第1話 出会い
炎が吹き荒れ、辛うじてが崩れ落ちるのを耐えている家。そんな状況下、全てを焼き尽くさんばかりの炎をもの中、一人の男が居た。
髪は焦げ、肌も焼けている。焦げた服の端はいまだ小さな火が燻っていた。
遅々とした足取りではあるが出口へと向かっている。右腕はだらりと垂れ下がってピクリとも動く様子がない。
そして、火に焼かれ木材が割れた音がして、崩れ落ちた天井に男は押しつぶされた。
夢を見ていた。
見渡す限り火の海で、炎が四方を覆い尽くしていた。
家族が倒れている。動いているものは自分以外にはいない。
体が熱い。体が痛い。
燃え盛る炎で、崩れてきた柱で、もう体を満足に動かせる状況ではなかった。
もう動かないはずの家族のうめき声が聞こえた。
燃え上げる火の音が、悲鳴を上げつ柱の音が、うめき声を塗りつぶしてくれた。
しかし見てしまった。目に映ってしまえば理解も出来る。
助けてくれと。
死にたくないと。
そう訴える家族の横をすり抜け、その全てを無視して出口へと向かった。
助けることなど出来ない。
そんな余裕など無い。
むしろ俺だって、誰かに助けて欲しかった。
そして、天井が俺に向かって崩れてきたとき、光に包まれた。
SIDE:???
「目覚めたかい」
夢から覚め、重いまぶたを何とか開けて、初めて耳にしたのはそんな言葉だった。
そこはそう広くはない部屋。白塗りの壁と天井。かすかに香る薬品の匂い。病院のような、それに近い場所であることは分かった。
自分が寝かされているのはベッドであり、そのすぐ横、椅子に腰掛けた青年が自分に声を掛けたのだろう。
Tシャツにジーンズというラフな格好で、おそらく十代の後半から二十代といったところ。
髪は短く刈られ顔つきは精悍、その体は細身ながら引き締まって逞しい。
「ちょっと待っていてね。医者を呼んでくるから」
返事をしようとするが舌が上手く回らない。
「あの、こ、こは、どこでしょ? お、れは、一体どうしたので、すか」
青年は哀れむかのような視線を向けた後、答えた
「ここは麻帆良の麻帆良大学病院だよ。君は家が火事になってここに運ばれてきたんだ、憶えてないかい?」
「へ?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
まぁ火事が有ったのは憶えている。
しかし「マホラ」とは何だろう?
近所にそんな場所はなかったし、そんな地名にも聞き覚えはない。
唯一あるとするならば、マンガで見たことが有るけど……
頭から沢山の?マークを出しながら頭をひねっていると、青年が医者を引き連れ戻ってきた。
どうやら俺は火事にあってから、3日間眠り続けていたらしい。
そしてこの青年は、なんと現場から俺を救い出してくれた人というではないか。
まぎれもない命の恩人である。感謝、感謝。
「ちょっと何個か質問させてね」
「あ、はい」
水を飲んで舌も上手く回るようになった。
医者の質問に答えていく。
「今日が何日かわかるかな?」
「2009年の10月21から3日だから……24日です」
「……」
「……」
あれ、医者も青年も黙り込んでしまった。
「……名前は分かる?」
「山内 理雄(やまうち りお)です」
「……どうも事故による記憶の混乱が見られるようですね」
「ええ……」
何やら深刻な顔で、言葉を交わす医者と青年。
おいおい、俺なんか変なこと言ったか?
「また後で来るから、ゆっくり休んでおくといいよ」
そう言うと、医者は青年に「向こうで少し話が…」と声をかけると出て行ってしまった。
青年もそれに着いていく。出かけざまに
「とりあえず横になるといいよ。やよ……お嬢ちゃん」
そう言うと、部屋を後にした。
……お嬢ちゃん?
今まで気にしてもいなかったが、自分の体を改めて観察する。
……なんかちっさい!?
ガバッ
焦りに顔を歪めて、自分の股間を弄る。
―― 無い ――
「んんんんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
あらん限りの絶叫を上げた。
その後飛び込んできた医者らに宥められながらも、半狂乱で暴れ続け
鎮静剤を打たれた俺は、意識を手放したのであった。
それから数刻後、目を覚ました俺は再度自身の身体を見渡し、一通り弄り
「ふふっ……」
何かを悟った顔で、笑みを漏らした。
その時頬を伝った液体は涙ではないと信じたい。
それからさらに数刻後、命の恩人である青年が部屋に来た。
「やあ、落ち着いたかい?」
「はあ、何とかですけど……」
力なく笑う俺に、何やら心配げだ。
しかしこのすさまじい喪失感には慣れる事などできはしない。
「ええと、リオ……ちゃんでいいのかな?」
「はい」
ちゃん付けか、まあ現在の見た目は完全に幼女であるためしょうがない。
「僕の名前も、教えておくよ」
「あ、はい。なんていうお名前ですか?」
現状はよく分からないが、命の恩人だ。名前ぐらいはしっかり聞いておきたい。
「僕の名前はタカミチ。タカミチ・T・高畑だよ」
「…………なにぃぃぃぃぃ!!」
本日二度目の絶叫を上げた俺の部屋に数人の医者が飛び込んできたが、今度はお注射されずに済みました。
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後書き
初めまして、青人です。
まずは読んで頂いてありがとうございます。
本作は基本主人公視点で進みますが、ちょくちょく視点が変わります。
読みにくくならない程度にしたいと思いますが、温かい目で見てください。
ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。