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[18266] ある店主(ry 外伝リリカル編
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/10/15 21:45

小説を読むにあたっての諸注意

・この小説はここのオリジナル版にある「ある店主と迷惑な客たち」の続き、優鬼の旅路の一つです。
・そういうわけで主人公の特殊な設定については逐一に説明しないことがあります。
・また一つであり、最初ではないため他の作品の設定を使用することがあります。
・「ある店主と迷惑な客たち」に登場してきた優鬼以外の人たちは出ない可能性が高いです。主にパワーバランスの問題で。
・作者は管理局が好きじゃありません。故にアンチ管理局になる可能性があります。
・そも戦闘自体が少ないと思われ。訓練には加わる、かな?

以上のことを踏まえた上でこの小説をお読みください。



[18266] 第一話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/04/26 17:51

 仕事を納得ができるまでしていたため、帰宅するのが結構夜遅くになってしまった。こんなことは良くあることなので別に今更どうとも思わない。ただ、娘がこんな遅くまで残業していることを知ったらあの両親のことだ。とても心配するに違いない。
 そんなことを考えながら、見慣れた町並みを歩く。

「お腹、空いたな……」

 ただ、今日は帰るのが非常に遅かった。その上昼間はいつもより難易度が上の実践訓練を行った。そのため疲労と空腹がいつもより大きい。
 何かちょうど良い店は無いものかと辺りを見回す。ここは日本とは違い、二十四時間空いている店がそこらかしこに無い。いや、むしろ日本のように深夜も営業している店が大量にあるほうが異常なのかもしれない。兎に角、お腹が空いた。

「レイジングハート、何か良い店はない?」
『ありません、マスター』
「……そっか」

 どうやらこの辺りに良い店は無いようだ、残念。これでは家に帰るまで何にもありつけないだろう。そもそも家に食材はあっただろうか。あまり、覚えていない。
 いや、あるかもしれない。確か母さんが作り置きの料理をいくらかくれたはずだ。まだ食べていない。だが、まだ大丈夫だろうか。正直不安だ。

「……ここは?」

 草木も眠る深夜、街灯以外の灯りがほとんどない暗い街の中、別の灯りを目にする。近づいて良く見る。看板としてかけられている三日月に座る猫又。OPENの札がかかっているところから今も営業していることがわかる。
 本当にここは一体どのような店なのだろうか。看板は先ほど上げた二つだけしかなく、およそどのような店舗なのかと言う情報が完全に欠けている。ただ、悪い意味で怪しい店ではなさそうだ。
 このままこんなところで足踏みをしていても仕方が無い。とりあえず入ってみよう。私は意を決して少々重い扉を開けた。



「――やあ、いらっしゃい」



 全体的に落ち着いた雰囲気の店だ。本を読むには少々頼りないオレンジ色の光が店全体を照らしている。店内は狭く、カウンター席が十席だけ。そして店員は見たところ私を出迎えた彼一人だけ。
 そんな彼、バーテンダー服を着ている青年はカウンターテーブルを拭くのをやめてこちらを見ている。閉店準備中なのだろうか。そのときは惜しいが、素直に帰ろう。

「もう終わりですか?」
「ああ、まだ大丈夫だよ。閉店時間はあまり、決めていないからね」
「ありがとうございます」
「お構いなく。どうぞ、お好きな席に」

 マスターの言葉に嘘偽りは感じられない。ならば事実としてここは閉店時間など決めていないのだろう。ただ好きな時に閉め、気が済むまで開ける。
 それでも今日はもう閉店のつもりだったに違いない。迷うことなく私の勝手にあわせてくれた彼の優しさに感謝した。

「ご注文は?」
「えっと…………」

 飲食店のようだが、メニューは無い。壁に作られた棚に陳列された酒瓶からバーだとは思う。ただその場合向こうの棚にあるイタリアンのフルコースにだって使えそうな食器類の説明がつかない。
 本当にここは一体何の店なのだろう。一軒ではバーとしか見えないくせに、見方によっては小さなレストランとも取れる。お酒もカクテルだけではなくワインから日本酒など各種取り揃えている。
 本当に何を頼もうか。非常に悩む。

「何がありますか?」
「ご注文とあれば何でも。ただ、物によっては結構な時間を頂くけど」

 それはまた。しかしそうなるとさらに悩む。空腹感はある。出来るならばしっかりとしたものを食べたい。

「お悩みなら適当に作ろうか?」
「あ、お願いできますか?」
「了解。ちなみにアレルギーとか、嫌いなものはある?」
「いえ、ないです」
「うん、わかった」

 これが一番無難な注文だろう。彼の手を無理に煩わせないで済む。
 マスターは私を観察した後、調理を始める。湯を沸かし、一方で冷蔵庫から取り出した食材を切る。その動作に一切の迷いがない。

「それではまず、食前酒のワイン」
「あの、未成年なのですか」
「こんな夜分遅くに出歩く子供は子供じゃない。それに少々だから大丈夫。まあ無理して飲む必要も無いけど」
「……少し、飲んでみます」

 最初に出されたほのかに赤いワインはあっさりとした甘さで意外と飲みやすかった。昔、両親の何回目かの結婚記念日の時に盗み飲んだお酒の味とは大違いだ。とても飲みやすく、少しのつもりがグラス一杯全て飲み干してしまった。

「続いて前菜、ソーセージと温野菜盛り合わせ。あ、ところで何飲む?」

 この皿に紅茶やコーヒーは論外だ。ならば水か、もしくは先ほどのようなお酒か。食前酒に出されたワインのせいでついお酒を頼みたくなる。
 ただ、問題として私は未成年だ。ミッドではもうお酒を飲んでも良い年齢ではあるが、日本人として少し抵抗がある。では何を頼もうか。その悩みは口に出していなくともすぐに彼に悟られた。

「まあ偶には羽目を外しても良いと思うよ。外しすぎたら容赦なく止めるから」

 そういうマスターの言葉は何故か信頼できた。ここで初めて会ったばかりでお互いまだ名前も知らない間柄だと言うのに。マスターの雰囲気か、もしくは経験のおかげだろうか。
 兎に角止めてくれる、信頼できるその言葉に素直に甘えさせてもらおう。そう、たまにはこんな日も良いのではないか。それにきっと彼なら素晴らしい物を出してくれるに違いない。そんな期待を胸に、自分のご褒美も兼ねて「お勧め」を注文した。

「それなら当たり年のヴィンテージワインの白を。お酒初心者でも飲みやすい口当たりだよ」
「綺麗な色ですね」

 若干黄色に色づいた白。葡萄の紫色の皮をむいた後に見える宝石のような色合いをしたワインが出された。確かに飲んだ時にはお酒特有のアルコール臭があるものの、味がまろやかで非常に飲みやすい。
 温野菜もただ蒸しただけと言うのに非常に甘く、自家製というドレッシングも完成度が非常に高い。私の母さんはプロのシェフで、その手料理を良く食べていたから分かる。マスターはかなりの腕前を持っている。

「オニオングラタンスープ」

 舌に馴染みの無い料理であっても落ち着けるものは落ち着ける。ミッドチルダは常春の気候を機械によって保っているので四季はない。四季の中で育ってきた日本人にはその辺りが馴染みにくいと感じる時がある。
 思い出せば今は季節的に言うなれば冬だ。だからだろうか。こういう体の中から温まるスープを飲むと非常に落ち着く。

「帆立のグリルマリナーラソース、サラダ」

 メインとなる魚料理。帆立は火が通り過ぎておらず、その身はしっとりとしている。最初の方に出された温野菜で分かっているが、結構素材に拘りを持っているようだ。非常に美味しい。

「デザートにタルトタタン、紅茶」

 デザートにフォークを刺す。気付けば全ての皿を綺麗に平らげていた。十分な満腹感を得ながらも、腹八分目ほど。ちょうど良いぐらいに抑えられている。もしや一目で人の食事量を見極めたのだろうか……いや、まさか。
 ダージリンの紅茶。それもS.F.T.G.F.O.Pに限りなく近い物。淹れる腕前も父さん同等か――いやそれ以上。紅茶の持つ品格を惜しみなく出しつつ、それでいて一切の気負いがない。正に完璧。これ以上を望むのは愚かとしか言い様が無いほど文句の付け所が無い。

「驚きました。何が出てくるのか期待していたらまさか、フルコースだなんて。もしも私が空腹で無かったならどうするつもりだったのですか?」
「慣れてくるとね、人が何を求めているのかというのが何となく分かるものなんだよ。だからその質問は答えられない」
「職業病というものですね」
「ただの慣れだよ」
「……もう一杯、頂けますか?」
「うん、もちろん」

 久しぶりに紅茶をおいしいと感じる。何時からだろうか。紅茶の味を忘れ、ただの眠気覚ましとしか見なくなったのは。喫茶店の娘だというのに、こんなものすら分からなくなっていた。

「……満足して頂けたようだね」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして。あとそんなにも固い言葉遣いじゃなくても良いよ。というか、僕が慣れない」
「……分かりました」

 のんびりと紅茶を飲む。今日はとても良い日だ。夜分遅くまで働いていたおかげでこんなにも良い店に出会えた。ここのことはしっかりと覚えておこう。
 ああ、そうだ。友達にもこの店を教えよう。さすがに大人数で押しかけるのは気が引けるから二、三人で。それはきっと楽しいものになる。

「それにしても、結構飲めるんだね」
「にゃ?」
「ボトル一本ほど飲んでいるんだよ、君。知っていた?」
「……本当なの? 全然気が付かなかった」
「ま、最初はね。今後は自分がどれだけ飲んでいるのか、気をつけたほうが良いよ。酒は百薬の長だけど、飲み過ぎれば毒となる」
「そういうのだったら止めてよぉ。うう、何だか酔ってきた気がする……」
「ああごめん。僕基準で考えていた」
「……マスターは、お酒に強いなの?」
「まあ、人よりは強いほうだよ」

 病は気からとは良く言ったものだ。先ほどまであまり飲んでいないつもりでいたため、酔っているとは感じなかった。しかしマスターの話を聞いた途端に酔いを自覚した。きっとこのふわふわする感覚が酔いなのだろう。
 夜遅くまで働いていた習慣で近頃夜全く眠くならなかったというのに、妙に眠い。今ベッドに入れば容易く気持ち良い眠りにつける自信がある。
 今度お酒を売ってもらおうか。少なくとも睡眠薬よりも体に良さそうだ。飲みすぎに注意すれば良いだけだ。よし、そうしよう。

『……失礼ですが、何か■■■■■?』
「ああ……」
『――――』
「――――――」

 ずっと沈黙を保っていたデバイス――レイジングハートが急に口を開く。マスターはそれに返事をしたようだが、私は何を言っているのか分からない。
 音が光が、世界が遠のく。私はそれに抗う暇も無く、いやそれすら自覚する暇も無く、極めて自然に深いまどろみに身を沈めていた……




「――――ん、ぅ……」

 強い日の光と鳥の声で目が覚める。だけどもう少し、後五分だけでもまだこのまどろみの中に居たい。しかし長年の習慣は恐ろしいもので、体はそんな欲求を一切許そうとせず、私はいつものように起きた。
 久しぶりにとても良く眠れた。体にしつこく付いていた疲れが綺麗になくなっている。体が軽い。今なら三日連続徹夜も可能だ。

「…………」

 ふと知らない天井を見上げたとき、どうしようもなく何かを言いたくなった。それを無理やり堪え、ベッドから体を起こす。
 必要最低限の調度品が置かれた部屋。常日頃から使われているようではないが、定期的に掃除されているのはよく分かる。全体的に落ち着いた部屋で、睡眠をとるには十分だ。ただ住むには少々物が足りない。

「……ここ、どこ?」

 部屋全体を観察した後、やっと自分のいる場所が知らない部屋であることを理解した。何故自分はここにいるのだろう。

「レイジングハート……レイジングハート?」

 少々着崩された管理局航空部隊の制服。その胸元にあるべきものが存在しない。あわてて周りを見回してもそれらしきものは見当たらない。
 正直、自分の状態を見て血の気が引く音が聞こえた。確かに自分には女性としての自覚が足りないだろう。化粧の仕方も知らないし、現在流行している服装も知らない。
 だが、それは足りないだけでないわけではない。そのため、何と言うか。本当にショックだった。泣きたいと言う感情よりも只管に呆然とした。

「……起きよう」

 暫しショックに呆然とした後、服装を正す。デバイスが無いとは言えある程度の魔法は使える。護身術も多少は齧っている。暴漢を捕まえることは出来なくとも、レイジングハートさえ取り返すことができたなら。
 そう思いながら話し声のする下の階に静かに移動する。聞こえてくる声は二つ。その片方はレイジングハートの声だ。妙に饒舌になっている。
 そしてもう片方は聞きなれないものの、どこかで聞いた覚えのある声だ。それも最近に聞いた気がする。
 不要な雑念を中断する。今はレイジングハートを取り返すことだけに集中しよう。それから暴漢を捕獲する。

「や、やっと起きた?」
『まあマスターは近頃不眠症ですし、その付けが回ったのでしょう』
「ああなるほど……三十路過ぎ辺りから啼く羽目になる王道ね」
『ですね。それからマスター、隠れていないでそろそろ出てきたらどうですか? というか隠れても正直…………髪が隠れていませんよ?』

 ……え、何これ? 本当に何これ?
 理解の範疇を超えている。気付いたら見知らぬ部屋にデバイスを奪われて寝かされ、服は着崩されていた。奪われたデバイスは親しく犯人と思われる男性と仲良く話していた。いくらレイジングハートがインテリジェントデバイスとはいえ、感情豊かではない。友達の一人が持っているユニゾンデバイス並にしゃべるものではなかった。

「……おはようございます……」
「うん、おはよう。良く眠れた?」
「はい、とても」

 見つかっている以上隠れている必要もない。その部屋に入ってみると、そこには相変わらずの格好をしているバーのマスターがコーヒーを飲んでいた。すごく優雅だ。人として、あそこまで格好良く茶を嗜んでみたいと思う。
 そして件のレイジングハートは机の上に置かれている。見たところこれといった変化はなく、どうしてあそこまで感情豊かになったのかが分からない。

『おはようございます、マスター。とりあえず今後はきっちりとした生活リズムを取ってください。さもないと三十路過ぎた辺りからシミソバカス皺だらけで見た目の年齢がプラス十歳されるそうですよ』
「それは嫌なの……」
『そう思うのであれば常日頃から自身の健康に気を使うことですね。この方が女を捨て、仕事を選ぶなら話は別だ、と言っていましたよ』

 今まで機械的であったデバイスに説教されるマスターとはこれ如何に。奇妙を通り越して珍妙な光景にしか見えない。仮にレイジングハートがユニゾンデバイスのように人の姿を持っていたならある程度はまともに見えるだろうが、レイジングハートはまだ宝石の形だ。やはり、珍妙にしか見えない。
 さて、となると問題は何があってこんなことになったのかだ。この場合誰がやったのかというのはすぐに推察できるの質問しやすい。

「一体何をしたの?」
「ごみ掃除と整理整頓、それから感情プログラム入れて、ついでに総点検を少し」
『その少しと言う言葉におよそ二世代は先だろうと言う技術が使われていたのですが?』
「割と昔の技術なんだけど、あれ」
『ダウト。まあお陰様で生き返った心地はしますし、ここはそういうことにしておきましょう』

 ごみ掃除と言うと不要なプログラムの削除。整理整頓はプログラムの軽量化及び最適化。総点検はつまりオーバーホールのことだとはすぐに理解できる。それらを一晩で完了したのならマスターは凄腕のデバイスマイスターだ。
 フルコースが出来るシェフでありソムリエ。バーテンダーでありかつデバイスマイスター。ここまで多才だと正直嫉妬を覚える。
 話を戻そう。感情プログラム。これは一体何であろうか。当然初耳であり、名前から考えるに人の感情をプログラム化したものだとは理解できる。しかし、そんなことが可能なのだろうか。

「ああ、難しく考えずに相棒が付喪神になってしまったと受け入れたほうが良いよ。正直、常人にアレを説明するのは不可能だ」
「……え、付喪神?」
「だって無機物でありながら感情を持ち、言葉を操るなんてほとんど生命じゃないか。だから付喪神」
「い、言われてみればそんな気が……でも付喪神って妖怪じゃ……大丈夫、なのかな?」
「一種の妖怪ではあるね。ただ彼らも良い奴もいれば悪い奴もいる。そんなの人間と同じじゃないか。嫌悪する理由には至らない」
「……そうですね……何があろうとレイジングハートはレイジングハートだよね」
『当然です。私が他の私になるなどそれはすでに私ではありません』

 本当に感情豊かかつ饒舌になっている。しかも使っている言葉が英語から日本語に変わっているあたり妙に器用だ。私個人としてはあの機械的なころよりもむしろこちらのほうが好ましい。

『改めて、よろしくお願いします、マスター』
「うん、よろしく。レイジングハート」

 机に置かれたレイジングハートをいつものように首にかける。やはりこの首にかかる荷重がちょうど良い。何となく心が落ち着く。
 ふと顔を上げるとマスターが何か言いたげにこちらを見ている。その視線にどうしようもなく嫌な予感がした。

「あの……何か?」
「……廊下出て右に、二つ目のドアが風呂場。僕の五感がやけに敏感なだけだから、他の人は分からないけどね。正直に言おう。にお――」

 即座に部屋を出て風呂場に向かった。常人より五感が鋭敏だとか関係ない。まだ私はぎりぎり中学生、もうすぐ高校生の年齢。これからまさに青春真っ盛りというのに始める前に女を捨てたくない。

「服は浴衣あるけど、それ貸そうか?」
「他には何か無いの?」
「僕のお古で良いなら」
「…………浴衣でお願いします」

 この際質問は一切しないという方向で。まあこの広い次元世界。こんな家庭があったとしても別に不思議ではない。そう納得しよう。納得しなければならない。何となくそんな悟りを感じる。
 入浴中にマスターが脱衣場に服をおいていく。念のためにレイジングハートを向こう側に置いといた。何か怪しいことをしたならすぐに伝えてくれる。
 が、何も伝わらない。

――レイジングハート。

――彼は何もしていません。ええ、服を置く以外何も。

――…………

 何と言えば良いのだろうか。これは何もされていないことに安心を覚えるべきか、もしくは女として見られていないことにショックを覚えるべきか。言葉にならない感情を抱えつつ、檜風呂で私は黙々と体を洗った。
 浴衣に着替え、服を丁寧に畳んで傍においてあった風呂敷で包んだ後、リビングに向かう。

「ちょっと待ってね。もうすぐで出来上がるから」

 リビングテーブルの上には見事な和食が並んでいた。焼き魚を中心に煮物、厚焼き玉子に御浸し、漬物、海苔にシジミの味噌汁。そして白ご飯。

「あの、マスターは日本人なの?」
「ん? ぁあ、自己紹介していなかったね。僕は神楽 ユウキ。お察しの通り、君と同じ日本人だよ。時空管理局本局航空戦技教導隊所属高町 なのは二等空尉」
「私のこと、知っているの?」
「いろいろと有名だからね。雑誌とか新聞とかで何度も取り上げられているし。嫌でも知るさ」
「あ、そういえばそうだね。それじゃ、改めて。高町 なのはです。よろしくお願いします。えっと……優希くん」
「優希じゃなくてユウキね。優しき鬼と書いて優鬼」

 優鬼、何とも変わった名前だ。鬼とは本来怖いものであるのにそれが優しいとは。だが、その名前が何とも彼らしいと思えた。優しき鬼。鬼より優れ、鬼にすら優しき者。

「お腹空いているでしょ。冷めない内に食べよう?」
「うん!」
「それじゃ、頂きます」



 後の話。いつもより健康でさらに元気になったことを不思議に思った両親に割と詰め寄られた。特に母さんが好きな人が~と口にしたときの兄さんの変貌には驚いた。

「……ねぇレイジングハート」
『何も聞かないでください。私も結構、ここの生活が気に入っているので』
「……早まった……」

 あの日からこの店には良く足を運ぶようになり、時として泊まることが多くなった。

「お待たせ、ユウキくん。お母さん直伝肉じゃがだよ」
「……四十二点。市販の出汁の素で満足するな」
「うぅ、厳しいよ」

 ついでに花嫁修業も。ただ男に習っているというのはある意味屈辱的な気がしてならない。いや、それ以前にどうしてユウキが化粧の仕方から武芸十八般、裁縫から家事の全てを完璧にこなせるのだろうか。
 絶対に生まれる前に選択肢を間違えている。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 今日は人が来ない。まあそんな日もあると閉店準備をはじめる。どうせこの店、完全に僕の道楽で開いているものだ。一部脅迫概念に近いものもあるが、基本的にやりたいからやっているにしか過ぎない。だから開店時間は定めていても定休日も閉店時間も定めていない。
 さて、噂をすれば何とやら。片付けている途中で人の気配を感じとった。ドアの前でうろうろしている。入るか入らないか悩んでいるご様子だ。何はともあれ入ってきたと決めにするのが片付けている姿では何かと気分も悪くなるだろう。手を休め、ドアのほうを見る。

「――やあ、いらっしゃい」

 ドアが開き、入ってきたのはおよそ十四、五歳といったところの少女だ。時空管理局の航空部隊の制服を着ている。栗色の髪をサイドポニーで纏め……ああ、管理局広告塔の一つ、高町 なのは二等空尉か。
 彼女らの活躍は世間で専ら話しの種となっている。まだ若く、見栄えも良い。才能もあり、十分な功績が存在する。子供らにとってはヒーローとなる存在だ。
 広告のおかげで管理局に就職を希望する人が増えたは良いものの、優秀な――正確に言おう。強いリンカーコアを持つ人材は悉く海に採られて愚痴を零しに来る巨漢の相手が面倒くさい。あと老人三人衆の言葉が煩わしい。

「もう終わりですか?」
「ああ、まだ大丈夫だよ。閉店時間はあまり、決めていないからね」
「ありがとうございます」
「お構いなく。どうぞ、お好きな席に」

 それらの複雑かつ穢れた思想は関係が無い。彼女らは彼女らで一生懸命行動している。そんなことぐらいテレビで放送される姿を見ればすぐに分かる。そして今ここで確信した。だから関係が無い。
 彼女は暫し悩んだ後、ゆっくりとドアから四番目の席に座った。それを確認してからカウンターの向こう側、本来僕がいるべき側へと戻った。

「ご注文は?」
「えっと…………何がありますか?」
「ご注文とあれば何でも。ただ、ものによっては結構な時間を頂くけど」

 何でも。それは料理に限らず服飾、デバイスパーツ及び改造、稀に情報も含む。流石に他人の命までは売買しないが、とりあえず本当に何でも。技術は長生きしていたら自然と上達していて、情報は聞いてもいないのに喋る奴はいるし、ハッキングスキルを駆使すれば割と容易く、出来たんだよねぇ。
 そういう意味もあって僕は明確にメニューを作ることは出来ない。そもそもそんなことを実際したならば百科事典並に分厚いメニュー表が必要になる。空間ディスプレイのあるここでも流石にそれを見るのは気が引けるだろう。
 ただ、一見の人には些かきついシステムである。直さなければならないのは分かっている。でも直し方が無いのはどうしようもない。

「お悩みなら適当に作ろうか?」
「あ、お願いできますか?」

 このまま悩み続けられても正直迷惑としか言いようが無い。助け舟を出してみたところ案の定彼女はそれに乗っかった。

「了解。ちなみにアレルギーとか、嫌いなものはある?」
「いえ、ないです」
「うん、わかった」

 さて、何を作ろう。新たな悩みである。
 目の下の隈、顔色から考えて不眠症を患っており、疲労がかなり蓄積されている。また前に来た客が彼女が良く残業をし、食事を抜くことも少なくないと聞いた。それらを考えるに、しっかりとした料理の方がいいだろう。
 あとは――――アレも使うか。
 作るものが決まれば後は早い。冷蔵庫から材料を取り出し、調理を開始する。作るのに時間がかかる材料は日頃から作り置きしている。例えばトマトソース、例えばコンソメ。それを温め、料理に合わせて少々味付けを変える。
 ほとんどの準備も終わった所で、さあ始めよう。今回はイタリア料理のフルコースだ。

「それではまず、食前酒のワイン」
「あの、未成年なのですか」
「こんな夜分遅くに出歩く子供は子供じゃない。それに少々だから大丈夫。まあ無理して飲む必要も無いけど」
「……少し、飲んでみます」

 昔立ち寄ったワイナリーの主人から貰った当たり年のワインだ。と言ってもそれは大量に存在する。その中でも最も飲み易かった一本。そうはいってもワインはワイン。アルコール濃度は馬鹿にならない。飲ませ過ぎには注意しよう。
 相当酒好きな家庭環境でなければ酒は初めての高町、その飲み方は綺麗なものだ。さて、空いた腹にアルコールでは酔いの回りも早い。その辺り少々狙ってもいるが。

「続いて前菜、ソーセージと温野菜盛り合わせ。あ、ところで何飲む?」

 最初に出したのは前菜。本来はサラダなのだろうが、生野菜は消化に悪い。特に疲労が蓄積し、ストレスで内部がやられている体には。故に生野菜の類は避け、加熱調理を施したものでコースを纏めておいた。ちなみにソーセージは勿論自家製。

「まあ偶には羽目を外しても良いと思うよ。外しすぎたら容赦なく止めるから」
「それでは……お勧めのワインを貰えますか?」

 料理に飲み物はつきものだ。酒が嫌であるならば水なりジュースなり茶なり出そう。そんな思いで尋ねたところ、返答はお勧めの「ワイン」。やり易い注文ではある。
 棚の所からこっそり出す振りをして空間を接続し、決めたワインを取り出す。どの世界でも一般的ではない管理者の権限なので、正直これが管理局にばれたなら、捕獲され、実験動物にされるのは想像に難くない。

「それなら当たり年のヴィンテージワインの白を。お酒初心者でも飲みやすい口当たりだよ」
「綺麗な色ですね」

 文句が出て来ないということは味に問題がないということだ。そも、その表情を見て選択肢を間違えたという可能性はない。
 オーブンのスイッチを切り、料理を取り出す。もちろん彼女の食べ具合を考えて焼き始めを調整した。お陰で食べ終えてからしばらく後に焼き上がった。

「オニオングラタンスープ」

 人間食べることに集中している時、自然と無口になる。今まで料理を振舞った人々は例外なく無口になる。それを見るのは一料理人として楽しみだ。
 ただ、時として戦争が起こるのはどうにかしてもらいたい。賑やかなのは好きだが、正直賑やか過ぎるのは困るのだ。
 そう思いながら現在フライパンで調理していた料理を盛り付ける。

「帆立のグリルマリナーラソース、サラダ」

 もちろん使っている帆立貝は日本の北海道で採れたものだ。確かに最高級の食材もうまいだろう。だがそれは舌に響く味であって心に響く以下略。
 要約して、身体に馴染んでいる食材、味付けは何時何時だってうまい。既に喫茶翠屋の味は盗んでおります。

「デザートにタルトタタン、紅茶」

 本来ならこの次に食後の一杯があるのだが、やめておいた方が良いだろう。高町は酔っているために気付いていない様子だが、既に結構な量を飲んでいる。特に今回初めて酒を飲んだとするならば。
 今のところは良いがどのようなものか自覚する所で留めておくのが良策か。そう思い、僕は左手に持ったワインのボトルをそっと亜空間に戻した。

「驚きました。何が出てくるのか期待していたらまさか、フルコースだなんて。もしも私が空腹で無かったならどうするつもりだったのですか?」
「慣れてくるとね、人が何を求めているのかというのが何となく分かるものなんだよ。だからその質問は答えられない」
「職業病というものですね」
「ただの慣れだよ」

 そう、慣れ。言葉では説明することの出来ない事柄。それが職業でのみまかり通る非常識であるため時に職業病と言う。ただそれは労働災害がおりるほどの病気も指すことがあるため、ここは慣れと言っておくべきだろう。
 全ての料理を出し終えたので汚れ物を洗う。こんなもの残しておいてもあとが面倒になるだけだ。暇な内に洗っておくほうが良い。

「もう一杯、頂けますか?」
「うん、もちろん」

 ついでに茶菓子も出す。食後酒を出さなかったため、少々足りない。その不足分を紅茶で補っても良いが、同じ品を二度出すのは正直つまらない。だから茶菓子。あっておかしくなく、なくては少々つまらない品で補う。
 なお、この茶菓子は異なる時間軸に設定した別空間で作ったため、こちらでは一秒も経っていないのに出来たてという不思議が発生している。どうせ誰も気付かないだろう。

「……満足して頂けたようだね」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして。あとそんなにも固い言葉遣いじゃなくても良いよ。というか、僕が慣れない」
「……分かりました」

 まだ固い。ここは店、本来は僕が敬語を使うべきであり、彼女は気軽にいるべきだ。だと言うのに、先ほどからその立場が逆転していた。
 だからといって僕も敬語を使うつもりはない。使い慣れないも理由の一つとしてあるが、本音を言えば使いたくない。何となく、客との間に壁を作っているような気分がするのだ。
 それは気のせいかもしれない。だが、する以上使いたくない。だから使わない。

「それにしても、結構飲めるんだね」
「にゃ?」
「ボトル一本ほど飲んでいるんだよ、君。知っていた?」
「……本当なの? 全然気が付かなかった」

 ……なの?
 いや、ここはあえて突っ込むまい。口癖はその人の個性を強める重要なファクターの一つなのだ。それがどのようなもので会っても他人が口出ししないほうが良い。
 人によっては面白く、拙者にときめいてもらうでござると言う侍がいたり、あなたを犯人ですと言うメイドがいたり。とにかく彼らに比べたらこの程度、まだまだ平凡な口癖ではないか。

「ま、最初はね。今後は自分がどれだけ飲んでいるのか、気をつけたほうが良いよ。酒は百薬の長だけど、飲み過ぎれば毒となる」
「そういうのだったら止めてよぉ。うう、何だか酔ってきた気がする……」

 語尾が弱まってきた。些か効くのが早い。いくら酔いで回りが速くなり、また一部効果が強まるとは言え、これは計算を間違えたか。それほどまでに高町は疲れを溜めているのか。
 ああ、それに加えて思ったより店にいるためだろう。だからもう薬が回ってきたのか。

「ああごめん。僕基準で考えていた」
「……マスターは、お酒に強いなの?」
「まあ、人よりは強いほうだよ」

 全体重を机に預け、今にも眠ってしまいそうな目をしている。これは参った。こんなところで眠られると風邪を患ってしまう。かといって今から家に帰すのも無謀だ。ここは一つ、諦めてあるがままに身を任せるしかない。
 遠くでこの世界の管理者が高笑いしたような気がした。後で菓子折りを持って丁重に挨拶を行こう。今までずいぶんと先送りしてきたが、そろそろ先方も痺れを切らしているに違いない。
 そう思いながら彼女を抱きかかえる。今晩くらいは昔馴染みが居座っていないことを祈るばかりだ。

『……失礼ですが、何か混ぜましたか?』
「ああ……薬を少し」
『どんな薬を?』
「漢方薬。安心して良いよ。効能は不眠症解消と睡眠促進、疲労回復に美容効果。老廃物の除去にホルモンバランスの調整。体に良いものを選んでいる」

 高町のデバイスの当然の疑問に答えつつ、三階の客室に行き、ベッドに彼女を横たわらせる。もちろん靴と上着は脱がせた。それから第一ボタンと袖のボタンを外し、首周り、袖周りを楽にさせる。それと少々。
 抱えた感想なのだが、彼女の体重は見た目より若干軽い。軍人の癖にちゃんと食べていないようだ。

『ここまでして手を出さないのですか?』
「赤の他人に欲情するほど僕は若くないよ」
『このヘタレ、甲斐性なし』
「デバイスの癖に、よくもまあそんな言葉を知っているものだ。誰のプログラム?」
『いえ、ある執務官補佐にこのような状況のとき必ずこう言えと言われまして』
「……なるほどね」

 どこの誰かは知らないが、非常に面白い趣味をしている。感心はしない。何せどこぞの狼藉者にこれを言って、本気にしてしまった場合を何も考えてない。
 そんなことデバイスに覚えさせるぐらいなら感情プログラムでも入れたなら良いのに…………

「……やるか」

 何となく、このままにしては置けないと思った。それからの行動に僕は後悔しない。反省もしない。限度は弁えている。ただ狂気には身を任せた感が否めない。



 翌日の朝、頃合を見て高町の上司である人物に電話で彼女の遅刻、場合によっては無断休養の件を伝えておいた。
 上司に「一体何があったのか」と問われたので昨日の出来事を要約して伝えておいた。さらに続けて聞かれた質問に対し、正しく答えたら「へたれ」と怒られた。
 強姦は犯罪だろうが。それを推奨する法の番人にして番犬とは一体なんだろうか。一瞬、それで良いのか管理局と声高らかに問いたくなったのは言うまでもない。
 まあそれにしても、有給を使わず仕事と添い遂げているという噂は疑いようのない事実のようだ。別に有給を使わないのは良いが、休日返上で働くのは頂けない。そのうち本当に死ぬぞ。

「や、やっと起きた?」

 そんな優雅にコーヒーブレイクと洒落込んでいた昼下がり。高町が起床したようだ。気配に加え、僕の鋭敏な嗅覚が酒と体臭の混ざった臭いを感じ取っているので間違いない。
 それに加え、ドアの影。

『まあマスターは近頃不眠症ですし、その付けが回ったのでしょう』
「ああなるほど……三十路過ぎ辺りから啼く羽目になる王道ね」
『ですね。それからマスター、隠れていないでそろそろ出てきたらどうですか? というか隠れても正直…………髪が隠れていませんよ?』

 そう、サイドポニーで纏められた茶髪。それがドアの影から上下左右に動いている。特にレイジングハートに指摘されたときは大きく上に動いた。あれには動物の尾のように神経が通っているのだろうか。そんなまさか。
 今頃になって完全に存在が悟られていることに気付いた高町はおとなしくこちらに来た。その表情は驚きに満ちている。
 念のために部屋全体を見回す。普通のリビング。テーブルの上には改良を終えたレイジングハート。何らおかしいところはない。
 次に自分。仕事着であるバーテンダーの服は確かに奇妙に映るかもしれないが、僕の仕事を知っていれば変ではないはずだ。
 では一体彼女は何に驚いているのだろうか。少々理解できない。

「……おはようございます……」
「うん、おはよう。良く眠れた?」
「はい、とても」

 とりあえず挨拶。背筋もしっかりとし、隈も若干薄れている。瞳の濁りも取れ、声の張りも戻っている。完全に、とは行かないものの、割と疲れが取れているようだ。漢方に加え、マッサージの効果も見られる。

『おはようございます、マスター。とりあえず今後はきっちりとした生活リズムを取ってください。さもないと三十路過ぎた辺りからシミソバカス皺だらけで見た目の年齢がプラス十歳されるそうですよ』
「それは嫌なの……」
『そう思うのであれば常日頃から自身の健康に気を使うことですね。この方が女を捨て、仕事を選ぶなら話は別だ、と言っていましたよ』
「…………一体何をしたの?」

 機械に叱られる人間というシュールな光景を眺めていたら、不意に聞かれた。この場合、レイジングハートに一体何をしたのか、という質問だ。

「ごみ掃除と整理整頓、それから感情プログラム入れて、ついでに総点検を少し」
『その少しと言う言葉におよそ二世代は先だろうと言う技術が使われていたのですが?』
「割と昔の技術なんだけど、あれ」
『ダウト。まあお陰様で生き返った心地はしますし、ここはそういうことにしておきましょう』

 はて、この世界で培われた技術のはずだが。別世界のものが混ざってしまったか。いや、確かにこの世界の技術だ。事実ユニゾンデバイスで使われている。ならば問題ないはず。たぶん、きっと、だろう。

「ああ、難しく考えずに相棒が付喪神になってしまったと受け入れたほうが良いよ。正直、常人にアレを説明するのは不可能だ」

 人の願いとは裏腹に感情プログラムは一般的なものではないようで、若干困惑している。このとき感情プログラムを言葉で説明できれば良いのだが、それは無理。
 何せそのプログラムを作るために使った技術が魔法と呼ばれる奇跡だ。言葉に出来るようなものならばそもそも奇跡とは呼ばない。魔法とも呼ばれない。
 それにしても、はて。僕は一体何のためにそんなものを作ろうとしたのか。やはり忘れている。まあ、そのうち思い出すだろう。

「……え、付喪神?」
「だって無機物でありながら感情を持ち、言葉を操るなんてほとんど生命じゃないか。だから付喪神」
「い、言われてみればそんな気が……でも付喪神って妖怪じゃ……大丈夫、なのかな?」
「一種の妖怪ではあるね。ただ彼らも良い奴もいれば悪い奴もいる。そんなの人間と同じじゃないか。嫌悪する理由には至らない」
「……そうですね……何があろうとレイジングハートはレイジングハートだよね」
『当然です。私が他の私になるなどそれはすでに私ではありません』

 さて、そろそろ頃合か。意志の力で機械を作動させる。

『改めて、よろしくお願いします、マスター』
「うん、よろしく。レイジングハート」

 言うのはすでに決心している。しかし実際問題どう伝えるべきか。このことをストレートに言うと女性は理不尽に怒る。理解できないことはないが、正直あの理不尽さは好きじゃない。

「あの……何か?」
「……廊下出て右に、二つ目のドアが風呂場。僕の五感がやけに敏感なだけだから、他の人は分からないけどね。正直に言おう。にお――う」

 瞬間、何の音もなく彼女の姿が掻き消えた。上司は固定砲台以外のあり方がないといわれるほど運動神経皆無なはずだが、そうとは思わせない機敏さだ。流石、女性の神秘。

「服は浴衣あるけど、それ貸そうか?」
「他には何か無いの?」
「僕のお古で良いなら」
「…………浴衣でお願いします」

 この暇に昼食の用意をする。そう、昼食。時間はすでに午後を回っているのだった。高町もそのことに一切気付いていないようだ。このままだと今日は休みだ。

「ちょっと待ってね。もうすぐで出来上がるから」
「あの、マスターは日本人なの?」
「ん? ぁあ、自己紹介していなかったね。僕は神楽 ユウキ。お察しの通り、君と同じ日本人だよ。時空管理局本局航空戦技教導隊所属高町 なのは二等空尉
「私のこと、知っているの?」
「いろいろと有名だからね。雑誌とか新聞とかで何度も取り上げられているし。嫌でも知るさ」
「あ、そういえばそうだね。それじゃ、改めて。高町 なのはです。よろしくお願いします。えっと……優希くん」
「優希じゃなくてユウキね。優しき鬼と書いて優鬼」

 彼女に渡したのは薄紅色の浴衣だ。桜を思わせる色の割には花柄は一切なく、代わりに金の簪に桜の彫金が三輪あしらわれている。
 ただ残念なことに簪を使った髪の止め方を知らないためだろう。簪は帯に刺さっている。使ってくれたなら唯一の光る装飾品である簪のおかげで、視点が顔のほうに自然と向かうというのに。

「お腹空いているでしょ。冷めない内に食べよう?」
「うん!」
「それじゃ、頂きます」



 それから二ヶ月ほど経ったある日の話。
 一週間も経たないうちに彼女が日を置かずに来店するようになり、気付けば泊まっていく頻度が増えた。思えばその時までにしっかりと言っておけばこんなことにならなかったのかもしれない。
 茶色い尻尾が上機嫌そうに上下に揺れ、台所からコトコトと音が聞こえる。先日の買い物の様子から出来る料理はある程度想像がついている。先ほどから観察してその予想はほぼ間違いないと断言できる。
 ありのままに――そんなネタが言えるほどの手際で客室の一つが占拠された。結果として彼女が定時上がり、休日出勤皆無という昔に比べれば再誕したのかと思うほど劇的な変化を遂げ、周囲の人々を大いに驚かせたのは言うまでもない。
 特にその影響が色濃く出たのは週刊誌のほうで、「エースオブエースに恋人が!?」など、ありもしない記事を実在するかのように書いていた。人の色恋沙汰に首を突っ込む存在は龍に蹴られ、魔王に殴られ死ぬという格言を知らないのだろうか。知らないんだろうね。
 本当に、どうしてこうなった。

「……ねぇレイジングハート」
『何も聞かないでください。私も結構、ここの生活が気に入っているので』
「……早まった……」

 うん、結論から言おう。
 高町 なのはがどういうわけか我が家に住んでいる。もちろん家主である僕の許可なく、家賃など一切なく。その上で三食おやつ付を地で行っている。いや、料理の味見役が一人増えたから良いんだけどね。

「お待たせ、ユウキくん。お母さん直伝肉じゃがだよ」
「……四十二点。市販の出汁の素で満足するな」
「うぅ、厳しいよ」

 ところで、どうして僕は彼女の花嫁修業なんてつけているのだろうか。必要ないのにといったら……悪魔の代名詞「零距離スターライトブレイカー」が飛んでくる。
 桃子さんに相談しようかと思ったのだが、早まるなと第六感が足踏みを戸惑わせ、結局相談していない。



[18266] 第二話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/06/01 18:18

 時空管理局地上本部のあるミッドチルダ首都クラナガンには誰も語らない、それでいて一部の人には絶大な常習性を誇る店がある。表通りを外れ、薄暗い路地を歩くことしばらく、店名の無いこじんまりとした店、そこである。
 人に話さない理由は様々だ。それでもいくつか例を挙げるとするなら。一つは多くの人に知られては自分の席がなくなってしまうと言う恐怖から。
 一つは自分たちのように迷ったならば自然と来るだろう。その時までこのような場所は秘匿されておいた方が良いと考えているためだ。
 一つは、これは最短でも半年は通い続けないと理解できないことだが、あそこの常連客が異常であるという理由だ。何せ常連客の一人は次元断層を引き起こせるため、広域指名手配犯になっているヴァランディール。一人は多くのロストロギアを持っているという理由で同様に広域指名手配犯となっているゼノン・カオス。その二人と対等に戦えるアリーシャ、ティオエンツィアその他大勢。誰一人としても世界を消滅させることが可能かつマスターのためなら世界の一億や二億、滅ぼそう救ってみようという連中である。

「……いつもながら美味い」
「どうも。それにしても変わったね。昔はかなりの堅物だったのに、今じゃ一職員の意見にすら耳を傾けるそうじゃないか」
「まあな。それが良いものであると言うのならば地位に関係なく耳を傾けるべきだろう。昔のわしも、そう思っていた」

 昔は自分の意見に一向に耳を貸さない上司に苛立ちを覚えたものだ。そんなことすら思い出せなくなるほど、三年前の自分は盲目になっていた。正義であると言うのならばその全てが正しいと、考えていた。
 しかし正義であれば本当に正しいのか。そんな疑問が脳裏をよぎった日、わしはこんなところに足を運んだ。そして彼、ユウキは初心を思い出させてくれた。
 それから、だろう。ただ己の考えを押し通すのではなく、今ある手札の中でどうすれば良いのか、また何が出来るのかを考え、最善を選択する。もちろん結果さえ最善であれば良いと言うのではない。過程も大切であり、それが受け入れられるものかと言うのも欠かせない。

「まあ……だが……」
「……まさかまだ怒っているの?」
「当然だ。そもそも受け入れられるか!」
「諦めろ、なんて言わないけどさ。あっちは言っても無駄だよ」
「それでも守るべき存在を前線に押し出すことなんぞ間違っている! いくら規模が広く、人手が圧倒的に足りないとはいえ、己の足元を疎かにし、あろうことか才能があるからといって児童を戦闘に借り出すなど! おまけにそこでの成果を大々的に言いふらして何がある! やつらのやっていることなぞ、ただの侵略行為ではないか!」
「言いたいことは分かる。分かるけどTPO考えようね。」
「う……すまん」

 一般的に海と呼ばれている連中は異常だ。いくら人手が足りないとはいえ、リンカーコアが存在するという理由で守るべき子供を容赦なく戦場に送り出す。いくらその子が自ら局入りを志願したとはいえ、あまりに性急だ。
 また己の基準で相手側の意思など一切考えず、ロストロギアを指定し、指定した限りはそれを回収しようとする。拒めば相手は犯罪者となる。あまりに、傲慢だ。
 そこまでする必要はあるのか。否、何故するのか。理解できないからこそ受け入れられない。当然だ。彼らは口を開けば二の句に必ず人手足りない、危険だから、世界のための何れかが入る。その程度の理由で納得するほどわしはもう青くなく、盲目ではない。

「参考までに聞かせてほしい。ユウキは海のことをどう考えている?」
「ああ、考えてない」
「何故?」
「考えたくない。だから考えない。考えないから口出ししない。代わりに何があろうと僕は知らないし、何もしない。ただ――――身内に手を出すならば、別の話だ」

 いつもどおり微笑みながらグラスを拭いているだけだというのに、いつものように背筋が寒くなる。実力を持つヴァランディールらも危険であるが、もっとも危険なのはユウキだろう。
 彼には容赦というものがない。敵となった限り殺し尽くし、敵であるならば殺し尽くし、敵である限り殺し尽くす。鬼の角に触れた者は皆等しく死に至る。そんな言葉が常連客の間で囁かれている。

「そもそも虫の良すぎる話じゃないか。人を回せ。物資を寄越せ。金を融通しろ。それでいて責任取れなんてさ。向こうが要求しかしないのであれば、こちらは何もやらなければ良い。本局は文句ばかり言うだろうけど、市民はちゃんと説明すれば理解してくれるよ」
「ふむ……だが、資金の面ではどうする? 運営費は全て本局から回してもらっているんだぞ」
「じゃ、そのお金は一体誰が納めているんだ?」
「それは……企業だな。政府からも貰っているが、それよりも企業のほうが多い」
「何のために?」
「技術試験――いや自らの安全、だな」
「それはどこが守っている?」
「それは……」
「そういうことだよ。それを説明すれば良いだけのこと」

 あくどいと言うか、よくもまあ頭が回る。自分らの安全のために金を払っていると言うのに、それができなくなると言うのであれば収める理由がなくなる。
 単純であるが実に効果的だ。一個人より損得に聡い企業が自らの目的を達成されないと分かればすぐにその手を切る。その時までに十分に説明し、地上本部をそっくりそのまま警察組織として独立させる手はずを整えたなら。
 企業は聡い。市民は鈍いが、決して愚かではない。それほど時間を置かないうちにどうすべきかを判断するはずだ。そして、それ以上に海も理解するだろう。自らが立っている場所が一体どこなのかを。

「それでも分からないと言うのなら、実力行使に出るなら、そろそろ本局には借りを返してもらおうかと思う。やはりそこは、勝手に自滅される前に返してもらわないとね」
「いや、ほどほどに頼むぞ、うむ」
「大丈夫。僕は僕の敵にしか手を出さないから」

 どうやらまだ根に持っているようだ。昔馴染みの親友と呼んでいるあの方々に海の連中が手を出し、あまつさえ犯罪者に仕立てたことを。現在何らかの理由より理性の淵で踏みとどまっているそうだが、今後何らかの拍子で激昂しても不思議ではない。
 海はまた知らず知らずのうちに敵を作った。ただ今回の敵ばかりはいつもより勝手が違い、実力行使も権謀術数も効果がない。平謝りしても無意味だ。
 正直知り合いが殺されるのを黙ってみるのは忍びない。早く何とかしないと。海に対して彼の言ったような強攻策が取れないのはそういった理由がある。何が楽しくて数少ない癒しの場をなくさなければならないのか。

「まあ辛気臭い話はこの辺にしようか」
「そうだな。それから、エスプレッソをもう一杯頼む」
「わかった」

 ここはバーだというのにここのエスプレッソは絶品だ。エスプレッソに限らず、ありとあらゆるものが専門店のそれを軽々と凌駕する。それでいてその技術の裏に計り知れないほどの研鑽が伺えるのだから、一体彼は何者だろうか。
 余計な詮索はやめておこう。妙な人たちの逆鱗に触れてはわし一人の命ではなくミッドチルダがなくなる。

「そういえば、君の娘さん――オーリスさんは元気?」
「ああ。元気にしているが、親としてそろそろ身を固めてほしい」
「はは、確かに孫の顔ぐらいは見て逝きたいからね」
「機会がないなら見合いを取り繕うとは勧めているんだが、本人が仕事が忙しいといってばかりでな……一体どうしてこうなったのか」
「それはもう、親の背中を見て育ったとしかいえないでしょう」
「耳が痛くなる話だ」

 結婚年齢の平均が他の世界より低いミッドチルダ、そろそろ結婚してもらわないと貰い手がなくなってしまう。本人はまだまだ大丈夫と考えているようだが、正直危ういことを自覚してもらいたい。
 全く、近頃高町教導官の仕事ぶりが正常になったと言うのに。本人に高町病を患ったのではと噂されていると教えてやろうか。いや、下手に癇癪を起こされるとこちらも困る。仕事が滞ってしまう。

「流石にもう家族旅行は手遅れだけど」
「……むぅ……」
「そもそもレジアスさんのようないかつい男性と二人で旅行ってねえ、たとえ親子だとしても女性として終わるよ」

 それは、そうだが。余裕が出来た今、娘には何も出来なかったと言う負い目がある。手遅れになる前に何か出来れば、と考えていたのだが、手遅れか。むしろ言われてみれば今更何もしないほうが良い。

「そもそも結婚なんて本人の問題なのだから、君が焦っても仕方がないでしょう」
「それは、そうなのだが。やはり親として心配になるのだ」

 昔に聞いた話だ。どう見ても人間にしか見えないユウキだが、実はすでに人間をやめているらしい。そのせいで不死の存在となり、見た目とは裏腹に考えられないほどの時間を生きているそうだ。
 当然その人生の中で結婚した経験も子供を持った経験も多々ある。故に彼の言葉は、父親として出来損ないであるわしにとって非常にありがたい。

「本当に不器用な人だね」
「知っている」
「どうせ結婚を望んだくせに相手をつれてきたら殴り倒すんでしょ?」
「だろうな」
「それでもって結婚式に日は泣かなかったくせに、終わった後に一人こっそり泣いたりして」
「…………」
「本当に、あなたは立派に父親だ」

 非常に楽しそうに笑みを零す。その様子が実に様になっている。

「孫が生まれたら旦那より先に抱こうとして娘に怒られて、老後になれば娘夫婦の帰省を楽しみにして。そして、死に至る」

 そろそろあいつの墓参りに行くべきか。あの葬式以来一度も立ち寄っていない妻の墓に。
 残された娘の、オーリスの世話すらせずにがむしゃらに仕事に没頭した自分の逃げを認めるようで、怖かったのかもしれない。だが、そろそろ認めよう。認めなければいけない時期だ。

「いろいろと世話になったな。そろそろ帰る」
「ああそうそう」
「何だ?」
「孫、連れてきなよ。僕はずっとここで待っているから」

 連れてきたら容易く篭絡されてしまいそうだ。そんな不可解な恐怖より答えず、静かに店から立ち去った。
 店から出てしばらくしたとき、近頃残業や休日出勤が恐ろしく減った高町二等空尉の足早に歩く姿が見えた。
 どうやら彼女もあの店の常連となったようだ。今からでも存在そのものが規格外の連中にあったときの表情が楽しみでたまらない。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 組織に多くの人がいる以上、一枚岩であるわけがない。人は各々思想があり、組織の理想がそれに近しいから、もしくは思想をかなえるうえで組織に属することが最も効率が良いからそこに所属する。だから組織は一枚岩になりきれない。
 これは当然成立して一世紀半ほどしか経っていない管理局にも当てはまる。特にその思想の違いが見受けられのは一般的に海と呼ばれる本局と陸と呼ばれる地上本部だ。
 本局は事件の規模、ロストロギアの危険性を説いて以下に自分らの仕事が重要で、急ぐべきことなのかを説いている。また時に少々前に発生した次元断裂を出し、自らの言い分の正当性を主張する。稀に他にないのかという突っ込みを覚えるのはきっと僕だけではないはずだ。
 対する地上本部は市民の平穏平和、事件の規模は問題ではなく、尊重すべきは人命であると言う意見を唱えていた。だが、その主張の正当性を証明する事例がなかったため、法によって禁じられている質量兵器を用いてそれらを守ろうとしていた。
 当然そのやり方は多くの人々に反感を持たれた。一度はこの地を焼き滅ぼしかけた技術、何が楽しくて復活させねばならないのか、と。それでも、それでも諦め切れなかったのか、強引な手腕で推し進めていた。


「……いつもながら美味い」

 目の前のすばらしく濃い顔と立派な体格をしたお方が。ええ、何故か一回目のご来店で常連になってしまった地上の守護者で有名なレジアスさんです。とりあえずコユいんでそれ以上近づかないでください。

「どうも。それにしても変わったね。昔はかなりの堅物だったのに、今じゃ一職員の意見にすら耳を傾けるそうじゃないか」
「まあな。それが良いものであると言うのならば地位に関係なく耳を傾けるべきだろう。昔のわしも、そう思っていた」

 そう、地上本部については実はもう過去の話になっているのだ。現在は昔ほど強引ではなく、市民の話を聞いて何をすべきか、今の状況で何が出来るのかを考えている。市民の平穏を守る。しかしその身を守るだけで良いというわけではない。その程度なら人形でも出来る。
 その身を守るだけでは足りないからこそ、人形では出来ないのだ。昔のレジアスはそれに気付いていなかった。気付けないほどただ守ることに一生懸命だった。それも心の余裕が出来たため、そこまで強引ではなくなっている。
 現在、地上本部は言っていることは昔と変わらず市民の平穏、安全を守るとある。ただやり方を変更し、質量兵器への拘りも変えた。
 質量兵器は誰でも気軽に使え、容易く人の命を奪う。それがいけないと言うのであれば変えれば良い。一例として質量兵器のような魔力弾を放つ銃が上がる。レジアスが知り合いという狂科学者に焚きつけ作らせた、ベルカのカートリッジシステムを応用して作られた誰でも使える魔導兵器だ。
 もしもこれを禁じると言うのであれば既に海にとって手放せない存在であるアルカンシェルもだ。故に海もこれを陸上部隊で用いられるのを許容している。

「まあ……だが……」
「……まさかまだ怒っているの?」
「当然だ。そもそも受け入れられるか!」
「諦めろ、なんて言わないけどさ。あっちは言っても無駄だよ」

 机を叩かないで貰いたい。今日は他に客が来ていないから良いものを、もしも来ていたら叩く前に容赦なく排除されている。

「それでも守るべき存在を前線に押し出すことなんぞ間違っている! いくら規模が広く、人手が圧倒的に足りないとはいえ、己の足元を疎かにし、あろうことか才能があるからといって児童を戦闘に借り出すなど! おまけにそこでの成果を大々的に言いふらして何がある! やつらのやっていることなぞ、ただの侵略行為ではないか!」
「言いたいことは分かる。分かるけどTPO考えようね。」
「う……すまん」

 流石にこれ以上叫ばれるのは近所迷惑になってしまう。いくらここが住宅街ではなく、どちらかと言うと商店街であると言ってもそれは変わりない。

「参考までに聞かせてほしい。ユウキは海のことをどう考えている?」
「ああ、考えてない」
「何故?」
「考えたくない。だから考えない。考えないから口出ししない。代わりに何があろうと僕は知らないし、何もしない。ただ――――身内に手を出すならば、別の話だ」

 そう言えば聞いた話によると、管理局はヴァランディールに対し危害を加えようとしたそうだ。その時はヴァルは軽く返り討ちにしたそうだが、それで現在広域次元指名手配犯、それも生死問わずの。
 人の親友を高々剣一本持っているからで凶悪犯罪者に仕立て上げる手腕、ほれぼれするね。土産を持ってその面拝ませてもらおうと思っているのだが、それはちょっと、教え子に止められたから今はやめている。
 しかしもう一度、身内に手を出した場合は誰の制止も聞かない。聞きたくもない。

「そもそも虫の良すぎる話じゃないか。人を回せ。物資を寄越せ。金を融通しろ。それでいて責任取れなんてさ。向こうが要求しかしないのであれば、こちらは何もやらなければ良い。本局は文句ばかり言うだろうけど、市民はちゃんと説明すれば理解してくれるよ」
「ふむ……だが、資金の面ではどうする? 運営費は全て本局から回してもらっているんだぞ」

 ああ、このおっさん。そう言えばまだ金の話をしていなかったか。あんな巨大組織の運営維持費なんて当然馬鹿にならないものだ。そんなものを政府が保証すると言っても限度がある。税金だって上げれば良いと言うものじゃない。
 ではどこから金を持ってくるのか。そんなもの、あるところ以外の選択肢はない。金を持っている所、管理局が必要とする技術を持っている所は極めて限られている。考えればすぐに行きつく答えだとは思うんだけど、ねえ。

「じゃ、そのお金は一体誰が納めているんだ?」
「それは……企業だな。政府からも貰っているが、それよりも企業のほうが多い」
「何のために?」
「技術試験――いや自らの安全、だな」
「それはどこが守っている?」
「それは……」
「そういうことだよ。それを説明すれば良いだけのこと」

 大昔の、僕が始まった頃の記憶。うちの両親が経営している会社があるのだが、手を出している業界が医療や造船、鉄鋼に限らず兵器にも手を出している。というか、こと生み出す、作りだすというのであれば何でも手を出し、一定以上の評価を得ている。
 故に企業がこういった組織に求めているものなんて考えれば分かり易い。技術試験と、そして身の安全の保証だ。優秀な技術者はそれだけで様々な奴らに狙われ易い。まあ彼らが来る度に、うちの研究所の連中、「我々の楽園にようこそ、モルモット」と喜んでいたが。

「それでも分からないと言うのなら、実力行使に出るなら、そろそろ本局には借りを返してもらおうかと思う。やはりそこは、勝手に自滅される前に返してもらわないとね」
「いや、ほどほどに頼むぞ、うむ」
「大丈夫。僕は僕の敵にしか手を出さないから」

 危惧するほどのことではない。邪魔しない限り気質に手を出さないのは極道のしきたりだから。僕の敵はあくまで次元管理局上層部の一部及びその部下連中。割合で出せば全局員のおよそ5%にも満たないのではないだろうか。
 全員殺すとして、中心人物は同調理しようか。社会的に抹殺してから精神的に殺し、物理的に地獄に送るのはやめておこう。地獄は僕の敵を送るにはふさわしくない。もっともっと奥の、深淵のさらに奥。希望も絶望も存在しないパンドラの中に……

「まあ辛気臭い話はこの辺にしようか」
「そうだな。それから、エスプレッソをもう一杯頼む」
「わかった」

 ふと思い返せば思考が狂気を宿していた。近頃それの姿を見ていないと思えば何やら自然と僕の中にいたではないか。やれやれ。
 波風立たせるのは好きじゃない。世の中平穏で居られるのならばそれで良いじゃないか。とりあえず、お前の出番はもっと後と言い聞かせ、そいつを奥の方に引っこませる。叶うなら、一族の血の出番は未来永劫来ないで貰いたいものだ。

「そういえば、君の娘さん――オーリスさんは元気?」
「ああ。元気にしているが、親としてそろそろ身を固めてほしい」
「はは、確かに孫の顔ぐらいは見て逝きたいからね」
「機会がないなら見合いを取り繕うとは勧めているんだが、本人が仕事が忙しいといってばかりでな……一体どうしてこうなったのか」
「それはもう、親の背中を見て育ったとしかいえないでしょう」
「耳が痛くなる話だ」

 子は親に似るとは良く言った物だ。現在のオーリスは昔のレジアスのように仕事に生きている。まるで昔の高町のようだ。勿論仕事に生きているため浮いた噂の一つも聞かない。
 だからこそ親は心配するわけなのだが、こればかりは本人の問題だ。誰かが口出ししていいわけがない。当然本人から相談されたなら、それに答えなければならないが。ただ、幸せな結婚生活を送れた手前、結婚とはいいものだと言う感情がある分、正確な返答は出来ないだろう。
 結婚すれば幸せになれるとは限らない。一人身であれば幸せになれないこともない。何がその本人にとって最も良いのか、キチンと悩むべきだ。それを怠ったなら、未来は何も見えない暗雲に覆われる。当然幸せになれるかと言えば確実にほぼ否と答えられる未来だ。

「流石にもう家族旅行は手遅れだけど」
「……むぅ……」
「そもそもレジアスさんのようないかつい男性と二人で旅行ってねえ、たとえ親子だとしても女性として終わるよ」

 親心としては是が人も行き遅れる前に結婚してもらいたい。子としてはそれを強要する親がうっとうしい。そんなすれ違いは何時しか家庭崩壊と言う果実を実らせる。
 そんなことになれば確実に、面倒なことになる。物理的な面倒事であるならば力づくでどうにかすると言う選択肢がある分楽なのだが、それは精神的なことだ。簡単に同行できる問題ではない。後先を考えなくて良いのなら問題の根源を追い出せばいいだけの話だけど。

「そもそも結婚なんて本人の問題なのだから、君が焦っても仕方がないでしょう」
「それは、そうなのだが。やはり親として心配になるのだ」

 僕の場合はどうしただろうか。長命種ではどこかの世界に迷うまでに結婚した例がすぐには思い当たらない。息子のほうは結構早くに結婚しているが、娘のほうは良い相手がいないと言って結婚したがらなかった記憶がある。
 短命種のほうはそこそこいるのだが、別段お見合いだとか考えたことはなかった。ただし例外なく娘が連れてきた奴を本気で殴りはした。その程度で折れるような奴らそもそも渡す気にはならないので。
 何だったか。妻曰く、娘が結婚したがらないのは僕のせいだとか。正直意味が今一つ分からない。それでも、催促したことだけは一度もない。

「本当に不器用な人だね」
「知っている」
「どうせ結婚を望んだくせに相手をつれてきたら殴り倒すんでしょ?」
「だろうな」
「それでもって結婚式に日は泣かなかったくせに、終わった後に一人こっそり泣いたりして」
「…………」

 子供が独り立ちするとき無性に時の流れを感じる。永遠の生命を持っていると特に時の流れと言うものに鈍感になるためだ。どうしても自ら歩んでいるときが非常に遅々と感じてしまう。
 そして誰かがここから離れていく度に僕はここに取り残されているように感じる。それでも、何故だろうか。一度も泣いたことはない。常に笑って送り出してきている。死に別れの時ですら僕は泣いてはいなかった。記憶が曖昧であってもそれははっきりと言える。
 ただ、どうにも相手の表情が思い出せない。最愛の人、その時守りたかった人の表情がぼやけて思い出せない。あの時僕は、ちゃんと笑えていたのだろうか?

「本当に、あなたは立派に父親だ」

 そういう意味で彼は立派な父親であるのだろう。子が生まれた時は全てを忘れて喜び、妻が死ねば誰よりも泣き、悲しみにくれる。ふと思い返せば娘の将来を自分のように心配する。

「孫が生まれたら旦那より先に抱こうとして娘に怒られて、老後になれば娘夫婦の帰省を楽しみにして。そして、死に至る……」
「いろいろと世話になったな。そろそろ帰る」

 そう言ってレジアスは席を立つ。それにしても結婚か。本当に人の成長は早いものだ。あまりにも長い生のせいで周りの変化に疎くなった気がする。そのくせ毎年雪見から花見、月見に至るまでやっているのだから何と言うか。

「ああそうそう」
「何だ?」
「孫、連れてきなよ。僕はずっとここで待っているから」

 結局彼は僕の言葉に肯定も否定もしなかった。しかし彼はここに孫を連れてくる。理由は至って単純、爺バカだから。確実に孫を自慢しにやってくる。今何を考えているに関係なく、だ。
 今日の営業は終わりにしよう。レジアスと話していて過去を中途半端に偲んでしまった。こういう日は静かに酒を飲むに限る。

「た、ただいま……」
「…………」

 そうして片付けていると現在寄棲中の高町が入ってきた。少しドアを開け、その隙間からで申し訳なさそうにこちらを見ている小動物から視線を外し、懐中時計を見る。
 時刻は午後11時。管理局の定時は6時だったか。余裕を持って帰れるよう門限は午後10時に定めておいたはずだ。

「……おかえり、なのは」

 別に門限自体に意味はない。ただ何となく定めたものに過ぎない。だから起ころうとは考えておらず、ただ僕は溜息交じりに、彼女を出迎えた。一人酒は少々、後回しになりそうだ。



[18266] 第三話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/05/24 23:48

 ついこの間珍しく休暇を取り、電話してきたフェイトの話だが、なのはの様子が極端におかしくなったらしい。二年ほど前辺りからちゃんと働かなくなったと言う。近頃は特に食事に誘っても用があるといって断ることが多くなった。
 ここは彼女の親友として一つ言っておくべきか。何を言っているのだ、と。何せ彼女たちは寸暇を惜しんで働いている。休日出勤深夜残業は当たり前。聞く話によると人事部が泣いたそうではないか。
 外国人から見れば過労死するのではと言うほど働いている日本人の視点から言っても、彼女らの働きぶりは異常と言うか異様と言うか、狂っているものだ。なのははおかしくなったのではなく、むしろ正常になったとしか聞こえない。
 そう思いながら、私は優雅にコーヒーを嗜みたかった。

「……今、何て言った?」
『だからなのはがとられ――』
「そうじゃない。今あんたデートって言わなかった?」
『う、うん。この前なのはの手帳確認したらね、来月そんな予定が……』
「……そのデート、なのはがするの?」
『そうだと思う』

 最初は何の冗談だと思った。しかし、フェイトのことだ。このような冗談を言うような女性らしさはあいにく持ち合わせていない。あの人についても同じだ。
 本当に冗談であってほしかった。私達五人の中で、まさかよりにもよって重度のワーカーホリックだったなのはが仕事中毒が治っただけでなくデートすらするというのだ。一体どのような超絶化学反応が起きたというのだろうか。
 なのはがデートするということよりワーカーホリックが直ったということより、なのはに先を越されたということが私にとってもっともショックだった。

「ちょっと待って。今すずかを呼ぶから」
『うん』
「ちなみに相手はわかっている?」
『そこまでは書いていなかったけど』
「そう……もしもし、すずか。今すぐここに来なさい。五分以内……え? ああ。なのはがデートするそうよ。ええ。事の深刻さを理解したならすぐに来なさい!」

 すずかは三分で到着した。この際方法を問うべきではない。
 それから三人で深夜遅くまで語り合い、来月の某日の計画を着実に立てた。もちろんその計画とはなのはの尾行だ。相手の名前がおそらくユウキであるのはフェイトの話を纏めた際に分かった。
 デートの場所は第3管理世界。様々な曰くのある文化遺産や芸術品が多く展示され、一方で美しい自然の景観も楽しめる、今年デート先として行ってみたい世界の第三位に輝いた世界だ。
 ちなみに一位は地球。なのになのははデート先に地球を選ばなかった。これは相手が地球を知り尽くしているからと見て良いのだろうか。その可能性は否定できない。



――当日

 月日が経つのは意外と早いものだ。久しぶりにそう感じたあわただしい一月であった。あの日から何度か計画の修正を行い、万全の準備をしてきた。ただフェイトたちは急な予定で来れず、はやては現在指揮官研修の真っ最中で抜け出せない。守護騎士らもそれぞれ外せない予定があったため、結局計画に参加できなかった。
 最終的に現地にいるのは私――アリサ・バニングスと月村 すずか、ザフィーラの以上二名と一匹である。とあるブラコンと親馬鹿がドイツより無理に来ようとしていたのだが、あの人が混ざれば確実に計画が破綻する。今回は諦めてもらった。
 ただ、あの二人を止める際に交換条件として桃子さんからデートの一部始終を余すことなく録画するように言われている。もちろん月村家特製高解像度のカメラで。予備もバックアップも抜かりなく、ザフィーラに押し付けた。

「つまり我は荷物持ちか」
「まさかあなた、男の癖にレディーにそんな荷物を押し付ける気?」
「淑女であるなら荷物を押し付けないと思――いや、何でもない」

 最高級ビーフジャーキー5kgに釣られた犬が何を言う。むしろ報酬分の仕事はしてもらいたいものだ。
 ちなみにザフィーラには外見を気にしてもらい、子犬になってもらっている。流石にあの大型犬であると目立ちすぎるのだ。

「ごめんね、ザフィーラ。こんな仕事押し付けちゃって」
「問題ない、月村。これは我の責任だ」

 さて、現在すぐそこの広場にある時計塔の下にはなのはがいる。彼女には悪いが、服にこっそりとリンディさんから貰った微小マイクを着けさせてもらった。これで会話のほうもちゃんと聞こえる。

「ところで、今何時?」
「えっと……九時十分前だけど」
「約束の時間は?」
「十時だよ」
「……一時間以上前から来るなんて、どんだけよ……」

 いくら自分から誘ったデートとはいえ、あまりに早く来すぎている。服もあるどこかのファッション雑誌で見た覚えのある服だ。コーディネートは派手なものではなく、非常に落ち着いたもの。無理に背伸びをしているようにも見える。

「ごちそうさま。勘定、お願い」
「はい、かしこまりました」

 二つ隣の席で優雅にカフェラテを飲みながら小説を読んでいた客が席を立つ。これでこの店には私たちしか居なくなった。
 視点を戻す。現在のなのはは髪も結んでおらず、最初見たときはどうしてここに桃子さんがと我が目を疑ったものだ。子は親に似るというが、アレは正直そっくりだ。たぶん同じ服を着させて並ばせたなら、初見では区別がつかないだろう。

「本当、気合入れているわよね、なのは」
「うん。服も良い感じだし、場所に似合っている。どんな男でも堕ちるわよ」

 あそこまで気合を入れられると誰がここまでなのはを変えたのか、楽しみで仕方がない。
 ただ遅い。本来デートとあればたとえ誘われた側であろうと女性より早く来るのが男性の嗜みではないだろうか。もうなのはを二十分も待たせているというのに、一体相手は何をやっている。
 ここは一つ、友として一人の女性としても殴らねば気がすまない。それも後だ。このデートが終わってからにしないと計画が破綻する。

「あ、ユウキくん!」

 マイクが嬉しそうな声を拾った。もちろんそれを言ったのはなのはである。彼女の視線を追うとその先に恐ろしく白いコートを纏った青年がいる。
 見たところ普通の青年だ。美形であるというわけでも醜悪であるわけでもない。黒髪黒目の普通の青年である。ただその笑みはには人を安心させる何かがある。そしてそれを私はわけもなく懐かしいと感じた。

「なのは、早く来すぎじゃないかな?」
「……もしかして、見てた?」
「まあずっと」

 どうやら最低三発は殴らなければならないようだ。会って早々服を褒めるでもなく聞くことはあんなことであり、またなのはより早く来ていたというのに放置していたのだ。最低三発、全力で殴ろう。

「もう、早く来ていたのなら声かけてよ」
「ごめんね。ただ、まさかこんなにも早く来るとは思わなくて。何時気付くかなと待ってしまったんだ」
「ぅう……バカ」

 現在午前九時。デート開始を確認。

「良い雰囲気だね」
「そうね。少なくとも悪くはないし、似合っているわ」

 普通の癖してあの二人に一切の気負いや違和感がない。緊張して動作の固いなのはではなく、かなりのんびりとした雰囲気を纏っている青年のお陰だろう。彼のお陰であの二人がお似合いに見える。ふむ、殴るのは最低三発から約三発に減らそうか。
 二人の後を追うように私たちも後を追う。もちろん怪しくない程度に変装をしている。現在のなのはであれば今の私たちに気付くことはまず、ない。

「どうしたの、ザフィーラ?」
「む……いや、何でもない」

 不意にザフィーラが後方の上空を気にした。目を凝らしてもそこには何もない。一体何があったというのだろうか。
 気にしつつもなのはを見失わないために足を早める。

「ところでそろそろ今日の予定を聞いても良い?」
「それは、秘密だよ」
「そうか……それは楽しみだ」

 現在この世界は秋のため、すぐ近くを流れる水路や今歩いている道には鮮やかな紅や黄色の落ち葉で彩られている。また風によって紅葉は空を舞う。それが青年――ユウキの白いコートに良く映える。
 天気も晴天、まさに絶好のデート日和だ。そのためか、街中にはちらほらとなのはたちと同じようなカップルがいて、何を言おう。目が痛む。
 全く、近頃の男は甲斐性も剛毅もない。高々大企業の娘と言うだけで多くの男性が離れていく。近づくやつらはたいてい下心を持っている。何とかならないものか。

「あとね、買い物がしたいんだけど、良いかな?」
「良いよ。それじゃ行こうか」
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
「あ、あのね……手、繋いでも、良い?」
「……良いよ」

「…………」
「………………」
「……そこに喫茶店があるぞ」

 今すぐ誰かに聞きたい。私たちの知らない間に一体何があった。出来る限りスマートな答えを期待する。
 とにかく思わず近くの喫茶店で無糖のブラックコーヒーを注文のは悪くない。まさかあの恋とは無縁の人間がいつの間にか立派な乙女になっていたのだ。無防備だったせいもあり、その胸焼けは言わなくてもわかってくれるだろう。

「買いたいものとかある?」
「えっとね、友達の分のお土産」
「お土産、か。食べ物の類は後にするとして、なら置物とかだね。まあ適当に回ろうか」
「うん!」

「無邪気な笑顔に罪悪感が募る」
「本当にごめんね、なのは……」

 むしろ若干顔を赤らめつつも長年親友をやっていても見たことがないほどの笑顔を見た。正直私たちは場違いなのではないだろうか。彼らはこのまま自由にしておくのがベストなのでは。
 今更ながら、今になってやっと後悔の念が襲ってきた。他人の恋路に首を突っ込むべきではない。たとえ何があろうとも。
 それから二人はいくつかの店を回り、様々なものを物色した。流石に全ての店についていくのは悟られる恐れがあるため店先で張り込んだりしたが、始終なのはは嬉しそうだ。今からでも遅くはないから帰るべきかもしれない。
 だが、一方でこのまま観察していたいと言う欲求がある。デートは今日からだ。それは分かっている。しかしそれ以上のことは先のなのはが言っていたように未定である。
 フェイトが知人という立場と執務官と言う権力を生かし有給を取る用意が出来ていることを知っている。時と場合によっては期間が三日にも四日にも伸びることだろう。実に――実に興味が尽きない。

「ねえ、これなんてどうかな?」
「ぬいぐるみか。たしかその人はなのはと同じ年齢なんだよね。ならそれよりもこちらの置物の方が良いんじゃないかな」
「でもこっちの方がかわいいよ?」
「だね。だけどそれは大きすぎるんだよ」

 窓ガラス越しに観察する。確かにあの犬のぬいぐるみは大きすぎる上、流石に私もすずかも高校生だ。あんな大きなぬいぐるみを貰うより、ユウキが持っているガラス細工の犬の方が良い。

「どうやら成長したのは乙女心だけのようね」
「なのはちゃんらしいと言うか……でも相変わらずでホッとしたね、アリサちゃん」
「まあね。むしろそこまでの成長をしていたらなのはかと疑っていたかも」
「あ、あはは」

 声も似ている。姿も似ている。それで心まで似てしまったのならどう見ても桃子さんにしか見えなかっただろう。そう意味で言えば安心したと言える。
 しかも今までに得た情報をちゃんと分析し、私の好みにちょうど合った置物を選んでくれるとは、できるな。さらにはすずかの分も抜け目なく選んでいる。

「親友が選んだものより知らない人が選んだ物の方が良いとは、妙な話だな」
「冷静なつっこみどうも。だけど次その口開いたら蹴るわよ」
「すまん」

 ふと視線を戻す、もう一度辺りに眼をやる。だが、どこを探してもやはりいない。眼の錯覚ではないようだとまた視線を戻すと、いやいた。疲れでもたまっているのだろうか。今夜はしっかりと眠っておいた方が良いようだ。

「次はあそこに行こ!」
「焦ったらこけるよ。この辺の道路は昔ながらの石畳だから」
「大丈夫だよ。だから早く――にゃあ!」
「だから言ったじゃないか。近頃自分の運動神経の無さを忘れていない?」

 それから服飾、装飾や由緒ある文化遺産を回りながら一時道端の喫茶店に立ち寄って休憩を挟み、時刻は午前11時を回ったころだ。

「そろそろお昼にしようか」
「あ、そうだね。どこにする?」
「どこにするってなのは。折角の紅葉なのに店なんかで食べるつもり?」
「じゃあ……どうする?」
「それは秘密。今は何も聞かずに着いてきて」

 そしてユウキはなのはを連れて街中を歩き、時々思い出したかのように空を眺め、水面を見、また歩き出す。時々その時の目が私には見えない何かを見ているようで、どこか薄気味悪い。
 住人にすら忘れられたような暗いわき道を右へ左へ。時々壊れかけた橋を危うげなく通ったり、締め切られている扉を蹴破り、長い階段を上る。それで良いのかお前。

「もうすぐで着くけど、大丈夫?」
「うん、何とか……」
「まあ頑張れ。後五分ぐらいだから」

 妙に薄暗く、かび臭い通路を通り、古ぼけた扉の前に到着した。その扉も腐っており、取っ手にいたっては持った瞬間に折れていた。一体このようなところに何をしにきたのだろう。

「こんなことして大丈夫なの?」
「どうせここ、立ち入り禁止区域だしね。人は来ないから問題ない」
「いや、そういう問題じゃないような……」
「それじゃまあ、到着。本当はこんなところ、夕暮れに来るものだろうけどね」

 山々は紅葉により紅蓮や橙、黄色に染まり、田畑はたわわに実った穂の美しき金色で染まっている。空は青く透き通り、またこれはこれで美しさがある。もしも夕暮れであるならば、田畑は本当に金色に煌き、空の暁と得も言えぬ調和を見せてくれるだろう。

「ここを知って何がむかついたかと言うと、誰もこれに気付いていないことだよ」
「…………」
「本当に、もったいない話だ」

 今いる場所は町を取り囲んでいる外壁の見張り台だ。すでにここは時代の波に流され、維持する必要がなくなったため、多くの人が来なくなった。長い時と共に何時しか見た目だけの外壁となり果てたのだろう。見事に朽ち果てている。

「さあ、お昼にしよう」

 それからも二人のデートは続く。しかしいつの間にかエスコートする人がなのはからユウキに代わっていた。

「私がデートに誘ったのに……わがままばかり言っている」
「ああ、気にしなくて良いよ。僕は僕なりに楽しんでいるから」
「でも私、ユウキくんに何も出来ていないよ」

 その事実に気付いたのは実にもう一日の終わり、今から夕食を食べにレストランに向かっている時である。もちろんそのことに非常にショックを受け、先ほどまでの良い雰囲気を吹き払う。
 誘った側としてはこちらの持て成しを楽しんでもらいたいのだが、持て成せないのでは意味がない。その上なのはは常にあれしたいこれしたいと言ってばかりいた。ショックを受けるのも無理はない。
 それでもまあ、よくぞそんな我が儘に何一つ嫌な顔せず付き合っていられたものだ。普通の男性なら少なくとも表情を少し歪めると言うのに。それほどまでにポーカーフェイスが上手なのであろうか。

「僕としては唯笑っていてくれるだけで十分なんだけど」

 それなんて殺し文句。それなんて殺し文句。大切なことなので二回言っておく。
 しかも本心から言っていることが疑いようがないほど分かりやすいため、殺し文句としてきちんと成立している。
 流石に恋の駆け引きに慣れている女性は一度で落ちないが、しかしなのはは恋と言うものに免疫がない。今日のデートの過程、本心からの言葉、今までの雰囲気を加えると、落ちるはずだ。
 いやあんな言葉を素面で、しかも何気なく言える分、もしかしたらもう落ちているのかもしれない。

「今日は飲む?」
「うん、もちろん」
「明日の仕事は大丈夫?」
「大丈夫だよ。有給も溜まっているから、それも消化しないと」
「うん、わかった。でもたくさんは飲ませないからね」

 予約を取っても先一月は予約で埋まっていると言う有名なレストラン。その店に予約無しでは入れたユウキは一体何者なのか。
 それ以上に尾行していた私たちも普通に招かれた。本来あるべきドレスコードも何も言われない。どうやら私たちのことなど知られていたようだ。知っていながら彼は放置していた。

「なのは……あんた未成年と言うこと自覚している?」
「で、でもユウキくんのワインはどれも美味しんだよ!」
「それとこれとは無関――――」
「じゃあいらないということでOK?」
「……それを見せられて飲まないバカはいないわ。この卑怯者」

 色々と聞きたいことがある。しかしそのどれを聞いても納得の出来る回答は手に入らない。それはユウキが納得の出来る回答をしないのではなく、私がどの解答にも納得できないということだ。そのことを私は彼を目の前にして納得した。

「ご理解いただけたようで幸いです。と言うかこのご時世、未成年飲酒喫煙禁止法を守っている家庭なんてあるわけ?」
「守るのが普通。守らないあんたがおかしいのよ」
「そうかな。僕の家は小学生に酒呑ませていたけど」
「……どんだけ酒飲みなのよ、あんたの家」
「ちょっと風変わりな極道。で、母方の家が神社」

 どこかで聞いたことがあるような話だ。だが、私が思い浮かんだ家に彼のような若者はおらず、既に他界している。例え次元漂流者として生きていてもあの人は白髪紅眼だ。決して黒髪黒眼の青年ではない。
 それでも確かにあの一家に通じる普通ではない空気がある。人を引き付けるそんな魅力ではなく、どことなく狂っているような、そんな雰囲気がする。

「極道ってやくざだよね。風変わりってどんななの?」
「見た目だけが極道で、中身が武家。周りからはヤクザだとか言われているからそうなっているだけだよ」
「中々に珍妙な家ね。あなたの両親はどうやってくっついたの?」
「父さんの一目惚れ」

 近くに控えていた給仕が空いたグラスにワインを注いだ。先ほどまでのワインと違うものだが、これも非常に美味しい。料理との相性も良好だ。この店、ちゃんと覚えておこう。
 それにしてもまあ、よくぞなのははここの予約を取れたものだ。それだけでこのデートの意気込みが窺い知れる。
 そしてここの料理は三ツ星レストランの料理を簡単に上回っている。お酒の方も上々でサービスも素晴らしい。これなら予約だけでも込んでしまうのも無理はない。

「…………」
「どうしたの、ユウキくん?」
「あ、ああ。この料理の作り方を真剣に考えていただけ。気にしないで」

 犬のザフィーラは流石に入って来れなかったため外で待っている。

「そう言えばユウキさんはいつなのはちゃんと会ったのですか?」
「えっと……大体二年ほど前かな。そのぐらい。その時の話、聞きたい?」
「にゃ!」
「ええ、是非」
「興味が尽きないわね。聞かせてもらえる?」
「夜中の、十二時頃かな。仕事を終えた――――」



「ああ、疲れた……」
「でも十分な収穫はあったね、アリサちゃん。ユウキさんならなのはちゃんを預けても安心だよ」
「まあ少なくとも悪いようにはしないわね。それは疑いようがないわ」

 流石に深夜、長距離次元転送装置は点検も兼ねて休止中だ。そのため今夜はこの世界のホテルに泊まり、明日の朝に第97管理外世界に帰る。元々その予定だ。
 あの二人は中々に良い関係だった。それはユウキによるものかもしれないが、あの人にならなのはを任せても安心だ。無理をさせずにきっと幸せにしてくれるだろう。ただ、一つ気がかりなことがある。

「ただ問題はなのはにあるわね」
「そうだね……折角の予定も自分のわがままで散々になって、その上常に相手を振り回していた。そのことを気にしている感じかな」
「何を背負っているのだか。あの人はそんなの本当に気にしていないと言うのに」

 レストランを出た時、なのはは笑っていたことには笑っていたが、どこか辛そうだった。きっと何か辛い選択をしたのだろう。
 したくもないことを選んだ。この場合、それは何だろうか。別れるという選択か。いやそれはない。そんな空気は一切ない。では。

「……ん?」

 耳に声が聞こえる。ああ、そうか。カメラの方の電源は落としたが、マイクの方を忘れている。そう思い、電源を落とそうとイヤホンのコードを引っ張る。

「――――あ」
「……あ、アリサちゃん。これって……」

 …………なのは、階段上るの速過ぎ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ユウキくんの隣はとても居心地が良い。変わらない安心感と自然と甘えられる雰囲気がある。だから、だろう。いつも気付けば彼の隣に私は居た。それを彼はいつものように受け入れてくれる。
 それだけで私は嬉しく思う。しかし、足りない。それだけでは不安になる。ユウキくんは一切甘えてこない。私を必要としない。それどころか誰一人として必要としない。
 だから不安になる。本当に私はここに居て良いのか。彼の迷惑になっていないのか。そんな下らない、答えの分かりきっているのに聞くに聞けない不安がどうしようもなく胸を締め付ける。
 もちろんユウキくんの元を離れたくはない。それでも、もし彼が私を必要としないのなら、迷惑だと思うのなら、やはり離れるべきだ。彼のことを思うならそれが当然の行動だ。

「……とうとう明日だね、レイジングハート」
『他人のことを優先するのはマスターのよさですが、さすがに今回ばかりは呆れ果てますよ』
「うぅ、私だってすごく悩んでいるんだよ。そんな事言わないで」

 二年も付き合って初めてユウキくんとデートをする。本来なら何度かデートをして、それから同棲生活をすると思うのだが、何故か順番が逆になってしまっている。そのことに一年前に気付いた。
 ちょうど良い機会だ。初めてユウキくんを誘ってデートをし、もしそれが上手くいったのなら、ユウキくんが楽しんでくれたなら告白しよう。そう決めたのが一年ほど前。彼をデートに誘ったのは何と一ヶ月前。

『だからさっさと押し倒せば済む話だと言うのに、何時まで下らないことに戦々恐々としているのですか』
「でも、私は何も出来ていないんだもん。いつもわがままばかり言って、甘えてばかりいて。ユウキくんに何も、できていなくて。だから怖いんだよ」
『そんなの話せば済む話じゃないですか。何もこんな面倒なことしなくとも……私をユウキさんのところに連れて行ってください。何、悪いようにはさせませんよ』
「だめなの。そんなことさせない。明日もレイジングハートは家でお留守番ね」
『そんな殺生な! 折角のマスターの初デートだというのにお預けなんてあなたは鬼で――』
「……感情豊かなのも考えようなの……」

 誰が何と言おうと明日全てが決まる。もしこのデートが上手くいかなかったなら潔く彼の元を去ろう。これはもう決めたことだ。だから変えようとは思わない。
 上手くいくと良いな。そんな当然の願いを思いながら、私は明日のデートに思いをはせた。



――翌日。

 結局不安であまり眠れなかった。それなのに一切眠気が来ない。こんなことは小学生の遠足前日以来だ。
 もう一度寝るのも何なので、かなり早いが集合場所に行くことにする。こちらが誘った側なのだからユウキくんより遅れることなんて論外だ。
 決めたら即行動。悩めば確実に戸惑ってしまう。故にすぐさま前日に決めておいた服に着替え、私室から出る。どうやらユウキくんはまだ起きていないようだ。良かった。
 久し振りに一人さびしく朝食を食べ、彼が起きて来ない内に次元転送ポートに向かう。ここは一緒に家を出た方が楽だと思うが、やはり集合場所を決めて、そこで落ち合った方がデートらしく思える。だから時間と手間の無駄であっても私はこちらを選んだ。

「…………」

 それでも正直、早く来すぎてしまったという感覚は否めない。集合場所である次元転送ポート近くの広場にある時計塔の下、まだ低い位置にある太陽を眺めながら腕時計で時刻を確認する。
 現在、午前八時半。普段であれば急いで出勤しないと遅刻してしまいそうな時刻だ。どう考えても彼は家でゆっくり紅茶をたしなんでいるだろう。そんな時刻。
 そして、しばらく待っていた時。視界の隅に綺麗な白色が映る。何となく心当たりのあるその色の方に目を向けるとやはり、ユウキくんがいた。外出の際にはいつでも着る白いコートを当たり前のように着て、こちらに向かっている。

「あ、ユウキくん!」
「なのは、早く来すぎじゃないかな?」
「……もしかして、見てた?」
「まあずっと」

 予想通り服については何も触れない。彼にとってはこの変化もいつも通りのことなのだろう。折角気合いを入れたと言うのに、少しさびしくて切ない気分になった。
 それでも私は笑顔を保つ。ここでそのことを問い詰めるのは良くない。

「もう、早く来ていたのなら声かけてよ」
「ごめんね。ただ、まさかこんなにも早く来るとは思わなくて。何時気付くかなと待ってしまったんだ」
「ぅう……バカ」

 そんな事を言われてはこちらは何も反論できず、何と返せばいいのか悩んでいるのを彼はいつものように楽しそうに微笑みながら見つめている。少々、恥ずかしい気持ちになった。
 本当に何も言い返せずに、一歩だけ彼に近づく。私はこれでも怒っているのだ。そのことを出来れば理解してほしい。

「ところでそろそろ今日の予定を聞いても良い?」
「それは、秘密だよ」
「そうか……それは楽しみだ」

 このデートで告白するかどうかを決める。だからこそ念の入った予定を経てる。もちろん一切彼には明かさない。
 普通ならそうだろう。しかし私は違う。何分相手がユウキと特殊な人物なため、分刻みのスケジュールなど息苦しくてかなわない。もしかしたら時間刻みですら彼にとっては不快なのかもしれない。
 それほど良い意味で言えば時間に囚われない、悪い意味で言えば非情にルーズな人だ。だからこそ予定は非常に大まかに、出来たら良いな程度で纏めている。

「あとね、買い物がしたいんだけど、良いかな?」
「良いよ。それじゃ行こうか」
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
「あ、あのね……手、繋いでも、良い?」
「……良いよ」

 差し出された手は女性のように細く、少し硬い。それは初めて繋いで分かったことだ。腕も細い。触れれば折れるほどではないが、それでも男性と言う価値観で見れば非常に細い。私はこんな腕の人にずっと頼ってばかりで、今となっては頼らないと満足に立つことすらままならない。
 立てば彼岸花、座れば桔梗。歩く姿は百合の如く。彼から聞いた話だが、昔親友が自身に対し言った例えだそうだ。それは余りにユウキくんを表しているとしか言いようがない。
 安易に触れればすぐに終わる儚さは草の如く。それでも、例えどれだけ踏まれようとも咲くことを諦めない、夢を捨てないと言うしぶとさがある。そして何より常に綺麗に咲き誇る。
 また彼岸花には毒があり、桔梗は薬として用いられ、百合は食べられる。つまり彼は見方次第では薬にも毒にも食べ物にもなる。
 本当に上手に例えたものだ。ただ、男に対する例えとしては如何ものかとは非常に思う。

「買いたいものとかある?」
「えっとね、友達の分のお土産」
「お土産、か。食べ物の類は後にするとして、なら置物とかだね。まあ適当に回ろうか」
「うん!」

 初めてのデート、それも誘ったのは私。緊張して眠れなかったのに今ではそんな緊張も眠気もどこかへと消えている。
 さて、どこに行こうか。何を見るだろうか。そんな思いが私の心を埋め尽くす。いつもと違う日、いつもと違う私。ただユウキくんだけがいつも通り。お陰で違いが明確に現れて、何とも言えない新鮮さを感じれる。

「ねえ、これなんてどうかな?」
「ぬいぐるみか。たしかその人はなのはと同じ年齢なんだよね。ならそれよりもこちらの置物の方が良いんじゃないかな」
「でもこっちの方がかわいいよ?」
「だね。だけどそれは大きすぎるんだよ」

 荷物の方は彼特製のデバイスに仕舞わせてもらっている。何でも亜空間格納庫が便利だそうだ。デバイスを倉庫代わりに使うために改造を施すのは彼ぐらいではないだろうか。
 それにしても便利そうだ。後で私の分を作って貰おうか、なんて口に出さずに思ってみたり。

「次はあそこに行こ!」
「焦ったらこけるよ。この辺の道路は昔ながらの石畳だから」
「大丈夫だよ。だから早く――にゃあ!」
「だから言ったじゃないか。近頃自分の運動神経の無さを忘れていない?」

 楽しい。ああ楽しい。楽しい。楽しすぎて何が楽しいのかも分からなくなるほど、私の心は幸せで満ち溢れている。叶うなら永遠に今が続けばと愚かしくも願ってしまうほど、言える。私は、幸せです。
 幸せをくれてありがとうはまだ言いたくない。出来ればずっと、死ぬその時までその言葉を口にしたくない。だからもっと、もっと笑ってください。
 不安と恐怖から私は繋いだ手に力を込めてしまった。それに疑問を感じたユウキくんは何も言わず、ただ微笑んで少し頭を撫でてくれた。それだけで不安が和らぐなんて、人は素敵なほど単純に出来ている。

「そろそろお昼にしようか」
「あ、そうだね。どこにする?」
「どこにするってなのは。折角の紅葉なのに店なんかで食べるつもり?」
「じゃあ……どうする?」
「それは秘密。今は何も聞かずに着いてきて」

 そう言うと彼は私の手を引いて奥まった道を歩き出す。奥まった脇道を歩き、壊れかけた橋を渡り。時に彼は空を見上げ、まるでそこに何かがいるかのようい笑いかけた。
 老朽化の進んだ扉を無理に開け、奥へ奥へ奥へ。人がほとんど来ないのだろう道をさらに進む。雑草が生え、壁を蔦が這う。時の流れと共に人々に忘れられた、そんな道だ。
 ただ問題は、長い。魔法や科学のおかげで走ることや歩くことが極端にない生活でこれほどまでに歩くことが滅多にない。故に、か。長時間歩き続け、さらには歩きづらい道を進んだため、疲れた。今後からはちゃんと歩くようにしよう。

「もうすぐで着くけど、大丈夫?」
「うん、何とか……」
「まあ頑張れ。後五分ぐらいだから」

 五分、後五分か。ならもう少し頑張ってみよう。
 それにしてもまあ、よくぞこんな道を知っているものだ。一切迷うことなく進んでいるが、確実に地元住民ですら知りもしないだろう道ばかり進んでいる。もしかしたら彼はこの世界に来たことがあるのではないか。そうならば、デート先の選択を間違えたことになる。

「こんなことして大丈夫なの?」
「どうせここ、立ち入り禁止区域だしね。人は来ないから問題ない」

 たどり着いた扉には看板がかかっている。古い字がつかわれているためにかすれて何が書かれているのか読めないが、何となく先に進んではいけない気がする。
 不意にそう思い、疑問を口にした所、帰ってきた答えは予想通りに近いものだった。人が来る来ない以前に、そんな場所に立ち入って良いものではないはずだが。

「いや、そういう問題じゃないような……」
「それじゃまあ、到着。本当はこんなところ、夕暮れに来るものだろうけどね」

 ここが立ち入り禁止区域であることもいとわず、ユウキくんはごく平然と扉の鍵を壊した。

「ここを知って何がむかついたかと言うと、誰もこれに気付いていないことだよ」
「…………」
「本当に、もったいない話だ」

 そしてその先に見た風景は突き抜けるような青い空。自然が創り出した柔らかい紅と黄に染まった山々。たわわに実った稲穂の金に染まった田園。それらが織りなす秋の風景だった。
 ああ、確かにこの光景を見ずにいるのは余りにもったいない。だが、だからこそ思う。何故この場所を知っている様に言うのだろうか。私では見えなかった何かに導いてもらったのか。それでは彼の懐かしむような目の説明が出来ない。

「さあ、お昼にしよう」

 気付けばユウキくんは敷物を敷いて、その上にバスケットを置き、中からサンドウィッチやサラダを取り出していた。こんな物を何時の間に用意していたのか、逐一に問い詰めるのは余りに愚かだ。
 彼の隣に腰掛け、受け取った紅茶を飲む。どうやらこれは彼が事前に入れてきた紅茶のようで、とても美味しい。一方サンドウィッチの方はどこかで買ってきたのか、彼の味ではない。流石にそこまで準備が良いわけがないか。

 それから様々な美術館を回り、歴史的建造物を鑑賞し、三時には良さそうな喫茶店でお茶を嗜み、偶然やっていたイベントにちょっと参加してみたり。そんな風にして一日と言う時間は早くも過ぎていく。
 ふと思い返せばユウキくんは一切何かしたいなどと言う言葉を口にしていない。それどころか私が何かしたいと言ってばかりいて、彼はそれに付き合ってばかりいる。これで良いのだろうか。いや、一切良くない。
 そんな疑念を抱いた時、彼のいつもの笑顔が苦笑に見えて仕方がなくなった。残念なことにそれが完全に誤解であるという心も持つことが出来ずにいる。
 ああ、やはり私では無理なのだ。私が幸せになれるとしても、私がユウキくんを幸せにすることなど到底不可能なのだ。ああ、やはり私は、迷惑でしかないのか。

「私がデートに誘ったのに……わがままばかり言っている」
「ああ、気にしなくて良いよ。僕は僕なりに楽しんでいるから」
「でも私、ユウキくんに何も出来ていないよ」

 それは今日に限ることではない。二年前のあの日からずっとなのだ。本当に今までずっと、私は何もできず、してこなかった。
 支えてもらうだけではもう足りない。私はユウキくんを支えたい。だけど私ではそれは叶わない。ただの、荷物。この事実が無性に嫌で、どうしようもなく受け入れなければならない現実だ。

「僕としては、唯笑っていてくれるだけで十分なんだけど」

 最後、彼のいつも通りの笑顔に私の心はどうしようもなく手遅れな状態になる。そして、決意する。今後どうするか、どうすべきかを私は決めてしまった。

「今日は飲む?」
「うん、もちろん」
「明日の仕事は大丈夫?」
「大丈夫だよ。有給も溜まっているから、それも消化しないと」
「うん、わかった。でもたくさんは飲ませないからね」

 それはありがたい。酔ってしまっては確実に心が揺らぐ。私にとってより良い方向に逃げてしまう。
 ただ一つ質問なのだが、どうしてここにアリサちゃんたちが来ているのだろうか。店に着いてからしばらくした時、凄い美人さんに連れられて来た。
 大方デートを尾行していたのだろう。心配してくれたのは非常に嬉しいことだ。しかし、何ともまあひどい話でもある。

「なのは……あんた未成年と言うこと自覚している?」
「で、でもユウキくんのワインはどれも美味しんだよ!」
「それとこれとは無関――――」
「じゃあいらないということでOK?」
「……それを見せられて飲まないバカはいないわ。この卑怯者」

 ちなみにその時ユウキくんが持っていたワインだが、近くにいた給仕のティオエンツィアさんから聞いた話によると全ワイン好き垂涎のワインだそうだ。飲めるは愚か一生に一度拝めることが出来たならそれは軌跡であると言えるほど。
 確かにそんなにも貴重なワインを法律どうこう言って逃すのは余りに愚策。一方でそんなワインを惜しげもなく振舞うユウキくんもユウキくんだ。どこでどうやって手に入れたのか、懇切丁寧に聞き出したい。

「ご理解いただけたようで幸いです。と言うかこのご時世、未成年飲酒喫煙禁止法を守っている家庭なんてあるわけ?」
「守るのが普通。守らないあんたがおかしいのよ」
「そうかな。僕の家は小学生に酒呑ませていたけど」
「……どんだけ酒飲みなのよ、あんたの家」
「ちょっと風変わりな極道。で、母方の家が神社」

 初めて聞いた。それも当然だ。そもそも彼は自ら進んで身の上話をしない。聞かれることもないものだから全くそう言った話を聞かない。
 だから、極道。神社と言われたならまあに会っていると言えるのだが、まさか家が極道だったとは。黒いスーツを着て強面で、妙に傷だらけなイメージからかけ離れ過ぎている。どうにも、こんな極道が近所にいたら普通に遊んでいそう。
 まあ多分、うん。母親の血が濃く出たおかげだろう。遺伝子の不思議万歳。

「極道ってやくざだよね。風変わりってどんななの?」
「見た目だけが極道で、中身が武家。周りからはヤクザだとか言われているからそうなっているだけだよ」

 ああ……それはまた。

「中々に珍妙な家ね。あなたの両親はどうやってくっついたの?」
「父さんの一目惚れ」

 一目ぼれから成就した恋。しかも片方は見た目が極道で中身は武家、もう片方は聞く話によると天皇家すら凌駕するほどの歴史を持つ由緒正しき神社の後取り娘。
 結婚に至るまで壮絶な両家の争いがあったそうだが、一方で当事者たちは素晴らしく時代錯誤でロマンティックな恋を成し遂げたとかなんとか。女性として人生に一度はやってみたいことを平然とやっていたようで。

「…………」
「どうしたの、ユウキくん?」
「あ、ああ。この料理の作り方を真剣に考えていただけ。気にしないで」

 ただ傍にいるだけで幸せになれる。そんな二人になってみたかった。だけど叶わない。ユウキくんは支えてもらうことを必要としない。普通で幸せになれる。何と言えばいいのだろうか。存在そのものが完成されている。
 一方で私は誰かに支えてもらえないと何もできない。彼が居ないと幸せになれない。そんな下らない、欠陥製品。だから、ああ。心が痛む。

「そう言えばユウキさんはいつなのはちゃんと会ったのですか?」
「えっと……大体二年ほど前かな。そのぐらい。その時の話、聞きたい?」
「にゃ!」
「ええ、是非」
「興味が尽きないわね。聞かせてもらえる?」
「夜中の、十二時頃かな。仕事を終えた――――」

 口には出さないけど、言います。言わないとだめだから、言わせてください。



――ユウキくん、幸せをくれてありがとうございます。



 私はもう一人で大丈夫ですから、心配しないでください。本当に、ありがとうございました。
 私はちゃんと、笑って言えただろうか。ただそれだけが知りたくて、それでも聞けずに私は逃げることしかできなかった。



 振り返らずに逃げて逃げて逃げ切って、その先にたどり着いたのはお昼の時に連れて行ってくれた綺麗な秋の見える場所。日が落ちても稲穂は月の光を反射し、とても幻想的に見える。ああ、綺麗だ。

「……ふっちゃったな……」

 もうあの場所には戻れない。そう思うたびに私の心は後悔に刻まれる。泣きそうになるほど痛い。それを堪える。だって、今泣けば必ず、戻ってしまうから。

「…………寒い、よぉ……」

 でも、少しぐらいなら許されるだろうか。またあの扉を開けて、いつものように迎えてくれる大好きな人の所へ、ちょっとだけ寄り道しても許されるだろうか。叶うなら、許してほしい。
 痛い、寒い。それ以上に心はそれすら感じられないほど壊れていく。こんな気分、何時以来だろうか。
 失恋は人を強くする。そんな強さ、私はいらない。要らないから痛みをください。もっともっともっと、今日のことを忘れられなくなるほどの痛みを。綺麗だった日々のことを忘れずにいるほどの寒さを、ください。

「ユウキくん…………カグラ、くん」

 心が壊れる。私が死んでいく。もう、もうどうにもならない。ああ、本当に。言葉にならない。



「――あなた。こんな所にいると風邪ひくわよ?」

 うずくまっていると、そんな声をかけられた。どこかで聞いたことのあるような声だ。どこだったか忘れたが、つい最近のような気がする。

「大丈夫です。もうしばらくしたら帰りますから……」
「はい嘘。そんなちゃちな嘘をつくぐらいなら黙っていなさい――飲む?」
「いえ、いいです……」
「連れないわねぇ」

 そう言いながら黒髪の女性は隣に腰かけた。何の用だろうか。出来れば今は放っておいてほしい。だってもう心は、どうしようもなく壊れているのだから。

「……何か?」
「んー……先輩として迷える子猫の相談にのってあげようかなと……余計なお世話かしら?」
「あなたに何が分かると言うのですか……?」
「そうね……強いて言うならあなた、全てにおいて間違えているわ」

 間違えている? 私が?
 そんなはずがない。この選択は悩みに悩んだ挙句、その上で選択したものだ。間違いであって良いわけがない。だから私は彼女の言い方に非常に腹が立った。

「あなたに! あなたなんかに何が分かるのですか!?」
「……そう言うあなたこそ、相手のこと分かっているの?」
「…………え?」
「失恋しちゃったことぐらい見ればわかるわよ。そこまで辛そうな顔をするぐらいだもの、とても素晴らしい人だと言うことも分かる。きっとその人のことを考えて決断を下したに違いない」
「ええ……そうです。私はこの選択に間違いなんてない。後悔も、しない」
「だったら何故、何故あなたは今にも泣きそうな顔をしているの? 選択が間違いじゃないと言うのなら誇りなさい。後悔しないと言うのなら前を向きなさい。それが出来ない内は間違えているのよ」

 誇る、ことなんてできるわけがない。胸を張るのも出来ない。理由もなく、出来ないのだ。どうしようもなく心が、壊れた心がそれを拒む。何故今更? 壊れるのだったなら徹底的に、何も感じなくなるほど壊れてくれれば良い物を。

「……ねえ、その人はあなたに何を望んだの?」
「私に……私に……」

 笑ってほしいと、ただそれだけで自分は満足できると――――ああ。

「あなたはそれを、叶えることが出来る? その人が願ったことを、あなたは叶えることが出来るのかしら?」

 できない。だって傍に彼がないないから。心がもう、彼の存在を必要としているから、私は彼なくしては笑うことなど、金輪際できない。

「わ、私……どうしたら……?」
「ホント、罪作りな人……ダメよね、ホント。女心の一つも理解しないようでは。ねえ、戻りなさいな。きっとその人はまだ、あなたの帰りを待っているから」

 待っているだろうか。待っているだろう。優しすぎるユウキくんのことだ。きっと日が暮れようとも年が過ぎようとも、何時までもあの店で待ち続ける。

 何故なら私は、さよならを言えていないから。

「その前に胸を貸してあげる。ちゃんと笑えるように、たっぷり泣いていきなさい」
「大丈夫、です。この涙は全部ユウキくんにぶつけますから。だから、大丈夫です。ありがとうございました」
「いえいえ、どう致しまして。後輩の悩みを解消するのは先輩の務めですから」

 お礼を言った後、私はなりふり構わず駆け出した。木の枝に服をひっかけるのもいとわず、ひたすらに走る。走って走って、疲れなんて気にせずに走って、そして。

「ユウキくん!」

 急いで走った先の時計塔の下ではユウキくんがさも当然のようにいた。ベンチに腰掛け、どこからか取り出した本を片手にいつものように紅茶を飲みながら、そこにいる。

「そんなに慌てて、どうしたの?」
「あ、あの! 私、ユウキくんのこと――」

 きっと顔が真っ赤になっていることだろう。そんなことぐらい言われなくても自覚している。本当に恥ずかしくて口に出したくもない。
 でも心は、先ほどまで壊れていた心は嘘のように元通りになって、満ち足りている。だから私は笑える。心の底から幸せな笑顔で笑って言える。



「――好き、です。付き合ってください」



 ユウキくん、私は幸せです。出来ればあなたも、幸せで居てくれると嬉しい。



[18266] 第四話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/05/23 18:35

 あまり足を運びたくなかった地、第97管理外世界。その海鳴市にある家屋からのんびりと月を眺める。ミッドの地で見上げる二つの月も良いものだが、やはり僕は地球から見る月のほうが見慣れている。心が落ち着く。

「…………」

 何故こんなところに居るのか。理由は非常に簡潔だ。なのはの両親に呼ばれたから。大方なのはの親友と聞くアリサたちを通して情報が漏れたのだろう。
 そしてそれを知り、居ても立ってもいなくなって呼び出した。もしかしたら僕の店に足を運ぼうとしたのかもしれないが、残念。そのような理由では足を運べないような立地になっている。
 その気持ちは十分に理解できる。理解できるが、流石に出会いがしらに真剣で襲ってくるのは納得がいかない。まあ結局は投げて事なき終えたのだが。
 それから少し話をして、なのはのことを任された。別に任されなくても個人的には構わない。しかし彼女にとっては両親の許可を得ているほうが安心できるのだろう。そう考えればここに来た甲斐はあるというものだ。

「隣、良いかい?」
「ああ、どうぞ」

 さて、道場の縁側で酒を傾けつつのんびりしていたらなのはの父親である高町 士郎さんが来た。服で絶妙に隠されているもののその体には数多くの傷跡があり、また服の下には暗器を忍ばせていることだろう。
 聞く話によると特殊な剣術を修めているそうだが、その立ち振る舞いはどう見ても剣士というよりも忍者に近い。閑話休題。

「……飲みますか?」
「ああ……それも良いな」
「どうぞ」
「……へぇ、非常に飲みやすいね。うん、美味しい」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 とりあえず自家製の日本酒を勧める。案の定彼は容易くその提案に乗ってきた。大方自分の娘が気付けば遠いところに言ってしまったことを知り、少しばかり酔いたい気分なのだろう。
 子供を持ち、そして親元を離れていく。長く生きてきた僕は当然それを大量に経験している。だからその寂しさを理解できる。

「ユウキくん」
「何か?」
「君はもう、気付いているだろう?」
「まぁ……はい」
「……やはり、鋭いな」
「仕事柄上、他人を観察するのは癖だし、まあ士郎さんのような人とは何度か会ったことがあるので。それに、あんなことを出来る人が一般人とは思えない」

 あんなこと、彼らが修めている古流剣術の奥義の一つ、神速。脳のリミッターを外すとか何とかいっているが、普通の人間にそんなことが出来るわけがない。普通出来ないことが出来るなら当然その人は普通ではない。当たり前の話だ。
 それに最初の世界で実は僕は彼の息子である恭也に会っている。そのときにすでに聞いた話だから分かっていた。
 またなのはの姓と実家が海鳴市にあり、喫茶店を営んでいる。また家には古流剣術が伝わっていることからある程度予測していた。だからこそ別に驚いていない。

「そうか……それなら詳しい説明は要らないな」

 空になった器に酒を注ぐ。度数が強いので飲みすぎには注意しよう。場合によっては当身で眠らせることも考慮しておく。

「昔――なのはが本当に幼い頃、していた護衛の仕事で大怪我をしてね。家族に多大な迷惑を掛けた。特に今でこそ繁盛している喫茶店もまだ軌道に乗っていなくてた」

 聞いた覚えがある話だ。詳しいことは忘れたが、桃子さんから聞いた覚えがある。旦那さんが爆破テロに巻き込まれて死んだとか何とか。この世界では生き延びるという誤差があるようだが、それは際どいものだったのだろう。
 彼は現在裏の世界から足を洗っている。このことは血の匂いが結構薄いことと動作に若干キレがないことから推測される。

「桃子と美由希は店、恭也は店と裏の仕事で手一杯になって自然となのはのことを疎かにしてしまい、寂しい思いをさせた」
「ああ…………」

 だからあのバカはあんな愚かな真似をしたのか。支えられるだけでは嫌で、自分が迷惑になっているのではと恐れて、一度自ら僕から離れようとした。僕はたった一度もそんなことを思っていないというのに。
 今まであの行動の意味を一切理解できなかった。この話を聞けて何となく理解できる。大方彼女は怖かった。必要とされないのではなく、ただ自分の存在が迷惑になることが。
 もちろんそんなことを恐れるのは普通ではない。普通の環境ではさほど気にするようなことではない。だが、彼女が幼少期にあった環境が普通ではなかった。なるほど、周りの迷惑にならないように注意するとは幼いながらに聡明だ。だが、愚かしい。

「そのせいか、昔からあの子は必要以上に良い子であろうとしている。誰かの迷惑にならないよう気を配っている。だから、だから正直に言えばなのはに彼氏が出来たと聞いて本当に嬉しかった」

 ここは、突っ込んでおくべきか。そんな謙虚さを持つ人が普通勝手に人の家に住み着かないと突っ込むべきか。ここは空気を読んで、後で桃子さんにこっそり教えよう。きっと面白いことになるに違いない。

「ユウキくん、ありがとう。君のおかげでなのははちゃんと笑ってくれるようになった。君には感謝しても仕切れない」
「その割には非常に悔しそうに見えるのだけど?」
「当然だ。本来なら家族がすべきことを短期間で見知らぬ他人が成し遂げたのだ。嫉妬の一つや二つもするさ」

 そう言うものだろうか。大切なその人が幸せに笑ってくれるならそれで良い。僕の根幹をなす感情の一つであり、もちろんその感情は狂っていることを知っている。だからその嫉妬を理解することが出来なくとも、人間とはそういうものだと今は受け止めている。
 だが、嫉妬すると言う割に士郎さんの表情は非常に穏やかだ。通常そう言った感情を真摯に持っている人々はその顔が醜く歪んでいると言うのに。いや、僕が気にすべきことではないか。

「なのはは本当に、良い家庭に恵まれたんだね」
「そうだろうか……娘に寂しい思いをさせてきたのに。そしてそれをどうもできなかったのに」
「でも、現に今もあなたたちは娘の心配をしている。それはちょっと、手段を間違えたかもしれないけど」
「う、すまない」

 ええ、出会い頭に襲われました。真剣で。こちらもつい頭から本気で地面に叩きつけてしまったよ。あの時は少々警察の御世話になってしまうのではと戦々恐々としたものだ。
 僕の標準に近い速度で襲ってきたためについ反射的にやってしまった崩月流合気術。致死性の高い術のため、ものによっては人を殺しかねない。事実、その時したのも明らかに首の骨を折るためにものだ。寸前の所で背中を蹴り飛ばしたから事無きを得たけど。

「まあうん。ただそこまでするほど君たちは彼女を大切に思っていた。だから、それで良いんじゃないかな。確かに救えたか、救えなかったかという結果も大事だ。だけど家庭を疎かにしてはいけない。だから、良いと思うよ」
「そう、だと良いが」
「頑固な人だな」

 人の人生たった百年、そんなにも難しく考えて生きれば楽しめる者も楽しめなくなるというものを。それでも人は悩み、迷い、生きていく。不器用なのは人か、それとも人が不器用なのか。

「……もう一杯、貰えるかい?」
「ああ、どうぞ」
「ありがとう」

 本来ならこの辺で止めておくべきだろう。しかし僕は彼の望み通りお酒を注いだ。まあこういう日があっても良い。

「程々にね」

 そう言い残し、その場を後にする。今日見たものは言い触らさないでおこう。忘れると言う選択肢はないが、気安く言って良いものではない。そう、不器用で腕っ節に頼る以外の守り方を知らなかった不格好な父親の光景など、余り言うものではない。



 家に戻り、リビングに向かった。そこには桃子さんがいた。彼女の前には若干紅茶が残っているカップが二つ。そう二つ。状況的に見てなのはとの話が終わったと見るのが妥当だ。

「あ、ユウキさん」

 考え事をしていたのだろう。僕がリビングに着いてもしばらく、茶を淹れることが出来たぐらいの間、彼女は僕の存在に気付かなかった。
 愛娘の結婚。決して重く暗い話題ではない。むしろ明るい話だ。しかしやはり愛娘の一生を決めると言ってもあながち間違いではない出来事。それを非常に重く受け取るのは当然のことだ。

「……桃子さん。一つ、言っても良いですか?」
「何かしら?」
「このたわけ」

 喜ばない。そこに納得のいく理由があるなら理解しよう。この人たちは真っ当な人だ。僕のように狂っているわけではない。だから大切な人がただ幸せで居てくれるだけでは満足できない。そのことは理解している。だからある程度は譲歩するとして。
 それでも、だ。折角自分たちの大切な人が笑っていくと言うのに、この人は何故非常に暗い、見えない未来に杞憂を抱く表情でその門出を見ているのだか。そんなものでは明るいも暗いも関係がない。明るいものも暗くなってしまう。

「それでも貴様は親か、阿呆」

 もしも自分の両親があんな表情で結婚式に臨んだら。例え仮面の表情をしていてもあんな表情を見たなら。彼女がどう思うか。少なくとも良い印象はなく、あの自分が迷惑になっていないかと無意味に危惧するバカは間違いなく不要な心配をする。恐れを抱く。
 なのはに笑って貰いたい。その願いの上でそんな心配や恐れは不要だ。抹消しても良い。

「……そんなにも、酷い顔しているかしら?」
「それはもう、今すぐ殴りたいぐらい」
「あらあら」
「…………」

 だからと言ってここで無責任に笑顔でいても僕はきっと殴りたくなっただろう。何とも奇妙で矛盾を抱えた話だが、基本親とはそんなものである。
 子の結婚を純粋に嬉しく感じる。一方で大切なものが欠けてしまって寂しく思う。また見知らぬ他人に預けてその将来を不安に思う。
 桃子さんはなのはのことを信頼している。自分の娘があそこまで必要とする人なのだから、きっと良い人なのだろうと信頼している。しかし僕と彼女はほとんど面識がない。あるとしても一方的なものだ。
 故にやはり、どこまで信頼しても信用しても心配なのだ。不安を感じる。それも、理解できる。できるが、それをぐっと堪えて、子にいらない不安を抱かさないためにも笑って送り出すのが親と言うものだろうに。

「……安心してくれ、とは言わない。信用しろとも言わない。ただ、理解してほしい」
「…………」
「僕の願いは揺らいだことはなく、僕は願いに嘘をついたことはない。昔は、それしか出来なかったから。願うことしかできないほど無力だったから。だから今も嘘をつきたくはない。嘘をつかない。一度でも嘘をつけば、今までの願いが嘘になってしまう」

 一度で信用してくれなんて無茶苦茶も良い所なことは願わない。だが、だがそれでも理解してほしい。
 僕の思いを、願いを。それはあなたたたちの願いと同じだから。今はそれだけで十分。それ以上は、いらない。

「……要らない、心配ばかりしてきたわね」
「まあ親だからね。それは仕方のない話だよ。むしろ要らない心配をしていなかったら僕は殴っている」
「心配すれば殴る、心配しなくても殴る。何とも矛盾したことを言うわ。でも……でもそれが親か」
「そんな不器用な存在が親かな。僕はそう感じている」
「まるで誰かの親のような言い方ね」
「…………」

 ほとんど確信じみたもの言いで言われても、僕はそれを否定することなど一切できない。出来ることとすれば、それは何時もやっている様な事ばかりだ。

「子はいつか大人になり、気付けば親となる。僕にとってのそれが人より、少し早かっただけじゃないかな」
「……そうかしら?」
「そうじゃないかな」

 妙に勘が鋭い。されどここで必死に否定をしたのならさらに疑いを持たれる。ではどうすべきか。そんなものは簡単だ。
 聞き耳を立てると水の音が聞こえる。美由希という女性は既に風呂に入っていることを知っている。未だに入っていないのは僕と士郎となのはのみ。士郎さんは未だに道場にいることを予測すると、今入っているのはなのはか。ならば問題なし。

「時に一つ、良いかな?」
「何でしょうか?」
「家主の許可なく居候するとは一体どのような教育をされてきたのかについて疑問を呈したいのですが」
「――詳しい話を聞こうじゃないか」

 何となく、この人とは個人的に仲良く出来そうだ。
 その日の夜。

「…………」

 宛がわれた客室で浅い眠りに着く。未だに浅いのには理由がある。二階、ちょうど上の部屋から断続的に音と声が聞こえる。そのせいで深い眠りも浅くなってしまう。

「…………」
「……ユウキくん」

 障子が静かに開かれる。そちらの方を見ると予想通り寝間着姿のなのはが眼に入る。

「……寝付けない?」
「うん、ちょっと……」

 そう言いながら自然な動作で布団に潜りこむ。残念ながらここの布団は一人用。自宅にあるような大きめのベッドでもないから二人で添い寝するには少々狭い。だから肩が触れ合うどころか半分乗っかっていると言うか、まあ僕が枕になっている。

「ねえ、ユウキくん」
「ん?」
「その……したい、な」



 という出来事がありまして、昨日はさほど眠ることが許されず、正直に言えば結構寝不足です。多分今日は昼寝三昧になりそうだ。それでも朝はいつものように起きてしまう。

「あ、おはよう。士郎さん」
「ああ、おはよう」

 日課である運動のために道場に向かう途中、士郎さんに出会った。彼もまた存分に眠そうだ。

「昨夜は良く眠れたかい?」
「まあ、それなりに」
「そう言う割には眠そうだね」
「ちょっと昨晩は色々とあってね。寝つきが悪かったんだよ」

 主に二階となのはのせいで。ええい、体力の無い人間に連日連夜連続はきついと言うものをそろそろ理解してほしい。

「そうかい……時にユウキくん。ちょっと話があるのだが?」
「その話に真剣は必要ですか?」
「ああ、必要だよ。実に――――必要だ」

 だから体力の無い連中に以下略。とりあえず投げて投げて投げまくった。具体的には遅く、昼ぐらいに起きた桃子さんとなのはが止めに入るまで。



――美由希の手記

 兄さん、どうやら家族が何人か増えるようです。



[18266] 第五話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/05/24 23:49

 ある日の昼下がり。こなさなければならない仕事に一段落を付け、食事にする。午後からは航空武装隊の教導があるためしっかりと食べなければ。そう思いながらユウキくんお手製のお弁当を片手に食堂に向かう。
 ミッドチルダは年中常春の気候だ。ユウキくんはそれをつまらないと言う。それでもやはり綺麗な空を見ながら食べると言うのも良いものだ。
 昔はそんなこと考えもしなかった。ただ食べて、仕事をして。それだけのためにいて、それで全てが終っていた。思い返せばなんとも味気ない人生であった。
 ともかく、ユウキくん御手製のお弁当。さて、今日の中身は何だろう。毎朝私が起きる前に作り、中身が見えないように蓋をする。その方が楽しいからと彼は言い、確かに昼時になると無性に心が浮き立つ。

「――なのはちゃん!」
「あ、はやてちゃん。久し振り」
「うん、久し振りやね」

 食堂に到着するとはやてを見つけた。いや、もしかしたら今までもいたのかもしれないが、ここの食堂は時空管理局地上本部にいる局員のうち数割、人数で言えば千人以上の人の食事を賄っている。さらに食堂自体複数ある。
 その中で特定の一人を見つけるのは至難の業だ。となると今までずっと会わずにいたと考えた方があっているのだろう。そう考えながら私は彼女のいる席に向かった。
 珍しく今日は一人のようで、普段彼女の周りにいるはずの守護騎士たちの姿が見えない。なのにどういうわけか、彼女の周りは空席がひどく目立つ。

「……なのはちゃんは今日は弁当なんか」
「今日じゃなくて近頃ずっとだよ」
「近頃って……もしや噂に聞く彼氏の手作り、とか?」

 もう彼氏じゃないだが、まだ彼氏の範疇にあるのかもしれない。どちらかがはっきりしていないから私は曖昧に頷いた。そうするとどういうことだろうか。はやてちゃんは急に鬼の形相になり、こちらを睨みつける。
 まるで親の仇を見るかの如く必死だ。私が何かしたと言うのだろうか。久し振りに会ったのだから、当然思い当たることは一切ない。
 そしてしばらくの沈黙が続いた後、ようやっと彼女が重々しくその口を開いた。

「――妬ましい……」

 はい、ただの嫉妬のようです。理不尽極まりない。

「私なんて機動六課設立のために東西奔走して、出会いすらないっちゅうのに……フェイトちゃんも仕事で一生懸命なんやで……」

 それは半分以上自業自得だ。特にフェイトちゃんは自分から仕事をしている。だからそんな、私が悪いように言われる筋合いはない。

「なのに何でなのはちゃんだけ彼氏作って幸せそうにしとるんじゃぁあ!
 あの桃園の下で誓った私らの約束、皆のために仕事と生きるっちゅう約束は嘘偽りやったとでも言うんかぁ!!」
「してないよ、そんな約束!」

 余りに理不尽だ。何時の間に私はそんな、三国志時代に行われたをやったことになったのか。もちろんそんなことした暇などあるわけもなく、桃園だって未だに見たことがない。
 似たようなもので良いならば、ユウキくんに昔連れて行ってもらった視界を埋め尽くすほどの桜。その場所で最も印象に残った唯一咲いていない大きな桜だ。確かその桜の名前は――――西行妖。

「で、どんな弁当なんや?」
「まだ見てないから分からないけど……」
「まあお弁当の楽しみはそれやな」
「うん、そうだね」

 ユウキくんのお弁当には毎回違う方向性がある。例えば昨日は和風フレンチ、先週は梅雨の長雨。先月は葉桜。今日は何だろうか。
 お弁当の楽しみは蓋がされていて、その中身を知らないということだ。それ以上に彼の料理は全て美味しい。それも相まってとても楽しみになる。
 机の上に置いた三段の重箱に手をかける。意外と重そうだと言うのにそれほど重くなく、保温性が高いためか今でも冷たい物は冷たく、温かい物は温かい。

「……なんつう豪勢な……まるで本職が作ったような弁当や」
「うん、本当に不思議な人だよ」
『料理だけでなくデバイスの加工も可能ですしね。服も作りますし……正直できることよりも出来ないことを数えた方が早い人です』
「……なのはちゃん……それ、レイジングハートやね? そんなにもおしゃべりやったか?」
「えっと……なっちゃいました」
『何か問題でも?』

 そう、レイジングハートも改造してもらった。ソフト面でもハード面でも改良してもらい、ついでにバリアジャケットも変更した。現状、性能及び出力に問題があるため、幾つか制限を付けている。
 さて、再び目を弁当に移す。基本的にあっさりとした味付けで非常に食べ易い。消化にも良く、鰻や夏野菜が目立つ。さて、今回のお題は何だろうか。

「……初夏、かな?」

 梅雨も終わり、五月病も治りかけてきた今日この頃。夏バテに備える始める。ただウナギ、何となく別の意味を感じるのはさて、ユウキのせいである。
 とりあえず薄い出汁に着けられたそうめんにはしを伸ばす。長い時間が経過したにかかわらずそうめんは緩くなっておらず、ちょうど良い。まるで今も作り立てのようだ。
 昔にユウキくんが開けると劣化が始まるから開けないようにと言っていた。温度でも低下するのだろうかとその時は考えたものだが、今は別の考えがある。
 多分ユウキくんは、品質の劣化を言ったのだ。それを防ぐための何かを弁当箱自体にかけている。ただそれは蓋を開けると効果がなくなる。

「なのはちゃん、少し貰ってもええ?」
「うん、良いよ」

 器用だから、彼の技術はそんな言葉で決して片付くことの無い領域にある。もちろんそのことを問い詰めてもあいまいに笑ったり、魔法使いだからとしか答えない。
 まあ確かに魔導師よりも魔法使いらしい事を色々とやっている。例えば扉を開けた先がい空間だったり、どこからともなく何か取りだしたり。

「お言葉に甘えて」

 そう言ってはやては冬瓜を食べた。はやては幼いころから料理をしてきたため、その腕前は結構なものだ。さて、彼女はユウキくんの料理をどう評価するか。

「……なぁ、なのはちゃん」
「何かな?」
「そのユウキくん、六課でコックとして働いてくれへんかな?」
「ちょっと、難しいかな。ユウキくんは行動が制限されるの嫌いだから、たぶん、うん。やりたくないって言うと思う」
「でもこんなにもうまい料理作る人を放置するのは余りにもったいないで。というかなのはちゃんだけこんなにもうまい料理食べれるなんて認められん」

 六課、か。彼女の義姉である聖王教会騎士であり、少将のカリム・グラシアさん。彼女のレアスキルが示した不吉な予言を回避するために設立しようとしている地上の、いわば海の出張所。
 名目上は事件発生時における即時対応可能な部隊の設立だ。それに対しレジアスさんは一定の賛成をし、まあなんとか設立に向けて、順調とはいえないものの漕ぎだしている。

「でもな、もしもその人が六課に来てくれたらずっと一緒に居られるんやで? なのはちゃんとしてはその方が嬉しくないか?」
「それは、そうなんだけど……」

 ユウキくんは公私の区別に厳しい。例え同じ場所で働いていてもその辺りはきっちりするだろう。でも、良いかもしれない。彼と一緒の場所で働けるのは楽しいに違いない。

「確かに仕事中はいちゃいちゃするのはだめやけど、仕事が終われば構わへんしな。駄目もとでもええから……」
「ユウキくんと……一緒かぁ」

 想像するだけで笑みが零れる。公私の区別に厳しくとも頼ればある程度は応えてくれるに違いない。そして三時になればおやつを出してくれるだろう。相談にも乗ってくれる。
 今のように仕事があるからわかれることもなく、ほぼ四六時中一緒にいられる。ああ、それは何と素晴らしいことか。

「……あの、なのはちゃん?」
「うん、誘ってみるね」
「…………すいません、コーヒーください」

 早く今日の仕事が終わらないだろうか。むしろ今すぐ帰ってユウキくんを誘いたい。駄目もとでもいい。もしも入ってくれたなら、それだけだから。

「ああ、早まったかもしれん……」

 それから仕事を早めに終わらし、家に帰る。

「ね、一緒に行こうよ」
「機動六課か……余り行きたくはないなぁ」
「どうして?」
「いや、僕は組織と言うものが好きじゃないんだ。だから可能な限り組織には、所属したくない」
「そっか……残念だな」
「ごめんね」
「ううん、良いよ。私こそ無理を言ってごめんなさい」

 夕食の際に誘ってみたのだが、やはり返答は拒否。これ以上無理を言うのもいけないので大人しく引き下がった。ちょっとだけ残念な気分になる。
 今はまだ可能性の話だが、機動六課の設立場所はこの近辺ではなく、とても遠くになるかもしれない。その場合、私に任される仕事の内容にもよるが、最悪部隊の寮に泊まらざるを得ないかもしれない。
 折角両親から結婚の許可を貰えたのに。結婚するのは両親の要望で私が二十歳になってからだが、その前の一年を別れて過ごすことになるとは。残念でたまらない。

「どうしたの、なのは?」
「ううん、何でもない」

 もしもこれ以上駄々をこねれば、ユウキくんは仕方がないと言って来てくれる。だけどそれをしたくはない。ここは潔く諦めて、仕事が終わって二人きりの時にたっぷり甘えよう。

「ところでユウキくん」
「何かな?」
「今日のお弁当にね、鰻入れたでしょ?」
「ああ、鰻は土用の風物詩だからね。旬は秋なんだけど……美味しくなかった?」
「ううん、そんな事はないんだけどね……」



[18266] 第六話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/05/29 01:25

 ミッドもカレンダー上は夏となった。そう言うわけで少々前に貰った向日葵を花瓶に刺し、店内に飾っている。彼女から向日葵と、ついでに夏野菜を貰うことは僕の中にある夏の風物詩の一つだ。おかげでやっと心が夏の気分を取り戻した。
 ただ、夏の雰囲気を手に入れる対価か、店の修理におよそ一日、壊れた備品の修理にさらに半日。あの二人を黙らせるために五日と半日の合計一週間を費やしてしまった。
 それはともかく、向日葵である。あの人が今年一番と保証するのも頷けるほどその向日葵は立派に咲いている。育て方も環境も特殊な為、一月二月どころかもしかしたら十年放置しても枯れる気配すら見せないことだろう。ただ、夏の終わりと同時に捨てさせてもらうが。

「本当に綺麗な向日葵ね。ありがたく飾らせてもらうわ」
「そうしてもらえると育てた人も喜ぶよ」

 科学技術の恩恵で常春の気候を保っているとはいえ、普段より少し暑いと感じる夏のある日。知人に久し振りに呼ばれ、手ぶらなのも何なのでその内の数輪を持って言ったところ、好評を頂いた。
 まあもしもここで花を愛でれないような無粋な人だったり、無碍に扱うようであったなら、主にどこからともなく日傘が飛んできたりするわけだが、閑話休題。
 まあ僕の周りにいる人は誰一人としてそんな無粋なわけもなく、当然彼女――ミゼット・クローベルも例外ではない。現在彼女は本局統幕議長とかいう役職についているのだが、本人曰く実質権力の無い影響力だけの飾りだそうだ。それでも十分に力はあるかと。

「それにしても、先生は相変わらずですね。羨ましいわ。私も若さを維持できれば良かったのに」
「まあね。でも不老不死で悪いこともあるよ。何分、皆から取り残される。そして基本的に気味悪がれる。寂しさで、この滅びを受け付けない身体が憎くなる時もある」
「名も無き最初の人間、でしたか……」
「うん、長生きなんてするものじゃないね。過去に執着してしまう」

 遠くで風鈴の音がなる。ここは彼女が個人所有している温室なので気温は外気よりもかなり高く、現在は夏の草花が育てられている。中には薬草や食用の植物も混ざっている。
 カレンダー上は夏、温室の中の気温は高めと言うこともあり、僕たちが囲っているテーブルの上にある飲み物はアイスティーで、さらに特製バニラアイスがある。何となく、誰かを召喚可能な気がした。しかし経験値が足りない。

「時に、一体何の用かな?」
「……やはり、気付きますか」
「今更僕を招いた時点で気付くよ。それに一体僕が何年君たちを見てきたと思っているんだ?」
「それもそうでした。まずはこの資料を一読ください」

 面倒な話は嫌いだ。それでも聞かないわけにはいかない。世界は常に聞かなかった、知らなかったでは許されない。だからどのような話でも聞き、考えたくなくとも考え、知りたくなくとも知ろうと努力する。
 だがしかし、今回ばかりは空間ディスプレイに映し出された資料の表紙を見ただけで読むのをやめた。理由は単純、ついこの前に同じものを見たばかりだから。

「……ブルータス」
「何か言いましたか?」
「いや、特に何も」

 お前もか。なのはだけでなく、レジアスもでもなく、お前も同じ事を僕に頼むのか。そろそろ良い加減に人を頼らず、自分らでやるという言葉を知ってほしい。
 先月レジアスに聞いた話だ。地上本部に新設される部隊――古代遺失物管理部機動六課にある問題点はいくつかあるが、主には二つあげられる。
 一つは実戦経験のある人材にかけていること。エリート揃いであり、トップの数人は大規模な事件を何度か経験したことがあるが、それだけだ。全ての事件で大成功といえる解決がなされた。つまり空想上しか失敗を知らないのだ。
 百聞は一見に如かずと良く言う。いくら彼女らが最悪を想定して動いたとして、最悪を知らない彼女らがどれだけで最悪を想定したところでそんなもの、経験したことがある者からすれば甘い。
 一つはその後援者。挙げられている人たちのほとんどが海――本局上層部で、地上関係が誰一人として挙げられていない。現状レジアスが事件発生時における即時対応可能な部隊という構想に一定の評価をしているため、地上本部からのあからさまな反対行動はないが、それでも問題の一つとして挙げられる。というか本人が挙げた。

「……それにしても、意外だな」
「何が、かしら?」
「いやだってほら。君たちはすでに前線を退き、後輩に全てを任したじゃないか。それなのに今更新設される部隊のことを相談してくるなんてさ。何かあったのか?」
「ああ、難しい話ではないわ。この部隊の裏の後援者が私たちなのよ」
「……おいこら待て、たわけども」

 レジアスは知らないうちに作られたのだからどうしようもなかったと納得できる。されど彼女たちはどうだろうか。
 まさかこれが作られる前に話を聞かなかったということもない。気付けば後援者に据え置かれたほど、力がないわけでもない。何故止めなかったのか。問題点が分からなかったと戯言抜かすような鍛え方は生憎、やっていない。そもそも彼女たち自身そんなことが言えるほど青二才であるわけもない。

「どうしてそうなった? 止める暇はなかったのか?」
「私たちが聞いたのは即時対応可能な部隊で、その部隊構成までは聞いていなかったの。話してきたのは現在の総務統括官なのよ。あの人、結構な修羅場を経験してきたから少しはものの分かる人だと思っていたのだけどねぇ……」
「責任は取ろうと意気込んでいたらそれどころの話じゃなくなった、と。それってそろそろ席を空けてくれませんか? 墓は用意しますからって言う意思表示じゃないかな?」
「……敬老の精神は一体どこに消えたのかしら?」
「君たちにその言葉をそっくりそのまま変えそうか?」
「あら、先生はまだまだお若いじゃない」

 大方脳内のリサイクルフォルダに行かれたのだと思います。それにしても総務統括官、数年前に人事異動があったから現在の人は誰だったか。前任者ならこのような事態はまずありえないし、その人が推薦した人でも以下同文。なら、何か大事件を解決して昇進した人と見た。
 ここ最近の大事件を思い出す。空港火災は比較的小規模だ。昇進に関わることがあっても総務統括官ほどの高い地位には関係ない。

「ちなみに現在の統括官はリンディ・ハラオウンよ」
「……そいつに今度、水羊羹でも持って挨拶に行こうか……」
「挨拶はやめなさい。人が死ぬ以前に地図の書き直しが必要になるわ。あ、でも水羊羹はほしいわね。今度いただけるかしら?」
「まあ良いけど。どこに送れば良い?」
「ちょうど良いから今度寄ったときにもらえるかしら?」
「了解。ちなみに何羊羹にする?」
「抹茶」

 バニラアイスもなくなり、アイスティーもなくなった。体を冷やしすぎるのは老人に悪いので暖かい紅茶を差し出す。
 それにしても何故彼女は僕を呼んだのだろうか。確かにあの部隊は青二才と雛の集まりで、圧倒的に経験に足りず、地上と縁の薄い人たちで構成される。それをどうにかするのに何も僕じゃなくても良いはずだ。
 鶴の一声で喜んで行く部下だって多数いる。いくら現役を退いた年寄り揃いとはいえ、何とかできるだろう。

「そういうわけにも、行かないのよ」
「と言うと?」
「私たちが行けば必ず彼女たちの行動を制限する。私たちがそれを望む、望まずに関わらず、彼女らはいちいち私たちに意見を求めることになるわ。それでは彼女たちは育たない。何時までたっても雛のまま」
「うわ、本当に面倒な話だ」

 彼女たちにはさっさと雛を卒業してもらいたい。そのためには最悪があってほしいが、しかし最悪の事態はどうにかしたい。かといって自分たちが行けば最悪に直面したところで、その責任の所在が自分たちに向かってしまう。それでは意味がない。
 その話のどこが面倒なのかというと、矛盾した願いだとかそれ以前に、彼女らの知り合いの局員では不可能ということだ。詰まる所、彼女の望みをかなえることが出来る人材はかなり限られている。というか僕しかいないのかもしれない。
 その関係が全く知られておらず、方法さえ問わなければ最悪の事態が起きてもどうにかできる。信頼においては申し分ない。それでいて目立つものがない。むしろ魔力量が雀の涙ほどで、魔導師ランクなど持っていないのだ。
 魔力量を絶対の指標にしている現在の時空管理局本局では僕などただの一般人にしか見えない。地上本部は様々なことがあったため劇的な変化があったがそこは割愛。

「で、君は僕に最悪の事態が起きた場合の即時対処をしてほしいでOK?」
「あとアフターケアもお願い」

 なのはからはコック、レジアスからは観測者、ミゼットからは保護者か。現在求められている役割は以上三点。職業は唯一一つ。共通事項はどれをとっても常時機動六課にいなければならないということ。都合良く――否、運悪くそのための職業は用意されているようだ。

「やってくれるかしら?」
「でもなぁ……別にいなくても良いのじゃないかな? 揃いも揃ってバカというわけでもないし、相当に悪い状況が近づけばお互い注意しあうでしょ」
「そう願いたいのだけど……問題点が一つ。これよ」
「……機動六課の人物相関図?」

 まあ良くぞ個人情報を赤裸々に調べたものだ。ただ流石に女性のスリーサイズと体重はいらないと思う。むしろ完璧に不要だ。これを調べた人を一度更生施設に放り込んでおくべきだと思う。
 気を取り直して今一度目を落とす。ああ、うん。

「こっちを見ても何も変わらないわよ」
「……この話はなかったということでよろしく」
「あら、そんなこと通るわけないじゃない」
「ですよねー」

 レジアスがあそこまで不安になる理由が良く分かった。こんな部隊が問題を起こさないという想像が出来ないし、その問題もひどいものになるだろう。場合によっては貴重な陸士を殉職させ、陸士自体のイメージダウンに繋がる。
 ただでさえ陸士になりたいという人は少なく、局員の多くを本局に採られているというのに。これ以上の人員の削減は運営の不備に直結しかねない。

「…………拒否権は?」
「あるわ。でも出来るならやってほしい。それだけの望みよ」
「はぁ……面倒だな」

 赤の他人が殺されるのは本当にどうでも良いが、そのせいで身内が泣くのは嫌だ。それは許容できない。
 あの優しい子のことだ。友達が殺されたならまるで自分の親が死んだかのように泣いて、不器用に不恰好に壊れた笑みを浮かべるだろう。
 誰が死ぬか分からない以上、誰が死んでも結果が変わらない以上、僕が選べる選択肢はただ一つ。本当に、面倒な話だ。

「……とりあえずミゼット」
「何でしょう?」
「古くに祀られていた神木は無いかな? 可能なら夜は人が来ないところが良い。あと五百年前の五寸釘と血塗れた藁人形とその総務統括官の新鮮な体毛」
「とりあえず、やめなさい」

 少々仕返しする自由も無いのか。泣きたくなった。何だか飾られているひまわりが嗜虐的な笑みを浮かべている気がしたのが印象的な、夏の昼の出来事。癒しがほしい。
 ああ、それよりもまずなのはにどう、説明しようか。



[18266] 第七話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/05/30 19:39

 主はやての夢である部隊、機動六課の料理長であるユウキ・カグラはとても興味深い人物だ。何をしていても体の軸がぶれず、一見隙だらけのようで一つも打ち込めそうにない。魔力こそないものの結構な武人であることが伺える。
 本人曰く、魔力は雀の涙ほどしかないそうだ。だが、だからこそ面白い。何故その程度の魔力で私が勝てないと感じるのか。私に何が足りていないのか。それを考えると本当に、興味深い。
 是非彼と一度手合わせをしてみたく思っている。

「…………」
「どうした?」
「いや、今一瞬嫌な気配が……」
「気のせいだろうよ」
「そう、だと良いのだけど」

 そう言いながら彼は首筋を摩り、再び演習場のほうに眼をやる。何でも厨房は仕込みが終わってしまえば当分暇であるらしく、やることがないから暇つぶしに来たそうだ。
 そんなにも暇ならば私が付き会おうと思ったのだが、さてどうやって言いだそうか。普段通りに少し付き合えと言えばことは容易く済むのだが、それについてはこの前主に怒られたばかりだ。曰く、女の子がそんな事を言うなと。意味が分からない。

「カグラ、新人たちをどう見る?」
「正直なところ……色々と足りない所があるなぁ。魔導師じゃないから君たちの観点では言えないけど、戦い方とか、力の使い方とかの知識が欠けているよ」
「私はアレで普通だと思うが、ヴィータはどう見る?」
「あたしも普通だと思うな」

 魔力が雀の涙ほどしかないため満足に魔法が使えない。だからこその観点の違いだろう。その視点、知識と言うものは新人たちだけではなく我らにとっても必要なものかもしれない。いや、必要なものだ。
 魔法を突き詰めれば確実に魔力と言う壁に衝突する。一方彼の言う知識、人々が長い年月を積み重ねて培ってきた知識は通常、万人が使えるようにしている。確かにそこに才能による習得速度の差、努力と言う必要事項はある。
 しかし、それらは魔法においても同様だ。故に別に問題とは言えない。ここで言いたいことは、彼の持つ技術には努力と才能を無視すれば決して越えられない壁が存在しないということだ。やはり是非とも彼には教鞭をとって貰うか。
 いや、その前に人となりを見極めるために一度手合わせを。

「――――!」
「どーしたんだよ、急に」
「いや、今みょんな気配が……」
「何だよそれ?」
「つまるところのバトルジャンキーだよ」
「バトルジャンキーか……それならシグナムもそんなものだな」
「…………マジ?」

 手合わせするとしたら当然魔法抜きの、武術の身による試合だな。各々が培ってきた、磨いてきた技を競い合う。そこに魔法という技術はないものの、きっと素晴らしいものになる。
 彼はどのような武器を使うだろうか。剣か、槍か。はたまた徒手空拳か。そのどれにしても私は苦戦を強いられることだろう。何せ相手は今まで魔法を使わないことしか知らないのだから。片や私は魔法を使って戦ってきた。

「……ユウキ、今すぐ逃げた方が良いんじゃねーか?」
「激しく同意。と言うわけでヴィータ」
「何だ?」
「善は急げって言うしね」

 善は急げ。確かに。それでは急がして貰おう。高町に頼めば演習場を貸して貰えるに違いない。試合を新人に見せるのも良い経験になる。では、急いで行こうか。

「ちょっと帰ら――――」
「さあ行くぞ、カグラ」
「……ヴィータ、翻訳をお願い」
「善は急げとよく言ったものだ。さあ死合をしに行こうか、カグラ」
「了解了解。というわけで、へるぷみー。代金は特製バニラアイス」
「おい、シグナム。相手の了承を得ていないのに――――」

 カグラの首を掴んで足早に演習場に向かう。その間にデバイスを起動し、バリアジャケットを纏う。何故かは知らないが、カグラは胸元で十字を切って法華経を唱えながら神頼みをしていた。
 彼も試合をするのがそこまで嫌ではないのだろう。目立った抵抗をせず、先ほどから妙な歌を歌っている。

「高町、フィニーノ」
「あ、シグナム。どうした……の?」
「シグナムさん、どうかしまし……たか?」
「少し演習場のほうを借りたいのだが、良いか?」

 そんなにも妙な光景だろうか。二人揃って奇妙な表情をしている。高々カグラ一人引っ張ってきただけだろうに。念のために持ってきたものを見ても、相変わらず遠い目をしているカグラだった。
 なんらおかしいことはない。そう思って視線を戻すと、今度はこちらが奇妙なものを見る。高町が見たことのないデバイスらしき武器の銃口を向けている。
 そのデバイスのようなものは白と金で彩られ、一見すると槍の様だが、しっかりと銃身が存在している。手元にはカートリッジがあり、何だったか。主が昔やっていたゲームに出てきたオクステンランチャーに良く似ている。
 しかしそれとは違い、手元の部分には見たことのある紅い宝玉がはまっている。

「ねぇシグナム、ユウキくんに何やっているのかな? 分かりやすく簡潔で、具体的な説明をお願い」

 銃身、もはや砲身といっても良い部分が二つに分かれ、その間に桜色の魔力が吸い込まれていく。
 悪魔め。昔ヴィータが思わず零した言葉だ。その悪魔も十年近い年月を経てどうやら、魔王を超えたようだ。一体どこの誰がこんな、正しく魔砲を悪魔に与えたのだろうか。おかげで返答次第では死ぬだろう。とりあえずその原因を一発殴らせてもらいたい。

「お、落ち着け。高町」
「私は落ち着いているよ。うん、自分でもびっくりするほど落ち着いている」
『ええ、非常に冷静です。自分が何をしようとしているのか、その先に何があるのか冷静に受け止めています。それだけですが』

 確かに冷静だろう。瞳はすでに光を失い、状況をあくまで客観的に捉えていることぐらい伺い知れる。しかしそれは余りに、余りにひどい。

「やめなさい、なのは。レイジングハートも」
「……本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」

 いつの間にか私の手から逃れ、高町の隣に行ったカグラが彼女を止める。

「シグナムにね、模擬戦をしないかと誘われたんだ。ほら、僕は魔力がほとんどないから技術ばっかりで。魔力を用いない戦闘方法は新人たちにとっても良い刺激や参考になるんじゃないかって」
「確かに、それはそうだけど……危なくないかな?」
「それを言うと、魔法もそうだよ。まあ加減は大体分かるし、大丈夫じゃないかな? それに少し休憩を挟んだ法が良いでしょ」
「うん……気をつけてね」

 ただ彼が高町を止めてもどういうわけか冷や汗が止まらない。先ほどの高町以上にまずい存在の逆鱗に触れている気がしてならない。

「近頃色々とあって心労がたまっていたところなんだ。曰く、ストレスを解消するには八つ当たりが一番という。ならば久方振りに本気で暴れるのも、良いのだろう」
「うぅ、くすぐったいよぉ」
「な、なのはさん?」

 高町の頭を撫でながらそう静かに、こちらに向かって呟いた。もちろん高町はそんな言葉耳に入っていない。どうやら踏みつけてしまった尾の持ち主は、意外な所にいたようだ。

「そういうわけで演習場借りても良いかな?」
「うん、良いよ」

 こちらが誘った以上、彼の言葉を止める権利は持ち合わせていない。むしろ今更止めたなら今後どうなることか。カグラはほとんど一人で厨房を仕切っている。故に出す料理全て彼が作っているといっても過言ではない。
 もしも彼が私の料理だけ手を抜いたなら。いや作らなかったなら、日々の営みの上で重要な楽しみであり、必要事項である食事からあの美味が消えてしまったなら。それだけで非常に辛い。

「ああ、シグナムさん。僕はほら、魔法がほとんど使えないからいくつか条件をつけさせてもらうよ」
「あ、ああ。どんなものだ?」
「まず魔法はほとんど禁止。使っても良いのは安全のためにバリアジャケットのみ。ただデバイスにある変形機構はあり。それだけだよ」
「まあそのぐらいなら当然だな」

 詰まるところの接近戦を所望だ。彼自身遠距離攻撃のためのものなんて持っていないだろうし、そんな技も聞いたことがない。別に彼の提案がなくとも私自身そうするつもりだった。
 ただ一点。安全のためにバリアジャケットを着用可とはどういうことだろうか。まるで使わなければ怪我をするように聞こえる。

「あと怪我した場合の責任は自分で取ってね。僕は知らないよ」
「了解した。カグラも怪我をしないようにな。シャマルの小言は煩いんだ」
「それは、やりすぎないよう気をつけないと。夕食の用意が遅れるなぁ……」
「……良い度胸だな」

 この時私は、何の尾を踏んだのかも忘れて酷く好戦的な笑みを零したことだろう。それから時は過ぎ、新人たちの訓練も区切りの良いところで一時休憩となった。
 その間にカグラは着替えるのかと思いきや、精々ベストを脱いでネクタイを外し、変わりに浴衣を羽織っただけ。あんなもので本当に良いのだろうか。そして現在、細い朱塗りの和傘を手で弄んで時を待っている。

「さあさあ張った張った! 烈火の将シグナムと、謎の青年ユウキの一本勝負ですよ!」
「ふむ……現在のレートは?」
「今のところシグナムさん優勢で、一対二十というところですね。ところで、グリフィスさんは賭けますか?」
「そうですね……シグナム二尉に十口お願いします」
「ですよねー」
「ちなみにユウキさんに賭けているのはどなたですか?」
「えっと……なのはさんとヴィータさんですね」
「そう、ですか……ならやはりシグナム二尉ではなく、ユウキさんでお願いします」
「ん、どうしてです?」
「それは……まあ秘密ですよ」

 とりあえず奴らとは一度話をしなければならない。特にヴィータと。何よりヴィータと。シャマルでさえ私に賭けたというのに何故ヴィータはカグラのほうに賭けたのか。その辺りをこの後、念入りと聞かなければならない。
 さて、新人たちの見ている手前、無様に負けるわけにも行かない。特にあの中には騎士を目指す若者が一人いるのだ。出来る限り格好良く勝たねば。そう思いながら演習場に立つ。
 カグラが選んだ舞台は木々の生えた草原。見晴らしが良く、海風が頬を撫でる。どちらに不利というわけもなく、どちらに有利というわけでもない。そんな状況だ。

「それじゃまあ、手早く始めようか」
「それもそうだな。時に武器はそれで良いのか?」
「ああ、うん。もちろん」

 向かい合うと同時に心地よく張り詰めた空気が辺りを満たす。戦いにせよ試合にせよ、やはりこうでなくては余りにつまらない。他の全ての思考を一時消去し、目の前に集中する。
 レヴァンテインを構え、カグラを見る。彼も同様に正眼の構えをしている。ただしその手に持つ武器が傘でやはり締りがない。

「それでは、崩月家族長兼神楽家元当主優鬼」
「烈火の将シグナム。それではいざ尋常に――」
「――始めよう」

 その言葉と同時に緋色の傘が大きく開かれる。死角を作り、意表を着いて間合いを詰めるつもりか。案の定傘の影から黒い物体が飛びだすのが見えた。やはりカグラだ。その手にはいつの間にか鞘に納められた刀を握っている。
 思ったよりその走りは早い。しかし開始の位置が十分に開いていたため、こちらも十分に対応できる。私は真っすぐ彼の方に向き直り、剣を少し下げ待ちうけると同時に――



――彼を見失った。



「――くっ!」

 同時に本能に任せて剣を振ると金属の打ち合う音がする。どうやらまだ、私は彼の力量を憶測で決めつけていたようだ。
 そう、傘を広げるではなく、そこから抜け出てこちらに向かう所までが彼の策。途中まで相手の思った通りに事を運ばせておきながら、その意表を急に着く。地面すれすれまで身体を沈め、音もなく忍びよる。いや、忍びよるなんて生温いものではない。相手の意識の外から侵入してきた。
 さらに特殊な足運びでの急加速および急減速に左右への自由自在なフットワーク。それで私の意識をかく乱したようだ。

「……中々に、良い趣味をしている」
「防ぐか……いや、この程度で倒れてもらってはこちらもつまらない。久し振りの喧嘩だ。楽しく行こうぜ」

 そう酷く歪に笑う――嗤うカグラの表情は先ほどまで見ていた彼とはまるで別人だ。しかし私も人の事を言えない。そのことぐらい分かっているから私も嗤い、笑った。
 静かに間合いが詰まる。刀はまだ鞘に納められた形で左手に持たれている。前を取るか後を取るか。安全面で言うならば後の方が良いだろう。

「ハァァアアア!」
「全てが遅い」

 何か嫌な予感がした為、先を取った。しかしそれは当たり前のように一歩で避けられる。それも予測の範疇、確認すると同時に開けた片手で鞘を振る。

「第一、そんな声を出した所で然して意味はないのだから黙ってやるのが常道だろうが」

 身体が宙を浮く。しばらくしてから投げられたのだと理解し、魔法を使って姿勢を戻した。これは中々に手ごわい相手のようだ。

「これが崩月が宿す、狂気だ」

 そうやけに響く声で呟き、踏み込むと同時に腹部に強烈な痛みが走る。肝臓をやられた。肺腑から空気が抜ける。息が詰まる。
 痛みの余り閉じかける目で前を見るとそこには、居合の構えをしたカグラがいた。足は地面を踏み砕いている。
 とっさに防御しようと思うが、身体はまだうまく動かない。纏まらない意識でバリアジャケットに込める魔力を増やす。すると彼はそれを待ちわびていたかのように獰猛に口を歪めて。

「疾」

――抜刀
 ――斬り
  ――納刀

 たったそれだけの動作を極限まで極めれば奥義まで至るのか。そう思えるほどの銀色の嵐が身を襲う。始終鈴の音に似た音が鳴り響く。唯ひたすらに耐え、そして呼吸が戻り、足が地に着くと同時に剣を振り払う。

「――刀装備時限定奥義――薄刃陽炎」

 防御、駄目だ。下、間に合わない。ならば、上に跳ねる。
 先ほどまでいた場所の後ろに生えていた木が音もなく輪切りにされていた。あんな攻撃を食らっていたら最悪、バリアジャケットごとお陀仏だ。本当に何の遠慮もない。
 だが、上には居合も行えまい。私は勝利を見て剣を振り下ろす。カグラはそれを鞘で受け流した。その鞘の下にはどれほど美しい波紋があることか。見てみたいが、見たくはない。
 今カグラは攻撃に移れない。それを良いことに、それを最初で最後の機会と確信して剣を振う。袈裟斬り、突き、払い。目の着いた隙から順に打ち込む。

「――破」

 しまった。体勢が崩れた所で大きく振りかぶると懐に潜りこまれた。ほとんど密着した状態で身体が投げ飛ばされる。一体この技術は何なのか。

「レストレーション、ランス」
「くっ、レヴァンテイン!」
『Schlangeform!』

 近くの木に絡ませ、縮ませる。
 さらに腕をしならせ、蛇腹剣を襲わせる。それを巧みに右へ左へ、瀬戸際で見極めたうえで最短でこちらに向かってくる。この形態では、もう無理だ。
 近づいたカグラはいつの間にか持っている槍で鋭い突きを放ってくる。レヴァンテインを剣の状態に戻し、鞘を用いて捌くのが着いて行くのがやっとだ。一向に反撃できそうにない。
 しかし、負けたくはないものだ。この状況下でも私はまだ勝利を渇望してやまない。虎視眈々と隙を、間を探っている。だがどれだけ探ってもそれはない。では、仕方がない。

「はは、それは良い」
「……そう思うならせめて一撃ぐらいは貰ってほしいものだな」
「いやだね。僕は弱いんだ。良い所に一撃でも貰えば即病院送りだよ」
「そう言う私も、貴様の一撃で葬儀屋の御世話になりそうなんだが?」
「ああ……殺すつもりでやっているからね」

 左腕は、使い物にならないな。籠手は砕かれ、内部の骨が折れている。どういうわけか刺突が粉砕だった。理屈が分からないが、それもまた技術だろう。反撃のために振った剣も軽く乗られ、踏み台にされてしまった。

「…………」
「本当に急だな、貴様は」

 会話が止むと同時に槍が飛んでくる。それは真っすぐに心臓を目指し、私は当然一歩前に出て避けた。

「脇が甘い」
「しま――――」

 た、という言葉が続かない。五臓六腑、骨髄に響く打撃が向かってくる、その一撃でも貰えば普通に殴られるよりもひどい痛みを伴うだろう事は先の一撃で学習した。
 振り払おうにも近過ぎ、剣を振ろうともその腕を取られ、関節を逆に曲げられそうになる。下手な行動は身を滅ぼすが、何もしなければ敗北あるのみ。
 機会を窺うではあまりに遅すぎる。かといって先ほどと同じ手は二度も食らうまい。

「……そっちの腕、砕いたはずだけど?」
「そう思うなら無遠慮に肘鉄を入れるな。骨が出そうだ」
「いやぁ、つい?」
「お前は……だが」

 隙間が出来た。そう言うことなく剣を振る。逃がさないためにもレヴァンテインの鞘を蛇腹剣にし、腕を繋ぐ。左腕が非常に痛むが、甘いことは言わない。

「これで!」
「…………」

 逃げられないことを素早く悟ったカグラは半歩身をずらし、右手を前に、左手を腰にやり、焦点の定まらない目でこちらを見る。
 先ほどと同じように、しかし今回は油断なく打ち込む。その全てを前に掲げた右手で逸らされる。それはまるで水を切るような感覚だ。
 だが避けているわけではない。流された剣を素早く切り戻すと、案の定、カグラは地を蹴り、空に舞う。

「どれだけお前の見切りが上手かろうが、飛べないのであれば空では何の対処もできまい!」
「それは、どうかな?」

 左腕が引っ張られる。蛇腹剣を足場にカグラは体勢を立て直した。そこまでできるのか。いや、貴様はそこまでするのか。
 そして張り詰めた蛇腹剣をたった一度殴り、砕く。自由になった手を振ると、その手に槍が戻る。太陽のおかげでそこにひどく細い糸を見つけることが出来た。本当に、大したものだ。

「レストレーション、バスター」

 槍が発光し、長剣に変化する。その全長は彼の身長を超えてなお有り余り、重量は推し量るだけでも結構なものだろう。
 ただその重さすら自分の腕の延長のように振り回し、遠心力を使って向かってくる。その一撃は先ほどに比べて遅いものの、比較にならないほど思い。デバイスで受けてしまっては確実に砕けるほどだ。それはアームドデバイスでも例外ではないだろう。

「お前は本当に、投げるな」
「それはどうも」
「褒めていない」

 それから何合も切り結び、何度も彼は手を変え技を変え、私もそれに対し即座に対応した。楽しい、何と楽しい。一合結ぶたびに私の何かが変わっていく感覚がする。それが非常に、楽しい。
 今までに見た彼の武器は刀、槍、長剣、双剣。弓に鉄扇に羽衣。糸や傘。時に思う。何気なく剣と打ち合える非常に丈夫な傘を人は何と言うのだろうか。
 そして、羽織によって視界を封じられ、今度はその手に最初に見た刀があった。

「……そろそろ、最後にしよう」
「……何だと?」
「だって君、バカだから。体力配分なんて考えずに最初から全力でやったでしょ。もう息切れているよ。それに見た目以上に、君が思う以上に君の身体は酷使されている。それに、そろそろ僕の体力が持たない」

 確かに私の息は切れている。しかしまだやれる。まだ、まだ続けられる。

「だから、終いにしよう」

 自然体で立つ。若干姿勢が前に傾いている。なるほど、次で全てを決めようというのか。確かにそれも面白い。

「レヴァンテイン」

 カートリッジが排出され、圧縮魔力が体を駆け巡る。

「……やれやれ……なら見せてやるよ」

 黒いはずの瞳が紅く染まる。髪が白に変わり、鞘を持つ左手から黒い何かがこぼれおちた。それが何なのか私には分からない。しかしそれは余りに良くないものぐらい、何の迷いもなく理解できる。
 その何かは鞘を伝って地面に落ち、徐々に水たまりのようなものを形成する。水たまりが大きくなるほどに彼の髪の色は抜けて行く。レアスキルの類か。要注意だ。

「崩月と神楽の狂気――呪詛を」

 髪が完全に脱色し、その色は穢れ無き白と言うよりも穢れ切った白だった。それは僅か一色で構成された色。他の色が混ざれない、異端を示す色。先ほどの黒とは違う意味で純粋に狂った形。
 額に二本の角が現れ。二度曲がって真っすぐに天に伸びている。

「…………参る」

 下手をすれば確実に死に至る。致命傷ではなくそれは致死の攻撃。主はやて、他の守護騎士たち、テスタロッサ、高町、機動六課。様々な心残りが脳裏を過ぎる中、私はこのような形で死んでも悪くないと考えた。

「紫電――」

 始まりは前触れもなく、しかし同時に。

「――疾風」

 剣士として自分以上に強い者と手合わせし、散る。それは唯生き延びて死に至るより断然意味のある、形のある死だ。だからこの一歩に後悔はない。
 ただ一言、ただ一言言わせてもらうなら、済まない。どうやら私は誰かを率いる将には不向きのようだ。済まない。



「―― 一 閃 !!」

「 迅 雷 ――!!」



 何が起こった、そんな事は分からない。唯どうしようもなく私は敗北を理解し、綺麗に斬られたレヴァンテインを地に落とし、同じく意識を深い海の中に落とした。
 耳元で悲鳴が聞こえる。誰かが何かを叫んでいる。それすらも煩わしく感じる。私は疲れているんだ。頼む、眠らせてくれ……

 ああ、でも本当に――――……



[18266] 第八話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/10/05 23:24
「内臓に損傷、全身の骨に亀裂多数。特に左腕は骨折した後に肘鉄を入れられたため、損傷が悪化。さらに全身に切り傷その他エトセトラエトセトラ」
「むぅ……」
「その何が酷いと言うと、どれ一つとっても騎士甲冑がなければ致命傷であるという点よ」
「……すまん」
「一週間療養。その間剣を振ることはお炉か持つことも禁止します」
「シャマル、それではあまりにも」
「良 い で す ね?」
「……はい」

 バリアジャケット、じゃない騎士甲冑か。致命傷を戦闘続行可能な程度で抑えるとは。思ったより防御機能が良いようだ。ランクによる防御力評価を上方修正しないと。いや、相手が防御に走るかは知らないかによるものか。ならばこのままで。しかしながら念のために覚えておこう。
 さて、シグナムの診断も一区切りつけた所で機動六課の主任医務官、シャマルはこちらを向き直る。理由なら簡単だ。あの試合、終ると同時に倒れたのは両方で、僕は気絶こそしなかったものの、半ば自滅行為で動けなくなっていた。

「筋肉断裂に筋に損傷あり。肉離れも多数みられ、関節も大分疲労している。ねぇ、どんなことをすればこんな状態になれるのかしら?」
「それは……心と体が上手く噛み合っていないと言うかなんというか。まあ齟齬があるからこうなるわけで」
「……とにかく、あなたも一週間の安静を。でも自業自得ですからコックの仕事は続けてもらいます」

 無理をした。そもそも僕の精神に身体が着いて行けることなど今まで一度もなく、当然ついて生かすには肉体に無理を強いる。結果としてそれはこのような状態に繋がる。本来の状態に戻せばそんな事もないのだろうが、行きすぎると逆に戻りにくくなるから。
 特に面倒なのは崩月の、母方の先祖の血。あの大バカの血は千年二千年、神話に遡ろうが衰えることを知らず、時として無邪気に戦闘を楽しむ傾向を強いる。その結果がこれ。故に別に彼女が何と言おうと僕は普段通りを装うつもりだった。
 まあとりあえず、痛み止めでも飲んでおけば問題ないか。はあ、だからストレスがたまっている時の試合は嫌だったんだ。

「……どこに行くの?」
「ちょっと仕込みの続きを。ほら、もうすぐ夜じゃないですか。夕食の用意をしないと」
「本当に、良く動けるわね。普通の人なら音を上げるどころか気絶していてもおかしくないのに」
「あはは……痛いのには慣れているんで」

 他にもやることがたくさんある。シグナムのデバイスも直さないといけない。これはシグナムに頼まれたことだ。試合の事は黙っておくからやってくれ。今のフィニーノに頼むのは怖いとのこと。僕にデバイスの知識がなかったらどうするつもりだったのだろうか。

「…………はぁ……」

 面倒なことをした。その感想は存分にある。だがその分心は非常に晴れやかで、対価としては十分な者だろう。心労を溜めすぎると何をするか、想像が出来ない事態よりもましだ。

「あー、疲れた」

 というわけでまあ夕食も終わり、現在入浴中。機動六課は余りに男性職員が少ないものの、男性用浴場も女性用並に広い。それは必要以上だ。だが、広い風呂は好きだ。だから悪いとは感じない。
 それにしても新人たちは大丈夫なのだろうか。結局夕食の後もまだ訓練があったようで、そんなにも詰め込んでは心とは裏腹に体が壊れてしまう。ちゃんとその辺りの限界を見極めていたなら大丈夫なのだが。
 いや、これは僕が気にしても何の意味もない話か。

「いよ、旦那。姐さんにタイマンで勝ったそうじゃねぇっすか」

 のんびり風呂に浸かっていると誰かが入ってきた。その人物はヴァイス・グランセニック。僕とシグナムの試合の時は部隊長と分隊長の一人を地上本部に送っていたためいなかった。だからこその言葉だろう。

「勝った勝ったと言っても僕の土俵でだよ。もしも魔法ありの試合なら勝てない可能性が高い」
「高いって……それでも負けないと言う所がすごいっすよ。そもそも相手はベルカの騎士ですぜ。そんな相手に魔法なしとは言え、一勝したこと自体誇っていいと思うんですが」
「向こうは魔法を使って戦うことに慣れている。僕は魔法を使わず戦うことしかできない。その差さ」
「ふぅん……そう言うものすかねぇ」

 彼女たちは全員魔法と言うブーストのある動きに慣れている。そのブースとを取り払ってしまえば思うように動きにくいのは当然だ。それに今回ばかりは僕の方も少し卑怯技を取らしてもらった。
 その一つが錬金鋼と呼ばれる武器であり、一つが母方の家系に伝わる鬼の血であり、一つが僕の異端であり。挙げて行けばきっと際限なく挙がるだろう。
 少なくとも五分五分の条件とは言いづらい試合だ。それをなるべく五分五分に持っていくために騎士甲冑を許し、飛行魔法を使った時も何も言わず、無縫天衣すら使わなかった。

「そう言えば結局、決着はどんななんだ? 映像とか残っていないし、見た人もいなくて分からないんですが」
「あー……らしいね」

 もちろんそんなことわざとに決まっている。髪や目の色が変わるだけではなく、角が現れると言うことを人が出来るわけがない。そんな映像を見られたら確実に細部に至るまで聞かれる。だからこそ映像に残らないように細工し、シャマルが来る前にシグナムの方も記憶を変えておいた。
 それなのにその努力を無碍にするかのように口を滑らすなんてあるわけもなく。さあ、どういい逃れようか。

「僕も極限状態だったから、余り詳しくは覚えていないんだ。ごめんね」
「そうですか。そりゃ残念」

 上せてきたので浴槽の淵に腰をかける。それでも足は湯船に着けたままだ。それにしても良い月だ。寮の設計図を見たとき、無理を言って欲情を特殊な透過処理を施し、向こう側からは見えないガラス窓にしてもらって良かった。お陰で本当に綺麗な月が見える。
 さらにこの辺りは首都から遠く離れた場所であるため星も都会よりも見える。ここまでくれば酒を忘れるなんて馬鹿馬鹿しい真似は出来ない。

「…………」
「……どうかした?」
「い、いや何でもないです!」

 何だろう。後ろにいるヴァイスが前屈みになっている。足元に石鹸でも落としたのだろうか。僕は気にせず杯を傾けた。うむ、甘露甘露。
 やはり一汗かいた後の酒はとても美味だ。ただ風呂場で飲む酒の周りは早いので飲み過ぎないように注意しなければならない。

「それにしても旦那は強いんだな。コックだからつい、非戦闘員かと思っていたぜ」
「いや……僕は弱いよ。ああ、弱い」
「謙遜は良くないですぜ。何せ姐さんに魔法なしとは言え一勝したんだから。十分に強いでしょうが」
「確かに、そう言う見方では強いのかもしれない。でも、僕は弱い。どれだけ力を持っても、大切な人を守れなかったから。だから、弱い。どれほど力があろうと、守れなかったのでは意味がない」

 大切な人を失った。守れなかった。今ではその記憶すら失われ、それを取り戻すために彷徨っている。そんな守れなかった僕がどれだけ力を持っていたとしても強いわけがない。

「旦那でも守れなかったこと、あるのか?」
「あるよ。たくさん……失ってはいけないものすら、無くした程に」
「そう……すか」

 ヴァイスの語尾が弱まる。もしかしたら彼にも似たような経験があるのかもしれない。だとしたらこれは酷な話だ。特に必ず乗り越えなければならない話と言う意味で。
 手招きして彼を隣に招く。そして取り出した盃を持たせた。

「……ありがたく、頂きます」
「ん」

 ふと思い返せば彼はこの部隊で最も経験のある人物か。階級は陸曹。並みの努力と才能で行きつくには余りに若い。では結構な戦績を点てているのだが、さて。そんな人物がどうしてヘリのパイロットをしているのか。
 失敗して問題を起こして機動六課に回されたとも考えづらい。何せひねくれていおらず、まだ真っすぐだから。では、逃げたと考えるのが妥当だ。
 まあどう考えた所でそれは僕の推測。合っているかどうかは確認するまで分からない。また自分自身それを確認しようと思わない。

「守りたいものを、守れなかったか」
「そう……昔はね、何をどうすればいいのかが分からなかった。だから自分を犠牲にしてでも守ろうとして、結局守れなかったことがあった。自分のせいでその大切な人が悲しい想いをさせた」

 誰かが犠牲になって多くの人が助かる。自分を犠牲にして誰かが助かる。確かにその話は綺麗だ。だがそこに果たして、救いはあるのだろうか。
 親の仇と言って向かってきた子供がいた。貴様のせいでと言って殺しに来た老人がいた。よくもと言って毒を混ぜてきた女性がいた。多くの人が復讐を誓い、そのために人生を犠牲にする。
 もしかしたら自分も大切な人にそんな事をさせるきっかけを作ってきたのかもしれない。そう考えると果たして、自分が犠牲になってまでただ、その身を守った意味はあるのだろうか。
 何を守るか。難しい話だ。誰かを守るという言葉にただその人の生命を守ればという安易な回答がある分、難しい話となっている。

「その人が自分に何を望み、そして自分がその人の何を望んでいるのか。それが分かれば、良い話だったんだけど」
「確かに……他人の心はおろか、自分のことすら分からないことが多いからな」
「例えそのことに気付いても、失ってからはもう遅い。どのような言葉も思いも、死なれてしまっては届かない。また死人の言葉も僕たちには、理解できない」
「…………」

 長く生きてもそれは理解できない。かといって理解したいとも望んでいない。分からないからこそ、楽しい時もある。分かりたいと願う。そんなものがたやすく分かってしまえばきっと、世界はつまらないものになる。
 本当に傲慢な欲望だ。分かりたい者だけ分かって、分かりたくないものはそのままであってほしいなど。叶わないことぐらいすぐに理解できる。

「失うまでその価値を知らず、届かなくなってからでは余りに遅い」
「……何と言うか、旦那が凄い年寄りに見えてきたんだが」
「どうだろうね? まあ僕はそろそろ上がるよ。長湯し過ぎて上せないようにね」
「へい。それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ、ヴァイス」

 それから髪を乾かし、寝間着である浴衣に着替える。これで寝る場所がベッドなのだからそのちぐはぐさは言わずとも分かる。しかし慣れと言うものは恐ろしいもので、今は浴衣の方が落ち着くのだ。
 閑話休題。シャマルからの説明もあったように全身肉離れしている。とあるつてから手に入れた鎮痛剤でごまかしているが、痛いものは痛い。そんな状態での正座は非常に拷問である。

「ユウキくん、何で無茶したのかな?」
「……気分が高揚してとしか申しようがございません」
「ふぅん……へぇ?」

 さて、どうやってなのはの怒りを鎮めようか? 僕としてはさっさと横になって眠りたいのだけど。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 どうやら自分がいない間に面白いことがあったことをこの部隊で数少ない男性であるグリフィスより聞いた。何故そのような時に限って自分は地上本部などにいたのだろう。いや、そんな義務があったのだろうか。
 だが、どれほど嘆いた所で現実が変わることも過去に戻ることも無い。そんな事は昔に倣い、今も俺を蝕み続けている。

 さて、そんな残念な事実を聞いてからしばらく後、特にやるべき任務もないので風呂に入る。他の同僚は事務処理が残っているためまだ残業だ。しばらくはそんな日々が続くことだろう。それも仕方のないことだ。
 勝敗は映像が残っていないため確実には分かっていないが、終った時にユウキは意識を持ち、姐さんは気絶していた。その上姐さんが目覚めたときの開口一番が負けた。故にユウキの勝利となっている。
 もちろんその記録がないのだから本当の勝敗は二人しか知らない。何があったのかも何もかも。録画したはずの映像の方も何故か最初から一切できていなかった。まあスイッチの押し忘れだろう。
 他にも決着の場面では突風が吹いて眼をふさぎ、何とか見たときにはすで決着がついてたそうだ。

「――……」

 そう思いながら風呂に入ると見なれない後姿があった。長い黒髪に細い肉付き。どう見ても入る風呂場を間違えているとしか思えない。
 しばらくしてその後ろ姿に思い当たる人を思い出した。黒髪、さらに腰まで届く長い髪、いわゆる大和撫子とくればこの部隊で思い当たる人は一人しかいない。

「いよ、旦那。姐さんにタイマンで勝ったそうじゃねぇっすか」

 そう、ユウキ・カグラだ。料理を作る仕事も終えているため、さっさと風呂に入ったのだろう。どうやら今晩は夜食抜きのようだ。ロングアーチにおける姐さんの評価が強制的に下がるな。
 どうせ今頃シャーリー辺りが~さえなければと鬼の形相でキーボードを叩いていることだろう。デスクワークがなくて本当に良かった。

「勝った勝ったと言っても僕の土俵でだよ。もしも魔法ありの試合なら勝てない可能性が高い」
「高いって……それでも負けないと言う所がすごいっすよ。そもそも相手はベルカの騎士ですぜ。そんな相手に魔法なしとは言え、一勝したこと自体誇っていいと思うんですが」
「向こうは魔法を使って戦うことに慣れている。僕は魔法を使わず戦うことしかできない。その差さ」
「ふぅん……そう言うものすかねぇ」

 どれだけ技があろうとも魔力素質の高い者のバリアジャケットの前では意味がない。本来人間に銃以上の威力を出せるわけがないのと同様だ。だと言うのに彼は騎士甲冑ありの姉さんに勝利した。したとされる。
 それを謙遜するとは。いや待て。その前に何かおかしくはないだろうか。

「そう言えば結局、決着はどんななんだ? 映像とか残っていないし、見た人もいなくて分からないんですが」
「あー……らしいね」

 無言が気不味くて無理に会話を紡ぐ。その気まずさの原因の多くが彼の性別にある。これだけは断言して言える。
 しかし質問が悪かった。ユウキは気まずそうに頭をかき、語尾を濁す。

「僕も極限状態だったから、余り詳しくは覚えていないんだ。ごめんね」
「そうですか。そりゃ残念」

 なるほど。まあ姐さんとやり合ったのだからまともな精神状態では無理か。だが少々無理のある説明な気がする。出来れば後々のためにもっと詳しい説明をしてもらいたい。
 そう思って口を開こうとすると、即座に閉じる結果になった。本当に、色々とありえない。
 流麗な黒髪、朱に色づき、しっとりと水滴浮かばせた珠の肌。酷く細く、それでいて十分に抱き心地のありそうな柳腰。柔らかな線を描いて臀部にいたり、そこから太ももに至る。脚線美もため息をつくほどで。
 何故だろう。同性であるにもかかわらず艶っぽく見えるのは何故だろう。そこらの成年向け雑誌にある写真より存分に反応するのは何故だろう。
 とりあえず誤解を解くために言わせていただきたい。俺はノーマルだ。断じて同性に興味があるわけでも、ましてやシスコンでもない。

「…………」
「……どうかした?」
「い、いや何でもないです!」

 良いから静まれ。静まってくれと願う。ただこの時の救いは彼が俺の状態に気付かずにいてくれたことだ。お陰でぎりぎり俺の尊厳は保たれた。まあもし何かあっても、そいつに今のユウキを魅せるだけだが。そうすればそいつは反論できない。

「それにしても旦那は強いんだな。コックだからつい、非戦闘員かと思っていたぜ」
「いや……僕は弱いよ。ああ、弱い」
「謙遜は良くないですぜ。何せ姐さんに魔法なしとは言え一勝したんだから。十分に強いでしょうが」
「確かに、そう言う見方では強いのかもしれない。でも、僕は弱い。どれだけ力を持っても、大切な人を守れなかったから。だから、弱い。どれほど力があろうと、守れなかったのでは意味がない」

 月を見上げて言うユウキの言葉が酷く胸に突き刺さる。ああ、そうだ。どれだけ力があっても届かないのでは意味がない。そう、届かないのであれば弱い、足りないのと同じ。だから、俺も。
 いや、俺はきっと弱者以下だろう。弱いだけでなく、その大切な人が多々ある。だから弱い以下。最弱ですら、まだ俺より強い。

「旦那でも守れなかったこと、あるのか?」
「あるよ。たくさん……失ってはいけないものすら、無くした程に」
「そう……すか」

 何を思ってか、彼は手招きして俺を誘う。それに釣られていくと杯を手渡され、なみなみと酒を注がれた。余り酒は得意ではないから断ろうと思ったが、何となく断らずに頂く。
 まあたまにはこういう日も良い。逃げるための酒ではなく、向き合うために酒を飲むのも。むしろ本来はそのために呑んだほうが良いのか。どちらにせよもう手遅れだ。

「……ありがたく、頂きます」
「ん」

 そう言って飲んだ酒は今まで飲んできた何よりも口当たりが柔らかく、酒が苦手な俺でも平然と飲めた。流石元バーテンダー。酒のチョイスは一流か。

「守りたいものを、守れなかったか」
「そう……昔はね、何をどうすればいいのかが分からなかった。だから自分を犠牲にしてでも守ろうとして、結局守れなかったことがあった。自分のせいでその大切な人が悲しい想いをさせた」

 その感情をどうあらわせばいいのか。慟哭か、悲哀か、諦観か。そう言ったすべてでありながら、それですらないその感情。いわゆる悟りであることに気づくのにそうたいして時間は必要なかった。
 本来そのことに悟りを開いてはいけない。悟ってしまえばもう何もできなくなるから。手を伸ばせば伸ばすほどにその手から零れるものも多くなり、零したものに手が届くことがない。そのことを悟っては何も、ああ何もできない。
 何より悟りを開くのにどれだけ膨大な経験を積めばいいのか。立った一度でこれほどまで心を痛める経験を何度重ねれば至るのか。俺は立った一度で諦めたと言うのに。

「その人が自分に何を望み、そして自分がその人の何を望んでいるのか。それが分かれば、良い話だったんだけど」
「確かに……他人の心はおろか、自分のことすら分からないことが多いからな」

 そう言う意味で彼は強い。何よりも心が強い。悟った。だからこそ彼は今あるものに手を差し伸べ、自分に出来る範囲でしか救わない。悪く言えば取捨選択する。見捨てる。その在り方は機動六課とはかけ離れているものの、本質的には同じと感じる。
 何時かは彼女らも知る必要があることだ。救えない命と救える命、自分の手の大きさ。それを知らなければいつか、もしかしたら全てを失い。その前に。
 出来れば俺も、その前に彼と出会いたかった……

「例えそのことに気付いても、失ってからはもう遅い。どのような言葉も思いも、死なれてしまっては届かない。また死人の言葉も僕たちには、理解できない」
「…………」

 妹に想いを馳せる。あの事件の時に俺は妹を傷つけた。守るべき人を傷つけ、彼女に責められるのが怖くて会いもせず逃げた。逃げて逃げて逃げ着いた先が、ここ。
 そんな弱い俺をラグナはどう評するだろうか。いや、それ以前に俺はラグナに顔向けできるだろうか。出来るわけが、ないか。

「失うまでその価値を知らず、届かなくなってからでは余りに遅い」
「……何と言うか、旦那が凄い年寄りに見えてきたんだが」
「どうだろうね? まあ僕はそろそろ上がるよ。長湯し過ぎて上せないようにね」
「へい。それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ、ヴァイス」

 少し、少しでいい。少しでいいから前向きに生きよう。傷つけた。ちゃんとそのことを謝ろう。許してくれるにせよ、くれないにせよそれからだ。
 俺はまだ失ったわけじゃない。だから、だからまだやり直せる。そう信じて。

「カッコわりぃな、畜生……」

 だから少し待ってくれ。今の俺じゃ誰にも顔向けできないから。なに、すぐにいつも通りの顔で迎えに行くから。ちゃんと胸を張って会いに行くから。
 そう月に呟きながら俺は、少ししょっぱくなった酒を傾けた。



[18266] 第九話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/06/11 00:15

 ユウキ・カグラ。正しくは神楽 優鬼、一応日本人。なのはちゃんの恋人でバーのマスターをしている。分かっているのは現在そこまで。他に何をしているのか、今まで何をしてきたのか。
 そう言った個人情報で欠けている部分が多々ある。本来一個人が他人のプライバシーに気安く足を踏み入れるべきではないのかもしれない。でもやはり気になるのだ。そして気になってしまったのだ。
 魔法なしとは言えシグナムに勝利するほどの腕前。多種多様な形態を持つあの武器、何よりあの独特な戦い方。隊長陣にリミッターをかけて何とか面子を揃えた手前、戦える人材は一人でも欲しい。

「……あかんなぁ……何か不味い方向に思考が回る……」

 何を、寝ぼけたことを。そんな無理に人を戦場に連れて行っては私の夢の意味がない。ここまで来た理由が形を失ってしまう。だから詮索すべきではない。この案件はこのままでいいのだ。

「――はやてちゃん、お仕事終わりですか?」
「シャマル……皆」

 残念なことにユウキさんはもう仕事を終え、既に自室に帰っているそうだ。お陰で彼の作る食事を食い損ねた。まあ無理もない。というより無理をし過ぎている。
 料理は他人が思うほど、彼が見せるほど簡単な労働ではない。特に部隊一つの胃を賄うとなればそれはそれは重労働だ。
 なのにあのバカ――バカで十分――はシャマルのコックの仕事は続けてもらうという発言を曲解し、一人で全てをこなした。アレは別に下手に責任を取って辞めないで下さいと言う意味なのに。いや、分かりづらく言ったシャマルにも責任はあるのだが。
 少なくとも厨房に立って、指揮は取って貰うと言う意味だったのに。変に責任を感じて言うかなんというか。それとも料理に手抜きを許さない誇りでもあるのだろうか。それならまあ、理解できる。

「うん、終ったで。皆は今食事中?」
「はい、そうです。あ、はやてちゃんの分も貰ってきましょうか?」
「あ、お願いするわ…………所で、ヴィータは?」
「ああ……ヴィータはあの方の食事にありついて今頃、幸せに眠っておりますよ。特に一人だけデザートにバニラアイスが着いていたそうで……至福の表情でした」
「――良し、後で説教やな」

 何一人勝手に良い思いをしているのやら。他の人はこんなにも一生懸命に働いていると言うのに。これは叩き起こしてでもすぐにしなければ。
 でも……はて?

「所でシグナム。今日ユウキさんと手合わせしたんやって?」
「ええ、はい。流石に負けてしまいましたが」
「どんな人やった?」
「そう……ですね」

 そう言ってシグナムはフォークを置き、暫し黙考に入る。この中で最も彼と関係を持ったのはシグナムだった。むしろだけだ。だからこそ感想を聞く。彼女の言葉で彼がどのような人物なのかを知ろうと思う。
 何分、私が知っているのはなのはちゃんの恋人ということだけで、どうにもその人となりが思い浮かばない。見た目は何時も微笑んでいて、どこかやさしい人だと思うが、職業病のせいでそのような笑顔をつい疑ってしまう。

「一言で言うなれば、ユウキ殿は素晴らしい御方です。剣筋に一切の乱れも迷いもなく、何か一つのために技を磨いてきた鋼の意思が容易く感じられました。私は今まであのように、あそこまで只管に道を進んできた人を見たことがありません」

 中々の高評価だが、その判断材料が先の試合であったことが嘆かわしい。一方でデスクワークが極端に苦手なシグナムらしい評価方法だとは思う。むしろここであの試合を経験せずに判断できたなら彼女は本物かと疑うところだ。
 そう言えば処罰をまだ決めていない。シャマルにはそんな権限がないため、権限のある私にその話が回ってきた。局員ではなく、一般募集という形でやってきたユウキを処罰することはもはや出来ない。ただでさえあの重傷で重労働をこなしたのだ。これ以上は流石に過剰だ。
 一方局員であるシグナムはどうだろうか。演習場を使った一件はまあ良いとして、自業自得とはいえ流石に人的被害が酷い。反省文と減給処分。それから療養期間のデスクワーク増量で良いか。

「きっと彼は迷った結果を知っているため、迷うことをしない人物でしょう。その代わり常に最善を考え、待ち受ける結果を受け入れる。何よりも誰よりも心が強いお方です」
「流石にそれは……ベタ褒めちゃうか? たかが自分に一勝したからといってそこまで高評価するのもやりすぎと思うで」
「……これでも過小評価なのですが」

 その言葉に嘘は感じられない。ならば本音か。ただ、やはり。彼女がここまで高評価を下す人物が全くいないため、しかもたった一度でこんな評価に至っているため、それが事実であると感じても疑ってしまう。

「はい、はやてちゃん」
「ありがとな」
「所で、リインちゃんの姿が見えないのですが」
「ああ。ここでぐっすり眠ってるよ。ここ数日働いてばかりやったから、疲れたんよ」
「……このままにしておきましょうか」
「そうやね」

 シャマルに持ってきてもらった料理はやはりユウキさんが作った料理に比べて一味も二味も劣っていた。彼の料理の中毒性の成果、ロングアーチでは彼の料理にありつくため仕事効率が極端に上がる日があり、差し入れがないために極端に下がる日がある。
 ちなみに今日は極端に下がっている。理由は単純に差し入れがなかったから。

「要するに信用に足る人物と言って良いか?」
「むしろもし彼に魔力さえあれば私は素直に背中を預け――いや彼の下に着くでしょう」

 その言葉を聴けただけで十分。いや、今現状はその言葉以上を望まない。他人の評価で誰かを決めることは余りに愚かしい。やはり人物評価はその人が重要であればあるほど自分の目で判断しておきたい。
 さもなくば、特にこの立ち位置が不安定な部隊は簡単に空中崩壊する。例え一コックとはいえ、設立から一日もたたずシグナム、それ以前からなのはちゃんに影響を与えている。他にも現在のロングアーチから取り上げてはならない存在だ。もう一コックとはいえない。



「ただ……彼は確実に人を――――」



「――良い匂いがするですぅ……マスター?」

 手に持っていたフォークが落ちる。料理の匂いにつられてリインが起きたようだ。しかしそんなことは考えられない。それほどまでにシグナムの言葉は衝撃的だった。いや認められない言葉だった。
 例えどのような状況下であろうとしてはならないことがある。その選択肢がなかろうと、決してアレはやってはならない。だがそれを、彼は容易く破っているようだ。それが私は、受け入れられなかった。
 憤怒しようと思った。机を叩こうと思った。激情に身を任せれたらと、願った。それでもそれを行わなかったのはシグナムが只管に悲しそうな眼でこちらを見ていたからだ。
 たぶんユウキさんは逃げていないと言いたいのだろう。その責より、罪より。待ち受ける全てに対し一切の言葉を吐かず。だからシグナムは私にそのことを責めてほしくない。しかし彼女がそれを言うのは間違っている。

「……今度、ちゃんと話さなあかんか」
「ええ、その方が良いでしょう。あの方を、言葉で表現するのは私には無理ですから……」
「…………」
「マスター? 何の話ですか?」
「何でもあらへんよ、リイン。あ、シャマル。小皿をもってきてくれんか?」
「はい、すぐにお持ちしますね」

 何も知らないリインの無邪気な声に答えた自分の声が、胸に突き刺さる気がした。



 さて次の日。本日やるべき仕事も順調にこなし、シグナムの泣き言を右から左へ聞き流していた頃。一段落着いたときがちょうど良くティータイムの時間であったため、食堂に向かう。
 着いた先の食堂ではユウキさんも紅茶を傾けていた。ただその前には多数の空間ディスプレイが浮かんでおり、その眉間に若干の皺を刻んでいた。

「やぁ、いらっしゃい」
「どちらかというとこんにちはやで」
「それもそうだね。気を取り直して――こんにちは、はやて部隊長」
「こんにちは、ユウキさん」
「部隊長も休憩かな?」
「うん。紅茶と、後何か茶菓子をもらえるか?」
「了解……何だ。やっぱりいらっしゃいじゃないか」
「あはは、それもそうやね」

 やはり俄かには信じられない。アレはシグナムの勘違いなのだろうか。むしろそう信じたい。
 しばらくして紅茶とスコーンが差し出された。もちろんメープルシロップやジャム、サワークリーム、バターもついてきている。抜かりはない。

「所で難しい顔してましたけど、何かあったんですか?」
「ん、ちょっと頼まれごとがあってね」
「そうですか……」

 あ、このバター美味しい。しかも牛乳の臭いがせず、とてもあっさりしている。焼きたてのスコーンにとてもあう。

「…………」
「………………」

 何ともゆっくりとした時間だ。やるべきことがあるというのにここでこのまま紅茶を飲んでいたい気分になる。そんな誘惑を一蹴し、ティーカップを置く。

「あの、少しお聞きしたいことがあるのですが、ええですか?」
「どうぞ。ただ難しい質問や、どうしても答えられない質問には答えないからね」
「あ、はい。それとお代わりください」

 ユウキさんは何とも微妙な表情をして静かに紅茶を注ぎ、スコーンを差し出した。確かに出鼻を挫いた感は否めないが、ほしいものはほしいのだ。むしろ後では貰いにくい。
 紅茶を飲んで一息ついたところで姿勢を正し、彼の方に向き直る。

「単刀直入にお聞きします。あなたは――人を殺したことがありますか?」
「……一つ。その質問は部隊長としての八神、なのはの友人としてのはやて、自分としての八神 はやて。一体どの立場での質問?」
「それは、もちろんなのはちゃんの友人としての、です。それが何か?」
「ただの興味だよ。さて、人を殺したか、だったね。それはもちろん――あるよ」

 何ともないようにつむがれたその言葉に空気がとても重くなる。それはただ私がそう思うだけであって、現実には重くなってなどいない。口の中が乾くが、血のように紅い紅茶を飲む気にはならなかった。

「何故、殺したんですか?」
「僕が誰かを殺す理由は常に、敵故に。それに尽きる」
「あなたは、敵だったら容赦なく殺すというのですか?」
「そうだよ」
「何で……そんなことしたんですか? 魔法抜きとはいえシグナムに勝てるほどの力を持っているなら、殺す以外の選択肢だってあったはず。それなのに何故、殺す必要があったのですか?」
「必要、か……」

 例えどのような状況にあろうとも人を殺すのは間違っている。だからそこに必要など考えられない。理由があってはならない。だからこそ気安く話す彼が、私は無性に気にいらない。

「八神部隊長、大切なことだから答えてね。君は何を理由に敵を敵と認識する?」
「世界に敵なんかおらん。だからその質問に私は、答えれん」
「そうか……僕の場合は三つある。そのどれか一つを満たせばその人は程度の差はあれ、須らく皆敵だ。
 一つは僕の命を狙って来る者。これだけの場合は僕が適当に対処すれば良いだけだから、余り殺したことがない。今となっては基本的に皆無だ。
 一つは僕にとって大切な人に危害を加える存在。これもその危害を防げば良いだけだから余り殺したことはない。それは危害だから。物理的な怪我はいつか、治る。
 僕が殺す敵は常に一つ、大切な人の命を奪おうとする全て。理由がどうあれ、僕はこの敵を逃がす気にはなれない」

 酷く明確で、酷く分かりやすく、当たり前の話。私も流石に自分を傷つけに来る人から自身を守る。家族を、友達を狙ってくる者からその身を守ろうとする。だから当たり前の話。
 しかし、納得がいかない。何故そこで殺害という選択肢に至るのか。そもそもどうやって相手が命を狙っているのか、傷つけようとしているのかを判断しているのだろうか。もしもその判断が間違っていたらどうするつもりなのか。
 だから彼は間違っている。私はそれを断言できる。

「うん、そういう考えも理解できる。でも簡単な話なんだよ。危害を加えようとするのは常に偶然で、殺害しようとするものは常に故意。即ちそこに至るまでの理由がある」

 まあ稀に仕方のない者もいるけどと彼は続けた。ああ、なるほど。偶然だから殺害という選択肢を選ぼうとはしない。故意であるから殺害という選択肢を選ぶ。それだけの話か。

「もしもあなたが誰かを殺したせいで、誰かが泣いたらどうするのですか?」
「それで大切な人が死ぬよりも、怨まれるだけで済むからましだよ。僕は別に嫌われようが憎まれようが、正直どうでも良いんだよ。ただ大切な人が笑っていてくれるなら、どのような汚れ役でも喜んで引き受けよう。流石に死ぬのはごめんだけど。僕が死ぬとあの人たちが、泣くから」

 そう言ってユウキさんは悲しそうに笑う。ここになってやっと理解が至った。シグナムがあそこまで悲しそうな眼をしていた理由を。
 別にユウキさんは殺したくて殺しているわけではない。事実嘘偽りない目で自分の命を狙ってくる者ですら、適当に対処すれば良いと言った。だから本当はしたくないことだろう。
 それでも許容できないのは大切な人が死ぬこと、もっと言えば悲しむこと。捕まえて裁いて諦める人ならきっと彼はそれを選ぶ。誰かが死んだ結果を誰よりも理解しているから、可能な限り其方を選ぶ。
 だが、そういうわけにも行かない人だって当然いる。広域次元犯罪者の中には釈放された後、連続殺人に走った人もいる。そういう人を彼は大切な人が死ぬ前に傷つく前に行動する。

「……不器用な、人やね」
「確かに。この生き方が器用だと思ったことはないね」

 本当はとても優しい人なのだろう。ただ、大切な人に笑っていてほしいだけなのだろう。でも世の中そんなにも上手くいかなくて、嫌々ながらもその手を血で濡らす。
 殺人はいけないことだ。その考えは今も変わらない。でも不思議と私は彼を責める気にはならなかった。だからといって仕方がなかったことと終わらせるつもりもない。相手にそんなことを言わない。ただ、ただ私はこのことに対してどうすれば良いのか分からない。

「…………」
「………………」

 沈黙の帳が再び下りる。しかしそこには先ほどまであった雰囲気は一切なく、いつも通りののんびりとした感じだった。血のように紅いと感じられた紅茶も不思議と鮮やかな真紅に見え、温くなってしまったのが少しもったいない。

「ああ、それはそうと。職業上は仕方がないとは言え、嘘をつき続けるのはやめておいたほうがい。そろそろ本当の自分が分からなくなるから」
「えっと……何の話です?」
「ほら、僕がどの立場でその質問をするのかと質問したら君、嘘吐いたでしょ」
「いや、嘘吐いてないけど」
「……重傷だな」

 事実として嘘を吐いていないのだから仕方がないではないか。

「気付いていないと思うけど、君は嘘をつくとき親指を組み替える癖があるんだよ」
「――まさか」

 そんなはずは、と思いながら視線を下にずらすと左親指だけが下に来ている。他の指は左指が上に来ている。つまり、逆だ。

「そろそろ本音を出していったほうが良いよ」
「……そうします」
「うん」

 もしかしたら気付かないうちに皆にも嘘をついてきたのかもしれない。そう思うと気が重くなる。何が本当なのか、何を信じれば良いのか。
 ふとそう落ち込んでいるとそっと頭を撫でられた。

「大丈夫だよ」

 その言葉はいつもどおりで、だからこそ心に響く。

「少しずつ直していけば良いから。まだ、大丈夫だよ」
「ユウキさん……」
「困ったことがあれば頼ると良い。可能な限り、力になろう」

 もしも父さんが生きていたなら、こんな感じだっただろうか。いつも見ていてくれて、ただ傍にいる。それだけで安心させてくれる、そんな存在なのだろうか。分からない。でも、そうあってほしいと私は願った。
 それから、言質を得た。心の中でほくそ笑む。

「…………」
「あの……どうかしたん?」
「いや、髪が結構痛んでいるなって」

 ああ、そう言えばユウキさんやなのはちゃんの髪はいつもさらさらだ。何か特殊なケアをしているのだろうか。妬ましい。特に男に負けたことが悔しい。

「いや、精々三食バランスよく摂ってしっかりと運動して休んでという健康的な生活を送っているだけだよ」
「それはそれは、さぞストレスと無縁の生活で」

 恋人同士夜に何やっているまで突っ込まないが、さぞかし素晴らしい生活だろう。おかげでこちらは胸焼けが酷い。会う度分かれる度これ見よがしの空気を撒き散らす第一級公害め。私も彼氏がほしい。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 デバイスを直してくれ。そう言われてただ直しただけでは神楽の名が廃る。ここは一つ、試されたと思って腕を振るうのが当然だ。とりあえず、神楽に渡してしまった時点で以前のものとは一線を画すことを覚悟してもらおう。
 というわけで安全と信頼の兎印の薬を飲み、今日までに体をある程度直した。流石兎印、効能では師匠に勝らないものの、副作用がない。本当にあの師匠なら性別反転や幼児化の副作用をわざと混ぜるものだから手に負えない。しかも何故か僕に効果があるし。いわゆるギャグ空間のせいらしいが、一体何それ?

『ふむ、古代ベルカのアームドデバイスか……興味深いね』
「データは送るけど、手は出さないでね?」
『少しぐらい良いじゃないか。君と私の仲だろう?』
「却下。君の少しは僕と同じじゃないか。だから駄目だ」
『むぅ……残念だ』

 僕とは違うマッドの知り合いに通信したところ、物の見事に食いついてきた。そんな彼は時空管理局ミッドチルダ地上本部技術開発室の分室長をやっている。いわゆる典型的マッドで納得してもらいたい。
 レイジングハート改造の際にはソフト面でのサポートを主にしてくれた。付き合いについてはそれ以前、ある常連の紹介によるものである。

『ちなみに、意見は許されるかね?』
「それはもちろん」
『ではまず……刀身をチェーンソーにするのはどうだろうか?』
「却下」
『バカな! あれほど敵の防御を削るのに適した武器はないぞ!』
「何と言おうが却下。そんなもの作るのは正直面倒」

 こんな感じでマッドの言葉をBGMに、考えを纏める。とりあえず基本的な形については崩すつもりはない。それを無視しては直すという意味がない。むしろ作るになってしまう。直す以上修理の範疇で、それでいて盛大に。
 現在剣。素材自体の性能が上がるのだから薄くして、剣というよりかは切っ先諸刃の直刀に。どうせなら本来の製法で作っていこう。粋な波紋も外せない。

『……どうしたんだい?』
「いや……誰か来たようだ。ちょっと通信を切るね」
『分かった。まあ今度暇なときにぜひ私のところに来てくれ』
「うん、まあ暇なときにね」
『そうしてくれると娘たちも喜ぶよ。それでは、また何時の日か』

 通信を切る。考え事をしていたため、眉間に少し皺が刻まれているかもしれない。そんなことを考えながら食堂の入り口を見る。
 そこにいたのは何と八神 はやて部隊長だった。まだ彼女の仕事は山積みであり、気軽にここに来れるような暇はないはず。一体何の用だろう。もしや追加で罰があるとか。それは本当にやめてほしい。

「やぁ、いらっしゃい」
「どちらかというとこんにちはやで」

 確かに。ここは僕の店ではない。ならなら迎えるというよりもただ出会ったという結果になっているのだろう。確かに、それではおかしい言葉だ。

「それもそうだね。気を取り直して――こんにちは、はやて部隊長」
「こんにちは、ユウキさん」
「部隊長も休憩かな?」
「うん。紅茶と、後何か茶菓子をもらえるか?」
「了解……何だ。やっぱりいらっしゃいじゃないか」
「あはは、それもそうやね」

 罰がどうとかそういった話ではなさそうなので一安心する。とりあえず注文の紅茶を淹れる。茶菓子のほうは後でロングアーチに振舞う予定のスコーンだ。もちろん多めに作っている。
 後はそれに生クリームやバターを添える。これは間食であるためさほど量は出さない。

「所で難しい顔してましたけど、何かあったんですか?」
「ん、ちょっと頼まれごとがあってね」
「そうですか……」

 ここでシグナムのデバイスの修理と素直に言えばどのような結果になるのか。シグナムが僕の秘密の一つを話すとは何となく思えない。だが、それなりに迷惑をかけることだろう。少なくとも気を悪くする。
 これは別に僕が黙っておけば良いことだ。他人に害が及ぶわけでもない。ならば黙っておくのが筋だ。約束は交わした以上、守らないと。

「…………」
「………………」

 上機嫌そうにスコーンを食べる狸もといたぬき。周りから良く狸といわれる彼女だが、今回ばかりは言わせて貰いたい。狸ではなくタヌキでもなくたぬきであると。
 別にそこに何か違いがあるわけでもないが見ていてやはり、狸は似合わない。それはただ僕が狐狗狸の類に見慣れているからかもしれない。兎に角、この程度なら見慣れたものだ。

「あの、少しお聞きしたいことがあるのですが、ええですか?」
「どうぞ。ただ難しい質問や、どうしても答えられない質問には答えないからね」
「あ、はい。それとお代わりください」

 即効で出鼻を挫かれました。身構えた自分がバカらしくなりながら自分と彼女の分の紅茶を淹れ、スコーンを出す。流石に三回目のお代わりは認められない。
 さて、気を取り直してテイクツー。

「単刀直入にお聞きします。あなたは――人を殺したことがありますか?」

 誰から聞いた話か、少し想像する。古くからの常連客がそんなことを気にするとは思えない。ではなのはや最近の常連かといえばノー。そんなことを言った覚えはなく、最近した覚えもない。
 では誰か。思い当たったのはシグナムだった。彼女は剣士だ。だから何となく理解したのだろう。僕の戦い方が人を殺すことを想定したものではなく、人を殺したことがあるものだと。なるほど、それなら理解できる。
 ただその場合、彼女は人を殺した経験があり、かつ人殺しと戦ったことがあるということになる。だから、余り気にしないと思うのだが、さて。

「……一つ。その質問は部隊長としての八神、なのはの友人としてのはやて、自分としての八神 はやて。一体どの立場での質問?」
「それは、もちろんなのはちゃんの友人としての、です。それが何か?」

 思いは所詮人それぞれ。例えシグナムが僕の行為をどう思ってもそれはシグナムの思い。シグナムの思いを聞いたからといって伝わったそれがシグナムのものであるわけがない。
 だから彼女がここにいる理由も思いも当然彼女個人のものだろう。しかし、なのはの友人としてか。まあ当然だな。友のことを心配するのは当然の理由だ。

「ただの興味だよ。さて、人を殺したか、だったね。それはもちろん――あるよ」

 誰かが生き、そのために誰かが死ぬ。何かがあり、そのせいで誰かが命を落とす。今も続く生命の輪廻。それだけのこと。
 本来ならここで僕は嘘をつくべきなのだろう。だが僕はあえて嘘をつかず、事実を述べる。何せ、このことに嘘を吐いたところでそれは一時の気休めにしか過ぎず、誰かの命を奪ってでも守りたかったものがあった自分に嘘をつく気がしたから。それが何より、気に食わない。

「何故、殺したんですか?」
「僕が誰かを殺す理由は常に、敵故に。それに尽きる」
「あなたは、敵だったら容赦なく殺すというのですか?」
「そうだよ」

 何を、馬鹿なことを。敵とは元来そういうものだ。殺さなければならないからこそ敵であり、敵でなければどうして殺す必要があるのだろうか。それとも彼女の眼には僕がそんな殺人中毒者に見えるのだろうか。
 どちらかというと殺人に対してかなりの嫌悪感を持っていると見た。近頃の局員に多く見る価値観だ。まあ非殺傷設定などという力の本質を歪ませるものがあるのだから仕方もない。

「何で……そんなことしたんですか? 魔法抜きとはいえシグナムに勝てるほどの力を持っているなら、殺す以外の選択肢だってあったはず。それなのに何故、殺す必要があったのですか?」
「必要、か……」

 敵であっても誰であっても殺してはいけない。当然のことで、守らなければならない理由だろう。何の理由もなく、誰かを殺して良いわけがない。それは当然理解できる。
 しかし僕がするのは理解までで、必要とあれば当然誰かの命を奪う。理由は敵だから。敵とは殺す必要がある存在だから。だからその命を奪う。
 流石にもう、奪われるのは絶えられない。正直奪うのも嫌だが、失くすのはもっと嫌だ。

「八神部隊長、大切なことだから答えてね。君は何を理由に敵を敵と認識する?」
「世界に敵なんかおらん。だからその質問に私は、答えれん」

 それは何とも、寂しい世界だ。きっと思い描くそこには敵が存在しないことだろう。それと同時にその世界には味方がいない。失わないために大切な人もいない。悲しみもなければ喜びもない。あるのかもしれないが、分からない。僕はそんな世界を見たくはない。

「そうか……僕の場合は三つある。そのどれか一つを満たせばその人は程度の差はあれ、須らく皆敵だ。
 一つは僕の命を狙って来る者。これだけの場合は僕が適当に対処すれば良いだけだから、余り殺したことがない。今となっては基本的に皆無だ。
 一つは僕にとって大切な人に危害を加える存在。これもその危害を防げば良いだけだから余り殺したことはない。それは危害だから。物理的な怪我はいつか、治る。
 僕が殺す敵は常に一つ、大切な人の命を奪おうとする全て。理由がどうあれ、僕はこの敵を逃がす気にはなれない」

 三つの共通点は受動的であることだ。どれもこれもやられるからやり返す。だからいつも言っている。やるのならこちらもやる。それだけの話だ。
 僕は大切な人に危害を加えないのであれば、別に誰が死のうが生きようが興味ない。ただ大切な人が笑ってくれるなら。僕が傷つき、死ぬとなく人がいるからそれを狙う人が敵。大切な人が怪我するのは嫌だが、それをする人も敵。笑顔を奪う人もやはり敵。
 では大切な人が望めば誰でも殺すのかというのかというとそれはイエスであり、ノー。そもそも僕はそんなくだらないことを望む人を好きになれそうにない。でももし望んだなら、やってしまうかもしれない。経験したことがないからまだ確証を持って言えない。
 というより、何故か皆僕が穢れるのを嫌ってやるとしても自分からやっているのだが。出来れば個人的な意見としてはそんな前線に立たないでほしい。

「うん、そういう考えも理解できる。でも簡単な話なんだよ。危害を加えようとするのは常に偶然で、殺害しようとするものは常に故意。即ちそこに至るまでの理由がある。まあ稀に仕方のない者もいるけど」

 さて、僕の思いは狂っているから常人には少々理解の域を超えている。むしろどうしてそこまで線引きが明確に行えるのか、それが不思議でたまらない。そのぐらい、理解できる。
 そして彼女の優しさ――いや、罪に対する忌避感もある程度感じ取れる。勿論これも理解できる。何せ自分が狂っていると、僕は誰より理解したうえで普通に生活しているのだから。
 ちなみにここで言った仕方のない者とは主に吸血鬼や殺人鬼といった人の形をして、人を殺さなければ、傷つけなければ生きていけない方々を指している。彼らも度をわきまえてくれたら本当に良い人もいるのだが、人は何故か理解しない。

「もしもあなたが誰かを殺したせいで、誰かが泣いたらどうするのですか?」
「それで大切な人が死ぬよりも、怨まれるだけで済むからましだよ。僕は別に嫌われようが憎まれようが、正直どうでも良いんだよ。ただ大切な人が笑っていてくれるなら、どのような汚れ役でも喜んで引き受けよう。流石に死ぬのはごめんだけど。僕が死ぬとあの人たちが、泣くから」

 でも、どうだろう。中には死ねたのかと笑う人もいるかもしれない。でも僕は、そんな想像できるほど壊れた笑みをしてほしくないだから、死にたくはない。
 死ねば大切な人が悲しむ。だから死ねない。生き続ければ大切な人が死ぬ。その時僕を残してしまうと言った理由でなく。だから共に死にたい。この矛盾した願いを人は強欲と呼ぶのだろう。それも、構わない。

「……不器用な、人やね」
「確かに。この生き方が器用だと思ったことはないね」

 むしろ器用に生きるなんて未来永劫不可能かと。そもそもそんな生き方では確かに苦労しないだろうが、それでは何か、味気ない。何かが足りない。だから僕は変えようと考えず、今も生きている。
 今まで数々の取捨選択をしてきた。その一度でも正しいと思えたことはないものの、かといって一度たりとも間違っていると考えたことはない。

「…………」
「………………」

 さて、はやて部隊長の悩み、疑問を解消した所で問題が一つ。それもかなり不味い問題だ。先の器用な生き方の一つとも言えるが、やるべきではないものとして数えられる。その行為を今、彼女はし続けている。

「ああ、それはそうと。職業上は仕方がないとは言え、嘘をつき続けるのはやめておいたほうがい。そろそろ本当の自分が分からなくなるから」
「えっと……何の話です?」
「ほら、僕がどの立場でその質問をするのかと質問したら君、嘘吐いたでしょ」
「いや、嘘吐いてないけど」
「……重傷だな」

 長く生きて多く騙されると嘘が何となく分かる。例えば先の質問では、本当の答えは部隊長としての八神。決してなのはの友人としてのはやてではない。
 本来なら些細な嘘、本音をさらさない場であるから僕も容認する。僕が問題とみなしたのもそんな嘘をついたということではない。彼女が自分の吐いた嘘に一切気付いていないというその事実だ。

「気付いていないと思うけど、君は嘘をつくとき親指を組み替える癖があるんだよ」
「――まさか」

 残念ながらこれはほぼ事実。もちろん見たのは最初だけど、嘘をついたときにおかしな癖が出て、それに気付いてなかったなら八割方嘘をつくときの癖だ。

「そろそろ本音を出していったほうが良いよ」
「……そうします」
「うん」

 自分が嘘をついたことに気付いていない。もしや気付かないうちに大切な誰かを騙していたのだろうか。そういう恐れはこの職業病に気付いた人たちが一様に持つものだ。確かに、その可能性は否定できない。

「大丈夫だよ」

 それでも大丈夫だ。そういえる自身が僕にはある。何せ彼女は人として珍しいほど罪悪感を感じる人だ。それこそ無自覚の嘘をつく以上にそれは彼女の根幹を蝕んでいる。そんな彼女が誰かを害するために嘘をつくだろうか。いやない。
 確実にそんな嘘をついたなら何らかの罪悪感を感じ、自己嫌悪に陥る。それがなければまだ比較的まともな嘘だ。自覚していないという問題に眼を瞑ったなら。

「少しずつ直していけば良いから。まだ、大丈夫だよ」
「ユウキさん……」
「困ったことがあれば頼ると良い。可能な限り、力になろう」

 ふと、後悔の念を覚えた。今までに何かまずいことを口走ったようだ。流石にこのたぬきが狐狗狸ではないのでそこまで酷い行為に至らないだろうが、面倒であるには変わりない。

「…………」
「あの……どうかしたん?」
「いや、髪が結構痛んでいるなって」

 物思いにふけっていたので不思議に思われたようだ。とりあえず今思ったことを口にする。先の言葉通り彼女の髪は非常に痛んでおり、普段からなのはや、時として古馴染みの髪を触る僕からしてみればその差は歴然と感じられる。
 いや、もしかしたら古馴染みの髪質が良すぎるだけかもしれない。それでもこれは、悪い。

「いや、精々三食バランスよく摂ってしっかりと運動して休んでという健康的な生活を送っているだけだよ」
「それはそれは、さぞストレスと無縁の生活で」

 ただ健康に、笑いながら生きることがそこまで、怨まれるようなことだろうか?



今日のロングアーチ

おやつまだ~?



[18266] 第十話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/06/11 23:00
 女が三人集まれば姦しい。漢が三人集まれば暑苦しい。子供が三人集まれば手に負えない。様々なところで聞く、良く似た言葉だ。では、この以下はどうなるだろうか。



――マッドが三人集まれば?



 三人とは言わない。条件として複数名が一つの空間に集まり、かつその場所に必要とされる素材や機材が十分に存在するものとする。後はそこが屍溢れる墓場であろうと聖地であろうと関係ない。
 その答えは実家が経営している会社――神楽工房で十分に知っている。

「ですから、ここでカートリッジシステムを使って魔力効率を云々」
「例えそれが魔法とはいえ銃身を用い、中にライフリングを施すことで威力があれこれ」
「こんなところにコアを設置すると壊れやすい。というかそんなところに弱点を置く必要はないのだから――」

 マッドが三人集まれば、即時逃げろ。最悪実験試料にされるから。
 だが幸い、今回この場に集まったうち一人は良識を持ったマッドで、一人は自覚あるマッド。残る一人は未熟なマッド。そしてここに無関係な人はいない。おかげでそんな心配は、ないようだ。
 そんなことはともかくとして、どうしてこうなったのか。その経緯を今一度振り返ろう。
 シグナムのデバイスを修理する。その設計書が出来たは良いが、機動六課では作るための機材が足りなかった。そのため、知り合いのマッドの所に行こうと車に乗ったところ、シャーリーに出くわし、用事を聞かれた。で、当然着いて行くと言い出し。
 結局ここ、地上本部技術開発室までつれてきてしまった次第。そしてあって十分も立たないうちに旧知の仲のように熱く熱く討論している。

「……迷惑、かけます」
「いえ、こちらこそ」
「あ、これは差し入れです。皆さんで食べてください」
「あ、ありがとうございます」

 それにしてもジェイル、何時の間に分室長から室長に昇進していたのだろうか。まあさして気にすることではない。別に、どうでも良いことなのだから。

「時にウーノさん、妹さんたちは元気にしています?」
「ええ、それはもちろん。特に今日はドゥーエが無断で仕事を休もうとしちゃって……追い出すのに苦労しました」
「あはは……あの子も程々にしないとなぁ」
「全くです。後チンクも残念がっていましたよ」

 そうジェイルの奥さんと話しながら茶を啜る。僕の役割は順調にこなしている。あの二人は期日までには終わらせるだろう。終わらせないときは目の前に人参に変わる何かをつるせば良いだけの話だ。
 とりあえず僕の役割。シグナムのデバイスの修理と改造。それから三日ほど前に出来た野暮用が少し。どちらもデバイス関連なのでここで終わらせることが出来る。

「とりあえず君たち、一つ言っておきたいことがある」
「何です? 今良いところなのですが?」
「全くだ。少しは空気を読みたまえ」
「それは失礼。でも一つ――自爆装置禁止」
「「殺生!!」」

 やはり、つけるつもりだったか。何となくそんな気がして、警告しておいて良かった。
 さて現室長のジェイルと機動六課技術仕官のシャーリーはリボルバーナックルをドリルにするかパイルバンカーにするか、論議を開始いた。
 完成するブツが怪しいものであることには間違いないが、一方で良いものであるのも間違いない。やり過ぎなければマッドも良い。
 念のためにウーノに金槌を渡しておく。あんな状態になったマッドを止めるにはハリセンでは物足りない。確実に仕留めるつもりでなければ、止まることもないだろう。
 そうして僕は目の前の作業に没頭する……



「君が、あの堅物を変えた人かね?」
「――へ?」

 それが僕とジェイルが最初に交えた会話らしい会話だ。いらっしゃいという言葉や注文を聞く前に彼がそういったのだから仕方がない。
 兎に角、今では考えられそうにないほど下らない人物だった。死んだように濁った眼の奥で、決して消えない欲望がとぐろを巻いている。来たる時に供え、伏せている。
 そんな、悪い方向に狂ってしまった人。

「えっと…………」
「ああ失礼。私はジェイル・スカリエッティ。初めまして、といったところか?」
「まあそうだね。君のことはたまに耳に挟むし、どうやら君も僕のことをことを聞いているようだ。でもこうして顔を会わせるのは初めてだから、はじめましてだね」
「ふむ……だが不思議と他人の気がしないのは何故かな?」
「さあ?」

 ジェイル・スカリエッティ。たまにミッドの新聞の一面を飾る広域次元犯罪者。だからといって客としてきた以上、無害な間は客として迎えるのは当然だ。
 さて二人、ジェイルと秘書らしきもう一人は適当に席に座る。今ここで管理局員が来ると面倒なことになりそうだというのは簡単に理解できる。今回は悪いが、他に普通の人間が来れないように結界を張らせていただこう。

「ご注文をどうぞ」
「それでは……コーヒーを貰おうか」
「了解。君はどうする?」
「いえ、私は結構です」
「ウーノ、ここでちゃんと注文するのが礼儀だよ」
「はぁ…………では、メニューを見させてもらえますか?」
「あ、ごめん。ここメニューないんだ。とりあえず一通り作れるから、好きな物を注文してよ」

 人間にしては精緻な動きをする。耳に入るモーターの駆動音から体内に機械を埋め込んでいるのだろう。それも全身に。良くぞまあ拒絶反応が出ないものだ。

「そうはいっても……」
「んー、なら彼と同じもので良い?」
「あ、はい。お願いします」
「わかった」

 湯は大目に沸かし始める。ビンから焙煎した豆を適量取り出し、挽く。コーヒーは焙煎し、挽いた瞬間から劣化が始まる。本当なら焙煎し立て、挽き立てを淹れたいところだが、時間と効率の関係上その日焙煎して挽いたものしか、出せなかった。
 今は違う。神の権限の一つである限定空間の時間を止めることができるのだ。ただし非生物に限る。流石に生物、世界が生きていると定める存在の時を止めることは僕には不可能。

「お待たせ。お茶請けはサービスだから」
「ふむ……良い匂いだ。やはりインスタントとは全く違うな」
「ええ、本当に美味しいです」

 真に失礼ながら、彼らは二度とインスタントコーヒーを飲むことが出来ない。理由は単純、物足りないではなく苦い泥水に感じるから。確かに眼は覚めるだろうが、そこまでして起きたいとがは考えまい。
 昔も今も全力で料理を出来る機会はめったになく、日常で自分が満足しても良い料理など飲料しかない。特に今となってはいつも美味しく食事をするために、失礼ながら手を抜いている。程よく不味く作っている。
 もちろん時には全力で作っているが、その後一週間ぐらいは落ち込むことになるので余りしたくはない。

「所で、僕に何か用かな?」
「何、あのレジアス・ゲイズを恐ろしく変えた張本人、それが一体どのような人物なのは見たくなっただけだよ」
「なるほどね」

 だからそんな気色の悪い視線を向けているのか。ある程度納得がいく。

「それにしても、君は聞く以上に妙な人だね」
「そうかな?」
「そうさ。何せ広域次元犯罪者を前にしても一向に逃げようとしない。管理局に通報しようとしない。これのどこが普通なんだい? 少なくとも普通のミッドチルダ人ではないよ」
「そう言われても……だって君、さして悪いことやっていないでしょう?」
「……そうか?」

 少々思考をめぐらせる。しかしやはり彼が行ってきた、管理局曰く犯罪の数々をどうにも僕は悪いと思えない。それは僕自身が狂人だからか。いや、事実としてそれらはさしたる犯罪じゃないのかもしれない。
 こういうときまともな精神構造を持っていないというのは判断基準の違いが存在して困る。

「ロストロギアの研究だって、昔に良い技術があるならばそれを研究し、現在に使えるものにするのは当たり前でしょ。いくらそれで世界が滅んだといっても原因が分かるなら対処がしやすいし。それに君、二度も同じ失敗をするほど愚かじゃないでしょ」
「確かに。君の言うとおりロストロギアの扱いには最高の注意を払っているが、しかしそれが危険であることには変わりないだろう」
「ノーリスクで手に入るものはつまらないよ」
「それも、そうだ。では人造魔導師計画――Project.F.A.T.Eはどう考える」

 そうは言われてもあの程度の技術を僕はさして珍しいとは考えない。例えば竜宮島。あそこでは謎の珪素生命体子供を産むことが出来なくなってしまったからその、人を作る技術は必要だ。
 されどここはミッドチルダ。そんな特殊な事情があるわけでもない、ごくごく平凡な世界。
 だけど、だけど技術を否定するのは良くない。いや、技術を否定してはならない。常にその技術を善用するのも悪用するのも人だから、悪だとするなら技術ではなく人を悪とせよ。

「…………」
「………………」
「……まだまだあるよ?」

 両極端が存在するため、口で説明するのは難しい。だから証拠を提示した。今までにいた泣くしかなかった人々の、救えた結果を。

「いや、今はもう十分だ。後でここに送ってくれるかい?」
「それは、勿論喜んで」

 そう言ってメールアドレスを渡された。添付ファイルにするにしても量が膨大すぎる。何度かに分割して送ることにしよう。
 空になったカップにコーヒーを注ぐ。ついでに何かもの言いたげなウーノさんを見て視線で質問を促す。

「どうして、これほどまでに?」

 質問の続きはこう言った人造人間の技術の恩恵を授かった人が多いのかというものだろう。その答えは非常に簡単だ。

「困っていて、ちょうど良く目の前に解決策があって、それを利用しない手はないだろうが」
「それでも庶民はこれが違法であることを知っているはずです。なのに何故、手を付けたのでしょうか?」
「人間は、語られるほど高潔でも賢くもないよ」

 事実、今だって多くの人がどこぞの組織にそそのかされて様々な違法研究に手を貸しているだろう。それに比べたらまだ、こちらの方がましだと言える。
 なお、例の件についてはミッドチルダ他多くの地上本部が黙認し、医療機関でこっそり行われている。もちろん表向きの名称は再生医療とあながち間違いではないものにした。
 いやはや、昔誘われた宴会の席でふと零した言葉がまさかこんな形で現実化されるとは。別にどうでもいいことなのだが。

「まあ作った人が気をつけるべきことは、その技術が世界に及ぼす可能性及び、その技術における危険性を熟慮した上で公開するか抹消するかの判断を間違えないことだね」
「なるほどなるほど……まるで身の覚えのあるような言葉だ」
「……たくさんあるよ」

 出来た。何作った。それ危険。はい却下。
 神楽工房で良くある日常光景だ。幸運にもあそこに集うマッドは作ることに特化し過ぎているため別に作れさえすればそれで十分なので反感はなかった。

「とりあえず、やんちゃは控えなよ。僕らは世間一般からすれば異端で、故に廃絶され易いんだからね」
「ああ、もちろんだとも。それからこれは私直通の秘匿回線だ。何、君とは個人的に酔い酒が飲めそうなのでね。是非後で連絡してくれ」
「わかった」



 慣れ合いの開始はその翌日。インスタントコーヒーに耐えられなくなったウーノが来て、二人だけおいしいものを食べているのが妬ましいと彼女の妹たちが次々押しかけ、結局ウーノに料理を教え。
 それから様々なことを聞いてジェイルを実験の失敗で死んだことにしたはずなのだが、さてはて。だと言うのに管理局は未だに彼を死亡認定せず、まだ彼が悪事を働いているような話を耳に挟む。
 ジェイルは、私の予備が行動しているのだろうと言っていた。困ったことだ。

「あなた達、自重という言葉を知っていますか?」
「もちろん知っているが、それがどうかしたかい?」
「常識に縛られていると息苦しいだけですよ、わはー」

 そんな事よりもまず、こいつらをどうにかしようか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 短期での教導は今までも何度もやってきたことがある。でも教えてきた人たちは全員熟練者で、仕事をこなしてきた人たちばかり。実はこうして新人たちに教えるのも、一年かけてじっくり教えるのもこれが初めてだ。
 だからちゃんとできるかどうか緊張している。その心配はあながち間違いではない。皆まじめに取り組んでくれていても、やはり気になる点がいくつかある。
 まずティアナ・ランスター。新人フォワード陣の中で唯一指揮適正がある彼女だが、訓練後思い詰めた表情をすることがある。気になることがあるのは間違いない。でも他人の心に土足で踏み荒らすような真似は余りしたくない。
 ユウキくんなら容易く気軽に、それこそふと散歩に行くような気分で解決するだろうが、流石に何でも頼むのは良くない。本当に出来ないときだけ、頼るべきだ。

「…………」
「――フッ、セイ!」

 スバルはいつもおバカだからさしたる問題は見当たらない。キャロは力への恐怖、私には分からない問題なのでどうしようもない。
 そして、最後に一人。フェイトちゃんが保護しているエリオ・モンディアル君。彼の問題は他の人とは全く違う。
 休憩中、ボーリングスピアを操っている。しかしその操り方は訓練で見せないもので、魔法を使わず、どこかで――この間の試合でユウキくんが見せた動きに似ている。
 エリオ君の問題は私やフェイトちゃん、もっと言えば槍を使えない魔導師ではどうしようもない。何せ何をどう教えれば良いのか分からないからだ。魔法を使う上で槍の使い方。そんなもの、使う人でないと分からない。

「……やっぱり、シグナムさんかヴィータちゃん。でもヴィータちゃんにはスバルをで……」

 シグナムさんも今は――今ははやてちゃんの個人的な処罰でフリルがたくさんあるかわいらしいミニスカメイド服を着て、ユウキくんのお手伝いし、精神的にやられている。
 当分は戦闘以外に使えない。それにしてもシグナムさん、羨ましい。出来れば今すぐにでも仕事を代わってほしい。メイド服と言わず和風メイド、チャイナ服も許容するから。

「となると、ユウキくんかなぁ……」

 正直に言って、付き合って五年近く経つ今でもユウキくんの知識量には心底驚かされる。使えずとも私の魔法を容易く使い易いように改良した。それを考えると魔法はこちらで教えて、後を頼むことも出来るのだが。
 ユウキくんの仕事が増える。間違いなく疲労が蓄積される。仕込みや買出しのために朝が早いので、夜は早くから熟睡するようになる。それもそれで困る。

「ほんと、どうしようか」

 この前のお酒の席でつい零してしまったこと、たぶんユウキくんはやっているのだろう。いや、間違いなくやっている。そんな人だ。自分にとって大切な人からの頼みに確実に答えるから、だからこちらも安易に頼めない。本当に、無理をしてほしくない。

「なのは隊長、どうかしたのですか?」
「ちょっと、今後のことを」
「はぁ……」
「そろそろ時間だから、教導を再開しようか。ティアナ、皆を集めて」
「はい!」

 バリアジャケットを身に纏う。前はスカートを穿いていたが、ユウキくんの指摘もあったため現在は違う。今はハーフパンツにロングブーツだ。流石に、スカートを穿いて空を飛ぶのはもう恥ずかしい。
 このことは皆に伝えておくべきだろうか。でも今更な気がしなくもない。店の常連たちの持ち込む話では、もう二人は無恥の名が通っているから。今更なんだよね……

「それじゃ、レイジングハート」
『監視スフィアの設置は完了しています』
「ん、ありがとう。それじゃいつもどおりはじめようか」

 新人たちは順調に強くなっている。精神面ではまだ幼いけど、ガジェット相手には不足はない。後は早くシャーリーがデバイスを仕上げてくれれば。そうすれば実戦経験を積ませることもできるし、精神面を鍛えることが出来る。
 ちなみに彼女は今日、ユウキくんと一緒に地上本部のある部署に行った。そのときの彼女の瞳が嫌に輝いていたのを覚えている。レイジングハートを改造していたユウキくんの目のようだった。
 まああのような状態ならまともなものは期待できないけど、良いものは出来るだろう。後はユウキくんにストッパー役を期待するばかり。
 さて物思いにふけるのも好い加減に、私こそ教導に集中しよう。



今日のドゥーエさんとチンクさん。

「早上がりって、ありですか?」
「ディーエ……」



[18266] 第十一話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/06/25 20:13

 あ、エビフライサンド美味しい。
 さて、ユウキさんより手渡されたサンドウィッチを食べる。今日の午前訓練が終わった時、流石に限界が来たスバルさんやティアナさんのデバイスが壊れた。それを見たなのはさんが現状でのデバイスではこれ以上は訓練は無理という判断をしたため、僕たちフォワード陣に正式なデバイスを手渡された。
 のは良いのだが、残念。最終調整をする前に初のアラート――第一種警戒体勢及びフォワード陣の出陣要請が出された。後十分もすれば昼食だと言うのに、よくもまあガジェットたちは空気を呼んでくれたものである。
 そう思いながらも優しいユウキさんは僕たちのために大量のサンドウィッチなどをヘリに持ってきてくれた。隣ではキャロがタコスを美味しそうに頬張り、スバルさんが大きなフランスパンサンドに齧り付き、ティアナさんは三つ目のBLTサンドに手を伸ばし、なのはさんはコップに紅茶を注いでいる。
 そしてユウキさんは、何故かそのまま乗込んできたユウキさんは僕たちの前でデバイスの最終調整をしながら手渡された紅茶を飲んでいる。

「…………」

 ユウキさんがここにいる理由、それは聞いてみれば非常に単純だ。彼が個人的に手掛けたデバイスは余りに特殊過ぎ、練習も無しにぶっつけ本番で使えて問題がないほど甘くない。故に使えるように改悪すると言う。
 正直、最初に与えられたストラーダで十分な性能があると思うのだけど、それに慣れている僕らですら手足が追いつかないとは性能とは。一体どのようなものか。

「完了っと。エリオ、キャロ。任務が終わったらまた返してね」
「あ、はい」
「……なのは、そこのポテトサラダサンド取って」
「うん、どうぞ」
「ありがとう」

 それにしても出動要請からヘリに乗るまで十分もないはずだ。なのによくもまあこんなにもたくさんのサンドウィッチなどを作ったものである。カレーパン美味しい。

「それじゃ、おなかも十分に膨れた所で今回の任務について説明するよ」
「今回の任務は二つ、暴走する貨物列車を停止させること。そしてレリックを安全に確保することです。ですからスターズ分隊、ライトニング分隊、二つの部隊でガジェットを破壊しながら車両前後から中央に向かうです」

 デザートのプリンが濃厚で濃厚で。昼食を食いそびれた事による怒気がだんだんと鎮静されていく。
 その間もリインさんが任務について説明する。そう言えばユウキさんはどうするのだろうか。デバイスの調整で乗り込んだは言いものの、魔法の使えない彼が戦場に立つとは考えられない。大方ヘリでのんびり過ごすのだろう。現に今も懐から取り出した本を読んで非常に寛いでいる。

「レリックはここ、七両目の重要貨物室に在ると思われます。スターズかライトニング、先に到達したチームがレリックを確保するですよ」
「何かあれば私たちがすぐに駆けつけるから、皆、安心して戦ってね」
『駆けつけると言うよりは狙撃した方が早いので狙撃しますから、射線上に入らないように注意してくださいね?』

 むしろガジェットよりそちらの方が怖くて笑えません。何があっても、危ないという状況は回避しなくてならないようです。

「それじゃヴァイスくん、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を抑える」
「うっす。なのはさん、お願いします」
「それじゃ、行ってくるけど、皆も怪我には注意してね? 危なくなったら逃げても良いから。とにかく無傷で帰ろうね」
「「「「はい!」」」」
「キュクルー!!」

 なのはさんはそう言うとデバイスを展開して空へと飛び去った。さて、僕らも気を引き締めて、任務に集中する。ここからが本番だ。僕たちはもう、訓練兵ではないのだから。ちゃんとしないと。

「良し――――新人ども、隊長さんたちが空を制圧してくれているおかげで快適に効果ポイントまで到着だ。準備は良いか!?」
「「はい!」」
「それじゃ、行って来い!」

 ヴァイス陸曹の掛け声とともにスターズ分隊の二人は――



「行かすなアホ。行くな馬鹿ども」



 ユウキさんの手によってヘリの床に転がされた。その一連の動作は水が流れるかのように連なって行われ、転がされた本人たちも何をされたのかすら未だに理解していないようだ。そういう僕も何時の間に彼がしたのか気付けなかった。

「バリアジャケットぐらい纏って行け。今の状態で流れ弾に当たればすぐに死ぬよ。このぐらい、陸士学校の初めの方で習う内容と聞いたんだけど?」
「え、あ……えーと……」
「とりあえず、テイクツー。ちなみに次は夕食抜きということで」
「じょれだけはやめてくだしゃい」
「どんだけ飯好きなんだスバル……」
「どちらにせよ、時間がねえんだ。早く行ってくれないか?」

 確かに何かの教科書で読んだ覚えがあるような気が。局員の死亡原因を纏めた時にバリアジャケットの展開が間に合わずに死亡するパターンが、無視できない割合で存在していた。

「はい! スターズ3、スバル・ナカジマ!」
「スターズ4、ティアナ・ランスター!」
「「行きます!」」

「……人の話ぐらい聞け、バカ」

 そしてデバイスを起動させながら、二人は空へと飛び去った。その様子を僕たちとユウキさんは見守る。次はライトニング部隊の効果。意気込みながらキャロの様子を見ると、震えていた。
 正直に言えば初の実戦、それは機動六課に配属されてからという意味ではなく、本当に人生初めての実践だ。だから僕も、怖い。身がすくむ。緊張が身体を縛る。でもここはやはり、騎士としてか弱い女の子の一人ぐらい守らなければ。

「キャ――」
「――大丈夫だよ」

 手をつなごうか。そう言おうと思った時、花の匂いが鼻腔を満たし、心を落ち着かせる。ユウキさんが僕たちを抱き寄せた。間近で見ると分かる若干癖のある髪が肌に触れ、滑らかな触感を伝える。

「一人じゃないから、支えてくれる仲間がいるから大丈夫」
「ユウキ、さん……」
「身に余る力が怖い。その気持ちは正しく、決して忘れてはならないものだ。何故なら力への恐怖を忘れた者は皆等しく、力に溺れ、大切なものを見失う。だけど恐れるだけじゃだめなんだ。恐れて、避けてはだめだ」

 普通より少し低めの体温が緊張で熱くなった体を程よく冷やし、危険な前線だと言うのに一切緊張の無い声が心を解き解す。

「二人は、なのはのことが怖いと思う?」
「いえ、いつも私たちの事を考えてくれる、優しい人です」
「そう……でもね、なのはの持つ力はとても強いよ。なのに何故怖くないか、分かるかい?」
「えっと、それは……」
「力を、制御で来ているからですか?」
「それもあるけど、本質的には違う。単純に彼女が優しいからさ。だから優しい力になる。確かに間違う時もあるかもしれない。その時は遠慮なく僕が止めに入るし、周りの皆も止めるだろう。だから怖くない。
 キャロ、力は力だ。恐れていてもそれは変わらないし、どう使っても本質は暴力でしかない。でも怖がらないで。怖がって避けないで。彼らはただ、人一倍臆病なだけだから。恐れて遠ざけないで。
 エリオもちゃんと守ってあげよう。でも無理はしないように。自分が傷付けば、その分誰かが泣くから。先ずは自分を守ろう」
「「――はい!」」
「……良い返事だ」

 そう呟いて僕たちを離した。やはりまだ怖い。でも先ほどまでよりはましで、多分大丈夫。万事上手くいく。確証もない自信が胸の内にある。隣のキャロも震えてはいるが、もうその目に怯えはなかった。

「エリオ、キャロ。行ってらっしゃい。気をつけるんだよ」
「はい、行ってきます!」
「ユウキさんも気を付けて」
「うん――――そうそう、今日の晩御飯は何が良い? 終わるまでに考えておいてね」

 ある程度安全とはいえ、危険であることには代わりのない最前線で全くふさわしくない言葉だ。ただそれが妙に嬉しく思う。
 さて、足元を見る。すぐ下には走る貨物列車があり、飛び降りる先を間違えば即ご退場となるだろう。となるとデバイスによるナビゲートと、基礎的な飛行魔法による調整が必要か。

「……手、繋ごうか?」
「あ……ありがとう」

 あ、デバイスを起動するのを忘れていた。心の中でユウキさんに謝りながら、デバイスを起動する。

「――ストラーダ」
『Get set……Stand by,ready?』

 髪と同じ赤を基調とし、黒いラインの入ったバリアジャケットだ。汗で槍が滑らないように配慮されたフィンガーグローブは肘まで覆う。半そで長ズボンに箇所によって金属が使われている。
 また両手両足にそれぞれ籠手と具足があり、その金属は本物だ。また籠手の掌部分に金属はなく、十分に動かしやすい。
 また本体である槍を見てみよう。今まで使っていたボーリングスピアとは違い、全体的に細く、それでいて頑丈なようだ。まさに一般的に言われる槍であり、ある程度伸縮性もある。とりあえず使いやすい短さにしておく。

『ちなみにそのどれも本体じゃなくて、亜空間格納庫にいくつかスペアがある。遠慮なく投げたり壊したりして良いから。一応全自動で格納庫に戻るようにしているから全部壊れない限り、底は尽きないよ』
「えっと……カートリッジシステムのほうは?」
『その辺は安心して良いよ。ちゃんと――――別のをつけておいた』

 軽く槍を振り回す。初めてこのような武器を扱うというのに非常に手になじむ。これなら、これならユウキさんに習った槍の基本を存分に発揮できそうだ。

――妙な癖がつくとどうしようもないから。諦めれないと言うのなら――

 そんな理由で基本の使い方だけ教えてもらえた。でもそれは槍の技術で、ボーリングスピアでは今一つ使うことが出来ない。というよりあの太い部分が邪魔だ。しかし、これなら出来る。
 その代わり加速装置のプラズマジェットがなくなったようだ。それが少しばかり、心残りである。

『……ねぇエリオ。魔力をプラズマジェットに変え、さらに推進力を得る効率が素晴らしく悪いことを知っている? あんなことをするなら純粋に加速魔法と浮遊魔法を使ったほうが良いし、小回りも効くんだよ。
 ちなみにヘルプウィンドウも設けておいたから、暇な時に見ると良い』
「はぁ……」
『まあ性能は後で説明する。それよりも敵だ』

 ガジェットがわらわらと。特に延ばされたコードが奇怪に宙を泳いで気持ちが悪い。こんなものを作った人はきっと精神が病んでいるのだろう。少なくとも美的センスを疑わせていただく。

「エリオ君、右!」

 一歩踏み出す。腰の回転に加え、狙った一点に向かって全身で槍を突き出す。その動作をどこまでも早く行う。
 まずは一機。続いて加速魔法を用いて――

『Sonic Move』

 AMF――Anti Magi link Field。魔力結合を阻害し、魔法を打ち消すそれは何も一瞬で行われるわけではなく、そのフィールド内に入ったときから一定の速度で結合を解除する。その結合解除量がある一定値を上回れば魔法が解除される。
 故にAMFを無視するには一つ、完全な物理攻撃で破壊する。しかしスバルさんのような怪力のない僕にはそれは無理だ。かといってティアナさんのような射撃適正や魔力制御力があるわけでもない。
 ではどうするか。一定の減衰比で解除されるなら、魔法が魔法でいられなくなる前に終わらせれば良い。だから。

「ふっ――せい!」

 近づいて、振りぬき貫き穿つ。やはりまだ狙った一点から大分外れる。ユウキさんは落ちる木の葉の狙った一枚すら正確に貫く。それに比べてやはり自分はまだまだだ。

「エリオ君、先走りすぎだよ」

 密集していたガジェットが炎に包まれる。出来ればもう少し早くに行ってもらいたいと思いながら、少し離れていたところにいるガジェットに槍を投げる。

「一人でそんなにも前に出ると危ないよ」
「う、ごめん」

 余りに槍が手に馴染んだもので、つい調子に乗りました。おかげで割と進めれたのだからまあ、悪くはないはずだ。

「所で、エリオ君の戦い方は……もしかして?」
「え、あ……えーと……」
「詳しくは聞かないけど、ユウキさんって料理も出来て、デバイスも作れて、本当に不思議な人だね」
「そうだね……でも、優しい人だよ」

 フェイトさんとは違う。優しいのだけど、時々厳しいところも見せる。事実槍を教えてくれたとき、間違ったことをした場合容赦なく殴られた。でもその分、上手にできた時は褒めてくれた。
 言葉にするなら父さんみたいな人だ。厳しいときに厳しくて、優しいときに優しくて。それでいてその背中は手が届かないほど遠くにある。
 そして、ガジェットを一つ一つ、時に纏めて掃討していたときの事だ。デバイスが警告を鳴らす。それもちょうど真下。反射的に後ろに飛ぶ。
 それとほぼ同時に巨大な球体をした、特徴的な色合いの機械が車両を破壊し、姿を表した。

「……大きい……」
「これも、ガジェット?」

 今までに見てきたものとは比べ物にならない。しかも飛行型に加え、新たにもう一つ出てくるとは。ただこう、形が。もう少し凝ったものは出来なかったのか。残念な気持ちばかりが募る。
 例えばそう、マクロスとか。変形とか合体とか分離とか自爆とか、主に浪漫が一押し足りない気がして止まない。

「キャロ、離れていて。たぶんこいつ、今までのとは全く違う」
「エリオ君も気をつけてね――ケリュケイオン」

 どう攻めるか、それを探っていると球に身体が重くなる。これは、強化魔法が解除された?
 まさかあのガジェットが。こんなにも離れているのに。いや、大きさから考えれば妥当とも言える。

「フリード、ブラストフレア!」

 大きなアームが迫ってくる。しかし大振りなため楽に避けられる。加速魔法を用いて開いた懐にもぐりこみ、死角から鋭く突きを放つ!

「か――――たぁっ!」

 腕が痺れる。ガジェットなら普通に壊れるというのに、無意味に頑丈に作られている。それでもストラーダには一切刃こぼれがない。むしろ、ガジェットのほうに傷が出来ている。
 詰まる所僕の力不足か。ではどうすればあれを破壊できるか。例えどれだけ頑丈であろうとカメラ部分は脆いはず。

「ふっ、は」

 伸ばされてくるアームを右へ左へと逸らす。ユウキさんの突きの方がもっと怖く、正確だ。確かにそれは縦横無尽ではあるが、まだまだ対処できる。唯押し合いになると、広く強力なAMFのせいで小柄な僕では負ける。
 だからこそ、今はまだ逸らす。隙を見て脇に潜りこむが、相手は球体のせいで楽にこちらに向きを変えてくる。全く、嫌な敵だ。

「あ、あの――」

 キャロ、この狭い空間では唯一の有効攻撃であると言っても良いフリードのブラストフレアは使えない。そもそもフルバックである彼女がこんな接近戦をこなせるだろうか。答えは勿論、否。故に与えられている解答は一つ。

「大丈夫。任せて!」

 球体、その面に対し正確に真っすぐ中心を捕えて刺し込まなければ力の流れがそれる。だから力が伝わりにくい。

 上へ飛び、ビームを避ける。

 僕の取り得は早さだ。逆に向こうは頑強さと一撃の攻撃力、そして小回り。正直相手が悪い。だからと言って、はいそうですかと諦めるわけにもいかない。

 ビームを放つ瞬間をねらい、カメラを一つ破壊する。

「しまっ――!」

 壊せた、違う。壊させたんだ。カメラを壊すことにより僕の動きを予測し、そして――

 腹部に重い一撃が入る。その衝撃で僕は、意識が飛ぶ。次はキャロ。それは嫌だ。たぶん、このまま死んでもフェイトさんも、多分ユウキさんも悲しんで。それも、嫌だ。
 だから、だから力が、あれば……





「ん…………」
「旦那! エリオが落ちています!」
「ん? あ、ああ。本当だね。でも大丈夫だよ。あの程度では死にはしないさ」
「いや、死なないって……でも助けねぇと!」
「だから大丈夫だって。あの子たちは君が思うほど弱くはない……それに――」
「ちょ、キャロも! あの馬鹿どもは!」



「――竜魂召喚!」



「だから、ね?」
「……旦那、久し振りに心臓が止まるかと思いましたぜ」
「あはは、少しは自分の部下のことを観察しなよ。そうすれば分かることだと思うけどな」
「まあとにもかくにも、後で殴らねえとな。あの坊主ども」
「……そうだね」





 クエスチョン。僕はどういう状態にあるでしょうか?
 アンサー。抱きつかれています……キャロに。

 うん、まあわかるさ。一時とは言え意識が飛んで、多分崖に転落させられたのだろう。だから心配して助けに来たのか。となると今空を飛んでいる竜はフリード?
 とにかく良い匂いが――――じゃなくて、そろそろ離れてください。かなり恥ずかしいです。これ以上のことを普通にできるなのはさんと、それを平然と受け入れるユウキさんの凄さを知った気がした。流石、最前線であろうがお構いなく砂糖不要の空間を作りだした二人。僕には到底無理だ。

「ぁ――あ、ごめんなさい!」
「いやあの……こっちこそ」

 むしろこちらこそ。僕が一人で無理をして、そのせいでキャロに心配させた。だから本来僕が誤るべきことだ。何より。

『エリオも、ちゃんと守ってあげようね。でも無理はしないように。自分が傷付けば、その分誰かが泣くから。先ずは自分を守ろう』

 言われた。ちゃんと言われた。事実たかが気絶しただけでキャロは危険に身を投じた。その上、今まで成功したことの無いことに挑戦した。
 どうやら僕はまだ、弱いままのようだ。

「フリード……ブラストレイ!」

 巨大化した、本来の姿になったフリードの攻撃でもガジェットは壊せない。いや、車両を傷つけない威力程度の攻撃では傷つかないのだろう。七両目、すなわち隣にあるレリックに下手な刺激を加え、暴発させては意味がない。非しかない。

「やっぱり、硬い……」
「うん、あの装甲形状だと砲撃じゃ抜きづらいよ」

 先ほどの攻撃以外に有効打は望めない。もしかしたらそんな機能があるのかもしれないが、キャロの持つブーストデバイスにある可能性は極めて低い。では、本来そう言った目的である、攻撃目的であるアームドデバイスならいくつかあるはず。
 そう思ってユウキさんに教わったヘルプウィンドウを開く。項目は攻撃魔法、頑丈な相手に対し有効なものはないだろうか?
 ………………
 …………やだ、何これ? 不覚にもときめくのですが。

「――僕とストラーダがやる」
「え? でも……」
「大丈夫だよ、キャロ。僕はもう大丈夫だから」
「……うん、分かった」

 ユウキさんが言っていたカートリッジシステムの代替品。仕様書を斜め読みした結果、それはカートリッジシステムの代替品などではなく、全く別の物であることが判明した。目的は同じなのだが、やり方や効果が全く違う。
 もしも僕がカートリッジシステムの方が良いと思うのならば付け替えてくれるとも書いてある。そのためのスペースは開けれるそうだ。解説書より。

「行くよ、ストラーダ!」
『System Start』

 装甲に隙間が開き、そこから黄色い魔力子が零れる。バリアジャケットの黒い線も同様の色で輝きだす。噴き出した魔力は流れとなり、物理攻撃魔法攻撃問わず、ほぼ全ての攻撃を外へと流す効果を持つ。
 曰く、魔力チャンバーに溜めこんだ圧縮魔力を開放し、リンカーコアに一部戻したり、バリアジャケットに張り巡らした疑似魔力回路に流すことで運動性能、攻撃性能、防御性能など各種性能の向上を行う。ただしこれはリンカーコアにも負担がかかるため長時間の使用や連続使用は禁物。
 確かに心臓の上あたりが地味に痛む。ただこれはカートリッジシステムのようにある特定の魔法を短い時間だけ強化するのではなく、全てを一定時間――五分間強化するシステムだ。だからここぞと言う時に使えばカートリッジシステムよりも使いやすいだろう。

「――はぁあ!!」
『Sonic Move』

 迫るコードを十分に引き付け、その間をかいくぐる。踏み込み、魔法で得た速度を殺すのではなく、腰から下で止め、腰の回転で腕に伝える。腕を伸ばし、狙う一点を定め。

――貫く!

「まだまだぁ!」

 装甲は貫けた。だが浅い。だからまだ続ける。

『Luger Lance』

 槍の先端が開き、隙間から圧縮魔力弾が発射される。内部で爆破。流石にこれには耐えられないようで、新型のガジェットも無残に砕け散っている。

「……ストラーダ、お前ってすごいんだね」
『No. 本当にすごいのは私の製作者です』

 とりあえず終わった。貨物列車もしばらくすると止まったし、レリックの方も無事確保できたようだ。
 ――て、あ。夕食の内容考えていない。ああ、今回はキャロに譲ろう。彼女には心配をかけ過ぎた。
 さて、後継ぎも終ったその日の夕暮れ。任務もあったということで訓練もそこそこに、今日は早めに解散となった。ユウキさんに秘密裏に教わっている槍の使い方も今日はお休み、基礎鍛錬を除いてお休みだ。
 故に報告書も書き上げた現在、絶賛暇をもて余している。こういう時趣味がないのが辛い。時間を潰せないのがきつい。デバイスも点検のため取り合えげられ、自主鍛錬しようと思ったら壮絶な悪寒が背筋を撫でた。本能的に棒を捨てた。

「――というわけで手伝わしてください」
「まあ……良いけど。それじゃニンジン摩り下ろしてくれるかな?」
「はい」

 今日の夕食はキャロの要望でハンバーグだ。材料は合挽きミンチ肉に炒めた玉葱、ニンジン。後各種調味料とつなぎを少々。
 余談だが、キャロはニンジンが嫌いだ。料理にニンジンが入っていると僕の方に寄せてきたり、残したりしたぐらいに。ただしそれも過去形で、それをやった時に出てきたニンジンゼリーを食べて以来、そこまで拒むことはなくなった。

「そう言えば、ユウキさん」
「ん、何かな?」
「ほら、前に一度キャロがニンジンを残したとき、あったじゃないですか。もしもあの後に出たデザートに手をつけなければ、どうするつもりだったんですか?」
「んー……まあこんな風にしてばれないように混ぜるだけだよ」
「なるほど」

 そう言っている間もユウキさんの手は流れるように木べらを操り、玉葱を炒めていく。

「…………」
「………………」

 静かだ。現在ここには僕とユウキさん以外いないのでそれも当然だ。
 大量のニンジンもすり終わり、次に材料を混ぜ合わせていく。この時肉を完全に潰さないように注意して。

「ユウキさん……」
「ん?」
「いや、何でもないです」

 力がほしいと願った。守るため、何より自分がそうであるように誰かを救うため。でも、でもそんな思いでは足りない。不十分だ。
 キャロを守るため、僕は前に出た。その結果傷つき、気絶し、空へと放り出された。もしもキャロが助けてくれなければ、最悪死んでいたかもしれない。少なくとも怪我はしただろう。僕のせいでキャロが泣いた。守りたいと願った人に心配をかけた。
 思いだけでは足りない。自分が願うだけでは駄目だ。その人が、守りたいその人が何を思っているのかも理解しなければ到底、誰かを救うことができない。

「そう……そろそろ混ぜなくても良いよ」
「あ、はい」

 力がほしい。大切な人を守るため、その人の思いを守るため。まだまだ先は長いだろうが、頑張って進んで行こう。



「よろしく、お願いします――父さん……」



 そう心に誓いながら、僕は小さく、呟いた。

「……まあ、無理しないでね」
「あぅ」

 小声でつぶやいたと言うのにどうやら聞こえていたようです。



今日のフェイトさん

「…………」

 掴む壁にひびが入る。何はともあれ、言いたいことは唯一つ。

「……私なんかまだ、フェイトさんなのに――妬ましい」



[18266] 第十二話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/06/25 21:21
 バカがバカをしている。唯それだけの話だ。しかしユウキに限って、そのバカの度合いが人より違う。正確には人のとは異なると言うべきか。まあとにかく、客観的に見て本人にとって良いことではないことでは同じことだ。
 あの日――彼が世界より自由を得て以来、彼は自分の手で自らの心を壊すような真似をしている。それをバカと言わずして何と言うか。言葉を選べばいくつか該当することはあるが、しかし分かり易い言葉を選べばやはりバカか。
 大昔、ユウキがユウキでなく、それ以前の存在であった頃の記憶を求め、世界を彷徨っている。もちろんそれらの記憶は須らく伸ばせども手が届かなかった記憶であり、どれ一つとっても彼の心を傷つけるには十分な代物。あった所で心を傷つけるしかないと言う記憶。
 それが十や二十ではない。数知れないほど集め、思い出してきた。その都度心が傷つき、壊れて行くと言うのに、今なおそれを求め、彷徨い歩く。
 本来なら止めるべきなのだろう。そんな事は勿論分かっている。しかし、ユウキがそれを求めてきたおかげで、私たちは彼と再開することが出来たと言っても過言ではない。故に強く言えない。
 何より彼の心は既に壊れている。もう、手遅れなのだ。だから私たちには、私にはもう傍にいることしか、出来ない。

「久し振り、ヴァル。元気にしていた?」
「ああ。ユウキこそ無理はしていないだろうな?」
「それは勿論だよ」

 死にゆくユウキを救えなかった。それどころかその後も私たちは彼を救うことが出来ない。やはり、無力だ。どれほど力を得ようと我々が無力であることには、変わりがない。
 強さは弱さだ。強くなるほどに守れないものが浮き彫りになり、自らの弱さを嘆く。弱くあれば守れないものが多く、自らの弱さに嘆く。どちらにせよ、ろくなものではない。

「今日は、紅茶を貰えるか?」
「紅茶? お酒じゃなくて?」
「ああ、まだ日が高い。酒は今夜に取っておくよ」
「ふぅん……分かった。すぐ用意する。ちょっと待って」

 そういうと彼は湯を用意する。このような手順は省略できるというのにユウキは省略しない時が多々ある。何故かは聞いたことがないが、待つ時間も大切なものだろう。事実、この時間は好きだ。
 さして時間も経たないうちに私の前に紅茶が差し出された。もちろんお茶請けも欠かさない。そしてこの匂い、どうやらブランデーも入っているようだ。ありがたい。

「所で皆は元気にしている?」
「ん、ああ。それはもちろん」
「そうか……良かった」
「まあ流石に、急にいなくなって心配してはいたが、今はそれも受け入れているよ」
「……そっか」

 何時から彼が再び世界を彷徨うのか分からない。彼自身もそれを制御できず、知ることも出来ない。ただ確かに言える事は常にその世界に忘れた約束、記憶を手に入れた後で、何となく自分がいなくとも大丈夫と感じた後、だそうだ。それ以外は何一つ分からない。
 おかげで多くの世界で大切な誰かを悲しませてきたのではないか、迷った後にそれを必ず気にする。そう思うならばその世界にとどまれば良いのだが、如何せんもうあれは本能、習性、彼が彼であるために必要な行為だ。今はもう止めることすら諦めたそうだ。
 そして今回も、このような世界に足を運んだ理由はここに本人が忘れた記憶を取り戻すための何かがあるからだ。これに限っては推測ではなく断言できる。
 ただ、甘い期待は稀にある本当の迷子。何の理由もなく言ったことのない世界に足を運んでいるというその結果だが、そんなこと数百回に一回あれば良いほうなので今回は違う。

「もう、見つかったか?」
「いや全く。いつもの事だけど手がかりすらないよ」
「確か、もう百年になるのだろう? 今回は久しぶりに長くなりそうだな」
「うん、まあどうだろう。ただもうすぐ手に入る気がするな」
「そう、か……」

 それは良かったとも残念だとも言える。ユウキが望むものが手に入ることは喜ばしい。一方でさらに心が壊れるのは悲しい。出来れば永遠に手に入ることなどあってほしくはないが……
 それも、叶わない願いだ。大丈夫だ、壊れた笑みであってもそう言われたなら、私がそれを止めることなどできない。精々倒れる時に支えるぐらいしか、これ以上悲しみが増えるのを阻止するしか出来ない。

「……大丈夫だよ。ただ僕が、忘れているのが耐えられないだけだから。ちゃんと、覚えておきたいだけだから。
 理解している。分かっている。どれほどその思いを集めても、もうこの手が過去に届かないことを。その思いは僕のものでも、ユウキ・カグラに向けられたものでもないことを。
 だから、大丈夫だよ。僕は大丈夫だ。ヴァル」
「…………」
「君たちがいる限り、僕は倒れない。だって、倒れそうになったら支えてくれるんでしょ?」
「……ああ、それは勿論だとも」
「なら、大丈夫だよ」

 こんなやり取りをはてさて、一体何度繰り返してきたことか。数えていないので分かるわけもない。
 ユウキはこの衝動を止められずにいて、我々は彼の行動を止めれずにいる。そう言う意味では、様々な世界に足を運び、そこで出会った人々にはもしや、という淡い期待を抱いているのだが。今のところ現実として止めようとしたのは、している人は極めて僅か。
 あの押しが強い、割と我が儘な高町も止めに入ってくれるとありがたい。ただ、やはり誰も止めたことがないことを考えると、今回も無理なのだろう。

「そう言えばさ」
「ん?」
「ゼノンが拾った二人、元気にしている?」
「ああ。特にこの前は娘の方がユウキに会いたいと無謀にもティオエンツィアに喧嘩をしていたぞ。もちろん負けたが」
「へぇ。ティアさんと喧嘩できたんだ。それは、強くなったね。昔は相手にもされなかったのに」
「他人事では無いのだがな」

 世界の狭間を歩いていたら人が二人降ってきた。それを拾ったゼノンが気まぐれで蘇生した。それだけの話である。
 残酷で知られていた異界の魔王ゼノン・カオスがそんな事をするとは。昔のゼノンを知る人が今の彼を見たら己の正気を疑わざるを得ないだろう。その光景は容易く想像できる。

「そっか……アリシアちゃんも元気か」
「むしろ碌な男がいないと嘆いていたぞ」
「いやまあ……うん。ティアさんやアリーシャさんたちに囲まれて育てば基本そうなるね。どうしてこうも強い女性が多く集まるのかな?」
「私たちに揃って女難の相でもあるのではないか? それもとびきりのものが」
「……嫌な運命だね」
「全くだ……」

 もう少し、あと少し常識と良識というものを持ってくれたなら。そうすれば胃薬の必要性も薄れるというのに。何故か世界はこの控えめな期待を裏切ってくれる。おかげで今まで片時たりとも胃薬を手放せた経験はない。
 賑やかなのは楽しい。しかし騒がしいのは煩わしい。暴れられると止めに入るのは常に我々で。淑女はすでに幻想の彼方へと旅立ってしまった。

「まあ元気そうで何よりだ。ただ、気をつけろ」
「へ? 何が?」
「忘れているのかもしれないが、お前は干渉嫌忌体質保持者、存在に干渉する非殺傷設定は鬼門だ。まともに食らえば、“また”死ぬぞ?」
「あ、あー。そうだったなぁ……」

 ユウキは干渉に弱い。不老不死であるため死ねないが、殺されることはある。殺されれば当然回復までに時間がかかり、その間の記憶は当然ない。
 現状どのような干渉も拒絶するが、元々の体質は環境嫌忌体質。その名残か、干渉されることに極度に弱い。干渉されるとそれを肉体の損傷に変換し、殺される結果となる。
 魔導師が使う、肉体を傷つけるのではなく、リンカーコアと言う魂に近い存在に干渉されるとなれば、体を傷つけ殺すよりも容易く死に至る。
 ユウキはその体質によって外界を拒絶することを嫌い、最小限までその体質を抑えている。開放すれば痛みのみなのだが、世界を拒絶したくない。それが、彼がこの世界に来た時裏目に出た。

「今は何ともないから大丈夫だよ」
「それは慣れのせいだ。今すぐ病院行け。むしろ薬師呼ぶぞ」
「それはやめてください。次あの人の世話になったなら、それこそどうなるか……」
「確かにユウキはあの天才が理解できない数少ない存在だからな。だが、お前の処置が出来るのが彼女以外いない以上自業自得だろう?」

 ユウキがこの世界に来た時、流れ弾が直撃した。不運なことにその攻撃は非殺傷設定の魔法であり、偶然にも無縫天衣の隙間を抜け、体質を最低まで落としていたユウキに。そして、一度死んだ。そして再生が始まるのだが、眠っているユウキは一度管理局の研究所で人体実験の数々を。
 そのせいでまあ、しばらく後にその世界に辿りつき、事実を知った私は怒り狂い、管理局よりユウキを取り戻したわけだが。お陰で現在私は広域次元犯罪者として扱われた。
 以来、か。私は管理局が好きではない。ユウキ自身もあまり好んでいない。

「それも、そうなんだよね。まあ無理はしないように定期的に休暇は取るよ」
「――取れたか?」
「……………………」
「………………」
「…………」
「……ああ、そろそろ差し入れの時間だ。ヴァルも来る?」
「おい」

 とりあえず無意味に力のある女性のうちの誰かに告げ口しないと、ユウキはまた倒れそうだ。ここはやはり誰と言わず全員に言うべきか。
 別に問題はない。むしろそろそろ男性陣で慰安旅行に出かけなければ胃が持たない。流石の赤バラも近頃薬師に吸血鬼用の胃薬の調合を頼むべきか悩んでいた辺り、本当に末期なのだろう。
 そんな不謹慎なことを思いつつも、管理局にとっての敵である私たちがうろついて良いのか疑問に持ちつつも、ここでやることなどないわけで。ユウキの後をついていくことにした。ついでに高町に顔を見せに。

「お菓子持ってきたけど、皆休憩にしないか?」
「ユウキさん、毎日ありがとな」
「構わないよ。どうせこの時間帯は基本的に暇だから」
「うん、それでもありがと」

 まずは指令室に。何も問題ごとがなくとも割りと仕事に尽きないようだ。近くのディスプレイに眼をやると過去の日付の報告書のデータが移っていた。

「時に、其方の素敵な方は誰や?」
「僕の店の常連だよ。ちょっと顔を見に来たんだよ」
「一応、局員以外立ち入り禁止なんやけどなぁ……」
「それって、僕にも言えることだよね?」

 台所を制す者が周囲を制す。何気なく呟いたユウキの言葉に過剰に反応を示したのは周りの局員たちだった。今後彼女の一挙一動を見逃さず、一言一句たりとも聞き逃すまいと感覚を研ぎ澄ましている。
 どうやらユウキはすでにこの一月少々という短い間に餌付けを完了したようだ。

「ええよええよ。別にそこまで規律に厳しくせんとあかんとは思ってないし、まあユウキさんの知り合いやから悪い人やないしな」

 目の前の若き権力者は笑顔ではあるものの、表情が固い。実質権力はあるが、その決定によってはデモもストも発生する状況だ。仕方のない話である。
 さて指令室に差し入れを届けた後、他の場所にいる人たちにも届けに回る。

「やっほー」
「あ、ユウキさん」

 その一人、ヘリの整備をしていた男性。視線が交錯した瞬間に理解した。彼は、同胞になれるかもしれない。だが彼もまた人間、その性はやはり短い。期待するのはやめておこう。

「そちらは、旦那の友人で?」
「そうだよ」
「へぇ……初めまして、俺はヴァイス。よろしく」
「ヴァランディールだ。よろしく頼む」

 時に、私の名前は管理局に聞かれているため知られているのだが、なのって大丈夫なのだろうか。ユウキは名前が知られていないため問題はないが。名前として珍しい私の場合、悟られてもおかしくはない。
 ただ、すでにあれから百年。人の場合はすでに死んでいると考えておかしくはない。出来れば、分からずに済めば無駄な争いをせずに済むのだが。

「変わった名前だな」
「お陰ですぐに覚えられる」
「違いねぇ」

 世界はそれほど甘くなく、人はそれほど非道ではないようだ。
 続いて演習場に向かう。歩く度に上下するユウキの髪を眺めつつ、土産に持ってきた夜光鈴の音を聞きながら、のんびり歩く。機械的に制御された常春の気候、安定した晴天のために絶好の散歩日和なのだが、雨がない分散歩の良さが減っている。私としては、この世界は余り好きではない。
 今迄で一番過ごしやすかった世界といえば、私の故郷を除けばユウキを探す途中で迷って立ち寄ったアクアという火星だ。あそこの雰囲気が体に馴染んだ。そう言えば、彼女は元気にしているだろうが。味が落ちるとしても、あの生クリーム入りのココアが懐かしく感じる。

「なのは、おやつ持ってきたよ」
「あ、ユウキくん――に、ヴァランディールさん。お久しぶりです」
「久しぶりだな、高町」
「むぅ、私はもう神楽ですよ」
「……ああ、そうなのか。失敬、知らなかった」

 三年ぶり、その間に様々なことが変わったのか。私たちは別に名前や結婚にさしたる興味はないが、彼女らにとっては違うのか。長く生きても短命種のそういう感情は理解しがたい。
 だが、さて。ユウキのことはユウキと呼ぶとして、神楽と彼女を呼べばユウキも反応しそうだ。となると今後はなのはと呼ぶべきか。

「それじゃ皆、休憩前に後1セットやるよ。準備は良いよね?」
『返事は聞いていません。マスターが代名詞を撃つ前に大人しくさっさと並びなさい』
「そ、そんなことしないよ!」
『でも皆さん否定しませんでしたよ?』
「うぅ、皆私をどう思っているの?」

「な、なのはさんはとってもやさしいですよ!」
「はい、そうです!」
「そうだよ。なのははそんなにもひどいことしないよ」
『……スターライトブレイカー』
「ひいぃ、ゴメンナサイゴメンナサイ」
『見よ、この安心と信頼の調きょ――もとい教育の成果を』

「――そう……皆、言いたいことは良く分かったよ……」

 ユウキの事になると見境なくなる女性。別にそう言っても構わない。しかし言えば、間違いなく戦場も知らない新人らが精神的に死ぬ。ならばここは、手遅れな気がしようとも言わぬが華か。
 後ろの悲鳴を無視し、敷物を敷く。ふむ、今日の菓子は柏餅か。アリーシャたちへの土産用にいくつか貰おう。それにしても、割と多いな。

「人類の不思議が、二人いるから……」
「ん、まあ詳しいことは聞かないでおく」

 まずは柏餅のヨモギ餅、こしあんの方を一つ頂く。他にも抹茶あんや粒あん、白餅もある。間食には十分な種類だ。
 五月の空を見上げる。もう少し暑くなれば風鈴の風情も出るというのに。ただ過ごし易いから、それだけの理由ではこの世界の住人はどれほどのものを失ったか。いや、本人たちにはその自覚すら、ないのかもしれない。ないのだろう。もったいないことだ。
 そう考えながらこっそり気候に力を与え、少し夏の風を出した。それに気付いたユウキは慣れた手つきで緋色の和傘を広げ、夜光鈴を下げる。澄んだ鈴の音が、遠くまで響く。

「ヴァル、熱いほうじ茶と冷えた水出し茶、どっちが良い?」
「水出しのほうで頼む」
「ん、わかった」
「私も水出し茶のほうが良いな」
「はいはい……終わったの、なのは?」
「うん、終わったよ」

 視線を演習場のほうに向ける。そこには半ば死体と化した新人が四人転がっていた。ああ、これは終わったのではなく、終わらせたのだな。冥福は祈ろう。

『さて、仏教徒でもない者に線香を上げるのは正しいのでしょうか?』
「疑問があるなら閻魔にでも祈れば良い。どうせ死ねば、そこに行き着く」
『なるほど。では――容易く地獄に行けると思うなよ、ウジ虫』
「レイジングハートもすっかり個性が出来たね」
「……妙な知識ばかり集めて困るんだけど」
『お褒め頂き恐悦至極。そしてハートマン軍曹を悪く言うなバカヤロー』

 以前よりもさらにひどく偏った知識が集まっている。肉体がないにというのに生命があるせいでしたくとも出来ることがほとんどなく、欲求不満が募るばかりなせいだろうと推察する。まあ次ぎ繰るまでに、人造精霊の材料を持ってこようか。
 それを使えばユウキなら魂の移動など容易いこと。レイジングハートの偏った知識も少しは解消されるはずだと信じる。

『何を考えているのか分かりませんが、ヴァランディール様。是非お願いします』
「分からないのに頼めるのか、お前は?」
『私のソウルが言うのです――頼れ、さすれば与えられんと』

 さて、必要な素材は何だったか。詳しくは覚えていないが、面倒なものばかりだった気がする。ただ今回は生命を生み出すわけではないのに、ある程度は楽か。どちらにせよ世界樹の種は必要だ。

「……あの……」
「何だ?」

 声をかけられ、そちらを見ればアリシアに良く似た女性がいる。だが、似ているのは姿形だけ。それ以外は何も似ていない。
 世界には似た者が稀に存在する。そう言う偶然がここにも存在したか。まあ良くあることだ。そのせいで何度も泣かされたことがある。お陰で魂で判別することにも慣れた。

「どこかで、お会いしましたか?」
「いや……今が初めてのはずだが……まあどこかですれ違ったのかもしれないな」
「そう、かな……」
「他人の空似ではないか?」
「……そうかな?」

「なのは、あんこついているよ」
「にゃ?」
「ほら。もうちょっと落ちついて食べなって」
「ん……ん!」

 さて、隣では高町の頬についたあんを取ったユウキがその指に着けたあんを高町に食べられると言う桃色幻想空間を形成している。何よりも先ずブラックコーヒー、もしくは世界一苦いと噂される茶を口直しに貰いたい。

「抹茶でも良いかな?」
「ああ、すまん」

 砂糖はもちろん無添加。ミルクも入っているわけがない。だと言うのにまだ甘く感じられる。これでも耐性が出来たと言うのだから今の自分でも驚いている。周りを見れば当然のように口元を押さえる人が若干名。昔の私の光景だ。

「でも、どこかで見たことが……」
「…………」

 さて、私は広域次元犯罪者だ。ただし百年前の。もしかしたら顔写真でも見て、それが彼女の脳裏に引っ掛かっているのだろう。だとすればここは何も言わず、刺激せずにいた方が良い。下手に刺激して思い出されるのも面倒だ。
 大概、レジアス曰く海の方々は頭が固い。応用性が低いと言うか、理解力が足りない。良いように言えば真面目だが、正直それは色々と困る。主に理性と願いの違いによる問題が。流石に、次同じ組織にユウキが殺されれば、理性が持たない。
 現在、体質を以前に比べて開放しているとはいえ、非殺傷設定に弱いことに変わりない。アクセルシューターが直撃すれば軽く骨は砕け、ディバインバスターが掠れば四肢の一つが吹き飛び、スターライトブレイカーの余波で絶命する。
 そんな現状でユウキが傷つけられたなら、私は一体何をするだろうか。いや、ユウキが再び死んだとすれば私だけではない。短い期間に二度も殺されたとすれば、理由に関わらず駆けつける人が何人も。静止する者がさて、いるかどうか。

「あ、キャロ。一つ良いかな?」
「はい。何でしょう?」
「ちょっとフリードどけて。流石に首が痛い」
「ふ、フリード! 駄目だよ、そんなところにいちゃ」
「気持ち良いのに……駄目?」
「や、頭の上はやめてほしいだけだから。膝の上で良いなら、構わないよ」
「やったぁ!」
「……ユウキさんはフリードの言うことが分かるのですか?」
「まあ、ね」

 ティオエンツィアのお陰で私は分かる。ユウキは何となくだろう。その竜は本能でユウキから古龍の気配を感じるから、彼の傍が何より居心地良く感じられるのか。龍や竜に好かれるユウキは昔から良くある光景だ。
 そんな会話があった時に、ずっとこちらを見つめていた女性の視線が険しくなる。しかし視線は私ではなく、その後ろのユウキに向けられている。さて、何かあったのだろうか。
 ユウキに恋心を抱いているにしては高町との間柄に特殊な感情をさほど抱いているようには見えず、このようになったのも幼い少女が彼と親しそうに話して空で。では幼い少女との間に何かあるのか。
 視線の種類は嫉妬に近い。もしや彼女は子供好きに関わらず、幼い少女に嫌われているのか。とは思えないほど……

「ひゃん!」
「ねえフェイト。それ熱いって言ったよね。触って分からないのかな?」
「あぅう……」
「はい、水出し茶。もう少し周囲に注意を払いなよ」
「ありがとうございます」

 ドジだな。こんな人を嫌うとなれば少女のほうが酷く捻くれているか。しかしそう考えるにも無理がある。ならば、すれ違いか。そこまで推測して、それ以上をやめた。
 どのような理由であれ、私への注意がなくなったならありがたい。お陰で気兼ねなく、茶が飲める。

「………………」
「……はい」
「すまん……」

 暑い夏に熱い茶を飲むのも悪くはない、が。一方、菓子器に手を伸ばせば何にも触れない。辺りを見回せば、ある二人の間に大量の柏の葉が散っていた。
 ああ、なるほど。人類の不思議とはそういうことか。なるほど。私がアリーシャでなくて良かったな。彼女であれば、文句を言うまもなく扱かれる。
 さて私も夕食を頂き、アリーシャたちへの土産片手に別れを告げた。機動六課のすぐ近くで剣を使うわけにも行かず、夜空の下をしばらく歩く。都会中心より離れているとはいえ、街灯の明かりが明るく、星の光が弱い。遠い空がさらに遠い。
 十分に離れたところで剣を取り出し、魔力をこめる。さて、ゼノンの場所に向かえば自然とアリーシャに襲われるだろう。気を引き締めなければ。

「――そこのお前、動くな!」
「…………」
「お前の持つそれからロストロギア反応が出ている。悪いが、局まで来てもらおうか?」

 当然、無視した。全く、肝心なときに対応が早くて困る。



今日のアリーシャさん

「………………」

 ユウキの手作り和菓子、食べたい。



[18266] 第十三話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/07/10 00:53
 近頃、疑問に思うことがある。その疑念はずっと前からあったもので、今頃になって水を得たかのように私の心を乱す思い。それは機動六課に来たライトニング分隊の二人に関することだ。
 機動六課にはなのはの恋人であるユウキと言う人がいる。見た目は私たちと似た年齢だと思うのだが、纏う雰囲気が今まで出会ってきた人の誰とも違う、何とも変わった人だ。
 彼のことをエリオとキャロが少し違う目で、正確には親を見る目で見ている。ついこの前にはエリオが普通にお父さんと呼んでいたところを目撃した。保護者である私なんてまだ五年近くも一緒にいるにも関わらず、さん付けだと言うのに。
 何故、なのだろうか? それが理解できず、ただただ私の大切な人が次々と奪われていく恐怖にかられ、近頃酒に溺れ始めている。そんな、ミッドチルダでは珍しく雨が降ったある日の夜。

「はやてぇ」
「はいはい、どないしたんや?」

 一人で居ることに耐え切れなくなり、酒のせいで心の淀みが溢れる。気付けば私ははやての部屋に足を運び、絡んでいた。
 そんな私をはやては優しく受け入れてくれる。やはり友達は良いものだ。

「そんで、フェイトちゃんはどうしたいんや?」

 溢れた鬱憤をひとしきり出したところで、心が落ち着く。まだ酔いで頭が上手く回らないが、会話が成立しない程ではない。
 さて、私は何がしたいのだろうか。なのはを奪われ、エリオを取られ、おそらく今はキャロも。これ以上、私の大切な人を取られたくはない。だからと言って強行突破は良くない。

「私? ……私は……」
「エリオやキャロに父親となる人物が必要なのは眼に見えている。せやから、今頃二人からユウキさんを取り上げるのは間違いやと思う」

 なのはが好きになったほどの人ならきっと話せば理解してくれる。そう、信じよう。少なくとも悪い人じゃないんだから、うん。きっと大丈夫。

「うん。それは、そうなんだけど」
「かといってフェイトちゃんは二人のこと諦めれんのやろ?」
「諦めるなんてそんな事、出来るわけがないよ……」
「せやったら、そうやな……」

 しばらく思案して、はやての口からこぼれた言葉は。

「それなら――」
「あう、でも……」
「大丈夫やって。きっと分かってくれるよ」

 確かに解決策としては良策だ。しかし、そんなことをやってもよいのか。いや、そんなことをして破滅した人の話を良く聞く。だから、出来るならしたくない。
 でも、でも二人のことを諦められない。酔っていた、そのせいもあるかもしれない。心の奥底で心で描いた未来も悪くないと思ったのかもしれない。
 理由はともかくとして、私は知らず知らずのうちに、頷いていた。



 そんな夜から数日経った日。先日からなのはは地上本部の要請でしばらく機動六課を留守にしている。主には犯罪組織の完全壊滅のためためだ。管理局が万年人材不足でエースがとても貴重な戦力のせいだ。
 さて、新人たちの訓練日誌もつけ終わり、少し喉が渇いたので休憩室に行く。
 そこには意外と先客がいた。機動六課の厨房を取り仕切っているユウキさんだ。日当たりの良い休憩室でも最も過ごしやすい場所を的確に見つけ、読書を楽しんでいる。どんな本を読んでいるのだろう。少し眼を凝らしても題名らしきものは一つもなかった。

「……や、こんにちは」
「あ、こんにちは」

 ただ日当たりの良い場所で本を読む。それだけだというのに彼の様は絵になっているのは何故か。そのような疑問もなく、この日常風景を私はとても綺麗だと、感じる。
 自動販売機でコーヒーを買い、ユウキさんの近くに腰掛ける。ふと見れば高級そうなティーセットが一式。これなら紅茶の一杯でもねだれば良かった。

「……あの、少し良いですか?」
「ん、どうぞ」

 沈黙が重い。私が勝手にそう感じているだけなのだが、ともかく沈黙が重い。それを嫌がって口を開いたのは良いものの、さて何を話せば良いのか。
 何も考えていない。しかし話しかけた手前、今更何も言わないというのも失礼だ。ならば今疑問に思っていることを聞こう。

「どうしてユウキさんはエリオに親しまれているのですか?」
「別に、特殊なことをしているつもりはないんだけどね……ただ、何て言えばいいのかな……優しくするのも大切だ。厳しくするのも必要。でもね、フェイト」
「何でしょう?」
「エリオたちを子供としてしか見ないのは、駄目だよ。エリオはエリオ、キャロはキャロ。ちゃんと彼らを彼らとして見ることが足りてないんじゃないのかな?」
「私はちゃんと見ているつもりなんだけど……」

 保護者として、親として。何よりエリオに至っては自分と同じProject.F.A.T.Eによって生み出された被害者。だからこそ人一倍彼らのことを気にしている。その自負は私の中にある。
 むしろ二人のことを私よりも知らない人にそんなことを言われて腹が立つ。隠している事でも、隠している理由を察して欲しい。少なくともそう、二人とも孤児であることぐらい、聞いているはずなのに。

「親はなろうとしてなれるものじゃない。そもそも君は一年かけて成るものを、さらに長い時をかけて極めるものを、それを数段飛ばしで無理になろうとした。そこに無理がないわけがない」

 もう少し言葉を選んで欲しいと思う一方でユウキさんの言う言葉も理解できる。また事実として彼は二人に好かれている。ここはひとまず言いたいことを一時抑え、彼の話を聞くべきだ。
 例えそれが意味無くとも、少なくとも聞くだけの価値はある。また知らないからこそ、と考えることもできる。ならばやはり、意味はある、か。

「その無理を隠すなら、相手の無理も叱れないよ。子供は敏いよ。下手に賢くなり、愚かとなった大人よりも」
「…………」
「まあ無理に直せとは誰も望まない。ゆっくり、少しずつ親になれば良いんじゃないかな」
「あの……何故頭を撫でるのでしょうか?」
「いやぁ、ちょうど良い所にあったから。つい」

 そう、考えている。ならば普通こう言った、落ち着ける感情は抱かないはずなのに、不思議と私の心は波風立たず、極めて静かだ。ユウキさんが持つ独特の雰囲気のせいかもしれない。だから二人に親しまれていると言うのなら、私は一体どうすべきか。それはわからない。
 分からない今でも分かっていることはこのままではいけないと言うことで、だからこそ悩んでいこう。何時になれば分かるかも、どこまで行けば親になれるのかも分からないけど、何もしないよりかは良い。
 まあ、何とかなると良いな。不思議とそう気楽に考えながら、私は未だに頭を撫でられていた。何時まで私は撫でられているのだろうか。何時まで私はそれを、普通に許容しているのか。気持ち良いから別に良いけど。

「難しいなぁ……」

 執務官の仕事は全て考えれば答えや解決策のある話ばかりで、どうしても答えのない話は全くといって良いほどない。
 そもそもどう振舞えば親になるのか、その考え方は間違っていると感じる。そういう偽りの関係ではなく、私は本当に家族になりたい。だから、違う。

「悩んでいるようやな、フェイトちゃん」
「あ、はやて」
「何か、あったんか?」
「うん……人の親になるのは、思ったよりも難しいんだなって」

 最初からそんなにも簡単になれるものとは考えていなかった。ただ私はエリオやキャロのような救われない子供たちを放って置けなくて、どうにかしようと行動した。
 ユウキさんさえいなければ、今のままでも良いと思えた。あの人が現れるまでは別に家族になれずとも二人が笑顔でいてくれるなら構わなかった。しかし、知り、見てしまった。だから望む。あの場所を、欲する。

「まあまだうちらは十九歳やし、普通なら親になっているわけがない。そんな急に人の親になれるわけがない」
「うん、そうだね……その通り、なんだよ」

 一年という月日をかける。それはきっと子を宿し、産むまでの月日のことだろう。その間に人は、こと女性に限れば一年かけて人は親となる。それも痛みを対価に。
 私はどうか。放っておけないから保護して早五年近く。家族でなくても良いと考えていても、親となる努力はしてきた。
 正直、執務官の仕事に一生懸命で子供たちのことを疎かにしてきた感じは否めない。特に執務官の仕事は長期の仕事ばかりで、一度仕事に出れば一月二月家を留守にするのはざらだ。果たして私が保護してきたことに意味はあるのかどうか。それすら時に不安に思う。

「無理せずに、せやな……ユウキさんのせいやっけ?」
「うん、まああの人のせいと言えばせいだけど、むしろお陰と言うか何というか。ユウキさんがいたからこそ気づけたことだから」
「……せやったら、まあ。そのユウキさんを観察するなんてどうや?」
「えっと、どういうこと?」
「何や、自分に足りていないことは分かっている。それをユウキさんが持っていることも分かっている。なら観察して、足りないものを知ればええ。せやろ?」
「うん……」

 確かに。悩むのではどうしても時間が掛かる。それなら目の前にある手本を観察するのが良い。幸い、その手本は今すぐ近くにいるのだから。残りおよそ一年ほどであるが、この期間を無駄に使うわけにはいかない。

「うん、そうだね。ありがとう、はやて」
「どういたしまして」

 やはり、持つべきは友だ。一人で思考に埋没するとどうしても限界が見えてしまう。でも二人、三人と集まれば何かと意見が出てくるものだ。だからこそ親友は何人いても嬉しい。
 はやての意見を参考に、暇を見てはユウキさんを観察することにした。とはいっても私にだって仕事はある。特に新人の訓練を書かすこともサボることも、手を抜くこともできない。だから余り多くはない時間だが、無益にはならないはずだ。

「…………」

 そして現在食堂。ユウキさんはまた湯を沸かし、お茶を淹れようとしている。本当にたくさん食べている人だ。一体一日にどれほど食べるのだろうか。
 私も少し、小腹が空いてきた。もしかしたら私もユウキさんと同じように食いしん坊なのかもしれない。たぶん今から頼めば私の分も淹れてくれるはず。それにはきっと丁度良い量の茶菓子も着いてきて。

「フェイトも、紅茶飲む?」
「…………」

 なんて、甘いことを考えていると声をかけられる。まさか、気付かれているのか。いや、そんな事はない。仕事のために隠れたり、尾行をしていても気付かれたことはなかった。だから今もそんな気がするだけで、気付かれてはいないはず。
 机の上にカップが二つ置かれ、同様に皿も置かれる。うん、これは彼の気のせい。ちょっとのどが渇いて行きたいけど、今は我慢。

「そう……いらないんだ――桃のタルト」
「…………」

 小腹が空いてきた時を見計らったかのように取りだしたユウキさん。もちろんその誘いを受け入れ、ケーキを食べたい。きっとそれは美味しいのだろう。美味しいに違いない。美味しいはずだ。美味しいに決まっている。

「残念だけど、いらないというのなら仕方がないか……」
「…………」
「………………」

 少しぐらいなら大丈夫はず。唯通りかかったことにすれば問題ないが、それをすると今後こうして観察することに少々無理が発生するかもしれない。
 だが、惜しい。ここであのケーキを逃すのは余りに惜しい。

「…………」
「………………そうか、気のせいか」

 カップに紅茶が注がれる。その芳しい匂いが嗅覚を刺激する。ケーキの切れる心地よい音が鼓膜を叩く。私がそれを認識する前に心は既に、折れていた。

「……です……」
「ん?」
「ほしい、です」
「思い悩むぐらいなら最初から素直になれば良いのに。おいで、フェイト。お茶にしよう」

 手招きにつられて近づき、用意された席に座る。ユウキさんはその様子をただ穏やかに見ていた。何となく恥ずかしい気持ちになる。
 兎に角、差し出された桃のタルトはとても美味しかったです。ご馳走様でした。

「あ、ユウキさん」
「ん?」

 その日から隠れるのをやめた。隠れたところでユウキさんはきっと態度を変えない。それなら無理して隠れるよりも、堂々としていたほうが仲間に嘘をついていないように感じて気が楽だ。
 そうして今日も彼を見つけては声をかける。と言ってもまだ昨日今日の話だけど。それでもすぐに慣れれたのは、それに違和感を覚えないのはやはり、彼に何か特別なものがあるからか。

「――――あ」

 そうして近づいた時、何故か躓いた。それ自体は珍しくない。いつも友達からちょっと抜けていると言われているし、事実そうなのだろう。しかし、仕事中に躓くのは今回が初めてだ。
 近づいてくる床を見つつ、魔法を発動させようとする。ただその前に室内だというのに風が吹いた気がして。

「こらこら、危ないよ。ハイヒールはこけ易いんだから気をつけなきゃ」
「あぅ、ごめんなさい……」

 気付けばユウキさんが今までにないほど近くにいた。はて、妙な話だ。私が躓いてから今まで数秒も経っていない。いや、彼がそれを認識し、行動を始めたとしてもまだ二秒以下の話だろう。
 だというのにこの距離を、およそ十五メートルはあるこの間合いをわずか二秒以下で認識し、詰めたと言うのか。それは人間として余りに素早い。それもちょっと早いではなく、異常に。

「ん?」
「……何でもないよ」

 常春の気候であるミッドだというのに、ユウキさんの体からは何故か晩春の、梅雨間近の匂いがする。他にはちょっと土臭くて、でもどこか懐かしい。
 その匂いで脳裏に思い浮かんだ光景は田舎の田植えで、何故か分からないけど近くにいた見ず知らずの女性に不快感を感じる。

「いや、本当にどうかした?」
「何でもないよ」

 それにしても心地良い。男性だというのに香る、香水などといった人工的ではない自然の匂い。たぶん普段からそういった自然の中にいて体に染み付いてきたものだろう。だからこそ、心地良く思う。

「所で、何の用かな?」
「あ、えっと……少し、一緒して良いかな?」
「……仕事は問題ないの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらしたから」
「なら、別に良いよ」
「うん、ありがとう」

 うん、やはり私はここが好きだ。ここが心地良い。たぶんエリオたちもこんな感覚を覚えたのだろう。そしてそれを、いない父親がくれるものと思ったのか。だから、父さんと。なのはもまた同様であり、ただ彼女の場合は恋心として認識したのだろう。
 そう思うと少し納得できた。そして、少し悔しく思った。これは彼が自然と手にしたもので、私には出来ないこと。私では、届かない。もちろんその程度で諦めるつもりもないが。
 さて、どうしようか。エリオたちに親は必要だ。だからといってなのはからユウキさんを取り上げるのも気が引ける。正直いつか見たお昼のドラマのようなことは避けたい。



 明日、なのはが地上本部より戻ってくるという夜中。珍しく寝付けずにいる。何かが物足りなく感じ、寂しい。そんな夜は久しぶりだ。ふと記憶をたどって考えると、なのはの付き合いが少し悪くなって以来だろう。
 いつか眠れると良いと考え、窓から夜空を見上げていると音楽が聞こえる。場所は近い。こんな夜更けに起きている人がいるのか。暇なこともあり、音に誘われ、部屋を抜け出す。

「ユウキさん……起きていますか?」

 たどり着いた先は何と、なのはとユウキさんの私室だ。まだなのはが帰ってきていないことを考えると、きっとユウキさんが音楽を着ているのか。
 ただこの考えは安易だった。ノックして入ると、ユウキさんが琴を挽いていた。この人は本当に、多才だ。
 でも人は本当はこんな風に自由気ままに生きるべきなのかもしれない。私たちのように仕事に一途に生きるのは、どこか間違っているのかもしれない。だって経った一度の人生、そんな生き方では短い生涯が余りにもったいない。

「フェイト? こんな夜更けにどうしたの?」
「あの……ちょっと、寝付けなくて」
「ふぅん……まあいいか。どうぞお入り。そんな所で突っ立っているのも、何だろう?」

 なのはにユウキさんが取られるのは別に何とも思っていない。彼と結婚するのもそれは良いが、したいと思うこともない。傍にいてくれると安心できる。傍にいてくれるだけで、安心できる。
 この感情を人は何と言うのだろうか。まだこの時の私では分かるわけもなかった。

「で、本当にどうしたの?」
「うん…………えっとね。あの……一緒に、寝ても良いかな?」
「まあ、良いよ」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「何でや!? 何でなんや!!」

 怒りの余り机を叩く。周りのことなど一切気にしていられない。それほどまでに私は彼の行動に怒りを感じた。
 ああ、確かにユウキさんは良い人だろう。しかし、それとこれは関係のない話。どうしても私は、何故あのようなことが出来るのか理解できず、気に食わない。

「何で、あんなにも……」

 口の中に鉄の味がする。やはりここはきっちり話をしなければならないようだ。場合によっては例えその行為が罪であろうと、黒白つけなければならない。

「そんなこと、許されると思うな――ユウキ!」

 そして私は激情を胸に、デバイスを手に彼の元へと向かった。あんな事、例えどのような事情を抱えていようが許されるわけがない。人の感情を、粗末にするなんて、絶対に許さない。全人類の半数のためにも私は、足を急がせる。





 遡ることおよそ一日。事の始まりは夜遅くにあったあの会話だろう。
 近頃何かと思い悩んでいるフェイトちゃんが私の私室に来た。顔はすでに紅潮し、片手に酒瓶がある。どう考えてもただの酔っ払いだ。まあちょうど良く私の手も寂しさを覚えてきたので、フェイトちゃんの来室はいつでもウェルカムだ。それはまた別の話。

「はやてぇ」
「はいはい、どないしたんや?」

 ううむ、私たちの中でももっとも外人らしい豊満な成長をした肢体は時間とともにさらに円熟味が増して。魔法のお陰でさほど激しい運動をせずに済むため、最前線に出ていても肉付きが全くけしからん。
 抱きつかれ、なだめながら話を聞く。酔っ払いの話なので言っていることを正確に汲み取るのは難しく、とりあえず要点だけ纏めると、こんなものだ。ん、また一回り大きくなっている。

 ユウキさんになのはちゃんを取られた。正確には取られたではなく、なのはちゃん自身がユウキさんの元に行ったのだが、それは言わないお約束。絡み酒はうっとうしい。
 ユウキさんにエリオが取られた。幼い少年は等しく親父に憧れるもので、今回はきっとそれに似たものであろう。それは諦めるしかないかと。というかこれ自体エリオが望んでユウキさんの下に以下略。
 ユウキさんにキャロが取られそう。もう語るまい。もう語る必要はあるまい。その被害妄想、まずどうにかしてもらいたいとだけしか語るまい。

「そんで、フェイトちゃんはどうしたいんや?」

 注がれた酒を半ば強制的に飲まされながら本題を聞く。聞かされた問題は全て彼女の家庭の問題。私が何か手を出す必要が果たしてあるかどうか。
 いや、それに関わらず関与しなければならない。なぜなら、面白そうだから。面白そうなことをこのまま放置するなどもってのほかだ。

「私? ……私は……」
「エリオやキャロに父親となる人物が必要なのは眼に見えている。せやから、今頃二人からユウキさんを取り上げるのは間違いやと思う」
「うん。それは、そうなんだけど」
「かといってフェイトちゃんは二人のこと諦めれんのやろ?」
「諦めるなんてそんな事、出来るわけがないよ……」
「せやったら、そうやな……」

 ではどうするのが最も面白いのか。それでいてフェイトちゃんに損の無い話は。しばらく悩み、思いついた。

「それなら――」
「あう、でも……」
「大丈夫やって。きっと分かってくれるよ」

 いやはや本当に、楽しくなりそうだ。それからその日はフェイトちゃんを堪能した。
 思い返せば事の始まりはこの会話だったのかもしれない。今更後悔が間に合うか、懺悔すれば救われるのか分からないが、とりあえず全ての始まりはここだったのだろう。
 とにかくその時私はこの会話によってどのような結果になるや、誰が何を思うと言ったことを、余りに甘く見過ぎていた。本当に、世界はこんなはずじゃなかったことばかりで、手に負えない。もっと私が最悪を想定すれば、こんなはずではなかったのに。



 それから数日後のこと。入念な準備を怠らず、遂に約束の日になった。昨日から障害となる人物も地上本部に呼ばれているためいない。計画を実行するなら今しかない。
 それでは、ミッションスタート。

「時に八神部隊長、何故私がこんな所に呼ばれたのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「んー? まあ私一人で見るのもつまらんでな、ちょっと話相手が欲しかった所なんよ」
「はぁ……ですが私にもしなければならないことがあるのですが?」
「大丈夫やって。しばらくの訓練は基本的に座学。ティアナはその辺ちゃんと出来ていること知っているからな。問題あらへん」
「……職権乱用はどこの国の言葉でしたか?」
「ちっちっち、力は使うものやで?」

 先ずは部隊舎の至る所に設置した監視スフィアを起動する。それをデバイスを通して制御し、空間モニターに表示。もちろん録画録音も完備。例えあの人が何と言おうと、事実さえ作ってしまえば反論もできまい。
 なお、部隊長の仕事はしばらくリインにやって貰っている。もちろん私がしなければならないことはあるので、それは夜中にこなす。楽しい所を、逃さないためにはその程度の労力も惜しまない。

「どうなっても知りませんよ?」
「大丈夫やて。全ての責任は私が取るから」

 フェイトちゃんは現在、なのはちゃんに代わって本日の訓練記録を付けている。一方、ユウキさんはと言うと厨房にて昼食の下拵えを着々とこなしている。
 今はまだ朝だ。この光景は仕方がない。しかしもうすぐすれば状況も変化するだろう。今からそれが一体どのようなことになるのか、楽しみで仕方がない。
 それにしても、何と言う包丁捌きであろうか。材料を切り裂くその包丁が見えないのではなく、腕の動きに眼が追いつかない。近くに置いた野菜に手を伸ばしたと思えば数瞬の間に切り終えている。彼は赤くて角でも着いていると言うのか。恐ろしい。

「ん、ファーストコンタクトやな。ティアナ、マイクの音量上げてくれるか?」
「はいはい」

 そんな下拵えも終り、機動六課でも日当たりが良く、過ごし易い休憩室で本を読んでいたユウキさんにフェイトちゃんが声をかける。その声は少々小さく、聞き取りづらい。
 ティアナにちょうど良いぐらいに音量を上げてもらい、今一度耳を澄ます。録画録音の方は問題ない。

「――――」
「――に、特殊なことをしているつもりはないんだけどね……ただ、何て言えばいいのかな……優しくするのも大切だ。厳しくするのも必要。でもね、フェイト」
「何でしょう?」
「エリオたちを子供としてしか見ないのは、駄目だよ。エリオはエリオ、キャロはキャロ。ちゃんと彼らを彼らとして見ることが足りてないんじゃないのかな?」

 よしよし、感度は良好。画像も鮮明。文句のつけどころは一切ない。さて、話している内容はどのようなものだろうか。

「私はちゃんと見ているつもりなんだけど……」
「親はなろうとしてなれるものじゃない。そもそも君は一年かけて成るものを、さらに長い時をかけて極めるものを、それを数段飛ばしで無理になろうとした。そこに無理がないわけがない」

 どうしてユウキはエリオに好かれているのか、にしては話が違う気がする。とにかく思ったものとは話が違う。それもまた仕方のない。むしろ僅か一度の会話でこちらの思い通りに行くとは思わない。

「その無理を隠すなら、相手の無理も叱れないよ。子供は敏いよ。下手に賢くなり、愚かとなった大人よりも」
「…………」
「まあ無理に直せとは誰も望まない。ゆっくり、少しずつ親になれば良いんじゃないかな」
「あの……何故頭を撫でるのでしょうか?」
「いやぁ、ちょうど良い所にあったから。つい」

 話している内容自体は思った物ではないものの、何かと良い雰囲気ではある。ならば良し。これをきっかけに親密な関係を気付き、そしてあわよくば、いやむしろそちらが本命だが、許されるなら――
 もちろんそんな事を口に出さない。もしも記録に残ればさて、どのような結果になるか目に見え、かつそれが恐怖以外の何物でも無い故に。

「で、一体これは何なのですか?」
「何って、見て分からんか?」
「いや、何となく分かりますけど……だからこそ聞いているんですよ。少なくとも、隊長に知られたらただでは済みませんよ?」
「あはは……大丈夫。知られんかったら大丈夫や。むしろ、そんな事あるわけあらへん……」

 どんなに手早く終わらせても四日はかかる任務。最悪を仮定して三日とする。それまでには全ての証拠を隠滅する手筈は整えておいた。ロングアーチの人にもこのことは伝えていない。
 そしてティアナは、もうこの時点で言い逃れは出来ない状況。ならば何の問題もない。

「難しいなぁ……」

 つぶやきが耳を叩く。ユウキさんのいない休憩室でフェイトちゃんが一人、コーヒーを見ている。一応機動六課内にも自動販売機は存在する。唯頗る売れ行きが悪い。むしろそんなものを飲む時は常に勤務中で、休憩室で飲むものではない。
 聞く話によると昨今の地上本部のほぼ全ての部隊舎の休憩室には喫茶店が設置されているそうだ。もちろんそこにいるのはプロ。そんな贅沢をして良いのかと思うが、お陰で効率が上がっていると聞く。働く時、休む時をしっかりするためだろう。
 さてここはひとつ、フェイトちゃんのために肌を脱ぐべきか。ティアナが他の新人隊員の世話で居ないため、録画は勿論されない。ならば証拠もない。

「悩んでいるようやな、フェイトちゃん」
「あ、はやて」
「何か、あったんか?」
「うん……人の親になるのは、思ったよりも難しいんだなって」

 そう簡単に慣れたならこんな悩みなどそもそも抱くわけもないだろうに。いや、むしろそう言った悩みを抱いている時点で十分に彼女は人の親と慣れるのだろう。もしやユウキさんはフェイトちゃんが悩むことを考えて、エリオの父親役を演じるのだろうか。
 流石にそれは考え過ぎと言うものか。要らない思考を排除し、買ったコーヒーにミルクと砂糖を投入。それから再びフェイトちゃんの隣に腰掛ける。

「まあまだうちらは十九歳やし、普通なら親になっているわけがない。そんな急に人の親になれるわけがない」
「うん、そうだね……その通り、なんだよ」
「無理せずに、せやな……ユウキさんのせいやっけ?」
「うん、まああの人のせいと言えばせいだけど、むしろお陰と言うか何というか。ユウキさんがいたからこそ気づけたことだから」
「……せやったら、まあ。そのユウキさんを観察するなんてどうや?」
「えっと、どういうこと?」
「何や、自分に足りていないことは分かっている。それをユウキさんが持っていることも分かっている。なら観察して、足りないものを知ればええ。せやろ?」
「うん……うん、そうだね。ありがとう、はやて」
「どういたしまして」

 良く言えば純粋な、悪く言えば天然なフェイトちゃんのことだ。私の予想としては暇なときは四六時中ユウキさんのことを観察する。
 そんなストーカー行為をされて良く思う人は普通いない。しかし相手が異性で、かつ美人であればどう考えるだろうか。特に性欲が強いと聞く男性ならあの美人のフェイトちゃんがもしや自分に恋心を抱いているのではと思うに違いない。
 そしてだんだんと近づく二人の距離。あわよくばそこに。そんなことを考えると口元が緩む。

「…………」
「………………」
「…………」

 監視スフィアで二人の様子を見る。フェイトちゃんは仕事がないときにずっとユウキさんを観察している。そのことをユウキさんはもちろん気付いているだろう。むしろ全く隠れていない顔に気付かないわけがない。しかし何も言わず、湯を沸かしている。
 仕事のときはしっかりとそつなくこなすフェイトちゃんでも、普段はかなりのドジっ子だ。だからあのばればれの隠れ方は普段だからで、決して仕事中はそんなことはない。そう信じる。

「フェイトも、紅茶飲む?」
「…………」
「そう……いらないんだ――桃のタルト」
「…………」

 全く持って面白い子である。ユウキさんの言葉に一々反応し、さらに現在はこのまま隠れて観察すべきか、はたまた出て桃のタルトを貰うべきかで葛藤している。現に少し身体が前に行っては戻ってを繰り返している。
 それにしても、録画映像を今一度見てみる。朝六時半、他の部隊員と共に朝食を摂る。それから十時ごろコーヒーを飲みながらチョコレートを少し多めに。十二時、昼食を人並みより少し多めに。二時に間食にクッキーを食べ、三時ごろ差し入れをすると共に自分も。四時、ケーキを取り出して今ここ。
 もしもこれが普段の食生活だとしても、どうして太らないのか。何故いろいろと間違えたスタイルを維持できるのか。それが疑問でならない。まさか太らない体質とでも言うのか。そんなファンタジー、認められるわけがない。

「残念だけど、いらないというのなら仕方がないか……」
「…………」
「………………」

 それを言えば先ほど間食を食べたばかりなのに、また食べたそうにしているフェイトちゃんも同じだ。甘いものを食べてもほとんど太らないのはリンディさんも同じ。あの二人、妙なところで親子だ。妬ましい。
 さく、という音がする。もちろんそんな微小な、タルトを切る音を拾えるわけがない。ただ映像だけでそんな音がした気がした。

「…………」
「………………そうか、気のせいか」

 カップが用意され、紅茶がそこに注がれる。まだフェイトちゃんは扉のところから動いてはいないが、その姿までは隠されていない。むしろ視線がずっとケーキに固定されている。

「…………」
「ん?」
「ほしい、です」
「思い悩むぐらいなら最初から素直になれば良いのに。おいで、フェイト。お茶にしよう」

 決して強要せず、むしろ自分からねだらなければ与えないとは、ユウキさんも意地が悪い。特に相手がそれを欲していると理解している辺り。出来れば私も分けてほしいが、それは欲が強いか。

「……フェイト隊長、言い方間違えていません?」
「ん、まあな」

 色々と言っておきながら、実は気になっているティアナとディスプレイを見る。彼女の言うとおり、フェイトちゃんはものの頼み方を少し間違えている。もしも相手に間違った意見の捕え方をしたならどうするつもりなのだろうか。
 今回は話の流れと言うものがあり、ユウキさんも常識人のため問題はなかった。今後は是非とも気をつけて貰いたい。街中で魔法を使われた場合、後始末が面倒なのだ。

「この部隊ほど非常識な部隊を私は知らないのですが」
「そういう意味やない」
「自覚はあるんですね」

 痛いつっこみを聞き流しつつ、今日のところはこれで終了。残された日数は短い。急ぎ足で言って何か良いことがあるわけではないが、何分時間がない。ここは少々危うくとも急ぎ足で言ってほしいものだ。

 夜中、面白いイベントもなく翌日。
 朝食後にユウキさんが自家用車でどこかに出かけるのを録画映像で確認。その手に重箱が多くあったことからなのはちゃんに弁当を届けに言ったのではないかと推測する。
 時に思うのだが、良く思うのだが、ユウキさんとなのはちゃんは夫婦関係を間違えていないだろうか。一方でなのはちゃんから聞いた話によると年間収入はユウキさんのほうが圧倒的に多いそうだ。では間違っていないのか。そうともいえない微妙な関係である。

「あ、ユウキさん」
「ん?」

 そして午前、屋上で猫や鳥などの動物に囲まれて午睡を楽しんでいたユウキさんが廊下を歩いているところをフェイトちゃんが声をかけた。

「――――あ」
「……こらこら、危ないよ。ハイヒールはこけ易いんだから気をつけなきゃ」
「あぅ、ごめんなさい……」

 天然とドジには定評のあるフェイトちゃん。その噂が伊達ではない光景を、私は見た。
 何もない場所で躓いた。しかもちょうど良くユウキさんに倒れこむという形で。これがもし何も策謀せずに戸言うのであれば、一体彼女は何者であろうか。いや、一体何に取り付かれていることだろうか。
 兎に角、そんな幸運に見舞われながらも好印象は与えれたことだろう。仕事中の引き締まったフェイト執務官と普段の天然でドジなフェイトちゃん。このギャップにときめかない奴は男じゃない。むしろ私が直々に教育を施す。
 さらにさりげなく押し付けられた胸。またちょうど良い位置に落ち着いた頭部。見上げられたあの体勢。ごめん、なのはちゃん。この世は常に弱肉強食なんや……

「所で、何の用かな?」
「あ、えっと……少し、一緒して良いかな?」
「……仕事は問題ないの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらしたから」
「なら、別に良いよ」
「うん、ありがとう」

 ほほう、これは中々に良い雰囲気というものではないか。この仄かに甘酸っぱい空気が何とも言えない。やはりなのはちゃんとは違うのだ。これこそ、十九歳のあるべき姿なのだ。
 そこに多くの言葉はない。ただユウキさんがいて、フェイトちゃんがいて。時々別れて、また出会う。それを望んだのは私ではあるものの、やはり彼氏のいない身としては嫉妬を覚えざるを得ない。



 翌日もまた同様に時は流れて行く。とりあえずきっかけは作れた。後はフェイトちゃんに頑張りに期待しよう。純粋な人を利用した罪悪感が少し胸が痛むが、これも仕方のないことなのだ。
 全ては、そう。全ては出会いのない職場環境が悪い。甲斐性のないこの職場が悪い。出会いさえあればこんなことをせずに済んだのに。

「そろそろ、帰ってきますね」
「せやな。今日中にはちゃんと掃除せなあかんな」
「手、震えていますけど大丈夫ですか?」
「ははは、そんなあほな……」

 そこのスイッチを押せば全消去。残された録画映像などなどは私の個人的な記憶端末に送られている。彼女がそこまで調べるとは思わない。
 残念なことに事実までは発展しなかった。それも致し方のないことだ。世の中思ったとおりに行くことのほうが少ない。特にそこに自分以外の誰かがいるなら、それは滅多にないといっても良い。
 そもそもこれはフェイトちゃんの天然と、そしてユウキさんの男性としての誤解を当てにしたもの。そのような不確定要素を主にした計画が上手くいくわけがない。むしろあのような関係になれただけでも上々と受け止めよう。
 さて、今日は別に特筆すべきことはなさそうだ。そう思いながら映像を見る。ティアナは訓練で疲れているのだろう。今朝一度姿を見せた切り、再び足を運んではいない。そのため、私一人だ。

「――――お?」

 つまらない結果に終わった。そんな落胆を抱きながら消し忘れなどがないかチェックをしつつ、監視スフィアの映像をリアルタイムで観察していた夜中。面白い光景が映し出された。
 それは寝間着のまま寮を歩くフェイトちゃんの姿だ。それもユウキさんとなのはちゃんの部屋の方向。これはもしかすると、もしかしなくとも?
 何とまあ、まさかフェイトちゃんの方から押しかけるとは考えてもいなかったが、中々に大胆な女性だ。もしくはしたたかな。

「ユウキさん……起きていますか?」
「フェイト? こんな夜更けにどうしたの?」
「あの……ちょっと、寝付けなくて」
「ふぅん……まあいいか。どうぞお入り。そんな所で突っ立っているのも、何だろう?」

 流石にプライベートにまで監視スフィアをしかけることは不可能。そう言って諦める私ではない。ここまできたならくだらないことで諦めるわけにはいかない。最寄りの監視スフィアを移動させ、静かにフェイトちゃんの後を追わせる。
 魔力が雀の涙ほどと公言しているユウキさんがそれに気づくわけがない。またフェイトちゃんも今は別の事に気が向いているようで、気付かない。

「で、本当にどうしたの?」
「うん…………えっとね。あの……一緒に、寝ても良いかな?」

 良し、行った。私のしてきたことは決して無駄ではなかったという確信と共に、今後の計画を慎重かつ大胆に練りつつ、事の前には監視スフィアを消去しようと考えた。



 そして話は冒頭に戻る。
 何故ここで、ここまで用意されたと言うのに彼は、健全に一緒に寝る――添い寝と言う行為を取ったのか。そしてフェイトちゃんもフェイトちゃんで何の不思議もなく寝ているのか。
 もっとこう、押し倒す甲斐性と言う者は存在しないのか。据え膳食わぬは男の恥と聞く。どうしてここまで用意された据え膳をユウキさんは手を付けようとしないのか。それが気に食わない。
 ここはフェイトちゃんの決断をたたえ、押し倒すのが男と言うものだろう。その怒りが、心の中を占めている。
 そして私は、文句を言うためにデバイスを片手に部屋を……



今日のなのはちゃん

「三連休で手を打ちましたが、今は自分の浅はかな決断に後悔しかありません。それではこれより刑執行を開始します。受刑者、前へ」
『なお、せめてもの慈悲と言うことで全力で行わせてもらいます。喜びなさい。私のフルスペックを拝めるのはあなたが三人目です』
「……全く、嬉しくない」

ピチューン



[18266] 第十四話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/07/17 03:29
 なのはの機嫌が優れない。そんな事は今の態度を見れば十分に分かる。何せ僕が帰ってきてもお帰りの一言も無く、ベッドにうつ伏せになってこちらを見ようともしない。
 心当たりは主に三つある。一つは近頃休暇を取れなくて満足に羽を伸ばせていないこと。一つはつい先日、部隊長に三連休をあげるからという誘いに乗って任務についた折、僕がフェイトと添い寝したこと。
 そして最後の一押しは、今日。

「むすー」

 如何にも怒っていますと言うように声に出さなくても分かると言うのに。確かに僕は鈍感と、人の思いを踏み躙ることが多々あると言われるけど、そこまで態度で感情を表現されたなら流石に気づく。
 さて、最後の一押しとなった原因、それは昨晩から今日にかけてあった彼女たちの任務にある。ホテルアグスタにて行われたオークション、その警護で昨夜遅くから出張っていた。
 出発時、なのはが僕に一緒に行こうと誘ったのだが、生憎今朝は外せない用事――朝市があったため丁重に断った。たぶんこうなったのはそのせいだ。本当にこの子は、パーティ一回ぐらいで。そう思いながらベッドに腰掛ける。

「…………」
「ただいま」

 何度言っても返事は来ない。顔も向けない。うつ伏せになってふてている。時々こういう風に子供っぽい仕草を見せるのだから本当に、なのはは可愛い。
 考えてみれば彼女はまだ十九歳、両親から聞いた話ではまともな子供時代を送っていない。その反動が時折顔を見せている。そう思えばこのような行為も憎めない。例えそれを抜きにしても憎むわけがない。

「このまま寝たら髪、痛むよ?」

 僕が帰ってきたことに気付くとすぐにこの状態に移ったのだろう。辺りを見回せば制服の上着がそこらに放り投げ出されている。後でアイロンをかける必要があるかもしれない。出来れば今すぐハンガーにかけておきたいが、それは間違いか。
 痛まないように髪をほどき、ブラシをかける。本当にふてているなら振りほどけば良いのに、大人しくなすがままになっているあたり、中途半端と言うか何というか。
 きっと彼女の中で甘えたいという欲望とふてていたいという感情がせめぎあっているのだろう。少しは正直になればこちらも対応が楽なのに。

「…………」
「………………」

 それが終わったら頭を撫でる。正直、今すぐ風呂に入ってのんびりまったりとしたい。一人静かに癒されたい。だが、現在のなのはを放置したままどこかに行くのは避けたい。避けなければ、後悔が立つ。
 そう思って頭を撫でているわけで、機嫌治れば良いなと祈りを込めて撫でているわけで。案の定、やはり、思った通り、確実に頭が上がってきている。先ほどまでとは違い、段々と頭をあげてきて、僕の手に押し付けている。

「………………」
「ん……ふっ、あ」
「…………」
「ふー」

 うなじや耳たぶを弄ると鼻にかかった猫撫で声を零れる。たまに手を休めるともっととせがむように頭をこすりつける。催促に応じてまたなでると嬉しそうに鳴き声を出して。
 それを見て少しため息が一つ。ただ、ここまで言っても一向に顔をこちらに向けないのは少々、まだいじけているのだろう。やれやれ。
 このまま撫で続けていればその内機嫌を良くする。そんな事は分かっている。ただ、そんな時間はあまり残されていない。僕もなのはも未だ体を洗っておらず、また彼女に至っては夕食すら食べに来ていない。多分、まだ食べていない。
 だから余り、思ったほど時間は残されていない。さて、どうしようか。レイジングハートも空気を呼んでスリープモードを決め込んでいる。助け船は期待できない。

「にゃ、にゃ、にゃぁあ」

 なのはは意外と首が弱い。特に弱い所はうなじの部分で、それも触れているのか触れていないのか、かなり優しい触り方に顕著に反応する。閑話休題。箸休め。
 このまま、と言うわけにもいかない。ならば仕方がない。良心は一つも痛まないが、ここは少し意地悪をしよう。お仕置きと言うほどでもない、本当に些細な意地悪を。

「…………ぁ」

 急に撫でるのを止め、縋る暇すら与えずに手をどかす。そして何かを言う前にベッドから腰を上げる。名残惜しそうな声が聞こえても無視。多分今振り返れば、雨の日に捨てられる栗毛の子犬のつぶらな瞳が見れるだろうが、それでも無視。
 ドアを目指す。隊長に与えられた部屋ともなれば簡易キッチンに個人用の風呂もあるのだが、やはりあるのであれば大きい風呂に入りたい。と言うわけで隊員用の浴場を目指す。果たしてなのはの目にこの光景がどう映るか。

「や……だ……」

 ベッドから腰を上げる。ドアに向かって足を運ぶ。その前に、腕が掴まれる。この部屋にいるのは僕を除いてなのはしかいない。だから僕の腕を握ったのが彼女であることなんて考えずとも、見なくとも分かること。

「なのは……」
「……ユウキくん」
「体、洗ってくるだけだから、離して?」
「やだ……」

 彼女が一体何を恐れているのか、他人の心は本当に分からない。ただそれでも、何を望んでいるのかは何となく分かることができる。何かを恐れていることは自然と理解できる。
 さて、この手を振り解くべきだろうか。なのはが魔力で肉体を強化していないため、振り解くことは簡単に出来る。まだ彼女の表情を見ていないから、やろうと思えば簡単に出来る。

「いっちゃ、やだ」

 しかし出来ないのが僕の弱み。大切な人の願いを叶えようと、幸せであれと願ってしまうのが根幹にある以上、言葉にされたのであれば断れない。とりあえず、立ったままというのも妙なので再びベッドに腰掛ける。
 それだけで吐息が零れるのだから人は本当に簡単にできている。そのくせ分かりづらく、些細なことでへそを曲げる。それも僕にとっては些細なことなんだけど。

「うぅ、今日のユウキくんはいじわるだよ」
「うん、ごめん」

 眼が赤い。捨てられることに酷く怯えている。例え捨てられることがないと分かっていても、心すらそれを理解していても、そんな素振りすら見るのが嫌なのだろう。少し、意地悪が過ぎた。
 なのはも姿勢を直し、僕の傍に座る。重ねたままの手が彼女の体温を伝えてくれ、落ち着く。僕は低体温だから他人の体温は暖かく、心地良く感じられる。

「大丈夫だよ。僕は傍にいる。君が望む限り、傍にいるから」
「……うん」
「今度、三連休があるんだよね?」
「うん」
「どこに行きたい?」
「……家で、ゆっくりしたい」
「ああ、それも良いね。じゃあそうしようか」
「約束だよ?」
「うん、約束」

 未だになのはの機嫌が優れない。僕の知らない間に、今日の任務中に何かあったのだろう。ただここまで抱えるとなると、それはきっと彼女自身の問題ではなく、身近にいる他者の問題。
 ならば今、僕に何かできることなど当然あるわけがない。ただ、僕にできる僅かなことと言えば、精々。

「所でなのは」
「……ん?」
「まだ、晩御飯食べていないよね」
「え、えっとね! それは、そう。ユウキくんが――」
「今から良い逃れようとしても無駄だよ。少し、そこに座りなさい」

 こうやって、気を紛らわせるぐらいだ。説教するのも程々に、なのはの食事に少し付き合って、体を清潔にし、少し彼女の我侭を聞いて、その日は眠りについた。
 さて残された課題、なのはが勝手に抱え込んだ他者の問題。それについて知る人と話し合わねばどうしようもないだろうと考えていたら、意外と向こう側から来てくれた。というか後日来た。
 その時の気持ちを例えるなら、知り合いの猟師が鴨と葱を背負って来て、さらにまな板や包丁も用意していた、そんな気分か。つまりはやれか。やれと申すのか。でも火がないのですが。

「で、僕にどうしろと?」
「いや、どうにかしてくれねぇっすかね、旦那。俺じゃあ余り強く言えないんですよ」
「そう、言われてもねぇ……」

 この時の猟師はヴァイスで、鴨がティアナで、葱が問題の説明だ。まな板と包丁は問題を解決する場となると、現れるのは少し先か。
 溜息混じりに葱を捌く。問題の種はこの部隊に来たときからあったのだろう。回りはエース及びその候補、未来に期待されている若者だらけで、自分は素質がない。何故自分が選ばれたのか、その疑問を持ったまま無理をして、弾けた。
 正直、選んだ人が選べなかった人を妬むのは間違っているとしか言い様がないのだが、流石にそこの理解を強要するのは無理がある。七つの大罪は人が最も思い描きやすい負の感情。それを容易くどうこうできるなら、世界は聖人で溢れている。

「そもそも自分らで解決しようとは思わないの?」
「考えなかったわけじゃないが、正直あの若い隊長たちに解決できるか、と思えないんだ。副隊長も、確かに長生きはしているけど不器用そうだし……こういった問題を頼める相手が旦那しかいねぇんだ。すまねぇ」
「まあ、確かに選ばれた人に任せるには無理のある問題か……」

 続いて鴨に手を伸ばす。一般人に比べて才能のある、しかし機動六課というきわめて狭い世界で見れば主だった才能のないティアナ。周りが才能だらけの中で一応凡人である彼女が受ける圧迫は一体どれほどのものか。
 しかし、考えてみてほしい。戦えるだけの才能、リンカーコアの素質を持つ人が果たして全人口の何パーセントか。どれだけ才能がないと言っても、本当に手に入らなかった者からすればそれは嫌味以外の何物でもない。
 何より、彼女は知らないのだろう。才能があるから、才能ある故に持つ、選べない人々の苦悩。なのはが時折、夜中泣くことを。何よりティアナが求める力の本質を。だから求めることが出来る。
 だが、そこまで考えてまだ分からないことが一点。それはティアナが何を考え、何を望んでこの世界を選んだのか。僕にはそれが理解できず、故にまだするべきではない。

「はい、鴨南蛮」
「頂きます」
「本当に、タイムリーだな」
「何がです?」
「いや、こっちの話」

 鴨と葱を買った翌日に、別の鴨と葱がやってくるとは。普通は考えないし、普通は起こらない。ええい畜生、あの販促上手な婆さんめ。品も良いから憎めないじゃないか。
 これだけ場を整えられた手前、何もせずに終わるというのも気が引ける。何かするにせよしないにせよ、自分に何が出来るのかは把握すべきだ。というわけで時は夜、ヴァイスに聞いた場所に向かう。

「…………」
「………………」

 そこでは彼が言っていたとおり、バカがバカをやっている。なのはの訓練は生易しいものではない。それでも正式な武装隊員ということもあり、緊急時に備えて余力を残せる訓練をしている。なのに彼女は勝手に自己訓練をして自分を追い詰めている。
 訓練兵の身分ならそれも許される。しかし彼女はもう正式な兵士だ。最悪に対応した、緊急に備えた構えをしなければならない。しかも体を休める時間が十分にないようだ。あの様子ではいくら鍛えても無意味に身体を痛めつけるだけだ。
 そこまで強くなりたいとは分かる。では一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか。これは実際に話さなければ分からない。

「や、熱心にしているね」
「……止めに来たのですか?」
「いや、別に。唯夜風に辺りに来ただけだよ」

 適当な木に背を預ける。問題はここからだと、着流しの袖から瓶のラムネを取り出した。もちろん飲むためである。やはり夏の風呂上がりはビールも良いが、瓶のラムネも外せない。特に瓶の辺りが大切だ。

「所で、こんな夜分遅くにまで自主訓練なんて、身体もつの?」
「凡人が、皆について行くにはこれぐらいしかないんで」
「まあ、それもそうなんだけどね」

 質問の答えになっていない。ただ、答えて貰わなくとも答えは十分に見えていた。正直に言って体の疲労が酷過ぎる。あんな状態で戦場に行けば足手纏いにしかならない。果たしてそれを理解したうえで彼女はやっているのか。
 は、ないか。もしもそんなにも賢いのならばやっているわけがない。ならば気付いていない。それでいてこれが正しいと思っている。本当に面倒な話だ。

「でもティアナは凡人じゃないでしょ。少なくとも、僕よりは恵まれている」
「魔法なしとは言え、シグナム副隊長に勝った人に言われたくはありません」
「それでも恵まれているよ。だって君は、普通に生きていられるのだから」

 だから、恵まれている。天に選ばれる。それがどれだけ残酷な現実か。例えその人の意思にかかわらず、選ばれたと言う時点で未来が確定する。避けられない事象が存在する。ヴァルも、アリーシャさんもティアさんもゼノンもアウルも、蘇芳も。そして、僕も。
 なのはもフェイトもはやても、スバル、エリオにキャロ、ジェイル。逃れることを許されない運命や責務に拘束されている。だから天に選ばれず、選択する自由を僅かでも与えられたと言うのならば、彼女こそ本当に恵まれた人物だ。
 魔力が無く、ただ自分の無力を呪うわけでもなく。才能があり、意思と無関係に戦場に立たされたたわけでもなく。自分の意思で、自分の足でここにいる。しかしながら人は、特にこういう人はその天恵を尽く恨むのだから腹立たしい。

「恵まれているなら、こんなところにいません。私は恵まれなかった凡人なんで、不器用に不恰好に努力するしかないんです」
「……ティアナ、特別の意味を考えたことはある?」

 特別ではないほうが良かった。それは選ばれた者の傲慢。何故自分にはないのか。それは選んだ者の強欲。どちらもただ、自分に与えられたもの、手に入らなかったものを怨み憎む思念。
 僕も普通がほしかった。何も知らず、運命に縛られず、特別もなく。ただ親しい人と共に笑い会えたなら。そして、ただ静かに普通に死ぬことが出来るなら。
 その思いはもう遅く、僕は存在する以前に普通を手にすることが出来ない運命にある。今思い返せば、もしかしたら世界にとって僕の、僕たちの反逆も予定調和だったのかもしれない。今となってはどうでも良いことか。

「いえ、特にありませんが……」
「それでいて特別が良かったと?」
「当然でしょう。人は誰しも特別でありたいと願うものですから。それが普通じゃないのですか?」
「まあ、確かに」

 苦笑が零れる。やはり特別の意味を考える人も、知る人も数が少ない。ましてやそれを知らずに特別でなくともよいと考える人はさらに少ない。正直この長い人生の中でもそんな人は片手で足りるほどしかいない。
 求めるならば深く考えてもらいたい。知らずに手に入れたなら求めるものとの際にまた煩くなるから。そもそも望むものが望む形で与えられることなんて本当に夢物語だというのに。そのぐらい、現実を見るものなら誰しも理解しなければならないことだ。

「でも、特別で良いことなんてほとんどないよ」
「それでも何もないよりはましでしょう。何せ特別な才能があるのですから」

 そのせいで大量虐殺をさせられたり、四六時中命を狙われたり、無価値な生を運命づけられたり、大切なものを失わされたり、その記憶を奪われたり、その他色々またそれら。押し付けられた運命を見ずにただ才能を羨むのは間違いだ。
 まあ僕の思い描いた人々は全て極論に位置する人。しかし特別、異端異質異常と呼ばれる才能を持つ人は常にそう言った運命を背負わされている。
 彼女はきっとそう言った普通とは違う特別を知らない。ただそれだけを求めているだけで、背負わされるものを知らない。ああ、受け入れられたなら良いだろう。まだなのはやフェイトたちは幸せな方だ。しかし世の中、そう言う人は少ない。
 キャロ、エリオ、スバル。彼女たちはその特別、特異のせいで何かを背負っている。そんな事は目を見れば分かる。
 また人は得られる特別を選べない。あけるまでその中身は分からず、空けた以上その中身を受け入れなければならない。まさにパンドラの箱。

「その分、対価として様々なものを奪われている。特に努力なんて才能によらず、求めるなら当然支払わなければならない通貨だ。ただそれだけを払って、自分にはないと妬むのは間違いだよ」
「ではどうすれば良いと言うのですか? 今以上に努力した方が良いと言うのであれば邪魔しないで貰えますか?」
「いや、そんな暇があるなら自分が持つ才能を探したほうが良い。出来ることを見つけた方が有意義だ」
「そう言った才能がないから凡人なんですよ。捜す時間があるなら、訓練した方が有意義です」

 自分に出来る事、ここにあるものを自覚した上でのちゃんと訓練なら効果がある。またそうやって自分を壊すのは別に構わない。ただ、そのせいで他人に迷惑をかけるのは困る。それだけの話だ。
 ヴァイスに聞いた話によると、任務中に仲間を誤射しそうになったそうだ。非殺傷設定だから殺しはしないという気の緩みがあるのだろう。だが、誤射のせいで敵が仲間を殺したなら。それさえなければ殺さずに済むのではないかと言う罪悪感が付き纏う。
 罪悪感がなくとも部下がそんな事をしたらたら自分のせいだと塞ぎこむバカが身近に一人いる。それは是非とも阻止しなければならないことだ。事後では余りに遅すぎる。

「……何でそんなにも力が欲しいの?」
「何でって……必要だからじゃないですか」
「人殺しの力が必要? いくら非殺傷設定とは言え、上空で魔導師を失神させたら粗悪なデバイスだとバリアジャケットの展開が解けて墜落死する。心臓の弱い人は魔力でショックを与えるだけで心臓が止まる」

 それが極端な話になると僕に至る。流石にそこまでの人は僕以外いないが、世の中魔力過敏症と言う非殺傷設定も殺傷設定もどちらも不味いと言う人は少なからず存在している。一応、僕もそれに属していることになっている。
 なお、魔力過敏症と言うのはアレルギーの一種で、酷い人だと非殺傷設定でも魔力の干渉で心臓が止まる。
 何で着飾っても力は暴力、魔法は力、力は僅かな殺意で殺戮を可能とする。生きる上で命のやり取りは仕方がない。生きるため、守るために力を求めるのは仕方がないが、殺した以上ついという言葉は認められない。例えどのような理由であれ、罪を背負わなければならない。
 このような力の本質を知っている人は少ない。機動六課に限ってみればなのはとエリオ、ヴァイス。あとキャロ辺りも知っていそうだ。

「強くあればあるほど人はその人に期待する。強いのだから、力があるのだから、無理な注文をする。それに答えなければ異端として扱われ、それに背けば異常として見なされ、それを無視すれば異質となる。
 だけど、皆の願いにばかり答えて行けば自分の守りたい者が守れないようになり、また守る者が増えるために必然的に手から零れるものも増える。隊長たちがその例だ。
 強さは弱さだ。強くなるほどに守りたいものが守れなくなり、弱くあればそもそも守れない。そう言う意味で君はちょうど良い所にいるんだけど……」
「ですが――」
「何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない」

 守るため、奪われないため力が欲しいと願った。生れつき異端で、それ以前から異質で、そもそも異常で、今以上特異になってもさして変わりはない。そんな僕だからこそ力を求めることが出来た。
 でも、理解していなかったわけではない。選ぶということが選ばないことであり、力を手に入れる以上責務があり、運命があることを。それでも奪われるのは辛い。だから、求めた。存在すら掛け金に出したほどだ。
 彼女にはそんな覚悟が感じられない。努力すれば追いつけると思っている。幻想を抱いている。もちろん世界はそれほど甘いものではなく、才能あるないにかかわらず努力と時間は払わなければならない対価。それ以上に選ばれた者は普通と人生を対価に払わされている。

「時間はまだある。だから考えた方が良い。自分の求める力、その本質。そして、本当にそれが求めるものなのか。僕に言えることは、そのぐらいかな」
「…………」
「ああ、もう一点。君は訓練兵ではなく、正式な武装局員だから。その辺勘違いしないように。じゃあしっかりと休息を取るんだよ」

 そう言って立ち去る僕の背中を彼女は黙って見送った。この言葉で緊急時の即時対応が求められているため、万全の体調の管理維持が必要と言うことを悟って欲しい。
 正直な話、僕はティアナが好きじゃない。理由の一つは彼女が中途半端に僕たちに似ているから。このまま勘違いして進めば、いつか彼女は失いたくないものを失う。それは気付いた時には余りに遅い。
 先輩として、そんな経験を数多く積まされた人として、僕はそんな思い間違いを犯してほしくはない。いくらこの世界が安全とは言え、可能性は極力減らしたい。その覚悟すらなく力を求めているのもまた、僕が彼女のことを好きになれない理由の一つだろう。
 そうこう言ってもどうにかしなければならないのが僕の役目。零れた吐息は、静かな夜空に吸い込まれて消えた。ああ、静かに笑って過ごせたなら、それで満足なのに。

「――――あ」

 そう言えば何故ティアナが力を求めているのか、その理由を聞くのを忘れていた。まあ良いか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 新設された部隊、古代遺失物管理部機動六課。ロストロギアの発見に対する即時対応を目的とした部隊であるが、それを加味しても部隊構成は異様だ。異常といっても差し支えない。
 何せ部隊の隊長陣営は誰をとってもエースや天に愛された才能を持つ人たち、前衛だけでなく、後衛も時折名を聞くほどの人。また新人も未来に期待される光るものを持つホープ。
 そんな異常な構成の中で私だけが、極普通の一般人。本当に、何故私がこんなところに呼ばれたのか。いまだそれは理解できない。私以上の人なんて探せばいくらでも見つかるというのに。
 まさか、私がいないとスバルが手に入らないと考えたのだろうか。それなら一度隊長たちを殴りたい。ふざけるなと殴っておきたい。
 それはまた別の話として、私が彼らに追いつくためには同等の努力では足りない。何せ下地やスタートライン、才能が違う。人としてそれは当然だが、私は余りに足りない。

「ふっ、せい!」

 ならば追いつくために何を払えば良いのか。そんなもの、努力以外にない。理由は知らないが、なのは隊長の訓練は追い込みが足りない。それもあって私は夜中に一人、訓練する。
 昨夜来たヴァイス陸曹は自分より才能があると言った。確かに一般人に比べてみればあるほうなのかもしれない。しかしこの部隊において、少々は無いに等しい。
 この思いは傲慢だ。そんなことは理解している。だが、仕方が無い。この部隊で才能ある彼らについていくためにはこれしか道がない。事実今でさえ、わずかとは言え私は遅れている。足手纏いになっている。
 流石にこれ以上は嫌だ。残されたくない。何より、再びこの手に残されたものが無駄、無意味であると言われたくない。

「や、熱心にしているね」

 今日もまた一人訓練に励んでいると、後ろのほうから声が掛かる。その声は毎日聞くもので、振り返らずとも誰が来たのかすぐに分かった。
 それでも振り返って確認すると、やはりなのは隊長の恋人であるユウキさんだ。この部隊で数少ない一般人だと思っていたら、そうではない人。
 彼もまた、ヴァイス陸曹と同じ目的で着たのか。なのは隊長の恋人であることを考えると、その可能性が最も高い。だが、無駄だ。私はその程度で止めるつもりはない。
 止められる程私の目的は軽いものでもない。また正直、彼らのような天に愛された人たちの言葉は嫌味にしか聞こえない。

「止めに来たのですか?」
「いや、別に。唯夜風に辺りに来ただけだよ」

 確かに、その通りのようだ。赤みを帯びた顔に少し水気を含む髪、いつものバーテンダーの服装ではなく浴衣らしき服装。それらから風呂上りであることが推測できる。
 ユウキさんは木に背を預けると広い裾からビンを取り出した。ラベルに何か書かれているが、この世界の言葉ではないので読めない。ただ、泡が出ているところから炭酸飲料のようだ。何となく、涼しげな雰囲気がある。

「所で、こんな夜分遅くにまで自主訓練なんて、身体もつの?」
「凡人が、皆について行くにはこれぐらいしかないんで」
「まあ、それもそうなんだけどね」

 凡人は無理でもしないと、あんな人たちに追いつくことは到底出来ない。特にこの前の任務中は酷い失敗をしてしまった。もう二度とあのような失敗を重ねないためにも、無理に慣れる必要がある。
 もしもあのような失敗を重ねてほしくないと、そうなのは隊長たちに頼まれたのなら黙認してもらいたい。別段迷惑になっていないのだから、少々構わないだろう。
 何よりこのような自主訓練は当然するものだ。隊長らも毎日しているのは知っている。またユウキさんも毎朝している。だから、このぐらい。

「でもティアナは凡人じゃないでしょ。少なくとも、僕よりは恵まれている」
「魔法なしとは言え、シグナム副隊長に勝った人に言われたくはありません」
「それでも恵まれているよ。だって君は、普通に生きていられるのだから」

 普通、それのどこが恵まれているというのか。恵まれていないからこそ人は普通なのだ。ユウキさんのその言葉はまさに、持つ者の言葉にしか聞こえない。いや、事実そうなのだ。
 デバイスを作成でき、魔法を制限した場では騎士にすら勝利できる力を持ち、豊富な知識を有する。出来ないことが見当たらず、容姿も整っている。ある意味機動六課で最も恵まれた人だ。
 ただ一点、リンカーコアにだけ恵まれなかったことを除けば。それさえなければ本当に完璧超人といっても過言ではない。

「恵まれているなら、こんなところにいません。私は恵まれなかった凡人なんで、不器用に不恰好に努力するしかないんです」
「……ティアナ、特別の意味を考えたことはある?」

 前触れも無く、ユウキさんは問いかける。特別の意味、いや考えたことはない。ただ普通とはかけ離れ、私たちとは違う、本当に天に選ばれた人のみが持ちうる何か。常識的にその程度は分かっているが、また私が知っているのもその程度だ。
 そもそも特別は考えなければならないものなのだろうか。自分にないから求め、手に入らないことが分かっているから別のもので補おうとする。それは余りに当然のもののはずだ。

「いえ、特にありませんが……」
「それでいて特別が良かったと?」
「当然でしょう。人は誰しも特別でありたいと願うものですから。それが普通じゃないのですか?」
「まあ、確かに」

 正直に言って、私はユウキさんのことが嫌いだ。今まで会った人の誰よりも、というほどではないが、しかし何となく好きになれない。漠然と嫌いである。
 理由は分からない。だがその感情が私を意味なく苛立たせる。何故私が彼を嫌うのか、その理由の一部でも分かればこの思いは和らぐだろうか。

「でも、特別で良いことなんてほとんどないよ」
「それでも何もないよりはましでしょう。何せ特別な才能があるのですから」

 誰かに誇れるものがあるのならこれほどまでに努力することも、ましてや私のように思い悩むこともない。何より優れたものがあるのだ。特別な才能があるのだ。それだけで良いことがないなんて事は言わせない。

「その分、対価として様々なものを奪われている。特に努力なんて才能によらず、求めるなら当然支払わなければならない通貨だ。ただそれだけを払って、自分にはないと妬むのは間違いだよ」
「ではどうすれば良いと言うのですか? 今以上に努力した方が良いと言うのであれば邪魔しないで貰えますか?」
「いや、そんな暇があるなら自分が持つ才能を探したほうが良い。出来ることを見つけた方が有意義だ」
「そう言った才能がないから凡人なんですよ。捜す時間があるなら、訓練した方が有意義です」

 やはり、話すだけ無駄か。彼が何を思ってここに来たのか。理由の一つは私の努力を笑いに来たのだろう。それはさぞかし、才能のある人の物言いだ。
 そこまで考えて、彼に背を向けた。これ以上彼の顔を見るのは余り気持ち良いものではない。もしこれ以上見続けたなら、アクシデントに任せて魔力団の一発でもその顔面に叩き込みそうだ。もちろん、そんなことはしないが。

「……何でそんなにも力が欲しいの?」
「何でって……必要だからじゃないですか」
「人殺しの力が必要? いくら非殺傷設定とは言え、上空で魔導師を失神させたら粗悪なデバイスだとバリアジャケットの展開が解けて墜落死する。心臓の弱い人は魔力でショックを与えるだけで心臓が止まる」

 航空魔導師が上空で失神し、バリアジャケットも張れず墜落死。そうめったに聞かない話だが、私にとっては思い出深い話だ。
 地上本部で数少ない航空魔導師であった兄、ティーダ・ランスター。殉職の原因は自分より魔導師ランクが上の違法魔導師を追跡中、相手の攻撃を受けて上空で失神。そして墜落死。だからその話はめったに聞かずとも、私にとってはなじみの深い話だ。
 ああ、確かに彼の言うとおり私が求めている力は時として人を殺める。しかし、それを防ぐために非殺傷設定がある。それでも防ぎきれない危険は各自で注意すれば良い。それだけの話だ。
 何より力がなければ叶えられない目的がある。私の目的――兄の技術は無駄ではないことを証明するためにも力は必要だ。

「強くあればあるほど人はその人に期待する。強いのだから、力があるのだから、無理な注文をする。それに答えなければ異端として扱われ、それに背けば異常として見なされ、それを無視すれば異質となる。
 だけど、皆の願いにばかり答えていけば自分の守りたい者が守れないようになり、また守る者が増えるために必然的に手から零れるものも増える。隊長たちがその例だ。
 強さは弱さだ。強くなるほどに守りたいものが守れなくなり、弱くあればそもそも守れない。そう言う意味で君はちょうど良い所にいるんだけど……」
「ですが――」
「何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない」

 反論しようと振り返って、息が止まった。別段ユウキさんが並々ならぬ怒気を放っているからではない。どのような感情も浮かべていない瞳にどこか恐怖と、懐かしさを感じたからだ。
 まさか私は彼と会ったことがあるのだろうか。いや、それはない。彼自身私とあったときは初めましてと自己紹介をし、私も同じように行った。二人揃ってそうであり、またそのときはこんな懐かしさを覚えたことはない。ならば初見ではないと考えにくい。

「時間はまだある。だから考えた方が良い。自分の求める力、その本質。そして、本当にそれが求めるものなのか。僕に言えることは、そのぐらいかな」

 立ち去る背中を、私は黙って見送る。
 ユウキさんが自分の才能に驕って、また凡人の努力を笑いに来たのではない。かといって心配してきたわけでもないようだ。
 考えて見れば自主訓練を止めるなど、コックでは越権行為だ。そもそも止めること自体間違っている。一応心配して忠告する程度ならまだ問題ないが、かといって彼はそれすらしなかった。
 人の努力を笑いに来たのか。そう思ったがそれも違う。最後まで私の努力を無駄とは言わなかった。見下した眼もしていない。ならば、本当に何が目的なのか。それはやはり、不明のまま。

「ああ、もう一点。君は訓練兵ではなく、正式な武装局員だから。その辺勘違いしないように。じゃあしっかりと休息を取るんだよ」

 ただ、それもあるのだろう。既に私は訓練兵ではなく、正式な管理局員。それも武装隊員。故に足手纏いになることは許されず、故に与えられた任務をそつなくこなす技量を求められている。ならば、努力して追いつかなければならない。
 ユウキさんの背中を見えなくなるまで見送った後、私はまた訓練を開始する。急速は十分に取った。だからまだ出来るはずだ。そう思い、身体に鞭を打った。



今日のレイハさん。

『あの……空気を呼んだ私の出番は?』



[18266] 第十五話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/07/26 00:24
 胸元から規則正しいリズムで寝息が聞こえる。この状態に優鬼が移るまで掛かった時間はおよそ三分。となるとかなり無理をしているようだ。少なくとも昔の優鬼では一ヶ月少々の入院生活を約束されていておかしくないほど無理をし、疲労を溜めていたようだ。
 そっと頭を撫でる。少し癖のある髪が指に絡まるが、それでも滑らかなため触り心地は良い。くすぐったかったのか、頭を押し付けてきた。本当に熟睡しているようだ。それも仕方がない。
 優鬼は不老不死となってから無理をする頻度が多く、その程度も酷くなった。昔は倒れない程度、病院に行かない程度に抑えていたものの、死なないとなっては死ぬほど、事実死んだほど無理をする。
 全く、迷惑極まりない話だ。こちらが望めばいとも容易く無理をしてでもかなえようとするなど。私たちは一度たりともそんなことを望んでいないというのに。むしろ泣いてほしい。無理やり作った笑顔より、本心で良いから泣いてほしい。そう願うのは、無理もないこと。

「……本当に、ばかな人」

 少々の天変地異では起きないほど深い眠りに落ちたことを確認すると環境を整える。まずは畳、横になれる場所。続いてエアコンを切る。優鬼の体は今も弱く、エアコンのような人工的な空気を苦手としている。
 それから窓を開放し、風鈴を下げ、肌の弱い優鬼のために日傘を差し。ミッドの気候制御装置は悪いが、つい先日にヴァランディールとゼノンと私で壊させてもらったため、窓から入ってくる風は梅雨混じりの春の匂いがする。
 以上の事を完了してからまだ寝ている優鬼の傍に座り、その頭を自分のひざの上に乗せる。すると自然と彼のほうから自分にとってちょうど良い場所に移動する。

「ん、むぅ……くー」
「…………」

 優鬼にはいくつか今も昔も変わらない習性がある。その一つが絶対的に安心できる、暖かい場所にいるとすぐに眠たくなり、疲労の度合いによっては即座に眠ってしまうことだ。
 この時の安心できる場所とは自宅、安全が保証されているといった意味合いではなく、自分が信頼できる人の傍であるという条件である。暖かい場所も夏や春といったことではなく、ただそう感じるところであれば問題ない。
 ちなみに今回私が行ったことはただ抱きしめただけである。こういうときばかりは自分の胸が一般的な女性より大きいことに感謝する。男性には少しばかり無理がある行為だから。

「優鬼、確かに私たちは目の前の問題を解決したいと思う。でも、でもその過程であなたに無理をしてほしくないの。いくら私たちに死があり、あなたにそれがなく、いつか別れなければならない時が来るとしても、例えその時であっても、私たちはあなたの無理した笑顔は見たくない」

 言い聞かせたところで意味などない。どれだけ言ったところで大切な人を守り、愛するというのは彼の本能。ただ大切な人に笑っていてほしいと思うのは今も変わらない彼の願い。

「嫌なことがあれば怒っても良い。悲しいことがあれば泣いても良い。辛いことがあれば何時でも傍にいる。頼れば何処でも駆けつける。だけどいらない。無理した笑顔なんて、望まない」

 大切な人に、失いたくない人に笑っていてほしいと思うのは何も彼だけではない。私はもちろんのことながら、彼の傍を好む皆が望み、また人である故に逝ってしまった人々が私たちに託した心残りだ。
 優鬼は死なない。不老不死だ。どれほど私がそれを理解しても、どれほどそれが事実であろうとも、自分の夫が死ぬ場面を良しとする妻がこの世の何処にいようか。少なくとも私は一度たりともそれを受け入れたくない。

「お願い、泣いて。怒って。笑うのは明日で良いから、明後日でも良いから、無理をしないで……」

 たぶん、彼はこの思いを知っている、ちゃんと理解している。それでも無理をしてしまうのはまあ、彼がそういう人だから。
 果てしなく長い時間の中で変化していった部分が多々あるけれど、そういった根幹をなす部分において一切の改善が行われていない。むしろ不老不死のせいで歯止めがなくなった。

「…………」

 もちろん分かっている。ただ優鬼はいつものように、いつもと変わらず後悔の少ない選択をしたいだけ。奪われる痛みを誰よりも知っているからそれを防ぐために子供のようにあれこれと手を伸ばしているにしか過ぎない。

「次は、誰に言いつけようかしら?」

 こんなことをしても所詮一時凌ぎにしかならない。精々彼が自滅するのが明日になるか、来週になるかの差だ。何時になれば彼は無理をするのをやめるのか。不老不死に甘えて無理をしなくなるのか。
 少なくとも、当分先の話ではある。
 夏の風に揺れて風鈴の音が鳴る。遠くでついているテレビが未だに気候制御装置襲撃事件について取り上げている。やれやれ、器の小さい人ばかりだ。どうしてこれを機に、自然というものを見つめなおそうとはしないのか。
 そんなことを考えつつ、寝ている優鬼にこっそり耳掃除をする。こんなことをされても起きないのだから、神経が図太く出来ているのか、それとも繊細なのか。兎に角、これは私へのご褒美だ。
 それからしばらく、余りにも気持ち良さそうに眠る優鬼に釣られて私も昼寝をしたり、いつの間にか起きて仕事を再開しようとした優鬼を叱るなどして時を過ごした。

「それにしても、来るんだったら事前に一言声おかけてくれたら休みとれたのに……」
「事前に教えて身構えられたらあなた、落ちないでしょう?」
「まあ、それもそうなんだけど」
「だから教えなかったのよ」

 二時間もすれば暑さも強まり、そう簡単には眠れない環境になる。ここで滝のそばや鍾乳洞などに行けば気持ちよく自然を感じながら眠れることだろう。まあそこまで寝たとして一体何するんだという話だが。
 そして現在、久しぶりに優鬼と共に厨房に立ち、料理を作っている。こんなことをするのは宴会の時を除けば、さて一体何千年前の話か。とても懐かしく感じる。

「所で、今日は何を作るの?」
「この前辛い物が食べたいというリクエストがあってね、だから中華料理でまとめようかと」
「ああ……だから杏仁豆腐を作ったのね」

 二度三度の口論の末、ちゃんと休むこと、私も手伝うことを条件にコックの仕事を許した。一部心惹かれたところも否定はしない。
 中華料理で纏めるということと材料から推察するに、麻婆豆腐にエビチリ、生春巻き、春巻き、そして何故か火鍋。たぶんそれは辛い料理をリクエストした人への料理だろう。
 二人で下拵えをしつつ、人が来るのを待つ。流石に私も和服のままでは違和感が拭えないので優鬼と同じバーテンダーの服を着ている。長い髪も同様に後ろで纏めている。流石に下はスカートだが、主だった違いはそれだけだ。

「そろそろ、かな……」

 優鬼がそう呟いたときだろう。人の波がくるのが感じられた。もちろん一部の人は何かあったときに対応できるよう残っている。それでも大多数が今まさに食堂を目指して向かってきている。

「ユウキさん、今日のお昼は何ですかぁ?」
「やぁ、リイン。今日はエビチリだよ」
「わぁい!」

 まず最初に本当に小さい人間が入ってきた。見た目青髪の少女だ。なるほど。車海老だけでなく、小海老が少しあったのは彼女のためか。確かにあんなにも小さな体では普通の大きさの海老を食べるのは難儀だろう。
 エビチリを作り始める。味付けのほうは少し甘めで。いつものように作るのではなく、少々手を抜いて作る。異端とはいえ神が作る料理、全力で作った料理を人が食べれば心に残りすぎる。
 それをかなり前に一度、人間だった頃の優鬼にしてしまった。そのせいで彼には様々な迷惑をかけてしまった。以後気をつけている。ただ、何だ。手を抜いても昔食べたものを何となくで分かったのだろう。私の手料理が好きだといってくれたときは本当に、嬉しかった。
 だが、それ以上にあの日以来優鬼が一度たりとも食事で満足したことがないと知った時、心が痛んだ。だから私は手を抜く。普通の人に対する場合は手を抜いて作ることを心がけている。

「今日のユウキさんの料理は何時もより美味しい気がします」
「ああ、僕が作ったわけじゃないからね。今日は彼女、蘇芳が作ったから」
「そうなんですかー。所でそのスオウさんはユウキさんのお知り合いですか?」
「知り合い、というか夫婦なんだけどね」
「ほへー、素敵な奥さんですねぇ。なんだかとっても幸せそうです」

 そんな事実、言われなくとも分かっていること。それでも言われれば嬉しく思うのもまた事実。この妖精もどきにはご褒美にデザートの杏仁豆腐のトッピングを少し豪華にしよう。どうやら私は意外と単純に出来ているようだ。
 優鬼が一人一人と短い会話をしながら料理を作り、提供する。また私も同様に、口数こそ少ないが話し、出した。
 私自身がユウキとよく似た格好をしているせいもあるだろうが、中には当然優鬼が性別転換したのかと勘違いする人もいる。酷い人だと生唾を飲み込む者もいた。そう言う人にはとある某神父直伝にして優鬼による魔改良を受けた特製麻婆豆腐を振舞っておいたと特筆しよう。

「ユウキくん、お昼にしよう」
「なのは……ちょっと待ってね。まだ、やることがあるから」
「うん、待つよ」

 時に無理を言う客を裁いているとなのはがやってきた。席はある意味当然のようにカウンターで、優鬼が良く見える席だ。

「あ、スオウさん。お久しぶりです」
「ええ、久しぶりね、なのは。それより今夜、話があるから時間空けておいてね」
「話、ですか?」
「ええ、少し」
「はぁ、わかりました」

 きっと彼女は足早に来たのだろう。その気持ちは十分に分かり、そのことは存分に想定可能であり、その事実は充分に後から来たものが証明した。
 ローズブラッドのような鮮烈な紅ではなく、ただ赤い髪をした少女が息を切らしては言ってくる。その服装がなのはと同じであり、階級章からあれでも士官の人物なのだろう。普通の人であれば疑問に思わざるを得ない光景だ。

「たく、なのは。食事前だからと言ってさっさと終わらせようとするその癖、早めに直した方が良いぞ」
「そうかな? ある程度の想定外には慣れていた方がいいと思うけど……」
「いや、アレは確実にありえない想定外だ。むしろ人災と言って良い」
『今回使ったのは空間殲滅用炸裂型ディバインバスターですよね。似たような魔法を使う違法魔導師も中にはいるのでは?』
「この世のどこに半径1kmを一発で制圧する砲撃を簡単に使える人がいるんだよ?」
『ここにいますが何か問題でも? むしろ先のはかなり力を抑えました。この温情に感涙してもらいたいぐらいです』
「テメエらの非情さにあたしが涙流しそうだよ……」

 何やら酷いことをしたようだ。まあ物事に優鬼が絡めば大概に多様な家庭が繰り広げられるか。それでも死者が出ていないのであればまあ、良い方である。
 このまま放置すれのは余りにこの少女の胃が心配なので、後で腕は良い薬師を紹介しよう。今は胃に優しく、消化に良い物を余りの材料で作るとするか。

「はい、どうぞ」
「お、すまねぇな――って、頼んだ覚えはないんだが?」
「まあサービスよ。何かと苦労していそうだから、ね」
「ん、ありがと」

 少女は近くに在るレンゲを取り、先ずスープを一口。

「……うめぇ……」

 さじ加減は間違えていない。人に食べさせて良い限界の瀬戸際を突き詰めたが、それでもその限界を超えた覚えは一切ない。ならばこの味は、人生で一度でも食べられたならい違法な味なのだ。故に問題はない。少なくとも子供の頃の優鬼に食べさせてしまったような、人が食ってはならない味ではない。

「――いただきます」

 それはとても丁寧な儀式だった。この世の全てに感謝し、今という時に感謝し、そして過ぎ去る時に涙する、人類に残された数少ない魔法をただその小さな身で味わえることに対する、儀式だ。その間僅か0.4秒。
 そんな事はいったん他所に置いておき、今一度辺りを見回す。これで大体の料理は作り終えたはずなのだが、どういうわけかまだまだ材料が余っている。優鬼が過剰に買ったとは思えないし、となればまだまだいるのか。
 しかし知覚領域を広げ、機動六課全域を見てもまだ昼食を取っていない人は精々十人足らず。なのにまだ食材の方は二十人前以上存在する。これは一体、どのような理由か。

「ああ、大食漢が二人いるもので」
「なるほどね。でも流石にこの量を独りで裁くのは辛いでしょうに。何故まだ一人で?」
「……ねえ蘇芳。僕らについて来れる者が、人間やれると思う?」
「…………愚問だったわね」

 料理が半端なく上手く、それ以上に手際が良く、最低でも管理者と対等にあれる存在が人間であるとは思えない。確かにこれは余りに愚問で、故に一人でやるしかない。
 諦めと言う感情をため息に込めて吐き出し、続いて仕方がないという思いを吸いこんだ。その後だろうか。出された料理を食べ終えた赤髪の少女が今更な疑問を口にする。

「そういやあんた、誰だ? ユウキの知り合いか?」
「私は神楽 蘇芳、優鬼とは夫婦の仲よ」
「ふぅん、夫婦か……って、何だとぉ!?」
「……どうかしたかしら?」
「どうかしたじゃねぇ!! ユウキ、お前なのはと結婚するんじゃなかったのかよ!?」

 あ、ああなるほど。重婚に関する疑問か。長く生きる者にとってはそのただ一人で一人きりの関係に執着することはあまり理解できない。人は死ぬ者、生きる限り死に別れる運命にある。それを誰よりも何よりも理解しているため、ただ一人ということに執着できない。
 しかし、短い命であり、そう言った常識の中で育ってきた者にとっては既婚者が結婚すると言う行為に納得がいかないのだろう。それは無理もない。

「急に大声出してどうしたの、ヴィータちゃん?」
「なのははユウキが既婚者で良いのかよ?」
「……あ、ああそのこと。それなら付き合う最初の方で話は聞いていたから大丈夫だよ。それに、私はそれ以上にユウキくんと一緒にいたいんだ。だから気にしていない」
「いやいやいや」
「それに、ヴィータちゃんだったかしら。愛されている自覚と愛している思い、愛されている事実さえあれば別に大切な人が少々増えようがどうでもいいのよ。私は優鬼が好き、優鬼には笑っていて欲しい。それだけだから」
「…………もう良いよテメエら。だから誰か、コーヒーください」

 優鬼のことを愛している。優鬼は私たちのことを誰一人として疎かにせず、愛してくれている。この二つさえあれば別に今更大切な人が増えようが、誰と結婚しようが構わない。
 ああいや、訂正。流石に優鬼に害なす存在と結婚しようとするなら全力で止めさせてもらう。それだけはどれほど優鬼が望んでも受け入れられない。まあそんな事態に陥ったことは今まで一度たりともないのだが。

「はい、コーヒー。所でヴィータ。さっき僕を呼んだようだけど、どうかした?」
「重婚して良いのかという疑問よ」
「ああ、なるほど。良いのかも何も、それで大切な人が幸せでいてくれるなら、別に少々のことは良いんじゃないかな」
「そう言う思考が一般人には伝わりにくいのよね……」
「何でだろうね?」

 それは勿論、優鬼が普通ではないから。そう思いながら自分たちの分の食事を作る。一方で食堂に近付いてくる何人かのための料理を作る。その四人が最後のため、彼らが優鬼の言う大食漢なのだろう。
 自然なうちに手伝おうとした優鬼に静かに微笑んで退かせ、大人しくなのはの隣で茶を飲ませる。僕の仕事という言葉を零すにはまず体調管理を万全にしてからにしてもらいたい。

「ご飯、ご飯。今日のご飯は何かなぁ?」
「……何でこのバカは、あの訓練の後でもこんなにも元気なのよ……」
「えっと……さぁ?」

 残された二十人前の食材、それをこの四人で食べるとなると一体誰がどれほど食べるのか。いくら大食漢とはいえ子供二人が三人前以上食べるとは考えにくい。だとすれば残る十四人前分の食事を青髪の少女と橙色の髪をした少女が食べるのか。まあそんな人間もいるのだろう。
 というわけで山盛りの辛めと辛さ控えめの二種類の麻婆豆腐、エビチリ、野菜たっぷりの中華スープ、その他数種を渡す。杏仁豆腐はデザートなので今はまだ出さずに置く。さて、これで全ての食材が消費出来た。

「それじゃ、お昼にしましょうか」
「うん、そうだね。今日は三人いるからテーブルにしようか」
「ええ、そうね。なのは、これ持って言ってくれる?」
「はい、わかりました」

 それにしても、疑問が尽きない。何故多くの局員が私の存在をことごとく無視するのか。それはここが優鬼の領域だからと言ってしまえばそこまでなのだが、それを加味しても余りに不用心すぎる。
 私たちとしては気軽には言って来れるので今のままの方がありがたい。一々厳しい警備を気にしては言ってくるのに気を使うのは少々面倒なのだ。

「それじゃ、頂きます」
「いただきます」
「はいどうぞ。召し上がれ」

 今日の昼食は和食にした。本来ならここで皆に振舞ったのと同じ中華料理を作る手はずなのだろうが、別に変えても構わないはずだ。それに私としても中華料理よりも和食の方が作り慣れている。

「所でスオウさんはどうして機動六課に?」
「ちょっとヴァランディールに話を聞いてね。まあその辺りの話は今夜ね」
「ああ、やっぱり……その話ですか」
「その話なんです」
「いや、何の話なの?」
「ん、秘密」

 妙な視線を受けながらも昼時も終わった。後はたまりにたまっている皿を誰も見ていないことを核にした後、水を操作し、時間をかけずに洗う。
 優鬼は優鬼で眼を離したすきに何かを作っていた。どうやら本日のおやつであるプリンのようだ。私が気付くまでにバケツプリンを二つ作っているあたり流石と言えよう。
 暇つぶしに機動六課内をうろつき、暇そうにしている局員たちとお茶を楽しんでいた時に聞いた話なのだがさて。何が逢って優鬼が戦ったのか。それも彼にとっての鬼門である非殺傷設定を使う魔導師と。
 彼は干渉する魔力の余波だけで気分が悪くなると言うのに。ちょっとシグナムという人。話会いたいことがあるのだけど一体どこにいるのか。今からが楽しみで仕方がない。
 全く、必要がなさそうだからなのはに教えなかったことがよもやこのような所で裏目に出るとは思いもしなかった。



「……ねぇ、僕が何をした?」
「黙ってそこに正座しなさい。今日という今日は許さないわ」
「本当だよ、ユウキくん。まさかそんな事隠していたなんて酷いよ」


今日のはやてちゃん

「――――ム!」
「どうかしましたか、はやて?」
「いや、今何か、凄く損をした気分が……



[18266] 第十六話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/08/08 22:26

 訓練中、ティアナが堕ちた。詳しく言えば訓練中にやってはいけないことをしてなのはの逆鱗に触れ、なのはが堕とした。ならば堕とされたというべきが正しいのだろうか、原因がティアナにある以上、そう言い直すのは正しいと思えない。故に堕ちた。
 流石に今回はなのはも少しやりすぎたと思う。何も自分にとって恐るべき行動をとったからといって力任せに落とす必要はないだろう。普通にそう考えていたのだが、内容を聞いてこの意見はすぐに訂正した。
 捨て身の攻撃も良い。自分に出来る以上のことをやるのも許容しよう。しかし、仮にも仲間と呼ぶ人を犠牲にして勝利を掴もうとするのは気に食わない。これが訓練だから良いものの、もしも僕がなのはの立場で、実際の戦闘の出来事ならスバルを盾にし、迎撃する。そのぐらいの行動予測ぐらい立てられるはずだ。

「…………」

 聞くところによるとスバルとティアナは古くからの付き合いらしい。そのような人を、友をどうしてそこまで気安く切り捨てることが出来るのか。僕にはそれが理解できない。

「ユウキくん……私、やっぱり人に教えるに向いていないのかな……?」
「人は万能じゃないよ。何事も失敗する。だからこそ、人は進歩する」
「でも……私、皆とちゃんと話していなくて。きっと話しておけばこんなことにならなかった」
「そんなイフの話を上げれば切りがないよ。それに何よりあったかもしれない過去の選択肢を挙げたとしても、今は何一つ変わらない。失敗したと思うなら今何をすべきか、それを考えるべきだ」

 此度ティアナが犯した事は予想道理なのは似も影響を与えた。しかし取り返しのつかない事態ではない。ならば問題ではない。
 こちらに一切表情を見せず、強く強く抱きつくなのはを優しく抱きしめる。今僕にできることは精々このぐらいだ。いや、この程度しか出来ないというべきか。

「うん……うん、そうだね」
「今頑張る必要はないから。なのはには明日がある。だから今は、ゆっくりお休み」
「お休み、ユウキくん」

 とは問屋が降ろさないのが世の鉄則。特にこうあってほしい、こうなれば良いと僕が望むほどに裏切られることが近頃多い気がしてならない。
 簡単に言うと、出動要請発令。各隊長はヘリポート集合。どうやら世界は本格的に僕たちに暫しの休息すら与えたくないようだ。喧嘩を売っているのだろうか。ならばぜひとも言い値の二倍で買い叩こう。

「………………」
「…………」
『KY乙』
「相手は機械だから仕方がないよ。なのは、大丈夫? いけないなら――」
「大丈夫だよ。ユウキくんに無理させられないしね」
「そう……無理しないように。気をつけるんだよ」
「うん。そろそろ溜まった休暇を取ろうと思っているから。だから大丈夫」
『ついでに私のオーバーホールもお願いして良いですか? 近頃扱いが酷くて酷くて』
「うん、分かった」

 なのはは局の制服に着替え、僕も彼女を見送るために近くにおいてある羽織の形をした無縫天衣を纏う。人前ですべきではないことを室内で済ませ、手早くロングアーチに向かう。
 すでにそこにはほとんどの隊員が集まっており、つまりなのはの到着は実質一番最後だ。まずはなのはに向かった皆の生暖かい視線が僕に突き刺さる。それから状況説明を聞き流し、ヘリポートへ。

「皆はロビーで出動待機ね」
「そっちの指揮はシグナムだ。留守は頼むぞ」
「「はい!」」
「……ああ、それからティアナ」
「…………」
「ティアナは出動待機から外れておこうか」

 温い気が否めないが、この部隊ではそれが妥当か。むしろ進んで見方殺し一歩手前をするような奴を怖くて放置できない。今はまだ、自分の見えないところに置けない。
 しかし、なのはの温情ともいえる決断をどういうわけか本人は理解せず、ただ表面上の言葉で反発する。その音は非常に煩わしい。安眠妨害のせいで気が立っているのだろうか。それは頂けない。
 ただ確実に言える事はうるさく、文字通り五月蝿く喚くティアナを殴ろうとしたシグナムを手で制止し、気付けばティアナに触れ、何の感情もなく投げていた。突然のことであっても受身すら取れなかった。もちろんそのことは考慮済みで、そこまで打ち所を悪くするような投げ方はしていない。

「……ティアナ、今の君に誰も命を預けることは出来ない。君自身、誰の命を預かることは僕が許さない」
「ティア!」
「ヴァイス、さっさと行け。こんなところにいたところで状況は悪くなるだけだろう?」

 立ち上がろうとした所を再び投げる。今回も受身すら取れない。いくら急なこととはいえ、それほどまでに衰弱していることを何故彼女は自覚しないのか。役立たずになるどころか、自ら役立たずに成り下がっている。

「ユ、ユウキくん。あんまり酷いことしちゃ駄目だよ」
「可能な限り善処する。でも余り期待するな。今の僕は、気分が悪い――」
「うぁ……何だか怒ってる……ティアナ、後でちゃんとお話しようね!」

 立ち上がる所を再び投げながらなのはを見送る。とりあえずなのは、フェイトが役立たずになるような言葉は言わないほうが良いと思うのだけど。
 ヘリの姿が見えなくなってから投げるのをやめる。

「あの……ユウキさん」
「ん?」
「彼女たちのことは私が話をつけておきますから」
「ああ、隊員の説得は我々が行おう。何も貴方の手を煩わせるようなことではない」
「いや、ティアナとは少し話がしたいからね。僕が預かるよ」

 事の原因を作り、あまつさえそれを問題となるまで放置した。そんな人が話すことなど一体何があるだろうか。問題に対し、何一つとして出来なかった人にたった一夜で何が出来るだろうか。
 何より、シャーリーは碌でもない方法で話をつける気だろう。本人がそれを自覚しているしていないに関わらず、僕は何となくそれを感じ取った。

「それは越権行為に相当するのではないでしょうか?」
「ん?」
「いや、あの越権行為……」
「んん?」
「……いえ、何でもないです」

 一応の理解を得たところでスバルに介抱されているティアナを捕まえる。流石にこんなところで話をつけるのはいただけない。というより、心を鎮めるための何かがほしい。
 というわけで、意外と大人しくついてくるティアナに少し驚きつつも食堂にやってきた。手早く自分のために緑茶を入れ、彼女のためにホットショコラを作って机に運ぶ。まともに見たティアナの表情は余り優れないもので、光がない。それも、無理はないか。

「色々と話したいことがあるけど、まずは君が納得していないことからはじめようか。ティアナ、何故君だけが待機から外されたのか、理解している?」
「それは……私が足手纏いだから。私がいると皆の迷惑になるからとなのは隊長が判断したからでしょう」
「いやもっと単純。君が基本的な義務すらできていないからだよ」
「どういうことです?」
「緊急の任務に対し、万全の対応を取れるように体調を管理すること。さっき投げられたのはまあ仕方がないとして、それに対しとっさに受身すら取れていないんだよ。それほどまで君は疲労が溜まっている」

 疲労が溜まれば自然と食欲が落ちる。食べ物を消化する余力すらなくなるからだ。しかしフォワード陣には大食漢が二人いるため、別に一人分が少し余らせても残り物はない。故に余りものだけ見ていては気付かない。
 それを加味しなくとも曲がりなりにも格闘家、武術を身体に刻まれた身であるため、見ていれば重心のブレぐらい分かる。体調ぐらい一目で判断できる。

「確かに、そうかもしれません……でも私はちゃんと戦えます! ちゃんと、任務にあたることが出来る!」
「……君の意思に関わらず、だよ。事実として残っているのは君が受身すら取れないほど疲労を蓄積していると言うこと。意見は体調を万全に保ててから言おうか。
 第一、君それ本心から言えていないだろう。それとも自分の体調すら理解できないほど愚かなのか?」
「それは…………」

 分かっているからこそ言い返しにくい。むしろ僕が言わなくとも彼女は言いたいことを理解しているはずだ。だが、理解したくはない。その思いが心から理解を廃絶している。だから僕は彼女に押し付ける。否定できないよう言葉巧みに囲い込む。
 緑茶を一口飲む。今彼女が抱えている問題を認めさせるのが今回の目的ではない。それは単なる前振りで、前菜。メインは各種の問題やコンプレックスを認めさせた上でどう背中を押すか。

「もちろん君が待機から外された理由はそれだけではない。正直、状況次第では戦えるなら猫の手も借りたいのが戦場だから。それでも待機から外された。他の理由は分かっている?」
「それは……命令を聞かず、独断行動をするから、でしょう。なのは隊長も認めたことですし、今更言われなくとも理解しています」
「それもあるけど、それだけではないんだよ」

 思い出した数々の記憶の中には少なからず軍に所属した記憶も存在している。それらの中には軍規に違反したこともあり、命令に背いたことも背かれたこともある。ただ、ただそれらを僕は責める気にはならない。例えその時その場にいたとしてもこの思いは変わらない。
 何故か、答えは単純だ。それが仲間を助ける上で考えられる最善であり、次善であるから。事実として一の犠牲で九十九が助かったならその人を責めるのはできない。精々、大馬鹿野郎と墓前で罵ることしか、助けられた身に出来ることはない。

「場合によっては命令違反をしなければならないことがある。状況によっては独断行動が必要だ。だからそれではない。その理由は、ティアナがスバルを、仲間を殺そうとしたことだよ」
「――え?」
「今日の演習での出来事は覚えているよね。間接的にとはいえ、君はスバルを殺す真似をした。いや、正確には殺させるような状況に追い込ませた。何を考えてかは知らないけど、それが事実だ」

 一杯目の緑茶が無くなる。故に手早く二杯目を注ぐ。そろそろ甘味に手をのばすべきかで悩む一方で、驚愕の表情を隠せないティアナを見る。

「なのはに止められた時、僕ならスバルを盾にする。そうでなくとも大概の敵はスバルを人質に取る。そうすれば誰も手が出せない。この管理局に誰かを犠牲にしてでも敵を潰すと言う思考の持ち主は、余りに少数だ」

 特に管理局、中でも際立って酷いと感じるのがこの仲良し部隊である機動六課。過ごしやすくはあるんだが、胃の傷みは本物である。この部隊について考えれば考えるほどなのはを連れて、親しい人に連絡先を教えてとっとと幻想郷かアクアか、とにかく安全で落ち着ける場所に逃げ込みたいと切望してしまう。
 さて、人質。僕が知る範囲内の話では局員が人質に取られたという話は一切ない。意図的に情報を制限しているためかどうかは分からないが、そういった話を聞いたことがないのは事実。詰まる所、局員でそういったことを経験した人は極少数なのだろう。

「人質に取られた後、そこまで反抗した敵が大人しく人質を解放するか……まずしないし、取り返したときその人質が五体満足である可能性は極めて低い。ちなみに考えなかった、知らなかった、想定外等の言い訳は許さないよ。
 前に言っただろう? 何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない、と。戦争に想定外は憑き物なんだよ」
「……確かに、そういう可能性も否定しません。ですが、そこまで考えるなら全ての行動が不可能になる。危険ではないことなんて、ないのですから」
「その通りだね。でも君の場合は誰かを犠牲にするという思いが顕著に見えて取れた。だから味方として勘定に入れられないんだよ」
「そんな、冗談。私がスバルたちを犠牲しようなんて考えたことはありません! ただ勝つため、違法魔導師を捕まえるためにフォーメーションを考え、必要であるからこそ危険な行為をさせたとしても、私はそんなことを考えない!」
「……考える、考えないは関係がない。結果としてそう見え、そうなった。この事実だけで世界は君を判断する」

 死んだ以上、その気はなかった、考えなかったで許してくれる法律はどこにも存在しない。犯罪者の思いに関わらず、法は残酷に人を裁き、世は無常に評価する。
 やってはいけない。するべきではないと言ってしまえば出来ることなど何一つとして存在しなくなる。だから違う。そうではないんだ。考えろ。認識して受け入れろ。ありとあらゆる最悪を仮定し、その上で必要であるならやればいい。ただし全ての結果を受け入れる覚悟を持て。

「僕はそんな下らない事実を再認識しろと言いたいんじゃない。むしろ考えてほしい、ちゃんと認識してほしいんだ。最悪も最高も、全ての可能性を模索してほしい。
 指揮官に必要とされる能力はね、最高の策を提示する能力よりもまず、最悪を想定できる能力と、全ての結果を受け入れる覚悟だよ」
「…………」
「新人フォワード陣の指揮官に出来ていないんじゃ、安心して指揮を任せられるわけがないじゃないか。後疲労もかなり蓄積されていたから外したんだよ」

 最悪を想定できる能力とは何も自分のほうだけに当てはまらない。相手にとって現在何をされたなら最悪なのかを考える能力も含まれる。最高の策をするよりも相手の最悪を実行するほうがやり易い。
 それに最高の策を提示することが諸葛亮孔明でもあるまいし、最初から可能なわけがない。数多の経験と大量の知識の元に構築される能力だ。だから最初、指揮官に求められる能力はあの二つ。

「……何故、なのは隊長はそんなことすら、言わなかったのでしょうか?」
「何でって……君と同じ人間だからだよ。人だから失敗するし、人故に間違う時もある。むしろ、高々才能あるだけの三歳年上の人にどこまで期待しているのさ?
 英雄だのエースだの世間は言うけど、なのははかなりドジなんだからね。魔法がなければ何もないところで転ぶぐらいに。さっきも人の胸で泣いていたんだよ。なのはだってエース以前に少女なんだ。それはもちろん、人並みに間違うさ」

 ただその期待も無理はないと思う。なぜなら世間は結果で判断するから。良い結果しか残さないなら、良い結果しか残っていないなら世間は過剰評価をする。昔のなのははそれに答えようとしてばかりいて何時倒れてもおかしくはない状態だった。
 今は違い、もし失敗して全員に見捨てられても構わない。その時は管理局を辞めてゆっくり過ごすなんて言えるほど丈夫になっている。本当に人は些細なことで変われるものだと実感した。それでもやはり、失敗は怖いようだ。
 ふと考える。一体誰の言葉だったか。英雄を生み出すのは常に庶民で、英雄を殺すのも常に庶民だと。それは即ち期待と絶望だろう。勝手に彼らがして英雄を作り、裏切られたからと勝手に判断して絶望し、英雄を処分する。余りして良い話でもない事実。

「ああ、そう言えばそうでしたね。そっか……なのは隊長でも間違えるんだ……」
「間違うよ。なのはだけでなくフェイトもはやても皆々。もちろん僕も」
「…………」

 よし、その言いたげな視線の理由について詳しく話を聞こうか――
 だが残念、この夜遅い時間にそんなことを聞く暇など一切なかった。何せ他にやることが押しており、かつ僕は兎に角眠い。寝たい。緑茶のカフェインが頑張ってくれているが、正直焼け石に水だ。

「所で聞きたいんだけど、君は何故力がほしいの?」
「それは、この前答えませんでしたか?」
「それはそうなんだけど、僕が聞きたいのは君が力を求める理由なんだ。まさか何の理由も目的もなく、力を欲しているわけじゃないだろう?」

 ここに来てようやく一杯目のココアが半分になった。その頃には僕はすでに四杯目の緑茶に手を出していた。

「言わないといけませんか?」
「別に。強要はしないけど言わないというのであれば君の行動を全て客観的に判断するしかなくなる。それだけだよ」

 答えてもらわないとまた同じ事になるのでぜひとも答えてもらいたい。しかしコックでしかない身分である以上、強要することなど出来ず、現時点でも独房に入れられてなんらおかしくはない。

「……私の目的、力を求める理由は」
「…………」
「兄の魔法が、ランスターの魔弾が役立たずではないと証明するため。そのために力が必要なんです」

 なるほど、これが彼女の間違いか。人がなにも目的を一つだけ持つとは限らない。その身に孕む願望の全てを知っていることも先ずない。彼女の場合古くからある願いのせいで今ここにあるものが見えていない。
 終始一貫した夢を抱くことは確かにその達成において近道と言える方法であるが、序列を間違えてはいけない。例えば彼女の場合、今語った目的のために仲間を犠牲にすることに果たして耐えられるだろうか。一般的なミッドチルダ人を考えるとまず無理だ。
 彼女は僕たちに中途半端に似ているとはすなわちそう言うことだろう。もう少しで取り返しのつかない所にいる。このまま気付かなければ中途半端に僕たちに似てしまう。だから、うん。悪いけどなのはには無理な話だ。

「……一つ、疑問に思ったことを聞いていい?」
「ええ、どうぞ」
「それでは、どうやって役立たずではないことを証明するの? いや、どこに至ったら君はそれを証明できたと考えるの?」
「えっと……それは……」
「なのはのようにエースと呼ばれたら? その力で誰かを助けたら? 百人救えたら? 千人犯罪者を捕まえたら? 一万人殺したら?」

 これからすることは本来して良いことでも、ましてや褒められることでもない。むしろ貶されて当然の行為だ。

「その夢は、叶うのか?」
「…………」

 人は良く叶うわけもない夢を見る。挙句の果てにはそれを叶えるために必要な対価を払おうとせず、努力すらしない輩もいる。その点、彼女は十分に努力をしているのだが、さて。
 ティアナが目指している夢に終わりは存在するのだろうか。求めるものが力の証明、正確には技術の証明か。その技術が一般的に有用であると証明するには人生百年ではまず足りない。また多くの人で証明しなければならない。
 ああ、確かにその夢は結果として終わる時はあるだろう。しかしその終わりは意図して終わるのではなく、望んで終わるわけでもなく、偶然終わるという形だ。

「……別に叶わない夢を見るな、なんて言わない。僕だってかなうはずの無い夢を見ているのだから、言えるわけがない」

 答えは元より求めていない。ただ僕の問で自問自答し、彼女なりの答えを見つけてくれさえすれば、その答えがどうであれそれでいいと思う。むしろそれしかできない。
 確かに答えを与えることは出来る。これはそれで解決できる問題で、そちらの方が断然楽だ。しかし、その行為にどれほどの価値が存在しているだろうか。与えられた答えに、一体何の意味があるだろうか。
 答えは与えられるものではない、自分で見つけ、捜し、創り、手に入れるものだ。そちらの方が強く、確固たるものとしてここに存在する。もちろんその内容によっては僕もしないといけないことが増える。それでも彼女にとっても、また僕の心にとっても覚悟はある方がないよりも比べ物にならないほどましだ。

「だが、問おう。その夢は友を仲間を隣人を犠牲に払ってでも叶えたいと望むものなのか?」
「わた、しは…………」
「結局のところ、前に言ったことなんだよ。
 何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない。

 まだ大丈夫。君はまだ何も失っていない。だからちゃんと考えて。何を望み、何を守り、何を失いたくないのか、得たいのか。人の心は移ろうもの、永遠に不変ではない。僕は今の君の答えを、知りたい」

 ティアナの表情を窺うことは出来ない。また同様にその本心も聞くことは出来ない。何せ彼女は自身ですら本心を理解していないのだから。まあでも、明日には答えが出ているはずだ。
 そこまで彼女は愚かしくはない。仲間を犠牲に出来るほど残酷でもない。だから、僕が期待する結果に終わると信じて、今日はここで終いにしよう。

「あ、最後に一つ。効果的な訓練方法として十分な休息をとることが前提条件だ。少なくとも常識的に考えて一人勝手に無茶なトレーニングをするより、上官と良く相談して自主トレした方がいいよ」



 結局、結局一週間たっても答えを聞くことは叶わなかったが、しかしこれ以降一人勝手に自殺行為をしなくなったあたり、良かったと言える。また彼女は彼女なりに答えを得ているようで、たまに見せる笑顔は以前の笑顔と全く違ったものだった。
 それにしても、ランスター。いや、まさかね……




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 本日行われた演習で、私はなのは隊長に堕とされた。理由は危険な行為をした為だろうが、それだけで堕とされるとは考えられない。ならば他に何か理由があるのだろう。しかし、この時の私にはそれが何か分かるわけもなかった。
 分からないからこそこのような結果に終わり、この形に行きついたのだろう。今になって分かる。私は気付けなかった。頑なに気づこうとせず、只管に無視をし続けていた。

「――言うことを聞かない奴は不要ですか」

 ただ、場違いな場所に連れ込まれたため、それなりの心労や憂鬱がたまっていたのもまた事実。その時は自分の努力を否定された気がしてそれらが噴き出した。
 ヴィータ隊長が何か言った気がする。多分その言葉は正論だ。でもこちらも言わせてもらいたい。何もしなかった人が、何もしようとしなかった人が今更何を言う。救おうともしなかった人が、眼を背けた人が、今更正論を言わないで貰いたい。
 ああ、私は唯、そう。私は唯。

「ティアナ、今の君に誰も命を預けることは出来ない。君自身、誰の命を預かることは僕が許さない」
「ティア!」
「ヴァイス、さっさと行け。こんなところにいたところで状況は悪くなるだけだろう?」

 感情の吐露が峠を越えた所で視界が反転する。重力の束縛から解放され、無理やり地面に叩きつけられる。衝撃で肺から空気が抜けていった。一瞬意識が飛ぶが、辛うじての所で踏みとどまった。いや、ここはそうさせられたと言うべきか。
 とにかくどれだけ周りの音が聞こえ、私がそれを認識しようとも痛みと飛びかけた意識のせいで言葉が出ない。ただ咳だけが出て、肺が新鮮な空気を求める。
 何が起こったのか、状況を認識し、その起こした張本人であるユウキさんを見上げる。その表情こそ窺い知ることは出来ないが、こちらに一切向けていない瞳に宿る感情はどうせ蔑みだろう。
 上官に、特に己の恋人に罵詈雑言を浴びせ、我が儘を言った人に向ける感情など高が知れる。それに何もユウキさんの人となりを知らないわけではない。だからこそ、そう言える。

「ユ、ユウキくん。あんまり酷いことしちゃ駄目だよ」
「可能な限り善処する。でも余り期待するな。今の僕は、気分が悪い――」
「うぁ……何だか怒ってる……ティアナ、後でちゃんとお話しようね!」

 ヘリが飛び、隊長たちが現場に去っていく。なのは隊長の優しい言葉が正直煩わしい。もう少し雰囲気という者を読めるように成長してもらいたい。仮にも隊長なのだから、そのぐらいのスキルは必要だ。
 それから、何故かユウキさんに連れて行かれ、食堂へ。私と話をしようとするのは何となくわかるのだが、待機から外されているとはいえ、仮にも正規の局員を強制的に連れて行くのは問題ないのだろうか。もし軍法会議になっても私は何も言わないでおこう。うむ。
 目の前にココアが置かれる。私の対面にはユウキさんが座り、その前に緑茶がある。話とは名ばかりの説教という想像はあるが、体面に座られただけで威圧感があるのは初めてだ。

「色々と話したいことがあるけど、まずは君が納得していないことからはじめようか。ティアナ、何故君だけが待機から外されたのか、理解している?」
「それは……私が足手纏いだから。私がいると皆の迷惑になるからとなのは隊長が判断したからでしょう」

 しばらく続いた沈黙が終わり、ユウキさんが話を切り出す。この人はなのは隊長の恋人だ。どうせ彼女を悪く言うような真似はせず、私が悪いと決めつけているのだろう。そう思えばそう思うほどに気分が悪くなる。
 それにしても何故このような基本的なことを今更問いただすのか。こんな事実言われなくとも私は理解している。ユウキさんも聞かずとも知っているはずだ。今更、こんな傷口を抉るような行為をしなくとも。

「いやもっと単純。君が基本的な義務すらできていないからだよ」

 なのに彼の口が紡いだ音は否定を意味する言葉で。私が思う理由以外を指し示す。

「どういうことです?」
「緊急の任務に対し、万全の対応を取れるように体調を管理すること。さっき投げられたのはまあ仕方がないとして、それに対しとっさに受身すら取れていないんだよ。それほどまで君は疲労が溜まっている」

 確かに言われてみればその通りだ。いつもの私なら例えあそこまで綺麗に、投げられるまで投げられたことに気づかずとも、それでも受身ぐらいとれたはず。なのに事実は違う。ああ、確かに彼の言うとおり私は疲労が蓄積している。
 しかし、どうにもそれだけで待機から外されたとは納得できない。考えられない。疲労は蓄積されているものの、とっさの判断が出来なくとも私はちゃんと戦える。任務において何の問題もない。だから、それは理由にならない。

「確かに、そうかもしれません……でも私はちゃんと戦えます! ちゃんと、任務にあたることが出来る!」
「……君の意思に関わらず、だよ。事実として残っているのは君が受身すら取れないほど疲労を蓄積していると言うこと。意見は体調を万全に保ててから言おうか。
 第一、君それ本心から言えていないだろう。それとも自分の体調すら理解できないほど愚かなのか?」
「それは…………」

 疑念を増長するような言い方をされると自信が損なわれる。むしろ疲労が存在する時に万全に戦えるかと言われたら誰しもノーと言わざるを得ない。その問いかけでは私どころか隊長たちですら戦場に立つべきではなくなる。

「もちろん君が待機から外された理由はそれだけではない。正直、状況次第では戦えるなら猫の手も借りたいのが戦場だから。それでも待機から外された。他の理由は分かっている?」
「それは……命令を聞かず、独断行動をするから、でしょう。なのは隊長も認めたことですし、今更言われなくとも理解しています」
「それもあるけど、それだけではないんだよ」

 ならば疲労の蓄積など一つの要因でしかない。他にもいくつかの要因が重なって、結果として私は待機から外された。もちろんその考えはある。
 そして考えた時に思い至ったのは今日の出来事、先ほどの感情の吐露の中に含まれている。これもまたやはり、今更な問いかけにしか過ぎなかった。
 再び心に渦巻く思考の蛇が毒を吐きそうになるのを無理に抑え込む。ユウキさんが私の言葉を再び聞き、答えた言葉は肯定であり、そして否定であった。

「場合によっては命令違反をしなければならないことがある。状況によっては独断行動が必要だ。だからそれではない。その理由は、ティアナがスバルを、仲間を殺そうとしたことだよ」
「――え?」

 今、彼は何と言った?

 私が、殺す? 誰を――スバルを?

 意表を突くどころか想像すらしていない、私も望んでいないことをさらりと、何でもないように、それこそただ風が吹いたとでも言うかのように言われ、理解が追いつかない。理解が追いつかないくせして何気なく呟かれた言葉は私の胸に、そこに在るかのように落ち着いた。
 否定の念が泡のように浮かぶ。否定の言葉が泡のように浮かんでくる。しかし所詮それらは泡。泡沫のごとく弾けて消えて行く。否定したい。その心だけが先走り、焦燥の念を助長するも一歩のところで何かが足りない。何かが、抜けている。

「今日の演習での出来事は覚えているよね。間接的にとはいえ、君はスバルを殺す真似をした。いや、正確には殺させるような状況に追い込ませた。何を考えてかは知らないけど、それが事実だ」

 否定する言葉が出て来ない。だから私はただ彼の言葉を聞くことしかできずにいる。否定の言葉を並べることが出来ない今も、このままではいけないことを理解している。止めなくてはならないことが分かっている。
 だけど、どうしてもその言葉が出て来なくて。焦る気持ちだけが先走り、空回りし続けた。

「なのはに止められた時、僕ならスバルを盾にする。そうでなくとも大概の敵はスバルを人質に取る。そうすれば誰も手が出せない。この管理局に誰かを犠牲にしてでも敵を潰すと言う思考の持ち主は、余りに少数だ」

 あのフォーメーション。確かに言われてみればそう言う可能性も否定できない。十分にあると言える。しかし、それでもスバルなら何とかなるだろう。また仮に人質に取られたとしても私や、他の仲間たちと協力し合えば助けられる。
 ならばその可能性を考える必要などあるだろうか。それよりも如何に相手の意表を突き、無力化するのが有効かを議論した方が得策ではないか。私はそう思う。

「人質に取られた後、そこまで反抗した敵が大人しく人質を解放するか……まずしないし、取り返したときその人質が五体満足である可能性は極めて低い。ちなみに考えなかった、知らなかった、想定外等の言い訳は許さないよ。
 前に言っただろう? 何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない、と。戦争に想定外は憑き物なんだよ」
「……確かに、そういう可能性も否定しません。ですが、そこまで考えるなら全ての行動が不可能になる。危険ではないことなんて、ないのですから」
「その通りだね。でも君の場合は誰かを犠牲にするという思いが顕著に見えて取れた。だから味方として勘定に入れられないんだよ」
「そんな、冗談。私がスバルたちを犠牲しようなんて考えたことはありません! ただ勝つため、違法魔導師を捕まえるためにフォーメーションを考え、必要であるからこそ危険な行為をさせたとしても、私はそんなことを考えない!」
「……考える、考えないは関係がない。結果としてそう見え、そうなった。この事実だけで世界は君を判断する」

 今……今私は何と言ったのか。そんな事を考えない。ああ、感情に任せてそう言ったのか。言ってしまったのか。ならばそれは本当に本音で、残酷な事実であるが否定し様の無い本心だ。
 つまるところ、そう言うことなのだろう。あの時私は考えなかった。そうしてスバルを殺そうとした。考えずに殺そうとしたのではなく、意図して考えずに殺そうとした。私の中に芽生えた殺意、悪魔と評するに相応しい獣がそうさせた。
 こんなことに気づくならいっそ、無知で居られるほど愚かでありたかった。しかし世界は残酷で、今の私に気づかないと言う選択肢を与えない。否定する愚かさを、与えない。
 でも、その悪魔に気づいた時、ユウキさんの視線が柔らかくなった気がした。差し出されたココアは温くなったけど、程良く甘く感じる。ああ、私はまだ、大丈夫なんだ……
 もう一口ココアを飲むと、自然とそう感じた。

「僕はそんな下らない事実を再認識しろと言いたいんじゃない。むしろ考えてほしい、ちゃんと認識してほしいんだ。最悪も最高も、全ての可能性を模索してほしい。
 指揮官に必要とされる能力はね、最高の策を提示する能力よりもまず、最悪を想定できる能力と、全ての結果を受け入れる覚悟だよ」
「…………」
「新人フォワード陣の指揮官に出来ていないんじゃ、安心して指揮を任せられるわけがないじゃないか。後疲労もかなり蓄積されていたから外したんだよ」

 スバルにそれを求めるには余りに彼女が優しすぎる。優しすぎて、何もできなくなる。エリオは幼い。経験と知識が足りず、何より周りを見る目が足りない。キャロは恐れすぎる。力や仲間の危険に恐れて何もできない。
 そう考えると必然的にその席は私に回ってくる。一方で陸士校の同級生達を考えてみても観察眼や知識などで指揮官に相応しいと言える者は極少数。となると私がここにいる理由も存在するか。
 出来ればそう言ったことを来た時に行って欲しいのだが、あの馬鹿どもは。失敬、若く、右上がりの階段しか登っていない上司どもは――本音が取れない理由は何故か。

「……何故、なのは隊長はそんなことすら、言わなかったのでしょうか?」
「何でって……君と同じ人間だからだよ。人だから失敗するし、人故に間違う時もある。むしろ、高々才能あるだけの三歳年上の人にどこまで期待しているのさ?
 英雄だのエースだの世間は言うけど、なのははかなりドジなんだからね。魔法がなければ何もないところで転ぶぐらいに。さっきも人の胸で泣いていたんだよ。なのはだってエース以前に少女なんだ。それはもちろん、人並みに間違うさ」

 今すごくそれを実感させていただきました、はい。お陰で身体が悲鳴をあげております。ユウキさんもユウキさんで分かっているなら言って欲しい。なのは隊長の恋人なんだから注意するぐらい出来ただろうに。
 いやしかし、それをしてしまっては今後との隊長たちのためにならないのか。出来る限り彼女たちに自ら気付いてほしい。そうした方が良い。どうせここは実験部隊なのだから、少々の失態はまあ……ユウキさんのブルータス。

「ああ、そう言えばそうでしたね。そっか……なのは隊長でも間違えるんだ……」
「間違うよ。なのはだけでなくフェイトもはやても皆々。もちろん僕も」
「…………」

 いやいやいや、この人は何を言っているのだろうか。確かに年が大体二十歳前後ではあるものの、失敗するような場面を全く想像できない。どのような状況であっても普段通りで済ませてしまうイメージしかない。
 結論ダウト。これ以上の審議は不要である。ただ、それでも間違えたと言うのなら生まれてくる性別と、容易く死に至る程の魔力過敏症と魔力素質を手に入れてしまったところか。しかしそれらは人ではどうしようもない領域だ。まさしく神の頂きに届いた者にしか何もできないことである。

「所で聞きたいんだけど、君は何故力がほしいの?」
「それは、この前答えませんでしたか?」
「それはそうなんだけど、僕が聞きたいのは君が力を求める理由なんだ。まさか何の理由も目的もなく、力を欲しているわけじゃないだろう?」

 つまりスバルで言うところのなのは隊長に憧れて、彼女のように誰かを助けたいから。そう言った思いのことか。紛らわしい。求める理由を聞きたいのなら最初からそう言えば良いのに。
 そう言いながら私は眼を閉じ、私の――魔導師としてのティアナ・ランスターに思いを馳せる。過去は今ではない。しかし今も私は、あの頃の思いをまだ持っているのだろうか。

「言わないといけませんか?」
「別に。強要はしないけど言わないというのであれば君の行動を全て客観的に判断するしかなくなる。それだけだよ」

 正直に言えば言いたくはない。何せ私の目的はスバルのように綺麗なものでもない。むしろ身勝手で我がままで、どうしようもなく自己満足でしかないものだ。故に余り、気安く話したくはない。
 しかしここは話さなければならない場面なのだろう。現状のまま誰にも語らずいたなら、ユウキさんの言うとおり行動だけで全てを客観的に判断するしかなくなる。あの無理も全て、客観的に判断される。
 これが言う練習だと思って。そう覚悟を決め、私はゆっくりと余り語りたくない思いを口にした。そこでふと思い返す。兄さんの葬式の日に兄さんの事を罵倒した管理局員。あの人に暴虐の限りを尽くした鬼のような人は今、何をしているだろうか。
 兄さんと親しくしてくれていた人の話では昔と変わらず、ちょっと変わった店を経営しているとのこと。機会があれば是非ともお会いして、兄の話を聞いてみたいものだ。

「私の目的、力を求める理由は」
「…………」
「兄の魔法が、ランスターの魔弾が役立たずではないと証明するため。そのために力が必要なんです」

 ある違法魔導師を捕まえるため連続であるにもかかわらず出動し、相手を弱らせることには成功したものの、民間人の盾となって墜落死した兄さん。そんな兄さんが私に残したものは少ない。
 管理局地上本部では貴重な空戦魔導師で、エースと言われていた兄の忙しさと言えばフェイト隊長やはやて部隊長並みだったのだから。まともな休みなど月に一度あれば良い方だった。早上がりこそあったものの、徹夜も多くあった。正直、兄との思い出は少ない。
 そんな中でこの手に残されたもの、それはせいぜい無理言って教えてもらった魔法。僅かにそのぐらいだ。ただ、教えてと頼んだ時の兄の悲痛な表情は今でも心に残っている。それでも無理して教えてもらって本当に良かった。習わなければ、果たして私の手に何が残っていたのだろうか。

「……一つ、疑問に思ったことを聞いていい?」
「ええ、どうぞ」
「それでは、どうやって役立たずではないことを証明するの? いや、どこに至ったら君はそれを証明できたと考えるの?」
「えっと……それは……」
「なのはのようにエースと呼ばれたら? その力で誰かを助けたら? 百人救えたら? 千人犯罪者を捕まえたら? 一万人殺したら?」

 兄から教わった魔法、それしかないと考えていたから、何よりそれを蔑ろにされたからただそれが役立たずではないことを証明するために頑張ってきた。確かに、その通りだ。私はそれしか知らず、またきっと何より、逃げたかった、忘れたかったのだと思う。最愛の兄の死という、悲しい出来事から。
 だから今さらというユウキさんの疑問は的確に私の心を貫く。何よりそれらはどうしようもない事実で、再び私は何も言えなくなる。彼の言う通り、役立たずではないことを証明する手段を私は持っていない。それを持っているのは常に他人だ。



「その夢は、叶うのか?」



 だから彼の言葉は、的確に私の心を抉った。

「……別に叶わない夢を見るな、なんて言わない。僕だってかなうはずの無い夢を見ているのだから、言えるわけがない」

 ならば、何故。何故今更あのような質問をしたのだろうか。何故いたずらに私の夢を引き裂き、心を抉るのか。そこまであなたは、残忍であったのか。

「だが、問おう。その夢は友を仲間を隣人を犠牲に払ってでも叶えたいと望むものなのか?」
「わた、しは…………」
「結局のところ、前に言ったことなんだよ。
 何事も仕方がないでは済まされない。おまけに終った後では意味がない」

 その言葉を聞くのはこれで三度目。つまり彼が言いたいのは間違えるなということだろう。順序を、序列を、今この手にあるものを間違えるなと言いたいのだろう。
 これまで私が見てきたものは常に過去で、どれほどあの日から遠ざかろうとしていても心があの日に囚われていた。ユウキさんが私に見てほしいと願うのは常に今で、スバルの事、なのは隊長の事、そして自分自身のこと。私が今まで、見なかった事ばかり。
 今この手に在るもののどれ一つを取ってしても失えばどのような思いをするのか。それは既に経験したことだ。なのに私は、あの日から一切進歩せずにいた。知っていた、恐れているはずなのにまた失おうとしていた。

「まだ大丈夫。君はまだ何も失っていない。だからちゃんと考えて。何を望み、何を守り、何を失いたくないのか、得たいのか。人の心は移ろうもの、永遠に不変ではない。僕は今の君の答えを、知りたい」

 少し、立ち止まって見ようと思う。兄の残した魔法が役立たずではないと言う夢を追うのは諦めないが、少し立ち止まって見ようと思う。別にその夢は今でなくとも良いのだから、考えよう。
 今の私にあるもの、そして兄が何故悲痛な表情をしたのか。その思いを、今なら少しでも理解できる気がするから。

「あ、最後に一つ。効果的な訓練方法として十分な休息をとることが前提条件だ。少なくとも常識的に考えて一人勝手に無茶なトレーニングをするより、上官と良く相談して自主トレした方がいいよ」

 確かにまあ、また倒れたらあのバカが泣く。なのは隊長のあの目をまた拝むのは少しトラウマがある。どうせチビッ子も心配するだろうし、他の隊長たちもそれなりに気にするだろう。
 やれやれ、少し考えれば何ともまあこの手にあるものが多いことだ。私の手は二本しかなく、届く距離も非常に短いと言うのに。本当に、やれやれ。面倒なことになった。だけど私は、それを堪らなく嬉しくと感じている。



[18266] 第十七話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/09/12 23:23

 一般的な言葉で今私が置かれている状況を飾るなら、あれが最も適しているといえるだろう。若干病みが進行した彼女と決別を切り出した彼氏の構図。その果てに待っているのは深夜の包丁か拒否権の無い無理心中か。
 しかし現実はそこまで酷いものではなく、真実の姿は元犯罪者である私、ジェイル・スカリエッティと私を母親の敵とするフェイト・T・ハラオウン執務官が対面しているだけだ。デバイスと協力無慈悲な広範囲殲滅魔法が出てくることはあっても包丁の出番はまず無い。いや待て。それもそれで頂けない話ではなかろうか。

「…………」
「………………」

 例え今、時空管理局地上本部技術開発局所属ジェイル・スカリエッティ局長という身分にあるとしても犯罪者であったという過去は消えない。故に、本来なら今現在私は拘束されようとも文句の一つも言えないのだ。実際は。
 しかし現実問題、先ほどまでいたユウキのお陰でそれだけはないように問題の歪曲をしてくれた。ついでに空気を呼んでこの場にいた八神部隊長を引きずり、フェイト執務官の変わりに緊急の任務に向かった、と思われる。
 ただその空気を読む行動のせいで現状気まずい空気が漂っているのだが、今にも戦闘が置きそうな針つめた空気よりも幾分かはましか。ましなのか。まあましに出来る分ましか。

「……ユウキの話は、全て事実、なのですか?」
「事実だ。モンディアル夫妻の欲求に答え、エリオを作ったのは、私だよ」

 私が作ったデバイスの出来栄えの確認と最終調整のために本日機動六課に足を運んだ。決して娘であるチンクの無言の脅迫に屈したからではないと明記させていただく。そのチンクも今は地上本部直属特務部隊の任務で不在だ。
 そしてまあいろいろとあって、勝手に不要なリミッターを付けてくれたシャリオ技術仕官を脅して弄び、フェイト執務官に武器と怒気を突きつけられ、ユウキが強制的にフェイト執務官を眠らせ。
 朝食がまだ等の身勝手な理由で食堂に移動し、目が覚めたフェイト執務官と何故か残った八神部隊長を言葉巧みに思考誘導し、問題の歪曲に勤め。

――今に至る。

「第一、そんな話に虚実を混ぜたところで嘆くのは君ではなく本人のみだろう。ユウキがそれを良しとすると思うかい?」
「…………」
「沈黙か……まあいい」

 ユウキがフェイト執務官に話した内容は至って単純で、現実のように残酷なものだ。内容としては主に三つ。
 一つは私が一度としてロストロギアの取り扱いを間違えていないこと。それでも暴発したのは他の研究者や、言ってはいないが管理局の杜撰な管理の責任であること。この事実はフェイト執務官もジェイル・スカリエッティを追う上で知っている事実であるため、否定はしなかった。
 続いて、一つはロストロギアの研究の違法性の異常性。現代より発展した技術の研究は普通すべきことであり、過去と同じ失敗を踏まないためにしなければならないことである。また調べていく上でロストロギアの破壊という一箇所に集めて集中管理よりもこれ以上ないほど安全な方法を取ることも可能になる。
 それなのに何故ロストロギアの研究をせず、一箇所に集めて管理するのか。むしろ其方のほうが危険ではないのかと最後に疑問を投げつけ、その話は終わった。
 そして最後に、最後となった話はProject.F.A.T.E、フェイト執務官にとって鬼門とも言える話題だ。話せば非常に長くなるのでかなり省いて語ると。

 何故人を生かす技術が悪なのか。
 何故その技術を憎むのか。
 何故生まれで人を差別するのか。

 確かに人造魔導師計画は犯罪行為だ。生物を駒として扱うことはどうしようもなく悪だ。ユウキ曰く人類に残されている数少ない魔法、奇跡の一つである生誕を踏み躙るのは神であろうが許されない。
 ただ、それはあくまで人造魔導師計画だ。Project.F.A.T.Eではない。そのことを的確に指摘した。どのような技術も使い方次第、そのことを問うた。
 そして、一つの身近な例としてエリオを取り出す。人造魔導師計画によって造られたクローンであるといわれているが、実際のところはモンディアル夫妻とオリジナルのエリオの細胞を用いて人工授精、促成された子供だ。断じてクローンではない。

「どうして、ユウキさんはその事実を知っているのですか?」
「気になることがあれば自分で調べる。ただそれだけの話だよ。それにユウキの人脈は結構多岐にわたっていてね。もちろんモンディアル夫妻の抱える問題についても知っていたのだよ。だから、調べた」
「そう、ですか……」

 人工授精によって生まれながらも愛されて育ったエリオ。それを勝手にクローンと断定し、研究施設に連行した管理局。人を造ることを悪とするなら管理局の行動は正しい。しかし果たして子宮から生まれた子とビーカーで育った子に何の違いがあるのだろうか。
 事情を深く知らないユウキからすれば造られた子を好んで保護し、酷く酷い扱いを受ける子を選んで受け取るフェイトの行動は生まれで差別しているように見えるのだろう。実際のところ、彼女は同類相憐れむ感情を心のどこかで抱えているのかもしれない。
 それはともかくとして、親に拒絶された彼女では到底想像で気はしないだろう。子の幸せを願い、そのために怨まれることを選択する親の感情など。手を差し伸べては自分たちは監獄に囚われる。
 それは別に構わない。ただ、クローンではないという事実を知ったエリオが自分の生まれのせいで両親が犯罪者となったことを果たして許容するか。否、何時までも罪悪感を抱えることだろう。
 そうなるぐらいならいっそ、手を払いのけて怨まれるほうがましだと、あの夫婦は決心したそうだ。近年稀に見る子を思う親だ。

「じゃあ、私のしたことはいけないことだったでしょうか?」
「いや、そんなことはない。君がエリオを保護してくれたお陰で酷い扱いを受けることもなく、モンディアル夫妻の願いも叶った。そういう面ではユウキは君に感謝していると思うよ」
「でも、私は……」

 ふむ。

「では、問おう。あの時何もすべきではなかったというのかね?」
「そんなことは!」
「だろう? 選択がどうであれ、過程がどうであれ、エリオは君の選択によって救われている。今更あの時こうすればと嘆くのは今を知っているかだよ。あの時では決して選べない選択肢だ。
 過去の過ちを悔やむのは構わない。失敗して間違って、それを悔やんで人は進歩するのだから。しかし間違ってもいないのに悔やむのはそれこそ間違っているよ」

 科学者としてあるまじき発言だが、こと人間に限って正しいという言葉は余り好きではない。なぜなら人の何をもって正しいとなすか、それ自体分かっていないので正しいという言葉が使えないからだ。
 それに正しいという言葉だけで表現できないからこそ私は人間に恋をしている。正しさだけではなく、間違いもあるからこそ興味深い。

「でも私は、何も知らなかった。保護してから何も知ろうとしていなかった。話を聞くだけで分かることなのに……なのに私は、計画に加担したと聞くだけで会うことを拒絶していた……」
「…………」
「保護する以上、保護責任者を名乗る以上知る責任が私にはある。なのに、なのに……!」

 残念ながら私は彼女ではない。良き理解者でもなければユウキの様に傲岸不遜でなるように出来る人でもない。所詮私はどこまで言っても私でしかなく、故に彼女にかける言葉など、私の言葉しか知らない。
 しかし、どう声をかけるべきか。正直私の周りにある話題といえば専ら研究に関すること。この手の話には途方もなく疎い。経験がない事柄にはどう手をつけて良いのかが分からない。特にこの、マニュアルが一切ない人の心に関しては。
 全く、ユウキめ。中途半端に終わらせて去ってくれて。やるならば最後までやってくれれば良いものを。こういうことは本来彼の領分だろうに。

「君は中々に、傲慢だな」
「……え?」
「そんな事実を知って、どうするというのだね? エリオに伝えるのか? よりにもよって平穏な家庭を壊してくれた管理局員のそんな話を信じるとでも? 両親に返すのか? 彼らはエリオに怨まれること覚悟で、当時のエリオも彼らを怨んでいただろうに」
「そ、それは……」
「知ったところでどうしようもないのだよ、君には。勿論私にも。むしろ知ればエリオに感づかれる。怪しさを感じ取られ、心開くのは当分先になるだろう。第一、君は腹芸が苦手そうだしね」
「で、でも知らないと何も出来ないじゃないですか。それに早めに知っておけばきっと出来ることもあったはずです。だから、知ったほうが、良かったに決まっている」
「いや、それは間違いだ。知らなければ出来たというのに、知ってしまったが故に出来なくなることもある。確かに知らないより知っているほうがよいが、しかし何でも知れば良いというものでもない。何事も時と場合によるのだよ」

 私が自覚ある強欲ならば彼女は無自覚な傲慢。そしてエリオは暴食と。なにやら七つの大罪らしき影が見えてきたのだが、何か関係があるのだろうか。後で少し調べてみよう。

「何でも出来ると考えるのは傲慢だよ」
「そんなこと、やってみなければわからないじゃないです」
「確かにその通りだ。それでも自分にできないことは自覚しておくべきだよ。出来ないことばかりに手を伸ばせば、出来ることすらできなくなるからね」
「でも、ユウキさんは……」
「彼はできることしかしない人間だよ。それからやりたくないことはやらない人だ」

 出来るかできないか。出来るにしてもどこまで出来るのか。その線引きが恐ろしく明確に、かつ漸近線でも取ったかのように正確なため、何でも出来るように見える。むしろ出来ないことなんてあるのかと錯覚させるほどだ。
 一応彼には出来ないことがいくつか存在する。それが事実であることもすでに確認した。一つは十分以上全力で戦うこと。一つは人外な行為。例えば吸血行為や羽を生やすといったこと。あくまで彼は人だ。それ以上の事は望まれても出来ない。

「人間、傲慢なぐらいがちょうど良い。君も少しはユウキを見習って、自分の決断に自信を持ったほうが良いのでは?」

 ただ、問題としてフェイト執務官は芯が見えない。はっきりとしていない。まるで誰かに依存しなければ立てないような、そんな風に見える。
 残念ながら、その生き方では今後非常に苦労することだろう。あいにく誰も彼も立たない大人を起こす残酷さは持ち合わせていない。声をかけて立たないのであれば、容赦なく置いていく。
 そこに複雑な家庭環境と類稀な生命形態と奇怪な人生が加味し、それらによって厳選された簡単な条件により、少し変る。しかし基本的にはそんなものだ。自力で立たない人間が立って問題ないほど、世界は優しくない。

「過去を悔やんだところでその選択が覆るわけでもない。未来を憂いた所で未来が分かるわけでもない。結局今を生きる私たちには今しかないのだよ。ならば今、選べる今に全力を尽くし、出来る限りの最善をするしかない。
 幸い、私たちには時間がある。間違いを犯せる余地がある。ならばまだ、何とかなる」
「そう、ですね……全く持ってその通りです」
「ん、意外そうだな?」
「意外ですよ。まさか犯罪者にそんなことを言われるとは思いませんでした。何より狂科学者で有名なあなたに……そう、あなたに!! どうして管理局に所属しているのですか!?」

 これはまた、藪から棒に。さて、彼女が聞きたいことは果たして何だろうか。少し思案して、思い当たる。ああ、今現在犯罪者であるジェイル・スカリエッティは何者かという問いか。まあ普通は思い至らないことなので疑問に思うのも仕方がない。

「それはつまり、今現在犯罪者であるジェイル・スカリエッティは何者か、という問いで良いのかな?」
「ええ、そうです」
「簡単な話さ。あれは私のクローンだよ。まともに生きようと思ったときに死んだことにしたのだがね、ある方がそれを隠したいがためにクローニングをしたようだ。いやはや、会ったのことのない私が私の罪を全て引き継いでくれて非常にありがたいよ」
「…………」
「む、信じられないといった表情をしているね」
「えっと、はい」
「まあ無理もないが、こればかりは事実なのでどうしようもないよ。全く、プレシア女史も面倒なものを生み出したものだ。お陰で妙に生きる人が増えた」

 ディーエに情報収集を頼んでいる。他にもレジアス、ナカジマが手伝ってくれている。それで分かったことが一点。最高評議会に流れている資金が増えつつあること。また妙な研究でも始めたようだ。

「そもそもそのきっかけを作ったのはあなたでしょう! あなたがProject.F.A.T.Eさえ教えなければ、母さんは死なずにすんだ!!」
「別に私が教えたわけではないのだが……それに彼女はそれを知らずとも早くに死んだ。子を失った悲しみのせいでね。親の死の原因は私というよりもむしろ、子を失った事件、ヒュードラにあるのではないか?」

 一年か、二年か。さすが二十年はない。あの計画を彼女が知らずともいつかは死ぬ。計画にアルハザードの可能性を見たか見てないか、ジュエルシードの存在を知ったか知っていないかによって死に方は変ったことだろう。ただ、そのぐらいの違いだ。

「確かに計画を打ち出した私にも非がある。それは否定しない。しかし、直接的な原因は、そのきっかけとなったのはヒュードラの暴走による娘の死亡だ。もしもそれさえなければ、計画を知ってもこれほどまでに早くに死ななかっただろう。そもそもあの事件が起きた時点で、彼女に未来などなかったのだよ」

 Project.F.A.T.Eでは死者の蘇生は奇跡でも起きない限り不可能だ。この事実は優秀な研究者であるプレシア女史なら気付けたはずである。しかし狂った彼女は気付けなかった。目を背けた。
 それほどまでに失った者が大切だった。この事実が良く分かる。ただ私見で言わせて貰えば、だからといってさらに自分を犠牲にするのは間違っている。仮に何らかの奇跡があり、取り戻せたからといってその先に未来がないのではあまりに意味がない。故に間違っている。
 しかしこればかりは、狂気に狂気を重ね、人という種を逸脱し、奈落の底まで堕落した上で間違わなければ正直、そんな奇跡も起こらない。かといって起こる頃には引き返せなくなっている。

「私がいなければ、確かに彼女がそこまで早くに死ぬことはなかった。ただ、私がいなければ君が生まれることもなく、おそらく彼女がジュエルシードの存在を知ることもなく、闇の書の暴走を消滅させる手立てもなく、八神部隊長は永久に氷の中に閉じ込められた。
 私がいなければレリック事件が起こることもなく、エリオは生まれることもなく、ル・ルシエ隊員は戦略兵器として扱われ、今を生きている人の一部が墓に入ることになる。
 現在というのは非常に脆い。過去の選択肢を一つ変えるだけで全てが変化する。どれかを正しくすれば何かが間違う。何を取り、何を切り捨てるのか。そもそもその選択は正しいのか。正しいことすら理解していない私たちがそんなことを語るのはおこがましい。
 問題は選択をした私たちにある問題は何が正しいのか悩むのではなく、間違っていないと信じて突き進むことしか出来ないということだよ。過去は須らく変えられないからこそ、過ぎ去る時、現在ではないのだ」

 彼女の言うとおり、私が生まれてくることは間違いだったのかもしれない。しかしそれは推測で、どうしようもないからこその言葉だ。事実は誰にも分からない。
 ヒュードラが暴走せずとも、プレシア女子がいなくともクローン技術も生み出し、完成させる人はいるだろう。それを必要とする人がいる限り、遅かれ早かれ作られることになる。

「確かに、あなたの言うとおりです。過去は変えられない。もしあなたがいなければ、はやては永久封印されている可能性が高い。エリオも私も生まれなかった……
 でも、もっとやり方というものが会ったのではないですか? あなたは母さんを助けられたのではないのですか? エリオが研究施設に連れて行かれるとき、助けられたのではないですか? 何故あなたは、それをしなかったのですか?」
「しなかったのではないよ。出来なかったのさ。そも、プレシア女史にクローン技術を都合良く教えたのは私ではなく、当時の私に自由はなかった。海ではまだ犯罪者であるために海関係のところへは足を運べない。やり方以前に選択肢がない」

 私が彼女でないのと同様に彼女もまた私ではない。執務官としてかなり自由に行動でき、魔導師として戦える。凶悪犯罪者でもないから偏見の目は僅かだ。出来れば人としてぶれない芯を持っていただきたい。
 それから、願わくは私の言葉にちりばめた手がかりを元に諸悪の根源を叩いていただきたい。過去に執着する脳髄どもがいる限り、私の未来は明るくならない一方だ。さっさと棺桶に入ってもらえないだろうか。そうしてくれたら俗称ダイナマイトという特別製線香の一つでも上げるのに。

「やはり、あなたのことは嫌いです」
「それは良かった。掌を返すかのように好まれては派手な花火で自殺してしまう」
「じゃああなたのことが大好きです。愛しています。結婚してください」
「…………君、私のことが嫌いではないか?」
「それはもちろん」

 そのときの笑顔を、私は思い出したくもない。しかし残念なことに忘れそうにもない。

「でも、一度考えてみようと思います。私にも理由があるように、あなたにも理由があるように。何も知らず、何も知ろうとせずに生きるのは嫌ですから。ただ、ただ知った後でもあなたのことを許せなかったなら、許容できなかったなら、そのときは容赦しませんよ」
「どうぞどうぞ。こちらも未使用の試作品が倉庫で腐りかけていてね。そのときはぜひとも使わせていただこう。楽しみにしているよ」
「……あなた、私のことが嫌いでしょう?」
「好きでいてほしいかね?」
「やめてください。吐き気がします」
「……君の体に興味はあるんだが」
「性犯罪で訴えますよ? 勝ちましょうか?」
「確かに私は変態だが、性犯罪者に落ちぶれるつもりはない!」
「…………」

 汚物を見るようなではなく汚物を見る目で見られては流石の私も傷ついた気がする。その手の視線には娘たちで慣れているため、耐性があるのだよ。残念ながら。残念なことに……コーヒーが少ししょっぱいな……塩と砂糖を間違えたか?
 そう言えば結局人種差別には一切触れていない。いや、私が気にするようなことではないか。それら全ては彼女の問題、もとより私に何か出来るわけがない。
 さて、そろそろ帰らなければ時間がもったいない。途中の研究も数多くあるのだから。フェイト執務官と別れ、のんびり玄関に向かうとユウキがいた。どうやら話があるようだ。
 ちょうど良く送ってもらいながらその話を聞くと、何でも死んだはずのセイン以降のシスターズとクアットロらしき戦闘機人が現れたそうだ。さすが私、やることは同じか。虫唾が走る。

「面倒だなぁ」
「ああ、面倒だ」

 溜息しか出ない。



今日のモンディアル夫妻

「息子を、よろしくお願いします」
「鍛えるのは構わないけど、人間やめることになるよ。それでも構わない?」
「あの子がそれを望むなら。もう私たちにはあのこの願いを知る術すらありませんから……」
「やれやれ。世の中何かとままならないものだね」



[18266] 第十八話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/09/13 15:58

 ベルカ自治領の中央に在る聖王教会の外れ。近頃の老人たちの間では庭作りでも流行っているのかと思いつつ、茶を点てる。五月も過ぎて梅雨に入った六月中旬。傘を手放せない近頃にしては珍しくからりと晴れた昼下がり。
 昔馴染みで現在聖王教会で働いているアリオス・イーリヤに呼ばれ、優雅に野点を開いた。ただここでの疑問はゲストである僕がどうしてホスト役をやらされているのか、という一点だ。解せぬ。いや本当に。
 まあいい。そんな日もあるさ。いや、そんな日しかないな。ある種の諦めに似た感情を抱きつつ、アリオスが法衣に身を包んでいることにもあえて突っ込まず、静かに茶を点てる。

「結構なお手前で」
「…………」

 今の服装は何時ものバーテンダー服ではなく、昔の普段着である甚平と羽織だ。流石に野点の際に洋服で来るような安っぽいトラウマは婆様に植えつけられていない。
 本来ならここは浴衣、あるいは着流し、または袴で来るべきなのだろう。しかし僕は動きやすさの観点から作務衣や甚平の方を好む。流石に野郎にチラリズムを求めるのは間違いだ。常識的に考えてそれを喜ぶ男性と付き合いたくはない。

「御粗末さまです」

 辺りを彩る花々は陽光を受け、午前中に降ったにわか雨の水玉が宝石のように輝く。先ずは居住まいを正して、本題に入ろうか。

「本日僕を呼ぶに至った建前をどうぞ」
「ゴホン。近頃教会騎士たちの乱れ、緩みがちな行動の取り締まり、またそれらの事後処理によって荒れ果てた私の心、胃を癒すことが目的です。そのために最も効率的なのがこれだという結論にいたり、呼ばせて頂きました」
「続いて、秘めたる本音をどうぞ」
「とにかく出来るだけ美味しい茶が飲みたい」

 うむ、軸に一切のブレが見られない。どうやら思ったより常連客が残した傷痕は奥深くまで入っているようだ。全く、たかが蒸し暑い梅雨の気候ごときで軟弱な。もしかしたら体育祭の選手宣誓の時、熱中症で倒れた僕よりも精神的に軟弱なのではないだろうか。
 室内ではエアコンを百年以内に環境を破壊する勢いでつけまくっているというのに。少しは自然に目を向けたほうが良い。近々異常気象が起きても、僕は何も不思議に思わない。

「次は緑茶で良いかな?」
「ええ、もちろんです」

 重箱の中から餡蜜を取り出す。夏に近いこの季節、涼しげな食べ物のほうが美味しい。流石に老いた彼が冷たいものを食べてばかりでは体に悪い。故に熱い茶を出している。

「ユウキさんは、騎士カリムを知っていますか?」
「まあ一般知識程度には」
「預言については?」
「そういう能力があることは聞いているよ。精度は良く当たる占い程度だったか」

 聖王教会の騎士にして名目上管理局の少将。聖王教会、管理局本局双方に強い発言権を持ち、両者に太いパイプを持つ。ただ地上本部では余り彼女の存在を当てにしておらず、むしろレジアスは預言以外期待していない。
 彼女が上手に行動すれば管理局と聖王教会が良好な関係を築く橋渡しになるのだろうが、少し問題が。問題というより騎士には良くあることなのだが、考え方が固い。その辺りは仕方がないだろう。

「そうです。所詮その程度なので敏感になる必要はないはずなのですが、どうにも権力者は自分の地位を脅かす可能性のあるものに無駄に敏感でして」
「……自分も権力者の癖に」
「どういうわけか。叶うなら孤児院で子供に囲まれて余生を過ごしたいのですが、周りが私を防波堤にしたいようです。本当に、困ったものですよ」

 ちなみにここは孤児院でも教会でもなく、病院である。教会では周りの目がうっとうしく、孤児院では孤児たちが畏敬の念より距離を置いてくる。その点、病院では服装さえ昔馴染みの神父服でさえいればお菓子をくれるやさしいおじいさんで通るのだ。
 後はこの近くに、というよりここに私的な花園さえ作ってしまったなら来る理由は出来る。子供と戯れたいからという理由で病院一つ建てさせて、近くにこのような花園を作る人がいようとは。誰の迷惑にもなっていないから構わないか。

「それが権力者の普通だよ。一時の戯れでとはいえその席に腰を下ろした以上、諦めな」
「一応諦めてはいるのですが。それでもやはり諦めきれないので今は誰か失態を犯してくれないか、と願ってしまいます。失態さえあればそれを口実にさっさとやめれるのですけどねぇ……」
「……どうでも良いけど、本心は口にすべきじゃないよ」
「気をつけてはいますよ、一応」

 アリオスの本音を聞かされてしまった人は可哀想だ。確実に聞いたことを口実に無理やり自分をやめさせるように脅迫してくる。目を見て分かる。確実に本気でやる。来年から本気を出すどころの騒ぎではないほど本気を出して。
 まだ見ぬ犠牲者に同情の念と冥福の思いを黙祷する。所詮そのような念を覚えたところで結果は変らないことだろうけど。自己満足のためにも一つ。

「……で、その過敏症な方々が恐れをなして作ったのが機動六課、と?」
「そのようなところです」
「不純な動機だね。自分らでやってくれたら良いのに。どうしてあそこまで他人を巻き込むのかな?」
「事後始末をしたくないからでしょう。少しは現場で働いてもらえれば良いのですが」

 餡蜜がなくなったので続いて京都銘菓の水無月を取り出す。その名が示すように六月限定のこ和菓子は外郎に餡を乗せたような和菓子だ。このもちもち感がたまらない。作れば師走だろうが葉月だろうがお構い無く作れるが、やはり水無月。六月にしか食べられない、食べないからこそ水無月だ。

「…………」
「…………」

 しばらく黙々と味わう二人。涼しげな風が吹く時に飲む熱い茶は格別だ。日除けにさした緋色の和傘に吊るした風鈴が良い音を奏でる。

「ふぅ……じゃああの部隊の建前はロストロギア事件の早期対応部隊ではないわけ?」
「一応それもありますが、本当の設立理由は騎士カリムの預言に出てきた事件の対応部隊です」
「なるほどね……だから一年という実験部隊、か」

 本当に、面倒だな。もしも一年以内にその事件が起こらなければ、もしも解体後に事件が起きたなら、さてどうする算段なのだろうか。何より本局の人間は余りに地上本部を過小評価しすぎている。
 確かに地上本部に才能のある魔導師は少ないが、危惧するほど弱くは無い。何よりそのようなことを危惧するぐらいならちゃんと戦力の分散をすればよいものを。結局のところは今までの付けが来たに過ぎないのでは?
 そこまで考えたところで一旦思考を停止、与えられた情報の整理を行う。まず事件対策部隊である機動六課が設立されたのはクラナガン地上本部。つまり事件の舞台はおよそこの近く。遠くても次元管理局本局か。
 事件の規模は広いものだろう。何せ三提督に頼み、若く優れた魔導師を集め、バックヤードも豊かにしている。過剰と考えられるほどの設備と準備。さらに一点集中なら範囲は広く無い。
 一世界で収まるほどでいて海の高官が立場の瓦解を危惧するほどの事件なら、と。管理局が何者かによって襲われ、崩壊するといったところか。

「預言の内容については聞きますか?」
「遠慮する。そういったのは可能な限り聞かない主義なんだ。良い気分がしないからね」
「そうですか。分かりました」

 表立った建前に虚偽はない。事件内容はレリックに関係する可能性がある。後でジェイルにレリックについて問い詰める、必要は無いな。僕がそこまで気にする義理は無い。
 兎に角、酷い事件が起こる。範囲はこの世界付近で、規模は管理局が崩壊するほど。聖王教会も身を乗り出しているので管理局だけでは済まないような気がする。アリオスに十年内に聖王教会内部で起きたことでもレポートに纏めて提出させるか。
 本当に、これならミゼットから貰った資料を斜め読みせず、きちんと読めばよかったと今更後悔する。した所でほうじ茶を入れる。

「全てが杞憂にすめば言うこともないのですが」
「いや、確実に済まないよ。既に歯車は止められないほど動いている。レリック事件は度々起き、部隊は設立され、ついこの前的の実働部隊らしき人物と出くわした。流石にここまで来て何も無いのはむしろおかしい」
「やれやれ、対応したが故に確定した、ですか……」
「何で、嬉しそうににやけるのかなぁ?」
「いやぁ、終に私も自由になれるときがきたのかと思うと嬉しくて嬉しくて」

 アリオスのにやけ顔を見ていると、一体誰を人身御供に差し出したのかについて一つ話し合いをしたくなった。出来れば無人世界の荒野で、主に肉体言語と呼ばれる平和的解決方法を平和主義者の如く振りかざし。
 ただ、流石に彼も老いた。昔ほどの無理も無茶も出来ず、むしろ昔のツケのせいで今は花園の維持ですらかなりの負担になっているはずだ。実際、彼の動きを見ていても少々歪に感じる。それを見ても僕は直そうと思わない。思わずにいるのは果たして無情か。死に憧れるのは人として異常か。

「まさか、そんなことを教えたいために呼んだわけじゃ、無いんだろ?」
「……その預言絡みだと思うのですが、極秘裏に調べてもらいたいことがあります。これです」

 見慣れた赤い液体、血が入った小瓶を赤い敷布の上に置く。血液検査か。こんな病院を建てるぐらいだから聖王教会でもその程度出来る。なのに何故僕に頼むのか。頼まざるを得ないのか。視線で質問する。

「検査結果次第で教会の現行体制が崩壊します。ものによっては次元世界全土を揺るがす戦争が勃発するでしょう」
「…………」
「事実、今まで目立った事をしなかった過激派内部で妙な行動が相次いでいます。またその血の持ち主が現れる前後で行動が活発になっています。現状は私の権力で彼らの目を欺いていますが、それも何時まで出来るやら。
 正直、可能なら聖王教会、いえ管理世界に置いておきたくありません。出来るなら安全な場所で事が終るまで隔離しておきたい」

 いくら老いて弱まったとはいえ、アリオスにそんな事を言わせるなんて。いやはや時とはかくも強きものか。生きとし生けるもの、生きる以上時間に勝てないのはいつの世も同じである。
 もしも彼が、彼らが三十歳若かったなら、そもそもこんな事態を許すことすらなかったことだろうに。時空管理局本局も地上本部も一喝で纏め上げ、教会内部の不穏な空気を文字通り捌いていたことだろう。
 思えばあの頃がミッドチルダの全盛期だったのかもしれない。比較してみればあの頃より今の方が全体的に劣っている。仕方のないことにそう思えて仕方がない。
 かといって今更老骨が出張った所で出来ることなど何もないのもまた現実。やれやれ、と僕は表立ってため息をついた。

「とりあえず、頂けないことは分かった。君がそう言うんだから大体はそうなんだろうけど。ちなみにこれは一体何の血だと考えているの?」
「……騎士カリムの預言、過激派の行動、タイミングから察するに――」

 その時、近くの紫陽花の茂みが風以外で揺れる。それに反応するや否や手にしていた小瓶を懐の中に隠した。まさか僕たちがこんな距離に近づかれるまで気づかないとは。例えアリオスが仕方がなかったとしても、僕はまずあり得ない。どれだけ敵意を持っていない存在であったとしても僕が気付かないのはおかしい。
 揺れた紫陽花の茂みを二人で揃って睨む。どれだけ考えても僕がそれを見落とした理由が分からない。だからそのヒントを求めて見続ける。睨む。観察する。

「…………」
「………………」

 殺意は感じられない。敵意はかけらもない。害意は存在せず、獣臭は漂っていない。むしろ嗅覚を刺激する臭いはどちらかというと病院に良く在る薬品集だ。ただその中に若干人間の臭いがする。ならば隠れているのは人間だろう。
 しばらく、そう時間もたたずに紫陽花の茂みに隠れていた相手は姿を現した。それと同時に拍子抜けする。相手は子供、それも少女ではなく幼女に分類されるほどの子供だ。腕は大事そうに兎のぬいぐるみを抱えているあたり、十二分に愛嬌がある。流石にそんな相手にきつい視線を向けるほど僕らはバカではない。
 だが、子供は愚かである分敏い。弱いからこそ身を守るために外界に敏感だ。僕らがそう言った視線を向けていたことに知らずとも気付き、恐れるように身をすくませた。

「…………」
「…………」

 視線だけでアリオスと会話をする。とりあえず話は途中止め。子供の前であんな会話をするのは情報漏洩上の問題もあり、また彼女の精神上にも悪い。
 その一瞬の交錯の後、再び子供の方に視線を向けると案の定、今にも泣き出しそうに眼に涙を溜めていた。そんな事をされるとここに人が集まる。それは流石に不味い。また子供の泣き顔を好んでみたいと願うほど僕は鬼畜でもない。何よりアリオスは子供好きだ。

「……あは」
「クス」

 で、泣くのを阻止するためにやろうとしたことはアリオスと同じだった。僕は懐を探って飴を取り出そうとし、彼は彼で神父服の中を探って常備している飴を取り出そうとしている。同時にしては彼女も混同するだろう。水面下での謙虚な押し付け合いの結果、僕にその役目が回った。

「おいで」

 飴を手に呼びかける。その子供は紫陽花の茂みから僕とアリオスを交互に観察したが、結局僕の方によってきた。それでもやはり恐れがあるのだろう。走り寄ることは無く、むしろ恐る恐るゆっくりとだ。
 それも止む無しと考えつつ、さて何を出そうか。抹茶は子供には苦すぎる。何を食べても大丈夫なのかが分からない間、苦味は身を守る上で重要な感覚だ。だから子供は苦いものが嫌いだ。
 かといって僕たちが飲んでいる緑茶やほうじ茶では熱過ぎる。それもそれで飲みたがらないだろう。では、何を出すか。ここは定番の無添加果汁100%のリンゴジュースで。

「…………」
「………………」
「…………」

 手が届かない微妙な距離で立ち止まる。もしもここで近寄れば立ちどころに離れて行くだろう。暫し辛抱する。待つのは嫌いではないから苦にならない。
 子供はじっと僕の方を観察し、危なくはないと分ってくれたのだろう、近づいて飴を手にした。そしてそれをじっと見つめる。まさかとは思うが、飴を知らないとか?

「これ、なに?」
「飴だよ。お食べ」

 答え、知りませんでした。というのは妙な話だ。このぐらいに成長した子供なら、余程貧乏な家庭で育っていない限り一度は飴を食べたことがあるだろう。むしろ飴は泣きやまない子供を黙らせるための常套手段だと言っても良い。
 どういうわけかと考える前に子供に悟られないよう視線でアリオスの方を見る。そこにはおおよその回答があった。曰く、さっきの血液サンプルの持ち主がこの子供であるとの事。
 それを知った時に思ったことはまさかこんな子供がという考えではなく、ガキ一人を原因に戦争を起こすなという至極当たり前の物であった。どうしてこんな子供一人で戦争を起こせるのだろうか。近頃の大人は獣よりバカかもしれない。

「あまい……」
「飴だからね。甘いのは嫌い?」

 返事は首を横に振ることで返される。もう警戒心を抱いていないことを確認し、頭を撫でる。髪は痛んでこそいないものの、栄養が少し足りない。肌も張りがなく、日光を浴びた様子が一切見られない。となると、考えられる可能性は幾つか。
 一つはこの少女が異端児で、そのためどこかで隔離され続けていた。近頃になってようやく救出された、というものであるがそんな話は一切聞いていない。また異端児で教会が戦争を起こすとは考えにくい。
 一つは先日の事件。あの時一人の少女を救出したはずだ。もしもあの子がクローンで生み出されたのならば。飴を知らない理由も説明が着き、教会が戦争を起こすと言う可能性も存在できる。
 場所も分からない遠い所にいる誰かに怒りを抱きつつ、飴を食べ終えた子供にリンゴジュースを出す。

「僕はユウキ・カグラ。で、こっちの爺さんは」
「アリオス・イーリヤです」
「君の名前は?」
「……ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオはどうしてこんな所に? 何か探しものでもあるの?」
「……ママが、ママがいないの」
「そうか……それは大変だね」

 ヴィヴィオ。勿論僕は聞いたことがない。ただ一つ疑問を覚えたのは、もしもクローンだとして何故ヴィヴィオという名前を覚えているのか。またその人物の記憶を持っているのか。遺伝子が、ある程度の記憶を保持している?
 確かにそんな事を言っては言葉を知っている理由も説明がしづらい。ならここは遺伝子がある程度の記憶を持っていると言った方が楽だ。あるいは、言葉を知っている理由はそう言った基礎知識をあらかじめインプットさせられているという原因がある。その辺の禅問答は今することではない。

「ママ、どこ?」
「それは……流石に分かりませんね。私たちは神様でないので、分からない事もあるのですよ」
「ふぇ……」

 一般名称神ですが何か問題でも。と言ってもそこまで知っているわけではない。全知全能でもないし、あくまで一般名称だ。出来ないことも多々ある。ただ、この世の何よりできることが少し多いだけで、出来ないことが少ないだけでしかない。
 流石に、探し人についての情報が余りに少ないので場所は分からない。生死の判別もつかない。それはともかく。今にも泣きそうなヴィヴィオどうしよう。

「大丈夫だよ。ヴィヴィオのママはちゃんと見つかるよ」
「……本当?」
「うん、約束する。だってヴィヴィオはママが好きなんだろう?」
「うん。大好き」
「じゃあ大丈夫だよ。ヴィヴィオが好きになるほど自分のことを愛してくれているなら、ママもヴィヴィオと同じように心配して、今頃必死に探しているさ。だから、大丈夫だよ」

 ここに存在するなら、という限定条件が付随するが。だが、こう言わなければ彼女は泣きだすだろう。だから無責任に人を作るのは好きになれない。むしろ嫌いだ。こうして悲しむ人が生まれるのだから。
 嘘をつく。そしてそれを信じさせる。この行為に慣れているが。やはり慣れないものがある。良心が痛むのではなく、それに慣れてしまっている自分がどうしても嫌になる。だから僕は、僕を見上げるヴィヴィオを撫でるしか、出来ない。

「……ゆっくり探せばいいよ。焦って、良くなることはあまりないんだから、ね?」
「……うん」
「出会った時に会えなかった分甘えれば良い。それまで笑顔でいよう。ママが心配しなくていいように。ママもきっと、ヴィヴィオが笑っていることを望んでいるからさ」

 それでも会えない不安は容易く拭いきれるものではない。流石にこれに返事はなく、僕に強く抱きついてきた。強く、と言ってもそこは子供。さしたる力はない。だけど僕は、それ以上何も言わず、ヴィヴィオを撫で続けた。
 余り彼女を刺激しないよう、アイコンタクトでアリオスと意思疎通を図る。これ以上の雑談は流石に無理だ。続けると言う選択肢はもうない。というわけで今回はこれでお開きとなる。
 かといって、さて僕はどうしようか。ヴィヴィオを振りほどくなど論外で、故に僕一人でという選択肢は存在しない。現状維持というのも妙な話だ。

「それでは、またいつか」
「うん。元気でね」
「ユウキさんこそ、お元気で」

 多分焦っているだろう看護婦たちのためにもヴィヴィオを病室に戻すべきだろう。しかしはて、ヴィヴィオがそれを良しとするか。僕も夕食の準備があるのでいつかは帰らなければならない身だ。
 その時には当然ヴィヴィオと別れなければならない。多分その時、泣くだろうなぁ。今度は気付けばいないわけではなく、見える形で別れるのだから。それもそれで、また問題だ。

「ヴィヴィオ」
「なぁに?」

 結構眠たそうだ。とりあえず涎を拭こうか。ではなく。

「ちょっと、歩こうか。もしかしたら近くにママがいるかもしれないしね」
「……うん、一緒に探す」
「うん、一緒に」
「えへ、えへへ」

 一人が寂しい。独りも寂しく、一人が寂しい。その気持ちは子供であればあるほど強い。だから一緒にという言葉で彼女はとても嬉しそうに笑った。僕はそれを懐かしい感情で見ていた。やはり他者に迷惑をかけない内で笑っていられるのならそれに越したことはない。
 しばらくあたりを散策して、ヴィヴィオの疲労が我慢できないほどに高まったら病室に戻ろう。寝付くまで傍にいればいいのだけど、問題はその後だ。起きた時、母親だけでなく僕まで居ないことに果たして彼女が耐えられるか。
 かといって機動六課に戻らないことも許されない。となると、もしもあの事件で保護した子供であるなら彼女の保護者が不在であることを利用し、一時保護することを申し出た方がヴィヴィオのためか。最悪、アリオスの権力を曲がりすればなんとかなる。
 ここは病院だ。決して孤児院ではない。身寄りのない健康な子供を置いておくような場所ではない。何より病気にかかった人が大勢いる場所に免疫力の弱い子供を置いておくのは進めれない。

「それじゃ、行こうか」

 手をつなぎ、もう片方の手で日傘をさす。ヴィヴィオも開いている手で大事そうにウサギのぬいぐるみを抱きかかえている。さて、そのぬいぐるみは一体誰の贈り物か。閑話休題。

「所でヴィヴィオ、ママってどんな人?」
「えっとね、とってもやさしい人!」
「うん、それで?」
「ごはんがおいしくて、いつも笑顔で、あ。でも怒ると怖い……」
「ふふ、それはママがヴィヴィオの事をとても大切にしているからだよ。大切にしているから、危ないことをして欲しくないんだ」

 病院の周りを歩き、玄関や待合室も見て回る。しかし一向にヴィヴィオの母親らしき人物は見当たらない。それどころか、ヴィヴィオ自身母親が誰なのか分かっていない節がちらほらと見受けられる。
 もしも彼女を僕が保護するとして、実はヴィヴィオと関係の無い所で問題がある。それはなのはだ。彼女がヴィヴィオの存在を許すかどうか。それ次第では保護も再考しなければならない。
 しばらく散策するとヴィヴィオが眠たそうにし始めた。流石にこのまま歩き続けるのも酷だろうと抱き上げる。さしたる抵抗もなかったのですんなり抱き上げれたのだが、一つ。何故にこの子は羽織ではなく甚平を握りしめて眠りに着くのでしょうか。このままでは離れることが出来ないではありませんか。

「……んぅ……」
「…………やれやれ」

 でも、まあ悪い気はしない。辛くて寂しくて、やっと見つけたただ一つの光に縋る子供の寝顔を見て、悪い気などしない。だが、流石にここでは明る過ぎる。ということで中庭を通って彼女の病室に戻ろう。起きるまでそこでこのまま抱き続ければ良い話だ。
 願わくは、僕の予想の尽くが間違っていることを。今までも、今もそしてこれからもまずあり得ないことではあるが、しかし誰かの幸せを願うことのどこに間違いがあろうか。ただ、それだけの話。

「風が過ぎて 鳥の休む頃に
 夜の色が 映えて沈む頃に

 その如月の望月の頃に 華やかなりし頃に
 静けさの宴の中で眠って
 永きの安らぎと痛みを泣いて 日を待ち侘びれば
 幾度目かの春の息吹で目覚めて」

 のんびり歌でも口ずさみながら中庭を歩いていた時のことだ。見なれた人影、なのはを見つける。こんな所で何をしているのだろうと思いつつ、そちらに向かって歩いた。

「やぁ、なのは。こんな所でどうしたの?」
「ユウキくん。えっとね、昨日保護した子供が病室を抜け出して……て、何しているの?」
「何って、迷っていた子供を寝かしつけているだけだけど……あ、今寝た所だから静かにね」

 なのはが言っている子供とは大方ヴィヴィオのことだろう。流石に一日に二人も、それも同時に病室を抜け出すと言うことは先ずない。

「あ、うん……ユウキくん、あの……その迷子の子供なんだけど、その子なんだよ?」
「まあ、だろうね」
「知っていたの?」
「いや、想像はついていたから。とりあえず、この子の病室に行こうか。流石に看護婦さんたちに迷惑をかけ過ぎるから」
「うん、そうだね」

 それから二人で中庭を歩く。

「所で、どうしてユウキくんはここに?」
「友人に御呼ばれしてね。野点をしに来たんだよ。ほら、紫陽花が綺麗に咲いているから」
「良いなぁ。私もご一緒したかったな」
「じゃあ次は一緒に行こうか」
「うん!」

 ヴァルやアリーシャさんと普通に知り合っているから別に有名人一人と知り合ったとこで取り立て驚くこともないはずだ。言い触らすこともないだろう。だから別に、事前に断っておけば連れて行っても問題はない。

「……気持ち良さそうに眠っているね」
「ママを探していたんだって。疲れ果てたのもあるけど、それ以上に安心できる場所を見つけたんだと思うよ」
「にゃはは。ユウキくんはパパというよりママみたいだもんね」

 時に、すれ違う人の多くがこちらを見てはほほえましい表情を浮かべるのですが、一体何を思っての表情なのでしょうか。理解したくありません。それよりも仕事をしろ、看護婦。
 下手に殺気立つとヴィヴィオがぐずるだろうから下らないことで怒ることもできず、内心ため息をつきながら揃って歩く。それにしても、今日出会ったばかりだと言うのに良く眠れるものだ。どれだけ僕に懐くのだろう。

「高町、少女は見つけたか?」
「シグナム、シャッハさん。見つけたことには見つけたんだけど……」
「どうかしましたか?」
「うん、えっと」

 聖王教会のシスターの服を着た女性とシグナムに出会った。そう言えばなのははまだ運転免許を持っていない。なるほど、シグナムに送って貰っていたか。

「ユウキ殿……ああ、なるほど」
「うん、まあそう言うことだから、静かにね」
「ふむ、わかった」
「そう言うことですか。確かに、ここで騒ぐのはやぶさかですね」

 早々と空気を呼んでデバイスを仕舞ってくれてありがたい。もしもそこでデバイスを起動しようものなら、展開中に蹴り穿って意識を刈り取らねばならなくなる。第一に僕の体調のために。

「見つけてくださってありがとうございます。後の事はこちらでします」
「ああ、うん……お願いするよ」

 そもそもいくらヴィヴィオを保護したのが機動六課であっても、病室を抜け出したことには変わりない。何よりレリックと一緒に発見されたのだ、まだまだしなければならない検査が残っているのだろう。僕は何時松の不安を抱えながらもヴィヴィオをシスターに渡した。
 さらにそれから見知らぬ看護婦にまた渡しされ、病室に戻されることになる。ミッドチルダは地球に比べて非常に技術の進んだ世界だ。検査に注射器など子供が嫌うものを使うのは非常に少なく、痛みも殆どない。

「それでは向こうでお茶にしましょう。そちらの方もご一緒にどうですか?」
「うん、行こうよ。ユウキくん――――ユウキくん?」
「あ、うん……」
「どうかなさいましたか?」
「ちょっと、ね」

 問題は、そう言う問題ではない点だ。



「――びぇぇぇえええ!」



 通りの向こうから泣き声が聞こえてくる。つまりはそう言うことだ。ヴィヴィオが病室を抜け出した理由は傍に母親がいなかったから。やっとの思いで安心できる場所を見つけ、眠りに着けたと言うのに。また起きたら見知らぬ人に変わっていたなら。
 ただ、あそこまで深い眠りについていたのにどうして今更起きたのだろうか。疑問に思いつつ、ため息も交えつつ、歩く。



 それから、泣き続けるヴィヴィオをあやし、他に方法がないから広義で機動六課、狭義で僕が彼女を預かることになった。さもないと手に負えないのだから仕方がない。
 反対するかと思ったなのはも幼少期のトラウマがあるのだろう。思ったより大人しく保護を認めてくれた。やはり誰しも子供には精神的に勝てないものである。後は身元保証人兼保護責任者の承認が通れば終わりだ。
 ああ、そう言えばアリオスにレポート提出を頼むのを忘れていた。それからあの血液サンプル、提供者が誰なのかを聞くのも忘れている。まあ結果を届ける時に言えば良いか。



今日のヴィヴィオちゃん。

「ねえヴィヴィオ。出会ったばかりのおじさんに引き取られるのと、孤児院に行くの。どちらがいいかな?」
「いっしょがいい」
「そうか……分かった。なら、おいで」



[18266] 第十九話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/10/06 00:46

 強さとは何か。前触れも無くそんなことを聞かれ、果たして即答できる機動六課に人が何人いようか。いや、今回は前触れがあったのかもしれない。なぜなら私たちフォワード陣とメカニック陣が暇つぶしに六課最強は誰かと議論していたからだ。
 それを通りかかった隊長たちに聞かれた。そしてなのはさんにそう問われた。ただ、そこはかとなく機動六課。少し目をやればどこかで、青や金やピンクといったバトルジャンキーが獲物を探してうろついている場所だ。
 六課最強は誰か、話をしていたら近くで、決着を付けようではないかといきり立つ者が約二名いた。しかしヴィヴィオの教育に悪いからとユウキさんにエガオになったのは言うまでもない。もしかしたら、あるいは六課最強はユウキさんなのかもしれない。本能的に逆らえないという意味で。
 閑話休題。本題に戻ろう。強さとは何か。正直私たちではその答えは分からない。見当もつかない。というわけで、何かと知っていそうなユウキさんに聞くことにした。行き詰ってはどのような回答も出てこないのだ。仕方が無い。

「強さとは何か、か……なのはも意地の悪い質問をするものだね」

 確かに。力でなく、単純に強さとは何かと聞いている時点でそれは非常に意地の悪い質問だ。さらに強さ、これもまた心の強さか力の強さか、はたまた肉体的な強さか。そのどれとも限定していない。
 この質問は捉え方によっては様々な意味を持つ。そのどれをとっても答えは一通りではない。なおかつ、私たちではその答えの一つにもたどり着けない。いくつかは見当がついているが、そのどれが本当なのかが分からない。なのは隊長の質問の答えなのか……

「少し見方を変えようか。強ければ、何が出来ると思う?」
「強ければ、ですか?」
「うん。強さの意味が現れるのはそこだからね。良く分からないものは少しずつ分かるようにすれば良いんだよ」

 ふむ、そういった見方はしていなかった。只管に強さの意味を考え、力の形を模索し続けていた。
 さて、強ければ何が出来るのか。少しは分かりやすくなったものの、しかしやはり難題であることに変りはない。
 そこでさらに、ユウキさんは口を開いた。

「その前に、少し力について分類分けしようか。僕が思うに、大雑把に分けて力は三通りある。一つは物理的な力、これは極普通に魔力がといったことだね。一つは精神的な力、いわゆる心が強いというやつだ。最後は外界の力。分かりにくいと思うけど、仲間の力、あるいは財力、権力といった自分ではどうしようもない力。
 主に分けるとしたらこの三通りになると思う。さらに細かく分類できるけど、結局は似たもの同士になるからね。それで、質問だ。それぞれ強ければ、何が出来るか。共通していることは何かな?」

 物理的な力と精神的な力は理解できる。しかし外界の力は今一つ理解できない。仲間の力、あるいは財力、権力といったものの、さてどういったことだろうか。
 自分ではどうしようもない。ここから少し切り崩してみよう。物理的な力や精神的な力は先天的な才能はあるものの、ある程度は自分でどうにかできる。伸び白や自由度が存在する。
 そういう観点では財力、権力なども自分でどうにかできるが、ふむ。経済が破綻し、権力を保証する国家が亡くなれば確かにそれは消滅する。これは流石に自分ではどうしようもない。
 仲間の力も自分では伸ばせず、本人の意思によるものだ。しかしこれらは確かに存在する。ただそれらが存在するのは外界、自分の内面の世界ではない。
 そういう意味でユウキさんは外界という言葉を選んだのだろう。なるほど。ある程度は理解できた。完全に、というほどではないが、それでも質問を考えられる程度には。

「す、すいません……」
「……全然分かりません」

 あんたらに期待していない。
 早々諦めた二人を他所に考える。物理的な力が強ければ当然そのままのことだろう。守ることも傷つけることも容易い。しかし、その程度だ。それでは助けることはできても救えはしない。
 精神的な力、思いが強ければ何が出来るだろうか。この前ヴァイス陸曹に借りたが某アニメの主人公属性カンストした主人公が“思いだけでも、力だけでも”と叫んでいた。しかし思いだけでは誰も助けられず、力だけでは救えない世界がある。そう、思いだけでは何も出来ないのだ。
 外界の力が強ければ何が出来るだろう。財力もその世界だけでしか意味が無いことで、また世の中金で解決できる問題ばかりではない。権力なども以下同文。仲間の力では何でも出来る。ただその全てが自分の思い通りになるとは限らない。
 それらの共通事項。と悩んだところで何一つとして共通していることが無かった。それだけでは無能である精神的な力が存在している時点で、この質問に答えは存在していない。

「共通事項は、ない、ですか?」
「それもまた答えの一つだ。こればかりは考え方一つでいくらでも答えがあるからね、どれが正解とは言えない。そういう意味でも強さとは何か、この質問は意地が悪い」
「……ユウキさんのたどり着いた答えは一体、どんなものですか?」
「下らないよ。本当に下らない。どれか一つ強ければ、誰かを傷つけることが出来る。
 物理的な力が強ければ、守るためにそれ以外を傷つけ、あるいは意思を持って他者を害し、精神的な力が強ければその強すぎる意志を持って容易く相手を傷つけることが出来る。意志の弱いものがいればその者を操ることが出来る。いわば妄信させることが可能。外界の力が強ければその力で誰かを傷つけることが出来る」

 思いが強ければ、殺意が強ければ、憎悪が強ければ、思う心が強すぎれば。なるほど、私はその観点を見落としていたのか。仲間が強ければ、その絆が強ければ、財力が強ければ、権力が強ければ。自分に何かあったとき、あるかも知れない時に誰かが誰かを傷つける。
 下らない。本当に下らない。たどり着いた答えは非常に下らないほど、それでいて事実であった。
 だがしかし、そうであってもそうではない。あくまで力が強ければ誰かを傷つけることが出来るだけで、出来るでしかないのだ。必ずしもそうではない。自分の意思である程度は抑制できる。

「だから僕はこう思う。強さとは、力とは抜き身の剣だ。研がなければ錆び、使わなければ意味が無く、触れれば誰であろうと切る。使い手の意思によって動くが、その思い通りになるとは結果を見るまで分からない。
 その上諸刃の剣なものだから使い方一つでは傷つけたくないものまで傷つけてしまう恐れがある。しかしその手に盾は無い。鞘は無い。剣しかない。だからそれを使うか、あるいは自らを犠牲にする以外、守る術が無い」

 質問の意味が無数にあり、答えが人の数だけ存在し、残酷な答えすら存在する。そして残酷なものほど、真の意味に近い。本当に、意地が悪いにも少しは程度を覚えてもらいたい。
 そこまで聞いたところで、一つ疑問が沸いた。ではユウキさんは強いのか。そこまで分かっていて、果たして強さを得ているのか、保持しているのか。いつも弱いと言っているが、そこまでたどり着いているなら決して弱くは無いはずだ。

「いや、僕は弱いよ。だって何も出来なかったから。何も出来ず、何をしても意味はなく、誰一人として守れなかった。守りたかったのに、守ることなど最初から出来なかった……
 何も出来ないのなら、したところで意味が無いなら僕の持つ強さに意味はない。あってもなくても関係が無い。価値が、無いんだ。ほら、だから、弱いだろう? 何も守れなかった僕の強さなんて、あってもなくても同じなんだよ」

 もしも何か一つ、守れたなら僕はここにいなかっただろうしね、と呟き残し、膝枕しているヴィヴィオをそっと撫でる。彼の言葉はどうしようもなく事実なのだろう。どれほど今努力しても、どれほど今貪欲になろうとも守れなかった者は取り戻せない。守りたかった者にもう、届かない。
 結果が残らないのならその強さは弱いものだ。いくら強くとも意味が無いならそれは弱く。強さとは、結局は出来た者の力だろう。望みを叶えた者が手にしている力だろう。
 ユウキさんが強さを剣と例えたように、私は強さを結果と例えよう。結果が出たからこそその人は強さを持ち、強さを持っているからこその人は結果が出たと。
 私の得た答えは正しくは無い。それは絶対的に言える。ただ、ユウキさんが再三言うように、私の得た答えは間違っていない。それもまた言える。結局、世界どこを探しても人生において、世界において、哲学的な問答において正しい答えは用意されていない。だから、間違っていない。そのぐらいでちょうど良い。

「……うーん……」
「どうしたの、スバル?」
「何でなのは隊長は私たちにこんな質問をしたのでしょうか?」
「それは……考えてほしかったんじゃないかな?」
「強さの、意味をですか?」
「うん。そういった答えの無い、でもいつかは考えなければいけないことをね」

 紅茶を飲む。私が思うに、質問した理由は話題を転換したかったからではないだろうか。あのまま六課最強は誰かという議論を続けていては何時か必ず決戦になる。その時もしかしたらユウキさんが場に立っているかもしれない。
 いや、間違いなく立たされているだろう。それを避けたいがためになのは隊長はこんな意地悪な質問をした。そこに少しユウキさんを戦わせるかもしれないことをしたことに対する憤怒を混ぜたのかもしれない。
 結局、これも本人に聞く以外答えなど無い問答であり、また本人に聞いたところでこちらが納得できる回答を得られるとも限らない。悩むのはほどほどにしよう。どうせどれもこれも些細なことなのだから。

「ああそうそう、ティアナ」
「何でしょうか?」
「今日の夜、何か予定ある?」

 急にこの人は何を言い出すのだろうか。そう思いながら今日の訓練予定を思い出す。今日は夜間訓練は無く、緊急出動を想定した訓練もつい先日行われた。当分それは無いはずだ。
 こなさなければならないデスクワークも夕方の間に済む程度で、スバルたちのフォローもそのぐらいで終わるだろう。なら、予定はない。

「いえ、特にありませんが……」
「良かった。なら夜、夕食の後で良いから温室に来て。少し、話しておかないといけないことがあるんだ」
「はぁ……ちなみにそれは、どのようなものでしょうか?」
「……今はまだ、秘密」

 たぶんその話は私に関係することで、私の話ではないのだろう。そのことを何となく感じ取った。少なくとも浮ついた話ではなく、軽く人に話せるような内容でもなさそうだ。
 さて、その夜。予定通り何事も無く、まるで謀ったかのように暇を持て余した。以前ならこういうときは自主訓練に励んでいたものだが、現在それは控えている。控えているだけであって、無理が無い程度に軽くしている時もある。
 無論なのは隊長に相談の上での訓練だ。私個人の意見としては少し軽めな気がするが、正規局員である現在においては仕方が無いのだろう。少し、訓練生だったあの頃が懐かしくなる。
 閑話休題。昼間ユウキさんとの約束で彼が事後承諾で作った温室に足を運んだ。ちなみにそこでは料理に使う薬草や本当に趣味で植物を育てている。中には猛毒の花もあるとは本人談。

「やあ。夜分に呼び出してごめんね」

 私が足を運んだ温室の中央に当然のように立ち、月を見上げていた。装いは夏の夜間の普段着である甚平ではなく、何故か未だにバーテンダー服だった。
 しかしバーテンダー。本来バーで働く人のための服装であり、昼間見るよりもやはり夜間見るほうが相応しい。場に合っていると感じる。特に花に囲まれたユウキさんは一際この世のものとは思えない雰囲気を漂わせているため、何だろう。この感情を何と言えば良いのか。

「いえ、ちょうど暇だったので大丈夫です。それより、話とは一体?」
「そろそろ教えても良いかなって思ったんだけど、さて……」

 その手には何やら見慣れないものを持っている。カード状の、デバイスであろうか。珍しい。起動できても残る魔力が極めて僅か、むしろ無いに等しい彼がデバイスを持ち歩くなんて。一体どういう風の吹き回しだろうか。

「まずは、クロスミラージュに付けた機能についてでも説明しよう」
「……まさかとは思いますが、私たちのデバイスを改造したのですか?」
「鋭いね。その通りだよ。新人フォワード陣全員のデバイスは問題にならない範囲で僕が密かに手を施してある。スバルのは見ての通りの頑丈さ、つまりは新素材だから説明不要で、エリオのはすでに教えている。キャロのは説明してはならないものだから教えていない」

 この瞬間に良く理解したことが一つある。どれほどまともに見える人であっても、所詮マッドはマッドでしかないのだ。
 問題にならなければ良いってあんた、それが無ければどこまでやるつもりだったのよ。その答えを聞きたくは無いが、ぜひとも聞きたい質問だ。

「で、君のは教えない限り使えない代物。でも今までの君に教えるのは少し、危なかったから今まで秘密にしていた。本当はもうしばらく秘密にしていたいのだけど、そうも言っていられない自体が見えてきたからね。ちょうど良い機会だし、僕がティアナに話さなければならないこと全て、話すよ」

 一体何の話か全く分からないが、とにかく強くなれるようだ。ならば私が拒否する必要性は一切無い。

「それを話しても大丈夫なのですか? もしも私がそのことを管理局に教えては問題になるのではないでしょうか?」
「大丈夫。今から管理局が努力してその技術を再現しようと思っても五十年は掛かる。量産体制を築くにはプラスで二十年かな。それ以上に、クロスミラージュに施した技術は現行の体勢を覆す代物だ。量産したくとも、無理なんだよ」
「ですがその場合はユウキさんを捕まえれば、あるいはなのは隊長を人質に取れば良い話ではないですか?」
「出来ると、思う?」

 思考時間二秒。答えは唯一つ。不可能。出来るわけがない。
 ユウキさんの言葉が事実であることを仮定すると、相手は五十年先の技術を最低でも四つは持っており、それらを楽に使える。まず技術面でこちらは劣っており、どう考えても相手はそれ以上の技術を複数有している。
 戦力面から見てもいくらこちらが数で圧倒していようとヴァランディールさん、スオウさん、たぶんその他大勢がいる。あのなのは隊長ですら勝利は愚か勝負にならないと言っていた人たち。そんな人が多数いれば逃げるには十分だ。
 何より、これは勘なのだが、彼ら誰一人として敵にしてはならないと思う。べきではないとかそんなレベルの話ではない。してはならない。絶対の話だ。
 結局、彼の質問は私の質問の答えであり、また私自身への問いかけである。私が管理局にそのことを話せることが出来るかという問いかけなのだ。全く、彼も彼で意地が悪い。

「…………」
「少し長話になるからお茶を飲みながら話そうか」
「……本当、敵いませんね」

 そう言って中央付近にある椅子に腰掛ける。どうやら今回茶菓子は無く、お茶は紅茶でも緑茶でも無くハーブティーのようだ。それも新鮮なハーブを使っているため、茶の色は薄い緑色をしている。

「とりあえず……トランジスタを知っている?」
「えっと……それは何ですか?」
「知っていたら説明が省けたんだけど……いわば大きな電流を小さな電流で制御する電子回路では外せない基礎的な部品の一つ。クロスミラージュに取り付けた装置もそれに似ている」

 つまりトランジスタについて、またその装置について詳しいことが知りたいなら自分で調べてくれということか。

「カートリッジシステム、あれはカートリッジにこめられた魔力を一時自分のリンカーコアに流し込み、反発力で一時的に巨大な魔力を引き出す。けど実際のところ、それはとても効率が悪く、かつ使用者への負担が大きい」
「そうなのですか?」
「デバイスから普段流す以上の魔力を無理やり逆流させる。さらに反発力を求めているんだよ。効率で言ってしまえばカートリッジの魔力と本人の魔力出力の合計値よりかなり劣っている。そんなことは一時脇に放置して。
 とにかく従来のカートリッジシステムはとてもじゃないが世間に出せるものじゃないと僕は思う。で、最初のトランジスタに戻るんだが……まあ簡単に言うとね、そのままなんだよ。カートリッジの魔力を一時体内に戻さず、そのまま使っちまおうっていうだけ。制御魔力として自分の魔力を少量消費するけど、そのぐらいだ」

 確かに魔法の大部分はデバイスに頼っている。精々人が行っていることは使用する魔法の選択と一部魔力制御、また魔力の維持程度だ。ならばこの際その魔力すらもデバイスに任せても問題ないと判断したのだろう。
 ただ思う。外部にある魔力をそのままで使用することが出来るのか、と。いくら大量の魔力でもそれは人の手を離れた魔力だ。少量の魔力ではすぐに霧散するのではないか。

「集束魔法の応用だ。あれは魔力を集めるために大量の魔力を必要とするけど、これは元から魔力が集まり、さらに圧縮されている。そのため僅かな魔力で制御が可能だ。まあ結構な魔力制御力が必要だけどね」
「なるほど。でもその話で行くと砲撃魔法しかできないのではないように聞こえるのですが……いえ、そもそもその手法で魔法を行使することは可能なのですか?」

 カートリッジを使用し、魔力を体内に戻す。それは本当に一瞬だ。デバイスという小さな機器の内部と限定するとその時間は刹那に過ぎないと予測される。その間に流れる大量の魔力を少量の魔力で制御し、魔法を構築し、使用する。いくらデバイスという補助器具があろうともそれは些か難しい。
 少なくともアクセルシューターといった複雑な制御を要する魔法、またヴァリアブルシュートのような時間を要する魔法は使えない。精々砲撃魔法か、直射弾かシールドの類か。使えるといってもその程度が限界だ。

「およそ一般人には君が考えている通りだ。それで十分だろう?」
「まあ、はい。でも良くそんなことをもいつ来ましたね。いくらトランジスタのことを知っていて、カートリッジシステムの効率が悪いといってもそんなとっぴなことを考え付かないでしょう」
「ああ、そのこと。僕が使える魔法の基本的な部分がそれだからさ」

 使える魔法がそれだけで、その魔法が使えるから思いついたのか。確かにそれは道理だが、ユウキさんは魔法を使えたのか?
 再三再四、事ある毎に魔力が無いからといっているユウキさんが、魔法を使えるのか。いや確かに魔法が使えないとは言っておらず、少なくとも魔力があるのだから魔法は使える。しかし、そんな超理論のような魔法を果たして、使えるのか。手元のそれは使うためのデバイスなのか。

「こればかりは実際に見せたほうが早い。僕が使える唯一の魔法はいわば――」

 そう言って指を鳴らす。と同時に背中に虹色に輝く蝶の羽のようなものが生える。その瞬間に一切の魔方陣は現れず、何の前触れも無い。展開に僅かコンマ一秒も掛かっていない。

「――常時展開型魔力集束魔法。これを残されている微量の魔力で誘導し、他の魔法を行使する。魔力量以外の技能は突出しているからね。余計なものを噛ませない方がスムーズに使える」

 今朝方、六課最強は誰かという論議をした。どうやら六課最強は純粋にユウキさんの手にあるようだ。この温室にあった魔力が全て、彼の後ろにある羽に集束している。目の前に展開されている空間モニターもその構成している魔力を羽に奪われようとしている。もうそれは制御の域ではない。魔力の、隷属だ。
 今なお手から魔力球を出してはまた羽に戻しているところを見るといくらでも再利用は可能のようだ。もしかしたら、こちらの魔法すら魔力に分解され、隷属されるかもしれない。天才なんて霞むほどの化け物が眼前にいた。

「余談が過ぎた。クロスミラージュにはカートリッジの魔力を純粋に使う機構を取り付けている。使えるようにしておいたが、余り過信しないように。結局は自分の力で制御しなければならないから、訓練は怠らないようにね」
「それは、勿論です」

 化け物が化け物過ぎて驚くに驚けなかったが、まあ良い。目標が出来た。ユウキさんのようなことは出来ないまでも魔力制御や思考速度を鍛えれば彼に近づけるのは確かだ。目標が出来た分、それに近づくことが出来る。

「それでは次、本題。僕の話」
「そのデバイスに関係する話、ですか」
「うん、そう」

 机に置かれたデバイスを見る。待機状態はカードタイプで、どこかクロスミラージュに似ている。いや、違う。クロスミラージュがこれに、似ている?
 既視感を感じて記憶を探る。何時、私が、何処で、どのような形でそれを見た。その記憶を必死に探す。絶対に見たことがあるはずだ。その記憶はあるのに、該当する記憶が見当たらない。



「これはね、僕がティーダ・ランスターのために作ったデバイスだ」



 思い、出した。そう、そうだ。私はそれを見た。それを持ち歩く兄さんの姿を見た。でも何故、兄さんのデバイスがこんなところに存在するのか。本来ならそれは遺品として私の手元に来るはず。なのに、何故。
 待て。兄さんが死んだ事件では確か、使っていたデバイスはコアを砕かれて壊れたと教えられた。なのに目の前にあるデバイスには傷一つ無い。壊れた形跡は無く、ただ使われ続けたために出来た擦り傷や汚れが存在するのみ。修理は愚か、壊れた形跡が見当たらない。

「本来ならこれは遺品として君の手に渡るか、あるいは処分するかが妥当なんだけど……そうできない事態がティーダが死ぬ前に発生した」
「……詳しい話を、教えてください」
「元よりそのつもりだよ」

 彼は何を知っているのか。何故知っているのか。どうしてそれを持っているのか。疑問は尽きることなく、私の中で泡のように浮かんでは消えていく。
 様々な言葉が口から出て行こうとするのをぐっと堪え、今は話を聞こう。質問はきっとその後からでも聞いてくれるはずだから、今は暫し我慢する。

「……僕が元々あるバーのマスターだということは知っているよね?」
「ええ、まあ」
「出会い等々は省くけど、ティーダは常連の一人だった。結構仲が良かったからデバイスを作ってあげた。考えれば浅慮に作ってしまったのが問題だったのかもしれない」

 少し身近にある例をとって考えてみた。そう、私のデバイスに取り付けられた装置だ。もしもこれが広まったなら、例え魔力素質の低い魔導師でも努力次第では活躍できるようになるだろう。
 同様のことが犯罪者側にも適用されるが、実際の問題はそこではない。魔法と質量兵器の違いはどこか。それは人を選ばず誰もが手軽に扱える。容易く使えるという点にある。
 天に選ばれた者のみが限定的に扱えるからこそ、非殺傷設定があるからこそ魔法はクリーンで安全を歌える。しかし、クロスミラージュに取り付けられた装置で誰もが手軽に使えるようになったなら。魔法はもはや近代兵器の延長線上にある超科学兵器でしかない。
 考えてみれば私たちに与えられた、否、ユウキさんが秘密にする技術というのはどれ一つ取ってしても世界を変えるほどの発明なのだろう。悪く言えば世界が変ってしまうほどの発明なのだ。
 今までは不運にも失敗しなかった。しかし兄の周りで起こった出来事により、少し過敏になっている。考えれば私たちに技術を与えたこと事態、彼にしてみればかなりの譲歩なのかもしれない。

「ティーダに作ったデバイス、まあレイジングハートの姉妹機は現状の管理局から見てもオーパーツ、あるいはロストロギアといって良いものでね。彼にもそれを伝えていたから決して管理局の技術局を頼らなかった。
 だが、その技術力は否応無く目立つ。特にその形、いくらティーダに合わせているとはいえレイジングハートの姉妹機。当時旬な話題であるエースのなのはと同型機となれば誰もが眼を行く。中にはその性能を余すことなく調べたいと願う人がいた。
 しかし当然、エースであるなのはからデバイスを取り上げることが出来ない。しかし空戦魔導師とはいえ地上部隊陸士であるティーダからなら。と一部が権力に物を言わせて取り上げた。それが始まり」

 魔導師からデバイスを取り上げたなら、一部を除いてその大勢が魔法をほとんど使えなくなる。しかしそれに関わらず兄さんは仕事をしていた。死ぬ事件に至っては三日徹夜の大仕事すらしていたほどだ。そのぐらい当時の地上本部は人材不足で頭を悩ましていた。
 ああもちろん兄さんも一部例外に入らない魔導師だ。たぶん管理局から支給されるデバイスを持って事件現場に向かったことだろう。いや、無ければ空も飛べない役立たずだ。どのようなデバイスであれ、持たないわけにはいかない。

「使い慣れないデバイスに加え、使いにくいフォルム。比べるまでも無いほど劣悪すぎる性能、足りない機能。加えて何だっけ。三日徹夜するほどの激務をこなした後の任務で空から来た派遣局員が致命的なミスを犯した穴埋めで死んだのだったか」

 ある精神病、シスコンを除けば面倒見の良い先輩であった兄を慕う人は今も多くいる。その人たちが完全善意で事件の全容を調べたところ、余りに気に食わないことが判明した。
 その空から来た魔導師は犯罪者に対し降伏勧告を行った。これ自体は良い。しかし相手が連続犯かつ再犯者であることを加味した上でその行動を取ったのであれば話は別だ。常識的に考えて、降伏するとは考えづらい。
 またあろうことか廃棄都市とはいえ市街地の近くにあるにも関わらず砲撃魔法を行使しようとした。もしも外れたなら市街地に被害が及ぶかもしれないのに。それを止めるため周りが四苦八苦していたら犯人に市街地に逃げられた。
 いくら才能があるとはいえ、思慮浅い魔導師に犯人確保を頼むわけにも行かず、その場にいた唯一の空戦魔導師に頼むに至った。そこからは兄の単独行動であるため詳しいことは分からないが、相打ちに近い形まで持ち込み、結局市民を護って命を落とす結果に終わる。
 ちなみに以後の航空戦技隊ではレジアス中将命、なのは隊長監修の劇的な意識改革が行われ、そのような人材は物理的に排他されたそうだ。あと、レジアス中将に土下座された。流石にいかつい中年の本気の土下座は素で引いたを良く覚えている。

「そもそもその問題は僕がやりすぎたためだ。文明水準に比べ、余りに先走りすぎた技術というのは不幸を呼ぶことを最初から知っているはずなのに、たかが地上本部がまともになった程度で、大丈夫だろうと安心してしまった僕のせいだ。
 あるいは、僕が早くに気付けば、もっと早くに上手くいかなければ事前に止められた事件でもある。二度は言わない。そもそも言いたくない言葉だが、一度だけ言わせてくれ」
「でも、ユウキさんは……」

 関係ない。そう、関係が無い。ユウキさんはあくまでデバイスを作っただけで、道具を作っただけだ。確かにその責任はあっても決して悪いことではない。ましてや兄の生死に関わるようなことでもない。
 むしろユウキさんがデバイスを作ってくれたおかげで兄の仕事は非常に助かっていた。昔より早く帰ってこれるようになり、疲労も格段に軽くなった。彼がデバイスを作ってくれたお陰で助かった人もいる。



「済まない。僕はまた、救えなかった」



 レジアス中将にも言える事だが、この人にも謝られるいわれはない。むしろ私が感謝しなければならない人だ。だが、それではユウキさんが納得しない。だからここは彼の謝罪を心から受け止める形で私の感謝の意とする。
 とりあえず、誰が悪いという話題を掘り下げても碌なことにならないというのは眼に見えて明らかなことだ。故に閑話休題。別の話を間に挟んで話をずらす。

「所で、どうしてユウキさんがそのデバイスを持っているのですか?」
「中身の大半はブラックボックスにしているんだけど、預けたままというのも気に食わないから取り返した。本来なら君に渡すべきなのだが、言ったとおりこれは半ばオーパーツだから気軽に渡すわけにもいかないんだ」
「まあ、確かに。というより、私にはとても扱えそうに見えませんし。今でもほしがりませんよ」

 いくら慣れてきているとはいえ、現在の技術を改良した程度のクロスミラージュでさえ若干振り回されている気がする。加えて新たな機能が解放された。とてもではないが、その上を行くものを今でさえ私は扱える自信が無い。
 何より葬式があったころの私が力を与えられ、さて何に使うか。碌な使い方をしないのは容易く分かる。だからこそ与えなかったのだろう。

「……うん、やはり疑問なのですが、あなたは一体何者なのですか?」
「あえて分かりやすい言葉にするなら、狂気なまでに狂気を求めた外道の外道。あるいは異常を喰らう人型の鬼とでも言うべきか」
「えっと、つまり狂っていると? 決してそのようには見えないのですが……」
「僕は完成してしまったから。一応まともな行動も取れるだけだよ」

 彼の実家を好奇心で見てみたいやら、恐怖心で見たくも無いやら不思議な気分だ。ただ、彼の実家は決して見るべきではないのだろう。それだけは確実に理解できる。

「酷い言い方をすると、マッドサイエンティストって聞くよね? そういった人と血を重ね、人工的に認否人を作り出してしまった一族が神楽」

 近親相姦を重ね、血の純潔を保つというのは小説で良く聞く話だ。その逆のようなものと受け止めればよいのか。遺伝子劣化に対しては一切の問題はないものの、果たしてそれで目的のものが手に入るかどうか。
 何よりマッドサイエンティストは血や遺伝子よりも精神構造だ。どれほど血を交えた所でそれが遺伝的になるわけも無い。精々家庭環境が歪なものになって、子供の発育に影響を与える程度だ。

「それはともかく、僕の周りに何かしら異常な人しかいないのは事実で、実家は物作りの環境として最高なんだ。お陰で実家の技術水準は世間に比べて突出していた……」
「三人集まれば文殊の知恵、ということですね。でもそこまで突出することも無いと思われますが」
「僕を見て、その言葉がまた言える?」
「あ」

 異常の完成形、それがただ一人でもミッドチルダの技術力を軽々しく上回っている。彼に近しい人が何人もいる場所だ。場合によってはロストロギアに分類しても良い発明を量産しているかもしれない。
 それが本来文明レベルの低い地球で。正しくは彼のいる地球で。考えたくも無いが、事実として存在するのだろう。

「今更どこぞのバカ共が次元航行戦艦や並列世界間転移装置、時間航行船、猫型タヌキロボットなどを作っても疑問に思わないよ」
「そのぐらいですか……」

 常識とは何か。たぶんきっと、失っては二度と戻らない尊いものを言うのだろうなと、何となく悟った。

「基礎概念は置いてきたからね、僕が」
「あなたのせいか!」
「あはは、だから言っただろう? まともな行動も取れるって」

 そこはかとなく血に逆らえないというもので、結局彼も異常者の一員だった。楽しそうに笑うユウキさんの前で私は頭を抱えて突っ伏した。本当、誰でも良いからこの事態の収拾をつけてほしい。

「ぱぱぁ」
「……ヴィヴィオ」
「うー」

 そんな私の前に天使が現れる。実際はつい最近ユウキさんが身元保証人兼保護責任者となったヴィヴィオだ。とてもかわいらしいパジャマ(断じて寝間着ではない)に身を包んだその姿は否応無く天使に見える。
 前触れも無くここに来たヴィヴィオはまっすぐにユウキさんの元に行き、抱きついた。時間帯と服装から考えてもう寝ていても可笑しくは無い。むしろ寝ていない今がおかしい。

「ユウキくん」
「なのはも……寝付いて、くれなかった?」
「うん。やっぱりユウキくんじゃないとダメみたい」
「それは困ったな」
「仕方が無いよ。ヴィヴィオ、まだ不安なんだよ。だから早めに帰ってきてって言ったんだよ」
「ああ、うん。ごめん」

 抱き上げれば首にしがみ付いたヴィヴィオを撫でながら、ユウキさんは困ったように笑う。確かにここまで見事に甘えられていてはそう遠くない未来にファザコンになる。一人立ち云々以前に結婚できるのかどうかという問題が立ち上がる。

「ごめんね、ティアナ。どうやら話はここまで見たいだ」
「ああ、構いませんよ。聞きたいことは一通り聞けたので」
「それは良かった。それじゃ、お休み」
「ええ、おやすみなさい」

 さて、これから暫し追加された機能の小手調べでもしようかと意気込むと即時やる気が萎えた。意味は分からなくとも仕方が無い。何せこれは条件反射だ。無意味に躾けられた結果だ。
 無理と無茶をして問題を起こした次の日から、人知れず無理や無茶な訓練をしようとすると強烈な殺気を叩きつけられる日々を過ごした。今となっては無理や無茶をしようとすると私がそれを自覚しなくとも身体が勝手にすくむ。やる気が思い切り削られる。
 それでも無理をしてやろうと思えば出来ないこともないが、こんな気分で何をしても何も身につかないことは分かっている。泣く泣く帰路に着く羽目になった。明日、なのは隊長に相談しながらじっくり慣れて行こう。



[18266] 第二十話
Name: ときや◆76008af5 ID:66c3c5c3
Date: 2010/11/12 21:46

 林の中を一人歩く。この林の外に行ったなら完全に舗装された、歩きやすい道がある。しかし私はそちらを歩きたいと思わない。例え多少歩き難くとも、舗装されていない道のほうが好きだ。
 何故なら完全に舗装された道は、コンクリートで舗装された道はどこか死んでいるような気がするから。こんな天気の良い日に死んでいる道など歩きたくも無い。いや、どのような日であれ歩きたくない。
 土を踏みしめる。やはりこの世の全ての生物は大地の上にあるべきだ。決して苔すら育たない石の上にあるべきではない。まあ地上の覇者を驕る人にどれだけその事実を語ったところで無意味であるが。

「――――」

 陽気にくるくると日傘を回しながら林を歩く。開いている手には花束を抱えている。もちろんあの人に渡すためだ。今年一番の花を渡すのはあの人との約束。それは身勝手に取り付けた約束。それはこうして逢いに行くための口実。
 こんな口実でも作らなければ私はあの人に会えない。曲がりなりにも最強を名乗り、長きに渡り不本意にも代名詞に残虐といわれた私であっても、理由を求める時もある。自信と弱さを持って言おう。決して理由も無く私はあの人に会えない。
 もちろん逢えるなら気兼ね無く気負い無く会いたい。それは間違いのない願望だ。しかし実際のところは。

「……何かしら?」

 ふと足を止める。人より断然鋭い聴覚は林の中を僅かに響くその音を聞き漏らさずに拾った。耳を澄ますとそれが泣き声であることが分かった。こんな陽気な夏の日に何とも似合わないことをしてくれる輩がいるものだ。逢えると信じて浮かれていた気分も一気に沈む。
 さて、何処の何が不快な真似をしてくれているのか。一目見なければ気が済まない。先ほどまでとは違う意味で傘を回しながら踵を返す。
 多くの人に恐れられているように殺すわけではない。気に食わない相手でもとりあえず虐めたり、弄んだりはする。しかし命を奪うまでは余り至らない。流石に手当てが遅れて死ぬ者は多数いたが。実際私が手を汚したわけではないので数えなくて良いはずだ。

「ひぅ、えっぐ……パパァ!」

 林を歩いてしばらく、あの巫女や自称魔法使いよりもまだ若い金髪の少女が一人泣いている。おそらく迷子だろう。何故こんなところまできているのか。人であるなら向こうの舗装された道を歩けば良いのに。
 そんな考えを一旦排除し、その少女に近づく。大人があんな年端も無いことをしていたならどう遊ぼうか悩んだだろうが、相手がこんな年端もいかない幼児であれば話は別だ。流石に脆いと分かっている者を出会い頭に壊すほど、私に嗜虐性はない。

「ねぇ、あなた」
「…………」

 声をかけると一瞬身を竦ませる。そして私を見る。その目は見知らぬ他者に対する恐怖を伺わせ、怖がっているのを無理に我慢している。そんな彼女に目線を合わせるためしゃがんだ。
 もしも完全に恐怖を表したなら、例え年端も行かない子供であっても不快だ。躾と言う名のお仕置きが飛び出しただろう。

「どうして泣いているの?」
「……道に、迷ったの」
「そう……じゃあ一人でこんなところにいるの?」
「うん……」

 パパ、パパか。この子の着ている服の針運びから判断してあの人に近しい人と思える。去年会った時はこんな子がいなかった記憶からまずあの人の子供ではない。それは言える。
 何にせよこのまま泣かれていては不快感が募る。彼女が頑張って耐えていても結局は同じだ。かといって都合良く飴があるわけでもない。今持っているものといえば、この日傘と向日葵ぐらい、か。
 暫し悩んだところで花束から一輪抜き取り、邪魔な葉を取り除いていく。取り除いた傷口から液が出てくるのだが、そこは能力を使用して塞いだ。髪の毛は女性の命と例えられるように、可能なら汚したくは無い箇所だ。後は少し茎を頑丈にして、と。

「はい、少しじっとしてね」
「…………」
「ん、良い子良い子。ほら、出来たわよ」

 ポケットにいつも忍ばせている鏡を持って彼女にも見せる。先ほどまで降ろしていた髪を結い、向日葵で止めている。本音を言えば全部の向日葵をあの人に渡したかったのだが。

「わぁ。おねえちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」

 その一輪でこの子が笑顔になったなら、悪い気はしない。いや、本来花とはこのためにある。もちろん種の存続や他の生物のためにも咲いているが、現在において花が咲く理由はやはり、人々を喜ばせるためだろう。
 もちろん似合いそうに無ければこんなことはしない。たとえ笑顔にできるからといって流石にそれは、向日葵がもったいない。

「そう言えば、あなたの名前は?」
「ヴィヴィオです!」
「さっきまで泣いていたのに、もう元気ね。それじゃそろそろ行きましょうか」
「あう、でも……パパが知らない人に着いて行っちゃダメだって……」

 確かにそのとおりだ。例え大人であったとしても見知らぬ何かに軽々しく着いていけば、運悪ければ取って食われる。勿論そのままの意味で。
 親の言いつけをきちんと護ることはよいことで、それが正論であればあるほど他人にはどうしようもない。さて、このような時はどうすればよいのか。

「私の名前は風見 幽香。ほら、もうこれで知らない人じゃないでしょ?」
「……うん」
「なら、大丈夫じゃないかしら?」
「うん!!」

 それから手を繋いで適当な方向に向かう。先ほども挙げた様に彼女の着ている服の針運びから判断してあの人の知り合いだ。それは間違いない。ならばあの人の元に連れて行けば自ずと親も分かるだろう。結局、私の向かう先も彼女の向かう先も同じだ。
 一切舗装されていない道を歩く。舗装されていなくとも定期的に人の手は入っているようで、足元に雑草が殆ど無い。残念ではあるが、やわな育ち方をしている子供にとってはこの方が望ましいか。

「ねえ、おねえちゃん」
「なぁに?」
「おねえちゃんはどうしてここに来たの?」
「そうね。夏になったから約束どおり夏を届けに来た、という言い訳もあるけれど……本音を言えば会いたいから、かしら」
「……良くわかんない」
「ヴィヴィオにはちょっと早いか。まあ恋をすれば自ずと分かるわ」

 花とは何のために咲くのだろうか。其れは勿論何かのためで、決して己のためではない。その理由は時と共に移ろい、しかし確固として理由無く咲く花は存在しない。
 花とは何のために咲くのだろうか。あの向日葵はヴィヴィオの笑顔のために咲いている。恐らくこの向日葵はあの人の笑顔のために咲いた。そして、あの人に渡ったこの向日葵は誰かの夏のために咲き誇るのか。
 私――風見 幽香という花は今何のために咲いているのか。昔は私に全てを教えてくれた人のために咲いた。以前はこの世の絶望という果実を成すため花を咲かせた。今は、約束を破っても守ってくれたあの人のために咲いている。

「良くわかんないけど、おねえちゃんが今とってもしあわせだって言うことは分かるよ」
「ええ、とても幸せよ。だってこんなにも――幸せなんですから」

 幸せとは今を幸せと感じられる時のことを言う。どれほどそれが幸せな時であっても、本人がそれを幸せと思えないのならば其れは不幸でしかない。逆に今絶望の真っ只中にあっても幸せだと感じられるのならば幸せだ。
 多くの人が不幸だと思う。生きている事実、失う可能性に恐怖せずに済む日常、今日があり、明日が存在する毎日。それらはどれだけ人が望んでも容易く得られるものではない。それらが今ここにあるというのに、気付けないなんて不幸でしかない。
 所詮それは失うことを経験している人が言えることだ。何を不幸と判断するのも他人の勝手、私の自由。ならば今と言う一時に文句を付けるのも何様のつもりだという話だ。

「おねえちゃん、ママと同じこと言ってる」
「ならヴィヴィオのママも幸せなのね。ヴィヴィオは違うの?」
「ヴィヴィオもいっしょだよ。えへへ、おねえちゃんといっしょ~」
「こら、ちゃんと歩く。こんな所ではしゃぐと躓いて転ぶわよ」
「はぁい」
「ん、素直でよろしい」

 ちなみに、現状幻想郷の古参の妖怪において意外と恋を未経験なのはスキマと尼公、軍神に悟り姉妹。今は姿を見かけない悪霊ぐらいか。もう少し範囲を広げれば魔界の神もいる。吸血鬼などはまだまだ若いから除外。
 考えてみればそれも当然のことだった。スキマは胡散臭さで自業自得、尼公は暇無し、軍神と祟り神は相手無し。悟りは恐れられ、悪霊は興味無し。魔界の神は引き篭もり。本来なら含まれるはずの月の頭脳は先が分かりきっているため出来ない。冥界の姫は過去に囚われたまま。

「――あ、パパァ!!」

 林を抜け、さらに少し歩いた先の場所。植物ではない植物の形をしたどこかであの人を見かける。それと同時にヴィヴィオがあの人のいる元へと駆け出した。
 今一度集団を見る。あの人を除いて女性が四人、少女が一人。それから少年が一人と生物ではない存在が二つ。改めてみてもその事実は変らない。ではヴィヴィオは一体誰を指してパパと、父と呼んだのか。
 パパと呼んだからには相手は男性。あの中で男性はあの人を除いて少年しかいないが、残念。その人は少年だ。故にパパと考えられない。考えにくい。

「ヴィヴィオ……走ると危ないよ」

 そうもこうもしないうちにあの人がヴィヴィオの名を呼んだ。よし、後で根掘り葉掘り詳しい話を聞こうか。一体どのような理由ありの少女なのか余すことなく是非もなく。なお言い訳混じりに視線をずらしても許さない。

「だいじょーぶだよ――――あで」

 途中、ヴィヴィオがこける。地面は柔らかく、偽りの芝のため怪我はないはずだ。

「だから言ったのに。全く」
「ぱぱぁ……」

 起き上がらないどころか涙声が聞こえる。例えどれだけ彼女が若く、幼いとしても立たないのは許されない。転べば再び立てば良い。力が弱くとも心が弱いのは許されない。
 あの人、ユウキもなのはも甘やかし過ぎだ。確かに子供に優しくあるべきだが、しかしきっちりと鍛えなければいけない。特に心は。ユウキに関わる以上心だけは何よりも強く、花の様に強くなければならない。

「うぅ……ひっぐ」
「――立ちなさい、ヴィヴィオ。転んだのなら立ちなさい。それすらせずに愚痴を言うのは許さないわ」
「……おねえちゃん」
「さあ。貴方は今、何処にいる?」

 本当に情けない。あの人の元にいながらこの程度でしかないとは。問題となる前に潰すべきか。いや、それは流石にユウキが怒る。ならば鍛えるか。

「幽香、少し言い方が厳しいよ」
「貴方が甘いだけよ。甘やかすのは良いけどきっちり鍛えないと。私はまたは嫌よ?」
「分かっている。でも、やっぱり厳しいよ……ほらヴィヴィオ。何時までも横になっていないで立とう、ね?」

 先ほどの私と同じようにしゃがんでゆっくり諭す。だからユウキは甘く優しい。少しは厳しくしなければ弱いままを許容してしまう。

「ぱぱぁ……」
「うん」
「……パパ」
「偉い偉い。転んだなら立とう。ゆっくりで良い。急ぐ必要なんて無いから」
「うー」
「ん、向日葵……ああ、もらえたんだ。良かったね」

 ヴィヴィオを抱いたままでは花束を持つことが出来ない。ならば渡すのはまた後にしよう。

「久しぶりね、ユウキ」
「うん、久しぶり。そちらはもう夏なんだね。皆は元気にしている?」
「ええ、達者にしているわよ。でもやはり貴方がいないと物足りないわ。時には来なさい」
「まあ……来年ぐらいには行けるかな」

 所で今更ながらの質問が一つ。一体ここはどこか。今まで来ていたユウキの店ではないのは確かだ。ユウキの気配がする場所に向かっていたから全く気にしていなかったツケである。

「……パパ、おろして」
「ん、もう痛くないの?」
「うん、がまんする。ちゃんと一人で立つもん」
「そっか……まあ無理しないでね」

 いわゆる軍服、正確には管理局の服を着た人物が殆どのため管理局関係の場所ということは分かる。しかし、だからこそ理解が出来ない。何故ここに朝早くからユウキがいるのか。
 所詮それは人事。他人事という意味ではなく、人間の些事という意味で人事だ。生憎ながら私は妖怪で、残念ながらユウキは存在である。選択肢の数は人より多く、その気になれば些事ですらなく雑事に至る話ばかりだ。気にする必要も無い。
 ただ、一つ気にかかることはヴァランディール。彼が何故あそこまで管理局という組織を嫌うのか。例えそれが嫌悪感であっても人という種に彼が興味を持つのは非常に珍しい。

「そう言えばどうしてユウキさんはここに?」
「ああ、朝食の用意が出来たから皆を呼びに。後はまあ、散歩もついでにって言うところかな」
「何故ヴィヴィオはその……ユウカさんと一緒に来たのですか?」
「んー……なんか、ヴィヴィオが後から着いてきていたみたいで、迷子になったんだよ。ほんの十分ほどで戻るつもりだったんだけどねぇ」
「好かれていますからね」
「ともかく、どうする? どちらにせよ僕はこれから食堂に戻って朝食を作るけど。幽香はどうする?」
「ええ、勿論頂くわ。今朝のメニューは何かしら?」
「普通の和食だよ」

 それにしても、何だ。人がいるなら教えてくれれば良いのに。そうすれば持ってくる夏野菜の量も多く出来た。一先ず切っ掛けである向日葵を渡す。

「そうだね。早朝訓練もこのぐらいにして朝食にしようか」
「やったー! ご飯だぁ!」

 さて、食堂は右か左か前かどこか。叶うなら静かなところで二人きりで水入らずの食事がしたいのだが、夕食の楽しみに取っておく。その時は自家製の夏野菜をふんだんに使った料理の他に秘蔵のお酒も出してくれると期待して。
 ユウキが迷子にならない限り基本的に年に一度。頻度という面で言えばかなり恵まれている私であるが、その前に酷い別れと長い虚無を味わっている。その埋め合わせがまだ、終わっていない。

「おねえちゃんもいっしょに行こう!」
「ええ、そうね」

 本当ならユウキと手を繋ぎたいところだ。しかしそこまで我侭を言うほど子供ではない。それなりに子供には優しくする。故に私は差し出されたヴィヴィオの手を握った。もう片方の手はユウキと繋がり、非常に嬉しそうだ。
 されど如何せん。若干身長が足りない。一生懸命腕を伸ばしても両手を繋ぐには少し無理があるようで、足元が軽く浮いている。仕方なく僅かにかがむ。こういうときスカートなら悟られずに済む。

『まさに幸せ家族ですね、マスター。これに圧倒的なネギの存在感があれば言うことなしですよ』
「いいもん。どうせ私じゃヴィヴィオの母親役は務まらないよ……ぐすん」
『まあ、年齢から圧倒的に違いますからね。仕方がありません』
「……そこの無機質。余計なことを言えば肥料に戻すわよ?」
『イエス・マム!!』

 金属だから肥料になれないなんて、やってみないと分からない。それ以上に私が肥料にしないと気が済まない。それに意味がある、価値があるなんて関係がないのだ。結果の是非を議論せずにやりたいからやる。

「あ、そうだ幽香」
「何かしら?」
「今日の夕食、何が良い?」

 ふむ、夕食か。夏、野菜で有名どころを挙げればトマトに胡瓜、とうもろこし、オクラ、南瓜、茄が上げられる。他にも葉物が全盛期だ。あるいは鰻、うどん、梅干といった土用丑の日も捨てがたい。特に鰻。それら季節の食材をふんだんに使った料理が好ましい。ならば。
 まず考えられるのがトマトスープ、野菜の天ぷら、うな重。当然サラダは付け合せに必要だ。夏野菜のカレーも捨てがたい。あるいはここは火鍋やキムチ鍋をチョイスすべきか。いやいや、それに走るなら石焼ビビンバも考慮に入れなければ。
 思考をトマトのみに絞った場合、これがさらに増える。ピッツァ、ブイヤベース、パエリア。しかしながらトマトのみに走るのも何か勿体無い。南瓜のグラタンを食べるというのも心躍る提案だ。
 ただ野菜をふんだんに使ったシチュー。私にとって母親の味といっても良いシチューはどの季節、どのような状況であっても選択肢から外れることはない。しかし獅子唐、冬瓜を使った料理を肴に酒を飲むのも食指が動く。浮気と思わないでくれ。
 出来れば苦くて嫌われ物のピーマンや苦瓜の意外な美味しさも人々に知らしめたい。それらを統合するとオムライスやゴーヤチャンプルが役目を果たす。しかし、それで果たして酒のお供が勤まるか。生春巻きを一品料理として提案してもよろしいか?
 さらにここに魚介類の鱸、キス、太刀魚などを含めると殊更に性質が悪くなった。天ぷらにすれば簡単に片がつく話に見えてそれでは余りに勿体無いものが多々あるため簡単に割り切れない。
 鱧の造り、焼きアワビ、海栗の軍艦巻き。寿司や造りといった和食で固めれば。されど、されどだ。初日は豪勢な物が良いと思っても僅か一日でそれだけ味わって良いものか。後の楽しみも少しは残さなければ。
 アサリは酒蒸し、車海老をブイヤベースに叩き込んで。一日、戻ったら丸一日大人しく説教を受けるから閻魔よ。私が納得できる形で白黒付けてもらえないだろうか。ああ、彼女はお子様なので辛味の選択肢がないか。残念。
 惜しむらくは今が夏だということだ。もしも春夏秋冬、以前のように暮らしているなら気軽に今日のご飯は何と聞けたのに。全選択権をユウキに委譲するだけで、後は見てからのお楽しみであったのに。しかしこう悩む時間がとても楽しいと思う自分がいるのもまた事実。
 と、ヴィヴィオどうしよう。彼女はまだ子供だ。どれほど幻想郷の飲酒年齢が低くとも流石に飲ませるのを躊躇うほどの子供だ。別に考慮しなければ良いだけの話だが、ユウキの子供というのであれば云々。

「…………あぁ!」
「パパ、何でおねえちゃんはもだえているの?」
「人は煩悩の数だけ幸せになれるということだよ。まあ毎年のことだから気にしないで。どうせ後で"いつもの"って決断になるから。本当に、夕食何にしようかなぁ……」

 良い事を言った。では色々と責任とって煩悩の数だけ人を幸せにしてもらおうか。なお私の煩悩は百八の二乗まであるぞ。でもその前に、今日の夕食何にしてもらおうか。拘ると私が手伝う隙間がなくなる。
 私がいて、子供がいてユウキがいて。三人揃って何かをするという光景には非常に憧れる。羨望を抱く。そして、それを叶えるチャンスが今ここに存在する。無碍にするには余りに眩しい。



翌日のレイジングハートさん

『…………』
「やっぱり外で食べるご飯は一味違うね」
「うん、そうだね」

 至って平和な日ですねー。

『………………』
「いい事、ヴィヴィオ。何時であれ女性は強くなければならないわ。特にユウキのような朴念仁の傍にいるためには。だから今から一週間、私が特別に貴方を鍛えてあげる。覚悟は、良いかしら?」
「はいっ!」
「元気な返事ね。そんな貴方に特別にこれを教えましょう。良く見ておきなさい。

――"始原"」

 始まりは閃光という現象で顕現する。続けて空間が実際に軋みを上げるほどの力がただ一点に圧縮され、そして。



「――マスタースパーク――」



 その日海が割れ、空が砕けた。

「おぉ」

 これが俗に言う二代目魔王少女誕生の、決定的な瞬間である。



 ……平穏な日常ですねー。



[18266] 第二十一話
Name: ときや◆76008af5 ID:43d80830
Date: 2010/11/12 23:43
 朝起床する。朝と言ったものの、僕の起床時間は明朝どころか夜といっても良いほど薄暗い時間だ。かろうじて東の空、そして首都の方角が僅かに明るい。しかし、それ以上に外は暗い。
 低血圧のせいで悪い寝起きの中、時計を見る。今の時間は午前四時ごろ。いつも通りの時間帯である。

「…………」

 まず右隣を見る。目に映るのは先日ここに足を運んだ幽香である。本当に安らかな寝顔を見せている。少し触れようかと思って、やはりやめた。僕は生まれつき新陳代謝も悪く、低体温症だ。寝起きは身体が冷えて仕方がない。もしもそのせいで起きたなら気持ちよく寝ている彼女に悪い。
 そしてそのまま視線を下にずらす。幽香のお腹辺りにヴィヴィオがいる。機能はこちら側で寝ているのか。しかし何とも、高々三日程度で非常に懐くものだ。
 続いて反対側を見るとなのはがアップで視界に入った。こちらも幽香に負けず劣らずの幸せそうな寝顔である。昔はよく腕枕をさせられていたが、自分でやって腕が痺れることに気付き、以来腕枕は余りせがまなくなった。代わりに心臓の上辺りに頭を乗せてくる。

「……んむ」

 少しなのはに近づき、彼女の体温で体を温める。先ほども言った通り、僕は低体温症だ。それも起きたときはまともに行動できないほどに。そのため一人暮らしの時には枕元に小型コンロと鍋、傍に牛乳と砂糖は欠かせない。
 本当に不便な体だ。そのせいで文明レベルの低いところでは旅が難しい。一人では行くことが難しく、二人でも僕のせいで行き先が限定される。本当に迷惑な話だ。死なない今、御役目から解放された現在に至っては寝ていたら死んでいましたという事態も稀にある。春は曙、されど冬の名残は其処彼処。
 うとうととしながら三十分ほどなのはの寝顔を眺める。まあ何とも、幸せそうな寝顔である。見ているこちらが照れくさくなるほどに。ある程度身体が温まってから三人を起こさないようにベッドから抜け出した。

「ふ、ぁあ」

 台所で湯を沸かし、コーヒーを淹れる。別にこの時コーヒーではなく、紅茶でも緑茶でも構わない。春夏秋冬、起きたばかりは温かい物が必要なのだ。まさに体温を維持できない爬虫類や昆虫類と人間の狭間のようである。
 時計が四時四十五分頃を刻んだ頃、なのはが起きる。早朝訓練のためである。昔からその時間に起きることもない。早朝訓練がない時は六時半頃に起きている。それでも彼女の年齢を考えればわりと早起き、朝方だ。実家がパティシエであるための体質だろう。

「おはよー……」
「おはよう、なのは。コーヒー飲む?」
「コーヒー……うん、のむ」

 ついでにチョコレートも食べて、なのはは早朝訓練に向かった。さて、僕もそろそろ仕事を始めようと扉に手をかけたところで止まる。どうやら素直に行くことは許さないらしい。ちなみにこの部屋のみ自動ドアではなく手動ドアを採用している。勿論僕の趣味。例えどれほど無駄だ不便だと言われようが、外せない何かには掛け替えのない思いが宿る。それを無駄とどうして言えようか。
 さて、時刻は五時を回ったところ。花畑の世話を考えると確かにもう起きている時間だ。しかし本日は例外的にゆっくり眠るのかと思っていたら習慣には意外と逆らえないもののようだ。
 踵を返し、寝室に向かう。部屋に入ると先ほどから感じている何とも言えない気配を直接肌で感じた。それは別に殺気や怒気の類ではない。アレだ。何とも言えない気配、そうとしか言えない。とりあえず無視すれば許されないのは間違いない。

「おはよう、ユウキ」
「うん、おはよう。もう起きていたんだね」
「ええ。本当ならそちらに行きたかったのだけど、ヴィヴィオがね……一人にすると寂しがるだろうから」
「寝ているのに?」
「寝ていてもよ」
「うん、そうだね」
「ええ、本当に」

 離してくれないんだ。離そうと思えば離せるが、ここまでしっかりとしがみ付かれては離すに離せない。幽香が来る前は仕方がないのでヴィヴィオを連れて食堂に向かっていた。今日は、彼女がいる間は大丈夫だろう。
 幽香の手招きに釣られ、近づく。手を伸ばせば届くどころか息が触れ合うところまで近づいて、やっと幽香の手招きが終わった。さては今日の昼食のオーダーか。あるいは昨晩は飲めなかったから今晩は飲みたいという欲求の発露か。

「――んむ」

 しかし彼女が望んだことはただのキスである。それもフレンチではなくハードなほうで。ヴィヴィオの子守代と考えれば良いか。あるいはおはようの挨拶か。もしくはその両方か。
 一分経過。先日の朝食は和食で固めていた。なら今日は洋食にしようか。厚切りベーコンに目玉焼き、サラダにトマトは必須です。パンにシリアル、イングリッシュマフィンも用意して。ああ、普通にオニオンとベーコンのマフィンも惜しい。全部作ろう。勿論体質の事を考えるとスープは欠かせない。
 三分経過。昼はどうしようか。ヴィヴィオはオムライスが好きだけど、二日連続というのは避けるべきだ。では肉まんやカレーまん、小龍包などを作ろうか。二人が手伝えないけど、そういう日も悪くはない。
 五分経過。夜は、後で考えよう。その前に間食に何を作るか。それは勿論昼の間にあんまんや芋あんまん、チョコまんを仕込めば何の問題もない。たまには飲茶も悪くない。
 七分経過、の前にやっと解放された。流石にこんなにも長くやられると舌が疲労を訴える。その疲労の分、幽香は非常に満足そうだ。出来ればもう少し僕のもやし振りを考えて欲しい。

「行ってらっしゃい」
「……行ってきます」

 最後に触れるだけのキスをしてやっと僕は食堂に向かった。幽香がいるためいつも通りとはならないが、まあ大体いつもどおり今日も始まる。とりあえず起き抜けで何だが、朝寝がしたい。やはり一日十四時間寝ないと体が保たないようだ。そのため夜は早寝を心がけているのだが、そうは問屋に降ろさせなかった人が一名いた。
 全力で眠気と戦いながら昼の仕込みをしつつ、朝食を作る。時刻が七時になるとまずロングアーチの人たちが朝食を食べに来る。彼らの多くは自宅から通勤のはずなのだが、何故か当たり前のようにここで食事を摂っている。

「いやぁ、自宅で食べるとどうしても手抜きになるんで。それに食堂のほうが栄養バランスも味も格別ですし。何より量の割りに安い。本当にこれ、原価取っています?」
「勿論、取っているよ」
「でも聞いた話だと六課の食堂は管理局から予算を貰っていないそうじゃないですか。それでこの価格って……いや無理でしょう?」
「細かいことは良いんだよ。事実としてこの価格でも成り立っているんだから。例えばほら、今日の野菜は全部幽香お手製だから。原価は零でしょ?」
「ああ、そう言うことで……人脈が広いってすごいですね。いや、ユウキさんの場合は一夫多妻か……」

 原価といっても使っている野菜類は大概自家製、ただし今は幽香特製。そのため残したら物理的にも精神的にも説教です。ベーコンや卵も同じく幻想郷産。土地代もなく、水道代も発生しない妖精や精霊の住む地で安全に無農薬栽培を行っております。やつらが。
 残る原価は光熱費と場所代。それでもこんなにも大勢の人が利用してくれているので一人当たりはかなり抑えられる。その上使っている機器の大半が僕が作ったもので、燃料効率は世間一般に比べて桁違いだ。加えて僕は昔から値段をつけるのが匙を全力で粉砕したくなるほど苦手。だから適当に付けているのだが、不安になるほど安すぎたか?
 それよりも昔から僕の周りで蔓延する問題は、どうやって溜まる一方の資金を処理するかだ。処理する手段が殆どなくて困っている。だが、だからといって下らないことに浪費したくないのも事実。使うなら消費で、決して浪費はあってはならない。

「パパ、おはよー」
「おはよう、ヴィヴィオ。良く眠れた?」
「うん、ぐっすり眠れたよ!」

 七時半少し前、幽香とヴィヴィオが来た。もうすぐ来るであろうなのはを待ちながら自分たちの朝食を作る。もしも管理局から予算を貰っているならばここまで自由に出来なかった。
 台所を制す者は全てを制す。はやて部隊長に黙認しなければ辞職すると判断を求めたところ、快く承諾してくれた。やはり人間という者は己が本能の命ずる欲求には勝てないのだ。
 それにしても、しくじった。幽香が向日葵柄の浴衣を着るとわかっていれば洋食ではなく和食で固めたというのに。そうすれば僕も甚平を着れたのに。

「や、おはよう」
「おはよう御座います、ユウキ殿」
「おはよう、ユウキさん」

 続いて来たのは意外となのはではなく八神家であった。だから君たち自宅通勤だろうが。特にこの前ヴィータから特技が料理と聞いた。少しは作らないと腕が鈍ると言うのに。
 ちなみにヴィータから聞いたのは何も特技ではない。何やら切羽詰って一生懸命何かしていると聞く。結婚が云々といった呟きから婚活だろうと推測している。その辺は恋人不在の独身男性局員を極端に入れなかった自業自得としか。せめて昔よく使った墓穴を掘るためのショベルカーなら貸そう。

「おはよー、リインちゃん! ヴィータちゃん!」
「はい、おはようですよー。ヴィヴィオちゃん。今日も元気そうですねー」
「しっかり食ってしっかり動けよ。じゃねぇと大きくなれねぇぞ」
「むー、すぐにヴィータちゃんより大きくなるもん」
「ならしっかり食わねぇとなぁ」

 まあヴィータはこれ以上大きくなれないからね。情報生命体だから情報をいじればある程度は容姿の変更が可能だろうが、そこまでの技術力はここに無い。実家に放り込めば一月の忍耐で完了するだろうけど。

「それにしても……ぁあ……なんつー凶器や、アレは……」
「次は容赦なく踏み潰すわ」
「クゥ! その身は全てユウキさんのものとでも言うんか!? 妬ましい!」

 先日の、幽香とはやてのファーストコンタクトは非常に不可解なもので終わった。幽香を見たはやてが急に妙なことを呟くと同時に飛び掛り、反射的に傘で打ち落として事無きを得る。一体何がしたかったのか、何をしようとしたのか離れていたためわからない。ただ二人の間で何かあるのは事実だ。
 とりあえずはやてが幽香に近づかないように注意しよう。命の危険や殺意は欠片も感じられない。しかし何があるのか分からない以上、ある程度の注意は必要だ。

「おねえちゃん、弱いものいじめはめーだよ」
「大丈夫よ。これは正当防衛だから」
「ならいっか」
「いやいやいやいや」

 大概その前に過剰なという言葉がつくのは言うまでもない。下手に人を殺して恨みを買わないように誠刀でも持たそうかと考える日々を悶々と送る。あの変態刀は所有者の戦う気を断つ所か、相手の意思すら殺ぐ。戦闘の未然防止という意味で誠刀は優れている。
 続いてドアが開き、なのはたちが来た。それではそろそろ僕も朝食を摂ろう。その前に大量の食事を作らなければならないのだけど。

「あ、ママ!」
「おはよう、ヴィヴィオ。それからおはよう御座います、幽香さん」
「うん、おはよう」
「ええ、おはよう。本当に朝から大変ね。あんな早朝から仕事があると朝ゆっくりも出来ないでしょう?」
「ええ。でもやはり私生活と仕事はメリハリつけて頑張らないと、ユウキくんに怒られるんで」
「まあそれもそうね」
「でも近頃管理局辞めて二人で、じゃない。三人で喫茶店をやりたいなと思うようになりまして……困ったものです」

 三人で。ヴィヴィオが今後どうなるかが問題だ。引き取り手が現れるのか、現れないのか。ヴィヴィオが望む未来は何処にあるのか。ヴィヴィオが望むなら今後も一緒にいられるが、そんな普通の未来があるとは考えにくい。
 喫茶店を開くにしても、ヴィヴィオの今後のことを考えるとミッドチルダ、ひいては管理局と全く関係のない世界で画一番良いだろう。そう、例えば地球とか。分類上管理外世界だから管理局もそう容易く手出しできまい。来る際に痕跡を抹消すれば良いだけの話でもある。
 またなのはのご両親にとってもその方が安心できるだろう。いくら腰をすえたからといってもやはり見えない、この手が届かない、声が聞こえない場所で戦っているのは不安だ。いや、戦っているという事実だけで恐怖を感じる。
 もしもなのはの言うとおり三人で店を経営する時、地球で開こう。場所は日本の布留部市なんてどうだろうか。地脈も安定しており、地理的に非常に良い。海鳴市との距離もあり、かといって遠いわけでもない。

「いっただきまぁす!」
「言う側から食べているんじゃない! そしてそれは私が狙っていたブルーベリーマフィン!」
「へっへーん、早い者勝ちだよぉだ。てああっ、それはあたしの!」
「早い者勝ちなんですよね、スバルさん――僕に速さで勝てるとでも?」
「…………皆、静かに食べようよ。ねぇ?」
「キュク」

 あちらの方は意識から除外する。とりあえず大量に山のように料理を持たせていたから恐らくお代わりはないだろう。それこそ四人揃って何か一種類のみを食べない限り。ただしそんな事をした場合は管理局地上本部屋上に集合となるだけである。
 一息つく暇もなく、エプロンを外して三人の待つテーブルへと移動する。流石にこれほどの量を作るとなると、毎日のことであっても腕が疲労を訴える。蘇芳が来ていた間は本当に楽だったのだけど。

「ごめん、待たせた」
「ん、それじゃ食べましょうか」
「うん、おなかぺこぺこだよ」
「それじゃ早速、いただきます」

 座っている席の順番は右から順に僕、幽香、ヴィヴィオ、そしてなのはだ。ヴィヴィオの保護責任者兼身元保証人になり、幽香が機動六課来た。そんなことがあっても僕の日常は大して変らない。機動六課も変ったように見えない。
 何を持って平和とするか、何を持って幸福とするか、何が悪でどれが善で何処に正義があるか。そんなことに拘る必要は果たしてあるのか。
 出会って別れ、友が来て杯を酌み交わし、再会を祈ってまた別れる。絶対の幸福はここにない。でもここには確かに幸せがある。僕にはそれで、この程度の平穏で十分だ。平和はいらない。善も悪も正義も必要ない。今だけで十分だ。

「こらヴィヴィオ、一度にたくさん食べない。みっともないし、もったいないよ」
「ふぁーい」
「口に物入れて喋らないの。汚いわよ。それからケチャップついてるわ。拭くから動かないで」
「むー」

 リスかハムスターの如く口一杯に食べ物を詰めたヴィヴィオをなのはと幽香が注意する。その光景に軽い既視感を覚えて記憶を探ると思い出す。恐らく今ここに幽香がいるからそんな既視感を覚えたのだろう。

「……何よ?」
「いや、懐かしいなぁって。ほら、幽香も昔似たようなことしたでしょ?」
「昔はね。今はしないわ」
「うん。でもそっくりだ」

 昔といっても幽香にとってはまだ二千年と少し前だ。僕の人生からしてみれば僅かに満たない。何となく、こういうことを言い出すと急に年を取ったみたいに感じる。自分も老いたと思える日常も割りと好きだ。
 しかしながら幽香本人からしてみればもう二千年と少し前の話なのだろう。そんな昔の話を今更掘り返されて恥ずかしくなったのか、何も言わずにヴィヴィオの口を拭いた。本当に、あの時映写機を作らなかったのが悔やまれる。

「そういうことは覚えているのね」
「断片的にだけどね。全部思い出すのは流石に無理」
「そう……そう」

 僕が思い出せた記憶と幽香が思い出して欲しい思い出は異なる。もしも幽香がその思い出について語ってくれたなら何か思い出すかもしれないが、しかし彼女はそれをせずにいる。たぶんその思い出は彼女にとって僕があることに価値があるのだろう。
 ならばそれは僕が思い出さなければならないことだ。しかし急ごうと考えない。思い出の内容が見当がつかないため、もし思い出しては幽香がこうして愛に来ることもなくなるかもしれないからだ。まずないと思うが、しかしないとは言い切れない。
 僕は今に甘えているだけだ。変らない平穏に甘え、ただ一歩を踏み出す勇気もない。自らを正当化するために愛しく思い、それを護ろうと流れに抗い、流れに逆らわない。何時か行かなければならないその時まで、必死に。
 毎年一番の向日葵を届けると約束したから。そう言う彼女の笑顔が好きだ。それと同時に今だ思い出そうとしない自分に嫌気が差す。本当に、どうなのだろう。幽香はどうして欲しいのか。それさえ聞けたなら変れるのに。それを聞いたなら、変らなければならないのか。

「ユウキ」
「――ん?」
「今日は泣いても良いから明日はちゃんと笑って。貴方が言ったことよ。こんなにも気持ち良い夏に辛気臭い顔は似合わないわ」
「ああ、そうだね」

 辛気臭い顔、か。確かにあんなことを考えていれば辛気臭くもなる。何はともあれ今幽香は、幽香も偽りのない笑顔でいてくれるなら今はこのままでも良い筈だ。だから僕はまた今に甘えている。
 朝食を食べ終え、片付けも終える。ヴィヴィオを預かっているとはいえ、流石にずっと遊んでばかりもよろしくない。社会の中で生きていくにはある程度の強要が必要だ。それは子供であれ例外はない。
 でも遊び盛りに勉めて学問を強いる、略して勉強というのも酷な話だ。語学、数学等面白みの欠片もない基礎以外は適当に遊びながら教える。ちなみに僕は勉強が嫌いだ。強制的にやらされている時点で拒否感を覚える。何故なら一切楽しくないから。するならせめて勉めて学ぶ勉学でありたい。

「物体はすべからく鉛直下向きに落ちる。つまり其方に力があるからだ。力は物質に作用して加速度を生み出し、加速度は時間と共に速度を増加させる。で、そういったことを纏めて考えてレールを敷くと、ほら」
「お、お、おぉ」
「それじゃ、一緒に作ってみようか」
「うん!」

 ピタゴラスイッチって楽しいよね。理科なんて当の昔に廃絶し、今は身近にあり、興味を引く物理を教えている。教育の第一段階は子供のうちにどれだけ学問の楽しさを洗脳させるかにあると思うんだ。
 語学は読書、化学物理生物は身近にある例を持って、歴史は寝る前のお話で、地理は遠出で、数学は必要とする計算で。遊んで勉強して、食っては寝て。体力が回復したら遊びながら勉強して。楽しくなければつまらない。当たり前の話です。
 急に大気が震えたので窓から外を見ると良く見た光が空を裂いた。そう言えばなのはが幽香に何かを頼んでいた気がする。たぶん絶対負ける相手を敵にした場合、どうすれば良いのかという経験をつませているのだろう。とりあえず、合掌。はやて部隊長にはごまかしに多大な迷惑をかけてしまった。
 時に幽香の相手は誰だろう。スペルカードを使っている時点でかなり手抜きだが、それでもマスタースパークを使ったほどの相手だ。少し気になる。

「あ、ヴィヴィオ。これじゃボールが落ちるよ。ほら、位置エネルギーがゼロになるから前に進まない」
「えっと、空気のまさつけいすうとレールとのせっしょくまさつでエネルギーそんしつが」
「それからレール接合部の段差によるエネルギー変動もね」
「あ、わすれてた」

 細部の計算は僕が行っているが、それをどれだけ必要なのかを考えて足しているのはヴィヴィオだ。流石に細部の計算までヴィヴィオは出来ない。時間さえかければ出来ないことはないが、計算機を使わずにやっているため面倒である。
 そんなとりとめのない日常の一コマ。さて、そろそろ肉まんを作るか。



今日のはやてちゃん

「私のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅ――」
「次は、ないと言ったでしょう?」

 スライディング土下座、余裕でした。



[18266] 第二十二話
Name: ときや◆76008af5 ID:cf1b6796
Date: 2010/11/26 21:35

 小学校での遠足の前日、楽しみで仕方がなくて寝付けない人もいる。中にはそんなことなんて関係なく寝る人もいるし、あるいは遠足なんて興味がないという冷めた人もいた。あるいは、身体を休めないとやっていけないと言う人もいるかもしれない。
 ともかく、私は遠足の前日はあまり眠れない方だ。それがどうしたかというと、明日。いやもう日付は変わったのだから今日か。今日から二日間、休暇を貰うことが出来た。

「…………」

 隣ではヴィヴィオが眠り、その奥でユウキくんが寝ている。出来れば初日は自宅でゆっくりのんびり、何気なく買い物に出かけたりして過ごしたいものだった。そう言えば化粧品が少し心許ない。念のために買い足しておきたい。
 しかしながらヴィヴィオが遊園地に行きたいと駄々をこねた。いや、駄々をこねたわけではない。子供らしく我侭を言った。そのため急遽三人で遊園地に行く予定を立てた。
 折角の休日の予定を壊されたとは考えていない。むしろヴィヴィオが我侭を言って安心した。今まで全く、食事のメニューや寝る位置を除いて全く我侭を言わなかったものだから不安だった。本当に私は、私たちはヴィヴィオに必要とされているのかと。だから我侭を言ってくれて少し、安心している。

「……可愛いなあもう」

 明日は三人で遊園地。家族三人でちょっと遠出。そのことが楽しみで、その事実が嬉しくて少し寝付けない。上手く眠れない。恥ずかしながら、私は遠足の前日は眠れないほうだ。
 一方ユウキくんは二日分の食事を作った疲労でぐっすり眠っている。歴史に残る地震が起きても戦争が起きても、それこそ身の危険が迫らない限り起きる気配は微塵もない。むしろ夕食を作り終えた時から既に眠たそうにしており、良くぞまあ今まで持ったものだと今更ながら感心している。
 間にいるヴィヴィオは最初楽しみで仕方がなくて起きていたが、ユウキくんが寝ぼけ眼でお話を聞かせていると眠っていた。ついでにユウキくんも膝にヴィヴィオを乗せたまま眠っていた。そして二人を横にして、今に至る。
 うん、ここは正直に言おうか。明日は家族で遊園地だというのに妙に眠れない。時刻は既に丑満つ刻を回ったと言うのに眠れない。というわけでユウキくんを抱き枕にすることにした。これですぐに眠れることだろう。

「それじゃ、おやすみなさい」

 明日は楽しくなると嬉しいなぁ。





 不眠のための体調不良も杞憂で終わった休暇一日目。的中確率が99.9%を誇っていた天気予報では降水確率が100%、本日は間違いなくバケツをひっくり返したような雨が降らなければおかしいと言っていたのに見事な快晴である。つい布団を干したくなるとても気持ちが良い晴れ模様だ。
 しかし真夏の日にそこまで晴れてしまっては問題が一つ。熱中症と日射病、それから水分補給である。特に体の小さい子供は注意しなければならない。というわけでお出かけ前に。

「それじゃレイジングハート、何かあったときはお願いね」
『お任せください。もしもの場合はアイスの前に遠慮なく本家直伝マスパを喰らわせます』
「いや、流石にそれはやりすぎだから。それにヴィヴィオはまだそれを全力で、しかも一発しか撃てないんだから倒れちゃうよ。せめてアイスを貰ってからシューター十発にしよ」
『了解しました。つまらない』

 迷子の時のためにレイジングハートをヴィヴィオに渡す。彼女の性格を考えると暴漢にご愁傷様と線香をあげるが、それは向こうが悪いことにする。それから水筒を持たせて麦藁帽子を被らせて。
 これで熱中症も日射病も大丈夫だ。迷子になった時の対策も万全である。ふと思うことだが、世の子供たちには迷子になった時のためにドッグタグでも付けておけば良いのではないだろうか。そうすれば親を探す側としても楽なのに。
 一人一台携帯を持っているならなおさら連絡も取りやすい。なのに何故それをしないのか。子供が誤飲する、個人情報が云々という理由を除けば余り考えられないのだが。

「とにかくヴィヴィオ、ユウキくんから離れないように。何かあったらレイジングハートを頼ればいいよ」
「はぁい。よろしくね、レイジングハート」
『ええ、よろしくお願いします……これで私色に調教すれば行く行くは第二の砲撃少女に』
「レイジングハート自重。好い加減にしないと幽香さんに肥料にしてもらうよ」
『それはマジ勘弁』
「じゃあ自重しようね」
『それは……写真撮影もですか?』
「そこは自重せずにじゃんじゃん撮っちゃって」
『ラジャー』

 そこはかとなく今朝方手紙があったもので。この文明が発達したミッドチルダで何処の誰が古き良き文化を使ったのかと送り主に目をやれば、あの人たちでした。それも内容は一貫して写真求む。数少ない良識人たちも、前置きに季語などを使っているが、内容は同じだった。

「ユウキくーん、こっちは準備できたよぉ」
「できたよー」

 着替えも化粧も終り、ヴィヴィオの準備も終わった。残るはユウキくんだけである。朝食を作る様子を見た限りでは弁当を用意しているようには見えない。なのでもう準備は終えているはずだ。
 さて、しばらくしても返事はない。どうせもう先に地下の駐車場に言っているのだと考えて下に降りる。ちなみに地下の駐車場と地下の酒蔵と地下の農牧場は同一の空間にあると言うのに全く違う場所にある。あと他には地下に研究室と工房と宴会場その他諸々を設けている。

「…………」
「……ユウキくん?」
「パパ?」

 地下駐車場にいるかと思ったら外で和傘を刺していた。しかも完全無欠に澄み切った快晴の空をただ見上げている。珍しく何の感情も浮かべずに見上げている。いつも顔に浮かべている笑顔すら今はない。
 その理由は至って簡単だ。優鬼の身体は病弱であるから。こんなにも見事な晴れ模様では問題なく滞りなく日射病と熱中症と脱水症状を併発してしまう。

「――ん、ああ。準備できたか」
「うん。だけど、その……大丈夫?」
「大丈夫って、えと。何が?」
「体調とか。ほら、今日はこんなにも晴れているから」
「それは、大丈夫だよ。そこまで無自覚じゃないから」

 となると尚の事私はヴィヴィオから目が離せない。もしも私がヴィヴィオと離れてしまったらユウキくんに精神的に加え肉体的な負担が発生する。どれだけ無自覚ではなく、慣れている事態であっても辛いことに変わりはない。
 それでも行きたくないとは言わないのは単にヴィヴィオのためだろう。流石に幼少期に一度も遊園地などに行かないと言うのは妙な話だ。また子が行きたいとしているのに親の都合で行かないと言うのも可哀想だ。

「パパ、お身体悪いの?」
「ん、大丈夫だよ」
「ホントに? 悪いならヴィヴィオ、我慢するよ?」
「大丈夫だって。いつも通りだよ。だから今日は一杯遊ぼうね」

 今のところ体調が悪いと言うわけではないが、身体が悪いのは事実だ。それから地下駐車場に止めている車の一台に乗って最近出来たと聞く遊園地に向かう。念のために言っておくが、車は勿論ユウキくんの改造済みであるため恐ろしく性能がいい。それでも今回は自重して一般的な交通ルールは遵守した。まあ時速制限60kmの一般道で80kmを出すのは普通であるかと。今回はその度が過ぎただけだ、きっと。
 交通渋滞をうまく回避し、ネズミ捕りと遭遇しないルートを選択し、なるべく人の通る場所を避けた結果、予定通りの時間に遊園地に到着した。十年前に出来たアトラクションワールド、ランドセルランド。それなりに良い名前に対しコンセプトは全くもって別物だ。

「地獄まで断崖絶壁」
「光だ、光になるんだ」
「僕と君たちの虎馬ランド」
「常識とは全力で投げ捨てるもの」
「倫理団体が投げた匙は月を穿ったそうです」

 等々、とてもではないが曲がりなりにも子供を相手するはずの遊園地に相応しい歌い文句はない。その上年齢制限身長制限などの類は一切なく、管理者側の過失を除く事故などの怪我の保証は全くない。奇跡的にも今はまだ死者はいないが、最悪で骨折した者がいるそうだ。それも利用者が諸注意を無視して愚かな真似をした為の自業自得であるが。
 そんな、今にも中学生が怪しげな変態と待ち合わせをしていそうな遊園地。他の遊園地を選べばいいのかと考えたのだが、ヴィヴィオがどうしてもそこのジェットコースターに乗りたいと言い出して聞かなくて。絶対、ユウキくんと常連たちのせいだ。

「まあ何と言うか、さすが日曜日。人の込み具合が半端ない。ここまで人が多いと、流石に困ったな」
「大丈夫だよ。ヴィヴィオにレイジングハート渡しているから、もしもの時は何とかなるよ」
「いや、そうじゃなくて……それもあるけど……まあいいか」

 末恐ろしい速度でジェットコースターが頭の上を通過する。悲鳴は一切聞こえない。正確には悲鳴をあげれるほど生易しい速度ではないだけだ。ふむ、ここにある全てのアトラクションを巡れば人として一皮剥けると冗談文句を聞いたが、なるほど。一理あるかもしれない。

「レイジングハート」
『何でしょうか?』
「とりあえず、これ」
『お……ぉお』



「漲って、キタ―――(`・ω・´)―――ッ!!」



 ゲート前にてユウキくんがコンソールで何かを変更した。その操作が終了すると同時にヴィヴィオの前に何かが現れた。背丈はリインと同じほどで、まるでユニゾンデバイスのようである。
 女性形で髪は金色、瞳は赤。服は白く、所々に金の留め金が使われている。恐らくはユニゾンデバイスと同様だろう。魔力を使用して肉体を擬似的に作っただけだと思う。あとデバイスなのに漲るとは何だ。しかもきたがきたではなくてキタだった。本当に余分なところまで丁寧な造りですね。

「流石に肉体は材料が集まりにくいから当分できないけど、それは簡単に出来るから。まあそれで我慢して」
「いや、十分嬉しいです。時に食事は摂れますか?」
「ああ、それはどうしようかと悩んでいるんだ。今はエネルギー機関を組み込んでいるから必要ないけど、どうせなら外部供給と内部熱源のハイブリットにしようか、現状のまま外部供給に頼ろうか、あるいはで悩んでいて。実際君はどれがいい?」
「念のためを考えるとハイブリットが良いですね。基本的には外部供給で、緊急時や戦闘時は任意で内部熱源に変更するという形で」
「それか……エネルギー循環システムが面倒なんだよな。加えて味覚センサーと消化吸収器官か……まあ了解。今日明日で終わらすよ」
「本当に有難うございます。所で崇めて奉っても良いですか? 何か下手な神々よりご利益がありそうなんで」
「止めてくれ。依存されるのは好きじゃないんだ」
「まあ冗談です」

 さて、レイジングハートはこんなキャラだったか。ユーノくんからもらった時から他のデバイスに比べておしゃべりだったのは間違いない。それはフェイトちゃんに指摘され、リンディさんに確認を取った。
 ユウキくんのお陰でその個性がさらに強調され、うん。どうやら昔からこんなキャラクターだったようだ。仮初の、魔力で出来たとはいえ肉体を手に入れた今では本当に人との区別がし辛く感じる。これでは昔のように共に無理をすることに今以上に抵抗を感じる。いや、無理をしないに越したことはないが。

「所で、何時の間にあんなことしたの?」
「この前のメンテナンスの時だよ。組み込んだは良いけど、隊舎で使うといらない詮索をされそうだったからね。黙っていた。でも今は、まあ良いかなって」
「そう、かなぁ?」
「うん、大丈夫だよ。確かにレイジングハートは個性が強いけど、悪くないから。それに彼女――彼女がしっかりしているのはなのはが一番良く分かっていることでしょ?」
「そうなんだけど……悲願叶って浮かれすぎないかなって。そのせいでヴィヴィオと離れるのは困るよ」
「まあ……何とかなるよ」



「レイジングハート、嬉しそうだね」
「それは嬉しいですよ。今まで碌な食事も取れませんでしたし、まともな娯楽もありませんでしたから。これからは存分に遊び倒せます」
「えっと、どんな感じなの?」
「所謂、我が世の春がキタです……まあ分かりませんか。所でヴィヴィオ」
「うにゅ?」
「う~☆ってしてもらえませんか?」
「うー?」
「違います。う~☆です」
「う~」
「惜しい。う~☆」

「う~☆」

「シャッターチャンス! よし、課題1クリア」

 ……まあ、良いか。これが終わった後に現像された写真をデータごと貰って、今晩来るだろう人に詳しい話を機構じゃないか。人のデバイスに何を教え込んでいるのかと。そして何より何故一枚かませなかった、と。
 そこで立っているのも時間が勿体無いので早速入場し、ヴィヴィオと逸れる前に一番早く長く断崖絶壁なジェットコースターに向かう。勿論身長制限年齢制限なし。別名、天国行き片道特急。この世のものではないという意味で的を得ているそうだ。
 ちなみにレイジングハートはアウトフレームを最大に拡大し、見た目で言えばヴィヴィオと同じになった。そのため周りから疑問の目をもたれることもなく一緒に入場する。これならヴィヴィオが一人になる心配もない。
 結論から語る。空戦魔導師で速度と高さと急降下に慣れているとはいえアレは怖かった。ジェットコースターの癖にシートベルトはなく、しかも座らずに申し訳ない程度にある背もたれ付きの台座立ったにまま。流石に自分でやっいないから格段に怖かった。なのにヴィヴィオはまだまだ鼻息荒い。レイジングハートもやりきった笑顔だ。

「次はあそこ!」
「スリラーハウスですね、分かります」
「…………」

 入る前に玩具の銃を渡される。玩具とはいえしっかりと魔力弾が発射されるようで、妙に凝った造りであることが見て取れるが、さて。生憎ここまで魔力炉を小型化できる技術を持っている人を私は一人しか知らない。

「興を覚えて技術提供しました。調子に乗って遊びました。反省も後悔もない」
「まあ楽しいから良いけどね」

「ヒャッハー! 汚物も消毒だ!」
「ひゃっはー!」
「まあこれは頑丈なので鈍器としても使えますけどね」
「わぉ、すごくかたいです」

 それならまあ、奇跡的に死者が出ていない原因にも納得がいく、かな。

「ちょ、マスター! 今掠りましたって!」
「ごめん、外した。次はちゃんと当てるから」
「え……いや、あの――え?」
「本当に、何ヴィヴィオに余計なこと教えているのかな? 私そんなこと望んでいないよ、ねえ?」
「あ、うん。ごめんなさい。調子に乗っています」
「うん、そうだね。だからレイジングハート。今後のためにも私たちはわかりあう必要があると思うんだ」
「それに暴力は必要無いと思うのですが」
「暴力だなんてそんな。ただの共通言語だよ」
「わぉ、マスターマジ魔王」

 ちなみにユウキくんとヴィヴィオはそこを最高得点でクリアしたそうです。私もそれなりに遊べたから良いか。続いてフリーフォールという名の成層圏近くまで行ってジェットコースターに乗り。タルタロスと名づけられた迷宮で黒い化物と争って気分転換にジェットコースターに乗り。
 ジェットコースターの数もさることながら、ここは地味に入出口が多い。特にジェットコースターに乗った後では方向感覚が麻痺してしまう。それから適切な出口に池といわれても少し難しい。

「――――あれ?」

 お陰で皆と逸れてしまったではないか。右を見る。そこには人が大勢いる。左を見る。そこにも人が大勢いる。前後も同じく。上はひっきりなしにジェットコースターが行きかう。
 間違いなく私が迷子になっている。しかし問題ない。魔法文明の存在するミッドに置いては念話という非常に便利な会話手段がある。それを用いれば場所を無視して会話が出来る。

「……あ」

 しまった。ユウキくんは念話にすら拒絶反応を覚え、ヴィヴィオは念話を知らない。レイジングハートはデバイスだから出来ると思えないし、どうやって繋げばいいのかわからない。
 ともかく立ち続けるのも悪目立ちする。あそこのカフェで一休みしつつ、考えよう。携帯電話という手法も考えられるが、ユウキくんはその電波ですら気分が悪くなるという理由で持たない人間だ。そういう理由で常連客も可能な限り手紙を使っているわけだ。

「カフェラテをください」
「はい、かしこまりました」

 さて、弱った。ヴィヴィオが迷子になる対策は打っていたが、こんな年になって自分が迷子になるなんて想像もしていなかった。事務員に言えば放送で流してくれるのだろうけど、それは流石に恥ずかしい。
 ここでこうしてカフェラテでも飲みながら待てば、恐らく帰るまでにユウキくんは迎えに来るだろう。それも悪くないが、しかしそれで良いのかどうか。少し悩む。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「それではどうぞ、ごゆっくり」

 カフェラテはまあ、合格点だ。満点というわけにはいかないが、及第点ほど悪くない。不合格点とは程遠い。むしろ良い位だ。さすがユウキくんが関わっているだけはある。
 ちなみにアイスカフェオレというメニューはない。この暑い季節にホットなんて熱いもの飲めるかと激怒する人もいるかもしれないが、コーヒーに限ってアイスはない。事実、欧米でアイスコーヒーはない。理由は単純にアイスでは折角の香りが華麗に飛んでしまうから。
 何よりだ。悠長にホットカフェオレも飲めない世の中であるということが認めたくない。イギリス人は戦争中の最前線であっても午後のティータイムは優雅に楽しむという。人間そのぐらいの余裕は必要ではないか。

「…………まあ、良いか」

 迎えに来る時を待つのは嫌いじゃない。何故なら迎えに来てくれることが分かっているから。まあ良い時になれば自然と迎えに来るだろう。もしかしたら疲れて寝ているヴィヴィオを抱きかかえているかもしれない。
 バッグから本を取り出す。ヴィヴィオと一緒に遊園地を巡れないのは心残りであるが、問題はないだろう。たぶんヴィヴィオはヴィヴィオでそのことを気にして一生懸命何したと話してくれる。それもそれで楽しみだ。
 背伸びして、少ない語彙で出来る限り表現して、手足を使って。楽しかったと愚問を並べれば至極当然のように頷いて。その姿を想像するだけで口が緩む。何となく、子煩悩な親バカの気持ちが分かる気がする。
 ああもう、非常に楽しみだ。これだから待つのは嫌いじゃない。止められない。ただ、周りの視線が非常に気にかかる。老人や中年の夫婦からは気恥ずかしくなる視線を向けられ、若い夫婦は何故か見つめあい、カップルは恥ずかしそうに目を逸らしている。

「何でかなぁ……」

 疑問を並べながら飲んだカフェオレはやはり熱かった。



 さて、どれほど時間が経ったのだろう。持ってきた本も読み終わり、夏の空を見上げながらカフェオレをお代わりしていると眠くなったので少し午睡を楽しんだ。今やっと起きたのだが、さて今は何時か。
 目に映る橙色から夕方であるのは間違いない。夏という季節の関係上、もう午後三時も当の昔に過ぎ去った午後六時の当たりか。流石にまだ迎えに来ていないようであればこちらから行かざるを得ないのだが。

「おはよう、なのは」
「ん、おはよう。ユウキくん」
「だから日頃からちゃんと休まないとダメだって言っているじゃないか。いくらその時大丈夫と言っても疲労は蓄積するんだからさ」
「あはは、ごめん」

 勿論そんなことはない。ヴィヴィオは思ったとおりユウキくんに抱きかかえられたまま寝ている。レイジングハートも今は空気を読んで大人しくしている。

「そろそろ、帰る?」
「いや、その前に一つ。ヴィヴィオの願いでね。ちゃんと皆で観覧車に乗りたい、だって。だから行こうか」
「うん、そうだね」

 ランドセルランドとはいえ、流石に大きさはともかく観覧車にまで恐怖や光の速度を求めたりはしない。それでも人気がここの看板であるジェットコースターと似たり寄ったりというのは色んな意味で驚愕の事実である。

「ヴィヴィオ、持とうか?」
「まあ重いけど、大丈夫だよ」
「でも、私も抱っこしたいよ」
「そっか……それじゃあ次、次回に頼もうかな」
「本当? 約束してくれる?」
「うん、もちろん」

 そして観覧車前に到着したところでヴィヴィオを起こした。でもまだ眠いようでユウキくんにしがみ付いたままだ。しばらくすればきちんと起きるだろう。まずは観覧車に乗り込む。
 魔法文明の正しい使い方というべき、不可視のフレームであるため視界を遮るものはない。安心感のために椅子や壁は見えるが、しかし大部分が強化ガラスらしきもので覆っている。

「ヴィヴィオ、まだ眠いかな?」
「まだ大丈夫だもん。まだ寝ないもん!」
「そっか。でも無理しないようにね」
「うー」

 寝ないと言いつつも何もなければ舟をこいでしまう。そのぐらい楽しかったのか。今日話を聞くのは止めておこう。むしろ無理だ。確実にこれが終わったら寝る。
 眠りそうなヴィヴィオを時折つつく。外を見やれば大地が円形を描いているのが見て取れる。それなりに突起物があるはずだというのにどうして円を描いて見えるのか。

「うわー、うわー」
「……綺麗だね」
「うん、そうだね」

 永遠に続く向日葵畑の金色、果てしない麦畑の金色。自然が織り成す風景も絶景だ。しかし自然だけが美しいものを作り出すとは限らない。こういった人工物の中にも美しいものは存在する。
 ふと考えることがある。管理局は一体何を守りたいのか、と。世界を滅ぼしかねない力が危険だからこそロストロギアを封印し、管轄する。それは分かる。町の治安のために犯罪者を取り締まる。それも分かる。
 しかしながら分からない。何故か理解できない。言われているのに納得がいかない。どうして世界の平和を歌っているのにここよりも外に目を向けるのか。納得がいかないからこそ、こうして時折疑問に感じる。本当に管理局が守りたいもの何なのか。
 この考えは今自分に守りたいもの、決して譲れない何かができたから考えている。守るものが見えなければ疑問にすら考えなかっただろう。それもそれで幸せだったかもしれない。ああ、その前に一つ。聞いておかなければならないことがある。

「ねえヴィヴィオ、今日は楽しかった?」
「うん! 楽しかった!」
「そう。それは良かったね」

 本当に、何故多くの人がそこにあるものにすら気付けないのか。それは本当に悲しいことだ。



今日のユウキくん

「なのはは今日、休みだよね?」
『ええ、そうですが……しかしこの事件は――』
「お前ら全員休日の意味を調べて来い」

 ワーカーホリックも好い加減にして欲しいところだね。とりあえず着信拒否しておこう。ランドセルランド全体に念話妨害の結界を密かに仕込んで置いてよかった。



[18266] 第二十三話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2010/12/24 22:09
 突然な話だが、私には手間がかかる兄がいる。手間がかかるダメ兄貴がいる。非常に粗末なことなので二度確認を取らせていただいた。世間的に世話を焼かせる弟妹は年齢に寄るが、ぎりぎり許される範囲だ。しかしそれが兄や姉、それも成人し、既に就職しているとなってはダメとしか言いようが無い。
 ただ、手間がかかるといっても一人では生活できないダメ人間であるとか、あるいは生活を放棄するほどの仕事人間であるという意味ではない。ただの阿呆故のダメ人間である。

「…………」

 ただし数ヶ月前まで。
 全く、仕事で失敗して民間人を傷つけたぐらいで何処まで引きずるつもりなのか。その民間人が己の妹ぐらいでどこまで動揺すれば気が済むのか。引きずるのも後悔するのも動揺するのも勝手だが、ただそればかりしてもらっては撃たれたこちらが腹が立つ。
 確かに誤射され、片目の視力を失ったことには誰しも怒りを覚える。しかし、しかしだ。だからといってそこで停滞されることには憤怒を抱く。人は失敗して進歩するものだ。そこで停滞しては自分が撃たれた意味が無い。
 私を誤射してから数年、その間一度たりとも兄さんは己の足で見舞いに来たことはなかった。その間どれだけ私が辛い思いをしたことか。理不尽に片目の視力を奪われ、その怒りを誰にも何処にも発散することが出来ず、己の腹のうちにとぐろを巻かせたことがどれほどきついことか。
 誤射したことを気にするならせめて私に殴られに来いと言うものだ。本当に八つ当たりを喰らうだけでいい。その胸の内で泣かせてくれるだけで良い。ただ一言、済まないと誤ってくれるだけでいい。それだけで許せるのに。それだけで許せるほど、私は兄を信頼していたのに。
 病院生活、何よりも辛かったのは片目が見えないことではない。学友が見舞いに来た。私は笑って迎えた。看護師が心配してくれた。私は大丈夫と答えた。医師が親身になって接してくれた。私は彼の言葉を信じた。ただ兄だけが、家族だけが姿を見せなかった。それが何より、辛かった。

「……本当に、弱くなってたなぁ……」

 だからこの前初めて兄が来た時、全力で殴った。勿論頭や肝臓と言った場所ではない。心臓真上当たりを全力で。幼い妹の一撃だ。どれほど全力であっても死ぬことは無いだろう。少なくとも私の心はそれ以上に痛かったのだからこう程度、甘んじて受け入れてもらいたい。
 しかし、残念だ。昔は鳩尾に一撃で膝をつかせていたというのに、全力のハートブレイクショットで眉を顰めさせることしかできないとは。これは気を入れなおして身体を鍛えなければ。しかし女性には限界がある。ついでに武術も教わるべきだろう。

「は、ぁ……」

 今ここに兄はいない。機動六課という新設部隊に所属し、そこの唯一のヘリパイロットであるためあそこの寮で常に待機している。それは仕方のないことだ。家族として妹としてそれは仕方のないことだと理解しなければならない。
 ただ、うん。

――……小っせぇなあ……

 アレは、卑怯だ。

――俺は、こんなにも小さいものすら、背負うのを拒んでいたのか。

 大の男があんな顔で、あんなことを言うのは正直、彼女ができた時にしろと言いたい。

――すまねぇ、ラグナ。だが俺は、もう逃げねぇよ。

 そんなことされてはどんな堅物でも故意に落ちる音がするというのに。ええい畜生。思い出しても恥ずかしい。あまりの恥ずかしさにベッドに埋もれた。
 時折あそこまで格好良くなるのにどうして恋人の影一つ聞かないのか。我が人生最大の難題である。もっとはっきりといえばさっさと結婚してくれ、バカ兄貴。私が結婚できない枷になっているようで気になるではないか。
 本来見えない目に手を当てる。そこを覆っていた眼帯は既に無く、昔と同じように世界を写していた。簡潔に言えば完全には治らないと医師が言っていた私の盲目は完全に治った。怪我したことすら分からないほどにだ。
 かかりつけの医師が怪我で療養のため、代役の医師が見てくれただけなのだが、さて。確かにその医師は胡散臭い男性で、何故か調合してくれた薬からは嫌な予感がしてたまらなかったが、さて。あの人本当に医者だったのか。疑問点はそれだけである。事実、それから一度もその人の姿を見ていない上、皆口を揃えてそんな人はいないと言う。

「……まあ、行きますか」

 解決できない問題は解決できないのだから仕方が無い。悩むだけ、時間を裂くだけ時間の無駄。とっとと思考を中止して別のことを考える。
 何故急に、数年の間も放置し続けた妹に会おうなんて思ったのか。その切欠は何か。考えてみても機動六課にあるとしか思えない。しかし普通の管理局員にそんなことを思わせる人はいるのか。
 公開されている情報は当然見た。部隊長からその末端に至るまで見た結果は若い人ばかりだ。中には私より若い魔導師すらいる。才能で人の優劣を付けるとは本当に恐ろしい。守るべきものを見失うから。
 隅から隅までじっくりと眺めたところ、出した評価はまずない。ならば街中を歩いていて偶然か。稀にそういう噂は聞くが、まさかそんなにも運の良いことはないだろう。では公開されている情報に無い人がきっかけとなった可能性も無きにしも非ず。二重否定。
 明日、機動六課に足を運ぼうと思う。妹として兄の背中をどついてくれた人に感謝しなければならない。それから今一度兄をどつかなければならない。どうしてあそこまで選り取り見取りな場所にいて何の噂も聞かないのか。凝った趣味は確か、無いはずである。恐らく。



「分かっていたことだけど、辺鄙な場所にあるなぁ……」
「あはは、まあ都心はもう場所が無いからね。広くて暴れても問題ない、加えて費用は安くと費用対効果を考えるとこんな場所になるんだよ」
「はぁ……結構批判がありますから仕方のないことですか」

 郊外の住宅街からモノレールに乗ること三十分、乗り換えてさらに一時間。そこから一時間に一本だけのバスに乗って三十分。加えて歩くこと三十分。合計二時間半。自家用車が無い人にとっては非常に辛い場所だ。
 幸運なことに歩いている途中機動六課に戻る途中の局員、局員らしき人、バーテンダー服を着ていたけど恐らく局員の人の車に同乗させてもらったため二時間で到着した。

「とりあえず僕はここまで。行きたいところはフロントの人に聞けば良いから。それじゃ」
「ええ、お世話になりました。有難うございます」

 さて、来たのは良いものの果たして何処に行けば良いのか。誰が兄を変えるきっかけとなったのか。公開されている情報を元に調べていくと部隊長分隊長と彼女たちの補助はまず違うと見て良い。若すぎるのも理由の一つだが、何よりそういった踏み入った事情を気にする人には思えない。
 有力候補はヘリの免許を持つアルトさんだ。一度彼女は兄と同じ部隊に所属していたことがある。しかしさて、そんな人の心に土足で踏み入れるほど近しい位置にいるならそういった方面の噂を聞くはずであるのだが。というわけでこの人も無い。
 続いて兄と同じ銃を使った戦闘スタイルのティアナさん。可能性としては否定できないが、少し若すぎないだろうか。さらに若い私が言うのも何だが、彼女がそこまで人生経験を積んでいるようには思えない。

「ん? んー……んん?」

 そう言えば、先ほど私を連れてきてくれたあの人は誰なのだろうか。機動六課は男性の数が少ない。そんな中であそこまで綺麗な人は一目見れば忘れないはずである。なのに公開されている情報で見た覚えはない。何より何故バーテンダー服を着ていたのだろうか。思えば疑問の塊である。
 こんな時間に出かけていること。局員の制服を着ていないこと。記憶に残るほど美人なのに記憶に無いこと。何より疑問に思わざるを得ないことはそれを全く疑問に思わなかったことである。
 まずはその人から当たってみようか。疑問だらけなのに自然体でいるのだからそれなりの理由があるはずである。例えば全員の弱みを握っているとか。例えば誰も口出しできないほどの権力者だとか。

「――という人は何処にいますか?」
「ああ、ユウキさんのことですね。彼なら大体食堂にいますよ」
「有難うございます」

 どうやら普通に面会できるようだ。ならば誰も口出しできないほどの権力者ではないのだろう。しかし食堂か。インターネット上の掲示板によると機動六課の食堂では唯一、管理局とは無関係の人が働いていると聞く。なるほど、それであれば可能性は高い。
 受付から貰った地図を元に歩く。食堂は機動六課でも日当たりの良い場所にある。その上態々外部から呼び寄せた人だ。出される料理はとても美味しい物と期待できる。まさか兄さんが帰らない理由はそこにある、とか?
 静かな廊下を歩く。さすがは午前十時。事件さえなければ慌しい事も無い。それにしても私の兄は何をしているのだろう。後で少し電撃訪問と行こうじゃないか。

「あのー、すいません」
「いらっしゃいませー」

 食堂に到着した私を出迎えてくれたのは黒髪の男性ではなく、金髪の少女だった。かなり若く、年の数は十にも届いていないのではないだろうか。その上局員の制服を着用していない。さて、何故そのような少女がここにいるのか。

「えっと……ユウキさんはどちらに行かれたのか知っている?」
「パパ? パパは出かけているよー。ヴィヴィオはお留守番」

 どうやらこの少女はヴィヴィオという名前のようだ。それにしてもまだ戻ってきていないか。私を送ってきてくれたので同時に着いたはずだ。念のためゆっくり来たはずなのだが。もう少しすれば戻るのだろうか。まあいい。
 では予定を前倒しして兄さんに会いに行こうか。そうすればちょうど良い時間になって食堂でご飯に在りつけるかもしれない。そう言うのも悪くない。

「お姉ちゃん、パパに何か――あ、パパぁ!」
「ただいま、ヴィヴィオ――と、お客さんかな?」
「お邪魔しています」
「ん、いらっしゃい。まあ先ほどぶりだね」
「そうですね」

 振り返ってみた入口には車に乗せてもらった彼がいた。それにしても子連れですか。兄さんより若く見えたのでそんなことは全く考えなかったが、なるほど。見てみればかなり納得のいく光景だ。人は見かけに寄らないとは正にこのことだろう。
 カウンター席に適当に座る。お茶は無料ということなので紅茶をもらった。お茶請けのお菓子もサービスのようだ。どれだけ気前の良い食堂なのやら。たぶん管理局の予算で賄われているのだろう。そう思えばすでに払った金か。

「ところで何か用かな?」
「まあ用といえば用ですが……私の兄、ヴァイス・グランセニックをご存知ですか?」
「それはもちろん」
「その兄が数か月前に人が変わった、というよりは戻ったのですが、何かご存知ですか?」
「んー……いや、知らないな。まあそれが良いことなら別に良いんじゃないかな」

 確かに。誰が何をしようと良くなったのであれば別に何がきっかけであっても構わない。それでも興味を覚えるのは人の性。だから猫は死んでしまう。真っ先に慎重な猫を殺すのだ。
 しかしこれ以上探るのは止めた。女の勘でしかないが、兄の背中を押したのはこの人だ。それが外れているようには思えない。というより、何だろう。他の人では出来ないのではないか。

「はぁ……」

 紅茶を口に含む。猫も殺せる興味といっても狂気に至るほどではない。別に胴でもいいといってしまえばどうでも良い。ただの自己満足の域を出ないものだ。ではこれからどうしようか。
 今後の予定としては兄に電撃訪問と人生相談、詰まる所さっさと結婚しやがれと愛のジャーマンスープレックスを決める。他は考えていなかった。一応学校側には社会見学としておいたからここに入れた。その目的に準じたこともやらねばなるまい。

「ユウキさん、こんなことを頼むのは間違いと思いますが……」
「ん、何かな?」
「私、一応社会見学と称して来ているんですよね。だからそれらしいことをしてレポート纏めて後日出さないといけないんですが……」
「つまり、ネタになる場所を案内して欲しいと?」
「まあぶっちゃけるとそうです」
「ぶっちゃけ無くてもそうとしか言いようが無いよね」
「あはは……ははは、ダメですか?」

 全くです。管理局は就職大手で魔導師ならかなり給料が良く、魔導師でなくとも有能ならそれなりに給料が良く、優遇も素晴らしい。怪しい企業に勤めるぐらいなら管理局に言ったほうが安全だ。
 と、慣用句のように聞くものの、正直管理局は面白味に欠ける。せめて長い間その仕事に従事するなら最悪も楽しめる場所に行きたい。楽しいと思える仕事をしたい。だから素直に言って管理局に就職したいとは思えない。よって後日提出のレポートが製作し辛い。

「僕で良ければ構わないよ。午後は基本的に暇にしているからね。問題ない」
「ありです」
「パパ、今日はお散歩なの?」
「うん、お散歩だね。ヴィヴィオはどうする?」
「んー……いっしょに行く!」
「ヴィヴィオちゃんは本当にパパが好きなんだね」
「うん好きー」

 良く懐いている子供だ。それほどまでにユウキさんが優しいということだろう。管理局の食堂に勤め、またその美味しさもネットの掲示板で噂されるほどだ。料理も素晴らしいことだろう。
 これで他の家事も完璧、子育ての才能もあるなら言うこと無しだ。むしろ一人で金稼ぎもできるのだから玉の輿も良いところではないだろうか。うん、この人を堕とした人が妬ましい。羨ましい。嫉ましい。
 ええい、私が十年程早く生まれていればと後悔をする。こんな優良の花は決して逃さないというものを。全く、世界は何時だってこんなはずではなかったことばかりで碌な楽しみがない。

「おねえちゃん、ため息吐いても幸せは来ないよ?」
「そうなんだけどねぇ……」
「だから笑おうよ。幸せは自分で捕まえるものだってパパ言っているよ」
「それも、そっか」

 確かに与えられる幸せに価値はない。いつか奪われてしまう恐れがあるならそれを守る必要はない。この手で捕まえ、引き倒して手に入れる。努力は報われず、結果によって評価される世界ならそのぐらいの気概は必要か。それでいて他者の迷惑にならない程度に。
 何となくヴィヴィオを撫でると嬉しそうに笑った。年の頃はまだ五歳か六歳。人生の悩みとは無縁の年齢だ。しかしながらこれが正しいのだろう。下らない、結婚や他者からの評価なんて気にせず、幸せに生きる。それで正しいのかもしれない。
 人は何時から他者に依存した生き方しか出来なくなったのだろうか。社会を構築し、人が世界の頂点に立ってからか。あるいはそれから人の中でもヒエラルキーが形成されてからか。しかしそのような歴史も下らないことだろう。
 ただ、縛られている。私も誰も、その社会構造から逃れる術を知らない。故に縛られたまま、生きることしか出来ない。何故か眼前にいる彼、ユウキさんはそれから逃れている。

「どう足掻いても下らない世界ならせめて、勝手に生きて気楽に死にますか」
「あはは、変った気構えだね」
「悩むのは性に合いませんから。くっだらねぇことは悩まないことにしました」
「……考えないわけではないんだ」
「当然です。思考を放棄した人間はただの獣ですよ。あ、紅茶のお変わりもらえますか?」
「確かに」

 思考を放棄した人間と感覚で動く獣。それを並べて比べて解いて質して論じても然したる違いはない。それでも人は人だと反論する者がいるなら人も獣だと返そう。人と獣違いは所詮、考えて動くか感じて動くかの違いしかないと私は思う。
 機動六課の散策は午後からということなのでユウキさんのお言葉に甘えて食堂でゆっくりさせて頂いた。以前あった気候制御装置破壊事件のせいで暑い夏の昼間であるが、食堂では思いのほか涼しく感じられる。
 暑いことには変わりはない。しかし夏というものはこういうものだろう。今まで気候制御装置のせいで曖昧だった式の移り変わりが俄然新鮮味を帯びて強く感じられる世の中になった。それを批判する人々は多くいるものの、しかし人為的に気候を歪めることは他の生物に悪影響を及ぼす。

「ヴィヴィオちゃんは絵が上手だね」
「えへへ」
「これはユウキさんでしょ。で、この人はママかな?」
「それは幽香おねえちゃんだよ。ママはこっち」
「へぇ……」

 パパが黒髪で、ママが茶髪。ユウカという人は緑髪。それでもってヴィヴィオは金髪。遺伝を考えるとまずありえない家族だ。となるともしかしたらヴィヴィオは養子にした子供なのかもしれない。
 別に私がそんなことを気にしてどうなるという話ではないが。何とも養子であるというのに幸せそうな家族である。言葉を間違えた。幸せな家族である。近頃は特に管理局でワーカーホリックが社会問題として話題に上るほど多く、そのため家族の交流が不足気味になっているというのに。なお、この傾向は上層部に近いほど、本部の人間であるほど現れている。
 管理局に就職するなら最悪でも地上本部だ。給料は少なく、たまに本部の人間にいじめられるそうだが、サービス残業しない。させない。やらせないを掲げている上持ち帰り残業も禁止。残業手当は十分に出る上、ミッドチルダのほうで決められた労働時間を遵守している。
 一方本部のほうはそこだけでワーカーホリックを社会問題にするほどだ。聞いたことはないが、サービス残業当たり前。持ち帰り残業当然。仕事と結婚した人も多い。あるいは仕事で家庭が崩壊したという人もいると聞いた。しかしそれらも所詮他人事だ。

「……とりあえず、さっさと兄には結婚してもらいたいですねぇ」
「何か言った?」
「ただの独り言。というか愚痴。むしろ文句」



今日のヴァイスくん

 …………うん。

「……旦那、俺、何かしやしたかね……?」
「むしろしなかったことが問題じゃないのかな?」

 意味が分からねぇんですけど。



[18266] 第二十四話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2011/01/31 16:35

 未来に起こり得ることを記す予言。未来予知や占いで言われるそれはわざと言葉に多くの意味を持たせ、相手にそう誤解させて当てることが多い。いわば数打てば当たる。所詮そんなものだ。例えば石に躓くという表現も本当に石に躓くのか、或いは何か小さな失敗をそう表現しているのか。
 一方、私のレアスキルである予言の方はどうなのだろうか。内容としてはこの先最も起こり得やすい事象か、或いは可能性こそ低いものの、未曾有の危機か。故に的中率は百発百中だ。しかしそのため、もしもそれを防ぐことが出来たなら中るわけもない。
 中るが、外れる予言。表現としては余りに矛盾している。そもそも占いや預言はこのような物なのだろう。転ばぬ先の杖であり、石橋を叩いて渡るための道具、判断材料。
 そう考えればどれほど不吉な予言であろうと気楽に受け止めることが出来た。条件のせいで一年に一度しか能力が発動しないとしても毎回内容が変わるために一息つくことが出来た。ただ、今回ばかりは勝手が違う。

「――騎士カリム、夜更かしが過ぎると体に悪いですよ」
「ええ、もうすぐ寝ます」

 ことの始まりである不吉な予言が現れたのは十年ほど前。それから五年前に一度その内容が大きく変わり、以来一度たりとも一言半句すら一切変わっていない。こんなことは初めてだ。まるで、その予言の内容が確定未来であるかのようで不気味に思う。
 内容としては酷い物だ。変わる前は管理局が滅ぶというものだったが。現在は世界が終ると言う表現になっている。正確には世界が終焉を知ると言う翻訳なのだが、まあ同じことだ。
 敵うなら、我々にはあとどの程度の時間が残されているのか。それすらも私たちは知ることが出来ない。ともかく今は最善を尽くすのみだ。予言に在る最初の一文によると愚かなる者が死せる王に会って世界を求めたのがきっかけだ。

「……本当、問題が山積みですね」

 とはいうものの、誰が愚かなる者で死せる王が誰なのか。それすらも分からない現状ではどうしようもない。それに明日は義妹であるはやてが友を連れて訪ねに来る。たまには頭を悩ませるのを一休みすることも大切だ。
 何せ彼女は私の大切な家族。眉間に皺を寄せている顔を好き好んで見せたくはない。カップに残っている温くなったレモネードを一息に飲み干すと私は手早く寝ることにした。
 窓から見える空には相変わらず星が輝き、月が辺りを照らしている。どうせ予言が成就されようとされまいと明日も明後日もその先も変わらない空がつづているのだろう。漠然とそう感じながら眠りに就いた。



 翌日、何事もなく日は昇る。いつものように祈りを済ませ、政務をこなす。今日は何事もなく終わりそうだ。根拠も無くそう感じつつ、報告を聞く。やはり予言にある災厄についての文献は一向に見当たらない。もしや、と思って無限書庫の司書長に頼んでいるのだが、そう容易く見つかるものではない、か。
 ただ、頼んだ時の彼の表情。アレは何かを知っていそうな顔だった。それに定期報告もどこかが妙に感じる。何か知っているなら是非とも教えてもらいたい。しかし彼は頑なに見つかっていないと答えるばかりだ。
 確証を得ていないからだろうか。あるいはそれを私たちが知るべきではないと司書長が判断しているからか。どちらにせよそれを判断するのは私たちで、もし予言が成就し、世界が滅びてからでは遅いのだ。場合によっては実力行使も止むに終えまい。
 しかしながら無限書庫、あそこは何故か管理局から半ば独立している。特に五年ほど前から設備が目立って改良され、今では篭城も可能だという噂を聞く。また施設の拡張がなされたお陰で情報収集もはかどっているとか。改善と改悪が両立した改造が行われたようだ。

「…………」

 人生とは常に選択の連続であり、選んだということは選ばなかったことだ。無論、選択肢のどれ一つとっても相応の正しさがあり、ふさわしい間違いが存在する。故に人は、正しいことを求めて生きる。
 果たして私たちが進む未来に正しさは存在するのか。幾度の間違いを犯し、どれほど愚行を積み重ねれば求める正しさにたどり着けるのか。そもそも、その正しささえ私達は知らない。なのに今だ正しさを求める私たちの生き方こそ、間違いだらけの人生なのかもしれない。
 出来ればこんなレアスキルは欲しくなかった。これがあるために私は悩み、多くの人を悩ませる。同様に少なからぬ事件を未然に防ぎ、多少の人を救ってきた自負はある。

「所詮、全ては人のエゴですか……本当、罪作りな人生です」
「――カリム様、クロノ提督が到着しました」
「どうぞお通しください」

 決定していない未来に杞憂を馳せていると思いの外時間が経過してしまったようだ。まあちょうど良い暇つぶしにはなったことだろう。
 さて、本日私と会う人はただいま到着したクロノ提督を含めて四人。残る三人は機動六課の隊長たちだ。とうとう、あるいはやっと私の予言も含め、機動六課の真の目的を話すという。実際のところ、最も忙しいクロノ提督の時間が作れなかったためにここまで遅くなったのだ。
 曰く、その理由は無限書庫の司書たちが次元管理局本局に対しストライキを申し立てたためだそうだ。まあ確かに、今までの調査依頼の履歴を見てみると重労働も可愛く見えるほどだ。これを期に仕事中毒が改善されれば良いが。

「今日の紅茶はいかが致しましょうか?」
「そうですね。皆さん忙しいと思いますから、心が落ち着くものを。勿論お茶受けも忘れずにお願いします」
「かしこまりました」
「あ、私の分はロイヤルミルクティーで、勿論ミルクと砂糖を特に大目でお願いしますね」
「……相変らず甘党ですね。そんなにも苦いのがダメなら大人しくキャラメルミルクにすれば良いではありませんか」
「それでは余りに、示しがつかないではありませんか。それにあのリンディ総務統括官も甘党で有名ですよ」
「あの人は甘党ではありません。それを超越した何かです」

 基本的に女性は甘いものが好きなのだ。そうおおっぴらに何度も甘味を食べるわけにもいかず、立場上食べ歩きも満足するまでお菓子を食べることも出来ない。紅茶を甘くする程度、些細な欲求不満として見逃してもらいたい。
 特に今回ここに集まるのはリンディ総務統括官を知っている人ばかりだ。彼女ほど砂糖やミルクを入れさえしなければ、あれほど甘くできなければそれほど疑問にもたれることもない。
 待つことしばらく、クロノ提督が部屋に来られた。化粧で隠してはいるものの、目の下に隈が目立つ。そこまでして仕事をし、家庭を放置する理由が分からない。そう言えば近頃の次元管理局の仕事中毒は昔に比べて酷くなったと老人たちが口を揃えて言っている。

「久しぶりです。騎士カリム」
「ようこそ、クロノ提督。近頃お忙しいと聞きますが、身体は大丈夫ですか?」
「まあ何とか。無限書庫の司書たちがストライキを起こしたので書類整理やらが滞りがちですよ。全く何故そのようなことをするのやら」

 まあ頼む側からすれば依頼するだけだ。見つけ出し、纏め、詠みやすく整理する側である司書たちからすれば気安く依頼されては堪ったものではない。それでもそれら全ては世のため人のため。世界の平和を願って職に就いたのならば少しは我慢すべきである。それらを司書たちに理解してもらいたい。
 さて、はやてたちは何時ごろ着くのだろうか。最悪でも約束の時間には間に合わせると思う。まだ時間はあることだ。ゆっくり待とう。

「どうぞ」
「ああ、ありがとう」

 頼んでおいた紅茶が届く。温かいうちに一口頂くと甘さが口の中に広がる。やはり甘いことは良い事だ。叶うならケーキやクッキーなどを満足するまで食べつくしたいが、それは叶わない願いだ。時折普通の女性が羨ましくなる。
 何よりの問題はそのようなことをするとたちまち体型や体重の維持が出来なくなるということだ。菓子を満足するまで食べたいが、一方でダイエットも嫌だ。それは世の女性の尽きない悩みだろう。
 さて、正直に言うとはやてたちが来ることが楽しみだったりする。風の噂で機動六課の食事が非常に美味しいものであることは聞いた。また三時の間食があり、夜勤の人には夜食が出るらしい。それらは非常に美味しく、耳も済ませていないのにベルカまで聞こえるほどである。
 故にはやてたちがもし、その気の効いた人から何か差し入れを持たされていたなら。そう期待しているために早く来ないかと待ち遠しく感じる。叶うならケーキ、よくは言わないからクッキーの詰め合わせを。

「ところで、予言については何か進展は?」
「それが全く。根掘り葉掘り探してはいるのですが、こうもないのでは別世界のことではないかと思いますが」
「そうか……何にせよ世界が滅ぶほどの事件、そう容易く放置するわけにはいかない。すまないが、これからも頼む」
「はい、分かっています」
「助かる」

 とは言うものの、正直予言の提示から五年経った今でも分かっていることは数少ない。世界を特定するような言葉が目立って少ないことも理由の一つ。唯一特定に繋がりそうな語句として災厄、古の人、歯車がある。これらは恐らく同一の存在を指し示していることは翻訳者全員の共通の見解だ。
 しかし、災厄、古の人、全の一。これらを全て満たすようなことは歴史を顧みても見当たらない。ならばやはり未開拓世界における犯罪なのだろうか。それにしては五年間ずっと同じ内容が現れ続けていることが異様だ。
 果たして平和という水面を乱すのは小石か岩か。あるいは文字通り災厄という隕石か。少なくとも人災であることには間違いがない。

「…………」

 まあいい。始まってからでは遅いとは言え、深く考えても何も変らない。ある程度の態勢は常に取れているので、その事件に完全に対応は取れなくとも増援が車での時間稼ぎは出来るはずだ。
 時空管理局本局との協力体制も約束できた。石頭で有名だった、無論今も彼の頭の固さは有名だが、レジアス・ゲイズ中将の意識改革のお陰で地上本部との仕事分けも順調に完了している。
 内容としてはこうだ。私たちベルカの騎士が基本的にミッドにおける事件中核の犯人たちへの即時対応部隊。地上本部は市民の救助や安全の確保を勤める。本局は他の管理世界及び管理が異世界の監視、また事件がミッドで起きた場合における主戦力である。
 そのためクロノ提督のような次元航行船も今は普段より多く本局に停泊し、管理世界を回るといっても以前ほど遠くには行かない。お陰で現在溜まっていた書類仕事を片付けているのだが、その皺寄せが無限書庫に行っている。

『カリム様、クロノ提督。六課の方々が見られました』
「ん、思ったより早いですね。まああの子らしいですが。どうぞ、お通しください」
『はい、かしこまりました』
「ところで、来たのは三人か?」
『え? はい、そうですが?』
「ふむ……いや、何でもない」

 その三人というのはほぼ間違いなくはやて部隊長と分隊長二名だ。私としては是非とも料理長にも来て頂いて、その料理に舌鼓を打ってみたかったのだが、残念だ。まあいい。姉と後援者の特権を利用し、暇な時に遊びに行けばいいだけの話か。
 何より六課は海に近く、郊外にあるために星も都心に比べてよく見える。きっと月と満天の星を見ながらのフルコースは美味しいものだ。海の見えるレストラン、そういうのも悪くない。ん、何か間違えている気がしなくもないが、気のせいか。

「……何や、私らが最後か」
「何だ? 人が時間ぎりぎりに来るように言って。僕だって約束は守るさ。それが特別なものなら特に」
「ふぅん、へぇ……ほぉ? その割にはこの前の結婚記念日はすっぽかしたって聞くで?」
「う……それは仕方が無かったんだ。偶然僕以外に即時対応できる艦が無くて仕方なく」
「まあええか。ともかく今日はお招きいただき有難うございます。とりあえず堅苦しいことはここまででええか?」
「最初からフランクだったのによく言いますね。少し順番間違えていますよ」

 まあここにいる人は全員知らない中ではないので構わないが。はやてもはやてで確りとしないといけない場面では確りとする。そんな子だ。何よりこの気軽さは彼女の友好の証なのだろう。
 はやてと共に来た分隊長の二人を見る。クロノ提督の義妹であるフェイト分隊長は少し緊張しているが、もう片方のなのは分隊長は若干眉間に皺が寄っている。さて、何か嫌なことがあったのだろうか。全く想像がつかない。

「何はともあれ、初めまして。時空管理局地上本部機動六課スターズ分隊、分隊長の高町 なのは教導官です」
「同じく機動六課ライトニング分隊、分隊長のフェイト・T・ハラオウン執務官です。本日はお招き頂きありがとうございます。騎士カリム」
「これはご丁寧に。こちらこそ来て頂いて有難うございます。私は聖王教会所属、カリム・グラシアです。よろしくお願いします。それから、いつもどおりで大丈夫ですよ」

 形式上の挨拶は最初だけに済ませる。一応私は次元管理局本局にも所属し、その階級は彼女たちより上の中将であるが、実際のところそれはお飾りだ。実質的に私がついている職はここの一騎士でしかない。
 彼女らに紅茶が出されると共に私もお代わりを頼む。お茶菓子もこっそりと確りと食べてはいる。ただ、どうやら機動六課の料理長からの気の効いた差し入れは無いようだ。それが唯一、心残りである。
 一息ついて心を入れ替える。今回彼女らを呼んだ理由、それは機動六課設立の本当の目的を教えるためだ。本来ならこれは設立の前に教えるべき事項だが、最初からそんな事を気にしては真面目に業務に取り組めないとはやての弁。故にしばらくの間黙秘することにした。
 どちらにせよミッドチルダにおける古代遺失物に関する事件の即時対応部隊というのも一つの目的だ。そう言う面を理解してもらえさえすれば問題はない。何より真の目的とは言うものの、しかしながらそれがこの地で怒り得るかどうかも未だに怪しい所なのだ。一応それの前兆らしき事件は多発しているものの、本当に直結しているのかどうかは不明である。

「今回お二人を招いた理由について、はやてから何かお聞きしていますか?」
「機動六課設立の目的の一つを話す、とは聞いていますが、その具体的な内容についてはまだです」
「正直に言って古代遺失物に関連する事件の即時対応部隊以外の理由があると言われて、未だ疑念があります」
「そうですか。いえ、それもそうでしょうね。真の理由については私のレアスキルに関係するものですから……では最初から話すべきなのでしょう。とはいうものの、最初から話せば少し長くなるので掻い摘んでお話します」

 まずは私のレアスキル、預言者の著書の説明から始まり、十年ほど前の予言に加えて今問題となっている予言。それが今なお一言半句も変わらず毎度現れること。及びそれには世界が終ると言う不吉な内容が記されていること。

「古の結晶が中つ地に集まり、愚者が死せる王に至りて座を求めし時、彼方より帰し災厄が目覚める。
 天荒らす古き人は妨げる死者を尽く還し、死せる王を眠りに誘う。
 さすれば愚者は災いの鎧に宿りて、解き放たれし全の一に挑むも敵わず、泡沫に散る。
 日と月が共に天を巡る時を以て世界は終焉を知り、黄昏の狭間に人は光を求める」

 占いというものは基本的に面倒な言葉遣いをしており、読む人に様々な意味を考えさせる。とは言え、正確に当たる占いであるというのならせめてもう少し情報をくれても良いものではないか。

「機動六課はいわば、この予言に即時対応するための部隊なのです。無論これは予言ですから本当に事件が起こるのか、何時起こるのかも確証を得ていません。なので、あくまでこの目的はおまけといったところです」
「予言にある古の結晶がレリックであるという見当が正しいなら、事件がここ一年の間に発生するだろう。だからこそこの時期に機動六課を設立したんだ」
「二人を利用して、巻き込んだのは悪いと思っている。でもな、どうしても世界が終わってしまう事件を防がなければならないんや。たとえそれが災害であるとしても」

 義妹の思いを利用し、さらに関係のない親友も巻き込んで。その行為は姉として最悪であるということは自覚している。罪悪感もある。しかし、それでも予言にある事件は防がなければならない。
 何より死せる王という言葉が気にかかる。ミッドチルダにおいて歴史を顧みても王と呼ばれたのはベルカの聖王のみ。無論その血脈は既に途絶え、あるいは薄れて意味を無くしている。言葉の表現として死せる王を満たしている。
 なのに何故、予言でそれが現れているのか。もしや聖王が復活しているのか。その場合、是非とも事の終わり次第聖王教会に来て頂きたい。元より聖王はベルカの地にあるべきお方。この収まり方こそ自然な形と言える。

「そう言えば、なのはさん」
「はい?」
「前の事件で保護した子供をそちらの方で面倒を見ているそうですが、元気にしていますか?」
「ああ、ヴィヴィオのことですね。とっても元気にしていますよ」

 そうか。あの少女はヴィヴィオという名前なのか。初めて知った。

「そうですか。何分検査の前に引き取られたもので、少々不安だったのですが」
「あはは……でもあの人、そういうことはしませんけど健康にはちゃんと気を使っていますから、気にしなくても大丈夫ですよ」
「それは何より」

 それならまあ、大丈夫だ。彼女の笑顔から嘘ではないことは明白であり、今以上に気遣う必要はない。少女、ヴィヴィオはレリックと一緒に保護された。ならばレリックに関する人物に違いない。
 あのようないたいけのない少女にこんなことを言うのも罪悪感を感じるが、この連発するレリック事件に、ひいては予言にかかわる人物とも考えられる。故に彼女の安否は非常に気にかかる。そもそもどうしてレリックと共にいたのか。レリックの入ったケースにつながれていたのか。
 本来ならそこのところを詳しく調べなければならないはずだ。しかし現在我々の手元にも、また管理局の手の届くところに少女はいないため、それは叶わない義務となっている。

「まあでも、いつかちゃんと検査を受けてくださいね。今は問題なくてもこの先問題がある投薬をされているかもしれないので」
「あー……はい」

 恐らく、ほぼ間違いのない確信で検査に来ることはない。今でさえすべきである協力を一切せず、検査される前に連れ出したのだ。今後態々検査を受けさせるために連れてくることなどまずないだろう。
 ならば、と考えてその思考を否定する。全容の解明が必要であるとは言えそれは過ぎている。たかが幼い少女一人に余りに過激ではないか。
 話題が妙な方向に行っているためだろう。思考も場の雰囲気に連れられて其方の方向に傾いている。折角知人や家族に会えているのだ。必要な話も終わったところでそろそろ談笑に入っても良いはずか。場の空気を入れ替えるためにも違う話題を選択する。

「時に――機動六課の食堂の料理が非常に美味しいと聞きましたが、差し入れはないのでしょうか……?」
「…………」
「…………カリム義姉さん」
「……カリム、言うことはよりにも寄ってそれか?」
「え……え?」

 何か周りが意表を突かれた表情でこちらを見つめる。場を和ませる話題として無難な、機動六課での皆の様子を選んだ。他に話題といえばどれもこれも揃って事件絡みのため選べなかったのだ。
 やれやれ、箱入りである弊害がこんなところにも現れるとは思っても見なかった。今後はやはりシスターシャッハたちの目を盗んで外に出かけるようにしよう。さて、昔使った抜け道はまだと折れるか。
 話題としてはそれほど問題があるわけではない。となると尋ね方を間違えたのだろうか。今一度言葉を反芻する。

――機動六課の食堂の料理が非常に美味しいと聞きましたが、差し入れはないのでしょうか?

「う……で、でも仕方がないじゃないですか! ここでは体裁を取り繕うためといわれて満足にお菓子も食べられませんし、おまけに部下の騒動でストレスは溜まる一方。食べても太らない、美容と健康に良いと噂を聞いて、少しは欲望を持っても仕方がないではありませんか!」
「えっと……少し訂正させてもらうけど……ユウキさん、その人の料理全般は太らないんじゃなくて、食べても太らない程度に出してくれるだけで。だからお腹一杯食べて運動しないと当然太るよ?」

 今から訂正してももう遅い。故に開き直ることにした。ここにいる人は全員私の知人で、教会に常にいる人ではない。ならば言いふらすことも無いだろう。ついでに溜まっているストレスの発散もかねて本音を暴露することにした。
 なおストレスの内容とは教会騎士も兼ねているシスターたちの時折起こす騒動、訓練で出た被害の補修に始まり、碌に仕事もしてなくて暇だろうとそういった仕事を押し付けてくる上司の小言に続き。また予言の解読はまだかと度々聞いてくる管理局の重役の接待と連なる。
 特に何が嫌かというとその人たちが揃いも揃って現役を引退し、頭髪もとうとう折り返し地点に到達したような中年であることだ。これが秀麗な出来た人であれば俄然やる気もあがったことだろうに。

「それでもこんな所まで噂で聞けるほど美味しいのなら一度は満足するまで食べたいのです」
「何と言うか、色々と苦労してるんやなぁ……差し入れといえばなのはちゃん、ユウキさんに色々と渡されてなかった?」
「それは、本当ですか?」

 やはり心配りのできる料理長。差し入れは抜かりなく存在するのか。そう期待した時が私にもありました。

「渡されたけど……ちょっと出せないかな」
「ッ――何故です!?」
「折角の紅茶を砂糖塗れにして飲んでいる時点で、全てのお菓子が勿体無い気がしたから」

 言葉は時として全ての武器を超越する。この時なのはさんが紡いだ言葉は限りなく死刑宣告に等しかった。恐らく彼女たちは、そしてそのユウキさんという人は私が置かれている状況を知らない。だからこそ言える。

「ですが、まだリンディ総務統括官に比べればましですよ」
「何故ここで母さんの名前が出てくるのか聞きたいが、それを母さんの前でしないでくれよ。近頃やっとトラウマが薄れてきたところだから」
「……トラウマ?」
『五年ほど前のことですかね。ユウキさんと地球に里帰りした時のことなのですが、リンディ総務統括官が無謀にも彼の前でそれをやってしまいまして。まさにあの時は神がいました。ただし鬼神と邪神に限りますが』
「あの時出した紅茶がユウキくんにとって思い出のある紅茶だったこともあるけど、うん。その後のリンディさん、砂糖にすら怯えるほどだったから」
「え、何それ怖い」



今日のリンディさん

「――はふぅ、お茶が美味しい……」
「やっぱりユウキさんの水羊羹は違いますねぇ……」
「ええ、本当に」

 夏、ひぐらしの鳴く頃に。夕暮れも過ぎると暑さも幾分和らぎ、打ち水のお陰で過ごしやすい涼しさがある。

「――へくち」
「義母さん、風邪ですか?」
「うーん……どこかで誰かが私の噂をしたのかしら?」

 子供らも遊び疲れて寝ている今、家は非常に静かだ。

「それにしてもヴィヴィオちゃん、かわいかったわね。うちの子たちもあんなふうに育つかしら?」
「育つと嬉しいんですけど……父親がアレですからね……はぁ」
「無理もない話しだけど、クロノがねぇ……はぁ」

 お茶が美味しい。それだけで世界が平和に思えてくるのだから不思議だ。



[18266] 第二十五話
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2011/03/01 14:55

 身に染み付いた慣習は恐ろしい。例えその日何があろうとも、意気消沈しようともそんなことに拘らず、身体は仕事をこなした。肉体は落ち込む暇を許さず、心は悩む時を得ず。
 それでも夜、一人になると話が変る。日中あったことに悩む暇が無かった分、夜に皺寄せが来る。しかしきちんと睡眠をとらなければ明日の仕事に響いてしまう。だから早々に悩むことをやめ、睡眠に入らなければならない。
 このことにも慣れ、いつもであればすぐに眠ることが出来たはずなのだが、どういうわけか今回は都合悪く眠ることが出来ない。寝て忘れることを許さないほどに酷い出来事だった。酷いと言っても他人が聞けばああそうで終わるような、そんな単純な話だ。

「今日はどれにしようかな……」

 心が悩んで眠れない夜はいつも酒に逃げる。近頃身についた悪癖だ。そんなことをしても何の解決にならなくても、でも心を苦しめたところで何の解決も見えてこない。ただただ心が痛むだけに終わる。だから温かい夢に逃げる。
 とは言え私もまだまだ十九歳。はやてに言わせて見れば華の十九歳だ。酒を飲めてもまだ酒に慣れているわけではない。強い酒はまだ飲めないし、ユウキさんやその愉快なお友達のように湯水のように飲めない。ゲンヤさんやヴァイスさんのように強い酒を格好良く飲めるわけも無い。
 今のところは飲めて甘いお酒だ。特に普段は保管もしやすく、手軽に飲める缶チューハイを愛飲している。無論これよりもバーで飲むカクテルが美味しい。そう言えば最初にお酒を飲んだのはさて、何時だったか。
 心を偽って記憶を探る。親と、ではない。確か十七の時にどこかのバーで、ドッペルゲンガーかと思ってしまうほど瓜二つの人に飲まされたのが初めだったか。あの時飲んだ様々なお酒はとても美味しかった。



――悩むのはいいけど、悩み続けるのは心にも身体にも良くないよ。一つの過去に囚われて生きることはただの執着で、後悔だから。

――それだけでは何の問題解決にもならないし、余りに今が勿体無い。



 ああ、少し思い出せた。マスターに言われたこの言葉が私が解決できない悩みから逃げるようになった切欠だ。あれ以来、様々な酒を少し飲んでみたが、あの時飲んだお酒ほど美味しいお酒とは出会えていない。
 そう言えばあの人、バーで会った瓜二つの少女。あの少女の名前は何だったか。酔っていたために思い出せないけどもどこかで、幼い頃どこかで聞いたような覚えがある。まあそんなこともあるか。

「…………」

 慣れた手つきで缶を開ける。あの後少女は母親らしき人に連れて行かれた。マスター曰く、また派手に親子喧嘩をしてバーに来たそうだが、派手に親子喧嘩をした割に、口論していた割にとても幸せそうな家族だった。その光景が未だ心に焼きついている。
 私には親がいない。家族はいるが、ここにいない。母さんなら私の心を縛るこの悩みも尋ねればきっと答えてくれるだろうか。その答えを知るには少しボタンを操作するだけで終わる。でも私が求めているものはそんなものではない。
 ただ画面の上で話をしたいわけではない。あの時見た家族のように時々喧嘩して、でも縁りを戻して。そんな風に暮らしていきたかった。でも私も母さんも上手く暮らしている。上手に何事もなく暮らしてしまっている。それが私の選択間違い。正しさ故の間違い。

「……あま」

 ここに親はいない。それは私がこんな仕事をして、また逃げた結果でもある。たぶん今、母さんが来たならどうするだろうか。泣き付くか、嘆くか。しかし私が酒の味を覚えるには余りに遅かった。だから、もはや全てが遅い。
 でも、エリオ、キャロ。二人がいるから今を頑張ることができた。何があっても前を向いて、明日に向かって生きることが出来た。だからこそ今日あった出来事は私の根底を揺るがす。

「甘いなぁ、本当に」

 エリオに、負けた。最初は補助魔法のみで何も出来ずに負けた。次に防御魔法ありで防御ごと貫かれて敗れた。続いては攻撃魔法ありで。でもこちらの射撃魔法を容易く弾かれて敗北した。最後には大人気なく、オーバードライブを使用して私の心は打ち砕かれた。
 切欠は何だったか。そんなことはもうどうでも良い。その後ユウキさんに狭い空間で戦うな言われたけども、例え戦い辛い場所であってもまさか経験の浅い息子に負けるとは思いもしなかった。
 私が幼い二人を守らなければならないのに。なのに私の力はエリオよりも弱く。そうか、私ではもう幼いエリオさえ守ることが出来ないのか。本当に私の手には何が残っているのか。何を残せるのか。それさえ今の私には、分からない。

「なのはぁ」
「ぇ――え、フェイトちゃん? どうしたの?」
「私、どうしたら良いのかな?」
「えっと……とりあえず何があったのか最初から話そうか」

 四本目に手を伸ばしたところまでははっきりと覚えている。気付けば人恋しさに惹かれてなのはの部屋に足を運んび、抱きついていた。うむ、温かい。胸に顔をうずめながら久しぶりの温もりに心を委ねる。
 こんな時間、と言ってもまだ十時ごろか。なのはもユウキさんと一緒にお酒を飲んでいた。正しく言えば晩酌を嗜んでいた。ユウキさんが朱塗りの杯で飲んでいるのは日本酒だろう。一方なのはが飲んでいるのは何か。

「んむ、美味しい」
「あ、私の……まあいいか」

 ちょっとだけなら良いよねと少し拝借して味見する。白ワインかな。懐かしく感じる美味しさだ。流石ユウキさん、伊達にバーのマスターをしていない。美味しいお酒を持っている。

「それで、フェイトちゃん。何があったの?」
「えっとね――」

 ユウキさんからワインを貰っていたからこれは私が飲んで良いのか。流石に同時に二つもいらないだろう。差し出された座布団の上に座り、適当に二人に間にあるつまみを食べながらなのはに事の顛末を説明する。
 その間暇を持て余したユウキさんは膝を枕にして眠るヴィヴィオを撫でていた。私たちにとってはまだ十時だが、ヴィヴィオにとってはもう十時だ。傍にあるマグカップが少しは頑張ったと物語っているけれども、幼い子供はもう寝る時間である。
 とは言え、同じ子供と言えるエリオやキャロには定期的に深夜訓練があったり、あるいは抜き打ちの真夜中の緊急訓練がある。それを考えると今彼らに科している責務はどれだけ酷いことか。
 お酒は時折普段考えないことまで考えさせる。それでも明日には都合良く忘れていることだろう。それが悪いことか良いことか、その区別さえ今の私はつかない。

「――というわけなんだよ。どうしよう?」
「私にはちょっと、何が問題なのか分からないんだけど……つまりエリオと手合わせして負けたっていることだよね?」
「うん、そうだよ」
「えっと、それのどこがいけないのかな?」

 それは勿論、と行き詰る。私より強くなり、もはやエリオは自身で自分の身を守れるようになった。それは非常に喜ばしいことだ。何も悪いことではなく、何時か遠い未来にはやがて来ること。確かにそれはどこも悪くない。
 しかしエリオにはまだ早い。一人で独りで外に行くには早過ぎる。幼過ぎる。危う過ぎる。そんな言葉を私が言う前になのはは続けた。

「エリオやキャロ達は私たちと違ってまだまだ伸び代がある。私たちは既に完成しているけど、あの子たちはまだ発展途上。それに子供は何時か親元から巣立つんだよ」
「だけど……」
「それよりも早く安心できるほど自分より強くなったと確認できたことは、良いことなんじゃないかな」

 でも、と言葉が続かない。ただ心だけがそれを認められず、ざわめく。思考は勝手に悩み、最適な回答を求める。確かにそれは良いことだ。何時まで今の関係が続くのか分からないが、それでも何時か終わってしまう。ならそれまでに安心できるなら、それは良いことに違いない。
 そもそも何故自分は早いと感じているのだろうか。既に酔いが回って確りと考えられないが、酔いが回っていなくともその答えにたどり着けないかもしれない。良く、分からない。
 それに自分が親元から巣立ったのは普通より断然早い。それは未だ因縁続くロストロギア、ジュエルシードによる不可抗力のためもある。なにも私が原因ではない。しかし、例えあれが無くとも結果として私は人より早く親元をを旅立っていたのかもしれない。いや、元より親元になどいなかったか。
 零れる笑みは全てに自嘲のもの。所詮、速いだ何だと言っておきながら、それらは全て何らかの基準、明確な価値観に寄る判断ではなくただ自分がそうあって欲しい、そうあれと願う欲望による願望だ。つまりこれは、単なる我が儘。

「それに教えている人が教えている人だしね。ねぇ、ユウキくん。少しは自重を覚えようか」
「残念ながらその要求は却下されます。それにさ、向こうが真面目にやってくれるものだからこちらもやはり真摯に対応しないと失礼だ。あとこれでも自重している方だよ」
『マスター、この人にとって自重とは問題にならないように上手くやると言う事です。事実、エリオさんの場合でも世界に発覚した所で現状、問題にならない範疇です。例えそれが、誰に習った槍捌きであろうと』
「どう考えても大問題だよね……」
「良くも悪くも事実は捻じ曲がるもの」
「いや、それ絶対悪いから」

 怒っているのか、怒っていないのか。この二人の間ではその区別が非常にし辛い。とはいえ、一応は怒っているのだろう。二人の仲がとても良いのは周知の事実だ。最早本当に喧嘩することも考えられない。
 私たちはどうなのだろう。確かに喧嘩なんてする事はないが、そこまで分かりあっているとは間違えても言えない。むしろお互い隠し事や気遣いの方が多く、分かり合えることも分かっていない。二人のように自然体で納まっていない。
 今すぐにでも会って話をするべきか。それもやはり難しい。あった所で言葉に詰まることは明白で、結局当たり障りのない会話で終わるだろう。義母さんもそんな事を感じていたから、踏み出せなかったのかもしれない。

「そんな事は事実どうでも良くて。問題は、だ。問題ではないのに君がそれを頑なに認めようとしていない所なんだよ」
「そんな事は、ないです」
「いや、それこそ問題なんだよ」

 いや、しかし。上司として魔導師になって日の浅い彼らに負けるのは問題だ。また親としてまだ幼い彼らに負けるのは問題だ。親として子を護るのは当然の義務で、上司として部下を守るのは当たり前の責務だ。それを無視して問題ではないとは断じて言えない。

「そもそもさ、たかが試合で負けただけじゃないか。それのどこに問題がある?」
「え、いや……それは」
「力の優劣だけで決まるだけの関係を家族とは言わないよ。それに頼るだけの関係が家族であっていいわけがない」
「…………」
「もしその程度の関係であると言うのなら、」
「そんなわけはない!」
「……そう、だよ。そうなんだよ。だからそれだけの話なんだよ」

 続けさせてはならない。そう感じる前に反射的に明確な拒絶が零れた。
 ああ、そうか。



「君の抱えたそれは」



 私の抱えたこれは



「些細な」
――出来事だった




 それだけの話。答えなんて見つからない。当たり前だ。何故ならそれに答えはないのだから。終わりはない。始まりがないのだから。当然の帰結に、何の過程を求めたのか。
 始まりも無ければ終りがない。問題がなければ答えが無く、答えがなければ終りがない。終りがなければ、始まらない。ただそれだけの矛盾を、螺旋のようにぐるぐると悩んでいた。それだけの、些細な日常。

「何より、エリオが君に勝てるのは現状、限定された空間という条件を付加した場合のみ。それさえなければまだ、エリオは君に勝てない」
「それは、本当ですか?」
「だからそんな事に何で拘るのかな?」

 まあ、確かに。私は少々力に固執している部分がある。いや、絆なんて言う不可思議の曖昧模糊なものを信じることが出来ないと言うべきか。それは間違いなく親だと思っていた母親に手酷く裏切られたからだ。
 この世で最も強いと思っていた家族の絆、容易く斬られた傷は今も心に残っている。だから私はこの手に残るものに固執する。この手で出来ることを望む。
 だが、家族は彼の言う通り、本当はもっともっと強いものなのだろう。強くなければ家族ではないのかもしれない。家族とは何か。立った数度しか顔を合わせない程度の間柄を家族とは言わない。血の繋がりが無くとも家族である人々はいる。
 そこまで考えた所で、こてんと横になった。流石にこれほどまでに酒を飲んだ頭で哲学をするのは困難だ。何よりワイン、缶チューハイよりも約三倍ほどアルコール濃度が高い。正直、ここまでお酒を飲んだのは初めてだ。明日が怖い。

「あの、フェイトちゃん?」
「…………」

 良い匂いと、久し振りの温もり。程良くというよりかなり酔ってしまっているため睡魔も酷い。どうでもいいから、ともかく眠りたい。寝たい。寝てしまいたい。

「まあ、そんな日もあるよ」

 一先ずここで、お休みなさい。



 ふと、目が覚める。案の定頭が痛い。間違いなく二日酔いと断定される。さて、そんなになるまで何故飲んだのか。お酒とは恐ろしい物でそのような記憶も時として奪う。
 それらよりも前に、何よりも前に、ここはどこでしょうか。なんて、愚問を並べる。まあ答えは当然、何故かはわからないがなのはの部屋だが。さて、はて。
 きっと何かを相談に来たんだと思う。相談事がなければそもそもお酒は飲まない。では問題、一体その相談事とは何で、そしてどう相談してどのような回答を得たのか。ふむ、全く思いだせない。

「あ、おはよう。フェイト」
「おはようございます。えと、昨夜はご迷惑をおかけしました?」
「あはは。まあ少し、なのはが拗ねた程度だよ。気にしないで」

 何かとてつもないことだった気がするし、一方どうでも良いような些細なことのような気もする。うやむやで、あいまいで、あやふやで。何ともはっきりしない。少し、気分が悪い。

「体調はどう? 余りお酒は飲みなれていないようだけど、二日酔いとか大丈夫?」
「少し……二日酔い気味です」
「やっぱり。ともかく、程度は弁えた方が良いよ。君の呑み方は余り、お勧めできない」
「えと、すみません」
「ん。そろそろ朝食の準備が出来るからシャワーを浴びてきたら? 少しはすっきりすると思うよ」
「あー……はい、そうさせてもらいます」

 ただ、悪くはない。きっとそれは良くない事なのだろうけど、同じくらい悪くない。ならばいいじゃないか。世界は何時だって善悪で判断できる事の方が少ない。むしろ、善悪は人の価値観だ。どのような問いにも百人いれば百通りの答えが返ってくる。だから、良いじゃないか。悪くなければ、それで良い。
 そもそも善悪は難しい。それは判断付ける前までではなく、その後も続くのだからさらに面倒だ。だから、出来るならばつけたくはない。そんな狭い価値観で世界を縛りたくはない。

「所で、今日の朝は何ですか?」
「二日酔いになった馬鹿が二人もいるんで、シジミのみそ汁を中心に和風」
「あ、あはは……」

 とりあえず、少し遠出がしたい。家族揃って、皆で。無論エリオやキャロだけではなく、クロノ義兄さんや義母さんも誘って。何か話したいわけでもなく、ただ、何かを話したい。だから、少し。
 何はともあれ、頭が痛い。





今日のエリオくん。

「フェイトさん、酒臭いです」
「キュクルー……」



[18266] 後書き+拍手返し
Name: ときや◆76008af5 ID:e16efd8c
Date: 2011/03/01 15:01
就職活動をしないといけないと言うのに、バイトの方に大いに時間を取られているこの頃。
何やらISの方が熱くなっているんで、気が乗って書きだしたせいもあり、遅筆に拍車がかかっています。
うん、すいません。いやでもね。
ISの決着基準における疑問点を解消し、ちょこっとだけ空の境界から設定を拝借し、主人公に魔改造を加えた上で。

僕の習性、ラストで主人公を殺す可能性を考慮したら

楽しくなってしまいました。
なんだろうね、うん。何だろう?



拍手返し。

>>蒼月様

いや、アレは料理スキル以前の問題かと。
まず抹茶にミルクと砂糖を入れるなという日本人の誇りだと僕は考えています。
まあともかく、何と言うことを……!


>>きんぐ様

そんな日も、あります。




[18266] 拍手返し過去物
Name: ときや◆76008af5 ID:d18449bd
Date: 2011/03/01 15:03

<第一話拍手返し>


>>nanashi様

まだだ! まだ終わらんよ!(ぇ?


>>鴉頭様

何となく、その裏をかきたくなった。
後悔はしません。反省は現在進行形です。

――黒糖か。それなら沖縄料理で良い?


>>亡命ドイツ軍人様

なのは魔王化フラグはきっと優鬼が何とかしてくれる!
そう信じて僕は進む。

――ああ、特殊な結界を幾重にも張っているからこの中なら大丈夫だよ。
――質量兵器、ね……概念武装や光学兵器なら問題ないのだろうか。いやあちらの方がもっと恐ろしいのに。
――っと、ごめん。ワイン……ロマネコンチDRCがあるけど、それでいいかな?


>>恵比寿様

………… うん。

――それではふきのとう味噌で。


>>悪党様

誤字報告ありがとうございます。


>>アジア様

イィィヤッフゥゥウウウ!!

……違った?


>>ILLUSION様

――…… 神樹の酒……千年もの……
――どうやら君の出番はもっと後のようだ。
――時が来るまで安らかに眠れ。


>>細川様

相変わらずの遅筆ですいません。
そして魔王たちなのですが、もとよりゼノンは魔王ですよ?
忘れていない?
それから、指摘ありがとうございます。
修正しました。

――だからメディア。何故そこで砂糖と塩を間違える?

――え、だって宋一郎さまは甘いものが嫌いで……

――だからって無意味にしょっぱい肉じゃがなんぞみとめられるかぁあ!!


――……何か用か?

特別出演:葛木 宗一郎

( -ω-)フゥ


>>Tシロー様

――地酒って言うほどのものじゃないけど、無名の酒で良いなら。

つ(とある伊吹鬼の)瓢箪

――淹れる水の質によって味が変わるよ。


>>麒麟様

変換しておきました。すいません。

正直、優鬼を話に食い込ませたならどうなるか、皆目見当がつかない。


>>みず様

どうもです。

――何でも作れるけど、とりあえずきんぴらにてんぷらでも。どうぞ。


>>良様

ティア様の御足が間近で見られる有意義な終わり方ですなw
しかも絶世の美女の手によって終わるんだぜ。
どう考えてもそちらの方がお徳としか。

あと彼らがなのはの寄棲に何も言って来ない理由ですが、流石に悟っている。
何言っても何やっても無駄だと。
その悟りで放置しているだけです。
まあ愛されているという自覚さえあれば人間の一人や二人、彼らにとって増えた所で何も変わりはしません故。


<第二話拍手返し>


>>Tシロー様

どうでも良くありません。
ユウキは現在寸前の所で止められているだけです。
常に隙あらば潰す勢いで虎視眈々としております。


――ん、ありがとう。


>>しし様

男たる者将来は渋くなりたいものですね。


>>細川様

宗一郎と言われて最初に思いついたのがそれだったんだぜ。
勢いでやっちまったんだよぅ!


――ハイボールかい? 手ごろな所で言えばサントリーの角とかあるよ。
――まあ日本のウィスキーが良いんじゃないかな。
――外国のは基本的にソーダでは割らないからね。
――まあとりあえずこれ、厚切りベーコン。つまみにどうぞ。


>>零崎様

そう問われたならこういうしかないじゃないか!

 同 士 !!


――まあなんとも変わった体質だねえ。
――それより一つ。

――アレは僕の敵だよ。

――日本酒……あるよ。
――例えばこれ、天狗殺しとか。鬼が酔えるほど強い酒だそうだよ。


>>ぬこ様

このフルコース完成するのにもしかしたら一年かかるかも。
そのぐらい作者は遅筆です。すいません。
と言うより一話が普通に長い。主な原因はそれかと。
本編始まれば、短くはなると思うんだけどねー。


―― ああ、漢方の強心剤の類だね。了解。注意して使うよ。

――度数が強くて、辛いものに会う酒か。焼酎に、五目きんぴらなんてどうかな?
―― 白ご飯も付けようか?


>>亡命ドイツ軍人様

――それはどうぞ、ご自由に。
――こっちの出口は自由に設定できるから、出る時はこちらを使えば良いよ。

――紹介するもなにも、何時来るとか分からないんだけど……
――まあ彼に伝えておくよ。


>>恵比寿様

――そうそう、僕もこの世界に足を運んだ時は面倒だったんだよ。
――僕の身体にはちょっとした物を封印していて、それを悟られてね。
――危険だから寄越せと襲われたんだ。
――全く、節操のない人たちだよね。

―― 緑茶ね。ちょっと待ってね。


>>ニッコウ様

お久しぶりであります!
ご無沙汰ならそれで良かった良かった。


――ああ、ありがとう。
――この辺じゃ筍が取れなくてね。
――店でも今一なものばかりで、助かるよ。
―― 注文の方は、筍のうま煮でいいのかな?


>>良様

誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

まさかのつんでれくぎみー。誰か予想したかな?
ユウキの身内に手を出したなら怒髪天を突くのは当然ですよ。
代わりに赤の他人であれば近所で戦争が怒ろうがどうでもいいのですけどね。
この境界が素晴らしく明確で怖い。


>>シュルフ様

――……ああ、あの時の。
――いや、無事だったんなら良いんだ。
――今後は無理をしないように。

――はい、注文の乳酒。
―― まあゆっくりしていきなよ。
――今日はアリーシャさんとかティアさんとか来ないと思うから。


>>ななん@携帯様

感想ありがとうございます。
忠告通り紹介文を修正しました。


>>麒麟様

半分近くは僕の独自解釈ですが、人のいない所から金が来ないのは当然。
金の無い所に行く海に経費が多く咲かれるのはおかしいという感覚でやっちまいました。
まあ金を納めているのはミッドだけではなく、その他の管理世界からもでしょうが、多くはミッドだと思います。


>>ILLUSION様

きっとどころか確実に釣れてくるでしょうね。
レジアスですし。
ただ問題は、誰がオーリスとくっつくかということなんだよなぁ……


―― サーモンと春野菜の蒸し焼き、タルタルソース付き。
――それから白ワイン。銘柄がないけど美味しいのは保障するよ。


<第三話拍手返し>


>>任参様

すいません。
書式の右端で折り返すをしたまま上書きして投稿すると妙な風になってしまうのです。
戻すの忘れていました。
本当に申し訳ない。


>>亡命ドイツ軍人様

――……ああ、出費が減っていく。
――そろそろ預貯金の上限額が不味いな……口座もう一つ増やすか?
――とりあえず一番良い酒だね。
――ならば十年前に仕込んだワインをどうぞ。赤と白あるけどどちらにする?


>>多岐様

おおう、それはありがとうございます。


――うん、ありがとう。
――さて、どう調理しようか。
――何か食べたいものはある?


>>麒麟様

君はそう、シンデレラさ~♪
幸せはいつかきっと、優鬼が運んでくれると信じているね~~♪

……あれ?

ちなみに初体験は……優鬼に女性を押し倒す根性さえあればこんなことにならなかったと断言します。


>>細川様

むしろこれ以上ないほど成長しております。現在進行形で。
そしてアリサたちがあのレストランに来たのは実は優鬼のせいではないのだよ!!

――何日? 何の冗談かしら?
――何時間の話じゃないの?

――アリーシャさん、怖いこと言わないの。
――そして細川さん。僕も一般人だよ。ごく普通のとは言えないけど。


>>闇武者様

その……この才能の分、黒歴史も相当に作っていますから……
ああ、この紙の束を燃やしてぇ……


――それはどうも。
――おでんは……こんにゃくに餅巾着、大根に……そうそう、牛スジも忘れたらいけないね。
――ちなみに日本酒はひやでいい?


>>良様

噂するから影がたってしまったではないか。
どうしてくれる?

――……烏龍茶で割ったカルピス。通称初恋の味。
――いや、冗談だよ。もちろん。
――そうだな……緑茶に柏草餅でいい?


>>恵比寿様

全ての法律は優鬼のために捻じ曲げられます。
具体的には物理的にとある三人が。


――あら、どんな面白い話かしら?
――興味が尽きないな。ぜひ聞かせてくれ。

――…………赤ワイン、用意して待っているからね。早めに帰ってくるんだよ。


>>カフェイン中様

小説を紹介していただき、ありがとうございます。
なんだか妙に嬉しかったです。

――ああうん。装備が充実したから戦えなかった物でも仕事が増えて、忙しくなったそうだね。
――まあ程々に頑張るんだよ。君の代わりが居ても、でも心配する人はいるんだからね。

――つまみ……そうだね。先ほど貰った水龍の肉で生ハムを作ってみたんだ。
――食べるかい?


>>棗様

はい、来ちゃいました。
お陰でオリジナルの更新は全くと言っていいほどありません。
まあこれもあの作品の続きなので更新していることには変わりありませんけどね。


>>きよふみ様

お久しぶりです。
まあ無事で何より。

剣一本で次元戦艦轟沈ですか?
それはまた何とも……控え目な話ですね。
ヴァランディールなら軽く次元断層も発生させますよ。副次的に。


――どれだけ時間が流れようとも常連の顔触れに変化がないのが嬉しい。
――やっぱりね、友と飲む酒は格別なんだよ。


>>コウ様

この小説にはなのは成分が方で含まれております。ご注意ください。
今更なアナウンスだよね、それ。


――うん、わかった。


>>良様

実はすでに史実とは違っていた点について。

優鬼の妻の数と内容を知った倍のなのはのライフカード。

悟る
諦める
受け入れる

どちらにせよ結果が変わらない。


>>細川様

それでもあえて言おう。
魔王丼ってどんな味?

――それは何とも、ご愁傷様?
――胃に優しいとなると病院食になるけど……ああ。
――はい、お茶漬けに漬物。
――漬物はたくさんあるから、少し持って帰る?


>>亡命ドイツ軍人様

彼らが犯罪者扱いを受けたのはおよそ百年ほど前の話です。
以来一切容姿が変わっておらず、あろう事か堂々としている人をどうして犯罪者と見れようか。
せいぜい他人の空似と見るのが関の山ですし。
大半の情報はユウキが抹消しましたよ。ハッキングで。

――それは良かった。
――ただ船……君のほうは大丈夫なのかい?
――ほら、軍人として何かと入用なときもあるだろう?
――それに管理局が煩いし……
――念のため、これにも扉を創っておこうか?


<元四話拍手返し>


>>ライ様

何故男はそこまでハーレムが好きなのだろうか?

Ω<漢の浪漫だからさ!

黙れモブ執務官長。てめえはお呼びじゃねぇんだ。

●<な、何を――くぁwせえdrrftgyふじこ

余計なものは隙間送りにされました。


――時期尚早かもしれないけど、竹があります。
――素麺があります。つゆがあって新生姜、酢橘にネギ、ゴマなど各種薬味。
――あとは……言わなくとも分かるよね?
――もちろん花火もあるよ。


>>多岐様

恋の行方も何も、ゴールインしちまったんだぜ、旦那。
現在あるネタとしては、なのはがあるロストロギアによってぬこ耳ぬこ尻尾生えてしまった、ぐらいでっせ。


>>闇武者様

一つや二つじゃありません。
十や二十もです。
今ではそれを読み直して痛いと感じながらも文章力上がったなあと感じる日々です。
まあ黒歴史を黒歴史と認めることが出来ているなら、確実に文章力は上がっていますよ。

――了解。では、香草焼きを。
――ちょっと時間がかかるけど良いかな?


>>きよふみ様

同じものを二度も読んだから、かも知れないかな……
すいません。

そして……FA?

…………正解!(ぉぃ

絵は髪形が決まらなくて目が決まらなくてペイントソフトが慣れなくて、未だに描けません。
それ以上に時間がねぇ。

――いつものって……えっと、えっと。

――ただいま。あ、きよふみさん。いらっしゃい。

――あ、ユウキくん。あのね、このお客さんのいつものって何かな?

――ああ、フィッシュ&チップスと黒ビールのことだよ。ちょっと待ってね。すぐに用意するから。


>>コジマ漬け様

正にリアルフェイトゲーム。
選択肢一つ間違えれば即死亡なわけですね。


――ああ、本当に久しぶり。
――危険なことやっているようだけど、怪我しないようにね。


>>レン様

何があろうと死亡フラグは壊しません。
特に優鬼の身内に手を出せば即実行です。


>>ゲシュペンスト様

それは、どうだろう?
もしかしたら彼の勘違いかもしれないし。
それにまだ。まだ守護騎士やヴィヴィオがいるんだぜ。
たぶん、大丈夫だよ。


>>細川様

どんな死に方もそんな死に方も、きっと魔王に殴られ龍に蹴られるという死に方ですよ。


――寄付金、控えようか?
――別に孤児院だけに使われているというわけでもないし、アリオスに理由を話せば聞いてくれると思うし。
――そうすればそんな余計なことをやっている暇もなくなるよ。


>>SEVEN様

お初です。
ええ、ええ。黒歴史を生み出さなくてはならない問う時点で四苦八苦しました。
今すぐ穴を二つ掘りたい気分だよ。

――うん、ちょっと待ってね。


>>マ?みむめモッ!様

あはは、ヴィヴィオについては余り言えないなぁ……

ちなみに師匠がどうとかは次話明かそうかと思います。


>>恵比寿様

――海の幸も山の幸も揃っている。
――塩も天つゆも取りそろえた。白ご飯も卵もある。
――さあ、食欲は十分か?


>>ライ様


――甘すぎない、となると。
――デザートだし、竹水羊羹はいかが?


>>黒羽様

再開以前に中断した覚えがないのですが。
これも前作の外伝にあたる小説ですし。


――野菜の天ぷらと日本酒でいいかな?


>>相咲様

なのはと優鬼のカップリングでOKとは、お前ら。
まあ別に、良いけどね。


>>零崎様

そも人外な連中の存在を普通認知できるわけがない。
むしろそんな事を知っている人があんな馬鹿なわけがない。

そして最後。その選択肢も、ある。

――この欠食児童め。
――はい、天丼。お代わりはあるよ。


>>蜃気楼様

まあ、厨二病ですから仕方あるまいて。
ちなみにシスコンは今ドイツです。残念。


>>死弩様

オリ主は皆自意識過剰が基本です。
そもそも世界が自分を中心に回っているとしか考えない時点でそんなものです。
人類皆主役でかつ脇役だと言うのに。


>>亡命ドイツ軍人様

むしろ世界を壊せない連中を数えた方が早いと言う異常さ。
何それ怖い。


――戦いは好きじゃあ、無いんだけどねぇ……
――まあマッシュポテトにヴルスト、ザワークラフトです。


>>きよふみ様

ペドはダメですよ?


――ユウキさん、今晩は……
――ダメ。なのははほら、すると明日遅くに起きちゃうでしょ。
――だから駄目。


――きよふみ、ブラックコーヒーでも飲むか?


――あ、ヴァル。いらっしゃい。


>>Tシロー様


――とりあえずまあ、焼いてみよう。
――にしても本当にこれ、何人前になることやら。


>>アジア様

フェイトちゃんは天然路線ですね、分かります。
OK、考えてみる。


>>レイヴン様

感想ありがとうです。


――もちろん。


>>良様

まあ、頑張ってみます。
とりあえずハッピーエンド目指して。


>>ぼーん様

敢えて言おう。中ボスであると!
そう思えば割と憎めない、かな?


>>オレが・・・様

まあどうなるだろうか。
ユウキと出会った後にそれは決めようじゃないか、諸君。


>>猫かぼちゃ様

そ、その手があったかぁあ!!
でも念のために考えておいて損はない。


>>はるる様

どちらにせよフェイトは恋愛経験が余りないかと。
だから、ね。うん。

まだ何とでも出来るのだよ!!


>>麒麟様

もしくは優鬼がキレたか。
ここに優鬼がいて、身内が出来た以上何が怒ろうとおかしくはないんだよ。
特に優鬼。


>>ぎりつむじ様

その、色々と……すんません。
あの人がオリ主(笑)なんだけどね、脈があるかどうかはフェイトの天然にかかっていると言うかなんというか。
そう言うことにしよう。


>>鳴海様

問題あろうが無かろうが、優鬼の身内に手を出した時点で未来はない。
まあ優鬼に出会ってからが問題だ。


>>きゅゆ様

僕はある意味予想通り。
ただそう言った少数は意見もいて、流石に黒歴史完全製造はもう無理かと断念している。
どうしよう。本当に殺そうか……


>>闇武者様

典型的な、それです。
あとロンギヌスぶち込んだ所で優鬼には無縫天衣がある。
だから問題なし。


――ああ……あのはっちゃけ爺の知り合いか……
――それでは天狗殺し。酒に強い鬼ですら楽に酔えるお酒だよ。


>>カフェイン中様

まあ厨二病ですし。
その内甘い幻想も覚めますよ、きっと。
その時さあ、リアル黒歴史の海にもがき苦しむがいい!!


>>玄武様

それも、加えようかな?
現在考えているのは魔眼各種に加速、そげふです。
十分にチートだ。


>>M様

おーイエッサー。
それじゃ頑張って書こうか。


<第四話拍手返し>


>>たくく様

食っていると言うか食われたと言うか。
とりあえず優鬼のために言っておこう。
押し倒したのはなのはです。
そして押し倒すのもなのはです。
後ティアさんなのですが、それは前作の某龍のことでしょうか?
それなら彼女、優鬼を押し倒していますよ。大晦日に。


――ジュエルミートか。
――ではこちらもフグクジラのみりん干しを進呈しよう。
――これが酒に会うんだ。
――ちなみに、次の産卵期は何時だっけ?


>>SEVEN様

wktkして待っていてください。
その期待、いろんな意味で裏切りたいから。


――僕は十分間も全力疾走できないほど非力だよ。
――それを的確に分配して、休み休みやっているからぎりぎり持っているだけさ。
――松茸か。鮮度も良いからそのまま焼こうか。


>>もげ様

正確には花婿の知り合い側が、ですが。
どう考えても悩むことなく呑めや歌えやの乱痴気騒ぎになりそう。


>>ニーア

その可能性も無きにしもあらず。
とりあえず、多くて三人。
現状の決定は今のところそこまでです。


>>亡命ドイツ軍人様

そして一般人が優鬼に襲いかかっても同様に死ぬと言う。
両者ともに武芸を極めし者だからぎりぎり死んでいなかっただけ。


――龍、ねぇ……
――昔に一度、妹を誘拐しようと企んでいたのは覚えているけどそれ以外はさっぱり。
――あまり他人のことには興味がわかないからねえ。
――うん、気にしないで。


>>細川様

こんな感じなのかー
…………全く考えていなかった(本当)


――そこに個人がいる以上、組織なんて一枚岩なわけがない。
――良い奴もいれば気に食わない奴もいる。
――そう言うものだよ。
――ああそう言えば、聖王教会のシスターの一人が上司が鬱陶しい、出会いがないとかなんとかいって結局辞めたんだっけ。
――今は次元管理局で勤めているそうだけど、知らないかな?
――名前は確か……ド……はて?


>>零崎様

テンプレの方は相当困ったら使わせて頂きます。
ありがとうございます。
今のところは適当に、各種魔眼にダブルリンカーコア、高速思考にそげふで如何でしょう?


――ああごめん。
――僕は何時も気づけば道に迷っていた感覚で世界を渡る物だから分からなかった。
――ごめん。
――で、注文の満漢全席なんだけど、下拵えを考えると来週になるけど良い?


>>響様

多くて、三人…………(′・ω・`)
ごめんな、僕の好きなキャラってそのぐらいしかいないんだ。
ごめんよ。


>>Tシロー様

――愛している、愛されているという自覚さえあれば別に妻の一人や二人増えても構わないわ。
――だって私は、私たちは彼のことが好きで、彼もまた私たちのことを大切に思ってくれる。
――だから構わない。彼が幸せで居てくれるなら、それを望むなら別に構わない。
――それでも、たまには私だけを見てほしいかな。

というわけで認めているようですね、ハイ。


――僕は固まりかけの蜂蜜の方が好きだな。
――後は温めて溶かした蜂蜜をヨーグルトに混ぜたり。
――作者は砂糖の代わりに蜂蜜でジャムを作ったりするそうだよ(実話。およそ一人暮らしをしている男性大学生がやることじゃない)


>>M様

魔王と申されましても、はて。
アリーシャ、ゼノン、シャイタン……どの魔王でしょうか?
なのはにしても仕方がないなぁで諦めるか悟るか受け入れるかしか思えないのですが。


>>マ?みむめモッ!様

もしくは自分では救えないから優鬼に救わせようとしているのか。
それなら非常に優れた神であることに間違いない。


>>闇武者様

誰を選ぶかは秘密と言うことで。
それから、悪いけど今後の展開は余り言いたくない。


――ありがとう、と言った方が良いのか?
――そして僕は親バカじゃない。
――ただ親しい人が笑って幸せになってくれればと思っているだけだ。
――別に我が子だけが特別じゃないんだよ。


>>シュルフ様

――うちは孤児院でも保育所でも生活保護センターでもないのですが。
――とりあえずちょうど近頃常連の数が増えて人手が足りなくなってきた所だ。
――働くなら三食おやつに給料付きで雇うよ。


>>アジア様

パネェ。久し振りにその言葉聞いた気がする。
近頃本当に聞かなくなったなぁ……懐かしい。


>>きよふみ様

知っているかい?
結婚式は何も挙げる必要はないのだよ。
法律上入籍さえしてしまえばそれで終わりなのだ。
後はどこで式を挙げようが個人の自由。
そう、「どこ」で式を挙げようが、個人の自由なのだ。

そして酷いことを言う。
優鬼が孕ましてほったらかしにするわけないじゃないか。
ちゃんと妻を看取る所まで着きそうよ。
それから自然と消える。
全く、人聞きの悪い話だ。


――カカオエンドレスナインのビターチョコレートで良いかな?


>>アレクト様

それはどうも、ありがとうございます。


――いや、そんなにも大層なものはいらないよ。むしろ置き場に困る。
――ワインだね。赤と白あるけどどちらにする?


>>良様

むしろ長く生きてまだ言う事が子供ならそれもそれで驚き。


>>sin様

誤字報告、ありがとうございます。
修正しました。

人間観察と言うか職業病と言うか。まあくせですね。


<元六話拍手返し>


>>マ?みむめモッ!様

黒過ぎる、黒くするなという意見が多数あったので修正しました。
すいません、深夜と酒のテンションと邪気眼開放の名残のせいで読み苦しい小説をお見せしました。
申し訳ありません。


>>SEVEN様

だけど前作ではみんなの期待を裏切る終わり方をしてしまった。
だから期待しすぎないでください。
その思いは余りに重い。


――皮肉と言うか、経験論だからね。
――幻想で死んでいった人々を多く見た。
――もしかしたら彼らを助けれたかもしれない。
――そうすれば、あの人も笑っていてくれたかもしれない。
――だから分からず屋に分からせる。
――何より僕が、後悔したくないために。

――サバ味噌ね。ご飯はどうする?
――とりあえず、芋焼酎“魔王”をどうぞ。


>>蝶々様

危うく黒歴史をまた一つ増産するところだったぜ。
それも致命傷クラスのものを。
ふぅ、危ない危ない。
とりあえず逆恨みなのは知っているけど若干苛っとしているので、救える奴全員救おうかなと話を見直し中です。
本当に行く先が分からなくなったぞ。

なお、ユウキが六課の部隊構成を知っているのはミゼットが資料を渡したからです。
そこに載っていた。
三提督は設定上表に出ていない後援者だからそのぐらい、持っていると思う。


>>良様

始まらないよ。
いや、場合によっては始まるけど。
常連客の内の過激派にちょっかい出すか、もしくは優鬼の身内に手を出したことがばれるかで。


>>恵比寿様

実はこの小説、修正前のクロノたちよりもっとひどい思考を持っている人が一人いる。
邪魔なら消すよりはましだが、しかし限度がない。

――もう武器関係はお腹いっぱいです。
――むしろ何に使えと?


>>アジア様

「まあアイス上げるから機嫌治しなよ」
「…………うめぇ」
「うわ、こんなにも美味しいアイス食べたの僕初めてです!」
「ぁあ! リインにもくださいです!」
「はいはい、他にもいろんな味を作っているから焦らないの」

……こんな感じですね。、了解。


>>はるる様

黒過ぎる、と言うわけで白くしました。


――それは分類上果物だからねぇ……
――白ワインかなぁ……


>>もげ様

敵がいて、敵を倒せばハッピーエンド。
テンプレであり、使い古されている分使いやすいのと邪気眼開放の名残のせいでやりすぎてしまいました。
深く反省します。申し訳ございません。

とりあえずほのぼのは、しばらくお待ちを。
最初の方はどたばたさせないといけない。
うん、ユウキが厨房に入ってしまえば良いんだけどねぇ……


>>アレクト様

――パンダ……ねぇ。
――飲食業やっている手前、不用意に動物を買うわけにもいかないしなぁ……
――悪いけど、誰かに譲ることにしよう。


>>時守 暦様

――美味しいものを美味しいと感じ、称賛する。
――酒にせよ料理にせよ、所詮そんなものだよ。
――味がどうこうは二の次三の次さ。
――というわけでビールと空豆。


>>ちょっと様

ただの邪気眼開放の名残です。
修正させて頂きました。
念のため、前書きにアンチ管理局の可能性ありと入れておきます。


>>たくく様

脱字報告ありがとうございます。
修正しました。

やるからには救うと決めた。
だから選択肢を間違わない限り多分、オリ主(笑)も夢から覚めると思う。


――それは……そろそろ釣りに行こうか。
――あいつらの卵巣は結構珍味だからね。
――あのこってりとしながらも……


>>M様

修正後は影すら出ていない。
でもどうしよう。全然考えていない。


>>細川様

脱字報告ありがとうございます。
修正しました。

いや、食費のうちの砂糖代が大幅に減ると言う意味では良いことかと。


――えっとそれは……
――ごめん、もう手遅れ。


>>鳴海様

特別じゃなくて特殊です。間違えました。
あと査察官なのに教官なのではなく、バーテンダーなのに何でも屋で、暇潰しに共感もやっていて。
ついでだから査察官を押しつけられたのです。
優鬼は局員じゃない。断じて。

後半、修正しました。
一読してくれていると嬉しいな。


>>益田四郎時貞様

深夜と酒の異常なハイテンション。
ついでに前々話での邪気眼開放の名残。
以上二点のせいです。


>>P-210様

忠告、ありがとうございます。
しかし遅かった。
まあ黒歴史製造に至らなかったという面で良しかな。


>>ななん様

ふむふむ……
六課は実は予言対策で実力重視で人を集めたらこうなった、と見た。


>>亡命ドイツ軍人様

力だけが最低限、十分しか全力を出せないことを差し引いてもあり余る実力があります。
特に恐ろしいのは数多の世界を渡り歩く過程で手に入れた人の歴史、すなわち――(ネタばれにつき削除)


――……良いよ。そういう話はいくらでも付き会おう。


>>白兎様

実際のところ、管理局とはどのような組織なのだろうね。
管理局法で捕まえているあたり、刑法の立法権を持つ警察組織のようだし。
初期にフェイトの裁判がミッドチルダであったようだけど、やったのは確か、管理局だっけ?
となると立法に司法を持つ警察組織かな。
一方で警察組織も行政組織の一部であるから……
何だか突込みどころが多いなぁ……

この作品が好きだ。
その言葉で作者のモチベーションが回復します。
ありがとうございます。


>>コジマ漬け様

うん、だね。


――ふふん、僕を甘く見るな。
――既に部隊寮のリフォームの許可は貰っている。
――あとは、分かるよね?
――ちょっと扉を壊して空間をつなげてしまえば……ね?
――祝いの席だし、ならばまず食前酒にリモンチェロ。
――ちなみにどこのフルコースが良い?


>>えこ様

直されるどころか消された感が否めない。
何かまあ、お見苦しいものをお見せしました。
そればかりだな、自分。


>>dat様

酷いアンチに走りそうだったら言ってください。
邪気眼の再封印に三日費やします。

あとオリ主(笑)の存在ですが、許してやってください。
一度死んだせいで気がふれているだけなんです。
根は良い子なんです……きっと、たぶん。だろう。
とりあえずユウキによる超絶化学反応を期待。


>>マ?みむめモッ!様

僕の中で局員基本ワーカーホリックという方程式が成り立っています。
そのせいでまあ知らなくても仕方がないのではという考えが……少々。


>>SEVEN様

ネタキャラどころか中ボスとして作ったと言うのに。
いや、その役目を全うしてくれていると考えれば幾許かの救いがある……のか?


>>カフェイン中様


――いくら非殺傷設定とはいえ死ぬ人は死ぬんだ。
――気をつけなよ。知り合いに死なれると、酒が不味くなる。


>>零崎様

それを言ってしまえば終りだよ。


――うわぉ、見事に食い切った……

――仲良し部隊と言うか、飯事の延長としか思えないけどね。
――でも作られてしまったものは仕方がない。
――何とかするしかない。
――はい、注文のハブ種。


>>きよふみ様

連続更新よりも単位が怖くて仕方がない今日この頃。

もう一人オリキャラ追加ですか……
……厨二病ってさ、治りかけの時にもう一人の厨二病の人見るとどうなるんだろ……?
検討させて頂きます。


――……ただの、暇潰しだったのだけどねぇ……


>>アジア様

人気あり過ぎて僕嫉妬中。


>>闇武者様

普段がおよそ一週間開けての更新ですし、まあ珍しいですね。


――たかが怪我でそんな大げさな……
――まあでも気をつけるよ。
――僕自身、痛いのは嫌だしね。
――で、注文のチョコレートは何かな?
――トリュフから生チョコ、ビターからホワイトまであるけど。


<元七話拍手返し>


>>Tシロー様

第一段階、先ずは狸に夢の意味を教えて完了。
部隊員が死ねばなのはが泣く。
だから全員救わないといけない。
ユウキの面倒の意味にはそう言ったものが含まれていたり。

――おお、ありがとう。
――ゆっくり飲ませていただくよ。


>>ILLUSION様

――空豆を裏ごしし、餅子を混ぜて団子に。
――中にエビ団子を入れて、春野菜を入れた餡でちょっと煮込めば。
――椀物“春”完成。
――冷めない内に召し上がれ。


>>スグウツ様

ユウキの性格は誤差の範囲内と言うかなんというか。


――へぇ、写真家……
――コーヒーと、ショートケーキなんだけど、ショートケーキは今ないんだ。
――苺のミルフィーユでも良いかな?


>>クナイ様

でもその三人が今更ながらに迷い中。
いや、ある程度は決まっているんだけどね。
どうやったら皆さまの期待を裏切れるのか、やはり作者として考えてしまう。


<第五話拍手返し>


>>多岐様

その辺のネタは一応あったのだけど、東方って基本的に終わり無き話だからどうしても、、描き切ることが出来ない。


――では牛肉の味噌漬けを。
――あと幽香は僕の恋人じゃなくて……そう、僕は彼女の恋人じゃないんだよ。
――僕では、約束が守れなかったからね。


>>MAS2様

そのつもりで配置したのですけどね。
書いていたら話に詰まって、すいません。
修正することにしました。


>>恵比寿様

何、ただの夢ですよ。ええ夢です。夢ですとも。


――はい、ハーブティー。


>>カミラ様

マスターって割と、過激な思考を持っているのですけどね……


――マッコリ……貰った覚えないなぁ。
――ごめんね、置いてないんだ。


>>T様

逆転していません。
常に何があろうとユウキがヒロインで家政夫です。
だから問題ない。


>>アジア様

いなければ作れば良いじゃない。
たった一話だけ出てきて即お帰りいただくような人でも。
そうすれば皆の精神衛生上は何の問題もない。
特に今回は、USCもいることだしね……
何、目の前で向日葵一株踏ませればよいことよ。


>>ななん様


一話 「時間」 「今を楽しむ」 客:聖峰の古龍 ティオエンツィア
二話 「冷静」 「演じるのも現実」 客:悲劇の道化 ローズブラッド
三話 「孤独」 「喧嘩のできる仲」 客:孤高の悪魔 ヴァランディール
四話 「道化」 「受け入れる強さ」 客:災厄の魔王 アリーシャ
五話 「世界」 「全てはあるがままに」 客:世界の管理者 アウル
六話 「帰郷」 「思いだす必要」 客:異界の魔王 ゼノン
七話 「秘密」 「今に続く明日」 客:世界三強+アウル
八話 「過去」 「消えない思い」 客:ゼノン+ローズ+ヴァランディール
九話 「」 「」 客:
最終話 「幸福」 「別れはいつも突然に」 客:世界を受け入れる者 優鬼(18歳の春)

終幕 「終焉」 「そして旅に出る」
孤高の悪魔は孤独を癒す悪魔に
災厄の魔王は災厄を払う魔王に
聖峰の古龍は幸運と旅する古龍に
異界の魔王は世界を愛する魔王に
悲劇の道化は世界を巡る旅をする
そして、マスターは友と出会い、旅に出る。
ローズブラッド→ローズ・カグラ
王家を放り出してマスターの後を継ぐ。

前作「ある店主と迷惑な客たち」の、途中までのプロットです。
僕のプロットなんて作った所でこんな物ですから問題ありません。
しかもほとんどが脳内フォルダに保存しているし。


>>細川様

まあ春の陽気な日差しでちょっと転寝をしてしまったのですよね。


――僕としても問題を起こしてほしくないんだけど。
――本当に、面倒な話だよ、全く。


>>SEVEN様

お気になさらず。
こちらとしては黒歴史を抹消で来て清々しています。


――甘い物食べすぎたりしたとか?

――ユウキくん、遊びに来たわよ?

――ドアから入れ、スキマ。


>>ヘイゼルバーグ様

誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

オリキャラはいくつか候補があるのですが、どうにも話に絡めそうになくて……
本当にどうしたものか。


>>任参様

ええ、一年ほど前に友達にやらされた記憶があります。
でもそれ以上に大量の小説を読んだ覚えがあります。
影響で言えば後者の方が多いです。


>>レイヴン様

色々と、あったんですよ。

――ショットガンと言うとテキーラとソーダでやるあれだよね。
――さて、うまくいくかな?


>>もげ様

僕もたまに感想の勢いに驚く時があります。
本当に色々とびっくりだよ。
特にこんなこと初めてだから。


>>妖様

何が良かったかなんてわからない。
ただあの場合での終り方があやふやになったのは事実。
僕は、始まりと終わりが見えないと書けない人間だから……


>>マ?みむめモッ!様

中途半端に残してもな、と考えて削除に踏み切りました。
とりあえず完結目指して頑張ります。


>>えこ様

うに、修正上げるの忘れていました。
上げさせていただきます。


>>竹中権兵衛様

プロットが脳内にしか存在しない人間にその心配はありません。
ただ問題点が一つ。終り方に直結させる原因がなくなった。
何が理由で、誰が、何をするからどうなるのか。
何がと言う空欄以外はもう埋まっているのですけどね……
別にそこは空欄でもかまわないのですけど。


>>アンプ様

誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

だからヴァル達は出るとパワーバランスに問題が。
特に今のうちは出ても何も出来中ら出せないのです。

そして言おう。
三話で、給仕にシェフにお姉さんで。
ちゃんと三人出ましたぜぃ


>>闇武者様

本音を言うと、めげました。
一瞬、また感想は読むだけにしようかと思うほど。

――ジャデビュ……だったかな。
――もしくは未来しか。いやそれはないか。
――はい、注文のトリュフ盛り合わせと白ワイン。


>>buster様

死ぬか生きるかという瀬戸際でのタイトロープダンスがですか?
それは非常に楽しみだったでしょうに。
すいません。

――麦焼酎湯割りと、煮魚なんてどうかな?
――今は季節の変わり目だから、体調には気をつけてね。


>>っとむ様

お初であります。
まあただ、余り期待しないでね。
前作ほど綺麗な話になるか分からないから。


>>アレクト様

行くからには行く、やるからにはやる。
今回はその精神でやりました。

――うん……頑張る。


>>ナナシ様

まあ突っ込みが出来る話でしたしね。

皆の期待が重い。


>>くいな様

ありがとうございます。
でも僕自身が書けないと思ったので書き直しました。
あと不評だと、感想が怖くて読めない。


>>亡命ドイツ軍人様

――まあ客室はいくらかあるから、無理しない程度なら良いよ。
――唯つまみが夏野菜だから気をつけてね。
――飲み過ぎて吐くと、傘が飛んでくるよ。


>>走り屋様

何が無理かっていうと、ユウキに無理やり戦技教導官と査察官の役職を与えた事が無理の始まりでした。
アレのせいで話が良く分からなくなった。
だからまずそれを削除させていただきました。
あとあの説教はちょっと、無理があったかもしれない。


>>良様

まあ気ままに頑張ってみます。


>>レー様

書きたい物を書く、それが一番なのですけど。
でも書きたい物を書いても書き続けられるのかと言うのは別でして。
何かごたごたしてすいません。


>>水曜様

感想版と言うと、感想返しの方でしょうか?
それとも感想掲示板の方で?
どちらにしても書きづらかった。


>>きよふみ様

前からユウキは狂っていると言っていたのに。
少なくとも普通の人であると言った覚えはないのですが。
ところどころできっつい思考が出してきたのに……


<第六話拍手返し>


>>ななん様

それでもストレスはたまるもので、今回ばかりは鬱憤が……
シグナム、安らかに眠れ。君の犠牲は無駄にしない。

あと、難しい注文をしてくれる。


>>っとむ様

――ああ、最近は健康的な生活を送っているからね。
――美容にも気を使った料理を出しているから、それは肌のつやも良くなるでしょう。
――寝不足もないみたいだし……良いことなんじゃないかい?


>>レイヴン様

あくまで向日葵畑の彼女です。
照れ隠しに魔砲が飛んでくることも多々ありますが、USCではありません。


――なら特製のシュークリーム……じゃ、駄目だな。
――ブランデー入りの紅茶とくれば当然クッキーだよね。
――華繋がりで薔薇のお姫様に。


>>亡命ドイツ軍人様

ユウキと言う存在には初期条件の一つとして料理が含まれております。
ちなみにユウキの職業は基本的にコックだけです。
他はありません。強要されても。
何も出来ないと口惜しいけど、何でも出来ると怖いね。


――ああ、それはまあなんというか……災難だったね。
――彼女は皆が言うほどひどい人じゃない。むしろ優しい人だから。
――ちゃんと説明すれば理解してくれると思うよ。

――それにスコップ……で敵を屠るって、え?


>>ガルス様

お久しぶりです。いや元気で何より。
とらハ系アレルギーでもあるのかなと思ったら、唯飲み落としなのですね。
なるほど、納得です。

現在のマスターは自身でも出所不明な技術を多々持っております。
デバイスマイスターもそんな数ある技術、知識の一つ。


――本当に久しぶり。
――こちらこそごめんね。
――度々世界を彷徨ってさ。
――どこか一か所にとどまったなら楽なんだろうけど、過去の自分がそれを許さなくてね……

――醤油の量が少し多かったようね。今度からはちゃんと図りましょう。
――はい、蘇芳さん。
――それから醤油を入れる場合は特に塩の量に気を付けること。いい?

――……ブランデーソーダ割りだったね。つまみは何にする?


>>良様

さもないとヴィヴィオが、ヴィヴィオが……!


――ガツンと言った所で聞くような人たちだったら、苦もなかったのだけどねぇ……
――生憎彼女たちの周りにいる人の人格が良すぎた。悪いぐらいに良すぎた。
――本当に、過ぎたるは及ばざるが如し。
――ああ、水羊羹を少し作り過ぎてね。食べて行くかい?


>>SEVEN様

向日葵って読み方変えると向日 葵(ムカイビ アオイ)と人名になるから不思議だよね。
なお、リンディに立ったのは死亡フラグではありません。
まだ彼女は、まだ彼女はユウキの身内に手を出していないから。
まあ出したら死亡フラグが立つ前に墓標が立ちますけど。

以下作者の妄想劇場
リンディに向日葵を送る
→優鬼の所に彼女襲来
→意趣返しどころじゃねぇ

――ケーキの方は出来あがるのにもう少しかかる。
――だから少し待ってね。
――そうそう、コーヒーのお代わりは自由だから。


>>多岐様

癒しはちびっ子のみか……それも良いけどね。


――スキマ経由の時点でもう安心できないのだけど。
――その時はあっち……ボスティーノに頼んで。
――あの人なら確実に届けてくれるし、安心できるから。


>>細川様

だがねぇ……どうしてもその時リンディさんは

「うちのフェイトももらってくれないかしら?」

なんて言いだしそうで怖いんですよ。
いや、最悪の場合は自分を売りだすか?
それもあり得る、あのはっちゃけた未亡人……


――……ちょっと表行こう。
――今日は本当に月が綺麗なんだ。
――確かにそんな日に月見酒も良いが、茶でも風流なんだよ。


>>もげ様

六課に行ったは言いが最初にやったことがこれ。
最初に壊れたのは果たしてバトルジャンキーかストレスのたまった鬼か。


まあ、試させていただきます。
でも今までが今まで、全て頭の中に叩き込んでやってきたから……
急に変更するのは少し難しい。
第一僕の小説は常にその時書きたいことを書き連ねて行った結果だし……

今更思い返すとそれも何か、妙な話だ。


>>asupara様

問題児と言うより、圧倒的に欠けているものが多いのだろうね。
だから問題が起こるのか。


>>かな様

ふとかな様の感想を見たとき、ユーノの初恋ネタと失恋ネタが同時に出てきた自分はどうすればいい?
しかもどちらも救いようがない、仕方のない話と言う。



>>アレクト様

その前にシグナムご退場のアナウンス。


――ストレス解消のために運動したからね。まだしばらくは持つよ。たぶん。
――アッサムティーね。ちょっと待って。

――ああ、花火……夜空を彩る打ち上げ花火も良いけど、線香花火も捨てがたいよね。


>>buster様

振り回され易いと言うか、基本的に身内の頼みを断らない人なんだと思う。
自分のためにではなく、身内が笑っていて欲しいと言う願いのために。
ある意味狂った自己犠牲の究極形。
何が狂っているって、その願いが人として狂っていることを誰かに言われる以前に、誰よりも何よりも本人が理解している点が狂っている。


――僕も、エアコンは苦手だな。
――特にあの独特の風が気持ち悪い。

――夏バテに効くものね。レバニラや鰻だね。
――あとはきゅうりとか夏野菜も良いよね。


>>闇武者様

その全員が海所属か海の関係者ですしね。
あれでよく本当に、設立できたものだ……
きっとレジ―坊やが東西奔走したに違いない。

――ああ、ちょうど良い。
――いや、何でもない。
――ただ少しものを壊してね、それの修理の材料を探していたんだ。
――本当にちょうど良い。ありがとう。


>>きよふみ様

――いや……良いけど……
――これは普通の向日葵の種じゃないから食べても大丈夫かい?
――下手すれば口から向日葵が咲くよ。
――一応普通の食用向日葵もあるけど。


>>レイヴン様

前作十四話より引用

「法月神社、昔はもっと違う名で、当初は崩月という鬼を奉る崩月社だった。
 また彼、崩月が僕らの祖であるそうだ。
 時は流れ、崩月が神であるという説が出たため崩月神社となり、いや崩月神だけではない。他の者、鬼や神も奉ろうと奉鬼神社になった。
 だがこれがお上にその名は止せと言われたため崩月神社に戻り、月を崩すとは縁起が悪いので現在の法月神社になった。
 どれをとっても結局のところうちが奉っているのは崩月と言う鬼で」

ユウキにはその血が混ざっております。
紅kurenaiの方は言われて初めて知りました。
いや色々とびっくりだよ。


――ああ、良いね。それじゃあまあ、ドライフルーツでいいかな。


>>SEVEN様

何の意味も無く誰かを殺すほどユウキは殺人鬼じゃない、と願いたい。

そしてアレですね。
シグナムは懲りずに手合わせ願うと言うのですね。
剣を交え、二人の間に芽生える特別なk――おや、誰かが来たようだ。


>>任参様

ああ、戦いました勝ちました以上な展開ですね。
僕としてはその展開方法はあまり好きじゃないんで。
本当に書けない時にしか使いたくはないです。


>>っとむ様

いや、マスターの魔力は雀の涙程度なので魔法が使えません。
その上合計十分間しか全力で戦えない。
死角なしというより、死角があるけどそれが余りに難しいだけです。


>>赤家様

誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました。

狸よりも天然娘の方が憤っていそうです。


>>水曜様

え? あれ?
前作の外伝でユウキの本来の髪と目の色はそうだと書いた覚えがあるのですが。
そしていつからあのバーは普通なんて甘ったるい場所になったのですか?
魔王に龍に神に魔王に魔王に悪魔に地上の守護者に妖怪にと揃い踏みの場所が……え? 普通?
そんな場所で長年マスターやっている人間は少なくとも普通じゃないかと。

あとマスター最強だと言われていますが、全力のユウキから十分間ぐらい逃げ続ければ楽に勝てますよ?


マスターの実家
父方の方
何でも作る。とにかく作る。どうでもいいから作れ。そんな家。
家が武家で在り方が極道で生業が大企業、ある意味狂っている一家。
ユウキのデバイスの才能はその辺りの狂気から来ています。

母方の方
天皇より古い歴史を持つ神社。
ただし奉っているのは神ではなく鬼。
史書によると一族にはその鬼の血が混ざっているとかなんとか。
白髪紅眼は唯の先祖がえり。


>>もげ様

いや、ストレス発散の相手が他にいないような。
三人娘は魔法主体でユウキの戦闘方法には逢わないし、かといって言葉で責めては説教に至るし。
そう考えると守護騎士の方がまだ安全な気がして。

あと、マスターは大変なお年寄りです。
ええ、とても変わったお年寄りです。
実年齢と外見の不一致があまりに激しい、ですが。


>>良様

正直、全力の彼から十分逃げ切れば勝てると言うので、強いのかどうか。
それはそうと、あ。神器出すのを忘れて……いや、出したら駄目か。


――今はまだ、出さない方がいいと思うよ。
――内部はぐちゃぐちゃしているし、何よりスパイだと疑われるかもしれない。
――だから今はまだ、やめておいた方が良いと思う。


>>アレクト様

ええ、血統書。東方の鬼の血が混ざっているという血統書つきの神様ですしね。


――いや、魔法ありだったら本当に何でもありにしないときついね。
――それに良い所に一撃貰ったら病院送りだし。
――はい、セイロンティー。


>>エビメテウス28号様

どこからどこまでネタのかは僕知らない。
錬金鋼は自分からだけど、ケンイチや紅は言われて気付きました。
あとは……刀語は故意です。


――カクテルと言われても……さて。
――角砂糖にブランデーをかけ、火をつけて。それからコーヒー。
――カフェ・ロワイヤル。まあゆっくりしようか。


>>アストラ様

僕はその事実を言われて初めて知った。
小説も読むけど、呼んでいないものもあるんで。
ただの偶然です。


>>アジア様

NANOHAさんが怖いのは魔王だからです、FA。
おや、誰か来たよう……ここは俺に任せろ!


>>亡命ドイツ軍人様

ユウキが神なんて言う事実、広まっていないから。
まあ無理もありませんな。バトルジャンキーですし。


――いやスコップ……
――まあ良いけど。はい、紅茶。


>>いわし様

勝ったからそう思ったのか、それとも一撃貰えば病院送りという状況下でワンサイドゲームをやったからそう思ったのか。
まあどちらにせよ、ユウキの戦闘はこんなものですよ。


>>細川様

最強、なのかな。
明らかな攻略方法は晒しているはずなんですが。
ユウキはまだ明かしていませんけど。


――胃に優しいと言われても、オニオングラタンスープとか?
――それでいいかな?


>>恵比寿様

――やり過ぎた。反省している。後悔している。だから寝かせてほしかったよ、なのは……
――カクテルね……今はゆっくりしたいのでカフェ・ロワイヤルを。


>>Tα様

勘違い系要素を行うには書くのに二倍の時間と文量が必要となります。
よろしいでしょうか?


>>ニコチン様

まだ一回しか戦っていないと言うのに。
そんな大げさな。


>>ガルス様

確かリリカルは原作がとらハだったから、かな?

この小説で勘違いをするにはどうしても、人外率が足りません。
あのギャップは確実に周りのチートによる影響が大きいかと。
だからこれでやると、何だろう。
周りがユウキに対して過剰な何かを抱くしかないかなぁ。


――流石広告塔……まさかこれほどとは……



>>歪曲詩様

戦闘物は、避けた方がいいのかなぁ……

それから、勘違いはかなり難しいです。
何せ陣が胃が少ないものですから……


>>任参様

OH……ものの見事にあてはまっている……
疾風迅雷は良いとして、薄刃陽炎も当初は薄羽蜻蛉にしようかと思ったのですが、読めねぇ。
普通にトンボと呼んでしまいそうで読めねぇ。
で、変えた結果があれだよ!
それから戦闘描写は正直苦手です。
だから前作でも、戦う運命がないから書かなかった。


>>コジマ漬け様

結局のところ、今後戦う予定は当分ありませんからね。
厨二病を気にする必要もないですか。


――サラミ……ならワインでいいかな?
――嫁さんと言われてもねぇ……心配をかけてばかりだからなぁ。
――正直この道に迷いやすい体質だけでもどうにかしたい。


>>細川様

ちょっと聞き間違えました。すいません。


――うん、ごめん。色々と迷惑かけた。
――ワイン、ちょうど良く当たり年のバローロがあるけど、飲むかい?


>>っとむ様

ものの見事に説教を食らっておりますね、はい。
まあそれだけ愛されているということで。


――怪我っていうか、良い所に一撃貰うと病院送りだからね。
――注意はしているんだけど、身体がね。

――はい、コーヒー。夜遅くまで起きていると身体に悪いよ。


>>レイヴン様

さらにまだ半日もたっていない件について。
一体僕に何が憑依してきたのでしょうか?

設定なんざ僕も忘れているのが多々ある……たぶん。
それにこの小説ももう半年近く経ちましたしね。
使わなかったら忘れるからねぇ。
あと誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

――もちろん。


>>亡命ドイツ軍人様

やられました憐れな犠牲者です。
でも仕方のない話です。

――ああ、いいけど。
――ちなみにドイツワインというといつものQmP?


>>黒羽様

今まで最強云々以前に戦うことすらしてきませんでしたからね。
その辺りの認識の齟齬があったのかと。


――例えば、楽しい事を思い出すとか。楽しい事をするとか。
――後は気楽に構えれば多分よくなるんじゃないかな。
――はい、カルーアミルク。
――ああ、あと夢を見ないほど酒に溺れると言う手もある。進めないけど。


>>ライ様

OK、それではのんびりやらさせていただきます。


――胃に優しい飲み物、ねぇ……
――あ、キャラメルミルクなんてあるけどどうする?
――え、まだ早い?
――……何故?


>>あお様

神様で伊達だったら妙な話です。


>>もげ様

理想に着いて説けば全てお前が言う名になりそうな予感が。
ユウキにはアフターケアが、つまるところ問題を自覚している人たちとが良いのか……

貴重な意見ありがとうございました。
ただ……スカさん……
あんな所に放り込めばどうなることやら。
具体的には夫婦喧嘩が。


>>アジア様

失うことが多かったのって、前作でも言っていませんでしたか?
特に前作にある外伝の、第三話に。


>>銀河ニート様

つまり僕が語らなかった責任か……

まあ色々と、すみません。


>>かまじい様

感想ありがとうございます。
先ずは前作を読み返してみようかと思います。


>>ち様

ご意見ありがとうございます。
まあ頑張って……うん、書いていこう。


>>クナイ様

確かに言われたとおり、シャマルがあまりに冷たかったので訂正しました。
そしたら何だかシグナムが酷いことに……
まあ良いか。バトルジャンキーだし。

意見ありがとうございます。
前作が良すぎるというのも、また問題だなぁ……


>>銃箱様

ああ、確かにその違いは大きいですね。
でも出てくる人たちが決まっている以上、さて。どうすればよいものやら……


>>きよふみ様

てんこ盛りどころか未使用設定すら多々あるのに。
具体的にはユウキの肉体の方の生まれとかそれに関する様々な制約とかその他諸々。
特に優鬼の黒髪黒眼については一切語っていないし、外伝で少し出てきたけど。

それでも見たい、ユウキの艶姿。男性局員一同より。


――血ぐらいなら構わないけど。
――いや、飲まれ慣れているし……はは……


>>dodo様

了解。今後は自分のペースでのんびり書いていこうと思います。

――ああ、水羊羹があるよ。
――それでいいかな?


>>散神無様

凄い武術か、それとも意識改革か。または新たな技術か。
救うにはどうしてもその三通りに限られてきますし。
確かに戦闘を運命づけられているこの世界ではちょっと、ユウキの立ち位置は難しいかもしれません。

感想、ありがとうございました。


>>SEVEN様

確かに、語ってくれないからこそ楽しめるサイドストーリーが……
特に伝説の三提督と関係のあったユウキが、さて、プレシアやクライドと果たして関係がなかったのか否か。
あったとすればどのようにして関係を持ち、何を思い、あのような結末を迎えたのか。
正直僕のネタはそこから生まれています。
もしもこうだったならは小説を書く上での源泉です。


>>良様

やぁ、更新前ぎりぎりっすね。


――……ああ……もう慣れたけどね。
――もちろんそんな目で見られるのは、だけど。


>>亡命ドイツ軍人様

――いえ、荒事には一切興味ないです。
――まあそんな冗談は置いといて、ボトル二本ね。
――二本目は帰ってきてから悩もう。
――一本目は自家製のワインでいい?


>>風待様

そのネタで何が起こるかを想像しながら書いているもので、どのくらいの分量をなんて一切考えていません。
だから分量については本当に時の運と、書いている時のテンションに依存します。
視点変更をすれば分量は二倍に、ネタは三割増しになりますが……
やはり書ける書けないは僕の妄想力によってしまいます。

正直無理に分量を増やせば妙に説明臭くなりそうですし、そんな事をすればつまらないのは目に見えていて。
だから、言ってしまえば悪いのですが、分量ばかりはどうしようもありません。

感想につきましても、やはり感想を頂いた手前返したい気持ちが一杯です。
ただ、考えはあるもので、今度感想が多い時にそれを試してみようかと思います。


>>アレクト様

――いくつかはあるけど、何人前?
――足りなかったら今から作るけど?
――それからメイド服って……ああ、今度手伝いで来るシグナムに着せろという意思表示ね。把握した。

――記憶はね、残念なことにそれが無理だったんだよ。
――だって求めている記憶は僕のであってもユウキ・カグラのではない。
――名前すら知らない別個人のものだからどうにも出来ないんだ。
――本当に、残念だ。


>>SEVEN様

カリム?
…………全く考えておりませんでした。
出すにはどうしても、枢機卿に活躍していただかなければ……

あと優鬼のスキルは正しくは「他者による確定未来を破棄し、本人に選ばせる」です。
未来予知は占った時まで意味があります。


>>きよふみ様

ただし二側面は通常の1.7倍の労力と時間を必要とする。


――ヴァイスからの言伝だよ。
――明日の午後六時、機動六課屋上ヘリポート集合だって。
――何かあった?

――ちなみにここは、ここだよ。
――どこかは知らない。


<第十話拍手返し>


>>kamika様

現実BL、でも見た目ノーマル。
…………何か、おかしくないか?

ユウキが強くなっていく描写ですが……
書けない。無理。時間が足りない。


>>細川様

十九歳のガキンチョに時の権力者は何を求め、そしてそのガキは何必死に応えようとしているのかという話が出来そうです。


――今のところは、ね。今後も不安が杞憂で済めばいいけど……


>>銃箱様

誤字報告ありです。

この前まで見ていた夢に比べて比較的まともだったから、違和感が少なかったのかもしれません。


>>SEVEN様

確かにその立場もありますね。
はやてが質問をした理由は、一つはおっしゃる通り「自分が殺人を許容できない」
それから「殺人は罪なのでちゃんと裁かれなければならない」という局員の義務感。
「もしかしたら部隊員に危害を及ぼすかもしれない」という恐怖と部隊長としての責任感。
「その場合、自分はいったいどう償えばよいのか」という罪悪感。

主に考え付いたのは以上で、友人としての立場はまずない。
で、部隊長か個人かで悩んだのですが、多くの人の命を預かる部隊長として、一部個人的な立場も含むかなと考え、決めました。


>>ルファイト様

1自分に危害を加える者。唯逃げるだけ。
2身内に危害を加えようとする存在。とりあえず妨害する。
3身内を殺そうとする全て。見敵必殺。

もしも2と3が一緒であればかすり傷一つでその人を殺すことになります。
だから三つにしないと、ちょっとまずい。


>>クナイ様

誤字多すぎですいません。
修正させていただきました。

部隊長として、まあ確かに不味い場面が少々、中々、多々見られますが……
いくら部隊長とは言え彼女十九ですよ。
レジアスやゲンヤさんならまだしも、経験の浅い若造が未熟なのは当然ではないかと……
というかそもそも、いくら才能があるからと言っても、経験も浅いうちに一部隊を任している時点で管理局アウトな気がしてならない。


>>どっと様

前作で戦闘させなかったツケが今更になって回ってくるとは。
これだから戦闘描写は苦手なんだ……!


>>ライ様

良いのかい? ユウキは男でも女でも関係なく喰われる人物なんだぜ? By天の声

そこに喰うという言葉がなくてびっくり。


――……巫女服なら、着慣れているんだけど和服ねぇ……
――着流しじゃだめ?


>>鳴海様

それは…………どうだろう?
唯現時点でも言えること。
多くの世界を渡り、生きてきたその経験は伊達じゃない。


>>良様

まあありふれた理想ですしね。
でもこの理想、何を敵と見なすかがすごく難しい。
その捕え方では結構いいりそうだとは思いますけど。


>>亡命ドイツ軍人様

――無事で何よりと言うべきか、何バカなことをしているのかと呆れるべきか……
――正直すごく悩むんだけど、とりあえずこの堅く握りしめた拳をどうすればいいかな?
――ボトルを開ける前に是非とも聞かせてほしいかな? かな?


>>アレクト様

――深い紅色と言えばカルヴァドス?
――それならあるよ。


>>dodo様

もしくは単細胞でも可。
まあミニスカメイド服に懲りて大人しくなることでしょう。


>>きよふみ様

いや、セリフをいちいち考えなくても良いから正確には1.7倍程度です。


――……思えば、二人きりで温泉なんて久しぶりね。
――そうだね、蘇芳。でも急に温泉に行こうなんて、どうしたの?
――だって……今日は私たちの結婚記念日じゃない。だからよ。
――……だっけ?

今頃は幽香達が宝石爺達に対し制裁を加えているに違いない。
私はその間にゆっくりと温泉を楽しませていただこう。

――あ、雪……珍しいな。


>>ガルス様

――全力全壊! スターライト……

その時の光景を見た者は、口をそろえてこういう。

――ブレイカー!!


王降臨


<第十一話拍手返し>


>>DDq様

済みません。素で名前勘違いしていました。


>>亡命ドイツ軍人様

――そうそう。
――でも僕はほら、見ての通り干渉を受け付けない体質なんで。
――いやぁ……国連軍にはモルモットにされそうだったよ。

――はい、ブランデー入りの紅茶。


>>クナイ様

あとの二人?
…………やべぇ、考えてねぇ……
まあ多くて二人だから、その場の勢いで決めればいいか(適当


>>SEVEN様

流石にスバルにロケットパンチは、無理かと。
精々角を付けてバリアジャケット赤くして、パイルバンカーを付けて……
どう見てもアルトアイゼンです。本当に(ry


>>うんk様

………………
…………
……これさ、一応二通りの受け止め方があるんだ。

一つはこんなクソ小説さっさと消せよ。目障りだろうがカス。

一つはエロも書いてください。むしろエロ書いて。

……とりあえず、返答に困るなぁ……


>>ゐを様

修羅場にするなら僕はアリーシャさんを出す。
ユウキの奪い合いというより、ユウキの取り合いで。


>>きよふみ様

とりあえず今後からこんな楔売っとくことにします。

例)

<元七話拍手返し>

<第十話拍手返し>

それ以降がその話での拍手返しです。
とりあえず、途中までは入れてみた。


――いやいや、いい加減にしないと干からびるって。僕が。
――はい、フィッシュ&チップスと黒ビール。


>>ガーリートリス様

あのステータス表は作者の前作である「ある店主と迷惑な客たち」の終幕から引っ張ってきたものです。
まあ元よりあまり必要としていないものなので、消しました。


>>dodo様

明確なポリシーや、目的……
それが出てくるのは当分先だなぁ……
そしてピンク髪……ポニーテール……


――べ、別にあんたのためじゃないんだからね!

――国に帰れ、ツンデレ魔法使い。


<第十一話拍手返し>


>>asupara様

――金色の兎って……何を出せば帰るのかな?


>>亡命ドイツ軍人様

下は高速で走行する貨物列車。しかも断崖絶壁。
ここは最前線を飛ぶヘリの中。
そんな所で私服で居る時点で気心が知れません。


――まあ……訓練には使えるか……
――後でシャーリーとなのはに渡そう。

――さて、ご注文は満漢全席バージョンドイツだね。
――では問おう。空腹か?


>>SEVEN様

何故分かったし!?(違

そしてフェイトタソフラグを立てろと言うONE★GAIですね。分かります。
……黒い星が見えた気が……いや、気のせいか。


>>空の下の人様

僕は取り立てて、何かを変えようとは思っていないんですけどね……
オリジナルから二次創作に代わった以上、何時何時までに何かをしなければならないと言う義務が出来て。
それに合わせるように、沿わせるように書いていかねばならない。
そう言った様々な違い、それから戦う宿命。
それらの変更点でかなり、作風が変わっているのかもしれません。

とりあえず、何かを気にして書くのは作者はした事がありません。


>>しろうなぎ様

皆が等しくが揃いも揃って規格外でFA。
人間相手にあのギャップは難しい。


>>響様

が、立ちそうで立ちませんでした。


>>麒麟様

誤字脱字報告、ありがとうございます。
くそう、二回見直したのに……

男の子は皆等しく一様に、一時は合体ロボットやドリルと言ったロマンにあこがれるものです。特に小学生の頃。
別にあこがれなくとも、おかしくはない。


>>めそ様

時と場合によってはフェイトが地に落ちますよ、精神的に。

レイジングハートは伊達じゃない!


>>dodo様

長々と描写するのは作者の病気です。
説明文を短くする才能が、羨ましい。

ただし、食事描写はユウキにとって必要なファクター。
これだけは、譲れない。


<第十二話拍手返し>


>>SEVEN様

何故そうなる?
いや、全くもってそうなんだけど。
ちなみにレイハさんがメイド服を着るとして、ニーソかパンストか靴下か。
時と場合によっては詳しく話し合わねばならないのだが?


>>アジア様

ヴァランディールはまだ、まともな方だと思いますが。


>>きよふみ様

考えてみれば結構まめですよね。
感想返しもはや……本編の方も含めると100kb超えそうですし。


――はい、どうぞ。
――人形は、何だから呪われそうだからいりません。
――あと置き場所に困るから。


>>鈴木様

共通のと言えば共通の。
どれをとっても文明一つ消せるならば、勿論それに多大なエネルギーが必要で。
その反応を検知しているのでは、と言うのが作者の持論です。
まあソナーによる反応かセンサーによる反応かは別の話と言うことで、どうでしょう?


>>ライ様

普通じゃないから。
彼女たちの暴走を止めるにはどうしても命かける必要がありますから。

――そんなつもりは、無いんだけどね……
――料理雑誌は、というか雑誌類に出るのは好きじゃないな。
――良い思い出がないからね。
――海鮮パスタか。それに白ワインは必要ですか?


>>亡命ドイツ軍人様

同じ質問が多かったので、上で答えました。

――どちらかと言うと電子精霊に近いかな。
――本体は今のままで、仮初の肉体を与える。
――だから本当に付喪神になっちゃうね。


>>闇武者様

勿論覚えておりますとも。
何があって生死の境をさまよったのかは詳しく問いませんが、とりあえず一言。

自分を大切にしようぜ。
流石に夏祭り、麗しき女性に宿る日本の良き文化、浴衣のチラリズムを見ずに逝くのは余りに……はて?
何の話だったか?


――うん、久し振り。
――とりあえず、酒は飲んでも大丈夫なのか?
――問題はそれだけだな。


>>dodo様

竜魂召喚よりも早く、世界の壁を砕いてやってくるのがデフォルト。
召喚なんてタイムラグ、認められない。


>>ゐを様

そのどうなんだろうと言う疑問は、追加ヒロインは一体どうなるのかという疑問でしょうか?
それについては一切お答えようがないのが実情。


<第十三話拍手返し>


>>紙戦士様

他人の名前を完全に間違える……
それなんて外道なエリオ。
とにかく、誤字報告ありがとうございます。
ディスプレイの件は大変申し訳ございません。


>>闇武者様

………………
……無茶、しやがって……
こうなれば僕が――!!

――何か、わけありな名前だね……
――うん、ありがたく貰うよ。
――ご注文はこれにあう肴で良いかな?


>>SEVEN様

誠に残念ながらフェイトフラグは立ちましたが、回収はまだ完了しておりません。
故に三角関係まで到達していない。
はやても襲撃前に撃沈した。
よし、まだ席は二つ残っているな。

余談として、メイド服の件。
僕は黒のパンストあるいはガーター。
勿論正統派メイドこそ真実。
趣味趣向の合致がないため、争いにはなりませんが、いい酒が飲めそうだ……


>>きよふみ様

一段落は着きましたが、埋まってはおりません。
むしろ工学部、学年が上がるごとに忙しくなってなっちゃって……
どうでもいいけど、夏でも眠いこの体質をどうにかしたい。

――愛されている自覚と愛されている事実さえあれば、大切な人が増える程度浮気にならないわよ。
――や、蘇芳。久し振り。
――ええ、久し振り。なのはも元気そうね。


<第十四話拍手返し>


>>アジア様

まあなんというか、お久しぶりです。
ユウキ、そんなにも深いかな?


>>SEVEN様

レイハさんに愛の手を伸ばすにはまずヴァランディールの活躍に期待せなければなりません。


>>zox様

ご意見ありがとうございます。
確かにまあその通りなのですが……
さて、目の前にそう言った証拠を突きつけられたとして彼女がそれを鵜呑みにするか。
考えはしても精々自分は違う、そうならないよう気を付けよう程度で無理な訓練を止めるには至らないかと。
ではどうすればいいかという疑問を投げかけた時の返答が力を目の当たりにしてから、その身で実感してから教えるという行為。
しかし、今何もしないと言うのもあれなので。

結果としてこのような形になりました。


>>亡命ドイツ軍人様

飲酒運転が危険で、どれだけその事実や遺族の肉声を聞かされても体感しなければ正直実感がわかない。
同様に、やはり自分で体験したことでないと正直危険性などが理解しにくい。
精々注意しよう、ちょっと気を付けようと言う辺り。
だから正直、撃墜イベント前では手が届かず、後では手遅れというどうしようもない感じが否めませんでした。

――物騒なことはほどほどにね。
――危険なことに首を突っ込み過ぎると碌なことにならないから。
――まあ避けてばかりいるのも駄目だけど。


>>みゃーきち様

どのような形であれ、納得していただけたなら幸いです。
さて今後、撃墜イベント後、シャーリーがなのはの過去を暴露することに対し、ユウキがどのような対応を取るのか。
楽しみで仕方がない。


<第十五話拍手返し>


>>きよふみ様

お久しぶりです。
山ってどこの山なのか、少し疑問に感じたり。

そして優鬼の為なら犯罪の一つや二つ。
あの人たちなら、やってくれる……!!


――了解。少し余った食材で作った餃子だよ。
――勿論ご飯もあるよ。
――お代わり自由だから安心してね。


<第十六話拍手返し>


>>asupara様

あると申しますか、ないと申しますか。
幻想郷もアクアも以前の話でその影をちらつかせていたのですが。
まあ平行世界の並行世界になりますけどね、両方。


>>きよふみ様

むしろ、むしろ右腕が「ヴァランディール旅情紀 アリア編」を書けと一時期唸りまして。
一体誰がユウキの夫を振り向かせるのか考えていると、うん。
ワクテカし過ぎて萌え悶えた。ついでに鳥肌が立った。

――まあ確かに。
――かといって何事も金で解決してしまうのも空しいけどね。
――はい、フィッシュ&チップスに黒ビール。
――金があるおかげで世の中便利になった。
――でもそれが中心に近付いたせいで、寂しくなったこともある。
――本当に、今という時間は金じゃ買えないのに。
――現代人は少し、僕にとって早足だよ。


<第十七話拍手返し>


>>mizuki様

…………答えづらい、質問ですね。
とりあえず、"ナンバーズ"は全員生きています。


>>Clips様

済みません。どうも以降、以上、以下が<なのか>なのか、あるいは≦なのかが忘れがちで。
何分日常的には記号の方を使うため、さらに勘違いに拍車がかかっております。
修正しました。報告、ありがとうございます。

ちなみに、スカリエッティとはどちらの方を指すのでしょうか?


>>きよふみ様

ややこしくなるのもアレですが、簡単過ぎてはつまらない。
そこまで小難しくするつもりはないのですが……なっちまうかも……

――フィッシュ&チップスね。それから黒ビール。
――少し待ってて。今作るから。


<第十八話拍手返し>


>>良様

寿司にしても何にしてもネタは仕込むものです。
意味合いは違えど言葉は同じ。

常連客はむしろ来るべき。
そうすれば何があっても大丈夫になる……たぶん。


>>asupara様

でもさでもさでもさ、なんかこう、しっくり来ない?
ヴィヴィオと手を繋いで病院の中を歩くユウキってさ。


>>亡命ドイツ軍人様

史上最悪とはつまりあれですか?
誰がヴィヴィオを助けに行ってユウキとヴィヴィオの好感度を挙げる権利を得るかで戦争が起こるということですか?
……かなり水面下で極めて自然に行わないとユウキが呆れて行っちゃいますよ。
そして、そう。いくら英雄、いくらエースオブエースとはいえ歩く核弾頭並みの危険人物であるヴィヴィオを、容易く保護できるのに若干違和感があります。
何を考えても確実にいさかいが起こる火種ですよね、ヴィヴィオ。

――いや……流石にその血は混ざっていないと思うけど。
――もしもベルカ聖王の系譜に狂人か異常者がいたなら、その可能性も高いなぁ。
――神楽家はまだ人間なのかで一度議論が平行線たどったから。
――うん、いまさらそんなの混ざっていても可笑しくは無いね。

――今の季節、どんぐりがたんと実るよね。
――というわけで、生ハムで良いかな?


<第十九話拍手返し>


>>りーぜ様

誤字報告ありがとう御座います。
修正しました。

ヴィヴィオは少し前からユウキの保護下です。


>>良様

常連が関わらずともユウキの保護下に入っている時点ですでにアウトです。


>>亡命ドイツ軍人様

教えるな危険の完成形なのでユウキは何でも作れるようになっています。
和洋中、酒から調味料に至る全て。
故に悪いとは言えず、しかし良いとはいえない。

――本当に良く、戦艦を拾うね。
――この辺に誰かの廃棄場があるの?
――まあいいや。さて、野菜は好きですか?


<第二十話拍手返し>


>>asupara様

聖王オワタ。
しかしクーリングオフも終っている。
なんてこったい。


>>アジア様

大丈夫。ユウキが何とかしてくれる。多分。
まあ幽香さんのほうもユウキが何とかしてくれているはずだから、大丈夫……かな。


>>良様

東方です。正直自分も二次創作やら何やらでしか知りません。

ヴィヴィオについてはまだ子供ですから。
そこまですごい技を覚えたとしても使えれないでしょう。


>>亡命ドイツ軍人様

無理ですね。

ちなみにヴァランディールが管理局を嫌いになった理由は別にあります。
簡単に言うと事故とは言え管理局がユウキをごにょった揚句、無謀にも(ピー)したからです。
その辺りは既に書きました。


――あー、えーと……幽香を止めなくちゃと思っただけなんだけど、まあいいか。
――良く分からないエネルギーで刃が出る筒と言えば、従妹とそっくりな悪魔と契約した高校生が偶然手に入れた空間魔石で作ったライトセイバーもどきの事かな?
――凶悪さで言えば空間ごと切断する分こちらの方が上だけど。
――さて、あの変態髑髏の所に出張か……


>>めそ様

え、マジ?
東方は二次創作やwikiでしか知らないんでもしかしたら間違えたかもしれません。
念のため修正しておきます。


>>きよふみ様

本当にその気はないんですけどね。
ただ幽香の最後の煩悩は真面目に考えました。


――帰ってきた感と言えば、普通の和食で。
――ご飯に味噌汁、寒鰤の塩焼きに出汁巻き卵を添えて。
――ほうれん草のおひたしに南瓜の甘露煮。納豆と海苔、どちらがいい?
――やっぱり帰ってきたと感じるのはそう言う何でもない事だよね。
――それとも、ちょっと早いけどおでんにする?
――ちゃんと熱燗を用意してさ、何と言うか。


――お仕事、お疲れ様。まあゆっくりしていってね。


<第二十一話拍手返し>


>>Driver様

あぅ、失礼しました。
正直我が人生で異性に興味を持った時間が片時もないもので、その辺りの知識は余り詳しくありません。
勿論恋愛感情といった意味合いで、ですよ。
詳しく言うと人を人としか見れないだけなのですがねー……


>>Reia様

わずか二行まで見落とさないとは。
レンタルマギカは良いですよね。
樹君のギャップが特に。


>>きよふみ様

流石に一回登場しておさらばすると暖房が冷房に感じるので。
そして何より、ユウキは嫁です。
例え相手が男性であろうがそこは譲れません。

――フィッシュ&チップスに黒ビールね。


<第二十二話拍手返し>


>>raiku様

クロスというか、ただちょうど良く手元に人間シリーズがあってつい。
ネタの一部として考えてもらえるとありがたいです。
というよりユウキよ、お主何してやがる?


>>きよふみ様

その皺寄せは海に回っています。
気が向けば一地上本部所属の管理局員の日常でも書こう、かな。
それから海の方も書けば調律がとれると思います。
ちなみに天候装置にクラッキングなんてしていません。
地上本部が作ることを諦めたかと。
だって、ヴァランディールですぜ?
無理、やめとけって。勝てないよ。


――舞、ねぇ……
――僕の家のは決まった型なんてなくて、その場のノリと酒の勢いで舞うんだ。
――教えるなんて出来ないよ。

――はい、フィッシュ&チップス。


<第二十三話拍手返し>


>>蒼月様

倫理観は常連客の真の姿で一瞬でどうかなります。
問題は、アリーシャさんたちに戦いを挑めるか、です。


>>名無し様

誤字報告ありがとうございます。
早速修正してきます。


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