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[16916] THE BIRDMAN (旧題:幼女が正義の味方を召喚しました(クラフトソード)チラ裏から移動してました)
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:1e2b4f5e
Date: 2010/06/09 13:29
「―――――では御主」
「は、はい!」

目の前には、わたしの護衛獣を召喚してくれる召喚師さん。
変なマント着てるけど、偉い人。
う……キンチョーするなぁ。



今日から始まる鍛聖トーナメントで戦う為に、親方さんがわたしに護衛獣をプレゼントしてくれるらしい。
プレゼントって言い方は変かもしれないけど、まあそんな感じ。

護衛獣っていうのは、誰か1人の専属になった召喚獣のこと。
普通は召喚師さんが自分の為に召喚するんだけど、ワイスタァンではその護衛獣に武器の鍛錬を手伝ってもらう人がいる。
お金持ちっていうか、実力のある人じゃないと持てないって思ってたけど、親方さんは特別にわたしにくれるらしい。

パートナーか……まさかわたしに出来るとは思わなかったなぁ。
いつか出来るかもとは思ってたけど、こんなにすぐになるなんて。
やっぱりキンチョーは取れないや。



「シンテツ殿のことをどう思う?」

いきなり難しい質問。
というか、なんでわたし質問されてるんだろう?
護衛獣の召喚に必要なのかな?

……鍛聖だったパパのことは尊敬してるけど。
だけど、それだけなんだ。
どんな人だったかなんて、ほとんど知らない。



「わたしはお父さんのことをあんまり知らない。
お母さんも、あんまり教えてくれないから、どんどんお父さんがわからなくなってるような気がする。
だから、お父さんのことをもっと知りたいの」

これは、本音。
だって、パパのことを誰も教えてくれないから。
英雄だったとか、格好よかったとか。
どんな風に思われてたかしかわからない。

だから、いつもどんなことをしていたのかとか、どんな物が好きだったのかとか。
パパがどんなことをしていたのかを知りたい。

「ふむ……いい子に育ったようだな。ではもう1つ聞くが……」

質問は1つじゃないみたい。
ちょっと今の質問で完全燃焼した感があるんだけど。
……待ってくれないよね、やっぱり。

「英雄と正義の味方、どちらになりたい?」
「えーっと……?」

そのまま聞かれた台詞に、わたしは困ってしまう。
英雄と、正義の味方?
どっちも変わらないような気がする……。

パパは英雄って呼ばれてたけど、正義の味方とは呼ばれてない。
だったらわたしは、パパじゃない方がいい。
何から何までパパと一緒じゃ、一生パパを超えられない。

「正義の味方……かな?」

そう言うと、親方さんが変な顔をした。
難しいというか、困ったみたいな顔だった。

「……まあ、よくある話か。よし、そろそろ護衛獣の召喚と行こうか」
「そうですね。ではその前に最後の質問を……」

え、まだ質問があるの?
ちょっと安心しちゃってたんだけど。



「御主にとって、正義とは何かな?」

だけど、その人は容赦なく質問をぶつけてきた。
しかもすっごく難しい奴。

え……と、正義?
ううん、難しいなぁ。
誰かを守ろうとすること?
それとも……誰かの為に何か出来ることかな?

パパなら、何て言うんだろう。



『―――――』



そう考えると、ふと頭の中にパパの声が響いたような気がした。



「……大切なものを、守り抜くこと」

よくわからないけど、と付け足す。
だって、これはわたしの言葉じゃないから。
だけど、きっとわたしもそう思う。

「ふむ……なるほど、いい答えですな。では、召喚の儀式を始めましょう」

そして、その人の質問が終わった。
結構長かった。
ただ返事をしてただけなのに、やけに疲れちゃった。



「御主と深い絆を持つことの出来る護衛獣を召喚する為、何か1つ御主の大切なものを……」
「大切なもの……あ、さっきのお守り」

大切なものと聞いて、とっさに思いついたのはそれだった。
だって、他のものはわたしの部屋に置いたまま。
流石にお母さんを連れてくるわけにもいかないし。

「おう! そりゃシンテツのじゃねえか!」
「家に残っていたそうです……」

お守りを取り出すと、親方さんが驚いたように言う。
やっぱり本物なんだ。
……家に帰ってきたパパが、お母さんに手渡したお守り。
多分、お母さんにとって数少ないパパの形見。

「では、このサモナイト石を持って……」

手を差し出すと、手の中に小さな石が渡された。
色は緑色。
これが、召喚に必要な特別な石。

「強く念じなさい。御主の力になってくれる護衛獣が必要だと!」
「はい!」

召喚師さんが真剣な表情で部屋の中心に手を向ける。
やっと召喚の儀式が始まるんだ。

「古き英知の術と、我が声によって今ここに召喚の門を開かん……我が魔力に応えて来たれ、異界のものよ!」

わたしには理解出来ない呪文を使って、光を作り出す召喚師さん。
なんだか、ここだけ別世界みたいだった。

「ここに叫ぶ、新たな制約の名を! その名は!!」

そう言うと、今度はわたしの方を向く。
もしかして、ここでわたしが叫ぶところなのかな?
ええと、ちょっと恥ずかしいけど、いきます!

「プラティ!」






「うわっ!?」

光が強くなって、目の前が真っ白になった。
眼を瞑って光が晴れるのを待つと、小さな羽音が聞こえてきた。
恐る恐る目を開けると、目の前に誰かが立っていた。

赤いマスクに革製のタンクトップのようなものを着ている。
首には同色のベルトを巻いて、両腕は二の腕までカバーする手袋をつけていた。
ズボンは赤いラインが入った黒いもので、手触りもよさそう。
右手に装着された赤い爪はかなり長くて、わたしの腕くらいありそうだった。
髪の毛は黒くてツンツン、背中には真っ赤な翼があった。

ええと、動物系だから、メイトルパだったっけ?
とにかくその辺りの人だと思う。
親方さんより大きくて、だけど同じくらいの年齢に見える。

「―――――バードマンだ」

その人が小さな、だけどしっかりした声で呟いた。
この人の名前なのかな。
何かちょっと変だけど。

「えーっと、バードマンさん?」

その人はあたしの台詞に軽く頷く。
あんまり喋るのは得意じゃないみたいだ。
表情もマスクで隠れていて、よく見えない。

「むむむ、初めて見た召喚獣ですね」

召喚士さんが顎をさすりながらそう言う。
珍しいということは、きっと凄い召喚獣なのだろう。
逆に、どうしてそんな人がわたしの為に来てくれたのかが判らないということだった。

「おいおい、こいつは……」

親方さんが驚いたように声を上げる。
どうやら親方さんは知っているみたいだ。
後で聞いてみよう。

バードマンさんは親方さんの顔を見ると、ふるふると首を左右に振る。
やっぱり喋らないみたいだ。
残念、声を聞いてみたいとおもったのに。

「……オイ、プラティ。こいつはお前の親父と同じ召喚獣だ」
「え?!」

ぼうっとしていると、親方さんが凄いことを言う。
パパのパートナーだった人が、目の前にいるのだという。
そんな凄い人だったなんて。

でも、なおさらわたしと一緒にいてくれる理由が判らなくなった。
だって、わたしより凄い鍛冶師はたくさんいるし、パパが死んで3年もパートナーがいないなんて、不思議過ぎる。
もしかしたら、気難しい人なのかもしれない。

ふとバードマンさんを見ると、親方さんを睨んでいた。
これぐらいいいじゃねぇか、って顔をむすっとさせてそっぽを向いてたけど、正直かわいくない。
やっぱりお母さんは親方さんにはもったいないと思う。

そもそも、お母さんは結婚する気がないと思う。
どうしてなのかは判らないけど、とりあえずわたしも再婚は認めないから大丈夫。
というか、それだけ愛されてたパパのことを殆ど知らないわたしは何なんだろう。
最初で最後の記憶が、3年前一瞬帰ってきた時だけ。
そういえば、2人はベッドの中で何をしていたんだろう。
お母さんに聞いても、誤魔化されて教えてくれなかった。



「……まあいいだろ! プラティ、そいつ連れて2階に来い! お前の工房に案内してやる!」
「あ、はい!」

考え込んでいると、親方さんがわたしに工房をくれると言う。
びっくりしたけど、やっぱり嬉しい。
今まで武器を最初から仕上げたことがないわたしが、わたしだけで武器を作れる工房が手に入ったんだ。
鍛聖に1歩前進。



「それと……アレク、名前くらいちゃんと教えてやれ。バードマンなんてお前には似合わねぇよ」

親方さんが部屋を出る直前、わたしの後ろに立っているバードマンさんにそう言った。
ええと……そうなると、アレクさんは、わたしに嘘の名前を教えていたってこと?
どうしてそんなことをされたんだろう。

「……本当の名前は、アレクさん?」

わたしが聞くと、アレクさんは暫く黙った後でゆっくり頷く。
やっぱり、嘘をついてたんだ。

もしかして、わたしをパートナーだと認めてくれてないってことなんだろうか。
……まあ、それもそうか。
だって、パパの護衛獣だったんだもん。
わたしみたいな女の子じゃ、不満なんだ。

沈んだ気持ちで、ブロンさんの後についていく。
さっきまで嬉しかったから、その分落ちる幅が大きかったみたい。
少し泣きそうだ。

すたすたと、長い足を伸ばしてわたしを追い越して行ってしまうアレクさん。
やっぱりわたしは嫌われているのかもしれない。
階段を登っていくアレクさんを見ながら、わたしは悲しくなってしまった。









「おいプラティ、こいつから呼び捨ての許可が出たぞ」
「え?」

2人に遅れて2階に辿り着くと、そんな親方さんの声が聞こえてきた。
その横にいるアレクさんは、そっぽを向いていた。
耳を見ると、少し赤くなっていた。

「こいつ、お前があんまり可愛いもんで照れてるんだよ。あんまり深く考えるな」

今にも笑いそうな声で親方さんが言う。
それに、そっぽを向いたまま頷くアレクさん。

「……ぷっ」

それで、さっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ。
なんだ、そうだったんだ。
ただ照れてただけなんだ。
わたしが嫌われてたわけじゃなかったんだ。

「よろしく、アレク!」

改めて、挨拶。
これから一緒に頑張る、わたしのパートナー。
パパとずっと一緒にいてくれた、パパのパートナーだった人。

小さく頷くアレク。
まだこっちを向いてくれないけど、ちゃんとわたしに返事をしてくれた。
わたしを、パートナーだって認めてくれたんだ。



「―――――で、そろそろ話を進めていいか?」
「あ」

そして、親方さんの声がした。
イライラしているような声だったから急いでそっちを向くと、やっぱり怒っていた。
あはは、そういえば忘れていた。















「……ん、どこか行くの?」

わたしの工房を貰って暫くの間アレクに質問していると、急に立ち上がった。
質問って言っても、わたしの質問にアレクが上下左右に首を振るだけだったんだけど。

唐突に立ち上がったアレクにそう聞くと、アレクは力強く頷いた。
よく見たら少し笑ってるみたいだった。

……なんか、イラッとした。

「わたしもついていく!」

こうなったら一緒に行くしかない。
わたしに内緒でどこか行くなんて、気になるし。

だけど、アレクは首を縦に振らない。
困っているのはその慌てた様子で判るんだけど、喋らないから理由が判らない。

「……」
「……」

無言。
わたしの方が部屋の出口に近いから、アレクはわたしの脇を通らないと外に出れない。
窓もあるけど、小さくてわたしすら通れないのだ。

じりじりとドアに近寄ろうとするアレクを、わたしが両腕を広げてブロック。
もう、意地でも通してあげないんだから。

「………」
「……………あっ待ってよー!」

アレクは凄いスピードでわたしの横を走って行った。
は、速っ!?
ま、真横から突風が……。



「でも、諦めるわけにはいかないよね」

アレクを追って外に出た。
護衛獣を手に入れて、初日に逃げられるなんてヤバ過ぎる。
親方さんになんて言われるかわかんない。

もう、外は暗い。
いつの間にこんな時間になったんだろう。
パパのこと聞いてたから、時間なんて忘れてたみたいだ。



とにかく、アレクを探さないと。
今日初めて会ったから、どこに行くのか心当たりもない。
だけど、そこら辺探し回れば見つかるはず。

港を探した、広場を探した、2階を探し回った。
だけど、アレクはどこにもいなかった。
空の散歩とかされてたら、もう見つからないかもしれない。

「……ん、空?」

そういえば、3階を探してなかった。
なんにもないからいないかもとか思ったんだけど、もしかしたらなんにもないからこそそこにいるのかも。

そう思い、階段目指して駆け出した。



「……ホントにいた」

階段を登って外に出たら、奥の方にある広場みたいな場所に、誰かが立っていた。
と言っても、真っ赤な羽を持ってる人なんてアレクしか見たことない。
折りたたんであるけど、あれだけ目立つんだから見間違えるはずがないし。

「……あれ?」

耳を澄ませると、何かを喋っているみたい。
ちょっと声が小さ過ぎて聞こえない。
というか、喋れないわけじゃないんだ。

……何喋ってるのか、凄い気になる。
気付かれそうだけど、少しずつ近寄ってみよう。
何を言ってるのか、聞いてみたい。

「……ぇれない…は………らい……」

何とか声が聞こえてきた。
だけどもう少し近寄らないと、ちゃんと中身が聞き取れない。
……相手がいないから、独り言なんだろうけど。

そう考えると、何だかアレクが怪しい人に聞こえる。
まあ、格好から考えると怪しいんだけど。
これからアレクのことをもっと知って、どんな人なのかを理解したい。

……でも、近寄ろうにも隠れるものがない。
建設作業中らしいけど、鉄筋も少ないから隠れられない。
んー……どうしようかなぁ。

周りをよく見る。
3本くらいが一緒になってる鉄筋や、ハンマーとかドリル。
それと、ちょうどわたしが隠れられるくらいのダンボール。

「……これだっ!」









「……やっぱりあの子に召喚されたか。うーん、血は争えないってことか」

……ホントに、何で成功してるんだろう?
アレクはわたしに気付くことなく、独り言を続けていた。
いきなりダンボールがあったら驚いたりするよね、普通。
なのにアレクったら、ダンボールに気付いてもそのままスルーした。
何か呪いでもかかってるのかな、これ。
そう思うと嫌な感じになった。

「シンテツも、何考えてたんだか。俺だって死ぬのは恐いけど、お前が死ぬ必要もなかったのに」

……パパのことだ。
やっぱり、パパがどうして死んだのか、知ってるんだ。

どうして教えてくれないんだろう?
どうして喋ってくれないんだろう?
どうして……嘘ついたんだろう?

わかんない。
わたしにはわかんない。

教えて欲しい。
全然知らないパパのことを、ちゃんと教えて欲しい。



……そうだ。
わたしがまだ弱いからだ。
わたしがもっと強くなれば、認められるくらい強くなれば。
そうすればきっと、アレクはわたしに教えてくれるはず。

そうと決まればすぐ寝よう。
明日親方さんに秘伝を貰って、武器を鍛えてトーナメントを勝ち抜く。
わたしは守られるような弱い女の子じゃないんだってことを、教えればいいんだ。

そう、きっと教えてくれるはず。
わたしは決意を新たに階段を降りて、わたしの工房へと駆け出した。





























―――――さて、俺がバードマンだ。
何を言ってるのか判らないかもしれないが、バードマンなのだ。
何度もバードマンだって言ってんのに、全く聞いてくれないのが玉に瑕。



元々人間だった俺は、どういうわけか密猟者に殺された。
何か希少種っぽい鳥を見つけて手当てしようと近寄ったところでバン。
脳みそパーンで即死だったらしい。

そんな不幸な俺を助けてくれたのが、鳥仙人を名乗る謎のおっさん。
おっさん言ったら殴られたけど、イメージとしては完全おっさん。
どこぞの烏天狗みたいな子だったら万々歳だったんだけど、そうは問屋がおろさないらしい。

気付けば背中から羽が生えてたし、顔もそれなりのイケメンになってた。
髪の毛の硬質化はまさにスネ○だったけど、それを除けば最高だった。
……その後、試練とか言って殺されかけなければだが。

どうやら鳥を助けようとしたのがまずかったらしい。
何か、『お前は正義の味方として復活するのじゃ』とか言われたし。
わけ判らんというか、元の普通の顔でよかったから人間に戻せと言いたい。
無理だったけど。



と言うか、この辺りで気付いたのだ。
俺、バードマンなんじゃね、と。

wikiで何度か見たことがあったんだ。
鳥仙人によって正義の味方に生まれ変わったっていうGB版のみのフレイバーテキストを。
それが、この時の俺の状況と完璧に一緒だった。

確かに、バードマンは凄い好きだ(このカードがあったから遊戯王やってたみたいなもんだった)。
アニメに出て来た時は狂喜乱舞した(そして親に変な目で見られた)。
A・ジェネクス・バードマンが出た時は稼動初日に3枚揃えたくらいだ(すぐに値上がりした時は冷や汗をかいた)。
まさかそのバードマンになるとは、思わなかったけど。

アニメでは主人公を追い詰めた彼、もしかしたら俺がその立場になるのだろうかとか思ったのだが、神様は意地悪だ。
鳥仙人による地獄の試練が完了した瞬間、俺はシンテツに召喚されたのである。
まさに超展開。



……クラフトソード物語、その最初の物語。
父親の影を追い、鍛聖選抜トーナメントを勝ち抜く主人公。
そして、それをサポートする元父親の召喚獣。
……みたいな話だった。

流れは大体覚えているが、流石に細かい攻略チャートまでは覚えていない。
どの宝箱にどんなアイテムが入ってるとかは、あんまり関係ないか。
キャラの名前は……むしろ、覚えていない方がスムーズに進むと思うし。

だが、かなりきつい制約を鳥仙人にかけられた。
何が『御主、女と喋れんから』だ。
世界の半分とコミュニケーション取れないのは致命的だぞ。
『儂が女の子といちゃいちゃ出来んのに、御主が出来るのが気に食わん』とか言われた。
嫉妬はいいから俺にゴッドバードアタック教えろと張り倒したが。



とにかく、その呪いのせいで俺は女性と会話が出来なくなった。
どんなに頑張っても、顔を合わせて会話が出来なくなってしまったのである。
これのせいでコウレンと顔を合わせることすら出来ないのは完全に失敗。
というか、鳥仙人はどうして俺がこんな世界に飛ばされると知っていたんだろうか。



まあ、それはさておき。



シンテツに呼び出された俺は、何とかそいつを鍛聖にたたき上げた。
男との会話に制約が一切かかっていなかったのは不幸中の幸いか。
まあ、そのせいで俺に男色疑惑が沸いたのは焦ったが。

だが、それは些細なことだった。
シンテツとアマリエが結婚したのも、テュラムとルマリが付き合い始めたのも些細なことだった。
俺はそんなことを気にする余裕もない状況だったからだ。



そう、シンテツが死ぬ。
ストーリーの都合上、確実に死ぬ。
俺はそれに何とか抗おうとしたのだ。

ずっと工房に篭ってばかりだったあいつを家へと蹴りだしたり、子供と無理矢理会話させたり。
色んなことを教えて、やらせて、何とか未来を変えようとした。
だが結局、パリスタパリスは復活し、ワイスタァンは滅びかけた。



……そして、シンテツは死んだ。
シンテツはワイスタァンの為に、死んだ。

バカだった。
決戦前に無理矢理家に送り返してやったのに、結局戻って来やがって。
何が『大丈夫』だ、帰ってこれなかったくせに。

しかも、『プラティを頼む』だなんて言われるし。
なあ、お前には俺の呪いのことを話したよな。
呼ばれたとしても喋れないんだぞ?
一体どうやってコミュニケーションとればいいんだよ。



そんなこんなで3年悩んで、気付いたら呼ばれてた。
唐突な召喚に驚いたのは事実だが、それを差し置いてもなお驚いた。
目の前の少女に、シンテツの面影が見えたからである。

ああ、やっぱりこいつがプラティか。
赤ん坊の時にしか見たことがなかったから、個性なんてものを感じる以前の問題だったのだ。
今見たら、やっぱりあいつの子供なんだな、と思った。

左右に穴が開いた不思議な帽子を被っていて、そこから対になった銀髪の束が出ている。
他の髪は顎の長さで揃えられている。
瞳の色は濃紺だろうか、優しい雰囲気だった。
服は赤く、ジッパーで前が開く作りなのだろう。
下はスカートで黒いストッキング。
胸元に革の胸当て、そしてそこからベルトで背中に通された巨大な筒。

うむ、見事な美少女。
悲しいことに、会話しようにも出来ないが。
何とか呪いを解きたいなぁ。

ただ、名前くらいは伝えておきたい。
流石に名無しの権兵衛で呼ばれるわけにはいかないし。
きっと、直接見なければ大丈夫だと思う。



「……バードマンだ」



何とか言えた。
俺の自慢の名前だ。
何度も言うが、俺の名前だ。
誰も呼んでくれないが、俺の名前なのだ。

「えーっと、バードマンさん?」

何とか名前を伝えたところで、プラティ(仮)が呼んでくれる。
ああ、シンテツですら呼んでくれなかった俺の名前。
お前に俺の全てを捧げてもいい。

「むむむ、初めて見た召喚獣ですね」

どこからともなく知らない声。
どうやらこいつが俺を呼ぶ手伝いをした召喚師らしい。
まあ、俺はたった1人しかいないのだから、当然と言えば当然なのだが。

「おいおい、こいつは……」

すると、横から聞いたことのある声が聞こえた。
具体的には3年振り。
というかブロンの声だった。

「……オイ、プラティ。こいつはお前の親父と同じ召喚獣だ」
「え?!」

そして、いきなりバラすブロン。
おいこら、プラティの前で喋れないからって勝手に。
こういうのは俺がこう、ストーリーの最後の方まで少しずつ引っ張るもんだろう!
これぐらいいいじゃねぇかとか言われても許さん。
可愛くないんだよお前。

「……まあいいだろ! プラティ、そいつ連れて2階に来い! お前の工房に案内してやる!」
「あ、はい!」

ああ、漸く本編開始ってわけか。
嬉しいような、悲しいような。
シンテツ死亡確定の物語を素直に喜べない。

ブロンが先に部屋を出て行こうとするが、その前にこっちを見る。
ああ、何だか嫌な予感。
例えるなら、俺の名前が確定してしまったときのような。



「それと……アレク、名前くらいちゃんと教えてやれ。バードマンなんてお前には似合わねぇよ」



……そう、こんな感じに。
アレクは、バードマンの進化系だと俺が勝手に決めた神禽王アレクトールからとった名前だ。
羽の色とか同じだからきっとそうだと思う。
異論は認めない。

それなのに、何故か適当につけたこっちが本名だと思われた。
あれか、俺にバードマンは似合わないということか。
本編にはアーマーチャンプとか色々変な名前の奴がいるというのに!

「……本当の名前は、アレクさん?」

不安そうな顔のプラティさんが、これまた不安そうな声で呟く。
むむむ、認めたくない。
認めたくないが……ああ言われた以上、俺の名前はきっとアレクなのだろう。

そう思い、何とか頭を縦に動かす。
うんそうだ、名前はただの記号なんだ。
だから……だから、悲しくなんかない。
うん、そう……悲しいっ。



悲しい気持ちのまま歩いていると、プラティが横にいないことに気付いた。
ついつい早足になってしまったようである。
振り返って謝りたかったが、その前に俺はやらなければならないことがあるのだ。

階段を登って、こんな状況を生み出したおっさんを見つける。
怒りのあまり、羽が逆立ってる気がする。
これはもう、張り倒してやらないと気がすまない。

「いでっ……何しやがる!?」

蹴り倒した。
この野郎、俺が女の子と喋れないことも、本当の名前をずっと言い続けてることも知ってるくせに。

「おいおい! その爪を向けるなアレク!」
「俺は、俺の名前はバードマンだって言ってるだろうが!」
「嘘をつくな嘘を! 何年も言ってるけどなぁ、お前はアレクだろうが!」
「認めたくない!」
「認めろ!」

何だこの会話。
いい年したおっさん2人が顔面つき合わせて怒鳴りあう。
端から見たら、ただの馬鹿にしか見えない。



「……というかアレク、お前何で喋らねえんだよ」

暫く言い合ってたら、唐突に話題を切り替えるブロン。
今更か、というかお前……。
ブロンの記憶力のなさは異常だった。

普通、鍛冶師っていうのはある程度記憶力持ってるはずなんだけどなぁ……。
もしかして、完全に身体で覚えてるタイプなのか?
だったらもう直しようがないが。

「……俺は制約で女と喋れない。肝心なことを忘れるなよ、ブロン」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたな。まだ残ってたのかその呪い……うおっ!?」

爪を振り下ろしてやった。
召喚師に『エルゴの王でなければ解除出来ないだろう』とか笑われながら言われたのに、それを忘れたと言うのだ。
一緒に笑ってたお前らを崖から突き落としたのに、何で忘れられるんだ?



まあ、それは後回しでいい。
よくないけど、先に話しておきたいことがあるのだ。

「プラティ……で、いいんだよな、あの子」
「ん? ああ、そうだ。中々筋がいいぞ」

まずは、名前の確認。
1度も呼べないかもしれないが、知っておかないと駄目だろう。
相手は俺のご主人様なんだから。

それにしても、ブロンが褒めるなんて珍しい。
本当に見所がなければ、筋がいいなんて言わない。
やっぱり血筋なのだろうか。

「あの子に、俺の名前を好きに呼んでいいと伝えてくれ。俺からは無理だ」
「ああ、わかったよ。その代わり、ちゃんと仕事しろよ」
「護衛獣だから当然だ」

これで、多分大丈夫。
あのくらいの年齢の子に、敬語とか敬称とか堅苦しいのは難しいだろう。
一回り以上年が離れてる異性と一緒なんて、女の子にはかなりストレスに感じるかもしれないし。



話が終わった瞬間、ゆっくりとプラティが登って来た。
何だか気分が沈んでいるように見えるけど、何か起こったのだろうか。

「おいプラティ、こいつから呼び捨ての許可が出たぞ」
「え?」

ブロンがニヤニヤしながらそんなことを言う。
おい、やめろ。
何か恥ずかしい。

「こいつ、お前があんまり可愛いもんで照れてるんだよ。あんまり深く考えるな」

やめろお前。
そんなわけない……とも言い切れないのが辛い。
だからニヤニヤするのをやめろクソ親父!

「……ぷっ」

ほら、笑われた。
ああああ、耳が熱いっ!
笑ってくれたのは嬉しいけど、笑われたのは嬉しくない!

「よろしく、アレク!」

いい笑顔のプラティ。
可愛いなぁ、でも笑われてるのは俺なんだよなぁ。
何か複雑な気分だ。



「―――――で、そろそろ話を進めていいか?」
「あ」



そして忘れられてるブロン。
はは、いい気味だ。









それからが、地味に大変だった。
今までの鬱憤を晴らすように、俺にシンテツの話を聞いてきた。

何が好きだったとか、どんなことをしてたとか。
どんな人が友達だったのかとか、ブロンが本当にシンテツと友達なのかとか。
答えられるのはごく一部だったとはいえ、楽しそうなプラティを見れて、俺も少し楽しかった。

……が、それも最初の数分。
実は文字が書けない俺は、YesかNoのどちらかでしか返事が出来ない。
そうなると、微妙に会話が続かなくなってしまうのだ。
地球と文字も同じなら問題なかったのだが、同じ文字は数字だけ。
こんなことならちゃんと習っておけばよかったとかなり後悔した。



「……ん、どこか行くの?」

会話の間に耐え切れなくなって、俺は逃げることにした。
話が出来ないから会話と言うには少し変だが、意思疎通が出来てるから問題はない。
ただ、それが出来なくなってるから問題があるのである。

「わたしもついていく!」

それなのに、プラティがついてくるとか。
それは困る。
俺は友達と一緒に馬鹿やったりするのも好きだけど、1人になって静かにしたりするのも好きなんだ。

「……」
「……」

お互いに無言。
窓から逃げようにも小さ過ぎるので不可能。
ドアから逃げようにも、やけに頑強なガードが張り付いていて振り切れそうにない。

……さて、どうしよう。
ここで全速力を出せば逃げ切れるだろうけど、この子は怪我しないだろうか。
ただの突風でも、ある程度の強さだと吹き飛ばされて大怪我するのだが。

……そこまで考えると、大丈夫な気がしてきた。
シンテツに至ってはマッハで突進しても殆ど無傷だったし、その子供のプラティならマッハ1くらいの衝撃波なら無傷だと思う。

「………」

翼を叩き落すように加速。
極力風を起こさないようにコントロールしながら床を蹴る。
あんまり翼を使ってなかったから最高速度には程遠いけど、かなりの速度が出たはず。



「……………あっ待ってよー!」



……それなのに、一切怯まずに叫ぶプラティ。
やっぱりあいつの娘なんだなと、心から思った。






真正面にある階段を滑空するように降り、ブロンを軽く轢いてから外に出る。
ああ、やっぱり外は気持ちいい。

窓から月が見えてたけど、もうすっかり夜だった。
金属特有の不思議な匂いが鼻を通り、潮風が羽を濡らす。
久し振りのワイスタァンを、漸く感じることが出来た気がした。

2階、3階を越えて空を舞い、手を伸ばす。
この空の先に地球があるのか、それとも全く別の世界なのか。
試すには宇宙を越える必要があるし、風のない宇宙で俺は無力。
ロケットと鳥の飛翔方法はまるで違うのである。

「……まあ、多分帰れないんだろうけど」

暫く旋回した後で小さく呟き、そのまま力を抜いて落ちる。
一応死んだ身である俺の居場所は、もうあの世界にはないのだ。
座る人間がいても、椅子がなければそもそも座ることが出来ないのだから。



ゆっくりと降りて床に足をつける。
多分で命を懸ける時期ではない。
プラティが立派な一人前になるくらい、待っても問題ないだろう。

「とはいえ、喋れないのは少し辛いかもしれないな」

何とか喋れるようになれば、あの子にシンテツのことをもっと教えられるし、俺の意思を伝えることも出来るはずなんだ。
出来ないのなら、文字くらい覚えよう。
そうすれば、筆談くらい出来るだろう。



「それにしても、やっぱりあの子に召喚されたか。うーん、血は争えないってことか」

腕を組みながら考える。
血が争えないというか、似たもの同士というか。
それとも世界がストーリーを組み直そうとしているのだろうか。
そうだとしたら色々と困るのだが。

「シンテツも、何考えてたんだか。俺だって死ぬのは恐いけど、お前が死ぬ必要もなかったのに」

いっそのこと、ストーリーを根本からぶち壊せば、こんなことにはならなかったのかもしれないのに。
あの凶悪精霊送り返せば、話が終わって平和のままだったはず。
それが出来ないようになっていたのが悔しいのだけど。

シンテツが気付いた時には、もう誰かが死ななければならない状況だった。
そうなればあいつは、自分の命を捨てるに決まっている。
折角俺が召喚門に押し込んでやるって言ってたのに。



「……む、いかんなぁ。下降気味になってる」

頭を振って思考を散らす。
どうも1人で考え事をすると気持ちが落ち込むらしい。
もっとこう、明るい話題が出来るようになりたい。
主に必殺技開発とか。

……そういえば、何故かそこら辺にあったはずのダンボールが、遠くの方に移動してた。
おかしいなぁ、ついさっきまで真横にあったのに。
考え事をしてる間に強い風でも吹いたんだろうか。



「まあ、いいか」

そんなことより、必殺技である。
俺の必殺技はテキスト通り、マッハ5で空を飛べることだ。
時速に直すと大体6000km。
周りに障害物があっても、風圧のみで完全粉砕出来る超速度。

とはいえ、欠点がある。
当然ながら、俺の身体が耐え切れないのだ。
最高速を出す前に、俺の魂があの世逝きである。
ぶっちゃけ、マッハ5とかあのテキストは何を考えていたんだろうか。



まあ、今はこれだけあれば充分だろう。
余程のことがない限り、プラティが死ぬようなことはないのだ。
可能性があるのは、最後にパリスタパリスを倒す為に魂を差し出すかもしれない、俺だけ……?



「ん?」

待てよ。
魂を差し出す=死ぬ。
プラティが、俺の魂を武器の鍛錬に使う。

つまり……俺って死ぬ?

「……おおっ! 何でこんな重要なことを忘れてたんだ俺!?」

頭を抱える俺。
まずい、これはピンチじゃないか。
好感度が低いと、俺は魂を捧げられるじゃないか。



ここで、俺の今の状況を確認しよう。
・プラティと喋れない
・見た目怪しい中年のおっさん
・彼女は百合気質あり(断定)

……うん、俺このままだと死ぬ。
流石に魂ごとごっそり持っていかれると死ぬ。
何度でも甦れる通常モンスターでも、除外されると戻って来にくいのと同じだ。

呪いは解けない。
解けるとしても、ストーリー中盤になるだろう。
勇者様が来てくれれば何とかなるかもしれないが、それまでに好感度がマイナスだったら意味がない。

だが、好感度を上げるには会話が必要。
ボディランゲージでは限度がある。
……詰みじゃないか?



「あああああああ! 結局どうすればいいんだぁああああああっ!」



結局俺は、これから先の死亡フラグを回避する方法を見つけられなかった。
しかも、肩を落としながら工房に帰ると施錠済み。



「し、閉め出された……」



初日から前途多難だった。







-----------------------------






衛宮士郎だと思った人は挙手。
……うん、こう書いたら絶対そう思うよね普通。
というか設定的にもそっちの方がいい気がしてきた今日この頃。

勘違い物が人気だと聞いて、やってみようとして失敗した感。
異世界召喚物が人気だと聞いて、最初に思い浮かんだのがこれだった。
うん、百合主人公乙。

今現在、やけに他の作品の速度が遅いので息抜きに書きました。
スランプっぽいです。
ううん、やっぱり登場人物全部変態はキツかった。

ちなみに、バードマンは忘れていますが、護衛獣は死にません。
そんな悲しい選択が、バッドエンドのないゲームにあるわけがない。
ビバ、ご都合主義。





3/1 微修正しました
3/3 再修正+題名に書き忘れた(ネタ)追記



[16916] バーゲンとツンデレと素敵マスク
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:1e2b4f5e
Date: 2010/12/03 23:27
「よし、この小遣いで鉄鉱石買えるだけ買って来い!」
「バーゲン!」

わたしの工房も手に入れて、さっそく武器作り……と言いたいところだけど、材料がない。
そこで親方さんからお小遣いを貰って、お店で鉄鉱石を買うことになった。
今はバーゲンで、なんと鉄鉱石1つ10バーム!
急がないとなくなっちゃう。

全力ダッシュで階段を降りて、そのまま橋を渡る。
バーゲンバーゲンバーゲン!
色々あってテンションが上がってるわたしを止められる奴はいない!

「あの、鉄鉱石ってありますか?」

ドアを蹴破り、カウンターに駆け込む。
バーゲンは時間との勝負なのだ。
ちょっと周りに睨まれてても関係ない。

だけど、店員さんは困り顔。
あ、何か嫌な予感がする。

「あーごめんごめん、それはたった今なくなってしまってね」
「え、ウソ!?」

予感的中。
だけど、今さっきってことは近くに鉄鉱石を買った人がいるってことだ。
まだ間に合うかもしれない。

「あーほら、そこの女の子、全部あの子に売っちゃったよ」

そう言って店員が指差したのは、真っ赤な髪の女の子だった。
わたしよりも少し年上かもしれない人に女の子っていうのは変かもしれないけど、名前を知らないからそう呼ぶしかない。

「とか言ってぇ、ホントはかくしてたりするんでしょ?」

とりあえず、聞けるだけ聞いておこう。
もしホントは残ってるなんてことになったら嫌だもん。

「あーホントなんだよ」

だけど、返ってきたのはホントに申し訳なさそうな台詞。
む、どうやらウソはついてないらしい。



……さて、どうしよう。
手持ちのお金じゃ何も買えないし。
譲ってくれるように頼んでみようか、それともこのまま親方に相談しに戻ってみた方がいいのかな?
うう、判らない。
悩んでいると、頭がぽんぽん叩かれるような……

「……って、アレク?」

訂正、実際叩かれてた。
何か、小さい子供をあやす父親みたいな様子。
そんな風に思われていたのかな、わたし?

ちょっと落ち込んでると、背中が軽く押される。
振り返るとアレクの顔が笑顔だった。
なんだろう、好きにしろってことかな?



うーん、聞いてみよう。
もしかしたらわけてくれるかもしれないし。

「あの、すみません」
「何?」

声をかけると、イライラしてるような声が返ってきた。
なんか、気の強そうな人。
ちょっと望み薄かなぁ。

「鉄鉱石、わけて欲しいんだけど……だめ?」
「何よいきなり」

あんまり歓迎されてないみたい。
まあ、獲物を譲ってくれって言われたら、こうなるかな。
……わたしの方が、悪いみたいなんだけど。

「……あんた、どっかで会ったことあったっけ?」

むすっとした表情で、わたしに聞いてくるその人。
……そう言われれて、わたしは唐突に思い出した。
そうだ、この人開会式で前にいた人だ。

「ああ、思い出した! 開会式の時にいた……」

手を打ち合わせて言うその人。
あんな少ししか喋ってないけど、覚えてもらえてる。
ああ、なんかちょっと嬉しいかも。

「うん、そうそう! よくおぼえてるね~。わたしって目立つ?」
「別にそういうわけじゃないけど……ふぅん」

ちょっと浮かれて聞いてみたけど、なんか違うみたい。
うーん、どういう意味なんだろう?

「あんたみたいなボーっとしてるヤツでも大会に出られるんだ?」
「ナヌ!? なにそれ?!」
「言った通りよ。あと、鉄鉱石はわけてあげないわ。ノロイあんたがいけないの」

こ、これは……喧嘩売られてるんじゃないの?
怒っても許されるでしょ、これ。

「わたしはいそがしいの、これから地下迷宮にもぐるんだから。じゃあね!」

ふん、なんて声を出して去っていくその人。
ああもう、なんなのよホント!

「どうしよう……」

こうなったら、泣き落としでもするしかないかな?
親方だって、予備の材料くらい持ってるだろうし。

アレクを見ると、なんだか優しい雰囲気だった。
も、もしかして駄目な子だと思われてる?!
それはまずいっ!



「行くよアレク! 親方さんに相談しよう」



わたしは熱くなる頬をアレクに見せないようにしながら走り出した。
ああもう、なんでこんなに恥ずかしいのっ!























「これって……武器を鍛えるハンマーじゃないですか!」

親方さんに話をすると、なんとハンマーだけで地下迷宮に入って来いとか言われた。
む、無理でしょそれ!?
戦う為に作られたわけじゃないんだよこれ!

「いいか、よく聞け! そのハンマーが鍛えるのは武器だけじゃねぇ……」

な、なんか変な雰囲気。
こう、勢いに流されてしまいそうな感じ。

「女を鍛え痛っ?!」

だけど、その前にアレクが親方さんを蹴り倒した。
な、なんか怒ってるような。
そのままアレクは右手の爪を振り上げて―――――

「ス、ストップストップ! それ以上はまずいって!」

慌ててアレクを背中から引っ張る。
流石に今親方さんに死なれたら困る。
せめて秘伝を全部貰うまでは!



「……ああ、そういえば忘れてた。お前が最初に作る秘伝はこれだ!」

なんとかアレクをなだめた後、親方さんから秘伝を受け取った。
剣みたいだけど、そもそも素材がない。
ホントに、武器なしで地下迷宮に行かないと駄目なのかな?



「……あれ、なにやってるのアレク?」

考えてると、横のアレクが右手の爪を外してた。
なに、なにしたいの?
もしかして、これで戦えって言いたいの?
今親方さんが他の人が作った武器で戦うなって言ってたのに。

「だから、他の奴が作った武器で戦うのは……いや、そういうことか」

親方さんが怒鳴ろうとしたら、すぐに納得顔になった。
え、どういうこと?
わたしにもわかるように言ってよ!

「アレクはこの武器を分解して、お前の武器を作れって言いたいんだよ」

心の声が聞こえたみたいで、親方さんが教えてくれる。
だけど、それって大丈夫なの?
親方さんの顔を見ると、複雑そうな顔で頷いてた。



「うわ、重っ……」

爪が手に乗った瞬間、その重さが腕にかかる。
こ、こんな重いもの持って、あんなに速く動けるんだ。
一体どんな身体の作りしてるんだろう。

それに、凄い年季が入ってる。
表面にはいくつもの戦いのあとが残っていて、アレクがずっと戦っていたことがわかる。

きっと、これがアレクとパパを守った証拠なんだ。
ずっと戦って、守ってきた傷跡なんだ。
それをわたしみたいな見習いの武器の為に使うなんて……出来ない。



「大丈夫だよ、アレク。わたし、頑張るから」

アレクに爪を返す。
わたしの武器は、わたしの力で手に入れた材料で作る。
アレクに頼って優勝しても、嬉しくないから。



「親方さん、行ってきます!」
「おう、行ってこい」




















「心配するな! 骨は拾ってやるから!」

そんな声と共に入った地下迷宮。
そこら辺にいるゼリーみたいな生き物。
多分あれがはぐれ召喚獣。
うう、ちょっと怖い。

だけど、負けるわけにはいかない。
アレクに頼ってばかりじゃいられないし、このままじゃあの人に馬鹿にされたままだもん。

「あ!」

地下なのに何故かある橋を渡ると、少し先にさっきの人がいた。
声に気付いたみたいで、こっちに近づいて来た。
別に来なくていいのに。

「あんたもしつこいわねぇ。言っとくけど、鉄鉱石はあげないからね」
「別にちょうだいって言ってないよ。それからわたしはプラティ!」
「じゃあ、あんでハンマーだけ持って迷宮探索してるの?」
「ふ……ふん! ハンマーは最強の武器なんだもん!」
「あんた……大丈夫?」
「う……」

い、勢いで喋ってたけど、正直わたしもそう思う。
アレクがなんだか笑ってる気がするけど、気のせいにした。
わたしのあいでんてぃてぃーが崩れそうだし。

「じゃあ、クイズを出してあげる。もし全問正解したら……さっき見つけた武器の材料をあげるわ」
「ち、ちょっと! 勝手に話をすすめないで!」



結局、貰ったのはマッチ箱。
これって、馬鹿にされてるよね。
アレクを顔を見合わせた後、溜息をついた。

ああもう、頭撫でないでよ!
わたしそんなに子供じゃないし、悔しいわけじゃないんだからっ!






とにかく、先に進もうとしたわたしたちの前に、緑色の変なのが立ちはだかった。
というかスライムだった。

大きな2つの目玉に、大きな口。
何故か赤い口の中とか、どうやって動いてるのか気になるけど、とにかく敵。
ちょっと気持ち悪くて近寄りたくないけど、倒さないと先に進めないのだ。

「ええい!」

気合を入れて、ハンマーを振り下ろす。
びちゃりと変な音がして、なんかぐにゃぐにゃしたものを殴ったような感覚。
うわ、気持ち悪い!

殴ったら、そいつは動かなくなった。
べっちゃりと潰れて、生き物じゃなくなったみたいだ。

潰れたスライムの中に、材料になりそうなものがあるみたいだけど、中に手を入れたくない。
し、暫く待てば消えるんだよね、確か。
それまで待てばいいのかな。

「ひいっ!?」

と思ってたら、アレクが思い切り手を差し込んだ。
周りに緑色の液体を撒き散らしながら、そのアイテムを取り出す。
うわぁ……緑色の変なのがくっついてる~。



「ちょ、ちょっと持っててくれる?」



あ、なんかですよねーって聞こえた気がする。






「あれ……さっきの?」

暫く歩くと、さっきの人が立ってた。
雰囲気がなんだか柔らかいような気がするけど、あの人だからなぁ。
アレクはやっぱり喋らないし、どうしよう?

「誰?」
「あ、ごめん……のぞき見とかそんなんじゃなくて」

考えてると、気付かれたみたい。
振り返ってる顔を見ると、なんだかしんみりしてるみたいだった。
なんだか悪いことしたみたい。

「別に……ここはわたしの持ち物ってわけじゃないもの。のぞき見されたなんて思ってないわ」
「そう、ならいいけど」

気を使われてるみたい。
なんか、さっきとまるで違う人だ。



「キレイでしょ、ここ。海の中が見えるの……」

そう言ってその人は窓の方を向いた。
つられるようにわたしも近寄って、その光景を眺める。
確かに、綺麗だ。

「すごいね、海中展望台って感じ」
「ふふ……昔ね、何年か前に姉さんに連れてきてもらったのよ、この場所」

綺麗な顔。
よっぽどこの場所が好きなんだなって、思った。
そして、お姉さんのことも、好きなんだってわかった。

「もう1度来たいって思ってたわ……次は姉さんの力をかりずに、自分1人でここまで来たいって……」

目を閉じて、しんみりと呟くその人。
ううん、さっきまでとのギャップが凄い。
むしろ怖い。

「だからここは、わたしにとっても大切な場所なの。ここに来れば、姉さんに少しでも近づいてるって思えるから」
「へぇ~。あなたってお姉さんのこと大好きなんだね」

正直な感想。
というか、それだけ慕われるお姉さんって、どれだけ凄いんだろう?
会ってみたいなぁ。

「ま、まあそういうことね。なんか話すぎちゃったみたい。じゃあわたしは行くね」

真っ赤な顔して走っていくその人。
なんか、かわいい。



「……それと、わたしの名前はサナレ。今度からそう呼んでよ」



そしてその子――サナレが、その表情のままこちらを振り返って、言った。









「サナレって、けっこういい人なのかも……?」

アレクも頷く。
もしかしたら、知ってたのかもしれない。
なんかなんでも知ってそうだし、知ってても違和感ない。



パパの護衛獣だった、アレク。
喋れるはずなのにわたしと喋ってくれないアレク。
なにかを隠してるけれど、絶対教えてくれないアレク。

もっと知りたいのに、教えてくれない。
いつか、アレクが認めてくれるようになったら、教えてくれるかな?



「……まあ、まずは勝たないとね」

今は初戦突破が第一。
鍛聖トーナメントに勝たないと、パパのことを知るどころじゃないんだし。

材料はかなり集まったから、武器を作るのに充分。
アレクがどこからともなく持ってきた壊れたコップや木の棒、マッチ箱。
これだけあれば大丈夫だと思う。



地下迷宮を抜けて、工房へと一直線。
さっさとガラクタみたいなこれを溶かして、材料に変えないと。

タタラに拾ってきたアイテムを放り込んで、鉱石に分解する。
そして、分解した鉱石を選んで、秘伝通りに合成してハンマー鍛える。
そうしてようやく完成するのだ。



「か~んせ~い!」

アレクに手伝ってもらいながら、なんとか完成。
初めて自分1人の力で作った、武器。
それが今、わたしの手の中にあった。
やばい、なんかカンドー。

アレクはパチパチと拍手してくれる。
ありがとう、ありがとう。
今のわたしの気分は有頂天だ。

「おう、完成したみたいだな!」
「親方さん!」

手にした武器を振り回してると、親方さんが入ってきた。
なんだか気分がよさそうな感じ。
もしかしたらわたしのテンションが高いだけかもしれないけど。

「どれ、見せてみな!」

わたしが持ってた武器をあっさり奪い取り、じっくりと見定めている親方さん。
動きが速い。
やっぱり親方さんは強いんだ。

「まあ、合格点だ。その調子で頑張りな」

おお、親方さんからの初めての合格点。
嬉しいかもしれない。

「とはいうものの、ほとんどアレクのおかげだがな」

その後でオチをつけられた。
うん、わかってたけどさ。

「ちぇ~っもっと褒めてくれてもいいじゃないですか~」

だって初めてなんですよ?
武器作りで褒められたのも、最初から最後まで武器を作ったのも。
それにわたしは褒められて伸びるタイプだから!



それから、サナレが乱入してきて怒られた。
なにが『今ごろ1本目が完成?』よ!
わたしだって頑張ったんだから!






























「……おめぇ、何やってんだ?」
「護衛」

昨日締め出された俺は、結局そのまま外で一晩過ごした。
潮風がちょっと冷たかったけど、雪の中で特訓したこともあるから問題はなかった。
死亡フラグに1つ近付いたのが悲しいけど。

「とりあえず、プラティを起こしてくれねえか?」

ブロンが腕を組みながらそう言う。
多分起きてるだろうし、俺に言う必要はないのだが。

まあ、そのまま部屋に入れば怒られるに決まってる。
プラティは女の子なのだ。
そう考えると、この状況はちょうどいいのだろう。

着替えシーンなんて、思春期の主人公がやってればいいのだ。
具体的には数年前のシンテツとか。
あいつのラッキースケベ振りは完璧だった。



「……まあ、いいか。今ノックするから」
「はあ? 別にいいだろ」
「馬鹿、相手は一応女の子だ。少しはデリカシーというものを考えろ」

そんなんだからアマリエさんに振られたんだよ、と心の中で付け足す。
流石に直接言うのはかわいそうだ。
俺は心遣いに溢れる紳士なのである。

こんこんとノック。
中から返事があるまで待つ。
コウレンの着替えを覗いてしまった時の暴れ具合はもう経験したくない。

どうしてあれが原作の不思議ちゃんになったのか判らない。
ああ、初期のサナレの方が可愛い方だったかもしれない。

「はーい、どうぞー」

返事があった。
ゆっくりドアを開けて反応を確認しながら入る。
ああ、女の子の部屋なのに鉄臭い。



「おいプラティ、中央工城の人が見えたぞ。シャキっとしろい」
「それではおじゃまするのですよ~」

ああ、そういえば地下迷宮の鍵を受け取るのはこのタイミングだったんだ。
役人のキャラの立ち具合が好きで、結構気に入ってたんだよな。

さっきは気付かなかったけど、ブロンの後ろに役人の制服を着た人がいた。
口調から、多分その通りだと思う。

まあ、話の内容くらい聞いておこう。
プラティに封筒を渡す役員の様子を見ながら、俺はそう考えた。

















「よし、この小遣いで鉄鉱石買えるだけ買って来い!」
「バーゲン!」

地下迷宮の鍵を受け取ったプラティは、貰ったお小遣いで鉄鉱石を買いに行くことになった。
秘伝を受け取りを忘れて突っ走ってるところが、普通の女の子みたいだなって思った。
まあ、ブロンもプラティが女の子だから気を使っているのだろう。

ちなみに、300バームで最初の回復薬が1つ買える。
いかに鉄鉱石1個10バームが安いか判ってくれるだろうか。

全力で走っていくプラティを、俺はそれなりの速度で追いかける。
だってほら、俺ってバードマンだし。
飛行速度の都合上、空を飛ぶには結構の速度を出さなければいけないから。



「とか言ってぇ、ホントはかくしてたりするんでしょ?」

俺が着いた時には、プラティが店員に詰め寄っているところだった。
ううん、やっぱり速度調整が難しい。
脚力はそれなりにあるけど、走る為の筋肉じゃないから遅いのだ。

逆に、翼を使うと速くなり過ぎる。
宙に浮かぶ為に必要な風力は馬鹿にならないのだ。
成人男性を浮かべるだけの風力がどれだけ必要か考えてみると判りやすい。

「あーホントなんだよ」

話がそれた。
俺が思考に没頭している間に、プラティは店員の台詞を聞いてしょんぼりしてしまっていた。
何かかわいいなあ、もう。

完全に娘を見てる親の気分だ。
ついつい頭をポンポンしてしまう。

「……って、アレク?」

そうすると、プラティが俺のことに今気付いたような反応をする。
そ、それはちょっと悲しいかなぁ。
影が薄いって思われてるのだろうか。

怒ってるぞーって意味を込めて背中を叩くと、何故か何かを決心したような顔になった。
あれ、何かスイッチ押しちゃった?
別に他意はなかったんだけど。

「あの、すみません」
「何?」

何もしてないのに、プラティが赤毛ポニーの女の子に話しかけていた。
うわ、もしかしてあれがサナレ?
雰囲気が完全にコウレンだ。

いや、数年前のコウレンか。
今は不思議なお姉さんキャラ。
……どうしてこうなった。



「あんたみたいなボーっとしてるヤツでも大会に出られるんだ?」
「ナヌ!? なにそれ?!」
「言った通りよ。あと、鉄鉱石はわけてあげないわ。ノロイあんたがいけないの」



……2人が言い合いしてるのをただ眺めてるだけの俺。
なるほど、これが空気の感じなのか。
三沢に会えたらきっと優しく出来る自信が出来た。
ただし、俺が三沢を三沢だと気付かないかもしれないけど。



気付いたらプラティがこっちを見てた。
うわ、今の顔見られたのか。
変な顔になってなかったかな。

「行くよアレク! 親方さんに相談しよう」

そして、俺が反応する前にプラティが飛び出す。
何だろう、やっぱり俺の顔が嫌だったんだろうか。
それだったら立ち直れそうにないなぁ。























「これって……武器を鍛えるハンマーじゃないですか!」

ブロンの暴挙に、プラティが反論する。
うん、それは正しい。
というかブロン、ここまで来たら普通に素材をあげればいいのに。

「いいか、よく聞け! そのハンマーが鍛えるのは武器だけじゃねぇ……」

ブロンがプラティの台詞に反応して声を張り上げる。
これは……名言が発せられる予感。
だがそれは許可しない。
流石に女の子にハンマーバトルをさせるわけにはいかないだろう。

「女を鍛え痛っ?!」

台詞を言い切る前にブロンを蹴り倒す。
お前、流石にそれは無理がある。
というか、いくらシンテツの娘でも、ハンマー片手に殴り合いは無理だって。

……いや、ゲームじゃ俺もアイテム集めにそうやってた気がするけど。

「ス、ストップストップ! それ以上はまずいって!」

爪を叩きつける振りをしたら、プラティが背中から羽交い絞めにしてきた。
大丈夫だって、ただ脅すだけだから。
別にブロンが嫌いなわけじゃないし、殺すわけないじゃないか。



「……ああ、そういえば忘れてた。お前が最初に作る秘伝はこれだ!」

暫く経ってから、ブロンから秘伝を貰う。
ああ、プラティがいきなり走って行ったせいで忘れたのか。
この子、どこかシンテツに似てウッカリだからなぁ。

というか、別に地下迷宮に潜る必要はないよな。
ブロンは迷宮で経験でも積んで欲しいのだろうが、そんなの武器を作ってからでいいじゃないか。



「……あれ、なにやってるのアレク?」

というわけで、俺の爪を渡すことにした。
シンテツが適当に作った剣を3本貰って自作した物だ。

まあ、適当って言ってもあいつが作った物。
それなり以上の出来だし、強度だって殆ど最高級だ。
作ってる最中にそれぞれぶつけて傷だらけになったけど、あんまり使わないから別に問題じゃない。

「だから、他の奴が作った武器で戦うのは……いや、そういうことか」

ブロンは俺の行為に怒鳴ろうとしたが、その前にやめた。
この爪の材料に見覚えがあったのだろう。
まあ、親友だったんだから当たり前だが。

「アレクはこの武器を分解して、お前の武器を作れって言いたいんだよ」

ブロンは苦虫を潰したような顔でそう言う。
そうそう、それで正解。
だって俺、これに思い入れとかあんまりないし。



というかぶっちゃけ、スペアならある。
ブロンとシンテツが『どっちが先にアイアンセイバー(自己流)を10本作るか』対決した時の奴を貰ったからだ。
結局ブロンが負けたから、それを思い出したんだろう。



「うわ、重っ……」

とりあえず渡す。
ハンマー振り回すような女の子だけど、これはアイアンセイバー3本分だから重いに決まっている。
それを片手に装備してる俺は何を考えてるんだろうか。

まあ、剣を直接使うより得意だし、長さがあるから防御に使える。
シンテツオリジナルのアイアンセイバーは曲線を描く独特な剣なので、爪に近かったし。
やっぱりバードマンは爪装備だろうとか思ってこうなったのである。

何かもう、鍛聖になってから俺の手助けとか要らないくらいだった。
シンテツが工房に篭った時には、俺がアイテム集めばっかりしてた。
そのせいで俺は雑用係になってた気がする。



「大丈夫だよ、アレク。わたし、頑張るから」

とか思ってたら爪を返された。
あれ、その笑顔は変じゃないか?
俺はただストーリーを円滑に進めて、俺の死亡フラグを回避しようとしてるだけなのに。

それなのに、何だその純粋な笑顔は。
まるで俺が汚い大人みたいじゃないか。
見るな、そんな綺麗な目で俺を見るんじゃなーい!



「親方さん、行ってきます!」
「おう、行ってこい」



俺はプラティを直視出来ないまま、プラティと一緒に地下迷宮に向かうことになった。




















「心配するな! 骨は拾ってやるから!」

笑えない台詞と共に地下迷宮に突入した俺たち。
まあ、流石に1階で死ぬ可能性はほぼ0。
HP10くらいで放り込まれたら死ぬかもしれないけど。

プラティはちゃんと普通のステータスだから大丈夫だろうし、俺は既にレベルカンスト。
とはいえ、ステータスが何故か下がっているのでそれなりに苦労しそうだが。

「あ!」

プラティが何かを見つけたようである。
声につられて視線を動かすと、その先にはサナレ。
ポニーテールが眩しい美少女だった。

一瞬俺の方を向いたような気がしたが、そのままプラティの方に歩いてきた。
ん、気のせいだったのかもしれない。
俺って背景扱い慣れてるし。



「あんたもしつこいわねぇ。言っとくけど、鉄鉱石はあげないからね」
「別にちょうだいって言ってないよ。それからわたしはプラティ!」
「じゃあ、あんでハンマーだけ持って迷宮探索してるの?」
「ふ……ふん! ハンマーは最強の武器なんだもん!」
「あんた……大丈夫?」
「う……」



そして、俺の前で言い合いをする2人。
うん、俺はスルーか。
喋れないのは凄く辛い。
せめて相手が男だったら声くらい出せるんだけどなぁ。



……コウレンに変なことを言おうとしたシンテツに怒った時のことを思い出した。
あれがなかったら気付かなかったかもしれないから、コウレンには感謝しなければならないだろう。
俺を死地に追いやった理由の大半はあいつのせいだった気がするけど、きっと俺の勘違いなんだ。



「じゃあ、クイズを出してあげる。もし全問正解したら……さっき見つけた武器の材料をあげるわ」
「ち、ちょっと! 勝手に話をすすめないで!」



というか、俺が1人で考えてる間に話が進んでた。
サナレがクイズを出して、それに正解したプラティが商品を受け取る。
残念ながらそれはマッチ箱だったので、地味に落胆しているようである。

その顔を見ていると、唐突にプラティが顔を上げた。
そのせいで俺と顔を合わせ、そのまま溜息をついた。
あれ、俺の顔が不満だったのか?

顔は直しようがないので、頭を撫でる。
髪に触られるのが嫌いだっていう人もいるけど、まだ親に甘える年頃のプラティなら大丈夫だろう。

……とか思ってたら手を弾かれた。
うわ、何だか悪循環?



ズンズン先に歩いていこうとするプラティを追って歩く俺。
どうやら俺は機嫌を損ねてしまったらしい。
やっぱり女の子の気持ちを理解するのは難しい。






暫く歩くと、プラティの目の前にスライムが立ちはだかる。
確か10回くらい殴れば倒せる敵。
ここはプラティに任せてみようと思い、後ろで待機することにした。

「ええい!」

プラティが気合を入れて、ハンマーを振り下ろす。
びちゃりと変な音がして、スライムが気絶。
どうやら普通に殴った時よりも威力が高い攻撃だったようだ。

しかしその姿を見ると、潰れてはいるもののまだ戦闘不能ではない。
この辺は、実戦経験のなさが問題か。
普通の女の子なら当然か。

「ひいっ!?」

というわけで、俺がとどめをさす。
こんな雑魚に爪を使う必要はない。
素手で突き刺して、ざっくり殺す。

というか、この世界のはぐれって死ぬのだ。
シンテツと一緒に材料探してたら、死んだはぐれを何度か発見した。

そりゃそうだ。
元の世界に戻れないからはぐれになったのであって、戻る方法があるならさっさとそれをやっている。
それが自分を傷つけることでも、戸惑いはしないだろう。

本編で召喚獣が消えるのは、大抵が召喚主による送還。
もしくははぐれ自身が逃げる時。
アイテムを放って、相手が目を取られてる隙に逃げるのである。



だが、決死の覚悟で向かってこられた場合は違う。
殺さないと、殺される。
そんな状況に陥ったプラティなんて、俺は見たくなかった。

だから、俺が殺す。
気付かれないようにすれば、プラティも心が痛まないだろう。
はぐれは倒すと消えるっていう俗説があるから、きっとプラティはそれを信じてるだろうし。

アイテムを取り出しつつ、風圧を利用して残ったネバネバを散らせる。
何だか消えた感じに見えるようにである。
こうすれば、プラティは信じてくれるだろう。

だが、手に入れたアイテムには緑色の粘液がついたまま。
これは……気持ち悪い。
あんまり長く持っていたくないのだが、プラティの方を見ると目を逸らされた。



「ちょ、ちょっと持っててくれる?」



そして、そんな台詞が返ってくる。
……ですよねー。
俺もこんなベタベタしたのなんて嫌だし。






「あれ……さっきの?」

そんな感じで進んでいると、サナレがまたいた。
レベルとしてはあんまり高くないからなぁ。
レベル差がないなら、この辺りを抜ける時間が開くわけがないのである。

というかここ、コウレンがやけに入り浸っていた場所だ。
俺が教えたのだが、それ以降時々来るようになったとか。
原作通りに進めばいいかなあとか思って教えたのだが、その時の喜び方は異常だった。

「誰?」
「あ、ごめん……のぞき見とかそんなんじゃなくて」

振り返るサナレの顔が、一瞬コウレンと重なる。
うわ、雰囲気が同じだとそっくりだ。
つまり性格で損してたわけだが、これはこの子にも当てはまりそうだ。
ツンデレは好感度を上げる方法が難しいんだぞーと、心の中で言ってみた。

「別に……ここはわたしの持ち物ってわけじゃないもの。のぞき見されたなんて思ってないわ」
「そう、ならいいけど」

ちなみに俺がコウレンに呼び出された時は、あいつが呼んだはずなのに斬り殺されそうになった。
そうなると、既にプラティはサナレの好感度を上げているということなのだろうか。
恐ろしい百合主人公である。



「キレイでしょ、ここ。海の中が見えるの……」

サナレがプラティを呼ぶので、俺は少し先に進むことにした。
宝箱を探そうかと思ったけど、既にそんなものはないのである。
全部シンテツが取り尽くした。

だから俺が地道にはぐれを倒してアイテムを手に入れなくてはならないのである。
どんな縛りプレイだ。
秘伝は俺がいくつか持っているが、多分プラティの実力じゃ作れそうにない。
強くなったら小出しにしていこうと思う。

カボチャを割って、丸い鬼もどきを踏み倒し、スライムをぐちゃぐちゃにする。
そして死体からアイテムを回収しつつ、川に落とす。
これから先、プラティが来た時に死体が腐乱してたら怖いだろうし。

底の抜けたコップが6個、マッチ箱が3個、扇子の骨が2つ。
ちなみにちゃんと箱は壊している。
そうしないと扇子の骨の入手は難しいし、というかこのタイミングでプラティは来ないからだ。



アイテム的には既に充分、俺にかかれば箱壊しなどものの数秒で終わるのだ。
気をつけないと壁や天井に直撃するのだが、流石にそれには慣れた。
いや、ぶつかるのに慣れたわけじゃなく、コントロールに慣れたのである。

拾ったアイテムを持って、プラティを迎えに行く。
流石に話も終わっているだろう。
1人残した状態で放置とか、サナレがいなければ考えなかったし。



「ま、まあそういうことね。なんか話すぎちゃったみたい。じゃあわたしは行くね」

どうやら台詞を聞く限り、サナレはこれから先に行くようである。
軽く跳んで、プラティの後ろに着地。
誰にも気付かれないように静かに着地するくらい、バードマンならたやすいのだ。

「……それと、わたしの名前はサナレ。今度からそう呼んでよ」

そして、何故かこのタイミングで自己紹介。
どうやらブロンから教えて貰えなかった弊害がここに来たようである。
笑顔が可愛いなぁ。
ヒロインの美少女度合いは異常だった。

あ、あとすまん。
タルとか箱とか全部壊してしまった。
聞こえないだろうけど、心の中で謝っておいた。



「サナレって、けっこういい人なのかも……?」

ぼうっとしたようなプラティの台詞に俺は頷く。
まあ、ツンデレだし。
内面まで近寄れない人間だとただのキツい女の子にしか思えないだろうなぁ。
原作知らなかったら、俺も同じ感想だったかもしれないけど。



コウレン……コウレンかぁ。
最後に会った時には泣いてたような気がする。
シンテツも、もう少し周囲に気を使えばよかったのに。
……俺もあいつのことを言えないかもしれないけど。

とにかく、最終決戦までにゆっくり教えていこう。
何とか伝える手段を覚えて、伝えていかないと。
伝えたいのに伝えられないのは、凄くもどかしい。



「……まあ、まずは勝たないとね」

プラティが決意したように呟く。
そうだな、やっぱり勝ってもらわないと困る。
鍛聖トーナメントに勝ってくれないと、イベントが進まずに終わってしまう。

アイテムに不安はない。
鉄鉱石は手に入らなかったけど、材料そのものはあるから問題はない。



地下迷宮を抜けて、工房へと一直線。
プラティは初めての武器作りに興奮しているようである。
まあ、その気持ちはわかる。
シンテツも大体そんな感じだった。

タタラに拾ってきたアイテムを放り込んで、鉱石に分解する。
そして、分解した鉱石を秘伝通りに合成してハンマー鍛える。
そうして武器は完成するのである。

俺はそのハンマーによる鍛錬の間、温度が下がりにくいよう熱風を送る。
プラティにかからないように狙い、ついでに俺にもかからないようにする。
熱に弱いわけではないので、直接焼かれない限り平気な俺。
便利な身体になったものである。

「か~んせ~い!」

気付けばあっさり完成していた。
まあ、大きさが大きさだ。
最初の武器はナイフなので、鍛える時間も短くて済むのである。

だけど、初めてにしては上出来。
俺がフォローする必要がないくらいだった。
いや、実際はフォローするようなことを思い出せないだけなのだが。
3年もやってないと案外忘れるものなのである。

誤魔化す意味も込めて拍手をする。
よくやった的な雰囲気を出せばあっさり騙されそうなんだよな、この子。

案の定、凄く嬉しそうに笑うプラティ。
自分でやっておきながら、ちょっと後悔。
こういうところだけ似られると困るなぁ。



「おう、完成したみたいだな!」
「親方さん!」

プラティが手にした武器を振り回してると、ブロンが入って来た。
弟子が頑張ったのが嬉しいのは判るが、ノックはどうした。
出待ちしてたのも知ってるんだぞ。

「どれ、見せてみな!」

俺に睨まれてるのに気付いたのか、さっさとプラティの武器を奪い取って観察する。
流石にまだ現役か。
それなりに動きが洗練されていた。

まあ、鍛聖に比べたら少し劣るが、ぶっちゃけこれだけ出来れば問題ないだろう。
ルマリに至っては戦闘能力がギャグだし。
流石のシンテツもあそこまでは無理だと思う。

「まあ、合格点だ。その調子で頑張りな」

妥当過ぎる評価。
というか、ブロンにしては甘いな。
これは嵐の予兆だろうか。

「とはいうものの、ほとんどアレクのおかげだがな」

そう思うと、俺に評価の原因を押し付けてきた。
判った、お前俺をだしにして特訓させるつもりだな。
ブロンにしてはいい方法かもしれないが、俺にとってはいい迷惑だ。

「ちぇ~っもっと褒めてくれてもいいじゃないですか~」

そうだぞープラティは凄いんだぞー。
俺が手伝う必要がないくらいなんだからなー。
……というか、俺が役に立ってないだけなんだけどなー。



そんな感じの初めての武器作りだった。








-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-







コメントが嬉しくてつい更新しちゃいました。
何か違う要素が入ってる気がしてならない。
ちなみに召喚獣の戦闘不能の扱いは独自設定です。
調べても判らなかったので、捏造しました。

必要ないかもしれないけど、バードマン基本スペック

LV 100
HP 3988
Atk 150
Def 60
Agi 576

補助装備一覧
ウェポンウインド
ウインドストーム
クイックムーブ
シフトチェンジ(オリ)
ジャスティ・ブレイク(オリ)
ゴッドバードアタック(オリ)
サイクロン(オリ)

装備
シンテツクロー(半オリ)
Atk 30
Def 36
Agi 0
Dur 300
Tec 300

補助装備
素敵マスク(オリ)
アイテム出現率アップ。




ちなみにバードマンの装備はアイアンセイバー3本なので、DurとTecがそれぞれ3倍になってます。
こんなことになってるのは、シンテツが作った武器だからなので、普通の武器ではこうなりません。

それと、普通の魔法が使えないので地味に役立たず。
何か違う、とツッコミを入れてくれて構いません。

素敵マスクはお察しの通り顔を隠してるアレです。
完全装備中でも倍率がスッピン装備並になります。

これから、本編には存在しない技やアイテムはこの欄で補足することにします。
判らない単語があったら、とりあえず言ってください。
後で追記します。



12月3日
修正
サレナ……誰それ。



[16916] 激しくなる勘違い、そして嫉妬
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:1e2b4f5e
Date: 2010/12/03 23:28





「ただいま~」

それからちょっと経って、そういえばお母さんにアレクを紹介していないのを思い出した。
多分、お母さんも知ってるはず。
だってパパの護衛獣なんだから、知らないはずないもん。

「おかえりなさい、プラティ。……あら、パートナー決まったのね」

いつも笑顔のお母さんが、一瞬普通な顔になってた。
ちょっと驚いた。
わたしが親方さんに弟子入りしたとき以来の顔だった。

「まあ! アレクさんが護衛獣なの? お久し振りね」
「……」

やっぱり知り合い。
しかも顔が穏やか。
アレクが優しい顔になってる。

「知り合い?」
「知り合いも何も、アレクさんはお父さんの護衛獣だったんだもの」

うん、知ってる。
もしかしたら誤魔化されたりとかされるかと思ったけど、それもない。
ちょっと疑い過ぎたみたいだ。

「アレクさんが一緒なら大丈夫ね。頑張って、プラティ」
「あ、うん!」

絶対的な信用が、お母さんから感じられた。
やっぱり凄い人なんだ、アレクって。

だから、わたしもアレクに負けないくらい凄い鍛冶師にならないと。
護衛獣に頼ってばっかりの鍛聖なんて言われたくないから。








「―――――銀の匠合プラティだな。御前試合を開始する。準備はよいか?」

試験会場の前で役人さんと向かい合う。
これは、最初の1歩。
ここで勝って、わたしは先に進むんだ。

アレクの爪は、ブロンさんに渡してきた。
あれはわたしの作った武器じゃないし、もしかしたら2つ武器を持ち込んだ扱いになるかもしれないからだ。

「はい!」

大きく声を上げて、返事をする。



待っててね、パパ。
もうすぐわたしが追いついて、追い越してあげるんだから。









「それではこれより、鍛聖選抜トーナメント第4戦を始める!」

青玉の鍛聖のサクロさんが、開始宣言をする。
青い服の眼鏡さんで、ちょっとカッコいい人。
……まあ、パパの方がカッコいいけど。

「……」

それと、わたしの目の前でずっと黙ったままの男の人。
緑色の服を着ていて、わたしの2倍くらいの大きさ。
確か名前は……チェベスさん。

で、でっかい……こんな大きい人だったなんて。
強敵じゃないとか言われたけど、めちゃめちゃ強そうだよ。
どうしよう~……。

「護衛獣の召喚を行うか、チェベス?」

サクロさんが、チェベスさんに聞く。
そう言われて、わたしは初めてその人が護衛獣を出してないことに気付いた。
なんだか不機嫌そうだし、喧嘩でもしてるのかな?

「……子分なんぞ必要ありません。オレ1人で充分です」
「なっ……!」

とか思っていたら、チェベスさんはとんでもないことを言った。
護衛獣は子分なんかじゃないのに。
パートナーだって知ってるはずなのに、その人はそんなことを言ったんだ。

「……アレク」

許せない。
アレクを見れば、大きく頷いてくれてる。

「……うん!」

……そうだよね、わたしたちなら勝てる。

こうなったらチェベスさんにパートナーと協力した時の強さを教えてあげる。
絶対……勝っちゃうんだから!



「よし、準備はいいな!」
「……はい!」

サクロさんの声に気合を入れて答える。
鍛聖になる為には、勝たないといけないんだから。
こんなところでつまづいていられない!

「鍛冶師としての誇りをかけて、悔いのない試合を!!」

わたしが作った初めての武器――ラグズナイフを握り締めて、構える。
もうすぐ試合が始まるんだ。
心臓の音がドキドキうるさい。
もうすぐ始まるんだから……しっかりしてよ、わたし!



「御前試合第4戦、チェベス対プラティ……はじめ!」



サクロさんが剣を振り上げた瞬間、わたしたちはぶつかるように突進した。










「行くよ、アレク!」

狙いは武器。
相手の武器を壊せば問答無用で勝ちなんだから、わざわざ傷つけあう必要ない。

振り下ろしは受け流して、相手の剣の側面を斬りつける。
相手の剣はでっかくて硬そうだけど、横からぶつければ折れやすい。
剣の常識だ。



ガリガリガリ、っと金属同士がぶつかり合う音が響く。
嫌な音だけど、無視。
気にしてる余裕なんてない。

「はあっ」

近寄って、側面をまた斬る。
何度も何度も繰り返して、ダメージを蓄積させていく。

「クソッ」

相手は動き回るわたしが邪魔みたいで、剣を勢いよく振り回してくる。
なんとかかわしてるけど、凄い力で剣が暴れまわる。
今もわたしに向かって振り下ろされてきた。

それはわたしの右腕を狙ってきた。
なんとかかわせたけど、少しそこから血が出てきた。
これがこの試合で、初めての怪我だった。



「―――――ぁ」



それで、唐突に怖くなった。
だって、地下迷宮のスライムはあんなに激しい攻撃なんてしなかった。
確かにあっちも怖かったけど、こんな風に死にそうな攻撃じゃない。

目の前のあの人は、わたしを傷つけようとしてる。
それがあの攻撃でわかってしまって、怖くなっちゃったんだ。



「あ……!?」



そのせいで、動けなくなった。
足が止まって、身体が固まる。
どうしたらいいかわからなくなっちゃった。



目の前に、大きな剣が振り下ろされる
だめだ、こんなところで終わっちゃう。
そんなの嫌だ、絶対嫌。



負けたくない、死にたくない。
まだわたしはなんにもやってないんだから。
わたしはまだ……パパのことを全然知らない。



生きたい、勝ちたい、倒したい。
アレクを子分だって馬鹿にしたあの人を見返したいんだ。
パパのパートナーだったアレクを馬鹿にしたあの人をやっつけたいんだ。







だから……こんなところで負けたくない!!








「アレクッ!」



アレクを大声で呼ぶ。
大丈夫、アレクならなんとかしてくれる。
ホントならこんな風に頼りたくなかったけど、負けるわけにはいかなかったから。

ルールでは、護衛獣の助けを借りられるのは5回まで。
アイテムの使用も回数に含まれるけど、今は関係ない。
アレクに頼るのは、1回までだって決めてるんだから。

「何ッ?!」

一瞬でアレクはわたしと剣の間に立ち、振り下ろされる剣を片手で受け止めていた。
右手に装着されてた爪は、ない。
あれも武器としてカウントされてしまうからだって親方さんは言ってたけど、それはちょっと違うと思う。

だって……あれがあったら、絶対わたしが勝っちゃうもん。
完成度が高過ぎる、強力過ぎる武器。
あんなのを護衛獣が持ってたら、誰だって勝てる。

だからアレクは親方さんに預けたんだ。



だけど、今はそれで充分。
動きが止まった相手の剣を、わたしの剣で真っ二つに叩き割る!



「は……あ あ あ あ あ あ っ !!」



全力で振り、叩きつけ、薙ぎ払う。
刃筋を立てて、思い切りぶっ叩いた。
折れろ、折れろ、折れろ!
わたしは願いを込めて、全力でわたしの剣を振り払った。














直後、ガキィ……ン、と剣が折れた。
















「やったぁ! 勝っちゃった!!」

唐突に、身体に震えがきた。
そうか、勝ったんだ。
そんな思いが、今やっと私の心に届いたんだ。

「ありがとう、アレク!」

それから、アレクにやっと感謝出来た。
アレクがいなかったら、負けてた。
わたしが勝てたのは、アレクのおかげだったんだから。

ありがとうアレク、わたしと戦ってくれて。
ありがとうアレク、わたしと勝ってくれて。
ありがとうアレク、わたしと……一緒にいてくれて。

嬉しくなったわたしは、アレクを抱きしめようとして―――――



「畜生……この試合は無効だ!」



―――――そんな、嫌な言葉に中断させられてしまった。



「ちょっと、なんでそんなこと言うわけ!」

ホント、なんでそんなことを。
わたしは決まったルールの中で、正々堂々戦ったのに。
アレクに頼りきりにならないように、頑張ったのに!

「こいつが勝ったのは、武器の良さでも武器を扱う腕でもねぇ! 護衛獣のおかげじゃないか!」

それなのに、なんでそんなこと言うの!?
護衛獣を呼ばなかったのは自分なのに!



嫌だ、目の前がにじんでる。
胸が痛い。
わたしはズルイって言われて、それがホントだって思ってるんだ。

だってアレクはホントに強いから。
鍛聖だったわたしのパパの護衛獣だったし、わたしの何倍も強い。
100回戦っても、全部負けちゃうくらい。



「無効だ、無効だ! 無コッ?!」
「……アレク?」

もしかしたら、反則負けなのかな。
そう思ってたら、不意にアレクがチェベスさんに近寄っていった。
それに驚いたチェベスさんは、怒鳴り声をやめた。



「―――――黙れ三下」
「……っ!!」



そして不意に、冷たい声が響いた。
まさか、あれがアレクの声?
昨日の夜聞いた優しい声とはまるで違う、怖い声だった。

あれが、アレクのホントの姿なのかな。
あんな怖いのが、アレクの本性だったら……。

……わたしはなに考えてるんだろう。
アレクはアレクなのに。
そんなの関係ないはずなんだから。



「鍛冶師の三宝。3つの宝を……忘れてしまったのか? 武器は鋼の硬さにあらず、武器は剣の腕にあらず、武器は友の助けにあらず」

そこに、サクロさんが割って入る。
張り詰めた空気が一気になくなって、いつものアレクに戻った。
一瞬アレクとサクロさんの目が合ったような気がしたけど、気のせいかな?



「この言葉の意味を、もう1度考えてみたまえ……」



そんな声で、わたしの1回戦目はドタバタのまま終わっていった。















「いよっし! なんとか1戦目突破! ようやっと実感がわいてきたかも……」

あの時は怖かったり悲しかったりで全然休めなかったから、今やっと落ち着けた。
一瞬喋ったアレクだったけど、あの後すぐに喋れなくなったし。

もしかして、なんか理由があるのかもしれない。
そう思って色々考えるんだけど、結局思いつかない。
いつか教えてくれると信じて、わたしはアレクと向かい合った。

「おう、プラティはいるか!」
「はぁい」

ありがとう、って言う前に、親方さんが来た。
まだちゃんとありがとうって言えてないから、言おうと思ってたのに……。
もう、空気読んでよ親方さん!

「おうおう、1回戦突破したみてえじゃねぇか!」
「えへへ……ありがとうございます! もしかしてお祝いでもしてくれるんですか?」

だけど、お祝いだったら別。
なあんだ、言ってくれればいいのに。
もしかして照れてるのかな、親方さん。

「おめえよう……1回戦突破くらいで何言ってやがる!」
「え~」

だけど、なんか違うみたい。
逆に怒られちゃった。
うう……でも、褒めてくれたっていいじゃない!



「……それにな、試合をひかえてるヤツがまわりにいるんだ。あいつら全員が1回戦を勝てるとは限らねえ……たとえ勝ったとしても、トーナメントで勝ち残るのは1人だけだ」
「……」

……いや、やっぱり親方さんはいい人だった。
わたしじゃ思いつかないくらい、気を使ってるんだ。
……わたしに対する気の使い方がなってない気がするけど、きっとそれは弟子に対するふれあいなんだと思うことにした。



「鍛聖を目指すんなら、自分のことばかり考えるんじゃねえ。ちっとはまわりも見ることだな」
「はい……」

うん、そうだ。
わたしは自分のことばっかり考えてた。
もっとみんなのことを考えないと、ただの嫌な人になっちゃう。

アレクもそんな人がパートナーじゃ嫌だろうし、頑張らないと。
みんなに好かれるような鍛聖になれば、きっと喜んでくれると思う。

「しかし……今日は初戦突破のめでてえ日だ。少しぐらい浮かれても大目に見てやる。これからも頑張れよ、プラティ!」
「うん! ありがとう親方さん!」

親方さんが、応援してくれた。
うん、嬉しい。
やっぱり親方さんは優しい人だ。

……ちょっと頑固で口うるさいけど。



「……さて、アレク。ちょっと話を……っていない!?」



親方さんが出て行って、やっとアレクと話が出来ると思ったらもういなかった。
い、いつの間にいなくなったの?!














「―――――あれ、なにやってるのサナレ?」
「ひあっ?!」

3階から探すことにしたわたしは、その途中でサナレを見つけた。
内側の階段はじゅうたんがあってうるさくならないと思って入ったら、地下迷宮に潜ろうとするサナレがいたんだ。

「な……何よプラティ、いきなりびっくりするじゃない!」

声をかけたら変な声を上げて跳び上がって、すぐにわたしの方に近寄ってきた。
しかも小さく怒鳴りながら。

どうやってるんだろうとか思ったけど、そんなのは後回し。
他に人もいないから、アレクを見なかったか聞いてみることにした。

「ねえサナレ、アレク見なかった? わたしの護衛獣なんだけど……」
「はあ? あんた、護衛獣逃がしちゃったの?」
「ち、違うよっ!」

な、なんだか調子狂うなぁ。
ふーんとか言いながら、サナレはわたしをニヤニヤ見る。
うう、嫌な予感が止まらない。

「教えてあげても、いいんだけどなぁ~」
「ず、ずるいよサナレ!」
「ずるくなーい」
「もう! もぉうっ!」

サナレは知ってるはずなのに、教えてくれない。
顔が笑ったままで、すっごく楽しそう。
うううう、ずるいよサナレ!
というか笑わないでよぉ~!






「……あれ、なんか聞こえない?」
「あ、ホントね」

言い合ってると、どこからともなく小さな音が聞こえてきた。
まるで、金属同士がぶつかりあってるような音。
ついさっきまで近くで聞いてた、戦ってる音。

「……まさか!」
「ちょ、プラティ!?」

全力で階段を登る。
まさか、まさか、まさか。

ありえない話じゃない。
もし今日のあの人がアレクに復讐しようとするかもしれない。



そうなったら、そうなったらアレクは……あの人をどうするかわからない。



あんなに怖いアレクは知らなかった。
もしかしたら、ホントのアレクはもっと怖いのかもしれない。

なにをするのかわからない。
アレクがどんなことを考えてるのか、わたしにはわからないから。

だから……知りたいんだ。
アレクのことも、パパのことも。
なんにも知らないなんて、わたしは嫌だもん。



「あ、誰かいる!」
「何やってんのよあんたは……!」

3階に登ると、やっぱり誰かが戦ってた。
暗くてよく見えないけど、2人の人が剣をぶつけあって戦ってた。

「しっ、伏せて」
「痛っ!?」

見つかりそうになったから、サナレと一緒に伏せる。
軽く殴られたけど、そんなの気にしてられなかった。
アレクが誰かと戦ってるのが、怖かったんだ。



だけど、チェベスさんじゃない。
今戦ってる人は、あの人よりも全然小さかった。

「……ねえ、あれって青玉の鍛聖、サクロ様じゃない?」

サナレの言葉に、わたしはちょっと驚いた。
だってあの人は、アレクを止めてくれた人。
そんな人と、アレクがどうして戦ってるんだろう。



「―――――この、裏切り者!」



サクロさんが、叫ぶ。
それを聞いて、わたしは肩をかかえてしまった。

アレクは、サクロさんに怒られるくらいひどいことをしたんだろうか。
少し遠くで見てるから、あんまり聞き取れないけど、凄く言い合ってるのはわかる。

……これ以上近付くと気付かれちゃいそう。
戦ってると周りのことに凄く敏感になるって聞いたことだある。
アレクもそうかもしれない。
だから近づけない。



「お前に……何が判るサクロォッ!!」



アレクがサクロさんに飛びかかる。
あの試合の時よりもずっと速い。

赤い爪がサクロさんを狙って何度も動く。
速過ぎて、わたしには見えなくなってしまうほどだった。
あれが、アレクの本気なんだ……!

「……プラティ、あいつ何者?」

サナレが真剣な声で聞いてくる。
だけど、そんなのわたしが知りたいくらいだ。

サクロさんもアレクの攻撃を剣で受け流したりしてる。
時々反撃しようとしてるから、あの人にはアレクが見えてるんだ。
鍛聖はやっぱり強いんだ。



わたしも、あんな風になれるんだろうか。
あんなに強く、カッコよくなれるのかな?
あの戦いを見てると、どんどん自信がなくなってきちゃった。











「……いつか、決着をつける!」
「……望むところだ」



気付いたらあの戦いは終わっていた。
2人とも、怪我してるようには見えない。
凄い、やっぱり強いんだ。

アレクが強いことに喜んだけど、やっぱりわたしじゃつりあいそうになかった。
アレクはあんなに強いのに、わたしはこんなに弱い。

真剣勝負の場で怖がって、もう少しで負けそうになってた。
アレクがいなくちゃ、なんにも出来ない。
そんなわたしじゃ、アレクのパートナーになれないのかも―――――



「―――――ふぅん。あんた、これを見せる為にわたしを呼んだのね」



―――――沈んでたら、サナレが凄い顔でそう言った。

あれ、なんでそんなに目をギラギラさせてるの?
ちょ、ちょっと怖いんだけどサナレ?!

「わかったわ、わたしもあんたに負けないようにわたしも全力で戦う。トーナメントでぶつかったら、容赦しないわよ」

あ、あれ?
もしかして、勘違いしてませんかサナレさん?
アレクと違ってわたし、あんなに強くないデスヨ?

「ああもう、あの怖がり方は他の選手を油断させる演技だったのね。まんまと引っかかっちゃったわよ」

ああああ!
絶対勘違いしてる!
違うから、わたしは違うから!
あんなに強くないんだってばっ!

なんとか伝えたいけど、口から出るのは変な音だけ。
変に動揺して口が動かないっ!
このまま勘違いさせたままだと大変なことになりそうなんだけど!?



「……でも、どうしてわたしにだけ教えたの? わたしだってあんたの敵よ? それなのに……」

サナレの攻撃が終わった。
そうだ、ここで誤解をといておけば大丈夫だ。
頑張れわたし、というか口よ動いて!

「さ、サナレにはウソをつきたくないから……」
「なっ……!?」

わたしが説明しようとしたら、サナレがいきなり跳び上がる。
い、いきなり声出さないでよっ!
びっくりして途中で止まっちゃったじゃない!

「わ、わたし先行くから! あんたは後で帰ってきなさい!」

そして、そのままサナレは帰っちゃった。
わたし、まだちゃんと説明してないのに。

……ということは、サナレは勘違いしたまま。
色々まずい気がする……。



「……ま、待ってよぉ!?」



さ、サナレを追いかけなくちゃ。
ウソついたなんて思われたくないし、なによりあのままだとわたしが危ない。
あんなのがわたしの実力だと思われたら、わたしトーナメント中に死んじゃう!

アレクのことは後回し。
というか、もうそれどころじゃなくなった。



「サナレー待ってよー! 今のはアレクだけで、わたしはまだ普通の見習いなんだってばー!!」



明日の新聞で、叫ぶ女の子の幽霊が出たってのってたみたいだけど、わたしかもしれない……。


























「ただいま~」

今日はプラティのご帰宅らしい。
久し振りのシンテツ家だが、あんまり変わってない。
私物は全部工房に放り込んであったからなぁ。

……リンドウから貰ったエロ本は、何故か俺に持たされたけど。

「おかえりなさい、プラティ。……あら、パートナー決まったのね」

変なことを考えてる間に、アマリエが出て来た。
んんん、まるで年齢に衰えがない。
肌とかだけ時間が止まってるんじゃないだろうか?
俺も仙人修行で同じことが出来るから、説得力があって困る。

「まあ! アレクさんが護衛獣なの? お久し振りね」
「……」

お久し振り、アマリエ。
声は届かないけど、一応心の中でだけ。
彼女ならきっと察してくれるはず。
コウレンを抑える役は大体彼女だったのだから。
あのツンデレを理解出来る人材は少なかったし。

「知り合い?」
「知り合いも何も、アレクさんはお父さんの護衛獣だったんだもの」

というか、俺は彼女のキューピッド役だったのだ。
シンテツが俺にアマリエについて相談してきて、アマリエがどうすればシンテツが振り向くのか聞いてきたのだ。
うん、シンテツはともかく、アマリエが俺に聞くのはどういうことなんだろうか。
俺が喋れないって知ってたはずなんだけど。

まあ、俺が特訓しようってシンテツを呼び出して、そこにアマリエを送り込んで以下略だった。
お付き合いまで残るは告白だけだったからな、あの時は。

まあ、そこからブロンの絶望時間が始まったんだが。
ちなみにブロンが鍛聖を辞退したのは、その頃まだ失恋を引きずっていたからである。
それがなかったら、あのドリル馬鹿が鍛聖にならなかったんだがなぁ。



「アレクさんが一緒なら大丈夫ね。頑張って、プラティ」
「あ、うん!」

回想に浸ってると、プラティが外に出て行った。
どうやら母親に応援されて舞い上がったようである。
俺を置いて行くとは、それだけ嬉しかったということだろうか。



「―――――アレク、プラティをお願いね」



俺もついていこうとすると、後ろから懇願するような声。
ああ、判ってるって。
シンテツみたいなことにはならない。
いや、俺がさせない。

大丈夫だという意味も込めて、俺は大きく頷く。



『―――――ウソツキ! ウソツキ! ウソツキィッ!!』



「……ッ!」

勝手に3年前の記憶が甦る。
俺は胸の痛みを無理矢理ねじ伏せて、俺はプラティの後を追った。



……そう、今度は絶対失敗しない。
絶対にだ。








「―――――銀の匠合プラティだな。御前試合を開始する。準備はよいか?」

とりあえず、次の試合。
俺がヘマしなければ、優勝は確実。
召喚獣に頼らずにクリアだって可能なこのゲームだ。
下手すりゃ俺は要らないくらいだ。

「はい!」

プラティが大きく声で返事をする。
うん、いい声だ。
シンテツにはなかった華がある。



ちなみに爪はブロンに預けた。
あれがあれば普通の武器くらい瞬殺なのだが、そうなったらプラティの為にならない。
俺に頼りきりの鍛聖なんて、弱くなってしまうだろうし。



「それではこれより、鍛聖選抜トーナメント第4戦を始める!」

青玉の鍛聖であるサクロが、開始宣言をする。
こいつ、いつの間に鍛聖になったんだ?
3年間いなかったから全然情報がない。
戦闘中にカレーを布教する癖は直ったんだろうか。

「……」

それにしても、チェベスは大きい。
年齢制限があったような気がするんだが……これは平気なのか?
中に誰か入ってるとかだったら判るんだけどなぁ……。

武器はごつい大剣。
それなりの攻撃力と強度を誇るが、まあ最初の敵だ。
それほど強敵とは言えないだろう。

「護衛獣の召喚を行うか、チェベス?」
「……子分なんぞ必要ありません。オレ1人で充分です」
「なっ……!」

それに、護衛獣のサポートもない。
それだけでかなり楽だ。
ゲームでは回避不能だった召喚術がないだけで、かなり有利に戦えるはずだ。

「……アレク」

プラティの顔に闘志が灯る。
いい顔だ。
頑張れという気持ちを乗せて頭を振る。

「……うん!」

よし、きっと大丈夫。
フォローは俺がすればいい。
この試合は、たった1人で戦うものではないのだから。

「よし、準備はいいな!」
「……はい!」

サクロの掛け声に、プラティが返事をする。
チェベスは無言。
気にする必要はないかもしれないが、一応の警戒をしておく。

「鍛冶師としての誇りをかけて、悔いのない試合を!!」

誇り……誇りか。
サクロの台詞を聞いて、懐かしく思う。
誇りなんて、俺はいつ捨てたんだったか。



「御前試合第4戦、チェベス対プラティ……はじめ!」



だが、プラティだけは守り抜く。
それを誇りの代わりにして、俺は気を引き締めなおした。









「行くよ、アレク!」

プラティの声に反応し、しかしその場に留まる。
不用意に攻撃範囲に飛び込めば、あっさり切り捨てられる。
俺はほとんど無傷かもしれないが、そうなるとプラティに要らない負担がかかるかもしれない。

そうならないよう、俺は待機しているのだ。
先程から感じる嫌な予感のせいで、警戒しているのもあるが。
とはいえ、危なくなったらさっさと助けに入る。
流石に、勝利よりプラティの命が優先だ。



プラティの武器はラグズナイフ。
Tecが255まで上がる地味に強力な武器だが、耐久力が低く、武器破壊には向かない。
この状況で戦う以上、チェベスには負傷を覚悟してもらうことになるだろう。

「はあっ」

だが、プラティは一向にチェベス本体を狙わない。
致命傷になる前に、鍛聖が止めてくれるはず。
その為のサクロだ。

なのにプラティが狙うのは相手の剣の側面。
いくら本体に隙が出来ても、狙うのは武器ばかりだ。



……まさか、そんな馬鹿な。
俺はその行為が理解出来た。
出来てしまった……というのが、正しいのかもしれないが。



近寄って、剣の側面をまた斬る。
何度も何度も繰り返して、ダメージを蓄積させていく。
やはり、プラティは武器破壊を狙っている。

確かに武器を破壊すれば、相手を傷つけずにすむだろう。
だがそれは、かなり難しい。
ゲーム内ではあっさり成功した武器破壊だが、今のプラティの武器は破壊に向かない剣を装備している。
斧やドリルと比較すると、難易度は数倍に跳ね上がる。

「クソッ」

チェベスが舌打ちをするが、それは俺の気持ちも表していた。
そのナイフで相手の武器を破壊するのは無謀。
Tecが100越えならまだしも、握ってからまだ30分と経っていないその武器でそんな数値が期待出来るとは思えない。
この世界がゲームでないとはいえ、Tecが一気に上がるなんてありえない。

今は何とか持っているが、それでも限界があるだろう。
あそこまで相手を傷つけないように行動するということは、それだけ相手を傷つけることが怖いということ。

馬鹿が、そんな余裕がこんな場所であると思うな。
はぐれを殺させないように気を使ったのが、こんな裏目に出るとは思わなかった。



更に時間が進み、プラティがチェベスの攻撃を受けてしまった。
この試合で、初めての怪我。
今まで感じていた嫌な予感が、この瞬間確信に変わった。



「―――――ぁ」



プラティが、動かなくなったのだ。
いや、動けなくなったのだろうか。

今の俺にはどっちでもよかった。
だが、このタイミングでこんなことになるなんて。



「あ……!?」



プラティが困惑した声を上げる。
自分の身体が動かなくなったことに気付いたのだろう。

だが、少し遅い。
この状況では、プラティに次の攻撃を止める手段は残されていなかった。



急げ、そして気付け。
俺は自分から動けない。
動いたら、恐らく俺は反則になってしまうだろう。

護衛獣の力を借りるのは5回まで、そして自由である。
だが、護衛獣側から出場者の指示なく動くことは許可されていない。

だからこそ、俺はまだ動けない。
そのことにチェベスも気付いているのだろう、顔には微かならが勝利を確信したような笑みを浮かべていた。



まだだ、まだのはずだ。
お前はまだ、諦めちゃ駄目だ。
諦めるには早過ぎる。

俺はお前に何も教えてない。
俺はお前になにもしてやれてない。
俺はお前に何も返してない。



俺はまだ……お前に言い残したことがあるんだ。



今ここで負けたら、プラティは動かなくなる。
先に進めず、誰の声も聞けなくなってしまう。
あの馬鹿の娘だ、絶対そうなるに決まっている。

アマリエと喧嘩した時の、魂の抜けたあいつ。
まるで死人のようだったあいつが、もう1人増えるというのか。
そんなのごめんだ。



プラティ、早く気付け。
そして俺を呼べ。
俺を呼べば、後は何とかしてみせる。



何故なら俺は……お前の親父に、お前を任せられたんだからな!!









「アレクッ!」



プラティが俺をを大声で呼ぶ。
まさにギリギリだった。
もう少し遅ければ、俺は失格覚悟でチェベスを殴り倒してたかもしれない。

「何ッ?!」

チェベスが驚くのも無理はない。
俺はプラティが叫んだ瞬間、2人の間に割り込んでいたのだから。

――シフトチェンジ。
俺が今使った技の名称である。
命名、俺。
効果、俺と対象者の位置を入れ替えて代わりに攻撃を受ける。

判りやすい技だが、俺の速さでやれば誰にも気付かれる前に入れ替われる。
マッハ5舐めんな畜生である。

流石に直撃を受けるのは痛いから、右手を突き出したのだが、地味に痛い。
くそ、防御力が低いのがここに来て足を引っ張ったか。
何だよレベル100なのに防御力2桁とか。
しかもプラティに召喚されたら更に下がったし。

だけど、この攻撃を受け止めるだけなら充分。
レベル100舐めんなよ。

それに、決めるのは俺じゃない。
勝つのは……今ナイフを振りかぶってる、プラティだ!



「は……あ あ あ あ あ あ っ !!」



恐らく、彼女渾身の薙ぎ払い。
綺麗な曲線を描いて、そのナイフはチェベスの剣を捉える。



……ここで、耐久値の話をしよう。
剣は硬い敵を攻撃すると耐久値が一気に下がるという欠点がある。

更に、俺の右手は爪装着によって筋力やら骨やらで頑丈。
しかも召喚獣なので、普通の人間よりも更に頑丈。
つまり、かなり硬い。



……さて、そんな超頑丈なものに叩きつけた武器の耐久値は、一体どうなっているでしょう?














直後、ガキィ……ン、と剣が折れた。
















「やったぁ! 勝っちゃった!!」

プラティが喜びのあまり飛び跳ねている。
危ない危ない。
冷や汗をかいた。
もう少し、自分の強さとかを把握してくれないだろうか。

「ありがとう、アレク!」

……まあ、喜ばれるのは嬉しくないわけじゃないが。
叱ろうとした手は下げれられて、あっさり置き場を失う。
うう、こういう純粋な笑顔には弱いのだ。



「畜生……この試合は無効だ!」



―――――だが、ここに空気を読まない男がいた。



「ちょっと、なんでそんなこと言うわけ!」

いいぞプラティ、もっと言え。
というかこのタイミングで叫ぶとか、むしろ空気を読んでいるのか?
噛ませ犬的な意味で。

「こいつが勝ったのは、武器の良さでも武器を扱う腕でもねぇ! 護衛獣のおかげじゃないか!」

……ただ、この台詞はいただけない。
確かにお前も努力してきたんだろう。
さっき折れた剣で、俺の掌は結構綺麗に斬れている。



……だが、だからといってプラティを努力していない奴だなんて思われるのは、心外だ。



「無効だ、無効だ! 無コッ?!」



そんなこと言う奴は、軽くおしおきしとかないとな。



「……アレク?」

プラティが不安そうな声をする。
だけど、大丈夫。
別に殺意とかそんなんじゃないから。

ただちょっと懲らしめるだけだ。
ちょっと漏らしたりするかもしれないけど、それくらい我慢してもらう。

「―――――黙れ三下」
「……っ!!」

久し振りの凄んだ声。
格下の相手を降参させたりする時によく使う声で、あまりに怖いからコウレンに使用禁止だと言われた声である。
チェベスは俺の声に驚いて腰を抜かしたのか、その場で動けなくなっていた。

「鍛冶師の三宝。3つの宝を……忘れてしまったのか?」

更に追い詰めようとか思ったら、サクロが間に入ってきた。
あ、少し怒ってるか?
やっぱりやりすぎただったかもしれない。

「武器は鋼の硬さにあらず、武器は剣の腕にあらず、武器は友の助けにあらず」

一度俺に視線を寄越してから、チェベスに声をかける。
うむ、どうやら緊張を無理矢理取り除いたようだ。
精神論とか得意だったからな、こいつ。
少しきっかけさえあれば、あっさり洗脳も出来る奴だから困る。



「この言葉の意味を、もう1度考えてみたまえ……」



とにかく、第1回戦目は無事に突破出来たのであった。



あー……疲れた。







「いよっし! なんとか1戦目突破! ようやっと実感がわいてきたかも……」

工房に帰ってきたプラティは、背伸びをしながらそんなことを言った。
まあ、色々あったからな。
チェベスはサクロから注意があっただろうし、何も起こることはないだろう。

まあ……よく頑張ったし、今日はゆっくり寝てるくれるだろう。
そもそもこの子は13歳なんだから、夜更かしは身体に悪い。
夜会話なんてしない方がいいのである。


プラティが俺の方を向く。
何か言いたそうなのだが、多分それは聞けないだろう。
何故なら部屋の外にブロンがいるからである。

「おう、プラティはいるか!」
「はぁい」

ブロンがドアを開けて入ってくると同時に、プラティが残念そうな顔をする。
む、何が言いたかったのか気になる。

気になるけど、俺にはやることがあるのでさっさと退散する。
ブロンの影に隠れるように移動して、プラティから離れる。
昨日よりは遅いが、それでも結構な速度。
風で気付かれないようにするのは難しい。









3階まで飛び、人を待つ。
俺がどんな性格で、どんな場所を好むかくらい、あいつなら判るはずだ。



だってあいつは、シンテツの弟子だったんだから。




「―――――久し振り……というべきかな、アレク殿」



気付けば、階段の方からそいつが歩いてきた。
当然ながら、相手はサクロ。
青い服のまま、剣を持って歩いてきた。

3年前より、少し顔が男らしくなっただろうか。
難しそうな顔をしてばかりいたのか、眉間のしわが残ったままだ。
CV:子安と言われるだけある顔だ。

「そうだな、サクロ。元気にしてたか?」
「勿論。アレク殿も元気そうで」

どうやら普通に話をしたかったらしい。
うん、俺もお前には色々話しておきたかった。
プラティのことを知ってる奴は殆どいないとはいえ、こいつに知らせておかないと、守ってくれる相手もいないのである。

「コウレンは元気か? 3年も会ってないと、恋人でも出来てるかと思ってるんだが……」
「そのようなことはない。未だに怒っているようなので、やめた方が賢明だと思う」
「ああ、知ってる」

他の鍛聖は彼女の性格を知っているが話さないと約束した、もしくは知らない奴らばかり。
俺だけが鍛聖以外で彼女の性格を知っていて、誰よりも弱いのである。
だから結構命を狙われていたりするのだ。

彼女と会う時はプラティを盾にすることにしよう
ごめんプラティ、いつかカレー作ってやるから頼んだ。

ちなみに彼女の可愛いところとかも知ってるが……これは、絶対教えたら駄目だと思う。
俺だけじゃない、相手も虐殺される。
火炎剣とか紅蓮刀とか呼ばれる彼女の武器で、焼き殺されるだろう。



「……ところでサクロ、一体いつ鍛聖になったんだ?」
「ついこの間、シンテツ師が亡くなられてからすぐだ」

たわいない話から始めようとしたら、いきなり暗い話に発展した。
折角気を使って話を逸らしたのに、どうして一気にそこに飛ぶかな。
わざとやってるとしか思えない。



とにかく、聞いておきたいことが色々あった。
この3年間にあったであろう話を、全て。

勇者の登場、魔王の復活、その他もろもろ。
リンドウの近況も聞いてみたが、こっちはいつも通りだったようだ。
まあ、この辺りは予想を超えなかった。

魔王が復活したという話はなく、勇者が今年出てきたとか何とか。
しかもその勇者が、異世界の住民だったらしいとか。

……うん、大体判った。
色々と問題はありそうだったが、死亡フラグには直接繋がりそうにない。
これで、安心してプラティの護衛獣を続けていられる。



「……ところでアレク殿。貴方は今、プラティ君の護衛獣だとか」
「ああ、そうだけど……それが何だ?」

暫く質問を繰り返していると、今度はサクロの方から聞いてきた。
変に怪しい顔をしてるから気になるのだが、まあ大丈夫だと思って返事をした。

すると、唐突にサクロの背中から紫色のオーラが出て来た。
あまりにも強烈な威圧感に、パリスタパリスの洗脳かと構えたが、何か違う。
シリアスムードではなく、むしろギャグパートの雰囲気だった。

「するとあれですか、いたいけな少女と2人きりで工房に篭っているということですか」
「あー……」

そういえば、サクロには恋人が出来たことがなかったとか何とか言ってたな。
性格の怪しさと鍛聖という立場の高さが、女性陣の牽制のし合いに繋がってるとか。
下手すればこのまま結婚出来ずに還暦迎えるんじゃね? とか3年前にリンドウが言ってたし。

ちなみに俺は工房に殆どいない。
流石に少女の部屋に入り浸るわけにはいかないだろう。
工房の前でずっと待機するつもりである。

「そして手取り足取り腰取り色んな技を教えていると、そういうことなのでしょう……なんと淫猥な!」
「お前の頭が淫猥だ」

やっぱり『知的な男特集 ~インテリ男がもてる~』なんて本贈るんじゃなかった。
ついでにコウレンにも『神秘的な女性特集 ~女は秘密を持ってなんぼ~』を手渡したのは恐らく最大の失敗。
余計なことに気を回すんじゃなかった。



「そんな爛れた性活……許すわけにはいかないっ! 成敗!!」
「絶対キャラが違うだろお前!?」

変なこと言いながら斬りかかってくるサクロ。
おいおい、鬱憤溜まりすぎだろ。
ガス抜きぐらいうまくやれよ。

綺麗な斬撃が俺を襲うが、何とか受け流す。
正直、その為の爪だ。
切れ味など二の次なのである。

とは言っても、その場に立ったままだと捌き切れない。
翼を使って何度も移動しまくり、攻撃すると見せかけてわざと回避させる。
相手の攻撃を抑制させる、結構楽な技だ。



「―――――この、裏切り者!」



サクロが叫ぶ。
だがそれは言いがかりだ。
というか、お前はさっさと女に声かけろ。
お前の顔ならホイホイついてくるだろうが!

「3年前まではコウレン殿と仲良くして、今度はプラティ君か。君も尻軽だな」
「色々と間違ってるぞサクロ!」
「間違ってなどいない。きっと君はサナレ君も手篭めにするつもりなのだろう!」
「そんなわけあるかっ!」

まさか、こんな話をサクロとする羽目になるとは。
一瞬リンドウと被ったじゃないか。
怖いぞサクロ!

ちなみにサナレとの面識は一応ある。
とはいえ、ほんの一瞬コウレンと対面中に軽く顔を合わせただけだが。
あんな昔の、それも1回しか会ってないのだから、覚えてないだろう。

「コウレン殿も心配していたというのに、何故3年間顔を出さなかった……」
「お前に……何が判るサクロォッ!!」

だが、今の台詞には断固反論させてもらう。
会ったら殺されるんだぞ!
思いっきり殺すって言われたんだぞ!?
正直悲しかったんだからなっ!!



その口を閉じさせてやる。
俺は全力でサクロを倒しにかかった。












「……いつか、決着をつける!」
「……望むところだ」

当然ながら、勝負は終わらなかった。
こんなに足場が悪い場所で戦って、サクロに勝てる要素はない。
だが、潮風が強過ぎて俺は全力を出せない。

結局、どちらも全力を出せないまま決着はお預けである。
今度会ったら、絶対泣かしてやる。
お互いに相手への敵意は隠さない。



というか、何やってるんだろう、俺?
サクロを説得しようとして、いつの間にか喧嘩。
まるであの頃に戻ったようだった。

……まあ、あくまでも体感なのだが。



「さて、明日は……何だっけ」

確か、斧使いと戦うはず。
その前に何かイベントがあったような気がするが、何だったか。
ああもう、こんなことならちゃんとメモしとけばよかった。
過ぎたことだが、それでも嘆かずにはいられなかった。












「……ま、また締め出された」



今日は銀の匠合の中にすら入れなかった。
……はぁ、潮風が身に染みる。








-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-





バードマンがゲームシステムの根本を否定すること言ってる。
よくある話なので問題ないと思う。

コウレンはバードマンと旧知の仲。
昔はサナレみたいだったとどこかで見た記憶があるので、そんな過去話。
バードマンが思い出してることの大半がコウレンについての気がするのは気のせいです。

過去の話は暫く経ったら本編で。
多分オチの大半がルマリだと思いますが、気にしない方向で。
戦艦6隻を1人(熱病に苛まれながら)で沈める人の本気は既にギャグ。
多分、ネギより強いんじゃないだろうか。



それと、サイドラを何とか萌キャラに出来ないかとか考えてた。
題名を『さい☆どら』みたいな感じでやれば何とかなるかなーとか。
うん、友人に無理ってはっきり言われた。
4人くらいから。
俺も無理だと思う。
誰か書いて。





12月3日
修正
またサレナか。



[16916] 新たなる敵とおっさん
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:44469469
Date: 2010/04/12 16:55


「―――――はぁ」

結局、昨日はサナレに追いつけなかった。
ああもう、きっとまだ誤解したまんまだよサナレ。
今度会う時のことを考えると、ちょっと不安。





今日はヴァンスに武器を売りに行くみたい。
銀の匠合が作った武器を納品しに行くから、一緒についてこいって言われたんだ。

それでわたしは今、親方さんの船に乗ってヴァンスに向かってる。
船にはタタラもあるし、鍛錬が出来る環境も整ってた。
すごいなぁ……いつかこんな船、わたしも持てるのかな?



「あ、アレク!?」

と思ってたら、アレクが唐突に外に出て行った。
まだ周りには島影もない。
それなのに、一体どこに行こうとしてるんだろう。

「ああ、放っておけ。あいつの病気みたいなもんだ」

そう思ってると、親方さんが呆れたような声で言う。
何か、いつも見てたみたいな顔だった。

「あいつ、船に乗ると勝手に空を飛ぶんだよ。船が苦手なんだと」
「へぇ~」

親方さんの言葉に、わたしは驚いた。
アレクにも苦手なものがあるんだ。
ちょっと不思議な気分。
あんなに強いアレクが苦手な物……。
ちょっと面白い。

「ほら、見てみろ」
「あ、飛んでる!」

窓の向こうを見ると、翼を羽ばたかせて空を飛んでいるアレクがいた。
やっぱり速い。
海が風圧で割れてる。

あっちに行ったりこっちに行ったり楽しそう。
やっぱり、地下迷宮だと空が飛べないから窮屈なのかな?
アレクって鳥だもんね。
しょうがないかもしれない。



それにしても……楽しそうに飛ぶなぁ。
わたしを背中に乗せて飛んで欲しいかも。
きっと気持ちいいと思う。





「な、何?!」

アレクを見てると、いきなり船が揺れた。
まるでワイスタァンの地震の時みたいだ。
すごくゆれて、立ってられない。

「プラティ、向こうを見ろ!」

親方さんに言われて正面を見る。
すると、目の前にはすっごく大きい変なのがいた。

水色の身体で長く伸びた首。
コウモリの様な翼や、歯が剥き出しの口に1つ目
見れば見るほど、気持ち悪い。

「あれって……はぐれ召喚獣?」
「多分な。オレっちは見たことねぇが」

あの姿は召喚獣というよりも、本物のモンスターみたいだった。
この間見たスライムとはわけが違う、凶悪な姿。

だけど、何故かアレクの姿が重なってしまう。
どうしてだろう、姿も全然違うのに……。
わたしは少し不安になった。



「あ、あれ?」

そんなアレクは、船に戻らずにそのモンスターへと突進していく。
大きさは……よく判らないけど、アレクより全然大きい。
そんな相手にたった1人で突っ込むなんて、危険すぎる!

「親方さん! 早くアレクを止めないと!」
「心配すんな」

親方さんに言うけれど、全然話を聞いてくれない。
それどころか、無理矢理座らされてしまう。
う、動けない……!
力が強くて押し返せない。

「で、でも!」
「まあ見てろって」

何とか動こうとしたけれど、その前に親方さんが笑いながら言った。
アレクが負けることなんて考えてない、安心しきった顔だった。



「空のあいつは無敵だ……鍛聖だって追いつけねぇよ」



そんな台詞が出てきた瞬間、アレクがあのモンスターに直撃した。
すっごい速さで突っ込んだアレクは、爪でその身体を斬り裂いた。
海面は波が立って、すっごい速さで動いてることがわかる。
むしろ見ないとアレクがどこにいるかもわかんないんだけど。

「す……すごいっ!」

やっぱりアレクは強いんだ!
あんなに強そうなモンスター相手に、全然余裕で戦ってる。
アレクを襲う攻撃は当たらない、アレクの攻撃だけが当たる。

やっぱり凄いなぁ……アレク。



何度も往復して攻撃したアレクは、最後に大きく回って高く飛んで、一気に落ちてきた。
もう、速すぎて赤い線にしか見えない。






「行っけぇーーーーーー!!」






アレクはそのまま突っ込んで、そのモンスターを真っ二つにした。



















「よし! お前はこれを武器屋まで運んでくれ!」
「はい!」

わたしは親方さんから荷物を受け取って、それを両手で抱きかかえる。
お、思ったより重い。
中身は全部武器だから当然なのかもしれないけど、女の子にこんなもの持たせるなんてデリカシーが足りない気がする。

「オレっちは先に行ってるからな!」
「あれ、武器屋さんってどこにあるの? ……って、行っちゃった」

なんとかバランスをとろうとしてたら、親方さんは先に行ってしまった。
声かけたのに、聞こえてなかったみたいで止まってくれない。

「アレク、知ってる?」

仕方なくアレクに聞いてみようとしたけど、アレクは首を横に振るだけ。
やっぱりアレクも知らないみたいだ。
空飛んでばっかりで町に下りてないのかな。

「……まあ、看板でわかるよ。行こう!」








「どうも! 銀の匠合のブロンの使いの者です!」
「お、ありがとうよ! 品物を確認するから、そこで待ってておくれ」

散々探し回って武器屋さんをやっと見つけた時には、もう夕方。
奥の塔の前まで行って返ってきたのが原因かもしれない。
アレクに見てきてもらえばよかったって気付いたのは、武器屋さんについた後だった。

「おう、遅かったな。な~に道草してたんだ!」
「そ、そんな! 場所も教えずに行っちゃった人は誰なの~?」

なにも悪くないのに怒られるわたし。
これはわたしが怒ってもいい気がする。
軽く肘でつついてやる。

「おう……そんなこともあったっけな……わかったわかった、謝るからその爪下ろせアレク」

気付いたらアレクが親方さんに爪をつきつけてた。
首の辺りをくいくいやってるアレクと、何とか押し返そうとしてる親方さん。
やっぱり2人は友達だったんだなぁ……。

「ちょっと静かにしてくれないかな?」
「「はい……」」

怒られた。
ちょっとうるさくしすぎたみたいだ。
アレクや親方さんが反省したような顔をしてるのが、ちょっとかわいい。

そんな2人を放って、店の人は武器をすごい目で見てた。
真剣な目つき……わたしの武器も、いつかこんな風に見てもらえるのかな。
少し不安になった。






帰りははぐれが出て来なかったから、すぐ帰ってこれた。
といっても、1日船の上で泊まったけど。
アレクがとってきたお魚はすごくおいしかった。

そして、帰ってきてすぐに秘伝をもらえた。
なんと名前はアイアンセイバー。
ドラマチックな名前とか言われたけど……正直ビミョー。
シンプルなのはわかるんだけど……ねぇ。

アレクは複雑そうな顔してた。
思い出したくないことを思い出したような、そんな顔。
いや、よくわかんないから想像なんだけどね。



「プラティさん!」
「は、はい?」

考えてる間にいきなり声をかけられた。
つい答えちゃったけど、誰なんだろう?

目の前を見ると、そこにはひげの生えたおじさん。
眼鏡かけてる、優しそうな人。
だけどどこか怪しいような気がするんだけど……気のせいかな。

「ちょっとお話が……」
「え、ちょっと」

ちょっと驚いてる間に話が進む。
気付いたら完全に相手のペースに巻き込まれてた。



ああもう、ちょっと待ってよ!
わたし今すっごく混乱してるんだからっ!









おじさん……ナシュメントさんが、わたしの武器を1本500バームで買ってくれるって言ってくれた。
いきなりそんなこと言われても、わたしにはどうすればいいのかわかんない。

「私はこれから用事がありますが……それが片付き次第、この港でお待ちしております」
「あ、ちょっと!」

断ろうとする前に、ナシュメントさんは行ってしまった。
どうしよう……。
アレクも何も言わないし、どうすればいいかわかんない。

アレクの顔を見ると、じっとわたしの顔を見てた。
わたしが何かを言うか、待ってるみたいだ。
わたしに何かを思い出させようとしてるようだった。



「……うん、どうするかよりも先に、武器を鍛えないと」

そうだ、わたしは鍛冶師。
何をするよりも、まずは武器を鍛えないと。
そもそもアイアンセイバーなんて作ってないんだから、仕事をうけることなんてまだ出来ないじゃない。

「行くよアレク!」

そうと決まったら、まずは材料集め。
このまま地下迷宮に直行だ!









2階から先に行くと、出てくるはぐれの種類が増えていた。
カボチャのおばけみたいなのとか、青くて縄を巻いた丸っぽいの。

スライムとかよりも強くてうまく戦えなかったけど、アレクが助けてくれた。
攻撃を受けて倒れてた時に助け起こしてくれたり、攻撃された時にかばってくれたりしてた。
倒した時にアイテムを回収するのもアレクだし、わたしが何とか戦ってる間にアレクは何体もはぐれを倒してた。
わたしも、もっと強くなりたい。



「ああ、プラティ」

材料を探して4階まで降りてみると、階段の近くでサナレをみつけた。
声をかけてみると、少し笑って返事をしてくれた。
ちょっと嬉しい。

「あ、おめでとう。サナレの試合、凄かったね」
「当然でしょ」

この前のの試合を見た素直な感想を言ったら、サナレが胸張って言った。
うん、男の人にも負けないくらい、カッコよかった。
きっとパパの方がカッコいいんだろうけど、見たことないからわかんないや。

というか、サナレは勘違いに気付いてくれたのかな?
やっぱり不安だなあ。



「あれ……もしかして、サナレのところにも金の匠合のおじさんって来た?」

そういえば、ナシュメントさんは若い人はみんなって言ってた。
もしかしたらサナレも誘われたのかな、って思って聞いてみることにした。

「ええ。っていうことは、プラティのところにも?」
「うん」

やっぱり、サナレも誘われたんだ。
そうなると、あの人は何を考えてるのかわかんなくなった。

なんでわたしみたいな見習いの武器を買い取ろうとしてるんだろう?
サナレの方がきっと優秀だし、サナレに声をかけたならわたしは要らないと思うのに。

「で、あんたは受けるの、あの依頼?」
「えーっとね……」

サナレは受けるみたいだ。
だったらなおさら変。
わたしは全然要らないじゃない。

「やっぱりわたし、受けないでおこうかなって思ってるんだ。売り物にできるほどいい武器も作れないし、次の試合もきっと近いし……多分」

……わたしは、断ることにしようと思う。
確かにパパは優秀で、わたしはその娘。
だけど、まだ見習い抜けたばっかりのわたしは、全然未熟なままだ。
きっと作った武器を売っちゃいけないんだ。

「な……何よ何よ! 自分ばっかりいい子のふりしちゃって! 実力だって隠してるし……どうせ、どうせわたしは……!」
「ちょ、ちょっとサナレ! どうしちゃったの?」

すると、サナレはいきなり叫んだ。
怒ったみたいに、泣いてるみたいに大きな声だった。

それにその誤解、まだ解けてないんだ!?
ちゃんと説明したはずだったのに。
サナレ、人の話をちゃんと聞いてよ!

「……」
「……サナレ?」

わたしの思いが通じたのか、サナレが静かになった。
これでやっと話を聞いてくれる。

「何でもないわよ! あんたには関係ないじゃない!」
「ええ!? サナレどうしちゃったの!?」

そう思って声をかけようとしたら、また叫んだ。
わたしは何も言ってないのに。
きっとこれがリフジンって奴なのかも。



「うるさいわよ、ウソツキプラティッ!」



サナレはそう言って、奥の方に走って行っちゃった。
結局、誤解は解けてない。
もし次の試合がサナレだったら……考えないようにしよう。

それよりも、わたしはあの依頼をどうすればいいか考えないと。
確かにわたしの武器を買ってくれるのは嬉しい。
嬉しいけど……まだ、わたしが納得できるような武器が作れない。
もしいつか、わたしがちゃんと胸張って売り物にできるって思った時に、売ることにする。

「依頼は……うん、やっぱり受けない」

アレクを見ると、満足そうに頷いてた。
そうか、アレクはわたしが自分で気付かないと意味がないっていうことを教えたかったんだ。
流石アレク、ちゃんとわたしのことを考えてたんだ。



「ナシュメントさんにちゃんと断りに行こう!」



……まあ、材料を集めてからなんだけどね。
ちょっと締まらなかったけど、まあそれはそれで。






「またまた、そんなことおっしゃらずにお待ちしておりますよ!」

材料を集めてから謝りに行ったけど、ナシュメントさんは話を聞いてくれない。
うう、こういう人はちょっと苦手だよ~。

「……まあ、ちゃんと断ったし、試合のしらせが届くかもしれないから工房に帰ろう!」

でもまあ、わたしは悪くないよね。
ちゃんと断ったのに話を聞かなかったのはあっちだもん。
材料も集まってるし、そろそろ武器を鍛えないと。
わたしはナシュメントさんの説得を諦めて、自分の工房に帰ることにした。



「お前も鍛冶師か?」
「そうだけど……何?」

その途中で、知らない男の子に声をかけられた。
金色の髪の、カッコいい感じの男の子だった。
誰だろう、見たことない人。

「所属は銀の匠合だな……大会に出ているのか?」
「そうだけど……」

質問してばっかりのその人。
……怪しい。
何が言いたいのかわかんないし、ちょっと変だ。



「やめておけ。怪我をしないうちにこの辺りでリタイアしておけ。お前がどうあがいても、優勝するのはオレだからだ」



そう思ってると、その人はすっごく酷いことを言った。
しかも馬鹿にしたような顔で。
サナレみたいにからかってるみたいじゃなくて、ホントに見下した感じで。

「何言ってるの! やってみなくちゃわかんないじゃん!」
「いや、持っている武器の質、落ち着きのなさ、相手の力量を認められない読みの甘さ……お前はただの素人だ。鍛聖どころか、鍛冶師というのもおこがましい」

鼻で笑うみたいに言う。
こ、これはすっごい悔しい。

確かにわたしは素人だけど、それでもそんな風に言われたくない。
わたしだって、素人だとしても鍛冶師なんだから!



「あまり俺のご主人様を苛めるなよ、少年」
「アレク!?」

言い返そうとしたら、わたしの目の前にアレクが出てきてそう言った。
あ、アレクがわたしの目の前で喋った!?
なんかカンドー。

「まあ、確かに素人かもしれんが……油断してると、負けるぞ」

そう言って、ぐいぐいわたしの手を引っ張るアレク。
そしてそのまま引きずられていくわたし。
抵抗しようとしても全然動かなかった。

「護衛獣に救われたな」

とか何とかその男の子に言われたけど、何か違う気がする。
というかアレク、もしかしてわたしのこと勘違いしてない?
サナレみたいに強いとか思われてると困るんだけど?

……違うよね、アレク?








工房に着くと、手紙がおいてあった。
拾って読んで見ると、対戦相手の名前が見える。

相手の名前は……ケノン?
金の匠合に所属してる人みたい。
聞いたことはないけど、こんなトーナメントに出るくらいなんだ。
強いに決まってる。


だけど、わたしは勝たなくちゃいけない。
アレクに見捨てられるのは怖いし、あの男の子に馬鹿にされたままなんて嫌だった。

全力で勝つ。
わたしは次の試合に向けて頑張ろうと思った。




「……っと、その前に、武器を作らないとね」



アイアンセイバー作らなきゃ。
次の試合のことを考えるだけじゃ、武器は出来上がらないもんね。





























今日はヴァンスという町に武器を納品へ行くのである。
ブロンの認めた武器だけを持って行くのだが、やはり武器の錬度が高い。
俺単体で作ったらまるで敵わないくらいのものまであった。
やはりブロンはそれなりに強いのだろう。

俺としては、いつもルマリによってシンテツと一緒に吹き飛ばされてたことしか思い出せないのだが。
スカートめくりは自重しろって言ったはずなのに。

「―――――はぁ」

……しかし、何だかプラティの元気がないようなのである。
昨日話さなかったからなのだろうか。
もしそれが本当なら、ちょっと悪いことをしたかな、と思う。



……いや、もう誤魔化しきれない。
吐きそうだ。

実は俺、乗り物酔いが酷いのだ。
仙人に会う前から、どんな乗り物に乗っても酔うくらい弱い。
免許を取ろうと講習所に行ったのに、運転してる俺が酔ってしまったのである。
これは異常。



「あ、アレク!?」

済まんプラティ、俺は行く。
心の中で謝りながら、俺は外に向かった。



ドアから出た瞬間に宙を舞う。
一瞬で速度を跳ね上げられる俺だからこそ出来る技である。
最初の頃は加速し過ぎて壁に激突しまくってたのだが、まあ過ぎた話だ。



風が気持ちいいが、まだ気持ち悪いのが抜けない。
うう、これはまずい。
かつての吐瀉物の雨事件を思い出しそうだ。

シンテツとブロンが船に乗ってどこか行くとかで、それについていったら死にかけた。
強烈な嘔吐感から逃れようと空を飛んだが、間に合わず戻した。
その際、口から漏れた液状の何かが綺麗な虹を作ったとか。
そんな虹、俺は見たくない。



それ以降、俺は船に1時間以上乗らないことに決めた。
3日くらいなら眠らずに飛び続けられるし、それ以上の航海でも、先に目的地に辿り着けば問題ない。

そう考えると、乗り物要らずなこの身体は凄く便利だ。
というか、これがないと多分俺、生きていけなかった。
何故ならこの世界の道路は整備不足、そして陸の乗り物は大抵召喚獣に引かせた車。
移動中、揺れて揺れてしょうがない。

「……っと、危ない」

変なことを考えたせいか、バランスを崩した。
海面ギリギリから何とか浮上して、体制を整える。

水面が割れるように波が立つ。
昔はこれで遊んだりしたこともあったけど、まあ関係ないか。
モーセごっこしてたのは内緒だ。

ちなみに、あっちこっち行ってる理由はただ1つ。
こうしないと飛べないからである。
翼の大きさのわりに体重があるから、滑空しようにも出来ないのだ。



まあ、それにしても気持ちいい。
地下迷宮に篭りきりだった頃とは比べ物にならないくらい楽しい。

昔はシンテツやブロンを抱えて空飛んだり、サクロの首に縄くくりつけて飛んだりしてたなぁ。
リンドウの移動手段だったような気もするが、きっとそれは夢だったんだろう。

いつかプラティを背中に乗せてやろう。
きっと喜んでくれると思う。
いつもは俺の悪口ばかり言ってたコウレンでさえ、一瞬俺を褒めたくらいだ。

……まあ、その後剣で刺されたまま磔にされたんだけど。
もずのはえにえ(笑)。
回復はシンテツにしてもらった。



「……ん?」

暫く楽しんでると、いきなり何か出て来た。
水色の身体で長く伸びた首。
コウモリの様な翼に、歯が剥き出しの口。
そして1つ目。

何だかどこかで見たことあるような気がするんだけど、何だったかなぁ。
記憶の端っこに引っかかってるんだけど、どうしても出て来ない。

こういうの、TOT現象って言うんだったか。
泣いてる顔文字で覚えてたから、多分こんな感じだったような気がする。

……いや、そうじゃなくて。
何だったかなー、貫通持ちだったかなー。
というか、爬虫類っぽいんだよなぁ、この外見。



「……バイトロン?」

ああ、そうそれ。
自分の発言なのに他人事のよう。
まあ、適当に言ったら当たったから、自覚なんてなかったんだけど。

それはさておき。
バイトロン……誰かメインで使ってた奴なんていたか?
攻撃力2400、守備力1000。
そして貫通持ちの星6個の水属性で爬虫類族。

惜しいなあ、5なら使いどころももっとあったんだろうけど。
アトランティスのおかげで水優遇だったし、というか鮭強い。
そのせいで影薄かったな、本当に。

確かに爬虫類アタッカーとしては優秀。
しかし、他に有力なアタッカーが増えたことで立場が微妙に。
悲しいかな、こっちよりもギガ・ガガギゴの方が採用率がきっと高い。



それよりも、どうしてそんな奴がこんなところにいるのかということが問題である。
遊戯王カード的な存在が送られてきたのは俺だけのはず。
最近呼び出されたのなら、どうして俺と時期がずれたのかが判らない。
ただの偶然なら問題ないんだが……気にし過ぎだろうか。

そいつは辺りを見渡して俺を見つけると、目を見開いた。
いや、元々大きいから殆ど動いてないんだけど、雰囲気で。
するとそいつは俺に向かって大きな口を広げてこう言った。



「―――――ジブン、バードマンやろ? わいはバイトロン言うねん」



こけた。
結構なスピードで空を滑った。

まさか……まさかバイトロンが関西弁で喋るとは。
予想外過ぎて思い切りリアクションをとってしまった。

「……判った。だが、それが何だ?」

バイトロンの目前まで滑り込んだ俺は、そいつに話を聞くことにした。
何か情報を入手出来るかもしれない。
この世界に知り合いがいない俺では、世界情勢なんて把握出来ないからである。

というか、サクロは信用出来ない。
時々狙ったようなボケをかますから、情報に致命的な間違いがあったりするのだ。
人物リストにカレー好き度表はいらないだろスパイス馬鹿。

「いやなぁ、わいはこの辺を仕切っとるんやけど、最近肩がこってしょうがないんや。だから、腰揉んでくれんかなぁ?」
「肩はどうした!?」
「ぐはっ?!」

バイトロンの台詞に、俺はついツッコミを入れてしまった。
しかも右手の爪で。
これがツッコミ役の宿命だというのか。

「ええでジブン、わいが見込んだ通りや!」

俺が恐れおののいていると、バイトロンが恍惚の表情を浮かべていた。
殴られて嬉しいのだろうか。
なんてドM。

「コンビ組む相手がおらんかったから諦めてたんやけど、ジブンがいれば無問題! 一緒に紅白歌合戦出ようやないか!」
「歌番組?!」

また攻撃してしまった。
初めて会ったタイプの相手だから、どう接したらいいか判らん。
ええい、ボケは天然だけで充分だ。
これ以上ツッコミさせるな!

「ええやろええやろ、組もうやん。世界掴みとろうで」
「断る!」
「だがそれを断る!」
「断るな!」

バイトロンがボケるたびに、俺はついついツッコミをしてしまう。
くそ、こいつは俺のツボを完全に把握してるのか。
なんという恐怖。

「さあ来るんやマイブラザ! 世界をこの手に掴むんや!!」
「断った!」
「か……過去形やと!?」

これで断られることを回避。
既に断っているのだから、それを覆すことは出来ないのである。
因果逆転でもすれば話は別だが、そんなのは不可能だ。
タイムマシーンなんてカードがあったりするが……まあ、遭遇するなんてありえないだろう。

大きく旋回し、最後の一撃に備える。
あんなのに関わってたら、これから先に進めなくなってしまう。
俺はともかく、プラティに何かあったらシンテツに何言われるか判らない。



「お前は……元の世界に帰れぇえええええっ!!」



これ以上俺のキャラが壊れる前に、お前には退場してもらう。
俺は右腕の爪で、バイトロンの身体を両断した。















「よし! お前はこれを武器屋まで運んでくれ!」
「はい!」
「オレっちは先に行ってるからな!」

バイトロンを両断して暫く、俺たちは港に辿り着いた。
どうやら1日で往復していたように感じていたのは、ゲームの演出だったようである。
普通に帰れるのは明日になりそうだ。

「あれ、武器屋さんってどこにあるの? ……って、行っちゃった」

軽くスルーしてたが、どうやらプラティとブロンの会話が終了したようである。
一応ブロンに対してだけなら口を出せるんだが、それをする必要性が今のところないんだよなあ。
ブロンだけに声をかけたせいで、変な誤解を受けたくない。

「アレク、知ってる?」

プラティが俺に話を振ってくる。
だが、全然話を聞いてなかった俺は何を言ってるのか判らなかった。

「……まあ、看板でわかるよ。行こう!」

仕方なく首を横に振ると、プラティは俺を無視しながら町に向かっていった。
……いや、別に悲しくなんてないんだけど。





「どうも! 銀の匠合のブロンの使いの者です!」
「お、ありがとうよ! 品物を確認するから、そこで待ってておくれ」

どうやらゲーム内では町も収縮されて表現されていたようで、端から端まで探し回るのにかなりの時間がかかってしまった。
そのせいで、既にあたりは暗くなりかかっている。

何故今日までにここに下見に来なかったのだろうかと、自分を責めてみる。
まあ、あまり意味はないのだが。
……実際、武器屋なんてすぐに見つけられてたんだけど、町を見てみたくてわざと見逃したんだし。

「おう、遅かったな。な~に道草してたんだ!」
「そ、そんな! 場所も教えずに行っちゃった人は誰なの~?」

何も悪くないのに怒られるプラティ。
少し笑ってしまいそうだ。
まあ、流石に誤魔化すようなら脅しをかけるが。

「おう……そんなこともあったっけな……わかったわかった、謝るからその爪下ろせアレク」

宣言したから脅しをかけざるを得ない。
昔のじゃれあいを思い出したような気がする。

ああ、あの頃もこうやって武器で突きあってたなぁ……。
ルマリに全員吹き飛ばされたことの方が多いけど。

「ちょっと静かにしてくれないかな?」
「「はい……」」

もしくはこんな風にコウレンに怒られた。
懐かしいような、悲しいような。
いや、店員が男だから悲しい。

結果、俺たち2人は肩を落として店員の査定を待つことに。
そして、その様子を凄く真剣な顔で見てるプラティ。

ああ、そんな綺麗な目でこっちを見るな。
何だか心が汚れてるみたいで胸が痛い!









結局、船の上で夜を明かす羽目に。
流石に腹が減るだろうと魚を調達して料理してやったのだが……プラティはともかく、ブロンが手伝わないのはどういうことなんだと。
軽くリバーブローかましてやった。

ちなみに、猫頭の魚ではない。
あれは……食いたくない。
一応食用らしいのだが、俺は生理的に受け付けないのだ。
前に猫飼ってたから、それを思い出すと悲しい感じになる。

調理方法は刺身と塩焼き。
鍋は置いてなかったから、鉄板を用意して焼いたりした。
細かい味付けなんて出来ないが、新鮮な魚には余計なものは必要ないだろう。

調達方法は簡単。
海面への直滑降ダイブだ。
衝撃で気絶した魚をいくらか拾い上げてささっと首落として調理したのである。









朝になり、朝日が昇った頃に戻ってこれた。
まあ、俺だけだったら数分で往復出来たんだが。
その場合、荷物が殆ど持てないから、結局時間がかかることには変わらない。

そして、プラティは駄賃代わりにアイアンセイバーの秘伝を受け取った。
俺の爪の一部か……そう考えると、この爪も安上がりだなぁ。
終盤の武器と比べると、値段が桁違い。

ああ、何でもっと強い武器で作らなかったんだろう。
というかシンテツにオーダーメイド頼めばよかった。
忙しそうだったからやめたんだけど、今考えたら俺が手伝えばよかったような……忘れておこう。



「プラティさん!」
「は、はい?」

ブロンの後ろについていこうとすると、目の前におっさん。
どこかで見たことあるような顔だったが……?

ああ、ナシュメントだ。
俺が散歩中に拾ったおっさんを、金の匠合に預けたんだった。
金銭面的な問題で銀の匠合は受け入れ不可だったし、シンテツに負担をかけるわけにはいかなかった。
というかおっさん拾って変な疑惑をかけられるのが嫌だったからなのだが。

「ちょっとお話が……」
「え、ちょっと」

気付けばプラティが引っ張られていく。
うむむ、そういえばここでイベントか。
おっさんがロリコンだったら即殺なのだが、それは絶対無い。
彼はショタコンなのだ。



……いや、そうなると胸が小さめなプラティは危ないのか?
と、とりあえず様子を見よう。









心配は無用だったようだ。
普通にイベントが発生しただけで、特に問題はなかった。
アイアンセイバー1本500バームか……シンテツの作った奴は2500バームくらいだったかな?

つまり俺の爪は7500バーム+ベルトと塗装費のみ。
オーダーメイド品は7桁クラス。
そう考えると安く済んだのか?

今では貴重なシンテツの武器、それが俺の爪と4本の剣。
それとアマリエが持ってる護身用のラグズナイフくらいか。

後は俺が捨てた。
あれほどの武器が、誰かの手に渡るのだけは避けなければならないだろう。
……まあ、誰かが無限回廊に潜り込まなければの話だが。



「私はこれから用事がありますが……それが片付き次第、この港でお待ちしております」
「あ、ちょっと!」

プラティはナシュメントの勢いに押されて断り切れなかったようである。
困った顔がシンテツにそっくりだ。

プラティ的には、父親に似てると言われたらどう感じるんだろうか。
ファザコンっぽいから、嬉しがるとは思うが。



「……うん、どうするかよりも先に、武器を鍛えないと」

何だかよく判らないが、プラティは何かを決心したらしい。
まだ迷っているようだが、それでも何かしたいのだろう。

「行くよアレク!」

とりあえず、今は見守っておこう。
いつかこの子が間違えた時、俺がちゃんと導けばいいんだから。








地下2階から先にプラティと一緒に行くのは初めてだ。
とはいえ、1度単独で来たんだから問題はないのだが。

それより、プラティが面白い。
カボチャに食われそうなプラティを庇ったり、攻撃した時に転んだのを起こしたり。
回収し忘れたアイテムを持っていくと、慌てて謝ったりしたり。

それと、俺が大量にはぐれを倒してると悔しそうな顔をする。
これは……拗ねてる?

やっぱり子供なのか。
甘える相手がいないのはやっぱり辛いんだろう。



「ああ、プラティ」

4回に降りると、階段の近くでツンデレを発見。
プラティが近寄って声をかけると、返事をしながらこっちを向いた。
雰囲気が柔らかいから、きっとプラティはいい感じの友達関係を築けたのだろう。

「あ、おめでとう。サナレの試合、凄かったね」
「当然でしょ」

プラティの台詞に、ふふんとでも言いたげなサナレ。
色の正反対のコウレンかと思いきや、やっぱり雰囲気が少し違う。
コウレンの方がこう、棘があるような気がする。

サナレはコウレンを真似ようとしてるような雰囲気があるのだ。
一応、家では頼りがいのあるお姉さんでいたいらしい。
他の親族のことを知らない分、その傾向が強いようだ。

1度会ったことがあったような気もするんだけど……よく覚えてない。
サナレが反応してないから、多分気のせいだったのだろう。



「あれ……もしかして、サナレのところにも金の匠合のおじさんって来た?」

プラティがサナレに質問をしているが、それは聞く意味がないだろう。
何故なら、ナシュメントの狙いは大量のアイアンセイバー。
そうでなければ、素人のプラティに10本も作らせないだろう。

……まあ、ナシュメントも悪い奴じゃないんだろう。
金の匠合の為に尽力してるのが丸判りだ。
ただ、これは詐欺なんじゃないかと小1時間。

「ええ。っていうことは、プラティのところにも?」
「うん」

ちなみに、ナシュメントは俺を知らない。
気絶してる間に運んだので、顔すら見られていないのであった。

ちなみに鍛聖の家族構成は基本的に伏せられている。
そうでなければ、誘拐や脅迫の対象になる可能性があるからである。

だからこそ、サナレがこんな依頼を持ちかけられてしまったのだろう。
そうでなかったらナシュメントもコウレンの妹であるサナレにこんなことをさせない。
ぶっちゃけ殺されるし。
主に彼女の容赦ない火炎斬りで。

「で、あんたは受けるの、あの依頼?」
「えーっとね……」

どうやら、サナレは姉に相談することなく依頼を受けることにしたらしい。
そうでなかったら、コウレンが止めるからだ。
多分、俺たちに対するような鉄拳制裁ではなく、優しく諭す感じで。
……そう思うと、何だか不公平に感じる。

「やっぱりわたし、受けないでおこうかなって思ってるんだ。売り物にできるほどいい武器も作れないし、次の試合もきっと近いし……多分」

時々、プラティの直感が異常に当たる。
まるでこの先の展開を知っているかのような台詞。
ということは、まさかプラティにスタッフが乗り移って……いや、そんなわけないか。

「な……何よ何よ! 自分ばっかりいい子のふりしちゃって! 実力だって隠してるし……どうせ、どうせわたしは……!」
「ちょ、ちょっとサナレ! どうしちゃったの?」

そして、サナレが怒鳴る。
まあ、友達に自分の行動を否定されたらこうなるだろう。
それも、感情が不安定な思春期。
揺れ幅が大きいのも仕方がない。

……そういえば、プラティの実力ってどうなんだ?
別にプラティはどこぞの最強キャラみたいに実力隠したりなんてしないだろう。
そうじゃなかったら、最初からあんなところで動きを止めたりなんかしないはず。

……待てよ、もしかしたらそうなのかもしれない。
そう考えれば、ラグズナイフで武器をぶっ壊したのも判る。
そうか……運じゃなくて、プラティの実力だったのか。
流石シンテツの娘ということか。
恐れ入ったぞプラティ!

「……」
「……サナレ?」

サナレが唐突に黙ったのに反応して、プラティが顔を覗き込もうとする。
残念だな、プラティ。
それはただの前振りだ。

サナレの叫び声を警戒して耳を塞ぐ。
どこぞのトラの如き叫び声には劣るかもしれないが、油断してると気絶する。

「何でもないわよ! あんたには関係ないじゃない!」
「ええ!? サナレどうしちゃったの!?」

予想通り、サナレが叫ぶ。
ふふふ、伊達に何年もコウレンを観察してないぞ。
大体行動が同じなら予測も容易いのだ。



「うるさいわよ、ウソツキプラティッ!」



―――――だが、この台詞は予想外だった。



『ウソツキアレクッ!!』



サナレの顔に、コウレンの泣き顔が重なる。
それで一瞬動きが止まってしまった。

うわー……予想外に引きずってるみたいだ。
ううむ、頑張って振り切ったと思ったんだけどなぁ。
どうやら、人の気持ちは簡単には制御出来ないらしい。



サナレは、言うだけ言って奥に行ってしまった。
……というか、今のでコウレンに会いたくなくなってきた。
何言われるか判ったもんじゃない。

それに、何されるかも判らない。
罵倒されるかもしれないし、殺されるかもしれないし、殺されるかもしれない。
……殺される未来しか見えなくなってきた。



「依頼は……うん、やっぱり受けない」

気付けばプラティが納得したように呟いてた。
何でそんな結論になったのか判らないけど、まあとりあえず頷くことにした。
シンテツもこんな感じで誤魔化せてたから、多分大丈夫だと思う。

……ごめん、先に謝っとく。



「ナシュメントさんにちゃんと断りに行こう!」



とか何とか言いながら、奥の方へ向かうプラティ。
……まあ、材料集めるのが先だ。
そうだね、当たり前だよね。
効率を求めるなら、それが当然。

謝りに行くとか言いながら、先に自分の仕事を終わらせる辺り、やっぱりシンテツの娘だなぁとか思った俺だった。









「またまた、そんなことおっしゃらずにお待ちしておりますよ!」

材料を集めてからナシュメントに話しかけるが、どうも話を聞いてくれないようである。
いや、判っていてわざとそういう態度をとっているのだろう。
人のいい奴なら、この姿勢を維持されるだけで罪悪感でついつい持ってきてしまう奴もいるのだ。
……それを教えたのは、多分金の匠合のボスだろう。
そしてそれを教えてのは俺。
何という悪循環。

「……まあ、ちゃんと断ったし、試合のしらせが届くかもしれないから工房に帰ろう!」

そして、プラティはそんなタイプではない。
おひとよしではあるが、自分のやりたいことを優先するタイプだ。
自分の出来る範囲までなら、人助けもするだろうが。

シンテツは変態クラスのおひとよしだったから信用ならないが、アマリエが教育してたんだから全然平気だろう。
彼女の黒さは、コウレンが泣くくらいだ。
プラティがそうなったら俺が泣くが、そんなことはないと思いたい。



「お前も鍛冶師か?」
「そうだけど……何?」

帰宅途中で少年に声をかけられた。
金髪の雰囲気ワカメ風味の少年だった。
……いや、髪じゃなくて性格の方。
ナルシスト風味で、どことなくそんな感じがしただけなのである。

「所属は銀の匠合だな……大会に出ているのか?」
「そうだけど……」

どことなく、ブロンにつっかかっていたあいつに似てる。
名前は一体何だったか……思い出せない。
いつも名乗る前に吹き飛ばされてたしなぁ。

確か……リボンズ?



「やめておけ。怪我をしないうちにこの辺りでリタイアしておけ。お前がどうあがいても、優勝するのはオレだからだ」



ただ、この子の名前は知ってる。
そう、ヴァリラだ。
何故か子供の名前だけは叫んでたから、そっちは覚えてるのだ。

それにしても……何とも我侭な子に育ったもんだ。
あいつ、どうやらかなりの子煩悩だったらしい。
人は見かけによらないとは、こういうことのようだ。

「何言ってるの! やってみなくちゃわかんないじゃん!」
「いや、持っている武器の質、落ち着きのなさ、相手の力量を認められない読みの甘さ……お前はただの素人だ。鍛聖どころか、鍛冶師というのもおこがましい」

鼻で笑うみたいに言うヴァリラ。
よくもまあ、典型的なやられ役になったなぁ。
これはすっごいうらやま……もとい、かわいそう。

とはいえ、このままプラティに相手をさせるのも駄目だろう。
精神的にも普通の女の子なんだから、言葉責めされて喜ぶようなMじゃないはず。
……というか、そんな子に育ったら、シンテツが死んでも死に切れない。



「あまり俺のご主人様を苛めるなよ、少年」
「アレク!?」

そんな性癖になられる前に、俺が止めなければ。
流石にそうなられたら、俺の命が尽きる。
ブロンやアマリエ、サクロとかシンテツにぶっ殺されてしまう。

「まあ、確かに素人かもしれんが……油断してると、負けるぞ」

……いや、もしかしたら本当は強いのかもしれない。
正直よく判らん。
俺自身、武術の達人とかではないのだ。
ただ速く動けて、動体視力がいいだけの鳥人間。

この場にプラティを置いていくわけにもいかないので、手を引っ張って連れて行く。
されるがまま引きずられるプラティに不安感を抱きながら、俺は色々と考える。
もしプラティが本当は強かったら、俺は用済みなんじゃないか?
そうなると……俺は最後に剣にされてしまう?
それは非常に困る。

「護衛獣に救われたな」

そんなことを言うヴァリラだったが、俺はそれどころじゃなかった。
というか、このままだと俺は死んでしまうんだぞ?
だから放っておいてくれ。
お前は俺がプラティと親密な関係を築けるように祈っていればいい。









工房に着くと、手紙がおいてあった。
プラティが拾って読んでいるのを後ろから覗いてみる。

相手の名前は……ケノン。
金の匠合に所属してるらしいが……記憶にない。
もはや細かいイベントなんて覚えてないのであった。
もう少し考えて行動すればよかったと今更な後悔。



とりあえず、プラティが本当に強いのか見極めなくてはならないだろう。
そうでなければ、どれだけフォローすればいいか判らない。
直接戦うわけにはいかない俺が動く範囲はそれで決まると言っても過言ではないのだから。

……まあ、負けることはないだろう。
相手はそれなり、俺は玄人。
それなりの相手なら、俺が無理矢理有利にしてしまえばいいのだから。



「……っと、その前に、武器を作らないとね」



気合も充分、準備もあとわずか。
次の試合について考えながら、俺はプラティと一緒にアイアンセイバーを鍛え始めた。








-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-






完成。
しかし少し難産。
バイトロンはどうしようか真剣に悩んだところ。

まあ、この先バイトロンは出ないので。
それほどオリキャラ増やしても、話がカオスになるだけだから無理。
多分相手モンスター補充くらいになると思います。

アレクがバランスブレイカーなので、相手にもそれなりなバランスブレイカーが必要です。
ただし、一定条件を満たす相手内で。
多分予想はつくと思いますので、ここでは言いませんが。

次回は性格ワカメと対戦後、変な斧との戦いです。
いや、そこまで嫌なキャラじゃないですが。









[16916] プラティのお小遣いは、月1250バームです
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:44469469
Date: 2010/04/30 23:31

「―――――出来た!」

アイアンセイバーが完成した。
最初に作ったラグズナイフよりも重くて、長い。
ちょっと使いづらいかもしれない。

だけど、使えないわけじゃない。
片手じゃ振れないけど、両手なら何とかなる。

というか、結構馴染む。
どうしてだろう、昔触ったことでもあったのかな?

……パパが作った剣で遊んでたことがあるらしいけど、それが原因かもしれない。
武器は、ずっと使ってるとうまく使えるようになるって言ってたし。
わたしは遊んでたから、振り回し方とか覚えたのかもしれない。



そういえば、アレクの爪ってパパが作ったんだよね?
ということはあの爪の作り方もあるってことなんだ。
……少し気になる。

今は爪を外して作業を手伝ってくれてたけど、よく思い出してみたら外してるところなんて見たことない。
きっと、それだけ大切なものなんだ。

……だったら、どうしてあの時わたしに渡そうとしてくれたんだろう?
やっぱり、パパの娘だからなのかな?
だけど、そうじゃなかったら……ちょっと嬉しいかも。



「……と、とりあえず会場に行こう!」



少し熱くなった顔をアレクから背けて、全力で走る。
な、なに考えてたんだろうわたし!?
わたしったらそんなんじゃないんだからっ!















「ちょっと待ちなさいよプラティ!」
「あ、サナレ。応援にきてくれたんだ」

そのまま会場の目前まで走っていくと、後ろからサナレが声をかけてきてくれた。
嬉しくなったけど、何だか応援に来てくれたわけじゃないみたい。
何だか顔が深刻そうだ。

「残念だけど違うの。プラティ……あんた、金の匠合ってどんなところか知ってる?」

首を横に振ったサナレがわたしにこう言ってきた。
やけに近寄ってくるんだけど、わたしにはその意味がわからなかった。

「わたしたちがお世話になってる銀の匠合のライバルでしょ? 基本は一緒なんじゃないの?」

あんまり近寄らないようにって言われてるから、そもそも知らないんだよなぁ。
だからサナレの質問に答えられない。

「わたしもそう思ってたわ……でも違うみたい」

そう言ったら、サナレがグイッて顔を近づけてきた。
というか、鼻と鼻がぶつかってるくらい近い。
流石にこれは近すぎでしょ!

「あいつら、わたしたちみたいな新米鍛冶師から安い値段で武器を買い取って、ワイスタァンの名前を使って売りさばいてるらしいの」
「……そ、そうなんだ」

悪いことしてるんだってことはわかったんだけど、そんなことよりも顔が近い。
で、出来ればもうちょっと離れて欲しいんだけどっ!
話に集中出来ないからっ!

「わかってると思うけど、わたしたち新米鍛冶師の作った武器なんて、まだ未熟もいいところなのよ! そんなのが市場に流れたら……剣の都ワイスタァンの武器は駄目だって言われることになっちゃう。そんなの……絶対止めなくちゃならない」

……少し落ち着いたみたいで、顔を赤くして下がったサナレ。
うん、近いよね、やっぱり。
アレクに見られてるのに、少し恥ずかしい。

「積み荷を取り返したいの。手伝ってくれるわよね?」

サナレ……そこまで考えてたなんて。
わたしなんかよりずっと偉い!

「だったら止めなくちゃ! 急いで武器を取り返さないと!」

わたしも負けてらんない!
パパだってそんなこと許さないだろうし、絶対止る!

「そうこなくっちゃ! 幸い、試合が始まるまでまだ時間もあるみたいだし、わたしは一足先に港で待ってるわ!」

サナレは笑顔になって走り出した。
というか速っ!
もう背中も見えないよ!

「サナレを追いかけるよアレク!」

置いていかれるわけにはいかない。
わたしもアレクに声をかけてから走り出した。









「だから返してって!」
「やれやれ、何度も申しているではありませんか……」

港まで辿り着いた時には、もうサナレがナシュメントさんに詰め寄ってた。
というか、剣を突きつけられて平然としてるナシュメントさん凄い!

……じゃなくて。

「ちょっと待ったー!」

わたしに気付かれないまま話を進められるのはすっごく困る。
というか、そうなったらわたしがここに来た意味がないし。
そういうのはやだ。

「おや……プラティさんではありませんか」

漸くナシュメントさんが気付いてくれたのか、こっちを向いてくれる。
気付いてくれて嬉しいけど、今はそこが問題じゃない。

「新米鍛冶師の武器を売りさばいてるって本当ですか? 本当なら……武器を返してください!」

そう、聞きたいのはそこ。
だって、そんなの詐欺じゃん。
確かにワイスタァンの鍛冶師が作った武器だけど、ちゃんとした武器じゃない。
ほとんど偽物を売ってるのと同じ。

「何をおっしゃっているのやら……仮に本当だったとしても、買い取った武器をどう使おうと、われわれの勝手でしょう?」
「お金なら返すから!」

……あれ?

「え、サナレも武器を売ってたの!?」

よ、予想外なんだけど!
あの時怒ってたのはもう売ってた後だったからなの!?

「だって、あなたの武器を売ってくれなんて言われたらうれしいじゃない!」

ちょっと涙目になりながら叫ぶサナレにトキメキながらも、少し同意してしまった。
わたしだって、そんなこと言われたら悩んじゃう。

だけど、アレクがいてくれたから我慢した。
少なくともアレクに認められるくらいのものが作れないと、わたしが納得出来ないから。
アレクが凄いから、わたしも凄くなりたいんだ。

「駄目ですな。一度武器を売ってお金を受け取った以上、返すわけにはいきません」

ナシュメントさんも譲ろうとしない。
突き出されたサナレの剣を見ても、まるで動揺しないのは凄い。

「わたしたちの武器は本当はまだ未熟で、売り物にできるレベルじゃないの!」
「さて、わたくしには関係のないことですので……」

というか、ここまできたら頑固過ぎる。
まるでパパのことを喋ってる時の母さんみたいだ。



「いいじゃないか」
「ヴァリラ様?」

思い出してると、奥の方から変な人が出てきた。
金髪の男の子で、どこかで見たことのあるような顔。

じっと見てると、ついさっき会った男の子だと思い出した。
ああ、あのムカツク奴。
アレクがいなかったら絶対突っ込んでた。

「ヴァリラ……この間の試合で最短記録を出した天才って呼ばれてる……」
「あいつがそうなの?」

サナレがそいつを見て呟くのを聞いて、少しショックだった。
天才だって言うから、もっとかっこいい人だと思ったのに。
どう見ても成金の息子っぽいよあの人。

「自分たちの作った武器がはずかしいから返してくれってことだろ?」

……やっぱりムカツク。
嘘を言ってるわけじゃないのに、どうしてあんな風に言うんだろう?
もっと他にも言い方があるはずなのに。

「じゃあ、返してくれるの?」

だけど、返してくれるってことなんだよね?
ちゃんと言葉にしてないけど、ここまでして返してくれないなんて駄目だと思う。

「そうだな……ただし、おまえたちも鍛冶師なら、オレとの勝負で奪ってみろ! ……まあ、所詮女とオコサマのお前らの未熟な武器じゃ、オレには勝てないだろうがな!」

ヴァリラが自信満々にそう言ってくる。
……確かに、言いたいことはわかる。
だけど、それは言い過ぎなんじゃないかな?

「あんただって子供じゃない! そこで待ってなさい!」

やっぱりサナレが我慢出来ずにヴァリラにつっかかる。
うん、サナレが言わなかったらわたしが言ってた。
それくらい、わたしだって怒ってるんだから。



「黙れ女」
「……!」



……………うん、何だって?
黙れ女、とか言ってたのかな?

まさか、女だからって見下したりしてるの、この人?
そんなの………怒るしかないじゃん。

ほら、アレクだって怒ってる。
背中を震わせて、今にも飛び掛りそうだ。
そうしないのは、きっとわたしが行くのを待ってるからなんだ。



「あったまきた! サナレだって頑張ってるのに……ヴァリラだっけ? トーナメントで当たる前に、ここで決着をつけてやるからね!」

ここまで言って、やっぱり後悔。
だって相手はトーナメント最短記録を出した天才で、こっちはまだほとんど武器を作ったこともない素人同然の鍛冶師。
勝てるわけがない。

「いいだろう、金の匠合の1級の鍛冶師が作った武器で相手をしてやる!」

だけど、相手も何だかやる気になってるし、今更後にはひけない状況。
うううう、こうなったらヤケクソだ!
気合で何とかする!!

「行くよアレク!」

こんな嫌な奴、わたしたちでこらしめてやるんだから!




「てぇえええええいっ!!」

腰のアイアンセイバーを抜きながら突進するわたし。
ヴァリラは金色の槍を構えてこっちを見てる。
槍使いか……この間のチェベスと一緒に考えるのは危ない。

「ふん!」

突き出したアイアンセイバーがあっさり弾かれる。
刃先で弾かれて、石突で胸を狙われた。
何とか転がって避けたけど、今のは本当に危なかった。
やっぱりヴァリラは天才なんだ。

敵の強さを再認識しながら、わたしの戦力を確認する。
アレクと、アイアンセイバーと、置いてくるのを忘れたラグズナイフ。
それとハンマーだけ。
少し不安。

だけど、負けるわけにはいかない。
あんな風に馬鹿にされて、黙ってるわけにはいかないし、何よりあいつはわたしを怒らせた。
絶対許さないんだから!

「おりゃあっ!」
「クッ!?」

アイアンセイバーを突き出すようにして姿勢を崩させる。
当てるようなヘマはしない。
だって、わたしは鍛冶師だもん。
自分が作った武器ぐらい、ちゃんと使えるに決まってる!

突いて突いて突きまくる。
何発かは槍で弾かれるけど、さっきみたいに力を込めてないからすぐに体勢を立て直せる。

「なにぃっ?!」

そのままアイアンセイバーをしまって、ラグズナイフで斬りかかる。
ちょっとズルイかと思ったけど、今はトーナメントの試合じゃないんだから問題ない。

またナイフを使ってみて気付いたけど、やっぱりこっちの方が手に馴染むみたいだ。
思った通りに手が動く。
しっかり狙ったとこにナイフが入る。

持ち手を狙って斬り込んで、そこから槍の付け根に当てる。
武器はつなぎ目が1番もろい。
だからそこを狙えば結構あっさり壊れるはず。

セイバーに持ち替えたり、ナイフに持ち替えたりしたりしてるせいで、ヴァリラはうまく反応出来てない。
今なら押し切れる。
実力に気付かれる前に、一気に叩く!

「この……ちょこまかと!」
「舐めんな!」

薙ぎ払いを伏せて避けて、そのまま2振りの剣で床に槍を固定する。

「なんだとっ!?」

ヴァリラは驚いてるけど、もう遅い。
こいつは……1発殴らないと、気が済まない!



「―――――女だからって、馬鹿にするなぁっ!!」
「ぐっ?!」



グーパンチを顔面に叩き込んだら、ヴァリラは思い切り吹っ飛んでいった。
……わたし、あんなに強く殴ったっけ?
え~っと……ま、すっきりしたからいいか!



「おぼっちゃま!」

ナシュメントさんがヴァリラに駆け寄って抱き起こした。
うわ、顔が真っ赤。
少し強く殴りすぎたかも。

「くっ……こんなバカなことが……」

負けたことに気付いたのか、ヴァリラが悔しそうにうなる。
ふふん、わたしたちを馬鹿にしたのが悪いんだ。
じごーじとくって奴よ!

「約束通り、武器は返してもらうからね~だ!」
「……プラティ、あんたって案外熱血なのね」

ビシッて指を差しながら言うと、サナレが後ろからそう言う。
ううん、わたしって熱血なのかなぁ?
そんなつもりは全然ないんだけど。

「信じられん……1級鍛冶師の武器が、こいつに破れるだと……」

ヴァリラは目を見開いてわたしを見る。
うん、それはきっとわたしのせいじゃないし。
だからわたしを責めないでよ。

というか、多分ヴァリラはまだ武器に慣れ切ってなかった。
確かに武器の使い方は上手かったけど、あの槍の使い方はそれほどじゃなかったんだ。
そうじゃなかったらわたしに武器を封じられたりなんかしないし。

ちなみにあの方法は、パパがよくやってた技らしい。
体勢を崩しながら攻撃に転じる、攻防一体の技。
母さんから教えてもらったんだけど、結局母さんには勝ててない。
なんであんなに上手く抜けられるんだろう?

「……騙されたとはいえ、悪いことしたとは思ってるわよ……だからお金は返すわ」
「うるさい! そんなはした金などいらん!」

サナレが少しだけ済まなそうに言うけど、ヴァリラは怒鳴る。
はした金とか……わたしのお小遣いの4ヶ月分くらいあるんだけど、5000バーム。
流石金の匠合ってことなのかな?



「しかし、何故だ……何故オレが負けた……?」
「決まってるでしょ」

がっくり肩を落としてるヴァリラに、サナレが勝ち誇りながら言う。
うん、そこはわたしが言う台詞。
なんでとるのさ。

「天才か何だか知らないけど……自分の武器で戦ってるプラティに、あんたが勝てるわけないじゃない」

いい台詞だ。
出来ればわたしが直接言いたかったんだけど……サナレ、気付いてなさそう。
こう、自分の持ってるおもちゃを自慢してる子みたいな感じで。
わたしはおもちゃじゃないんだけどね!

「……っどけ!」

ヴァリラは顔を真っ赤にして走って行った。
槍はナシュメントさんが持って行ったみたいだけど、わたしの剣がそこら辺に転がってた。
うわ……結構ボロボロになってる。

「……っと、プラティ時間がないわ! 急いで闘技場に行かなくちゃ!」

サナレに言われて、時間が危ないことに今気付いた。
ああもう、このまま行かないと間に合いそうにない!

サナレはわたしを置いて先に行ってしまう。
というか、アイアンセイバーは?
持って行かないの?

そう思ってたらサナレが振り向く。
あ、やっと忘れてたことに気付いたのかな。
と思ったけど、少し赤い顔でこっちを見てる。



「……えと、ありがとプラティ! 試合頑張ってね!」



そして、綺麗な笑顔で応援してくれた。
……………うん、一瞬見とれたけどそうじゃないし。
というか結局行っちゃったし。

どうしようかってアレクに聞こうとしたら、もうアイアンセイバーを担いだアレクが準備してた。
ああ、アレクがみんなに返すんだ。

とりあえず親方さんに全部押し付けて、しっかり武器を手入れしておく。
流石にボロボロのままじゃ、試合どころじゃないしね。



「……よしっ試合に行こう!」















「遅かったじゃないか。逃げたかと思ったぜ!」

今度の対戦相手は、バンダナの男の人だった。
わたしよりもずっと年上の人。
持ってる武器は変な形の斧で……なんで3枚も刃があるの?

「護衛獣の召喚を行うか、ケノン?」
「はい……召喚!」

ただ、召喚する姿とかは普通だった。
かっこいいなぁ……わたしもあんなのやりたいかも。

だけど、そうなるとアレクと一緒にいられないんだ。
それはちょっとやだなぁ。

「両者とも、準備はいいな」
「「はい!」」

そんなことを考えてると、いつの間にか試合が始まるみたい。
慌てて準備すると、アレクが背中を軽く押してくれた。
……うん、頑張るよわたし。

「鍛冶師としての誇りをかけて悔いのない試合を!!」

相手が斧を構えるのを見て、わたしもアイアンセイバーを構える。
ナイフの方でもよかったんだけど、やっぱり武器は頑丈な方がいいと思ったから。
斧が相手だったし、これは正解だったっぽい。



「御前試合第12戦、ケノン対プラティ……はじめぇっ!」



サナレと戦うまで、負けるわけにはいかないんだ。
だから勝たせてもらうよ!






























「―――――出来た!」

アイアンセイバーが完成したようだ。
俺は適当に手伝っただけだからよく判らんが、思い出の品であることには代わりないし。

確か、コウレンが最初に作った武器がこれだったはず。
シンテツやブロンはナイフだったけど、あいつは師匠の秘伝を強奪して無理矢理やったらしい。
後で俺が謝らせたけど、あれは何だったんだろうか。

それなりに頑丈で、癖のない使いやすい武器。
女の子が使うには少し重いかもしれないが、プラティなら大丈夫だろう。
……いや、別に怪力って言ってるわけじゃないぞ。

「……と、とりあえず会場に行こう!」

聞こえてないはずなのに、プラティが慌てて逃げていく。
あれ、もしかして口に出してたのか?
それは酷いことをしてしまった。
後で謝らなければならない。















「ちょっと待ちなさいよプラティ!」
「あ、サナレ。応援にきてくれたんだ」

プラティを追いかけていると、後ろの方からサナレの声が聞こえてきた。
結構焦ってるような声。
確かイベントがあったような気がしないでもないが……何だったっけ。

「残念だけど違うの。プラティ……あんた、金の匠合ってどんなところか知ってる?」

サナレが首を振ってプラティの台詞を否定するサナレ。
……ああ、そういえば金の匠合の事件か。
初心者武器の安売り事件。

確かあそこが作られた理由は金を稼いだり、裏の仕事をしたりするところだったはず。
あそこがないとこの町は既に水没してるし、銀の匠合も仕事が出来ない。
給与というか生活費は鍛聖から分配されてるように見せかけて、あそこから出されているのであったり。

「わたしたちがお世話になってる銀の匠合のライバルでしょ? 基本は一緒なんじゃないの?」

ちなみに銀と金の仲が悪いのはトップの2人が仲が悪いからという理由だけである。
さっさと仲直りしろよお前ら。
というか弟子を永遠に終わらない喧嘩に巻き込むんじゃないと何度も言ったような気もする。
主にコウレンが。

「わたしもそう思ってたわ……でも違うみたい」

ずいっとプラティに詰め寄りながら喋るサナレを見て、戦慄を覚える。
というか、あそこまで近寄っても拒否しないプラティはやっぱり百合なのだろうか?
多分サナレは興奮してそれどころじゃないだけだろうし。

「あいつら、わたしたちみたいな新米鍛冶師から安い値段で武器を買い取って、ワイスタァンの名前を使って売りさばいてるらしいの」
「……そ、そうなんだ」

ちなみにこういうことをしてる理由はいくつかある。
1つは勿論ワイスタァンの武器を売ることだが、もう1つは実は結構重要なことだったりする。

というか、一応新米が作った武器だというのは公表される。
それどころか名前も公表されて、誰の作品を買いたいかも選べたりするのだ。

これは、後々有名になるであろう新米鍛冶師の顧客を確保する戦略なのである。
未熟とはいえワイスタァンの鍛冶師の作った武器。
錬度なら他の武器の追随を許さない。

前から使っていれば、その人が作った武器を愛用しようとする人も出てくる。
中には武器を作っている鍛冶師の成長を、息子や孫のように思っている剣士とかもいるとか。

「わかってると思うけど、わたしたち新米鍛冶師の作った武器なんて、まだ未熟もいいところなのよ! そんなのが市場に流れたら……剣の都ワイスタァンの武器は駄目だって言われることになっちゃう。そんなの……絶対止めなくちゃならない」

今更状況に気付いたサナレが顔を真っ赤にしながら下がってるけど、彼女が言ってるのは微妙に間違ってる。
というかこれで新米鍛冶師は金を稼いでるといっても過言ではないのだ。
多分、練習作として師匠に回収されてる武器はきっと市場に出回っていることだろう。
勿論練習作とか新米が作った作品だと銘打たれて。
流石にそこまでアコギな商売してないぞ、あいつも。

「積み荷を取り返したいの。手伝ってくれるわよね?」

肩をしっかり抱えたまま、サナレはプラティにぐいぐい押してくる。
うん、多分プラティの性格だったらもう断らないだろう。
基本的に熱血気質の女の子、俺が女だったら惚れてるかもしれん。
……いや、男でも惚れてるかもしれないけど。

「だったら止めなくちゃ! 急いで武器を取り返さないと!」

案の定決心した感じで叫ぶプラティ。
ちなみに試合まで残り1時間を切っているんだが、そこまで気が回ってないっぽい。

「そうこなくっちゃ! 幸い、試合が始まるまでまだ時間もあるみたいだし、わたしは一足先に港で待ってるわ!」

サナレはプラティの返事を聞いて即座に駆け出した。
中々のスピードで、俺が感心するくらいだった。
俺に追いつくにはあと5960キロくらい足りないだろうが。

「サナレを追いかけるよアレク!」

とか何とか言ってプラティもいなくなってしまう。
おいおい、本気か。
このままだと不戦勝で負けとかもあるっていうのに。



……まあ、こういう時は護衛獣が何とかするしかないか。
リンドウに言って時間をずらしてもらおう。









『あと20分くらい遅らせておk?』
『おk』

というやり取りを経て、俺は港までやってきた。
うん、あいつとの会話は楽だ。
本気で友達と喋ってる感覚だし。

「だから返してって!」
「やれやれ、何度も申しているではありませんか……」

どうやらギリギリで間に合ったようである。
プラティがサナレと合流する直前だ。
俺の速さに惚れ直す。

……じゃなくて。

「ちょっと待ったー!」

プラティが出待ちしてたかのようなタイミングで乗り込んでいく。
何という芸人気質。
少しくらい欲しいぞその才能。

……やっぱりいらない。
これ以上バイトロンに変な目で見られたくない。

「おや……プラティさんではありませんか」

ナシュメントはプラティに気付いたらしく、そっちを向く。
顔は普通に驚いて見える。
流石に気配だけでプラティのことを把握するのは難しいらしい。

「新米鍛冶師の武器を売りさばいてるって本当ですか? 本当なら……武器を返してください!」

プラティの台詞に疑問を覚えたが、どこが変なのか判らなかった。
……ああ、サナレは銀の匠合だから、深いところまでは判らなかったわけか。
ヴァリラでさえ組織の内情を知らないようだし、結構な機密事項のようである。
鍛聖はほとんどの連中が知ってることだから気にしてなかったしなぁ。
プラティの台詞に俺は漸く納得出来た。

「何をおっしゃっているのやら……仮に本当だったとしても、買い取った武器をどう使おうと、われわれの勝手でしょう?」
「お金なら返すから!」
「え、サナレも武器を売ってたの!?」
「だって、あなたの武器を売ってくれなんて言われたらうれしいじゃない!」

涙目のサナレを見て、アイスキャンディを食われた時のコウレンを思い出した。
うん、その後ブロンが焼かれてたけど。
ちなみに後で俺が作ってあげた。
ツンデレっぽくありがとうって言われたから満足だったり。

「駄目ですな。一度武器を売ってお金を受け取った以上、返すわけにはいきません」

ナシュメントは譲らない。
というか、実力的には圧倒的に勝ってるんだから余裕なのは当然なのだが。
俺に気付いたら多分警戒するだろうけど、気付かれた感じはない。
隼やら梟とかのいいところを全て掛け合わせたような翼に死角はないのだった。

「わたしたちの武器は本当はまだ未熟で、売り物にできるレベルじゃないの!」
「さて、わたくしには関係のないことですので……」

……まあ、サナレの言うことは判る。
ただ、相手も見習いが作った武器だということは承知してるんだから、そんなことは承知済みである。
だからサナレの心配は不要なのだ。

ちなみに、ワイスタァンの鍛冶師といい勝負が出来る鍛冶師はウィゼル・カリバーンくらい。
というか、量産の剣なら新米鍛冶師の方が性能が上だし。
サナレはここを出たことないから普通の武器がどれくらいの強さなのか判ってないんだろう。



「いいじゃないか」
「ヴァリラ様?」

色々考えてると、奥から金髪の少年が現れた。
あいつ、出待ちしてやがった。
やるなヴァリラ、流石かませ犬。

「ヴァリラ……この間の試合で最短記録を出した天才って呼ばれてる……」
「あいつがそうなの?」

サナレは何か驚いたように言うが、それは俺も驚いてる。
というか、その最短記録を叩き出したのはシンテツなのだ。
それを超えるということは、開始10秒で相手を戦闘不能にしなければならないんだが……相手との相性がよかったんだろう。
体力が250くらいなら簡単に出来る。

「自分たちの作った武器がはずかしいから返してくれってことだろ?」
「じゃあ、返してくれるの?」

ヴァリラの具合が酷い。
あれだけかませ犬的な雰囲気を醸し出しながら、小物臭を感じさせない。
いい意味で最初の障害だ。

「そうだな……ただし、おまえたちも鍛冶師なら、オレとの勝負で奪ってみろ! ……まあ、所詮女とオコサマのお前らの未熟な武器じゃ、オレには勝てないだろうがな!」

ヴァリラ……どうやって育てられたらこうなるんだろう。
わ、笑いを堪えるのが辛い。
くそ、俺を酸欠で殺すつもりか。

「あんただって子供じゃない! そこで待ってなさい!」
「黙れ女」
「……!」

……駄目だ、ちょっと後ろ向こう。
顔が完全にニヤけてる。
クールになるんだ俺、KOOLじゃなくてCOOLになるんだ。

「あったまきた! サナレだって頑張ってるのに……ヴァリラだっけ? トーナメントで当たる前に、ここで決着をつけてやるからね!」

ほら、プラティだって怒ってるんだから俺も怒っとかないと。
……無理、勝手に肩が震える。
ゴメン、俺の分まで怒ってくれプラティ。

「いいだろう、金の匠合の1級の鍛冶師が作った武器で相手をしてやる!」

……金の匠合の1級鍛冶師って、確かレシピ売ってきた奴だよなぁ。
どうもあっさり負ける気がしてならない。
何でだろうなぁ……確信なんて全くないんだけどなぁ……。

「行くよアレク!」

とりあえず、プラティに言われたから俺も頑張ろう。
……うん、ちょっと待ってね。
もう少しで笑いも止まると思うから。




「てぇえええええいっ!!」

アイアンセイバーを抜刀しながら突進するプラティ。
しかも真正面。

「ふん!」

流石にそれは拙いだろうと思ってたら、あっさりガードされてる。
そこから切っ先とは反対で心臓の辺りを狙われた。
確かにあそこなら一撃で意識を刈り取れるし、傷もつきにくい。
成る程、それなりに考えてるみたいだ。

プラティだって負けてない。
回避を成功させて構えを直す。
流石シンテツの娘か。

装備はアイアンセイバーとナイフで、耐久値的には勝ってるし問題なさそうだ。
どうしようもなくなったら俺が手を出してしまえばいいし。

「おりゃあっ!」
「クッ!?」

何かを決意したかのようなプラティが、アイアンセイバーを突き出して攻撃し始める。
狙いは眼球。
うわ、えげつない。

回避せざるを得ない攻撃を連発して、相手の体勢を崩しにかかる。
どれだけエグいんだプラティ。
まるでアマリ……いや、怖気がしたからやめとく。

攻撃力的には負けてても、攻め続ければそれも問題ない。
成る程、よく考えてるなプラティ。
感心するわ。

だからそのえげつない技はやめてあげてくれ。
ヴァリラがかわいそうになってきた。

「なにぃっ?!」

苛立ったヴァリラが攻撃に転じようとした瞬間に、プラティは懐からラグズナイフを取り出して顔面に突きつけた。
何という誘い反撃。

長めの剣で牽制して、相手が焦って接近してきたらナイフで接近戦。
凄い、何かやけに強い。
やっぱり実力を隠してたんじゃあるまいか。

しかも武器の使い方が異常に上手い。
最初からTEC最大じゃないとあんな風に立ち回れないだろうってくらい強い。
やっぱり実力を隠してたのか。



……というか、見れば見るほど攻撃センスがシンテツそっくり。
性格とは正反対のえげつない攻撃パターンで、相手の動きを制限しながら自分の攻撃を的確に命中させる。
その攻撃方法は、ルマリに攻撃の隙を与えないほどだった。
1振りで戦艦を両断出来る彼女の攻撃を止めることが出来るということが、どれだけ凄いことか判ってくれるだろうか。

ちなみにコウレンは泣いた。

「この……ちょこまかと!」

ヴァリラが渾身の一撃を放つ。
それは刺突ではなく、振り下ろし。
遠心力を利用した、効率のよい一撃である。

「舐めんな!」

だが、プラティはその攻撃を綺麗に回避する。
剣先を利用して斬撃を逸らし、地面へと衝突させた。

「なんだとっ!?」

それだけではなく、プラティは持っていた剣を十字に交差させて地面に槍を縫い付けた。
しかも棒の部分で固定するというおまけつき。
これでは槍を引き抜くことも出来ない。

ヴァリラは動揺して硬直。
武器を手に持ったまま動けない。
実際は引き抜こうとしているのだろうが、それはただの隙でしかなかった。

プラティは既に剣から手を離して、左手を握り締めていた。
そういえば、左利きなのか。
気付かなかった。



「―――――女だからって、馬鹿にするなぁっ!!」
「ぐっ?!」



そして、強烈な左ストレート。
全身を回転させるように放たれたそれは、ヴァリラの首に致命傷を与えてしまうほどの完成度だった。

流石にそんなことになったら困るので、俺は密かに突風を起こしてヴァリラを遠くに飛ばす。
漫画とかである、その場で耐えるよりむしろ飛ばされた方がダメージが低いというあれだ。
あそこまで強いと、あの法則が成り立つのである。

「おぼっちゃま!」

かなり飛んで、壁に激突したところでナシュメントが助けにいった。
流石騎士、動きに無駄がなかった。
紳士過ぎる。

ヴァリラの頬は真っ赤に染まっている。
ああ、暫くしたら紫に変色してしまうだろう。
その前にFエイドを使ってもらいたい。
プラティに変な気を使わせたくないからである。

「くっ……こんなバカなことが……」

……しかし、聞けば聞くほどかませ犬である。
何が彼をそうさせたのか、知りたいところだ。
恐らくはあの父の歪んだ愛情なのだろうが、もう少し判りやすい可愛がり方をすればいいというものを。

「約束通り、武器は返してもらうからね~だ!」
「……プラティ、あんたって案外熱血なのね」

プラティは絶好調の様子である。
決めポーズをとっているところをサナレにつっこまれていた。
確かに熱血だと、サナレの台詞に関心した。

「信じられん……1級鍛冶師の武器が、こいつに破れるだと……」

1級とはいえ、本気で作ったのかといわれたら疑問が残ったりする。
恐らく金銭面では問題ないし、彼の槍を越える武器が出てくるとは思っていないが故の手抜きがあるかもしれない。
まあ、それが本当なのかなんて俺は知らないのだが。

……まあ、ヴァリラの敗因はそれだけではないだろう。
やはり、プラティを侮っていたのが最大の要因。
最初から全力を出していたら、あるいはといったところか。
金髪は油断するのがポリシーだったりするのか?

「……騙されたとはいえ、悪いことしたとは思ってるわよ……だからお金は返すわ」
「うるさい! そんなはした金などいらん!」

サナレが近寄ろうとしたら、それを振り払うように怒鳴るヴァリラ。
くそ、言動がいちいち俺のツボを刺激する少年。
あんな息子が欲しかった。
いや、年齢的には孫かもしれんが。

「しかし、何故だ……何故オレが負けた……?」
「決まってるでしょ」

打ちひしがれているヴァリラにサナレが胸を張りながら言う。
うむ、残念な胸だ。
姉はあれだけあるというのに、これからの成長に期待か。
貧乳はステータスだという台詞もあるので、現実に負けないように生きていただきたいところである。

「天才か何だか知らないけど……自分の武器で戦ってるプラティに、あんたが勝てるわけないじゃない」

『天才だろうがなんだろうが、自分の力で戦ってない奴に、負けるわけにはいかないわ!』

サナレの台詞が一瞬、コウレンと被る。
……やっぱり、会った方がいいんだよなぁ。
出来れば会いたくないんだけど。

泣かした相手にどうやったら許してもらえるのか、俺は知らなかったりするのだ。
いつも気付いたら普通に話してたりしてたけど、あいつらとコウレンは別だし。

「……っどけ!」

ヴァリラは不機嫌なまま走り去っていく。
槍はナシュメントが回収している。
回収し損ねてたら、俺が投擲用に使おうと思ってたのに。



……と、忘れるところだった。
俺は近くにおいてあった荷物の中から、サナレのアイアンセイバーだけを取り出しておく。
俺ぐらいの実力になると、誰が作ったかなんて一目で判るのである。

……嘘ついた。
実際はサナレの写真が張り付いた荷物があったから、そこから探し出したのだ。
野菜の生産者表示みたいな扱いらしい。

「……っと、プラティ時間がないわ! 急いで闘技場に行かなくちゃ!」

そんなサナレはそのことに気付かないまま先に行ってしまう。
おいおい、もう少し周りに気を使おうぜお嬢さん?
……似合わないからやめよう。

少し落ち込んでいると、サナレがこちらを向いた。
どうやら何かを言いたいようだが、恥ずかしくて言えないらしい。
ふふふ、ツンデレ相手ならどう動くか予測することくらい容易いわ!



「……えと、ありがとプラティ! 試合頑張ってね!」



可愛らしい笑顔を見せた後、更に真っ赤になった状態で失踪。
恐らく走ってる間ずっと頬を押さえっぱなしだろう。
コウレンはそうだったし。

笑いそうになる顔を無理矢理抑えてたら、プラティがこっちを見る。
判ってる、ちゃんとサナレにはこれを返そう。
それも家の前に。
ちょっとした嫌がらせである。
主にコウレン相手の。



「……よしっ試合に行こう!」















「遅かったじゃないか。逃げたかと思ったぜ!」

ちゃんと擦り傷とかを消毒したプラティと一緒に試合に赴いた俺だったが、そこで衝撃の光景を目の当たりにした。
そう、目の前の男はバンダナを装備した、3枚刃だったのだ。

「護衛獣の召喚を行うか、ケノン?」
「はい……召喚!」

失礼、ケノンだったのだ。
しかし、俺のイメージは完全に3枚刃。
髭剃り的には画期的だったんだろうな、3枚刃。
ただ、どうして斧が3枚刃なのかは凄まじく謎なのだが。

「両者とも、準備はいいな」
「「はい!」」

そういえば、あの3枚目の刃の使い方って一体……。
リーチは伸びるんだろうが、それにしたって他にやりようがあるだろうし。
何か秘策でもあるのか?

「鍛冶師としての誇りをかけて悔いのない試合を!!」

そういえば、今回プラティはアイアンセイバーで挑む気らしい。
前回と同じく武器破壊をもくろんでいるのだろうが、相手は斧である。
少々厳しそうだ。

俺もバリアウェポンが使えれば楽だったんだが、そんなのバードマン的に使えない。
今回も全力でフォローしよう。

……俺の努力出来る範囲で。



「御前試合第12戦、ケノン対プラティ……はじめぇっ!」



よし、今日の俺の目標は、あの斧の有用性を知ることだ。
試合以外の目標を持った俺は、前回よりも頑張れる気がした。


















-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



俺の中ではサナレは水橋かおりさん。
結構ツンデレやってる気がする。
結構動かしやすいかもしれない。

ヴァリラは……関智一さんかなぁ?
自分の勝手なイメージだけど。

アレクは当然ながら陶山章央さん。
アニメで声をしてた人です。
サクラ大戦の大神一郎が有名かもしれません。
もしくはマクロス7のガビルかなぁ。
造形美ぃー!

彼にはバードマンの素晴らしさを世界に広めてもらう為にも頑張って欲しいです。



あ、それと次回更新時にサモナイ板に移動する予定です。


追記・修正しました。



[16916] ツンデレ鍛聖とヤンデレ悪魔と
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:44469469
Date: 2010/05/14 20:22
「えーいっ!」
「はっ!」

アイアンセイバーを振り回して、ケノンが近寄ろうとするのを邪魔する。
狙いは勿論、柄の部分。
金属じゃないそこは、槍や斧の決定的な弱点。

だけど、相手も簡単に決めさせてくれない。
攻撃に合わせて柄を引っ張ったりして間合いを変える。
それで、当てられたはずの攻撃を何回もかわされた。

今は振り下ろして攻撃したけど、相手は斧の柄を引っ張って刃と刃をぶつけてきた。
うう、また止められた。
ちょっと厳しい。

しかも、ここから相手は反撃してくるんだ。
それも凄く強力な奴。
わたしはそれを避ける為に身体を無理矢理倒した。

「―――――はぁっ!」
「っ!!」

瞬間、頭の上を斧が通り過ぎる。
ぱらぱら落ちてくるわたしの髪の毛を見て、わたしは逃げるように転がった。
いや、もう少しで頭を真っ二つにされてたんだから、とーぜんでしょ!?

「やるな……」

ケノンは突き出した斧をしっかり持ち直しながら言った。

……そう、あの人は斧を槍みたいに突いてくるんだ。
斬りかかった剣を斧の両刃で押さえながら、3枚目の斧で刺してくる。
最初の攻撃は、アレクが割り込んでくれなかったら危なかったかもしれない。

アレクはそれから1度も前に出てこない。
多分、後はわたしが何とかしろってことなんだと思う。
うん、頑張る。

ケノンの攻撃は、斧と槍が合わさったようなものだけど、それ以外は普通だ。
基本も基本で、初歩の初歩を繰り返してる感じだ。
だけど、それが強くてたまらない。



振り下ろされる斧を避けながら、色々考える。
攻撃を受けるのは駄目。
あんなの真正面から食らったら、アイアンセイバーがぶっ壊れちゃう。

だけど、このままじゃさっきと一緒だ。
わたしじゃ、ちょっと実力が足りない。
攻撃をかわすだけなら、問題ないんだけど。

ケノンの動きは見える。
母さんの包丁の方が全然速いし、アレクと比べたら天と地くらい違う。
だからわたしは今まで逃げ切れてたんだし。

……まあ、最初は驚いて全然動けなかったんだけど。

だけど、このままじゃどうしようもない。
このまま続けてたら、体力がないわたしが先に息切れする。
相手は大人だし、わたしは子供。
基礎体力が違いすぎる。

「たっ!」
「チッ」

試しに1度も使ってなかった突きを使ってみたけど、あっさり止められた。
刃と刃の間で絡めとられそうになったから、すぐに引く。
あんなことされたら絶対折れちゃう。

……ん?
刃と刃の間は切れ味がないから、もしかして……。

やれるかもしれない。
わたしはその可能性にかけて、突っ走ることにした。



「はあっ!」
「っ!?」

わたしは全力で前に出た。
今まで離れてたわたしがいきなり近寄ってきたからケノンは驚いてる。
動きが鈍ってる間に、決着をつける!

切れないところを無理矢理掴んで斧を止める。
柄には身体を入れて、がっちり固めてしまう。
これでさっきみたいに逃げられない。

「なんだと!?」

こんな風に動きを止められるなんて思ってなかったみたいで、やっぱり驚いてる。
でも、これもパパがよくやってたことみたいで、よく母さんが教えてくれたんだ。
使う相手は槍なんだけど……そこはまあ、りんきおーへんってことで。

パパはここから腕と身体を使って武器をぶっ壊すんだけど、わたしじゃそんなこと出来ない。
離れないようにすることが精一杯。

だけど、まだわたしには右手が残ってる。
それとアイアンセイバーも。

思いっきり振りかぶって、攻撃準備をする。
これが決まれば、勝利決定。
流石にこんな状況で攻撃を避けられるはずがない。

そもそも、武器を手放したら負け。
武器を失ったことになるからだ。



だからわたしはそのままアイアンセイバーを振り下ろした。
















「完敗だ……やるじゃねぇか」

そういうケノンの手には、真っ二つになった斧があった。
そう、わたしが狙ったのは武器の方。
持ち手が頑丈でも、木製だったらそっちを狙う。

「あったりまえじゃん! 武器をただの道具としか見ていない金の匠合の人には負けないって決めたの!」

それに、わたしはヴァリラみたいな奴に負けるわけにはいかなかった。
金の匠合に負けるなんて、わたしは嫌だったんだ。

だけど、そう言うとケノンは笑いながら帰っていった。
……?
なんかヴァリラと違うみたいだった。



「間に合ったみたいね。それと2回戦目突破おめでとう」

会場から出ると、サナレが笑いながらそう言ってくれた。
うん、嬉しい。

「えへへ、ありがと。でもさ、勝ったってよりやっぱり勝てたって感じだけどね」

だけど、そう考えてるとやっぱりそんな感じだった。
確かに危なかったけど、最初以外は絶対傷が残るような攻撃はしてこなかったし。
あれはきっと、手加減されているところを偶然倒せたのが大きいんだと思う。

「まったく、いつまでそんなこと言ってる気よ」
「だからそれは違うんだったら!」

……サナレが不満そうに言うけど、まだ勘違いされたままみたいだ。
何度も違うって言ってるのに、全然聞いてくれない。
絶対これってアレクのせいだよ!

というか、その原因のアレクはどこに?
ケノンがいなくなってからすぐに見当たらなくなってたんだけど……まさか家出!?
いや、そんなことないか。

……ないよね?



考えてたら、いきなり奥の方からヴァリラが出てきた。
うげ、客席にいたんだ。
少しやなかんじ。

「ふ……やるじゃないか」
「なんの用よ、天才さん?」

やけに自信ありげな顔で言うヴァリラに、サナレがつっかかる。
いや、わたしがそう感じるだけで、もしかしたら普通に声をかけただけかもしれないけどさ。
わたしにはわからなかったけど。

「用があるのはおまえだ、プラティ」
「わたし?」

予想はついてたけど、やっぱりわたしが目当てだったらしい。
目当てって言うとなんか違うかもしれないけど、大体そんな感じ。
っていうか、サナレはスルーなんだ。

「ケノンは鍛冶師としては未熟だったが、戦士としてはかなりの腕だった。そのケノンに勝つとはな……」

なんだか納得した感じで言われたけど、それはきっと勘違い。
というか、わたしが勝てたのは本当に偶然なんだから。

「その力、少しは認めてやろう。だから、次はオレの手で作った武器で勝負だ!」

ビシッと指を突き出されるけど、話聞けよ。
というかもっと考えてよ。
武器が少しもろかったから、わたしはなんとか勝てただけなんだし。

「オレと当たるまでは負けることは許さない……プラティ、お前を倒すのはこのオレだ」

だけど、ヴァリラはそんなことに気付く前にさっさと行ってしまった。
わたしに説得する時間を与えないようにしてるんじゃないの?
一瞬だけサナレとかぶった。

「ええと……どういうこと?」

というか、どうしてわたしはあんなことを言われなくちゃならないんだろうか。
よくわかんない。

「鈍いわねぇ、あんたにライバル宣言って奴よ」

だけど、サナレはどうしてかわかるみたい。
教えてもらいたいんだけど、サナレにはそんなつもりはないっぽい。

「しっかし……とんでもない奴に目をつけられたわね」
「大丈夫だよ! 1回勝ったじゃん!」

サナレが深刻そうな顔をするから、明るくさせようと言ってみたら変な顔された。
いや、そんな顔されても困るんだけど。

「あいつ、油断してたのよ。今度は本気よ……いくらあんたが強くても、また勝てるとは限らないわ!」
「……いや、だからね」

というか、やっぱり誤解されたままだった。

ああ、アレク助けてっ!!















「うう、ひどいめにあった……」

アレクは結局見つからないし、親方にも叱られた。
あんな無茶、もう通用しないぞ……だって。
まあ、あんなの何回もやってたら命がいくつあっても足りないだろうけど。



……さてと、アレクは一体どこにいるんだろう?
もう辺りは暗いし、急がないと明日起きれない。
一応わたしだって女の子だし、お肌に気を使うのだ。

とりあえず、3階を探してみた。
この間もいたから、もしかしたらって思って。

「……ホントにいた」

そしたら、あっさり見つかった。
念の為に色んな場所探したわたしの苦労は一体なんだったんだろう?



「……ん、あれって誰だろう?」

よく見ると、アレクは誰かと喋ってた。
それもわたしと大体同じくらいの子と。

紫色と緑色が混じった、不思議な服を着てる。
ただし下はスカート。
多分女の子だと思う。

髪は紫で、ハートっぽい髪飾りをつけてる。
肌が少し青っぽいような気がするけど、きっと光の具合が悪いからだと思う。
だって、あそこまで青いと死んでるみたいだもん。



「―――――じゃあね、アレク。あんまりゆっくりしてると、先に始めちゃうから」



その子は、そう言って飛んでいってしまった。
背中からこうもりみたいな羽を出してバサバサと。
……召喚獣だったんだ、あの子。

アレクはその子を見送ってから、工房の方に飛んでいった。
わたしはアレクを追いかけようとしたけど、それよりも気になることがあったんだ。
というか、怪しくてしょうがない人が近くにいたからなんだけど。

わたしはゆっくりと視線をずらして、横にいる人を見る。
初対面だけど、きっとアレクと知り合いだと思うから。



「……ええ、貴方が誰と知り合いでもかまわない。だけど、どうしてわたしとは喋らずに、あんな娘と喋るというの? ズルイわ、少しというかかなりイライラするわ。ええ、別に他意はないのだけど。他意はないけれど何だか嫌なのよ。イライラする」



……かなり怖いけど、多分大丈夫。
だと思う。

とりあえず、なんて声をかけよう?
この人、なんだか怖いし。

綺麗な赤い瞳で、滑らかな紺色のストレート。
赤を基調にした服を着こなした、綺麗な大人の女の人。
どこかで見たような気もするけど……思い出せないや。

「えーっと、あのぉー」
「っ!」
「ええっ?!」

少し声をかけたら、いきなり逃げ出した。
というか橋から落ちた。
あんまりにも綺麗だったから見てたんだけど、あの人頭から落ちてったような……大丈夫かなぁ。



多分、少ししたら会える。
確信はないけど、なんとなくそう思った。



























「……何か、今日は俺の出番が多い気がするぞ」

気のせいかもしれんが。
さっきも活躍したし、多分当たりだと思う。

「えーいっ!」
「はっ!」

プラティがケノンの3枚刃に向かっていく。
流石3枚刃、切れ味が違う。
2枚じゃ勝てないとでも言うのだろうか。

そういえば、髭剃りは3枚どころか5枚なんてのもあったっけか。
凄いなあ、最近の技術って。
昔はそんな風に作ってもすぐ壊れてたっていうのに。

「―――――はぁっ!」
「っ!!」

俺が髭剃りについて考えてる間にも戦いは続く。
ケノンの突きがプラティの髪の毛をいくらか切り取って行くのを確認しつつ、俺は風を打ち込む。
流石にフォローしないと厳しいだろうしな。

勿論、サクロに気付かれるようなへまはしない。
どうやら、サポートはどれだけやってもいいようで、相手の護衛獣も結構好き勝手にやっていた。
流石にそんなことはさせないように、俺が軽く封じてるんだが。

「やるな……」

それはきっと、プラティ越しに俺を見ながら言ってるんだろう。
確かにプラティのセンスは凄い。
一瞬シンテツを見てるような錯覚に陥るくらいには完成度が高い。

だが、それだけだ。
完成度は高いが、熟練度が低い。
練習通りには出来てるが、応用は出来てないという感じが1番近いだろう。

それを俺がカバーする。
シンテツのフォローをしてるみたいにやってればいいから凄く楽だ。
というかどうしてシンテツと同じ動きが出来るんだこの幼女。
戦慄せざるを得ない。



斧をよけようとするプラティをフォローするために風をぶっ放す。
魔法とかじゃなくて、ただの風圧。
サクロも魔力を感知出来ないから、俺を注意出来ないのだろう。

だからといって俺を睨みつけることはないだろうに。
アイテムと護衛獣の召喚術のみが効果対象なんだから、俺が適当に風を起こすのはルール違反じゃないはず。
悔しかったらルール改定してみろ!



プラティが避けやすいように風を起こして、斧の軌道をいじる。
攻撃力が高くても、当たらなければどうということはない。
ギリギリ気付かれないくらいに狙ってみるけど、多分気づかれてるよなぁ。
プラティには気付かれてないだろうけど。

だけど、その割には結構いい動きをするプラティ。
俺がフォローしなくても何とかなりそうな動きをしてる。
流石に怪我はするだろうが、その辺は何とかしてもらいたい。

……いや、やっぱり跡が残るのはまずい。
コウレンはしょうがないかもしれないが、一応俺が治療出来る範囲でやってたし。
今では絶対怪我しないだろうから、俺は役立たずだなぁ。

気付けばプラティの肩が上下し始めていた。
どうやらスタミナが切れ始めているようである。
まあ、今までこれただけでも充分だろうが。

「たっ!」
「チッ」

そう思った瞬間、プラティが今までにない鋭い突きを放った。
狙いは防御されることを見抜いたのか、顔面に狙いをつけていた。
防御方法が刃で挟み込むように受け止めるのは予想外だったようだが。

すかさず引いた後で、何やら考え始めたプラティ。
後ろからだが、考え事をすると逆に動きがよくなるのですぐ判る。
シンテツと同じ癖なんだが、あれはどういうことなんだろうか。

「はあっ!」
「っ!?」

今度は全力で突進し始めた。
あまりに速かったから一瞬出遅れたが、慌てて追いかけていく。
危ないってあれ。

プラティはちょうど刃と刃の間をがっちり掴んで、自分の腰に押し付けるようにして固定しているのだ。
いや、馬鹿だ。
あんな風に固定しても、あっさり振り回されるだけ。

「なんだと!?」

……の、はずなんだが。

どうやらあまりにも綺麗に嵌ったらしく、動けなくなったようだ。
運がいいのか、腕がいいのか。
多分前者なんだろうな、きっと。
後者の可能性がないわけじゃないが、まあそれは高望みし過ぎだろう。

ちなみに、シンテツなら武器を圧し折りながらそのまま潰しにかかる。
笑顔でアイアンセイバーを素手で圧し折るのはトラウマ。
多分コウレンが見たら泣くと思う。
いや、見られてたら俺が死ぬんだが。

プラティはそれを固定したまま、アイアンセイバーを振りかぶる。
ただし狙いは斧の柄。
やっぱり武器破壊目的か。



……いつか、これもどうにかしたい。
流石にこのまま誰も傷つけずに進めるなんて思えないからだ。

特にウレクサ。
あの似非ヤンデレのせいで計画が狂うのも困るのである。



「完敗だ……やるじゃねぇか」

ともかく、プラティは綺麗に斧をぶった切った。
流石というべきか、切断面は凄く綺麗だ。
ほんの少し劣るとはいえ、これを量産出来る金の匠合の武器錬度は異常だと思う。
まあ、斬鉄出来るわけじゃないしなぁ。

「あったりまえじゃん! 武器をただの道具としか見ていない金の匠合の人には負けないって決めたの!」

……プラティはあんな風に言ってるが、実際俺もそう思ってるから少し胸に来た。
確かに相棒的な意味合いで仲良くしているが、それでも武器以上に見ることは出来ない。
シンテツは武器を我が子のように愛してたっぽいが、そうなるとプラティはかなりの大家族の末妹になるということなのだが。

プラティの台詞に、ケノンは笑いながら帰っていった。
どうやら出来た大人のようである。
後で菓子でも送っておこう。















「ふむふむ、どうやら役に立てたようじゃな」
「おかげさまで不戦勝は避けられた。感謝する、リンドウ」

おkおk、とかぬかしてるおじいさんは、この町のトップである金剛の鍛聖であるリンドウ。
シンテツを戦闘時限定鬼畜男にしたてあげた犯人であり、ちょいちょい逃げ出す愉快なおじいさん。
ブロンがああなった理由も、きっとこいつのせい。
つまり全ての元凶である。

今いるこの場所は、ひまわりを栽培しようとしている隠し部屋である。
土は俺が運び、種は俺の友達が持ってきてくれた。
今は潮風の中でも成長出来るように品種改良中である。

久し振りに会ったわけだが、まるで昨日会ったような雰囲気で話せた。
流石年長者、伊達に年はとってないということか。



「……おお、忘れるところじゃった。御主に客が来とる。最上階で待っているぞ」
「ん?」

暫く話してると、リンドウが手を打ち合わせてそう言う。
さっさと行けと追い出されてしまった。

……しかし、心当たりがありすぎて困る。
コウレンだったら準備する間もなく虐殺ではないだろうか?
ルマリは今病気で、1振りで戦艦1隻しか沈められないくらい弱ってるし、可能性は低い。
テュラムは行方不明か……なら、誰だ?



「………なんだ、お前かビーニャ」
「何だとは何よぉ、この鳥頭ぁ」

いたのはビーニャだった。
3年前からまるで変わらない、肌白幼女。
未だに友人やってる理由が判らない。



こいつとは、大体10年の付き合いである。
デクレアからシンテツに武器製作の依頼が来た時に、俺が追い返したのが最初。
暫く殺し合い的な何かをしてたのだが、面倒になって適当に剣をあげたんだった。

ただし作者俺。
ばれてまた殺されかけた。

「もうすぐアタシの仕事も大詰めだしぃ、殺される前に顔を見ておこうかなぁってねぇ」
「相変わらず口が悪い」
「キャハハ」

笑い声で誤魔化された。
俺今殺害予告されたんだが。
実際正面から戦うと虐殺されるから困る。
飛んでるところをペンタ君爆撃で撃ち落されたのはいい思い出。



……というか、こいつってサモンナイト2のボスなんだよな。
中身がごつい悪魔で、頭の捩子が100本単位で外れてるような奴だったような気がする。
その割には会話が成立してるんだが、どうしてなんだろうなぁ。

「っていうかさぁ、マグナが最近新しい召喚術を覚えたんだけど、それが霊属性だったんだぁ! もうね、嬉しくって嬉しくってぇ!」

喋ってなかったら、とうとうビーニャがのろけ話を始めた。
やけに嬉しそうに喋るもんだから、頬が赤っぽくなってるような気もしないでもない。
見た目ロリのわりに女の顔するのが少しムカツク。

何だか判らんが、こいつみたいに性別が不鮮明な奴なら呪い的には問題ないらしい。
悪魔とか天使とか、性別適当だからなぁ。
こいつの環境も色々あるし、それのせいかもしれない。

召喚師の血を吸い、記憶や情報を注ぎ込んだ特殊な身体を持つ悪魔。
その中でも獣属性に特化させたのがビーニャ。
多分、その途中で記憶とかが混線して狂ったんだろう、きっと。

「―――――でねぇ、もぉすぐ護衛獣を召喚するって。それで、アタシを護衛獣にしたいって言ってくれたのぉ。ああもうっ! もうっ!」

……これだけのろけられるのも、そのせいかもしれない。
目の前で顔を盛大に振り回されるのは凄く邪魔だったりする。
それだけ好きだったら、さっさとラスボス裏切ればいいのに。



「というか、さっさと告白しろよ」
「ッ?! だ、誰があんな見習い召喚師のことなんかぁっ!!」

そう思って話を振ると、何故かむきになって噛み付いてくる。
比喩じゃなくて、実際に。
力が強いから結構刺さる。
こいつのせいで歯形がいくつか残ってるんだが。



「……とにかくっ! お祝いの意味も込めてぇ、武器でも贈ろうかなって思ったのぉ! だからちょうだい?」

散々噛み付いてきた挙句、俺に武器を強請る始末。
その姿はまるで子供なのだが、残念ながら中身はアレである。
そんなのに好かれてるラグナには同情するべきなのか微妙。

いや、応援するけどさ。
一応友人だし、今のこいつならラグナの仲間になる気がしないでもないし。
逆に勧誘するつもりなのかもしれないが……まあ、そうなったら俺が責任を持って結婚式の神父になってやろう。
不本意だが。



とはいえ、今はこいつに渡す武器を選ばなくてはならない。
あんまり強いとラスボス側の戦力になられた時に困るし、弱いと俺が文句言われる。
そう1日に何度も噛み付かれたくないのである。

……ただ、何を渡せばいいのか判断がつかない。
このアイアンセイバーがどれだけ凄いのかよく判らんし。
しかし、今俺が用意出来るものはそれしかないので、それを渡すしかないのだが。

ちょっと待ってくれるように伝えてから、俺の隠れ家から予備の剣を取ってくる。
これで、予備は6振りになった。
3振りづつ使うことを考えるとちょうどいいのかもしれない。

「待たせた。これでいいか?」
「……………うん、これでいい。というかこれがいい」

よく判らんが、かなりの葛藤をした後で頷いたビーニャ。
納得したから、武器の質は悪くないのだろう。
色の方は勝手に何とかしてもらうことにする。
赤いペンキで塗ってあるから切れ味も悪いだろうし、ちゃんと言っておこう。



「あ、待てビーニャ、まだ話が終わってないぞ」

しかし、それよりも前にビーニャは翼を出して空を飛ぶ。
肉を着てるようなものだから問題ないのかもしれないけど、目の前で肉を突き破っていくのは心臓に悪い。
というか普通に飛べよ。

「―――――じゃあね、アレク。あんまりゆっくりしてると、先に始めちゃうから」

だが、俺の制止なんて聞かずに飛んでいってしまう。
あれか、俺の周りの奴らはみんな話を聞かないのか。
それとも幼女だからか。
本人に言ったら確実に殺されるな、多分。

……それにしても、何を始めるというのだ。
まさか俺も召喚獣としてカウントされてるのか?
そしてあの悪魔復活計画に組み込まれてると。
それは激しく困る。



空を見上げると、何故か鳥仙人の顔が浮かぶ。
おい、あいつ死んだのか。
死んだならもっとひっそりしてて欲しい。
というか親指立てんな。

いや、確かに感謝はしてる。
あの爺さんがいなかったら俺はこの場にいないわけだし、こんな風に空を飛べなかった。
呪いさえなければ絶対感謝してたというのに……いつか殺す。



……さて、明日は何だったか。
確かブロンが年甲斐もなく頑張る話だったような気もするんだが……思い出せん。
登場人物が増えるのは確実なんだが。

イメージは蜂と電波。
2人増えたから、多分2つは別々のキャラだったはず。
何だか背中が冷えるんだが、どうしてだろうか。



明日も死なないように頑張ろう。
出来ればコウレンに会わないように。































-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-





予想外のキャラを出してみた。
まさかこいつが出るとは思わないだろう。
一応デグレアの兵士がいたから設定上の違和感はないはず。
……ここにビーニャがくる可能性があるかどうかが、既に違和感なんだけど。

多分あの子が恋愛したら危ないと思う。
凄く勝手なイメージ。

今回、おまけを実装しました。
本編とは殆ど関係ないので、スルーしても問題ありません。

ちなみに、カルナセイバーはATK+44の中盤武器です。





-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-










おまけ・びーにゃのにっき






……………


………


……






○月○日 晴れ

今日はあの鳥頭に会ってきた。
3年間も音沙汰なしなのは友達甲斐がないとしか思えない。
いくら主が死んだからって引きこもりは不健康。

マグナへのお土産をねだってみたら、凄い業物がもらえた。
カルナセイバーより強いんじゃないかな、これ。
マグナに渡したら喜んでくれるかな?

……最近マグナのことを考えられなくなってきた。
召喚師の血から知識を組み上げてる中で、どんどんマグナのことを忘れてしまいそうになる。
一瞬マグナのことを忘れた時に、本当に死にそうだった。

ああ、だから日記を書くようにしたんだ。
しかもあの鳥頭に言われて。
あいつも時々いいこと言うよねぇ。



……忘れたくないよ!
マグナと一緒に逃げたいよ!
なのにどうしてあんなことしなくちゃいけないの!?

嫌だ!
もうこんなの嫌だよぉっ!
マグナ……まぐなぁ……!



○月△日 雨

マグナに誘ってもらったけど、アタシはついていけなかった。
レイム様がまだ早いって言うから、後ろの方でひっそりと追いかけていくことにした。

というかなんであんな悪魔なんて呼んでる訳!?
アタシというものがありながらぁっ!
あんなの……いや、力を封じられてるけどそれなりに強いかも。
あれならマグナを任してやってもいいかなぁ?



……そうだぁ。
あいつらに呪いをかけちゃおう。
マグナを護れなかったら、不幸になる呪い。

絶対死なないけど、その分長く苦痛を味わってもらうんだぁ。
アハハハ、勿論出来なかったらだけどねぇ!
アタシの得意分野じゃないけど、やれないわけじゃないしぃ。



……あれ、そういえばアタシはどうしてマグナが好きなんだっけ?





(以後、数ページに渡って破かれた形跡あり)






□月■日

マグナに会えない。
あの融機人め、もうマグナに会うなだってぇ?!

ふざけんじゃないよ!
アタシには時間がないっていうのに……あんな雑魚に邪魔されるなんてっ!
マグナがあいつのことを気に入ってなかったら八つ裂きにしてやるのにぃ!!


ああ、マグナ。
マグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナマグナ……!







……………


………


……




□月×日


まぐな、まってて。
もうすぐおわらせるから。
だからまってて。

あたしがぜんぶおわらせるから。
まぐなはなにもきにしなくていいから。
そのままずっとねむっててね?

だいじょうぶだよ。
てんしもべいがーもあくまもあたしがこわしちゃうから。
ぜんぶこわして、まぐながくるしまないようにしてあげるから。

……もう、じかんもなさそう。
まぐな、こんどあえたらいいたいことがあるんだ。
だから、もしこれをよんだら―――――






[16916] 新ジャンル・ツンヤンデレ。それと幼女祭り
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:44469469
Date: 2010/06/09 13:34
「頼んだぞ、プラティー!」
「……はぁ」

弟子に連れて行かれる親方さんを見送りながら、わたしは溜息をついた。
いやぁ……親馬鹿というか何というか。
もうちょっと年齢ってものを考えて欲しいかも。



親方さんが言うには、ラジィっていう子が行方不明になったとか。
地下迷宮に行くって言ったきり帰ってこないらしいから、多分迷子になったんだと思う。
あの中って迷いそうになるもんね。

……1度迷いそうになって、アレクに道を教えてもらったのは内緒。

とにかく、今回は人探しだからちゃんとしないと。
じんめーきゅーじょは迅速にって言ってた気がする。

とりあえず、新しい秘伝も貰ったし、それを作ってから行こう。
迅速にいかなくちゃだけど、準備だけはしっかりしないと。



……シェイプダガーっていうのが、今回の秘伝だった。
ラグズナイフよりも軽いけど、それでいて鋭く頑丈。
流石にアイアンセイバーには敵わないだろうけど。

軽く振り回してから、何を持ってくか決める。
流石に3振りも武器を持っていくわけにはいかない。
ちょっと重過ぎる。
戦闘以外ならそこら辺においておけばいいんだけど、不意打ちとかされたら困るし。

というわけで、アイアンセイバーとシェイプダガーを持っていくことにした。
長い間探す羽目になりそうだから、頑丈なものの方が便利だと思うし。



通行止めされてた道を通って、降りていく。
敵がどんどん強くなってくけど、さばききれなくなったらアレクがなんとかしてくれた。
ちょっと頼り過ぎちゃってる気もするけど、気にしない気にしない。

……嘘、ちょっと気にしてる。

だって、アレクばっかり働いてて、わたしは全然役に立ってないんだもん。
荷物を持ってるのはアレクだし、はぐれをやっつけてるのもアレク。
わたしはなんとか怪我しないように動いてるだけ。
そんなの、辛くてしょうがない。



どうすればいいんだろう。

そう考えながら先に進むと、目の前に大きな穴を見つけた。
そんなに深くないけど、危ないなぁ。
誰かが落ちたらどうするんだろう。

「……というか、落ちたらどうなるんだろう?」

アレクだったら全然平気だろうけど、わたしじゃ怪我しそう。
いや、だったらアレクに運んでもらえばいいじゃん。
そうすれば怪我もしないし。

……どうやって頼もう?



「い、行って、アレク!」

結局、無理矢理抱きついて大穴に向かって指差した。
アレクはやけに泣きたそうな顔で首を振ってたけど、暫くしたら諦めたように穴の方に近寄っていった。
そんなに地下に潜るのが嫌なのかな?

「よっとと、ありがとアレク」

ゆっくり降りて、すぐにアレクから離れる。
あんまり抱きついたままなのは、乙女としてどうかと思うわけで。
それに離れなかったら命の危険があるような気がしたし。



「……あら」



すると、背後から死の感覚と一緒に声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには誰かが立っていた。

「あ、いや、あの……」

こんなところに女の人と、剣?
というかあの人、昨日落ちてった人だ。
今日見ても、やっぱり美人で大人っぽい人……じゃなくて。

さっきの声があんまり怖かったから、少しとまどっちゃった。
だって、背中が凄く冷えた。
まるで氷水で冷やしたみたいな感じを、声だけで感じたんだ。

「その……」
「……貴女は、そう……そういうことなのね……」

声をかけても聞いてくれないし、なんか怖い。
というかこの人、わたしを知ってるの?
確かに昨日会ったけど、なんか違うような気もする。



「どうして貴女がアレクと一緒にいるのか知らないけれど……抜け駆けっていうのは、許せないわね」



―――――また、背中がぞわりってなった。
あの人はわたしを見てないはずなのに、なんでかわたしは睨まれてるように感じた。

アレクの方を見ると、顔が青くなってるような気がする。
顔そのものは変わってないけど……っていうか仮面のせいでよく見えないけど、それでも顔色が悪い。

「えっと……アレク?」

わたしが声をかけると、アレクはびくって肩を震わせる。
わたしの声に反応してるっていうよりも、それに反応してるあの女の人に反応してる感じ。
怖いのかなあ?

「それじゃあ……えっと、どちらさま?」
「……………コウレンよ」

アレクが反応してくれないから、女の人に聞くことにした。
その人はわたしを1回睨んでから、ふてくされたみたいに名前を言った。
なんか、ちょっとかわいいかも。

コウレンさんは、さっきからアレクを睨んだまま。
……わたしがアレクと喋ると怒って、離れると少し柔らかい感じになる。
試しに近寄ったり離れたりすると、怖くなったりなくなったりした。

……これは、まさか。



「コウレンさんって……………アレクのことが好きだったりするの?」



頑張って聞いてみた。

「そ、そんなことあるわけないじゃないっ!?」

するとコウレンさんは面白いくらいに顔を赤くして暴れだした。
……わたしの予想通り、コウレンさんはアレクのことが好きみたいだ。
知り合いだったことには驚いたけど、こんな風に反応されたらなんかどうでもよくなった。

暴れて武器を振り回すのが、なんだか可愛い。
年上の女の人にそういうこと言うのはなんか違う気もするけど。
それに、コウレンさんをなだめようとしてるアレクが面白過ぎる。

今も振り回す剣がアレクの羽をズバズバ斬り裂いたりしてるんだけど……大丈夫なのかな?
アレクも焦ってるけど、あんまり深刻そうじゃない。
いつもおんなじことしてたのかもしれない。

……そう考えると、アレクってすっごく苦労してたのかも。

「ええっと。わたし、ラジィって人探してるんだけど、知ってますか?」
「し、知らないわ。たとえ知っていたとしても、貴女なんかに教えるわけないでしょう!?」

とりあえず、わたしもやらなくちゃならないことがある。
一応人探しをしてるんだし、心当たりがあるか聞いてみようと思った。
だけどやっぱり聞いてくれない。
さっきのあれが駄目だったのかもしれない。

ええっと、こういう時はどうすればいいんだっけ?
確か、お母さんが言うには……いけにえを出すんだった。

「アレク置いてくんで、教えてください」
「そこの穴から声が聞こえてきたわ。恐らく誰かいるんじゃないかしら」

するとあっさり即答。
変わり身の早さにわたし驚愕です。

アレクも驚いてるみたいで、顔がすっごく濃くなってる。
逆にコウレンさんの顔は真剣そのもの。
さっきまで見てた人とおなじとは思えないや。



羽をむしられてるアレクを見ながら、わたしは部屋のはしっこにある穴に近寄ってみる。
さっき降りてきたところよりちょっと浅いかなぁ。
けど、落ちたら少し痛そう。
アレクも置いていくって言っちゃったし、どうやって降りようかな。

「これを使いなさい。縄梯子よ」
「あ、ありがとうございます!」
「別に気にしなくていいのよ、使わなくなった道具をあげただけなのだから。処分しようと思っていたところだから丁度いいわ」

ふん、って言いながらアレクの首にしがみついてるコウレンさん。
なんだか顔が赤いような気がしないでもない。
なんではしごなんて持ってるのかわからなかったけど、ここは素直に感謝しておこう。
これ以上、アレクがボロボロになるのはかわいそうだし。

「それじゃ、行ってきまーす。コウレンさん、頑張ってねぇ~」
「そ、そんなんじゃないわよっ!?」

なんとなく応援したら、しがみついてた腕がアレクの首をしめだした。
あ~あ、綺麗に決まってるや。
アレクのごめーふくを祈っておこう。



少し狭い穴を通って底まで辿り着いたわたしは、最初に周囲を確認することにした。
ベッドとたたらがある、部屋のようだった。
ベッドには変なしわがあったから、誰かがいたことだけは確かだ。

だけど、今はいないみたいだ。
ベッドを触ってみても、温かくない。
結構前にいなくなったんだと思う。



「ん……なんだろう?」

暫く調べてると、外から小さな音が聞こえてきた。
なにかとなにかがぶつかるような音。
それも、硬いもの同士がぶつかるようなそれ。

誰かが戦っているんだ。
そう思った瞬間、わたしの身体は動いていた。

もうその人が誰なのかと関係ない。
誰だろうと、わたしは助けなくちゃならないんだから。



『いいかいプラティ? 助けられる人がいるなら、必ず助けるんだ。俺たちにはそれが出来る力があるんだから』



それは、パパとの数少ない約束。
誰かと助けるのに、理由なんていらない。
正義の味方とかじゃない、わたしは助けなくちゃいけないんだ。



「ぜ……りゃあああああああっ!!」

扉を蹴破った瞬間、目の前にはすっごく大きい蜘蛛がいた。
鬼みたいな顔をした、怖い蜘蛛。
すっごく鳴き声がうるさい奴。

そんな蜘蛛と、誰かが戦ってた。
黄色と黒を基調にした、薄着の子。
その子が、右手につけたナックルだけで、蜘蛛と戦ってたんだ。

8本の足の間をかいくぐり、脇を殴りつける。
噛み付いてこようとするのをなんとか避けて顔を殴る。
お尻がいきなり開いて噛み付いてこようとするのもギリギリでよけて、殴った。

動きが速い。
攻撃と回避のタイミングが絶妙だ。
一撃で倒すんじゃなくて、何時間かけてでも確実に倒す方法。

「―――――でも、このままじゃ」

だけど、これじゃ駄目だ。
あの子は、もう肩で息をしてる。
長くはもたない。

「……助けに来たよっ!」

意を決して、わたしはその中に飛び込んだ。
あの子を襲った足を受け止めて、なんとかふんばった。

「あ、ありがとっ!」

助けたのはいいんだけど、勝てそうにないや。
両手でアイアンセイバーを握って受け止めてたんだけど、腕が痛くなってきた。
力が強過ぎるよ、この蜘蛛ぉ!

「……よし、今から逃げるよ!」
「ええっ?!」

せんりゃくてきてったいっていう奴だ。
後ろで驚いてるけど、全然関係ないんだから。
……関係ないったら関係ないんだからっ!






「……どうしよう。あいつを倒せないと先に進めないよ」

わたしたちはさっき降りてきた部屋に帰ってきていた。
ドアはちゃんと閉めたから、しばらくはあの蜘蛛も入ってこれないはず。
時間を稼いでる間に、作戦を考えておこうと思ったんだ。

「いや、でもあそこから帰れるから、あれは放っておいてもいいんじゃない?」
「えっそうなの?!」

わたしが梯子を指差しながらそう言うと、その子は驚いたみたいだった。
今までの努力は一体……とか言って落ち込んでる。
うん、そうなるよね、やっぱり。

「ええと、わたしはプラティっていうんだけど……君は、ラジィだよね?」
「うん、そうだよ」

少し不安だったけど、目的も達成したし、さっさと帰ろう。
別にあの蜘蛛を放っておいても関係ないしね。

「さあ、行こう。親か……ブロンさんが心配してるよ」
「そうだね……うん、行こう」

少しだけ不満そうな顔してたけど、ラジィは先に梯子を登っていく。
やっぱり親方さんの名前を出したからかな?

ゆっくり登っていくラジィを見ながら、わたしはドアの方を警戒することにした。
あの蜘蛛が入ってこないとも限らないし、今のラジィは無防備。
いざとなったらわたしが守らなくちゃ。



「―――――!」

と思った瞬間、ドアが思いっきり吹き飛んだ。

「き、来たっ!?」

思ったよりも役に立たなかったドアが砕けたのを見て、わたしはアイアンセイバーを構える。
流石にもう逃げ場がない。
戦わなくちゃいけない状況だ。

しかもラジィの援護は期待出来ない。
あんな中途半端な場所で動けないなら、むしろ完全に登ってくれた方がいい。

「ラジィ! わたしに構わず先に行って!」
「っ?!」

決めた。
ラジィを逃がして、わたしも逃げる。

アレクが上にいるから、気付いてくれれば助けに来てくれるはず。
もう1人やけに強そうな人もいたし、なんとかなると思う。

……助けに来てくれる前に、わたしが負けなければだけど。

「な、なんでこんなことまでしてくれるの!? ボクたち、知り合ってまだ全然喋ってもいないのに……!」

上の方から叫んできてるけど、そんなの答える余裕がない。
というか、油断してたら負けるし。



「―――――誰かを助けるのに、理由なんていらないでしょ!?」



だから、わたしは咄嗟に頭に浮かんだその台詞を言ったんだ。
パパがよく言ってたっていうその台詞。
ただ、言ってみたかっただけなのかもしれない。

「……っわかった! すぐ呼んで来るから待っててねアネキ!」

いきなりラジィはそんな風に叫んで登っていった。
でも、アネキ……?
なんでそう呼ばれてるんだろうわたし?



……でも、少し無謀だったかも。
これだけ近いと逃げ切れそうにないし、真正面から受けるには、ちょっと相手が大き過ぎる。
なんとかラジィが応援を呼んできてくれるまで耐え切らないといけないんだけど、ちょっときつい。

というか、アレクはどこに行ったの?
まさかあの女の人とどこかに行っちゃったりとか……?
それはちょっと許せない。
後でなにやってたか教えてもらうんだから。

……いや、今この状況がどうにかなるかわからないんだけど。



「うわ、来た!」

蜘蛛がこっちに向かって突進してきた。
あんまり速くないけど、ドシンドシンしてて怖い。
まだラジィは登り切ってないから、この場を動けないから困る。

「……えぇい、こうなったらやけだ! ばっちこいやあっ!!」

避けらんないなら、真正面から受け止めてやる!
わたしはシェイプダガーを左手に、アイアンセイバーを右手に持ってぶつかってくる蜘蛛の突進を受け止めた。

う、ぐお、重いっ!?
受け止めた瞬間、凄い音したし!
腕が、腕がすっごいことになる!?

「……っ!」

だけど、このまま突っ立ってるのも駄目だ。
すぐに受け止めてない足がわたしに襲い掛かってくる。
わたしは足の下に滑り込むようにかわして、そのまま体当たり。
なんとか梯子から離そうとしてみる。
無駄っぽいけど。

「ああもう、食らえっ!」

結局どうにもならなかったから、わたしはシェイプダガーをぶっ刺した。
刃の根元の辺りまで刺さったから、結構効いたと思う。
というか鳴き声うるさっ?!

「げ、しかも抜けないし……!」

シェイプダガーを抜こうとしたら、完全に刺さったみたいで動かない。
というか、これって逆に固定された?
全力で逃げないと……!

「だ……っあああああああ!」

泣く泣くシェイプダガーを手放して、その場を離れる。
うう、腹に刺さったナイフが憎らしい。
いや、ホントに憎らしいのはそっちじゃなくてあの蜘蛛なんだけど。

だけど……ホントにどうしよう?
もうラジィは見えなくなったけど、梯子を登るにも蜘蛛が近過ぎるし、逃げる前に落とされちゃう。

これが絶体絶命ってやつか。
アレクッ!
さっきは置いてってゴメンナサイ!!
だから助けてっ!



「―――――だりゃあああっ!!」



わたしの願いが届いたのか、真上から誰かが叫びながら飛び降りて蜘蛛にぶつかっていった。
……アレクじゃないけど。

というか、サナレ?!
ど、どうしてサナレがこんなところにいるの!?

「プラティなにやってんのよ! あんまり情けないから出て来ちゃったじゃないの!」
「ええっ!?」

助けに来てくれたはずなのに、なんで怒られてるんだろう。
いや、嬉しいんだけど、なんだか複雑。
こういう時くらい普通に心配してくれてもいいんじゃない?

「とにかく! さっさと片付けるわよプラティ!」

蜘蛛の上からわたしにそう命令してくるサナレ。
豪快すぎるってサナレ。

「わ、わかったわよ! そっちこそ怪我しないでよ!」

とにかくここは戦わなくちゃ。
あの蜘蛛は強そうだけど、今はなんだか大丈夫な気がしてきた。

だって今は1人じゃない。
サナレがいるんだから。










……………アレクには、後でちゃんと話を聞かせてもらおっと。



















































―――――何だ、今日は俺の命日なのか。

ラジィが迷子になって、プラティが探しに行くことになったらコウレンに会うんだった。
というか、電波ってコウレンのことだったのか。
目の前で考えてたらもずのはえにえ(笑)じゃ済まなかったかもしれない。
多分17分割くらいにはなってたんじゃないだろうか。

プラティが新たな武器、シェイプダガーを得てラジィを探している。
地下迷宮に降りて迷子か……凄く懐かしい。
鍛冶師が誰でも通る道なので、実はシンテツやコウレンもやったことがあるのだ。
ブロンはしょっちゅうだった気もする。

あのときのコウレンは可愛かった……のか?
いや、泣いてはいたんだけど……そこから暫くの記憶がないのだ。
こんなこと、頭ごとぶっ飛ばされた時くらいなんだが……。
気にしたら背中が震えたからやめておこう。



コウレンの不意打ちを警戒しつつ、俺はプラティを守りながら迷宮を進む。
途中の雑魚は適当に払いながら、向かってこない奴らは無視しつつ。
この辺は俺のことを知ってる奴もいるから、それほどエンカウントはしないようだ。
逆に、奥の方になると躍起になって襲い掛かってくる馬鹿が多くて困るんだが。

暫く経つと、目の前に大きな穴が開いていた。
どうやらここがラジィの落ちた穴のようである。

……結構大きいんだが、どうやって落ちたんだ?
地面が脆くても、こういう場合って普通は人の幅くらいの大きさくらいしか開かないと思うんだが……。

「……というか、落ちたらどうなるんだろう?」

俺の呟きが届いたのか、小さくプラティが言う。
まあ、普通は大怪我だよなぁ。
2階から落ちたら普通に骨折、悪ければ死ぬ。
そう考えると、体重があまりないラジィが無事だったのは判るような判らないような。

……まあ、鍛えてたんだろう。
前の俺なら鍛えてても右足複雑骨折してる自信があるが。



「い、行って、アレク!」

そう言って、俺に抱きついてきたプラティは穴を指差す。

……どうしてこうなったっ!

このまま降りたら、コウレンに殺されてしまう。
嫌だ、俺は死にたくない!
というか2度も死にたくない!
臨死体験は10回から後は覚えてないけどっ!

だがしかし、プラティは俺のことを無視するようである。
プラティが怪我するのは駄目だが、俺が死ぬのもどうかと思う。
いやまあ、こういうことを考えてロープを持ってきてなかった俺の落ち度なんだが。



心の中で黙祷をして、俺は意を決して飛び降りた。
ああ、友達に無理矢理やらされたバンジージャンプを思い出す。
あの頃と違うのは、俺が空を飛べることと、空を飛べるはずなのに地面に足がついたら死ぬのが確定すること。
なんて理不尽。

「よっとと、ありがとアレク」

プラティは顔を赤くしたままそそくさと離れる。
これから起こることを把握してるとしか思えないその動きに、俺は戦慄を覚えた。
というか判ってたならやるなよ。



「……あら」



そして、背後から聞き覚えのある声が。
しかも黒いオーラが感じられそうなほど重い奴。

振り返りたくない。
というか、認めたくない。

……出来れば修行の地で会ったあの烏天狗に復讐したかったんだが。
それはどうやら叶わぬ夢らしい。

「あ、いや、あの……」

プラティが俺から離れていく。
声が聞こえる方向と、ちょうど反対へと引いていく。
完全に俺は盾らしい。

「その……」
「……貴女は、そう……そういうことなのね……」

何とかコミュニケーションをとろうとしたのか、プラティが声を出すが聞き入れないあいつ。
うん、怖い。
というか俺に何の恨みがあるというのか。



……………だからあの時漏らしたのは俺が作ったジュースのせいじゃないって言っただろ!?



「どうして貴女がアレクと一緒にいるのか知らないけれど……抜け駆けっていうのは、許せないわね」

俺のことを無視したまま、あいつはエスカレートしていく。
というか、抜け駆けって何だ。
あれか、シンテツの娘を自分好みの鍛冶師に育てたかったとかか?

妹が懐かないからって他の子供に仕込もうとするのはやめろって何度も言ったのに、まだ直ってないのか。
しまいにはサナレに怒られて、ついでにリンドウに説教されたっていうのに。
いつかお前サナレに刺されるぞ。

「えっと……アレク?」

いきなりプラティが声をかけてきた。
一瞬お迎えの声かと思ってびっくりしてしまった。

いや、死神って女らしいぞ?
何度か酒を飲んだから知ってる。
ついでに閻魔に説教されたのも覚えてるから、多分本当。

……いや、異世界の話なんだけど。

「それじゃあ……えっと、どちらさま?」
「……………コウレンよ」

プラティがいきなりコウレンに話しかけた。
おいおい、死ぬ気かプラティ。
あんなコウレンに話しかけるなんて、ルベーテですらやらない暴挙だぞ!?
ついうっかりドリラゴについて教えたら真似する馬鹿みたいな奴だけど、それでも一応強いんだぞ!?

つまり、プラティがそんなこと聞くなんて自殺行為なのだ。
というか俺が殺されるんだが。



……コウレンが睨んでるような気がする。
まだ顔を合わせられないんだが、もう大体顔が判る。
多分、殺す顔だと思う。
俺には判る。

というかさっきから俺の名前連呼してんだよ、あいつ。
怖い、超怖い。
俺が作ったプリン食い損ねた時くらい怖い。



「コウレンさんって……………アレクのことが好きだったりするの?」



そんな中、プラティが爆弾を放り込んだ。
おい、そんなこと聞くな。
多分そんなことはないだろうし、もしそうだったとしても照れ隠しで殺されるだろうが!

「そ、そんなことあるわけないじゃないっ!?」

その証拠に、コウレンは暴れだした。
流石にメイン武器じゃなかったらしく、属性なしだったのは幸いだった。
とはいえ、痛いのは変わらんのだが。

ザックンザックン背中が斬られてるのが判る。
これくらいなら死なないし、大丈夫。
痛いからやめて欲しいんだが、言えないから困る。

ああ……懐かしいけど、こんな風に感じたくなかった感覚だ。

「ええっと。わたし、ラジィって人探してるんだけど、知ってますか?」
「し、知らないわ。たとえ知っていたとしても、貴女なんかに教えるわけないでしょう!?」

プラティは俺をスルーしたまま話を進めようとしている。
いや、流石にそれはないんじゃないか?
そんなとこまでシンテツに似るんじゃない!
アマリエに殺されてしまうっ!

「アレク置いてくんで、教えてください」
「そこの穴から声が聞こえてきたわ。恐らく誰かいるんじゃないかしら」

俺のことをスルーしたわけじゃなかったらしいが、それも違うっ!
というか俺の状況が悪化した。
お前……シンテツに頼まれてなかったら張り倒してたぞ!

コウレンはコウレンで、何でこうもあっさり話してしまうんだか。
まさかストレス解消出来ないから、俺で解消しようっていうのか。
俺はそんな子に育てた覚えはありませんよお父さんは!

……ツッコミがないギャグが、こんなに悲しいなんて思わなかったなぁ。



斬るのに飽きたのか、俺の羽をブチブチ毟り始めたコウレン。
だから痛いって。
すぐに生えるとはいえ、そんなことされると飛べなくなるんだが。

「これを使いなさい。縄梯子よ」
「あ、ありがとうございます!」
「別に気にしなくていいのよ、使わなくなった道具をあげただけなのだから。処分しようと思っていたところだから丁度いいわ」

ふん、とか言いながら首を振るコウレンだが、その腕は俺の頚動脈を締め上げていた。
そのせいで、ツンデレ乙ってツッコミを脳内で入れることすらままならない。
素で気絶しそうだからだ。

というかプラティ、何とかしろ。
このままだと再会出来なくなるぞ俺たち。
そうなったら一番困るのはお前なのに。
主に食事的な意味で。



「それじゃ、行ってきまーす。コウレンさん、頑張ってねぇ~」
「そ、そんなんじゃないわよっ!?」



俺のツッコミに気付いたのか、プラティは最後に爆弾を叩き込んでからいなくなった。
うん、締め付けが強くなった。
首の骨が折れたんじゃあるまいか。



「……はぁ」

プラティが見えなくなってから暫く経つと、コウレンは溜息をつきながら俺を離した。
むう、胸が押し付けられていたはずなのにその感覚が感じられなかった。
もう少しコウレンには力加減を何とかして欲しいところである。
俺じゃなかったら死んでるぞ。

「ぅ………」

そんな強烈ネックホールドをかましていたコウレンは、俺を睨みながら小さく唸っている。
まるで拗ねた子供だ。
あの頃からまるで変わっていない。



―――――3年前、シンテツを止めると約束したのに、俺は失敗した。
それだけではなく、俺はあいつを守る為に致命傷を負った。
そのせいで、俺は鳥仙人の所まで強制送還されてしまったのだ。

それはもう、泣かれた。
また会えると伝えたかったけれど、その手段であったシンテツがいなくなった俺にはどうすることも出来なかった。



『ウソツキアレクッ!!』



そして消える直前、そんな罵倒が俺にぶつけられたのだった。









……さて、そんなわけで俺がすべき行動はたった1つ。
足をたたんで地面に座り込み、更に顔面を地面にこすり付ける。
所謂土下座であった。

「な、何してるのよアレク……」

コウレンも俺の行動に呆れ気味だ。
どうやら毒気は抜けたようである。
計画通り……!

遊んでいるのがばれたようで軽く刺されたが、どうやら許してくれたようである。
その顔には若干笑顔が見えていた。
それが苦笑だというのは少々悲しいものがあるが。

「もう、いいわ。貴方に恨みがあるわけじゃないのよ、わたしは」

だから顔を上げなさい、とコウレンは俺の頭に足を乗せる。
いや、だからどかせよ。
あれか、下から眺めてたときに少し下着が見えたからこんな風に踏まれてるのか。
それは事故ってことにしてくれ。
よくあることだったじゃないか。

「わたしはね、貴方が約束を破って帰ってきてくれなかったから怒ってたの。別にシンテツのことを怒ってたわけじゃないのよ」

何とか頭を上げようとしてると、コウレンが爆弾発言してた。
いや、それは駄目だろ。
流石に鍛聖が死んだのをどうでもいいとか言うのはどうかと思うぞ、俺。

コウレンも昔はこうじゃなかったんだがなぁ。
いつからこう、爆弾みたいな子になっちゃったんだろう。



……まさか、俺が何かしたのか?
心当たりがあり過ぎて困るくらいなんだが、どれだ?

やりたがってたからってノーロープバンジーをやってあげたせいか?
俺が料理を教えてあげたせいか?
それとも18歳くらいまで肩車してあげてたせいか?
一体どれだろう。



「……それに、今わたしが聞きたいのはそこじゃないの。昨日会ってた女についてなのよ、わたしが聞きたいのは」

俺が悩んでる間に、コウレンは質問を続ける。
というか、あいつとコウレン顔を合わせてたはずなんだが、覚えてないのだろうか。
しかもマグナとの仲を応援するって躍起になってたはずなのに。

まさか、暗かったから気付かなかったとか?
だったらその誤解を解いてやらなければ。

俺は踏みつけられてた頭を横にずらして足をかわし、起き上がる。
そして懐から写真を取り出す。
マグナとビーニャの2ショット写真だ。
奥の方にネスが映っているのは気にしない方向で。

「ん……ああ! ビーニャ!? まだあんななの!?」

そんな写真をビーニャの方を指差しながら差し出すと、案の定驚いた様子で叫ぶ。
というか、あんなのだとか。
流石のあいつも怒るぞ、聞いてたら。

「ああなんだ、だったら問題ないわ。悪かったわねアレク」

どうやらコウレンは、あいつがビーニャだとは気付かなかったからあんな行動に出たらしい。
まあ、友達に知らない女が近付いてたらそうなるよなぁ。
まあ、知らないっていうより思い至らなかっただけなんだろうが。



……いや、何か誤魔化された気もするが騙されんぞ。
そもそもどうして昨日ビーニャと会ってたことを知ってるんだこいつは?

まさか、リンドウがバラしたのか。
そういえば口封じなんてしてなかったから、俺の失態といえば失態なのだが。
とりあえず、あいつの入れ歯を総銅歯に変えてやろう。

「……ぐ、偶然だから。見かけたからつけただけだから」

じっと見つめると、何やら焦った様子で横を向くコウレン。
多分嘘だ。
どうして嘘ついてるのかは判らんが、嘘をついてるのは判る。
別にどうでもいいが。

「いいでしょ、もう! 今はもっと話しましょう?」

コウレンは無理矢理話を終わらせて、俺と話をしようとしている。
まあ、俺から言うこともないし、それでいいか。
話したかったのは、別にコウレンだけじゃないし。



……いやまあ、喋るのはコウレンだけなんだがな。



「―――――だ、誰かアネキを助けてッ!」



だが、どうやらそれは次の機会になりそうだ。









「……………何かしら貴女。死にたいの?」

コウレンは無表情のまま殺害宣言する。
いや、自重しろよ。
そういう意味合いを込めて頭を撫でると、すぐに大人しくなった。
判りやすいな、こいつ。

「下でアネキが、プラティが蜘蛛に襲われて、ボクは助けられて……!?」

どうやら混乱してるようで、台詞の内容が微妙に判り辛い。
だが、とりあえずプラティが1人で戦おうとしてるのは判る。
流石にそれは荷が重いだろう。

「大丈夫よ。ヤシャグモはそれほど強敵ではないわ」

そう言うコウレンだが、正直それはどうかと思う。
あれって確か、戦い方を知らないとかなり厄介なタイプだったはずなんだが。
プラティにはちょっと無茶かもしれない。

「ちょ、ちょっと。プラティが何だって言うのよ!」
「え、誰!?」
「サナレよ! とにかく教えなさい!」

気付いたらサナレが乱入してた。
いや、全然気付かなかった。
いつの間にこんな場所に。

「あ、アレク! ちょっとこっちに……」
「っ!?」

油断してたら、首を決められたまま持ち上げられた。
というか、天井に吊るされてるんだが。
上を見ると鎖鎌で天井をぶっ刺してるコウレンが、スカートを抑えながらぶら下がってる。
福眼なんだが、意識が飛びそう。

「今助けに行くわよプラティっ! あんたも後からでいいから来なさいよ!」
「うん!」

下の方では、サナレが熱血してた。
ラジィもどうやら感化されてるようで、目を輝かせてるような気もする。
いや、もう意識が朦朧としててよく判らんのだが。

というかコウレン、お前まだサナレと仲直りしてなかったのか。
やけに動揺しやがって、首に鎖を巻きつけるなんて初めてだぞ。
嫌な初めてだなおい。

サナレが床の切れ目に飛び込んでいって、ラジィがそれについていく。
いや、駄目っぽいなあの子は。
思いっきりぶっ倒れた。
疲れてたんだろう。

「……………サナレは、行ったわね」

コウレンはそう言って溜息をついた。
いや、そこまで逃げなくてもいいだろう。



……と、言いたいのだが、俺はもう無理。
完全に意識が飛ぶ。
というかもう消える。



コウレンが焦ってる顔を見ながら、俺は空を飛べばよかったと思い至ったのだった。








……………久し振りに、高いところが怖いと思った。












-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-





かなり遅れましたが、私は元気です。
バイトが年上しかいないという、ある意味異次元での仕事でした。

とりあえず、コウレンとの絡みはこんな感じです。
馬鹿とツンデレは空回りするものなので。

とりあえず、ラスボスと勇者は確定してます。
最強を相手取るバードマンを楽しみにしていて下さい。



とりあえず、本編以外に見たいところは感想で書いてくれると気まぐれで書くかもしれません。
バイトも本格的に始まって、時間が取れなくなりましたが頑張ります。





[16916] 斬った張ったで締め上げた。そしてゆーしゃは決闘者
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:315732f9
Date: 2010/12/03 23:38
「は……ああああっ!!」
「でりゃあああああっ!!」

わたしはサナレと一緒に大きな蜘蛛と戦っている。
わたしは右から、サナレは左から剣を振るって、殴りつけるように足に攻撃している。

理由は簡単、あの蜘蛛の攻撃は基本的に真正面だけだから。
お尻で噛み付く攻撃と、口から変なネバネバした何かを吐き出す攻撃。
さっき頭から被ったせいで体中ベタベタだけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
さっきからサナレがエロッ……とか言ってるけど気にしないんだからっ!

「じゃああっ!」
「そぉれっ!」

ともかく、今はこの状況をなんとかしなくちゃいけない。
足さえ何とかすれば、後はなんとか出来るはず。
今までの動きから、既にそういうのはわかってる。

1発、2発、3発。
同じ場所を何度も叩いて、ダメージを蓄積させる。
特に間接は狙い目だって、パパが言ってた。

刃筋は立ててるけど、武器のカテゴリー的にはこれで合ってる。
剣は刀と違って、切れ味よりも頑丈さがうり。
むしろ剣は鎧の上から殴ってもダメージを与えられるように硬く作ってあるんだって教えてもらった。

…………鍛聖が作る武器は規格外過ぎて参考にならないとも聞いたけど。

とにかく攻撃。
殴って動きを止めて、追い返す。

アレクはまだこない。
きっとコウレンさんが離さないんだと思う。
ん、放さないのかな。
とりあえずお幸せに。



「こなくそぉっ! プラティちょっと何してんのっ!?」

考えてる間にも蜘蛛は暴れている。
サナレがちょっと押されてるみたいだ。
ごめん、考え事してた。
だけど口には出さない。
だって絶対怒られるし。

「うわ、うわっ! プラティちょっとぉ!」
「ん?」
「危ないってのっ!」

なんか、わたしのアイアンセイバーがサナレに当たりそうになってたみたい。
うん、ごめん。
また考え事してた。



しっかりしてよ、と言われたので頑張ることにした。
とにかく痛くすれば逃げていくと思うから、それっぽい攻撃をしなくちゃ。

とはいえ、蜘蛛の身体は頑丈。
虫は身体の外側が硬いって、お母さんが言ってた。
だから倒すには内側から……とか。

だけど、あんな口の中に飛び込む勇気はない。
かといって、お尻から入るのも、どうかと思う。
流石に無理かも。

……と思ったけど、刺さりっぱなしのナイフのことを思い出した。
もしかしたら、あれなら。

「あ、ちょっと!」

サナレが声をかけてくるけど、無視。
さっきから無視してるみたいになってるけどごめん、後で謝るから!

アイアンセイバーを突き出した状態で体当たり。
狙いは勿論シェイプダガー。
ハンマーで殴るように、全力で叩きつける!



……そう、アイアンセイバーは頑丈で、だけど切り裂くようには出来てない。
だから、こんな風に勢いよくぶつけても、切れることはない。
そしてナイフは思いっきり刺し込まれて……蜘蛛が、動かなくなった。






























「……大丈夫、プラティ?」
「うん大丈夫、大丈夫だから……」

動かなくなった蜘蛛を見たら、勝手に身体が震えてしまった。
その場で動けなくなった。

原因はわかっている。
それはもう、当然だ。
わたしが、あの蜘蛛を殺したから。

そう、あの蜘蛛は死んだ。
わたしが殺してしまった。

召喚獣なのに死んでしまった、というのは、やっぱりおかしいことだ。
それに気付いたのはついさっきのことで、気付いてからはどうして気付かなかったのかと自分のことを殴りたくなった。

だって、召喚獣でも生き物、生きているんだ。
生きている以上、死ぬこともある。
それに気付かなかったのは、きっとわたしが馬鹿だったからなんだと思う。

そしてきっと、アレクはこのことを知っている。
知っていて誤魔化していたんだと思う。
どうしてこんなことをしたのかはわからないけど、何か考えがあったのかな。



「……うん、ごめんねサナレ。考え事してたんだ」

何とか調子も戻ってきたわたしは、前を向いてサナレの顔を見た。
ちょっと心配かけちゃったかな、と思ったけど、サナレの顔は笑っているように見えた。

「……あんたも、まだ普通の女の子だったってわけね」
「わたしのことを何だと思ってたの?」
「鍛聖最有力候補」

それはまたひどい。
なんだかサナレの中じゃ、わたしのイメージがかなり上向き補正されてるみたいだ。
いやわかってたんだけど、ここまでとは思ってなかったっていうか。
結局、わかってなかったってことなのかもしれない。

とにかく、今はここを出ることにしよう。
ちょっと時間がかかっちゃったし、アレクがコウレンさんと言うに言えないような状態になってるかもだし。
母さんが、男女が2人きりになったらやることは1つ、とか言ってたけど、結局何なのかは教えてくれなかった。
だから何をやるのかとかは知らないけど、知っちゃいけないんだと思う。

「……まあいいや、とりあえず登ろう?」

わからないことは後回し。
それよりも、今はここを脱出しよう。
ラジィはもういないから、わたしたちがここにいる必要もないし。



「アネキッ! 大丈夫!?」
「…………うん、大丈夫だったけど、今大変になった」

登りきったわたしを襲ったのは、ラジィの突進だった。
首に致命的なダメージがっ。
せめて穴から出てからにして欲しかった。

「ぷっ、熱烈な歓迎ね」
「ちょっと、これはマズイって! 首が折れるっ!」

何だか安心したみたいで、全力でわたしにしがみついてくる。
ただ、女の子とは思えないくらい強い力のせいで、息が出来ない。
いや、わたしとそんなに力はかわらないんだろうけど、力の使い方が上手いっていうか。
多分、普通に戦ったらわたしが負けるんじゃないかな。

腕の筋肉は、わたしみたいに振る力よりも、どちらかというと打ち出す方に向いているように見える。
足はもう、固いし、絶対速い。
あと、首を絞めるのも得意そうだ。



うん、それよりも……ちょっと意識が遠のいてきたかなぁ…………
















「……ああ、忘れてた。プラティこれ」

パパのサムズアップから戻ってきたわたしに、サナレが手紙を渡してきた。
どう見ても、対戦相手を通知する手紙だった。

「なんだか知らないけど、あんたがいないからあたしが受け取ることになっちゃったのよ。それで探しにきてみればあんなことになってるし、あんたってなにかに呪われてるの?」

何だか失礼なこと言われた気がしたけど、そういうのはスルー。
ツッコミ入れたら真っ赤になるだろうし、やめた方が話も進むと思う。

「……とりあえず、わたしと当たるまでに負けるんじゃないわよ。……別に、あんたが負けるとかそういうこと思ってるわけじゃないんだからねっ!!」

……と思ったけど、そんなことしなくてもサナレは勝手に赤くなった。
なんというか、面倒臭い。
いや、かわいいんだけどさ。

「それじゃあ、わたしは先に帰るわ。ちゃんと帰ってきなさいよ!」
「ああっ! ちょっと待って!? まだアネキにお礼言ってないのにぃー!!」

それで、その赤い顔のままサナレは走っていってしまった。
それも、ラジィを引きずったまま。
壁にぶつかってたラジィのことは心配だけど、大丈夫かなぁ。
なんでか知らないけど人の形に開いた穴を通るサナレを見送って、わたしはその手紙の中身を開くことにした。

……どうやらこれは、対戦通知みたいだ。
ところどころ焼けてるのは、サナレが何かしたせいなのかも。
たとえどんな相手だろうと負けるつもりはない。

そして、この手紙に書かれた名前は―――――





























「―――――はぁ」

それから暫く。
わたしは自分の部屋で寝転がっていた。
何かやろうにも、何もする気が起きなかったから。

明日の試合の相手が、ラジィ。
それはもう、いつか戦うことはわかっていたけど、まさか明日だなんて思わなかった。

なんかこう、サナレ相手だったら全力でぶつかっていくのも悪くないと思えるんだけど、ラジィ相手だとそう思えない。
わたしよりも小さいからかな?
そんな感じだ。

しかも、相談しようにもアレクは留守。
ブロンさんにも相談しづらいし、どうすればいいんだろう。



「……ん?」

悩んでいると、ドアがノックされた。
こんな時間に誰だろう。
考えてもわからないや。

「どうぞー」

まあ、誰でもいいか。
こんなところまで来るのはサナレか、ブロンさんくらい。
ブロンさんはノックなんてしないから、多分サナレかな。

「おうプラティ」

と思っていたら、まさかのブロンさん。
……あれ、いつもならデリカシーとか無関係の飛び込みしてもおかしくないのに。

「もう腰は大丈夫ですか?」
「まだ少し痛むが、大丈夫だ……」

まさか腰から頭に病気が移ったのか、と思ったけど、それも違うみたい。
というか、さすがに今のは酷いかも。
ちょっと反省。

「それより、ラジィのことは本当にご苦労だったな。ありがとうよ」

事情は聞いたと言うブロンさんの目には、涙が。
よっぽど心配だったんだ。

「それで……次の相手は決まったのか?」

わたしは、正直に言うことにした。
いつまでも隠しておけるようなことでもないし、このまま黙っていても意味がない。
それに、どちらにしてもブロンさんが応援するのは、ラジィに決まってるし。

「……そりゃ……だがなぁ……」

ラジィの名前を出すと、ブロンさんは困ったような顔になった。
まあ、わかるけど。
そりゃあ、弟子と親戚の子供が戦うことになったら、困る。
絶対どっちかが負けることになるんだし、気まずくなるに決まってる。

「……ええいプラティ、必ず勝て! オレっては同じコトをラジィにも言うが、戦うなら絶対に勝つんだ!」
「あ……はい!」

それでも、ブロンさんは応援してくれた。
どこか変だったけど、そこがブロンさんらしいというかなんというか。


すぐに出て行っちゃったけど、うん、なんか元気が出た。
ありがとうって言うのはなんか恥ずかしいけど、いつかちゃんと言おう。
とりあえず、この試合が終わった後で。








……というか、アレクは一体どこに行ったの?




















































……俺は、見てはいけないところを見ているような気がする。



「貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。
 貴女は誰も見ていない。今駆けつけてきたサナレに助けを求めて、気絶した。」
「ハイ、ぼくハダレモミテマセン。さなれニタスケヲモトメテキゼツシマシタ」



目の前で、幼女に洗脳を施そうとしているコウレン。
その目は激しく狼狽していて、目を回しているようにも見えた。
というか回されてるのはラジィの方か。
どこで習ったその洗脳術。

多分サナレと会いたくないだけなんだろうが……素直じゃないね、どうも。
ビーニャやブロンくらい素直になればもっと楽しいと思うんだが。
それにプラティの洗脳をしてないから失敗確定だし。



「……さて」

コウレンがふざけてる間に、俺もやらなくちゃならんことがある。
本人は至って真面目なんだろうが、俺からすれば可哀想なくらい馬鹿やってるようにしか見えない。

右手で抜け落ちた羽を握り締め、それっぽく投げる。
綺麗に直進したそれは、見事にコウレンの後ろで控えていた地雷蜘蛛に刺さった。

そう、地雷蜘蛛である。
どうしてか判らんが、こいつもきっとバイトロンと同系統だろう。
喋らなければこのまま逃がしてやろう。



「……ん、おお。また会うたなバードマン。今回は地雷蜘蛛やねん」



……と思ったが、やっぱり潰そう。
駄目だこいつ、早く何とかしないと……。

額に羽が刺さったまま愉快そうに笑うそいつに少しイライラする。
というか、バイトロンと中身が同じなのか、こいつ。
さっさと亡き者にしなければ……。

「さあ、わいと一緒に世界をめざそうやないか!」

そう、こんなことになるのだ。
前足らしきそれを広げてみせてるのが、何だか気持ち悪い。
そのせいで、さっきまでぐるぐるしてたコウレンの顔が、劇画タッチに変わってしまった。
凄く怖い。

「ふ……ふふっ………ぶっ殺す

あの台詞の中のどこに怒る要素があったのか判らんが、何故か殺意にまみれた視線をバイトロンもとい地雷蜘蛛に注いでいた。
いつの間にかラジィは恐怖で気絶してるし、何やら邪悪っぽい剣も持ってる。

しかし、コウレンの持つ剣を見た俺は、戦慄せざるをえなかった。
あれは……煉獄紅蓮……!
あまりにも強力でリンドウですら恐れたという、別名天使殺し。
豊穣の天使アルミネを殺したのはこれではないかとすら言われてたらしい。
流石に嘘だろうが。

「ぎゃああああああっっ!? 痛い、痛いでぇぇっ?!」
「黙りなさい淫獣。貴方なんかにアレクを渡すものですか……!」

俺の時とはまるで違う、確実に殺す気で振るわれる剣。
それがザックンザックン地雷蜘蛛の身体を分割していく。
うわぁ……返り血が凄まじい……。

斬って刈って刺して裂いて千切って潰して、ありとあらゆる攻撃を繰り出したコウレン。
とどめは目にも留まらない程速い連続攻撃だった。
あんなの食らったら即死なんだが。
むしろ俺は使われなかった分、あれだったのかもしれない。



「……ここでわいが倒れても、第2第3のわいが現れ……る………!」

そして、霧散していく地雷蜘蛛。
しかも何やら意味深な台詞を残して消えていった。
嫌な予感しかしない。

「はん……2度と出てくるな虫め……!」

そしてつばを吐き捨てるコウレン。
凶悪過ぎるんだが、こんな子だったっけ?
いつも超究武神覇斬の練習してるような子だったはずなのに。

しかも練習相手は俺。
綺麗に決まった時はほぼ致命傷だった。
蘇生されるのが普通になってたのはいい思い出。



というか、意気込んだ俺の気持ちはどこに向ければいいというのか。
全部コウレンがやってしまったし、完全に不完全燃焼だ。

……まあ、コウレンも怪我してないし、問題ないか。

もうそろそろプラティも帰ってくるだろうし、俺はここで待機。
コウレンは慌ててドアに直撃してから、そのまま壁をぶち破って外に出ていった。
そんなにサナレに会いたくないのか……というかやはり鍛聖は人間じゃない。










どうやら今回の相手は、今日助けた相手のラジィのようだ。
友達になったというのに、その友達と戦わなければならない。
凄く悲しいというか、辛いというか。
まあ、よくあるといえばよくある話なのだが。

さて、そうなると俺は……どうすればいいんだろうか。
手を出すと駄目な気もするし、かと言って手を貸さないのもどうかというジレンマ。
テュラムもこんな気持ちだったんだろうか。

あのヤンデレウレクサめ、「あんたを殺して俺も死ぬぅぅぅぅぅっ!」とかどこのヒロインだ。
男なのに。
男……だよなあ……多分……。
裸を見たことないから、いまいち確信が持てないが。

何でダボダボした服しか着なかったんだあいつ……。
原作じゃむしろ薄着だったのに、俺の前だとやけに着込んでいたし。
ええい、絶対と言い切れないのが怖いぞ。



とにかく、プラティに任せよう。
助けて欲しいみたいなら助けよう。
そうじゃないなら放っておこう。
他人任せとか言うな自覚してるから。









「―――――でもねぇ、アタシはこんなところで暇してる護衛獣もどうかと思うわけなんだけどぉ?」
「……なんだ、いたのかビーニャ」
「いちゃ悪いのかしらぁ」
「そうでもないが」

ケタケタ笑うビーニャを横に放置しながら、俺はプラティが準備できるのを待つことにした。
色々と不満も溜まっていたのか、ビーニャも話すのをやめないし。
同僚に言うと告げ口されるだろうし、捌け口がないのも原因か。

「まったくさぁ、マグナの試験がまた延期なんだってさぁ! アタシが準備した装置とか何もかも無駄になっちゃったじゃん! あの……なんだっけ、あのデブめ……ブッ殺す。あーもうっ、ちょっと八つ当たりしてもいい!?」
「……やめてくれ」

いきなり顔が悪魔っぽくなったかと思いきや、俺を殺そうとしてきたので止めておく。
時々こうやって狂う感じを出してくるので困る。
やはり、どこまでいっても悪魔は悪魔ってことなんだろう。



知り合いには時々言われるが、俺はそれなりに忘れっぽいらしい。
普通なら忘れないようなことをあっさり忘れるから困るとか。
特にコウレンの話だけは忘れるなよ、とシンテツに言われたが……あれはどういう意図だったのか。
とりあえず日記をつけるようにしているが、それでも全部覚えてるわけじゃないだろう。

つまり、俺はついついこいつのことを悪魔だと忘れるのだ。
いや、別に脳の大きさは人間と変わらない。
鳥頭じゃないから俺。

それでも、やっぱり俺から見ると、こいつは恋する乙女にしか見えないのだ。
いや、実際調べたわけじゃないから、乙女かどうかは知らないが。
そんなことすれば本人どころか友達であるコウレンにすら殺される。

……まあ、そもそもこいつ身体は偽物というか何と言うか。
きぐるみに近いものがあるらしい。
脱いだら着るのも大変なのよ、とか目の前で悪魔フォームのまま聞かされた話である。
軽いトラウマである。



『―――――まあ、アタシはね、好きな奴ってわけじゃないんだけど、気になる奴がいるわけよ。だから好きじゃないって言ってるでしょっ! 齧るわよ!? ……まあ、いいわ、納得してあげる。あいつはねぇ、アタシが悪魔だって知っても逃げなかったの。それだけじゃないわ、アタシを友達だって言ってくれたのよぉ。全てを教えたわけじゃないけど、それでも、大好きだって言ってくれた。だけどアタシは……この姿を、絶対に見せたくない。こんな醜い姿、例えレイム様が! 言ったって! 絶対に見せないわっ!!』



……まあ、全身に噛み付かれた状態で言われたから、逆に記憶に刻まれてるわけだが。
それでも致命傷を受けなかったのは、きっとこの子が手加減をしてたんだろう。
噛み加減か?
どっちでもいいが。
生きているというか生きながらえているというか、まあどっちでもいいが気にしてはいけない。

「あー暇。すっごく暇。アルミネの生まれ変わりっぽい子供には目をつけてるんだけど、近くにいる奴がちょっと厄介なのよねぇ。だから放置してるんだけど。今度下っ端に攻めさせようって話になってるわけ。アタシは関与しないけど。したらマグナに嫌われちゃうし」

色々と思い出している俺の横で、ぽつりぽつりと機密らしきことを漏らし続けるビーニャ。
それでいいのか上層部。
とはいえ、ツッコミを入れれば虐殺されること請け合いなので我慢。
俺はどちらかといえば我慢強い方である。

「それにさぁ、ゆーしゃ様が強過ぎてまるで歯が立たないのよぉ。あんな強力な龍と契約出来るなんて反則よ反則。……でも、いいなぁあの龍。すっごく白くて、青い目をしてて、強くて綺麗ってずるいと思わない?」
「………………………………え?」

だがしかし、この発言には我慢出来なかった。
うん、いや、だってねぇ。
どう考えてもあれだ、青眼の白龍。

勇者が呼び出したのがブルーアイズだったとして、その場合の勇者はほぼ2択。
社長か神官のどちらか。
前者は圧倒的な威圧感と存在感と勢いで全てを凌駕するだろう。
だって彼、普通のカードで拳銃叩き落とすし。
後者は……まあ、判らんが強いだろう。

ああ、狂じ……強靭☆無敵☆最強か。
勝てる気がしない。
ああいや、戦わなくていいのか。
凄く助かった。
本気で滅ぶところだった。

「ん? もしかして知り合いだったりするのぉ?」
「いや、こちらが一方的に知っているだけだ。その龍は俺と同類で、格上の存在だからな」
「同種、ということ?」
「同カテゴリ、というだけだが」
「つまりあんたが格下なのね」

ビーニャはケラケラ笑うが、当然である。
しかし言わない。
言ったら爆笑されるからだ。
というかサポートがあっても勝てる方がおかしい。
オネスト怖いよオネスト。
何故アニメ設定のままではなかった……!

「知ってるなら、弱点とか教えて欲しいんだけどぉ」
「んー……ない。真正面から戦わないようにして、能力低下系の召喚術が効くはずだからそれを優先するといい。効かないようならお手上げだ。逃げた方がいい」
「それって実体験?」
「ある意味そうだ」

こちらの話を信じているのか、対抗策を聞き出そうとするビーニャ。
まあ、話せる内容といっても、所詮OCG内での話なのだが。
絶対魔法禁止区域を張られていたら、対抗出来る手段がルマリくらいしか思い浮かばない。
いや、もしかしたら負けるかもしれないが。
下手すれば神光臨ゴッドハンドクラッシャー
世界が滅ぶ。

とはいえ、今現在も世界が存在しているわけだから、きっと大丈夫。
そう願いたい。

「……まぁいいけど。でも、もうそろそろご主人様の様子でも見てきたらぁ? あれくらいのガキって父親に憧れたりするもんでしょ」
「たまには羽を伸ばしたいこともある」
「伸ばしっぱなしじゃない。ついでに鼻の下も」
「それはない」

ビーニャは冗談よぉ、と笑ったが、その冗談は危ない。
特に俺の命が。
コウレンに聞かれたら冥獄沙門辺りが来る。



……さて、とはいえ流石に放置のし過ぎか。
俺は跳躍して銀の匠合の正面まで飛び降りる。
勿論ビーニャへの挨拶は忘れない。
親しき仲にも礼儀ありだ。
絶対にフラグが立たない相手なのが、むしろ気楽でいい。
というか、女性相手にこれ以上トラウマなんか作りたくない。



まず、鳥仙人の弟子は俺だけではない。
かなり有名らしく、それなりの数の弟子がいた。
そして、その中でも最年長の弟子が例の彼女。
名前は……ブンブン?
本名は知らない。

年齢を聞こうにも聞けない雰囲気を醸し出されたので不明だが、恐らく4桁。
いや、聞いた記憶はあるんだが……その後の記憶が抜けているので判らない。
どういうことなのか……思い出すなという心の声が脳髄を刺激するので思い出すのをやめる。



さて、そんなことは置いておいて。
俺はプラティの部屋の前で待機している。
もうすぐ準備が整うだろうという判断からだ。

暫く待つと、ブロンが腕を組んだまま出て来た。
プラティにお礼でもしていたんだろう。
なんだか知らんが俺にも気付く様子がないので、そのままスルー。

とりあえずプラティが出てくるのを待つ。
なんかこう、主人公が出てくるのを待つ仲間っていうポジションに憧れてたりする。
時々やっていたとはいえ、やはりこういうのは楽しい。



「―――――アレク、どこに行ってたの?」

それから更に経つと、中からプラティが出て来た。
どこか吹っ切れたような顔をしているプラティを見て、シンテツのことを思い出す。
流石に全く同じということはないが、どこか似ているのだ
主にアマリエとのデート(と書いて戦争と読む)に出かける時に。
色々とおかしいが、まあこの世界では常識だったり。
いつかマグナ少年もビーニャ相手にこんな顔するようになるだろう。

とりあえず俺はずっと見てるだけ。
こういう時は見守っているに限る。
適当なことするとカウンター食らうのは俺だからだ。
既に4度は経験している。

「…………行くよ、アレク」

何だか有無を言わせない威圧感。
勝手に頭が縦に動いた。
まるでシンテツを前にしたかのような雰囲気だった。

うむむ、どうやらプラティはシンテツの娘だったようで。
俺としては将来、単独で戦艦を撃墜出来るようになってしまわないか心配である。



……まあ、その心配も無駄に終わりそうだが。




























-・-・-・-・-・-・-・-・-・-




楽しみにしてくれている方がいたので、何とか上げてみました。
ちょくちょく他作品とリンクしていますが、その辺りはノリと勢いですので、本編に登場するかは不明です。
バードマンが勝てない相手が出てきたら、勢いで出てくるかもしれません。
その前にコウレンが何とかしそうですが。

恐らく他の自作品含めて、今年中の更新は出来ないと思います。
隙を見つけて書き続けますので、未完で終わらせることだけはしないつもりです。
……完結までかなり時間はかかりそうですが。



それでは、次回更新までさようなら。









ちなみに、ヒロインはビーニャ以外ということしか決まってません。
変に転がってアマリエになるのだけは避けたいところです。



[16916] ファザコンマキシマム!
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:801e14ce
Date: 2011/12/27 01:52
アレクが帰ってきたのは試合が始まる少し前。
といっても、ちゃんと色んな準備が出来るくらいの時間には帰ってきてくれた。

わたしはアレクと向かい合いながら、今まで作った武器を並べる。
ラグズナイフ、アイアンセイバー、シェイプダガーの3つ。
頑丈なのはアイアンセイバーで、軽いのがラグズナイフ。
シェイプダガーが丁度真ん中くらい。



どれを使えばいいのか、とアレクに聞こうとする前に思い出す。
ラジィは蜘蛛と戦っていた時に、ナックルを使っていた。
それに凄いスピードで動いてたし、こっちの攻撃はきっと当たらないと思う。

そして、大会での勝利条件は2つ。
相手を戦闘不能にするか、武器を壊すか。
攻撃を当てられないのなら……相手がぶつけてくるのに合わせればいい。



持って行く武器は決まった。
後は、わたしの覚悟だけだ。

わたしはまだ迷ってる。
あの子と戦うべきなのか、違うのか。
勝ってもいいのか、駄目なのか。

わからない。
どうしたらいいのかわからない。

だって、わたしは絶対に勝ちたいっていうわけじゃない。
勝たなくちゃいけない理由があるわけでもない。
ただ、あの大会に出て鍛聖になれば、パパのことを教えてくれるかもしれないから。
別に、今すぐってわけじゃなくていいんだ。

それなのに、そんなわたしが勝ち抜いて、ラジィのやりたいことの邪魔なんてしていいのかなあ?
そんな風に思ったら、どうすればいいのかわからなくなっちゃった。

「……ねえアレク、わたしどうすればいいと思う?」

小さく呟いてみたけれど、アレクはやっぱり喋ってくれない。
別にわたしのことが嫌いなわけじゃない……とは思うんだけど、ちょっと不安。
今でも喋ってくれないのはホントーだし。

……とか思ってたらアレクが頭を撫でてきた。
むむむ、騙されないんだからね。
とか思ってみたけど、結構気持ちよくてされるがまま。
なんかパパに撫でられてるような気持ちになったような……いや、パパに撫でられたことなんて、覚えてないんだけど。

「……」

撫でる撫でる撫でる。
なんか頭が焼けるかと思うくらい撫でてくる。

いやこれ痛い。
すんごく痛い。
ちょっと泣きそうなんだけどこれ!

「痛いってばっ! やめてよっ!!」

思いっきりアレクの手を叩いたら、あっさりやめてくれた。
むしろ叩いたわたしの手の方が痛い気もするけど、気のせいかな。

「……」

アレクを見上げてみると、何か言いたげな顔をしてた。
あ、いや……いつもとあんまり変わんないんだけど、なんとなく。
きっと心からアレクのことを理解出来たから……なわけないか。



そう思っていると、アレクがズボンについてるポケットから何かを取り出した。
見た目は普通の封筒だけど、何が入ってるんだろう。

「……って、これは?」

中身は何か、汚い字の手紙だった。
小さいころのわたしよりも汚い字で、すんごく読み辛い。
一体、こんな字を書いたのは誰なんだろう?




…………あ、これ書いたのアレクだ。
汚いけどちゃんと名前書いてあるし。
なんかちっちゃい子供が頑張って字を書いてるみたいな字だけど、多分アレクって書いてある。

「アレクって字が下手なんだぁ……」

なんか意外だけど、召喚獣だしこっちの文字が書けないっていうのは当たり前かもしれない。
あれ、でもパパと一緒にこっちの世界に何年もいたんだよね、確か。

…………もしかしてアレク、字の書き方知らないのかな?
でも、そうだったらわたしが教えてあげればいっか。

で、結局なんて書いてあるのかなぁーっと……。












『勝ったらシンテツ写真集豪華版』
















「……はっ!?」

あれ、いつの間に試合会場にいるんだろうわたし?
さっきまで自分の部屋にいたはずなんだけど……。

「えへへ……やっぱりアネキは強いね。ボクじゃ歯がたたなかったよ」

しかも、目の前にはボロボロになったラジィがいるし。
え、もしかして試合終わっちゃってるの?
しかもわたしの勝ちで?

「…………おめでとう、アネキ」

ラジィは悔しそうな顔で、小さく呟いてから階段を登っていった。
展開が速過ぎてわたしがついていけてない。
当事者なのに、わたし。

でもそうかぁ……わたしが勝ったのかぁ……。
気付かないまま勝っちゃって、なんか後味悪い。

それに、周りの声が聞こえないのが怖い。
ざわざわというか、ま……まさかあの技……とか言ってる人がところどころ。
そして、滝のように汗を流してるサクロさんの顔が完全に真っ白なのはどういうことなの……?

後ろを見たらアレクも変な顔してる。
まるで、幽霊が化けてでてきたみたいに驚いた顔。
わたしは一体何をしたんだろう。









……とりあえず、パパの写真集だけは受け取っておこうかな。

















































今回は激しく疲れた。
あれだけ動揺したプラティは初めて見た。
まあ、会ってからまだ1年も経っていないのだからそれも当然か。

人間、生き物を最初に殺す時は色々あるものだ。
シンテツでさえそうだった。
俺に至ってはただ吐いてただけである。
そして暫く肉が食えなかった俺とシンテツ。

……プラティは食欲そのものが減ってないのだが。
どうも神経が図太いようだ。
いや、こういうのは女性の方が耐性があると聞いた覚えがある。
だからといってレアステーキを食えるのはどうかと思うのだか。

あ……それはルマリだ。
あれは別枠にしておこう。
全人類のためにも。



『勝ったらシンテツ写真集豪華版』



さて、ここでこの手紙だ。
俺としてはビーニャ辺りに書いてもらいたかったんだが、どうも今回は見当たらなかった。
こういう時に限って何故あいつは来ないのか。

仕方なく、俺はリンドウに手伝いを頼んだ。
あいつに借りを作るのは微妙に嫌なんだが、これは必要なことだと思う。
トラウマなんてものは人によって感じ方も違うし、それそのものは意識にこびりついた記憶。

ならば、その記憶を他の強烈な記憶で塗りつぶしてしまえば、小さくなるのだ。
俺も、ルマリのパーフェクト斬艦撃講座に参加させられた時の記憶をそうやって誤魔化したのだ。

……ドウシテルマリハヤリダケデウミヲワルノ?

おっと変な記憶が。



さて、どうして俺が写真集なんてものを用意したのか。
それはプラティがファザコンだと予想してるからである。
いや、流石にあれだけシンテツについて聞かれたらそう思うだろう。

まあ、基本的に母親しかない上に、誰も父親の悪口を言わない状況なら、そうならざるをえないだろう。
そして、そんな父親の写真集があればどうなるか。
そう、トラウマなんて消し飛ぶに決まっている!

「……いや、その理屈はおかしい」
「ん? なんだサクロか」
「なんだとはなんですか」

1人で探し出した写真集を眺めていると、横からサクロが顔を出して来た。
しかも、俺の完璧な作戦を貶すとは……ありえん。
アマリエの血筋の人間が、シンテツに好意を持たないわけがない。
それどころか、男の中ですら抱かれたいという酔狂な奴がいるのだ。
可能性は凄まじく高いはず。

「……貴方はシンテツを神聖視し過ぎなのではないですか?」
「何を馬鹿な。エルゴとシンテツどちらを信じる?」
「そんな簡単な質問……エルゴなんかクソ食らえっ!!」
「お前も鏡を見てから言え」

……どうやら、俺たちはシンテツ教の信者のようである。
まあ、きっと些細な問題だろう。
別に誰かが死ぬわけでもないし……多分。



さて、そんなことより写真集である。
これをプラティに見せれば、恐らく復活してくれるだろう。
既にサクロが眼を奪われてるのだから、その威力は桁違いだ。
アマリエに見せたら恐らく俺は死ぬ。
文字通り、ころしてでもうばわれる。

「サクロ、これはプラティの物だ。お前にはやらん」
「同じ物は、同じ物はないのですか!?」
「残念ながらございません」

サクロは絶望した顔で崩れ落ちた。
ころしてでもうばいとる思考に陥らない分、アマリエよりは普通に近いのか。
少し近いだけだが。

それに、もうそろそろ試合開始時間になる。
これ以上サクロに構っていると不戦敗になってしまう。
それは避けたいところだ。



というわけで、帰宅時間。
第3層から飛び降りて、銀の匠合の正面に着陸。
何とか遅刻は免れるだろうと思っていると、扉の前には何やら怪しい人影が。

黒い服、黒い帽子、そして顔を覆う黒い仮面。
更に上から黒いローブを着込んだ無駄に黒いそいつ。
全身を覆うローブによって、男女の判断すらつかない。

「……っ」

声をかけようとして、声が詰まる。
いつものごとく、呪いのようだ。
女だということは判ったが、これはこれで悲しいところ。

「―――――」

相手は喋る様子もなく、ただひたすら立ちっぱなし。
それならさっさと扉の前から移動してほしいのだが、声が出せないという。
ええい、やはりデメリットが痛過ぎるぞ仙人。

動きはなく、殺意も敵意もない。
それどころか反応もない。
これではこちらも反応を返せない。
どうしろというのか。



……とはいえ、このまま見合いしていても無駄な時間が過ぎるだけ。
どうせなら先に動きたいものである。
こちとら防御力低いのだ。
どこぞのやわらか聖帝よりは上だと自負しているが、それでも自分から斬り裂かれたいとは思えない。

「む……」

いざ攻撃、というところで相手が動く。
懐に手を差し込み、一気に振り抜いてきた。
狙いはこちらの腕か。
足を狙わないということは、俺のことを知っているのだろう。

全力で退き、同時に爪を突き出す。
傷をつけられた人間は長期戦なんて出来ない。
人間を倒すのに、首を刎ねる必要など不要なのである。

しかし相手も見切っていたのか、しっかりと突き出した武器で受け止められた。
かなりの腕のようだ。
その証拠に、突き出した爪が全く動かない。
これは久々にきつい相手になるかもしれない。



そして、相手が取り出した武器は……槍。
それもどこか特徴的なあれである。
そう、こう……なんか……ウレクサ?
とにかくそれっぽかった。

強度はアイアンセイバーとはいえ、シンテツの作品を受け止めるほどのもの。
そんな傑作を誰かに与えるとは思えない。
となると……まさか、ウレクサの武器を盗んだ奴がいるのか……?



……こちらも本気を出す。
さっさと縛り上げてウレクサの安否を確かめなくてはならない。
試合もさっさと終わらせる必要が出て来た。
それこそ、俺が試合に干渉してでも。

「……ッ!?」

俺が爪を外したのが意外だったのか、そいつは動揺した。
それはそうだ、俺は公の場では一切この爪を外さなかったし、この爪でしか戦ってこなかった。
それはこれまでこなしてきたことであり、これからも必要なことなのだ。
それこそ、俺の一生をかけて続けることなのである。

両手にアイアンセイバーを持ち、残り1振りを腰にくくりつける。
構えは2刀流で、シンテツが全力を出したときと同じ構え。
通称、滅殺モード。
突きと金的の2択である。

嫌な思い出でも甦ったのか、目の前のそいつは更なる動揺をする。
少なくとも、シンテツと面識があるということである。
それも、シンテツが戦っているところを見たことがある、ということだ。
トラウマ持ちということだから……敵かだったか共闘したことがあったかのどちらかなんだが。



……ともあれ、叩き潰せば問題ない。
尋問拷問なんでもござれ。
伊達にこの国の秘密を守ってきたわけではないのだ。
主に鍛聖の連中(コウレン除く)による努力である。

いや、本来ルマリそういうことから遠ざけたかったのだが、自ら飛び込まれたらどうしようもない、というわけである。
というかそれが原因で色々と起こったわけだが……まあそれは後にしておこう。
あれは避けられない事態だったのだから……そう、仕方ないことなのだ。



それはさておき。
俺はさっさと大会へ行きたいのである。
こいつの正体はどうでもいい部類。
目の前の奴には悪いかもしれないが、俺の正直な感想である。

どうせ邪魔されるのなら、今のうちに倒しておきたい。
そうでなくても、致命傷を負わせれば復活まで時間がかかる。
いくら召喚術で傷が治せても、限度があるのだから。

「ひっ……」

小さく高い声が響く。
完全に女の声、しかしその割にはどこかで聞いたことのあるそれ。
一体どこで、どんな奴から聞いた声だったか……。

……まあ、やることは変わらんが。
とりあえず有情破顔ブッパをする気安さで、この技を見せてやることにする。



……と思ったところで、そいつは飛び退いて逃げ出した。
まさか即死技(俺含む)を見切ったと言うのか。
やはり、俺のことを知っている相手だったのだろう。

しかし、そうなると相手も限られる。
俺が戦った相手は大抵が召喚獣か、討ち滅ぼすべき相手。
戦闘方法は、遠くから突進するところしか見せていない。
接近してタイマンの立ち回りなんて、戦場で見せたことすらないのだ。

更にあいつが持っていたのはウレクサの作ったであろう槍。
それもかなりの完成度で、市場には出回らないようなそれ。
それこそ鍛聖が手にとって使うような、強力なものだった。
そして、俺の練習風景を知っているような人物でなければ、あのようなタイミングで退避はしない。

これらを総合して考えてみると、ひとつの結論に達した。
恐らくこれが正解だろう。



「―――――そうか、ウレクサも弟子が出来たのか。それも女の」



……『違う馬鹿ーっ!!』、という声が聞こえた気がした。









さて、時間ぎりぎり。
何とか辿り着いたものの、どうもプラティは悩んでいるようだ。

まあ、色々あるのだろう。
葛藤は思春期の特権である。
年をとってからそんなことをしていようものなら、あっさりと置いていかれるからだ。
ウレクサも、姉とテュラムの関係を認めるか否かを葛藤している間に逃げ切られたのを心底後悔しているようだし。

俺の周りの連中は動かずに後悔するような奴らが多い。
リンドウやシンテツは突っ走ってすっきりするような奴らだが、そいつらは除く。
コウレンはおやつをとっておいたら他の奴に(というかシンテツに)とられて泣いたり、ウレクサはテュラムとルマリが結婚する直前まで悩んだあげく出遅れて血涙を流し、ビーニャはもたもたしてる間にマグナのファーストキスを何故かネスに奪われてマジギレしたりしているのだ。
ちなみに、八つ当たりという被害は俺に集中した。

まあ、プラティはシンテツとアマリエの娘だしそんな後悔はしないと思うのだが。
もしかしたらそれは贔屓目だったりするのだろうか。
実際に起こってみないと判らないことなので、何とも言えないが。



「……ねえアレク、わたしどうすればいいと思う?」

小さくプラティが呟くが、俺はその問いに対する答えを持ち合わせていない。
というか答えられない。
例え言えたとしても試合しろとしか言えないし、そんなこと言ったら多分怒られる。
俺は過去の経験から、下手な発言を控えるようにしているのだ。

例えばちょっと旅に出たいと言ったら、鍛聖全員で旅行に出るはめになった。
何故か俺が留守番で。
これはおかしい。

召喚術が使えないと言ったら嬉々とした表情で特訓に連れ回されたこともある。
いや、簀巻きにされて崖に叩き落されただけなんだが、あれは特訓だったんだろうか。
一応防御力が上がったのだが……雀の涙という言葉がこれほど似合う上昇率はないだろうと思った。



つまり、こういう時は黙ってスキンシップである。
そうすれば、基本的に上手くいくのだ。
これでコウレンに殺されかけた時、何とか誤魔化せたのだ。
今も効くかどうかは判らないが。

まあ、この年齢の子なら撫でていればいいんじゃないだろうか。
この間も撫でていたから、嫌がられることはないだろう。
多分だが。

「……」

……しかし、撫でていると色々と思い出す。
最初出会った頃は普通に可愛らしい子供だったというのに、シンテツもブロンもあんなにごつくなってしまって……。

少し泣きたくなってきてしまった。
いや、流石にプラティがシンテツそっくりになるとは限らない。
アマリエさんの方が遺伝子的には強そうだし。
……戦闘方法が完全にシンテツだから、かなり不安だが。

「痛いってばっ! やめてよっ!!」

なんか、撫でてたら叩かれた。
どうやら俺の力が強過ぎたようである。
それは申し訳ないことをした。

「……」

というかこの幼女、召喚獣を叩いておいて怪我とかしないのだろうか。
見てみると、どうも怪我をしている様子はない。
やはりシンテツの娘だからか。
死ぬことはないだろうから、問題はないが。



「……って、これは?」

……さて、ここであの手紙である。
これを渡せばプラティはきっと活躍してくれるだろう。
主に無双的な意味で。

「アレクって字が下手なんだぁ……」

無双している姿を想像していると、プラティが軽く笑いながらそう言った。
いや、それはおかしい。
リンドウが書いた文字をそのまま写したのに、汚いと言われるとは。

……そういえば、リンドウのサインは複製不可能だとか言っていたような。
まさかあれは特殊な書体を使っているのではなく、ただ単に字が汚かっただけなのか。
そうだとしたら完全な人選ミスではないか。

しかし、プラティが手紙を読み始めてから動かない。
1行しかないというのにこの時間。
まるで処理落ちしたPCのようだ。
少し嫌な予感がしたので部屋を出ようと扉に向かい―――――







…………アレク、ちょっとこっち








―――――そして、不意に身体が凍った。



いや、ほら。
これはそう、よくある話である。
だってシンテツと同じ雰囲気と口調で威圧感アマリエとか固まるしかないだろう!

どうも身体が動かない。
勝ち目がないということが本能的に感じられてしまうのだ。
これが蛇に睨まれた蛙というものか。
俺はどちらかというと鳥なのだが。



仕方なく、俺は言われるがままにプラティの近くに寄る。
というか逆らったら殺されるような気がする。
フライパンで小指を叩くのは痛いからやめろ。
致命傷じゃない分痛いから。

それはともかく、プラティはどうやら開眼したらしい。
威圧感が半端ではない。
というか完全に覇王の器なんだが、この幼女。
シンテツの化物的な戦闘力とアマリエの超越した根性及び威圧感とかチート過ぎる。

どうしてこうなった。

戦闘中に1度だけ合図を出すから、その時になったらこう動いて

そして俺に的確な指示を出しているプラティ。
眼が完全に据わっている辺りアマリエそのもの……もといそっくりである。
ああ、帝国の兵士を罠にはめた時の笑顔が思い出される……。



気がつけば一瞬で作戦会議が終了し、プラティはあっさりと競技場へと歩いていってしまった。
どういうことなの……主に両親とのシンクロ具合的な意味で。















ちょっと後でリンドウと相談せざるをえない。




















「ねぇアネキ……アネキは鍛聖になって、やりたいことがある?」
「……?」

さて本戦。
どうもリンドウはトラウマ再発のようで試合観戦から逃避した。
お前の方が強かったはずなんだが、どういうことだ。

「ボクにはあるよ。このワイスタァンを花でいっぱいにして、剣と花の都にしたいんだ」
「へぇ……でも」
「無理だと思うでしょ? でもそれが出来るんだなぁ~」

そして、俺が辺りの様子見をしている間に会話が進む。
というかサクロまで震えてるんだが、ラジィは気付いていないのか。

……そういえば、殆ど初対面だったか。
あまりにブロンの狂乱振りが激しくて忘れていた。
あの勢いならシンテツにラジィ見せに行って返り討ちにあっていたと思うのだが……その時のプラティに記憶が残るわけないか。

「このワイスタァンにね、花がいっぱい咲いてるところがあるんだ。そこがボクの秘密の場所なの」
「花が咲く場所? このワイスタァンに?」

ここでこの島でトップシークレット級の話がされているわけだが……さて、この会話をリンドウが聞かなかったのは幸運なのか、不運なのか。
そもそも警備がやけに手薄なのは、わざとなのかそれとも普通に手薄なだけなのか。
可能性としては前者の方が高いだろう。
誰に対して開いているのかは、俺にも判らないが。

「真剣勝負! どっちが勝ってもうらみっこなしだからねっ!」

ぐ、とポーズをとるラジィだが、プラティには聞こえてるのだろうか。
次第にオーラが強くなっていくのだが……どういうことなの……?
雰囲気的にはキュハイラ並の威圧感なんだが。

あまりに馬鹿をやっていた3馬鹿(シンテツ、ブロン、リボディ)を前に光線的な何かを発してぶっ飛ばしていた。
あれは……きっとふがいない鍛冶師を懲らしめるためだったんだろう。
何故か俺も巻き込まれていたが、きっと偶然。



「いくよ……ライザー召喚!」

一瞬光が放たれ、ラジィの脇には丸い機械のような何かが現れていた。
それには眼のようなものがあり、上半分は内部が見えている。
球体から手らしきものが生えていて、どことなくマスコット臭がする。
それなりに人気があるらしく、女性の召喚師が好んで召喚するとか。

しかし、その姿の割には能力もそれなりに高く、熟練の召喚師でも誓約を解除せずに定年後も一緒にいることも多い。
ゲームでは俺もかなりお世話になりました。

「よし、ふたりとも準備はいいか?」
「はい!」
「……」

ああ、怖い。
この怖さは本当に暫く振りだ。
なんというか、翼を引き千切られて地下室に監禁されたあの頃を思い出す。

助け出された後、何故かコウレンが謝ってきたのはどういうことなんだろうか。
気にはなったが、助けるのが遅れたくらいでそんなに泣きそうな顔をしなくても。
周囲の奴らはやけにコウレンから距離をとってたような気もするが……どうなんだろうか。

「鍛冶師としての誇りをかけて悔いのない試合を!」
「御前試合第16戦、ラジィ対プラティ……はじめ!」

さて試合開始。
プラティはどう動くだろうかと視線を向けると……。









「―――――ぐ、うっ!?」









……なんか、プラティが圧倒してる。
しかも攻撃を受け流すように戦うと思いきや、自分から突撃している。

しかも動きが本当にえぐい。
ラジィが全く動けていない。

突き出される拳を剣の持ち手で受け止めたり、刃の部分で削るように受け流す。
そして体当たりして体勢を崩して、勢いよくアイアンセイバーを振り下ろしてナックルの耐久力を削る。
牽制のジャブはしっかりと見切って回避。
これではラジィに全く勝ち目がない。

「く……ッ! ライザーお願いッ!!」

だが、流石にこのまま上手くはいかないか。
ラジィが拳を突き出して無理矢理距離をとり、その僅かな隙を使って召喚獣に指示を出す。
成る程、伊達にここまで勝ち残ってきたわけではないのか。

ライザーが両手を突き出し、放電攻撃を放つ。
威力はそれほどでもないが、ゲームシステム上回避は不可能。
ゲームでなくても、人間の反射神経では到底回避出来ないものである。



……人間であれば、だが。



「―――――行って」



と、ここでプラティの指示。
さっきの思考からすると、この反応速度は人間を越えてるような気もするが、そもそも鍛聖は人間のカテゴリに入るのかすら微妙だし。

プラティも片足突っ込んでるしなぁー、と思いながら加速する。
俺は指示通りに動くだけである。
余計なことすると反則負けになるし。

一瞬でライザーの目前に飛び込み、掴んだまま飛翔する。
邪魔はさせん、主にプラティからの好感度の為に。
驚愕した顔をしたラジィの横をすり抜け、そのまま通路へと飛んでいく。



バチバチと電流が走るが、それほどでもない。
伊達に致命傷を受け続けていたわけではないのだ。
原因は主にコウレンだが。

ともかくプラティを射程圏内から出さなければならない。
……というのは俺の解釈で、実は突進しろとしか言われていない。
とりあえず相手の攻撃を封じ、自分でとどめを刺すつもりなんだろう。
なんてえげつない。



さて、プラティはどんな顔をしているのか。
俺は飛びながら後ろに目線を向け―――――何故かサモナイト石を取り出しているプラティを見て、慌てて持っていたライザーを放り投げた。



「―――――召喚、アレク」



直後、引き寄せられる感覚とともに世界が捻れ、戻る。
そして目前に、今通り過ぎたラジィの顔があった。

「ばっ……!!?」

なんか後ろからサクロのトラウマ噴出を感じたような気がするがスルー。
いや、理由は判るんだが、判りたくないだけというか。
この戦法の汚さとかえげつなさとか酷さとか、死ぬほど思い知っているからだ。
特に弟子だったサクロが。



簡単な解説

 俺が突進
→シンテツが俺を召喚し直す
→勢いのまま俺が突進し続ける
→シンテツが俺を召喚し直す
以下ループ

つまり絶望である。
これを少しずつ旋回してやるだけで、周囲の人間は全て吹き飛ぶのだ。

恐ろしいことに、この戦い方をプラティには教えていないのである。
アマリエはどちらかというと直接叩き潰す方が好きだったから、こういうチキン戦法は娘に教えたがらないはず。
よってこの戦い方を考えたのはプラティ本人ということになる。
血は争えないということか。









というわけで、俺は勢いのまま突進する。
完全に染み付いた動きなので、今更止められないのだ。
流石にこの勢いのまま直撃したら怪我じゃ済まないので、ギリギリのところを狙って通り抜ける。
申し訳程度にナックルを叩いて、耐久値を減らしておくのも忘れずに。

ラジィは何とか反応出来たのか、俺の攻撃を受け止める。
勢いに負けて尻餅をついてしまったが、それでも反応出来るだけ凄い。
俺だったら反応する間もなく脳髄垂れ流しである。



しかし、これでプラティの勝ちが確定。
ラジィが起き上がるよりも先に、プラティが接近してアイアンセイバーをつきつける。
もはや誰が見ても詰みであった。



「……はっ!?」

そして、唐突にプラティの纏っていた雰囲気が崩れる。
まるで乗り移っていた何かが抜けたような、そんな感じ。
それと同時に抜けていた女の子らしい人格が入り込んだ気がする。
やっぱり意識飛んでたのかこいつ。

「えへへ……やっぱりアネキは強いね。ボクじゃ歯がたたなかったよ」

ラジィは圧倒的な力の差に、しっかり負けたことを自覚したようだ。
しかし、勝たせる為とはいえ反則行為をしてしまって申し訳ないことをした。
いつか埋め合わせしなければ。

「…………おめでとう、アネキ」

小さく呟き、そのまま逃げるように駆け出したラジィ。
あれだけ素直な可愛い子とブロンがどうして血がつながっているのか。
直接ではないことが救いだったのか、それとも後々似てくるのか。
後者だったらご愁傷様。

サクロは未だにトラウマ続行中。
終了宣言すら言えないようである。
可哀想だが、それも定めか。
シンテツも余計な落し物ばかりしていったものだ。









……さて、写真集はどこだったか。
さっさと探さないと、大変なことになりそうだ。
主に命の危険的な意味で。































-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-




どうもクソ遅れまして申し訳ないです。
色々と私生活の失敗で鬱ってました。
どうでもいいことなのでスルーして頂いて結構。

さて、漸くラジィを撃破。
ファザコンパワーはすごいですねー。

召喚連発はいつか使いたいネタでした。
特定のイベントではお世話になる召喚獣連発勝利です。
まあちょっと違いますが、細かいことはいいんじゃないでしょうか?



さてヒロイン。
というかウレクサ関連のお話。

次の3つの内からお選びください。

1:シスコン
2:女でヒロイン
3:男でヒロイン

選んだ選択肢が面白いことになります。
選ばなくても無理矢理面白くします。

それではまた次回。

5月6日初投稿
12月27日修正



[16916] 馬鹿やごく一部の病気は死んでも治らない
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:422e79ab
Date: 2011/12/27 14:18
「ねぇアネキ……アネキは鍛聖になって、やりたいことがある?」
「ボクにはあるよ。このワイスタァンを花でいっぱいにして、剣と花の都にしたいんだ」
「無理だと思うでしょ? でもそれが出来るんだなぁ~」
「このワイスタァンにね、花がいっぱい咲いてるところがあるんだ。そこがボクの秘密の場所なの」
「真剣勝負! どっちが勝ってもうらみっこなしだからねっ!」







………………確か、そんなことを喋ってたような気がする。
うう、だってあの時は色々あって頭いっぱいだったから全然覚えてないもん!
しょうがないよね、お母さんだってきっとわかってくれる!!




「馬鹿野郎っ!! てめぇもシンテツ症候群だったのかよっ!!」

でも思いっきり殴られた。
いや、だってしょうがないでしょ、パパだし。
パパがカッコイイのは当然だもん。

「いや、そういうわけじゃなくてだな……まあいいか」

そう言ったら、ちょっと困ったみたいに言われたけど、どういうことなんだろう。
そんなことよりラジィ探せとか言われたし。
その台詞は聞き飽きたんだよ……って、誰に言われたんだろう?



……それはそれとして。

今はラジィを探すのが先だね。
わたしと戦った後でいなくなったって言ってたから、きっとわたしが見つけないといけないんだと思う。
多分わたしのせいだし。



ところで、どこを探せばいいんだろう。
ラジィがいつもいる場所なんてわからないし、ブロンさんも知らないっぽい。
やくにたたな……じゃなくて、使えな……でもなくて。
本当にラジィのおじさんなの、ブロンさん?



……そういえば、ラジィはこの国に花の咲いてる場所があるって言ってたなぁ。
でもホントかなぁ?
だって、このワイスタァンで花なんて、お店で売ってるのしか見たことないし。

「アレク、ワイスタァンで花が咲いてる場所なんてあるの? ……あるわけないよねぇ……」

アレクなら知ってるかも、なんて思って聞いたけど、どうなんだろう?
さっきから頭抱えてるし、知らないかも。
なんか変なところで鈍そうだから、気付いてないとかありそう。



ちょっと待っていると、アレクがゆっくり歩き出した。
出掛ける時はいつも飛んでいくから、ついてこいってことかな?
わたしはずっと抱えていたアルバムをしっかり金庫(宝物をしまう為にってブロンさんがくれた)にしまって、出掛けることにした。

……もうパパの記事とかでいっぱいだから、新しいのを自分で買わないと。
入りきらないのはベッドの下を全部占領してるから、それよりもっと大きいのを。



まあ、それは後回しで。
アレクは2階に上がって、そのまま3階に。
わたしは後ろからついていくだけだけど、なんだかちょっと緊張する。
別にわたしが悪いことしてるわけじゃないんだけど……どうしてだろう?



階段をゆっくり登る。
何かがあるような、いるような。
それがこっちを覗いている、そんな感覚。

違和感が勝手にわたしの周りを漂ってるみたいで、気持ち悪い。
怖いんじゃなくて、気持ち悪い。
どうしてこんなに不安になるんだろう?



……気に入らない。
けれど、今は関係ない。
たとえ手を出されたとしても、全て跳ね除ければ済むこと。














―――――あの時と同じように





















……あれ?
今、わたしは何を考えてたんだろう?

さっきまでわたしは変な気配を感じて、それが何か気に入らなくて。
それでちょっと追い払おうかと思ったら変な気持ちになって…………で、頭がすっごく痛い。

「いっ―――――!?」

今更、頭が痛くなる。
その場で思いっきり倒れて動けなくなるくらい痛い。
それでそのままアゴを階段にぶつけてしまった。

なにこれ、すっごく変。
まるで鉄の塊で殴られたみたいに痛いのに、内側からぐわんぐわん痛くなってくる。
鉄を打った時に響く音が、頭全部を覆っているみたいだ。

痛みを我慢して、何とか上を見てみると、右手を握り締めたアレクがこっちを見てた。
こころなしかその拳から煙が出てるような気もする。



……ん?
もしかして……アレクがわたしを殴ったの?







……さて、一発殴り返してから、わたしたちは階段を登る。
なんかアレクが空飛んだけど、いつも飛んでるし問題ないよね。
くるくる回転してたけど、いつもあれだけ速く飛べるんだし。

この町の階層は3階までで、それ以上はない。
だってわたしは小さな頃からこのワイスタァンで遊びまわって、知らない場所なんて全然ない。
一度も行っていない場所なんて、鍛聖様がいるあの建物の中だけ……。

ってことは、そうか。
あの中に、秘密の何かがあるんだ。
問題はどこにあるのか判らないってことだけど……アレクが知ってるかな?
案内してくれてるってことは、そういうことなんだよね?




階段を登って、最上階。
今まで来たことない場所に来て、ちょっとテンションが高いわたし。
だけどアレクは全然変化がない。

さっき思いっきり殴ったから怒ってるのかも。
あ、いや、ちょっとやりすぎたかもしれないけど、乙女の頭を一撃するのは駄目だと思うんだ。
だから絶対謝らない。



……でも、ちょっと怖いかも。



と、考え事をしてたらアレクが勝手に先に行っちゃう。
奥の方にある通路を通って、立ち入り禁止エリアをあっさり通過。
……って、それってどうなのアレク!?

「ちょ……っ!」

大声で止めようかと思ったけど、ここで見つかっちゃうのも困る。
アレクが怒られるだけじゃなくて、わたしまでとばっちりを受けるのは嫌。
た、確かに止められなかったのはご主人様としては駄目かもしれないけど!

とか何とか考えてても、足は止まらないわけで。
アレクはどんどん進んじゃうし、見失うわけにもいかないからついてくしかないし。
ああ、なんかお話の中でドツボにはまっていく人ってこんな気持ちなのかなぁ。









―――――ふと、背後から違和感。
振り返ってみても、後ろには誰もいない。

ちょっと待っても、結局何も起こらない。
少しおかしいと思ったけど、アレクを見失うわけにいかないわたしは、その変な感覚を無視して先に進むことにした。










―――――それが、どんな結果を招くかも知らずに。



































「馬鹿野郎っ!! てめぇもシンテツ症候群だったのかよっ!!」

全力でプラティの頭を殴るブロン。
そしてそれを見守る弟子と俺。
いやまあ、これくらいは許容範囲か?
恐らく予備軍だろうと思って言わなかった俺も悪かったし。

シンテツ症候群とは、俺、アマリエ、サクロを筆頭としたシンテツ信奉者の俗称である。
蔑称とも言う。
あまりに暴走気味でリンドウに言われたからである。
主に敵対組織壊滅未遂事件が原因で。



しかし、あれは俺のせいではないだろう。
あの下っ端がシンテツを『戦闘馬鹿』とか罵ったせいだ。
あんなこと言われたら、そんな組織根絶しないと駄目だろう?

そしてその途中でリンドウに止められた。
あれは惜しかったなぁ。
あと1人で全滅させられたと思うんだが。

いや、壊滅か。
施設から資料まで完膚なきまでに叩き潰したからな。
本当に、どうして残り1人を潰させてくれなかったのか。



……あ、関連組織の情報を引き出すためか。
今の今まで全く気付かなかった。
もしかしたら気付いたことを忘れていただけかもしれないが、まあ変わらないか。
俺はそういうキャラだったし。

「いや、そういうわけじゃなくてだな……まあいいか」

色々と諦めたらしいブロンがさじを投げた。
まあ自分のことを棚上げしてるし、その辺りをつつかれたくないのだろう。
ブロンも結構無茶したし。
やぶへびになりそうだから、何がどうとは言わないが。



さて、そのままラジィを探しに外に出たプラティと俺。
一応俺は花の咲く場所を知ってはいるものの、教えていいものなのか判らないのだ。
あそこはリンドウの秘密の場所であり、大切な場所なのである。
まあ、あいつだけのものではないのだが、それでもなあ。

悩むところであるが、しかしプラティに頼まれたら断るわけにもいかないので困る。
リンドウよりはシンテツやプラティを優先したいお年頃である。
いや、年頃というか人格というか。

「アレク、ワイスタァンで花が咲いてる場所なんてあるの? ……あるわけないよねぇ……」

……しかしあれである、こうもしっかりフラグ回収されてしまえば従わざるを得ない。
だが、どうだろう。
俺もしっかりと場所を覚えてるわけではないから、もしかしたら間違えて覚えてるかもしれない。



……まあ、顔パス出来るだろう、覚えてもらえていれば。



さて、登る。
あいつは基本的に高いところが好きだし、宝物を隠すのもそういう場所だろう。

というわけで、探すなら最上階。
そして、そこへと向かう階段は1つのみ。
そこへ向かえば問題ないのである。

……少々不安はあるが。

まずは階段の場所が曖昧である。
心当たりは2箇所なんだが、どっちだったか。
確か見つけにくい場所というか、建物の中に入る必要があったはず。



3階に到達。
磨耗した記憶を掘り起こして、心当たりを探す。
建物内から、最上階へと向かう場所があった気がするからとりあえず警備員のいる場所をスルー。
何故か覚えていた隠し通路を利用して立ち入り禁止エリアへと。

宝物なのだから、見つけにくいところにある。
ということは、警備が厳重なところにあるに違いない。
俺の勘はそれなりに当たるのだ。
当たり外れが激しいというのがシンテツの台詞だったが、そんなことはないと思う。
竜王の巣に飛び込んだのは俺じゃなくてブロンのせい。

ちなみにであるが、そこで竜の爪の強度に感銘を受けたルマリが『ハイパーデンジャラスアルティメットクオリティインモラルバーストアルティメットドラゴンクロウ』という槍を作成していたが、山を1つ潰したせいで使用禁止にされた。
アルティメットが2つあるのは仕様だそうだ。



……いや、今はこんなことはどうでもよくて。
やはり何もしないでいると、わけの判らない思考に陥りやすい。
別に止まったら死ぬわけではないんだが、どうもこの体になってから思考も身体も止まっていることが難しくなっているっぽい。
かといってあの最速兄貴には負けるだろうが。



しかし、どうにも先程からプラティが静か。
いつもならうだうだ言いながらついてきたり、がんがんシンテツについて聞いてくるはずなんだが。



とか何とか思いながら振り向くと……何故か振り上げられたアイアンセイバーが見えた。
というかこれは……プラティの作った奴のような……?




じゃなくて。
いや、剣はプラティの作った奴なんだが、問題点がそこではないというだけで。

とりあえず回避。
筋力面では幼女であるプラティでは、俺を捕らえ切れるほどの速度で剣を振るうことが出来ないのだ。

……何故かルマリはそんなこと関係ないと言わんばかりに直撃させてきたが、きっと例外だろう。
現にルマリ以外には当てられたことがないし。




というわけで回避成功。
防御とかすると今の俺でも死ぬ可能性があるのだ。
何とも悲しいことに。



そもそも、どうして唐突に攻撃されてるのか。
まさか俺への不満が今丁度爆発したわけじゃあるまいし。
……少し不安だが。

思い返してみれば、シンテツが惚れ薬飲まされた時と似てる。
あの時は色々と…………うん、酷かった。
恐らく船瞬間破壊記録が更新された瞬間だろう。
ちなみにワールドレコーダーは当然のようにルマリである。



とりあえず……頭殴れば直るかね?




「―――――いやいや、それはどうかと思うでわし」




振りかぶって殴り飛ばしてから、背後に気配。
タイミングが悪いから殴ったのは仕方ない。
だからプラティには許して欲しいなーとか思いながら、俺は後ろを向く。



そしてそこには、よく判らない何かが……!











「おはよーさん。今度こそわいとタッグ組んで世界征服やぎゃあああああ!?」










よく判らなかったが、とりあえず倒しといた。

















……怪しい何かを完膚なきまでに叩き潰したが、それよりも今は重要なことがある。
というか気絶してるプラティなのだが。
さっき思いっきり殴ったから、後が怖いんだよなぁ……。
アマリエに似たようなことやった時、嬲り殺しにあったから。

というわけで、どうしようか。
いや起こすのは当たり前なんだが……起こしたくない。
しかし起こさなければ大変なことになることも判る。
一体どうすればいいのか……。



まあ仕方ないから起こすんだが。
肩を揺すって意識が覚醒するまで待つ。

すぐにプラティが目を動かし、覚醒した。
……どうして起きれるんだ?
あれならシンテツ半日寝っぱなしくらいの威力のはずなんだが。

「いっ―――――!?」

そして、覚醒と同時に叫ぶ。
結構煩い。
まあ痛いだろうが、少しくらい容赦してほしい。
容赦……してほしいんだが……無理かなぁ……。













あ、痛いっ















気を取り直して階段のぼり。
結構痛いんだが、まあそれなりの域を出ない。
それなりの域にあることがおかしいのかもしれないが、もはや何も言うまい。

最上階と見せかけた、3階。
実はこの上に4階、というかリンドウの居住スペースがある。
一応鍛聖のトップが一般市民と同じところに住むのは色々と困るということだろう。
サクロは知らん。

そんなことは置いておいて。
まずは警備の薄い場所を探して、そのまま侵入。
プラティはそのままついて来てるみたいだし、不満そうな顔は無視。



このまま突っ切らないと駄目だという予感が、俺の身体を突き動かすのだ。
















そう……かの大事件『絶望の山削り事件』の時と同じ匂いがするのである……!

















ちなみに犯人は当然ルマリである。





-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



皆さんお久し振りです。
レポート提出という悲しみから漸く開放されたので、書ききりました。
同じ動きするからこっち書く気力が湧かなくて困る。

というか皆好きね2番。
原因は私の書いてる奴らの傾向のせいだと思うけど。
……登場まで暫くかかるんで、それまでお待ちください。

今回も鍛聖の所業が明らかになっていきますが、こんなもんじゃありません。
特にルマリの戦闘能力はおかしい。
いや、このSSでじゃなくて原作から。
普通に船沈めてるのはどういうことなの……?




こんな無駄に遅れてる拙作ですが、お付き合い頂けると幸いです。
それでは、また次回。


※ちょっと修正



[16916] 秘密は隠すもの でもバレるもの
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:0acd115d
Date: 2012/07/16 01:31
「―――――うわぁ……!」

アレクの後ろをついて行って辿り着いた先で、本当に花が咲いていた。
といっても、全部同じ種類の花だった。
それでも凄く綺麗で、悩み事なんて消し飛んでしまいそう。

……悩み事がないのがわたしの悩みみたいなもんだけど。



少し落ち込んだけど、それよりも先にラジィを探さないと。
トキは金なり早起きは三門の得だっけ?
早いことはいいことっていう意味だった気がする。

そんなわけで、探検開始。
結構広いから時間かかりそうだけど、ここにいるならきっと見つかるはず。
隠れる場所なんてほとんどないんだから、当然だけど。



「……あ、アネキ」

思ったとおり、ラジィはすぐに見つかった。
一番大きな花の影にひざを抱えて隠れてた。
なんだか不思議な花だけど、どんな名前なんだろう。

「……ねえラジィ、この花の名前って知ってる?」

いつもここに来てるラジィなら知ってるかな、と思って聞いてみる。
ちてきこーきしんという奴である。

「知らないよ」
「へ……?」

だから、こんな返事が返ってくるなんて思ってなくて、ちょっと驚いた。
だって、名前も知らない花で花畑を作ろうだなんて、普通思わないじゃない。

と思ったけど、なんだかラジィにも理由があるみたい。
昔を思い出してるみたいな顔をしてから、喋りだした。
……まるで昔を思い出してるお母さんみたいな顔してる。









「あのね、アネキ―――――」









……ラジィの話を聞くと、この花に思い出があるみたい。
ずっと前に、ブロンさんに怒られて落ち込んでいたラジィが、同じ花をもらったことがあったんだって。
その時の人の格好が、変なマスクつけた男の人だっていうのも聞いた。

……もしかしてアレク?
そう思ってアレクを指差してみたけど、もっと変だったって。



……いや、アレクのあれは変じゃないよ。
他の人とセンスがズレてるだけだから。
だから落ち込まないでちょっと面倒臭いから!




…………もっと落ち込んじゃった。


















膝抱えて転がってるアレクを放置して、わたしはラジィと話をする。
もうすぐ警備が強化されるから、暫く出れないってラジィが言ったからだ。
そういうことがわかるくらい忍び込んでるのに見つかってないなんて、逆に凄い。

時間もできたし、色々聞いてみようと思う。
実を言うと、あんまり同年代の子と話したことないんだよね、わたし。
サナレくらい……かな?
あとバニラだっけ、あの男の子?

なんでか友達少なかったんだよねーわたし。
どうしてだろう?



…………少し前に出没してたマスクつけてた女の人と特訓とかしてたせいかな?
『ハイパーデンジャラスアルティメットクオリティインモラルバーストアルティメットドラゴンクロウ』っていう槍を貸してもらったけど、重くて全く動かせなかったんだよね。
あの人は片手で振り回してたのに……。



じゃなくて。
今はラジィと話してるんだから、昔のことは後回し。



ラジィと話してみてわかったけど、この子も友達があんまりいないみたい。
元気な子だからいっぱいいると思ってたけど、なんだか元気すぎるのが原因みたい。
ラジィが遊ぼうとすると、他の子がついていけなくなっちゃうから、遊べなかったんだって。

それで、遠慮するようになったラジィがこの花畑を見つけて入り浸るようになったみたい。
時々警備が凄くなる時があるらしいけど、それ以外なら結構忍び込んでるんだとか。
ここまで来る勇気が凄いよ。



あとはブロンさんの所に遊びに行ったり、爆発起こしたり床砕いたり家倒壊させたり色々やってたみたい。
……家倒壊させるってなにやったんだろう?









「―――――っと、ちょっと話し込み過ぎちゃったかな」
「あ、そうだねアネキ」

気がついたら外は結構暗い。
こんなに話したのは久し振りかも。
母さんとはいつも喋ってたのに、今はちょっと離れてるから話せてない。
帰る時にブロンさんがついてきそうだからあんまり帰りたくないっていうのが理由なんだけど。

「よし、とりあえず帰ろっか。みんな心配してたよ」
「……うん」

さすがにこれ以上は怒られそうだし、っていうのは口に出さない。
怒られるってわかってて家に帰るのはちょっと気持ち的にアレだから。
マスクの人と遊びすぎた時に思い知った。



……さて、アレクは気付く様子もないし、先に帰っちゃおうか。
置いて行ったってダイジョウブでしょ……多分。
わたしたちより全然強いし、ここは安全だし。



それに、もうそろそろ嫌な予感が止まらない。
ピリピリした感じがする。
怖いというか、やばい感じ。
アレクならともかく、わたしじゃとても役に立たなそう。

こういうときは……逃げるが勝ち。
マスクの人にも『勝てないなら勝てそうな人に押し付けて逃げるべし』とか言ってたし。



というわけで、アレクに任せる。
わたしはラジィを探しに来ただけだし、戦ったりできるような状態じゃない。



―――――肉を切り、命を奪う感触が甦る



……勝手に震える腕を押さえる。
今はここを離れないと。
早くラジィを連れて行かないと。



そう思ってラジィの手を握ろうとして……何故かその手が空を切った。



「あ……アネキッ!」



振り返ると、ラジィが誰かに捕まってしまっている。
黒い鎧に黒い兜で、顔は見えない。
だけど、いい人ではないってことはわかる。

そいつは左腕でラジィを抱えるように捕まえていて、左手には大きな剣を持っている。
そして、その剣の切っ先をラジィの首筋に立てている。
どうすればいい。

アレクは少し遠い。
いつでも飛び込める準備はしてるみたいだけど、動く時は凄い風が起こるからうかつに動けない。
黒鎧の手元が狂ったら困る。

そんなのは駄目、駄目だ。
でも、それならどうすればいい。考えなくちゃいけない。武器はある。けれど握る腕に力が入らない。でも動けるのはわたしだけだ。だから動かないと駄目だ。わたしがやらないと駄目なんだ。だから動け。動け。動け動け動け動け。何を躊躇してるんだ動かないと駄目なんだから。でもどうしてわたしはこんなこと考えてるんだろう。だってラジィと会ったのはほんの少し前だしこんなに悩む必要はないはず。ザッそれなのに。手が震えるけど何とか剣の柄を握ろうとしてる。いつでも飛びかかれるように足に力が入っていく。ザッけれどまだ心が震えてる。命を奪う感覚が甦る。駄目だ。でも。だけど。ああ。どうすれば。そんなこと考えてる間に人が動く。動くなって言ってるのかな。もう遅過ぎてわからない。でもそんなこと気にしてる場合じゃないし気分じゃない。ザッ身体がふわふわ浮かびそうで沈みそうでみちみちいってる。いつ動けばいいのかわかってる油断したらすぐにザッだけどわたしは動けないかも。ううん動かないと駄目なんだけど。わたしはどうすれば。ザッ嫌だ怖い。ザッ怖い怖い怖い。ザザッ怖い怖い怖い怖い怖い怖い。ザァッッ



……でも、わたしがやらなきゃ駄目なんだ。
剣を握れ、腕を振るえ、足を突き出せ。
今ここで逃げ出したら、わたしは母さんにとパパに顔向けできないじゃない……!



「ッ!?」



息を呑む音。
それが誰のものかは考えない。
今は無心になって、この剣を振るだけ。

薙ぎ払うように振ったアイアンセイバーが、黒鎧の剣にぶつかる。
面を撃って弾く。
バクチみたいなもんだったけど、何とかその剣を弾けたみたい。

黒鎧は驚いてる。
わたしみたいなのに武器をぶっ飛ばされたからかな。



でも、これ以上は無理。
もし手元が狂ってぶつかったら、とか考えてしまった。
だからわたしの身体は、石みたいに固まった。



「グッ!?」



でも、ラジィはわたしが固まってる間に頭突きをして抜け出した。
いやなんで抜け出せてるのかわかんないけど。
だけどとにかくもう安心だ。
だってわたしの後ろには、パパの護衛獣だったアレクがいるんだから。




後ろから、何かが駆け抜けたような衝撃。
誰なのかは見えなかったけれど、わたしにはそれがアレクだってわかった。



だって、気絶する前に見えた後ろ姿は、赤い翼で飛ぶ―――――






































そういえば鳥の交尾って短いらしいね。
いや、別に俺がどうこうってわけじゃないんだけど。
というかこの身体でそういうことになった経験ないし。

……ないよな?
あの時のあれは夢だったはず……多分。
夢ってことにしておこう。
今は割とどうでもいい話だ。



何故こんな風に考えているかというと、暇だからだ。
プラティがラジィと話をしてる間、俺は何もできないのである。

この場を放棄して移動するのは護衛獣として駄目。
かといってあちらの会話に入るのは不可能。
となると、暇してるしかないわけだ。
悲しいことに。



こういうことは結構あった。
シンテツに限らず、男陣が減ると俺が会話できる相手が減る。
そして女性陣営は、そわそわしたり愛しの彼を小脇に抱えて三角跳びしたり素振りで海割ったり色々。
字面通り阿鼻叫喚である。



ともかく、暇を潰す手段が少ない。
全くないわけじゃないが、それも家にいるか下準備が必要なものが多い。
TRPGくらいならこの世界でもできるんだが……サイコロを忘れてしまった。
一生の不覚である。
これで通算二百五十三回目の不覚だが。



「……何やってんのよあんた」



俯いてると、何故か目の前にビーニャの顔面が。
しかも上下逆。
寝転がってるということだ。

女の子がはしたないからやめなさい。
……いや、悪魔だから男女差はないんだったな。

「暇を持て余している」
「だったらわかりやすいとこにいなさいよ」
「面倒臭い奴だな」
「面倒じゃない悪魔なんていないでしょ」
「ごもっとも」

打てば響く鐘のような受け答えに、気兼ねなく喋ることの出来る友人はやはりいいものだと実感した。
いや、敵対組織同士ではあるんだが。
ロミオとジュリエットはこんな感じだったのだろうか。
こっちは恋愛感情なぞ発生することもないだろうが。

というかこいつ、やけにこっちに顔を出すな。
何、もしかして暇なの?
それとも何か用事でもあるのか。
できれば前者だと色々嬉しいのだが、それはそれで困るような気もする。

前者だとマグナと色々うまくいってないってことだからだ。
つまり八つ当たりで俺が死ぬ。
というか何度か死んだ。



「……で、何の用だ。流石に暇なだけ、というわけじゃないだろう」
「ちょっとあんたに言いたいことがあったのよぉ。暇なのは事実だけど」



事実なのか。
どこぞの組織の幹部だったろお前。
部下が代わりに苦労してるっていうことか。
嫌な上司だ。

ひとまず、哀れな部下の話は後回し。
今はビーニャの話を聞くことにしよう。
やる気はなさそうだが重要度はかなり上だろうし。



「なんかぁ、アタシの部下が勝手にこっちに来てるみた―――――」
「あ……アネキッ!」



……なんか、後ろから悲鳴が。
しかも妙な殺気まで漏れている。
なんか知らんが嫌な予感がする。
ビーニャがいる時点でそんな気がしてたが。



「そうそう、あれあれ。なんだかアタシの方針が嫌みたいでさぁ」
「だからと言って上司の命令を無視するのはどうかと思うが」
「元々はアタシの部下じゃないしぃ」
「今はそうだろ」
「えー」



どことなくなげやりな様子のビーニャ。
この無責任さはやはり悪魔か。

契約には律儀なんだが、それが絡まないと全く信用ならない。
雇用契約は契約じゃないとか言っていたような気もするが、それはどうなんだ。
上司に嫌な思い出でもあるのか。



……あるかもしれないな。
何せあの極悪悪魔だ。
俺は絶対関わりたくない。



とはいえ、俺はこの状況で動けない。
いや……ほら……こんなところで飛んだら花全滅だし。
人の宝物をぶっ壊すのはどうかなって。

「アタシは宝物をぶっ壊すの好きぃ」
「ッ!?」

読心からまさかのにやけ顔殲滅宣言である。
これはルマリといい勝負。
ちなみにルマリは有言実行というか、言いながらぶっ放す。
おかげで余計な仕事が増えた。

ああ……もう無限回廊に落ちるのは嫌だよ……。



「……やらないわよぉ」



黙ってたら何か誤解された。
ちょっと傷ついた感じな顔されてしまった。



「お前は信用ならん」
「酷ぉい」



誤魔化してみると、何とか笑ってくれた。
自分のことが判ってるというか、俺のことが判ってるというか。
これが以心伝心という奴か。



『違うと思いますよ。特にあなたが誰かと心を通わせるってことが不可能です、というかありえません。神経が鋼か何かで出来ているんじゃないかって思うくらい硬いし鈍いし重い貴方が他人の気持ちを理解するなんて無理です。というかなんですか貴方馬鹿ですか。普通天狗に真正面からぶつかって来ますか。貴方の頭には脳が詰まってないんですねそうなんでしょう。まるで本物の鳥みたいですね傑作です。え、なんですか、辛辣とでも言いたいんですか。貴方の反応の方が私にとって辛辣ですよええ本当に。しねばいいのにこの朴念仁更に言えば私よりも速いってことがムカつきます。ええ嫉妬ですよそうですよ。耐久面を度外視すれば私よりも速いという事実がムカつくんです。1回その真っ赤な羽毟られてしまいなさい』



……そういえば、そんなことを言われていたような。
羽を毟られたのは1回だけじゃ済まなかったが。



……いやいや、今はそんなことどうでもよくて。
それよりもこの状況を打破しなければならないのだ。

速度を出せば花が散る、だが速度を出さなければ近寄れない。
遠距離攻撃性能が並以下の俺には難しい問題だ。
下手すれば普通の人間にも劣る。
あるのはアホみたいな加速力と最高速だけである。

チャンスがあれば一瞬で詰め寄るだけの能力はある。
というかそれしかない。
既に機会を1回逃している気もするが、きっと気のせいだろう。



「グッ!?」



そんなことを考えているとチャンス到来。
ラジィが頭突きで鎧の腕から抜け出した。
頭は痛くないのだろうか。

いや、そんな疑問は後回しである。
今は奔らなければ。
主に今回唯一の出番的な意味で。



翼を広げ、両方をぶつけるように振る。
衝撃波がぶつかりあって、推進力に変わる……らしい。
よく知らないが。

なんとなく雰囲気だけでやってることだから、細かいことは知らないのだ。
この方法なら加速するし、衝撃波が一方向に向かうから被害が少ない。
壊すたびにぶん殴られてれば対処法くらい覚える。
ツッコミだとしても、痛いものは痛いのである。









―――――一歩踏み出して翼をぶつける



ラジィが鎧の腕から抜け出し、俺と鎧を結ぶ直線上から外れる。
活躍することしか考えてなかったから忘れていた。
うっかりでラジィを轢き殺すところだった、、、、、、、、、、



―――――二歩進んで翼を畳む



いやいや、それは拙い。
拙いってことが判らないってことが一番拙い。
俺は随分と苛立っていたようだ。

ここで戦うことになるだなんて思わなかったからか、リンドウの宝物を汚すことになるからなのか。
今更だが、結構リンドウのことも気に入っていたってことか。
こんなことに今更気付くなんて、鈍いと言われても仕方ないか。



―――――三歩踏み抜き翼を開く



……ちなみにではあるが。
俺が扱える召喚術は、遊戯王OCGの中で再現できるものである。
防御も、攻撃も全てその法則内で完結する。
所謂ターン制も再現され、無駄に拘束がきつい。

俺は先制攻撃を行えるが、倒し切れなければ必ず反撃を食らってしまう。
それこそ、初撃決殺しなければ必ずである。
直撃するかは運次第だが、それでも起こるのだ。

これは、俺がバードマンであるという思い込みによるものであると思っている。
そうでなければ困る。
そうじゃないと、俺はただ単に才能が皆無なために召喚術を会得できなかったみたいになるからだ。



……まあ、何が言いたいかというと。
この一撃で全部決めてしまおう、ということである。









―――――《突進》の3枚重ね掛け。
ターンを譲る万が一の可能性をも吹き飛ばす、全力の一撃である。



……まあ、ルマリには全く効かない上にカウンター食らって俺が死ぬんだが。
何事にも例外はあるってことで。



「グッ……ァ!?」



横道に逸れた思考をよそに、俺の蹴りが鎧の腹部に直撃した。
鉄の塊を砕き、割れた欠片を飛び散らせながら空を舞う黒鎧。
うむ、暫く使っていなかったが衰えていなくてよかった。

黒鎧に動きはない。
呼吸はしているようだが、意識がないようだ。
呼吸音くらいなら結構離れていても聞こえるのだ。



警戒はしながら、後ろを振り返る。
プラティは気絶しているし、ラジィは今の突進に驚いて動けないようだ。
ついでに花は無事。

とりあえず、黒鎧を捕まえてリンドウに突き出すべきだろう。
流石にここまで進入されて無罪放免、というわけにもいかない。

心苦しいことではあるが……抹殺である。
機密を知られ、更に国の重要人物を危機に追いやった人間を生かしておくわけにはいかない。
ついでに花の件。
仲間に優しく敵には厳しくがモットーなのである。



「それには及ばないわよぉ」



さて回収しようとしたところで、ビーニャが鎧のすぐ横に立つ。
いつもより悪役臭い顔をして仁王立ちである。
身長的にはプラティと同じくらいしかないのだが、威圧感がある。
流石悪魔ということだろうか。



「命令違反されて困ってたけど、部下は部下。返してもらうわよぉ」
「……それだと、今度はこっちが困る」



一応、ラジィも聞いてるっぽいので、敵対してますよアピールをする。
流石に友人をしていることが周りに知られるのはまずい。
特に部外者に知られるととても面倒臭くなる。
身内にはほぼ全員にバレているが。



「そぅ? でも今のあんたじゃアタシに勝てないでしょぉ?」
「……」
「足手まといもいることだしぃ、見逃した方が身の為よぉ」



ビーニャは笑いながら鎧の上に座る。
俺は羨ましくないが、人によっては御褒美になるような絵面である。
俺にとっては苦痛だろうが。

あと、勘違いされては困るが……俺はビーニャに勝ち目がない。
というか勝ったことがない。
別に今の俺どころか最盛期の俺でも勝てない。
あれは多分俺の顔を立ててくれただけだろう。



ぶっちゃけ相性が致命的に悪い。
ビーニャは耐久力高い、一撃が強い、俺の戦い方がバレていると3拍子揃ってる。
初撃決殺ができない相手だという点で相性が悪いのに、その上それを知られているのが痛い。
恐らくカウンター食らって即死だろう。



「ま、そぉゆぅことでぇ」



右手をヒラヒラ振りながらビーニャが沈んで消えた。
召喚術を利用した特殊な転移術である。
俺の場合は音速で移動するので不要であるが、便利であることには変わりない。
つーか欲しい。
バシルーラ的な意味で。



……とまあ、一応の危機も乗り越えた。
あとはラジィ及びプラティの連行と、リンドウへの報告ぐらいだ。
迷子を捜すだけで何故こんなことになるのか。









……思い返すと結構あったな、そんなこと。







-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


やだ……時間かかりすぎ……
どうも作者です。
色々ありましたが、私は元気です。

ここ最近、にじファンでの騒動とか色々あって大変みたいですね。
お気に入りの作品が散り散りになって少し悲しい気分です。
保存作業で1週間ほど更新が伸びたのは秘密です。

ちなみにちょくちょく出てくる天狗の人は(判りやすいですが)秘密です。
ただちょっと、初めてできた弟弟子にいい顔したがって空回りした挙句暴走したところをフォローされて感謝したいけど年下相手に素直になれずに漸く決心したところで弟弟子がいなくなりどこにぶつければいいのか判らなくなった感情のせいで久し振りに顔を会わせた弟弟子と顔をあわせることもできなくなってるところでまたいなくなってしまった弟弟子に対してイライラしながらもなんだかんだいって嫌いにはなれないツンデレ気味な女の子(年齢不詳)ということだけは言っておきます。

登場する予定はありません。





それでは、また次回。



[16916] 返信と設定
Name: 偽馬鹿◆5925873b ID:1e2b4f5e
Date: 2012/07/16 01:39
ここは本文中に書かれた設定とか載せるスペースにしたいと思います。
それとコメント返信。
コメントは送ってくれると凄く嬉しいです。


とりあえず、主人公だけでも。


アレク/バードマン

本編の主人公。
自分はバードマンだと疑わない。
マッハ5出せるけど、出したら肉片。
色々経験してるから、普通の人よりはまあまあ覚悟あり。


プラティ

こちらも主人公。
ゲーム本編のシュガレットとの絡みは異常。
公式が病気シリーズはうまいと思った。





ここから返信









7月16日


天然ドリル様

これで原作とあんまり変わらない戦闘力なのが恐ろしいところです。
それが表現できてるか判りませんが、頑張って行きたいと思います。


YM清明様

カルトっていうのは崇拝という意味らしいので、シンテツを崇拝しているという意味では合ってます。
……いや、そういう意味でも合ってる気はしますが。


ossann様

こういうSSから原作に入ってもらえるのは凄く嬉しいです。
自分が楽しいと感じた気持ちを共有できるのも勿論ですが、楽しいと思わせてくれた製作者にお返しができた気分になります。




12月27日


ナマコ様

無理はしてないですが、この速度だともっと無理した方がいいかもしれないですね。
頑張ります。
ちなみにプラティはルマリよりは弱いくらいに落ち着くと思います。


百人目様

ルベーテは知らないですが、デクレアは大変です。
ルマリのせいで全軍トラウマなので……。


追い風様

コウレンさんはちょっと妄想入りですが、昔はサナレと似てるとのことでしたので2人の性格を足して2で割りました。
予想以上に可愛くなったので、自分的には大成功だと思います。


天然ドリル様

元々鈍かった上にその通りの理由ですので、凄まじい相乗効果が生まれてます。
呪いが解けてもあんまり関係が変わらないかもしれないですね。


5月6日


百人目様
お久し振りでございます。
アマリエどころかウレクサやキュハイラにもヒロインの可能性はあります。
その辺りは周囲の反応と勢いで決めて行きたいと思います。

それと、あの子が凶悪なのは意図的でございます。


定説様
ありがとうございます。
まだ待っていてくれてるでしょうか?
今のところ解ける予定ですが、予定なので未定です。


おやおや様
俺もそう思う。
どうしてこうなったんでしょうか?
特にコウレン。


グレモス様
褒められるのは凄く嬉しいです。
かなり待たせてしまいましたが、漸く1話完成です。

クラフトソード物語は、俺が知っている限りクロスオーバー物が1つだけ。
GS横島とのクロスがNIGHT TALKERであったくらい。
今も残ってるんでしょうか?




12月3日


天然ドリル様
確かに。
勝手にこうなっていたので、きっとそうなんだと思います。
コウレンとビーニャは恋する乙女(?!)同盟です。


百人目様
力持ってる人が誰かに惚れると大変という典型的なタイプです。
そして、悲しいことに相手はその暴力に耐え切れる能力と鈍さを持ってい

たと。
ちなみにプラティは親切なことをしたと思っています。
人の恋路は邪魔しないに限ります。


ニコ様
そうですね、とても26歳とは思えません。
可愛いさも握力も常人の10倍あっておかしくないでしょう。


T様
気が向いたので。
ちょっと私生活で気が滅入っていたので、気分転換もかねてですが。




6月9日


百人目様
コウレンはともかく、ウレクサは原作からヤンデレっぽかったと思う。
恋する乙女は国士無双ということで全て解決。
ビーニャはあんまり出番がなかったから、イメージで書いてああなりまし

た。

ルベーテは外見だけグレンラガンです。
流石に主人公補正張られると負けちゃいますので。

……それと、トラウマ持ち筆頭はブロン。
ついでにルマリは原作通り。
彼女ならそれくらいこなしてくれる。



5月14日


みかん様
うーん、この作風だと、少し難しいかもしれないです。
視点が被らない視点はカットしていこうと思います。
序盤はそういう場所が少ないので、グダグダな場面が多いかもしれません

が、ご了承ください。

ニコ様
ちょっと出ました。
本格的な絡みは次回になります。
申し訳ございません。


ひらめ様
確か13歳だったと思います。
充分幼女の分類に入るでしょう。
ちなみにサナレは15歳です。




4月30日

百人目様
少々予定よりも短くなりましたが、コウレンはちゃんと登場する予定です


次回の漫ざ……もとい、会話にご期待ください。

ニコ様
ありがとうございます。
そう言っていただけると、串刺しにされたアレクも報われます。

なななし様
ええ、彼も立派な正義の味方です。
つまりそういうことです。
ご期待ください。


4月12日

百人目様
サクロは俺の中ではそんなキャラ。
アレクは結構コウレンに攻撃されたので、少し警戒心を持ってます。
その割にはフルボッコですが。

そして、シンテツだって男ですよ。
そういうことだってあります。
……多分。


3月9日

嗣子様
まあ、その分プラティに苦労してもらうことにします。
縛りプレイ的な意味で。
シンテツ時代は本編中で挿入したいと思います。

鈍色は……一応書いてますが、もう暫くお待ちください。
ちゃんと完結させるつもりなので、よろしくお願いします。

弥生誠様
ご指摘感謝。
注意事項に書いてあるのを見逃してました。



3月3日

ジャッカル様
探し回って漸くロムをブックオフで発見した俺がいる。
ただのコピーにならないように頑張ります。

それも名無しだ様
まあ、ただの思いつきなんですが。
笑ってくれて嬉しいです。
いつか腹筋崩壊させたいと思います。

kji様
まあ、作品をあっさりコピーされたら嫌ですよね。
やっぱりやめといてよかったと思います。

セイキ様
仮面ライダーはいいですよね。
妹がディケイドにはまったのは忘れることにします。

なななし様
彼はきっと精神面でも脆いはず。
でも、マッハ5出したら肉片。

ルファイト様
大体そんな感じです。
それと、指摘感謝です。
あの台詞は確かにそうなりますね。








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