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[17560] 【完結】ホームレスは好きですか!?(リリなの 転生 原作知識なし)御礼作品投稿
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2012/09/10 03:10
挨拶

作者のタピです。
元は一発ネタの作品だったので、無理な点が多く、修正が多いですがご理解をお願いします。


注意
・転生
・原作知識なし
・オリ主
・ネタ
・ホームレス
・ご都合主義
・独自設定

これらに注意をしてお読みください


・初投稿10/3/24
・完結 7/11
・番外完結 8/5



[17560] ─第1話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/12 15:45
みなさん転生トラックって知ってますか?

え? 知ってる? そりゃあそうですよね。有名ですからね、あのトラック。

下手したらそこらへんのトラックの名前より有名ですよ?

まぁ書く言う俺は、転生トラックなんていう、夢紛いなトラックなんかよりも地元の日野自動げふんげふん。

地元愛ですよ?

そんなわけでここまで言えばわかると思いますが、ええ、そうですよ。

奴が現れました。

よくネットとかにある、転生トラックに憧れる人こそ多いけれど、実際に轢かれる人はいない。

いや、例えいたとしてもその人の生存を確認できるわけではないので会ってもないようなものだ。

俺もそんな憧れる人の一人であったわけだけど、実際に目の前にするとやはり生への執着と言うか、例え転生すると分かっても、轢かれるなんて嫌だ。

これは人間の本能とでも言うべきものだと思う。

だから、俺は今必死に逃げてます!


「く、くるなあああああ」


奴との出会いは、今日の朝だった。

俺はしがないどこにでもいる高校生である。

多少趣味でスポーツをやって、学校では優等生を気取りたいがために勉強して学年のトップクラスの学力を誇っているが、決して努力家でもなければ、情熱的でもない。

だからと言って、オタク──でも無いと思ってる。

じゃあ、なぜ転生トラックを知ってるかと言うと、さっきも言ったとおりやつらはよくネットの小説で出てくる。

俺は優等生を気取るだけあって、よく小説を読む。ジャンルは問わず、ラノベでも時代物でも何でもだ。

いいものはアニメ・漫画、ドラマなんでも問わず知りたい性質なんでね。

だが、俺に家自体にお金がないのであまり買うことが出来ない。その結果、ネットで読み漁ると言う結果に……。

あ、あれだよ。貧乏なのになんでパソコンを持ってるという質問はなしだよ?

それぐらいあるさ、現代っ子だもん。

話が逸れた閑話休題。

朝に出会ったとのはまさに運命のような出会いだった。


「遅刻するわよー」

「くっ、とりあえずパンだけでも!」


寝坊して起きた俺は、口にパンをくわえて、慌てて家を飛び出した。

まるでどこかのゲームや漫画のような描写だなと自分で思いつつ、この描写なら、朝学校行く途中の曲がり角で運命の出会いでもあったりしたりしてなぁ。

なんて浮かれ調子で考えながら必死に、走っていた。

そして肝心の曲がり角。

美少女来るか! とありえない想像──いや、妄想と認めよう──を期待しつつ、曲がったら……。

奴が現れたのである。

低重音のブロロロという、これがトッラクといわんばかりの音共に!

これは将来のトラウマ候補確定である。

普通の主人公なら、ここで轢かれてどこかの世界に……と言う展開が丸見え、テンプレなのだが、俺は一味違う。

音で分かったとはいえ、反射的にトラックと確認した瞬間にターン。

つまりは、角をそのまま曲がらずに回避したのだ。

まぁ轢かれて他の世界に行って見たいと言う気持ちは確かにあるのだが、やはり一度死ぬ嫌だ!

そんな生命への執着が俺に力を与え、スポーツをしていたがゆえに難なく交わすことが出来た──はずだったのだが、

やつはあろうことが、恐ろしいドリフトで俺が回避した道へ曲がり、俺目掛けて突っ込んできたのだ。


「え? 転生トラックって意思でもあるのか!?」


というより、転生トラックは現実的に見たら、ただの事故。
もしくは、通り魔の類だ。

そして、轢かれたものはこの世界では確実に死ぬと言う未来が確定している。

そういう意味ではまさに現代を生きる死神。

いや、転生トラック自体がそもそも現実的ではないし。死神が現代を生きていないが。

と冷静に突っ込みをしている場合じゃなかった。

俺は突っ込んできたトッラクから逃げるべく、走った、逃げた。

ここは偶然にも道が狭く、そして曲がり角の多い住宅地。

トラックほどの大きな自動車が自由自在に動き回るには不利な土地。

何よりと地の利が俺にある。地元住民だから当たり前だが。

トラックがこの土地に疎いかどうかはさておき、その土地のおかげで俺は今の今まで逃げ切れている。

直線距離ならとっくのとうにひき殺されているだろう。

以上回想と言うの名の、現実逃避終了。

逃げ始めてからどれほどの時間が経っただろうか……。

いくら俺がスポーツをやっているからと言ってもさすがにそろそろ体力の限界である。

逸れに対し相手はトラック、やつは疲れを知らない。

と言うよりおかしいだろ!

こんだけ激しくトラックが走り回っているのに、轢かれる人がいないどころか、このトラックが現れてから人を見てない。

一時的に避難させてもらおうと、民家に声をかけたが全て留守。

明らかにトラックでは通れない道に逃げ込んでも、壁を壊しながらトラックは追いかける。


「明日の朝刊、どころか今日の夕刊には一面を飾れそうだな」


いい加減に疲れてきたので、頭がおかしくなったのだろうか、もしくは

この状況に慣れたのか若干の余裕が出来ている。

もしかしたら、諦め始めているのかもしれない。

でも、まだ……まだ俺は走れる!

俺は……転生なんていう運命に逆らってみせる!

あ、運命に逆らうとか主人公っぽい。

そんなこといってる場合じゃな……


「え?」


トラックを振り切ろうとして、再びといてももう何度目か分からない角を曲がる。

しかし、その先には……、


「一台じゃなかったのか……」


俺の命運もここまでだった。

ついには轢かれた……。

もはやここまで来るといっそ清々しいくらいだ。

ようやく開放された……。

今はもはや達成感と言うより開放感に満たされている。

追われるということ、生きると言うことはこんなにも難しいんだね。
俺は初めてそれを知ったよ。


ドーンと軽快な音とともに、俺の体は見事にトラックによって轢かれた──と言うよりは吹き飛んだ。


そろそろ気付く方ともいると思うが、なぜこのトラックが転生トラックだと思ったのかについてだ。

そりゃあ、あんなことが堂々と書いてあるトラックが襲ってくればその世界に行くんじゃないの?


『リリカルなのは映画化おめでとう』


遠ざかる意識をよそに最後の言葉を必死に呟く、


「……おそ」





{今更だけど映画化おめでとう!}



[17560] ─第2話─【大幅修正】
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/25 22:14
俺はあの日、転生トラックに轢かれてこの世界にやってきた。

この世界はとってもリリカルな世界と噂に聞く。

俺はあくまで、優等生を気取ってwikiを模索したり、最近の情報のためにアニメを見ていただけで、決してオタクなどではない。

ああ、オタクじゃない。俺は実にノーマルな人間だ。

どちらにしろ、このリリカルな世界は噂を知ってるだけで、どんな内容かも、どんな世界かも分からないけどね。

ほら、やっぱりオタクじゃない!

そんな俺が数奇な運命でこの世界にやって来たの言うまでも無い。

前世……と言うべきなのかな、前の世界にはやはり愛着がある。

世界に愛着というと一見、大規模と言うか壮大に聞こえるがそんなことはない。

ただ普通に、普通の暮らしをして、普通に時を過ごして、普通に生きていただけだ。

普通で何が悪い!

特別も好きだけど、普通は普通でいいものだ。

でも、もうあの世界には戻れない、俺はこの世界で生きるしかないんだ。ホントに、本当にこの世界に転生してしまったんだな。改めて実感するよ。

もちろん、この間のトラックのせいだけで、実感したんじゃない。この身体のことだ。

これもいわゆる、テンプレと言う名の王道の展開なのだが、第一に幼少化。

小さい手、小さい足はもちろん、一番に気づいたのは目線だ。

元の俺もそんなに高い方ではないが、さすがに幼少化すればこの程度の差は気付くと言うもの。

そして、周りの大人との比較、ぶっちゃけ言えばこれが一番早い、明らかに大人を下から上に見上げる格好になる。

さすれば、一発で把握した。つまりは、これが幼少化であると言うことに。あのトッラクは本当に転生トラックであったと言うことに。

まぁ改めて知ったこのときに、涙を流したの言うまでもない。なぜか泣いてしまう。これがいわゆる身体に引っ張られると言うことなのか?

実際に泣きたくなるようなことではあるのだけれど、大人──元も高校生だが、高校生ともなればその程度我慢というよりは、場所をわきまえることぐらいはできる。

と、ごだごだ主観主体の説明をしたわけだけど、実は現状につい…何も分かっていないことはお分かりかな?

てか、なんか説明口調だと語り方が堅いね。

あー、あー↓、あー↑、あー! OK。これで元に戻った。

ちょっと現状を確認してみよう。ぐだぐだ、回想ばかりしても何も発展ないからね。

昔、先生に言われた、


「貴方のすごいとこはそのポジティブせいね。それで味方につけるんだから大したものだわ」


お褒めの言葉で、それ以前よりさらにポジティブになったのを思い出したよ。

なんか、全然関係ないと思うけど……ってまた回想してるね。

でも、さ。よく考えてみてくれ。

この間、と言うほど昔でもなく、俺にとって昨日のよう、と言うよりもさらに近い過去。

そう、朝に起きた出来事と言ってもいい、あの転生トラック騒ぎに巻き込まれて、最終的に轢かれて、この世界で幼少化だよ?

まともな思考を持てというほうが無理難題さ。せっかく高校生までの過程まで終了したのに、幼少化したらまた勉強じゃないか!

今まで優等気取ってたのが無意味だよ! 水の泡だよ!

この世界でまたやり直しだよ! また勉強しなくちゃいけないのかよ、優等生気取る為に。

あ、パソコンがまず必要だね。ってそうじゃなくて、まずは家が必要だよ!

自分で自分の身寄りが分からないよ。俺は本当にいったい誰で、ここはどこなのさ。

記憶喪失以前に記憶ないんですが!?

よくある、転生憑依ものなら身体から記憶~~とかあるのに、そんなのものない。

せめて、転生するようなまるで主人公みたいな立場ならその程度の補正があってもいいじゃない!
世界に救いを求める前に、俺が救いを求めるよ。

とまぁこんな感じで全然把握できてないです、すみません。

そもそも、転生されるならなんか神様的なものが出てきて、この中から好きな能力を選べ、的なものがあってもいいんじゃないかなと思う。

そしたら、色々と試したいものがあったのに、有無も言わせずこの世界に転生させられて説明も無しじゃあ辛すぎる。

もはや罰ゲームの領域だよ!

人生をかけての罰ゲームだよ! これが本当の人生ゲームなのか!?

…………。

思った以上に上手くなかった。恥ずかしっ。

でも……本当にどうするべきなのか。

俺は非常に悩むわけではあるんだけど、悩む已然に何を悩むべきか……これからどうするべきか、かな?

そろそろ真剣に悩むべき時かもしれない。

今更ながらだけど……。

となると、まずは状況の整理に勤めようではないか。

一に、先ほどあげた身体の幼児化。

これが指し示すことは!? ……まぁ分かるはずも無く。保留をせざるを得ない!

二に、この場所……公園。

人の目に付きやすい、たぶん朝の公園。周りを見渡せば、時計も見え、時間も分かるし……朝の7時だね。

この公園と言う点にメリットとデメリットでも考えよう。

メリット、野宿に最適! ありとあらゆるものから防ぐ力を持っている! と思う。

雨ならあの球体に穴がついたあれ。名前分からないけどあれね、あれだよ、あれだってば!

……分かるよね?

他のメリットは、何とベンチがリッチなベッドに!?

いや、これが意外と固いのを除けばいいんだよ?

昔、家に入れなかった──あれは、たぶん追い出されたんじゃなくて、俺を家に入れれない理由があったんだと思う。

あの有名な番組のリフォームの番組がきてたとかさ。

「なんということでしょう」の、あの番組ね。

その時は仕方なく、公園のベンチで寝たんだけど、案外快適! 布団なんてゴミ箱の新聞使えばいいし。

さすがに冬は辛いかもしれないけどね。特にここは海が目の前に見えるし、結構寒そうだなぁ。

でも、逆に言えばデメリットはそれぐらいじゃないかな?

あとは人の視線が痛いとか、慣れればなんてこと無いけどね。しょせんは他人さ。

身体の状況、場所の確認、時間の確認できたから次は……次は何?

身分の確認は……どうせこんなシチュエーションの王道パターンだろうね。戸籍が無いとか。

こんなもんで、状況の確認は以上かな? となれば、次に考えるべきは、今後どのようにするかだね。

身体はこんななりでも中身はれっきとした? 高校生なので、ある程度のことは出来るから、家探しになるのかな。

でも、公園で野宿も捨てがたい……って、家があるに越したことはないか。

だからと言って、ある場所もあるかさえも分からないんだけどなぁ。


はぁと深いため息をして、今まで地面と会話してるかのごとく、下を向いていた頭を上げる。そのまま、軽く辺りを見渡して、もう一回状況の確認をしようとした矢先、砂場に一人の少女がいた。

俺はその一角に目を奪われた、どうしてかって? だってそこには……砂場があるのだから!

砂場──公園において、もっとも活気溢れる場所となりえるメインのひとつである。

それは、かの有名なブランコなどという遊具や滑り台と言う遊具にも匹敵するほどでもある。

書く言う俺自身も、砂場はとても好きだ。

昔はよく遊んだものだ。

一人で、東京タワー作ったり、通天閣作ったり、凱旋門作ったり……。

なんかこう考えると、すごくやりたくなってきたぁ! 俺の右手と左手が唸ってるよ! がるぅぅぅッて。

…………って、注目するべきはそこじゃないですよね。

少女、推定年齢5歳程度と見た。

おそらくは小学校に入る前か、もしくは小学校に入ったばっかしの子だ。

髪は栗色、服装は……俺は服装に詳しくないからいまいち分からないが、たぶん、スカートにセーターって言うシンプルなもの。

こうやって、まじまじ少女を見てるとただの変態にしか見えないが、外見年齢が若い、幼いのでたぶん平気だと思う。

はたからみれば、楽しそうに……は、遊んではいないんだけど、その少女をものの欲しそうに見ている同い年ぐらいの児童に見えると思われる。

ということは、だ。

俺が砂場で遊んでもいいんですよね!? 東京タワー作りますよ。 今の俺ならビザの斜塔だって作れますよ!

一級建築士も夢じゃないです。砂場の中なら!


そんなことを思いながら、まずゴミ箱をあさり使えるものは無いか調べる。すると、


「これは上物だ」


ペットボトルを発見した。これは、砂を固める為に使う水を確保できるようになる。

これで準備は整ったわけで、あとは砂場に行き、場所を確保するだけだ。

栗色の少女が、遠慮がちということなのか、端っこをちまちまと使っているので俺は真ん中を使わせてもらう。

結果的には少女の横、ということになるのだろうけど気にしない。

少女は俺が横に来ると、顔を上げこちらに若干の驚きの表情──涙も若干見えて気になったけど……──を見せながらも声もださずに自分の世界へ戻っていた。

なので、俺も自分の世界に引きこもることにした。


今後どうのような展開が待ってるか分からないが、とりあえず今を楽しもう。



この発想がポジティブかどうかは疑問ではあるが、あくまでプラス思考だと思って、砂を一心不乱に弄くる。


「で……できた、渾身の作品が!」

「ふぇ~、すごいね」


隣の少女が始めて口を開いた。

その言葉は明らかに驚きなのだが、俺がこういった大作を作ると驚きよりも呆れる人のほうが多いのだが、

この少女はそのようなそぶりは一切見せずに、俺の作品を評価した。

驚きと言う、俺にとっては最高の賞賛だ。


「でしょ?  こんなに時間をかけたんだから、当たり前だけどね」


砂を弄り始めて完成するまで、かなりの時間が過ぎた。たぶん、空が赤みがかっているので夕方だと思われる。

その間の時間、俺と少女は隣同士という関係にも関わらずお互いに関せず無言のまま砂場で遊んでいた。

しかし、ここに来て少女は急に俺に話しかけ始めていた。

俺がこうやって、遊んでいる途中にも何度か話しかけようとするそぶりはあったが、これを機と思ったのだろうか。

自分自身も、人と話すのは好き……というか、まともにしゃべったのが大分昔のような気がする。


「時間かければ、何でも作れるの?」

「たいていのものは作れると思うよ」

「え? じ、じゃあこーーんなに大きなお城とか作れる?」


少女は、手を出来る限り大きく広げて、大きさをアピールした。

その姿は年相応のちっちゃい女の子っぽくて非常にかわいかった。まぁ実際かなりかわいいし。

愛でる対象ではあるよね?


「まぁ頑張れば、できるんじゃないかな?」

「ほんとう?」

「男に二言は無い!」

「じゃあ、えっとね。明日までに作ってくれないかな?」

「明日!? しかも、までって!?」


期待に胸きらめかせる少女とはこのことを言うのかもしれない。

手を後ろで握り、うる目でこちらを覗き込むように「だめ、かな?」なんていわれたら断れるはずもなかった。

俺は渋々承諾し、少女はその答えを聞いて、満足したのか出会ったときのようなくらい雰囲気を纏わずに、明るく元気に家に帰っていった。

その姿を見たら、断然やる気が湧いてきた。

決してロリコンと言うわけではなかったはずだが、たぶん身体に合わせて趣向みたいのも変わったのではないかと、精神的に自己防衛しながら俺は砂場に手をつける。

少女に言われたとおりに、明日までに城を築きあげなくてはならない。

建築士になって以来一番の大きな仕事になる。


「今夜は徹夜だー!」


すっかり、自分の身分も状況も忘れて、夜通し砂場で遊ぶ一人の少年がそこにはいた。

というか、俺はこの世界の名前すら分からんぞ!




{修正}



[17560] ─第3話─【修正】
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/25 22:16
翌日未明、公園に突如として巨大な建物が現れた。

いや、それは実際は建物と言える代物なのかは誰もが疑問に思うのだが、姿形は建物にしか見えない。

その建物のつくりと素材が‘あれ’なだけで、形自体は立派に建物しているのだ疑問を持っても認めざるを得ない。

現に、その建物? を見た人々は口々に言う。


「まさか、翌朝にあんなものを見られるなんて思いませんでしたよ。あんなものが、ね」


とは、たまたまその建物を見かけた青年。

それに続き、他の人は、


「本当にすごい出来ですよ。まさに‘プロの業’と言わざるを得ないですね」


そう言ったのは欠陥建築家で有名なA氏。

そして、その建物を見た人は人目見ただけでかの有名なものだとすぐに分かり、驚きの唸りを見せた。

その建造物の正体とは……


『砂で出来たパルテノン神殿があるとは……』






深夜、俺は寝ずにかの少女との約束を果たすべく砂のお城を建てようとした。

しかし、ひとえに砂のお城と言ってもどういうふうに作ればいいかわからなかった。

この分からないと言うのは技術的にと言う意味ではなく、イメージ的にと言うことだ。


あのかわいい子は、大きいお城を作ってくれと言ったものの、どういうのを作ってくれとまで言ってなかったし。

指定がないと言うことは、自由に作れということだろうし……なら、既存の建物でもいいのかな?

その方がイメージしやすい……って既存の建物を見たことはあってもなんとなく程度までしか分からないよなぁ。

でも、なんとなくが分かればなんとなく作れるか。

それこそ、なんとなく大きなお城だなとなんとなく分かる程度でいいと言うことだよな。

ということは、なんとなくでなんとなくななんとなくだよね。


そういった経緯で、なんとなくパルテノンが出来てしまったのだ。

なんとなくすげー、と自分で思いつつ。

夜通し、徹夜での作業の為俺は以来を完遂させるとゴミ箱に捨てられた新聞を寝袋代わりに使って寝た。

そのときに一応日付と曜日は確認したのだが、捨てられた新聞なのでそれが正しいとはいえないが、おそらく明日──寝る時点では今日なのだが、曜日を確認したら日曜だった。

ざわ……ざわ……。

そんな騒音が耳に聞こえたために、目が覚めた。


なんなんだよ、こんな朝からよぅ。

俺は徹夜明けで身体が辛いんだよ……パルテノンのせいで身体の節々も痛いんだよ。

うわぁ、何だよこの人だかりは。こんな朝の公園に何のよう……あ、もうお昼の時間か。

やっぱり徹夜したから時間間隔が若干おかしくなってるな。


「ねぇねぇ、君」


俺がベンチから目覚めたの見た、一人のお姉さんが俺に話しかけてきた。


年齢にして高校生ぐらいかな?

見た目かなり美形だし、あきらかに運動をしているような雰囲気を纏ったメガネのお姉さんだな。

あれ? そのお姉さんの横にいる子は……


「なのは、昨日会った子って本当にこの子?」

「うん! そうだよお姉ちゃん。昨日もすごいの作ってて、私が頼んだからこのお城作ってくれたんだよ」

「作ったって……パルテノン神殿を……」

「本当に作ってくれたんだね、ありがとう!」


昨日会った少女はなのはと呼ばれていて、お姉ちゃんと呼んでいたさっきのお姉さんに昨日の出来事を自慢げに話し、俺に感謝の言葉と一緒に強く手を握ってきた。


なるほど、昨日会ったあのかわいい子はなのはと言う名前で、あのお姉さんの妹なのか。

どうりでかわいいわけだ……将来もきっと……。

と、そんなことはどうでもいいか。

やっぱりのこのお姉ちゃんも他の人と同じだな。俺の大作を見て、驚くと言うよりは呆れた感じだね。

でもいい。でもいいのさ。

価値や才能と言うのは生きているうちは中々認められないものだからね。

きっと俺もその分類なのかもしれない。というと、なんだか俺が偉そうで自信家みたいだけど、でも作ったものには自信があるな。

あんな依頼されたら、張りきらないほうがおかしいと言うものだ。

ん? よく考えれば、死して認められなくない?

だって、砂で作った城なんてあっという間に……


「にしても、すごいね、ちょっと触って──あ」


お姉さんがパルテノンを興味本意で触ってしまい、崩れ落ちる。

え? 嘘だろ?

お、俺のパルテノンが!? 俺の時期家候補が!?

今日はこの中で寝ようと思ったのに!


「うわぁぁぁぁあああ」

「お、お姉ちゃん!?」

「あ、ごめんなさい」


お姉さんはしまったと言う感じにすぐに謝った。

見物客はパルテノンが崩れてしまった為に次々と去っていくが、中にはそんな俺に同情してガムや飴を置いて、慰めの声をかけて帰っていく人もいた。

たった数時間……たった数時間でパルテノンが……世界遺産が砂の藻屑になってしまった。

悲劇だ、これは悲劇に違いない。

製作時間より展示時間のほうが短いってどういうことなの?

ねぇ、教えて欲しいよ。

こんな現実はさすがに悲しすぎるよぅ。

でも、代わりに飴とガムは手に入れることはできたよ。

食料の確保は出来たけど。それでも、やはり俺の大作が壊れた方がショックが大きすぎるよ。


「ごめんね、お姉ちゃんが」

「い、いいよ。しょうがないさ。遅かれ早かれ壊れる運命なんだから」


俺は必死に、心の中で流す涙を堪えながら笑顔で返す。

この人に責任は無い。

もっと丈夫に作ればよかっただけだ。

もっと丈夫にもっと丈夫に……今度はコンクリで作るか……。


「本当にごめんね」

「いえ、いいんです。気にしないでください。壊れたらまた作ればいいんですから」

「そう?」

「ネバーギブアップです!」


俺がその返事をすると、一瞬わびれたような表所を取るがすぐにニコッと笑い、そして、そのまま少女のほうを向き、


「じゃあ、私は先に帰るね」

「うん、家でねお姉ちゃん」


少女に別れを告げると帰っていった美由希さん。

美由希さんが去ると、公園に残されたのは俺と少女だけになり、昨日と同じようになった。

先ほどまでの人だかりが嘘のようだが、パルテノンがなくなってしまったのでしょうがない。

二人だけになると、昨日とは違って少女が積極的に話しかけてきた。


「ねぇ、名前なんて言うの? 私は高町なのはっていうの。なのはって呼んでね」


自己紹介タイム突入か?

俗に言う、お友達フラグと言うやつなのだろうか……フラグってオタクっぽいな。

俺はあくまでオタクではないから、言いなおすか。

俗に言う、お友達イベントか!?

…………おかしい、どうしてこうもオタクっぽくなるんだ?

そんなことはさておき、俺の名前……あ、分からないんだった。

どうするべきかな? ここは分からなくてもうそでも教えるべきなのだろうか?

それともありがちな記憶喪失ということにして、同情……されるのは嫌いだから、ここは相手に聞くべきだよな。


「なんだと思う?」

「え?」

「俺の名前当ててみて?」

「名前……あてるの?」

「うん、分かるかなぁ?」


見よ、これが巧みな話術と言うやつじゃないのかな。

相手には自分の名前を悟らせずに、相手の願っている名前を選ぶことが出来る。

そして、相手に嫌悪感を与えずに偽名が完成する。まさに一石二鳥!


なのはは「うーん」と言いながら、左手の人差し指をあごにつけながら、頭を傾けたりして悩んでいた。

その姿が妙にかわいらしいのは言うまでもないだろう。


「あ、分かったよ!」

「ほほう、では聞かせて頂こうか」

「うん! 吉井あきひ──」

「俺は世界一のバカじゃない!」

「い、痛いよぅ。殴らないでよー」

「というかなぜその名前を知っている!?」

「え……本当にふと頭に浮かんだだけだよ?」


なのはは頬を真っ赤にして、ぽこすかと俺を叩いた。しかし、その必死の反撃はあまりにも弱いために全くの意味を成さない。

俺を暗にバカと言ったほうがいけないんだ!

俺はこう見えても、結構頭がいい……というか、ただ努力すれば学校の成績ぐらいは良くなるだろ。

なのに、なのによりにもよって俺をあの、バカでテストな召還獣の作品の主人公と一緒にするなんて! 

ていうか、俺がこの突っ込みができるとまるでラノベを読んでるように聞こえるじゃないか!?

それに、なぜなのはがこの名前がふと思い浮かぶんだ!? 非常に疑問だよ。

あくまで俺は──


「じゃあ、本当の名前はなんなの?」

「……もう一度チャンスをあげよう」

「え? また~」

「いいから、考えなさい!」


さすがにあの名前は嫌、といえばあの作品に悪いが──個人的には好きだけど──もう一度チャンスを与える。

今度こそ、今度こそはいい名前が来いよ!


俺はなのはに未知なる期待を込めてじっとみつめる。


「う~ん、じゃあ。鈴木一郎?」

「平凡だなオイ! ある意味有名だけどさ!」

「ち、違うの?」


鈴木一郎。

悪くない名前だがそれ以上に平凡と言うか減点対象が無いと言うか。

とあるスポーツ選手と一緒だからある意味有名でもあるけど、一体日本に何人ぐらい同一同名の人が……。


「まぁ正解……でいいかな?」

「本当!」

「ああ、正解だ!」

「やったーぁ、ありがとう」


なのはは喜びの声を上げると勢いそのままに抱きつこうとしてきた。

しかし、俺はそれを反射でかわす。


「いたっ! ひ、ひどいよぅ一郎君。避けるなんて」

「いきなり飛びついてくる方がおかしい」

「私はおかしくないよっ!」


なのはは涙目になりながら、俺に文句を言った。


普通、女の子が急に抱きつこうとしたら──と言う前提がまずおかしいか。

普通の女の子は抱きつこうとしないからね!

つまりなのはは普通じゃないということであり、かわした俺は普通であるためひどいことでもない。

よって文句を言われる筋合いもないので、


「なのはがおかしいんだよな」

「おかしくないよ!」

「おかしい!」

「おかしく……ない」

「おかしいさ、絶対におかしい」

「お、おかしくないもん……」


押し問答を繰り返してたら、なのはが涙目になりかけてしまった。

ちょっとやりすぎたなと反省しつつ、慰めてやることにした。


「悪かったよ、なのは。お前は普通だ」

「慰めになってないの!」


今度は逆にぽこっと叩かれたが、痛くもかゆくもない。

それでも、若干痛い振りをしてなのはの怒りを静めることにした。

なのはは単純で純粋なので、その演技にころっと騙されて、と言う言い方をすると俺が悪者みたいなので、言い方を変えて、演技に夢中になり、


「ご、ごめんね。強すぎた……かな? 痛くない?」


といいながら、俺を叩いた部分をスリスリする。


なんて純粋もとい、お人よしな子なんだ。これでは、演技をした俺が……。

や、やばい。俺の精神が自分の罪悪感で押しつぶされそうだ……、考え直せ!

俺はあの演技によってなのはの性格を知ることが出来た。

これは今後の友好関係に大きいものになるだろう。そうならば、無駄ではなかった。


「大丈夫だよ、ほれ俺は元気さ」

「そう? でも、本当にごめんね」

「そんなに真剣に謝れても困るけど……」

「え、ごめ──ううん、なんでもないよ。それより」


私とお友達になってくれるかな? となのはは続けた。割と真剣な表情で。

だから俺は、二つ返事。それはもう光速の即答で、


「もちろん、てかもう友達じゃないか」


そういうと、なのははものすごくにこやかになり、喜びのあまりまた抱きつこうとした。

なので、俺は当たり前のようにかわしてやった。


女の子に抱きつかれると言う体験は是非してみたいが、だからと言って実際に行うとなると……うん、躊躇うよな!

むしろ、なんでなのはが躊躇わないのか不思議なくらいだよ!

やっぱり、普通じゃないとか……。


この日、俺となのははお互いの名前を呼び合い、友達になった。

俺の名前は偽名……というか、本当の名前ではないがまぁそこらへんは気にせず、もしくはそれは関係無しに友達になった。

そのまま夕方までなのはと遊び、なのは「またね」と言って帰るべき家へ帰っていった。

なのはが帰ると、俺は独り公園に残されたので、昨日と同じくベンチに寝ようと思ったが……雨が降って来たので、仕方なく木下で寝ることにした。


家も無い、お金もない、名前も分からなければ食事はガムと飴だけだなぁ。

いつ死んでもおかしくない状況だけど、なのはと遊ぶのが面白いからいいかな。

雨がやんだら、また砂場で大作を作ればまたなんかもらえるかな。

まぁ貰えなかったら……水だけでもしばらく持つからとりあえずそれで頑張るか。

こんな逆境こそ……燃えるよな! 充実しているように感じると言うか。

なんか男のサバイバルみたいでさ。

かの蛇だってこんなサバイバルをしたんだ。俺にできないはずが無い……と思いたい。


{第10話まで続いたら無謀にもとらハ版に移ってみる……正気の沙汰とは思えない!}

追記
あまりにも主人公が感情移入しにくいと思われたので少し修正。



[17560] ─第4話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/12 22:08
俺がこの世界に来て一週間が経ったころだった。

「公園に野宿する小学生くらいの子がいる」と言う噂が流れ始めたようで、最近は公園に警察の人がよく見回りに来るようになった。

そのせいか、自分自身も捕まるわけには行かないという謎の抵抗心からばれないように公園に過ごす日が増えた。

ばれないようにと言っても、お昼の間は遊んでいても不思議じゃないが……さすがに平日のお昼は問題なので図書館に行ったり、海を眺めたりと自由にしていたが、基本的にその後はなのはと遊んだりした。

なのはと遊ぶことによって、一人の不自然さは消えた──ある意味、小学生程度の二人だけで遊んでいたら不自然なのだが、今は幸いにしても春休みに入ったらしい。

これはなのはが毎日顔を出すようになったことから、確信が得られる。

そして、なのはがちょくちょく食べ物を持ってきてくれているので、食べ物の心配は無かった。

その上、春と言ってもまだ3月のため、多少の肌寒さがあるはずなのだが、なぜか暖かい。

これは地球温暖化のせいである、というニュースを見たが、俺からすれば地球温暖化のおかげで生きていられるのだから、なんという皮肉だ。

と、ここまで言うとなんだか、ニートで公園のホームレスの話みたいに聞こえるじゃないか!

これならホームレス小学生で一儲けできるかな……。

そうすれば、何もせずにお金がうはうはと入ってくるよね!

なんてことを日々考えながら過ごしたりする。いつだってお金の悩みは真剣なのだ。

ようするに、そんなぐうたらと言っても過言ではない……ある意味ではサバイバルで充実した日々でもあるけど、それは置いておき。

俺はこの先どうすればいいのか、という疑問はこの一週間ずっと渦巻いていた。

もういい加減このサバイバル生活、悪く言えばホームレス生活はこの身体ではつらい。

いや、前の高校生の身体でも辛いので警察にでも保護してもらおうかなと思っている。


「ねぇ、一郎君」

「どうした、なのは?」


今日も今日でいつも通りに、なのはと砂場で遊んでいるとなのはがいつも通りに話しかけてきた。

女の子が砂場遊びで汚れるのはどうかと思って、一度聞いてみたことがあるのだが、こうやって一緒に遊ぶのが楽しいから気にしないとのことだった。

しかし、ここでふとした疑問も思い浮かんだ。

なのはは他にやることがないのだろうか? 毎日毎日こんなところ──と言ったら、この公園に失礼かな。この公園で遊んでばっかしで。


「なんで、一郎君は毎日ここで遊んでいるの?」

「え……」


先制攻撃だった。

こちらも思っていたことを逆に言われてしまった。

しかし、よく考えればなのははもしかしたら俺がいるからここに来ているのであって、実際のところは毎日ここで遊んでいるのは俺だけと言う事実。

毎日ここにいるのもそういえば俺だしね。周りから見れば明らかに俺が暇人……。

暇人と言うか宿無しのお金なし。

包容力ゼロだね、おい!


「なんで?」

「いつも、ここでしか遊ばないからたまには他の場所もどうかなって思ったの」


別にホームレスがばれたわけではないようだ。

ただここでしか遊ばないからいい加減飽きたと言うところだと思われる。

別段俺だってここで遊びたいわけじゃ……いや、確かに砂場は魅力的だけどさ。

他にもただで遊べて時間を潰せる場所があればどこだっていい。

今はその候補がここと図書館と言うだけの話だ。


「他の場所というと?」

「う~ん、私の家はどうかな?」

「高町家?」

「うん!」


高町家、なのはの家であり。前に会った美由希さんも住んでいる家か。

遊ぶ程度なら迷惑にもならないだろうし、なのはの誘いもあるから別に行ってもいいよね?

あ、でも俺……風呂も入ってないし汚いかも。

一応毎日水は浴びて、服も水で洗ってるけど、それでも汚いし……。

そんな俺が遊びに行って「汚物は消毒だー」なんて言われないだろうか。

とてつもなく不安だ。

しかし、逆に上手く行けばお風呂も入れるかもしれないし、あわよくばご飯だって……図々しいな、俺。

でも、生きるためには仕方ないよね。


「よし、じゃあお邪魔しようかな?」

「ほんと!?」

「案内よろしくね」

「まかせてね」






高町家はなんと庶民の敵だった。

理由は、一般家庭に道場なんてありますか? ないですよね? ありえないですよね?

それはともかく、高町家に行くと一家総出で俺を出迎えてくれた。

なぜかなと疑問に思っていると、なのはの父と名乗った士郎さんが、なのはが初めて家に連れてきた男の子だからね、と言って答えてくれた。

なのははそういわれ、もうお父さんってばーと恥ずかしそうに答えた。

なのはってもしかして寂しい子だったのか? と新たな疑問が浮かんだが、そんなのは余計なことだろう。

なのはがお風呂に入ってる間に、自己紹介をしてくれた。

なのはのお姉さんである美由希さんとお父さんである士郎さんは分かったので、次はお母さんの桃子さんとお兄さんの恭也さんの自己紹介をしてもらった。

士郎さんにも言えることだが、桃子さんも子供もちとの人とは思えない若さだ。

たぶんこうやって教えてもらわなければお姉さんと勘違いするほどに。

実際にそういったら、「お世辞が上手ね、じゃあ今度翠屋にきたらサービスしちゃうわ」と言われた。

翠屋って? と聞き返すと、高町家で運営している喫茶店だという。


自営業かよ……道場に引き続きもしかしてかなりのブルジョワなのか?

俺には縁の無い話だよね。

自営業もブルジョワもさ。

自己紹介が終わると、なのはがお風呂から戻ってきて、今度は俺の自己紹介タイムに入った。


「じゃあ、俺の名前は……鈴木一郎です」

「平凡ね」 「平凡だな」 「平凡だよね」 「平凡だ」


平凡言うなー!

俺がつけた名前じゃないって言うの! なのはがつけた名前だっちゅうの。

あ、親じゃないというところがターニングポイントね。


「以上です」

『短っ!』


だって、他に話す内容が無いのだからしょうがないじゃないか。

それとも特技は砂場遊びって答えるべきなのかな?

……どっちかっていうと、趣味か。


「なら、質問してもいいかな?」

「別にいいですよ」

「家はどこにあるのかな?」

「家は……どこにあるんでしょうか?」

「え?」

「……冗談ですよ」

「何だ、ビックリしたじゃないか」


俺の冗談でみんな笑う、笑っているのだが明らかに士郎さんの目は笑っていなかった。

というか、その目が怖かった異様に怖いです。


「っで、本当の家はどこにあるんだい?」

「ええっと、あっち! ……の方」


俺は公園があると思われる方向をさす。

別に家が無いことがばれても身寄りが無いことがばれても問題は無いのだけれども、初対面の人に心配をかけるわけにはいかない。

なので、俺はとりあえず今の自身の状況は隠しておこうと思う。

そもそも、もし転生者だ! なんていったあかつきには病院送り間違いなしと言うのもあるけど……。


「ほほう。そっちは海の方向だが、海の中に住んでいるのかい? 魚人君かな?」

「シャーハッハって感じですか?」

「あくまで教えてくれないのかい?」

「いや、まぁなんというか」


教えないと言うか、教えたくないと言うか、教えるべきじゃないと言う感じなんですよね。

かかわらない方がいいと言うよりは、こちらも説明の仕様がないというのが事実だし……。

だから、誤魔化すと言う手しかないわけで……。


「ふむ、ならこちらも深く追求する気はないけど……何か困ったことがあったら言ってくれないか? なのはの友達として相談相手ぐらいにはなるよ」

「あ、ありがとうございます」


誤魔化し続ける俺にあきれたのか、それともあまり関わっちゃいけないと思ったのか、質問を止めてくれた。

俺としては助かったと言う感情が大部分を占めるわけだが、もしかしたら俺の現状を助けてくれるかもしれないという、淡い感情も……。

いやいや、やっぱり迷惑をかけるわけには行かないよな。

これは俺の問題だし、何より貧相と言う点を除いては案外今の生活を楽しんでいる節もあるしね。

あんな公園でも一週間も住めば、都なんだよね。

愛着も出てきたような気がするし。


「込み入った話は、ここまでにしましょ。せっかくなのはが、かわいいボーイフレンドを連れてきてくれたんだから楽しんでもらわなくちゃ、ね?」

「もうっ、お母さん。一郎君、私の部屋にきて!」

「え、何で?」

「なんでも!」


なのはが頬を赤く染めながら、俺の手を慌てて握って引っ張っていく。

その瞬間、ガタッといういすが倒れるような音が聞こえた気がするが、その真相を俺が知ることはなかった。



手を引っ張られるままに連れて行かれた、なのはの部屋。

ドアを開け部屋に入ると、部屋の中はふんわりといい匂いだった。

そして、女の子らしい部屋の飾り──というが、そもそも女の子らしいと言うのはなんなんだろう?

女の子の部屋に行ったことがない俺には分からないから、とりあえず色とりどりで熊さんの人形などがあることから、女の子らしいと想像するしかない。

女の子の部屋ってだけで、なんだが若干ドキドキすると言うか緊張するなぁ。


「あ、あのね、一郎君」

「な、なにかな?」


名前を呼ばれて一瞬心拍数が上がる。

お互いの顔が紅潮を増す。

なんだか不思議な雰囲気に巻き込まれたような、包み込まれているようなそんな気分だ。


と言っても、ただなのはと雑談をするだけで別段あれな過ちや行為があるはずもない。

話の内容と言っては、お互いについて話すことぐらいだった。

なのはが、趣味は? ときいてきたので、一人で砂遊びかなと答え。

逆に俺がなのはに趣味は? 聞き返すと、何秒か悩んでゲームかなと答える。

一つの応答が終わると、沈黙がやってきてまたどちらかが質問すると言う感じに繰り返された。

ちなみにここで分かった情報は、なのはは来年度から小学生であることぐらいだった。

そういえば、俺っていくつぐらいなのかなと当然の疑問も思い浮かんだがなのはと同じでいいかと、てきとうに決め付ける。

その後も夜になるまで特に変化のない雑談を続けていたら、下から桃子さんがやってきて、夕食ができたんだけどよければご一緒にとのことだった。

その優しさに涙したけど、迷惑かけるわけには行かないのでつつしんで遠慮して家に帰った。

公園だけどね。

帰るときにはかなり引き止められたけど、それでも……以下同じ。

そんなわけで高町家ご訪問の帰宅途中な訳だけど、正直遠慮せずに食べればよかったと思ってる。

最近まともな食生活を送っていなかったので空腹がかなりの限界に達していた。

そのせいか、若干意識がもうろうとする。

今までは平気だったが、ここに来てどっと疲労感もやってきた。


なんだかんだで無理してたのかな。

無理無茶は俺の特権みたいなものだと思ってたけど、この身体にはきついのかもしれない。


フラフラと危ない足どりで歩く。

それでも、なんとか公園にたどり着く。

これで何とか今日も生きていることに感謝しつつ俺は意識を手放した。



したはずなんだけど、そう簡単に意識を飛ばせるはずもなかった。

原因としては極度の空腹だ。

お腹空きすぎると寝れないってことあるよね?

改めて遠慮せずにご飯を食べればよかったと思うのだが、過去の事を思ってもしょうがないので、今を生きるための手段を探す。

今日は砂場で建設作業をしなかった為、手ごろな食べ物が手元にはなかったので、とりあえず水でお腹を満たす。


うぅ……水っ腹が非常に気持ち悪い。

たゆんたゆんしてるよ。

ほらあるくだけで、たぷんちゃぷんって音が聞こえるよ。

食べる前より気持ち悪いかも、うっ出しちゃいそう……あ、やばい……。



──胃の中洗浄中につきましてしばらくお待ちください──



すっきりしたわぁって逆に中にあった物まで出てさらに空腹に……。

これが今流行のデフレスパイラルってやつなのか!?

不景気の影響がこんなところに……俺がお金持ってないのもそのせいか。

…………。

なわけないか。


とりあえずやることもなく暇だったので、気分を一転する為に普段をやらないこと思い立った。

気分一転といえばランニングだろ!

意気込んだはいいものの、歩いて数歩で意識が再び朦朧とし始めた。

ランニングは愚か歩くことすら叶わないこの身体……空腹とは恐ろしいものだった。

諦めてベンチで横になろうと思った矢先、急に浮遊感に襲われた。


あれ、身体が軽くなった?

あれが地面がこんなに近くに感じるなぁ。


空腹のせいで頭もろくに回らず、重力に任されるまま頭から倒れた。

そこでようやく意識を失った。




{高町家拉致イベント回避! に力を費やした}



[17560] ─第5話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/13 22:53
「──……ちょ──……よ!」


声が聞こえる。

そんなに大きな声ではないが、声がどこからか聞こえる。


「たす──だれ……」


少女の声っぽい、それも危機迫るような、そんな感じの。

だから手放していた意識を引き戻す。

誰かが救いを、助けを求めているような気がしたから。

むくりと立ち上がる。

そこに考えなどは特にない。


「おい、何をやってるんだ?」

「何だ……よ……。お、おまえ、か……顔が青くて、赤い……ぞ……」


顔が青くて赤い? それどこの信号?

俺は普通の日本人だから、顔はどちらかと言えばその間の黄色のはずだけど……。

そう思って、顔を触ってみると……え? ……は?


「痛っ……って、な……なんじゃこりゃあああ」

「「うわぁぁああぁぁ!!」」


思わず叫び声あげちゃったよ、俺が。

目を開けたらビックリ、目の前が赤く染まって見えるし頭はがんがんに痛いし。

助けを求める声が聞こえたから立ち上がったってかっこいいこと言っておきながら、すでに意識が朦朧だよ……。

あ、でも、その前に。目の前で明らかに少女が襲われてるっぽい。

少女の様子は俺の赤い画面ではよく分からないが、襲ってた奴らの表情はなんとなく感じれた。

なんか怖がってるようだ。

……何に怖がってるんだ?


「寄って集って少女を襲うなんて……非道だな」

「こ……こっちにくるなぁぁああ」

「え? よく聞こえないんだが?」

「だ、だからこっちに──」


なんか耳まで遠くなってきた。

寒気もするな。

かなりまずいんじゃないか?

少女云々より俺の方が……。

あ、襲ってた奴その一が気絶した。その二はなんだか、逃げていったぞ?

どうし──つっ……なんか考えようとすると頭が痛い。

そして、異様に頭が熱い。オーバーヒートでもしてるんだろうか。


「ちょ、ちょっとあんた大丈──」

「え、なんかい……」


あれ、目の前が真っ白に……。

あ。青くて赤いって、顔が真っ青で血で真っ赤って言う意味か、納得。




真っ白な世界から帰ってきました。

目を開けるとそこは……、


「俺の知らない天丼」

「天丼!?」


と、そんなことはどうでもいいとしてここはどこだ?

見渡す限りかなり広い部屋に見えるけど……。


「目が覚めた?」

「え? あ、は──痛っ」

「無理しちゃ駄目よ。かなりぱっくり頭が割れてたみたいだから……血がすごかったわよ」

「いや、そんなことよりこ──」

「そんなことよりってあんたのことでしょ!」

「あ、はい。すみませんでした」

「まぁいいわ。ええっとここはどこか、よね?」

「ああ、できればここに至るまでの経緯もお願いします」

「分かってるわよ」


アリサと名乗った少女曰く、ここはバニングス家(すごくお金持ち!)の屋敷でこの部屋はお客様用の部屋とのこと。

そもそもなぜこの家にいるかと言うと、最初は病院に送ろうと思ったのだが俺の身元はおろか名前すらも分からず、その上身分を証明する持ち物すらもないこと。

また、アリサを助けた‘命の恩人’としてバニングス家で手厚く迎える為だったらしい。

命の恩人と真面目に言われても記憶がいまいちない。

だから、実感として湧かない。

人を助けたと言うことが。

ただ一部の情報はあるにはある、公園で過ごしてたとか。


公園で過ごすとか……どこのホームレス!?

自分で自分の記憶に突っ込んでしまった。


「……ありがとう」

「ん?」

「あんたのおかげで助かったわ。本当にありがとう」


顔をそらしながら、お礼を言ってくる。

本当に感謝してるかどうか一見怪しいが、顔が赤くなってるあたりお礼を言うのがなれてないだけなのかな。

でも、感謝されるようなことした覚えが全然ない。


「いや、恥ずかしそうにお礼を言われた後で申し訳ないんだけど」

「べ、別に恥ずかしそうになんかしてないわよ!」

「……まぁそれはおいといて」

「おいといてってあんた……」

「俺はなんか感謝されるようなことした?」

「な、何言ってるのよ! 当たり前じゃない! あんたがあのときに来てくれなかったら……なかったら」


その時のことを思い出したのか、身体を震えながら泣き出す。


それほどまでに、辛い出来事だったのだろうか……。

命の恩人なんていう言葉を使ってる時点で思い出来事であることは予想できるけど。


その姿があまりにも悲しみに満ちていたのであやす為に背中をなでなでしてさすってあげると、俺にぎゅっと抱きついてきた。

ぎゅうッと……さらに強くぎゅーッと。

俺もなされがままにされた。

アリサの体温とか心拍数とか息遣いとか聞こえる。

その感覚が、温もりが直に伝わりなんだか俺もホッとする。

そんなアリサは俺の胸元で泣いてるようだが、もちろん見ない振りをする。

それが男たるものだと本能で思うから。

しばらく経つと、アリサは俺か離れた。


「はぁ……スッキリしたわ。ありがと」


本当にその顔には涙一粒も見せず、さっきまでの気丈に振舞うアリサの顔だった。

なんとも凛々しい、そして美しいと言う言葉が似合う。

こうやって、正面から見ると……、

「お嬢様みたいだね」

「お姫様って言ってもらったほうが嬉しいわね」

「女王様?」

「お姫様!」

「ああ、女帝とか?」

「お・ひ・め・さ・ま!」

「え? どこらへんが?」

「喧嘩売ってるのかしら?」

「いやいや、そういうわけじゃ。じゃあ、お嬢様と言うことを証明してくれよ」

「……この部屋の広さを見ればわかるじゃない」

「この部屋だけかもしれないじゃないか」

「そう、ね……じゃあ」


そう言ってアリサは俺を手招きして、耳に囁いた。

言葉ひとつ言うたびにくすぐったくてくすぐったくて、そして気持ちいいような……謎の感覚に教われた。


「どうよ!」

「す、すごいな!」

「そうでしょう。見直した?」

「耳にふぅ~がこんなに効くとは! おかげで怪我も治りそうだよ」

「そこじゃないわよ!」

「いたっ、アリサ……俺は怪我人!」

「あ、ごめんなさい……じゃなくて! もう一回言うわよ」


再び同じ行為を繰り返す。


な、なんだってー!

月の収入が×××であの首相の小遣い並の~~だって!?

そ、そんなの……、


「ブルジョワじゃないか!?」

「セレブって言って欲しいわね」

「けっこれだから金持ちは」

「あんたさっきまでの態度と180度違うわね!」

「お金持ちは庶民の敵だから仕方ないじゃないか!」

「ただの妬みじゃない!」


ええ、妬みですよ。

それ以外に何かあるんですか?

俺達プロレタリアには理解できませんね。


「うぅ……ただの八つ当たりじゃない」


ごもっともで。

でも、恨まずにはいられないのが貧乏人の悲しい性なのです。


「私のことはいいじゃない。それよりもあんたのことよ」

「ん?」

「あんたは一体何者なのよ?」

「というと?」

「あくまで白を切るつもり?」


白をきると言うか、俺自身も自分自身について分からないことだらけだからしょうがないんですよね。

むしろ教えて欲しいです。


「……不本意だったけど、あんたが眠っている間に色々と調べさせてもらったわよ」

「いや、ありがいぐらいかな」

「本当に分からないの? いいわ、調べた結果……何も分からなかった」

「は?」

「何も分からなかったのよ! だから私だって、あんたのことをあんたと言うしかないんじゃないの! 分からないんだから……」

「そう……なのか……」


さっきから何度も、自分自身でも記憶を辿っているのだが、頭の怪我のせいなのかいまいち記憶が思い浮かばない。

深く思い出そうとすると、神経が切れるようなそんな痛みを感じる。

それでも、覚えている情報といえば、最初に思い出した以外では砂場、建築、トラック、サバイバル、なのはと言う感じ。

多少ながら、公園に住んでサバイバルしていた記憶と、ここが知らない世界で転生した先ということぐらいはかなり鮮明に思い出せる。

転生前の記憶は若干ぐらいにしか……。

しかし、転生前の記憶と言っても知識は残っているのだが思い出……とでも言うべきものがあまりない。

自分が転生したと言うのがにわかには信じられないけど、その知識が物申している。

だから、信じざるを得ない。


ようするに実際のところ記憶に関しては違和感だらけ。

穴だらけ。

今、こうやってしゃべってるのは本能的なものだと思う。

知識、みたいのはちゃんとあるんだけどな……。


「記憶が全然思い出せないんだけど?」

「ああ、それね。検査してくれたお医者さんが一時的なショックで記憶が飛ぶまたは無くなる可能性があるって言ってたわね。

だから、もし記憶喪失になってもたぶん……たぶん思い出せるって言ってたわよ?」

「たぶんを二回も……」

「……重要なことらしいわよ」


絶対はない、ということなのかな。

記憶があるにしろ無いにしろ、もとよりあんま分かっていないようだし、大した差はない……かな?

そもそも、アリサが言うには下手したら死んでてもおかしくないほどの怪我だったらしいから、生きていることに感謝だ。

しかし、生きてはいる。

生きているが……俺はこの先どうすればいいのだろうか?

怪我もしてるし、身元も分からない、その上名前も分からない……なんて。

だけど……俺はここに居てもいいのだろうか?


「バカ!」

「……え?」

「少なくとも怪我している間は居ていいわよ」

「あれ? 声に出してた?」

「表情みれば分かるわよ! 何考えてるかぐらい。今、ここを出て行こうとしたでしょ!?」


……分かっていない。

そう突っ込もうとしたけど……邪推だと思った。

それに意味合い的には幾分かはあってる。


「じゃあ、少しだけ……世話になろうかな?」

「そうしなさい。それで……私と一緒に──」

「なに?」


最後の言葉が上手く聞き取れなかった。

ただアリサはその言葉を言おうとした瞬間、目線をはずした。


「……なんでもないわ。それよりも名前!」

「名前……ああ」

「いつまでもあんたじゃ不便でしょ」

「確かに」

「確かにって……名前は?」

「……忘れた。というかそもそもないような気がする」

「はぁ? 名前も分からないの?」

「正直に言えばね」

「本当に何も分からないのね……じゃあ、良いわ」


アリサは、呆れた表情からちょっと楽しそうな顔になった。

そう、それはまるで面白いことを見つけたような。


俺は遊び道具じゃないんだが……まぁ好きにさせてやるか。

でも……名前には引っかかるものがあるんだよね。

どこかで聞かれたような、それもよく名前を呼ばれたような……そんな。


「鈴木一郎ね」

「平凡だね!」


そうそう、こんな感じの名前だった。

ほんの前のことだけど、でも懐かしいような名前だ。

だから、なのかな……。


「え……ど、どうしたのよ! 涙流して……」

「あ……ああ本当だ」


涙腺がもろい?

知識が言うには、身体に引きづられているということらしいが……どうだっていいな。

こんな情報、本当に今更どうでもいい。

大切なのは、


「そんなに嬉しかったってこと?」

「どうかな……どうだろう……」

「どっちなのよ?」

「でも……嬉しい方……かな」


今……だよね。


ただ気になるのは、記憶にある単語。

砂場とか砂や建築はどうとでもいいとして、もっと。

もっと重要なことがある気がする。

忘れてはいけないような。

そんな思い出が。

それは、前世のものではなく今の、

この世界に来てからの思い出とでも言うべき記憶。

その中でも一際に輝く……というよりは粘り強く意識に残っている。

なのは……という名前。

……名前?






{シリアスなんて苦手です……記憶喪失はむつかしいorz 忘れられしメインヒロイン}



[17560] ─第6話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/17 00:06
結論から言って、アリサの家にしばらく住まざるを得ないことになった。

理由としては、お医者さんもせめて治るまでは安静にということと、アリサがまだお礼をし終わっていない。

恩を返しきっていないから、駄目だと言ったからだ。

アリサのお父さんも俺の目が覚めると居て、アリサを助けてくれてありがとうと何度、何度も繰り返し言っていた。

そして、アリサと同じようにせめて怪我は治るまではと。

自分自身としても、確かに頭をちょっと動かすだけで結構な痛みを感じるので致し方ない部分はある。

でも……、女の子の家に居候はちょっと、ね?

と考えないことも無い。

あとは、食費とか医療費とかの負担も受け持ってもらっているので、ここら辺でも引け目がある。

あるのだが……当のアリサは、その程度じゃ私の感謝の気持ちはそのぐらいでは……らしいので、とりあえずご好意に感謝することにした。

本当に、アリサ様様だ。

今度、お嬢様とでも呼んでやるか。女王様の方が似合いそうだけど。

そんな中でも悪戯心が働かないわけでもなかった。

状況は思ったよりも、好転しつつあるのだ。

とは言うものの、あくまで怪我が治るまでの付き合い。それが終われば、記憶を頼りに公園に戻り前と同じような生活を送るに違いない。

それはもう、しょうがないものとしてサバイバル生活を満喫してみようと思う。

記憶……といえば、ふとしたきっかけで治るとのことだった。

それは思ったとおりでそんなに重要視しなくてもいいらしい。あくまでも、一時的なとのこと。

もとより記憶を失ったものもほんの一部分と言うほうが正しい。

その大部分が思い出というような感情的なものだが、それも全部が消えたわけではない。

もっと簡単な言い方をすれば、本当に事故前後とかなり前の記憶が多少忘れられている程度。

もののついでに怪我についてだが、少なくとも一ヶ月は要注意だそうだ。

やっぱり脳については、慎重にならないといけないらしい。

人体の神秘って奴なのだろうか?

とにかく、医者が言うには安静にしろこの一言に尽きるらしい。

らしいのだが……、


「家主もいない家に一人寝てるのってなんだか、ふてぶてしいというか、なんか悪い気がする」


こんな豪邸に一人に残してアリサは鮫島さんをつれて学校に行ってしまった。

おかげで、場違いな場所に残される羽目になったわけだが。

かれこれ一週間ぐらいこの部屋、この家では過ごさせてもらってはいるものの、慣れるものではない。


「寝てるだけだと悪いから、何か手伝えることは無いかな?」


ベッドから立ち上がってみる。


……痛っ!

やっぱり多少のゆれで頭痛いね……でも、この程度なら我慢出来ないこともないかな。

とりあえず、鏡で今の自分の怪我の度合いを見てみたいね。

話で聞いてるだけだと、いまいちわからないと言うか把握できないからね。


とりあえず、部屋の中を見渡してみると鏡らしいのは見当たらなかったので、しょうがなく窓で我慢する。

窓を覗き、今の自分の姿を眺める。


「うわっ! 誰だこいつ……俺か」



蒼白というか結構やつれてるというか痩せてる?

頭はなんかミイラみたいに包帯がぐるぐる巻きだし、ところどころに血の斑点があるよ。

なんとも痛々しいな。

よくこんな怪我をして生きていたものだ、自分を褒めてあげたい。

っと、そんなことのために立ったんじゃなかった。

何か俺に出来ることはないかな。

無償で色々されるのってやっぱりなんか気まずいものがあるしね。

……こういうのが貧乏症っていうのかな。

でも、ただより高いものはないと言うしね。


当てもなく立ち上がったものの、実際にはやることもなくおぼつかない足取りで徘徊するしか選択肢はないようだった。

どちらにしろ、じっとすると言う行為があまり性に合わないのだ。


よし、考えるよりもまず行動だな。

まずは部屋を出てこの家を把握するとしよう。

この部屋の大きさから家自体も相当大きいんだろうな……ちょっとした冒険みたいで楽しみかも?

では、まずこのドアを開けて……い、痛っ! こここ、小指挟んだ!


小指を挟んだ勢いで、もともとフラフラの状態だったため簡単に体制を崩し、


「あ、デジャブ」


再び脳に強い衝撃が伝わった。










「はい、口をあけなさい」

「いや、自分で出来るよ」

「何を言ってるのよ、手が動かないのに出来るわけないじゃない」

「それもそうだけど」

「ほら、早くしなさいよ! せっかく私が助けてあげるって言ってるのに!」

「いやいや、そもそも──」

「そもそもはあんたでしょ! 部屋を出ようとしてそうなったんだから」

「いや、だからって」

「何よ!」

「手が動かないのはアリサのせいだろ!」


目を覚ましたとき、俺の身体は束縛──ベッドに縛りつけれれていた。

ちなみに俺は別にこういった、束縛ものに興味はあったりはしないよ?


「こうでもしないとまたどこかへ行こうとするでしょ! 怪我も治ってないのに」

「だから、それは悪かったと何度も……」


俺はあの後、結局また気絶してしまい、鮫島さんにアリサを送って帰ってきたところを助けてもらった。

今回は幸いにして大怪我はなく、今度こそ安静にするようにとお叱りを受けただけだ。

まぁかなり凹まされるまで怒られたけどね。

このままだと、永遠と俺が責められ続けるので話を変える。


「アリサ学校どうだった?」

「…………」


無反応、どころか暗い影が射した様な顔をした。

今日は小学校になって初めての授業……というよりは入学初日だった。

俺も入学ぐらいの年齢なのかな?

なんとも実感の湧かないことだよね。

記憶が全部戻ったとしても、たぶんこの気持ちには変わりないとは思うけど。

そんな俺のことはどうでもいいとして、アリサの反応が気にはなるな。

あまり踏み込みたくないけど一度は聞いてみるとしよう。


「何か嫌なことでもあったの?」

「……別に」

「本当に?」

「何も……ないわよ」


本人はあくまで話さないつもりらしい。

それならそれでいい。

俺には知る権利はないのだから。

ただ、相談や悩みがあるなら話ぐらいは聞いてみたいな。

外見年齢はあれだけど、一応中身はね。

少し記憶ないけど。

ただ本人が話したくないなら無粋かな。


「そう、ならいいよ」

「え? もっと聞いたりしないの?」

「聞いて欲しいの?」

「…………」


沈黙は肯定……だったかな。

つまりはここがアリサが聞いて欲しくないことの境界線と言うことだろう。

お互いに話したくないことはあるもんだ。


「はい、ここで学校のは話は終了にしようか」

「あんたがしてきたんでしょうが!」

「あれ? そうだっけ?」

「ああもうっ!」


気分一転だよ?

あのままじゃ空気が張り詰めたまんまだし。

シリアスはまだまだ早い。


「と言うことでアリサ」

「なにかしら?」

「とりあえず、この縄を」

「外せるものなら外してみなさい」

「実はすでに外れています」

「……え?」


アリサは俺が寝てるもんだと油断していたからね。

あらかじめ縄がゆるく縛られるように工夫しといたのさ。

これぞ本当の縄抜けの術……と言うほど大げさなものでもないけどね。

どうやったかは……禁則事項です。


「じゃ、じゃあ今までのは!?」

「演技です」


俺はにこやかにぐぅ~(古)っと指を出し決める。

これぞ玄人芸だぞっと。


「それは私がずっとあんたに騙されてたって訳ね?」

「え……」

「あんたは、騙されてる私を見てバカだなこいつって思ってたわけね」

「いや、別にそんなつも──」

「はははっ! 覚悟はできるんでしょうね! 一郎!!」

「ええっと、意義があります! 俺はそんな気持ちなどな──」

「異議を却下するわ! よって極刑よ!」

「そ、そんな理不尽なぁぁああぁぁ」


この日の記憶はここで途絶えた。

その後、俺の定期健診にきたお医者さんに俺とアリサともども怒られた。

アリサざまみろである。


「あんたもよ!」

「痛いっつうの! いちいち頭叩かないでくれよ。デリケートなんだから!」

「あんたのどこがデリケートなのよ!」

「あ、また……」


そのうちどこかの工場長みたいに、人形型の爆弾投げつけてやる!










アリサに、もぐらたたきのもぐらのように、またはワニワニパニックのワニのように頭をたたかれる毎日だが、それでも経過は順調だった。

完治まではまだ時間がかかるが、完全安静期間は来週で終了となった。


そのころアリサは、いつも学校から帰ってくると不機嫌だった。

しょっちゅうぶつぶつと呟いている。

以前の反応から、やっぱり何か問題があるのだろうかとついつい余計なことを考えてしまう。

例えば、苛められてるんじゃないかとか。

アリサのその容姿は他を圧倒するほどの、外国人ならではの美しさ、綺麗さがある。

それは最も髪の毛に現れており、輝くような金色の髪が特徴的だった。

また、その中には碧眼というのもある。

よく見れば非常に綺麗な瞳なんだ。

青色の目。

なぜそんなのを知っているかと言うと、しょっちゅうその瞳に見惚れてしまい見つめることがある。

それはつまり、よくアリサと見詰め合うことが多いと言うことと同義で。

その度にアリサは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながら俺を叩く。

叩くのはやめて欲しいものだけどね。

話が逸れたが、つまりはその日本人にはない異端さで苛められてるんじゃないかと思ったが、そんなことはないらしい。

それは、アリサの通っている学校がアリサのようなかなりの上位社会に生きる偉い人たちの子供が通うような学校で、特別そういった問題はないとのことだった。

もし、これが普通の学校ならと考えたら……アリサのことなのだが、なぜか俺までぞっとする。

ならば、何か。

勉強、と言う線もあったがそれも無かった。

アリサは英才教育により勉強はかなりできる。

それはもう学年でトップになるほど。

こうやって色々とアリサの悩んでいることについて考えたが、無意味なことなんだ。

この問題はアリサの問題で俺の問題ではなく、お互いにここには踏み入らないようにしていたからだ。

なのだが、ついに聞いてしまった。

俺は意外と我慢が出来ない体質なのかもしれない。


「アリサ」

「なにかしら」


相変わらず不機嫌そうな……いや、私は不機嫌ですといったような無愛想な顔をする。

これで隠してるつもりなんだろうか?

悩んでますというか、ちょっと気に入らないことがありますって言ってるようなものじゃないか。


「最近学校どう?」

「お父様みたいなことを言うのね」

「う……過ぎたことだったかな?」

「ううん。むしろ何で今まで……なんでもないわ」

「……そうか。それで?」

「特に何もないわよ」

「嘘は言わないでほしいんだけど?」

「嘘じゃないわよ!」


必死になるのがなお怪しいよ。

アリサって一見素直じゃないようですぐ反応するから素直なんだよな。

そこそこ付き合ってみないと分からないけどさ。


「嘘じゃないわよ……ただ、ちょっと気に入らない奴が居ただけ」

「気に入らないって?」

「よそよそしいというか……なんか一人高みの見物っていうか……とにかく気に入らないのよ!」

「なら関わればいいじゃん」

「え?」

「一人よそよそしくて、関わろうとせずにいるならこっちから構えばいいじゃないか」

「な、そんなこと……簡単にっ!」

「まぁアリサの努力次第じゃない?」


結局人間関係なんて、自分から関わらないとどうしようもない。

むしろ、自分から動いた方が情況が好転することのほうが多いんだ。

それは人間関係に限らず、大体のことに当てはまる。

…………って、俺の担任の先生が入学式の日に俺たちに言ってただけだけどね。

他人の受け売りだけど、でも……、


「そう……わかったわよ。あんたがそう言うなら、やってみるわ」

「じゃあ、頑張りなよ」

「前から言おうと思ったけど、あんたっていつもどこか他人事よね?」

「他人事じゃないの?」

「……そう、あんたにとってはそうなのね」

「ん? 何か?」

「なんでもないわよ」


アリサが少し寂しそうにした気がする。

何はともわれ、俺の助言というほど大したものではないけど、この話がいい方向に向かうことを祈る。

アリサって変なところで男気があるから、気になる人にちょっかいをだす男子生徒みたいにやらないとも限らないしね……。

いや、それはないか。

さすがにお姫様が、ね?




~おまけ~
作者がちょっとギャグ成分が足りぬ、書きたいのだがタイミングが分からないと思って書いたものです。
読むか読まないかは貴方次第! 面白いかどうかも(ボソ

──休日の公園で、鉄棒を坂周りででぐるぐる回ってる人の姿。

「ねぇ、ママあの人すごいよぉ?」

「み、みちゃ駄目よ」

「ふんっ! ふんっ!」


──滑り台を逆走ダッシュしてる人の姿。

「すごい早いね! 僕もあの人みたいに早くなりたいよ」

「迷惑だから駄目よ」

「圧倒的に速さが足りない!」


──公園の草陰でダンボールを被りひたすら待機している人の姿。

「お母さん、あの人何してるの?」

「あれはダンボールよ、中の人なんて居ないわ」

「ごそごそごそ」


──なんだかんだで公園生活を満喫してる一郎であった。




{シリアスなんていらない……ほしいのは愛とギャグ(現実で)}



[17560] ─第7話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/17 12:42
翌日の話。

アリサが学校に行って家に帰ってくるまでに俺はお医者さんの定期健診を受けた。


「怪我の調子はどうかな? 一郎君」

「先生までそう呼ぶのですね」

「違うのかね?」

「いえ……いいですよ。別に」


お医者さんに言われて改めて自分の名前、一郎の定着度に気付いた。

俺の名前は一応違う──実際には未だに分からないままだが、まぁこれはこれでいいんじゃないかなと思い始めてはいるのだ。

何より覚えやすいしね。

逆に言えば普通すぎてインパクトには欠けるかもしれないけど。


「怪我の治りは早いね、まるで野人のようだ」

「褒めてるのですか?」

「当たり前だよ。何を言ってるんだい? ああ、そうか頭が怪我してるから理解できないのかね」

「医者の発言とは思えませんね!」

「事実を言っただけなんだがね。医者は事実を患者に教えるのが仕事のひとつなんだよ」

「余計に酷いです!」


患者が俺じゃなければもしかしたら、相当落ち込んでるかもしれないよ?

俺だからこうやって話してくれるのかもしれないけど。


こういった検診兼カウセリングは実は俺の中では楽しい時間の有意義な時間のひとつとなっている。

俺の日々はアリサとしゃべるか、犬と戯れるか、この人としゃべるかだ。

アリサや犬はこの家に住んでいるので、遊んだりしゃべったりするのは当たり前だが、先生とはいかほどにと思うかもしれない。

しかし先生は見ての通り、聞いての通りお茶目っ気のある人だ。

明らかに患者に対する会話ではないのだけれど、逆にその会話が親近感を感じるのもまた事実。

彼曰くは、患者のケアも医者の仕事だからね、とのことだが、患者に悪口というか傷つくようなことを言うのも医者の仕事なのか?

さらさら疑問である。

こんな調子で、お医者さんとしゃべっていると時間は過ぎアリサの帰ってくるころの時間になる。

この時間になるとお医者さんは次の検診日を告げて帰る。

今日も今までどおりに、帰っていった。

そしていつもなら先生と入れ替わりにアリサが帰ってくると言うのが日常なんだが……、


「帰ってくるのが遅いなアリサ」


今日は帰ってくるどころか、家に帰る気配すらもない。

こうすると俺は非常に暇になるのだが、それ以上にアリサの身が心配になる。


鮫島さんが居るから万が一と言うことはない思うけど、ね。

それでも気になるものは気になるな。


俺にとってアリサは……なんだろう。


今まで考えたこともない疑問が思い浮かぶ。

今となっては、アリサの家に住み着いていると言っても過言じゃない状況で、例えそれが怪我が治るまでと言う条件であっても、居候に変わりなかった。

それは、アリサにとって俺が命の恩人であるからであり、俺にとってアリサとは?


「……友達、でいいのかな?」


俺とアリサはよくしゃべるとは思うし。

そこそこには、くだけて話をすることもある。

お互いの事情には関与せず、というか暗黙の了解的に深いところまでは関わろうとはしない。

アリサにはアリサの、俺に俺のといったふうに。

これ自体は俺の方がこの傾向が高いんだけどね。

主に、転生のこととか転生のこととか転生の……大切なことなので3回言ったんですよ。


そんな時だった。

俺の部屋のドアが開いた。


「に、逃げてきちゃった……」


顔を真っ赤にし半泣きのアリサが立っていた。











さて、アリサが前々から‘気に入らない’奴と言っている人が居るのだが、その人の名前を俺は知らない。

単にアリサが好かない、程度にしか。

しかし、彼女は俺が寝ているベッドを涙でぬらしながら語っているのを聞くとどうも、アリサはなぜかその‘気に入らない’奴のことをよく知っているようだった。

それは単純に‘気に入らない’と言う感情だけじゃないからだろうと俺は思う。

‘気になる’のだ。

その人、その子の事が。

好きとか嫌いとかを除き、アリサが‘気にしている’存在なのだろう。

彼女の場合、本当に嫌いなら話すことすらも拒否するだろうしそいつの事を考えることなど拒絶するだろう。

その点から考えて俺の予想は正しいと思う。正しいものとして考える。

では本題、アリサのないている問題はその気になるあいつが関わっている。

それは学校での出来事だったらしい。

アリサは俺に言われたとおりに、気に入らない奴に構おうと、絡んでいこうとしたらしい。

この行動からみても、やはり‘気にしている’ようだった。

ここで口論となってしまったらしい。

詳しい話をアリサは語ろうとしないので、結果しか分からないのだがなんとなく想像は出来た。

つまりアリサはちょっかいを出したのだ。

それは、まるで気になる女の子に手を出す男の子のように。


悪い予想が当たってしまったな。

ただ暴力は振るってないみたいだからそこまでの問題ではないかもしれないけど。

それでも何にちょっかいを出したかによっては大問題だ。

例えば……大切なもの、とかね。


アリサは続きを話す。

涙声で、擦れるような苦しそうな声で。


「その時に、他の奴が来たのよ」


そのほかの奴。

そいつはアリサを叱咤し、バシンと一撃、平手打ちを頬に食らわせたと言う。


「『分かる!? でも大事な物をとられちゃった人の心はもっともっと痛いんだよ!』だって。その言葉を聞いて、また口論に……なっちゃった」


嗚咽すらも聞こえてくる俺とアリサの距離。

実際に分かるはずのない悲しみが直に伝わってくるようだった。

アリサはこの言葉を聞いて逆上したのか?

違う……アリサはそこまで愚かでもないし、元々聡明な子だと俺は知っている。

だからたぶん……


「分かっていたのよ!! 分かって……た。私が悪かったのも……でも」


止められなかった。これ以上また傷つけるかもしれないそう思った。

だから、逃げてきてしまった。

アリサは後悔している。

なぜ正直に成れなかったのかと。

どうして、こうなってしまったんだろうと。

もっと、もっと自分がしっかりして話しあっていれば……


「友達が……出来ると思ったのにね……。私ってバカよね。本当な心のどこかであの子……すずかって子と私がどこか近いものがあってなんとなく、なんとなくだけど友達になれると思っていたのに」


本当に私のバカ。

ここまで一気に語り、そして泣き崩れた。

ベッドのシーツを千切れるほどに強く握り捻り、悲しみと後悔を涙にして。


アリサが話したいことはこれで全部かな。

結局アリサは友達が欲しかった、そうだよね。

なら、答えは簡単じゃないか。

雨降って地固まる。喧嘩するほど仲がいい。

後者は若干違うかもしれないけど、それならこれは逆に……チャンスじゃないか?

だからここからは俺が少しアドバイス。

転生前の記憶の中にある思い出の欠けた知識と言葉でアリサを……。


「失敗したと思ってる?」


俺が急にしゃべりだしたので、アリサは少しビックリしたようにビクッ身体を震わせたが、顔を上げずに頭を少し上下に動かす。

肯定の意だった。


分かってるじゃないか、自分でやったことを。

なら何を悩んでいるんだよ。


そう言ってやりたかった、けどそれではアリサに届かない。

素直になれないアリサには届かない、だから


「なら挽回しなくちゃな」

「…………」

「サッカー選手だって自分がミスしたらその分を取り返すために必死にプレイするんだ。

ミスをしたマイナス分をプラスにするために。

ミスしたら手遅れなんじゃない。ミスしたからこそ燃える物だってある。ミスしたからこそ起きる奇跡だってある」


「…………」

「問題はそのポジティブな発想。逆転への発想が出来るかだ」


ただ塞ぎ込むのではなく、だったらその分を取り戻すと言うやる気。

今回の出来事については手遅れなんて言葉はない。

学校でまだ小学一年生、やり直しはきく。

人生にやり直しはきかないが友情にはやり直しなんてつき物だ。


「アリサ……言っていることが分かる」


頭を左右に振る。

「分からない」と答えたということだ。


「ならもっと分かりやすく。単純な話だ謝ればいい。昨日はごめんね、本当は友達になりたかったと言えばいいんだ」


フルフルと、身体を震わせる。

握っていたシーツをさらに強く握る。

そんなこと……出来ない。そう言っているように見える。

でも、だからこそ。


「素直に謝ればいい。アリサは素直になるのが苦手そうだから難しいだろうけど。でも、それが最も近道だ。友達に……なりたいんだろ? ピンチは最大のチャンスさ」

「……うん」


かなりの間が開き小さな声で答えた。

色々考えたのだろう、そして現実を見た。

俺が言わなくても本人分かっていたんだと思う。

だからこそ最後の一押しが必要だった。何かのきっかけが必要だった。

それがたまたま俺だったというだけで、誰でもいいはずだ。

ただアリサは家に俺がいると言う環境のために、現実から逃げて帰ってきた。

俺がいなくても解決は出来ただろうしむしろいないほうがよかったのかもしれない。

でも……そんな事を考えても仕方ない。

もしかしたらその逆だってあったわけだ。


「……ありがとう。おかげで目が覚めたわ」

「礼には及ばないよ。今も世話になってるしね」

「……そうね。なら礼は言わないけど感謝はしてるわよ」

「まぁ余計なお節介だろうけど」

「ふふ、なんかお兄ちゃんみたいよね。実際どっちが年上かも分からないけど」

「ならお兄ちゃんってい──」

「言うわけないじゃない、バカ!」


アリサにいつもの調子が戻ってきたようだった。

よかったよかった、これで何一つ心配もない。

あとは、いつこの家を出て行くかだね。

怪我もあと一週間もすれば治るだろうしね。


「でも、一郎には助けれてばっかしね」

「それは例の子と友達になって言うんだな」

「う……分かってるわよ。でも、ちょっと安心した」

「うん? なにが?」

「ううん、もし一郎にまで怒られたら私は……」


そこまで言いかけて、なんでもないわと言う。

すごく先が気になるセリフだが、聞きたい気持ちはあるけど、聞かない。

たぶんその先はアリサの正直な気持ちだから胸の内にでも隠しておくといい。

そして、なんだかシリアスっぽくなってしまったので、


「お、アリサの顔が真っ赤だ」

「な、何よ! 顔が真っ赤だなんなの!?」

「いや、なんか恥ずかしい事を考えていたのかなと思ってさ」

「そそそそ、そんなわけないじゃない!」


あれ、図星だった?

いつもより慌て方が異様と言うか異常なんですけど。

そんなに恥ずかしい事を考えていたのだろうか……。

というか、俺が想像、もとい妄想するのも恥ずかしいです。


「べ、別に今日は寂しいからここで一郎と寝ようと思ってるわけじゃないんだから!」

「俺と寝たいの?」

「ち、違うわよ! 誰があんたなんかと」

「そうか……そこまで否定されると傷ついちゃうな」

「え……」

「アリサは俺と一緒が嫌だ何て……知ってたけど本人の口から言われるとショックだな」

「そんなこと言ってないわよ!」

「え? そうなの?」

「うっ……今日は少し寒いから、誰かが暖房代わりに一緒に寝てくれたら暖かいなと思っただけよ!

あんたと一緒に寝たいんじゃなくて、私が寒いから私の都合でそうなるだけ」


「……ツンデレ?」

「誰が、ツンデレですって!? 別に私はツン何てないわよ!」

「じゃあデレるの?」

「誰がデレるかッーーー!」

「痛っ! だから頭はデリケートだから叩くなっての」


ツンドラじゃないかと言う言葉が喉まで出かけたが、またアリサを怒らせるだけなので黙っておいた。

ちなみに今年は温暖なので寒いって事はない。


俺はこんなアリサを弄り遊び、気付けば寝る時間となっていた。

アリサはなんだか恥ずかしそうに頬を染めながら俺の部屋にやってきて。

寒いわと一言言って、俺の布団に潜り込み結局二人で寝た。

さらにアリサは俺の腕に抱きつき、丸くなりながらすぐ隣ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

その顔は年相応の子供らしくすごく愛想溢れるかわいい姿だった。

しかし、俺は逆に寝ることが出来なかった。

別にアリサを意識して寝れなかったわけじゃない。

そう、俺は暑すぎて寝れなかったのだ。











一週間後。

それは俺の怪我を治すには十分な時間であり、アリサが変化するにも十分な時間だった。

結果から言えばアリサは仲直りすることが出来た。

無事で何より、それが俺の中で一番最初に思い浮かんだ言葉だ。

何故かこの件で、アリサのお父さんに感謝されたが未だに疑問である。

実はアリサに友達が居なかったとか? そんなわけないか。

アリサは家に帰ってくるなり、よく学校の事を話すようになった。

それは楽しそうに楽しそうに、毎日が充実しているかのように……羨ましいことだ。

だからと言ってまた学校に通おうとは思わないわけだが、得てして聞いているだけだと行きたくなるのは不思議なものだ。

今日も今日とてアリサは学校に行っている。

だから、こんなチャンスを逃すはずがなかった。

アリサたちには十分に世話になった。

世話になりすぎたと言っても、おかしくはないほどに。

ここで暮らした僅かな時間は、俺の先の見えない暗雲な人生の中では輝しい希望の光に溢れたもので、憧れるものもあるが……。

やはり、いつまでもお世話になるわけには行かないわけで、できれば礼の一つでも言っておきたいのだが……それだと引き止められてしまいかねないので俺がここで……。

だからせめてもの意思表現として置手紙をする。


『実は俺……ダンボールハウスに憧れてるんだ』





{お医者さんの顔はきっとカエルが(ry……もしくは顔がつぎは(ry}



[17560] ─第8話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/22 21:47
結局のところいつまでもお世話になり続けるわけには行かないのだ。

もしも俺があの家に住み着けば、きっと学校にも行かせてくれるだろうし、まず不自由するような生活にはならないと確信できる。

もちろん、そんな生活はとても魅力的である。

アリサと一緒に学校行く事を考えれば、二度目の学校とはいえ憂鬱加減は半減、もしくはそれ以上であると思う。

ほのぼのとした平穏な生活を送り、楽しい日常を繰り広げられたことだろう。

しかし……しかしである。

そんな明るい未来がやすやすと叶えられる──やすやすではないかもしれないが、しかしそんな光ある未来が待っていたはずだが、俺はその未来を捨てた。

というよりは、諦めたのだ。

なぜか?


「いくらなんでもヒモなんて、ね? プライドがあるわけじゃないがやっぱり迷惑だろうし」


それは良心というのか、はたまたはただののけ無しのプライドか。

他人からみればどうでも良いと思われる事を理由に、俺は公園へと戻った。

これは、いわば意地と見られてもおかしくないものではあるが、実際の本質は違うところだ。

ならば、実際の本質とは。

それは、記憶の戻る可能性のある場所へ戻ること……と言う建前はさておき、本当のところは、


「ただの憧れだったりするんだな、これが。あ、ダンボールはやっぱりスーパーかな」


男なんてそんなもんだ。

くだらない理由と変なしがらみにとらわれる。

……俺の場合はしがらみじゃなくて趣味かもしれないけど。


スーパーからダンボールを大量にもらっていき、俺は公園へと戻る。

もらう時に、そして持ってくるときに、道を通る人がみんな訝しげにこちらを見てきたため、顔が爆発するほど恥ずかしくなり思わず走り出してしまったのはここだけの話である。

余談はさておき、なんとか大量のダンボールを抱え、背負い持ってきたのだが……場所の変更である。

最近のホームレスがなぜ公園に作らないかを思い出していただきたい。

規制が厳しいのだ。

何より目立つと言うのが一番の原因だと思われる。

材料を頑張って持ってきた手前、今更の変更だがこれだけは止むを得ないことだった。

もともと公園を選択したのは建前なので時間もかけずに即決である。

その後どこにするかというと、土手の橋の下というありがちな場所になる。

最もポピュラー。

ホームレスの定番。

それだけに、立地条件は良かった。

しかもここは海の傍であり、海もこの場所から見えてしまうではないか。

これほどの場所はそうそうない!

…………。

なんか自慢しているような話であるが、結局のところただのダンボールハウスを作る場所の話。

ホームレスの独り言のようなものだった。


「戯言はここまでにして、さっそく作り始めるとしようかな」


両手一杯と表現するには多すぎるダンボールと材料を使い、ダンボールハウス作りを始める。


「ここはこんなもんで……崩れた」


意外と上手く組み合わせるのは難しい。

小枝や丈夫そうな枝を柱代わりに使いまわしながら、バランスを考える。


「よしっと……あ、強風が……作り直しかよ」


強風であっという間に崩れてしまうため、丈夫に建てるのは案外難しかった。

今度は粗大ごみとして捨てられていた家具を、家具としての機能を保ちながら支えにならないかを考えながら経て直す。


「お、今度は上手く行きそうな気配が……」


最初は触れただけで崩れ、強風で崩れと試行錯誤していくうちにらしくなっていく。

もう何度経て直したかは分からないが、建て直すごとに着実に、っぽくなっていくのは目に見えて分かった。


「よし……これなら百人乗っても……は無理か。でも、いい感じじゃないか? あとはビニールシートを使って……」


持ってきた粗大ごみの家具やダンボールをフルで使い、最終的にはビニールシートをかぶせることで完成するのは、自分専用の家。

一から自分で作り上げた、マイホーム。


「で、できた! これが俺の家……」


血と涙と汗と泥と枝とごみとダンボールとビニールシートで出来た、夢のマイホームが完成したのは夕方。

土手には家へと帰宅する少年少女がよく見えた。

もう、そんな時間か。思ったより手間取ってしまったがそれ以上に頑張った甲斐があったね。

今日の反省をしながら、遠くを見つめていると、近づく影がある。

その影はこちらに歩いてきてだんだん大きくなり……って、あの姿は……


「ア……リサ?」

「はぁ……はぁ……や~~っと見つけたわよ! このバカを!」











どうやら制服姿のまま走ってここに来てくれたアリサの顔には汗も見え息を切らしている。

なんで、こんなに慌ててるんだ?

ちゃんと分かりやすい置手紙も残していったのに……あ、そうかお礼を言ってなかったから怒ったとか?

アリサの顔は、疲れたせいなのか怒ってるせいなのかは分からないが真っ赤だった。


「まぁとりあえず、お水でも飲めよ。はい、これ清涼飲料水」

「あ……ありがとう」


俺が渡したお水を笑顔で受け取り、かなりの量を飲んでいくアリサ。

よほど疲れてたのかもしれないね。

俺もかなり疲れているのでちょっと癒されたい気分だ……アリサでもからかうか。


「その水、実はそこの川の──」

「ブフーッ! ちょ、ちょっと何てもの飲ますのよ! 一郎!」

「俺に口に含んだ水をかけるなよ。それに大丈夫だって、ちゃんとろ過したから」

「そう、なら安心ね……ってそういう問題じゃないわよ!」


ノリ突っ込みまでするなんて、意外とノリノリだ。

こうやってちゃんとボケに突っ込んでくれるのでボケがいがあると言うもだ。

それでもアリサは水を飲んで落ち着いてきたのか呼吸が整い始める。

また顔をムキーっと、威嚇するように俺を睨みつけてきた。

なんともアリサらしい表情だと俺が思うあたり、アリサをしょっちゅう怒らせているのかもしれない。


「そんなことより! どういうことよ、あの置手紙とこの後ろのダンボールの山!」

「山じゃない、マイホームだ! しかもダイワハウス!」

「なんでダイワハウスなのよ!? じゃなくて、置手紙!」


期待通りの突っ込みをするあたりアリサには意外とお笑いのセンスがあるのかもしれない。

これならお笑いの天下が取れるかもしれない。


「ああ、読んでくれた?」

「思わず二度もチラ見した上で、三度も読み返しっちゃったわよ!」

「おお、復読どうも」

「どういたしまして……じゃないわよ! ああもうっ! 踏んだり蹴ったりだわ」

「五十歩百歩?」

「九十歩百歩って感じね」

「全然進まないな」

「一郎のせいでしょ!」


怒られてしまった。

激しい突っ込みのせいか、再び息を切らしているのでもう一回水をあげることにする。


「まぁとりあえず、お水でも飲めよ。はい、これ清涼飲料水」

「あ……ありがとう。というか天丼するなー!」

「よくご存知で」

「一郎が初めてしゃべったときを思い出したわよ」

「天井ってテンプレかなと思ったから」

「一郎が何を言ってるのかさっぱりだわ」


さぁ? 俺にも実はさっぱりです。

なんか今日はずっと独り言が多かったのでこうやって人と話すのが新鮮です。


「ああ、これじゃあまた振り出しに戻ってるわね。九十歩どころか百歩戻ってるわ」

「アリサは進歩ないの?」

「この会話に進歩は感じないわね」


なるほど、納得だ。

全ての元凶は俺であるということは認識している。

というよりはわざとなんだけどね。

そんなことをアリサはいざ知らず……もしかしたら知っていて付き合ってくれているのかもしれないが、アリサは、はぁはぁという息切れから、今の問答によほど疲れたのかぜぇぜぇと言い苦しそうにする。

顔は相変わらず真っ赤のままだ。

たぶん……かなり怒ってるのかもしれない。

心当たりは……無きにしもあらずだね。


「このままじゃらちがあかないわね」

「百歩百歩だから?」

「もはや原型がないわね。というよりは一歩進んで二歩戻るの方が正しいわね」

「進歩と言うか退化だね」

「むしろ後退ね……あ! また流れを持っていかれるところだったわ」


っち!

出来れば怒られずに誤魔化そうとしたんだけどな。

さすがにそうはいかなかったか。

永遠と同じ事を繰り返せば忘れてくれると打算したのにな。

世の中そう甘くはできていないとはまさにこのこと……。

この程度のことで世の中を引き合いに出すのは壮大すぎたかな?


「日が暮れそうだから単刀直入に言うわよ。どうして、家を出て行ったのかしら?」

「どうして? それは迷惑かなと思ったから」

「迷惑……別にそんなことは思ってないわよっ!」

「だとしてもだよ。男には事情があるのさ」

「何よその、悟れ的な回答は……」

「……多くは語らずかな?」

「格好つけてるつもり?」

「けじめのつもりかな、どちらかというとね」

「「…………」」


この言葉を聞き、アリサは俯いてしまった。

今更だがこんなこと言ったてまえ、ただダンボールハウスに憧れていただけなんて言えないよ。

ちゃんと手紙にも書いたんだけどなんか出て行く口実みたいに捉えちゃってるし。

さて、この少し暗い雰囲気をどうするか。

そう思った時だった、アリサが口を開き、


「冬はどうするのよ!?」

「え?」

「こんなダンボールの山じゃ凍死して永眠よ!」

「凍って眠る……コールドスリープ? 未来への架け橋だね!」

「未来というか来世に逝っちゃうわよ!」


ボケたらやっぱり突っ込むアリサ。

おかげで暗い雰囲気もどこへやら。

こういう人と漫才組んだら、笑いが取れるかどうかはさておき楽しいだろうな。

アリサと将来コンビを組む人は幸せだね!


「私の将来はお笑いじゃないわよ!」


本当にお笑い向きだ。

叩いたときにバシッと軽快な音をしっかり出すあたり玄人業だね。

でも、こういうのは大抵やられるほうは結構痛いんだけどね。

まぁ俺もボケでかなり楽しませてもらってるし、アリサの突っ込みは結構鋭くてボケがいがあるから五分五分だよね。

別に痛いのは好きじゃないよ? そこは勘違いしないでもらいたいね。


「寒さ対策でしょ? どれくらい寒いかは分からないけど……まぁ猫とか拾って抱けば何となるんじゃない?」

「楽観的ね。無責任でもあるわ」

「その時にならないと分からないからね」

「じゃあ、夏は? 蚊とかダニがすごくなるんじゃないかしら? 耐えられる?」

「蚊取り線香があればどうにかなるでしょ。もしくは公園のベンチで座るとか」

「根性論っぽいわね。じゃあ、春は? 花粉症が──」

「花粉症はないんだなぁ、ラッキーなことに」

「うっ、じゃあ秋は──」

「アリサ……もう……」

「うるさいわね! 秋は蜂とか──」

「引き止めてくれようとする心遣いは嬉しいけどさ。でも」

「でも……じゃないわよ! 何か……何か……」


何を焦っているのだか俺には検討もつかない。

それに、俺を引き止める理由もだ。

単に命の恩人だからと言う理由だけだったらここまでしなくてもいいだろうに……。

でも、この配慮は嬉しいんだけどね。

嬉しいけど……。


「分かったよ」

「え? ホント!? じゃあ──」

「今日はとりあえず家に帰るべきだ。続きは明日聞くから」

「分かってない……分かってないわよ……」

「でもねほら、もう暗くなり始めてるし。アリサの家まで送っていくからさ」

「うぅ……分かったわよ。今日のところはこれで勘弁してあげるわ。でも、次にあったときは覚悟しなさい!」


なんか雑魚の悪役のセリフだなぁ。

でも、これを言うとまた騒ぎ出しそうだから言わないけどさ。


今日のところはお引取りを申し渡すことにした。

いくら言っても、帰る途中は色々と言うので、アリサの手を強引に引っ張り少しでも早く開放されようと努力した。

その上、手を引っ張るとアリサは顔を若干赤くしてなぜか黙ったのでちょうどよかった。

赤くなったのは、俺の歩くペースが早くて疲れたからだろうか?

後々考えて、鮫島さんを呼んで迎えに来てもらえばよかっただけの話だが、しかしさらに考えるとアリサが鮫島さんに命令して俺を拉致る可能性もあったわけで……。

結果オーライということで、自分の行動を納得させとこうと思う。











アリサを送り届け、マイホーム(ダイワハウス(仮))に戻ってくころになるとすでに当たりは暗闇に包まれかけていた。

この家が建っているスポットからだと夕日がかなり綺麗に見える。

本当にいい場所だ。

こんな場所がただで家が建てられてただの家があるだなんて誰が思うだろうか?

いや、思わないからこそ素晴らしいのかもしれない。

それにちょっと……秘密基地っぽいしね。

秘密機って言う言葉の響きはいくつになってもいいものだよね。

思えば、あの夏休みのゲーム(2)で出てくるあの秘密基地はどうやって作ったのかという疑問と同時に憧れたものだ。

まぁさすがに虫相撲の最後のボスは虫じゃないいうおちがあったけどね。

そんなことはさておき、本当にここは……


「綺麗だな」

「そうだよね、本当にいい町だよね」

「ああ……え?」


俺が物思いにふけていると後ろからふいに声が聞こえた。

気付くのが若干遅れたが、そちらのほうに慌てて振り返ると、


「久しぶり、一郎君」

「ええっと……」

「なのはだよ。高町なのは。忘れちゃったの? ひどいなー一郎君!」


なのは、なのは……高町なのは。

欠けた記憶から必死にワードを探し回る。そうすると、一つ思いあたるものがあった。


「高町……なのは?」

「えへへ、思い出してくれたかな?」


──その時……鈴木に電流が走る。

って鈴木じゃないし。

それだと嫌な危険な展開みたいじゃないか!

でも、少し思い出した……そうあれは……、


「一人寂しく、公園で砂遊びしてたなのはじゃないか?」

「にゃああ!? そ、それは一郎君なの!」





{作者はツンデレも天然もヤンデレも好きです……}



[17560] ─第9話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/25 00:31
久しぶりだね、と言ってどこからともなく湧いて出てきたのは高町なのはと言う少女。

その少女の登場は、自分の中にある記憶を揺るがすほどの存在だった。

とある出来事で失われていた、記憶が多少なりとも思い出すほどに。

自分自身が実際に少女を見て手に入れた情報は、栗色でツインテール。白を基調としたアリサと同じ制服を着て、美少女と言うに値するその容姿。

否、かわいい女の子のほうがあうかもしれない。そして、その姿はかわいい子猫というふう比喩表現できる。

次に俺の記憶の中の少女、高町なのは。

公園で寂しく一人で、砂を弄っていた可哀想な女の子。

可愛そうではなく、可哀想。

愛ではなく悲しみだった。

それはつまり、


「一人寂しく、公園で砂遊びしてたなのはじゃないか?」

「にゃああ!? そ、それは一郎君なの!」


失礼な。

俺は別に寂しくではなく、有意義に公園を活用し砂遊びをものすごく楽しんでいた。

決して寂しいなどと思ってなどいないんだ。

むしろ、充実でさえあるほどに。


「まぁなのははどうでもいいとして」

「ひどっ! 久しぶりに会ったのにひどいよ一郎君!」

「いや、普通の対応」

「友達に会ってどうでもいいが、普通の対応なの!?」

「うん、世界規模で」

「無駄にでかいよぅ。私は一郎君とおしゃべりがしたいだけなのに……」

「甘えた口調で、涙目で上目遣いで口説けば俺が落ちるとでも? あまいよ。あますぎる! 俺はなのはとしゃべることなどない!」

「私がしゃべりたいのーーっ!」


わーわー喚くと言うよりは、にゃーにゃー鳴いていると言う表現よく似合う少女だね。

俺は完成したばかりのこのマイホーム(ダンボール製! とってもエコだよね!)でのんびり過ごしたいと言うのに。

なのにアリサが文句言うは、なのはが叫ぶはでとんだ迷惑だ。

反省をして欲しい。


「そんなに叫ぶからみんなこっちを見てるぞ?」

「にゃ!? ……たぶんそれは、私じゃなくてその後ろのダンボールの山が原因だと思うんだけど」

「俺のマイホームだ。ごみの山なんて言うんじゃない!」

「痛いよ~っ! ごみの山なんて一言も言ってないのに……」

「あ、今言ったね」

「そ、それは一郎君が言うから──ぼ、暴力はいけないの!」

「じゃあ、なのはは将来暴力を振るわないと誓えるのか?」

「……そうしたら、私に暴力しない?」

「……ああ、いいだろう」

「うん、分かった! じゃあ、暴力はしないよ!」


この約束がちゃんと果たされる日が来るのか……とても疑問ではあるけど。

しょうがないからせめて俺のほうだけでも守ってやろう。

俺は義理堅い男……ではないけどね。

でもまぁ、こんな子供のときの約束なんて人は忘れていくものさ。

だから深くは考えるべきじゃない。


「そういえば、何で最近は公園に来なかったの?」

「ん? 何でって。俺にだって色々と事情があるんだよ」

「え!? ……いつも暇そうなのに」

「すごく棘のある言い方だね!」


確かに暇ではあったけどね。

やることがないのではなくて、やれることがなかったし。

お金はない。

家もない。

戸籍もない。

戸籍はアリサが調べてくれなくちゃ分からなかったけどね。

家は完成したけど。

世の中で最も大切なお金は未だにないけど……。

一番嘆かわしい現実でもあるけどね。だれだよ、資本主義社会にしたの!


「う~ん、後ろのダンボールの事をマイホームって言ってるけど……なんなの?」

「俺の家。そこのダンボールの山が俺の家」

「え!? じゃあ、一郎君はここに住んでるの!?」

「まぁ……そうだね」


すごくビックリしたようだな、なのは。

俺も住んでいると言うよりはこれから住むんだけど、大した差はないからね。

一人で住むには中々の大きさだし。

住み心地はまだ分からないけど、いまからホームレス生活が楽しみだ。

自由気ままに何も考えずに過ごしたいね。

戸籍も年齢も関係ない、社会の営みに縛られない……なんと素晴らしいことだろう。


「すごーい! ちょっと触ってみてもいい?」

「だ、駄目だ。下手に触ると──はっ!」


俺がそう言うとなのは、にやぁっとまるで遊ぶものが出来たかの様な、悪戯心に火がついた様な顔をした。


「ええっと、ここは……」

「さ、触るな!」

「じゃあ、ここを!」

「だ、駄目ぇぇぇええ」

「にゃはは、すっごく楽しいなぁ」


俺は今にも崩壊するかと思ったよ。

これが壊れちゃったら今夜は完全に野宿なんだから……心臓に悪いことはやめて欲しい。


「でも、この家ってなんだか──」

「ホームレスみたい?」

「う──違うの! 秘密基地みたいって! ほーむれすって?」

「ああ……そいうことか。知らないなら気にしないほうがいい」


確かに、小さい子供からすれば秘密基地みたいかもしれない。

俺もそう思わないこともないけど、今となってはマイホームだからそちらに意識がいってしまう。

ホームレスと言う言葉自体を知らないのもビックリだな。

もしかしたら、この世界ではあまりはやっていないのかもしれないな、ホームレス。

なら俺がホームレスブームを! って思わないことも無い。


「そうだ、ここは秘密基地だから俺となのはだけの秘密な」

「私と一郎君の秘密基地?」

「ああ」

「うん! じゃあここは私たちの秘密基地なんだね!」


なるほど……そういう捉え方も……。

別になのはがここに泊まる訳じゃないからいいんだけどさ。


「秘密だから、なのはの家族に話しても駄目だぞ」

「うん、秘密の約束……にゃはは、なんか楽しいね」

「そうかな? まぁいいけどさ」


ここでふと頭に昨日の自分のセリフが思い浮かぶ。

──猫を抱いて。


「どうしたの?」

「な、なんでもない」


……いや、さすがに駄目だろ。

こんな純粋でかわいい少女を抱いて寝るとか、もうきっと誰かに。

一郎氏ねじゃなくて死ねと言われるよ……。

名前も改名かな、誠に。そして最後はボートエンド……あ、wikiで知ってるだけでオタクって訳じゃ──

あ、アリサに抱かれて寝たからすでにアウトかもしれないな、あはは。


この後は時間も遅く、日が完全に暮れていたのでとりあえずなのはを家まで送り届けた。

なのはが家に上がって行けといわれたが、ここに帰って来れなくなりそうだったので謹んで遠慮した。

最近、女の子を送り届けてばっかしだな。

今日一日を振り返っては色々とあったが、家無事に完成して、ホームレスへの一歩をちゃんと踏み出せたのは大きな進歩だった。











翌日だった。

急な話だが俺はお腹がすごく減った。

よくよく考えれば昨日から丸一日。

そして、今日はすでにお昼過ぎであり、この時間になっても何一つとしてお腹に何も入れてなかった。

人間は水があれば三日は生きていけるそうだが、俺なら努力すれば一週間は生きていける自身はあるが、それは何も活動しない場合だ。

実際は何かしらのアクションをするわけで、エネルギーは使われているのだ。

呼吸をするだけでもエネルギーを使うと言うのに……いっそ呼吸を止めるか?

俺なら三日は止めても生きられるような気がする。

そんな時だった、天使が食べ物を持って現れたのは。


「べ、別に捨てるのがもったいなかったからここに持ってきただけで、だから一郎にあげようと作ってきたわけじゃ──」

「だ、大好きだーーー。愛しのエリザ!!」

「アリサよ! え……ちょ、なにいきなり抱きついてるのよ!」

「あ、ごめん。ついつい頭がおかしく……」

「いつもおかしいじゃない。それにいきなり、抱きつくなんて……嫌じゃないけど……」


アリサが顔を赤くしながらぶつぶつ呟いているが、そんなのは無視をしてアリサが持ってきてくれた無我夢中でお弁当を食べる。

真剣にかなりお腹が減っていたので、救いの神……いや、女神のようなものだった。

味とかを気にせずに一気に食べる。もちろん、ご飯を一粒も残さずにだ。


「あ、あのね。……美味しかったかしら?」

「え……ああ、うん。ごちそうさま」

「そ、そう! ふふ」


不気味な笑いを浮かべるアリサ。

味は覚えてないことは、ここだけの秘密だ。

あれ? 最近秘密が日に日に増えているような気がする。


「じゃあ、さっそく昨日の続きよ!」

「昨日のって、まだ諦めてなかったのかよ」

「当たり前じゃない!」

「じゃあ、とりあえず水飲むか?」

「そこからかーー!」


昨日の続きといったからそう言っただけなのに、暴力を振るわれるとは理不尽な。

暴力反対!


「今日は問題を見つけたのよ」

「ほう、それなにかな?」


えっへといった感じで、威張るアリサ。

まるで勝ち誇ったような、勝利を確信したような自信に満ち溢れる姿だ。

しかし、だ。

納得させられてたまるものか。

俺はこの生活を始めてばかりで実に楽しみにしているのだ。

不自由ないあの生活も好きだが、何か物足りない……。

言うならば壁が、現実味が。

俺はそう言ったハングリー精神のない、ある意味燃えてこない生活は嫌だ。

アリサと一緒に暮らせるのは魅力的かもしれないけど。


「今見て確信したわ! それは食糧問題よ!」

「世界の人口増加にもとない、世界の食料問題は大きな問題だね。昨今の貧困の問題でもあるわけか」

「問題が壮大すぎるわ!」

「貧困は壮絶だよ?」

「一郎の場合は絶望的よ!」

「俺は希望に満ち溢れているんだけどなぁ」

「それは希望的観測じゃない!」

「楽観的って言って欲しいな!」

「……どちらにしろ自覚してるじゃない」


ほら、希望と現実は違うんだよ?

でも、厳しい現実の中にも光る未来が待っているかもしれないし。

俺はそう思って生きていくのさ。

そもそもホームレスってすでに世界に絶望してるよね?

確かにアリサの言うとおり、俺は自身の食糧問題というのを抱えている。

だが、その程度の問題でやめられるはずがない。

食べ物がないなら作ればいい、捕まえればいい、それだけのことだ。

とは言うものの、確かに大変な問題に変わりない。

果てどう反論すべきかと悩んでる時だった。


「ほら、ここが私たちの秘密基地だよ、すずかちゃん」

「なのはちゃん……これは秘密基地って言うよりホームレスの家じゃないかな?」

「ほーむれす?」

「ううん、なんでもない」


外からなのはの声が聞こえた、プラス一名もいるけど。

秘密だって行った先からばらしたのかよ。

でも、この場は助かった。これで上手く誤魔化すことができる。


「あ、すまん。お客さんだ」

「お客の来る、ホームレスって一体……」


アリサが呆れているようだが、来るのだから仕方ない。

俺は玄関……といえるほど大層なものでもないが、出入り口を出てお客さんを迎えることにした。


「あ、一郎く──~~っ! な、殴らないって約束したのに」

「なのはが秘密を漏らしたからだろ」

「え? 家族に言っちゃだめって言っただけで、友達はいいんじゃないの?」


揚げ足を取ったと言うよりは、言葉の意味そのものを純粋に受け止めたようだった。

これだから、純粋な子供はと思わないことも無いけど……なのはだからなぁと思って納得する。


「い、今不当な扱いを受けた気がするの!」

「なのははバカでアホだなと思っただけだよ」

「思っても言っちゃいけない言葉ってある気がするよ!」

「初めまして、なのは曰く鈴木一郎です。世界のイチローとでも呼んで下さい」

「は、初めまして月村すずかです。すずかって呼んで下さい」

「うん、かわいいと言うか綺麗形だね」

「ふふふ、冗談が上手いですね」

「私を無視しないでよぅ」


思った事をついつい口に出してしまった。

でも、簡単にあしらわれちゃったな。俺より大人じゃないのか? この子。

それにしても、なんなんだこの町は。

美少女率が半端ないじゃないか。

なのは、アリサ、すずかって俺はよほど運がいいのか、それともこの町が異常なのか、図りかねるね。

と、そろそろなのはに話を振ってあげないと、今にも泣きそうだな。


「ところで、なのははここに何しに来たんだ?」

「あ、やっと聞いてくれた! あのね、すず──」

「なのはちゃんが楽しいところに連れてってあげると言われてきたんです」

「すずかちゃんそれ私のセリフだよぉ」

「楽しいところって、これはおもちゃじゃないのに……」


なのはの中でマイハウスが間違った方向に捉えられている。

このままでは、なのはが魔王になって壊される日も近いかもしれない。

お友達紹介とは、なのはも気の利いた事をしてくれるものだ。

友達が増えれば、頼れる相手が増えると言うものだ。


「すずかは何か得意なこととかある?」

「え、はい。お姉ちゃんが機械弄りが得意なので私も少し」


機械弄りが得意……ふむ。

これは思った以上に戦力になるかもしれない。

──マイホームの未来像を思い浮かべる。

ふふふ、これは……やってきたかもしれないホームレスブーム!


「本当はね、もう一人紹介しようと思ったんだけど……」

「用事があるって言って、先に帰っちゃったんです」

「へぇ~、名前は?」

「「アリサちゃん」」


あれ? どこかで聞いたことある名前だな。

金髪でちょっとツンツンしてて、でもお世話好きなような気がする。


「そうそう、そんな感じの子です」

「うん、ならちょうどこの家に」

「誰か、私のこと呼んだかし──え?」

「ええぇぇ!? 何でアリサちゃんが──あ、また殴ったぁ」

「ご近所さんに迷惑だろ」

「ホームレスの方がよっぽど迷惑よ!」


ホームレスのどこが迷惑なんだか。

ダンボールの家で、地球に優しいエコだと言うのにね。

そんなことはさておき、これはまた色々と問題が起きそうな感じがする。

俺は平穏な生活を望んでいると言うのに……。


「平穏ってホームレスの言葉じゃないわよね」

「うるさいっ!」




{タイトルは変えるべきか否か!? それとも変えても問題はないか!? 色々と疑問です。答えてエロい人ー}

追伸

答えてくれたエロい人たちありがとうございます。
タイトルを「ホームレスは好きですか?」に変更します。

お手数をおかけした事をここに謝罪します。



[17560] ─第10話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/29 06:50
「ええっと、アリサちゃんと一郎君の接点って何かな?」

「公園で拾われた身です」

「公園で拾ったのよ」

「こ、子猫とか子犬じゃないんだから……」

「アリサちゃん犬好きだもんね」

「あ、すずかはそこ突っ込むんだね。なのはの友達ってすごいや」

「私もすずかがここまで天然だと思わなかったわよ」

「え? 今すずかちゃん変なこと言った?」

「「なのはは黙ってろ(なさい)」」

「ひどっ!」


拾った云々のところでは、なのはもしっかりボケを拾ってるのに肝心なところが駄目だね。これでは、お笑い界のトップは狙えない。

…………。

まぁなのははどうでもいいとして。

本当のところは俺はアリサの命の恩人らしいのだが、記憶が多少戻った今でもその時のことは覚えてない。

アリサが言うには相当すごいことになってたみたいだからしょうがないことかもしれないけど、事件前後の記憶が抜け落ちるのはよくあることだというしね。

でも、そんなのを正直に言ったところでなまじ同情を誘うだけ。

それに今更であり、過去の話だから詳しく話す必要もないだろう。

そう思っての俺のボケだったが。うん、さすがアリサ。すぐにそれを理解したみたいだね。


「う~ん、じゃあアリサちゃんと一郎君の関係は分かったけど」


分かったんだ。拾われたってだけで分かっちゃったんだ。それはそれでなんかちょっと複雑だなぁ。

アリサがまるで俺の飼い主みたいな感じで。

最近まではあながちそれが間違いじゃなかったけどね。というよりは、昨日まではそうだったね。

居候……しかし、今は晴れて自由の身。自由っていいよね、

やりたい放題で!


「どうして、アリサちゃんがここにいるの?」

「あ、それ私も気になるなぁ」

「そ、それは……」


アリサが言うのを躊躇っている。

無理もないことかもしれない。ホームレスを家に引き取りに来たとなれば、世間体的に恥ずかしくなるのは仕方のないことだ。

だから、諦めればいいのに。

なのはの方でもそう説得して欲しいものだ。

そんな淡い期待しつつも、アリサの回答をみんなが見守る。


「こ、このバカをうちに帰るように説教してたのよ!」

「アリサちゃんの家に? なんでなの?」

「な、なんでかって……一郎はわ、私の……」


なんだ、私のなんなんだ? 俺は。

所有物か? ペットか? はたまた執事か? でも、執事はちょっと……ね。

俺はガンダムじゃないから、さすがに車に轢かれて生きていられる自信はないよ。

もちろん、虎に勝てるとも思わない。

熊なら……雪の中でなら行けるかもしれない。きっと近くに砦もあるだろうしね。

どちらにしろ、逃げ専門かな。あんなのと正面で勝てるのは執事と主婦ぐらいだ。


アリサはうろたえて、もじもじしていると、やっと決心がついたの大きく空気を吸い、予想以上に大きな声で、


「お、お兄ちゃんみたいなものよ!」

「「「ええぇぇぇえええ!?」」」

「な、なんで一郎が驚いてるのよ!?」

「え、だって……な? なのは」

「そ、そうだよね……ね? すずかちゃん」

「うん、その通りだよね。アリサちゃん?」

「そうよね、自分でも驚くわ。って私にまで振るなーーっ!」


アリサの爆弾発言だった。

爆弾発言と言うだけあって、アリサは爆発しそうなほど顔が真っ赤だった。

もしかしたら金髪のツインテールの先は導火線かもしてない。

それにしても……親友とか、ならまだしもいきなり兄とか……そんな妹に育てつもりはありません! リアル問題!


「そうか!? あの日誓ったのは桃の木の下だったのか……」


そういば、庭にはピンク色の花びらがたくさん咲いていたなぁ。

きっとそこで俺の知らない間に義兄弟の契りでも交わしたのかもしれない。

全国統一するぞ! みたいな感じで。

でも、本当は誓っていないどころかあの客室以外の場所にほとんど行ったことないけどね。


「だ、だってアリサちゃんと一郎君全然顔似てないし」

「俺は明日から一郎・バニングスって名乗るよ」

「改めてよろしくお願いします、バニングス君」

「ああ、こちらこそよろしくすずか。世界のバニングスって読んでくれ。後敬語じゃなくていいぞ」

「……もう突っ込まなくていいかしら?」

「振ってきたのはアリサだけどな」


実際アリサが妹ならどれだけいいことか……。

けれども、アリサがいい加減俺たちのボケについてこられなくなり始めていたので、収拾をつけてあげよう。

あまりにもアリサが可哀想なのと、なのはが暴走し始めたからだ。

なのははさっきから「アリサちゃんは実は一郎君の妹で、一郎君はバニングスで、鈴木で……あれ? 鈴木・バニングス・一郎君だっけ?」と意味の分からない事を言い出してる。

鈴木・バニングス・一郎って、なんでミドルネーム!? って突っ込みたいけど、突っ込んだら負けなんだろうなぁ。

そもそも鈴木って言うのも本名じゃないけどね。

忘れがちだけど。


「う、嘘に決まってるじゃない! な、何みんな信じてるのよ!! バカじゃないの!?」

「にゃあ!? アリサちゃんに騙されたの!」

「そうか、嘘だったのか」

「な、なに落ち込んでるのよ!」


いや、アリサみたいなかわいい妹がいたらいいなと思っただけだよ。

たぶん一人っ子の夢だと思うんだ。かわいい妹がいるのって。

もちろん、俺もその例に違わずかわいい妹がいたら嬉しいけど……。

アリサが実は嘘だったなんていうならしょうがない。

諦めよう。

諦めてなのはでいいや。


「なんで私が『余ったからこれでいいや』みたいな扱いなの!?」

「なのははこれから鈴木なのはと名乗るように──ああ、でもなんか語呂が悪いからなのは・バニングスでいいや」

「すごくてきとうな扱いだよぅ。しかも、もう一郎君の妹でもないよ……」


なのは云々は置いといて、いや、頭の片隅からすらも外してアリサの発言をもう一回思い出そう。

アリサによる俺が兄発言。

これ自体は驚きはしたが非常に嬉しいことなので、嘘といわれた瞬間はかなりショックだ。

アリサのお兄ちゃんなんて言われたら……うん、後世に悔い無しだね。


「し、しょうがないわね。そんなにショックなら、あ……あんたがうちに帰ってくるなら呼んでやってもいいわよ」

「本当かアリサ?」

「も、もちろんよ! ……ただしこの家を破棄すること、それが条件よ」

「なん……だと?」


アリサに兄といわれ慕われる(ここ重要)か、ホームレス生活を自由(ここ大切)に満喫するか……む、難しい。

なんなんだこの究極の選択肢は……。

ホームレス生活を楽しみながらアリサに兄といわれると言うルートは存在しないのか?

この厳しい世界は、つまりは現実はこの二つにの内一つしか選べないと言うことなのか?


「私とホームレス生活を天秤で測られるのって意外と侮辱よね? そもそもこの二つに考える余地があることが一番の不思議よね」

「一郎君だもん」

「今日初めて会ったけど本当に不思議な人だね」

「くっ! しょうがない……お兄ちゃんは諦めよう!」

「ホームレスに負けた!? 名誉毀損よね!?」

「苦渋の選択だったんだ……察してくれ」

「むしろ、一郎が察して欲しいわよ。私のプライドがズタボロよ……」

「お兄ちゃんが慰めてあげようか?」

「誰がお兄ちゃんかーーっ!」


結局、悩み悩んだ末に俺はホームレス生活を選んだ。

そう結局大切なのは自由なのだ。

いくらアリサが俺の事をお兄ちゃんと呼んでも、ダーリンと呼ぼうがこの信念が揺らぐことはない。

このことは今、自分自身がよく学んだ。

もしかしたら、俺がこの世界に飛ばされた(事故的な意味で)理由は、ホームレスになる為だったのかもしれない。

…………。

あ、やっぱりダーリンって呼ばれてみたいな。今度頼んでみようかな。


結局この日はこの言葉を最後に解散した。

それはもう懇切丁寧に一人ずつ家に送らせて頂きました。

アリサ曰くそれが当然の行いらしい。

エスコートって難しいっ!











俺の家には家電製品の類はない。

それどころか、俺は今の最先端科学を突っ走るケータイ電話すらも持ちえていない。

なぜか?

それは明白である。

俺がひとえにホームレスであり、ホームレスは基本的にお金を持たない。それは周知の事実であり、それがホームレスになる理由でもあるからだ。

よってこの法則に基づいて考えれば答えはおのずと出る。

そう……俺はお金がない。


「今更じゃない!」

「アリサ、回想にまで出てこないでくれ」

「……回想じゃないわよ。一郎は自分が今どこにいるか分かってるの?」

「アリサやなのは、すずかが通う小学校……の前」

「はい、正解。それで……何しに来たのよ!」

「あ、アリサちゃん暴力は駄目だよぅ」

「そうだよアリサちゃん! 一郎君を叩いたら叩き返されるよ!」

「え? 俺そんなことしないんだけど?」

「殴られてたの私だけ!? ひ、ひどいよ一郎君……」


アリサを叩いたりなどはしない、絶対にだ!

叩いたら叩き返してきそうだし、ああいうタイプは恨みを何倍返しにもするタイプだろう。

それに比べなのは、叩いたところで問題ないし。

やりかえされても、ぽこぽこがいいところだろう。

痛いどころかむしろなんだか癒される光景になること間違い無しだった。

あれ? そう思うと叩きたくなってきた。

不思議!


「この間約束したばっかしなのに……」

「約束? ホームレスは約束やルールに縛られない。国家権力には屈しない!」

「ああ、そっか。もうホームレスだもんね」

「すずか、そこは感心するところじゃないわよ」


すずかとはいい関係を築いていけそうで一安心だ。

なぜ俺がすずかといい関係になることを望んでいるか。

もちろん、恋心があったり下心があるわけなどないのだが、悪く言えば利用価値。綺麗に言うならば協力をして欲しいからである。

これはすずかに初めて会ったときに聞いた、お姉ちゃんが機械弄りが得意と言う発言から来たものだ。

先ほどに、述べたように我が家には家電製品の類はない。

人が生きるのに必要なのは水と食料、そして必要に応じて火である。

しかし、それがあれば生きていられると言うのは遠い昔の話。

近代社会では、電気。および、電気を使った電化製品類。

それはパソコンやケータイなどの情報ツールも含めての話だ。

ケータイの場合は登録が必要なので使用は厳しいかもしれないけど、パソコンなら電波ジャックして……たぶんできるはず!

法律違反かもしれないが、なんとかギリギリのところをやりくりしてみせる。

まぁこれらの話もろもろは、すずかのお姉さんが、こういった電気を使う製品の修理が出来るという最前提があるんだけどね。

他にも、電気が必要という最大の難所もあるわけだが……実は秘策がある。

それに関してはまた今度でいいだろう。

では、さっそく交渉に入るとしよう。

第一の関門、すずかだ。


「すずか」

「なにかな? 一郎君」

「今日、すずかの家に招待してくれ!」

「ちょ! い、いきなりなに言ってる──」

「うん、いいよ」

「って、すずか!?」


アリサが意表を突かれた様で間抜けな声を出したが、そんなに意外なことだったのかな。

確かに予想よりはるかに、あっさり関門通過しちゃったけど、そこまで驚くことではないとは思うんだ。


「この間知り合ったばっかしの奴に、そんなに気を許していいのかしら?」

「う~ん、確かにそうなんだけど」


すずかはやや悩む素振りはするもののちょっと間をおいたという感じだ。


「アリサちゃんがお兄ちゃんと言うほど慕われてて、なのはちゃんの思い出の友達なんだよね?」

「え? お兄ちゃんとは呼んでないけど……まぁそう、ね」

「うん、思い出の公園の」

「……だったら」


別に平気だと思うよ、だってさ。

全くの無警戒、もしくは天然なのか。そして、謎の信用だね。信頼と言うほど厚いものではないけど、それでも信用するに値する人物であると。

もしくは……友達の友達はみな友達、理論かな。

それにしても、えらく信用されているなこの二人は。

よほどの絆があるんじゃないか? まだ出会って少ししか経っていないんじゃなかったのかな。

第三者から見ると、その友情が少し……


「羨ましいな」

「なにか、言った?」

「いや、なにも」


まぁ彼女達にできて俺に出来ないわけがないとは思うけどね。

友情に時間はないのさ。

だけど、あえて言うなら、彼女達には健やかに育って欲しいね。

…………。

あ、ちょっとお兄ちゃんっぽいかも。


「じゃあ、一郎君。今日のところは習い事があるから明日でもいいかな?」

「いいともーっ!」


何はともわれ、第一段階は終了。

電化製品の家への投入はホームレス生活の充実に直接関係してくるのでなんとしてもうやっておきたい。

出来るなら、技術も盗みたいな。

どちらにしろ、それらは明日、そう明日だ。

明日はある意味で大切な分岐点だ!

…………。

あ、閃いた。

近くに川と海があるので水車を使っての水力発電もいいかもしれないね。











「そういえば、一郎は食事は結局どうしてんのよ。あの時はなのはたちが来たからうやむやになっちゃったけど」

「食事? ああ、それならパンの耳とか」

「パンの耳!?」


そう、ありがちなパンの耳である。パンの耳は本当に英雄だね。

しかも、パンの耳をパン屋から買うのではなくもらえるのだ。

もらえると言ってもご自由におとりください的なもので、その店を探すのも酷く大変だった。

隣町まで走って見つけたからね。

おかげで、毎朝パンの耳をもらいに行く為に走り込みだよ。


「パンの耳だけで食べてるの?」

「あと、塩と水かな」

「……もういいわ、分かったわよ。あんたが馬鹿ってことは」


塩は海水を蒸留する際についでに出来た副産物だ。

まさかの調味料の発見でそのときは喜びまくったものだ。

思わず、海に沈んでいく夕日に「ホームレス最高~~っ!」って叫ぶほどに。

ちなみに火はと言うと、拾ったライターで何とかやりくりしている。

これってリサイクルだよね?






{ホームレス生活>越えられない壁>アリサの式が出来上がった! 変態紳士多すぎる、ワロタwご協力ありがとうございます!}



[17560] ─第11話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/04/29 22:34
拾ったライターの中の液体、灯油が切れた今日この頃。

と言っても、アリサたちの学校の前で待ち伏せした翌日なんだけどね。

俺はすずかと会う約束をした。

すずかの家は以前に家まで送りにいったので場所は把握していた。

把握していたのだが、かなりの距離がある。

この距離は、ここからアリサの家に行くよりも距離があるほどで下手したら隣町に行くよりも距離があるんじゃないかと思うほどだ。

だからと言って、今日の用事を……もとより用件を果たさなければならない。

それなら努力はかかさない。

自由になる為の方法と、未来を掴む為の苦労だと思って俺は精一杯頑張るとしよう。

それにしても、だ。

本当にこれは重いな。

見た目からして重いのは分かっていたが予想以上だ。

子供の力で持っていけるか不安だったが、なるほど新事実発覚である。

この身体は思った以上に力と忍耐力があるようだ。

こんなちょっと幸せになれる力をプレゼントした、神様に感謝……


「するわけないじゃん!」

「無宗教!?」

「とういより無神論。あれ? アリサなんでこんなところに……」

「い、一郎が今日はすずかと遊ぶって言ったから、すずかに迷惑かけないか心配したからに決まってるじゃない!」


それは一見俺の心配をしているようで、すずかの心配をしているのか?

はたまたそれはダミーで俺の心配を……分かりづらい。もっと簡単に言って欲しいものだ。

とりあえずお礼を言っておくか。


「あ、ありがとうなんて言わないんだか──」

「一郎がツンデレか!」


怒られてしまった。

せっかくアリサの事を思って、いつも通りにボケてみただけなのに。

褒められこそすれど、怒られる筋合いはないと思う。

アリサは俺に激しい突っ込みをして少し息を乱しながらさっきまで俺に向けていた視線をずらした。


「ええと、後ろのは……はぁ、まぁいいわ。突っ込むと疲れそうだから。すずかに迷惑をかけないように頑張りなさいね。後例のものだけど……」

「おー。応援と例のものありがとう。やっぱりアリサは頼りになるね」

「べ、別にすずかを心配してるだけよ……」



そう言うと、アリサは少しほほを染めながらも踵を返して車に乗って帰った。

なぜ、リムジンがこんなところに?

とは思ったものの、まぁアリサだから仕方ないかと心の中で諦めた。

リムジンが過ぎ去っていくときに鮫島さんがお辞儀したように見えたので、こちらもお辞儀を返しておいた。

なんだかそれだけで、ブルジョワな気分を味わった感じだ。

…………。

なわけないけどね。











すずかの家に着くとメイドさんがお出迎えしてくれた。

普通の人ならここで驚くかもしれないが、俺は驚かなかった。

それはひとえに、アリサの家出の経験上となんとなくいるだろうなと思ったからだ。

だってこの家……見た目からして普通の一般家庭じゃないもん。豪邸だもん。

しかも、アリサの家に負けず劣らずの。

でも、なんでメイドさんはむしろ俺に驚いていたのだろうか……ああそうか。

小学生のホームレスが珍しいからか、納得である。

俺はそのかわいいメイドさんに連れられて、すずかの待っていると言う客室に通された。

そこで、すずかとの挨拶もそこそこにしていると、気を利かせて飲み物を持ってきてくれた。


「私はもっぱら紅茶派ですから」

「そうなんだ、それはねアールグレ……」


紅茶の照会をしてくれるのだが、あれ? 何か変だな。いつもの調子じゃないと言うか……。

多少の違和感を感じるものの、話は本題に入ろうとした。


「あのね、一郎君」

「どうした、何か変かな?」

「……ううん、変じゃないよ。ただ」

「ただ?」

「その後ろの荷物の山は、何かなって」

「ああ……俺の全財産」

「全財産?」

「うん、全財産」

「そうなんだ……全財産か」


何かおかしな点があっただろうか? いや、むしろ俺が違和感を感じているぐらいだ。

後ろ──荷台に積まれている、電化製品の山には、冷蔵庫を始めとする、電子レンジ、パソコン、液晶テレビなどが積まれている。


「液晶……なんだね」

「ああ、たまたま拾ってね。サッカーが好きなんだ」

「たまたまかぁ……そっか。サッカーが好きなんだね、私も好きだよ」

「そうか、すずかも好きなんだ」

「うん」

「……そっか」


やはり、おかしい……完全に違和感がある。何かが圧倒的に足りない気がする。

話のテンポ? ボケ? それとも速さ?

すずかのしゃべるスピードが遅いと言うことなのか!?

違う……そんなんじゃない。絶対にそんなんじゃない。

もっと、もっと大切なことが足りない……。

アリサにあってすずかにないもの……あ! 突っ込みか!


「すずかって突っ込みできる?」

「突っ込み? う~ん……」


そういいながら、人差し指をあごの部分にを指しながら、頭を横に傾けて考えた。

なんともかわいい仕草。

アリサにはとても出来ない芸当だった。

アリサは芸当よりは芸の方が得しそうだしね。

突っ込み担当だし。

それにしても、すずかは突っ込みは苦手そうだね。

まさか突っ込みといわれて、なんでやねんなんて言わないよね? さすがに無いよね?

そんな事を考えていると、思い当たる節が見つかったのかすずか顔を上げた。



「い、いいかな……い、いくよ」

「お……おお、こい」

「な、なんでやねん?」

「なんで疑問符やねん!」

「ふふっ、さすがだね。一郎君」


すずかのこの笑み……これは罠だ!? 

罠か?

俺が突っ込みをさせられるとは……恐るべしはすずかだね。

まさか、これら全てがすずかの思惑通り!?

すずか恐ろしい子です!


「あ、ごめんね。私ばっかり話して。今日は用件があってきたんだよね」

「いや、無駄話は好きだから別にいいよ。用件って言うのは……分かる?」

「お姉ちゃんかな?」

「うん、まぁその……」

「後ろのテレビとかを修理して欲しいのかな?」

「というよりは、修理の仕方を教えてほしいんだよね。できるかな?」

「出来ると思う……思うけど教えてくれるかは──」

「君次第かな?」

「お、お姉ちゃん!?」


突如として現れたのはすずかのお姉さんだった。

すずかのお姉さんは、まるですずかの未来像のような感じがする。

雰囲気こそ違えど、姉妹というのは頷けるほどのかわいさ、綺麗さ、清潔さということだ。


「初めまして、一郎君。すずかの姉の月村忍よ」

「あ、はいどうも。初めまして忍さん。俺は世界の──」

「イチローかな?」

「得意技はレーザービームです」

「ふふっ、期待通り変な子ね」


期待通りとはどういうことか?

しかも変な子って……あながち否定できないことが悲しい。

でも、普通って言われるよりはいいかも。

名前もこの日を境にレーザービームイチローに変えようかな。

ちょっと強そうでいい響きだ。

そのうち目からビームとかできるようにならないかな。

そういえばスルーしてたけど、君次第とはどういう意味だろうか?


「それはね、一郎君の性格とかその他もろもろで決めようと思ってたんだけど」

「けど?」

「そんな大荷物もって来られたら、何もせずに帰れなんて言えないよ」


ここに着てまさかこの苦労が報われるとは。

人間苦労はするものだね。これからも、どんどん苦労していくとしようかな。

それはともかく、忍さんが無事に修理の技術等を教えてくれるそうな。

これは本当に助かった。

俺のホームレス生活の未来は明るい。











電化製品の修理は簡単じゃない。

そのことがよく身に染みた。

教えてもらっても専門用語がたくさん出てきてチンプンカンプンなことが多く、分かったとしてもとてもじゃないが覚えられるような量じゃなかった。

なので、とりあえずは共同作業でパソコンを修理をしエクセルを使って、修理の仕方をメモなどをした。

まぁ冷蔵庫は今すぐに食べ物を保管するわけでもないし、電子レンジなんてそもそも食べ物が無い。

テレビは町に出ればただで見えるのでどれも急いで修理をする必要があるわけでもないので気長に直していくことにした。

それでもPCだけは修理が出来たので荷台に積み家に持ち帰った。

家に帰るとタイミングを見計らってきたかのようにアリサが押しかけてきた。


「おかえり。ご飯にする? それともお風呂?」

「ただいま、それじゃあお風呂に……って、どこにお風呂があるのよ!」


突っ込むところそこなんだ、さすがだアリサ。

ちなみにお風呂は川の水じゃなくて公園の水だから安心していい。


「どこに安心する要素があるのよ……」

「公園の水は飲める! 川の水は飲めない! ほら、安全だ」

「心臓に悪そうよ! 健康面が安心できないじゃない!」

「冷静に突っ込むね」

「冷水に突っ込んだのよ」


にしても、このやりとり……そうだよ。

すずかでは駄目なんだ、アリサじゃないと。これが俺の望んでいた……


「俺の相方だ!」

「誰が相方ですって!?」

「妹のほうが良かったか?」

「まだ言うかーーっ!」


本当に妹と言う単語に敏感な人だ。

妹と言うとすぐに気がたって顔が真っ赤になっちゃうんだから。

こういう反応をするからこれ以上ないほどのからかう材料なんだよ。


「はぁ……はぁ……一郎といると本当に疲れるわ」

「俺は楽しいけどね」

「一郎が楽しいだけじゃない……」

「アリサはつまらない?」

「え? ……た、たのし──」


最後のほうの語尾があまりに小さくてよく聞き取れなかった。

聞き取れなかったが、アリサのもじもじした反応から見て楽しいと言うことにしよう。

アリサだって自分の突っ込みが思う存分発揮されるのだから楽しくないはずがないしね。

……俺の自己満足かもしれないけど。

まぁそれでも、俺はアリサに突っ込ませるけどね。


「ああもうっ! 私は一郎と漫才しにきたんじゃないわよ」


アリサがごもっともな事を言う。

それを言ったら終わりだろう。俺だって漫才が得意と言うわけじゃないんだ。

ただアリサとしゃべっていたらたまたまこういう会話になってしまうと言うだけの話。

そして、それが楽しいのだから仕方ないことだ。

アリサには諦めてもらうしかない。

呆れてはすでにいるかもしれないけどね。

アリサは深いため息をつくと、本題に入るわよと言った。


「一郎がうちに帰ってくるなら、こんなものいらないんだけど……駄目、かしら?」

「無理、かな」

「……そう。ならこれ以上は無理にとは言わないけどだけど……」


多少の協力ぐらいならさせてもらうわよ、と言い。それがせめてもの恩返しと続けた。

まだ根に持っていたのか。

ただ今回ばかりはその恩返しには感謝するとしよう。

このアリサの協力がなければ、俺に近未来的なホームレス生活は送れなかったのかもしれないから。


「こ、これが例の」

「そう、例の」


アリサは例のものに被っているシートを、バサーっと豪快に放り投げると中から出てきたのは、俺がアリサに依頼した例のものだった。

その例のものの形はまるで自転車そっくりでエアロバイクのようなものだった。

ただ違うのは、そこにコンセントがあるのではなく電池パックのような電気を貯められるような装置があること。


「一郎の依頼した物品」

「ああ、その名も」

「「人力発電機」」


人力発電、俺が考えた最もエコで実用的な発電方法だ。

ただ、欠点としてはそこから発する電気は微々たる物。

もちろん、それを解消する為にさまざまな創意工夫はされているだろうが、それだって大したことはない。

しかし、それでも使わざるを得ない。

無いよりはましだし、その上自分の努力と苦労次第ではいくらでも発電できるのだ。


「本当にいいのかしら? 私ならソーラー発電の一つや二つぐらい用意出来るけど、そんなもので」

「いいんだ。これなら発電と同時に筋トレにもなるしね」


まさに一石二鳥だ。

朝はパンの耳のために走りこみ。

その後はひたすら発電のために人力発電をして、夜は海で貝でも探す。

そして、ついでにライターなども探す。

実に健康的な生活だ。


「野生的の間違いじゃないかしら?」

「野生的で健康的じゃないか」


人間の持てる本能をかき立たせてくれると言うか、こう……わくわくするよね。

毎日が冒険みたいで。


「分かったわよ。ただ、一つ忠告よ」

「ん?」

「捕まらないように気をつけなさい」

「ああ、そのことか」


アリサらしい気の遣い方だ。一応は心配をしてくれていることと言うことか。

ただそれについてもちゃんと対策は考えてあるので、心配はご無用と言うものだ。

語るより、実際に見てもらったほうがいいかもしれないけどね。


「ほれ、この下見てみなよ」

「下って何──……こ、これは!?」

「どうだ、ビックリしたか? そして、知られざるもう一つの機能!!」

「……!? す、すごいわね! 無駄に!」


ふふ、ダンボールハウスも日々進化しているとだけ言っておこう。








{次回はちょっと変わった風に書くかもしれません。決定じゃないですけどね。進化するダンボールハウス……今は成熟期といったところでしょうか}



[17560] ─第11.5話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/03 14:41
「もうっ! なんでこんなに分からず屋なのよ!」

「いやいや、分からず屋なのはアリサのほうじゃ」

「一郎がここを動こうとしないからじゃない!」

「いや、しょっちゅう移動はしてるよ?」

「そういう意味じゃないわよ!」

「っと、危ない。そう何度もぶたれるわけには──痛っ! ま、幻の左手……だと!?」

「どこのシャーマンよ!」

「いや、イタコだよ?」

「だーかーらー!」


一郎としゃべるのはとても面白いけど、いっこうに話が進まないのがたまに傷よね。

私の言いたいことが全く伝わらない。

こんなにもしゃべっているのに、話をして、毎日と言うほど説得しにきているのに……。


「どうしたアリサ、悩んだ顔をして。悩み事ならお兄ちゃんが──」

「あんたはなんだかんだで気に入ってるのね、お兄ちゃんってポジション」

「からかうのに最適かな、と」


私の一度きりの発言でそれ以来なにかあれば、すぐにお兄ちゃんお兄ちゃんと言うのだから鬱陶しくてしょうがない。

あまりに何度も連呼するものだから、もはや突っ込む気力すらも湧かないものと言うものだ。


「はいはい、お兄ちゃんは優しいですね!」

「むっ。お兄ちゃんには冷たいんだね」

「だれがっ! 私は優しいわよ?」


そうよ……。

毎日こうしておにい──ま、間違えちゃったじゃない! あのバカのせいで!

こうやって来てやってるんだから、優しいじゃない。

それが分からない、一郎なんて……。


「でも、まぁ毎日大変そうなのに来てくれるおかげで暇はしないね。そういう意味では感謝してるかな」

「な……ば、バカっ! 嘘つくんじゃないわよ!」

「あれ? なんで俺が怒られてる?」


か、感謝されたって何も出来ないんだから……急に変なこと言うんじゃないわよ……。

そ、それに私はただ一郎が、わ……私の家に戻ってきて……。

な、何言ってるのかしら、私は。

バカみたいじゃない。

こんなバカのためにバカなことを考えるなんて本当にバカみたい……。


「あ、今日はパンの耳貰い忘れた」

「バカじゃないの!」


本当に一郎はバカよね。

だからいつも私が帰ってくればいいって言ってるのに。

言ってあげてるのに、なんで分かってくれないのかしら。

いい加減に腹が立ってくるわよ。


「いい加減に腹が減ってくるわよ? ならパンの耳でも」

「そんなところが拾わなくていいのよ! それに減ってるじゃなくて立ってる!」

「アリサフラグが?」

「誰が一郎なんかと!」

「そ、その一言は結構傷つくぞ! 特になんかが!」


いいいのよ、一郎なんてなんかで。

いつも私にばかり迷惑かけるんだから、それで十分よ。

悔しかったら……悔しかったら……も、戻ってきてよ。

…………。

な、なんて言えないわよ。

私にプライドにかけてもいえないわよ。

言ったら、なんか負けた気がするじゃない。

それにこんな事を言ったてまえ、それを使って一郎はまた私をからかうに決まってるわ。

だから死んでも言ってやらないんだからっ!


「まぁいいけどさ。……そんなことより、アリサ」

「……なによ?」

「なんでそんなに膨れっ面なんだよ?」


べ、別に怒ってもいないし、やけにもなってないわよ。


「うるさいわね」

「はぁ……気付いてるよな?」

「なにがかしら?」

「あれ」

「……あれね」

「ああ、あれだ」


あれとは何か。

ひょこりと草むらに見える栗色の髪のような物体。

ときたま、ぴょこんと動くのが私から見てもかわいらしく見える。

それがまた生き物のように感じるのだけれど、どこか見覚えのあるものだった。

それは、私の親友のものに非常に似通っているもの。


「まだ放置してるのかしら?」

「ある程度はフォローもしてるけど。あれはあれで面白いからね、ただ」

「ただ?」

「そろそろかわいそうに見えてきた……」

「……ほどほどにしときなさいよ。私からもフォローは出来るようにしとくけど」

「ああ、サンキュー、悪いね」

「べ、別にあんたの為なんかじゃないんだからっ!」

「はは、そりゃそうだ」


本当に……私の周りには世話のかかる人ばっかしよね。

自分で自分の将来も心配だけど、あんたたちの将来もとても不安よ……。

一郎に関しては現在進行形だけどね。












彼こと鈴木一郎君(仮)に、初めて出会ったのは、公園で一人寂しく砂遊びをしていた時だった。

一人寂しく……私のお父さんがとある事故によって大怪我をして入院をしていた時だった。

この話自体はそれほど暗い話じゃない。

いや、実際は暗いのだろうけど今でこそ前と変わらず元気にしているので過去の話と言うことだ。

だから重要なのはそんなところじゃない。

本当に重要なのはそんな時に彼に会った事。

今考えても不思議な出会いだったと思う。


だって……いきなり現れたと思ったら一人、砂ですごいものを作るんだもん。

それはもう……すごく、すーっごく驚いたの。


一郎君はいい汗かいたといわんばっかしに汗を拭った、その姿を見てついつい声をかけてしまった。

そして、その場の勢いでリクエストまで言っちゃって……そしたら答えてくれちゃって……。

嬉しかった。

とても嬉しかった。

でも……。

本当は……すごく怖かった。

自分でも分かってる。

人付き合いがあまり上手くないことは。だから、今までだって……。


そ、そんなことはどうでもいいの!

今は友達が出来たから! 大切な……とてもとても大切な。


アリサちゃんの聞くところによれば、実は裏で一郎君が色々とやってくれたって言ってたけど……どうなのかな?

一郎君には悪いけど、あまり気の回る人とは思えない。

それは、普段の自分の扱いからして。


何かあったら、すぐぶつ……。

暴力は振るわないって約束したのにっ!

私だって約束したから振ってないんだよ? 一郎君は分かってるのかな?

本当はアリサちゃんを叩きそうになったけど……でも、それは一郎君に言われる前だから大丈夫だよね?

セーフだよね。


今でもそうだけど、一郎君は本当に何者なのか分からない。

自分が寂しかったときに、急に現れて、自分が助けて欲しかったときに急にいなくなった。


嵐のような子……なのかな?

ううん、嵐のような言うより嵐そのものかもしれないよね。


そんな一郎君は今は独り暮らしをしていると言う。

本人曰く、


「ダンボールはごみでも、ましてやリサイクルでもなく。自分にとっては間違いなく家なんだ」


それはつまり、ダンボールの家で一人ぐらいをしているってことだよね?

雨の日とかどうするのかな?

疑問に思い一度聞いたことがあった。

そのときに一郎君は自信満々に、


「これがこのダンボール108式の一つ。ビニールガードだ」


とかいい、天井からたれている紐をビッと引っ張ったら、勢いよく青いビニールシートがダンボールハウスを包み込んだのは今でも印象的に残っている。


え!? 一郎君って博士さんだったの!?

どうりで個性的な服装と性格をしていると思ったよぅ。

それなら今までの行動も説明がつくね。


これまでの行動──ひたすら機械を弄繰り回したり、ダンボールハウスをなにやら改造っぽい事をしていたり。

それが出来ると海に叫んだりしたり……それはもう数々の奇行に。

その姿が少し怖くて私は話しかけることが出来なかった。

出来なかったので、向こうからは見えないと思われる草陰からよく一郎君を眺めていた。

最近では、アリサちゃんたちと学校で別れた後にそれを見に行くのがちょっとした習慣になったりもしている。

そうすると、別れたはずのアリサちゃんが一郎君の家に来るのをよく見るようになった。


一郎君とアリサちゃんって本当に兄妹なのかな?

だとすると一郎君は本当は外国の人なのかなぁ。

そういえば、どことなくアリサちゃんに似ているような……性格が。

じゃあ、本名も本当はバニングスなのかな?

でも本人は鈴木一郎だって言ってたし……もうっ! わかんないよ!

なぞが深まるばかりだよぅ。


今日も今日とて、一郎君の家の前の草むらの中。

いつものように、影からこっそり一郎君の行動を眺めていた時だった。


にはは、今日も一郎君は私に気付いてないの。

これはもしかしたら一種の才能なんじゃないかな?

でも……いつになったら気付いてくれるのかな?


ある種の達成感を感じながらも、どこか寂しいと言う気持ちもあった。

そんな時だった。

一郎君が一人でポツリとやや大きめの音量で言った。


「これで約半年か。雨空の梅雨の時期はかわいい水玉の傘を差して。

暑い夏空の下、さらには苦手で嫌いであろう虫が飛び回り、夏休みの貴重な時間をかわいいミニスカで影潜み。

虫たちの音色がそこら中に響き渡り、台風の激しい風と雨の中傘が壊れて泣きながら。

約半年。毎日毎日ご苦労なことだ。本人は必死に隠れるものだから気付かない振りをしていたけど、いい加減にかわいそうになったよ。

だから、今日はあえて言おう。このまだ秋が過ぎて間もないと言うのに地球温暖化など全く気にしないこの寒冷の日に。

いつも、その栗色のツインテールが丸見えだ。高町なのは」

「ふぇ!?」


一瞬、あまりの長セリフに何を言っているか分からなかった。

でも、一郎君が私が隠れている草むらをじっと見つめてくるもんだから少しずつ理解できるようになる。

ええと、これは一郎君が私が隠れてみてるのを知ってたってことなのかな?

分かってて、あんな変な事をしてたということは……、


「一郎君ってもしかして、かなりの変人?」

「し、失礼なこと言うな!」


い、痛いよぅ。

何ですぐぶつの!? 女の子にすぐ暴力振ると嫌われるよ!


「俺はなのは程度なら嫌われても問題は無いけど?」

「いつにもましてひどいの!」

「いつにもましてって……ストーカーに言われたくない。そもそも俺を変人ってストーカーななのはの方がよっぽどへんじ──」

「一郎君と一緒にしないでよ!」

「ひどっ!」


ひどくないもんっ!

だって一郎君は私が雨の中寒かったけど必死に我慢して眺めていたのを見たり、暑い夏の中虫さんたちの羽の音に怯えてたのを楽しんだり、

台風の日に、傘が壊れて泣いていたのを無視してたんだよね?

そっちの方がよっぽどひどいよ!


「だから傘は直してやっただろ……」

「うっ……そうだけど」

「それに俺はなのはがここに来るのを知ってたから、来るだろう時間帯にはいつもここにいただろ?」

「え? ……意味がわからないんだけど?」

「……はぁ」


な、なんでそんなに面倒くさそうな顔をするの!

ため息もやけに長かった気がするよっ!


「あのな、いつもここにいたら問題だろ?」

「え? なんで?」

「詳しい法律の話しはなのはに到底理解できないから省くとし──」

「わ、わかるよ!」

「……本当かよ」


法律でしょ?

泥棒さんはいけませんとか、人のものは盗っちゃいけませんとか、お金を盗ったらいけませんとかの。

それぐらい私も分かるもん。


「うーん。なら、分かりやすく簡単に言うなら。だつぜ──おっとこれ以上は言えないな。

まぁつまりは、ここにずっといたら他の人の迷惑になるから、日々場所を移動してるってことだよ」

「場所を……移動?」

「そう……ここ、こう押すと……」

「わっ! す、すごいよこれ!」

「ふふっ、だろ? 伊達に日々改良をしてるだけじゃないんだよ。ちゃんと忍さんに色々と教えてもらってるんだ」


やっぱり一郎君は博士さんだった。

それにしても、まさかあのボタンを押すと、下からあんなのが出てくるなんて思わなかったの。

この家がまさか水陸両用だったなんて。


「これも全て研究の成果かな?」


そう言う一郎君の姿は、ちょっと誇らしげでとても輝いていたと思う。

あれ? 水の上に家を浮かばせるってことはどこかに流れちゃったりしないのかな?


「浮かべたことないから大丈夫!」


やっぱり輝いていなかったかも。









{アリサとなのは視点……どっちを先に持っていこうか悩んだ結果がこれ。調子乗りすぎたようで後悔したけど、公開はする。シリアスにはしないが鉄則}



[17560] ─第12話─【修正・補足】
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/09 15:07
自分にとっては今が最もな山場だった。

季節はこの世界に来て最初の冬。

年齢は約2年で二桁になる──仮に年齢がなのはたちと一緒とした場合だ。

実際には分からないし、見た目では周囲の年相応の子供に比べ身長を含む身体的特徴の成長が早い、もしくは優れているので、

何も知らない人が見れば、中学生くらいに見えないこともないと思う。

あくまで主観的にだけどね。

つまり、後数年を我慢すれば義務教育が終わるような外見年齢に達し、道端でホームレスをしていても怪しまれない……いや、ホームレスって時点で怪しいとは思うけど。

まぁそこは置いとくとして、怪しまれない年ではある。

だが、それはあくまでで数年後の話であり、今ではない。

今現在はというと……日々ひっそりとした毎日だ。

大方の予想はつくと思うが、これは保護などに対する対策である。

別段、学校の時間などに主だった動きをしなければ怪しくは見えないはずだし、最初こそは寝る場所も橋の下だったが、可動式に改造できた為、

場所の移動により、撤去や人の目につく可能性がかなり減ったと思う。

また、移動場所を人目のつかない場所にすればホームレスであるということはバレずに、通報されることもないだろう。

もちろん、ハウス移動中に見られる可能性はあるのだが、それは事前の調査に傾向は分かっているので見られる可能性は非常に低い。

と、ここまではかなりの努力の成果によって持たされた今の状態だ。

しかし、この努力をなぜか知っているアリサはここまで必死になっているのを見て、疑問に思ったのか、真剣な眼差しで聞いてきた。


「すぐに諦めると思ったのにもうかれこれ半年以上よ。そこまで頑なにホームレスしようとする理由ってなんなのよ? 納得の説明がしてほしいわね」


納得のいく説明。

つまりは明確な理由と言うやつだろう。

もちろん、ある。

ホームレスを始めたころ──アリサの家を飛び出した時は興味本意とあまり迷惑をかけるのも忍びないと言う理由で出て行った。

しかし、現状を考え見るに迷惑なのは今のほうかもしれない。

こうやって、心配させてるぽいから。

それなら……アリサに答える義務は必然と出てくれる。


「人の手を借りたくない、自由が欲しい、かな?」

「ありたいていだけど、相変わらず考えることが壮大よね。それで、どうして人の手を借りたくないのかしら? まだ私たちには必要だと思うけど?」


確かに……人の手を借りずに生きるなんて不可能かもしれない。

俺はこの生活を充実させる為に、忍さんの知識を借り、技術を学んだ。

これが人の手を借りた以外の何ものでもないとは思う。

しかし、同時に自分が努力して手に入れようとしてるものでもあるから否定はされたくない。

これは、この世界での自分の生き方として‘目標’になりつつあるものだ。

一応過去の年齢と合わせれば最低でも24くらいは行ってるだろうしね。

十分に独り立ちする年齢だ、もちろん精神的にもそうだと思ってる。

まぁ社会経験ゼロではあるけどね。バイトはしていたけど。


「自分の力だけで生きていく、これが目標みたいなものだから」

「またすごい目標よね……」

「男のプライドってやつかな?」

「その年でなに決め込んでるのよ。でも、まぁ分かったわ。一郎の覚悟はその目と今までの行動を見れば。じゃあ、自由のほうはどうなのよ?」

「それこそ、男の夢じゃないかな?」


自分にとって自由とは、しがらみに捕らわれないというのは当たり前のことだが、違う言い方をすれば開放的な暮らし、とでも言うべきなのか。

前の人生においては高校生。

高校生は子供と言う立場なので親はいるし、もちろん学校にも行かなくてはいけない。

それもそのはず、それが普通だから。

別段その普通が嫌だって言うわけじゃない。

むしろその環境を自ら楽しんでいたのも事実だ。

しかし、今はそれとは違う新しい生での新しい環境。

だから……前にやった事を繰り返すなんていうのは、できれば避けたいし、やれるのならば新しい事をしたいと思うのは当然のことじゃないのか?

そして、その新しい目論見に、自分の力でと言う目標──条件を付け加えることで、たまたま自由を得る為にホームレスをする、という考えに至った。

まぁホームレスという選択肢はあくまで現状のもので、これ以上にいいものがあればそっちに移るかも知れないけどね。

ただ小学生と言う立場にお金がないとなると人の手を借りずに生きるとなると、家に住むことなどできない。


「自分の力で自由を掴むって? はぁ、現実はそんなに甘くないでしょうに」

「まぁそれでも不可能じゃないと思ってる」

「本当に一郎って面倒くさいわね!」

「悪かったな。それでも説得によく来るアリサも物好きだよね」

「悪かったわね!」


感謝してるってば。

絶対に言わないけどね。

アリサは本当に俺の事を心配してくれているみたいだし、なのはもたぶん……そうだと思う。

なのははよくここに食べ物を持ってきてくれるので、食事は少し助かったりしてるしね。

今も主食はパンの耳なので……図書館で調べたりして、野草で他の栄養を補充することも出来るし。

集めた缶を換金できるあれで、カロリーメ○トぐらいなら買えるお金が出るので買ったりはするが。

おもな炭水化物の摂取ではあるけどね。

ただそれでも足りないことはあるので、しばしば川でザリガニなどを取ることはある。

しかし、それらのことは冬では厳しいのでこの冬を乗り越えられるか鍵でもある。

そういえば、なのははなんだかんだで秘密基地って言葉を未だに好き好んでるみたいだしね。

なのはに限ってはホームレスって言葉の意味も分からないみたいだしな。

まぁそのおかげでなのはの親……士郎さんたちには一回会っただけだからこの状況がばれていないんだけどね。

もしかしたら心配はしてくれてるかもしれないけど……。

どうだろう、そこまでは分からないな。

逆にアリサの親……以前会ったアリサのお父さんだが監視のような感じだった。

いや、実際にしてるわけじゃないだろうし監視なんて物騒なは言い方だが、アリサから話を聞いて様子見でもしてるんじゃないだろうか。

今は俺が孤軍奮闘してるから、実力を見ようじゃないかとかそんなんらしい

でもいざとなったら……みたいな感じらしい。

らしいというのは、アリサからそのような事を聞いたからだ。

うん、まぁ男の子が一人でどうにかしようとしてるというのを好意的に受け止めてくれたのかもしれない。


「説明はこんなもんでいいかな?」

「……はぁ、分かったわよ。分かったけど納得は仕切れない、意味は分かるわよね?」

「まぁ、ね」

「ならいいわ。じゃあ、自分でちゃんと公言したからには、自由気ままに暮らすといいわ」

「お、おう」

「だから、私は手を貸さないわよ。でも……利用なら」

「でも?」

「な……なんでもないわよ!。今日のところはもう帰るわ。もう日が暮れそうだから」

「うん、そうだね」


とりあえずは分かってくれたようで何よりだ。

あとは本当に自分の手で、何もかもが出来るようになるだけだ。

あ、でも人を利用するのは人の手を借りるのとは違うよね?











「冬は寒いわね」

「この家がダンボールだからじゃないかな?」

「でも、こうやってみんなで一緒の毛布に包まれるの好きだよっ!」

「そうね、みんなで固まれば暖かいわ」

「おしくらまんじゅうなのっ!」

「……」

「「「どうしたの(かしら)?」」」

「なぜ俺が中心だし!」


海鳴市の冬は寒いどころか雪まで降るさまだった。

雪が降るということはかなりの寒さと言うことであり、雪は空気中のちりやごみのはずなのになぜそんなに冷たくなるんだよ!

と、ついつい突っ込みたくなるほどの寒さだった。

さすがにダンボールだけで雪に覆われる山の中で過ごすのは生命活動に関わるので、廃墟へと避難してきた。

ダンボールin廃墟である。

廃墟inダンボールだった恐ろしいことになるからね。

このまま廃墟に過ごすのもいいけど、こういう場所は音とか出すと目立つのでなるべく避けたい。

避けたいが……死んでは意味がないので一時的な処置だ。

そんな時にやってきたのはこの三人組。

ご丁寧に家に帰ってから各自に防寒グッズを持参して現れたのだ。

その一つが毛布であり、この様である。

たしかにおしくらまんじゅうの真ん中でこんな美少女達に囲まれれば天国ではあるのだが、ある意味地獄でもあった。

自分のこの状況が恥ずかしくて体中が熱くなると同時に、動けないと言うストレスを抱えながらも人とはすでに密着し……何が言いたいのかと言うと、


「暑苦しいわ!」

「え、私は暖かいよぉ。ふにゃ~ってなるよ? ふにゃ~」

「別にいいんじゃない、この寒い冬に暑いなんて贅沢なホームレスね」


確かにそう言われれば、今頃普通のホームレスたちは寒空の中肩を震わせていると言うのに俺は暑いって……。

いやいや、確かに贅沢ではあるがなら他の方法があるだろうに。


「一郎が前になのはを抱きたいって言ったから、行動に移しただけなのに。なのはを生贄に」

「言ってないし、生贄って……」

「い、一郎君って……」

「絶対にすずかは変な意味を思い浮かべていると思うぞ? てか、小学1年生がよくそんなの知ってるな」

「一郎君が私を抱く? 抱きつきたいの?」

「なんで、ようやくこの時が来た! 見たいな顔をしてるんだ? 断じてそんなことはないから安心してくれ」


すずかは少し顔を赤く染めながら驚いたような顔をし、なのは目を子猫のようにきらきらさせ、アリサはにやりと言ってやったとばかりにしたり顔。

すずかがませてるかどうかはともかく、なのははなぜそんなに抱きつきにこだわる。

あれか、前にかわされたのを未だに根に持ってるとか?

リベンジみたいな?

アリサは……俺を弄りたいのかなのはを弄りたいのかの二択だな。


「でも、実際はありがたいでしょ?」

「人の手は借りたくないとあれほど……」

「貸すんじゃなくてあげるんだからいいじゃない」


屁理屈ですね! でも突っ込んだらせっかくの善意に水を差すので、やめておこう。

決して助かったなんて思ってないよ?


「私からこの毛布ね」

「え……ああ、ありがとう」

「ええと、これは私とおねえちゃんからね」


アリサが今使っている毛布を俺に渡した後に、今度はすずかがバッグからボタン見たいのを渡した。

見るからに……怪しいし、忍さんからと言う時点で危険臭がすごい。

でも見た目だけではどういうものなのか分からないので、


「これは、なにかな?」

「お姉ちゃんが言うには、ボタンを押せば暖かくなるって」

「へぇ~」

「……丸焦げになるくらい」

「爆弾かよ!」


読めてた、この程度なら読めてた。

伊達に忍さんの下で、教えを請うてたわけじゃない。


「これを押すときは、周りに人がいないことを確認してから──」

「誰が押すか!」


ついついすずかに突っ込んじゃったけど、一瞬すずかは驚いた顔をしてからぷぷと笑い。

お姉ちゃんの言った通りの反応だと言われた。

やはり師匠は格が違った。

だからクリスマスに、爆弾の形したビックリ箱を送ってメリークリスマスと言ってやることにしよう。

さぞかし喜ぶだろうな。

……くそっ!


「じゃあ、私からはこれっ」

「……」


あまりにもありきたりして、ウケにもならないよ。

どう突っ込めばいいんだ?

庶民的だねっ! っていうべきかな?

それとも冬の必需品だよね、って言うべきなのか。

……よし決めた、こう突っ込もう。


「せめて束でくれやっ!」

「あ、またぶったのーーっ!」


そりゃ、カイロ一枚だけなんてそれじゃあ下手したら一日も持たないじゃないか。

まぁそれでも貰える物は貰うんだけどね。

でもまぁ……おかげで心は暖まったんじゃないかなと少しきざな事を心の中で呟くとしよう。

絶対に口には出せないが。


「そういえば、明日は吹雪らしいわよ」

「うわぁ、パンの耳貰いに行くのが大変そうだな」

「そこっ!? 寒さじゃなくてそこっ!?」






{色々と解説の回。指摘された部分をしっかり修正や解説できてるはずと思って書き上げました。さて、次回はいよいよ原作にはまだ入りません(キリ}


修正点・補足
余計な描写を少し切って、食事の描写を足しました。
さすがに栄養失調で死んでしまうので。

補足事項
通報に関して→今通報される可能性があるのはアリサ父とパン屋の人のみとお考えください。
普段の行動は作品中に書きましたが、ホームレスとばれぬよう活動時間を限定することで回避しています。
これはつまり、大人たちと関わっていないから彼を正確に知りえる人がいないと言うことです。
アリサ父は作中どおり。
パン屋については近いうちに書こうと思ってます。



[17560] ─第13話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/12 02:05
「知ってる? 雪って食べられるんだぜ?」


で、始まった最も過酷な冬は通り過ぎた。

それにしても雪に醤油をかければ食べられないこともないとどこかのアニメで言ってた気がする。

確かあのアニメでは雪を寿司に見立てていたような……。

なにぶん古いアニメなので忘れた。

それにしても、この発言をしたときのアリサの引きようはすごかったが、なのはの食い付きようもすごかった。

どうすごかったかと言うと、一緒に美味しい美しいと言いながら雪を食べるほどだった。

なのははその後家に帰ってお腹を壊したようだったが、俺は大丈夫だった。

胃袋もここ数ヶ月で丈夫になったと言うことだろう。

人間の神秘には脅かされると同時、感謝せざるを得ないね。

もっとも、雪でお腹が一杯になるかといえばそんなことはもちろんなく、雪の中でパン屋さんに行くのも愚公。

いや、食料ゲットの為にはその程度の努力はするべきなのかもしれないが、時期を考えれば今は大人しくするべきなのである。

なので、食料は秋のうちに採ったキノコ……もちろん天日干しにし保存の利く状態だ。

他にも、道路に落ちていた柿を中心とする果物。

こちらも同じく、天日干し……干し柿の誕生である。

パンの耳は、四日分程度のたくわえならある。むしろそれ以上はカビが生えてしまうでこれが限界と言うものだ。

よって、おかずは干しキノコと干し果物──かっこよく言うならドライフルーツが、冬をギリギリ越せる分程度はある。

如何にものどが渇きそうだが空からは多量の水分が落ちくるから大丈夫だろう。

うん、これが元々もは空気中の塵やごみと言うのは気にしない方向で。

冬の間はこんなひもじい生活だった。

いや、年間を通してそうなんだが特に冬はと言うことだ。

しかし、最低限の動きしかせずにじっとしていればエネルギーの消費は最小限に防ぐことが出来たためになんとかなった。

まぁ冬の間なんて暖かい日中の間に寝て、寒い夜と朝は起きているんだけどね。

その寒い夜と朝と言っても、基本的には真夜中なのでほとんど起きていないと言う状態かもしれない。

起きているときはなのはたちが来るときぐらいのものだ。

だが、起きているときも基本的にはボーっとしていたので、寝ているのと変わらなかったかもしれないが。

肝心の寒さは思ったより何とかなった。

よくよく考えれば、自分が幼いときは半そで半ズボンで一年中過ごしたものだから、そんなに心配することはないのかもしれない。

なので、一番の敵は寒さより風だったが風は廃墟の中のうえに、ダンボールの家なので完全シャットアウトだった。

嬉しい誤算もあったものだ。

おかげで風邪も引くことなく健康そのもの……とはいい難いものの、生き延びることが出来た。

この経験は次に繋がるものと信じたい。


「来年の冬にはコタツが使えるようにしたいな」


そのためにはまずコタツを拾うことが前提だが、暖房器具はそうそう落ちていない。

まぁ暖房器具のために今からお金を貯めると言うのもいいかもしれない。

現在の収入は、日に100円。これを365日で掛ければ……36500買えるか?

とても微妙な値段であるけど、最終手段は作ればいい。

なければ作るまでとは誰の名言だっただろうか。

まぁそれは後程として、今は暖かい季節のを訪れを喜ぼうじゃないか。












──以下、1年間をダイジェストにてお送りいたします。


春ですよーと言う声がどこからともなく聞こえそうな暖かい陽気の春。

つい一ヶ月ほど前の寒い季節が嘘のように暖かい。

暖かい季節と言うことであり、春休みも終わっていた。

春休みは俺がどの時間帯に自由に行動しても怪しまれないため積極的に動いた。

主にダンボールハウス改造の為の、ガラクタ置き場とか、作物探しの山の中とか、作物リストを作成する為に図書館とか。

ガラクタ置き場は人が滅多に来ないので問題ないとして、山の中にいても自然の中で遊んでいるようにしか思われずにすみ。

図書館でずっと本を読んでメモしても勉強熱心な子にしか見えないので案外便利だった。

おかげで、暮らしの向上がまた出来そうだ。

春休み中の話はほどほどにするとして、春といえば花が咲き桜の季節である。

そこらじゅうで、花見が行われ盛り上がる季節であると同時に、出会いと別れの季節でもあるのだ。

それが俺にどう関係あるのかと問われれば全くと言っていいほど関係ない。

あえて言うなら、春なら花の蜜が吸えるなとちょっと楽しみにしてるぐらいだ。

学校も始めってるらしいので去年と同じく、目立った行動は出来ない。

それでも春休み中の研究を下に食料の確保や人の出入りを調査しなおし、さらなる安全を確保するに至った。

これは現在の主な活動場所は前よりさらに広がった事を意味する。

あ、たんぽぽはやっぱり揚げた方が美味しかった。

素あげだけどね。

油は食物性だから、安全でエコで身体にいいしね。




梅雨といえば、誰もが考える雨の季節。

雨といえばアジサイとカエルですよね!

カエルは前から一度食べてみたいと思っていた。

いや、去年もそのチャンスはあったのだけど、どうしても最後の一歩が踏み出せないでいた。

だから今年こそは、と言う思いで頑張った。

うん、結果から言うよ。

美味しいです、はい。

姿焼きで十分に食べられるます。

味付けは塩をちょっと大目にするのがコツですかね。

新しい生命線確保でちょっと一安心でした。

アジサイも食べられるかなと思ったけど、食べる前に図書館で発覚した事実。

アジサイは食中毒になる可能性があるとのことだった。

危うく生死の境を彷徨うところだった。

ということで、脳内メモ。

梅雨の時期にカエルを確保し、天日干しに、血抜きした血はちょっとグロいけど飲めば栄養になる。

アジサイには手を出すな、と。

ちなみに、ダンボールハウスは水耐性が強いので問題はなかったりする。





水体制仕様にさらに炎属性に強くすれば、はれて夏対策用に通気性抜群のダンボールハウスが完成である。

春にかけて改造してたのはこの日のためであり、去年は出来なかった夏の快適な暮らしに一歩近づいた瞬間だった。

そして、夏なので木陰が多い山の中にダンボールハウスを設置し、迷彩柄にし人対策も完璧である。

後は将来的にステルス機能ができればと言うところであろう。

これらの改造は主にガラクタ置き場と、忍さんの提供によりできている。

忍さん曰く、


「サイエンティスト同士は協力するものよ」


とのこと。

俺と忍さんが同じサイエンティスト、科学者と同格──技術では忍さんにはまだ遠く及ばないが、仲間として認められたのは少し嬉しかった。

そういえば、忍さんには想い秘めた人がいるとかいないとか……。

俺は詳しく知らないし、お互いに深くは詮索しないと言う約束なので気にしたりはしない。

忍さんにとってもまた俺との関係は秘密の仲みたいなものだしね。

…………なんか、こういうとちょっとした優越感になるのは何でだろう?

まぁダンボールハウスの話はこんなもんでいいだろう。

問題は生活面なのだが、まずは虫対策。

ダンボールハウスが山の中にあるので自然と虫が周りにいることになる。

だが、これを上手く利用できないかと考えたのはもちろんのことである。

まず有名な虫……カブトムシやクワガタなんかと言うのは人気がありほしい人がいるのだ。

欲しい人がいると言うことは需要があるということなので商売にならないか?

そう思いアリサに相談すると、


「ちょっと面白そうね」


と、興味がありげな答えをした。

そこからアリサは人気の出そうな虫を捕まえときなさいと伝言を残し去っていった。

言われたとおり、家で待ち伏せしてるだけでかなりの虫を捕らえる事ができ、おかげで人気の虫はわんさか取れた。

捕り過ぎも悪いと持ったので、小さいのとメスはキャッチ&リリースした。

翌日アリサが再び家にやってきて、俺が虫をバニングス邸に運んだ。

そうすると、虫を一匹一匹写真を撮り、それをパソコンに送りなにやら操作してるようだった。

何をしているのか問うと、


「簡単に言えば虫の売買ね。一部はオークションとかでお金に、一部は物々交換をするのよ。一郎は食事とかに困ってるでしょ?」

「うん」

「なら、近所の子供持ちの家庭をターゲットに食べ物との交換を持ちかけるのよ」


アリサすげぇ。

俺もその考えはあったのは確かだが、ネットをつかってなどとは考えてなかった。

というか、アリサは本当に小学生か? 商売人の娘じゃあるまいし……。


「ほら、さっそく釣れたわよ」


そういうアリサの目は獲物を見つけた獣そのものだった。

なんという商売根性……。

結局アリサのおかげで、夏は充実することが出来た。

一つは例の商売のおかげで、軍資金と調味料を手に入れることができた。

お金はもちろん必要だとして、調味料は野生のものを美味しくいただく為にはほしかったものであり、なにより保存も利くから便利なのだ。

あとはパン粉や小麦粉なども手に入れることができた。

特に小麦粉はかなりの量をもらうことに成功した。

これがあれば製麺することも出来るからだ。

夏はある意味商売時でもあることがよく分かり、またもや生活の向上に繋がった。

その上、夏なら海で泳いでも怪しまれない為、魚や貝の捕獲も成功した。

さすがに魚は手づかみは厳しい(無理とは言わない)ので、手作りの竿で主にアジをメインに釣った。

想像はつくと思うがお得意の天日干しである。

アジの開きの完成だ。

そういえば、干物類は真空状態が大切とのことだったので、真空パックぐらいは買っておいた。

冬なら天然保存と冷凍が出来るがこれからは秋なので冬に比べたらあまり保存は利かないんだけどね。

それでも普通の食べ物よりは長く持つので、干物にはする。





実りの秋と言われるからには作物には困らないはずである。

これは事実だった。

去年の経験から、秋の間は食べ物に困ることはまずないのだ。

落ちている栗はもちろん、どんぐりに柿、魚とまさに食材パラダイス。

それでも基本生は危ないので火は通すのだ。

そうそう、火といえばどうやって出しているのかと言うと昔ながらのあれである。

あれは素人ががむしゃらにやっても、まず火が上がることがないらしいのだが俺は昔、とある無人島で生活してみると言う番組のおかげで、多少の知恵があったためできるようになった。

もちろん一朝一夕で出来るわけではないのだが、できるようにならないと死ぬと言う環境から必死になったら、今ではお手のもだった。

人間やれば出来るとはまさにこのこと。

そんな余談はさておきとして、秋は食べ物に困らない。

しかし、次の季節はいよいよ……。

去年も苦労した、寒さは思ったよりは平気だったが、夜寝れないのは中々に苦痛のものだった。

よって、今年は寒さ完備をしなければならないのだ。

もちろん食べ物もであるが、今回は秋の間に我慢して残しておいた調味料と小麦粉もある。

いざとなれば、ちぎり作業も……あ、あんな地道な作業はいやだけど。

つまり、去年よりは食べ物については余裕がある。

なので残す課題をクリアするだけだった。

そのためのお金でもあるわけだし、そのためのこの技術だ。

ふふっ、腕がなるね。





Zダンボールハウスが完成した。

なぜZかと言うと……精神エネルギーを使うからとだけ言っておこう。

精神エネルギーと言っても、別にそんなすごいものと言うわけではない。

ただ、気力でカバーそれだけだ……あれ? なんかちがくないと気付いたのは完成した後だった。

具体的にはダンボールハウスにこたつが導入されただけで、こたつは人力発電機で動くため、気力でカバーということだ。

俺はあまりエネルギーを使うことはよくないことは分かっているので、とりあえずなのはを上手く利用することに決める。


「はぁはぁ……ねぇ一郎君暖まってきた!?」

「おお、こたつあったかーい」

「ほ……はぁはぁ、本当!?」


なのはは必死に人力発電機を動かしている。

こたつは棄てられたちょうどいいくらいのテーブルを基にして、作ったのだ。

今回の作品はさすがに一人では大変だったので忍さんと協力である。

といっても、忍さんが設計図を作りその通りに俺が作っただけなのだが……うん、いつかは自分もあんなふうに自分でなんでも作れるようになりたいね。


「でも、い……はぁはぁ、一郎君本当にこれで」

「ああ、これで……」


運動音痴直るといいね。

俺は去年と同じく、冬の間はあまり動かないようにしないとね。

エネルギー削減のために……。

冬は去年とほぼ同じで、変わった点といえば、食料が去年より豊富でこたつがあること。

来年の冬がもっと楽に過ごせるように、どうしようかと改良と改善を考える冬になった。











季節はめぐり、三度目の春。

去年は食料調達や夏場のお金稼ぎと食べ物確保が上手く行ったため1年目に比べはるかに生活能力は上がったと思う。

昔までは、保護の人に怯えたり、パンの耳で生活していたが今はなんのそのである。

もちろん週一ぐらいで貰いに行ったりもしているのも事実でもあるのだが……。

そして今でも、人目につかないように。

ついたとしても、目立たないようにするのは心がけている。

いわゆるスニーキングミッションと言う感覚でもあり、忍者っぽいのかもしれない。

後はこの生活を保持できるように俺の努力次第なんだろうな。

もう食糧難で死ぬと言うことはないと思うしね。

だからと言って、向上心を止めたら人間そこまでだ。

今年も去年以上を目標に頑張るのはもちろんとして、さらなる飛躍も目指したい。

そんな時だった。

変な夢を見たのだ。その夢は夢と言うにはあまりに現実的なのだが、どう考えても現実ではありえないものだった。

だったが…………あの赤い宝石は売ったら高そうだったなぁ。









{この作品がみなさんのちょっとした暇つぶしになればいいなと言う思いを胸に頑張っております。 レイハさん逃げてぇーっ!}



[17560] ─第14話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/27 22:42
夢なんてものはいつだって明確に覚えていることなど出来ないものだ。

だから、俺だって昨日に見た夢を明確に覚えているわけがない。

昨日の夢を思い起こそうにも、赤い宝石とそれがなんだか高そうだったなと言うことが一つ。

なんだかファンタジーっぽかったなというこの二つぐらいしか覚えていない。

いや、もっと正確にはどこか見覚えのある公園も覚えているのだが……まぁそんなこともあるはずもないだろう。

あまりにもファンタジーで飛びぬけている夢だった気がするので、まさか!? そんな……あの公園が!? みたいなことはないだろう。

なので、今日もいつも通りにしていこう。


「今日の予定はっと……」


一週間ごとに決められた簡易な予定表みたいなものを確認する。

今日は月曜日だから……学校は始まってるのでお昼の行動は控えて、大人しく洗濯か。

ついで、三日に一度の電気の充電日か。

では、まず洗濯からはじめようとするか。

俺の服装は、初期──いわゆるデフォルトでついていた服が一つ。

これは転生時にすでに装着されていたものだ。

まぁこれぐらいは神のご加護を受けた、もしくは与えられたものかもしれないが……こんなものくれるならもっとましなものもあるだろうにと思う。

例えば……余りあるお金とか。

どうせ、世界はお金を中心に動いてるんだ。

ホームレスをやっていく上でどうしても悟ってしまう現実の一つと言うやつかもしれない。

すでに数十回と悟ってしまっているので本当に今更の話ではあるのだが。

お金がなければ服は買えない。

これは周知の事実だが、なぜそんな俺が他にも服を持っているかと言うと……実のところお金がないわけでもないのだ。

日々の積み重ねの缶による微々たる収入に去年の夏に稼いだ、昆虫のお金。

一応秋には、鈴虫とかを捕まえて売ってみたりもしたが……売れないこともない、が大した収入でもなかった。

無いよりはましかもしれないが。

そんなわけで、お金は今も手元には残っている。

しかし、これはいざと言うときのためのである、ホイホイ使えるものではない。

それこそ食費に回すべきものだ。

ならばどうやって服を貰ったか。

答えは至極簡単で貰ったのである。

いやいや、嬉しい誤算と言うのがあったのだ。

虫の物々交換のときの対象は、子供持ちの家庭というのが上手く回ったのだ。

つまりは、お下がりを貰っちゃったり?

これ自体は向こうもリサイクル……じゃないかこの場合はリユースのつもりでくれるので素直に受け取った。

地球環境を考えなくちゃね!

エコを心がけ、無駄なものは買わずリサイクルしリユースし、リデュースしなくちゃね。

服のお下がりを貰って、リユース。

スーパーのダンボールを使って、リサイクル。

最小限のお買い物で、リデュース。

なんてエコなホームレス生活なんだ。

まさに俺は地球に優しい男と言っても過言じゃないかもしれない。

でも、市場や経済的には問題のホームレス生活かもしれないけどね。

ちなみに、俺の靴は道端に棄てられたよくある片方だけの靴とかを集め、洗い、同じ形になるように修正したものだ。

普段はもっと難しい機械を弄っているのだからこの程度楽である。

まぁ服の修繕もして裁縫もかなり上手くなった、ならざるを得なくなったおかげでもあるかもしれないけど。

人間危機的状況にいれば嫌でも生きていくために技術が磨かれていくものだ。

この調子で頑張れば、なんか万能になれる気がしてきた。

そう思うと……ちょっとこれから先にも光が見えてくるようだった。


「万能ホームレスか……ふふ、万屋でも開くかな」


俺の将来は果てしなく無限大のような気がする。











「なのは、桜って食べられるんだよ?」

「え? そうなの!? あれ? こんな感じの会話が前にもあったような……」


そこは気にしたら負けの理論だぞ、なのは。

だが、あえて言わずに話を進ませ貰うとしよう。


「ああ、桜餅って言うだろ? あれは桜でもちを作るから桜餅って言うんだ」

「一郎君って物知りなんだぁ」

「そういうことで、美味しい桜食べたいか?」

「うんっ!」

「よし、じゃあ桜を集めて来い!」

「分かったの!」


久々に学校帰りによってきたので、桜を集めさせようとした。

ちょっとした冗談のつもりで言ったのだが、真に受けて桜を探しになのはは駆けて行った。

思わずその真剣な眼差しに笑ってしまいそうになったがここは必死に耐えた。

しかし、なのはは五分も立たずに、顔を真っ赤にしながら息を乱して再びここに戻ってきた。


「って一郎君、私はそんな話をしに来たんじゃないのっ!」


俺の家──現在は川付近の生い茂る草の中に迷彩して置いてある。

その家にわざわざ来たからには何かしらの用事があるのだろうとは思っていたのだが、ついついなのはがいるとこう……ね?

悪戯心に火がついしまうのだ。


「じゃあ、何しに来たんだ?」

「あのね、今日の帰りにね、公園で傷ついてるフェレットを見つけたの」

「フェレット……か」


フェレット……調べたことが分からないがイタチのようなものだったかな。

イタチってのもあまりイメージ湧かないけど、思い浮かぶのは狐のような形。

狐と言えば対比するのは狸で。

狸と言えば狸鍋で……。


「なるほど、桜ではなくイタチを調理しようと、そういうことか。狸鍋みたいに」

「ち、違うよ! 」


狸鍋じゃないだと!?

ということは、狐鍋?

そんなのは……いや、ありえるかもしれない。

確かどこかの童話で狐を食べる話があったような……。

あ、そうか。もっと単純な話であり、誰もが知っているあの料理の方かもしれない。

とするならば、そもそも鍋じゃない。

これはおそらく、


「本物の狐で狐うどんと言うことか」

「え? フェレットだよ?」


フェレットうどんか……なのはは中々にマニアックなものを思し召しのようだね。

しかし、頼まれたからにはやって見せようじゃないか。

ホームレスの名にかけて!


「で、その食材はどこだ?」

「食材?」

「フェレットのことだよ」

「フェレットはいま病院で怪我を治してもらってるよ? でね、そのフェレットなんだけど……」


フェレットは今病院で消毒中、なのはの話はつまるとこそ言う話だった気がする。

気がすると言うのは、あまりなのはの話を聞けなかったからだ。

フェレットをどう調理しようか悩んでいたのがいけなかったのかもしれない。

その後、事情を全部話したらスッキリしたような顔で、「また明日ね」と言って家に帰って行った。

あ、なのはに重要な事を言うのを忘れていた。

調味料は持参だぞって。

……まぁいいか、久々に消毒まで完璧な生きのいい食材が手に入るんだから文句は言ってられない。

なのはが食材を持ってくるのを待っていればいいだけなんだから。

そうと決まれば、今夜は早めに寝ておくとしよう。


「今日は疲れ──ん? なんか聞こえたような?」


寝ようと思った瞬間に、どこからか声が聞こえた気がした。

気がしたが周りを見ても何も無いので、幻聴ではないかと考える。

しかし、確かに「助けて」と言っていたような気がするが……ま、気のせいか。

今日はよほど疲れたのだろう。

こういう日もあるさ。

そう思いながら俺は今日の疲れをとるべく、布団ではなく毛布に身体をくるめ寝ることにした。











フェレットのことなどいっそ忘れてしまおう。そんな都合のいい食材は手に入るはずが無い。

こう思ったのは、なのはは結局ここにフェレットをつれてくることがなかったからだ。

フェレットの話を持ち出した一週間後くらいに、しょげてるなのはが一人でここを訪れた。

ここに来たのはおそらく相談したかったのだろうが、あいにく俺には相談相手なんていう高等な対応が出来そうになかったので、

その変わりになのはを徹底的に弄ってやった。

そうすると帰るころには少しだけスッキリしたのか、少しはれたような顔をして家に帰った。

なのはは何に悩んで悔やんでいたのかは知らないが、誰かと喧嘩したとかそんなところだろう。

あれ以来なのははここに顔を出していない。

最近では三人一緒にいる姿を春休み以来見ていない気がする。

まぁ別にあいつらが来なくても寂しくなんかないからいい……。

寂しくない……よ?

戯言はさておき、そんな事を思っていると俺の願いが届いたのか今日は久々に三人一緒にやってきた。


「俺の想いがアリサに伝わった?」

「何気持ち悪いこと言ってるのよ」


一刀両断の一言だった。

俺の繊細で傷つきやすいガラスの心を丸ごと真っ二つにされた気分だ。

でも、逆にここまで綺麗に言われると、アニメなどで見る繊維にそって切ると言う達人業のように元に戻すことも可能である。


「ふっ、ツンデレか」

「だ・れ・が!」


アリサは地団駄をしながら顔を真っ赤にして怒っている。

もはやお決まりの言い回しだが、この反応がひどく懐かしく思う……こうやってじっくり見ると、怒ってる姿も非常に可愛いものだ。

そう感じさせるのは懐かしさゆえかもしれないが。


「なによ? こっちをじろじろ見て」

「いや、アリサが懐かしいように思えて」

「どういう意味よ?」


そのまんまの意味だけど、そうだな。

ここはあえて伏せとくとしよう。

そんなことより彼女たちが三人揃ってここにくると言うときはたいてい何かしらの用事があるときだ。


「何しに来たの?」

「私たちがわざわざ来たのにその反応?」

「アリサちゃん落ち着いて」


すずかがアリサを押さえ込む。

みごとにアリサのストッパーと言うポジションを獲得している。

横から見ると夫婦漫才に見えないことも無いから、きっと将来はアリサのいいお嫁さんになるだろう。

そのときは是非とも我が、結婚式場・ダンボールの広場(メイドインイチロー)でやってもらいたいものだ。

我が妹の結婚式……さぞかし綺麗な姿だろう。


「何にやけてるのよ、気持ち悪いわね」

「アリサちゃん、一郎君だから仕方ないよ」


なのはがなんかいつもの仕返しとでも言いたげな感じで言ってきてちょっとむかついたから無視するとして、

今日のアリサは二言目には気持ち悪いって……い、意外と傷つくんだよ?

なんてったって、ガラスのハートだからね。

ガラスゆえにお取替えできます。

今なら何と、ダンボールの心もついてきますよ!


「いま、一郎君に無視されたような……」

「いつものことだろ」

「そっか、いつものことだよねっ!」

「……すっかり洗脳されてるわね、なのは」


洗脳なんて失礼な、マインドコントロールと言っていただきたい。


「まぁいいわ、そんなことより」

「そ、そんなことより!?」


アリサでさえ、なのはのことはそんなことより扱いされて可哀想に。

しょうがないから、俺がなのはを励ましてやることにしよう。


「大丈夫だぞ、なのは。俺はなのはのことなんて無視しないし殴ったりしない」

「ほんと?」


少し涙目で上目遣いとは……これは、すごいな。

だが……俺は決して屈しない! 媚びない! 落ちこぼれない! その程度俺が落ちると思うてか!


「ああ、本当だ。だから、これからも自転車で運動して運動音痴を直してみんなを見返してやろうな!」

「うん! がんばるっ!」

「じゃあ、アリサなんて放っておいてさっそく行こうか」

「わかったのっ」


なのははそう言うとさっそうと全自動発電機に乗り、一生懸命こぎ始めた。

なのはは結構な頑張りやさんなので、彼女がやりだすとかなりの電気がたまるので実にありがたいことだった。


「こうやってコントロールしてるのね」


汚い生き物を見るかのような感情のこもっていない視線を俺に送るアリサだが、生きるためにはしょうがないのだ。

世の中弱肉強食なんだよ。


「はぁ……じゃあ、今日ここに来た本題だけど、週末に温泉旅行に行くのよ」

「へぇ、で?」

「で、って一緒に行かないってことよ」

「せっかく行くならみんな一緒のほうが楽しいってアリサちゃんが言ったんだよ?」

「ちょっ、すずかよけいなことを」


俺を誘うのにどんなやり取りがあったかはすずかの話でなんとなく想像できるが……。

アリサめ、ちゃんと可愛いところがあるじゃないか。

でも……、


「行くことはできないな」

「お、お金の問題な──」

「お金じゃなくて、他にも問題があるだろ?」


子供だけで行くことなんてできないから家族ぐるみであることは間違いない。

そうなると必要以上の人と関わることになるのは明白だった。

そしてそれは、せめて義務教育を終わる年頃までは避けたいことでもある。

なので、一緒に行くことはできないんだな。

そりゃあ、暖かい大きなお風呂には憧れるけどね。


「まぁなのはたちで楽しんできなよ。俺はその間に空──」

「警察呼ぶ?」

「いてる家を守護するよ。ああ、任せておいてくれ」

「そう、なら分かったわ。それじゃあせいぜい護っておいてね」

「ふふふ、相変わらず一郎君は面白いね」


ふっ油断も隙もないやつだな。

も、もちろんギャグでそう言おうとしただけさ、おかげですずかも笑ってくれたしね。

アリサたちの用件も終わったので、この後俺たちは必死に自転車をこぐなのはを背にダンボール製ジェンガ(無駄にでかい)を日が傾き始めるころまでやり、解散した。

それにしても温泉か……ダンボール風呂って作れないだろうか。











{原作開始……でも介入はまだ先ですよー見ての通り。今回ギャグ少なめ?}



[17560] ─第15話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/27 22:45
なのはたちがひろーい温泉でウハウハしてるであろう、今日この頃。

俺は若干の敗北感と劣等感にさいなまれながらも、いつかは貴族に復讐してやると心に誓う。

たぶん、アリサは貴族みたいなものだよね?


「ホームレスによる革命か……悪くないんじゃないかな」


市民革命より歴史に名を刻むのは明白な気がするな。

そんな革命を狙う俺の一日は早い。

朝の時間にしてもそうだ。

朝の時間は一通りが少ないので隠密行動が出来る。

ちょっとした忍者気分にもなれる。そう思うとちょっとした高揚感もでると言うものだ。

その忍者気分を味わいながら、獲物を仕留めに行く。

獲物と言うのはずばり魚である。

日が昇りきらない時間帯は魚をとるのに最適な時間の一つだと言えるだろう。

さすがに身一つで海に身体を投げ出し魚を素手、もしくはモリで捕まえるなど非効率的である。

なので俺は自家製の釣り道具一式で魚を釣り上げるのだ。

一匹でも連れれば儲けもの、二匹以上吊り上げられれば今日の食事に困らないと言うものだ。

今のところは平均で、二日に一度の割合で連れているのでそこそこ安定して入るだろうと思う。

もちろん、釣れない人もあるので、日々のルアー研究は重要である。

研究とは釣れるルアーを作る研究のことだ。

その研究に必要なのは、情報。

そう、この世界は情報が大切なのだ。

情報を得る為には、図書館を使うのが一番の有効手段である。

であるのだが、あまりにも頻繁に一人で行けば疑われること間違い無し。

逆に言えば、連れと一緒に行くことで怪しさ軽減することができるということだ。


「今日、図書館に行くから一緒に行く?」


これ以上ないほどのありがたい申し出だった。

俺は週に一回は誘ってくれるすずかのお誘いを受け入れて図書館に行くのだ。

その上、彼女の図書カードを使って本も借りさせてくれる……。

俺にとって救いの女神のような、そんな存在である。

何にも役に立たないなのはとは大違いだ。

──あ、でも電気の充電には役に立ってるか。肉体労働だけど。しかも無賃金だしね。

さすがにすずかに無償でこういう事をしてもらうのは自分の力だけと言うのに反しているような気がするので、

等価交換?

和平交渉?

どちらも間違っているような気がするが、つまり協力関係と言うことで、こちらは対価になのはの人権をあげた。

…………。

と、それじゃあ何にも役に立たないので、すずかが直して欲しいもの直し、作って欲しい物を作った。

こんなことはすずかのお姉さん、そして俺の師匠とも言うべき忍さんでも出来ると思うのだが、すずかがそう掲示してきたので望んだとおりにやった。


「気持ちが大切なんだよ、一郎君」


とはすずかの名言である。

もしかしたら聖人君子と言う言葉はすずかの事を言うのかもしれないな。

ちなみになのはには、特に対価は与えていなかったりもする。

だってなのははちょっと楽しんでいる節があるんだもん。

閑話休題。元の話──俺の日々の生活の話が逸れてしまった。

釣り……つまりは食料調達のために図書館を利用するのは、俺の日々の中の一つではあるのだがそんなに比重が大きいわけではなかったりする。

ならば、何に最も時間をつかっているかと言うと、機械の勉強と研究だ。

行動できない時間帯のほとんど全てがこれに費やしているので、日々の行動で一番やっていることだと言えるだろう。

なんという勤勉な……もしかしたらガリ勉の代表になれるかもしれない。

ガリにはいろんな意味が含まれてるけどね。

そんなわけでホームレスで革命家なガリ勉の万屋一郎はこういった日々を楽しみながら必死に生きている。


「あれ? そういえば、俺の名前って決まっていないはず……」











「雨が降らないのは……うん、実にいいことだ」


普通のダンボールハウスは雨に弱い。

ダンボールハウスに普通があるのかどうかはさておき、ダンボールは水に弱い。

なので、ダンボールハウスにとって雨は天敵ともいうべきものだから、晴れと言うのは望ましいものだ。

もっとも、雨対策のしていないダンボールハウスがあるかといわれれば間違いなくないだろうと思う。

そんなダンボールハウス種の中でもたぶん俺のは異端であろう。

水の上を移動できる、折りたたみ可能、移動可能であっと驚く新素材のてんこ盛りだから。

常に生活の向上を考えている俺としては、ダンボールの可能性の研究もまたその一端だ。

次はこうしようああしようと、色々と思案は出すものの実現可能なのは難しかった。

最終手段は鉄で固めるとかでもよくない? と思ったが、それではダンボールの意味が無いので却下した。

そうなるといよいよダンボールの研究は、詰まり始める。


「しばらくは手詰まりっぽいな……せめてダンボール風呂は作ってみたかったけど、しょうがない諦めるか」

出来れば今年の冬までには作ってみたかった。

冬の間はさすがに水で身体を洗うと言うわけには行かないので、わざわざお湯を沸かし、拾ってきたやかんと濡れタオルを駆使してなんとかした。

すでに二回経験したから今年もそれで大丈夫といえば大丈夫なんだけど……、


「結構面倒なんだよな」


お風呂を作って入るにしろ、火を駆使しなくてはならないのだが、やかんと濡れタオルを駆使するほどの面倒さではないんじゃないのだろうか。


「どちらにしろ先のことばっかし考えてもしょうがないか」


ホームレスなんて、明日の保証も無いぐらいだしね。

そう思いながらあたりを見渡すと夕暮れ時になっていた。

あまり行動を起こさない日は考え事をしてると、こうやって時間がすぐにすぎていってしまう。

普段ならこれから狩りの時間だが、今日は朝釣った魚がまだ残っているので、ご飯の心配も要らなかった。

ボーツとしながら海に沈む太陽を眺めていると、防波堤にポツリと人影が見えた。

その人影はだんだん遠ざかっているようにも見えるが、ただ特徴的なその髪型となんだか暗い雰囲気を纏っているのを見逃さなかった。


「何を寂しそうにとぼとぼ歩いてんだ?」


なのはに対して何かを一緒に心配して、相談相手になるようなことは……俺には無理かな。

それならいっそのこと無視をするか。

とは言うものの、やっぱり気になったのでさっきよりも近づいてみる。

そうすると、独りで悲しそうに歩いているのがよく分かった。

……ああ、なんとなく分かったぞ。

大方アリサとすずかと喧嘩したんだな。

だから二人の姿も見えないし、今日は特別用事のあるようなことも言ってなかったしな、アリサは。

それなら……大丈夫かな。

俺がわざわざ出る幕でもないだろ。あの三人ならなんだかんだで仲直り、むしろよりいっそうの固い絆で結ばれるようなタイプだしな。

喧嘩するほど仲がいいとも言うし──何より、あのかまってちゃんオーラが気に食わん。

なのはには心の中で一瞥し、俺は自分の家のある場所へと帰った。

帰る途中、あんななのはの姿を見たせいか若干気になりはしたものの、何となるだろうと自分の心にも念を押し、早めに寝ることにした。











俺の朝は早い。

俺の朝は小鳥がチュンチュンと言い出すよりもさらに早く、社会人のみなさんが早起きするよりもはや──


「一郎! 出て来なさいよ! いるのは分かってるのよ!」


お嬢様って働いてる社会人より起きるの早いの?

どっかの偉いケーキのお嬢様(女王だってお嬢様みたいなものだよね?)の発言からして、優雅にのんびりと起きるのかと思ったけど……。

もちろんケーキのお嬢様についてだって、俺は全然知らないけどね。

それによくよく考えればアリサとは少しの間だけ一緒に過ごして……たけど、ほとんど朝は一緒にいなかったし、隔離のような状態だったから知らないのは当然か。


「いるのは分かってるんだから早くしなさいよー!」


騒ぐ、というほど大声と言うわけでなく、中に居るであろう人──俺に必死に呼びかけてるみたいだが、こんな朝から付き合うのはいささか面倒であるのでだんまりを選択。

アリサ悪いな、俺じつは低血圧なんだよ。

……驚愕の事実でもなんでもないな。


「ちょっと、早くしなさいよっ! い、いるんでしょ!? 分かってるんだから」


無反応なのでちょっと慌てだしたのか? 声に若干の振るえと戸惑いがあるように感じる。

あんまりやりすぎるのもかわいそうだと思ってでようかなと一瞬思ったんだけど……。

なんだか面白いことになってきそうなので、もうちょい様子を見るか。

そっとアリサの見えない位置からアリサの様子を覗きこんでみる。

そこには、強気の表情とは裏腹に少し不安げにしてるのが分かった。

本当にいるのかしら? そんな感じだと思う。


「い、いるのよね? 私には分かってるのよ……」


後半になるほど声が小さくなっていった。

もう少しで諦めてくれるのではないだろうか?

そう思いながらも心の底では、「あれ? ちょっと篭城戦みたいで楽しいような」なんて思ったりもしている。


「い、いい加減にでてきてくれないかしら? せ、せっかく来たのに……」


あれ? なんか一瞬乙女チックに見えたような……幻覚だよね?

きっと朝早起きしすぎて寝ぼけてるんだ、そうに違いない。

アリサは確かに綺麗でかわいいのは認めているが、乙女なんて言葉決して似合わない性格だし。

そして、それは同時に儚げと言う言葉も似合わないと言うことだ。

それなのに今のアリサはなんだか心配事があるようで、その心配事を俺に──


「一郎にわざわざ会いに来たのに……」


相談事があるようだね。

でも、相談する相手は選んで欲しいものだ。

確かに過去に一度、アリサに心配事を打ち明けてもらったことはあるが、そんなに大したことは出来なかったし。

何より、アリサの心配事、相談内容についてだって察しがつく。

なのはのあんな姿を見たのが昨日の今日だからね。


「察しはつくよ」

「一郎!?」

「おはよう、あり──ひでぶっ!」


朝なので、朝らしくさわやかな笑顔と挨拶で若干暗くなりかけた雰囲気をぶっ飛ばそうとしたのに、ぶっ飛ばされたのは俺の方だった。

てか、アリサって意外と力があるよね!


「はぁスッキリしたわ。ありがとう、一郎」

「え? ああ、お役に立てて何より……って! 俺はストレス発散機!?」


ひどい……ひどすぎる!

未だかつて無いほどの雑な扱いな上に、ただ理不尽な暴力を受けているだけだ。

俺が理由を知らなかったら、あまりの理不尽さに殴り返してたよ。3倍で。

それにしても、意を決して相談を受けようとしたのに……。

杞憂だったのかなぁ。


「一郎に相談したところで解決しないんだからしょうがないじゃない。むしろ、ここで私のストレスを向ける相手に選ばれた事を感謝した方がいいわよ?」

「り、理不尽だ! どうせ、アリサが女王だったら『パンが無ければケーキを食えばいい』って言うんだろ!」

「違うわ。『パンが無ければパンを作ればいいじゃない』よ」

「解決になってないよ!」

「分かってないわね。錬金術よ、錬金術」

「等価交換ですか!? 何と?」

「自分の命じゃないかしら?」

「生きるために命をささげたら意味無いな」


得てして現実とは非情で、上に立つものなどしたのやつのこと考えていないことばっかしだ。

まぁさすがにアリサ女王はやりすぎだと思うけどね。


「でも、本当にスッキリしたわ。ありがとう」

「……ははは」


ありがとうと言う、アリサの顔はとても良い表情をしたので問いただすことも出来ず、ただただ笑うしかなかった。

『可愛いは正義』って言葉って在るんだなと思った瞬間だ。

どうりで男女関係において世の中男に理不尽なことが多いわけだ。

もちろん、女性にも色々とあるだろうけどね。


「じゃあ、私は帰るわね」

「本当に殴りに来ただけかよ……」

「そうよ。ああ、後コレね」

「お、これは!?」

「まぁ……等価交換よ」

「等価交換、ね。なら……しょうがないな」

「そういうことよ。それじゃあまたね、一郎」

「ああ、またな」


俺が返事を返すと満足した顔で、おそらくは執事の鮫島さんが待つであろう車のある場所へ戻っていった。

アリサも満足だったみたいだが、俺もまぁコレが手に入ることが出来たのなら概ね満足でもある。

よし、今日はさっそくコレの使い道でも考えるか。

ああ、まるで心が躍るようだ……。

まさかコレが手に入るとは……。コレが……。













{引っ張りと言う名のおちってあり? すずかは作者がどうしても書きたかっただけ。後悔はしてない}



[17560] ─第16話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/27 22:46
「なのは、魔法ってあったら便利だと思わない?」

「え!? ……あ、うん。そうだね」


何で一瞬うろたえたのかは分からないが、なのはの同意も得られたようだ。

魔法とは、この世の不可思議な現象を呼び起こすもの一つ。

仮にもしコレがあるならば、俺も使ってみたいものだ。

例えば、魔法を使って火をおこすとか、魔法を使って電気を充電するとか、魔法を使って……。

なんにしても万能な力、不思議でなんでも役に立つであろう魔法の力があれば、俺のこのホームレス生活ももっと楽になること間違い無しだ。


「あーあ、どっかから魔法落ちてこないかなー」

「にはは、あながちありえないことじゃないかも……」

「いや、ありえないだろ」

「ふぇ!?」


全く何を言ってるんだ、高町なのはよ。

魔法は、ありえないから魔法なんだぞ?

現実で起こせてありえるようなことならきっと魔法じゃないよ。

って、魔法を何も知らない俺が語っても意味ないだろうけど。

そもそも、あれだ。

魔法って言葉は違う意味で魔法だ。

不思議な現象、都合のいいことならすべて魔法のせいにすればいいんだから。

なんという便利な言葉だろうね。

まるで、何かしらの罠に嵌ったら全部孔明のせいにするような、そんな感じで。

そして、その魔法の言葉は俺の中ではダンボールの次ぐらいに便利だと思うよ。


「魔法ってダンボールに負けちゃうんだ……」

「だってありもしない魔法より現実的だろ?」

「げ、現実的!?」


なのはは驚きの声を上げ、俺のダンボールハウスを見てう~ん、と小首をかしげる。


「魔法も意外と現実的だと思うよ?」

「お前に魔法の何が判ると言うのだ! 魔法の魔の漢字も書けないくせに!」

「か、書けるよ! えっと、ね。こう……あれ?」

「なんだ、本当に書けないのか」

「か、書けるもん。ええと、ええとね……」

「ああ、悪かったよ。小学三年生には難しすぎたか」

「書けるもん! 今日はちょっと調子悪いだけだもんっ」


頬を膨らませながら怒る。

漢字って調子の良し悪しで変わるっけ?

そこの段階から自分がかけないと言うことを、自白しているようなものだと思うけど……。

まぁその様子が微笑ましいから黙っとくか。

こうやってなのは少しずつ誘導されて、洗──マインドコントロールされていくとも知らずに。


「まぁいいさ。ところでなのは」

「なに、一郎君?」

「今日は家でご飯食べていくのか?」

「ちなみに、今日のご飯って何なのかな?」

「今晩は……『春の野花の刺身』」

「それって野花を生で食べるってことだよね!?」

「違う! ちゃんと捌くぞ。一枚一枚、恋占いしてしながら」

「ただ花びらをちぎってるだけなの!」


ちぎってるだけとは失礼な。

ちゃんと、ナイフで切ってるから捌いているで合ってるんだよ。

手でちぎるのとは訳が違うのです!


なのはがとても不安げな目を俺に向けるので食事の話はここまでにした。

別に普通の食生活なのに。

近代人に不足しがちな緑の野菜をたくさん取ってるからむしろ健康的?

……カロリーがあまり取れないのが欠点だけどね。


「行かなきゃ……」

なのはとなんとなくな雑談を繰り返していると、ふいに海辺の方向を見ながら立ち上がって呟いた。

どこに? と聞こうと思ったが、さっきまでの雰囲気とはまるで変わったなのはの姿を見て、すこし驚いた。


「ごめんね、一郎君。本当はもう少しお話したいんだけど……他にお話しなくちゃいけない子がいるから、行くね」


お話したい子って、なんでお話なのにそんなに戦う気が満々というか、闘志に溢れているのでしょうか?

すごく不思議……だけど、聞くのは野暮かな。


「まぁ怪我をしないようにな」

「ありがとう、それじゃあまたね」


言うが早いか、あっという間になのはは走って行ってしまった。

そういえばなのはって人力発電機のおかげで体力が増えて足も速くなったって喜んでたなぁ。

ただ運動音痴はまだ治らずによくころ──あ、転んだ。

あの緊張感が台無しな、間抜けっぷりだね。

なのはも見送ったことだし、今日はまだ時間があるので、研究時間にでもするかな。

最近の課題である、ダンボール風呂。

課題点は、水と水の暖め方だね。

いや、ダンボールの水対策が出来れば、そこにお湯を入れればいいから万事完成か。

となると水対策だが……雨と同じく、ビニールで覆うと言うのが一番楽な方法だな。

破れたらいっかんの終わりなので、何十にもするか、丈夫な物を使うかか。

次にお湯だが……かなり大量のお湯が必要だよね。

いや、待てよ……別にダンボールにこだわる必要は無いんじゃないか?

お風呂が作れればいいんだから、桶と同じ原理で木でもいいんじゃないか?

木材ならそれこそ色んなところでただでかき集められるし……。

おお、なんか新たな可能性が見えてきたぞー!

コレが未来に繋がる新素材になりえるのか!?











空から魔法が落ちてくることは無いが、空から犬が落ちてくると言うことはあるようだ。

ああ、それはもう真剣に驚いたよ。

今晩は鳥で決まりだって思った矢先に犬が落ちてくるものだから、コレは神様からのプレゼントで、食えってことなのかなって思ったぐらいに驚いたよ。

危うく血迷った判断をするところだったよ。

赤い毛並みが特徴的な、いかにも珍しく血統書付じゃないかと思われる犬。

落ちてきた犬は見たところ大なり小なり怪我をしているようだが、俺には怪我の診断はおろか、応急処置も出来ないのだが、

まぁ見てみる限りは致命傷は無いので、俺の今晩のご飯をあげれば大丈夫だろう。

ということで、


「ほれ、俺の晩御飯だったんだが、これをやるよ」


小鳥の丸焼き。

どうやって捕まえたかといえば、パンの耳を餌に罠を張っただけだ。

犬はこちらを少し見つめると、足を引きずりながら餌へとありついた。

ああ、俺の晩御飯が……。

犬はペロリと俺のあげた餌を食べ終わると、お礼のつもりか俺の顔もペロリと……舐めた。

しかし、それも束の間。

すぐに踵を返しどこかへ行こうとする。

足を引きずりながらで、とても痛々しい。

いくら命に別状は無くても、ね。このまま見過ごすのは俺の良心が痛む。


「おい、ストップだ」

「?」


犬が足を止め、こちらに振り向いた。

どうかした? そんな風に言ってる気がする。


「いや、さ。怪我してるんなら無理に動いちゃ──ってストップ無視するなよ」


無視して歩き出そうとするのを走って止めにいった。

怪我をしてるせいで走れないのか、あっさりと捕まえることが出来た。


「知り合いに、犬をたくさん飼ってる奴がいるんだ。今日はもう夜だから会わせられないんだけど、明日になれば会えるからさ。

そしたら、怪我も治してもらえるし、だから今晩は泊まっていけばいいじゃないか」


犬に言葉は通じるはず無いのに、なんで説得してるんだ?

でも、なんでかな。

この犬には理解できているような気がする。

声をかけたときはこちらに振り向いたし、無用と思えば歩き出し、今は黙って聞いてるし……。

あれ? もしかしてかなり賢い犬なんじゃないか?


犬が再び俺を見つめるように見る。

すると今度も、ペロリと俺を舐めて、行こうととした逆の方向──俺の家へと歩き出した。

説得に応じたってことなのかな?

本当に言葉を理解しているとしか、もしそうなら……。

これは食料と言うよりは、一緒に狩りに出るパートナーになりそうだな。

犬を共に狩りをするホームレス……なんだかちょっとかっこよく見えてきた。

この後俺はこの犬と共に、一緒に寝た。

犬のふさふさの毛並みは枕にも、布団にもなりそうだなと思ったが、さすがに怪我してる犬にそういうことするのは、可愛そうなので我慢した。

その夜、不思議な声を聞いた。

それは夢の中かもしれないし、現実だったのかもしれないが、少なくともそれはテレパシーのような、頭の中に響く声だった。


「名も分からない命の恩人さんありがと」



翌日、アリサにこの犬の件で家に招くと、なのはたちも一緒についてきた。

なのはは俺がこの犬が落ちてきたとき以上に驚いてるようだった。

そうすると、なのはは小声で俺に


「ねぇ、何か聞いた?」

「聞いたって、犬からか?」

「……うん」

「バカか、犬がしゃべるわけ無いじゃないか。それこそ魔法でも使わないと出来ないだろ」

「……う、うん。そうだよね。魔法でも使わなくちゃしゃべれないよね」


なのはの意味の分からない話をちゃちゃっと流して、この犬をどうするかについて相談したら。

なんと、なのはの知り合いの犬だそうだ。

それは確かに驚くわな。

でも、なんで知り合いの犬が空から落ちてくるんだ?

そこらへんをなのはに問いただしたら、


「ま、魔法じゃないかな?」

「おいおい、魔法って便利な言葉だな。なのは」

「そ、そうだね! 魔法って便利だね」


そこで慌てる理由も分からんし、なぜ魔法と言う言葉で誤魔化そうとするのかも分からない。

まぁ魔法と言う言葉で誤魔化さなければならに事情があるのかもしれないし、本当に理由が分からないのかもしれないから、あまり責めはしないけどね。

それがともかく、なのはがこの犬を一時的に預かることになった。

その犬との別れ際に、再び舐められた。

これはつまり……気に入られたということでいいのだろうか?

もしそうならば、今度また会う機会があったら獲物を狩ってくれる様に頼むのもいいかもしれないね。











「それでね、フェイトちゃんって子がね」

「またその話かなのは」

「なのはったら、ずっとこの話しかしないのよ」


だから誰なんだよ、フェイトって子は。

ずっと心に疑問を抱きながら、とりあえず嬉しそうに語るなのはの話を聞く。


「すっごく素直で、すんごい優しいんだよっ!」

「だから一体誰なんだー!」


なのはは俺に写真なども見せずに、ずっとそのこのいい所ばかりをあげては、褒めている。

ひたすらそれの繰り返し。

どんな出会いで、どんな関係かも教えてくれないうえに、どんな姿かも分からない子をずっと自慢しているのを黙って聞いているのはそれはもう拷問だった。

アリサとすずかは、実際に見たことはないが、写真で見たことがあるらしい。

写真と言うかビデオレターだっけ?


「ねぇ、一郎君話聞いてるのかな?」

「え?ああ、聞いてるよ。だから、そのフェイトって子は誰なんだ?」

「すっごく可愛いの!」


ああもう! 全然話通じないな。

お人形さんみたいなほどにと言うけれど、だからせめて本人を見せて欲しいよ。


「じゃあ、そのフェイトって子にも俺のいいところをたくさん教えといてあげてよ」

「うん、一郎君のことも紹介するね」

「よろしくな」


そういえば、この間海の近くの公園でなのはと一緒に抱き合っていた金髪の少女の子は一体誰なんだろう?

なんだか感動的なシーンで、二人だけの世界っぽかったから海の中から覗いてたけど声をかけられなかったんだよなぁ。










{無印完です。ホームレスも完……と言うわけには行かないですよね? ネタがなくなってきた感ががが……}



[17560] ─第17話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/05/29 20:31
「ねぇ、一郎君」

「なんだ、俺は今忙しいんだけど?」

「ごめんね、でも一つ聴きたいことがあるの」

「ん? なに?」

「なんで……なんでこんなところで必死に隠れてるの?」

「それはな、じ──」

「美由希! そっちにいたか!?」

「ううん、みつからない!」

「くっ! 危なかった。危うくトラップに引っかかるところだった」


森の中からそこかしこから人の声が聞こえる。


「こういうことだよ」

「……私のお父さんたちが、なんかごめんね」

「いや、いいなのはのせいじゃない」


しかし、現状は決していいとは言えなかった。

なぜ、このようなことに──本当のサバイバルのような状態になっているか。

これにはありとあらゆる海よりも深い理由があった。











世間では、夏休みと言う学生の誰もが待ちに待っていた長期休暇に入ったようだった。

もちろん、これらの情報源はなのはたちからなので、ほぼ間違いないであろう。

なのはには、一人の姉と兄がいる。

彼・彼女の休みの時期までも把握した上での情報なので、ほとんどの人が夏休みに入ったころと考えられる。

それには社会人を除くのは当たり前だが、そこまで考慮する必要は無い。

ようは学生が昼間にうろついても怪しいか怪しくないかが重要なのである。

その点で言えば十分にクリアしているといえる。


「ふっ、今年も来たぜ。俺の小遣い稼ぎのときがな!」


いわば夏とは俺時代だ。

虫を売り、今まででは手に入らないようなお金・物を手に入れるができる季節である。

実際去年は、この「虫売り作戦」によって貧困を免れ、いや貧困であることは変わらないが飢え死にといった心配の減少に繋がった。

ということはもちろん今年も去年と同じように稼げば、また楽な生活が出来ると思うのは考えるまでも無いことだ。

そのため今年も去年と同じくして山への立て篭もりという一大決心をして、山に来たのだ。

昼夜間を問わずに、仕掛けを作り、罠を張り、虫をひたすら待った。

今年は去年とは違う場所での採取。

毎年同じところで採ってしまえば、虫が絶滅してしまうのではないかと言う危惧を抱いたためだった。

そして、この試みは大成功となる。

山篭り一日目にして、去年採ることの出来なかったであろう無視を手に入れることが出来た。

なんだかよく分からない金色のボディの背中には将軍という文字があったが、まぁ金色だし高く売れるだろう。

ちなみにカブトムシである。

また、俺と同じくカブトムシで生計を立てようとしたのか、よく分からないトラップもいくつかあった気がするがたぶん気のせいだろう。

マヨネーズって樹液代わりの餌になるはず無いしね。

きっとあれはマヨネーズの妖精だったに違いない。

それはさておき、かなり順調な滑り出しとなったのは事実だった。

その後も二日目・三日目と共にかなりの数が収穫でき、去年以上にお財布を潤せるんじゃないかと言う高鳴りが俺の心の中にあった。

そんな時だった、奴らが現れたのは……


「よし、今年はここでサバイバル訓練を行う」


いまどきサバイバル訓練ですか!? どこの兵隊ですか!?

いやまぁ人のことは言えないけど。

でも、俺の場合はホームレスだから仕方ないよね。

それに比べて、今来た人はどういう考えでそんな事をしようと……。

俄然興味が湧いたので、偵察を含め声の元をたどり行き着いてみればそこには思いがけない人物がいた。

な、なんで恭也さんが!? それに美由希さんに士郎さんまで。

高町家父、長男、長女が勢ぞろいしていた。彼らの姿を見たのはなのはの家に行った時以来、約二年ぶりだった。

おかしい……なんか全てがおかしいよ。

俺の中での常識と言う常識が崩れ落ちそうだよっ!

いや、それ以上に……まずいな。

ことの問題は、彼らがここにサバイバルに来ようが、ピクニックだろうが変わらない。

見つかってはいけないのだ。

見つかってしまえば、今までの努力と言う努力が全て無駄になってしまう。

彼らに捕まる→保護→ホームレス生活完。

見えすぎるほどに見えてしまう未来予想図。

なんとしても避けなければならない未来。

俺はすぐにマイホームへと戻り、早急に打開策を考えるに至った。

色々と案は考えた。

例えば、俺がここを出て行く。

確かに見つかる可能性は低くなるが、そうなるとお金儲けが出来なくなってしまう。

その場合は他の山に移動すればいい話なのだが……そう簡単に代わりの場所が見つかるとも考えにくい。

次にはなり潜めること。

しかし、コレも上に同じくお金儲けが出来なくなると言う欠点が……。

でもそれ以上に今の生活を失うのはそれ以上にいやだ。

となると両方を保つには、この山の保守と見つからないと言うのが条件になる。

結果として、


「よし追い返そう」


きわめて短絡的な結論になってしまったわけだった。

追い返すに当たって、まずは変装である。

身体に草木を纏い、出来うる限り同化させ気付かれないようにする。

このとき勘違いしてはいけないことは、決してダンボールなら身を隠せると言うことではないことだ。

ダンボールは確かに万能だが、ステルス機能は無い。

そして、次に罠を張り相手を追い返す準備をする。

この山が危険だと知れば、普通の人ならば立ち退き、追い返すことが出来ると思ったからだ。

しかし、このとき俺は忘れていた。

そもそも、普通の人ならばサバイバル訓練のためにこんなところに来るはずが無い事を。











「何でこんなところに罠が……それに、人の気配がする……」

「ああ、そうだな。人の気配がするな」

「うん、気配があるね」


え、なにそれ? 『人の気配がする』って、意味が分からないんですけど?

あれか、ス○ウンターでもつかってるの!?

それとも気? 気なんですか!? 気が使えちゃったりするのですか!?

それは……同じ世界に住んでる人間としてどうかと思うよ。

そして、俺は彼らに追われることになった。

ミイラ取りがミイラにとはまさにこのこと……って、自分で皮肉を言ってる場合じゃなかった。

何とか見つからずに、それでも途中に罠を仕掛けながら何とかマイハウスに戻ることが出来たのだ。

まぁ罠と言ってもバナナの皮だから引っかかるとは思えな──


「きゃっ! きょ、恭ちゃん、お、恐ろしいトラップだよ! バナナの皮なんて!」

「「…………」」


世界って広いよね。


「それでこんな状況になっちゃったんだ」

「まぁね、ところでなのは」

「どうしたの、一郎君?」

「おまえは何でここにいるんだ。というか、なぜここにいると分かった?」

「まりょ──気配だよっ!」

「お前も戦闘民族だったのか!」


衝撃の事実発覚だよ。

でも、よくよく考えたらあの人たちの娘であり、妹であるから当然か。

救いなのは、なのはは運動能力が皆無と言うところか。


「それで、どうするの?」

「え? ああそうだな……」


おそらくこのまま、ここに引き篭もっていても、何れは見つかってしまう。

いや、すでにチェック状態で、チェックメイトまで数手前といえるほどに危機的状況には違いない。

今となっては、追い返すことも逃げ切ることも出来ない。

もはや万事休すか……。


「お父さんたちがいなくなればいいんだよね?」

「……なのは?」

「そうだよね?」

「まぁそうなんだけど……」

「うん! 分かった。じゃあ私に任せて!」











「お父さんたちがいなくなればいいんだよね?」

「なのは?」


一郎君が、私を驚いた顔で見てくる。

何でそんなに驚くのかな?

さっき気配で場所が分かるって言ったけど、魔力も気配みたいなものだから嘘はついてないよね?

そのときもすごく驚いた顔をしてたけど、ただなんか……人外を見るような冷めた目だった気がするけど……気のせいだよね!

「そうだよね?」

「まぁそうなんだけど……」

「うん! 分かった。じゃあ私に任せて!」


なら任せて欲しいのっ!

いつも私の事を馬鹿にする、一郎君に今日と言う今日こそは、一郎君に私の力を見せ付けてやるんだから!

そうと決まれば、まずは交渉だよね。

交渉の仕方はもちろん知ってるよ、テレビでやってたから。

電話で交渉するんだよね?

じゃあ、まずはケータイを出し──


「い、痛いよぉ~、なんでぶったの!? 一郎君!」


うぅ~~、頭が痛いよ~~

いつも思うけど、一郎君って結構思いっきりぶってくるよね!?

女の子に優しくするって言う考えは無いのかな?

そういうことしてたら、モテないんだよ? お父さん言ってたもん!


「あ、今失礼なこと考えたろ」

「いたっ! またぶったーー! ひどいよぉ」


もう! そんなんだったらしらないよっ!

お父さんに捕まって、


「あ、拗ねた。全くこの程度拗ねるなんて……子供だな」

「子供じゃないもん! 暴力振るう人の方が子供だもん!」

「うっ……それは一理あるかもしれないな」


そうだよ? こんなことしてるとしゃべってくれるお友達減っちゃうよ?


「そうか……悪かったななのは」

「え? やっと分かってくれ──」

「言葉の暴力はいけないな」

「女の子に手お出すのをやめて欲しいって言ってるの!!」


分かってない、分かってないよ! 一郎君は満二ひとつも私の事を分かってないよ!

なんで、助けてあげるって言ってるのに、こうやって言うのかな?

一郎君は一体、私に何をして欲しいのかな?


「手を出すなんて……エロいななのは」

「ふぇ? ふぇ~~!? な、なんでそうなるの!?」

「だって女の子に手を出すなって……大丈夫だよ。俺はなのはにしか出さないから」

「え……あ、そっか。なら安心だね」


あれ? コレって安心でいいんだよね?


「とまぁ、なのはがいつまで経っても、状況を浴してくれないので自分で何とかする方法を思いついたから、もうなのはは用無しだな」

「え!? 用無しってひどくない!?」

「いや、ごめん嘘ついた。なのはは重要だ」


う~ん、いまいち一郎君の言ってることが分からないんだけど……。

これって褒められてるのかな? 褒められてるってことでいいんだよね?


「なんでそこで『えへへ』ってちょっと嬉しそうな顔をするんだよ……」


一郎君がすっごい深いため息してるんだけど……どうしてなのかな?

それで、なんで残念そうな顔を私に向けるの!?


「……はぁ、でもまぁいいさ。では作戦をいう」


急に目つきが真面目になる一郎君。

作戦って言うとなんだかかっこいいね!


「なのは俺と逆方向に、走って行きお兄ちゃんとお父さんだ大好きって言うんだ大声で」

「え?」

「以上だ、では武運を祈る」


一郎君はそう言うと、一気に逆側の茂みまで駆け抜けた。

そうすると、お父さんたちがその動きに気付き、一郎君の方に歩み寄って行く。

このタイミングしかないかな?

そう判断して、一郎君とは逆のほうにはし──


「いたっ!」

「「「なのは!?」」」


き、緊張したから転んじゃったよ……。

って、そんなこと心配してる場合じゃないよね。

一郎君に言われたとおりに……


「お兄ちゃんとお父さん──」











「お兄ちゃんとお父さん大好き!」

「「なん……だと!?」」


よし、今だ。

注意がなのはに向かっているうちに避難を!

すぐにダンボールハウスを折りたたみ、なのはに心の中で感謝しながらもとは逆の方向に逃げる。

幸い二人はなのはに虜で、美由希さんはそんな二人に呆れて集中力もなくなっている。

そして案の定俺はその隙を突いて逃げ切ることに成功した。

今までの人生の中で一番の危機だった気がする。

しかし、それでも俺は生き残ることが出来た。

なのはには今度お礼をするとして、今は代わりの山を探さなければ……。

今年の夏も、虫で荒稼ぎだー!

…………。

にしても、この金色のカブトムシは売れるのだろうか?












{ネタだから許してください。いやもう……なんというか……言い訳はしませんが、ネタなので← 次回からはA’s編の予定。果たしてイチローの運命は!}



[17560] ─第18話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/03 00:58

虫を捕って荒稼ぎした夏休み。

金色のカブトムシはオークションで売ろうと思ったら、なんだか偉そうな人が、高値で引き取ってくれたので、驚いた夏休み。

そのカブトムシのお金だけで、去年一年間分以上のお金を手に入れた夏休み。

──そもそも俺が月に使うお金は、どこかの番組の一万円生活よりも少ないので、番組にゲストで呼んでもらえれば、優勝出来る気がする。

お金は手に入れたおかげで、生活がまたちょっとリッチになった夏休み。

リッチ……公園の飲み水を飲むのではなく、99ショップで二リットル水が買えるほどのリッチになった。

わぉ、ちょうりっちだー。

これでおいしい水が飲めるよ。ペットボトルのラベルにも「アルプスのおいしい水」って書いてあるしね。

しかも! きれいなペットボトルも一緒に手に入れることができる一石二鳥。

ペットボトルを加工して色々使える一石三鳥。

地球にやさしいエコな心がけ一石四鳥。

そして思った……片仮名のものを使えるってリッチぽくない?

カブトムシに、リッチに、ペットボトルに、アルプスに、エコ……これらの共通点は全て片仮名。

片仮名だとちょっと贅沢に聞こえるなぁと思った夏休みでもあった。

あれ? 段ボールもカタカナじゃない? じゃあ俺って本当は最初からリッチだったんじゃないか?

それ気付いたのは、夏も過ぎた秋ごろだった。

夏休みという制限のない生活から逆戻りをした実りの秋。

去年の秋同様に、食物の確保に力を注ぐことになった。

食べ物がなくなることは直接的に死につながる死活問題。

世界で死んでいる人の数多くの理由の一つが飢えなので、世界規模の問題であるともいえる。

つまり俺は、その世界規模の問題についてよく考えなければならない事実。

ということは、ある意味自分の身を挺して世界規模の問題の解決に取り組んでいると言えるのではないか?

そう考えると、ちょっと偉そうに聞こえるか不思議だ。

『俺の人生は貧困の問題を解決するために捧げている』こう断言すれば、実はホームレスといえども、堂々と街中を歩けるのではないか? 真剣にそう思う。

では早速、その問題解決のために、自分が生き残るために実践してみようじゃないか。

食べ物の収穫。

秋の食べ物といえば、海ではサンマ、山ではキノコや銀杏、街中ではよく落ちている柿などなど、旬のものはいくらでもある。

秋のうちに食べるのならどれも入手は楽で、秋の間は食べ物に困ることはまずない。

そう、何度も言うが秋の間は……問題は冬だ。

秋のうちに食べ物を確保・保存しておかなければ冬を乗り越えることは困難になる。

去年も、冬の間は特にひもじい思いをした。

それなら今年こそはこの季節にリベンジマッチといきたい。

今度こそ、今度こそ! 俺は季節に勝ってやる! そんな思いを胸に対策を練った。

保存方法、一番手っ取り早く去年もやったのが日干しである。

魚の日干しはもちろんのこと、柿などのフルーツの日干し、片仮名で言うならドライフルーツ。

あれ? ちょっとリッチっぽい。

前にもやった言い回しのような気がするが、そんなのデジャブに決まってる。

この二種類のものはすぐに用意し実際に活用できた。

他には小麦粉などを買い、自分で麺を作るなんてこと、も……!?

ここで俺に電流が走った。


「お金あるから、普通に材料は買えばよくない?」


と思ってた時期が俺にもありました。

これはあくまで最終手段。ただでさえお金は手に入らないのに、すぐに頼ってはいけないよね。お金にすぐに頼る……現代人の悪い癖だな。

よって俺の選択肢は、なんだかんで去年と同じ路線を辿る。

ただ違うと言えば……今年はコタツがあると言うことだ。

これを使うために電気は節電、節電、節電の繰り返し……長きに渡り苦しかった戦いに蓋が閉まるのだ、喜ばざるを得ない。

と言っても、三分の二ほどはなのはのおかげと言っても過言じゃないのだが、まぁ本人も運動音痴の改善という名分でやらせてあげているので、ギブ&テイクだろう。

一度たりとも文句言ったことないしな。

それはさておき、食糧問題と言う現実から逃げてばっかしではなくそろそろ考えなくては。

ぶっちゃけた話、去年と同じでも生きられるなら別段問題があると言うわけじゃない。

なので、同じ方針でもいいのだが……それはそれ。

人間常に上を目指さなければならないといけない。

誰かが言ってた気がする、考えるのをやめたらそれはもう錬金術師じゃないって。

なので、俺は考えるのをやめない。

常に上を目指し頑張るしかない。

なのでとりあえずは、去年と同じ食べ物の調達に出るとしよう。

しかし──やはり、現実はいつだって残酷なものである。いや、非情ともいうべきか。

結局干物にすると言う手立てしか思いつかない、よって今年の冬もまた貧しい暮らしになる予感がし始めた。

生きていける。

結果的には生きていけるのでまぁ最低限の目標はクリアできるので、それはいいとする。

だけど、ここで一つ悔やまれるのが、


「せ、せめて食べ物の冷凍保存が出来れば!」


この一言に尽きた。

冷凍庫を作り、そこに保存すると言う手がある。

しかし、その場合は常に冷凍庫に電気を奪われてしまうので簡単に決断できることではなかった。

雪が降ればあるいは……なんて思いもある。

雪が降れば、自然冷凍と言う手もある。

しかし、雪が降らなければそもそも冷凍は出来ない上に、その時に冷凍する食材があるか?

冬に新鮮な食べ物を手に入れるのは至難の業な上に、そのためには寒い中を出歩かなければならない。

なので、この案も却下だ。

まぁそれでも山に小動物を狩りに行く、なんてことはするが……。でも、それで死ぬような思いもするのも出来れば避けたいものである。

となれば、やはり秋のうちに対策となる。


「こうやって考えるだけで楽しいんだけど、さすがに同じことだと飽きるな」


実はこの議論は去年を合わせ、何百何千何万と繰り返してきた。

生きるために知恵を絞るには致し方ないこととはいえ、さすがにこうも繰り返すと考えもぼんやりとしてくる上に、飽き、眠くもなると言うものだ。

明日こそはいい案が思いつきますようにと願いを込めて目を閉じる。










冬がやってきた。

秋ではいい案が思いつかず、リッチとは程遠いひもじい生活を送る毎日である。

でも、それがある意味ではいつも通りであることもまた真実であった。

俺の日常はこうして去年と同じく、何とか生きながらえると言う生活……のはずだった。

──突然の来客である。

十二月に入ったばっかしだと言うのに、非常に寒い日。

しかし、その寒さはダンボールの前では無意味とかし、コタツの前ではむしろ眠気を誘うプラス要因でしかなかった。

そんな日の夜。

世界が一変する、と言う表現が正しいかは分からないが、現実離れしたようなそんな感覚を味わった直後、我が家に来客が来た。

中にはまだ入ってこないどころか、外で様子を見ているようだった。

それならなぜ来客かわかるか。

答えは簡単、ここは冬の立てこもり専用の廃墟。

ここに住んでいるのは俺ぐらいのものであるからだ。

外監視用スコープを覗き、来客の様子を伺う。


「おいおい、日本人じゃないどころか、なんで武器を持ってるんだ? ホームレス狩り!? ホームレス狩りなの!?」


噂はかねがね、まさかホームレス狩りなのか?

まさか、そんなのに俺が出くわすなんて思いもしなかったよ。って、そんなことよりも姿が異常だろう……。

ピンクの長い髪をポニーテルでまとめ、着ている服はいかにも騎士ですと言ってるかのようで。

手には武器──剣を持ち、腰には鞘を携えて、来客は戸惑った様子で家の前を立っていた。


「こ、こんなところに人間が住んでるのか?」

「住んでるわーー!」

「!?」


俺の傑作であるダンボールハウスをこんなところ呼ばわりした挙句に、人間が住んでるのかと来たもんだ。

そりゃあ、反論もしたくなる。

ちゃんと普通の人間が住んでいると言うのに。

俺のその反論を聞き、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに顔を引き締まらせた。


「貴様のリンカーコアをもらいうけ……」


決め台詞かのように言おうとしたのに途中で止め、俺を見て、そしてダンボールハウスを見る。

一回、二回と繰り返し見て、来客は哀れんだような目をして俺を見る。


「あの……なんだ、その……困ったことがあるなら助けにな──」

「う、うわぁぁああ。よけいなお世話だーー!」


初めて会った人に同情された。

しかも、ホームレスを狩りに来た人に同情された。

なんなんだよ、この羞恥プレイは……そんなに酷かった俺の容姿が!?


「ほら、人生まだ始まったばかりだから希望はある」

「励まされたよ!? さっきまでのぴりぴりした雰囲気から、すごい穏やかな雰囲気になっちゃったよ!?」

「!? ……貴様のリンカーコア貰い受ける!」

「今更引き締めても、手遅れだから!」


ダメだ、この人何とかしないと……。

あれ? 本当に何とかしないといけないのは俺じゃないのか。

ああ、そんなことりも、なんだかシリアスな雰囲気漂ってきたから空気読まないとな。

とりあえず、向こうはリンカーコアって奴が欲しいんだよな?

なら、それに合わせて話を進めればいいのか。


「くっ! お、おまえなんかにリンカーコアを渡してたまるものか!」


やばい、なんか熱い展開が待ってる気がする。

すると、その期待答えるかのような反応が返ってくる。


「なら力ずくでも!」


騎士はそう言った瞬間に俺との間を詰め、手に持つ刀を振りかざそうとした。

しかし、その切っ先は俺の首元で止まる。

騎士の目を見ると、今までの哀れみや同情の目、優しそうな顔から、不思議そうな顔をしていた。


「なぜ……抵抗しない?」

「?」


抵抗しない? 抵抗できないの間違いじゃ……。

俺にとってここまでの動作が一瞬で、どう考えても人間じゃ反応できないと思うんだけど……。


「もしかして貴様……魔法を知らない、のか?」

「魔法? 知ってるよ?」


あれでしょ、変身したり箒で空を飛んだりするやつでしょ。

あとは宅急便したり。

そんなの小さい子でも知ってるさ。昔は魔法にも憧れたけど、魔法なんて存在しないからな。

無い物を欲しがるなんてしょうもないことはもうしないさ。


「そうか……なら、遠慮はしまい!」


俺はこの言葉を最後に、気絶してしまった。

結局俺は、あの騎士が何者で、何を目的に来たかも分からずじまいだった。

次に目を覚ましたとき、酷い脱力感と若干の痛みに襲われた。

それでも上半身だけで起き上がりあたりを見渡せば、いくつも白いシーツのベッドがあることから病院と思われる場所だと予想できた。

そして、ベッドの横に椅子を置きそこに座りながら脚を枕代わりにして寝ている、なのはの姿があった。

その寝ている、なのはの姿も俺と同じような服──つまりは患者用の服を着ていることから、同じ入院者ということなのだろうか。

とりあえず謎だらけで分からないので、なのはを起こすことにした。

すごく気持ちよさそうに寝ているなのははこの上なくかわいく見えるものの、俺からすればそんなのは二の次。

俺にとって意版今やるべきことは、


「こら、起きろ」

「にゃあ!? あ、あれ一郎君目を覚まし──」

「今の俺の状況を三文字から5文字で説明しなさい」

「え? ふぇぇ!? あ──」

「残念、五文字を超えてしまったので高町選手は脱落です。罰ゲームで一回殴らせて?」

「そ、そんなのむちゃくちゃだよ! それに、なんでそんなに綺麗な笑顔で怖いこと言うの!?」


笑顔で騙されるかと思ったら、そんなことは無かったようだ。

とりあえず、なのはの睡眠の妨害とからかうという一番の目的が達成できたのでよしとする。

おかげで体の痛みもぶっ飛んだよ。ありがとう、なのは。


「と、心の中で呟くのであった」

「な、なにを!?」

「なのはへの感謝の気持ち」

「それはちゃんと言おうよ!」

「だが断る!」

「はやっ! というよりそれが言いたかっただけじゃ……」


なのはの突っ込みが図星だったので、黙るしかない。

たぶん人生で言ってみたい言葉第三位だと思う。

ちなみに一位は俺の屍を超えていけで、二位は我が人生に一片の悔いなし、だ。


「病院で死ぬときの言葉は洒落にならないと思うの……」


なのはが意外に突っ込みの才能があることが発覚。

というか、俺との付き合いで上手くなったと考えるべきか……。

なのは遊びもそこそこにしていると、病室に緑色の髪の女の人がやってきた。

お医者さんかなと思ったが、白衣を着ていないことから違うと思われる。

女の人は自らをリンディ・ハラオウンと名乗った。なので俺も自己紹介した。

そうするとリンディさんは真面目な顔で、ごめんなさいと急に謝ってきた。

何のことか分からず俺は呆然としていると、リンディさんはなのはとアイコンタクトをとった。

なのはは一回うなずくと、俺に言った。


「あのね、私、魔法少女なの」

「……ああ、宅急便屋さんってこと?」

「ち、違うよっ! 魔法少女だよ! 魔法でドカーンとかボカーンとかしたりするの!」

「はいはい、ドカーンとかボカーンとか魔法の効果音じゃないよね」

「う……うぅ、私、魔法少女だもん。空とか自由に飛びまわる魔法少女だもん……」


全く、魔法とかそんなのあるわけ無いじゃないか。













{A's編も未介入……なんてことはなかったぜ。気付けば1話投稿から二ヶ月を超えてました。こんなにPVとコメが増えることになるとは思いもしませんでした。これからもよろしくです}



[17560] ─第19話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/07 20:40
「つまり魔法はあると、そう言いたいのか?」

「うん! うん! そうだよっ!」


ようやく信じてもらえて嬉しかったのか、飛び跳ねるように喜ぶなのは。

ただ、飛び跳ねた次の瞬間「痛っ!」と声を上げ、涙目になった。

怪我か何かをしてるからお互いに入院していると言うのに、調子にのるから悪いんだ。

それに対し俺はいつだって冷静沈着だというのに。


「うぅ……でも、分かってくれたんだよね!?」

「え……まぁ、うん」


本音を言えば、魔法が本当にあることに驚きすぎてなのはの話は右から左へ流れていったが……それでも、なんとなく把握した。

なのはの話を要約すると、魔法=砲撃ってことでいいと思う。

俺の想像してた魔法とは大分違うのでその差に軽くショック受けたりもした。


「なのはちゃんの言ったことが全てじゃないわよ?」


リンディさんがそう補足した。

全てじゃないと言うことは、夢のステルス機能搭載や魔法で炎出したり、電気作ったり……。

夢が膨らむ。

リンディさん曰く、俺にも魔法の才能があるので使うことができるとのことだった。

さて、肝心の才能はどれくらいあるのか、実に興味深いものだ。


「ええとね。一郎君は……」

「はい!」

「……非常に言いにくいんだけど、なのはちゃんの半分もな──」

「なのは、お前の魔力とやらをよこしなさい!」

「え!? ふぇ~~っ!?」


リンディさんの言葉を遮ってなのはを攻撃、もとい吸収。

どうやれば、なのはの魔力手に入れることが出来るだろうか?

あれか? 血を飲めばいいのか?


「吸収じゃなくて、吸血だよね!」

「……別にうまいことも言ってないな」

「一郎君がどこまでも私に冷たい!」


なのはよ、別におまえに限らず俺は誰にだって冷たいから安心しなさい。

そんななのはとじゃれながらの魔法談義であーだこーだとしたあとに、リンディさんが俺の状況について説明してくれた。

俺はなんだか分からないうちに、魔法の戦いに巻き込まれたとのこと。

簡単に言えばそれだけの話で、そんなに深い話……って訳じゃないと思う。

途中に、闇の書云々とか、世界が滅ぶ云々も言ってた気がするけど、きっと気がするだけだろう。

というより、それを知らされたからって俺がどうのこうの出来る問題でもない。

まぁリンディさんも別に俺に何かして欲しいと言うわけではなく、被害にあったための謝罪と言うのが大きな理由のようだ。

そんな俺とは打って変わって、なのはには協力を──なのはが自ら協力してるような口だった。

自ら危険なことに首を突っ込むとか正気じゃない。いや、もしかしたらドMでそういう状況を楽しむ節があるのかもしれない。

もし、そうなら……しばらく話しかけないで欲しいな。危険ごとに巻き込まれる可能性があるからね。

さて、なのはがその事件にどう首を突っ込むかなんて俺には関係ない。

頑張るならせいぜい死なないように頑張れと言うしかない。

俺になのはを止める理由も権利も無いからね。


「──それで、ダンボールに包まれた貴方が見つかった……って聞いてる?」

「え? ああ、はい」


よけいな事を考えてたら、聞き逃してしまった。でも、二度同じ話をさせるわけにはいかないから、とりあえず頷いとくとする。

というか、聞き逃したのは主になのはのせいだ。

なのはの事を真剣に思いやって考えてあげたから、聞き逃したんだ。だからなのはが悪い。と言うことにしとこう、心の中で。

さて、状況説明の後は俺への今後の対応だった。

リンディさんが言うには、元の生活に戻っても大丈夫とのことだった。

リンカーコアは、例の闇の書と言うのは一度リンカーコアを蒐集した人からは、蒐集できなくなるので、また襲われる可能性はまず無いとのこと。

よって、下手に管理局であるリンディさん達と関わるよりは、普通の生活に戻った方が安全らしい。

もちろん、この事件が解決するまではリンディさん含め、なのはとの接触も避けるようにと言うことになるらしいが、それは俺にではなくなのはに言うべきことだと思う。

ちなみに、今回の事件の被害者たる俺は管理局からそれなりの``謝礼``が出るらしい。

さらに言うならば、日本円で出るらしい。これはまさに天からお塩──じゃなくて、天からの贈り物だ。

しかも、入院費もただだというじゃないか!

襲われたと言うのに良いこと尽くめ……ついに俺にも運気がまわってきたんじゃないかと思う。

この日は、リンディさんの説明となのは弄りで終わった。

聞く話がどれもこれも、初めてのことばかりで楽しいと言えば楽しい一日、だったかもしれない。











「なのは……それドロップやちゃう、それはダンボールや」

「ど、どんな夢を見てるの!?」

「うわっ! なんだ、なのは! 俺のベッドにいきなり……まさか!?」

「ち、違うよ! 一郎君が変なこと言ってたからっ!」


何か寝言でも呟いたのかな? 記憶に無いからね。

ただ夢の中で、なのはが俺のダンボールハウスを、「わぁーお菓子の家だー」とか言ってた気がする。

その後は急に戦争になって……ダメだ、ここまでしか思い出せない。

目が覚めた矢先から、あれやこれやと騒がしかった昨日とはまるで真逆なのんびりとした朝を迎えた。

昨日は自分の状況把握だけで手一杯……になってた気がするので、今この場所の状況は掴めてなかった。

説明によれば、ここは時空管理局と言う組織? の病院で俺となのはは同じ病室──というよりは、俺となのはのための病室とのことだった。

理由は色々あるらしいが、一番には友達同士なんだから一緒のほうが良いよね? って感じらしい。

まぁだからなんで二人きりと言うのは、謎なんだけど……気にしない方向で行こう。

だって今はこのふかふかのベッドに、決まって三食までもらえるんだ、どこに文句のつけようがあるものか。

明日の心配をしなくて良いことは実に魅力的だと、早くも思ってはいるけど……なんだろうな。

何かが……そう、何かが足りない気がする。

それがハラハラなのか、ドキドキなのか、危機感緊張かは分からないが……生温いような、そんな感覚。

そうは言っても、入院生活はまだ強制的にでも続くので、満喫するとするのが吉と言うものかな。

とはいうものの、暇な時間でもあるので、この時間は趣味の一つに当てはめるとする。


「さて、なのは」

「なに?」

「今、俺となのは二人っきりである」

「? そうだよ?」

「一つ屋根の下、大きな部屋の中で誰に邪魔されるわけも無く、男の子と女の子が二人きりだ」

「うん、一郎君と一緒の部屋だね!」

「いや、そうじゃなくて……なんで、そんな純粋な目を俺に向ける……」


俺は必死にからかっている状況なのに、なのはは全く分かっていないとは……

それどころか現状を楽しんでいるような感じがする。

こう……なんというか、なんだ、みだしらな事を考える俺のほうがおかしいんじゃないかと思えてくる。

いや、なのははまだ小学三年生だから分からないのは当然と考えるべきか……

なのはの方をもう一度みると、なに? と言った感じ小首をかしげながらこちらを見ている。

ちなみに、俺のベッドに乗って真横で、である。

正常な男が見れば、誘ってるんじゃないかと……と、いけない。これ以上は色々と危ない思考に突入するところだった。

よく考えれば、突入と言う文字もこれはこれで危険な──って、俺はどこぞのBダッシュの使えるエロいあの人のような思考になりかけてる。

これは早急に話題をそらす必要がありそうだ。


「そういえば、なのはって魔法つかえるんだっけ?」

「うんっ! でも、今はちょっとできないんだ……」


しょげた感じで下を向く。

たかだか魔法がつかえないぐらいで、俺なんてその存在も知らなかった。というか、俺たちの世界では知らないのが普通だろうに。

そこに、偶然たまたま知る機会があって、たまたま魔力を持っていた、それだけだろうに。

そもそも、なんでなのはの方が俺より魔力が多いんだ!

むしろ必要なのは俺のほうじゃないか?

なのはなんて、魔法を使わずにボケーっと生きている方がお似合いだろうに。

それに比べ俺なんて、毎日生か死の戦いだ。魔法があった方が生存率が高まるに決まっている。

ということで、


「なのはさん、魔法を教えてくださいお願いします」

「ひくっ! なんかすごいしたでに出てるよっ! こんな姿の一郎君初めてだよ!」

「そんなことないです。生きるためには、例えなのはだろうが、かの黒く夏に湧くあの虫だろうが土下座の一つや二つ……」

「そ、そっかぁ。なら、うん! 私が教えてあげても良いよっ!」


本人は気付くまい、あの黒くて忌み嫌われるGと言う生物と同列に並べられていると言う真実に。

それはさておき、上手くなのはに取り入ったので、魔法が今後使える可能性が出て来た。

なに魔力なんて飾りさ。

必要なのは魔力を如何に生活に役立てられるようにする技術と発想だ。

偉い人にはそれが分からんのです!


「ところで、重要な話なんだけど」

「どうしたの?」

「魔法って電気とか炎とかだせるの?」

「うーん、フェイトちゃんは電気を出せるよ?」


フェイトちゃんって誰?

素朴な疑問が思い浮かぶがそんなことより、


「フェイトちゃん``は``って言ったな? ということはなのはは出せないのか?」

「うっ……ごめんなさい。本当のところはまだ私も魔法を知ったばっかしだから分からないの……」

「……つかえないな」

「ひどっ! さっきまでの慕うの姿勢が何一つ残ってないよ……」


つかえない奴に敬語も敬う気持ちも無い。それが、ホームレス魂ぃ。

……聞きようによっては、すごいダメ人間っぽく聞こえるが気にしない。

しかし、この発言によりなのはを師匠にするのはもしかして効率が悪いんじゃないかという疑惑が浮上する。

その電気っ子? のフェイトって言うこの方がいいかもしれない。

電気が使えるから。もう、あの自家発電機に頼らなくてすむからね。

どうせ、大半はなのはに扱がすけど……

なのはとそんな雑談をしていると、お昼になったので食事が運ばれてきた。

ここは異世界なので、日本食を食べられないどころか奇天烈なものが出るんじゃないかと不安だったが、出てきたのは和食。

白いご飯・味噌汁・さばの味噌煮etc

なんというか……渋い食卓だった。

味の方は……まぁあれだ、食べられるものが出てきてよかったと思うことにしよう。

入院食と言えば、日本だとよくまずいと言われるが、最近ではそうでもないらしい。これイチローの豆知識ね。

食事が終わると、一人の来客が来た。

もちろんこの来客と言うのが俺にじゃないのは、明日が来るのと同じくらい明白である。

逆にここに俺への来客が来るようなら、明日が来ないと言うことに……そうすると、是が非でも来て欲しくないな。

そして、その来客と言うのが……


「ええと、一郎君紹介するね。この子がフェイトちゃんで、私と同じで魔法少女なの!」


もはや、魔法少女には突っ込むまい……。

そんなことより、入ってきたのはこれまた美少女だった。

金髪の女の子で、アリサも同じ金髪だが纏う雰囲気は180度違う。ツンツンした感じではなく、穏やかそうで、気弱な感じだ。

今も、入り口でなのはの後ろに隠れながら、もじもじしてこちらの様子を伺っているのが分かる。

そして、これが噂の……


「ビリビリ少女か……」

「びりびり?」


俺の言葉に反応したようだ。今だ不安げにこちらを見ている。早く警戒を解いて欲しい。

少し居心地が悪いからね。

なので、俺からフレンドリーに接するとしよう。第一印象は大切だし、もしかしたら今後の付き合いが長くなるかもしれない。電気関連で。


「俺の名前はええと、一応、鈴木一郎ってことになってます」

「一応?」

「うん、まぁなんというか……詳しいことは面倒なのでなのはに聞いて」


初っ端から面倒とか言う時点で、すでに第一印象云々が無駄になってる気がしないでもないが……まぁいい。

そんなことより、大切なことがある。

フェイトって子の前にジャンピング土下座を魅せながら言う。


「俺の師匠になってください!」


あれ? そういえば、この子どこかで見たことあるような……

ああ、海から覗いたときになのはと抱き合ってた子か。
















{gdgダーラズって感じです。あと一話病院編続きます。フェイト初? 登場。そういえば、他に忘れてる人がいるような……男と雄を}



[17560] ─第20話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/10 00:39
「ええと、なのは?」


俺の突然の申し開きに驚いたのか、オロオロしながらなのはにどう答えればいいのか聞いてるようだった。

俺からすれば電気を使えるようになれるのは心強いというのはもってのほか、他にも色々と応用性ができそうだ。

例えば……売るとか?

まぁそれはあくまで例え、どちらにしろ魔法が使えるのなら使えて損はないというのものだ。

それこそ、夢のあの機能も出来るやもしれぬ。


「そういう時はこう言えばいいんだよ。 だが断──」

「それ使い道間違ってるから」

「え!? さ、最初に言ったのは一郎君だよねっ!?」

「……記憶にない」

「ひどっ!」


思い違いも腹正しいものだ。

そういう名言を原作も読まずに、どうせあの作品で使ってたから使ってみたいなとか思ってるに違いない。

勉強して来いって感じだよ、まったく。


「師匠って、何すればいいかわからないんだけど?」

「笑えばいいと思うよ」

「え?」

「冗談。魔法の使い方と電気の作り方を教えてほしいのです」

「電気の作り方?」

「フェイトちゃんって電気出せるよね? それを教えてほしいって言ってるんだよ、一郎君は」

「あ、うん。でも、あれってなんか出来ちゃったんだよね」


フェイトが言うには、魔法を使う頃には、自然と魔力を電気に変換できるようになっていたとのこと。

なのははそれができないということだから、その魔力の変換? ってやつは才能の問題なのかもしれない。

そうなると、俺が電気を生み出せる可能性もあるが、逆に出来ない可能性もあるということになる。

『魔力があれば誰もが何でも自由に使えるのが魔法』というイメージがあったのに、そのイメージが覆られそうだった。

いや、覆ったのかな。

どちらにしろ、そうなるとフェイトに師匠を頼む以前に、自分の魔法の資質とやらを知る必要性が出てくる。

その資質を見極めたいのだが、なのはとフェイトもやり方はよく分からないとのことだった。

となれば、分かる人に聞くしかない。誰か暇な人はいないか。

そんなことを考えていたときに病室にやってきたのは昨日ぶりのリンディさんだった。

やってきた理由は俺にではなくなのはに用事があったようだが、このチャンスは見逃せない。

話が終わったと思われるタイミングで、俺が思ってる疑問をぶつけてみることにする。


「貴方の魔法の才能?」

「はい。分かりますか?」

「そうね。蒐集の影響を調べたりするために一応調べさせてもらったわ。その時に調べたのは魔力とレアスキルの確認とかね」


魔力は入院当日に聞いていた。なのはの半分……って途中で俺が遮って最後まで聞いてなかった。

そして、レアスキルときたか。名前からして珍しい能力のことなのだろう。

うん、日本語訳しただけだけど。


「レアスキルはなかったわよ。そして魔力値はCランクといったところだったわ。詳しいことはもっとちゃんとした検査をしないと分からないけど」


なのはの半分ほにゃららというのは、聞いていたのだが、魔力値C……それは多いの? 少ないの?


「ちなみになのはちゃんは、AAAらん ──」

「やっぱり飲む。なのはの血を飲むから、その魔力量よこせ!」

「む、むちゃくちゃだよ、一郎君」


なんなんだよAAAって。

俺が半分くらいって言ったからせいぜいAぐらいかなと思ったけど……やっぱりなんなんだよ。


「なのはのくせに生意気だぞ!」

「そ、それは負け台詞だと思うの……」

「ごめん、この病室一人用なんだ」

「出て行けってこと!? ここは個室でもないの……」


いいんだ。俺は他の部分できっと勝ってるから。

例えば人生……は引き分けだよな。

ホームレスと魔法少女……うん、同じレベルだろう。

頭の良さは、むしろ比べたくないぐらいなので評価に入らないとして、運動能力なら俺の方が上だろうな。


「フェイトちゃんはね、私と同じぐらいすごくて運動もすごいんだよっ」


俺はなのはと比べてるから良い。

あれだろ? フェイトって子は異世界の子なんだよね? 宇宙人でしょ?

なら地球人と比べる方が間違いだよ

ほら、どこかの宇宙最強種族にくらべたら地球人最強も影が薄くなるじゃん、それと同じだよ。

そういえば、なのはの家族もすごかったよな……

あ、そっか。

そうか、前提が間違えてたのか。

なのはも人外だから極めて一般人な俺と比べること自体がおかしいのか……はは。


「……ハハハハ」

「い、一郎君が壊れた……」

「ちょっと怖い」


どーにでもなれー。

分かったよ、なのは。これからはもうちょいなのはには親切にしてあげるよ。

だって、不親切にしてその不気味な戦闘力で「汚物(ホームレス)は消毒だー」なんて言われたら、敵わないもんな。











カートリッジシステムという、システムがあるらしいということを小耳に挟んだ。

これは入院中になのはに話をしに来た人が言っていた言葉である。

このカートリッジシステムと言うのは魔力を溜めて一時的に爆発的に魔力を挙げるドーピングみたいなものらしい。

その代わり身体に負担がかかるとのことだった。

この話、一見俺に関係なさそうだが、実はかなり利用価値のある話題なのだ。

カートリッジシステム……魔力を溜め込むということ、ここが重要だ。

フェイトが使うような電気は魔力が基となる。つまりは魔力を溜めるのと同じように応用して電気を溜められるようになれば、わざわざ自分が電気を使うまでも無いことになる。

いや、自分でも使えるようになることが出来れば、俺の僅かな魔力でも溜めに溜めればかなりの量になるはずだ。

他にも、このカートリッジシステムとやらを使えばかなりエコな魔力利用が出来ると踏んだ。

こうなると俺のホームレスなエコ魂に火がつく。

ともすれば、まずは魔法を使えるようにならないといけないと言う結論から外れることは無く、勉強する必要が出そうだった。

だのに……勉強する方法が無かった。

なのははそもそも電気はダメだったし、結局フェイトには、そういうのはちょっとと言う感じに断られてしまった。

つまり八方塞である。

そうなれば最悪は独学でやるしかないのだ。

ただ、そうなると教材みたいのもないといけないし、そもそもそれでも限界があるというもの。

俺の今持ってる技術のほとんどは忍さんに教えてもらったものだし、実際にそういう人に教えてもらうと言うのは、とても重要なこと。


「はぁ……」


誰に言うでもなく、ため息が出る。

せっかく新たな可能性が出て来たと言うのに、その可能性を活かすことができなさそうなのだから、ため息の一桁や二桁出るものだ。

そんな俺の悩ましい姿を見たなのはが反応した。


「どうしたの?」

「いや、色々と悩み事」

「相談に乗るよ?」


いつもと寸分違わぬ笑顔で断言した。

今日はすでにフェイトとリンディさんも帰って、明日には退院するのみとなっている。

このまま何も動かずにただ退院のときを待てば、今後一切魔法に関わる機会は無くなるかもしれない。

なのはを介せばそうはならないとも言えなくもないが、俺が例の闇の書の事件に巻き込まれたことで、なぜかなのはは、


「私が一郎君を護ってあげる! だから、安心していつも通りに生活してていいよ!」


とやる気満々なのだ。

別に護らなくても良いのに、そもそもなのはに関わる方が危ないって言われたよね?

心の中ではそう思ったが、なのはに言われたことが少し嬉しかったので言わなかった。嬉しかったと言うことも言わなかったけど。

俺は女の子に護られるほど弱くない……とは思ってるのだが、なのははやる気なので止めることは出来ない。

俺は人の意思は尊重するからね。

閑話休題。

魔法をどうやって使えるようになって、生活に活かす話だった。

例えば、電気は言わずもがな電力にまわせる。火が使えるなら、生活はさらに便利に。風が使えれば風力発電。

水があれば生活に困ることが無いし、氷とかはあるのかな? そうすれば冷蔵庫も要らない。

いや、電気が使えれば冷蔵庫も使用できるので氷はいらないか。

どちらにしろ、前提は魔法が使えるようになることである。

何度も言うがここが最重要事項。

なので、もうなりふり構っていられないか。


「なのは、やっぱり俺に魔法を教えてくれないか?」

「あれ? 私じゃダメだったんじゃないの?」

「もうしょうがないかなと思って」

「しょうがないで私になっちゃうんだね……」


俺がそういうと少し落ち込んで、何かブツブツ言っていた。「私ってそんなに頼りにならないのかな」とか言っていた。

特に最後の一言の「一郎君ともお話が必要なのかな?」はなぜか背筋に凍りつくような感覚が襲った。

なぜだろう、お話って一番の平和的な解決のはずなのに。

それはともかく、無事になのはとの魔法の練習も約束でき、魔法についてはこれで一安心して退院が出来そうだ。


「あ! でも教えられるのは、今回の事件が終わってからだよ?」


魔法を使えるようになるのはまだ先の夢になりそうだ。











ついに退院した。

あの管理局と言う魔法の世界とはお別れである。今後何かの縁がない限りはもう来る事は無いだろう。

帰る中間地点で、アースラと言うまさに宇宙戦艦と言う感じのものに乗ることができた。

それはもう興奮した!

男たるもの宇宙戦艦の言葉に反応しないはずがないじゃないか!

魔法はまだ乙女チックなと思う節もあるが、宇宙戦艦は別だ。

ちなみにどれくらい興奮したかと言うと、YOU将来ここのスタッフになっちゃえYO! と言うほどである。

通訳するなら呆れられて、もう管理局に就職しちゃえばって感じだ。

宇宙戦艦のクルーと言えば魅力的な仕事に見えるが、できれば働きたくない……って駄目人間の言葉そのものような気がする。

それはさておき、ようやく我が故郷というのにはいささかの語弊があるかもしれないが地球に戻ってきた。

暖かかった病院とは違い寒い。ここ海鳴市の冬の寒さは中々のものなのは、毎年の経験で分かってはいたが、やはり寒い。

しかし、この寒さを感じてこそ現実と言う感じもする。

いつのまにかこの冬の冷たさも自分の人生の一部と化していたと言うことだろう。

そう思えば、この寒さもちょっと良いかもしれな──


「そんなわけあるかっ!」


寒いのはやっぱり嫌だ。

死ぬ。

本気で凍え死ぬ。

帰ろう。

我が家は防寒完備の整ったダンボールに、暖かいコタツが俺を待っている。

愛しのダンボールハウスへいざ帰還。


「そ……そんな馬鹿な!?」


自分の目を疑った。

帰ってきた愛しの場所には、見るも無残なダンボールの山。

電気家具は無傷だったが、ダンボールはボロボロだった。

一体何が起きたのか分からなかった。

かつてはあんなにも輝いて見えたダンボールが今では、薄汚いごみの山と化しているではないか。

おかしい……そう、おかしいのだ。

ダンボールがこんな風見えるはずが無いのに、そう見えてしまうのが。


「うぅ……泣きたくなるが、残ったものでも何とかすれば」


今は冬。活発に活動するにはどう考えても、無理がある時期。

なので残っているもので何とかしなくてはならない。

俺の技術ならこの程度……修正出来るはず。

じゃなければ俺の住む家が無いのだから! 命がけなんだから直さなければ!

言うが早いか、行動する。


「ああ、ここをこうつなげて……お、これは意外と」

「ここは外して他の部分に回すと……あれ? 思いのほか……」


初めて作ったときから改良・修正はしてきたものの全体の改造はしてこなかったので、良い機会だったのかもしれない。

前には見えなかった粗が見えてきたり、無駄な部分省略して、より効率的に。


「ふむ、あとはここをこうくっ付ければ……出来た!」


気付けば前よりも完成度が高まったダンボールハウスが出来た。

なんと、今回の家は収縮可である。

これなら細かいスペースに収納することも出来る、便利だね!

少ないスペースも綺麗に活用し埋めることが出来る……なんということでしょう、これこそ匠ならではの業。


「これはむしろ、ホームレス狩りの人にお礼を言わなくてはいけないのでは無いだろうか?」


狩ってくれたおかげで、お金は手に入る、魔法を知ることが出来た、我が家のリフォームが出来た。

今ではあのホームレス狩りは、幸福を運ぶ妖精だったのではないかと思う。あの死の宣告をする妖精とは真逆の。


「今度あったら礼を言うか」


そう心に留めて、この世界に帰宅一日目は多少早い時間だが眠ることにした。














{結局なのはになったとさ。まぁ初対面の人にいきなりフェイトが魔法を教えられるとは思わなかったので。次回から展開はカオスに!? 予告通りかになるかは作者にも分かりません}


Q&A
いくつか気になる質問があったので簡単にお答えします。

Q:魔法とか関わる必要あるの?
A:あります。作者がやりたいネタがいくつかあるので、そのための布石みたいなものです。

Q:魔力低いとか死亡フラグ?
A:作者は戦闘描写が特に苦手です。もともとこのような拙い文がさらに酷くなります。あとは、どうなるかはお楽しみと言うことで。


最後に、この作品は作者がやってみたいネタをひたすら晒しているものとお考えくださいね。



[17560] ─第21話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/12 01:34
今日は休日の為、堂々と胸を張りながら町を我が物顔で謳歌できる日。

休日の日課として、公園に行ったり図書館に行ったりして時間を有意義に使うとしよう。

なので、まずは図書館に向かおうとしたそんな時、とある人物に会った。


「あれま」

「……な!?」

「? どないしたんシグナム?」


いやはや、運命と言うのはとても不思議なもので、俺は実はこのピンク色の人と赤い糸で結ばれてるんじゃないかと思ってしまうよ。

という冗談はさておき、まさかこんなタイミングで出会ってしまうとは……

いや、本当に人生って何が起こるかわからないよね。


「どうも、お久しぶりです」

「シグナムの知り合いかなんかなん?」

「いえ、別に知り合いと言うわけでは……」

「え、めっちゃ知り合いでしょ。うち(ダンボール)を壊したんだから」

「いや、まてその言い方には語弊があ──」

「ほう……うちのシグナムがなにやら迷惑をかけたようやな……シグナム」

「は、はい」

「ちょっとあっちでお話しようか?」

「あ、主! ご、誤解なんです!  誤解なんです!!」


あのホームレス狩りの人はシグナムと言うのか。

この間の騎士の姿とは違って普通の服を着てて、私服って感じだったな。まぁだから私服って言うんだろうけど。

それにしても、あの車椅子の子……俺が家を壊されたこといったら、なんかすごいオーラを纏ってたな。笑顔だったのに。

でも、なんで片手にハリセン持って裏に行ったのかは分からないな。

裏に行ってすぐに、バシーンと言う軽快な音が街中に響き渡ったと思ったら、その数分後には綺麗な笑顔をした車椅子の少女と、頭は少し抑えた例のホームレス狩りの人が戻ってきた。

戻ってくると彼女は「八神はやて」と名乗り自己紹介をした。その後ホームレス狩りの人──シグナムさんも紹介された。

今にも切腹しますよ的な勢いで謝られたので、慌てて許した。

その時のシグナムさんの瞳には何も写っていなく、混沌とした闇だけがあったのが印象的だった。

最近よく人と知り合うなぁ、なるべく避けたいなぁと思いつつもこちらも自己紹介。


「鈴木一郎です、以後お目知りおきを?」

「イチローってあれなんか、レーザービームで地球滅亡とかできるんか?」

「むしろエコで地球に優しいです」


ダンボール的な意味で。

というか、彼女はイチローにどんな夢というか幻想を抱いてるんだろ……。

普通イチローでレーザービームって言ったらてっきり野球の話題かと思ったら地球滅亡って……スケールでかいな、おい。


「そうなんか……やっぱり地球滅亡は無理なんか……」


地球滅亡に特別な思いでもあるのだろうか? もしかして世界の覇者になる的な痛いタイプ?

もし、そうならばあまりお近づきになりたくないな。

俺はあくまで楽しく愉快に生きて行きたいだけだから、野望とかないしね。

そんな彼女らも図書館へと向かうようだったので、俺も目的が一緒なのでご一緒することに。

俺としては人との接触はなるべく避けたいものがあるけど……まぁ今日は日曜だし特に自分の事を話さなければ問題ない、と思う。

図書館に行くまでの途中に、シグナムさんに色々と聞かれたが全て誤魔化した。


「なんで、一郎はあんなところに住んでるんだ?」

「それは俺の夢だからさ」

「ゆ、夢……なのか」

「どんな家なん?」

「地球にエコで優しい家」

「ほぇ~太陽発電みたいな自家発電かなんかなのかな」


嘘は言ってないよ? 自家発電だしね。

そんなこんなで、しゃべりながら図書館に到着。

その後は各々自由にと思ったのだけど、はやてが一緒に本を読もうと誘ってきた。

なぜ、こんなに絡むんだ? と思ったら、


「う~ん、私なぁこんな体のせいか男友達おらへんのよ。だからかな?」


はやてが少し寂しそうに、純粋無垢な瞳をこちらに向けるので、微妙に断りづらい雰囲気となってしまった。

なるほど、この子はこの子で悲しい過去を背負っていると、そう言うのか。

そんな彼女がこうやってせがんで来るんだ、それなら俺の対応は決まっている。

そう、男なら……


「よし!」

「ほな、読んでくれ──」

「用事を思い出したのでおさらばだ!」

「「……え?」」


逃げるが勝ちって言うじゃないか。

そもそも俺に関わっているなのはたちの方が例外みたいなものなのだ。

なぜ余計な人脈を広げなければならないのだ。その人脈からいつか綻びがでて身を滅ぼすかもしれないと言うのに。

いや、今は……今はまだ早いのだ。

この年では容易に捕まって保護されてしまう。そうならない年になるまではまだ、必要以上に人と関わるのは避けなくてはならない。

どうしようもない場合を除き。

そして、この八神はやて・シグナムさんとの出会いはどうしようもない場合じゃない。

よって俺は……逃げるを選択した。当然のように。

寂しげなはやての顔が思い浮かぶが……見なかった。

見なかったことにしよう。

外道でも男でもないでも結構。

まずは身の保身が大切だ。

そうじゃなければ、俺のこのホームレス生活は務まらない。











はやてちゃんが、一郎君の姿をしたクロノ君の師匠さんに、


「ほれ、本を読んでほしいか? 読んで欲しいだろう?」

「よ、読ませてくれるんか?」

「友達になってほしいか? ほしいだろ?」

「と、友達になってくれるんか?」

「「用事が出来たのでおさらばだ!」」


と言われ、はやてちゃんはその悲しみのあまり泣き叫びながら、


「一郎君はなんで私に読みきかしてくれへんかったんやーーー! なんで、友達になってくれへんのやーーー! あそこは普通読ませて友達フラグ建てるとこやろーーっ!」


と言って、闇の書を起動してしまいました。

はやてちゃん……私もそれには同情するよ……。私も一郎君に酷い目にあわせてるから。

でも、闇の書は私が同情したところで止まってくれませんでした。

はやてちゃんの一郎君の理不尽の対応の怒りに反応して、世界を滅ぼそうとしたのです。


「ふふふ、ついについにこの時が来てしまったのか。我が主の春が来たーーッ!」


まだ冬だよ?

なんか涙を流しながら、歓喜をしてます。

言ってることはよく分かりませんが、たぶん闇の書さんが覚醒した為、はやてちゃんに春がやってくると言うことなのでしょうか?

つまり闇の書さんが頑張っるからはやてちゃんに春が訪れると?


「我が主は青春と言う名の春が来ないことを嘆いていられるのだ……」


う~ん、さっきのはやてちゃんのフラグ云々が関係しているのでしょうか。

とにかく、私たちは闇の書さんを止めなくてはならないので、必死に説得を試みます。

でも、全然聞いてもらえません。

それどころか、


「この暴走する前の僅かな時間こそが……そう、まさにこれが自由だと言うのか!?」


もう手遅れかもしれないと思いました。

それだけでなく、フェイトちゃんがどこかに消されてしまいました。

私はそれでも諦めず、目を覚まさせる一発を狙うタイミングを狙っていました。

その時でした、闇の書さんの中からはやてちゃんの声が聞こえたのです。


「こ、こんなの現実とちゃう! こんなに優しい一郎君は一郎君や無い! 一度しか会ったことないけど、それぐらいわかるわっ!」


強烈な突っ込みと、ハリセンの音が。聞かなかったことにしようかな? きっと中でいろいろあったんだよね。

それからしばらく、静かになり闇の書さんの動きが止まりました。

それと同時に、またはやてちゃんの声が聞こえました。

今度は突っ込みではなく、私に訴えかけるように。それははやてちゃんの願いでした。

そして、ようやくこの事件に……終わりが見えてきたのでした。

私たちはこのあと、闇の書さんの防衛プログラムの闇の部分と戦い、苦しい戦いでしたがみんなの力を合わせることによって、勝つことが出来ました。

私と一郎君が襲われるところから始まった、この悲しい事件は終わりを告げたのです。












はやてやシグナムさんに会うというような予定外の出来事があったが、それ以外には特に何も起こらずにクリスマスを迎えた。

あえて言うならば、昨日に周りがいきなり暗くなって、空を色々な色のビーム? みたいなものが飛び交ってきれいだったなと思ったぐらいである。

いやあ、思わず流れ星かと思って願い事を頼んじゃったよ。

世界が平和になりますように、と。やっぱり平和が一番だからね。

俺はその時ちょうど、たまには冬の釣りもするかなと気分転換にコタツを持って、防波堤で釣りをしていたのだ。

その釣りをしている途中、無数ビームが海に向かって発射されたり、海が急に凍りついたりしたのは余談である。

そういえば、暗くなる前に


「一郎君はなんで私に読みきかしてくれへんかったんやーーー! なんで、友達になってくれへんのやーーー! あそこは普通読ませて友達フラグ建てるとこやろーーっ!」


と言う理不尽な怒りと声が聞こえた気がするが気のせいだろう。

その声はとてもはやての声に聞こえたが、絶対に気のせいだ。俺は悪くない……たぶん

それはともかく、今日はクリスマスである。

朝起きて外を見渡せば、一面の雪が覆っていた。

まさに銀世界だった。

意外とこの海鳴市には雪が多いのでこういうことは多かったりすのだが、この寒さだけは勘弁してもらいたいものである。

まぁ家にはコタツがあるから問題は無いのだが。

でも、雪と言うのも悪いことだらけでは無い。

だって食べらることが出来るのだ。食料になるので悪いどころかむしろ喜ばしいことかもしれない。

そういえば、すずかが友達が病院に入院してるからクリスマスの日に何かプレゼントして欲しいと頼まれていた気がする。

イヴの日に渡しに行くとも言っていたが、すっかり忘れていた。

でも、今日も一応クリスマスだから問題ないよね?

見知らぬ誰かにプレゼントあげると言うのはなんだか釈然としないが、すずかの頼みなので断るわけにもいかない。

なので、クリスマスプレゼントを用意……上げられるものが俺の周りに無いので、昔に木で作った自由の女神でいいか。

自由の女神を持って、病院にいくも、なんていう名前か知らなかった。

さて、どうするかと考えていたら、まだ時間が早いのに気がついた。

とりあえず、プレゼントはまた今度でいいとして、たまには海から見る夕焼けとは真逆の山から見る朝日も見てみたいな。

山が雪によって銀色に染まり、そこに朝日が差し輝く……なんという幻想的で美しい景色。

思い立ったらすぐ行動。

急がないと朝日が拝めなくなってしまうので、走って山を駆け上ると、山頂直前に転んでしまって、ごろごろと前転するように転がる。

気付けば漫画のコメディみたいな、雪だるまに自分がなっていた。

それでも何とか目の部分だけは、見えるようにして朝日を見ようとしたら、目の前では、なのはたちとはやてがなんだか感動っぽいシーンを繰り広げていた。

俺は朝日を見るどころではなく、ただ彼女たちのやり取りをお兄ちゃんになった気分で眺めていた。

雪だるまの中で。













{はやてフラグ折りとA''s完結。予定より1話多くなっちゃいました。ここで完結でもいいんですけど……中途半端なので、まだ続きます。ネタなので許してください。この一言に尽きます}



[17560] ─第22話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/15 22:44
「だからな~『はやて、俺は君が立ち上がれるようになるまで傍で見守ってあげるよ、ずっとね』なんていうはずないやんか?」

「…………」

「うん、うん。一郎君なら確実に『むしろ一生立ち上がれなくしてやんよ』なんて言いかねないの!」

「いや、さすがにそこまでは言わないんだけど……」


せいぜい言って、「ほら立ってみろよ? 立てないのか? この軟弱者!」止まりだと思うぞ?

いや、まて、俺。

そもそもこいつらは突然家にやってきて、行き成り本人の前で愚痴をこぼすわ、本人無視してしゃべってるんだ?

営業妨害なんですか? 

ホームレス妨害なんですか!?


「そうやろ? だから分かったんや。これは夢だって」

「そうだよね。そんな優しい一郎君なんて一郎君じゃないもん」

「俺はなのはの発言に傷ついた」


言いたい放題だな。

そして、俺が突っ込むor反論しても無視するとは……いい度胸してるじゃないか。

俺にけんかを売ると言うことの怖さを教えてやるぞ。

そうだな、まずはなのはに報いを取らすべきか。

では、これよりなのはをダンボールの刑に処す。

ターゲットは俺を無視するためにこちらを見ていない。

なので静かに、密やかに背後に接近して……


「被せるべし! 被せるべし!」

「にゃにゃ!? き、急に目の前が暗くなってっ! ふぇ? で、出られないの!?」

「な、なのはちゃん!?」

「俺を無視した罪は重いのだよ。特にここダンボールハウスではな!」


なのはをちょっと大き目のダンボールの中に収納。

俺のちょっとした心遣いとして、なのはに傷がつかないように、あのプチプチもたくさん引き詰めてやる。

なんて、優しいだろう。


「なんかプチプチがすっごい張り付いて熱いよぉ。ベタベタする……」

「な、なのはちゃんしっかりしやぁ!」

「にゃー! ここから出してよー!」

「ふははは、そこでにゃーにゃー言ってるがよい」


ダンボールに収納したなのはが、熱い熱いと言ってるので雪にでも埋めたろか?

ああ、でもやりすぎると死にかねないのでやめるか。

宅急便で北海道に送ってやるぐらいに留めてやるか。

さて、次ははやてだな……


「す、すみませんでした。もう、二度と無視しないので、か、かんにんや」

「そうか……はやて」

「ゆ、許してくれるん?」

「あ……あ」

「ほんまか!?」

「謝って済むなら警察要らないよな?」

「今すぐこの人を通報してーーっ!」


保護されてたまるか。

ということで、はやてにも何らかの罰を与えなくてはなるまい。

さて、今パッと思いつくものが、

1.なのはと同じくダンボール収納の刑
2.自販機の下をめぐって3000円、見つかるまで帰らせない。
3.一緒にホームレス生活を味わおう
4.池ポチャーン
5.珍動物を食べてみよう
6.ラッキーチャンス

と、ちょうどよく6個考え付いたので……


「おっと、こんなところにサイコロキャラメルの空き箱が」

「なんでそんなに都合よくあるんや!? 神様呪うで!」


神様呪うことにより、酷い罰が来るかもしれないよね。

では、さっそく運命の時間がやってきました。

サイコロ片手に~~


「何が出るかな、何が出るかな、それはサイコロ任せよ~~」


ローカル番組って言うなし。

あれだ、下手なコメディ番組は面白いんだから。


「あ、6や……ラッキーチャンスや! た、助かったん、かな?」

「ラッキーチャンスです」


なんとこのラッキーチャンス、何が出来るかと言うと……

全ての体験が出来ます、やったね。


「ど、どこがラッキーやねん!」


なんか文句言ってるが、気にしない気にしない。

そもそも、神様呪うとか行った方が悪いんだ。神様みんなの悪事はちゃんと見てるんだよ?


「とにかく、はやてもなのはと同じ箱に入ってもらいます」

「いやや! あ、あないなところ入りたくない!」

「ふふふ、ようこそはやてちゃん、ふふふ」

「行きたくない! 行きたくないよー!」


物理的に考えて、なのはが収納されているダンボールの中にはやてが入るのが無理っぽいのだが……

まぁ入ってしまったんだから、気にする必要は無いか。

とりあえず、これで『ダンボールのなのは・はやて詰』が完成した。

ここにあると何かと邪魔なので、欲しい人は下に出ている住所と係りつけに、年齢・住所名前などをご記入の上、秘密の言葉を書いてはがきを送ってください。

なお、抽選によりお一人様にお送りいたします。

ご応募お待ちしております。

…………。

さて、なのはとはやての箱詰めは飽きたので、そろそろ出してあげるとする。


「ひ、久しぶりの日の光やぁ」

「こ、こんなに太陽さんを嬉しく思うなんて……」


どうやら二人とも箱詰めを堪能したようだった。

それならまたやってあげるとし──


「いやだ(や)」

「……冗談だよ」

「「嘘だ(や)!」」


まぁ君らは俺の悪口、愚痴を言わなければ問題ないことなんだけどね。

いつまでもダンボールの話を引きずってもしょうがないので、話を進めるとする。


「そもそも、そうなったのは一郎君のせいやんか」

「あれ? また箱の中が愛しくなったのかな?」

「す、すみませんでした!」


うん、素直でよろしい。

……だんだん自分が外道になってるような気がするけど、気のせいだろう。

ただ生きるのに必死で汚いだけなんだ。

汚い! さすがホームレス汚い!

そんなフレーズが頭の中で浮かんだけど、なんか別の意味でもとれそうだから、思い浮かば無かったことにする。


「ところで、ここに何しきたんだ?」

「あ、それなんだけど……前の約束覚えてる?」

「約束?」


なのはと何か約束しただろうか……

痩せるトレーニングを教えるんだっけ? 今すぐ使えるサバイバル術だっけ?

記憶に無いな……覚えてないからきっと大したことじゃないのだろう。


「覚えてないの? あのね、魔法を教えるっていう約束なんだけど?」

「ああ、そういえば」


したような、気がする。

確か……『もういいや、なのはで!』って感じで決めたんだっけ?

すっかり魔法の事を忘れて暮らしていたよ。


「それじゃあ、はやては何でいるの?」

「私も教えてもらおう思ってなぁ。うちにもシグナムたちがおるけど、こういうのって気分の問題やろ?」


つまり、教えを請うには同世代のなのはに教えてもらった方が自分が教わりやすいと、そう考えたってことか。

ただ、なんで教わり易さばかりを考慮して、教える上手さを考慮しないのだろう。

なのはが上手く教えられるとは思えないんだけど……まぁ実際のところは分からないから、教わってみないと分からないけどね。

なんだかんだで、俺も教わるわけだし。

にしても魔法か……楽しみだ。











バリアジャケットすげぇーと俺が思ってる最中、はやては俺がようやく生成できたバリアジャケットを簡単に作り上げ、空を縦横無尽に飛んでいます、妬ましい。

最初はなのはに教えてもらっていたものの、なのはは感覚的な教え方が多くて俺には到底理解できなかった。


「だから、ここはこう……ビューンって感じで!」

「ビューンって何? なんで飛ぶの? 今話してるのって魔力の使い方だよね?」


これで分かるはやては十分に天才の領域だと思う。

そうか、はやても魔法少女てことなのか……そう考えると急にはやても痛い子に見える。

そんなはやてとは違い俺は、なのはの教えを理解できなくて、俺には魔法がつかえないのかと絶望してるとき、なのはの持っている赤い宝石がしゃべり出したのだ。

今は宝石すらもしゃべれる時代なのかと感心していたら、その宝石はどうやら魔法世界のものらしい。

宝石はデバイスと言うもので、持ち主の魔法を補助したりするそうだ。なんと便利な。

しかも、そのデバイスというものは魔法の補助だけでなく、ネットを使うこともでき、メールなどもお手の物と言うではないか!

魔法の補助なんかよりよっぽど利用価値あるじゃないか。

しかも、話し相手になるので、独り身のご老人にももってこいの一品だ。

あ、独り身のホームレスにもいいかも。

デバイス……研究する価値ありか。

デバイスの話はさておき、その宝石レイジングハートに俺は魔法を教えてもらうことになった。

実に理論的で分かりやすかったので、俺も何とかバリアジャケットまで行き着いたということである。

さて、このバリアジャケットであるが、本来は戦闘服とでもいうのであるのか、その名の通りに防御のための服であるらしい。

まぁそんな戦闘とか、防御なんていう機能は俺にいらないので、防寒とか出来ないか聞けば、なんとできると言うのではないか!

例によれば、俺の世界で言う消防隊みたいのが対火対策のバリアジャケットを使ったりするらしい。

つまりそれを応用すれば、対防寒ができるだろうということだった。

でも、今はまだ最低限の機能を備えたバリアジャケットを作成するのが精一杯なので今後の研究にまわすとする。

余談になるが、デバイスがあれば、例え魔法の構築が不完全でも、ある程度は扱えるようになるとのことだった。

ますますデバイスの素適度が上がる。

本格的に勉強したくなってきた。

ただ、誰に教わればいいのか分からないので独学にもなりかねないが……レイジングハートにでも教えてもらおうかと思ったが専門外とのこと。

何かいい案は無いものか。

ああ、そうか……単純な話だ。俺も魔法の世界に行って勉強すればいい。

となれば将来的には、この世界を離れることも考慮しなくてはなるまい。

この日のトレーニング? はバリアジャケットを作るだけで終わりを告げた。

終わった時間にはまだ日が昇っていたので、だんだんと日が伸びているの感じる。

そうか今年も生き残ることが出来たな、と少し考え深くなったりもした。

思えば、この一年出会いばっかしだった。ホームレスなのに。











そういえば、はやてがなぜこんなにも自然に混じっているか、を疑問に思う人が居るかもしれない。

彼女は最初なのはに、俺の事情を説明されたらしい。

そうすれば、彼女は案の定、


「なら、家に住めばええやん!」


そういい獲物を見つけたとばかりに言ったらしい。

あ、ホームレスを獲物ってどこかのホームレス狩りの人みたいだ。

まぁそのホームレス狩りの主がはやてらしいから、つまり子は親に似ると、そういうことなのだろう。

ちなみに闇の書事件と言う、はやての世界滅亡と言うエゴな事件(主観的)についての説明はなのはに説明された。

なぜ説明する必要があったのだろうかはいまだに分からない。

俺は全くの無関係だというのに。はやてには一日だけ会ったことあるけどね。

たった一日だけど。

閑話休題。

つまりはやては俺を拘束すると言い出したのだ。

なんというエゴな! やつは世界滅亡ところか、ホームレスの絶滅を祈願しているのか!?

そう思ったので、今すぐに襲撃にし行こうとしたら、止められた。


「はやてちゃんはもう諦めたみたいだよ?」


なのはが言うには、保護しようとしたはやてを待ったをかけた人物がいるらしい。

それがアリサだ。

何をどういうやり取りがあったのかわからないが、なのはの話を要約してみると、


「やつは私の獲物よ! 新参者のあんたになんかに譲らないわ! この泥棒猫が!」

「キーっ! あんさんこそ黙っとき! 年増女!」


こんな感じかな?

まぁ知らないんだけどさ。

とりあえず、アリサのおかげではやての野望は潰えたと言うことらしい。

その話を聞き、一応はアリサにもお礼を言うことにした。

俺はこう見えても義理堅い男なんだ。

女の子には優しくがモットーだ。

しかし、アリサときたら俺がお礼を言ったと言うのに、


「べ、別にあんたの為じゃ……」


なんていうものだから、つまり彼女が止めた理由は、俺の為でなく自分の野望の為ってことだろう。

なんて恐ろしや……。

これはしばらくアリサにも近寄らないほうがいいかもしれない。

こんなやり取りがあり、俺の日常は変わらず平穏なものになったのだった。

まぁ時々はやてがこの家に来るようにはなったんだけどね。

ああ、これは完全に与太話になるが、今年は神社でお参りをしてきた。

願い事はもちろん……


「地球温暖化で、冬に生きるのが楽になりますように」


俺の生活自体はエコだけどね。













{秘密の言葉は作中のどこかに!? とあるイベントまで時間を気にせず進みます}



[17560] ─第23話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/21 07:42
俺は今魔法の世界に行く方法を模索中である。

時に、なのはに魔法の世界に行きたいと頼んだのだが、なのは自身もアースラという船のようなものを経由して、行っているので詳しいことは分からないとのことだった。

そこのところもっと詳しい人がいるからその人に聞いてみれば? とのことだったので、その人とはだれぞやと思ったのが、なんてことはない。

金髪の女の子、フェイトのことだった。

彼女はなんと魔法世界の生まれだと言うではないか。

生まれながらにファンタジーな世界であり、育ちもファンタジーな世界。

そう、まさにフェイトはファンタジーな人物と言えるだろう。

つまりそのようなファンタジーなことにはなのは以上に詳しいと言うことだろう。

適材適所。

そういうことだった。

しかし、実はなのは、フェイトを紹介する前に「他にもっと詳しい人もいるんだけど……」と言って、渋った上でフェイトを紹介したのだ。

ということはフェイト以上にファンタジーな人が居るのかもしれない。

そういえば、ピンクの髪で騎士の姿で剣を持ちホームレス狩りのシグナムさんは、その姿だけを見れば非常にファンタジーだ。

というか奇怪だ。

俺は金髪だって珍しいと思ってるのに、ピンクって……そんな感じだ。

まぁそれはそれで似合って見えるのが不思議ではある。

そこを含めファンタジーなのかもしれないが。


「ひ、久しぶりだね……イチローだよね?」

「ああ、世界のイチローとはまさに俺のこと……得意技はレーザービームです」

「ビーム出せるの? すごいね」

「え……ま、まぁな。と、今回来てもらったのは他でもない、魔法の事を教えて欲しいんだけど」


フェイトに会うのが実はこれが四回目であったりする。

一回目は、海の中。

二回目は、病院で。

三回目は、雪の中。

あれ? まともにしゃべった記憶が無い。

ということは、今回がある意味フェイトとまともに話す機会と言うことになる。

そう思うとなんだか緊張……はしないな、別に。そんな初心な心無いし。


「魔法の世界に行きたいんだっけ? 転移魔法、でいいのかな?」

「転移魔法?」

「うん、説明すると……」


曰く、転移魔法は魔力を使ってどうする瞬間移動的なものであるらしい。

ただ、移動するにはその場所の座標を正確に指定しなければならない。

そして、そのその指定はかなり繊細なものらしく、魔力の運用がそれなりに上手くならなくてはならないし、失敗をすることが出来ない魔法とのことだった。

そういわれると、なんだか怖気づく。

座標指定に失敗すると、海のなかに入ってしまったり、雪の中、山の中なんてこともあるみたいだ……。

あれ、全然怖くない。

というか俺の日々の生活の一部じゃない?


「でもね、それはまだマシな方で、もっと酷いと他の世界に行ったりしちゃうんだよ。だからとても繊細で大変なんだよ?」

「なるほど……それはそれで……」


目的の場所に行けずに他の世界に旅立つ。

それはそれで面白いと思うのは、まさにどこにも家の無いホームレスならではの楽しみなのかもしれない。

時空を駆けるホームレス。

すごいロマンティックだ。

旅は回り道? とは言わないかもしれないが、自分の見たことの無い世界を旅できるのは魅力的だ。

なるほど旅か……これは別に世界に限らず、今の俺にでも出来そうなことだね。

まぁそれをするのには、行動しても補導されないような年齢にならないと駄目か……。

いや、他の世界ならそういうのが無い可能性もあるんじゃないか?


「それにその世界によっては人もいない世界だってあるし……」

「なんと!? それはそれは……」


人がいないなら保護されることもない、自由。

いや、もし人以外に何も無かったら野垂れ死にだし、いても人より凶暴な生物だったら殺されるし……。

となると、今よりさらにサバイバル技術を身につけなくてはならないわけか。

それ以前の問題もあるけど。


「ええと、イチローはどこまで魔法使えるの?」

「バリアジャケットをカップラーメン作る時間で出来る!」

「……三分ってこと?」

「いや、俺の食うのは四分だね」


今、カッ○ヌードルって高いからね。

赤いのとか緑のとかのほうがやすいんよ。

カップラーメン自体は最終手段でしか食べないけど。

そういえば、カップラーメンの奥義として、まずはカップラーメンの面を半分にして、食べて。

次はさらに半分、その次はさらに半分と、永遠に繰り返せるんじゃないかと思ったけど、そんなことはないんだよね。

あの粉を適量にするのが難しいからだ。


「ど、どっちでもいいけど」


フェイトが少しあたふたしながら、答えた。

どうやら俺とのやり取りがやりにくいらしい。

もしくは、フェイトはそういうギャグ的なものが苦手なのか、しゃべるのが苦手なのかもしれない。


「そんなに時間かかると、ちょっと転移魔法は難しいかもしれない……。デバイスは持って──るわけないよね」


俺の姿を見て、いいかけたことを自己完結させる。

まぁ確かに、そういう便利な物を持っていそうではないのは認めるけど……ちょっと失礼のような。

別にいいけどさ。

魔法対談はこんなもんで終わった。

今の俺にはどうしようもなく魔法を使うことは夢に近いものだからだ。


「ねぇイチローとなのはの出会いってどんなんだったの?」


フェイトが何の前触れも無く、そう聞いてきた。

何をいきなり、と思ったがなるほど深い質問ではある。

俺となのはの出会い。

過去を振り返るにはちょうどいいかもしれない。


「そうだな……俺がなのはに会ったのは」

「うん」

「砂の上だったな。俺がそこに巨大な建築物を作ってやったのさ」

「? 砂の上に建築?」

「そうだ。パルテノン神殿って言ってな、歴史的建造物なんだぞ」

「イチローが歴史的建造物を建てたの?」

「ああ、大変だった」


一夜にわたって建てたからな。パルテノン。


「そうなんだ……イチローって実はすごい?」

「ああ、そういうのは得意だな」

「じゃあ、この家も?」

「まぁ……ね」


砂場で何かを作るのは好きだし、得意だからね。

その特技が相余って、このダンボールハウスにつながり、忘れがちだが忍さんに教えてもらった技術で生活を円滑にしている。

良くも悪くも、いや、これだけを言うのならこの特技がかなりいい方向にこの特技は向かっている。

特技でもあるし趣味でもあるが正しいが。

ただ、フェイトよ。

目をキラキラさせ、なんで尊敬のような眼差しを俺にむけるのかが分からない。

今の俺の発言のどこに俺に尊敬をむけられるようなことがあっただろうか?

そんなこんな、フェイトと雑談をし、フェイトは家に帰って行った。

なんとフェイトの家はファンタジーな世界ではなくこの世界にあるらしい。

さらに驚いたことに、なのはと同じ小学校とのことだった。

つまり、その小学校は異世界人すらも受け入れOKということなのだろうか。

だとすれば、それはもう寛容すぎる心を持つ学校と言う印象を持つね。

もしかしたら、ホームレスな俺も受け入れてくれるんじゃないか、とかね。

まぁ学校に行こうとは思わないけど。











「だから、何で出来ないの!?」

「ようやくバリアジャケットの構成が分かった程度で、空を飛べるかって話だろ」

「私は飛べたもんっ」

「それはなのはにレイジングハートがあったからであってだな──」

「無くても飛べるもん。ほら!」


俺に見せつけるように空を飛び回るなのは。

その姿は悠々しく、またすごく気持ちよさそうなのに……なんでだろう?

どうして、俺の心はこうもドロドロして、黒いものが……。

ああそうか、これが理不尽な世界ってやつだね、お父さん。

お父さんいないけど、天国に空想のお父さんを想像する。もしくは創造する。というか、お父さんを創造ってすごいな、おい。


「くっ、これが才能の差というやつなのか!? 俺はバリアジャケットすらまだ満足に作れないというのに」


最近こそ、数分で作れるようにはなったものの、構成が甘いのか余計な魔力を使いすぎているのか、作ってもすぐ消えてしまったり、欠陥が出てしまう。

たとえば、防寒完備のバリアジャケットを作ろうとして、完全フル装備── ロシアの兵隊のようなものを想像して作るものの、見た目こそは完璧なのに、中身はただの布のようなものになったり。

ダンボールになったり……。

いや、ダンボールは確かに防寒性は高いけどね!

見た目的にはよくないでしょ? 見た目って重要だしね。

まぁいざとなれば、そんなのなりふり構わずやるんだが、出来れば魔法というものを使いこなしてみたいと思うのが人の常。

人はいつだって強欲で貪欲なのだ。


「むぅ、ちゃんと教えてるのに何で分かってくれないの?」

「凡人のことはいつだって天才には分からない……そういうことじゃないのか?」

「一郎君が凡人って言うのは少し違う気がするけど……」


失礼な、立派に普通な人間だとも。

そもそも魔法はレイジングハートが教えてくれる予定だったのだが、それに異を唱えたのがなのはだった。

彼女曰く「一郎君と約束したのは私だから、私が教えないとだめなの!」とのことだった。

なのはもなのはで結構面倒な性格をしているなと思った発言でもある。

それから延々と俺となのはの講習会。

ああじゃない、こうじゃない、それも違う、分からない、なんで分からないんだ…………キリが無い。

そうしたことを繰り返しているのか、なのはは逆に盛り上がってきたのか、それとも単なる意地か、挙句の果てには、


「絶対に一郎君を立派な魔導師にするの!」


と言い出したからたまんない。

俺は単に日々の生活に生きる魔法を覚えて活用したいだけだというのに……。

なのははきっと教師になったり教える立場になると、勝手に盛り上がるような熱狂教師になるに違いない。

そして、体育祭とかのイベントになると勝手に「特訓だー!」と言いだして、面倒くさそうにしてる生徒を振り回すに違いない。

逆にがんばる生徒にはさらなる課題を……うわぁ、考えるだけで面倒なタイプの人間に思える。


「うん、やっぱりなのはには、人にものを教えるのは向かないな」

「一郎君にそういうこと言われると、逆に見返したくなるのってちょっと不思議だね」


あれ? もしかして地雷踏んだ?

この後、二年間にわたり、なのはの俺に対するいろんな意味での鬼のような特訓の日々が続いたのは語るまでも無いだろう。

噂によると、この時になのはが人に魔法を教えることに快感を覚えたとか何とか……。














{次回から時間が飛ぶ……かも? とりあえず色々建設終了です}



[17560] ─第24話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/25 13:50
「いやぁなのはさんの特訓は大変でしたが、今までありがとうございました!」

「何で? なのはさんなのかな、一郎君? それに敬語だし。すごく嬉しそうだし」

「これはもうなのはさんへの尊敬とか色々と混ざってそう呼ぶべきかなと思ったんです」

「一郎君?」

「はい?」

「……怒るよ?」

「滅相も無いです! 俺は単になのはさんへそ──」

「少し……頭冷やそうか?」

「なのは俺が悪かった、だから止めてくれ! もうそのピンク色を見るだけで体が震えるんだ……」

「そ……そんなに私酷いことした!?」

「…………」

「なんでそこで黙るのっ」


二年に及ぶ鬼の特訓に耐えきれた俺は、自分自身におめでとうと祝福してやりたい。

いや、実際に祝福したと言っても過言では無い。

訓練の終了の瞬間に、俺は今まで極端に使う事の無かった──使う事をよしとしなかったお金を使いケーキを食べたのだ。

あの甘さといい、上に載っているイチゴの甘酸っぱさといいそれはもう……極上の極みだった。

極上の極みといういと、重複表現っぽいがそれほどまでにい嬉しかったと言うことだ。

美味しかったともいうが。

この世界に着て以来、初めての贅沢のような気がしてならない。

これが初めてなのか!? というちょっとした失望感もあったようなないような……どちらにしろ自分で望んだ道なので気にしてはいない。

それはともかくとして、なのはの訓練もとい特訓である。

終わりを告げた理由はある。

俺がなのはの理想には到底追いつけなかったことだ。

確かに、二年余りの年月をかけた事により、かつてバリアジャケットをカップラーメンの出来る時間まで更生するのに時間がかかったが、いまではなんのその。

今では数秒で出来る、なんと言う上達振りだろう。

これもなのはの特訓の成果といえば成果なのかもしれない。

なのは自身も俺がこのようにして成長できたのを目のあたりにして喜び、自分が教えてことに対して充実感や達成感があったようだ。

苦難が訪れたのそれからだった。

バリアジャケット以外ではほぼ成長が見られなかったのである。

いや、この原因のひとつとしてなのはの教え方が下手と言うのもあるかもしれないが、すべてがそれと言うのにはいささか誤りがある。

その教え方のなかには、レイジングハートと言う優秀なデバイスがついていたからだ。

となれば、他の要因として……


「これが……才能の壁なのか!?」

「才能を言い訳にするのは、出来ないと諦めた人だよ? 一郎君」


俺がその壁にぶち当たったときになのははそう言ったが、実際問題どうしようもなかった。

いくら魔力があると言えども、魔法の才能は無い。

本人は必死に努力はしてるのに報われない。

その努力自体は、なのはの鬼のような特訓を思い浮かべれば容易いだろう──


「立って、ここで立たないといつ立つの!」

「いや、立てってなのはがそうやってバインド拘束してるから無理なんですけど?」

「それを破る特訓だよ!」

「そんな特訓いらないわ!」

「出来ないと、戦いで負けちゃうよ?」

「俺はそもそも魔法での戦闘は望んでない!」


恐ろしいほどの魔力を込められたバインド拘束された上に、自力で破れないとなのはの攻撃が飛んでくると言うまさに鬼……鬼畜のごとき仕打ちだった。

つまり鞭による特訓。

もちろん、この程度では終わらない。


「私に攻撃を一回当てるまで今日は寝れないよ?」

「俺は空を飛べないんだけど?」

「それを工夫して当てる練習だよ?」

「俺はまだ魔法を自在に操れないんだよ!」


虐めじゃないのか?

バリアジャケットを構築するのが手一杯の人物に、そのような実践式の特訓なんて。

それに俺は戦闘は望んでないというのに……。

そりゃあ世界に羽ばたくには最低限は必要になるかもしれないけど、どうしてそんなのばっかしやる必要あるんだ?

もっと平和的利用法は無いのか?

バインドをつかってダンボールを固定したり、空を飛んでダンボールを組み立てたりするような。

この時の特訓は結局当てられずじまいだった。

あの純粋で無垢な心優しいなのははどこへ行ってしまったのか……本当にそう思った時でもあった。

たく、誰だよ! なのはに魔法教えたやつ!

俺がなのはに受けた仕打ちと同じかそれ以上のことしてやる。

密かに復讐心を燃やした。

結果、というか最終的に俺がなのはに教わって出来るようになったことは、空を浮いて多少動く、魔力を固めてナイフみたいに使用することと、バインドを少々程度だ。

まぁどの力もないよりは全然ましだ。

例えば、空を浮いて多少動くことが出来れば木の上の果実を取れる。

魔力ナイフは包丁代わりになるのはもちろんのこと、包丁でも切れないような物を切れる。武器になる。

バインドは獲物を捕まえたり、動物の罠に使える。

と言ったような、まさに俺が必要としてるような魔法の有効活用だった。

これはなのはに言わせれば、空を浮けるのは空中戦よしになり。

ナイフは戦闘時のただの武器に成り下がり、バインドは戦略を広げると言った感じになってしまうだろう。

どんだけあいつは戦いたいのだ? 戦闘狂じゃあるまいし……って、俺の予想なんだけどね。

しかし逆に言えばこの程度しか俺に出来なかったわけだ、二年もかけたにも関わらず。

なのははそんな俺に呆れたわけではなく、自分の指導力の無さに一旦諦めたのだ。

二年前こそ「私が一郎君を立派な魔導師に!」と言っていたものの、今は鬼の特訓こそ変わらなかったが、


「もっと教えやすくしないと駄目だよね……ごめんね」


などと言うのだから俺の調子が狂う。

ここ最近はなのはを攻めるまくるのは、どうかなと思っていたが……、


「ふんっ! なら勉強して出直すんだな!」

「そう……だよね。うん! 私がもっと勉強して今度こそちゃんと一郎君に魔法を教えてみせるから!」


と言い、これで冒頭に繋がる。長い回想終わり。

俺はこの二年間の特訓中になのはにずっと思っていたことが実はある。

あるにはあるが、今ここで叶うことではあるまい。

と言うかある意味では今もすでに叶っているとも言うが……これを維持するのは難しそうだからな。

何はともわれ、なのははすでに小学校六年生だ。

もちろん、同じくアリサやすずか、フェイトとはやても同じく小学六年生である。

なのはも昔に比べたら大人っぽくなったが……それはアリサやすずかの比ではない。

なんというかあれだ……俺も思わず見惚れてしまうと言うものだ。

なのはに? まぁ無いとは言い切れないが、あると言い切るには抵抗感となんとなく負けた感じがする。

例えば、だ。俺がなのはに「可愛くなったな」と言うとする。

さすればなのははどういった反応が返ってくるだろうか。


『えへへ、ありがとう。一郎君は……かっこよくなった?』

「なぜ疑問系だし!」

「痛っ! み、見に覚えの無いことで叩かないでよぉ」

「い、イチロー、暴力は良くないと思うよ?」

「いいんだ。これが俺となのはの会話なんだ」


決して特訓のときにやられたお返しをしてるわけじゃない。

それに、なのはは肉体言語が中心の会話みたいなのでこうやった方が理解できるんだぞ?

にしても、なのはを叩くと昔と変わらぬ、涙目になりながら叩かれたところを抑えるその仕草に、ちょっと安堵した。

特訓のときこそあんな鬼だが、なるほど普段は変わらないのか、と。

ここ最近はなのはと会うとなのはが「特訓。特訓、特訓ー! 一郎君と一緒に魔法を使うの楽しいなぁ」なんてうかれて特訓をし始めるので、こういう弄る機会が減っていた。

まぁいい、そんななのは談議など。今話すべきはアリサのことで──これも間違っているような気がするが、気にしない。

そう、アリサはとても綺麗になったのだ。

それはもう傍目で見ても分かるほどにと言えば分かりやすいだろう。

その姿はもう……俺の妹とは誰も気付かないだろうな。


「誰が妹よっ!」

「いたっ!」

「いけーアリサちゃん! 私の敵をとってーっ!」

「なのはも調子乗りすぎ!」

「~~っ! 痛いよぉ、フェイトちゃーん」

「な、なのは」


俺のすぐ横で、なのはとフェイトが寸劇を始めた。

そこだけなんだかピンク色に染まってるように見える……ピンク……ガクブルだ。

その様子を微笑ましそうに見てるすずかがいる辺り、もはやお決まりのパターンなのかもしれない。


「アリサは昔に俺の妹になると言う設定があってだな」

「そんな設定聞いたこと無いわよ?」

「今考えたからね」

「口からでまかせ!?」

「いや、俺はきっと脳から出鱈目だと思うぞ?」

「自覚するあたりもはや無茶苦茶よね」

「生活はいつだって滅茶苦茶さ」


世間一般的に考えてね。ホームレスだしね。

そんなこんなでみんなで雑談。

みんなというのは、なのは、アリサ、すずか、フェイトというお馴染みのメンバーである。

そんなことより、こうやってみんな揃って話すのは実に久しぶりのような気がする。

誰かいないような気がするが、気のせいだろう。きっとそいつは友達じゃないんだ。思い出せないんだから……たぶん。

そしてこの時、まさかこの中の誰かが欠けることになるなんて夢にも思わなかっただろう……。


「嫌な事をナレーション風に言ってるんじゃないわよっ!」

「っち、ばれたか」











もちろん誰かが消えると言うことない。

むしろ消える可能性があるのは俺と言っても過言では無い。

社会的にはいないも同然だしね。

それはさておき、俺は最後のなのはの魔法の練習を受けている。

最後の最後だけは、俺の望む魔法を教えられそうなら教えるという特訓内容もとい、練習内容である。

俺は何を教えてもらおうか色々と悩んだ。

電気にするべきか、炎にするべきか、また違う趣旨で転移魔法もいいかなと思った。

ねぐらを常に移動する。

ふと、どこからとも無くダンボールが現れては消える。

また違う場所に姿を現してはまた消える。

神出鬼没なダンボールハウス。

まさに警察の目を誤魔化すには絶好じゃないか。

これは逃走術にも、隠れるのにも利用できる。

そしてなにより、そう言った瞬間移動? みたいなものは男の憧れみたいなものである。

どこにでもいけるドア然り、気を頼りに飛ぶ瞬間移動然りだ。

そんな経緯があり、俺は結局転移魔法を教えてもらうことにした。

よく考えれば最初からこの形式で特訓あるいは練習をしていればかなりの無駄を削除できたような……無理か。

なのははああ見えてかなり頑固だから、自分が仕切ってやると決めたら引かなさそうだ。


「転移魔法……だよね?」

「ああ、できないのか?」

「そんなことはないけど……う~ん、専門ではないかな」

「専門って……なのはってもしかして砲撃とかバインドとか戦闘向きのしか出来ないんじゃ……」

「にゃはは……うん」

「とんだ戦闘狂だーー!」


まぁいい、まぁいいさ。この程度は予想できた。

なのはが役に立たないことを分かった上での、予想した上で転移魔法を教えてくれと頼んだんだ。

だから対策はもちろん考えてある。


「ということで、レイジングハート教えてくれないか?」

《はい。しかし、転移魔法は危険性が高く。私のようなデバイス無しで──》

「危険なのは重々承知」

《そう……ですか。マスター?》

「うん、私も出来ればやめて欲しいけど……」


一郎君も今まで頑張ったしこれぐらいはね? となのはが続けた。

無理やりにでも頑張らせられたと言ったら、なのは傷つくだろうなぁ。

でも、言ってもいいかな。俺はいつだって自分の気持ちに正直だし……。

そんな事を考えてるうちに、レイジングハートが転移魔法の原理と構築について解説し始めた。

昔にフェイトに言われたとおり、重要なのは正確に転移する先を定めること、とのこと。

少しでもそこで間違ってしまえば、どこかの世界へおさらばさっさ。

気楽で、孤独な独り旅へようこそになってしまうとのことだった。

なので、慎重に慎重に……、


「あれ? いま数字間違えなかった? しとしちを……」

「え?」


気付いたときにはもう遅かった。

なのはに指摘され詠唱すらも途中でやめてしまい、魔法が発動してしまった。

俺の周りが光に包まれ始める。


「え!? ややややばいよ! い、一郎君! レイジングハートなんとかならない!?」

《今干渉してますが、すでに発動状態です。どうになもなりません》


なのはが非常に慌ててる。俺の腕を掴もうとして魔法陣から出そうとするが俺が止める。

なのはまで一緒に来たら大変だからね。

確かに今自分は大変な状態なのだろうが、なんでだろう……ちょっと楽しくなってきた。

行く先の分からない旅と言えば、なんだかとっても楽しそうだ。


「何で一郎君はそんな暢気に笑ってるの!? いま、自分が大変なんだよ!?」

「いや、自分でも分かってる。もう手遅れなんだ」

「……一郎君?」


俺はまるで自分の死期を悟ったかのように呟く。

俺の最後の言葉をなのはに……。


「なのは、聞いてほしいことがあるんだ」

「……そ、そんな! これが最後みたいに言わないでよっ!」

「あのな……」

「い、一郎君! 駄目、行っちゃ駄目!!」

「俺はな、なのはのことがだ──」

「い、一郎君ーーーっ!」

「ダンボールが好き並には好きだよ?」

「す、すすす好き!? ……え、ダンボール? って、ふぇ~~っ! ダンボールと同じってどういうことなの!? そ、それよりどうしてやり遂げたみたいな清々しい顔をしてるの!?

い、いなくなっちゃうんだよ? 帰れなくなっちゃうんだよ!? どうしてそんなに笑顔……なんで親指立ててグッ! ってなんなのっ。え……グッドラックって軽い!? こんな状況なのに軽すぎるよ一郎君!?」


そして、俺はこの地を去った。

ちなみに、俺にとってのダンボールは利用価値がある、だからね。

















{次回は色々。ええ、色々です、お試し期間って感じです。次回、果たしてイチローは世界をまたに駆けることができるのか!?}



[17560] ─第25話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/28 21:13
※注意:最後の方に少しシリアスあると思うので、この作品にそれを期待してない方は飛ばしてください、そこだけ。なくても問題は無いので。

では、本編を楽しんでもらえると嬉しいです。








『ウエルカム♪ 時の庭園 テスタロッサ家へ』

「…………」


光に包まれ、やってきた最初の世界で目にしたものは、こんな看板だった。

いや、俺は突っ込まないぞ? 絶対に突っ込まないぞ!?

ウエルカムって日本の沖縄でようこその意味で、ここは沖縄どころか間違いなく日本でもないのに、ウエルカムって。

いや、語源を辿れば英語だから、もしここがミッドチルダ語なら、英語に極めて近いらしいので問題は無いのか?

ってそうじゃなくて。

時の庭園って……どこもかしこも、なんだか黒い穴だらけで、落ちたら戻って来れそうに無いのに、どこら辺が庭園なんだ!?

それも違くて。

テスタロッサってどこかで聞いたな……車の名前か? 

ああ、違う。そうじゃない、もっと身近に……金髪で──アリサ、じゃなくてフェイト。

そうか、フェイトか。

ここはフェイトの実家か? そういえば、フェイトはファンタジーな世界の出身だったよな。

でも、この様子見る限りじゃ……。

フェイトもいろいろあったんだな。

きっと壮絶な戦いとか別れとか出会いがあったのだろう。

というか、感慨深くなってる場合じゃなかった。

初めての転移先が、フェイトの実家でよかった。

もしここが、名も知らぬ土地だったら、きっと飢えに苦しんでいたに違いない。

まぁその時はまた適当に転移するだけなんだけどさ。

なんというか、座標を決めないランダム転移ってやつがあるんだっけ? それ使えばいいや。

とりあえず、食べ物を探さないとな。

中を歩き回る。色々と闊歩してみる。走ってみる。ジョギングをしてみる。腹筋してみる。


「な、なんにもない……ここって家じゃなかったの?」


冷蔵庫が無いにしても庭園って言うんだから何かしらの食物が……ないよね。

明らかに陥落した後の城と言うような雰囲気を纏わせる庭園に、野原咲き乱れる風景はおろか、バラの一本も無い。

廃墟だった。

唯一拾ったものといえば、


「この綺麗な宝石ぐらいか……売れるのか? って売る場所が無いか」


それでも貰うだけもらうんだけどね。

この世界というか、場所はもう何も残されていない。

しょうがないので、他の世界に行くことにする。


「いきなり誰もいない場所って……嫌な幸先だな。次はせめて人のいる場所がいいな……」


そう思いながら転移魔法を発動され、また光に包まれた。


──青い宝石を手に入れた。


目を瞑り、告ぐに目を開けた光景には……


「フェレット畑か……」


そう言うと、目の前にいたフェレットがこっちを向いた。

まるでフェレットは目を丸くして驚いた表情をすると、次には驚き始めて、


「き、きききき、君のその手に持ってる宝石は何かね!?」

「え、これですか?」


俺は持っていた青い宝石を渡すと、フェレットは再び驚いた表をし、次に瞬間には人の姿になっていた。

ああ、今時って動物も人になる時代なんだな。

俺がそんな事を思っていると、俺の青い宝石を受け取った人物が、仲間? にその宝石を見せて周り、俺にこう言った。


「ようこそ、スクライア一族の集落へ」


…………。


「そうか旅人さんだったのですね?」

「はい、時(空)の旅人です」


今は小さな宴の中だった。

どうやらあの宝石は貴重なものだったらしく、えらく歓迎された。

まぁちょうどお腹も空いていたし、ありがたい申し出だったので喜んで参加させてもらった。


「なるほど、それならあの青い宝石──ジュエルシードを見つけてくれたお礼に、これをあげましょう」


そういうと、俺の前の机にボンッと言う音共に、非常に分厚い本が置かれた。

その厚さ、かの日本の大辞典? である広辞苑をはるかに凌ぐぐらいだった。

広辞苑三個分ぐらいかな?


「こ、これはなんですか!?」

「この本には私たちが行った、世界・場所で食べられる場所やオススメの場所が書いてある本です。私たちの歴史は長い為、少しずつ記した結果、この量になってしまったのです」


実際に本の中をあけてみると、あら便利。

そこには☆三つの段階で分けられた、食べられる食材リストが載っていたり、その世界のことがそこそこ詳しくのっていたりした。

これがあれば、俺のようなたび浮浪者にはうってつけのものではないか。

俺はその本をありがたく受け取った。

そしてそこでしばらく宴の日々を暮らし、俺はまた別の世界へと渡ることにした。


──青い宝石を失った。
──タウンマップと素敵ガイドブックを手に入れた。


次の世界は、今までとは打って変わり一面の砂、砂、砂だった。


「ここは砂漠の世界か?」


そう思った矢先、砂の中からとんでもなくでかいものが、いきなり出てきて、目の前を飛んでいった。

俺には気付かなかったらしいが……どうみても、肉食だよね?

さっそくスクライアのみなさんにもらった、スクライアガイドブックを開いてみた。

目次の欄から、砂漠の世界を選び、この世界との共通点を探すと……、


「うわぁ、さっきの奴食べられるんだ。というか、食べる前に食べられかねないな」


ちなみに☆一つだった。

命を賭けて、手に入れた食材が最低ランクの☆一つとか……割にあわねぇ。

この世界はすぐに離れるべきだ。

うん、そうしよう。

普通の人が暮らせるような場所じゃなかったんだ。

地面に向かって、俯きながら考えていると、そこにサソリのような生物が通った。

もしかして、食べられるんじゃないのか? 検索検索。

……あった。

って、☆三つかよ! こいつだけ大量確保してこの世界を離れるか。

俺は意を決して、あの大きな化物に見つからないようにこそこそしながら、サソリを大量確保して、この世界を颯爽と去った。

いや、本当にいい仕事するなスクライアガイドブック。


──美味しいサソリを大量に手に入れた。











転移した先に見えたものは、見渡せるほど大きな山の上……ではなく。


「な、なにこ──」

「ボウォオオオオオオオ」


なんか龍っぽいものの上に、立っていただけだった。

だけだったって、いや危険でしょ。

高いところってのも十分に危険だけど、龍の上ってなに?

というか、龍って存在したの!?


「あ、あのぉ。そこのお兄さん危ないからすぐに降りてください!」


下でピンク色の髪の子が何か言っている。

見た目はかなり幼く、小学生よりも年齢が低いように見える。

もちろん、その女の子だけでなく、すぐ横に大人の付き添いの人もいる。


「は、早く降りてください! 私の娘がまだこのヴォルテールを操りきれてないんで、暴走しそうなんです!」


いや、暴走とか降りてくれと言われても、俺この距離から降りたら死んじゃうよ?

魔法でだって浮かべる程度なんだから。

そんなことをぐうたら考えていると、乗っている龍が暴れだす。

乗っている龍? 俺は龍に乗っているのか、まさかこれが噂のドラゴンライダーっていうやつじゃないのか!?

あ、俺はホームレスだからドラゴンホームレスか……。

逆にホームレスドラゴンにしたら、なんだか強そうだよね。

とりあえず、このままではどうしようもないので、何とかする方法を考える。

そもそも何で暴走してるのか。

俺が暴れまわるとしたら、やりたい事を邪魔されたり、保護されたり、あとは……お腹が減ってたり?

うん? こいつまさか腹が減ってるのではないか?

もしそうなら……試してみる価値はある。

俺はバック(これもスクライアからの贈り物)からサソリを出し、ヴォルテールの口へ何とか投げ込む。

落ちかけて、ちょっと色々と危なかったけど、なんとか体裁は保たれた。

もぐもぐと、ヴォルテールがサソリを食す。

やがて食べ終わったのか、口を動かすのをやめると同時に大人しくなった。


「す、すごいあのお兄さん」

「世の中、不思議な人ってたくさんいるのね……」


ヴォルテールはなぜかその後、空を飛び回り、俺を親切に地面の上へと降ろしてくれた。

空を飛びまわってる間は本当にドラゴンライダーになったつもりになれた。実に気持ちよかったけど……酸素とか気圧とか、死ぬかと思った。

その後ヴォルテールは地面から現れた魔法陣の中へと消えていった。


「あ、あのうぅ」


ピンク色の小さな女の子がこちらへ声をかけてきた。

それもすごくおそるおそるである。

何を言うのかなと考えながら次の発言を待つ……ただ、なんとなくだが。

巻き込まれたら厄介のような気がする。

本当になんとなくなのだ。

だが、この手の事に関して外れたことはなく、ある種この力があったおかげでホームレス生活ができたと言える。

警察の魔の手とか、警察の魔の手とか……高町家の魔の剣とか。

う~ん、こう言った時は第六感に頼るべき……だよな?


「あ、ありがと──」

「ランダム転移開始」

「「え?」」

「さようなら、お穣ちゃん」

「え……え!?」


問答無用。

向こうはすごく驚いた顔をしているが、そんなの知ったことではない。

あれだ……別れっていつ来るか分からないよね。

俺はそのまま転移をした。

さて、次はどの世界に行き着くのか……。











そして、ありとあらゆる世界を訪問し、この世界に来たのは偶然だった。

いつものように光に包まれ、目を開けても痛くないほどの光の弱さになってから目を開けるとそこは……


「戦場……なのかな?」


そこら中に白い煙が立ち上っている。さぞ激しい戦闘があったのだろう。

なるべくなら俺を巻き込んで欲しくは無いけど。

まぁとりあえずここがどんな世界なのかを確認しないとな。

恒例のごとくスクライアの皆さんからもらった、タウンマップの次元版みたいのを開きここがどこ確認。

うん、まぁランダム転送だから仕方ないけどここはデータに無いようだ。

そうとなれば、自分の目を信じるほかに無い。

周りを見渡すと戦場の跡の他には、遺跡のようなものが見える。


「遺跡を手に入れるための戦闘だったりして……まぁそんなことはないか」


辺り一面は、その焼け跡以外に頼れる光が無かったので、とある世界のとある人に貰った物を使う。


「おお! すごい。これはよく見える!」


それを見るとあら不思議、周りに何があるかが分かる。

そして、それを使って見渡すと……動く物体を見つけた。そして、人らしき何か。

動く物体は何かなと思い、一度普通に見つめてみると、何も見えない。

そして、もう一回つけると……


「ま……まさか、ついに見つけたと言うのか!」


夢のあの機能付の物を!? ついに……ついに俺の時代が!

焦りながらもそれに近づくと……やはり生身では見ることは出来ない。

しかも、その見えない何かは動物とも違う──まるでロボットのような……ロボット!?


「おいおい、あれ付きでさらにロボットって……どれだけ男のロマンスにそぐう物なんだよ!」


やばっ、興奮してきた。

走る。逃がすわけには行かない。走る、走る、走り……そして、



「ステルス機能付きのロボットゲットだぜーー!」


喜びのあまり大声を上げて叫んだ。

やばよ、ついに手に入れちゃったよ。

ステルスだよ! 男のロマンのロボットだよ!

二足歩行じゃないし、ロケットパンチとか出来そうにない形だけど、これでも立派なロボットだよ。

やっぱり魔法の世界はすごいな。


「え……い、一郎君?」


どこかで聞いたことある、弱弱しい声が俺の耳に聞こえてきた。









一郎君が行方不明になってしまったのは間違いなく自分のせいだった。

どんなにみんなが励ましてくれても、親友であり一郎君の一番の理解者であるアリサちゃんが、


「一郎ならどこへ行ったって大丈夫よ。必ず……必ず帰ってくるわ。絶対に」


と、まるでアリサちゃん自身に言い聞かせるように、そして私を励ましてくれるように言ってくれても、私には気が気じゃなかった。

なんで、ちゃんと魔法を教えてあげられなかったんだろう。

私がもっとしっかり教えられていたなら。

私が魔法の怖さをもっと教えてあげられていたら。

私が、私が、私が……。

自分を責め続けた、この二ヶ月。

どこかの世界に行ってしまった一郎君を見つけるために頑張った。

いつもなら断るような遠い遠征先でも、無理を言ってでも行って探したり。

暇な時間があったら、クロノ君やフェイトたちゃんにも手伝ってもらって探したりした。

でも……見つかる気配がしなかった。

もし、一郎君が食べ物の無い世界に行ってしまったらどうしよう。

もし、一郎君が凶暴な生物だらけの世界に行ってしまったらどうしよう。

もし、一郎君が死んでしまったら……。

そんなことばかり、全部をネガティブに受け止め、死んでいるかもしれないと常に念頭に置きながら。

それでも生きていると信じて、信じていたくて捜し求めた。

起こった事を考えたら、頭が痛くなった。

吐き気がした。

眠れなくなった。

集中できなくなった。

だから、考えないようにした。

もし、一郎君が帰ってきたらどうしよう。

今度こそちゃんと、一から十まで教えてあげなくちゃ。

今度こそ……もし……。


「もし……なんだよね……。ごめんね、一郎君」


誰も見てない場所で隠れて泣いた。

この一件に関しては、全て私の責任だったから。

でも、どうしよう……見つかったとしても、私嫌われちゃってるよね。

一郎君に嫌われて──眩暈がして、救いを求めるようにベッドに倒れこんだ。

今思い出せば、一郎君は私の最初の友達だったかもしれない。

そんな思いを乗せ、今度こそはと挑んだ今回の任務。

疲労があったのだろう、認める。

精神的にきつかった、認めよう。

でも……見つけたかった、ああその通りなんだ。

だから、その声が聞こえたのは私にとっては奇跡に等しいことだった。

私の後ろから、叫び声が聞こえた。

どこか懐かしく、でも昔はよく聞いていた声。

パッと振り返った。

そこにいたのは、透明で何も見えなかった場所から現れた、謎のロボットと……


「え……い、一郎君?」

「お、おお! なのは久しぶり」


二ヶ月前と寸分違わぬ、笑顔といつもの陽気さだった。

ただ違うのは全身の怪我の量だった。

何が起きたのか分からなかった。

私のせいで居なくなったはずの一郎君が目の前にいる。なぞの武器を抱えて嬉々として。

考える。

どうして、一郎君がここに?

それにあのロボットは?

ここは戦闘区域で普通の人は入れなくて……あ、でも一郎君は普通じゃなくて。

にしても、あのロボットはさっきまで戦っていたも──あ。

そういうことか。

そういうことなんだね、一郎君。

一郎君は私のピンチに駆けつけてくれたんだね。

私があんなに酷いことしたのに、一郎君はそれでも助けてくれたんだね。

もう……本当にこれだから一郎君は……


「お、おいなのは泣くなよ! どうしたんだよ!?」

「ううん、なんでもないよ。少し──すごくうれしいことがあったの」

「そ、そっか」

「それにしても、よくそのロボットみたいなのがいるの分かったね。さっきまで透明だった見たいだけど……」

「ああ、これか。実はな……ほれ」


一郎君はそういうと私にぽいっと、双眼鏡のような物を渡した。

見たところ普通の双眼鏡に見えけど……


「これはとある世界でな。ビックリしたんだよ。まさか、あの村で貰った弁当を一緒に食べただけで感激されて『ううん! 美味い!』と言って喜んだんだから。

しかも、ダンボールを被りながらな。『今はミッション中だから、この程度のものしかないが受け取ってくれ』って言われて渡されたのがサーマルスコープだ。一体何者だよあの人。

見た感じだと、俺以上にダンボールを使いこなしてたぞ? また会ったら弟子入りしたいものだよ」

「ふふ、本当に一郎君は……」


一郎君は変わらない。

でも、本当にまた出会えてよかった。


「それじゃあ、俺そろそろ行くわ」

「え!? どこに!? せっかく会えたのに!」

「どこに行くかは……風だけが知っている」


……一郎君は少しは変わって欲しいかも。















{悩みました。シリアス入れるべきか悩んだ挙句に入れました。ほんの少しですけど。これが最後なので許してもらえるお嬉しいです。実は、ここでなのはによる鬱展開IFもあったりなかったり}

キャロの年齢について→小学生より幼い=3・4歳ごろよってまだ追放される前ということです。



[17560] ─第26話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/06/29 17:58
俺はなのはに背中を見せて、男の背中を見せてやりながら他の世界へと行く準備をする。

これが、ホームレス生活数年の男の重みだぞ?

埃もビックリの軽さだ。


「ま、待って一郎君!」

「待てといわれて待つホームレスはいない!」

「ホームレスってそんなに切羽詰ってるの!? でも、そのセリフって悪役のセリフだよね……」


もちろん、生活的な意味で切羽詰っているし、公民の敵的な意味ではホームレスは悪役だ。

ホームレスが悪役ってなんだか役不足な気がする。ホームレスってそんなに高名じゃないしな。


「何で行っちゃうの? せっかく……せっかくまた奇跡的に会えたのに!」

「奇跡……だと?」


実に神妙な顔で何かを訴えるかのように言う、なのは。

俺となのはが再び出会えたのが、奇跡だとなのはは言うのか。


「だって……だってそうでしょ? もう……会えないと思ったのに。会えるはずもなかったのに……どうして!?」


なのはが一人でシリアスってる。

なのははもう俺と会えないと思ってたのか。

あの別れが根性の決別だったと? 端から見ればそう見えなくも無い……のかな?

しかし、それでも奇跡とはまた大げさだ。


「だから……これは奇跡なんじゃないかな」

「……違うね」

「ふぇ!?」

「この程度が奇跡だと言うのか。俺となのはが再び会えたのが奇跡だなんて、そんな安い奇跡は無い!」


そうだ。

この程度で奇跡なんていうなんて、あまりにもありふれすぎている。

運命の出会いなんて……ありふれている。


「いわば俺となのはの出会いと言うのは奇跡とかいう特殊なことだとは思っていない。むしろ俺はまた会えるとさえ信じてたほどだぞ。

本当の奇跡と言うのはな。運命的に誰かに会うことじゃない。俺のようなホームレスが働いたり、保護されない事を言うのだ!」

「そ、それって普通のことなんじゃ……」


ニートや引きこもりが、自分の今の怠惰な姿と決別すべく就活をし、就職できるようになればそれはきっと……奇跡って呼ぶんだ。

たぶん……きっと……おそらく。


「まぁそれでも……それでも、なのはが俺との出会いを奇跡だといってくれるのならそれは……」


また一つ奇跡の形なのかもしれないが……。

奇跡は人によって姿を変え、場面を変え、時間を変え起きる。

……。

あ、今いいこと言った。


「まぁなんだ……その……あれだ」

「? なにかな?」

「ほら……奇跡だって言ってくれるなら……多少は嬉しい……かな?」

「い、一郎く~ん!」

「ーーっ! あぶない」

「ここで普通避ける!? ここは感動の場面で抱き合う場所だよ!?」


条件反射ってやつです。

急に後ろから首根っこにしがみつくように、抱きつかれそうになったら避けるってものですよ。

ちなみに俺はここまで、ずっとなのはに男の背中を見せたまんまだ。


「まぁいいや。とりあえず俺はもう行くぞ」

「え? 帰って……こないの?」


なのはがすごく悲しそうな目をしてこちらを見てくるが、涙目とかで俺を落とせると思うなよ。

ホームレスは誘惑には強いのだ。ホームレスというか俺がだけど。

そりゃあ、ちょっとはその姿に可愛いとは思うけどささ……いや、かなり可愛いけど。

小学校のときとは比べ物にならないほど、成長したなのは。その姿はまさに美少女!

……十二歳なら少女で大丈夫だよね。


「俺は浮浪者と言う名の旅人だから」

「ただの彷徨える人だよね……」

「その二つに大した差は無い!」

「え!? ……そうなの? 彷徨ってるのと旅って大差ないのかな……」


あくまで俺と言う主観的にはだけどね。

実際は彷徨う──あてもなくうろつくことで、旅──目的があり、その目的地に訪れることだけどね。

そんなことはともかく、残念ながら俺はなのはと別れをしなければならない。

ああ、もう本当に残念だ。

俺だって出来れば別れたくないんだ!

でも……でも……風が……風が俺を呼んでいるんだ!


「ということで、なのはじゃあね」

「相変わらず一郎君は軽いよね!! でも……いいよ。きっとまた会えるんだもんね」

「……それはどうかな」

「え!?」

「ああ、アリサに伝言で『俺、この旅終わったら、結婚するんだ』って言っておいて」

「私の反応は無視なの!? それに、結婚って誰と!? あと……なんかその伝言が危険な匂いがするんだけど……もう会えなくなるような……」

「俺は……必ず生きて帰る!!」

「一人で盛り上がらないでよっ!」


なのはとなんやかんやでしゃべりながら別れを告げる。

さすがに毎回なのはたちに心配されるようではいけない、と心のどこかで密かに残っている良心が言ったからだ。

俺も立派な人間だった、ということだろう。


「それじゃあね、一郎君」

「ああ、なのはもくれぐれもみんなによろしく」

「うんっ。次に一郎君に会うときは……」


俺も周りを光が埋め尽くす。ランダム転移の兆候である。

なのはの声が徐々に遠く聞こえ始め、やがて……


「立派な教導官になって、今度こそ一郎君を」

「え? 教導官がどうしたって?」

「一郎君を立派な魔導師にしてあげるからねっ! さようなら、一郎君……」

「な、何にも聞こえな──」


笑顔で俺に手を振るなのはに見送られながら、俺はこの世界を後にした。

にしてもなのは……最後なんて言ってたんだろう……。

まぁ……言った内容を、聞かなかったからって死ぬような事はないから別にいいか。











なのはとの別れを惜しむまもなく、俺は次の世界にやってきた。

次の世界は一体どんな世界だろうと、期待に胸を躍らせると言うありきたりな気持ちで転移したその先は……。


「あれ? 建物の中?」

「君は一体誰だい!?」


声のする方を振り向くとそこには、紫色の髪をし白衣を着たすこしやせている男がいた。

──どうやら、民間人の家に来てしまったようだ。

いや、住んでると思われる人が白衣だから研究室──ラボの可能性も否定できないな。


「す、すみません。ランダム転移で旅行をしてるんですが、どうやら勝手に普通の家の中に転移してしまったようで……」

「普通の家……ね」


紫色の髪の男は、訝しげにこちらを見るが、さっきまでの警戒心はなくなっていた。

そもそも何かた突然の訪問者が現れると困るようなものであるのではないかと思ったが、よく考えればいきなり自分の家に知らない人がきたら警戒をするよね。


「それに、ランダム転移で旅行とは……君いったいどうして面白いことしてるね。ご家族の方とかはいないのかい?」

「いないですね。なので、ホームレスですし……」

「ほう」


眉を吊り上げて、いかにも興味が湧いてきたみたいな表情をする。

何が面白かったのであろう。

俺は自分を客観的に見て、そりゃあランダム転移なんていう危険な旅行をするようなやつは変だとも思うし、

家族無しのホームレスだなんていえば、それこそ奇異の眼差し向けはするものの、興味を持つかどうかは……微妙なところだ。


「ふむ……ホームレスと言うことは特に友達もいなく、ホームレスゆえに家もなく、家族もいない。それなら別に……大丈夫だろう」


何が大丈夫なのか。

それが気になるものの……聞かないほうがいいんだろうな。

それにちょっとこの変な気がするぞ。

家に急に現れたの人物を叱るでもなく怒るでもなく、素性を聞いてきた。

いよいよ怪しさ満点だ。

触らぬ神に祟りなし。この世界はとっとと転移した方がいいかもしれない。


「ところで僕は『ホームレス』と言う職業に、自由と言うイメージがあるのだが、実際はどうかね?」

「素晴らしいイメージだと思います! 俺もそれを目標に今奮闘中です!」


前言撤回。この人いい人かもしれない。

まさか、ホームレスと自由について語れる人が出てくるとは思わなかった。


「奮闘中というと、実際は自由ではないのかね?」

「というよりは、ホームレスなら自由になれる可能性があって、その条件はすでに見つけたのですが、まだ実現できない状況なんですよ……」

「なるほど。そして、その条件とは?」


おお、聞くね! 聞き入ってるね!

いいよ。この人とは気が合うかもしれない。


「まず、相手に見つからないこと。保護されたり捕まったりしたらそこで終わりですから」

「ふむむ。そしてそれを防ぐ為にどうしようと考えているのかね?」

「ステルス機能。俺は魔法にその可能性考えています!」

「ほう! それはなんとも興味深い!」


紫色の髪の男はそう言うと、ブツブツと言い出した。


「だがしかし、ステルスなんていう、透明で誰にも見えなくすることが可能か……いや、不可能だ。例えどんなに繊細に魔法を構築しても、少なからずそこで魔力を使っているのでばれてしまう。

いや逆に、透明と言う意味は誰にも認視されない事……そうか、別に透けて無くてもそこにいるのがばれない様にすればいいのか……ふふ、ふはははは!

そうか、なんだそういうことか! 確かにそれなら可能! 透明人間なんていう非科学的なものよりもありえる話だ。

なんてったって、幻術や幻想というのは魔法の真骨頂のようなものだからね! 面白い実に面白いな君は! おかげでI──じゃなかった、いい研究対象が出来たよ」

「え? あの俺にも分かるように説明し──」

「おお、そうだったね。すまない。君のアイディアなのに発案者を無視するところだったよ。では、どういう意味かと言うとね」


紫色の髪の人はそういうと、耳元でごにょごにょと言い出した。


「!? そ、それはなんと!」

「ふふ、それでだね……」

「な、素晴らしいじゃないか!?」

「そうだろう?」

「そうですね」

「「…………」」

「「ふはははははははは」」


意気投合だった。

旅先で面白い人と出会えるのはまさに旅の魅力の一つだと思う。

こうやって人脈って増えるのだろうか。

…………。


「ところで、他にも面白いアイディア。もとい、自由なホームレスになるための条件や、必要なものってあるのかね?」

「特には無いですが……」


ステルスのような相手にばれないと言うことが出来れば他のはあってもなくてもいい。

それこそ他にほしいのは電機が勝手にできるとか、水に困らないとか、食材簡単に手に入れば生活ができる。

まぁそれでも、あえて。

あえて、いざと言うときにあってもよさそうなのは……


「いざ見つかったときに逃げる道を確保したいですね。例えばどこでへでも通り抜けられるとか。変身出来たりできるといいですね」

「ほう……参考にさせてもらうよ」


紫色の髪の男はすかさずメモを取っていた。

果たしてこの人はどういう研究をする人なのか……とても興味があるけど……。

深く関わったらなんか危ないような気がする。

これは長年のホームレス生活で培ってきた勘だろう。

そして、一番重宝するものでもあるけどね。

もちろん俺は長年の勘を信じて、そろそろ撤退を……いや、この人とてもいい人だけど危ないことには絡まれたくないからね。


「ああ、それでは俺は一つの世界に三時間までって決めているので、そろそろ帰らせて──」

「まちたまえ! せっかく君が発案したんだ、ちょっとした記念に君に贈りたいものがある。それが完成できるまで待ってくれないか?」

「記念……ですか? それならまぁいいですよ」


旅先でちょっとした物を貰えるのもまた旅の特権じゃないかな。

それから、数時間待つこと。この部屋中に「ついに完成したぞ」という叫び声が聞こえてきた。

そして、かなり大きめの銀色の布様なものを手に持って、俺の元へと戻ってきた。


「まだ試作段階ものだが、性急にしてはよくできたと自負してるよ。君にはこれを貰ってほしい」

「これは一体なんですか?」

「名前はまだついていないがね。先ほど話した、人認識されない類のことが出来る……不思議アイテムだと思ってもらっていい」

「本当ですか!? あ、ありがとうございます! 一生の宝物にします!」


思わぬ形で夢に叶ったステルス機能をもてる可能性。

まさか、本当にこの旅を通じて手に入れられるとは思わなかった。

これはたぶん……なのはに再会した時以上の感動と喜びだ。

結局ここがどこで、紫色の髪の人が誰だったのかも分からないけど、ただこの出会いはきっと運命で奇跡だったに違いない。

あの人は最後に、


「今やろうとしてることが失敗したら君のようにホームレスになるのもいいかもしれないな。その時は是非ともご享受お願いするよ」


と言った。

きっと俺がまたあの人に会うときは……あの人もホームレス仲間となるに違いない。

そう心に刻みつけ、この世界というかラボを後にした。

にしても、早くダンボールハウスにこのステルス機能を実装したいね!













{次回時間が飛びます。一郎が飛ぶわけでは無いですよ? たぶんそろそろ終盤になりそうです}

追記:ナンバーズの稼動時期についてはギリギリで。完成はしているもののISがついてなく、待機状態だとお考えください。

髪の色間違ってました、誤字報告ありがとうございます。



[17560] ─第27話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/03 00:41
「お兄さん、わ、私を弟子にしてください」


ピンク色の髪の少女が尊敬のような類の眼差しを、俺に向けながら必死に訴えかけている。

どこかであったような気がするけど……駄目だ。思い出せない。

思い出すために、都合よく回想でもするとしよう。

…………。

楽しい時間はすぐすぎると言うが、それは長きにおける旅においても同じだと思う。

家無き、男の次元を超えた一人旅というふうに表現すればかなり格好良く見えるんじゃないだろうか?

そこにさらに、天涯孤独とか自分探しの旅だとか付け加えればもう……それはもう立派な漢に見えるだろう。

まぁ残念ながら俺に限って言えば、家が無いと言うのはただのホームレスなので別に格好良くもなんとも無いわけだが……。

そんなわけで、旅を始めてすでに四年が経ったと言うことである。

四年と言う月日がかかれば、それなりの出会いや冒険、事件に巻き込まれると言うのが旅人の常のような気がするが、それは俺には当てはまらなかったのだろう。

だけど、ちょっとした思い出みたいなのはたくさんできると言うものだ。

そうだな……例えば……。

今から一年前、つまりはあの紫の男に会ってから三年後のことだった。

あの紫の男がもらった、あの布は本当に幻術のようなもののおかげで、こちらを探知されないようになった。

これはまさにステルスと言う名がふさわしく、若干の違いこそあれど俺が追い求めるものだった。

つまり、あの紫の男はステルスを作れるほどの技術を持っていると言うことだ。

こう見えても技術者の端くれ──自らをダンボールの第一人者と思っているゆえに、負けられないと言う感情も沸々と湧いてきた。

そこで俺は、ならどうするべきかと考え。

それなら技術を学べばいいという結論を出した。

旅を知ってはじめて知ったことだが、この世界にはあらゆる場所に研究施設がある。

当然のことながら、俺が当時いた世界にも研究施設があり、技術提供を求めた。

もちろんただでとは言わず、こちらの持ってる技術と引き換えにだ。

だが、やつらはそれを断った。


「ダンボールの技術を教えるから、我々の技術を教えてくれぇだぁ? なめてんのか餓鬼! 一昨日きやげれってんだ!」

「いや、一昨日から頼んでるんですけど?」

「あ? うるさいよ! 餓鬼はとっと寝な!」


まだお昼の時間だった。お昼寝しろってこと?

まぁそんなことは置いておき、ダンボールを舐めたうえに、門前払いと来た。

腹が立つ。

せめて見学ぐらいいいじゃないか。

心の底からそう思い、こうなったら見返してやろうと思った。

俺はダンボールを被り潜入を始めたのだ。

この研究室にはすでに無数のダンボールが放置されているのは、確認済みである。

あらかじめ、ステルス布で潜入した結果から分かっている。

そして俺はコソコソ、ゴソゴソと研究室の奥へ入っていく。

そこで気付いたんだ。


「あれ? どうやってこの後見返せばいいんだ?」


潜入してばれないと言うことは、いないのと同じ。

ダンボールの有能性が分からないのと同じ……。

ここで、「俺はここにいる」と言えば、間違いなく不審者扱い。追い払われるどころか不法侵入で捕まってしまう。

となれば、ここに入った事をばれずに、されど潜入された事を証明しなければならなくなる。

はて、どうするべきかと考えてる時だった。

そうか……ここのものだと分かる物を一つ、持って行けばいいんだ。

そうすれば、ダンボールの有能性が分かるはず……っ!

盗みに近いかもしれないけど、研究者なら盗めたことよりも盗まれたことに驚愕しきっとダンボールを認める!

そして、俺はビリビリ男の子を一人捕まえて、脱出した。

実はこのダンボール二人用なんだ。

ビリビリは痛かったけど、まぁ電気配線を弄くるとき、しょっちゅうショートして痛かったのと大して変わらないから大丈夫だった。

慣れと言うのは恐ろしいものだ。

俺はその後スムーズに研究室を脱出。

ビリビリ少年がやけに抵抗したが……まぁなんだ、日々鍛えられてきてしまった俺にはその程度の抵抗は、痛くも痒くも無い。

いや、電気は痛かったけど。

脱出した後、さぁこの結果を見せつけようとしたら、なんと出口には……


「え、ええとイチロー?」

「おや、フェイトではありませんか」


昔見た容姿をわずかに残しながらも、見事に洗礼された美しさになっていた。

なのはが可愛いなら、フェイトは綺麗と言う言葉よく似合う。


「あれ、イチローが連れてるその子は? はっ! まさかイチローはその子を救出したの!?」

「え?」

「さすがイチロー。やっぱりイチローってすごいね」


なんかよく分からないうちに、フェイトに感謝された。

そして、そのまま俺が連れ出した子を、よく分からないけど手懐けて、「この子は私が責任持って保護するね」と言った。

その後、メガネの人にその男の子を預け、フェイトが研究施設に入ると封鎖がすぐに決定した。

驚くべきことにここまでの展開の間ずっと俺は呆然としていた。

何というか……あれ? ダンボールの有能性は? と、研究施設が封鎖になってから思い出したけど……。

まぁ生き残れた者が勝者だろう。

つまり研究施設が破れ、俺が勝ったのだ。ということで納得した。

その後は少しフェイトと雑談したことは未だによく覚えている。


「なのはがね、イチロー見つけたって喜びながらみんなに話したりね……」

「アリサが結婚相手って誰よ!? って顔を真っ赤にしながら突っ込んだりね……」

「なのはがね……なのはがね……」

と、俺のいなくなった後のみんなの話しをしてくれた。

主になのはのことばっかしだったのは気のせいだろう。

でも、今では俺の安否を知って安心して、帰郷を待ってるとのこと。

その話を聞いて、伝言も残さずに出て行った少しの罪悪感が生まれた。

とりあえず、フェイトに「俺は楽しくホームレスしてる」って伝えといてと言うと、フェイトは二つ返事で答え、別れを告げた。

これが今から一年前フェイトとの再会の思い出の話である。

なんてことはない、ありきたりな話だね。


「お、お兄さん? 私の話を聞いてますか?」


思い出……と言うのには、ズレを感じるが印象的なことといえば、最近身近に感じたことがあった。

それは偶然、俺の転移魔法で大都市を当てたときの話だ。

大都市なのでスクライアガイドブックを開くまでも無く、町をうろついた。

こういう街だと逆に食べ物を食べるには、お金が必要になる。

そのため、俺が生きるには多少厳しい環境となる。

それもあってか、この世界自体には長居はしなかったのだが、その時に宿泊先……空港のような場所で寝かせてもらった。

その時思ったよ、ああ、ケータイ用ダンボールハウスを作るべきだったと、ね。素材になるダンボールはいくつは持ってたけどね。

爆発が起きた。

それは唐突に前触れも無く行き成りだ。

俺は慌てた、ああそれはもう見事なまでに慌てたね。

慌てすぎて気付いたら街中の公園にいたよ。

爆発が起きてから公園に行くまでの間の記憶がほとんど無いけどね……よほど慌ててたんだな。

おかげで助かりはしたのだけど……結局あの爆発はなんだったのだろうか。

今までで一番死の恐怖を味わった気がする。

結局、俺は爆発の原因を知ることも無く、とりあえずはこの町でダンボールハウスを作るだけの必要最低限の数を手に入れその世界を離れた。


「まぁ爆発なんて……ありがちだよな」

「ば、爆発って何があったんですか!?」


それも今となっては印象に残った青春の一ページだろう。

青春の一ページで思い出したけど……俺って今青春真っ盛りじゃないか?

……ホームレスに青春があるはず無いけどね。

もちろんこんな、どちらかというと楽観的に見ることが出来る出来事ばかりではなかった。

そうあれは……半年前ぐらいのことである。


「ま、まだ無視を続けるんですか? いい加減泣いてもいいですかねっ!?」


自然溢れる世界でのこと。

さぞかし昆虫やら、動物やらに囲まれている世界なんだろうなと思った矢先のことだった。


「……でかくない?」


森の中から、顔一つ飛びぬけた生き物が、見えたというか、近くにいた。

急ぎどんな生き物かスクライアガイドブックを開き探すと、


『白天王、おっきいけど昆虫だよ。食べられる……かも?』

「昆虫!? てか、捕食できんわ!?」


食べようとする前に食べられそうだった。

その前に、踏まれそうになったのが現実だった。

俺は踵を返し……逃げ出した。

転移魔法で逃げようと思ったが、この世界は草木生い茂る自然の世界。

きっと美味しい食べ物があるに違いないと予想した俺は、大人しく他の世界に行くと言う考えは無いわけで、必死に逃げた。

逃げる途中、これまた巨大な虫──地雷王という虫にもであって、なんかビリビリして、


「うは、電気ウナギみたい。これ捕まえたら、電気作らなくて済むかも!」


なんて思って捕まえようとしたら……これまた潰されそうになった。

自然にとって、人間はちっぽけな存在だった。

四苦八苦しながら、白天王との生死をかけた追いかけっこをしながらも、なんとか美味しい食材を確保しながら生活した。

まさにサバイバルそのものだった。

もちろんこんな生活をしたら戦闘技術の向上が多少はあると言うもの。

今なら、なのはにも勝てる気がする!

……軽い幻想なのは分かってるけどね。

でもまさか、なのはでもあのでかい虫……あれを虫と言うのかは甚だ疑問だけれども、勝てるとは思えないぞ?

いや、なのはならありえるのかもしれない……って、まず俺が生き残らなければならないのか。

本当に、本当に自然が弱肉強食であることを体感したよ。


「俺の人生でベスト五に入る死体験だったな」

「ど、どんな生活を送ってるんですか……教えてもらうのが少し怖いんですけど……」

「おや、どちらさまで?」

「本当に気付かなかったんですか!?」


まるで長い回想を見ているようだった、見てたんだけど。

目の前にはピンクの色の髪の少女がいた、再確認と言う意味で。

ピンクで思い出されるのが、ホームレス狩りのあの人だが……なんだかんだであの体験も俺の中で死を感じた出来事のひとつのような気がする。

そういえば、あのホームレス狩りの人と一緒に行動していた子がいたような……我が家でも何回か見たことあるような気がするけど……まぁ気のせいか。


「にしても、君には昔会ったことあるような……無いような……やっぱりな──」

「あります……ありますよ。ほら、いつしかヴォルテールを止めてくれたときに……」

「ヴォルテール?」

「キュルルっ」

「おや、小さな龍?」


昔の俺なら、龍見ただけで相当驚いただろうが、今となってはもう驚かない。

龍なんかよりもっと珍しいものも見たことある。

ロボットとかね? 虫に見えない巨大な虫とかね?

そういえば、数年前に見つけたロボットは結局解体するもよく機能が分からなかった。

なので、解体して手頃なショップで売ってみたらそこそこのお金になった。

なんか「過去の遺産かもしれない!」とか言ってた気がするけど、たぶん俺には関係の無いことだ。


「昔に会ったことあるんだ? 名前は?」

「キャロ・ル・ルシエです。お兄さん、あの時は本当にありがとうございました!」

「ん? まぁあまり覚えてないから気にしないでいいよ。それより何の用だっけ?」

「弟子にしてくれないかって言う話です。お兄さんが旅人だと言うのは前に会ったときに分かっていたので」


キャロはさらに続けた。俺とここまでに会うまでのあらすじを……まるでシリアスそのものだった。

そして、壮絶だった。


「理由は分かったし、生きる術を身に付けたいって言うのは分かったけど……」

「だめ……ですか?」

「ちょっと、ね」


別に子供が嫌いって訳じゃないけど、そういう問題とは別に、こういう小さい子と共に暮らしたりするのは色んな意味で気が重い。

そして、残念ながら俺はこういう人の命を預かると言うのはちょっと無理っぽい話だ。

なぜ無理かは……ホームレスだからの一言。俺だからの二言に尽きる。

間違いなくそれで、アリサやなのはなんていう面子は口をそろえて「その通り」と答えるだろう。

だからといって、このまま放置は……。

さすがの俺でも、ここで「はい、さよなら」は出来ないな。

いや、まてよ。一人あてになる人物がいる。

かつて、子供を預かるといって連れて行った奴がいるじゃないか。


「そうか、海鳴に帰ればいいのか」

「え?」


海鳴の座標はすでに、フェイトから教えてもらってある。

いつでも帰れるように、とのことだった。それに、一時帰宅というのもいいだろう。


「そうと決まれば、行こう!」

「え? ど、どこに行く──」


座標を正確に定めて、いざ帰還せり海鳴市。










なんてことなかった解決策を用いて俺は海鳴市へと一時帰宅した。

転移魔法で転移した先は……バニングス邸。

より正確には、優雅に紅茶を楽しんでいるアリサの前だった。


「い、いいい一郎!? 帰ってきたの!?」

「お、おお。一時帰宅だけど。すぐまた行くけど」


アリサの予想以上の困惑振りと言うか、驚きように俺まで慌ててしまった。

よく考えれば、数年ぶりにあった気がする。

アリサと俺は互いに数年ぶりの相手の様子をまじまじと観察。

すると、アリサが再び驚きの声を上げた。


「い、一郎? そ……その隣の子供は──」


なんだか、若干黒いオーラが見えるような気がする。

この時ばかりは、さながそらその雰囲気は金色に輝く髪がとある超人的な宇宙人の髪の毛に見えたほどだった。

神様もビックリだ。


「誰との子よ!?」


俺がビックリだ。ついで言うなら、キャロもビックリしている。


「誰の子って。俺に子供がいるわけ──」

「あんた、結婚するとかいったらしいわね?」

「え?」


一体いつの話だろうか。俺の記憶には無い。

いや、アリサへの冗談のつもりで言ったかも知れないが、アリサはなぜそんな昔の事を未だに引きずっているのだろうか……。

不思議だ。


「結婚云々は置いといて、この子は俺の子じゃない」

「養子だって言うの!?」

「実子じゃないと言う意味じゃない! そもそもこの子はだなぁ……ああ、説明が面倒だ」

「面倒って何よ!?」


アリサの対応が面倒……というか、こうなってはアリサは俺のいう事を聞かないだろうから、なのはあたりに今度、事情説明してもらうようにしよう。

ついでに、なのはにあの人物の居場所のことも聞いておこう。

…………。


結論から言うならば、フェイトにキャロを任せて俺は再び旅に出た。

フェイトは喜んで──という表現は少しおかしいかも知れないが、好意的にキャロを引き取ってくれた。

キャロもそんな必死のフェイトに心を開き、丸く収まったようだった。

俺が去る際も、キャロは何度も俺にお礼の言葉を述べたが、それは筋違いと言うものだ。

真に感謝されるべきは、フェイトだからね。

これでキャロは幸せ、俺は安泰、フェイトは満足、一件落着である。


「で、一郎。本当はあの子は誰の子なのよ!? それに結婚相手って!?」


一人だけやけに勘違いをしてる人物がいたが……そんな彼女には、別れ際にはとっておきの言葉を贈ってあげるとしよう。


「アリサ……」

「な、何よ。一郎に似合わない真剣な目をして……」

「……あのな」

「…………」

「彼氏出来るといいな!」

「よ……余計なお世話よっ!!」


俺はこの言葉を最後にして、再び海鳴を離れた。
















{作者的になのはとイチローの弄りあいではなく、単純なじゃれ合いというか戯れが書きたい今日この頃……恋愛……どうしようかな}



[17560] ─第28話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/05 17:32
世界を渡り、早何年が経っただろうか。

幾重にも同じ魔法……転移魔法ばかりやってきたので、この魔法だけはそれなりに上手くなったと思う。

また狩りをするために身体能力や、バインドと言ったものも昔に比べだいぶ良くなった気がする。

まさに、日本のことわざのひとつである。『可愛い子には旅をさせろ』とは、つまりこういうことなんだろう。

童顔で、幼さ残りまくる甘えん坊の性格やすぐに泣いてしまう様な弱い精神力の子には旅をさせる。

数年後には、童顔だったのが、傷だらけで歴戦の勇者や旅人の顔になり。

甘えん坊の性格は何事も冷静に判断でき、非情な性格になることによってたくましくなるだろう。

数年前まではあんなに可愛いかった子が、可愛さが無くなりたくましくなるのだ。

きっと親も感激するに決まってる。

「ああ、たくましくなったわね。これで社会の荒波にも耐えられるわ!」

みたいな感じで。

そして、将来的には革命家にでもなるのでは無いかと予想する。


「こんな甘ったれた社会は私が粛清する!」


きっとこんな子に育つのでは無いだろうか。

まぁ人類を粛清といか言ってない辺りはまだ平和的でいいよね。

そういう面から考えて、旅と言うのは人を強くする、精神的にも肉体的にも。

書く言う俺も家無しの旅人。

現在もその旅のまっ最中であることには変わりない。

さて、今日も同じくして旅を続けるとしよう……。











──以下、日記のような感じです。


ここ最近急増してるものがある気がする。

行く世界、行く世界にはそれなりの文明があったり、自然に溢れていたりと見ていて楽しいものではある。

見るもの見るものが新鮮だからだとは思うのだが……そんな中で、最近よく見る物がある。


「ロボット……じゃないしな」


それを初めて見たのは、遺跡っぽいものがある世界だった。

確かにその世界はスクライアガイドブックによれば古代に文明があったところで、もしかしたら貴重な品が出るかもしれない。


『トレジャーハントにオススメ。小さい猫みたいな可愛い生物を一緒に連れて行くといいことあるかも』


などと書いてある。

俺が思うにその猫はきっと、一緒に発掘をしたり魚を取ったりしてくれるに違いない。

そして、猫によっては爆弾投げたりして、戦闘を支援してくれるのかな?

今思うがあれは一種の使い魔的存在だよね。


「……あ、質量兵器駄目なんじゃないかな?」


確か、昔になのはから管理局の目が届くところには兵器を持っていかないようにといわれた気がする。

でも、人間兵器は平気なんだよな……なのはみたいな。

そのうち、人造人間みたいなのも出たりしてな……、


「ははは、ないか」


人造人間は無くても、ロボットぽい何かは目の前にあるんだけどな。

俺が色々な想像に馳せている間に出現したようだ。

そのロボットは昔なのはと再開したときの別バージョンみたいな印象だ。

丸っこくて、赤い目みたいなのが八つ。

襲ってくる気配は無い、何かを必死に探しているような様子だ。


「触らぬ神にたたりなし、っていうから、下手に近づかない方がいいかな」


傍観を選択した。

ここでトレジャーハントをしても楽しそうではあったのだが、先客がいるようなのでここは譲るとする。

旅先で無駄な争いは避ける、それは生きるのに大切なスキルだと思っている。

所謂スルースキル……みたいなものだろうか。

俺は結局この世界で何もせずに、ただそのロボットを見るだけで別の世界へ移動した。

ただ移動する際に、何故かロボットの傍で魔法が使えなかったのが不思議だった。

その後も、度々見かけるようになったのだ。

まぁ今となってはちょっとした旅の風物になっている。

別に襲ってくるわけでは無いからいいかな、なんてね。





この世界でピンクの閃光を見た気がする。

その時に体が震えたのはきっと気のせいに違いない。

ああ、そうだ。これはきっと、あの人に勝てると思って体が勝手に武者震いしてるに違いない。

決して怖がってた訳じゃないんだ。

その瞬間白い何かが、俺の上空を飛んでいった。


「あ、あの白いの……尋常じゃないほどの力を持っていた……。周りの奴らもすごかったけど、あの白いのは別格だった……」


恐怖体験だった。死の危険を感じたベスト五に、ちょっと前の昆虫騒ぎを抜いてランクインである。

ピンクと白を見ただけで、だ。

例えばの話だ。

白やピンクという色は普通の人にとってはなんてことは無い普通の色である。

いや、もちろん俺にとっても普通の色に過ぎないが、あくまで例えばの話である。

白──といえば、純白などというように、純粋無垢。

何色にも染まっていないと言うイメージがあるのではないのだろうか?

黒と相対するものであり、そこには優しい色や正義の色というようなイメージも湧く。

そう優しいや正義だ。

確かに正義……ああ、彼女は自分の正義を持っている。

確かに優しい……ああ、彼女には何度も助けられた。

しかし、なんでだろう……どうしてこう……、


「体が震えるのだろうか……」


原因は……分からないな。

ピンク──といえば、恋心の色、ハート。

そこには甘くもしょっぱいような青春の色とでもいうイメージがあるのではないのだろうか?

俺が青春を語るなんて、ちょっと変だろうけど、俺にだって青春はある。

あるに決まってる! あるだろう。……ある、よ。 ある……よね?

まぁいい、俺のことはさておき、大体の人にとってはこんなイメージだろう。

しかし、俺にとっては……、


「ふ、震えが止まらないぜ……」


ホームレス狩り、ピンクの砲撃、謎の龍使いの少女。

そんなイメージばかりが飛び交う。

そして上空にはまたもや、ピンクの閃光が光り輝く。

全てを一掃するような、全てを薙ぎ払うような……青春を吹き飛ばすような。

というか、青春を砲撃にして飛ばしているような……。


「そうか。ああやってなのはの青春は、ピンクのビームとなって消えていくのか……敵と一緒に」


衝撃の事実発覚。

これはなのはに教えてやらねば……と思ったけど。


「戦闘中のことだし、今は止めとこうかな。うん、そうするべきだ」


この世界は、今までの世界より何かと危険が多そうなので、飛び立つことにした。





この世界……何も無かった。

見るべきものが無かったと言うことである。

実はこういう世界は初めてだった。

どの世界にも大抵は、動物いて自然があったり。

それこそ、砂だらけの世界とか海だらけとかもあるが、しかしそこには動物がいるのでそれはそれで楽しいものなのに。

危険だけど……。

ここには何も無い。あるのは、つまらない廃墟の施設のようなもの。

中もすでに錆びれていたが……


「うん? これは宝石、かな?」


赤い宝石が、ポットのような場所に入っていた。

少し警戒しながらも、ポットを破壊して中の宝石を取り出した。


「ルビー……じゃないよな? でも、どことなくジュエルシードに似ているような……」


姿形は違えど、放つ雰囲気が似ていた。

それに青に対するように赤とは出来すぎなような気もしなくも無い。


「ジュエルシードみたいに、価値のあるものなら……」


持っておいて損は無いだろう。

他に見るべきものはなく、ちょっと早めだがこの世界を旅立った。





目のような点を真っ赤にした丸いロボットのようなものがいっせいにこちらを振り返った。

それは突然の出来事だった。

いつも通りにランダム転移をして、この世界にやってきた、これまたもはやいつも通りの景色になってしまったあの丸いのがあった。

それはもちろん、いつものように何かを探しているようで、俺には関係ないと思っていた……のに、


「え? 何で。こっちを向いて……ち、近づいてきた!」


今までに無い展開で、驚くばかり。

その丸いのの数はかなりある。今、数えても十や二十は軽く越えている。

それが一斉に、こちらを向き近寄ってきたのだ。

怖い以外の何ものでもない。

そして気付けば……囲まれていた。


「なんかすごいシュールな場面だよね。赤い目をした丸いロボットに囲まれてるのって」


しかも、バリアのような物を展開して、防衛体制も万全ときた。

これってもしかして……


「待ちに待ってもいないが、戦闘……ということなのか?」


明らかに敵意むき出しだしな。

これは俺の戦闘能力、魔導師としての力がついに試される時がきたのかもしれない……。

なのはに鍛えられてきた俺の真価が問われる、ということなのか。

ただ、残念ながら俺はこの場面をどうしても楽しめそうではない。

俺はあくまで平和主義者だからね。


「だけど、ここで負けて人生を終わらす気も無い!」


俺は手に魔力を思い浮かべる。

イメージはナイフのような鋭利な刃物。

いつも狩りに使うような物を思い浮かべる。

少しずつ形が模られ……そして……、


「でき──あれ? 光になって消えちゃったよ」


消えてしまった。

もう一回、もう一回挑戦する。

…………結果は同じだった。

上手く魔法が発動しない……ということなのだろうか。


「これってやばいよね?」


丸いのが、また前進して俺に詰め寄ってきた。

そして、一斉にキュィィィィンと言いながら魔力をチャージし始めた。


「ランダム転移も……駄目か。とすると……」


反撃できない、異世界に逃げることも出来ない。

残る選択肢は……この世界内での逃亡を他においてなかった。


「逃げる、か……いや……」


こんな時のために……何かが起きたときに、引きこもれるように造っておいたものがあった。

なのはの砲撃を耐えられるように改造した、あれがある。

そして、俺は”それ”を被った。

その瞬間、衝撃が伝わる。

しかし、その衝撃にそれは破れることは無く、しっかり受けきり防御しきった。

相手の第一波を防いだ、ということである。


「ふぅ……まだ試作段階だったが……何とかなったか、だけど……」


防げるのは一回のみ。

理由は、その分しか今の貯めてある魔力では防ぐことは出来ないからだ。

”それ”に貯められた魔力は、いずれは『攻守共にパーペキ、まさに空中要塞』にするために、俺が毎日毎日魔力を地道に貯めてきたものである。

魔法の攻撃に対抗するにはどうするか、それはつまり相手の攻撃より魔力の多い防御をすることだった。

あとは、その防御できる魔法を”それ”に組み込み、魔力を貯める。これが俺の必勝法だった。

ちなみに、”それ”に砲撃魔法も出来るようになればなと思う。砲撃じゃなくても、ビーム的な何かでもいいけど。

話は戻るが、今の状態では攻撃は一回しか防げない。

されど、一回防げば……、


「このステレス布が際立ってくることを教えてやる!」


姿を消して逃げるだけだった。

俺はこの後、なんとかその丸い群れから逃げ切り、事無きを終えた。

しかし、この先毎度のことのように奴らに追いかけられるようだと気が思いやられる。

けれども……、


「試作品は順調だね。この分なら完成は案外早いかもしれない……」


どちらにしろ、魔力との戦いだけどね。

あ、いっそ魔力を吸収できるようにして、なのはに砲撃とか撃たせれば……。

ふふ、これは研究のし甲斐がありそうだ。





さぁ次の世界……どうか、あの丸いのに会いませんようにと願った。

その願いが願ったのか、それとも俺が強運なのかは分からないが、着いた世界は建物の中だった。

転移してまず確認するのは周囲の状況。

建物の中なのはすぐに分かったが、もっとよく周りを見てみると。

教会のような場所。

見覚えのあるような人が居る。

みんながこっちを見てる。

俺が頭上に落ちてしまい、足元で倒れている人をみる……わぉ、格好いい新郎さん。

横を見た……あら、綺麗な花嫁さん。


「ウェディングドレス似合ってますね、結婚おめでとうございます」

「あ、はい。ありがとうございま──って、く、クロノ君!?」


うん、どうやらとんでも会場に来てしまったらしい。

やばいなぁ、みんなの目が痛いなぁ。

どうしようかなぁ……逃げちゃおうかな。


「では、お二人さん。末永くお幸せにー!」

「……はっ! あれ? い、一郎君!?


座っていた観客の一人が驚きの声を上げた。

見知った声のような気がするけど、気のせいであり。

また、複数の知り合いの声も聞こえたがそれも気のせいだ。

どちらにしろ、色々とやばいので、これはある意味あの丸いのより危険なので早く逃げたいのだが……。

ええい、ランダム転移よ早く転移しないか!


「ま、待って、一郎君! せっかく会ったんだから、お話しようよ!」

「この状況で、言うべき言葉がそれなのか? なのは」


ここは絶対に、俺を注意するべき場面である。

でも、これは非効力であり、決して狙ったわけでは無いので怒られるのも勘弁だけど。

起こるならランダム転移に怒ってね。

それでもやっぱり、俺が悪いのかな?

罪悪感は無いわけでは無いので、転移が完了する前に一つ祝いの品でも上げるとしよう。


「じゃあこれ祝辞とお詫びを含めてあげますね」

「あ、ありがとうございま──ダンボール!?」

「愛の箱庭を築いてくださいね。それでは、今度こそお幸せに」


どの世界でも結婚ってめでたいね。






















{Stsに向けて着々と……。ホームルーム(HR)をホームレス(HLかな)と読んでしまう辺り、作者はもう駄目かもしれない}



[17560] ─第29話─【一部加筆】
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/06 22:35
旅に終着地はあるのか。

旅人に終わりは無いけれど、旅には終わりが来るとは思う。

それはつまり……俺もそろそろ地に足をつけるときが来たと言うこと。

否、前のような放浪するのではなく一箇所に留まる生活に変わると言うことだ。


「本当に色々な世界を見てきたからな」


最近の印象で大きいのは、あの丸い……とある情報によるとガジェットと言うらしい。

その情報と言うのは、丸いのに追いかけられていた俺を偶然助けてくれた騎士の人が言っていた。

格好いい騎士の人曰く、


「一般人を巻き込むほどは落ちてはいないつもりだ」


とのこと。

なんか色々引っかかる言い方ではあったけれど、気にしたらいけないような気がする。

その騎士の人は、小さい妖精みたいなのと小さい子供をつれていた。

……ロリコン? と思わなくも無いが、あまり触れない方がいいだろう。

人の嗜好なんて人それぞれだ。

騎士のイメージが、ホームレス狩りやらロリコンって……なんか色々とすごいような気がするけど、それも気のせいだ。

まぁ確かに小さい子は可愛かったけど……俺もやばいかもしれない。

あれだ、旅が長いとどうしても異性に会う機会が無いので、会った時に余計に……と言うことだと思う。

たまに海鳴に戻ったときにアリサに会ったり、旅先でなのはに会ったりするときにドキッとするのは、つまりそういうことだろう。

閑話休題。

もちろん、旅先で人に助けられるなんてことはまず起きることは無いので、基本的にはガジェットから逃げるしかないのだが。

さすがに毎度毎度追いかけられては逃げて、隠れて抵抗していては、こちらの身が持たない。

旅とは気ままに楽しく。

旅は縛られずに自由になれる方法の一つ。

ガジェットによりこの二つが阻害される。酷い邪魔者である。

こうなったら、この旅はただの危険でしかなく、死の臭いが立ち込めてくる。

もちろん、あてなき旅なので危険は常に背負うものであるが、この件はそれとは別物である。

狙われているのだから、たぶん。確証が無いので断定は出来ないが……。

それに、もう海鳴に戻ってもいい頃だとは思う。

年齢はすでに十九歳になり、大抵の人はこの年では大学生になるが、社会人だってなる。

なので、もう十分に大人と言える。保護される可能性は……昔に比べたら低いだろう。

ああ、そう考えるともうちょい頃合を考えて戻ったほうがいいかもしれない。

聞くところによると魔法世界では就職年齢が低く、俺のような年齢では働いているのが当然のようだった。

確かに、なのはの就職はやけに早い……早すぎた気がするけど、つまりはそういことだった。

年齢による保護は無い、その上いざと言うときは魔法を使えるし、あのステルス布もある。

魔法世界では保護もしくは捕まえられる可能性は低いわけだ。

ならガジェットの現れにくい場所で停泊がいいかもしれない。

……中心都市のよう場所になるのかな。

いや、いっそ停泊と言わずに別荘みたいな……。

海鳴市にあるのは本拠地で、魔法世界にあるのは拠点……ホームレスの本拠地と拠点。


「これはいいアイディアかもしれない」


各世界や地方に人が住まうことが出来るように、お手軽ダンボールハウスを設置をする。

そうするとあら不思議、旅人たちの溜り場になり、まるで酒場のような場所になる。

たとえならなくても俺の別荘なので問題はなし。


「では、まずその第一段階として魔法世界の本拠地決めをしなければ……」


出来れば大都市のある場所。その上に自然もある。

これは食べ物の確保に必要だから。

可能であれば、文明の発達してる場所。

今の俺の持っているものは多数のダンボール、それを改造する為の簡易な道具とスクライアガイドブック、少しの服類とサーマルスコープにステルス布しかない。

まぁ他にもないことも無いが、大して重要なものではない。赤い宝石とかもね。

それに、一箇所に家を構えるのならそれなりのものが必要になる。

久々にダンボールハウスを本格的に建てるわけだしね。

そして、基本的にそこが俺の魔法世界での住まいなので、ガジェットの出ない場所。

これらが整っている世界が望ましい。

しかし、こんな都合の良い都市があるわけが……あった、というよりは行ったことがある。

あの爆発に巻き込まれた世界だ。

ちょっとした自然もあったし、確か海のような場所もあった気がする。

大都市のような場所も会ったし、なによりそれだけ人のいる場所ではあのガジェットは出てこないだろう。

うん、決めた。

次の世界はその世界……、


「名前は確か……ミッドチルダだっけ?」


どこかで聞いたことがあるような気がするけど、きっと有名な都市だからに違いない。











「ミッドチルダよ、俺は帰ってきたーーっ!」


同じ世界に何度も行くことなんてないからちょっとした感激で叫んでしまった。

海っぽい場所に向けて。

いや、暢気にこんなことしてる場合じゃないじゃないか。

一夜明かす程度なら、その辺のベンチでもいいかもしれないが、しばらくここに住むとなるとちゃんとしたダンボールハウスが欲しい。

もちろん、ステルス搭載の迎撃・防衛システム完備のダンボールハウスをだ。

残念ながらまだ魔力吸収と言うのは出来ないが、幸いなことに魔力だけならかなりの量が貯めることができた。

毎日地道にを数年間やった甲斐があったというものだが……されど、防げるのは一回なのでやっぱり見つからない事を前提。

戦わないことを前提だ。

そもそも、こんな都市で戦いが起きるとは思えないけどね。

そんなどこかの都市の多発テロが起きるわけでもないし。

それでも、備えあれば憂いなし。日本人たるもの準備は心の予防線なので、準備はしておくとする。

無論、いつでも気軽に逃げれる準備をね。

さて、暗くなり始める前に買い出しに行かなくてはと思い、一歩踏み出したその時、誰かに呼び止められた。


「おまえがイチローか?」


嫌な予感がするよ。

とても面倒なことに巻き込まれそうな、そんな嫌な予感。

後ろから声がするのに、振り向いたらそのまま一気にどん底まで巻き込まれそうな、そんな感じがする。

しかも、割と危険で危ない方向に。

逃げなくては。

なんとかしてこの危機を抜けなくては。


「いいえ、人違いです。私の名前はジョンですヨ?」


振り向かずにとりあえず、他の人の名前を言っておく。

これで騙されるとは到底思えないけ──


「そうか、人違いだったか。すまないな」


あまりの驚きに振り返って、声の主ををみると……小さくて眼帯をつけてる銀髪の女の子だった。

その女の子は、迷惑かけたなと言葉を残しそそくさとどこかへ歩いてしまった。

俺はその光景に呆然とする……。

あれで騙されたのか? ……俺の演技力がすごかったのか?

もしくは、相手がそうとう天然系だったのか……う~む、真意を測りかねる。

でも、助かったので気にしない方向で行こう。

にしてもさすが魔法の世界……今更ながらファンタジーだななんて思ってしまう。

俺は自己紹介をしていなければ、著名人と言うわけでもないのに俺の名前を知ってる人がいるとは……。

魔法世界においては、プライバシーなんて無いようなものなのだろうか……。

常に魔法によって監視されてたりするのか!?

……なにそれ、怖い。

まぁさすがに、監視まではないか。

プライベートが若干ばれやすくて、情報が筒抜けしやすいということなんだろう。

そうなれば、俺のここでの生活は常に細心の注意を払う必要があるようだ。

もちろん誰にも見つからないように、怪しまれないようには俺の生活の基本だけどね。

いや、この世界においてはある程度は見つかっても案外大丈夫だった気がする。

前に来たときは、あの空港のような場所で寝泊りしたが、多少は訝しがられたものの通報まではされなかったし。

まぁそれはあくまで短期的に見て、長期的に見れば通報されるやも知れないが、海鳴市──元の世界よりはましだろう。

さて、そんな俺の生活の基盤はお得意のダンボールハウスなのだけれども……。


「時間的に見て今から作るのは、厳しいものがあるよな……」


空はすでに暗くなり始めているし、まず道具を作って拾うところからしなくちゃいけないし。

しょうがないので、今夜は前に泊まった空港にするしかない。

家の準備は明日以降にするとしよう。

今日のところは、明日への家の構想を練りながら寝るとしようじゃないか。

空港の場所は覚えているので、黙々と空港に近づき。

目的地に着くころにはあたりはすっかり真っ暗だった。


「そういえば、今日は何も口にしてないな……」


三度の飯よりダンボール。

色々な思惑を考えていたので、忘れていた。一日ぐらいはどうってこと無いけど。

それに食べ物にしても、いつものように狩りをすればいい。

サーマルスコープで動物の熱源反応を調べ、スクライアガイドブックで上手いかどうかを確かめ、魔法のバインドでトラップを仕掛けて捕まえる。

まさに魔法と科学のコンビネーションだ。

ある意味では俺の旅の集大成とも言うべき、狩りの方法かもしれない。

ああ、そういう意味ではステルス機能付き迎撃・防衛システム搭載のダンボールハウスもそうとも言えるか。

本当に……本当に今までの旅を思い返すと感慨深くなるね。

いろいろあったもんな……。

魔法の失敗に始まり、俺の心の師匠ともいうべきダンボールの先輩との出会い……以下省略。

ありすぎて、どれがいつの頃の思い出かも曖昧だけどね。

いつまでも思い出に浸っているわけもいかない。

明日からはこちらへの移住というか、住む準備があって忙しくなるのだ、今日は早めに寝ることにしよう。

明日が楽しみでしょうがないけどね。











朝の目覚めはいつも通りだった。

体調良し、気分良し、ダンボール良し、問題なし。

今日は忙しくなる予定なので、起きてさっそく行動開始となる。

まずは材料探しの散策を……なんて思ってる時だった。

どこかで見たことあるような、少年少女を発見。

向こうもこちらに気付いたらしく、目が合った。


「あ、あなたはあの時助けてくれた!?」

「なんでこんなところに……お久しぶりです、お兄さん」


ビリビリ(赤)と龍使い(ピンク)だった。

これはまたなんとも懐かしい面子だな。

今日の俺は気分もいいから、なんだかちょっと嫌な予感がするが、ジョンですなどと言わずに、ちゃんと挨拶してやるか。


「おう、二人ともお久し──」

「ん? どこかで見たことあるような顔だな……まさかいち──」

「どちら様でしょうか? 私はジョンですヨ?」


ホームレス狩り(ピンク)が現れた。

 挨拶
 ホームレス狩りを狩る
→逃げる

予定変更。二人には悪いとは思うが、俺は脇目も振らずに一心不乱に逃げることにした。

そういえば、ホームレス狩りの人も確か騎士だったような。

小さい男の子と女の子を連れていると言うことは……ロリコンだったのか……。

俺の中で騎士=ロリコンの式が成り立った瞬間だった。

あ、そうか……。

だから当時ロリだった俺を襲ったのか……納得である。

なのはとかも襲われたらしいから、ますます信憑性が出るなこの式。

いや、男の子もいるからショタもあるか……。


「な、なんか今盛大な勘違いをされた気がする……待て! イチロー」

「助けてもらったお礼も言ってないのに……」

「せっかくまた会えたのに……」


後ろで「イチロー!」と呼び止める声が聞こえるけど……うん、俺はジョンなので関係ないです。

にしても……俺のここでの生活はなんだか前途多難になりそうだ……。














{スカさんフラグ消滅確認。Sts始めました}



[17560] ─第30話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/10 00:02
結局俺の平穏と言うのは、ダンボールに始まり、ダンボールに終わるのではないかと思う。

これは所謂、一種の性善説や性悪説ならぬダンボール説と言うのがあっても不思議ではないのではないかと思う。

いっそ、これを題材にした小説でも書いて、どこかしらにでも投稿してみたら案外設けることが出来るんじゃないかとも思う。

思うが……。

将来のなりたい職業、ホームレスが一位に輝いたりしてな。


「……ないか」


いや、ありえるかもしれない。

俺が必死に宣伝して、宣伝して、宣伝してダンボールの素晴らしさをとくことが出来ればあるいは……。

いやいや、やっぱりないな。

さすがに現実を見よう。

俺の周りは人がいかにも通らなさそうな、山の中。

山を抜けると崖が広がっており、その下には列車が通るような線路がある。

線路があるだけで、駅は無いのだからここに人が訪れる理由がまず無い。

電車でよく見る森と言えども、利用価値が無いのであればただの景色にしかならない。

つまりは機を隠すなら森や林作戦!

……だと、ちょっと意味が違ってくるくるけど、つまりは見つかる心配の低い土地を選んだと言うことだ。

ダンボールハウスの設置場所に。

もちろん土地代など払えるわけも無いので、ばれればすぐに撤去となる。

まぁだからこそばれにくい場所を選び、さらにはステルス布で特殊効果を持たせるわけだ。

万全の対策と言えよう。

安全地帯。

秘密の隠れ家。

知る人はいない家となる。

ダンボールハウスの組み立て自体はすでに手馴れたもので、半日も使えばほぼ理想形態。

大きさにしたら、だいたい……だいたい……まぁかなりの大きさだね。

ダンボール三百個分くらいかな?

今回の家は、補強として木材なども使った。

木をバッタンバッタン倒してしまえばそこにさら地が出来てしまうので、多くの木から少しずつ剥ぎ取った。魔法のナイフで。

近いうちはこれを応用すれば二階建てのダンボールハウスも出来るんじゃないかと思う。

そんな経緯をもって、外枠は完成したのでいよいよ中身である。

ベッドは草木を応用すればいいとしても、生活必需品の水は非常に手に入りにくい居場所となる。

なので、飲み食べをする場所は別に確保するようにする。

水の確保は以前と同じで公園で、保管場所は公園に近い山に確保。

食べ物は山と海で獲得して、水の保管場所で食べる。

つまりは、食べる家と住む家が存在する。

多少は住む家に水を置くことにしておけば、緊急には備えられるだろう。

そんなわけで、これらの作業をするのに丸一日かかった。

素材集め、材料集めが最も大変で疲れたが終わってみればなんのそのである。

ミッドチルダは地球ほど寒暖の差がないので、住み易くもあり冷暖房の心配は無い。

食料の心配は自然の恵みがあるし、なによりスクライアガイドブックまである。

生活向上のために近いうちに電気が使えるようにしたいが……それは後々考えるとする。

何よりも居場所の確保と生きれる状態を作ることが出来たので最低限の目標は達成である。

ミッドチルダ二日目は作業の一日となったわけである。

その翌日。

実はまだこのミッドチルダと言う土地のことはよく知らないので、観光に出ることにした。

自分の住まう土地を理解していれば、生活はより楽になるだろうという企みを元にだ。

こんな時に役に立つのがスクライアガイドブックだ。

都心部のことについてはあまりりかかれていないが、地方に関してはなかなかどうして情報がある。

地方には遺跡とかそういう貴重なものが多かったからなのだろうか。


「ほほぉ。北部には聖王教会という宗教みたいなものがあるのか」


これといって、宗教に興味があるわけではない。

ただその教会の近くには自然が多い、と言う点に目がいったためだ。

そして、ここらへんはベルカ領と言うらしく、また別の組織のようなものがあるらしい。

管理局からしてみれば異国……みたいなものだろうか。

どちらにしろ、異なった文化があるということであり、そこに第二の拠点を置くのもいいかもしれないと思った。

上手く行けば、ダンボール教を作って……って、何の話をしてるんだ?

ダンボール教とか絶対に需要少ないだろ。

そもそもダンボールを祭ってどうするんだよ……。

あれか? ダンボールのご加護とかつくのか?

すごいファンタジーだよ、それはそれで。

ダンボールなのにファンタジーってもうめちゃくちゃだけど。

話がだいぶ逸れた。軌道修正。

こうやってガイドブックを見てると、かなり自然が多いイメージがある。

実際は都心部を覗いたら自然溢れるいい場所なのでは無いだろうか。

だとすると……地球なんかよりよっぽど住みやすい。

俺自身地球と言っても僅かな場所しか言ってないのが、そう言わすのかもしれないが、今までの中ではここが澄みやすいのは事実であるのは間違いない。


「なんだかんだで順風満帆なのかな」


機能の朝からかなりな面倒ごとに巻き込まれて前途多難だと思い、気落ちしたが、これなら案外すんなりと生きていくことが出来るかもしれない。

そして、気ままな暮らしを……。

そういえば、教会の前にいた綺麗な長い金髪の女性がとてつもなく綺麗だったな。











「一人で外食って……しかもラーメンって寂しくないのかよ」

「ふぇ!? だ、だれ──一郎……君?」


夜釣りを楽しみ、寝釣り体勢まで持ち込んだところで、もうこの辺でいいかななんて思いながら引き上げての、帰宅途中のことだった。

ミッドチルダの繁華街はすでに闇に沈み、僅かにある光は、遅くまで経営しているコンビニ的な場所や居酒屋。

ちょっと怪しげなお店や、素朴なラーメン屋のようなお店ばかりだった。

人通りも少なく、この時間帯だとむしろ浮浪者や不良ぐらいしかいないのではないかななんて思いながら通りをやや遠く、さらに人のいない場所から眺めていると、

そこに見知った容姿を持つ女性がラーメン屋に入っていくのが見えた。

こんな時間に女性がラーメンって、しかも一人で……きっと独身で青春なんて言葉とは無縁の人だったんだろうな。

そう考えながらも、やはり少しその人物が気になったので追ってみれば……、


「一人寂しくラーメンを食べるなのはがいた。そんななのはに俺が泣いた。しょうがない、俺がここはおごってやろう」

「べ、別に一人でラーメンぐらい食べるよっ! それに一郎君におごられるほど同情されるのはちょっとショックかも」


肩と頭が力なく垂れるその姿はまさに、ガーンと言う効果音や、ショボーンといった雰囲気がピッタシだった。

「これでもかなりお金が稼いでるんだよ」となのはは言い訳を続ける。

青春を代償にお金を得たと言うことか……なのはの人生ってなんだか哀れに見えてきた。

やはり同情に値する。

……ホームレスに同情されるっていろんな意味でなのはってすごいね。


「それより何で一郎君がここにいるの!?」

「ん? なのはを見かけたから」

「そうじゃなくてっ! ……そっか、一郎君相手だから常識的に考えるが通用しないんだった。久しぶりの再会だから忘れちゃったよ」


ちょっと皮肉気味の発言のような気がする。

何かに対して怒っていることでもあるのだろうか。

ちなみに俺はなのはの白い姿でピンクの砲撃を見なければなのはとは普通に接することは出来る。

あの砲撃はやはり……トラウマものだった。


「一郎君てば、私が会いたいときにいつもいないもんね。こういうときは急に現れるのに」

「ホームレスに束縛求められてもなぁ」

「そこまでのことは言ってないよ!」

「そうだ、なのは。なんで一人でラーメン食べてるんだ、しかも少し寂しそうに」

「私のお話はスルーなの!?  さ、寂しくなんかないよ。ここは前にはやてちゃんがここのラーメンが美味しいって言ってたからためしにきてみただ──」

「レイジングハート久しぶり」

《お久しぶりです》

「久しぶりだよ……私がこうやって振り回されるの……なんだか懐かしいなぁ」

「なのはが俺に弄ばれて喜んでる……なのはは変わったな」

「も、もうっ! そう言うところばっかりちゃんと聞いてて!」


ああじゃない、こうじゃないと俺は久しぶりの親友との会話をかわす。

こうやってなのはと暢気に話すのはすごく久しぶりだった気がする。

主に俺が旅に出たせいなのかもしれないが。


「うぅ……一郎君の前だとどうも調子が出ない」


そんな事を俺としゃべっている間に、何度もぼやいていた。

まるでこんな面を出すのは一郎君だけなんだからね、と言われているようだった。

じゃあ、特訓と称して砲撃を撃ち込むのも俺だけなのかと知りたい。


「今私ね、はやてちゃんの部隊でね……」


気付けばなのはが今まで自分のどんなことがあって、今どうしているかを語っている。

俺は聞き役なんだけど……あんま聞いてなかった。ラーメンが美味そうでついそちらばかりに気を取られて。

でも、あれだろ? なのはの話を要約すると。

敵を薙ぎ払ってたらエースになれた。そして、人に魔法を教えるようになり、後輩も薙ぎ払うようになった。

青春を代償にしたらお金を手に入れた、ただし使い道がない。

はやてちゃんに部隊に誘われたから、敵がいない間は新人を薙ぎ払っている。

そんな感じだと思う。

新人哀れ。そして、なのはに魔法を習った先輩が君らにアドバイスを上げよう。

生きてれば辛いことも楽しいこともある、と。

そのアドバイスを直接伝えてあげたいけど、俺まで巻き込まれたら勘弁なので、心の中で応戦するとする。

頑張れ新人よ。


「ところで、なのは話は終わった?」

「うん。ってちゃんと聞いてくれた?」

「え、ああ。うん、そうだな……聞いてた、かな」

「あ、曖昧すぎるよ……」


なのはが若干涙目になっているのはきっと湯気が目に染みたからに違いない。

お互い時間も時間だったので、この後も一言二言話しをして家に帰った。

なのはに「今どこにいるの? まだ旅をしてるの?」と聞かれたから、「秘密基地に住んでるよ」と答えてやった。

正確な場所などは教えずに。

向こうもこちらの真意が分かったのか、詳しいことは聞かずに「相変わらずだね」と苦笑した。

この後に、今の仕事に区切りがついたら今度こそ魔法を一郎君に、とか勝手に燃えていたので、家は決して見つからないようにしなくては。

あんな経験は一度で十分だ。

その夜のこと。


「私から逃げ切れると思ってたの? 一郎君?」


白い魔物が追ってきて、無理やり魔法の特訓をされる夢を見て、俺は新たな決意を胸に、絶対にねぐらをばれないようにしなくてはと固く誓った。

ダンボールに。











数日後のこと。

この日は住んでいる森の細部まで把握するまで歩き回っていると、下に列車が通っている崖に突き当たった。

大体森の散策はこんなものかななんて思っていると、空中からヘリの音が……。


「へぇこの世界にもヘリコプターがあるん──は?」


次の瞬間空から人が降って来た。

な……な、な! どんなアクション映画だよ。

いくらここが魔法の世界だからって、あれは飛ぶのではなくて落ちていってたぞ……。

しかも、列車にしっかり着陸してるし。

遠くからだから良く見えないけど、落ちたのは女の子や男の子ばかりじゃないか?

すると今度は空にピンクの閃光が見えて、心のどこかで納得した。


「なんだ……ただのなのはか。それに、金色ってことはフェイトもか?」


空を縦横無尽に飛ぶ二人を見る。

そして、俺がとるべき行動は決まった。


「よし! ……森に避難だ」


一般人は大人しく戦闘には加わらずに、家に立て篭って恐怖に震えるのが仕事だよね?
















{ボキボキ何かが折れる音がした。Sts編はこれからがカオスに!? 分かりませんけどね}



[17560] ─第31話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/11 11:05
「くくく、これが例の?」

「はい、これが例の密輸品です……」

「お主も悪やのう」

「いえ、お代官こそ」

「「…………」」

「ふふ」

「ふふ」

「「ふふはははは」」

「CQC!」

「「……!?」」


みたいな会話はあったかは知らんが……。

浮浪者のようにほっつき歩いていたら、やけに警備の硬そうなホテルを見つけた。

ちょっと暇だったので潜入ミッションでもやってみるかと言う軽いのりで潜入し、駐車場にたどり着いたのだが。

そこで如何にも変な雰囲気を出しているところを目撃した。

話が少しだけ聞こえて、密輸云々とか言っていたので、ちょっと正義の味方になったつもりでCQCもどきをしてみたら、あっさり片付いてしまった。

ホームレスが正義の味方って皮肉だよね。

とりあえず彼らが持ってる密輸品とやらを取り上げとこうかな。

これはあとでなのはあたりに郵送すればいいよね。

宅急便って便利だなぁ。送り主住所不定でも届けようと思えば届けられもんね。

そんな事を考えている時だった。

外からは爆発音が響き、怒号が聞こえた。

次の瞬間、俺はいつかのように再び慌てふためき、急ぎ駐車場を脱出する。


「に、逃げろぉぉぉーー! あ、何か飛ばした」

「ゆ、ユーノ君!? え? 今の一郎君だったような……」

「うん、私もイチローだった気が……」


途中何人かの人影が見えたようだが、そんなの無視だ。

人を轢いた様な気がするがそれは気のせいだ。俺は今逃げるので精一杯。

…………。

「なんとか危機を脱したか?」


森の中枢部まで走り切っての安全確認。


「右良し。左良し。下良し。上良し。安全確認!」


やっと緊張の糸が取れたよ……もう二度とあんな場所には関わりたくないしね。

……はぁ。

今日のところはひとまず、家に帰りのんびり過ごすとしよう。

こんな危険な目に会った後に、外を出歩こうとは思わないからね。

その爆発事件から数日後のこと。


「はぁ……私どうすればいいのかな?」

「『どうすればいいのかな?』って、何の話だっけ? あ、マスター。カミュをロックでを頂戴」

「へいよ。ってこれはカミュじゃない、水だよ兄ちゃん。それにマスターでもないぜ」

「だからね、今日模擬戦でね……」


最近、夜釣りをして帰るとラーメン屋にいるなのはを見かけ、よくこうやってしゃべるようになった。

俺はラーメンを買うお金がないからカミュで我慢している。

そして、今日も今日とてなのはとお話。

というか聞くのはほとんどなのはの苦労話とかそんなんばっかしだが……。

いつから俺は心理カウンセラーになったんだ?


「私間違ってることしてるかな? 私は第二の一郎君を生まないように必死なのに」

「それって聞き様によっては悪口だよね? 第二の俺って。マスターカミュなくなちゃったのでもう一杯」

「はいよ。ってだからこれはただの水だよ。それに俺はマスターじゃねぇ」


今日の一郎君の相談コーナーは、なのはの今日の模擬戦で相手取った新人の話のようだ。

まぁいつも新人の話ばかりだが。


「それはあれだよ、なのはが心のケアをしてあげないと駄目なんじゃないか?」


さすがに相談事の時にはふざけたりはしない。

その程度なら俺だって空気は読めるさ。

俺は実際にそのティアナって子には会ったことがないけど、今とてもヒステリックになってるんじゃないかな?

それこそ周りが見えないほどにさ。


「お客さん。年頃の女の子や男の子って言うのは傷つきやすいものなのさ。それこそ、周りが成長しているのを肌に感じていたら、焦る気持ちも出てくるってもんよ。

それを勘付いて、本人にも気付かれないようにケアしてやると言うのが、上司って者じゃねぇのかい?」

「ま、マスターさん……」

「マスターじゃねぇ……。まぁつまりはだ。まずは上司であるお客さんが部下の繊細な心を理解した上で接してやればおのずと上手くいくんじゃねぇかって話だ」

「そう、ですよね……。私が理解してあげないと……」

「そう気負うもんでもねぇさ。若けりゃ誰にだって失敗はあるし道を間違げぇることだってあるだろうってことだ。それを正してやるのが上司の仕事ってもんだろ?

でも、その上司がこうやって潰れてちゃあだめだ。ほら、今日は俺のおごりだからよ、気負うもんなんてラーメンと一緒に食べて、明日からもう一度やり直せばいいじゃねぇか」

「ま、マスターぁぁ」



マスターすげぇ。このハードボイルド半端ないです。

さすが俺なんかとは場数が違う。あのなのはをあそこまで泣かせるなんて……。

それにおごりだなんて……くぅ、俺もマスターに惚れそうだよ。


「じゃあ、俺も今日は飲み明かすぞ! なのは」

「うん! 明日に向かって気持ちを新たに。ティアな待っててね!」

「よし。マスター今日は飲みますよ! カミュをストレートで!」

「飲むってそれは水だよ……いつも水しか飲まないじゃねぇですか兄ちゃん……。それに俺はマスターじゃねぇ」


ほら、それはマスター。

俺お金持ってないホームレスだからしょうがないじゃないですか?


「じゃあ、つけってことで」

「水につけなんてないですぜ……」












今日は狩りに出ることにした。

いや、いつも食事を得る為に狩りはしているんだが、そういう目的では無い狩りである。

食用ではない。

つまり、金銭目的の狩り。

いわゆる珍獣ハントのようなもので、このミッドチルダにもそういうのがあると言う事をこの間知った。

まぁ地球で例えるなら一昔にはやったらしいツチノコ探しみたいなものだ。

しかし、ツチノコよりももっと信憑性は高いとは思う。

だってターゲットは……。

『金色のねずみ』通称『黄金鼠』

なのだから。

過去俺は金色のカブトムシを捕まえたことがあり、きっとそのレパートリーのひとつみたいなものだと予測する。

あれも結構な値段で売れたしね。

『黄金鼠』にいては、スクライアガイドブックで探してみると……ふむ、どうやら本当に存在するらしい。

ただ生息地は不明で、確かにいると言うことだけが載っていた。

それでも十分の情報ともいえよう。

さて、その黄金鼠を掴まえるにはどうすればいいのか……。

俺の持て余す時間を全て使って、黄金鼠の出そうな場所を探すロードローラー作戦で行くしかない。

基本的な習性はドブネズミなんかと変わらないらしい。

簡単な話ドブネズミの突然変異体なんだろうな。

なら、ドブネズミを金色に染めて……じゃ駄目だよね。

…………。

「見つからん、果てしなく見つからん」


予想以上の苦戦だった。

ぶっちゃけて言ってしまえば、舐めていた。

ネズミよりカブトムシの方が難易度高いんだから、簡単だろうと。

しかし実際にところは違っていた。

まず、詮索場所が広すぎる。

ドブネズミだから地下水道を歩き回ってればいいとか思っていたが、これが厄介者。

都市部とだけあって、地中に張り巡らせれている地下水道は迷路のそれと同じだった。

複雑にして難儀。

元の場所に帰るのすらも難しく、中は嫌な臭いが充満して萎える。


「自分との戦いか……」


まさにそこは戦場だった。

こうなったら引くわけにも行かない。

ホームレスの名にかけてっ!


「……まぁこれで見つかれば高額賞金なんて出ないよね」


探し始めてすでに数時間。

気付けば一日中地下水道を歩き回り、臭いにも慣れてしまった自分がいる。

動き回るドブネズミを見て、あはっ可愛いな、なんて思い始めたのでもしかしたらもう手遅れになってるかもしれない。

とにかく、見つからない。

この地下水道において、黒いものや若干の光以外の色をお目にかかってない。

黒黒黒光黒黒黒黒黒光光黒黒黒黒黒黒黒光黒黒黒黒……俺の心までダークブルーである。

脳内はお花が咲き始めているかもしれないのが救いだった。

頭の中だけは鮮やか……。

あれ? これっていいのかな? わかんないや。


「金色~金色~どこだ~金色~」


なんかのってきたよ。

やばい、楽しいよ……あはは。

相変わらず金色は現れないな……ん? あれは……。

地下水道の角のところに今まで見た事のないような色が見えた……。

そう、待ちに待った金色だった。


「はは、ははは! やっと見つけたぞ金色の!」


大急ぎで駆けながらも足音をたてずに忍び寄る。

一歩、また一歩、さらに一歩、後一歩──


「つかまえた!」


後ろからがばっとダンボールを被せるが……あれ? 入りきらない。

様子がおかしいことに気付き、ダンボールをあけるとそこには、金髪の少女がいた。


「なんだはずれか……って、こんなところに少女!?」


黄金鼠よりすごいのを見つけちゃった気がする。

しかも、いろんな意味で。

でも……この子全然動こうとしないな。ダンボール被せたときも無抵抗だったし。

もう一度、よく確認するとほんの少しだけ口が動いていた。

息をしているようにも見えたが、声も必死に出しているようだった。

その声の内容は……


「だ……れ? 助けてくれた……の?」


今にも消えちゃいそうな掠れる声。

いや、分かっていた。

その姿と状況でこの子がどんなことになっているのか、この場がなんなのか。

異常事態。

とても俺がどうにかし得る場面ではなかった。

ただ、それでも今できることは零じゃなかった。


「大丈夫だよ。お兄ちゃんがいるから」

「お兄……ちゃ──」


少し目を開けて、無事かと思ったら気絶してしまった。

もしかしたら一刻を争う事態なのではないかと思えてきた。

その時だった、急に真上を光が照らし、人が来た……あ、あれは


「大丈夫ですか!? ……あ、貴方はいつかの!?」

「お、お兄さんがなぜここに!?」

「理由を答えてる場合じゃないよな。この子を頼む。俺にはどうしようもないから」

「え? ど、どうしたんですか!? この子は一体……」

「俺にも分からんからな。俺はただ通りがかっただけだから」

「通りがかっただけってここは地下水道ですけど……」


俺はこの金髪の子を見つけた経緯を話して、あとは彼らに任せることにした。

だって、そこには……俺の出来ることなどないから。

俺なんかがでしゃばるよりは、彼ら管理局に任せたほうがいいだろう。

だって、バックにはなのはがついてるんだもんな。

それから数日後に、なのはからあの金髪の子──ヴィヴィオの保護者になった事をラーメン屋で教えてもらった。

目論見どおりと言うか……なのはなら何とかしてくれると思った。

俺は嬉しいよ。


「マスター、か──」

「へい、自称カミュ」

「ありがと」


今日もカミュが美味い。











「一郎君、ヴィヴィオを少し預かってくれないかな?」


なのはは唐突に俺にそう告げたのは、なのはが保護責任者となった数ヶ月後のことだった。

今日までいつも通りに気ままに暮らし、その間はとても平和な毎日だった。

本当に語るほどのないほど平凡な日々だった。


「預かってって、俺がどこに住んでるか知ってるの?」

「ううん、知らないよ。でも、六課にいるよりはいいと思う」


六課と言うのはなのはが勤めている仕事先であり、そこで現在なのはを含みヴィヴィオと一緒に住み込んでいるらしい。

所謂寮暮らしってやつかな。

ともかく、なのははどういった目的で俺に預けようとするのだろうか?


「あのね……たぶんこれから大きな争いが起きるかもしれないの」

「戦争ってやつか?」

「う~ん、まぁそうかもしれない」


なるほど……それで自分では面倒見れないから預けると、そういうことなのだろうか。

それなら酷く無責任だけど……。


「ヴィヴィオをね、巻き込みたくない。六課にいるのは私がいて絶対に守るけど、それでも万が一、億が一!」

「……なるほどね」


そこで、事件に関わりそうにない俺に白羽の矢を立てたと、そういうことか。

なのは……中々にして親が板についてきたというか……。


「分かった。少しの間……だけなんだろ?」

「うん、たぶん……もうすぐ全部終わるから」


俺にだって、あの時ヴィヴィオを助けられなかったことが多少は悔しかったからな。

その程度の良心は俺にだってある。

そういうわけで、俺はヴィヴィオを一時的にだけ預かった。

ただ危惧はヴィヴィオが俺と同じような生活が出来るのか、だけど……。


「うわーすごいよ、お兄ちゃん! ダンボールの家ってなんだかお本の世界みたい~」


それはたぶんお菓子の家だよ。

あ、そこさらわないでそこ触ると──


「きゃっ……う、うぅ上から落ちてきたよぉ」


天井が抜けちゃったよ……あはは、こりゃ大変だな。

でも、そうだな……うん。

子供って無邪気だからこの場をなんでも楽しんじゃうというか……すごいね。

俺もなんだか見てて楽しくなってきちゃったな。

それに俺の危惧が杞憂に終わってよかったよ。


「こらこら、家の中を走っちゃ駄目だぞ、走ったら……」

「? 走ったら?」

「家が崩れます」

「え? えぇぇぇ!?」


ダンボールハウスは頑丈だけど繊細なんだよ。

まぁ数時間で組み立て直すから大丈夫だけどね。













{次回最後のダンボールェ。最終話です}



[17560] ─第最終話─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/11 12:37
ヴィヴィオとの生活は極めて良好といえるだろう、この一週間。

さすがに幼いヴィヴィオにちょっとグロいものや、えげつないものを食べさせるわけにはいかないので、うまく調理する。

まぁなのはもヴィヴィオを預かってもらっていると言う現状の為、お金は多少工面してもらってはいるが。

全額負担させるのはなんというか……男として負けた気が……。

いや、ヴィヴィオをそれに巻き込むのはいけないので、大体夜はなのはといつもの場所で合流して、ご飯を食べたりする。

外食もあるが、なのはがわざわざ手料理したものまで……。

ううん! 美味い!

そういうわけで、今のところは平穏無事だったりする。


「ねぇお兄ちゃん、あの虫さんはどうやって捕まえるの?」

「あ、あれはね」


上に逃げていく習性を利用して、上空にダンボールを投げ……


「木を蹴るとっ! ね? 簡単でしょ?」


木を蹴って、虫を飛ばしダンボールの中へと誘導する。

これぞまさに、達人業。


「すごーい! ヴィヴィオもやってみる!」


そういうとヴィヴィオはよいしょとダンボールを持ち上げて、投げると……手前でダンボールが落ちしまった。

いや、目に見えてたけど……分かってたけどね。


「で、できないよぉ」

「練習すれば出来るようになるさ」

「うん、分かった! 練習してみる!」


そう言って、何度も何度も同じ事を繰り返す。

その度に目の前に落ちて、涙目でこっちを見るがまた頑張って挑戦する。

子供ってのは本当に見てるだけで癒されるなぁ……。

はっ! なんかすごくおやじっぽい気がしたぞ今!

危ない、危ない。

危うくこのままいくとヴィヴィオにお兄ちゃんではなく、おじさんといわれるところだった。

挑戦しては失敗して挑戦して失敗して……あの負けん気の高さはなのは譲りなのか?

全然諦めようとしないんだけど……それどころか少しずつ飛距離が伸びているような……。

き、気のせいだよな!

さすがにそこまで早く成長するわけがないよな。

ああ、ビックリしたぜ。

そして、今夜はヴィヴィオは疲れてしまったのか、先に眠ってしまった。

まぁこのダンボールハウスにいる限りは安心なので、今日は一人でなのはに会う事になった。


「マスターカミュ」

「……はいよ、兄ちゃん。それに、それじゃあマスターカミュっていう人の名前に聞こえちまうよ」

「カミュ……カミユ、カミーユ? 女みたいな名前だな。……お、なのは。ほとんど毎日ご苦労なことだな」

「ううん、大丈夫だよ。それにここのラーメン美味しいし、前にお世話にもなったしね」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、ここで自作の弁当を広げて食べな──まぁいいけどよ」


なのはは実質ここでラーメンを食べるのは週一程度である。

それを許すマスターはなんと心の広い方か。いつもそう思うよ。

俺にもただでカミュを出してくれるしね。


「今日はヴィヴィオは……連れてないんだね」

「ああ、先に寝ちゃったからな。今日は新しい葉っぱのお布団だから気持ちぃとか言いながら」

「葉っぱのお布団!? ど、どんな環境でヴィヴィオを……心配になってきたかも」


何を今更言ってるのだ、なのはよ。

葉っぱのお布団だぞ? 意外と気持ち良いんだぞ。

今度郵送で送ってやろうか? 自分で布団の形は作ってね、葉っぱだけ送るから。


「それはただの嫌がらせだよね……あ、郵送といえば、なんで一郎君からレリックが送られてくるの!? しかも郵送で!」

「レリック?」

「赤い宝石のやつだよ。しかも、ちゃっかり着払いだったよね……」


そうかちゃんとなのはに届いたのか。

それは良かった。


「なんでって、この間ホテルで密輸者から手に入れたから」

「ホテル? あ! あの窒息して泡吹いてたの一郎君がやったんだ……ちょっと納得したかも」


へぇCQCって意外と効くんだ。

あの後確認する暇がなかったから、どうなってるか気になって──はいないな。忘れてたし。


「そんな話はいいの! それよりどうしてあの場にいたの!?」

「……潜入ミッション」

「なにそれ?」

「極秘任務だ」

「極秘?」

「ああ、だから詳しくは話せない」

「そ、そうなんだ」


どことなく重い雰囲気を出したらあっさり信じてくれた。

ふっ、なのはよまだまだ青いな。

それに実はその赤い奴をもう一つ俺が持ってるとも知らずに……。

なのはとしばらく雑談をし、そろそろ解散かって雰囲気になったときになのはが唐突に言った。


「明日……明日終わらすから。それまで……よろしくね」


明日……明日が山場と言うことか。











翌日。

今日が山場と言えども気負うことなく、いつも通りにヴィヴィオと過ごしていた時の事だった。

久しぶりに見る、あの丸い奴──ガジェットが木の影越しに見えたのだった。

……なのはの目論見は外れたか。

俺のほうにも来てやがる……って、ここに何しに来たんだ?

ま、まさか!? 俺の赤い宝石を狙ってるわけじゃ!?

と、その前にヴィヴィオも守ってやらないとな。


「ヴィヴィオ、家のなかに入ってな」

「どうしたの? お兄ちゃん?」

「ちょっと、な。これからちょっと危ないことがあるかもしれないから、入ってな」

「う~ん、わかった」


ちょっと考える素振りをしながらも、ダンボールハウスにハウスしたヴィヴィオ。

さぁ、ここからはいよいよ俺の……俺の時間だ。

敵は一体のガジェットのみ……


「ふっ、ガジェット一体ぐらいどうってこと、は……は?」


すると、さらに奥にはもう一体見えた。

ちなみに二体ともまだ周辺をウロウロしてるだけだ。


「ま、まぁ二体でも今の俺なら勝てるだろ……え?」


どううやって忍び寄って不意打ちで倒すかを考える為に周囲を見渡したらさらにもう一体。

今の時点で合計三体。


「さ、三体か……く、苦しいが出来ないこともな──もう嫌だ」


もっと視野を広く、上手く倒せるコースは無いかと模索してみると。

出てくるわ出てくるわ丸い集団。

ぞろぞろと言うよりはごろごろと。


「だ、大丈夫……。まだあいつらだけなら問題ない。い、一応他に敵はいないかサーマルで確認を……」


サーマルをつけることにより熱源反応で生き物識別をし、多少遠くまで見渡すことが出来る。

周囲を確認すると、ああ、ガジェットだらけなのが改めて実感できる。

その現実を見て、がっくりとうな垂れて地面を見ると……


「あれ? おかしいな。地面にも熱源反応が……しかも人間のような機械のような」


明らかに普通の動物でもないし、ましてはただの人でもない。

しかし地面の中をかなりの速さで動くものが……そうか。

これは……無理だね。


「……一般人は大人しく、部屋に引きこもるべきだよねっ」


俺は戦闘なんて出来ないんだよぉ、こんちくしょう。

諦めてヴィヴィオの待っているハウスに戻った。

ああ、糞……あの光景を見ただけで体が震えてくるよ……


「お兄ちゃん大丈夫?」

「うっ……へ、平気さ」

「う~ん……いい子いい子。大丈夫だよ」


ち、小さい女の子に、慰められちゃった。

もう嫌だ、あのガジェット軍団……助けてなのはー!

でも、まぁ……ここに隠れてる間は大丈夫のはず。

きっと、たぶん、おそらくは……。

結局気付けば俺もヴィヴィオも寝てしまい、起きたころには周囲には何も反応はなかった。

二人揃って生き延びられたようだ。

もう……こんな経験は真っ平ごめんだ。











なのはから事の顛末を大体聞いた。

全てを話すことは規則柄できないが、それでも十分の情報だった。

つまりは今まではテロリストが管理局の陥落を狙っていて、それを防ぐのが仕事だったらしい。

大業なことで。

そして、その本格的な争いが昨日あり、敵の保有戦力の半分以上が確保されたらしい。

なんでも、相手が勝利条件に挙げていた人物の確保が出来なかった生で持久戦に持ち込まれ、せっかくの奇襲も失敗に終わったとかどうとか。

勝利条件になるほどの人物ってやっぱり管理局の偉い人なのかな?

残った敵の戦力は要るものの、逃亡を図り現在行方知らずらしい。

それでも、もう反抗できるほどの戦力は残ってないだろうから問題は無いとのことだ。

それよりも、今回のテロ。

実は管理局の上層部も関わってたとか関わって無いだとか……まぁそこら辺は俺にはあまり関係の無いことだ。

つまりは一応の平和が訪れたと言うことで。

俺に平穏な生活が返ってきたと言うことだ。


「まぁ色々あっただろうけど、お疲れさん」

「うん、ありがとう。……でも、実は今回の大活躍だったのは一郎君なんだけどね……」

「ん? どうして?」

「うーん、これはちょっと今は話せないかな。それよりヴィヴィオは?」

「ああ、ここに」

「ママー!」

「ヴィヴィオー!」


親子の感動の再会じゃないか、全く。

水を差すのは趣味じゃないし、なのはの話も終わったようなので俺はさっさとお暇する。

なのは……お幸せにねっ。

その後はいつものハウスに直行だったのだが……、そこで思わぬ人物に出会うことになった。


「ふふ、ようやく来たね。久しぶりだね、イチロー君」


そう、何を隠そう俺が今まで生きてこられたのはその人のステルス布の発明があったからだ。

本当に感謝してる人だ。

そして、その人と言うのは……


「あ、あなたは……紫の男!」

「な……他に呼び方は無かったのかね!?」


だって、名前教えてもらってないし。

それに……何だこの大所帯。

しかも、紫の男以外は全員女性じゃないか。

なんか夫婦っぽい雰囲気出してる人に、性格の悪そうなメガネに、血の気が多そうな人に、見るからにSっ気のある人……。


「ドクター、本当にお知り合いの方ですか?」

「この人が私のISの発案者だなんて、全然思えないわね」

「人は見かけによらぬ、ということではないか? クアットロ」

「……はぁ」


これはあれか、俺が挑発されてるのか?

しかも、発案者とかどういうこと? 全然意味が分からないんだけど。


「止めたまえ。彼は私の友人だよ。あー、イチロー君は私の事をドクターでも、好きなように呼んでくれて構わないよ」

「じゃあ、ドクターでいいや。それで何しに来たの?」

「ふむ、それなんがね……」


どうやらドクターはちょっとしたお金持ちだったようで、棄てられてしまった子供を拾っては育ててたらしい。

それが年が経つと、だんだん家計が厳しくなり、追い討ちとなったのが自身の職を失ってしまったらしい。

どうやら、それはこの間のテロが関係してるらしく、運悪く会社が潰れてしまったとのことだ。

そこでついに破綻して、家を失ってしまったとのことだ。

さらに悪いことに借金まで抱え込むことになり、この世界では普通に暮らしていくのが不可能になってしまったらしい。

……色々と突っ込みたいところはあるけど、


「大変だったと言うことは分かったよ」

「……まぁ君のせいでもあるんだけどね」

「ん? 何か言った?」

「いや、なんでもないさ。それでかつての約束を果たしてもらおうかと──」

「訪ねてきた、ということか」


なるほど、全て理解した。

つまりドクターは……、


「俺の弟子入りを望んでいると?」

「ふむ、まぁ間違いではないな」


来るものは拒まない。去るものは追わず。

つまりは……


「了解。俺がドクターを立派なホームレスにしてやるよ!」

「ああ、助かるよ。君と僕とでホームレスの天下を取ろうじゃないか!」

「あ、それいいね」

「だろ?」

「「ははははは」」

「ドクターを遠くに感じます」

「なんか楽しくなってきましたわ」

「く、クアットロ血迷ったか!?」

「……はぁ」


じゃあ、さっそく色々と教えなくてはね……。

あ、そうか。

魔法世界でドクター達は住めないんだっけ? じゃあ……あそこしかないな。











「なーんーで! 増えてるのよ!」

「ん? どうしたアリサ」

「ほぉ、君が噂のアリサ君かね? 噂はかねがね」


ドクターにホームレスの技術を教えるために、帰ってきたのは海鳴市。

懐かしき俺の原点の場所。


「しかも、男だけじゃなくて女まで……はっ! まさか、これって!?」


俺は海鳴市に帰ってきて、いの一番にマイホームへ帰った。

もちろんこの世界を知らないドクターたちを置いていくわけにはいかないので、一緒にだ。

ここで驚いたのは、ドクターの四番目の娘の能力がなんとあのステルス布と一緒だということだ。

おかげでここまで何の苦も無く戻ってこれた。

そして、数年放置してたのでさぞ俺のハウスはぼろくなってしまっているだろうと思って帰ってきたのだが……。

ハウスは昔の状態を維持されていた。

驚いてなかには言って確認すると……アリサがいたのだ。

いや、もっと驚いたよ。

その時の慌てようといったら、それはもう……、


「え、あ……あれ、一郎? か、帰ってきたの?」


いつもの力強さは無くすごく弱弱しくほほを赤く染めながらで、まるで……乙女のようだった。

というか、乙女かよって突っ込んだら、怒られた。

「乙女じゃないわよお姫様よ」って返したのは、さすがアリサ。俺の相方だった。

そして、ドクター達を見てこの状況である。


「そ、そうよね……結婚とか言ってたもんね……」


なんかすごくアリサが勘違いしているような気がする。

もしかして未だに、あれを引きずっているのだろうか。

さすがに可愛そうに見えてきたな……誤解を解いてあげるかな。


「結婚? はてイチロー君はしてなかったような」

「え?」

「してないよ、アリサ。何を勘違──痛っ!」

「い、一郎のばかぁーーっ」

「アリサ!?」

「一郎君もなかなかに罪な男だね。ホームレスなのに」


いや、ホームレス関係ないだろ……。

まぁアリサのことだから明日には元に戻っていると信じ、これからは……


「ドクター」

「うん? ああ、いよいよか……」


俺たちホームレスの時代が今始まる!














{今までお読みいただきありがとうございました。この作品は一応これにて完結と言うことにさせてもらいます。あとがきを読まない方とはここでしばしのお別れですが、

また作者の作品を読む機会があれば、是非ともお目を通して指摘なり、感想なりを書いていただけると嬉しいです。約三ヵ月半と言う期間ではありましたが、本当にありがとうございました}



[17560] あとがき
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/12 08:50
まずは、感謝の意を。

読者の皆様、今までのこの作品をお読みいただきありがとうございました。

どんな形であれ、ここまで書けたこと、完結できたことは皆様の力あってのことだと思います。

色々と至らぬ作者で作品でありましたが、本当にありがとうございました。

あとがきです。


では、感謝の言葉も述べさせてもらったところで多少お話をさせてもらいます。

この作品は一言、ネタに尽きたと言う感じでした。

最初の頃は、劇場版なのはを見て


「うぉおおお、熱い展開や感動のストーリー書いてみてぇ」


なんて思いながら書き始めたのに何をどう間違ったか、いつのまにか、あれよあれよのうちにネタ作品になってしまいしました。

まぁ作者は欝や熱いもの厨二ものやTSさえも読むような肉食系の読者でもありますが、自分では結局ネタに走ると言う行為しか出来ないのだと、軽く落ち込んだものでもあります。

それで面白ければいいんですけどね。

いつかは上記のような作品を書いてみたいのですが、どうもシリアスがシリアス(笑)になる傾向がありまして、

それを直さない限りは出来そうにないです。

直すにはそれなりに書いて、シリアス物を読まないと駄目なんですけどね。

そんなわけで、ただのネタ作品だったこの作品ですが……。

いや、一発ネタからの派生だったから最初からネタであることは変わりないのですが、実は色々な設定とか、案とかもあったわけです。

俗に言う、没ネタでしょうかね。

例えば、イチローは実はグレアムの孫とか息子とか、何か隠された系のだった!

とか。

本来ならスカさんとかに、デバイスを作ってもらったり師匠になってもらったりした!?

とか。スカさんのはスカさんフラグ消滅でなくなってしまったのですがね。

他にも、設定と言うわけでは無いですが、散りばめられたネタを全部把握した人がれば……是非とも親友になりたいものです。

かなり細かく抽象的に書いているので、分かったらすごいですけど……。

何かの機会で、間違い探しみたいにやるのもいいかもしれませんね。

今度作者もやってみるとします。

そんなわけで、ひたすら度肝? を抜くような設定もあったにはあったのです。

ほら、隠し孫とかなんだかわくわくしませんか? 修羅場的な意味で。

なさそうな設定を色々と考えた結果がこれらの案を、思い浮かんだ理由なのですが結局没で終わりましたけどね。

この作品の枢たるネタのダンボールは実は


「ホームレスといえばダンボールだろう!」


とか言う安易な考えから生まれたものです。よくもまぁ飽きずにそのネタを続けたとも言いますよね。

いい加減にしろと読者は思ってたかもしれません。

でも、手が! 手が止まらなかったのです!

こういう裏話的なIFの話的な話といえば、ENDの仕方ですよね。

何人の方はHPというか作者のブログを見られ、投票したのでご存知か、もしくは投票してくれた方もいたのではないでしょうか?

ご協力ありがとうございました。

結果としては、少しでも恋愛ENDを期待しない人がいたので、完結の際には関わらないようにはしました。

というかフラグを折りました。

一応恋愛ENDも書こうかなという気持ちはあるのですが、投稿するかどうかは未定です。

ブログではあげるとは思いますが、ここであげるかどうかは……。

是非とも読んでみたいと言うお方がいるのでしたらあげるかもしれません。

まぁそもそも書くかどうかも怪しいところですけどね。

ついで言うなら、考えられるENDとしては、

なのは√、アリサ√が、IFを合わせて二パターンとか。

スカさん√やこれまたIFをあわせ二パターンとか、そんな感じです。

後は外伝で、イチローが旅に出ている途中のみんなの心境とかそんな感じです。

後日談も書き始めたら結構いけるかもしれませんね。

旅の途中にこんな世界に言ったとかそんな話を。

考えれば考えるほど夢や妄想は膨らみますが……それでも、ここで完結ですね。

みなさんも色々といいたいことはあると思いますが、


「ネタだからねっ! あまり突っ込むと本当に穴だらけだからね!」


とだけ言わせて貰います。

ええ、作者も分かってますとも、あそこやここを突っ込まれたいいわけのしようがないことぐらい。

でも、そんな無茶苦茶な作品でも完結できたのは皆様のおかげですしね、本当に感謝してます。

感謝……といえば、この作品は異常にコメントが多かったように見受けられます。

最初の頃はコメントが常時5ぐらいつけばありがたいな、なんて思いながらだったのに、今までの投稿した作品の記録を次々と打ち崩す結果に驚きました。

ええ、泣きましたよ。


「こんなにコメントをもらえるなんて夢みたいだ、俺ここで死ぬのかな……」


なんて言いながら。

本当にビックリの連続でしたよ。

本当に感想コメントをもらえるのは嬉しいことです。

それがただの感想であれ、批評であれ、指摘であれ、誤字報告であれ、この一言一言が作品をお読みいただいた結果というのが一目で分かるものですから嬉しかったです。

見てもらえてこれほどのPVだけでも嬉しいのにですよ。

感極まると言うものです。

ありきたりな言葉ですが。

さて、最後に話を戻して裏話ですが、

作者は空白期を含むStsを書くのはほとんど初めてでした。

その分Sts編は大分お粗末のもの、また酷い展開もあったと思います。

たった四話ですが。

それでもいつかは書かなくてはいけないものなので、せっかくの公共の練習の機会として、相も変わらずの駄文のまま頑張らせて頂きました。

この作品を書いて、三度くらいスランプに陥ったりもしましたが、まぁそのスランプ時のところは誰が見ても何話だ、と言い当てられちゃうかもしれませんね。

そして気付けば、三ヵ月半にもわたって書いていたと……。

おかげで、始まったばっかしの、なったばっかしの大学生活の時間を半分近くこの作品に費やしましたよ。

後悔は無いですけどね。

おかげといってはなんですが、目の前にテストが控えて、あと一週間で誕生日です。

本当に月日を感じます。


……長く話をしすぎました。


では、これで最後になりますが。皆様と再び三度お会いできる日を心待ちにしてネタを暖めます。

どっかの作品のコメや一発ネタなどでまた、見かける機会もあるかもしれませんが、

なにぶんその時は温かい目でも冷たい目でも見ていただけるだけで嬉しいので、是非目を通してくれればと思います。

こんな文才のない男の文章力が皆無な作品をお読みいただきありがとうございました。

では、また運命の出会いを出来る事を楽しみにしてます。

ご愛読いただきありがとうございました。



[17560] ─番外編1─「すずか、アリサちゃんを見守ります」
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/14 07:57
※注意
本編とは全く趣旨が違います。
本編のような物(ダンボール的な意味)を望んでいる場合は見ないほうがいいと思います。詳しくは感想欄にて。
この話は、一郎が旅に出ている間の出来事です。
では、それでもいいと言う方はお読みください。


────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────


私──月村すずかには、この世界では唯一無二にして、自他共に認める最高の親友がいる。

アリサ・バニングスは綺麗な金色の髪を持ち、とても友達想い親友の想いの、私の大切な親友の一人である。

彼女を含む、私の親友達との出会いを語り始めれば。

それこそ今から十年近くも時を遡り、それはもう普段は自分ってちょっと冷めてるかも? なんて思う私でも熱く語らなければならない。

否、たぶん語ってしまうだろう。

それほどまでに私は──たぶん私たちは長い付き合いで強く結ばれた絆がある親友であり、これからもずっと親友であるのだと思う。

そんな彼女アリサちゃんの様子がおかしいのに気付いた。いや、本当はずっと前から。

これまた十年ほど前から語りださないと、アリサちゃんの心境を説明するのは難しいがそれは割愛。

結論から言えば……


「あいつ……今どこでなにやってるんだろう……」


このように誰かを想って上の空になることがしょっちゅうと言うことだった。

無意識で上の空になっちゃってるから、注意しても無駄なんだよね。

昔はよく注意してあげたんだけど、今じゃもうこれがアリサちゃんらしいって感じだよ。

でも、ここでちゃっかりあいつって言って抽象的にしてるのも無意識なのかな?

自分の想い人を知られないようにする自己防衛?

それでも私たちはアリサちゃんが誰のことを想ってるか分かってるけどね。

幼少からの付き合いは伊達じゃないし、ずっと傍で見守ってきたんだから。


「あいつって誰かな?」


でも……そんなアリサちゃんに、ついつい悪戯心が出ちゃうのもしょうがないことだよね?

すでにこの質問を言ってのやりとりも前から何度もやってるけど、こう言うとアリサちゃんは、顔を真っ赤にしながらうろたえるんだよね。

その姿がなんだか恋する乙女って感じで、可愛いんだよ。


「あ、あ、あ、あいつはあいつよ! 今ごろどこをほっつき歩いてるんだかっ! まったく……」


……計画通り。ニヤリって感じ。

今日もりんごのように真っ赤な可愛い顔をありがとう。

あいつ──ほっつき歩いているあいつというのは、つまり一郎君のこと。

私と一郎君というは、別段アリサちゃんやなのはちゃんのように深いかかわりがあるような間柄ではない。

ただ、私のお姉ちゃんとはちょっとした師弟関係だったりもするんだけど……そこら辺は私にも分からないんだよね。

確かにお姉ちゃんを紹介したのは私だったけど、その後は守秘義務だとか何とか。

お姉ちゃんに技術を叩き込まれた一郎君の技術も私から見ても目を見張るものがある。

ただ……。

ただ……。

専門がダンボールってどういうことなの?

ええと、まぁ……深く考えたら負けだよね。

うん、そうだよ。あの一郎君だからね。

それこそ考えすぎたら、なのはちゃんやアリサちゃんの二の舞。

ボケの嵐に、突っ込まざるを得ない状況に至り、自然と突っ込み能力が鍛えられてしまう。

いうならば、一郎君と言う存在が自動芸人育成器みたいなもの。

別に巻き込まれるのが嫌と言うわけではないが……ね?

私がアリサちゃんやなのはちゃんのように、人に突っ込んでるところなんて想像できないよ。

それこそ私が、私ではなくなるような……一郎君、恐ろしい子だよ。


「そんなに心配なら、なのはちゃんとかに伝達とか頼めば?」

「その程度で見つかるなら苦労しないわよ……」


一理ある。

神出鬼没にして、唯我独尊というか。

独特の世界観に、どくどくの完成を持ち合わせ、謎の力を用いる一郎君を補足するのは至難の業。

それこそアリサちゃんの家──バニングス家が総力を挙げてももしかしたら一郎君の行動を把握することは不可能かもしれない。

もちろん、私の家の月村家に置いても同様に。

どちらにしろ、一郎君はなんか次元旅行とか行ってるらしいからこの地球にしか権力持ってない私達には無理なんだけどね。


「なのはも管理局の知り合いとかに頼んで、ある程度は一郎の安全を確認できるようにしたがってたんだけど……管理局もお手上げとのことよ」

「あはは、本当に一郎君はすごいね」

「でも、あいつのことだからこうやって会話してるときに急に現れても不思議じゃないわよね……」

「……否定できないところが本当にすごいよね」


数年前なんて、アリサちゃんの家に急にやって来たかと思ったら、子供をつれていたらしいし。

ああ、そうだ。

あの時のアリサちゃんも面白かったなぁ。

顔を真っ赤にして、息を切らして酸欠になってフラフラになりながらうちに来たときはビックリしたけど、一番ビックリしたのは、

閉口一番に「い、い、一郎が……こ、子供を……ほ、本当に結婚しちゃったのかもしれない」なんて言いながら泣き出すんだもん。

あんな弱気な──少女なアリサちゃんを見るの初めてだったかもしれない。

いつだってアリサちゃんは自分の胸の内は悟らせないようにしているのだから。

でも、その言動は最初は意味が分からなかったなぁ。

いきなり結婚とか子供とか言われても私が慌てちゃうと。

勘違いして、アリサちゃんが子供を身ごもって結婚するのかと思っちゃたし。何時の間に一郎君とそんな仲に……とも思ったし。

勘違いだったけどね。

もっと前には、なのはちゃんを通しての結婚宣言なんかもあったよね。

なのはちゃんもアリサちゃんも結婚と言う単語に捉われすぎて、映画にありがちな死ぬ前のシーンってことに気付いてなかったよね……。

二人してあたふたしてる姿は貴重で見てて、和んだけど。

本当に一郎君は罪な男だよね。


「ふふふ、出てこれるもんなら出てきなさい。絶対に驚いてやらないんだからっ!」

「別に一郎君は驚かそうとしてやってるわけじゃないと思うけど」

「すずか甘いわよ。一郎は何時如何なる時も、私を脅かせてきた。そう、これはきっと私とあいつの戦いなのよ!」


握りこぶしを作って力強くそう語るアリサちゃん。

さり気無く、私を除外している辺りどうなんだろう?

この場と言うか、この場所を提供してるのは私なのに。

でも……しょうがないかな。

アリサちゃんって一郎君の事を考えてる時は、全然周りが見えないから。

しかも、なんていうのかな……アリサちゃんの場合は恋で見えなくなるというより、「今度こそ絶対に勝つ!」みたいな感じ?

たまにすごく恋してるなぁって感じる時もあるけどね。

例えば……


「というか、今すぐ出てきなさいよ! 決着をつけるわよ!」


これをエキサイト通訳すると「もうっ! 私は一郎がいないともう駄目なんだからねっ! だから早く帰ってきてよぉ」と言う感じだね。

付き合いの長い私が言うんだから、むしろこれが正しいと言えるんじゃないかな。

きっと、たぶん、おそらく……じゃないかな。


「一郎君のことだから、そんなこと言って出てくるとは思えないよ?」

「そ、それもそうよね……。じゃあ、出てくるな、絶対に出てきちゃ駄目よ一郎!」


逆に言えば出てくるんじゃないかと思う辺り、もうアリサちゃんは……。

でもさっきからこれって、一郎君が出てくるのを素直に望んでるとも取れるんだけど、アリサちゃんは自分で気付いてるのかな。

たぶん、気付いていないと思うけど。

さり気無く必死だよね、アリサちゃん。


「むしろ、あれじゃないのかな」

「あれって?」

「いつの間にか、あの家に帰ってるなんてこともあるんじゃないかなって」

「……ありえるわね。そっか、その手があったわね。わざわざ受身でいるよりも、来るであろう場所で待ち伏せして、こっちが攻めてやろうじゃないの!」


待ってなさい一郎、ここからは私のターンよ、とアリサちゃんはものすごい意気込む。

まるで、ようやくあの家に行く口実が出来たかのようだった。

う~ん、理由を与えちゃったかな?

まぁそれでアリサちゃんの恋路が上手く行くなら私としては嬉しいことだけど。

親友の恋が叶うのならば、親友である自分はまるで自分のことのように一緒に祝福できる。

相手が一郎君と言うだけで、難儀な話であり、それが叶うとは想像もできないけどね。

アリサちゃんもとんだ人に惚れちゃったよね……。

本人には自覚はまだないようだけど。











──張り込み一日目

「さぁ何時だって出てきなさい!」


ダンボールでできたテーブルを勢いよく、叩きながら見えない相手に挑発をする。

誰に向かって挑発をしてるの? アリサちゃん……。

それじゃあまるでドン・キ・ホ──


「あ、テーブルが壊れちゃった。え……ええと、どうやって直せばいいのかしら……」


──三日目。

「まだまだ始まったばっかし……じっくりと追い詰めてやるわよ」


相手がこの状況を知らなくちゃ追い詰められないんじゃ……。


──一週間目

「そ、そろそろ来るんじゃないかしら。……はぁ。…………はぁ」


そんなに来て欲しいなら素直に言えばいいのになぁ。

そしてさらに数ヶ月が経った。

「帰ってこない……出てこない……現れない……そうよね、数年待っても現れないのにたった数ヶ月張り込みした程度で出てくるわけないわよね。ふふふ」


瞳に色がなく、自暴自棄に成りかけているアリサちゃんだった。

アリサちゃんがこの数ヶ月もの間、毎日……毎日あの家に行っては待ち伏せしているのに全く現れる気配はなかったようだった。

アリサちゃんだって暇なわけじゃないのに、毎日大変だよね……。


「アリサちゃん。そろそろ、諦め──」

「嫌よ! ぜっっったいに嫌! ここまでやったからには意地でも待ってやるんだから!」

「アリサちゃん……」

「そ、それに……私がこの家を守らなかった誰が、守るのよ。こんなダンボールの山なんてごみと一緒に処分されるのが関の山じゃない!」


うん、アリサちゃんの決意は分かったよ。

私の考えていた以上──だったんだね。

それなら私はアリサちゃんの親友として、アリサちゃんを影ながら見守らせてもらうよ。

一郎君……もし、アリサちゃんを不幸にするようなことになったら、私が許さないからね。




それから数ヵ月後にすずかは、久しぶりに帰ってきた一郎のことを嬉々として報告するアリサに柔らかな笑みを見せ、再びアリサの幸せを願うのであった。













{こんなアリサ……あったと思います! ……たぶん}



[17560] ─番外編2─「魔法考察 全」
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/07/19 14:33
「そうだ、模擬戦をしよう」


閉口一番に、名案を思いついたかのように満足気な顔でそう言ったのは高町なのは、その人である。

故郷である海鳴に戻ってきて、約一週間が経ち、ドクターたちの生活も少しずつ安定──ホームレスが安定かと言うとさらさら疑問ではあるが、

それでも、この暮らしに慣れてきたころであり、それは俺の指導の成果とも言うべきものだった。

ドクターたちは魔法世界にばれると色々とやばいらしい。

話によると借金取りだかなんとか。会社が潰れたのだからその通りか。

そしてこの魔法のない海鳴に来たのも、逃げるためだというのだから当たり前か。

よって、なのはたち管理局の面々にはばれてはいけない。

アリサにはすでに知られているが、察しのいいアリサは黙ってくれると言う。

というか「別にあんたちホームレスなんかに興味なんてないわよ」なんて言われてしまった。

言われて見れば……普通はそうだよね。

なのはは久々の休暇だといって、ここ海鳴に地元帰りというわけだった。

地元帰りでなんでダンボールハウスによるのかは、これまた疑問ではあるが。

もはやお決まりのような気もしなくは無いので気にしない。


「いやそんな『京都へ行こう』みたいなノリで話されても……」

「なのは無理よ。一郎に京都へ行くお金は無いわ」

「京都へ行く話じゃないよ? アリサちゃん」

「だったら徒歩へ行けばいいんじゃないか?」

「自然破壊でもするつもり?」

「喧嘩が強くなれそうだな」

「良かったじゃない。それでなのはとの模擬戦も勝てるんじゃない?」

「その手があったか! ちょっと京都に行って来る。ついでに、あの剣術家で芸術家の人も見つけて教えを請うてみるよ」

「ふ、二人とも何の話をしてるの……?」

「「浮浪者な剣士の話」」


流浪人? 違うな、浮浪者だろ?

しかしなのははなぜ、俺と模擬戦をしたがるのだろう。

俺なんて戦闘能力の一欠けらもないただの一般人だというのに。


「あのね、昔に一郎君に私が魔法を教えてあげてたでしょ?」

「ん? ああ、そうだったな」


今でもあのころはトラウマに近いものがある。

それほどまでになのはの魔法の特訓は厳しいものであり、普通の人には到底ついていけないような内容だった。

理不尽な特訓。

なのはの特訓にはそのイメージが強いのだが、今ではそうでもないらしい。

本人から聞いたわけではないが、風の噂と言うやつでなのはの教導の風評をミッドチルダにいるころに聞いたことがある。

それでも昔と変わらず、バシバシ! ビシビシ! ブシブシ! と厳しく新人達を鍛えているとのことだった。

ようするにあれだ……俺は──


「──犠牲になったのだ」

「うん? どうしたの、一郎君?」

「昔のなのはの魔法の特訓を思い出したんだよ……」

「にははは……その……あの時はごめんね」

「いや、いいんだ。すべては過去さ」


今となってはきっといい思い出……じゃなくて、苦い思い出だが。

それを含めてやっぱり思い出の一ページなので、別に悪いことでは無い。

それだけ皆、成長し、年をとったと言うことだろう。

変わらない人間もいるとは言うけれど、成長しない人間と言うのはあんまりいないんじゃないかな。

まだ十九歳で青春真っ盛りだとは思うけどね。


「うん、そういってもらえると助かるかも。それでね、今回の模擬戦の理由なんだけど」

「俺を苛めるのが目的か? 幼少時代の復讐に」

「ちょ、なのは止めなさいよ! 一郎はこう見えても貧弱なのよ! なのはが本気出した手前、塵も残らないわよ!」

「え!? そ、そんなんじゃな──」

「アリサ……その言い方は俺がちょっと傷つくな。貧弱とかさ。それに、塵ものこらないって……なにかしらは残るだろ」

「灰が残るって事?」

「あれか? アリサはどうしても俺の存在を消滅させたいのか。いい度胸だな、いいだろう。ならば戦争だ! なのはをやる前にアリサをやってやる」

「何よ。私とやろうって言うの?」

「ふん、舐めるなよ。俺は戦わないが、我が同胞にはダンボールの師匠がついているのだぞ! 勝てると思うのか!」

「あれだよね……アリサちゃんも一郎君もすでに私の話聞く気ないよね」

「一郎が戦うわけじゃないのね……・」


よほほと泣きまねをするなのはであった。

俺は戦わないぞ? 逃げの一郎とはまさに俺のことだと思う。

ちなみに、ダンボールの師匠はダンボールを使いこなすと言う能力以外にもありとあらゆる武器になり得そうな物を使いこなす力を持ってるんだぞ。

この間また会ったときに、色々と教えてくれたよ。

森の中での食べ物の見つけ方とか。

何故か、森の中にカ○リーメイトがあったのか不思議だった。


「で、何の話だっけ?」

「本当に聞いてなかったのっ!?」

「冗談だよ。模擬戦をしたいんだろ?」

「うん!」


出来れば痛いことは避けたいものだけど……なのはは、なのはなりのあの時の事にけじめをつけようとしているのだとしたら。

まぁ一回限りならやってやれないことは無い……ね。

一回だけなら。











と言うわけで、決戦の日を一週間後にしてもらい、その間に対なのは対策の為の準備期間となった。

やるからには負けたくないと言う男のプライドみたいなものでもある。

さて、勝つためには相手の情報収集からしなくてはならない。敵を知ると言うことが、勝利への第一条件。

俺はなのはの昔の戦い方しかしらないので、最近について知ってる人に情報を得る必要があった。

なので……


「で、どうなんだ? なのはの戦い方と言うのは?」

「い、いつのまに目の前に現れたの?」


全然気付かなかったんだけど……と、額に汗を浮かべながら苦笑するのフェイト。

知らなかったのかい? やつは唐突にどこにでも現れるんだ。


「それに、なのはの戦い方って?」

「うん、それが実はな……」


事の顛末を簡単に話す。

顛末といってもなのはと模擬戦するからの一言で事足りるような気がしなくもないのだが。

それはそれ、協力者にはちゃんとした情報を与えるのも義務だと考えた。


「そうなんだ……。なのははね、すごく強いよ。イチローが勝つのはたぶん……無理だと思う」

「すごくとか、無理とかそんな言葉が聞きたいわけじゃないだ。なのはの戦闘スタイルを聞きたいんだ」

「……そうだよね。戦う前から諦めちゃ駄目だよね。それにイチローはすごいからもしかしたら……。うん、じゃあなのはの戦い方だけど」


フェイトの情報を頼りに、戦略を練ってみる。

なのはは、空中戦が得意のようだ。

なのはは、防御力が人一倍強いようだ。

なのはは、砲撃が人三倍無敵のようだ。

なのはは、空中要塞だった。

……勝てる気がしない。

人間は陸の生き物なんだ。

その人間が空を自由に飛んで制圧する権利なんてないんだ……。

そんなの……そんなの……、


「鳥類が黙ってないぞ!」

「な、何が!? ってあれ一郎君いつの間にいたの……全然気付かなかったよ」

「お、おぼえてろよーーっ!」

「え、あ──」


空を自由に飛ぶなんて、人類なのか鳥類なのかハッキリしろってんだ。

あれか、鳥人類なのか?

あ、そうか……超人類なのか。

兎も角、相手を知っても絶望しかもたらさなかったので、今度は自分が勝つために出来る事を模索する必要が出て来た。

本来ならなのはの弱点を突いて倒すのが手っ取り早いのだが、フェイトの情報を聞いた限りでは弱点はなさそうだった。

なので、俺自身は魔法に疎いんで、「実は私たちは特化した能力が一つあったのさ」と語っていたドクターの愉快な仲間たちの下に教えを請うてみる。

まずは一人目……ドゥーエさんである。

彼女は変身魔法が得意らしい。


「自分より強い相手を倒す方法?」

「何かいい案はある?」

「そうねぇ……戦いって戦いが始まる前からはじまってるって言う言葉知ってる?」

「一応は……」

「なら簡単よ。イチローには優れた隠密能力があるのだから、それを活用して」

「活用して?」

「闇討ちをすればいいの」

「ひ、卑怯だ! 正々堂々と戦う気がないよっ!」

「闇討ちは嫌だった? なら暗さ──」


ドゥーエさんに聞いた俺が馬鹿だったのかもしれない。

そういえば、あの人はとてつもなく陰鬱というか、サディストと言うか……そんな気があるから怖い。

でも、隠密せいを活かすと言うのはよかったかもしれない。

次は正統派の戦いを得意とするらしいトーレさんに聞いてみる。


「格上と戦う方法だったな」

「どうやったら勝てるのかなぁと」

「そんなの簡単だ」


お、なんかすごい得意げな顔になった。

これはもしかして大当たりを引いたのかもしれない。


「相手より強くなることだ」

「……は?」

「そうときまれば、イチローよ、特訓だな!」

「え、あ……ちょ──」


※ただいまイチローが過酷で理不尽極まりないトレーニング中につき、少々お待ちください。


──死ぬかと思った。正統派の怖さを知った。

やつらは二言目には特訓だとか、修行だとかでどうかと思います!

そもそも一週間の特訓で強く慣れるなら苦労はしないよ。

ただ、正論だったゆえに反抗ができなかった。

でも、正論だったゆえに参考にできなかった。

思い直して、ウーノさんに聞くとする。

聞くところによると彼女は、戦略家のようだ。

もしかしたら戦術的になのはに勝てる方法を編み出してくれるかもしれない。


「で、どうで──」

「無理じゃないですか?」


撃沈だった。

それはとことん冷血に冷静に一切の感情をなくしての一言だった。

何を根拠にそんなこと言うんだと反論したら。

色々と俺となのはのデータを引き出して、説明された。

それはもう事細かに、いかに不可能かを教えてくれた。

かなり萎えたがそれでもなのはは待ってはくれないのだ。

もはや次に賭けるしかなかった。

次は……クアットロは……いいとして、ドクターに聞いてみよう。

きっといいアイディアとかくれるかもしれない。


「おや、イチロー君じゃないか! いいところに来たね」


ドクターがなんだか怪しげな物を両手に持っていた。

片方は明らかにスナイパーナイフルのようなもので、片方は……ねぎ?


「実にこの世界は素晴らしいね! この世界に来て読んだ文学の本で、まさか風邪の日に食べるといい野菜が伝説の魔剣になっていると思わなかったよ!」

「絶対にドクターは文学を間違ってると思う」


その本はたぶん、題名にひたすら「ボ」と言う文字のつくやつだ。

下ネタがやたら多い割りに、下ネタのギャグよりも、潜水艦が放つミサイルの人が出てるときのほうが面白かった記憶がある。

あ、あとところてんも好きだったな。

ドクターはそのうち大根も幻の魔剣だとか言い出さないだろうか。

心配だ。


「違うのかね? この国はOTAKUというのが、最先端の文化だと聞いたのだが……」

「誰だよそんなの言ったやつ……」

「2chというのは番組の名前かなにかなのかね?」


ああ、そこですか。

ドクターに良くない常識が備わりそうで怖いよ。


「話が逸れてしまったね。君はデバイスを持っていないようだからこの二つをプレゼントしようと思っていたのだよ」

「これデバイスだったんだ……」


片方は明らかに銃刀法違反だし、片方はもはや武器ですらないぞ……。

それでも俺はデバイスを持ってなかったからもらえるのなら喜んでもらうのだが……素直に喜べないのが現実だ。


「では、デバイスの説明をさせてもらうよ。このデバイスはだね……」


スナイパーライフルのデバイスは見た目通りの銃型のストレージデバイス。

本物と違うのは、銃弾の変わりに魔力を込めて魔力弾を撃つこと。

この銃から放った魔力弾はサーチ不可能で、目視でしか確認できない。

つまりはちょっとした付加能力つきのサイレンサーってことだ。

ただストレージデバイスの為、魔力を込めて撃つ、それがばれない、ということしかできないらしい。

いや、その能力特化ゆえにばれないという付加能力がついたのか。

飛距離はかなりあり、安定性も抜群だが使い慣れないことには扱えないだろうとの事。

練習が必要のようだった。

攻撃力はそこそこのもので、貫通力はある。

ただ、砲撃のようなまとめて薙ぎ払うと言うことは出来ない。

まぁスナイパーだしね。

戦い方としては相手の急所に一撃を当てるという戦法になるだろう。

まだ名前をつけていなかったので、ドラグノフと名づける。

実際にある銃の名前だけど、気にしないでおこう。

鉄の拳に同じ名前のキャラもいるし、俺はあいつ好きだしね。

さて、方やねぎの方は……説明いらないんじゃないかと思うが、一応は説明。

伝説の魔剣。

以上。

命名はイチローソードでいいや。

深く気にしたらいけないと思ってる。

色々とアレなデバイスだが、くれたことにはドクターに感謝する。

無いよりは勝率は上がったのではないのだろうか。

特にドラグノフは使いこなせれば強いんじゃないかな。

ちなみに、首領パッ──イチローソードは一応インテリジェントデバイスで普段は丸いので、ネックレスにして首から提げることにする。

ただAIが……首領○ッチなので、起動のとき意外は常にスリープ状態で、ただの武器として使うことにしよう。

なんでアームドにしなかったんだ、なんて思ってもいないよ。











決戦の日。

この日までの一週間のうちにひたすらドラグノフを扱う練習をしてきた。

こんなに真面目に練習いたのは初めてのような気がする。

決戦の場所は、なのはがあてがってくれた、六課の訓練所である。

今日は新人たちは休暇の為、空いていたここを使わせてもらったようだ。

はやても快く頷いてくれたと言っていたが……はやてって誰だっけ?

まぁいいや。影の薄い人はこの際どうでもいい。

それよりも……


「やっとだね、一郎君。これでようやく……一郎君に魔法を教えることが出来るよ」

「それってなのはにとって魔法を教えるのって、まずは魔法の恐怖を身体に叩き込むから始めると言うことか?」

「ち、違うよっ! 私はただ教える前に、教える人の実力を測る為に一番手っ取り早い模擬戦をするだけ。またいつこういう機会があるかも分からないし、それに……」


一郎君の実力も知りたいしね、と答える。

俺の実力なんてそこらへんの有象無象の魑魅魍魎と変わらないと思うんだけど……。

でも、まぁしょうがない。

やるからには、ちゃんと相手をしてやる。


「分かったよ。ちゃんと本気でやるから」

「うん! 期待してるね! それじゃあ、はやてちゃん」

「分かったで……じゃあなのはちゃんvs一郎君、レディー」


GO! と言う掛け声が訓練場に響き渡る。

俺は声と同時に、閃光玉(ドクター製)をフィールドに投げつけて、相手の目をくらます。

案の定、光によってなのはがこちらを少し見失ったので、すぐにステルス性能のダンボールを被り、サーチャー対策をする。

ここは廃墟の設定の訓練場。立て篭もるのには実に都合がいい。

ダンボールを被ったままで、道にいても見つかってしまうので、廃墟内へと進入。

なのはは空中で旋回を続けながら、サーチャーをあちらこちらへと飛ばす。

探索に集中して、隙が出来るかなと考えていたのだが、その考えは甘かったようだ。

隙が見つからない──というか分からなかった。

上手くタイミングを見ながら、徐々になのはとの距離を離す。

この訓練場全体がドラグノフの射程範囲内なので、めい一杯に距離を置く。

遠ざかる過程でなんどか目視されそうになったが、そこは再び閃光玉。

他にも煙玉や痺れ罠、落とし穴も準備してきたが、煙玉はすぐに範囲外へ逃げられ、自分を一時的に身を隠すことしか出来ないので接近戦仕様。

痺れ罠と落とし穴はそもそも地上にいないので無意味だった。

それでもなんとか、目標地点にたどり着く。


「あとは、ここからドラグノフで気付かれないようにピンポイントショットを撃つだけだ」


廃墟が邪魔で中々当てられるタイミングが見つからない上に、飛ぶ軌道が読めないので悪戦苦闘。

ようやく当てられそうで放ったはいいが、避けられてしまう。

否、こちらの照準があわない。


「これが空のエースの力なのか!?」


俺からすれば今の状態を保ってるだけ、俺頑張ってるな、なんて自画自賛したいぐらいなのだが。

それでも、このまま真剣勝負なので負けるわけには行かない。

何度も何度もたまを放つ。

そろそろ魔力切れで厳しいなと思ったときだった。

疲れのせいで、魔力弾を放ったドラグノフの反動をもろに受けて、軌道が逸れてしまったところになのはに向かって飛んだ。

弾は真っ直ぐなのはに向かって飛んでいった。

もちろん飛んできた弾になのはは反応できるはずもなく、胸に直撃した……が。


「おい、少しふらつた程度で対してダメージがないじゃないか……」


自分自身の魔力の低さに泣いた。

しかし、当てることは出来たので、この調子で何度も当てていけばいいのだが、今はまずこの場を離れなければならない。

当たったと言うことは、向こうも当てられたことが分かると言うことであり。

攻撃をされればある程度は、場所の特定も不可能ではなくな──


「そっちにいるんだね、一郎君!」


なのはがこちらに向けて銃身──レイジングハートを向けた。そして、集まるピンク色の魔力。

なのはは……俺のいる廃墟ごと吹っ飛ばすつもりのようだった。


「おいおい、そんなのって……」

「行くよぉー、ディバイィィィィン」

「くっ、こうなったら!」

「バスタァァァァーーーー」


ピンクの砲撃が当たり一面を覆った。

俺の立て篭もった廃墟はきっと、今頃は解体完了になっていることだろう。

しかし、俺は……


「ふっ、耐え切ってみせたぜ!」


まわりは爆風? のせいで煙が立っていた。

そこにさらに煙玉を使ってかく乱。俺はダンボールのステルスを使ってその中で身を潜める。

さすが俺が地道に……地道に溜め込んだ魔力を全部使って、防衛システムを発動させたダンボールだけはある。

なのはの一撃をものともしなかった。

だけど……止められのは一撃限りなんだよね。

今から隠れて、やり直すのは厳しい状況。

ここからは近距離戦しかないが……ドラグノフが効かなかった。

となると残るは……。

手元には一本のねぎ、もといイチローソード。

……あれ? これって積みじゃない?


「一郎君無駄だよ。そこにいるのは分かってるから。こんどこそ終わりだからね……」


魔王による死刑宣告が聞こえた。

やばい、本当にどうしよう。

逆転の手、逆転の手はっ!?


「スタァァァァァライトブレイカァァァァァ」


ピンクの砲撃が俺を襲う。

と、とにかくねぎを一心不乱に振る。最後の抗いで意味が無いと思いながらも……。

すると、奇跡がっ!

なんと、このねぎ相手の魔力を吸収しているじゃないか。

インテリジェントデバイスのインテリジェントってつまり、どっかのゼロな魔法使いに出てくるあのおしゃべりな刀的な意味だったのか!

ドクター……やりおる。

これなら、これなら勝てるかもしれ──


《魔力吸収可能許容範囲を超えちまったぜ!》

「ぷぎゃあああああ」


夢は寝て見ろ、ということだったわけで。

俺はその後、ピンクの閃光のおかげで夢を見ることになったのだった。

いや……気絶しただけで、模擬戦に負けたんだけどね。

起きた後は、なのは教官の優しい訓練でいい夢が見れたと言う話であった。











{作者誕生日特大号。戦闘を書くのは苦手だったけど頑張った。無理があったら教えてください。イチローはデバイスを手に入れた}



[17560] ─番外編最終話─「アリサインマジカルワールド他一点」
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/08/05 23:07
なんと! いまミッドチルダではダンボールが大流行中!

被って良し、食べて良しのダンボールはまさに万能そのもの!

一度被ればその存在は相手に気付かれることはなく、ミッション成功への鍵となる。

食べるには肉まんが最適。

お肉と同じような食感で、見た目のお肉と変わらないのにカロリーだけは段違い。

カロリーが気になる貴方にもお勧めの一品です。

こんなダンボールはイチロー工場だけ!

さぁ今すぐ貴方もこのダンボールを被って流行に先駆けよう。

『ダンボールを被って俺とミッションだ!』

ダンボールの未来を切り開くイチロー工場。


「……という夢を見たんだが」

「そうね。大丈夫よ、一郎。私は一郎がどんな変人になってもちゃんと付き合ってあげるから」

「……喜んでいいのか?」

「喜びなさい」

「わーい」


なんてくだらない夢を見てしまったのだろうか……。

夢は時に人の願望を表すというから、もしかしてこれが俺の願望?

工場長が願望って……じゃあ、試しに爆発する人形でも作ってみるか。











機動六課という組織は一種の魔の巣窟だと、俺のホームレス仲間であるドクターは発言した。

確かに、なのはやフェイトと言った魔導師として最高ランクに位置するような人物はいるが、俺はそこまでの恐怖感を抱かない。

なのはが魔法を教えたり魔法を使っている姿には一種の恐怖を味わうことはあるが、なのはという人間に関してはそうとも言えないことを俺は知っている。

だからドクターのその発言は真のなのは──おっちょこちょいでアホな姿を見たことないから言えるのだ。

会えばその考えは変わるぞとドクターに進言したのだが、ドクターは苦笑いを浮かべて謹んで遠慮するとのことだった。

もしかしたらドクターにもなのはがトラウマを植えつけたことがあったのかもしれない。

まぁそれは俺の預かり知らぬところである。深く気にする必要も無いだろう。

さて、なぜ六課やなのはの話をするかといえば、呼び出しを食らったのである。

誰に? 八神はやてという機動六課の部隊長にだ。

八神はやてという言葉をどこかしらで聞いたことがあるようなないようなという感じなのだが……。


「覚えてないという事はそんなに関わりのない人物だろう」


そうに違いない。

見ず知らずではないのかもしれないが、だからといって、来いと言われてはいそうですかというような殊勝な心は俺は持ち合わせていない。

だから俺はその言葉に、断固拒否するという言葉を添えて、なのはに伝言を頼んだ。

頼んだのだが……いつの間にかピンクのバインドに巻かれていた。

いつのまにかは俺の十八番だというのに、なのはに冠を取られてしまった。

これじゃあただのダンボールを被る変人に成り下がるじゃないか。


「どうして俺を拘束する? ただの平和の使者じゃなかったのか?」

「平和の使者って……」

「そうか悪魔の使いだったか」

「悪魔でいいよ。悪魔は悪魔らしいやり方でって、私は悪魔じゃないっ!」

「今更感のある突っ込みだね。むしろ魔王と言った方が──」

「何か言ったかな?」

「……魔法って脅しの道具じゃないと思うんだ」

「冗談だよ~」

「そもそも魔法というのは狩りなどに──」

「そ、それも違うと思うよ……」


あはははと笑いながら冗談だと言ったが、目がマジだったのに冗談といっても説得力に欠ける。

『国家権力に俺は屈しない!』と電灯に誓ったあの日が懐かしい。

今はこうやってなのはに脅されただけで萎縮してしまう自分がいるのだ。

このままではなのはに魔法を振りかざされて、結婚してくれなんて言われても恐怖で頷きかねないな。

……まぁそれとこれとは別の話か。

なのはが誰かに恋してるって話も聞かないし、そもそもなのはに青春は似合わないしな。


「それではやてっていうやつに呼ばれた理由はなんなんだ? 呼び出しをくらう理由は皆目見当もつかないんだけど」

「う~ん、なんだろうね」

「なのはも知らないのかよ」

「『連れて来い! これは部隊長命令やで』って言われただけだからね」

「なんという権力乱用。管理局がそれでは未来は暗いな」

「イチロー君の未来はいつも暗いよね」

「お、なのはも言うようになったな」

「もうっ! これでもイチロー君との付き合いは長いんだよ?」


なのはがえっへんといった感じに胸を張りながら自信満々に言った。

ふむ、中々胸が……と考える辺り、俺はもうおじさんかもしれない。


「そうか。そうだったな」


その後二人で、ぐはははと笑いあい不思議な空間が出来上がった。

よく考えれば俺ってなのはに皮肉を言われただけなような……気のせいか。

なのはに案内されて着いたのは六課の部隊長室。

何の変哲もない扉をなのはがノックをし、中からどうぞの声を聞きなのはと一緒に入室した。


「うむ、ご苦労やった高町一尉」


下がってよろしい、と言うとなのはが苦笑しながら「じゃあまたあとで」と苦笑しながら退室した。

まるでどこかの指令のように、机にひじを付き手を組む女性の姿そこにはあった。

その女性こそが八神はやて、俺を呼びつけたその人だろう。

そして、入り口からやけに彼女がいる机までが遠いのは、明らかにどこかのアニメをイメージしてるに違いない。

わざわざイメージする辺り、普段から威厳がないとか自分で思ってるのではなかろうか。

ま、どうでもいいけど。


「鈴木一郎──いや、一郎君! 久しぶりやな」

「……?」


久しぶり? どこかであったことがあるのだろうか。

俺には全く記憶がないのだが……だからと言って知らないというのははばかれる。

やっぱりここは話の馬を合わせて……面倒だからいいか。


「すみません、どちらさまでしょうか?」

「な、こ、この美少女だった八神はやてちゃんを忘れたやと!? そんなのは許されない、断じて許されない!」

「だったと過去形な辺り、今は美ではないと自覚?」

「そ、そういう意味やない! 少女やないという意味や!」

「おばさんだと?」

「ああもう! ああ言えばこう言う! 本当に何も変わってへんな一郎君は」


はやて曰く、俺とは昔何度か会ったことあるらしい。

昔の知り合いというと、なのはやアリサが真っ先に思い浮かぶが、はて関西弁の女の子などいただろうか?

かなりの疑問なのだけれど。


「いたやないか。美少女で、車椅子で、関西弁だった少女が」

「う~ん、そう言われるといたような気もしなくないから、まぁいいや。いたって設定で話を進めよう。で、なんで俺を呼び出したの?」

「……物凄くてきとうに扱われたわぁ。なんかもう色々とショックやけど、話し進めるわ」


すっかり疲れ切った顔でようやく話をし始める。

覚えてないもんはしょうがないじゃないか、全く。

はやての話はようするにこの間の模擬戦のことだった。

なのはとの模擬戦を見ていた新人メンバーが色々と興味を持ったので、是非とも色々と教えてあげて欲しいと。

ちなみに自分達にもからくりを教えて欲しいとのことだった。

まぁからくりもなにも、一言「ダンボールだから」で済む気がしないでもない。 

そんなことのために一般人をわざわざ地球から呼び出したのかと思ったが、報酬を弾んでくれるとのことだった。

報酬が弾む。

お金が弾む。

俺の気持ちが弾む。

全く、そういうことなら最初から言って欲しいというのに。

あれよあれよのうちにはやてとの交渉は成立。

俺とはやては堅い握手をし、今日の対談は終えた。

講義自体は、明後日からで明日はのんびりとミッドチルダを観光でもしていいとのことだった。

その間の宿泊は六課の下宿。

部屋は一人で使うには十分で、ホームレスが使うには贅沢すぎるほどのものだったので、まさにいたねりつくせりだった。

この日はベッドのあまりの気持ちよさに負けて、いつのまにか就寝してしまった。











「魔法って昔から興味あったのよね。ほら、なのはとかフェイトはいつも魔法魔法って言ってたじゃない? 魔法といえば私達普通の人からすれば一種の憧れみたいなものだし」

「確かに俺たち普通の人からすれば憧れだよな。分かる分かる」

「……え? 私達人類と一郎を一緒にしないでよ」

「アリサの中では俺は人じゃない何かなんだな!」


言うに事欠いて人外とはこれいかに。

自分でも普通の人とはだいぶずれた感覚をしているのは分かっているつもりではあるが、それを人に言われるとなると、それなりにキツいものがある。

それをよりにもよってアリサに言われるなんて……。

アリサだって同じようなものじゃないか。


「何が一郎と同じなのよ?」

「俺にわざわざ話しかけにダンボールハウスに来るとか。わざわざホームレスと会話しに来る女性がどの世界にいるのかと」

「ここにいるじゃない」

「いや、そうじゃなくて……」

「なに私が来ることが不満なわけ?」

「……不満じゃないです」


無駄な押し問答になりそうなので話を早々に切り上げるとする。

俺一人でのミッドチルダ観光ではあまりにもつまらない。もとい観光できるほどのお金を俺は持ち合わせていないので、前々から魔法の世界の観光をしたがっていたアリサをお供にした。

本当ならなのは辺りを誘おうと思ったのだが、仕事があるといったのでアリサを指名した。

何故かなのはが悔しそうにしたのは謎である。

俺自身はミッドチルダを観光といっても、特に見たいところは無く、アリサの案内役といった感じだった。

まぁこう見えて、一時期はここを拠点にしてたしね。この町を知らないこともない。

ミッドチルダの移動は、お金のかからない徒歩に使用と提案したのだが、やんわりとアリサに断られてしまった。

なら、ローラー付きダンボールでキックボードみたいに移動するかと聞いたら顔を真っ赤にして怒り出した。

意外と便利なのに……。


「これならどう?」

「うぉ、いつのまに車なんて」

「ふふ、驚いた? これはフェイトのだけどね。免許は地球のでも通用するみたいだから大丈夫よ」

「大丈夫って、俺は持ってないけど?」

「そんなの知ってるわよ! 私が持ってるの!」


さすがお金持ちは違う。

俺なんてダンボールを車に似せて、足で走ることしか出来ないのに、この車ときたら電気で動くとか……。

科学の進歩ってすごいと思う。

結局俺たちはアリサが車の運転し、俺が案内をするといったふうになった。


「ところでどこ行きたいんだ?」

「そうねぇ。特には無いから、一郎のオススメの場所を教えてよ」

「ふむ、了解した」


俺のオススメの場所か……いくつかあるが、さてどこに行けばいいだろうか。

1.廃棄物処理場

意外とまだ使える部品があったりして、よく世話になった場所である。

その場所の管理をしているおじさんとも仲良くなったりしたもんだ。

2.野生動物たくさんの森

色々とお世話になりました。

はい、あなたたちのおかげで俺は生き延びることが出来たのです。

この自然の恵みに感謝を。

あーめん。

3.ダンボールがたくさんあるデパートとかお店がたくさんあった場所

俺のある意味生命線でした。

そうだな……やっぱり俺といえばダンボールだしな。


「よし、決まった。アリサそこを右に曲がって──」


…………。


「へぇ一郎にしては、ちゃんとしてるじゃない。お店がたくさんあるモールをオススメにあげるなんて」

「え? あ、そ、そうかな。あははは」


ここモールって言うんだ、知らなかった。

それにやけにアリサも喜んでるし。

ここはデパートとかお店がたくさんあって、一箇所にここにあるお店の分のダンボールが大量の集められてるからよく来てたんだけど……。

それじゃあさっそくダンボールをと言いかけたら、アリサに腕を引っ張られ右へ左へと連れて行かれた。

色んなお店を入ったり出たり、服を着たり脱いだり、質問を聞かれたり答えたりととにかくアリサのテンションが高かった。

こんなに、清々しい笑顔をしているアリサを見るのもなんだか久しぶりだった気がする。

アリサが楽しんでるからいいか、などと俺らしからぬ事を思ったり思わなかったり。

この日はアリサの買い物に付き合わされてしまった。

いや、案内役だから付き合うのは当たり前なんだけど。

せっかく魔法の世界に来たのだから魔法っぽいのを見ていけばいいのに、と思って言ったら、それとこれとは別らしい。

なんでも魔法っぽいのは明日六課にて、なのはたちに見せてもらう事にしたからいいとかどうとか。

その後、車を引き取りに来た仕事終わりのフェイトと合流しアリサをホテルへ送り、俺は六課へと帰った。

部屋に戻り、ふかふかのベッドに今にも意識を狩り取られそうになりながら今日一日の事を思い返すと、ふと思った。

あれ、これデートじゃない?












イチローによる「ダンボール学」の始まりです。

今回のこの講義は新人達およびダンボールを気になる体調の皆様方を対象に行うことになった。

その当日である。

講義時間前にはすでに新人たちは集まったらしく、いつでもできる状態となった。

俺の手持ちで準備するものはダンボールだけである。

後はこれを持って、部屋へと入室するだけ。

ちょっとばっかし緊張するな。

人に物を教えるのって、こんなにドキドキするのかな。

そう思うとなのはたちってすごいよな……。

そんな事を考えていると講義の時間となった。

さぁいざダンボールについて熱く語るときが来た!


「ええ、それではダンボール学を始めます」


拍手の音が聞こえる。

この音でいっそう緊張感が増す。

本当に心臓がバクバクしてきた。

せっかくどんな話をしようか頭の中でなんどもシミュレーションをしたのに、ぶっ飛んでしまった。

真っ白、頭の中は真っ白に……。

そんなとき、俺はふと自分の手を見た。

そこには茶色いダンボールがある。

そのダンボールを少し見るとなんだか……落ち着いてきた。


「では始めます。手始めにまずはダンボールとは何か──」

「ダンボールは本来物をつめたりして運搬などに──」

「しかし、隠れた力があり──」

「からして、ダンボールには隠蔽性などがあり──」


俺が熱心にダンボールについて語る。

各々がメモを取ったりして、真面目に講義を受けてくれている。

なんだろう……こうやってダンボールを熱心に語って、それが通じる時代が来るとは……。

ついに来たのかなダンボール時代!

とまぁダンボール学の講義は大絶賛で終わらすことができた。

個人的にはダンボールを語れたので満足だったのだが……この講義を真剣に受けるとか管理局大丈夫? とか思わないことも無い。


「一郎君の実生活よりは大丈夫じゃないかな?」

「こやつめ」

「えへへ、だから安泰した生活欲しくない?」

「いや、俺は生と死の狭間が好きなんだ!」

「…………どMなんだね」


なのはのいらぬ突っ込みもあったが、充実した時間だったのではやてには感謝し、俺もはやてには感謝された。

はやて曰く、超絶面白かった。またやって欲しいとのことだった。

なら次はサバイバル学なんてどうかなと提案したら、それで行こうと実にノリノリだった。


「あ、そうや。今度私とコンビ組まへん? 絶対ミッドの天下取れるで!」


はたして、はやては何の天下を取るつもりなのだろうか……。

何にしても、俺の波乱万丈な人生はまだまだ続きそうだった。
















{これにて全て終了。本当に今までありがとうございました}



[17560] ─アリサEND─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:eb73667d
Date: 2010/08/27 10:36
ブログのみに転載していましたが、
「まぁ下げ投稿なら良いか」という軽い気持ちで投稿。
本編や今までの番外とは全く雰囲気が違う可能性があります。
また、一郎に恋愛ENDはないわーという人は読まないことをオススメします。

まぁ一体何人の方が下げ投稿に気付いてくれるかが問題ですけどね。

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はたして今の交友関係はどのように築かれていったのか、ふと気になるときが来る。

それは俺がホームレスという普通ならばそういう友情だとか愛情だとか魔法だとかに無縁な立ち居地。

もしくは職業ともいえるかもしれないが、どうしてこうなったと考えるときがあるのだ。

別に黄昏ているわけでも、達観しているわけだが非常に不思議に思うことではある。

思ったところであまり深く考えず、まぁ生きているからいいやで思考を終わらすのもまたいつものやりとり、心の中でのことではあるのだが。











一郎は全く分かっていない、分かっていなさ過ぎると思う。

何が分かっていないかというと、それはもう説明しきれないほどの量になるので説明は省くが。

それをあえて、じゃあ二十字で表せというのであれば、「分かってない、分かってないよ!」である。

だからって一郎にばれたら恥ずかしいってものじゃないけどね。

でも、やっぱり……


「何で分からないのかしら」


公園で一人寂しく、まるでリストラされたサラリーマンのごとくブランコに座って言ったその言葉は、誰に聞こえるもなく消えていった。

いや、実際分からないのは一郎が私の気持ちに気付かないのが分からないのではなく、どうしてそんな事を思うようになってしまった自身についてだ。

なんであんな奴の事を好きになってしまったかが一番の謎、不可解、不思議である。

そこらへんどうなのかしら。

どこで、どこからこの気持ちの発端で始まりなのだろうか、これを知る必要があると考える。

もし、それを知ることが出来れば今更ではあるがあんな男と縁を切ることが出来るかもしれない……。


「な、何を考えてるのよ私はっ! 一郎と縁を切るだなんて……って、これじゃあまるで一郎と縁を切るのを恐れてるみたいじゃない!」


ああ、もうっ! 何なのよ!

もっと一郎がしっかりしてれば私がこんな気持ちになることも無かったじゃない!

悪いのは一郎よ。

そう、全部一郎が悪いのよ。

いつも……いつもふらっと勝手にいなくなって寂しい思いをするのは私……なんだから。

でも、いいわ。

寛容で偉大な私は許してあげるんだからね。

今はこっちにいるからいつだって会えるもの。

…………、


「あれ? 今私すごく恥ずかしいことを考えたような気が……」


自分で何を言ってるか考えてるかもだんだん分からなくなってきた。

というより、本当に自分が分からなくなってきた。

やっぱりこれは振り返りが大切ね。

今から先を考えたって、一郎の行動を読めるはずもないし、これから先発展しそうも無い。

なら過去から見習うことがあるかもしれないわ。

そうね、一郎と初めて会ったのはこの公園だったわね……。





襲われていた男達から助けてくれたのは、血だらけの顔をした自分と同世代くらいの子供だった。

今もその光景が簡単に思い浮かぶ辺り、相当ショックな出来事だったのか、それとも衝撃的な血だらけの顔を見たせいなのか、それとも……


「一郎と初めて会ったあの場面を忘れたくないから? ……ないわ、絶対に無いわ」


とにかく今も忘れることは無く覚えている。

一郎が命の恩人だった。

これは間違いなくそうであり、今も感謝もしている。でも、これは恋愛感情とは関係ないような気がする

だって命を助けられた借りというのはあまりにも大きく、どうやって返せばいいというのか。恋だの愛だの云々の話ではない。

しかし、一郎は借りのことは特に気にしていない。覚えていないようだった。


「一時的な記憶喪失……だったかしら? 覚えてないわよ、そんなどうでもいいこと」


そもそも今でこそ一郎のことはよく知っている分かっているつもりではあるが、あの時は実は助ける気が無かったのでは無いかと思う。

そうだったら……嫌、ね。

出来れば自分を助けてくれたという事にして欲しい。

しかし重要なのはそこではない。いや、重要かもしれないがもっと優先されるべき重要事項がある。

それは怪我が完治するまでの期間の間は、バニングス邸──私の家に共に暮らしていたことである。

その期間というのは僅かなものだった。

本当に少ない時間だった。

でも、その期間に自分が得たものはとてつもなく大きかった。

私は元々達観したような、面白みのない少女だった気がする。

そのせいか友達が出来なかった。

そのせいで虐めにあう事も少なからずあった。

その結果、なるべく人と関わらないようにした。

でも、虐めなんかに屈するわけも無く全て返り討ちにして見せたような気がする。

どうだったかなんて、正確な記憶はすでに分からない。

ただ覚えているのはあの時の一郎の言葉が私の世界を広げ、今の交友関係を築けるようになったという事。

なのはとすずかという親友を得、そこにフェイトやはやてといった新たな親友にも巡り会えた。


「あ、そっか。そうなんだ……」


一郎を意識するようになった時期なんて、分からないのだ。

過去を振り返ろうが結局いつからそういう感情を抱き始めたのか分からなかった。

よく考えれば分かることだった。

振り返った程度で分かるなら誰も恋で苦労はしないのだから。


「つまり、これは神が私に授けた試練ってことよね。ふふ、ならいいわ。その試練乗り越えてやろうじゃないのっ!」


この程度で屈するようなアリサ・バニングスじゃないわ!

こうなったら意地でも、一郎を私に惚れさせてやるんだから!

そう決意した時だった、ポケットの中のケータイが鳴り始めた。

着信を確認すればお父様からで、その内容は……


「……え! でも……うん、分かった」


お父様との通話が終わった後、どうしようもない虚しく悲しい気持ちが心の奥から溢れてくる。

そして思う。

もしかしたら、これが……タイムリミットかもしれない、と。

「初恋は実らない……現実になっちゃうわね」











珍しくすずかがやってきた。

どうやら相談らしいのだが、その内容はアリサのことだった。

アリサは最近、自分の父親に結婚するように急かされているらしい。

確かに、アリサや俺なんかの年齢ならそろそろ考慮してもいいぐらい年だろう。

もちろん俺は考えたことも無いが、アリサはそうもいかないという事。

そりゃあバニングス家なんて言えば、かなり有名な資産家だし、その跡継ぎが必要になるのは分かる。

つまりは婿養子が必要なのだ。

アリサの父親、古く言えば政略などといった利益の為の結婚をしろというわけではなく、単にアリサのパートナーを見つけろという事らしい。

経営自体はアリサでもやっていけるが、それを一人で行うのは至難の業。

それを支える人が必要だと考えているらしい。

富豪にしては珍しく庶民的な人だなと思う反面、そういえば昔会ったときもアリサが一番の父親だった気がする。

つまりアリサには幸せな結婚をして欲しいということだろう。

しかし、それでも最近は見つけられないのならお見合いを、といった流れらしい。

まぁそれは富豪とかに関わらずよくあることじゃないかと思ったのだが、そうでもないらしい。

すずかが言うには、


「えっとね、私達ぐらいのお見合いになるとほぼそれで決まっちゃうというか……、ほら相手にも失礼に値するから……かな?」


つまりはお見合いしたらもれなく結婚まで行き着くらしい。

なんとも世間離れしているというか……理解しがたい世界ではある。


「で、その話を俺にしてどうするの?」

「どうするのって……一郎君。その言葉はさすがに私は無いと思うなぁ」

「無いって……一体……」


すずかが俺を侮蔑するような視線を送る。

すずかの表からはすずかには珍しく嫌悪の感情すらも読み取れる。

しかし、俺は何故そんな目を向けられるのか分からない。

別にすずかに軽蔑されても俺としては何も問題も無いが……。


「一郎君はまず自分の胸に手を当てて考えるべき。あとは、そうだね……アリサちゃんとの事を考えてみて」

「アリサ、ね」


昔は妹のような存在だった。

それから色々あって紆余曲折あって、今こうしてまたこの町に戻ってきたとき最初に出迎えてくれた。

いや、あれは待ち伏せだった気がするけど。

つまり今、俺にとってアリサの存在は……

他の人と俺との立ち居地はならとなんとなくなら決まっている。

なのはは魔法関連で、フェイトも同じと考えられるし、ドクターはホームレス関連。

残るはすずかとアリサだが……すずかはどちらかというよアリサに付き添って俺と関係があるという感じだ。

ならアリサは……


「アリサはなんで俺と関係があるのかな。そりゃ昔に色々と会ったがそれと今とは関係ないし。昔からの惰性とか?」

「結局分からないんだね。それはあまりにもアリサちゃんがかわいそうだよ」

「そう、言われてもね……」

「アリサちゃんあんなにも一郎君ことが」

「俺のことが?」

「……そこから先は私の言えることじゃ──ごめんね、電話が着たみたい」


そう言うとおもむろにすずかはポケットからケータイを取り出す。

通話に出ると、なんどか言葉を呟いた後通話を切った。

再びケータイをポケットにしまうと、張り詰めた様子でキッと俺を睨みつけた。

すずかが普段纏わないようなその雰囲気に、少し呑まれかけるものの何とか平静を装う。


「アリサちゃんね、今日お見合いを受けるんだって」

「そう……か」


おそらくこれで結婚相手が決まるのであろう。

あの父親がアリサにお見合いを進めるぐらいなのだから、よほど優秀でいい人なんだろうな。

そして結婚となれば立場というものができるだろう。

結婚すれば相手が出来るのだし、異性の俺、ましてホームレスの俺なんかには会えなくなるかもしれないな。

もう、二度と顔を真っ赤にし怒った表情でここに来る事もない……のか。

ふむ……そう思うと感慨深くなるものがある……かな。

ちょっと寂しい。

寂しい、ね。俺にしては珍しい感情かも知れない。

特に人にそういうのを抱くのは……喪失感、なのかもしれないが。


「まぁそれでアリサが幸せになれるならどうってことも──」

「それ……本気? 一郎君」


空気が凍りついた。

すずかのその言葉が、その雰囲気がこの場を完全に凍りつかせた。

俺でもさすがに……怖いと思うほどに。


「一郎君はアリサちゃんが幸せなら、なれるならそれでいい、って考えるの?」

「そ、そりゃあ結婚できるなら幸──」

「なら、一郎君が……一郎君が幸せにするべきじゃない?」

「は?」


いや、本気で何を言ってるのか分からなかった。

俺がアリサを幸せに?

何を言ってるんだ?

俺が……俺がアリサを幸せに出来ると本気で思っているのか?

そんなこと……そんなこと絶対ありえないのに。


「ありえないなんてありえない。これは一郎君が昔言ったことあるよね? 一郎君からすれば冗談のつもりだったのかもしれないけど、今ここが、今この時がそれだと思うよ」

「だから何を──」

「アリサ・バニングスは一郎君のことが好き」

「…………え?」

「二度は言わないよ。だから後は自分で考えて。でも、一言──

──アリサちゃんを不幸にしたら私は貴方を絶対に許さない」


すずかは最後にお見合いの場所だと思われる場所が書かれた地図を渡して、去っていった。


「どうしろって……どうしろっていうんだよ……」


俺は途方にくれたかった、しかし途方にくれる時間はほとんどなかった。











アリサ・バニングス、アリサ・バニングス、アリサ・バニングス。

何度も、何度も心の中で呟く。

お前は俺の何なんだ。

俺はお前の何なんだ。


『アリサ・バニングスは一郎君のことが好き』


この言葉は俺の中で響き渡り、脳内を今も脅かしている。

お前は俺の何なんだ、と。

俺はお前の何なんだ、と。

アリサにとって俺は恋の対象。

アリサにとって俺は愛の対象。

そういうことなのだろうか。

いや、恋だとか愛だとかそんなのは俺にも分からない。きっとアリサにも分かっていない。

でも、俺が好きということは分かっているらしい。

アリサが言ったわけじゃない、アリサの心情を俺は知った。アリサがこれから結婚するかもしれないことも知った。もう、会えなくなる可能性がある事を俺は知っている。アリサもきっと分かっている。

アリサとはデート紛いの事をした。

アリサは年相応の女の子のように笑い楽しみ、俺も同じく疲れながらも楽しんだ。

だからそれはきっと楽しかった思い出。

思い出は忘れることはある。

忘れられない思い出もあるが、この思い出はきっと忘れられないのだろうと俺は何の根拠もなしに思う。

しかし、それ以前の思い出は……正直覚えていない。

なら、もしかしたらこの思い出も忘れてしまうかもしれない。

過去の経験から俺はそう予測する。

何の根拠も無い理由と経験から来る理屈。

どれもこれもが不安材料で不確かなものだった。

そして自覚した。思い出と同じように俺とアリサの関係というのもとても不確かで儚いもだったのではないかと。

俺がアリサに自分から会おうとはしない。

アリサは自身の身でわざわざ度々会ってくれた。

もしかしたら、俺はアリサが会いに来てくれるから会おうとしなかったのかもしれない。

そうだとすれば、俺はどれだけアリサに……。


「そうだな、これは借りだ。ホームレスに似合わないありえない出会いをくれた。出会ってくれたアリサへの借りだ。だから、たまには俺から会ってやらんとな」


借りは返さなくてはならない。

ホームレスという自由で身軽な身において借りはただの重荷でしかない。

俺はまだホームレスだ。

だから俺は借りを返すぞ、アリサ。

すずかからもらった地図を広げる。

どうやらお見合い会場はそう遠くない場所にあるようだ。

これなら走っていける。

10分……いや、5分で十分。

そう思いながらもすでに、全力全快の全力疾走の死力を尽くす勢いで走っている。

過呼吸? 酸欠? だからどうした、その程度で今の俺を止められるものなら止めてほしい。

今までだってどんな自然の摂理だろうが、理だろうがぶっ飛ばしてきたんだぞ。

会場が見えてくる。

それなりに大きく、警備員の姿も見える。

人の数は多くないが、俺はアリサに会うだけだ。

正面から堂々と突入してやる……と思ったが、もしかしたらこれが最後のミッションかもしれない。

何故最後かというと、理由は特にない。

絶対無いが、そうだな。

やっぱり最後はスニーキングミッションに限る。

いつもの、恒例の、もはやお決まりのダンボールを被り潜入する。

普通ならばれる? ばれるはずが無い。

俺を誰だと思っている。今俺がどんな決意を思ってここに来ていると思っている。だから見つかるはずが無い。

アリサのいる場所は……中に特設された中庭にいるようだった。

お見合いもいよいよ終盤なのかもしれない。

時間が無い、ここからは一気に仕掛けることにする。

中庭へ急ぎ急行、と言っても見つからないようにだが、それでも精一杯のスピードでたどり着く。

すぐにアリサは見つかった。

他の人がいない辺り、もしかしたら貸切で行っているのかもしれない。

ブルジョワめ。

そんなブルジョワは……


「誘拐して身代金を要求するに限るな!」

「だ、誰だ君は!?」


アリサをひょいっと担ぐと、隣にいたスーツの男が驚きの声を上げた。

何だね君は?

何を言ってる俺は……


「ただの通りすがりのホームレスだ!」

「え!? い、一郎!?」


ホームレスの一言で俺と判断するのはどうか思うが、そんなのはこの際突っ込んでいられない。

この金髪の女は頂いた、と俺は棄て台詞をいいこの場を急ぎ立ち去った。

アリサを奪った瞬間、そこかしこからたくさんの人がこちらに集まってきたが、急に方向を変え真逆の方へ走り去った。

おかげで楽に脱出することができたのだが……。


「い、一郎どうしてここに」

「ふむ、借りを返しに」

「借りって、一郎は私に借りなんて無いじゃない。それこそ私が一郎に借りを返さなくちゃ──」

「最近ブームって知ってる?」

「……何よ? 何の脈絡もなしに」

「ホームレスとお金持ちが恋をするらしい」

「……もうっ! 馬鹿!」


そうそう、やっぱりこの顔を真っ赤にして怒った姿だよな。











後日談というわけではないが、この後の話。

あの日、俺の脱出に協力してくれたのはすずかだった。

何でそんなところにと思ったが、それを聞くのは野暮というものかもしれないので聞かなかった。

ただ、その借りもまた大きいなとか思ったが、すずか曰く「だったらちゃんとアリサちゃんを幸せにしてね」とのこと。

はぁ……本当に大きな借りだ。

そして、あのお見合いは結局破綻した。

そりゃそうだろうな、あれで成立したらそれはもう……色々と俺の苦労が台無しだ。

俺はその後アリサにめっきり怒られ、アリサのお義父さんにめっちゃ怒られ……ふぅ疲れたぜと言ったところだ。

さて、さて。

なら俺とアリサの関係はというと……どうだろうな。




















{なぜか一郎なら略奪愛だろ、常識的に考えてと思う作者がいたとかいなかったとか}



[17560] ─特別番外編─
Name: tapi@shu◆cf8fccc7 ID:16069ab9
Date: 2011/01/02 23:54
毎年毎年思うことだが、冬なんて物は碌なもんじゃない。

寒いというのは言わずもがなだがそれが恐怖、そして俺にとってはそれは死活問題である。

大きな枠組みならホームレスにとって冬というのは激戦である。まあ一部の人には半年に一度の戦いがあるようだが、それは置いとくとして、生きるのが戦いだ。

常日頃から言っている事ではある。聞き飽きた人もいるだろう。

正直言い飽きた節も俺にある。

当然だ。十数年と同じ事を、この季節を繰り返しているのだから。

だけども、ということは……いい加減に慣れてきたという事でもあることを忘れちゃいけない。

何が言いたいかというと。


「我がダンボールハウスもここまで行くともはや天下をとれる気がする」


電気も通っていない。

ガスなんてあるはずが無い。

水なんて近所の公園から持ってきたもの。いやぁ、この時期になる蛇口が凍ってて天然の氷も手に入るんだよね、ということはさておき。

こんな不自由な環境だけれども、対応策さえあればどうにでもなる。

ぶっちゃけダンボールがあればどうにでも──ダンボールの重ねがけすれば、保温という意味では問題は無い。

加温は出来ないけど。

このダンボールハウスは森の一角に作られている可動式であり、本拠地である。

最も古いダンボールハウスとも言える訳で、築十数年といえば、そこそこの物件に聞こえる。聞こえてしまう。

不思議現象だね。

しかし、その物件の中の実態はと言うと……


「電気なしで、暖まってないこたつが一つという有様なんだよね」


今流行り風に言うなら


「電気が無いなう」


こんな感じだろうね。

なうというか、過去完了進行形で過去の事象から今に至って現在も進行中だよね。

でも、もしこんな呟きをしたら周りの反応で面白い物が見られるのでは無いだろうか。

まずはリツイートされて、「ちょ、おま」みたいな反応が返ってくる。

気付いたら公式リツイートされて、たくさんの人の目に触れて一躍話題になり──


「いや、それはないか」


せいぜいあって、電気会社からなぜかフォローされるぐらいか。

温かくないこたつは、ただの毛布付きテーブルだ。それでも、それなりに需要がありそうだから怖いな。

ん? 需要があるという事は利益に繋がる……お金が手に入る。裕福な暮らし!?

なんて、上手い話があるはずも無いので、俺は堅実にホームレス生活を続ける。

春夏秋冬を生き続ける。


「俺も冬眠できればいいのになぁ」


そしたら、寝て起きたら温かい春という最高の寝起きだ。

寒さに身体を震わす──ことは、最近は最新のダンボールのおかげでないが、気持ち的にも寒さというのを感じずにいられる。

もういっその事、穴掘ってそこにダンボールハウスを作って埋めるか。

土の中なら暖かそうだし……いやそれだと水の供給だとか、食べ物の問題だとかの問題が出てくるか。

現状でも、それなりに問題なのにそれ以上に困難な。

いやいや、もっと前段階から難しい点があるな。穴を掘るとか、結構大変だし。

かつて、穴を掘るのを生きがいとしていた悪の組織の三人(二人と一匹)がいたが、まあ彼らの場合はコンクリでも関係なく掘れるほどのプロだしな。

あれはいろんな意味で化物だと思うよ。星になっても生きてるしね。

穴掘りを人間の手でやるとするとそれはそれは重労働になる。このダンボールハウスが埋められるほど大きく掘れるかも分からない。


「あー、そうか。そんな時こそ人外の力を使えばいいのか」


人間で出来ないのなら人間とは思えない方法でやればいいだけの話だった。

この世界、正確には異世界だがそこにはとてつもない力がある。

所謂、魔法という力だ。

そして、その魔法の力を異常に持ってる知り合いがいる。

あいつにかかれば穴を掘るのも、朝飯前だ。

むしろ……


『あ、気合入れすぎて地球の裏側まで掘っちゃった、なのー』


とかありそうだ。

『スターライトブレイカー』──星を軽く破壊する者とは、まさにこのこと。

魔王降臨や冥王の異名は伊達じゃない。逆に役不足かもしれない。

新しい階級として、『魔王の中の魔王』とか『世界の頂点』とか言う風にした方がいいかもしれないね。

ただでさえ中に臭いのが一層に……はは、からかう材料が増えそうだ。

その名がつく事を楽しみだ。

魔王の砲撃により穴を掘る事が成功したとする。穴の深さを浅くするのに苦労して、いくつも穴が出来そうな気もするけど、まあいいか。

穴が掘れたらいよいよ埋める作業。

ダンボールをぽいぽいと穴に投げ込み、そこに自身も落下して組み立て作業をする。

ダンボールハウスの利点がここに生きるわけだ。組み立て可能の強みだね。

ちょちょいのちょいで完成させると次は土を被せる作業。

どうやって土で埋めるか……なにか仕掛けを用意する必要がありそうだ。

糸で引っ張ると土が次々と真上から落ちてくる! みたいな仕掛け。

最終手段は周りの土を蹴って土を落とせばいいか。

そんなこんなで見事にダンボールハウスが土の中に埋まる。そして、俺はその中で春が来るまで眠ると。

これがダンボール式冬眠法だ!


「即興で考えた割には意外といける気がする」


人間やれば出来るとは素晴らしい名言だよね。

もちろん、これにはいくつもの問題点があるわけで、それらもクリアしなければならないわけだが……寝ることが出来れば平気じゃないか?

世の中には不思議な人がたくさんいる。

四年に一度しか起きない人もいるんだから、俺が一冬を寝て過ごすなんてことは訳もないこと──だったら、いよいよ人じゃないね。

そもそもあの世界の住人を標準にしてはいけないか。

意思を持つゴキブリとそれと戦う人間っぽい何かの争いは印象に深く残っている。


「まっ、今年も例年通りに過ごすだけなんだけどね」


ホームレスに大晦日も新年もない。

ただただ必死に生きるのみだ。











「ええとイチロー、私に用って、何かな?」

「ん? あーフェイト来てくれたか」


フェイトが仕事で休みが取れたという情報を掴んだので、いつかやってみたかったことを試すために呼んだのである。

実はフェイトはかなり久々の登場のような気がする。

え、何が? 言わせんなよ、恥ずかしい。


「フェイトってビリビリできたよね?」

「び、ビリビリ? それって電気の魔法変換資質の事?」

「そう、それだよ」


電気。

本来であれば、生活に欠かせない物の一つだが我が家ではこれは欠落している事は周知の事実。

知らない人はいないと言っても過言では無い。

昔は、とある機械を使いとある人物を扱き使いその犠牲を基にして電気を発生させて時期もあった。

スカさんに頼んで、水力発電や風力発電を小規模で作ってもらったこともあった。

しかし、どれもが過去の話だ。

ハイリスク過ぎるのだ。

あ、最初のはノーリスクローリターンだったけど。

そんな数多の試行錯誤の上で、ついにこの案に至った。

この案によって俺はついにやってみたかったことができるようになるのだ。

なんてったって冬だよ? 今まで電気がなくて出来なかったんだよ。

それが出来る様になるなんて……夢心地だ。

それ自体も夢心地の気分にさせてもらえるしね。

ここまで言えば、わかるだろう……そう。俺がフェイトを使ってでもやりたかったこと。伝記がどうしても必要だった事とはつまり──


「こたつかな?」

「いや、電気風呂だけど」

「……ふぇ?」

「いやいや、電気風呂」

「冬っていったらこたつ、じゃないの? なのはが言ってたけど」

「お風呂じゃない? 温泉とか。ドラム缶で露天風呂、しかも電気風呂で疲労回復って夢のようじゃない?」

「え? あ……う、うん。そう、なのかもしれないけど」

「んじゃ、そういうことだからさ。今から風呂を温めるから待ってて。あー、そこにお茶があるから飲んで待ってて」

「う、うん。分かった」


火をつけるのはもうお手の物である。

なんと捨てられていたライターの火でボッとするだけで、火がつくのだ。

俺のライター捌きが火を噴くんだぜ。


「と、ところでこのお茶って、何? すごく不思議な味が……」

「雑草から搾り取ったお茶だよ?」

「ざ、雑草!? ……へ、へぇ~」


フェイトが若干引き気味である。顔もどこか青くなってる気がする。

お気に召さなかったのかもしれない。確かに不思議な味わいだが、なのはに何も言わずに飲ませたら『い、意外といけるね!』なんて、汗をかくほど興奮しながら喜んだのだが。

残念だ。

ちなみにアリサはこの味は雑草ねって目利きし、すずかはやんわりと断られた。

すずかはもしかして臭いだけで分かったのではないかと審議中だ。

すずかって結構鋭いところあるしなぁ。


「ちなみに、電気がありなら火とか出せる魔導師もいるの?」

「うん、いるよ。意外と身近に」

「身近……なのはは目からビームだし」

「な、なのはでもさすがにそれは……」


でも、そのうち出来そうな気がする。


「ほかに誰かいたっけ?」

「え!? せめてもう一人思いつこうよ。可哀相だよ! 最近地味とか言われて、空気とか言われて気にしてるみたいだし」

「でもなぁ、本当に思い出せないし」

「ちなみにその火を出せる人も、その地味な人の近くにいるよ」

「地味な人の近く」


地味……地味……

地味って言われてもなぁ。全く思い出せないから地味だとか、空気だとか言われるんだし。


「思い出せない」

「……はやて、ごめんね。私ははやての力になれなかったよ」

「まあそのはやぶさだか、はやてだかは置いといて。火を出せる人って?」

「言ったよね? 今。シグナムって言うんだけど……」

「誰?」

「昔、イチローが襲われた事がある──」

「ああ、あのホームレス狩りか。怖かったなぁ」

「ホームレス狩りって……」

「じゃあ辻斬り」

「……シグナム、ごめんね。私には否定できないよぉ」


そんなこんなで、フェイトと楽しい一時を過ごしながら、電気風呂を満喫した。

いやぁ、極楽極楽。

電気風呂のピリリって言う感じが、こう腰にキューっとくるね。それが、気持ちが良いし、なんだかとっても健康そうだ。

電気風呂から上がった後は、なんだかいつもより心なしか身体軽く感じる。

フェイトに感謝して、見送りをする。この後、なのはなんかと集まってどっかいくらしい。

俺も誘われたが……人気混みは苦手だしね。


「俺には新年なんて関係ないさ。毎年例年通り、いつも通り変わらずに、ね」


それでも……新年に海から見える黄金色のいつも通りのはずの日の出は、どこかいつも以上に綺麗に見える。

翌朝、手書きで書かれた年賀状が5枚が家の中にあった。

まあ新しい一年と言うのも悪くない。


「ふぅ、ダンボール製の年賀状を返してやるか」














あとがき

新年明けましておめでとうございます。
去年一年間で最もお世話になった作品ということで、この作品で去年のお礼代わりに書かせてもらいました。
こんな作者ですが、今年一年も頑張って執筆させてもらいますので、どうかお願いします。


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