von diu swer sender maere ger,
der envar niht verrer danne her.
"Tristan"
1.overture
空は橙と藍に二分され、境界には紫が燃えていた。西では太陽の残り火が揺れている。東からは重たそうに夜の帳がやってくる。さなかに浮かぶ半欠けの月は暖色の彩りをゆっくりと泳ぐ。その真下で美袋命は息を切らしながら走っている。
髪を短く刈り込んでもみ上げだけを三つ編みにした少女を包む制服は、身の丈よりやや大きい。成長を見込んで仕立てられたものだと一見して知れたが、目尻の垂れた顔つきとあいまって、外見は年相応より幼く見えた。実際年齢を考慮しても、命は小柄だ。背に負った長大で無骨かつ制服に不釣合いな得物も、彼女のスケールを見誤らせる一助となっている。なんとなれば、命が背負う古めかしい剣は、ほとんど彼女と同じくらいの尺だったのだ。
長袖を汗で湿らせながら、命は舗装もされていない道を疾駆する。水田が照り返す夕陽に目を細めながら駆ける彼女を、急きたてるのは空腹だった。
(お腹がすいたな……。でもどうしよう。こんな時間まで遊んでいたと知ったら、ジイは怒るだろうか)
学年の別のない、廃校寸前といった風情の中学で、同窓生と日が暮れるまで命が遊ぶというのは異例のことだ。そういった時間の使い方をすることを、彼女を育てた祖父は毛嫌いしていた。
(晩ご飯を抜かれてしまったり、しないだろうか……)
ありえそうな制裁を予感して、命は紅潮した頬を引きつらせた。一食でも抜かれたりしたら、明日の夜明けまでには餓えて死んでしまうかもしれない。こんなことなら、やはり同級生の誘いを断るべきだったのかも知れない。
(でも、楽しかった)
――おまえは舞姫になれ。そして美袋を再興させるのだ。
酒が入ればことあるごとに命にそういって聞かせる祖父は、偏屈で頑固な老人として、同じ部落の住人には敬遠されていた。広大な敷地を所有しているにもかかわらず、最低限の農地しか拓いていない美袋の家は、周辺の人々から陰口を囁かれる事もしばしばだ。しかし命にとっては唯一の身内であるし、厳しいばかりでもない祖父は嫌いではなかった。むしろ、幼い頃に生き別れた兄の次に好きなくらいだ。
(とにかく、急ごう)
と考えを打ち切って、命は家路を急いだ。
四季は、冬を越して春に代わりつつあった。夜を控えた風は冷たいが、身を切る厳しさはもう含まれていない。上気した体には心地良いほどだ。
さらに走るうちに、山へと続くあぜ道は近年敷設された車道によって途切れた。ここまで来れば家まではもうわずかである。命は走る速度を緩めて、アスファルトに足をかけた。
山育ちの彼女は悪路をものともしないが、地面は平坦なほうが速度は出る。薄い靴のソール越しに拇指が力強く地を食むと、命の体は再び加速に入りかけた。
それを押し留めたのは、横手から声がかかったためだ。
「あの、急いでる所を悪いけれど」
「……む?」
機を外されて、命の体がつんのめる。転がりそうな勢いを地に手をつくことで抑えると、犬のような姿勢で彼女は首をきょろきょろと左右に振った。
「きみ、このあたりに住んでいる人?」
薄手のトレンチコートを肩に引っかけた、若い男が道の横手に立っていた。命は男の質問には答えず、首を傾げて目を見開く。いよいよ沈みかけている太陽を背負っているために、男の顔立ちははっきりとは見えなかった。ただ声の調子と物腰からして、若いということだけは察せられる。命の周囲にはついぞいなかった年代の人間だ。
「誰だ、おまえは。あやしいヤツだ」
言葉ほどに警戒心を表出せずとも、かるく眉根を寄せて質問した。ひょっとしたら学校で稀に取り沙汰される『変質者』という奴かもしれないと、わずかに身構える。その手は早くもせなにある剣へと伸びかけていた。
「怪しいかな? そんなことないと思うんだけど。俺はちょっと道を聞きたいだけでさ、迷子ってやつでね」
「なんだ、迷子か!」
あっさりとその言を信じると構えを解いて、命はにこやかに男に歩み寄った。「それでどこに行きたいんだ?」と、拍子抜けしたらしい男の顔を覗き込む。
「ああ、うん。それがね、たしか……」
ごそごそとコートのポケットを探る男の顔は、間近で観察するとひどく優しげに見えた。比較的整った造作のためか顔立ちに特徴はないが、フレームのない眼鏡の向こうにある瞳は黒々として深い。柔和な顔つきからして、命とそう年齢に開きはないようにも見える。高校生だろうか、と命はあたりをつけた。
(いや、ひょっとして……)
ある予想に突き当たる。真偽を確認すべく命は口を開きかけたが、それよりも先に男の方が話を切り出した。
「実は人の家を探してるんだ。このあたりでは結構有名な名前だと思う。美袋さんっていうんだけど」
「――あ、え? みなぎ……? うん……聞き覚えがある」
「ホント? そりゃ良かった。遠路はるばる来たのはいいんだけど、バスから降りたら田んぼのど真ん中だし人通りもまったくないしで、えらい難儀してたんだ。もしよかったら、どっちの方向に美袋さんちがあるかだけでも教えてくれないかな」
「ちょっと待ってくれ、ミナギ、みなぎ……いま、思い出せそうなんだ」
メモを手に問う男に、首をかしげながら応じる。数秒沈思して、「おおっ」と命は手を打った。
「ど、どうしたの?」
「それはきっとわたしの家だ!」
「はぁ」
ぽかんと口を開けた男は、手にした紙切れに書かれた文字と命を交互に示した。
「えと、それじゃきみが美袋さん?」
「うむ。わたしの名前は美袋命だ!」
「へえ……。いや、驚いた。こんな偶然もあるんだ。俺は高村恭司。東京で考古学の勉強をしてる。きみのお爺さんには前もって連絡しておいたんだけど、よかったら家まで一緒に連れてってくれない?」
ふむ、と命は頷いて、高村と名乗った男を見上げる。
「――恭司か。……もしかして、恭司は私の兄上か?」
「うん? 違うと思うけど、なに、やぶから棒に。そういうきみは俺の妹なの?」
面食らった様子の高村を、命は真摯に見定めた。
「恭司には、妹がいるのか……?」
「いや、妹みたいなのならひとりいたけど、血が繋がったのはいないな。俺はひとりっ子だよ」
「そうか、ちがうのか……」
気落ちした様子を見かねたのか、高村は困惑しつつ命に説明を求める。
「わたしには、兄上がいるんだ」
無意識に肌身はなさず携帯している剣の表面を撫でながら、命は訥々と語った。自分には幼い頃たしかに兄がいたこと。しかし顔はもうおぼえていないこと。父親といっしょに兄はどこかに養子に出されてしまい、以来自分は祖父と二人きりで山奥の家に住んでいること……。筋道立てて何かを話すということがひどく苦手な命も、この話題に関してだけはすらすらと口が動いた。祖父には咎められているが、兄の手がかりを得たい一心で、今よりもずっと幼い頃から方々で人に同じことを聞いて回っているのだ。説明にも慣れようというものだった。
気づけば黄昏時はすっかり終わってしまっていた。命は高村を伴い、家の方角へと歩を進めながら、こう締めくくった。
「ジイは良い顔をしないけれど……わたしはやっぱり、たった一人の兄上に会いたいんだ」
「つまり、生き別れのお兄さんがいて、それが俺じゃないかって思ったわけ? なんでまた」
「……うん。おそらく、恭司くらいの年だと思うんだ。それで、わざわざジイのところに来たというから、てっきり」
「残念だけど、俺に生き別れの妹はいないよ。なにか手がかりとかないの?」
「ある……」
これだ、と命は胸元から首飾りを取り出した。剣と同じく、彼女が決して手放さない、今となっては唯一にひとしい兄の手がかりである。
「兄上もこれと同じものを持っているはずなんだ。恭司、これと同じものに見覚えはないか?」
「どうかな――でも、無差別にってわけじゃないんだ。それでも人探しにはあまりに頼りないと思うけど……。ちょっとそれ、見せてもらってもいい?」
真剣な表情で顔を寄せて首飾りを覗き込んできた高村から、命はわずかだけ身を引いた。
高村は指先で装飾を慎重に確かめながら、首を捻ったり唸ったりしている。命は間近にその様子を眺めながら、妙に居心地の悪い気分になった。新鮮な感情だった。
気もそぞろにさまよう視線は、最終的に高村の指で落ち着いた。柔和な顔立ちに似合わない、それは無骨なつくりだった。短くはないが、太く、節くれだっている。剣を振るうせいで繊手とはとてもいえない命のそれよりも、また年月に塗り固められた彼女の祖父の大きな手よりも、はるかに硬質だ。
高村の手は――人の手というよりは、なにか、研ぎ澄まされ、手入れの行き届いた武器か何かのように思えた。
美袋命という少女の興味は、常にすぐさま行為へと転換される。このときもそれは同じで、反射的に彼女の手は高村の指へと伸びていた。
「やっぱり、かたい、な」
「うん、どうしたの?」
「恭司の手だ。これは生まれつきなのか?」
高村は苦笑して違うよと言った。それからやはり首飾りの持ち主に心当たりのないことを告げてくる。心からすまなそうな彼を見て命は、
「いい」
と笑った。
「恭司が兄上でなかったのは残念だけど、もともとそんなに簡単には見つからないに決まってる。向こうからやってくるなんて思っていちゃだめなんだ。兄上に会いたいなら、わたしが自分で、自分の力で探しに行かなくては」
「そうだな」と高村も微笑んだ。「こうして会ったのも何かの縁だし、俺も帰ったら回りにそれとなく聞いてみるよ。生き別れの妹がいる知り合いはいないかって」
「……おお。本当か?」
「ああ。及ばずながらね。これからきみのお爺さんにはちょっと世話になるつもりだし」
「で、でも、ジイにはわたしが兄上を探してるということは内緒だぞ?」
祖父は父を『裏切り者』と呼び、命に『兄とは会うな』と厳命している。理由はわからないが、どうしても命と彼らを会わせたくはないようだった。高村が命の兄探しに協力すると知れば、何らかの約束を取り付けているらしい彼に対しても強硬な態度に出る可能性もある。
それを聞いた高村は、心得たという風に請け負った。
「オーケイ。じゃ、二人だけの秘密だ」
飾らない言葉に、命は「恭司はいいやつだな」と顔を輝かせた。
指きりまでしたあとで、二人は連れたって美袋本家への道程をたどった。
会話は、命がせわしく何かを話しかけては、それに対して高村が答える形式に終始した。大人の男といえば分校の職員か祖父しか知らない命にとって、高村とのやり取りは目新しいものに満ちていた。勢い口数も増えて、話は様々な事柄へと及んだ。
雑談に熱中している間に、夜はさらに深まっていった。舗装された道からも外れ、命と高村はほとんど獣道といった風情の場所にいた。周囲は草か、でなければ木ばかりで、人影などはもうどこにも見あたらなくなっていた。辛うじて道が敷かれてはいるがその幅は狭く、両脇からは枯草が突き出している。既に美袋の土地へと入ったのだ。
あたりには街灯のひとつもなかったが、命にとっては慣れ親しんだ道だ。暗闇に不便を感じることはない。高村もとくに不思議には思っていないようだった。
異変は、家まであとわずかというところで起こった。
――見えざる何かが空気を響もしている。
「待て」
項の産毛を逆立てながら、命は後続の高村を制した。
「どうかしたのか?」
背後で首を巡らせる気配を察しながらも、命は高村を顧みはしなかった。余人の手届かぬこの山中で、生まれて以来練磨されつづけた感性が、少女に知らせていたのだ。
「音がない。おかしい。静かすぎる。それに……ミロクが震えている」
「ミロク?」
「気を付けろ、恭司」
――危険の到来を。
「なにか、くる」
音もなく剣を抜き払う。闇に鈍く輝く金属の光沢に、高村がひそやかに息をのむのがわかった。
「それ、本物か? 来る……なにかって?」
わからない、と言いかけて、命は頭を振った。
「敵だ」
言下に暗がりから闇がまろびでた。
「危ない!」
警句とほとんど同時、闇が視認すら難しい勢いで飛来し、命がいた空間を圧倒的な質量が薙ぎ払う。狂猛な爪を具した、それは長大な腕だった。鋼のように黒く、年経た樹木さながらに太い腕だ。
伏せて一撃をやり過ごした命は、不意の暴力の主を睨み据えた。
「おまえ……」
命の代わりとばかりに草を薙ぎ払った腕は、やはり同じように黒い胴体へと繋がっている。黒い装束を身に纏っているのではなく、地肌の色なのだと知れた。鋼色の体躯ははちきれんばかりの肉を詰め込んで、今にも爆発しそうに見えた。
巨体である。胴回りでゆうに命の三倍、背丈も二倍近くある。奇形ですらなく、人型を模しているのは何かの酔狂としか思えない。
闇の中でホオズキのように紅く点るのは、おそらく双眸だろう。命の優れた視力は、凝視するうちに光の収まる器を浮かび上がらせた。厳しく歪められた顔は、怒り以外の感情を知らないようだ。そのように象られている。広く人が、鬼と呼ぶもののかんばせに相違なかった。
「おまえ、おまえ……」
しかし、敵の異形であることなど、命にとって問題ではなかった。それよりも気にかけなければならないことがある。剣の刃を起こし、動揺と興奮のはざまを行き来しつつ、命は叫んだ。
「――どうしておまえから、ジイのにおいがする!」
血臭が、鬼の口から漂って、命の卓抜した嗅覚を刺激していた。
叫喚を嘲るように、鬼の口元が歪む。爪と同じように鋭い牙が見え隠れする。夜に順応した目は、牙に張りつく赤色を見逃さない。
その意味するところを悟れないほど、愚昧な少女ではないのだ。
刹那に、命の意識は沸騰しかけた。血が滾り敵を倒せと叫んだ。本能の手綱を放すべきときがきていた。彼女は本能で理解していた。
わたしは、この日のために鍛えられた。
「恭司、逃げろ……戻れ、道を、まっすぐ」
歯軋りの隙間から、かろうじて理性的な言葉をこぼすことができた。戦えないものが戦場にいても邪魔にしかならない。思う様磨き上げた技術を発揮するには、背後の男は余計だ。
返答は呑気なものだった。
「うん。そうしたいところだけど、まずいな。他にもいるみたいだ」
注意を眼前の鬼から逸らさないまま、命も左右へ意識を向けて気がついた。確かに狭い道を囲むようにして、いくつかの気配が草場に伏せているようだった。
「……そうか」
長大な剣の刃筋を立てながら、身を起こす。なすべきことは単純明快。高村を守りつつ、周囲の異形を鏖にすればいい。そして一刻も早く祖父の安否を確かめるのだ。
決めてかかれば、簡単に思える。
造作もないような、気がする。
揺らぎが払拭され、命の矮躯を闘志が満たした。
「安心しろ、恭司。わたしがおまえを守るから」
「そりゃ、ありがたい。俺もせいぜい、邪魔にならないようにするよ」
草を踏む音。高村がコートを脱いだ。腕を上げ構えた。後頭部に目があるかのように、その様が見える。感覚が冴え渡っている。
「いくぞ、ミロク」
呼応するように剣が震えた。
――待っていろ、ジイ。
囁いて、命は跳躍する。
血戦が開かれた。
※
「本当に、埋めるだけでいいのか?」
「――うん。いいんだ。いつもジイは、死ぬときはこの山に還るって言っていたから」
「条令違反だと思うんだけどな。これ、死体遺棄になるのかな……」
腫れぼったい目で、農具で地面を繰り返し穿つ高村を見ていた。
祖父を埋葬するための穴を掘っているのだ。
鬼たちを一掃して家にたどり着いたとき、祖父はもう事切れていた。死体が人のかたちを保っていたのが、せめてもの救いだろう。掃除の手間もさほどかからずに済んだ。しかしもちろん、そんなことは命にとって何の慰めにもならなかった。死体を発見した彼女はひどく取り乱し、先ほどまで高村になだめられていた。泣き顔も見られてしまった。今は落ち着いたが、ばつが悪く、それ以上に空虚な心地で、高村の作業を見守っている。
傍らには目蓋を伏せられた『ジイ』の遺体が寝かされていた。五体満足だが、首はなかばから肉が噛み千切られており、赤々とした肉の断面や白い頚椎がのぞいている。ときおり目を移しては、居たたまれなくなって逸らすことを、命は繰り返していた。
悲哀も寂寥もあったが、もっとも大きな感情は不安だった。いま、この世に美袋命は一人きりなのだ。生き別れの兄や父はどこかにいるのだろうが、探すにしてもその情報を持っていたであろう祖父は、もういない。
(――どうしよう)
何をすればいいのか、わからない。
「恭司、やっぱりわたしも手伝う」
「いいから。いまはおじいさんのそばにいてやれ」
断乎とした口調は、逆らうことを許さない。祖父と同じような頑固さを高村の中に見出して、命は口元をほころばせた。
「ありがとう」
「なにが。人として当然のことをやってるだけだよ、俺は」
息を弾ませながらの答えは、命にとって少なからず意外だった。
「……そうなのか?」
「そうなのだ」
「そう、なのか――」
羽織らされたコートの襟を合わせる。しばし、土を金具が刺す音だけが森に響いていた。
頭上では、半月が晧々と照っていた。そのすぐ隣に、芥子粒ほどの光点があるのを命は発見した。今までは真冬の、風が澄んだ夜にしか見えなかったものだ。
茫洋と光る、禍々しい赤色。
(媛星――)
その星を指して祖父がそう呼んでいたことを、命は思い出していた。
「ジイ」
嗚咽の衝動がぶり返し、命は高村のコートに顔を埋めた。
鳴れないにおいが鼻腔を満たす。落ち着かない気分になった。
「ジイ」
名を呼んでも、屍は答える言葉を持ちはしない。
不意に頭に手が置かれた。ごつごつして硬い、しかし優しい指が命の髪を梳いた。
これが兄の手ならばどれだけ心強いだろう。どれほど励まされただろう。こぼれる涙などたちどころに止まり、無理にでも笑顔を浮かべられたに違いない。
いや、兄さえいればそもそも我慢する必要などなくなるのだ。妹として甘えることが許されるのだ。ならば命は悲しみのままに胸にすがりつくことができる。
しかし今この場にいるのは、今日出会ったばかりの高村だけだった。命の頭を撫でる手も、兄のものではない。
見あげた先には、もらい泣きしそうな顔をしている男がいた。
(兄上に、あいたい)
弱さを見せたくはない。
うつむき、命はさらにきつくコートを抱いた。
高村が兄であったならどれだけいいだろうと思った。
盛夏にはまだ遠い初春の夜、美袋命は独りになった。