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[18472] ―― EDGE ―― ネギま(オリ主)
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/07/10 18:15
この作品は、習作です。ネギまです。
最近の原作のインフレっぷりに当てられてちょっと書きたくなった。
で、他の最強を考えてみた。
でも、多分強いけど最強ではないと思う。

以下の方は回れ右。

・オリ主なんて嫌い。

・厨二なんて嫌い。

・最強モノなんて(ry

・独自設定なんて(ry

・オリキャラなんて(ry

まあ、作者は原作好きですよ?

作者はチキンハートなので苛めないでください。










プロローグ




ある種、それは誕生に似ていた。

生まれてから培った全ては失われ、支えもなく全てがゼロになった。あるのは命だけ。

響く声。

それはまるで産声のように、だが篭められる思いは喜びでも存在の証でもなく、怨嗟であった。













それは突然であった。



遠く魔法学校から一ヶ月ごとに行われる帰郷。まだ幼い少年にとって両親からはなれて学ぶ魔法学校は時折寂しく感じてしまう。

だから、久しぶりの帰郷に心躍らせ、父と母に会えるのを楽しみにしていた。

しかし、それは適わなかった。


目についたのは燃え盛る建物、突き出された杖とともに灰色に固まるオブジェ。

夜の闇は大地の炎に照らされて、いっそ幻想的ですらある。

魔法使いの家に生まれ、自身も魔法使いになるべく学んでいるというのに尚非現実的な光景。

それらを前に少年の心は追いつかず、足を止めてしまった。

人としては当たり前な反応。しかしそれは、現状で最もとってはいけない反応であった。


『“召喚魔法”』


知識はあった。されど自身扱うことは無く、見たこともなかった。

地響きとそれに伴なう揺れ。地から溢れる様に姿を現す異形の群れ。

頭部から生える角、背に負う鉤爪のついた翼、大木ほどもある太い腕、あるいは口蓋からはみ出る牙。

目に付く限り人とは異なる存在。

『“悪魔”』

少年が自身を取り戻したときにはすでに手遅れだった。

周囲は大小様々な悪魔。少年を取り囲むように固め、家々は崩れ燃え盛り逃げも隠れも適わない。

震える体を自ら抱きしめて、大声を上げ助けを求める。

しかし、それに応えたのは取り囲む悪魔たちの下卑た薄笑いだけだった。





悪魔たちにとって召喚者は仮にも主である。

周囲のオブジェと化した大人たちのように、律儀に石化していることから殺戮が命令ではない。

とは言え所詮悪魔は悪魔。

目的に影響を及ぼさない程度なら簡単に命令を破る。

そしてたかだか子供一人のために石化できる上位悪魔を呼ぶような律儀さなど持っていない。

そう、簡単に言うのなら子供一人の生死など誤差なのだった。

少年は悪魔たちに嬲りものにされた。


悪魔たちの隙間を抜けて逃げようとする少年。

それを軽く小突き転ばす。

しかし、圧倒的に違う体格と膂力で行われたならば、それは容易く少年を破壊していく。

まるで出来の悪いピンボールの様に悪魔たちの間を弾かれ壊れていく少年。

腕を吊り上げられ、片足を喰い千切られた。

響く絶叫。

哂う悪魔たち。

しかし、少年に気を失うことは許されない。

少年の狂態を眺めるために悪魔が魔法をかけたから。

引き千切られる片腕。それでも終わりは来ない。

失血死できぬよう悪魔が傷を焼き塞ぐから。

抉られる目。両目は塞がない。

より恐怖を与えるために。





千々に乱れる意識のなかで、少年は見た。

それは破滅の閃光か、終わりを告げる福音か。余興を楽しむ悪魔たちの背後から、強大な魔法が放たれ悪魔たちを蹂躙していく。

その威力は凄まじく、山を抉り空を貫く。

その余波を浴び木の葉のように舞った。悪魔たちもまた焼かれ吹き飛ばされ消えていった。




少年は生きていた。

数々の偶然が少年を繋ぎとめた。

森の木々が落下から身を守ってくれた。意識は魔法によって失っていなかった。失血をとめられていた。片目は光を失っていなかった。

なにより本能が生を選択した。

人間は死に瀕すると本能が生きるための行動をとる。それは種族維持本能による性欲だったり、五感の鋭敏化だったりする。

少年の本能は生きるために食べることを選択した。

少年の前には弱った生き物。魔法の余波を受け瀕死の生き物。弱小なれど高エネルギーを内包する悪魔。

少年は齧り付いた。









あれから数日。

痛みと苦しみ、そして渇きから幾度もの失神と覚醒を繰り返し山を彷徨った。

それでも生を繋ぎ留めたのは沸き上がる憎悪。

苦痛、恐怖、絶望、悲哀、憤怒、虚無。あらゆる負の感情で焼き尽くされた精神。

それでも残ったものは憎悪だった。

その憎悪を糧に生にしがみ付く。死ねば何も果たせぬと。


少年はいつしか立ち上がり、それは帰巣本能ゆえか廃墟と化した村に辿り着いた。

かつての面影はなく、未だ僅かに燻っている。

村人の石像は運び出されたのか、残ってはいなかった。


暫らく眺めてはいたものの、かつての自宅へ足を向けた。


焼け爛れたドアにかつての名残が見える。だが何も残ってはいなかった。

屋根は焼け落ち、壁は煤で以前の白い壁は見えない。

家屋の内側も延焼したのか残骸があるばかり。

ガラスは割れ砕かれていた。

割れ、あるいは溶けたガラス片。

微かに反射する光が赤色を放っていた。


そこで初めて気付いた。

割れたガラスに映る人影。自身とは違う容姿。

なのに影は自分と対称的な動作をする。

今まで気付いていなかった。落ち着いたようで未だに前後不覚だった。

何時から歩いていたのか、何時から目が見えるようになっていたのか。


慌ててガラスに付いた煤を拭った。

ふとその手見てみる。その腕は失ったはずだった。

少年はじっと手をみる。

自身の手であれど、どこか鋭さをもっている。

ガラスの欠片の中の自身を見る。

造形に面影はある。しかし、金に輝いていた髪は、血を浴びて乾いたように黒ずんで、失った筈の右目は爛々と暗い光と灯していた。


笑いが起こる。

嗤うしかないというように溢れ出す。

それは零れるように、そしていつしか狂ったように。

嘲りか悲しみか、あるいは怒りか。しだいにそれは涙が混じり、ただただ主張するように哭き上げた。







それは産声にも似て。

しかし、誕生の喜びではなく怨嗟を湛えていた。





















幕間1






side:メルディアナ魔法学校・校長室





地球。いわゆる魔法世界における呼称“旧世界”。その拠点のひとつたるメルディアナは混乱からようやく醒めつつあった。

魔法使いの村への悪魔による襲撃。軍隊一個大隊に匹敵する戦力を保有する村が壊滅した大事件。

救助できたのはたった二人。それ以外のほとんどの村人は石化されてしまった。

しかし、英雄の一人息子が救出されたのは僥倖か。

その事実を噛み締め、校長は溜め息を漏らした。


「しかし、これだけの戦力を壊滅とは・・・。並の手の者ではあるまい」


調査から挙がった資料に目を通しながら、今後について考える。

まずは石化された村人たち。魔法界の術者ですら解呪できなかった石化の魔法。

おそらくは爵位級以上の上級悪魔の仕業であろう。そして多数召喚された下級悪魔のレベルも並ではなかったようだ。

もしかすると想像以上に上の人間が関わっている可能性がある。それも多数。

藪を突いて大蛇を出しかねない状況に眉を顰めた。


「・・・まずはネギを守る状況を作らねばならぬか」


十中八九が怨恨。あの村の戦略的価値は低い。

それにネギが言うには「お父さんが助けてくれた」とのこと。

ならば目的はネギ・スプリングフィールドということになる。


世界を救った英雄ナギ・スプリングフィールド。

英雄には多くの味方とともに多くの敵がいる。

自身の息子を巻き込んだナギに心の中で馬鹿めと罵りながらも、あの状況からネギを救ってくれたことに感謝した。


自身の手の内にあるうちは自身で守れば良いと見切りをつけ、資料に目を通していく。


『“被害者一覧”』


苦々しい思いでそれらを眺めていく。

そこには氏名とともに状況が書かれている。

石化の破損状況。あるいは死亡といったもの。




多くは石化されていたと云っても、全ての村人が石化されていた訳ではない。

なぜなら石化の能力を持つ悪魔はそう多い訳ではないからだ。

特にこれだけ強力ならば爵位級悪魔。そこまでいくと召喚すら困難になる。

そんな爵位持ちが、律儀に一人ひとり石化していく訳があるまい。

多くを一薙ぎにしながら下級悪魔に残党を当たらせた。そんなところだろう。


その中に一人だけ違う記入があった。


『“行方不明:レイ・ティアーズ:10歳:男性”』


むうっと短く唸りを上げ詳細を読む。

学校からの月一の定期帰宅。その最中の襲撃。

村の状況から鑑みるに、生存は絶望的でさえある。

初歩の魔法しか知らぬ僅か十歳の少年が、果たしてどうしてあの地獄から生き延びられようか。

石像も遺体も見つかっていないということだが、建物の下敷きになったかあるいは燃え尽きたか。


幼い命を諦めることに罪悪感を感じながらも、現状では捜索隊すら組めない。

校長は書類に二重線を引き修正を入れた。


『“死亡確認:レイ・ティアーズ:10歳:男性”』



そして、ネギ・スプリングフィールドを守るための情報操作を始めた。










この瞬間、少年“レイ・ティアーズ”は自身の姿形を失い、そして公的に死亡した。




世界にひとつ闇が生まれた瞬間であった。







プロローグ了







[18472] 第1話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/04/30 00:17



第1話  「刃」






とある国の戦場にほど近い街のとある一軒家。『“MOON CHILD”』という名の傭兵団のアジトのひとつである。

その部屋のひとつから歓喜に満ちた笑いが響いていた。


「あはっあははははっ! あっはっはっはっはっ!!」


パソコンのモニターを前に爆笑しているのは、かつて“レイ・ティアーズ”と呼ばれた少年である。

あの事件より6年もの歳月が流れ、少年期と青年期の狭間らしい若々しさを醸し出している。

しかし、その見た目とは裏腹に眼の奥には暗い炎がちらついている様に見える。


そんな少年が突如後から叩かれ、その笑いを止められた。


「ちょっとエッジ! 何時だと思ってんのさ。馬鹿笑いしてんじゃないよ!」


スパーンと良い音をさせ、馬鹿笑いを止めたのは妙齢の女性である。


「痛い月子。一々“気”を込めるのはやめてくれ」

「馬鹿笑いしてるあんたが悪い」


抗議の言葉も何のその、「ふんっ」と鼻で笑い飛ばした。


「で、どうしたんだい?」


と、急に真面目な表情で問いかけてきた。

長年の付き合いである。あまり感情的ではない少年が馬鹿笑いするからには、それなりの理由があると勘付いたのであろう。

“エッジ”と呼ばれた少年は、そのことに半分の嬉しさと半分の悔しさ苦笑に滲ませながら答えた。


「手掛かりが見つかった」


と。





月子と呼ばれた女性は、その名から判るように傭兵団『“MOON CHILD”』のリーダーである。

自らの名を文字って付けたらしい。

姓は“青山”といったが、本人が嫌っているため呼ばれることはない。

『“京都神鳴流”』と云う名の武術を扱い、“気”に精通する武芸者である。

少年にとっては恩人であり、師匠でもあり、あるい母であり、姉代わりでもある頭の上がらない女性である。

そんな彼女とは6年前に出会った。












――――――――― 6年前









廃墟を後にした自分は再び山を彷徨っていた。

自身の姿を見て、救助は求められないと思ったからである。


血が乾いたような赤黒い髪、不気味な紅を宿す右目。

考えに考え思い出した結果、それは無我夢中の時に口にしたモノが原因だと気付いた。

口にしたモノ。


『“悪魔”』


死に掛けていた自分が生きるために食べた高エネルギー体。

それが自身を死の淵から蘇生に漕ぎ着けた要因だった。

その代償が同化?あるいは融合?といった悪魔との同一化であったのだ。

尤もそこまで理解にいたるには数日の時が必要であったが、ある種本能として人は拙いと思い至った結果だった。


しかし、10歳の少年が生きていけるほど山は甘くない。

雪があるから水はなんとか手に入った。しかし、冬の山に実りがあるはずがなく、必然飢えることとなった。

ならば動物をと意気込んで、獲物を追うも10歳のガキに捕まる獣なぞいない。

ならば魔法でと覚えたて“魔法の射手”で仕留めようと思ったとき初めて異変に気付いた。


魔法が使えない。


魔力はある。“魔力”とは森羅万象全てに宿る力で、どんな人間も大なり小なり持っている。

そして、魔法使いの家系に生まれた自身にも当然の如く宿っている。

それは決して大きい訳ではないが、それなり以上の魔力を有していた。否、今も有している。


なのに発現しない。


それは何よりも致命的で、目の前の狼一頭すら追い払うことが出来ないということだった。


半ばパニックになり必死で暴れまわった結果、撃退には成功した。けれども最早疲労の極限で、指一本動かすのがつらい状態だった。

そんな時だった。

おぼろげな視界の中、一人の女性がこちらに向かって走ってくるのを捉えた。

彼女は何か言っているようだったが、既に力が尽きかけている身、静かに意識を落とした。





気がついたとき、そこはひとつのテントの中だった。

気配で気が付いたらしい彼女は、警戒心あらわにする自分の側に来て、自分を拾う前からのこと拾ってからのことを話してくれた。

傭兵として雇われ事件の後片付けにきたこと、小さな違和感に引かれて森に入ったこと。

そして狼と戦う自分を見つけたこと。

そのことで「すぐに助けなくてごめんね」と謝られた。それには理由があったのだけどと付け足して。

こちらには特に質問をすることなく、しかし良く喋る人だった。

色々聞いた。彼女の名前・職業は言うに及ばず、出身国は日本だ、実家は退魔武術の分家だ、折り合いが悪くて家出したなど。

そして最後に二つ質問をしてきた。


「ねぇ、貴方の名前は?」


それに対して「無くした」と応えた自分に向かって、


「どうしたい?」


と微笑んだ。









それが6年前。


彼女の「どうしたい?」という問いに、「力が欲しい」と応えた自分。

そんな自分に「名前がないと不便だね」と微笑って新しい名前をくれた。


「君はまるで鋭い刃物みたいだ。だから『エッジ』。君は『エッジ』だよ」


そうして少年は『エッジ』になった。







あれから6年の時を過ごした。

いつしか明かした自身の秘密。事件のこと。本当の願い。

それを止めるでもなく諭すでもなく、彼女は最初の願いの通り力を与え続けた。

厳しく。されど優しく。

いつでもそうだった。

彼女は大事なことほど自身で決めさせる。

だから、この時もそう。


「行くの?」


真剣な表情で確かめる様に見つめる視線に真っ向から見返し、


「ああ」


としっかりと肯いた。







――――――――― 出発の朝






傭兵団の仲間達が皆で見送りに集まっている。

復讐への旅だというのに不思議な話だ。尤も、それを知っているのは月子と僅か数名。

でも、知っていても来てくれそうだとエッジは思った。


「行き先は極東だっけか?」

「ああ、日本だ」


仲間の問いかけに軽く返しながら月子を待つ。

月子が渡すものがあると言っていたからだ。


「エッジ!!」


アジトの二階バルコニーから声が掛かった。

それとともに投げられる長い包。

危なげなく受け取ると、ズシリと重い。それは刀だった。


包を開けると現れる一振りの刀。

共作りの毛抜形太刀。それでいて形状は大太刀に近い。

鍔は無い。

極めて実戦向けに作られている。

鞘すら鉄拵え。さらには、何やら術すら掛けられているようだ。

抜き放った刀身は実用一辺倒。直刃の黒みがかった刀身に、長めのハバキが付いている。

ハバキに彫られているのはサンスクリット文字だろうか。

しかも唯の鉄ではないようだ。

神鳴流の伝統の長大な野太刀ではなく、長さは3尺程度の大太刀。


「そいつは隕鉄さ」


刀を吟味していると声が掛けられた。


「あんたように拵えたものだ。普通のじゃ、もたないからね」


と言って、刀の詳細を教えてくれた。

そして、冗談めかして「青山の剣士にあったら宜しく言っておいてくれ」と笑った。





「もう行きな」

「…ああ」

小さな沈黙をはさんで頷いた。

荷物を背負い後を向く。

背中に声が掛けられた。


「結局、あんたの拠り所にはなれなかった。けど、羽を休めるくらいはできるだろう。好きなときに帰ってこい」


立ち止まった背中に優しい声が掛けられる。


「いってらっしゃい」


恩人であり、師匠でもあり、あるい母であり、姉代わりでもあった。

それでも、立つ寄る辺とはならなかった。

それが申し訳なく、少しだけ悲しかった。

だから一言だけ返した。


「行って来ます」









第1話 了





[18472] 第2話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/04/30 11:48


第2話  「麻帆良」









エッジが見つけた情報は二つ。

ひとつは「6年前の事件の生き残り」。たった二人だが確かに生き残っていた。

その二人の名は、


『ネギ・スプリングフィールド』

『ネカネ・スプリングフィールド』


という。


この名を見たときはどんな冗談かと思ったものだ。

生き残ったのが『英雄』の血縁。しかも片方は実子。


ならばあの事件は、犠牲者たちは茶番だったのか? あるいは巻き込まれたか。

兎にも角にも全てがスプリングフィールドに掛かっていることだけは確かなようだった。


そしてもうひとつの情報。


『ネギ・スプリングフィールドが麻帆良学園都市へ修行に赴いている』


“麻帆良学園都市”とは月子曰く、極東最大の魔法使いの街であり関東魔法協会という組織の本拠地でもある。

曰く、日本にあるもう一つの魔法組織“関西呪術協会”とは犬猿の仲。

ちなみに神鳴流は“京都”と冠することから呪術協会よりだそうだ。


なんにせよ事件の中枢にいるだろう情報源。接触する以外に情報を得ることはできまい。

魔法使いの極東本拠というだけあって堅牢そうだが、学園都市という面がおそらく穴だろうと密航船の中で考えていた。


ちなみに、何故ネカネではなくネギへ接触するかというと、麻帆良には『“紅き翼”』の高畑・T・タカミチがいるとの情報もあったからである。





時は四月

――――――――――――― 日本






長い船旅を終え、ようやく着いた日本。

とは云え、ここは日本海側。麻帆良へは山を越えなくてはならない。

尤も、砂漠・ジャングル・雪原・山岳と戦地を渡り歩いたエッジにしてみれば、危険のない山なんぞ散歩である(この場合、危険とは襲撃にあたる)。


早速準備を整え山越えを行う。

食料を背負い、山を歩き麻帆良を目指す(ちなみに食料は買った。エッジは英語を苦手とする月子のおかげで日本語を話せる)。







side:麻帆良






中等部にある学園長室では二人の男が話合っていた。

一人は壮年の男性。無精髭を生やし、眼鏡をかけた柔和そうな男である。

しかし、見るものが見れば解かるだろう。一見何気なく立っている姿勢は実に隙がなく、相当の手練であることを窺わせる。

彼は高畑・T・タカミチ。NGO『悠久の風』に所属し、かつて『紅き翼』とともに行動していたとも言われている。

一人は高年の男性。長い髭と長い眉を蓄え、極めつけは長い後頭部を持つ老人である。

しかし、実態は関東魔法協会理事であり、魔法・政治ともに手腕の長けた老狸、近衛近右衛門である。

話の主題は、明日に控える学園都市の全体のメンテナンス日についてである。


「エヴァはおそらく明日、動くじゃろう。さりげなく情報を流しておいたしの」

「そうですか。まあ、エヴァなら殺すことはしないでしょうし」

「うむ。ネギ君の良い修行になるといいのう」


エヴァとは『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』、『闇の福音』と呼ばれる吸血鬼の真祖である。

彼女はある事情で呪いを掛けられ学園に封印されており、その封印と呪いを解くためにネギ・スプリングフィールドの血を狙っている。

学園長はそれを利用し、ネギの成長に当てようと画策しているのである。

また彼女の封印は、実は学園の電力による結界であり、その情報を学園長はそれとなく流しておいた。


「しかし、学園結界が落ちるということは学園都市内で魔物が活動できるようになる、ということじゃ。この機会に図書館島を狙うもの、魔法協会を狙うもの、そしてあの娘を狙うものも来るじゃろう」

「ええ、それ以外にも学園内には貴重な品や技術、貴重な人材がある」


学園都市は外と一線を画す。

それは魔法秘匿のための認識阻害の影響なのか、偶然が重なりそういう人材が集まったのかは判らないが、人材・技術ともに異常なほどのスペックが視られる。

人材は、一般人でさえ“気”と呼ばれる超常能力を駆使する(尤も、一般人といっても裏の世界を知らないという意味。普通人ではない)。

技術は、先進諸国の軍事機密すら凌駕するほどの技術力が視られる。

さらに、それらを生み出したのが学生だといことだ。異常さ此処に極まれりである。


そんなことから学園都市を狙う存在が後を絶たないのだ。

尤も、普段は学園都市外周に探知の結界と高位の魔物を封じる結界が張られているし、学園内の魔法使いの教師・生徒の魔法先生・魔法生徒が警備をしている。

学園の魔法先生達の実力も高い。

生半なことでは侵入できないのだ。


しかし、今回はその内の高位の魔物を封じる結界が解除される。

高位の召喚魔法使いにとっては見逃せないチャンスである。

だからこんなにも警戒しているのだ。


一人の見習い魔法使いの成長のために学園を危機にさらす。

教育者としては失格であり、責任者としては愚にもほどがあることを感じながらも、次世代の英雄のためにとやめる気はない。

それはエゴだと認識しながらも、ならば尚の事と警備を強化を心がける。


「明日の警備は人員を倍増する。学園全域に展開と同時に、エヴァとネギ君の戦いに干渉しないように通達。高畑君は本部で待機。いつでも援軍に駆けつけられるようにな」

「はい」





そうして時は回り、再び夜が来る。






幕間2






side:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル




「・・・どうだ?」


暗いコンピュータ室でそう問うのは『闇の福音』エヴァンジェリンである。

問われたのはその従者、絡繰茶々丸。魔法と科学の結晶である。

最近になって得られた情報を確認しようと、学園中枢サーバへハッキングを行っているのだ。


「予想通りです。登校地獄の呪いの他に、マスターの魔力を封印している結界があります。動力は電力です」

「ふん、10年以上気付けなかったとは・・・」


苦々しい表情で呟いた。「しかし」と一転表情を緩めると、


「これで最終作戦が実行できる。フフフ・・・、坊やの驚く顔が目に浮かぶわ」


と高らかに笑い上げた。






side:エッジ




「・・・これが麻帆良か。デカイな・・・」


山を越え麻帆良外輪に到達したエッジはそう零した。

高台から見下ろす学園都市は広大であった。優に街ひとつを丸ごと抱えている。

学園“都市”とはよく云ったものである。

(・・・・・・探知の結界に、・・・これは対魔封印か?)

右目の眼帯を外し結界を視た結果、探知と封印だと思われた。

(やはり侵入阻害はなしか)

学園都市という特性上、人の出入りは必然。侵入阻害は出来なかったということだろう。

エッジにとっては、探知はともかく封印が問題であった。自身の内側にある魔族の力。それが影響を受けるかどうか。

尤も、外へどうこうする能力ではないため、大丈夫だろうと当たりをつけ、夜を待つ。

侵入は夜のほうが良い。



夜を待つ。










第2話 了




[18472] 第3話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/05 21:33

第3話 「対面」






午後8時


街灯を含める全ての電気が落ちていく。

現代に於いて、人工の光がない場所などほとんどない。戦時統制下かジャングルなどの僻地だけだろう。

そんな時代に、科学の街の全てが暗闇にのまれていく様は、ある種幻想的でさえある。


そんな時、停電と共に対魔封印結界が落ちた。


そういう仕様なのか、何かがあったのか。しかし、チャンスではある。

内部の一部も騒がしくなり始めた。他にも侵入者がいたのだろう。

エッジは様子を見て、この騒ぎを期に侵入を決めた。






――――――― 学園内





「氷爆!!」


宙を舞うエヴァンジェリンから魔法が放たれる。

空間を爆破し、氷結させる魔法は防御を超え僅かに体表を凍らせる。


ネギ・スプリングフィールドは劣勢であった。


本よりネギとエヴァンジェリンには覆しようのない実力差が存在する。

それは、魔法運用技術であり体術であり戦闘経験である。

如何に“天才”などと呼ばれていても、600年にも及ぶ経験差は如何ともし難い。

つい先刻まであった僅かな勝機である魔力量の差は、結界が落ちたと同時になくなっている。


(すごい力だ。とてもかなわない! でも、あと、あと少しで・・・)


それでも僅かずつ誘導を繰り替えし、橋へ向かってゆく。


「ハハハ! どうした! 逃げるだけか! もっとも、呪文を唱える隙も与えないがな!」

―――リク・ラク・ラ・ラック・ライラック


再び始動キーと共に呪文が唱えられていく。


「来たれ氷精 大気に満ちよ 白夜の国の凍土と氷河を こおる大地!!」

「っわぁー!!」


地より突き立つ氷柱に吹き飛ばされ、地面に投げ出される。

力量差は歴然。しかし、身をうつ伏せに横たえながらも、目は諦めていなかった。

何故なら、今まで逃げに徹していたのはこの一瞬のため。

決着をつけようと歩を進めるエヴァンジェリンへ、渾身の罠が発動する。


「なっ・・・!? こ、これは・・・捕縛結界!?」


地面が光を放ちながら魔方陣を描き、光のロープが四肢を絡めとる。

エヴァンジェリンと茶々丸は完全に捕らわれた。

罠の成功に「やったー!」と喜びを全身で表しながら、ネギは勝者として勧告した。


「これで僕の勝ちです! さあ、おとなしく観念して悪いこともやめてくださいね!」

「・・・・・・やるなあ、ぼうや。感心したよ」


そう零すと共に笑いだした。

そこには負の感情はなく、歓喜が見て取れた。


突然の笑いに不信が募る。

ネギのミスは、相手の降伏を見ずして勝利を確信したことだろう。

確かに、本来捕縛結界に捕らることが出来たならば、そうそうに抜け出すことは出来ず、勝利は確実だっただろう。

しかし、実戦において絶対など存在しないのである。

ことさら幼少から一人で過ごして来たネギにとって、勝負という経験がほとんど無い。

そして無いが故に、勝利条件を誤ったのである。


ガラスが軋むような音と甲高い音を響かせながら結界は破壊されてしまった。


そうなると一転、再び劣勢に立たされるネギである。

従者の茶々丸によって呪文詠唱を封じられ、杖も奪われて投げ捨てられてしまう。

結果、子供のような駄々を捏ね、泣き喚くに至った。

敗北の結果、エヴァンジェリンによって吸血されそうなところへ、二つの介入が起きた。



一つはネギ・スプリングフィールドの従者、神楽坂 明日菜である。

ネギの使い魔のオコジョから連絡を受け、救援に駆けつけたのだ。


そしてもう一つ。

麻帆良内での騒動の様子を伺いつつ、機会を見ていた存在が侵入を果たした。


「やれやれ、少女が少年を襲っている。これが噂に聞く痴女と云う奴か」






side:エッジ



侵入経路の選択と内部の騒動の位置を確認しつつ、結界越しに様子を伺っていた。

他の侵入者は囮である。

できるだけ麻帆良の戦力を引き付けてもらい、楽して侵入したい。

そして機会が来た。

どうやら他の場所で大規模の召喚を行ったようだ。

そちらに戦力が流れるのを確認して侵入を果たした。



「やれやれ、少女が少年を襲っている。これが噂に聞く痴女と云う奴か」


どうやら痴漢現場に出くわしたらしい。








――――――― 学園警備本部





学園長は焦っていた。

学園結界が落ちることにより侵入者が増える、ということは判っていた。

そのために対策もたて、警備配置・増援手配・戦力配分を行ってきた。

しかし、予想と現実は食い違うもので、敵戦力が予想を遥かに上回ってしまった。

というのも、普段は敵も少数精鋭で来るのである。

しかし、今回は相当力を入れたのか、かなりの数の召喚師がついてきたのである。

召喚師がいると敵勢力が多くなる。

召喚された魑魅魍魎の実力はともかく、数だけは多くなる。

戦場においては数がモノを云うこと自明の理である。

よって、そこに増援か一騎当千を送ることになる。

結果として、ネギとエヴァンジェリンの戦いの場に侵入者を許してしまった。


「高畑君、頼むぞい・・・」


学園長は祈るように呟いた。








「だれが痴女だ!!」


呟かれた言葉に幼女は激高して吼えてきた。

そんな彼女を抑えるように、側にいる少女(おそらくは従者だろう)は「マスター、侵入者です」と申告している。

その言葉にハッと気付き、一瞬で迎撃を行ってくる。

その対応の速さは、見事なものだったが、今度は逆に少年側に隙を見せてしまい逃がすに至ってしまった。


「くそっ、折角の勝負に水を差しおって!」


どうやら随分とお冠のようだ。


一方、無詠唱の『魔法の射手』を打ち払い、エッジは歩を進める。

もはや幼女は眼中にない。

先ほど向かい側から走ってきた少女が、少年に掛けた声。

その言葉は『“ネギ”! 無事!?』と問いかけていた。

そう“ネギ”だ。

名前に詳しい訳ではない。そんな名前の人間は他にもいるだろう。

顔を知っている訳ではない。男の子ということだけだ。

しかし、麻帆良にいる魔法使いで、10歳くらいの少年で、“ネギ”という名前。

侵入してすぐ、こんなにも早く、出会えるとは。

エッジは自身の運の良さに歓喜した。


しかし、確認しなくてはならない。

情報の一端にたどり着けるかもしれないという興奮を押さえ込みながら、声をかけた。




「お前がネギ・スプリングフィールドか?」




場はさらに混沌へと落ちていく。






第3話  了



[18472] 第4話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/08 01:49

第4話 『戦闘』



「お前が“ネギ・スプリングイールド”か?」


思い掛けなくかけられた言葉にネギは混乱した。

それは仕方ないのかもしれない。

つい先程までエヴァンジェリンと戦い、逃げて誘導して罠に嵌めた。

そこで勝ったと思いきや、科学の力とやらで罠を破られ、一転今にも血を吸われそうになっていた。

ここまでかと思ったら、急にエヴァンジェリンは吼え、明日菜に助け出され、そして見知らぬ人物に名を呼ばれた。

元来、突発的なことに弱い自分である(一応自覚はある)。

こうも立て続けに予想外な事態が発生されると困る。

などと思考を錯乱させていたが、自身の停止が答えとして十分だったのか、相手は口許を笑みの形に歪ませた。




エッジは、自身の言葉に凍りついたネギを見て確信に至った。

この瞬間エッジの心にあったのはある種の達成感と復讐へと近づける歓喜、そして同属意識だろうか。

とにかく種々の感情が溢れ、笑みを零してしまった。

その笑みを見て、何かを感じたのか再起動を果たしたネギに質問を掛ける。


「お前に聞きたいことがあるんだ」


エッジは、自身にとっての何よりの最優先、事件の情報得るべく動きだす。

しかし、エッジ自身逸っていたのだろう。

周りに眼を向けるのをすっかりと忘れてしまっていた。

ネギに寄るべく一歩踏み出した瞬間、横合いからの攻撃の気配を感じ跳び退いた。


「氷爆!!」

「くっ!?」

意表を突かれたせいで避けきれなく、僅かに掠って血が滲んだ。

攻撃してきた相手を見ると先程の幼女だった。


「私を完全に無視するとはいい度胸だな、貴様」

「お前に用はない」


邪魔する幼女の言葉を切って捨てる。


「用があるのはネギ・スプリングフィールドだ。邪魔をするな」


努めて冷静にそう宣告する。

邪魔をされた苛立ちで染まってしまいそうな意識を、抑えつける。


しかし、邪魔だったのエヴァンジェリンにとっても同じだった。

何しろ勝負の途中だったのだ。苛立ちはとっくに振り切れている。


「邪魔なのは貴様だ、とっとと消え失せろ!」


その言葉とともに放たれる無詠唱の”魔法の射手”。

その攻撃に瞬時で思考を戦闘へと切り替える。

そして、両者の攻撃が交わろうとした瞬間、ひとつの攻撃が割って入り、両者は弾かれるように跳び退った。





「タカミチィ!」


ネギは驚きと共に声を上げる。

エッジとネギとの間に降り立ったのは一人のスーツの男、高畑・T・タカミチであった。

連絡を受け急行した際、戦闘が始まりそうだったので牽制をしたのだ。

タカミチは侵入者に目を向けながらネギに声を掛ける。


「ネギ君、明日菜君。色々聞きたいこともあるだろうが後にしよう。此処は僕が引き受けるから君達はエヴァを。そのために来たんだろう?」


もとより今回の事は全てネギの成長のため。

こんなことで台無しにされたくはない。


「エヴァもだ」


そう促す。

一瞬、不愉快そうな顔を浮かべたが、「ふんっ」と鼻を鳴らし引き下がる。

そうして、こちらを睨み付ける侵入者に対峙した。







エッジはとてつもなく不愉快だった。

目の前にネギ・スプリングフィールドがいる。

なのに、幼女に二度邪魔され、さらに邪魔が追加された。

そして、当のネギは離れた所で幼女と戦闘を始めてしまっている。

苛立ちが限界突破も当然である(自身が侵入者だということは棚に上げている)。

すでに意識は攻撃色で染まり、切欠ひとつで戦いになる。


「おっさん。あんたも邪魔すんのか」

「お、おっさん・・・。まあいい、君の目的が何かは知らないけど、ネギ君に手は出させないよ」

「・・・聞きたいことがあるだけだ」

「聞きたいこと・・・? それはなんだい?」

「・・・教えてやる義理はない」

「そうだね・・・、聞いてあげる義理もないな」


エッジは目の前の存在を障害と判断した。

障害があるならすることはひとつである。


「邪魔をするなら・・・」

「・・・するなら?」


空気が緊張を帯びる。


「―――― 消え失せろ」


空間が弾けた。




全身に“気”を巡らせ瞬時に駆ける。

それと同時に相手も動き出していた。

僅かに見えた動き。ポケットから腕を抜く動作。

瞬間、頬に衝撃を受ける。

(―― っ痛!! 衝撃波!? 否、拳圧か!)

直ぐ様対応策を出す。拳圧は直線軌道、攻撃面積も狭い。

首を振り、避ける。

そのまま姿勢を低くし、

(“瞬動”! そのまま斬りつける!)

流れるように思考する。

十メートルの距離を一瞬で潰し、そのまま抜刀で斬りつける。

しかし、相手も然る者。瞬時に後退し、斬撃から逃れていた。

尤もエッジもそれで逃すほど甘い訳ではない。続けざまに神鳴流の技を放つ。


「シッ!!(――― “斬空閃”!)」


放たれた“気”は大気を切り裂き、僅かに腕を傷つけた。

“奥義”のひとつたる“斬空閃”を受け掠り傷のみ。


「・・・強いな」


一合の戦闘でそう判断した。

技、気の密度、体捌き、総てが一流であることを示していた。


「・・・神鳴流か。関西呪術協会がネギ君に何の用だい?」


相手もこちらの流派に気付いたようだ。

尤もエッジの流派は若干異なる。



――神炎流

エッジの流派である。

自身の特性か悪魔の特性か、雷を発しようしても炎になってしまうという体質。

それを指して、月子が名付けた流派である。



しかし、骨子は同じなので決して間違いではない。

だが、なにやら勘違いしているようだ。




タカミチの勘違いはある意味仕方の無いことである。

京都神鳴流は、ある種閉鎖的な組織であり、通常は陰陽師の護衛などをしている。

基本的に彼らが依頼を受けるのは関西呪術協会からなのだ。

故に、神鳴流が動いている以上、呪術協会が動いていると考えるのが普通なのである。

ついでに関東と関西は仲が悪い。



エッジには態々勘違いを正してやる気などない。

それにそれ以上に気になっていることがあった。

(先程タカミチと呼ばれていたな・・・)

もしかするともしかするかもしれない。

ならば、この邪魔もある意味僥倖である。


「・・・あんたが“高畑・T・タカミチ”?」

「・・・・・・」


どうやら互いに情報を漏らす気はないようだ(実はタカミチは、自分を知らないとは思っていなかっただけ)。

しかし、この無言は肯定である。

エッジは思わぬ幸運に身を震わす。

何が何でも情報を手に入れる。

力を練っていく。


「そうか。あんたが高畑か。ならばあんたにも訊きたいことがある」


ぴくりと眉を動かし、こちらを注視する高畑。

その様子を見逃さないように、口にした。


「6年前の雪の日、山間の村を悪魔の群が襲撃した。指示した人間を知っているか?」


まるで予想外といわんばかりの表情。

しかし、欲しいのはそんなのじゃない。

エッジは重ねるように続けた。


「知っているな?」

「・・・・・・いや、知らない」


続けられた言葉で正気に戻った高畑は、暫らくの沈黙の後、答えた。

しかし、僅かに出た表情が語っていた。

(―― 知らないが予測はある、といったところか?)

ならばその情報を、と刃を向ける。


「ならば知っている情報を吐いてもらおう」

「・・・僕が話すと思うのかい?」


エッジは口唇を歪める。


「―――あんたは話すしかないんだ」








エヴァンジェリンとネギの戦いは、両者による魔法戦に移行した。

二人の従者は既に休戦に入っており、次々放たれる魔法を眺めている。


「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、来れ雷精 風の精!!」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、来れ氷精 闇の精!!」


戦いは佳境。

不利を見て取ったネギは、自身の持つ最大の魔法を放とうと備える。

一方エヴァンジェリンは、真正面から受けて立つと云わんばかりに同種の魔法を唱える。


「雷を纏いて吹きすさべ、南洋の嵐!」

「闇を従え吹雪け、常夜の氷雪!」


互いに臨界。

掌中の魔法を放たんと互いを見据え、そして開放された。


「“雷の暴風”!!! // “闇の吹雪”!!!」


拮抗する魔法。

同種であるそれらの威力は術者の技量と魔力に因る。

ならば、見習いと古強者。その差は歴然である。

ジリジリと天秤が傾き始めたそのとき、


「ハックシュン!」


などという場違いなクシャミとともに、ネギより魔力が溢れ、打ち合いを制した。



その後、エヴァンジェリンが決闘を続けようとするも、図ったかのように結界が再起動し、勝負の軍配はネギに上がった。

お互いに打ち解けあい、一件落着とじゃれあっていた。

しかし、彼らは忘れていた。

今現在、侵入者がいるのを。

爆音と共に地に打ち付けられた一人。

それを見下ろす一人。


「さあ、話せ」


地に伏しているのは高畑・T・タカミチだった。


「「「「タカミチ!! / 高畑先生!!」」」」





第4話   了




[18472] 第5話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/06/22 17:38
第5話   『終結・交渉』




「―――あんたは話すしかないんだ」


次の瞬間、両者の姿は掻き消えた。




エッジは瞬時に気を纏い、体内の魔力を回転させる。

それは、エッジが自身の持つ切り札を切る準備。

それほどまでに難敵だと判断した。



タカミチは両の手を胸前で合わせ、気と魔力を合一させる。

それは“究極技法”。


“感卦法”



気と魔力という反発する性質を持つ両者を、融合させる技。

肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒その他諸々のおまけ付き。

反発する両者を合わせることで生ずる力は膨大。

世界に数人といわれる難解で高度な技術である。



自身の切り札を使い、タカミチは弾けるように飛び出した。



タカミチから繰り出される“居合い拳”と感卦法によって強化された“豪殺居合い拳”。

空中に足場を作り、それらを面制圧の如き様相で打ち放っていく。

エッジは、つるべ撃ちに放たれるそれらをステップを踏むように短距離瞬動を行い、それらを縫うように避けていく。

それでいて、しっかりと反撃も行う。

回避の合間合間に斬撃を放つ。

元より生身で“音断ち”を行えるエッジの技量。

それを気による加速状態で行われる斬撃は、瞬時に無数のカマイタチと衝撃波を生み出す。

音速を超え、飛来する真空の斬撃はタカミチの防御を削っていく。

しかしその程度、タカミチは意に介しない。

居合い拳と豪殺居合い拳のタイミングを変えつつ、エッジを回避行動を誘導していく。

エッジは誘導されていることを理解しつつ、絶好のタイミングを待つ。

弾け飛ぶ地面、空を裂く斬撃。

互いに空と地を駆け、交差しあう。

両者は気を練り上げ、溜め、解き放つ瞬間を狙っていた。

互いの狙いは明白。

タカミチは、強力な攻撃の及ばない距離からの“豪殺居合い拳”。

エッジは、その刃が届く近距離への接近を。


果たしてその刻は来た。


エッジが足を止め、タカミチは射線を得た。

瞬間、同時に両者が動いた。


「「シッ!!!」」


―――“豪殺居合い拳”―――

―――“神炎流奥義・炎戒剣”―――




互いに放った一撃が炸裂しあう。

雷光剣が威力の炎戒剣と、砲弾が如き豪殺居合い拳。

巨大なエネルギーを持つ攻撃がぶつかり合い、互いに喰い破らんと鬩ぎ合う。

しかして両者は拮抗し、相殺した。


そしてエッジはこの瞬間こそを待っていた。

爆撃如き攻撃を掻い潜り、削られつつも耐え忍んだこの瞬間。

爆炎と煙が飛散し、タカミチの視界を隠すこの瞬間。

待ち続けていたエッジは札を一つ切った。


“転移魔法”


瞬時にエッジは掻き消え、姿を現したのはタカミチの背後だった。

気配を感じたか、感が働いたか。

振り向き、拳を打ち出すタカミチ。

袈裟懸けに振り下ろされる刃。

それらが交差しようとした瞬間。


“転移魔法”


タカミチの迎撃は空振り、再び背後を取ったエッジ。

その刃は既に振り切られていた。



これがエッジの切り札の一つ、“短距離連続転移”。

幾多の闘争を越え、導きだされた一つの解。


そもそも魔法を使えないエッジが、何故転移魔法を使えるのか。

そこには思考錯誤があったが、結論として、エッジは“転移魔法符”を応用した。

魔力と術式が書き込まれた“符”でもって転移を行える魔法具。

その術式を解析し、変更を加え、そして自身に書き込んだ。

簡単に言えば、一つの呪紋回路のように術をもって体に書いたのである。

使うたびに、焼けるような苦痛を代償とするが、それに見合うだけの価値はある。

そう判断し、エッジは自身に施した。

そして真実価値はあり、かつて戦場でも今眼前でも勝機を生み出した。



それでも防御が間に合ったのは積み上げてきた経験故か。

刃は、咄嗟に挿しいれられた腕を切り裂いていた。


僅かに鈍るタカミチ。

腹に追撃の蹴りを入れるエッジ。



タカミチは、橋に墜落していた。

そしてエッジはタカミチの眼前に降り立ち、命じた。


「さあ、話せ」





タカミチは顔を上げ呻いた。

なんとも劣勢であった。

ダメージはそれほどでもない。戦闘は続行できる。

しかし、側にはネギと明日菜とエヴァと茶々丸がいる。

この状態での戦闘は不利である。

既に結界は再起動され、エヴァは戦力外。

ネギも魔力が尽きている。

明日菜は論外である。

唯一茶々丸だけは戦闘に参加できるが、目の前の人物が相手だと参加は足手まといだろう。

「くっ」と唇を噛み、睨みつける。


「あんたが話さないなら、そいつに訊くだけだ」


すっと剣先を上げ、ネギに向けられた。

進退窮まったかと、口を開こうとした瞬間、彼はその場を飛び退いた。

遅れて響く複数の銃声。

応援が着いたようだ。





「ちっ」と歯噛みし跳び退る。

遠距離からの狙撃。

苛立ちが募る。

漸く訊きだせるところまできて、再びの邪魔。

自称温厚な自分でもキレてしまいそうだ。


怒りに呼応し、髪が仄かに燐光を纏い、火の粉を散らす。

それを切欠としたか、刀が炎を発した。


「ああ・・・、もういい・・・。もういいや―――!」


炎が渦巻き地を焦がしていく。

元来エッジは我慢強くない。

直情的で面倒が嫌いなのだ。

結論として、エッジは邪魔するもの全てを焼き払ってからネギに訊ねようと考えた。

(燃やしてやる)

既に牽制の銃弾は届かない。

エッジの周囲を焼く炎が、その悉くを蒸発させている。


スッと切先を向けようとした瞬間、


「双方そこまで!!」


邪魔が追加された。




エッジは不愉快の頂点にいた。

運が良いと思いきや、その尽くを邪魔される。

ここまで来ると超常的な何かが干渉してるんじゃないか、などと益体も無いことを考えながら睨み上げた。


「また、邪魔か・・・」

「それは仕方なかろう? 御主は侵入者じゃからのう」


そう言いながらこちらを見下ろす異形の老人。


「ここは引かんか?」

「・・・・・・何?」


一瞬何を云われたか理解が遅れ、いつの間にか聞き返していた。

周りのギャラリーも「おい! 爺!」と驚愕を上げている。

確かに可笑しな提案だ。


「この状況では御主も如何ともしがたろう?」

「・・・そうだな」


確かに状況的に詰んでいる。

眼前の老人も只者ではない。

引くのが最適だろう。

対魔封印結界も自身には影響がないとわかった。

再度の侵入は容易と判断。

ちらっと老人とタカミチに視線を投げ、最後にネギ・スプリングフィールドに目をやる。


「またにしよう。観客が多いし、それに、今日は少し疲れた」

「待って下さい! 貴方はいったい―――ッ」


後から何か聞こえるが、無視をして転移を発動させる。

それほどの距離は跳べない。

結界のギリギリまで何度か跳ぶ。

そして結界を越えようと一歩踏み出した時、


「儂と取引せんか?」


そんな声が掛かった。






side:学園長



学園長は驚いていた。

ネギと接触した侵入者に、自身を除く学園最高戦力を向けたのだ。

それなのに最高戦力である高畑は、少しずつではあるが押し負けているのだ。

それになにより侵入者の語った言葉。

“6年前の雪の日”

多くの関係者によって伏せられ、ほとんど知るもののいない事件。

そして求めているのが犯人。

恐らくは被害者に関わる者なのだろう。

状況的に見て、情報を求めてネギに接触したのだろう。

しかし、それはネギを刺激しかねない。

彼もまたトラウマを持っている。

報告書によれば、ネギがメルディアナで覚えた魔法に“上位古代語の高位悪魔を滅ぼす魔法”が含まれているという。

だが、ここで撃退してもいずれ機を見て接触を図るだろうことが予測できる。

かと言って捕らえるのは骨である。

それは今の戦闘を見ても容易に想像できる。


そして学園長は閃いた。


それは生来の悪戯っけも相まって予想の斜め上へいった。



彼を雇おう。






第5話   了




[18472] 第5.5話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/15 11:52


第5.5話    『幕間』




エッジは山中の拠点に戻り、休んでいた。

達人クラスとの戦闘とその後の取引で、疲労困憊していたのだ。



結論として、エッジは取引に応じた。

学園側の提示した条件は、


・ネギ・スプリングフィールドとその周囲の人間の、外敵からの護衛

・学園都市の警備(別口の個々の依頼として)

・修学旅行が終わるまでは、ネギ・スプリングフィールドへの過去の質問はしないこと

・契約期間はネギ・スプリングフィールドが学園都市にいる間

・魔法協会への攻撃の禁止


報酬として、


・住居の提供

・金銭の支払い

・警備の出撃手当て

・6年前の情報提供


である。

もちろん、そのまま受けた訳ではない。

条件は一部変更させた。

それは契約期間の短縮である。

一ヶ月ごとの更新により、最長1年間とした。

それとネギ・スプリングフィールドを護衛対象からの除外と魔法協会への攻撃禁止の撤廃である。

自身の安全保障が存在しない以上、自身のみを不利にする条件は飲めないからである。

些か問答があったが、両者合意のもと契約を行った。

狸爺相手ならば健闘と言ったとこだろう。




エッジは、そもそも魔法協会を信用していない。

公然と正義を謳う組織など、狂信カルトやテロ組織と変わらないと思っている。

しかも、法でもって行っているのではなく、善意とやらに頼っている部分が多々ある。

戦場に生きたエッジにこれほど信用できないものなどないだろう。

それに、エッジが出会った魔法使い達は、その多くは戦場で出会い、平和を謳い、戦争をするのだ。

救うと言いながら奪っていくその矛盾、いったい何に対しての救いなのか。



今回の取引にしても、拷問や薬による情報に信憑性の少なさがあったからである。

尤も、契約以外に口約束程度で魔法協会に意味の無い攻撃をしないと宣言した。



今すぐに情報が手に入らないことには不満があるが、ベターではある。

魔法界の暗部ならば自身の情報網では、手に負えないのだから。

ネギ・スプリングフィールドは、事件の中心にいるのだから。



最初の仕事は、修学旅行での護衛。

最優先護衛対象は近衛木乃香。

ガードマンとして付いていくことになるらしい。


明日からの忙しさに面倒なことだとひとりごちて、エッジは眠りに就いた。








side:学園長



思ったほど旨くいかなかった契約を思い出し、小さく溜め息をついた。

尤も、戦力としては優秀だし、余計な干渉をしなければ敵対されることもないだろう。

ネギ君を護衛対象にできなかったのは痛いが、その周囲は守られる。


一先ずは修学旅行を乗り切ることである。

妨害が予想される修学旅行。

これもまた、ネギ君の修行になれば良いと。


願わくば、復讐に染まっている彼を解き放つことができればと小さく零した。













ステータス


:エッジ(本名:レイ・ティアーズ)

:男性

:16歳

:身長・175cm 体重・70kg

:京都神鳴流を基礎とする神炎流を使う。

 基本的に“気”を用いて戦うが、体内にある魔力を用いての切り札がある。

:スキル

 ・隠密…外部に魔力を放出しないため、気を使ってない場合は気及び魔力による探知不可。

 ・武術…剣以外の戦闘手段。日本の古武術を習得。

 ・短距離連続転移…腹部に描かれた呪紋により発動。

 ・魔力視認…流れている魔力を見ることができる。悪魔の能力。というか、上位の魔法使いなら普通にできる。

 ・????…呪紋により発動。

 ・????…固有能力。悪魔としての能力。

 ・その他…神鳴流の奥義亜種が使える。雷撃系が全て炎撃系になる。

     例
      雷鳴剣 → 業炎剣
      雷光剣 → 炎戒剣

 ・その他2…術を開発中。対神霊・幻想種。いわゆる真祖や高位魔族などを滅ぼすための術。

:直情的。面倒くさがり。眼帯少年。かつて抉られた右目には、黒い眼球、紅い虹彩、縦にするどい瞳孔という典型的な悪魔の目がある。

 よって質問されるのも面倒なエッジは、顔右半分を覆う大きめな眼帯で隠している。

 何故だか知らないが、気で炎を扱うと髪が仄かに発光する。暗い紅で火の粉も舞う。本人は目立つから夜間戦闘しにくいとの談。

 髪切るのも面倒とのことでほっといたら、月子にポニーにされた。それ以降ずっとポニー。

 戦場で暗殺・奇襲・殲滅など、色々やった。微妙に常識知らず。

 服装にセンスがないらしく、無難だからということで黒服ばかり着ている。

:装備

 特注の黒服。防刃・防弾・耐火。

 鉄糸で織り上げた腰鎧。腰の後半分を覆い、ベルトで留められている。

 隕鉄の刀・銘は流星(ながれぼし)。普通の金属で作られた刀だと途中で溶けちゃうので。




第5.5話    了




[18472] 第6話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/21 10:41


第6話    『修学旅行―出発』




出発当日。

集合場所である駅前は、既に多くの生徒でごった返している。

エッジは、京都における揉め事専門のガードマンとして紹介された。

その際、幾つかの警戒の視線、半ば敵意のような視線、挑戦的な視線を感じていた。

尤も、そんなことに頓着するエッジではない。

それに当りは付いていた。

恐らく、前日に紹介されたいた護衛の少女や関係者の視線だろう。

大まかに説明された修学旅行の事情を反芻しながら、昨日の対面に思いをはせた。





―――――― 修学旅行前日 学園長室



エッジは、学園長室で大まかな説明を受けていた。

事前の情報収集は基本中の基本である。

そんな折、随伴するクラスにいる関係者を紹介すると、連れてこられた少女達と対面した。


一人は小柄な少女。

身に合わぬ長大な野太刀を携える、典型的な神鳴流の剣士。


もう一人は長身の少女。

鋭い雰囲気と懐かしい戦場の香りを纏う、恐らくはガンマン。


両者は、共に敵意・懐疑・値踏みといった視線を投げかけていた。


一方、エッジもまた値踏みの視線を送っていた。

戦力としての確認である。

そこで気付いた事実。

麻帆良に侵入した夜に感じた視線。

狙撃の主。

それが長身の少女であった。

であるならば使える、と判断した。

話してみると、


「払うもの払ってくれれば手伝うよ」


とのことだった。

尤も、傭兵ならば報酬は当然のことだ。

予備の戦力として充分期待できる。

幾許かは仕事が楽になるかと思いきや、そうはならなかった。



問題はもう一方にあった。

ガードマンとして紹介している場で、いきなり「貴方の目的はなんですか?」ときた。

尤も、エッジはそんなこと話す気はない。

仕事は仕事としてキチンとやる。

それでいいだろうと言うも、理解されない。

果ては「貴方の実力を示してください!」などと言って剣を抜く始末である。



確かに仲間ならば実力を知っているほうがいいだろう。

しかし、自分は傭兵である。

仕事が重なっただけであって、決して仲間ではない。

それに傭兵の力は秘してなんぼ、結果さえ持ち帰れば良いのである。

エッジは、こんな風に仕事に感情を持ち込む人間を知らなかった。



幼い頃から傭兵組織にいたエッジにとって、仕事とは結果が全てである。

そこには「チームプレー」などと云ったものは存在せず、スタンドプレーだろうと「チームワーク」が成立すればいい。

それには、個々にこなせる性能があればいい。

よって、感情で仕事をする人間などいなかったのである。


これで大丈夫なのか?と不安も増すのは仕方の無いことである。




そんな昨日の邂逅を思い出し、それでも自身の仕事をするだけと割り切ることにした。







side:ネギ


ネギは戸惑っていた。

当然である。

つい先日、タカミチと戦っていた人物である。

タカミチは友人であり、学園の人間である。

そんなタカミチと戦っていた人物が敵でないはずがない。

しかし、先程の新田先生による紹介はガードマンである。

訳がわからなかった。

隣の明日菜も、タカミチを傷つけた敵として敵意を顕わにしている。

これから行く修学旅行では自身の任務もある。

やること、考えることが増え、頭を抱える。


それでも時間は回る。

ブザーがなり、列車は走る。

ネギは取り合えず問題を棚に上げた。

修学旅行を楽しむことにした。










結果として、京都には無事に着いた。

道中、悪戯じみた妨害や、式による親書の略奪未遂があったが、人的被害があった訳ではない。



エッジは一切手を出さなかった。

理由は二つ。


ひとつは敵の性能を測ること。

尤も、使用された術も蛙と燕の式のみ。

タイミングは中々秀逸だったが、低レベルの術だったので評価にはならない。


もうひとつはこちらの性能。

ネギ・スプリングフィールドは、どうも間が抜けているようだ。

以前の戦闘は、高畑と戦っていたせいでよく見ていない。

それでも“雷の暴風”なんて使っていたから、デキるのかと思いきや、魔法を扱えるだけの素人であるようだ。

神鳴流は何を考えてるのかわからない。

ずっと護衛をしていると聞いていたが、どうみても護衛は素人である。

何故なら、側にいない護衛など存在しない。

逆に護衛対象から逃げている始末。



結論として、エッジは使えないと判断した。

尤も、使えようと使えなかろうとエッジの仕事は変わらない。

クラスの護衛と最優先対象の身を守ること。

様子を見たのは、自分の仕事が楽になるかなと期待してのことだったが、外れであった。

敵地での護衛という、面倒な仕事にちょっとやる気をなくしたエッジであった。

ついでに龍宮は、自発的な仕事はしないらしいし。



悪戯のような妨害は、結局旅館に着くまで続いた。

一番人的被害が出たのが酒だったというのは、頭が痛い出来事だが、匂いで気付かなかったのだろうか。





まもなく夜が来る。

エッジは迎撃の準備を始める。

今までの悪戯は、恐らく揺さぶりだろう。

初っ端からの妨害で精神を混乱させ、悪戯レベルという妨害で心に隙をつくる。

そして、旅行疲れの初日の寝入り端という警戒が途切れる瞬間を待っているのだろう。

撹乱・陽動・本命、戦術としてはセオリーである。

であるが故に効果的でもあるのだ。

3泊4日の行程しかないなら、初日から来る。


「今夜だな」


エッジは半ば確信を持って待つ。

旅館の屋根に立ちながら、街を見据える。

宵に入ったばかり。


長い夜は始まったばかりだ。








「ちょっと、ネギ!」

「アスナさん。なんですか?」

「なにじゃないわよ! 変なことばっかり起きてるじゃない!? いったい何なの?」


顔に不振と疑惑を浮かべ、明日菜はネギを問い詰めていた。

クラスが誇るお馬鹿な明日菜でも、今日の日中は些か異常に感じられていたのだ。

というか、異常に感じられない方がおかしい。


「実はそのー・・・」


そしてネギは、自身の任務と妨害の可能性を説明するのだった。


「わかったわ、ちょっとだけなら力を貸したげる」

「アスナさん。ありがとうございます!」


以前、エヴァンジェリンの一件で手伝ったことも押してか、明日菜はあっさりと協力することにしたのだった。








――――― 深夜








旅館から影が躍りでる。

人影にしては奇妙で、頭部のサイズが随分と大きい。

まるで着ぐるみようだ。

しかし、良く見ると着ぐるみの口にあたる部分には顔が有り、その両腕には少女を抱えている。

そう、着ぐるみは陰陽術師であり、少女は近衛木乃香であった。


そして、僅かに遅れてそれを追跡する少女二人。

桜咲刹那に神楽坂明日菜の二人である。

二人は、橋にいたネギと合流し追跡を続ける。

三人にとって近衛木乃香は大事な友人である。

それが何の目的か、誘拐されている。

黙っていられる訳がない。

必ず取り戻すと、怒りを顕わに追いかける。






エッジは、それを屋根の上から見下ろしていた。

元より侵入に気付いていた。

用も無く、結界に隙間を空けたネギ・スプリングフィールド。

それに気付かなかった桜咲刹那。

味方に足を引っ張られた事実に溜め息が出る。

だが、僥倖だ。

今までの悪戯では証拠に欠ける。

しかし、直接手を出した今、証拠など関係ない。

エッジは、知らず口唇を歪めた。


「さあ、狩りを始めよう」


深夜の追走劇が始まる。






第6話    了





作者一言

今回は会話文がちょっとすくないな~と。
まあ、導入だから仕様が無いけど。
その内、書き直すかも。



[18472] 第7話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/22 18:29
第7話    『修学旅行―追走劇』









気配絶ち、駆ける。



目的は、近衛木乃香の奪還。

ついでに敵の殲滅。

問題は敵の手札と勢力だが、そう問題にはならないだろう。

というのも、今までの妨害がそれを示している。


それは、電車の妨害に始まり今の誘拐まで、一貫して一人の術者によって行われているからである。

悪戯程度ならともかく、誘拐においてまで単独で行う意味はない。

速度が命の誘拐だ。

それなりに計画的ではあるが電車を使うあたり、稚拙である。

といっても油断はしない。

状況は常に変化するし、油断・慢心は致命的ミスを生む。


ともかく、金が無いか自分の術に自信があるのか、はたまた何かに備えての温存か。

この手の人間は手札を惜しむ傾向がある。

早期決着が吉。

なればこその殲滅である。



絶好のチャンスを探り、潜む。

術者の女は、駅でネギ達と対峙していた。








「フフ・・・、よーここまで追ってこれましたな」


自らの優位性を示すかのように階段上部に立ち、見下す符呪師の女。

それもそのはず。

人質を手にし、ここまで優位に運んできた。

自身の符呪師としての腕にも自身があるのだろう。


先程まで着込んでいた着ぐるみを脱ぎ、手には“符”を構えている。


対するネギ達は、状況の変化と新たな情報・近衛木乃香の立場に戸惑い、先手を許してしまった。


「三枚目のお札、いかせてもらいますえ」

「おのれ! させるか!!」


それに気付き、刹那は疾走する。

神鳴流剣士たる刹那である。

その速度は常人を遥かに超え、十数メートルの間合いなど一瞬に等しい。


しかし、速さこそ命の“符”である。


「お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」


それは刹那の疾走より速く、その力を解き放った。


「喰らいなはれ! 三枚符術、京都大文字焼き!!」


吐き出された、一瞬にして視界を覆う膨大な炎。

女が「並みの術者では越えられない」と豪語するだけのことはある、強力な術である。


咄嗟に動いたアスナによって炎より下がる刹那。

それを見て勝ち誇り、去ろうとする女。


しかし、そこにいる魔法使いは並みの術者ではなかった。

経験こそ浅く、魔力の練りもまだまだ未熟。

なれど、その魔力は強大。

それは英雄の系譜。


「吹け、一陣の風。風花・風塵乱舞!!」


その風は、いとも容易く炎を吹き散らした。

自慢の術をあっさりと破られ、固まる女。


「逃がしませんよ! 木乃香さんは僕の生徒で、大事な友達です! 返してもらいます!」


すかさずパクティオーカードを出し、自らの従者に契約執行を行う。


「契約執行180秒間! ネギの従者、「神楽坂明日菜」!!」








昼間とは随分と違う。

始終慌てっぱなしだった昼間とは違い、それなりに動けている。

魔法の選択も悪くない。

一般人がいる時といない時の違いか。

あるいは、戦闘こそが己が本性なのか。


他にも、特にアスナという少女、思い切りがいい。

身体能力が存外高いようだ。


エッジは潜みながら、分析をしていた。



不意を打つ最高のタイミングを計る。








猿と熊の善鬼護鬼を相手取るアスナと刹那。

ファンシーな外見と違い、その力は本物の熊を超えている。

それらに立ち塞がれ、木乃香にたどり着けない。


それを尻目に女は撤退を図る。


「このか・・・! このぉーっ、たあっ!」


その危機に火が点いたか、より一層力強く振り下ろされるハリセン型アーティファクト。

そして、それは容易く猿の式神を還した。

(―――なっ!)

女は驚愕する。



鬼が力の善鬼護鬼である。

それを簡単に還すことができるアーティファクト。

それは、従者を式神に任せている陰陽師・符呪師にとっていったいどれほどの脅威になるか。

言うなれば、自身以外に身を守る術がなくなることを意味しているのである。



自身の持つハリセンの予想外の力に一瞬呆けながらも、その力の有用性を理解したアスナ。

ならばすることは一つ。


「桜咲さん! なんかいけそう! そのクマはまかせて、このかを!」

「すみません、お願いします!」


即座に戦力を割り振り、木乃香奪還を図る。


「このかお嬢様を返せーっ!!」


神鳴流剣士が術者に迫る。



今や善鬼護鬼が突破され、術者に迫るは神鳴流剣士。

いくらほとんど詠唱を持たない符呪師とは云え、接近戦において剣士の速度には抗えぬ。

現状、詰みであった。



しかし、そこまで甘いはずもない。

事前の調査において判明していた存在。

護衛についている神鳴流剣士の少女。

ならば当然、自身もそれに対する札を用意するのは必然である。





「え~~い」

「なっ!?」


なんとも気の抜ける掛け声とともに、上空から迫る刃。

咄嗟に刃を合わせるも、互いに弾かれてしまった。


「千草はん、遅刻してもてすみません」




刹那に戦慄が走る。

たった一合。

されど腕に覚えがある者ならば、当然判る。

その剣筋は神鳴流のものだった。

(まさか、神鳴流の剣士が護衛についているとは――!)

己がうかつさを呪う。



尤も、エッジに言わせれば見通しが甘いだけ。

戦況は常に最悪を想定するくらいで丁度いい。

事実、エッジの想定通りに、敵の手札はまだあった。

しかし、エッジはまだ動かない。

敵の性能を、手札を、思考を丸裸にするまで。

(・・・さあ、どう動く?)




そんな風にエッジが分析に精を出している一方、刹那とアスナは苦戦していた。


刹那の相手である月詠は、二刀使いの神鳴流剣士である。

珍妙な格好をしているが、その腕は刹那に勝るとも劣らない。

そして二刀使いである。

元より二刀流は一刀流の延長であり、そこに優劣は存在しない。

しかし、腕が拮抗する場合、そこで得物の差が発生する。

刹那の得物は、神鳴流伝統の野太刀。

元々は、対化物用に広い間合いと高い攻撃力を兼ね備えた武器として選ばれた物である。

一方、月詠の武器は打刀の大小二刀である。

これは、そもそもが対人用の刀であり、長さは2尺よりは長く3尺よりは短いといった程度で、取り回しが容易い。

さらに脇差の存在が、手数と間合いに影響し、接近戦に於いての利を与えている。

つまりは、相性が最悪なまでに悪いのだ。

よって、刹那の苦戦は必至であり、明確な実力差が存在せぬ限り、このアドバンテージを覆すには至らないのである。



アスナは単純に素人だからである。

運動神経は良いし、動態視力も高い。

さらには魔力による強化とアーティファクトがある。

しかし、戦いの訓練を受けたことがある訳ではなく、戦闘の経験が多い訳ではない。

それ故に、クマの式神の一体だけならともかく、撹乱に使役された数多の小猿を相手にするには経験不足であった。



しかし、それでもこの場において不利なのは、千草と呼ばれた術者の方である。

なぜならば、千草は忘れていた。

この場においてフリーとなっている存在、ネギ・スプリングフィールドを。



足止めを完了したと思い込み、逃げる千草。

しかし、そこに詠唱が響く。


――――ラス・テル・マ・スキル・マギステル


ギクッと身を竦める千草。

振り返ると魔法を唱えるネギがいた。


「風の精霊11人! 縛鎖となりて、敵を捕まえろ!」

「ああっ、しまった!? ガキを忘れてたー!」


木乃香を式神に運ばせた隙を突き、魔法が放たれる。


「もう遅いです。“魔法の射手 戒めの風矢”!!」


千草に向って疾走る11本の矢。

それが到達する瞬間、千草は咄嗟に木乃香を楯にするべく抱きかかえた。


途端、焦ったのはネギである。

着弾寸前の“魔法の射手”を全て捻じ曲げた。




「はは~ん、読めましたえ。とんだ甘ちゃんやな。人質が多少怪我するくらい気にせんと、打ち抜けばえーのに」


そう言って千草はほくそ笑む。

千草は、元より自分のしていることは理解している。

今更「卑怯」などと言われても、痛くも痒くもないのである。


「ほんまにこの娘は役に立ちますなぁ。この調子で、この後も利用させてもらうわ」


後は逃げるだけ。

勝ちを確信して哄笑い上げる。




これまで、幾つもの小さなミスを重ねてきた千草であるが、この時こそが最大のミスと言えるだろう。

勝負の勝ち負けというものは、最後まで分からないものである。

条件的に勝利が決まっていても、勝ち上がるまでは勝ちではない。

それを理解していなかった三流根性こそが、最大のミスを行わせたのである。




「ほな、木乃香お嬢様には操り人形にでもなってもらおか。ウチの勝ちやな」


千草は木乃香を担ぎ上げ、勝ちを名乗り上げた。

そして千草は思った。

ついでにガキ共に屈辱を与えてやろう。

手痛い目にあったのだ。

それくらいはしてやらなければ、気がすまない。

そして、安っぽい挑発を行った。


「ほななー、ケツの青いガキども。おシーリ、ペンペ「千草はん!!」、何やの? 月よ――ッ!」






突然消えうせる重量感。

ゆっくりと離れていく木乃香。

そして焼けるような熱さを肩に感じた。


「ァツッ!?」


右肩を見る。

赤が吹き出る。

腕がない。

熱い。

痛い。

ゴトンと重い音がなる。

なんだろう?

腕だ。

腕・・・うで?

赤い。

誰の?

腕?

・・・腕が・・ない?

腕がない・・腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が
腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が
腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が
腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が
腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が
腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕がッ――――――――――


「ああ嗚呼亜阿嗚嗚嗚アアアア嗚アアああ亜ア嗚呼アアッ―――――――!!!!!!!」





夜に木霊する。







第7話     了





[18472] 第8話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/05/28 17:16


第8話     『修学旅行―――初夜終了』








(・・・確かに甘いな)

エッジは千草の言い分に同意した。


そもそも、ネギの放った“魔法の射手”は“束縛用”である。

物理的攻撃力は低く、対象の捕縛目的で使用される。

そんな魔法の射手が当たった程度では、木乃香が怪我を負うということはあるまい。

精々が、打撲程度であろう。

容易く治癒できるものだ。

ならば、あの場はまとめて捕縛するのが最善。

その後、改めて捕らえ直せば良かったのだ。


それをせず、咄嗟に楯に取った千草に「卑怯」と泣き付く始末。

人質の有用性を教えるだけである。


ネギ本人にも言い分は有るだろうが、今重要なのは優先順位である。



まあ、過ぎ去ったことに固執してもしかたあるまいと、気を引き締める。

千草とやらは、木乃香を“操り人形”にすると宣言した。

ならば、絶対に此処から連れて行かせる訳にはいかなくなった。



スッと戦闘態勢をとる。

見ると、挑発しようと云うのだろう。

隙だらけだ。

ならば、一撃で終わらせよう。

面倒は嫌いなのだ。


“転移魔法”


エッジは跳んだ。

場所は千草の背後頭上。

狙いは頭部。

落下の勢いを用い、唐竹割りに振り下ろした。







「ああ嗚呼亜阿嗚嗚嗚アアアア嗚アアああ亜ア嗚呼アアッ―――――――!!!!!!!」



夜の駅に絶叫が響く。

肩からは盛大に血が噴出し、痛みに喘ぐ千草。


それを背後に聞きながら、エッジは舌を打った。

一撃で終わらせるつもりであった。

それが、殺気が漏れたか転移の気配に気付かれたか。

月詠の声によって千草が動いたため、肩を切り落とすにとどまった。


この時間が千草にとって今日最大のミスならば、この瞬間こそが最大の幸運であろう。

一撃決殺で振るわれた刃。

偶然であろうと月詠の声によって、確実に命を奪うであろう一撃から、生き延びたのだから。


しかし、エッジはそこで終わるつもりはない。

左脇に木乃香を抱え、そのまま振り向き様、首へ斬撃を行う。


月詠はまだ刹那の側にいる。

小猿の式は動けずにいる。

薙ぐように振るわれたその刃は、吸い込まれるように首へと疾走り、



しかして、首を飛ばすには到らなかった。

刃と首の間を遮るように、石が存在していたからである。


その事実に驚愕する。

と同時に、背中を駆け巡るレッドシグナル。

感じる悪寒に身を任せ、反射でもって回避を行った。


視界に映る、飛来する石の杭。

(――コイツは“石の槍”か――!)

宙で身を捻り、空を蹴り、回避しながらも、相手の魔法を見極める。

つるべ撃ちに襲い掛かるそれらを、回避と同時に右腕の刀を振るい、自身と木乃香に当たる軌道のみを最小限で弾いていく。


しかし、マズイ。

このままでは、自身はともかく抱えている木乃香がマズイ。


急激な旋回や急加速は、時に人体に致命的なダメージを与える。

それは、ブラックアウトやレッドアウトと呼ばれる血液の偏移による症状で、高Gによって発生する。

現在の回避行動の連続は危険であろう。


今の状況では転移はできない。

高速の3次元回避のせいで、移動先座標が安定しないのだ。

エッジの転移魔法には、目視か記憶または位置情報が必要であり、初めての土地であることが災いした。

何より荷物を抱えている。


既に体には無数の傷が出来ている。

攻撃は未だ止まず、いずれは致命傷を貰うだろう。

余裕はない。


一瞬の判断。

刀を口で銜え、空いた右手で符を取り出す。

それを、石の槍が飛来する方角へ向け、発動した。


――“閃光”


辺り一面に目も眩むほどの光が満ちる。

その光は、僅かに攻撃を遅滞させた。


その隙を逃さず転移を発動。

場所はネギの後。

しかし、まだ気を緩めない。

まだ次が来る。

刀を構え直しながら、ネギへ僅かな躊躇もさせないよう命じた。


「障壁全力展開!!」

「――ハッ!? “風花・風障壁”!!」


多数の“石の槍”が障壁へとぶち当たる。

石と石をぶつけ合うような硬い音が響く。

僅かの後、ガラスが割れるような音と共に障壁は破壊された。

追撃に備え、気を全身に張り巡らせる。


しかし、攻撃が来ない。

閃光が引いた後には、敵の姿は無く、焼け焦げた跡と壊れた階段、そして血痕だけが残されていた。


「・・・・・・引いた・・・か?」


気配を探り、安全を確認する。

どうやら完全に撤退したようだ。

切り落とした腕が落ちていないところをみると、治療を優先したか。


「ふう」


エッジは、漸く安堵の溜め息を吐いた。








考えることが増えた。

確認できた敵戦力が二人に、未確認が一人。

しかも、その未確認がヤバイ。

首と刃の間に“石の槍”を滑り込ませる技量。

無詠唱で飛来する無数の“石の槍”。

その一つひとつに籠められた魔力の錬度。

恐らくは、かなりの手練だ。


こうなると自身のミスが悔やまれる。

一撃目は仕方ない。

しかし、二撃目。

あれを只の斬撃ではなく、斬岩剣で放っていれば、今頃はこの事件は終わっていたかもしれない。

敵の三流具合に気が緩んだか慢心が出たか。

エッジは、引き締め直さねばと自戒した。


それに、この相手がいると単独での遂行は恐らく不可能。

否が応にも、ネギ達の協力が必要になる。

こうなると話し合いの場も、持たねばなるまい。



もう一つ、事後処理が面倒くさい。

どうしようかと悩んでいると、


「う・・う~~、んん」


どうやら近衛木乃香が目を覚ますようだ。

俺が抱えているのは、色々マズイだろう。

木乃香には、裏を知らせていないという話だし。


「おい、桜咲刹那」


呼ばれただけで察したようだ。

駆け寄ってくる。


「・・・お嬢様・・・」


何やら、それなりに複雑な事情があるようだ。

しかしエッジは、それを横目に見ながらも、事後処理を優先する。


他人の事情に深く関わる気はない。

大抵碌なことにはならないと、月子にも言われている(このあたり、エッジは人間関係が歪である傭兵出身であることが影響している)。


木乃香を心配して集まる3人を背後に、エッジは処理を開始した。








「・・・お嬢様・・・」


刹那はほっと安堵の吐息を漏らす。

お嬢様は特に怪我も無く、無事だった。


しかし、見通しが甘かったと言わざるを得ない。

敵がここまで強行手段を取るとは、想像だにしていなかった。

彼の手助けが無ければ、ひょっとして取り返しがつかないことになっていたやもしれない。

自分たちだけでは、救い出せなかったかもしれない。

その可能性に背筋が凍る。


だが、それでも彼は恐ろしい。

彼が振るった刃。

一切の躊躇なく、命を狩り採りにいっていた。

そこに、余分な感情はなく、坦々と作業のように。

それが恐ろしい。

それは、自分がまだ人を殺したことがないからかもしれない。

でも、それでも、彼は恐ろしい。


いったい彼は、その心に何を抱えれば、そのように成れるのだろうか。







アスナは、木乃香の無事に漸く精神的安堵を得ていた。

それまでは、精神喪失の状態で立っていることすらままならなかった。


いまだに目に焼きつく、光景。

千草と呼ばれた女性が、血を噴出しながら崩れ落ちる姿。

真っ赤な真っ赤な血。

ハッキリと人の死を意識した瞬間でもあった。


もし、罷り間違ったら、自分がなっていたかも知れない姿。

それを想像し、身震いをする。

湧き出す感情。


“恐怖”


漸く、自分の立っている位置が見えた。

“魔法使いの従者”とは。

身を挺して、“主”を守るもの。

あの炎や刃に身をさらす者なのだ。

そして、自分が“それ”であるとハッキリと理解したのだった。


それでも、と思う。

それでも、自分の親友が狙われているのだ。

ならば恐怖くらいなんでもない。

恐怖くらい耐えられる。

そう思うのだ。



あるいは、この意志の強さこそが彼女の最大の武器なのかもしれない。







そんな葛藤するアスナの姿を見て、ネギは思う。


自分が強くなって、このかさんを、アスナさんを、皆を守る。

僕が強くなる。

それに、誰ひとり死なせない。


エッジという人は僕とは相容れない。

彼は人死に躊躇しない。

仕事を遂行するためには、容赦なく相手を殺してしまう。

彼は言った。


「・・・どうしてあんなことができるんですか!?」

「・・・・・・あんなこと?」

「あのお姉さんを斬ったことです!」

「優先順位と効率の問題だ。あれが一番手っ取り早い」

「なっ!?」

「それに俺は殺すつもりだった」

「――なっ!? 殺すなんて!?」

「誤るなよ、ネギ・スプリングフィールド。あれらは敵だ。敵への情けは自身の首を絞める。
 間違えるなよ、ネギ・スプリングフィールド。守るべきはなんだ? それを違えれば、全てを失うぞ」


それに対し、僕は何も言えなかった。

それに彼は「攫われたのは、お前の責任でもある」と言った。

確かに、思い出してみると、あのお姉さんを旅館を引き入れたのは僕だった。

でも、だからこそ僕が守らなければ。

そう、僕は“立派な魔法使い”を目指す身なのだ。

彼の言ったことは間違っていない。

でも、命を奪うことが正しい筈がない。

“立派な魔法使い”は皆を救う存在なのだ。

だから、僕が守る。







side:千草





「殺してやる。殺してやる。殺してやる。あの男! 地獄の苦痛を与えて殺してやる!!」


千草は怨嗟を吐き散らす。

斬られた腕は、治癒札と魔法の治療で取り合えずはくっ付いた。

それでも、直ぐ様完治とはいかない。

血は足りないし、接合面も馴染むまでは多少の時間がかかる。

今でも、ズキズキと滲むような痛みが襲ってくる。


「でも、あんな男の情報あらへんかったで、千草はん」


その千草の様子を楽しそうに眺めながら、月詠が問うてくる。

その姿に怒りを覚えるが、曲がりなりにも命の恩人である。

あの時の一言がなければ、今頃は墓穴に入っていたに違いない。


それはそうと、確かにあんな男の情報はなかった。


「そうやな、情報に穴があったちゅうこっちゃ。情報屋にも痛い目見せてやらなぁ。
 ・・・とりあえずは明日一杯、情報収集や。腕もまだ完治せぇへん。頼むで、フェイトはん」


無関心そうに佇んでいた少年に声を掛ける。

この白坊主は、気に喰わない西洋魔法使いだが、腕は確かだ。


「わかりました、千草」


しっかりと役に立ってもらおう。

そしてあの男を殺す。

命乞いさせて、そのうえで殺してやる。







それぞれの夜は明けていく。









第8話      了





[18472] 第9話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/06/07 15:28

第9話    『修学旅行――――二日目・穏やかな一日』









朝の京都に少女達の声が響く。

三人寄れば姦しいといわれるそれが、28人いれば言わずもがな。

姦しいを通り越して騒々しい。

エッジは、それらの喧騒を目覚ましに、朝を迎えた。

寝ぼけた頭で、古都ならばもう少し風流に起こしてくれればいいのにと、益体も無いことを考える。


エッジは、基本的に朝が苦手だ。

というより惰眠が好きで、暇ならば体が欲する限り寝ていることが多い。

さらには、存外に畳が気に入り、昨夜の疲れも相まって起き上がる気力が沸いてこない。

いっそのこと今日は休みにしようか、なんて出来もしないことを考えたり。


こうして、とりあえず平和な、修学旅行二日目を迎えたのだった。





「桜咲刹那」


二日目の予定、奈良での班別行動への出発のため、ロビーに集まる人だかりに声を掛ける。

一斉に視線が集まるが、気にはしない。


「・・・なんですか?」


なんだなんだと集まる視線に、居心地が悪そうにしながらも、問い返してきた。

周りに聞き取られないよう、声を抑えて話す。


「奈良での護衛は全面的にお前がやれ。俺は少し外す」

「――なっ!? 何故です!?」


その顔には、驚愕と戸惑いが見える。

まあ、驚くのも無理はないが、少しは冷静になって欲しいものだ。


「今日は、十中八九奴等は襲っては来ない。気を抜き過ぎるのは問題だが、最低限側にいれば問題ない」

「いえ! そうではなくて!?」

「少しは冷静になれ」


すると、周りが好奇の視線を向けているのに気付いたのか、羞恥に赤くなりながらも精神を整えた。


尤も、刹那に言わせれば戸惑うなと云うほうが無理な話である。

昨夜のこともあり、多少の恐怖はあれどその実力は確かなもので、お蔭で護衛にも余裕が持てそうだったのだ。

それが急に頓挫した。

全くもって無理な話である。


そんな刹那の心情になど頓着しないエッジは、坦々と説明する。


「奴等の情報に俺の存在はなかった筈だ。俺の参加が決まったのが直前だからな。そのため、奴等は一度情報収集をする筈だ」

「それは、・・・確かに」

「その間にこっちも準備を整える。ハッキリ言って、こっちが不利だ。出来る限り手を打たないと拮抗すらできない」

「―――そんな・・・」


背筋を走る悪寒を思い出す。

思い出すだけで肌が粟立つ。

膝に震えが走る。

と同時に血が沸騰するのが感じられる。

口唇が笑みを形作るのを抑えられそうにない。

多分、今まで戦った中でも上位に入る。

あるいは、一番強いかも知れない。

刀一振りでは心許ない。


「だから、俺は準備に費やす。護衛は任せたぞ」

「は、はい」


緊張した面持ちで頷く刹那を尻目に、外へ向う。


「ああ、それと」

「はい?」


今までとは打って変わって、軽い調子で言い放つ。


「今日、夜に時間を空けておけ」


背後から、何やら抗議の声が聞こえるが一顧だにせず、旅館をあとにする。


エッジは機嫌が良い。

今日は、半ば休みと言って良い状況であり、思わぬ休暇に心が躍る。

さらには、未知の強敵がいる。

自身、戦闘狂ではないが、自身の力量を上げるまたとないチャンスである。

その好機に笑みを浮かべるのであった。







ふらふらと街を歩く。

準備のついでの観光である。

月子の故郷。

計画的に張り巡らされた呪術の気配と漂う魔氣が、いい味わいを出している。

魔都とはよく言ったものである。

知らず口許に笑みが浮かぶ。




さて準備とは、京都にある神鳴流御用達の武器屋で、道具の調達である。

日本行きが決まった際に、月子から貰った情報の一つである。


時代がかった木造家屋が連なる一角に、古美術商がある。

表向き、水墨画や掛け軸を売る一般的な古美術商であるが、その店こそが古くからの神鳴流の御用達店である。


「いらっしゃいませ、御用ですか?」

「店主、雷神の掛け軸はあるかな?」

「へえ、どんなもので?」

「そうだな・・・、少し古いのがいい。それを10巻程もらおう」

「・・・こちらへどうぞ」


簡単な合言葉の後、奥へと通される。

どうやら、簡単な結界が掛けられている。


「で、何が必要なんです?」

「コイツを用立てて欲しい。あるか?」


スッと小さなメモを出す。


「・・・少々時間が掛かりますな。数が多い」

「一割上乗せしてやる。夕方までに、この旅館に運んでくれ」

「まいど。御代はこちらになります」

「・・・ふん。では頼んだ」


手痛い出費になった。

これは、麻帆良で経費として落ちるのだろうか?


しかし、これで道具は揃った。

今夜にも準備も整う。


恐らく、奴等の襲撃も明日が本番であろう。

敵勢力も、あれで終わりとは考えないほうがいい。

それに、これは若干自分のせいではあるが、怒りにまかせて襲ってくる可能性もある。

昼間とは云え、油断はできない。

最悪、一般人を巻き添えに襲撃してくことも考えなくては。


「ま、それはともかく、今日は遊ぼう」


思いのほか、調達がすぐに終わったので時間ができたのだ。

今からあれこれ考えるのも面倒である。

護衛に行くにも、奈良までいくのも面倒くさいし。

朝の夢想が現実になったことを喜びつつ、


「今襲われたら、まあ、運がなかったと諦めてくれ」


と、そんなことを何処となく空に呟き、ガイドを取り出すのだった。


遊ぶことを決めると、エッジの行動は素早かった。

昼には京懐石を食べ、オヤツに京菓子を、あちらこちらの観光地を瞬く間に走破した。


結局、エッジは夕方まで遊び倒したのだった。







旅館へ戻ると、一足早く生徒達が帰っていたようだ。

ガヤガヤと遊んでいる。

どうやら予測通り、今日の襲撃はなかったようだ。

やはり、治療と情報収集に勤しんだのだろう。

とすると、やはり本命は明日。

万全の備えが必要だ。


フロントで荷物を受け取り、部屋へ引っ込む。

明日のための準備である。


武器屋で買ったのは、治癒札と障壁符、独鈷杵を300本。

そして、とある神社の神木の枝である。


独鈷杵は実弾代わり。

これを、30本一纏めとして、手のひら大の巻物に収めるのだ。

巻物には小さな特殊魔方陣が30個並び、それぞれに一本ずつ収納する。

所謂召喚魔方陣の一種で、“気”もしくは“魔力”に反応し独鈷杵を召喚・射出するものである。

障壁突破をも刻まれた独鈷杵の射出は、さながら散弾銃の様に敵を打ち抜く、凶悪な武器である。

それを10巻。


せっせと内職に励む、エッジであった。




――――――夜





コンコンと扉が叩かれる。

どうやら桜咲刹那が来たようだ。


「どうぞ」


「失礼」との声と共に入ってくる二人。

神楽坂明日菜も一緒のようだ。


「適当に座ってくれ。茶が欲しかったら自分で淹れな」


スッと少し離れた位置に座る二人。

まだ、警戒しているようだ。

尤も、警戒しているくらいで丁度良い。


「・・・まず、明日の予定が聞きたい」


二人が目配せし、代表して刹那が話すようだ。


「明日は、ネギ先生と明日菜さんが親書を届けに行きます」

「・・・近衛木乃香は?」

「明日は自由行動日でして、決まった予定がありません」

「・・・・・・」


エッジが嫌そうに顔を歪める。

それはそうだろう。

行動に予定がないということは、敵としてもやりにくいだろうが、護衛する側としても予測が立てにくく、結果護衛し難いのだ。


しかし利点もある。

予定がないなら、何処に行こうと自由。

逃走するには適している。

待ち伏せも出来ないだろう。


とりあえず、未定のままで緊急時の対応だけを取り決め、指示を出しておく。

尤も、決めたことなど簡単なことである。


刹那は、何があっても木乃香の側を離れないこと。

露払いはエッジが。

敵の西洋魔法使いが現れたら即時撤退。

ネギ・明日菜組は、妨害はあるだろうが恐らく雑魚なので、そっちでなんとかしろ。

だが、死なれても困るので、最悪の場合は親書を諦めて身を優先すること。


といったところである。



エッジは、ふと気になったことを訊ねた。


「ところで、ネギ・スプリングフィールドはどうした?」

「「・・・・・・」」

「おい?」


沈黙する二人。

二人は、顔を見合わせ視線で遣り取りし、明日菜が口を開いた。


「あ~・・・、あいつはね? 今日、ちょっと色々あって。それで、今はそれどころじゃないと言うか・・・」


要領を得ない返答に、思わず溜め息が漏れる。


「まあいい。元より役割以上を求めている訳じゃない」

「ちょっと! そんな言い方ないじゃない!?」


エッジのまるで期待していないといった言葉に、ムッとしたのか明日菜がいきり立つ。

しかし、エッジは意に返さない。


「・・・同じ様に、あの刻、あの光景を越えてきた筈なんだがな・・・。どうやら随分と腑抜けに育ったようだ。あるいは甘やかされたか・・・」


そう小さく零すエッジ。

その表情には少なからず落胆が見える。

明日菜は、「ネギは良くやってる。10歳でも頑張ってる」そう言いたかったが、エッジが放つ凄みに何も言えない。


「ネギ・スプリングフィールドに伝えておけ」

「・・・何よ」

「安寧と生きられると思うな。忘れているならば、貴様は今度こそ全てを失うぞ・・・と」







静かな波紋を余所に、修学旅行の宴は続いていく。

夜は長い。






第9話    了





[18472] 第10話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/06/21 15:57

第10話   『修学旅行―――宴の夜』







「もう! なんなのよ、アイツ! 訳分かんない!」


再開した見回りの中、明日菜は不満を吐き散らす。


明日菜にとって、エッジは理解不能な相手だ。

ほとんど会話らしい会話などしたことがなく、まともに顔を合わせたのだって先程が初めてに近い。

印象だって悪い。

初めて会った時は、高畑と戦っているときだったのだ。

憧れの高畑を傷つけていた存在。

そんな相手だから理解できなくても仕方ない。

だけど、なのだ。

だけど、エッジは木乃香を助けてくれた人で、今は一緒に戦う仲間なのだ。

そんな人間が理解不能であることに、明日菜は我慢できない。

明日菜は我慢できない人間なのだ。


「まあまあ。落ち着いてください、明日菜さん」

「だってさ! ・・・ごめん、刹那さん。刹那さんに言っても仕方ないのに・・・」


そう言って、明日菜は顔を俯かせる。


その様子をみて、刹那は素直な人だなと思う。

真っ直ぐで、ぶれていない。

一本芯の通った強さがある。

そんな明日菜を羨ましく思う。


「構いませんよ。明日菜さんの気持ちも、解らない訳ではありませんから」


刹那にはエッジが理解できる。

自身、裏に関わってきた身であるし、彼と似たようなスタンスの龍宮がいた。

きっと彼は、ただ任務をこなそうとしているだけだ。

それも、最大効率をもって成そうとしている。

それだけなのだ。

しかし、それが一般人には理解し難い。

命の重さという道徳が根付く、一般社会において育った人間には特に理解できないことだろう。


「ありがとう。でもいいわ」

「そうですか」


明日菜は、ハッキリと「うん」と頷き、そして宣言した。


「わかんないなら、訊けばいいのよ!」

「―――え?」


あまりのことに、刹那は一瞬呆けてしまった。

尤も、誰もそれを咎めることは出来ないだろう。


「うん、そうよ。簡単なことだったわ。なんで気付かなかったか判らないくらい」

「・・・・・・」


いまだに「そうよね、うん」などと呟く明日菜の後姿を追いかけながら、刹那は思う。

やはりこの人は強い、と。







明日菜達は見回りを終え、再びエッジの部屋へ訪れた。

しかし、ノックに反応はなく、刹那は部屋に人の気配がないと言った。


「何処に行ったのかしら?」

「さあ? もしかして見回りをしているのかもしれません」

「なんだか肩透かしを喰らった気分だわ」


そう言って、緊張が抜けたのか盛大に吐息を零した。

刹那は、その様子にクスリと小さく微笑む。

なんだかんだ言っても、やはり少女でもある。


「なら、先にお風呂に入りませんか? 昼間から警戒し通しで、疲れが溜まってる筈ですから」

「う~ん、そうね。お風呂入ってからにしようか。昨日は騒ぎで楽しめなかったし、今の時間は誰もいない筈だし、丁度いいわ」


嬉しそうに笑う。


「ところで刹那さん」

「はい?」


明日菜は訝しげに周囲を見回す。

特にこれといって、変わりはない。

だが。


「この異様な雰囲気、何なのかしら?」


旅館全体が、異常な熱気に包まれている。

とはいっても、騒がしい訳ではなく、実際に熱い訳でもない。

どちらかと云うと、静かな方である。

強いて言えば、内に熱を秘めた溶岩のような、嵐の前の静けさというか、何やら怪しい雰囲気を醸し出している。


「・・・たしかに。何でしょう? でも、危険な感じはしませんね」


刹那も首を傾げる。

明日菜は、「そういえば先程カモさんが外に・・」とブツブツ呟くのを眺めながらも、まあ良いやと思う。


「危険がないならいいわよ。カモだって、これ以上ネギの立場を危うくしないでしょうし。それより、お風呂行きましょ」


それよりも、お風呂に入りたいのだ。

刹那も少し考えて、結局同意した。

危険ではないのだ。


「そうですね」


二人は、風呂道具を取りに歩きだす。


この判断が、吉とでるか凶とでるか、今はまだ判らない。







各部屋備え付けのテレビからは、ひとりの女子生徒の声が流れている。

彼女の名は、朝倉和美。

今日、魔法という裏を知るに至った、通称『麻帆良パパラッチ』である。

彼女は、芝居がかった口調で説明を続ける。

それはゲーム。

ネギの使い魔である、カモミール・アルベールが監修する“仮契約(パクティオー)”ゲームである。


「“くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦”!!!、では、ゲーム開始!!


関係者達は知らず、始められた。









「・・・やっぱり、なんか騒がしいわよね・・・」

「気にし過ぎても仕方ないですよ。それに、やっぱり危険な感じはしませんから。大方、クラスの皆で、何かゲームでもしているんでしょう」


風呂の脱衣所で、服を畳みながら二人は話す。

明日菜は、危険がないと言っても気になっている様子で、それを刹那が諭している。

尤も、気になっているだけで、行動にまで起こす気はないようだ。


「・・・それは在り得るわね・・・」

「そうですよ」


二人は、のほほんとお喋りをしながら、風呂へと歩を進めた。



ここの旅館の風呂は少々特殊で、男女の脱衣所は別々であれど、湯船は一緒の露天風呂を使用する。

早い話、混浴である。

尤も、旅館の貸切とは言え、男性教師もいることから時間帯は割けられ、重ならないようにされている。

男性教師達は、生徒達に先んじて入浴を済まし、今は見回りに励んでいる。

生徒達は、既に就寝時間を過ぎ、公式には寝ている筈である。

誰もいない筈の時間であった。

だからこその邂逅でもあったが。



「ん? ・・・ふん」


最初に気が付いたのはエッジである。

風呂という気の緩む瞬間であろうとも、最低限以上の警戒を切らないのは、傭兵としては基本中の基本である。

ましてや、自宅でもあるまいし、そこまで気が緩むことなどない。

尤も、気が付いただけで何もしなかった。

戦場で暮らす傭兵が、いちいち男女別れて過ごすことなどない。

食事は言うに及ばず、風呂・トイレ・寝所すらも同じが基本であり、幼い頃から過ごして来たエッジは、見るも見られるも慣れっこなのである。

だから、誰が入ってこようと、敵でない限りはかまわないのである。

ついでに、見知った気配だった、という理由もある。


次に気が付いたのは刹那であった。

剣士としての感覚が、風呂にある薄い気配を捉えた。

そして同時に、それが誰かを知るに至る。

咄嗟に、先に浴場に入った明日菜に声を掛ける。


「――あっ、明日菜さ「あーー!!」・・・、遅かった・・・」








修学旅行の夜は長いのだ。








第10話    了





[18472] 第11話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/06/21 16:00

第11話   『修学旅行―――宴の夜・体当たりの女』






「あーー!! こんなとこにいたのね!?」


明日菜は、思わず声を上げた。

後ろで、刹那が何か言っているが、聞いちゃいない。

なんだか、見つからない探し物がすぐ側にあった的な悔しさで、ついつい声を荒げてしまったのだ。

無論、エッジには何の責もない。


「・・・何か用か?」

「あんたに訊きたいことがあったのよ。で、部屋に行ったのにいなかったから、お風呂に来たの・・に・・? お風呂?」


自身の言葉でピタリと止まる明日菜。

そして、それは驚愕か恥辱かあるいは憤怒か、エッジが思わず「大丈夫か?」と声を掛けてしまうほどブルブルと震えだし、


「キャァーーーーーーーー!!!」


絶叫を上げるのだった。



うるさい奴だと、エッジは耳を塞ぎながら思った。

自分で風呂へ入ってきておきながら、今更悲鳴を上げるとは、意味がわからない。

咄嗟に、刹那が遮音結界を張らなければ、旅館全てに響き渡ったであろう。

その点は、ナイス刹那である。

尤も、そんな状況でも風呂から出ないあたり、エッジである。

それに眼福でもあった。

風呂場の蒸気に当てられ、僅かに水滴を浮かべる素肌は、引き締った腰と女性的な膨らみを持つ胸と相まって、若々しい色香を持っている。

慣れているとは云っても、年頃の男である。

瑞々しく、美しさを持った女性は嬉しいものである。




「ちょっと!? 後ろ向いててよ!」


今更ながらに、明日菜は手で体を隠し、タオルを巻き始める。

顔は言うに及ばず、全身足先から耳まで真っ赤である。

明日菜は、自身の迂闊さを呪っていた。

まったくもって油断しすぎであった。

つい、エッジの発見に我を忘れてしまった。

お蔭で、全裸を曝してしまった。

反省しきりの明日菜だったが、ここで風呂から一端出ると云う案が出ないあたり、間抜けである。



一頻りの混乱から立ち直り、エッジを見やる。

そして気付いた。

風呂中ほどの岩に腰かけ、外を見るエッジの背中。

いや、背中と言わず全身あっちこっちにある傷跡。

素人目にも判る、銃創・刀傷・火傷跡に、抉れたような跡に、腕と太腿にある一周する傷跡。

そして、描かれている模様?絵だろうか、がある。

それらを目にし、息を呑む。

それらは経験。

戦い、傷付き、傷つけた証。

自分と然程かわらぬ歳の少年が、遠い存在に見える。



また、明日菜に遅れて入ってきた刹那も、それらを見た。


傷自体は見慣れたものである。

自身も戦ってきた身だ。

それなりに傷を負ってきた。

しかし、問題はその種類と深さである。

いくつかは、致命傷に至ったのではないか、という深さである。

また、詳しくは判らないが、腕と太腿の傷はもしかして、と思う。

そうではないと思いたいが、もしそうならば、想像を絶するものだっただろう。

背中に見える刺青にしてもそうだ。

自身、聞きかじりに過ぎないが、あの手の所謂呪紋だとすれば、刺れるも激痛、使うも激痛の筈だ。

その覚悟が何処からくるのだろうか。

自身の持とうとするモノとは違うが、それでも自らが傷付き苦しむ覚悟。

未だに覚悟を決められない自身からすれば、信じられない思いである。



流れる水音に、我を取り戻す。

解らないことはいい。

遠いことも構わない。

元より、それが聞きたくて探していたのだ。


「・・・ねえ」

「何だ?」


素っ気ない返事に身が竦む。

僅かに詰まる息を無理やり吐き出し、意を決して訊いた。


「・・・どうして、簡単に傷付け合うことができるの?」

「それは、医者に『どうして手術ができるの?』と訊くようなものだな。俺は傭兵だ。それが“仕事”だからだ」


的確な喩えに「うっ」と詰まるも、更に重ねる。

訊きたいことは、そんなことじゃない。


「そうじゃなくて! えぇと・・・、貴方の仕事は護衛でしょう? 傷付けなくたって、取り返せればいいんでしょう?」

「最大効率の選択だ。今回の事は、あの女が原因だ。ならば、取り除けば終わる」

「最大効率って・・・。取り除けば終わるって、それって殺すってことでしょう!?」

「そうだ」


あまりにアッサリと肯定され、絶句する。

その方が都合が良いと、それを理由に殺すと、エッジはそう言ったのだ。

到底信じられることではない。


「・・・どうして? どうしてそんなに簡単に、命を奪うことを選べるの? 仕事だとか都合がいいとか、そんなことが聞きたいんじゃない。
 人を殺すことができると云う、あんたの頭の中を訊いてるのよ」

「それを知る意味はあるのか? お前のやるべきことに、影響はしないだろう。ならば、知ることに意味はない」


あんまりな言い草に、カチンと来る。

落ち着いてと自身に言い聞かせるも、次第にヒートアップしていく。


「意味がないって何よ! 私達、仲間でしょ!? 信頼しなきゃ、一緒に戦えないじゃない!」

「・・・少し違う。仲間ではなく、協力者といった方が正しいな。そして、信頼は必要ない。信用だけでいい」


取り付く島もない。

拒絶なのか、線を引いてるのか、踏み込ませないようにいている。

それでも、知りたい。

このモヤモヤは不快なのだ。

信頼だとか信用だとか、そんな難しいことは、この際はどうでもいい。

そう、初めから理由なんて簡単だった。


「・・・それに意味ならあるわ」

「なんだ?」


明日菜は、顔に満面の自信を浮かべ、宣言した。


「私が! 私のために! 知りたいのよ!!」







「―――――!」


その傍若っぷりに、エッジは呆気とられた。

理由にすらなっていない理由。

自己満足の極致。

しかし、呆気にとられると同時に感嘆もする。

自分本位。

どこまでいっても自身が中心に据えてある。

現代社会においては、ある種厄介な在り方ではあるが、生物として人間としてどこまでも正しい。

それも陰性のものじゃない。

そうしたいからと云う、明るく陽性なものだ。


「くっ! くくく・・・、あはっ」


笑いが零れる。

陰湿なものなどなく、ただ面白いから笑う。

想えば、ここまで真っ直ぐ問われることなど今までなかった。

裏社会というのは、大概が暗い陰をもつ。

だから、誰もが深く触れられることを嫌い、それが不文律となっていた。

それだからこそ、なのだろう。

こんなにも明るく触れてくる。

それが驚きと、何か分からない面白さを生んだようだ。

エッジは、“あの時”以来、恐らく初めて負の感情なく笑った。

清々しく笑い声を上げた。




「あ゛~、笑わせてもらった。面白いな、お前」


目端に浮かんだ涙をぬぐいながら、声をかける。

文句を言っているが、そんなことはどうでもいい。


「明日菜とかいったか」

「・・・そうよ」

「いいだろう。答えてやるよ。――で? 何が訊きたい?」


明日菜が困惑した顔でこちらを見ている。

まあ、それも仕方がないだろう。


「・・・なんで急に?」

「・・・笑わせてもらった礼だ。他に理由などない」


そう、他に理由などない。

ただ、真っ直ぐな姿が気に入って、今は機嫌がいい。

それだけである。


「そう。なら、遠慮なく訊かせてもらうわ。じゃあ、まずは―――――」







一方、旅館内部では惨憺たる光景が広がっていた。


たちこめる煙。

複数のネギ・スプリングフィールド。

倒れている、見回りの新田教諭。

目を回す女生徒。

それを正座で眺めている者。

そして、さらにネギを追いかける者達。

まさに、混沌と化していた。


原因は、“身代わりの紙型”と呼ばれる魔法具(マジックアイテム)である。

これは、人型に切られ特殊な術式が込められた紙に、自身の名を書き願い奉ることで、自分とそっくりな分身を作り出す物である。

誰でも扱える簡単な術具である反面、複雑な命令ができないという欠点がある。

そして、これを使用したネギは、書き損じた紙型をキチンと処理せず、その結果、“書き損じ達”は独自の行動を始めた訳である。

書き損じ達の行動原理は、ゲームに影響されたのか“キスをする”というものになっている。

尤も、目的達成と同時に爆発してしまうが。


兎にも角にも、人前に複数のネギ・スプリングフィールドという、神秘の秘匿を無視しまくった現象が起きているのである。

幸い能天気な生徒が多いのか、大部分の生徒はゲームの仕掛けだと判断し、その異常に気付いていない。

そしてその影で、ゲームを仕掛けたオコジョのカモミール・アルベールは、仮契約に励んでいる。

尤も、現時点ではスカカードしか成立していない。



一般人を裏へ巻き込む所業。

その許されざる行いが、如何なる結果を生み出すのか、今はまだ誰も知らない。







第11話    了





[18472] 第12話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:3903c47e
Date: 2010/06/28 09:51


第12話    『修学旅行―――宴の夜・覚悟』







明日菜はショックを受けていた。


エッジが話したのは、6年前以降のこと。

あの“雪の日”に触れずとも、エッジの人生は過酷であった。


10歳の少年の戦う日々。

“力が欲しい”という願いのもと、只管に戦場に立つ。

全ての教えは、戦場で実地をもって教えられる。

最初の人斬りは、月子と出会って3日後のことだった。


「人を斬るのは一瞬だった。10歳の小僧、魔力を使えず、気も扱えない。それでも、10歳の子供が振り下ろした刃は、容易く肉を裂いた」


それからも、続く戦いの日々。

より効率的に振るわれるようになる刀。

気を覚え、威力を増す剣技。

自身のミスと、その代償。

油断、その対価。

貫かれる腹。

抉られる肉。

削られていく命。

生き残る度に、増えていく傷、失われていく何か。

それでも、より力を求める。


「この腹と背の刺青もそうだ。力を求めて、自身に刻んだ。代償など、如何ほどでもない。より多くの手札を欲した」


エッジは明日菜を見る。

明日菜は青褪めていた。

だが、エッジは構わず続ける。


「俺は『エッジ』だ。(いくさ)にくべ、叩いて鍛え、研ぎ澄まされ、そして切り裂く。
 それが俺だ。俺が望んでそうなった」


明日菜を見つめる。

その表情は複雑だ。

怒りを覚えているようで、悲しんでいるようで、哀れんでいるようで、まるで痛みを耐えるかのような顔である。


「お前は言った。どうして殺すなんてことが出来るのか、と。答えはこうだ。
 俺が、殺すことが出来るようになることを望み、それが出来る環境で、そうして過ごしてきた。それが日常だった。
 だから、俺は、殺すことが出来る」

「――――――ッ!?」




それが日常だと、彼は言い切った。

それが日常だと。

もちろん、世界には紛争をしている国、子供が戦う国、戦禍の残る国があることは知っている。

ニュースや新聞、インターネットで簡単に知ることができる。

しかし、それらは壁一枚隔てた向こう側で、自分にとっては別世界の出来事だった。

だが、それが急激に現実味を帯びた。

それは、魔法という裏の世界に関わったことで、今や触れ得るところまで来ているのである。

そのことに、背筋が凍る。

しかし、腹に力を入れて耐える。

自分で望んで訊き出したのだ。

最後まで聞かなくてはならない。


「・・・なんで、力を求めたの?」

「それを語る気はない」


きっぱりと拒絶された。

きっと、それこそが彼の根幹なのだろう。

今の私には、それを訊く権利も資格もない。

だから、最後に一つだけ。


「最後に一つ、いい?」

「・・・ああ」


これだけは訊かなくてはならない。


「罪の意識はあるの?」

「・・・・・・あるさ。依頼で、あるいは不可抗力で、あるいは力の糧に望んで、命を奪ってきた。
 そこに過ちがあるとするならば、いずれ贖う時がこよう。それが、贖罪の日々なのか、この血肉なのかは分からない。だが、かまわない。俺は―――」


彼は言った。


                 「『罪を選んだ』」




話はお仕舞いだというように、風呂から上がる彼。

ショックを受け、考え込む私達を一瞥し、去っていく。

思考が焦りに捕らわれていく。

ここで行かせてはならない。

私の覚悟を見せねばならない。

明日菜は、何かに突き動かされるように口を切った。


「待って!」


エッジは、立ち止まり視線を向ける。

気圧されする必要はない。


「あんたの覚悟は分かったわ。でもね、今回の事は、あんただけのことじゃない。私達だって当事者よ。だから―」


一端切り、息を込める。


「――だから、あんただけの罪じゃないわ。それにね、私は殺すも殺されるも嫌なの。でも、何もしない訳じゃない。木乃香を狙ってるんだから。
 だから、打っ叩く! あんたが殺しちゃうより先に、打っ叩いて、とっ捕まえてやるわ! それなら文句ないでしょ!?」


彼が、目を丸くして驚いている。

なんだか、してやったりという感じだ。


「ああ、そうだな。やってみるがいい」


口許に笑みが浮かんでるのが見えた。

つられて、口角が吊りあがる。


「それと、もうひとつ」


色々あって忘れていた。

けれど、きっと一番に言わなくてはならないことだった。

随分と遅れてしまったけれど、私、神楽坂明日菜は、親友を助けてもらったのだ。

だから。


「木乃香を、親友を助けてくれて、どうもありがとう」


なんだか、清々しい気分だった。





エッジは、風呂場を出ようとしたところで、ピタリと止まった。

話し込んでいて、すっかりと忘れていたのだ。

振り返り、問いかける。


「ああ、そういえば、旅館の周りに敷かれている魔法陣はなんだ? どうも結界の類ではない様なんだが」


エッジは、攻撃魔法以外の西洋魔法については、あまり詳しくない。

それは、自身が使えないということが大きいが、そもそも、それ以外の知識がそう必要ではなかったことに起因する。

兎に角、結界ではないとしか解らなかったので、訊く事にしたのだ。


「・・・え?」

「いや、「え?」ってなんだ」


明日菜としては、意表を突かれた感じだ。


てっきり、旅館を守るための何かを書いているのだと、そう思っていたのだ。

しかし、エッジが言うには結界ではない、という。

そうなると、明日菜に思い付くものは一つだけである。

あのエロオコジョが、事ある毎に成立させようとする“仮契約”。

そして、3-Aの生徒達が騒いでいたとい状況が、可能性を煽る。


こんな状況で、さらに足を引っ張る真似をするアホオコジョ。

明日菜は、沸点に達した怒りが溢れ、突撃せんと駆け出し始めた瞬間。


‘つるん’という擬音さえ聞こえそうな鮮やかさで、明日菜は、宙を舞った。






「よおしゃーー! 宮崎のどか仮契約カード、ゲットだぜーー!!」


カモミールの前に、光が収束し、カードが現れる。

宮崎のどかの姿が描かれたそのカードは、仮契約成立の証である。

カモミールの前のモニターには、仰け反るネギとそれに支えられるのどかの姿が映しだされている。

二人の唇は重なっている。

ネギ・スプリングフィールドと宮崎のどかの、従者契約成立の瞬間であった。


しかし、それだけでは終わらなかった。

再び、カモミールの前に光が溢れる。


「よっしゃー! ・・・あれ? でも、誰だ?」


その光は、徐々に収束し、ひとつのカードを形作る。

しかしモニター画面には、ネギ以外の成立は映っていない。

疑問をよそに、カードは完成に至った。

カモミールは、カードを手に取る。

そこには、『神楽坂明日菜』が描かれていた。






風呂場は、異常なほど静まり返っていた。


すっかり空気と化していた、現状おろおろしている、バスタオル一枚の刹那。

床に散乱する、シャンプーやリンスの小瓶。

湯船に沈んでいくバスタオル。

転がる石鹸。

裸で仰向けに倒れている少年と、裸でその少年に跨る少女。

少年の腕は、少女を支えるように腰元へ伸ばされ、頭は床へぶつけないように浮かされている。

少女の腕は、少年の顔の両側で床に着き、頭は慣性に投げ出され、前のめりになっている。

二人の目は驚愕に見開き、思考は停止し、互いの目を凝視したまま動くことはない。

二人の唇は合わさり、唇の隙間からは僅かなの血の雫が流れ、互いの唇を赤く染め上げている。


彼らは、互いに口付けを交わしたまま、固まったように停止していた。






side:千草




「あの男の素性が判ったよ」


腕の治癒も完了し、明日のための準備をしていたところへの報告だった。

待ちに待った情報だ。

敵を知らねば、屈辱を晴らすなど夢のまた夢だ。


「ほんまか、フェイトはん。早う教えなはれ」

「落ち着いて欲しいな・・・。まあいい。判ったといっても、今回の仕事に就く前のことだけでね。生まれや本名は不明のままだ」

「いいから話さんかい」


フェイトは、その様子に小さく溜め息を零す。

この女、目的を忘れてなければいいが。


「・・・わかったよ。名前は『エッジ』、性はないね。明らかに偽名だけど、調べた限りでは出てこなかったよ。傭兵団『MOON CHILD』に所属、6年前からだね。
 彼は神鳴流を扱うけど、神鳴流は名乗っていない。『神炎流』と呼ばれているよ」

「しんえん流?」

「そう。彼の扱う神鳴流は、雷の代わりに炎を使うんだ。だから神の炎で、『神炎流』。そして、そう呼ばれるだけの実力はある。実際、彼の戦果は凄いよ。
 傭兵団の後期になるけど、単独での組織壊滅や紛争介入があり、それらを成功させている。これが資料だよ」

「・・・・・・くっ」


唇を噛む。

あの男の戦力がこの資料の通りならば、自分では決して勝てないだろう。

その事実に気付き、口惜しげに唸った。

単独で制圧できそうなのは、月詠かフェイトくらいだろう。

いや、あるいは月詠でも危険かもしれない。

それ以前に、月詠なら興が乗ったとか言って、自分で殺してしまうかもしれない。

ならば、やはりフェイトしかない。

彼ならば、殺さずに捕らえることも出来るだろう。

止めを自分で刺せばいいのだ。


「フェイトはん。頼まれてくれるか?」


そして、自分は、戦力が減っているところを襲って、木乃香お嬢様を手に入れる。










第12話    了





[18472] 第13話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:f20cc046
Date: 2010/07/05 17:07


第13話    『修学旅行―――三日目・長い一日の始まり』






修学旅行三日目である。

この日は、各班とも自由行動となっており、それぞれが望むように遊ぶことができる。

中には、大阪に出掛けるグループ等もあり、予算の許す限りの自由が保障されている。


さて、肝心要の近衛木乃香が所属するグループは、未定である。

エッジにとっては、まったく持って頭の痛い話しである。

護衛のプランが作れないのだから。

穴だらけの昨夜のプランで、なんとかするしかないのである。


とりあえず、打ち合わせのためにネギ達の元へ行く。

昨夜は、ネギ・スプリングフィールドとは話していないので、プランを確認するなら今しかないのだ。

ロビーの死角の休憩所に、彼らはいた。

見慣れない人間が一人いる。

学園長の爺の説明には出ていなかった人間だ。

ということは、ネギ方面から関わることになったのだろう。

あまりの迂闊さに溜息がでる。

この状況において、足手まといを増やしてどうする気なのだろうか、こいつは。

側にはオコジョもいる。

エッジは、オコジョ見て、昨夜の怒りを沸々と思い出していた。




――――昨夜




まさに、パニックという状態である。

体こそ、驚愕で停止状態にあったが、思考は支離滅裂で暴走状態であった。

明日菜の唇の感想から魔力発生の要因の考察、手の平に伝わる腰の感触、背中に触れる床の冷たさへの感想、息子の現状の確認などといった、戦場並の思考速度であった。


明日菜は明日菜で、私のセカンドキス、バスタオルの行方、どうしてこうなった、オコジョ殺す等と考えていた。

しかし、行動まで暴走しなかったのが、救いである。

もし暴走していたら、旅館が、少なくとも風呂は使い物にならなかっただろう。


互いに落ち着いた頃、明日菜から話を聞くに至った。

概要は、こうである。

・魔法陣は仮契約(パクティオー)の魔法陣

・仕掛けたのは、ネギの使い魔のオコジョ“カモミール・アルベール”である

・ひょっとしたら、関係者増えちゃってるかも

・恐らく、金のため(“5万オコジョドル”とか言っていたとのこと)

といったところである。


昨夜、風呂を出た後、仮契約の魔法陣を速攻で破壊し、キッチリ責を取らせるべく、オコジョを探したところ、ネギと共に人前で正座をしていた。

流石のエッジも、生徒達の目の前で小動物を殺す訳にはいかなかった。

仕方なく、明日に回したのである。








エッジは、腰から小振りサバイバルナイフを取り出す。

戦場で、よくウサギや鳥などの解体に使用したモノだ。

そのナイフを、呼気と共に投擲する。

閃光と見紛うほどの速度で投擲されたナイフは、寸分違わずオコジョの股下に突き立つ。


「さて、遺言はあるか? 慈悲深い俺は、一言ぐらいなら聞いてやらんでもない」


カモミールは、体毛で白い顔を蒼く染めるという器用な真似をして、ガタガタと震え、口も利けないようだ。

それもその筈。

投擲されたナイフが、雄の象徴を僅かに掠め、その鉄の感触を伝えているのだから。


「尤も、それで貴様の未来が変わる訳ではないが」


しかし、カモミールは口を利かない。

口をパクパクと金魚のように開け閉めするだけで、音を発しない。

どうやら、遺言はないようだ。

刺さっているナイフを引き抜く。


「どうやら無いようだな。では、死ね」

「ちょっと待って!」


振り上げたナイフを振り下ろそうとした瞬間、静止の声が掛かった。

知らない声だ。

恐らく、一緒にいた見知らぬ女だろう。


「何も殺すことないじゃない! それに、カモッちだけに責任がある訳じゃないわ。私も一緒にしたんだから!」


エッジは、絶対零度の視線を向ける。

揃いも揃って馬鹿ばかりだ。


「なら訊こうか。自分のクラスメイトを、死地に追いやった気分はどうだ? 楽しかったか?」

「そんな・・・、死地なんて大袈裟な・・・」


顔を青褪めさせ、言い訳を始める。

エッジは、そんな様子を見て、視界に入れるのも腹立だしいと、顔を背ける。


「大袈裟だと? 現に、既に血を流しているのに? 随分と楽観的だな。魔法をメルヘンだとでも思ったか? だが残念。魔法は、兵器に過ぎん。
 貴様が巻き込んだものは、事情すら知らずに戦場に立つだろうよ。それとも話すか? 結果は変わらん。覚悟のない者が、生き残れる世界じゃない」

「――――ッ!」

「アイテムが手に入って、戦力増えて、おまけに儲けてラッキー、か? その端金で、貴様は友達を売ったわけだ。よかったな?」


もう言うことは無いと、背を向ける。

さて、オコジョには責を負ってもらわなくては。

しかし、またしても邪魔が入った。


「待って下さい!!」

「今度は貴様か? 何だ?」

「カモ君は、僕の使い魔です。なら、その責任は僕のものです。僕が責任をとります!」


エッジは、口許に侮蔑の笑みを浮かべる。

この餓鬼は、何と言ったのだろうか。

オコジョは「兄貴!」などと言って感動しているが、全くもって状況把握が甘い。


「責任を取る? 見習いに過ぎない貴様がどうやって? それに、貴様がするべきは、発覚当初に記憶を消すべきだった。それが魔法使いとしての責任だった。
 現状では仮契約の破棄。それが最も良い方法だったが、コピーカードは既に譲渡済み。今から取り返すのは、流石に不審過ぎる。
 衆目に晒されてしまったから、今契約を破棄できない。デザインが変わって不自然だ。
 ならば、この状況で貴様にできることなどない。せめて、今後余計な真似を出来ないよう、オコジョで始末をつける。それが妥当だ」

「ッ! それは・・・、僕が彼女達を守ります! それで問題ありません!」

「ハッ! 守る? 近衛木乃香を攫われ、取り返すことさえ出来ない貴様が、誰かを守るだと? 笑わせる。足手まといを抱えて、貴様に何ができる。自惚れるな」


口惜しそうに歯を食いしばるネギを横目に、オコジョに向き直る。

しかし、いざというところで、再再度の邪魔が入る。


「ちょっと待って!」


今度は明日菜だった。

彼女は、少々申し訳なさそうな表情を浮かべているが、それでもしっかりとした調子で言った。


「魔法バレのことも、その後のことも、ネギが責任を持つって言ってる。貴方には迷惑を掛けない。だから殺さないで? お願い!」

「・・・こいつは、きっと繰り返すぞ? 消しとくなら、早い方がいい」

「躾けるわ。それでもダメだと云うなら、何かしらの術で、縛ってもいい。そんな魔法もあるんでしょう?」


エッジは、じっと明日菜を見る。

昨夜のせいか、若干頬を染めて居心地悪そうにしているが、それでもしっかりと視線を返してきた。

溜め息を吐く。


「どういうことか、解っているのか?」

「うん。解ってる」

「仮契約カードがある、ということは繋がっているということだ」

「解ってる。それも含めて解ってる」


仕方あるまい。

エッジは、なんだか明日菜が苦手だった。


「・・・・・好きにしろ。だが、何かあった時、その罪は軽くないことを覚えておけ」




朝倉という女を追い出し、話し合いを始めた。

余計な情報漏洩は防ぐべきだ。

尤も、確認するだけであるが。

目的の確認、状況の確認、戦力の確認。

最良は何も起きないこと、最悪は他の生徒も巻き添えに襲われること。

この際、一般人は考慮外だ。

尤も、何も起きないなんて、現状では天地が引っ繰り返ってもありえないだろうが。



「旦那、あんたのカードだ」


オコジョがビクつきながらも、一枚のカードを寄越した。

仮契約(パクティオー)カードである。


表には“神楽坂明日菜”が描かれている。

その姿は、両手を胸前で交差させ、アーティファクトでガードしている。

称号は“守り通す者”。

アーティファクトは“scutum depulsum(魔除けの盾)”。

これは、手甲と肘まであるプレートアーマーに、展開・収納が可能な円盾が付いた形だ。

ナックルガードまであるので、殴り合いすら可能だろう。

強度、能力共にまだ不明だが、それなりに便利そうである。


契約を解除しようと考えていたが、現状では役に立つかもしれない。

周囲に目を走らせ、人目を確認する。

誰もいないことを確信し、明日菜にアーティファクトの召喚をさせた。


「アデアット」


カードが光を放ち、明日菜の両腕に鎧が展開された。


「わ! 凄い。思ったより重くない。これならハリセンも振るえるわ」


もう一度「アデアット」と繰り返し、もう一つのアーティファクトを取り出す。

ハリセンのアーティファクトだ。


ネギ側のアーティファクトとエッジ側のアーティファクトが、全く性質の違うものだが、複数と契約するとままあるものらしい。

主の性質に引っ張られるのだとか。

魔法使いの従者と剣士の従者。

違うのも頷けるというものである。






一通り確認が済んだ一行は、それぞれの目的地へ向う。

尤も、最初から頓挫するに至った。


自由行動において、予定のなかった近衛木乃香擁する5班は、こっそり行動する明日菜を見つけて、一緒に行動することにしたのである。

いきなりの予定変更に、思わず溜め息を吐くエッジであった。



一日は、始まったばかりである。







第13話    了


作者一言
微妙に難産でした。
カモは、殺したいんだけど、後々必要かもしれないし。
普段は空気だけど。
刹那は空気。



[18472] 第14話
Name: 紅月◆a3e744a8 ID:f20cc046
Date: 2010/07/10 18:15

第14話    『修学旅行―――長い一日・戦闘戦闘また戦闘』






エッジは竹林の中、既に鞘から抜き払い、敵と対峙していた。


眼前には、恐らく“石の槍”を使った魔法使い。

10代前半くらいの白髪の少年だが、その無機質の瞳が不気味さを醸し出している。

実年齢はもっと上なのだろう。


対峙してみたが、いきなりの戦闘とはならない様だ。


「よぉ、旅館出たあたりからか? しつこいくらい視線寄越しやがって。なんとなく察しはついてるけどよ。一応訊いといてやる。
 足止めか?」

「そうだよ」


あからさまに溜め息を吐く。

やはり戦力の分散を狙って来た。

離れる前に、一応刹那に注意を促したが、あれはどこか抜けているところがある。

やられなければいいが。

だが、同時に僥倖でもある。

こちらの戦力で、コイツと戦えるのは俺だけだろう。

それほどまでに、目の前の少年は異質だ。


「それと、もう一つ目的がある」


もう一つ?

エッジは疑問符を浮かべる。

戦力の分散、または削減を狙った足止め。

それ以外に目的があるのだろうか?

視線で促す。


「君の捕獲だ。雇い主がご立腹でね。君を、自身の手で、殺したいそうだ」

「ハッ! お前も残念な雇い主に付いたものだな」


思わず哂いが出る。

戦いの場において、傷付き、傷付けられることは当たり前のことである。

それも、自分から仕掛けた戦いで、傷付けられたことを逆上するなど、三流もいいとこであろう。


「そうでもないよ」


しかし、彼は、特に残念とは思っていないようだ。

いや、あるいは何か含みがあるのか。

だが、そんなことはどうでもいい。

どんな理由にしろ、敵対しているのだ。

ならば、することは一つだけ。


「まあ、そちらの言い分もあろうが、捕まってやる気はないし、敗ける気もない」

「だろうね」


両者の間の空気が、ピリピリと緊張に震え始める。

気と魔力が高まり合い、互いを圧し、弾ける。

瞬間、エッジは駆け出し、フェイトは無詠唱の“石の槍”を放った。







明日菜とネギ、こっそりと抜け出した二人とついでの一匹は、関西呪術協会総本山に来ていた。

千本鳥居が続くその奥に、その所在がある。


「アデアット。もういっちょ、アデアット」


ネギは杖を構え、明日菜はアーティファクトを召喚する。

カモミールの忠告により、二人は万全の体制で鳥居に進入する。


しかし、相手の方が、一枚も二枚も上手であった。

罠は、領域として張られていた。

進入するものを閉じ込める、正確にいうならば、出口と入口を繋げて閉じ込める、ループ型結界“無間方処の呪法”に囚われてしまった。

気付くのが、30分以上も走り続けた後、というのがまた辛い。

無駄な体力を消費し、疲労困憊の体である。


「ちょっと休憩しましょう? このままじゃ、今襲撃でもされたら、やられちゃうわよ」

「そうですね。休憩所がありますし、休みましょう」


明日菜達は、体力の回復を図る。

しかし、敵はそれを見逃すほど、甘くはなかった。




「小太郎はん。此処は、アンタに任せるで。閉じ込めとっても問題あらへんが、大人舐めたらどうなるか、思い知らせてやらな」

「好きにやってもええんか? それなら楽でええけど、女子中学生とチビ魔術師か。つまらんなぁ」

「とっときの式鬼、置いてくから、任せるなり使うなり好きにせい。ただ、式払いの力持つ女子中学生だけは、注意せな」

「まあ、ええわ。こちとら雇われや。女はともかく、西洋魔術師ブチのめすのは面白そうやし」

「好きにせい。けど、逃がしたらアカンで。ほな、私は行くさかい、しっかりしいや」


千草はそう言い残し、自分の目的を果たしに去っていった。

小太郎と呼ばれた少年は、千草が置いていった式鬼を見る。

頑丈そうな鬼蜘蛛に、これまたゴツイ大鬼2体。

式払いの能力とは云え、これは過剰戦力じゃないだろうか?

それとも、自分の力を信じていないのか。

まあいいと、無駄な思考を切って捨て、式鬼達をつれて道へ降りる。


「さて、やろうか? 西洋魔術師」




それを影から見つめる、少女ひとり。








刹那は走る。

片腕には木乃香を抱え、もう片手で飛来する棒手裏剣を回収する。


全く、悪い予想とは当たるものである。

人前でも襲ってくる可能性を指摘されていたが、まさかと考えていたのだ。

しかし、実際に襲われている。

自身の見通しが甘かったと、言わざるを得ない。


「お嬢様、シネマ村に入ります」


一気に跳躍し、壁を越えてシネマ村に入る。

修学旅行のシーズン中であるなら、人が多いはず。

人目がある分、いくらかは安全になるだろう。


中に入り、一息つく。

一先ずは安全だ。

学友達は置いてきたので、巻き込まれることもないだろう。

とりあえず、人質は気にしなくても大丈夫なのは、ありがたい。

状況から判断して、襲ってきたのは神鳴流の剣士。

ということは、後衛の女陰陽師もいるはずである。

まだまだ油断ならない。

考えるべきは、今後のプランだ。


「せっちゃん、せっちゃん~」

「はい?」

「じゃ~ん!」

「わぁっ!?」


刹那は一瞬呆ける。

そこにいたのは、着物に着替えた木乃香である。

その姿は、正しくお嬢様であり、もっと言うならばお姫様であった。

(本当に美しくなられた・・・)

同姓ながら見惚れてしまう程の成長をみせ、影ながら見守ってきた身としては、とても嬉しいものであった(尤も、動揺までしているのは行き過ぎである)。

そんな風に呆けているうちに、刹那はあれよあれよと云う間に、キッチリ仮装させられているのだった。


すっかり木乃香に乗せられ、一緒に遊んでいる刹那。

しかし、敵とて手を拱いてばかりではないのである。


突如として、一台の馬車が駆け寄って来た。


「そこな剣士はん、今日こそ借金の形に、お嬢様を貰い受けに来ましたえ~」


突然の展開についていけない刹那。

しかし、周囲を見ると、そうでもないようだ。


「せっちゃん、せっちゃん。これ、劇や劇。お芝居や」


それもその筈。

此処シネマ村では、客を巻き込んでの芝居が、突如として行われることが多々あるのである。

それに乗じて、堂々と攫おうというのだろう。


「そうはさせんぞ! 木乃香お嬢様は、私が守る!」

「キャー、せっちゃん、カッコえー!」


周囲の盛り上がりを余所に、刹那は失敗を嘆いていた。

ここでの最善は、無視して逃げ出すこと。

劇に巻き込まれ、慌てパニくった一般人として逃げるべきだった。

しかし、楽しんでいたところを邪魔され、さらに雰囲気に乗せられていたとはいえ、ついつい敵の舞台に上ってしまった。

これだけの衆人環視の中で、啖呵を切ってしまったのだ。

一般人だけならまだしも、事情の知らないお嬢様がいる。

もはや、関わらずして逃げ出すことが、出来なくなってしまったのだった。


後悔していても時間は止まらない。


「え~い」


月詠が、左手袋を投げつける。

古い決闘の作法である。

反射的に受け取る刹那。


「このかお嬢様を賭けて、決闘を申し込ませて頂きます」


こうして、決闘は成立してしまった。

時間は30分後、場所はシネマ村正門横“日本橋”。

30分もある。

ふと、逃げられるか考える刹那。

しかし、考えが読まれていたのか、釘を刺される。


「逃げたらあきまへんえー、刹那センパイ」


その目を見て、盛大に後悔する。

あれは、神鳴流の闇に呑まれた目。

狂人の類だ。

恐らく、逃げれば容赦なく一般人を斬り殺すだろう狂った人間だ。

(仕方あるまい。やるしかないか・・・)

刹那は、後悔と共に、溜め息を漏らした。





長い一日、それぞれの戦いが始まった。





第14話    了




作者一言

え~、来週からリアルが地獄の日々を迎えます。
よって、更新がかなり遅くなること受けあい。
なんとか、執筆時間を抽出するつもりですが、恐らく結構遅れることになりましょう。
地獄の期間は、半年は確定なんですみません。
尤も、放棄はしませんので。
悪しからず。
リアルは、肉体的にも頭脳的にも精神的にも地獄です。
次の投稿はiphoneからかな~。
できれば。


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