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[15881] この世界で生きていく(憑依・性別反転・原作キャラの養子)
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/25 05:10

本作の概要は下記の通りです。

 現実→ネギまの憑依オリ主物。
 性転換、原作キャラの養子。
 日常&シリアス、後にバトル。
 本編十年ぐらい前からスタート。

注意事項として

 出来る限り原作設定を生かしたいですが、独自設定も多数。
 主人公最強ものではありません。
 序盤は特に3-Aのキャラが出てきません。

などがあります。
以上のものが嫌な方は引き返してください。

それでも読んでいいという方、もしくは駄文を読んで精神修行をしたい方は、お付き合いください



[15881] 第1話 出会い
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/27 02:18
第1話 出会い


 炎が吹き荒れ、辛うじてが崩れ落ちるのを耐えている家。そんな状況下、全てを焼き尽くさんばかりの炎をもの中、一人の男が居た。
 髪は焦げ、肌も焼けている。焦げた服の端はいまだ小さな火が燻っていた。
 遅々とした足取りではあるが出口へと向かっている。右腕はだらりと垂れ下がってピクリとも動く様子がない。
 そして、火に焼かれ木材が割れた音がして、崩れ落ちた天井に男は押しつぶされた。

 夢を見ていた。
 見渡す限り火の海で、炎が四方を覆い尽くしていた。
 家族が倒れている。動いているものは自分以外にはいない。
 体が熱い。体が痛い。
 燃え盛る炎で、崩れてきた柱で、もう体を満足に動かせる状況ではなかった。


 もう動かないはずの家族のうめき声が聞こえた。
 燃え上げる火の音が、悲鳴を上げつ柱の音が、うめき声を塗りつぶしてくれた。
 しかし見てしまった。目に映ってしまえば理解も出来る。
 助けてくれと。
 死にたくないと。
 そう訴える家族の横をすり抜け、その全てを無視して出口へと向かった。
 助けることなど出来ない。
 そんな余裕など無い。
 むしろ俺だって、誰かに助けて欲しかった。
 
 そして、天井が俺に向かって崩れてきたとき、光に包まれた。




SIDE:???

「目覚めたかい」

 夢から覚め、重いまぶたを何とか開けて、初めて耳にしたのはそんな言葉だった。

 そこはそう広くはない部屋。白塗りの壁と天井。かすかに香る薬品の匂い。病院のような、それに近い場所であることは分かった。
 自分が寝かされているのはベッドであり、そのすぐ横、椅子に腰掛けた青年が自分に声を掛けたのだろう。

 Tシャツにジーンズというラフな格好で、おそらく十代の後半から二十代といったところ。
 髪は短く刈られ顔つきは精悍、その体は細身ながら引き締まって逞しい。

「ちょっと待っていてね。医者を呼んでくるから」

 返事をしようとするが舌が上手く回らない。
「あの、こ、こは、どこでしょ? お、れは、一体どうしたので、すか」

 青年は哀れむかのような視線を向けた後、答えた

「ここは麻帆良の麻帆良大学病院だよ。君は家が火事になってここに運ばれてきたんだ、憶えてないかい?」
「へ?」

 思わず間の抜けた声を出してしまった。

 まぁ火事が有ったのは憶えている。
 しかし「マホラ」とは何だろう?

 近所にそんな場所はなかったし、そんな地名にも聞き覚えはない。
 唯一あるとするならば、マンガで見たことが有るけど……

 頭から沢山の?マークを出しながら頭をひねっていると、青年が医者を引き連れ戻ってきた。



 どうやら俺は火事にあってから、3日間眠り続けていたらしい。
 そしてこの青年は、なんと現場から俺を救い出してくれた人というではないか。

 まぎれもない命の恩人である。感謝、感謝。

「ちょっと何個か質問させてね」
「あ、はい」

 水を飲んで舌も上手く回るようになった。
 医者の質問に答えていく。

「今日が何日かわかるかな?」
「2009年の10月21から3日だから……24日です」

「……」
「……」

 あれ、医者も青年も黙り込んでしまった。

「……名前は分かる?」
「山内 理雄(やまうち りお)です」


「……どうも事故による記憶の混乱が見られるようですね」
「ええ……」

 何やら深刻な顔で、言葉を交わす医者と青年。
 おいおい、俺なんか変なこと言ったか?

「また後で来るから、ゆっくり休んでおくといいよ」
 そう言うと、医者は青年に「向こうで少し話が…」と声をかけると出て行ってしまった。

 青年もそれに着いていく。出かけざまに
「とりあえず横になるといいよ。やよ……お嬢ちゃん」

 そう言うと、部屋を後にした。


 ……お嬢ちゃん?


 今まで気にしてもいなかったが、自分の体を改めて観察する。


 ……なんかちっさい!?


 ガバッ
 焦りに顔を歪めて、自分の股間を弄る。


 ―― 無い ――


「んんんんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
 あらん限りの絶叫を上げた。

 その後飛び込んできた医者らに宥められながらも、半狂乱で暴れ続け
 鎮静剤を打たれた俺は、意識を手放したのであった。




 それから数刻後、目を覚ました俺は再度自身の身体を見渡し、一通り弄り

「ふふっ……」

 何かを悟った顔で、笑みを漏らした。
 その時頬を伝った液体は涙ではないと信じたい。




 それからさらに数刻後、命の恩人である青年が部屋に来た。
「やあ、落ち着いたかい?」

「はあ、何とかですけど……」
 力なく笑う俺に、何やら心配げだ。

 しかしこのすさまじい喪失感には慣れる事などできはしない。

「ええと、リオ……ちゃんでいいのかな?」

「はい」
 ちゃん付けか、まあ現在の見た目は完全に幼女であるためしょうがない。

「僕の名前も、教えておくよ」

「あ、はい。なんていうお名前ですか?」
 現状はよく分からないが、命の恩人だ。名前ぐらいはしっかり聞いておきたい。

「僕の名前はタカミチ。タカミチ・T・高畑だよ」

「…………なにぃぃぃぃぃ!!」

 本日二度目の絶叫を上げた俺の部屋に数人の医者が飛び込んできたが、今度はお注射されずに済みました。



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後書き


 初めまして、青人です。
 まずは読んで頂いてありがとうございます。

 本作は基本主人公視点で進みますが、ちょくちょく視点が変わります。
 読みにくくならない程度にしたいと思いますが、温かい目で見てください。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第2話 出会い タカミチ視点
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/27 02:18
第2話 出会い タカミチ視点


SIDE:タカミチ・T・高畑

 僕が教員免許を取るために、大学へ通っていたある日。
 その通学途中で、火災現場に遭遇したのが始まりだった。

 火の勢いは相当なもので、すでに家中に燃え移っている。
 消防隊はまだ来てなくて、中の人はだれ一人として救出されていないようだった。

 現場を見るに、もう助からないのではと思ったけど、
 燃え盛る炎の中から、一瞬子供の泣き声が聞こえた瞬間、僕は家に飛び込んでいた。

 魔法で身体を覆い家の中を捜すと、崩れた瓦礫の向こうに泣きじゃくる女の子を見つけた。
 その子は、瓦礫に半身を押しつぶされて動かない母親の前で、唯々泣いていた。

「大丈夫かっ!」

 瓦礫を越え女の子に声をかけると、安心したのか、それとも限界だったのかそのまま意識を失ってしまった。
 母親はとうに死んでいる。

 死体だけでも運び出してあげたかったけれど、家全体が今にも崩れそうだった為、やむなく女の子だけを抱えて脱出した。

 その後女の子を麻帆良大学病院へと運んだ後、学園長のもとへ向かった。
 人命救助という理由はあるけど、麻帆良の外で魔法を使ってしまったんだから、報告は行わないといけない。

 結果だけ言うと、特にお咎めなしだった。
 誰かに見られたわけでもないしね。




 翌日、女の子の様子を見に病院へ行ってみた。
 どうやらまだ目覚めてないようだ。

 医者の話では、外傷は軽度の火傷のみで特に異常は無いらしい。
 近いうちに目を覚ますだろうということだ。

 しかし問題は家族だ。

 女の子の名前は篠岡 弥生(しのおか やよい)4歳
 家族構成は両親と兄が一人。
 全員が火事で亡くなってしまっている。

 しかも母親は孤児院の出身であるため、両親はおらず
 父親の両親もすでに他界している。

 親戚も居ない為に、彼女は天涯孤独の身となってしまったのだ。

 結局この日は彼女、弥生ちゃんは目を覚まさず、僕は病院を後にした。




 そして次の日も弥生ちゃんは目を覚ますことはなかった。

『このまま目を覚ますことは無いんじゃないか?』
 そんな不安が頭をよぎる。

 いや、そんな筈はない。
 僕は頭を振って悪い予感を吹き飛ばし、次の日も病院へ向かった。

 変わらずベッドで眠り続ける弥生ちゃんを見る。

 頬に張られたガーゼが痛々しいが、年相応の可愛らしい顔をしている。
 将来は美人になるであろう顔つきだ。

 肩ほどの長さで切りそろえられた濡れ羽色の髪は、艶やかで撫で心地がよいだろう。

 そんな彼女が目を覚ました時、どんな顔をして家族がもういないなんて事実を伝えられるだろう。
 自分も戦災孤児だった経験があるせいか、とても他人事とは思えない。


「う…うぅん……」

 ッ! 気がついたっ!?
 息をのみ、弥生ちゃんを見ると微かに身じろぎした後、ゆっくりと目を開けた。

「目覚めたかい」

 ボンヤリと虚空を見つめて、現状を把握できていないであろう弥生ちゃんに声をかけた。
 変に騒ぎ立てず、落ち着かせるようにゆっくりと。

 僕を見て、ぐるりと部屋を見回した後、また僕を見た。
 まだボーっとしてるみたいだ。

 3日も寝ていたんだから当然か。先に医者を呼んできたほうがいいかもしれない。

「ちょっと待っていてね。医者を呼んでくるから」
 そう言って、部屋を出ようとすると

「あ、の、ここは、どこでしょう? お、れは、一体どうしたので、すか」
 3日も寝ていたせいか、上手く口が回らないのだろう。かわいそうに。

「ここは麻帆良の麻帆良大学病院だよ。君は家が火事になってここに運ばれてきたんだ。憶えてないかい?」
「へ?」

 何が意外だったのか、ポカンとした顔をしていた。

 というか、なんとも子供らしくない顔をするんだな。
 なにやら考え込んでしまった弥生ちゃんを置いて、僕は医者を呼びに行った。


 僕が医者を連れて部屋に戻ると、弥生ちゃんはまだ何か考え込んでいた。

 医者から火事にあった事、3日間眠り続けていた事、僕が助けた事などを聞くと

「ありがとうございます」
 とお礼を言ってきた。キチンと頭を下げて。

 しっかりした子だ、親の教育が良かったんだろう。
 でもその親が……

「ちょっと何個か質問させてね」
「あ、はい」

 勝手にブルーな気持ちになってると、医者が弥生ちゃんにいくつか質問をしだした。
 しかし、その結果は僕らを驚かせるものだった。

「今日が何日かわかるかな?」
「2009年の10月21から3日だから……24日です」

「……」
「……」

 何とも言葉が出なかった。
 現在は1992年の4月である。

「……名前は分かる?」
「山内 理雄(やまうち りお)です」

 また何とも言葉が出なかった。

 彼女の名前は篠岡 弥生である。
 警察でも確認されたので間違いはないはずだ。

「……どうも事故による記憶の混乱が見られるようですね」
「ええ……」

 医者は時間をおいたほうが良いと判断したらしく、一度部屋を出て行った。
 その際に、「向こうで少し話が…」と言っていた為、僕も続く。

「とりあえず横になるといいよ。やよ……お嬢ちゃん」

 部屋を出る前に一声かけたが、思わず弥生ちゃんと呼びそうになってしまった。
 とりあえずお嬢ちゃんと呼びなおして部屋をでる。



「おそらくは火事による記憶の混乱だと思いますが、再度精密検査を行おうと思います」

「はい、私もそのほうが良いと 「んんんんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」っっ!! 」

 廊下で医者と話しだした直後、部屋から尋常じゃない叫び声が聞こえた!

「弥生ちゃんっ!!」

 慌てて部屋に飛び込むと、弥生ちゃんが「ないっ、ないぃぃぃっ!!」と叫びながら、暴れている。

 落ちつけようと試みても、ちっとも落ち着く様子はない。
 結局、駆けつけた別の医者に鎮静剤を打たれるまで、弥生ちゃんは無い無いと叫びながら暴れ続けていた。

 何が無いんだろうか?



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 今回は1話のタカミチ視点のお話でした。
 最初のほうなので、なるべく丁寧に描写したいのですが、出来てるかどうかは分かりません。

 あとタカミチは教師になるので、大学には当然通ってると思います。
 しかしそう考えるとタカミチが忙しすぎるんですよね。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第3話 現状整理
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/25 22:01

第3話 現状整理


SIDE:篠岡弥生?

 半狂乱になる程驚くことが立て続けに起きた日の夜。
 俺は現状の確認をしてみることにした。

 とりあえず今日知ったことの羅列(驚いた順)
  1.幼女になっている
  2.どうやら俺がいた世界とは別の世界に居るらしい
  3.しかもネギま!の世界っぽい(ネギま!?の可能性もある)
  4.こっちの世界でも火事にあっていて、家族も全員死んでしまっている
  5.というか親戚も居ないので天涯孤独だ
  6.こっちの世界での名前は篠岡 弥生らしい
  7.つーかさっきのタカミチじゃん

 最後のほう何か変わっているが、おおよそこんな所だ。

 とりあえず問題なのは1番と2番か。あと地味に4番と5番。
 家族が死んでしまった事は悲しむべきだが、幼女化と別世界であることには適わない。

 幼女化と別世界である事は受け入れるしかない。というのが結論である。結局のところ。
 というか他に選択肢はない。

 昼間に取り乱したいだけ取り乱したせいか、驚くほどあっさりと受け入れることができた。
 となるとやっぱり地味にキツイのが4番と5番か……。

 しかし、これもどうしようもない事といえる。
 天涯孤独であることは変えようもないし、大人しく孤児院にでも行こう。

 ネギま!の世界だとしたら、そんなに殺伐とした事にはならないだろうし、違ったら違ったで何とかするさ。

 結局全ての問題を『どうしようもない』で片づけ、さっさと眠ることにする。
 なにせ幼女の身体のため、まだ9時半なのにすこぶる眠い。

 おやすみなさい。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 病院を出た後、僕は一人公園のベンチに腰かけていた。

 あの後、目を覚ました弥生ちゃんと話したがことごとくかみ合わない。

 日付の事、名前の事もそうだが、他にも家族構成を聞けば
「父と母と妹が一人です」
 と答える始末。彼女は両親と兄が一人の4人家族だ。

 年齢を聞けば
「22です。大学生ですよ。」
 などと返ってきた。僕より年上の訳が無い。

 あと彼女が名乗った謎の人物『やまうちりお』という人物についても不明だった。
 学園長に聞いてみたものの、近辺にそんな名前の人物はおらず、学園長も知らないとのことだ。

 謎が多すぎる……。
 それに僕の名前を聞いた時のリアクションもおかしかった。

 尋常ではない取り乱し様だった。

 僕の事を知っていたのだろうか?
 僕の事を知っていて、かつあれほど取り乱すとなると考えられるのは裏の世界の住人ということけど……

 それこそ馬鹿な考えだ。
 相手はまだ4歳なんだから。
 それにあれほど麻帆良の傍に潜み続けるなんて不可能だ。

「結局何も分からないか……」
 そう呟いてから、ふと思う。

 別にここまで気にする必要はないはずだ。
 魔法が原因で火事が起きたわけでもないし、むしろ僕は助けてあげた側なわけだし。
 このまま深追いせずに、成行きに任せるのが一番だろう。

「…………」

 何か納得のいかない心を無理やり抑え込み、僕は家時へと着いた。




SIDE:篠岡弥生?

 翌日、警察が来たり医者にあちこち検査されたりと色々と忙しかった。

 といっても、警察に火事の原因云々を聞かれても分かるはずもないし、検査結果も異状なしだった。
 カウンセリングっぽいものも受けたが、結局は記憶が混乱しているということに落ち着きそうだ。

 夕方あたりから暇になったので、休憩所のようなところで適当に雑誌を開いてみた。
 するとチラホラと『麻帆良』『学園都市』といった単語が見える。

 どうやら本格的に『ネギま!』の世界で間違いなさそうだ。

 そうなると今って、いつ頃なんだろうか。
 今が1992年ってことは分かってるけど、マンガでは何年だったかなんて覚えてはいない。

 ただ昨日会った。タカミチがやたらと若かったので、開始時より前であることは確定だな。
 へたすりゃ、まだネギは生まれてないのかもしれない。


「さて……」

 そう呟いて、自分の病室に戻ろうとしたが
 やはりこの身体に違和感を感じてならない。

 さらに言うなら視点が低い、歩幅が短い、体力が無い。
 違和感だらけで嫌になる。

 病室に戻り、またちょっと考えてみる。
 ネギま!の世界に来てしまった理由は何だろう。

 こっちの世界に来る直前の記憶は、原因不明の火事だ。
 居間で昼寝していた俺が起きたらすでに火の海だった。

 周りに母親と妹が倒れていた。
 父親は…休みの日だから、たぶん書斎にいたと思う。無事だったのだろうか。

 燃え盛る炎に身体を焼かれて、酸欠になりながら出口を目指したのは憶えてる。

「でもそこから先の記憶は無くて、起きたらここにいたと……」

 こっちの世界の、この身体も火事にあっていたらしいので、その辺にこっちの世界に来た原因がありそうだな。
 もし戻ろうとするならば、もう一度同じ状況になってみるのも手だけど。

「……無理だな。つーか死ぬわ」

 そもそも戻った先の俺が生きているかどうかも怪しいものだ。

 結局のところ打つ手は無し。
 昨日と同じ結果になったところで考えるのを止めた。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 今回は主人公の現状認識とタカミチの葛藤の話でした。
 しかし話が進まないです。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第4話 おとーさんといっしょ
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/27 02:21

第4話 おとーさんといっしょ


SIDE:タカミチ・T・高畑

 あれから3日が経過して、いよいよ弥生ちゃんが退院するらしい。

 わざわざ学園長が教えてくれたけど、何を考えているんだろうか。
 あの人は愉快犯的なところがあるから、何かを企んでるのかもしれない。

 結局あれから弥生ちゃんの記憶が戻ることもなく、何も変わらない状態らしい。
 身体に異状は無いので、これ以上入院させておく必要もなく無事退院ということだ。

 そしてそれは、おそらくそのまま孤児院行きということだ。

「ああ~、もうっ!」

 モヤモヤするものが消えずに、頭をかきむしる。

 僕は彼女を自分と重ねている。
 戦災孤児だった時にガトウさんに拾われた自分と。

 戦争で家族を失った僕をガトウさんが助けてくれて、
 いつのまにナギさんや詠春さんとかに会って『紅き翼』として活動してきた。

 僕はあの時寂しくて、世界はもう終わりの様な気がしていて、
 ガトウさんに助けてもらった時は本当うれしかった。

 あんな絶望をあの子に見せていいのか?
 僕には関係ないと目を背け、耳を塞いでいていいのか!?

 あの悲しみを知っている僕が、そんな事をしていて良いわけがないっ!!

 僕はある決意を固め、病院へと走り出した。





 ガラッ

「え~と……タカ、ミチさん?」

 ノックもなく病室に入ってきた僕に、驚いている弥生ちゃん。
 相変わらず対応が大人っぽい子だ。

「どうかしたんですか?」
 困惑する弥生ちゃんを無視して、ツカツカと歩み寄る。

 ガシッ

 弥生ちゃんの肩を掴んで、真正面から見据える。

 そして
 「僕と一緒に暮さないかい?」
 そう言い切った。

 それに対する弥生ちゃんの返答は
「プロポーズですか?」
 だった。




SIDE:篠岡弥生?

 ガラッ

 勢いよく開けられたドアを見ると、何やら決意を込めた眼をしたタカミチが立っていました。

「え~と……タカ、ミチさん?」

 あぶない、あぶない。
 危うく呼び捨てにするところだった。

 ところで何の用だろうか?
 此方は退院の準備で忙しいのだ。


「どうかしたんですか?」
 困惑するしている俺を無視して、ツカツカと近づいてくる。

 ガシッ

 肩を掴まれ、真正面から見据えられる。
 なにやら真面目な雰囲気、心して聞いたほうがいいかも。

「僕と一緒に暮さないかい?」

 まさかのプロポーズ言葉だった。

 いや、聞き様によってはプロポーズに聞こえる言葉ってだけだけど。
 さらにこのシチュエーションも、なかなかプロポーズっぽい。

 俺が4歳であることを除けばだけどね。


 デスメガネ改めロリメガネって呼んだらどうなるだろうか?

 OK、落ち着け。
 とりあえず確認だけはしておこうじゃないか。

「プロポーズですか?」


 場の空気が凍った(と思う)


「いやいや、そんなわけないよ」

 冷静に返された。
 安心だ。これでどもりながら「ちゃ、ちゃうねん。そんなんちゃうねんっ!」って言われたらどうしようかと思ったよ。



 結局タカミチの言いたいことは、養子にならないかということだった。

 お前まだ二十歳そこそこじゃないのかと思ったが、多分魔法使いとして任務やらなんやらで稼いでいるのだろう。

「なんでそんなに面倒を見てくれるんですか?」

 俺のその問いに、恥ずかしそうに頬をかきながら答えてくれた。
「僕も両親が居ないからね」

 なるほど、シンパシー的なものを感じてくれたわけか。

 しかしこれは良い話ではないだろうか。
 原作を見ている限り、限りなくいい人なタカミチに厄介になるのも。

 孤児院なんて行くっても大して面白くないだろうしね。

「いいんですか?」
「もちろん。僕から言い出した言葉だしね」

 やっぱりいい人だわこの人。
 決定。
 タカミチ先生にお世話になります。

「あの、よろしくお願いします」
「ははは、よろしくね。そんなに畏まらなくていいよ」

「あう……」
 やっぱりもうちょっと子供っぽいしゃべり方にしたほうがいいかな?
 正直精神的にきついものが有るんだけど。

「じゃあ、僕は色々と話してこなきゃいけないから。また後でね」
「あ、はい」

 そう言うと、タカミチは出て行ってしまった。



 なんだかトントン拍子に、タカミチの養子になることが決まってしまった。

 ん、ということはタカミチを『お義父さん』と呼ばなければならないのか?
 いや、シンプルに『お父さん』か?
 ここは子供らしさを押し出して『パパ』はどうだろう。

 恥ずかしすぎるな。
 そう呼んだ後、2時間転げまわる自信があるわ。

 じゃあ、間を取って『おとーさん』はどうだろう。
 幼女っぽさを残しつつ、俺のダメージも少ない。

 よしよし、あとで早速おとーさんと呼んでやろう。

 そんな無駄な決意を胸に、退院の準備を堺した次第です。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 前回話が進まなかったので、一気に養子に。
 タカミチは絶対良い人だと思う。

 そして主人公が幼女である事をふっ切った回。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第5話 家族になりましょう
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/28 19:36

第5話 家族になりましょう


SIDE:近衛 近右衛門

「ふぉふぉふぉ、了解じゃ。手続きはしておこう」

 ガチャ

 高畑君からの電話を切り、ちょっと窓の外を見てみる。

 ふむ、高畑君がここまで後先考えないで行動するなんてのう。
 やはり自分と重ねてしまったのかのう。

 まあ、これも高畑君にとっては良いことかもしれん。

「さて……」

 早めに孤児院のほうには断りの電話を入れんといかんか。
 後は養子縁組の準備じゃな。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 学園長に孤児院への断りと、養子縁組についてお願いした。

 この貸しを返すのに色々とこき使われるだろうけど、色々とギリギリなこの状況だと学園長に手を回してもらうのが一番手っ取り早い。
 そう割り切ると、僕は早速自宅であるマンションへと戻った。

 幸い一人暮らしには広すぎるマンションだ。
 物置になっている部屋を片付ければ、すぐに一部屋空くだろう。

 マンションに着いた僕は、早速部屋の掃除を始めた。

 昼過ぎには迎えにいかないとね。




SIDE:篠岡弥生?

 え~、ただいまタカミチこと『おとーさん』の家へ一緒に帰る途中です。

 って言うか車だ。
 おとーさん免許持ってたんだ。

 さすがに車は借り物みたいだけど、楽でいいな。

「もうすぐ着くよ」
「もうですか? 近いですね」

 まだ病院出てから10分もたっていないよ。

「ははは、一応大学には歩いて通ってるからね」
「なるほど」

 わざわざ、俺のために車を借りてくれたんですね。
 ありがたいことだ。

 本当にこの身体は、体力無いからなぁ。



 そんなこんなで、マンションに到着。

 なかなか良いマンションだ。
 大学生が一人暮らししてるとは思えないマンションだね。

 やはり魔法関係で稼いでるとみた。

「さあ、どーぞ」
「おじゃまします……」

 中に入ったら、また広いな。

 キッチンにリビング、さらに二部屋かよ。
 同じ大学生でも、実家から通ってた俺とえらい違いだな。

 「こっちの部屋が、君の部屋になるよ」

 通された部屋は6畳の部屋。
 大きめの窓も付いていて、これは良い部屋だ。

 あ、そうだ。
 まだ、ちゃんと挨拶をしていなかった。

 日が差し込む窓を背に、くるりと振り返り

「今日からお世話になります。よろしくね、おとーさん」

 今、この時こそが
 私におとーさんが、おとーさんに娘が、
 二人に家族が出来た瞬間だった。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 今回は高畑親子誕生の後始末的なお話。
 ネギま!の話なのに魔法とかのシーンがほとんどありませんでしたが、これからやっと書けるかもしれません。

 主人公の始動キーをどうするかは考え中です。

 ちなみにこの時のキャラの年齢とか
  主人公 :4歳
  タカミチ:19歳(大学1年)
  明日菜 :4歳。(まだ麻帆良に来ていない)
  エヴァ :多分590歳ぐらい?
  ネギ  :まだ生まれてません

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 幕間1 改めまして自己紹介
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/29 00:39
幕間1 改めまして自己紹介


 改めまして、山内 理雄(22・♂)から 篠岡 弥生(4・♀)になりまして、
 さらに名前が変わりました。


 高畑 里桜(たかはた りお)です。


 はい拍手~。
 ぱちぱちぱち~。

 はい。

 苗字はおとーさんと一緒になったから変わったんだけど、ついでに名前も変えました。
 ちなみにミドルネームのTは名乗りません。こちとら日本人です。

 元々の理雄っていう名前は、どうしても捨てたく無かったので、
 弥生と呼ばれると家族の事を思い出して辛くなるから……、っていう感じで攻め落としました。

 なので養子になる手続きと共に、改名の手続きもしてもらいました。

 学園長のおじいちゃんのお陰で、スピーディに手続きを済ませることができ、
 これで戸籍上も高畑 里桜となりました。

 おじいちゃんのコネはハンパないね。
 敵に回したくないタイプだ。

 リオという名前の漢字が変わっているのは、『理雄』という感じは男っぽ過ぎるという理由で、
 おとーさんとおじいちゃんに止められたので、変えました。

 おじいちゃんは孫みたいな立場になった私が、可愛くて仕方がないみたいです。
 その内、木乃香にも合わせてくれると言っていました。

 その時に知ったんですが、私って明日菜とか木乃香と同じ年らしいですね。
 これは将来、私も3-Aに入る可能性が濃厚です。

 少し考える必要がありますね。


--備考--

 肉体に精神が引っ張られる & 近右衛門とタカミチの女の子教育の賜物で
 思想、言葉遣いが女の子よりに強制されています。

 しかし女物のパンツを履くのには慣れない、慣れてはいけない!
 女性専用胸部装甲(ブラジャー)をつける自分なんて、想像もしないっ!

 譲れない一線が里桜にはあります。



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 ここでやっと主人公紹介

  氏名 高畑 里桜(たかはた りお)
  旧姓(というか旧姓名)篠岡 弥生(しのおか やよい)

  年齢 4歳

  性格
   中身が二十歳超えているため、当然大人びている。
   頭も当然良いのだが、超や葉加瀬には適わない。
   ネギま!の世界に来た事を受け止め、のんびりと生きようとしていたが、
   タカミチの養子になったために、原作に関わる事を決意する。

  身体的特徴
   黒髪で瞳も黒。ハーフでもクウォーターでも無く純粋な日本人。
   髪は肩まで伸ばされており、タカミチの女の子教育の一環として短くすることを禁じられている。
   顔立ちは中々良く将来性はあると思われる。
   スリーサイズは、上からつるーん、ぺたーん、すとーん。


後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 幕間なので短いお話。
 軽く調べたけど、ミドルネームの扱いが日本ではどうなのか良く分からなかったので、勝手に取ってみました。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第6話 教えて、おとーさん
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/29 18:53

第6話 教えて、おとーさん


SIDE:高畑 里桜

 おとーさんと一緒に住むようになってから、半年が経ちました。

 今すごく困ってる事が有ります。

 別におとーさんの出張が多すぎるとかじゃありません。
 確かにちゃんと大学に行けているのか不安になるほど、あっちこっち行ってるみたいですけど。
 それは関係ありません。

 おとーさんの部屋にエッチな本が一冊もない事も、別に関係ありません。
 この事は私がもう少し大きくなってから聞いてみようと思います。
 さすがに4歳の娘に、エッチな本云々は聞かれたく無いでしょうから。


 話が逸れましたが本題は、おとーさんが私に魔法の事を教えてくれない事です。

 ネギま!の世界に来て、おとーさんに引き取られて考えました。
 何も知らずに平凡に暮らすよりも、ネギま!の一員としてあのメンバーと一緒に行動したい。
 そう考えるようになったのです。

 思えば前の世界では何の目標も無いままにダラダラと過ごしてきたけど、今は違うっ!
 はっきり言って燃えてます。

 なので、早くおとーさんに魔法の事を聞きだしたいのですが、中々聞く事ができません。

 原作開始時まで待って、ネギ経由で教わるというのも考えました。けれど
 明日菜のように特別な能力が有るとは思わないほうが良いでしょう。
 木乃香のような才能を持っているとは思わないほうが良いでしょう。

 つまり、ネギ・スプリングフィールドに出会ってから魔法を学ぶのでは遅すぎる。
 それに魂が男である自分としては、10歳とはいえ男とキスをするのは避けておきたいことでもあるのです。

 私は足手まといに成りたい訳ではないので、やはり出来る限り早めに魔法に関わらなければ。

 とりあえず、自主的に瞑想モドキや、おとーさんの部屋にあった古武術の本で見た『縮地』っていう足さばきの練習もしたけど、
 全く出来なかった。

 やはり独学じゃ無理なのだ。
 というわけで、私は今日こそおとーさんに魔法の話を聞こうと、帰りを待つのでした。



SIDE:タカミチ・T・高畑

 魔法世界での仕事が終わり、1週間ぶりに家に帰ると変な里桜に出迎えられた。

 いや、里桜が変なのはいつもの事だ。

 4歳児とは思えない大人びた雰囲気を持ちつつも、笑った顔は可愛い。
 最近は料理もしているらしく、今食べている肉じゃがもとても美味しい。
 料理以外にも家事をしてくれて、僕が居ない間に部屋の掃除や洗濯もしてくれる。

 そんな可愛くて仕方がない里桜が、じ~っとこちらを見ている。
 何だろう。好意的な視線ではないようだけれど……


 ま、まさか僕の部屋の机の引き出し一番下の二重底にあるエロ本に気付かれたっ……?

 そんな筈はない。あれはボールペンの芯の部分を差し込まないと、開かれないようにしているんだ。
 それが違うとしたら何だろう。


 そのまま何とも奇妙な食事が終わった後、里桜が意を決した表情で切り出した。

「おとーさん。私に何か隠してる事はありませんか?」

 二重底を思い浮かべて、僕は青ざめた。

「な、なぁんのことかなぁ?」
「隠さないでください」

 まさか本当にばれている?

「もうこれ以上隠されるのはつらいんです……」
 そう言って俯き、肩を震わせる里桜

「そうか、そんなに……」

 僕がエロ本を持っている事が嫌だったなんて。
 よし、正直に話そう。
 そして、もうエロ本は処分しよう。

「エr「魔法の事です」」

「え?」
「は?」

 ま、ほう?
 何だ魔法か。てっきりエロ本のことかって……

「魔法……だって?」
 なんで里桜が魔法の事を?

「はい。魔法の事です」

 真っすぐにこちらを見つめてくる。
 確信に満ちた目、これは誤魔化す事は出来そうにないな。

「どこで……知ったんだい?」
「おとーさんを見てれば分かりますよ……」

 少し伏し目がちに、またも悲しげに言われてしまった。
 そうか、僕のせいで里桜をそんなに悲しませていたなんて。すまない。

「分かっているなら、隠す事は出来ないね。ちょっと学園長に連絡を入れる必要があるから、待ってくれないか」

 里桜にそう言い残し、部屋に戻ると電話を取る。
 学園長はまだ学園長室にいるだろうか。


トゥルルルル トゥルルルル


「もしもし、高畑君、どうかしたのかのう?」

「里桜に魔法がバレました」

「ぶふぅっ!」

 あ、吹いた。



SIDE:高畑 里桜

 上手く行きましたね。
 現在おとーさんと一緒に学園長のもとに向かっています。

 おとーさんに魔法の事を聞き出すために、真正面から問い詰めてみました。

 途中エロ云々と聞こえた気がしましたが、ここは流します。
 明日のガサ入れはちょっと張り切りましょう。ええ。

 どこで魔法の事を知ったのかと聞かれましたが、そこは女の武器である涙で乗り切りました。

 もちろん不本意ですよ!
 男の中の男。漢の魂を持つ私がそんな真似はしたくなかった。

 しかし結果的にこうして学園長の所に向かっているので無問題です。

 後は記憶を消すなんて方向にならないように気をつけるだけですね。



SIDE:近衛 近右衛門


「ふむ、まさか高畑君がこんなに早くバレてしまうとわのう」
「全くもって面目ない」

「まあ、一緒に住んでるんじゃ。いつかはバレると思っていたがの」
「その通りですが。せめて小学生になるまでは……」

 確かに早すぎるの。
 やはり一度記憶を消す処理を行ったほうが……

「あの……」

 おずおずと里桜ちゃんが声を上げてきた。

「私は自分の意志で魔法の事を知りました。その事を後悔するつもりはありません」
「私にも魔法を教えてください。その力があれば、お母さん達のような人を助ける事が出来るかもしれない……」

 うう、この子は本当に4歳児かのう。
 孫同然に可愛がっている子からこんなお願いされると、わしも参ってしまうわい。

「まあ、里桜ちゃんがそう言うのなら……いい、かのう?」
「はあ、私も学園長がそう言うのであれば反対はしませんが……。里桜の意志も尊重したいですし」

 なら、問題いないかのう。
 里桜ちゃんも聡明な子じゃし、素質もありそうじゃ。

「それでは高畑君、里桜ちゃんの事は頼むぞ」
「はい。この事は他の先生にも……」

「分かっておる。ガンドルフィーニ先生と弐集院先生、それに神多羅木先生には話を通しておこう」
「ええ、私は出張が多いですしまだ学生です。それに僕じゃ詠唱魔法は教えれませんし」

「そうじゃな、まあ最初は高畑君がキチンと教えるんじゃぞ」
「モチロンですよ」

 やれやれ、結果的には優秀なマギステル・マギ候補が生まれたという事で良いのかのう。



SIDE:高畑 里桜

 くっくっく。
 無事に魔法を教わる約束を取り付けました。

 やはり涙は女の武器ですね。

 ……うう、確実に女の経験値を積んでる気がします。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 早いところ魔法の話を出さないと、作者がネギま!の話である事を忘れそうになる為に色々とふっ飛ばして魔法の話題へ。
 その代償は主人公が女の経験値を積むことで払いました。

 今回、他の魔法先生が名前だけでてきました。

 何名かの出てきていない先生は、まだ赴任してません。
 しずな先生もまだです。
 新田先生は居ます。(魔法先生では無いですが)

 次回から、やっと主人公が魔法の練習をします。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第7話 魔法入門とガンドル先生
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/01/31 09:12
第7話 魔法入門とガンドル先生


SIDE:高畑 里桜

「う~~ん……」

 現在自宅にて瞑想中です。
 おとーさんは大学に行っています。

 私はおとーさんが帰ってくるまでに、魔力の感じを掴まければいけません。
 宿題です。

 眼を閉じて、自分と大気との境界をぼやかすイメージでマナ(世の中の全てのものに宿るエネルギー)を感じ取る。
 何となくでもよい。感じ取ることが出来たら、マナを取り込み体内で練り上げる。

 以上がおとーさんに聞いたコツみたいなものだ。

 あまり意識してやった事は無いらしく、イマイチ要領を得なかった。
 くそう、詠唱が出来ないといってもやっぱり才能あったんだろうな、おとーさん。

 むむむ、全然感じがつかめない。

 ぐぅ~~

 あう、お腹がすきましたね。
 お昼を食べて、またがんばろう。





「駄目でした」

「ん? 何か言ったかい?」
「いえ、何でも無いです」

 おとーさんと晩御飯です。
 結局魔力の魔の字も感じれないままに終了しました。

 いやいや、確か原作でゆえっちが 1カ月か2カ月で初期魔法を憶えて褒められていたはずだ。
 それから考えれば1日でどうにかなるほうが可笑しいのだ。

 結局この日は、見回りに行くおとーさんを見送ってから寝ました。



SIDE:タカミチ・T・高畑

 夜の麻帆良を見回りながら、里桜の事を考える。

 今日は一日真面目にやっていたみたいだし、やる気は本物みたいだ。
 なんで魔法を憶えたいのかは、まだ分からないけど里桜なら間違った使い方をする事は無いだろう。

 最初に習う初級魔法の『火よ灯れ』までどれくらい掛るだろうか。
 一月? 二月? 才能は未知数だけど意欲はあるし、そう遠い話じゃないかもしれない。

 それにしても……
「まさかナギさんより先に子供を持つことになるとはなぁ……」

 あの全方向にモテまくり魔人は今何しているのか。

 紅き翼の面々で旧世界に居るのは僕と詠春さんだけだからなぁ。
 詠春さんには里桜と同じ年の娘さんが居るらしいので、連絡をとってみるのもいいかもしれないな。

 この日の見回りは何事もなく完了した。



SIDE:高畑 里桜

 あれから1カ月がたちました。

 あれから毎日色々と鍛えています。

 基本的には、まず朝はおとーさんと軽い運動をします。
 びっくりするぐらい体力が無いこの身体を、鍛え上げなきゃいけないので。

 運動が終わったらお昼まで家事をします。
 前は実家で暮らしていたから、家事はほとんどしていなかったけど
 最近グングン家事スキルが上がってるのが実感できる。
 全然嬉しくは無いけれども。

 食後は2時間ほど仮眠をとります。
 さすがに4歳児ボディ、体が睡眠を欲してしまいます。

 起き次第瞑想を開始します。
 この瞑想が一番つらいですね。
 体を動かしたりしないので、何かをしているという達成感が得られないので
 時間を無駄にしている感覚にすらなってきます。

 おとーさんが大学から帰ってきたら晩御飯を一緒に食べて、食後の運動をします。
 いい感じに疲れた所で、見回りに行くおとーさんを見送って就寝です。

 と、まあこんなサイクルで、ひたすら過ごしています。

 魔力の感知は3週間たった頃に出来るようになり、なんとその後すぐに『火よ灯れ』も成功しました!

 あまりにあっさり成功したので、実はすごい才能があると思ったけど、
 実際はそんなことは無く、『風よ』や『凍れ』はちっとも上手くいきません。

 どうやらすこぶる火と相性が良いみたいです。
 火事といい何とも火とは縁が深いようです。

 その他に変わった事と言えば、ガンドルフィーニ先生と仲良くなりました。

 現在CQCを教わっています。
 何か格闘技を習おうと思っていたので、ちょうど良かったです。

 なので今はガンドルフィーニ先生が暇なときに色々と教えてもらってます。



SIDE:ガンドルフィーニ

 いやまいったな。

 そもそもの始まりは、高畑君の娘さんである里桜ちゃんが魔法の事を知ってしまったことから始まった。

 まだ事情もよく知らない4歳の子供を、こちらの世界に引き込むことは反対だったんだけれど、
 実際に会ってみると、それは勘違いだったことを知った。

 4歳児とは思えない立ち振る舞い、強い意志を秘めた眼、
 この子はマギステル・マギになる事が出来る子だと思った。

 そして自己紹介をした時に事件は起きた。

 簡単に名前と自分の特技、CQCを得意としている事を告げた。
 まあCQCなんて言っても分からないだろう、という私の考えはまたも裏切られた。

 子犬の様にランランと光る里桜ちゃんの瞳によって。

 なんだか分からないがCQCに異常に食いつかれてしまい、結局教えることになってしまった。
 まあ、生徒としてはこれ以上ないほど優秀だし、育てる楽しみが無いでもない。

 なんだかんだで、私も里桜ちゃんに教えることを楽しんでいた。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 魔法の練習をするようになっても淡々と進む日常。
 そしてガンドルフィーニ先生と仲良し。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第8話 原作生徒とエンカウント
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/02 21:31

第8話 原作生徒とエンカウント


SIDE:タカミチ・T・高畑

「プラクテ・ビギ・ナル『凍れ』」

 ピシィ
 杖に先から、一瞬だけ氷の粒が発生する。

「やった! やりました、出来ましたよおとーさん! おとーさーんっ!」

 ピョンピョン跳ねながら、こっちに向かって手を振る里桜に、手を振り返してあげる。

 里桜が魔法を覚え始めてから早9ヶ月、もう年は明けてしまったけれど、これで一通りの属性魔法は使えるようになった。
 里桜の属性は分かりやすく、炎に関しての適性がダントツに高い。

 この事を伝えたときに、火事の事を思い出したのか悲しげに笑っていたのが印象的だった。

 炎の他には風と光が優秀で、逆に闇と土、そして氷の属性が苦手のようだ。
 特に氷の属性はゼロに近い。多分氷の魔法は諦めたほうが良い。

「おめでとう。これで属性魔法は一通りOKだね」
 ちょうど良い位置にある頭を撫でながら労ってあげる。

「えへへ……」

「里桜は確か、攻撃から補助、それに治癒魔法も憶えたいんだよね」
「はい、得手不得手はあると思いますけど、とりあえず一人で色々出来るようになりたいのです」

 なるほど、あまり手を広げすぎるのも良くないけど、やってみないと分からないのも確かだ。
 やってみるのもいいだろう。

「それじゃあ、魔法に関して僕は教える事が出来ないから、他の先生に聞いてみるよ」

 補助魔法に関しては弐集院先生が良いだろう。
 頼めば教えてくれそうだし、何より彼の補助魔法はかなりのレベルだ。
 何度か一緒に組んで戦った事もあるけど、彼との戦いは非常に楽だった。

 攻撃魔法は神多羅木先生に任せよう。
 特に風属性に関しては、これ以上ない適任だ。

 ガンドルフィーニ先生には現在CQCも習っているし、接近戦時の魔法の使い方も教えてもらおう。

 治癒魔法は……まいったな、麻帆良にはこれといった治癒魔法の使い手が居ない。
 使えてもちょっとした切り傷を直すぐらいだ。

 これは本を読んで僕が教えてあげないといけないかな?
 ちょっと学園長に相談してみよう。



SIDE:高畑 里桜

 私の魔法の練習に対して、色々な先生に見てもらえる事になりました。
 今日は弐集院先生に教わっています。

 しかしこの弐集院先生、この体型と言い弐集院光(にじゅういんみつる)という名前と言い
 おそらく元の世界にいたとある芸人のパロディではないだろうか?

 という事はテレビとラジオのその芸人のように、
 この温厚で優しそうな弐集院先生にも裏の顔が有るのだろうか?

 恐ろしい、追及はしないでおこう。




 弐集院先生の授業が終わった後、私は図書館島へと来ていた。

 色々と調べたい事もある。
 魔法の事とか、この世界のことも。
 まあ私の今の身体能力じゃ一階しか行けないだろうけど、まあ本は好きだし問題は無いだろう。

 図書館島へ到着。
 広い、馬鹿みたいに広い。

 この広さで地下何十階まであるならば、図書館探検部なんて部活もある訳だ。
 早速中をぶらついてみる。

「料理、スポーツ、文学……」

 やっぱり一階にある本は一般の図書館とそう変りの無いものか。

「メディア、工学、歴史……っと、歴史あった」

 適当に歴史の本を何冊か抜いて、閲覧室に向かった。
 適当な席に着こうとすると、私と同じぐらいの女の子が居た。

 積んである本を見ると『ロボット工学理論』『世界のロボット百選』『工学兵器のススメ』。
 なんかロボットとかそういう本ばっかりだ。しかもちょっと危ない。

 じぃ~っと見てると視線を感じたのか、女の子が顔を上げた。

 みつあみの髪、おでこ、眼鏡。
 どこかで見たことあるような?

「なにか用?」

「あの、お名前を聞いてもよいですか?」

「わたし? わたしはさとみ。葉加瀬 聡美」

 まさかのエンカウントだった。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 初めての3-Aキャラと遭遇。
 なぜか葉加瀬。

 初級魔法を覚えるのに9ヶ月(毎日一日中練習して)というのは、才能が有るのかどうか……
 原作のキャラは皆優秀なので比較のしようが有りませんが、どうなのでしょうかね?

 そしてどうも調子が悪く、過去最短の短さ。
 申し訳ありません。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第9話 おとーさん魔法世界へ
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/03 22:33

第9話 おとーさん魔法世界へ


SIDE:葉加瀬 聡美

 わたしが図書館島でロボットの本を読んでいると同じ位の年の子がこっちを見ていた。

 その女の子と話してみると、私と本当に同じ年らしかった。

 その子は同じ年なのに難しい歴史の本を持っていて、話してみると凄く頭が良かった。

 私の持っている本も見てもらうと、ちゃんと理解していてびっくりした。
 私以外に、同じ年でこんなに頭が良い子は初めて見た。

 その後も私のロボットの話や工学の話をいっぱい聞いてもらった。
 ちゃんと理解して、お話を聞いてくれるのがうれしかった。

 他のお友達は私とお話しすると、いっつも寝ちゃったりするから。

 それからいっぱいお話して、今日はお別れした。

 リオちゃんとはまた会えたらいいなと思う。




SIDE:高畑 里桜

 まいった。
 二つの意味でまいった。

 まさか図書館島で原作キャラに会うとは。
 そして葉加瀬がこの頃からあんなに頭が良いとは。

 まさに天才という奴だった。
 ちょっと私みたいに転生しているのかと疑ってしまった。

 恐ろしい、あれで4歳ですか。
 というかあの葉加瀬で学年2位ってことから、超の天才っぷりが良く分かる。

 出会いがしらにネギの男性器を捻り潰したら、超消えないかな?
 止めとこう、麻帆良中の魔法使い敵に回すことになるし。

「さて、帰るとしますか」

 適当に借りてきた歴史の本数冊と、葉加瀬に押しつけられた本『ロボットのロマン』を手に家路を急ぐ。
 4歳ボディではでかい本を数冊持つのもキツイけど、魔力で身体を強化してるので平気です。

 『戦いの歌』とは別のこの身体強化は便利で良い。
 原作でネギが日常的に使っていたのもうなずける。

 あと『戦いの歌』の重ね掛けとかできたら良いかも。
 あとで聞いてみよう。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 里桜が他の先生達に教えを請うようになってからさらに半年がたった。

 あれから里桜は様々な事を頑張っている。
 5歳になり身体も少し大きなった事で、CQCも板に着いてきたようだ。

 弐集院先生は練習が終わった後、いつも里桜に肉まんを買ってあげているらしい。
 晩御飯が食べられなくなるから止めてくださいと言っているんだけど、全く困ったものだ。

 そんな里桜が魔法の射手 炎の1矢を使えるようになったある日。

 僕のもとにガトウさんから連絡がきた。

 何でもナギさん達が、ウェスペルタティア王国から『黄昏の姫御子』の一人を保護したらしい。
 それに合わせてかなり大規模な行動を起こす必要があるらしく、僕にも魔法世界へ来て欲しいというものだった。

 相変わらずやることのスケールが桁外れだな、ナギさんは。

 しかしこれは困った。
 わざわざ僕にもお呼びが掛かるという事は、相当大規模な事になるだろう。
 もちろん行かないなんて選択肢は無い。

 となると里桜をどうするか考えなくてはならない。
 連れて行くのは……無理だろうなぁ。本人は行きたがる気がするけど。

 いくら『紅き翼』が精鋭揃いでも、『黄昏の姫御子』に加え里桜まで連れて歩くのは危険だ。

 仕方がない。
 学園長に頼んで里桜を預かって貰おう。短くても1年、いや2年はかかるかもしれないけど。



SIDE:高畑 里桜

 個人練習(瞑想から運動、昨日の復習など)

 葉加瀬との熱いディスカッション(テーマはロボットのロマン)

 神多羅木先生との練習(習うより慣れろ方式)

 以上の経過を経て、ヘロヘロの状態で家に帰るとおとーさんにおじいちゃんの所へ連れて行かれた。
 何でもおとーさんが1年以上の長期出張をしなければならない為に、私の身柄をおじいちゃんに預けるらしいです。

 勝手に決めないで欲しいとも思ったが、5歳のこの身にそんな決定権があるとは思えない。

 それにさっきからどうも出張先を濁しているあたり魔法界くさい。
 魔法界なんかに今の状態で行ったら、ちょっとした事故で死にかねない。

 ここは大人しく待っているのが得策だろう。

「分かりました。おじいちゃん、よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる。いつだって礼儀は大事だ。

 ついでとばかりにおとーさんを気をつけるよう言っておく。

「おとーさん、お気を付けて。ちゃんと無事に帰ってきてくださいね」

 まあおとーさんが負ける所とか想像できないけどね。

 さて今日からおじいちゃんの家にお泊まりだ。
 どんな家かはちょっと楽しみ。



SIDE:タカミチ・T・高畑

 もっとごねられると思ったけど、里桜への説得はすんなりと済んだ。
 こうもあっさり承諾されるとさみしく感じるのは、僕のわがままかもしれない。

 自分が一端の親みたいな事を考えてる事に思わず苦笑してしまう。

 こんな自分の考えは嫌で無いけど、ナギさんが知ったらきっと笑うんだろうな。
 詠春さんなら分かってくれるかもしれない。

 さて、もう出ないと飛行機の時間に間に合わない。

 誰もいないマンションを出て、僕は空港へと向かった。



~おまけ~

 5歳の誕生日の日にガンドルフィーニ先生からプレゼントをもらいました。

 モデルガンと木製のナイフです。

 私のCQCのスタイルは左手に銃、右手にナイフ(逆手)という形にしたので、その為のプレゼントです。

 さすがにまだ本物の銃とナイフは持たせてもらえませんでした。

 なのでこのモデルガンと木製ナイフでしっかり練習しようと思います。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 明日菜がちょっと話に絡んできました。

 さすがに長期出張の場合は主人公は学園長宅へ厄介になります。
 次は学園長との話にしようと思います。

 それにしても主人公の始動キーが決まらない。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第10話 おじいちゃんの後頭部とヒゲグラ先生
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/05 23:10
第10話 おじいちゃんの後頭部とヒゲグラ先生


SIDE:高畑 里桜

 今日でおじいちゃんと一緒に住むようになって何日か経過し、この生活にも慣れてきました。

 おじいちゃんの家は麻帆良の中心部から外れた、山の近くにあります。

 純和風の一軒家で、非常に好感が持てます。
 ああ……畳が気持ちいい。

 こうして暇なときに畳でゴロゴロしてると、自分が日本人である幸せを実感しますなぁ。


 おじいちゃんは忙しくて、朝早くから夜遅くまで学園長室で働いてるため中々一緒にいる事ができません。

 なのでたまに早く帰ってこれた日は、一緒に寝てあげたりしています。
 一緒に寝てあげると、面白いぐらい上機嫌になるので悪い気もしません。

 そんなある日、寝物語の代わりに気になる事を聞いてみた。

「おじいちゃん、その後頭部はその……魔法的なものが関係あるのでしょうか?」

 そう近衛近右衛門最大の謎、洋ナシみたいな後頭部の話である。

 あの後頭部に何が詰まっているのか?

「フォ? この頭の事かの? フム、まあ他の魔法先生も知っている事じゃし、話しても問題ないじゃろう」

 どうやら他の先生方には周知の事実らしい。
 そりゃそうだ、じゃなかったら他の先生だって突っ込んでる事だろう。

「まあ簡単に言うとじゃな、とある魔法の影響でワシの頭はこんな形になってしまったわけじゃが」

 一応変な形という意識はあったのか。

「この頭の中には脳が詰まっておる。当然じゃがの」
「そしてこの後頭部には、魔法で作られた補助脳と言えるものが有るのじゃ」

 補助脳?
 つまりあの頭の中には脳みそが2つ詰まっているという事?
 うわぁ、グロいなぁ。

「フォフォフォ、確かに見た目にこそ問題はあったが、補助脳の効果は凄まじいものじゃった」
「分割思考、高速思考、二重詠唱。その力でワシはマギステル・マギとして何人もの人々を助け、関東魔法協会の理事に収まる事も出来た」
「人によっては異形と恐れられるかも知れんが、この力はワシにとって誇るべきものなのじゃよ」

 確かにその力によって得たものは大きいかもしれないけど、失ったものについては考えた事は無いのだろうか?
 さらりと言いましたが、人は目に見えて違う者に対し、恐ろしいほど冷徹になれる。

 この麻帆良では結界の効果で認識阻害されているから良いが、それまではどうだったのだろうか?
 私は『学園最強の魔法使い』と言われる一人の男の人生を垣間見た気がした。

「フォフォフォ、話しすぎてしまったの。さあもうお休み」

「はい、おやすみなさい」

 今日は手を握って眠ってあげる事にしよう。




 そして次の日。
 今日は神多羅木先生との練習です。

 パチィッ
 パチィッ

 ボヒュッ
「のわっ!」

 ボヒュッ
「うわっとっ!」

 今日の内容は神多羅木先生の指パッチンで発生するカマイタチをかわしながら、神多羅木先生に一発当てなければならない。

 パチィッ
 パチィッ
 パチィッ

 ボヒュッ
「ひょわっ!」

 しかし、神多羅木先生の攻撃が激しくて全然近づけませんっ!!

「ほらほら逃げてばかりだと、どんどん速くしていくぞ」

「わ、分かってます」

 このまま逃げててもジリ貧です。
 ここは最近使えるようになった、魔法の射手を。

「フラム・プロクス・イーグニス……」

「む、始動キーか」

 くらえっ
「魔法の射手 炎の一矢!」

 バシュッ

「ほう、もう魔法の射手が使えるのか。中々優秀じゃないか」

 パァンッ

 当然ながら、展開した魔法障壁に阻まれる。

 しかしそんな事は予測済み。
 指パッチンが止まっているうちに、接近を試みる。

 神多羅木先生まで後2メートル……

「狙いは良いが遅すぎる」

 パチィッ

 再度私に向かって指が鳴らさせるその瞬間!
 膝を抜き、身体を前方へ滑らせる。

 ボヒュッ
 チッ

 カマイタチが髪の毛を掠める。

「何っ!?」

「成功ですっ」

 無事2メートルの距離を一瞬で詰め、神多羅木先生の懐に入ることに成功しました。

 さっそく、そのおヒゲとサングラスのダンディな顔にいっぱt「甘いな」

「ごふぅっ」

 神多羅木先生の声が聞こえた瞬間に、腹部に凄い衝撃を感じて、数メートル吹き飛ばされてました。

 右腕を掻い潜って安心してましたが、左手からの指パッチンに吹き飛ばされたみたいです。

「今のは縮地法か。抜きのタイミングも中々良かったぞ」
「このまま鍛えていけば、瞬動術を使えるようになるのもそう遠くないかもな」

 うぅぅ、神多羅木先生が何やら言ってますが、腹部の痛みで頭がガンガンして良く聞こえません。
 相変わらずのマイペースぶりがステキ過ぎます。

「魔法の射手が使えることにも驚いたが、まだまだ詠唱に時間が掛かり過ぎだな」
「それに炎以外の属性はどうなんだ? せめて他にもう一つぐらいの…ん、里桜? 聞いてるのか?」

 あまりの痛みに意識が……

 すいません神多羅木先生、私はもう駄目です。
 適当におじいちゃんの家に放り込んでおいてください。お願いします。

「里桜? おいどうした、里桜!?」

 おやすみなさい……。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 学園長の後頭部に自己解釈を付けてみた。
 あとはヒゲグラ先生との実践訓練。

 里桜の始動キーについて
「フラム・プロクス・イーグニス」
 火や炎を色々な国の言葉に変えたものです。
 左からオランダ語、古代ギリシャ語、ラテン語です。
 一応調べましたが、合ってるかどうかは自信が有りません。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第11話 父の居ぬ間に色々強化 前編
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/07 01:13

第11話 父の居ぬ間に色々強化 前編


SIDE:高畑 里桜


 STEP:1 無詠唱魔法


 今日は弐集院先生と練習です。

「よし、じゃあやってみて」
 弐集院先生の合図を受け、気合いを入れる。

「はい。……戦いの歌!」
 ボワッと身体が魔力で覆われる感じが分かる。

「う~ん。結構サマになってきたけど、まだまだ効率が悪いね」

 うう、確かに魔力はガンガン減っていくのに、身体の強化はそれほどでもないのが分かります。

「でも前回よりは良くなっているから、このまま要精進だね」
「はい」

 弐集院先生は必ず最後褒めて締めてくれるのでうれしいですね。

 神多羅木先生の場合はたいてい気絶するか、私の口が聞けなくなるなるレベルまでグッタリしちゃいますし
 ガンドルフィーニ先生は大抵最後は小言で終わります。

 皆さん私の事を考えてくれてるのは分かるので、文句などあるはずもありませんが。


「それはそうと里桜ちゃんは魔法剣士を目指すことでいいのかな?」

「はい。一応一人で色々出来るようになりたいので」

 チューチューとスポーツドリンクを飲みながら答える。
 慣れないと戦いの歌だけで汗をかくのだ。

「そっか、なら無詠唱魔法は使えるようにしたほうが良いね。魔法剣士の必須スキルだよ」
「い、いえ、必須スキルなのは分かっているんですが、まだ魔法の射手は詠唱ありで一矢でる程度なんですよ」

 正確には炎が二矢、風が一矢、他はまだ出ません。

「いやいや、とりあえずやってみることが大事なんだよ。得意な属性で良いからやってみて」

 む、そうですか?
 出来るとは思いませんがとりあえずやってみましょう。

 心の中で詠唱してみる

”フラム・プロクス・イーグニス 魔法の射手 炎の一矢!!”

 ビキィッ

「うぎゃああぁぁぁっっ!! 痛いイタイいたい~~っっ!!」

 脳が、頭が、何かビキッって言ったあ~。

 ゴロゴロゴロゴロ

「あう~~。うあ~~~」

 転げまわってみても、ちっとも痛みは晴れない。

「里桜ちゃん、大丈夫かい?」
「だい、じょぶじゃない、です。何、ですか? これ」

「無理やり無詠唱魔法を使おうとすると、放出するはずだった魔力が体内でオーバーヒート状態になるんだよ」
「だから無詠唱魔法を使う場合は十分に注意しましょうって事だね」

「う、あ、なんで、あう」

 その事を教えるためにわざわざこんな事を?
 そう言いたかったけど、うまく言葉に出来ない。

「とりあえず今日は家に運んであげるよ。ゆっくり休むといい」

 そう言って弐集院先生は私を抱きかかえると、おじいちゃんの家に連れて帰られた。

 やっぱり弐集院先生のあの笑顔の裏には文字通り裏が有ったんだ。

「お、おそろしい……」

「ん、何か言ったかい?」

「何でもないれすぅ……」

 やっぱり恐ろしい。




 STEP:2 槍術


 今日も今日とて修行です。
 本日はガンドルフィーニ先生とCQCとか体術とか。

「はっ」

 突き出されたガンドルフィーニ先生の左手を右手で捌いて、懐に入りこむ。
 飛び込む勢いをそのままに、右肘を打ち込む。

「甘いっ」

 決まったと思った瞬間、右手の掌によって肘を抑えられていた

 ならばと、空いた右脇腹に左フックを入れようとした瞬間、
 足を二枚蹴りで駆られて、気が付けば地面に抑え込まれていた。

 自分の右手が自分の首に絡まるように押さえつけられていて、身動きが取れない。

「チェックメイトだね」

 そう言ってガンドルフィーニ先生は私の上からどいてくれた。

「う~、また連敗記録が伸びました……」

 服に次いだ汚れを払いながら、独りごちる。
 おとーさんとおじいちゃんの女の子教育はまだ続いていて、
 スカート系以外の服は履かせてもらえません。
 修行の時はスパッツを履いてるからいいけど、いい加減ズボンが恋しいです。

「ははは、まだまだ里桜ちゃんに負けるわけにはいかないよ」

 ガンドルフィーニ先生は朗らかに笑ってますが、さすがに150戦150敗は堪えます。

「そもそもリーチが違いすぎるんですよね」
 まあ5歳の手足なんてたかが知れるけれど。

「ああそうだ、その事で一つ話が有ったんだっけ」
「何ですか」

「リーチ不足の話は、おそらく里桜ちゃんに一生ついて回る問題だ」
「里桜ちゃんは日本人で女の子だから、これから大きくなるといっても多分小柄と呼ばれる体格に収まると思う」

「むぐっ、た……確かに」

 今だけの問題だと思ってましたが、将来的にも体格の問題は出るでしょう。
 将来会うであろう、巫女スナイパーや忍者のことを思うと、意外と180cmオーバーの可能性も否定は出来ないけど。

「それでだ、それらの問題を解決するために何かしらの武器を使う練習もしておくのはどうだろう?」

 武器、武器か……。
 悪くない選択だと思う。リーチ的な意味でも、攻撃力の増加の意味でも。

 少し考えてみる。
 剣……無理だ。明日菜と刹那の二大巨頭に勝てる絵が浮かばない。
 太刀……同様に無理。やっぱり刹那に勝てるわけ無し。

 もっと距離をとる物で考えると。
 弓……装填の手間や威力を考えると却下。むしろ無詠唱魔法で良い。
 ライフル……メインの武器にはならない。でも一応使えるようには練習しておこう。

 ちょっと目先を変えてみる。
 重火器……持ち運ぶのに結局体格が問題になってくる。却下。
 バイクとか……今度は魔力的に無理。ここまでデカイ物を使いまわす魔力は無い。

 と、なると
「槍……かなぁ」
 私的には良いかと思うのだが、ガンドルフィーニ先生はどうだろう。

「槍か。……悪くは無いと思うよ」

 悪くない反応だ。

「槍なら長さもあるし、両手で扱うから力負けもしない。それに槍は神話でも有名な使い手が何人もいるし、魔法の儀礼的にも何の問題もない」

 確かに、槍って意外と有名なのが有る。
 グングニルとかロンギヌスとかゲイボルグとか。
 まあ別に儀礼云々に興味は無いけど。

 結局、トントン拍子に槍術も勉強することが決まって、この日の修行は終わった。

 今度の修行のときには、ちょうど良い長さの棒を持ってきてくれるらしい。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 今回と次の回は主人公の特訓風景なんかをお送りします。
 それに今後の主人公強化の方向性何かを明確にしようかと思います。

 せっかくガンドル先生にCQCを習ってるので魔法剣士タイプにします。
 そしてメイン武器は槍にする予定。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第12話 父の居ぬ間に色々強化 後編
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/07 23:14

第12話 父の居ぬ間に色々強化 後編


SIDE:高畑 里桜


 STEP:3 回復魔法


 今日はダブルブッキングです。
 いつもの修行場所に行くと、弐集院先生と神多羅木先生の二人が居ました。

 今日は二人とも暇らしく、私の修行を見てくれるらしいのですが何をするのでしょうか。

「今日はいつもとは違う事を教えてあげようと思ってね」
「そういう事だ」

 むむ、何でしょうか。
 出来れば何か強力な技とかだと嬉しいのですが。

 バシュ

「あれ? 私の周りに何か……え? 動けませんよ!?」

 ギシッギシッ

 これはまさか捕縛結界?

「いま里桜の周りにあるのは弐集院先生の捕縛結界だ。動けないだろう」
「これから里桜に向かって魔法を放つ、魔法障壁で出来る限り防げ」

「え、ちょっと待ってくだs「行くぞ」っ!」

 パチィッ

「く、魔法障壁!」

 完璧には防げなかったけど、軽減出来たおかげでかすり傷で済んだ。

「よし、じゃあ治癒魔法で傷を回復させるんだ。1分後にまた魔法を放つ」

「それじゃあ分かりませんよ。神多羅木先生」


 弐集院先生の説明を要約するとこうだった。

 今回の修行は魔法障壁と治癒魔法。

 神多羅木先生が1分おきに魔法を放つから、魔法障壁で防いで
 防ぎきれなかった傷は、治癒魔法で直してね。

 また神多羅木先生が魔法を放つので、その繰り返し。

 捕縛結界から逃れられるなら、逃げてもいいよ。


「ムカつきますね……」
 特に最後の一文が。

 とりあえず治癒魔法を……
「プラクテ・ビギ・ナル 汝が為にユピテル王の恩籠あれ『治癒』」

 ホウッ

 ふう、とりあえず治癒は出来ました。

 治癒魔法の特徴として、詠唱が長い事があげられます。
 なので初級治癒魔法ぐらいは無詠唱で扱えるようになる必要があります。

 その為に、何度も詠唱して慣れる必要があるのですが。

「1分たった。行くぞ」

 パチィッ

「これはやり過ぎでしょーっ!!」


 結局この修行(拷問)は私が気を失うまで続けられました。




 STEP:4 拳銃


 今日はちょっと変わったところに来ています。

 麻帆良のとある地下にある、射撃場です。

「今日はここで実弾を使った射撃練習をします。実弾を使うので十分注意するように」
「はい!」

 今日は初めて本物の銃を使います。
 初体験ですよ初体験。めっちゃワクワクします。
 それにもう一つ楽しみがあるんですよね。

「ガンドルフィーニ先生。持ってきてくれましたか?」
「ちゃんと持ってきたよ。ほら」

 そう言って渡されるブツ。

「おお、これがワルサーP38ですか!?」

 ふうむ、これがあの有名なルパン3世の銃ですか……
 以外と普通ですが、やはり重いですね。

「ズシっときますね」

「そうだね。それは人の命を奪える物の重みだ。それを忘れないようにね」

「……はい」

「一応説明しようかな」

 眼鏡をクイッと上げ、教師モードになったガンドルフィーニ先生の説明だ。

「分かっていると思うけど、この銃はワルサーP38という名称だ」
「ルパン3世のお陰で、日本で一番有名な銃といえるね」
「粗悪品が多い事でも有名だけど、これは大丈夫だから安心してくれ」

「はい」

 これから習う事が事だけに、適当な雰囲気は出せない。

「じゃあまず射撃姿勢からだ」
「まず下半身、腰は落として、両膝に溜めを作る事」
「次に肩、力は抜いて脇はしっかり締める」
「両手でしっかりと相手の中心やや上を捉える」

 言われた通りに構える。
 ガンドルフィーニ先生にちょっとずつ微調整されて。

「よし、撃って……」
「はいっ!」


 ガァンッ!!


 射撃場内に響く音。

 銃弾は見当違いの方向に飛んで、私は尻もちをついていた。

「あ、ああ……」

 今初めて自分が、人を殺せるものを持っていると実感できた。
 まだ私はこの世界が、どこかメルヘンのような、平和な世界であると考えていたのかもしれない。
 しかし私の手の中にある物の存在は余りにもリアルだった。

「大丈夫かい。ほら、こっちで少し休むといい」

 ガンドルフィーニ先生に連れられて、ソファに横になる。

「初めて銃を撃った人は、こうなる場合もある。まして里桜ちゃんはまだ幼い、気にすること無いよ」

「は、はい……」

 結局その日は何もすることが出来ず、そのままお開きになった。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 回復魔法の練習ってどうすればいいのか分からない。
 原作でも中々出番ないですからね。回復魔法。

 あとは初めての拳銃。
 多分主人公には魔法よりもリアルな威力を感じるものだと思います。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第13話 帰ってきましたコブ付きで
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/11 23:49
第13話 帰ってきましたコブ付きで


SIDE:高畑 里桜

 おとーさんが出張に出かけて一年半以上が経ちました。

 私が小学校入学の準備をしだし、魔法の扱い方にも慣れてきた頃。
 おとーさんが帰ってきました。

 おじいちゃんに教えてもらって駅まで迎えに行くとおとーさんと、その横に見た事のない女の子がいた。

 いや、見た事はあった。
 あれは明日菜だ。ちっちゃい頃の明日菜だ。

 この頃の名前はまだ明日菜じゃなくて、アスナなんとかテオなんとかって名前だったはずだ。

 そうか、もう明日菜が麻帆良に来る時期なのか。

「お帰りなさい、おとーさん」

「……誰?」
「この子は私の娘でs……だよ。おひ……アスナちゃん」

 今絶対お姫様って言いかけたな。

「そう……」
 ふいっと横を向かれてしまった。
 もう私に興味は無いみたいですね。

「ええと里桜、この子は、その……」
「はい、なんですか?」

 明日菜の事を私に隠しておきたいらしくてしどろもどろになっている。
 それが腹立たしくて、ニッコニコと笑いながら聞いてやる。

「あ~、とりあえずうちに戻ってから話すよ。それでいいかい?」

「まあ、それはいいんですけど、そのアスナ……さん? も一緒ですか?」

「ああ、ちょっと訳ありでね」

「そうですか。じゃあ、帰りましょう」

 そう言って明日菜と反対側のおとーさんの手を取って帰路に着く。

 晩御飯は多めに作ってあるから大丈夫だけど、はたして明日菜が肉じゃがを食べれるだろうか?
 というか魔法世界に肉じゃがは無いのだろうな、やっぱり。

 私が魔法世界の食事事情に思いをはせている間も、おとーさんは明日菜に構いっきりである。

 そしてそれにちょっと苛立っている自分が居る。
 この『父親を取られて怒っている娘』みたいな気分になっている自分に、ちょっと落ち込む。

 精神年齢はおとーさんよりも上の筈なんだけどなぁ。
 確実に肉体に精神が引きずられてる気がする。
 あとはおとーさんとおじいちゃんの女の子教育の賜物ですね。

 おとーさん、里桜はそろそろズボンが履きたいです。スカートはもういいです。
 思っていた以上にスカートが暖かいことはもう分かりましたから。

 目から水が溢れ出そうになったので上を向いていた頃、家に到着した。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 カチャカチャ

 「…………」

 無言の食事風景が続いてる。
 お姫さま……いやアスナちゃんは、里桜の作った料理がお気に召したのか黙々と食べてるし。
 里桜はそんなアスナちゃんにどう対応すればよいのか困惑してるみたいだ。

 それにしても早くアスナちゃんと呼ぶ事に慣れなければいけないな。
 ここでは彼女は『黄昏の姫御子』ではなく、ただの一人の女の子なのだから。



 とりあえず食後にアスナちゃんをお風呂に案内して、里桜に状況説明をしよう。

 まず魔法世界と言うものの存在。
 この説明が一番難しいと思ったけど、里桜は驚くほどすんなりと受け入れてくれた。

 その魔法世界でアスナちゃんと会った事
 アスナちゃんがウェスペルタティア王国という国の『黄昏の姫御子』を呼ばれる存在である事。
 彼女の持つ能力の事

 そして彼女の幸せのために、記憶を消してこの麻帆良で暮らしてもらう事。

「……という訳なんだ」

「そう、ですか……」

 里桜には魔法の秘匿やそれに伴う記憶消去などの事は教えてある。
 もちろん魔法学校に通っている子には適わないだろうけど。

 だからと言って、まだ子供の里桜に割り切れるとは思ってはいない。
 人の記憶を人が弄るなんて、そうそう受け入れられるものじゃない。
 それでも僕たち魔法使いは、魔法の秘匿のために行わなければならない。

 ……ただガトウさんの死については伏せておいた。
 里桜はガトウさんと面識がないし、わざわざ知らせる事もないだろう。

 そして何より僕が、僕自身がまだ受け入れる事が出来ない。
 ガトウさんが、師匠がもう居ないなんて……




SIDE:高畑 里桜

 おとーさんから色々と聞きました。

 近日中に明日菜の記憶消去を行う事や、しばらくうちで預かる事も。

 そういえば明日菜の本名も教えてもらった。
 アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアらしい
 なんてゆーか、長い名前だ。


 私としては特にする事もないらしい。
 むしろあまり明日菜に話しかけない方が良さそうだ。

 現在、明日菜は記憶を消去する事には了承している。
 魔法無効化能力は明日菜に害をなすものにのみ発動するらしいので
 明日菜にとって有益だと理解出来れば、発動はしないという事だ。

 仮にいま私が色々と話しかけたりして、記憶を消されたく無いなんて思われてしまうと
 記憶消去の魔法が効かなくなってしまう、なんて事にもなりかねないのです。

 何もせずに記憶が消されるのを待つ、というのも嫌な感じですが。
 将来ネギが来て、記憶と向き合えるようになるまで子の記憶は封印されていた方が良いでしょう。
 今の私に出来る事なんて無いのだから。



 夕食後の軽い運動からの帰り道、家に向かって歩いていると

「おや、あなたは……?」

 目の前にフードをかぶった人が居た。
 フードの下から除く顔に見覚えが有る。

 紅い翼のあいつだ。え~と、アル……イマなんとか……クウネル・サンダースでいいや。
 こいつこの時期から麻帆良にいたのか。

「はじめまして」
 警戒しながらもとりあえず挨拶してみる。

「あなたはタカミチくんの娘さんですね。たしか里桜ちゃんでしたか。私の事はご存知なのですか?」
「はい、おとーさんのお仲間の人ですよね」

「ええ、その通りです。しかし困りましたね、あまり私がここにいる事は知られたくないので」
あれ、目の前にクウネルの手が……

ガクッ

はれ? 膝から力が抜けて、意識も遠く……

「残念ですが、今回は記憶を消させてもらいます。またいつか会いましょう……」

そのまま、私の意識は闇へと消えて行った。



次の日、目を覚ますと自室のベッドの上でした。
はて? 昨日何かあった気がするんですが……

おとーさんにも聞いてみましたが、昨日は家に帰ってから特に変わった様子もなくベッドに入ったみたいです。
はて……?



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 ロリ明日菜登場。
 しかしこのロリ明日菜、ビックリするほど動かしづらい。

 せっかくなのでクウネルさんも登場。
 次に出てくるのは多分原作開始後。

 本文には関係ないですが困っている事があります。
 炎の魔法と回復の魔法が、原作でほとんど出てきてくれません。

 炎の魔法は超と愛衣が学園祭で使った紅き焔と燃える天空ぐらい。
 回復は初級魔法と完全治癒呪文のみ。
 う~ん、今後が書きづらい。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第14話 小学生お母さん
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/15 22:27

第14話 小学生お母さん


SIDE:高畑 里桜

 明日菜がうちに来てからしばらく経ち、明日菜の記憶は封印されて私は小学校へ進学した。
 明日菜は色々と事情もあるので、もうしばらく自宅学習させてから編入させるそうだ。

 今日も今日とて制服に身を包み、小学校へと向かいます。

「いってきます。食べ終わったら食器は流しに置いておいてくださいね」

「ん……」
「いってらっしゃい、気をつけるんだよ」

 相変わらず淡白な反応しか返してくれない明日菜。
 にこやかに送ってくれるおとーさんに手を振って学校へと向かう。


 最近おとーさんの嗜好が変わってきた。
 タバコをちょくちょく吸うようになり、無精ひげを生やし始めた。
 これから原作の姿へと近づいて行くのだろう。
 たしかあのガトーさんだっけか? その人の面影を明日菜が求めてるんだよな。

そんな事をボンヤリと考えながら、我がクラスである1年A組に到着。

「おはよ~」

「おはようございます。高畑さん」

 バックにユリの花のイメージを背負いながら私に挨拶をしてきたのは、いいんちょとこ雪広あやかである。
 つまりこのクラスは、明日菜が後々転入してくるクラスという事だろう。

 ばっちり椎名もいるし。

「今日は数学のテストですわね。今回は負けませんは」

 ビシィっと、こちらに指を突き付け高らかに宣言するいいんちょ。

 というかなんでライバル視されてるんですか? 私。

 この間のテストで、私だけが満点だったからだろうか。
 確かにあのテストは小学校一年生にはちょっと難しかったけど、いいんちょだって98点じゃん。

 私だって別に満点取って目立ちたい訳じゃないけれど、こちらにも元大学生のメンツってものが有る。
 さすがに小学校一年生のテストで間違えて笑ってはいられないのである。精神的に。

「あ~……うん」

 とりあえず適当に対応しておこう。
 熱くなっている時のいいんちょは、どうしようもないし。
 これさえなければ、かなり完璧な委員長なんだけどな。

 ところで後ろで「委員長に10円!」とか言ってる椎名。
 賭けは止めなさい。




SIDE:雪広 あやか

 あれは入学式の日。
 周りにはキャイキャイと騒ぐ同級生たち。

 周りが自分よりはるかに子供に見えて仕方がありませんでした。
 事実、私はすでに家庭教師に着いてもらい、小学校1年の勉強なんてすでに終わらせているのですから。

 そんなはしゃぐ同級生を見回した時、目に着いたのが高畑里桜さんでした。

 周りの喧騒なんぞどこ吹く風とばかりに本を読んでいる姿。
 驚くほどに大人びた顔でした。

 お友達になりいろいろとお話しするうちに、さらにいろいろな表情を見せてくれました。

 笑う顔はとても可愛いいのですが、たまに何か考え事している時は、お父様のように難しい顔をしています。
 小学校に入る前の事を聞くと、いつも愛想笑いで誤魔化されてしまいます。

 それが気になり、担任の先生に聞いてみると
 里桜さんは幼いころに事故で家族を亡くし、現在はこの学園関係者の方の養子になっているとのこと。

 話を聞いた後、トイレに駆け込んで泣いてしまったのは内緒ですわ。

 それからも里桜さんとは良い友好関係を築いていましたわ。
 しかしそれも初めてのテストが返されるまでの事でした!

 里桜さんはテストの点数、体育、先生に対する礼儀の面でも私と遜色なく……いえ、私よりも良い成績を示したのです!!
 授業態度だけは余り良くありませんが、それはむしろ成績が良い事に対する謎を深めるばかりです。

 私とて雪広家の人間。
 絶対に勝たなければならないとは思いませんが、そうそう負けを認めるわけにもいきません。

 里桜さん、貴方には負けませんわ!




SIDE:高畑 里桜

 今日の授業をつつがなく終えて、学校の帰り道。
 私の背中には赤いランドセル。

 赤いランドセルがこんなに恥ずかしいものだとは……

 せっかく買ってもらったんだし、3年生まで……いや、高学年までは背負っておこう。
 このランドセルをくれた時の、おじいちゃんの笑顔に免じて。

「それにしても小学校行くのは面倒だな……」

 これでも中身は大学生である。
 小学生の授業を黙って受けているのも、中々にしんどいものがある。

 溜まったストレスは運動で発散するに限る。
 早く帰って、魔法の練習をしましょう。

 シュッシュッとシャドーボクシングの真似事をしながら家路に着いた。

「ただいま~」

 玄関を開けて家に入るとリビングで、明日菜が勉強をしていた。
 横にはタバコをふかしてるおとーさんもいる。

 おとーさんは明日菜の記憶封印からずっと大学を休んでいる。
 つきっきりで明日菜の面倒を見ているのだ。

 なんか大学の単位のほうは心配ないらしい。
 おじーちゃんが裏で色々としているのは決定的だろうけど。

「おかえり。学校はどうだった?」
「……おやつ」

 おとーさんに別になんにも、なんて答えながらランドセルを置くと、キッチンに向かいおやつのスタンバイをする。
 今日のおやつは手作りプリンです。

 冷蔵庫の中からプリンを取り出して更に盛りつけます。

 明日菜は私のいない間に、勝手におやつを食べるので冷蔵庫に触れるのを禁止しています。
 おとーさんも明日菜に甘いので、同じく禁止にしています。
 おとーさんがたまに飲むお酒も私が管理しています。

 ここまで考えて、自分はおとーさんの奥さんかっ! って突っ込みが頭の中に浮かんでしまった。
 正直小学1年としては無駄な家事スキルを持っていると思う。

 掃除に洗濯、もちろん料理。現在この高畑家の家事を一手に引き受けてるせいだろう。


 以前おじいちゃんとおとーさんに料理を作った時に

「里桜はいつでもいい奥さんになれるね」
「ふぉふぉふぉ、そうじゃのう。なんならワシがお見合いをセッティングしようかの?」
「いえいえ、まだ早いですよ」
「ふぉふぉふぉ」
「はっはっは」

 こんな朗らかな会話がされた時には、不覚にも泣きそうになってしまった。
 こんな事を考えながらも、盛りつけられたプリンに生クリームをトッピングしているこの手が恨めしい。

 どんよりしながらプリンを居間に持っていくと、相変わらず勉強している明日菜と
 なにやら出かける準備をしているおとーさんが居た。

「おやつできましたけど、おとーさん出かけるんですか」
「ああ、ちょと学園長に呼ばれていてね。悪いけどちょっとアスナちゃんの勉強を見ておいてくれないか?」

「はあ、いいですけど……」
 いいですけど私も小1ですよ?

「じゃあ行ってくるよ」

 ガチャ……バタン!

「いってら……行っちゃいましたか」

 とりあえず灰皿を片付けてから、明日菜の横に座る。

「…………」
「…………」

 か、会話がない……

 勉強にいそしむ明日菜に目をやると、必死に国語の勉強をしていた。
 というかひらがなの書きとりをしていた。

 あっ、しの払いの向きが逆だ。

 その事を指摘すると「……っ! 分かってるわよ」なんて言いながら、乱暴に消しゴムで消してしまった。
 たまに感情を見せてくれるのは嬉しいけど、出来ればもっと普段からみたい。
 これもやっぱり時間が解決する問題かね。あとはいいんちょとのド突き合いとか。

 こうしてちゃんと勉強している姿を見てると、将来のバカレッドとは思えないんだけどな。
 やっぱりあれかな、新聞配達とかするからかな。

 その後も、特に会話もないままに明日菜の勉強を見ながらおとーさんの帰りを待った

 おとーさんの帰宅後には、すぐに夕飯の支度をする時間だった。

「……やっぱり母親の気がする」



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 いいんちょ初出。あと桜子も。
 2巻読み直していて思ったけど、小学校時代のいいんちょだけ制服の色が違うのはなんでだろう?

 最後に主人公のお嫁さんスキルの高さを書いてみました。
 小1としては破格の家事能力を持っています。お買い得ですよ。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第15話 おとーさんに宣戦布告!
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/21 16:56
第15話 おとーさんに宣戦布告!


SIDE:高畑 里桜

 まだ朝靄の残る時間、私はキッチンで朝食の準備をしています。
 ついでに夕食の下ごしらえも。

 朝のうちに色々準備しておかないと、特訓の時間がとれません。
 コトコトと音を立てる鍋から香るコーンスープが眠っていた食欲を呼びさまします。

「おはよう」

 後ろからおとーさんがキッチンを覗いてきました。
 相変わらずの咥え煙草です。

 明日菜に吸ってくれとせがまれてるうちにすっかり中毒になったみたいですね。
 壁や窓に着いたヤニの掃除が大変なので、あまり家の中では吸ってほしくはないのですけど。

「おはようございます」
 スープをかき混ぜながら答える。

 チーンッ

 トースターからパンが飛び出した。

「よし、これで朝食の準備は完了です」

 パンパンっと手を払って、エプロンを外す。
 ちなみにエプロンの柄はかわいい猫が散りばめられてます。当然私は抵抗しました。

「う~ん、今日もおいしそうだね」

「はいはい、感想は良いから運んでください」
 ハムをつまみ食いしているおとーさんを急かして、キッチンから追い出す。

「いや~、里桜は良いお嫁さんになれるね」

 ピタッ

 朝食を居間に運ぼうとしていた私の足が止まる。

「おとーさん。そう言う事を言うのはやめてください。私はお嫁さんなんかになりたくありません」
「そんなに女の子らしくしたくはありません。そしていい加減スカート以外にもズボンをはかせてださい」

 威嚇するように睨みながら進言してみる。
 如何せん小1ボディでは怖くもないが。

「はっはっは、それは駄目だよ。里桜は油断するとすぐに仕草が男っぽくなっちゃうからね」
「スカート穿いてる時でも、足開いて座ることあるだろう?」

「うっ」

 それは分かってはいますが、こちらとしても20年以上培ってきた男の習慣をそう簡単には捨てられないのです。
 ……なんてことは口が裂けても言えない。

 ええい、ならば実力行使だ。

「ならばおとーさんに勝負を申し込みます。」

 ビシィッと指を突き付けてやる。

「勝負ですっ! 私がおとーさんに勝ったら……は無理なので、一発入れる事が出来たら女の子教育を止めてもらいます!!」

 若干弱気になりつつも、宣戦布告をしてやった。

「ふむ、一発か……」

 なにやら考えてるおとーさん。
 これでも十分勝てる気がしない勝負ですけど、やらないよりマシです。

「よし、その条件でいいよ」

 にっこり笑いながら了承し、さらにとんでもない条件を付けてきた。

「そのかわり、そうだね……30分で一発も当てられなかったら、この間見つけた可愛い服を着てアスナちゃんと三人で写真を撮ろうか」

「なっ!?」

 なんて言う恐ろしい提案を……

 おとーさんが言う可愛い服なんて、絶対フリフリのヒラヒラでリボンとかいっぱい付いてるに決まってる。
 そんな姿を写真に残すなんて……

「もちろん写真館で立派な写真を撮って貰おう。ああ、店頭に飾って貰うのもいいね」

「ヒィッ!」

 そ、それだけは。
 写真館なんかで撮られたら、おとーさんは絶対額縁に入れて居間に飾る。
 おじいちゃんなんか学園長室に飾りかねない。
 しかも店頭にもだって!?

「ま、負けませんよ」

 声が震えてるのが自分でも分かる。
 ……絶対に負けられない。

 その後起きてきた明日菜は、居間のピリピリとした雰囲気(私だけが一方的に発している)に首をかしげながら、ご飯を食べていた。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 今日娘から宣戦布告された。
 これだけ聞けば、何ともひねた親子関係だと思われるかもしれない。

 特に最近奥さんがご懐妊したらしいガンドルフィーニ先生が聞いたら、さぞ怒るんじゃないだろうか。
 里桜とも仲良くしてもらってるみたいだし。

 最近は僕がアスナちゃんにつきっきりで、里桜ちゃんに構えていない事を言われたばかりだしね。
 ガンドルフィーニ先生はアスナちゃんの事情を知らないから、尚更そう見ちゃうんだろう。
 というか、僕はあちこちから小さい女の子を集めている男に見られてないだろうか。
 もし大学でそういう噂が立っていたら、即刻否定しないと。

 さて、里桜との勝負だけど、30分以内に里桜が僕に一発でも当てられれば里桜の勝ちってルールだけど
 まったく負ける心配はしていない。

 むしろ里桜がどのくらい成長しているか楽しみだ。
 僕が居ない間も、ずっと他の先生に教わっていたようだから。

 最近は長い木の棒を振り回してるのを見かける、あれは杖術? それとも槍術かな?
 里桜は頭のいい子だから、何の策もなしにぶつかってくる事は無さそうだ。
 どんな事を仕掛けてくるか本当に楽しみだ。

「クックック……」
 思わず含み笑いを漏らしてしまう。


 ポロッ


 笑いを堪えていたら、咥えていた煙草から灰が落ちた。
 慌てて服に着いた灰を払う。

 「…………」

 そのままボンヤリと煙草の煙を見上げる。
 里桜と話してるときだけは忘れられるけど、ふとした時に思い出してしまう。


 「ガトウさん……」
 ガトウさんの言葉通り、アスナちゃんの記憶は念入りに封印させてもらった。
 このまま麻帆良で平和に過ごす事も可能だろう……

 なら僕は?
 ガトウさんを救う事も出来ず、アスナちゃんを連れて麻帆良へ戻ることしかできない僕はどうなんだろう……
 僕は何をするべきなんだろうか。
 それとも何もしないべきなんだろうか。

 考えれば考えるほど深みにはまる。
 今は考えても仕方がない事のなのかもしれない。

 ふと腕時計に目をやってみた。

「……遅刻だ」

 時計はすでに、久々の学校へと到着しているべき時間を指していた。




SIDE:高畑 里桜

 小学校の昼休みの時間、私は校内を走り回っていた。
 いや、廊下は走ると怒られるから早歩きで。

 目的はガンドルフィーニ先生や弐集院先生に会う事。
 おとーさんの戦闘能力を聞き出すためだ。

 正直私の知識では咸卦法と居合い拳ぐらいしか知らない。
 現状のおとーさんの戦闘力を実際に確認しておきたい。

 戦いとは情報戦から始まるのだよ。
 ふはははは………はぁ

 正直どんなに策を練っても勝てる気がしません。
 30分あるといっても、おとーさんがその気になればワンパンKOでしょうし。

 ……うだうだ言っても始まらないですね。
 とりあえず今やれる事をやっておきましょう。

 ……はぁ。可愛い服はやだなぁ。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 いい加減修行だけじゃなく、バトルっぽい事もしたいので、タカミチとバトルです。
 まだ咸卦法の使えないタカミチですが、勝てるはずもありません。

 少なくともバトルを書く練習にはなるだろうと思うので、とりあえずやってみます。
 そして明日菜が空気と化しているのは、何とかしたいと思います。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。




~おまけ~

 主人公の背格好をどうするか考えている折、ネギま世界のアピールポイントである胸囲について調べてみました。
 ネギパ!Vol.7に3-Aの身体測定結果が載っていましたが、トップバストのサイズしか載っていませんでした。
 なのでブラジャーのカップサイズを色々とサイトを巡り調べてみました。

 以下、3-Aの胸囲TOP10メンバーのブラジャーのカップサイズ(推定)です。

   1.那波 千鶴   F(72) 172cm 94cm 63cm 89cm
   2.長瀬 楓    C(73) 181cm 89cm 69cm 86cm
   3.龍宮 真名   C(73) 184cm 88.9cm 69cm 88cm
   4.朝倉 和美   D(69) 167cm 88cm 60cm 86cm
   5.早乙女 ハルナ B(74) 162cm 87cm 67cm 88cm
   6.大河内 アキラ D(68) 175cm 86cm 57cm 83cm
   7.四葉 五月   AA(79) 156cm 86cm 76cm 87cm
   8.雪広 あやか  E(66) 173cm 85cm 54cm 83cm
   9.明石 裕奈   D(67) 161cm 84cm 58cm 84cm
  10.絡繰 茶々丸  B(70) 174cm 84cm 60cm 84cm

※数値は左からカップサイズ(アンダーバスト)、身長、トップバスト、ウエスト、ヒップとなっています。
 身長が高いキャラ(楓や真名など)になると、若干のズレが生じる場合があります。

 ちなみにブラジャーのカップサイズはAのトップとアンダーの差10cmを基準として2.5cmずつアップしていくようです。
※日本国での標準的なブラジャーの大きさの表記であり、アメリカ製などはカップサイズが異なるので注意。


 今回は面倒だったのでTOP10のメンバーのみ出しましたが、全員出してほしい方や、このキャラも出せという方はご一報ください。
 最低限、身長とバスト、ウエストが分かれば出せるようなので。

 個人的には裕奈と茶々丸のトップバストのサイズが同じ事に驚きました。



[15881] 第16話 それなりに頑張った攻防
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/19 04:17
第16話 それなりに頑張った攻防


SIDE:高畑 里桜

 時刻は夜21時、場所は世界樹広場前。
 ストレッチをする私と、煙草を吹かすおとーさん。
 あと、この後おとーさんと見回り予定の弐集院先生がいます。

 結局魔法先生の方々に色々聞いて回っても大した情報は得られませんでした。
 むしろ宣戦布告した事を話したら苦笑いされるだけでしたよ。

「さて……」
 ストレッチも終えて十分身体も暖まりました。

「そろそろ始めるかい?」
「ええ、お願いします」

 私の恰好はTシャツに下は短めのスカート、もちろんスパッツ装備。
 腰のベルトにはモデルガンと木製ナイフをセット。多分使わないけど。
 腕にはおとーさんのお土産、腕輪型魔法発動媒体。

 あとちょっと離れた所に荷物と一緒に、槍代わりの桜の木でできた棒があります。

 おとーさんが煙草を携帯灰皿にしまうのを見て、一気に駆けだす。
「行きますっ!」

 まずは正面から。
 この体格差を利用して、下から攻め上げます。

 狙いは脚!

「はあっ」
「おっと」

 ひょい
 あっさりと避けられる。

 めげずにどんどん攻め込む。まずは数を打つ事だ。

「せいっ! はぁっ! たあぁっ!」

 相変わらず当たらない。
 当然だ。能力に、経験に、全てにおいて差があるんだから。

 こちらに出来る事は虚を突く事だけ。
 自分の能力を相手に誤解させる事。
 自分の策を相手に悟られない事。

 時折おとーさんから反撃が来るが、明らかに手を抜いている攻撃のため落ち着いて回避する。
 捕まれば元も子もないので、ヒット&アウェイを繰り返す。

 予想通り、おとーさんはまったく力を抜いている。
 これならば、私も全力を出さなくても何とか対応可能だ。

 まだ全力を出すときじゃない。

 フェイントをかけたり。
 横から攻めたり。

 あれこれ手を変え品を変え、攻め続ける。
 リズムは一定に。しかし単調にならないように。

 そんなお互い探りあいの戦闘が5分ほど続いたのち

「ちょ、ちょっとタイムですっ」
 その場から一気に飛び退く。

 ゼーゼーと息を整えながら、荷物置き場から杖を取り出す。
 こっからが本番ですよ。

「へえ、それが噂の槍術ってやつだね。ガンドルフィーニ先生から少しだけ聞いてるよ」

 ヒュンヒュン振って間合いを確認。
 これでさっきまでとリーチの違いが出て当てやすくなる……はず。

 さらに……
「最大出力です。戦いの歌っ」

 今まで使っていなかった戦いの歌を発動。
 ぼわっと体か光に包まれる。

 これで身体能力のギャップも突けるはず。

「行きます」

 さらにもう一手。、
「フラム・プロクス・イーグニス 魔法の射手 炎の二矢!」

 詠唱と同時に最大速度で突っ込む。

「へえ、今の所は二矢が限界かな」

 パパンッ

 っ!? 何か軽く拳で払われたんですけど。
 魔法の射手が羽虫扱いとか泣けてくる。

 くそっ、目くらましにもならないとは。
 良い、構わず突っ込む。

「いやああぁぁっ!」

 渾身の突き込み。

 それに対しおとーさんが回避行動を取る瞬間

「っ!?」

 杖から手を離して、縮地法で一気におとーさんの背後へと回り込む。

 ズザッ

 出来た!
 魔法も杖も、前半の攻勢も全てが捨て石。

 ここで杖を使った攻撃だと思い込ませるだけが目的だ。

「もらったあぁっ!!」

 ブンッ

 振り向きざまに、ガラ空きの背中に入れたはずの右ストレートが空を切った。
 次の瞬間

 どぉおんっ!

「カハァっ!」

 胸にとんでもない衝撃を感じて、私は空を飛んでいた。

 眼下には脚を振り上げた体勢のまま、なんだかポカンとした顔をしているおとーさん。
 ちょっと向こうには顔に手を当てなら、あちゃ~って顔をしている弐集院先生。

 そのさらに向こうには世界樹。
 そして上空には輝く星に、奇麗な三日月。

 あれ? なんか景色がゆっくり流れてるような。
 それに飛んでる、いや落ちてる?

 慌てて地面を確認すると、私をキャッチしようとしてるおとーさんが居た。

 チャンス!

 瞬時にモデルガンを抜き放つ。

 たとえBB弾でも一発は一発!

 パンッパァンッ!

「うおぁっ!」

 しかし飛び退く事で避けられてしまった。
 ならばもう一発……

 だぁんっ!

「げほっ!」

 モデルガンを構えるより早く、背中に衝撃を感じて私は気を失った。




SIDE:タカミチ・T・高畑

 やってしまった。

 目の前で苦しそうに呼吸しながら気を失っている里桜と、その里桜の体の状態を確かめる弐集院先生の姿を見ながら
 動く事も出来ず立ち尽くすしかなかった。




 里桜の動きは思ったより良かった。
 動きが直線的すぎるとも思ったけど、それを差し引いても年齢を考えれば十分な動きだ。

 こちらの攻撃に対する対応も上々だ。
 けして無理をせず、確実な方法で攻めてきていた。

 しばらく里桜の攻勢をあしらいながら、大体里桜の動きがつかめてきたと思った頃
 里桜が杖を取り出した。

 なるほど武器で目測を変え、その隙を突く作戦か。
 その為に最初は素手で来たのだ。面白い作戦だと思った。

 さらに戦いの歌で身体強化。
 加えて魔法の射手での攻撃。

 この杖での一撃にかけてる意志が読み取れた。
 警戒心を上げ対応する。

 魔法の射手は威力は低いが狙いは上々。
 向上した脚力は予想よりも早かった。

 「いやああぁぁっ!」

 気合いの乗った渾身の突き込みだ。

 しかし直線的すぎる。
 僕はその杖にのみ集中し、回避を図った。

 それがいけなかった。

 杖を残し、一瞬にしてかき消える里桜の姿。
 そして背後に気配。

 瞬動!?

 その瞬間体が動いていた。
 体を横にずらし、左足を蹴り上げる。

 どぉおんっ!

「カハァっ!」

 里桜の苦しげな掠れた声が聞こえた。

「しまったっ!」
 思わず声が漏れる。

 今僕は何をした?
 何を蹴り上げた?

 慌てて蹴った方向に目をやる。

 蹴り上げられた里桜が、ちょうど落ちて来る所だった。
 いけない! あのままだと頭から落ちる。

 落下点へと急ぎ、里桜を捕まえようとした瞬間

 パンッパァンッ!

「うおぁっ!」

 モデルガンで撃たれた。
 ギリギリで回避する事が出来たけど、そのせいで里桜を捕まえる事が出来ず

 だぁんっ!

「げほっ!」

 里桜が背中から地面に落ちてしまった。




 今目の前では弐集院先生が携帯でどこかに電話をしている。
 相変わらず里桜の呼吸は苦しそうだ。

「いま応援を呼びましたので、里桜ちゃんには触らずに待っていましょう」
「え、あ、はい……」

 携帯電話を閉じた弐集院先生が話しかけてきても、上手く言葉が返せない。

 なぜか血に濡れた師匠の事が頭をちらつく。
 近しい人を亡くす事に怯えているのだろうか。

「高畑君大丈夫かい? 顔色が真っ青だよ」
「……はい」

「里桜ちゃんは心配ないよ。命に別条がある訳じゃなさそうだ」
「応援が来たら、高畑君が病院に運んであげるといい」

「は、いや、ありがとうございます」

 その後すぐに、サングラスでスキンヘッドの先生がやってきた。
 この人誰だっけ?

 そんな疑問も持つ暇もなく僕は里桜を抱えて病院へと急いだ。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 主人公がまた気絶しました。
 しょっちゅう気絶している主人公ですが、まあ頑張っている証という事で……

 基本的にタカミチにやった事は、以前ヒゲグラ先生にやった事と同じ。
 ただ念入りに仕込みをしただけ。

 その結果タカミチの20%ぐらいの力で蹴られてホスピタルへ。

 それにしても主人公の捨て身の攻撃って大抵当たる物の筈なんですけど
 それが当たらない辺りに、この主人公の残念さが出ています。

 バトルって難しい……。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。




~続おまけ~

 前話で3-Aの一部メンバーの胸のサイズを割り出した所、他のキャラもという声があったので
 以下に完全版を記します。

 以下、3-Aメンバーのブラジャーのカップサイズ(推定)です。

   1.那波 千鶴   F(72) 172cm 94cm 63cm 89cm
   2.長瀬 楓     C(73) 181cm 89cm 69cm 86cm
   3.龍宮 真名   C(73) 184cm 88.9cm 69cm 88cm
   4.朝倉 和美   D(69) 167cm 88cm 60cm 86cm
   5.早乙女 ハルナ B(74) 162cm 87cm 67cm 88cm
   6.大河内 アキラ D(68) 175cm 86cm 57cm 83cm
   7.四葉 五月   AA(79) 156cm 86cm 76cm 87cm
   8.雪広 あやか  E(66) 173cm 85cm 54cm 83cm
   9.明石 裕奈    D(67) 161cm 84cm 58cm 84cm
  10.絡繰 茶々丸  B(70) 174cm 84cm 60cm 84cm
  11.神楽坂 明日菜 D(66) 163cm 83cm 57cm 84cm
  12.椎名 桜子    D(66) 164cm 83cm 56cm 79cm
  13.柿崎 美砂    C(67) 165cm 82cm 58cm 84cm
  14.長谷川 千雨  C(66) 162cm 82cm 57cm 78cm
  15.釘宮 円     C(65) 160cm 81cm 56cm 81cm
  16.春日 美空   B(66) 162cm 78cm 57cm 78cm
  17.古 菲      C(64) 151cm 78cm 56cm 80cm
  18.宮崎 のどか  B(66) 153cm 78cm 58cm 79cm
  19.相坂 さよ    B(64) 149cm 77cm 56cm 79cm
  20.超 鈴音     B(65) 160cm 77cm 56cm 78cm
  21.ザジ・L     D(60) 151cm 77cm 51cm 75cm
  22.和泉 亜子    B(62) 148cm 75cm 54cm 76cm
  23.葉加瀬 聡美  B(61) 145cm 74cm 54cm 76cm
  24.村上 夏美    B(62) 151cm 74cm 54cm 79cm
  25.近衛 木乃香  A(63) 152cm 73cm 54cm 76cm
  26.佐々木 まき絵 A(62) 152cm 72cm 53cm 75cm
  27.桜咲 刹那    A(61) 151cm 71cm 52cm 74cm
  28.エヴァ      AA(61) 130cm 67cm 48cm 63cm
  29.綾瀬 夕映    AAA(61) 138cm 66cm 49cm 66cm
  30.鳴滝 風香    AAA(60) 128cm 62cm 46cm 55cm
  31.鳴滝 史伽    AAA(60) 128cm 62cm 46cm 55cm

参考・比較対象
  14歳平均       B(67) 156.7cm 79.9cm 59.4cm ??cm
  マリリン・モンロー  G(70) 166.4cm 94cm 61cm 86cm
  峰 不二子       K(66) 167cm 99.9cm 55.5cm 88.8cm
  ドラえもん       -(129.3) 129.3cm 129.3cm 129.3cm 129.3cm

※数値は左からカップサイズ(アンダーバスト)、身長、トップバスト、ウエスト、ヒップとなっています。
 身長が高いキャラ(楓や真名など)や、背の低いキャラ(エヴァ以下4名)になると、若干のズレが生じる場合があります。


 千鶴が一位なのは変わりませんでしたが、ザジには驚かされました。
 古菲って細身のイメージありましたけど、同じぐらいの身長の夏美、木乃香、まき絵、刹那に比べると良い体格をしています。
 後エヴァ以下は、まあ予想通りですね。
 ちなみにしずな先生のバストは99cm、大人エヴァの推定バストは95cmらしいですが、
 その他のデータが無いのでカップサイズは分かりません。



[15881] 第17話 店内ではお静かに
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/19 04:18

第17話 店内ではお静かに


SIDE:高畑 里桜

「知ってる天井だ」

 というか知ってる部屋だ。
 そこはそう広くはない部屋。白塗りの壁と天井。かすかに香る薬品の匂い。病院の一室だ。

 これは私が初めて麻帆良に来た時にいた部屋だな。
 体を起してみると、ズキリと胸のあたりが痛んだ。

 いつの間にか着せられていた患者衣を肌蹴てみると、胸に包帯が巻かれ、さらにベルトの様なものが巻かれていた。

 気を失う前の事を思い出してみる。

 吹っ飛んだ私。
 足を蹴り上げているおとーさん。
 呆れた感じの弐集院先生。
 きれいな星空。
 避けられた最後の一撃。

「あ~、負けた……っぽいかな」

 縮地法で後ろをとったは良いけど、カウンターで蹴りをくらってKOって所ですか。
 それにしてもよく飛びましたね、私。

 くっくっく、と笑いながらベッドから起き出してみる。
 少し体を動かしてみても、胸以外には特に外傷はなさそうだ。
 胸もベルトのお陰か、そう痛まない。

 時計を見てみると、まだ朝6時だった。
 いつもなら朝食の準備を始める時間だけど、今日は惰眠を貪ろう。

 私は再度ベッドに潜り込むと、目を閉じた。




 次に目を覚ました時は既に10時過ぎ。
 横を見るとおとーさんが座っていた。

 ますます麻帆良に来た日を思い出し、クスリと笑ってしまった。
 それに気がついたおとーさんが本から目を離す。

「起きたのかい?」

「ええ、体調もバッチリですよ」

 力こぶなんかを作って見せてみる。
 そんな私を見ておとーさんは笑ってるけど、目が笑っておらずどちらかというと悲しみを帯びていた。



 あ~あ、絶対私に怪我させた事を気にしてるよ、おとーさん。
 おとーさんは何気に抱え込んで内に溜めるタイプだからな~。
 ここでいくら私が気にしないって言っても大して効果ないんだろうし、
 まあ時間が解決してくれるのを待つしかないか。


 結局その後、私が気にしてないと言っても、おとーさんの様子は変わらなかった。
 顔は笑っているのが余計に嫌ですね。

 ちなみに私の怪我はろっ骨のヒビと背中の打撲、後頭部のタンコブで済んでいた。
 とりあえずおとーさんの蹴りをくらって、ヒビで済んだのは運が良かったと思います。





 病院からの帰り道、ちょっと喫茶店に寄った。

 おとーさんはコーヒーを、私はイチゴパフェを注文。
 この身体になってから、やたらと甘いものが美味しく感じます。

 しかもいくらでも食べれそうな感覚にすら陥ってしまいます。
 これが女の子にのみ許された別腹というモノのでしょうか。とても不安になります。

 注文をが来て食べ始めたけど、空気は微妙なままだったので色々と話題を振ってみた。


「そう言えば今日はお父さんも大学でしたよね。すいません、休ませてしまって」
「いや、元々の原因が僕だしね。当たり前の事だよ」

「いえいえ、やっぱりおとーさんは良いジェントルメンですよ。大学でもモテるんじゃないんですか?」
 なんて冗談交じりに聞いてみた。

 しかし、おとーさんは苦笑いを浮かべたまま、否定するだけだ。
「ははは、そんな事はないよ」

「おとーさんも鈍感ですらね。気づいて無いだけかもしれませんよ~?」
 笑いながら言っても、おとーさんは堅い表情のままだ。


「いや、僕に……僕に人に愛される資格なんてないんだよ」

 ガタンッ
 反射的に立ち上がる。

「どういう……ことですか?」
 驚くほど低い声が出た。

「どうもないさ。言ったままだよ」
 おとーさんが、ふぅと煙草の煙を吐き出す。

 「本気で言っていますか?」
 思わずコブシに力がはいる。

「本気も何も事実さ。僕には人を愛する資格も、愛される資格も……ない」

 ムカついた。ムカつきましたよ。
 あーもう駄目だ。頭に血が昇るのが分かる。

 バンッとテーブルに手を叩き付ける。
 怒りの持って行き方が良く分からなってきた。

「それでも……それでもおとーさんを心配している人間がここにいる! おじいちゃんだってそうだ! ガンドルフィーニ先生だって、弐集院先生だって、神多羅木先生だってそうだっ!!」

 テーブルの上に足をかけ、おとーさんの胸ぐらをつかむ。
 テーブルの上がぐちゃぐちゃなことも、ろっ骨が痛む事も気にしない。

「その人達の前で! 俺の前でっ! 『自分は愛される資格が無い』なんて、そんなくだらないセリフをもう二度とぬかすんじゃねぇっ!!」
 バキィッ

「っ!」

 気づいたら手が出ていた。
 しまった。熱くなりすぎたかもしれん。

 急激に頭が冷める。
 周りを見回してみると、周りの目が痛い。

「あ、あの、お客様?」

 なんとも気まずそうな顔をしたウェイトレスさんが声をかけてきた。
 その顔は痴話喧嘩に巻き込まれた被害者そのものの顔だ。

「あ、いや、あの、すいません……」

 一度冷めた頭は上手く働かなくて、言葉が出てこなかった。

 あうあう言っている私を制して、頬に赤痣を付けたおとーさんが店員さんを対応をした。

「お騒がせしてすいませんでした。それに散らかしてしまって」
「い、いえいえ、お気になさらず」

 騒ぎの張本人でも、こういう態度をとられると相手も引いてくれるようだ。
 むしろおとーさんはその辺り狙ってやっている気がする。

「本当にすいません。ついでに会計もいいですか?」
「え、ええ、レジのほうへどうぞ」

 そのままの流れで、会計まで済ませてしまった。
 さっきまでの雰囲気は変わっていて、むしろ紳士的な人物を見るような眼で見られている。
 おとーさんが意外と恐ろしいスキルを持っていることが判明した。

 そのままおとーさんに手をひかれ連れて行かれる。
 店を出た後はお互いに終始無言。

 正直何を話していいんだか分かったもんじゃない。
 とりあえず殴ってしまった事を謝った方が良いのかな?

「……里桜」

「ひゃ、ひゃいっ」

 先手を打たれたせいで、声が面白い感じに裏返ってしまった。

「さっきはすまない。僕の失言だった」
「あ……はい。はいっ!」

「それに……さっきの言葉は忘れないようにするよ。……ありがとう」

 頬なんぞをポリポリ掻きながら、照れくさそうに謝ってくれた。
 語尾がどんどん小さくなっていくあたりで、不覚にもこのいい大人を可愛いと思ってしまったのは永遠に秘密だ。

「でも自分のことを俺、なんて言うのは良くないね」

 あれ? なんか変な雲行きに……

「それに昨日の勝負も結果は僕の勝ちだから。怪我が治ったら可愛い写真を撮りに行こうね」
 語尾にハートマークがつかん勢いで言われ、恐らく逃げ場はないと悟ってしまった。

 でもおとーさんがちゃんと自分の事を思い直してくれるんなら、安いものだと思った。
 思い込もうとした。

 ……がんばろう。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 早めにタカミチ枯れフラグを回収。
 これでタカミチももう少し恋愛できるでしょうか?
 というか里桜の為に早めにいいお母さんを見つけてください。

 今回の話は書きたいなと思いつつ、ここまで書く機会がなく引きずって来たものでした。
 話の持って行き方が多少強引だった気もします。要反省。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第18話 明日菜とちょっと近づいた日
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/24 01:57
第18話 明日菜とちょっと近づいた日


SIDE:高畑 里桜

 季節は巡って夏休み。
 休み前のテストで満点を取った私に対するいいんちょの目が怖かったけど、華麗にスルー。

 ろっ骨のヒビも毎日回復魔法をかけていたおかげで2週間で完全回復できました。

 そして夏休みの初日、部屋で工作のペットボトルロケットを作ってると、おじいちゃんから電話が掛かってきました。
 なんでも学園長室に来て欲しいそうなので、ペットボトルロケットの試射は諦めて行くことにします。




 コンコンッ
「失礼しまーす」

 ちょっぴりフランクに挨拶して、入室。
 中にはいつも通りのおじいちゃんとおとーさん、それに知らない着物姿の女の人が居ました。

「あう、初めまして」

 ちょっと面喰ってしまいましたが、ごあいさつ。しながらも相手を確認。
 やっぱり知らない人だ。少なくとも私の原作知識にはいない。

「あらあら可愛いわね。この子が先程話していた高畑さんの?」

 優しく頭を撫でられる。

「ええ、娘の里桜です。木乃香ちゃんと同じ年ですよ」

 木乃香? いま木乃香って言った。
 ついに木乃香もこっちに来るのか?

「里桜、この人は京都に住む僕の知人のお付きの人でね。その知人の娘さんが麻帆良に転入するための手続きを取りに来たんだ」

 やはり木乃香の麻帆良入りみたいだ。
 せっかくだから仲良くしたいけど、魔法生徒(見習い)である私はあまり仲良くしない方が良いのだろうか。

「ああ、でも今回手続きだけは先にしておくだけで、実際に転校してくるのは2年生になってからかな」

「え? 2年生ですか? まだ半年以上先の事ですよ」
 さすがにおかしいですね。今手続きするなら、2学期からが妥当ですけど。

「う~ん、ちょっと色々あってね。 それは後で話すよ」

「? じゃあ私は何の用で呼ばれたんですか?」
 てっきり木乃香の事かと思ったのですけど。

「今の話とは別の事だよ。ちょっとこっちの手違いで重なってしまったけどね」
 そう言いながらながらおとーさんは手元に会った資料を纏め、女の人に渡した。

「はい、これで手続きは完了ですね。それでは私は席をはずしますね」

 そう言うと、女の人は部屋から出て言ってしまった。



「それで話とは何ですか?」

「いや何簡単な事じゃ、2学期からアスナ君を小学校へ行かそうと思ってのう。1-Aに編入するので、よろしく頼みたいという話をしたかっただけじゃ」

「1-Aに来る事は確定なのですか?」

「まあのう、里桜ちゃんと同じクラスのほうが色々都合が良くての」

 都合って……
 たまにおじいちゃんって悪役みたいな言い方するけど趣味なのかな。

「それはいいんですけど。私が何か言う事じゃないですしね」
 まあ納得しておこう。

「呼んだ要件ってそれだけなんですか?」

「いやいや、もちろんそれだけじゃないよ」
 そう言っておとーさんは、ソファの上に置いてあった袋を渡してくれた。

「? なんですこれ、開けていいんですか?」

「もちろん」

 ガサガサと袋を開けて中を出してみる。
 そこに入っていたのは……

 白いブラウスタイプの上着。存分にフリルをあしらっている。
 赤を基調としたチェック柄のフレアスカート。
 更にスカートと同じ柄の帽子。
 首元と腰に巻くであろうリボン。

 ここまで確認したところでダッシュで逃げだした。

 学園長室から30メートル地点であっさり捕まった。

「離して~、離してください~!」
 襟を掴まれながら、バタバタと手足を動かしてみてもおとーさんはビクともしない。

「はっはっは、駄目だよ。約束したじゃないか」

「何でここで渡すんですか~。家で渡してくれればいいじゃないですか~」
 わざわざ学校で渡すなんて酷すぎます。

「学園長に話したら見たいって言うから、それに服を買うお金も半分出してもらったし」

「うわ~ん。おじいちゃんも酷いです~」

「だからここで着替えて学園長に見せてから、アスナちゃんを連れて写真館へ行こうか」

「うう……」

 半ベソをかきながらも観念して、洋服を持つと職員用トイレに着替えに行った。

 うぅ、こんなにフリフリした服を着るとは……
 しかもスカートが短いので、スパッツを履けない。
 さすがにこの服にスパッツは合わないし……



 なんとか着替え終わった後トイレから出るときに女の先生に会ってしまって、めちゃくちゃ褒められて更にテンションダウン。

「……着てきました」

 ルールーと泣きながら、可愛い服のお披露目。
 なんていうシュールな光景。

 でも目の前の二人は気にしません。

「いや~、似合ってるよ里桜」
「ふぉふぉふぉ、本当に可愛いのう」

「もう早く行きましょう……」

 こうなった以上早く済ませたほうが良いです。
 下手に逆らわないでおきましょう。

「そんなに慌てないでいいよ。それに弐集院先生とかも見たがっていたから、職員室にも寄っていようか」

「い~や~で~す~っ!!」

 弐集院先生とガンドルフィーニ先生は普通に褒めてくれるだろうけど、それが嫌です。
 そして神多羅木先生は笑うに決まってます。

 本気で暴れる私を引きずりながら、おとーさんはズンズンと職員室に向かって進んで行きました。

 結局予想通りの反応をされて、挙句スナップ写真を数枚と、携帯で写真を撮られまくられました。
 くそう、電波障害でも起きてあそこの携帯が全部使い物にならなくなってしまえばいいんだ!!



 それから30分後

「はーい撮りますよ~。ハイ、チーズ」

「じゃあ次は個人で撮ってみようか。まずは里桜から先に」

「おとーさん!? このポーズは無理です、恥ずかしすぎます。はにかんだ笑いとか無理ですから。おとーさん? おとーさーん!!」

「はっはっは、可愛かったよ里桜」

「……死のう」

「次はアスナちゃん行ってみようか」

「あの……アスナちゃん? 出来れば笑ってもらえないかな?」

「…………」

「ほら、口角を上げてみて、楽しかった事とか思いだして」

「……ニィ」

「あ、口だけだね……」



 更に1時間後

 写真館には、私と明日菜とおとーさんの3人の写真と、
 私がスカートの裾を軽くつまみ、小首を傾げはにかみながらポーズを決めている写真が飾られた。

「もう駄目だ……」

 その前には今にも死にそうな私とホクホク顔のおとーさん、ジュースを貰いご満悦の明日菜がいた。

「楽しかったね。さっそくこの写真を学園長に渡してこないと」

「……もう好きにしてください」

 もう疲れました。


 これからまた学校へ行かなければならないおとーさんは、写真を持って行ってしまいました。

 さっさと着替えたい私は明日菜と一緒に帰ります。
 着替えは学園長室に置きっぱなしなので、おとーさんが回収してくれるでしょう。

 明日菜と並んで帰る帰り道、相変わらず会話は少ないけど前よりマシになったと思う。

「今日は楽しかったですね」
「……うん」

「晩御飯は何が良いですか?」
「ハンバーグ」

「せっかくだからアスナちゃんの写真も飾りたかったですね」
「……でも私、笑えなかったから」

「……アスナちゃんだって笑えますよ。いままで笑ったことだってあるはずです」
「うん、よく覚えてないけど……笑った事はあると思う」

 もう明日菜の記憶には無いのかもしれないけど、きっと楽しかった事はあるはずだ。
 そしてそれはきっとこれから笑うための糧になるはず。

 とりあえず今私に出来る事は美味しい料理を作る事だろう。

「よし、今日はハンバーグにします。アスナちゃんにはサービスでデザートにゼリーも付けましょう」
「……本当?」

 これだけでも表情が明るくなるんですから、意外と笑顔が見れるその日は近いかもしれませんね。

「ええ本当です。さあ、帰りましょう」
「……うん」

 2人で手を繋いだりなんかして帰りました。



 その日の夜は仕返しにおとーさんのハンバーグだけ豆腐ハンバーグにした食卓で、
 笑顔こそ見れませんでしたけど楽しそうな雰囲気の明日菜が見れました。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 なんとか頑張って明日菜とからめてみました。
 相変わらず書きにくい&ブラックボックスな部分が多いロリ明日菜ですけど、なんとか書いて行けたらなと思います。

 そして木乃香登場フラグ。
 そろそろ2-Aメンバーともちょくちょく絡めていかないと、ネギまである事を忘れそうな今日この頃です。

 最初に出てきた着物姿の女の人、本当は詠春を持ってきたかったのですが関西呪術協会の長(当時は不明)がホイホイ来るのも
 ヤバいだろうと思って、名も無き女の人にしました。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 幕間2 記憶の整理をしましょう
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/02/24 02:01

幕間2 記憶の整理をしましょう


SIDE:高畑 里桜

 夕食も済んで、お風呂も上がった。
 後は寝るだけという時間、ベッドに寝転がりちょっと考え事をする。

 現状は明日菜が麻帆良に来て、もうすぐ木乃香も来る。
 順調に進んでるはずだ。

 このまま時が進めば、ネギが麻帆良にやってきて教師になる。
 その時に私がどういう立場にいるかわからないけど、年代的に2-Aにいる確率が高そうだ。

 その後ネギが正式採用されて、エヴァと一戦交える。
 修学旅行、ネギの弟子入り、ヘルマン襲来を経て学園祭へと。

 がっちりと憶えてるのはここくらいまで。
 その後のネギま部とネギの帰郷らへんは結構あやふやだな。

 そこからはさっぱりだ。立ち読みをした記憶しかない。

 魔法世界に行こうとして、ゲートで襲撃されてバラバラに……
 断片的な記憶では、茶々丸とネギがいっしょで、ネギが闇の魔法を習得して。
 え~……誰かが奴隷になるんだよな。
 ラカンってバグキャラが居て……結局ネギを鍛えたんだっけか?

「ゔ~ん……もう思い出せないか」

 とりあえずこの世界に関する記憶はこんなもんか。
 それより気になる事もあるし。


 なんか自分の記憶がおかしいのだ。
 そもそもこっちの世界に来てから3年は経つのに、ネギま!のストーリをこれだけ覚えている事が異常だ。

 それどころか火事にあった日の朝飯までバッチリ覚えている。
 自分の記憶力がそこまで凄かった記憶はそれこそない

 一つの可能性として考えられるのが、『俺』の精神がこっちの世界に来た時、『俺』の記憶は固定されてしまったんじゃないんだろうか。

 そう考えると、何となく辻褄は合う気がする。
 記憶が残っている事も、いつまでも男の意識がくすぶっている事も……。



「ふぅ……」

 ベッドから起き上がる。
 いくら考えてもしょうがない事だ。考察の域を出ない。

 大きな姿見の前に立つ。おとーさんが買ってくれたものだ。
 そこにはもはや見慣れた自分の姿が映る。

「髪、伸びたな……」

 おとーさんが怒るので手入れを欠かしていない黒髪をサラリと撫でる。
 肩甲骨のあたりで切りそろえられた髪が揺れた。

「結ってみるか」

 髪ゴムを取り出して、髪形をポニーテールにしてみる。
 この時ちょっと高めの位置で結ぶのがポイントだ。

「ふぅむ……」

 やはり黒髪ロングにはポニーだな。
 私の個人的な趣味というのもあるけれど。

 スタンダードなポニーも悪くないけど、ちょっとアクセントが欲しい。
 それならばとサイドポニーにしてみる。

 悪くはないが刹那と被る。
 むろんノーマルポニーはアキラと被るので避けたい。

 ……ノーマルポニーに一度して、尻尾部分を二又に分けてみる。
 ツインポニーの完成だ。新しい領域かもしれない。

 くるりと回ってみる。
 髪がふわさと舞い、中々いい感じだった。

 ついついテンションも上がる。鏡に向かってにっこり笑ってみた。
 ついでにポーズも決める。

 ガチャ

「里桜、お風呂空いた……何してるの?」


「……………」
「……………」

 数瞬明日菜と見つめあった後、私は無言で部屋を出て台所へ向かう。

「ん? ど、どうしたんだい里桜。包丁なんか持ちだして……」

 おとーさんも無視して、ベランダへ出る。
 部屋を汚す訳にはいかないから。

「……ふう」

 包丁を手首にあてがう。

 こっちの世界に来て3年か……
 楽しかった日々も今日でサヨナラだ。

「ちょ、ちょっと待って里桜!! どうしたの!? 何があったの!?」
 ベランダに飛び込んできたおとーさんに包丁を取り上げられる。

「離して下さい~! 返してください~!!」
 髪形変えてポーズを決めて、ニッコリを見られたなんてもう死ぬしかないよ~。

「落ち着いてっ! 何があったの!? とりあえず落ち着いて話してみてっ!!」

「うわ~ん、言えません~っ! 言うぐらいなら死にます!! むしろ殺してください~っ!!」

「ちょっとここ外!! ベランダだから人聞きの悪い事言わないでっ!!」

 いっそのこと飛び降りようとするが、羽交い絞めにされてしまいます。
 その修羅場に後ろから声が。

「……どうしたの? 鏡に向かって笑ってたと思ったら、急に飛び出して」

「鏡に……?」

「うわ゙~ん! 言うなぁ、聞くなぁ!」

 明日菜の出現に緩んだ拘束を解き、ベランダからのダイブを再度試みるがあっさり捕まった。

「ええい、いい加減に落ち着くんだ里桜!」

 ゴスッ

 結構な威力の拳骨を頂戴して多少落ち着いた。
 というか首が少しめり込む程の威力だったので、軽い脳震盪を起こしただけだけど。

 「殺ひてくらひゃい~、もしくはしぇかいがほろんでくらしゃい~……」



 結局は部屋に引き摺り込まれて、事情聴取をされた。
 明日菜から事情を聞いたおとーさんに、凄い怒られた。

 普通に涙が出るほど怒られた。
 とりあえず自分が悪いので、精いっぱい謝った。

 そしてこれからは自室でも、むやみにテンションを上げない事を誓った。



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 ひさびさに主人公プロフィールの更新

 氏名 高畑 里桜(たかはた りお)

 年齢 7歳(小学校1年)

 性格
  タカミチの女の子教育への反発と、やたらとしごかれる訓練の日々により確実に男らしく成長中。
  しかし体が甘いものを欲したり、変な嫉妬心が沸きでたりと乙女心もしっかりと宿っています。
  年上の人と話す事が多いので礼儀正しい話し方は出来るが、同年代の子達への接し方に困っている節もある。
  好きなものはタカミチ、魔法先生。嫌いなことは女の子扱いされること。
  好きな食べ物は和食全般と甘い物。嫌いな食べ物は辛い物。

 身体的特徴
  肩のあたりまで伸ばされた黒髪が特徴だったが、作者の意志により二股ポニーになった。
  顔立ちはまだまだ幼いが、目だけは妙に鋭くなる事がある。
  タカミチに怒られるので、髪と肌のケアは欠かさず行っている。そのため髪のツヤと肌の張りは良い。
  スリーサイズは、上からぺたんこ、ふらっと、すとれーと。身長は120cmを越えました。

 能力
  炎属性の魔法を得意としている。
  次に風と光の属性が得意。逆に氷属性が残念なぐらい低く、闇と土も苦手。
  魔力容量は贔屓目に見ても中の上程度。戦闘スタイルは魔法戦士タイプを志望中。
  近接格闘術としてCQCを習得中。さらに武器戦闘として槍術、杖術を習得予定。




後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 とりあえず主人公に記憶の整理と、髪形を変えさせたかっただけの話。
 後はTS主人公としてはやっておきたかった、魔が差した瞬間を見られる話。

 皆さんはありませんか? 一人で部屋にいるときや、お風呂に入る前の洗面台の鏡の前などで
 ついつい何かをしでかしてしまったことは……?

 千雨がネギにコスプレ見られた時もこんな気持だったのだろうか……
 とりあえず自分がこんなシーン見られたら、泣きギレすると思う。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。




-- 作者の 泣き言 戯言 --

 ネギま!29巻を読みました。
 元々マガジンは立ち読みで流し読むぐらいなので、単行本で初めてちゃんと読んだのですが
 なぜ単行本を読むたびに、創作意欲がガリガリ削られるのでしょうか?

 特に巻末のQ&A!
  Q.美空はココネとキスでパクティオーしたのですか?
  A.不明ですが、もっとこう……ロザリオを授けるとか、そんな感じが希望です。(笑)

 答えになってねぇ!! なんだよ希望って、そっちで決めろよ!
 ドール契約だって名前だけ出て、どんな手法なのか分からないままだし正直キツイです(泣)
 もう新しい契約方法を自分で考えるしかないですかね……


  Q.楓のアーティフェクト内で、永久に隠れて住み続ける事は可能ですか?
  A.可能ですが、条件があります。それは仮契約ではなく正式契約する事です。
   仮契約は学校のクラブの仮入部のように期限があり、そのためアーティフェクトも永遠ではありません。

 何年もつのでしょうか。
 少なくとも、アルとラカンがアーティフェクトを使っていたという事は10年は使えています。
 10年って(笑)
 そんな10年もお試しできるなら、本契約なんてしないよ。しかも更新出来るし。


 ふう……乱文失礼しました。
 とりあえず29巻を読んだ上で、再度プロットの見直しをかけようと思います。
 書き始めた以上、途中で投げる気はないので、何とか続けて行きたいと思いますので。



 あと祐奈の母親が戦士系って話今まで出てましたっけ?



[15881] 第19話 幻術はどうでしょう
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/03/03 23:10
第19話 幻術はどうでしょう


SIDE:高畑 里桜

 夏休みも終わり、2学期が始まりました。

 この2学期から明日菜も小学校へ無事転入。
 いいんちょとのバトルも見る事が出来た。

 これから学校に通う事で明日菜も明るく……バカレンジャーに育っていくのだろう。

 ちなみに明日菜は原作通り、神楽坂明日菜というフルネームになった。
 もうちょっとありふれた苗字のほうが良い気もするけど、まあ気にしないでおこう。

 そして戸籍とか転入の手続きも……気にしない方が良いだろう。
 なにせ私も半分通った道だし。

 それから変わった事と言えば、新しい魔法先生が来た。
 葛葉刀子先生だ。

 言わずと知れた神鳴流の女剣士である。
 そう言えば、西洋魔術師に嫁いでこっちに来たんだっけ。
 そしてその後……いや、これは言わぬが花だろう。

 それはさておき、初めて会った時の赤い袴が印象的だった。
 それからはずっとスーツになって残念に思う。

 出来れば武器戦闘についてなんか教えて欲しかったけれど、何か忙しいらしくて時間が取れないらしい。
 そして時間があると、いっつも旦那さんに電話している。

 ええい、新婚さんめっ!



「仕方ないので、今日も弐集院先生と頑張りましょう」

「おいおい、仕方ないは酷いな」

 おっと口に出してましたか。

「あはは、すいません」

 もうすっかり仲良しなので、これくらいの軽口は慣れたものです。
 本当は今日はガンドルフィーニ先生と訓練するはずだったのですけど、奥さんの通院に付き添うのでお休みです。

 ガンドルフィーニ先生は、妊娠中の奥さんに対してスーパーデレデレタイム展開中なので文句なんか言えません。
 これでお子さんが生まれたらどうなってしまうのでしょうか?
 果たして私に構ってくれるのでしょうか? 今のうちに学べる事は学んでおいた方が良さそうですね。

 それはさておき今日は何をやるかですけど……

「う~ん何をしようか。今日はガンドルフィーニ先生の予定だったから、何も考えてないんだよね」
 弐集院先生はあははー、なんて言いながら頬を掻いています。

 いままで弐集院先生には基礎魔法を重点的に教わってきました。

「今日は弐集院先生の得意な事が見てみたいです」
 他の先生方には、色々と見せてもらった事がある。

 神多羅木先生の指パッチンから始まる風魔法のコンボは、動く暇がないほど苛烈なもので、気づいたら捕縛結界に捕らわれていたし。

 ガンドルフィーニ先生の銃の腕は半端なものではなく、こっちが撃った弾(BB弾)をガンドルフィーニ先生の撃った弾(BB弾)が弾き飛ばす様を見せられた事もある。

 なのでここはひとつ、弐集院先生の技を見せていただきたい所存です。

「そうだねぇ、僕の得意な事か……。それも面白そうだね」

 意外と乗り気だ。
 弐集院先生は本人も言っていたけど、戦闘系の魔法は苦手としていて補助魔法などをメインで扱っているらしい。

「この場所だと電子精霊を出しても大したことは出来なさそうだから……幻術なんてどうかな?」

 幻術ですか。電子精霊も気になりますが幻術も習ってはいませんでした。
 私の原作知識の中にも幻術を使っているシーンはほとんど無いですね。

「幻術に関しての詳しい説明はまた後日にするとして、今日はとりあえず体験してもらおうかな」

 体験と聞いてジリっと後ずさって身構えてしまう。
 このパターンはろくな事がありません。

 神多羅木先生に無詠唱魔法を撃ちこまれ、ガンドルフィーニ先生に見たこと無いコンボからのサブミッションをくらった私の経験がそう告げています。

「いやいや、そんなに身構えなくてもいいよ。危険な魔法は掛けないから」
「本当ですか?」

 警戒しながらもジリジリと弐集院先生に近付きます。
 我ながら野生の獣みたいな行動してますね。

「もちろん。簡単な認識を誤らせる幻術をかけるだけさ」
「む~……ならよろしくお願いします」

 結局のところ、なんだかんだ言っても拒否するつもりはないのだ。
 習うより慣れろとは良く言ったもので、実際に受けてみたほうが覚えは良いのだし。

「よし、じゃあ僕の前立って」
 言われた通りに弐集院先生の前に立つ。

「今から魔力を流し込むから、抵抗しないように受け入れてみて」
「はい……」

 言うやいなや、私の中に弐集院先生の魔力らしきものが流し込まれるのを感じた。
 反射的に魔力を練り上げて対応しようとするのを抑えて、されるがままにしてみる。

「もういいよ。目を開けてごらん」

 体が他人の魔力に侵される感覚に、目をつむり必死に耐えていると声をかけられた。
 目を開けてみると……何かが変だ。

 目の前にいる弐集院先生。
 何かが違っている訳ではないけれど、何かが違う。

 周りの景色。これも何か変だ。
 パーツパーツは合っているのに、あるべき場所に無いような……

「左右が……逆?」

「良く気がついたね」
 目の前の弐集院先生っぽい人が手を叩いている。

 ものすごい違和感だ。

「これは視覚を歪めて、左右を反転させているんだよ」

 弐集院先生っぽい人にも慣れてきた。
 そうか目の前の人が左右反転されてた弐集院先生か。
 人間の顔は左右対称ではないとは聞いたことがあるけど、実際に目にするとこんなに違和感を感じるとは……

「この幻術の面白い所は視覚だけが左右反転している所なんだよ。試しに右手を上げてごらん」

 言われた通りに右手を上げてみる。
 すると、目には左手が上がって映る。

「うわっ、なんか変っ!」

 右手を上げれば左手が、左足を踏み出せば右足が。
 そのたびに脳が混乱して動きが止まる。

「これは凄いですね。もし戦闘中にこんな状態になったら致命傷です」

 ギクシャクしながら、感嘆の声を上げる。
 こんな状態の私なら、その辺の同学年に負けかねない。

「いやいや、人間の適応能力っていうのも馬鹿に出来なくてね。とりあえずそのまま10分ぐらい適当に動き回ってみてもらえるかな」

 そう言われたので、普段やっている組み手の型なんかをしてみる。
 最初は歩く事も上手く出来ない状態だったのに、時間が経つにつれて動けるようになってきた。

 要は左右反転しているだけなんだから、そこを理解してしまえば何とかなるもんだ。


「そろそろいいかな」
 弐集院先生に呼ばれて、また前に立たされる。

「どうだい? 実際に動いてみた感じは」
「分かってきました。意外と慣れるものですね」

 左手を開いたり閉じたりしながら答えます。

「そうだね。人間は慣れちゃうんだよ。否が応でもね」
 そう言いながら弐集院先生が私に手をかざす。

「さあ、元に戻すからまた眼をつむって……。面白い事が起きるよ」

 再度体が他人の魔力に侵される感覚に耐える。
 魔力が体内から消えた事を確認し、目を開く。

 見慣れた光景に戻った……はずなのに、やっぱり違和感がある。

「何か変ですね。また幻術掛けました?」
「いや、解いただけだよ」

 右手を上げようとすると、左手がピクリと動く。
 左を向こうとすると、右を向いてしまう。

「これは……」
 まさか幻術ではなく……

「気付いたみたいだね。幻術はもう掛かっていないけど、里桜ちゃんの脳が幻術の状態に慣れてしまっているんだよ」

 そうか、さっきまでの左右反転の状態に慣れてしまったせいで、普通の状態に戻ったら戻ったで混乱するのか。

 右手を動かそうとしたら、左手を動かさないといけないと脳が考えて、それを打ち消してやっぱり右手を……訳が分からなくなってきた。

「ははは、ちょっと難しかったかな?」

 頭からブスブスと煙を上げながら、大きなハテナを量産している私を見て弐集院先生が笑っている。

「何となくなら分かりましたが……」

「最初の左右反転で里桜ちゃんの脳はその状態に慣れようと必死に学習したんだ。でも慣れてきた状態で元に戻されると、学習していた分だけより一層混乱するんだよ」

 う~ん、分かった様な分からなかったような。

「まあ、完璧に理解する必要はないよ。今回はちょっとしたお試しだからね」
 頭をグリングリン撫でられる。

 回される頭でちょっと考えてみる。
 幻術……人の意識、脳に直接作用する術か、難しそうだけど憶える価値は十分にある。

 まてよ、人の脳に作用するなら自分にも……

「弐集院先生っ。この幻術は自分にも使うんことが出来るんですか? 痛みを誤魔化したりとか……」

 いきり立つ私の唇に指が当てられる。

「里桜ちゃん……君の言いたい事は分かる。つまりはこういう事だろう」

 そう言って弐集院先生近くにあった岩を思いっきり殴り、砕いた。
 その拳からは血が滴り落ちる。

「いま僕は痛みを認識していない。自分に幻術をかけて痛みを誤魔化してるからね。そして今は拳を痛める程度で済んでるけれど、骨が砕けるぐらいの力で殴りつけることも可能だ」

 滴り落ちる血をものともしないで、拳を握ったり開いたりを繰り返す。

「でもそんな事はしてはいけない。痛みを感じない事なんて何の得にもならないよ。痛みを恐れて、傷つくこと傷つけることを避ける道を探す事の方が、よっぽど難しくて素晴らしい事だと思うよ」

「弐集院先生……はい、わかりました」
 いい事言うなぁ、弐集院先生。不覚にもちょっと感動してしまいました。

 傷つくこと傷つけることを避ける道か……肝に銘じおこう。

 その後はいつも通り肉まんを貰って授業を終了した。
 2つ貰ったので、一つは明日菜のお土産にしようと思います。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 明日菜がさらっと転入。あと刀子先生も。
 いいんちょとのド突き漫才にはノータッチの方向で行きたいと思います。
 主人公が触れずとも、この二人の関係は良い感じだと思うので。

 弐集院先生の幻術講座。
 じっさいネギまの魔法内での幻術の位置づけが分からないですね。
 とりあえずエヴァ特製の年齢詐称薬、なんて万能すぎるものもありますけど。

 幻術は使い方によっては最強に成りうる魔法だと思います。
 そのため目が合っただけで、相手を操れるなんてよほどの格下じゃないと不可能だと思われます。

 あとは弐集院先生にちょっと良い事を言わせてみました。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第20話 初めてのおつかい
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/03/10 17:32
第20話 初めてのおつかい


SIDE:高畑 里桜

「里桜ちゃんは図書館島に行った事はあるのかの?」

「はい?」
 私が学園長室でお菓子を食べながら寛いでいると、おじいちゃんがそんな事を聞いてきた。

「そ、それはありますけど……」
 何度も行っていますし、まだ入ってはいけない階にも何度も行っています。

「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか。地下何階まで行ったことあるんじゃ?」

「地下ですか? もちろん行ったことありませんよ」
 ちなみに小学生は地上階以外使用禁止です。

「隠さなくてもいいぞい。何階まで行ったことあるんじゃ?」
 笑いながら嘘を看破されてしまった。

「あはは……ごめんなさい。本当は地下5階まで行っています」
 ちなみに本来地下5階に行けるようになるのは、高校生からです。

「ふぉふぉふぉ、謝らなくても良いぞい。ある程度は分かっていた事じゃからな」
 当然と言えば当然だけど、バレていたみたいですね。

「まあ里桜ちゃんなら、無理して突っ込む事もないじゃろうからの」

「あはは……気を付けます」
 初めて地下5階に行ったときに、うっかり右肩に矢が刺さったのは黙っておこう。
 治癒魔法のいい練習になったし。

「それでの、ちょっと頼みたい事があるんじゃが……」

「頼みですか? おじいちゃんから私になんて珍しいですね」
 いつもはこっちが頼りっぱなしですけど。

「ふむ、実は図書館島に本を取りに行って欲しいのじゃよ」

「本ですか?」

「図書館島には歴史的な蔵書なども多くてのう。その貸し出しなども行っているんじゃ。その為にこの紙に書いてある本を取ってきて欲しいのじゃよ」

 渡された一枚の紙を見てみる。

「置いてある階は分かっているみたいですね」
 紙には本のタイトルと、その本のある階が書いてある。

「最近司書を雇っているからのう。昔に比べると捜しやすくなったものじゃ」

 司書って言うとあの人だよな。なんか怖いから追及はしないけど。

「この貸しだすための本探しは、率先して魔法生徒に頼んでいるのじゃよ」

「魔法生徒ですか?」

「図書館島もよほどの地下深部へ行かなければ、魔法生徒が遅れをとるものもないしのう」
 なるほど、魔法生徒の経験稼ぎみたいな感じかな。

 まあ私はまだ魔法生徒見習いみたいなものだけれども。

「もちろん学園長であるワシからの正式な依頼じゃからな、お金も渡すぞい」

「お、お金ですか……」
 これはかなり美味しい話だ。最近ちょっと色々と入り用になってきたし……

 元々断る理由もないのだし、ありがたく行かせて貰おう。

「分かりました。行ってきます」

「ふぉふぉふぉ、よろしくの。明日の放課後までには持ってきておくれ」

「はーい」
 元気に手を上げて返事をして、学園長室を後にした。




 その日の放課後、早速図書館島に行きます。

 頼まれている本は7冊。
 2冊は地下4階、3冊は地下5階、残りの2冊は地下6階と7階だ。

「さて、ここまではOKですね」
 とりあえず5階までの5冊を全て入手し、リュックに入れる。

 初めてのお使いは順調に来てますね。
 思わず歌を口ずさんでしまいます。

「だ~れにも内緒で お出かけなのよ~ ど~こに行こうかな~♪」
 もちろん失敗した時には、しょげないでよベイベ~って歌うつもりですけど。

 さて次はいよいよ6階です。

 本棚に隠れている壁の出っ張っている箇所を押すと、下層への階段が出てくる。
 こっから先は未知の領域だ。


 6階に入った早々に矢が飛んできたり、落とし穴を飛び越えた向こうに落とし穴があったりしたけど、
 何とか6階の本をゲット。

 続いて7階に到着。
 6階までと大きく異なり、木がうっそうと茂っています。

 所々にある本棚がまたシュールですね。

 トラップも凶悪性を増してきました。
 スパイクボールにバンジステーク、クレイモア地雷と確実に殺意を感じるものが多数です。

 かなり分かりやすく仕掛けられているので避ける事は簡単だけど素人さんが入ってきたら、やっぱり危険だよな。
 しかし、本には決して危害が加えられないように設置されているのは本への愛情を感じる。

「本に優しく、人に厳しい罠の設置ですね」

 出来れば人にも優しくして欲しいなんて思いながら、7冊目の本もゲット。
 本を取った瞬間、大岩が坂上から転がり落ちてきたけど華麗に回避。

 インディ・ジョーンズ宜しく走ろうかと思ったけど、別に左右が壁って訳でもなかったので、普通に避けれた。
 この趣味的なトラップの仕掛け方は、アル何とかの仕業の気がする。

 力が抜けそうになるトラップを避けながら、地上階へと駆け上がって行く。
 途中で自分が読む本も、1冊取っておいた。

 地上階に出て、ようやく一息つけた。
 傷は一つも負っていないけど、服はちょっと汚してしまった。
 動きやすい服で来て正解だったな。

「とりあえず本もゲットしましたし、今日はもう帰りましょう」

 なんだかんだで往復に2時間掛っちゃいました。
 図書館島自体が大きすぎるのも問題ですね。

 もう疲れたし家に帰ろう。
 晩御飯の準備しないといけないし、明日菜もお腹を空かせて待っているだろう。




SIDE:タカミチ・T・高畑

「ふむ、どうしたものかのう……」

 学園長室で僕は学園長と頭を悩ませていた。

「アスナちゃんが転入して、来年度には木乃香ちゃんも来ますからね」

 いま悩んでいるのは、木乃香ちゃんが転入してきた後の寮の部屋割である
 そもそも麻帆良は完全寮制で、学園に通う生徒は入寮するのが基本だ。

 現在、里桜とアスナちゃんが僕の家から学校に通っている事自体が異例といえる。

 しかしアスナちゃんと木乃香ちゃんの部屋割には本当に気を使う。
 目下の所、二人とも魔法関係の事に関わらせるつもりはない。

 木乃香ちゃんは父親である詠春さんの意向で、魔法使いの世界に近寄らせないようにしているし、
 アスナちゃんもわざわざ封印した記憶を、呼び覚ます事もない。
 せめて記憶を受け入れられる年齢になるまでは。

 よってなるべく魔法関係者と同じ部屋にはしたくない。
 そういう意味では今僕の家にいるのも、余り良いとは言えないのだけれど。

 しかし2人は狙われる可能性がある。
 特に木乃香ちゃんは常に護衛が必要とされるほどだ。

「アスナちゃんはこの雪広あやかという子と同室ではどうでしょう? 里桜の話を聞く限り仲良くしているみたいですが……」

「雪広財閥の子か……しかし彼女は既に他の生徒と同室じゃよ」

「そうですよね……」
 とうぜん既に入寮している生徒は部屋割も決まっているので、割り込むのは難しい。

「ふむ、いっそのことアスナちゃんと木乃香を同じ部屋にしたらどうかのう」

「それは……」
 小学校、中学ぐらいまでならそれでも問題ないかもしれない。
 しかし将来的にアスナちゃんが真実を知る事になった時に、同室の木乃香ちゃんが同じ部屋だと色々と拙い。

「それにワシは将来的には木乃香にも魔法を覚えて欲しいと思っておるしの」

 そう言う事なら……しかし詠春さんの意向を無視するのも。
 怒らせると後が怖いし。

「そうするとなると、アスナちゃんと木乃香ちゃんはずっと同じクラスにするという事ですか」

「そうなるのう。まあそれくらいなら問題なく出来るじゃろう」

「そうですね。仲良くしてくれるといいんですけど」

「ふぉふぉふぉ、木乃香は器量良しの優しい子じゃ、問題ないじゃろうて」
 さらりと学園長の孫自慢が入った所で、もう一つ気になる事を聞いてみた。

「その件については分かりました。それで里桜の事なんですが……」

「なんじゃ、いくら里桜ちゃんでも木乃香の器量には適わんぞい」

 いや、それは関係ないです。
 あと里桜の器量も負けてはいません。

「里桜は寮に入れなくてもいいんですか?」

「なんじゃ、高畑君は里桜ちゃんと一緒に暮らしたくないのかの? なんならワシの家に連れてきても良いぞい」

「いえいえ、そう言う訳ではないんですけど、里桜だけ自宅から通学というのもどうかと」

「別に構わんよ。高畑君も来年からは教員になる訳じゃしの。物事に例外はあるものじゃよ。エヴァンジェリンじゃて寮では無いじゃろ」

「それもそうですけど・・・・・・」

 まあ学園長が良いのなら良いんだろう。
 僕としても里桜と暮らせるなら異論はない。

 学園長に挨拶して、部屋を出る。
 そんなちょっとした悪だくみをした。秋の午後だった。


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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 図書館島には歴史的な蔵書も多いそうなので、貸し出しはしていそう。
 もちろん有料で。きっとそれが麻帆良の運営資金の一部になっていると思います。

 そしてこれにより、里桜もお金を持つ事が出来ます。
 お金を持つことで、世界も広がって行く事でしょう。

 ちなみに里桜が歌っていた歌は、初めてのお使いでおなじみの「ドレミファだいじょーぶ」です。
 歌手はB.B.クイーンズ。

 最後に明日菜と木乃香が同じ部屋になる経緯について。
 これには本当に悩みました。
 悩み過ぎてSS-FAQ板に質問するほど悩んだ結果、こんな感じに成りました。
 もっと良い方法があったかもしれないですけど、後々ネギ坊主が居候する事を考えると作者的にはこれが精一杯でした。

 なお、里桜は自宅からの通学になります。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。




-- 作者の 泣き言 戯言 --

 最近執筆の息抜き&今後の為に、既存のアーティファクト(いどのえにっき等)の中でちょっと便利すぎる物に
 どんな規制(発動条件など)を追加したらバランスが取れるかを考えていました。

 それで何とか、色々と考えることで対応できそうだなと思った矢先に、今週のマガジンを読みました。
 ・・・・・・茶々丸どうしよう。マジでどうしよう。(泣)

 なお、色々と問題発言の多いパルですが、基本的に私のネギま!に対するスタンスは、
 「作者憎んでネギパ憎まず」、「周りの大人(編集など)憎んで作者憎まず」で考えているので、パル自体は特に嫌いではありません。
 まあ好きでもないですけど。



[15881] 第21話 近衛木乃香参上
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/03/10 17:43

第21話 近衛木乃香参上


SIDE:高畑 里桜

 目の前ではちょっと面白い光景が流れている。
 いつもは無表情に近い、無愛想な表情をした明日菜が困っている。

 原因は明日菜にまとわりつく木乃香のせいだろう。

 小学校でも微妙に周りと距離を置いている明日菜のパーソナルスペースに入り込める人間は少ない。
 同年代では私といいんちょぐらいなものだ。

 それを初見でここまで入り込むなんて
 木乃香……恐ろしい子!

 とまあ白目でそんな事を考えていたけど、そもそも初対面の段階から木乃香の雰囲気にのまれていた気がする。



 つい30分前。

「……アンタは誰」
「うちは近衛木乃香ゆーんよ」

 半眼で睨んでいるような顔をしながら不機嫌オーラを出している明日菜にも、ニッコニコ笑いながら木乃香は挨拶する。

「そう……私は神楽坂明日菜」

 明日菜もちゃんと自己紹介できるようにはなっています。
 なんせ以前までは初対面の人に対して「……誰」としか言わず、相手が答えても「……そう」で終わってましたからね。

 この辺の教育は頑張りました。

 しかしこの二人の雰囲気は良いな。
 明日菜といいんちょのコンビも良かったけど、こっちはこっちで良い感じだ。

 明日菜といいんちょはマイナスとマイナスが転じてプラスになるイメージだけど、この二人はプラスとマイナスで中和されてる感じがする。
 けっして明日菜やいいんちょがマイナスイメージって訳じゃないけれどね。

 というか木乃香の癒し効果ハンパねぇです。


 じゃれ合う二人を見ながら、おじいちゃんとニヤニヤしていたら。
 木乃香がこっちに来て、私もじゃれあいに参加させられた。

 おじいちゃんがさっきの2倍はニヤニヤしながら見ている。くそう。


 その後は京都の小学校で流行っていた遊びや、木乃香の京都時代の話などを聞きながら3人で親睦を深めたりした。
 木乃香の話の端々に出てくる「せっちゃん」という人物は、おそらく刹那と考えて間違いないだろう。

 いつかは分からないけど、その内に刹那も麻帆良に来るので木乃香もそんなに寂しそうな顔をしないで頂きたい。




 それから、今年から麻帆良学園の教師になったおとーさんが帰ってくるのを待って、「木乃香ちゃん歓迎パーティ」を開催した。

 このパーティは「木乃香ちゃん歓迎」の他に、「アスナちゃん入寮記念」でもあり、「おとーさんの就職記念」でもあり、さらには「高畑家引っ越し記念」でもある。

 会場は私とおとーさんの新居だ。

 新居は学園の近くにある一軒家で、既に退職した魔法先生が使っていたものだ。
 嬉しい事に地下に小さな研究施設、工房と呼べるものがある。

 一応この工房は自由にしていいと言われているので、色々やってみたいと思う。



 パーティは、出前のお寿司や私の作った料理などを食べながらみんなでワイワイ過ごした。
 ちなみにおじいちゃんが最初ケータリングを頼もうとしていたので慌てて止めた。

 別に料理なら私がするし、こんな少人数でわざわざケータリングする事もない。
 というかおじいちゃん、はしゃぎ過ぎである。

 よっぽど木乃香と会えてうれしいのだろう。

 その木乃香は私の作った料理にご満悦のようだ。
 美味しそうに食べてくれるのはとてもうれしい。

「里桜ちゃんのお料理美味しいなー」

 もっきゅもきゅと口いっぱいに頬張っている。
 それでも下品に見えないのは木乃香だからだろうか。

「うちも最近お料理のお勉強してるんよ」

「そうなんだ。そのうち木乃香ちゃんの料理も食べさせてね」

 まあ木乃香が料理上手になるのを知っているとは言えないので、ここは話を合わせておこう。
 木乃香の料理を食べたいのは嘘ではないし。

 和食が好きなので、京料理には興味津々である。


 そのままパーティは終始穏やかな雰囲気で進んだ。
 私と明日菜と木乃香の三人も、すっかり仲良しさんだ。

 特に明日菜と木乃香は今日初めて会ったとは思えない仲良しっぷりだ。
 やはり見た目が同年代でも、中身が二十歳オーバーの男だと仲良くなりづらい物なのだろうか。
 そう考えるとなんだか少し落ち込んでしまう。


 その後も良い盛り上がりをしたまま終了時間になり、パーティはお開きになった。
 小学生はそろそろ寝なければならない時間だ。

 明日菜と木乃香はおじいちゃんと一緒に、おじいちゃんの家に帰って行った。

 いきなり寮に住まわせる訳にもいかないし、うちは引っ越したばかりで片付いていない。
 寮に入る前におじいちゃんの家で、親睦を深めるのだ。


 さて、パーティ会場の片づけをある程度済ませ、続きは明日に回そうかと思っていた所
 おとーさんから大事なお話があった。

 その話の内容は、早い話が「木乃香の護衛」についてだ。

 関西呪術協会の長の娘である木乃香が、関東魔法協会の総本山である麻帆良にいる。
 この事実は関西呪術協会の人間なら面白い話ではないし、何かしらのちょっかいを掛けて来る輩が居る可能性はある。

 その為、私に木乃香の護衛をして欲しいらしい。

 護衛と言えば聞こえはいいけど、私一人じゃ対抗できる相手のレベルなんてたかが知れている。

 要は私に求められているのは木乃香と仲良くする事だ。
 そして何かあったら周囲に助けを求める事だろう。

 それに私以外にも何名かが目を光らせているらしいし
 私は単純に同年代という近くに居て何の不思議もない状況だから、任されるんだろう。

 どのみち木乃香に何かあるようなら、私だってほうっておく訳ないしね。
 言われなくたって護衛ぐらいするさ。

 話を一通り聞いた後、私は工房に降りてみた。
 地下特有のヒンヤリとした空気を感じる。

 木乃香の護衛に、この工房を使っての研究。
 訓練に回す時間は減ってしまいそうだけど、研究は楽しみだ。

 色々な魔法具みたいなものにも興味はあるし、自分に向いた武具なんかも作ってみたい。
 こういった物作りみたいな事にワクワクするのは、私の中の男の部分が感じられて嬉しくなる。

 これからこの部屋で何が出来るのか。
 そんな事を考えながらドアを閉め、上へと階段を上って行った。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 今回の話は短いです。そして難産でした。
 ちょっと木乃香が嫌いになりかけるぐらいに、難産でした。

 こんな何でもない部分の話なのに……。いや、何でもない部分だから難しかったのかもしれませんね。

 物語としては里桜達が2年生になり、タカミチが教師になりました。
 時期的には、ネギの故郷が悪魔に襲われる1年ぐらい前でしょうか。

 そして里桜が自分の研究施設を手に入れました。
 前話からのお金を入手できる手段と合わせれば、様々な事が可能になります。
 このあたりの話は作者的にも書くのが楽しみな場所です。

 なお今回の話で、里桜が木乃香の護衛を行う事になりましたが、このネタは感想板で臣さんの感想より頂いたものです。
 臣さん、ありがとうございました。


 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。




-- おまけ --

 今回の話が短すぎたので、それを埋めるためにちょっとした設定のお話をしたいと思います。

 本来はあまり設定を長々と書くのは、物書きとして余り良くないのは分かっているので、
 出来るだけ本文内で語るようにと心がけてはいますが、これから記します「キャラクターメイキング」なんかの話は
 本文中で使いようもないため、ここに記させていただきます。

 また本文中で出てこないなら書く必要もないのではという意見もあるとは思いますが、
 作者自身がこういう裏話的な設定が大好きであるのと、読者の方の中にも喜んでいただける方が居るのではと思いましたので書かせて貰いました。


 高畑 里桜について

  高畑里桜はネギま!の主人公であるネギ・スプリングフィールドを意識して作られています。
  (ただし、話を進めて行く上で変わっていく設定も多々あります)

  ネギは英雄と呼ばれる親を持ち、その親をも凌ぐ膨大な魔力や高い学習力を持つ。文句なしの最強に近いキャラの一人です。

  それに対し里桜は、
  英雄であるが魔法の才能が無いために、「マギステル・マギ」には決してなれないタカミチを義理の親に持ち、
  魔力や魔法の習得率も高くはなく、特に突き抜けた力の持てない器用貧乏なキャラです。

  ネギの魔法が高い攻撃性と速度を持つ「雷」であるのに対し、
  里桜は生命力の象徴でありながら破壊の象徴でもある「火」を得意な魔法としています。

  これは里桜の汎用性の高さを表しています。
  また「火」は再生も意味しますから、里桜の転生憑依者としての境遇も指しています。

  こういった考えや、ネギとの比較から里桜というキャラクターは生まれました。


 里桜のキャラクター設定については、ざっとこんな所でしょうか。
 蛇足な話だったとは思いますが、楽しんでいただけたならば幸いです。



[15881] 第22話 ロボット工学研究会と真祖の吸血鬼
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/07/02 04:48
第22話 ロボット工学研究会と真祖の吸血鬼


SIDE:高畑 里桜

 チュンチュン……

 開けたドアから雀の鳴き声が聞こえる。
 いわゆる朝チュンである。

 いや違った。
 単純に工房で徹夜してしまっただけだった。

 どうも徹夜明けでテンションが変になってる。
 朝ご飯を食べてシャキっとしよう。

 今日みたいにおとーさんが仕事でいない時は、どうしても夜更かしが過ぎてしまう。

 しかし夜更かしの甲斐あって、何点かの魔法薬が完成した。
 材料が山で摘んできた薬草だけなので、たいした物は出来なかったけれど。

 とにかくボンヤリしていたら寝てしまいそうなので、簡単な朝食を食べて学校へ向かおう。
 そして今日は大人しく過ごして早く寝よう。




 キーンコーンカーンコーン……

「うぅ……眠い」
 今にも瞼が落ちそうだ。

 大学行っていた頃には徹夜明けの講義なんて何ともなかったけど、この身体がまだ徹夜とかに慣れていないせいか、堪えるな。

「里桜さん。今日はいつにも増して集中力が欠けていましたわね」
 授業も終わったのでさっさと帰ろうとしていたのに、いいんちょが絡んでくる。

「ちょっと寝不足で……」

「だらしないですわね。そんな調子じゃ、次のテストも私が頂きますわよ」

 前回のテストは私のイージーミスでいいんちょに負けました。
 これでいいんちょも大人しくなるかと思っていたんですが、ちっとも変りませんでした。

「……本当に眠そうですわね。顔色も良くありませんわ」
 反論しない私を心配したのか、顔を覗き込んでくる。

「うん。そんな訳なんで、今日はもう帰るよ……」
 もちろん私に反論する余裕なんてない。

「分かかりましたわ。お気をつけて」

 結局体調を気にかけてくれて、自分から話を切る辺り良い子なんだよな。基本は。
 どうも私と明日菜にだけ、風当たりが厳しい気がする。


「ふぁ……」
 欠伸が止まらない。

 今度こそさっさと帰って寝ようと思ったら、また別の人に捕まった。

「里桜ちゃんちょっと良いですか?」
 葉加瀬だ。

 葉加瀬は大学部にあるロボット工学研究会に所属している。
 所属しているというよりは、最早半分住んでいる状態だ。

「今日ちょっと研究室に来て欲しいんですけど……」

「今日ですか? 今日は……あふぅ、ちょっと用事が」

「ちょっと見て貰いたいものがあるんです」

 欠伸を噛み殺しながら、やんわりと断ろうと思っていたら勝手について行くことが確定してしまった。

 ああ……絶対にロボット関連だ。
 葉加瀬は普段は同級生にも敬語で話すが、こと科学関連の事になるとかなり強引になる。
 さすがはマッドサイエンティスト、科学に恋するメガネっ娘だ。

「しょうがないですね。私は昨日寝てないんですから、手短に頼みますよ」
「大丈夫ですよ。私もほとんど寝てませんから」

 何が大丈夫なのかはさっぱり分からないけど、葉加瀬のテンションがいつもより高い理由は分かった。
 こんなハイテンションの葉加瀬に巻き込まれたら、確実に今日一日はつぶれるので覚悟しておこう。

 かといってさすがにそのままはつらいので、鞄から魔法薬を取り出す。
 これは昨日徹夜で作った魔法薬の一つ、眠気を感じにくくする薬だ。

 はっきり言って魔法薬と呼ぶのも憚られるしょぼさだけれども、ほとんど材料が無い状態から作れるのはこんなもんだ。
 膨大な魔力でもあれば別だけど。

 入れておいたペットボトルのふたを開けて、一気に飲み干す。
 味は清涼飲料水に似ていて、不味くはない。
 後味が非常に薬臭い事を除けば、だけど。

 魔法薬のキツイ後味に顔をしかめてると、葉加瀬は飲み終えたペットボトルに興味を示してた。

「このペットボトルって、カフェガラナのペットボトルですよね? でも匂いは全然違いますよ」

 まあ中身は魔法薬なので当然だ。
 むしろ中は結構臭いはず。

「中身はカフェガラナじゃなくて、別の飲み物が入ってるんですよ。眠気を抑える成分の飲み物ですよ」

「眠気を抑える成分……?」

 あれ? 私なにかいけない事を言ったかも……。


「その眠気を抑える成分には非常に興味がありますね。カフェガラナには確かにカフェインが含まれえていますが、あなたがわざわざそういう言い回しをしたという事はカフェガラナとは違う飲料であるという事になります。それは私が匂いを嗅いだ結果からも出ています」

 ああ、葉加瀬の変な所にスイッチが入ってしまった。
 こうなると、この飲み物が何なのか分かるまで解放してくれない可能性がある。

 当然魔法薬だなんて言えない。
 今後茶々丸の開発などで魔法について知る事になる葉加瀬だけど、その情報源が私になるのはマズイ。非常にマズイ。

「あ~この飲み物はですね……」
「飲み物は……?」

「実はおじいちゃん……学園長から貰った物なんですが、まだ発売前の飲み物らしいんですよ」

「学園長……? あの後頭部の長い?」
「ええまあ、その後頭部の長い学園長です」

 酷い憶え方ですけど、まあ特徴を捉えてはいますね。

「という訳で、まだ発売前なので公には出来ないのですよ。もちろん成分なども同じです」

「そうですか……残念です」

 とりあえずは誤魔化せましたね。
 我ながら微妙なごまかしでしたけど、おじいちゃんの名前を出すことで信憑性を持たせることに成功しました。

 麻帆良内では、その不可思議に後頭部も相まって、あの学園長なら何をしてもおかしくないと思われてますからね。

 その内に本当の事を教えれるようになったら、この魔法薬も何本かプレゼントしましょう。



 魔法薬の効果が効いてきて、目がシャッキリしてきた頃に大学部にあるロボット工学研究会に到着した。

 さすがに大学部だけあって設備も豊富だ。
 さらにこのロボット工学研究会は、他のジェット推進研究会など複数のサークルと共同でテレビで紹介されるような研究も何度かしているので、他のサークルよりもさらに優遇されている。

 大学部のサークルにいる小学生女児2人はさすがに目立つが
 葉加瀬は最早ここに住んでいるようなものだし、私も葉加瀬に連れられて何度か来ているので、割と慣れたものだ。

 早速葉加瀬が見て欲しいと言っていた物に目を通す、が。

「っ!」

 危うくせっかくいれて貰ったコーヒーを噴き出す所だった。

 見せられたそれは、ロボットの設計図。
 T-ANK-01と銘打たれているそのロボットの設計図は、どことなく田中さんを彷彿とさせる物だった。

 更に1枚捲ると、今度は女性型ロボットの設計図も出てきた。
 かなり綿密に描かれていた田中さんっぽい設計図と違い、こちらはまだ草案といった感じだ。

 葉加瀬の用事はロボットの設計で煮詰まっている箇所があるので、何か意見して欲しいとのことだった。

 確かに2年前ぐらいにはロボットについて語り合った事もあったけど、最近は葉加瀬が普通に天才過ぎてついて行けていない。
 なので意見をなんて言われても、困ってしまう。

 とりあえず武装の欄に目をやってみる。

「有線式ロケットパンチに飛行ユニット、水中活動ユニット、それにビーム……ビームって」

 備考欄には理論上では可能? って書いてある。
 確かに将来的には使われていましたね。……脱げビームとしてですが。

 不必要なほどに武装が充実しているなって……
「携帯式のガトリング?」

 そんな武装が必要なのか? ビームなら笑い話で済みそうだけど。
 いやそもそも……

「……手に入るの? ガトリング」
「ロボット工学研究会を舐めないでください」

 そんな自信満々で言われても。
 世の中には銃刀法違反ってのもあるんだけど……

 でもそれを言い出したら麻帆良全体がキナ臭い感じになってしまうので、自重しておこう。

 しかしひょっとして、ここなら私が欲しい物も手に入るかも。

「ねえ葉加瀬、その工学部のネットワークでついでに買って欲しい物があるんだけど……」

「ついでですか?あまり私用に使うのは良くないんですけど……」
 別にガトリングみたいな武器を欲しがってる訳じゃない。

「とりあえず危険性のない物ですから」

「一応聞いておきますけど何ですか?」

「それはですね……」
 葉加瀬の形の良い耳に口を添えて、ゴニョゴニョと伝える。

「う~ん、それくらいだったらいいですけど……。そもそもそんな物どうするんです?」

「あはは……用途については黙秘という事で」

 とてもじゃないが言えたもんじゃない。
 とりあえずは入手してくれそうなので一安心だ。


 結局ロボットの設計図に関しては、何の力にもなれなかった。
 もはや素人レベルの私が、どうこう口出しできるレベルを完全に超えてしまっている。

 ただ女性型ロボットの武装におっぱいミサイルがあったのだけは、止めるように言っておいた。

 そもそもおっぱいミサイルは弾数が2発しかなかったり、弾頭がむき出しだったりと、武器としての突っ込みどころが多すぎる。
 将来茶々丸に話したら、きっと感謝されるだろう。




 今日もおとーさんは居ないので、適当に済ませて寝てしまおう。
 さっきの魔法薬は、睡魔を感じなくするだけで体は睡眠を必要としている事は変わりないのだから。

 布団に入る前におとーさんの部屋をチラリと覗く。
 別段異状はない。

 しかし最近おとーさんの様子がおかしいのだ。

 私が寝静まるのを見計らってから外出して、朝方に帰ってくる。

 初めはおとーさんも若いんだし、大人の付き合いもあるんだろう。
 どんな人を連れてきてもお義母さんと呼んであげなければ、なんて決意を固めていたんだけれども、どうも違うようだった。

 明け方に帰ってくるたびに山にでも籠っていたのかと思うような、ボロボロの姿。
 異様に伸びている無精ヒゲ。

 う~ん心配ですね。
 せめてどこに行っているのかだけは知っておきたいですが、夜中に出かけている以上私には知られたくないってことですよね。

 ……後をつけてみますか。
 もし本当に私に知られたくないような場所だったら、とりあえず大人の対応で知らないふりを続けましょう。

 そうと決まればおとーさんが帰ってくるまでに色々準備が必要ですね。




 私がおとーさんの尾行を決意してから3日後、ついにその時がやって来ました。

 私の部屋の電気が消えたのを見計らって、おとーさんが出かけて行きました。
 おとーさんのスーツのポケットには、ロボット工学研究会から無断で借りてきた発信機を入れて置いたので居場所は分かります。

 本当は尾行をしようと思ったけど、後なんかつけたら即バレの危険性が高すぎるのでこんな方法にしました。
 普段魔法に慣れてる人にとっては、こういう機械を使ったやり方のほうが気付きづらいだろうし。

 しかし勝手に持ってきて文句は言えないけれど、本当に何でもあるロボット工学研究会が少し怖いです。

 受信機の画面には、移動する点滅が映っている。
 これで何処に行ってもバッチリだ。

 しかし何処で何してるんだろう。
 おとーさんの事だし、変な事はしていないとは思うけど……あれ?

「点滅が消えた?」

 さっきまで順調におとーさんの居場所を伝えてくれていた点滅が消えてしまった。
 故障? だとしたらどうしようか……

 諦めて寝るという選択肢もあるけど、せっかくなので反応が消えた場所まで行ってみよう。
 意外とそこにいるかも知れない。

 杖を持って外に出る。

 あと少しで日が変わろうかという時間に出歩く小学2年生。
 見つかったら即補導モンですな。

 辺りを警戒しながら、ようやく反応が消えた当たりまでやってきた。

「しかし木ばっかりですね。このあたりの筈なんです……が?」

 木々の向こうに一件の家が見えた。
 家というよりはログハウス。

 その見覚えのあるログハウスの持ち主を思い立った時には、もう遅かった。

「こんな時間に気配がするから誰かと思えば……」

 背後から声がし、振り返ると見た目こそ私と大して変わらない年の女の子。
 しかし、その実態は世界最強種の一つ。

「真夜中に出歩くなんぞ、吸血鬼に襲われても文句はいえんぞ?」

 闇の福音、人形使い、不死の魔法使い等の数々の異名を持つ。

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……!」



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 出てきました。みんな大好きエヴァンジェリン。
 数多の二次創作やネギま!?でも、ギャグキャラ化される事の多いエヴァンジェリンですが(原作内でも結構)
 本作では出来るだけ年長者としてなどの、導き手としての面も頑張って書いていきたいと思います。

 そして着々と進む、里桜の武装計画。
 さりげなく葉加瀬との親交を築いていたので、物資の入手がかなり楽になっています。

 それにしても葉加瀬が明日菜や木乃香に比べて書きやすいです。
 マッドサイエンティストというキャラ立ちがしっかりしているのと、敬語キャラの為口調も楽です。
 これは今後も出張ってくるかもしれません。

 今回里桜が発信機を付けたりとナチュラルに外道な事をしていますが、どの辺までなら読者の方は流せて読めるのでしょうか。
 もっともファンタジーの世界で罪云々を言うのは無粋かもしれませんが。


 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第23話 EVANGELINE'S RESORT
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/07/02 06:08
第23話 EVANGELINE'S RESORT


SIDE:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……!」
 目の前で驚愕の表情を浮かべているこの小娘は誰だ。

 時刻はもう日が変わろうかという時間帯だ。
 私の肉体年齢と同じか、もしくはそれ以下の小娘が出歩く時間はとうに過ぎているが。

「あ、あの、わたし高畑里桜です。お、お父さんがこの辺りにいる筈なんですが……」

「父親だと? そうか、貴様がタカミチの娘か」

「お父さんや私のこと、ご存じなんですか?」

「ふん、タカミチとは同級生でもある。お前の話ぐらいは聞いたことあるさ」
 もっともそれ以上に、じじいの孫自慢で聞かされる事が多いがな。
 近衛木乃香と合わせて自慢話をされるのが、うざったらしいことこの上ない。

「それでお父さんなんですけど、この辺りにいるはずなんですがご存じありませんか?」

「タカミチか……」
 こんな小娘に後をつけられるなど、あいつも衰えたものだな。

「あいつなら私の家にいるぞ。ついてこい、案内してやろう
 どうせ咸卦法の習得に行き詰まっているのるに決まっているのだから、無理やり休憩にさせてやろう。
 それにあいつの澄ました顔を崩してやるのも面白そうだ。

 ログハウス内に入り、地下に降りる。
 大量に置いてある人形の間を抜けて、巨大なフラスコ"別荘"の前に立つ。

 趣味と実益を兼ねて大量に作った人形だが、魔力の封印されている今では飾る以外の用途がない。
 まったくもって煩わしい事だ。

「ほれ、このビンの周りに立て」
 人形の群れに戸惑っている小娘に声を掛け、急かす。

「このビンは……」
 別荘のビンを見た瞬間、眉をひそめて立ちつくす小娘。

「ほう、このビンから何かを感じるだけの力はあるか……。まあいい、特に何もしはしない。さっさと立て」
 さっさと小娘をビンの前に立たせて、別荘内へ入る。

 体が別荘へと引き寄せられる。
 この瞬間の魔力が体にみなぎる感覚は、何度感じても心地よいものだ。

 次に目を開けば別荘の内部。
 細い通路の向こうに建物。そしてその手前にタカミチの姿が見える。

「エヴァンジェリンさん? あの、ここは?」
 辺りをキョロキョロ見回す小娘を無視して、さっさと歩みだす。
 説明は面倒なので後回しだ。

「エヴァンジェリンさん、ここは……あ、お父さん!」
 私達の目には咸卦法に悪戦苦闘するタカミチの姿があった。

 予想通り、まったく上手くいっていないようだな。
 仮にも究極技法などと呼ばれる咸卦法だ。そうそう簡単にいかれては咸卦法も立つ瀬ないだろう。

「あれが咸卦法……?」

「貴様、咸卦法を知っているのか?」
 咸卦法は存在が秘匿とされているわけでは無い為、知ること自体は不可能ではない。

 しかし十把一絡の魔法使いが知っているようなレベルの物ではないはずだ。

「魔法使いの教師共がこぞって鍛えているという話は事実のようだな……」
 中々面白そうだ。後で実力でも見せてもらうか。

 とりあえずは目の前で、四苦八苦しているバカを止めるとするか。

「おいタカミチ」

「右手に……エヴァ? それに……!?」

 私の後ろにいる小娘の姿を見た時のタカミチの顔は実に見物だったな。



SIDE:タカミチ・T・高畑

 エヴァの別荘を借りるようになって、早くも1週間がたった。
 大体毎日3~5時間借りているので、体感時間的には半月以上はいる計算になる。

 体を休める時間を除いては、全て咸卦法の習得に回しているけどまったくつかえる気配がしない。
 エヴァから借りた魔導書を見ても、どうにも要領を得ない。

 究極技法と呼ばれるだけの技術だ。
 そうそう身につけられるとは思っていなかったけど、こうも音沙汰なしだと不安になる。

 こんな時に師匠が、ガトウさんが居てくれればと考えてしまう。

 感傷に浸りそうになるのを頭を振り、再度咸卦法の習得を続けようとした時
 背後からエヴァの声が聞こえ、振り向いた僕の目に映ったのは……




 珍しく休憩にお茶を淹れてくれた(正確には別荘内の人形が淹れた)お茶を飲んで休憩している。
 やっぱりエヴァの所にあるお茶は良いものだね。

 カチャ
 ソーサーにカップを戻す。

 さて、いつまでもお茶に逃避しているわけにはいかないか。

「なんでここに居るんだい? 里桜」
 目の前でオレンジジュースをストローで吸っている愛娘に目を向ける。

「ちょっとお父さんの後を付けまして……」
 悪びれもせず、笑いながら答える里桜にため息をひとつ。

 普段はとてもいい子なんだけど、たまにこう言った思い切った行動をすることがあるから困る。
 しかも悪いと分かっていながら開き直っているのが、またタチが悪い。
 自分の娘ながら将来が少し不安になるよ。

「まったく、こんなものまで使って……」

 右手にはポケットに入れられていた発信機。
 こんなものまで使うとは恐れ入る。

 最近大学部にあるロボット工学研究会に顔を出していると来てるけど、まさかこんな事になるとは。

「まあ、僕を尾行したことについては後でお話ししようか」
 家に帰ったらたっぷりとお話しするとしよう。

「そもそもなんで僕を尾行なんてしたんだい」
「お父さんが夜にコソコソ出かけるんで、さすがに気なったんですよ」

 里桜が寝静まるのを見計らって家を出ていた筈なんだけど、里桜は誤魔化せなかったか。

「まあ来ちゃったものはしょうがないか。里桜が出れるようになったら僕が送って行くから、それまで大人しくしてるんだよ」
 エヴァの別荘は24時間単位でしか出ることしか出来ないから、それまでは僕の修行も中止だね。

 ポケットからタバコを取り出し、口に銜えたところでエヴァが睨んでいるのに気づいて、ポケットにしまった。
 そういえば別荘は禁煙だった。

「あの、私もここで修行とかしたいんですけど駄目ですか? ここなら時間もたっぷりとれますし」

 里桜は僕と一緒にエヴァの別荘で訓練したいようだ。
 でもそれは認めることはできない。

 もう大人である僕と、まだ子供の里桜では時間の貴重さが違う。
 僕の一年後なんてそう変わらないだろうけど、里桜の一年は見た目にも、精神的にも大事な成長期だ。
 魔法の訓練だけで過ごさせるわけにはいかない。

「え~、ダメですかぁ。お願いしますよ」
「ダメダメ。それは認められないよ」

「そこを何とか。お願いですおとーさん」
「何と言われても駄目だよ」

「でもおとーさんだけずるいです」
「ずるいとかじゃなくて、里桜だけ急に成長して身長とか伸びたら明日菜ちゃんとかも驚いちゃうだろ?」

 こんな問答を何度も繰り返してると、静かにお茶を飲んでいたエヴァが急に立ち上がり、

「貴様らいー加減にしろおっ!!」

 ティーセットを吹き飛ばさん勢いで怒声を上げた。



SIDE:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

「貴様らいー加減にしろおっ!!」

 派手な音を立てて、吹き飛ぶカップと紅茶、お茶請けのクッキーも。
 しかしそんな事はどうでもいい。

「貴様らは人を無視して話を進めおってっ! ここは私の別荘だぞ!!」

 それをグダグダと言い争いおって、まず私に聞くのが筋だろう。
 この親子を別荘出入り禁止にしてやろうか。

「やあ、それはすまないね、エヴァ」
「どうも申し訳ありません。え~と、マクダウェルさん」

 う…むぅ、自分の見た目より下の人間に敬語を使われるのは、何ともおかしな気分だな。

「……まあ分かれば良い。それに私の事はエヴァンジェリンで良いぞ」

 何となく勢いも削がれてしまった。
 餓鬼になめた口を訊かれるのには慣れているのだがな。

「それではエヴァンジェリンさんで。それでさっそくなのですが、ここを私にも使わせてほしいんですが……」

 真っ直ぐこちらを見てくる瞳。
 その瞳から感じる意思は、到底小娘のそれとは違うものを感じる。

 後ろで、断ってほしそうな目でタカミチが見ているがそんなものは無視だ。
 個人的には面白そうな暇つぶしになりそうなので、ここを貸すことはやぶさかではない。
 どうせタカミチに貸してるのだしな。

「ふむ、別に貸してやるのは構わんが……」

 そのまま貸すのも面白くないな。
 そう思い、思考も巡らせながら周りを見ると、立てかけてある杖を見つけた。

「この杖は小娘、貴様のか?」

「え? あ、はい。我流ですけど、杖術を学んでます」

 特に魔力的なものは感じないが、良く手入れされている杖だ。

「ふむ、棒術なら私も心得があるな。まあ100年ほど前の話だが」

「ひゃ、100年っ……」
 人間には途方もない長さに感じるだろう。実際暇つぶしに学んだものの、ほとんど使った事の無い棒術は記憶があいまいだ。

「どれ、貴様の腕を見てやろう」
 小娘に杖を投げ渡してやる。

「ふぇ?」
 私の言葉が意外だったのか、小娘は杖を受け取った形で固まっている。

「聞こえなかったのか? 手合わせをしてやろうと言っているんだ。その結果如何でここを貸してやるかを決めてやる」

「ええっ! いや、でも私なんか瞬殺されるに決まってるじゃないですかっ!! せめて別荘の外でやりませんか!?」

 この小娘、この別荘内では私の魔力が回復している事を感知しているようだな。
 なかなかの感知力だ。面白い素材かもしれんな。

「もちろん加減はしてやる。間違っても命を奪うような真似はしないから安心しろ」
 そう言いながら、従者から自分用の杖を受け取る。

 ついでに後ろで気が気じゃないといった顔をしているタカミチにも確認をとってやる。
「タカミチ。貴様もそれで文句はないな?」

「僕が言ったところで君は止めないだろうし、無茶さえしないように気をつけてくれればいいよ」
 苦笑しながら言うその態度が気に食わんが、まあいいだろう。

 ヒュン、ヒュンッ

 馴染ませるように2、3度振ってみる。
 ふむ、かろうじて体は覚えているようだな。

「ではいくぞ」

 慌てて構える小娘。

 小刻みに動きながら、連続で突き出しを行ってくる。

 我流であるというのは、本当の様だな。
 杖術を知っている人間なら、杖同士の戦いで突きを多用する馬鹿はいない。

 杖術の本分は「間合取り」にある。
 相手がナイフなどの短い間合いの武器の場合は有効であるが、この場合に突きの利点はない。

 杖術の戦い方とは間合い、すなわち領域の奪い合いであると思え。
 そんな事を確かチンチクリンのおっさんが言っていたな。

 すなわち突きで間合いを測ってくる小娘に対しては、
 一気に間合いに踏み込み、突きだされた腕に杖を絡め、投げるっ!

 ドサッ

「ぐうっ!」

 受け身はとれたようだが、もうおしまいか?

「痛っ、ま……まだまだですよっ!」

 一気に突っ込んでくる小娘。
 動きは単調だが、後手に回らず攻めてくる気概は良しとしよう。

 見たところ魔法などで身体強化を行っている様子もない。
 素の運動能力でこの位ならば、まあ悪くはないか。

 繰り出された突き込みを回避し、再度懐に潜り込む。
 そろそろ決めるか。

「舌を噛むなよ?」

 そう言って、杖を顎めがけて振り上げる。

 ガッ

 小娘の体が一瞬浮き、そのまま崩れ落ち、
 そのまま、動かなくなった。

 さすがに気を失ったか。

「ふむ、まあこんなものか」

 魔法の類を一切使ってこなかったのは気になったが、動き自体は悪くはない。
 教師どもが寄ってたかって、小細工をしているだけはあるな。

 まあタカミチがここを使っている間ぐらいならば、使わせてやってもいいだろう。
 どうせタカミチに貸しているならば、大差はない。

「タカミチ。小娘が目を覚ましたら今日は連れて帰れ。今度からはその小娘も連れてきても構わんぞ」


「ほ…ほんとでぇすかぁ~」

 タカミチに掛けたはずの声に、答えたのは気絶しているはずの小娘だった。

「里桜。大丈夫かい?」
 タカミチがあわてた様子で駆け寄ると、案外平気そうに立ち上がってきた。
 顎こそ赤くなっているが、足に来ている様子はない。

「確実に気絶するレベルで打った筈だが、案外頑丈にできているな」

「エヴァンジェリンさんが攻撃の前に声を掛けてくれたおかげで、ギリギリ障壁が間に合いました。といっても最小限ですけど」

 ほう、あの状態から最小限の範囲に絞って障壁を展開できるとは中々良い判断だ。

「ついでにもう一つ聞かせてもらおうか。なぜ他の魔法を使わなかった?」
 それだけの障壁が展開出来て、まさか身体強化ができないとは言わせんぞ。

「いえ、あくまで杖術の腕を見てもらうという話だったと思うので、使用は控えてたんですけど……」

 話す小娘の後ろでタカミチが額に手を当てている。
 真祖の吸血鬼相手に手加減を加えるなどという話は聞いたことがない。

 本当におかしな奴だ。

「それで私は今度からここに来ても……ンガ、あれ? 何か口の中に……」
急にモゴモゴやりだした小娘の口から何かが落ちた。あれは歯か?

 どうやら障壁も完全に防げたわけではないようだな。
 もしくは障壁が間に合っていなかったか。

「里桜っ! 歯がっ、歯が! 大丈夫かい!」
「大丈夫ですよおとーさん。折れたというよりはほとんど抜けたみたいなものですし、何より乳歯ですから」

 取り乱すタカミチに比べ、小娘は実にあっけらかんとしたものだった。

「くくっ、くくくっ……」

 おもしろい。
 どうやらこの小娘は、私の知る餓鬼とは全く違う人間であることは確実なようだ。

 そして私はどうやら、この小娘を気に入ってしまったらしい。

「はははははは、気に入ったぞ小娘。この別荘は私が居る時なら自由に使って構わん」

「ほ、本当ですか!」
「ちょっと待て、エヴァ!」

 あわてるタカミチなんぞ無視だ。
 これは私と小娘の問題なのだからな。

 しかし結局は、タカミチが保護者権限なんぞを持ち出したため、小娘がここに来る頻度は相当下がりそうだ。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 長々と更新を停止してしまい、申し訳ありませんでした。
 こんな駄文ですが待って頂いていた方に、謝罪申し上げます。

 急に忙しくなった&パソコン買い替え時のデータ損失で、執筆が止まっていましたが、ようやく再開の目途がつきました。

 さて今回の話ですが、主人公強化には避けては通れない道、エヴァの別荘が登場しました。
 でもタカミチが許してくれないので、ほとんど来れないと思います。
 そしてエヴァとのやり取りを書いたのですが、執筆期間が空いたせいで書き方を忘れてしまっていました。

 書いてて違和感を隠しきれませんでしたが、読んでる方も違和感を感じるかもしれません。
 引き続き書いているうちに落ち着くと思いますので、しばし温い目で見守ってください。



[15881] 第24話 哲学者って職業?
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/07/27 23:49

第24話 哲学者って職業?


SIDE:高畑 里桜

 草木も眠る丑三つ時、今日も別荘へと通い鍛錬を重ねる。
 ……おとーさんだけ。

 私はというと、おとーさんに別荘行きを止められて、お留守番だ。
 結局、おとーさんの許可が下りないと別荘の使用は出来そうにない。
 そして許可は滅多な事では下りないだろう、ということも理解はしている。

 実際のところ、よくよく考えてみればこれから成長期を迎えるこの体。
 別荘に通ったせいでうっかり急成長してしまうかもしれないし、無茶をするのはもう少し後のほうが良いだろう。

 ただ別荘は使えなくても、個人的にエヴァ……ンジェリンさんに色々と鍛えてはもらおうと思う。

 うっかり呼び捨てにしない為に、普段からさん付けで考える癖をつけておかなければ。
 そんな事で機嫌を損ねるのはアホらし過ぎる。

 別荘の問題はそういうわけで納得して、現在は工房にいます。
 おとーさんが毎日別荘に行っているおかげで、夜の時間をほとんど工房で過ごせるようになったのは嬉しい。

 そして毎日工房で過ごしている理由、それは以前葉加瀬に頼んでロボット工学研究会の伝手で手に入れてもらったものが届いたのだ。
 頼んでいたもの、それは大量の金属繊維。あとその他諸々。

 それもロボット工学研究会の手が加えられた強化型だ。

 これを使って作るのはズバリ防具。鎖帷子(くさりかたびら)だ。

 鎖帷子の利点は鎧に比べて柔軟性が高く体の動きを阻害しない事にある。
 これは魔法剣士を目指す私にとっては大きい。

 防御性能としては防刃能力は高いが、刺突や弓矢、銃弾などに対しての防御は不十分といえる。
 これを補うために、胸部と二の腕部分に動きを阻害しない程度にプレートを追加することにしている。

 この純粋な防御の他に、当然耐魔法の防御も考える必要がある。
 そしてその為に、金属繊維から用意したのだ。

 繊維をある程度束ねて、魔力を通していく。
 こうして繊維に少しずつ抗魔力を付加していって、最終的に鎖帷子に編み上げる。

 まあいくら防刃に優れているとは言っても、神鳴流の剣技を食らえば一溜まりもないと思うけれども。

 こんな細かい作業をチマチマ行ってはいるけど、作業は遅々として進んでいない。
 このペースだと、完成出来るのは半年以上先の話になるだろう。
 けれど、それは別に問題ない。
 それまでに防具が必要になる事態は恐らくないだろうし。

 黙々と束ねて、魔力を通す。
 夜が明けるころまでそんな事を繰り返すのが日課になっています。



 明けて今日はお仕事の日。
 図書館島への本返却と、新しい本のレンタルのお仕事だ。

 色々と買ったので、その分の出費を賄わなければなりません。

 相変わらずやんわりと殺意を感じる罠をくぐり抜けて、地下に進んでいく。
 ただ前回と違うのは、ただ避けていた罠をなるべく魔法を使って退けるようにしている事だ。

 矢は障壁ではじき、倒れてきた本棚は身体強化を行い受け止める。
 その目的は、ほんの少しでも魔法に慣れる事。
 目標は日常的に魔法の使用を行なえるレベルまで達する事。

 特に緊急的な障壁展開は、直接的に命を左右するものですから。

 借りる本は全て持って、返却する最後の本を本棚にしまう。

 その瞬間、大岩が坂上から転がり落ちてきた。
 そういえば本を取った時にもありましたね。

 せっかくなんでこれも受け止める!

「戦いの歌っ」

 フルパワーで身体強化をかけ、大岩を引きつける。

 引きつけて……
 引きつけ……

「ごめん、やっぱ無理っ!」

 ギリギリで緊急回避!
 やっぱり怖すぎますって。

「はぁ~、いけるとは思うんですけど、さすがに度胸が要りますね」
 普通に生活してれば、転がってくる大岩を受け止めようなんて考える事なんてないから。

 次は止めるとリベンジを誓いながら、取りあえずは図書館島から出ましょうか。




 一階でついでに自分個人で借りる本を何点か物色して、受付へ。
 私が個人的に借りる本に関しては、相変わらず1階からのみと決められています。

 そういえばエヴァンジェリンさんの所に行けば、別荘に入らずともそれなりの本はありそうですね。
 今度行ってみましょう。

 ドンッ

「むぎゅっ」

 角を曲がった所で、誰かとぶつかってしまいました。

「おっと」

 ぶつかったのは初老の男性。

「大丈夫かな?」

 こちらを気遣ってくれる優しげな表情をしている。
 そしてその後ろには特徴的はおでこの女の子。

 あのおでこは、まさか……

「す、すいません」
 取りあえずは謝罪。

「いやいや、気にすることはないよ。それにしても難しい本を持っているね、お父さんのお使いかい?」
「いえ、私が読むんです」

 男性と話しながらも、視線は後ろの女の子にロックオン。
 あの特徴と来なおでこと、あのダル気に半分とじられた瞳。

「それは驚いた。君みたいな幼い子が。見たところ私の孫と同じぐらいじゃないか」

 話が件の女の子に向いたので、さっそくごあいさつ。

「はじめまして、私は高畑里桜です」

 にこやかに挨拶したつもりだったけど、女の子は男性の後ろに隠れてしまった。

「ほら、夕映。御挨拶だよ」

 男性に促されて、絞り出すような小さな声が聞こえた。
「……えです。綾瀬夕映です」

 やっぱりか。
 するとこっちの男性が哲学者だったっていうおじいちゃんか。

 確かにそんな雰囲気を持っている。眼鏡が似合ってるし。
 それと同時に優しそうな雰囲気も。

 それに対して夕映の様子は、警戒した小動物そのものである。
 そしておじいちゃんの後ろから出てこない、おじいちゃんっ子ぶりだ。

「これ、夕映。ちゃんと挨拶しないとだめじゃろ」
「あはは……なんか警戒されちゃってますね」

 何となく出会い方に失敗した子猫ってかんじですね。
 かわいく感じてしまうのはなぜでしょう。

「面白い子だねぇ。どうだい、この後家に遊びにこんか? お茶菓子ぐらいなら出すよ」
「それは魅力的なお誘いですが、お使いの途中なので……。是非今度お邪魔させてもらいます」

 お金が発生する以上、さすがにほっぽり出して遊びに一句わけにもいきませんしね。
 たとえそれが年齢的に許されたとしても。

「そうかい。それならしょうがないね」

「それじゃあ夕映ちゃん。今度は遊びに行きますから、一緒に本でも読みましょうね」
「あ……はい、です」

 返事はしてくれましたけど、心を開いてくれてませんね。
 それともおじいちゃんと仲良くしているので、嫉妬でもされてるのでしょうか?

 ともあれ、夕映とおじいちゃんと別れて、図書館島を後にしました。
 今度絶対に夕映のおじいちゃんの所に遊びに行こう。哲学者の話って言うのも興味があるし。





 図書館島から出て、学園長室へ向かう道すがら、今後は見知った後ろ姿を発見しました。

「明石きょうじゅ~」

「ん? ああ、里桜ちゃんか」

 歩いていたのは明石教授。
 ご存じ明石裕奈の父親にして、魔法先生の一人。

「今日はどうしたんだい?」
「今日は図書館島にお使いです。おじいちゃんに頼まれたんですよ」

「ああ、あれか。怪我は無かったかい?」
「大丈夫ですよ。もう6、7階ぐらいなら問題ないですから」

 ちょっと岩に潰されそうになりましたけど。

「それは頼もしいね。でも気をつけないとだめだよ」
「はい。ところで、明石教授はどこかに行くんですか? こんな時間に会うのは珍しいですよね」

 普段はこれでもかって言うぐらい仕事している人ですから。

「いや、今日はちょっと墓参りにね」
「あ、奥さんの……」

「最近忙しかったからね……」

 明石教授の奥さん、つまり裕奈の母親はもう亡くなっている。
 私が麻帆良に来た頃はまだ生きていたらしいけど、その少し後に海外での仕事中に亡くなったらしい。

 詳しい事は教えてもらえていないのでわからないけれど。
 おそろく魔法使いの仕事関連……。

「ところで裕奈は学校で元気にやっているかな?」
「ええ、最近はミニバスを始めたみたいで、良く放課後練習してますよ」

「そういえば、そんな事を先週言っていたな」

 まあ毎週教授のところに帰ってるんだから、大体の話は聞いてるでしょうね。

「そんなに裕奈ちゃんの事が気になるなら、私みたいに寮に入れなければいいじゃないですか」
 多分おじいちゃんなら許してくれますよ。

「いやいや、僕の方は里桜ちゃんみたく魔法の事は話してないからね。ずっと家に置いておくの大変なんだよ」

 確かに魔法使いの事を隠しながら一緒に住むのは難しいですね。
 特に教授の家には色々な資料が山ほどありますし。

「確かにそうですけど、裕奈ちゃんはいつも愚痴ってましたよ。お父さんは~お父さんは~って」
「あはは……迷惑をかけるね」

 別に迷惑じゃありませんけどね。
 あれほど清々しいお父さん大好きオーラは見ていて気持ちいいですし。

「それはそうと、また今度教授のおうちに遊びに行っていいですか?」

 教授の家には図書館島とは違う本が色々あって面白い。
 とくに魔法使いの戦い方についての本があり、しかも個人戦闘レベルの本から、団体同士の戦術についての本もある。

 そんな本を進んで読んでいる小学生に教授は変な顔をしていたけど、読んでみると結構面白いものが多かった。
 当然、タメになるものだし。

「まあ週末以外なら何時でもいいよ。といっても僕が居ればだけどね」
「わかりました」

「じゃあね。お使いの邪魔をしちゃ悪いし」
「はい、それでは」

 明石教授と別れて、私も学園長室へと向かった。
 早いところお使いを済ませて、また今日もコツコツ鎖帷子を作る作業が待ってるんだ。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 あれも書きたいこれも書きたいと、寄り道しすぎて話が進まない。
 でも明石教授と夕映のおじいちゃんは書きたかったんです。
 裕奈の母親については、すでに故人という事で……

 投稿開始時の狂気じみたペースでの投稿はもう出来ないとは思いますが、これぐらいのペースを目安にコツコツ書いていこうと思います。
 本当は週一での投稿とか出来たら、良いんですが。

 そろそろバトルが書きたい。(書いた結果が残念だったとしても)
 でもそんな予定はしばらくない。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。



[15881] 第25話 骨にヒビが入ることが普通になってきた日々
Name: 青人◆7ccceca3 ID:30a209e7
Date: 2010/08/16 20:36
第25話 骨にヒビが入ることが普通になってきた日々


SIDE:高畑 里桜


 私がエヴァンジェリンさんに会ってそろそろ一年が経ちそうです。

 それはつまりエヴァンジェリンさんの所でおとーさんが修行を始めてからも、ちょうど一年以上が経つということです。
 私がエヴァンジェリンさんに杖術を習うついでに、差し入れたおやつを一緒食べながらそんなことを考えた。

 一年というと365日。
 さすがに定期的に休みを取っているので、300日ぐらいを修行していたとして、大体6時間ぐらい別荘に入っていましたから……

 300×6で1800時間、それを365で割ると……約5年分!!

 通りで最近おとーさんに渋みが出てきたと思いました。
 特に最近、明日菜のおとーさんを見る目が怪しくなってきましたからね。

 明日菜はおとーさんが好きになったからオジコンになったんじゃなくて、元々オジコンの気があったからおとーさんに惚れたんじゃないかと最近思う。

「さて、続きをやるとするか」

「うへぇ」

 エヴァンジェリンさんに杖術を習うと、基本的には一方的にボコボコにされて終わるんですよね。
 型とかは全然教えてくれずに、ひたすら手合わせするだけです。

 エヴァンジェリンさんも型なんかは完全に忘れているらしいし、私もあまり興味が無いです。
 それよりも2人とも体で覚えこませる&体で覚えるタイプなので、結果ガンガン戦ってボッコボコにされているわけです。

 怪我とかは一応回復魔法で直してるけど、見た目はドロドロのボロボロで、服は土や埃や血がついて見れたもんじゃなくなってます。
 見た目は完全にイジメですね。
 一応人払いの結界はしてるから、見られる事もないでしょうけれど。

 魔法は教えてもらっていません。
 エヴァンジェリンさんは別荘の外では魔法の類は使う事が出来ないので、どうにも教えてくれません。

 先述の通り体に叩き込むタイプのエヴァンジェリンさんですから、どうも実践できない魔法は教えたくないようです。
 まあそう言いつつも、意外と説明好きなのは私も気付いていますが、それを指摘すると怒るので黙っておきます。

「じゃあ次は魔法を使ってかかってこい。と言っても強化に留めろよ」

「はい」

 休憩に入る前は、魔法は一切なしのガチンコ肉体バトルでした。
 そしてボッコボコにされました。

 そしてこれからは、肉体強化と感覚強化を行っての手合わせとなる。
 この状態なら確実に私の方が身体的能力において上回っているはずなのに、やっぱりボコられてしまう。
 これは私とエヴァンジェリンさんの実力差を如実に物語っていて、非常に悔しい。

 動きはこっちの方が断然早いはずなのに、当たらない。
 避けれたはずの攻撃が当たる。
 一つ一つの動きに無駄がなくて、攻撃が見えない。

 ゴスッ!
 ガスッ!!
 バキィッ!!!

 今日も私がボコられる音だけが、辺りに響きました。

「このぐらいにしておくか……」

「ひゃい……ありふぁろうごらいまりら~」

 口の中があちこち切れて、喋ることもままならない。
 何とか回復魔法を掛けて、口内から直していく。
 喋れないと、無詠唱になるから消費魔力が多くなってしんどいな。

「下手に魔法で強化出来ている分悔しいですね」
 顔、肩、腕と、上から順番に直していく。
 折れてはいないけど、ヒビが数か所入っているな。

「そうだろうな。普通ならば強化された身体能力で無強化の相手に負けるなどあり得んだろうからな」
 もう温くなってしまった紅茶を飲みながら、エヴァンジェリンさんがニヤニヤと笑っている。

「動きは見えるんですけど、肝心の攻撃が見えない、当たらないんですよね」

「まあ、簡単にカラクリを言うとだな」
 どこから出したメガネを掛けて、説明モードに入ったエヴァンジェリンさん。

「見てから動くのでは動作の速い貴様に後れをとるからな。動き出す前に予測をし、それに合わせているのだ」

「動きを読むって……そんなに分かり易いですか? しかも動き出す前って……」
 動く前に予想も何も無いと思うんですけど……

「動きが読めるのは当然だ。貴様とは年季が違うんだよ。それに動く前にも情報はいくらでもあるさ。
 例えば目線、息づかい、筋肉の動き……これだけあれば十分すぎるほどだ」
 マジですか。そんなの達人の域じゃないですか。
 あ、達人か。

「それに貴様は攻撃が見えなかったと言っていたが、それは私がそういう攻撃をしていたからだ。
 人間の視界の外からの攻撃。いや、正確には見えているが意識できない角度からの攻撃だな」

「意識できない?」
 見ているけどって、見えてるんだから意識できるんじゃないの?

「人間の視野は大体180度前後、しかし人間の脳なんていい加減なものだ。その視界に映るものすべてを認識できているわけではない
 特に何かを意識している時はな。例えば……」

 急にエヴァンジェリンさんが杖を振り上げ、私の目前でピタリと止まるように振りおろしてきた。
 反応できなかった私は急に眼の前に出てきた杖に冷や汗が吹き出す。

「な、なにを……」

「この状態で貴様の意識はその杖の先に100%向いている。私の体は見えているが意識は出来ていない。違うか?」

「た、確かに……」
 こんな体制になってしまったら。杖以外が目に入る訳がない。

「こうなってしまえばこっちのものだ。足払いを掛けてもいいし、杖の反対側を使い別の箇所を打ってもいい」
 すっと杖が目の前から避けられる。

「ふうっ……」
 ようやくプレッシャーから解放された。

「視界の外から攻撃するには背後を取るしかない。しかし実際の戦闘中に相手の背後を取れる機会など早々ない
 そこでこのような技術を使い、戦闘のイニシアチブを握る事だ」

 正面からのガチンコの中で、主導権をとる事が出来るのは大きいな。
 認識の外からの攻撃か……覚えておこう。


 ともあれ今日は……

「疲れたーっ!」

 取りあえず重症な部分だけを直して、そのまま後ろにぶっ倒れた。
 打撲とかは全然直せていないけど、もう魔力が空っぽです。

「さっきも言ったが、今日はここまでだ。私は帰るぞ」
「あ、お疲れさまです」
 エヴァンジェリンさんが帰っていくみたいだけど、こっちはまだ動けない。

「次回はそうだな、和菓子がいいな。期待しているぞ」
「あはは、お菓子じゃなくて実力の方に期待してほしいですね」
 それに和菓子は地味に難しいので勘弁してください。

「ふん、貴様の実力なんぞ、まだまだ期待するに値せんよ」
 そのまま、エヴァンジェリンさんはログハウスの方へと歩いて行った。

 エヴァンジェリンさんが立ち去るのを見送った後、人払いの結界を解除し、私も家路についた。
 治りきっていない怪我と疲労のせいでフラフラします。
 今日は特に他の予定もないので、さっさと帰って体を休めましょう。

 明日はガンドルフィーニ先生に教わる日ですしね。

 ちなみにガンドルフィーニ先生に教わる日は丸一日座学になる日もあるので、疲労を残しているとやばいです。
 うっかり寝ちゃいます。

 さっさと帰って、晩御飯の仕込みをしてから一休みしよう。

 ……そう思っていたけれど、どうにも今日はダメージが大きすぎる。

 こんな時は帰り道にある良く行く喫茶店に入って、何か食べますか。
 食べれば体力とともに魔力も多少回復するので、傷も癒せるという一石二鳥。

 ちなみに体のアザとかは、うまく服で隠してますよ。
 おかげでちょっと厚着になってますが。




 カランカラーン

「いらっしゃいませー」

 慣れた感じで喫茶店に入ってみたけど、今日はとても混んでるな。

「申し訳ありません。本日は込み合っておりまして、相席でもよろしいですか?」
「あ、はい」
 相席か。別に気にしませんよ。

 案内された席には、ちょっとふっくらとした同じ年ぐらいの女の子がミートスパゲティを食べながら、何かをノートに書き込んでいた。
 勉強かな? 感心な事だ。
 明日菜も今のうちから勉強をするようにしていれば、バカレッドなんて呼ばれなくて済むと思うんだけどな。

 目が合うと軽く会釈して、席に着く。
 取りあえず抹茶パフェを注文すると、椅子にグッタリと身を預けた。

 エヴァンジェリンさんの所に顔を出すようになって、さすがに疲労がたまってきている。
 元々先生たちに教えてもらっていた時間はそのままで、空いていた時間を使っているんだから当然か。

 それに最近あせっている事もある。
 なぜならここ最近魔法が全然伸びていないのだ。

 魔法を習い始めた頃は、使い始めるまでこそ結構かかったけど、
 そのあとは結構サクサクと魔法の射手も使えるようになった。
 炎に限っては最大3発、無詠唱でも1発打てた。

 しかしそれからは、ずっと進展がない。
 魔法の射手も相変わらず最大3発だし、他に新しく使えるようになった魔法も無い。
 身体強化系の魔法も、ジリジリと効力は上がっているが、最初の頃ほどの伸びは無い。

「はぁ……」

 景気の悪い溜息を吐いて、ふと目の前の女の子に目をやるとノートの中身が見えた。
 てっきり勉強でもしていると思ったら、どうやら料理のレビューというのだろうか。
 感想とも違って、どんな調味料を使っているとか、そんな事を書き連ねていた。

 料理人でも目指しているのだろうか。勤勉な事だ。

「お待たせしました」
 とりあえず抹茶パフェを頬張って、糖分を体中に行きわたらせる。

「ふぅ……」
 体に染み込む糖分に癒されますね。

 ふと視線を感じて、顔をあげてみると目の前の女の子と目が合いました。

「あの……」
「はい? 何でしょうか」
 おずおずと言った様子で、女の子が話しかけてきた。

「さっきからため息をついていますけど、何かあったんですか?」
 どうやら思いっきり顔に出ていたみたいだ。

「いえいえ、別に……まあしいて言えば、色々と頑張ってはいるんですが結果が伴わない事ですかねぇ」
 なんで見ず知らずの相手にこんな愚痴を漏らしてしまったのか。
 その女の子が持っていた柔らかな雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。

「結果ですか。結果は確かに大事ですけど、そのための何をしたかも大事ですよ」
「それはまあ、分かってはいるんですがね」
 相手が知らない相手なのをいいことに、ここぞとばかりに愚痴をこぼす。
 おとーさんとかには見せられないね、こんな姿。

 そんなだれてる私に、女の子はちょっと困った顔をしたけど、ノートを閉じてこっちにしっかりと向き合いこう言った。

「努力をしたからといって、絶対に成功する訳では無いです。けれど、何かに成功した人というのは必ず努力しています。
 私は将来自分のお店を持つのが夢なんです。その為に日々色んなことを勉強しています。」

 すうっと、一息つき、私の目をしかと見つめて
「積み重ねてきた事に無駄なことなんてないと思いますよ?」

「…………」
 言葉も無かった。

 自分とおんなじぐらいの女の子にこんな事を言われてしまうとは。
 大人ぶって、考え込んで、アホみたいだ。

 悩む前にやれる事はいくらでもあったはずだ、上手く出来ないなら出来るまで、
 倒せない相手が居るなら倒せるまで、努力をすればいいじゃないか。

「そうですね、ありがとうございます! なんだかモヤモヤしたものがスッキリしました。」

 目の前の抹茶パフェをかっ込むと、お金を払って店を飛び出した。
 なんだかやる気がみなぎってきた。

 取りあえず明日ガンドルフィーニ先生に相談してみよう。


 そして家に着いた頃気がついた。
 あの喫茶店であった女の子が、四葉のさっちゃんだった事に。



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後書き


 読んで頂いてありがとうございます。青人です。

 エヴァンジェリンの特訓 杖術編です。あとさっちゃんになんか良いことを言わせたかった回。
 ちなみにタカミチは、5年以上掛かって感掛法の完成までもう一歩まで来ている感じです。
 一応究極闘法なんて言われるんだから、最低限それぐらい掛かってくれないと立つ瀬無いって感じですしね。

 五月もとりあえず出して、これで結構3-Aメンバーも出しましたね。
 まだ結構いますけど、実際原作に忠実に沿っていくだけなら、双子やチア3人組みとか書く必要ないと思うんですよね。

 まあ書きますけどね。
 そんなに原作に忠実に書いていく気も無いですし。

 あと五月の吹き出しを使わないしゃべり方は、文章でどう表現したものか悩んだけど、結局普通にしました。

 ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。


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