出会った。


「シン!
 改めて自己紹介しよう、俺の名前はアスラン・ザラだ」


 いきなり何を言い出すんだ?此奴は。
 って言うか、お前アレックス・ディノ言うとったんちゃうんかい!?
 と言う思いを込めてビックリ顔を上げると…


「ああ、俺はもう偽らない。
 俺はアスラン・ザラだ。
 シン、お前が気付かせてくれたんだよ…」


 と、すこぶるイイ笑顔を浮かべてガイアの方に行ってしまった。
 ヨウランが言うにはアレックス改めアスランがガイアで出動でするらしい。


 ふーーん…


 で、みんな驚いてるけど、アスラン・ザラって有名人なの?
 とりあえずサングラスを外しても他人の顔を見れるようになったのは進歩だよな。
 俺ってば良い事したかも。




 つづく(も八卦、つづかぬも八卦)




 後書きみたいなもの


 え? 主役はアスランですが?
 なんかギャグ分が少ない。
 次のユニウス7のお話では人が死ぬだけに、もっとギャグ分が少ないかも。
 まあ、シリアスは種組に引き受けてもらおう。
 運命組は気楽にマターーリ進行。


 『シン君の目指せ主人公奮闘記!!』は面白いなぁ~王道を行く!って感じで。
 ちょうど同じような場面なのにこの差はなんなんだろう?
 (力量の差と言われればそれまでですが… orz)


 DVDを見直せば見直す程、自分のうろ覚え知識が浮き彫りに。
 感想板に書かせてもらった件など最たるもの。
 他にも…
  ・アーモリーでルナのザクが故障、宇宙行かず。
   →ルナがカガリとアスランの事を知るのが7話以降に…
  ・格納庫で睨んだ次の瞬間、出撃するはずが何事も無く日にちが変わる。
   →影響は無いか?
  ・7話当時、アスランがサングラス付けてないよぉ…
 などなど。
 みなさん、細かい粗探しは止めましょう。
 作者が泣きます。



[2139] 9話目。 コメディにあるまじきシリアス色。 ここさえ乗り越えれば…
Name: しゅり。
Date: 2006/06/09 19:42
<サトー>


 血のバレンタイン以降、ZAFTへと入隊した兵士の殆どが胸に【復讐】の2文字を刻んでいた。
 友を失った者、家族を失った者、そして愛する人を失った者。
 たった1発の核ミサイルが24万の命を奪い、それに数倍する復讐者を世に生み出した。
 かく言う私も復讐と言う修羅の道を歩む1人である。


 私の愛する妻が、私の愛する子供達が、なぜ核の炎にその身を焼かれなくてはならなかったと言うのだ?
 理由など何も無い、有るはずが無い。
 正当な理由など何も無いままに、ただ焼き殺されたのだから。


 …だが、原因は存在する。
 それは彼女が、あの子達がコーディネーターだったからだ。
 コーディネーターである、ただそれだけの理由で殺されなければならなかったのだ。
 許せるだろうか?
 人として、夫として、父として。
 私はそれらを為したナチュラル共を、許さねばならなかったのだろうか?




 停戦協定が結ばれた時、私は祖国に失望を覚えた。
 なぜ停戦が必要なんだ?
 何を成し得た故での停戦だと言うのだ?
 我々はまだ何も成し得ていない。
 現に地球は未だブルーコスモスなどと言う狂信者共の巣窟のままなのだ。
 血のバレンタインの頃と今とでいったい何が変わったと言うのだ?
 2度とあのような悲劇が起こらない保障が何処に有る?


 …変わっていない。
 何も変われていないのだ。
 もたらされた平和は、何時またあのような悲劇が起こり得るかも分からない脆い土台の上に立っている。
 しょせん、砂上の楼閣に過ぎないのだ。
 なら中途半端なまま、何も問題が解決していないままで戦争を終える事に、果たして意味が有ると言えるのだろうか?
 犠牲になった数多の命に、胸を張って報告する事が出来るとでも言うのだろうか?


 否!
 断じて否!
 このまま戦争が終る事はけっして許されない。
 許されてはいけない。
 それは死んでいった者達への冒涜に他ならないのだから。
 私は許さない。




 …この世界に必要なのは戦争なのだ。
 結局、行き尽くところまで行かねば、人は、世界は何も変わりはしないのだ。
 だから私は、同志達は今日より戦争を再開する。
 じゅうぶんな同志達と物資を揃えるのに2年の歳月を費やしたが、それも終わる。
 今度こそ世界が前に進める事を願って、我々は地球を粛清するのだ。
 それを為し得ると言うのなら、この命、けっして惜しくなどない。
 例え後の世に蛇蝎の如く酷評される事になろうとも一向に構わない。
 私は、私の大儀の為に命を賭したのだから。
 だから、躊躇わない。
 だから、後悔などはしない。


『ユニウス7、移動開始しました』


 オペレーターから報告が告げられる。
 遂に賽は投げられた。
 修羅の道を歩む事を決めたその日からコクピット内に張られた数枚の写真に、しばし目を走らせる。
 写真の中に閉じ込められた笑顔が、嘗ての幸せだった日々の残光を思い起こさせた。


「エヴァ、リノ、そしてマーヤ。
 やっと、やっとお前達の無念を晴らす事ができる…」


 彼女は心の優しい女性だったから、私がこれから行なう行為を知れば悲しむに違いない。


『私達の無念なんてどうでもいいから、貴方は貴方の幸せを見付けて生きて』


 彼女ならそんな事を言うかもしれない。
 だけどお前が、お前達がいない世界で俺は決して幸せには為れないんだ。
 だから、例えそれがお前の願いだったとしても、俺は止まれない。


「さあ行け、我等の墓標よ!
 嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れそれを享受する事を許容させるこの世界を!
 今度こそ正すのだ!」




■■■




 ユニウス7は順調に地球に進路を向けていた。
 だが、決してその航海の全てが順調に進んでいた訳ではない。
 運悪く【メテオブレイカー】なる工作機が配備されたZAFT艦が、比較的近い宙域に存在したのだ。


 新型MS・ザクを駆る工作隊が、我等の大儀を打ち砕かんと、ユニウス7を破壊する為に飛来する。
 我等と同じコーディネーターだと言うにも関わらず。
 道を別った嘗ての同胞が、我等の大儀を阻止せんと立ちはだかる。
 大儀の為だとは言え、嘗ての同胞を討たねばならない事に躊躇いは禁じ得ない。
 だが、我々は既に止まる事を許されないのだ。
 例えその結果、武装されていない同胞を背後から撃ち殺すという残酷な行為に繋がろうとも。




 …戦闘は過酷を極めた。
 最初こそ非武装のMSを相手に優勢を誇っていたが、武装された後続機と合流されてしまうと、忽ち形成は我々にとって不利なものになった。
 残念ながら、もともとMSの性能が違うのだ。
 ZAFT軍が最新型のザクを主軸とするのに対し、我々は先の大戦の遺物であるジンに過ぎない。
 その上、こちらの方が数で劣ると言う状況、致命的だと言える。


 そんな状況下にあって、それでも我々は善戦した。
 もちろん、それには理由が存在する。
 敵機の任務があくまでユニウス7の破壊だと言う事だ。
 彼等にしてみれば、我々MSとの戦闘は任務達成の為の障害に過ぎない。
 逆に言えば、例え我々が1機残らず殲滅されたのだとしても、ユニウス7を地球に落とせたならば、勝者は我等の側なのだ。


 その事実が我々を支えている。
 絶望的な戦力差で、殲滅される事が目に見えていたとしても。
 我々の死が、決して無駄にはならないのだと信じる事が出来る故に。
 例え撃墜されたとしても、敵機が撃墜する為に割いた時間が必ず我等の勝利に繋がって行く。
 元より我等1人残らず今日、この場所で命を捨てる覚悟だったのだ。
 謂わば死兵。
 死を賭した兵の執念、思い知るがいい!




■■■




 途中、戦況は一時混乱した。
 突然、我々ともZAFT軍とも異なる勢力が参戦してきたのだ。
 2機のGと1機のMA、彼等は我が方にもZAFT軍に対しても攻撃を加えてきた。
 まったく予期せぬ事態では有ったが、幸いこれは我が方の有利に働いた。
 彼等の手に拠って、少なからぬ同志が討たれはした。
 だが、彼等の手に拠って破壊されたメテオブレイカーもまた少なからず存在したのだ。
 なにより有利に働いたのは、ZAFT軍のエース機が乱入してきた機体の相手に時間を取られた事だ。


 だが、幸運は決して長くは続かなかった。
 不運な事にZAFT軍のパイロット達は真に優れた精鋭揃いだったのだ。
 パーソナルカラーを許された3機のザク、彼等の腕はどれも半端なものではなかった。
 2機のゲイツRと見事な連携の取り、多対一の優勢な戦況を作り出す事に長けた赤色のザク。
 高速移動・複数のガンバレルによる多方向同時射撃を行なうなど、かなり腕の良いMAを相手にまわしても互角の戦闘を繰り広げる白色のザク。
 そして、2機のGを相手にしてさえ圧倒的な攻勢を誇っている水色のザク。
 どれもが我が方が想像できなかったマイナス因子だ。


 更にその上を行くマイナス因子が存在する。
 ユニウス7の上を縦横無尽に駆け巡る、獣形態への変形機能を備えた黒色のG。
 この機体の所為で幾本ものメテオブレイカーがユニウス7に穿たれ、今やユニウス7はその巨体を真っ二つに砕かれてしまった。


 …事、此処に至り、もはや我々の目的は完遂しえない。
 遺憾ながら地球のナチュラルへの粛清は、その本来の規模を大きく減少してしまう事になってしまったのだ。




 そして今、最狂の存在が私の前に在る。
 このような存在がこの世に在る事が、私には信じられなかった。
 1機のG、たった1機のGに過ぎないのだ。
 だが、白を基調としたそのG1機の為に、我々は2桁を数える同志の命の灯を消されたのだ。
 その雄姿は、敵対する身でありながら畏怖すら覚える代物だった。
 豪雨の様に降り注ぐ銃弾の嵐の中を、無人の野を行くが如く高速で駆け抜けて、両手に持った二振りの大柄な対艦刀を敵機とのすれ違いざまに一閃する。
 そして、その機体の通り抜けた跡には無事な命は一つとして存在しなかったのだ。
 振るわれるその剣筋に一片の躊躇も無く、まさに修羅の所業だと言えるだろう。


 私は畏怖すら感じるその機体へと通信を開いた。
 当初の規模とは比べ物にならないが、既にユニウス7は大気圏への突入を開始している。
 我々は勝てはしなかったが、決して負けたわけでもないのだ。
 私は私の生涯に残された僅かな時間を目の前の機体のパイロットとの会話に費やしたいと思った。
 修羅の道へ堕ちた我等を迷う事なく殲滅してのけた修羅。
 我々とは異なる修羅の道を歩むであろう者の【声】が聴いてみたかった。


「…敵ながら見事な腕だ、Gのパイロット。
 我が名はサトー、今回の件の首謀者でもある。
 最期に貴殿と話がしたい。
 名を伺っても構わないだろうか?」


 既に相手に対する恨みなどと言う、下種な感情は存在しなかった。
 相手が我等の大儀を否定した存在であるにも関わらず、だ。
 我ながら不思議な事だと思う。


『………シン・アスカだ』


「!? 君は…、まさか少年なのか?」


 一言だけ告げられた敵MSのパイロットの名前。
 シン・アスカと言う名の男の声には、どこか幼さを感じさせる響きが有った。
 成人した男性では持ち得ない、純粋さを兼ね備えた声。
 あれほどの修羅の所業をやってのけた相手が、まさか年端も行かぬ少年だと言うのか!?


『………俺は、大人だ』


「! …そうだな、失礼した」


 どこか不機嫌さを混ぜ合わせた声。
 こちらに対する反感の情が込められていると言うのに、どこか好感を覚えてしまう。
 先程の質問は俺が失礼だったのだろう。
 仮にも優秀な兵士である彼を、声だけで一方的に子供扱いしてしまったのだから。
 重要なのは年齢じゃない。
 在り方なのだ。
 むしろ少年の身でありながら、確固たる自分を築いている事は賞賛に値する。
 そういう意味で、彼は大人なのだ。
 であれば、私も彼を大人として遇しよう。


「聞きたい事は一つ。
 貴殿は何の為にその身を戦場に置いておられるか、だ。
 大儀を掲げる我等を屠ったその手際、真に水際立ったものだった。
 是非、冥土の土産にシン・アスカ、貴殿の信念をお聞かせ願いたい」


 それは純粋な興味からの質問だった。
 彼の年齢で修羅の道を歩む、余程の信念が無ければ為しえる事ではない。
 それを知りえるのならば、私は此度の結末、納得できるかもしれない。


 だが、返答は私の満足に値するものとは言い難かった。


『………………他人に聞かせる信念なんか持ち合わせていない』


「………どうしても、か?」


『ああ。
 俺の信念は俺だけが知っていれば良い。
 他人に聞かせるような代物じゃないさ』


「…そうか。 いや、すまなかった。
 だが、これだけは確認させてくれ!
 貴殿は貴殿の信念の為に人を殺す事に迷いは無いか?」


 それは本当に確認の為だけの質問だった。
 答えは聞く前から分かりきっている。
 『YES』だ。
 だが、どうしてもその答えを彼の口から聞きたかったのだ。


 それが、我等の選んだ道だったから。
 修羅の道に堕ち、信念の、大儀の為だけに幾万の無辜の命を奪う道を歩んだ我等の。
 彼もまたその道を歩む、その答えを知りたかった。


 …だが、またしても彼からの返答は私の予想する処では無かったのだ。


『………俺は、信念なんかの為に他人を殺した事なんかない』


「なんだと!?
 だったら貴殿はなんの為に他者の命を奪うと言うのだ?
 信念に拠らず、どうして人を殺める事が出来るっ!?」


『それが俺の任務だ』


「なっっ!!?」


 任務。
 任務だと!?
 我等の大儀を否定してのけた其れが、任務に過ぎないと言うのだと?
 馬鹿な!
 そんな馬鹿な話が有ってたまるか!


「貴殿は任務と言う理由だけで人を殺められるとでも言うのか?
 他者の命を奪う事に任務以外の理由は要らないとでも言うのか?」


『ああ、必要無い』


「そんな馬鹿な!
 貴殿は何を言っている?
 貴殿は他人を殺したいと考えた事が無いとでも言うのか?」


『ああ、無い。
 誰かを殺したいなんて考えた事なんか1度も無い』


「そんなっ『だけど、俺は【戦争】を殺してやりたい!』―――っ!!??」


 …一瞬で頭が冷えた。
 まるで冷水をぶっかけられた気分だ。


 ―――【戦争】を殺す。


 そんな考え、私は思いつきもしなかった。
 妻と我が子を失った私には目の前の復讐で精一杯だったのだ。


 ―――敵わない訳だ。


 敵うわけが無い。
 敵を殺すのに信念を欲さず、戦争を無くす為に修羅に為れる存在。
 目の前の少年は途方も無い大きな存在だ。
 私とは器が違う。


 ああ、そうか。
 【戦争】を殺す。
 【戦争】を殺す、か。
 そうだな、私もその道を歩めば良かったのかも知れないな。
 今ではもう遅すぎるけど。
 エヴァ、リノ、マーヤ、…やっぱり私は間違ってたみたいだ。


「シン・アスカ、貴殿と話が出来た事を感謝する。
 どうやら我々は道を間違ったようだ。
 ZAFT軍の皆さん、後始末を押し付ける事を此処にお詫びしたい」


 どうやら残された時間はもう無いようだ。
 私のジンも、彼の機体も大気圏との摩擦でその姿を赤色に染めている。
 大気圏突入用の装備を持たない私のジンは、既に限界に達しているのだ。


「シン・アスカ、貴殿は貴殿の道を行け!
 例えそれが血に染められた修羅の道だとしても。
 最後までその信念を貫いてみせてろ、【紅蓮の修羅】よ!」


 ―――パパ


 ――――――アナタ


 赤色に染まる視界の中で、薄れ行く意識の中で、最期に愛する人の声が聞こえた。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






『…敵ながら見事な腕だ、Gのパイロット。
 我が名はサトー、今回の件の首謀者でもある。
 最期に貴殿と話がしたい。
 名を伺っても構わないだろうか?』


 大勢が決した頃、敵MSからの通信が入った。
 出処はどうやら目の前のジン。
 戦闘の構えを解いて、国際救難チャンネルで呼びかけてきた。


「………シン・アスカだ」


 しばしの逡巡の後、正直に答えた。
 敵を相手に本名を教えるのは如何なものか?とか考えてしまったのだ。
 後、ちょっと「シャア・アスナブルだ!」と偽名を名乗ってやろうかと考えたりもした。
 でも、どっちにしても後でばれると怖い事になりそうなんで正直に答えたのだ。


『!? 君は…、まさか少年なのか?』


 だと言うのに行き成り少年扱いされた。
 失礼じゃない?


「………俺は、大人だ」


 俺ってば、経緯はどうあれ、もう大人の階段を上っちゃったんだから。
 子供だったと何時の日か思う時が来るのさぁ~♪


『! …そうだな、失礼した』


 あっさり納得してくれた。
 ちょっと拍子抜けだ。
 反論されたら俺が大人な理由を事細かく教えてやろうと思ったのに。
 残念。


『聞きたい事は一つ。
 貴殿は何の為にその身を戦場に置いておられるか、だ。
 大儀を掲げる我等を屠ったその手際、真に水際立ったものだった。
 是非、冥土の土産にシン・アスカ、貴殿の信念をお聞かせ願いたい』


 貴殿ってアンタ、何か俺ってば凄く偉そうじゃない?
 まあ確かに戦闘じゃあ圧勝だったけど。
 いくらチューンナップしてるって言っても所詮相手はジンだしなぁ…
 俺とインパルスの敵じゃない。


 そして何故に信念?
 そういえば俺の信念って何だ?
 俺としては平穏な人生が遅れればそれで良いだけなんだけど。
 しいて言えば『長い物には巻かれろ』か?
 実際、議長に巻きついたんだか、巻きつかれたんだかで今の俺が有る訳だしな。
 …ダメだ、とても他人には言えない。
 恥ずかしすぎる。


「………………他人に聞かせる信念なんか持ち合わせていない」


『………どうしても、か?』


「ああ。
 俺の信念は俺だけが知っていれば良い。
 他人に聞かせるような代物じゃないさ」


『…そうか。 いや、すまなかった。
 だが、これだけは確認させてくれ!
 貴殿は貴殿の信念の為に人を殺す事に迷いは無いか?』


 これまた唐突な。
 さっき1つだけ、って言ったじゃないか!
 ってか、そろそろ大気圏に突入しそうなんですけど。
 のん気に話してる場合じゃ、なくなってきたんじゃないですか?


 とりあえず、質問に答えておこう。
 そして逃げよう。


「………俺は、信念なんかの為に他人を殺した事なんかない」


 『長い物には巻かれろ』なんてしょうもない信念じゃあ人は殺せないしな。


『なんだと!?
 だったら貴殿はなんの為に他者の命を奪うと言うのだ?
 信念に拠らず、どうして人を殺める事が出来るっ!?』


「それが俺の任務だ」


 何を当たり前の事を聞くんだろう?
 任務だからに決まってるじゃないか。
 任務じゃないのに人を殺したら殺人者だよ。
 そもそも軍人になりたくなかったんだよ、俺は!
 それを議長が! 議長が…う゛ぅ。


『なっっ!!?』


 いや、そんな驚く事じゃないでしょ?
 軍人なんだから任務で人を殺すんだ。
 たとえ軍人に成りたくて成った訳じゃないんだとしても。
 じゃなかったら殺されるのは俺の方かもしれない。
 ひょっとしたらルナが死ぬかもしれない。
 そんなのは嫌だ!
 だから任務だと自分を納得させて、人を殺すんだ。


『貴殿は任務と言う理由だけで人を殺められるとでも言うのか?
 他者の命を奪う事に任務以外の理由は要らないとでも言うのか?』


「ああ、必要無い」


『そんな馬鹿な!
 貴殿は何を言っている?
 貴殿は他人を殺したいと考えた事が無いとでも言うのか?』


「ああ、無い。
 誰かを殺したいなんて考えた事なんか1度も無い」


 それは、父さんや母さん、マユが死んだ時でもそうだった。
 オーブでの戦争で家族を失った時、悲しかったさ。
 悲しくない訳が無いじゃないか!
 それが戦争じゃなかったら相手を憎んだかもしれない。
 でも戦争だったんだ。
 相手は軍って言う大きな組織なんだ。
 直接手を下した人だって、それが任務だから実践したんだろうし。
 だから当事者を恨めない。
 恨んじゃいけないんだ。


 俺は戦争が嫌いだ。
 家族を奪った戦争が嫌いだ。
 俺を軍隊に引き込んだ戦争が嫌いだ。
 だから俺が殺したいとすれば、それは…


『そんなっ「だけど、俺は【戦争】を殺してやりたい!」―――っ!!??』


 戦争が無ければ父さんや母さん、マユは死ななくて済んだ。
 戦争が無ければ俺は軍人になんて成らなくても良かったんだ。


 …本当は議長の事もちょっぴり恨んでるけど、それは怖くて言えないしな。


 そんな俺の邂逅を余所に、


『シン・アスカ、貴殿と話が出来た事を感謝する。
 どうやら我々は道を間違ったようだ。
 ZAFT軍の皆さん、後始末を押し付ける事を此処にお詫びしたい』


 って話し出した。
 ZAFT軍の皆さん?
 あ゛っ!
 そういえばコレって国際救難チャンネルだっけ?
 って事はこの通信ってば、全部筒抜けだったりするんじゃあ…


 良かったぁ… 議長の悪口言わなくて。
 危うく死刑執行書にサインする処だったよ。
 知らず知らずでも危機を回避する。
 さすが俺!


 …と言うか、流石にそろそろ熱いんですけど。
 何時の間にやら大気圏に突入しちゃってますよ?
 ミネルバは?
 ミネルバは何処ですか?
 ひょっとしてまたメイリンに通信切られてたってオチですか?
 さすがに俺でも堪忍袋の緒が切れちゃいますよ?


 待ってろよーメイリン!
 俺が無事にミネルバに戻ったら≪検閲削除≫なオシオキしてやるからなっ!


『シン・アスカ、貴殿は貴殿の道を行け!
 例えそれが血に染められた修羅の道だとしても。
 最後までその信念を貫いてみせてろ、【紅蓮の修羅】よ!』


 え?
 勝手に人の将来を血に染めないでよ!
 ってか、修羅の道ってなんなのさ?




 つづく(って言ったじゃないか!)




 後書きみたいなもの


 前回の予告通り、ギャグ分は皆無に。
 そして勘違いも少ないし、コメディ分も少ない。
 暗い、暗いよ!


 サトーさん・パートを頑張りすぎた所為でシン・パートはなんだかおざなり。
 サトーさんのフルネームが分からないよ!
 お陰で自己紹介が少し間抜け。
 サトーさんのフルネーム分かる方、教えて下さい。


 とりあえずシンの人物構成に少しだけでも触れられたんで良しとしよう。
 バッサリと切って捨てた他のキャラ関連のイベントは番外編で触れようかな。


 コメディなのに人が死ぬと言う前例を作ってしまった… orz




 一応、シンのスタンスに触れときますね。
 シンは基本的に軍人が任務で人を殺す事を肯定しています。
 じゃないと軍人は人殺しになっちゃいますから。
 逆に大儀が有ろうと任務でもないのに人を殺すのは殺人に過ぎないと考えてます。
 そして国家が外交の一手段として、戦争を回避しえない事が有り得ると理解しています。
 (安易に戦争を起こそうとするのを肯定する訳ではありません)


 その上で戦争そのものを否定しています。
 なんだか矛盾している気もしますが、戦争なんか無いほうが良いと思ってます。
 家族の件は任務とは別の、たんなる巻き添えに過ぎないんですが、そのような思考の持ち主なんで安易に「連合軍が憎い」「オーブが憎い」とは行かなかったんです。
 そういう事にしといて下さい。


 いろいろと指摘が来そうだなぁ…



[2139] 10話目。 そろそろ方向性を定めねば…
Name: しゅり。
Date: 2006/06/16 22:02
<タリア・グラディス>


「艦長! シンが出撃を拒否しています!」


 数日に及ぶ追撃の結果、ミネルバはボギー1を捉える事に成功した。
 私は早速MS隊に出撃を命じたんだけど、メイリンからは在り得ない報告が上がったきた。
 パイロットが出撃拒否!?
 いくら規律に緩いZAFTだと言っても、軍には違いないのだ。
 正当な理由も無しに、1パイロットが己の意思で出撃を拒否する事など許される訳が無い。
 だから私は、


「そんな馬鹿な事が認められる訳無いじゃない!
 メイリン、いいからシンに出撃要請を続けなさい!」


 って再度、出撃を要請する。
 思わず怒鳴ってしまって、メイリンには可哀想だったけど。


「はっはい!
 ………………ダメです!
 今は出撃できない、の一点張りですぅ」


 返ってきた答えは変わらず。
 それは予想通りの内容でもあった。
 あのシンが出撃拒否したのだ、そう簡単に考えを覆すとは思えない。
 だけど、私はこの艦の艦長としてそれを認める訳には行かない。


「…いいわ、回線をこっちに回して!
 私が説得し「タリア」…なんでしょう議長?」


 自ら説得にあたろうとしたところで、横槍が入った。
 それもオーブの代表と席を並べていた、プラントの代表直々に。


「ちょっと良いかね、オペレーターのメイリン・ホーク君だったかな?
 シンは『今は』出撃できないと言ったのだね?」


「はっはい。
 訳有って『今は』出撃できない、との事です」


「ふむ、なるほど。
 なら彼は『何時』なら出撃できるのだろう…
 タリア、すまないがシン・アスカの出撃拒否を認めてやっては貰えないだろうか?
 責任は私が持つ。
 いや、自分が差出がましい口を挟んでいるのは重々承知しているんだがね」


「議長…」


 確かにギルの指示は艦の運営上好ましいものではない。
 例え、評議会議長の権限が一艦長のソレより大きいのだとしても。
 戦闘中の艦の運用に、ましてや1パイロットの出撃可否にまで口を挟むなんてもっての他だ。


 実際、議長に近しい立場の人間、オーブのアスハ代表は開いた口が塞がらないって表情を浮かべていらっしゃる。
 当たり前だ。
 シンの出撃拒否には、なんら根拠が示されていないのだから。
 百歩譲って出撃拒否を認めるにしても、それ相応の理由を聞いてからじゃないといけない。
 じゃなければ、もしシンの出撃拒否に正当な理由が無かったとしたら、立場が悪くなるのはギル、貴方なのよ?
 それとも、例えそうなったとしても構わない何かが、シンには有るとでも言うの?




■■■




「…地球、か。
 まさかこんな事がきっかけで訪れる事になるなんて」


 ミネルバでの大気圏突入を決意し、MS隊へと帰艦信号を射出した後、思わずそうこぼしてしまった。
 始めて地球を訪れるって言うのに、隣にギルが居ないから。
 彼は既にボルテールへと移乗してしまったのだ。
 プラントでの治療が必要なステラと言う少女を連れて。
 その事に対して文句が有る訳じゃ無い。
 彼には彼の使命が有る。
 プラント評議会議長として、ユニウス7破砕後の世界を考えるのが彼の仕事。
 そしてユニウス7を破砕するのが私の仕事。
 それだけの事なのだ。
 でも、だからと言って寂しさが無くなる訳じゃない。
 少しくらい不満に感じても構わないでしょう?


「? 艦長、何かおっしゃいましたか?」


「いえ、なんでもないわ。
 それよりもMSの帰艦状況はどうなってるの?」


「はい、ガイアにレイ機、ルナマリア隊3機の帰艦を確認しました。
 残るはインパルス1機のみです」


「メイリン、直にシンを呼び戻して!
 もう時間が無いわ!」


「はっはい!
 分かりま―――
『…敵ながら見事な腕だ、Gのパイロット。
 我が名はサトー、今回の件の首謀者でもある。
 最期に貴殿と話がしたい。
 名を伺っても構わないだろうか?』


 それは青天の霹靂だった。
 国際救難チャンネルを通して、CIC内に見知らぬ男性の声が流れ出したのだ。


「か、艦長! これって!?」


「黙って! アーサー」


 悪いけど今はアーサーに構ってるあげる余裕は無い。
 スピーカーから聞こえた声の男、サトーは自分の事をなんて呼んだの?
 今回の件の首謀者?
 つまりユニウス7を地球に落とそうと企んだ張本人。
 そんな男がこの期に及んで、国際救難チャンネルを使用してまで誰と話したいと言うの?


『………シン・アスカだ』


「んげっ!?」


 同じく国際救難チャンネルを通しての回答に、アーサーが驚愕の声を上げた。
 私はかろうじて声には出さなかったけど、心境は同じ。
 それどころかCIC内の人間全員が同じだと思う。


 ―――よりによってシンなの!? って。


 どういった経緯であの2人が会話する事になったのか、検討も付かない。


 だけど、そんな私達の心の葛藤なんて露知らず、2人の問答はスピーカーを通して聞こえてくる。
 それは決して長いとは言えない、時間にすると数分程度のもの。
 でも深い、とても深い内容だったと思う。




 その問答を聞き終えた時、私はどうしようもなくシンの事を不憫に感じてしまった。
 そして、ギルがシンの事を重用する理由の一端が分かった気がする。


 シンはどうしようもなく人を惹き付けてしまうのだ。
 本人の望む望まないに構わず。
 その容貌が他人の関心を惹き、その言動がまるで張り巡らされた蜘蛛の巣の様に、周囲の人の心を絡め取ってしまう。
 きっとギルも絡め取られてしまったんだと思う。
 そして、だからこそギルはシンの持っている求心力を重要視している。
 シンの優れた求心力、カリスマ性と呼ばれるそれはギルにとって大きな武器になるから。
 でも、だからこそ私はシンの事が不憫なのだ。


『【戦争】を殺したい』


 そんな台詞を口にしたシン。
 だけど、それが決して叶わぬ幻想に過ぎないって事をシンはきっと他の誰よりも知ってる。
 戦争と言うもの。 任務と言うもの。 人殺しと言うもの。 それらを冷静に認識できてしまうが故に。
 それでも言わずにはいられない心の優しい子。
 本来は軍隊なんて野蛮な組織に所属する事に、優しすぎるシンは似合わないのだ。
 だけど人心を掌握できてしまうカリスマ性は、戦場でこそ輝きを増す。
 だからあの子は戦場に居る。




 『紅蓮の修羅』とサトーは評した。
 確かに他を圧倒するその存在感は、他人には修羅に見えるかもしれない。


 何が修羅なものか!


 あの子は本当に心の優しい子なのよ。
 戦場で他人を殺し、傷つかないはずがないじゃない!


 …私にはシンが必死に泣くのを我慢している子供にしか見えない。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 モニターに表示された機体外気温は信じられないくらい高温を示してる。
 具体的な数値? 口に出して言うと余計に熱くなるから言いたくない。
 ただ、コクピットに搭載されている空調だけじゃ間に合わないくらいに機体内気温も高かったりする。


 あ゛ーつ゛ーい゛ーーー… ―――――――――はっ!?


 あまりの暑さに一瞬、意識が飛んでしまった。
 気を付けなければ。
 いくら機体制御は自動で行なってくれるからって、パイロットが意識を失って良い訳が無い。
 そんな事をした日にゃあ、2度と起きれなくなってしまう事間違いなしだ。
 なにせ俺は今、大気圏紐無しバンジー挑戦中 in サウナってな状況なんだから。
 意識を飛ばす=死。


 …そうは言っても暑い訳で。
 パイロットスーツの中が汗だくで大変な事になっちゃってますよ?
 なにか、なにか手を打たねば…


 !
 そうだ、何か楽しい事を考えればいいのだ!


 世知辛い現実に目を瞑って、無事にミネルバに到着した後の幸せを探し出すんだ、俺!
 辿り着く目的さえ有れば、意識なんか失わない筈さ。
 これぞ名案。
 こんな事を思い付くなんて、俺ってば頭が良いのかもしれないな。
 よーし、そうなるの残すは小さな幸せ探し。
 うーん…、ステラとのスキンシップとか、ルナとの裸のお付き合いとか?
 …なにやら思考が18禁な方向に偏ってる気がする。
 でも命の危機って時なんかは、そう言った子孫を残そうとする方向の意欲が活発になるって言うし。
 これで良いのだ。
 だけど、それだと皆様の期待には応えられない気がする。
 皆様って誰だか知らないけど。
 やべっ! 意識が朦朧としてきて訳の分からない戯言が頭に浮かびだしたか?
 早く! 早く幸せな事を探し出さねばっ!


 その時だった。
 俺がその声を聞いたのは。


 おしおきだべぇ~♪


 ?
 はて、何やら聞き覚えの有るボイスが頭の中に響き渡った。
 この声、ひょっとして、どくろべえ様か?
 どくろべえ様が俺におしおきを望んでらっしゃるとでも言うのか!?


 おしおき。
 それはなんて甘美で素敵な響き。
 俺は何か大切な事を忘れていたんじゃないか…


 …そうだ、おしおきですよ!
 俺にはメイリンにおしおきをすると言う野望が有ったんじゃないか!
 いや、決してメイリンにおしおきがしたい訳じゃない。
 むしろ辛い。
 だけど、謂わばこれは愛の鞭なのだ。
 愛するルナの妹に対する、そう、将来のお義兄さんとしての義務なのだ。
 俺にはメイリンにおしおきする義務が有る、…筈だ。


 ありがとう、どくろべえ様!
 俺は俺の進むべき道を思い出したよ。
 これで俺はミネルバに帰れる!


 ああ…僕にはまだ、帰る場所が有ったんだね…


 そう言った経緯でメイリンに対するおしおきを検討していたら、何時の間にやらミネルバとの合流に成功していた模様。
 俺は、なんとか一命を取り留めることが出来たのだった。




■■■




 ミネルバに帰艦してMSから降りた時、なんだか格納庫の様子がおかしい気がした。
 みんな、どうしたって言うんだ?
 なんなんだよ、その女子更衣室から無事帰還した勇者を称えるような熱い尊敬の眼差しはっ!?


 …ひょっとしてアレか?
 MSで大気圏突破しちゃった俺の偉業を称えちゃったりしてくれるのか?
 本物の馬鹿がここに居ます!って感じで。
 いや、アレは違うんだ!
 敵とのお話に気を取られてて帰艦しそこなった訳じゃないんだよ?
 無かったんだよ、連絡が!
 俺のMSには何故かミネルバからの帰艦命令が来なかったんだよ!
 俺が己の身の潔白を証明すべく口を開こうとした瞬間、


「シンッ!」


「うぉっと!」


 突然、胸に軽い衝撃を受ける。
 誰かに抱きつかれた。
 まあ、誰かって言っても心当たりは2人くらいしか無いんだけどね、ルナかステラ。
 ほら、案の定ルナだ。
 俺としても短くない付き合いの中で、ルナがどんな性格の女の子なのかはそれなりに理解できてると思う。
 激情型なのだ、彼女は。
 そして、ちょっぴり周りが見えてない。
 だから衆人環視の中だってのに平気で抱きついてきちゃったりする訳で。
 彼氏と致しましては、かなり恥ずかしい。
 突如始まる公開羞恥プレイ。
 逃げ場は無い。


 だけど「諦めたらそこでゲームセットですよ」と昔の偉い人も言っている。
 彼氏として、俺はルナに羞恥心ってもんを教えねばなるまい。
 名付けて『ルナマリア・ホーク浄化計画。』
 身体に良さそうなお茶を飲んだくらいでは、どうにもなんないけど。
 だから、


「ルナ、皆が俺達を見てる。
 恥ずかしくない?」


 って、ルナの耳元に小声で囁いてみた。
 我ながらサブイボが立つような台詞だ。
 だけどこれも全部ルナに羞恥心を芽生えさせよう、って言う崇高な試みなのだ。
 我慢するんだ、俺!


 しかし現実は残酷だ。
 そんな俺の苦労は何処吹く風で、ルナの両腕は相も変わらずしっかりと俺の背中に回されている。
 それどころか抱き締められる腕に更なる力が篭るって始末だ。
 どうやら、火に油を注いだだけの模様。


 迂闊っ!


 こりゃあ、ちょっとやそっとじゃ外れそうにないぜ。
 イタリアの守備、…ピスタチオだっけか? みたいに隙が見出せない。
 とは言っても、流石に男の俺が力を込めたりすれば無理矢理に引き離す事は出来るんだけど。
 そんな事をした日にゃあ艦内俺評価が更に下降の一途を辿るのは明らかだ。
 ただでさえここ数日売り注文が殺到している俺の漢気株が、このままでは管理ポスト行きになりかねない。
 なにせ今は格納庫で衆人環視だもんな。
 そのくらいの事は俺にでも想像が付くってもんだ。
 上場廃止だけは免れねばっ!


 …だが、状況は圧倒的に当方の不利だ。
 何時の間にやら整備士さん達からの視線の質も変化。
 馬鹿な勇者を称えるソレから、孫を暖かく見守るお爺ちゃんのモノになってる気がしないでもない。
 可及的速やかに作戦の変更が必要だ。


 よし、ここは『北風と太陽』作戦で行こう!
 突き放しても剥がれないけど、甘やかしたら満足して離れてくれるかもしれない。
 我ながら名案だ。


 …そこ!
 作戦倒れとか言うな!
 俺だって本当は分かってるんだよ、この作戦の結末くらい。
 でもな、思い付いちゃったんだから実行せねばならんのだ。
 例えそれが修羅の道だとしても。
 そうだろ? ララァ…


「ルゥーナ、ほら、皆に見られちゃってる。
 甘えん坊さんで、ちょっぴり恥ずかしいな?」


 耳に掛かった髪を唇で愛撫するように、甘い声で囁いてみた。
 言ってから気付いてしまった、さっきの台詞を更に甘ったるくしただけだった事に。
 そして、俺は男として何か大事なモノを失ってしまった事に。
 当然、


「アタシはシンとだったら恥ずかしくないもん!
 だからお願い、シン、何処にもいかないでぇ!」


 あうぅ…


 やっぱり薮蛇だった。




■■■




 結局、誰も助けてくれず、ルナが満足するまでその場所を動けなかった。
 その間、俺は疲れてるし汗だくだしオマケに立ちっぱなしと言うプチ拷問状態。
 良い匂いと柔らかくて暖かい抱かれ心地は最高なんだけど、今ばかりはシャワーとベッドの方が恋しい。
 いい加減、人間本当に疲れ果てたら立ったままでも寝れるぞ、って事実を証明しようとした頃になって、ようやくルナがそっと離れてくれた。


 ちなみにその頃整備士の皆さんはとっくに仕事に戻って、仕事を終えて、格納庫を後にしてらっしゃる。
 仕事場(格納庫)のド真ん中で男女が抱き合ってると言う、とんでもシチュエーションにも関わらず、だ。
 やはり戦艦の整備士ともなると、肝が据わってる。
 これくらいの事では動じたりしないんだろうか?
 今頃は食堂で、ビール片手に仕事明けの一杯でも楽しんでる頃かもしれない。
 …余談だったな。


「へへへ… シン、ごめんね?
 さっきの話、聞いちゃって。
 シンがどっかアタシの知らない遠くへ行っちゃうような気がして怖かったの」


 はて? さっきの話ですか。
 さっきの話って… ひょっとしてサトーさんとのお話、聞かれちゃってましたか?
 うーーん、でもまあ、聞かれて不味い事は言ってない筈だし構わないか。
 とりあえず、


「…俺は何処にも行かない」


 と無難に答えとく。
 って言うか、俺に何処に行けって言うんだ?


「うん! ずっと一緒なんだからね!
 だから、お願い…死なないで」


 えっ?
 死ぬってなにさ?
 俺ってなにかこの先に死にそうなイベントが有るの?
 今まで死にそうだったイベントは、大抵ルナ絡みなんだけど。
 俺的には「だったら殺さないで」と言いたい処だけど、そんな事を言ったら殺されそうで言えない。
 そんな俺の困惑を他所に、


「分かってるっ!
 シンが戦争を無くそうって頑張ってるのは!
 したくもない人殺しを、任務の為だからって自分を誤魔化して。
 …強いね、シン、強すぎるよ。
 でもね、だから不安なの!
 いつかその強すぎる信念が原因でシンが居なくなっちゃうんじゃないかって!
 お願いだからアタシの側に居て。
 一人で居なくならないで」


 はいいっ!?
 ルナ本当に話を聞いてたのか?
 俺の信念はどっちかと言うと最弱、黄金聖闘士で言うと蟹座のデスマスクだ。
 それに戦争が無くなれば良いとは思うけど、頑張ってるのは別にそんな大層な理由じゃない。
 俺が死なない為なんですもん。
 あと、ルナの事も死なせたくないけど。
 戦争を無くすなんて、そんな大それた事なんか考えた事もないぜ。
 だから勝手に居なくならせないで下さい。
 その辺の意味を込めて、


「ルナの側に居たい」


 って言ってみたんだけど… ふっ、俺としたことが罪な男だぜ。
 ルナのハートに火を付けちまった。


 右腕を絡め取られた俺は、なかば引き摺られるようにしてルナの部屋へと連れ込まれる羽目に。
 部屋では私服に着替えてメイリンが寛いでいたんだけど、俺達の顔を見ると呆れたような表情を浮かべて出て行ってしまった。
 そういえば彼女はいつも何処で寝ているのだろう?
 考えた事も無かったけど、謎だ。


「シン、お風呂の準備できたわよ。
 先に入ってるね」


 おっと、考え事は此処までにしないと。
 悪いけど、此処から先は大人の時間なんで18歳未満のお子様には教えてあげられない。
 残念だ。




■■■




 …え?
 おしおきはどうしたって?
 も、もちろん覚えてましたよ!
 本当さ。
 ちょっとルナのペースに巻き込まれて危なかったけど。
 ここまで引っ張っといて実行しない、じゃあどくろべえ様に怒られてしまう。


 でもね、よくよく考えてみるとメイリンへのおしおきは危険なんじゃないだろうか?
 俺の健康が。
 なんたって相手が悪い。
 俺の彼女の妹なんだよ?
 セクシャルなおしおきでもしようものなら俺は魚達の餌になってしまう事間違いない。
 かといってバイオレンスなおしおきを女の子に行なうほど俺は落ちぶれちゃいない。
 日本生まれの日本育ち、由緒正しき英国紳士なのだから。<間違いまくり。


「…さてと」


 むくりとベッドから身体を起こす。
 もちろん全裸だ。
 時間はまだ深夜。
 隣ではルナが満足そうな表情を浮かべて深く寝入ってる。


「それではおしおきの始まり始まり~」


 誰に告げるでもなく呟く。
 そしてとても寝起きとは思えない、『キュピーーンッ!』って効果音が鳴りそうな視線をある一点に向ける。


 …ここで視線の先がルナだと思った奴! 考えが甘いぞよ。
 別にルナの裸を見るのに夜中こっそり行なう必要なんて無いのだ。
 修行が足りませぬな。


 俺が視線を向けた先、そこにはハンガーに掛けられたメイリンの軍服が有った。




 つづく(姓は敖、名は紹、字は仲卿、号は南海紅竜王。)




 後書きみたいなもの


 超難産。
 タリア・パートが書き直しても書き直してもどうにもならない。
 結局、8割くらい没って決着。
 その割には有っても無くても良い様な内容… orz
 人選間違えたかな?
 更新が遅れたのは全部彼女の所為です。


 そして問題のおしおき。
 頂いた感想を重要視している身としては実行しない訳には行かない。
 ほんの冗談だったんだけどなぁ…
 その割には意味も無く次回へと引っ張ってしまった。
 さて、ここからシンはどんなおしおきを行なうんでしょう?
 正解者には良い事が有るかもしれない…
 まあ、そんなたいしたおしおきじゃないんですがね。


 と言う訳で、今回は繋ぎのお話。
 その割にはステラがさらりと退場しましたが。
 果たしてステラの再登場は有るのか?
 乞うご期待。


 次回か、更にその次くらいでようやくキラが登場するかも。
 予定は未定ですが。



[2139] 11話目。 おしおき、コンプリートゥッ!
Name: しゅり。
Date: 2006/06/16 22:06
<アスラン・ザラ>


「カガリ、話しておきたい事が有るんだ」


 頬を撫でていく潮風が気持ち良い。
 少し高台の位置にいる為だろうか、心持ち風が冷たい。
 これから告げようとしている内容を考えると躊躇を覚えてしまうが、俺は自分の弱い心を叱咤して、肌寒いのか自分に寄り添っているカガリへと声を掛けた。


「ん? なんだ、アスラン」


 下方の甲板ではZAFTのパイロット達が射撃訓練を行なっている。
 テンポ良く響いてくる銃声を思うと、真剣な話をするのに相応しい状況じゃないかもしれないな。
 そんな事を今更ながら考え出した俺に、訓練の様子を眺めていたカガリが俺の方へと顔を向けた。


「オーブに帰ってからの事なんだ。
 カガリには悪いんだが、俺は俺の道を進もうと思う」


 俺の口から出てきたのは、勇気を振り絞った割にはたったそれだけの言葉。
 だけど、俺の言葉を一言一句聞き逃すまいと真摯な姿勢で受け止めていたカガリは、


「………そうか、いや、そうだな。
 確かにこれから先、私の隣にアレックス・ディノなんて男は要らないしな」


 ―――ぐっ!


 自分から言い出した事とは言え、こうもあっさりアレックスだった自分を否定されるのは流石に堪える。
 あまり言葉を飾らないカガリらしいと言えばそれまでだけど。


「…きっかけは、アイツか?」


 少し落ち込みかけた俺に、間を置かず問いかけてくる。
 カガリの視線の先には、射撃訓練の様子を少し離れた位置から見学しているシンの姿があった。
 見学だというのに、一挙手一投足をも見逃すまいと鷹のような鋭い瞳で、レイの訓練を凝視している様子が此処からでも窺える。


 確かにそうかもしれないな。
 これまでのシンの言動には少なからず影響を受けた。
 でも、ああいった常日頃から見せるストイックな姿勢も大きな要因になってると思う。


「…ああ、確かにきっかけはシンだな。
 口の悪い奴だったけど、俺自身、アイツには色々と教えられた気がするよ。
 俺達より歳下だって言うのにな」


「…ああ。
 そうだな、私もアイツには色々教えられた。
 アスランも聞いてたんだろ?
 ユニウス7での通信を。
 …正直、私は冷水をぶっかけられたような心境だ。
 オーブの代表よりも、一兵士のアイツの方がシビアに戦争を考えてるとはな」


 性質の悪い冗談だ、と苦笑を漏らす。
 だけどその表情には、プラントへと向かっていた頃の余裕の無い表情の面影は見られない。
 あの頃と比べて、現状の方がよっぽど事態が緊迫しているって言うのにも関わらず。
 今のカガリには自省できるくらいの幅が窺えるようになった。


 確かに、今のカガリにアレックス・ディノは要らないな。


「でもアスラン、この先どうするつもりなんだ?
 残念ながら今のオーブには、アスラン・ザラと言う人間を許容できる余裕は無い。
 あの時、私の力が至らなかったばっかりに…
 …いや、愚痴は止そう。
 私はこれからオーブを変えていけば良いんだ。
 だけど、こればっかりは一朝一夕には行かないからな」


「ああ、今のカガリならオーブを変えていけるさ。
 それに、今更こんな事を言うのも格好悪い話かもしれないんだけど。
 今すぐ何かをしよう、って決めてる訳じゃないんだ。
 まずはキラ達と会って、じっくりと話をしてみようと思う。
 それからどうするか決めても、決して遅くはないんじゃないか、って思うしな。
 こんな時だからこそ、焦って同じ過ちをおかすのだけは避けなくちゃな」


 それこそが、シンに教えられた1番大事な事なのかもしれないな。
 母上が亡くなった時の自分は、碌に考える事も無く報復へと走ってしまった。
 その結果、待っていたのは親友との殺し合いと、戦友の死、そして父上の死だけだった。
 もしあの頃の俺に今と同じくらい心の余裕が有ったなら、或いは今の世界とは違ってたかもしれない。
 ZAFTのエースパイロットに評議会議長の一人息子、自惚れかもしれないけどあの頃の俺は世界を変えられる場所に居たんだから。


 だけど過去は決して変えられない。
 そして、今は自分の名前を思い出しただけの何も持たない男にしか過ぎない。


 それでも!
 ようやくスタート地点には立てた。
 アスラン・ザラはこれから始まるんだ!






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 天気が良いから野外で射撃訓練、地球ならではの醍醐味だ。
 俺にとっても地球は久し振りなんだけど、やっぱり自然ってのは素晴らしい。
 照りつける太陽、青い空、白い雲、どれもプラントじゃ味わえない。
 優しい潮風の香りに穏やかな波の音、どこまでも続く青い澄んだ海。
 やっぱり地球は人類の故郷で、海は生命の母なんだって事が実感できる。
 それは、俺達コーディネーターだって、根っ子の部分ではナチュラルと何も変わらないんだって事じゃないかな?


 柄にもなく哲学的な気分に浸っていたんだけど、俺の元に射撃訓練を終えたルナがやってきた。
 海上での訓練は風が強くて、ルナの短すぎる違反スカートはチラリズムが満載だ。
 彼氏としては、他の男――ゲイルのおっさんとか――に見えちゃうかも!ってハラハラなんだけど。
 そんな俺の繊細でナイーブな男心なんて、ルナは全然気付かない。
 こんな事が有ると、やっぱり周囲があんまり見えてない性格なんだなぁ、って再認識してしまう。
 俺の気持ちも知らないルナは、無造作に俺の横に腰を下ろす。
 そして、上目使いで覗き込むようにしながら、


「ねえ、シン。
 今日のメイリンなんだけど、なんか何時もより艶っぽくない?」


 って、問い掛けてきた。


 ―――ドッキィーーン!?


 いきなりピンポイントな射撃をするじゃないか、ルナマリアさんよぉ?
 おかげで俺のチキンなハートは、心不全を起こしそうなくらい、熱いビートを刻み始めたぜ。
 なんたって、タイミングの悪い事に俺の視線の先には話題の張本人、レイの射撃訓練を見学してるメイリンの後姿があったのだから。
 え? 地球の素晴らしい大自然に心を奪われてたんじゃなかったのか、って?
 そんなの2分で飽きましたよ。
 俺もまだ若いし、花より団子なお年頃。
 例えるなら花見に来たのに、桜を観ずに酒を呑むってのと同じ心境。
 大自然なんか暢気に眺めてるくらいなら、女の子を観察してる方が有意義ってもんですよ。
 そんな訳で、状況的には彼女と一緒の時に他の女に見惚れてる男、ってな感じ。


 だけど俺も伊達に皆から怖いとか思われてる訳じゃない。
 鉄面皮って言われて落ち込んだ事も有ったけど、こんな場面ではそんな鉄面皮っぷりが役に立つ。
 俺は、まるで今、始めてその事に気付いたってな感じで、


「ん? ああ、言われてみるとそうかもしれないな…」


 なんて飄々と答えてたりする。
 俺はメイリンを見てたんじゃなくて、メイリンの向こうのレイの射撃を見学してたんですよぉ、ってな感じに。
 こんな時ばっかりは表情の出難い顔で良かったとつくづく思う。


 それはそうと、皆が知りたいのは、なんで俺がメイリンを見てたのか?
 どうして今日のメイリンは艶っぽいのか、についてなんだろう?
 もちろん、れっきとした理由が有る。
 とは言っても、別に『俺がメイリンを女にしたんだぜ。 艶っぽいのは大人の女になったからじゃないか?』的な事が有ったわけじゃない。
 そんな命知らずな真似、俺にはとても出来ない。
 若さ故の過ち、そんな言葉は俺とは無縁なのだよ。


 ぶっちゃけて言うと、アレだ。
 例のおしおきの成果を堪能していた訳なんですな。
 詳しくは俺がメイリンにどんなおしおきをしたのかを語らねばなるまい。
 まあ、論より証拠、説明されるより見たほうが早いだろうけど。


 おそらく休憩時間を使って見学に来ていたのか、運の良い事にちょうどメイリンは軍服姿だし。
 そう、俺がおしおきと言う名の悪戯を施してしまった軍服姿なんですな。


 さっきも言ったかもしれないけど、海上は風が強い。
 でも、軍服のスカートは本来タイトなもので、風が吹いてもお色気シーンとは無縁の悲しい代物。
 過去、いったい何人の世の男共が、色気の無い軍服スカートに涙で枕を濡らした夜が有った事か…
 とても数え切れるもんじゃない。
 わざわざ違反改造してヒラヒラミニなスカートにしてるルナは、あくまで例外中の例外なのだ。
 そんな世の男性人の憂いを受けて、漢・シン・アスカが遂に立ち上がった!
 見ろ! あのメイリンのスカートをっ!
 風を受けて勢いよくなびいているスカート本来の在り方をっ!!


 ―――うむ、健康的な太股ですなっ!


 実に素晴らしい光景を提供してくれていた。
 それでこそ俺の苦労も報われると言うもの。


 話は昨日の夜に巻き戻る。
 メイリンの軍服を手にとった俺は、脱ぎ散らかした自分の上着からソーイングセットを取り出した。
 そしておもむろに、糸切バサミにてメイリンのスカートのスリットを深く鋭くしてしまったのだ。
 具体的に言うと5cmくらい切った。
 そりゃあ、もう、迷う事無くバッサリと。
 流石にこれ以上深く切り込んじゃうと、風が吹かなくてもお宝映像流出しちゃうから止めたけど。
 武士の情け、と言うか、そこまで酷い真似は流石に俺でも無理だ。
 そして、もちろん、日頃からジェントルを自称している俺としては、ただ切り裂いただけなんて底の浅い真似なんかしない訳で。
 あたかも最初からスリットはその深さだったんですよぉ、と言わんばかりに裁縫を施して補修もしておいた。
 ミシンも真っ青な匠の技だ。
 切り裂くだけなら犯罪っぽいけど、ちゃんと繕っとけば犯罪臭がしない…と思うし。
 心境的には制服を違反改造する高校生の心境。 …他人のだけど。
 それにしても、我ながら芸が細かいな。


 とは言え、正直、夜中に彼女の部屋で全裸のまま彼女の妹のスカートの裁縫をしてる男って、どうよ?
 とか考えたりもした訳で。


 …だけどそれも全て過去の話だ。
 今は己の成果を堪能する時ではないかね?
 わざわざこの風が強い中、健気にも海上訓練の見学に来てくれてるんだ。
 見学されてるのが俺じゃなくてレイって言うのが、微妙に腹が立たなくもないけど。
 いや、皆まで言うまい。
 今は見せてくれる、って言うんだから、黙って見るのが漢じゃないか?


 俺の視界には勢い良く潮風になびいているメイリンのスカート。
 そして、そのスリットの奥から時折覗く努力の結晶。
 具体的に言うと健康的な太股とか、ピンク色っぽい布地とかがチラチラと。
 そんなお宝映像が白日の下に晒されているんですよ!?


 ああ…自分で自分を褒めてあげたい。
 これこぞが、ザ・おしおき。
 誰も傷付かない完璧なおしおきとは言えんかね?<自画自賛。


 おしおきした俺は、お宝映像を堪能できてハッピー。
 おしおきされたメイリンも、知らぬ間に艶っぽさが増しててハッピー。
 第三者の方々もメイリンが魅力的になる事を喜びこそすれ、不満はないだろうし。
 まさに大団円!


 …それにしても、メイリン、気付いてるよな?
 流石にあんだけバッサリ入ってるんだし、気付いてるよね、ね?
 あまりに普段と変わらない態度に、若干不安になってしまう。
 そう言えばルナも、艶っぽい理由自体は何にも気付いてないみたいだし。


 ………血筋なのか?


 ホーク家は露出とか、そう言った方面におおらかな家系なのだろうか?
 きっとラテン系の血をひいているに違いない。


「…シン、なぁーんか目付きが厭らしい気がするぅ」


 …でも男の挙動には敏感そうだ。




 つづく(と言われても…講談○文庫<古っ!)




 後書きみたいなもの


 短いです、はい。
 おしおき完結の為だけに書いたような話なんでこんなもんかと。
 おしおきの内容ですが、どうだったでしょうか?
 予想された方は居らっしゃいましたか?
 一応、『ルナとの関係に破綻を齎さない』『性犯罪者にならない』『エロい』をコンセプトに捏造してみたんですが。


 それはそうと、またもアスランが前半パートに出張ってます。
 しかも明らかにアスランの方が主人公路線… orz
 だけど案ずる事なかれ!
 せっかくガイアで出撃したのに見せ場は無しだ!
 イザークやディアッカとの絡みもバッサリカットだ!<ディアッカの出番を期待されてた方、ごめんなさい。


 それに、これで晴れてキラ&アスランコンビは無職だ。
 機動戦士ガンダムSEED 改め、 機動戦士ガンダムNEET!
 多分、何処かで誰かが一度は言っただろう台詞。


 次回の更新はWC日本×クロアチアの結果次第。
 日本が勝ったら試合終了後30分以内に更新しますぜ!
 引き分け or 負けの場合は…



[2139] 12話目。 種主人公、なんとなく登場
Name: しゅり。
Date: 2006/06/19 21:32
<キラ・ヤマト>


 どこか変わったな。
 久しぶりにアスランと会って、真っ先にそう感じた。
 なんて言うか、憑き物が落ちたような。
 だけどアスランの最初の一言で僕は軽い混乱に陥ってしまった。
 なんせ、第一声が、


「キラ、カガリの護衛を首になった。
 今日から俺もお前と同じ、NEETだ」


 って、自分の境遇を面白がってるような雰囲気で、とんでもない事を言い出したんだから。
 それにしてもNEETって言うのは酷いんじゃないかな?
 確かに僕は良い歳して何も働いてないんだけど、アスラン、君は僕の事をそんな目で見てたの?


「いや、NEETってのは冗談だよ。
 俺が護衛を首になったのは本当なんだけどな」


 だったらなんで君はそんなに嬉しそうなのさ?
 カガリの側に居られなくなっちゃったんだよ?


 …まさか、今回のプラント行きでカガリと喧嘩しちゃったの?
 もし、そうだったら僕がカガリに話してあげるから自棄を起こすのは駄目だよ!


「勘違いするなよ、キラ。
 別に俺はカガリの事を嫌いになった訳でもないし、喧嘩してるってんでもない」


 だったらなんでっ!?


「カガリと2人で話し合って決めたんだ。
 流石にキラでも知ってるだろ? ユニウス7の一連の出来事を。
 これから先、世界がどうなるかは分からないけど、カガリの側にアレックスなんて人間は要らないんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は本当の意味でアスランが変わりはじめたんだな、と気付いてしまった。
 本当は親友としてその事を嬉しく思わなくちゃいけないんだけど。
 変わっていくアスランと比べて、今の僕はあの頃から何も進んじゃいない。
 1人だけ置いていかれる、って焦りと、アスランへの羨望で素直に喜べない自分が居るんだ。
 そして、自分がそんな負の感情を抱いてるって事に気付いてしまって、更に凹んでしまう。
 今、僕は、アスランの笑顔にちゃんと笑い返せているだろうか?




■■■




 アスランから聞かされたプラントでの一連の出来事は衝撃的だった。
 そして、アスランの話題の、何時も中心に居る少年、シン・アスカ。
 アスランが彼の事を語るのを聞きながら、何処か僕は背筋が冷たくなるのを感じた。


 ―――親善の為に訪れていたカガリとアスランの乗るMSを狙撃した?


 アスラン、それって笑って話せる内容じゃないでしょ?
 殺されかかったんだよ? ZAFTの兵に、オーブの代表であるカガリと、君が!
 なんでそんな風に笑って話せるのさ?


 ―――信念も持ち合わせていないような人間が、任務って理由だけで平気で人を殺す?


 それって機械と変わらないじゃないか!
 他人に言われるがまま人を殺す、そういう事なんだよ?


 ―――戦争を殺したい?


 冗談じゃない!
 どうやったら平和になれるのかを考えもせず、任務だって理由だけで人を殺してる人間が言う台詞じゃないよ。




 なんで?
 なんでアスランはそんなに嬉しそうにシン・アスカの事を喋れるんだ?
 僕達がやってきた事と、まるで正反対の事を行ってるような奴じゃないか!


 わからない。
 僕にはアスランが何を考えているのかが分からないよ。


 だけど、僕が感じた疑問を、意気揚々と帰って言ったアスランには伝えられなかった。
 話の内容があまりにショックで、直に言葉が口から出なかったんだ。
 アスラン、君は何か取り返しの付かない間違いをおかそうとしてるんじゃないだろうか?


 そんな事を何度と無く考え続けていた時だった。
 気が付けば何時もの場所、先の大戦の後に造られた慰霊碑に足を運んでしまっていた。
 此処は何時も人があんまり居ない。
 僕は1人になって考え事をしたい時なんか、気が付けば此処に足を向けている事が多い。
 だけど、今日は先客が居た。


 時刻は水平線の向こうに消えかかった夕日が、世界をオレンジ色で染める頃。
 先客の少年は慰霊碑の前に目を閉じて佇んでいた。
 だけど、それは決して慰霊碑に対して黙祷を捧げているんじゃない。
 なにかを確認しに来てる。
 敢えて表現するならそんな感じだろうか。


 どのくらい時間が経っただろう?
 太陽はその姿の8割近くを隠し、世界に闇が広がろうかと言うその時、少年が目を開いた。


 ―――っ!?


 心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃。
 まるで地獄の炎のようだ。
 薄暗闇の世界のなかで、少年の瞳だけが煌々と輝きを放っている。
 恐ろしいほど美しい真紅の瞳…


 ―――まさか、この少年がっ!?


 目の前の少年の特徴が、アスランから聞いたシン・アスカと言う少年の特徴と見事に一致する。
 彼は先の大戦中、オーブで家族を亡くしたそうだし、それならこの場所に来るのも肯ける。


 …危険だ。
 このシン・アスカと言う少年は危険だ。
 アスランが短期間で魅了されたように、確かに彼には人を惹き付ける魅力が有る。
 幸い僕はアスランから予備知識を得ていたから大丈夫だけど、何も知らずに彼と出会っていたら、僕も彼に魅了されていたかもしれない。


「………」


「………」


「………」


 僕達の間に、なんとも気まずい沈黙が続く。
 彼の視線が、僕の全身を嘗め回すように動いているのが分かる。
 まるで、僕と言う人間を鑑定しているかのように。
 だけど、そんな僕にとって苦痛でしかない時間は、突然終局を迎える。


「キラ…?」


 第三者の介入に拠って。
 多分、日が暮れても戻らない僕を心配した、ラクスが探しに来たんだ。


「キラ…?
 食事の時間になっても戻らないから心配しましたわ。
 どうか、なさいましたか?」


「ううん、なんでもない…」


 気が付くと、シンって少年は慰霊碑から立ち去りかけていた。
 彼とすれ違う瞬間、一瞬だけだけど視線が交錯する。


 ―――っ!?


 何だ今の表情は?
 まるで僕を憐れむかのような瞳は!
 あたかも僕の心の葛藤を知っていて、それを蔑むような視線はっ!


 …怖い。
 理屈じゃないんだ。
 ただ、僕の心が悲鳴をあげている。
 気を付けろ、何時かあの少年はお前の大事なモノを全て奪っていくぞ、って。


 …振り向いてみたところで。
 彼の姿は夜の闇に紛れて、もう何処にも見えなかった。


「キラ、今の少年はどなたですの?」


 そう問い掛けてくるラクスの声が、やけに遠くに感じた。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 俺は慰霊碑の前で、あの日から今日までの波乱万丈だった日々の出来事を思い出していた。
 父さん達が亡くなる前までは、何処にでも有りそうな平凡な人生だったのにな。
 人生の重要なイベントが、ここ2・3年の間に固まりすぎてはいないだろうか?
 今思えば、オーブでの平凡な学生生活を過ごしていたあの頃が嘘みたいだ。
 プラントに渡って、軍人になって、大人の階段上って、殺し合いだって経験した。


 …それにしても、いざ墓前で家族に報告となると、情けない事だらけだよなぁ。
 プラントに渡った経緯は馬鹿にされそうだし、軍人になった経緯は怒られそうだ。
 あまつさえ大人の階段の上り方なんて、恥ずかしくてとても報告できない。
 こういう時は「元気でやってます」って告げとくのがセオリーかな。


「…んじゃ、また来れたら来るよ」


 とりあえず、それだけ告げて目を開ける。
 まだ明るかった筈の景色は、いつの間にか夜の色に染まる寸前だった。
 そう言えば結構長い時間、考え事しちゃったなぁ。
 それだけここ数年のイベント密度が濃かったって事なんだけど。


 そんな事を考えていると、ふと誰かの視線を感じた。
 はて、誰だろう?
 さっきまで誰も居なかったんだけどな。
 気になって視線を向けると、


 ―――うわぁあぁ…


 変な人が居た。
 いや、別にその人自体は変じゃない。
 むしろ男前に分類されるだろう。
 でも、なんて言うか、服の趣味悪すぎ。
 黒色基調で、拘束服っぽいデザイン。
 最悪だ。
 あんな服、いったい何処で買うんだろう?
 俺の服なんてユ○クロでも買えそうな代物だって言うのに。
 まあ、俺ってあんまり金無いしな。


 それに比べてどうだ?
 あんな服って、サイケでパンクな音楽が流れていそうな店とかじゃないと、売ってないんじゃないか?
 多分、ロックなミュージシャン関係の人なんだろうな。
 こんな時間にこんな場所をそんな格好で1人でうろついてるんだ。
 きっと音楽性はサイケでマッドな方向で間違いない。


 ―――只者じゃないぜっ!


 思わずマジマジと見てしまった。
 気を悪くしたのだろうか、眉間に皺が拠っている。
 怒られるかな?
 いや、怒られるだけなら良いんだけど。
 こういう人ってポケットから当たり前のようにナイフとか取り出しそうで怖いんだよな。
 だけど、どうやら俺の心配は杞憂に終わりそうだ。


「キラ…?」


 何処かで聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
 恐らくキラってのは目の前のミュージシャンの名前なんだろう。
 …ミュージシャン?
 そう言えばこの声って!
 既に辺りは夜の闇に包まれていて、顔までは分からないけど。
 間違いない、ミーア・キャンベルって歌手の声だ。
 アカデミー時代、よくマイナーなラジオ局で流れているのを聞いてた俺が言うんだ、間違いない。
 なるほど、どうりで。
 最近とんと新曲を出さないと思ったらオーブに居たんだ。
 あー、すっきりした。
 まるで喉に詰まった魚の骨が取れたような気分。
 そんな俺の思考を余所に、ミーアさんとキラってミュージシャンは、


「キラ…?
 食事の時間になっても戻らないから心配しましたわ。
 どうか致しましたか?」


「ううん、なんでもない…」


 ってな会話を交わしていた。
 うん?
 このキラさんとやらは食事の時間を忘れてこんな所をうろついてたのですか?
 ひょっとして、ひょっとすると…
 一目見たときから怪しい人だなぁとは思ってたけど、やっぱりだ。
 痴呆の気でも有るのかもしれない。
 それなら納得が行くな。
 スタジオとかならいざ知らず、あんな格好でこんな場所をうろついてたし。
 食事の時間まで忘れるなんて、末期だな。
 そうかぁ、少し可哀想な人だったんだな、キラさんって。
 多分、ミーアさんはそんなキラさんの面倒を見る為に、わざわざプラントからオーブに来たんだろうな。
 良い人だね、ミーアさんって。
 さすが俺が影ながら応援していた歌手だけの事は有る。


 いやあ、納得納得。
 さて、全ての謎も解けた事だし、そろそろ俺も帰るか。
 あんまり帰艦時間が遅くなると、またルナに怒られちゃうしな。


 キラさんとのすれ違いざま、少し憐れむような視線を向けてしまったのは此処だけの秘密だ。




 つづく(だっちゃ♪)




 後書きみたいなもの


 誰か僕を止めてください。
 キラの位置付け、大変な事になってしまったヨカーン。
 でもうちのシン君をキラが評価するとこうなってしまう罠。
 なんて言うか、『予備知識が無いのは問題。だけど間違った予備知識が有るのは大問題』って感じ。


 まじめな話、あくまで種運命の主人公はシンだと言い張るなら、ラスボスはデュランダル議長じゃなくてAA組なんじゃないかなぁ…?
 種運命はガンダム史上初めて主人公がラスボスに負けたお話。
 そう表現できないものか?


 なんとなくキラが敵方向に進みそうですが、このお話は基本的にコメディです。
 アンチキラにするつもりとかも無い筈です。
 なんで、キラ&AAファンの方はご容赦を。
 正直、シンとだらだら馴れ合ってるキラを見るのは嫌じゃないですか?



[2139] 13話目。 3歩進んで2歩下がる的な進行速度
Name: しゅり。
Date: 2006/06/29 22:48
<エリカ・シモンズ>


「シン! どこに行ってたの?
 心配したんだからね!」


 そんな声をあげて、私の目の前を女の子が駆け過ぎて行く。
 活発で躍動感に溢れる、なかなか可愛らしい女の子だ。
 シンと言うのはこの娘の恋人かしら?
 ああ、そう言えばミネルバの乗員には上陸許可が出てたんだったわね。
 多分だけど、シンって子は彼女をほったらかして1人で何処かへ遊びに入っちゃった、そんな所かしら?


 そんな事をぼんやりと考えながら初々しいカップルの後ろを通り過ぎようとする私の耳に、それに答える男の子の声が聞こえてきた。


「ん? ああ、ごめんルナ。
 ちょっと墓参りに、ね」


 !


 それは初めて聞く声、だけどどこか懐かしい声だった。
 私の知ってるあの子が、もしも会えなくなったあの日から声変わりしてたんだとしたら。
 きっとこんな感じの声になってたんじゃないかしら?
 ふと、そんな考えが頭に浮かび、私はピタリと歩を止めた。


「墓参り? …あっ!
 ごめんなさい、シン。
 そういえばシンの御両親と妹さんって…」


「ルナが気にする事なんかないさ。
 悲しくないって言えば嘘になるけど、あれから2年も経つんだ。
 それにね、ルナ、墓参りって言っても実際にお墓が有る訳じゃないんだ。
 戦後に建てられた慰霊碑が有るだけなんだけど、一度くらい行っておこうかなって思っただけだよ」



 ―――2年前に両親と妹を亡くして


 ―――ZAFT軍に所属する、つまりプラントに住んでいる


 ―――シンって名前の男の子。



 漏れ聞こえてくる情報から浮かび上がる男の子像は、私がさっき思い描いた男の子にそっくりだ。
 数年前までモルゲンレーテでMSのテストパイロットを務めてくれたシン君に。




 2年前、宇宙から戻ってきた私はシン君の一家を襲った悲劇を知った。
 父親であるアスカ主任とその奥さん、娘のマユちゃんの3人がMSの戦闘に巻き込まれて命を落とした事。
 そして、たった1人だけ助かった息子のシン君もまた、傷心のままプラントへと移住してしまった事を。
 家族ぐるみでお付き合いしていた私は、その事に当時ものすごくショックを受けた。


 部署は違えど同じMS開発に携わった者の1人として、アスカ主任は良きライバルだった。
 謹直な方で、尊敬に値する技術者だった事を覚えている。


 奥さんには息子を持つ母親の先輩として、よく相談に乗っていただいた。
 あのシン君の母親だけあって、おおらかで凄く陽気な方だったのを忘れられない。


 シン君の妹、マユちゃんは可愛らしい女の子だった。
 ちょっとお兄ちゃんっ子で甘えん坊な娘だったけど、家を留守にしがちな私に代わってよくリュウタの面倒を見てくれた。
 リュウタが「マユちゃんと結婚する」って言い出した時は母親としてちょっとショックだったけれど。
 普通は「ママと結婚する」って言ってくれるもんじゃないの?


 そして何時も陽気でお調子者だったシン君。
 お父さんの手伝いでよくテストパイロットをしてくれた。
 ちょうどテスト勉強の都合なんかで、キラ君とは入れ違いに顔を出せなくなったんだけれど。
 OSの未熟なM1でパラパラを踊ったりなんかして、アスカ主任に叱られていたのが忘れられない。
 アサギ達は大爆笑していたんだけれど。




「………シン君?」


 思わずその名が口から零れた。
 もう2度と会えないんじゃないかって、そう思ってたから。
 まさか今日、此処で、再びあのシン君と会えるだなんて夢にも思わなかったんだから。


 私の呼び掛けに女の子と連れ添って歩く男の子は立ち止まり、


「? …えっと、シモンズさん?」


 振り返って私の名を呼んだ。


 ―――ああ、やっぱりシン君だった。


 私の目の前には、幼さの残るやんちゃ少年の2年後の姿があった。
 私の肩までしかなかった身長は、何時の間にか私と同じ視線の高さになっていた。
 悪戯小僧だった面影は、精悍な男のものに変わっていた。
 ジュリに目付きが悪いとからかわれていた眼差しはあの頃のままだけれど。


 ああ、本当に2年ぶりに会えたんだ。
 目の前のシン君に2年と言う短くない月日を感じて、ついつい感極まった私は気が付いたらシンを胸に抱きしめてしまった。


「シン君…おばさん、ずっと心配してたのよ。
 宇宙から戻ってきてシン君の御家族の事を聞いてからずっと。
 シン君は1人でさっさとプラントに行っちゃっうし。
 連絡も全然取れないんですもの。
 どうして私達が戻ってくるまで待てなかったの?
 無理しちゃって、ほんと、馬鹿な子なんだから…」


 もっと大人を頼ってくれれば良いのに。
 もしもあの時、私達家族がシン君の側に居てあげてたなら。
 たった1人で知人の居ないプラントになんか行かせなかった。
 新しい家族の一員として、我が家に迎え入れていたかもしれない。
 だけど、実際はあの時、私はシン君の側に居なかった。
 シン君の力にはなれなかった。
 頼れる大人が近くに1人も居なくて、シン君はどんなに心細かったか分からない。


 シン君が私の息子になってたかもしれない未来。
 そんな空想を思い描きながら、胸に抱いたシン君の癖の強い髪を撫でていると、


「な、な、な、なぁっ!? ちょっとアナタ! シンに何してるんですかー!?」


 隣で見てた女の子が爆発してしまった。
 …確かに彼女の目の前でとるには問題のある行為だったわね。


「あら、ごめんなさいね。
 もう会えないって思ってたシン君に会えたんで、思わず嬉しくなっちゃったの。
 ごめんなさいね、彼女の前だって言うのに」


「え? あ、いえ…」


「ふふふ…
 それにしてもシン君も隅に置けないわね。
 プラントに行ってこぉんな可愛い彼女を作ってるだなんて。
 天国のマユちゃんが知ったら妬いてるんじゃないかしら?」


「え? そんな、やですわ、もうっ! 可愛い彼女だなんて…」


 …シン君の彼女はかなり感情表現のはっきりした女の子らしい。
 彼氏が抱擁されて素直に怒って、素直に謝罪されると素っ頓狂な表情を浮かべ、お世辞に臆面も無く照れる。
 あまりにも明朗なその仕草が、いっそ微笑ましい。
 それにしても、感情表現の仕方がなんとも対照的なカップルね。
 お調子者だった癖に表情に表すのが下手だったシン君とは正反対だ。


「あの、シモンズさん、お久しぶりです。
 それと音信不通にしてしまい、すいませんでした」


「ええ、お久しぶり。
 いいわ、シン君の元気そうな顔も見れた事だし。
 許してあげる」


「ありがとうございます。
 シモンズさんもあの頃と全然変わらないですね。
 リュウタも元気にしてますか?」


「ええ、あの子も変わらず元気よ。
 マユちゃん達に会えなくなっちゃったぁ、って知った時は流石に大泣きしたけどね」


「…すいませんでした」


「いいのよ、一番辛かったのはシン君なんだし。
 プラントに移住したのは聞いてたけど。
 でも、まさかZAFTに入ってただなんて思いもしなかったわ」


 あの天真爛漫だったシン君に、人を殺す職業が似合うとはとても思えないのだ。
 そんな私のその発言に、何故かシン君は遠い目をして、


「…ええ、俺も思いませんでしたよ」


 って、哀愁たっぷりな返事を返してきた。
 それはきっと私の知らない2年の間に、シン君は私が想像もできない事を経験をしてきたって事。
 ああ、シン君はこんな顔もできるようになってしまったんだ。
 2年と言う月日の重みをこんな所にも感じてしまう。


「ところで、シモンズさんが此処に居るんだったらマユラ達も近くに居るんですか?」


 すると、突然シン君が話題を変えるように話を振ってきた。
 これはきっと、これ以上過去のことを詮索されたくない、そんなサインなんでしょう。


 思い出すとあの頃のシン君はあの娘達3人に弟の様に可愛がられてたわね。
 弟分としては気になるのかもしれない。


 …でも、正直、その事には触れて欲しくなかったな。
 シン君に聞かれてしまったら、私は事実を伝えなくちゃいけない。


「…マユラも、アサギも、ジュリも。
 3人ともヤキンでの戦闘で死んでしまったわ」


 例えそれがどんなに辛い事実だったとしても。




■■■




 結局、シン君達とはその後、連絡先を交換して直に別れた。
 連絡先って言ってもシン君は軍艦勤務なんで電話なんかは無理。
 メールのアドレスを交換するに留まった。
 でも、失ってしまったと思ってた繋がりを再び見付ける事が出来た事に私は満足している。


 そんな、久しぶりに心楽しい時を過ごして幸せな気持ちで家路に着く私を、突然誰かが呼び止めた。


「シモンズ主任、【紅蓮の修羅】とはお知り合いだったんですか?」


 振り返ると目の前にはオーブ海軍の軍服を身に纏った男性。
 確かアマギ一尉だったかしら?
 オーブ軍の人がモルゲンレーテに来るなんて珍しいけど、ZAFT艦のドッグ入りで何か用事が有ったのかもしれない。


 それにしても【紅蓮の修羅】とはいったい誰の事かしら?


「あの、いきなりで事情がよく理解できないんですが。
 【紅蓮の修羅】って言うのは誰かの異名なんでしょうか?
 聞き覚えが無いんですが…」


「ああ、確かに突然すぎましたね、すいませんでした。
 先程、主任がお話されていたZAFT軍のパイロット、シン・アスカの事ですよ。
 彼は先のユニウス7破砕作業の行程で【紅蓮の修羅】の異名を得ました。
 諜報から回ってきた情報なんですがね、異名に劣らない活躍だったと我が軍でも噂になってるんですよ」


「あの、シン君が、ですか…?」


 確かにシン君はZAFTの軍人になっていた。
 だけど、さっき話したシン君はあの頃と何も変わってなかった。
 少し大人びた所はあったけれど、異名を貰うような軍人だとはとても思えない。
 どちらかって言うと、今、目の前に居るアマギ一尉の方がシン君なんかよりよっぽど軍人っぽい。
 そんなアマギ一尉の様な軍人達にまで噂されるシン君。
 想像できない。


 そんな私に、アマギ一尉は丁寧に事情を説明してくれた。
 それはまるでオペラのような英雄の誕生譚。
 家族を失った少年が1人、故郷を離れ。
 異国の地で軍へとその身を投じる。
 眠っていた才能を開花させ、エリートの証である紅の衣を身に纏う。
 所属するは最新鋭の船、操るは最新鋭のMS。
 故郷の危機に馳せ参じ、滅亡の魔の手から救う為にその力を振るう。
 押し寄せる敵を華麗な技で翻弄し。
 最後は敵の首謀者との対峙。


「いやぁー、『俺は戦争を殺したい』!
 私も軍人として1度は言ってみたい決め台詞ですな。
 あの歳で軍人のなんたるかを理解してる、なかなか出来るものではありませんよ。
 是非ともオーブ軍に欲しかった…」


 そんな、アマギ一尉が嬉しそうに語るその内容も私にとってはどこか現実感を感じられなかった。
 実際にシン君がプラントへ移住した経緯に間違いは無い事だし、ユニウス7が地球に降下していたのも紛れもない事実だ。
 シン君がその破砕に活躍したのも本当の事なんでしょう。


 だけど、私はそれを信じたくなかった。
 だって、私がシン君がどんな男の子なのかを知っているんですもの。
 【紅蓮の修羅】、そんな恐ろしい異名が似合う子なんかじゃないんだ、シン君は!
 表情を出すのが苦手で、感情表現の不器用な子だけれども、陽気で、やんちゃな何処にでも居る男の子。
 妹思いで、小さな子の面倒を見るのが得意な、心の優しい子なんだ!


 アマギ一尉が嬉しそうに【紅蓮の修羅】について語る度、私は大切な宝物を汚されるようで悲しかった。




■■■




 そんな私個人の出来事とは関係なく、世界は大きく動き出していた。
 ユニウス7降下事件をきっかけに、連合はプラントへと銃口を向けたのだ。
 既に宣戦布告をも行い、あまつさえプラントへの核攻撃まで実行してしまった。
 地上からでも確認できた核の花が、空に咲いたのは記憶に新しい。
 もう、後戻りは出来ないのだ。


 一方的な宣戦布告、不意を付いた形の核攻撃。
 幸い血のバレンタインの様な惨劇は免れたけれど、プラントは決してこの事を許さないでしょう。
 ユニウス7降下事件の経緯はどうあれ、プラントは地球の為に援助の手まで差し伸べていたのだ。
 今回の出来事は差し出された援助の手にナイフを突き刺す行為に他ならない。


 そして、連合とプラントの間に開かれた戦乱の渦は決してオーブを外には置いてはくれない。
 既に大西洋連邦からは同盟の催促が矢の様に来ているらしい。
 プラントから戻られたカガリ様はあくまで中立を貫かれるお積りのようだけれど。
 最近富みに発言力を増しているセイラン家がその志を阻む。
 宰相であるウナト様や他の家の方々は大西洋連邦との同盟に前向きの御様子だ。
 別に私はどちらの主張が正しい、なんて言うつもりはない。
 カガリ様のおっしゃるオーブの理念は尊ぶものだし、ウナト様がおっしゃるオーブの立場も理解できる。


 だけど、大西洋連邦の同盟に参加してしまうと、あの子は敵になってしまうのね。
 そして、あの子にとって生まれ故郷が敵になる。
 せっかくまた会えたって言うのに、その事実が悲しかった。


「シモンズ主任、折り入って頼みたい事が有る」


 そんな時だった。
 オーブを去っていくミネルバを見送り、私室に戻った私の元に―――が訪れたのは。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 キラって名前のロックの人とミーアさんとの邂逅を終え、ミネルバへの帰路に着いた俺は後悔していた。
 サイン貰っとけば良かった!
 聞いた事も無いキラって人のはどうでも良いけど、ミーアさんのサインは欲しかったなぁ…
 サイン色紙もペンも持ってなかったけど。
 せめて握手とか一緒に写真とか撮ってもらっても罰は当たらなかったんじゃないかなぁ?
 ほら、マイナーラジオ局で流れてる頃からのファンなんだし。
 カメラは持ってなかったけど運良くマユの携帯は持ってたし。
 写メとか撮らせてもらえてたらレイに自慢できたのになぁ…


 それはそうと、ミーアさんって芸風変えたんだろうか?
 いや、ラジオだけだったんで容姿は知らなかったんだけどビックリしたよ。
 癒し系の歌を歌ってたのに髪の色がピンクでしたよ?
 まさか彼氏の影響でロックに目覚めたんだろうか?


 そんな事をぼんやり考えながらミネルバの居るドッグへと戻ったところ、タラップに居たルナとばっちり目が合いました。
 あ、怒ってる!
 やべえ、墓参りに行くって言うの忘れてたよ。
 そう言えば昨日の晩、オノゴロWALKER(角○書店出版)を見ながら何処に行きたい?って聞かれた記憶が…
 今思えばあれってデートのお誘いだったんだろうか?
 見事にブッチしてしまった訳ですな、ははは。


「シン! どこに行ってたの?
 心配したんだからね!」


 勢い良く俺の元に走ってきたルナが、その勢いを殺さないまま俺に抱きつく。
 そして、突進がお約束のように鳩尾に入った。


 ぐへっ! 効いたぜ…


 それにしても犬っころのような奴だなぁ、ルナってば。
 愛嬌が有るし、元気が良いし、走ってきて止まる事を考えてない所なんか昔飼ってた犬にそっくりだ。
 舐めるのも好きだしね(謎


 そんな意味も無い親父的思考はを挟みながらも、俺はルナに謝罪の意を告げる。
 こういう時はデートの事を忘れてたって告げるのはNGだ。
 あくまで墓参りに気を取られてて、結果的に… そう思わせるのが大人な会話術。
 伊達にデュランダル議長に酷い目に遭わされ続けて来た訳じゃないのだよ。
 会話のテクニックはしっかり盗んでいたのだ。


「ん? ああ、ごめんルナ。
 ちょっと墓参りに、ね」


「墓参り? …あっ!
 ごめんなさい、シン。
 そういえばシンの御両親と妹さんって…」


 案の定、それを聞いたルナはしゅんとする。
 うっ! 罪悪感が…
 いや、本当に墓参りに行ってたんで嘘じゃないんだけど、なんかデートをすっぽかした口実に墓参りを使ったっぽくて良心が痛む。
 ここはちゃんと慰めてあげねば。


「ルナが気にする事なんかないさ。
 悲しくないって言えば嘘になるけど、あれから2年も経つんだ。
 それにね、ルナ、墓参りって言っても実際にお墓が有る訳じゃないんだ。
 戦後に建てられた慰霊碑が有るだけなんだけど、一度くらい行っておこうかなって思っただけだよ」


 …あんまり慰めになってないかも。
 そう言えばもう2年も経つんだよなぁ…
 正直、悲しいのを思い出す暇が無いほど忙しいかったってのが本音だ。
 オーブではプラントへ渡る為の事務手続きで忙しかったし、プラントでも最初はバイトで忙しかった。
 アカデミーに入ってからはレイに狙われるはルナに襲われるは、悲しんでる暇なんか無かったよ。


 そんな自分の境遇を振り返って心の中でさめざめと涙を流していると、


「………シン君?」


 行き成り声を掛けられた。
 しかも君付けで。
 ミネルバに俺の事をそんな風に呼ぶ猛者は居ない筈なんだけど。
 そんな事を考えながら振り返って見ると、懐かしい顔がそこにあった。
 リュウタのおばちゃんだ。
 とても一児の母親には見えない知的な美人さん。
 しかも俺の知り合いに少ない金髪なんですな。(レイは男だから論外)
 でも、そのまま「リュウタのおばちゃん」って呼んだら昔すごく怒られたから、


「? …えっと、シモンズさん?」


 って苗字で呼ぶ。
 きっと、そんな俺の細やかな配慮に天が褒美を下さったんだろう。
 気が付けば俺はリュウタのおばちゃんの胸の中に居た。
 なんだってー!?
 これはとんだサプライズ!
 しかも流石は人妻、って言うか一児の母。
 ボリュームが小娘共とは比べ物にならんとですよ。
 もちろん俺はそんな天からの贈り物を無碍にする事なんかできず、


「シン君…おばさん、ずっと心配してたのよ。
 宇宙から戻ってきてシン君の御家族の事を聞いてからずっと。
 シン君は1人でさっさとプラントに行っちゃっうし。
 連絡も全然取れないんですもの。
 どうして私達が戻ってくるまで待てなかったの?
 無理しちゃって、ほんと、馬鹿な子なんだから…」


 ってリュウタのおばちゃんの長話の間中ずっと再開を喜んでる!って感じで挟まれ心地をば堪能させていただきました。
 これは俺からも抱きしめ返したほうが良いよな?
 いや、これはマナーなんですよ、抱きしめられたんだから抱きしめ返す。
 それこそが一流のジェントルメン。
 では、早速、と両腕をリュウタのおばちゃんの背中に回しかけた所で、


「な、な、な、なぁっ!? ちょっとアナタ! シンに何してるんですかー!?」


 お約束の様にストップが掛かる。
 なんかものすごくデジャ・ビュを感じるんだが…
 せっかくのサプライズだってのに、なんでこうもTPOが為ってないのかなぁ…


「あら、ごめんなさいね。
 もう会えないって思ってたシン君に会えたんで、思わず嬉しくなっちゃったの。
 ごめんなさいね、彼女の前だって言うのに」


「え? あ、いえ…」


 ってな具合に突然訪れたサプライズは突然去っていった。
 残念なり。


「ふふふ…
 それにしてもシン君も隅に置けないわね。
 プラントに行ってこぉんな可愛い彼女を作ってるだなんて。
 天国のマユちゃんが知ったら妬いてるんじゃないかしら?」


 う゛っ! 思い出したくない事を…
 思わず過ぎ去りし日のマユとの休日を思い出してしまった。
 紅葉舞う公園を走るマユ。
 それを無邪気に追う俺。
 なーんて、馬鹿ップルのような青春の1コマ。


 …今思い出しても恥ずかしい。
 正直俺はそんなピンクな空気を醸し出す真似はしたくなかった。
 ましてや相手は恋人でもなんでもない、妹なんだ。
 だけど俺に拒否権は無い。
 俺が追いかけるのを止めるとマユは間違いなく泣く。
 そりゃあ、もう大声で。
 昔、1度だけぞんざいに扱って酷い目に遭ったし。
 あの時は大変だった。
 やれ「一緒にお風呂に入れ」だの、「一緒の布団で寝て」だの。
 第二次性徴が始まりかけてた俺としては地獄だったのを覚えている。
 だから、


「え? そんな、やですわ、もうっ! 可愛い彼女だなんて…」


 って言うルナの惚気をばっさり無視して話題の変更を図る。
 女性関係の話題は鬼門だ。


「あの、シモンズさん、お久しぶりです。
 それと音信不通にしてしまい、すいませんでした」


「ええ、お久しぶり。
 いいわ、シン君の元気そうな顔も見れた事だし。
 許してあげる」


「ありがとうございます。
 シモンズさんもあの頃と全然変わらないですね。
 リュウタも元気にしてますか?」


「ええ、あの子も変わらず元気よ。
 マユちゃん達に会えなくなっちゃったぁ、って知った時は流石に大泣きしたけどね」


 うっ! リュウタの話題はやぶへびだった。
 そう言えば昔、リュウタに決闘を申し込まれた事が有ったっけ。
 確か「マユちゃんのお婿さんの位置を掛けて僕と勝負しろ!」だったっけ?


 …また要らぬ地雷を踏んだような。


「…すいませんでした」


「いいのよ、一番辛かったのはシン君なんだし。
 プラントに移住したのは聞いてたけど。
 でも、まさかZAFTに入ってただなんて思いもしなかったわ」


「…ええ、俺も思いませんでしたよ」


 まったくですな。
 正確には『入った』んじゃなくて『入れられた』んだけどね。
 思いもしないよなぁ、普通。


 それにしても、なんだろう?
 シモンズさんと会ってから地雷を踏みまくってる気がする。
 ルナはルナで俺の過去の情報を引き出そうと興味津々だし。
 なんだかなぁ…
 思い出してみると、あの3人組もこう言った野次馬な所が有ったっけ。
 女の子って皆こんななのか?
 そう言えばあの3人組は元気なのかな?
 もう良い歳だったからそろそろ嫁にでも行ってないと売れ残る歳だけど。
 それなりに可愛いんだけど性格が性格だったからなぁ…


 だから俺は聞いてしまったんだ。
 それが最大の地雷だとは気付かずに。


「ところで、シモンズさんが此処に居るんだったらマユラ達も近くに居るんですか?」


「…マユラも、アサギも、ジュリも。
 3人ともヤキンでの戦闘で死んでしまったわ」




■■■




「…シン、さっきの話、気にしてるの?」


 すぐ隣からルナの声。
 暗くて顔は見えないけど俺の事を心配してくれているのが分かる。


「…気にしてない、って言えば嘘になるかな」


 まさか3人揃って死んじゃうんだもんな。
 やっぱり戦争は嫌いだ。


「…そう、そうよね。
 ねえ、シンにとってその3人はどんな人だったの?」


 どんな人?
 マユラはショタで、アサギはショタ、ジュリは確か…ショタ。


「………………姉みたいな存在だったな」


 思い出は綺麗なままの方が良いよな。
 よくマユと俺の貞操をめぐって喧嘩してた事なんかは忘れた方が皆の為だ。
 そんな俺の心の葛藤なんかルナは当然知る由も無く、


「………そっか、だったらシン、アタシに甘えても良いよ。
 こうみえてもメイリンのお姉ちゃんなんだし、今だけシンのお姉ちゃんになってあげる」


 なんて大胆発言。
 ああ、ルナは良い女だなぁ、なんでそんな結論に至ったのかはさっぱりだけど。
 それはつまりアレですね? アレ!
 背徳の姉弟プレイって訳ですね?




 つづく(と誰が言ったかね?)




 後書きみたいなもの


 ごめんなさい m(__)m
 2週目にして週2回更新挫折 orz
 全部エリカさんが悪いんですよ、ホント。
 タリアさんと言い、エリカさんと言い、おばさん連中は鬼門です。
 次に更新感覚が開いたらマリューさんを書いてる可能性大w


 実は文章サイズ過去最大なんですが、その割には有っても無かっても良い様なお話。
 って言うか、エリアさんの最後のシーンが無ければシン・パートを丸々没にして番外編でしたね。
 一時、感想板でバレネタの話題が出たんですけど、そもそも偽ってないのにバレも無いだろう、と。
 なんでシンのオーブ知人ネタと併せて過去を紹介しがてら書いてみました。


 …ギャグ分薄いね、多分前話のキラでギャグ分は使い果たしたんだよ。
 …がんばります。



[2139] 番外編の4話。 抜き打ち!第1回ステラカーニバル (前編)
Name: しゅり。
Date: 2006/07/01 20:19
<ステラ・ルーシェ>


 アーモリー1って名前のコロニーにアウルとスティングの3人でやって来た。
 なんでも新しいGを強奪してくるのがステラ達の任務なんだって。
 成功したらネオは喜んでくれるかな?
 ネオが喜んでくれるとステラは嬉しい。
 だから頑張る。


 って張り切ってたんだけど、気付いたらアウルとスティングが居ない。
 どうやら2人とも迷子になったみたいだ。
 スティングは何時も賢そうな事ばっかり言ってるのに肝心な所で役に立たない。
 きっとスティングみたいなのを、良い人止まりで彼女の出来ない軟弱者って言うんだと思う。


 え? アウル?
 アウルはほら、お子ちゃまだから。
 何時もステラに意地悪な事ばっかり言うし、嫌い。
 だから論外。
 恋愛対象になんかしてあげないんだから。


 となると、やっぱりネオかなぁ…
 ステラにお菓子くれるし、優しいし、大人だし。
 変なマスクを付けてるのがちょっと痛いけど、ステラが今まで会った男の中では一番マシ。


 そう考えてみるとステラって男運が無いのかもしれない。
 同じ年頃の男の子は性格が変な人ばっかりだし、他は加齢臭のする軍服着たおじさんばっかりなんだもん。


 あ~あ、何処かに出会った瞬間、全身をピリリッ!って電撃が走るような、格好良い人居ないかなぁ?
 一目で恋に落ちちゃうような、素敵な人と恋に落ちたいなぁ…


 それにしても暇。
 2人が戻ってくるまでする事が無い。
 なんでも2人が迷子になったらその場所から動いちゃいけない、ってのがネオの命令。
 迷子になった2人がステラを見付けられないから、なんだって。
 ステラには良い迷惑だ。
 2人とも本当に手のかかる子供なんだから。


 だけど今日のステラはちょっとだけ悪い子なのだ♪
 潜入任務だって事で、今まで着た事も無いような可愛い洋服を着せて貰ってるんだもん。
 少しくらい冒険しても、ネオだって怒らないよね?


 そんな訳でウィンドウショッピングって奴をしてみたんだけど、何が楽しいのかさっぱり分からない。
 ステラはお金持ってないし、1人で買えない物を見ててもつまんないだけだと思う。
 たった5分で飽きてしまった。
 つまんないし、2人が居なくなった場所に戻ろうかな?って思って元来た道に進路を変えた。


「キャッ!」


 急に進路を変えたのが不味かったのかもしれない。
 知らない人とぶつかってしまった。
 おまけに履きなれない踵の高い靴だったから、ステラはバランスを崩して転びそうになってしまった。


 …あれ?


 何時まで立っても地面は近付いてこない。
 地面に転んで、せっかくの可愛い洋服が汚れる、なんて事にはならなかった。


 …なんで?


 そう思って視線をステラの身体に向けてみると、後ろから回された逞しい腕がステラの事を抱きとめてくれてた。
 ステラに抱きつくような形で、かなり密着してしまっている相手の顔に視線を向けると、紅い瞳と目があった。


 ―――きれいな瞳。


 さっき宝石店のディスプレイで見た紅玉石にそっくり。
 だけど宝石店の紅玉石は冷たい感じだったけど、目の前の瞳は違う。
 ステラを気遣う、優しい、暖かい色で揺れてるんだ。


 思わずその瞳にステラが見惚れてしまってた、その時だった。


 ピリリッ!


 全身に弱い痺れみたいなものが走った。


 え? …これって、もしかして!?


 一目惚れって奴なのかな?
 紅い瞳で格好良いし、ステラの事を助けてくれたし、なにより全身が痺れたんだもん!
 間違い無い。
 ステラは恋に落ちてしまったんだ。


 だけどそれだけじゃなかった。
 更に…


 もゆんっ♪   「あん♪」


 !?
 いきなりステラの全身をさっきのとは比べ物にならない衝撃が走った!
 ピリリッ!なんて可愛い感じじゃなくて、キューンッ!って振るえちゃう感じ。
 ステラを抱きとめてくれたお兄ちゃんが、ステラのおっぱいに当てた手を握っただけなのに、おっぱいの奥の方がなんだかキュンッ!キュンッ!って言ってる気がする。
 ステラがお風呂で身体を洗う時に触ってもなんともなかったのに不思議。


 これは一目惚れなんかじゃない!
 運命の出会いなんだ!
 一目惚れなんかよりもずっと気持ち良かったし。
 絶対間違いないんだから♪



 ネオ、スティング、ついでにアウル、喜んでください。
 そして、今までお世話になりました。
 これからステラは真実の愛に生きます。
 だって、ステラは今日、運命の人と出会えたんだから♪




■■■




 だけど、その後すぐにお兄ちゃんはステラのおっぱいから手を離してしまった。
 隣のお姉ちゃんがお兄ちゃんの腕をロックしてるのと何か関係が有るのかな。
 でもステラはお兄ちゃんから離れるのが嫌。
 ステラのおっぱいをお兄ちゃんが握っている時は暖かくて幸せな気持ちになれたのに、離れると冷たくて寂しい。
 もっとお兄ちゃんにステラのおっぱい揉んでほしい。
 だからステラは積極的に行動に出る事にする。


「お兄ちゃんの左手、気持ちよかった。
 ステラのおっぱい、もっと握って」


 言葉は飾らない。
 って言うか、ステラは口下手だから言葉を飾れないんだ。
 我ながらちょっともどかしい。
 なんだか物凄く直球だった気がするけど、ステラの思いはきっとお兄ちゃんに伝わってるはず。
 だから否定の返事が返ってこない事を良い事に、お兄ちゃんの左手をステラのおっぱいに押し当てた。


 もゆんっ♪   「きゅん♪」


 …やっぱり気持ち良い。




 だけど終わりがやってきた。
 余計な事にスティングとアウルの2人がステラの事を見付けてしまったの。
 ほっといてくれたら良かったのに。
 おまけに迷子になってた癖にステラに偉そうに命令する。
 任務が有るから行かなくちゃいけない!って。
 そんな事よりお兄ちゃんと一緒に居る事の方が、ステラには大事な事なのに。
 だって、ネオに褒められるのも嬉しいけど、お兄ちゃんにおっぱい揉んでもらう方が幸せな気持ちになれるんだもん。


 でも、お兄ちゃんもお姉ちゃんと用事が有るから、って言ってたから我侭は言えない。
 離れたくないけど、しつこい娘だ、ってお兄ちゃんには嫌われたくないし。
 悲しいけどステラの名前を教えて、お兄ちゃんの名前を教えてもらって別れた。


 シン・アスカ。


 それがステラの運命の人の名前。
 2人は赤い糸で結ばれてるんだから、絶対にまた会える筈なんだ!
 今度会った時はもっといっぱいおっぱいを揉んでもらうんだからね!




■■■




 今となってはどうでも良い事なんだけど、Gの強奪は割と簡単に成功。
 こう見えてもステラは優秀なんだから。
 そんな訳で今Gに乗ってるんだけど、ステラのGは真っ黒け。
 正直、色の趣味が悪いと思う。
 どうせだったらシンの瞳の色みたいに真紅だったら良かったのに。


 でもでも、犬さんに変身するからちょっとだけお気に入りなんだ。
 さっそく犬さんに変身してコロニー内をお散歩させなくっちゃ!
 ・・・だけど、大きな建物がいっぱいで走りにくいからあんまり楽しくない。
 犬さんもきっと楽しくないって困ってる。
 それに実は黙ってたんだけど、乗り心地が最悪なの。
 可愛い洋服はスカートがひらひらで操縦しにくいし、ガッツンガッツン揺れるし。
 きっとこれも全部アウルの所為。
 ステラが嫌な思いをする時はいっつもアウルが原因だし。
 間違いない。


 そんな事を考えながら、緑色でヒョットコみたいな顔したMSにやつ当たりしてた時の事。


 ―――やられたっ!?


 いきなり後ろからミサイルをいっぱい打ち込まれた。
 でもステラの犬さんは頑丈だから平気。


 あービックリした。
 ぜったい仕返ししてやるんだからっ!


 そう思って慌てて振り返って、ビックリ!
 ステラを攻撃した悪い戦闘機は、合体してGになったんだもん。


 凄いっ!
 ステラも犬さんなんかよりあれが欲しい!
 変形合体する飛行機なんて格好良すぎるんだもん!
 よーし、アレは絶対ステラが倒すんだから!
 そしてあのGはステラのものにしよう。
 むふふ。
 今日はステラのラッキーデーなのかも♪
 運命の人には会えたし、格好良いGも絶対ステラの物にするんだから!




■■■




「…ステラ」


 誰かがステラを揺すってる。
 うるさいなぁ、せっかく気持ち良く寝てたのに。


「…ステラ、起きるんだ」


 でも凄く優しい声だから許してあげる。
 最近どこかで聞いたような、ステラの大好きな声だ。


 …うん、起きよう。


「ん……… ? アレ? …シン?」


 目を開けるとシンが居た。
 あれれ?
 なんでシンがこんな所に居るの?


「………」


「………」


「………」


 あれ?
 そう言えば此処って何処なんだろう?
 確かステラは変身合体するGと戦ってる最中だったと思うんだけど。
 なんで寝てたの?
 どうしてシンが起こしてくれたの?
 シンが着てる服はZAFTの服なのはどうしてなの?



 うーん…、ま、良いや♪
 またシンに会えたんだから細かい事はどうでも良い。
 そんな事より大事な事が世の中にはたくさん有るんだから。


「シン! また会えたね!
 ねえシン、ステラのおっぱい揉んで♪」


 そう、運命のお兄ちゃん、シンにまた会えたんだもん。
 是非ステラのおっぱいを揉んでもらわなくちゃいけない。
 だってステラの幸せはシンの左手に有ると言っても過言じゃない。


 もゆんっ♪   「あん♪」


 もゆんっ♪   「きゃっ♪」


 もゆんっ♪   「くゆん♪」


 …やっぱり気持ち良いよぉ♪




■■■




 それからは驚きがいっぱいだった。
 ステラが欲しがってたGって、シンのだったんだって。
 そっかぁ… シンのGじゃあ、しょうがないよね。
 ちょっとだけ残念だけど諦めてあげる。


 それに驚きはそれだけじゃない。
 良く分からないけど、シンがステラのお兄ちゃんになるんだって!
 なんか偉そうな人が言ってた。
 言ってる事が難しくてよく分からなかったけど、きっと良い人に違いない。
 だって今まで家族の居なかったステラに家族をくれたんだもん。
 しかもそれがシンなんだから最高!
 シンと家族になれた。
 これでもうシンとステラはずっとシンと一緒。
 家族は一緒に暮らすもんだ、ってネオも言ってたし。


 そしてそして、最後になんだけど、なし崩し的に家族がもう一人増えた。
 シンの彼女のルナが、ステラのお姉ちゃんになってくれるんだって。
 でもルナはお姉ちゃんって言うより、ステラのお母さんみたい。
 ステラよりおっぱいは小さいけど。
 お風呂で女の子の身体の洗い方を教えてくれたし、一緒のお布団で寝てくれるから好き。
 シンと一緒に寝ると暖かくて気持ち良いんだけど、ルナと一緒に寝ると柔らかくて気持ち良い。
 それにルナのおっぱいをくわえながら寝ると凄く落ち着く。
 なんだかステラはルナの赤ちゃんみたい。
 おかしいよね?
 でもとっても幸せな気分。


 …シンもステラのおっぱいをくわえながら寝ると落ち着くのかな?
 今度試してみよう。




■■■




 ノックの音が聞こえたんで外に出たら、部屋の前にはこの前会った偉そうな人が立ってた。
 確かシンとステラを兄妹にしてくれた良い人。
 だから、


「どうしたの?」


 って声を掛けたんだけど、返ってきた返事にはびっくりした。
 だっていきなり、


「やあ、ステラ君。
 いきなりで悪いんだがね、今から私と共にプラントへと向かって貰う事になったんだよ」


 なんて言い出すんだもん。
 あれ? そう言えばこの艦って、そもそも何処に向かってたんだろう?
 あんまりよく考えてなかったけど、別にシンが一緒だったらプラントへ行っても良いや。


「シンも一緒?」


 だけど返ってきた返事は無常にもNO。


「いや、残念ながらシンは現在、地球へと向かっているから一緒と言う訳には行かないのだよ」


「だったらステラも地球に行く」


 だって偉そうな人なんかよりも、シンと一緒の方が嬉しい。


「私も好き合う2人を引き離すのは忍びないのだがね。
 ステラ君、君の身体には早急に本格的な治療が必要なのだよ。
 どうしても、と言うのであれば、今、地球に行くのもあえて止めはしない。
 だが、そうすれば近い将来、君は2度とシンとは会えなくなってしまうだろう。
 プラントへ行くならば、確かにしばらくの間シンとは会えなくなる。
 だが、いずれシンもプラントへと帰ってくる。
 そうすれば健康を取り戻した君とずっと仲良く一緒に暮らす事ができる。
 ステラ君、君はどちらを選ぶと言うのかね?」


 …そうだった。
 ステラは時々すごく頭が痛くなる事が有るんだ。
 シンにおっぱいを揉んでもらうのが嬉しくって忘れてたけど。
 もしもネオと会えなくなって、そんな時に頭が痛くなったら飲むように、ってネオに貰った予備の薬ももう残り少ないし。


 シンと一緒に居たい。
 シンと離れるのは嫌だ。
 だけどシンと2度と会えなくなるのはもっと嫌。


「………ステラ、プラントに行く」


「いやあ、理解してくれてありがとう。
 なあに、君の身体さえ治ったら直にまたシンとは会えるさ。
 約束しよう」


「………うん」


 シン、ごめんね。
 シンに黙ってプラントに行くステラを怒らないでね?
 ステラが元気になったら絶対すぐシンの所に行くからね?




■■■




 偉い人と一緒に来たボルテールって艦は変な人ばかり。
 例えば銀髪のおかっぱ。
 略してぎんがっぱ。


「誰が銀河童だ!
 俺の名はイザークだ! イザーク・ジュール!」


 …ぎんがっぱは沸点が低い。
 ステラの事をすぐ怒るから嫌い。


「まあ、そう怒るなよイザーク。
 議長、この娘が例の【紅蓮の修羅】の妹になったって言う?」


「ああ、私共々プラントまでの行程、よろしく頼むよ」


「「はっ! かしこまりました」」


 偉そうな人に声を揃えるぎんがっぱと、…えーっと、痔悪化?


「俺の名前はイザークだとなんべん言わ「誰が痔悪化だ! 俺の尻は健康そのものだ! なあ、イザーク!」…何故そこで俺に話を振る?」


「………」


「………」


「………」


「………」


「とにかく!
 俺の名前はディアッカだ!
 いいか、ディアッカ・エルスマン、2度と間違えるんじゃないぞ? 分かったな!」


「…大人気ないぞディアッカ」


「まあまあ。
 2人ともそう気を悪くせんでくれないかね。
 この娘の身辺調査の報告は理解しているだろう?
 情操教育の面で問題が有るのはこの娘の所為じゃない。
 健康面と併せてこれからプラントで教育していこうと考えているよ」


「議長! そもそも何故アーモリーを襲ったこのような輩にそのような待遇を!
 彼女は我が軍の兵を殺した、憎むべき敵ではありませんか!」


「…ふむ、その事については後ほど艦長室で話す事にしよう。
 すまないが、ここではこれ以上、事を荒立てないで貰えないだろうか?」


「はっ! いえ、失礼しました」


 …相変わらず偉そうな人の話す言葉は良く分からない。
 ぎんがっぱがステラの事を嫌いだってのは良く分かったけど。
 ステラの事を話してるんだと思うんだけど、難しい単語が多すぎるのが悪いと思う。
 そんなんじゃダメと思う。
 話が分かり辛いと出世できないよ?
 そう思ったから親切に欠点を教えてあげた。


「なっ!? キサマ、自分が誰に向かって物を言っ「…ふむ? いや、まさか君にそのような指摘を受けるとはね。
 私もまだまだ未熟と言う事か」…議長、何をおっしゃいますか!」


「…おまえさんねぇ、本気でそう言ってんの?」


「?」


 怒鳴るぎんがっぱと偉そうな人を差し置いて、痔悪…ディアッカが訊ねてくる。
 …言い間違えかけたからって、そんなに睨まなくても良いと思う。


「…ふぅ、流石は【紅蓮の修羅】の妹って所かな?
 なかなか大物だ」


「【紅蓮の修羅】って誰?
 ステラはシンの妹。
 【紅蓮の修羅】なんて人は知らない」


 ステラがそう返すと、


「呆れた奴だな、キサマ、自分の兄の異名も知らんのか!?」


 ってぎんがっぱがステラの事を馬鹿にする。
 ぎんがっぱの癖に生意気。


「ああ、そう言えば先程の彼等の問答の時、ちょうど我々はこの艦へと移動中だったんだがね。
 ステラ君はよく眠っていたのだから、知らないのは無理も無い。
 【紅蓮の修羅】って言うのはつい先程、君の兄、シン・アスカ君に付けられた異名なのだよ。
 国際救難チャンネルでああも大々的に名付けられてしまっては、今更取り消す訳にも行かないからね」


「…そうなの?
 でもシンに【紅蓮の修羅】なんて異名、似合わない」


 だってシンはステラの運命の人だから。
 シンはステラのおっぱいを揉んでくれる優しい人。
 そしてステラのお兄ちゃんになってくれた大好きな人。


 だから、


「キサマもあの放送を聞いていたならば、そんな事は言えんぞ」


 なんて意地悪言う、ぎんがっぱの声なんか聞こえない。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅の番外編






 つづく。




 後書きみたいなもの


 改訂しました。
 どうも調子に乗りすぎたみたいですね。
 反省します。


 ユニウス7降下時に退場して、すっかり出番の無くなったステラを救済する為に書いたお話です。
 20KBを越えても終わりが見えなかったんで泣く泣く分割します。
 後編は近日中に公開予定。



[2139] 番外編の4話。 抜き打ち!第1回ステラカーニバル (後編)
Name: しゅり。
Date: 2006/07/01 20:39
<ステラ・ルーシェ>


 身体が熱い。
 頭が痛い。
 気持ちが悪い。
 吐き気がする。


 ステラの身体は毒だらけ。
 毒を抜くのに我慢しなくちゃいけない。
 そんな事を聞いた。


 でも寒いの!
 まるで冷凍庫にいれられてるみたい。
 身体の芯が寒くて、震えが止まらないよ!



 …薬。
 ネオから貰った薬をちょうだい!
 アレを飲んだらステラは元気になれるから…



 …シン。
 シンに会いたいよぉ…
 目の前の景色がぐにゃぐにゃしてる。
 知らない間に涙が出てた。


 熱い。
 身体が熱いの。
 ステラ、このまま死んじゃうのかな?



 …だめ。
 何も考えられない。
 目の前がチカチカする。
 変な虫がいっぱい飛んでる。


 …キレイ。


 シンの瞳ほどじゃないけど。
 そう、シン。
 シンに会いたい。
 シンと一緒に居たい。
 だってシンはステラの運命の人。


 シン…




「どうかね? 彼女の容態は?」


「これはデュランダル議長、どうにか最大の峠だけは越せたみたいです。
 ですが、まだ安心は出来ません。
 彼女に使用されている薬品には我々の知らない物が多々含まれています。
 研究と平行して薬の投与を行っていますが、長期戦になるのはご了承下さい」


「ああ、すまない。
 邪魔したね、引き続きがんばってくれたまえ」


「はいっ!」


 話し声が聞こえる。
 誰?
 誰か近くに居るの?


 苦しい。
 苦しいの。
 胸が、おなかが、頭が、痛いの。


 力が入らない。
 腕も、足の、指一本だって動かせない。


 誰かの話し声が聞こえる。
 でも瞼を上げる事もできないの。


 会いたい。
 会いたいよぉ…


 シン、あなたに会いたい。


「………………シ……ン…」


 閉じた瞼の隙間から、一筋の涙が零れ落ちた。




■■■




「具合はどうかな? ステラ君」


 お昼を少しまわった頃、今日も何時ものお医者さんがステラの部屋にやってきた。
 言ってくる事はいつも同じ。
 そしてステラが返す言葉も同じ。


「………おなか空いた」


 もう何日もステラはごはんを食べてない。
 最後に食べたのは何時だったっけ?
 いっぱい苦しい思いをする前だったと思う。


「ふむ、もうしばらくの辛抱だ」


「………昨日もそう言った」


「こいつは手厳しいな。
 いや、本当にもうしばらくの辛抱なんだ。
 このまま経過が順調なら来週から流動食を口に出来る。
 リハビリも開始するから今のうちによく休んでおくんだよ」


「………………わかった」


 窓の外は良い天気。
 でもステラは一人寂しく病室のベッドの上。
 右手に繋がれた点滴が邪魔。
 注射も数え切れないくらい、いっぱい打たれた。


 ………寂しい。
 一人ぼっちは寂しいよ、シン。


 会いたい。
 ステラはシンに会いたい。


 シンも寂しいのかな?
 シンもステラに会いたいって思ってるのかな?


 …そうだったら嬉しい。
 シンが寂しい思いをしてるかもしれないのにステラは嬉しい。




 …ステラは悪い子なのかもしれない。




■■■




「ラ、ラクス様ぁ!?
 ど、どうして我が家なんかに起こしに?」


 目の前のおじさんはステラの隣の女の人、ラクスを見てびっくりしてる。
 確かにピンク色って髪の色は変だとステラも思うし、胸だってステラよりもおっきい。
 重くないのかな?
 ラクスよりちっさいステラでも重いのに。
 ルナやメイリンが羨ましい。
 あと、ヘンテコな赤くて煩いロボットが飛び回ってるのもおかしいと思う。
 いきなり自分の家にこんな変な人が来たら誰でも驚く。
 だけどラクスはそんなおじさんの慌てた様子を面白そうに観察して、


「はじめまして、ホーク様でいらっしゃいますね?
 わたくし、ラクス・クラインと申します。
 本日はこちらのお嬢さんの件でお願いが会って参りました」


 って挨拶をはじめた。
 ひょっとして、ラクスって結構性格が悪いのかもしれない。
 ステラも今日、病院を退院してからいきなり会わされたんでよく分からないけど。


「え? あ、然様で。
 …で、では、どうぞお上がり下さい。
 狭い家で申し訳ありませんが」


「いえ、ありがとうございます。
 さあ、ステラさん、お邪魔させていただきますわよ」


 そんなやりとりが有って、ステラとラクスはホークっておじさんの家に入った。
 そう言えばステラは挨拶してないな、どうでも良いけど。
 家は洋風の可愛いお家だった。
 おじさんは狭いって言ってたけど、嘘吐きだ。
 お庭も広いし、お部屋だってたくさんある。
 これで狭いんだったら今までステラが住んでた所はどうなるんだろう?
 兎小屋みたいなもんかな?
 ステラの今までの人生ってなんだったんだろう?
 少し凹む。


 応接間に通されて、ソファにラクスと並んで座る。
 テーブルを挟んだ反対側におじさんが座ると、おばさんが紅茶を持ってきてくれた。


「ありがとうございます。
 できればこれからのお話に奥様も御一緒していただいても構わないでしょうか?」


「え? あ、私ですか?
 はっ、はい、構わないです。 じゃない、御一緒させていただきます、はい」


「こら、緊張しすぎじゃないか、恥ずかしい…」


「だ、だっていきなりだったんですもの!」


 おじさんとおばさんがそんなやりとりをしてたから、ステラは


「玄関の時のおじさんとお揃い」


 って言ったんだけど、2人とも顔を真っ赤にして、伏せてしまった。
 なにか変な事を言ったのかな?


「と、とにかくですわ!
 本日は是非、お二方にお願いしたい事がありますの。
 お話させていただいても構わないでしょうか?」


「あ、ああ。 是非!」
「え、ええ。 是非!」


「ありがとうございます。
 実はわたくしの隣に居ますステラ・ルーシェと言うお嬢さんなんですが、ホーク様のご家庭で預かってはいただけないでしょうか?」


「「ええっ!?」」


 ホークさんって夫婦はさっきから息の合った夫婦だと思う。
 リアクションがピッタリだ。
 きっと仲の良い夫婦なんだと思う。
 ステラもシンとあんな風になれるかな?


 …あれ?
 そう言えば今、ステラの名前が出なかった?


「ど、どうしてまた、突然そのような事を?」


「実はステラ・ルーシェさんなんですが、孤児でいらっしゃいますの。
 それに訳有って精神面が幼い為、どちら様かのご家庭で預かっていただけないかと悩んでおりましたところ、ホーク様のご家庭が一番ステラさんとも御縁が深いと言う結論に達したのです」


「こちらのお嬢さんと、我が家がですか?
 いったい、どのような御縁で、でしょうか?
 お聞かせ願えませんか?」


「はい。 実はステラさんですが、先日よりシン・アスカ様の義妹となられたのです。
 ご存知でしょうか? 最近、巷で話題になっておられる【紅蓮の修羅】と呼ばれるお方なのですが」


「ええ、軍事には疎いほうなんですが、流石に娘達と同じ艦に乗っている青年の事ですからね。
 同じ職場でパイロットをしている娘を持つ身としては心強い存在ですよ。
 でも、それがこの件とどのように関係するのです?」


「はい、実は彼、シン・アスカ様も先の大戦で御家族を亡くし、御親類がいらっしゃらないのです。
 その為、本来であればステラさんはシン・アスカ様のご家庭で生活なさるべきなのですが、そう言う訳にはまいりませんですの。
 だからこの度、シン・アスカ様と交際なされていらっしゃいますお嬢様の御家庭にお願いに及んだ次第ですの」


「はぁ… えっ!? こ、交際ですか?
 だ、誰と!? って、シン・アスカでしたか、彼とうちの娘が付き合っている、と?」


「はい。 わたくしはそのようにうかがっています。
 なんでも御宅のお嬢様、ルナマリア・ホークさんとシン・アスカ様はアカデミー時代からの御交際とか」


「き、聞いてないぞ!
 この間2人が家に帰った時もそのような話題は一言も出なかった!
 な、何かの間違いではないのですか!?」


 急におじさんが立ち上がった。
 さっきと違った意味で顔が真っ赤。
 ドンッ!ってテーブルに手を置いた衝撃で紅茶の入ったティーカップが悲鳴をあげる。


「って、お前、どうして驚かないんだ!?
 あのルナマリアが男と付き合ってたって言うんだぞ!
 ………まさかお前、知ってたのか?」


「………え、ええ。
 流石にルナのお付き合いしている男性が【紅蓮の修羅】だとまでは知りませんでしたが。
 アカデミーの同級生と付き合ってる、って事はこの前、帰った時に聞いてました」


「だ、だったら! なんで私は知らないんだ!?」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………あの娘が、お父さんには内緒だ、って」


 絶句。
 一言で言うならおじさんの表情はそんな感じ。
 シンとルナが付き合ってるのがそんなに驚く事なのかな?
 茫然自失って表情を始めて見た気がする。


「………」


「………」


「………」


「………」


「と、と言う訳でですね、是非お願い致したいんですがよろしいでしょうか?」


 痛い沈黙が続く中、場を取り持つようにラクスが言葉を紡ぐ。


「………」


「………」


「………」


「………」


「………つまり、こちらのお嬢さんは娘の彼氏の義妹。
 そう言う関係なのですな?」


「ええ、一言で言いますとそうなります」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………ステラ君だったかね?
 少し質問しても良いだろうか?」


「? 構わない」


 いきなりおじさんがステラに話題を振ったんでちょっとビックリした。
 慌てて紅茶と一緒に出されてたクッキーに伸びてた手を元の位置に戻す。
 ステラに聞きたい事ってなんなのかな?


「君はシン・アスカ君だったか? 彼の事をどう思ってるのかね?
 失礼ながら君達兄妹は、血が繋がってないんだろう?」


「大好き!
 だってシンはステラの運命の人だから!」


「………ほう。
 だったらルナマリアは君の恋敵って事になるのかな?
 ならば君は、ルナマリアの事をどう思ってるのかな?」


「ルナ? ルナも好き。
 ルナはステラのお姉ちゃんになってくれるって言った」


「ル、ルナマリアがそんな事を…
 だがルナマリアは君の運命の人の恋人なのだろう?
 君のとっては邪魔な存在じゃないのかね?」


 ?
 おじさんは何を言ってるんだろう?


「ルナがシンと好き同士なのと、ステラがシンの事を好きなのと何か関係が有るの?
 ステラはシンが大好きだし、ルナも好き。
 シンはステラとルナが好きで、ルナはシンとステラが好き。
 それっていけない事なの?」


「い、いけなくは無いが… いや、そうだな。
 ラクス様のおっしゃる通り、確かに君は精神的に幼い…いや、純粋なのだな、ステラ君は」


 眉間に指をあてて揉んでたおじさんが、大きな溜息を一つ吐き出して顔を上げる。


「ラクス様、よろしければこちらのステラ・ルーシェ嬢を我が家で預かりたいと思います。
 おまえも構わないな?」


「ええ、あなた。
 ルナの事を好きっていってくれる娘なんですもの。
 私も娘が増えたみたいで嬉しいです」


「ありがとうございますわ。
 それではよろしくお願い致しますわ」


 ?
 結局どうなったんだろう?
 って言うか、ステラは此処に何しに来たんだろう?


「ラクス、ステラはどうなるの?」


「ステラさん、あなたは今日からこちらの御家庭で生活なされるのですわ」


「そうなの?」


「ええ、ステラちゃん、これからよろしくね」


「うん? …わかった」


 良く分からないけど、ステラは今日からここに住む事になったらしい。
 面白いおじさんと優しそうなおばさんと一緒に。
 おじさんもおばさんも優しそうに笑ってる。
 ラクスも嬉しそうにニコニコ笑ってる。
 なんだか分からないけど、ステラも嬉しい。
 きっとシンとルナ以外にもステラに家族が増えたって事なんだ。




「ところで、ステラちゃんはルナのどんなところが好きになったの?
 おばさんに教えてくれないかしら?」


 うん?
 ルナの好きなところ…


「ステラと一緒に寝てくれる所。
 ルナと一緒に寝ると気持ち良くて幸せ」


「そう、そうだったの」


 あの娘にそんな面が有っただなんて、ねえ…
 お転婆だと思ってたけど、知らないうちにあの娘も女らしく成長しているのね。


 そんな呟きが聞こえた。


「あとね、ルナのおっぱいを吸いながら寝るともっと幸せになれるの!」


 ―――ピシッ!


 あれ?
 何やら空気の割れる音が聞こえた気がする。


「………」


「………」


「………」


「………」


「………じょ、情操教育は必須ですな、ステラ嬢には。
 は、はははははは…」


「え、ええ、そうね、女性の嗜みを教えるのは私の役目ですね。
 お、おほほほほほ…」


「そ、そのようですわね、TPOって大事ですわ。
 ア、アハハハハハ…」


 ルナマリアは何をやってるんだ!って叫びが聞こえた気がするけど、よく分からない。
 皆楽しそうに笑ってるからステラも嬉しい。


 そんな訳で、ステラのホーク家生活は幕を開けたのでした。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅の番外編






 おわり。




 後書きみたいなもの


 これにてステラ番外編はひとまず完結。
 ステラ治療シーンは果たして必要だったか疑問です。
 コメディなんだから飛ばしても問題無かったかも。
 別に彼女を苛める意図は無いんですけども。
 表現もいまいちだし修行が必要だと痛切しました。
 病後のステラは精神年齢が低下してるっぽい点も微妙ですな。
 精進が足りませぬぞよ。 …orz






 おまけ(没になった設定)


 ~もしもホーク姉妹の父親がXXXなら~


 アニメ本編には一切登場しないホーク姉妹の父親。
 コーディネーターなのに2人の娘を作っちゃう剛の者だと勝手に判断。(ホーク姉妹って第一世代じゃないよね?)
 う~ん、あんまり原作で姿形はおろか、名前まで無いキャラってオリキャラ扱いになっちゃうし、本当は入れたくないんだけどなぁ…
 どうせなら他の漫画からホークって名前のキャラを引っ張ってきた方がマシかな?
 例えば『キャプテン・ホーク』…いや、そんな海賊っぽい名前はあり得ないだろ?
 でも他に海賊じゃないホークなんてキャラは居たっけか?


 確か【鷹の目】って異名のグランドライン1の剣士が居たな。
 彼も海賊な気がしないでもないけど。


 …没だ。
 こちらに3刀流の剣士が居ねぇ…


 他には?


 ・・・
 ・・
 ・


 居ました。
 物凄いのが。
 その名も『ブライアン・ホーク』(はじめの一歩)




 orz


 ダメだ、シンがルナの両親に紹介された時、それが最終回になっちまう(ぉ
 そんな経緯で、誠に遺憾ながらホークさんは普通のおっさんとして登場する事にw
 あれを普通って言うのは微妙ですが…w



[2139] 14話目。 相変わらず進まない
Name: しゅり。
Date: 2006/07/12 21:26
<ショーン>


「…本当に、私が?」


 震えるような声が、水気を帯びたタイルに跳ね返って消えた。




■■■




 私は自室へと戻るなり、即座に浴室へと駆け込んだ。
 間を置かず、直に少し熱いくらいのお湯がシャワーとなって私の頭へと浴びせられる。


「………」


 考えてみれば昔から何時もそうだった。
 私は自分では抑えられない感情の乱れを自覚した時、必ずと言っていいほど浴室へと足を運ぶ。
 そして普段は病的なくらい白すぎる肌に、赤味が差すような熱いお湯を浴びるのだ。
 それが私にとっての神聖な行為。
 同年代の女性と比べても小振りな胸の奥底で、早鐘を刻む鼓動を静める為のおまじない。
 他人から見れば幼稚な思い込みかも知れないが、その行動が今では私の信仰に成っている。



 例えばまだ私が幼かった頃の出来事。
 大好きだった父親が、交通事故で亡くなったと聞いた時の事。
 葬式の真っ最中だと言うのに、私は父の亡骸に縋り付く事も無く浴室でただ熱い滝に打たれ続けていた。
 止まる事無く流れ続ける涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を、降り注ぐ飛沫が何も言わずに隠してくれた。



 例えば血のバレンタインの惨劇。
 母親が暮らすユニウス7が崩壊する映像を目の当たりにした時の事。
 当時、私は大学に進学していた為に母親をユニウス7に残し、側に居てあげられなかった。
 たった1人、ユニウス7で暮らしていた母さんは、最後の瞬間、何を思ったのだろう?
 たった一人の肉親だったのに。
 悲しみに押し潰されてしまいそうな心を抱えて、私は知らぬ間に浴室へと逃避していた。
 枯れ果て、流れる事が出来なくなった涙の代わりに、暖かいお湯が私の頬を伝っていった。



 例えばアカデミーの卒業式。
 成績優秀者に対して行われる表彰の儀。
 壇上でZAFTレッドを授けられ、嬉しそうに笑顔を見せる同期の姿を眺めた時の事。
 羨望と嫉妬で心が汚く濁ってしまいそうな自分に恐怖を感じ、式が終わるなり一目散に浴室へ駆け込んだ。
 暖かいお湯は、か弱い心を侵食する濁った感情を優しく洗い流してくれた。



 そして今日。
 朝食の席でルナマリア隊長とシン・アスカの2人と交わした会話の後。
 歓喜に踊り狂う感情を抑えきれずにいた私は、気が付けば浴室でシャワーを浴びていた。
 床に跳ね返って室内を覆う水蒸気が、一糸纏わぬ私の全身を優しく包み込んでくれる。


 ―――嬉しい!


 まさか私にこんな日が来るなんて!
 心の中は喜びで溢れかえっている。
 それは仕方無いんだ。
 今までの私の人生、嬉しい事よりも悲しい出来事の方が多過ぎたのだから。


 …問題はただ一つ。
 隊長やシンは、私の行動を不審に思ったりしていないだろうか?
 こんな時ばっかりは感情表現の苦手な自分が嫌になる。
 朝食の途中だと言うのに1人席を外し、自室へと走り去った私の後姿を目の当たりにして。




■■■




「ショーン、ガイアに乗ってみない?」


 隊長からそう切り出された時、私は咄嗟に発言の意味を理解できなかった。


 ………え?
 私が、ガイアに?


 ガイアと言えば、竣工間も無いZAFT軍でも最新鋭のGの事。
 それも先の大戦の英雄、あのアスラン・ザラが先日搭乗した機体。
 更に、ユニウス7破砕作業での功績と共に、歴史に名を残しかねない機体でもある。


 そんな機体に、私が?
 ZAFTレッドを身に纏う事すら叶わなかった私が?


「…嫌かな?
 どうしてもゲイツの方が良いんだったら無理しなくて良いのよ?」


 ………はっ!?


 つい、思考の海へと逃避しかかっていたようだ。
 隊長から私を気遣う心配気な声が掛けられてしまった。
 どうやら無意識の内に、眉間に皺までよってしまっていた様子。


「いや、そういう訳ではない。
 すまない、あまりに唐突だったので戸惑ってしまったのだ。
 ガイアのパイロットの件だが、私に依存は無い」


 事の重大さに、少しでも気を抜くと語尾が震えそうになってしまう。
 持てる精神力を総動員して言葉を紡ぎ出さなければ口が動かない。
 多大な労力を要して、どうにかはっきりと肯定の言葉を口にした。


 そして、それに続く否定の言葉も。


「…だが、本当に私で良いのか?
 恥ずかしながら私は自分の技量を知っている。
 ガイアに相応しいとは到底思えないのだが…」


 誠に遺憾な事なのだけれども。
 正直、良く評価されても中の上程度でしかない技量しか持ち合わせていないのだ、私は。
 なにせ最新量産型機であるザクすら配備されない位置に居るのだから。
 Gのパイロットに相応しいとはお世辞にも言えない。
 Gの価値を知っているだけに、千載一遇の機会だと言うのに私は躊躇を覚えてしまった。



 …だけど。
 そんな私の貧弱な不安を振り払った存在が居る。
 隊長の対面に座り、私達の会話を無言で見守っていた少年。
 そして私が欲するものを全て持ち合わせている少年。
 私より6も歳下だと言うのに。
 ZAFTレッドの衣装も、最新鋭Gのパイロットの座も、彼と共に在る。


 静かに食後のコーヒーを嗜んでいたシンが、ポツリと言葉を漏らしたのだ。


「相応しくないんだったら、相応しくなれば良いじゃないか。
 どうしてもショーンさんが無理だって言うなら、考え直すけど。
 だけど、これだけは忘れないで欲しい。
 俺とルナは、ショーンさんにガイアが似合うと信じてる」


 ―――っ!!


 その言葉を聞いた瞬間、私はまるで落雷に打たれたかのように錯覚した。
 全身を衝撃が走り抜けて行く。
 今まで掛けられた、どんな言葉よりも私の胸を鋭く穿つ。


「………よろしく頼む」


 かろうじてその一言だけ口にした私は、朝食の途中だと言うのに席を立って、自室へと走り出した。




■■■




『ようっ! Gのパイロット様!』


 隣に立つゲイツからゲイルの調子の良い声が聞こえる。


「…ゲイル、からかうんじゃない」


 その言葉に緩みそうになる頬を精神力で抑え、かろうじてそれだけ返す。
 流石に現状で浮かれるのは不謹慎と言うもの。
 前方に連合艦隊、後方にオーブ軍艦隊を迎えてのこの場面では。


『そうよ、ゲイル。
 戦争中なんだから不謹慎じゃない!』


 すかさず隊長機から注意の声が飛ぶ。
 射撃の成績は私にも劣るけど、それでもルナマリアは私達の隊長だ。
 ゲイルと私の2人を相手に、歳下だと言うのによくやっている。


『へいへい…
 あっしが悪うございやしたよ。
 んで、ルナマリアの隊長さんよぉ、俺達の任務はなんだ?』


『んもう、ショーンにガイアをとられたからって、良い歳したおっさんが拗ねないの!
 それと、アタシ達の任務はミネルバの護衛ね。
 接近する連合のMSを撃退するだけで良いんだから楽勝でしょ?』


 可愛くないんだからね!って怒る隊長は微笑ましいが。
 それにしても、楽勝とはな。
 視界には雲霞の様に群がるMS群が見えるんだが。
 そんな私の思考を代弁するかのようにゲイルが言葉を繋げる。


『はん! 楽勝ねぇ…
 まあ、こんだけ居りゃあ、ルナマリアの下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たるわな』


『ゲイル!』


『ははは、…まあ冗談はこんくらいにしておいて。
 正直、ミネルバ1隻で艦隊相手ってのはどうよ?
 いくらなんでも無茶じゃねえか?』


 痛い事実を突く。
 技術力に物凄い差でも無い限り、3倍を大幅に上回る戦力差は致命的なのだ。
 こういう場合、撤退も叶わない劣勢な陣営に残されるのは…


『無茶でも無理でもやるっきゃ無いの!
 それにアタシ達は4機でミネルバの護衛をすれば良いだけなんだから。
 1機で空中戦しなくちゃなんないシンに比べたら、弱音なんて吐けないでしょ?』


 精神論、それだけだ。
 悲観的になっても良い事など何も無い。


 それに、確かにインパルスと比べたなら私達はまだマシだと思える。
 ザク2機にしても私のガイアにしても、空中戦を想定して造られた機体ではない。
 結果として4機でミネルバの護衛となってしまうのだが、皺寄せは全てインパルスへと向いてしまう。


『そりゃあ、そうだな。
 シンの坊主も可哀想に。
 全部負担が行っちまってやがる。
 確かに俺達が弱音なんて吐けんわな。
 それにしても、彼氏があんな状況じゃあルナマリアも心労が尽きないなぁ?』


『残念ですがそんな心配は無用ですぅ。
 シンが墜とされるような相手だったら、どのみちアタシ達も終わりだから。
 でも、そんな心配はしなくて良いの!
 アタシのシンがあんな奴等なんかにやられる訳無いんだからね!』


『…はいはい、ご馳走さん。
 俺等は俺等で生き残る努力をするとしますかね。
 おうショーン、お前さんが死んだら俺がガイアを貰ってやっても良いぜ?』


「残念ながらその心配は不要だ。
 ガイアで大地を疾走する前には死んでも死に切れんさ」


『はは、違いねぇ!』


『無駄話はそこまでよ!
 そろそろ集中しましょ、生き残る為に。
 ルナマリア隊、戦闘準備!
 良い? 2人とも死ぬんじゃないわよ!』


『「了解!」』




■■■




 当初の予想通り、戦闘は熾烈を極めた。
 私達は持てる力の全てを振り絞って、ミネルバの護衛任務に尽力し続けている。
 その甲斐も有ってか、圧倒的な戦力差だと言うのにも関わらず、未だミネルバは致命的なダメージを被る事もなかった。


 だけど。
 それが何だと言うのだろう?
 確かに私達は健闘している。
 でも戦況は全く好転の兆しを見せようともしない。
 ミネルバの全パイロットが全力を振り絞って、かろうじて現状維持が精一杯なのだ。


 それほどまでに戦力差というファクターは大きい。
 全力を振り絞っても、それでも現状維持しかできない。
 だけど、それの何処が悪い?
 もともと私達は圧倒的に劣勢だったんじゃないか。
 戦端が開かれてから今まで、誰も脱落者は出ていない。
 それだけでも誇るべき事じゃないだろうか?


『ショーン、ゲイル、左舷の敵を牽制して!
 右舷はレイがどうにかするから!』


『「了解!」』


 ルナマリアからの指示を受け、即座に負の方向へと向かいがちな思考を停止する。
 そして10時の方向から飛来してくるMS編隊に対し、すぐさまゲイルと共同で弾幕を張りめぐらせる。
 続いて11時の方向、9時の方向…


『ふぅ… こりゃ、きりが無いぜ。
 んで、ルナマリアは何をしようってんだ?』


 水際の攻防の末、かろうじて今回の波も防ぎきる事ができた。
 そう、波と表現できる様に、明らかに敵の攻撃は一定の間隔を置いて行われている。
 連合にとっては不本意な事実なのだろうけど。
 もともとの数が違うのだから、本来であればこちらに休息の間を与えずに攻め続ければ良いのだ。
 それだけで連合は勝利を手にする事が出来る。
 いくらコーディネーターだからとは言え、所詮は人間、体力は有限なのだから。
 物量戦で攻めて来られていたなら、こんなに粘れる事もなく戦線は崩壊してしまっていただろう。
 それが可能なのが戦力差だ。


 ならば、何故連合はそれを為さないのか?


 答えは簡単。
 原因は全て、たった1機で空中戦を繰り広げているZAFT軍所属のMSに求める事ができる。
 前後左右、上下いずれの視界をも敵機で埋め尽くされたその中央に、彼は存在する。
 何時墜とされるかも分からない状況だと言うのにも拘らず、要所要所で確実に敵の勢いを挫いてくれる。
 連合はそれを為さないのではなく、為せないのだ。


 そんな貴重な休息の一時。
 シンが稼ぎ出した僅かだが千金の如く貴重な数十秒の時間だと言うのに。
 ルナマリアのザクは一向に休もうとしない。
 それ故のゲイルの疑問。


『アタシ? アタシはね…』


 続く言葉を打ち消すような轟音が響き渡る。
 赤色のザクが構えた大口径の銃より、光線が空へと放たれる。
 灼熱の色を帯びた閃光は、獅子奮迅の活躍を続けるインパルスを今まさに包囲しようとしていた敵MSの一団を牽制するかのように空を焼く。


『シンのアシストしなくっちゃね!
 当たらない鉄砲でも使い道は有るって事よ♪』


 …ルナマリア隊はまだ大丈夫だ。
 隊長が自分の射撃技術を自虐ネタに出来てるうちは死ねない。




■■■




 どれだけの時間が経ったんだろう?
 シンの腕は相変わらず見事の一言で、彼の手に拠って海面へと姿を消したMSは数え切れない。


 だけど。
 未だに敵艦隊からは敵MSの出撃が止む事なく続いている。
 戦場に存在している敵MSの数は、戦端が開かれた当初から1機たりとも数を減じていないかのように思われた。


「…いったい、何時終わるんだ?」


 どうにもならない現実に、思わず弱気の言葉が口から漏れる。
 現実は厳しい。
 現実の前では私達の力はあまりに無力だ。


 だけど私達の隊長様は、そんな部下の弱音を認める人間ではなかった。
 即座に叱咤の言葉が私の耳へと聞こえてくる。


『そんなのは最初から分かってた事じゃない!
 ミネルバだけで艦隊相手に戦うなんて、どだい無茶な話なんだって。
 だけど我慢する以外に何か方法が有る?
 そんな都合の良い話、残念ながら何処にも無いわ。
 でもね、お願いだから諦めたりだけはしないで!
 諦めたらそこで終わっちゃうんだから』


「…すまない。
 弱音を吐くなど私とした事が。
 元より諦める心算なんか毛頭無い!」


『おうよ!
 俺だって母ちゃんに「死んだら離婚だ!」って言われてるもんな。
 ルーシアが男連れてきた時に「娘は嫁にやらん!」って名台詞を決めるまでは死ねねえよ!』


「ゲイル、ルーシアって?」


『ん? 言ってなかったか? 俺の娘だ。
 なんなら写真見るか? 俺に似て可愛いぞ』


『ゲイルに似たら可愛い訳無いでしょ。
 でもそうね、写真は見たいかも。
 だからゲイル、アタシに写真見せるまで死ぬんじゃないわよ!
 ショーン、貴方も!』


「了解!」


『ルナマリアも死ぬんじゃないぜ!
 お前が死んだらシンはステラの嬢ちゃんに取られちまうぞ!』


『それじゃあアタシも死んでられないわね!
 アタシはさっさと戦争終わらせてシンと結婚するんだもん!
 ショーン、ゲイル、2人とも結婚式に呼ぶってもう決めてるのよ。
 不参加なんて許さないんだから!』


 だが、巧妙の光は見えないまま。
 時間が経過する連れ、戦況は確実にミネルバ不利の状況へと傾いて行く。
 圧倒的な敵物量を前に、少しずつ、少しずつ、ミネルバは後退していく。
 何時しかミネルバは船尾がオーブ領海を侵犯してしまいかねない位置へと押し戻されていた。


 そして。
 とうとうミネルバ側からも最初の脱落者が出てしまった。


「『ゲイルッ!?』」


『ちくしょうっ!!』


 被弾したゲイルのゲイツがその場に崩れ落ちる。
 度重なる敵機からの攻撃を防ぎきれず、脚部を失ってしまったのだ。
 だけど直にスピーカーを通してゲイルの声が聞こえる。
 幸い命には別状が無かった様子。


 良かった。
 普段から口うるさい奴だけど、あの無駄口を2度と聞けなくなるのは私としても御免だから。


『生きてるのね?
 だったら早く撤退して!』


『待ってくれ!
 両足を失っちまっただけだ。
 弾幕を張る分にはなんら問題ない。
 俺はまだ戦うぜ!』


 そう言って、上半身だけになってしまったゲイツは健気にも銃を構えようとする。
 だが、


『馬鹿言ってんじゃないの!
 動けないMSなんて格好の的じゃない!
 ゲイル、あなた奥さんの為にもルーシアちゃんの為にも死ねないんでしょ?
 だったらさっさと撤退してショーンのゲイルに乗り換えて来なさい!』


『…分かった。
 ルナマリア、ショーン、すまねえ。
 俺が戻るまで死ぬんじゃねえぞ!』


 ゲイツが匍匐前進の要領で撤退するのをルナマリアと2人で援護する。
 その甲斐有ってか、ゲイツは無事に格納ハッチの奥へと消えた。


 …だが、正直ここでの戦力ダウンは厳しい。
 私のゲイツに乗り換えて再出撃するにしても、直に出撃できると言う訳では無いのだ。
 パイロットデータの書き換え等、少なからぬ時間が必要となる。
 その間、私達は2人で左舷を支えなくてはならない。


『…シン、ごめんね。
 援護出来ないよ』


 ぼそり。
 零れるような謝罪の声がスピーカーから聞こえた。
 だけど私はその声に気付かない振りを決め込んで、ただ銃を打ち続ける。
 苦しい。
 的の数が3つから2つに減ったからか、被弾率が跳ね上がる。
 今でこそGの優秀な装甲のお陰で無事だけど、変わりにエネルギーの残量は物凄い勢いで減じて行く。


 そして。
 とうとうガイアはその全身を無骨な鉄の色に染めてしまったのだった。




■■■




『ショーン! 対ショック体制!
 ミネルバが主砲を撃つわ!』


「了解!」


 ここに来て、今まで守勢に徹していたミネルバが攻勢に出る。
 おそらく守勢での破綻が目前に迫っていた為に。
 未だ再出撃が叶わないゲイル、エネルギーの尽きたガイア。
 判断するには十分な材料だ。
 シンとレイの2人に関してもエネルギーの残量が底を尽きかけてるだろう事は想像に難く無い。
 私は船首に備えられた主砲を横目に確認しながら、襲い来るであろう衝撃に備えた。


 間を置かず、大口径の砲口から咆哮が放たれる。
 まるで大気を切り裂くかの様な轟音。
 海面の水分を急速な勢いで蒸発させながら敵艦隊へと襲い掛かった。


 ―――これで戦況が変われば!


 敵艦隊へと突き進む破滅の光を眺めながら、自分に取って好ましい未来を切に願う。
 だが、


『なんですって!?』


 敵艦隊の姿を隠すかのように、ミネルバの正面に1機のMSが立ちはだかったのだ。
 いや、形状と言い、サイズと言い、MSと言うにはあまりに掛け離れ過ぎている。
 巨大MAとでも言うべきか?
 ミネルバから放たれた一条の閃光は、そのMAへと吸い込まれる。
 そして、悪夢が訪れた。


「…なんで、無事で居られる?」


 閃光が止んだ時、その場所には変わらずMAの姿が在った。
 陽電子の光の渦をその全身に受けたと言うのにも関わらず。


 何故だ?
 何が起こったと言うの?
 どうしてあのMAはミネルバの主砲をまともに受けて無事で居られるの?


 時間にすれば僅かな間だったと思う。
 でも、確かに私は敵MAの事に思考を取られてしまった。
 戦闘の真っ只中だと言うのに。


『危ないっ!』


「…え?」


 ルナマリアの声に現実へと引き戻される。
 そして、私が見た物は。
 敵MS編隊から放たれた光の雨。
 それは装甲が機能しなくなった今のガイアにとって死を意味するもの。


「あ…」


 咄嗟に行動に移れない。
 ダメ。
 あの雨は間違いなくガイアを蹂躙する。


 ―――私、此処で死ぬの?


 …嫌だな。
 せっかくGに乗れたのに。


 やけに精神が澄んで行く。
 身体が固まってしまったみたいに動けない代わりに、視界がどんどん鋭くなっていく。
 その影響か、世界が白と黒の2色に塗り分けられる。
 古い映画のような世界の中で、光の雨を、ただ見詰める。
 回避不可避な死は、確実に私へと迫っていた。


 考えてみれば、なんてつまらない人生だろう?
 悲しい事だらけで、良い事なんて殆ど無かった。
 嬉しい事が有ったと思った途端に死が待っている。
 きっと、私なんかがGに乗ったから罰が当たったんだろうな。




 死にたくない。
 死にたくないよぉ…


 でも、それは叶わない。
 モノクロの世界の中で私は死んでいく。


 ごめんなさい、ルナマリア。
 あなたの結婚式には出られない。


 ごめんなさい、ゲイル。
 あなたの娘さんの写真、見てみたかったのに。


 ごめんなさい、シン・アスカ。
 貴方が選んだパイロットは所詮この程度の女なの。




 ―――そして、世界は金色に包まれた。




■■■




「………」


「………」


「………」


 どうして?
 なぜ、何時まで立っても死が訪れないの?


 金色の光に包まれて、瞳を閉じて最後の時を待っていた私は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
 未だ健在なガイアのコクピットの中。
 モニター越しに私の視界に入ってきたのは、


「金色の… MS?」


 その全身を黄金色に染めた機体がそこに在った。
 輝かしい光を放つそのMSは、ガイアの前方、ちょうど敵機からの射線上に立ち塞がっていた。


『アスラン・ザラ、義に拠ってミネルバを助太刀する!』






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 ルナと朝食を摂ってたらグラディス艦長とアーサーさんが食堂に入ってきた。
 とりあえず敬礼。
 俺としては飯の最中くらい敬礼は無しでも良いと思うんだけどな。
 思うだけで口に出したりはしないけどね。
 余計な口を開いて要らない波風を立てるのはゴメンだし。
 伊達に平穏を愛する男を名乗ってはいない。


「そうそう、シン、ルナマリア、2人で相談しておいて欲しい事が有るの」


 だけど平穏は俺の事が嫌いらしい。
 さっさと席を立とうと朝食を食べるペースをこっそり速めた俺とルナに、艦長から声が掛かる。


「…相談ですか?」


「ええ、パイロットの居ないガイアの事なんだけど。
 2人で話し合って決めてちょうだい」


「ええーー!!
 か、艦長、ガイアのパイロットをルナマリア達に決めさせるんですか?」


 なぜか艦長の発言にアーサーさんが驚きの声を上げる。


「ええ、せっかくのGなんだし、使わないと勿体無いでしょ?」


「そ、そうじゃなくてですねぇ…
 良いですか艦長、仮にもガイアは最新鋭のGなんですよ?
 それをパイロット同士の間で決めさせるってのは不味くないですか?」


「そうかもしれないわね」


「そうかもしれないって、艦長」


「良い? アーサー。
 現在プラントは連合との戦端が開かれてるの。
 そして本艦は現在孤立しています。
 今後の状況次第ではオーブを出る必要に迫られる可能性も否定できません」


「は、はあ」


「そのような状況下で、味方の勢力圏に辿り着くまでは戦力の増強は望めないわ。
 当然、パイロットの増員も。
 だからと言ってパイロットの居ないガイアを遊ばせておく訳には行かないでしょ?
 あれはインパルスに次ぐ高性能機なんですから」


「そ、それはそうです」


「だったらパイロットを決めなくちゃいけないでしょ?
 でも残念ながら私達はMSの専門家じゃ無いじゃない。
 下手に私達が考えるよりMSの専門家に任せた方が理に適ってるわ。
 そうでしょ、シン?」


「…え?」


 艦長、あんたアーサーさんと話してたんじゃなかったのか?
 なぜ此処で突然話を俺に振る?


「議長から聞いてるわよ。
 テストパイロットの経験豊富な貴方ならパイロットの適正にも詳しいんじゃなくて?」


 ぐっ!
 議長さん、あんた艦長に何吹き込んでるんだよ…


「じゃ、後は任せたわね」


 そう言い捨てると、艦長はアーサーさんを引き連れて去って行った。


 …何時の間に朝食を食べたの?




■■■




「…で、シン、ガイアのパイロットどうするの?」


 出来るだけ考えないようにしようとしていた話題をルナが切り出す。
 俺的には食後のコーヒーを飲んでる時くらい仕事の話は忘れたいんだが。


 ガイアのパイロットねぇ…
 適正って言ってもそんなの分からないって言うの!
 いや、ほら? テストパイロットって言ってもMSで踊ってただけだし?
 別に軍事オタでも無いんだし、俺がそんな事に詳しいって普通考えるか?


「ルナ、乗ってみるか?」


 なんかもう考えるのも面倒臭い。
 なんで、目の前にいる恋人を推挙。
 おお! これは結構名案じゃないか?
 ガイアだったらザクより性能良いしな、彼女の身を案じる男としては有りだな。


「ん~~~ 私は遠慮しとくわ。
 今のザクって結構気に入ってるしね。
 せっかくパーソナルカラーに塗ってもらってるんだから悪いわよ」


 むぅ、残念。
 振り出しに戻ってしまった。


 うーん、となると残るはレイ、ショーンさん、ゲイルのおっさんか。
 意表を突いて俺、ってのも有りかな? …いや、無いか。
 俺がインパルスを降りる事を許してもらえるとはとても思えん。
 艦長はともかく、議長は怒る。
 平穏に生きる為には余計な波風は起こさないに限る。


 となると、レイか?
 一応、操縦技術は俺に告ぐ№2だしな。
 実力から言えば妥当か。
 問題はレイのザクもルナと一緒でパーソナルカラーなんだよなぁ…
 なんかレイってザクに自分で名前とか付けてそうだし。
 そう言えば前から疑問に思ってたんだけど、なんでレイのパイロットスーツだけ紫色なんだ?
 誰もツッコミ入れないし。
 紫は欲求不満の色だって知ってる?


 とりあえず、レイは却下だ。


「…レイはザクのままで良いだろう」


「そうね。
 レイって射撃寄りだし、ガイアとは合わないし。
 妥当じゃないかな」


 え?
 そうね、そうそう、俺もそう思ってたんだよ。
 ガイアじゃレイの実力は発揮できないと思ってたんだ、いや、ホント。


 となると残るはショーンさんか、ゲイルのおっさん。
 射撃に合わないって事はガイアは接近戦用か?
 って事はゲイルのおっさんだな。


 …だけど、似合わないな。
 ガイアにゲイルのおっさんが乗ってる所が想像付かん。
 なんて言うか、濃いおっさんにステラの乗ってた機体を任せるのは生理的に、ねえ?


 うん、決めた。
 ガイアの次期パイロットはショーンさんって事でファイナルアンサー。
 あの人、背高いし、スレンダーだし、色白で男装の麗人って感じだし。
 ガイアに乗ると絵になるね。
 うむ、実に素晴らしい。
 我ながら英断ですな。


「決めた。
 ガイアはショーンさんにお願いしよう」




 つづく(と傀儡子(くぐつ)って似てません?)




 後書きみたいなもの


 いろいろ中途半端な感じですがとりあえず14話はここまでと言う事で。
 なんとなくだらだら感が蔓延してきた感じですし。
 殆どショーンさんのキャラ設定の為だけに費やしたお話でした。
 アスランの登場も軽くスルーの方向で。
 経緯は近いうちに触れたいと思いますが。
 そもそも、この時期に暁は有ったんでしょうか?
 ウズミさんの音声を考えると種の時代から有ったっぽいですが、暁に使用されている技術は運命後期の技術だしなぁ…


 それにしても相変わらず戦闘シーンの描写は下手だなぁ…
 この先戦闘だらけだって言うのに。
 生暖かい目で見守っていただければ幸いです。




 P.S.
 番外4話の改定前のお話の報告は感想板にて。




 ##################################################


 感想版で頂いた指摘を元に原作矛盾を修正。
 結構大幅な書き直しになってしまいました… orz


 軽く矛盾が無いか調べていた所、デュートリオンビーム送電システムって?
 ミネルバでのガイアの装甲エネルギー切れは有り得ないのか?
 でも『発信艦に対し正対し、受信に支障が出ないよう静止する必要がある(Wikipediaより参照)』そうな。
 戦闘中にそんな事してる余裕無いよね?
 ショーンだしね?


 …見逃して下さい。 m(_ _)m



[2139] 15話目。 カガリ暗躍。
Name: しゅり。
Date: 2006/08/08 21:59
<ウナト・エマ・セイラン>


「カッガリィ~、心配したんだよぉ~♪」


「ああ、ユウナか、すまない。
 悪かったな、心配を掛けてしまって。
 だが今は客人の前だ。
 そのような行動は控えてもらえると嬉しい」


 プラントから戻られたカガリ様をお迎えした時、私は戦慄を覚えた。
 カガリ様の身に起こった変化。
 それは長年政治の舞台に身を置いた私だからこそ分かるような些細な物。


 今交わされた息子であるユウナとの問答がその良い例だろう。
 ユウナの言動を否定する事も正面で受け止める事もせず、受け流す。
 その上、自分の思う方向へ相手を誘導しようとする意思すら感じられるのだ。


「ウナト、このような時期に長期間不在ですまなかった。
 私が不在の間、よく国を守ってくれたな」


「はっ、ありがとうございます」


「つもる議題も有るだろう。
 直に国府へ向かうとしよう」


 踵を返して颯爽と去っていくカガリ様の後姿を眺めながら、私は思考の海に潜る。
 果たして、過去の決断は正しかったのだろうか? と。
 自分の感情すら御し得ない小娘だったが故に、我々は彼女を代表首長の座に据えたのだ。
 能力はともかく、彼女には民からの絶大な人気が有る。
 国を焼かれたオーブを立て直す上で、彼女の人気は非常に優れた武器だったのだ。
 人気は有るが感情的で、ウズミ様の理想の影ばかり追っている道化。
 彼女の存在は、真に国の政を行う身にとっては絶好の客寄せパンダだったのだ。


 だが。
 もしも客寄せパンダに実力が伴ったとしたらどうなる?
 人気の上では他の追随を許さない存在だと言うのに、我々は彼女に最高の権力の座を与えてしまっている。
 彼女が我々の笛に踊る事無く、自らの意思で権力を使い始めるとどうなる?


「ねえ父さん、カガリってばなぁんか様子が変だったんだけど。
 ひょっとして女の子の日だったのかなぁ?」


 …頭が痛い。




■■■




「つまり、連合と手を組む。
 そう言う訳だな?」


「はい。
 既に地球の住民は皆、先のユニウス7降下の犯人がコーディネーターである事を知っています。
 連合がプラントへと宣戦布告した今、同じ地球の一員として連合に組する事こそが義だと考えます」


「ふむ… 皆はその意見に賛成なのか?」


 カガリ様が何を言おうと無駄だ。
 反対者を募ったところで、誰もカガリ様に賛同などしない。
 既に議員のメンバーへの根回しは済んでいるのだから。


 仮にだが。
 カガリ様が政治家として目覚めつつあるとしても、経験が足りない。
 こればかりは一朝一夕でどうにかなる問題では無いのだ。


「…皆、宰相の意見に賛同と判断しても構わないか?」


「………」


「………」


「………」


 議員の間を沈黙が落ちる。
 その1人1人の顔を順に確認したカガリ様は、最後に私に視線を向け、


「…そうか、ならば仕方が無い。
 オーブは連合に組する事としよう」


 渋々ながらではあるが、賛同の意を示した。


「「!?」」


 馬鹿なっ!?
 オーブの理念をこよなく信じるカガリ様が連合への加盟に賛同するだと?
 室内に動揺の風が吹き荒れる。


 だが。
 その風を遮るように、


「勘違いしないで貰いたいのだが。
 私は連合への加盟に賛同はしていないのだ。
 理由は3つ有る」


 そう言い放つと、再度全員の顔を順に見やる。
 そして全員の意識が完全に自分に向かっているのを確認すると、ゆっくりとその先を続ける。


「まず1つ目だが。
 確かにユニウス7を地球に降下させたのはコーディネーターだ。
 そして、その破砕作業を行ったのがZAFT軍である。
 現場に居合わせる事になった私がこの目で確認した事だから間違いは無い」


「そうだよね、プラントの奴等が地球にユニウス7を落とそうとしたんだ。
 ZAFTは破砕活動したからって、落とそうとした事実は変わらないし。
 現にオーブにも被害が出てるんだ」


「すまないユウナ、まだ私の話は終わってないんだ。
 皆も、最後まで聞いてくれ。
 確かにユウナ、私はコーディネーターが犯人だとは言った。
 だがプラントが犯人だとは一言も言ってないぞ。
 私は皆に聞きたい。
 何時からコーディネーター=プラントになったのだ?
 何故、ユニウス7降下の犯人をプラントだと言える?」


 カガリ様の言葉が我々の胸に押しかかる。
 カガリ様がおっしゃる言葉は正論だ。
 確かに正論だが…


「でもでも!
 コーディネーターの殆どはプラントの人間じゃないか!
 それにあいつらだけ被害に遭ってないんだよ?
 犯人はプラント以外考えられないじゃないか!
 なんでカガリはプラントを庇うとするのさ?」


 ユウナの言うとおり、人間の感情は理屈では無いのだ。


「別に私はプラントを庇おうなんて気はない。
 ただ、それが戦争の理由に成り得るか確かめたいだけだ。
 ユウナ、コーディネーターの殆ど、そう言ったな?
 そう、コーディネーターの”殆ど”はプラントの住民だ。
 だが、決して”全て”では無いのだぞ?
 我が国にもコーディネーターの国民は大勢居る。
 プラントを除けばコーディネーターの国民数は世界でも3本の指に入るだろう。
 そのコーディネーターがオーブの国民では無いと言う保証が何処に有る?」


「そんな馬鹿な事、有り得ないよ!」


「私もありえないと思う。
 ただ、私が言いたかったのはコーディネーターが犯人だと言う事実がプラントと戦端を開く原因にはなりえない、それを皆に理解してほしかっただけだ」




■■■




 結局、あの場は最初から最後までカガリ様に呑まれたまま経過していった。
 残る2つの理由。


 1つはプラントが地球に対して行っていた支援の手を振る払う事に関して。
 プラントが地球に寄せた好意と、それを半ばで拒否する事の愚かさ。
 カガリ様が触れられたのが好意だけなら鼻で笑う事も出来た。
 だが、


『戦端を開くのは事実が明確になってからでも遅くない。
 十分に支援してもらい、復興の適った処で宣戦布告をすれば良い』


 との意見には返す言葉が無い。
 確かに、この状況下で戦端を開く連合の稚拙さには我々でさえ呆れを感じるのだから。



 残る1つは連合がプラントへと行った攻撃について。
 プラント側の堅守もあって大事には至らなかったが、連合は再び核をその手にしたのだ。
 ユニウス条約を破るその行為は、今後地球に核が落とされる可能性を自ら認めてしまった事に他ならない。




「…まさか、カガリ様が此処まで考えていらっしゃるとはな」


 我々はあの方を見誤っていたのかもしれない。
 獅子の娘は獅子、そう言う事なのだろう。
 残念ながら、私がウズミ様に敵わなかったように、ユウナもカガリ様には敵わないのかもしれない。
 おそらく、近い将来にそんな日が来るだろう。
 私が健在の間は問題無い。
 長年培ってきた経験と人的ネットワークにはカガリ様は届かない。
 政治は正論で動く訳ではない。
 戦争は感情論で起こす訳ではない。


 だが、最後にカガリ様が我々に投げかけた言葉が胸に重く圧し掛かる。


『皆、此度の戦争の落とし所をどう考えている?
 連合が勝利した場合、プラントが勝利した場合。
 その時のオーブの立場は?
 国を焼かぬ為に理念を捨てたオーブは、その時、他の国々の目にどのように映っているんだ?』


『確かにオーブが連合に組する事は認めよう。
 皆が話し合って決めた事だ。
 私が1人反対したところで無駄だろうからな。
 だが、これだけは言っておくぞ?
 私は決して此度の同盟に賛同しない。
 私は私なりの方法でオーブの為に動くとしよう』




■■■




「…そうか、ミネルバは領海を出たか」


「はい。
 当初の予定通りオーブ軍艦隊が詰めております」


「わかった」


 部下からの報告を受け、鷹揚に頷く。
 全てが私の描いた通りに動いている。
 連合との同盟も成った。
 ZAFT艦ミネルバの存在は良い土産になるだろう。


 だが。
 なぜ私はこうも心休まらぬ時を送っているのだ?


「ウナト様」


「…なんだ?
 報告なら確かに聞いた。
 退出して構わないぞ」


「いえ、カガリ様の行動について報告させていただいても構わないでしょうか?」


「…なに?
 カガリ様の行動について、だと?
 そのような指示は出し… いや、聞かせて貰おう」


「はい、畏まりました。
 カガリ様は本日、アレックスを伴い出航前のミネルバへと向かわれた模様です。
 その後、モルゲンレーテ社を訪れ、現在はアカツキ島へと足を運ばれています」


「モルゲンレーテ、アカツキ島だと?」


 ミネルバはともかく、後者の2箇所への目的はなんだ?
 なぜモルゲンレーテや、アカツキ島へと向かう必要が有る?
 物凄く嫌な予感がする。
 なにか途轍もなく今のオーブにとって好ましくない事が起こりそうな気がしてならない。


『私は決して此度の同盟に賛同しない。
 私は私なりの方法でオーブの為に動くとしよう』


 不意にその言葉が思い出される。
 カガリ様は何をされようと言うのだ?




 長身の針が半円を描く軌跡を見せた後。
 私の元に、アカツキ島より金色のMSが飛び立ったとの報告が入る。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






「すまない、オーブは連合との同盟を選んでしまった」


 出航前の慌しい時に、偶然通路でカガリとか言う女と出くわした。
 後ろには当然の様にアレックス…じゃなくて、アスランだったっけ?も一緒。


 それにしても今更カガリは何を言ってるんだろう?
 いくら俺が情報に疎いからって、オーブが連合に組した事くらい知ってるぞ。
 なにせ今も出港準備で大急がしなんだからな。


 …待てよ?
 カガリって、アレだ。
 なんでもオーブの偉いさんじゃ無かったっけ?
 所長だか首長だか忘れたけど、議長とタメ口聞けるくらい偉いんだよな?


 って事は、ひょっとして此処でカガリを拉致ればお手柄じゃないか?
 対戦国の偉いさんを人質にでもすれば、議長も大喜びですよ。
 きっと、


『やあ、シン・アスカ君。
 此度は君の活躍のお陰でプラントは救われたよ。
 君には感謝してもしきれないくらいだ。
 その代わりと言ってはなんだがね、今後は命の危険が大きい軍から離れてゆっくり花屋でも開いてはみてはどうかね?
 支度金の方はこちらで用意しよう』


 とか言ってくれるに違いない。
 間違いない。


 そうと決まれば躊躇はすまい。
 思わず、ギンッ! ってな音がしそうな視線で獲物(カガリ)を睨んでしまった。
 なんて言うの? ウサギを見付けた鷹の気持ち。
 よし、そうとなれば早速行動に移すべきだ。
 そう考えて一歩踏み出したところで、カガリの後ろに突っ立ってるアスランと目が合った。


 うげぇっ!


 すっかり忘れてた。
 そう言えばアスラン居たんだ。
 邪魔だなぁ…
 流石に目の前で恋人を浚うのは見逃してくれないよなぁ…
 止めようかなぁ…誘拐。
 でも、もうカガリの方に踏み出しちゃってるし、右手なんてカガリの肩に伸びてるんだよなぁ…
 今更無かった事にはできそうにない。
 このまま行動を止めたらただの挙動がおかしい人だ。
 なんとか誤魔化さねば。


「…気にするな」


 誤魔化しきれませんでした。
 うわぁ…
 何が気にするな、だよ!?
 偉そうにカガリの肩なんかポンッて軽く叩いちゃってるよ。
 ぶっちゃけ、「気にするな」って言うより「気にしないでね?」ってな心境。
 なんて言うかアレですよね?
 若さ故の過ちは認めたくない、ってな心境とでも言いますか。


 此処は可及的速やかに戦線を離脱すべし!
 別名、戦略的撤退とも言う。
 ルルルーと涙を流しながら、2人に背中を向けて逃げるように去っていくのであった。




■■■




 これは苛めですか?
 なんだろう? この洒落になんない戦力比は。
 って言うか、空中戦してるのが俺一人ってのは正直どうよ?
 単機って有りえないでしょ、普通。
 ここまで露骨な戦力差なんだからさぁ、いっその事5人で守勢にまわれば良いじゃん!
 絶対俺ってば生贄の羊にされてるよ。


「メイリン、俺もミネルバの防御にまわったほうが良いんじゃないか?」


 自分の置かれたポジションに、萎えそうになる心を奮い起こして、艦橋に意見をば具申してみる。
 実際は懇願の意味合いが強いんだけどね。


 すると即座に


『ミネルバなら大丈夫です。
 シンは1人で艦隊を落としてください』


 って元気な返答が返ってきた。
 俺が居なくてもミネルバは大丈夫らしいです。


 って、いやいやいやいや!
 いくらなんでも返答するの早過ぎじゃない?
 メイリン絶対他の人と相談してなくない?


 そもそも1人で艦隊落とせって無茶苦茶ですな。
 おまけに明らかに”1人で”って所の発音に力がこもってたぞ?


 …確かにメイリンにはいろいろ迷惑掛けたと思うよ。
 アカデミー時代からしょっちゅうベッド使わせて貰ってるし、スカートを改造したのだって俺が悪かったと思ってる。
 だけど、それとこれとは別でしょ?
 ちゃんとシーツの洗濯は俺がしてるんだし、スカートは評判良いじゃん。
 日常のアットホームで些細な1コマを戦場に持ち出すなんて、(将来の)お義兄さんは悲しいなぁ…


 そんなお馬鹿な事を考えながらも未だ戦えちゃってるからアラ不思議。
 当然、タネは有るんだけどね。
 いやいや、そんな前後左右上下全てを囲んじゃダメでしょう?
 銃を撃ったとしても、俺が避けちゃうと同士討ちの可能性が高いから撃てないしね。
 必然的に接近戦になるんだけど、今武蔵と評判の高い俺に連合のMSが敵う筈も無く。
 触れる物皆傷つけた~♪って言うギザギザハートな今の心境でもどうにかなるもんだ。




■■■




 世の中金ですか?
 金持ってる奴が勝組ですか?


 俺がプリキュアだったら間違いなくあの決め台詞を叫んでるぞ?
 いくらなんでも金ピカのMSってのは無しでしょう…
 なんて言うか、成金仕様?
 金さえ掛ければビームだって弾くってか?


 その癖、ショーンさんの危機を颯爽と救ってるし!
 いや、ショーンさんを助けてくれた事自体は感謝してるんだけど。
 降り注ぐビームから身を盾にして守る、いくらなんでも格好付けすぎじゃないか?
 王道すぎてちょっとむかつく。


 それに比べて俺は…
 なんでこんなところで1人、1束幾らのMS相手に戦ってるんだろう?
 数字の上では1番活躍してるのに、1番目立ってない気がしてならない。
 不遇だ。


 やはり目立つ為には俺も大物をしとめねばならんのだろうか?
 別に目立つ必要性は何処にも無いんだけど。
 そもそも平穏無事にZAFTを退役したい俺としては目立つのは不味い気がする。


 …でも、なんか無性に悔しいんだから仕方無いじゃないか!
 一番活躍してたって言うのに、途中から来たポッと出の奴に見せ場を掻っ攫われるのは。


 1回くらいなら良いよね?
 流石に艦隊相手は無理だし、あのMAを落とすって方向でお願いします。


 とは言っても、どうしよう?
 確かにZAFTの主砲を防ぎきるバリアは凄いけど、所詮それだけだ。
 図体がでかいだけで、1対1なら負ける気がしない。
 でも、現状は1対1からは程遠い状況。
 こんな事考えながらでも、今も雑魚MS相手に大立ち回りしてる訳で。
 どうにか楽をしつつ倒せないものか…



「聞こえるか? ルナ!」


 熟考の末、俺はルナに声を掛けた。


『え? シン?』


「ああ、悪いがルナ、頼みが有る。
 艦隊に向けてその馬鹿でかい銃をお見舞いしてくれないか?」


『え? だけど、きっとまたあのMAに弾かれちゃうよ?』


「ああ、それで良いんだ。
 ルナは万が一跳ね返された時に避ける準備さえ怠らなければそれで良い」


『…何か考えが有るのね。
 わかったわ、シン、射撃のタイミングは任せるから』


「サンキュ!
 じゃあ行くぞ? ………3、2、1、撃てー!」


 俺のカウントダウン終了と同時にルナのザクから一条の光が敵艦隊へと伸びる。
 流石のルナでも動かない的には正確な射撃が出来る。
 大気を焼くビームの光は正確に敵艦へと突き進む。


 が。


 例のMAがまたもその進路上に不可思議な光彩を放つバリアを展開させて立ち憚る。
 だけど、


「この瞬間を待ってたんだよぉ!」


 いままでの緩慢な動作から一転、急速移動で取り囲むMSを振り切った俺はバリアを展開して無防備な姿を晒す巨大MAの直上から急襲する。


「貰ったぁ!」


 モジュールはフォースだって言うのにソードの対艦刀をこよなく愛する俺は、さっきまで両手で振るっていた2刀を胸の前でドッキングさせると、重力を加えて更に加速の増した勢いのまま、巨大MAの正中線に沿って両断した。


 間を置かず、俺の駆るインパルスの真上をルナの放ったビームが通過していく。
 そして。
 MAの性能を過信していたのか回避を怠っていた艦隊に突き刺さった。


『グゥレイトォ♪』


 スピーカーからルナの歓声が上がる。
 って、その台詞は他人のだから。
 無闇に敵を作りそうな発言は止めようよ。


 そして俺は、


「…危ね」


 コクピット内で肝を冷やしていた。
 実はMAがルナのビームを跳ね返してから攻撃するつもりだったんだよ。
 予想よりも重力を加味した加速が強すぎたんだ。
 危うく俺がビームの餌食になってしまう処だったぜ。


 やっぱり目立ちたいって気持ちで無茶するのは良くないな。
 人生は平穏が一番だとつくづく思ったね。


 勢いの止まらないまま海中に突っ込んでしまって、モニターに映るお魚さんに心和ませながらしみじみ思った。




 つづく(とは思わなかったなぁ… ほんと。)




 後書きみたいなもの


 本日のトリビアの泉の影ナレがアムロだったから更新w
 冗談ですけどもね。


 こんなカガリは有りでしょうか?
 正直、連合との同盟を認める発言はありえないかな?と思わないでもないです。
 以前、精神的な成長をさせたんですが、それだけで直に政治をどうこうできる筈も有りません。
 なんで、今回は負け方に拘ってみました。


 そしてルナが思わぬ大戦果。
 ルナザクが砲戦に特化した武装だと言う事に関ましては、下記のような事を考えています。
 ・ルナは的が止まっている&自分も動かない状況下での射撃はそこそこ優秀。
 ・的or自分が動き回る機動戦では命中率は格段に下がる。
 ・その事実を知らない事務方が勝手に決めたのでどでかい銃を持っている。



[2139] 16話目。 まだ生きてますw
Name: しゅり。
Date: 2006/08/11 21:39
<アスラン・ザラ>


「2面外交を行う。
 カガリ、君は本気でそう言ってるのか?」


 オーブが連合への加盟を決定した日の夜。
 カガリから内密にその提案を持ち掛けられた時、俺は咄嗟になんて返事をするべきか分からなかった。
 それくらい考えもしない内容だったんだ。
 俺をミネルバに同行させる、なんて。


 自分で言うのもなんだけど、少なからず俺はカガリの腹心だと内外から評価されている。
 そんな俺に政策とは真逆の行動を取らせる事が意味するもの。
 それが一国の代表自ら行う2面外交と言う訳だ。


 発想は悪くない。
 このまま連合に加盟してもオーブに得られる物は何も無い。
 失う物は計り知れないって言うのに、だ。
 プラント側へも積極的に働きかける事に拠って、今回の同盟の意味を変化させるって言うのは有りかもしれない。


 だけど、だ。


「カガリはどうなる?」


 そんな行動に出たなら、当然カガリの周囲にも変化が生じる。
 間違い無く悪い意味での変化が。
 なにせ一国の代表が国策を裏切るって言うんだから、その反動は計り知れない。
 そして何よりも大事な事は、その時、俺はミネルバに同行していてカガリの側に居ないのだ。


 当然、カガリもその事は考慮しただろう。
 そんな事は百も承知だと言わんばかりに、


「恐らく身柄を拘束されるだろうな。
 仮にも代表である私を逮捕監禁まではしないだろうけど、行動の自由くらいは奪われるかもしれない」


 なんて淡々とした未来予想を告げられる。
 行動の自由を奪われる。
 それはつまり軟禁されるって事に他ならない。


「そんな馬鹿な事が俺に「だがっ!」…!」


 拒絶の思いを乗せた言葉は、カガリに封じられる。


「今のオーブには必要な事だって私は考えたんだ。
 このままじゃオーブはただの連合の狗だ。
 そうなったら、今度こそ本当にオーブはお仕舞いなんだぞ!?」


 カガリが何を言いたいのかは分かっているつもりだ。
 先の大戦では『他国の侵略を許さず』と言う理念は無残にも踏み躙られた。
 そして今回、『他国の争いに介入しない』と言う理念を、自ら進んで踏み躙ろうとしている。
 そうなった後、何処の国が『他国を侵略せず』と言う理念を信じてくれる?


「なあアスラン、こんな情けない私でも今はオーブの代表なんだ。
 そんな私にとって、オーブの理念を貫き通すと言う事は義務だと思わないか?」


「だけどZAFTに加担したとしても『他国の争いに介入しない』と言う理念を破る事には違い無い」


「そうだな。
 でも、議会は既に連合への加担を発表してしまったんだ。
 最早後戻りは出来ず、どの道、理念は破られるんだ。
 だけど、それで終わりじゃないだろ?
 理念が破られた後もオーブは続くんだ。
 だったら私は理念が破られた後のオーブの立場が少しでも良くなる様に努力すべきなんじゃないか?」


「その結論が2面外交なんだな?」


「…ああ。
 回避できない戦争だと言うなら、せめて終戦への道標になりたい」


 敵と見方の2種類に分けられた世界では、どちらかが滅びるまで終わりが見えないから。
 連合とプラントを繋ぐ架け橋になる。
 それがカガリの言う道標なんだろう。
 だけど。


「他人はそう判断しないかもしれない。
 連合へもプラントへも尻尾を振る、蝙蝠外交だって馬鹿にされるかもしれない」


「…ああ」


「連合に加盟したんだ。
 オーブ艦隊もいずれはミネルバと戦う日が来るかもしれない。
 そうなった場合、俺はオーブの為にオーブ軍の兵士を殺さなければいけないのか?」


 決して有り得ない未来では無い。
 連合とプラント、双方に加担すると言う事はそう言う事なのだ。


 恐らくカガリが1番考えたくない事だと思う。
 カガリが守らねばならない人達を、カガリの為に俺が殺すと言う未来。


 いや、これだけじゃ自惚れだな。


「当然、逆も有り得るな。
 オーブ軍にしてみれば俺は裏切り者なんだ。
 俺が殺される事になっても不思議じゃない」


 カガリが守らねばならない人達が、カガリの為に俺を殺す。


「その時、カガリはオーブ兵を殺した俺を許せるのか?
 俺を殺したオーブ軍の兵士を恨まないで居られるのか?
 そんな可能性を内包して、それでも2面外交を行う必要が有るのか?」


「………」




■■■




「『気にするな』…そう言ってたな」


「…ああ」


 シモンズさんに先導されてアカツキ島へと向かう中、カガリがそう呟く。
 カガリの発言は返答を期待してのものじゃないように思ったけど、俺も同じ事を考えてたので思わず相槌を返してしまった。


「………くっ! アハハッ」


「カガリ?
 何が可笑しい?」


「いやな、さっきのあいつの顔を思い出したんだ。
 私の事を射殺さんばかりに睨んでおいて、『気にするな』って続くんだからな。
 あいつって案外、嘘が下手かもな」


「ああ、そうかもしれないな」


 オーブが敵にまわった事に対する謝罪をカガリが告げた後のシンの表情。
 カガリは冗談に紛らわせたけど、あの時のシンからは本気を感じた。
 本気でカガリに負の感情を向けたんだ。
 カガリの護衛は既に首になっては居るが、もしもシンがカガリになんらかの手段に打って出るなら即座に行動に移すつもりで居たんだ。
 実際、シンの手がカガリの肩に掛かった瞬間なんか行動に移る寸前だった。
 そんな俺の行動を止めたのも又、『気にするな』の一言だった。


「思い起こしてみると、私達と一緒の時は何時も機嫌が悪かったな、アイツ。
 好かれてるとは思わないけど、もう少し打解けた表情も見てみたかった気がする」


 確かに。
 シンは俺達の前では常に不機嫌だった。
 そして言葉を飾らろうともせず、言いたい放題に言われた気がする。
 だけど、不思議と腹は立たなかった。


 それは何故か?
 シンがオーブの出身で、先の大戦の被害者だからだろうか?


 確かにそれも有る。
 全く無いと言ったら嘘になるだろう。
 でも、それだけじゃない。
 それだけで此処まで1人の人物に興味を持ったりはしない。
 では、それは何か?


 それはきっと『戦争を殺したい』と告げた言葉に集約される思考。
 シンの口から零れた戦争観の全てが正しいとは思えない。
 任務だからって理由で人を殺せるシンを認めようとは思わない。
 だけど、『戦争を殺したい』と真剣に告げるシンに対して否定しようとも思えない。
 それはきっと俺達と同じ思いだから。
 戦争を無くしたい俺達と、戦争を殺したいシン。
 進む道は違えど、目指すゴールは同じなんだと思えるから。
 だから俺達はシンの行動に負の感情を抱けないんだ。


 だけど、いや、だから、か。
 シンがそんな奴だから俺達は気にしてしまうんだ。


「死なせたくない」


「ああ」


 ユニウス7の破砕に全力を尽くしてくれたミネルバのクルーを。
 無愛想で口の悪い奴だけど、それでも憎めないシン・アスカを。


「だから俺はミネルバに行くんだ」


 2面外交の是非に付いては未だに半信半疑だけど。
 オーブの人間を殺すかもしれない可能性は否定できないけど。
 暗いかもしれない未来に脅えて行動出来ないで居るのは臆病者のする事だ。
 そんな俺達を見てシンならどう言うだろうか?
 きっと、


『未来を明るくする為に全力で行動すればそれで良い』


 とでも言うだろう。
 シンの生き様がまさにそれなんだから。




■■■




「アスラン・ザラ、義に拠ってミネルバを助太刀する!」


 今まさに敵弾に倒れそうなガイアの前に暁を割り込ませる。


『アスランさん!? どうして此処に!』


 だけどそんな俺と暁を迎えたのはスピーカーから聞こえる非友好的な声と、向けられた銃口だった。
 赤いザクのパイロットは確かルナマリア・ホークと言ったか?
 確かに俺はミネルバを助太刀するとは告げたし、実際にゲイツの危機を救ってみせた。
 だけど、それだけでは警戒を解くにはには至らないと言う事か。
 確かに俺はオーブに所属する身だし、警戒されるのは仕方が無いが。
 彼女は快活そうな性格だったし、こういう所は杜撰だとばかり思ってたが、なかなかどうして。
 用心深さも備えてるみたいだし、隊長を任されているのは伊達じゃないって事か。


 だけど、それはそれだ。
 いくら暁にビーム兵器は通用しないと知ってても、何時までも銃口を向けられるのは愉快じゃない。


「悪いが今は詳しく説明している暇は無さそうだ。
 詳しい話は後程、艦長にさせて貰う。
 とにかく今はこの危機を脱する方が優先だろう?」


 それだけ告げ、孤軍奮闘するシンの救援へと向かう。
 これは別にシンが苦戦しているから、と言う訳では無い。
 寧ろシンは驚く事に圧倒的な戦力差にも関わらず優勢を維持している。


 つまり、単純に俺側の都合での救援だ。
 味方としての信を得ていない俺がミネルバの警護に当たるわけには行かない。
 信用出来ない味方は、時として敵よりも厄介な存在になりえるからな。
 これまで彼等だけで防衛しきれていた様子だし、それならこのまま任せてしまっても構わないだろう。
 俺は中距離でミネルバに近付こうとしているMSを減らす事を心掛ければ良い。


「シン! 助太刀す――


 そう声を掛けかけたまさにそのタイミングで。
 シンの駆るMSは恐ろしいスピードで急降下を開始する。


「何をするつもりだ!?」


 咄嗟に口から素朴な疑問が零れたが、答えは直に得られる事になる。
 シンの取った行動に拠って。


「っな!?」


 なんて恐ろしい真似をするんだ!
 ザクの砲撃にシールドを張らざるを得ないのを見越して頭上からの強襲。
 そしてそのまま見事な一撃離脱を見せる。
 絶妙な戦法でMAを撃破しただけでも素晴らしいのに、感嘆はそれだけに止まらなかった。
 ザクの砲撃は囮の役目だけでは無かったのだ。


 後から考えると納得出来る事だけど、あのMAが砲撃を避けずにシールドを張ると言う事は、つまり後ろに守るべき存在が有ると言う事を示す。
 だからMAとそのシールドを取り除いたならこの結果は当然なんだろうけど、何処の誰が『敢えて防御させて攻撃が防がれる直前に防御を取り除く』なんて事を考えるって言うんだ?


 正気の沙汰じゃない。
 そんな事を考えるのも、それを実行に移すのも、そして成功させてしまうのも。


 改めて思う。
 シン・アスカ、君は恐ろしいパイロットだ。
 俺はキラ以外のパイロットに、初めて畏敬の念を抱いた。




■■■




 結局、俺は海中へと消えたシンの穴を埋め、そのまま単機で空中戦を繰り広げる羽目になってしまった。
 シンはそこまで予想していたんだろうか?
 おそらく予想していたんだろう、シンの場合は。
 でなければ何時まで経っても浮上してこない理由が分からない。


 この時、俺はシンが俺に戦場を押し付けて海中で休息を取っているものだとばかり考えていた。
 いくら凄腕のパイロットだと言っても、シンだって人間だ。
 シンの代役を務めている俺には分かる。
 単機での空中戦は、MSのエネルギーよりも著しく精神力を消耗する。
 多少の休息を望むのも止むを得まい。


 後になって己の浅慮を恥じる事になる。
 あのシンが休息と言う安易な理由で戦場を放棄する奴だと思ってしまった自分を。


『アスランさん!
 ミネルバはこの隙に戦場を離脱します』


「了解。
 殿は引き受けた」


 ミネルバからの通信が入る。
 オペレーターの娘はメイリン・ホークと言ったか?
 わざわざ俺に連絡してくれるくらいには、どうやら司令部でもある程度は信用してくれているらしい。


 それに敵艦隊の混乱が収まらない中、突破を図るのも妥当な判断だ。
 数で著しく劣る以上、消耗戦に持ち込まれたならミネルバの劣勢は跳ね返せない。
 好機と判断したなら迷わずに行動に移すべきなのだ。


「だがシンの姿がまだ見えない」


 そう、シンの駆るGが海中に姿を消してから未だに姿を見せないのだ。
 そんな俺の心配を余所に、


『構いません。
 大丈夫です』


 と爽快に太鼓判を押してくれた。


 ―――信頼されてるんだよなぁ?


 恐らくシンの実力を信頼しての判断だとは思うんだが…
 憂いを全く含まない声が逆に心配になってしまう。




■■■




 離脱は大成功だと言っても良いだろう。
 敵艦の包囲網さえ突破してしまえば艦の速度が違う。
 あちらが艦を反転させて追跡に移るまでに十分なアドバンテージを取る事が出来た。


 残る問題は追い縋って来るMSの対応だけだ。
 実力は然程でもないが、数は脅威である。
 あまり対応に手間取る様だと敵艦隊に追い付かれてしまうかもしれないのだ。


 そうなった場合、ミネルバに勝ち目は無い。
 艦はその構造上、後方の敵との戦闘は不向きなのだから。
 ミネルバは敵艦隊に追い付かれたら負け。
 逆に敵MS群は艦隊に追い付かせたら勝ちとなる。


 そして、生き残りを掛けた鬼ごっこが始まる。




■■■




 終焉は突然訪れた。
 後方に姿が見える敵艦隊から突如爆発が巻き起こったのだ。


 日が落ち始めた空を明るく染めながら、1隻の艦がその姿を海中に没して行く。


「…何が起こった?」


 予想だにせぬ出来事に、思わず戦場が停滞する。
 敵味方を問わず、誰もが後方の出来事に思考を奪われてしまったのだ。


『…敵機が、撤退していく?』


 静寂を打ち破ったのは敵MS群の行動に拠って。
 スピーカーから聞こえるルナマリアの声の通り、ミネルバへと向けていた矛を翻して予期せぬ災難に見舞われた母艦へと撤退して行ったのだ。
 その瞬間だった。


『またっ!?』


 またも巻き起こる激しい爆発音。
 天を突き抜けるような劫音と共に、新たに1隻の艦が海の藻屑と成り果てた。


 だけど、これで命懸けの鬼ごっこも終わりだ。
 敵艦隊にはミネルバ追跡の余裕も失われた。
 敵艦隊の身に何が起きたのかは疑問が残るが、我々は無事に虎口を逃れる事が出来たのだ。


『後方から高速で接近する機体を発見!』


 思わず一息付いたそのタイミングだった。
 敵艦隊が居た方向から高速でこちらへと向かってくる機体の姿を確認する。


「あの機体は…シンッ!?」


 その事実に、背筋を冷たい汗が流れる。
 このタイミングでシンの機体が現れるだと?
 それはつまり敵艦隊の惨状を引き起こした正体を意味するんじゃないか?


「…シンが残ったのはその為だった、とでも言うのか?」


 知らず声が震えた。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






 海中でお魚さん達を眺めながら戦場で荒んだ心を癒されてると、スピーカーから聞き覚えの有る声が。
 何故か知らないけど、毎回俺に試練を与えてるとしか思えないメイリンの声だ。
 どうせなら『お義兄ちゃん♪』とでも呼んでくれないものだろうか?
 もちろん呼んでくれる筈も無く、そして案の定今回の通信も理不尽な試練みたいな内容でした。


 曰く。
 ミネルバは既に戦場から離脱した、との事。
 詳しく言うと、ルナが敵艦隊に放った砲撃が予想外に大成果だったそうで。
 敵艦隊が動揺して混乱してる隙を突いて全速離脱を図ったら成功したそうだ。


 …俺、戦場に置いてけぼりなんですけど?


 頑張って合流しろ、とのありがたい言葉を頂きました。
 ありがたすぎて涙が止まりません。
 そんな事にはお構いなく、ミネルバの現在座標が送られてくる。


 あのぉ…
 凄いスピードで遠ざかってますよ?


 いや、全速離脱なんだから当然なんだけど、追い付かなくちゃいけない方の身になってみてよ?
 インパルスのエネルギー残量もイエローラインだって言うのに、ねえ?


 いや、皆まで言うまい。
 ともかくミネルバは戦場からの離脱に成功したんだ。
 船体の被害も軽微らしいし、パイロットに至ってはあの戦闘で死傷者ゼロと言う快挙だ。
 ゲイルのおっさんもMSは中破だけど、中身の方はピンピンしてたらしいしな。
 まあ、殺しても死ななそうなんで心配してなかったけど。
 兎に角コレは喜ぶべき事だよ!


 …そう、喜ぶべき事だんだ。
 喜ぶんだ俺!


 …だけど何故だろう?
 頬を伝う熱い雫が止まらない。


 きっとコレは心の汗だ!
 そうに違いない。




■■■




 何時までも感傷には浸っていられない。
 そうしてる間にもミネルバを示す座標はどんどん遠ざかって行く訳だし。
 このままだと物凄く不名誉なMIAに為りかねん。
 いくらなんでも流石にそれは悲しすぎる。


 そう言った訳で迅速な行動が求められてるんだけど、そうなるとまずは浮上しなくちゃいけない。
 そうしないと海中での動作があまり得意じゃないインパルスは追い付けないからな。


 色とりどりなお魚さん達に別れを告げ、海上に出る。
 そして、そのまま一直線にミネルバを目指してたんだけど、連合艦隊と鉢合わせました。


 …いや、考えてみたら当たり前なんだけどな。
 逃げるミネルバを追う連合艦隊、その後ろから俺が追いかけてた訳で。
 こうなるのは当然って言えば当然か。


「…あれ?」


 結構近付いたのに連合艦隊からの攻撃が薄い。
 何故か慌てふためいたように右往左往してる様子が見て取れる。


 って、考えてみれば当たり前か。
 戦艦って後ろの方向へ攻撃出来るように出来てないもんな。
 逃げるミネルバを追う立場から、まさか俺が後ろから来るなんて考えてもみなかっただろうし。
 機動力の有るMS部隊も護衛に数機が残ってるだけで、大半がミネルバの追跡に出払ちゃってるっぽい。


 と、言う事は…


「奇襲のチャンス?」


 棚から牡丹餅。
 災い転じて福と為る。
 果報は寝て待て。


 なんて諺が浮かんできたけど、とにかくそんな感じ。
 なら男として、否、漢としてやるべき事は一つ。


「シン・アスカ、突貫する!」




■■■




「………斬刑に処す」


 護衛のMSを軽くあしらいつつ、新たに2隻の連合艦を海の藻屑に変えて離脱を図る。
 連合艦が17のパーツに分断されたかは途中で爆発を起こしたんで分からないけど、この台詞は色々と危険な香りを含んでる気がするから2度と使わないでおこうと心に誓う。
 まあ、あれだ。
 ブラスト装備だったら片っ端から撃ち落して撃沈させてるところなんだけど、生憎と装備はフォースを基本にソードの対艦刀と言うもの。
 1艦ずつ沈めるには2隻が精一杯でした。
 あまり時間を掛けると先行していた敵MS部隊が戻ってきちゃうしな。
 もしそうなったら、俺は袋の鼠になってしまう。


 此処はある程度の戦果で満足して、撤退するのが賢明だな。
 そもそも当初の目的はミネルバとの合流だったんだし。


 …って言うか、なんで俺、こんな真面目に働いてるんだろう?




■■■




「認めたくないものだな、若さ故の過ちは」


 ってな感じで自分らしくない働きぶりを結論付けながらもミネルバへと帰艦。
 ふふふ、皆が俺を出迎える顔が目に浮かぶようだ。
 なんたって戦艦2機撃沈って言えば大手柄だもんな。


 意気揚々としてコクピットから降りたんだけど、あれれ? 誰も拠って来ないんだけど。
 俺の計画では皆にちやほやされて、それを機に最近忘れてた友達100人計画を遂行しようとしてたんだけど。
 この冷遇っぷりは何ですか?
 ちと戸惑うではないか。
 なんで化け物でも見た、って感じで遠巻きに見てんの?


「相変わらず目茶苦茶な存在だな、君は」


 泣くぞ?泣くぞ?と思わず人間不信に陥りかけてたその前に、声を掛けてきた人物が居た。
 今の俺に声を掛けるとはなかなかの猛者だな。
 よし、特別に友達にしてやろう。
 そう思って振り返ると。
 えっと、確か…


「………アスラン?」


 思いもしない顔が有った。
 確かアスランって名前だったと思うんだけど。
 正直、男の名前の記憶力はあまり良くないんで半信半疑だったりする。


「ああ。
 今日からこの艦で世話になる事になった。
 よろしくな」


 何処か戸惑い気味ながらも、そう言って握手を求められたんで取り合えず応じとく。
 正直、バカップル男と握手するのは無性に嫌なんだが、これでも俺は平和主義だし。
 なんだったらこの際、アスランを友達にするのでも構わない、か?
 なんて言うか、主人公臭がぷんぷんして生理的に好かんのだが…
 とりあえず握手くらいはサービスしとこう。


「シン、いきなりですまないんだが、今から時間を取れるか?
 少し話がしたいんだが…」


 そんな俺の上っ面だけの好意に調子に乗りよったのか?
 アスランは俺の青春時代の貴重な時間を寄越せって言ってきましたぜ。
 俺はもちろんノーサンキューだ。
 男の為に時間を割くなんてポリシーに反するからな。
 ただでさえこの前もアスラン達バカップルの所為で、友達が増えるかもしれない機会を逃したって言うのに。
 この期に及んで、なにが嬉しくて男と逢引みたいな真似をせにゃならんのだ?


「いや、シャワー浴びたいんで勘弁してもらえませんか?」


 なんで遠まわしに断ってみた。
 シャワーを浴びたいのは本音だけどな。
 激しい戦闘の後のパイロットスーツの中は汗でビショビショだし、正直疲れてる。
 さっさと風呂に入って飯喰って寝たい。
 アスランに届くよな? 俺のそんな気持ち。


「ならシャワーの後で構わない。
 休憩室で待ってるから後で来てくれ」


 届きませんでした。




■■■




「アスラン・ザラと会うのか?」


 びっくぅっ!!
 風呂上り、腰にバスタイルを巻いた格好で部屋に戻った俺に、後ろから声が掛かけられた。
 って、レイか。
 なんとも心臓に悪い。
 いや、此処は俺とレイの部屋なんだからレイが居る事自体は不思議でもなんでもないんだけど。
 なんて言うか、声を掛けるタイミングに気を使って欲しい。
 危うく驚いた衝撃でバスタイルが解け落ちる所だったじゃないか。


 ………ってそれが狙いか?


 迂闊っ!
 俺とした事がアスランの態度に腹を立てててレイに対する警戒を怠っちまってたとは!
 どうやら最近影の薄いレイに油断してたようだ。
 男は家を一歩出たら7人の敵が居ると思え、とは言うけど、俺の場合は部屋を出なくても敵が居る。
 危うくそれを忘れるところだったぜ。


 なんとか心を落ち着かせながら、レイに動揺を悟られない様に返事を返す。


「ああ、どうやら俺に拒否権は無いらしいしな」


「そうか。 …気を付けろ」


 レイはそれだけ告げて部屋を出て行ってしまった。
 俺的にはお前に気を付けたい所なんだけどな! って後姿に投げ掛けようか迷ったのは秘密だ。
 そもそもレイの奴、アスランの何に気を付けろって言うんだ?


 …もしや!


 アスランはレイの同類で、奴も俺の尻を狙ってるとでも言いたいのか?
 彼女持ちだからと言って油断するな、ひょっとするとレイはそう告げたかったのかもしれない。
 類は友を呼ぶ、と言うか、異端と異端は分かり合えると言うか。
 きっとレイにはアスランと通じるモノが有るに違いない。
 そりゃあ、レイの立場からすれば気を付ける様に言うわな。


「………」


 ま、まあ、それはあくまで冗談だろう?
 流石に有り得ないとは思うけど、一応注意しておく事にしよう。




■■■




「遅かったな」


 休憩室に入った俺にアスランが声を掛ける。
 ってか、何故にこやつはこんなに偉そうなんだろう?
 そもそも俺が遅かったのはアスランがどの休憩室か言わなかったからだろが!
 ミネルバ内に休憩室がいったい幾つ有ると思ってんだ?
 何処の休憩室か聞かなかった俺も俺だけど、探し回るのにまた汗掻いちゃったじゃないか!


「…すいません」


 まあ、そんな事は顔に出さずに謝罪しておく。
 その辺が俺の紳士たる由縁だ。


「まあ良い。
 早速だがシン、君とはゆっくり話をしたいとずっと思ってたんだ。
 色々と聞きたい事も有るしな。
 今から幾つか質問したいんだが、構わないか?」


「別に構いませんが」


 多分、拒否権なんて無いだろうし。


「別にそんなに難しい質問じゃない。
 今日の戦闘を見てもそうだが、シン、君の活躍は実に興味深いんだ。
 自分以外のパイロットの操縦で驚ろかされたのは正直、キラ以来だよ」


「キラ、ですか?」


 なんか、何処かで最近聞いた事が有るような無いような。


「ああ。
 シンもMSのパイロットなら知ってるだろう?
 先の大戦でZAFT軍を苦しめたストライクのパイロット。
 まあ、その時の俺は苦しめられた側だったんだけどな。
 アカデミーで習ってるとは思うけど、そのストライクのパイロットがキラ・ヤマトだ」


 いや、全然知りません。
 そもそもMSのパイロットになんか、なりたくなかった訳で。
 アカデミーの講義って言われても、半分以上寝てたから殆ど覚えて無いし。


 だから、


「そうそう、写真が有ったんだ。 見るか?」


 なんて写真出されても興味無いですから!
 って言うか、なんでアンタ他の男の写真なんか持ち歩いてんだよ?
 やっぱりアレか?
 レイの忠告通り、あんたも801系の人間なのか?


 そんな俺の動揺はとりあえず置いといて。
 仕方なく出された写真を覗き込んでみたんだが…


「あっ!」


 知ってる顔が映ってました。
 アスランと男同士だってのに肩を組んでるって言う、嫌過ぎるシチュエーションの写真には、つい最近見たような顔が。
 いや、あの時は暗がりで、本当の所あんまりよく覚えて無いんだけど。
 慰霊碑の前で会ったロックなミュージシャンだよな? この顔。
 辛気臭い顔してたのがなんとなく記憶に有るんだが…
 思い出してみるとミーアさんから、キラって呼ばれてたような気がしないでもない。
 って訳なんで、


「俺、キラって人と会った事有りますよ」


 って告げてみたんだけど…


「なんだって!?」


 おおうっ!?
 それを聞いた時のアスランの驚きようは、逆にこっちが吃驚だ。
 いや、何をそんなに驚いてるんだ?


 …まさか俺とキラって人の事を邪推してる、とか?
 いや、流石にそれは無いか。
 アスランもこの前までミネルバに居たんだ、俺にはルナって彼女が居る事くらい知ってるだろうし。
 俺が言うのもなんだけど、ミネルバで1番有名なカップルだし。
 それを言うならアスランも、カガリってオーブの代表と仲が良かったよな?
 って事は…


 …両刀なのか?


 人類皆恋愛対象とかそう言う、恐ろしくストライクゾーンの広い人種だったりするのか?
 もしもそれがアスランにとって常識で、あまつさえその常識を俺にも当て嵌めてるんだとしたら…
 想像するのも恐ろしいけど、キラって人との関係を勘違いされてるって線も、有り得ない訳じゃない。


 って事は考えられる可能性は2つ。
 キラの事を好きなアスランが、自分の預かり知らぬ所でキラと会った俺に嫉妬してる。
 もしくは俺の事を狙ってるアスランが、キラに先を越されそうで焦ってる。
 まあ、その場合はキラもアスランと同じ両刀って事が条件なんだけど。
 類は友を呼ぶって言うし、あのアスランの親友なんだ。
 さっきの痛い写真もあわせると可能性は0じゃない。


 うーむ…
 どちらにしても誤解は直に解くべきだろう。
 俺とキラって言う人が無関係だって事を正確に伝えとくべきだな。


「キラって人とは先日、慰霊碑の前で偶然居合わせただけですよ。
 別段、何か会話を交わした訳でも無いし。
 それにキラって人はミーアさんって女性の方と夕食するって言ってましたし」


 正確に言うとミーアさんがキラに夕食だ、って言ってたんだけどあんまり変わらないから良いや。
 そう告げた俺の言葉に


「そ、そうか。
 偶然居合わせただけか。
 いや、まさかキラとシンに接点が有るだなんて思わなかったんでな。
 取り乱して済まない。
 そうか、キラはミーアと夕食を…って、ミーア?
 誰だそれは?
 ラクスじゃないのか?」


 いったん落ち着きかけたアスランだけど、急に挙動不審者の様に取り乱しだした。
 一人ボケツッコミの様でちょと面白かったのは内緒だ。
 うーむ、どうやらミーアさんの事が原因らしい。
 そう言えばアスランとキラってデキてるかもしれないんだよな。
 自分の預かり知らない所で恋人に虫がついてたら、そりゃ取り乱すか。
 俺とした事が口をすべらせてしまったみたいだ。


 喋った本当の事なんで問題は無い筈なんだけど、ちょっとだけ悪い事を言ってしまった気がする。
 たからせめてミーアさんの事を教えてあげるくらいの事はしてあげても良いよな?
 そういった訳で、


「正確にはミーア・キャンベルって言って、プラント出身の女性歌手ですよ。
 親密そうでしたし、キラって人の恋人じゃないんですか?」


 って、親切に所感を加えて伝えた。
 そして言い終えてから気付いた。
 所感は別に要らなかったな、と。


 俺が脳内1人反省会に入ってるのにはお構いなく。
 それを聞いたアスランの反応は劇的だった。


「ラクスって言う人が有りながら…
 何をやってるんだ、キラ!」


 激昂したアスランは、そう叫んで勢い良く休憩室を飛び出して行ってしまった。




 つづく(今度は早めに書けると良いなぁ…)




 後書きみたいなもの


 大変長らくお待たせしました。
 どうにかまだ創作意欲は生きてます。
 逆に書きたい事を上手く書けずに己の地力の無さを嘆く日々です。


 今回のお話に時間が掛かった経緯を簡単に説明しますね。
 最初はシリアスパートをキラで書き進めてました。
 完成後に読み返してみるとあまりに説明に特化し過ぎてて丸々没に。
 ひょっとしたら17話以降に再利用するかもしれませんが、16話では使い物にならないと判断しました。


 お次はやぱりキラで、説明に特化しないように、コメディテイストで書き進めました。
 キラが唯のアホの子になりそうだったんで途中で断念。


 いい加減、最後に更新してから間が開きすぎだよ…番外編に逃げよう。
 と言う訳でハイネの番外編を書き進めてたんですが、イマイチ。
 現時点ではハイネのキャラと言うか、魅力を引き出せません。


 その次は、だったら配役を変えようとラクスで書き進めます。
 ラクスの1人称は色々無理が有りますね。 orz
 少なくても今の俺の力量じゃあ無理だぁ… と挫折。


 最終的に使い勝手の良いアスランでファイナルアンサー。
 キラ&ラクスは現時点でシンに絡みようが無いのも辛かったですしね。


 本当はアスランパートでグラディス艦長との問答、暁の扱いについてまで書こうか悩んだんですけど、大して面白そうでもないし、長くなるだけなんで今回は見送りました。



[2139] 17話目。 結婚式イベントも無視するなんて…
Name: しゅり。
Date: 2006/08/08 22:11
<キラ・ヤマト>


「っ!?」


 不意に背筋を寒気が走り抜ける。
 腕にも鳥肌が立ってるし、なんだか物凄く嫌な予感がするんだけど…


 ちょうどその頃。
 ミネルバの休憩室でアスランとシン・アスカが対談していただなんて僕は想像もしなかった。
 当たり前だけど、アスランとシン・アスカとの間にどんな会話が交わされてたのか知る由も無い。
 だからその後マリューさんから「カガリが軟禁された」って聞かされた時、それが寒気の原因だったんだなって僕は勘違いしてしまったんだ。
 その事を後悔する日が来るのかは、今の僕には分からかった。




■■■




 プラントから戻って来たカガリと、僕は会う機会が無かった。
 ユニウス7の事件に連合の宣戦布告が続いて、カガリはとても忙しかったそうだから。
 だからオーブが連合と同盟する事に決まった時も、戦争を回避しようと必死だっただろうカガリがその事実をどんな気持ちで受け入れたのかなんて僕には分からない。


 それでも想像くらいなら出来る。


 そう思ってたんだけど今回の騒動でその自信も無くなった。
 カガリは何の為に、アスランと一緒にわざわざ出航間際のミネルバを訪れたんだろう?
 なんでカガリは国策に逆らってまでアスランをミネルバ救助に出撃させなくちゃいけないんだろう?
 そんな事しちゃこうなるって事くらい、カガリだって想像できる筈なのに。


「…なんで、そんな馬鹿な事を」


 だからマリューさんの話を聞き終えた時、自然と口からはカガリに対する疑問が零れ落ちた。
 別にマリューさんからの答えを期待していた言葉じゃない。
 だって僕の愚痴に似た疑問に答えられる人間は此処には居ないから。
 1人は自宅に軟禁されてるし、もう1人は今頃ミネルバと一緒に海の上を移動中なんだ。


 マリューさんは僕のそんな疑問が聞こえなかったのか、それとも聞かなかった事にしてくれたのかは分からないけど、何事も無かったかのように話を先へと、より深刻な方へと進めた。


「問題はそれだけじゃ済まないの。
 どうやら連合の方ではアスラン君の出撃に関して、責任者の引渡しを求める声が高まってるらしいの。
 考えてみれば当然なのかもしれないけど。
 だってアスラン君の活躍の所為で連合の作戦は破綻しちゃったんですものね」


「そんな!
 だってカガリはオーブの代表なんですよ!?」


 いくらなんでも話が極端過ぎる。
 たしかに今回のカガリの行動は一国の代表としてどうかと思うけど。
 それでも、それだけで仮にも一国の代表を引き渡せって言うのは無茶苦茶だよ。


「そうね。
 だけどオーブはその要求を受け入れるつもりらしいの。
 良い? キラ君。
 確かにカガリさんはオーブの代表だけど、同時に今回の件では国事犯でもあるの。
 なにせ国策になったばかりの連合との同盟を、故意に邪魔してしまったんですものね。
 寧ろオーブの代表だから軟禁で済んでるって所ね」


 カガリさんは人気者ですものね、と続ける。
 場を和ませるような、僕を気遣うようなマリューさんの発言に、だけど僕は応えを返す事が出来なかった。


 カガリが連合に身柄を引き渡される。


 それはカガリの身の破滅を意味しないだろうか?
 元よりカガリは先の大戦で連合に逆らったウズミ様の娘って事で、連合内での受けは良くない。
 そして今回も連合との同盟を1人否定してたって言うし、それが適わないと決まったらアスランを出撃させる暴挙に出る始末。
 その所為で連合の艦隊はミネルバを撃ち損なってしまった訳だし、連合がカガリに良い感情を抱ける訳が無い。


「それにカガリさんが軟禁されてからは宰相のウナト様が主動で国政を動かしてるらしいんだけど、セイラン家って元々大西洋連邦寄りだから。
 煙たい位置に居たカガリさんを合法的に排除出来るチャンスなんだから躊躇わないでしょうね」


 淡々と、聞きたくない事実だけを聞かされる。


「…マリューさんは。
 どうしてそんな事を僕に教えるんですか?」


 知らなければ悩む事も無いのに。
 確かに全てが終わってから知らされてたら、後悔するのは間違い無いけど。
 どうしてカガリが大変な時に僕は気付いてあげられなかったのか?って。


 だけど。
 今、知らされるのも残酷だ。
 だって知らされたって今の僕には何も出来ないから。
 カガリが大変だって知ってるのに、知ってしまったのに、今の僕には心配する事と焦る事くらいしか出来ないんだ。


 悔しい。
 何も出来ない、力を持たない自分が憎い。


 そして、それと同時に思う。
 アスラン、君は今回の事をどう考えてるんだろうか?と。
 出撃したのはカガリの意思もあったみたいだけど、アスランは残されるカガリの身を心配しなかったの?
 カガリがこんなにも身の危機に晒されてるって言うのに、君が近くにいないなんて…


 いや、それは逃避だ。
 確かにアスランには思うところが沢山有る。
 プラントから帰って来たアスランは、何処か様子がおかしかったし。
 だけど今、ここで全ての責任をアスランに押し付けるのは違うと思う。
 何も出来ない自分から目を背けて、アスランにやつ当たりしてるだけだ。


 そんな僕の葛藤に気付いたのかは分からない。
 マリューさんは少しだけ申し訳無さそうに、


「…キラ君には知っていて貰いたかったから」


 とだけ、告げた。




■■■




「眠れないのですか?」


「ラクス…」


 昼間マリューさんから聞かされたカガリの話が原因で寝付けなかった。
 だからこっそりと寝室を抜け出して、ベランダから夜空を見上げていたんだ。
 そんな僕に声を掛ける人が居た。
 共に生活するようになって早2年になる少女、そして僕の愛する人、ラクスだった。


「カガリさんのお話でしたら私もバルトフェルト隊長より伺いましたの。
 キラは夕食の時も食欲が有りませんでしたし、きっと眠れなくて此処に居ると思いましたわ」


「…バレバレなんだ、僕の考えてる事は」


「ええ、だってキラの事ですもの」


 自分はそんなに単純なのかな?ってちょっと落ち込みかけたけど、その言葉に救われる。
 ラクスが僕の事を分かってくれてる、それが物凄く幸せな事なんだって思えるから。
 僕はラクスが何を考えてるのか全然分からないけど。


「…キラはどうしたいんですか?」


 横に並んだラクスが同じように夜空を見上げながら訪ねてきた。
 だから僕も夜空を見上げたまま、思った事を素直に言葉にした。


「…助けたいって思う。
 カガリを連合軍になんか引き渡したく無いんだ。
 そんな事になってしまったら、カガリはきっと、2度とオーブに帰って来れなくなっちゃうから」


 連合軍に引き渡される、そんな事になってしまったら間違いなくカガリは殺される。
 それだけは絶対に避けなくちゃいけない。


 だから。
 なんの力も持たない僕だけど。
 このままじゃカガリを永遠に失ってしまう事になるって分かってるから。
 僕はカガリを助け出したいって、それだけを考えてる。


「…もし、カガリさんを無事に助け出せたとしても、キラ、その時は貴方も国事犯になってしまいますわ。
 それでもキラはカガリさんを助け出したいと思われるのですか?」


「………」


「………」


「………」


「………」


「…そうだね。
 それでも僕はカガリを助け出したいと思うよ」


 僕なんかが国事犯になるだけでカガリを救えるのなら。
 オーブの事は確かに好きだけど、例えそのオーブに居れなくなったとしても。
 カガリさえ無事なら僕は国事犯になる事も躊躇わない。


 そんな僕の決意をラクスはどう受け取ったのか、


「でしたら助け出しましょう」


 あっけらかんと言い放った。


「………え?」


 物凄く意表を突かれたんで、僕は咄嗟に返事が返せなかった。
 そんな動揺してる僕の顔をラクスは面白そうに眺めながら、


「”こんな事もあろうかと”、フリーダムとアークエンジェルの準備は出来てますわ」


 一度言ってみたかったんですの、と楽しそうに微笑むラクスに、僕は返す言葉を持たなかった。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅






「そう言えばアスランの姿を見ないな」


 オーブを出て直に行われた連合艦隊との戦闘を逃げ切った後の航海は、邪魔も入らず順調だった。
 それでも目的地のカーペンタリア基地に着くまではまだ日が掛かるってんで、正直パイロットな俺達は暇で暇で仕方が無い。
 出来る事って言えば訓練か待機くらいのもんだからね。


 そんな訳で今日も今日とて休憩室でまったりしてたんだけど、暇だったんで此処に唯一いないパイロットの話題でも振ってみた。
 思えば休憩室を飛び出していった後姿を見送って以来、アスランの姿を見ていない気がする。
 ミネルバを降りたって話は聞いてないから、この艦の何処かには居ると思うんだけど。
 そんなにキラって奴の浮気がショックだったんだろうか?
 って言うか、実は俺もショックなのだ。
 だって仮にも俺はミーアさんのファンだったんだよ?
 そんなミーアさんが、よりにもよって浮気(?)されてただなんて…!
 あのキラってロック野郎、絶対許せねぇ。
 もし戦場で会ったなら、アスランの知り合いだからって容赦はしない。


「アスランなら格納庫だ」


 そんな俺の密かな決意は何処吹く風。
 冒頭の俺の疑問にはレイが答えてくれた。


「ふーん…」


 とりあえずそう返して読み掛けだった雑誌の頁を捲る。
 オーブで慰霊碑に行った帰りに購入しておいた『週刊ペット大集合』だ。
 チワワ可愛い。
 戦争が終わって(終わる前でも良いけど)退役したらプラントでペット屋さんを開こう。
 プラントでペットを飼えるのかは知らないけど。


「って、それだけかい!?」


 ビシッ!ってな擬音がしそうな勢いでルナにツッコミを入れられた。


 さすが俺の彼女なだけの事はあるな。
 手首のスナップが効いた良いツッコミだったぜ。
 これでどんぶり飯3杯はいける…


 って、そうじゃなくて。


「…いや、正直、興味無いし」


「…シン、そんな正直にぶっちゃけられても困るよ。
 ショーンなんか固まっちゃってるじゃない」


 そうは言われても興味が無いものは仕方が無い。
 実際のところ、アスランが何処に居ようと俺には何の関係も無いし。
 ぶっちゃけ、他の男が何処で何してようがどうだって良いんだ。
 ま、アスランがどうにかしたら俺がZAFT辞められる、ってんなら話は別だけど。


 …ん?


 待てよ。
 アスランが俺の分まで活躍したらそれもアリか?
 俺の分まで働いてくれるんだったら、俺要らなくなるよな。
 仮にも英雄とか言われてたそうだし、有り得ない話じゃない気がする。


 …そうとなれば話は早い。


「冗談だよ、ルナ。
 レイ、アスランは格納庫だって言ったな?
 そこで何をしてるんだ?」


 アスランの情報を集めるべし!
 そして作戦を練らねばなるまい。
 題して『アスラン大英雄! 俺ペット屋』プラン。
 もともと一般ピーポーな俺が活躍してるのが間違ってるんだよ。
 英雄とかそう言うのは主人公っぽいアスランとかの方がふさわしい。
 それが運命なのだ。
 よし、コードネームは『デスティニープラン』って命名しよう。
 小市民は小市民らしく、英雄は英雄らしく!って事で。


 ちなみに内容はと言うと、その名の通りアスランを大英雄に仕立て上げて、その間隙を縫うように俺はペット屋へと転身するってもの。
 その為には議長にアスランの活躍をどしどしプッシュしていかなくちゃいけない。
 その為にもアスランの事を詳しく知っとかなくちゃな。
 敵を知り己を知れば百戦危うからず、って昔の偉い人も言ってた気がする。


「も、もう。
 シンったら人が悪いんだから」


 思わず突っ込んじゃったじゃない、って照れながら擦り寄ってくるルナの相手を適当にしながら、


「MSの整備だ」


 って、もう少し長い文章を喋っても良いんじゃないか?ってレイの返答を聞く。


 なんでもアスランはオーブ(と言うかアスハ代表個人)が修好回復の為に派遣した助っ人扱いだそうな。
 それで艦長との話し合いの結果、傭兵的な立場でミネルバと同行するらしい。
 だけどあの金ピカのMSはオーブの機密情報の塊らしくて、情報漏洩を防ぐ為にアスラン以外は触っちゃダメって事で、自分で整備しなくちゃいけないんだって。


 他にも色々と取り決めは有るらしいんだけど、代表的なのは


 ・整備に必要な機材はZAFTが無償で提供する。
 ・アスランはミネルバの作戦指揮に従う。
 ・但し、オーブが相手の場合のみ出撃拒否を認める。
 ・だからと言ってオーブに味方してZAFTに敵対する行為は認めない。


 って、だいたいこんな感じ。
 まだまだ福利厚生とか待遇面での決め事も沢山あるらしいんだけど、正直どうでもいい。
 少しだけ聞いたんだけど、税金関係の事とかさっぱりだったんで爽やかにスルーしておくのが紳士の嗜み。
 他はなんて事無いんだけど…強いて言えば緊急停止装置かな。
 流石に自爆装置はNGだったんだけど、緊急停止装置くらいは必要らしくて、アスラン立会いの元取り付けたそうな。


「…なるほど」


「うわぁ、大変そうね。
 MSの整備まで自分でしなくちゃいけないなんて」


 確かに大変そうだ。
 俺が自分で整備までさせられるんだったら、絶対途中で泣き出す自信がある。
 だけどレイの話を聞いて俺が気になったのは、残念ながらそんな事じゃないんだ。


「なあレイ、あのビームを跳ね返した装甲、あれって替えの部品有るのか?」


 有るんだったら是非とも俺のインパルスにも着けて欲しい。
 ってか、お願いだから着けて下さい。
 金ピカってのがダサくて玉に瑕だけど、そのくらいは我慢できなくもないし。
 アスランに頼めばどうにかならないもんか…?


 そんな俺のよこしまな考えを余所に、レイは


「…流石だな、シン。
 確かにあの装甲はオーブの最先端技術だけあって替えの部品は存在しない。
 今後の戦況次第ではMSの装甲面での性能劣化は避けられないだろう。
 その時の為にザクの修理にも取り掛かっている」


 もっともこちらはヨウラン達が手伝ってるそうだが、と続ける。
 なんだか会話が噛み合ってない気がしないでもないが、とりあえず、


「…そうか」


 って、訳知り顔でうなずいておいた。




 つづく(マラソンの要領で)




 後書きみたいなもの


 またしても遅筆、そして内容も薄いし話も進まない。
 ホント、すいませぬ。 m(__)m
 全部、才能不足が悪いんやぁー!


 …見捨てないでいただければ幸いです。



[2139] 番外編の5話。 徒然なるままに、ミーア・キャンベル。
Name: しゅり。
Date: 2006/08/11 22:44
<ミーア・キャンベル>


 ~♪


「お送りした曲はラクス・クラインで『自由はSO・KU・BA・KU♪』でしたぁ。
 いやあ、TVで姿を観なくなって久しいラクス様ですが、人気は衰える事を知りませんね。
 ミーアがお送りしてる当放送『明日はメタモルフォーゼ』は深夜枠って事もあって、リスナーさんからのリクエストは少なめなんですが、その殆どがラクス様の曲をリクエストしてるんですよ。
 でもでもそうなると何時も同じ曲ばっかりになっちゃうから、他の歌手さんの曲をリクエストした方がお葉書が採用される可能性が高いかも♪
 そうそう、他の歌手さんのリクエストで思い出したんですが、何時もミーアの曲をリクエストしてくれるヘビーなリスナーさんもいらっしゃるんですねぇ。
 R.N『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さん、いっつもミーアを応援してくれてありがとー!!
 R.NからするとZAFTのアカデミーの人かな?
 ミーアは赤紙ってのがちょっと気になってたりします。
 それにしてもアカデミーの生徒さんがこんな深夜まで起きてて大丈夫なのかな? ちょっと心配です。
 ミーアの曲ってCDショップでもあんまり置いてないんだけど、『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんは新譜が出た時なんか直にリクエストしてくれるんだから凄いよねぇ~。
 尊敬しちゃう!って言うか惚れちゃうカ・モ・ネ♪
 残念ながらこの番組ではミーアの曲を流すのはNGなの、ごめんね。
 だけどそんな『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんはミーアが勝手にファン倶楽部の会員№1番に決めた!
 って言ってもミーアのファン倶楽部は無いんだけどね、とほほ…
 そんなヘビーなミーアファンの『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんは気付いたかな?
 他のリスナーの皆はどう?
 実は今日の放送でミーアはこっそりドッキリを仕掛けておいたのだぁ!
 って言っても分かんないか。
 ヒント出すね。
 ほら、ミーアって誰かに声が似てるなぁ~って思わない?
 そう、ラクス様にそっくりなんだよねぇ。
 CDの売り上げ枚数は天と地ほど差が有るんだけど、とほほ…
 いかんいかん、MCが暗くなっちゃダメだよね?
 はい、それでは放送時間も少なくなってきたのでさっさと正解を発表しちゃいます。
 実はと言うと、さっき流れたラクス様の『自由はSO・KU・BA・KU♪』なんだけど、なんと!ミーアが歌っていたのでしたー!
 驚いた?
 とりあえず苦情の電話は入ってないみたいなんでばれてないと思うんだけど。
 深夜枠のローカル放送だからって、無茶しましたよぉ…
 ディレクターさんにも内緒で仕込んでたんで、後で怒られるかもかも。
 来週の放送でMCが代わってたら皆、ミーアに同情してね。
 おっと、そんな訳で今週もそろそろお別れのお時間になっちゃいました。
 来週も皆に会えると良いなぁ…w
 以上、ミーア・キャンベルで『明日はメタモルフォーゼ』をお送りしましたぁ。
 おやすみなさーい」


 ………


 ……


 …


 ものすっごい怒られちゃった。
 やっぱり勝手に音源差し替えたのは不味かったかなぁ…




■■■




 いやぁ、人間何がどう影響するか分からないもんよね。
 え? 意味が分からない?
 実はですね、ふふふ…
 なんと! 昨日の放送を聞いてた議長さんから仕事の話がしたいってオファーが来たのだぁー!
 凄いでしょ? 議長だよ? 議長!


「昨夜のラクス様の歌はほんとにミーアが歌ったのか?」


 って、確認の電話が掛かって来たの。
 何処でミーアの電話番号を調べたのか、考えるとちょっと怖いけど。


「本当にミーアが歌ったのを流したんで干されちゃったんですぅ、およよ…」


 って涙声で訴えたら、


「是非とも仕事の話がしたい」


 だって!
 それでこそ無茶した甲斐が有ったってもんよね。
 ミーアレベルの売れてない歌手なんかは、思い切った手段に出ないと一生日の目を浴びないって思ってたんで勝負に出たんだけど、正解だったわ。
 いきなり干された時はお先真っ暗だったんだけど、ミーアには強運が付いてるわ。


 むふふふふ…


 笑いが止まらないぜぃ!


 …それにしても、評議会議長さんみたいな人がミーアの深夜ラジオなんか聞いてたなんて、ちょっと意外。




■■■




「ラクス様の影武者ですかぁ!?」


 いきなり聞かされた仕事の内容は突飛すぎて、議長さんの前だって言うのに大声を上げてしまった。
 ミーアったら乙女の癖にはしたない。
 反省、反省。


 そんなミーアの心中一人反省会を議長さんは知る筈も無く、


「あぁ、ミーア君。
 君にはラクス様の影となって私の政務を手伝ってほしいのだよ」


 って、ミーアの事はお構いなく話を進めて行く。


「あのぉ…
 そっくりさんとか物真似芸人なんかじゃなくて、ですか?」


「ああ、昨夜の君の放送を聞いてね。
 ラクス様そっくりな歌声もそうだが、なによりその無茶苦茶な行動力と言うか、そう、度胸を買ってね。
 君なら立派にラクス様の影を務める事が出来ると、総合的に判断させてもらったのだよ。
 物真似芸人の様な使われ方をされるのは実に惜しいと考えてるんだがね」


 えっと…褒められてるんだろうか?
 でもでもこれって議長がミーアの事を高く評価してくれてるって事だよね?
 度胸が買われたってのが微妙だけど。


 それにしても、うーん…ラクス様の影武者かぁ…
 確かに声はそっくりだな、って自分でも思うけど、容姿は全くの別モノだしなぁ…
 流石に影武者として人前に出るのは厳しいんじゃないかな?


「容姿ならば問題無い。
 プラントでも最高の整形外科医を用意させるつもりだ。
 もちろん費用はこちらが持つ事になる」


 そんなミーアの疑問には、議長の突き抜けた回答が返って来た。
 え゛?
 顔を弄れって事ですか?
 流石にそれはちょっとご勘弁を…
 親から貰った身体に、病気でもないのにメスを入れるのは抵抗が有るし。
 ミーアはこうみえても固い女なのだ。
 貞操とか、その他もろもろ。
 ピアスだって開けてないくらいな鋼鉄ガールなのに、ラクス様に似せるとなると容赦無く全面整形でしょ?
 髪だってぶっ飛んだ色に染めなくちゃいけないし…


「あのぉ、申し訳ないんですけど断わら「そうそう、ラクス様の影を務めるのだから、当然報酬は弾ませて貰うつもりなんだがね。
 具体的に言うと…」


 そう言ってミーアの断りの声を遮って、議長が提示した電卓には私の今の年収の倍の額が表示されていた。


「えっと、年収ですか?」


「いや、月収のつもりだが?」


 他に支度金も付けるつもりだが、と平然と続けられる。


 うう゛!
 お父さんお母さん、ミーアは心が折れそうです。
 いやいや、それでもラクス様の影になるって事は、ミーアとしての活躍を諦めるって事だ。
 ミーア、貴方はそれで良いの?
 お父さんお母さんに、何時の日か紅白に出る姿を見せる!って約束したじゃない!
 その約束を破っちゃう事になるんだよ?
 お、お金なんかにミーアは負けないもん…


「す、すいませんがこのお話は聞かな「他にもラクス様の代わりとして、コンサートを開催してもらうつもりで居るのだよ。
 どうだね? 数万、数十万の観客の前で君の歌声を披露してはくれないだろうか?」


 す、数万っ!?
 今までミーアのコンサートで来てくれたお客さんの100倍!?
 流石ラクス様、観客の数も半端ねえぜ。


 う、羨ましいかも。
 腐ってもミーアは歌手なのだ。
 沢山の人の前で歌ってみたいって気持ちは有るのだよ。
 だけどだけど、うーん…
 うまい話には罠が有るって言うし、やっぱり断わるべきよねぇ?


「そうそう、先の大戦の英雄、アスラン・ザラはラクス様のフィアンセだったね。
 彼は今プラントには居ないが、ひょっとしたら近い将来、彼の擬似恋人役を「やります!」…そ、そうかね」


「ええ!
 プラントにはラクス様は必要な人なんです!
 私なんかがラクス様の代わりとしてプラントのお役に立てるなら喜んでやらせて頂きますとも!」


「あ、ああ。
 決心してくれて嬉しいよ」


 何処か引き攣った笑みを浮かべながら、よろしく、って差し出された議長の手を力強く握り返す。
 お父さんお母さんごめんなさい。
 ミーアはお父さんとお母さんの娘だけど、プラントの市民でもあるの。
 プラントの皆の役に立てるんだったら、ミーアは泣いてお父さんとお母さんを裏切るわ!
 決して良い男の話に目が眩んだ、とか、自慢の胸でどうにかしてやろう!なんて考えてないから安心してね?




■■■




「胸を削るぅ!? 断固拒否します!!」


 顔の手術を終えてミイラ女状態なミーアに、医者は淡々と次の手術の説明を始めた。


「大変言い難い事なんですが、ラクス様と比べると胸が大き過ぎますから。 削っちゃいましょう」 って。


 拒否します。
 ええ、断固、拒否するともさ!
 ミーアのバストは自慢のおっぱいなんだ。
 ひょとしたら本物のラクス様に唯一勝るかもしれない武器、いわば切札な代物なのだ。
 それを削るだなんて、滅相も無い。
 だから、


「え? でも議長に出来る限りラクス様に似せるように指示されてますし…」


 って、困惑した様子を浮かべながら返答してきた医者に、


「貴方じゃ埒が明かないわ。
 議長と連絡を付けなさい!」


 って怒鳴りつけてしまった。


 ほうほうの態で病室を飛び出して行った医者が、携帯を持って戻って来たのは5分後。
 それから私と議長の間で長い長い話し合いが始まった。
 母と言う漢字の成り立ちから始まって、月亭可朝の『嘆きのボイン』の歌の意義、『有る有る』で聞いたおっぱいの持つ癒しパワーの検証から巨乳は世界を救うと言うやばめな宗教と同じ結論に到達するまで、熱い議論が交わされたのだ。
 それは後の世に『おっぱい会議』として語り継がれたのは言うまでも無い。


 そんな訳で議長と分かり合えたミーアは今のおっぱいを維持。
 自慢の武器を携えたままで、ラクス様としてデビューする事になったのだった。




■■■




『ラクス様も愛用!
 豊胸手術なら○○クリニック』


『ラクス様は一児の子持ち!?
 復帰以来、とみにスタイルがよくなったラクス様だが、そんなラクス様に出産疑惑が持ち上がっている。
 一時期、芸能界から姿を消していたのは出産・育児の為だと言うのだ。
 確かに以前と比べて胸周りのボリュームの差が歴然としている事実も有り、また関係者だと名乗る男性からの証言で…』


「あっちゃぁ~」


 今週発売の週刊誌を放り捨てながら溜息を漏らす。
 それにしても失礼な話だ。
 私の胸は100%天然物だし、穢れない乙女に向かって出産疑惑なんてもってのほかだ。
 いや、胸の手術を拒んだ私が悪い、ってのは分かっちゃいるんだけど。
 それでも乙女心は複雑なのだ。


「確かに問題だがね。
 過ぎてしまったものは仕方が無いとも言える。
 だが、これらのゴシップ記事が程よいガス抜きになったのもまた事実なのだよ」


 連合の一方的な開戦に水を差すと言う意味ではまことに都合が良い、なんて呟く議長に憮然とした表情を返す。
 だけど言い返すのも不愉快な話を膨らませるだけのような気がするので、


「で、今日私が呼ばれたのは何の為です?」


 って、多少強引だけど、話を本筋に戻してみた。
 そもそも開戦された今日このごろ、議長だってラクス様な私だって忙しいんだよ?
 まさかこんなゴシップ記事を見せるのが本題って訳じゃないと思いたい。


「ん? ああ、今日ミーア君に来て貰ったのは他でもない。
 近々退院する予定の少女、ステラ・ルーシェ君をある家庭にエスコートしてほしいのだよ」


「ステラ・ルーシェ? 誰ですか、その方は」


 議長の口から出たのは聞いた事もない名前の少女。
 しかも聞くところによると、やる事と言えばただの案内係だ。
 わざわざラクス様な私がしなくちゃいけない事なのだろうか?


「ああ、そうだったね。
 それを言わなければ片手落ちになる。
 君もよく知っている【紅蓮の修羅】、この娘はシン・アスカ君の義理の妹になる少女だよ。
 連合に所属していたかもしれない過去も有ってね、この戦争の結末を左右しかねない存在とも言える」


 【紅蓮の修羅】の事は当然私も知っている。
 戦争に赴く兵士を鼓舞するのも、ラクス様な私の大事な仕事の一つなのだから当然だ。
 だけど、【紅蓮の修羅】って人の事よりも、ミーアはシン・アスカって子の方が詳しかったりする。
 同一人物なのに不思議に思うかもしれないけど仕方が無い。
 だって【紅蓮の修羅】って人は戦争の申し子みたいで怖い印象しか湧かないけど、暇潰しに病室で観たシン・アスカって子の曲芸MS操縦の映像は実に面白かった。
 議長から貰ったそのDVDを観て、実はミーアはシン・アスカのファンになってしまったのだ。
 MSの操縦を高等技術でふざけるところが、ラジオで無茶して干されたミーアと通じる所が有ると言うか。
 彼とならミーアは分かり合えるかもしれない。
 そんな訳で、地球でコンサートをする時にお披露目予定のピンクちゃんなザクの操縦は是非とも彼にお願いしたい、なんて考えてたりする。


 あ、ちなみに議長がシン・アスカのDVDを貸してくれたのは、彼が次代のZAFTのエース候補らしいから、だって。
 ラクス様を演じるミーアは予備知識として知っておいたほうが良いって事で借りたの。
 他にもキラって人のや、アスランのDVDも借りたんだけど…
 凄いってのは分かるんだけど、観てても面白くないの。
 遊び心が感じられないってのは減点ね。


「へぇ♪」


 だからちょっとだけ、ステラって女の子に興味が湧いた。
 【紅蓮の修羅】って呼ばれる戦鬼でもあり、曲芸MS乗りの愉快なパイロットでもあるシン・アスカの義妹になったって曰く有り気な少女。
 おまけに敵軍の兵士だった過去までが有って、戦争の結末を左右するかもしれないなんて。
 なんて言うか…


 面白そう♪


 ミーア・キャンベルだった時の私には、接点なんか無い娘だと思うし。
 折角ラクス様になったんだから、こういう事も楽しまなくっちゃね。


「デュランダル議長、そのお話をお受けしますわ」


 ラクス様モードで妖艶に返事をしてみた。






機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞


紅蓮の修羅の番外編






 おわり。




 後書きみたいなもの


 困った時の外伝頼み。
 3時間で完成しましたよ?
 こんなに筆が進んだのはメイリンの短編以来だなぁ…
 ちょっと中途半端な所で終わりですけど、この後はご存知の外伝4話の展開になって、続きは本編登場時ですね。
 あんまり書き過ぎても今後が辛くなりそうなんで。


 ルナマリア、メイリン、ミーア…元気っ娘のハチャメチャな話を書くのが得意なのだと気付いた20歳(1桁代は切捨)の夏。
 そして、得意なのと面白いかどうかは別の問題。



[2139] 18話目。 オーブ編はこれでおしまい。
Name: しゅり。
Date: 2006/08/27 17:38
<カガリ・ユラ・アスハ>

 ミネルバが、そしてアスランがオーブを去ってから3日が過ぎた日の事だった。
 自宅に軟禁される身となった私の元に、議会からの連絡が届いたのは。
 それに拠って知らされた己の処遇に、だけど私は怒りを覚える事は無かった。
 ただ自身の見通しの甘さを悟り、失笑をこぼしただけだ。
 まさか仮にも一国の代表である筈のこの私の身柄を、連合へと引き渡すと言う結論を出すなんて。
 議会の皆がそんな暴挙に出る筈が無い。
 そんな何の根拠も無い事を、無意識に信じてしまっていた自分の甘さを恥じるのみだ。

 それでも、それを知った今でも、私に後悔の2文字は無い。
 なぜなら私は、私の取った行動がオーブの代表として必要なモノだったと信じているのだから。
 それに連合が私の身柄を要求していると言う事は、つまり私の執った政策には十分な意味が有ったと言う事じゃないか?
 きっとアスランは十分に役目を果たして、私の期待に応えてくれたんだろう。
 その事を心から嬉しく思う。
 だからアスランを信じて暁を託したのは、きっと間違いなんかじゃなかったんだ。

 そして、私の元に齎された連絡事項はそれだけじゃ無い。
 よく小説なんかでは「良い報せと悪い報せが有る。 どちらから聞く?」なんて台詞が有るが、私の連合引渡しが悪い報せだとするなら、もう一つの報せは良い報せだと言って良いかもしれないな。
 と言っても、それは議会からの連絡事項じゃなくて、あくまでセイラン家からの私信なのだけど。
 曰く、今回の私の暴挙を理由にユウナとの婚約を正式に破棄させて頂く、との事。
 世の中、悪い事ばかりじゃないって事だな。
 セイラン家の迅速な対応にも、正直、私は失笑を禁じえなかった。


■■■


 そして時の流れは留まる事を知らず。
 いよいよ私の身柄が連合に引き渡される日が来た。
 屋敷の周囲にはMSまで配置されて、正直なところ大袈裟過ぎるんじゃないか?と思わないでもない。
 そんな厳重な警備体制が敷かれている屋敷の中で、私が自身に襲い掛かる不幸を想い感傷に浸ってるんではなかろうか?って思われるかもしれないけど、実のところ、そんな心配は全然要らなかった。
 いや、確かに私だって思春期真っ盛りの女の子な訳なのだし、思うところは沢山有るには有るんだが。
 だけどそれどころじゃ無かったんだから仕方が無い。
 私に着いて来る!って言ってきかないマーナの説得に多大な労力を費やし、泣き縋る彼女を慰める事で正直いっぱいいっぱいだったのだ。

「マーナ、分かってくれ。
 例え議会がどの様な決定が下したとしても、私はオーブ代表としてそれを受け入れなければいけないのだ」

「ですけどお嬢様!
 カガリお嬢様が連合の野蛮な軍人なんかの元に連れてかれると聞いて、マーナは平気では居られません!
 お願いですお嬢様、どうかマーナも一緒に連れて行って下さいまし」

「すまない。
 何度も言うようだがそれは出来ないんだ。
 連合が要求しているのは私の身柄であって、マーナじゃない。
 それに今は名ばかりかもしれないが、それでも私はオーブの代表なのだ。
 オーブの国民を守るべき立場で有って、決して守ってもらう立場じゃない。
 つまりオーブ国民であるマーナを、どのような目に遭うかも知れない事に巻き込む訳にはいかないのだ。
 それにマーナには私が留守の間、私の帰る場所を守るって大事な使命が有るだろう?」

「うっ! うわぁあ゛ーーー!! お嬢様ぁ゛ーー」

 もう何度目になっただろう? 今のような言葉を交わしたのは。
 約束の刻限が迫るに連れて、その頻度が増している気がしてならない。
 まあ、そんな訳で私自身は感傷に浸る暇がこれっぽっちも無かった訳なんだけど。
 悲観的な気持ちを抱かずに済んだのはマーナのお陰かも知れないな、なんて感謝していたりもする。

 そんな言葉の応酬なんかが有った間にも、時計の針は絶えず動き続けていて。
 そして。
 約束の刻限が訪れた。


■■■


 それは突然現れた。
 厳重過ぎる警備が為されている中で、屋敷の前に止められたデザイナーの能力が破綻しているとしか思えない車(後に聞いた処、ユウナとの結婚式でパレード用に使用される予定だったらしい。 セイラン家が婚約破棄してくれた事を心から感謝した)に私が乗り込もうとした、まさにその時。

「なんだとっ!?」

 遥か上空から2条の光が降り注いだのだ。
 ソレは車を挟む形で警戒に就いていた2機のMSの頭部を正確に射抜き、戦闘能力だけを奪い去る。

「…まさか」

 こんな恐ろしいくらいに正確な射撃能力を持つMSと、そのパイロット。
 例え止むを得ず戦闘を行ったとしても相手の命を奪う事を避けようとする、他人から見れば甘過ぎると評価されても仕方が無いパイロット。
 そんな馬鹿を、私は1人しか知らない。

 だけどそれは決して此処に有ってはならないMSだ!
 だけどそれは決して此処に居ちゃいけないパイロットの筈だ!!

 だから。

「なぜ此処にお前が、フリーダムが居る!? 答えろ! キラッ!!」

 そのMSが何の為に此処に来たのかは理解できてるって言うのに。
 その想いに心が歓喜の声を上げてるのにも関わらず、私は声を荒げる事しか出来なかった。


■■■


 警備のMSが一瞬の間に無力化され、また突然に姿を現したフリーダムを前に、警備に当たっていた人間は明らかに平静さを欠いていた。
 最重要警護対象である私を守る訳でも無く(そして拘束する事もなく)、ある者は右往左往と動転して駆け回るだけ、またある者は効きもしない銃をフリーダムへと放っている。
 そんななかで、同様に動揺して動けない私の身柄をフリーダムから伸ばされた右腕が壊れ物を扱う様に、だけど決して逃がさないように、抱きすくめる。

 だけど、だ。
 突然の自体に思わず拘束されてしまったけど、それでも私はキラと一緒に行く訳にはいかないんだ。
 私にはオーブの代表として、果たさなければならない責任が有る。
 だから私は声を荒げて叫ぶんだ。
 キラの、弟のこんな暴挙を許さない為に。

「まっ! 待てキラ! 私はお前と一緒に行く訳にはいかないんだ!」

 例えその結果、私の未来にどの様な結末が待っているのだとしても。
 それがオーブ代表カガリ・ユラ・アスハの取った行動に対しての結果なら、私にはそれを受け入れなければいけない義務が有る。

 だけどそんな私の声が、私の意志が届いているのか、いないのか。
 フリーダムはその動きを止めず、遂に私の足が地面から離れようとした。

 その時だった。

「お嬢様!」

「…えっ?」

 誰もがその行動を制限されていたその時に、その制限に捕らわれない人間が一人だけ居たのだ。
 稀有なその人物は地面から離れつつある私の元に駆け寄り、有ろう事かフリーダムの指にしがみついて来たのだった。

「例え何処であろうと、このマーナ、カガリお嬢様を一人で行かせたりはしません!」

「ちょっ!? マーナ!
 危ないから早く離れるんだ!」

 なにかの間違いだろうか?
 先程まで玄関で私を見送っていた筈のマーナが、何時の間にかフリーダムにしがみついてるって光景は。

 いや、まあ、それは現実逃避にしか過ぎない訳で。
 実際には目と鼻の先程度の距離にはマーナの顔が有る訳で。
 一瞬呆気にとられてしまったが、直に現状を思い出してマーナに制止の声を掛ける。

 今ならまだ危険は少ない。
 徐々に高度が増していくこの状況下で、マーナの体勢はあまりにも危険過ぎた。
 なにかの間違いで落ちでもしたら、洒落にならなくなってしまう。

 だが。
 敢えて厳しい口調で制止の声を掛ける私に、マーナは怯む事を知らず。

「いくらカガリお嬢様の御命令でも、それだけは従えません!
 マーナは何処までもカガリお嬢様に着いて行くと決めたんです!」

 俗に言う『断固たる決意』とやらを見せ付けてくれた。
 しかし、だからと言って私も引く訳にはいかない。

「マーナ!
 これは冗談じゃ無いんだぞ!」

「でしたら尚更です!」

 そんな感じで実りの無い会話を交わしてる間にも、フリーダムは我関せずとばかりに動きを止めず。
 気が付けば既に引き返せない位置にまで、私達を抱えた手は地表から遠ざかり。
 ようやく事態を把握したのか、混乱から立ち直った様子の警備の人間が本来の任務を果たさん!とばかりに意味の無い抵抗を続けるその中で。
 現状ではマーナを再び地表に戻すのは危険だと判断したのかは分からないけど、未だ口喧嘩にも似た説得を互いに続ける私とマーナを安全に抱え直したフリーダムは再び空へとその身を舞い上げ始める。

「待てキラ!
 まだマーナとの話が済んでないんだぞ!
 そもそも私はお前と一緒には行かないと…」

「観念なさいまし! カガリお嬢様!
 カガリお嬢様あるところマーナ有り、マーナあるところカガリお嬢様有りです!」

「いや、マーナ。
 それは意味が分からんぞ…」

「………!」

「……!」

「…!」

「…」


■■■


「馬鹿野郎!」

 アークエンジェルの艦内に響き渡るような怒声と共に、乾いた音もまた艦内を響き渡る。
 なんて事だ。
 結局、私とマーナはそのままフリーダムに拉致される様な形で連行された。
 途中、緊急出動してきたムラサメを振り切り去ってしまったし、気が付けば後戻りの効かない状況だ。

 そんな経緯なのだから、最初に私が取った行動が先の台詞とスナップの効いたビンタだったのは当然だろう?
 本当なら道中、狭いフリーダムのコクピットにキラと私とマーナと言う3人乗りになった時に、振るいたかったんだが、何分スペース的にも(狭くて碌に身動きできなかった)状況的にも(MSの操縦者に暴行は流石に危険)それは不可能だったので我慢したのだ。
 そして今、その短時間の間に溜まりまくった鬱憤を、キラの頬へと炸裂させたのは当然の帰結かもしれない。
 だけど、周囲の皆はそれを当然だとは取ってくれなかった様で、

「…カガリさん、流石にその対応はどうかしら?
 せっかくキラ君が連合の手から連れ出してくれたんだから…」

 キラが打たれた頬を呆然と押さえ、突然の自体にラクスが口をOの字に開け、バルトフェルト隊長が面白そうに口笛を吹くなかで、流石にキラの事が可哀想だと思ったのか、ラミアス艦長が口を挟む。

 だが別に私も鬱憤をぶつけたかっただけで暴力を振るった訳じゃない。
 いや、確かにその気持ちは0じゃないけど。
 だけど本当にそれだけじゃ、いくらなんでもただの暴力女になってしまう。
 たまたま気持ちの吐き出し先が、直接手を下したキラの方を向いたに過ぎないのだ。
 その変の感情のすれ違いを是正すべく、私は有りの侭の自分の気持ちを皆にぶつける。

「別にキラだけに文句が有ったって訳じゃない。
 ラクス、ラミアス艦長、バルトフェルト隊長、この艦に居る皆、そう、皆だ!
 どうしてこんな馬鹿な真似をした!?
 自分達が何をしたのか、本当にその意味を分かってやっているのか?」

 あのタイミングで私を攫うと言う事。
 それはつまり連合とオーブの両方の顔に泥を塗り、そして両方を一度に敵に回したって事になる。
 そんなだいそれた事だって、本当に分かっているのか?

「………」

「………」

「ですが、あのままではカガリさん、貴方を失う事になるやもしれなかったのです。
 私達はまだ、貴方を失う訳には行きません」

 私の発言に水を打った様に静まり返る艦内の静寂を打ち破ったのは、逸早く平静さを取り戻したラクスだった。
 そして向けられた言葉は私の身を心から案じるもの。
 ラクスらしいな、と思う。
 だけど、だから私もその言葉を正面から受け止め、そして言葉を返さなくちゃいけない。

「その気持ちは嬉しく思う。
 ああ、本当だ。
 一人の人間として、カガリ・ユラ・アスハはお前達の行動に感謝しているんだ。
 私なんかの為に、危険を冒してまで助けてくれたんだからな。
 …だけど。
 私はただのカガリ・ユラ・アスハの侭じゃ居られないんだ。
 カガリ・ユラ・アスハの前にオーブの代表なのだ。
 皆の好意を嬉しく思う、だけどそれ以上にオーブ代表カガリ・ユラ・アスハが、お前達の行動を許せそうにないんだ。
 本当に分かってるのか?
 お前達がいったい幾つの罪を犯してしまったのか」

 それが偽りの無い私の心だった。
 私だって人間なのだ。
 本音を言えばこの若さで、こんな事で死ぬかもしれないなんて嫌だ。
 それを犯罪者になるのも構わずに助けてくれた皆の行為が、涙が出るくらいに嬉しい。
 嬉しいに決まってるじゃないか!

 だけど私は何も持たない一市民じゃない。
 オーブの代表って言う、権力と共に責任をも併せ持つ身なのだ。
 今回の件を無条件で喜んで居られるほど、オーブ代表って肩書きに着いてくる責任は軽い物なんかじゃない。
 だから許せない。
 だから許しちゃいけないんだ。

 だから、

「…でも、カガリがどう思おうと勝手だけど、オーブの方はそう思ってないんじゃないのかな。
 現にオーブ代表の筈のカガリの身柄を連合に引き渡すと決めたのは、他ならないオーブの首長達なんでしょ?
 そんな人達がカガリの事を代表だと認めているとは、とてもじゃないけど思えないよ。
 だったらカガリがオーブの代表として責任を取る事に拘る意味なんか無いんじゃないかな」

 いくら弟でも。
 いや、弟だからこそ、キラの今の発言は許せなかった。
 断じて聞き過ごす訳にはいかないんだ。

「それがどうした!
 確かにオーブの首長達は私の身柄を連合へと引き渡す事に決めた。
 今の私はオーブに、少なくとも議会では必要とされていないのかもしれない。
 だけど、それがどうしたって言うんだ!?
 そんな物が『私がオーブを否定する理由』には為りはしない!」

 私が、お父様が、オーブの代表を務めたのは見返りを求めての物なんかじゃ無かった。
 ただ、オーブと言う国を誰よりも愛し、より良くする為、ただそれだけに、人生を、命を掛けて務めてきたんじゃないか。
 オーブが私を否定しても、私がオーブを否定するなんて事は有りえないんだ。
 例え今回の事で命を落としていたとしても、それが無駄死にだったなんて、キラ、お前にだけは言われたくなかったぞ。

「カガリ…」

 再び場に沈黙が落ちる。
 空気がまるで鉛の様に、両肩に圧し掛かるような気がする。

 ―――駄目だ、このままじゃ。

「許せないのは何も私を攫ったからだけじゃない。
 フリーダム。
 ユニウス条約で禁止された筈の核動力であるあの機体が、どうしてオーブに有ったんだ?」

 ユニウス条約に調印し、非戦を訴え、軍備の縮小を唱え続けて来たのは何の為だったのだろう?
 これでは平和を訴え続けた私の言葉には何の意味も無くなってしまった。
 実際には自分の足元にアークエンジェルやフリーダムが匿われていたのだ、その事実を皆が知れば(こんな大事件を起こしたのだ、既にある程度は知られてしまったかもしれないが)何と思うか?
 容易に想像が着くじゃないか。
 過去の自分がとんだピエロに見えてしまい、情けなくて心が挫けそうになってしまう。
 そして、そんな暴挙が家族だと思うほどに信頼していた人達の手で行われていたからこそ、余計に悲しくて、そして切なかった。

 ―――このままじゃ私達は駄目になってしまう。

 …だから。


「ラミアス艦長、アークエンジェルに今積んであるMSはフリーダムだけなのだろうか?」

「えっ? いえ、フリーダム以外にストライクルージュも積んであるわ」

 突然の話題転換に、ラミアス艦長が戸惑いながらも返事を返す。
 だが、それは私の希望に沿った答えでもあった。

「そうか、なら調度良い。
 あれは元々アスハの所有物だったな。
 私が乗って行っても問題は無いだろう?」

「え? カガリさん、乗って行くって!?」

 淡々と、感情を殺したかのように、私は言葉を紡いでいく。
 これ以上感情的になってはいけないから。
 そんな事になったら、それは修復不可能な亀裂を生じさせてしまう事だから。

「言葉の通りだ。
 私はこの船とは同行しない。
 きっと、今はその方がお互いの為に良いんだ」

 それが私の出した結論。
 アークエンジェルと今の私では立ってる位置が違うから。
 見てる世界が違うから。
 一緒に居たとして、鳴るのは不協和音の音色だけ。
 なら、いっそお互いに距離を置くのが正解じゃないか?

「そんなっ!?
 カガリ、ルージュに乗るって、またオーブに戻るって言うの!?」

 だけど、そんな私の発言にキラが驚いた声を上げた。
 だが、私はもう決めたんだ。
 このままアークエンジェルとは同行しない。
 いや、同行出来ない。
 先程言った立ってる位置の違いがそれを許さない。
 不協和音の可能性って言うのは、あくまでアークエンジェルの皆と私だけの問題だけど。
 それだけじゃない。
 問題なのはこのままアークエンジェルと同行する事で、「アークエンジェルとフリーダムの存在を私が黙認していた」と世間に認識されてしまう事だ。
 そんな事になってしまったら、それはオーブにとって大損害なのだから。

 だけど、せめて私は私の思う事を正直に伝える。
 それが助けてくれた皆に対する、せめてもの誠意だから。

「いや、キラ。
 せっかくお前が助けてくれた命なんだ。
 有効に使わせてもらうさ」

 オーブには戻れない。
 フリーダムに攫われる前の私には、まだ辛うじて連合へと行く意味が有った。
 だけどその意味が無くなった今、私が今オーブへと戻る事になんら意味は無い。
 それに皆には悪いが、このままアークエンジェル憎しでオーブと連合が一致団結できるなら、今はそれがオーブの為になる。
 私が今オーブに戻ったなら、その団結に疵が入りかねない。

「…では?」

「ああ、私は宇宙に、なんとしてもプラントへ向かう。
 もし連合に引き渡されていたなら、少しでも連合内で人脈を築いてみせる!って目論んでたんだがな、それも今となっては無理そうだし。
 幸い今回の件でオーブ議会と連合は団結力を増すだろう。
 目の敵にされるかもしれない皆にはすまないと思うが、終戦に向けてオーブと連合の仲が良い事は悪い事ばかりじゃない。
 なら、私のすべき事はひとつだ。
 もう一方の当事者との関係を密にしておくのが残された選択肢だろう?」

 今は無理でも、いずれ必ず終戦を望む声が高まる筈だ。
 その時に議会が連合とパイプを維持し、私がプラントとのパイプを築けていたなら。
 オーブと連合の同盟は不本意な結果だけど、決まった事に後悔してても何も始まらない。
 決まってしまった同盟なら、如何にそれを有効に使えるかを考えるべきなんだ。

 だから。
 まずはミネルバが向かったカーペンタリアへ。
 そこで私は宇宙に上がる手段を求めるとしよう。

「マーナ、今度こそお前は此処に残れ。
 流石に2人乗りではカーペンタリアまで燃料が持ちそうにないしな。
 今度こそ大人しく私の帰りを待ってるんだ」

「お嬢様…」

「マーナには私が留守の間、私の帰る場所を守るって大事な使命が有るだろう?」

 ウインクと共にマーナに向けた言葉は、同時にアークエンジェルの皆に告げた言葉でも有る。
 思いの丈を込めた言葉を残して、私はルージュを駆りアークエンジェルを去る。
 何時の日か、再びアークエンジェルの皆の下に戻れる日が、再び笑顔で会える日が来る事を信じて。





機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





「よう! ヨップじゃないか!」

「アーサーか!?
 久しぶりだなぁ~。
 そう言えばお前、ミネルバの副長になったんだったか?
 始め聞いた時は眉唾もんだったけど、本当に乗ってたんだな」

 何をぅ!こいつぅ~! 等と、大の男が2人で肩を抱きながら笑いあってる姿は見るに耐えない。
 いや、ほんと、せっかくカーペンタリアに着いたってんでルナ&メイリンと一緒に買い物にでも行こうって艦を降りて一番最初に目にした光景がこれかよ。
 なんかもう、一気に疲れた。

「…なんか出鼻を挫かれたよね」

 なんで、ぼそりとルナマリアが漏らした感想にも無言で頷きを返した。


■■■


「ん? ああ、こいつとはアカデミーの同期なんだ。
 例えると…そうだな、シンとレイみたいな関係だな」

 あの後、今見た光景を忘れようと目頭を押さえてた俺達3人組は、再起が適う前にトライン副長+1の目に止まってしまった。
 誠に遺憾だけど。
 遺憾だけに、如何ともし難い、なんちゃって。

 …ほんとすいません。
 あまりの脱力感にトライン副長レベルの親父ギャグが頭を過ぎってしまったんだ。
 シン・アスカ、一生の不覚だ。

 と、とりあえず過去の事は水に流して。
 とにかくトライン副長とヨップって人との関係へと話題が移った訳だ。
 ぶっちゃけどうでも良いんだけど、兎に角そういう事だ。

 ちなみに質問したのはメイリン。
 同じ艦橋スタッフの誼って事だけで、興味も無いのに取って付けてしたような質問だった。
 これで、もしヨップさんが美形だったりでもしたんなら話は別だったんだろうけど、現実は厳しいよな。
 そしてこのくらいの年頃の女の子は現実に厳しい。
 どうでもいいビジュアルのおっさん(トライン副長含む)には、夢なんか見せてくれないのだ。
 ましてやヨップさんは目の下の隈が半端じゃ無い。
 昔『24時間戦えますか?』ってCMが有ったけど、24時間どころか72時間くらい戦った後なんじゃないか?と思わずには居られない見事な隈だ。
 ヨップさんがもしプロ野球選手だったとしたら、デイゲームでも目の下に黒いペイントは要らなかっただろう。

 そんな微妙にどうでも良い方向に思考を逸らしつつも、俺が人生の悟りを開いてるすぐ隣では、だけど先程の発言が許せない人が居らっしゃる訳で。

「…誰がシンで?」「誰がレイ様なのかなぁ~?」

 なんて風にルナ&メイリンなホーク姉妹が、満面の笑みをトライン副長に贈ってたりする。
 マイ・スイート・ベイベーながら、思わず惚れ惚れと見惚れてしまいそうな笑顔なんだけど…目が笑ってない。

 そして何気なく使ったけど(微妙)、俺は彼女の事をベイベーって表現するのに違和感バリバリだ。
 言語の話題に触れるのは物凄くデンジャラスな気がしないでもないが、それはそれ、言わぬが花だ。
 昔、『BE MY BABY』って曲を和訳して歌ってるお笑い番組を見た記憶が有るが、『私の赤ちゃん』と延々と繰り返すシュールな雰囲気だったのが忘れられない。

 おっと、俺とした事がまたまた話を逸らしてしまったみたいだな。
 笑顔が怖い、って初めての経験に、思わず現実逃避をしてしまったみたいだ。
 失敬失敬。
 そしてそんな絶対零度の微笑みを向けられた張本人、トライン副長がそれに耐えられるかどうかは言わずもかな。
 なにせ奴は漢度ランク3等兵でしかないヘタレだからな。

「ひぃっ!」

 なんて悲鳴を漏らして一歩後退してる。
 実に予想範囲内の行動だ。
 だけどその予想を裏切らない小物っぷりが実に良い。
 同じく漢度ランク2等兵でヘタレな俺としては、先程から彼奴に共感を禁じえない。
 実は俺も、さっきから膝の振るえが止まらないのだよ。

 トライン副長、貴方は良い人だった。
 何故か俺の周囲に居る人間は、皆が皆して俺の予想に収まらない大物(いろんな意味で)ばっかりだったからな。
 貴方となら…分かり合えたかもしれない。

 思わず俺が心の中でトライン副長を賞賛しつつ、さりげなく過去形へと記憶を修正してたんだけど、現実はそんな俺の賞賛とか共感とかにはお構いなしに動いてる訳で。
 何時の間にやらパンチドランカーのような足取りで後退を続けていたトライン副長を、

「…誰がシンでぇ?」「誰がレイ様なのかにゃ~あ゛?」

 ってな感じでホーク姉妹が追い続けてる。

 夢に観そうだ。
 …なんか物凄くトライン副長が可哀想になってきた。
 彼はちょっと例え話をしただけなのに。
 『口は災いの元』とはよく言ったもんだけど、これはちょっと半端じゃない。

 そして、追い詰めてるのが自分の彼女とその妹だって事実を思うと、ちょっと悲しくなってきた。
 だから、

「…2人とも、そこまでだ」

 ってなけなしの勇気を振り絞って2人を止めてみる。
 どうにも言葉だけじゃ止まってくれそうにないから、さっきのトライン副長+1に倣って肩を抱く感じで無理矢理に、だ。
 ルナは兎も角、メイリンの肩を抱くのは違う意味で怖い事になりそうだけど、生まれたての小鹿の様に足元の覚束ないトライン副長の姿は見てられないから、まあ、なんと言うか、勢いでね。

 おまけにそのまま勢いに任せて、

「トライン副長、俺とレイも十年後、トライン副長達みたいな関係で居られたら良いと思いますよ」

 なんて、フォローだけで止しとけば良いのに調子に乗って、労わりの言葉と笑顔まで贈ってしまったのだった。

 だけど、それは別に口からの出任せでもなんでもない。
 ああ、そうさ!
 十年後でも久しぶりに会った男友達程度の友情、寧ろ最高じゃないか!
 それってつまり、レイから十年もの間、尻を守り抜けたって言う事なんだろう?

 時はC.E.85年。
 志半ばで軍を去った俺は、雀の涙しかない退役金を元手にプラントの片隅で小さな居酒屋を開いていた。
 愛想は悪いが料理は上手いって訳で、繁盛こそしないが喰っていくのにこまらない程度の客は来て。
 ZAFTのニュースをTVで観ては、「ああ、昔は俺も無茶したよなぁ」なんて昔を懐かしく思っちゃったりするんだな。
 そんな中、まだ仕込み中の時間だって言うのにガラゴロガロ、ってな感じで不意に立て付けの悪い扉が開く。
 「お客さん、今はまだ仕込み中なんだ」なんて顔すら向けずに声を掛ける俺。
 そんな俺に「久しぶりだな、シン」って感じで昔から変わらず無愛想なレイが声を掛け。
 「お、おめえ、レイか? 久しく見ない間に立派になっちまって!」って驚きを隠せない俺に「近くまで来たんでな。 …元気だったか?」なんて漢臭い笑顔を浮かべて問う訳だ。
 はにかみながら「ああ。 お前も元気そうでなによりだ。 そうだ!折角だからなんか喰ってけよ。 これでも味だけは評判なんだぜ?」なんて言う俺に、だけどレイは申し訳無さそうに言う訳だ、「すまない。 今日は顔を見に来ただけなんだ。 残念ながらこの後も外せない用事が有ってな」とかなんとか。
 それを聞いた俺は残念そうな表情を浮かべながら「そうかい。 なら、これを持ってきな」なんて手元に有った包みを放る。
 思わず受け止めたレイが「これは?」と告げる声に「賄用に作ってた飯だ。 車の中ででも食べろ」って渋く決める。
 レイは普段のクールな顔を僅かばかり綻ばせて「今度、時間が出来たらゆっくりと拠らせて貰う」なんて告げて再びガラゴロガロと立て付けの悪い扉を開く。
 その背中に「ああ、…元気でな」なんて言葉を投げ掛け、扉が閉まると同時にまたお互い別々の日常に帰って行く訳だ。
 そんな漢の友情。

 うーむ、なんとなく思い付いただけなんだが、渋いな。
 これはこれでアリかもしれない。
 よし、まずはZAFTを辞める所から始めよう、って何時もと同じ結論が出た所でふと気付く。
 そう言えば俺って何してたんだっけ?

 答え。
 ルナとメイリンの肩を抱いてました。
 そして目の前にはトライン副長。
 なんだか頬を僅かに染めて俺を見ているその表情が、無性に腹が立つんだけど。

 なんだろう?この場をまったりと包む背筋が痒くなる雰囲気は。
 俺が妄想一人旅に出てる間に何が有ったと言うんだ?
 状況を打開すべく、とりあえずは2人の両肩から手を離す事から始め、

「…忘れてくれ」

 なんて感じで、柄にも無い行動に照れ笑いを浮かべながら、取って付けたようなフォローを入れてみた。


■■■


 とまあ、随分と長い間ヨップさんをほったらかしてたんだけど、そろそろ本題に戻ろう。
 ただでさえヨップさんの目の下の隈は偉い事になってるのに、これ以上時間を掛けるのは体に毒だ。
 俺だったらそのまま立った侭でも寝かねない。

「でもヨップ、お前って確か特殊任務がどう、とかメールで言ってたんじゃなかったっけ?
 カーペンタリアに何か用事でも有ったのか?」

 俺の意思が通じたのか、些か強引にトライン副長が話題を変えた。
 内容は特殊任務なのを他人に教えて良いのかよ!?とか、お前ら良い歳してメル友かよ!?とかツッコミ所満載で微妙なものだったけど、まあいい。
 所詮はトライン副長だ。
 ツッコミを喜ぶ人種にツッコミは入れない。
 それが俺のポリシーなのだ。

 それは兎も角、トライン副長にはヨップさんが

「ああ、特殊任務の方は対象が行方不明とかで立ち消えたんだ。
 他に急ぎのミッションも無いし、人材不足なミネルバに乗艦せよ、だってよ」

 なんて感じで律儀に返事を返す。
 ふーん、ミネルバに乗艦すんのかぁ…ってミネルバぁ!?
 つまりアレですか? アスランに続いてまたまたパイロット増員ですか?

 ありがとう議長。
 議長の命令かどうか分からないけど。
 パイロット増員って事はアレですよ。
 当然ながら戦闘での負担は減少で生存率はアップする訳ですよ。
 本音を言うと体調不良っぽいおっさんより、清純系の淑女パイロットとかだったらもっと嬉しかったんだけど。
 そもそも清純系淑女なんてこの世界では絶滅種の様に稀少な存在だから我慢我慢。

「ちなみにパイロットは俺だけだけど、MSは凄いぞ。
 アッシュって水陸両用の優れもんが3機だ。
 戦場に拠っては他のパイロットが乗り換える、なんて戦術も有りだな」

 ダサいってのが弱点なんだけどな、なんて顔に似合わずヨップさんは爽快な笑顔を浮かべた。




 つづく(巨人戦の視聴率くらいの確立で)




 後書きみたいなもの

 おかしい。
 書き始めるまではカガリはAAと同行する予定だったのに。
 AA&自由に対する個人的な考察は感想板で書いてます。

 とりあえず今回で本当にオーブ編は終了。
 そして作者の原作知識も終了。
 ああ、今回のカガリ・パートに対する反響が怖い…

 P.S.
 18話投稿以降に感想下さった方へ。
 申し訳ないんですが、ログ保存してなかったんで返信出来そうにありません。
 宜しければもう一度感想頂ければ幸いです。 orz



[2139] 19話目。 ラクシズもひとまずおしまい。
Name: しゅり。
Date: 2006/09/09 00:25
<ラクス・クライン>

「此方に居らしたのですね」

「…うん。
 なんでかな? 考えたい事が有ったりすると、なんとなく此処に来ちゃうんだ」

 外の景色が一望できる休憩用のスペース。
 あまり便利な位置に有るとは言えませんが、その為か人の往来は極めて少なく、考え事をするには最適な場所だと言えます。
 私がこの場所を訪れるのは、私が初めてアークエンジェルのお世話になったあの時、ピンクちゃんとお散歩していたあの時以来ですね。
 過去の私が泣きじゃくるキラを見付けた様に。
 今、私は再びこの場所でキラを見付ける事に成功した様です。

「姿が見えませんでしたから、皆さん心配されてましたよ?」

 そう声を掛けた私に、

「そうなんだ…ごめんね」

 と、キラは申し訳無さそうに返事を返し、

「でも、カガリが言ってた事を僕なりに考えなきゃ、って思ったんだ」

 と続ける。

「…そうだったのですか」

「うん、きついの貰っちゃったからね」

 そう言いながら、キラは僅かに紅く染まった頬を撫でる。
 それから

「…でも、カガリを助けた事は後悔してないんだ。
 あのまま何もしなかったら、やっぱりカガリは連合に連れて行かれて、殺されちゃってたかもしれないし。
 だからカガリを助けた事で国事犯になっちゃった事は、悪い事なのかもしれないけど後悔はしてない」

 そう、胸を張って告げる。
 でも、でしたら、

「…では、何を後悔されているのですか?」

 何故、キラはそのように悲しそうな表情をなさっているのですか?
 そう告げた私の問いに、キラは少し申し訳無さそうな顔をこちらに向けて、

「後悔、って言うのとはちょっと違うと思う。
 どっちかって言うと反省かな。
 こんな事を言うとラクスに申し訳無い気がするんだけどね。
 アークエンジェルとフリーダム、どっちもカガリを助ける為には必要だったんだけど、カガリの事を何も考えてなかったんじゃないかな?って思うんだ」

 ですがアークエンジェルが無ければ長期間の航行は行えませんし、フリーダムでなければカガリさんのピンポイント救出は不可能だったでしょう?

「うん、だから反省。
 アークエンジェルもフリーダムもカガリを助ける為に必要だったんだから、乗った事には後悔してない。
 だけど、ね。
 ずっとカガリが軍備の縮小や平和維持の為に頑張ってるのを見てきた筈なのに、その辺の事を何も考えないでフリーダムに頼っちゃった事は反省しなくちゃね」

 心の何処かでフリーダムは特別だって思ってたのかな?と続けたキラの言葉に、私は不意に心臓の鼓動がトクンッ!と大きく跳ねたような感覚を覚えました。

『フリーダムは特別』

 何気なくキラが漏らしたその気持ちが、果たして私の心の中には無かったと言えるでしょうか?
 キラの言うとおり、カガリさんが軍備の縮小を唱え、平和の維持に尽力されていたのは私も存じておりました。
 ですが、だからと言ってその事が理由で私がその裏でプラント内の支持者を募り、独自の戦力を築いていた事を後悔するつもりはありませんし、その事でカガリさんに謝罪する気持ちも有りません。
 カガリさんにはカガリさんの考えが有って、私には私の考えが有る。
 ただ、それだけの事だったのですから。
 カガリさんが平和の土台固めに、私が土台が崩れた場合の対処策に。
 互いに視点が違いましたが、目指していたゴールは同じだった筈です。

 …ですが。
 果たしてそれがイコール『フリーダムを隠し持つ』事の正当な理由と成りえるのでしょうか?
 ましてや「フリーダムはキラの側に」等と言う固定観念に縛られて、カガリさんの心情を考慮もせずにオーブに置いてしまった事の理由に。

 …答えは否。
 己が正しいと信じる事を行うなら、他者の心情を踏み躙っても構わない。
 そんな独善的で愚かな理屈など存在してはいけないのですから。

 であれば、今回の件はやはり私の側の落ち度になるのでしょう。
 今思えば、せめてフリーダムはエターナルの元に置いておくと言うのが、カガリさんに対する最低限の配慮だったのではないでしょうか?

 そうだったのですね。
 だからカガリさんは私達に同行されなかった、出来なかったんですね。
 それなら

「…私も反省しなければいけませんね」


 ■■■


 ですが、反省だけしていれば良いと言う訳にもまいりません。
 なにより今大事なのは、今後の方針を決めなければいけない、と言う事。
 当然の事ですが、フリーダムの存在はオーブに知られてしまいました。
 そしてカガリさんの引渡しを求めていた連合にも、いずれオーブ経由でカガリさん不在の理由を説明する際にでも知られてしまう事になるでしょう。
 残す勢力、プラントにまで情報が伝わるか否かについては現状ではカガリさん次第なのですが、楽観は出来ません。
 なぜならカガリさんがプラントを訪れる経緯を説明する上で、誤魔化すのは容易ではありませんから。
 また、もし別経路からプラントに知らされた場合のリスクを考慮するならば、カガリさんが無理して隠す事のメリットは何も無いのです。

 つまり、私達はオーブ・連合の2勢力からはカガリさんを誘拐した犯人として認識され、プラントを含む全ての勢力からフリーダムを隠し持っていた危険な存在だと認識されるに至るでしょう。
 それはあまり考えたくない状況なのですが、一言で言うならばそれはつまり私達が今非常に危うい位置に立たされていると言う事。
 そう考えざるを得ないのが、私達の現状なのです。

「それでもカガリさんさえこの艦に居らしたなら、少しは状況も違っていたかもしれませんが…」

 ですがそれは既に適わない事。
 フリーダムの扱いに対する私達の浅慮が招いた当然の結末。
 カガリさんがとった行動は正しい事ですし、その事で私達がカガリさんを非難する事は出来ません。

 だから。
 そんな状況に置かれてしまった私達に、今、出来る事。
 私達が平和の為に為さねばならない事、立てる位置、立つべき位置。
 それらを考えなければいけません。

 それらの意をキラに伝えたのですが、

「多分、今の僕達に出来る事って何も無いと思う。
 このまま戦争が拡大して行くのを黙ってみてる、なんて間違ってるとは思うけど。
 だけど、きっとそんな思いだけで行動しちゃ駄目なんだ。
 ちゃんとした立場も無い現状では迂闊な行動はとっちゃいけない。
 そんな事をしちゃえば、きっとカガリは凄く迷惑すると思う。
 歯痒いんだけど、やっぱりカガリの言う通り、今は戦況の変化を待つ時なんだろうね」

 返って来た答えは端的に言うと現状維持、何もしない。
 それはとても私の希望に沿うものではありません。

「それはつまり、今、私達に出来る事は何もない。
 だから何もしない、そう言う事なのですか?」

 やや声に非難の色が混じってしまった私の問いに、

「ううん、それはちょっと違う。
 そもそも、何も今すぐ何か行動に移らなきゃいけない、って訳じゃないんじゃないかな?
 選択肢はそれだけじゃなくて、きっと今は捲土重来、機会をじっと待つ時期なんだよ。
 それは何もしない、何も選ばないって事とは違うんじゃないかな?」

 言葉を慎重に選ぶようにして、キラは返事を返す。

「…そう、ですわね」

 何も出来ないから、何もしない。
 今は何もしない事を、待つ事を選択して、何もしない。
 それは似ているようできっと全然違う。

「…それにね、ラクス。
 実を言うと僕は、その間にどうしても調べておきたい事が有るんだ」

「…調べたい事、ですか?
 それはいったい何なのでしょうか?」

 私達の今後の行動に関しましては、ラミアス艦長とバルトフェルト隊長を交えて再度検討を行わなければならないでしょう。
 私としては不本意ですが、今現在キラの意見を否定するだけ考えを持ち合わせていませんし、おそらくお二方もキラの意見に賛同されるとは思いますが。
 それよりも、今はキラがそうまで調べたいと言う、その内容の方が気になります。
 待つ事を選択して得る貴重な時間。
 それを割いてまでキラが調べたいと告げるその内容とは…?

「シン・アスカって子の事なんだ」

「!」

「プラントから戻ったアスランと話してて気付いたんだけどね。
 どこかアスランの様子が変だったんだ。
 カガリがピンチの時に駆けつけないってのも、今思うとやっぱりアスランらしくないよね?
 そのアスランがね、なんだかシンって子の考えにやたら共感してたんだ。
 間違いなく、アスランはシン・アスカって子に影響されてる」

「…まさか、アスランが?」

「うん、そしてきっとカガリも。
 カガリも少なからずシン・アスカの影響を受けてるんじゃないか?って思うよ」

「!?」

 ―――シン・アスカ。

 キラの口から出された名前は、私にとって意外な物でした。
 今、巷(と言っても軍関係者の間だけですが)を騒がせているその名前を、まさかキラの口から聞く事になるとは思いませんでした。
 なにせ軍に所属していた当時でさえ、キラはその方面の情報には疎かったのですから。

 そして、何より意外で、同時に衝撃を受けましたのはアスランとカガリさんのお二人が、シン・アスカなる人物から影響を受けていると言う事。
 正直、私には信じられません。

 シン・アスカ、【紅蓮の修羅】に関する情報は私もある程度は把握しているつもりですし、人物像もおぼろ気ながら掴んでいるつもりでいます。
 ユニウス7降下の際の活躍と、なによりその後に交わされた会話は有名ですし、それは私が彼の人物の経歴を調査していただく理由には十分な物でした。
 ですが、だからこそ私はアスランとカガリさんのお二人がシン・アスカなる少年に影響される、そんな可能性は信じられないのです。

 確かに一時とは言え、お二人はミネルバに乗艦されていたのですから、互いに面識が有ったと言う可能性は否定できません。
 ですが、それなら尚の事、あのお二人がシン・アスカから影響される、なんて事は有り得ないと思うのです。
 なぜなら、私の知るシン・アスカと言う少年の戦争観は、あまりにも『冷たすぎ』ますから。
 『紅蓮』『修羅』、どちらも燃え盛る焔を連想させられる単語ですが、私には彼の人格がその様な熱い方向を向いているとはとても思えません。
 むしろ彼の心境は絶対零度の如く凍て付いている、そのような印象さえ受けました。

 本来、人が人を殺すと言うのは最大の禁忌である筈。
 その最大の禁忌を、主義を持たず、主張を持たず、軍人であると言う事実だけで犯せる人間の、何処に『熱』を感じる事が出来ると言うのでしょう?
 言い方は悪いかもしれませんが、それは感情を持つ『人』の思考では有りません。
 その様な感情を持たない人間、それは『機械』と呼ばれる物となんら変わらないのではないでしょうか?

 だから、有り得ない。
 アスランとカガリさんがその様な人物に影響される可能性は、万が一にも有り得ない筈なんです。
 …ですが、その万が一が現実に起きているのだとすれば。
 アスランとカガリさんのお二人が、シン・アスカに影響されていると言う事が、キラの告げる様に事実なのだとしたら。
 それはいったい、何を意味すると言うのでしょう?

「僕が心配しすぎなだけなのかもしれない。
 でも、実際にアスランは今ミネルバに居るんだし、カガリだってプラントを目指してる。
 それを偶然の一言で片付けるのは危険だって思うんだ。
 2人があんな奴の影響を受けてるのかもしれない。
 そう考えるだけでどうしようもなく不安になってしまうんだ!」

「…キラ」

「畜生、なんであんな奴なんかに…」

「?
 …ひょっとしてキラはそのシン・アスカと言う少年の事をご存知なのですか?」

 キラが語った事がもし現実に起きているのだとすれば。
 それはとても看過できるものでは有りませんが、それよりも今、気になる事が他に有ります。
 あんな奴、と。
 確かに今、キラはシン・アスカの事をそう評しました。
 それは、決して面識の無い人物に向ける事の無い種類の表現では無いでしょうか?
 少なくとも私の知るキラ・ヤマトは、例え相手がどのような人間であったとしても、面識を持たない人に向かってそのような呼称を用いるとは思えないのです。

 私の問い掛けに、キラは少しばつが悪いような表情を浮かべ、

「…ラクスも会った事が有る筈だよ。
 ラクスが迎えに来てくれた時に慰霊碑の前で僕と向かい合ってた少年。
 確証は無いけど、きっと彼がシン・アスカなんだと思う」

 苦虫を噛み潰すように応える。

「慰霊碑の時の少年…」

 そう言われてみれば、確かにあの時、あの場所にはキラの他にもう一人何方かが居らっしゃった様に記憶しています。
 ですが、それは私にとって会ったと言える程の接点ではありませんでした。
 私はほんの僅かな時間、同じ場所に居合わせたに過ぎないのですから。

 それに陽が落ちてしまっていた事も相まって、その人物の容姿は殆ど記憶出来ていません。
 ただ、闇が広がる世界の中で、その瞳の色が煌々と輝いていたのだけが印象に残っていますが。

「…では、彼が?」

「うん、シン・アスカだ」

 取り寄せていただいた写真から、瞳が紅いと言う特徴までは存じ上げていましたが、まさかあの方がそうだったなんて。
 なるほど、そうであるのなら【紅蓮の修羅】とは彼の人物を上手く表現しているのかもしれませんね。
 彼の少年の内面ではなく外面から付けられた異名だとするなら、確かに彼の少年にこれほど相応しい異名は他に無いでしょう。

 そう納得しかけた私に、キラが胸の内を吐露する。

「正直に言うとね、僕は彼の事が怖いんだ。
 あの瞳に見詰められると、なんだかそれだけで自分が責められている気がして。
 恥ずかしい話だけど、たったそれだけの事なのに、あの時の僕は恥ずかしいくらい緊張してしまった。
 僕だって本当はアスランとカガリがあんな奴の影響をされてるだなんて、信じたくない。
 でもあの瞳を思い出すと、どうしても不安が拭えないんだ…」

「キラ…
 ですがアスランもカガリさんも、お二人ともとても意思の強い方です。
 心配しすぎなのではないでしょうか?」

「…うん、そうだね、そうかもしれない。
 そうだったら良いね。
 アスランとカガリがそんなに簡単に人の意見で自分の考えを変えるなんて、僕にも思えないし。
 でも、もしアスランとカガリがシン・アスカに感化されたんじゃなかったとしたらどうだろう?
 シン・アスカが意図的に2人を感化させた、って可能性は考えられないかな?」

「!? それは…」

 ありえるかも知れない。
 そう言う考え方もあるのですね。
 言い方は悪いですが、お二人が勝手に感化されたのであれば、それはつまりシン・アスカにとっては受動的な結果に過ぎません。
 ですが、シン・アスカの側からお二人を看過させた、となると話は別です。
 騙せる・騙せないと言う根本的な問題は有りますが、シン・アスカの側から能動的な行動に出られる分、前者よりも容易な点もまた有るのではないでしょうか?
 もし、その可能性が0でないのであるなら、

「………確かに、詳細な調査が必要なのかもしれませんね」

 私の記憶に残っているのは焔の様に燃える紅い瞳の色。
 古来より瞳には力が宿ると言います。
 世に『魔眼』と言う言葉が有りますように、もしもこの世に『魔眼』と言うものが実在するのでしたなら。
 彼の瞳がまさしくそれなのではないでしょうか?
 シン・アスカ。
 【紅蓮の修羅】と評され、灼熱の異名と凍える価値観をあわせ持つ少年。
 彼の少年には私達の想像以上に深い『何か』が有るのかもしれません。





機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 深謀遠慮、深慮遠謀。
 2つの4字熟語の違いがいまいち分からないけど、とにかく今日の俺は頭を使っていくぜぃ!
 と言ってもW杯決勝延長での反則みたいに、物理的な意味で使う訳じゃないから勘違いしないでくれ。
 具体的に言うならそう、知恵を使ってみようって企んでたりするのだ。

 出発からアーサー&ヨップのおっさんコンビに遭遇した所為でペースを乱されたけど、とにかく今日の俺はルナ&メイリンのホーク姉妹を買い物に誘う事に成功していた訳だ。
 まあルナは普通に誘えば簡単にOKしてくれたし、メイリンもルナからの口添えや「夕食は俺の奢りだ」なんて伝家の宝刀を抜けば敵じゃない。
 ぶっちゃけると、実はここまでで既に目的の8割は達成したと言っても過言じゃなかったりする。
 なんたって今日、俺がルナ&メイリンを食事に誘ったのは、メイリンと仲良くなるのが目的なんだから。
 本当だったらそろそろヨウランに新しい友人の1人でも紹介してもらいたかったんだけど(まだ諦めてなかった)、それよりなによりメイリンと仲良くなる事が今の俺の最優先事項なのだ。

 だって俺の命が掛かってる。

 思い出すだけで両目から熱い汗が零れ落ちそうになるんだけど、これまでの航海は試練の連続だった。
 アーモリーで置いていかれ、大気圏で置いていかれ、オーブ近海で置いていかれた。
 自分で言うのもなんだけど、此処まで戦場に置き去りにされたZAFT兵って俺くらいじゃないだろうか?
 正直、もはや定番と化してしまった気がしないでもない。
 だけど、だ。
 流石にここら辺でこのパターンとはおさらばしたい。
 同じ轍を2度踏むどころか既に3度踏んでしまったんだけど、流石に4回目は勘弁してほしい。
 そろそろ洒落にならない気がするんだよ。

 そんな訳で、だ。
 「そもそも3回も置き去りにされたのは何故だろう?」って根本的な原因を考えるべきだった事に今更だけど気付いたのだ。
 彼を知り、己を知れば百戦危うからず。
 名前は忘れたけど、昔の偉そうな人がそんな事を言ってた気がするし。
 だから考えてみた。

 考えるまでも無かった。

 と言う訳で冒頭から敢行中の『食事を奢ってメイリンと仲良し! これでもう、置いてけぼりは怖くない』大作戦を実施するに至った訳だ。
 他にも鬼畜でバイオレンスな作戦案が無い訳じゃないんだけど、そうは言ってもメイリンは将来の義妹なんだし。
 あんまり手荒な真似をして「お義兄ちゃん」って呼んで貰えなくなったら寂しい。
 ここはひとつ懐柔策でお義兄さんらしい懐の深さを見せてやらねばなるまい、って結論に至った訳なのだ。

「えっとぉ~
 この『松坂牛のフィレステーキ、松茸ソース掛け』を200g、ミディアムで。
 後は… 食後のデザートに夕張メロン。
 あ、飲み物はカプチーノで、デザートと一緒に持ってきてください」

 テーブルの対面に座ったメイリンが明朗な声でウェイトレスさんに告げた。
 その声をどこか遠くに聞きながら、俺は

『あー ミネルバのオペレーターがアビーちゃんだったら良かったのになぁ…
 アビーちゃん可愛かったなぁ…
 俺と目が合うと頬を真っ赤に染めて逃げてく所なんか最高だった…
 今頃何してるのかなぁ…』

 なんて思わず現実逃避をしてしまった訳だけど。
 その間にもウェイトレスさんは注文を復唱しつつ、手に持った機械にお客様の告げたオーダーの登録を続けている訳で。

 はて?
 なにやら先程からピッ!ピッ!ってウェイトレスさんの手に持つ機械から聞こえる登録音以外にも、カタカタカタカタ…って感じで小刻みな硬質音が聞こえる気がする…
 って、なんの事は無い。
 水の入ったコップを握る俺の手が小刻みに震えてて、テーブルとの衝突音が聞こえてるだけだった。
 これにて疑問はQED。
 さてさて、それじゃ疑問も解決できた訳だし、名探偵さんはそろそろ舞台を去るべきだな。
 そんな経緯で席を立とうとしたんだけど… そんな事は不可能なんだって相場は決まってる。
 例に漏れず無理だった。
 今思うと窓際に座ったのがそもそもの間違いだった。
 TVのCMで『階段では男性が後ろから上るのがマナー(上を歩く女性が転倒する際に備えて)、レストランでは男性が窓際に座るのがマナー(店外からヒットマンが狙ってるかもしれません)』とか流れてたのを、素直に信じた俺が馬鹿だった。
 そもそも上を歩く女性を支えるのはともかく、狙撃されたら死んじゃうからマナーも糞もない気がする。
 端的に言うと、ソファシートの隣に座ってるルナが離脱の障害となって俺の前に立ちはだかってるって事。

 不覚っ!!

 不覚と言えば、そもそも軍施設内に有るファミレスで日本食フェアーが開催されてた事が何よりの不覚。
 恐るべし日本のファミレスチェーン店。
 そもそもZAFT軍カーペンタリア基地内に出店してるだけでも剛の者だってのに。
 ただでさえ高級な日本食材をふんだんに使用したお料理が、なんとカーペンタリア基地にてお召し上がりになる事が可能なのですよ?
 軍人しかいない客層を考えると、需要と供給のバランスを全く考えてないとしか思えない。
 その商魂、ぐうの音も出ねえぜ。
 出来れば日本食フェアーは来週にでも実施していただきたかった。
 何このリーズナブルなファミレスで見るリーズナブルじゃないメニュー表。
 1人前のお値段が5桁に達する危険を秘めたファミレスなんて、ファミレスじゃねえ!

「シン、本当に大丈夫なの?
 なんか空調と全く関係無い変な汗が出てるよ」

 心配そうに声を掛けてきたルナに、おしぼりで額の汗を拭ってもらいながら

「…だ、大丈夫だ」

 と、明らかに自分でも大丈夫じゃないとしか思えない声で返事を返す。

 か、考えてみるんだ俺。
 これはあくまで先行投資、そう、先行投資なんだ。
 幸い軍人なんてヤクザな商売をしてると日頃は給料も使わない。
 これで命の危機が防げるんだって考えたなら1万弱は端金も同然じゃないか!
 そう、レッツ!ポジティブシンキング!
 何時でも何処でも幸せ探し。
 止まない雨は無いし、抜けないトンネルは無いのだ。
 雨が止んだら虹が出るし、トンネルを抜ければ雪国でした。
 いや、雪国は意味が分かんないけど、とにかくそう言う事なのだ。

 とは言え、被害は甚大であります。
 一抹の不安は拭いきれず、さりげなく財布の中身を確認してみる事に。
 萬札紙幣に書かれたジョージ・グレンの肖像画が3人、俺を見てる。

『大丈夫だぜ! Cool Boy!』

 なんでか未だに謎なんだけど、アメフト選手だった頃の写真が採用された肖像画のジョージが俺にそう囁きかけてる気がした。

『OK! ジョージ!』

 俺とルナの分の注文も合わせると、どうやら2人のジョージとお別れする事になりそうだ。
 だけど、最低でも1人は残る筈。
 大丈夫だジョージ、例え1人でもお前が俺の側に残ってくれるのは嬉しい。
 これで我が軍は後10年は戦える。
 俺とお前なら出来るさ…

 俺はスゥー、ハァーと心の中で深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
 そして未だ不安そうな表情を浮かべるルナに、

「いや、本当に大丈夫だ。
 ルナも好きなものを注文すれば良い」

 と白い歯輝くジョンブルなスマイルを返す。
 正直、戦力の3分の2減は痛い。
 だけど苦しい時ほど笑えって言うのが良い弁護士の条件だ。
 たった1人になってもジョージはジョージだし、だったら俺が泣き言なんか言えないよな?
 ついつい彼女に見栄を張っちまう、陳腐な漢のプライドって奴を笑ってくれよ。

 …まあ、そうは言ってもルナの事だ。
 ツーと言えばカー。
 もちろん電話局の宣伝なんかじゃなくて、俺とルナの意思疎通の具合を示した表現な。
 ルナならきっと俺のそんなちっぽけな男の見栄に気付いてくれる筈。
 なんたって2人は仲良し。
 2人はプリキュア。
 きのこスパゲッティでも食べようじゃないか!
 きのこはダイエットにも良いらしいぞ。
 ゲームの世界じゃ中年親父が巨大化したりもするけどね。

 そんな俺の精一杯の虚勢を込めたジョンブルなスマイルに、ルナは笑顔で頷きを返す。
 そしてその可愛らしい笑顔のままでウェイトレスさんに告げる。

「じゃ、私もメイリンと一緒で。
 あ、飲み物はレモンティーにして下さい」


 ぶっちゃけ有り得なーい!


 あー…なんて言うか、神は死んだ。
 想定外の事態に「…え゛?」とか言う疑問符すら喉から出てこない。
 ジョージは? その場合、財布のジョージはどうなるって言うんだ?
 慌てて財布の中身を再度確認。
 当然の様に増えてる筈もなく、相変わらず3人のジョージが俺を見てる。

『グッバイ! Cool Guy!』

 ジョージの爽やかな声が聞こえた気がした。


 ■■■


 …さて。

 悲しい出来事はさっさと忘れよう。
 俺はまだ若いんだし、もっと未来に夢を馳せようじゃないか。
 何時までも過ぎ去った過去に捕らわれてるのは賢い男の生き方なんかじゃない筈。

 そんな訳でファミレスから出た俺は、ご満悦な表情を浮かべるルナ&メイリン姉妹とは別行動に。
 払われた犠牲は大きかった。
 あわや我が軍は崩壊するのではないか?ってくらい大きかった。
 だけど、きっとこの犠牲は報われる筈! …報われると良いなぁ …報われて下さい。

 そんな切実で願望まじりの思いを込めてたんだけど、何時までもそんな思考に縛られている場合じゃない。
 財布の残高は実に4桁。
 だいたい中学生の小遣い並みの金額だって言えば分かって貰えるだろうか?
 具体的に言うと3千と小銭が少々。
 実に戦力の9割減だ。
 これは切ない。
 実に切ない。
 一社会人としてこの残高は如何なものか?
 衣食住完備の軍人じゃなかったら間違い無く生活費が足りず来月まで生きて行けるかも怪しかった。
 この時ばかりは衣食住完備のZAFTで働いてて良かったとつくづく思ったね。
 そもそもの原因がZAFTで働いてた所為だって事に目を瞑れるのなら、だけど。

 まあ、さっきから何回も言う様だけど、何時までも後向きな思考をしてても始まらない。
 どうせ残された選択肢は月末の給料日まで我慢する、それしか無いのだ。
 無い袖は触れない訳だし、だったらいっそ残金の使い道でも考えるほうがよっぽど建設的だよな。
 ただでさえ吹けば飛ぶ様な全財産なんだし、無理して使う必要なんか無いんだけど。
 だけど俺の考え方はちと違う。
 例えばギャンブルで3万持っていって2万7千負けたとする。
 取れる行動は残った3千を持って泣きながら帰るか、もしくは潔く残りの3千を突っ込む冒険に出るか、って2択だろう。
 俺は迷う事無く後者を選択するタイプの人間なのだ。
 男なら、否! 漢なら、潔く咲いて散るのが花ってもんだろう?

 と、まあ、だらだらと何が言いたいのかよく分からない前提だった訳だけど。
 とにかく残された3千ちょっとの残金を、なんとか自分の役に立てたいって切実に思う訳なのだ。
 だけどそれがなかなか難しい。
 所詮3千そこそこで出来る事なんて限られてるし。
 なかなかそんな都合の良い事なんて転がってないんだけど、まあ、それはそれ。
 そこでそんな都合の良い方法を直に思い付いちゃうのが、きっと俺が非凡だって事の証明なんだろう。

『デスティニープラン』

 ちょっと忘れそうになってたんだけど、そんな事を昔の俺は考えてたりしなかったっけ?
 俺の記憶が確かなら、プラントで無農薬野菜を栽培する近所でも評判の農家になるって壮大な野望だった筈。
 ルナから1口貰った松茸ソースは思い出しても絶品だった。
 俺もあんな松茸を栽培する農家になりたい。
 その為なら俺は何でも出来る。
 スピッツの歌風に言うのなら、きっと今は自由に空も飛べる筈。
 漢は壮大な野望に向けて、今、はじめの一歩を踏み出したのだった!


 ■■■


 そんな訳で実践ね。

「精が出ますね」

 舞台はがらっと変わってミネルバの格納庫。
 今、そこには金ピカMSとアスラン以外は誰も居ないのだ。
 他のMSは艦から降ろされて整備されてるんだけど、金ピカは訳有りで降ろせないからだ。
 ヨウラン達整備員も休暇を貰った筈だし、きっと今頃はどっかで羽を伸ばしてるんじゃないかな。
 それを見越しての訪問だった。

「ん? ああ、シンか。
 どうしたんだこんな場所に」

 そんな中で声を掛けた俺に、気付いたのだろう。
 金ピカMSの脚部でごそごそ何やら弄くってたアスランが、汗を腕で拭いながらこっちを振り向く。
 畜生、汗を拭った時に頬に付いた油汚れが働く男!って感じで格好良いじゃないか!
 ヨウラン達が同じように汚れてても子汚いだけなのに、この違いは何だ?
 これがモテオーラって奴なのか?
 そんな現実に軽い嫉妬を覚えそうになるけど、決して顔には出さない。
 俺だって目的達成の為には感情くらい制御してみせるさ。

「いや、特に用事って訳じゃ無いんですが。
 所謂、差し入れって奴です」

 そう言って手に持ってたドリンクを差し出す。
 ファーストフードなんかでよく見かける、紙コップにプラスチックの蓋、ストローの刺さったタイプ。
 そう、これこそが全財産(と言っても3千少々)をはたいてまで購入した役立ちアイテム。
 一人寂しくMSの整備をしてるアスラン。
 そんな所に突然の差し入れ。
 思い掛けない相手から、思い掛けない時に思いも拠らぬプレゼント。
 信頼度が大幅アップ間違い無しですよこれは!

 此処でのポイントはあくまでさり気無さを装う所だ。
 恩着せがましい態度を取って下心に気付かれちゃいけない。
 今まで外で遊んでたんだけど、実は一人で頑張ってる貴方の事を気にしてたんです。
 そんな雰囲気をそれとなく伝えられれば勝ちだ。

 そして、どうやら勝利の女神は俺に微笑んだようだ。
 俺の作戦が功を奏したのか、アスランは

「! シン…」

 なんて感じで意表を突かれた表情を浮かべた後、少し照れながら

「ありがたくいただくよ」

 って照れくさそうに笑顔を浮かべて俺からドリンクを受け取った。

 よし!
 これでとりあえず今日のミッションは全て終了だ。
 小さな一歩に過ぎないけど、これが行く行くは大きな実を結ぶ筈。
 戦場で俺が危険な目に遭いそうになったら是非助けて下さい。

 まあ、ここのタイミングで帰っても良かったんだけど。
 予想以上に思い通りに事が運んだんで、気を緩めた俺は、

「整備、まだ掛かるんですか?」

 なんて実は少し気になってた事を聞く。
 なんたって実を言うとミネルバの出航は明日なんだ。
 後、数時間もすれば他のMSも帰ってくる。
 アスランには是非ともさっさと整備を終えて頂いて、明日からまた実戦になった時は活躍して頂きたい。
 それに間に合うかどうかって言うのは俺にとって結構重要な問題だったりするのだ。

「ん? ああ、あと残ってるのはOS面の設定だけだ。
 慣れない整備で徹夜したけど、その甲斐も有ってなんとか明日の出航には間に合う筈さ」

 OK!
 返って来た答えは文句無し。
 あまりに思い通りの展開で、おもわずにんまりしてしまいそうになる。
 だけど好事魔多し。
 こんな時こそ油断しちゃいけない。
 気を抜くと笑みを浮かべてしまいそうになる表情を抑えて、

「そうですか。
 じゃあ、頑張って下さい」

 って淡々と告げる。
 本当なら手伝うべきなんだけど、手伝っちゃいけない!ってルールなんだから仕方が無い。
 仕方が無いったら仕方が無い。
 ああ残念だ。

 棒読みっぽくそんな感想を抱きながら、

「ああ」

 ってアスランの返事を背に格納庫を後にする事にしよう。
 頑張ってくれ、アスラン!
 明日からの俺の安全な未来の為に!

「!?」

 そんな感じで今、まさに格納庫から出ようとしたんだけど。
 後ろから声にならない叫び声が聞こえたかと思うと、ドサッ!って感じで60kg前後の肉が倒れるような鈍い音が聞こえた。

「………え?」

 振り返るべきなんだろうか?
 いや、人道的に考えると振り返るべきなんだけど、振り返っちゃいけない気もする。
 と言ってもやっぱり振り返らない訳には行かない訳で。
 振り返ってみたわけなんですが…

「アスランッ!?」

 まあ、正直やっぱりな、って気がしないでもなかった訳なんだけど。
 案の定、さっきまで元気だったアスランがぶっ倒れてた。
 そしてそんなアスランの腕の近くに転がる、俺が差し入れたドリンクの容器。

 な、なしてこげな事に!?

 あのドリンクは漢方屋の親父に全財産(と言っても3千ちょっと)はたいて作って貰った滋養強壮に抜群の栄養ドリンクなのですよ!?
 寧ろ逆に元気ピンピンで整備に戻ってる筈でしょ!
 なんで倒れちまったんだぁ!!

 と、まあ考えるのは自由だけど、アスランを何時までもそのままにはしてはおけない。
 もしこれが原因でアスランがぽっくり逝ったりなんかしたら、間違い無く容疑者は俺しかいない。
 そんな最悪の事態だけは勘弁してくれ!

「アスランッ!?
 大丈夫ですか!? アスラン! って…臭ッ!」

 心配7割、保身3割でアスランに駆け寄って抱き起こした訳なんだけど…この匂いは!?
 抱き起こしたアスランの顔は真っ赤だった。
 どうやら眠ってるだけで命に別状は無さそうなんで、それは安心したんだけど、とにかく息が臭い。
 なんて言うか、終電の電車のシートに横たわってる中年のおっさんの口臭と言えば良いだろうか?
 ぶっちゃけて言うと酒臭い。

「って酒ぇ!?」

 と言う事はアレか?
 アスランは酔っ払っちゃって倒れた、と。
 そういう訳か?
 何時の間に酒を飲んだんだアスラン…
 あんただけは勤務中に酒なんか飲む駄目兵士じゃないって信じてたのに、見損なったよ。

「………」

「………」

「………」

 現実逃避は此処までにしよう。
 分かってる。
 ああ、本当は俺にも分かっちゃいるさ!
 アスランが酒を飲んだんじゃなくて、俺がアスランに酒を飲ませたんだって事くらい、本当は分かっているさ!

 案の定、転がったドリンクの容器を拾って蓋を開けるとお酒特有の匂いが。
 いや、確かに「滋養強壮に効くならなんでも良い」って漢方屋の親父に注文したのは俺なんだけど。
 まさか酒を入れるとは…やるな漢方屋の親父。
 それをあたかもファーストフードのドリンクみたいにコーディネートするとは…侮れん!
 アスランは、疲れて寝不足な時にアルコールをストロー一気した、ってそういう事か。

 そりゃ倒れるわ。

 ストローで酒を飲むのって危険らしいしな。
 まあそうは言っても、まさか死にはしないだろうとは思ってる。
 一応アスランもコーディネーターな筈だし、急性アルコール中毒なんかで死ぬ事は無いと思いたい。
 肝臓とかもコーディネートされてる事を切に願う。
 それに飲んだって言っても、所詮はMサイズのドリンク1杯なんだし。

 と言う訳でアスランは寝かせておけば問題は無い。
 無いんだけど…

「金ピカの整備、どうしよう?」

 アスランは起きそうにない。
 って言うか、流石に俺でも今のアスランを起こして整備させるほど鬼じゃない。
 かと言って整備が間に合わないのも不味い。
 アスランに酒を飲ませた所為で間に合わなかった、なんて事がばれたらきっと艦長も怒るだろうし。

 できるならこの出来事は無かった事にしたいんだけど…

 俺が整備する、か?
 残すはOSの設定だけだって言ってたし。
 物理的な整備は苦手なんだけど、実を言うとOS面の設定だったら俺は得意中の得意なのだ。
 MSでダンスしてたのは伊達じゃない。
 モルゲンレーテでテストパイロットしてた頃から、その為だけに専用アプリを開発してたりするしな。
 もちろんインパルスにも皆には内緒でインストール済みだ。
 残念ながら未だにインパルスで踊る機会には恵まれてないけど、本当だったらミネルバの進水式で披露する筈だったんだ。
 インパルスの性能を見せ付けろ!って言われてたから張り切ってたんだけど、あの騒ぎでおじゃんになってしまったからなぁ…
 あそこでお茶目な面を披露出来ていたなら、【紅蓮の修羅】なんて呼ばれる事も無かった筈なのに…

 おっと、ナチュラルに話題を逸らせてしまったみたいだ。
 とにかく何が言いたいのかと言うと、金ピカのOS設定やっちゃう?って事。
 ルール違反なんだけど、小人さんの所為だとか言って誤魔化せないだろうか?

「…ま、非常事態だしな」

 それが誰にとって、何にとっての非常事態なのかは言えないけど。
 最悪、OS設定の後にコクピットのアスランを放り込んどけば良いだろう。
 あわよくば酔っ払って倒れた事も忘れて、OS設定終了後に緊張が解けて就寝、なんて勘違いまで望めるかもしれないしな。

 よし、そうなったら話は別だ。
 善は急げ!って言うし、早速作業に取り掛かるとしよう。

 いっちょ、シン・アスカの真髄を金ピカにぶつけてみますかね!



 つづく(いいかげんプロット無しは限界なんじゃないか?と思わないでもない)




 後書きみたいなもの

 ラクス視点は色々と無理が有る事に気付いた2006年、晩夏。
 問題点のその1は一人称。
 確か『わたくし』だった筈なんだけど、漢字変換したら『私』。
 『わたし』と区別付かねぇー!
 それでも『わたくし』と平仮名で書くのは何か違う気がする。

 問題点のその2は語尾。
 台詞の部分は兎も角、地の文章の部分は違和感が抑えられそうにない。
 なんて言うか、中途半端な丁寧語?
 筆者の力量不足と言ったらそれまでかもしれませんが、例によって書いては消し、書いては消し… orz
 もう2度とラクス一人称は書かないと心に誓う。


 そして問題だらけのシン・パート。
 言い訳はしねえ(と言いつつ言い訳してみる)。
 正直、ここ数回のシン・パートはラクシズ編を進める為の間に合わせだったりします。
 勘違い物の本流としては前半:他者勘違い、後半:本人勘違い内容暴露だと勝手に思ってるんですが、ラクシズ編は前半の意味合いが微妙に違ったり。
 「ラクシズ編は読者の想像にお任せ」とか、「思い切ってシン編はカット」なんて案も当初有ったんですが、一番しんどそうな道を選んでしまった気がする今日このごろ。
 とりあえず今回でラクシズ編は本当に終了したんで、次回からは勘違い物の本流を歩める筈。
 歩めると思いたい…



[2139] 20話目。 踊れ!ニーラゴンゴのリズムに乗って♪
Name: しゅり。
Date: 2006/09/27 20:17
<アウル・ニーダ>

 真っ蒼な海をなんとなく見詰めながら、ふと思う。
 俺って海、好きだっけ?
 別に嫌いな訳じゃない。
 俺のアビスは水中戦が得意なMSなんだし、俺のイメージカラーも青。
 好きか嫌いかで考えると、やっぱり好きなんだろう。

 …でも、わざわざ1人で見に来る程好き、って訳じゃない筈なんだけどなぁ。
 なんとなく、ここに来れば誰かが居るっつうか?
 ファントム・ペインに俺よりも海好きな奴って居なかったっけ?

「…気のせい、だよな」


 ■■■


「で、戦争すんの?」

 相変わらず仮面を外そうともしないネオに、投げ遣りな感じで質問を返す。
 ま、YES以外の返事が返ってくるとは思えないけどね。
 そしてネオから返って来た返事はそんな予想を外れる事もなく、

「ああ、そうだ。
 ようやくミネルバも捕捉できたんでな」

 なんて詰まらないもの。
 どうでも良いけど熱くないのかね?ネオは。
 男の長髪ってだけでむさっ苦しいのに、おまけに鉄仮面。
 ここって赤道直下だぜ?
 大怪我した時の傷跡を隠す為だって言ってたけどさ、きっとその時に神経もやられちゃったんだな。
 本人には聞かないけどさ。

「でもさ、良いの?
 基地のウインダム全部借りてっちゃったら警備がお留守になっちゃうんじゃないの?」

 別に基地がどうなっちゃっても俺には関係無いし、どうでも良いんだけど。
 ネオをからかうって意味が無い訳じゃないんだけど、こういうのなんて言うの?会話のキャッチボール?

 …アホらし。

「仕方無いだろう?
 ステラはもう居ないんだし…」

 だけどネオから返って来た返事はなんか言い訳じみたもの。
 別にまともな答えを期待してた訳じゃないから良いけどさ。
 それよりもさ、ステラって誰だ?

「ステラ? 誰それ?」

 俺がそう聞き返した時、きっとネオはしまった、って感じの表情を浮かべてた筈だぜ。
 鉄火面が邪魔でよく分かんないから予想でしか無いけどさ。
 一瞬だけ言葉に詰まったのがモロ分かり。

「いやぁ、すまんすまん。
 アウル達には関係の無い事だった。
 気にしないでくれ」

 なんて何時も通りおどけた返事を返されたけどさ、らしくないじゃん。
 誤魔化してるのがバレバレだっつーの。
 嘘付くのが上手い癖に何動揺しちゃってんの?

「…ま、ステラが誰の事かは知らないし、どうでも良いけどね」

 問い詰めてもこれ以上は聞き出せそうにないしな。
 後で勝手に調べるさ。


 ■■■


 ま、だからって何時までも考え事してる場合じゃないっつー言うの。
 今から戦争すんだし、少しは良いとこ見せないといけないって言うか?
 宇宙では水色のザクに敵わなかったけどさ、ここじゃ前みたいには行かないぜ。
 なんつっても海中はアビスの支配領域だ。
 負けても前みたいな言い訳が利かないぶん、万が一にも負けは許されない。
 ZAFTの連中には悪いけどさ、手加減はしないぜ。

「アウル・ニーダ、アビス! 行くぜ!」

 出撃と共に形態変化。
 水中戦に特化したMA形態に変形し、高速移動で目標の敵潜水艦を目指す。

 …だけど、ま、何の障害も無くって訳には行かないか。
 敵潜水艦から出撃したんだと思う流線型のMS(きっとZAFTの水中戦用MS)が5機、アビスを半円形に包囲する感じで向かってくる。

「俺を取り囲もうって言うの? ハッ! 笑えないね」

 真面目なつもりなのかもしれないけどさ、舐めんじゃないっつーの!
 お前等、アビスの機動力を甘く見過ぎだぜ?
 こんなもん、包囲される前に各個撃破すれば簡単じゃん。

「障害にもなんないっつーの!」

 そうは言っても相手は5機だったし、多少は時間が掛かったけど。
 難易度は最低レベル。
 ステージ1クリアって感じ?
 ラスボス(敵潜水艦)までのステージは後幾つよ?

「って、第2ステージのおでましか!」

 紅白の2機のザクは縁起が良いねぇ、なんてホントどうでも良い事を思わず考えてしまった。
 本当にどうでもいいな。
 それに俺はその縁起の良い紅白2機を墜とす側なんだし縁起が悪いのか?
 後、他にも3機、不細工なMS。
 さっきの流線型のMSと比べるとさ、本気で海中戦する気有んの?って聞きたくなるデザインだ。
 きっとあれだな、いくらコーディつってもデザインセンスまで弄れないんだな。
 ザムザザーを思い出したら連合も他人の事を言えないけどさ、どっちの側にもデザインセンスの欠如したMS設計者が居るって事だなきっと。

「っと!」

 馬鹿な事を考えてる場合じゃ無いっぽい?
 白のザクから発射されたバズーカを高速移動で回避する。
 どうやらステージ2はそれなりに難易度が上がってるって事らしい。
 同じ5機でもステージ1とは違うっつーか。
 さっきの奴等みたいに散開してくれれば各個撃破してやるんだけどさ、一箇所に集まられると厄介だ。
 移動速度じゃ俺の方が上なんだけど、手数はあっちが俺の5倍。
 かわせない訳じゃないけど、こっちから近付く事も無理っぽい。
 遠距離攻撃の応酬、そして回避、回避、回避。
 時間だけが無意味に過ぎて行く。

「つまんねぇ」

 面白くない。
 ただストレスが溜まって行ってるだけじゃん。
 何時までもステージ2に手間取ってる場合じゃない。
 だけど、

『タイムオーバーだ。
 スティング、アウル、撤退するぞ』

 そんな俺の焦りとはなんの関係も無くネオから通信が入った。
 そして、それはとてもじゃないけど俺の希望に沿うもんなんかじゃない。

「はぁ? なんでだよ!
 まだなんも落としてないじゃん!」

『仕方無いだろう?
 借りてきたウィンダムが全て墜とされてしまったんだ』

「全てって30機全部か? なに? 相手ってそんな大勢居たっけ?」

 所詮はへっぽこパイロットどもだけどさ、それでも30機ってのは相当な数だ。
 だけど返って来た答えは拍子抜けする内容で、

『…1機だ』

 って苦虫を噛み潰したような? そんな感じの声で答えが返ってくる。

「はあ? 1機? たった1機にやられたって言うのかよ!?
 ネオとスティングが居ながら何やってんだよ、だっせえ、馬鹿じゃねえの?」

 戦力比32:1。
 それで負けるか普通?
 MS乗りなんか辞めちまって、田舎で畑でも耕してた方が良いんじゃねえの?

『そう言うな、相手は一応異名持ちだったんだしな。
 連合のパイロット諸君程度の腕じゃ敵になれなかったのさ。
 それにお前だって他人に言うほど活躍してる訳でも無いだろ?
 結局、大きいところは何も墜としてないんだ』

 カチンと来た。
 ネオの言う事が間違ってる訳じゃない。
 確かにネオの言う通り、俺が墜としたのは雑魚をたったの5機、それだけだ。
 だからってそんな評価をされて、黙って受け入れる事が出来るかどうか、ってのは別問題じゃないか?
 なにか? 俺は自分に有利なフィールドで戦闘しても戦果を上げられないとでも言いたいのか?

 …許せない。
 許せないよなあ?
 それってとどのつまりは俺の存在意義、レゾンテートルって奴の否定だもんなあ?

「…だったら大物を墜としてやるよ」

 何がステージ2だ。
 俺とした事が何を真面目に雑魚どもの相手をしてたんだ。
 こうなりゃ手っ取り早くラスボス(敵潜水艦)を墜としてやんよ!

「喰らいやがれぇー!!」

 アビスの高機動能力を十分に発揮し、5機のMSは瞬く間に後方へと置き去りにする。
 そうだ、始めからそうすれば良かったんだ。
 ミネルバには届かないけどさぁ! お前はここで沈んでもらうぜ!!

 照準を合わせ(と言っても馬鹿でかい的だから余裕だ)トリガーを引く。
 それを起点にアビスから放たれた4発の高速誘導魚雷が馬鹿でかい的へと突き進む。
 敵潜水艦は慌てて舵を切ろうとしているようだけど…遅過ぎる。
 馬鹿が。 そのまま海の藻屑になっちまえよ!

 数秒先に訪れるであろう光景を脳裏に浮かべて、俺は嘲笑の笑みさえ浮かべてみせた。
 これでたいした戦果が無い、なんて言わせるもんか!
 俺はお前達と違って役立たずの無駄飯食いじゃない。
 一緒にすんな馬鹿が!

「!?」

 その時だった。
 突如、海上から何かが魚雷と敵潜水艦の間を遮る様に侵入し、そして着弾。

「なんの冗談だよ、これはっ!!」

 爆発によって発生した大量の気泡が薄れた後に残された物。
 未だ無傷の姿を誇る敵潜水艦の前方に、無残な残骸に成り果ててそれは有った。
 鉄の糸を網目状に縫い合わせたそれは、世間一般にはフェンスって呼ばれてる。
 それはあまりにもこの場所に場違いだった。

「ふざけんな!!」

 こんな物で俺のアビスの攻撃を防いだって言うのかよ?
 冗談じゃない。
 こんなの馬鹿げてる!

「何処の馬鹿だよ! こんなふざけた真似をしてくれたのは!」

 自分でも感情的になってるのは分かってる。
 だけど、この気持ちを我慢するなんて、それこそ冗談じゃない。
 アビスをMA形態のまま高速移動させ、海上を目指す。

 そして、海上から飛び出したその場所には… 見覚えの有るMSが居た。
 確かプラントん時に戦闘した奴だ。
 あの時、こいつは初搭乗で性能の全てを引き出せていなかったとは言え、俺等3人を相手に優勢に戦闘を進めて… 3人? あの時は俺とスティングの2人だった筈じゃないか!? ネオはガーティ・ルーに残ってたんだし。
 でも、あの時俺達2人は確かに撤退して、こいつはプラントに残ったんだ。
 残ったガイアがこいつと戦闘を続けてたから俺達は撤退できた… そう、ガイアだ!
 アビスとカオス、この2機だけじゃなくて強奪したGは3機だったんだよ!
 どうしてそんな大事な事を俺は忘れていた?
 俺とスティングと―――。
 3人でプラントに侵入して、途中で―――が迷子になって。
 あいつ馬鹿だから。
 言う事聞かないアイツに俺がブロックワード使っちゃって。
 キレたアイツは今、目の前に居るこいつとプラントに残っちゃって。

 そして帰ってこなかった。

「うわぁ゛あぁああーーー!!」

 頭が割れる様に痛い。
 アイツって誰だ?
 エクステンデッドは俺とスティングの2人の筈だ。
 だったらガイアには誰が乗ってたんだ?

『――ゥル! 聞こえないのかアウル!』

「ああ゛ぁああ゛あぁーーーーーー!!!」

 痛い。痛い。 …痛い。
 まるで頭ん中でシンバル叩かれまくってるみたいだ。
 聞こえない。
 何も聞こえないんだよ!

『ちっ! アウル! 【母さん】が待ってる! 家に帰るぞ!』

「………あ」

 …母さん?

 母さんが待ってる!
 僕の事、母さんが待っててくれるの?

 …帰ろう。
 母さんの待ってる家に帰るんだ…





機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 情けは人の為ならず。
 これは他人に情けを掛けるのは他人の為じゃなくて、遠回りに言えば自分の為に掛けてるんだよ、って意味で、つまり俺が何が言いたいのかと言うと、昨日アスランに栄養ドリンクをプレゼントしたのは遠回りに俺の為だったって事。
 疲れてるアスランに恩を売っておいて、あわよくば戦闘中に助けて貰おう、って言う壮大なデスティニープランの一環だった筈だ。

「ええ!? アスランさんは出撃出来ない!?」

 アーサーさんからその報告を聞いたルナが驚きの声を上げる。
 ルナだけじゃない、レイもショーンさんもゲイルのおっさんも新顔ヨップも大小の差は有るけど皆一同に吃驚した表情を浮かべてる。
 無理も無い、皆アスランが今日の出航に間に合わせる為に必死で整備してたのを知ってるから。
 そのアスランが整備疲れなんかで本番欠席なんてするとは思えないんだろう。

「ああ、なんでも暁のコクピットで気を失ってる所を今朝発見されてね。
 まだ意識も戻らないそうだし、出撃は無理だそうだ」

 おーまいごっと!
 いや、こんな波乱万丈な人生を送ってきた俺は神様なんか信じちゃいないけどさ。
 なんてこったい。
 他人に掛けた情けが己の身に厄災となって降り注ぐとは、これ如何に?

 どうやら栄養ドリンクの真相とか成分についてはバレてないみたいだけど…なんとも後ろめたい。
 フォローを! ここでアスランのフォローを入れとかなければアスランの評価が下がってしまう!
 それじゃ駄目なんだ! アスランには俺に代わってZAFTの星になって貰わなければいけない。
 このままじゃ星は星でも死兆星だよ! 俺にとってのな!

「アスランだって人間だ。 疲れもするさ。
 それにミネルバが本当に苦しい状況なら、あの人は出撃するに決まってる。
 この程度の状況、俺達だけでじゅうぶんだって事だろう?」

 仲間だったらその信頼に応えてみせようぜ!って意味を込めてニヒルな笑みを送る。
 これくらいのヨイショで問題無いだろうか?
 アスラン様は英雄殿ですからもっと大舞台で活躍してもらわなくちゃな!

 …負け惜しみだけど。

「シン…」

 ルナのなにやら見直したわ(はーと)的な視線を感じる。
 そしてそれと同時に、

「いやぁ、シンがそう言うんだったら何も問題は無いんだ。
 アスランさんの脱落で空中戦が出来るMSはインパルスだけなんだけど、なにせ相手は32機。
 それでも【紅蓮の修羅】にとっては『この程度の状況』なんだな」

 ………え゛?

 はっはっは、とアーサーが馬鹿みたいな顔で笑ってる。
 なんだか凄く殴りてぇ…!

 ちょっと待ってくださいよ?
 え?
 32機?
 ダースで言ったら2ダースと3分の2だよ、それ?
 なんでダースで表現したのかは意味が分からんけど。

 それを俺が1人で相手するの?
 まぢで?


 …まぢだった。


 ■■■


 レイとルナはザクで待機。
 他の3人はアッシュでそれぞれ待機してる中、俺はと言うと…

「のわーーー!! 死ぬ゛ーーー!! 死んでしまうーーー!!」

 なんだかオーブ近海での戦闘を思い出す。
 これがデジャヴュって奴だろうか?
 走馬灯かもしれないけど、それは縁起でもないから考えたくも無い。

 そんな訳でまたしても俺はフォースモジュールの両手剣と言う、最早お馴染みのスタイルで今日も今日とて戦闘中。
 場所はインド洋海上。
 赤道直下だけあって気温も高そうだし、泳いだら気持ち良いだろうなぁ…
 こうみえても俺は泳ぎが得意でオーブに居た頃は『河童のアスカ』と呼ばれた程だ。
 泳ぎたいなぁ…

 って言うか、こういう戦艦1人旅in地球ってシチュエーションじゃ『束の間の戦士の休息。 ビーチで水着だ!』的な展開はお約束なんじゃないだろうか?
 今は1人旅って訳でもないんだけど。
 なんだかこの世界には水着分が圧倒的に足りていない気がする。

 ああ、皆の水着姿とか見てみたいなぁ…
 ルナの水着姿は見慣れてるけど、やっぱり部屋の中で見るのと太陽の下で見るのとじゃ違うだろうしなぁ…
 メイリンもああ見えてなかなかのモノをお持ちのようだし、ショーンさんはきっと際どい競泳水着とかが映える。
 色も大人の黒だったりするんだぜ、絶対。
 そんで男共はサラッとスルーするとして、なんと言ってもやっぱり目玉は艦長だろうなぁ…
 きっともう、大人の色気大爆発なんだぜ!

 …なぁーんて妄想の世界に逃避しながらも、1機のMSを爆発させる。
 いや、実際戦ってみたらどうにかなるもんだね。
 最初は慌てたけど手強いのは色違いの奴と盗まれたGだけで、他のは雑魚に過ぎない。
 色違いの奴もMSの性能は雑魚のとあんまり変わらないわけだし、とりあえずカオスのビームさえ喰らわなければ大丈夫そう。
 そんなこんなで既に10を越えるMSを海の藻屑に変えちゃったんだけどさ、きっとこの後は小魚さん達の餌だとか棲み家だとかで役立ってくれるはずだよな。
 人殺しなんてしたくないけど、これも仕事だしなぁ…
 俺だって死にたくないし。
 しょせん俺なんかは一介の兵士に過ぎないんだし、死にたくないなら殺すしかないよなぁ…

 まあ、そんな訳で俺の方は案外余裕を持ってたりもする訳なんだ。
 なにより終わりが見えてるのが素晴らしい。
 オーブの時は後から後からわんさかとMSが湧いてて出て、正直気が滅入りそうだったんだけど、今回は32機落とせば終わり。
 いや、戦闘は厳しいし、ちょっとでも油断したら色違いとカオスが直に付け込んでくるんで気は抜けないんだけど。
 それでも敵機を落とせば落としただけ自分が楽になる。
 この違いって大きいよね?

 ところで俺が1人で苦労している傍らでレイやルナの待機組が何をしているかと言うと、どうやら海中戦をしてるらしい。
 なんでもアビスが出没してるらしく、ニーラゴンゴ(なんだかサンバのリズムで踊り出しそうな名前だな)から出撃した5機のグーンが返り討ちに遭ったそうな。
 それでレイとルナが自分のザクで、ショーンさんとゲイルのおっさん、寝不足ヨップはアッシュで出撃したらしい。
 パイロットの居ない金ピカ、海上では役立たずのガイア、後ゲイツ2機とノーマルザクはお留守番だ。
 後の3機はともかく、前の2機はすごく勿体無い気がする。
 G2機を格納庫で遊ばせてるって贅沢だよなぁ…

 そんな経緯でアビスVSミネルバ待機組な訳なんだけど…
 物凄く共感を覚える。
 アビスのパイロットに。

 なんて言うの?
 理不尽な戦力比に晒されたパイロットとしての共感って奴?
 こっちは32対1で、あっちは5+5対1だって考えると俺の方が厳しいんだけど。
 2対1と3対1の間の1の違いは大きいけど10を越えたらなんかもう、どうでもよくなるしな。
 なんて言うの? 『1対いっぱい』みたいな?
 なんだか両手の指で数え切れないから数えない、そんなお馬鹿みたいな気がしないでもないけど実際はそんなもんだ。
 アビスのパイロット、お前と俺は敵同士だけどさ、もしかしたら俺達って友達になれたのかもしれないな。
 運命って残酷だ。


 ■■■


 そんな運命の残酷さに青いリピドーを滾らせながらも戦闘は終盤。
 俺としてもここぞとばかりに「そこっ!」とか「見えた!」とか「落ちろ蚊とんぼ!」なんて風に1度は言ってみたかった台詞を口走りながら敵機を撃墜していく。
 実際はそこがどこなのか分からないし、何も見えてない。
 敵MSの姿はどうみたって蚊とんぼなんかには見えない。
 でも良いんだ。
 大事なのはフィーリングなのだ。

 だけどまあ、何事も100点満点って訳には行かないな。
 俺の駆るインパルスもエネルギー減でこれ以上ビーム兵器は使えそうに無い。
 おまけにカオスの砲撃に左腕を一本、剣ごと持っていかれてしまった。
 残る右腕の一本も耐久力が限界に達したんだろう、あと1回でも使えば折れそうだ。

 が、色違いとカオスは未だ健在。
 同じくエネルギー切れでも起こしたのか、カオスの砲撃が止んだのがせめてもの救いだろう。

「………」

「………」

「………」

 しばし無言で睨み合う両陣営。
 正直、疲労もピークだった。
 俺ってば絶対給料以上に働いてるよ!
 特別手当とか貰っても良いんじゃないか?
 ああ、でもそうなると褒賞されるって訳で、デスティニープランのコンセプトとは相反する。
 だけどこの苦労が報われないのは虚しい。
 なんたるアンビバレンツ!
 それもこれも全部アスランが酒に弱いのが悪いんだ!
 俺は未成年なんで酒なんか飲んだ事無いけど(だけどルナは飲んでたような記憶が…)あれくらいの酒で酔うなよ!
 それでもコーディネーターか!
 それでも英雄か!
 修正してやる!

 そんな風に俺が逆恨み気味に問題発言を心の中で反芻してると、突然モニターに見知らぬ人影が映った。

『いやぁ、強いねぇZAFTのパイロット君、流石は【紅蓮の修羅】と言ったところか』

 変態さんだ。
 モニターに映った男は明らかにおかしい。
 このくそ熱い中MSで戦闘するのに仮面は要らんだろ?
 MS戦って言ってもそれなりの運動になるし、俺だって汗だくなんだぞ。
 目元のガラスは曇ったりしないんだろうか?

「………」

 そんなしょうもない事を考えながら、モニターに映った変態さんの事を考えてると、その沈黙をどう受け取ったのか、

『ふむ、ま、敵同士なんだし、仲良くおしゃべりって訳には行かんか。
 だけど今日は此処までだ。
 悪いが俺達は撤退させてもらうよ』

 そう一方的に切り出された。
 いや、敵同士だから云々じゃなくて、そもそも鉄仮面を被ってMSを操縦する奴なんぞと仲良くできんぞ!
 連合の連中も誰か注意しろよ!

「………」

 そんな言葉に出来ないツッコミだけが心の中に蓄積されていく。
 なんて言うか、ツッコミを入れたら負けのような気がする。
 そんな訳で相変わらず無言を貫く俺に、

『俺なんかとはあくまでもしゃべらないつもりか。
 ま、それも良いさ。
 今日の所は大人しく引き下がるとするよ… だが、いずれステラの仇は討たせてもらうぞ?【紅蓮の修羅】!』

「………え?」

 と驚き顔で声を上げた時にはモニターは既に消えていた。
 ステラの仇だって?
 いや、ステラはプラントで病気だけど元気に(?)ピンピンしてるんだけど。
 オマケに何時の間にか俺の妹になっちゃってるし。
 そういえばマユとステラはどっちがお義姉ちゃんになるんだ?
 ステラの歳が分からんから謎だ。
 いや、どうでも良い事なんだけどさ。

 あの鉄仮面の変態さんは…言い難いな、あのマスク・ザ・変態は…お!なかなか良い響き!は何の仇を取りたいって言うんだ?
 怒られる事って言えば勝手に義妹にした事くらいだけど、あれはそもそも議長の陰謀で俺は全然悪く無い訳で。
 そもそも義妹にした事は怒られる事なのか?
 そんなたいした事じゃ無いと思うんだけど、でもなぁ相手はマスク・ザ・変態だしなぁ…
 正常な俺に変態の考えてる事は分からん。
 俺の代わりにマスク・ザ・変態がステラの義兄になりたかったとでも言うのか?
 それで義兄の座を俺に奪われて、ブロークンハートな仇でも討とう、とか。
 うわぁ有り得そう。
 なんたってマスク・ザ・変態、変態・ザ・マスクだもんな。

「そっかぁ、あいつロリコンだったんだ…」

 世の中にはそういう性癖の人間が居る事くらい、俺でも知っている。
 マスク・ザ・変態は見た目30前後っぽかったから、10代半ばの少女をそんな目で見てるなら…やっぱり変態だな。

 ふう、…世も末だな。
 連合もあんな奴を雇わなきゃいけないくらい人材不足なのかねぇ…
 この問題はあまり深く考えないでおこう、と心に誓った。


 ■■■


 そんな訳で俺の戦闘も終了。
 後はミネルバに戻るだけなんだけど、なんだか達成感が無い。
 なんて言うか、報われない思い、って感じ?
 活躍したんだし、金一封でも欲しいところなんだけど、金一封貰うくらい評価されるのも微妙だ。
 だけどカーペンタリアでの買い物で財布は火の車。
 正直、臨時収入は喉から手が出るくらい欲しい。
 だけどZAFTから貰う訳には行かない訳で…

「♪」

 そこでふと思い付いた。
 此処は何処だ?
 インド洋だ。

 インド洋と言えば?
 マグロ漁船。
 つまりマグロだ。

 聞くところによるとマグロは1尾でも7桁するらしいし、漁ればボロ儲け?

「…ちょっとくらい寄り道しても良いよな?」

 全ては財政難が悪いのだ。

 そんな言い訳を自分にしつつ俺はマグロ漁を実施する事に決めたんだけど、なんて言ってもインパルスは手負いだ。
 左腕が無いのは漁師として致命的な弱点だと言える。
 それに漁となるとそれなりに道具が要る。
 銃は後数発撃てそうだけど、こんなもんでマグロを撃ったら跡形も残らない。
 同様に剣も却下だ。
 と言うか既に耐久力は限界を突破してて、剣の形をした塵と言っても過言じゃない。

「………」

 捨てよう。
 これからどんな方法で漁を行うにしても邪魔でしかない。

 そんな訳で右手は手ぶらになった訳なんだけど、まさか手掴みで漁をする訳にも行くまい。
 いくら「MSでも手先が器用だね」って言われる俺でも時速100km以上で泳ぐ魚を手掴みする自信は無い。
 なにか道具が必要だ。

 とは言っても此処は海の上。
 当然、道具なんてものが都合良く浮いてた、なんて事は無い訳で。
 俺は漁道具を探す為に近くの島に舞い降りたのだった。

 撃たれた。

 って! 撃たれましたよ!?
 って言うか、何この場所! すんごい基地っぽいんですけど!
 こんな大事な情報、聞いてないんですけど!

 はっ!?

 メイリンか?
 この情報もメイリンの所で止められてたりしたんだろうか?
 昨日あんなにご馳走したじゃないか!
 まだ不満なのか!
 いったい何が不満なんだ?

 これじゃあ星になったジョージ三連星が浮かばれない。
 松阪牛と松茸ソース、夕張メロンのジェットストリ-ムアタックでさえメイリンに通じないなんて!
 俺はいったいどうすれば良いんだ?

 そんな鬱憤を基地にぶつけてみました。


 ■■■


「ふう…」

 一仕事終えた充実感に浸りながら、はて?そう言えば俺は何をしに来たんだっけ?と我に返る。
 少なくても敵基地に一人で乗り込むなんて無茶な真似なんかじゃなかったのは確かだ。

「って、マグロ漁の道具!」

 流石にこの寄り道は大き過ぎだ。
 これ以上もたもたしてたら帰艦命令が掛かってしまうかもしれない。
 善は急げだ。

 って言っても道具か…
 そんなに簡単に見付かるもんでもないしな。
 関係無いんだけど、さっきから足元がうるさいし。
 なんだってんだよ、もぉ…人が大事な考え事をしてるって言うのに。

 なんだ?
 金網が邪魔なのか?
 だったら取っ払ってあげるから少しは静かにしてくれよ… って金網!?
 これを上手い事折り合わせていったら泥鰌掬いの笊みたいになるんじゃないの?
 それでマグロ掬い…アリかも♪

 そんな訳でありったけのフェンスを利用して網と笊の中間っぽいものをなんとか作成。
 片手だったんでやたら梃子摺ったけど、まあそれは手先が器用だからなんとかなった。
 なんだか歓声に見送られてるような気がしないでもない中、いざ!マグロを求めてインパルスを再び海上へと駆ったのだったぁ!

「…とは言ってもそうそう全てが上手くは行かないか」

 マグロの姿が全く見えん。
 そもそもマグロの魚影って海上から見えるもんなんだろうか?
 奴等が普段水深何mくらいを泳いでるかだなんてちんぷんかんぷんだし。
 それでも此処まで上手く行ったんだ。
 きっとマグロだって見付かる筈。

 心を静めろ、シン・アスカ。
 明鏡止水の理さえ開けたなら、きっと海中のマグロだって見付けられる筈さ!

 感じろ! 感じるんだ!!

「! 見えた!」

 その時だった。
 見えたと言いつつ、実は目を閉じてたんで何も見えてなかったんだけど、聴覚が捉えた。
 高速で水中を移動する数本の円形状の物体の存在を。
 マグロに間違い無い。

 さすが俺。
 ならばやる事は1つだ。
 俺はマグロの進路を遮る様に、全力でマグロ掬いを海中へと叩き込んだ。

「…え?」

 どっごーーん!ってなんだか間抜けな爆発音と共に、水柱が上る。
 どう言う事?
 マグロって爆発すんの?

 もちろんそんな事は無くて、どうやら俺は間違ってしまったようだ。
 まさかマグロと魚雷(水中でのミサイルは魚雷で良いよね?)を間違えてしまったらしい。

「まいったな…」

 苦労して作った網はボロボロだ。
 いや、魚雷を掬おうとしたんだから当然なのかもしれないけど。
 なんて言うか、俺の苦労を返せ。

 なんだかすっごく泣きたくなってきた。
 その時だった。
 ざっぱーーん!ってこれまた間抜けな効果音と共に、水中から何かが飛び出したのだ。

 すわマグロか!? って勢い込んでみたものの、そもそもマグロが海上に飛び出すなんて話は聞いた事がなくて、当然飛び出したのはマグロなんかじゃなくてMA形態のアビス。
 期待して損した。

 ってそんな場合じゃないぞ!?
 こちとら満身創痍の重症なんだ。
 左腕は無いし、剣も捨てちまった。
 エネルギーだって切れるのは時間の問題なんだ。

 やばい。
 やばいですよコレは…

「………」

「………」

「………」

 あれ?
 何も起こらない。
 アビスは相も変わらずMA形態のまま海上をプカプカと波に揺られてる。
 いや、俺的にはその方が楽できて嬉しいんだけど…

 …船酔いしないんだろうか?

 あんなに波に揉まれて。
 俺だったら今頃吐いちゃってるね、絶対。
 そんな馬鹿な事を考えてると、するとどうだろう?

 アビスが急に動き出したと思ったら、凄い勢いで遠ざかって行ってしまった。

「…やはり酔ったか」

 水平線の向こうに消え行くアビスの後姿を見詰めながら、敵だけどやたら共感を覚えるアビスのパイロットの無事を心から祈った。





 つづく(UEFAって発音がダサいと思う)




 後書きみたいなもの


 カーペンタリア編が終わったんで筆者の原作知識も底を付く。
 なんでDVDを仕方無く見直して今回のお話を作成。
 そしてお話完成とともに筆者の原作知識がまたも底を付いた。 orz

 なにより大事な事は!
 まだ原作16話頃なんだって事だぁ!
 後34話相当かぁ…
 遠いなぁ…



[2139] 番外編の6話。 その頃のステラさん。
Name: しゅり。
Date: 2006/11/04 15:06
<アビー・ウィンザー>

 私がホーク姉妹の実家に頻繁に通う事になったのはここ最近の事。
 って言うか、アカデミーに通ってた頃は1度も遊びに来た事は無いんだけどね。
 だけど別にホーク姉妹と仲が悪かったとか、実家を敬遠してたとか言った理由じゃ無いの。
 寧ろホーク姉妹は親友って書いてマブダチって読むくらい仲が良かったって思ってる。
 単に私もホーク姉妹もアカデミーの寮で暮らしてただけ、ってのが実態なのさ。
 わざわざルナマリアやメイリンの実家にまで遊びに来る必要なんて無かっただけなのよ。
 あぁ、アカデミー寮の三薔薇って言われてたあの頃が懐かしいわぁ…

 って、話が逸れたわね。
 此処でアカデミー生だった頃の武勇伝を話しても良いんだけど、日が暮れちゃうからパスするね。
 それに乙女には秘密の1つや2つ有った方が良いでしょ?
 …本音を言うとね、ルナマリアとメイリンの武勇伝を暴露するのは構わないんだけど、私の武勇伝まで暴露するのには勇気がいるのよ。
 なんだかあの頃の私達って、『乙女』の金看板に全力で喧嘩を売りそうな日々だったから。
 思い出は思い出のまま、美しいままで居させてね? お願いよ?

 閑話休題。
 今度こそ本当に本題に入るわ。
 ただでさえ最近1話毎の文章量が増えすぎてるんじゃないの?って自戒してるんだし。
 要するに私ことアビー・ウィンザーは本日、ホーク姉妹の実家に遊びに来たと言う訳です。
 だけど皆も知ってる通り、ルナマリアもメイリンもミネルバに乗艦してて今は地球なんだよね。
 だから当然なんだけど実家に遊びに来ても2人は居ない訳で。
 別に小母様とお茶を飲むって言うのも悪くないんだけど、(小父様と囲碁、って選択肢は論外ね。 あれは苦行よ)生憎私はまだピチピチギャル(死語)なんだし、休日にそんな事しなきゃいけないほど枯れてない。
 可愛い洋服着たり、美味しいスイーツを食べたり、レジャー施設で身体を動かして遊ぶ方が断然楽しいお年頃なのですよ。
 そんな経緯を踏まえて解答です。
 本日ホーク家を訪ねたのはズバリ! つい最近ここん家の住人になったステラちゃんと遊ぶ為なのだ。
 ステラちゃんって元々連合の兵士で強化人間だったんだけど、今じゃ心身ともにプラントの一員になってる。
 それにはデュランダル議長がステラちゃんの境遇を『連合の被害者』って立場で上手に世論を誘導した、って前提も有るんだけど、それを踏まえてもやっぱりステラちゃん自身の活躍の方が大きかったんじゃないかな?
 そもそも議会の方じゃ、ラクス様がコンサート活動に勢を出してるのと同じような意味で、ステラちゃんを使って「いたいけな少女を戦争の道具にする連合は許すまじ!」って方向に民意を戦争を肯定する方向に操作しようとしてたみたいなんだけど、ステラちゃんはそんなのお構いなしにTVの前でちょっぴり天然さんな個性を爆発させてしまったのだ。
 いやあ、愛されてるわよぉ。
 なんたって今、巷で話題の【紅蓮の修羅】の妹が天然妹属性の美少女だってバレちゃったんだから。
 【紅蓮の修羅】…まあぶっちゃけシンなんだけど、シンが「ZAFT軍、孤高のエースだ!」って恐れられてる下地が有っただけに「その義妹がステラちゃん!?」みたいな感じで反動が大きかったぶん人気も鰻登り状態。
 歌手活動をしてるラクス様には及ばないんだけど、今じゃバラエティ界の女王って呼ばれてるのよ。
 今でも毎週リハビリの為に通院しなきゃいけない、って制限が外れれば逆転も可能だと私は思うね。

 …あれ? ひょっとしてまた本題からずれてる?
 私とした事が…
 なんだか話の本題からどんどんずれて行くのって、おばさんの井戸端会議みたいでイメージ良くないよね?
 私はまだ花も恥らうティーンネイジャーなんだからっ!
 青い果実なのよ!
 だから、そんなイメージを植えつけちゃ不味いよね。
 これでもステラちゃんの美人マネージャーって事で、私だってマイナー人気は有るんだからね!
 …そう、私は今、ステラちゃんのマネージャーをやってます。
 私だってZAFT軍のアカデミーを卒業したはずなのに、人生って不思議がいっぱい。
 もちろん、ちゃんとした理由は有るんだよ。
 ステラちゃんが民意高揚の道具に使われる時に、軍からのサポートとして派遣されたのが私だったんだ。
 ステラちゃんと同じ女性でステラちゃんと関係の深いシンやルナマリアと同期で親交がある、おまけに配属先に決まってたミネルバに置いて行かれちゃった私は、新しい配属先も未定のままで暇だったから。
 …多分、最後の理由が決めてなんだろうけど、『置いてけぼりになったから』だなんて理由は他人には説明できないわ。
 まるで私までドジッ娘みたいに思われちゃうもの。
 あの時、私の代わりにメイリンが非番だったら今頃ミネルバと一緒に地球に居たのは私だったんだけどなぁ…
 そんな経緯で軍からのサポートだった筈が何時の間にやらマネージャーに移行。
 上層部からも正式に辞令が来ちゃったから、マネージャー業だってZAFTの一員としての正式な任務なんだよ。
 ま、文句は無いんだけどね。
 ステラちゃんは良い子だったし、今じゃプライベートでも休日は一緒に遊ぶくらい仲良しさんなのだ。
 ステラちゃんて人見知りする方なんだけど、ルナマリアの話題で意気投合しちゃって直に仲良くなれたのよ。
 そんな訳で仕事も休みでステラちゃんの通院も無い稀な休日だって言うのに、私は朝からホーク家に来たって訳なんです。

 …皆まで言わないでね。
 最後まで話題が逸れたまんまだって、私も薄々気付いてるんだから。
 だけど、こういう時に気付かない振りをしてくれるのが良い男ってもんなのよ?


■■■


「あら、いらっしゃいアビーちゃん。
 何時もうちのステラが迷惑掛けて悪いわねぇ」

 チャイムを押した私を迎えてくれたのはルナマリア達の小母様。
 あの娘達有って、この母有り!って言うんだろうか? 御歳を召してらっしゃるのに若々しくて、快活で可愛い人だ。
 小父様が小母様に夢中なのも分かる気がするわ。
 出生率の低いコーディで2人出産は伊達じゃない!って事ね。
 …ごめんなさい、私とした事が乙女らしくもない、ちょっぴり下品な話しちゃったわね。

「おはようございます、小母様。
 ステラちゃん起きてますか?」

 そんな自分の頭の仲に浮かんだ思考は欠片も見せずに、歳相応の挨拶を返す。
 ステラちゃんは普段からポケーッとしてるし、寝るのも大好きだから休日の午前中なら寝てるかもしれない。
 だけど、そんな私の想像は杞憂だった様で、

「ええ、あの子ったらさっきまで寝てたんだけど、シホさんがいらっしゃってね。
 叩き起こしたところなのよ」

 って、事の顛末を教えてくれる。
 なーんだ、シホが先に来てたのかぁ。
 あの子って私以上に身だしなみにうるさいからなぁ…
 その辺はズボラなステラちゃんの事だ。
 きっと今頃、

「…ステラちゃん、むずがってるんじゃありません?」

「わかる?」

 ふふふっ、って2人で顔を合わせて微笑むのだった。


■■■


 そんな朝の微笑ましい一幕の後、私達3人はショッピングモールまで出掛けていたりする。
 目的はもちろんショッピングモールなんだからショッピングなんだけどね。
 ステラちゃんってば私服もあんまり持ってないし(今着てるのだって元々はルナマリアの物だし)、なにより下着類は軍の支給品みたいな可愛くないのしか持ってないんだよ!(サイズがきつくってルナマリアの下着は駄目なんだって! …ルナマリアにも負ける私はいったい…)
 だから今日は乙女の身だしなみ、って言うか、せめて最低限の洋服と下着類、後はアクセサリーや雑貨と化粧品なんかも買い揃えよう!って趣旨なんだ。

「…別に私は要らなかったんじゃないか?」

 ショッピングモールに到着してから趣旨を伝えたら、案の定シホさんからはそんな答えが返ってきた。
 何を今更!
 確かにシホさんは綺麗系で、可愛い系のステラちゃんの買い物にはあんまり必要無いんだけど。
 そもそも必要最低限しかお洒落しない(それでもセンスが良いんだからむかつく!)シホさんに、最初からアドバイスとか求めてないんだから。

「…じゃ、何の為に私は此処に居るんだ?」

「ぶっちゃけて言うとぉ、ボディーガードって奴ですよ」

 これまでの付き合いで、シホさんが回りくどい言われ方をするのは嫌いだって知ってるから、ぶっちゃけてみた。
 いやぁ、だってステラちゃんは人気者だし、私もそこそこモテるし。
 こんな可愛い女の子が2人組でショッピングなんかしてたら、ナンパ目的の男共の格好の的じゃない、ねえ?
 その点、同じ美人だって言っても、シホさんは【鳳仙花】の異名まで持つ有名パイロットさんなのだ。
 そんなシホさんにナンパする命知らずなんて居ないし、絶好の配役よね?

「…来るんじゃなかった」

 ちゃんと説明してあげたのに、案の定と言うかシホさんの反応はいまいち。
 いや、確かに私だってシホさんと同じ立場に立たされたら、同じ事を言うかもしれないけどさ。

「ジュール隊長から『出来るだけステラの面倒を見てやってくれ』って言われてるんでしょ?」

「くっ!?」

 声真似付きでウィークポイントを指摘すれば、所詮シホさんもイチコロなのさ。
 おまけに

「シホ、ステラと一緒に買い物、…嫌だった?」

 って悲しそうな顔でステラちゃんが聞けば

「そ! そんな事ないぞ!」

 って、あっさりゲームセット。
 なんだかんだ言っても、シホさんってば私以上にステラちゃんに甘かったりするしね。


■■■


「それにしてもさぁ…」

「…なんだ?」

 あれから幾つかの店を回って、ステラちゃんの洋服や雑貨を購入。
 今は屋台で買ったアイスクリームを食べながら次の目的地、ランジェリーショップに向かってる途中なんだけど、以前から聞いてみたい事が有ったんで声を掛けてみた。
 予想通りと言うか、返事が返って来たのはシホさんだけで、アイスクリームに夢中なステラちゃんからの返事は無い。
 おまけにシホさんからの返事も、危なっかしいステラちゃんに意識の大半が行っちゃってるんだろう、投げやりなものだった。
 ま、予想通りって言えば予想通りなんだけど。
 そんな事よりも

「シホさんってさぁ、ジュール隊長と付き合ってるの?」

「ブフォッ!?」

 …あ、シホさんの鼻がアイスに埋まった。
 それからプルプルプルプルって小刻みに揺れるシホさんの挙動に

「…地雷踏んじゃった?」

 って恐る恐る聞いてみたんだけど、

「踏んでるかぁーー!!
 って、いきなり何を聞くんだアビィーー!!
 わ、私とイザ、ジュ、ジュール隊長はだな、たっ!ただの上官と副官と言う関係でだな、そっ!それ以上でもそれ以下でも無いっ!!」

 魂のシャウトが返って来た。

「今、イザって「何も聞こえなかった! そうだな?」…何も聞こえないです、はい」

 …いやぁ、美人が怒ると怖いね。
 なぁーんか怪しいって思ったんだけどなぁ…
 アビーの恋愛センサーもビンビン反応してますよ?(前髪が恋愛センサーだって思った人、手を上げて。 …殺す)
 そもそもユニウス7からプラントに戻る時にステラちゃんと同艦したのが縁らしいんだけど、ジュール隊長がステラちゃんの為にシホさんを紹介したって聞いた時は単純に「怖そうな人なのに優しいとこ有るじゃん!」って思ってたんだけど、よくよく考えてみると、だからってジュール隊長がシホさんのプライベートに口出しするのって、違うよね?
 やっぱり怪しいんだけどなぁ…

「じゃ、痔悪…じゃなかった、エルスマンさんと付き合ってたりする?」

「それは無い」

 バッサリと切り捨てられました。
 ステラちゃんからよく聞いてた名前だったんで思わず禁断の異名を口にしそうになったけど、それすらスルーですよ?
 さっきのジュール隊長の時と比べると落差激しいなぁ…
 うん、やっぱり怪しい。

「そっかぁ、うん、分かった」

「…分かってくれたか」

 私の納得顔に、シホもホッと安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろす。
 ちなみにステラちゃんはアイスに夢中なのだ。
 今は自分の分を食べ終えてシホさんのアイスにまで手を出してたりします。
 …それってシホさんが鼻突っ込ませた奴だよ? 後、冷たい物を食べ過ぎておなか壊しても知らないからね?

「うん、分かっちゃった。
 俗に言うイザシホってや「それ以上しゃべるなら、殺すぞ?」…今日も良い天気だねぇ」

 しゃべると私の命が危ないらしい。
 この話題はタブーだぜ。
 いったい2人の間に何が有ったのかは謎なんだけど、これ以上は触れない方が良いっぽい。
 あ、後ステラちゃん、素の顔で「プラントに天気は関係無いよ」って返すのは止めて。
 お姉さんなんだか傷付くから。


■■■


 なんだか私とシホさんばっかり楽しんでるみたいだけど、そんな事無いからね!
 本当に今日の主役はステラちゃんなんだから。
 洋服だって買ったし(ステラちゃんはヒラヒラのミニスカートがお気に入り。 この子ってばちょっと目を離すとくるくる回ってるから、ヒラヒラの、特にミニは危険だ!って言ったんだけど譲れないんだって)、雑貨だって買った(仮面の壁掛けに興味を示してたけど、それは流石に不気味だから止めなさい!って阻止した)んだから。
 じゅうぶん主役でしょ?

 そう言った訳でショッピングも半分を経過したんだけど、今、私達はランジェリーショップに居ます。
 ステラちゃんが店員のお姉さんにサイズを測って貰ってるんだけど… なんじゃそりゃ!?って感じ。
 コーディネーターは強化人間には勝てないのね…
 だけど私だって希望は捨ててないんだから。
 私より歳上のラクス様だって突然おっきくなったんだし(改造疑惑は有るんだけど…)、希望を捨てればそこでゲームセットだ!って何処かの偉い監督さんも言ってたしね!
 私だって恋人の1人でも出来ればルナマリアだってステラちゃんだって、ラクス様にさえ負けないくらいおっきくなるんだから!
 その時は見返してやるんだから覚悟してなさいよ!

 …とは言うものの、今の私には負け犬の遠吠えに過ぎない訳で。
 そこそこ御立派なモノをお持ちなシホさんだってステラちゃんの戦力を目の当たりにして微妙に顔が引き攣ってる。
 連合って侮れないよね。
 ZAFTの一員として、改めて連合の底力に恐怖を覚えた一幕でした。


■■■


「…どう?」

「うん、どっちも良く似合ってる。
 ステラちゃんって肌白いから原色系が映えるよね」

 黒の下着を試着したステラちゃんに感想を返す。
 実際の所、この子って幼顔で普段はあどけない癖に脱いだら凄いのよね。
 さっきの赤も似合ってたけど、大人の黒をこうまで着こなすとは…恐るべし。
 だけど、そんな私とは違う意見の持ち主も居る訳で、

「…なあステラ、確かにそれも似合っては居るとは思うが、何故、選んだ下着は黒と赤ばかりなんだ?」

 暖色系の色やライトグリーンみたいな淡い色も似合うと思うぞ?って声を掛けたのは、意外にも下着にうるさかったシホ・ハーネンフースその人だった。
 なんでも長年軍人なんかやってると、下着以外におしゃれ出来る所は無いらしい。
 調子に乗って

「ジュール隊長に見せるの?」

って聞いたらグーで殴られた。

 …それはさておき。
 そんなシホさんの疑問にステラちゃんは

「黒はシンの髪の色。 赤はシンの瞳の色。
 ステラ今、シンと一緒に居られないからシンの色を着たいの」

 って問題発言。
 あー、また始まっちゃったよ、ステラちゃんの『お義兄ちゃん大好き』劇場。
 火を付けちまったんだから責任持てよ?って感じでステラちゃんをシホさんに押し付け、傍観者を決め込む。
 如何に『ステラのお義兄ちゃんが素晴らしいか』について嬉しそうに語るステラちゃんに、シホさんだってたじたじだ。
 時折こっちに助けを求める様な視線を送ってくるけど当然、無視だ。
 だって、あのステラちゃん劇場はきつい。
 経験者は語る、って奴を言わせて貰うなら、アカデミー時代はシンの事が怖くて苦手で、おまけに『レイ・ザ・バレル ファン倶楽部』、略して『薔薇の園』(略してない)の会長だったこの私が、ステラちゃん劇場の影響で思わずシンLOVE(はぁと)な方向に一瞬だけとは言え、洗脳されそうになる所だったんだもん。
 怖くてとても踏み込めるもんなんかじゃ無いんだ、アレは。


■■■


 そんなこんなでショッピングは終焉の時を迎えたのでした。
 帰り道、

「シンらぶ… はっ! いや私にはイザ…ゲフゲフン! …しゅらしゅしゅしゅ…」

 なんて良い具合に壊れたラジオみたいに呟いてたシホさんはかなり不気味だったけど、概ね予定通りに終了したのでした。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅の番外編




 おわり。

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<後書きみたいなもの>

 と言う訳で番外編の更新です。
 副題に「その頃の~」と有りますが、具体的に何時頃かは不明です。
 ステラの退院がそんなに早い筈は無いだろう、って思いますし。
 とりあえずミネルバが地球に居る内の何時か、って感じでお願いします。

 …番外編の更新と言う事はぁ… 案の定、本編の方が煮詰ってたりします。
 なんでだろう? 番外編なら3・4時間で書けるんだけどなぁ…
 後、10月はちょっと私事で忙しい可能性大なんで、次の更新は遅くなるかもしれません。



[2139] 番外編の3話。 本編では出番が無いのだ。
Name: しゅり。
Date: 2006/11/04 16:02
<ヴィーノ・デュプレ>

 突然だけど、アカデミーの中でもホーク姉妹は美人で有名だ。
 姉のルナマリアは元気溌剌な健康的美人だし、妹のメイリンはツインテールの知的美人だ。
 この2人にアビーちゃんを加えてアカデミーの三薔薇様と呼ばれているのは有名な話だ。
 俺も女性だったら迷わずスールにして貰うんだけどな。
 もちろん冗談だ。
 俺ごときが三薔薇様に太刀打ちできる筈が無い。
 三薔薇様の異名は伊達じゃないんだ!
 そう、つまり彼女達には鋭い棘が有るって事さ。

 まずは紅薔薇様(ロサ・キネンシス)こと、ルナマリア・ホーク。
 女だって言うのにパイロット専攻で№3を努める逸材。
 №1と№2の2人、あれはコーディネーターじゃない。
 きっとサイヤ人だ。
 だから人類ではTOPだな、クリリンみたいなもんさ。
 そしてルナマリアと言えば太股。
 見事な脚線美を惜しげも無く披露すると言う、挑発的な服装で野郎共のファンは多い。
 その癖、ガードだけは固いってんだから曲者だ。
 告白して玉砕した男の数は星の数ほど存在する。
 巷の噂では天道三姉妹の三女の如く『ルナマリアより強くなくちゃ付き合えない』なんて話も有る。
 毎朝挑戦者が後を絶たない…

 次に白薔薇様(ロサ・ギガンティア)こと、メイリン・ホーク。
 言うまでも無い、紅薔薇様の妹だ。
 そして非公認組織、レイ・ザ・バレルファン倶楽部の副会長でも有られる。
 決してTOPには立ちたがらず、参謀的なポジションを意図して狙っている感が有る。
 だから知的。
 その狡猾な性格は、天道三姉妹の次女みたいな存在だ。
 彼女に弱みを握られている野郎の数を俺は数え切れないくらい知っている。

 最後は黄薔薇様(ロサ・フェティダ)こと、アビー・ウインザー。
 何を隠そうレイ・ザ・バレルファン倶楽部の会長様だ。
 お約束で天道三姉妹の長女みたいな存在、…だと思ったら大間違いだ。
 確かに普段の彼女はおおらかで優しい、まさに理想の嫁さん像だ。
 …だけど彼女は笑顔で人を刺せるタイプの人種だと言う事を俺は知っている。
 以前、彼女の前髪を指摘した男が、未だに病院のベッドで魘されている事を此処に記して置こう。
 各々方、決して早まる事無かれ!
 綺麗な薔薇には棘は付き物なのだよ。


■■■


 …このままだったら俺の話なのか三薔薇様の話なのか分からない気がする。
 確かに俺なんかより彼女達の話の方が喜ばれそうな気もするけど。
 でもそれじゃあ俺が浮かばれない。
 そろそろ俺の話に入ろうと思う。

 冒頭で三薔薇様の情報を教えた通り、俺ってば情報通なんだ。
 オペレーター専攻じゃなくて情報なんか縁遠い整備士専攻の癖にだぜ?
 だって情報を制する者は世界を制する。
 本当だよ。

 俺が情報通になったのにはちゃんと理由が有る。
 原因はこの髪の色だ。
 茶髪に前髪だけオレンジ、実はこれ、正真正銘の地毛なのだ。
 …父ちゃん、母ちゃん、こんな処をこだわってコーディネートする余裕が有ったんなら、も少し能力面をコーディネートして欲しかったよ。
 銃弾を飛んで避けるとか、種が弾けるとかさ。

 そんな訳で奇抜な髪を持って生まれた俺は、当然の様に人目に付いた。
 『出る杭は打たれる』って言うか、学生時代は体育館の裏に連れさらわれる常連だったよ。
 だけど父ちゃんと母ちゃんが身体能力面でのコーディネートには力を入れてくれなかったばっかりに連戦連敗。
 男としては情け無い限りだけどね。
 齢14にして俺は悟ったね!
 俺は要領良く生きなくちゃいけない。
 弱者の兵法とでも言おうか?
 とにかく他人とのコミュニケーション能力を必死に伸ばしたんだ。
 生き残る為に。
 怖い人とも仲良くなっとけば体育館裏に御用になる事も無いのだ!

 情報通ってのはその産物でしかない。
 コミュニケーション能力が伸びると友人が増える。
 友人が多いと集まってくる情報量が増える。
 情報通になると更に友人が増える。
 今やこのアカデミー内での俺の情報網はレイ・ザ・バレルファン倶楽部に次ぐモノだと自負している。


■■■


 そんな俺にとって未知の存在なのが、ルナマリアをも上回る存在、シン・アスカとレイ・ザ・バレルなのだ。
 まあ、レイ・ザ・バレルについては俺よりもファン倶楽部の方が情報に通じているだろうからこの際置いておくとして、問題はシン・アスカ。
 彼に付いての情報は極端に少ない。
 元々がオーブの出身って事でプラントにおける知人が絶無ってのも収集には痛い。
 本人は本人で近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、気軽に声を掛けにくい存在だし。
 …よくヨウランはシンと友人に為れたもんだ。
 あいつのコミュニケーション能力も侮れないものが有る。
 俺が男同士の友人関係を築くのに秀でているのに対して、ヨウランは異性との友人関係を築くのに長けている。
 くっ! なんか悔しいな…
 だけど、そんな俺とヨウランは直に気が有った。
 整備士専攻同士だったし、俺とヨウランがコンビを組めば無敵だろ?
 これで情報網の穴が無くなるのだ!
 …それにしても、シン・アスカに限ってヨウランの網に引っ掛かったのはどういう訳だ?
 シンを口説くには異性を相手にするノウハウが必要だったのか?
 やっぱりシン・アスカは異質な存在だ。

 そんなシン・アスカが紅薔薇様の彼氏の座に就いた、と言う話題は光の速度でアカデミー内を飛び回った。
 まさに驚天動地。
 一時期、アカデミー内はその噂で持ちきりだったのだ。
 だけど、そんな彗星の如く誕生したアカデミー注目度№1のビッグカップル情報はあっさりと流れ出した。
 なんでもビッグカップルの片割れ、ルナマリアが聞かなくてもペラペラ喋ってくれるそうだ。
 ―――曰く、シンは泣いてる私を黙って抱き締めてくれた、だの。
 ―――曰く、シンは優しく私をリードしてくれた、だの。
 ―――曰く、シンは物凄いテクニシャン、だの。
 最後のは噂に付いた尾鰭の類だろうけど、少なくてもルナマリアがベタ惚れだと言う事は間違いない。
 かなりのルナマリア・フィルターが掛かってそうなんで情報の信憑度は低いけど。
 シンがルナマリアを惚れさせるほどの男だ、と言う事は概ね間違いない。
 そして、その情報を聞いて枕を涙で濡らした同級生を俺は何人も知っている。

 そんな訳で、シンは更に近寄りがたい存在となっていった。
 ちなみにヨウランがシンに事の真相を尋ねたところ、ルナマリアとの馴れ初めは「…成り行き」らしい。
 …彼が分からない。


■■■


 そんなシン・アスカと知己に為れる機会が遂に訪れた!
 ミネルバの進水式を明日に控えた某日。
 シンと買出しに行く予定だったヨウランが俺を誘ってくれたのだ。
 やっぱりヨウランは良い奴だ。
 ヨウラン曰く、

「同じ艦で働くんだし、シンのMSの整備をお前が担当する事も有るだろ?
 その時に知り合いだった方が仕事もやり易いじゃないか。
 せっかくの同期同士、同じ職場に為ったんだから仲良く行こうぜ!」

 との事。
 ヨウラン、お前男前だよ!
 女にモテる訳だよ!
 俺が女でも惚れてるよ!
 でも男だから勘弁な!

 そんな訳で意気揚々と街へ繰り出そうとしたんだけど、スタート直前に躓いた。
 ルナマリアと遭遇。
 …きっと、運が悪かったんだ。
 ルナマリアがヨウランの肩を掴んだ瞬間、俺の脚は全速力で回転を始めていたね。

 くっ! まさかこんなところで要領の良い癖が再発するなんて!
 許してくれ! ヨウラン、お前の犠牲は無駄にしない。

 遠くから聞こえてくる「裏切り者…」って小宇宙が消えそうな呟きも聞こえない。
 聞こえないったら聞こえない。

 そう言った訳で俺とシンの出会いフラグが立ち消えた。


■■■


 その後、シンとの面識も無いままミネルバは出航。
 MSの整備に関しては、俺がルナマリアとレイのザク2機を担当、ヨウランがシンのインパルスと奪還されたガイアのG2機を担当に納まった。
 えっ? なんでアカデミー出立ての新人が最新鋭機を担当してるか?だって?
 優秀だからじゃないか!もちろん。
 あ、ゴメン、嘘です。
 パイロットも新人だから新人同士でやりやすいだろうって事らしいです。
 ちなみに、もちろん一人で担当してる訳じゃないです。
 整備班にはマッド・エイブスって言うMADな班長が居るんだよ。
 頑固職人肌の。
 実際の俺達の作業は細かい設定調整とかだけだからね。
 大掛かりな修理とかはおっさん連中の担当だ。
 アイツら機械弄りに命を掛けてるような連中だから、下手に俺達みたいなペーペーが手を出すと目茶苦茶怒るんだよな。
 楽だから良いけど。

 そう言った訳でシンとの接点もなく数日が過ぎたんだけど、唐突にヨウランが同期での食事会を提案してきた。
 なんでも同期の間で親睦を深めるのが目的だそうな。
 って言っても俺とシンの間以外にはなんらかの交流が既に有るらしい。
 つまり俺とシンを知り合いにさせよう!ってのが真の目的だ。
 実にヨウランらしい試み。
 ひょっとしたらコミュニケーション能力は俺の上を行くんじゃないか?
 まあ、ヨウランは要領が悪いから俺の敵じゃないけどな。

 そんな訳で始まりました食事会。
 って言っても所詮は戦艦内。
 食事会って言っても高が知れてるんだけどね。
 だいたい食事は軍の配給なんだから、せいぜいジュースとお菓子程度だ。
 それでもそれなりに楽しかったりするんだな。
 俺達ってほら、まだ若いし。
 MSの強奪騒ぎやユニウス7地球降下騒ぎと暗い話題ばかりだし、偶には息抜きをしなくちゃな。
 締める所は締める、緩める所は緩める、って奴?

 …緩みまくってる人がいました。
 白薔r…おっと、これは張本人達には内緒だった、メイリンね、メイリン。
 ちゃっかりとレイの真横をキープしてるし、アプローチも盛んだ。
 レイは淡々と返すだけなんだけどね。
 それにしても、メイリンくらいの美人にアプローチされて心の琴線がピクリとも揺れないとは。
 流石はレイ・ザ・バレル。
 でも男としてそれは如何なものか?
 ひょっとしてレイは別の意味で薔薇様だったりするのかもしれない。
 今後の要調査事項だ。

 ルナマリアはどうやら遅れてるシンを心配しているご様子。
 実に初々しい。
 ポロポロと零れる愚痴を聞かされてるヨウランは可哀想だけど、俺は助けてやれない。
 すまん! ヨウラン。

 そして俺は一人、何をするでもなくポテチをば摘んでいると、本日の主役、シンが登場した。
 オマケを2人引き連れて。
 そして俺達のテーブルとは別の隅っこの方のテーブルに着席。
 呆気に取られましたよ、ええ、俺は知っていたんです。
 シンと一緒にいるのがオーブの代表と先の大戦の英雄、アスラン・ザラだって事を。
 なんで知ってたか?って?
 それは俺が情報通だから。
 って言っても同じく情報通なヨウランは当然知ってるし、メイリンは艦橋で同席してるから知ってる。
 レイは議長筋から聞いてるだろうし、それほど威張れる事でも無いんだけどね。

 だけど知らない人が居た。
 紅薔薇様だ。

 遅れてきた彼氏は、女連れ(+オマケ)で入ってくるなり別テーブルへ。
 揮発したアルコール並みに火の付きやすい彼女は当然のように着火されました。
 メイリンが…

「ちょっと、お姉ちゃん!?
 その人達は…」

 って言うのも碌に聞かず、ズンズンとシンの元へと歩んでいく。
 あぁ…これは血の雨が降るのかなぁ? ってホラー映画を観に来た観客の様にドキドキしてたんだけど。
 うーむ、残念。

「あ、ああ、そうだな。
 まずは自己紹介をさせてもらおう。
 私の名はカガリ・ユラ・アスハと言う」

 の一言にピタッ!と一時停止。
 その後、あっちを向いた向いたままムーンウォークで後退してくるルナマリアの姿はどこか面白かった。
 笑ったら酷い事になりそうなんで笑わないけど。
 プッと軽く噴出したヨウランがその後どうなったのかは俺は知らない。
 シンとオーブ代表との話に興味が移って気にしてられなかったんだ。
 本当だよ。

 会話の内容は酷く短かったけど、分かった事がいくつか有る。
 シンが悲しい過去を背負ってる事、それでも挫けずに自分の道を歩んでる事、そしてオーブ代表を前にしても一歩も引かない胆力の持ち主だと言う事。
 凄い男だ。
 とても俺と同じ歳だとは思えない。
 あの2人を相手にしても1歩も引かない胆力は、いったい何処から湧いてくるんだ?
 流石はあのルナマリアが惚れた男だぜ。
 俺なんかがシンを測ろうとしていた事自体、間違いだったのかもな。

 くぅーーゾクゾクする!
 あんな男と知り合いになれるなんて!


■■■


 目の前でルナマリアがラブラブフィールドを構築しだした。
 いや、気持ちは分かるけどサ。
 もう少し周囲の人間の事を気に掛けてくれても良いんじゃないだろうか?

 呆れの混じった声でメイリンが告げた「撤収ーー!」の一言で食事会は幕を閉じた。
 まあ、今日これからの友人紹介ってのはもう絶望的だしな。
 第一印象は大事だから、気まずい雰囲気で引き合わせるのもなんだしね。
 俺は黙って席を立ち、嘗てヨウランだったモノを掴んで食堂を出た。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅の番外編




 おわり。

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<後書きみたいなもの>

 感想掲示板の[172]でこっそり公開してた番外編の第3話です。
 改訂第1話をただ消すのもなんなんで、スレがかなり流れた事もありますし表で公開しておきます。
 内容は元々がこっそり公開するくらい没に近い物だったんで面白くなくても流して下さい。



[2139] 21話目。 信じる事さ必ず最後に愛は勝つ(意味不明)
Name: しゅり。
Date: 2006/11/04 16:34
<ヨアヒム・ラドル>

「楽しみですねえ、【紅蓮の修羅】。
 いったいどんな奴なんだろうなぁ…」

 入港したミネルバの出迎えに向かうその道中。
 なにやら【紅蓮の修羅】を英雄視しているらしき下士官に「そうだな」とおざなりな返事を返しつつ、さてさて【紅蓮の修羅】はどう言った人物なのやら?と想像を巡らす。
 先の大戦で家族を失ったオーブ出身の若造、ミネルバ艦所属インパルスの正パイロットでZAFTレッド。
 プロフィールを簡単に纏めるならそれでおしまいなんだが、果たして内面は如何な物やら…

 確かにユニウス7降下の際に『戦争を殺したい』と告げた彼の言葉に、私は深い共感を覚えた。
 戦争なんか、軍人なんかこの世から無くなってしまえば良い。
 心からそう思う。
 だが、今思えば彼の発言は些か表現が乱暴過ぎやしなかっただろうか?
 加えて、なにより敵をして【紅蓮の修羅】とまで表現される気性の持ち主なのだ。
 10代と言う血気盛んな年齢と、これまでの言動から人物像をざっと推測するに相当やんちゃな奴に違い無い。
 そんな結論にしか到達出来ないのだ。
 それだけでも相当不安が募るのだが、加えてアーモリー、ユニウス7、オーブ、インド洋とシン・アスカは立て続けに戦功を重ねている。
 彼くらいの年頃の少年なら相当有頂天に、天狗になっていたとしてもなんら不思議は無いだろう。

 どう考えても、期待より不安が先に来るんだがねぇ…

 更に【紅蓮の修羅】に関しては、不安を募らせる材料に事欠かないと来ている。
 戦意鼓舞の為、市民にZAFT軍の活躍をアピールして安心感を与える為だとは言え、シン・アスカの活躍をプラント本国では大々的に報道してしまっているのだ。
 プロバガンダの必要性は理解出来なくは無いのだが、ZAFT全体の評価をこうも個人の戦功に頼ってしまうのは如何な物だろうか?
 確かに開戦直後の核攻撃阻止を除けば、彼ほど華々しい活躍を魅せた者が皆無だと言う現実もある。
 なまじ戦功が誇大でも無いだけに考え物だ。
 もしもの話だが、このままシン・アスカが戦功を重ね続けたとすればどうなる?
 プラント内での彼の支持者が増え続けるだろうし、そうなれば或いは近い将来、シン・アスカの言動がプラント全体の動向を左右するような結果にも成りかねない。
 それは非常に恐ろしい事ではないか?

 そんな不安を抱きながら対面に臨んだと言うのに…



 俺が心配してた事なんて単なる杞憂に過ぎないんじゃないか?って思わず自問してしまうくらい、実物の第一印象は冴えない物だった。
 櫛すら通してないんじゃないか?って疑ってしまうくらいボサボサの髪の毛、印象的な筈の紅蓮の瞳は半分以上閉じられた瞼の下に隠されて輝きを曇らせている。
 そんなまるで覇気と言う物を感じさせない姿を前にすると、とてもではないが目の前の少年がプラント全体をどうこう出来る器だとは思えない。
 それどころか、あまりに想像していた人物像と異なってしまっている当人を前にして、思わず引率してきたグラディス艦長に「コレは本物か?」と真偽を確認しようか真剣に迷ってしまったくらいなのだ。
 それくらい、【紅蓮の修羅】の第一印象はパッとしなかった。
 何処にでもいそうな冴えない少年。
 お世辞でもZAFTレッドに相応しいとは言えたもんじゃない少年。
 それが今、私の目の前にある現実だ。

 …これでは警戒し過ぎた私が馬鹿みたいではないか。
 膨らませすぎていた不安が解消された事には安堵感を覚えるのだが、同時に何処か心の片隅で【紅蓮の修羅】の事を英雄視していた自分の期待が裏切られたかと思うと、失望の念を抱く事を禁じえない。


■■■


 だが、やはり私は甘かったらしい。
 人を観る目には自信が有ったのだが、どうやらそれは自惚れに過ぎなかったようだ。
 シン・アスカの本領が、私の様な一般人がただの第一印象なんかで把握出来るほど、底の浅いもので有る筈が無かったのだ。
 そうだ、仮にもシン・アスカはこの歳でデュランダル議長の秘蔵っ子と称される人物じゃないか。
 あの議長が第一印象で見透かしてしまえる程度の小者を重宝する筈が無いではないか。

 ローエングリンゲート攻略作戦会議を行う為に会議室に向かうその道中、私は思い切ってシン・アスカに声を掛けてみた。
 別に何かを期待していたと言う訳ではない。
 ただ、第一印象で彼が薄っぺらい人物だと判断していた私は、簡単な追従でもって【紅蓮の修羅】を手懐けておこうと判断したに過ぎない。
 いくらその人間性が薄っぺらいとは言え、彼が優秀なパイロットである事実は変わらないのだ。
 せいぜい煽てあげておいて、ローエングリンゲート攻略の際には役立って貰おう、ただそれだけの腹積もりだったのだ。

「インド洋沖の戦闘でもお手柄だったそうだな、シン・アスカ。
 ニーラゴンゴの艦長からも報告は上がっているよ。
 その艦長から強い要請も有ってな、議会に報告と共に勲章授与の方も申請しておいたぞ。
 この調子でローエングリンゲート攻略の際にも活躍を期待してるからな」

 今思えば勲章授与の申請の際に抱いていた不安も杞憂に過ぎなかったが、な。
 どう見ても権勢や政治に興味の有りそうな人間には見えんし。
 勲章授与されたところで、せいぜいが年金の支給額が若干増額される程度のもので、他に影響するとはとても思えない。
 そう言った意味じゃ、勲章はちょうど手頃な報酬だったかもしれんな。
 それで気を良くしてこの先も1兵士として活躍してくれるなら万々歳だ。
 そう、心中でほくそ笑んでいたのだが…

「凄いじゃないシン! 勲章だって! 勲章!」

 等と喜びの声を上げるのは、シン・アスカ当人ではなく隣を歩いていた女性パイロット。
 確かルナマリア・ホークと言ったか? の方だった。
 彼女が前方を歩いているレイ・ザ・バレルと隣のシン・アスカの背中をバシバシと景気良く叩きながら全身で喜びを表現している姿には微笑ましい物が有るのだが、肝心のシン・アスカの反応は?と言うと、

「…はぁ。 いえ、有難うございます」

 と、なんとも素っ気の無い反応だった。
 一応、感謝の意は示してくれているのだが、どうにも「有難迷惑だ」と言った風情なのだ。

「? ひょっとして迷惑だったかね?」

 勲章が授与される名誉を厭う者が居るとは思えないのだが。
 なにせ勲章が授与されると言う事は、その活躍を公式に評価され、認められたと言う事実に他ならない。
 シン・アスカには関係無いだろうが、仮に将来は政界へと進出するつもりなら、その際にも有利に働くであろう事は間違いない。
 他にも退役後の年金の支給額にも有利に働くと言うのに、それを迷惑がる必要が何処に有ると言うのだ?



 …後に。
 私はその様な浅はか極まりない疑問を浮かべてしまった事、それ自体を恥じる事になる。

 シン・アスカは私の問いに少しだけ億劫そうに、

「…自分は評価されたくて戦っている訳では有りませんから。
 勲章を頂けるよりも、1日でも早く退役出来る日が来る事を望みますよ」

 そう、告げたのだ。


■■■


 それはまるで雷に撃たれたかの様な衝撃だった。
 シン・アスカのその言を聞いた瞬間、比喩ではなく全身を衝撃が走り抜けたのだ。

 そうだ!
 そもそも私は何の為にZAFTに入隊したのだ?
 立身出世の為? 名誉栄達の為?

 違うだろう!
 そんな個人の栄達なんて、私は決して望んでいなかった。

 では、血のバレンタインで亡くなった同胞の仇を討つ為だったのか?

 …確かにそれも有る。
 あの事件を目の当たりにした時、私は腸が煮えくり返るくらいの怒りを覚えたものだ。
 だが、けっして安易な復讐に走りたいが為にZAFTの一員になった訳では無かった筈だ。

 私がZAFTに入隊した理由。
 なによりもまず最初にプラントに住む同胞達の平和を守る為、ただそれだけの為に志願したのではなかったか?
 コーディネーターと言うだけで、宇宙に暮らすと言う事実だけで、同胞達が理不尽に命を踏み躙られる世界が許せなくて、争いの無い世界を夢見た。
 そんな世界を作る為の力になりたくて、ただそれだけの為に、今まで己の全てを注いで来たのではなかったか?

 シン・アスカの言葉に、私は当の昔に忘れ掛けていた初心を思い出せた気がする。
 そうだったのだ。
 過去の私がそうであった様に、きっとシン・アスカもまた私と同じ理想を抱いていたのだ。



 …今なら分かる。
 やはり私はシン・アスカの事を見誤っていたのだ。
 シン・アスカの本領は外見だけで判断できる底の浅いモノではなかったのだ。
 きっとデュランダル議長はシン・アスカの実力も去る事ながら、内面の部分、『純粋な想い』と言った部分を高く評価していたのだろう。
 なぜZAFTに数多く存在する精鋭パイロット達の中で、未熟な、新人パイロットに過ぎないシン・アスカが議長の秘蔵っ子とまで呼ばれるのか?
 その答えは、きっとその辺に求める事が出来るのかもしれない。

 ならば。
 私がこれ以上迷う理由など、もう何も無い。
 共に同じ理想を目指す同志として全力で支援しよう、シン・アスカの事を。
 例え他人から修羅と評されようとも己の信じた道を純粋に突き進む、この若者を。
 それが私の戦いだ。


■■■


「~の坑道を抜け、ローエングリンゲートの破壊を行う。
 非常に困難だが重要な任務だ。
 その役目をシン・アスカ、君にお願いしたい。
 君の力を持ってすれば、それさえも可能だと私達は信じている。
 もちろん我々も全力で敵の陽動に当たり、君をバックアップさせてもらおう。
 …すまないが、頼む」

 会議に臨んでいる現在、最早、私の中に【紅蓮の修羅】に対するわだかまりなど欠片も無かった。
 そもそもがくだらない先入観から生じた疑念に過ぎなかったのだ。
 現実に本人と会い、言葉を交わす事で思考・人間性と言ったものを確かめられたのだから、後に残るのは『頼もしい同志』と言う確固たる事実、ただそれだけだ。

 だから私は迷わない。
 作戦の肝となる高難度のミッションをシン・アスカに一任する事にも躊躇はしない。
 信頼すると決めたのだ、ならば我々は彼が成功する為に命を掛ける。
 ただ、それだけで良い。

 …だが。
 その発言に異論を唱えた人物が居た。
 初対面の時とは一転、第一印象の時とはとても同一人物だとは思えない真剣な眼差しで会議に臨んでいたシン・アスカ本人が、

「………少し、意見を述べさせて頂いても構わないでしょうか?」

 と、遠慮がちながらも確りとした口調で口を開いたのだ。
 会議に臨む真剣な姿勢を目の当たりにして先の態度とのギャップから「真の大人物とは力の入れ所を把握している、緩急の付け方を理解しているものなんだな」と改めて見直していたのだが、そのシン・アスカが私の説明し終えた作戦内容に口を挟むと言う。
 その一言を切欠に会議室内は水を打った様に静まり返り、反比例して緊張感が増していく。
 他の参加者は皆、彼の発言を聞き漏らすまいと一斉に耳を澄ませるその中で、真剣な表情を浮かべたシン・アスカが慎重に口を開いた。

「申し訳有りませんが、私はこの作戦に反対です」

「っ!?」

 たったその一言で会議室が騒然となった。
 それもそうだろう、なにせほぼ確定していたと言っても過言では無い今作戦に、核となる人物自ら否を唱えたのだから。

「…理由を聞かせて貰って構わんかね?」

 どうにか各人の発言を抑え、未だ動揺から回復し得ないでいる思考のままに、辛うじてそれだけを口にする。
 シン・アスカを信じたのだ。
 シン・アスカの望む未来が、私の理想と共に有ると。
 そう信じてはいるのだが、それでもやはり真正面から作戦内容を否定されたならば、動揺は抑えられない。
 そんな必死に動揺を押し隠す私を尻目に、シンアスカは淡々と私見を述べ始めた。

「了解しました。
 確かに司令の考えられたミッションでも任務の遂行は可能でしょう。
 ですが、今作戦ではあまりにも被るであろう犠牲が大き過ぎる様に考えます。
 今回のミッションにて焦点となるのはローエングリンゲートの存在だと考えますが、幸い現在のミネルバにはオーブからの協力としてアスラン・ザラとアカツキが搭乗しています。
 彼と彼のアカツキならば、最小限の被害でローエングリンを無効化する事が可能なのではないでしょうか?
 彼を作戦の核に据える事で、奇策に拠らず、正面からの突破が可能になると考えます」

「むぅ… だが、彼はあくまでオーブの人間だと報告を受けている。
 外部の人間である彼に作戦の要となる役割を任せるのは、いささか問題が有るのではないかね?」

 シン・アスカの意見に一理有る事も認めるのだが。
 確かにアカツキの性能が報告に有る通りならば、あるいは彼1機でローエングリンを無効化する事も可能なのかもしれない。
 パイロットのアスラン・ザラの腕もまた、折り紙付きなのだから。

 だが、それでもその意見を採用出来ない理由が存在するのだ。
 例えば彼とアカツキが、あくまでオーブからの客将だと言う事1つ取ってみてもそうだ。
 確かにアカツキの性能を持ってすれば今作戦の被害は抑えられるのかもしれない。
 だが、もし彼の身に万が一の事が有ればどうなる?
 オーブとの関係に不要な軋轢を生じさせかねない真似だけは、絶対に避けなければならない。

 …それに、だ。
 あまりこのような事は言いたくないのだが、最も危険な任務を他国の人間に任せるのは体裁が悪い。
 ZAFTとしての沽券に関わる問題なのだ。
 私個人としてはくだらないプライドに過ぎないと思うのだが、そうは考えない人間は多い。
 何時の世にも外面を必要以上に気にする人間は必ず居るものだ。
 そして、その様な人間が立場の高い地位に多い事もまた、1つの事実なのだ。
 彼等は絶対アスラン・ザラを主に添えた作戦の遂行を認めないだろう。

 そして、極めつけが彼個人の問題。
 彼の過去の行動が問題となってくる。
 ZAFTでアスラン・ザラと言えば、まず最初にあのパトリック・ザラの息子である事があげられる。
 そして、それ以上にプラントとZAFTを裏切った男として認識されている。
 これは非常に重要な問題なのだ。
 いくら彼の裏切りに、彼なりの正義や大義名分が有ったとしても関係が無いのだから。
 軍人が己の思想の為に同胞を裏切る、その様な行為を行える軍人を誰が信用出来ると言うのだ?
 同じように、もし彼が新しい彼なりの正義を見出したなら、平気でまた自分達を裏切るんじゃないか?
 一般のZAFT兵がそう考えたとしても、なんら不思議は無い。
 何処まで信用出来るか定かでは無い男に、作戦の中核を任せる事に抵抗を覚えたとしても無理は無い。

 それらの件を理を説く様に懇々と説明したのだが、シン・アスカはそれらの話を聞き終えた後、しばし内容の理解に務め、それから言葉を選ぶように紡ぎ出した。

「…確かに、アスランはオーブの人間で、パトリック・ザラの息子なのかもしれません。
 そして過去に1度、プラントとZAFTを裏切ったのも事実なのでしょう。
 ですが! 彼はオーブ脱出の際にショーンの危機を身を盾にして救ってくれました。
 私はそれだけで十分だと考えます。
 いくらアカツキの装甲が有ったとは言え、自ら敵の攻撃の前に身を晒すのは並大抵の事では有りませんから。
 今の彼は、既に私達ミネルバの一員なのです。
 彼が過去に裏切ったのであれば、是非、彼に名誉挽回の機会を与えては貰えないでしょうか?
 その為なら私は協力を惜しみません!
 ZAFT内に面子を気にする方が居らっしゃると言うのであれば、後でいくらでも頭を下げます。
 それだけの事で、少しでも味方の犠牲が軽減するのならば土下座だってしてみせます!!」

「!」

 一同、言葉が出ない。
 シン・アスカが、まさかそこまでの覚悟で発言していたとは。
 素直に当初の作戦に従って己の活躍で終えてしまえば楽だろうに。
 仲間であるアスランの信頼を取り戻す為、ZAFTの同胞の被害を軽減する為。
 ただ、その為に己のプライドを捨てる覚悟すら有ると言うのか…

 なんて奴だ。
 これが【紅蓮の修羅】なのだな…

 …だが。
 それでも、だ。
 それでも結論は別だと言わざるを得ない。
 確かに今のアスラン・ザラは信頼に足る男なのかもしれない。
 シン・アスカを信じるのならば、シン・アスカが信じるアスラン・ザラを信じられるとも思う。
 だが、それでも彼がオーブに所属する他国の人間であると言う事実は変わらないのだ。
 事が国家間の政治的問題に発展する可能性が有るだけに、こればかりはどうにもならないのだ。

「………」

 その件に関しては流石に返答に窮したのだろう。
 私としても心苦しいのだが、シン・アスカも苦虫を噛み潰した表情を垣間見せる。
 だが、こればかりはどうにもならない。
 国家の違い。
 所属の違い。
 こればっかりは幾ら【紅蓮の修羅】とは言え、どうにもならん問題なのだ。

「残念だが、やはり作戦は当初の予定通り「発言しても宜しいでしょうか?」…何かね?」

 やむなく私が結論を口にしようとしたまさにその時、今まで沈黙を守っていたグラディス艦長が口を開く。
 この期に及んで何を?と思わないでもないが、とりあえず「どうぞ」と肯定の意を伝える。

「ありがとうございます。
 双方を意見を拝聴させていただきましたが、私はシン・アスカの案に賛同したいと考えます」

「!?」

「私もラドル司令のおっしゃる問題は理解しているつもりです。
 ですが、ZAFT軍が被るであろう被害を軽減できると言う点は無視出来ません。
 また、奇策に頼らないで済むと言う点からも作戦の成功率が増すと考え、総合的な判断からシン・アスカの出した作戦がこの場合はより有効だと判断します」

 出てきた意見はシン・アスカの案を全面的に肯定するモノ。
 だが、それに対する私の回答は既に決まっているのだ。
 例えグラディス艦長の意見とは言え、早々撤回は出来んのだ。

「…分かっている。
 私としても作戦内容自体に異論は無いのだ。
 もしアスラン・ザラの所属の問題さえ無ければ、諸手を振って賛同していただろう。
 だが、今件はその問題が全てだと言って良い。
 こればっかりは私の責任ではどうにもならんのだよ」

 そう、苦渋に満ちた表情で否定の言葉を唱える。
 だが、それに対しグラディス艦長は凛とした瞳を浮かべ、

「ご心配には及びません。
 アスラン・ザラはミネルバが全力で守って見せますから」

 そう、答えた。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 オーブでミーアさんの姿を見掛けたのを切欠に、俺は再び深夜ラジオに嵌っていた。
 プラントでは干されてしまったミーアさんだけど、ひょっとしたらオーブのラジオ局で復活してるかもしれない。
 そんな発想に至ってしまったのだ。
 そんな訳でインド洋での戦闘以来、戦闘らしい戦闘が無いって事も相まって、すっかり夜更かし三昧の日々を満喫していたりするのだ。

 だからって言うのもなんなんだけど。
 待機任務が午後担当だった事を良い事に毎日昼まで寝てた俺に、早朝のマハムール基地への着艦挨拶は非常に厳しいモノが有る。
 って言うか、着艦挨拶の事なんかサッパリ忘れてたし。
 って言うか、いくらZAFTレッドとはい言え、なんで着艦挨拶に俺達が必要なんだ?
 数合わせか? ミネルバってあんまり地位の高い人いないし。
 まあ、それはさておき。
 今朝もルナが起こしに来てくれなければ、今頃、俺は此処には居ない。
 きっと着艦挨拶なんて奇麗にすっぽかして夢の中の筈だ。
 だから、そんな寝起きで意識もぼんやりしてるうちにマハムール基地の着艦挨拶に同行させられてて(それにしたって、あんまり起きた記憶も着替えた記憶も無いんだけど…)、それでもってなにやら話の流れも分からんままに会議室に向かう事になってて、その道中に知らんおっさんから「勲章授与されるってよ」みたいな話を聞かされたところで、生返事しか返せなかったのは俺が悪いんじゃない。 …と思う。
 あまつさえ「嬉しくないのか?」っぽい質問内容に「それよりもZAFT辞めたい」ってぶっちゃけ本音トークを返してしまった気がするんだけど、それだって俺が悪いんじゃなくて、きっと赤道直下の太陽が眩しかったからなのさ。
 だからそこの名も知らぬおっさん、「尊敬すべき馬鹿を見た」みたいな目で俺を見るのは勘弁して下さい。


■■■


 さて、おふざけはここまでだ。
 流石に会議ともなると、いい加減、俺のオツムも起きてくる。
 って言うかさっきのおっさん(…ひょっとして偉いのか?)の話が物騒過ぎておちおち寝てらんない。
 なにやら「インパルスが単機で~」とか、「目標付近に繋がる洞窟を~」とか、「ローエングリン砲台を破壊して~」なんて不吉な単語が飛び交わせられた日にゃあ、何時までも暢気に呆けてる場合じゃ無いってもんよ。
 いや、いっそ夢の世界に逃避したいと思わないでもないんだけど、そんな事をしてた日にゃあ全てが終わってしまう。
 とりあえず相手は俺より偉そうなんで、せめてもの抵抗とばかりにさっきから「何言ってんじゃワレ?」的な意思を込めておっさんをガン睨みしてるのだった。
 …効果無いけど。
 くっ! 俺の眼力も鈍ったもんだぜ。

 …お願いだから今までの事は全部が全部、悪い夢だった。
 そんな夢オチにして下さい。


■■■


 当然と言えば当然なんだけど、そんな俺の儚い希望を叶えてくれる神様はこの世に存在しないらしくて、

「~の坑道を抜け、ローエングリンゲートの破壊を行う。
 非常に困難だが重要な任務だ。
 その役目をシン・アスカ、君にお願いしたい。
 君の力を持ってすれば、それさえも可能だと私達は信じている。
 もちろん我々も全力で敵の陽動に当たり、君をバックアップさせてもらおう。
 …すまないが、頼む」

 なんて結論に達しちゃわれました。
 なにやら頼まれちゃったみたいだけど… 当然却下だ!
 そんな青春片道切符みたいな任務なんかしたくないったらしたくない。
 「流石シン、この任務を達成すれば英雄ね!」ってなルナの声だって耳に届かないったら届かない。
 英雄なんてなりたくない。
 良い英雄は死んだ英雄だけだって死んだ婆ちゃんも言ってたし。
 あまりの理不尽っぷりに俺の心の大沢親分も「渇っ!!」って大激怒してる事だし、なんとしてもこの任務は取り消させなければなるまい。
 じっちゃんの名には賭けないけど、とりあえず俺の命に賭けて!

「申し訳有りませんが、私はこの作戦に反対です」

 胸を張ってそう告げる。
 だって死にたくないんだもん。
 100%嘘偽りの無い俺の本音だ。

 だけど、それだけじゃ流石におっさんも許してはくれない訳で、

「…理由を聞かせて貰って構わんかね?」

 なんて、当然の事ながら反対の理由を聞いてきた。
 うーむ… 理由か。
 ぶっちゃけ「怖いから」なんだけど、それじゃあ納得してくれんわな。

 …考えろ! 考えるんだ俺!
 ここが命の掛かった正念場なんだ!
 きっと何か良いアイデアが浮かぶ筈なんだよ。
 それが主人公ってもんだろう?

「………」

「………」

「………」

「!」

 閃いた!
 しかも思わず頭の上に電球マークが浮かんじゃう程のナイスアイデア。
 さすが俺。
 ふっ、時々自分の才能が恐ろしくなるぜ。

「了解しました。
 確かに司令の考えられたミッションでも任務の遂行は可能でしょう。
 ですが、今作戦ではあまりにも被るであろう犠牲が大き過ぎる様に考えます。
 今回のミッションにて焦点となるのはローエングリンゲートの存在だと考えますが、幸い現在のミネルバにはオーブからの協力としてアスラン・ザラとアカツキが搭乗しています。
 彼と彼のアカツキならば、最小限の被害でローエングリンを無効化する事が可能なのではないでしょうか?
 彼を作戦の核に据える事で、奇策に拠らず、正面からの突破が可能になると考えます」

 これなら俺が楽できて、尚且つアスラン大活躍。
 『デスティニープラン』も全う出来るベリーグッドなアイデアなのだ。
 おまけにZAFT軍の被害も減るかもしんないよぉ~ってのがポイントな訳で。
 内心は自信満々なんだけども、ここは殊勝な態度を取って外面上は控えめに提案、ってスタンスで自案を告げてみた。

「むぅ… だが、彼はあくまでオーブの人間だと報告を受けている。
 外部の人間である彼に作戦の要となる役割を任せるのは、いささか問題が有るのではないかね?」

 …だけども、だ。
 そうは問屋は卸さないとばかりに、司令かもしれないおっさんは俺の意見を否定しよった。
 やれZAFTの沽券に関わるだの、やれアスランは信頼できないだの。
 そんなもん、俺の命と比べれば屁でもないわ!
 ZAFTの沽券なんかの為に俺は死にたくないんじゃあっ!!

 …もちろん、そんな俺の本音は外に出したりなんかしない。
 議論では熱くなった方が負けなのだ。
 クールに、クールに行くんだシン・アスカ!
 諦めたらそこでゲームセットですよ!

「…確かに、アスランはオーブの人間で、パトリック・ザラの息子なのかもしれません。
 そして過去に1度、プラントとZAFTを裏切ったのも事実なのでしょう。
 ですが! 彼はオーブ脱出の際にショーンの危機を身を盾にして救ってくれました。
 私はそれだけで十分だと考えます。
 いくらアカツキの装甲が有ったとは言え、自ら敵の攻撃の前に身を晒すのは並大抵の事では有りませんから。
 今の彼は、既に私達ミネルバの一員なのです。
 彼が過去に裏切ったのであれば、是非、彼に名誉挽回の機会を与えては貰えないでしょうか?
 その為なら私は協力を惜しみません。
 ZAFT内に面子を気にする方が居らっしゃると言うのならば、後でいくらでも頭を下げます。
 それだけの事で、少しでも味方の犠牲が軽減するのなら土下座だってしてみせます」

 …なんて言うか、自分で言ってて歯が浮くような言葉だな。
 裏を返せば、それだけ今の俺が必死だって事なんだけど。
 アスランは俺の希望の星なんだ!
 過去に裏切ってたなんて知らなかったけど、とりあえずそれは聞かなかった事にしよう。
 だって、アスランならきっと俺の『デスティニープラン』を完遂してくれるんだから。
 そう言う意味じゃ、アスランを信じてるって言う俺の言葉にも嘘は無い訳で無問題だよな?
 あ、ちなみに言わなくても分かってるとは思うけど、『味方の犠牲』ってのはイコール『俺の命』って事ね。
 その為だったらプライドを捨てる事に躊躇は無い。
 例え土下座する事になったって、死ぬよりはマシなのさ。

 って言うか、頼む! そろそろ了承してくれ!
 正直、精神的にもネタ的にもいっぱいいっぱいなんだよ!
 おまけに自分で言っといてなんなんだけどさ、青臭い言葉に蕁麻疹すら出そうなんだ。

 …後、ルナもレイも俺を聖人君子を見るような目で見るのは止めてくれ。
 汚れてる俺にその視線は眩しすぎる。
 後ろめたさで胃がキリキリ言ってるんですよ!

「………」

 なんだか静まり返った会議室内に、「ひょっとして勝ったか?」ってぬか喜びを覚えたのも束の間。

「…そうだな、確かに沽券に拘って同胞の命を軽んずるのは間違っている。
 アスラン・ザラの事も信頼すべきなのかもしれない。
 シン・アスカ、君の言う事は全てもっともだと思う。

 …だが、それでも、なのだ。
 アスラン・ザラの身に万が一が有ってはならんのだよ」

 ぐぅっ!
 オーブとの関係に軋轢が発生したなら「更に多くの同胞の命が危険に晒されるかも?」ですと?
 国家間の問題ですか?
 政治的な問題なんですか?
 1パイロットの俺にどうしろと?
 俺の命が掛かってるんですよ?
 諦める訳には行かんとです。
 だけど、返す言葉が無え…

 何か!
 何か起死回生の手は無いんですかぁ!?


■■■


 結果から言うと、そんな俺のピンチを救ってくれたのはグラディス艦長だった。
 やべえ、ちょっぴり惚れかけたよ。
 今なら抱かれても良い。



 …その後の言葉さえ無ければ。

 曰く。

「シン、レイ、ルナマリア、貴方達がアスランを守りぬくのよ」と。

 あまつさえ、

「最悪の場合は、シン、貴方がアスランの盾になりなさい」ですって。

 …アスランに万が一の事が有れば、漏れなく俺にも万が一の事態が付いてくるそうです。
 連帯責任ぽくて仲間って感じがするよ。
 あれ? なんだか泣けてくらぁ…



 つづく(まで待とう、ホトトギス)

==================================================

<後書きみたいなもの>

 お久しぶりです。
 忘れられてたらちょっぴり寂しい。



[2139] 22話目。 危うし主人公の座、みたいな。
Name: しゅり。
Date: 2006/11/16 23:21
<アスラン・ザラ>

「………知らない天井だ」

 ドォン!と言う爆発音らしき騒音が原因で目が覚めた。
 何故だか焦点が上手く定まらない視界に映るのは、見覚えの無い部屋、見覚えの無い天井。
 それにどう言う訳だ? 頭がまるで宿酔になった日の朝みたいにズキズキと痛くて仕方が無い。

「…なぜこんな? っ痛!」

 どうして自分がこんなメに遭っているんだろう?
 全く身に覚えが無いんだが…
 当然だが、今の自分が置かれている状況等もさっぱり理解出来ない。
 どうにかして現状を理解すべく思考を巡らせようにも、絶え間なく襲い掛かる頭痛の所為でそれさえもままならない。
 いったい俺はどうしたんだ? そして此処は何処なんだ?
 確か俺はアカツキの整備をしていて、途中、シンからの陣中見舞いをうけて、それから… それから?

 …おかしい。
 そこで記憶がプッツリと途切れている。
 確か残すはOS面の設定のみの筈だったんだが… その後が思い出せない。
 だが、少なくとも今は此処でこのまま寝ている場合じゃない事だけは確かだな。
 目が覚める切欠になった爆発音。
 あれが本当に爆発音だと言うのなら、こんな所でのんびりしていて良い筈が無い。
 我ながら頼りない挙動なのが不本意だが、現状ではそうも言ってられない。
 そんな判断を下した結果、多大な労力を振り絞りながらもなんとかふらつく体を起こした、その時だった。

「気が付かれました?」

 と、こちらの様子を案ずる声を掛けられたのは。
 そして視界に映る見覚え深いZAFTの制服。
 いや、正確にはZAFTの制服を纏った女性隊員なんだが。

「もう、無理しちゃ駄目ですよ?
 いくらコーディネーターって言っても無理は体に毒なんですから」

 そう優しく微笑みながら、せっかく苦労して起き上がった俺の両肩をゆっくりとした仕草で押し返す。
 続いて崩れ落ちた布団を横になった俺に掛け直して優しく微笑む女性隊員の姿に、なんとなく「このまま寝てる場合じゃないんだ!」と言う言葉が喉まで出掛かって止まってしまった。
 なんだか知らず知らずのうちに、子供の頃、風邪を引いた俺を看病してくれた母様の面影を目の前の女性隊員に重ねてしまったのだ。
 思わず条件反射でその声に頷きを返し、促されるまま横になる。
 なんとなくバツが悪い。

「今はゆっくり休んでください。
 どうやら戦闘も終わったみたいだし」

「戦闘!? …やっぱり。 くっ! 寝てる場合じゃ…」

 確かに今、目の前の女性隊員は『戦闘』と口にした。
 やはりミネルバは戦闘中なのだ。
 なら俺はこんな所で休んでいる場合じゃない!

「あっ! 駄目ですよ!
 ザラさんは安静にしてるよう艦長からも言われてるんですから。
 それに、ほらっ! 戦闘はもう終わったっぽいから今からじゃ出番も無いですよ」

「いや、出番とか、そう言う問題じゃ… 痛っ!」

「ほらっ無理するから。
 んもう、いまのザラさんは休む事が仕事なんですぅ!」

 …どうやら思ってた以上に今の俺の体調は悪いらしい。
 なにせ不甲斐無い事に、起き上がろうにも女性隊員の制止すら振りほどけそうにないのだから。
 未だガァンガァンと頭の中で銅鑼を鳴らされているような頭痛も収まりをみせず、意識は朦朧とたまま。
 どうにか、

「…了解」

 と、辛うじてそれだけを返すのが精一杯だった。
 確かに、今は体調の回復に努めるのが先だな。
 遺憾ながら、仮に今の俺が出撃したところで援護どころか足手纏いにしかならないだろう。
 幸い戦闘は終息に向かっているらしいし、未だミネルバの現状も俺の現状も定かでは無いのは気掛かりだが、…正直、限界だ。

「…なんでこんな羽目に」

 薄れ行く意識の中でそれだけを呟いて、意識を放棄した。


■■■


 …最悪だ。

 俺とした事が、まさか過労で倒れるだなんて。
 その挙句に肝心の実戦には出撃出来なかったんだから笑い話にもならない。
 あの後、再び目を覚ました時も飛び込んできた風景は気を失う前と同じ、見覚えの無い天井だった。
 そして気を失う前と変わらずに部屋(後で確認したところ、案の定、そこは医務室だった)に居た女性隊員から事の詳細を聞くにあたって、俺は『穴があったら入りたい』と言う言葉の意味を理解したよ。

 本当に…
 このままでは俺を信頼してアカツキを託し、送り出してくれたカガリに会わせる顔が無いじゃないか。
 オーブからの友好の証としてZAFTを支援する筈が、このままでは単なるお荷物と言うありさま。

 …だが、時間は元には戻らない。
 失敗してしまった事実は、どう足掻いても覆らない。
 せめてもの救いは、これで全てが終わりじゃないって事だけだ。
 汚名返上の機会は必ずやってくる、そう信じよう。
 なら、俺は今の俺に出来る事から始めるしか無さそうだな。

 とは言っても、そもそも『今の俺に出来る事』自体が限られているんだが。
 どうやらミネルバはZAFT軍施設に入港した様子だが、生憎ZAFTに籍を置いていない俺に上陸許可は下りない。
 アーモリーでの件はカガリの随員だった事、デュランダル議長の好意が有ったからであって、あくまで例外に過ぎない。
 当然ながら、ミネルバの艦内でもCIC等と言った一部重要施設への入場は制限されている。
 俺としても徒にZAFTとの関係を悪化させようだ等とは思わないし、な。
 そのような立場に置かれているなかで、唯一と言っても良い入場を公に認められている重要施設が格納庫だ。
 それも俺がMSのパイロットである事、アカツキの整備は俺が行う事、と言った背景が有っての事なんだが。

 …何が言いたいのかと言うと、要するに今の俺に出来る事と言えば、意識を失う前と同じでアカツキの整備くらいしかないんだ。
 俺が発見されたのはコクピットらしいんだが、そもそも設定を終えた記憶は無いし、もし記憶が無いながらも設定を終えていたとしても、そんなあやふやな状態で施した設定にはとてもじゃないが信用出来ない。
 仮に同じ作業を繰り返し行う事になるんだとしても、もう一度見直しておくべきだろう。
 そう、判断してアカツキのコクピットに乗り込もうとした、その時だった。

「アスラン・ザラ」

「!」

 昇降タラップに足を掛けた俺の背中に掛けられた声に、思わず全身が硬直を覚える。
 この声は! …いや、まさかな。
 そんな馬鹿な事が有る筈が無い。
 クルーゼ隊長はあの時、確かに死んだ筈だ。
 キラじゃあるまいし「ひょっこり生きてました」なんてオチは冗談でも笑えない。
 案の定、振り返ってみれば其処に居たのは嘗ての上司とは全然異なる人物。
 金色の髪を肩まで伸ばしたZAFTレッド、レイが厳しい表情でこちらを見据えていた。

「…確かレイ・ザ・バレル、だったな」

 その、まるで「話が有る」とでも言わんばかりのレイの態度に、アカツキの最終調整に向かう筈だった足を180度Uターンさせてレイの元へと歩み寄る。
 だが、レイが俺にいったいなんの用だ?
 思い返してみても、ミネルバに乗艦してから今までレイとは碌に面識が無かった筈だ。
 でなければレイのクルーゼ隊長そっくりな声に気付いていない訳が無い。
 そんな俺の葛藤など本人は知る由も無いだろう、当のレイ・ザ・バレルの方はと言うと、俺が歩み寄るのを微動だにせず待ちかまえている。
 そして。
 俺が到着するのと同時に開口一番、

「アスラン・ザラ、今度の作戦内容は聞いているか?」

 と単刀直入に切り出してきた。
 改めて聞いてみてもクルーゼ隊長にそっくりだな。
 そんな第一印象だけで思わず苦手意識を持ってしまいそうだが、なんとか心の平静は保つようにと心掛ける。
 相手は歳下のZAFTレッド。
 いわば俺の後輩みたいなものなんだ、萎縮する必要など無い。

 で、肝心な会話の内容についてなんだが… 今の俺は病み上がりで、尚且つこの艦では部外者の身の上だ。
 レイの言うZAFTの作戦内容とやらが具体的に何を指してるのか知る由も無い。
 まあ、作戦内容と言うからには連合に対してなんらかの攻勢に出るものだとは想像出きるが、な。
 とは言え、そんな事をわざわざ口に出す必要もない。

「いや…」

 と、正直にそう答えるしかないのだが、それを聞いたレイの方はと言うと特に俺の反応を気にとめた風でも無く「なら俺が話そう」と素っ気無く切り返してきた。
 だが、そう言われたところで素直に「では聞かせてくれ」とは言うわけにはいかない。
 レイはなんて事の無い態度で話そうとしているのだが、その話の内容と言うのがZAFT軍の作戦内容なのだから。
 俺も形の上では同盟扱いでは有るものの、だからと言ってそうそう安易にZAFT軍の作戦内容、いわゆる軍事機密を耳にして良い立場ではない。

「まてレイ!
 君は俺の立場を理解しているのか?
 仮にもオーブに所属する俺に、ZAFTの機密を漏らす事は許されない筈だ!」

 俺とレイの立場を再認識させる為、あえて強い口調でそう切り替えしたのだが…
 その言葉はレイには何の感銘も与えなかったらしい。

「問題無い。
 例え今、俺が此処で話さなかったとしても、どうせ直に知る事になる」

 相も変わらず淡々とした口調のままで、まるで「つまらない事を言うな」とでも言わんばかりの態度で、そう言い放った。
 その態度に「なにを!」と思わないでもないが、それよりも今は話の内容の方が気になる。
 俺も直に知る事になる? それはつまり…

「その作戦に、俺も参加する。
 そう言う事か?」

 その様な結論に至った訳なんだが。
 だけどそれを肯定する様にレイから告げられた作戦内容は、俺の考える「参加する」等と言う生易しい代物では無かった。
 想定の範囲には到底収まらない、驚きの内容がレイの口から語られる。

「ああ。
 ローエングリンゲート攻略作戦。
 アスラン・ザラ、この作戦は貴方を中心に行われる事になる」


■■■


 連合軍がZAFTの侵攻を防ぐ為にローエングリンを構えてまで守護する、戦略的にも非常に重要な拠点。
 その様に重要な拠点を攻略すると言う大事な作戦に、外部の人間に過ぎない俺を作戦の中心に据える?

「そんな… 馬鹿な…!」

 思わず口から否定の言葉が漏れて出る。
 きっと俺は今、馬鹿みたいな顔をレイに晒してしまっているだろう。
 呆気にとられると言うか、あまりにも常識を逸脱する作戦に開いた口が塞がらない。

 だが。
 対するレイの反応はと言うと、あくまで最初から変わらず冷静なままだ。
 表情一つ変える事無く、淡々と言葉を紡ぐだけ。

「真実だ。
 ローエングリンゲートの攻略はアスラン・ザラ、貴方と貴方の乗機であるアカツキを主軸に据えて行われる。
 アカツキの装甲ならばローエングリンを持ってしても被害を最小限に抑える事が可能だからな。
 つまり、作戦の成否は貴方が如何にローエングリンを無効化出来るか、その一点に掛かっていると言っても過言ではない」

 …そんな、無茶苦茶だ!
 いくら俺でも、今の自分が措かれている立場くらいは理解しているつもりでいる。
 確かにレイの言う通り、ローエングリンの攻略にはアカツキが最適なのかもしれない。
 アカツキの装甲を持ってすればローエングリンの無力化を図る事が出来るだろうから。
 それに、だ。
 もし仮に俺が撃墜されたとしても、所詮はZAFT軍に所属している訳でもない人間。
 死んでも構わない、とまでは言わないが、常識で考えたならば一番被害を受けやすいポジションに俺を配置すると言うのは理に適っているとも言えるだろう。

 だけど、だ。
 今回の作戦を聞く限りでは、俺の果たすべき役割はそれだけじゃない。
 一番被害を受けやすいにも関わらず、決して撃墜されてはならない役割なのだ。
 もし俺が撃墜されたなら、後に残るのはローエングリンの的になるしかないZAFTの軍勢。
 とてもではないが俺が落ちても構わない、なんて言えない。
 この作戦は、そんな短絡的な考えだけで選べるほど安易な作戦なんかじゃ無いんだ。
 俺がローエングリンを無効化し続ける事、決して撃墜されない事を信じていなければ、とてもではないが選択なんか出来ない。

 …俺は、自分がそれほどZAFTに信頼されているとは思えない。
 オーブ所属である事、パトリック・ザラの息子である事、…そして、ZAFTの裏切り者である事。
 それだけをとってみても、今の俺がZAFTの信頼を得られる立場ではない事は明白なんだ。

「何故ZAFTはそんな馬鹿な作戦を採用したんだっ!?」

 感情のままに思いの丈を吐き出す。
 ZAFTがそんな作戦を執るだなんて、あまりにも馬鹿げている。

「………」

「………」

「………」

 しばしの間、じっとレイと視線をぶつけあう。
 俺の心境は、レイに何処まで伝わっただろう?
 俺の瞳から決して視線を逸らす事の無かったレイは、ぎゅっと瞳を閉じ、目頭を揉むようにしながら溜息を一つ吐き出して、ゆっくりと重い口を開いた。




「………シンだ」

「え?」

 ぼそり、と吐き出された言葉に、咄嗟に言葉を返せない。
 今、レイは何と言った?
 シン? 何故、今、此処にシンの名前が出てくる?
 思わず困惑仕掛かった俺の反応に、レイは俺が意味を理解出来ないでいる事を察知したのだろう。
 今度は今の俺にも内容を理解できる様に、とはっきりとした口調で言い切った。

「シンがこの作戦を提案した」と。

「なっ!?」

 確かに意味は理解出来た。
 理解出来たが、だけどそれがイコール告げられた内容を理解出きた、とはならない。
 レイが告げた内容は、決して俺に理解できる代物ではなかったのだ。
 何故シンが? と言う疑問が拭えない。
 たかが1パイロットに過ぎないシンが、そんな馬鹿げた作戦を提案する必要が何処に有る!?
 そして、何故そんな馬鹿な作戦を採用したんだ、ZAFTの首脳陣はっ!!

 …分からない、判らない、解らない。
 困惑と疑問だけが果てしなく、深く、心中で渦巻いていく。

「…アスラン・ザラ」

 だけどレイからすれば、そんな俺の複雑に混乱した胸中等はどうでも良い事なのだろう。
 まるでお構い無しと言った風情で、

「当初の予定では、シンを中心に据えた作戦が採用される筈だった。
 レジスタンスの協力を仰ぎ、ローエングリン付近に達する洞窟を利用する事で奇襲を行う、と言う作戦を。
 …だが、シン自身がそれを否定したのだ。
 その作戦ではZAFTが受ける被害が大きすぎる、とな」

 と、告げる。

「…反対は、出なかったのか?」

 正直、撤回される前の作戦の方が理に適っているんじゃないか?
 確かにZAFTが被る被害は大きくなるかもしれないが、決して無茶な作戦ではない。
 なにより裏切者を信じる必要が無いのだから。

「当然出た。
 当たり前だろう?
 アスラン・ザラ、貴方は我々ZAFTにとって信頼に値しない」

「ならっ!?」

 レイからの返事も俺の認識とは差異の無いものだった。
 本人を前に面と向かって「信頼できない」と告げられるのは精神的にこたえる物が有るが、それでもそれが現実なのだから、俺は受け止めなければいけないんだろう。
 けど、であればこそ、理解出来る訳が無いじゃないか!
 レイの口から出た言葉は、おそらくZAFTの総意なんだろう。
 ならば何故!?
 その様な思いを込めて叫んだ言葉は、だけど更に声を荒げるレイの言葉に遮られる。

「だがっ!
 シンが信じると言ったのだ、アスラン・ザラ、貴方を!
 オーブからの脱出の際にショーンを救った貴方を、シンが信じると言ったのだ!」

「っ!?」

「アスラン・ザラなら必ず期待に応えてくれる、と!
 もしもの場合、責任は自分がとるから、と!
 あまつさえ、貴方の為に土下座だってしてみせると!
 そう告げたのだぞ! シン・アスカがだ!」

「!!」

 思いもしない言葉の激流に、思考が停止する。
 …シンが、 …俺を?

 …なぜ?
 …なぜ、シンが俺なんかの為に?

「…俺はシンを信じている。
 だから! 次の作戦ではアスラン・ザラ、貴方の事も信じるつもりだ」

「レイ…」

「だが!
 もし、貴方がシンの信頼を裏切る様な事が有れば!
 …その時はアスラン・ザラ、俺は決して貴方を許さない」

 用件はそれだけだ、とだけ言葉を残し、レイは踵を返して一度も振り返る事無く格納庫を後にしていった。

 そして。
 後には、未だ呆然と立ち尽くす俺と、アカツキだけが残された。


■■■


 今、自分の胸に込み上げてくるこの感情を何と表現すれば良いのだろう?
 シンから向けられた無上の信頼と、レイに突き付けられた覚悟。
 男として絶対に応えなければならない責任が、俺の両肩に重く、重く圧し掛かる。

 アカツキの整備も碌に手が付かず、気がつけば、何時の間にか俺は展望場へと足を向けていた。
 ただ、無性に外の空気が吸いたかった。




「…シン」

 夕焼けが世界を茜色に染めるその場所には、先客が居た。
 それも今、俺の頭の大部分を占拠している張本人が、だ。

「? …ああ、アスラン。
 どうしたんですか?」

 思い詰めてる俺とは対照的に、シンの反応はと言うと普段となんら変わらないもの。
 そんな何時も通りの反応に、俺の中にホッとしたような、何処か残念な気持ちが湧き上がる。

「ちょっと、な。
 俺だって無性に外の空気が吸いたくなる時も有る…」

「そうですか…」

「ああ…」

「………」

「………」

「………」

 それだけの言葉の応酬の後に、続く沈黙。
 ただ、肩を並べて沈み行く夕陽をぼんやりと眺める。

「………」

「………」

「………」

 シンを前にしたならば、言いたい事、聞きたい事がたくさん有った筈なのに。

 どうしてお前はそこまで俺を信用出来るんだ? と。
 どうしてお前は俺なんかの為に自分を犠牲に出来るんだ? と。
 そして、俺はシンの信頼にこたえられるほど立派な人間じゃない! と。

 言いたかった。
 叫んでしまいたかった。

 …だけど。
 いざとなると、言葉って出ないもんだな。
 ただ、シンと並んで黙って夕陽を見詰めている。
 それだけで、そんな質問なんかどうでも良い事なんじゃないかと思えてくるんだ。
 そして、そんな質問なんかするよりも大事な事が有るんじゃないか?とも考えてしまう。

 そう、きっと俺がそんな後ろ向きな言葉を口にしちゃ駄目なんだ。
 第一、シンもそんな言葉を待ってなんかいないだろうし、な。

「…レイから聞いたよ、次の作戦の事。
 お前が俺を推してくれたんだってな」

 …結局、俺の口から出てきたのは特に当たり障りの無い言葉。
 だけど、まあ、現実はそんなもんなんだろう。
 着飾った言葉は柄じゃ無い。

「…レイから?」

「ああ。
 お前の信頼に必ず応えてみせろ、だと」

「! …そうですか」

「ああ…」

「………」

「………」

「………」

 特に会話が弾むでも無い。
 だけど、暖かい色で包まれたこの世界の所為だろうか?
 シンと交わしたなんでもない会話の一つ一つが、じんわりと俺の心に染み渡っていく。

「………」

「………」

「………」

 そして。
 少しずつ、夕陽は水平線の向こうへとその姿を隠していく。
 暖かかった世界が、少しずつ失われていく。
 それが非常に残念な事に思えて、なんだか無性に寂しい。

 けど。
 ま、良いさ。
 これで全てが終わりと言う訳でもない。

「じゃあ。
 俺はそろそろ中に戻るとするが、シン、お前はまだ此処に居るのか?」

「ええ、もう少し此処で考えたい事が有りますから」

「そうか。
 なら次に会うのは明日、戦闘後の反省会だな」

 戦闘後、俺もお前も必ず生き残って。
 酷く遠まわしになってしまったけど、それが俺のお前の信頼に対する答えだ。
 俺は必ず生き抜いてみせるから。
 お前の信頼は決して裏切らないから。
 だから今はそれ以上の言葉は要らない。

 ただ、それだけを告げて展望場を後にした。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 なんとなーく、気が付けば展望場へと足を向けていた。
 世知辛い人の世に、俺は疲れて果ててしまっていたのかもしれない。
 ああ、潮風の匂いと少し湿っぽいけど涼しい風、そして真っ赤に燃える夕陽。
 癒されるなぁ…
 なんだか無性にサザンの曲が聞きたい。
 TUBE? TUBEは微妙に違うんだよ。
 そこんところの微妙なニュアンスを分かってもらえんかね?
 なんて言うか、将来はプラントなんか戻らずに海沿いの街でサーフィンして気侭に暮らすのも良いかもなぁ…みたいな。
 ああ、太陽はこんなに暖かいのに、人はなんで戦争なんてするんだろう?

 …そんな風に、俺が哲学的な雰囲気に浸りかけてたって言うのに。
 魔の手はすぐ後ろまで忍び寄っていたんだ。

「…シン」

 もう少ししたら『真夏の果実』でも口ずさみ掛けてたんじゃないの?ってな俺を現実に引き戻す無情の声。
 なんで声を掛けるかなぁ~?
 今の俺からは『独りで黄昏させててよ』オーラが出てたじゃん。
 誰だ無粋な真似をするのは? なーんて感じで振り返ってみると… んげっ!

 俺が今、会いたくない人ランキングの堂々2位にランクインしてる人だよぉ…
 ちなみに余談だけど最新のデータランキングでは1位がグラディス艦長で3位が議長。
 議長は兎も角、あんな会議の後ではグラディス艦長には会いたくないっす。

 …後で呼ばれてるけどな。

「? …ああ、アスラン。
 どうしたんですか?」

 そんな感じで胸中はかなりテンパってたんだけど、まあソレはソレだ。
 こんな時ばっかりは感情が表に出難い性分で助かったなぁ…
 なーんて思いながらも、冷静さを装って返事を返せるところが俺クオリティ。

 落ち着け、落ち着くんだシン・アスカ。
 よく考えてみろ? 会議はさっき終わったばっかりじゃないか。
 会議に参加していない、ましてやZAFTの軍人ですらないアスランが次の作戦の内容を知ってる訳なんて無いに決まってるさ。
 今の所はアスランを戦争に引き摺り込んだ犯人が俺だって事がバレてる筈が無いんだから、落ち着け。
 クールになるんだ!クールに!

「………」

「………」

「………」

 なんなんだ? 今のこの状況は。
 なんて言うか、沈黙が痛い。
 ばれてる筈は無いんだけど、なんだか後ろめたくって微動だに出来ないっす。
 顔だって夕陽に向けたまま、一寸たりとも動かせない有様さ。
 何時の間にやら隣に並んでるアスランは、今どんな顔してるんだろう?
 般若だったらどうしよう?って想像してみるだけで、怖くて動けない。

「………」

「………」

「………」

 そんな、ひたすら冷や汗だけが背筋を流れていく時間はどれだけ流れただろう?
 なんだか水平線の向こうに消えそうな夕陽さえも、アスランのプレッシャーに負けて逃げ出したんじゃないか?なんて馬鹿な事まで考えてしまった。

 あ…

 俺のノミの心臓はそろそろ駄目かもしれない。
 不整脈を理由にその場から退散しよう、そう決意したそのタイミングで、アスランが重い口を開いた。

「…レイから聞いたよ、次の作戦の事。
 お前が俺を推してくれたんだってな」

 どっきーーーん!!

 アメコミ風に表現するなら、間違いなく俺の左胸からハートが2mくらい勢い良く飛び出していただろう。
 アスランの一言にそれくらい驚いた。

 え?
 どう言う事?
 なんでアスランが作戦内容知ってんの?
 しかも、どうやら発案者が俺だって事までバレてるっぽい?
 なんで?
 レイ?

 ってレイ!?
 なんですとぉーーーー!!?

 レイの奴、なんて事をしてくれたんだ…
 最近、影が薄かったから「ひょっとして俺の尻は諦めてくれたのかな?」なーんて油断してたんだけど、まさかこんな形で自己主張してくるとは!

 …なんてこった。
 レイの奴、俺に何か恨みでも有るのか!?
 そもそもアスランとレイって話交わすほど仲良かったのかよ?
 会議が終わってさっきの今だぞ!
 レイだって会議の時はあんなに尊敬の眼差しで俺の事、見てくれてたじゃないか!
 あんまりだ!

 …それとも。
 それとこれとは話が別だとでも言うんすか?

 例えそうだとしても、いくらなんでもレスポンス早すぎじゃないっすかぁ。
 戦闘直前とか戦闘後にばれたんだったらドサクサに紛れて有耶無耶に出来たのにぃ…
 いくらアスランにも関係有るったって、一応これってばZAFTの軍事機密なんだよ?
 レイの奴ぅ、そんなにアスランに話したかったのかよ!
 アスランLOVEっすか!
 レイはアスランLOVEっすか!

 って、ひょっとして、ひょっとする?
 レイがアスランにぞっこんLOVEって説が浮上してきましたよ?

 …レイだけに、ありえない話じゃないな。
 俺の尻を狙ってた薔薇の騎士レイと、オーブに昔の男の影が見え隠れするアスラン。
 言わば狭い艦内で、たった2人の男好き。
 しゃくだけど、両方美形って設定のオマケ付き。

 …ありえない話じゃないぞよ。

 そうした訳で、巷でも名探偵と名高い俺は、ある一つの結論へと辿り着いてしまったのだったぁ!
 ミネルバの誇る美形の2人は『実はデキてたりするのだ!』と言う結論に。

 それが真実ならば、全てに説明が着くじゃないか!
 最近レイが俺に構ってこないのも、レイがアスランにZAFTの情報を流したのも。
 そうかぁ…、これが巷で評判のアス×レイって奴だな。
 アスとレイ… アストレイ。
 直訳すると『道に迷う』って意味らしい。
 男の本懐を忘れ、男色の道へと迷ってしまった2人にはまさにピッタリの言葉だな。
 うむ、これにて一件落着。

 って、一件落着じゃねぇーーー!!
 アスランに全部バレちまってるよぉーーー!!

「! …レイから?」

 なーんて恐る恐る下手に出て様子を伺うので精一杯っす。
 もし俺が、自分の目の前に自分の事を戦場の最前線に送り出す事を主張した馬鹿が居たら許せるだろうか? いや許せない。(反語)
 とてもじゃないけど、俺には無理だな。
 そいつの顔に死線が見えてたら勢いのままに分断してしまいかねないくらい、無理だ。
 ましてやそれが「自分が死にたくないから」なーんてお馬鹿な理由で擦り付けたと知った日にゃあ、衝動に任せて反転してしまうかもしれない。
 と、言う事は…

 …やべえ、絶体絶命じゃん、今の俺。

 だけど、なんだかアスランの様子がおかしい。
 そんな風に俺が悲壮な表情を浮かべていると言うのに、怒れる立場の筈のアスランはと言うと

「ああ。
 お前の信頼に必ず応えてみせろ、だと」

 なーんて、想定もしなかった言葉を続ける。

 ほへ?

 とりあえず

「…そうですか」

「ああ…」

 なーんて、これまた適当な相槌を交し合いながらも、その言葉の真意に頭脳を走らせる。
 なんとなくアスランは怒ってなさそうで、ひょっとしたら取り越し苦労だったか?と思わないでもないんだけど、世の中はそんなに甘くないよな?
 こんな的外れの会話をそのまま額面通りに受け取って良い筈が無いじゃないか!
 そこ! 人間不信と言うなかれ!
 自分を基準に考えるならば、アスランのこんな反応は有り得ないのだ。
 絶対に何か裏が有るに決まってる。

 俺の信頼に応える、ってのはどういう意味だ?
 俺がアスランに向けた信頼ってのは、ぶっちゃけ「俺の身代わりになってね」って見も蓋も無いもんなんだか… 俺の身代わりになってくれるのか?

 いやいや、そんな都合の良い話が有る筈無いじゃないか!
 プラントに渡ってから今までを思い出してみろ!
 現実はかくも厳しいものなのだ。

 なら、どう言う意味だ?
 それにどう応えるのが正解なんだ?



 つづく(謎が謎を読んで次回に続く)

==================================================

<後書きみたいなもの>

 アスラン・パートは… うん、調子に乗りすぎた。
 ちなみにどうでも良い設定ですがアスランのパイロットスーツはモルゲンレーテ製だったりします。
 出撃の経緯を考えるとオーブ軍のでもZAFT軍のでも無理が有りますし。
 対オーブ・連合に最悪『オーブからの援軍じゃなくて、あくまでモルゲンレーテ社からの出向社員に過ぎない』って言い訳もききますからね。
 まあ、なんとなく今思いついた設定なんですが。



[2139] 番外編の7話。 本編が煮詰まったから番外編に逃げただなんて言わないで。
Name: しゅり。
Date: 2007/01/18 21:00
<カガリ・ユラ・アスハ>

「ようこそお出で下さいました、姫。 いや、失礼。 アスハ代表。
 我々プラントはオーブ首長国代表であらせられるカガリ・ユラ・アスハ代表の御来訪を歓迎します」

「いや、こちらこそこの様な世情の中、突然の訪問を受け入れて頂いた事を感謝している。
 此度は私の力が及ばず、我国の行いが恩を仇で返すような次第になってしまった事を誠に申し訳無く思う」

 そう短く言葉を交わし、デュランダル議長と握手を交わす。
 プラントの首都に到着してから2日。
 戦端が開かれ多忙な折に時間を割いて貰っているのだから、多少待たされたとしてもこの件に関する非難を私は持ち合わせてはいない。
 いや、むしろ今や代表の肩書きだけで何の実権も持ち合わせていない私の為に、このように便宜を図って貰った事に感謝すら覚える。
 例えその裏に、どのような思惑が秘められているのだとしても。

「この度のアスハ代表が出国された経緯、我々も大層驚かされたものです。
 そして、その後プラントを訪れられた経緯に関しましても。
 よく、ご決断なされました」

 議長の執務室。
 他の者に退出を促した議長は、向かい合うようにソファに座るよう私を促して、1度だけ他方へと連絡を入れた後、私が席に着くのを待ってからゆっくりとした口調で話を切り出した。

「いや。
 私自身、この度の件は決して褒められる事ではないと思っている。
 一国の代表と言う身で在りながら自国の政策に逆らい、テロリストにその身を攫われる事を許してしまった。
 貴国を訪問させて頂いた件に関しても、本来なら立場を弁えて控えるべきだったのにな」

 意識してAAの事をテロリストと評したその時に、議長の切れ長の瞳に興味深げな光が射した。
 だけど敢えて私はその事には気付かない振りを決め込んで、淡々と言葉を進める。
 まあ、多少の誇張は有るが、発した言葉に嘘偽りは無い。
 自分の為した行いが間違いだとまでは思わないが、それがオーブの代表として必ずしも正しい判断だったと言い切れるだけの自信を、今の私は持ち合わせていないのだ。
 あの時、一国の代表としては敢えて自論を抑え、国策に従うべきだったのではないか?
 そう自問自答しない日は無い。
 それでも、せめて自分の下した決断に最後まで責任を持ちたいと強く思う。
 オーブは決して理念を曲げず、連合との同盟なんか結ぶべきではなかった。
 私は、問題の解決を安易な犯罪行為に頼ってしまったAAと同行すべきではなかった。
 その思いは今も変わらない。
 だから!
 先日は軍備の拡張を非難する為に訪れたばかりのプラントを、今度は亡命同然の立場で再度訪れる事になった現状にも悔いは無い。
 私は此処で、オーブの為に自分が出来る事をしようと、そう決めたのだから。

 そう言った私の決意が込められた言葉を、果たして議長はどのように受け取めたのだろうか?
 相も変わらず穏やかな微笑を浮かべたままで、ゆっくりと返事を紡ぎ出し始めた。

「ですが我々は代表が下された決断に深く感謝しているのですよ。
 代表がアスラン君を派遣して頂いたお陰で、ミネルバは難局を脱する事が出来ました。
 その件についてもそうなのですが、なにより混迷するこの世界の中で、アスハ代表は新たな可能性を示されたのです。
 このまま戦況が推移すれば、それこそ『どちらかが滅ぶまで』事態は悪化しかねません。
 もちろんそのような未来を我々は望んでいませんし、私もその様な事態を回避したい所存では居るのですが、残念ながら外交に拠る交渉が閉ざされていると言っても過言ではない現状、我々が取れる手段は限られているのです。
 ですが!
 この度アスハ代表の取られました行動は、そのような流れに一石を投じる結果になるでしょう。
 連合と結んだオーブの代表である貴方が、対戦国である筈のプラントと誼を結ぶ。
 率直に言いますが、我々はそこに新たな外交への糸口を見出したいのです。
 誠に手前勝手な理由で申し訳ないのですが、アスハ代表にはその為のご助力をお願いしたいのですよ」

 そう告げて深々と頭を下げる議長の姿に、私は少なからぬ畏怖を覚える。
 剛直だった亡き父とはまるでタイプの異なる、だけど偉大な政治家の資質を、その姿に見た様に思う。

 と、同時に。
 改めて自分の矮小さに気付かされてしまった。
 比べる事自体おこがましい事かもしれないが、父や議長と比べて私はあまりにも未熟なのだ。
 年齢、経験、人脈。
 それら全てが見劣るするのだから、仕方が無いと言ってしまえばそれまでかもしれないが。
 だけど、それでも私は父と、議長と同じ一国の代表なのだ。
 傀儡に過ぎなかったとは言え、国政を預かる立場に就いていた事実になんら変わりは無いのだ。
 だから。
 己の未熟は、言い訳にしてはいけない。

「頭を上げていただけないだろうか?
 議長のお考えは誠に素晴らしい事だと私は思う。
 そう言う事であれば、是非とも私の方からお願いしたいくらいだ」

 そもそも、私がプラントを訪れる事を決意した理由もそれが原因なのだから。
 議長側が私の目的を推測して話を振った可能性も否定出来ないが、だからと言って拒む道理は無い。
 だけどそれだけならオーブの傀儡だった私が今度はプラントの傀儡に変わるだけじゃないだろうか?
 立場に多少の差異は有るかもしれないが、その認識は大きく違えていないように思う。
 でも、それじゃ駄目なんだ。
 私がプラントの傀儡になる事が停戦に向けて意味を持つのであれば、私はそれに順ずるべきだろう。
 だけど!
 それだけで終わってしまったなら、停戦後は再びオーブの傀儡に戻るだけじゃないか。
(それにしたってオーブが私を受け入れてくれるのであれば、の話なんだが…)

 …なら、どうする?
 この先も傀儡と言う立場に、ただ甘んじていくつもりなんか毛頭無い。
 で、あるならば。
 今、私が採れる最善の行動は?

「…だが。
 その見返りに、と言う訳では無いのだが…
 議長、1つだけ私の願いを聞いては頂けないだろうか?」

「? 願い、ですか?」

 思わぬ言葉を聞いた、と言った表情を浮かべた議長に微笑を返す。
 急速に私の中で、ある1つの考えが形になって纏まってきたから。
 そう、未熟ならば補えば良い。
 無知を恥じる時間が有るのなら、少しでも学ぶ為に用いるべきなんだ。
 その為に、今、私は最高の環境に居るんじゃないだろうか?
 戦争と言う人間の真価が最も問われる政局の中で、尊敬に値する政治家が一国の舵を取るのだ。
 そんな貴重な機会だと言うのに、場合によっては今の私はそれを間近で見る事が可能なのかもしれない。
 この機会を無駄にする手は無いだろう。
 だから!

「ああ。
 いきなりこんな事を言うのはどうかと思うが、私は一国の指導者としてあまりにも未熟だった様に思う。
 そして、その結果が今回の様な有様だ。
 だけど、だからって私は立ち止まろうとは思わない。
 だから!
 議長からすれば真に迷惑な願いかもしれないが、是非、この機に議長の側で指導者としての在り方を学ぶ機会を与えては貰えないだろうか?」

 そう、言い切った。
 私が後悔している間も世界は動き続けている。
 今も世界の何処かでは、シンやアスランが平和の為に戦っているのだろう。
 だから!
 私も変えられない過去に囚われて、何時までも時間を無為に費やすのはやめよう。
 少しずつでも前に進まなくちゃいけないって、そう思うから。
 じっ、と議長の目を見据え、深々と、それこそ額がテーブルに付くんじゃないかってくらいに頭を下げた。


■■■


 しばしの沈黙が流れる。
 下げていた頭を上げ、再び正面から視線を交える。
 絶えず笑みを浮かべていた筈の議長の顔からは笑みは消え去っていた。
 それから、秒針の針が3周する程度の時が流れただろうか?
 やがて議長は言葉を選ぶ様に、

「残念ですがアスハ代表。
 私は自分が指導者としての在り方を他人に教授出来るほど、優れた政治家だとは思っていないのですよ」

 と、先の私の願いに対する回答を返した。
 それは、遠回しながら、だけど明確な拒否の言葉。
 だけど!

「だが議長!」

 だからと言って、私だってここであっさり引き下がる訳には行かない。
 思わず席から立ち上がり、勢いに任せて反論の言葉を口に仕掛けた。
 その時。
 スーッと、まるで私の反論を封じる様に、議長の右手が制止の形を取る。
 そして。

「どうか落ち着いて話を最後まで聞いて頂けないでしょうか?
 やや、話は変わるのですが、私は常々『なぜ戦争は起きるのか?』について考えてみる事が有ります。
 もちろん戦争が起きる原因はその時々で異なりますし、『コレだ!』と言った決定的な理由が常に存在する訳でもありませんが」

 突然の話題の転換に、思わず異論を発しそうになるのをぐっと我慢した。
 議長の言わんとする事の思惑は読めないけど、とりあえず最後まで話を聞くべきだ、とそう思えたから。
 反論はそれからでも出来る。
 そう自分に言い聞かせ、とりあえず浮いた腰を元の位置へと降ろした。
 そんな私の挙動を見終えた議長は満足そうに1度頷いて、改めて続きを話し始めた。

「ですが私は極限まで突き詰めた場合、開戦に及ぶ要因は大きく2つに絞られるのではないか?
 と言う結論に至ったのですよ。
 それが何だかお分かりになられますか?」

「…いや」

「これはあくまで私の自論に過ぎない事を承知の上でお聞き下さい。
 開戦に及ぶ要因、それは『戦争を望む者の存在』と『戦争が起こりうる国交関係』なのです。
 その2つの要因が、世界に悲劇の種をばらまいている、そう私は認識しています」

「…戦争を望む者の存在、だと?」

「ええ、誰だって破壊と不幸を撒き散らすだけの戦争を望んでいない。
 私もそう信じたいのですが、果たして本当にそうなのでしょうか?
 …残念ながら、そうでは有りません。
 例えば死の商人と称される、いわゆる武器商人にとって戦争とは何でしょう?
 彼らは戦争の恩恵に預かって生計を立てている訳ですから、世界から戦争が無くなってしまうと困るでしょう。
 それどころか大きな戦争が起きれば起きるほど、彼等の商売は繁盛するのです。
 彼等からすれば、戦争とは自分達の身に火の粉が飛んでこない限り大きな商談の契機に過ぎないのです」

「そんなっ!? …無茶苦茶だ!」

 今まで私が想像だにしなかった議長の意見に思わず声を張り上げる。
 武器商人が武器を売りたいが為だけに、戦争を望んでいる?
 そんな馬鹿な話が有って良い筈が無い!
 戦争とはあくまで外交の延長で、政治家の決断に拠って行われるべきでは無かったのか!?

「ええ、確かに無茶苦茶です。
 ですが、残念ながらそれらが戦争の大きなファクターとなっている事は間違いようの無い事なのですよ。
 だからと言って、私は決して武器商人の存在だけが開戦の要因だとは考えていません。
 それが先程述べたもう一つの要因、『戦争が起こりうる国交関係』なのです。
 もし我々政治家が真に友好的な外交関係を構築出来ていたのであれば、此度の様にこうも容易く開戦を許す事も、外交による解決の門戸を閉じられて終戦の糸口さえ掴めないような現状に陥る事も無かったでしょう。
 これは情けない話ですが、我々政治家の責任だと言わざるを得ません」

「…確かに、そうだな」

「であれば、我々政治家が為すべき事は何か?
 まずは一国の政治に影響を与える規模にまで大きくなってしまった、武器商人達の力を削ぐ事が必要です。
 そして、それと同時に今まで以上に外交面を強化する事。
 特に各国との親交を深めていく事こそが大事なのではないでしょうか?
 …そこで、話は元に戻るのですが。
 アスハ代表、私は貴殿に私達の考え方を知って頂きたいと考えています。
 宇宙に暮らす我等コーディネーターが何を考え、何の為に戦い、どのような理想を抱いているのか。
 それらをオーブの代表である貴殿に知って頂く事が、と同時に貴殿の考えを我々に御教授頂く事が、オーブとプラントの親交を深める為の、ひいては終戦に向けての何よりの政策だと考えているのです」

「! …それは、つまり?」

「ええ。
 アスハ代表が1日でも本国に戻られる日が来る事を願ってはいますが。
 その日が訪れるまでしばしの間、私にお付き合い下さい」




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅の番外編




 おわり。

==================================================

<後書きみたいなもの>

短めですいませぬ。 m(__)m
ちなみに本編の方は没原稿が50KBを超えてもまだ形にならない…
流石にこれ以上更新を滞らすのは不味いだろうと番外編を書き始めてみたら3日で完成。

…不条理だ。



[2139] 23話目。 ガルナハンって名前のMSが有ったら強そうだなぁ…
Name: しゅり。
Date: 2007/02/17 00:52
<コニール・アルメタ>

「…はぁ」

 ずずずーっと、時間が経った所為ですっかり冷めてしまった珈琲を1口啜り、深く溜息を吐いた。
 砂糖もクリープも加えられていない真っ黒な液体は、まるで今の私の心境みたいに、酷く苦い。

「とうとう、朝になっちゃったなぁ…」

 窓の外に広がるZAFT軍の基地の、更に向こう側では太陽がゆっくり空へと昇って行く。
 そんな光景を徹夜明けのしぱしぱする目で見送りながら、そう言葉を零した。


■■■


 事の発端は昨日の昼まで遡る。
 予てから、ローエングリンゲート攻略の際に協力する事を約束していたレジスタンスの代表として、私は確認を兼ねた最後の話し合いの為に単身、ZAFT軍基地を訪れた。

 おいおい…
 なんでそんな大事な話し合いの代表が、私みたいな小娘1人だけなんだ?

 って、そう思うかもしれないけど、もちろんコレにはちゃんとした理由が存在する。
 そもそもZAFT軍に協力する、って言えば聞こえが良いかもしれないけど、実際に私達レジスタンスが協力するのは作戦準備中だけなんだ。
 本番の戦闘には一切参加しない(って言うか出来ない)から、『組織間の連携の確認』みたいな、難しい話をする必要が無くて、だから私みたいな小娘でも務まるんだ。
 なんせ『ローエングリン砲台を攻略する際に、奇襲攻撃を行うのにもってこいな洞窟の抜道情報を提供』って言うのが私達レジスタンスがZAFT軍に対して行う協力の全てだから。

 だったら別に、今頃になって話し合いなんか必要無いんじゃないか?

 って、そう思われるかもしれないけど、確かに絶対必要って訳じゃないな。
 だけど、それが「私みたいな小娘が1人で来てる」って理由にも繋がるんだよ。
 ほら、人間って感情の生き物だから。
 洞窟の抜道情報を送りつけて、ハイおしまい、って訳には行かないんだ。
 形式ってのもそれなりに大切で、私達レジスタンスは「ガルナハンの攻略にはレジスタンスも協力したんだぞ!」って主張したいし、ZAFTもZAFTで「地球にも協力者は居るんだぞ!」って主張したい筈だから。
 だから一見すると無意味な様に見えても、こう言った話し合いの場が持たれたりするんだよ。
 とは言うものの、実際に話す事の内容と言えば「わざわざレジスタンスが協力したんだから、頑張ってくれよ!」って発破を掛ける事くらい。
 だったら、しかめっ面したおっさんに言われるよりも可愛い女の子に言われた方が、言われた方も気分が良いだろう?
 だから、私なんだ。

 とにかく!
 そう言った次第で、私はZAFT軍基地司令のラドルさんと対談に臨んだ訳なんだけど…
 話し合いはそんな予定調和な結果には終わらなかった。
 私はそこで、想像だにしなかった言葉を、ラドルさんの口から聞かされる羽目になってしまったんだ。

「レジスタンスから提供して頂いた抜道のデータなんだが…
 誠に申し上げにくいんだが、明日の作戦では使わない事になってしまったんだ」

 と。
 もちろんラドルさんの話はそれだけで終わらず、ZAFT軍がそんな結論に至った経緯も順を追って説明してくれたんだけど…
 正直、私にとってそれは何の慰めにもならなかった。


■■■


 ガルナハンの街に帰らなくちゃいけないんだけど…

 ホントにそう思ってるんだけど、同時に心の中に「このまま帰りたくないなぁ…」って気持ちが同じくらい蔓延してる。
 結局、「とりあえず街に帰る前に、せめて自分の気持ちだけでも落ち着かせよう」って結論に至って、そのまま偶然ZAFT軍基地を出て直側に有ったカフェに立ち寄った訳なんだけど…
 未だに気持ちの整理は付かず、無為に時間を費やし続けていたりする。

 だって仕方無いだろ!
 街の皆にラドルさんから聞いた話を伝えたりなんかしたら、凹んじゃうに決まってるんだから。
 絶対そうなるって分かってて、帰る気力が湧いてくる訳が無いじゃないか。

 …で。
 気が付けば日が暮れて、朝日が昇り始めてた、と。
 そう言った次第なんだ。
 何時の間にか、暖かそうな湯気を立ててた珈琲も冷たく冷めちゃってる。
 なのに、未だに私は「帰らなきゃ」って思いと「帰りたくない」って思いの狭間でゆらゆら揺れ動いてるんだ。

「…それもこれも、全部シン・アスカの所為じゃないか!」

 冷めた珈琲が苦いのも寝不足で頭が痛いくて目がしぱしぱするのも、今だって胃が痛くなるくらい頭を悩ませているのも。
 元を糺せば、全部シン・アスカが作戦変更なんかするのがいけないんじゃないか!
 その考えが八つ当たりだって事くらい分かってるけど、徹夜明けでテンパッてるんだから仕方無いんだよ!
 所詮その場限りの現実逃避なんだから、他人の所為にして心の安定を図るくらい見逃してくれよな。
 どうせ【紅蓮の修羅】、シン・アスカって言ったって、見ず知らずの他人なんだしな。

 ………

 ……

 …

「え? 俺の所為?」

 真横から、そんな声が聞こえる迄は。

「………」

「………」

「………」

「…え?」

「ん?」

「………」

「………」

「………」

「………」

「シ、シ、シ…」

「ししし?」

「シン・アスカァッ!?」

「おおぅ!?」

 驚きの余り、思わず咄嗟に席を立って、大声を上げてしまった。
 それどころか ズビシィッ! って効果音を立てながら指を突き付けてしまってたりもする。
 ま、まさか… なあ?
 だ、だって、見るからに安物っぽい無地Tに、ビンテージなんて単語とは縁の無さそうなGパン姿。
 ZAFT軍基地近くのカフェに居るには不自然だけど、一見すると何処にでも居そうな兄ちゃんに過ぎないコイツがあのシン・アスカだなんて…
 どう見ても『あっち側(ZAFT軍・エリート)』って言うよりも『こっち側(レジスタンス・薄汚れてる)』の住人だよなぁ。

 …いや、確かによくよく見てみると逞しくはないけれどそれなりに鍛えられたって言うか引き締まった身体はしてるみたいだし、私の知ってる【紅蓮の修羅】の外見的特長(黒色の髪の毛とか赤色の目とか)とかも一致するんだけど。
 それでも、なぁ…

 コイツが、かぁ?

 もっとこう、ほら、なんて言うか、オーラみたいなもんが有っても良いと思うんだ。
 年齢が私とあんまり変わらないのは資料で見て知ってたけど、だからこそその歳で異名持ちになっちゃうくらいの、常人離れした『何か』が有る筈なんじゃないのか?

「…ほ、本当にアンタがシン・アスカか?」

「? …ああ」

「ZAFT軍所属の、【紅蓮の修羅】って呼ばれてる?」

「…ああ。 不本意ながら、な」

「?」

 何が不本意なのかは分からないけど、一縷の望みを託してした質問に返って来たのは、聞きたくなかった肯定の返事だった。
 オマケに同姓同名の別人、ってオチも無し。

「な、なんでこんな所にシン・アスカが居るんだよ!?」

「いや、なんでって言われても… 珈琲が飲みたかったから」

「そっ、そりゃそうか…」

「………」

「………」

「………」

 あぅ… 会話が続かない。
 いや、別に続かせる必要も無いんだけど。
 なんて言うか、沈黙が痛いって言うか。

 あれ? そう言えばなんだか妙に店内が静かな気がするんだけど…

「…で、何が俺の所為なんだ?」

 私が居心地の悪さを覚え始めたそのタイミングで、シン・アスカは沈黙を破った。
 実は私がこっそり流してしまいたかった、話題を振り出しに戻すって方向で。

 …うう゛。

 改めて本人から聞かれると言葉に詰まってしまう。
 だって『今の私が置かれている境遇』ってのが質問に対する答えなんだけど、流石にそれは本人に言えないよなぁ…
 殆ど八つ当たりに過ぎないって、自分でも分かってるんだから。

 かと言って「気にしないでくれ」って流せそうな雰囲気じゃないし、そもそもそんな事を言われても気にしちゃうに決まってるよなぁ…
 だったら適当に誤魔化せば良いんだけど…
 そもそも即興でソレが出来るなら今頃私は此処には居ない。
 ガルナハンに帰って皆を騙くらかして上手い事やってる筈なんだから。
 とは言え、答えに時間は掛けられそうにない…

「実は…」

 結局、私は観念して正直に話す事にした。
 口先だけの嘘なんて私には無理だ。


■■■


「…すまない」

 私の話を聞き終えたシン・アスカの第一声がそれだった。
 思わず

「え?」

 っと、疑問の声が口から突いて出る。
 だって、いくら見た目がしょぼくても、目の前の相手は【紅蓮の修羅】なんだから。
 流石に殴られる事は無いって思ってたけど、最低でも蔑まれる事くらいは覚悟してたのに。
 なんで自分が謝られているのか、状況がさっぱり分からない。

「…すまない。
 俺の所為で、えっと君…「コニールです。 コニール・アルメタ」…コニールには迷惑をかけたから。
 俺が作戦変更を打診したりしたばっかりに…」

「いやっ、でも!
 シン・アスカさんが…「シンで良い」…シンさんが作戦変更したのって味方の被害を防ぐ為とか、作戦の成功率をあげる為なんですよね?
 わ、私ちゃんとラドル司令から聞いて知ってます!
 だから、悪いのは勝手に八つ当たりした私なんです」

「違う」

「え?」

「そうじゃないんだ。
 俺が作戦変更した本当の理由は、俺が臆病者だからさ。
 レジスタンスの情報は信じられても、俺は俺の腕を信じられなかった。
 だからMSで真っ暗な洞窟を抜ける、なんて危険な任務が怖くて仕方が無かった。
 新しい作戦を立案したのだって、その為なんだ」

「!?」

 考えもしない答えだった。
 まさか、まさかそんな経緯で作戦が変更されただなんて…
 嘘だと思いたい。
 思いたいけど、私の目を見詰めるシン・アスカの瞳は小揺るぎもしなくて。
 咄嗟に嘘を付いてるとは思えない…

「…ほ、本当に?」

「…ああ」

「…自分が怖いからって、危険な任務から逃げた?」

「…その通りだ」

「あんたって人はっ!!」

 決壊したダムの様に、止め処無い怒りが沸々と湧き上がってくる。
 まるで大切な宝物を土足で踏み躙られた様な。
 こんな奴が… こんな奴が私達の作戦を台無しにして、こんな奴が考えた作戦に私達の街の解放を賭けた戦闘を託さなくちゃならないなんて…!
 許せない。 許せるもんか!!
 今なら視線だけで人を殺せるかもしれない。
 衝動のままにシン・アスカの胸倉を掴み上げ、おでこ同士がくっつきそうな至近距離から殺意の篭った視線をぶつけた。

 …が。

「…すまない」

 ぶつけられた本人、シン・アスカは相も変わらずそう繰り返すだけで、視線を逸らそうともしない。
 それどころか紅色の瞳は じっ と私の殺意を受け止めて、小揺るぎもしないんだ。
 それはまるで、自分が恨まれる事を望んでいるかの様な…

 シン・アスカの姿勢に、そんな違和感を感じ始めたその時だった。
 非難されている筈のシン・アスカは、意外なくらいさっぱりとした口調で

「全部俺が悪いんだ。
 だからコニールは、胸を張って街に帰れば良い」

 そう、言い切ったんだ。

「!!?」

 落雷に撃たれた様な衝撃、って言うのはこういう時に使う言葉なんだろう。
 シン・アスカの発した言葉に、全身を痺れた様な衝撃が駆け巡る。

 まさか まさか まさか…

 だけど、私はシン・アスカの言葉を聞いて、心の中に生まれた違和感が消え去ったのを感じてる。
 まるで欠けていた無くしたパズルのピースが見付かった様な。

「私は、胸を張って街に帰れば良い…?」

「ああ」

「シン・アスカが、臆病者なのを理由にして?」

「そうだ」

 私の問いに、シン・アスカは力強い口調で返事を返してくる。
 だけど、その返事が力強ければ力強いだけ、私の中に芽生えた推測が確信へと変わって行く。

 シン・アスカは…
 私が街に帰れる様に、こんな嘘を付いたんだ。


■■■


 考えてみれば酷い話だ。
 だってそんな嘘を付いたところで、所詮はシン・アスカ一人の自己満足でしか無いんだから。
 今回はなんとか私が気付けたから良かったものの、もし気付けなかったとしたら…
 きっとガルナハンの皆からは蛇蝎の如く嫌われて、恨まれてたに違いない。
 そんな、自己犠牲で成り立った自己満足だけの自分勝手で間抜けな嘘なんだから。

 …だけど、優しい嘘だよな。

「…分かった。 街へ帰るよ」

「ああ」

 胸倉を掴んだ手を放し、シン・アスカが一番望んでいるであろう言葉を返す。
 首元がゆるゆるになってしまったTシャツが、なんだか凄く申し訳無い。

「…だけど、シンさんの所為にする心算は無いからな」

「………え?」

「悪いけど全部分かってるんだ。
 シンさんがなんであんな事を言ったか。
 自分の事を臆病者呼ばわりしたのは、全部私がガルナハンの街に帰りやすいように、ってその為だったんだろう?」

「なっ!? ちがっ…」

「誤魔化さなくて良いって。
 やっぱりシンさんは【紅蓮の修羅】だよ。
 自分の異名が傷付く事も省みず、初対面の私みたいな奴の為に自分を犠牲に出来るんだから。
 優しい修羅だ」

「なっ!? なっ! なっ…」

「ありがとう。
 感謝してる。
 お陰で街に帰る決心が付いたから」

 だから、これはほんのお礼の気持ち。
 未だ驚きから立ち直っていないシン・アスカの頬に チュッ と口付けし、私は半日近くも居座り続けたカフェを後にした。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 アスとレイコンビの真意に頭を悩ませていた俺は、次の日に大事な戦闘を控えてるって言うのに、見事に睡眠不足に陥ってしまっていた。

「もしやこれが彼奴等の作戦か?
 心理的な攻撃で俺を睡眠不足に陥らせ、戦闘中の集中力を奪うと言う狡猾な罠なのかぁ!?」

 なーんて感じで頭を痛めてみたものの、頭が痛んだだけで未だ彼奴等の真意は定かでは無い。
 とにかくそう言った訳で、不本意ながら今の俺ってば凄く寝不足だったりする。
 ええ、流石に不味いです。
 なんせ今日は、昼から命懸けの作戦が待ってるんだから。
 一刻も早く、どうにかしなければ行けないんだけど…
 正直な話、寝不足の時にする事と言えば古今東西『寝る』か『珈琲を飲む』くらいしか考え付かない。
 いや、本当は他にも色々有るに決まってるんだけど、寝不足でマトモに働いていない頭で考え付く事なんてその程度のもんなのだ。
 と言う訳で、だ。
 本当だったらベストな選択肢である『寝る』を選択したい所なんだけど、そもそも寝れないから寝不足なんだし、仮に今から寝れたとしても間違いなく寝過ごす自信が有る。
 寝坊で作戦に参加しなかった日にゃあ… 考えるだけでも恐ろしい。
 会議であんだけ肩を持って貰ったって言うのに… 間違いなく艦長にヤられるな。
 だから俺は、このまま寝ない努力をすべきなんだ。
 そう思うだろう?


■■■


 運良くZAFTの基地から出て直近くに有ったカフェに入って珈琲を頼む。
 俺ってばブラックで飲むと気分が悪くなってくる人種なんで、砂糖とクリープは必須だ。
 無理してブラックで飲んで、女の子から「渋いっ!」って騒がれるのも捨て難いけど、ただでさえ寝不足で頭が痛いのに、この上気分まで悪くなったら目も当てられない。

 とにかく、だ。
 そんな訳で珈琲を購入した俺は、ここは一つ優雅に店内で珈琲を楽しもうと空席を物色する。
 が。
 生憎、今は朝の混雑時だって事も有って空席は少ない。
 喫煙席だとか筋肉マッチョの隣とか、後は負のオーラが立ち昇ってそうな少女の隣とか。
 ぶっちゃけ、碌な席が残って無ぇ…
 あ、ちなみに俺は煙草は吸わない。
 って言うか未成年だから吸えない。
 プラントの喫煙可能年齢が何歳からかは知らないけど。
 無理して煙草を吸って、女の子から「渋いっ!」って騒がれるのも捨て難(ry

 と、とにかく、そんな訳で座った席なんだけど…
 もう説明省いて良い? つまんないし、どうせ分かってるんでしょ?
 ダメ? あっそう…
 なら続けるけど、ぶっちゃけ負のオーラが立ち上ってそうな少女の隣ね。
 窓際の席で見晴らしは良かったし、負のオーラさえ除けば結構可愛かったんだもん。
 健康に気を使ってる俺としては副流煙は避けたいところだし、筋肉マッチョの隣は論外だ。
 別に消去法って訳でも無いんだけど、ま、そう言った訳で窓際のカウンター席に座った。
 目の前にはお日様が昇るって言う清々しい景色、隣には(負のオーラ付だけど)それなりの美少女。
 寝不足の身で、数時間後に戦闘を控えた身としては最高のシチュエーションだとは思わんかね?

 …うむ。

 それなりに満足して、優雅に珈琲をふうふうと冷ましながら啜る。
 アスとレイの企ても今だけは忘れよう。
 だって空がこんなに青いんだから。

 …だけど。
 そんな至福の一時も所詮は一時の夢。

「…それもこれも、全部シン・アスカの所為じゃないか!」

 って声で唐突に終わりを告げた。

 ………

 ……

 …

「え? 俺の所為?」

 真横から聞こえてきた呪詛交じりな声に、思わず浮かんだ疑問をそのまま声にしてしまう。
 い、いや、何かの聞き間違いだよな?
 こんな所で負のオーラしょっちゃってるそれなりの美少女に、恨まれる覚えなんて何も無いぞ?
 き、聞き間違い…ですよ、ね?

「………」

「………」

「………」

「…え?」

「ん?」

 いやーな沈黙が続く中、こっちを向いた彼女と目が合う。
 うむ、やっぱりそれなりに可愛い。
 だけど外国の人は美人でも歳を取ると急に濃くなるからなぁ…
 間が持たないんで、そんなお馬鹿な事まで考えたりする始末。

「………」

「………」

「………」

「………」

「シ、シ、シ…」

「ししし?」

「シン・アスカァッ!?」

「おおぅ!?」

 フルネームで呼び捨てにされて、指を突き付けられましたよ。
 自分より歳下っぽい、将来はそれなりに有望(かどうかは紙一重)な美少女に。

 …なんで?

「…ほ、本当にアンタがシン・アスカか?」

「? …ああ」

 としか返事のしようが無いです、はい。
 いや、しらを切るって手も有るには有ったんだけど、なんだか手遅れっぽいし。

 …とぼけておいた方が良かったかな?

「ZAFT軍所属の、【紅蓮の修羅】って呼ばれてる?」

「…ああ。 不本意ながら、な」

 そう、肯定の返事は返したけど、その声は苦々しい。
 だって【紅蓮の修羅】って異名、本人的には不本意極まりない異名なのだ。
 なんて言うかこう、どうせ異名を貰うならもっと可愛らしい異名が欲しかったよな。
 例えば【戦場のクリオネ】みたいな感じで、相手が思わず戦意を失ってしまうような奴とか。
 そしたら、それだけで戦闘が有利になりそうでしょ?
 こんなおっかない異名じゃあ、相手に敵意を募らせるだけじゃないか!

 そんな事を考えながら心の中でそっと涙を流し、どうせだったらデスティニープランの一環としてアスランには俺のよりもおっかない異名を付けてやろうと心に誓った。
 そんな時だった。

「な、なんでこんな所にシン・アスカが居るんだよ!?」

 っていきなり怒られた。
 な、な、なんて理不尽な奴だ…

「いや、なんでって言われても… 珈琲が飲みたかったから」

 に決まってるじゃないか!
 それとも何か?
 【紅蓮の修羅】なんておっかない異名持ってたら、優雅にカフェで珈琲飲んだらアカン言うんか?
 お前なあ、あんまり調子に乗ってたら、仕舞いには泣く事になるぞ!?

 …俺が。

 すわっ今こそ日頃鍛えた嘘泣きを披露する時か?とばかりに、日頃から常備している目薬に手を伸ばしかけたんだけど…

「そっ、そりゃそうか…」

 って、あっさり肯定すんのかよ!?
 思わずGパンのポケットに伸びた手も止まる。

「………」

「………」

「………」

 え?
 何この沈黙。
 初対面の名前も知らないそれなりの美少女に何故か恨まれてて、2・3言言葉を交わした後に沈黙。
 い、痛い。
 なまじ先程こやつが大声で俺の名前を呼んだりしたもんだから、他の客の注目を集めてるだけに尚痛い。
 ぼそぼそと「シン・アスカが…」とか「歳下の少女に…」とか「手が早い…鬼畜?」なんて囁かれた日にゃあ…

「…で、何が俺の所為なんだ?」

 せめて…
 せめて恨まれる理由だけでも聞きたくなるのが人情だろう?


■■■


 聞くんじゃなかった。
 作戦の経緯を知らなかったっぽい周囲の人達からも「戦闘技術だけでなく頭も良いのか…?」とか「…実は仲間思いの優しい一面も?」なんて声が聞こえてくるけれど、それが偶然の賜だって事を誰よりも俺が知ってるからペットボトルの蓋程しかない俺のチャチな良心がキリキリと痛む。
 それでなくてもデスティニープランの一環として『評価されるような活躍は避けよう』をスローガンに謳ってる身としては、プラス評価されるような事態は出来るだけ避けたいところなのに…

 いや、待てよ…

 まだボールは生きている。
 諦めたらそこでゲームセットですよ?
 そうですよね? 安西先生!
 退廃的な生活がしたいです…

 とまあ、冗談(?)は措いといて。
 流石俺。
 天才。
 良い事考えちゃったもんね!
 そもそもデスティニープランを提唱している俺だけど、1つだけどうにもならない問題が有ったんだ。
 それは、他人の評価を上げるだけでは俺の評価が下がらないと言う事。
 相対的に下げる事は可能かもしれないけど、それだと時間が掛かりすぎると言う欠点が有るのだ。
 一分でも一秒でも早く軍人を辞めたい俺としては、いささか温い手段と言わざるを得んだろう。
 だったら手っ取り早く戦闘で手を抜いて評価を下げれば良いんだけど、そんな真似して万が一死んじゃったりしたら目も当てられないから、その手は自分に禁じている。
 だから、それだけがデスティニープランのネックになってたんだけど…
 実は今って絶好のチャンスだよな?
 此処で俺がヘタレ野郎だって知れ渡らせば、ZAFTの一般兵とレジスタンスの間で瞬く間に噂が広がるだろうし。
 そうすれば、いずれ上層部の人もそれを聞きつけて… 俺の事を疎んじてくれるようにさえ為れば、それを理由に退職できる!

 …やろう。

 蔑まれる事に拠る、多少の精神的ダメージは覚悟の上だ!

「…すまない」

「え?」

 突然の俺の謝罪に驚きの声が返ってくる。
 無理も無い。
 だけど、相手が戸惑ってる今こそ、俺のペースに乗せるチャンスなのだ!
 攻めろ! 攻めろ! 攻めろ!
 悪いが俺は、最後まで隙は見せないぜ?
 このまま一気に決めさせて貰う!

「…すまない。
 俺の所為で、えっと君…「コニールです。 コニール・アルメタ」…コニールには迷惑をかけたから。
 俺が作戦変更を打診したりしたばっかりに…」

「いやっ、でも!
 シン・アスカさんが…「シンで良い」…シンさんが作戦変更したのって味方の被害を防ぐ為とか、作戦の成功率をあげる為なんですよね?
 わ、私ちゃんとラドル司令から聞いて知ってます!
 だから、悪いのは勝手に八つ当たりした私なんです」

「違う」

「え?」

「そうじゃないんだ。
 俺が作戦変更した本当の理由は、俺が臆病者だからさ。
 レジスタンスの情報は信じられても、俺は俺の腕を信じられなかった。
 だからMSで真っ暗な洞窟を抜ける、なんて危険な任務が怖くて仕方が無かった。
 新しい作戦を立案したのだって、その為なんだ」

 こんなにペラペラと喋れるなんて… やれば出来る子じゃないか! 俺ってば。
 …ただ、ぶっちゃけ本音を話してるだけなのに、自分でも自分の事を酷い奴だと思ってしまうのが切ないけど。
 だ、だけど、その分、蔑まれた視線から受ける精神的苦痛は理不尽でもなんでもなくて、当然の結果だって言えるから我慢だって出来る筈さ! ああ、その筈なのさ!
 咄嗟にそんな汚い計算まで出来てしまう自分の事が大好きだ!

「!?」

「…ほ、本当に?」

「…ああ」

「…自分が怖いからって、危険な任務から逃げた?」

「…その通りだ」

「あんたって人はっ!!」

「…すまない」

 勝った…

 コニールが激昂しているのを余所に、俺の頭に浮かんだのは誰にも言えない勝利宣言だった。
 どうだこの巧みな言葉運び。
 このまま神の一手さえ極められるかもしれないな。

 ああ…
 皆、もっと蔑んだ目で俺を見てくれ!
 そして職場に戻ったら直に見聞きした事を周囲に広めるんだぞよ?
 そうすれば… あわよくば今日の作戦だって外されるかもしれない!
 そうさ! 信用出来ない仲間に護衛任務は任せられない、とかなんとか言っちゃって。

 なら、躊躇う事は無い。
 今こそ【紅蓮の修羅】と言う偽りの異名にトドメを刺す時だ!
 コニール、君もレジスタンスに帰ったら俺の悪評を広めるてくれよっ!
 そしてレジスタンスから名指しで俺を批判して、作戦から俺を外させてくれいっ!

「全部俺が悪いんだ。
 だからコニールは、胸を張って街に帰れば良い」

「!!?」

 …決まった。
 チェックメイトだ。

「私は、胸を張って街に帰れば良い…?」

「ああ」

 力強く、

「シン・アスカが、臆病者なのを理由にして?」

「そうだ」

 満面の笑みを押し隠して、

「…分かった。 街へ帰るよ」

「ああ」

 頷いた。
 デスティニープラン、此処に完・遂っ!

 いやぁ、ここまで長い間、皆さんご愛読ありがとうございました。




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅






 エンディングロールも流れ終わったし、さーて、俺もそろそろ宇宙へ帰ろう。
 意気揚々と、少し冷めた珈琲を煽って、帰ろう!と席を立ち掛けたその瞬間―――

「…だけど、シンさんの所為にする心算は無いからな」

 シナリオに、綻びが…

「………え?」

 え?
 何事ですか?

「悪いけど全部分かってるんだ。
 シンさんがなんであんな事を言ったか。
 自分の事を臆病者呼ばわりしたのは、全部私がガルナハンの街に帰りやすいように、ってその為だったんだろう?」

「なっ!? ちがっ…」

 なんですとー!?
 ちょっ!? ど、どうしてそんな展開に…
 エンディングロールだって流れ終わったじゃん!?

「誤魔化さなくて良いって。
 やっぱりシンさんは【紅蓮の修羅】だよ。
 自分の異名が傷付く事も省みず、初対面の私みたいな奴の為に自分を犠牲に出来るんだから。
 優しい修羅だ」

「なっ!? なっ! なっ…」

 ま、待ってくれ!
 まだっ! まだゲームセットじゃないって言うのか!!
 ロスタイム?
 ならっ! せめて、せめて後少しだけ、俺にも反撃の機会をっ!

「ありがとう。
 感謝してる。
 お陰で街に帰る決心が付いたから」

 周囲から「なんて奴だ…」とか、「相当なジゴロだな…」とか、「…惚れたかも」なんて声が聞こえる中、頬に柔らかい何かが触れる感触と共に、ゲームセットの笛の音が響き渡った。



 つづく(こ、今度こそ早めにぃ…)

==================================================

<後書きみたいなもの>

 …もう、これ以上どうにもならないっす。
 結局ローエングリンゲート攻略まで辿り着けんかった… orz

 ところで、アカツキの動力源って何なんでしょう?
 核動力? バッテリー?
 ご存知の方、教えて頂ければしゅり。が喜びます。



[2139] 24話目。 実はこのお話って何時の間にか長期連載のカテゴリに入ってたりする!?
Name: しゅり。
Date: 2007/03/24 01:27
<タリア・グラディス>

 遠く離れていても伝わってくる耳を劈く様な轟音と共に、敵ローエングリン砲台から光の帯が迸る。
 敵攻撃目標は私達ミネルバを初めとするZAFT軍の地上艦隊。
 もしこのまま敵の攻撃に晒されてしまったのなら、私達は壊滅に近い被害を被る事になるでしょう。

 けれど。

 敵攻撃目標圏内にあるミネルバ艦内で、今現在その様な未来予想図を脳裏に描いている人間は、私を含めて唯の1人も存在しない。
 何故なら、既にその2点を結ぶ光線の射線上には金色に輝くMSが立ち塞がっているのだから。

 ORB-01 アカツキ。
 雷と見紛わんばかりの光線を前にして、夜明けを意味する名を持つその機体は―――











 次の瞬間、まるで道を譲るかの様な気安さで射線上からその身を退けた。


■■■


 シンがラドル司令に新しい作戦を立案した時に、私がシンの作戦を支持したのには理由が存在する。
 とは言っても、それは別に珍しく饒舌だった『シンの演説に感動したから』と言った様なセンチメンタルな理由じゃ無くて、 …ただ、シンがアスランの事を、自分以外の誰かの事を頼った事実を、私は尊重しなければならない、と、そう考えたからなのだ。

 予てより、ミネルバが戦闘を重ねる度に、私はシンの戦闘内容に対してある1つの危惧を深めていた。
 と言うのも、シンの戦闘内容が個人技に偏りすぎているのではないか? と、最近頓に感じるのだ。
 思い返してみてほしい。 アーモリー、ユニウス7、オーブ近海、そしてインド洋沖での戦闘を。
 結果として個人技に頼らざるを得ないケースが多々有った事もまた事実だけれど、だけど全部が全部そんなケースばかりだったと言う訳じゃ無かった筈なのだ。
 にも関わらず、アーモリーではレイとルナマリアの両名と合流した後も、シンはガイアとの1対1での戦闘に拘っているし、ボギー1から奇襲を受けた際にはレイと2機で迎撃にあたると言う選択肢を蹴って、わざわざ単機で敵指揮官機と思われる戦闘機の迎撃に向かっている。
 更にユニウス7では周囲に味方機が沢山居たにも関わらず、気が付けば敵首謀者の駆るMSと単機で戦場に留まり続けていたし、オーブ近海の戦闘に至っては敢えてミネルバと同行せずに単機で敵勢力圏内に潜伏までする始末。
 そして、極めつけが先のインド洋沖での戦闘だ。
 敵からの攻撃を受けた所為で片腕を損傷してしまったにも関わらず、いくら建設中で攻略が容易だったからとは言え、単機で敵基地の制圧に向かった行為は暴挙と評してもなんら過言では無いだろう。

 …艦長として、シンを監督する身としては、シンの行動をこのままにしてはおけないと切に思う。
 結果だけを見たのならば、確かに今迄はそれが最善の行動だったのかもしれない。
 けれど、この先も今迄と同じ様に良い結果ばかりを得られると言う保障なんて何処にも無いのだ。
 だから!
 回を重ねる毎に個人技に傾いていくとしか思えない、まるで生き急いでいる様な、戦闘に魅入られてしまったかの様なシンの行動にブレーキを掛けるのには、今が絶好の、そして最後の機会じゃないかしら?
 まだシンが自身の発想で、自分以外の誰かを頼ろうとしている、今が!

 …だから、今回、私はシンの作戦を支持する事を決めた。
 孤独に敵を切り裂くだけの、まるで『剣』の様な生とは、今がまさに別れの時なのだ。
 シンにはこれから続く先の長い人生を、出来れば仲間と互いに支え合いながら生きて行って欲しいから。
 時には仲間に助けられ、時には仲間を助ける『盾』となる。
 そんな生き方をシンが選べる事を切に願って。

「シン、貴方がアスランの盾になりなさい」

 最後にそう言葉を贈った。


■■■


「何が有ったって言うの!? アスランッ!!」

 怒号にも似た叫び声が私の口から突いて出る。
 敵ローエングリンゲート攻略作戦の初っ端に起こった異常事態を前に、思考が激しく乱れる。
 だって、まさかアカツキが、アスランがローエングリンから逃げ出すだなんて!
 幸いにしてその後直にローエングリンの射線上にアカツキが舞い戻った為、ZAFT艦隊に被害は発生せず、と同時にアスランの裏切りと言う可能性は低くなった訳だけれど、それでも、いや、それだからこそアスランの行動の意図が解らない。
 何故アカツキはローエングリンの射線上から逃げ出したのか?
 いざローエングリンを前にして、先の大戦の英雄様も流石に恐怖を催したとでも言うのだろうか?
 或いは、所詮過去に1度ZAFTを裏切った人間は、私達の信頼に応え得る器では無かったと言う事なのだろうか?

 …実際はその後直にアカツキは再びローエングリンの射線上に舞い戻っている。
 経緯は兎も角、結果としてアスランは己の責任を全うし、ZAFT艦隊に被害は発生しなかったのだ。
 けれど、だからそれで良いとは言えない。 言う訳にはいかない。
 ローエングリンの光の帯はこの先も何度と無く降り注ぐのだから、現場の責任者として不安要素は直ちに取り除かなくてはならない。

『…申し訳有りません、グラディス艦長』

「謝罪はいいわ。 我軍に被害は無かった訳だし。
 それよりもアスラン、不可解な行動を取った原因を直ちに説明して!」

 アカツキから届いたアスランの謝罪の声を、即座に切って捨てて私はアスランに説明を促す。
 なんせアスランの報告内容如何によっては、事態は一刻を争う事になるやもしれないのだ。

『了解しました。 実は…』

 歴戦の戦士であるアスランも即座にそれを理解したのだろう。
 それ以上は余計な言葉を一切紡がずに、簡潔に原因を述べ始めた。

『アカツキが私からコントロールを奪い、勝手に回避行動に出たんです。
 まるで予めそうプログラミングされていたみたいに』

 と。

「!? …なんですってぇっ!!」

 それは私が全く予期せぬ、限りなく最悪に近い内容だった。
 敵ビーム兵器を敢えて避けない事で性能を発揮するMSが、自ら敵ビーム兵器から退くプログラムを積んでいる?
 何の冗談よ?
 そんなハードウェアとソフトウェアに矛盾を孕んだMSを、オーブは設計したとでも言うの?

 そんな私の内心の葛藤を余所に、

『今回は幸いな事にコントロールが戻り次第、即座に射線上に戻る事に間に合いました。
 しかし次も同じ事が適うかは分かりかねます』

 そう、淡々と事実を告げる。

 …なんてこと。

 これじゃとてもじゃないけど、作戦の続行は無理だわ。
 完全に守れる保障の無い盾を頼りに、死地に留まり続けるのは愚の骨頂だ。

「…該当のプログラムを無効化する事は出来ないの?」

 一縷の望みを込めて放った質問は、

『現状では該当プログラムがどれなのか、特定すら出来ていません』

 無情にもばっさりと切って捨てられた。


■■■


 撤退。
 その2文字が脳裏に過ぎる。
 いや、最早『過ぎる』と言う段階ですらなく、それしか私達の前に選択肢は有り得ないのだ。
 このまま不安を抱えたアカツキを要に据えての作戦の遂行は、現実的に考えて限りなく不可能に近い。
 断腸の思いで決断を下そうとしたまさにその瞬間、

「…誠に遺憾だけど、直ちに全軍撤『待ってください! 艦長!』 …シン?」

 突然シンが通信へと割り込んできたのだ。
 もちろんシンの発言はそれだけに止まらず、

「どうしたのシン!?」

 と、咄嗟に応答してしまった私に対して、シンは何時に無く改まった口調で

『決断を下される前に1つだけ試したい事が有るんです。
 お願いします、俺に時間を下さい!』

 そう、申し出てきたのだった。

「この緊急事態に何を馬鹿な事を言って… いえ、分かったわ。
 けれど聞いていたのなら承知の通り、あまり時間に余裕は無いわ。
 シン、貴方に与える猶予は1分だけよ。
 何をするにせよ、その間に何らかの事態の好転を見ない限り、私は責任者として撤退の決断を下すわ」

 一刻を争う緊急事態に措いて、本来であれば1パイロット視点での進言を聞いている暇など無いのだけれど。
 シンの言葉を即座に切って捨てようとした私は、すんでの所でそれを思い止まった。
 今回の作戦に限っては、作戦の立案者でもあるシンを『1パイロット』と分類するのは不相応じゃないか? と、そう考えたからだ。
 作戦立案者が作戦遂行に拘るあまり被害を拡大する事は往々にして多々有る事なので、判断に迷う所では有るのだけれど、その作戦立案者が他ならぬシン・アスカである事が引っ掛かる。
 今迄シンは困難な戦場に置いて何度と無く事態を好転させる閃きを見せてきた。
 或いはシンなら今回も? と言う考えが私の中に有ったのは否定の出来ない事実だから。

『ありがとうございます! …アスラン、協力してくれ!』

『話は聞いていた。 了解だ。
 シン、俺はどうしたら良い?』

『俺を信じてくれるか?』

『…ああ』

『なら動かないでくれ』

 そう言い放ったシンの駆るインパルスは、次の瞬間アカツキに銃口を向け―――

「シンッ!?」

 私の叫びも空しく、その引鉄を引いた。

『なっ!? …またっ!』

 次の瞬間、アカツキが光線を回避する。
 シンの指示通りアカツキを動かそうとしなかったのだろう、アカツキが光線の軌道上に戻る事は無く、光線は何も無い宙を薙いで行った。

『よし、ならアスラン、次はアカツキの外部モニタを切るんだ!』

『なっ!?』

『時間が無いんだ。 …信じてくれるんだろう!?』

『…ああ、信じるさ!』

 なんなの? この正気の沙汰とは思えない会話は。
 戦場で味方機を撃って、その次は味方機の視界を奪わせる!?
 馬鹿げてるわ。

 …そんな私の葛藤を余所に、インパルスからまたもアカツキに射撃が行われる。

 が。
 外部に向けての視界を失ったアカツキは回避行動を取ろうとはせず、アカツキの装甲に吸収される様に消えた光線は、間を置かず射撃元であるインパルスの元へと跳ね返る。

『…よし!』

 それを予め構えていた盾で受け止めたインパルスの機内で、シンは満足気にそう呟き、

『艦長、実験の結果アカツキの外部モニタをオフにした場合、緊急回避プログラムは作動しません』

 そんな報告が上げられる。
 けれど

「それがどうしたって言うの!?」

 そもそも外部モニタをオフにしたアカツキはローエングリンを防ぐ事は愚か戦闘で一切の役に立たない。
 いや、寧ろお荷物ですら有るのだ。

 にも関わらず、シンは自信たっぷりの口調で

『インパルスがアカツキを盾にしてローエングリンを防ぎます。
 フォースモジュールの機動力なら問題有りません。
 作戦を続行させて下さい!』

 そんな仰天物の対策をぶちまけた。


■■■


 今戦闘でアカツキと言う切札を晒した結果、もし仮に撤退したとしても再戦の際には同じ作戦は取る事は出来ない。
 再戦迄の間、敵軍にはアカツキ対策の時間を与えてしまう事になるからだ。
 だからシンの対策案で当初の作戦を遂行出来るのであれば、遂行すべきなのかもしれないけど…

 …ただ、問題が無い訳じゃない。
 視界の利かない状態で盾に使われるアカツキのパイロット、アスランに対する人道的な問題もそうだけど…
 なにより問題なのが、そのアスランがオーブに所属していると言う事実だ。
 その問題に対して私は

「…私の手に余るわ」

 と、あっさりと思考を放棄する事にした。
 こんな大事な問題、現場でどうこう言えるレベルじゃないのだから。
 オーブの代表が近くに居るそうだし、きっとギルがどうにかしてくれる筈よね?
 そうとでも考えないと、とてもじゃ無いけれどやってられないわ。
 …どの道、このままアスラン盾を使わずに撤退しようとした処で被害を被ってしまうのだ。
 であれば、此処は前進有るのみ、ね。

「…作戦を続行します」

 心の中で想い人にそっと手を合わせ、決断を下した。


■■■


 ローエングリンの攻撃に止まらず、敵MSからの銃撃に対してもシンは実に効果的にアスランを盾として活用していた様に思う。
 少なくとも、素人目に見てそこにアスランに対する一切の遠慮を見出す事は出来なかった。

 …その甲斐も有ってか、ローエングリンゲートの攻略には成功したのだけれど。

「…結局、まっさかさまになっちゃったわね」

 戦前はシンにアスランの盾になれ、って言ってた筈なのに。
 実際はシンがアスランを盾にしてしまっていた。

 …シン、あの時私が望んでいたのは、こんな結末じゃなかった筈なのよ?




機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 それは油断だったんだろう。
 ローエングリンの攻撃の際にはアカツキの後方に逃げ込む、と言う基本コンセプトを胸に、俺は特等席であるアカツキの真後ろへとそそくさと逃げ込んでいた。
 愚かにも、そこが一番の安全席だと心から信じて。

 …んがっ!!

 いざローエングリン砲台の銃口がロックオンされたと思った瞬間、目の前で銃口から俺を遮ってくれる筈のアカツキの姿が見当たらない。
 そんでもって何故かローエングリン砲台の銃口と目が合っちゃう始末。
 ええ、遠く離れてる筈なのにバッチリと合っちゃったさ、そりゃあもう。

「って、なにぃっ!?」

 バリアは!? 俺の無敵のバリアはいずこに!?

 そんな感じで突然の事態を前に、良い具合に俺がテンパッちゃってる間にも時は無情にも流れて行く。
 何時の間にやらローエングリン砲台の銃口にはおっそろし気な光が収束していって…
 何故か左斜め下に退避していたアカツキの姿を見付けた。

 その瞬間、俺は全てを理解したね。 ええ。

 不覚っ! 儂とした事が抜かったわぁっ!!
 間違いない、この仕打ちこそがアスとレイの謀だったのだ!!
 おのれアスとレイめ、俺を亡き者にしようと言う心積かぁっ!!

 あぁすぅらぁんんめぇーーー!!



 ゴメン!
 謝るからっ!
 今迄の事、いろいろ謝るから!!
 頼むから助けてちょーだい!!
 びっくりしちゃった所為で完全に逃げそこなっちまったってばよぉ!!

 轟っ!! と言うおっかない音を聞きながら、俺は目を閉じて来世は金持ちの家の次男坊に生まれたい、等とささやかな希望を胸に浮かべて十字を切った。


■■■


「………」

「………」

「………」

「あれ?」

 生きてますよ、俺。
 うっすらと目を開いてみると、其処にはアカツキの背中が…

「…アスラン」

 そもそもアスランが逃げ出した事が発端だって事も忘れて、思わず惚れちまいそうだよアニキ!
 今なら抱かれても良い! …いや、どうせ5分後にはやっぱり抱かれたくない、って考え改めるとは思うけど。

 けどアスランも人が悪いぜ!
 まさかこんな方法で俺に対するリベンジを行うなんてな。
 やっぱり一言くらいは文句を言ってやらねば気がすまん! と回線をオープンにすると…

『アカツキが私からコントロールを奪い、勝手に回避行動に出たんです。
 まるで予めそうプログラミングされていたみたいに』

『!? …なんですってぇっ!!』

 非常にデンジャラスな会話が飛び込んで来た。

 ………

 ……

 …

 滝汗

 え、えーとぉ…
 なんだか非常に身に覚えが有るって言うかぁ…
 そのプログラム、インストールしたのって、ぶっちゃけ俺って感じ?

 ………

 ……

 …

 わ、わざとじゃないじょ!?
 アスランをデスティニープランに使おう!って決めた時に、だったら簡単にアスランに死なれちゃ困るな、とばかりに『ロックオンされたのに回避の意思が見られない時は勝手に回避しちゃえ1号』をインストールしたのは俺だけど。
 その事も今の今迄きれいさっぱり忘れてたんだけど、確かあの時の俺はアスランに良かれと思ってやった筈なんだよ。
 それがまさか、こんな事態を招いちまうなんて… ハードラックと踊ってやがるぜ!

 あ、ちなみに『ロックオンされたのに回(以下略』は当然インパルスにもインストールしてある。
 もちろん無断で、だ。
 オーブでエリカさんに会った時に貰ったプログラムなんだけど、流石にモルゲンレーテの職員に貰ったプログラムをインストールするのがZAFTの誰かに知られたら不味いからね。
 でも生存確率がUPするって言うのにインストールしない訳にはいかない。
 苦渋の決断だった、とだけ言っておこう。

 更に言うと今回インパルスの『ロックオンさ(以下略』が発動しなかったのは、オプション設定をOFFにしてたからだったりする。
 今回の作戦はアカツキの影に隠れるのが前提だったからね。
 ほら、間違ってONにしてて馬鹿みたいにアカツキの影から飛び出して死んだら死ぬに死にきれないからね。

 …いや、見事に裏目りそうになったけど。

 ま、そんな訳でオーブ製のプログラムはオーブ製のMSと相性抜群だったんだけど…
 今考えると何故アカツキに『ロックオ(以下略』がプリインストールされてなかったか、もっと考えるべきだったよな。
 いやぁ、反省反省。


■■■


 …待てよ。

 反省だけなら猿でも出来る。
 此処はひとつ人間様として、もひとつ先の事態を考えてみるべきじゃないだろうか?

 アカツキが使い物にならない今、きっとこのまま作戦の実行は不可能な筈だよな。
 となると撤退?
 ローエングリンの砲台に晒されながら?

 …まぢで?

 ま、まあ待て。
 ここは仮に無事に撤退に成功したとしよう。
 俺ってば悪運が強い筈だから生き残れる筈だよな? きっと。
 そうなると次に待ってるのは何だ?

 敗因の究明だ。
 それも同じ轍を踏まない為に、きっと徹底的に行われるに違いない。
 って事は、つまり『ロ(以下略』の存在が明るみに出る、と言う訳だ。
 当然、アスランはそんなプログラムの存在は身に覚えが無い。
 となると持ち上がるのはミネルバ搭載後に行われたであろう不正インストールの事実。
 苛烈な犯人の洗い出し。
 何故かインパルスにも同様のプログラムが!
 そんでもって俺の私物からインストールCDが!
 俺様、A級戦犯!
 死刑、確定!
 長い間、ご愛読ありがとうございました。

 ………

 ……

 …

「NOーーーっ!!」

 なんて悲惨な未来予想図。
 全米は泣きそうにないけど間違いなく俺は泣く。

 …止めねば。
 なんとしてでも阻止せねばぁっ!!

 って考えてる間にもグラディス艦長は決断を下す模様で、

『…誠に遺憾だけど、直ちに全軍撤「待ってください! 艦長!」 …シン?』

 結論を述べきる前に、強引ながら『ちょっと待ったコール』を発動させた。
 我ながら往年の合コン番組を彷彿とさせる、見事なタイミングだ。
 対する艦長は

『どうしたのシン!?』

 って当然聞いてくる訳なんだけど、実を言うと勢いで止めただけで全くのノーアイデア。
 いや、どうにかして作戦の続行、もしくは証拠の隠滅を図らなくちゃいけないんだけど。
 目的だけは明確なのに、手段がさっぱり思い付かない。
 ここはせめて時間だけでも稼がねば、と藁にも縋る思いで言葉を紡ぐ。

「決断を下される前に1つだけ試したい事が有るんです。
 お願いします、俺に時間を下さい!」

 あわよくば、その1つだけ試したい事がなんなのか考える時間も下さい!

『この緊急事態に何を馬鹿な事を言って… いえ、分かったわ。
 けれど聞いていたのなら承知の通り、あまり時間に余裕は無いわ。
 シン、貴方に与える猶予は1分だけよ。
 何をするにせよ、その間に何らかの事態の好転を見ない限り、私は責任者として撤退の決断を下すわ』

 よ、よーし!
 なんとか首の皮一枚繋がった。
 今こそ考えるんだ俺! 働け! 働くんだ俺の灰色の脳細胞達よ!

「ありがとうございます! …アスラン、協力してくれ!」

 働いた。
 「ありがとうございます!」と「アスラン、協力してくれ!」の間の「…」の間にいっぱい働いた。
 そして閃いた。

 避けるなら 殺してしまえ ホトトギス

 ありがとう織田信長!
 貴方の生様を模した俳句からばっちり閃いちゃったよ、俺!
 お礼に今度から貴方の子孫のアイススケーターの応援だってするよ!

 …そう、そうなのだ。
 アカツキが勝手に避けるのが悪いんだから、避けないようにしてしまえば良いのだ。
 俺の記憶が確かなら、仕様書には「外部モニタから得た情報を元に回避行動を~」と言う一文が有った筈。
 つまりアカツキの外部モニタさえ殺してしまえば無問題なのだ。

 と、言う訳で。

『話は聞いていた。 了解だ。
 シン、俺はどうしたら良い?』

「俺を信じてくれるか?」

『…ああ』

『なら動かないでくれ』

 ってな感じにアスランと漢臭い会話を交わした後、

『シンッ!?』

 ってなグラディス艦長の叫びも何処吹く風で(殆ど結果が分かりきってる)実験をば開始。
 一応の確認と、後はアリバイ作りみたいなもんだと思ってくれればOKだ。
 そんでもって

「よし、ならアスラン、次はアカツキの外部モニタを切るんだ!」

『なっ!?』

「時間が無いんだ。 …信じてくれるんだろう!?」

『…ああ、信じるさ!』

「…よし!」

 ってな感じで漢会話を継続しつつ実験は無事に終了した。
 オーケイベイベェ、仕様書に間違いは無いようだな。
 流石エリカさん、愛してるよぉー!

 行ける!
 俺はまだ飛べる!

「艦長、実験の結果アカツキの外部モニタをオフにした場合、緊急回避プログラムは作動しません」

 と自信満々に報告を上げ、

『それがどうしたって言うの!?』

 ってな艦長の非難交じり(仮にも仲間を撃ったんだから当然なんだけど)の声に

「インパルスがアカツキを盾にしてローエングリンを防ぎます。
 フォースモジュールの機動力なら問題有りません。
 作戦を続行させて下さい!」

 と、さっき思い付いた作戦を告げたのだった。
 この際、あわよくばアカツキと接触してる際に『お肌の触れ合い回線』から問題のプログラムを削除出来れば尚良し!だな。

『…作戦を続行します』

 艦長の言葉を聞きながら、最初の賭けに勝利した喜びをじっと噛み締めた。
 けど、本番はこれからなんだぜいっ!!


■■■


 …世の中って甘くないよな。
 なんだよ『お肌の触れ合い回線』って!
 そんなもんC.E.の世界に無いっちゅーの!!
 いや、ひょっとしたら有るような気がしないでもないけど、そもそもそんな回線からプログラムのアンインストールが出来る程、オーブ製MSのセキュリティは甘くないっちゅーの!!
 それ以前にMSを抱えて戦争しながら設定弄る様な真似、文型・理系以前に体育会系の俺には無理だっちゅーの!!

 …そんな訳で、だ。
 ローエングリンゲート戦の勝利とは別に、新たな地雷をアカツキの中に秘めたまま戦闘は幕を閉じた。
 はぁ… この先どうしよう…(涙



 つづく(御代は見てのお帰り。 …一度使ってみたかった台詞なだけで、当然冗談ですがw)

==================================================

<後書きみたいなもの>

 前回、アカツキの動力源に付いて聞いておきながら、今回、全然活かせていない件について。
 申し訳ござりませぬぅーー!!(切腹
 …いや、皆さんの情報を元に構想を練り直したら無くなっちゃいました、テヘッ♪
 ひょっとしたらこれから先の話で使うかもしれないんで御容赦を。

 P.S.
 感想掲示板に嬉しい?お知らせが有ったりするかも。



[2139] 番外編の8話。 連載当初は隔日連載だった筈なのに、気が付けば季刊連載に… orz
Name: しゅり。◆842e464f ID:a4476e1a
Date: 2007/06/08 21:45
<カガリ・ユラ・アスハ>

「よ! 久し振り」

「初めまして、アスハ代表」

「………ふん!」

 上から順に緑・赤・白、と実に統一感の無い制服を纏ったZAFT兵達は、執務室に一歩足を踏み入れるなりそうのたまった。
 話し合いが一段落した所で議長から私を補佐する者達と言う名目で紹介されたんだが… 本気なのか?
 いや、確かに先の2人の人選は分からないでもない。
 1人目の金髪は数少ないプラントでの知人だし、2人目は初対面だが同性としてのサポートを期待しての人選なのだろう。
 そこまでは理解出来る。

 …が。
 問題は3人目の銀河童。
 全身から不機嫌さを醸し出していて、しかもそれを隠そうとしない態度はいっそ天晴れなくらいだが、どう贔屓目に見ても補佐としての適正を著しく欠いているのは想像い難くない。
 まあ、確かに補佐とは言っても実質は監視と大差無いのだろうから、そう言った意味では適切な人選なのかもしれないが。
 そう考えてみると、実は3人ともなかなか理に適った人選なのかもしれないな。

 等と私は内心そんな結論に達していた訳なんだが、当の本人達はと言うと「そんな事は知ったこっちゃない」と言った風情で、

「いやあ、自分でも偉いさんの補佐なんて柄じゃないって思うんだけどね。
 断ろうとしたんだけど、ほら、プラントに居るアスハ代表の顔見知りで補佐が出来るとなると、俺くらいしか居ないでしょ?
 なもんで、上の奴等は話も碌に聞こうとしない」

 って感じの軽いノリでデイアッカがそうのたまえば、

「ディアッカ…
 一応議長の前なんですから、少しは本音を隠そうと努力して下さい」

 と、『上の奴等』の代表格で有る議長の前にも関わらず歯に絹着せない言動の同僚をZAFTレッドの女性隊員が諌め、

「ふん!
 つまりわざわざこの俺がアスランの女の面倒を見なければならんのは全てお前の所為だったと言う訳か!
 貴様! 何処まで俺に迷惑を掛ければ気が済むと言うのだ!!」

 と、銀河童は内心の不満を隠そうともしない。
 酷い言われようのディアッカが(ディアッカだけじゃなく、何気に私も酷い言われようだった気がしないでもないが)

「ちょっ!?
 全部が全部、俺の所為って訳でも無いだろ! …いやさ、確かに全く俺に責任が無い、とは言えないけどさ。
 だけど、どうしても嫌だってんならイザークは降ろしてもらえば良かったじゃないか」

 と、反論の言葉を返す。 …が。

「出来るのであればとっくの昔にそうしている!
 だが、いきなり両副官を引き抜かれて隊の運営に支障をきたさん訳が無いだろう?
 にも関わらず、新しい副官は配置されないと来ている。

 …まあ、それは分からんでもないがな。
 戦前であればまだしも、現状では俺の副官が勤まる様な人材が遊んでいられる程、ZAFTに余裕が有るとは思えんからな。
 だからと言って有用な人材を他所の部署から引き抜く様な真似も出来ん。

 理解出来たか?
 ジュール隊が正常に機能しない今、残された道は2つしかない。
 一時的にジュール隊を解散するか、それともジュール隊全体でアスランの女の補佐にあたるか、だ。
 ああ、それともう一つ選択肢は有るぞ。
 聞きたいか? …いや、聞きたくなくても聞かせてやる!
 お前がアスランの女の補佐と俺の補佐、ついでに抜けたシホの分も合わせて3倍働け。
 そうすれば何の問題も無いのだからな」

 と、銀河童の正論にバッサリと斬って捨てられた。

「うぇえっ!?」

 と、赤ザク並の働きを強要されたディアッカが言葉に詰まった所で

「仲が良いのは大変結構な事なんだがね。
 一応お客人の前なのだから、ここはひとまず抑えては貰えないだろうか?」

 と言う議長の大人の意見が入り、ひとまずの終息を向かえたのだった。


■■■


 そんな経緯も有って、当面私はジュール隊の面々の補佐を受けながら議長の下で指導者の在り方について学ぶ事となった訳なんだが、本日の話し合いはまだ終わらない。
 いや、正確に言うと私はもう話し合う事は何も残って無いと思ってたんだが、議長はジュール隊の面々に退室を促した後で、

「もう一人、アスハ代表にお会いして頂きたい者が居るのです」

 と、そう告げて、新しい人物を私に紹介したのだった。

 今思えば。
 議長が新たに連れて来た人物、その人物に会う事こそが本日最大のイベントだったのかもしれない。

 ………

 ……

 …

「失礼致しますわ」

 と。
 その人物は執務室に足を踏み入れると同時にそう決り文句を口にした。
 別に何の変哲も無い挨拶の言葉の筈だ。 …が。

「えっ?」

 にも関わらず、私が感じたのはなんとも言えない違和感だった。
 何処か妙に引っ掛かるのだ。
 なんて言うのかな?
 そう、敢えて言うのであれば「こんな所で聞いちゃいけない」そんな気にさせられるのだ。
 耳心地の良いその声は、だけどつい先日聞いたばかりの様なデジャビュを感じさせて…

 疑問を解消すべく視線を入口に向けた私は、其処にラクスの姿を発見した。

 ………

 ……

 …

 なんだラクスか。
 道理で聞き覚えの有る声だと思った訳だ。

 ………

 ……

 …

 って、なにぃっ!!!!????
 思わず納得しかけたけど、ちょっと待て!

「ラ、ラ、ラクスゥ!?
 なんで此処に!? って言うかなんだその胸は!? …じゃなくて、なんだその衣装はっ!?」

 顔を凝視したかと思うと胸、胸を凝視したかと思うと股間。
 視線を忙しく上下させながら、気が付くと私は驚きと困惑の侭に声を上げてしまっていた。

 ………

 ……

 …

 え?

 驚く所が間違ってる?
 い、いや、確かにそうなんだが…

 だ、だけど!
 私が悪いんじゃないぞ!?
 た、確かに地球で別れたばかりのラクスと再会したのは驚きだけど、それ以上に、な?
 つい先日まで私と僅差で争っていた筈のそのムネが、この短期間の間に3サイズはレベルアップしてるんだぞ!?
 確かに此処にラクスが居る事自体「有り得ないだろう!?」って事なんだけど、それ以上に私が急成長したラクスのおっぱいに「有り得ないだろう!?」って念を抱いてしまったとしても不思議じゃ無いよな? な?

 更にだ!
 その2つの「有り得ないだろう!?」だって、実はまだほんの序の口にしか過ぎないと言ったらどうする?

 確かにラクスが此処に居るのは驚いたけど、よくよく考えてみると別に日程的に不可能だった、って訳でも無いしな。
 まあ、ラクスがこの時期にプラントを訪れた理由は大いに気になる所では有るけれど。
 おっぱいにしてもそうだ。
 もし仮に、あのたわわに実った果実が100%天然物だったとすれば、それこそ「有り得ないだろう!?」だけど、もし仮に人口物だったとしたら有り得ない話でもなんでもない。
 どっから見ても天然物にしか見えないけど… 最新医学の進歩って奴は凄いんだよ、きっと。

 …若干見たくない現実から目を逸らした様な気がしないでもないけど、それはひとまず置いといて、だ。
 私が今一番問題にすべきだと思うのは、ラクスが此処に居る事でもたわわな果実でも無くて、今ラクスがしてる格好、その事についてなんじゃないか?って思うんだよ。

 だって、仮にも議長の前なんだぞ!? 常識じゃ考えられないだろう!
 確かに今迄のラクスの服装やキラにコーディネートしていた衣装のセンスなんかから、ラクスがファッションセンスの可哀相な子だって事は知ってたけど… それでも、物事には『限度』って物が有ると思うんだ。
 必要以上に胸を強調しているデザイン。 …わざわざ中央から双乳房を分断してるのは、正直、正気の沙汰とは思えない。
 確かに「車のシートベルトやカバンの紐なんかが胸の谷間に喰い込んでいるのがたまらない」ってアスランも言ってたけど…(余談だが「それは食い込んでも緩急付かない私に対する当て付けか!?」と言う言葉と共に、仕置は完了済だったりする)
 だからっていくらなんでも最初から胸の谷間を分断して強調させるのは、あざといと言うか、正直、恥じらいが足りないとしか思えない。

 だが私も別に鬼じゃない。
 胸をおっきくしたばっかりで、嬉しくなっちゃっただけなんだよな?
 それで少しだけ皆に自慢したくなっちゃって、冒険してみたくなっただけなんだよな?
 同じ女のとして気持ちは分かる。
 分かるぞぉ~

 …だけど。
 だったらその下半身は何だ!
 ハイレグ(死語)水着となんら代わらないじゃないか!
 確かにスカートらしき布切れを纏ってはいるけれど、股間部分が殆ど隠れて無いんじゃ何の意味も無い。
 おまけに歩いた時の振動で上下に大きく揺れた挙句、頻繁に秘密のデルタゾーンが「こんにちわ」って挨拶してくる様じゃ、隠すどころかエロチシズムを煽ってるとしか思えないぞ!?
 あんな格好させられるくらいなら、私ならいっそ体操服にブルマの方がまだマシだ。

 …と、そんな最大級の「有り得ないだろう!?」を前にして、危うく「私の知ってるラクスは死んだ」と言う結論に至りかけていた訳なんだが、当の本人はと言うと私の心の内で故人にされかけてる事なんて露知らず。
 普段と変わらない、…いや、以前より妖艶さが増した気がしないでもない笑みを浮かべて、

「お初にお目に掛かります、アスハ代表。
 素敵でしょう? 実はこの衣装はデュランダル議長がコーディネートして下さったんですわ」

 と、更に私を驚愕に陥れる返事を返してきたのだった。
 私は彼に弟子入りした事を真剣に後悔し始めた。


■■■


 冗談はここまでにしておこう。
 議長が私にもラクスと同じ様な衣装を着る事を強要してきた時は毅然とした態度で断ろうと胸に誓い、そろそろ本題に入ろうと思う。
 でないと何時まで経っても話が先に進まないからな。

 で、だ。
 私が何を言いたいのかと言うと、つまり先程のラクスの台詞で私が気に留めたのは何も「議長のコーディネート♪」って部分だけじゃない、と言う事なのだ。

「…始めまして、だって?」

 そう、本当に肝心なのは寧ろその部分。
 つい先日別れたばかりの私に対して「始めまして」は有り得ないからな。
 自然、問い質す様な口調になってしまった訳なんだが、だけど次の瞬間

「ええ、始めましてですわ」

 と言うラクスの声と、続く議長の

「改めて紹介させていただきましょう。
 こちらはミーア・キャンベル、私がラクス様の影武者にと協力をお願いした女性です」

 と言う発言で肯定されてしまったのだ。

 ………

 ……

 …

 え?

「…ミーア …キャンベル?」

「はい」

「…ラクスじゃなくて?」

「その通りですわ」

 ど、どう言う事だこれは!?
 いや、説明されなくても影武者の意味くらい私も理解しているが… 正直、ここまで似せられる物なのか?
 確かに整形や訓練である程度は可能なのかもしれない。
 だが、言われなければラクス本人と面識の有る私でさえ危うく騙される所だったんだぞ!?

 …幸い私は胸の大きさに多少の違和感を覚えてはいたが、な。
 逆に言えば容姿・声・口調・仕草と、こうまで似せながら胸のサイズを放置している理由が分からないのだが。
 敢えて其処だけ似せない事に、いったいどのような遠慮深謀が秘められている事やら…
 正直、私には想像すら出来ない。

 とまあ、そんな感嘆や些細な疑問を抱えたりもした訳なんだが、なんにしても情報が足りない。
 此処はひとまず頷く事で、議長に説明を促す事にした。

「ラクス様の影武者を紹介させて頂いた事で、アスハ代表がお気になさっていられるのは、おそらく次の2点ではないかと存じます。
 本物のラクス様はこの事を承知なされているか?と言う事。
 そしてラクス様の影武者に何をさせるつもりなのか?と言う事」

 …確かに。
 大雑把な分類のされ方だとは思うが、要約すれば知りたい事はその2点に集約されるだろう。
 もしこれがヤキンの頃の話であれば、ラクスの影武者が用意されていたとしても不思議じゃ無いが。
 だが、既にラクスは一線を退いているんだ。
 確かに今はまたAAと共に一線に戻ってきそうな動きを見せてはいるが、時期を考えると影武者が用意されたのは昨日・今日の話ではなく、ずっと以前の話の筈だから。
 それに、そもそもあのラクスが自分の身代わり(影武者とはつまりそう言う物だ)になる者の存在を、許すとは思えないし。

 なら、議長は… いや、プラント評議会は何故ラクスの影武者を必要としたのか?

 ここで評議会を出したのは、この様な重要な問題が議長の一存だけで行えるとは思えないからだ。
 であるならば、この件に関してはプラント評議会としてなんらかの決定が有る筈なのだ。
 未だラクスの支持者が数多く存在するプラントでこの様な暴挙を行わねばならない、その理由が。

 …考えるにしても、正直なところ今はまだ判断材料が足りないな。
 一時思考を中断し、議長に視線を固定したままもう一度頷く事で話の先を促した。

「…お察しされているのではないかと思いますが、この件はラクス様の御了承を得てはいません。
 ラクス様の性格では、ご自身の身代わりを立てる事を認めていただけないでしょうから。
 今回の件は我々の独断で行動に移った次第です」

 と、そこで議長は言葉を切った。
 おそらく此処で私が反論してくるとでも考えたのだろう。
 確かに以前議長に会った時の私であれば、間違い無く噛み付いたに違い無いが。
 だが、あれから幾許かの時間が過ぎ、多少だが経験を積んだ私は沈黙もまた交渉の手段だと言う事を知っている。
 議長はまだ1つ目の疑問にしか応えていない。
 私が口を開くのは、もう一つの説明を聞いてからでも遅くない。

 私が反論してこない事が意外だったのか、議長は少しだけ驚いた様な表情を浮かべ、次いでなにやら興味深い物を見るような風情の笑みを浮かべた後、更に言葉を紡ぎ始めた。

「…では何故、にも関わらず我々がラクス様の影武者を立てる様な真似に出たのか?
 もちろん、その前提に有るのがラクス様の身の安全を守る為だと言う事に間違いは有りません。
 今は一線を退かれていらっしゃるとは言え、先の大戦でラクス様が見せた活躍はあまりにも大き過ぎた。
 その負の遺産、とでも言うべきか、ラクス様が現在居られる地球には、残念な事にラクス様に対して良からぬ考えを持っている者が大勢居ると言う事は、アスハ代表も存じられているのではないでしょうか?
 であるならば、我々はその様な者達が向ける負の感情の矛先を多少なりとも引き受けて差し上げたい。
 今尚、ラクス様を支持する声がプラントでは絶える事は有りません。
 確かにラクス様ご自身がどう思われるのか? と言う事も大事なのですが、ラクス様を支持するそれら大勢のプラント市民の希望に添う事、それこそがプラント評議会の努めなのですから」

 …正論だな。
 確かに話に矛盾は無く、道理に適っているとは思うが…

「…それだけじゃない」

 それだけの理由でこの様な手段に出るとは思えない。
 ラクスの意思を無視する、と言う事は、言うほど簡単な事では無い筈だから。
 確かに今の説明さえすれば、例え騙されていたとしてもプラント市民は一応の納得はするだろう。
 だが、それはラクスが何も言わなければ、の話だ。
 もし仮にラクスが公然と評議会の行動に異を唱えでもすれば、最悪、現評議会委員の面々は命の危機にすら晒されかねない。
 正直、それだけでは理由として弱過ぎる。

「…おっしゃる通り、確かにそれだけでは有りません。
 ですが、くれぐれも誤解の無き様お願いしたいのです。
 先に言いました様に、前提に『ラクス様の安全』が有ると言う事実は変わらないのですから。

 では何故、評議会がその様な決定を下したのか?
 その決め手となる理由とは?

 …情けない話では有りますが、其処には現評議会の力不足と言う問題が背景に存在するのです。
 先の大戦を経験し、パトリック・ザラの暴挙等の影響も有って、一時、評議会の信用は地に落ちました。
 今でこそカナーバ前議長のご尽力のお陰も有って多少の信用を取り戻しはしましたが、完全に払拭出来たとはとてもでは無いですが言えない状況です。

 …にも関わらず、プラント市民が熱狂的に支持する人物が、評議会議長にと望む人間が1人だけ存在するのです。
 皆まで言う事も無いかもしれませんが、それがラクス・クライン、彼女なのですよ。
 先の大戦で非業の死を遂げたシーゲル・クラインの一人娘と言うバックボーンもさる事ながら、ご自身が歌手としての活動で得られた人気、ヤキンの折に見せた行動力と正義感。
 どれか一つを取ってみたとしても、支持されるには十分な状況です。

 ですが、にも関わらず、彼女はプラントを出て行ってしまった。
 カナーバ議長を始め、多くの者が引き止めたにも関わらず、です。
 傷付いたキラ・ヤマトの側に居たい、と言う裏の事情を知らない市民達の目には、果たしてラクス様の行動はどの様に写ったのでしょうか?

 『ラクス様と評議会の間にはなんらかの確執が有った』若しくは『ラクス様は今の評議会の治世の下では暮らせない、とそう判断した』。

 そんな風に捉えられてしまっていたとしても、何ら不思議では有りません。
 いえ、だからと言ってラクス様を非難するつもりは有りません。
 ただ、ラクス様が下された決断が評議会の信用の低下に繋がっていると言う事は理解して頂きたかっただけなのです。

 …長い前置きになってしまいましたが、その様な経緯の上で、我々はある結論に達しました。
 何の咎も無い筈の我々が、ラクス様の所為で失ってしまう事になった信頼を取り戻す為にラクス様のお力を用いたとしても、多少であれば許されるのではないか?と。
 ラクス様の名を汚さない範囲で、ラクス様が我々評議会を支持して下さっていると言う姿勢を市民にアピールする。
 実は既に先の開戦の折に市民の混乱を宥める為に使ったのですが、実に効果的でした。
 騙す形になってしまった市民には申し訳無いですが、結果的に市民の混乱は最小限で済み、我々評議会も一丸となってこの難局に挑む体制を整える事が出来たのです」

 …なるほど。

 正直、私の手には余る問題だな。
 実際にプラントからラクスを奪う形になったオーブの代表である私が言うには、色々と差し障りの有る問題でも有るし。
 ただ、ラクスを悪く言うつもりは無いけど、同じ指導者として議長や評議会の気持ちは痛いくらいに良く分かるんだ。
 だからと言って、それが許せる事なのか? と問われれば別だけど。
 それでも世に『必要悪』と言う言葉が有る様に、例え許されない事だと分かっていたとしても選択せざるを得ないケースと言うのは確かに存在する。
 現に私がオーブの政策と決別し、反逆に近い形でプラントを訪れた経緯もそれを私が『必要悪』だと判断したからだから。
 あくまで清廉を良しとするのであれば、私はあのままオーブに留まって政策に従いながらも地道に味方を集めるべきだった。
 だが、それではあまりにも時間が掛かり過ぎるし、加速する世界情勢の中では間に合わないと判断したから、私は国政に逆らったのだ。
 そんな私に、どうして議長が責められる?

 もし仮に私に言える言葉が有るとすれば。
 それは

「…市民が真実に気付いた後が大変だな」

 と、そんな心配の言葉でしか無かった。
 そして、それは同時に私自身にも言える言葉でもある。
 この先、私の思い描く理想通りにオーブが歩めたとても、私が国事犯だと言う事実は変わらない。
 そう言う意味ではエターナルの強奪からヤキンに至るまでのラクスの一連の行動も、プラントの政策からすれば十二分に『国事犯』だった訳だが。
 案外ラクスがキラの静養の地にオーブを選んだ理由は、その辺りに有ったのかもしれないな。

 …だとすれば、私もオーブを去る事になるのだろうか?


■■■


 それで今度こそ本当に本日の話し合いはおしまい。
 ミーアに関しては、多少の利用については黙認すると言う事でどうにか話は落ち着いた。

「そうおっしゃって頂くのが一番の難題だと考えていたのですよ」

 と、議長も表情を綻ばせたが、最後に

「でも、その衣装はナシだと思うぞ。
 折をみて先程の理由をラクスに伝えるくらいの協力はさせて貰うけど、衣装に付いて関与するつもりは無いからな。
 間違い無く怒ると思うけど、ちゃんと謝罪の方法を考えておいた方が良いんじゃないか?」

 と、忠告すると、微妙に頬を引き攣らせていた。



 つづく(と安易に書かない方が良い気がしてきた)

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<後書きみたいなもの>

 大変お待たせいたしました。
 そんでもってミーアの本編での出番はもうちょっとお待ち下さい。
 いや、実を言うと本当ならミーアとカガリの対面は番外7話で書く予定だったんですよ。
 だから番外7話の最初の方で議長が何処かに連絡取ってるシーンが有るんです。
 議長とカガリの会話を書き終えた処で面倒になって投稿しちゃいましたが(反省)
 でもミーアを本編で登場させ、シンと絡ませる前に触れておかなくちゃいけない部分だし、良いや、ミーア本編シリアスパートその1で書いちゃえ、とそんな判断をしたんですが… それも没。
 ミーア視点で議長がカガリを言い包めてる場面を書くと、どうしても第三者的な視点になっちゃって

 AはBに「ほにゃらら」と言った。

 それを聞いたBはAに「ほにゃらら」って言ったんだけど…

 みたいな感じで全然面白く無い話に。
 なんで、当初の予定通りカガリ視点の話に、予定外だけど番外編になったのでした。

 …え?
 ジュール隊?
 執筆中に思い付いたから足しましたw

 P.S.
 感想掲示板の方式変更に地味に凹んでます。
 頂いた感想はバックアップ取ってるんで問題無いんですけど、あの数字を何処まで大きく育てられるかが楽しみだったんで。
 頂いた感想を何度も読み返しながら執筆意欲を高めるタイプなんで、これからも代わらず感想頂けると幸いです。

 感想版への直リンク。 少しでも以前の利便性に近付け様とささやかな抵抗w


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