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[16755] (チラ裏から)(完結)あるTS転生者の想い(現実→なのは)
Name: ハムソン◆76f0d3fc ID:84559628
Date: 2010/06/25 20:05
※初めに


この作品は突発的に思いついたネタをリハビリも兼ねて書いてみた物です。

シリアス?みたいな感じなので一応注意して下さい。

また、TS要素もほとんど必要ないですが含まれています。

一部口調がおかしかったりするかもしれませんが勘弁を。

鼻で笑う程度の軽い気持ちで見て頂ければいいと思います。


















唐突だが、私は所謂転生者というやつだ。

それも原作キャラへのTS転生といった変わり種のものね。

転生して暫くは女の身体に戸惑いもあったけど、10歳にもなる頃にはすっかり順応していたわ。

ああ、結婚して子供までいたのよ?

慣れ……というより順応って恐ろしいわね。

あ、まだ名前を名乗ってなかったわね。

私の名はプレシア。プレシア・テスタロッサ。

かつて大魔導師と呼ばれた二児の母よ……。



初めは同姓同名の別人かなと思ったのよ。

だけど、ミッドチルダとアルセトハイムという地名を聞いたときにやっぱりそうなんだと納得したわ。

ここは、『魔法少女リリカルなのは』の世界なんだとね。

身近にあった魔法の存在も大きかったわね。

でもその時はさほど気にはしなかった。

実感も無かったしね。

だって、原作が始まるまでは何十年もあった訳だし、何より女として子供を作るつもりなんてなかったから原作なんて起きるはずがないと思っていたもの。

けれども、気付けば異性として男に惹かれていたわ。

23になった時、その人と結婚をした。

5年後には長女のアリシアも産まれたわ。

忙しかったけれども幸せな日々だった。

……そう、あの日までは。

原作のプレシアがアリシアを魔導炉の実験事故で失ったのは知っていたわ。

だから、私は違う道を歩もうと女として自覚をした12歳の頃から管理局で働くことにしていたわ。

元男だったのもあるかもしれないけれど魔導戦などの荒事も私に合っていた。

気が付けば執務官になっていた。気が付けば魔導師ランクSS+の大魔導師なんて呼ばれていた。

気が付けば、幼いリンディとクライドが補佐官になっていた。

驚きで思わず、本物ですか、と聞いてしまったのは良い思い出よ。

兎に角、そんなまさしくご都合主義としか思えない事が転々と続いていったの。

……でも、アリシアは死んでしまった。

ある日、仕事から帰ればアリシアを守ろうとしたあの人もろとも殺されていた。

犯人は過去に私が逮捕した犯罪者だった。私を恨んでの犯行だった。

……私は憎んだ。他でもない世界を、よ。

その時悟ったの。どんなに抗おうと運命からは逃れられないと。

原作でアリシアが死んだのも5歳。私たちのアリシアが死んだのも5歳。

それに気付けば狂うしかなかった。

それからの私は変わったと思うわ。

管理局を退職し生物学を一から学んだ。

あの人は肉体の損傷が酷くてどうしようもなかったけど、せめてアリシアだけでも蘇らせようとした。

ジェイル・スカリエッティとも接触をした。

『プレシア』に出来なかったことを私はやろうとし、二十年以上に渡り考え得る限りの可能性を試し、失敗に失敗を重ね漸く一人の子が生まれた。

でも、生まれてきたのはアリシアではなくフェイトだった。

……本音を言えば気付いていた。どんなに優遇されていようが、所詮私は原作を引き起こす駒でしかないのだから。

全ては運命のままに。結局私が行ったのはフェイトを生み出すためでしかなかったのだ。

フェイトはとても優しい子だった。

研究に続く研究でボロボロになっていた私をいつも心配してくれていたわ。

でも私はその優しさ応えることはできなかったわ。

フェイトを愛してしまえばアリシアを忘れてしまうという考えが、いつも私を苛んでいた。

怖かったの。私の心は強くなんてないんだから……。

結果、私の行いは端から見れば原作のプレシアとさほど変わらなくなっていたわ。

流石に鞭打ちなんてしてないけど……。

あの子を意識的に遠ざけ、アリシアの飼い猫であった使い魔であるリニスに全てを任せた。

もしかしたら、まだやり直せるかもしれないと思った。

アリシアの姿と心を胸に留め、フェイトやそれとリニスにフェイトの使い魔のアルフと普通の家族として過ごす……。

……だけど、それは理想でしかなかった。

やり直すにはもう遅すぎた。

私には絶望しか残っていなかったの。

死んだ方がフェイトの為にもなると何度も考えたことがあったわ。

心だけじゃない、身体ももう限界だった。

重度の肺癌よ。

医者の話によれば保って三年。

魔法で進行を遅らすことは出来ても、直すことはもう無理だそうよ。

プロジェクトF.A.T.E.の技術を応用すればもしかしたらとも思ったけど、実行に移す気にはならなかった。

代わりにフェイトが生まれた時からずっと考えていた計画を実行する決心がついたの。

原作よ。

このまま私が死んでしまったらフェイトには何が遺る?

答えは簡単だ、違法実験の被験者という肩書きだけが残ってしまう。

最悪保護という名目で実験場送りにされてしまう事も十分に考えられた。

ではどうすればいい?

この問いに辿り着いた瞬間に、原作しかないと思った。

そうすれば、フェイトはあの子――リンディに保護され、養子として真っ当に生きる事が出来る。

原作を知っているからだけじゃない、出会ったからこそわかるの。

リンディに任せておけば全て上手くいく。

……ならばもう、迷いはないわ。

ジュエルシードが発掘されたのも、その輸送船がどんな航路をとるのかも昔のツテを頼りに調べ上げた。

計画は全て順調。今までの人生が嘘のように思い通りに事が進んだ。

後は、最後の仕上げだけだから。

これから私は死ぬ。

でもそれがどうした。

どのみち医者に宣告された寿命などすでに半年も超過しているわ。

ここまで気力だけでどうにかしてきたけど、もう一週間も保たないでしょうね。

でも間に合った。あと一回、それで自分の心を偽るのも最後だから。

どんな形であれ、やはりこうなったかと思うとつくづく運命を嫌になる。

そして、流されるようにそれに抗おうと出来なかった自分にもね。

だからその最後の前に一つだけ。きっと、『私』がやれなかった事をやろうと思うの。

アリシアだけを想い、アリシアの為にしか生きられなかった私には出来なかったこと。

ささやかで、きっと運命という濁流のなかにはとても影響を与えられないようなモノ。

我が儘なのかも知れないけれど、そんな私の想いを遺して逝こう。

そのために――――

「あの子が……私の影を断ち切れた時に、この映像を。フェイトを頼むわよ、バルディッシュ」

『Yes,Mrs..Take a good journey.』(わかりました、ミセス。よい旅を)












――――ねえフェイト。聞こえている?

最初に言っておくわね。ごめんなさい、フェイト。私はあなたに酷い事をしてしまったわ。

大嫌いなんて言ってごめんなさい。

言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、本当は愛しているわ。

私はあなたに母らしいことなんて何一つ出来なかったけど、あなたは私を母と呼んでくれた。

それがどれだけ嬉しかったか。

あなたは残り少ない私の人生を照らしてくれた。

私は何も応えてあげることは出来なかったけど、それでも感謝しています。

……ねえ、フェイト。あの高町なのはという子とは仲良くやっているかしら?

あなたは遠慮がちだけど、優しい子で、可愛いんだから。もっと自信を持って積極的に生きなさい。

フェイト。ご飯はきちんと食べてる?

あなたは食が細いから。しっかり食べなきゃ身体に悪いわよ。

フェイト。今、楽しい?

あなたの人生には辛いこと、こんなはずじゃなかったことがきっと沢山ある。

だけど、あなたは私と違って真っ直ぐに生きなきゃ駄目よ。

あなたは、私と違って悲しみなんて似合わないから……。

フェイト…………。

あなたともっと話がしたかった。あなたともっと一緒に居たかった。

でもね、フェイト。私の愛しい娘。

私はいつもあなたを見守っているわ。

ううん、私だけじゃない。

アリシアも、リニスも……こっそりと見守っていると思うわ。

だからね、笑っていて、フェイト。

私たちはいつだってそれを願っているから……。

だから……だからね、フェイト。



あなたの未来が、幸福で満ち溢れていますように――――




















ふと、マイナーな憑依オリ主の人生がどうなるのか考えてみた。

結果、プレシアの場合全部を書いたってオリキャラばかりの物語で自分の表現力ではナニコレ状態になりそうだったので結末だけサラッと書いてみました。

自分でも妄想を詰め込みすぎた感は否めないですね。

やはりチラシの裏こそ我が住処!

なんか、テンプレに従い別世界でロリ返ったプレシアが想像できたけど、別にそんなことも無かったぜ?!

だって、中身は恐らく八十近くに……ってアレ?急に雷が鳴り始めたんだが……。

まぁ気のせいだろう。そんなことより映画を見に行きたいねぇ、うん。

それでは、ここまでこのような稚文に目を通して頂きありがとうございました。

この調子であっちの作品も更新できればいいなぁ……。



※6/25住処から出ました。



[16755] リンディの過去
Name: ハムソン◆76f0d3fc ID:84559628
Date: 2010/04/04 23:43
調子に乗ってもう少し投稿してみます。

これはリンディ編かな?

テンション低めにつき口調がおかしいのに注意。

過去の捏造及びやっつけ仕事にも注意。












私が初めてその人と出会ったのは六才の時だった。

その時の私はまだ魔法学園を卒業したばかりで、社会の右も左もわからないような状況だった。

家柄のこともあり、いずれは管理局で士官として働くことは決まっていた。

そのこともあって、就業年齢が低いミッドチルダにしても格段に幼くして執務官補佐というエリートコースに就くことも出来た。

今になって考えれば、当時管理局への強い影響力があった祖父が全てどうにかしたのだろう。

だって―――



「今日からあなたたちの上司になる、プレシア・テスタロッサです。よろしくね」



―――その執務官というのが管理局でも屈指の実力者、あの大魔導師プレシア・テスタロッサだったのだから。



小さな頃からその人の武勇伝を聞きながら育ってきた。

曰く、魔導師ランク総合SS+の万能型魔導師。

曰く、魔導師ばかり集めた犯罪組織を一人で制圧した魔導師。

曰く、オーバーSランクの騎士とのクロスレンジ勝負に一対一で勝利した魔導師。

曰く、執務官の中でも屈指の美人魔導師。

他にも私が聞いた話の中には嘘か真かもわからない話もいくつか混じっていたが、幼い私が憧れるには十分な女性だった。

「あ、あのっ!わたしはリンディ・ハラオウンっていいますっ!」

初めの挨拶はこんな感じだっただろうか。

「ぼ、僕はクライド・ハーヴェイといいます!よっ、よろしくおねがいしますっ!」

同じく魔法学園からの付き合いで、いつもは物怖じしないクライドもこの時ばかりは緊張していたようだった。

「…………本物?」

彼女は心底驚いたような表情を見せていたが、私たちのあまりの幼さに驚いたのではないかと思っている。

「は、はひっ?!」

……その呟きに何とか答えようとして、うっかり舌を噛んでしまったのは若さだろうか。

そんな私を見ていた彼女は、少し困惑した表情をしてからまるで微笑ましいモノを見るかのような目で私を見つめていた。

「ふふ、そんなに緊張しなくても良いわよ。いつもそんな感じじゃ疲れちゃうでしょ?」

そんなふうにファーストコンタクトを終えた後だろうか。

なんとか打ち解け始めた頃にクライドが彼女に一つの質問をした。

「あ、あの。プレシアさんって最近まで休んでいたんですよね?」

「そうね。今日が仕事の復帰日よ」

「じゃあ、お子さんが生まれたって本当ですか?!」

その話は私も知っていた。

二年ぐらい前から産休を取って仕事を休んでいると母から聞いた事がある。

「ええ……丁度いいわね。今日はこの後二人の実力がどんなものなのか知るために模擬戦をやっておしまいだから、よければ後で家に来る?」

彼女の好意に、すかさず私は答えていた。

「ぜひ!!」

……この後のことは話すまでもないだろう。

強いて言っておくとしたら、彼女はアリシアちゃんが大好きで、アリシアちゃんは可愛かったということだろうか。



――それからの四年間は楽しかった。

彼女はどんな時も優しかったし、誰よりも強かった。

私たちがどんな窮地に立たされようといつも救ってくれた。

時には厳しくても、それが優しさからくるものだということを私もクライドも知っていた。

アリシアちゃんが成長していく姿をみて一人っ子だった私もお姉さんの気持ちになれたし、プレシアさんの旦那さんもいい人だった。

――でも、そんな日々もずっとは続かなかった。

アリシアちゃんが、アリシアちゃんを守ろうとした旦那さんもろとも犯罪者に殺された。

それを聞かされた瞬間は何を言われたか判らなかったが、二人の葬式で理解させられた。

アリシアちゃんたちは、もうこの世には居ないのだと。

葬式は雨の中だった。

ほとんどの参列者は傘を片手に祈りを捧げていたが、彼女だけは雨の中で傘も持たずに呆然と立ち竦んでいた。

誰かが彼女に傘を差し出したが、それが受け取られることはなかった。

私は彼女にどんなふうに声をかければいいのかわからなかった。

私自身も涙を流していたからかもしれない。

そのまま葬式は終わってしまった。

結局、最後まで私は彼女の表情を見る事はできなかった。

その三日後、彼女が辞表を提出していたことを知った。

管理局も同情したのだろう。辞表は即日に認められ、私が気付いた時には彼女の家はもぬけの空だった。

ただ、取り残されたテーブルの上に『ごめんなさい』という文字が書かれた紙が置いてあっただけだった。

私とクライドも、しばらくは立ち直ることが出来なかった。

妹分と、親しい人。

さらにはもう一人の母を失ったのだから。

取り残された私たちは、クライドの家と親交のあったグレアム提督の部下になった。

一度は挫けかけたけど私たちだけど、何とか気を取り直し執務官になった。

その3年後には提督の旗下とはいえ次元航行艦の艦長と副艦長になることが出来た。

20歳でクライドと結婚をした。

仕事の関係で籍を入れるのにここまで時間がかかったけど、クライドも艦長職が板に付いてきて余裕が出来たのでこういう流れになったのだ。

結婚式は盛大だった。

両家と関係のある管理局の偉い方の大半が参列し、ミッドの首都クラナガンの高級ホテルを丸々貸し切るような式だった。

あの人も呼ぼうとしたけど、結局見つかることはなかった。

行方不明だったのだ。

管理局も探そうとはしたみたいだけれど、数年前に次元移動型の大型庭園を購入した事がわかっただけだったらしい。

結婚一年で長男のクロノが生まれた。

その間の仕事はクライドに任せっきりだったけど、文句一つ言わずに引き受けてくれたのは彼らしいというか……。

とにかく、充実した日々だった。

子育ても大変だったけど、アリシアちゃんとプレシアさんのことを思い出せば苦でもなかった。

けど、結局幸福というものは続いてくれないらしい。

闇の書事件。

私はクロノが5才になるまでは仕事に復帰しないつもりで生活をしていた。

そのクロノももう4才。

そんなある日、クライドの口からその言葉が出てきた。

管理局で士官をしている者ならほとんどが知っている事件だ。

完成とともに次元世界を崩壊させる魔導書。

過去に何度も管理内外世界問わず被害をもたらしてきた物。

その魔導書の所有者の居場所が判明したので本局の艦隊で封印に向かうことになったという。

大丈夫だ、と言葉を遺し彼は逝ってしまった。

一度は暴走を収めたかにみえた闇の書は、しかし本局への帰還中に再度暴走。

そして闇の書を保管していた艦にはクライドが乗っていた。

暴走する艦内で彼は最後まで乗員の退避を優先させ、一人艦に残ったらしい。

最期は、艦隊の主砲アルカンシェルで艦ごと散った。

全て、艦隊の総司令であったグレアム提督から知らされた。

その際に、恨んでくれて構わない、と頭を下げた提督を、私は恨む事が出来なかった。

葬儀は本局所属の全ての局員が参加し執り行われた。

葬儀では、涙を見せる事ができなかった。

私の分もクロノが泣いていたからだ。

クライドは慕われていたのだろう。葬儀に際し、沢山の花が贈られてきた。

その中の一つ、差出人不明の花束が目に付いた。

その花束に添えられていた便箋を開いてみれば『ごめんなさい』とだけ書いてあった。

……彼女だ、と思った。

かつて見た手紙と寸分違わぬ文字が、そこには書かれていたからだ。

今更何を謝るというのだろう。

そんなふうに、思った。

ふと、雨に濡れた彼女の姿を思い出した。

結局見えなかった顔。

もしかしたら、あの時彼女は泣いていたのではないだろうか。

彼女には誰も、何も残らなかった。

だが私には、私の分まで泣いてくれる息子がいるではないか。

そうだ、私は泣く訳にはいかないのだ。

クライドの分まで、あの子を育てなければいけないのだから。

そう決心し、クロノを育てていくとクライドの墓に誓いを立てた。

けれど、その時に一つの疑問が浮かんだ。

――プレシアさん、貴女は一体どんな苦しみを味わっているんですか?



――届くはずがないと思っていたその問の答えは、しかしながら十年もの時間を超え私に返ってきた。












そんな訳でやたらと暗い原作直前までのリンディさん視点です。

キャラクターの背景も出来たしこれで最終決戦を書けるのかな?

ちなみにプレシアがやたらと強そうな理由は彼女は参考に出来る魔導師を知っていたからでしょうか。

それにしてもさすがリリなの。感想の内容も参考になります。

片手腕立て伏せしながら考えさせられました。本当にありがとうございます。

……それにしても、書く物書く物段々と話が暗くなってきている自分は病んできているのだろうか?

……少し、腕立てジャンプでもして気分転換してきますね。

それでは!



※4/4ちゃっかり追記

エイプリルフールに乗り遅れた……。

痛オリ主が成長する物語とか書きたかったけどなぁ。

現実で諸々あったとしてもなかなか更新できなくて大変申し訳ないと思っています、ハイ。

週内には追加できそうです。

それではお目汚し失礼をば。



[16755] 母の夢
Name: ハムソン◆76f0d3fc ID:84559628
Date: 2010/05/08 20:35
――――――い――――ト――。

声が、聞こえる。

これは誰の声だっただろう。

暖かいけれど、どこまでも寂しそうな、そんな声……。






「――――っ」

夢を見ていた。

懐かしい。そんな風に感じる不思議な夢。

あの不思議な声はどこで聞いたんだっけ。

……ダメだ、思い出せない。今はまず身体を起こそう。

「……あれ?」

ふと気が付いた。

目に付いたのは朝日に照らされた大きなベッド。

これはわたしのベッドじゃない。

「ここは……?」

海鳴の家やアースラの船室とも違う。

見覚えはある気がするんだけど……。

懐かしい何かをこの部屋からは感じるから。

「んん~、フェイト~~」

「え?」

声が聞こえた方を見れば子犬姿のアルフと、わたしと同じ金色の髪をした子が同じベットで眠っていた。

……誰だろう。

自分と同じ金髪のアリサとは身長が明らかに違うし、他に思い当たる人はいない。

そんな風に考えていたとき、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「フェイト、アリシア、アルフ。朝ですよ」

聞いた事のある声。

そして聞こえた名前に違和感を感じる。

「まさか……」

あわてて振り向けば眠たそうに瞼を擦る自分と同じ顔の子の姿があった。

「ん……おはよ、フェイト」

心臓が、早鐘を打つ。

「みんなちゃんと起きてますか?」

「はーい」

少女の返事とともに部屋に入ってきた人に、わたしは見覚えがあった。

「リニ、ス……」

見間違えるはずがない。

ずっとずっと、母さんから見捨てられていたわたしを育ててくれたのは彼女だったのだから。

「――もう、少しは早寝早起きのフェイトを見習って欲しいですね。アリシアはお姉さんなんですから」

「むー……」

考え事をしている間にもこの少女――わたしの本物オリジナル、アリシアとアルフは目が覚めたらしい。

二人は昨日夜更かしをしていたみたいでリニスに説教をされていた。

これは……夢、なのかな?

「あの……リニス……?」

「はい、なんですかフェイト?」

「アリシア……?」

「うん?」

アルフは……うん、アルフだ。

やっぱり、みんなわたしの予想通りの人たちだった。

……わたしは、どうしてこんな夢を見ているんだろう。

リニスとアリシア……二人はもういない人なのに。

それに、確かさっきまでわたしは闇の書と戦っていて……。

「……はぁ、前言を撤回します。今朝はフェイトも寝惚けやさんのようです」

「あはは、わたしたちと一緒だ~」

そんなことを考えていたらアリシアとアルフが笑っていた。

なんだかわたしが笑われているみたいで恥ずかしい。

「さぁ、着替えて。朝ご飯です」

そんなすこし気が緩んだ瞬間。

不意打ちみたいにリニスが放った言葉が、わたしの心を貫いた。

「プレシア達はもう食卓で待っていますよ」

――思考が、止まった。

「かあ、さん……?」

わけがわからないままリニスに急かされ着替えをさせられる。

なし崩しに着替えを終えた頃には、もう不思議な夢の事は忘れていた。





「お母さま、おはよう!」

「おはよ~プレシア!」

「アリシア、アルフ。おはよう」

時の庭園の広い一室。

わたしの記憶では誰も使っていなかったけど、いつも綺麗に掃除されていた食卓だ。

来てしまった。

母さんが居るこの部屋に。

壁の向こうからは朝の挨拶をするアリシアたちの声が聞こえてくる。

わたしは……ダメだ。

どんな顔をして挨拶をすればいいのかわからない。

壁を背中にして食卓を覗いてみると……椅子に座っている母さん。

それから、奥の席に眠たそうな男の人……?

わたしは……あの人を知ってる?

灰色がかった黒い髪と、それに赤い瞳。

見覚えはないはずだけど……既視感っていうのかな。

「ほら、フェイト!」

名前を呼ばれ、身体が震える。

「フェイトがどうかしたのかい?」

「あ、旦那様。どうも何か怖い夢でも見たらしくて今が夢か幻かだと思っているみたいですよ」

男の人が席の奥でこちらを見つめながら呟いた言葉に、リニスが答えた。

……旦那様?

リニスは間違いなくそう言ったし、だとすればあの人は……父さん?

……そうか。あの赤い瞳はどこかで見たことがあると思ったけどいつも鏡で見ているわたしの眼と同じ色なんだ。

この人が父さんだということに、不思議と違和感は感じない。


わたしが無くしたアリシアの記憶が、わたしにそう感じさせているのかな。

「フェイト、いらっしゃい」

ぼうっと父さんを見つめていたわたしに向かって手招きする母さん。

また身体が震えた。

でもわたしの意思とは関係なくて、勝手に身体は前に進んでいく。

前を見れない。母さんの顔を見れない。

「―――っ!?」

そっと両手で頬を支えられ、前を見せられる。

「怖い夢を見たのね。でももう大丈夫よ。あなたも私も、此処にいるもの」

――優しく、私を心配してくれる母さんの顔がそこにあった。

「ふふ。ほら、席に着きなさい。ご飯、食べるでしょ?」

首を縦に振る。

それだけで伝わったのかアリシアも席に着きはじめた。

……わたしはどこに座ろう。

空いている席はアリシアの正面、母さんの斜め隣と反対にある父さんの側の斜め隣だけ。

……父さんの方に座ろう。

母さんのそばにいて落ち着いていられる自信がないから。

そんな風に始まった朝食の時間。

「ほら、どうしたんだフェイト。調子でも悪いのか?」

考え事ばかりしていていつまで経っても食事に手を出せないわたしを見て心配したのか、隣に座っている父さんが声をかけてきた。

「あ……ううん、なんでもない、です」

皿をじっと見つめていたことを心配させてしまったのか、

「ならいいんだが……無理だけはしたらダメだぞ」

同時に頭に触れる暖かい物……手、かな。

不思議な感じだけど、嫌な気分じゃない。

……そんなとき、わたしの方を見ていたアリシアが何かに気付いたように首を傾げた。

「むー?今日のおとうさんなんだか元気だよ」

元気……?

アリシアの言い方だと、いつもは違うように聞こえる。

「アリシアはともかく、フェイトはかなりのお母さんっ子ですからね。いつもはプレシアに獲られっぱなしなぶん、久しぶりにフェイトが隣に座ってくれて旦那様も嬉しいんでしょう」

「いつも朝は弱いクセにこんな時ばかり……まぁ、良いけど」

……父さんを見る母さんたちの発言を聞いて、なんとなくわかった。

父さんはこんな人だったんだ。

朝は弱くて、でもわたし……ううん、きっとアリシアが傍にいたら元気になるような、そんな優しい人だったんだ。

父さんのことはアリシアから写された記憶にもほとんど残ってなかった。

だから今わたしが感じているこの気持ちは、父さんのことを知れて嬉しいの……かな。

「んー?プレシア、もしかしてフェイトに妬いてる?」

「え?」

アルフのいきなりな言葉にさっきまでの気まずさも忘れてつい母さんを見てしまった。

「なっ……何を言ってるのよ、アルフ!」

優雅に食事を進めていた手を止めて、母さんはイスに乗ってテーブルから顔を出しているアルフを睨みつけている。

顔がうっすら赤くなっているのは怒っているからなのか、恥ずかしいからなんだろうか。

「あはは、おかーさん顔真っ赤~」

「プレシア。いくら旦那様を愛しているからって娘にまで嫉妬したら駄目ですよ」

立て続けに言われ、母さんはなんだか疲れたような顔になっていた。

「……アリシアはともかく、リニス……使い魔と主人との関係を一度はっきりさせるべきかしらね」

言って、母さんの周りで魔力が電流として溢れだした。

……そんな中、ふと思った。

そういえば、こんなにも表情を変える母さんをわたしは初めて見ているんだ。

優しい顔、照れた顔、怒った顔、笑った顔。

こんなにも生き生きとした母さんは今まで見たことがなかった。

……いつもこうしていて欲しかったな。

母さんは、悲しい顔しかしてなかったから。

「まぁ待て、少し落ち着け。確かにフェイトは可愛いけど、おまえも十分に可愛いぞ」

わたしが考えごとをしている間にもリニスに向けて魔法を撃とうとしていた母さんは、父さんのその言葉を聞いたとたんにピタリと動きを止めた。

「あ、あら、そう。ありがとう……あなた」

母さんは頬をさっきまでとは違う色に染めて、横を向きながら言った。

嬉しいけど、恥ずかしいのかな?

そんな姿にもつい見入ってしまう。

「お二人とも、朝からお熱いですね。ごちそうさまです」

「ごちそうさまー!」

リニスに続いて無邪気に笑うアリシア。

何かを言いたそうに堪える母さんをなだめている父さん。

……どこまでも、夢のような家族だ。

きっと、わたしの欲しかったモノ。

でも……現実のわたしは……?

それを考えたら目の前にある食事も喉を通らなかった。

「フェイト、調子が悪いなら今は無理して食べなくていいわ。だけど後でしっかり食べなさい。いいわね?」

「……はい」

結局、その後もわたしは料理に手をつけることができなかった。






「本当に大丈夫、フェイト?」

「うん……」

みんなに心配されながら時の庭園から外に続く道を歩く。

あの後、食事が終わった後にみんなで外に出かけに行くことになった。

最初はみんなわたしの調子が悪いと思って行こうか悩んでいたけど、わたしから行きたいと言った。

なんでだろう。

もっとこの夢を見ていたいからかな。

……それと父さんはお留守番。

仕事があるって言っていたけど……どんな仕事をしているのか聞く前に、みんなのお皿を持って部屋から出ていってしまった。

「今日は……そうね、まずはフェイトに新しい靴を買ってあげないと」

「ああ、フェイトばかりずる~い!」

「魔導試験満点のご褒美ですから。アリシアも頑張らないと」

話題は今日の行き先について。

わたし自体に最近魔導試験を受けた覚えはないけれど、それを祝ってくれるみたいだ。

母さんの言い方だとわたしだけしか靴を買ってくれないように聞こえるせいか、前にいるアリシアからはむくれたような声が聞こえてくる。

……そんな風にアリシアを見ていると、アリシアがわたしの方に近づいてきた。

「ねえ、フェイト……後で補習手伝って!」

「う、うん」

いきなりのことについ頷いてしまった。

わたしの反応に満足したのか笑顔になったアリシアだったけど、さらに何かを思いついたような表情をしたあと母さんに駆け寄っていった。

「ママ、ママ!勉強するならリンディお姉ちゃんとクライド兄ちゃんも呼ぼうよ!」

「え……?」

この場に居ない、だけど聞き覚えのある名前がアリシアの口から出た。

「そうねぇ…………うん、大丈夫ですって。すぐに来てくれるみたいよ」

母さんは念話でもしたんだろうか。少し間を開けてそう言った。

「やった~!」

そのことが嬉しいみたいで、喜んでいるアリシアを横目に考える。

「リンディ……?」

アリシアが言ったのは"あの"リンディ提督のことなんだろうか。

でも、同じ名前なだけの違う人かもしれない。

それにわたしは『クライド』という人のことは知らない。

……わからない。

わかないことばかりだ。

「ん?どうしたんだいフェイト?」

「ううん……なんでもないよ、アルフ」

心配して話しかけてくれたアルフに、結局わたしはそんな風にしか言葉を返せなかった。

「――アリシア、フェイト。私は一度庭園まで戻ってリンディ達を出迎えてくるから、二人は暫くリニス達と待っててくれるかしら?」

そんな風にアルフに返事をしたとき。

母さんがわたしたちの方を向いてそう言った。

「は~い!」

「……はい」

やっぱりまだ自分から母さんと目を合わせられない。

わたしはまだ……怖い、のかな。

そんなわたしを振り向いて見つめるアリシア。

……なにを考えているんだろう?

「フェイト、あの木があるところまで行こ!」

言いながら腕をつかむアリシア……?

いきなりのことに動けずにいたら、そのまま走り出した……て、え?

「え、あっ、ま、待って、アリシア!?」







「フェイト~置いてかないでよ~」

「ダメですよ、アルフ」

「うぅ~~、リニス、どうしてさ?」

「今は二人きりにしてあげましょう……それが、あの子の望みですから」










アリシアに連れられたどり着いた木の下で二人きり。

小高い場所にあるおかげでここからは庭園の全体が見わたせる。

……ここにアルフとリニスが追ってくる気配は感じない。

「……ねえ、アリシア」

だからかな。気がつけば木陰で静かに座っているアリシアにずっと気になっていたいたことを聞いていた。

「これは、夢なんだよね……わたしとあなたは、同じ世界にはいられないから」

もうはっきりと思い出した。

『闇の書』

魔導師たちの力の源であるリンカーコアを蒐集し、それを自らの魔法にするというロストギア。

だけど今ではバグが起きていて、完成と共に暴走を始めありとあらゆる物を取り込んでしまうと危険な物だ。

ここに来る前まで、わたしはなのはたちとその闇の書の管制人格と戦っていたんだ。

わたしはその戦いで闇の書に捕らえられた。

……ここは、闇の書の中なんだ。

「……」

わたしの問いかけにアリシアは言葉を返してくれない。

「それに母さんは、あんな風にわたしに笑いかけてはくれなかった」

PT事件……管理局が名前をつけたあの事件の最後、わたしは母さんから『失敗作』と呼ばれた。

だから大嫌いなんだって言われた時の絶望は今も忘れていない。

そんな母さんがなんでわたしに笑いかけてくれるのか。

現実のわたしが見た事があるのは怒ったような顔、悲しそうな顔。

そう、それだけなんだ。

ここが現実なら、大嫌いなわたしに笑顔なんて向けてくれるはずがないんだから。

「それは違うよ」

「え?」

「フェイトは忘れてるだけ。一度だけかもしれないけど、おかあさんはフェイトに笑いかけてくれてるよ」

「うそ……だって……!」

だって母さんはわたしのことが大嫌いだって言ったんだから……!

「……おかあさんは優しい人だから。だから全部自分一人で悩んじゃうんだよ」

「それって……」

わからない。

アリシアの言ってることがわからない。

「フェイトのことも一人で悩んでいたんだ。フェイトをどうしようっていつも苦しんでいたんだ」

「うそ……」

だったらなんでいつもわたしに笑いかけてくれなかったの?

「本当だよ、フェイト」

「うそだ……」

だったら、だったらなんで――

「不器用だけど、おかあさんはフェイトのことを愛していたんだよ」

――わたしと一緒に居てくれなかったの?

「……ねぇ、フェイト。ならここに居よ、ずっと一緒に」

え……?

「ここならおかあさんはいつでも笑いかけてくれる。フェイトの望むまま、ずっと一緒に居てくれるんだよ?」

……言葉を、失った。

「それにわたしも、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる」

どう、と手を広げるアリシアを見て息が詰まった。

……この世界にはアリシアが、リニスが、アルフに父さんも居る。

そしてなによりも、優しい母さんが……。

きっとそれは何よりも優しい夢。

アリシアもそれを望んでる……。

でも、それでいいの?

「わたしは……」

……ううん、きっとそれは逃げだ。

それにわたしはまだ、なのは達と歩き始めたばかりだから。

ゴールにはまだ遠いと思うから。

「……ごめん、アリシア」

気がつけば言葉は出ていた。

「わたしは行かなくちゃ……それに……」

「えへへ、流石はわたしの妹だ」

「え……?」

アリシアの反応はわたしが待っていた責めるようなものじゃなく、むしろ嬉しそうな声だった。

「それでいいんだよ。フェイトはこんな所でくよくよしてたらダメなんだから」

さっきまでの表情とはまるで違う、優しい笑顔が目に映った。

「みんなが、フェイトを待っているんでしょ?」

差し出された手にあるのは……バルディッシュ?

「この子がおかあさんの本当のことを教えてくれたんだ」

「バルディッシュ……?」

『Sir. I have something that should be told later. 』(後で伝えたい事があります)

その言葉を発して、いつものように沈黙したバルディッシュ。

「おかあさんのこと、信じてあげて。じゃないとおかあさんも寂しがっちゃうから」

「そっか……」

バルディッシュがなんで母さんのことを知っていたのかはわからない。

なんでわたしにそのことを教えてくれなかったのかもわからない。

でも多分、この子はそうしないといけないといけないと思ったのかな。

今は……ううん、これからもわたしはこの子を信じていくんだ。

母さんがわたしをどう思っていたのかはまだわからないけど、今はそれでいいんだと思う。

だから、その前に……。

「ありがとう……ごめんね、アリシア」

「いいよ……わたしは、フェイトのお姉さんだもん」

私の腕の中にも収まる小さな姉さん。

悲しいのか、怖いのか。

アリシアの肩は少し震えていた。

「悲しい顔はフェイトには似合わないから。わたしも笑っているから……ね?」

涙で視界が、アリシアが歪んでいく。

でも、そのアリシアの顔に涙は見えない。

……ああ。

これはお別れなんだ。

だって、腕の中のアリシアが霞んでいくんだもん。

……わたし、ダメな妹だな。

アリシアに、最後まで心配かけちゃった。

「じゃあ……いってらっしゃい、フェイト」

わたしが見たアリシアの顔は、最後の瞬間まで笑っていた。



――――現実でも、こんな風にいたかったな――――







「――行くのね、フェイト」

「母さん……」

この夢を終わらせようと選んだ場所……時の庭園の玉座に向かったわたしを待ち構えていたのは母さんだった。

「フェイト、私はあなたとアリシア、それとバルディッシュの記憶が生み出した偽者なんでしょう?」

「それは……」

多分、きっとそうなんだろう。

これはわたしとアリシアの夢だから。

「気にしなくても良いのよ。所詮夢は夢、いつかは覚めてしまうものだから」

……そう、なのかな。

でも例え夢だとしても母さんに聞いておきたいことがある。

「……母さん」

「なぁに、フェイト」

「母さんは、わたしのことを娘だと思ってくれてますか?」

あの時、母さんに拒絶されたこの場所で。

未練なのかもしれない。アリシアに言われたからかもしれない。

どうしても聞かずにはいられなかった。

「勿論よ。あなたも私のかけがえのない大切な家族だもの」

その母さんの言葉からは少しの迷いも感じられなかった。

「そう、ですか」

この気持ちはなんだろう。

安心?喜び?……それともこの母さんは偽者だという失望?

「本物の私がどう思っていたかは解らないけれど、少なくとも私はそう思うわ」

「え……?」

「偽者だけれど、私はあなたの母さんなんだから。そんなの当たり前じゃない」

「っ!?」

それは本当に当たり前のように。

そうだ、この母さんは自分が偽者なんてことを気になんてしていない。

それどころかアリシアの失敗作のハズのわたしを笑顔で受け入れてくれている。

「これを私が言うのもどうかと思うけどね……」

一度目を瞑って。それから母さんは笑顔でその言葉を出した。

「あなたは私の分まで生きなさい。いいわね、フェイト」

「あ……」

思い出した。

夢に出てきたあの言葉。

ずっとずっと昔。

わたしが『フェイト』として生まれたすぐ後のこと。

眠っていたわたしを母さんは抱いて、そう言って笑いかけてくれた……。

アリシアが教えてくれたことは本当だったんだ……。

「かあ……さん……?」

そうか。この人もわたしの母さんなんだ。

……どうしてだろう、涙が止まらない。

「ほら、泣かないの。強くて優しい人達があなたを待っているんでしょう?」

「うん……」

そっと、抱きしめられる。

暖かい……これが母さんの温もりなんだ……。

「強く生きなさい、フェイト」

「うん……!」

アリシアと同じだ。

こうしている間にもどんどんと母さんの姿が薄れていく。

お別れ、かな……。

「さようなら……ありがとう、母さん……!」

「…………フェイト、幸せに。リンディと、仲良くね――――」

笑顔のまま。ぽつりと、その言葉を残して体を包む温もりは消えていった。

「……行くんだ」

強く、生きて行く。

それが多分、この母さんとの一つだけの絆の証だから。

「…………うん」

涙は止まった。

だから、あとは前を見て歩き出さなくちゃ。

「母さん……姉さん……みんな」

フェイト・テスタロッサ。いってきます。













以下あとがき……という名の言い訳です。

私の名前はハムソン。アルターKOS-MOSの存在に心惹かれた者だ!
……持ってないけどね。

はい、週内に投稿するという一月前の言葉を破ってしまいました。申し訳ない。
言い訳をするようでなんですが、予想以上に話が長くなったもんと、パソコン使える時間がなかったからです。
マイパソ買おうかなぁ。マジで。

今回はプレシアの全体的な描写に悩みましたが、こんな形に落ち着きました。
一気にガーッと書けなかったので何かちぐはぐになってしまった感もあるのですが。

それにしてもこのプレシア夫が扱いづらいね。
小説版は読んだ事ないからほぼオリキャラでしかないし……。
エロゲ主人公並みの好人物を想定して書いてみたんだけど。
……それはそれで悔しいんでこうしとこうか。
「夫。お前の名前、ねーから」
べ、別に名前が思い付かないからなんてことはないんだからねっ!

ちなみに夫の仕事=主夫業。専業かどうかは別にして。

最後に一言。次に続きます。



[16755] 母の想い、子の未来
Name: ハムソン◆76f0d3fc ID:84559628
Date: 2010/06/25 20:04
これは、雪降る街で一人の少女が大切な別れを終えたすぐ後の話。



「――そう。ご苦労様、フェイトさん」

次元航行艦アースラにある艦長室。

わたしの知っているものや知らないものも含め、日本の伝統文化がバラバラに飾り付けされたこの部屋にわたしとリンディ提督は居る。

ここでわたしは闇の……ううん、夜天の書の管制人格だったリインフォースの最期についてリンディ提督に報告をしていた。

……クロノから聞いた話だと提督はリインフォース本人から放っておけばまた暴走することをあらかじめ伝えられていて、消滅することを許可していたらしい。

だから本当は報告をする必要はないのかもしれないけど、わたしがここに来たのには違う理由があるからだ。

「……あの、リンディ提督」

お茶を飲んでリラックスをしている提督を見ているとこんなことを聞いていいのか迷ってしまう。

でもそう考えたのは一瞬だけで、気づけば声を出した。

「提督はクライドっていう人のことを知っていますか?」

「――どこで、彼の事を知ったの?」

提督が湯飲みを持っていた手を止めた。

さっきまでの穏やかな空気はなくなり、いつもとは違う強張った雰囲気をした提督がわたしを見ている。

……でも、それでも聞かずにはいられなかった。

「闇の……ううん、夜天の書に取り込まれた時に夢を見ました」

思い出すのはあの時の夢。

「そこには母さんがいて、父さんがいて、アリシアがいて、みんながいました」

わたしに強く生きて欲しいと言ってくれたあの夢。

絶対に忘れないあの夢。

「とても暖かくて、とても幸せな夢でした」

今でもはっきりと思い出せるアリシアの笑顔、リニスの笑顔、ほとんど記憶に無かった父さんの笑顔。

そして何よりも、ずっと望んでいた母さんの笑顔を見る事が出来た。

「……あの夢は、わたしの中にあるアリシアの思い出も混ざっていました」

「……そういう事ですか」

その言葉で理解したのだろうか。

一度目を瞑ったあと、リンディさんは口を開いた。

「そうね……私と彼がプレシアさん達とどういう関係だったか、詳しいことはわかるかしら?」

「……いえ」

多分、わたしの中にあるアリシアの記憶が完璧ならばクライドという人のことを聞く必要がないからなのかな。

わたしが答えたあと、少し考えたそぶりをして提督は話しはじめた。

「随分昔の話です。私とクライドは執務官だったあの人の補佐をしていたわ。あれは……26年ぐらい前までだったかしら」

これにはいきなり驚いた。

母さんが管理局で……それもなるのが難しいと聞く執務官だったなんて初めて聞いた。

それに、そんなに昔からリンディさんは母さんのことを……。

「まだ私が幼かったころの話よ」

クライドという名前がでたときほんの一瞬、だけどたしかにリンディさんの表情が曇った。

「あの、そのクライドさんは今……?」

「……死んだわ」

「え……」

一言だけで伝えられたその言葉はわたしを混乱させるには十分だった。

ふとリインフォースと、母さんの最期を思い出してしまう。

「えと、あの……」

だからその人の話をするときに暗い表情をしていたんだ。

「あ、あの、ごめんなさい!嫌なことを聞いてしまって……」

「謝らなくて良いわ。私が勝手に話した事だから」

「で、でも」

その作ったような笑顔が、なぜだか提督が無理をしているように感じて納得がいかない。

「いいの。この話はここでお仕舞い」

そのまま、他に何か聞きたい事はある、と言われればそれ以上謝ることができなくなってしまった。

「……いえ、もういいです」

納得はいかないけれど、これ以上提督に嫌な思いをさせるのもイヤだから。

早く部屋から出ようと、そう答えた。

「じゃあ、私から聞いても良いかしら?」

だけど返ってきた言葉は予想とは違っていて、さっきまでの暗い雰囲気を消した提督がわたしを見つめている。

「は、はいっ」

それがなんだか気恥ずかしくて。つい声がうわずってしまった。

「夢を見ていた……ってフェイトさんは言っていたわよね。その事を詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」

そう言ってわたしを見つめる瞳は真剣で、断ろうなんて気はまったく起こらなかった。

それに、そもそも断る理由もない。

だったら包み隠さず全て話してしまおう。

この人にだったら、それが許せる気がした。





「―――そう、そんな事が……」

それが静かに話を聞き終えた提督の最初の言葉だった。

「はい」

「……全て、あの人の思うままだったのかしらね」

提督が言っているのは母さんのことかな。

けど、思うままっていうのは何のことだろう?

「フェイトさん。聞いた所だとバルディッシュがプレシアさんの行動を記録しているみたいだけれど……よければそれも聞かせてくれないかしら」

一見申し訳なさそうに言うその姿だけど、どこか切迫した様子が感じられた。

わたしの勝手な考えだけど、今の提督は管理局の提督としてじゃなくて、一人のリンディ・ハラオウンとして知りたがっているように思う。

「わたしも、リンディさんとなら一緒に聞くことができると思います」

管理局への報告とか、そういったものを抜きにして。

夢の中で母さんは、短い言葉だけれどリンディさんのことも心配していた。

きっと母さんにとってリンディさんも大切な人だったんだろう。

アリシアにとってそうだったように。

わたしの呼び方の変化に気付いたのか、リンディさんも考える様子を見せた後、わたしを見る。

「頼みます」

リンディさんの返事を聞いて、胸元に待機状態のバルディッシュを持ってくる。

「バルディッシュ、夢の中で言っていた『伝えたいこと』を教えて欲しい」

『Yes sir. Displays it.(表示します)』

バルディッシュの返事とともに空中に現れるモニター。

「これは……映像データ?」

わたしとリンディさんの疑問に答える間もなく、バルディッシュは言葉を続けた。

『Reproduction.(再生します)』





『――――ねえフェイト。聞こえている?』

息を呑んだのは、誰だったろう。

バルディッシュが空中に映し出したモニターには椅子に座っている母さんが映っていた。

『最初に言っておくわね。ごめんなさい、フェイト。私はあなたに酷い事をしてしまったわ』

バリアジャケットも着ていないその姿はわたしが見たことがないくらい穏やかで。

目を奪われ、言われたことを飲み込むのに時間がかかってしまった。

『大嫌いなんて言ってごめんなさい。言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど――』

ああ、本当に。

『――本当は、愛しているわ』

姉さんの言っていたことは本当だったんだ。

それが、嬉しくて。

もしかしたらってずっと思っていた。

あれはわたしを説得させるための嘘だったんじゃないかって。

わたしを抱いてくれた記憶だって、本当はアリシアの物だったんじゃないかって。

……だけど、違った。

母さんがわたしに、フェイトに「愛している」といってくれた。

もう居ない母さんだけど、愛しているって言ってくれたんだ。

『私はあなたに母らしいことなんて何一つ出来なかったけど、あなたは私を母と呼んでくれた。それがどれだけ嬉しかったか』

喜びで涙が止まらない。

……わたし、本当に泣き虫だな。

またアリシアに心配かけちゃうよ。

一緒に居るリンディさんのことすら気にせず、涙が頬を伝っていった。

『あなたは残り少ない私の人生を照らしてくれた』

そう言われて気付いた。

――母さんの顔色が、異常に悪いことに。

今まではこれが普通だと思っていたけれど、夢で見た母さんと比べたら明らかにおかしい。

母さんは、あの時もう……。

『私は何も応えてあげることは出来なかったけど、それを、感謝しています』

リンディさんの言っていた「思うままに」というのは、わたしのことだったのだろうか。

全てはわたしをリンディさんに預けるため。

もう命が短かった母さんはそのためにあの事件を?

思い上がりなのかもしれない。

だけど、母さんがそうしてくれたのならわたしは……。

空中に浮かぶディスプレイを見ていると、不意に画面がぶれた。

「バルディッシュ……?」

不思議に思いバルディッシュに声をかけてみたけど、返事はない。

『もし聞いているのなら、リンディ』

そう思っている間に映像は元に戻っていた。

……リンディさんが居るから、バルディッシュが操作したの?

『リンディ、私は良い母親にはなれなかった』

語り始めたのはリンディさんへの……後悔?

『私はあの人とアリシアを喪ったときに全てに絶望した。それでも縋るような思いで違法研究に手を出した。その結果としてフェイトが生まれた』

エイミィさんが言っていた、アリシアと父さんが殺された事件。

淡々とした口調で語られているけど、母さんの表情は暗い。

『アリシアと違うフェイトに戸惑ったけれど、どのみちその時にはもう私は体までボロボロだった』

管理局のデータベースを見せてもらって知ったけど、母さんはずっと執務官として働いていた。

もちろん経歴を見たって生命操作技術なんて習ってはいなかった。

1から研究を始めた母さんは、どれだけの苦労をしていたんだろう。

20年以上も、そんなことを続けていたから体を壊してしまったのだろうか。

……それとも、自分のことなんか気になんてしていられなかったの?

『思いついたのはフェイトを無視すること。そうすればフェイトは私が居なくなっても悲しまないと思ったから』

だからリニスにわたしを任せて、いつも悲しそうな顔で一人だったの?

……そんなの、悲しいよ。

『……それが正しかったのか、私には分からないのだけれどね』

わたしには母さんの行動が正しかったかどうかなんて分からないけど、人が悲しむからって、自分が一番悲しい思いをするなんてそんなの悲しすぎるよ……。

……母さんと一緒に居たかったと思うわたしは間違っているのかな。

『貴女は私と違って、夫を……クライドを喪っても絶望することはなかった』

クライドさん。

さっきリンディさんに尋ねた人の名前だ。

それがリンディさんの夫……つまり、クロノのお父さん?

……リンディさんも、そんな経験を……。

『それが羨ましく思うし、もう貴女は私の手の届かない所に居るんだなと思ったわ』

横目でリンディさんを見る。

泣きそうなのを堪えているのがのがわたしの目からもわかることができた。

何を想っているのかはわからないけれど、リンディさんにとっても母さんという存在が大きかったんだとなんとなく分かった。

『リンディ。教え子としてではなく、一人の母親、リンディ・ハラオウンとして貴女にフェイトの事を頼みます』

え、と思う。

じゃあ本当に母さんはわたしをリンディさんに預けるために……。

『……最後までごめんね、リンディ』

画面の中の母さんはそれだけ言って、映像は終了した。

「肝心なときは、いつもそればっかりなんだから……」

小さな声で呟いたリンディさんの言葉をわたしは聞き逃さなかった。

そこにどんな感情が込められていたのかは、わたしなんかじゃ分かりようがないけれど。

……また、さっきと同じように画面がぶれる。

やっぱりバルディッシュが操作してるんだ。

……誰がそうするように頼んだのかは予想できる。

……一人で泣くのは後でできるから。

今は母さんの言葉を一言も聞き逃さないようにしなきゃいけないんだ。

また映像が動き出す。

『……ねえ、フェイト。あの高町なのはという子とは仲良くやっているかしら?』

「うん……」

『あなたは遠慮がちだけど、優しい子で、可愛いんだから。もっと自信を持って積極的に生きなさい』

積極的に……。

それがどういう生き方なのかわたしには分からない。

けれどきっと良いことなのだろう。

じゃないと、母さんもこんな泣きそうな顔をしながら言わないはずだから。

『フェイト。ご飯はきちんと食べてる?』

「……うん」

『あなたは食が細いから。しっかり食べなきゃ身体に悪いわよ』

庭園でいつもわたしは一人で、アルフがわたしの使い魔になってからは二人、リニスをいれても三人だけで食事をとっていた。

母さんはいつもそこには居なかった。

……そのはずなのに、母さんはわたしが小食なことを知っていた。

――見ていてくれた……見ててくれていたんだ……!

わたしが気がつかないように、母さんがわたしから愛されないように……。

一人で苦しみながら、わたしを見ていてくれていたんだ……!

『フェイト。今、楽しい?』

「……うんっ」

母さんはいないけど、アルフがいて、なのはがいて、リンディさんがいて、クロノやエイミィさん、ユーノや学校のみんなもいる。

みんなみんな優しくて。

わたしはそれに甘えてばかりだけど、今ははっきりと楽しいって言えます。

……だから、安心していてください。

『あなたの人生には辛いこと、こんなはずじゃなかったことがきっと沢山ある』

それは多分わたしも想像できないようなことなんだろう。

……そんな時に、わたしはどうすればいいのだろう?

『だけど、あなたは私と違って真っ直ぐに生きなきゃ駄目よ。あなたは、私と違って悲しみなんて似合わないから……』

真っ直ぐ……。

母さんの言うような予想もできない、道標のない人生でそれは難しいことなんだろう。

けど、それを忘れなければ叶う気がするから。

何よりも、母さんが願ってくれている。

それがわたしの背中を支え、時には押してくれる気がするから。

『フェイト…………あなたともっと話がしたかった、あなたともっと一緒に居たかった』

わたしも……あの夢のように母さんと一緒に居たかった。

けれど、もう母さんは居ないんだ。

そのことは悲しいけれど、わたしが泣いてちゃ母さんもアリシアも悲しんじゃうから。

涙は、流しません。

『でもね、フェイト。私の愛しい娘。私はいつもあなたを見守っているわ』

きっと母さんだけじゃなくてアリシアも、リニスも。もしかしたら父さんだって。

母さんの言葉を聞くだけで心が家族の想いで満たされていく。

母さんが作った絆が、母さんの言葉を通してわたしに繋がるみたいに。

それは、わたしも母さんたちと同じ家族なんだと教えてくれて。

『ううん、私だけじゃない。アリシアも、リニスも――――、こっそりと見守っていると思うわ』



だから――



『だからね、笑っていて、フェイト。私たちはいつだってそれを願っているから……だから……だからね、フェイト』



だからこんなにも――



『あなたの未来が、幸福で満ち溢れていますように――――』



――――わたしの心に響くんだ。










「なんで……なんで貴女はいつも……ッ、そうやって一人で抱え込もうとするんですかッ!?」

わたしがじっと映像が終わったディスプレイを見つめていたとき、リンディさんがそう叫んだ。

「どうして……どうして……!」

うつむいたまま、手を強く握りしめている。

「リンディさん……」

失礼かもしれないけど、その姿を見てわたしは何かすっきりしたような気がした。

リンディさんが言ったことは、わたしも持っていた想いだ。

母さんは自分に厳しい……厳しすぎるんだ。

もしいま目の前に母さんがいたら、きっとわたしも同じことを言っていた。

それにリンディさんの頬に光る物がある。

……あれは誰かを想って流す涙だ。

「……ごめんなさい。見苦しいところ見せちゃったわね」

そのまま暫くして落ち着いたのかリンディさんが涙を拭ってそう言った。

「ううん。言いたかったことをリンディさんが言ってくれたおかげで、わたしもすっきりしました」

「……そう」

わたしの言葉を聞いたリンディさんは、なんだか不思議そうな顔になった。

「……フェイトさんは泣かないの?」

「わたしが泣いたら母さんが困っちゃうから」

本当は泣いてしまいたいけど、それじゃあ駄目。

だって、そんなんじゃ母さんが……。

「……そうね。けど嬉しいとき、悲しいときは誰かと一緒に泣いても良いのよ」

――貴女は、一人きりじゃないんだから。

「――――っ」

母さんの声が聞こえた気がした。

そうだった。

わたしは一人じゃない。

いろんな人に支えられながら生きているんだ。

……わたしは誰かに頼ってもいいのかな。

……わたしは泣いてもいいのかな?

「わたしは……」

「一人で何もかも溜め込むなんて、あの人だけの特権なんだから……。貴女は……泣いても良いのよ」

ずっと一人で、死ぬまで一人きりだった母さん……。

わたしはそんな母さんの涙を見たことはない。

強情なまでに一人でやり通す。

……それが、母さんの言った悲しみなのだろうから。

「……母さん」

わたしは、泣いてもいいんだ。

それに気づいてしまえば後は泣くだけだった。



『Image data is attached.(画像データが添付してあります)』

わたしが泣きやんだのを見計らって、バルディッシュが言葉を発した。

映し出されたのは二枚の写真。

「あっ……」

一枚目の写真は、眠っている小さなわたしを抱いている母さんとリニスが写っている写真。

わたしは母さんと写真を撮った記憶はない。

……わたしが気づかないように、こんな風にわたしが寝ている間に撮ったのかな。

夢の中で言われたあの言葉を思い出させる姿にまた涙が溢れそうになってしまう。

二枚目はどこかの緑におおわれた丘のような所で、母さんと父さんを中心にアリシアと猫のリニス、それと緑色の髪をした女の子と黒色の髪のクロノに似た男の子が写っている写真。

みんなが笑顔で写真に写っている。

これ……リンディさんたちとの……。

「これは……」

「リンディさんの写真……?」

わたしの言葉にリンディさんは応えない。

ただ懐かしむように、悲しむように写真を見つめていた。

『Another message is kept for two. (お二人に向けてのメッセージがもう一つあります)』

写真を映したままバルディッシュが続ける。

『Genuine Alicia is sleeping in the grave. Please go to meet. (本当のアリシアは墓で眠っています。どうか会いに行ってあげて下さい)』

え……?

だったらあの時、母さんがアリシアと呼んでいた培養槽に入っていたあの少女は……?

「……あの子は自我の生まれなかった子だったの?」

だったら、母さんと一緒に落ちていってしまったあの子はアリシアじゃなくて、わたしと同じプロジェクトFで生まれた子。

わたしと違ったのは、意識があったかどうかだけの子だ。

「あれは演技……本当に、あの人は……」

「……会いに行きましょう」

アリシアと父さんにきちんと会いに行かなきゃ。

――リンディさんも、連れて。

「……そうね」

リンディさんがそう答えるのを聞いて、わたしは自分の頬が緩むのを感じた。

「……そういえば」

わたしを見ていたリンディさんが、ふと思い出したように口を開いた。

「話は変わるけど例の件、答えは出た?」

なんだろう、と思ったけど、少し考えたら気がついた。

以前わたしの裁判が行われている合間に言われた、リンディさんの養子にならないかという話だろうか。

……今まで答えがでなかったけど、今なら言える。

「……はい」

想いを形にして、はっきりと口にしよう。

「母さんは、わたしにリンディさんと幸せに暮らして欲しいと言いました」

そのためにあんな事件を起こして、こんな形でわたしとリンディさんを引き合わせたんだと思う。

だけれど……。

「でも」

一息ついてから言葉を続け――



「養子の話は断らせてください」



――そう言い切った。

「訳を聞かせてもらってもいいかしら?」

そんなの決まっている。これからも何度だって言える。

「わたしの母さんは、プレシア・テスタロッサしか居ませんから」

多分、わたしは今笑えているのだろう。

「そう……やっぱり勝てないわね」

それは誰に向けての言葉だったのか。

ただ、リンディさんは納得をしたように微笑みを浮かべていた。

「そうね。フェイトさんがそう決めたのなら無理強いはしないわ」

「あ……でもリンディさんやクロノのことは嫌いじゃなくて、むしろ好きというか……」

これだけは言っておきたい。

母さんを慕って、慕われている人を嫌えるわけがない。

リンディさんは多分わたしにもっとも近い人だ。

さっきはああ言ったけど、そんなリンディさんとわたしは家族になりたいと思っている。

だけどその距離感は家族は家族でも、姉妹のようなものだと感じてしまうんだ。

……これはアリシアの記憶の影響なのかな。

アリシアにとって、リンディさんは『お姉ちゃん』だったのだから。

「あらあら、告白かしら?」

そう返されて、自分が言った言葉の意味に気づいた。

昔リニスに教えられたことを思い出す。

今わたしが言ったのは……その、誰かに告白するときに使う言葉だったんじゃ……。

「ふぇ?! ち、違います!!」

「ふふ、わかっているわよ」

わたしをなだめるように、そんな風に言われて落ち着いた。

……わたし、リンディさんにからかわれただけ?

「あうぅ……」

少し恨みがましい目で見ると、リンディさんはどこ吹く風といったように余裕の笑みを浮かべていた。

……そんなとき、急な念話が聞こえてきた。

『フェイトちゃんっ!』

『な、なのは?! いきなりどうしたの!?』

タイミングと、聞こえる音の大きさにびっくりしてしまった。

返せた言葉もなのはには多分驚いているように聞こえたと思う。

『ふぇ? そんなに驚いてどうしたの?』

『な、なんでもないよ。ただいきなりでちょっと驚いちゃっただけ』

マルチタスクを使ってリンディさんに目を向ける。

リンディさんもそれに気づいたのか小さくうなずいた。

どうやらリンディさんにもこの念話は聞こえているみたいだ。

『にゃはは、ごめんごめん。あ、聞いてフェイトちゃん!』

なんだろう。

なのはの声がどこか嬉しそうだ。

『どうしたの、なのは?』

『さっき病室のはやてちゃんから会いたいって連絡がきたの!フェイトちゃんも早くいこ!』

はやて……そっか、もう大丈夫なんだ。

あ、でもまだリンディさんと話が……。

「行ってあげなさい。大丈夫よ、時間ならいつでもつくれるんだから」

「……はい!」

ありがとうございます。

そんな想いを乗せてリンディさんにおじぎをする。

『うん。今行くよ、なのは!』

ふと、もう一度母さんの写真を見る。

母さん。

わたしはまだ歩き始めたばかりです。

嬉しいことも、悲しいことも。

生きて生きて、最後まで歩ききった時に母さんに伝えたいと思います。

だからそれまでは見守っていてください。

そして、そのときが来たら言わせてください。

――ありがとう、ただいま。

「それとフェイトさん」

部屋から出ようと後ろを向いたわたしに、声がかかった。

振り向いて見たリンディさんの顔は、本当に晴れやかで。

「――よかったわね」



「――はいっ!」





「ふふ、いつかお義母さんとでも呼ばれてみようかしら」

駆け出したわたしの背中で、そんな声が聞こえたような気がした。



















――――――――フェイト、お幸せに――――――――




















                    ――――あるTS転生者の想い























あとがき

お待たせしました。今回で完結です。

一ヶ月ちょいほどちまちまと書いて、漸く完成にこじつける事が出来ました。

……完結したら、チラ裏から出なければならないのでしょうか。

以下、本編には関係しなかった隠し設定のような物を一応書いておきます。



・ ジェイル・スカリエッティ

プレシアがアリシアを喪った後に接触。

当時まだ少年と言っていい年頃だったが、既にその道では名を挙げていた。

プレシアが上司から提供された物証を元に居場所を突き止める。

プレシアに対する評価は人生で初めて個人的な興味を持った人間。

将来のスカリエッティへ向けての娘(スカ視点ではアリシア)の事を語るプレシアの発言に矛盾を感じる(精神的に不安定なプレシアの中でアリシアとフェイトが混合していたため)が、面白いの一言で受け止める。

ウーノにプレシアの個体情報が使われている設定も面白いかもしれない。

PT事件後、同一人物を生み出すためのプロジェクトFは不可能としたレポートを管理局側に提出する。

そこにどんな思惑があるのかは当人にしか分からない。


・ 最高評議会の面々

時空管理局設立にも大いに関わっただろう脳味噌3人組。

知識不足のせいかほとんど情報がなかったのでプロットの段階でかなりの改変を加えた。

彼らが現役で活躍していたのは戦争が絶えない時代で、その中で秩序を生み出そうと志した人達。

次元世界を平定するぐらいだから正義感は人一倍強かったはず。

秩序のために必要となる組織というものを存続させなければならない現状と、自分たちの求める理想との相違に苦悩する。

組織として肥大し過ぎたた状況に、戦力不足を補うために幼い少年少女を管理局で採用できるようにしたのも彼ら。

なお、根強く残るその案件に対する反対意見を幼いころから活躍していたプレシアを管理局の広告塔として祭り上げる事で封殺することに成功した。

その結果プレシアがマスコミに触れる機会が増え、同時に犯罪者の目に留まる事も増えることで明確な恨みの対象になりやすい環境になったといえる。

殺人事件後プレシアの辞表を受理させたのも彼ら。

根が良い人達なので責任を感じたらしい。

再び同じような事が起きないよう、その後管理局内の個人情報に強い報道規制を行った。

この世界ではなのはの『エースオブエース』という呼称も一般には広がらないだろう。

人の姿を捨ててでも生き残ろうとするのは組織のために作り出した数々の犠牲に対する責任感からくる義務感。

世界の秩序を願えば願うほど泥沼に嵌っていく。

ある意味、プレシアの人生を左右した人物達である。


・ 闇の書事件

リリなの過去話で定番のネタ。

恐らく十~数十年周期で発生していると思われるので話に非常に組み込みやすい。

何より原作キャラを動かせるのは美味しい。

プレシアがシグナムあたりと面識があればフェイトとのことでこの先も話のネタにできただろう。


・ 伝説の三提督

やはり情報不足。

三人居る内の一人ぐらいはプレシアの上司にしようと考えた。

プレシア+10歳ぐらいを目処にキャラ作りをするつもりだった。

全員18歳以上で管理局には入局した。


・ レジアス・ゲイズ

管理局のアイドル(プレシア)にドキドキした元少年1。

娘のオーリスに丁寧に保管されている秘蔵の写真集(プレシア特集)を発見され白い目で見られたことも。

そんだけ。


・ ゼスト・グランガイツ

レジアスから勧められた管理局のアイドルの写真集(プレシア19歳)を見てドキドキした元少年その2。

やっぱそんだけ。


・ エリオ・モンディアル

プレシアがプロジェクトF技術の情報を拡散していないため原作のようには生まれず。

生まれるとしても記憶のない形だけの少年に。

JS事件の難易度がアップします。



なお英語の翻訳にはエキサイト翻訳等を使用しています。

多少おかしな所があっても見逃していただければと。(誰か英語できる人助けて!)

さて、今回で一応の完結の形となりましたが、実は蛇足的な『逆行物』を書いてたり…。

まぁ蛇足は蛇足です。ある程度見れるものにならないととてもじゃありませんがお見せできません。

余韻というものもありますしね。

一応言いますと、このプレシアが足掻いた世界はここから変わっていきますので。

それがどんな形になっていくのか。

続くのならばそれを裏設定もふまえた上でどうにかしてみようかな、と。

それではここらへんで。

では!


※追記

感想板でご指摘のありました英文と、「ひょっこり」という表現を訂正いたしました。

ウシトコ様、風待様、因果丸様を始めご指摘して下さった方々に感謝です。

※さらに追記

もう一つ誤字がありましたので修正を。

三輪車様、ありがとうございます。


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