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[15173] それゆけ漆黒の翼 【チラ裏より】(オリ×ネギま&テイルズ要素) #38追加
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2011/09/29 23:10
チラシの裏からこんにちは。初投稿です。

タイトルがイタイとの指摘を受けました。私もそう思います。でもしょうがないんです(泣 ちょっと変えてみます。


知らない人のための注釈 : 『漆黒の翼』とは、歴代の「テイルズシリーズ」に登場する3人組のイカシた連中のチーム名です。


随時改変を加えていきます。どんどん改訂します。

板移動に伴い、構成を若干変更いたしました。

原作の設定を変えることもあるかもです。


矛盾してんじゃねえのって思ったら、「ガイ様、華麗にスルー」でお願いします。


どうにもギャグとシリアスの描きわけが苦手です。私はギャグが書きたいんですが・・・。


それでもいいというのなら。




「それゆけ漆黒の翼」、始まるよーーーーーーー。







p.s チラ裏にこんなん上げてみたんで、暇な人は覗いてください。


『【ネタ】 決闘叙情詩 〜 Magic & Witches 〜』







[15173] 漆黒の翼 #1
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 01:43



月明かりがふんわり落ちてきそうな夜、薄暗く木々の生い茂る森の中に聳える大木が1本。
その木の上にアナタと2人きり、とかそういう訳ではなく、ただ1人、太めの枝に寝っ転がり月光でその身を照らされた少年の姿がそこにあった。


紹介しよう、この少年が『この物語』における主人公・・・・『俺』だ。


ソノ『俺』が、こんな夜中のこんな森で、一体何をしているのか。





「・・・・・・・・ぐぅ」



・・・・本当に寝ていた。




「あ、おったおった」


「まったく、こんな所で寝たら風邪ひきますよ?」



いつの間にか現れた2人の少女。その少女達に体を揺すられ少年は・・・・もうナレーション面倒だからモノローグでいいや、俺は「ふぁああ・・」と欠伸をかきながら目を覚ました。


ボケっとしてたらいつの間にか眠ってしまったようだ、不覚。

ショボつく眼を擦りながら、ふと天を仰いでみる。



――――幻想種に力を与えるとされる月が淡く輝いていた、・・・今夜は満月だったか。






―――時が経つのは早いもんだな―――




そんな似合わぬ感慨がふと過る。『アレ』からもう何度季節が廻ったか、そりゃ感慨も起きるってもんか。


月光を双瞳に受けながら、俺は『アノ時』のことを思い返していた――――ハイ、回想スタート―――――――













――――――『オレ』は見覚えのない風景の中で、光の球体となって浮いていた、なんじゃこりゃ。とりあえず現状を確認しないことには話は進みそうにない。



――――それ以前に・・・・・・・・・『オレ』は、誰だ?


極めて根本的な問題に気がついた。『オレ』には『オレ』の記憶が無かったのだ。

全く記憶が無いわけじゃない。一般常識は問題なく覚えてる。そうじゃなきゃこうして思考を巡らせられるわけがない。
あと、今までに読んだことのある本の内容や、やったことのあるゲームの技名とか、そんな役に立つかも怪しい記憶も浮かんできた。
無いのは『オレ』自身に関すること。名前・性別・年齢・職業・対人関係等々、『オレ』のパーソナルな情報が一片たりとも思い出せないのだ。
『オレ』って言ってるから、たぶん男だと思うけど。

事故にでも遭って頭を打ったのだろうか。それとも何か巨大な陰謀に巻き込まれて・・・。




「よく来たな、選ばれし者よ―――――私は創生者、世界を形創るものだ」


いつのまにか眼の前に仙人みたいのが居た。それっぽい髭を蓄えそれっぽい布を着てそれっぽい杖を持っている。

なんだよ選ばれし者って、何を仰ってるんだこの爺様は。なんだ創生者って、厨二か、そのナリで厨二のつもりか。


「厨二っていうな。この姿はお主にわかりやすい形をしているだけだ。 別に見た目なんてどうだって良いだろう」


良かないよ。野郎と、しかもジジイとタイマンでディスカッションして何が面白いってんだ。どうせなら眼の保養になりそうな姿にしろよ。


「注文が多い奴だ、これでいいか?」


まだ一回しか注文してねえだろ、と思ったが、自称創生者の姿が似非仙人から海賊女帝の蛇神っぽくトランスフォームしたので、「仕方なく」文句は飲み込むことにした。

で、結局なんなんだ。


「今言っただろう、お主は選ばれたのだと」


だから何に?要点だけじゃわかんないっての。


「お主には別世界に転生してもらう、お主は死んだのだ」


・・・はぁ?どゆことよ?





聞けば、『オレ』は死んでしまったらしい。

ハンコッ・・・創生者が転生とか言ってたので、2tトラックに撥ねられたのかと思ったら、どうやら違うらしい。突発的な心臓発作、享年19歳だそうな。
その成人目前で死んじまった哀れな『オレ』が、何の因果か転生者に選ばれたらしい。して、その理由というのも―――――――




「クジ引きで当たったのが偶々お主だっただけだ」


――――これだよ。


「【祝・五千無量大数番世界創生記念祭】のお楽しみクジに、「発作クジ」というものがあってな?悪行の限りを尽くす無法者に罰を与えるためのものなんだが、・・・バイトが、な・・・・お主のクジを入れ違えて、・・・・・・な?」


いや、「な?」じゃなくてだな・・・



「お楽しみクジのうちの1つに「転生クジ」というのもあってだな、本来なら、有効期間内に死亡した者から無作為に選ばれるのだが、私が便宜を計らいお主を当選者にしたのだ。つまりはそういうことだ」


・・・・・・・・ツッコミキレネェ。


「世界の数多いな」とか、「発作クジってなんだ」とか、「バイトでも仕事するからにはプロなんだからもっとプロ意識を持て」とか、「それ以前にバイトに生死を左右させる仕事を任せるな」とか、「便宜というより尻拭いだろ」とか、逐一指摘していきたいがメンドくなってきたんで話を進めようと思う。

その事と『オレ』についての記憶が無い事との関係は?


「生前の対人関係に関する記憶が残ったままだと、来世でホームシックを起こすかもしれないと思ってな、まっさらな状態で第二の人生を歩んでもらおうかと」


比喩抜きで「第二の人生」だな。そのくせ一般知識は持ったままなのか。


「それくらいのアドバンテージはあっても良いだろう、サービスだ。とにかくだ、お主にはもう帰る体が無い、火葬も済んでいるようだからな。転生の儀式も滞りなく終えている。本当にすまないと思っているが、お主には新たな身体で新たな人生を歩んでもらうしかないのだ」




―――はぁ・・・・・

まぁ、しょうがねえか。なっちまったモンはどうしようもない。開き直って、第二の人生を謳歌してやろうじゃねえか。


「・・・そうか、すまぬ。こちらの不手際でお主をこんな目に・・・」


もうイイさ。新しい人生を用意されてただけでもラッキーだと思わないと。楽しんでやるさ、アドバンテージを活かして、な。



創生者の姿がすこしずつ光に溶けていく。


「―――――――――ではさらばだ選ばれし者よ――また逢う時まで――願わくば――――主に幸多からんことを――――――」


ちょっと待った。


「―――なんだ、せっかくいい感じでフェードアウトするところだったのに」


ストップをかけられて、不満げに頬を膨らませる見た目女帝の創生者。


「なんなのだ。ただでさえテンプレが長いと苦情が来てるんだ、これ以上反感を買いたくないんだよ」

そういうことは思ってても言うなよ。
あのさ、転生するのは了承したけどさ、そんだけ?こう、理不尽に人生終わらせてくれちゃったお詫び的なものは無いのかなと。


「詫び、か? それなら第二の人生を・・・」


それは当然のことだろ?そっちのアホみたいな祭のアホみたいなバイトにアホみたいな理由で殺されたんだ。事後処理は当然そっちの負担だろ?詫びにはならねえよ。



・・・そうだなぁ、何か特殊な技能をオプションに付けるってのはどうだ?

どうせアドバンテージ持つなら、すごい技が使えるとか、ビックリするようなモンスターを召喚できるとか、そう云うのがあると心強いだろ?
新しい世界が平和かどうかもわからないし、自己防衛のためにもあって損はないはずだ。


「うむ、新世界にも争いは絶えん。それも事実だ。だが【力】を持つという事は、それだけの責任が伴うということだぞ?」


・・・アンタが言うと、説得力があるんだか無いんだか。





―――わかってるさ、大いなる力には大いなる責任が伴うってことくらい。どっかの映画の中のオッサンも言ってしな。

【力】の前には、大衆はなんて蟻も同然だ。
指先一つで多くの命が消えてしまう。今の『オレ』みたいにな。

もしかしたら、【力】を得た『オレ』は、その【力】で誰かを殺めてしまうかもしれない。

もちろん殺しなんてしたくないし、そんな【力】なら持たない方が得策かもしれない。


けど、こうして死んでみてハッキリ感じた。


理不尽なことなんて、いつ襲ってくるかもわからないんだ。


世の中、こんなはずじゃなかったことだらけだ。


こんなはずじゃないことに立ち向かうだけの強さが欲しい。


抗う強さが欲しい、理不尽に抗うだけの【力】が。


そして、その理不尽に襲われる奴らも助けてやりたい。


大事なモノを理不尽に奪われてしまわないように―――――




―――なんてな。ちょっと厨二臭かったかしら?まあ覚悟なんて後から付いてくるさ。心配いらん。


「―――いいだろう。お主に【力】を授ける。して、どのような【力】が望みだ?」


そうだなぁ、いざ決めるとなると悩む、どうしたものか。・・・一旦休んで考えるか、TVゲームでもしながら。


「そんなものあるわけないだろう、いいからサッサと決めんか」


ジョークだよ、輪廻転生ジョーク・・・ん?ゲーム?・・・・・そうだ!


「決まったのか?」


なあ、『ゲームの技を使えるようになる』ってのは可能か?できるならアレ、「テイルズ」シリーズの技が使えるようになりたい!わかるか、「テイルズ」シリーズって?



「できなくはないな、先程お主の記憶を覗いたときに見たぞ、あれでいいのか?」


モチのロンだ、剣と魔法のファンタジーは男の憧れだ。秘奥義とかスーパーカッコいいじゃん。


「だが、いきなり秘奥義は使えんぞ。鍛練を重ねすこしずつ習得するものだ。最初から使える技などないぞ、使えても【魔神剣】とか【ピコハン】くらいだ。」


さっき見ただけなのに結構くわしいのな。それで構わない、むしろ望むところだ。


「鍛練さえ積めば、どのタイトルの技でも使えるようにしておこう。無論、簡単には習得できんからな、覚悟しておくことだ」


わかってるって、それだけでも十分チートだよ。


「では、今度こそ――――――」


なぁ。


「今度はなんだ?」


・・・もう『オレ』のときみたいなミスすんなよ?


「――――――無論だ」











がちゃっ

はじめ、御飯よ、ってなにやってんのあんた?」


「母上、今いいトコだからあとにしてくれ」


お母さんでてきちゃった!!!?

あぁ、ツッコミたいのに意識が、とお――の――――









――――――強い倦怠感と共に、『オレ』はまどろみから覚醒した。

体がひどく重く感じる。云う事を聴かない四肢は早々に放置を決めこみ、瞼を開くことに全力を注いだ結果、
かろうじて視界に入ってきたのは、『オレ』の記憶にはない光景、所謂「知らない天井」という奴だった。


・・・さて、こうしちゃいられない、鍛練しなければ。がんばって秘奥義炸裂させちゃるぞ!!

『オレ』は輝かしい未来に向かうべく、意気揚々と身体を起こすのだった――――



――――――起こすの、っだ、っぬ・・・


――――――このっ、起きるっつってんだろ、動けよっ・・・



・・・・・・だめだ、起き上がれん。どう頑張っても手足をバタバタさせるのがやっとだ。麻痺してんのか、『オレ』のから、だ――――

そう思い、今まで必死にバタつかせていた右手に眼をやると―――




―――かわいらしい、まん丸お手手が鎮座しておりましたとさ。


・・・・そうだよね、転生っつてたもんね。赤ちゃんスタートでも別段おかしなことじゃないよね。


仕方がない、鍛練はあきらめて情報収集だ。この世界がどんな所なのか、そこをうまく理解しなくては。

今まで住んでたような普通の世界なのか、それとも摩訶不思議なアドベンチャーがそこかしこを横行するファンタジック世界なのか。

前者なら技の鍛練は人目を忍んで行わなければならないな。
後者なら鍛練は積極的にやらねば、なんせハチャメチャはすぐそこまで押し寄せてきているのだから。

とりあえず、かろうじて稼働可能な目線を動かし、周囲を見渡してみる。

ここはベビーベッドの上のようだ、周りを柵で囲われている。乳児の立場からみると、自身を閉じ込める檻のようだ。
視界にはいる白色の比率が高いので、おそらく医療施設なのだろう。

更に目線を上に持っていくと、紙が貼ってあるのが見えた。文字が書かれている。これが『オレ』の名前だろうか。

いい加減この『オレ』という表記も疲れてきたのでありがたい。新たに与えられた己の名を知るべく、眼を凝らして文字を読み取る。


『命 名   一 海 里』


・・・・・・イチカイリ?なんだそれは、両親は漁業関係者か何かか?

もう一度、眼を凝らす。今度は名前に集中して・・・・。
よく見れば、ちゃんとルビがふってあるではないか。どれどれみふぁそ、と・・・。



にのまえ 海里みさと


・・・「ニノマエ ミサト」、か。
これが『俺』の名前か、・・・大事にしよう。








「―――、――――――」


ようやく俺の名前も判明した所で、何やら声が聞こえる。

声の主はどうやら看護士らしい。
目線を向けると、扉がある。構造からみて引き戸だろうか。やや隙間のあいたその扉の向こうから聞こえている。

――――そっと、耳を傾けてみた。





「―――聞いた?この部屋の子のこと・・・」

「聞いた聞いた、・・・あれホントなの?」


ふむ、看護士二人の会話だったか。

この部屋の子・・・つまり、俺のことか?
なんだろう、もしかして変な病気にかかっていたのか?
まさか厨二病とかいうオチじゃないだろうな?



「母体は子供を産んだ後、間もなく息を引き取ったし・・・」

「不憫ね・・・」



おぉう、母上殿、まだ逢ってないのに・・・・・。くそぅ、早速理不尽だ。



「これからアノ子、大変ね・・・」

「・・・そうね」



こりゃあ、孤児院入りか?いやいや、俺は負けんぞ。逆境がなんだ!




「ただでさえ社会から受け入れ難い存在なのに・・・」

「守ってくれる大人が居るといいんだけど・・・」



・・・ん?何やら様子がおかしい・・・。

俺が受け入れ難いってどういうことだよ?
素行に問題アリってか?まだ何もしてないのに?





「・・・大丈夫かしら、心配だわ」

「私たちがどうやっても、偏見はどうにもならないわ」



いや、なんだよ偏見て・・・。






「可哀そうに・・・、アノ子が・・・・」



――――――アノ子が、何だよ――――――?









「―――――――半妖だったばっかりに―――」


・・・・・・・・え?














――――――手にしたものは、憧れた幻想ファンタジーの力――――――


――――――出会ったものは、逃れられない現実リアルの宿命――――――



――――――『襲い来る理不尽ちからに抗うRPG』――――――



――――――少年の『物語テイルズ』が、今、幕を開ける――――――










[15173] 漆黒の翼 #2
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/02/01 00:14
―――――人生の転機、いや、人生の改変と言うべきか、あの衝撃から早数年。



俺は、ある森の中にある一際大きな木の上に作られた、小屋のような見晴らし台のような、そんなモノの中でボ~っと空を眺めていた。

ここは俺『達』の秘密基地、ツリーハウスと言うには少々不格好だが、雨風は凌げるし床板も張ってある、子供の作品にしてはなかなかの出来栄えだと思う。


その秘密基地で何をしてるかっていうと、待ち合わせだ。もうすぐ友達がやってくる時間なのさ。


さっき俺『達』って言ったけど、この基地に入れるのは俺を含め3人、大人たちには内緒の秘密チームを創ったのだ。その構成員たちを日向ぼっこしながら待っているという訳だ。



言い忘れたけど、俺はアレからいろいろあって、今は京都に居る。『関西呪術協会』っていう組織に御厄介になっているんだ。

この世界は、俺のよく知る現実とファンタジックな非日常が壁一枚はさんで存在しているみたいなんだよ。世界の表と裏って言った方が分かりやすいか?

表には一般の大衆、裏には人知れず戦う異能者「魔法使い」なるものがいるそうな。
ココ京都には、関西の魔法使いの総本山『関西呪術協会』があり、関東にも大きな魔法協会があるんだと。この2つの組織はちょっとばかり仲が悪いんだってさ。



そして俺は半妖――――烏族っていう妖怪と人間のハーフらしいんだ。
眼も紅いし、普段は隠しているが、背中には真っ黒いカラスのような羽がはえている。ちなみに頭髪も黒、そんでもって三白眼で目つきがちょい悪です。


この生まれのおかげで、いろいろと面白くないこともあったけど、今はハッピーライフを満喫している。

ココに来たばかりのときは、『あんな』生活送ってたもんだから、俺は他の子供程の活発さは無く表情も硬い奴だった。
しかし、今じゃすっかり言動も明るく、というよりかなりハッチャケた感じになっている。元々性格が暗いわけじゃなかったんだけど、反動でね。





―――――そうこうしているうちに、下の方から2人の少女の声が聞こえてきた。ようやく来たか、アイツら。



ちなみにこの基地、結構高い所に建てられているが、エレベーターはおろか梯子もツタも無い。子供が素手でよじ登るにはハードかつデンジャラスだ。


残り2人のメンバーがどうやってココまで辿り着くのかと言えば――――――






 バサァっ





――――――1人がもう1人を横抱きに抱え、その純白の『ツバサ』を用いて飛翔してくるのだ。俺もこの方法でココまで来ている。






「おはようさんや、そーとー」

「おまたせしました、そーとー」

「おはよっす、コノカ、セツナ」



紹介しよう、我が組織の幹部『近衛木乃香』と主任『桜咲刹那』だ、ちなみに俺と同い年。

抱っこされてるのがコノカ、俺と同じく烏族と人間のハーフであり白い羽根を持っているのがセツナだ。

この2人とは、俺が西に世話になることになった当初からの付き合いで、いつも一緒に居る仲良し3人組だ。


2人の性格は、一言で言うと「ぽやぽや」と「わたわた」である。やや天然の入ったコノカと若干テンパリストのセツナ、そしてまとめ役に俺。


今コイツらが俺のことを「そーとー」と呼んだが、これは俺の組織における役職『総統』のことである。
まあ階級なんて有って無いようなモンだけどね、今じゃ半ばあだ名と化している。





さてと、全員揃ったことだし、恒例のアレ、いっちょ気合い入れてやりますか―――――――!





「主任・桜咲刹那!」

「はいっそーとー!」

「俺達の目的は何だ!?」

「このちゃんをキケンからまもることです!」

「上出来だ!次、幹部・近衛木乃香!」

「はーいっ!」

「目的その2は何だ!?」

「トモダチとたすけあうことや!」

「文句無し!その3は!?」

「「えがおで、たのしくあそぶこと!!」」



「えがおはゲンキ!!」

「ツバサはユウキ!!」

「そう、俺達の名は!!」





「「「秘密結社【漆黒の翼】!!!」」」











―――――そう、俺はこの世界に、テイルズファンにはお馴染みの3人組、小粋でイカしたあのチーム、【漆黒の翼】を結成したのだ。

黒翼は俺だけなんだが、2人は文句ないとのこと。ユウキとキズナの証が名前に込められているからなんだけど、この辺は追々話すことにするよ。



ところでさっきから言ってる「コノカを護る」発言についてだけど、実はコノカは関西呪術協会の長『近衛詠春』さんの1人娘なんだよ。

ソレに加えて、コノカ本人も極東一の魔力保有量を誇っているらしく、ネームバリュー+実質的価値から、いろいろ面倒なポジションなのである。

だから俺達はコノカ守護のため【漆黒の翼】を結成したのだ。以上、説明終わりっ。


ちなみに詠春さんは俺とセツナの保護責任者でもある。お世話になってます。




それはそれとして、【漆黒の翼】は毎日絶好調、いつも3人一緒に遊んでいる。設立目的が「コノカを守護すること」なので、一応活動していると言っていいんだろうけど。



まぁ、遊んでばかりいる訳じゃあゴザイマセン。ちゃんと鍛練はやってますよ?

技の訓練を始めてもう何年たったか忘れたが、今は剣・斧・魔法・体術なんかの鍛練を中心に行っている。無手でも闘えてこそ意味があるってもんだ。
おかげで特技や奥義もだいぶ習得できた。【獅子戦吼】とかスゴイよ、ホントに獅子の形した氣が出るとは思わなかったよ。



セツナもまた、戦闘訓練を行っている。
セツナが受けているのは剣術の訓練。聴いたところによると、【京都神鳴流】とか云う退魔の剣だそうな。
『主任』を任されているセツナは、鍛練への取り組み具合も半端じゃない。その名に恥じぬようメキメキと腕を上げているという。・・・・追い越されんようにせねば。

鍛練に集中、といってもコノカをほっぽってるワケではない、鍛練以外はほぼ一緒にいる。仲いいねえ。



あ、そういえば俺の技の流派のこと訊かれたらどうしよう?
基本的に魔力や氣を用いて闘うのは同じだが、やはりこの世界には存在しない術形体であることには違いない。・・・我流で通すか?

たしかゲームだと、【アルベイン流】とか【アルバート流】とか【シグムント流】とかあったよな。術にしたって、【晶術】や【晶霊術】、【譜術】に【魔術】と、もうたくさんだ。

・・・この際、統合した新しい流派名でも考えるか。


―――テイルズ・・・、ファンタジー・・・、剣と魔法・・・、翼・・・、冒険・・・、ガルド・・・、レンズ・・・、グミ・・・―――


・・・・・よし、【幻魔天翔流】という事にしよう。「天翔」ってやたら使われてる気がするし。文句は受け付けない、厨二っていわれても無視だ無視。





そして癒し系コノカ、どんなふうにボクを癒してくれる? 震えるぞこの胸の【獅子戦吼らいおんはーと】!!

まぁ冗談はさておいて。

元々コノカは“裏”のことは全く知らされずに生きてきたんだけど、ある事件をキッカケに“裏”の存在を知ったんだ。
それには俺がかなり深くかかわってるけど、また今度話そう。

そのコノカだが、どうも俺らの鍛練を見て魔法に興味を持ち始めたようなのだ。

詠春さんはコノカが危険な“裏”の世界に踏み込むことを良しとしていなかった、だから魔法も呪術も教えずにいたのだ。
だがコノカは“裏”を知り、毎回鍛練でボロボロになって帰ってくる俺とセツナに何かしてやりたいと感じるようになっていった。


一念発起したコノカは俺達を引き連れ詠春さんに直訴。
俺もコノカの立場上の危険性を唱え、何か覚えさせるべきだと援護。
詠春さんはだがしかしと反論。そしてセツナは議論についていけずに傍聴。


6時間に及ぶ朝まで生討論の末、治癒術なら覚えさせてもいいと渋々、本当に渋々承諾。詠春さんは砦を崩され憔悴、寝不足でグッタリ、悪い顔色がさらに悪くなっていた。

コノカたちは大喜び、俺も眠気を堪えた甲斐があったってもんだ。それにしてもすごいハシャギっぷりだな。元気いっぱいで顔のツヤもいいし、クマもない。

・・・・・オマエら途中から寝てたんじゃないだろうな?


そんなこんなでコノカは目下、治癒術の練習中。いろいろ訊きながら苦労してるようだけど、適性は高いのか徐々にコツを掴んできている。






――――――そうして鍛錬を続けるうちに、1つの考えが浮かんできた。



ある日のこと、例によって俺らは森に作った秘密基地の中にいた。

木漏れ日の中、自らの白い翼で親友を包みこんでウトウトするセツナ、その翼にモフモフ顔をうずめながら昼寝をかましているコノカ。

そんなとても目に優しい光景を視界の端に捉えながら、俺は1人思案していた。







――――――俺の戦闘スタイルは戦場じゃ活かしきれないんじゃなかろうか。



というのも、俺は剣技・斧技・体術・魔法など、技のバリエーションが幅広い。まだ広く浅いことは確かだが、それでも他の奴よりは引き出しは多いと自負しているつもりだ。

だが、それを戦いの場でいかんなく発揮できるかと云われれば、それはノーだ。

使わない武器を持ち歩いてもかさ張るだけなんだ。剣を持ちながら斧を携えるなんて邪魔くさいにも程がある。オールドラントにゃホドがある。いや、今は無いか。


斧で【魔神剣】もできないことはない、現にリッドはやっていた。だが、実際問題やってみるとなると、やはり剣でやった方がやりやすいんだよ。
そうでなくても、これからも引き出しを増やしていくつもりなのに、使える武器を全部持っていって、重くて動けませんでしたじゃ話になんないよ。


・・・・・どうしたものか、どう思うよ小鳥さんや。

問いかけてもチュンチュンとしか応えない。「チュンチュン」・・・、雑魚キャラの分際で生意気なっ。



よし、ここは戦いのプロ・詠春さんに相談してみよう。

聴けば詠春さん、昔【紅き翼】っていうパーティの一員だったんだって。つまりそれは我ら【漆黒の翼】の先輩という事に等しい。きっと何かヒントをくれるはずだ。
そうと決まればレッツ・ディスカッション!








「―――ふむ、それなら良い方法がありますよ」

おお!すごいよ詠春さん!!アンタやっぱタダものじゃなかったんだね!!―――――して、その方法とは?


「【仮契約パクティオー】というものを知っているかい?」


ぱ、ぱく、・・・なんだって?


仮契約パクティオー】というのは、西洋魔術の一つで主と従者を結ぶ絆のようなものなのだという。
一人が主、もう一人が従者となり、主は従者に魔力を分け与えたり、ある程度なら離れていても従者を召喚できたり。そして従者には自分に最も適した専用の武器が与えられるのだ。

要するに俺が誰かの従者になれば、この悩みを一発で解決できるスーパーアイテムが手に入ると、つまりはそういうことなのだ。


聴いた限りメリットばかりに感じる、何か代償とかは無いんですか?


「契約といっても、お試し期間のようなものですから」

だ、そうだ。しからば早速ソノ契約とやらを、・・・でも誰を主にするか?



「それなんですが、木乃香と契約してはもらえないかな?」

コノカを主に?


詠春さんはコノカが“裏”に関わるようになってからいろいろ考えていたらしい。その結論の一つとして、俺とセツナに護衛を任せたい、というものがあったんだと。
この際だから、セツナとも契約を結んでコノカの安全をより強固なものにしたい、というのが詠春さんの弁。

契約魔方陣は詠春さんが用意してくれるって。西の総本山で西洋魔術使ってもいいのかなと思ったが、その辺はスルーだ。


【漆黒の翼】の活動方針とも合致する、俺たちにとってはイイこと尽くめではないか。コノカの魔力は極東一イィらしいので、魔力供給も申し分ないだろう。


早速このことを構成員2人に伝える。返す刀で賛同を得た。2人を引き連れ再び詠春さんの所へ。



――――――で、どうやるんですか?


「簡単な方法として、仮契約魔方陣の上でキスをするというのが一般的なやり方だね」


キス?・・・キスって、「接吻」とか「口づけ」とかに言いかえられるアレ?娘に勧めていいものなのかい、父親として?


「安全には代えられないからね、それに無理強いはしないよ、木乃香の意思を尊重しますから」


コノカどうよ?


「んー、ええよ?」

いいんかい。セツナは?


「こ、このちょんと、き、きす・・・・」

見事にテンパってる、誰だよこのちょんて。まあ嫌ではなさそうだな。・・・友情が危険な方向に向かないか心配だよ、ホント。

俺は、・・・まあ、断る理由は無い、か。俺みたいな馬の骨に唇を許していいのかコノカよ、馬じゃなくて烏だけど。






―――契約は滞りなく終わった、特に問題は無かったな。
あるとすれば、コノカが俺と契約する時よりもセツナと契約した時の方が顔が赤かったことくらいか、・・・・・・凹んでもいい?


【仮契約カード】なるものが出現、マスターカード2枚をコノカに、コピーカードを俺とセツナに1枚ずつ渡される。

セツナのカードには、白い翼を広げたセツナが詠春さんからもらった野太刀「夕凪」と匕首を携えた図が描かれている。



一方、俺のカードはというと・・・・・称号は【理不尽に抗う理不尽】、なんだそりゃ。


セツナと同じく翼を広げている、もちろん黒だ。服装は黒の長ズボンに、腹にサラシ・・・、ここまではいい、問題は武装だ。


右手で斧を肩に担ぎ、左手は槍を地面に突き立て、さらに腰に剣らしきものを携え、歯で短刀をくわえ、矢の入った黒筒を背にかけ、右腿にホルスター・・・・。



・・・・俺の話聞いてた?

なんだよこの無駄な重装備、これじゃまともに動けないじゃないか、何のために仮契約したと思ってんの、馬鹿なの?

描かれているのはこれだけじゃない、地面にもたくさんの武器が刺さっている。無限の剣製みたいに。
地に刺さってるのは、メイス、それにエクスカリバー?あとトライデントに、おお、ディムロス、シャルティエも・・・あ、腰のこれローレライの鍵じゃね?・・・等々。



・・・とにかく一回出してみよう。えっと呪文は確か―――――


「―――来たれアデアット―――」


カードが光を放ち、得物が俺の手に収まる。・・・・・・・木刀?

なんだ木刀って、舐めてんのか。


一回カードに戻す、んで、もっかい―――来たれアデアット―――



今度は柄が長い、うん、振りやすそうだ、手になじむ。それに先端の緑色がイイ感じ――――――デッキブラシじゃねえか!



・・・・・・・・こうなったら――――――――








「【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】ォ!!!」



順に、セプター・コンポジットボウ・おにぼうちょう・ニードルグローブ・トライデント・バルディッシュが出てきた。・・・眼がチカチカする。


どうやらコレは、俺が望んだ武器が出てくるアーティファクトみたいだ。試しにローレライの鍵を思い浮かべながらやったら、ちゃんと出てきた。

ただし、ゲーム内の性能と寸分違わないかと訊かれれば、違うと答える。
例えば俺の剣技が200だとする。ここでロングソードを使うと、発揮できるのは大体160~180ってトコか。そしてデュランダルを使うと、発揮できるのは頑張っても200強ってところだ。
・・・自分でもこの説明じゃサッパリわかんない。要するに何が言いたいかっていうと、俺の腕次第ってことなんだよ。

フランジュベルとかアイスコフィンとかは、ちゃんと属性持ってる。ソーディアンも出してみたけど、しゃべんなかった。あくまでただの武器なのだ。

呪文連呼しすぎた、のどがイガイガするよ。一回一回カードに戻さなきゃいかんのか?

試してみよう。デッキブラシの状態で刀を思い浮かべる。
パッと光ったと思ったらおにぼうちょうになった。叫び損か。

だがこれは便利だ、俺にピッタリかもしれない。これで問題解決だ。





こうしてコノカの従者となった俺とセツナは、アーティファクト共々鍛錬に精を出し、己の腕をさらに向上させていくのだった。

・・・・俺、『総統』なのに『女幹部』の手下なの?


・・・・・・・・・まぁ、いっか。











―――――――そして、月日は流れていく―――――――

























{でっかいおまけ}


ある日、詠春さんに蔵に案内された。閉じ込められてフルボッコかとビクビクしていたが違うんだって。
この蔵には東洋呪術に関する本がたくさんあるんだそうな。「暇なときにでも利用してみるといい」と、相変わらずの顔色の悪さで勧められる。
俺は東洋呪術覚えるつもりはないんだけどなぁ。

まぁコノカやセツナの役に立つかもだし、覗いてみるか。どれどれ・・・・




『妖魔大全』
『陰陽心得帳』
『困った時の対処法――退魔入門編――』
『セントーで役立つ!陰陽マルわかり問題集』




・・・・小難しそうな本からネタなんじゃねえかって本まで取りそろえてある。

さらに奥に入ってみる、すると、本棚の後ろに挟まるように放置されてある難解そうな本を見つけた。おもむろに手に取ってみる。
『退魔術指南書』と書かれた、背表紙もない紙束のような古い本だ。やたら分厚い。埃具合から、随分長いこと放置されていたことが窺える。

じっくり読んだところで理解が追いつきそうにないので、とりあえずパラパラ流し読んでいく。
複雑な術式や東洋における陰陽形態などが事細かに記載されているようだが、サッパリわからない。俺のオツムじゃこんなもんか。


・・・と、妖怪との戦闘を想定した文章の中に「烏族」の文字を発見、読み進める。以下、本文から一部抜粋――――






[―――烏族は稀に白い羽根を持って生まれてくる場合があるが、これは単なる先天的異常ではなく、強い妖力が染色体に影響を及ぼし、本来あるべき身体の色素に異常が発生したもので―――――――(ウンヌンカンヌン)―――――――したがって白い羽根を持つ烏族は、総じて他の烏族より強力な場合が多く、相対した場合は――――]





・・・へえ、セツナってポテンシャルがハンパねえんだ。じゃあなんで迫害されてたんだろ?

アレか、「アイツ調子こいてるから、みんなでハブろうぜ」みたいな、くっだらねえ理由なのか?・・・嫌な世の中だよマッタク。



後日セツナにこの烏族の行のことを教えたら、すっげぇ泣かれた。その声を聞いて駆けつけたコノカにしこたま怒られた。理不尽だ。
まぁおかげでセツナが自分の羽根に少しずつ自信を持ち始めたみたいだから、良しとしよう。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





刹那のアーティファクトはそのままで。
構想段階からこの部分をどうすべきか悩みましたが、こっちにします。








〈仮契約カード〉



姓名 : NINOMAE MISATO (一 海里)

称号 : IRRACIONALIDADE CONTRA IRRACIONALIDADE (理不尽に抗う理不尽)

徳性 : audacia (勇気)

方位 : septentrio (北)

星辰性: cometes (彗星)

色調 : Album et Nigror (白と黒)

番号 : DCCLXV (765)


アーティファクト : A lâmina que gira uma fantasia (紡ぐ幻想の刃)





ラテン語が分かんないのでポルトガル語で表記します。













[15173] 漆黒の翼 #3
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/22 14:34
 ガガッ!ギギイィ!!

シュイン!シュババァ!!!ズバッシュアアァ!!

 ゴガガガガ!!ギャルルウゥ!!!グアッキイィィン!!!

ガンガン!!ギギイイン!!ギンガマアァン!!!

 ギギギィィ!グアシャアアァ!!!






―――あ!?なに!!?今戦闘中だから!!!しゃべってる暇ないっての!!!!




「【斬空閃】!」
 「【蒼破刃】!」


 バシュアアア!!


飛来する斬撃が空中衝突!




「【弧月閃】!!」
 「【斬岩剣】!!」


 ガギイィン!!


弧を描く剣閃と岩をも断ち斬る一撃が火花を散らす!!




「【斬鉄閃】!!」
 「【空破特攻弾】!!」


 ガガガガッ!!


斬撃の螺旋を弾く特攻の旋風!!




「【岩斬滅砕陣】!!!」
 「【斬空掌・散】!!!」


 ドゴガゴガガガゴッ!!


迫り来る岩礫を迎撃する氣弾の掌!!!




―――――――視線が交差する――――――



―――これで――――――決める―――!!!





「駆けろ地の牙!【魔王!地顎陣】!!!!」  

 「神鳴流秘剣!【百花繚乱】!!!!」



ドガラガシャアアアァ!!!!!!














「―――腕、あげたなぁ」

「総統こそ」



息も絶え絶え、お互いを褒めたたえる俺とセツナ。――――そう、模擬戦です。【京都神鳴流】剣士・桜咲刹那と、【幻魔天翔流】戦士・一海里との恒例行事だ。

今回の観客はコノカ他数名、ウチの組員以外は金払えコノ野郎。


しかし俺らも随分成長したなあ、技にしても身体にしても。


ここで新事実、実は俺たちはもう中学生だ。ためになったね。
ちみっこかった2人はすっかり女らしさが表れてきちゃってまあ、嬉しいやら感慨深いやら。



コノカは相も変わらずおっとりだが、そこに大和撫子風味がでてきた。料理も上手いときているから、将来は引く手数多だろう。

だがまず『総統』の俺に許しを得ることだ野郎ども。
こちとら詠春さんからいろいろ任されてんだ、見極めさせてもらうぞ。今のトコ該当者無し、俺の査定は難易度[アンノウン]よりキビシいのだ。



一方セツナ、コッチもきれーになっちゃってまあ。切れ長の眼にスラリとした手足、日本美人の素養バッチリである。着物とか着てくんないかなぁ。

こちらは俺の査定もないというのに男っ気が無い。人気はあるらしいが近寄ってはこないんだそうな。コノカ大好きっ子は相変わらず、とっても仲良し。

百合の人なのかとの質問してみたが、本人は一貫して否定、断固否定。「そうゆうのじゃないんですよ私たちの絆は」とのこと。




ああ、俺も成長したよ、それなりに。自分じゃよくわかんないけど。「男っぽさが出てきとる」とはコノカの談。
鍛練のおかげで技の方はかなりのもんじゃないかな?剣技と斧技はほぼ習得、体術もなかなかだし、槍と弓も、まぁそれなりだ。やっぱ剣と斧だな、得意なのは。

ただ、魔法の方はあまり自信が無い。いや訓練は続けてたけどさ、使い難いのよ。

基本的なことだけど、上級の術になるほど詠唱、正確には詠唱に入るまでに魔力を練り上げる時間が長くなる。俺はバリバリの前衛気質なもんだから、使う暇が無いんだよ。

おかげで使えはするけど使わないというペーパードライバーみたいな感じになってしまった。見た目も西洋魔術っぽいから、西だとおおっぴらに使えなかったしね。
ぶっつけ本番というのはかなり不安だ、苦手意識もある。ちょこちょこ試運転しないと。





―――――あ、まだ休憩じゃないよ、2人とも相対したままです。


「・・・さて、もう疲れてきたんで俺の奥義を受けて堕ちてもらおうか」

「奥義?」


怪訝そうな顔をするセツナ、「聴いてませんよそんなこと」って広めのデコに書いてある。


ふっふっふっ、ゲーム内じゃ日の目を見ることのなかった伝説の奥義を受けるがいい!



「いくぞセツナ! これぞ秘奥義!!」

「!!」


セツナが身構える、だがもう遅い!!コレで堕ちろ!!!











「【電光石火 流し目】エェ!!!!」


 キラッ!!







「・・・・・・・・・・」




――――かつかつかつかつかつ・・・、がっし――――



「アレ?」




「【浮雲・旋一閃】!!!!」



「ほべぇ!!?」




お気に召さなかったようだ、やっぱりソノ手の才能は無いのか。・・・駄目だったよロニ。

何がいけなかったのか?解説のコノカさん、いかがでしょう?


「ただ睨んでるようにしか見えへんよ?」

しょうがないじゃん、眼付きのを悪さは生まれつきだもの。三白眼がうらめしいぜ。


プリプリ憤慨するセツナにハッ倒された俺は、混濁する意識の中、この広場に聳え立つ規格外の大樹、通称『世界樹』を逆さ眼になりながら見上げていた。





―――――そう、ここは東。関東魔法協会本部・『麻帆良学園都市』―――――

―――――我ら【漆黒の翼】の新天地―――――

















――――それは、小学校卒業も差し迫ったある冬のこと。

いつものように3人で遊んで、もとい活動していた俺たちを詠春さんが呼び出した。何用かと速やかに馳せ参じる―――――





「俺たちが東に?」
「お父様、ホンマなん?」
「そうなんですか、長?」

異口同音とまではいかないが、ほぼ同義の質問をぶつける俺たち。
それというのも、詠春さんがこの春から俺たちを東の本部、麻帆良の中学校に編入させると言ってきたからだ。なんでまた。



「どうも下の者の中に良くない動きをしている輩がいるようなんですよ」

曰く、西の治安が少しずつ雲行きの怪しい方向に向かっている。西の長の娘であり極東一の魔力を持つコノカは、その輩に狙われる危険性が出てきたというのだ。
確かにそれだけの好物件なら利用価値は計り知れないだろう。言いたかないけど、胸糞悪くなる使い道だってたくさんある、なんとなくわかる。

でも、態々敵地のド真ん中に行かなくても。何か理由があるんですか?


「アソコは都市を覆うように強力な結界が張られてありますから、危険な輩から護ってくれますよ。少なくともここよりは安全なハズです」


東のお偉いさん方がなんていうかわかりませんよ?

「それなら大丈夫、東の長は私の義父、木乃香の祖父だからね」


・・・内輪でなにやってんだアンタら。



西と東は、敵対してるというよりイガミ合ってるというのが正しいらしく、イガミ具合は西の方が強いんだって。
だから俺たちがノコノコ出向いたところをいきなりグサリッ、ということはないとのこと。
ちなみに長同士の関係は良好なんだと。下を抑えられるかは2人の手腕にかかっている。

腕の立つ神鳴流剣士も1人同行させると言っているし・・・それなら、まぁ、大丈夫か?

3人一緒ならオールOKなコノカ、「我が人生このちゃんと共に」なセツナ、その2人の上官たる俺、断る理由はもう無い。【漆黒の翼】は遠征いたします!




了承の返事をした俺たちは退室、だがコノカが出たところで呼び止められる俺とセツナ。まだなにか?



「・・・君たちのことを、東に寝返った裏切り者と呼ぶ者もいるかもしれません。・・・それでもこの任、引き受けてもらえますか?」



顔を見合わせる俺たち。多分2人とも同じような表情だったと思う。





――――何を今更、と―――



「言わせときゃいいんですよ。その程度で揺らぐ程、俺たち3人は脆くないです」

「お嬢様の安全は、私たちの『ツバサ』が約束します」


淀みもなく応えた。





「・・・・・・木乃香のこと、よろしくお願いします――――」






そういえばセツナ、立場的なことを考えてかコノカを「お嬢様」と呼ぶようになった。コノカは不満気だ。まぁ油断するとすぐ「このちゃん」に戻るから別に構わないけどね。









―――やってきました麻帆良学園、なんだこの広さは、東京ドーム何個分だ。それにアノ樹、デカ過ぎじゃないのか?あれだけデカけりゃ観光地にでもなってそうなもんだが。


驚きもそこそこに、この学園を、ひいては関東魔法協会を統べるコノカのじいちゃんが居る学園長室へ向かう【漆黒の翼】+1。・・・なんで女子校の中にあるんだよ、奇異の目で見られたわっ。

学園の女教師の案内の下、学園長室前に連れてこられた。胸デカいなこの人。デカさが売りなのかココは。

ノックしてモシモシした後、中から入室許可が下りる。入る、ガチャリと。




―――――ぬらりひょんが鎮座していた。


・・・ここまで大っぴらにしていいのか、“裏”の秘匿を。

と思ったら、この方が東の長にしてコノカの祖父『近衛 近右衛門』その人。列記とした人間だそうな。
ビックリしたよ、危うくコノカを主人公にしたマンガを描くところだった。だって孫だもの。
それにしても、ちっとも似てないな。・・・・・・優性遺伝万歳!!

そしてその傍らに、柔和な笑みを浮かべ、側近のように佇んでいる眼鏡のダンディズムが1人。
この人は『高畑・T・タカミチ』さん、この学校の教員だって。“裏”の関係者でもあるんだと。・・・・タダモノじゃなさそうだ、そう思う、なんとなく、あと「T」って何の略だ。


「おじいちゃん、久しぶりや」

「フォフォ、よく来たのう木乃香、それにキミらも」

「お初にお目に掛かります、一海里です」

「同じく、桜咲刹那と申します」


セツナ共々挨拶を済ませる俺。一緒に来た神鳴流剣士「葛葉刀子」さんは、さっきのムネの人に連れられて何処かへ。後で聞いてみたら、ここで教師やるんだとさ。


「木乃香と仲良くしてくれてるそうじゃな、礼を言うぞい」

「友達で、総統ですから」
「親友で、主任ですので」

「♪」
「「?」」





そんなこんなで、東の長といろいろ話を進める【漆黒の翼】一同。
コチラの“裏”のことや各関係者――魔法先生とか魔法生徒とか云うんだって――の役割、あとは俺たちの仕事なんかの話だ。

俺とセツナには、この都市に現れる魑魅魍魎やアブナイ連中を撃退する仕事があるんだそうだ、しかも無償で。

セツナは承諾しかけたが、遮って異を唱える。この辺ハッキリさせないと後で面倒だ。




「俺たちの仕事はコノカの守護です、街の治安維持にまで気は回せませんよ」

「ふむ、しかしじゃね、コチラ側にいる以上協力してもらわんと困るんじゃよ」

「いえ、協力はします。関係無い人たちにまで理不尽な思いはさせたくないですから。でもさすがに無償で働くのは嫌ですよ、慈善事業じゃあるまいし」

「いや、割と慈善事業なんじゃけど、『立派な魔法使い』ってそういうモノじゃし」

「なら、傭兵扱いでお願いできませんか?依頼された仕事を引き受けて報酬を貰うっていう感じの」

「ふぅむ・・・」


コノカはニコニコ、セツナはオロオロ、俺と学園長で喧々諤々、高畑さん置いてけ堀。
心象悪くなるかもしれないが、ココは譲れない。俺たちは『立派な魔法使い』を目指して東に来たんじゃないんだ。コノカを護ることが大前提、そんで楽しく暮らせればいいんだから。


話し合いの結果、俺たちの実力を見てから判断することになった。
そりゃ腕の悪い傭兵なんか雇っても金の無駄、その辺で募金した方がよっぽど為になる。アチラの提案は当然のことだろう。
なので俺はそれに応じる。セツナも困惑しながらも、説明して納得させた。





――――それで俺とセツナで模擬戦をすることに、冒頭に戻るワケだ。途中から興が乗ってきたんでスッカリ忘れてたけどね。



結果、最後はポカーンだったが腕は認めてくれたらしく、俺たちは晴れて傭兵職に就いたのだった。定期的にシフトに入るんだとさ。




さあ、いよいよ新天地だ。用意はいいか?

「もちろんや!」
「抜かりなく!」


【漆黒の翼】、関東編のスタートだ!!











―――――少年たちの『物語テイルズ』は加速していく―――――










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ネタ盛り込むって難しい。

だれか海里のカードの絵柄描いてくれないかなぁ。








[15173] 漆黒の翼 #4
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/22 14:32

―――拠点を東に移して数日、今日はいよいよ初仕事です。金もらえるから文句ないよ。

今夜の相手は異形が数十体、それに術者が1人ってトコか。いっちょ気合い入れていきますか。


「セツナ前衛、俺遊撃、マナは後方で援護、術者は見つけ次第デストロイ、異論は?」

「OKさ」
「了解です」

さぁ、パーリィの始まりだ!!









―――――ここ数日でもそれなりにいろいろあった。


この学園は男子区域と女子区域に分かれている。当然俺は男子区域、コノセツは女子区域。
女子校に編入するのかも、とか一瞬考えたが別にそんなことは無かったぜ。なったらなったで地獄だ。

家から通う生徒もいるが、基本的に全寮制、一部屋につき大体2~3人が住んでいる。
男子寮の俺の部屋には俺の荷物しかいない。偶々余ってたのか、気を利かしてくれたのか。どちらにしろありがたい。悠々自適に暮らせそうだ。


コノカとセツナはもちろん相部屋、と思ったら別の部屋でした。交友関係を広げてほしいとの学園長の計らいだそうな。護衛だっつってんのに、まあ隣部屋だし許容範囲か?

あと、女子寮は男子禁制なんだって。ホイホイ遊びに行けないじゃないか。男子寮は女子ウェルカムなのに。・・・街で会えばいっか。






もうすぐ仕事始めとなる俺たちにチーム編成について言い渡された。ここの仕事は約3人のチームで行うらしい。

コンビネーションも考えて、セツナと俺は当然同チーム、今日はもう1人との顔合わせだ。


オープンカフェでコーヒーを啜りながら待っていると、人混みの中から現れる長身の美人が1人。
褐色の肌を持つこのナイスバディが俺たちの仲間となるらしい。やっぱデカさが売りなんだよココは。

とりあえず挨拶を―――――


「龍宮?」

「新チームと聴いていたが、オマエだったか、刹那」

――――お知り合いですか?


聴けばこの美人さん、『龍宮真名』っていうんだけど、セツナの同居人なんだってさ。・・・てことは、同い年?マジかよ、大学生くらいかと思った。

格差社会の波を感じながら、俺も自己紹介。龍宮・・・もうマナでいいや、彼女も報酬を受けて仕事をこなす傭兵なんだとさ。気が合いそうだ。



「とりあえず、オマエ達がどんなことができるかを確認しておきたいんだが」

ふむ、尤もだ。戦力を正しく把握できなければ戦術は組めない。さすがは先輩傭兵。


「私は銃を使った戦闘が主だ。後方射撃、ショートレンジ、長距離スナイプ、なんでもござれだ。苦手な距離はナイ」

この人パねえな。オールレンジOKのガンナーってヤバいっすよ。


「それと、『眼』だ」


なんでも、『魔眼』という特殊な眼を持っているらしい。・・・・・・・・邪気眼か?

「夏に向けて脳天を肉抜きするかい?涼しくなるぞ」

ゴメンナサイ。




「それで、オマエ達は?」

「剣と斧、体術に、槍と弓を少々、あと魔法をたしなむ程度に」

「総統、お見合いじゃないんですから。私は前にも云ったが神鳴流の剣士だ、武器は選ばない」

「『総統』?」

「ああ、それは――――」



そんな感じで顔合わせ終了。結果、前衛にセツナと俺、後衛にマナという配置になった。状況に合わせて俺が下がったり突っ込んだりするんだ。

ニヒルでビジネスライクな感じだけど、イイ人っぽいし、仲良くできそうだ。こうして、チーム『傭兵ソルジャーズ』が誕生した。







―――――――そして冒頭へ。

マナは俺たちの動きが分かっているかのように的確に弾をぶち込んでいく。邪気眼スゲェ。

前衛を一旦セツナに任せ一歩後退、手の中のトマホークをミスリルロッドに変更。魔力を練り上げる。・・・やっぱり時間かかるな、・・・3、2、1、ハイッ!




「雷雲よ!我が刃となりて敵を貫け!【サンダーブレード】!!」


「「「「「「「ギャオオオオオオオォ!!!」」」」」」」



異形の集団が固まっている場所に稲妻の剣が突き刺さる。セツナがうまいこと誘導してくれたようだ。
こんな調子で蜘蛛の子を散らすように粉砕していく、悪く思うなよ。

と、マナの魔眼が術者の位置をとらえたようだ、俺とセツナに指示が飛ぶ。

セツナが瞬時に回り込み【斬空閃】で牽制、俺から意識がそれたところをすかさず狙う!



「【ピコハン】!!」


脳天クリーンヒット、ピヨピヨ云いながら気絶した。コイツを引き渡して任務完了だ。

みんな、お疲れさん。







「――――息ピッタリだな、オマエ達」

「私たちは相棒みたいなモノだからな」
「オシドリなのだよ」

マナの感嘆の声に応える。長いこと一緒にいると、こうなるのさ。


「結婚でもする気かい?」

「するか?」
「考えときます」

にべも無く返された。つれないなあ。


「俺たち、2人でトリキュアだろ?ネガティブなんかブッ飛ばそうぜ」

「片割れが男の時点でキュア要素が崩壊してますよ」

「俺がオオトリブラック、オマエがコトリホワイト」

「お嬢様はどうなるんです?」

「新メンバーのオットリルージュとして迎え入れる予定」

「化粧品に興味が出てきたみたいですね」


セツナは使わんのか?いや私は、などと雑談しながら帰路につく。後ろから付いてくるマナの邪気眼が生温かく感じた。










―――――ふむ、やはり広大だなこの街は。場所確認のために歩き回ってみたが、終わりが見えないよ。しかしなんでもあるなココ。

映画館に商店街、少し歩けば森や山もある。あとアレ、図書館島だっけ?ビックリだよあんなの、まだ中に入ったこと無いけどさ。
関東地方のド真ん中にこんな土地があろうとは。・・・探せば遺跡なんかも見つかったりしてな。



・・・・そういえば東に行くってわかった後、ココのコトいろいろ調べたんだよ。そしたら気になる単語がヒットしたんだ。



――――【闇の福音】――――



かつて600万ドルの賞金が懸けられた伝説の極悪人で、真祖の吸血鬼。【不死の魔法使い】、【悪しき音信】、【禍音の使徒】等の二つ名を持つ強大な魔法使い。
女子供は殺さないが、彼女を退治せんとする魔法使いは残らず帰らぬ人となる、などの噂が絶えない、一種のなまはげのような存在らしい。名前は、・・・・エヴァンなんとか、だったかな?

10年くらい前までは活動していたみたいなんだけど、アノ『サウザンなんとか』がこの地に封印したとかで、今は音沙汰なし。



・・・・逢ってみたい。どんなヒトなんだろう。それほど強いのなら何か深いアドバイスをくれるのでは?

・・・・楽観的すぎるかな?退治しに行きたいってワケじゃないから、逢っていきなり首チョンパなんてことにはならないと思うんだけど。





―――――そんなことを、ベンチに腰掛けネコに餌をあげている少女を眺めながら、俺は考えていた。・・・・・・・アノ娘、ロボット?すごいな麻帆良の科学力、しかも絵になってる。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



チラシの裏は回転速いっす。

・・・赤松健板に載せてもいいレベルでしょうか、この話。








[15173] 漆黒の翼 #5
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:58
いよいよ新学期が始まった。新しいクラスってのは、なかなか緊張するもんだ。特に俺は中学からの編入生、見知った奴など居やしない。緊張もヒトシオだ、たとえ二度目の生でもね。


クラス分けも確認し、教室へ。ちなみに1-Aだ。黒板に書かれた席に着座、前後左右の奴に軽く挨拶を済ませる。
周りを観察すると、いくつかのグループが教室のあちこちにたむろってるのが見える。おそらく小学校からの仲良し組だろうか。

俺はどうしようか?まあ、無理に入る必要もないんだけどね。“裏”関係で巻き込んだら悪いし。


と、チャイムが鳴り、担任教師の登場と共にそそくさと着席する野郎一同。・・・あ、刀子さんだ。このクラスの担任なのか、いろいろ都合が好さそうだな。

周りから「おお、美人!」とか、「当たりだぜヨッシャア!」とか歓喜の小声が届く。もっと言ってあげて、あの人バツイチらしいから。
西洋魔術師と結婚して一回東に来たらしいんだけど、あえなく離婚、西にとんぼ返りしたそうな。複雑だろうなぁ、今回の派遣。苦い思い出もあるだろうに。


新クラス恒例の自己紹介タイムも終わり、今日はこれまで。短いが、初日なんてこんなものか。しばらくその辺の奴らと雑談タイム。編入生が珍しいのか、結構寄って来るんだよコレが。

話の合う奴、趣味の似通った奴が何人か居たよ。土地柄なのか、みんな人懐っこいんだよな。寂しい学校生活では無さそうだな、一安心だ。








学校を終え向かうは世界樹広場。俺が行くと、既に幹部と主任が待っていた。


「悪い、遅くなった。クラスの奴らと話してて、ついな」

「ええんよ、総統にウチら以外の友達ができるんなら」

「人を寂しい奴みたいに云うんじゃない。今までだって居たわ、それなりに」

「はは、スマンスマン」

「私たちが居なくて大丈夫ですか?いじめられてませんか?」

「オマエは俺をどう認識してるんだ」


軽いジャブの応酬を受けてから、情報交換を開始する俺たち。
2人は同じクラス、奇しくも俺と同じA組だそうだ。担任は高畑さん、これまた都合がいい。マナもA組だってさ。

「ウチと同部屋のアスナもA組なんよ」

へえ、今度紹介してもらおう。



うん、それなりに情報交換したな。俺の情報、「担任が刀子さんだったよ」くらいだけど。

「それと総統、もう一つ・・・」

なんだセツナ、改まって。

「エヴァンジェリン・・・、【闇の福音】のことなんですけど・・・」

その名にピクリと反応する俺。
なんだ、何かわかったのか?どこに住んでるかとか、どんな性格なのかとか。

「いや、その、ですね・・・」

なんだよ、奥歯にアレが挟まったみたいな言い方して、気になるだろうが。

「何ですかアレって、ソッチの方が気になりますよ」

アレはアレだ、いいから続きを言えって。



「同じクラスだったんよ、エヴァちゃん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんだって?



「ですから、私たちと同じ1年A組に在籍してるんですよ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんが」



・・・・・理解が追いつかない。
【闇の福音】が?中学のクラスに?元懸賞金600万ドルの極悪吸血鬼が?学校に通ってる?しかもエヴァちゃんて、どゆことなのソレ、どゆこと?


「私たちにもサッパリですよ、どんな人かと思えばあんなのだし」

あんなのってどんなの?

「せっちゃんと総統が模擬戦しとった時におった子やよ、ほら、金髪のちっちゃい子」

・・・・え、アノ子?誰かの連れ子じゃなかったの?アレが【闇の福音】なの?

い、いや、見た目は関係ない。話によれば彼女は既に数百年生きた不老不死の真祖、「不老」なら成長が止まってても不思議じゃない、「不老不死」そのものが不思議なモノだけど。



「・・・学校に通ってるってことは、ところ構わず殺戮するようなヒトではない、よな?」

「・・・多分」

「可愛かったえ?お人形さんみたいで」


・・・・・・今度、挨拶に行ってみるか。住所は・・・・マナにでも訊くか。










―――――さて、通常授業も始まり、仕事にも中学校生活にも慣れ始めたころ、俺は麻帆良の一角にある電気屋に来ていた。
なんでかって言うと、買い物だよ、パソコンが欲しいんだ。やっぱあると便利だしね、情報がモノを言う時代だもの。報酬も随分貯まったし、ここらで使うのもアリだろう。


・・・しかし、なんだろうねコノ街は。出歩けば必ずと言っていい程騒ぎが起きてる。
大学部の方から巨大なロボットが暴走してきたり、女の子を野郎どもが取り囲んだと思ったらソノ子に端からぶっ飛ばされてたり、もうお腹いっぱいです。

どうして誰も気に掛けないんだろう。もはや日常の一部なのか?

・・・いや、もしかしたら認識阻害術の一種なのかもしれないな。ココは関東の魔法の中枢だ、どこから一般人にバレるかわからない。
だから深層意識にジャミングを掛けて誤魔化してる・・・・・あり得ない話じゃないな。

そうでもなきゃおかしいもの。オリンピックに喧嘩売ってるような奴もたくさんいるし、ロボットとか普通に道歩いてるし。
世界樹だってそうだ。あんなデカい樹、世界中の植物学者が飛びつかないハズが無い、マスコミが騒がないなんて絶対におかしいもん。



―――まぁ、俺の麻帆良考察はこれくらいにして、買い物買い物。パソコン買いに来たんだよ俺は。

この店は割と大きめだ、4階まである。パソコン関係は・・・3階か、エスカレーターでいいな。




3階に到着。さてと、目ぼしいモノはあるか――――


パキッ


―――ん?なんか踏んだような・・・・。

下を見て、スーっと右脚をどかして見る。・・・コレは、メモリーカードの箱?「パキッ」ってことは、中身は―――


「ああーーーーー!!」


うお、ビックリしたぁ!なんだ!?

顔をあげると、そこに居たのは地味目な眼鏡の少女。同い年くらいか?


「テ、テメェ・・・!私のメモリーカード・・・!!32ギガの新品を・・・・!!」


どうやらこのカードはこの娘が買ったモノらしい。落としたものを俺がちょうど踏んづけた、と。・・・・・悪いことしたな。


「その、ゴメン。新しいの買って弁償するからさ、それで勘弁してくれないか?」

「え、・・・い、いや、それはワリィ・・・・悪いですよ・・」


今無理やり敬語にしなかったか?・・・多分さっきの方が素なんだろうな。


「悪いのは俺の方だって。他人のモン壊しといてハイサヨナラじゃ、いくらなんでも失礼だろ?」

「で、でも、コレ・・・最後の一個で、これ以上は64ギガとかになっちま、・・・なりますし、これイイ奴だから高いですよ?」

「大丈夫、今日は金に余裕あるし。言っとくけど親の金じゃねえからな、身体張って手に入れた俺の金だ」

「え、えっと・・・・それじゃあ・・・」


そういうわけなんで、もう少し待っててくれパソコン君、スグ戻るから。






「―――本当によかったのか・・よかったんですか?こんな高いもの・・・」

「テメェのケツはテメェで、ってな。俺が悪いんだから当然のコトだろ」

「じゃ、じゃあ、ありがたく・・・」

「あと、別に無理に敬語使う必要無いんじゃねえの?」

「そ、それは私の勝手だろ・・・!」


無事この娘の会計も済んだ。そんじゃ俺も本命の方へ行くかな。


「んじゃこの辺で、パソコン買いに来たんだよ俺」

「お、おお・・・」


少女に別れを告げて、いざパソコン売り場へ。





―――うーむ、いろいろあるなぁ。ノート型でいいかな、お、コレなんか・・・・

「ソレはCPUがあんまイイ奴じゃないぞ」


聞き覚えのある声が背後から、俺の後ろを取るとは何奴!?

「どこのスナイパーだテメェは」

なんだ、さっきのメガネちゃんじゃないか。どうしたんだ、ココにはレンズクリーナーなんてないぞ。

「なんで私イコール眼鏡の図式が出来上がってんだよ、他の用だってあるんだよ」

じゃあ、いかがした?


「・・・・さっきの礼だ、良さそうなの適当に見繕ってやるよ」

いいのか?礼って言っても、元々俺が悪いんだぞ?

「32ギガが64ギガになって帰ってきたんだ、おつりが残ってんだろうが。借り作ったままなのは嫌なんだよ、筋が通ってねえのもな」

律儀だねぇ、どっかの番長みたいなこと言ってるよ。読んでるのかアレ。

「・・・知ったことかっ」

やっぱ読んでんじゃないのか?

「っ・・・・いいから選ぶぞ、ほらっ」

アイアイサー。





―――――買い物終了。ミサトは「ぱそこん」をてにいれた!ここでそうびしていきますか?

「こんな往来で広げんなっ!」

メガネに止められた。


「コレで良かったのか?アキバとか行けばもっと性能イイのあるぞ?」

「ネットできてオフィスソフト入ってれば十分だからな」

この娘のおかげで割かしイイのが手に入った、ベリーサンキュー、アンドミー。

「なんで自分にまで感謝してんだ、私だけでいいだろ」

ツッコミの才能あるよ、この娘ったら。


現在俺たちは電気屋の入り口にいる。用も済んだし、帰ってセッティングしないとな。

「そんじゃ、この辺で―――」



ドドドドドドドドドドッ!!!




――――なんだ、死神でも現れたか?


「危ないぞぉ!!」


「「げぇ!?」」

迫って来る巨大な重機が視界に入り、同時に声をあげる俺とメガネ。やべぇ、直撃コースだ!!


「アブねぇ!!」

「わあ!?」

咄嗟にメガネを引き寄せ真横に跳躍、間一髪回避に成功する。俺たちが居た電気屋の入り口は見るも無残な感じに。あのまま突っ立ってたら地獄の入口に送られてたかもな・・・。



「いやぁ、大丈夫かいキミたち?」

大丈夫じゃねえよ、他に言う事無いのか。

「・・・ぶじゃねえよ・・・・・ろす気かよ・・・」

メガネもブツクサ言ってる、どうやら俺と同意見らしい。

「キミ、良い身のこなしだったね。中武研の人?」

中武研が何かは知らんが今訊くことじゃないだろ。


他の奴らも似たような反応だ、誰も心配してやしない。店の人も憤慨はするけど、もう通常営業に戻りそうな雰囲気だ。

どうなってんだこの街は。



「・・・・・・!」

メガネはワナワナ震えている。当然の反応だろう、九死に一生スペシャルを身をもって体験したのにこの扱いだ。

・・・てことは、コイツは麻帆良にいながらココの異常さに気付いてるってことか?


「・・・場所移そうぜ、ココじゃ落ち着かん」

「・・・・・そう、だな」

とりあえず近くの公園に移動。なんか奇妙な連帯感が生まれていた。




「ホレ」

「・・・サンキュ」

自販機で買ったコーヒー缶を投げ渡し、2人してベンチに腰掛ける。


「・・・あ、えと、・・・・・ありがとよ、助けてくれて・・」

「どういたまして」

適当に返答。


「・・・アンタさぁ」

「ミサト」

「は?」

「一海里っつうの、俺」

「あ、ああ、そういや名前知らなかったな」

「ソッチは?いい加減「メガネ」じゃ悪いし」

「テメェ頭ん中で勝手なあだ名つけんなよ、千雨だ、『長谷川千雨』」

「チサメ、ね」



その後1分くらい無言。・・・とりあえず俺からしゃべってみるか。


「何なんだろうな、この街」

「え?」

チサメが食いつく、サメだけに。


「事故が起きても騒がない、騒ぎはするが通報の1つも無い、安否確認より身のこなしに目が行く、異常だよ」

「・・・・アンタも、そう思うのか?」

「常識は持ってるつもりだ」

非常識な存在だけどね。



「・・・そうだよ、そうなんだよ、オカシイんだよココの連中は」

なんか独白し始めた。同志に逢ったのは初めてだったか。


「人間やめてるような奴がアッチコッチに居るのに誰もツッコまねえし、いつも馬鹿みたいにお祭り騒ぎしてるし、『フツウ』じゃねえよ」

・・・・・・・。

「私は『フツウ』でいたいんだ、トンでも連中の馬鹿騒ぎになんか混ざりたくねえし、巻き込まれたくもない。誰にも邪魔されない『フツウ』の生活がしたいんだよ」





・・・・『フツウ』、か。


「『フツウ』ってなんだろうな」

「いや、『フツウ』は『フツウ』だろ?」

「『フツウ』なんて結局個人の主観だろ?」

「・・そりゃ、まあそうだけどよ」

「まぁ、オマエの言う『フツウ』が一番一般的なモノなんだろうけどな、世間的には」


初対面の相手にする話じゃねえよな、コレ。


「『フツウ』じゃない連中が何考えて生きてるか、考えたことあるか?」

「・・ねえよ、わかる訳ねえだろ、頭が花畑無双の奴らの思考なんて」

「案外、オマエとそんなに変わらないかもしれないぜ?」

「・・・どういう意味だよ」


ぶすっとするチサメガネ、まあ聴けや。


「人間なんて育つ環境によってカンタンに変るもんだ、クローンを別の家庭に預けて育てたって、同じ性格にはならないだろ?」

「・・・・」

「『フツウ』じゃない環境に置かれたら、ソレに順応するしか道は無いだろ」

「それは・・・・」





「生まれは選べねえんだよ、本人が望もうが望むまいがな」

「・・・」

「現状に満足してる奴もいるだろうさ、でもそうじゃない奴もきっといる。こんな所に生まれたくなかった、もっと『フツウ』でいたかった、そう思ってる奴がな」

「・・・・・・・・」






「それに、『フツウ』じゃないってのも悪いことばっかじゃないと思うけど?」

「なんでだよ、『フツウ』の方がいいだろ」

「生き方が変わるような劇的な出来事、すべてを捧げてもいいと思える異性との出会い、これは『フツウ』のことか?」

「『フツウ』・・・・じゃねえ、な・・・」

「だろ?ソイツらからしたら、『フツウ』な奴の方がよっぽど不幸だ」


何が言いたいかっつうとだな。








「『フツウ』ってのは、それだけで幸福しあわせなんだよ。でも、それだけじゃ不幸ふしあわせなのさ」





「・・・・私は哲学が聴きたいんじゃねえよ」

「俺も哲学を語るつもりはなかったんだがな」


さて、柄にもなく真面目な話しちまった。いい加減帰ってパソコンセットアップしないと。


「じゃあな、俺帰るから」

ベンチから立ち上がり帰り支度を――――



「・・・・オマエは・・・?」


―――チサメが俺の背に問いかける。


「・・・オマエは、どっち側の人間なんだ?」




――――決まってんだろ。








「俺は『不幸シアワセ』者だよ、とびっきりのな」



背を向けたまま応えた。






















家に帰って絶望した。

「プロバイダ契約すんの忘れた・・・・・」

ネットが見れねえええぇぇ・・・・・・。











[15173] 漆黒の翼 #6
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:05
――――麻帆良学園女子中等部・校舎屋上――――




「エヴァちゃーんっ」
「ちょっとイイですか?」

「む、なんだ、近衛木乃香と桜咲刹那。私は忙しいんだ、後にしろ」


「マスター、お茶を」
「うむ」


「・・・忙しいって、屋上でティータイム洒落こんでるだけじゃないですか」

「うるさい、用があるならサッサと言え。張り倒すぞ」


「あんなぁ、今度エヴァちゃんち行ってもええかなぁ?」

「断る」

「早いですよ、『何のつもりだ』くらい訊いてくださいよ」


「どうせ碌な用じゃあるまい、態々【闇の福音】の住居に来るなど。オマエ達も“裏”の者ならわかるハズだろう」


「総統が挨拶に行きたいゆうんよ」

「総統?・・・・・ああ、あの小僧か。なんで私がそんな小僧の相手を・・・・、そういえば、アヤツ見たことのない技を使っていたな・・・・」

「人生の先輩からアドバイスが欲しいとか言ってました」



「・・・・・いいだろう」

「よろしいのですか、マスター?」

「少し興味が湧いた、『悪の魔法使い』に逢いたいなどと云うモノ好きに、な」

「・・了解しました」



「次の日曜だ、すっぽかしたら挽肉にすると伝えておけ。クククっ・・・・」










――――同学園男子中等部・1年A組教室――――



―――――!? な、なんだ、今の悪寒は?


「どーしたよ、カイリ」

「いや、ちょっと寒気がな」


なんだろう、何かすごくヤバめな猛獣に狙いをつけられたような・・・。



「おいメシ行こうぜ、ミサっちゃん」

「今日はニノのオゴリっつーことで」

「マジで!?サンキューさっとん!!」


勝手なことぬかすな、あとあだ名を統一しろ。

発言を訂正させるべく、ガタリと椅子から立ち上がり級友の後を追う俺。今日はカツカレーでも食うか、金曜だし。




――――――――そんな昼時日本列島――――――――














  (とーきどーきー、と○くーをーみーつめーるー♪)


―――――おはようございます、一海里です。今日の建もの探訪は、埼玉県麻帆良市のエヴァンジェリン邸にオジャマします。いやぁ、立派なログハウスですねぇ、手作りでしょうか?



「渡辺篤史ごっこはいいですから、入りますよ?」

「せかすなよ」

「緊張しとるん?」

「割とな」



そう、今日は【闇の福音】との顔合わせだ。顔自体は1回見てるけど、面と向かってはコレが初めて、そりゃ緊張の一つもするさ。

マナから聴いた住所を頼りに歩を進めた結果、今言ったようなイイ感じのログハウス前に到着した。ココが【闇の福音】の住居か、もっとお屋敷みたいのを想像してたよ。



さて、いつまでも家の前にいるわけにもいかない。気引き締めドアの前に立つと、キィッと音を立てて開く。自動ドア?



「いらっしゃいませ、近衛さん、桜咲さん、それと・・・」

「一海里っす」

「・・・一様、ようこそ」


この娘が開けてくれたのね。・・・あ、キミは・・・


「ネコに餌あげてたロボッ娘?」

「ガイノイドです、『絡繰茶々丸』と申します」


【闇の福音】の従者だったのか。ソレにしては優しげだな、エプロンドレスが似合ってる。


従者チャチャマルに促され、家の中へ。いよいよ対面だ。

家の中は、一言でいえば『ファンシー一直線』だった。多種多様の人形がズラリと並べてある。そういや【人形使い】って二つ名もあったな。



そんな感じで家の中を物色している俺たちに――――――







「―――遅かったな、待ちくたびれたぞ」





――――ソファに腰掛け、足を組んで妖艶な笑みを浮かべる麗しい金髪の少女が1人。


・・・・このヒトが、真祖の吸血鬼・・・・、最強にして最悪の、『悪の魔法使い』・・・・。






「―――よく来たな、近衛木乃香、桜咲刹那、そしてニノマエミサト」


「―――初めまして・・・ではないか、・・・改めまして、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん」





【闇の福音】と【漆黒の翼】が、ここに邂逅した―――――








「態々招いてやったんだ、手ぶらじゃないだろうな?」

「あ、そうだ、コレお土産っす」


木製のバケットを差し出す。


「・・・何だコレは?」

「ニシンのパイをお届けにあがりました」

「どこの宅急便だキサマは」



見てんだ、ジブリ。



「ちなみに俺が作ったヤツです」

「ふん、毒でも盛ったか?」

「そんなこと言わんでくださいよ、ホラここ、ココのクリームのデコレーションとか苦労して――」

「なんでデザート風なんだ!!メインディッシュを張る料理だろコレは!!!ってクサッ!!魚クサッ!!!」



――――邂逅は、なんかマヌケな感じに収束していった。







俺たちの対面に座るエヴァンジェリンさん、そしてその後ろに仕えるチャチャマル。その顔は若干引き攣っている、チャチャマルは変わらんけど。



「・・・・よくそんなモノ食えるな・・・」


ソレと云うのも、俺たち3人が『ミサト特製・ニシンのパイ』を躊躇いも無くパクついてるからだ。



「最初はアレやけど、だんだんクセになってくるんよ」

「このエグさが堪らないんです」


結構好評なんですよ、初めは敬遠するけど食ってみたら意外に、って感じで。ドリアンみたいなもんだ。



「・・・キサマらは嫌がらせしに来たのか?」

「違いますよ、エヴァさんにもこのスイーツのうまさを味わってもらいたくて」

「スイーツなのはキサマの頭だ。あと勝手に私の名を略すな」



だって長いんだもの。お気に召さなかったか、ニシンのパイ。


「捨てるか食いきるかしろ、吐き気がする」


その言葉を聞いて、後ろに仕えていたチャチャマルが前に出て、テーブルの上のパイに手を伸ばす。・・・捨てちゃうの?



チャチャマルはナイフを手に取り、切り分け、皿に乗せ―――


「・・・茶々丸、何をしている?」

「食わず嫌いはよくありません、マスター」

「いや、そういうレベルじゃないだろ、ゲテモノだぞソレ」

「皆さんは美味しそうに召し上がっています、よってマスターの食わず嫌いと判断します」



何か琴線に触れるものがあったのか、皿片手にエヴァさんに詰め寄るチャチャマル。ガイノイドの琴線てどこだ、なんのコードだ?



「さぁマスター、口をお開けください」

「や、やめろ茶々丸!」

「食べ物を粗末にしてはいけませんマスター」

「い、いや、だから――!」

「さぁ――――」





――――ログハウスに真祖の悲鳴が轟いた。レアなもん見たな。


















「・・・・・意外にイケるな」

「でしょ?」


ニシン信者が増えた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『建もの探訪』のテーマソングって何気に良い歌詞ですよね。






[15173] 漆黒の翼 #7
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:05
「ところで一海里、キサマ変わった技を使っていたな?」


しばらくニシン談義を続け、そこから何故かお気に入りのジブリ作品の話になっていたところで、エヴァさんがそう切り出した。

ちなみにコノカは『耳をすませば』、セツナは『もののけ姫』、エヴァさんは『紅の豚』、チャチャマルは『猫の恩返し』だそうだ。俺?俺は『ラピュタ』だよ。

で、何の話だっけ、・・・・ああ、俺の技のことね。



「数百年生きているが、見たことの無い流派だ。なんと云う?」

「【幻魔天翔流】です」


用意しておいたオリジナル流派名を答えた。



「・・・ふむ、やはり聞き覚えの無い流派だ」

「そりゃそうですよ、俺が名付けたんだもの」

「・・・シバくぞキサマ」


幼女に脅された。メッチャ怖いんだけど。



「・・・要するに我流か、見たこと無いわけだ。魔法は使えるのか?」


俺が模擬戦で見せたのは剣技と斧技、魔法は使っていない。
剣と違って魔法は我流で通すには厳しい。一般的な西洋魔術とじゃかなり違うからなぁ、俺の魔法は。



「使えますけど、普通の術じゃないですよ?」

「どういうことだ?」


内緒にしてくださいよ?


「物心ついたころからなんですが、頭ん中にボヤ~って術の形態というかやり方というか、そう云うのが入りこんできたんですよ。
それを感じた通りに練習したら、西洋魔術とは違った魔法が使えるようになったんです」

「新種の魔法ということか!?」

「どういう訳なのかは俺にもサッパリなんですけどね」


本当ではないが嘘でもない、詠春さんにもこう説明した。普通ではないことを理解したのか、あまり人前で使わない方がいいと言われたよ、バレたら大騒ぎだからな。決して公にはしないとも約束してくれた。
ここで態々バラすことも無いかもしれないが、エヴァさんにはきっとこれからも世話になると思うし、ヘタに誤魔化せば後が怖い。



「でも俺にしか使えませんよ?口じゃ伝えられないし、かなり概念的というか感覚的というか、そんな感じですから。言うなれば、俺専用魔法です」

「む、そうか・・・」

「できれば他言無用でお願いします、バレるといろいろ厄介なんで」


少し残念そうにする金髪幼女さん。しかしすぐさまズイッと身を乗り出してきた、顔が近いっすよ。


「その中に呪いを解呪できる術はあるか!?」

どしたんすかイキナリ、呪いがどうかしたんですか?


「私に掛けられた呪いを解け!今すぐ!!」






前に言ったように、エヴァさんは『サウザンドマスター』とか云う魔法使いに、この地に封印されている。その封印方法と云うのが件の呪い、【登校地獄】というふざけた名前の呪いなのだという。

休み以外は必ず学校に行かなくてはならない、麻帆良からも出られない、卒業しても1年生からやり直し、まさに地獄だ。


「・・・・ひどいっすね、『サウザンドマスター』」


しかも3年したら解呪しに戻るといった本人は行方知れず、というか死亡扱いらしいし、もう10年以上中学生を続けているそうだ。

オマケに卒業したら同級生たちから忘れられてしまう、・・・・絶望なんてもんじゃないだろうな。




「・・・・よし」

「いいんですか総統?仮に解けたとしても、後で問題になるんじゃ・・・」

「元々3年契約だったんだ、約束破った向こうの責任だろ」


鳥籠に入った鳥には自由なんて無いんだ。鳥には飛ぶ権利があるんだよ。





「エヴァさん、一応やってみます。でも、1つ約束してください」

「・・・・なんだ?」




「―――アチラから手を出してきたとき以外は、平穏に生きてください」

「・・・約束すると思うか?この【闇の福音】が」


―――――貫き殺さんばかりの視線が俺を射抜く。けど、譲らない、譲っちゃいけない。



「また『闇』に戻るっていうんなら、協力はできません」

「私に意見する気か?キサマを操ることなど容易いことなんだぞ?」

「・・・【闇の福音】はその程度のことでヒトを殺すような安い悪なんですか?」



そうだとしたら、幻滅だな。



「・・・・・・・・ふんっ」



そっぽを向くエヴァさん、さぁどうするんです?


「・・・私がこの場限りの嘘を吐いて、契約を違えるかも知れんぞ?」

「エヴァさんはそんなことしないでしょう?」

「・・・わかったようなことをっ」

「ジブリ好きで、あのパイを美味そうに食えるヒトに悪党は居ませんよ。エヴァさんは『悪』だけど『悪党』じゃないでしょ?」

「・・・・・・なんなんだオマエは」





エヴァさんはしばらく頭を抱えるようにした後、顔をあげコチラに眼を向けた。


「――――いいだろう、約束しよう。意味も無く殺しに走るなど、『悪』の誇りが許さん」



ありがとうございます。それじゃあ・・・・・。


「【来たれアデアット】」


ホーリークロスを携え、集中、魔力を練り上げる。そして――――――





「――――穢れを浄化せよ、【リカバー】!!」



状態を正常化させる癒しの魔法を唱える―――――――――








バチイィッ!!!





―――――浄化の魔法が弾かれた。





「~~~!!やっぱ駄目だったか、呪いが固すぎるぞコレ」


弾かれた反動で杖を持つ手に電気のようなものが走った、いってぇ。



「・・・・解けなかったか」

幼女落胆。



「スミマセン、俺じゃ力不足だったみたいです」

「いや、感覚からしてイイ線行ってたぞ、パワー不足だったがな」


お褒めの言葉を頂戴した。『最強の魔法使い』に褒められるって、かなりスゲェことなんじゃ?



「・・・・・・・うん、そうしよう」


何を1人で完結してんですか。

「他の魔法も見せてみろ、何かキッカケが掴めるやもしれん」


ソレはイイですけど、今度にしません?もういい時間ですし、今から人目を忍んで魔法を連発するのはちょっと・・・・。



「・・・・・む、そうだな。焦ることは無いんだ、うん」


希望が見えたせいか、若干嬉しそうだ。そうしてると、先程までとは違う魅力があるな。俺ロリコンじゃないけどさ。




「それじゃ、今日はこの辺でお暇します」

「おお、また来い。人目につかない場所を用意してやる」


誘いを受けてしまった。これは来ない訳にはいくまいて。


「それじゃあ」

「ちょっと待て」


なにか?




「・・・・・また、あのパイ作って来い」


ハマったんすか。




オマエら帰るぞ、ってコノカは?


「―――で、そこにオリーブオイルを――――」

「なるほどなぁ――――」


チャチャマルと料理談義してた。どうりで会話に入ってこないと思ったよ。
















 キーンコーンカーンコーン


―――――本日の授業終了。さあ帰るべ。

今日は特に予定なし。部活にも入ってないし、暇だ。

・・・この際だから、まだ行ってないところに足を運んでみるのもいいかもしんないな。何処行こうかなぁ・・・。


あ、そうだ、図書館島、まだ行ったこと無かったけか。

なんでも、明治の中ごろに学園創立とともに建設された世界最大規模の図書館で、2度の大戦の戦火を避けるため世界中から本が集められたとか。
それにしたって湖の中に建てなくても良かったんじゃなかろうか。

まあいいや、そうと決まれば行動開始じゃ。






――――やってきました図書館島。現在地上1階に居ます、本多過ぎです。

これで地下にもまだまだ有るっていうんだから、もう司書さんもやってらんないだろうなぁ。そもそも司書が居るのかココは?

そんな感じに辟易とする俺に声をかける猛者が1人―――――




「あれ?総統やん、なにしとるん?」


――――ウチの幹部だった。



「暇だったんでね、ちょっとぶらついてたんだよ。ココまだ来たこと無かったし」

「へえ」

「ん?珍しいな、セツナは一緒じゃないのか?」

「剣道部の練習に顔出しとるよ」

「なるほど」


まぁ、そういうこともあるか。そう1人で納得していると―――――



「あれ~?木乃香の知り合い?」


――――コノカの後ろからひょっこり出てきた2本の触角、もといアホ毛。それについて来たデコの広い娘っ子、そのまた後ろから隠れるように現れた前髪の長いショートヘア少女。


「友達か?」

「そうやえ、クラスメートや」


また個性あふれる面々だこと。と、触角娘がコノカに声をかける。


「なになに~?もしかして彼氏~?お姉さんにも紹介しなさいよっ、コノコノッ」

・・・ああ、こういう人なのね。


「アホなこと言ってないで話を進めるです。それで、こちらの方は?」

こちらは冷静沈着、淡々としているというか、なんというか。


「あ、あの・・・・、その、・・・は、はじめ、まして・・・・・」

こっちはこっちで恥ずかしガールだし。前髪長くないか?眼が悪くなるぞ。



「ウチの幼馴染の総統や」

「「「そうとう?」」」


そんな説明があるかバカモノ。


「初めまして、コノカの幼馴染やってるモンだ。総統はあだ名だよ」

「じゃあ何て名前なんです?」

「ミサト、『イチカイリ』って書いて、ニノマエミサトだ」


そっちはなんてーの?


「へぇ~?幼馴染ねぇ~?それだけぇ~?」


いいから早く言えっつうの。


「まぁいいわ、私は『早乙女ハルナ』だよ、よろしくっ」

「まったくハルナは・・・、ああ、私は『綾瀬夕映』というです」

「み、『宮崎のどか』です・・・よ、よろしく・・おねがい・・(ゴニョゴニョ)」


「ハルナ、ユエ、ノドカ、ね」

「もう呼び捨てですか」

「悪いけどそうさせてもらうよ?俺にはこの方が自然なんでね」

「まぁ、構いませんが・・・」




ところで、さっきからノドカの反応がヤバいんだけど。どうかしたの?


「・・・・!」


・・・あれ、もしかして・・・、俺に怯えてらっしゃるの?


「総統は眼付き悪いかんなぁ」

「す、すす、すみません・・・・・!」


あー、いいさ、恥ずかしガールには俺の眼光は酷だったな。ごめんよ。


ちなみにキミら何してんの?


「ウチらは『図書館探検部』の活動中や」



・・・・探検?


「解説するです!『図書館探検部』とは――――!」


デコ娘がイキイキとしだした。興味あることに力を発揮するタイプか。


解説によれば、この図書館島は蔵書の増加に伴い地下に向かって増改築が繰り返されたため、現在ではその全貌を知るものがいないのだという。
その実態を調査するべく、中・高・大合同サークル『図書館探検部』が存在しているのだ、というのがユエの弁。奇特な部活もあったもんだ。


「地下深くなるほど危険が増すです。貴重な蔵書を泥棒から守るために多くの罠が仕掛けられているんです」

じゃあどうやって貸し出すんだよ。本当に図書館かココは。




「あ、そうや!」

なんだねコノカ君、何をひらめいたのだね?


「あんなぁ、総統も図書館探検部に入らへんか?」


この奇特部に俺がか?


「せっちゃんもこっちに兼部しとるんやけどな、強い人がいっぱいおった方がええ思うんよ」

「木乃香、ミサト君て強いの?」

「せっちゃんに負けず劣らずや」

「それは頼もしいですね、このかさんの知り合いなら信用できそうですし」


勝手に進めんなよ、いやイイんだけどさ入っても、でもノドカはどうすんだ?俺が居たら怯えっぱなしだぜ?


「この際、のどかの男性恐怖症を治すいい機会かもしれないです」


そういうもんか?


「え、えっと、・・・わ、私、が、がんばりましゅ・・・!」


・・・・ホントに大丈夫かよ。





―――――というわけで、俺はめでたく図書館探検部の一員となったわけだよ。

それからしばらくの間、全員で館内を散策。ハルナが何か猛烈な勢いで描いているが、何だろうか。そしてノドカはビックビク、前途多難だよこりゃ。







――――そんなこんなで、日も暮れた。今日はココまでだな。


「そんじゃ、これからよろしくね~、あ、これオチカヅキの印ってことで」

そう言ってハルナが手渡したものは、紙束のようなもの。



「ハルナ・・・、またアナタは・・・・」

ユエがデコを抱えている、なんじゃらほい?表紙には『タカ×ミサ新刊』と書かれている・・・・。



・・・・ああ、「腐」のヒトなのか。つうか即興で描いたのかコレ、すげえな。

めくって読んでみる。・・・・へぇ、絵ぇ上手いなぁ。





「・・・・・・・・」



「いや、アナタもここで読まなくても・・・・」

「は、はう~~・・・」






「・・・・・・・・・・・・・・・」







パタンっ




「・・・・・・ハルナ」

「ん~~?」



喜色満面の触角メガネ、反応を楽しんでるようだ。

ソノ笑みに、俺は―――――――――










「―――――ココもうちょい掘り下げないと読者が感情移入できないぞ?」




―――――――冷静な批評を下した。







「「「「・・・・・・へ?」」」」


俺以外全員ポカン顔、そんなにこの反応が意外か。


「この雨の中を『タカミツ』が追いかけるシーンとか、心理描写がほしいな。モノローグとか入れるといいんじゃねえか?」

「え、ああ、うん、ありがと・・・・・・」


なんだ、ちゃんとアドバイスもしたのにソノ反応は。



「・・・・え、えっと、ミサトさんは、その、・・・・・『ソッチ』のヒトなんですか?」


違えよ馬鹿デコ。



「他人の趣味にケチ付ける気は無いんでね、マイノリティーには優しいのよ俺は」

「そ、そうですか、ビックリしたです」

「ホンマやえ、総統がどっか遠いトコに行ってしもうたんかと思おたわ」



オマエを置いてはいかんさ、俺は総統だからな。

ま、なんにしろ、仲良くやってけそうだな。


































「あと、ココの『ミサオ』のアレをもうちょい大きく描いた方が・・・」

「・・・ナニ見栄張ってるですか」


見栄じゃないやい。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



多少の無理には目を瞑ってくださいませ。








[15173] 漆黒の翼 #8
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 17:13
本日は土曜日、例によって暇を持て余していた俺は、午前中からネットサーフィンに勤しんでいた。ちゃんと繋がってるよ、回線。

買ったゲームの攻略サイトやらマンガの感想掲示板やら、見たいところは一通り巡回したんで、現在適当に検索エンジントップの芸能ニュースなんかを覗いているところだ。


・・・そういや前に検索かけてみたけど、「テイルズシリーズ」って打ち込んでもヒットしなかったんだよな、当たり前だけど。やはりこの世界には存在しないみたいだな。
ソレに関するモノ、例えばオープニング曲とかも無かったよ。歌手自体はいるけど、歌は出してないみたい。残念だ。


ボヘ〜っとアホ面してディスプレイを眺めていた俺だったが、その視界にチラリとあるバナーが入り込んできた。



――――――『ネットアイドル掲示板』?



ネットアイドルねぇ・・・、この手のサイトは覗いたことないから実態がつかめん領域だな。いったいどんな娘っ子が集まっているのだろうか。



・・・・ちょっと覗いてみるか。


好奇心に駆られた俺はバナーをクリック、ポチっとな。


ディスプレイにズラリと少女達のサムネイルが現れた。ほぉ、なかなかのレベルじゃないか。

でもこういうのって大体顔に修正かけたりしてんだろうな。今の技術はスゴイから、二重にするのも輪郭削るのも楽勝だろう、・・・・考えたら少し悲しくなってきたよ。


トップにはどんな奴が君臨してんだろ?スクロールスクロールっと・・・。



・・・この娘か、ハンドルネームは『ちう』、コスプレ写真が多いな。これまたレベルが高いこと・・・・。

なんだこのコメント、「みんな、ちうを応援してくれてありがとうなのら〜、きゃっる〜ん♪」って、すっげえブリブリってますよ。





・・・・・・・ん?


・・・なんか、どっかで見たことあるような?ソレもつい最近・・・・、でも俺の知り合いにこんなにハッチャケてる奴いたっけ?




・・・・・駄目だ、わかんねえ。気のせいだろうか・・?

まあいいや、それより作曲の続きでもしよう。音楽ソフト入れたんで、記憶を頼りにテイルズソングを創ってる最中なんだよ。これでも音楽は得意なのさ、カラオケとか大好きだ。



それからしばらくキーボードと格闘する俺、難しいなこれ。


・・・・・ディスプレイ見続けたせいか、ちょっと疲れたな。外にでも行くか―――――――――






――――さて、今はちょうど昼飯時だ。腹も減ってきたことだし、どっかにイイ店ないかなっと・・・。




「ハイイイイィ!!!」


 ドカッバキッドグシャアァッ!!


「「「ぐほああああぁ!!!」」」




―――――前方30メートル先で屈強な男共が宙を舞っていた。


・・・・またやってるよ。出かける度に見てる気がするな、このあり得ない光景。
あの女の子ナニモンだよ、褐色の肌にチャイナ服、クリーム色の髪を二つに纏めた・・・・


「さあ!次の相手は誰アル!?」


・・・・わかりやす過ぎるほどの中華キャラ口調。所謂一つのバトルジャンキーだ。

・・・吹っ掛けられちゃかなわん、サッサとメシ屋を探そう。


そう歩を進めようとした俺の前に――――――――――




「ごっほあああああっ!!!」



――――――むさ苦しい呻き声と共に野郎が空から降ってきた。



こっちに飛ばすんじゃねえよっ!「親方、空から男の子がっ!」とでも言うと思ったか!!

反射的に腕で受け流すように身体を捌き、ムサクルボディプレスをかわす。アブねえアブねえ・・・。



・・・・と、なんか視線を感じる。とても嫌な予感がする。

頭ん中に響く警鐘を耳に感じながら、目線を前に移すと――――――



「むむっ、ソノ体捌き!タダモノじゃないアルな!?」


・・・・チャイナ娘が、新しいおもちゃを見つけた子供のようなキラキラワクワクした眼でこっちを見てた。・・・・うそーん。




「いざ尋常に勝負アル!!」


チャイナが俺目掛け猛然と距離を詰める!こっち来んなぁ!!



「ホアタアアアアッ!!」



一瞬で目前まで詰めた勢いそのままに、中段蹴りを放つ!!

その蹴撃を体勢を極限まで落とし紙一重で避ける!

チャイナ、そのまま踵落としに移行!俺、バッタのようにバックステップ!!

再び俺に迫り左腕を引き絞るチャイナ、くそっ、こうなりゃ!



「【崩拳】!!」
 「【掌底破】!!」



拳と掌がぶつかり合う!!眼を輝かせる中華娘々、・・・これ以上付き合えるかっての!!

右掌に氣を込め、引き抜くと同時に・・・・爆ぜろっ!!



「【烈破掌】!!」

「っ!!?」



氣の爆発に巻き込まれ吹き飛ぶチャイナ!

一気にケリを――――――――――――つけずに回れ右して一目散!!さらばだ明智君!!!


チャイナがなんか喚いてるが知らんっ!アーアーキコエナーイ!!
とにかく駆ける、ひた走る、無駄に闘いたくないんだよコッチは!!!


メンドウという名の危機を脱すべく、俺はストリートを何も考えず駆け抜けるのだった―――――――








――――――そして何も考えずに走った結果、山の中に来てしまった。・・・・・走り過ぎた。

メシ食うハズだったのに何故こんな所に・・・、くそぅ、みんな社会が悪いんだ!!


・・・・しかたない、川で魚でも獲るか。数週間山道を歩き続けた経歴を持つ俺はサバイバル術も身につけているのだ、魚くらい訳無いさ。

まず川を探さねば。どっかにあるだろう、俺の勘からして。森林浴でもしながら探索しますかね。




――――そうして獣道をテクテク歩いたところ、なにやらヒトが居た形跡を発見。焚き火跡にテント、ドラム缶もある。ちょっとしたベースキャンプだなこりゃ。


・・・・山男でも居たのか?


恐る恐るテント内を覗きこむ、・・・・・誰も居ねえな―――――――




「おや珍しい、お客人でござるか?」



――――――気配も無き背後から若い女の声。誰だこんな山の中に、アヤシイ奴めっ!



「他人のテントを覗きこんでる御仁に言われたくないでござるよ」


御尤も。で、ドチラ様だい、糸目のお姉さん。このキャンプの主かい?


「いかにも、ココは拙者の修行の拠点でござる。それと、お姉さんと呼ばれる程歳は離れていないでござるよ、まだ中1故」

「タメかよ」

「ニンニン」



俺よりデカイじゃねえかよ、少し分けてくれ。胸の方はウチの部下に。



「して、其方は何用でここに?」

「用は無い。バトルジャンキーチャイニーズから逃げてたらいつの間にかココに。仕方ないから川で魚でも獲ろうかと」


ソッチは修行とか云ってたな。なんの修行だ、花嫁修業か?


「山に籠っても嫁ぎ先は見つからないでござるよ」


そりゃそうだ。じゃあなんだ、まさか忍者じゃなかろうな、さっきからわかり易いくらいござるござる言ってるけど。


「はて、なんのことでござろう?」


うわーぉシラバックレたよ、こんなに証拠が物語ってんのに。でも逆に証拠があり過ぎて怪しくないかもしんない、容疑者から真っ先に外れるタイプだ。



「川に行くなら案内するでござるよ、ちょうど昼時、拙者も魚を調達するでござる」


おおサンクス、&サークルK。ありがとう、忍者かと思いきや忍者っぽい別の何かである年上風味の同級生。


「長いでござるよ、拙者の名は『長瀬楓』と申す」

「カエデ、ね。俺はミサト、一海里だよ」

「ではミサト殿、川へ参るでござる」

「御意」

「おお、いいノリでござる」


いざ行かんリバーサイド。






「―――ところでさっきのチャイナがどうのと申していたが、多分拙者のクラスメートでござるよ」
「マジでか」

そんな会話をしているうちに、目的地に到着。きれーな水だこと、関東のド真ん中とは思えん。



「では早速」

そう言ってカエデが懐から取り出したるは鉄製の棒、所謂「クナイ」だろうか。流れるような動きで3本投擲、見事全弾命中。スゲエな忍者もどき。


「んじゃ俺も、ソレちょっと貸してくれる?」

「あいあい」


手渡されたクナイを構え、ヒュイっと投擲。しかし得物は獲物に当たらず水中へ、だが本領はこっからだ。右手の指を2本立て、手首を軽く振る。




「忍法 【雷電】っ」


ピシャンっと水中のクナイ目掛けて極小の落雷、当然感電、5匹ほど魚がプカリと浮かんできた。




「・・・・ミサト殿、忍者であったでござるか?」

「さあ?」

「今思いっきり「忍法」って言ってたでござる」

「空耳じゃない?タモリ倶楽部に投稿してみたら?」


カエデは九割九分九厘忍者だろう。気配の絶ち方、氣の張り方、その他諸々が常人とはかけ離れてる。なら俺も忍法くらいなら使っても問題無かろう。



「修行の賜物、とでも言っておくよ」

「拙者と手合わせを願えるでござろうか?」

「パスだ」


こいつもバトルジャンキーか。眼ぇ輝かせんな糸目のくせに。






食う分を獲った俺たちは、ベースキャンプに戻って焚き火で焼いて調理することに。その辺の枝に刺して塩ふって、焦げ目がついて脂が滴ってきたら食べ頃だ。


「「いただきます」」


素材本来の香りを楽しみながら2人してカブリつく。魚ってこの食い方が一番うまいんじゃなかろうか。




「しっかし、麻帆良ってのは変人の巣窟だな」

「自分もその一員と云う自覚はあるでござるか?」

「一応な」


ムシャムシャ食いながら会話する俺とカエデ、雰囲気など欠片もない。


「カエデはココに住んでのか?」

「休日だけでござるよ、ずっとここに居てはルームメイトが心配する故。ミサト殿も寮暮らしでござるか?」

「まあな、ソッチと違って一人部屋だけどね」

「悠々自適と云う訳でござるか」

「そゆこと」


会って間もないのに会話が途切れないってのはいいな。気まずくなんないし、何よりメシが美味くなるってモンだ。


「そういえば、もうすぐ学園祭でござるなぁ」

「珍しいよな、ソノ手の祭りは秋ごろやるもんだと思ってたけど」

「場所それぞれでござろう」

「それもそうか。カエデんトコのクラスは何やるんだ?」


3匹目の岩魚に手を伸ばす。幾らでも食えるなコレ。


「それがまだ決まって無いでござるよ、なかなか意見が纏まらないんでござる」

「どこも似たようなもんだな、ウチのクラスもそんな感じだ」

「A組は積極的な生徒が多いでござるが、すぐ話が横道に逸れてしまうのでござるよ」

「え、カエデ、A組なのか?」


何気に重要キーワードじゃねえか。


「そうでござるが、ミサト殿もA組でござるか?」

「まあそうなんだが、そうじゃねえんだ。近衛木乃香と桜咲刹那って知ってるか?」

「このか殿と刹那でござるか?もちろん知っているでござる、クラスメート故」

「幼馴染なんだよ、ソイツら」

「なんと」


奇妙な縁だこと。友達の友達は友達でしたよ。



「もしや、2人の会話から偶に出てくる『総統』とは?」

「ああ、俺だな」

「と云う事は、真名が言っていた最近知り合った面白い奴というのも・・・」

「ソッチは知らねえ」


マナの奴、一体何を吹聴してやがるんだ。


「むむっ、真名が認めるという事はやはり相当の実力者、是非手合わせを!」

「パス2だ」

「あと1回パスしたら罰ゲームとして拙者と闘ってもらうでござる」

「七並べじゃねえんだから」


そんなローカルルールは知らん、無視してやる。


「どうしても嫌というのでござれば・・・・・」


ござればなんだ。


「ミサト殿に山中で襲われ揉むに揉まれたって報道部に駆け込むでござる」

「なっ!テメェ汚えぞ!!俺を社会的に殺す気か!!」

「汚れ仕事も忍の務めでござる」

「今「忍」って言ったな、ハッキリと」

「ブラタモリに応募すると良いでござるよ」


空耳コーナー無いよ、その番組。


「さあ、どうするでござる?」


「・・・・・・わかったよ、やりゃいいんだろ」

「おお!では早速・・・!」

「ただしまた今度だ、今日は駄目だ、テンションが上がらない」


しゅんとするカエデ。そんな捨てられたアレみたいな顔すんなよ、モヤモヤすんだろが。


「アレってなんでござるか?」


アレはアレだっての。約束は守る、だから元気出せって。


「・・・ウソ吐いたらチャイナ娘を連れ立って昼夜を問わず襲撃を仕掛けるでござるよ?」


やめろっつの。


「冗談でござるよ、楽しみにしてるでござる」


一転、鼻唄を歌い出す糸目忍者。喰えない奴だよホント。







「ほんじゃあ、帰るわ」


昼食も摂り終えたのでお暇させてもらう。


「手合わせ、待ってるでござるよ」

「へいへい、都合がいい日がわかったら連絡するっつーことで」

「あいあい♪」


今時は忍者もケータイ持ってる時代なんだな。俺のアドレス帳にどんどんA組女子の名前が増えていくんだが。


・・・・そういやチサメは何組だ?今度逢ったら訊いてみるか、いつになるかわからんけど。




こうして自然の恵みを堪能した俺はカエデに別れを告げ、再び街へと降りて行ったのだった―――――


















「見つけたアル!いざ勝負!!」

「嫌だってのっ!!!」


またチャイナに発見された。
















[15173] 漆黒の翼 #9
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 03:00
 ミーンミンミンミンミーン




あっづいな・・・・・・。

現在8月下旬、夏真っ盛りだ。太陽ギラギラ、アスファルトむわむわ、猛暑を通り越して酷暑だ、暑いったらありゃしないよ。








・・・・え、学園祭?とっくに終わったじゃねえか、何言ってんの?



それにしてもあの規模は半端じゃなかったなぁ。
連日連夜のお祭り騒ぎ、アッチもコッチもカーニバル状態でてんやわんやだったさ。


ウチのクラスは射的屋、セツナたちのトコは喫茶店だった。シフトの合間に遊びに行ったり遊びに来られたり、いろいろ楽しませてもらったよ。
あのクラス全員レベルが高いっすよ、オーディションでもしてんのか?


マナがウチの店に来て無双していったのはまだ記憶に新しい、あんときはクラス全員お手上げ時々土下座の嵐だったな。
本職のスナイパーが来ちゃだめだろう、コッチは大赤字じゃ。


あと、セツナたちのクラスに行ったらチサメが居たのには驚いた。大変だなアイツ、学園で一番非常識な場所に居るんだもの。ていうか俺の知り合いはA組ばっかか。
よう、って声かけたらすっげえ渋い顔してた。なんで居んだよオマエ、と眼鏡越しに伝わってきたよ。

それにアノ拳法中華、『古菲』っていうんだけど、顔合わせた瞬間襲いかかってきた。TPOをわきまえろ。カエデもニンニン言ってないで止めろよ。



結局コノセツの幼馴染ってことでクラス全員に顔覚えられてしまった。一部しつこいパパラッチが居たけど気にしない方向で行こう。


そういや、そん時ようやくコノカのルームメイトに会ったんだよな。『神楽坂明日菜』っていうツインテールのオッドアイ娘。キャラ立ちまくりだな。


あとは、クラスの男連中とアチコチ回ったり、【漆黒の翼】の3人でエヴァさんとチャチャマルの所属する茶道部の野点に顔出したり、ロックコンサート観に行ったり。何時か出たいなアレ。








・・・・うん、すごく楽しかった、最高だね麻帆良祭。来年が今から楽しみだ。








さて、思い出話も済んだところで夏に戻ろう。

現在午前11時、現在地は俺の部屋、なにしてるかってーと――――――





「ミサト殿、この問題どうやって解くでござるか?」
「コチもわからないアル」
「・・えっと、私も」


「このちゃん、ココは?」
「あ、ここはなぁ・・・」




―――――夏休み宿題講座を開講してます。・・・・・・なんで俺の部屋で?





女子中等部1-Aには成績が学年底辺のおバカ達、通称「バカレンジャー」なる5人組が存在するそうな。
そしてこの忍者と中華と二尾はそのメンバー、順にバカブルー・バカイエロー・バカレッドである。

レッドは同室のコノカに助けを求め、そこにセツナもやって来て、更にソレに乗じて教わりに来たブルー&イエロー、といった豪華メンバーが集結。
大所帯となりコノカ1人の手に負えなくなったため、俺に出動要請がかかったという訳だ。
ちなみに残りのレンジャー2人はバカブラック・ユエ、そして『佐々木まき絵』という新体操おバカ、バカピンクである。アッチの方はノドカとかが何とかするだろう。


・・・しかし、ノドカの奴は一向に俺に慣れないようだ。
目線を向ければビクっ、一息つくとビクっ、俺が居るとビクビクっ、男性恐怖症克服とか言ってたけど逆効果なんじゃなかろうか。
アイツはもっと他の、例えばもうちょいカワイイ系の年下男子辺りから慣れていった方がいいんじゃねえか?



ソレはさておき、なんで俺に白羽の矢が立ったかっていうと、俺は一応成績上位組なのさ。だから臨時講師として指導することならできなくはない。コノカも上位組だ。

あ、セツナの成績は少々ヤバめ、結構低空飛行だ。駄目だよ剣ばっかりじゃ、このままじゃポストバカレンジャーだよ?




でもやるのはイイけど、なんで俺の部屋なんだよ。廊下で会った他の野郎共から敵意の視線がグサグサ来てんだけど。


「公共の場じゃ騒ぎが起きた時に迷惑ですし、女子寮じゃ総統は入れないじゃないですか」

なんで騒ぎが起きること前提なんだよ、宿題如きで何が勃発するんだよ。

「A組のバイタリティを舐めてはいけませんよ?」

何の自信だ、何の。


「ええやん、女の子いっぱいで嬉しいやろ?」

オマエらが居れば十分なんだがなぁ。







――――そんなこんなで勉強会続行中。


「う~、体動かしたいアル・・・」
「右に同じでござる・・・」

「ノルマが終わるまで戦闘行為禁止な、破ったらもう相手せんぞ」

「「ううううぅ・・・・・・」」


バトルジャンキーズ、眼に見えて落胆。
結局この2人とは偶に模擬戦をする仲になってしまった。今は宿題を先にコンプリートした方が優先的に相手をする、と云って効率をあげている。面倒だが仕方ない。

今まで模擬戦の相手はセツナばっかりだったから、戦闘スタイルの違う相手ができてよかったと言えばよかったんだけど・・・・・手強いんだよなあ、この2人。
クーの拳法もそうだけど、カエデの忍術が厄介なことこの上ないんだよ、分身とか反則だって。

この前やった時は――――――――









「「「――――っは!!」」」


――――前方から無数の手裏剣が飛来する!


「【秋沙雨】!!」

ソレを高速の乱れ突きで叩き落とす!


右前方と左後方に気配、右を木刀、左を肘で防御!直後に背後に現る忍者、両側の分身を弾き飛ばしクロスガード!


「ぐぅっ!この・・・、【獅子戦吼】!!

衝撃に耐え、瞬時に距離を詰め入魂の一撃!だが、その姿はヒットすると同時に煙と化した。

消えた分身に気を取られた隙に、四方に4体の新たな分身を配置。右手に氣を凝縮、俺目掛け同時攻撃!


「楓忍法!!【四つ身分身 朧十字】!!」

我が身に掌底が叩き込まれる直前、木刀を逆手に持ち地面に突き刺す!


「【守護方陣】!!」

浮き上がる円陣が4体の分身を弾き返す!





「むむ、デキルでござるな・・・」

「そりゃどうも」


・・・嬉しそうな顔しやがって。分身同士のコンビネーションがトンでもねえよ、幻じゃなくて実体持ってるし。



「ならば、ハイっドン!更に倍!!でござる!!」


カエデの姿が一気に16体に増えた、・・・・勘弁してくれよ。
そのままワラワラ動き出す分身たち、・・・うっぷ、何か酔ってきちゃった・・・。




「「「「ふっふっふっふ」」」」
「「「「「さあ、どれが本物か」」」」」
「「「「「「「わかるでござるか、ミサト殿?」」」」」」」


サラウンドで話すんじゃねえ!


「っなめんなよ、【インスペクトアイ】!!

双瞳を強化、敵情報を読み取る!




[ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ナガセカエデ][ブンシンカエデ][・・・・



「見えた、左から6番目ぇ!!【魔神剣・双牙】!!

「っ!?」


瞬時に木の上に跳躍するカエデ、地を這う斬撃を回避する。



「本体を見抜かれるとは、いやはや・・・」


このまま本体集中攻撃しちゃる。


「しからば物量作戦でいくでござる、全員構え!!」


ソレはマズイ!こんな量捌き切れねえよ!!どうするよ俺、どうするよ!?

氣を滾らせ、手裏剣を構え、もはやいつでも総攻撃が仕掛けられる状態だ。


こうなりゃコレだ!
魔力を練りながら両手で印を組む、目には目を、忍術には忍術を!!忍者伝統の召喚術を見やがれ!!



「忍法 【児雷也】!!」


 ぼわんっ



煙と共に俺の足元に出現したるは、体長数メートルの大ガマ―――――――




――――――ではなく、10センチほどのガマガエルだった、・・・・・・もう少し練習しとくんだった。


とりあえずコイツどうしよう?投げつけてみるか?




―――――と、臨戦態勢から一転、カエデたちが妙に大人しくなる。どうした急に、と思ったら・・・・





 バタバタバタバタバタバタッ



・・・・・全員、泡吹いて倒れた。え、このカエル、毒霧でも吐きだしてたの?



木から落っこちた本体のカエデにそっと近づいてみると。




「か、かえ、かえる・・・かえるが・・・・」



青い顔でなんか呻いてた。


・・・・え、カエル苦手なの?忍者なのに?




――――その後、「忍法【児雷也】」はカエデの前では全面使用禁止となった。というか、使わないでって泣きながら懇願された。・・・オマエ、ホントに忍者か?









―――――こんな感じだったな、うん。


・・・・あれ?そういや、さっきからアスナが大人しいな、行き詰ったか?




「~?☆?♯?♨?」


・・・・・頭からSL並に煙があがっていた。大丈夫かコイツは?



「・・・もう、だめ、あたまばくはつしそう・・・」


マズイな、漢字に変換する処理能力も無くなったか。



「しっかりしろアスナ、オマエのポテンシャルはそんなモンじゃないハズだ」

「ぽてんしゃるもえっせんしゃるもないわよぉ・・・」


どうするかな・・・、たしかアスナは担任の高畑さんに惚れていると聞く、ならば・・・。


「気をしっかり持て、ココで倒れたら高畑さんに顔向けできんぞ」

「っ!た、高はた先せい!!」


持ち直してきたな、もうひと押しだ。


「そうだアスナ!見事この難局を乗り切った暁には、きっと高畑さんが御褒美をくれるぞ!ハグとかが待っているハズだ!」

「高畑先生乃覇愚!!」


余計なモノまで漢字になってるが、まあいい、押せ押せだ。声色を渋くして高畑ヴォイスに・・・。


「『アスナ君、よく頑張ったね。困難を乗り越えたキミは何処か輝いて見えるよ』」

「い、いえっ!そんな、私なんてっ!!」


「『ああ、僕はどうして気がつかなかったんだ。こんなにも魅力にあふれた女性が傍に居たというのに・・・』」

「み、魅力にっ!?」


「『さあおいでアスナ君、僕の可愛いヒカリの天使・・・』」

「てっててて、てんしいいい!!??!?」



「さあアスナ、今こそ飛翔する時だ!!この暗闇を抜けたその時、オマエは鳥になる!!彼の人の元へとはばたく鳥にっ!!!」

「おおおおおおお!!鳥よ!!!鳥になるのよわたしいいいいいいい!!!!」



・・・・・・ノセやすい奴だ。バリバリ解き始めたよ、正答率はともかくとして。


「総統が一番騒いどるえ?」

こりゃまた失敬。





―――――昼食をはさみ、再び勉強。さあガンバレ、もう一息だ。


「ミサト殿、この式でござるが・・・」

「そこはコッチの値を代入すれば一発だ」


「総統、この文章はどう訳せば?現在の話かと思って読んでたらなんか変な感じに・・・」

「Heの後の動詞がreadになってるだろ?三人称のsがついてないから過去形ってことだ」


うむ、みんな勉強熱心で大変ヨロシイ。


「・・・・・(コソコソ)」


・・・おいソコ、なに他人の机ゴソゴソあさろうとしてんだ。

「い、いや、別に写させてもらおうなんて考えてないアルよ?手取り早い方法がいいなとかも思てないアル」

「それじゃ身に無らんだろうに。積み重ねが大事だって、拳法家ならわかるだろう」

「うう・・、勉強は嫌いアルよ・・・」

「留学生に日本語は難しいかもしんないけど根性でなんとかしろ、それでわかんなかったら俺を頼れ」

「ココどうやるアルか?」

「もうちょっと粘れよ」




・・・・・ん?またアスナが静かになったな、もっかい焚きつけてみるか?




「――――トリ、トトリニ、トリナル、トリナルワタシシガガピガピ――――」


ヤバイ!思考回路がショート寸前だ!!


「あかん、アスナが重症や!」
「総統が変に煽るからですよ!」
「クー!早くチョップを!斜め45度だ!!」
「ホワチャァッ!」
「ぴがぶっ!?」
「ああ、煙が白から黒に!逆効果でござるよ!!」

助けてタキシード仮面!







――――とりあえず水に浸すことで事なきを得た。


「お花畑で見渡す限りに渋いオジサマたちが手ぇ振ってるのが見えたわ・・・・」

「地獄絵図だな」

「極楽よ!!」

「断言した!?」


・・・・・やっぱ自分のペースが一番だな、うん。




















「まあ、この調子なら最終日までには終わるさ」

「・・・・そう云うアンタはどうなのよ、宿題ちゃんとやってんの?」

「7月中に終わらしたに決まっとろうが」

「「「・・・・・・・このブルジョワめ」」」


意味がわからん。












◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやくネギ来日にまで持っていきたい・・・・。









[15173] 漆黒の翼 #10
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:06

《―――それでは皆様、よいお年を〜〜〜》



・・・・・・今年は白組が勝ったか、相変わらず小林さんは衣装が派手だったな。




本日、12月31日。日本人には説明不要の大晦日。
歌合戦の勝敗と云う割とどうでもいい情報を手に入れた俺は今、茶を啜り、ゆく年くる年を観ながら炬燵に足を突っ込み暖を取っている。


現在地はもちろん俺の部屋、炬燵はこの冬に例の電気屋で買ったモノだ。オプションのミカンは欠かせないぜ。




・・・え、もう冬なのかって?時が経つのは早いんだよ、「光陰矢のごとし」っていうだろ?




2学期もいつもどおりの毎日だったなぁ。

朝学校行って、
夜侵入者をシバいて、
休みにコノセツと買い物行って、
図書館を彷徨って、
ノドカにビビられて、
魑魅魍魎をぶっ飛ばして、
エヴァさんの家でお茶会して、
男友達と遊び行って、
クーの相手して、
体育祭で盛り上がって、
カエデと模擬戦して、
テスト勉強して、
それから・・・・・・・




・・・・列挙してみたらスゲエ充実してんな、俺の生活。恵まれた環境だよ、ココは。楽しい一年だったなぁ・・・・。



そんな感慨を胸に、俺はヘロヘロの身体に喝を入れ、来年も楽しく生きようと決意するのだった。






・・・なんでヘロヘロなのかって?


・・・・・・行ってきたからだよ。聖地に、戦場の有明に。部下2人も一緒に。





ハルナに、「修羅場なのよ〜人手が足りないのよ〜」としつこく懇願され、やむなく原稿のベタ塗りやらトーン貼りやらをやらされたまではいい。

だがヤツはそれだけに飽き足らず、この3日間売り子だの何だので俺たちを祭にフル出場させやがったんだよ。

終いにゃ「手分けしてお目当てのモノを手に入れろ」とか言って、俺を買い出しに使おうとする始末だ。


マイノリティーへの優しさに定評のある俺でもさすがに断った、ややキレ気味に。
理解はあるが許容範囲を超えてるんだよ。男に買いに行かせるモンじゃねえだろ、オマエのお目当ては。

その様子を見た売り子嬢ノドカ&ユエは、同情の眼差しを俺に向けていた。ノドカも今回ばかりは俺に共感してくれたようだ。


コノカも顔を赤らめながらも売り子に勤しんでいた、真面目さんだねぇ。

セツナなんか終始顔が真っ赤、紅蓮・la・顔グレン・ラ・ガンだったよ。コイツには刺激が強すぎたか。


ハルナんトコは、ココじゃ割と人気サークルらしく、かなりの部数だったにもかかわらず残らず売りきった。

しばし自由時間を貰ったので、3人でうろつくことに。女2人連れてコミケなんて、周りの野郎共に包丁で刺されそうなシチュエーションだな・・・。

せっかくなので何冊か買うことにした。・・・エロじゃねえぞ?全部ギャグ物だ。

結構デカくてカゲキなポップ作ってるところも多く、コノセツは顔面紅葉娘と化していた。
俺をとがめるような、「エロスはホドホドに」と言わんばかりの視線を向けたりしてたなぁ。エロ系は買ってねえっての。

途中、見たことあるようなメガネが居たような気がしたが、気のせいだろう。

そんな感じに歩き回っただけで、体力を根こそぎ持って行かれた。人多すぎるぞ、油断するともう二度と会えなくなりそうだ。



「どしたのミサト君?テンション低いよ?」

「・・・テメェがさんざん扱き使いやがったからだよ、触角メガネがっ」

「触角メガネ!?ヒドくない!?」

「酷くない、もう二度と手伝わねえからな」

「そんなこと言わないでよォ、売り上げの一部は献上するからさっ」

「困ったことがあったらいつでも言えよ?俺たちは図書館部の仲間なんだからな」

「切り替え早っっ!!」








―――――そんなこんなで無事帰還したので、ゆったりたっぷりのんびりとヌクヌクしているという訳だ。ハルナ、ノドカ、ユエはそのまま実家に帰ったようだ。


やっぱ大晦日は、こうして紅白観ながらのんべんだらりと過ごすのが一番だよ・・・・・






「私はK-1が観たかたアル」

「良いではござらぬか、これも日本の伝統でござるよ」

「あ、ミサト、そこのミカン取って」

「おそばできたえ〜」

「あ、手伝いますこのちゃん」




・・・・なんで居るんだよオマエら。





――――帰って来てから俺はずっと部屋でだらだらしていたのだが、しばらくして俺の部屋のチャイムを鳴らすモノが現れた。

誰かと思って扉を開ければ、そこに居たのはウチの構成員+バカレンジャー3人。

聴けばクーとカエデは同室の奴が実家に帰ったとかで暇してたらしい。なのでコノカの部屋に行ったところ、


「せっかくやから、みんなで年越そ♪」


という一言で俺んトコに来たらしい。



・・・・いつから俺の部屋はコイツらの集会場になったんだろうか?


確かにこの部屋は他の部屋より広いんだけどさ。なんで1人部屋なのにこんなにスペースがあるんだろうか。学園長の配慮か?何に対しての配慮なんだコレは。



結果、男1人に対して女5人。これだけ聴けばミラクルハーレム状態だ、ウレシクないと言えばウソになる。

・・・でもなぜだろう、嬉しさより哀しさが勝ってしまっているよ。
コノセツはわかるよ、でもオマエら3人はなんなんだ。男の部屋に居るという意識はないのかオドレらは。


「アンタじゃ渋さが足りないわよ。わ、私には、高畑先生がいるし・・・・」
「拳を交えた者同士、言葉は不要アル!」
「右に同じでござる」


・・・・なんとも嬉しいお言葉を頂いた。


くそぅ、寝込みを襲ってやろうかしら?

「襲ったらあかんえ?」

「当然だよ、英国紳士としてはね」

「アンタ思いっきり日本人じゃない」

無粋なツッコミはよしとくれ。
まあ、コノカ特製の年越しそばも食えるからいいか。



「おそば、ちゃんと数足りとる?」

「『数』と言えばこんなナゾを知っているかい?」

「まだそのネタ引っ張ってんの?」


「3以上の自然数nに対して、 (xのn乗)+(yのn乗)=(zのn乗) を満たす0以外の自然数x,y,zは存在しないという・・・」

「「「「????」」」」

「そんな数学界のナゾを突き付けられても困るわ」

「アイドル評論家ってどうやって生計を立ててるんだろうな?」

「ソレはただの疑問や」


「自然数」という単語が出てきた辺りから、レンジャー+予備軍が煙をあげてしまった。もう少し頑張りましょう。




みんなしてズルズルそばを食っていると、ふと疑問が。


「そういやマナは?」

「実家に帰りましたよ、神社の手伝いをするとかで」


ああ、近くの神社の娘だったなアイツ。この時期は何かと忙しい商売だからなぁ。
・・・年が明けたら初詣がてらヒヤカシに行くか。





そうこうしているうちに・・・






 ゴーーンゴーーンゴーーン





《―――皆様、新年明けましておめでとうございます》





「「「「「「あけましておめでとうございます」」」」」」


全員、姿勢を正して一礼、新年のスタートだ。



今年もよろしくな、コノカ、セツナ、その他。


「「「その他!?」」」

ナイス初ツッコミ。










 ―――――がやがやがやがや―――――




やってきました龍宮神社。いやぁ人いっぱいだねえ、考えることは皆同じか。
神社行くけどどうする、と訊いたら全員ついて来た。暇なんだなオマエら。


「おや、来たのかオマエ達」


巫女装束のマナを発見、あけおめ。



「新年早々実家の手伝いとは、アッパレでござるな」

「なに、大したことじゃないさ。バイト代も出るしな」

ああ、そゆことなのね。


「折角来たんだ、ウチの神社に貢献していくといい。このお守りなんてどうだ、1つ500円」

「・・・参拝客にせびる巫女が何処に居る」

「ココに居るじゃないか」


コノヤロウ・・・・・。




「屋台が出てるアル!」
「タイヤキのイイ匂いがするでござるな」


食い意地張った発言をかます奴が2人。さっきそば喰ったばっかじゃねか、太るぞ。


「屋台は別腹アルよ」
「ニンニン♪」

そういって屋台へ駆け寄るジャンキーズ。まあ太りはしないか、年中動きまくってるし。


・・・・ん?ションボリしながら帰って来たぞ?


「サイフを忘れたアル・・・」
「ニン・・・」

バカだろ、わかってたけどオマエらやっぱりバカだろ。



「「・・・・・」」

・・・そんなモノ欲しそうな目で見るんじゃない。



「「「・・・・・・」」」

・・・なんで1人増えてんだよ、オマエも忘れたのかオジコン娘。



「「「「「・・・・・・・」」」」」


「・・・・・・わかったよ、1人1個な」


ヤッホーイと屋台に群がる女ども。・・・まあ、臨時収入もあったから良しとするか、うん。


「小倉1個アル!」
「拙者も小倉で」
「私カスタードね」
「ウチは抹茶で」
「白餡でお願いします」
「私も小倉だ」
「なんで巫女テメェまで頼んでんだよ」

くっ、まあいい。すんませーん、チョコレート1個くださーい。






―――――さて、いよいよ参拝だ。45円入れて、ガラガラ振って、2礼2拍手1礼っと・・・








――――――――今年もコイツらと楽しく過ごせますように――――――――













「おみくじ引いていくアル!」


俺の金で、な。少しは遠慮しろよ。あとクジって聴くと微妙な気持ちになるんだけど、どうすればいい?


「知らないわよ、おみくじにトラウマでもあんの?」


あるっちゃある、どデカイのが1個。


「そんな些細なことより、早く引いていけ。1回100円だ」


また出費か、まあ正月だし大目に見ようか・・・。




シャカシャカ振って、棒出して、同じ番号の引き出しから紙を貰う。
さて、今年の運勢やいかに?




「大吉アル!」
「ほお、末吉でござるか」
「半吉?初めて見たわね、こんなの」
「ウチは中吉や、せっちゃんは?」
「私は小吉です」
「ふむ、吉か。ボチボチだな」
「だからなんで巫女テメェまで引いてんだよっての」
「総統は?」
「・・小吉だな」


運勢は・・・・・







[ 金運:やや右下がり。思わぬ出費に注意すること ]



・・・・・もう遅えよ。



















「金運上昇にも効果のある破魔矢はどうだ?1本5000円だ」

「それが原因だよ」

「ミサト、お年玉は無いアルか?」


いい加減にしろよバカイエロー。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




まだまだいくよーーーー


追記 : 45円→しじゅうごえん→始終御縁→ずっと御縁がありますように

という意味です



[15173] 漆黒の翼 #11
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/23 17:18
 びゅうぅぅうううぅううぅううぅ




「・・・寒っ」




ただいま冬真っ盛り。2月も中旬に差しかかり、木枯らしがこちらの都合も考えず毎日ビュービュー吹いている。寒太郎のバカヤロウ、少しは休め。

こんな日は登校するのも億劫だ、自前の羽毛にくるまっていたいよ。
だがそう云う訳にもいかん、寒かろうが暑かろうが学校へ行く、ソレが学生たる俺の義務なのだ。



――――そんな訳のわからない使命感を燃やして暖をとっていたのだが・・・・





「・・・!・・・!・・・!」
「ブツブツブツブツ・・・」
「大丈夫・・・・大丈夫・・・」



・・・・なんか、通学路全体がピリピリしている。なんだ、まだ試験は先だろうに。



と、前方50メートルにクラスメイト2人を視認。早足で駆け寄り声をかける。




「ダイチ、セイウン、おは―――」

「「はいいいい!!なんでしょうかああ!!?」」

「うおっ!!?」


・・・・すんげえ血走った眼をしながら嬌声をあげて振り返ってきた。なんだそのテンションは。



「・・・んだよ、カイリかよ」

「ニノ・・・期待させないでくれよ・・・」

「・・・会っていきなりその言いぐさはないんじゃねえの?」




俺を「カイリ」と呼んだコイツは『九十九大地ツクモ ダイチ』、「ニノ」と呼んだのは『八谷青雲ハチヤ セイウン』だ。

この2人とは学校以外でもよくつるんでる。席が近く趣味も似ている、そして名前にシンパシーを感じたためだ。

3人あわせて周りからは「陸海空トリオ」とか「百八煩悩鳳」とか呼ばれてる。後者は不本意だ。

ちなみにこの2人はルームメイト、俺の部屋の隣に住んでいる。



「けっ、余裕じゃねえかよ。カイリは自信ありってか?」

「たくさん女を侍らせてる奴はいいねえ・・・・」

「侍らせてるつもりはない」


勝手に集まってくるんだよ、茶ぁ飲みに。



「うるせえ!いつもいつも女を部屋に連れ込みやがって!!」

「誰か紹介しろよ裏切りモノ!!」

「一応訊いてみたけど、断られたぞ?」

「ジーザス!!」
「ガッデム!!」



なんでこの2人が朝っぱらからこんなテンションなのかと言うと―――――




「義理でもいい、誰か俺にチョコを!」

「僕にも愛の手をォ・・・!」



――――そう、今日は2月14日。聖バレンタインデーである。通学路が弓の如く張り詰めていたのもソレが原因だ。

というかオマエら、さっき超反応してたけど、ココは通学路だぞ。男しか通らないんだからな。もしチョコ渡そうとしてきたら、ソレは特殊な趣味の人だぞ、ちゃんとわかってる?



「『もしも』があるかもしれないだろうが!」

「そうだよ!僕に想いを寄せる誰かが朝早く起きて待ち伏せしてるかも、とか!」

「で、想いを寄せられた覚えは?」

「「・・・・・・・」」


無いだろうなあ。この学園は男子区域と女子区域に分断されている。部活とか学園祭とかで交流が無い限り、日常生活内で女子と親しくなるのは難しいだろう。


まあ、毎年コノカとセツナに何かしら貰ってる俺は、コイツら程の必死さは無いけどね。


「このリア充野郎がぁ!!」

「1回シメてやるぅ!!」



ヘッドロックを掛けられながら学校への道を急いだ、イテェよ。









 キーーンコーーンカーーンコーーン




「・・・・・・カバンの中も・・・」

「机の中にも無かった・・・」

「あったらあったで怖いと思うけどな」


探すのやめたら見つかるかもよ、うふっふぅー。



ただいま昼食タイム、食堂でメシを調達に来た俺達。今日はチャーハンにしよう、値段の割に食い応えがあるんだよ。



「もう下校時間に懸けるしかねえか・・・」

「放課後、街をぶらついてみようかな・・・」


つうかさぁ。


「今日だけ頑張ってもダメだろ。普段から女子と親しくしてないと貰えないぞ。一目惚れとか片想いとか以外は」

「くぅ、俺にも幼馴染が居ればなぁ・・・」

「可愛い幼馴染って想像上の生き物かと思ってたよ・・・」

「幼馴染2人以外とはどうやって仲良くなったんだ?」

「山でばったりとか、街で目を付けられたとか」

「後者のは逆ナンに聞こえるがな」

「そういうロマンスが神様った展開じゃなかったな」


ますます落ち込んでいく男2人。ふむ、どうアドバイスしたらいいものか。





「何か女子に注目を受けることをすべきかなぁ」

「そうはいうけど大地、具体的にはなにするのさ?」

「オマエも考えろ、青雲」



注目ねえ、そう簡単に行くのかなぁ。

食堂に流れるアップテンポのJポップを聴きながら、俺も考え―――――――Jポップ?




・・・・・そうだ。




「バンドは?」

「「へ?」」


提案してみよう、イイ線行ってるはずだ。



「麻帆良祭でロックコンサートがあっただろ?アレに出場するんだよ」

「バンド・・・」

「上手くいけば、注目どころかファンがつくぞ?」

「ファン・・・」



・・・・だんだんニヤケてきたな、ファンに囲まれた図でも思い描いているんだろう。




「・・・・・いいな」

「・・・・うん、ソレだよ!」


賛成多数で可決されました。臨時国会in食堂、閉廷。



「こうしちゃいられねえ、すぐにでも練習を始めねえと!」

「機材とかメンバーとかも集めなきゃ」


うんうん、やる気になってくれてうれしいよ。



「メンバーは俺と青雲、2人じゃキツイな・・・」

「クラスの人に声かけてみようよ」





・・・・・ん、2人?


「俺は?」

「テメェは駄目だ」

「うん、駄目だね。不必要だ」


おいコラ待て!提案者は俺だぞ!駄目ってなんだ、俺だってステージでシャウトしたいんだよ!アレ見たときからずっと出たかったんだよ!




「女侍らしてる奴に、俺達のバンドに入る資格はねえ!!」

「ニノは歌いたい、僕らはモテたい。残念だけど、方向性の違いって奴さ」


早えよ!そう云うのは結成してしばらくしたら出てくる問題だろ!まだ結成もしてねえじゃん!!



「悪ぃが他を当たってくれや」

「早速メンバーを集めなきゃ」



そういってソソクサと席を立ち食堂を後にするダイチとセイウン。





・・・・・頼んだチャーハンは、もう冷たくなっていた――――――――



















――――――――放課後・ミサト自室――――――――



がちゃりっ



「総統おるー?」

「チョコ持ってきましたよ」

「・・・・さんきゅう、いつもありがとうな・・・」


・・・・・・・もうノックも無いんだね。




「どうしたでござる?取っといたケーキのイチゴを掠め盗られたような落ち込みようでござるな?」

「どうせチョコ貰えなかったから凹んでるんでしょ?」

「しかりするアル、『超包子』の肉まん持てきたから元気出すアルよ」


おお、オマエらも来たのか・・・。



「いつも手合わせをしてもらっているお礼に甘味を持ってきたでござる」

「ま、アンタには勉強とかで世話になってるしね」

「五月がバレンタイン用にチョコまん作てくれたから、お裾分けアル」



・・・・・嬉しいんだが、コレが原因でもあるんだよな。




「なんでそんなに元気無いん?」

「学校で何かあったんですか?」



・・・・・実はなぁ――――――――――――









「―――と、いうわけなのさ」

「なるほどね、それで落ち込んでたの」



とりあえずみんなに礼を言った俺は、持って来てくれたチョコやら肉まんやらを炬燵のテーブルに広げ、全員にお茶を淹れながら今日のショッキングニュースを伝えた。

いつの間にか食器棚にコイツらの湯飲みや箸が常備されているんだけど、いつ持って来たんだよ。もう完全に寄り合い場じゃねえか。




「それにしても、バンドでござるか・・・」

「ミサトにそんな趣味があるとは知らなかたアル」

「総統は昔から音楽得意やからなあ」


一応、ギター弾けます。ジョニーの楽器で練習しました。




「ウチのクラスにもバンドやってる人達がいましたよね?」

「ああ、桜子たちでしょ?なんだっけ、『きまぐれロボット』だっけ?」

「『でこぴんロケット』やよ、アスナ」


ああ、居たな、そんなバンドが。ロックコンサートに出てたのを覚えてるよ。元気のいいグループだったなぁ。





「・・・・出たかったなあ」


天板に顔を突っ伏してまた落胆。クラスの奴はもうアノ2人が引き抜いてるだろうし、他のクラスに知り合い居ないし、どうしよう・・・。




「でも、出たところで何歌う気だったのよ?」

「カバー1、2曲とオリジナル1曲を予定してた」

「オリジナル!?」

「作曲までできたでござるか?」


オリジナルっつうか、リスペクトっつうか、「この世界」ではオリジナルのハズ、だと思う、多分。




「へえ、どんな歌なん?」

「聴いてみたいアル!」

「ちょい待ち、パソコン立ち上げるから」


ノートパソコンを起動させ、CPUが温まってきたのを見計らい音楽ソフトを起動。歌も歌って売れる優れモノだ。

えっと、どれだっけかなっと、ああコレだ。



「楽しみでござるな」

「『愛』とか『恋』とか連発してたら笑ってあげるわよ」

「再生すっぞ」





《―~――!♪!~~!!~♪》



















――――――それは、生まれた意味を知る、臆病者の一撃――――――


















《―――――♪!!》





・・・・どうよ?



「なんていうか、すごく哲学的な詩ね・・・」

「よくわからないけど、イイ曲アル!モチ肌になたアル!!」

「『鳥肌が立った』って言いたいのか?」

「ニン、なにやら胸の奥に響いて来たでござるよ」

「総統すごいわぁ」

「いつの間にこんな曲を?」

「暇のある時にちょこちょこな」


これをステージで思いっきり歌えたらサイコーだろうなぁ・・・・。


「思ってたのより断然イイ曲でビックリしたわ」

「勿体ないですね、歌えないなんて」

「でござるな」



・・・・・いっそのこと弾き語りで出場しちゃおうかな。







「――――あ、せやっ!」


どしたコノカ。





「ウチらでバンド組めばええんや!!」




「「「「「・・・・え!?」」」」」



このメンバーでか!?その発想は無かったな・・・・、でもいい考えかも・・・。



「ちょっとこのか何言ってんのよ!私達楽器なんて弾けないわよ!?」

「お、大勢の人前で演奏するなんて、とても・・・」

「そんなん練習次第でどーにでもなるえ?」

「そ、そうかもしんないけど・・・」


保守派アスナと羞恥派セツナは渋り気味、まあ急な提案だからなあ。



「バンド・・・、今までにない試みでござるな」

「面白そうアル!楽しそうアルよ!!」


肉体派の2人は結構ノリ気、挑戦するのが好きなんだろう。




賛成4票に反対2票、か。




「無理に出る必要はないぞ?言っちまえば、俺のワガママなんだし」


音楽は楽しんでナンボだ、無理強いするモンじゃない。




「い、いえ、このちゃんと総統が出るなら、やります!!」

「いいのか!?」

「ありがとうせっちゃん!」



賛成5票になった、あとはアスナだが・・・・。





「~~~~~っ!わ、わかったわ、やるわよ!やってやろうじゃない、上等よ!!」

「「「「「おお!!」」」」」



全会一致で可決!法案は承認されました!!ありがとうみんな!!!






「早速担当決めな」

「俺はギターだな、間違いなく」

「ウチは、せやなぁ、キーボードがええかな?」

「ドラムはクーに頼むか、パワーあるし」

「任せるアル!」

「ならば拙者はベースを担当するでござるよ」

「え、えっと・・・」

「私達は・・・?」

「そうだな、ギターとベースに1人ずつ、かな?」

「じゃ、じゃあ私はベースにします」

「え!?あ、ちょ!?」

「アスナはギターに決定だな」

「うう・・・、難しそう・・・」

「体で覚えるもんだから心配いらねえよ、わかんなきゃ俺ができる限り教えてやる」


だが時間は限られている、忙しくなりそうだ。



「機材はどうするでござる?」

「桜子達に相談してみるわ」

「足りなきゃ俺が金出すから買いに行こう」

「おお、太腹アル!」

「これくらいはさせてもらわなきゃな」



報酬が貯まりに貯まってるモンだから、ここいらでパーっと使うのもいいだろう。



あと必要なのは・・・・・




「バンド名はどうします?」

「そうね、ソレ決めないと」



ふむ、どうするか。【漆黒の翼】はもう使っちゃってるし。





「『大丈夫じゃんシスターズバンド』はどうアル?」
「どっかで聞いたことあるわね」
「イニシャルを取るという方法もありますね」
「じゃあ、M・K・S・K・A・Kだから・・・、K多っ!」
「KKKって組織あったな、確か」
「なら漢字はどうでござる?」
「えと、海・木・桜・楓・神・古アルね」
「桜木と楓、それに神、・・・『SLAM DANK』は?」
「あかんなぁ」
「全員A組だから、『AAAAAA』でどうでしょう?」
「やはりどこかで見たことがあるでござる」
「というか、何て読むの?」
「なら、こうして集まる仲間と言う事で『放課後のお茶会』というのは・・・」
「ソレは駄目だ!何かに喧嘩を売ってる気がする!!」


会議は踊る、されど進まず。




「なら、未来に輝く星『すたーちゃいるど』はどうや?」

「う~ん・・・・、イイ線行ってるけど、やっぱり聞いたことあるわねぇ・・・」





星、か・・・・、それなら・・・・・。







『ブレイブヴェスペリア』・・・」

「「「「「?」」」」」



5人の視線が同時にコチラを向いた。つぶやいたつもりだったのに、意外に響いたらしい。



「なにアルか、『ボスニアヘルツェゴビナ』て?」

「何処をどう聞いたらそうなるんだよ、ワザとやってんのか?」

「いいからなんなのよ、その『ドライブなんとか』って」

「『ブレイブヴェスペリア』、日本語で『凛々の明星りりのあかぼし』って意味だ」



あってるよね、意味?これまたテイルズ用語だけど。






「・・・いいかも」

「耳に残り易いでござるな」

「ソレで行くアル!」

「異議ナシや!」

「同じく」







――――――こうして、俺達のバンドグループ名は『凛々の明星ブレイブヴェスペリア』に決定した。






「よし、名前も決まったし・・・・・・・・やったるぞぉ!!!」

「「「「「おう!!!」」」」」




目指せ、麻帆良祭ロックコンサート!!





























「―――――ところでアスナ、高畑さんにチョコあげたのか?」

「・・・・・」

「・・・アスナ?」

「ううううううううるさいわね!」


・・・渡せなかったのか、俺にチョコやってる場合じゃねえだろ。


「うぅ・・・・、ら、来年こそはっ!」


・・・・・・・・・頑張れよ。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



本板に移動いたしました、応援よろしくお願いします!



大地と青雲の出番は・・・・・・・・わかりません。



削除したミサトの過去については、そのうちまた出てきます。







[15173] 漆黒の翼 #12
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/26 10:04

「ねえ桜子、ちょっと相談があるんだけど」


現在昼休み。生徒の大半は食事も終えて級友とおしゃべりに興じている者がほとんどであるが、ココ女子中等部1-A教室もその例に漏れていないみたいである。

明日菜は木乃香と刹那を引き連れ、『でこぴんロケット』のメンバーである『椎名桜子』に話を持ちかける。用件はもちろん1つだ。



「んー?」
「なになに、何の話?」
「珍しいじゃん、アスナが相談なんて」
「どないしたんや?」


ちょうどバンドメンバー全員がそろっている。これなら話が早い、明日菜は早速切り出してみることに。




「えっと、アンタ達ってバンドやってるじゃない?」

「うん、そうだけど?」

「それでさ、機材とか余ってたりしない?ギターとかベースとか」

「余って無いけど?」

「そっか・・・」

「そう都合よくはいきませんね・・・」

「残念やわぁ・・・」


やはりそうそう甘くは無いようである。



「なかなか余るモンや無いと思うで?楽器なんて万単位やもん」

「そんなにするモンなの!?」


今まで楽器などには無縁の明日菜、当然相場も知らない。アルバイトに勤しむ苦学生の彼女からすれば、万単位など眼を剥いてしかるべきことなのだ。



この質問から察したのか、桜子は質問の意図に当たりをつけ問い返してみる。


「もしかしてアスナ達、バンド組むの?」

「え?うん、そのつもりなんだけど・・・」





 ざわっ






「アスナ達がバンド!?」
「なになに~?面白そうな話してるじゃん?」
「じゃあ武道館!?」
「いや、それは無いでしょ・・・」
「あらあら」


その発言に、教室にはびこる野次馬根性丸出しのお祭り少女達は、一気に話に飛びついて来た。みんな暇なんだね。



「ん~、芳しい面白スクープの香りがしてくるぅ!取材させてもらうよっ!」


取材と称しマイクを向けるジャーナリズムの塊、名を『朝倉和美』、自称【麻帆良のパパラッチ】。パパラッチを自称するとかどんだけだよ。





「それで、どう行った経緯で始めようとしてんの?」

「え、えと、成り行きと言うかなんと言うか・・・」


「青春の思い出作りって奴?」

「そんなところやね」

「今は必死に一丸となってバンド機材を探してるところです」

「そこでもう必死なの!?」


「メンバーには誰がいるの?」

「ポジションは?ピッチャーは誰?」

「・・・まき絵、何の話か解ってる?」

「アスナ達が二死に一塁となってバント機会を狙ってるってところは聞いたよ?」

「話の流れとしても野球のセオリーとしても間違ってるわよ」


奇襲をかけるにはいいかもしれないが。



まあ、バカピンクはほっとくとして。


「で、メンバーは?」

「えっと、ウチとせっちゃんと・・・」

「私に楓ちゃん、それにくーふぇと・・・」

「バカレンジャー3人が組み込まれてるの!?」

「譜面覚えられる?」

「バカにしないでよ!こ、これからよ、これからっ!!」


レッド憤慨、ブルー&イエロー苦笑い。



「あと総統や」

「ミサトさんもメンバーなんですか?」

「へぇ~、ミサト君バンドとかやるんだ、ちょっと意外」

「そ、そうだね」


ミサトと割と長い付き合いの図書館部の面々は、三者三様の反応。



「ミサトって何処かで聞いたような・・・」

「あ、思い出した!学園祭のときに来た桜咲さん達の幼馴染だ!」

「ああ、ミサト君かぁ」

「覚えてる覚えてる、ちょっと眼つきの悪い男の子だよね?」


どうやらA組女子の認識はこんなものらしい。




「この間ミサト殿の部屋に行ったときに、バンドを組みたいけどクラスメイトに断られたと零していたでござるよ」

「それでコノカのアイディアで、私達でバンド組むことになたアル」


ジャンキーズが補足するが、ココで「部屋に行く」という単語を拾い上げるモノが出た。




「え、アンタ達男子の部屋に遊びに行ったりしてるの!?」

「割とちょくちょく」

「集会場アル」


やはりそう云う認識であったようだ。ミサトも薄々は勘付いてるようだから何も言うまいが。




「アスナさん、あまり風紀を乱すような真似は慎んでいただきたいですわね?」

「なによいいんちょ、別にヤマシイことしてるわけじゃないんだからイイじゃない」

「ミサトはイイ奴アルよ」


明日菜反論、古菲フォロー。だが彼女達は止まらない。



「男子の部屋に女が5人て・・・」
「軽くハーレムだよね・・・」
「ミサト君てジゴロ?」
「あらあら大変ねぇ、昼間から6ピ「ちづ姉アウト!それアウトォ!!」

「ア、アスナさん!?そ、そのような不純異性交遊は許しませんわよ!?」

「する訳無いでしょそんなこと!!」




「じゃあ普段何してんの?」

「えっと、炬燵でお茶飲んでヌクヌクしたり・・・」

「みんなでスマブラしたりするでござる」

「超平和じゃん」


「あらあら、一体何処にスマッシュをブチ込むのかしらねぇ?」

「・・・ちづ姉?」

「若いっていいわねえ、6人で大乱こ「アウトオオォ!!ちづ姉さっきからソレばっかりぃ!!」

「アアアアアアアアスナさん!!?」

「してないっつってんでんしょうがああああぁ!!!」




このクラスには耳年増が多いようである。そして巨乳のトラブルメーカーもいるらしい。




・・・・そして、教室の後ろで頭を抱えるメガネが1人おったそうな。














――――――放課後・ミサト自室――――――





「というわけで、タダでの機材調達は難しそうです・・・」

「まあ、しゃーないわな」


やっぱそう簡単にはいかないか。
仕方ない、全額負担と行きますかね。




「・・・ところで、なんで1人増えてんだ?」

「着いてきちゃったのよ」


いつの間にか、1回見たことある金髪の美人さんが炬燵に入っていた。確か、セツナ達のクラスの委員長の・・・



「えっと、確かヒロユキさんだっけ?」

「『雪広あやか』ですわ。今回はアナタを見極めさせていただきに参りました」


あ、こりゃどうも、・・・・ん?



「見極めるって?」

「ウチらのクラスで、総統に鬼畜ジゴロのレッテルが張られるかどうかの瀬戸際なんや」

「なんでそんなことになってんの!?」

「主に泣きボクロさんのせいです」


泣きボクロ?・・・・ああ、そういや居たな、泣きボクロでいろいろデカイ人が。あの人のせいなの?



「・・・よくわかんないけど、よろしく、アヤカ」

「っ!女性をいきなり下の名で呼ぶなんて、やはり噂に違わぬ鬼畜ジゴロ・・・」

「えっ、もう!?見極めが早えよ!!」




判定はどうにか先送りにしてもらい、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】の本日の活動内容を決める。

・・・まあ、楽器も無いからやることなんて限られてるけどな。




「仕方ねえ、今日はとりあえず演奏する曲をあと1、2曲決めておこう」

「1曲だけという訳にもいかないでござるからなあ」



「で、なにかしら方針とか方向性とかはあるの?」

「ああ、俺としてはアニソンを推したいと思ってるんだけど」

「アニソン~?ガキっぽいのは嫌よ?」

「アニソンをナメんなよ?最近のはイイ曲使ってる番組が多いんだぞ?」



俺は、番組はテーマソングで4割決まると思っている。最近はどこも気合い入っているんだよ。


事前に立ちあげておいたパソコンのドキュメントの中から、ネットでオトした動画の再生準備にかかる。

そのうちの1つを選びダブルクリック。



「例えばコレとか」


大きなお友達に大人気の魔砲少女のOPが流れる。



「ホントだ、この人ウマイ・・・」

「すごい声量アル」

「でも難しそうやなあ・・・」

「ビブラートがハンパ無いですね」


ふむ、ハードルが高かったか。




「あと、コレとか」


別のファイルを展開、ハジケまくってる奴らのEDが流れる。



「おお、なかなかでござるな」

「ああコレね、昔見たことあるわ。不条理過ぎてついていけなかったけど」

「ヒロインの声がコノカに似てんだよな」

「このちゃんが大声でツッコミを入れてるようで違和感バリバリでしたね」


俺好きなんだけどな、不条理ギャグって。





「んで、俺のイチオシはコレだな」


また違うファイルをクリック、今度はOPとEDを1つずつ。糖分侍の奴だ。




「・・・あ、ウチこの曲好きかも」

「私も・・・、なんだか胸に響きます」

「私はこちのEDの方が好きアル。明るくていいアルよ」

「楽しい毎日、と言ったところでござろうか」

「へえ、アニソンも馬鹿に出来ないわね」

「だろ?」






―――――その後いくつかピックアップした曲を流してみたが、どうやらみんなこの2曲がお気に召したようだ。気に入ってくれてうれしいよ。



「どうやら、これに決まりみたいでござるな」

「あれ?でもOPの方は女性ボーカルよ?」

「どないする気なん?」


ああ、ソレね。




「折角だから、オマエらの中からボーカルを決めたいと思う」


「「「「「ええ!?」」」」」


おお、驚いてる驚いてる。




「ちょ、ちょっとミサト、どういうことよ!?」

「総統が歌うんじゃないんですか!?」

「歌うよ?オリジナルの方は」


でもこんだけ女子が居るんだから、歌わせない手は無いだろう?客の受けもいいと思うんだよね。



「まさかの展開アル」

「ニン、ボーカルでござるか・・・」

「でも、いい思い出になりそうやえ?」


まあ、そういうことだからガンバろうぜ。




「この曲はツインボーカルで行こうと思うんだが」

「てことは、2人選ぶアルな?」

「どうやって決めるんや?」


「・・・・よし、投票で決めよう」



カラの缶を用意して、紙とペンを6組・・・


「私の分がありませんわよ?」

「いいんちょ居たアルか?」

「いましたわよ!ずっと私そっちのけだったじゃありませんか!!」

「悪い悪い、はいコレ」



アヤカにも投票用紙を渡し、各自記入。そして缶カラに投票。




「ほんじゃ、かいひょー」


結果は?








〈刹那さん〉
〈アスナ〉
〈せっちゃん〉
〈このかさん〉
〈かえで〉
〈アスナさん〉
〈古〉




セツナとアスナが2票ずつ、他が各1票。



「わ、私ですかっ!?」
「え、ちょ、わたしぃ!?」


「ガンバレよ」
「ファイトアル!」
「何事も経験でござるよ」
「楽しみやなぁ、せっちゃんとアスナのデュエット♪」
「お2人とも、精一杯やってくださいな」


という訳で、この曲のボーカルはこの2人に決定!



「せ、責任重大です・・・」
「誰よ、私に入れたの・・・」


逆算すんなよ?何人かマルわかりだけど。






「あとは機材揃えて練習あるのみだな」

「しかし借りる当てもないから、完全にゼロから始めなければいけないでござる」

「総統、おかね大丈夫なん?」


まあ、なんとかならないことも無いさ。




「ところで、何処で練習するアルか?」

「あ、そうよ。ソレすごい重要じゃない」




・・・しまった、場所の問題もあったのか。

スタジオ借りるにしてもタダじゃないし、出費がヤバいことになるなこりゃ。






「――――――まったく、本当に行き当たりばったりな方達ですのね」


アヤカがあきれるような態度を取っている。面目ねえ。


「し、仕方ないじゃない、この間決めたばっかなんだから・・・。て、ていうかそもそも、部外者が口出ししないでよ!」


んなことでキレんなよ、向こうの方が正論だぜ?





「・・・・部外者でなければいいんですのね?」



・・・ん?




「わかりましたわ、そう云うことであるのなら・・・」



え、どうしたの?










「たった今を持ちまして、我が『雪広グループ』は、あなた方のバンドのスポンサーとなりますわ!」



「「「「「「・・・・ええ!!?」」」」」」




雪広グループって、あの財閥の!?って、そういや同じ名字じゃん!!娘さんだったのか!?


え、てことはつまり・・・・・



「機材用意してくれるのか!?」

「練習場所もアルか!?」

「ええモチロン、早急にご用意いたしますわ。お望みとあらば、有名ミュージシャンを講師として招いてもよろしくてよ?」

「い、いや、そこまでしなくてもいいんだけど・・・」


でもすげえ、問題が一気に解決した!ブルジョワすげぇ!!


・・・・でも、なんで?




「どういうつもりよ、いいんちょ」

「ふん、口出しするなと言われたから口出ししたくなっただけですわ」



・・・・。



「・・・やっぱ悪ぃよ、金出してもらうなんて」

「何言ってんのよ、渡りに船じゃない」

「でも、いくらなんでも都合がよすぎるって。元々俺のワガママなのに、金だけ出してもらうっつうのはさ・・・」


いくらアヤカの家が金持ってるからといって、それほど親しくも無い俺の道楽に付き合わせるってのは・・・




「勘違いなさらないでいただきたいですわね」

「へ?」



「私はクラスメイトが困っているから、委員長として協力を惜しまないだけです。つまり、これは私の義務、私の務めなのですわ」

「いや、でも・・・」



「それに・・・」

「?」






「――――――こんなに楽しそうに笑いあってるあなた方のバンド、この先一体どうなるのか、是非見てみたくなったんです」


アヤカ・・・・。


「ミサトさん、アナタのことはこの雪広あやかが、これからしかと見極めさせていただきますわ。ですから、責任を持って皆さんをしっかり引っ張ってくださいな」


「・・・・いいのか?」


「スポンサー料は、ロックコンサートチケットA組全員分。あと、モノになったら真っ先に私に聴かせること、よろしいかしら?」


「・・・ああ、鳥肌が1週間退かないくらいヤツのを聴かせてやるよ」



・・・最高だよ、オマエ。




「ありがとう、いんちょ!」
「助かります」
「恩に着るでござる」
「謝謝!!」
「ま、お礼は言っとくわ」
「・・・相変わらず素直じゃありませんこと」







―――――こうして、我ら【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】はアヤカをバックに迎え、改めてスタートを切ることとなった。




「よっしゃ、今日はお祝いだ!オマエらメシ喰ってけ、マーボーカレー作ってやる!!」

「おお、マジアルか!」

「またあの味が楽しめるでござるか!」

「コノカ、セツナ、手伝え!!」

「了解や!」
「まかせてください!」

「え、なんですの?マーボーにカレーって、その濃い組み合わせは?」

「ミサトの特製料理・マーボーカレーよ。1度食べたらヤミツキになるんだから」

「はっ!もしやミサトさんは料理で皆さんを誑かして・・・」

「そこから離れろっての」


レッツクッキング!!











――――――その頃の女子寮――――――




「いいんちょ、大丈夫かなあ?」

「あやかが心配?」

「というより、ミサト君の方が心配だよ。いいんちょとアスナが暴走したりしないかとか」

「大丈夫よ夏美。私のあやかだもの、心配いらないわ」

「・・・その根拠はどこから来るの?」

「今頃はみんなで仲良くポケモンの通信対戦でもやってるころじゃないかしら」

「・・・うん、そうだといいね、ちづ姉」

「うふふ、きっとみんなミサトさんの下のクロバットの餌食に「言わせないよ!!?」




















「ウマイ!」
「ウマすぎる!!」
「オカワリアル!!」


みんな大好きマーボーカレー。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私の中の千鶴はこんな感じです。千鶴ファンの方、平にご容赦を。ホントすみません。


カイルの称号【マーボーカレー大好き君】の解説文は、テレ玉のCMのパロディなんですよね。








[15173] 漆黒の翼 #13
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/26 21:40
春休みは、みっちり丸々バンドの練習に当てられた。俺達は素人集団だからとにかく練習あるのみなんだよ、時間はいくらあっても足りないんだ。

俺以外はコードと譜面を覚えるところから始まり、俺とセツナとアスナにはボイストレーニングも追加された。



「曲の躍動感はドラムスに掛かってるからな、頼りにしてるぜ?」
「元気なら負けないアル!」



アヤカには感謝してもしきれないな、この設備を全部自費で出したら一体どれだけ費用がかかるんだろう?。

・・・学園祭限定のバンドなのに、こんなに金使わせていいんだろうか?



「旋律に色彩を加えるのがキーボードの仕事だ、花を添えてくれよ?」
「お任せや!」



更に俺とセツナは、バンド練習+“裏”の仕事もある。なかなか大変だよ、両立させんのはさ。減らしてくれよ学園長。



「音に深みを出すためにはベースが必要不可欠だ、ガンバレよ」
「期待に添えるよう頑張ります!」
「縁の下から支えるでござる」



そういえば、ダイチ達のバンドも始動したらしい。
グループ名は『A.A.キングス』、やっぱりどこかで聞いたことがある名前だった。

なにやら自慢してきたようなので、俺もアイツらとバンドを組む旨を伝えると、本気でコブラツイストかけてきやがった。すぐに外してキン肉バスターくらわしてやったけど。



「バンドのクオリティは俺達ギター次第だ、やれるか?」
「い、いいわ、やってやろうじゃない!」



こんな感じに、全員に発破をかけながら練習は続けられた。












――――――休みも明け、新年度が始まる。俺達は2年生になった、リアル中2だ。


進級してもトレーニングは続行。クーが力加減を間違えてドラムセットを何台かおシャカにしたなどのハプニングもあったが、練習は続けられた。


そして俺達の技術は順調に向上していき、5月の上旬にはなんとか人前で演奏しても恥ずかしくないレベルまで達した。



早速スポンサー料を払うべくアヤカの前で演奏したところ、



「荒削りですが、光るモノを感じましたわ」


との感想を頂戴した。


ならばこっからは研磨作業の開始だ、1人1人の精度をあげていくしかあるまいて。












――――――いよいよ今年の麻帆良祭が近づいて来た。

俺達はクラスメイトの了承を得て、自分のクラスの出し物の手伝いを抜け出しラストスパートをかける。


ロックコンサートに出場するには、予選として事務局にデモテープを渡すことになっている。なので、雪広グループ所有のスタジオで曲を録音、しかる後に事務局に提出。



数日後、予選突破の連絡が俺の部屋に来た。メンバー全員狂喜乱舞、『A.A.キングス』も予選を通ったらしい、やるじゃん。





「さあ、もう少しだ!気合い入れていくぞォ!!」

「「「「「おおー!!!」」」」」









そして――――――――――










《―――――只今より、第77回・麻帆良祭を開催します!!》




ついに学園祭が始まった。


今年のロックコンサートは初日、つまり今日の午後より行われる。


俺達は午前中からギリギリまで使って、最終調整に入っていた。

大きな問題はナシ。あとは本番を待つだけだ・・・・・。










《――――レディース・エーンド・ジェントルメーン!!これより、大音楽祭、まほロックを取り行いまあす!!》



いよいよ本番がスタートした。

トップバッターから順に演奏していく、みんなウマイなぁ・・・。



俺達の出番は後半、というかトリだ。待ち時間が異様に長く感じる。


セツナ達も落ち着かないようだ、さっきからウロウロしている。まあ、カエデは割かし悠然と構えてるけど。




と、ADのような人が俺に話しかけてきた。

なんでも、前半グループが思いのほか長くなってしまい、時間が押しているとのこと。
だから申し訳ないが、俺達の曲数を3から2へ減らしてほしい、との知らせだった。


・・・・残念だが、仕方あるまい。全員で歌うアレを削るしかないか。ゴメンな、あんなに練習したのに。







――――後半が始まり、『でこぴんロケット』も『A.A.キングス』も出番を終えた。





そして・・・




「いよいよ次だな・・・」

「き、緊張してきた・・・」

「ウチもや、ドキドキがおさまらへん」

「でも、後戻りはでいないでござるよ」

「ええ、ここまで来たら・・・」

「最後まで突走るだけアル!!」



・・・みんな、付き合ってくれてありがとよ。



「やれるだけやった、あとは出し切るだけだ・・・」

「「「「「・・・・」」」」」





・・・・・・・・よし―――――――――――







「―――――行くぞォ!!!」


「「「「「おお!!!」」」」」








《――――さあ、最後のグループとなりました!最後を飾るのは、・・・・初登場!男子1人に女子5人のハーレムバンド、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】ですっ!!》


・・・その紹介文、なんとかならなかったのかよ。



《今回のまほロックに出場するために結成された出来立てホヤホヤの新星!カバー1曲とオリジナル1曲を引っ提げやってきた彼女らの実力やいかに!?》


ソデから舞台に上がる俺達。練習通りの、いつものポジションへ。最初は、セツナとアスナのツインボーカルだ。



目線を配らせる――――――――準備はイイか?



―――――――――おう!!







《それでは1曲目、参りましょうっ!【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】で――――――――――――――!!》

























―――――2人の少女は唄う―――――














寄り添う影が、一つになる唄を―――――
















 わああぁあぁああぁああぁ!!!!



《ありがとうございます!すばらしいデュオでした!!それでは、この勢いのままラストの曲に参りましょう!!》






さあ、俺の出番だ・・・・全力で行くぞ!!




《それでは聴いてください、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】オリジナルソング――――――――!!》































―――――漆黒の少年は唄う―――――










自分は何故生まれたのか、その答えを知るための唄を―――――

















 わああああぁあああぁあああああぁああ!!!!!





《お聴き下さいこの歓声!!すばらしい歌をどうもありがとう!!!以上、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】でした!!皆さん盛大な拍手を!!!》













「・・・・・ぷあぁ!!緊張したぁ!!」

「もう私、腰が砕けそう・・・」

「ど、動悸が・・・」

「ウチ、ちょっとトチってもうたわ・・・」

「・・・でも、楽しかたアル!!」

「やりきったでござるな」



・・・ああ、やりきった。

いろいろ言ってはいるが、全員顔が笑っている。悔いは無いだろう。



―――――みんな、本当にありがとう。

























《――――優勝は、エントリーNo.07【ストライパーズ】です!!》


審査結果の発表。優勝したのはこのロックフェスの常連のグループ、全員縦縞の服を着ている。『でこぴんロケット』は3位、大健闘だ。

『A.A.キングス』?アイツらは駄目だったな、音ハズシまくってたもん。


まあ、俺達も入賞できなかったから似たようなもんだけどな。


だが、俺達の顔には悲壮感など欠片も無かった。やるだけやった結果だ、楽しかったしな。



トロフィーや優勝旗の授与などが滞りなく進む。




・・・これで、全部終わっ―――――――





《―――――え?・・・あ、はい、わかりました》



・・・ん、なんだ?不測の事態でも起きたか。




《申し上げます!!たった今、『審査員特別賞』を受賞するグループが決定いたしました!!》



え、そんなのあったのか?一体どこのチームが・・・・・







《発表しますっ!!!栄えある、審査員特別賞に輝いたのは―――――――――――――











―――――エントリーNo.18【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】です!!!!》








「「「「「「・・・・・・」」」」」」



・・・・・全員、放心状態。







「・・・・ホントに?」


「私達が・・・・?」


「特別賞、アルか・・・・?」











 ―――――パチパチパチパチパチパチパチ




観客の拍手で我に帰り、顔を見合わせる俺達。






・・・・マジ、なんだな―――――!






「「「「「「―――――いやっったあああああ!!!!」」」」」」




狂喜っ乱舞っ!!抱きついてきたコノカとセツナを受け止めながらクーとハイタッチ!あーあー、アスナもポロポロ泣いちまって。カエデ、あやしてやってくれ。


周りに促され、前に出る【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】一同。

観客席を見ると、2-A連中が惜しみない拍手を送ってくれていた。あとアヤカ、泣き過ぎ。




審査員長の青年が、クリスタルの像を持って近づいてきた。



「まだまだ未熟な面も見えたけど、それを補って余りある魂を感じたよ。よってこの賞をおくろう、おめでとう!!」


「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」




クリスタルトロフィーを受け取り、全員で歓びを分かち合う。


―――――最高だよ、オマエ達!!











〔アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!―――――――〕




《おおっとぉ!!ここでアンコールが来たあ!!優勝チームを抑えてのこの歓声、どう応える【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】!?》





・・・・メンバーの顔を見てみる。





――――――全員、ニカっと笑った。


・・・・・・上等!!





「ポジションに着けぇい!!」


「「「「「了解!!」」」」」



俺達の声に観客が湧き立つ。応えてやろうじゃねえの!


駆け足でステージへ!それぞれの楽器を手に取り、演奏準備に掛かる。



メンバー間の目配せ・・・・準備万端!


それじゃあ行くぜ、本当のラスト1曲―――――――










「行くぞォ!ラストナンバー、――――――!!」









――――――星たちは唄い上げる――――――




朝焼けの中、大切な人と共に歩く、素晴らしい日々を―――――

































―――――――数日後―――――――




「―――――あ、ちょっと!サムス使わないでよ、私の持ちキャラなんだから」

「別にええやん、色違いで同じの使えば」

「俺のピーチは無敵だぜ」

「なんの、拙者のゼルダが打ち砕くでござる」

「このちゃん、頑張ってください」

「負けたら私と交代アル、ファルコンが火を吹くアル」




――――そこには、いつもの風景。いつもの放課後。



今までと違うのは、棚の上のモノ。



置時計や充電器と一緒にそこにあるのは、日に照らされ輝くクリスタル、そして―――――――








[ 特別賞受賞!我らブレイブヴェスペリア!! ]






――――――そう書かれた、クリスタルに負けない輝きを放つ、6人の笑顔の写真だった。





































俺は、この平穏が、この平和が、ずっと続けばいい、いや、ずっと続くんだと、そう思っていた。










―――――――――英雄サウザンドマスターの息子が、この地に赴くまでは。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




これは、少年たちのミュージックサクセスストーリー・・・・・ではありません。ネギまです。



平穏も終わり、いよいよ原作開始に近づいてきました。

ネギ襲来、巻き起こる騒動、そして闘い。


ほのぼの要素は失くさずにいきたいですけど、この先どうなるか、私もよくわかりません







[15173] 漆黒の翼 #14
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/01/30 22:20

「【サウザンドマスター】の息子が?」

「ああ。イギリスから修業のため、この地にやって来るそうだ」




ただいま夏休み真っ最中。今日はリゾートも兼ねてエヴァさんの別荘にお邪魔させてもらっている。紅茶飲みながらニシンのパイをパクついてます。


別荘と言っても、遠出している訳ではない。魔法でボトルシップの中に異空間を作り上げて、そこを別荘として使っているのだ。

内部は南国リゾート風、海もあるしプール完備ときている。エヴァさん泳げないのになんであるんだろう?

オマケにこの空間は、外界の1時間が1日になるという優れモノ。こういうのを見ると、エヴァさんてスゲエ魔法使いなんだなあと、改めて実感するよ。

俺も魔法の練習とかのために、よくココを利用させてもらっている。便利だよ、上級魔法ぶっ放しても怒られないし。






ソレはそうと先程の話だが、エヴァさんを麻帆良に縛り付けた野郎の子供が来日するとの情報が入ったそうな。



「ソレはいつごろの話なんです?」

「今冬、3学期が始まって少ししたらだな」


なんでも魔法学校を飛び級で卒業し、一人前の魔法使いになるための修行の地として日本が選ばれたらしい。


そして出された課題と言うのが――――――




「日本で教師をすること、ですか・・・・魔法全然関係ないっすね」

「教師云々は、ただの口実かもしれんがな。多くの魔法関係者が集い、なおかつ癖者ぞろいのこの街で揉まれてこいってことなのだろう」

「オマケに親父と因縁のある【闇の福音】がいるから、と・・・・」

「大方、試練として私をぶつけようなどと考えているのだろうさ」




あれ、でも確か・・・・


「飛び級ってことは、結構若いってことですよね?」

「数えで10歳だそうだ」

「10歳!?」


そんなガキに教師やらせようっての!?何考えてんだお偉いさん方は!?




「なんせ英雄の息子だ、奴らの期待も高いんだろうよ」

「それにしたって限度ってモンがあるでしょ・・・」


ちゃんと教員免許とった大人でさえ大変な仕事なのに、そんなチビ助に勤まるのか?






「あと5ヶ月か、ククククク・・・・・・」


・・・・幼女が悪い顔してる、何か企んでやがんな?




「これでやっと、このふざけた呪縛から解放される、クフフフフフ・・・・」

「・・・何する気ですか?」

「決まっている!この呪いを解くには、かけた本人に解呪させるか、血縁者の血を大量に頂くのが1番手っ取り早いんだ!」

「・・・女子供は殺さないんじゃなかったんスか?」


ソレが【闇の福音】のポリシーのハズだけど?



「ふんっ、親の後始末は子供の仕事だ」

「駄目っすよ、親の失態を子供に押し付けるなんて最低ですよ?」

「じゃあどうしろと言うんだ!このまま永遠に能天気連中と学校に通えというのかキサマは!!」

「そうならないために、こうして俺が解呪しようとしてるんじゃないっスか」




そう、エヴァさんと交流を持ってから、俺は2週に1回くらいのペースでエヴァさん宅を訪れ、浄化魔法を掛けまくっているのだ。


元々俺の浄化魔法は、状態異常を問答無用で正常化させる回復魔法なんだ。だから【登校地獄】も解呪できたっておかしくは無い。


だが俺の魔力では、【サウザンドマスター】が力任せにかけた呪いに太刀打ちできないのだ。

コレでもいろいろ試行錯誤してみたんだよ。
これでもかってくらい集中して魔力を練り上げたり、はたまた続けざまに魔法を重ねがけしてみたり、他の回復魔法を手当たり次第にかけてみたり。



「だが、その結果がコレじゃないか」


仰る通りでございます、面目ねえ。




「コレは千載一遇のチャンスなんだ。そのためにも、奴が来日する前に力を貯めなければ――――」

「力を貯めるって・・・、まさか一般人から吸血するつもりですか!?」



それは駄目だ!関係ない人まで巻き込むのはイカン!!



――――――あ、そうだ!!



「エヴァさん、こういうのはどうです!?」

「ん、なんだ?」

「それはですねえ、―――――――、――――――」





とっさに思いついた計画を早口で説明、コレで丸めこまれてくれ!







「――――――っていうことなんですけど・・・、どうでしょう?」

「・・・・」




・・・・駄目っすか?





「・・・・・いいだろう」



よかった、なんとか納得してくれたか。




「じゃあとりあえず、4月ごろまでは様子を見るということで・・・」

「そのかわり、これから定期的にキサマの血を頂くからな」

「吸血鬼化させないでくださいよ?」



もしもの時のエヴァ案実行のために、力を貯めることをやめる気は無いそうなので、俺の血を献上することで決着がついた。




・・・・なんで俺がこんな気苦労しなけりゃならんのだ。

くそぅ、【サウザンドマスター】め、覚えてろよ・・・。









「話ハ終ワッタカ、御主人?」

「お、チャチャゼロじゃん、元気してたか?」

「元気スギテ、ナンデモイイカラ斬リタイ気分ダゼ」

「ソレいつもじゃねえか」


この物騒なことをほざいてる人形は『チャチャゼロ』、【人形使い】エヴァさんの従者の中でも最古参の殺戮人形だ。

エヴァさんの魔力供給で動いているから、普段はしゃべれても動けない状態なんだが、この別荘の中だとエヴァさんは力を取り戻すので、こうして自由にウロウロできるという訳だ。

最古参だけあって戦闘技術は群を抜いている。ときどき戯れに手合わせするんだけど、一撃ずつが重いの鋭いのって。





「ミサト、久シブリニ斬リ合オウゼ」

「え゛、・・・マジでか?」

「オマエハスジガイイカラ、ヤリアッテテ楽シインダヨ。思ワズ殺シタクナルクライナ」

「オマエの気分で殺されちゃたまんないっての・・・」


だが、断ることもできない。いや、断ることはできるが、その場合は問答無用で斬りかかって来る。だったら素直に受諾した方が建設的だ。


とはいえ、進んで斬りあいたいとも思わない。どうすれば・・・・





「・・・よし、今日は少し趣向を変えてみるか」

「ン?ナニスル気ダヨ?」


なるべく俺の身の安全が保障された状態でやりたいからね。


カードを出して、思い描くはアノ姿。





【来たれ】!



カードが輝きを放ち、姿を現したのは―――――――――――








―――――――腕がダランと伸び、猫のような耳を携え、なんとも形容しがたい笑みを浮かべたツギハギだらけの人形であった。




「なんだ、この不細工な人形は?」

「俺のアーティファクトの1つ、その名も『トクナガ』!!」

「ソイツデ闘ウノカヨ?」

「まあ見てなって」


トクナガの頭を掴みながら地面に置く。そして――――――




「―――ふっ!!」


 ぼわんっ







――――――一気に俺の背丈を越えるほどに巨大化した。




「デッカクナッチャッタ!?」

「古いぞ、それ」

「ほう、【人形使い】の私でも初めて見るシロモノだな」


エヴァさんが【人形使いドールマスター】なら、俺は【人形士パペッター】なのだよ。

コレ出すのも久しぶりだなぁ。昔はよくコノカやセツナと一緒にトクナガに乗って遊んでたっけ・・・。



ただ、ぬいぐるみの上にイイ歳した男が乗っかるのは、画的になんか嫌だ。


なので、試行錯誤の末――――――








『憑依合体inトクナガ!!』




――――――着ぐるみのように着こむことに成功した。こうすることにより防御面の心配が減るんだよ、防刃ジャケットみたいなもんだ。





『準備万端!!さあ、どっからでもかかってきちゃってくださぁ~い!!』

「・・・ソレはいいんだが、なんだその甘ったるいしゃべり方は」

「声モ変ワッテルナ、年頃ノ女ミテエダ」

『ボン太君効果とお呼びください、大佐ぁ♪』

「誰が大佐だ」


この状態になると、何故か自動的にアニス声になってしまうのだよ。
まあ、この方が気分が出ていいんだけどね。



「ナンデモイイ、ハヤク殺リアオウゼ」

『ボクのチカラを見せてあげましょう!』


今の俺は『ミサト』ではなく『トクナガ』だ。なので一人称は「ボク」だ、なんとなく。





「イクゼェ!ケケケケケケケケッ!!」

『おりゃああ!【流影打】ぁ!!


対の刃と流れる拳が激突する――――――――――!!
















―――――――――結果、ボコボコにされました。


「動作ガデカ過ギダゼ」


トクナガは機動性に難があるのを忘れてたよ・・・・。


『・・・・月夜ばかりと思うなよ、・・・ガクッ』

「オマエは何がしたかったんだ?」

















それからしばらくは去年に引き続き、とても楽しい毎日が続いていった。







「ミサトお願いっ!宿題手伝って!!」
「リミット寸前でござる!!」
「ヘルプウィーアル!!」

「学習しろよ、オマエら」


―――――――コントバカ信号の夏休みの課題に付き合わされたり。









「ニノ、一緒にボウリング行かない?」

「女の子何人か連れて来てくれよ」

「ソレが狙いか」


―――――――野郎共の飽くなき挑戦に付き合わされたり。









「セツナ、ソッチ行ったぞ!」

「はああ!【斬岩剣】!!

「残党は私に任せてもらおうか」


―――――――傭兵組で仕事に勤しんだり。









「ユエ、髪のベタ塗って!!ミサト君、ここペン入れして、早く!!」

「なんでハルナはいつもいつもギリギリまで溜めるんですか!」

「す、すみません、ミサトさん・・・」

「・・・・ノドカ、いい加減俺に慣れてくれよ」


―――――――ハルナの強行軍に付き合わされたり。









「ケーキ焼けたえ~♪」

「やっぱり俺の部屋なんだな」

「いつものことでござるよ」

「それもそうか、・・・・・ほんじゃあ――――」

「「「「「「―――――メリークリスマースっ!!!」」」」」」


―――――――聖なる夜を星達と共に過ごしたり。









「おっす、あけおめ」

「今年も参拝に来たのか、何か買っていけ」

「いきなりたかるんじゃねえよ」

「今川焼が美味しそうアル」

「俺を見ながら言うんじゃねえ、他4人もコッチ見んな」


―――――――年が明けてスグに奢らされたり。










―――――――そして。













本日、2月某日。3学期も半ばである。




《学園生徒の皆さん、こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間。始業ベルまで10分を切りました。急ぎましょう。

今週遅刻した人には当委員会よりイエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を―――》



そんなアナウンスと共に、駅前改札口の喧騒が耳に入って来る。ココの朝はマジでうるさい。

ヌーの大行進の如く猛進する生徒達を横目に、俺はコノカ、セツナ、アスナと共に改札前で待ちぼうけ。

ソレと言うのも、俺達に本日付で麻帆良に赴任してくる新人教師を迎えに行くようにと学園長が頼んできたからである。

新人教師と言うのは、例の子供。エヴァさんの情報通り、修業のために麻帆良にやって来るのだ。

それで俺らが迎えに来た訳なんだけど、これ他の先生に頼めなかったのか?早起きしなくちゃならなかったから超メンドイんだけど。

ちなみに俺達と言ったが、正確には【漆黒の翼】の3人が頼まれたことであり、アスナは付き添いである。



「危うく寝坊するところだったわね」

「総統にモーニングコール頼んどいてよかったわぁ」


さいですか。



「でもさ、学園長の孫娘のアンタが何で新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの?」

「スマンスマン」

「いろいろ事情があんじゃねえの?」

「すみませんアスナさん、付き合わせてしまって」

「まあ、私が勝手について来たんだから文句言ったってしょうがないんだけど・・・

でもさ、他の先生に頼んだっていいと思わない?大体、ジジィの友人ならそいつもジジィに決まってるじゃん」


残念、的外れだ。ジジイの対極を行く奴がやって来るぞ。



「でもアスナ、今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ」

「え、マジ!?」


そう言ってコノカが取り出したのは購読している占い雑誌。コノカは占いが趣味なので、よくこの手の本を読んでいる。

でもよく考えろアスナ、今日運命の出会いがあるってことは、既に面識のある高畑さんは運命の人じゃないってことになるぞ。



「ほら、ココ。しかも、好きな人の名前を10回言って『ワン』と鳴くと効果ありやて」
「お、ホントだ。それに『ワン』の直後に『○○、大好きだニャン』て言うと更に効果倍増だって」

「うそ!?



―――――高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生(以下略)ワンッ!!高畑先生、大好きだニャンッ!!!」



・・・・ホントにやりやがった。スゲエ度胸だな、こんな往来でそこまでするとは。



「・・・すごいですねアスナさん、高畑先生のためなら何でもしますね・・・」

「・・・殺すわよ?」

「いいや、褒めてんだよ。本人の前じゃないにしても、この往来で大好きとまで宣言したその度胸があれば、きっといつか高畑さんは振り向いてくれるさ」

「え、ホントに!?」

「ああ、今すぐ『ムーンライトパワー』って言いながらセーラー服に着替えればきっと叶うってココに書いてある」

「アンタを月に代わってブチノメシてもイイ?」


やっぱりノセやすい奴だよな、アスナって。










「あのぉ・・・・」


ん、誰だ?


声のする方に顔を向けると、アスナの顔を窺いながら朗らかな笑みを浮かべる少年が一人。

背中には杖らしき棒を差してるし・・・、もしかしてコイツが件の子供か?


その利発そうな眼鏡の少年は、こう続ける。









「――――あの、・・・・・アナタ、失恋の相が出てますよ?」





・・・・うわぁ、ちょーしつれーボーイ。

対してアスナ、どう反応する?




「なっ、・・・し、しつ、しつれ、・・・・」


そうだね、失礼だね。






「――――んだと、このがきゃああぁ!!!」

「うわあああああ!?」



般若降臨。少年、デリカシーという言葉を覚えよう。俺は女2人に囲まれて育ったからその辺敏感だぜ、多分。



「い、いえ、何か、占いの話が出ていたようだったので・・・」

「ど、どど、どういうことよ!テキトーなこと言うと承知しないわよ!?」

「い、いえ、かなりドギツイ失恋の相が・・・」

「ちょっとおおおお!?」

「泣くなよ、ガキの戯言程度で」

「私はね、ガキは大ッ嫌いなのよ!!」

「いえ、戯言じゃなくて本当に・・・」

「オマエはちょっと黙っていようか」


テメェがしゃべると収まるものも収まらなくなりそうだ。



「あ、アナタ・・・・」

「今度は何だ」

「軽く浪費の相が出ていますよ?」

「・・・ソレは去年あたりから出始めたヤツだ」


・・・結構信憑性あるかもな、コイツの占い。


と、アスナの手が少年の頭に伸びる。そのままワシっと掴みあげ、万力の如く締め付ける。おおスゲエ、アイアンクローだ。



「取・り・消・し・な・さ・い・よおおお・・・!!」

「い、いだい、いだいですよおお・・・」


このまま観戦してもいいが、いつまでもココに居る訳にもいかんな。



「アスナ、ストップ」

「邪魔しないでよミサト!このガキを火星に代わって折檻するんだから!!」

「ソレはまた時間のある時にしてくれ」


とりあえず手を離してもらうことには成功した。少年涙目っす。



「んで、頭痛に苦しんでるところ悪いんだけど」

「は、はい・・・・」

「キミが『ネギ・スプリングフィールド』か?」

「え、・・・あ、ハイ、そうです!」


やっぱそうなんだ、本当に10歳なんだ。



「じゃあ総統、このコがおじいちゃんがゆうとった・・・?」

「そうみたいですね、このちゃん」

「え、ちょっと、何よ、何の話よ。なんでミサトがこのガキの名前知ってんのよ?」


アスナの疑問に答えようとしたその時、






「――――いやあ、済まなかったねキミたち、面倒を押し付けてしまって」

「あ、高畑さん、おはようございます」
「た、高畑先生!? お、おはよーございましゅ!」
「おはよーございまーす」
「おはようございます」


タキシード眼鏡様、じゃなくて高畑さんが来てくれた。来れるなら初めから来てくれよ。



「お久しぶりです、ネギ先生」

「久しぶりタカミチーッ」


この2人って面識あったのか、知らんかった。

アスナもかなり動揺してるな。そりゃそうか、憧れの人と失礼なクソガキが知り合いだったんだから。



「麻帆良学園へようこそ、いい所でしょう?ネギ『先生』」

「せ、先生?」

「あ、ハイ、そうです」


少年は頷いた後、咳払いして一礼。ココでようやく自己紹介か。







「この度、この学校で英語の教師をやるコトになりました、ネギ・スプリングフィールドです」


「・・・・え、ええ、えええええええええええええぇ!!!!?」



まあ、当然の反応だよな。あり得ないもん、常識的に考えて。



「ちょ、ちょっと、どういうことですか!?こんなガキが先生って・・・、何かの間違いじゃないんですか!?」

「ハハハ、彼は頭がいいから問題ないよ」


大ありだろ、ダンディに笑い飛ばせば誤魔化せると思うなよ。




「い、いや、でも・・・」


・・・・誤魔化されかけてるのが1人居るな。




「それと、今日から僕に代わってキミ達A組の担任になってくれるそうだよ」

「はあああああああああ!?」


驚愕の余りこんな声が出るアスナ。


おい、そんな話聞いてねえぞ?このノーデリカシーボーイがコノカやセツナの担任?なんで担任なんだよ、せめて副担とか教科のみとかにすればいいのに。



「そ、そんなぁ、・・・私、こんな子イヤです。さっきだってイキナリ失恋・・・いや、失礼な言葉を私に・・・」

「でも本当なんですよ」

「本当とか言うなああああ!!!」


アスナにとっちゃ一大事だろうな、担任が大好きな人から気に食わないガキに代わっちまうんだから。

高畑さんの前だというのに、ネギに無神経だのミジンコだの罵声を浴びせ続けるアスナ。それだけ切羽詰まってんだろうな。




「まあまあアスナ、ちょお落ち着こな?」

「そうですよ、そう頭ごなしに否定しては・・・」


コノカとセツナに肩を掴まれるも、いっこうに勢いの落ちないアスナ。


あまりの罵声に、ネギ少年も困り顔から怒り顔にシフトしてきた。怒るのは勝手だが、原因はキミだよ、わかってる?





――――と、ヒートアップしてネギに近づいたアスナの髪の毛が、眼鏡の掛かった小さな鼻をくすぐるのが見えた。











―――――――そのときはまだ、このガキの恐ろしさを、俺達は知らなかったんだ。








「はっ・・・、はぁっ・・・」




ネギの鼻腔は刺激を受け―――――――










「――――はくちんっ!!」







――――――瞬間、魔力がその場を渦巻いた。



暴走を起こしたその噴流は、少年を掴みあげていたアスナ、そのアスナを宥めていたコノカとセツナの制服を、下着を残し、すべて塵と化した――――――






「「「「・・・・へ?」」」」











――――――何が起きたのか、一番早く理解できたのは、俺だった。












「―――――見るなあああああああああぁ!!!!!!!」


「ひぎゃあ!?眼がああああああ!!?」




光の速さでネギに眼つぶしを喰らわせる!


ガキが悶絶しているが無視!瞬時にコートと制服の上着、Yシャツを脱ぐ!


コートをコノカに!!

上着をセツナに!!

Yシャツをアスナに!!



「あ、ありがとお、総統・・・」

「た、たすかりました・・・」

「・・・・な、なんなのよコレはああああああ!?」


・・・・なんとか、コイツらの痴態を曝さずに済んだか。俺もTシャツ着てるし。


幸いなことに、今は通学ラッシュを過ぎた時間帯。周囲に人影らしきものは無かった。


高畑さんは・・・・、そっぽ向いてるな、アンタ紳士だよ。



「え、あ、あの、・・・ご、ごめんなさい!わ、ワザとじゃなんです!!」


・・・・このガキャァ、ウチの構成員をキズモノにする気かテメェ・・・。














――――――これが、【英雄の息子】ネギと俺達の初邂逅だった。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ついにネギ来日。いったいどうなるミサトの平和!?



ネギ着任の日を間違えました、修正します。







[15173] 漆黒の翼 #15
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/01/31 19:24


「学園長先生!一体どーゆーことなんですか!?」

「まぁまぁ、アスナちゃんや」




所変わって、ココは学園長室。あのストリップ騒動の後、俺達はネギを伴い挨拶にやってきた。挨拶というか、アスナの抗議が7割くらいだけど。


現在学園長室に居るのは6人、高畑さんは用があるとかで退席した。


その内4人は装いを改めている。

服がハジケ飛んだ女3人は学校指定のジャージに着替え、そしてハジケ飛ばした本人は頭の上にこの冬の流行アイテム『たんこぶ』を乗せている。


なんでかって?俺がネギをぶん殴ったからだよ。大事な幼馴染達が服を剥かれたんだ、これくらいは許してほしい。


まあ十分反省してるみたいだから、一応アスナ以外はもう怒ってないけどさ。くしゃみを媒介にした武装解除なんて初めて見たぞ。コレはある種の才能だろうか。





「なるほど、修業の為に日本で学校の先生を・・・・・、そりゃまた大変な課題を貰うたのぉ」

「は、はい、よろしくお願いします」

「しかし、まずは教育実習とゆうことになるかのう、・・・・・・ところでネギ君には彼女はおるのか?どうじゃな?うちの孫娘なぞ」

「ややわぁ、じいちゃん」



どさくさにまぎれて何言ってやがるジジイ。いい加減コノカの見合いのセッティングとかすんのやめろよ、これでもコノカ結構嫌がってんだぞ?

あとコノカ、幾らツッコミでもハンマーはやめとけ?じいさんが三途の川に足をツッコンじまうから。





「ちょっと待ってくださいってば!だ、大体、子供が先生なんておかしいじゃないですか、しかもウチの担任だなんて・・・・・」

「ネギ君、この修業は恐らく大変じゃぞ」


アスナは無視か、ジジイ。


「駄目だったら故郷に帰らねばならん。2度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

「は、はい、やります。やらせてください!」




これから大変だろうに、あのクラスは並大抵の教師じゃ収拾つかないからなぁ。高畑さんだからなんとかなったんだよ。


周りの期待が高いってものイイことばっかじゃないんだよなぁ。英雄の息子も楽じゃないってワケか・・・。



コイツはまだ子供、至らないところがあって当然なんだ。


ある程度は長い目で見てやらないといけないのかもな・・・。




・・・だがソレを抜きにしても、あの思慮の浅さはイタダケナイ。教師としては致命的だぞ。



・・・また俺の友達に不埒な真似を働くってんなら、容赦なく制裁を喰らわせてやろう、うん、そうしよう。









――――――いずれにせよ、これからに期待するしかないかねぇ、ネギ・スプリングフィールド君?





・・・と、ネギがいつの間にか部屋に入ってきたしずな先生の胸に顔を埋めていた。俺の見てない間に何があった?


・・・・・・やっぱ1回ヤキ入れた方がいいかな?







「そうそう、もう1つ。このか、アスナちゃん、しばらくはネギ君をお前達の部屋に泊めてもらえんかの。まだ住むとこ決まっとらんのじゃよ」



「げ」
「え゛」
「え?」
「ええよ」
「い゛い゛!?」



―――――――上から、アスナ・ネギ・セツナ・コノカ・ミサト―――――――






何考えてんだクソジジイ!コノカの部屋に男を住まわすだぁ!?
長い目で見るとは言ったが、それとこれとは別問題じゃい!!
いかん、いかんぞ!!こんな天然のエロガキと一緒にさせたら一体どんなことになるか!!
認めん、総統は認めませんよおおお!!?


「大丈夫やって総統、この子かわええし」


そう云う問題じゃねえんだよ!セツナ、オマエもなんか言ってやれ!!


「わ、私は、このちゃんが良ければソレで・・・」


予想通りの答えだよチクショウッ!!


「もう!そんな何から何まで学園長ぉ!!」


アスナが机をバンバン叩いて抗議するも、学園長はのらりくらり。
暖簾に腕押し、糠に釘、豆腐に鎹、何を言ってもフォッフォッフォ。安西先生かテメェは!




「そう云う訳じゃ、みんな仲良くしなさい」


結局その一言で抗議は終了。

くそぅ、いつかその頭をヤスリで通常サイズにまで削り取ってやるからな・・・。







「そろそろ授業じゃ、早く行きなさい」

「あ、ホンマや。じゃあなぁネギ君、また後でなぁ」

「失礼します、学園長。では総統、行ってきます」

「ちょ、ちょっと待ってよ!・・・・私は認めないからねっ!」



3人の女学生たちはその場を後にした。


・・・俺も行かなきゃ。いくら刀子さんに話が通ってるとはいえ、余り遅れすぎるのもマズイ。




「・・・それじゃ、俺も行きますね」

「おお、手間を取らせたのぅ」



部屋を出る前に、先程の「認めない」発言に軽くショックを受けている少年の肩に手を置く。



「・・・まあ、いろいろ大変だろうけど、修行ガンバレよ?」

「あ、ハイ!えっと・・・『ミサト』さん?それとも『ソウトウ』さんですか?」

「『一 海里』だ、『総統』はあだ名だよ」


・・・一応、釘刺しとくか。




「さっき何が起こったかはよくわかんねえけど、もうあんなのはやめてくれよ?

アイツらは俺の大事な幼馴染で、大切な友達なんだ。オマエが俺の立場なら、当然怒るだろ?ワザとか否かに関わらず」

「は、はい、スミマセンでした・・・」


素直なイイ子なんだけどねえ、だからこそ性質が悪いというか・・・。




「それと、女に向かって『失恋の相が出てる』は無いだろ、失礼すぎるぞ」

「でも、あんなに怒るとは思わなくて・・・、親切で教えたのに・・・」

「『小さな親切、大きなお世話』ってな。他人の気持ちも汲めるようにならないと駄目だぞ?もう先生なんだから」


ヤル気が空回りさえしなければイイ線行くと思うんだよね、なんとなくだけど。




「俺も偉そうなこと言えないけどさ。まあ、全てはこれからだな。しっかり頼みますよ、ネギ『先生』?」

「ハ、ハイ!!僕、ガンバリます!!」

「あと、コノカ達に手ぇ出したらコロスからな」

「ハイ、ってええええええ!?」


死の宣告と共に、俺は学園長室を後にした。






















――――――翌週日曜日・エヴァンジェリン邸――――――





「――――で、子供先生はどんな感じだ?」


本日は【漆黒の翼】一味と【闇の福音】一味の臨時報告会。テーマは今言ったように、ネギの奮闘っぷりについてだ。

とりあえず1週間たったけど、それぞれの目から見てどう思ったか率直な感想が欲しい。





「ハッキリ言って、期待外れだよ。魔法の方は何とも言えんが、精神面は見た目通りの子供だ」

「責任感は強く見受けられますが、空回り気味のようです」


エヴァさん達の評価は辛め、か。ソッチは?




「頑張っているとは思いますけど、少々頼りないかと・・・。でも、一部の生徒を除けば受けはイイですね」

「ネギ君がんばっとるよ、アスナとも結構仲良うしとるし」


ソレは意外だ、ガキ嫌いのアスナが面倒を看るとは。




「総統、そのことなんですけど・・・」


なんだセツナ、何かあったのか?・・・・・ん、前にも似たようなやり取りしたような?




「その・・・・、バレたんです・・・」


バレたって何が?






「・・・ネギ先生が魔法使いだということが、アスナさんにバレたんです・・・」




「・・・・・・・・・・はあああああ!!!?」



え、ちょ、アス、バレたって、えええええええええええ!!!?



「い、いつ!?」

「・・・就任初日です」

「初日ぃ!?」


俺と別れた後すぐってことか!?早過ぎんだろ、いくらなんでも!?




「ネギ君を怒らんといてあげてぇな、ちゃんと理由があるんや」

「・・・理由?」




―――――セツナの話によると、広場をウロウロしていたネギの近くで、大量の本を持ったノドカが階段で足を踏み外し、ソレを助けるためにネギが咄嗟に魔法を発動。

その光景を、歓迎会に呼ぶためネギを探していたアスナが偶然目撃。あえなく魔法バレ、ということらしい。ちなみにノドカにはバレてないようだ。






「・・・申し訳ありません総統。遠方から監視していたために、対応が・・・」

「いや、誰のせいでもねえよ、タイミングが悪かっただけだ」

「ほう、安易に魔法を使ったぼーやはお咎めナシか?」

「俺のトモダチを助けてくれたんですから、感謝こそしますが文句なんて有りませんよ」



逆に、「魔法がバレるのはイケナイことだから助けませんでした」とかほざいてたら、この手でブッ殺してたところだ。





「・・・その後、アスナさんがパンツを消されたんですけど・・・、言わない方がいいか・・・」

「セツナ、なんか言ったか?」

「いえ、何も」







てことは・・・。


「じゃあ、俺達のことは?」

「ソレは大丈夫です、アスナさんもネギ先生も気づいていません」

「だが、時間の問題だ。私の呪いを解くにはミサトとぼーやの力が必要不可欠、近いうちにバレる、いや、バラす」

「そーいうことになるか・・・」



アスナを巻きこむことになるのか・・・。
危険だから関わるなって言って、ハイそうですかって引き下がるような奴じゃないし・・・、確実に首突っ込んでくるよな。
だからって、強制的に記憶を消すのは・・・・。



「悩んでもしゃあないて、その時になったらアスナと話し合お」

「それしかないか・・・」


・・・しばらくは秘密のままだな。






「あとは、ウルスラとのドッヂボール対決、それとホレ薬騒動ですね」

「ホレ薬?」



なんでも、迷惑をかけたアスナのためにホレ薬を作って持っていったら、機嫌の悪かったアスナに逆に飲まされて大騒動が起こったんだと。

このメンバーはキチンと対処したから平気だったらしい。





「まったく・・・、媚薬の精製は禁じられているのを、あのぼーやは知らんのか?」

「え、ああ、そうっすね」

「何だその曖昧な返事は」


いや、その件に関しては、俺も強くは言えないというか・・・。




「総統、昔ホレ薬作ろうとしとったもんなぁ?」

「・・・西の文献に似たような奴があって、好奇心でつい・・・」


結局失敗作しかできなかったし、後で詠春さんにバレてすげえ怒られたし・・・。



「・・・何をやっとるんだキサマは」


だってマンガでしか見たこと無いような薬の精製方法が書いてあったんだよ?試してみたくなるじゃん。


・・・・俺は悪くねえ!俺は悪くヌエェ!!






「ドッヂボール対決では、少しずつですが指導力が見受けられました」

「1回士気が下がってもうたけど、ネギ君の一言でみんなヤル気になったんよ」

「へえ、ちゃんと先生してんだな」

「その後くしゃみでウルスラ連中の服を消し飛ばしたがな」

「授業中にも、何度か神楽坂明日菜さんを武装解除しています」

「・・・やっぱり1回【クレイジーコメット】喰らわせた方がいいかな」



どうにかなんねえのかよ、あのくしゃみは。つうか、よくそれでアスナ以外にバレないな。



【登校地獄】の解呪については、ネギの技量を判断してから臨機応変に対処していく計画だったんだが・・・・



「とりあえず当初の予定通り、3年に上がるまでは様子見だな」

「ネギ君、今は実習期間中やし、新しい問題を増やしたら体がついていかんからなあ」

「どちらにしろ、血は頂くことになるがな」


どうにか穏便に事を運びたいもんだな・・・。





















「他になんか変わったことあるか?」

「ん~・・・、あ、ネギ君がウチらの部屋に住んどるのがいんちょやハルナの耳に入って、部屋で宴会始めたらアスナが怒って追い出してもうたり・・・」

「いつも俺の部屋で似たようなことしてるくせに・・・」



























※注意!ココから先はR-15です。






















{オマケ ある日の百八煩悩鳳の会話}



「あ~・・・・、彼女欲しい」

「何だダイチ、唐突に」

「別に唐突じゃないよ、僕らはいつだって出会いを求めてるんだから」

「そうだ!女侍らしてる奴にゃわかんねえだろうけどな!」

「だから侍らせてねえっての」

「うるせえ!その言葉はもう聞き飽きたわっ!!」

「ホントだよまったく・・・、ニノはベルカの騎士の風上にも置けないね」

「いつから俺はベルカの騎士になったんだ?」

「バーカ、男は誰しも股間にアームドデバイスを携えるベルカの騎士なんだよ」

「そうそう、女性と言う名の融合騎を求めて戦場を駆ける騎士なのさ」

「じゃあ訊くがダイチ、オマエのストラーダの調子はどうなんだ?」

「誰がスピード野郎だテメェ!」

「そう言うニノはどうなのさ?」

「俺のレイジングハートは何の問題も無い」

「へっ、カードリッジ使いすぎてポンコツになっちまえ」

「んなもん使わなくても常時エクセリオンモードだっつの」

「というか、レイジングハートはアームドデバイスじゃないんじゃないの?」

「事を済ませば賢者インテリジェントデバイスになるからいいんだよ」

「まあ何にせよ、融合事故には気をつけろってこったな」

「事故ってなんだよ」

「できちゃ「もういい、皆まで言うな」





――――――――中2男子の会話なんてこんなものである。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





現在の総統の中での優先順位



漆黒の翼≫越えられない壁≫凛々の明星>エヴァ一味=図書館部=真名=詠春>百八煩悩鳳≧あやか≧千雨≧ネギ≫≫その他




木乃香と刹那は別格なんです、ハイ。










[15173] 漆黒の翼 #16
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/03 17:29


 キーーンコーーンカーーンコーーン



「――――では、今日はここまでです!皆さん、気をつけて帰るようにしてください!」



ネギが女子中等部2-Aに着任して早数週間、戸惑いながらも少しずつ教員職が板についてきた今日この頃。




「さよーなら、ネギせんせー!」

「ネギ君、また明日ねー!」




A組女子の反応は上々。当初は少々頼りないと思われていたネギであったが、先のドッヂボールの一件で多くの生徒達からの信頼を獲得することとなり、多少のToLOVEるもありながら順風満帆の教員生活を送っていた。




「ネギ君、お疲れ様や」

「あ、アスナさん、このかさん。どうでしたか、僕の授業?」

「よかったえ、わかり易いし」

「ま、頑張ってんじゃない?」




ネギと同居しているこの2人は、とりわけ親しい間柄となっている。
特にアスナは、自分『だけ』が知っている『ハズ』であるネギの秘密へのフォローもあり、手放しにできないという理由もある。



まあ、少年の現状はさておき―――――



「アンタは、これから仕事?」

「あ、いえ、今日は会議も無いのでこのまま帰りです。アスナさん達は?」

「ウチらは総統の所に寄るつもりなんよ」

「総統・・・、ああ、ミサトさんですね。お2人で、ですか?」

「あとは、せっちゃんと―――」

「ミサトのトコに行くアルか?」

「拙者達も同行しても構わないでござるか?」

「おまたせしました、このちゃん」

「とまあ、この5人ね」



要するに、いつもの面々である。



「長瀬さんと古菲さんも、ミサトさんと親しいんですか?」

「あいあい」

「同じ釜のメシを食た仲アル」




「せや、ネギ君も一緒に来る?」

「え?僕も、ですか・・・?」




このネギ少年、少々海里に対して苦手意識のようなモノがある。

そりゃ会った初日に殴られたり眼潰し喰らったり、更には別れ際に死の宣告を賜わったりしていたのだ。
原因が自分に帰結しているとはいえ、その気持ちは分からなくはない。

オマケに彼と最後に会ったあの日から、一体どれだけ突発的武装解除をやらかしたことか。
もしソレが知れた日には火あぶりにされるのではないかと戦々恐々なのだ。

尤も、もうバレてるんだけどね。



「ぼ、僕が行っても大丈夫でしょうか・・・?」

「1人増えたところで怒るような御仁ではござらぬよ」



そう意味で聞いたんじゃないんですけどと言いたげなネギだが、そんな事情などお構いなし。

ネギは肉体派2人に売られゆく子牛のように引きずられ、その様子に明日菜と刹那が御愁傷様的な視線を送る。特に止める気はないようだ。




「・・・ネギの奴、大丈夫かしら」

「総統の折檻が頭に残ってるんでしょうね」

「大丈夫やて、総統も鬼やないんから」



甘いぞ木乃香、彼は君達のためなら「鬼」にも「魔王」にも「ぶるぁ」にもなる男だよ。




――――まあとにかく、一同は男子寮目指してダバダバ歩んでいくのだった。





















「――――んで、数学の範囲は、っと・・・」




 がちゃっ




「総統おるー?」

「遊びに来たわよー」

「だからノックしろっての」



いつもの事ながらまったく・・・、俺がレディアントマイソロジイ中だったらどうすんだコラ。





「・・・ん?珍しい顔が居るじゃねえか」

「こ、こんにちはミサトさんっ」



ネギが俺の部屋に来るとはな、珍しいこともあるモンだ。


・・・しかし、なんだかビビられてるような感じがするな。コロスは言いすぎたか、撤回する気ないけど。




「まあいいや、あがれよ。茶ぁ淹れっから」

「オ、オジャマシマス」

「「「「「お邪魔しまーす」」」」」





―――――全員に湯飲みを配付、ネギには客人用のシンプルな奴を。



「皆さんは、よくこうして集まるんですか?」

「まあな、この部屋は完全に溜まり場と化してんだよ」

「このメンバーでバンドを組んだこともあるでござるよ」

「ほら、そこに写真あるでしょ?学祭のときのヤツよ」

「本当だ・・・わ、スゴイ、賞も取ったんですか!?皆さんカッコいいですね!!」

「ふふん、もと褒めるアル♪」




あ、そう言えば・・・。


「ネギ、オマエまたアスナの服引っぺがしたらしいじゃねえか?」

「え!?あ、いや、ソレは、その・・・!?」

「一体どうなってんだよ、そのイリュージョンはよ?」



くしゃみで暴走する魔力って、どんだけ有り余ってんだよ。




「ミ、ミサト!!そ、ソレは私がみっちりきっちり叱っておくから、気にしなくてもいいわ!?」

「え、ああ、オマエがそう言うなら・・・」




・・・なるほど、こうしてフォローに回ってるってワケなのね。魔法の存在が一般人にバレたら、ネギはオコジョになっちまうからな。

でも何でオコジョなんだろうか?どっかの魔法少女はカエルだったような気がするけど・・・。


アスナの慌てっぷりにブルー&イエローはハテナ顔、ネギほっと安堵、その他苦笑い。・・・スマン、アスナ。苦労を掛ける。





――――と、セツナが俺の机の上に積んである教材やらノートやらに目を留める。



「勉強中でしたか?」

「いや、勉強っつうか、範囲の確認だな。もうすぐ学期末テストだし」

「へ~・・・・、ってええ!?そうなんですか!?」



・・・なんで教師のオマエが知らねえんだよ。




「もうすぐって・・・、まだ2週間以上先じゃない」

「気が早過ぎアルよ」

「ニンニン」



コントバカ信号どもはお気楽な発言。




「今の内からチョコチョコやっといた方が、後で慌てなくて済むんだよ。どっかの誰かさん達と違ってな」

「「「ギクッ」」」



コイツらはいつも直前になってからアタフタするからな。その度に俺が駆り出されてるワケなんだけど。

逆にいえば、テスト直前はコイツらの勉強を見るために当てられるので、今のうちに自分の分をやっておこうということなんだけどね。

知識としてはもう頭に入ってることばかりだから、軽く復習する程度で済むから楽だけどさ。




「へ~、ミサトさんは偉いですね!」

「ウチの学校はエスカレーター式だから、そこまで根詰めることじゃないんだがな」

「そ、そうそう!あわてなくてもヘーキヘーキ!」

「大丈夫アル!まだ余裕アル!」


「その余裕が、A組万年最下位という不名誉な称号として残ってる訳なんだけど」

「「「「うっ!」」」」



あれ、1人増えたぞ?





「ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないですか!?」

「そうだな、今回はネギのこともあるしな」

「? ネギ君がどないしたん?」


よく考えてみ。




「教育実習期間中のネギが受け持っているクラスが学期末テストで最下位を取る。学園長からの評価は?」

「良くは・・・、無いでしょうね・・・」

「ヘタすりゃその時点で修業終了、なんてことにもなりかねんぞ」

「そ、そそ、そんなぁ!?」


まあ、ソレは言いすぎかもしれないけどね。




「と、いうわけだ。今回は気合入れてけよ?オマエらの頭脳にネギの将来が懸かってんだから」

「よ、よろしくお願いします、皆さん!!」

「や、やるだけやってみるわ・・・」
「ま、まかせる、アル、ヨロシ・・・」
「ニ、ニン・・・」

「・・・このちゃん、よろしくお願いします」
「まかせとき♪」



・・・本当に大丈夫だろうか?まあ、いざとなったら俺も手を貸すし、なんとかなるか?




・・・ん?どうしたネギ、キラキラした目でコッチ見て。



「ミサトさん!僕、誤解してました!あんな失礼を働いた僕を、こんなに気にかけてくれるなんて・・・!怖い人かと思ってたけど、ミサトさんてイイ人なんですね!」

「・・・面と向かって怖い人とか言うなよ」




俺だって、進んで子供の未来をつぶすような鬼畜ではない。

俺がコイツをブン殴ったりしたのは、逸脱した失礼を働いたからだ。大事な幼馴染達が往来で脱がされりゃ、俺じゃなくても殴るだろう。

かなり私怨も混じっていたが、子供の過ちはちゃんと周りが正してやらなきゃならない。そして長所は伸ばしてやるのがベストだ。

教育を語るほどデキタ人間ではない、というか本当に半分はニンゲンではないんだが、それくらいは俺にもわかる。




「一応はオマエより長生きしてるし、相談くらいには乗るさ」

「はい!よろしくお願いします!!」

「あと、コノカ達に手ぇ出したらコロスから」

「ソコは変わらないんですか!?」


―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は。





「すぐ近くに先生が住んどることやし、いろいろ質問したらええんやない?」

「はい!どんどん訊いちゃって下さい!なんでも答えますから!」

「アイドル評論家ってどうやって食い扶持繋いでんだ?」

「え、いや、その手の質問はちょっと・・・」

「まだその疑問引き摺ってたんですか?」






「・・・ま、まあ今日は勉強道具も無いし!」

「とりあえず遊ぶアル!」

「明日からがんばるでござる!」



ソレ完全に駄目な奴の発言じゃねえか・・・。


・・・まあ俺も今日は範囲確認だけの予定だったし・・・。




「まあいいや、何する?」

「スマブラでもやろっか」

「ミサトのピーチにリベンジアル!」

「ネギ君もやろー?」

「TVゲームですか?僕、そう云うのはやったこと無くて・・・」



・・・何?




「じゃあ、マンガとかは?」

「ソレもあまり・・・。図書館で勉強したり、まほっ、・・・い、いろいろ練習したりはよくしてましたけど」



そりゃいかん、マンガには人生の教訓が兵糧丸の如く詰まってるんだぞ?ワンピとか銀魂とか読んでみ、いろんな意味でスゴイから。




「子供は遊ぶのが仕事アル、偶には息抜きも必要アルよ」

「何事も挑戦、でござるよ」

「は、はい、なんとかやってみます」



・・・ゲームってこんな畏まってやるモンだっけ?





「まずは、ネギ・コノカ、セツナ・アスナでチーム戦やってみ」

「あの、説明書は?」

「後ろから指示出してやるから」

「習うより慣れろアル」


やりながら覚えたほうが早い。



「私サムスね」

「では私はマルスを」

「ウチはカービィや」

「ネギ坊主は?」

「えっと、・・・じゃあこの帽子の子を」


・・・いきなりネスとは、レベルが高いな。




《―――――Ready・・・・Go!!》



「喰らいなさいネギ!チャージショット!!」

「うわ、アスナ容赦ねえ!」

「うわわっ!ぼ、防御はどうやるんですか!?」

「ネギ君、人差し指のボタンや!」





――――――遊びも大事な糧となるのだよ、ネギ少年?





























――――――数十分後――――――




「あ、この電撃みたいなのって自分にも当てられるんですね!」

「ああ!私のマルスがぁ!!」

「ネギ君すごぉい!」

「この・・・、刹那さんの仇ぃ!チャージショットォッ!!」

「あ、バットで打ち返せました!」

「サムスウウゥ!!!」



コイツの学習能力ハンパねえ!!














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は」




これがミサトの行動原理です。一般人に危害が~~とかいろいろ言ってますが、根本はこれです。














[15173] 漆黒の翼 #17
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/08 00:41



「――――やっぱりテスト前だけあって、他のクラスの皆さんはピリピリしてますね・・・」



学期末試験も間近になったある朝、ネギは日直の桜子、同じく日直の『明石裕奈』と廊下を歩いていた。

ふと他の教室を覗けば、しかめっ面してノートに向き合う女生徒達が多く見受けられる。遊びたい盛りの学生にはツライ時期だ。

実習生のネギにとっても、今回のクラスの成績いかんで己の評価も変わるやもしれないと云うのもあって、幼いフェイスに神妙な表情を浮かべている。




「あー、週明けからだもんねー」

「大変だよねー」



・・・そんなネギの心配とは裏腹に、可愛い教え子2人はまるで他人事。危機感の欠片もない。




「・・・あの、ウチのクラスも例にもれず試験はやって来るんですけど・・・?」

「あはは、でもウチの学校エスカレーター式だし、あんまり関係ないんだよね~」

「そうそう。2-Aはずーっと学年最下位だけど、大丈夫大丈夫」



能天気なのはこの2人だけではない。基本的には何をせずとも進級できるので無理に勉強なんてしたくない、と言うのがA組女子の大半の意見だ。

でも、それではネギが困ってしまう。これから先の修業に支障をきたす、いや、修業自体おじゃんになってしまいかねないのだから。


だがネギだって、ただ手をこまねいていた訳ではない。

海里に言われたあの日から、自分にできることを模索し、各教科ごとに要点をまとめたプリントを作成したりして手を打っていたのだ。


テスト1週間前辺りから、HRに特製の小テストを実施したりもした、もちろん詳しい解説付きで。

勉強嫌いの生徒達は笑い泣きだったが、ネギを溺愛する委員長・あやかの一喝により異議は却下された。

ちなみに、キラ着いた眼でネギから礼を受けたあやかが鼻血を吹いて倒れたのは全くの余談である。




―――――ただ、やはりネックなのは例の5人、バカレンジャーの面々である。学年底辺の異名は伊達じゃないと言わんばかりだ。

やはりこの5人を攻略しないことには最下位脱出は難しい、もちろんロイド的な意味ではない。





「・・・ま、まあ、最下位になったら修業断念と決まったわけじゃないし・・・、ポジティブに考えなきゃ、ポジティブに・・・」

「ネギ先生?」

「うきゃいっ!?」



思考の渦にどっぷり浸かっていたため、急に声を掛けられて変な声が出てしまう。



「し、しずな先生でしたか・・・。どうしたんです?」

「あの・・・、学園長先生がこれをアナタにって」

「封筒・・・、手紙ですか?」



深刻な顔をしたしずなから受け取ったのは封筒。そして封筒にはこう書かれてあった――――




――――『ネギ教育実習生最終課題』、と――――




「ぼ、僕への最終課題・・・!?」



いやまさかと、頭によぎる不安を振り払い、意を決して封を切り、中に入っていた手紙をゆっくりと開いた。







[ ねぎ君へ――――――


次の期末試験で、ニ-Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげる。


―――――――麻帆良学園学園長 近衛近右衛門 ]






「え~、何々!?どーしたの、ネギ君?」

「あー!ネギ君、本物の先生になるんだ!?・・・・・て、あれ?どしたのネギ君?」



「・・・あは、あはははは・・・」




初年の少々渇いた笑い声が、廊下に響いたとか響かなかったとか。
















「――――という訳で、週明けはもうテストです!今回また最下位だといろいろ大変なコトになるので、皆さん頑張って猛勉強しましょう!!」



朝のHRは、ネギの激励から始まった。正式採用の懸かったこの課題、なんとしても合格しなければという気合いがヒシヒシと感じられる。




「では、朝恒例の小テストを・・・」

「ハイハーイ!提案提案っ!」

「ハイ桜子さん、何ですか?」

「今日は趣向を変えて、『英単語野球拳』をやるのがイイと思いまーす!」




ネギ特製のテスト配付を遮り、能天気丸出しの提案をするラッキーガール桜子。

そのアホな提案に、あやか等クラスの良識派数名は異を唱えるが、大多数の能天気派の歓声に掻き消されてしまった。


そして野球拳の意味など知らないネギは、生徒の自主性を尊重し、その案を採用。

とりあえず、これからの方針を決めるべく数秒思考に入る。






「アレが、コレで・・・、ソレが、アレして・・・・・」




・・・そうして、方針も固まったところで顔をあげ―――――




「・・・・よし、コレで行こ―――――!?」





―――――眼の前に桃色空間が、いや、カオス空間が出来上がった。


気が付けばバカレンジャーは全員半裸、明日菜とまき絵に至ってはパンツ一丁である。




「な、何やってるんですかーーー!?」

「何ってホラ・・・・、答えられなかった人が脱いで行くんだよ」




もはや勉強など忘却の彼方、完全にお祭りモードにシフトしてしまった。


ココでようやくネギは野球拳のルールを理解し、同時にこのクラスの能天気さ、そして最終課題の難しさを改めて理解させられた。

所謂、『駄目だこの人達・・・、早くなんとかしないと・・・』状態である。




「ど、どうしよう、このままじゃ・・・・」




―――――その時、ネギの優秀な頭脳に天啓が舞い降りた。



「――――そうだ、思い出したぞ!3日間だけ、とても頭が良くなる禁断の魔法があったんだ・・・!


・・・・副作用で1ヶ月くらい頭がパッパラパーになるけど、この際仕方が無い!!」
 

「コラーーー!!やめやめええい!!」



・・・天啓は寸前の所で明日菜に却下された。パッパラパーはお気に召さなかったようだ。


明日菜はネギを教室から連れ出す、もちろん裸じゃない、ちゃんと服着てます。そして2人は人気のない階段の踊り場へ――――――。





「アンタねぇ!魔法に頼るのやめなさいよ!」



そしてスーパーお説教タイム。魔法バレしたら即帰国なのに何やってんだこのヘボ魔法使い!と、がうがう吠える。


しゅんとするネギに、ホラコレとノートを差し出す明日菜。

そのボロボロのノートには、今までやってきた自己採点済みの小テストの答案が挟んであった。


「あっ、まあまあ出来てる!」


明日菜も、海里に言われた時から何もしていなかった訳ではない。小テストは決して良い点数とは言えないが、今までに比べればかなり良い点を取れるほどにまで頑張ったのだ。



「まったく、本当の魔法は勇気だとか自分で言っておいて・・・」



以前祖父から聞いたありがたい言葉を明日菜にも教えていたネギ。その本人がコレじゃ説得力無いじゃない、と言いたいようだ。



「マギ・・・何とかを目指してるのか知らないけどさ、そんな風に中途半端な気持ちで先生やってる奴が担任なんて、教えられる生徒だって迷惑すると思うよ!」



そう言って、ネギをその場に残し去って行く明日菜。


その言葉に、ネギは強いショックを、そして同時に強い感銘を受けた。



――――そうだ、コレじゃダメだ。魔法に頼っちゃいけない、ただの人として、一教師として、乗り越えなきゃダメなんだ!と―――――




【――――誓約の黒い3本の糸よ、我に3日間の制約を――――】



――――そして、少年は己に制約を掛ける決意をした。



















「――――えええええっ!? 最下位のクラスは解散!?」



時刻は午後6時25分。場所は女子寮大浴場。湯につかっているのはバカレンジャーと図書館部の面々。

なんでも、『最下位を取ったクラスは解散』という噂を何処からか拾ってきたらしい。



「その上、特に悪かった人は留年!! それどころか、小学校からやり直しとか・・・!」

「ええ!?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなの嫌だよ!」

「マ、マズいね・・・。ハッキリ言ってクラスの足引っ張ってるの私達5人だし・・・」

「わ、私もあまり自慢できる成績じゃありませんし・・・」

「明日辺り、ミサト殿に泣きつくしかござらぬか・・・」

「ミサトには苦労をかけるアル」

「まあ、総統もテスト前にみんなに教えるの、割と楽しんどるみたいやけどな」



このメンツの中でも特に頭を抱えているのは、今日ネギに説教したばかりの明日菜。自分が1番を足引っ張ってる自覚がある分、その悩みもデカイ。

昼間偉そうなコト言った手前、ネギのパッパラ魔法に頼るわけにもいかない。一体どうすればいいんだ。




「――――ココはやはり・・・、アレを探すしかないです」



――――と、ジュースを飲みながら風呂に入る夕映が唐突に発言する。風呂で飲むのがオツなんだろうか。

藁にもすがる少女達は、一斉に『抹茶コーラ』なるものを味わう全デコ娘に注目する。



「『図書館島』は知っていますよね?我が図書館探検部の活動の場ですが・・・」

「う、うん。一応ね・・・。あの湖に浮いてるでっかい建物のコトでしょ?」



長いことこの都市に居るのに、行ったこと無いのかオマエは。



「実は、その図書館島の深部に、読めば頭が良くなるという『魔法の本』があるらしいのです」

「「「「ま、魔法!?」」」」
「「ドキッ!」」



魔法、と聞いて驚くバカレンジャー―1、ドキッとする“裏”関係者2人。



「大方出来のイイ参考書の類とは思うのですが・・・、それでも手に入れば強力な武器になります」

「もー夕映ってば、アレは単なる都市伝説だし」

「ウチのクラスも変な人達多いけど、流石に魔法なんてこの世に存在しないよねー」

「せ、せやせや!ま、魔法なんてあらへんよなぁ、せっちゃん!?」

「そ、そうですとも!そ、それより、明日部屋に行く旨を総統に連絡しておかないと・・・!」



どうにかこの流れを断ち切らなければ、と頑張る関西出身コンビ。

約2名テンションのおかしくなった者が現れる中、ただ1人、明日菜は違った。

この冬、魔法ネギという存在を知った明日菜はこう考えた。



――――魔法使いが居るなら魔法の本があってもおかしくないんじゃないか――――

――――ネギも頭が良くなる魔法を使おうとしていた、なら魔法で頭が良くなるコトは裏打ちされた事実なのでは――――





「―――――行こう!! 図書館島へ!!」


「「「「「え?」」」」」
「「え!?」」



明日菜は魔法など信じていないだろうと考えていた少女達は気の抜けた驚嘆の声を、話がマズイ方向へ向かってしまうことを察知した少女達は驚愕の声をあげた。



「ア、アスナ!有るかどうかもわからんのに行かん方がええて!」

「そ、そうですよアスナさん!眉唾の本より、今まで通り総統に頼った方が・・・!」

「いいえ!このままミサトに頼ってても前には進めないわ!!栄光は自分の手で掴み取るものなのよ!!」



・・・これから魔法に頼ろうとしている奴が何言ってんだか。

他の面々も、明日菜のアホみたいなスピーチに感銘を受け行く気満々になってしまった。


ココで困るのは木乃香と刹那だ。噂がのぼるということは、何かしらの根拠があるハズ。ならば図書館島の地下には何か魔法的なモノがあるに違いない。

それなのに、こんなに大勢の一般人を引き連れて潜入させる訳にはいかないのだ。



「せ、せっちゃん、どないしよう・・・、ウチらじゃ止められんよ・・・」

「と、とにかく、お風呂からあがったら総統に連絡しましょう・・・」



“裏”の少女達は、上官に一縷の望みを託すことにした――――――
















「―――――さてと、今日の夕飯何にしようかなっと・・・」




時刻は夕方6時40分、テスト勉強もそこそこに俺は机に向いながらそんなことを考えていた。

事前に復習しておいたおかげで大体は片付いた。後は最終確認くらいか・・・、この土日にやっとけば十分だな。

俺の勘では、明日の土曜辺りにアイツらが泣きついてくる頃だと踏んでいる。自分の理解度を確認するにはちょうどいい機会だ。




――――と、その時、俺のケータイに着信を知らせる振動がブーンと鳴った。予想より早かったか?



だがディスプレイの表示には、友の名前ではなく[学園長]の文字が浮かんでいた。・・・何用だい?





「もしもし、ニノマエっすけど?」

《おおミサト君、ワシじゃ。スマンがちょっと頼まれてくれんかのぅ?》

「依頼ですか?」

《うむ、すぐにコチラに来てもらいたいんじゃが》

「・・・俺、週明けテストなんですけど?」

《キミの成績なら問題なかろう?他に手の空いている魔法先生もおらんし、規模が大きくなりそうなもんじゃから、腕の立つ者が必要なんじゃよ》



・・・ウルトラメンドくせぇ。



「・・・ちゃんとテスト前手当て、払って下さいよ?」

《細かいのぅ・・・》

「慈善事業じゃないって言ったでしょう。・・・セツナは?」

《彼女は・・・、なんと云うか、成績が良い方ではないじゃろ?》

「・・・ああ、わかりました」



・・・仕方ねえ、やりますかね。



《おお、そうじゃミサト君、キミのケータイは防水タイプかな?》

「いえ、そんな仕様は無いですけど、それが?」

《水辺での戦闘になりそうじゃから、持って行かんほうがええぞい。ビッチャビチャになるでのぅ》

「連絡はどうするんです?」

《ワシの方で手段を用意するから心配無用じゃ》

「・・・了解しました」



・・・ちゃっちゃと片付けるとするか。


買っておいた菓子パンで軽く腹を満たし、カードを持ってケータイ置いて、俺は自室を後にした。
















―――――海里が部屋を出た30秒後、彼のケータイに着信が入った。


表示には[桜咲刹那]の文字。


・・・だが、その着信に応える者はいなかった―――――――

















 プルルルルルルッ、プルルルルルッ・・・・・




「・・・・総統、でませんね・・・」

「お風呂入っとるんかなぁ?」


「何してんの2人ともー?行くわよー、・・・・ほら、アンタも来なさいっ」

「ムニャァ・・・」




・・・・望みは、儚くも散りゆく―――――――















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




あまり話が進んでなくてスミマセン・・・・。








[15173] 漆黒の翼 #18
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/12 00:32
「――――ココが現場か・・・・」



学園長から指定された自分の持ち場にやってきたが、・・・なるほど、泉の畔か。確かにここで戦えば、水浸しになるかもな。


カードを武器に変え、軽く素振りをして調子を確かめる・・・・、よし、イイ感じだ。単独での戦闘は久しぶりだからな、気合い入れていかないと。





―――――と、辺りを邪を纏った空気が包む。おいでなすったか・・・。



現れたるは、数十はあろうかという異形達。子供が見たら泣く顔ぶれだ。



「なんじゃい、餓鬼1人か」

「手ごたえなさそうやなあ・・・」

「喰われる前に帰った方がええんちゃうか?」

「「「「「「「「ぎゃへへへへへへへへ!!」」」」」」」」




・・・ほんじゃあ、いっちょやったりますかね。




「こないな餓鬼、俺1人で十分やわ」



ずいっと前に出る妖怪、・・・若手なのか?



「いてこましたらァ!!!」


若手鬼(仮)が棍棒を振りあげ襲いかかる。


俺はソイツが振り下ろすと同時に跳躍、その頭上へと舞い踊りバルディッシュを振りかぶる――――――――



【神空割砕人】!!



――――――――戦斧を振りぬき脳天から一閃。




「ンなぁ――――――――――――」



若手クンは反応する間もなく、そのまま還された。アーメン。






「ほう・・・、ちったあ歯応えのありそうな餓鬼やないか」

「ガキをナメンナヨ?」



伊達に傭兵やってるわけじゃねえんだよ。





「オモシロい―――――――――――――かかれやああああ!!!」


「「「「「ごおおおおおおお!!!」」」」」




号令と共に一気に俺の元に押し寄せる異形達。


・・・随分と多いな、まずは数を減らすことだな。

一旦後方にバックステップし距離を取る。得物を斧から剣、アースブレードに変更。



【魔神剣】!!


剣を振りぬき、続けざまに地を這う斬撃を鬼の集団に放つ。勢いに乗って突っ込んできた先頭の数体はその衝撃波に切り裂かれる。

仲間が送還され、たたらを踏む鬼が数匹。
そのせいで他の異形達の陣形が若干崩れた。すかさず密集地に出来上がったスぺースに飛び込み、斬撃を逃れたうちの1体を袈裟掛けに斬り伏せる。

鬼だって黙っちゃいない、人1人分はあろう大きさの棍棒を振りぬいてくる。ソレを剣を斜に構え攻撃を反らす、こんなモン真正面で受けたら身体がもたない。
棍棒を受け流されて鬼の身体が宙を泳ぐ、そのガラ空きの胴体を斬り上げる。

雄叫びと共に左右から同時に襲い来る剣と棍棒を前方に飛び込んで回避、ソレを待ち受けていた異形が棍棒を大リーガーの如く振りぬく。

咄嗟にフォークボールのように身体を沈ませやり過ごす、チッと髪が数本持って行かれた。

空振った極太バットは勢いが止まらず、周りの鬼数体をホームラン。やーい、マヌケー。


「バカタレ!!状況を考えんかっ!!」

「避けねえ奴が悪ィんだよ!」



敵が仲間割れしているうちに攻勢に出る。

牽制代わりに【魔神剣・双牙】を前方に放ち、衝撃波が2体を巻きこむ。間を開けずに身を躍らせ、右前方の鬼を横一文字に一閃。勢いそのまま回転し、左後方の敵を斬り倒す。

後ろから大剣で唐竹割りしてきた異形を横っ跳びで回避、剣が地面に深々とメリ込む。俺もお返しとばかりに唐竹割り、刃をひっこ抜こうとしていた敵を送り還す。



「ちぃっ、面倒な餓鬼や」

「歯応えアリアリやな、スジばっかの肉みたいや」


「俺を簡単に噛み切れると思うなよ?」



楽勝ムードだった敵勢もさすがに焦り出す。目線で合図し、俺を四方から取り囲むように誘導する。

各々の得物を握りしめ、時間差で襲いかかって来る鬼軍団。

前方から襲い来る棍棒をギャリギャリ音を立てながら受け流し、流した勢いで後方に剣を躍らせるが、ガキィンという金属音と共に阻まれる。

鍔迫り合いする間もなく敵の武器を弾き、右から首を狙い来る大鉈をカチ上げるように上方に捌く。

その隙に残り1体が俺の胴体目掛けて刺突を繰り出してきた。風を切り裂きながら迫るソレを、前髪を掠めながらスライディングでギリギリかわし、靴底で柄を思い切り蹴り上げる。

すぐさま体勢を立て直し、脇が留守になったその胴に薙ぎ払う。



「「おるあああ!!」」



左右後方より風切り音、思考が纏まる前に前方に転がる。その直後、2本の棍棒が俺の居た場所に叩きつけられる。やっべぇ、すり身にされるかと思った・・・。

嫌な汗が止まらないが、止まってる暇なんてありゃしない。

黒肌の鬼3体が一列に襲ってくるのを視認、「ジェットなんとか」気取りか。

最前列の鬼が鈍く光る刃を真横に薙ぐ。俺は跳躍してソレを回避、別にコイツを踏み台にする気は無い。



【裂空斬】!!



跳躍の勢いで全身を車輪のように大回転、己を刃と一体とし、放物線を描くように飛び込む。

軌道上に居た黒い3連星は全員頭部を真っ二つにされ、煙に変わるが如く消滅した。そして俺は見事な着地を―――――――――



「隙だらけじゃあ!!」



――――――――決めた瞬間、待ちかまえていた妖怪の1人が俺の右半身に棍棒をフルスイング。

着地直後に回避できる訳もなく、自動車事故のような衝撃が身体を駆け抜ける。

間一髪、剣を間に入れることで直撃は免れたが、人外の圧倒的パワーに対抗できず俺の身体は宙を舞い、そのまま泉にダイブした。

水がクッションになったこともあって、ダメージは少なくてすんだ。思いの外に浅かったのも救いだ。


それを好機と見たか、ずぶ濡れの俺に四方から飛びかかる魑魅魍魎。

・・・マズイ、水中じゃ思うように足が動かない。この状況で機動力が落ちたら致命的だ。


すぐさまその場で立ち上がり、剣を逆手に持ちかえ足元に突き刺す。浮かびあげるのは、癒しと護りの円陣【守護方陣】。


輝く方陣が俺を包みこみ、迫る敵を足元の水ごと弾き飛ばす。まるで壁でもあるかのように陣の縁で塞き止められている水、モーゼになった気分だ。

しかし効果はほんの数秒だけ。円陣は消え、再び足元を水が満たす。

弾かれた鬼がまた迫って来る。水に足を取られるのは向こうも同じようで、動きは先ほどよりも遅い。

だが俺も足を使えず転がることもままならないので、回避が極端に難しくなってしまった。

鋭い爪を剣で受け、弾き飛ばした隙に一閃。直後に後ろからの剣撃を頬を掠めながらもなんとか避け、敵を水中に叩き込んで間を置かずに両断。

ココじゃどうにもやり難くてかなわない、一旦水から離脱しないと・・・。

しかし、敵は後から後から向かってくる。今は捌くのが精一杯だ。くそっ、水が邪魔すぎる・・・。



・・・そうだ!逆に利用してやれ!

手にした剣に魔力を込め、焔をその身に宿す。刃を高々と振りかぶり――――――――――



【爆炎剣】!!



――――――――渾身の力で灼熱の剣を水面に叩きつける。


途端に衝撃で立ち昇る水柱、そして――――――――――――




 ジュワアアアアアアアア!!




―――――――――爆炎により瞬間的に発生した大量の蒸気が、異形達の視界を覆い隠す。



「な、なんやコレ!?」

「煙幕や!あの餓鬼、何処行きよった!?」




だが俺はその場を動かない。

音を立てぬよう水に手を突っ込み、数個の石を掴み取る。その石をあさっての方向に放り投げる。




 ボチャッバチャバチャッバチャッ




「! 居たで、向こうじゃ!!」



偽の音に誘導され、半数近くの奴が音のした方に駆ける。その隙に俺は、罠を完成させるための魔力を練りあげる。



―――――――創造するは氷、刺し貫く猛攻―――――――――




【フリーズランサー】!!




凍てつく刃が、まんまと集められた異形目掛けて飛来する――――――――――




「「「「「「ギヤアアアアアアアア!!!」」」」」」




―――――――無数の氷槍が敵勢を貫いていく、ヘタな【魔法の射手】より速くて凶悪なんだよコレ。


この隙を逃すほど俺はのんびりなどしていない。視界も晴れかけている今が攻め時だ、一気に畳み掛ける!




――――聖なる意思よ、我に仇なす敵を撃て――――――




紡ぎだすのは清浄なる光の魔法、闇を殲滅する聖光―――――――――――!!




「―――――――――【ディバインセイバー】!!



「「「「「「「ぎゃあああああああああああ!!!」」」」」」」




―――――――清き光の雨が魍魎達に降り注ぐ!ジャクテンミタイネッ!!




「居た!今度は本物じゃ!!」

「怯むなぁ!いてこませやあああ!!」

「「「おおおおおお!!!」」」




敵も然る者、怯むどころか火を点けてしまったようだ。

―――――――――だが、ソレはこっちも同じコトだ!



「まとめて返り討ちにしてやらあああ!!」



得物を握りしめ、勇猛果敢、猪突猛進に敵勢に迎え撃つ――――――――――――





















――――――一方その頃――――――


《―――第9問。『library』、日本語訳は?》

「らいぶらりーってなんだっけー!?」

「皆さん、ココです!ココのことです!!」

「ココって・・・、遺跡!?」

「違います!ココは何処の地下ですか!?」

「あ!そうだ、『図書館』だ!!」

「『と』はどこアル!?」

「アスナさんの右手の近くです!」

「ムリムリムリッ!!これ以上開いたら裂けるって!!」

「コ、コラ楓!私に体重を掛けるんじゃないだだだだだっ!?」

「せっちゃんしっかりー!」



探検隊一行は、図書館島地下遺跡の『英単語ツイスター・ゴーレムと一緒!』でくんず解れずしていた。

本人達はいたって真剣なのだが、無理な体勢でパンツ丸見えの上にヘソチラ、更に美少女同士の絡み合いも相まって、傍から見るとなんとも眼福な光景であった。



「総統には見せられん姿やなぁ、せっちゃん」

「い、いわないでくださいいいい!!」


ちなみに刹那、頭が良くなる本『メルキセデクの書』を見つけた時、結構早めに走り出していた。実は結構成績を気にしていたようだ。
























「――――だっしゃあああぁ!!!」

「ぶふぉああ!」


また1体、鬼を両断して送り還す。これでもう何体目だ・・・?



「・・ゼェ・・・ゼェ・・・」


・・・もう息が上がりっぱなしだ、数多すぎだっつの。

だが無限とも思えた鬼さん達にも終わりが見えてきた。地道に薙ぎ払い続けた甲斐があったぜ、あと少しだ。



「舐めるなよ小僧!!」

「ワシらが相手じゃあ!!」



威勢良く吠える邪鬼が姿を見せる。まだ別格が2体残ってたか・・・!



「いくでぇ!!」

「くたばれやァ!!」


「やらせるかよ!!」


剣と剣がぶつかり合い、甲高い戦いの音色を奏でる。相手は1体だけじゃない、攻撃を受けた時にはもう1体が振りかぶっている。

受け止めてはならない、拮抗した所をもう1体が貫いてくる。とにかく弾いて、避けて、攻勢に出て、受けられて、また避け――――――――



 ズルッ



―――――――ようとして、濡れたぬかるみに足にを取られよろめいてしまった。



「そこや!!」

「ちぃっ!」




眼の前で剣閃が風切り音を立てて迫る。

だが間一髪、ギリのところで持ち堪え、上体を限界まで反らす。

鋭い刃が俺の頬に数ミリの斬り込み線を付け、剣圧が旋風を巻き起こす。

だが敵は決めにかかって空振りしたせいで、完全に体が泳いでいる、隙ありだ!


水が流れるような淀みない剣閃を続けざまに浴びせる――――――――!!




「ガッ!ゴアッ!!ガアアア!!」



最後の剣閃と共に鬼は消滅、・・・これで、あと、1体・・・!!



その刹那、右後方より空を断つ唸り声が俺の耳に―――――――――――――




「おおおるあああああ!!!」

「のおおおお!!!?」



――――――――前転して緊急回避。っぶねえ!!首から上持ってかれるトコだった!

野郎も後が無い、最後の追い込みに入ったか・・・・!!




「死ね死ねシネシネエエェ!!!」



剣閃が雨霰とばかりに降り注ぐ。

剣一本では対応しきれない、すぐさま武器を変更させる。

手にするはソーディアン・シャルティエ、そして短剣・クリスダガー。シャルティエは短剣とワンセットのようだ。


鋭い刃が、腕を、肩を、頬を掠めていく。

俺は視力・聴力・勘をフル稼働させ、とにかく捌くことと回避することに全力を注ぎこむ。 幾重にも連なる刺突を息つく間もなく、曲刀で捌き、短剣で逸らし、そして紙一重で避ける。




「――――――――こんのガキぃ、いい加減往生せえやァ!!」



―――――ついに焦れて大振りになった、チャンスだ!

俺の視線は切っ先を向いたまま、敵の渾身の一撃をかわす――――――――――!




「だぁるあああ!!!」

「っづぅ・・・!」



ぐっ・・・肩口を斬られたか・・・・・・だが、俺は止まらない!!


魔力を剣に込め、一気に間合いに踏み込む――――――――――――!




「―――――これで終いだァ!!」 




――――――双剣が輝きを放ち、その刃から灼熱の爆炎を引き起こす―――――




【粉塵裂破衝】!!!




――――――戦鬼は、地獄の豪炎に全身を飲み込まれる――――――




「うぐおおおおおぉおぉおおお―――――――――!!!?」








――――――――最後の魍魎はついに力尽き、ようやく泉に普段通りの静寂が訪れたのだった―――――――――






















「―――――や、やっと片付いた・・・・」


ここまでぶっ続けで戦ったのは初めてじゃないだろうか・・・?俺、もうビッチョビチョのボッロボロだよ。


とにかく終わったんだ、早いトコ学園長に報告して帰ろう・・・。

ココに来る前に渡された防水ケータイを取りだし、ワンタッチダイヤル。ポチッとな。






 プルルルルルルッ、プルルルルルッ・・・ガチャッ



《ほいほい、ワシじゃが?》

「ニノマエです。コッチは片付きましたよ」

《おお、御苦労じゃったのう》

「1人にやらせる量じゃなかったっスよ・・・、料金割増しでお願いします・・・」

《がめついのぅ・・・》

「コッチは多勢に無勢でボロボロのクタクタなんですよ、どんだけ冷や汗掻いたか・・・」

《わかったぞい、その件も含めて学園長室に報告に来てくれんかの?》

「・・・直帰しちゃだめですか?」

《駄目じゃ》



・・・・・メンドクサッ。



《・・・・フォフォ、ハズレじゃな・・・・》

「? なんか言いました?」

《い、いや、コッチの話じゃ》



・・・まあいいや、とっとと報告して早く帰ろう。


突かれた、いや疲れた体に鞭打って、俺は泉の畔に背を向け、一路ジジイルームへ歩くのだった――――――

















――――――そして同時刻――――――



「『dish』は『おさら』ね!」

「『お』!」
「『さ』!」
「「『ら』!」」



複雑に絡んだ明日菜の足とまき絵の手が最後の文字を同時に押さえる――――――




・・・・『る』の文字を、だが。




「・・・・・・・『おさる』?」

《フォフォフォ。ハズレじゃな》



――――石像ゴーレムがその手に持った大槌を振り上げ、一気に地盤を叩き割った!



「違うアルよーー!! 」

「アスナのおさる~~~!!!」

《い、いや、コッチの話じゃ》

「え、何が!!!?」




「「「「いやああああああ!!!」」」」






少女達は、暗い暗い地下深くへと落下していくのであった――――――























「―――――という訳で、服代とか超過労働料金、その他諸々口座に振り込んどいてください」

「・・・ホントに細かいのぅ」



俺in学園長室。今夜の報告もあらかた終わったし、コレでやっと帰れる・・・。




「それじゃ、俺はこの辺で・・・」

「ちょっと待っとくれ」


・・・まだ何か?


「ホレっ」



ほいっと投げ渡されたのは、褐色のビン。よくある栄養ドリンクの類だろうか?




「部屋に戻ってから飲みなさい、スッキリするぞい」

「・・・あざーっす!」



こういうのは値段どうこうじゃなくて、気持ちの問題だ。貰えれば嬉しいモンなんだよ。



「そいじゃ、失礼しまーすっ」



そうして、ようやく俺は家路に就いたのである。









「・・・・・ニヤリ」



・・・老人は、ほくそ笑む―――――――――――


























―――――いろいろあって、ようやく帰宅。



「今日は疲れた・・・・、マジで疲れた・・・・・」


近年まれにみる量を相手してしまった。早いとこ寝てしまいたい・・・・。


けどそうもいかない、濡れ烏の上に傷だらけ、このまま寝たらベッドが大惨事だ。

とりあえず傷の治療からやっとくか・・・。


氣を全身に滾らせ、気合い一発!!


――――――【集気法】!!


早送りのように傷が塞がっていく、何回見ても面白いなコレ。

これを何回か繰り返して、目立たなくなったらOKだ。



濡れ問題は風呂に入れば一発で解決だ。まあ、面倒だからシャワーでいいや。




――――――そんなこんなでシャワーを軽く浴びて、寝支度を整える。よく働いたなぁ・・・。




「っと、そうだそうだ・・・」



冷蔵庫から取り出すのは、帰り際に渡された栄養ドリンク。キリキリッとふたを開け、腰に手を当て、一気に飲み干す!



「んっ・・・んっ・・・ぷはぁ」



――――――んめぇ。風呂上がりには最高だべ。



・・・あ、そうだ。留守中にケータイに連絡来てたりしないかな――――――――




 グラリ・・・



「・・・おろ?」


なんだか、フラフラするな・・・、それに、急に眠たく、なってきた・・・・。


「疲れが、出たか・・・?」


びしょ濡れの、ままで、いたから・・、風邪、ひいた、のかも、な・・・。



「・・・確認は・・・明日で、いいか・・・・」




・・・そのまま、ベッドに倒れこむようにダイブ。布団の柔らかさが心地よい・・・。




「・・おや・・・すみ・・・・・・・ぐぅ・・」






――――――己の状態に何の疑問も持たずに、海里の意識はそこで途切れた――――――

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




戦闘描写は久しぶりです。



追記:

この稚拙な文を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

皆様の感想にもありましたが、確かに秘奥義が安くなっている感じがしたので内容を少々変更いたしました。

皆様の貴重なご意見は、この物語の重要参考物としてありがたく頂戴させていただきます。

どうぞこれからも、総統を長い目で見守ってやってください。







[15173] 漆黒の翼 #19
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/17 00:02


「―――――――ふむ、ネギ君達は眼を覚ましたようじゃな・・・」


テスト2日前の土曜日。ココは学園長室。

この部屋の主である翁は、図書館島地下深くに落ちたネギ一行が覚醒したのを遠見の魔法で確認していた。



「フォフォッ、事がウマく運んで何よりじゃわい」



そう、何を隠そう今回の図書館島侵入騒動はすべて、この老人が仕掛けた臨時処置なのである。

『成績不振者は小学生からやり直し』や『頭が良くなる本の存在』などの噂を流し、地下遺跡に誘き寄せ、ネギとバカレンジャー達に悪ふざけと言う名の試練を与えたのだ。

理由は単純明快、「面白そくなりそう」だから。

どうやら目論見通りネギに触発され、生徒達は勉強をヤル気になったようだ。

コレでイイ、後はタイミングを見計らって脱出させれば計画完遂である。




・・・だがこの計画を実行するためには1つの障害があった。そう、海里の存在である。


普段から見てもわかるが、彼は木乃香や刹那を始めとした友人連中を若干過保護とも言えるくらいに大切にしている。

その海里に「面白くなりそうだからネギ達を地下に落とすんでヨロシク」などと言えば、「ハイそうですか、ヨロシクです」なんて言うハズが無い。間違いなく止めにかかるだろう。
当然だ、そんなアブナイ真似などさせるわけがない。



そこで学園長の灰色の脳細胞は閃いた。

海里に連絡が行く前に個人任務を与え、事態を把握される前に眠らせてしまえばいいじゃないか、と。


結果は大成功。睡眠作用のある魔法薬を混ぜたドリンクを飲んだ海里は、見事にグッスミンである。しばらくは起きないだろう。







「・・・・しかしのう・・・」



ふと、老人の顔に思案の表情が浮かぶ。

今回の作戦にはもう一つの目的があったのだ。その内容と言うのも・・・




「やはり彼の魔法は興味深いのう・・・」



―――――そう、海里が使用している新種の魔法についてだ。


以前から、学園長はこの西洋魔術とは似て非なる魔法に興味をそそられていた。

この自称オリジナル魔法は、始動キーを必要とせず、今まで見たことの無い形態の術を多種多様に揃えている。協会の長たる学園長が眼を付けるのは当然ともいえることだ。

ともすればコレは魔法の大革命なのかもしれない、あわよくば独自に検証してみたい、などと、この爺様は考えていたりする。


そんな知的好奇心から、学園長は常日頃から遠見の魔法で彼の仕事ぶりを覗いたりしている。


だが、自身の術の希少さに気付いている海里は、あまり魔法を他人に進んで教えようとしないし、人前で大っぴらに使おうともしない。1つの任務で2回使えば多い方だ。

なので遠見の魔法で仕事の様子を見ても、その実態を掴めずにいるという訳だ。

彼の魔法を詳細に知っているのは、幼馴染の木乃香、相棒の刹那、そして練習場所を貸し与えているエヴァくらいである。

だが訊き出そうにも、木乃香と刹那が海里の秘密を簡単に漏らすような真似をするハズもないし、エヴァも訊かれて正直に答えるようなタマではない。どうすりゃいいんだコノヤロウ。



そこで学園長、またもや閃いた。彼に単独任務を与えれば、人目を気にせず思う存分魔法を使ってくれるのではないか、と。


その予想はある程度的中し、海里は普段よりも多くの術を使い勝利。見れば見るほど、その効果の多彩さに驚かされた。



「実に興味深い・・・。彼の魔法は、西洋魔術に革新を起こすやもしれんのぅ・・・」














そしてその頃、当の本人は―――――――――――――




「・・・お、おれは、悪くヌェ・・・・・、・・・なに、気にすることは無い・・・・・ぐぅ・・・・」




―――――――起きる気配が皆無だった。というか、どんな夢見てるんだコイツ・・・。

























「何ですって!?2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビに!?ど、どーして、そんな大事なこと言わなかったんですの、桜子さん!?」

「あぶぶっ!だって先生に口止めされてたからー」

「皆さん!テストまでにちゃんと勉強して最下位脱出ですわよ!その辺の普段真面目にやってない方々も!」

「げ・・・」

「仕方ないなぁ」

「問題はアスナさん達バカレンジャーですわね。とりあえずテストに出て頂いて、0点さえ取らなければ・・・」

「みんなー大変だよ!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に!!」

「「「え・・・」」」




そんな感じで、2-A教室が「やっぱダメかも」的絶望に満ち溢れたりした土曜日―――――――――
























――――――――そして放課後。




「ジジイ、入るぞ」



そういって、学園長室の扉をノックも無しに開け放つブロンド幼女ことエヴァンジェリン。茶々丸は先に帰したようだ。



「おおエヴァ、ようやく来たか。昨日は直帰しちゃったから、がくえんちょションボリじゃよ」

「気持ち悪いしゃべり方をするなクソジジイ、こうして報告に来てやるだけありがたく思え」



報告というのは、昨晩の海里の単独戦闘についてである。


通常は不測の事態に備えて数人のチームで任務に当たるのが一般的だ。

だが今回は海里が単独で行ってこそ初めて意味が生まれる。付き添いを付けてしまってはまた出し渋られるかもしれないのだから。


そこでこの老人は、海里の術について詳細を知る人物の1人であるエヴァンジェリンに、彼の近くで待機するよう依頼したのだ。

一応は海里にも配慮して情報の漏洩は最小限で済むようにし、彼女なら不測の事態に陥っても助け船も出してくれるとの考えからである。


そのハズだったのだが・・・・・




「かなり危ない場面もあったじゃろうに、少しくらい援護してやってくれてもええじゃないか・・・」

「あの程度で死ぬなら、奴はそれまでの男だったということさ」



・・・この幼女、海里が苦戦しようがヤバかろうが全然助けてくれなかった。



「本当の本当に死にそうになったら助けてやったさ。だが奴は完遂した、だから何もしなかった、それだけだ」

「それはそうじゃがのう・・・」

「それに、私も奴の多対一の戦闘を見るのは初めてだったからな、じっくりと見物したかったんだよ」



これでもエヴァは海里の事は気に入っている方だ。普段から練習の場を提供している彼女も、彼の魔法や剣技については興味が尽きないようだ。

それに、海里はエヴァの呪いを解く上で欠かすことのできないキーパーソン、そう易々と見殺しにしたりはしない。

あと、例のパイがポイント高かったようだ。「茶々丸がレシピ通りに作っても、あの味が再現できない」と零したこともある。

何故だかあのパイは海里以外はうまく作れないのだ、マーボーカレーも同様である。

ちなみに普通の料理はあまり得意じゃない、ネタ的な料理専門のシェフなのだ。普通の料理は木乃香に丸投げである。



「・・・ったく、せっかく私が習得の機会を与えてやったというのに・・・」

「なんか言ったかの?」

「別に」




エヴァの言う「習得の機会」とは何のことかと言うと―――――――――――――――














==================================================================











――――――――ある日の別荘――――――――





「――――――ふっ!はっやぁっ!てやっ!!」


エメラルドグリーンの海に面した砂浜で、一心不乱に剣を振るう紅眼の少年。言うまでも無く、俺である。


空を断つように木刀を薙ぎ、逆袈裟に斬り上げ――――――――


【散葉塵】!


舞い散る木の葉を斬るような連撃を放つ。その後も、今まで習得した剣技をおさらいするかのように連続して繰り出す。

【散葉塵】から、突き刺し、引き抜くように【散葉枯葉】に繋ぎ、間を置かず【虎牙連斬】、着地と同時に踏み込み【瞬迅剣】で眼の前の空間を刺突。

突きだした剣を振り上げ三日月型の剣閃を描き、勢いそのままに地を駆ける衝撃を繰り出す【魔神月詠華】を放ち、【爪竜連牙斬】で見えざる敵を流水の如く斬り付ける。

気合いを入れて木刀で3連斬、振り抜いた勢いで回転しながら跳躍し【飛燕連脚】、2段蹴りの直後に空中で体勢を整え、剣の切っ先に炎を宿し―――――――


【鳳凰天駆】!!


豪火を身に纏い、前方に突撃を仕掛ける。火の鳥が地を滑るように着地し―――――――――――――――――ここからだ!



「うおおおおおおおお―――――――――――!!!」



――――――刹那、数メートルの距離を瞬く間に駆け抜け、大地を大きく薙ぎ払う―――――――




だが・・・・・・・、






 プスン・・・・





・・・・砂浜からは、情けないような渇いた音しか響かなかった。



「・・・不発かよ・・・・」



潮風香るビーチで、俺はガックリとうなだれた――――――――――――





――――――――俺が剣やら斧やらを振り続けて、かれこれもう10年近く時が流れたことになる。

もちろん鍛練をサボったことなど無い、秘奥義にかける情熱は生まれたときから燃え続けているのだから。


今日はどうにかして秘奥義をモノにしようと躍起になっていたんだけど、どうにもうまくいかない。何がいけないんだろうか?

俺の腕が秘奥義の域まで達していない、と言う訳でもない。これでも一応、成功例はあるんだ。

だが敵も然る者、「秘」奥義と言うだけあって難易度は通常の奥義を遥かに上回る。いつでも好きな時に引き出せる訳じゃないみたいなんだよねえ。




「なかなか、ままならねえなぁ・・・・」

「何を辛気臭い顔をしているんだキサマは」

「お疲れ様です、ミサトさん」

「ケケッ」

「あ、エヴァさん達・・・」



姫が家来を引き連れ現れた。この鍛練は、御覧の幼女スポンサーの提供でお送りします。




「いや、秘奥義の練習してたんですけど、なかなかうまくいかなくて・・・」

「・・・秘奥義?」

「そうです。こう、カッコいいカットインがズバッと入るようなスゲーヤツです」

「カットインてオマエ・・・、ゲームのやり過ぎじゃないのか?」



・・・よくご存じで。さすがは【闇の福音】、その眼力は千里を見通すか。



「まったく、年甲斐もなく秘奥義だのなんだのって・・・」

「コレガ噂ニ聞ク『ちゅうに』ッテ奴カ」

「中二っていうな。いや年齢的には中二だけど、中二じゃない。仮に中二だとしても、中二と言う名のロマンだよ」

「わかったから中二を連呼するな、激しく鬱陶しい」


コレは失敬。


「どうぞ、冷たいお茶です」

「オマエは淡々としてるなぁ、チャチャマル・・・」



いや、気遣いはとてもありがたいんだけどね。なんか「コレで頭冷やせバカ」って言われてるみたいで腑に落ちない・・・。



「キミ達に足りないのは情熱ですよ。有名なあの人も言ってるでしょ、「もっと熱くなれ」って」

「ここで松岡修造を引き合いに出す意味がわからん」

「違いますよ、大黒摩季ですよ」

「どっちでもいいわ、そんなモノ。・・・で、その秘奥義とやらがどうしたって?」



軌道修正された。俗に言う『閑話休題』というヤツだ。



「反復練習は欠かしてないんですけど、ことごとく不発なんですよねえ・・・。完成形は頭に入ってるんですけど」

「ドンナ奥義ナンダ?」

「えっと、―――――が――――――したりする奴とか、――――――の後に――――――を放つ奴とか・・・・」



構想にある秘奥義を数例挙げて説明。技名も教えてあげた。



「・・・ことごとくクドイ技名だな」

「魔法の秘奥義もありますよ、――――――が―――――――になったりするのが」

「ほう?」



エヴァさんが喰いついてきた。やはり魔法の方に興味があるようだ。



「デ、1回モ成功シネエノカ?」

「できるにはできるんだけど、練習で成功したこと無いんだよなぁ・・・。テンションが上がりきらないって言うか・・・」

「モチベーションの問題なのか?」

「戦闘中にテンションが異常にハイになった時とか、なんていうか、脳にピキーンッて来たりするんですけど・・・・」




それと、あとは・・・・・・・




「・・・命の危機に瀕した時とか、突発的に出たりするんですけど・・・・・・」



“あの時”はマジで死ぬかと思ったからな・・・、火事場の馬鹿力って奴だろうか?







「―――――――ホォ、ジャア死ニソウナメニ遭ワセテヤルヨ」



 ビュオッ!



「どわああああ!!?」



殺戮人形がいきなりクビを狩らんと襲ってきた。なんとかギリギリで回避できたが・・・・。



「な、何しやがんだチャチャゼロ!?」

「死ニソウニナレバ秘奥義ガ出セルンダロ?」

「間違ってないけど完全に間違ってる!!!」

「遠慮スンナッテ、オレトオマエノ仲ジャネエカ」

「オマエはただ単に俺を斬りたいだけだろ!?」

「ですとろーいっ!!!」

「にぎゃああああ!!?」








――――――それからしばらく、夕陽の海岸でチャチャゼロとなぐり合った。



その日のチャチャゼロのこぶしは、随分とおしゃべりだったなぁ―――――――――――











==================================================================



















―――――――というやり取りがあったのだ。

そう云う訳で、エヴァは海里の秘奥義習得に協力してやろうと『あえて』手を出さず、ヤバい状況を演出してやったのである。

エヴァも割と秘奥義、できれば魔法の方を見てみたかったので、今回の監視を快く引き受けたのだ。結局、秘奥義は出ずじまいだったけど。




「・・・ふむ、こんなところかのぅ」

「じゃあな、私は帰るぞ」



その後大体の報告も済んで、エヴァが学園長室から退室しようとしたその時、ふとエヴァが足を止め口を開く。



「まあ、アイツが起きる前に言い訳の一つでも考えておくことだな」

「ほ?」

「キサマが如何に画策しようが、今回の件は必ず奴の耳に入る。あのバカレンジャー達がミサトに報告しない訳が無いからな」



・・・するとどうなるか?



「過保護なアイツのことだ。その原因がジジイの悪ふざけだと知れた日には、キサマはこの部屋ごと壊滅するかもしれんぞ」

「ふぉ!?」

「せいぜい上手い言い訳でも考えるんだな」



そんな不吉な予言と共に、エヴァはケラケラ笑いながら学園長室を後にした。




























 チチチチチ・・・・




「・・・・闇の炎に抱かれて、馬鹿な・・・・・・・・・・・・・ムニャ・・?」




敵が炎に包まれながら鳥の囀りのような悲鳴を上げている、という夢を見た・・・・。



・・・なんだ、夢か・・・、せっかく秘奥義が出せたと思ったのに・・・。


イイ感じにまどろんでいた俺は、カーテンの隙間から差し込む日の光に瞼をこじ開けられ目が覚めた。



「・・ふぁ~~~・・・・・、よく寝たべ・・・」



あの栄養ドリンクが効いたかな?寝起きだというのに身体の調子がすこぶるイイ。


気分良く部屋の壁かけ時計に目を向け、時刻を確認する。長針は12の直前、短針は7を指していた。7時か・・・、余裕だな、サッサと朝飯食って学校に行かなきゃ。

シャッと勢いよくカーテンレールを滑らせ、溢れんばかりに降り注ぐ日光を浴びる。

そして流れるように手を動かし、リモコンを拾い上げテレビを付ける。習慣は身体が覚えてるモンなんだね。





 プッ、プッ、プッ、ポーーーン



《――――おはようございます、モーニングサンデーの時間です》




「・・・・・・・・へ?」



今なんつった?サンデーとか言わなかったか?今日は土曜のハズじゃ――――――――




「・・・・いやいや、まさか?」



窓辺からベッドサイドまで一歩で移動し、ベッド脇のデジタル目覚まし時計を掴みあげ、食い入るようにディスプレイを確認する。





[ AM 7:01  SUN ]





・・・SUN?


SUNって、日曜ってことなんだよね・・・・・?






「・・・・・・うえええええええ!!!?」



え、ちょ、ええ!?もう日曜の朝!?30時間以上寝てたの!?どんだけ爆睡してんだよ俺!!?どうしよう、学校サボっちまったよ!!

と、とりあえず、無断欠席の連絡を刀子さんにしないと・・・。あぁ~、ヤだな~、あの人厳しいから、寝過ごしたなんて言ったらどんな説教が待ってるか・・・。


とにかく連絡しないことには始まらない、2つ折りのケータイを手に取りパカッと開ける。




・・・ん、着信履歴がある。発信者は、・・・セツナ?

時間は金曜の夜、俺が部屋を出てすぐか。何の用だったんだろう?







 コンッコンッ



と、ケータイの画面とにらめっこしていた俺の耳に、訪問者の到着を知らせるノック音が届く。

ノックするってことは、アイツらじゃないよな?



「どうぞー、開いてますよー」



ドア越しの訪問者に入室を促す。・・・あ、部屋の鍵も閉めないで寝ちゃったんだ。

俺の返答を聴いて、ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、意外や意外。



「失礼するぞい、ミサト君」

「学園長?」



珍しいにも程がある来客だ、学園長室に根をはったまま動かない存在だと思ってたのに。


・・・あ、そうだ!



「すんません学園長!うっかり30時間ほど眠っちまいました!!学校サボってすんません!!」



深々と謝罪。



「いや、気にするでない、ワシもオーバーワークを要求したからのぅ。刀子君には、ワシからちゃんと言っておくから安心せい」

「マジですか!?」



ありがとう学園長!融通が効く先生って大好きさ!!



「それと、ついでにもう1つ頼みたいことがあるんじゃが・・・」

「なんです?」

「ネギ君達を迎えにやって行ってくれんかの?」

「迎えにって、駅にですか?」



こんな朝早くに?



「いや、図書館島の地下遺跡じゃ」

「・・・・・は?」



あの島、地下遺跡なんて有ったのか・・・、いや、問題はそこじゃない。



「アイツなんでそんなとこに居るんですか?」

「金曜の晩にアスナちゃん達と一緒に侵入して落っこちたんじゃよ」



何やってんだアイツ・・・・・。



「『達』って、他に誰が居るんです?」

「楓君と古菲君と、夕映君にまき絵君、それと木乃香と刹那君じゃ」

「アイツらまで何やってんの!?」




話によれば、図書館島地下にある「頭が良くなる魔法の本」の噂を信じて侵入し、そのまま警備システムに捕まり地下で勉強中らしい。



「そんな本あるんですか?」

「ある訳無かろう」

「ですよね」



アイツらも学校サボったのか・・・。なんで止めなかったんだよコノカ、もしくはセツナ。

あとネギ、一番止めなきゃいけない奴が一緒に行ってどうすんだよ。止めろよ先生。



「その3人は他の5人の勢いに勝てなかったみたいじゃから、あまり責めんでやってくれ。ネギ君は寝ていた所を強引に連れ出されたようじゃし」

「あ、そういやセツナから着信あったのって・・・」

「自分たちじゃ止められんから助けを呼んだんじゃろうな」



・・・・はぁ、しゃーない。



「・・・わかりました、行ってきます」

「おお、助かるぞぃ」

「で、どうやって行けばいいんスか?」

「地下までの直通エレベーターがあるからソレを使うがいい。普段は地下から一階までの一方通行じゃが、特別に往復できるようにしておこう」



ホントすみません、ウチの馬鹿どもが御迷惑かけて。


学園長からエレベーターの場所を聴いて、いざ出発―――――――――の前に・・・。



「・・・あの、アイツらには俺からよ~く言って聞かせますんで、無断侵入のペナルティは・・・・」

「ふ、ふむ・・・。まぁ、今回は特別にお咎め無しにしておこうかの」

「あざーっす!!」



んじゃ、行ってきまーっす。











「・・・・・なんか、良心が痛むのぅ・・・」


魔法薬入りのビンを回収しながら、しゃがれた声を零す。ぬらりひょんにも、一応人並みに良心があったようだ。


「あ、そうじゃ、急いで石板の問題を撤去せねば・・・、ミサト君にバレてしまうからのう・・・」














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






だんだんリアルの方が忙しくなってきました。













[15173] 漆黒の翼 #20
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/17 00:29



 チーンッ





図書館島まで急ぎ足で赴いた俺は、指示された直通エレベーターに乗って地下深く一気に降り立った。そこから、更に螺旋階段を降りないといけないらしい。

ヒョイッと下を覗きこんでみるが、全然底が見えない。


石を落してみる、・・・・・・・・・・・しばらくしてカツーンって音が聞こえた。

コレ歩いて降りんのかったるいな・・・。




「誰か居るかーーーーー!!?」



 イルカーー、イルカー、イルカー・・・・・・




・・・・エコーはあれど、返事無し。


誰も居ないなら・・・・、まあ、いっか。


氣で足を強化し、斜め下の足場目掛けて飛び降りる―――――――――


―――――――――着地したら、反転してまた斜め下の足場へ跳躍、着地、反転、跳躍、着地、また反転して跳躍――――――――





――――――――そんな感じに、髭が似合う配管工の如きジャンプアクションで一気に底まで舞い降りる。

終点には1つの扉、『非常口』と書かれてあった。レッツオープン、よいこらせっと。



――――――眼の前を水が上から下へと流れている、どうやら滝の裏側に出たようだ。


・・・・・滝?



なんで図書館に滝があんだよ、本がシワシワ~ってなるじゃん、水気厳禁でしょうが。

前々から思ってたけど、この図書館も相当変だよな。何が変かって、まあ、いろいろだよ。



そんな風に異常な保存状態の本達を眺めながら歩いていると、1冊の本がコツンッと足にぶつかった。

なんじゃらほいと拾い上げてみると、何やら重厚な本だ。中身は・・・全ページ白紙。守護騎士が出てきて菟集したりするのかな?・・・なんてね。

手持無沙汰だったので、何の気なしにその本を持ったまま歩きだす俺。すると――――――――





「――――このように、cutは過去形も過去分詞形も変わらずcutとなる訳です、わかりましたかー?」

「「「「「ハーイ♪」」」」」




――――――――楽しげな授業の声が聞こえてきた。ノンキなモンだよ、まったく・・・。




「ではこの文を、長瀬さんに訳してもらいましょうか?」

「ニン・・、えーと、『ジョンは紙に書かれた文を読む。ソレには、「期限内に鍵を探すこと」と書かれている』、で良いござるか?」

「あー、ほとんど合ってますけど、おしいですね~」

「Johnの後のreadにsが無いから過去形だな、正確には『文を読んだ』が正解だ。前にも教えたろ?」

「あれま、初歩的なミスでござる」

「ケアレスミスには皆さんも注意してくださいね」

「勿体無いからな」

「「「「「ハーイ♪




・・・・・・・・・・・ん?」」」」」

「あ、総統や」




・・・・ようやく気付いたか。




「うわあああ!!? ミ、ミサトさん、いつの間に!!?」

「ど、どうしてアンタがココに!?」

「オマエらを迎えに来たからだよ、学園長に頼まれてな」

「ええ!?じゃあ侵入したのバレちゃってたの!?ど、どうしようネギ君!?」

「今回は特別にお咎め無しだとよ」

「よ、よかった~・・・」




全然よかねえんだよ。




「全員、そこに正座」

「「「「「「「「・・・・へ?」」」」」」」」

「だから、正座」

「えっと、ミサト・・・?」


「Hurry up!!」

「「「「「「「「イ、イエッサー!!」」」」」」」」



瞬時にビシィッと姿勢を正して正座する6人。



「おかしいな・・・、・・・みんな・・・どうしちゃったのかな・・・?」

「み、ミサト殿・・・?」


「日頃の積み重ねが大事だって、いつも言ってるよね・・・?」

「そ、総統の眼がツヤ消しに・・・!」


「教えてもらう時だけちゃんと言うこと聞いて、直前でこんな無茶するなら・・・、練習の意味無いじゃない・・・? ちゃんとさ、練習通りやろうよ・・・」

「わ、私は教わったこと無いんですけど・・・」
「わ、私も・・・」


そこ、うるさい。



「ねぇ・・・、俺の言ってる事、俺の教導、そんなに間違ってる・・・?」

「ヒィッ・・・・・!」


ネギがビビりまくり。



「わ、私は! 小学生からやり直しなんてしたくないから!! だから・・・!! 頭良くなりたいのよ!!!」


・・・義務教育なんだからそんなことありえんだろう。



「もう少し・・・、頭使おうか?」



とりあえず全員に一発ずつハリセンでクロスファイヤーしておいた。




そして、個別にお小言タイム。



「まずネギ、オマエが一緒になって侵入してどうすんだよ。教師なら生徒の暴走はちゃんと止めなさい」

「あぅ、す、すみません・・・・」



「アスナ、こんなトラップ満載の危険地帯に子供を連れ込むとはどういう了見だコラ」

「い、いや、ソイツも役に立つと思って・・・」

「役立てるなら、自分の部屋で勉強教えてもらえばいいだろうが」

「うう・・・」



「カエデ、クー、眉唾本に縋ってどうすんだよ。武術家が他力本願でいいのか?」

「ニン・・・」

「す、すまないアル・・・」



「コノカ、セツナ、コイツら止められなかったのか?」

「面目ありません・・・」

「ウチらじゃ力不足やってん」



「ユエ、オマエ頭いいんだから普通に勉強すりゃイイじゃねえか・・・」

「・・・勉強は嫌いなんです」



「・・・・・・・オマエは誰だ?」

「ヒドイ!? まき絵だよ、学園祭の時に会ったじゃん!!?」


ああ、悪い悪い。






「・・・ミサトさん、怒ってますよね?(ヒソヒソ)」

「大丈夫です、アレは怒ってるというより拗ねてるだけですから(ヒソヒソ)」

「拗ねる、でござるか?(ヒソヒソ)」

「今まで頼ってくれとったのに、急に眉唾の噂に鞍替えされたから寂しいんよ(ヒソヒソ)」

「寂しいって・・・、ミサトってそんなキャラだったっけ?(ヒソヒソ)」

「そうは見えないです(ヒソヒソ)」

「そう云うモンなんよ(ヒソヒソ)」

「意外アル(ヒソヒソ)」

「へ~(ヒソヒソ)」




「・・・・・全部聞こえてんだけど」

「「「「「「「「あ・・・」」」」」」」」




なんとなく恥ずかしかったから、もう1回ずつシバいといた。反省はしない。






「ところでミサトさん、その手に持ってる本は・・・」

「ん、ああ、ココ来る途中で拾ったんだよ」

「そ、それはまさしく、頭が良くなる魔法の・・・・!!」

「別に読んだトコロで何にも変わんないぞ?」

「ガーーーン!!」



全ページ白紙だから、読む以前の問題だけど。



「む、無駄足だったの・・・?」



バカレンジャー総しょんぼり。んなもんあったら誰も苦労せんわい。




「だ、大丈夫ですよ! 皆さんココでみっちり勉強してましたから、ちゃんと成果は出てるハズです!!自信を持ってください!!」



意気消沈のメンバーに激励を飛ばすネギ少年。ちゃんと先生らしいことしてんだね。




「・・・確かに、先程の英訳、以前の拙者なら苦戦は必至でござった」

「ネギ君、教え方ウマイもんね~」

「ん、だんだん自信が出てきたアル!」

「そうです! 魔法の本なんかに頼らなくても皆さんはやればデキるんですよ!!」



イイこと言うね、ネギ。できればココに来る前に言って欲しかったけど。




「ま、今は日曜の午前中。あと1日残ってるし、上に戻ってスパートかけりゃイイとこまで行くんじゃねえか?」

「よーし、皆さん帰りましょう!!」

「「「「「「おーーー!!」」」」」」


「ところで、総統はどうやってここまで来たんです?」

「地上からの直通エレベーターでな」

「そんなのあったですか!?」





――――――俺は探検隊一行を引き連れ、滝裏の非常口から螺旋階段を上り、エレベーターまでエッサホイサと向かう。



「この階段、何処まで続くの~!?」

「どうなってんのよミサト!!」

「俺に言うな、造った奴に言え」

「どうなってんのよ大工さん!!」



大工さんではないと思う。




















 チーンッ





「ん~!久しぶりの外だ~!!」

「空が青いアル!」



――――――ようやく地上に出た、太陽の光が眩しいっす。そういやあの地下遺跡、電気も無いのに明るかったな。アレも魔法だろうか?


時刻は午前11時を廻った所だ。最終調整には十分な時間があるだろう。




「んじゃ、各自部屋に戻って昼食タイムね。食べ終わり次第、勉強道具持ってミサトの部屋に集合ってことでイイ?」

「講師役が何人か必要やね」

「のどかとハルナに頼むです」



結局いつも通り俺の部屋で勉強会を取り行うことになった。なんかみんなが優しい目線だったけど気にしない、拗ねてないっての。




「頑張った奴にはマーボーカレー作ってやるぞ」

「「「「「いやっほーい!!」」」」」
「「「?」」」



餌づけ組とそうじゃない組で反応がきっかり分かれた。ふっふっふ、そうじゃない組よ、食った後でも同じ反応ができるかな?


・・・今度は「ピーチパイ」とか「ビーストミートのポワレ」とか作ってみようかな?












――――――そんなこんなで勉強会開始。





「ネギ君、ココは?」

「ソコはですね、円周角と中心角の関係を利用してですね・・・」

「カンケイを利用するって、なんだかイケナイ響きだね~♪」

「・・・ホラ、これでこの値を求めるんですよ」

「このアタイを求めてごらん! な~んてね♪」

「ハルナは少し黙るです」



「ふじわらのかたまり、・・・あ、間違えた、カマタリだ」

「私、聖徳太子って聞くと青ジャージ着た駄目男しか思い浮かばないんだけど」

「ああ、わかるわかる。松尾芭蕉もそうだよな」

「でもおかげで芭蕉の弟子の名前は覚えたアル」

「ソラ君だよね」

「漢字で書けるようにしとけよ?」

「『空』じゃないの?」

「『曾良』だよ」



「電流がコッチから来るでござるから・・・」

「左手の法則で・・・、あれ、左手ってどんな形だったっけ?」

「こうでござるか?」

「ソレ、『グワシ』だぞ」





「晩飯できたぞ~」

「「「「「いやっほーーいっ!!」」」」」

「・・・なんでこんなにテンションが高いですか?」

「そんなに美味しいんでしょうか?」

「食べればわかるんじゃない?」





「ほう、コレはなかなかだな」

「・・・マナ、なんで居るんだ?」

「御相伴にあずかりに来ただけだ。なに、気にすることは無い」



マナに空気フラグが立った気がした。そして本当にメシだけ食って帰って行った。




さー、ラストスパートだー、みんなガンバレー。



































 チュンチュン・・・・





・・・ん、朝か・・・。


しょぼついた眼を擦りながらデジタル時計を確認、・・・・うん、月曜だ。ちゃんと[ MON ]の表示が出てる。今は6時半か・・・。



顔をあげて辺りを見回してみると、乙女達が安らかにお眠りあそばされていた。


普段俺が使ってるベッドにコノカとセツナ、炬燵にカエデ・クー・マキエ、毛布かぶってソファで寝るハルナ・ノドカ・ユエ、そしてその脇で寄り添って船を漕ぐアスナ&ネギ。


・・・コイツら全員泊って行きやがったよ。気付いたら日付を跨いでいたんで、そのまま徹夜覚悟で勉強してたからなんだけど。

頼むから誰か危機感を持ってくれ、ココは男の部屋なんだぞ。無防備に寝てたらどうなるか解りませんよ?

・・・まあ、何もしないんだけどさ。


ちなみに俺はイスに座ったまま寝ました。若干、体が痛いです。



とりあえず洗面所で顔洗って、水を1杯クイッと飲み干す。



・・・さて、そろそろ起こさないとな。


おもむろに台所へ向かい、手にしたのは使い込まれたフライパン、そしてその相棒のお玉。


スーッと深呼吸。右手にお玉を、左手にフライパンを構え、そして―――――――――――









「―――――奥義! 【死者の目覚め】!!」




  ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!






「「うわわわわわ!!?」」
「「な、なに!!?」」
「空襲!?」
「謀反でござるか!?」


「ハーイ、グッモーニーン。爽やかな朝ですよー」

「何処が爽やかなのよ!!?」

「うう・・・、頭の中でガンガン音がリフレインされてます・・・」



とっとと起きて朝飯の支度を手伝いなさい。




・・・それにしても、ノドカまで泊っていくとは意外だった。絶対帰ると思ったのに。


「・・・ネギ先生と、お泊りしちゃった・・・・、・・・・・・・・きゃっ♪」



・・・ネギ目当てだったんだ、これまた意外。






――――――そして、朝飯も食ったところで・・・・




「「「「「「「「いってきまーーっす!!!」」」」」」」」

「おー、がんばれよー」



手を振って全員を送りだした。傍から見たら異様な光景だよな、男子寮の一室から朝早くに飛び出していく少女達って。


どうやら一旦女子寮に戻るらしい、間に合うのかねえ?







―――――――――あとは野となれ山となれ、ってか?























――――――――そして、数日後の結果発表。


各学年のテスト結果は毎回放送部が大々的に発表するコトになっており、その結果予想による食券トトカルチョも生徒達の娯楽の1つとなっている。なんて不謹慎な学校だい。




そして、気になる結果だが―――――――




《第1位!2年A組!! 平均点81.0点!!》




――――――なんと女子中等部2-Aは、万年最下位からの脱却どころか、学年トップの成績を獲得したそうな。ちゃんと遅刻しないで試験を受けたらしい。

セツナも、今回は今までよりもかなりイイとこまで行ったみたいだ。よかったよかった、優秀な部下を持って俺も鼻が高いよ。


・・・がんばったなあ、アイツら。




ちなみに俺はいつも通りの点数、クラスの順位もそこそこだった。
















「――――ふむ! まさか学年トップにしてしまうとは、アッパレじゃネギ君!!」

「ありがとうございます!!」



そして俺は今、学園長室でネギとジイさんの遣り取りを傍聴しているところである。別に付き添いでいる訳じゃない、俺は別件で用があるんだ。



「約束通り、最終課題は合格じゃ! 来季から正式な先生として働いてもらうが、精進は欠かさないようにのぅ?」

「ハイ、よろしくお願いします!!」



こうしてネギは4月から教師として正式採用が決まった、おめっとさん。




「ミサトさん、いろいろお世話になりました!」

「ま、これからもっと大変だろうけど、ガンバレよ?」

「ハイ!!」



ホントに大変になるぞ、主にエヴァさん関係で。今は黙ってるけどね。






「――――それでは学園長、失礼します!」



意気揚々と退出していったネギを見送り、部屋に残る俺とジイさん。さて、こっからは俺の用事だ。




「キミにもいろいろ迷惑かけてすまんかったのぅ」

「いえいえ、俺にかかる迷惑なら別に気にしてないですから」

「フォフォ、そうかそうか」









「―――――――ただ、アイツらを面白半分で地下に落としたことについては別ですよ」

「フォ!? な、なんのことかの?」



「地底図書館に落とされる前にやったツイスターゲームの番人の声が、明らかに学園長のモノだったとの情報をセツナからもらってます」

「はっ!?詰めを誤っ・・・!・・・あ、しまっ・・・!」



「俺と電話してた時も、リアルタイムで実況してましたね? 『ハズレじゃ』とか『コッチの話じゃ』とか」

「い、いや、それは・・・!」



「おかしいと思ったんだよ・・・、電話のタイミングが良すぎるし、いくら疲れてるからって30時間も寝るなんてさぁ・・・」

「ま、待つんじゃ! コレは子供のネギ君がちゃんと教師としてやっていけるかどうかの試練で・・・!!」



「その試練にセツナ達を巻きこむ必要性はあったのか・・・?」

「ちょ、ちょっと待つんじゃ!いやホントにちょっと待って!!頼むからそのスゴそうな武器をしまっとくれ!!」







――――――聞く耳持たん!!!



















「断罪の【エクセキューション】ンンンッッ!!!!」




「ぎょえええええええええ!!!!!???」



















――――――――その日、学園に奇妙な悲鳴が木霊したとのニュースが報道部から出たが、すぐに風化していったそうな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








第一次「ぶるぁ」降臨。









[15173] 漆黒の翼 #21
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/23 17:46



中学2年も終わりを迎え、春休みに入った。新学年に向けて張り切る者、年度を終えてゆっくり羽を伸ばす者など、過ごし方は様々だ。

桜も開花を迎え、眼にも美しい季節が到来したことを知らせている。エヴァさんは花粉症で辛そうだけど。


そんな早春の某日、俺は――――――――――――







 ヒュウウウウゥゥゥウゥゥ




「・・・寒ぃ・・・・・眠ぃ・・・」




――――――――早朝から、開店前のゲームショップのシャッター前で行列に身を投じていた。春とはいえ、朝はまだまだ肌寒い。


なんでこんな所に居るのかっていうと、ゲームを買うためだ。それ以外に何があるってんだコノヤロウ。

ただ、俺がやるために買うんじゃない。友達に、ダイチとセイウンに頼まれてお使いに来ているんだ。


なんでも新感覚の恋愛シミュレーションゲームが出るとかで、発売の相当前から意気込んでいたんだけど、うっかり予約するのを忘れてしまったと言うのだ。

しかも発売当日は2人とも都合が悪く店まで来れないとかで、「じゃあ代わりに買ってきてくれ」と俺にお鉢が回って来たという訳だ。

何で俺がと渋ったが、今度『JoJo苑』で奢ってくれると言うので快く承諾した。そんなにこのゲームに懸けてるのかアイツら・・・。


・・・しかし、当たり前と言えば当たり前だが、並んでんの男ばっかだな。むさ苦しいったらありゃしない。






―――――――早朝の寒さと野郎共の熱気という相反する二重苦に苦しめられること数時間後。午前9時58分、開店直前。



「お待たせいたしました! 間もなく『らぶたす』販売開始です! お1人様につき1本とさせていただきますのでご了承ください!」



ありゃま、じゃあ2人分買えないじゃん、どうしよう・・・。

周りの野郎共は鼻息荒くして入口を凝視してるし・・・・・・今なら大丈夫か?


寒さ対策用に持ってきていた毛布を深く被り直し、その中で手早く印を組む。



・・・忍法【写身】ッ(ボソッ)」



ポンッという小気味いい音と共に、毛布の中に俺と瓜二つの分身体が姿を現す。そしてチョチョイと氣の量を調節し、現在の俺よりも若干年上風味の姿にする。

そんでもってバサリと毛布を取っ払って、あたかも最初から2人いましたよ風な空気を装う。完璧だ。



「・・・・あれ、2人も居ましたっけ?」

「ずっと毛布の中で縮こまってたから、わからなかったんスよ」
「そうそう、俺達ココから動いてないし」

「そう・・・ですか・・・?」

「お待たせいたしましたー!! 開店でーす!!」



後ろの人に少し不信感を与えてしまったが、店員の声に反応して気が逸れたからセーフだろう。・・・そこ、ズルイとか言わない。

・・・コレ15歳以上対象のゲームだから、気取られないようにしなくちゃ。



幸い店側は商品配布にせっつかれて年齢確認などは行わなかったので、俺達1人は無事に2本ゲット、そして焼き肉ゲットだぜ。


・・・っと、マズイ、そろそろ分身が解けそうだ。あんま時間持たないんだよコレ。そこいくとカエデの分身は見事だ、出すも増やすも自由自在だもの。

足早にトイレへと駆け込み個室に飛び込む、傍から見たら「今にも漏れそうな兄弟」ってところだろうか。

そしてドアを閉めたと同時に、分身は煙と化して消え去った、アブネェ・・・。



ついでだから本当に用も足して、未だに野郎がひしめくショップを後にする。店の外からでも異様な熱気が視認できるな・・・。










――――――さて、頼まれた用事も済んだことし、これからどうしようかな・・・。



「あれ、総統?」

「あ、ホンマや」



何の気なしにボーッと歩いていた俺に声をかける2つの声。その正体は言わずもがな、コノカとセツナだ。コイツらもお出かけか。

くるっと振り返って返事する俺。



「よぉ、偶然だな」

「買い物ですか?」

「友達に頼まれてたゲーム買いにな、ソッチは?」



ゲーム屋のロゴ付ビニール袋を見せ、コチラも訊き返してみる。



「ウチらも買い物や、ゆうてもウィンドウショッピングやけど」



要するに2人で遊んでるってことね。仲好きことは美しきかな。



「これから予定とかあります?」

「今日はコレ買って終わりの予定だな」

「暇なら一緒に行かへん?」

「そうだな、んじゃ行くか。荷物運びくらいはしてやるよ」

「ほなら、れっつごーや♪」



どうせ暇だったし、2つ返事で承諾して2人に付いていくことにした。

道中、ショーウィンドウにディスプレイされている服を見ながら似合う似合わないの意見を出し合ったり、街ゆく人を勝手にファッションチェックしたり、道すがら雑談に興じたり。

雑談の内容はと言えば―――――――――――



「―――――そうゆーたら、終了式の日にクラスで『学年トップおめでとうパーティー』やったんやけどな」

「相変わらずあのクラスはそう云うの好きだな、それで?」

「千雨ちゃんがめっちゃかわえー格好してきたんよ」

「チサメが?」



騒いでる場所には行きたがらなそうな奴なのに?



「いつもその手の集まりには来ないんですけど、ネギ先生が部屋から引っ張ってきたみたいなんです。みんなで楽しく集まろうって」

「いかにも熱血先生っぽい行動だけど・・・、引っ張ってきたってことはチサメが自主的に可愛い服着てたってことだよな?」

「まあ、そう云うことになりますね。ネギ先生が着換えさせたわけも無いでしょうし」



地味目な格好ばっかしてんのかと思ったら、結構そう云うの好きなのか・・・・、意外だ。



「総統は長谷川さんを名前で呼んでますけど、親しいんですか?」

「いや、1年の時に1回電器屋で世話になったことがあるってだけで、そこまで親しいワケじゃねえよ」



その後学園祭でまた会ったけど、それからほとんど交流ないな。



「その時の写真あるけど、見る?」

「朝倉さんが撮った奴ですね」

「見して見して」



コノカが手帳に挟んである1枚の写真を俺に渡す、どれどれ・・・・・。



「・・・・・ん?」

「どうしました?」

「なんか・・・どっかで見たことあるような・・・?」

「せやから千雨ちゃんやて」

「そうじゃなくて、こう、チサメじゃない誰かに・・・」



何処で見たんだっけかなぁ・・・?



「・・・・わからん」

「他人の空似じゃないですか?」

「かもな」



思い出せないってことは、それほど大したことじゃないだろう。気にしてもしょうがなかんべ。



「ところで、何のゲーム買うたん?」

「情操教育に大変よろしい類のものだ」

「脳トレですか?」

「コレ」



袋からブツを取り出してパッケージを露わにする。



「・・・恋愛ゲーム?」

「えっちぃヤツ?」

「いや、清い交際だと思う」



物珍しそうにしげしげとパッケージに視線を送る思春期少女2人。興味あんのか?



「アプローチかけて女の子をオトすんやな?」

「序盤でオトして、恋人気分を満喫するのがメインなんだとさ」

「「へぇ」」



・・・・1回やらせてみようかな。なんとなく、コイツらハマりそうな気がする。

・・・ソレはソレで危険だからやめておくか。








――――――――それなりにいろいろと見て回り、いつの間にか時刻は午後1時を廻っていた。そろそろ昼飯にしようと提案し、近くのファーストフード店でバーガー類を注文することに。

ハムハムとチーズバーガーを口にするコノカと、モシャモシャと照り焼きバーガーを食すセツナを眺めながら、俺もビッグなバーガーにガツガツ噛り付く。実に平和だ。



「行きたいトコはあらかた行けたし、どないする?(ハムハム)」

「そうですねぇ・・・・(モシャモシャ)」

「セツナ、鼻にタレ付いてるぞ(フキフキ)」

「あ、すみません総統」

「総統、なんか見たいものある?」

「いや、特には・・・・」



・・・まてよ・・・?



「そういや靴が欲しかったんだよな、今履いてんのがボロくなってきたから」



俺の場合、荒仕事もあるから傷むのが早いんだよ。



「靴買うなら、夕方の方がいいですね」

「まだ昼過ぎだし、時間余っちまったな」

「どっかで時間潰そか?」



となると、何処へ行ったものか・・・。



「映画でも観に行くか?」

「あ、今ちょうど面白いのやっとるって、桜子達がゆうとったえ?」

「じゃあ行きましょうか」



異論は無いようなので、一路映画館へ。



















――――――着いた着いた、ココが映画館『麻帆ミヲン』だ。



「で、その面白いのってどれだ?」

「う~ん・・・・、あ、アレや!」



数ある客引き用の宣伝看板の中で、コノカが指さしたのは―――――――



「・・・・『彼奴の怨念3』・・・・・?」



――――――――タイトルからして、いかにもなホラー映画。題名の『3』を見るに、シリーズ第3段のようだ。




「迸るほど怖面白い、って言っとったえ」



ニコニコしながら事前情報を伝える娘っ子。



・・・・オマエ、ワザとだろ?




「・・・俺がホラー物ダメだって知っての狼藉かコラ」



何を隠そう、俺はこの手のホラー映画がビックリするほど苦手だ。

具体的に言うと、『怨霊』とか『呪怨』というフレーズがダメだ。サスペンス系や殺戮系は平気なんだけど・・・。




「私達だって人のこと言えないじゃないですか」

「バカ、妖怪は触れるけど怨霊は触れないんだぞ。襲われたら手の打ちようが無いじゃねえか」



悪霊の呪いなんてどうやって迎え撃てばいいんだよ、あんな理不尽なモン。



「そろそろ克服せんと、成長できんよ?」

「このちゃん、スパルタですね」



1個くらい苦手なモノがあったっていいじゃんよォ、他のにしようよォ。ほら、あのSF物とかイイじゃん、3Dで飛び出すんだってよ。



「『彼奴の怨念3』も3Dやよ?」

「・・・怖さ倍増じゃんかよ」



そんなモンに3D技術を使わないでくれよ・・・。



「だいじょーぶやって、ホラ行こ?」

「私も居ますから、ね?」



「ね?」じゃねえよ、オマエは俺の保護者か。


抵抗むなしく、元気な幼馴染2人にズルズル引き摺られ、俺は戦慄の館へと足を踏み入れてしまったのだった―――――――










「―――――あ、ポップコーン下さーい。塩キャラメルで」
「俺、塩チョコな」
「私は塩バターです」







――――――――怖くてもコレは欠かせない――――――――
























――――――――上映終了、外に出てきました。・・・・太陽が眩しいぜ。



「・・・・た、大したこと、無かった、な」

「・・・じゃあ、なんでさっきから私の手を握ったままなんですか?」

「・・・今はオマエを離したくないんだよ」

「もうちょい雰囲気のある時にゆうたらカッコええのに」

「・・・うるへぇ」



理屈じゃねえんだ、怖いモンは怖いんだよ、魂って奴が実在するって解ってるから尚更な。


ソレはともかく、映画のおかげでそれなりに時間も潰せた。

とりあえず少し落ち着こうかと、近くのカフェでなんか飲むことに。

注文の品を持って開いてる席に腰を下ろす、よっこいしょういちっと。



「けど、3人で映画に来たんも久しぶりやね」

「昔はよくドラえもんとか観に行ってたっけな」

「懐かしいですね、総統が『帰ってきたドラえもん』観て号泣したりして」

「・・・そう云う思い出は封印しとけよ、オマエらだって泣いてたじゃん」

「総統程じゃなかったですよ」



だってよぉ、もう会えないと思ったドラえもんとのび太がウソのおかげで会えるシーンなんてもう・・・・、あ、やベッ、泣きそう・・・。



「ウチは『のび太の結婚前夜』が好きやな」

「『ぼくの生まれた日』もイイですよね」

「『おばあちゃんの思い出』も捨て難いな」




――――――とまぁ、しばしドラえもん談義で盛り上がり、そろそろイイ時間になってきたので目的の靴屋に向かうことにした。











――――――着いた、『XYZマート』だ。パクリ臭い店名だが、スニーカーから草鞋まで、品揃えはバッチリだ。

ぞろぞろと入店し、フラフラと店内を物色して回る。



「コレは、・・・なんか違うな、俺の趣味じゃない」

「あ、コレ可愛えなぁ・・・」

「・・・うわっ高い・・、やはりイイ物はそれなりか・・・」



他2人も好き勝手に見て回っているようだし、ゆっくり選ぶとするかねぇ。


・・・・・お、このミリタリーブーツかっけえな。値段は・・・・・うへぇ、3万超えてら。


仕事に履いてくなら丈夫そうな奴がいいな。この運動靴は・・・うん、耐久性ありそうだ。






―――――しばらく見て回った結果、軽くて丈夫そうなヤツ1足と、気に入った安めのミリタリーブーツ1足を購入することに。

会計も終わり、ツレを回収するため店内を探索。どこかなっと、・・・・・・・お、いたいた。


コノカはある1点をじぃ~っと見ている。視線の先には、1つの商品が。



「・・・・ソレ、欲しいのか?」

「うーん・・・」



別に買ってやってもいいんだが・・・・、一言だけ言わせてもらおうか。



「歯が20センチもある一本下駄なんていつ使うんだよ」

「なんか面白そうやん」



ノリで買い物すんな、要らんもんが増えるだけなんだから。選ぶんならもっと女の子らしいものにしなさい。


んで、セツナは・・・・・。



「・・・・・・」



・・・靴の中敷きを凝視してた。



「・・・そんなん欲しいのか?」

「あ、いや、迷ってうちにいつの間にかココに・・・」



・・・オマエは、もうちょいノリと決断が必要だな。










――――――店を出たときにはもう日も落ち、カラスがカーカー鳴いていた。



「そろそろ帰っか」

「あ、夕飯の買い物せんと」

「お供します」

「んじゃ俺も」

「ジャムも切れとったなぁ、あと蜂蜜も」

「ハハァ、蜂蜜だァ!!」

「どしたんですか急に」

「いやなんとなく」

「そういえば、またお見合いの話が来とるんよ」

「ジジイも懲りねえなぁ」

「断っちゃいましょうよ」





他愛も無い話をしながら、俺達3人はまた再び歩き出す。








―――――――夕日が【漆黒の翼】を照らし、3つ並んだ影を映していた。


―――――――それは、出会ったときから誰1人欠けることなく、互いに支え合ってきた影。


――――――――影の大きさは変わった、それでも変わることの無い影。








こんな平和な日々が、いつまでも続くといい。

この幸せを、ずっと護っていきたい。


俺は、心からそう思った。





















――――――――激動の中学3年が、今、幕を開こうとしていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




副題「【漆黒の翼】の休日」。大きな動きなんてゴザイマセン。




ありがとう、20万HIT!!!







[15173] 漆黒の翼 #22
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/03/05 18:23


―――――――新学期のスタートが秒読み段階にまで迫った4月初頭。桜もすっかり見頃を迎え、能天気が集まるこの街の住人がポカポカ陽気で更にボーッとしてしまう時期。


そんな麗らかな小春日和の中、俺達【漆黒の翼】の3人はエヴァさん邸にて角を突っ突き合わせて会議を行っていた。議題はズバリ、【登校地獄】の解呪についてである。



「じゃあ予定通り、あのプランで行くということで」

「そう何度も言わなくてもわかっている、シツコイぞ」



俺の度重なる確認に、眉間にしわを寄せて答えるエヴァさん。

だって、念を押しとかないと絶対なんかやらかすじゃないか。この人ってば、すぐ物騒な方向に話を持っていこうとするんだから。



「それで、決行はいつにするん?」

「次の土曜辺りが妥当だろ」



なんにせよ、次の土曜だ。まずはエヴァさんの呪いを解かないことには始まらない。

部屋の窓から見えるピンクの花びらを見ながら、俺は気合を入れ直す。


・・・と、





 チーーンッ





―――――――オーブンレンジが焼きあがりを告げる音を奏でた。ついでに台所を借りてオヤツを作っていたのだよ。

ソソクサと使い勝手の良いエヴァ邸のキッチンに向かい、ブツの具合を確認する。・・・よし、でけたでけたっと・・・・。



「新メニュー『ピーチパイ』、かーんせ~い」

「「「おお~~」」」



―――――――その後は、試食会でまったりまったりと相成りました。うむ、上出来じゃ、レパートリーが増えたぜ。
























――――――――そして、新学期。

教室の札が一斉に掛け換えられるこの日、2-A教室は3-A教室として新たなスタートを切る。

そして、その教室の中でも・・・



「3年、A組!!」

「「「「「「「「「「ネギ先生ーーー!!!!」」」」」」」」」」



A組女子が有名なセリフをパクってまで熱烈歓迎する担任教師、その名は―――――――



「――――改めまして、正式に担任になったネギ・スプリングフィールドです! これから1年間、よろしくお願いします!!」

「「「「「「「「「「はーーい! よろしくーーー!!」」」」」」」」」」



ついにネギ少年の正式な教師としての生活が始まった。

生徒達からの反応はいたって良好、若干不安も残っていたネギも満面の笑みを浮かべ、これから先の修行に希望を抱いていた。


願わくば、まだ親しくなっていない生徒たちとも交流を深めたいなぁ、とか少年がノンキに考えていると――――――――









 ・・・・・ゾワッ


「!?」





――――――突如、背筋に氷を放り込まれたような悪寒が駆け抜けた。



その悪寒の正体は視線。そしてその年端もいかぬ少年教師にニヤリと妖しげな視線を注ぐのは、ブロンドの美少女エヴァンジェリン。


ハッキリ言って、ネギにはその視線の意味が理解しがたかった。自分はこの少女とはほとんど接点を持っていない、ならこの舐めるような視線はなんなんだろうと。


ネギが出席簿に書かれた前担任からのアドバイスを読んで首を傾げていると、1人の女教師が教室の扉を開いた。お馴染みの教員、しずなである。



「ネギ先生、今日はこのクラスが身体測定ですが・・・」

「あっ、そうでした! み、皆さん、今すぐ脱いで準備をしてください! ・・・・・・あっ!」



・・・己の失言に気付くも、時すでに遅し。



「「「「「「「「「「ネギ先生のえっち~~!!」」」」」」」」」」

「す、すみませーん! 間違えましたーーー!!」



慌てて教室から飛び出すネギを、溜息混じりに見届ける2人の少女。1人は、保護者的な意味で明日菜。もう1人は、落胆の意味でエヴァだ。



「・・・まったく、本当にアレはあの男の子供なのか?」



あんな子供に自分の運命を握られているのかと思うと、エヴァは何だかやるせない気分になった。








「では、まずは身長を測るので準備してくださーい」


「・・・・・・・はぁ・・」




―――――――そして成長しない己の身体に、更にやるせなくなった。






























―――――――あっという間に、金曜日の放課後。


辺りはすっかり日も落ち、月が顔を出していた。放課後というには少々遅い時間である。



「ひゃー、すっかり遅くなっちゃったーー!」

「早く帰ろうぜ兄貴、姐さん達が心配してるっすよ」



街灯に照らされた道を小走りで駆ける1つの人影。

背丈より長い杖を背に負ったその影の主・ネギは、家路を急いでいた。そしてその肩にちょこんと乗っかるもう1つの小さな影がネギを急かす。


コイツはオコジョ妖精の『アルベール・カモミール』、新学期2日目に現れた「自称・ネギの舎弟」である。

元々イギリスに居たハズなのだが、いろいろあって日本に居るネギを訪ねてきたというのだ。その理由は推して知るべし。


オコジョという愛くるしい姿に騙される無かれ、中身はエロ満載の中年オヤジ、ユーノ君と双璧をなす淫獣ネズミだ。

しかもコイツは、ネギのためと称して隙あらば【仮契約】させて仲介料を頂こうとするトラブルメーカーでもある。

つい最近も、のどかを勝手に呼び出して【仮契約】させようとしたりしたのだが、その時は明日菜が割って入って事なきを得た。


一応、カモの存在は刹那の口から海里の耳へ届いているが、そのことについては海里達は知らない。



ソレはソレとして、ネギが女子寮に向かうべくスタコラ走っていると、1本の街道がネギらの眼の前に現れる。別に突如として現れたわけではない、ココは前からある通学路だ。

桃色の木々が街道の両脇に連なるココは、『桜通り』と呼ばれる名所。

ネギも、その見事な美しさに一旦足を止める。夜桜は昼間のモノとは違う趣があるものなのだ。





「・・・うわぁ、キレーだなあ・・・」

「夜桜ってのも、なかなか乙なモノッすね」


確か日本では『ハナミ』っていう野外パーティーがあるんだよね、とかいう日本知識を思い出しながら、散りゆく桜をしばし眺めていると――――――――――









 ・・・コツッ・・コツッ・・コツッ・・・





――――――並木の陰から現れる2つの影が顔を出した。こりゃいかんと、カモは口を噤む。





「・・・やあ、イイ夜だな、ネギ『先生』」

「こんばんは、ネギ先生」

「あ・・・、エヴァンジェリンさん、それに茶々丸さんも・・・」



誰かと思えば、自分のクラスの生徒ではないか。こんな時間に何しているんだろうと、ネギは担任として少々気になって訊いてみることにした。



「どうかしたんですか? もう遅いから早く帰った方がいいですよ、夜道は危険ですから」



10歳の子供に言われたくないセリフだが、金髪の少女は意に介さず言葉を紡ぐ。



「なに、先生に少し話があってね、待っていたのさ」

「僕に話、ですか?」



何の用だろうと考えた次の瞬間、彼にとって驚くべき言葉が彼女の口から飛び出した。










「―――――魔法使いの修業は上手くいっているかい、『ネギ・スプリングフィールド』?」

「え!?」



それは、言外に「オマエの正体を知っているぞ」と言われたのと同じことだった。





「な、なんで知って・・・、・・・じゃない、・・・な、ナントコトデショウ?」



思わずポロっと言葉が漏れたが、なんとか必死に誤魔化そうとするネギ。そんなんで誤魔化し通せる奴がいたら見てみたい。

まあ、別にエヴァはネギの正体について言及しに来たわけではない。とっとと本題に入るために言葉を続ける。



「別に隠す必要などない、貴様の正体など百も承知だ」

「え・・・? そ、ソレはどういう・・・?」

「あ、兄貴、きっとコイツらも魔法関係者っすよ!」

「ちょ、ちょっとカモ君! 人前でしゃべっちゃ・・・って、ええ!!?」



コレは意外にも程があると言わんばかりにネギはもう慌てっぱなし、えらいこっちゃ状態だ。



「あ、アナタも魔法使いなんですか、エヴァンジェリンさん!?」



その問い掛けに、妖艶な幼女はニヤリとした笑みで応える。ネギはソレを肯定の意味だと捉えた。

そしてもう1人、この状況でも表情がほとんど変わらない少女の方へと向き直った。



「じゃ、じゃあ茶々丸さんも!?」

「ハイ、マスター・エヴァンジェリンの従者です」

「え、エヴァンジェリンさんのパートナー!?」



さらなる新事実発覚、こんな身近に魔法関係者がいたとは思わなんだネギは驚きのバーゲンセール状態だ。



「そ、それで、僕に話って・・・?」

「なに、“奴”の息子たる貴様に用があるだけのことだ」

「と、父さんを知っているんですか!!?」

「ああ知っているとも、奴とは浅からぬ因縁があるんでな」



父親『ナギ・スプリングフィールド』の事を知っていると聞くや否や、前のめりになって喰い付いてくるネギ。

行方不明の父親を探すことは、彼の大きな目的の1つなのだ。そのため、彼には手掛かりがあるとわかると脇目も振らずに猛進してしまうという悪い癖があった。



「教えてください! 父さんは、父さんは今何処に!?」

「仮に知っているとしても、そう簡単にホイホイ教えたりなどするものか」

「ど、どうして!?」

「私はイジワルなのさ、『悪の魔法使い』だからな」


「やいやい! テメェら兄貴に何の用なんだ!? 事と次第によっちゃあ、このカモミール様が黙っちゃいないぜ!?」

「・・・ほう、オコジョ妖精如きが【闇の福音】に刃向かう気か? (ギロリ)」

「ヒィィ!!?」


「マスター、穏便に事を済ませるはずでは?」

「む、そうだった、つい反応が面白くて忘れていた」



つい興が乗ってしまい本来の目的を忘れかけてしまったが、従者茶々丸のツッコミにより思い返したエヴァ。今日はネギをからかうのが目的じゃなかったんだよな。



「これ以上荒立てるとアイツがウルサイからな、さっさと用件を済ましておくか・・・」



ようやくエヴァが本題に入ろうとしたその時――――――――







「あ、いたいた・・・ネギー!!」



――――――通りの向こうから、ツインテールを揺らしながら掛けてくる健脚少女が1人やってきた。



「アスナさん! どうしてココに・・・?」

「アンタが遅いから迎えに来たのよ。 それよりアンタなにやってんのよ、またなんかやらかしたんじゃあ・・・って、エヴァンジェリンさん? それに茶々丸さんも、一体みんなで何してんのよ?」

「またウルサイのが来た・・・、いや、かえって面倒が省けたか・・・」



一応は明日菜にも関係あることなのでちょうどいいと思い、話を切り出そうとする。

・・・が、





「さて、役者も揃っ「姐さんちょうどいい所に! 今スゲェヤバいんスよ!!」


「おい神楽坂明日菜、貴様の「って、アンタ、人前で喋ってんじゃないわよ!? バレたら大変なんでしょ!?」


「おいコラ、人の話を聴「違うんです! エヴァンジェリンさんも魔法使いだったんですよ!!」


「だから話を「ええ!? そうなの!!?」




「ええい、ヤカマシイ!! 話を聴かんか!!!」

「マスター、そんなに興奮されては血圧が・・・」



もともと話をややこしくしたのは自分なのに何て言い草だと思わなくもないが、茶々丸は華麗にスルーして己の主を宥める。



「・・・ふんっ、まあいい、少しだけ教えてやる。
私は貴様の父にふざけた呪いを掛けられて以来、この地に縛り付けられ、魔力も封じられた挙句、15年間も中学生をやらされてるんだよ!」

「父さんに呪いを!?」

「15年って、エヴァちゃんて歳幾つ!?」

「マスターは600歳を超えています、真祖の吸血鬼ですので」

「真祖の吸血鬼ィ!? そんなヤベェ奴だったのかよ!?」

「600歳!? エヴァちゃんてお婆ちゃんなの!?」

「誰がお婆ちゃんだ!」

「略してエ婆ちゃんね!!」

「略すな!!」

「マスター、話が逸れています」



明日菜のピントのずれた問答にムキーッと地団太踏みながら怒るエヴァだが、子供が駄々こねているようにしか見えないのが少々気の毒だ。





「とにかく、貴様の父親の事や呪いの事も含めていろいろと話がある! 場所を設けてやるから、明日の土曜、私の家に来い!! いいな、絶対だぞ!?」



そう言うだけ言ったら、エヴァは背を向け肩を怒らせながらズカズカと帰ってしまった。茶々丸もぺこりと1回お辞儀をしてエヴァの後を追って去ってしまう。


ネギたちは呆気にとられ、そのまま2人の後姿を見送ってから、お互いに顔を見合わせる。





「えっと・・・・・、結局何なのよ?」

「わ、わかりません・・・、でも、父さんの事を知っているって言うなら・・・」

「で、でも兄貴、吸血鬼相手にどうする気だよ?」

「と、とにかく、話し合い、かな・・・?」




少年、少女、オコジョは、桜舞い散る並木通りでしばらく思案に明け暮れた―――――――――

















《・・・という訳だから、明日は遅れずに来い、いいな?》

「わかってますよ、エヴァさん」



ネギ達をちゃんと招待したとの報告をエヴァさんから受けた。いよいよ明日か・・・。



「上手くいくといいですね」

《「いいですね」じゃない、絶対に成功させるんだよ》

「ハハッ、そうでしたね」

《なんだ貴様は、ちゃんとヤル気があるのか!?》

「当然じゃないっすか、俺だって2年近く解呪に協力してるんですから、最後までやり通しますよ」

《ふん、それならいいが・・・》

「トモダチを助けたいと思うのは当たり前のことっすよ」

《オマエと友達になった覚えは無いが?》

「そんな!? ヤルだけヤってポイするって言うの!!?」

《気色悪いこと言うな!!》

「冗談すよ、長い付き合いじゃないっすか」

《たかだか2年が長いものか》

「まぁ、エヴァさんからすりゃそうでしょうけど」

《貴様など、せいぜい茶飲み仲間程度だ》

「あ、『仲間』とは思ってくれてるんだ、やったね!」

《やかましい!》



その後しばらくしてから無駄話に見切りをつけ、電話を切る。・・・今日は早めに寝よう。


・・・明日は頑張ろう―――――――――――――

























――――――――翌朝、女子寮――――――――




「兄貴、ホントに行く気かよ!?」

「うん、エヴァンジェリンさんが父さんのこと知ってるって言うなら、話を聴かなくちゃ」



使い魔カモの心配をよそに、ネギは身支度を整えエヴァ宅に向かう準備をしていた。

ちなみに木乃香は「準備がある」とか言って朝から出かけているため、カモも気兼ねなく喋っている。

慌ただしいカモの様子に、明日菜が問いかける。



「そんなに慌てなくてもいいんじゃないの? 吸血鬼、だっけ? そんなにアブナイの?」

「危ないなんてもんじゃねえっすよ!! 真祖の吸血鬼って言ったら、魔法界でも危険度トップクラスの化物だぜ!!? 命が幾つあっても足りねえっすよ!!」

「でも、あの2人は2年前から一緒のクラスだし、命の危険なんて・・・」

「甘い!甘過ぎる!!マックシェイクにマックスコーヒーぶちまけるより甘いっす!!」



そういってカモが取り出したのは自前のパソコン。その画面をネギと明日菜に見せつける。



「【闇の福音】って言葉が気になって昨日の晩に『まほネット』で調べたんす! 
コレ見てくれよ! エヴァンジェリンは元懸賞金600万ドルの賞金首だったんすよ!! 女子供には手にかけなかったらしいけど、魔法使いの間じゃ誰もが恐れる極悪人っす!!」

「ええ!!?」

「そ、そんなに危ない奴なの!!? ていうか、なんでそんなのがうちのクラスに居るのよ!!?」



カモの必死の訴えに、ようやく事の重大さが分かったネギと明日菜。


なのだが・・・




「・・・でも、昨日の感じじゃそんな風には見えなかったわね」

「・・・そう、ですね」



特に何かされたわけではないため、あまり実感がわかないようだ。見た目は完全に幼女以外の何物でもない訳だしね。





「一応、最低限の装備はしていくし、なんとかするよ」

「兄貴ぃ~・・・」

「私も行くわ、アンタだけじゃ不安だもの」

「だ、駄目ですよ! 危ない目にあうかもしれないのに、アスナさんを巻きこむなんて・・・」

「ガキが強がってんじゃないわよ。もっと年上を頼りなさい」

「アスナさん・・・」



正直言って少々不安だったネギにとって、明日菜の申し出はとても心強く感じた。



・・・と、その時、明日菜の携帯電話に着信が入る。発信先は―――――――



「・・・あ、木乃香からだ」



通話ボタンを押して、友人からの電話に応じる明日菜。



「もしもし、私だけど?」

《あ、アスナ? ネギ君もおる?》

「ネギ? 居るけど、なんで?」

《今なぁ、エヴァちゃん家におるんやけど、エヴァちゃんが待ちくたびれとるから、はよ来てって伝えてくれる?》

「ちょ、ちょっと木乃香!? 今何処に居るって!!?」

《せやからエヴァちゃん家やて。 あ、せっちゃんと総統もおるから、はよ来てな?》

「え、あ、ちょ!?」

《ほんなら、また後でな~♪    (プツン、ツー、ツー、ツー)》







「・・・・」

「どうしたんだよ姐さん?」

「木乃香さんがどうかしたんですか?」


「・・・・・・」

「アスナさん、顔が青いですよ?」




「・・・・・・木乃香、今エヴァンジェリンの家に居るって・・・」

「「・・・・え?」」



「・・・刹那さんとミサトも居るから、早く来てくれって・・・・・!」

「「・・・・・・・ええええええええ!!!?」」




先程の余裕から一転、場は混沌へと劇的にビフォーアフターした。





「ど、どどどどどどうすんのよ!!?」

「最悪だ!カタギの人間を人質にとりやがった!!」

「そ、そんな・・・!」



・・・どうにも情報が歪んで伝わってしまったようである。






「は、早く行かなきゃ!!」

「わ、私も行くわ!!」

「だ、駄目ですよ!! コレは僕の問題――――――」

「もうアンタだけの問題じゃないわよ!! 友達が人質に取られてんのよ!!?」

「そうだぜ兄貴! 姐さんは見どころあるし、絶対に助けになってくれるっすよ!!」


「で、でも、アスナさんが危険な目に・・・!」

「ガキがナマ言ってじゃないわよ!! 私は友達を!そしてアンタを!放っておけないの!!助けたいの!!悪い!!?」

「姐さん、逆ギレしてる場合じゃないっすよ!」



明日菜は必死に訴える。ネギの肩を掴み、顔を眼と鼻の先にまで近づけ眼と眼を合わせる。

その表情は真剣そのもの。瞳から友を助けたいという想いが、決意の焔が伝わって来る。


その訴えに、赤毛の少年は―――――――――――






「―――――わかりました! 僕からもお願いします、アスナさん! 僕に力を貸して下さい!!」

「あったり前よ!!」

「よっしゃ、急いで準備だ! 万全の態勢で臨むんだ!!」









―――――――――ソレは勘違いなんだよ、と教えてくれる者はココにはいなかった―――――――――


















――――――――――1時間後。



「・・・ここ、ですね」

「なんか、思ってたのと違うわね・・・、何、この素敵なログハウス・・・」

「見てくれに騙されちゃいけねえ、お菓子の家だって悪いばあさんが住んでたんだぜ」

「でもアレって、勝手に家を食べた2人も悪いと思うんだけど」

「細けえことはいいんスよ!」



・・・と、彼らの声を聞きつけたのか、ログハウスの玄関がギィッと開き、メイド服姿のガイノイド・茶々丸が現れた。

2人と1匹はすぐさま気を引き締め、茶々丸をガン見して臨戦態勢に入る。

だが茶々丸はそんな彼らの行動を気にも留めず、スッと身を引き、手で入室を促すジェスチャーをする。





「お待ちしておりました、ネギ先生、神楽坂明日菜さん、カモミールさん」

「あ、コレはどうもご丁寧に・・・」

「って違うでしょ! ちょっとアンタ、木乃香達は何処よ!?」

「皆さんはリビングでマスターと共にカ「行くわよネギ、カモ!!」

「ハ、ハイ!!」

「ガッテンでさあ!!」



茶々丸のセリフを遮り、エヴァ邸に突入する。全ては、友の無事のために――――――





 バタァンッッ!!




「木乃香さん!!」

「刹那さん、ミサト、無事――――――――――!!?」






――――――――――勇者たちが踏み込んだ魔王の根城の中では――――――――――



















「伏せカードを1枚セットし、ターンエンド。 クククッ、さあ、貴様のターンだ」

「くっ、俺のターン!!」




――――――――海里とエヴァが決闘デュエルしていた。










「「「・・・・・・・・・・あれ?」」」


「あ、アスナ達、やっと来たん?」

「随分遅かったですね?」



人質のハズの少女2人も勝負の行方を見守る観客と化していた。

ネギ達は、ただただボー然。「アンタら一体何してんの?」って、口にしなくてもわかるくらいのボー然だ。



「・・・・何してんの?」

「見ての通り、決闘デュエルやえ?」

「ま、まさか、コレが噂に聞く【闇のゲーム】ですか!?」

「いえ、普通の遊びですよ?」

「で、でも、モンスターが実体化してるわよ!?」

「アレは、マスターが暇つぶしのためにハカセに造らせた『ソリッドビジョンシステム』です」

「真祖の吸血鬼が何やってるんですか!!?」

「ネギ君、今いいトコやからちょお静かにな?」










〔現在の決闘デュエル状況〕


〈エヴァ〉LP3500

モンスター:ブラッド・ヴォルス(ATP1900)、怒れる類人猿バーサークゴリラ(ATP2000)
伏せカード:2枚
手札:3枚


〈ミサト〉LP350

モンスター:バードマン(DEF600)
伏せカード:1枚
手札:2枚


現状:ミサトのドローフェイズ






「クククッ・・・、場には雑魚モンスターと役立たずのハッタリ伏せカード、私のLPは貴様のちょうど10倍、風前の灯とはこの事だな」

「まだ終わっちゃいねえ、ドローッ!! ・・・ッ!!」

「む?」


「行くぜ! モンスター召喚、来い〈アメーバ〉!」

「攻撃力300、効果モンスターか・・・」


「更に手札から魔法カード〈死のマジック・ボックス〉を発動! 敵モンスター1体を破壊し、〈アメーバ〉を相手コントロール下に置く!」

「なるほど、〈アメーバ〉の効果でLPに2000のダメージ、更に〈バードマン〉で〈アメーバ〉を攻撃して1500のダメージ、か」

「合計3500のダメージ、俺の勝ちだ!!」


「だが甘い!! リバースカードオープン!〈マジック・ジャマー〉! 手札の〈ゴブリン突撃部隊〉を墓地に捨て、〈死のマジック・ボックス〉を無効化する!」

「うげえ!?」

「ふふん、さあどうする?」

「か、カードを1枚伏せて、ターンエンド・・・」


「私のターン、ドローッ! クックックッ・・・、貴様に絶望をくれてやる!! 〈ブラッド・ヴォルス〉と〈怒れる類人猿バーサークゴリラ〉を生贄に、〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉召喚ッ!!」

「いいいいッ!!?」


「そんな・・・、〈ブラッド・ヴォルス〉で総統の〈アメーバ〉を攻撃すれば終わりのハズなのに・・・、鬼畜です!」

「流石はマスター、なんというオーバーキル」

「ソコにシビれる、あこがれるゥ、やね」


「黙れ外野!! 行くぞ、〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉!!」

「と、トラップ発動、〈拷問車輪〉!」

「カウンタートラップ発動、〈盗賊の七つ道具〉! LPを1000支払い、〈拷問車輪〉を無効化する!」

「な、ななななあ!!?」

「コレで終わりだァ!! 〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉の攻撃! 『滅びの爆裂疾風弾バーストストリーム』ッ!!!」







「・・・・攻撃宣言しましたね?」

「なに?」


「正直、ココまで上手くいくとは思いませんでしたよ・・・、伏せカード全部使ってくれてありがとうございます」

「ま、まさか、〈死のマジック・ボックス〉も〈拷問車輪〉も囮だったというのか!?」


「そのまさかだ!! リバースカードオープン! 〈魔法の筒マジック・シリンダー〉!!」

「そ、そんな馬鹿な!? アレはハッタリの伏せカードだったハズ!!」

「いつ俺がそんなこと言いました?」

「発動の機会は何度もあったハズ、何故今頃!?」


「勝負の切り札は最後まで取って置くものよッ!!ソレが、アナタの敗因ッ!!!」

「馬鹿な、ありえん!あぁりえんぞおぉ!?」



「『カウンターバーストストリーム』ッッ!!!」

「ぐああああああああああああああ!!!?」



エヴァ:LP 0

ミサト Win!!









「っっしゃあああ!!! 勝ったあああ!!!」

「ぬぐぐぐぐ・・・・!! もう1回、もう1回だ!!!」

「もう1回じゃないわよ!! いつまでやってんのよ!!?」



あれ、アスナ来てたのか。勝負に夢中になり過ぎて気付かなかったぜ。



「アンタ達がヤバいって聴いてすっごい心配したのに、何遊んでんのよ!!?」

「うるさいぞ怒れる類人猿バーサークゴリラ!! 後で召喚してやるからデッキに戻ってろ!!」

「誰がゴリラだコラァ!!」

「アスナさん落ち着いてください!!」

「そうだぜ姐さん、無事だったんだから良かったじゃねえっすか」

「ネギとエロガモは黙って・・・、ってカモ! 何普通に喋ってんのよ!?」

「へ?・・・・ああ!!」



・・・オマエら、ちょっとは落ちつけよ。

とりあえず、このオコジョに会うのは初めてだから挨拶しとくか。



「オマエがカモか、初めましてだな」

「だ、誰でい!?」

「一 海里だ、ソイツらから聞いてないのか?」

「そ、そんな! 木乃香の姐さんの幼馴染だって言うから、どんな美人の姐さんなのか楽しみにしてたのに!!」

「残念だったな、美人じゃなくて」



ミサトって中性的な名前だし、間違えんのも無理無いけどね。



「ちょ、ちょっとミサト! アンタなんで平然としてんの!? オコジョが喋ってんのよ!?」



ふむ、ではそろそろネタばらしと行きますかね。



「ほらよ」



ポケットから1枚のカードを取り出し、2人と1匹に見せる。コレ見せりゃ一発だろ。



「そ、ソレは【仮契約】カード!?」

「ど、どういうことよ!?」

「も、もしかして、ミサトさんは・・・!?」

「御推察の通り、魔法関係者だよ」

「ちなみに私とこのちゃんも関係者です」

「黙ってて勘忍な?」





――――――――げっ歯類と少年と、そして一際大きい少女の驚愕の雄叫びがログハウスに響き渡った。






















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





次回は【登校地獄】の解呪と闘いまっすぅ~。



『とうこうじごく』って変換すると『投稿地獄』って単語が出てきます、私に対する当て付けでしょうか?










[15173] 漆黒の翼 #23
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:deda448d
Date: 2010/05/21 22:21
未だ驚愕の余韻が残るアスナ他1名と1匹をどうにかクールダウンさせ、一旦ソファに座るよう促す俺ことミサト。

何か言いたげなソイツらの眼の前に、チャチャマルが淹れた紅茶と、俺の新作スイーツ『ピーチパイ』を差し出す。まずはソレ食って落ちつけって。


「(モグモグ)・・・あ、コレ美味しいです!」


うむ、好評のようでなによりじゃ。


「ちょっとネギ、ノンキに食べてる場合じゃ・・・(ハムハム)・・・、ホントだ、美味しい・・・」

「何普通に食ってんスか2人とも!? 毒でも入ってたら・・・(カリカリ)・・・、マジでウメぇ・・」


ピーチパイを美味しいと思う心に、人間ヒューマオコジョガジュマも無いのだよ。


ようやく客人達が落ち着いた所で話を切り出す。
俺達3人が魔法関係者であること、エヴァさんの呪いを解くのに協力していること、呪いを解くにはネギの力が必要であること、などを簡単に説明した。




「――――――と言う訳でネギ、イキナリで悪いけど、オマエにもエヴァさんの解呪に協力してもらいたい」

「ちょ、ちょっと待ってもらってもイイですか? なんか混乱しちゃって、何が何やら・・・」


ふむ、一気に新情報が増えすぎて処理が追いつかなかったとな? 大丈夫だ、オマエの頭はインテル入ってるハズだから。



「まさか、アンタ達まで魔法の世界の人だったなんて・・・、ずっと一緒に居たのに全然気付かなかったわ・・・」

「来日早々に気付かれたぼーやがマヌケなだけだ」

「はぅっ!?」

「エヴァちゃん、ネギ君イジメたらあかんて」

「知ったことか、私は“悪”なんだからな」

「ネギ、エヴァさんの分のパイも食っていいぞ」

「あ、コラ貴様!」

「聞き分けの無い人にはあげません」


幼女が抗議しているが、無視して話を進めることにする。



「本来、魔法を知った一般人は記憶を消去することになってんだけど、・・・アスナ、記憶消してもいい?」

「お断りよ」


だろうね。 この質問に躊躇なくYESと答える奴はどれ位いるんだろうか。



「そもそも、なんでバレたら記憶消さなきゃなんないのよ?」

「単純明快、危険だからだ」

「危険って、そんなオーバーな・・・」

「基本の技に【魔法の射手】ってのがあるんだけどな」

「そうなの、ネギ?」

「あ、ハイ、魔法学校で習う基本魔法です」

「ソレ1発で岩くらいなら簡単に砕けるぞ」

「え゛、マジ・・・?」


『魔法』なんてファンタジックな言葉使ってるけど、数ある“力”の内の1つであることに変わりは無い。俺の魔法なんて、ほとんど攻撃用だし。イイもワルイも使い手次第だ。



「要するに、危険に巻き込まないための措置でもある訳なのさ」

「アンタ達、そんな危険な世界に居るわけ・・・?」

「全部が全部危険な訳やあらへんよ」


俺らは結構危険な事してるけどね、闘ったり戦ったりタタカったり。



「とにかく、魔法を知るってことは、普通に生活する人よりも火の粉が降りかかる確率が格段に上がるってことなんだよ」

「できることなら、アスナさんには魔法を忘れて平穏に生きてもらいたいんですが・・・」

「余計に嫌よ」


なんでさ。




「私さ、アンタ達が人質になってるって聞いて、――――結局勘違いだったけどさ、すっごい心配したのよ?」


アスナがゆっくりと胸の内を独白する。



「私の大事な友達が、仲間が、親友が、危険な目にあってるって聞いて、心配で胸が張り裂けそうだったわ。

とにかく助けたかった、どんなことしてでも救いたかった、なんでもいいから私にできることがしたかった。」



色彩の違う双瞳を揺らしながら、言葉を紡いでいく。




「私はね、ネギやアンタ達の助けになりたいのよ。

火の粉がかかる? 上等じゃない、そんなモン振り払うわよ、水かぶってでも突っ込むわよ。


―――――何処かで友達が傷ついてるのに、何も知らずに、何も気付かずにのうのうと暮らすなんて、私には耐えられない、そんなの死んでもごめんだわ」




・・・こりゃ退きそうにねえ、か・・・。




「それに私はネギの従者だし、すでに関係者みたいなもんなのよ?」

「【仮契約】したのか!?」

「だ、だって、『装備は万全にした方がいい』ってカモが言うから・・・」




――――――――それからいくつか危険性についての話をしたが、アスナの意見が曲がる事は無く、議論の末、結局コチラ側に残留することになった。

・・・まぁ、麻帆良に居る限りは安全かな?











「話は終わったか?」


途中から傍観していたエヴァさんが、口の周りに食べクズを付けながら話を切り出す。

・・・・あんなにあったハズのピーチパイが無くなってる・・・。

・・・全部食ったのか、この人・・・。


「解呪について詳しく説明するから場所を移すぞ。 茶々丸、案内してやれ」


そう言って、ケプっと腹をさすりながら従者茶々丸に命令を下す。自分はそそくさと先に行ってしまった。

茶々丸は命じられた通りアスナとネギを別荘へ促し、コノカとセツナもソレに続く。



・・・ほんじゃ、俺も行くかね。







「・・・・・・解せねえな、アンタ、一体何企んでやがんでぃ?」


皆の後を追おうとする俺の背に問いかける1つの声、カモである。



「どういうことだ? “企む”なんて穏やかじゃねえな?」

「【闇の福音】は世紀を超えた大犯罪者だぜ? そんな奴をお上に無断で解き放つなんて、何考えてるか解ったもんじゃねえ」


オコジョなんて外見の割に、意外と思慮深いトコがあるんだなコイツ。



「オレっちには、そこまでしてエヴァンジェリンに協力する理由がわからねえ。 解呪することで、何か自分が得をすることでも無けりゃあ、な」


俺が得すること、ね・・・。



「大した理由はねえよ、単なる俺のワガママだ」

「わがまま?」

「閉じ込められて、翔びたくても翔べない鳥を、籠から出してやりたくなった・・・、そんだけだよ」

「奴は大罪人だぜ? そんな同情かけるような相手じゃねえだろ?」

「だから言ったろ、俺のワガママだって」


腑に落ちない顔で俺を見つめるカモ。納得できねえっスよ、という表情をしている。





・・・でも、そうだよな。 ホントなら、俺がココまでやる義理なんか無いんだよな。




―――――――でも、放っておけなかった。 どうして――――――――?





「・・・他人事とは思えなかったから、か・・・・・?」

「へ?」

「あ、いや、・・・・なんでもねえよ」



話を打ち切って、未だに疑問が残っている様子のカモを肩に乗せ、俺達も別荘へと進む。



「安心しろって、何も企んじゃいねえからさ。 会ったばっかの俺の言うことじゃ、信じらんねえかもしれないけど」


「・・・・今は、兄さんを信じることにするっス。 兄貴や姐さん達も、アンタを信頼してるみたいっスから」

「そうかい」


ま、信じたくなったら信じればいいさ。















―――――――――時と場所は変わって、ここはエヴァンジェリン’sリゾート。砂浜の見える場所でテーブルを囲んでいるところだ。

エヴァさんがネギ達に、呪いを掛けられた経緯、現状などを簡潔に説明していく。


説明を受けるごとに、ネギの顔は苦悶の表情へとシフトしていく。ソレというのも―――――――




「と、父さんが落とし穴で・・・、なんか、イメージが・・・」

「ホントにフザケタ奴だった・・・、アンチョコ見ながら呪文唱えるわ、魔法学校中退だとかほざくわ・・・」

「うぅ・・・、イメージがどんどん崩れていきますぅ・・・」



サウザンドマスターってのは随分と破天荒な人だったみたいだな。

ネギは父親に対して、かなり美化というか理想化というか、そんな感じのイメージを抱いてたみたいだからショックが大きいようだ。

なんとなく、スタンとカイルの関係に似ている気がする。気がするっていうか、そのまんまだよな。




「思い出すだけで腹立たしい・・・! ニカニカ笑いながら呪いなんぞ掛けおって・・・!」

「そしてエヴァさんはそんな笑顔に惚れてしまった、と」

「そう惚れて、ってななな何を言わせるキチャマッ!!?」


「噛んだな」
「顔赤いですよ?」
「エヴァちゃん、かわえーなー♪」

「やかましいわッ!!」



怒り心頭なエヴァさんだが、頬を朱に染めテーブルをバシバシ叩くソレは微笑ましい光景以外の何物でもなかった。


アスナ達の眼もなんだか暖かいものになってきた所で、金髪少女は咳払いして話を戻しにかかる。



「と、とにかくだ! アヤツが来ない以上、血縁者である貴様に責任を取って貰うぞ!」

「ハ、ハイ! がんばります!!」

「というわけで、ぼーや、血を寄こせ、ありったけ」

「ええええ!!?」

「ダメだってのに」

「フンッ」


文字通り血の気の多い幼女にチョップをかまして静止させようとしたが、障壁に阻まれた。



「まあ、血が欲しいのは確かなんだ、もちろん全部じゃないけど」

「兄さんは具体的にどんな方法で解呪するつもりなんでぃ?」

「俺の解呪魔法とネギの血の力で、内と外から同時に攻めてみようと思う」


解呪魔法のパワー不足を別方向から補おうという算段だ。



「解呪魔法・・・、・・・ということは、父さんの懸けた呪いを解析できたってことですか!?」

「いや、俺のはちょっと特殊でな、あらゆる状態異常を問答無用で解いちまうんだ」

「す、すごい! 僕、そんな魔法聞いたこと無いですよ!!」

「それはそうだ、コヤツ独自の新術なのだからな」

「えええ!!?」

「ネギ、アンタさっきからウルサイわよ、叫びすぎよ」


ネギの隣に座るアスナが両手で耳をふさいで抗議している。



「だ、だってアスナさん、新術を開発するって云うのは物凄いことなんですよ!?」

「知らないわよ、今はそれよりエヴァちゃんの呪いの話が先なんでしょ?」

「その通りだバカレッド、バカのくせにイイこと言ったな、バカのくせに」

「2回も言うな! ていうか誰がバカレッドよ!!」

「どうどう」

「馬かッ!!」


荒ぶる名馬オジコンツインオッドを如何にか諌め、話を戻す。



「だけど呪いが強固過ぎて弾かれちまうんだよ。 流石はサウザンドマスターが力任せに掛けただけはあるって感じだ」

「ネギ君のお父さんスゴイなぁ」

「さすが父さんです!」

「黙れ小僧」

「ごめんなさい・・・」


ねぎ は ちょうしにのった。
ねぎ は ようじょ に おこられた。



「ですから、少量のネギ先生の血で内側から崩して、その隙に総統の魔法で外から打ち砕くという作戦なのですが・・・」

「上手くいくんスか、ソレ?」

「確実、とは言えないな。 だから手っ取り早く血を全部頂いた方が・・・」

「だからダメだっつの」

「フンッ」


チョップ、しかし防がれる。障壁張らないでくださいよ。


と、ネギがおずおずと手をあげて何か言おうとしている。



「あの、質問してイイですか?」


なんだいネギ君、なんでも訊きたまえ。



「解呪魔法は、パワー不足だったから効かなかったんですよね?」


うむ、その通りだ。 問題は呪いの方が強かったということだ。



「ミサトさんは【仮契約】してますよね?」

「あ、そういえばさっきカード持ってたけど・・・、てことは・・・・」


なにやらアスナの顔が朱に染まっていくのが見える。何をそんなに・・・・、・・・ああ、そう云うことか。



「どんな相手とブチューっとかましたんスか?」


なんかカモが興奮してんだけど。ムハーっとか言ってるんだけど。ちょっちウザいんだけど。



「そこに居るコノカと」

「いやん♪」


両手を頬に添えて体をくねらすコノカ嬢、面白がってんなコイツ。

カモはヒューヒューと冷やかし、ネギは「はわー・・・」と呆け、そしてアスナは眼を見開き、顔面が灼熱のバーンストライクと化しながら口をパクパクさせて俺らを凝視している。



「契約したのは随分前だぞ、もっとガキの頃だ」

「え? ああ、そういうことね、あービックリした・・・」

「ちなみにセツナもコノカと契約してるぞ」

「おおっ、禁断の愛ッスね!?」

「違います!! 私はノーマルです!! 男性が好きなんです!!!」

「・・・セツナ、大声で男好きと公言するのはどうかと思うぞ?」

「ち、違います総統!! そう云う意味じゃないんです!!」



「あ、あのぉ、話を戻してもイイですか?」


あ、ネギの質問の途中だったんだっけ、ごめんごめん。




「じゃあ、魔力供給してもダメだったんですか?」

「ネギ、魔力供給って何よ?」

「姐さん、さっき教えたじゃないっすか、【仮契約】の効果の1つっすよ」

「ああ、従者を強くしてくれるっていうアレ?」








・・・・魔力供給、だと?




「どうしたのよミサト、変な顔して?」




目線をエヴァさんの方に移して表情を確認する。



・・・俺と同じ顔してた。





そして、同時に口を開く―――――――――――――







「「・・・・そ―――――」」


「「「「「そ?」」」」」









「「―――――――――その手があったか!!?」」




全員、その場で盛大にすっ転んだ。





「試してなかったのかよ!? 【仮契約】の1番基本的な機能じゃねえか!!」

「い、いや、【仮契約】してから1回も魔力供給したこと無かったから、すっかり忘れてて・・・」


俺もセツナも氣で身体強化して闘うから、魔力供給されると反発するからやらない方がいいって詠春さんが言ってたんだもんよ。



「コヤツの解呪魔法にばかり気を取られ、西洋魔術との関連性を完全に失念していた・・・・・、クッ、私としたことが・・・!」


エヴァさんも悔しげに言葉を吐く。



「600年も生きてるからボケてきちゃったんじゃないの?」

「誰がボケ老人だッ! くびり殺すぞバカレッド!!」

「またバカって言ったわね!? なによ、このボケゴールド!!」

「ボケゴッ!?」

「あ、おばあちゃんだからゴールドじゃなくてシルバーかしら?」

「こ、この小娘がぁ・・・!!」

「落ち着いてください、ボ・・・マスター」

「茶々丸、今『ボ』って言ったな?『ボケ』って言いかけたな!?」

「あぁ、いけませんマスター・・・・」


あ、ねじ巻かれて悶えてる。



「姐さん達は気づかなかったのかよ?」

「基本的に私達2人は、解呪自体についてはノータッチでしたので・・・」

「総統に任せっきりやったからなぁ」



しかし、魔力供給とは盲点だった。本来は身体能力向上のためのモノだが、上手く転用すれば俺の魔法にブーストを掛けられるかもしれない。

コノカの史上最大量を誇る魔力があれば、・・・ひょっとしてイケるんでない?




「早速試してみよう! コノカ、頼む!」

「りょーかい! ・・・・・えっと、どうするんやったっけ?」

「木乃香姐さん、魔力供給ってのは・・・」



カモからレクチャーを受け、供給の呪文を覚えるコノカ。何度か口の中でブツブツと反芻し、確認する。そして、マスターカードを取り出して気合いを入れて構える。

準備が整った所で、俺もポケットからカードを出してアーティファクトを顕現させる。右手でホーリークロスを握りしめる。



「その杖がミサトさんのアーティファクトなんですか?」

「正確には、アーティファクトの1つ、だな」



ここで1つ補足しよう。
今、俺は魔法を使うために杖を顕現させたが、別に杖じゃなくても魔法は使える。このアーティファクト自体が発動体として機能しているのだ。

でも杖の方が威力も上がるし、「魔法使うぞ!」って感じに気合入るからこうしているのだ。



んじゃ、無駄話もこれくらいにして・・・






「よし、コノカ、頼む!」

「いくえ!

 【契約執行30秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!



―――――――瞬間、俺の中に大量の魔力が流れ込んできた。


供給された感想としては、体が熱くなって漲るっていうか、そんな感じ。

もしかすると、コレは【オーバーリミッツ】に近い状態なのかもしれないな。

両手をニギニギして感触を確かめてみる・・・、うん、確かに力が上がった感じはするけど、氣のような慣れた感じじゃない、何となく違和感がある。コレが反発って奴か?



・・・っと、いけない、ボケッとしてる場合じゃないんだった。

両の手で杖を握りしめ、全身に流れる魔力を1点に集中するイメージで・・・・


筋肉、神経、その他あらゆる部分を駆け巡る魔力をコントロールし、流れの方向を集約させる。 結構難しいな・・・。

魔力の流れが変化し、心臓に向かって集まって行くような感覚に陥る。

なんだかいつもより格段に練り上げるスピードが早い。それに、集められた魔力も多い。



ちょっと試しに1発、海に向かって―――――――――鋭く、速く!



【フリーズランサー】!!



無数の氷刃が水平線目掛けて放たれる。


―――――――間違いない、氷の槍はいつもより格段に多い量、格段に速いスピードで駆けている。



ならば今度は大技、現在練習中の強力な奴に挑戦する。

心臓に渦巻く魔力を、すべて杖に注ぎ込む。

呼び起こすのは豪炎、すべてを焼き尽くす灼熱の意思。




―――――――古より伝わりし浄化の炎、落ちよ!!


【エンシェントノヴァ】!!



虚空から現れる灼熱の業火。
強大な炎が、穏やかに凪ぐアクアブルーに叩きつけられる。
直撃した海面は巨大な水柱を立て蒸発し、浄化の焔が瞬間的に海水を焼き尽くすが如く浸食、広大な海原に穴を開けるというトンでも現象が発生した。

すぐに周囲の海水が流れ込んで元通りになったけど。



・・・・コレ、上手く使えば秘奥義が出せそうな気がするな!



と、契約執行の時間が過ぎ、コノカからの供給がストップされ、俺の身体は通常の状態へと戻った。




「どうだ、ミサト?」


エヴァさんが魔力供給利用時の感想を求めてくる。 なので、感じたままを伝える。



「威力が格段に上がってますね。 上級魔法を使うのもあまり苦にならないし、上手く利用すれば秘奥義も放てそうな気がします」

「おお!」


ただ、戦闘中にコレができるかって言われると微妙だ。
やってみてわかったけど、魔力流をコントロールするには、かなりの集中力を要する。 

使えるとすれば余裕がある時、もしくは距離を取っての決め時くらいか。使いどころが難しそうだな。





・・・・ん、どしたアスナ、そんな鳩がバズーカ喰らったような顔して。



「な、なに今の!? 氷がたくさんドドドドって!? でっかい火がドカーンで!? そんで水がザバーンで!!?」

「とても中学3年生の言語表現とは思えんな」

「う、うっさいわね、これくらいが普通よ!!」


素人には刺激が強かったか。【ゴルドカッツ】辺りにしとけばよかったかな?



「よし、ソレで解呪してみろ!」

「コノカ、もっぺん頼むわ。 今度は少し短めでいいから」

「ハイハーイ♪

【契約執行15秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!



再び似非【オーバーリミッツ】モード。

先程と同様に、眼を閉じ、全身の流れを1か所に送り込むように集中する。


・・・そして練り上がると同時に眼を開き、杖を介して解き放つ!




――――――卑しき闇よ、退け!


【リカバー】!!



放たれた聖なる意思が、強固で巨大な呪縛の意思とぶつかり合い、火花を散らす。

今までにない手応えが、杖から伝わって来る。有無を言わさず弾かれていた呪文が、僅かながら壁にめり込むような感触だ。


呪縛の鎖と解呪の祈りがせめぎ合い、そして―――――――――








 バチイイイイイイイイイッッ!!!!






―――――――――壮絶な電流音と共に、俺の身体は後方へと吹っ飛ばされた。





「ごっふぇッ!?」


・・・そして、後頭部にチャチャマルのカッチカチの膝が直撃した。



「こ、この手ごたえ、コレは使える!

・・・・む、おいコラ、いつまで寝っ転がっている気だ、さっさと起きろ! まだ終わっとらんぞ!!」


「・・・~~☆・・・(ピヨリピヨピヨ)」


「・・・アカン、気絶しとる」

「後頭部しこたま打ちつけてましたからねぇ・・・」

「何をやっとるかマヌケがッ!」


その言いぐさはあんまりだと思う、と言いたかったが、気絶してたので何も言えなかった。





その後、5分で気絶から目覚めた俺は、早速今後の方針をエヴァさんと話し合った。


「致死量限界まで血を飲んで、供給を受けながら解呪すればどうですか?」

「かなりイイ線行くと思うが・・・、あと1つ決め手に欠けるな」

「なんか恐ろしい事をサラッと話してる!? 致死量限界は流石に嫌ですよ!?」

「そう思うなら、ぼーやももっとアイディアを出せ」



そう言われて頭を捻るネギだったが、いくら天才といえど、そうホイホイ考え付く訳も無く、どうすればいいんだろうと悩んでいると―――――――



「1人でダメなら、2人から供給すればいいんじゃない?」


今度はアスナがアイディアを出した。



「姐さん、ソイツはちょいと無茶な相談ですぜ」


だが、カモが待ったを掛けた。



「従者が2人の主と契約するってことは、例えるなら部活を掛け持ちするようなモンなんスよ。 魔力供給は、部活の練習時間だと思ってくれりゃあいい」

「えっと・・・、つまり、同時に2つの練習には出られない?」

「そう云うことっス」

「頑張れば絵を描きながら走り込みとかできそうじゃない?」

「スッゲェ器用っスね、その人」



あまり参考にならないなと俺は思ったが、エヴァさんは何やら思案しているようだ。




「・・・よし、その案採用してやる。 泣いて喜べ、バカレッド」

「どう致しまして、ボケゴールド」

「え、でも今、カモ君が無理だって・・・」

「無理なのではなく、それだけ供給を受ける者への負担が計り知れないというだけの話だ。
実行する者がいないだけであって、やろうと思えばできなくはないだろう」



・・・ちょっと待ってくれ。その流れだと、俺にその計り知れない負担がかかるってことだよな? 俺の体への配慮はどうなってんの?



「耐えろ」


いや、耐えろって・・・。



「貴様ならイケる、だから耐えろ、以上だ」


一目置いてくれんのは嬉しいけど、時と場合によるよ・・・。




「・・・ん? でもそーなると、総統はウチ以外の誰かと【仮契約】するってこと?」

「じゃあ、是非兄貴と! 男ってのが頂けねえが、兄さんが従者になれば兄貴は安泰、オレっちの懐も・・・、ウッヒッヒッヒッ・・・!」

「断固拒否だ! 何が哀しくて男とキスせにゃならんのだッ!」



何考えてんだよ、まったく・・・。






「仕方がない、私が契約してやろう」





・・・・・・・・・・へ?



「・・・エヴァさん、今なんと?」

「だから、貴様を私の従者にしてやるというのだ。 光栄に思うがいい、最強の魔法使いの従者なんてそうそうなれる者じゃないぞ?」


どうだ嬉しいだろ、と言わんばかりにエヴァさんが近づいてくる。

そして俺は後ずさり。



「ちょ、ちょっと待って下さい? エヴァさん、そんな簡単に決めていいんスか? 【仮契約】ですよ?」

「別に唇の1つや2つくれてやった所で何の差し支えも無い。その程度で便利・・・、いや、面白・・・、いや、それなりの従者が手に入って、尚且つ呪いも解けるなら十分だろう」

「今『便利』とか『面白い』とかいう言葉が出ませんでしたか? しかも言い直しても『それなり』止まりですか?」

「いいから黙って契約しろ」


エヴァさんの細く華奢な腕がフッと振られたかと思うと、俺の四肢が突如空中に張り付けられたように身動きが取れなくなった。

この人、俺が逃げる前に糸で動きを封じ込めやがったよ!



「ちょ、ダメですって! こういうのは軽はずみにやっていい事じゃねえっスよ!」

「別に焦ることも無いだろう、初めてじゃあるまいし」

「そう云う問題じゃねえッス!」


コイツらの前でそんなことできるかってんだよ!

誰か、誰か俺を救ってくれ! 貞操のピンチだ!



「契約魔方陣、描き終わりやしたッ!!」

「ふむ、御苦労だな小動物」


カモ、テメェ!? 完全に仲介料目当てだなコノヤロウ!! 欲望に忠実すぎるぞ!!



「なんで僕に目隠しするんですか、アスナさん?」

「ガキが見るにはまだ早いわ」


アスナ、子供へ配慮するなら俺にも配慮してくれ!!


コノカ、助けて!




「総統、ガンバってや♪」


何を!!?



「待って待って! 幼女に唇奪われるのは嫌ですよ!」


とにかくエヴァさんを怒らせてでも止めさせようと、軽く暴言を吐く。

案の定、エヴァさんの額には無数の青筋が浮かび上がってきた。 やっべ、超怒ってる・・・。


・・・しかし、ふと何かを思いついたような顔をしたと思ったら、青筋を沈め、代わりに妖艶な笑みを浮かべた。



「この姿が気に入らんのか? ならば・・・・」


その言葉と共にパチンッと指を鳴らしたかと思うと、小さな体が一瞬煙に包まれ、エヴァさんの姿が見えなくなる。

煙が晴れたそこには―――――――――――



「コレなら文句はあるまい?」



―――――――――艶やかな金色のロングヘアーを潮風に揺らした、絶世の美女が姿を現した。


・・・・ドチラサマ?



「・・・・茶々丸さん、あれ誰?」

「あれはマスターが威厳を出すために使用していた幻術魔法です。 マスターが成長した姿を想定して構成されています」


俺の疑問を代弁してくれたアスナに回答するチャチャマル。

幼女から美女へジョブチェンジしたエヴァさんは、身動きの取れない俺の顎を人差し指でクイッと持ち上げて顔を覗きこむ。
その際、成長した2つの巨大な丘が、たわんっと揺れるのが俺の視界に入った。でけえ。



「容姿に関する問題は解決したな?」

「あ、ハイ、そっスね、すっげぇスタイルで・・・って違う違う! そうじゃな――――――――――――――ハッッ!?」




な、なんか冷たい視線が背中を刺してるような・・・?


錆びついたブリキ人形のように首を回して、後ろを振り返ると・・・・






「・・・・・・(ジト~)」



・・・・セツナが半眼になってコッチを見ていた。




「あ、あの、セツナ・・・?」

「・・・総統・・・」



お、怒ってらっしゃる・・・。 一瞬鼻の下伸ばしたのがいけなかったのか・・・?





「・・・・好きにすればいいんじゃないですか? (プイッ)」



見捨てられた!!!?





「満場一致だな」

「俺の反対票がまだ残ムグゥッ――――――――――!?」






――――――――見た目は美女・ホントは幼女・中身は超熟女、というなんだかよくわからない女性に、俺の唇は奪われた――――――――











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、「【登校地獄】解呪編」、決着!?








[15173] 漆黒の翼 #24
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:deda448d
Date: 2010/04/05 01:41



「どうぞ、マスターカードっス」

「うむ」

契約は滞りなく済んだ。俺のメンタル以外は何の問題も無かった。


「・・・・・・・・」

向こう側でカードの受け渡しが行われる中、俺は砂浜のド真ん中で灰になっていた。

・・・・なんていうか、めちゃめちゃディープだった・・・、生命力やその他諸々をすべて奪われた・・・。
母上様、アンタの息子は汚されちまったよ・・・。


そんな感じに体育座りで虚ろになっている俺のもとへ、砂をサクサクさせながら近づいてくる影が1つ。


「・・・・」


影の正体はセツナ、無言の怒りが怖い。
・・・コレってやっぱり俺が悪いのかなぁ・・・。


「・・・なぁ、その、セツナ?」

「・・・・」


声を掛けてみるが、反応なし。


「アレは、その・・・、不可抗力であったワケで・・・」

「・・・・」

「だから、その・・・」

「・・・・」


・・・ダメだ、取り繕うとすればするほど言い訳がましくなってしまう・・・。


「・・・・俺が悪かった」

「まったくですよ」


やっと反応してくれた。してくれたけど、眉間にはシワが寄ったまま、眼もジト眼のままだ。
・・・そんな目で俺を見ないでくれ、オマエにやられると際限無く落ち込んでしまう。


「・・・そんなに大きな胸がイイんですか?」

「へ?」

「ちょっと胸で誘惑されたくらいでニヤついて・・・、揺れるのがそんなに好きなんですか、たゆんたゆんがそんなに偉いんですか?」


・・・怒りの矛先はそこか。いつもは「剣を振るにはこれくらいで充分」的なこと言ってるけど、気にしてたのね。
言ってた、といっても直に聞いたわけじゃない。コノカがそう言ってたんだよ。


「挙句にキスまで許して、ホントにまったく・・・」

「オマエも見捨てたじゃねえかよ」

「あ、あれは、その・・・、なんか悔しかったというか・・・」


だからって見捨てないでくれよ、あの時の絶望感たら無かったぞ。
開き直るみたいでアレだけど、多少目が行くのは勘弁してくれよ。


「多少じゃないですよ、ガン見でしたよ」


・・・俺は自分で思っているより男の部分が強いのかもしれない。


「まあまあせっちゃん、総統も男やし仕方あらへんて」


そんな俺とセツナが問答している場に、コノカがニコニコしながら現れた。肩にはニヤニヤしたカモも乗せている。なんかムカツク。
それにしても、この娘は全然動じないのな、器がでかいって言うかなんというか。


「刹那の姐さん、怒っちゃいけねえよ。 ソコに山があれば、男はそのロマンに惹かれるモンなんですぜ」


・・・弁明してくれんのはありがたいんだけど、俺のイメージがどんどんエロい方向に傾いていってる気がするのは、俺の考え過ぎかな?


「エロいのは男の罪、ソレを許さねえのが女の罪ってもんでさぁ。 男に罪を問う前に、まずは己の罪と向き合うのが先決ってモンだぜ」

「己の、罪・・・」


何か急に深そうなこと言いだしたよこのイタチってば。何処で得た知識だソレは。

カモのよくわからんあやふやな感じが場に伝染し、セツナもいつの間にか怒りなど忘れてしまったようだ。なんか女について真剣に考え出してしまっている。
俺が言うのもアレだけど、あまり深く考えることじゃないと思うぞ。タダの男目線の言い訳だし。


「まあアレや、要するに、だらしない総統を諌めて補うことがウチらの仕事やっちゅうことや」

「あ、なるほど、納得しました」


合点がいったようで、ようやくセツナに笑みが戻る。
・・・今のでわかったのかよ、俺がだらしないことは確定なのか?
なにはともあれ、機嫌が直ってよかった。カモのアホみたいな言い分のおかげで難所を乗り切れた、感謝するぜ。


「兄さん、コレで貸し1ってことで」


・・・ちゃっかりしてやがる。





「痴話ゲンカは終わったか?」


カモからカードを受け取ったエヴァさんが他のメンバーを引き連れやってきた。原因のアンタが何を言うか。
その声で本題を思い出したのか、カモが新たに発生したコピーカードを俺に手渡してきた。

どれどれっと・・・・・・ん?


「俺の持ってんのと絵柄が違うぞ?」

「きっと別扱いなんだな、今までとは別個のアーティファクトが出てくるハズっスよ」


マジでか、思わぬ収穫じゃないか。一体どんなのが出てくるやら、楽しみでもあり恐ろしくもあり。
コイツもテイルズ関連のアイテムなんだろうか?


「出してみたらええんやない?」

「そだな」


ぞろぞろとやって来た他の連中の前でカードを掲げ、【来たれ】の呪文を唱える。
カードが独特の光を放った後、そこの現れたのは――――――――――


「・・・・布、ですか?」


手のひらに乗る1枚の布。コレが新しいアーティファクトか?


「布っていうか、ハチマキじゃない?」

「いや、ハチマキっていうより、コレは・・・」


・・・バンダナ、だな。
なんだコレ、コレ付けてYOKOSIMAになれってか?付ければ文珠を生成できるとか?
どんなチートアイテムだソレは。

全体の確認のために裏返して見ると、そこには見事な達筆でこう書かれていた。



『必勝』



――――――――ああ、わかった!! これアレだ、マリーのバンダナだ!!


「テスト勉強に効くアーティファクトなんかなぁ?」

「とりあえず巻いてみたらどうですか?」


セツナに促され、早速キュッと巻いてみる。・・・・おおう、コレは・・・!

「どうでぃ、兄さん?」

カモが俺の肩に移り、巻いた感想を求める。


「とても気が引き締まった」

よって簡潔に答える。


「・・・え、そんだけっスか?」

そんだけとは何事だ、モチベーションは大事だぞ。俺の秘奥義にとっては特に重要だ。


「あと、攻撃力が少しばかり上がったぞ」

「気分の問題でしょ? ほらアレよ、『皮下脂肪効果』ってヤツ?」

「・・・姐さん、ひょっとして『プラシーボ効果』って言いてえのか?」

オコジョに訂正されてかなり屈辱だったのだろう、ツインテールがしょげてしまった。難しい言葉を使おうとするからそうなるんだ。
それにコレは催眠術だとか思い込みだとかそんなチャチなモンじゃ断じてねえ、コレはそういうモノなんだ。

しかしこれでは効果が判り難い、どうすればこのバンダナの凄さがわかって貰えるのかな?

俺はそうやって考えに“集中” する―――――――――





 ―――――キイイイイイイインン―――――





どうすればわかる・・・?

どう伝えればいい・・・?

考える・・・・、深く・・・長く・・・静かに・・・。



「・・・う・・・・・・そ・・と・・・!」



アレして・・・コレして・・・ソレがアレでコレになって・・・。



「―――――――――聴いているんですか総統ッ!!」

「え?」


セツナが俺の肩を掴んでガクガク揺さぶっているのを感じて、そこで初めて自分が思考に没頭していることに気が付く。
いつの間にか、俺は思考の奥底に入りこんでしまっていたようだ。
俺は一体どうしたってんだ? ココまで周りの音を遮断するほど考え込んだつもりは無かったんだけど・・・。


「どうしたん? 考え事した思おたら、全然反応せえへんようになったえ?」

「なんか、ものっスゴイ“集中”してたわね」


“集中”・・・・? ・・・あ、もしかして・・・。


「なぁ、バンダナになんか変化あるか?」

「え、特に何も・・・・あ、バンダナの文字が変わってますよ!」

マジでかと問い返すと、コノカが手鏡を渡してくれたので確認することに。
鏡文字になって読みにくくはあるが、確かに『覚醒』の文字に切り替わっているバンダナが俺の額に巻かれていた。


「ホント、『必勝』じゃなくて・・・・えと、さ、さめ、にし、ほし・・・?」

「アスナ、『かくせい』って読むんやえ」


どうやら『必勝』だけではなく、念じればちゃんと他の文字にも変わるようだ。

確か『覚醒』のバンダナの効果は<集中力アップ>だったハズ。それなら今の俺の集中力にも頷ける。コレがこのアーティファクトの力か。


あ、『覚醒』にはもう1つ効果があったよな、たしか・・・。


「・・・ネギ、相手を眠らせる魔法って使えるか?」

「【眠りの霧】なら使えますけど?」

ならちょうどいい、実験にはもってこいの人材だ。


「ちょっと俺に掛けてくれ」

「え? いいんですか?」

「いいからいいから」

少々戸惑いながらも、ネギは普段から持ち歩いている杖を手に取り、朗々と調べを奏でる。


大気よ 水よ 白霧となれ この者に一時の安息を 【眠りの霧】!


唱え終えたと同時に、俺の身体を包むかのように白い霧が発生する。たっぷり時間を掛けて霧が充満し――――――――


「おはようございました」


――――――霧が晴れると、そこにはバッチリ起きてる俺の姿が。どう見ても効いていません、本当にありがとうござました。

ネギは俺と杖に交互に視線を向け、首を捻った。「あれれ~~?」って感じに。


「失敗したの?」

「いえ、成功したハズなんですけど・・・」


その通り、ネギの放った【眠りの霧】は確かに効果を持って発動した。


その証拠に、俺の肩に乗ってたカモが霧に巻き込まれてグースカ眠りこけている。 魔法はちゃんと発動していたという動かぬ証だ。
俺が霧を吸っても意識を保っていられたのは、この『覚醒』のバンダナの効果<睡眠防止>のおかげである。原作通りの効果だな。


「ほぅ、文字によって効果が違うようだな」

「いろいろ使えそうですね」


だけど、コレがゲームに出てきた物と全く同じ物であるとは限らない、なら俺の知らない効果も期待できるかもしれないな。
いろいろ試してみる価値はありそうだな。


「私が発する特定のキーワードに応じて頭を絞めつける機能などあれば最高だな」


あってたまるか、そんな西遊記みたいな機能。
しかし、いいモン手に入れたな、結構便利そうなアーティファクトで良かったよ。




―――――――その後、一旦バンダナを外し、眠りに落ちたカモの野郎を【死者の目覚め】で文字通り叩き起こし、同時供給の試運転を行うことに。

・・・よし、コノカ頼む!


【契約執行15秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!


また再び供給が開始される。なんかこの感覚にも慣れてきたな。


「とりあえず、軽くいくぞ?」

そして、本人曰く“軽め”の供給がエヴァさんから始まろうとしている。
気合い入れていかねば、何が起こるかわかりゃしない。


【契約執行10秒間、エヴァンジェリンの従者〈一海里〉】!!


決まり文句の呪文が唱えられ、供給が開始される――――――――――



「――――――――ッ!!!!??」


――――――――供給を受けた瞬間、全身が警告を発した。

次から次へと溢れ出る魔力、その豪流は先行していたコノカの魔力と合流し、俺の中で荒れ狂う。

同時に、内から込み上げてくる熱いナニカを確かに感じとった。

抑えきれないほどの、滾るナニカが暴れまわる。

ココから出せと訴えかける。


――――――イイだろう、望み通り、そこから出してやろうじゃないか。

熱いナニカは、歓喜の雄叫びをあげながら光の漏れる出口へと駆け上がり、そして――――――――






オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!


――――――その場に膝をついて、盛大にリバースした。


「ちょ、総統大丈夫ですか!?」
「ちょっと大丈夫!? どうしちゃったのよイキナリ?」

すぐにコノカとセツナが駆け寄って背中をさすってくれた。アスナ達も心配して来てくれた、しのびねえな。


「ビーチを汚すなバカモノ」

・・・エヴァさん、そりゃねえっスよ。


だけど、このかつてない程の吐き気はなんなんだ・・・。
まるで樽いっぱいの徳用マヨネーズを胃にブチ込まれた直後にヘビー級のボディーブローを連打されたような気分だよ・・・。
こりゃ一体どういうこと・・・・うぷっ・・・。


「たぶんスけど・・・、供給過多による魔力酔いだと思いまさぁ」

カモがそんな俺の疑問に答えてくれた。
キャパシティを大幅に超えた量をぶち込まれたことによる弊害、ということらしい。とんだ副作用だよ。

チャチャマルが気を利かせて水を持って来てくれたので、ありがたく受け取ろうと立ち上がろうとする、だが・・・


「――――いぎぃッ!!?」

両足に筋肉痛を二階級特進させたような、鈍く、ソレでいて鋭い痛みが走った。
鋭いのか鈍いのかハッキリしてほしい。痛いことには変わりないけど。
そんなことより、な、なにこれ、どうなってあ痛づづづッ!?


「身体強化が強すぎて、肉体の方がついていけなかったみたいっスね」

「私達は真祖の吸血鬼と歴代最大の魔力タンクを持つ者だからな、その強大な魔力を一気に注ぎ込まれたのだ、負担は並ではなかろう」


は、半妖の身体を、持って、しても、耐えられない、とは、お、恐るべし、だ・・・。
ま、まさか、こんなに負担が掛かるとは・・・。キツイわコレ・・・、それにまだ魔力が渦巻いてう感じがする・・・。


「ミサト、もうやめた方がいいんじゃない?」

「そうですよ、軽くやってコレですよ? 本気でやったらどうなるか・・・」


アスナとネギが俺の身を案じて声を掛けてくる。心配してくれるのは正直かなり嬉しい。




でも・・・


「・・・いや、続行しよう」

「兄さん、正気かよ?」


まだ試してすらいないんだ、ココで終わりじゃ消化不良もいいとこだ、わざわざ【仮契約】までした意味が無くなっちまうよ。


「私達は総統の指示に従います、けど・・・」
「無理せんどいてな?」

わーってますとも、心配しなさんなって。


「ちょっと2人とも、止めなくていいの?」

「言って止めるような人じゃないですから」
「ウチらは信じて待つだけや」

幼馴染達は言わなくてもわかってるみたいだな、ありがてえこった。
・・・しかし、この副作用は問題だな。どうにかして乗り越える方法は無いか?


「さっきのバンダナでなんとかならねえっスかね?」

カモ、ナイスなアイディアをありがとう。たしかに、あのバンダナがあれば多少はマシになるかもしんないしな。


「よし、ついでだから貴様を吸血鬼化するぞ」


ドサクサにまぎれて何言ってんだ、この幼女は。
・・・そんなに俺を従順にさせて何するつもりよ、このケダモノ!


「誰がそんな気色悪いこと考えるかッ! 吸血鬼化すれば耐久力も上がるハズだから多少はマシになるのではないかと言っているんだ!」


あ、なるほど、そう云うことですか。なーんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのにぃ。
あ、終わったらちゃんと戻してくださいね?

腕を差し出し、そこにエヴァさんが牙を立てる。もう何度も経験したチクリという痛みと共に、血液がジュルジュルと吸われていく。
同時に、俺の中で何かがドクンッと音を立てて目覚めていくのを感じた。いつもは吸血鬼化防止の薬を処方してからの採血だから、初めての感覚だ。

ある程度血を吸われたところで、噛みついている幼女を強制的に引き剥がす。
なんか不満げな顔をしているけど、今は我慢してほしい。俺が貧血になってしまってはどうしようもない。

指先を口元に持っていくと、今まで無かった立派な牙が生えているのが確認できた。
ヒトであり、トリであり、ヴァンパイアでもある、欲張り生物の誕生だ。


「少し物足りないが、まあいい。 やはり薬無しの生の血はイイな」

「そんなに違うモンなんですか?」

「気分の問題だ。 やるならやはり生だ」

「女の子が生でヤるとか言うモンじゃありません!」

「何の話をしているかッ!?」


怒られちった。どうもさっきからエロに敏感なってるようだ、自重しないと。


気を引き締めるべく『必勝』バンダナを額に締め、全ての準備が整った。
――――――――いよいよ作戦開始、『プロジェクトEVA』だ!


「ぼーや、腕を出せ」

「ハ、ハイ!」

まずは第1段階、ネギの血を摂取して【登校地獄】を軟化させる。


「カプッ・・・・ジュル・・・ジュル・・・ジュルル・・・・・」

「あ、あぅぅ・・・」

ネギの喘ぎ声に少女達が顔を赤らめているが、まあ問題ないだろう。


「マスター、そろそろ限界値です」

「む」

名残惜しそうに口を腕から離す。ネギが多少ふらついているが、・・・・うん、大丈夫だろう。
ココで言う「限界値」っていうのは、致死量じゃなくて健康を害さない程度って意味なのであしからず。


・・・こっからが本番だ、第2段階スタート!


「いくぞ!

【契約執行15秒間、エヴァンジェリンの従者〈一海里〉】!!


詠唱と共に、エヴァさんの魔力が俺の中に流れ込んでくる。強大なソレは渦を巻いて、全身を駆け巡る。
俺は各部に関所を構築するイメージで、流れの矛先を1か所に誘導させる。
集められた膨大な魔力は、放流する瞬間を今か今かと待ちわびているようだ。


―――――――――おそらく2度目は身体がもたない、・・・・・・・一発勝負だ!!!



――――――――患い招きし元凶よ、退け!!【ディスペル】!!!


開戦の合図を受けた兵士の如き勢いで、ありったけの魔力達が呪いに突撃した。
【ディスペル】は俺が使用できる中でも上級に位置する浄化魔法、コレでもダメなら後が無い。

敵勢の築いた城壁を打ち破らんと、浄化の意思達が総攻撃を仕掛ける。その勢いを絶やして堪るものかと、俺も力の限り送り続ける。


―――――――そして、無敵の城壁に決壊の兆しを確かに感じ取った。内側が脆くなった成果だ!


気を引き締めろ、第3段階!!


「今だコノカァッ!!」

【契約執行10秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!


―――――――かつてない程の衝撃が俺を襲った。


「うぐぉあ、うっぷぅ・・・・!! っぷぅ・・・!!?」


ソレは、明らかに俺の魔力キャパを超えた力の奔流。
内臓が、神経が、筋肉が、あらゆる身体の器官が張り裂けそうになる。得体のしれない何かが込み上げてくる、正体は言うまでも無いだろう。

・・・ヤバイ、マズイ、イダイ、ギボヂワルイ・・・!

だが、負けない。

元々持っているヒトならざるタフネス。
幼少期に培った我慢強さ。
バンダナの恩恵を受けた精神力。
そして、吸血鬼化して得た耐久力。
これらを総動員して俺の中の悪魔(笑)を抑え込む。

そして、持ちうる限りの魔力を注ぎ込み【ディスペル】に更なるブーストを掛ける!



「え、ちょっと、なにアレ!?」


アスナがある変化に気が付いた。何かがエヴァさんの周りに浮かび上がって来ているのだ。その全貌が、薄っすらとだが、徐々に明らかになっていく。

ソレは鎖、ソレは荒縄。
誰かが何も考えずにぐるぐる巻きにしたような、例えるなら、ゴルディオスの結び目をもっと滅茶苦茶にしたような感じ。
エヴァさんの周りに、そんなモノが何重にも巻き付いている。

―――――――まるで、彼女をココから逃がさんと言っているかのような光景だった。


「おそらくマスターを縛り付けている【登校地獄】が、ミサトさんの魔法の作用で可視化されたものであると推測されます」


両眼のレンズに備え付いている何かしらの機能を用いて、チャチャマルがその光景を解析する。
・・・アレが元凶か、わかりやすい形してんじゃねえか・・・。

ちなみにさっき言った「ゴルディオスの結び目」っていうのは、かのアレキサンダー大王が解いたとされる結び目のことだ。解いたって言うか、ブッた斬っただけなんだけどね。

対象が視認できればイメージするのも簡単だ、アレを解いちまえばいいんだからな。

力を振り絞る、もう少しなんだ、頼む・・・・・!


砕けろ、砕けろ砕けろ、砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろおおおおおおおお!!!!!




――――ピシ、――――ビシ、ビシ――――


―――――――ついに、鎖に罅が、そして荒縄に亀裂が生じ始めた。


「いっけえええ兄さんッ!!」

「総統、もう少しです!!」

「根性よ、ミサトォ!!」


もう少し、そう、もう少し―――――――――――



――――――――――だが、唐突に俺の魔法の勢いが減退を開始した。契約執行の時間が終わろうとしているのだ。


「ヤベェ、タイムリミットだ!!」

「そんな、ココまで来て!!?」


っきしょう・・・・・、ココまでなのか・・・・・・!!!?


「まだまだぁ! 【契約続行 追加10秒!! <一海里>】!!!」


ちょ、エヴァさん!? そんなイキナリ続行とか―――――――――――!?

だがそんな俺の声にならない悲鳴など聞こえるはずも無く、無情にもウルトラヘビー級の魔力がわんこそばの如く俺の器に追加された。


「う゛ぷぅぅぅ!!!??」


再びの強烈な嘔吐感、そして同時に訪れる四肢への鈍痛。咄嗟に右手で口を覆い隠す。
込み上げてくる酸味を必死に飲み込む。

・・・今のはヤバい、マジで決壊するかと思った。続行するなら、せめて一言言ってほしかった。
なにやら鉄の臭いを感じる、おそらく鼻血が出てきたのだろう。無理が祟ったせいだろうか。

襲い来る吐き気と激痛を忘れるべく、魔法のブーストに全神経を集中させる。

だが、罅は入れども、亀裂は入れども、その先には至らない、決定打が無い。


「ダメだ、あと一歩足りねえぜ!」

「これ以上やったらミサトさんが持ちませんよ!」


ホントにヤバイ、マジヤバイんだけどコレマジヤバイよ! どれくらいヤバいかっていうとマジヤバイ!!
このままじゃ持たない、リバースする! 俺が生まれ変わる! 胃のフォルスが暴走する!!

意識が混濁する、限界が近い。どうすりゃいい・・・・・・!?


――――――――こうなりゃ破れかぶれ、一か八か、当たって砕けろだ・・・!


込み上げる衝動を掌で塞いで必死に耐えながら、心配そうな顔して供給を続けるコノカに視線を向ける。
俺の視線に気づき、コノカの眼と俺の眼がカチあった。


視線が交錯する。この間、僅か0.6秒。


「・・・・・了解や!!」


―――――――だが、意思を伝えるには、それで充分だった。


「エヴァちゃん、追加や!! 同時にラストスパートかけるえ!!」

「ちょ、木乃香姐さん、そんなことしたら!?」

「ミサトが持たないわよ!」

「総統が今そうゆーたんや!!」

しっかり伝わったようだ、幼馴染スキルをナメてもらっては困る。


「ふん、腹くくったか・・・イイ度胸だ、買ってやる!!」

エヴァさん了承、そして両者が魔力を送り込む準備を整える。
受け入れ態勢は最悪、だが泣いても笑っても怒っても・・・、コレで最後だァ!!!


「「契約続行 追加5秒!! <一海里>!!!」」


正真正銘、最後の濁流が注ぎ込まれる。

色の違う魔力が、同時に別方向から侵入し、ぶつかり合い、大嵐を巻き起こす。

もはや俺の身体も我慢の限界、アチコチから何かが断裂するような嫌な音が耳を穿つ。
押し寄せる壮絶な存在に、意識が朦朧とする。眼の前が、歪む。

最後のブーストが掛かった浄化の意思が、最終特攻を仕掛ける。
呪いはハッキリと視認できるまで具現化されている。
鎖が、荒縄が、音を立て亀裂を生みだす。
罅の浸食は全体に及ぶ。もう少し、後一押し、そう見えるほどにまで・・・・


・・・だが、終わらナイ、解ケない、クダけなイ。


・・・呪バクの鎖ガ、断ちキれナい。


・・・皆の声ガ、遠くニ、聞コえル。


・・・意シキが、マリョクニ、ノミ、コマレ、ル―――――――――――――――――――――











―――――――――ピキイイイイイイイイイイイイイイイイイインン!!!!!―――――――――





刹那、ミサトの脳髄を閃光が貫いた。






・・・ナンデ、トケネエンダヨ・・・・・・ドウシテ、クダケネエンダヨ・・・・・



――――――――魔力の限界を超え―――――――――――



ソノコヲ、カゴカラ、ダシテヨレヨ・・・・・モウ、ジュウブンダロウ・・・・・・



――――――――肉体の限界を超え―――――――――――



イイカゲンニシロヨ、テメェ・・・・・・・



――――――――精神の限界を超え―――――――――――



・・・アァソウカイ、・・・ソレナら、ヒトおもイに・・・



―――――――――少年は、ついに――――――――――――









そノ呪縛ごト、ブッた斬ってヤるよぉおおおおオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!




―――――――――――キレた――――――――――








少年の激情と呼応するようにアーティファクトが光を放ち、形状を変えていく。


光と共に姿を現したのは、一振りの剣。

時を統べ、空間を制する、奇跡のヒカリ。

“時”に縛り付けられた少女を解放するための希望のヒカリ。


――――――――――名を、永劫の剣【エターナルソード】――――――――――


荒れ狂う奔流は導かれるように蒼き刃へと流れ込んでいく。

永劫の剣に、持ちうる限りの魔力が内包される。

・・・さぁ、準備は、ととのった―――――――


瞬間、眼が眩むほどの光を放出し、蒼き刃が聖なる閃光の波を生み出す。
輝ける星のようなその蒼剣を、その力を解放するかのごとく、天へと振りかざす。

限界に近い少年の雄叫びと呼応するように、限りなく輝く刀身から一筋の光が顕現する。

それは正しく、あふれ出る魔力と臨界点を超えた精神状態が生み出した、光の奇跡。
その姿は、光り輝くツバサの如し。


狙いは鎖、今こそ、先の見えない時の呪縛から、その身を解放してやる―――――――――!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



―――――――万感の想いをこの身に乗せて、力の限り輝く剣を振り下ろす!!!


煌めくツバサと呪縛の鎖が、轟音を立ててぶつかり合う。

せめぎ合い、削り合い、火花と称するには大き過ぎる閃光を撒き散らす。



「――――――――負ける、・・・ものかあああああああああああああああ!!!!」



ツバサが、呪いの罅を、亀裂を、押し広げていく。



――――――――そして――――――――







 バキイイイイイイイイイイイイイインンン!!!!!







―――――――――ついに、少女を15年に渡り縛り続けてきた呪いの鎖は、音を立てて崩壊した。

崩壊の衝撃波で、金色の少女と漆黒の少年は吹き飛ばされる。


一気に気が緩んだせいだろう、砕け散るソレを見届けるのを最後に、意識が闇に堕ちていくのがわかる。



・・・コノカ、セツナ、後始末は、・・・任せ、・・・た――――――――――――





















「総統!! しっかりしてください!!」

「あかん、お食事中の方には見せられん在り様や!!」

「ちょっと、鼻血が尋常じゃないわよ!?」

「耳血も出てるぜ、マズイんじゃねえか!?」

「大丈夫ですか!?」


ギャラリーは倒れこんだ海里の元へと集まっていた。

限界を超える精神力で仕事を遂行した海里。その身体をわかりやすく表すなら、『ザ・重症』の一言に尽きるだろう。
殴られたわけでもないのに鼻血に耳血に内出血、顔色も最悪、まさにパーフェクトだ。
また、意識を失うと同時に抑え込まれていた生理反応が一気に噴き出したため、今さっき木乃香が言った通り、現在あまり直視したくない状況にある。
詳しくは彼の名誉のために言わないでおきたい。下の方は無事だということだけ言っておこう。

明日菜、ネギ、カモもかなり心配しているが、木乃香と刹那はなりふり構わず彼を抱きかかえ、海里に声を掛け続けている。自分が汚れようがお構いなし、流石は幼馴染だ。

とりあえず命に別状はなさそうではあるが、しばらくは起きそうにないだろう。



「ナンダナンダ、ナンノ騒ギダ?」

そしてギャラリーの中でただ1人、主の安否を気遣う茶々丸と、騒ぎを聞きつけてフラフラ現れたチャチャゼロは、エヴァが居るであろう砂煙の立ち込める場に集まっていた。

砂煙が収まると、そこにはうつ伏せでピクピクし、所々焦げ、頭にコブをこさえたエヴァンジェリンの姿が。どうやら余波を受けてダメージを喰らったらしい。
コブは吹っ飛んだときに石にぶつけ出来たようだ。障壁を張ろうにも、ヘタをすれば解呪の邪魔をしかねないため手が出せなかったのである。
吸血鬼の身体にコブが出来たということは、相当な勢いでぶつけたんだろう。考えただけで痛い。


「マスター、無事ですか?」

「う、うう・・・・ミサトの奴、私ごと攻撃しよってからに・・・!!」


コブを押さえながらヨロヨロと立ち上がるエヴァンジェリン。そしてそんな彼女の変化にいち早く気付いたのは、数百年来の付き合いの殺戮人形だった。


「オ? 御主人、イツモヨリ供給ガ強イガ、封印ハドウシタ?」

「何!? ・・・・こ、これは・・・・!」


チャチャゼロに言われ、慌てて自身の状態を確認する。
そう、今まで己を縛り付けていたものの存在が感じられない。魔力運用が全く阻害されない。

「マスター周囲の魔力反応に変化あり。封印術式の消滅を確認。【登校地獄】の解呪は成功した模様です」


「・・・ふ、ふふ、ふふははははは、フハハハハハハッハハハッハハハッハハハッハァッ!!!」 


ブロンドの少女は歓喜の叫びを上げる。苦節15年、ようやく解放された歓びを全身で表している。
人目が無ければ小躍りしそうな勢いだ。


「やった、ついにやったぞ!! ついに解けた!!」

「ああ、マスターがあんなに嬉しそうに・・・」

茶々丸も心なしか表情が柔らかく見える。見ようによっては、娘の成長を喜ぶ母親のようにも見えなくもない。


ひとしきり喜んだ後ようやく興奮が落ち着いてきた所で、チャチャゼロがもう一方の騒ぎの中心に視線を向ける。

「ケケケ、ミサトノ野郎、面白ェコトニナッテルゾ」

「む? ・・・確かにな、とてもサウザンドマスターの呪いを撃ち破った者の顔とは思えん・・・」

「かなり衰弱してるようです。 脱水症状、内出血、その他諸々の症状が見受けられます」


幼馴染に抱きかかえられ、未だ生気の無い表情で気絶を続ける少年を見て、「全く、世話の掛かる従者だ」と溜息をつくエヴァ。


「茶々丸、アイツを治療室に運んでやれ。 チャチャゼロは他の者を呼んで風呂と着替え、それと清掃の用意をするように伝えろ」

「了解しました」
「ヘイヘイ」


少女は、自分諸共呪いをブッた斬った従者に青筋を浮かべている。「よくもやってくれたなコノヤロウ、後で覚えてろよ」と言いた気な表情だ。

だがそんなこと海里が知る由も無く、未だ青い顔して呻いている。


――――――――あんな奴が、呪いを打ち砕いたのか・・・。

――――――――こんな奴が、私の、・・・。


・・・その情けない少年の姿を見て、ふぅっと一息つくと、エヴァンジェリンは外見相応の柔らかな笑顔を浮かべ、こう続けた。




「・・・丁重に扱えよ、仮にも私の“友人”だからな」

「オ優シイコッタナ」

「やかましいぞ」






―――――――――――海里が眼を覚ますのは、現実時間で5時間、別荘時間で5日後のことであった。












◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



解呪完了。エターナルソードでぶった斬ってみましたけど、・・・無理がありますか?

一応、【ディスペル】中にアーティファクトチェンジしたため剣に浄化作用がついた、という感じになっています。

じゃあ他の剣でもいいじゃん、と思うかもしれませんが、やっぱりナギの呪いを斬るならエターナルソードくらい強力なのじゃないと。

ちなみに最後に放ったのは【冥空斬翔剣】ではありません。それに近い物ですが、力任せに時空剣技を使っただけです。
ミサトはまだエターナルソードも時空剣技も完全には制御できません。只今訓練中でございます。今回使えたのは、超魔力+極限状態 のおかげです。




[15173] 漆黒の翼 #25
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:0c1e7953
Date: 2010/05/21 22:26

―――――――暗闇に染まる深い森。



―――――――その黒い世界を紅くせんと、紅蓮の炎が闇を喰む。



―――――――重なり合い、溶け合い、融合し、勢いを増す業火。



―――――――周囲からは、パチパチと木々が熱で爆ぜる音が耳を穿つ。



―――――――灼熱の焔に包まれたその場所に立つのは、1人の少年。



―――――――その手には、使い込まれた得物が堅く握られている。



―――――――噛み締めるように、震えを抑え込むように、堅く、強く、握られている。





―――――――そして、静かに瞳を閉じ、ゆっくりと背を向け、少年は歩き出す。







―――――――――漆黒の少年は、焔の渦巻く森の中へと消えていった―――――――――

































「―――――――・・・・っん、・・むぅ・・・」


瞼の上から注がれる光を感じ取り、俺の意識が現実に回帰していく。
どれくらい寝てたのかは知らないが、ともかく俺はそのままのっそりと覚醒した。

上体を起き上がらせようと腕に力を入れると、身体の節々がパキポキと音を立てる。どうやら長いこと意識を失っていたようで、全身運動不足で悲鳴を訴えているらしい。

視線を上に移せば、自分の趣味にマッチしない豪華な照明器具。てことは、ここはまだ別荘の中か・・・。



・・・にしても、久しぶりにあの夢見たな・・・。






 ぐぅ~ぎゅるるるぅ~~~・・・・・・・・



・・・・それはそれとして、腹減ったな・・・。ホントにどんくらい寝てたんだろうか・・・?



「5日間眠りっぱなしでしたよ」


思考を読み取ったかのような柔らかな声が左耳から入ってきた。

上に向いていた視線を左に向ければ、いつも通りの表情をしたセツナが、イスに座ってベッドの傍らに佇んでいた。

足元には水の入った洗面器、手元には濡れタオル、そこから導かれる解答は・・・・。



「看病してくれてたのか」

「このちゃんと交代で、今は私の番です」


もうすぐ交代の時間ですがと付け足し、やや呆れるような顔で俺を見るセツナ嬢。なんだその顔は。



「まったく、無茶しすぎですよ・・・」

「まさかここまでとは思わなんだ」


ゲロの始末が大変だったんですからね、女の子がゲロとか言うな、などと話していると、部屋の重厚な扉がギィっと軋みながら開かれた。
その隙間からひょっこり顔を覗かせる黒髪ロング。言うまでも無い、コノカだ。



「せっちゃん、そろそろ交代・・・・あ、眼ぇ覚めたんやなッ」


起き上がっている俺を確認すると、パッと顔を明るくさせてトテトテ侵入してくる。



「看病してくれてたんだってな」

「せや、感謝しィや♪」

「感謝、感激、雨、霰」


ゲロ始末が大変やったんやから、だからゲロとか言うな、とやり取りした後、臨時看護人2人が揃った所で改めて礼をする。
世話掛けたな、もう大丈夫だ。



「てい」

「あだっ」


油断してたらデコピンされた。何しやがんだコンチクショウ。



「無理せんどいてってゆーたのに・・・、スパートかけたウチが言うのもアレやけど」


プリプリ頬を膨らませながらむくれるコノカ。本気なんだか、おどけてるんだか。
セツナも「あなた1人の身体じゃないんですよ」と言わんばかりの小言トーク。俺は妊婦かっての。



「「返事は?」」

「わ、悪かったよ、心配掛けて・・・」

「「判ればよろしい」」


2人してズズイッと顔を近づけ迫って来たので、思わず仰け反って平謝り。
こういうときは男より女の方が強い。というか、この2人はいつも強い。船頭取るのも大変だよ。




「ぷっ」

「・・・あはッ」

「フフフ・・・」



――――――――何が可笑しかったのかは判らないけど、俺達は顔を見合わせて笑った。


・・・そういや、昔は3人のうちの誰かが風邪ひいたら、こうやって2人掛かりで看病してたんだっけか。
慣れない手つきでリンゴ剥いたり、見よう見まねでお粥作ったり。
コノカが料理に興味を持ちだしたのそのあたりだっけかな?
俺も多少興味が湧いていろいろやってみたけど、どう頑張ってもコノカより美味く出来なかった。
結果、別のベクトルに向かって邁進し、ネタ料理を作るに至ったわけだ。マーボーカレーはその副産物と言えよう。

・・・そんで結局残りの2人にも風邪がうつって、3人揃って女中さん達の世話になるっていうオチが付いちゃうんだよなコレが。


そんな思い出に浸りながら、ベッドの縁から足を放り出してブラブラさせる。
ふと、足元の洗面器とタオルが眼に留まった。ちょうどいい、ちっとばかし汗かいたし、使わせてもらうか。

やたら豪華な寝具から身を乗り出し水面を覗きこむ。ソコに映っているのは、毎日見慣れた顔・・・・・



「・・・・・」

「総統?」
「どないしたん・・・・、あ・・・」


ゆ~っくりと視線を水面から少女達の顔にシフトする。若干引き攣り気味なのは気のせいじゃないと思う。



「・・・・・コンニャロウ・・・」

「「あ、あはははは・・・・」」



―――――――――水面に映った少年の額には、デカデカと『肉』と書かれていた。振り仮名付きで。



















――――――長い廊下をバラバラの歩調でテケテケ進む少年少女。ネギ、明日菜、カモ、エヴァ、茶々丸である。

前者3人はやや急ぎ足、エヴァは頭に後ろ手を組んでテチテチと歩き、その後ろを茶々丸が付いていく。

ミサトが気を失ってから、未だ全員別荘に留まり続けている。なんやかんやで心配なのは皆同じなのだろう。金髪さんは否定するかもだが。



「ミサトさん、眼が覚めてるといいですね」

「ホントに心配かけて・・・、起きたら文句言ってやらなくちゃっ」

「もう5日ッスからね。そろそろ起きてもいい頃だと思うぜ」


ガヤガヤとしゃべくりながら歩を進める若人衆に、眉をピクリとさせながら金髪娘が注意をかける。



「騒がしいぞ貴様ら、病人の部屋に行くならもっと静かにしたらどうだ」

「っと、そうだったわ。煩くしちゃダメよね」


注意を受けて、片手で口元を押さえて反省する明日菜。それでも歩調は緩めない。

人は1週間身体を動かさないと、筋力が20%以上低下するといわれている。
5日間寝込んだミサトの身体は、おそらく相当弱りきっているに違いない。

しっかりサポートしてやらないと、と意気込むネギ&明日菜。
サポートはあの2人がやってるからオマエ達の仕事は無いぞ、と後ろで傍観していたエヴァは思ったが、メンドクサイので黙っておいた。



そうこうしている間に病室前に到着。

衰弱しているであろう少年の姿を思い浮かべながら、ふぅっと息を吐く。
ノックもそこそこに、扉を開けて入室する一同。



「ミサト、身体の具合は――――――――」


そこで、彼らが眼にしたものは――――――――――――――










「人の寝てる間に落書きなんかしてんじゃねえよ!」

「心配かけた罰ですよーだ」
「せやせや、心配料として受け取っときー♪」

「こンのお転婆共ォ、お仕置きじゃいッ!!」

「ちょっ総統ッ!?」
「あ~れ~おたわむれを~♪」

「ハッハーッ!! オラオラァ、貴様らにも書いちゃるッ!!」





――――――額に『肉』と書かれたミサトが、黒ペン片手に少女2人とベッドの上でドッタンバッタンしていた。




後にその光景を見た5名にその時どう思ったかを尋ねてみると、口を揃えてこう呟いたという・・・





『・・・心配して損した・・・』と。





















アスナのからてチョップ(クリティカル)により俺達のじゃれあいは中断された。病み上がりの人間にチョップって。



「もうちょっと病人を労わってくれよ」

「私はその辺の板でも割りたい気分なんだけど?」

「このタイミングでダジャレってすみませんごめんなさい心配掛けて悪かったから拳をしまって下さい」


アスナの気迫に押され、米つきバッタばりの平謝りを見せつけるハメになってしまった。

落ち着いた所で、その場に居る全員に「心配掛けてすまんかった」と詫びを入れる。
アスナから「無茶すんじゃないわよ」と説教され、エヴァさんから「治療薬作るのメンドかった」と文句を言われた。すいませんねえ、不死身だから治療苦手なのに。


深々と頭を下げた所で、再び俺の腹の虫が大合唱を始めたため、一旦その場は流して食事を摂ることに。
ちょうどよかった、腹へって死ねるトコだったのよ。


――――――――数十分後、そこには大量の肉料理を搭載したカートと共に戻ってきたチャチャマルの姿が!

宴もたけなわ夏のおきなわ、ということでありがたく運んできた料理を頂くことした。豪勢な肉料理の数々、心して食すべし。
とにかく喰う、かっ喰らう。身体が血肉を欲している。だから喰う。強くなりたくば喰らえ!!



「(ガツガツ、ムッシャムシャッ)」

「よく食べるね・・・」

「5日ぶりのメシッスからね」

「(ガツガツ、ゴックン)チャチャマル、肉追加!」


カモネギが感嘆する声も気にせず、いかにも高級そうな皿の上のレバーを喰う。
ふむ、イイ肉使ってんな。タレも上物だ。カルビうめぇ。



「起き抜けによくそんな脂っこい物食べられるわね・・・」


起き抜けだからこそ、胃を活性化させて消化を促すのだ。
胃に優しくない?知るかそんなこと、甘やかすとつけ上がるんだよコイツらは。

朝からガッツリ! 肉を頂く新習慣、『朝カルビダイエット』! コレは流行る!!



「流行んないわよ、そんなギトギト習慣。ダイエットの意味解ってんの?」


失敬な奴だな、それくらい知ってらい。『diet(ダイエット)』は『食事』という意味だ、常識だろうが。


「え、マジで!?」

「よく『diet therapy(食餌療法)』と混同されますが、本来はそういう意味なんですよ」


英語教師ネギも補足してくれた。良かったなアスナ、また1つ賢くなったぞ。

それにな、俺の胃の心配なら無用だ。
変な雑草や怪しいキノコを喰らい尽くしてきた俺の鋼鉄の胃袋はそんなに柔じゃねえのさ、舐めて貰っちゃあ困るぜ。

んなこたぁどーでもいいんだよ、今は肉を食わせろ肉を。



「野菜も食べなアカンよ?」

「今は栄養よりエネルギー重視だ」


子供の好き嫌いを躾ける教育ママ的な発言をしながら、グルグルほっぺのコノカが野菜の盛られた皿を差し出してくる。



「・・・キュウリだけかよ」

「余ってたんがコレしかなかったんよ」


その他のベジタブルは別の料理に使ってしまったらしく、皿の上にはスティック状に切られた緑のお野菜がこんもり盛られていた。

キュウリ単品でこんなに食えるかよ、沙悟浄じゃねえんだから。



「ミソくれよ」

「マヨならありますけど」

「ソレでいいや」


ネコ髭モードのセツナからマヨ容器を受け取る。
肉の合間にキュウリをシャックシャク咀嚼。

・・・やっぱキュウリにはマヨよりミソ派だな、俺は。



「いやでも(ムッシャッムシャ)、ホントに(クッチャクッチャ)、心配(シャクシャクッ)、かけてメンゴ(ジュルルルルッ)―――――」

「喰うか喋るか謝るかどれかにしろ」



注意されてしまったので喰うことに専念する。あっコノカ、そこのホルモン取って。




――――――数十分かけて運ばれてきた料理を完食し、ケプッと息を吐く。5日分は摂り戻したな、多分。今にも身体から蒸気が溢れそうな気配だ。



「一海里復活ッッ!!一海里復活ッッ!!」

「少し黙らんと砂糖水14キロ鼻から流し込むぞ」


調子に乗り過ぎて怒られちった。美味いモンたらふく食ったから変なテンションになってしまったぜ。



「ま、なんにせよ【登校地獄】はコレで完全に解呪されたハズだ。褒めてやる。光栄に思えよ」


そりゃどうも。苦節2年弱、俺も頑張った甲斐があったってモンよ。

・・・・ん? “ハズ”ってことは・・・。



「まだ外に出てないんですか?」

「・・・ん、まあ、な」


そりゃまたなんでさ、さっさと試してみりゃいいのに。



「ミサトさんが眼を覚ますまでは待つのがスジ、だそうです」

「・・・余計なことは言わんでいい」


律儀なモンだねぇ、流石は『誇り高き悪』だ。
それでさっきからソワソワしてんのか。早く外に行きたくて仕方ないんだろうな。



「俺ならもう平気ですから、試してきていいですよ」

「そ、そうか、じゃあ行ってくる!」


返事も言い切らないうちに、雪を見た関東地方の小学生のようにピューっと外へ走って出ていってしまった。チャチャマルも俺に一礼して後を追う。

ほんじゃ、寝てる間のラグを埋めておくとするかね。



「俺が寝てる間になんか変わった事とかあるか?」

「あ、じゃあ説明しながらちょっと歩こか? リハビリせな」


コノカに促され、その辺を散歩することに。
セツナが肩を貸そうとしてくれたが、やんわりと断った。氣を足に回せば動けないことも無いし、その方が治りも早かろうて。

そんなこんなで話を聞きながら、5人と1匹で別荘を徘徊する。






「――――――――と、まあこんなとこや」

「なるほどね」


しばらく別荘内をぶらぶらしながら話に耳を傾ける。

あらかた情報を受けとったが、1番驚いたのは『サウザンドマスター生存』だろうか。
10年前に死亡説が流れエヴァさんも半ば諦めていたことだが、6年前にネギの前に姿を現し、己の杖を息子に託していったそうな。

つーか生きてんなら解呪しに来いよ。それとも何か来られない事情でもあんのだろうか?

・・・ま、生きてたのなら、ソレはソレでメデタイ話だからイイか。



「めでた過ぎて、エヴァちゃんがはしゃいでネギとガチバトルしそうになったけどね」


『生きてた→嬉しい→ちょうど呪いも解けたことだし→景気づけにいっちょやったるか』のコンボだったらしい。
眼をつぶると、「フハハハー!」とか言いながらネギをいたぶる幼女の図が容易に想像できる。
なんとかやめさせたらしいけど、災難だったな、ネギよ。



「で、でも、解呪に協力したお礼に父さんの情報も手に入りましたし、収穫もあったんですよ!」

「京都に親父さんの手掛かりがあるんだっけか?」


曰く、サウザンドマスターが一時期隠れ家にしていた住居が京都にあるらしい。
俺は聞いたこと無いけど。詠春さんから教えられた覚えも無いし。けちンぼめ。



「再来週から修学旅行で京都だから、ナイスなタイミングよね」


よかったわねネギ、と姉のように子供先生に話しかけるアスナ。とっても嬉しそうなネギ。
マジで姉弟みたいだよね、コイツら。



――――――そう、中学3年の修学旅行。コノカ達のクラスは、俺らの故郷・古都京都を訪ねることになっている。

留学生が多く担任も英国人ということもあって、日本文化を肌で感じてもらおうと多数決で決まったらしい。なんと云う偶然。

ただ、西の情勢が今どうなってんのか解らないから、ちょっとばかり不安なんだよな・・・。
詠春さんが頑張って下の奴らを押さえてくれてるといいんだけど。

・・・何も起こらなきゃいいんだけどな。



「総統のクラスも京都なんですよね?」

「京都派とハワイ派と割れたけど、最終的にな」




―――――ウチのクラスの野郎共は大きく2つに分かれた。

「とりあえず定番は抑えるべきっしょ、jk」という京都派と、「ビキニ美女ktkr!」というハワイ派だ。

俺はコノカの件もあるし、心配だから同行したいということもあって京都派に属していた。
ちなみにダイチ達はハワイ派、わかりやすい奴らだ。

煩悩の強いハワイ派がやや優勢だったため、秘密兵器投入。ピンチヒッター俺。


「金髪ボインと甘い夜を過ごすんだお!」という夢見がちボーイズの速球。
「甘い夜に持ち込めるほどオマエらは英語が達者なのか?」と、ピッチャー返しを浴びせる。

「この機を逃したら、もう行くチャンスは無いかもだぞ!?」と、外角高めのストレート。
「高校の修学旅行で行けんじゃね?」と、二塁頭を越すポテンヒット。

「い、今行かなくてどうすんだよ!」と、内角に高速スライダー。
「中学生のガキより高校生の方が相手してもらえる可能性高いぞ」と、三遊間を抜ける当たり。

「お、オマエは京都出身だろ!?だったら・・・!!」と、すっぽ抜けど真ん中の棒玉。
「地元の可愛い娘の居る甘味屋なら案内するぞ」と会心の一打。

アーチを描き見事グランドスラム。逆転サヨナラ勝利を収め、会場はニノマエコールに包まれた。


あと、俺は京都育ちだけど、京都出身じゃないのであしからず――――――――――






「しっかし兄さん、あのサウザンドマスターの呪いをぶった斬っちまうとは恐れ入ったぜ」


カモが思い出したかのように俺の方を向き、やんややんやと褒め称える。

あれは俺一人の力じゃない。ネギやらコノカやらが力を貸してくれたから出来たんだ。
もう1回やれって言われても出来るモンじゃない。というか、やりたくない。あんなの何度もやったら死ぬっつうの。



「兄さんは魔法使いなんだろ? 剣も使えるんスか?」

「どっちかっつーと剣の方が得意なんだよ。俺、バリバリの前衛タイプだから」


エヴァさん曰く、魔法を使うものは大きく分けて2種類に分類されるという。
1つ目は術者が後ろに下がり、従者に守られながら大火力魔法を武器に戦う巨大な砲台『魔法使い』。
2つ目は術者が前衛に出て、体術と小魔法を織り交ぜて接近戦をこなすスピードスター『魔法剣士』。

この括りで言えば俺は『魔法剣士』だ。
なんだけど、接近戦では剣で戦って一旦後ろに下がってセツナに守られながら魔法をぶっ放すのが俺のスタイルだから、微妙に違う気もする。
かといって『魔法使い』にしては前に出過ぎな感じが否めない。

言わば、『剣士兼魔法使い』といったところだろうか。
厳密にいえば『剣士』でもないんだけどね。



「いやー! 魔法も剣も達者たぁ感服したぜ!! よっ、この漢前ッ!!」

「よせやい、テレるぜ」

「是非、兄貴のパーティの一員に!!」

「ソレは断る、俺は忙しいんだ」


さっきからやたら煽ててたのはソレが狙いか。俺はコノカを護るので手いっぱいなんだよ。他当たってくれ。



「カモ君、無理言っちゃダメだよ。ミサトさんにも都合があるんだから」

「でもよぉ兄貴、兄さんが居れば百人力だぜ? ・・・今なら2人もオマケがついてくるし(ボソッ)」


カモの勧誘活動をネギがやんわりと咎める。小動物がボソッとなんか言った気がするが、無視することにする。

ネギの言う通り、俺には【漆黒の翼】の総統としての大事な役目がある。
コッチにゃコッチの都合があるんだ、勝手にパーティに組み込まないでほしい。

ネギもそのあたりは理解しているのかいないのかは知らないが、ちゃんと相手の都合を汲み取るだけの配慮は欠かしてないらしい。
来日初日の失礼さがウソのようだ。成長したな。


・・・ただ、ネギもちょっと残念そうな顔をしている。

・・・無碍に断りすぎたか?


・・・コイツには協力してもらった借りもあるし・・・。



「・・・あー、アレだ、前にも言ったけど、一応は俺の方が年長者だからな」

「え、あ、はぁ・・・」

「・・・だから、まぁ、相談くらいには乗ってやるから、困ったことがあればいつでも来いよ?」

「ッ! ハイ、ありがとうございます!!」


少し落胆気味だったネギの顔が、パァっと明るくなった。
うんうん、子供は素直でヨロシイ。



「デレたわね」
「デレましたね」
「デレたなぁ」


煩いぞ、そこの三人娘。




「そういえばミサトさんのアーティファクトって杖になったり剣になったりしますけど、他にも形態があるんですか?」


ネギが俺のアーティファクトの話へと話題を変えてきた。流石ネギ、目の付け処がシャープです。



「杖と剣の2形態だけッスか?」

「いんや、他にも斧・槍・弓・ハンマー・グローブ・レガース・銃・バズーカ、出そうと思えば楽器や人形、けん玉も出せる」

「・・・なんかもう滅茶苦茶ッスね、統一感がまるで無いというか・・・」


個性がいっぱい、と言ってほしいな。それに統一感ならあるぞ、全部『武器』だからな。



「一体何種類あんのよ?」

「知らね、数えたこと無いし」


数があり過ぎて数えらんねえんだよ、俺も全部は把握しきれないし。

・・・多分、百や二百は余裕で越えてる、よな? もしかしたら千くらいあったりするかもしれないな。



「でも数持ってるってだけで、全部を使いこなせるわけじゃないんだよ」

「そうなんですか?」


持ってるだけで強くなるワケじゃない。使いこなすには、それなりに訓練しないといけないんだよ。
もったいないことに、鍛錬が追いつかずおざなりになってる武器も1つや2つじゃないんだ。武器の種類が多いと習得にも一苦労なのさ。
1番得意な剣だって、その全てを使いこなせている訳じゃない。

例えば、今回使ったエターナルソード。アレはテイルズの中でも最強に位置する武器の1つだが、未だにその強大な力に振りまわされ続けている。

俺自身のレベルが足りていないというのも理由の一つだが、本来エターナルソードは精霊との契約とか指輪とかが無いと扱えない代物。
手にしただけで使えるような便利グッズじゃないんだよ。使えるだけ僥倖というものだ。

それにアレは、持ってるだけで魔力をガツガツ喰らう果てしなく燃費が悪い問題児なのだ。

どうやら自身を使うにふさわしい術者を見極めるために魔力を喰っているらしい。
ココで言う“ふさわしい術者”ってのは、魔力運用の上手い奴って意味だ。

魔力運用に長けていれば、例え魔力量が少なくても剣への供給は最小限で済み長時間の使用が可能となる。
逆に、魔力運用がヘタな初心者なんかだと、いくら大量の魔力を保有していても魔力をいっぺんに奪われてバタンキュ~という寸法だ。

更に供給とは別に、時空剣技を使うのにも大量の魔力を消費するという不親切設計。

俺も数年訓練しているが、持つだけで3分、戦闘に使えば30秒が限界だ。
時空剣技など放とうものなら、今の俺じゃ良くて1発、しかも放った瞬間意識が飛ぶ有様だ。

つまり、この剣を平然と持てるようになれば魔力のコントロールはバッチリってことなんだども、俺もまだまだ修行が足りないってことさね。
時空剣士への道は長そうだよ。


・・・ちなみに後日エヴァさんに試しに持ってもらったら、30分振りまわしても平然としていた。恐るべし600歳。





「――――んじゃ、そろそろ外に出る?」

「俺はもう少しココに居るよ、リハビリしたら出るわ。2日もありゃ充分だろ」

「付き合おか?」

「そうだな、頼むわ。ちょっと試したいことあるし」

「では私もお供します」

「サンキュ、セツナ」


というわけで、【漆黒の翼】の3人はココに留まり、ネギ・アスナ・カモは一足先に別荘を後にすることになった。


手を振りながら2人と1匹を見送り、ふぅっと溜息を1つ。



・・・・とりあえずランニングでもすっかな。























――――――魔法陣を通して外界へと帰って来たネギ一行。

ネギが部屋の時計に眼を向けてみると、時刻は午後3時を廻った所だった。
別荘に入ったのが午前10時過ぎだから、妥当な時間である。



「しっかし便利よねー、1時間が1日になっちゃうんだもん。魔法ってすごいわ、ホント」

「先に寮に戻ってやしょうか?」

「2,3時間したら出てくるんでしょ? それまで待ちましょ」


どうやらミサト達が帰るまで、エヴァ邸に居座り続けるようだ。
それまで何して暇つぶそうか、「昼寝でもするか」などとのび太的思考を働かせる明日菜の視界に、あるモノが入りこんできた。



「・・・・あ」


どうやら少女は暇つぶしの道具を見つけたらしい。








――――――1時間後――――――



「――――――〈ブラック・マジシャン〉でアスナさんにダイレクトアタック!」

「ぬがあああッ!! また負けたァ!!」


そこには元気にカードゲームに興じる2人の姿が!
暇つぶしの道具とは、先刻ミサト達が興じていたソリッドビジョンのアレだったようだ。

現在、〔ネギ 3-0 アスナ〕で、ネギ3連勝中。



「もぉー!どーして勝てないのよォ!!」

「姐さんのデッキ、攻撃モンスターばっかだからっスよ」

「何言ってんのよ、攻撃は最大の防御よ! 喰われる前に喰うの!!」

「姐さん、思考回路までモンスターになってますぜ・・・」


しかしながら明日菜のデッキ構成はヒドイ、猪突猛進にも程がある。なぁにこれぇ。



「考え無しに上級モンスター入れ過ぎなんスよ。さっきから何回手札事故起こしてんスか、何ジャンクションっスかココは」

「で、でも、ネギだって強いのいっぱい入れてるじゃないのぉ・・・」

「兄貴のはバランスが取れてるからいいんだよ。姐さんの9割モンスターじゃねえか、モンスターファームでも始める気ッスか?」

「うぅ、・・・じゃあどうすりゃいいのよぉ?」

「デッキ組み直すしかないッスね。兄貴、ちょっとタイム、作戦タイム!」


作戦参謀カモミールがバックに就き、デッキ再構築。
オコジョにアドバイスを受けながらカードを吟味する女子中学生の図は、シュール以外の何物でもなかった。







――――――さらに2時間後――――――



「なんやかんやでダイレクトアターックッ!!」

「また負けたあああああ!!」


明日菜がネギを追い詰める場面も何度かあったが、土壇場でのネギのデスティニードロー連発により、〔ネギ 10-0 アスナ〕で、ネギ10連勝中。



「カモ!ぜんぜん勝てないわよ!!どうなってんのよ!?私もう泣きそうよ!?」

「兄貴は・・・、兄貴は戦いの中で進化しているんだ!なんてぇ御人なんだ!!」

「す、すみませんアスナさん、楽しくてつい・・・・」

「私はちっとも楽しくない・・・・ちょっとは手加減しなさいよぉ・・・グスッ」

「でも、勝負はいつでも全力が礼儀だって古菲さんが・・・」

「世の中には接待ゴルフってのもあんのよぉ・・・」


この少年はどんなことに関しても飲み込みが異常に早い。高分子ポリマー並の吸収力だ。ソレは無論、遊びに関しても同義なのである。
たまに明日菜らと共にミサトの部屋に遊びに行った時も、スマブラでネス無双して帰って行くのだ。
学習能力の塊と言っても言い過ぎではないだろう。まったく末恐ろしいガキである。



「あーもう寝る!! このか達帰ってきたら起こして!!」

「あ、アスナさん!?」


「クカー・・・」

「もう寝ちゃった・・・」

「完全に不貞寝ッスね・・・」


ボスッと乱暴にソファで横になると、ものの数秒で眠りに落ちてしまった明日菜に驚愕しつつ、悪いことしちゃったかなぁと少々反省するネギであった。










――――――さらに3時間後――――――



「・・・・・むぅ・・・、・・・・・・アレ、・・・・僕、寝ちゃってたの・・・?」


別荘時間と現実時間との時差ボケも手伝ったのか、いつの間にか自分も寝てしまったことに多少驚きながら、身体を起こしてしょぼつく眼を擦るネギ。カモは床で丸まっていた。
ふと隣を見ると、ノンキな寝顔した明日菜がムニャムニャ言っていた。どうやらまた寝ぼけて明日菜にすり寄ってしまったらしい。ネギ、再び反省。



「えっと、時計は・・・・・・え、もう9時!?」


部屋の時計で時刻を確認するネギ。窓の外を見れば、辺りはすっかり暗くなっていた。
もうこんな時間ではないか、早く寮に帰らないと・・・・。

・・・あれ、このかさん達は?と、ネギは当然の疑問を抱いた。

明日菜が不貞寝した時点で夕方6時、現在時刻は夜9時。もしこの間に別荘から出てきたのだとすれば、自分達をスルーして帰るハズは無い。もう夕飯時なのだから。

ということは・・・・・。



「・・・まだ別荘に居るってことかな?」


ネギがそう結論付けたと同時に、玄関から物音が聞こえた。正確には、ガチャリというドアノブの音だ。



「――――――はぁ~、やれやれどっこいしょ・・・、って貴様らまだいたのか!?」

「こんばんは、ネギ先生」


家主のご帰宅だった。肩を自分で揉みながら部屋に入って来たエヴァの後ろに、大量の買い物袋を携えてた茶々丸が待機している。
家に帰った時のリアクションが完全に中年だったエヴァンジェリンにどう対応したらいいものかと、ネギは困惑してしまった。スルーした方がいいのかな?



「ん・・・むにゅ・・・・・あさごはんは~?」

「あ! アスナさん、眼が覚めましたか!」


ちょうどいいタイミングでツインテールさんが起床してくれてネギもほっと一安心。カモもソレに乗じて起きたようだ。

寝ぼけ眼で辺りを見回す明日菜。
とりあえず、ココが寮の部屋で無いことはわかったらしく、少しずつ記憶をたどって、頭をボリボリ掻いて状況を把握しようとしているようだ。



「・・・あ、エヴァちゃんお帰り、ご飯まだ?」

「当たり前のようにたかろうとするなッ!!」

「って、もう真っ暗じゃない! ちょっとネギ、ちゃんと起こしてって言ったわよね!?」

「おいコラ無視するなッ!!!」


・・・寝起きで若干頭が回らないみたいである。



「それが、このかさん達がまだ別荘から出てきてないみたいなんです・・・」

「まだって・・・、私達が出てきてからもう6時間は経ってるわよ?」


つまり、別荘内では1週間近く経過している計算になる。
治療薬のおかげでミサトの身体はかなり回復していたから、リハビリすれば1日弱で元通りになるハズなのだ。それでもまだ出てきてないということは、コレは軽く異常事態である。



「別荘で何かあったんでしょうか?」


不測の事態か、はたまたToLOVEるか、心配になったネギは様子を見に行こうとヒョイッと立ち上がる。

・・・と、ちょうどその時、一同の耳に人の声らしき音が届いた。
どうやらミニチュアのある部屋の方から聞こえてくる。ということは・・・



「あー、久しぶりの外だー・・・」
「籠りっぱなしでしたからねー」
「遅くなってしもーたな―」


そう、ミサト達3人がタイミングよくミニチュアの中から帰還したのだ。

籠り疲れた声を上げながら3人がリビングに入って来る。
ミサトは肩をぐるぐる回しながら首をコキコキ鳴らしている。
その様子を見る限り、すっかり元通りの身体に戻ったらしい。ネギ、ほっと一安心。



「皆さんお帰りなさい!」

「あれ、オマエら帰ったんじゃなかったのか?」

「すぐ戻ると思ってココで待ってたのよ」

「それなのに全然帰ってこないから、何かあったんじゃないかって心配してたんです!」

「あ~悪ぃ、リハビリ自体はすぐ終わったんだけどさ、魔力供給の活用方法とかを模索してたら、のめり込んじゃってな?」


どうやら中途半端に終わらせるのも嫌だから強化合宿していこうということになったようだ。
ネギ達も先に帰ってるハズだから、待たせなくて済むと踏んだのだろう。



「寮に戻っとっても良かったんやえ?もうお外真っ暗やん」

「何言ってんのよ、このかが帰ってこないと夕飯にありつけないじゃないの!」

「自分で作るっていう選択肢は無いんだな」


自炊能力くらい身につけておいた方がいいぞマジで、と明日菜の他力本願さに呆れてしまうミサトであった。














いつまでもグダグダたむろっていても仕方ないので、俺達は一旦リビングで落ち着くことにした。

10日以上引き籠ってたからな、軽く旅行に行ってきた気分だ。麻帆良から一歩も出てないのに。

なにやら小腹が空いたので、チャチャマルが淹れてくれた紅茶を飲みつつ軽い軽食を頂くことに。いやぁ悪いね、用意してもらっちゃって。



「で、合宿の成果はあったワケ?」

「それなりに、な」


ほっと一息ついた所で、アスナがスコーンをムシャムシャ食べながら質問してきた。行儀悪ィなオイ。

成果としては、魔法の方の秘奥義がかなり完成に近づいた、ような気がする、多分。
もともと結構頑張って練習してた所に魔力ブーストが加わったからな。あとは経験とテンションの問題だ。

あと、ついでだからコンビネーション攻撃の修業もしてきた。コッチの方も上々、長年の相棒との連携だったから比較的楽だったよ。
・・・ココだけの話、“3人”でのユニゾンアタックも思案中だ。

お披露目は近々、かみんぐすーん。



「・・・あ、そうだエヴァさん、身体の調子はどうですか?ちゃんと解呪できてました?」

「・・・・・」


・・・あれ?何か微妙な表情・・・?
・・・まさか、解呪は失敗!? どうしよう、ぬか喜びさせちゃったか!?



「ん、ああ、安心しろ。【登校地獄】は無効化されていた。無事学園の外にも出られたよ」

「マスターは存分にはしゃがれていました。嬉しさのあまり、小一時間ほど学園都市の境目で反復横跳びをされていたのを確認しています。もちろん録画済みです」

「バ!?おま、余計なことを・・・!?」

「「ニヤニヤ」」

「ええい!そんな生温い目でコッチ見るな!!」

《見ろ茶々丸、出られるぞ!!出たり入ったりできるぞ!!ほっはっよっとぁ!!》

「再生するなァ!!!」


その後ひとしきり喜んだパツキンさんは、学園外のブティックやらショップやらを巡り巡ってこんな時間になってしまったんだそうな。

フム、映像を見る限り解呪は成功したと見て間違いなさそうだ。
じゃあ、なんでそんな微妙な表情なんでしょう?



「【登校地獄】は消え去りましたが、マスターの魔力は封じられたままなのです」

「それってどういう・・・?」

「マスターの力の大半を封印しているのは【登校地獄】とは別物、ということです」

「私も15年間気が付かなかったのさ、忌々しいことにな。・・・ちっ、あの狸ジジイめ・・・」


話によれば、別荘を出た瞬間に再び魔力が抑え込まれ、どういうことだゴルァと学園長室へカチコミに行ったらジジイが全部吐いたらしい。

曰く、学園を覆う防御結界に隠れるようにエヴァさん1人を対象とした封印結界が施してあったというのだ。

それも、学園の電力と組み合わせたかなり強力なものらしい。
なんとも大がかりなこった。科学と魔法を組み合わせるとスゲェもんが出来ちゃうんだな。

本来【登校地獄】には魔力を封じる効果は無いのだが、ネギの親父さんが力任せに掛けたせいなのか、数%程魔力が抑えられる効果が付与されていたらしい。
そして残りの90%強を学園結界が封じ込んでいたのだという。

別荘の中では学園結界の効果から外れるが【登校地獄】は健在となっており、別荘内で封印を解いた時にエヴァさんが感じた解放感はその数%分である。



「つまり、学園を出入りできるようになった以外は以前と変わらないと?」

「いや、【登校地獄】の分の魔力封印が無くなったせいか、満月でなくても魔法薬の媒介なしで魔法が行使できるようになったぞ」


威力は全盛期とはほど遠いがな、と付け加え右手を軽く振るうエヴァさん。
すると小さな冷気の渦が発生し、俺の顔をヒュオッと撫でた。ちべてっ。


でもまあ、これで籠は無くなったわけだし、何処でも好きな場所へ飛んでいけますね。良かった良かった。



「それはそうなんだが・・・、よくよく考えたら、特に行きたい所も無いんだよなぁ・・・」


なんだか遠い目をする幼女。儚げな表情が画になる人だね。

しかし、まるで突然休暇を与えられたワーカーホリックのようなセリフッスね。
急に自由になると、どうすればいいかわかんなくなっちゃうんだよね。



「ナギを探そうにも、手掛かりは今のところは京都の隠れ家くらいだからな。闇雲に飛び回るのも効率が悪かろう」


随分と落ち付いておられる。てっきり――――

「世界中の草の根を掘り返してでも見つけ出して、私のモノにしてやるゥ!!」

――――とか言い出すのかと思ったのに。
呪いが解けたこととサウザンドマスターの生存が確認できたことで、精神に余裕が生まれたのだろうか。
あるいは、生きてるうちに会えりゃいいやとか思ってんのかもな。



「麻帆良から離れれば、また馬鹿共が私を討伐しに来るかもしれんしな。返り討ちにするのも面倒だし、しばらくはココで好きに暮らすさ。自由に出入りできる牢屋のようなものだ」

「ビスケット・オリバみたいっスね」

「“アンチェイン”か、悪くないな」


なんかエヴァさんがニヤニヤしてる。満更でもなさそうだ。
試しに、黒光りする筋骨隆々のマッチョボディを手にいれたエヴァさんを想像してみる・・・


・・・おえぇ。



「失礼な想像しなかったか?」

「いえ全然」


あっぶねぇ、気付かれたよ。なんて勘の鋭い人なんだ。


ちなみに、学校は辞めずに卒業まで居ることになっている。コレは前々から決めていたことなので特に話し合うことも無い。
何で辞めないかってーと、コノカが1週間くらいかけて説得したからだよ。「エヴァちゃんと一緒に卒業したーーい!!」って。
エヴァさんとしては、もうウンザリするほど通ったんだからサッサと辞めたいっていうのが本音みたいだけど、“記憶に残る”卒業を迎えるのも悪くないはずだ。



「そういえばさっき学園長のトコにカチコミに行ったとか言ってましたけど・・・」

「ああ、ジジイには話した」

「俺のことも?」

「伏せてはいるが、バレているだろうな」

「やっぱりなぁ・・・」

「あんなでも東の長だからな、眼力は甘くないぞ」


まあ、追及されたら口八丁手八丁で乗り切るか。
気付いてる上で好きにさせてくれたんなら、黙認と見てもいいのかもしてないけど。

やっちまったモンはしょうがない、後で考えよ。



「――――それじゃ夜も更けたし、寮に帰るとしますかね」

「ほらネギ、帰るわよ」

「ムニュゥ・・・、ふぁ? ふぁい・・・」

「眠そうやね」

「まだ10歳ですからね」


いろいろ疲れたのか、すっかりオネムになったネギをアスナが手を引き、俺達はエヴァ邸からお暇することにした。

住人2人に見送られ、ログハウスを後にする。

・・・と、その直前に俺だけ呼び止められた。なんじゃらほい?



「ジジイから伝言だ、“明日の午後3時に学園長室に来ること”だそうだ」

「・・・呼び出しッスか」

「もうすぐ大停電だから当日のシフトと担当区域を伝えるとか言っていたぞ」

「ああ、ソッチですか」

「貴様のチームのスナイパーにはもう伝えてあるそうだから、刹那には貴様から伝えておけ」

「りょーかいです」


・・・てか、エヴァさんに俺への伝言を頼んだってことは、バレてること確定だなこりゃ。エヴァさんも暗にそう言っているんだろうな。



「・・・京都に手掛かりがあるといいですね」

「ん・・・、そうだな」

「楽しみですね、修学旅行」

「・・・ふん」

「それじゃ、また」

「ああ」


ソレだけ言うと、エヴァさんは背を向けて家の中へ戻っていく。チャチャマルも後に続いた。
俺も踵を返して、コノカ達を追うため駆け――――――



「・・・ミサト」


――――――だそうとして、また呼び止められた。なんだよもぉ。



「なんすか?」


その場で足踏みしながら首だけ後ろに振り向いて訊き返す。

エヴァさんは扉に手をかけ、背を向けたまま一言。




「・・・・ありがとう」


「・・・どういたしまして」



ソレだけ言って、俺は後ろ手を振って駆けだした。



――――――パタンと扉の閉まる音が、夜空に響いた。

































〈オマケ〉



――――別荘内・修業中――――



「・・・そういえば総統」

「なんだよ?」

「アスナさん達に私達が魔法関係者だと話したワケですけど・・・」

「ああ、それが?」

「・・・私達の正体も、話した方がいいんでしょうか・・・?」

「・・・あー、まだそれが残ってたか・・・」

「アスナさん達なら、きっと受け入れてくれるとは、思うんですけど・・・」

「不安がゼロってワケじゃあ、ねえよな・・・」

「ええ・・・」



「だいじょーぶやてッ2人ともっ、アスナもネギ君もそんなこと気にせーへんよ」

「コノカ・・・」

「・・・ふふっ、そうですね」

「・・・だな!」

「せやせや!」



「とりあえず、必要に応じてってことにしておくか」

「せやけど、いざ伝えるとなると、どないして伝えたらええかなぁ?」

「いきなり『実は半妖でーす』とか言ってもビックリだよな」

「じゃあ、ちょっとずつ仄めかしていくんはどおやろ?さりげなーく」

「仄めかすって、どうやってですか?」

「うーんと・・・、例えばぁ・・・―――――――」






――――夜・帰り道――――



「いやー、もう真っ暗だなーセツナー」
「そーですねー総統、私達2人とも“トリ”目の気があるから気をつけましょうねー」

「?」











「ペットの美容師ってなんていうんでしたっけー?」
「おいおいセツナー、そりゃ“鳥魔トリマー”に決まってんだろー?」

「「?」」











「突然ですがクイズターイム、『汎用』は何て読むでしょー?」
「はーい、答えは“はんよう”でーす」
「せいかーい、いえーいっ」





「・・・アンタ達、さっきからどうしたのよ?」
「なんだか、やたらと棒読みなんですけど・・・」
「何かあったんですかい、お二方?」

「いいえーべつにー?」
「なんでもねーよー、なーセツナー♪」
「ねー、そーとー♪」


「「「??」」」

「・・・♪」



――――――2人が正体を明かすのは、そう遠くない。







「「へっくしょいッ!まもの!」」

「「「???」」」



・・・・ハズである、多分。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


久しぶりの更新です。待っていてくれた方々、本当にすみましぇん。

リアルのほうが忙しくってもう・・・、やっと投稿できましたよ。

「待たせた割に話全然進んでねえじゃねえか」とは思われるかと思いますが、御勘弁を。

もうちょっとしたら修学旅行編に突入すると思うんで、しばし待たれよ。







[15173] 漆黒の翼 #26
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/06/08 13:32

―――――日曜日。

本来なら、日頃学業に勤しむ学生諸君にとっての安息日ともいうべき曜日。

だというのに、学園長様から直々に呼び出しをくらってしまった俺は、翁の待つ学園長室へ向かうべく、女子中等部校舎の静まり返った廊下をペタペタと進んでいた。


休日の学校というのは、なんというか不思議な空間だ。

普段は少年少女達の賑やかなで軽やかな喧騒に満ちている場所であるだけに、こうも静寂に溢れてしまうと軽く異様である。

耳に入って来るのは、遠くの方から聞こえる部活動の掛け声や、木々に止まる鳥の囀る鳴き声くらいなものだ。

日常とは隔絶された、静かな風景。己以外には誰も居ない、非日常の空間。


・・・もしかしたら日曜の校舎というのは、俺達の一番身近な所に存在する異世界への入り口なのかもしれない。





「・・・なにアホなこと考えてんだ俺は」


なんだよ異世界の入り口って。そんな世にも奇妙な話の導入みたいなこと考えてどうすんだ。タモリに笑われるっての。そもそも俺の存在自体が奇妙なのに。

どこぞの詩人のような思考を振り払い、普段より冷たい廊下を歩き続ける。早いトコ用事済ませて帰ろう。


そう考えて歩調を気持ちペースアップしようとするが、一旦思考が傾くとどうしても周りが気になってしまうのが心理というもの。ついつい視線がキョロキョロ動いてしまう。

俺は普段、女子中等部の方にはあまり来ない。そりゃそうだ、男子中学生なんだから。こんな所、こうして学園長に呼ばれた時くらいしか赴かない。

そんな縁の薄い場所ゆえに、己の通う学び舎との差異を比べながら興味本位で教室を覗いてみたりしちゃったり・・・。





「・・・って、コレじゃただの変質者じゃねーか・・・」




―――――休日の女子校を徘徊する目付きの悪い男―――――


・・・やべぇ、犯罪の臭いしかしねえ。

とっとと終わらせよう。余所見などするな。男なら、横道それずに真っしぐら、ババンバーンだ。



・・・しっかし、呼ばれたのが夜じゃなくてホント良かった。夜の学校とか難所過ぎて困る。

俺ったら『学校の怪談』もまともに見れない人なんだから。『リング』なんて見た日にゃ背中が怖くて風呂に入れないっつーの。世にも奇妙な奴だってギリギリなのに。


幽霊なんて出たりしないよなぁ・・・怖すぎるぞ・・・。




『それが居ないんですよ~。仲間が居なくて寂しいですぅ・・・』




ふーん、そうなのか、君も大変だね・・・・・




・・・・・・・ん?


・・・今、なんか違和感が・・・・・・?



・・・バッと後ろを振り返る。


誰も居ない。寒々しいくらい人っ子1人いやしない。




・・・・じゃあ、俺は今、誰に相槌を打ったんだ・・・?







「あら、アナタは・・・」
「あ、こんにちは、一先輩!」

「うおぅッ!?」


イキナリ声をかけられ、おかしな声を上げながら即座に正面に向き直ると、少女2人組と対面した。


1人は金髪、ナースキャップのような帽子が特徴的なウルスラの制服に身を包んだ少女。
もう1人は赤っぽい髪、女子中等部の制服を着た肩までのツインテール娘。

ああ、この人達か。仕事で何回も会ってる顔見知りだ。名前は・・・・



「・・・あー、どーも御無沙汰です、高音・D・グレイマンさん」

「誰がエクソシストですか!?私はグッドマンです!!」


ニアミスだった。おしい。



「まったく、顔を合わせるのが久しぶりとは言え、女性の名を間違えるなんて不躾ですよ!」

「キッドマンって言われた方が嬉しかったですか?」

「そう云う問題でもありません!」


この人はボケたらすぐツッコンでくれるからありがたい。
ツインテールの方は、『佐倉愛衣』、だったな。うん、完全に思い出した。



「先輩も学園長室に?」

「ああ、停電時の打ち合わせにな。そっちも?」

「ええ。先程終わって、今から帰るところです」


魔法先生や魔法生徒からの俺への評価はまちまちだ。純粋に実力を買ってくれている人もいれば、【闇の福音】と親交のある要注意人物と見てる人もいたりいなかったり。

その中でいうなら、高音さんはやや懐疑的、メイは割と友好的な方だろう。
高音さんは、“魔法使い”というものに高い理想を抱いてる人だからなぁ。メイの方は・・・なんでだろ、わからん。



「桜咲先輩は一緒じゃないんですか?」

「セツナになんか用か?」

「い、いえ!そういうわけじゃ!」


なんかワタワタしてる。何を慌ててんだこの娘は?


・・・もしかして、“ソッチ”の人なのか?高音さんのこと『お姉様』とか呼んでるし。スールか、スールなのか?

マズイよマズイよぉ、ただでさえウチのセツナは百合の気が心配されるってのに、取り返しがつかなくなっちゃうよぉ?


・・・と、そんなバカな発想は置いといて。



「しっかし毎度のことながら、かったるい行事ッスよね。働く方の身にもなれって感じですよ」

「その発言は無視できませんわね」


世間話程度に話を振ってみたが、話題が悪かった。高音さん、少々お怒り気味。



「人々の平和のために身を粉にして戦い抜くのが、【立派な魔法使い】を目指すものとしての我々“魔法生徒”の使命なのです。そんな腑抜けた態度では困りますわ」


高音さん、ココ一応公共の場だから。発言は気を付けて。
なに普通に『魔法』とか単語だしてんですか、オコジョにされますよ。日曜だから誰も居ないだろうけど。




「前にも言いましたけど、俺は別にそんなん目指してるワケじゃ・・・」

「そんなんとは何ですか!!【立派な魔法使い】は多くの魔法使いの目標なのですよ!?それをアナタという人は!!」

「だから声がデカイってば!!」


どうどう、とメイと一緒に興奮する高音さんを宥める。




「・・・俺の言い方が悪かったです。別に俺は高音さんの考えを否定する気は無いんですよ」


【立派な魔法使い】という考え自体を否定する気なんて毛頭ない。

むしろ、その意思が“本物”であるのなら尊敬するくらいだ。

無償で多くの人々を救い続けるヒーロー。大いに結構だ、カッコイイじゃないか。

俺だって、助けを求める人が居て、それを俺の力でなんとかしてあげられるのなら、喜んで力を貸すだろう。


・・・でも、そうじゃないんだ。【俺】と【立派な魔法使い】とでは、優先すべき対象が根本から違うんだよ。


俺には、誰よりも何よりも、護りたい大事な奴らが居るから、ソイツらよりも不特定多数の他人を優先するような役になる気は無いってだけなんだ。




「・・・ええ、わかっています。その話は以前にも聞きましたから」


前にもこの人とは似たような議論を交わしたことがある。

元々、俺と高音さんはそれほど仲がよろしくなかった。というか、向こうが俺のことが気に喰わなかったようだ。

【立派な魔法使い】を目指す彼女にとって、報酬を受けて仕事をこなす俺のような傭兵は相容れない存在だったんだろう。

そんな俺達が口喧嘩にまで発展するまでには、さほど時間はかからなかった。

結局、どちらが正しいという結論には達しなかった。悪く言えば平行線、良く言えば互いの意思を許容した、ということなんだろうか。

まあ、その話し合いのおかげかは判らんけど、お互い多少は棘が取れたような気がするよ。
お話って大事だいじだよね。OHANASIは大事おおごとだけどね。



「すいません、癇に障るような言い方して」

「いえ、私も熱くなりすぎました」


互いに非礼を詫びる。元の発端は俺のヤル気の無さだから、俺の方がやや深めのお辞儀。




「先輩、時間大丈夫ですか?」

「っと、いけね。そんじゃ俺はこの辺で。2人共お仕事頑張ってください」

「ええ、お互いに」


約束の時間が迫っているのを腕時計で確認し、急ぎ足でその場を去る。



――――――いろんな考え方があるってのは難しいことだけど、悪いことじゃないよな。“みんな違ってみんなイイ”って奴さ。



・・・限度はあるけど、な。











「・・・残念です」

「そうね愛衣。実力はあるのだから、志を同じくすれば【立派な魔法使い】も夢じゃないのに・・・」

「あ、いえ、そうじゃなくて・・・」

「?」

「桜咲先輩も居れば揃踏みだったのになあ、って・・・」

「・・・ホント、ミーハーなんだから・・・」

「だってだってホントにカッコ良かったんですよ!!

今年の麻帆良祭も出場してくれないかなー・・・また聴きたいなー・・・」




――――――愛衣は【凛凛の明星ブレイブヴェスペリア】のファンだった。























 コンコンッ


「学園長、ニノマエです」

「おお、入っとくれ」


ノックの返事を貰ったことを確認し、重厚な扉を押し開いて学園長室に入室する。

翁は定位置のデスクで書類やら何やらを広げて待っていた。多分、契約書か何かだろう。
傭兵職に就いてる俺との仕事の際は、毎回こんな感じである。内容や報酬などを確認し、いくつかの書類にサインして仕事を請け負うのが定例だ。




「早速じゃが仕事の話じゃ。君達にはこの地区を守って貰うぞい」


そう言って麻帆良の地図をデスクの上に広げる学園長。

・・・うーむ、いつ見てもだだっ広い敷地だ。地図にするとその無駄な広大さが手の取るように分かる。地図なんだから手に取れて当然だけど。

ジイさんがシワシワの手で俺らの担当区域を指し示す。
・・・あー、ココか。都市の外れの森ン中。何度か仕事とかで行ったことあるところだ。なるほど、了解したぜ。

あとは、想定される戦闘時間、敵勢の予想規模、その他諸々を考慮して今回の報酬額を決めるだけだ。


今回のギャラは普段の仕事の時より単価が高い。

全滅させて終わりのストック制の短距離走じゃなくて、時間いっぱいまで働かされるタイム制の持久走だからな。普通より疲れんだよ。

通称『停電賞与』、俺達傭兵にとってはボーナスみたいなモンなのさ。年2回あるし。



「“―――――以上、これを承諾することを約束いたします。 『一 海里』”・・・っと」


契約書を端から端まで目を通し、おかしな部分が無いか確認してからサインをする。
うっかり借金の保証人になどされては困るからな。無いと思うけど。



「契約成立、ですね」

「うむ、期待しておるぞぃ」


これで停電時の打ち合わせは完了。報酬分はしっかりと働かせていただきます。






「・・・さて、もう2つばかり話があるのじゃが」


・・・来た、例の話だな・・・ん?『2つ』?1つはアレだろうけど、もう1つって・・・?




「エヴァンジェリンの【登校地獄】が解呪されたらしくての・・・、君は、何か知っとるか?」


そんな俺の疑問など露知らず、デスクに肘をついて両手を組みながら話を切り出す学園長。

予想できた1つ目の質問が予想通りに投げかけられる。その問いに対し・・・



「・・・いえ」


とりあえず、しらばっくれてみる。
学園長は追及する訳でもなく、ふむ、と一言漏らし、言葉を続ける。



「昨日突然エヴァがワシの所に来ての、『ジジイ、解けたぞ』と言われた時はたまげたわい」

「・・・へえ、そッスか」


もっかいしらばっくれ。学園長、更に続ける。



「彼女の封印が解けたという情報は、まだ広まってはおらん。ヘタをすれば大混乱を招きかねん事態じゃからのう」

「・・・」

「幸いにも、彼女は解呪後もこの地に留まる意向を示しておる。彼女の力が抑制されるこの地に居るというのなら、なんとか他のお偉方も納得させられるじゃろう」


東の長も楽じゃないわい、と肩をすくめておどける好々爺。

・・・が、すぐに気を引き締めたように椅子に深く掛け、話を続ける。



「・・・じゃが、『【闇の福音】の封印が解かれた』、コレが魔法界にとって大事に値するということには変わりない」

「・・・」


「ワシが独自に調査したところによるとじゃな、どうやらエヴァには“協力者”が居たらしいという情報があるんじゃ」

「・・・」


「もし、その者が英雄サウザンドマスターの掛けた強力な呪いを解いたとなれば、お偉方もそんな人物を放ってはおくまい。無論、ワシも同じじゃ」


俺が何もしゃべらなくてもお構いなしに、両目を閉じながら淡々と口を動かす。
ココまで真剣な表情を見るのは、麻帆良に来てから初めてだ。



「【闇の福音】を野に放った者。もし本当にそのような人物がおるなら、ワシはなんらかの対応を採らねばならない。“関東魔術協会の長”として、な」

「・・・」




一旦そこで言葉を切り、数秒の沈黙が場を支配する。


そして、閉じていた右眼を開き、俺を見据えて――――――




「改めて訊くが・・・、その者に、心当たりは無いかの?」




最終質疑が、俺に投げかけられた。



その問いに対し、俺の最終回答は―――――――





「・・・皆目、見当もつきませんね」


――――――最後までしらばっくれた。




「・・・ふむ、そうか・・・」


その答えを予想していたのか、あるいは違う答えを期待していたのか考えは定かではないが、翁はまた瞳を閉じた。




また、場に静寂が訪れる。今度は10秒を超えた。








静寂に耐えかね、早く終わんねーかなーなどと少々不謹慎な考えが頭を過ったその時。




「・・・彼女、エヴァは10年前、ナギの死亡が噂されるようになってからかのぅ、あまり笑わなくなってしもうてな」


つぶやくように、学園長が再び言葉を発した。




「1度目の卒業から間もなかったからのぅ。自分の存在が級友の記憶から消える絶望を味わった上にそれじゃ。それからしばらくは、生ける屍のようじゃったわい・・・」

「・・・」


「じゃが、ここ1,2年はよく笑うようになった。機嫌良さ気に鼻唄を歌っている姿など見たのは何年振りのことじゃったかわからんかったわ」

「そう、ですか」



相槌とも生返事ともとれるような言葉が俺の口から出てくる。



―――――ここ1,2年。

“奇しくも”、俺達が麻帆良に移ってきた時期と合致する期間だ。



「『光に生きろ』、ナギが言うとった言葉じゃが、まさしくじゃ。彼女は、望まずして多くの咎を背負ってしまった。じゃからこそ、彼女には幸せになってもらいたいのじゃよ」

「・・・」


「本当に彼女に協力者が居たのならば、ワシはその者に言いたいことが山のようにある。無論、“居れば”、の話じゃがの」

「・・・」


「しかしまあ、話の長い校長先生は嫌われるからのぅ、一言だけで我慢するわい」



コチラに向き直り、両の眼で俺をしかと見据える学園長。

・・・気のせいか、先程より表情が柔らかい感じがする。




「もし、君が彼女の協力者に会うことがあればでいいんじゃが・・・」





またそこで区切り、こう続けた。





「・・・一言、“エヴァンジェリンの友人”が『ありがとう』と言っていたと、そう伝えて欲しい」



「・・・善処しますよ」

「頼んだぞぃ」



俺の素っ気ない返答に、翁はフォフォっと含んだ笑いを見せる。

互いに真実を知りながらも決して口にはしない、茶番のような約束がココに結ばれた。












「さて、これで1つ目の話は終わりじゃ」

「で、2つ目は?」

「来週からの修学旅行についてじゃよ」

「修学・・・・・・ああ、コノカの護衛のことですか?」

「君も京都に行くようじゃからのう。刹那君共々、護衛を依頼したい」

「依頼されるまでもないッスよ。俺らが好きでやってることですから」

「ふぉふぉっ、頼もしいのぅ」


コノカに手ぇ出す奴は例え神であろうと許さんばい!!



「頼もしいついでに、もう1つ頼まれてくれんかの?」


ん、まだ何か他に問題があんの?



「知っての通り、西と東は仲が悪くてのぅ。ネギ君・・・西洋魔術師の同行に難色を示しておる者達が少なからずおるのじゃよ」


・・・あー、そう云うことか。西の下っ端とかは西洋魔術嫌いな奴結構いるしなぁ。お偉方にも魔法嫌いな人ちょいちょい見かけるし。



「詠春さ・・・西の長はなんて?」

「戒厳令を敷いて手を出させぬよう抑制するとのことじゃが、・・・正直、何とも言えんと」


さすがに組織の末端にまで目を光らせるワケにもいかないか。そうするには詠春さんは役職が高すぎるからな。

いくら長同士が仲良くても、組織全体がそれに賛同するわけじゃない。一枚岩な組織の方が珍しいくらいだ。

修学旅行の行き先を変更すりゃ問題解決なんだろうけど、諍いの根本的解決にはなんねえよなぁ。全くメンドクサイねぇ、組織って奴は。



「うむ、そこでじゃ。ネギ君には東からの特使として、婿殿に親書を渡す任務を与えようと思うのじゃが・・・」


俺にそのフォロー役をしろ、と・・・。

なるほど、どうせ面倒事が避けられないのならば、マイナスの面倒をプラスにしちまおうって魂胆か。
英雄ナギ・スプリングフィールドの実子が友好の証を持って訪問する、と。確かにネームバリューとしてはこれ以上ない程の人材だ。

・・・いやでも、そうなると今度は友好条約締結阻止の妨害が出てくる危険性があるんじゃなかろうか?

“裏”の秘匿がある以上、表立った対応はとれないし、他の生徒達に危害が及ぶ可能性だって・・・。



「確かに。じゃが、“裏”の秘匿があるのは向こうも同じこと、一般人や生徒達に危害が出るような派手な真似は出来んハズじゃ」


・・・うーん、一応筋は通ってんだけど・・・なんか余計事態がややこしくなった感も否めないような・・・






・・・・・・・ん?


ちょっと待てよ・・・・・・この状況、どっかで見たことあるような・・・・




「・・・引率しながら特使として親書を渡しに行くってことは・・・・」





・・・・コレってもしかして・・・・






「それってつまり・・・・・お供を引き連れた“親善大使”ってことッスか・・・?」

「ふむ、そう云う言い方もできるかのう。それがどうかしたかの?」





・・・・・“赤い髪の男児”が、“人々を引き連れ”て、“親善大使”だと・・・?











――――未来予想映像――――





『僕は先生で、親善大使なんですよ!?僕が行くって言ったら行くんです!!』



『だ、だって、西の本山が崩落するなんて誰も教えてくれなかったじゃないですか!!僕1人に責任を押し付けないでください!!』



『カモ君が、カモ君がやれって言ったから!!僕は悪くないッ!!僕は悪くぬゎいッ!!!』





―――――――――












・・・・いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやッ!!?

無い無い!コレは無いッ!!いくらなんでもコレは有り得ないッッ!!!


アイツそんなワガママな奴じゃないし!!

そもそも西の本山が魔界クリフォトに堕ちるわけ無いし!!

つーか何でカモがヴァン師匠のポジションなんだよ!?髭か!?髭があるからか!!?

偶々だ、偶然の一致だ!別に“王族に連なる赤い髪の男児”ってわけじゃないし!!



・・・・違うよね?王族の設定とか無いよね?王位継承権なんて持ってないよね? ねえ!?誰か教えて!!誰か俺を安心させて!!?



「ま、案外杞憂に終わるかもしれんしの、君も修学旅行を楽しむと良いぞい」


楽しめねえええええええええッ!!?嫌なビジョンが頭から離れねえええええええええッッ!!?

何か、何か手は!?惨劇回避の名案は無いのか!?

・・・そうだッ!!今の内にネギのチョンマゲを切り落としちまえば!!先に断髪イベント終わらしときゃいいんじゃね!?

って違うよ!?そう云う問題じゃないっての!!!
だああああああああああッ!!?おおおおおおおお落ち着けェ俺エェェッ!!!!



「・・・ミサト君、顔色が悪いが大丈夫かの?」

「へ、平気ッス、ちょっとトリ乱しただけッス、俺は冷静ですっ」


そうさ、『取り乱す』と『鳥乱す』というウマイ掛け言葉を瞬時に繰り出せるくらいにクレバーだ。
冷静さ、ああ冷静だともさ、本人が冷静だって言ってんだからソレでいいじゃん!?



「ふむ、ではコレで話は終わりじゃ。退室してもよいぞ」

「ハぁイ・・・しつれーしましたぁ・・・・」


結局、一抹の不安が消せないまま学園長室を後にした。どうしよう・・・。



・・・・もー知らん、なるようになれだ。敵が来るならぶっ飛ばす、以上!























――――そんなこんなで日が経ち、本日は火曜日。大停電当日を迎えることと相成りました。

現在、夜の帳も下りた午後7時45分。停電開始まであと15分。
俺達傭兵ソルジャーズは、学園長に指定された持ち場で戦闘開始の時を待っていた。


これから4時間にわたる長い戦いが始まろうとしている。長期戦に備えて栄養補給しておこう。

持ってきたビニール袋から握り飯を取り出し、セツナと2人してモシャモシャと喰らう。中身は梅干しだった、すっぺぇ。


ふと、ライフルやらデザートイーグルやらの最終チェック中のマナと目が合った。なんだ、やらんぞ。



「食後すぐの運動は毒だぞ?」

「いいんだよ、そんなヤワな胃袋してねえから」
「このちゃんがワザワザ作ってくれたんだ、食べない方が毒だ」


その通り、コイツはコノカが持たせてくれた特製おにぎりだ。力になっても毒になるなど天地がひっくり返ってもありえない。

そんな俺達の様子にマナは肩をすくめ、ごちそうさんといった表情を見せた。




「あ、そう云えば総統・・・」


指に付いた飯粒を舐め取っていると、セツナが思い出したように話しかけてきた。なんじゃい?



「もうすぐアスナさんの誕生日ですけど、総統は何かプレゼント買いましたか?」


ああ、そういやそんな時期だったな。来週の月曜だっけか?まだなんも買ってねえや。



「日曜日にこのちゃんとプレゼントを買いに行く予定なんですけど、総統もどうです?」

「おっけー、予定開けとくわ」


脳内のスケジュール帳の日曜の欄に赤印が付けられる。『アスナ誕プレ買い物』っと・・・。
ちなみに隣の土曜日にも黒字で『ダイチらと旅行の買い出し』と予定が書かれている。
黒字は普通の用事、赤は要チェックの証である。コノセツとの用事は大体赤だ。


・・・にしても、戦闘前とは思えない会話だ。









「さて2人とも、準備はイイか?」



――――停電開始まで、あと5分を切った。


銃器の整備を終えたマナが、ジャキッとジョイントを鳴らしながら俺達に問う。

その問いに、セツナはチャキンッと夕凪の鯉口を切って応える。

俺もまた、得物をジャカジャンッとピッキングして応じた。準備は万全、いつでも来いだ。



「・・・ちょっと待て、1人おかしい奴が居るぞ」

「誰さ?」

「オマエだ、オ・マ・エ。 なんでこれから戦おうという奴がギターなんか持っているんだ」


何を言う、コレも立派な武器だ。最近使ってなかったから久々に火を吹いてもらうのさ。

戦場に俺という名の歌姫が降臨するぜ、キラッ☆



「本当に大丈夫なんだろうな?」

「任しとけよ」


マナは懐疑的な視線で俺のギターを見つめている。失敬な奴だ、自分だってギターケース持って来てるくせに。

まあ見てなって、ジョニーから受け継いだ妙技の数々をとくとご覧あれだ。





「――――総統、そろそろです」


セツナの声を聞き、腕時計に眼をやる。


――――午後7時59分。まもなく戦闘開始――――




《―――――こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。学園内の生徒は極力外出を控えてください――――ザザッ――――》



停電前の最後の放送が学園に響きわたる。

ソレと共に都市から灯りが消失し、学園都市は暗闇に包まれた。




「・・・どうやらオデマシのようだな」


暗闇でいち早く敵勢の存在を察知したのは魔眼持ちのマナ。が、俺達もすぐに気付いたのであまり意味は無かった。

だって、もう前方10メートルくらいに敵さん方がいらっしゃってるんだもの。否が応でも気付くっつーの。

わー、いっぱいいるー。みんな目が血走ってるー。こわーい。(棒読み)



「「「キシャアアアアアアアッ!!!!」」」


前振りも無く襲い来る魍魎、正面から3体。

飛びかかるソイツらを尻目に、俺はゆっくりとピックを弦に這わし――――――



【ソニックレイブ】!!


勢い良く弦を弾き、強烈なビートを繰り出した。
生み出された音波は衝撃となり、迫る妖魔を巻き込み貫く。結果、敵3体はあえなく還された。どんなもんじゃい!



「ほぅ、やるじゃないか」


感嘆の声を上げつつも次々と敵の脳天を撃ち抜いていくマナ。セツナもバッタバッタと敵を斬り伏せる。
驚くのはまだ早い、ココからが本領だ。歌の力を思い知れ魔物共!

合図と共にセツナが抜き身の夕凪を振りかざして突撃する。マナもその動きに合わせるようにライフルを構える。ほんじゃいくぜぇ!!



【あぁ~たぁ~るううううううえええーーーーッ】!!!


――――【あたるシンフォニー】――――

俺のテキトーともいえる歌に呼応するように、セツナとマナの連携は巧みになっていく。
まるで歯車が噛み合ったかの如く動きのキレが増し、斬り伏せ、撃ち抜いていく。

負けじと敵も得物を振りかぶり俺達に迫る。だったらコレだッ!!



【かぁっわぁっせえええぇ~~~ッ】!!!


――――【かわせマーチ】――――

アホみたいな歌が俺達に力を与える。鋭い爪撃や剣閃を難なくかわす。そんなハエが止まる攻撃じゃ当たらんよッ!!
今度はコッチの番だ、喰らえ魂の巻き舌!!



【しぃびれるうううううううぅッ】!!!


――――【しびれルンバ】――――

無警戒に近づいてきた敵に、文字通り“痺れる”歌声が素晴らしき巻き舌と共に降りかかる。はっはー、麻痺して動けまい!

そして動けなくなった所を、セツナが斬り、マナが貫き、俺がボコる。

この調子でどんどん行くぞォ!!刻むぜ、熱いビート!!ヤァーーフゥーーー!!!!






「凄いは凄いんだが・・・なんであんな歌で力が湧くのかが不思議でならないよ」

「総統が楽しそうだからソレでいいんだ」


「【ワアアアアァーーーーーーーーオッッ】!!!!」



――――――その夜、ミサトの魂の【ミラクルボイス】が麻帆良に木魂したそうな。












ちなみに誕生日プレゼント、俺はハンカチをあげました。
柄はサクラ、ボタン、スイートピーの3種類。コレ全部4月21日の誕生花らしいよ。
アスナ、泣いて喜んでたよ。よかった、ヘキサゴンドリル3冊とかにしなくて。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


久しぶりに風邪を引きました、どうも私です。

学園長の対応が甘いと思われる方、目を瞑ってください、私にはこれが限界です。

次回より『修学旅行編』スタート。シリアスもあるかもね。









[15173] 漆黒の翼 #27
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/06/25 10:50
新しい朝が来た。というか、修学旅行当日がやって来た。

時刻はAM7:35。俺は今、集合場所である大宮駅に向かうために電車にガタゴトと揺れている真っ最中だ。
普段使用している学生鞄よりも中身の重い旅行バッグ。コレを持っているだけでも若干テンションが上がって来るのも旅行の魔力というものなのか。

それはともかく、規則的な振動と座席の柔らかさの相乗効果というのは恐ろしい物で、気を抜くと意識が明後日の方角へ飛び立ってしまいそうになる。ありていに言うと、超眠い。
別に夜更かししたわけじゃないのにこの威力・・・、列車の催眠誘発効果ってスゲエ。

ああ・・・・イイ感じに・・・意識、が、ウツロ、に・・・・・



《―――ンまもなくぅ~、おおみやぁ~ぅおおみやぁ~、おでぐちぃ、ひだりがわでっす―――》



・・・今みたいな時にこのアナウンスを聞くと、声の主に憎悪を覚えるのは俺だけじゃないハズだ。喋り方が果てしなく鬱陶しい。
でもおかげで眠気が覚めたから拳は引っ込めることにしよう、命拾いしたな。

プシューッというエアー音と共に開いた扉をくぐり、ホームへと降り立つ。
周りを見れば、一般客に交じって麻帆良の制服がチラホラと見受けられる。同じ電車だったんだな。
集合場所の新幹線乗り場前に近づくにつれ、駅構内の麻帆良率が急上昇していく。まだ集合時間より1時間以上前だというのに、みんなヤル気満々じゃあないか。あ、俺もか。


そんな駅中で最も黄色い喧騒に満ちた場所であろう改札前に到着。流石に先生方はもう来てるな。周りに迷惑がかからないように見回っているみたいだ。

と、そこに見慣れた背中達を発見。そして噂のちっちゃい赤毛君も傍に居た。
揺れるチョンマゲを切り落としたい衝動を抑え込んで、ごく自然に話しかける。



「うぉっす」

「あ、ミサトさん!おはようございますッ!」
「おはよ、ミサト」
「おはよーさん」
「おはようございます、総統」


ネギ、元気があって大変よろしい。スーツであることに眼を瞑れば、完全に遠足に行く子供にしか見えない。
その肩には白い影、そうカモだ。人目を気にしているのだろう、声に出さずにビシッと挨拶してきた。兄さんおはようございやすッと聞こえてきそうだった。


「張り切ってんなーネギ」

「ハイ!待ちきれなくて始発出来ちゃいました!」


・・・それは張り切り過ぎではなかろうか。


「ネ、ネギせんせー・・・お、おはよう、ござい、ます・・・」

「あ、宮崎さん、おはようございます!」

「は、はうぅ・・・」


何処からか蚊の鳴くような挨拶が聞こえてきたと思ったらノドカだった。ハルナとユエに背中を押されながら絞り出した声だったようだ。
ネギのこれ以上ないくらいの爛漫な笑顔で返された挨拶を受け、恥ずかしガール・ノドカはシュボッと紅くなってしまう。・・・ガンバレ。


「おっはよーみんな!ミサト君もおはよ!」
「朝からテンション高いですねハルナ・・・あ、おはようです」
「早上好!」
「にんっ」

「うす」


その他の図書館部員と、ちょうど到着したバンド仲間にも軽く挨拶。餞別に肉まんを貰った、1個120円也。
ノドカはもうイッパイイッパイだからそっとしておく。ヘタに話しかけると心臓止まるかもしれないし。いい加減俺に慣れて欲しい。
しかし、なんでコイツらこんなに早く来てんだろう。普段は遅刻スレスレとかザラらしいのに。

みんな浮かれてんなぁ、コレも旅行の魔力か・・・。


「京都・・・仏閣・・・古都が私を待っている・・・」
「ああ、マスターが嬉しそう・・・」


・・・魔力に取り憑かれたヒトがココにも居た。自分の荷物を全て従者に預け、意識が旅行先に先走っているエヴァさんがよだれを垂らしながら悦に浸っている。
この人は古き良き日本の文化とかが大好きなんだ。囲碁やら茶道やらの趣味からもソレが窺い知れるだろう。

ネギ曰く、自分が来た時にはもう居たらしい。一番浮かれてるのはこの人かもしれない。
・・・そっとしておこう。



「・・・見てたよ、ニノ」

朝の挨拶が一段落ついた所で、後方より俺の二つ名を呼ぶ声が。振り返ってみれば、見慣れた級友2人が恨めしそうな顔で背後に佇んでいるではないか。
その姿を見たビビりっ娘ノドカはハルナの後ろにサッと隠れてしまった。知らない男に敏感な奴だ。家猫かオマエは。


「テメェ、またイチャついてやがったのか・・・」
「油断も隙もないね・・・」

「黙れボンクラ共」


イチャついてなどいない。どっからどう見ても爽やかな朝の風景じゃないか。
文句をたれる前にオマエらも挨拶しんさい、マナーですよ。

そんな俺の忠告を以外にも素直に受け入れ、挨拶すべくズズイッと俺の身体を押しのけ前に出る2人。『格好のアピールチャンス!』と言わんばかりだ。


「おはようございます、カイリの“親友”の九十九大地です(キリッ)」
「同じく、八谷青雲です。以後お見知りおきを(キリリッ)」

『出来うる限りのイケメンフェイスで挨拶』という涙ぐましい努力をする2人だが、いかんせん無理やり二重瞼にしようとしているので傍から見ると大変気色悪い。
そんなガンバリ屋さんに対する女どもの反応は、可も無く不可も無い感じ。気色悪がられはしなかったが、特に意識されもしなかった。女って残酷さ。


「おいカイリ、もっと俺達を売り込めよ!」

「知らねぇよ、オマエらがっつき過ぎだっての」

「黙らっしゃいッ!オメェには俺達の栄光の架け橋になって貰わなきゃ困るんだよ!」
「そうだよ、僕達だって彼女を自転車の後ろに乗せて長い下り坂をゆっくり下っていったりしたいんだよ!!」


そんな期待されても困る。そんなにモテたきゃ2人で路上ライブでもしてくれ。

そんなコイツらの飽くなき野望は放っておくとして、他の班員を姿を探そうと周りをキョロキョロと見回してみる。
ちなみに俺達は4班。班員は5名、班長はダイチ。


「他の2人はどうした?」
「バイソンなら鉄道博物館関係のお土産コーナーに居るよ」
「エドワードは本屋覗いてると思うぞ」


やっぱもう来てんのか、感心感心。欠席も無くてなりよりだ。


「総統のクラスにも留学生がおるん?」
「いんや、ただのあだ名だ」


バイソンは『梅村 潮うめむら うしお』、エドワードは『江戸川 文章えどがわ ふみあき』っていう名前なのさ。2人ともバリバリの日本人だ。
・・・どうでもいいな、この情報は。


―――ふと、背の低いネギ坊主に視線を向けてみると、背広の一部分を何やら入念に確認している。多分、親書が入ってるんだろう。

ふむ、ここは1つネギに激励の一言でも掛けてやりたいところだが・・・、一般人も居るし、無理そうだな。
そんじゃ、最低限の事だけ言っとくか。


「そいじゃ俺はこの辺で。・・・ネギ、頑張れよ」
「ハイ!」


去り際にネギの頭を数回撫で廻し、班員2人と共にその場を後にする。俺も頑張んなきゃな・・・。


・・・とりあえず、俺も時間が来るまで本屋でも覗くか・・・。























――――午前9時40分。
出発の10分前となり、点呼と共に生徒達が続々と新幹線・あさま506号に乗り込んでいく。

・・・ここで女子3-A・全6班の班割りを説明しておこう。


―――まずは1班。

「やほー!」
「楽しみですー!」

班長・柿崎他、チア部2人と鳴滝姉妹の計5名。元気いっぱいの1班。



―――続いて2班。

「肉まん、どうかネ?」
「どんどん喰うとよろしアルよ!」

班長・古菲他、忍者1人に【超一味】の3人の、合わせて5名。怪しさ全開の2班。



―――お次は3班。

「ささ、ネギ先生。グリーン車を借り切ってありますので、2人っきりでゆっくりと・・・」
「あらあら、あやかったら」

班長・あやか他、その同居人2名とカメコと眼鏡とピエロで6名。ごった煮の3班。



―――今度は4班。

「乗る前から酔うなんて・・・弱いなぁ」
「ちゃうねん・・・肉まん美味しくて食べ過ぎた・・・うぷっ・・・」

班長・裕奈他、運動部系3人とスナイパー1人で5名。1人を除き比較的まともな4班。



―――そして5班。

「ほらのどか!ネギ君に『自由行動、一緒にどうですか?』って!」
「で、でも・・・」

班長・明日菜他、図書館部5人・・・

「くっ・・・あそこでチョキを出していれば・・・!」
「せっちゃん残念さんやー」

・・・から、人数配分やその他の関係で刹那があぶれて計5名。注目度の高い5班。



―――最後に6班。

「コレが新幹線・・・コレで京都に・・・(キラキラ)」
「ああ、マスターがとても嬉しそう・・・」

班長・刹那他、エヴァンジェリンと茶々丸、そして・・・

「うぅ・・・、なんで私この班なんスか・・・?」

・・・静かな悲鳴を上げている短髪少女『春日美空』を含めた4名だ。

そう、何を隠そうこの美空という娘は見習い魔法使いなのである。
まぁ魔法使いと言っても親の意向で習っているだけであり、本人は不真面目そのモノ。まるでやる気ナッシングな感じである。
面倒事は御免被るらしく魔法関係に関わることや正体がバレることを嫌い、魔法先生以外では彼女の正体を知る者はあまり多くない。
その数少ない人物の中には、エヴァンジェリンなどが含まれる。

本当は無難に2班辺りに入るつもりだったのだが、今回の修学旅行は【闇の福音】エヴァも同行するし、ネギの任務や木乃香の護衛など内容盛り沢山だ。
そのため上司に当たるシスターやその他の思惑により、有事の際に動きやすいよう “裏”関係者として6班に固められたのだ。美空、あわれなり。
なら真名はどうなんだと言えば、依頼料金が馬鹿にならないので保留にされていた。

そう云う訳だから、ジャンケンに勝っても負けても結局、刹那は6班入りが決まっていたのだ。刹那、不憫な子。

それと6班には、あと1人女子生徒が入って5名となる予定だったが、“欠席”のため4名となった。名前は・・・そのうち分かるだろう。


でもまぁ、自由に動けるように固められたワケだから、憂鬱なのは今だけだ。
他の班員達とどっかにフラフラ出掛けても別に問題は無いから、それぞれ好きにやるだろう。具体的には、2班に逃げ込んだり5班と合流したり知ったこっちゃなかったり。























「――――ふむ、特に問題なしっと・・・」


東京駅到着後、あさまからひかりに乗り換え一路京都を目指す麻帆良中等部御一行。
ひかりに乗車してしばらくはクラスメイトと大貧民とかして遊んでた俺であったが、頃合いを見て『便所行ってくる』と言い訳して席を立った。
己に課せられた任務を遂行するため、平たく言えば見回りをするためである。

とりあえず自分達が乗っている席より前の車両をいくつか見て回ったが、特に細工されているよな形跡は見当たらない。
まだ西の刺客は乗り込んできていないのだろうか・・・?

そんな感じに列車の連結部の確認をする俺の背後に何やら気配が。くるっと振り返れば、年中顔つき合わせている幼馴染の姿があった。
夕凪を携えている辺り、コイツも見回り中なんだろう。というか、よくそんなモノ車内に持ち込めたものだ。


「何かおかしな点はありましたか?」

「特になしだ。ソッチは?」

「後ろの車両も見て回りましたが、異常は見受けられません」


ならひとまず安心、といったところか。なるべくなら何も起こらなければそれに越したことは無い。2人してほっと胸をなでおろす。


「コノカはどうしてる?」

「皆さんとゲームして遊んでいます。刺客の影も見当たりませんし、とりあえず安心かと」

「まあ、同じ車両に【闇の福音】が乗ってんだから、何かあっても大丈夫か・・・」

「エヴァンジェリンさん、発車してから窓に貼り付いて微動だにしてませんよ?」

「・・・楽しんでくれて何よりだ」


コノカと親書の護衛をいっぺんにやらないといけないのが辛いところだ。気苦労が絶えないよ。いざとなったらコノカ優先なんでヨロシク。

でもまぁ一般客も居ることだし、流石に列車内で大騒ぎを起こすような真似はしないか・・・


『―――・・いやー・・・!――――』
『―――・・・なんで・・カエ・・・がー・・・!?――――』


・・・と思ったら、なんか後方車両から俄に黄色い悲鳴が聞こえてくるではないか。

何事か!?と、急いで戻ろうとした俺達の前に、車両の扉の隙間から一筋の影が飛び込んできた。
正体はツバメ・・・いや、式神か!

間髪いれず、セツナが瞬間的に抜刀し飛来する式神を両断する。
真っ二つにされたツバメ君は元の和紙へと戻り地面へヒラヒラ、そのツバメが咥えていたらしき封筒は宙を舞い、振り上げた俺の手に収まった。ナイスキャッチプリキュア。

手にした封筒を見てみれば、見覚えのある蝋の刻印で封がしてある。麻帆良学園が公的に使用する封蝋だ。
てことは、コレは学園長がネギにも持たせた親書か・・・。

導かれる解答は2つ。西からの刺客がこの列車内に居ること、そしてネギがその刺客に親書を奪われかけたってことだ。
おそらくさっきの騒ぎで場を混乱させ、その隙に奪い取られたんだろう。

・・・ちょっと心配になって来た。大丈夫かよネギ、浮かれ過ぎだぜ。


「あっ、刹那さん!ミサトさんも!」


そこに息を切らせて式神を追ってきたネギ登場。定位置のようにカモが肩に乗っている。


「ほらよ、これオマエのだろ?」

「あ、僕の親書!ありがとうございます!」


ペコペコ頭を下げるネギに親書を手渡す。もう盗られんじゃねえぞ?

だがコレで、少なくとも友好条約締結に対する妨害の方は仕掛けてくることがわかった。
杞憂で終わるというワケにはいかなそうだ。俺も気を引き締めないと・・・。


「気ィつけろよ?向こうに着いてからもっと大変になるんだからな」

「は、はい・・・」


もう少し何か言いたげなネギだったが、その前にアスナが何事かと駆け込んできたため会話は中断。
どうやらアスナは、今回の任務について何も知らされてないようだ。余計な心配させまいというネギの配慮だろうか。
何も起こらなければそれで良かったが、そうも言ってられなそうだ。アスナにも話しておいた方がイイかもな。


「遊んでないで手伝ってよ、亜子ちゃんとか楓ちゃんが卒倒しちゃって大変なんだから!」

「カエデが?何があったんだよ?」

「カエルがアッチコッチからピョコピョコ出てきたのよ、108匹も」


あの手練のカエデがノックアウトされるなんて一体何が、と思ったら納得の理由が帰って来た。相変わらずのカエル嫌いだな。
というか、なんだそのふざけた妨害は、舐めとンのか?

それはそうと、近くに刺客が居るやもしれないとなると、もう少し捜索したいところだ。
だが便所に行くと言ってからだいぶ時間が経つし、そろそろ戻らないと拙そうなので、事後処理と安全確認をセツナに任せ級友たちの元へと戻ることにした。

・・・雲行きが怪しくなってきたな・・・。










「ふう、よかったぁ。ミサトさんが親書を取り返してくれて」

「・・・兄貴、コレ見てくれ」

「え?・・・コ、コレって、さっきの鳥の式神!?」

「兄さん達は確か京都から越してきたって言ってたよな・・・。もしかすると、あの2人は西のスパイなんじゃ・・・」

「そ、そんな!?ありえないよ、皆とも凄く仲がイイのに!」

「・・・だよな、勘ぐり過ぎッスよね・・・」


実は学園長、ネギに任務を言い渡す際にミサトの事を伝えておくのを忘れていた。
ネギは知ってか知らずか、カモの意見を否定する。だがカモの中では、初めてミサトに会った時に感じた疑念が再び首をもたげていた。


―――――本当に、信じていいんですかぃ、兄さん・・・―――――










「マスター、放っておいてもよろしいのですか?」

「ああ、私が手を出してはいろいろと面倒だからな。それに私は観光に来たんだ。面倒事はアイツら任せて、心行くまで楽しませてもらうとするさ」

「承知しました」

「・・・まあ、旅初めに少々ケチがついたからな。私の安息のためにも手を貸してやらんことも無い、か」

「では、どうするのですか?」

「私に直接チョッカイ掛けてきたら捻りつぶす。あとは・・・腕が斬り飛ばされるくらいヤバくなったら助けてやるとしよう」


――――こんな物騒な話してる間も、窓を流れる風景から決して目を離さないエヴァンジェリンであった。























「京都ぉーーーっ!!」


ハイその通り、ココは京都。そして今わかりきったことを叫んだのは女子3-Aの生徒さんです。
あの騒ぎの後はつつがなく旅行は進行し、我ら麻帆良学園中等部一行は無事京都の地を踏んだ。そして今居る場所は、飛び降りる舞台でおなじみの清水寺である。

ウチの学校の修学旅行は基本的に生徒のしたいようにするシステムだ。
京都到着後にバスで清水寺に直行するまでは全クラス共通だが、その後は各クラスごとに自由に行き先を決められるようになっている。ホテルもクラスごとにバラバラだ。

要するに何が言いたいかっていうと、旅行初日は男子も女子もほとんど同じ道筋をたどるということだ。
一応は団体行動が原則だけど、現に仲好さげに歩いてる制服男女とかをチラホラ見かける。
おかげでそれほど違和感無く護衛ができるってモンよ。近距離にセツナが付き、やや離れたトコに俺がついて周囲を監視する。完璧じゃあないか。


――――しかしまあ、ココに来るのも数年ぶりだけど、改めてるとホントにイイ眺めだ。なんだか感慨深いよ。
前に来たのは、確か小4の遠足の時だったかな?3人で並んで景色をバックに写真を撮ったのを覚えている。

地元ってのはそこかしこに想い出が転がってるから飽きが来ない、たまの帰郷もいいもんだ。


「そーとー!写真撮ろ写真!!」
「わーった、わーったから袖を引っ張るな!」
「このちゃん、走ったら危ないですよ!」


その辺に居る奴にカメラを頼み、あの時と同じ立ち位置でパシャリッ。
また1つ、想い出が追加された。

その様子を視線で貫くように、ウチのクラスの迷える子羊共が恨めしそうに見てた。その後ソイツらにポカスカしばかれたが、やられた分はやり返したので問題ない。


「・・・・・(ホロリ)」
「マスター、ハンカチを・・・」
「・・・ああ、スマン茶々丸」


そんな騒ぎなど気にも留めず、日本人よりも日本人らしい感性を持ったブロンド幼女は、清水の舞台の上で美しき古都の風景に涙していた。
ココまで喜ばれると、逆になんか怖い。


――――ココで旅行イベントの1つ、クラス単位で境内を背に集合写真を撮ることに。先に女子クラス、次に男子クラスだ。

順々に1クラスずつ撮影するため、俺達のクラスが撮り終わる頃には既に女子3-Aは隣の地主神社へと進んでしまっていた。早く追わなければ。

なるたけ自然にクラスの奴らをせっついて地主神社に向かうと、縁結びで有名な恋占いの石の片割れを発見した。
確か、目ぇ瞑って向こうっ側の石に辿り着ければ恋が叶うんだっけか?
ソイツはイイ、面白そうだと挑戦しようとするダイチ他数名。やるのはいいけど成就したい相手なんかいるのかオマエら?


・・・と、男共が無駄に終わりそうな儀式を始めようとした時、何の気なしに向かいの石に視線をやった俺の眼に、おかしなものが入り込んできた。

おかしなモノ、ソレは石と石との間の道にぽっかりと開いた穴だ。なんだこりゃ、前来た時はこんなん無かったと思うけど・・・。
この難所を掻い潜った者だけが恋をつかめるとか、そういう神社側の世相をもじった粋な計らいだろうか?

ダイチ達にアブねえからやめとけと言おうとしたその時、聞き覚えのある慌てふためいた声が更に先の方から聞こえてきた。ネギの声だ。
あっちには確か“音羽の滝”とかいうありがたい名所があるハズ。なんかあったのか?

心配になり、クラスメイトを残して急ぎ足で現場に向かうと・・・・




「いいんちょさん起きてください!バレたら旅行中止の上に停学ですよ!」


・・・ユエがノビているアヤカの胸倉を掴んで往復ビンタをかましていた。なにがどうしてこうなった?

よく見ればノビているのはアヤカだけではない。女子3-Aの大半が新橋のサラリーマンのように顔を赤らめ、折り重なってぶっ倒れていた。死屍累々とはこのことだろうか。

ネギと共に奔走するセツナを捕まえて事情を聞いてみる。俺のいない間に何があったんだ?


曰く、恋占いの石の道にある穴は西の刺客が用意したトラップであり、中にはまたカエルが仕込まれていた。そして今度はこの音羽の滝にも罠が仕掛けられていたというのだ。
学業・健康・恋愛に効果のある3本の滝の内、お年頃の女生徒達は恋愛の滝に殺到。そして滝の上流から混入されていた酒によって酔い潰れてしまったとのことだった。
ちなみにコノカとセツナは健康の滝に並んだため無事だったんだそうな。

・・・なんなんだ、このしょっぱい妨害は・・・。


流石にこのままでは修学旅行が中断されかねないため、ネギがどうにかこうにか他の教員たちを誤魔化している間に、酔い潰れた生徒達をバスに運ぶことになった。
集合時間も近いことも幸いし、苦しいながらもなんとか誤魔化し通せたようだ。

男手があった方がいいだろうと思い、クラスの連中に適当な理由を付けて手伝わせる。『ココで頑張れば好感度アップだ!』とか言ったら、あっという間に運び終わった。




「ったく、西の連中は何考えてんだか・・・」

「・・・兄さん、訊きてぇことがあるんスけど」


ダウンしたA組女子の貸切バスの傍で1人ごちていると、何処からかカモがやって来て俺の肩の上に登って来た。
なんだよ、訊きたいことって?


「兄さんは、今回の件にどう関わってんだ?」

「どうって・・・学園長から聴いてねえのか?ネギの親書受け渡し任務のフォロー役だよ」

「・・・へ?そうなんスか?」


知らなかったのかよ。学園長の奴、ちゃんと伝えといてくれよ。


「え、えと、兄さんは京都から来たんだろ?もしかして、西の連中と繋がりがあるんじゃ・・・?」

「ああ、小学校卒業するまで呪術協会に世話ンなってたからな」

「そ、そッスか・・・・・・あれ、こんなあっさり・・・・?」

「? なんだよ、ブツブツ言って?」

「あ、いや!な、なんでも!」


そういって慌てた様子でヒョイッと肩から降り、バスの中へとチョコチョコ戻っていった。
なんだ、歯切れの悪い奴だな。


なんだか胸にモヤッとしたモノが残ったまま集合時間となり、俺達を乗せたバスは宿泊先のホテルへと向かうのだった。
俺らは烏丸のホテル、コノカ達は確か嵐山だったハズだ。・・・ちょっと距離があるのが難点だな。




――――まだ修学旅行は始まったばかりだ。



















「て、点呼取ります!全員居ますかー!?」
「・・・アレ? ネギ、エヴァちゃんと茶々丸さんは?」
「あ、あれ!!?」





「・・・ずっとこうしていたいな・・・」
「ああ、マスターが最高にうれしそう・・・」


―――――まだ舞台で浸っていた。いい加減正気に戻れ。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


修学旅行・・・中学も高校も京都でしたが、何か?どうも私です。

今回は修学旅行1日目・昼の部です、導入部だと思ってください。

次回は修学旅行1日目・夜の部。バトルするかもね。










[15173] 漆黒の翼 #28
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/07/28 22:00
――――ココは、ホテル嵐山。修学旅行中、女子3-Aが宿泊することになっている旅館である。

そして最大のウリとも言える露天風呂で現在湯につかっているのは、クラス担任たるネギと使い魔のカモ。
両者とも頭に濡れた手ぬぐいを乗せ、一日の疲れを癒している真っ最中。

特にネギは親書受け渡しの妨害を仕掛けてくる刺客に悪戦苦闘。その策略にまんまとはまった生徒達の後始末やら何やらで疲労困憊の極みだった。

せめてこの一時くらいは任務を忘れ、屋外ならではの柔らかな湯と爽やかな風とが織りなすハーモニーを楽しんでいたい所であったが―――――



「ミサトさんが呪術協会と繋がってるってホントなの!?」

「ああ、確かな情報ですぜ」


――――自らの使い魔がもたらした情報により、そうもいかなくなってしまった。

議題の中心は、疑惑の男・一海里。新幹線での一件以来、カモがスパイじゃないかと疑ってかかっていた人物だ。

ネギとしては、付き合いのある兄貴分を疑うなんてことは出来ないし、したくなかった。
躾け的な意味で拳骨を喰らったり痛い思いをさせられたことはあるが、それでも彼は友達思いのイイ人というイメージの方が強く、スパイだなんて到底思えなかったのだ。

だが、カモの情報に間違いは無い。なにせ本人の口から直接聞いたというのだから。
流石にネギにも多少の疑念が生じてしまう。一体これはどういうことなんだ。

2人の間で『一海里スパイ説』が急速に膨らんでいく・・・・・が、


「・・・でも、わざわざスパイ本人が『敵と繋がってまーす』なんて言うかな?」

「そうなんスよねぇ、いくらなんでもそんなマヌケなスパイ居ねえよなぁ・・・」

「僕の任務のフォローに廻ってくれてるって言うし・・・・やっぱりミサトさんは敵じゃないと思うんだけど・・・」


「「うぅ~~~~ん・・・・」」


謎は深まるばかり。結論のケの字も出てこない。

ネギの方はミサトを信じる方向に落ち着きそうであるが、カモはまだ腑に落ちない様子であった。
カモも内心、8割方はこの少年の言う通りだと思っている。ミサトという男は眼付き以外は悪いようには見えない。信じるに値する存在ではないかと感じているのだ。

だが残り2割、一番最初の疑念がどうしても払えなかった。
なぜ彼は【闇の福音】の封印を解いたのか、なぜあそこまで協力的だったのか、彼女と手を組んで一体何を考えているのか。
カモは、ミサトに出会ったあの日の疑問の答えが出せなかったのだ。


こうなったら本人かその幼馴染達かに直接問いただすしかないか、という方向に収まろうとしたその時。


「露天かー、楽しみね」
「あ、ちょお時間掛かるから、せっちゃん達は先に入っとってええよ」
「私付き合うわ、刹那さん先行ってて」
「では中で待ってますね」


脱衣所の方から、自分達のよく知る乙女達の賑わいが聞こえてくるではないか。

「え、なんで!?入口は男女別だったのに!?」
「こういうのを混浴って言うんだぜ!」

なんてテンパってる間に、タオルと野太刀を携えた刹那嬢が入湯してきてしまった。
とにかくこれはマズイという一心で手近な岩陰に隠れる2人。

そこから、そっと少女に様子を窺う。



――――細身で小柄な体躯ながらも、引き締まった腰回りに、スラリとした手足。

――――桶から流れる湯を受け、ほのかに紅らむ色白の肌は、雫をはじいて艶を見せる。

――――その姿は、まさに大和撫子。桜咲く刹那の美。



そんな少女の裸体を前に、カモはムフフと鼻息荒くし、ネギはホヘーっと見惚れてしまう。

・・・が、ある少年の恐ろしい形相がネギの脳裏を駆け抜け、すぐさま両手でその眼を覆い隠して岩陰で縮こまってしまった。
主人の挙動に疑問を抱いたカモミールは、小声で囁きかけてみる。


(どうしたんだよ兄貴、恥ずかしがんなよ。覗かにゃハド損だぜ?)
(ダ、ダメだよカモ君!刹那さんの裸を覗いたなんてバレたら、ミサトさんに殺されちゃうよ!!)

――――今のネギは、ミサトの死刑宣告が何より恐ろしかった。



「・・・西の妨害もエスカレートしてきたな・・・」


ふと少女が呟いたその言葉にピクッと反応するカモネギ。
自分達の欲しかった情報が聞けるかもしれないと、耳元に手を添えて立ち聞きを敢行する。


「今夜あたり仕掛けてくる可能性もあるし・・・、後で総統に連絡を入れないと・・・」


聞き漏らすまいと、眼を固く閉じたまま耳に神経を集中させるネギ。

・・・が、ソレがいけなかった。


「! 誰だ!!」

耳をそばだてるあまり、気配を殺すことをすっかり忘れてしまったのだ。

ヤバい!と思ったが、時すでに遅し。
刹那は抜刀の態勢に入り、【斬岩剣】の居合斬り一閃でネギの隠れていた岩を両断してしまったのだ。恐るべき切れ味だ。

すかさず追撃を試みようとする刹那の眼に飛び込んできたのは、攻撃の余波で湯船に落っこちたカモと、



「ご、ごご、ごめんなさいイィ!!ワザとじゃないです!!覗くつもりは無かったんです!!!」
「ネ、ネギ先生・・・?」


両掌で自らの視界を塞いで平謝りする担任教師の姿だった。

刹那は思わぬ侵入者にしばし呆然とするも、ハッと我に返りバスタオルで肢体を隠し、夕凪を鞘に収める。

ネギは未だ目隠し状態で丸くなっていて話せる状態じゃなさそうなので、底に足が着かずアップアップするカモを夕凪で拾い上げ話を聞くことにした。


「えっと・・・、大丈夫ですか、カモさん?」

「お、溺れるのなら、せめて下着の山で・・・」


なんかコッチもダメそうだった。
一体どうしたものかと、刹那が打開策を講じようとした、その時――――



「ひゃあああああああああああああッ!?」


均衡を破ったのは悲鳴。しかも、コレは間違いなく木乃香の声だ。

悲鳴が耳を穿った瞬間、刹那は一も二も無く駆けだしていた。
考える時間が惜しいとばかりに、夕凪にカモをへばり付かせたままその場を放って脱衣所に向かう。

刹那に数瞬遅れてネギも硬直から回復し、予備の杖を片手に急いで脱衣所に駆ける。
自らが受け持つ生徒の悲鳴、コレは只事ではない。大切な生徒のため、教師ネギは駆ける。


電光石火で脱衣所の扉を開いた2人の眼に飛び込んできた光景とは―――――



「あ~~、せっちゃん助けてーー!」
「なんなのよこのエロザル共はーー!?」


――――木乃香と明日菜が大量の手乗りサイズのおサルに下着をはぎ取られていた。

あまりの緊張感の無い光景に、ネギ、ボー然。

木乃香は治癒術に関しては結構な腕前だが、いかんせん攻撃魔法となるとサッパリなため迎撃ができない。
明日菜も羞恥が邪魔して上手くサルを振り払えない。

そして隙あらば木乃香を連れていこうとするやたら連携力の高い小ザル達。
連れ去るだけなら、案外隙の無い作戦なのかもしれない。


ただ今回の場合、隙があるとすれば・・・・



「――――このちゃんに何をするかこのサルどもオオオオオォォォッ!!!」

木乃香大好き木乃香っ子、鬼の刹那がココの居たことだろう。


「ダ、ダメです!おさるさんを斬「【百烈桜崋斬】ッ!!」って早っ!?」


斬ったら可哀そうだと言おうとしたネギが止める間もなく、一瞬にしてサル達は斬り捨てられ、紙屑の山へと姿を変えてしまった。
コレは生き物じゃなくて式神の仕業だと判りネギは安心する。ソレと同時に、刹那の戦闘技量の高さにも驚いた。ビックリした。おったまげた。


「このちゃん、ケガは!?」

「平気や、せっちゃんありがとーなー」


そして次の瞬間には、もう木乃香の元へと駆け寄って安否を確認している。なんという早業。


「な、なんだったのよ、今の・・・」

「アスナさん、大丈夫ですか?」


少しは私の心配もしてよ刹那さん的な視線を送りながらボー然と呟く明日菜に、手近にあったバスタオルを掛けて気遣いを見せるネギ。


「ちょっと、敵の狙いはネギの手紙でしょ?なんで私やこのかが襲われなきゃなんないのよ?」

「僕も判らない事だらけで、なんと言っていいやら・・・」


明日菜には、風呂に入る前に今回の任務について説明してある。というより、明日菜が明らかに事態がおかしいと勘付き、ネギに詰め寄ったため説明したのだ。
だがソレと今回の襲撃との関係性が全く掴めないので、ネギも明日菜もサッパリサッパリなのである。


「一度、キチンと説明の場を設けましょう」

刹那のその提案に異議が出るわけも無く、とりあえず後でロビーにて作戦会議をすることになり、全員その場を後にすることにした。




「・・・・あれ、カモ君は?」


――――さっきの騒動で吹っ飛ばされて、刹那の脱衣籠に頭から突っ込んでいた。苦しげだが、嬉しげであったそうな。























時は移って、ココはホテル嵐山ロビー。
消灯直前のため、出歩いている生徒をたしなめながらやって来たカモネギと明日菜。
それを脚立に乗ってホテルの入り口に式神返しの札を貼る刹那と、その脚立を下で抑える木乃香が迎える。

役者も揃った所で、総員ソファに座り顔を突き合わせる。まずは現状の把握からだ。


「――――というワケで、西にはこのちゃんの持つ膨大な魔力を狙う輩がいるんです」

ネギ側の事情はすでに把握しているため、しばらくは木乃香側の事情を一方的に伝える形となった。


伝えた内容は以下の通り。

・敵は関西呪術協会の呪符使い。単独か複数犯かは不明。
・狙いはネギの持つ親書、そして木乃香の身柄。重要度はおそらく後者の方が高い。
・元々ミサトと刹那は関西呪術協会に世話になっていて、木乃香の友達兼護衛としてずっと一緒に居たこと。
・ミサトは親書受け渡しのフォロー役も兼ねているが、木乃香の身に危険が及ぶ場合はそちらを優先するつもりであること。



「兄さんが言ってたのはそういう意味だったのか・・・」
「じゃあ2人が麻帆良に来たのも、このかの護衛のためなの?」
「でも、西から東に移ってきたってことは・・・」

「ええ、向こうからすれば、私達2人は西を捨てた裏切り者と見られているでしょうね」


明日菜らの問いに少し申し訳なさそうな表情を見せる木乃香だが、刹那は特に気負った様子も無く答える。
彼女から、いや、彼女らからすれば、どうってことない些末なことなのだから。


「そんなの私達には何の関係も無いことですよ。周りがどうこう言おうが勝手にしてくれって感じです」

西を離れる際に問われた覚悟。だが、そんなもの覚悟するまでも無い。


「それに・・・護衛のためじゃなくて、親友と別れるのが嫌だから一緒に着いてきただけですから」

「~~~~! せっちゃーーん!!」

「うわっぷ!?」


頼まれたからやっているわけじゃない。自分がそうしたかったから。
今こうして抱きついてくる女の子の笑顔を護りたかったから。
その笑顔の隣で、一緒に笑っていたいから。

だから、昔も今もこうしているのだと。



そんな一途な友情物語を聞かされたネギ達は感動の嵐。
知られざる親友達の新たな一面を垣間見た少年少女+αはヤル気爆発、味方と判れば協力は惜しまない。


「私達も力を貸すわ!アンタ達は茶飲み友達でバンド仲間で親友だもんね!」

「決まりですね!【3-A防衛隊ガーディアンエンジェルス】結成です!!」


イイ感じに盛り上がり、一致団結のために防衛隊結成を高らかに宣言するネギ・・・


「「ちょっとストップや(です)」」

「え、ダメですか?」


・・・の、そのハズだったのだが、京都組がコレに待ったを掛けた。


「いいアイディアだと思ったんですけど・・・」
「きっと名前が気に入らないのよ、かすかべ防衛隊と被るから」

「いえ、そうじゃなくてですね・・・」
「ウチらはもう組織に属しとるから、勝手に他の軍団に入ったらアカンのよ」

「組織、ですか?」


協力してくれるのは願っても無いことだ。
自分達を親友と呼んでくれる少女達には感謝の念が尽きない。それは解っている。


―――だが、ココは譲れないのだ。

幼きあの日に誓い合った、固い結束。
勇気で笑顔を護るために生まれた、3人だけの秘密結社。
その組織の“総統”の許可なしに、他の組織には入れない。

くだらないことかもしれないが、2人にとっては重要なことなのだ。


「なんですかぃ、その組織って?」

「ソレはなぁ、ひ・み・つ♪」

「えー、何でよ?」

「秘密だから、秘密なんです」


「「ねー♪」」

「「「?」」」


―――――“秘密”結社だから秘密なのだ、仕方あるまい。





「まぁとにかくよ、オレっち達もやれるだけのことはやるからなんでも言ってくれや」

「ありがとーなぁ」


お互いわだかまりが抜けた所で、臨時会議は終了となった。


「そういえば、エヴァちゃんはどうしたのよ?手伝ってくれないの?」

「エヴァンジェリンさんは名が知られ過ぎてますから、ヘタに動くといろいろ厄介なんです。ですから、よほどのことが無い限りは・・・」

「ふーん、なんか知らないけどケチくさいわね。あの子強いんでしょ?」

「いや、そう云う問題じゃ・・・」


「じゃあ僕、外の方を見回ってきまーす!」



刹那と明日菜が問答している間に、ヤル気が漲っているネギはホテルの出入り口へとダッシュで駆ける。そして肩にはカモ。
勢いがつき過ぎて、外に出た途端にホテル員の押したカートに激突してしまったが、そんなモノで少年のガッツが萎えることは無かった。



「あり?なんか忘れてるような・・・?」


そんなヤル気の塊のネギとは対照的に、肩に乗ったオコジョ妖精は何か聞き忘れたことがあったんじゃないかと頭を捻っている。
さっきまでの会話に、何かヒントがあったような・・・



――――私達も力を貸すわ!――――

――――ねー♪――――

――――そういえば、エヴァちゃんは?――――




「・・・・あ」


そうだ。一番最初の疑問がまだ残っていたではないか。


―――――“なぜ、一海里はエヴァンジェリンの封印を解いたのか”―――――


彼らの信頼関係に埋もれてすっかり忘れていたが、自分の疑問はその一点だった。

気まぐれ? 同情? わがまま? 策略? あるいはどれでも無い? あるいは全て?


「そのうち、もっかい訊いてみっか・・・」


カモミールは、ミサトを信用することに決めた。そして同時に、いつかこの疑念も払おうと決意した。










「・・・ふふっ、おーきになぁ・・・」


――――――そんな心情を知ってか知らずか、カートを押した“侵入者”はほくそ笑んだ。
























「――――この辺りだな・・・」


式神ザル襲撃の知らせをセツナより受け、宿泊先のホテルを抜け出した俺は、ホテル嵐山近くの渡月橋までやって来た。

ちょっと遠かったけど、氣で強化して走ってくればなんてことない距離だ。一直線に来たから電車使うより速いぜ。
ホテルにはもうセツナが侵入防止の結界を張ったハズだから、俺は周囲の見回りだな。


・・・敵さんも随分と大胆な動きしてきたな。ネギやセツナもすぐ近くに居たのに、直接狙ってくるとは思わなかった。
直に狙ってきたってことは、親書は二の次で本命はコノカってことか・・・

・・・何処の誰だか存じねえけどよォ・・・・アイツに手ぇ出すなら容赦しねえぞ・・・。



「――――あ、ミサトさん!」


握った拳を敵に見立てて睨みつけていると、やや離れた場所から聞き覚えのある幼声が。
視線を向けると、橋の向こうからトテトテ駆けてくるネギとカモの姿が見えた。


「見回りか?」

「ミサトさんもですか?」

「セツナから連絡貰ってな、さっき来たところだ」


だから厳密に言うと、まだ見回って無い。ホテルから直でココに来たからな。


「旅館抜け出して大丈夫なんスか?」

「平気だ、身代わり置いてきたから」


身代わりとは、陰陽術における呪符の一つ『身代わりの紙型』のことだ。紙に自分の名前を書けば身代わりの式神が現れるという優れモノだ。
ただ、多少人格面に難が出るというかなんというか、少々安定しない術式なので個人的にあまり使いたくない代物だった。

だがしかし、こうして宿を離れる以上身代わりは必要不可欠。
でも様子が怪しいと思われたらどうしよう。


・・・そんな苦悩の果てに辿り着いた渾身のアイディアが、“身代わり”と“分身”の合わせ技だ。

“身代わり”とは今説明した式神のこと。“分身”とは俺の使える術の一つ、忍法【写し身】のことだ。

式神は長時間の稼働が可能だが、反面、人格が安定しない。
対して【写し身】の方は、人格は俺そのモノだから何の心配もないが、形を保っていられる時間がかなり短い。

―――だったら、式神紙を媒介にして【写し身】の印を込めればどうだろう。

結果は見事に大成功。人格が安定し、かつ長時間稼働できる完全自立型の身代わりが出来上がったのだ。紙型はバッテリー代わりというワケだ。

これで旅館での身代わりは勿論のこと、クラスメイトを引き連れての京都案内まで安心して任せられるという訳さ。
しかも身代わりを消せば記憶は本体に統合されるという親切設計。俺って天才じゃなかろうか。

・・・ただ、人格と稼働時間を追求した結果、戦闘能力はかなり低くなってしまった。
それに、うずまき忍者みたく経験までは統合されないから経験値の倍々ゲームも出来ない。

まぁ、これ以上贅沢は言ってらんないから別にいいけどさ。



「ミサトさん、僕ガンバリます!一緒にこのかさんを護りましょう!」

「その申し出はありがたいけど、自分の任務も忘れんなよ?」

「モチロンです!」

「そうだ兄貴、今の内に仮契約カードについて説明しとくぜ。何かあった時に役に立つハズっスよ」


なんだかコイツら、やたらヤル気だな。ホテルでなんかあったのか?
ん?そういえば、何でコノカの護衛のこと知って・・・・・・・ああ、アイツらからなんか聞いたのか。




ネギがインストラクター・カモからレクチャーを受けている間、俺は周囲を見回し警戒態勢を取っていた。
敵が近くに居ることは間違いない。さっさと見つけ出してフルボッコにしてやらねえと・・・。

だが、辺りには人影らしきものは一切見当たらない。

こっちには居ないのか?なら、向こうの方を見廻って・・・・



・・・・待て、“人影が一切見当たらない”だと?


確かに今は外をうろつくには遅い時間帯だ。多くの人間は良い子じゃなくても布団に入ってお眠の時間、それは間違いない。
だが人はおろか車の音さえ無いなんて、いくらなんでも不自然ではないだろうか。夜分遅くとも、もう少し気配があってもいいハズだ。

まさかと思い、眼を皿にして周囲を捜索してみる。
すると視界の端に白いモノが映り込んだ。すぐさまその違和感の発信源、橋の欄干のうちの1本に駆けよる。

そこに貼られていたのは、1枚の札。
見覚えのあるその呪符、こいつは―――――――!!



―――――俺のネギの携帯電話が同時に鳴り響く。発信元はセツナ、ネギの方はアスナからだ。
このタイミングってことは、まさか・・・・!

すぐさま通話ボタンを押し、着信に応じる。


「俺だ、どうした!?」

《このちゃんが攫われました!!敵は既に旅館内に侵入していたんです!!》


―――――悪い予感が的中した・・・もっと早く来ていれば・・・!!


《今アスナさんと共に追跡中です!場所の確認を!!》

「必要ねえ!ちょうどソイツの逃走ルートの上だ!ご丁寧に人払いの結界まで敷いてやがっ――――!?」


そう、呪符の正体は『人払いの結界』。“裏”を知らない者の立ち入りを阻む見えざる柵。


――――そして今、三日月を背に現れたずんぐりとしたシルエット。


この状況で、この結界内に入り込めるのは、俺達の他には――――――――



「――――おやまあ、さっきはおーきに」



――――――気を失ったコノカを抱えて憎たらしく笑ってやがる、このクソッタレくらいだ!!



「コノカを返せゴラァ!!」


怒りと共に握りしめた拳を振りかぶり、渾身のナックルを叩き込む。
だが女はヒョイっと跳躍してかわし、空を切った拳は橋の欄干を砕いただけに留まる。
クソッ、振りがデカ過ぎた!


「威勢のええボーヤやなぁ、ほなさいなら~」


胸糞悪い挨拶と大量の小ザルを置き土産に、大猿の着ぐるみ着た女は再び跳躍し逃走を続行しようとする。
そうはさせまいと、ネギが呪文詠唱に入るも――――


「ま、待て!ラス・テル―――むぐぅっ!?」


例の小ザル達がネギの口を塞ぎ詠唱を阻む。残りのサル達は俺へと群がり、顔や手足にくっついて動きを封じにかかる。
女はその間にもどんどん距離を開けていく。


「鬱陶しいんだよテメェらァ!!」

纏わりつく式神のうちの2体を両手に掴み、無理やり氣を流し込んで固定化。ソレを思う様、ヌンチャクのように振りまわす。
武器と化した式神は次々と小サルを弾き飛ばし、飛ばされたサルがまた違うサルに衝突して連鎖的に消滅していく。

最後に両手に持った式神同士を思いっきり叩きつけ――――――オラァッ!終了ッ!!


「総統!!」
「ネギー!!」


サルを全て潰した所でセツナ達が追いついてきた。話をしている暇は無い、すぐさま追跡再開だ!


【来たれ】!!

追跡しながら呪文を唱え、2つのアーティファクトを顕現させる。イメージ通り、装着した状態でだ。

額には『滅殺』と書かれたバンダナ。
両手には翡翠色のコアが装飾された、籠手を思わせるダブルボウガン・ゲイルアークが装備される。
コイツは射撃も出来るし盾にもなる、オマケに拳を振るう邪魔にならないという優れモノ。俺のお気に入り武器の一つだ。


と、そんなこと言ってる間に憎きサルの後ろ姿を発見。どうやら近くの駅に逃げ込む算段らしい。電車で逃走するつもりか。

あんな目立つ姿で電車に乗るとかアイツは馬鹿なんだろうかと思ったが、追跡のため改札を飛び越えた所で納得した。
構内は灯りこそ燈っているものの、人影はまるで見当たらない。ココにも人払いの結界が敷いてあったのだ。
つまりコレは計画的な犯行、おそらく逃走用の電車を用意してあるハズだ。逃げ切られる前に追いつかないと!

案の定、ホームには無人の電車が停留しており、サル女はソソクサと乗り込んでいった。
逃がして堪るかと、俺達も飛び乗り追いかける。前の車両まで追い詰めりゃこっちのモンだ。


「ちっ、諦めの悪いガキどもやなぁ。しつこいお人は嫌われますえ?」

「テメェなんかに嫌われようが知ったこっちゃねえんだよ!!」
「お嬢様を返せ、デカザル女!!」


コノカを抱えながらコチラをチラチラ確認してふざけたセリフを吐くデカザル女。ついに追いついた。
一斉に突撃をかますべく跳びかかろうとする俺達をあざ笑うかのように、女はニヤニヤしながら車両連結部の扉を閉める。

その扉には1枚の呪符が貼り付いて――――――――まさか!?


お札さん、お札さん ウチを逃がしておくれやす


女が呪言を唱えた直後、札から荒れ狂う怒涛の水流が俺達目掛け吹き出した。


「わーーーっ!?」
「何この水ーーッ!?」
「ガボベボッ!?」


溢れ出る激流はあっという間に車両を水で満たし、俺達から行動と酸素を奪いにかかる。
ネギは水に飲まれ詠唱不可能、アスナも渦巻く水流に着衣を乱され身動きが取れない、カモにいたってはネギの服にしがみつくのが精一杯だ。
俺とセツナもなんとか体勢を保とうと、浮力や水圧と闘いながら必死に踏ん張る。


「ホホホ、水ン中じゃ武器も振るえんやろ?せいぜい溺れ死なんようになぁ」


俺達の耳に、扉の向こうに居る誘拐女のうすら笑う声が届く。






―――――テメェ・・・・エテ公のくせに何調子こいてんだよ・・・?―――――

―――――貴様・・・・誘拐犯の分際で何を笑っている・・・?―――――


―――――コノカをさらってどーすんのかなんて知らねえ、けどな・・・―――――

―――――私達の親友を奪おうというのなら、相応の覚悟してもらうぞ・・・―――――



―――――“溺れ死なんように?”・・・・ふざけんな・・・―――――

―――――“武器が振るえない?”・・・・甘く見るな・・・―――――



―――――・・・・俺達が・・・・―――――

―――――・・・・私達が・・・・―――――






――――――――この程度で止まるわけ無いだろデカザル糞女アァァッッ!!!



【斬空閃】ッ!!
荒鷹アラタカ】ァッ!!!


声に出ない咆哮と共に放たれた、真空の刃と猛禽の爪。
その一撃は俺達の意思に呼応するかのように一直線に飛び、水流を斬り裂き、呪符を扉ごと貫き、壁諸共ぶち抜いた。

人を呪わば穴二つ。
ぶち抜かれた大穴から溢れ出た大量の水は、決壊したダムの如き濁流となってサル女に襲いかかった。ざまぁ見やがれってんだ。


一車両を満たしていた水が二車両で半々になった所で、突如乗車口が開き、俺達やサル女は水と一緒にホームに流れ出た。
知らぬ間に敵の目的の駅まで来ていたようだ、ってココ京都駅じゃねえか。


「しつっこい奴らやなぁもう!」

「ゲッフェッ、あ、テメェこら待ちやがれ!!」
「ゲホッゴホッ、いい加減に嫌がらせはやめろ!!」


往生際の悪い誘拐女、再びコノカを抱えて逃走を図る。
やっぱりココにも人払いの呪符が貼ってある。最初っから計画済みってワケかよ。クソっ甘かった、もっと警戒しとくんだったぜ!

だが反省は後だ、今はコノカ奪還が最優先。ネギ達には悪いが、俺とセツナはスピードを上げて追いかける。

・・・・待ってろよ、コノカ!!





「ようやく追い詰めたぜ、デカサル女!!」
「このちゃ・・・お嬢様を返してもらうぞ!!」

「よーココまで追ってこれましたなぁ・・・・」


追いかけっこも大詰め、ついに京都駅ホームの大階段中央にまで追い詰めた。誘拐女は着込んでいたサルの着ぐるみを脱ぎ捨て、眼鏡に付いた水滴を払っている。
そしてその冷たく光る眼をした女の傍らには、我が組織の幹部・コノカが横たえられていた。


「あ、アナタはホテルの従業員さん!?」
「新幹線に居た売り子じゃねえか!」
「おサルが脱げた!?」


そこにようやくネギら3人が追いつき、それぞれが驚愕の声を上げる。

・・・なるほど、ホテルの従業員に化けてコノカをさらったってワケだ。新幹線での騒ぎもコイツの仕業か。
あとアスナ。そりゃ脱げるだろ、常識的に考えて。


「ワラワラワラワラ増えよってからに・・・・けど、それもココまでですえ」


水にぬれた黒の長髪を揺らしながら、女は身につけているエプロンのポケットから1枚の呪符を取り出す。また妨害する気か!?


お札さん、お札さん ウチを逃がしておくれやす

「「させるか!!」」


呪文が完成する前に潰さなければ!俺とセツナは同時に飛び出す。
だが、ソレを阻むにはあまりにも距離があり過ぎた。突撃は間に合わず、無情にも術式は完成してしまった。


「喰らいなはれ!【三枚呪符・京都大文字焼き】!!

「うあっ!?」
「あっづ!?」


放たれた呪符は巨大な炎塊となり、文字通り『大』の形を取って俺達の行く手を塞いでしまったのだ。

なんとかギリギリで踏みとどまり負傷こそしなかったものの、コレでは先に進めない。
消そうにも、規模がデカ過ぎて消火に時間が掛かり過ぎてしまう。


「並の術者じゃその炎は超えられまへんえ?ほなさいなら」


そんな俺達を尻目に、女は三度コノカを連れ去ろうと準備にかかっている。
くそっ、このままじゃ・・・・・!!



ラス・テル・マ・スキル・マギステル―――――

――――――救世主は、俺達のすぐそばに居た。


――――吹け、一陣の風【風花・風塵乱舞】!!


小さき魔法使いネギが唱えた呪文により生み出された、強烈な突風。
その乱れ飛ぶ嵐が、眼の前の大文字の炎をすべて掻き消したのだ。


「な、なんやて!?」


突風の余波から顔を庇う女に、これまで見せなかった驚愕の色がありありと浮かんできた。
まさかこんな子供に、この強力な呪符を無効化されるなんて思ってもみなかったのだろう。

ぶっちゃけ俺もビックリしたし。アイツ、こんな強かったんだな・・・。


そんなことは知ったこっちゃないとばかりに、未だ驚愕冷めやらぬ誘拐女をキッと睨みつけ、ネギは言い放った。


「逃がしませんよ!このかさんは僕の大事な生徒で・・・・大切なお友達です!!絶対に逃がしません!!」


・・・オマエがこんなに頼もしく見えたのは初めてだよ。
恩に着るぜ、おかげで気分に余裕が持てた。

ネギは真面目な表情を崩さず、右手に杖を、左手にアスナとの仮契約の証を構える。


【契約執行180秒間、ネギの従者〈神楽坂明日菜〉】!!


ネギからアスナへ魔力供給が開始され、アスナの身体は薄っすらと光を帯びる。身体強化の証だ。


「アスナさん!パートナーだけが使える専用アイテムを出します!受け取ってください!名前は『ハマツノツルギ』、多分武器です!!」

「武器!?ミサトみたいなやつ!?よ、よーしネギ、寄越しなさい!!」

「いきます!【能力発動!!〈神楽坂明日菜〉】!!


アスナもミサトに倣って専用の武器を呼びだしてもらおうと、威勢よく返事をする。
瞬間、投げられたカードが光を放ち、その姿を変えていく。

そしてその武器は、無事アスナの手中に収まった。


―――――グリップの効いた持ち手。

―――――威力の期待できる、重量感のあるボディ。

―――――そして、見事に折り揃えられたスチール製の蛇腹。



「・・・ハリセン?」
「ハリセンだな」

「な、なによこれーーーー!!?」


どの角度から見ても、何処に出しても恥ずかしくない立派なハリセンだった。持っている本人は恥ずかしそうだが。


「ちょっと、コレただのハリセンじゃない!こんなんでどうやって戦えってのよ!?」


大丈夫だアスナ、ハリセンは希少価値が高いんだ。ロイドのハリセンとかメッチャ高価なんだからな。アレ結構強いし。

そんな俺達のアタフタぶりを見て我に返ったのか、気を引き締め直した誘拐女はまた懐から呪符を取り出した。



「ネギ先生、アスナさん、気を付けてください!向こうも仕掛けてきます!」

「・・・“大鉄砲水ハイドロポンプ”、“大文字焼だいもんじ”と来たから・・・、まさか次はソーラービーム!?」

「いや、ソレは無いですよ・・・」
「ハリセン持ってるくせにボケんじゃねえよ」

「ボ、ボケてないわよ!」


「おマヌケも大概にしぃや!行きなはれ猿鬼、熊鬼!!」


君に決めたといわんばかりに、サル女は2枚の呪符を投げつける。
煙と共に出てきたのは、ファンシーな容姿をした大猿と大熊。なるほど、アレがあんにゃろうの善鬼と護鬼か。


「気ィつけろ!見た目はアホだけど強ぇぞ!」

「あーーもうヤケよーーーー!!!」


やぶれかぶれになったアスナが、得物のハリセンを振り上げ大猿に跳びかかる・・・ってオイ!そんな不用意につっこんで大丈夫か!?


 スパアアァァーーーッンン!!

ムキャッ!?


んな!?一撃で送り還した!?なんだあのハリセン!?

そのあまりにもあっけない光景にその場にいた全員がボー然としていたが、多分、叩いた本人が一番驚いてると思う。
なんか知らんが、式神にはかなり有効な武器みたいだ。ハリセンすげぇ。

危機を感じたのか、呪符使いの女はまたポケットから札を取り出す。今度は大量に。
空中にばらまかれた札は例の小ザルに変化し、群をなしてコチラに突撃してきた。アスナの方に行かないのは・・・・・なんか怖かったんだろうな。

跳びかかる式神、正面から6体―――――――しゃらくせぇ!


槍鴎ヤリカモメ】!!


両腕の発射台から放たれる6本の光の矢が、寸分狂わずサル共を射抜く。
『滅殺』バンダナの効果は<命中力アップ>、まさにボウガンにはうってつけだ。

ネギもそれに倣い、【魔法の射手】を打ち出し式神を迎撃する。そして微力ながらカモも奮闘している。

次々と襲い来る小癪なサル共を、千切っては投げ掴んでは蹴り狙っては貫く。


「セツナ、今の内に奪還しろ!!」
「クマの方は私に任せて!」

「ハイ!!」


掛け声とともにセツナは跳び出す。
守りの薄くなった呪術者は隙だらけ、この好機を逃してなるものかと距離を詰める。

――――獲った!――――俺達の誰もがそう思った。



「えーーい!」
「!?」


――――だが、突如現れた謎の影がそれを阻み、セツナは金属音と共にはじき返された。

影の正体は1人の少女。
小柄な体格、顔に眼鏡、ロリータ調の洋服を身に纏い、頭には避暑地のご令嬢みたいな帽子。

・・・そして、そんな格好に似つかわしくない、両の手に握られた2本の小太刀。
なんだ、このイロモノ娘は?



「どうもぉ~、神鳴流剣士の月詠いいます~」

「・・・神鳴流?オ、オマエが・・・?」


なんとこのロリ剣士、セツナの剣術と同じ流派だというではないか。
でも確か神鳴流って、野太刀を振りまわして魔物をブッた斬る流派のハズじゃ・・・。

・・・こらまた随分と型破りなのが出てきたもんだ。


「見たところ同じ神鳴流の先輩らしいですけど、雇われたからには本気でいかせてもらいますわぁ~」

「こんな者が神鳴流とは・・・時代も変わったな・・・」
「年寄り臭いこと言うなよ」


幼馴染の発言に思わず突っ込んでしまった。いやでもホントだよ、若者が時代がどうとか言うなよ。

セツナは少し顔を紅くして俺を睨む。視線が『どっちの味方なんですか』って言ってる。
決まっている、俺はいつだってオマエの味方だ。


「月詠を甘く見ると怪我しますえ?ほな、よろしゅう」
「ひとつお手柔らかにー」


月詠を名乗る少女はペコリと一礼し――――――


「!」


―――――容姿とは裏腹な、獣のような速さでセツナに肉迫した。

瞬く間に4合ほど打ちあった後、月詠はセツナの懐に入り込み右手の小太刀で左胴を斬りつける。
セツナは野太刀を巧みに動かし、これをガード。

だがコレが月詠の狙い。防御の空いた右胴目掛け、左の太刀を射る――――


「ホホホホ・・・伝統の野太刀なんて後生大事に抱えとると、小回りの利く二刀を相手にするんは―――」


 ギィンッ!!


「・・・は?」
「ほえ?」


刃のぶつかる音色によって、女の余裕のある声は遮られた。
セツナの右手には柄頭に房飾りがついた短刀が握られており、見事に月詠の連撃を防いでいたのだ。


――――これこそ、セツナとコノカの契約の証。アーティファクト【匕首・十六串呂シーカ・シシクシロ】――――

セツナは月詠に懐へ入られる直前にコレを顕現させていたのだ。


コレは意外だという表情をするロリ剣士に、すばやく蹴りを入れ距離を取るセツナ。
そして体勢が戻る前に踏み込み、野太刀と匕首で攻勢に出る。

パワーのある長い刀で小太刀をはじき、踏み込まれれば匕首で捌き、時折肘打ちと蹴りを織り交ぜ、徐々に誘拐女の元へと距離を詰めていく。


「先輩やりますな~、なんだか楽しくなってきました~」
「貴様と遊んでいる時間など・・・無いッ!!」


2本の小太刀を夕凪ではじき上げ、匕首で一閃。しかし有効範囲内から離脱され空を斬った。


「な、なんでや!?なんで神鳴流が二刀相手にあんな・・・!?」

「ふん、甘く見られたものだ・・・・」




――――本来、神鳴の剣士の本分は退魔にある。

強大な力を持つ妖魔と対等に渡り合うためには、それを捻じ伏せるだけの重い攻撃が必要不可欠。
故に、神鳴の剣は全てが一撃必殺。武器として野太刀を使用する伝統も、ココから来ている。

反面、そのどれもこれもが対妖魔戦を想定した威力重視の大振りな奥義ばかり。対人戦闘には不向きな隙の大きい剣術なのである。
一般的な神鳴の剣士は退魔のために鍛錬に力を注ぎ、対人相手に刃を向けることは少ない。向けたとしても、技術を身体に叩きこむ鍛練の一環として相対する程度だ。

機動力重視の月詠の小太刀二刀流は、そんな伝統の神鳴流剣士にとってはまさに天敵。
女もそれを狙って、この“亜流の異端”を雇ったのであろう。



・・・だが、今相手取っている少女は違った。

無論、この少女は伝統的な鍛練も行っていた。むしろ、他の剣士達よりも鍛練への熱の入れ方は強かった方だろう。

違ったのは唯一点のみ――――――



「私が何年、総統の相棒やってると思っているんだ・・・・!」


―――――そう、互いに切磋琢磨し合う相棒が少女のすぐ近くに居たことだ。

2人は互いに腕を磨き上げようと努力した。目標を掲げ、目を輝かせて、技術の習得に全力を注いでいた。
暇があれば刃を交え、拳をぶつけ合い、研鑚の日々を送っていた。

そして相棒は変な方向に熱心だった。とにかく様々な戦闘技術を取り込もうと、日夜鍛錬を重ねていた。

剣を基本に、時に槍。時に斧。
ある時は魔法で、またある時は矢。
巨大な槌だったこともあるし、身一つの時もしばしば。
へんてこな人形だった時もあれば、摩訶不思議な楽器だったこともある。


その様々な得物の相手をしてきたのも、常にこの少女。


毎度毎度、得物の扱いがモノになるまで付き合わされていたのも、常にこの少女。


そして、徐々に鋭さを増していく相棒の奥義に、逐一対応策を練ってきたのも、ずっとずっとこの少女。


――――漆黒の少年が技量を上げていく一方で、純白の少女もそれに対抗する戦闘技術を向上させていく――――

そんなイタチごっこを、数年にわたり繰り返してきた。


故に、彼女の対人戦闘能力は他の神鳴流剣士の追随を許さない。


言うなれば、“伝統の異端”。


「―――――二刀相手の捌き方など・・・・・とうの昔に身に付いてるわァッ!!」


進んだ方向こそ違えども、『桜咲刹那』もまた月詠と同じく、対武器戦闘に特化した神鳴の剣士なのである―――――――








「ハァッ!!」
「そりゃー!」


月詠とかいう奴はなんか楽しそうだけど、あのサル女の方はもう余裕がないみたいだ。冷や汗ダラダラ掻いている。

状況を覆そうと、なんとか小ザル軍団で応戦しようとしているようだが、ボウガンや光の矢の乱れ撃ち、ハリセン乱舞で数は着実に減ってきている。


――――そしてついに、隙をついてネギが乱戦から跳び出した。


――――風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ!【魔法の射手・戒めの風矢】!!


詠唱を完了した捕縛用魔法が、サル女を目掛け一直線に伸びる。

――――今度こそ獲った!!――――



「あひぃっ、お助けぇーーーー!!?」

「あっダメ、曲がれーーーッ!」



――――だがその確信に反して、少年の放った縛鎖は直前で逸れた――――



「・・・あら?」

「ひ、卑怯ですよ!!」

「・・・・ははぁん、読めましたえ・・・甘ちゃんやなぁ、人質が多少ケガするくらい気にせず打ち抜けばええのに・・・」





・・・・アイツは今、何をした・・・・?


攻撃を恐れて怯んだ、その後は・・・?

許しを乞うて悲鳴を上げた、その後は・・・?



・・・・コノカを盾にしやがった・・・・



―――――コノカを、盾にした―――――

―――――コノカヲ、タテニ―――――



―――――――あのヤロウ・・・・・!!!




「ホーホッホッホッ!まったく、ホンマ役に立つ娘やなぁ・・・・この調子でこの後も利用させてもらうとするわぁ」


・・・・利用・・・・だと・・・・・


「アンタ!このかをどうする気よ!?」

「せやなぁ・・・」



・・・・それ以上、口を開くな・・・・!!!






「まずは呪符やら呪薬で口利けんようにして・・・・あ、ウチの言いなりの操り人形にするんもええなぁ・・・ククククッ・・・」

「な・・・!」
「なんですって・・・!?」








 ―――――ブヅンッッ!!!



その瞬間、ネギと明日菜の怒りを掻き消す程の壮絶な血管断裂音が、ミサトと刹那から響き渡った。



「ホホホホホ、コレでウチの勝ちは―――――――ひいぃッ!!?」


調子に乗って木乃香の尻を叩いて挑発しようとした主犯の女。
だが、その場に充満した殺気に当てられ、無意識に悲鳴が込み上げた。


「せんぱーい、ウチの相手をってあぁ~れぇ~~~」


自分を見てくれなくなった刹那に誘いを掛けようと近づいた月詠だったが、怒り心頭の刹那に見向きされる間もなく、一瞬で吹っ飛ばされる。
その際眼鏡も取れたため、アタフタと地面を探しているが、そんなことは彼らの知ったことでは無い。



【風花!武装解除】!!

「このかに何しようとしてくれてんのよォッ!!」


ネギは武装解除の魔法を唱え、明日菜もクマを瞬殺し突貫。
避ける間もなく暴風は女を直撃し、着衣を花弁へと変え吹き飛ばした。そして同時に護符を無効化し、人質の少女を引き離す。


そして最後は、憤怒の炎を瞳に灯した漆黒と純白。

もはや慈悲など無い。あるのは、罪人に振り下ろす鉄槌のみ。


拳に宿すは、獅子の咆哮。
刃に纏うは、紫電の雷轟。

地上の覇者と天空の閃光、その断罪の一撃――――――!!



「「【獅吼爆雷陣】ッ!!!」」



―――――怒りの鉄槌は振り下ろされ、強烈な轟音と閃光が構内を支配した。






余りある衝撃で、女は空中で二転三転。
勢いを失わず地面を幾度もバウンドし、構内の壁面に激突。人型の大きな罅を壁面に描いた所で、勢いはようやく終息した。






「ゲホッガホッ!な・・・なんでガキが、こないに・・・!」


全身を強打したせいか、誘拐女はうつ伏せになり苦しげに呻く。
全裸の上、いたる所に打撲と火傷を負った女は無残の一言。眼鏡も罅だらけ、髪も若干チリチリしている。

俺はヒタヒタと女の元へ近づき、殺気を帯びた視線で女を射抜く。
セツナも気を失った木乃香の介抱のため駆け寄りながら、鋭い眼光で睨みつける。
ネギらも、2人の気迫に押されつつだが厳しい視線を女に浴びせている。


「・・・ちっ、ココは一旦逃げ―――――」

 ズガガガッ!

「―――ッ!?」


女はなんとか逃走を図ろうと挙動を示したが、俺の撃ち出した三連矢【針雀ハリスズメ】が足元に着弾し硬直。
矢は地面を抉り、細かな礫がその場に散らばる。


「・・・・答えろ糞女、何が目的だ?」

「だ、誰がアンタなんかに・・・!」


無言で右腕のボウガンを構え、女の側頭部を掠めるように射出。

矢は寸分の誤差も無く女の眼鏡のレンズとつるを破壊し、後ろの壁に着弾。
数瞬遅れて女の左頬に一筋の紅い線が浮かび、その端から1滴の紅い雫が頬を伝った。

女は顔から血の気が引き、サァーっと青くなる。


「テメェに黙秘権なんかねーんだよ・・・・ついでに、弁護人を付ける権利もな・・・」

「ぐっ・・・・!」

「さっさと吐きやがれ・・・・それとも、生存権まで無くされたいのか?」


眼の前にはボウガン、その後ろには剣士と魔法使い他2名。もはや逃げ場など無い。
女は奥歯を噛み締め悔しげに顔を歪めながら、地を掻き毟るように拳を握る。

・・・だが少し間を置いた所で、女は頬を引き攣らせながらも笑みを浮かべ、声を上げた。


「・・・月詠、今や!!」

「「「「「!!」」」」」


!? しまった、アイツの存在を完全に失念して――――――――――!!?



「あーん、めがね~」


・・・・まだアホみたいに眼鏡を探してる?


「バカが見るぅ!!」

「なっテメ・・・ぐぁっ!?」


謀られたことに気付き振りかえった途端、眼に砂塵を投げつけられ視界をつぶされた。
くっ、さっき握り込んでやがったのか・・・!


俺が想定外のすなかけ攻撃に怯んだ隙に、女はその場を離脱。
隠し持っていた符を使い、額に『2』と書かれた大猿の式神を召喚し、肩へ飛び乗る。
直後に、未だ眼鏡を探し続けている月詠を回収し尻尾に捕まらせる。

大猿は2人を連れ、大きく跳躍し―――――


「覚えてなはれーーーーーー!!!」


――――捨てゼリフを残して、闇へと逃げ去ってしまった。


これ以上の追跡は無理か・・・っきしょお・・・!




「なんなのよあのサル女、腹立つぅ!!」
「ミサトさん、大丈夫ですか!?」

「平気だ、ただの眼潰しだから・・・・・それより、コノカは・・・!?」

「眠らされているだけのようです・・・よかったぁ・・・・」


・・・それを聞いて安心した。俺は安堵を込めた深い溜息を吐く。

眼に入った塵をなんとか取り除きながら、俺も介抱されているコノカの元へと駆け寄ろうと・・・


「ってまだ来ないでください!このちゃん裸なんですから!!」
「うおぅ!?」
「なんか羽織るもの・・・って見てんじゃないわよカモ!?」
「ぶべらっ!?」
「総統、上着脱いで!!」
「ネギ、その半纏貸しなさい!」
「「イ、イエッサー!!」」


・・・・なんか締まらねえなぁ。























「―――――ごめんなぁアスナ、ネギ君。ウチのせいで迷惑かけて・・・」

「何言ってんのよ、水臭いわね」
「このかさんが無事でなによりですよ」


あの後すぐに目を覚ましたコノカ。
ただ、まだ体に力が入らないのか、自力で歩いて帰るのは難しそうだった。

よって、現在俺がコノカをおぶってホテルへ帰還している最中。でっていう状態だ。多分、青ヨッシー。

・・・おい誰だ、コノカ見て『駅のホームでスッポンポン♪』って言った奴。

ちなみに今のコノカの格好は、上に俺のジャージをキッチリ着込み、下はネギの半纏と帯を上手いこと使って頑張ってる感じだ。意外に鉄壁になっている。


「そういえば、さっき使ってた短い刀が刹那の姐さんのアーティファクトかぃ?」

「ええ、最大16本まで増やせて遠隔操作可能な匕首です」

「アーティファクトっていえば・・・スゴかったな、アスナのハリセン」

「一発で式神を送り還しちまうたぁ驚いたぜ、流石姐さんだ」

「私だってビックリしたわよ」


カモの発言により、アーティファクトの話題になった。見た目に反して有能すぎるぜハリセン。


「ハマノツルギって名前ですから、魔を強制的に打ち消す効果があるんでしょうか?」

「〈幻想殺し〉みたいだな」

「そうゆうたら、ネギ君て〈超電磁砲〉の子に声似とるよね?」

「れーるがん?」

「てことは、オマエらは学園都市の〈幻想殺し〉と〈超電磁砲〉のコンビなんだな」

「もう無敵ですね」




「よっしゃ、ならウチは麻帆良の〈冥土返し〉になったる!」

「一緒にがんばりましょうね、このちゃん」


俺とセツナは、ある意味〈一方通行〉と〈未元物質〉のコンビだな。ツバサ的な意味で。

もし俺に能力名が付くとしたらなんだろう?〈多重武装アイテムチェンジャー〉?
・・・・あ、〈鳳凰天駆ゴッドバード〉とかいいな、カッコよさげじゃん。


「でもネギは〈超電磁砲〉っていうより、何か他の能力名の方がイイ気がするな」

「例えば?」


「・・・〈武装解除ストリップフィールド〉とか?」


ネギ以外苦笑いでした、ってミサトはミサトは状況を説明してみる。
















「・・・む、なんか急に宮崎のどかの血が飲みたくなったな」


6班の部屋で茶々丸にお酌してもらっていた吸血鬼が死亡フラグを呟いたそうな。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


1日目・夜の部、いかがだったでしょうか?どうも私です。

初のユニゾン・アタック【獅吼爆雷陣】。ガイとかが使ってたやつですね。
シンフォニアでは【獅吼爆炎陣】ですが、刹那とやるなら雷だろうということで。

感想で何度かご指摘いただいた刹那のアーティファクト、やっぱり匕首のままです。やらせたい事があったりなかったりするんで。

ミサトがゲイルアークを気に入ってるのは、技名がトリっぽいからです。
そして個人的にハーツ兄妹が好きです。

ついでに言うと、美空はもう2班の部屋に避難しました。エヴァの空気に耐えきれなかったようです。





[15173] 漆黒の翼 #29
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/07/28 21:58
コノカ誘拐騒動から一夜明け、本日は修学旅行2日目。

無事朝を迎えられたことをお日様に感謝しつつ、俺はホテルの大広間で朝食を受け取る行列に並んでいる。

修学旅行中の朝飯は、クラス全員は勿論のこと、同じホテルに宿泊している教員達とテーブルを囲んで食すことになっている。
もっとも、テーブルじゃなくて個別のお膳なんだけどね。

不公平なことにメシを受け取る順番は教員優先のため、朝早くから仕事を求めグーグー騒いでいる働き者の胃袋は不満たらたらだ。

昨晩ちょっこし暴れたせいか、いつもより胃酸がヤル気だしてる感じがする。



「「「「「いっただっきむぁーーーすぅっ」」」」」


ようやく順番が廻って来た。和食を絵に描いたような膳を受け取り、班員と共に決まり口上を述べ食事開始。

なんか全員、若干虚ろな感じでモソリモソリと箸を進めている。
寝不足か? 俺が帰って来た時にはもう全員寝てたハズなんだけどな。


「なんかオマエら眠そうだな」

「誰かさんのせいでな……」

「熱く語り合った後にあれだったからね、疲れが残ってるんだよ……」


白熱するほど語り合ったとな? なんだろう? 記憶の確認してないから知らんぞ。

話の整合性が取れなくなると厄介なので、俺の代わりに参加していた分身の記憶から会話の内容をその場でサルベージしてみる。


ええっと何々、昨日の晩は―――――――――?









===================================




「なぁ、オマエ誰が好きなんだよ?」

「オマエから言えよっ」

「いいじゃん、ソッチから言いなよっ」


ふむ、好きな人の話か……。実に中学生の修学旅行らしい会話だ。まさしくテンプレとも言えるだろう。



「じゃあ言うぞ?俺はぁ――――」


やっぱ修学旅行ってのはこんな感じなんだな。恋バナはいつの時代も鉄板――――――



「―――――断然ドゥーエだな!」


…………あれ?


「何言ってんのさ、セインさんには勝てないよ!」

「バッキャロウ!チンク姉こそ至高だっつーの!」


……どうやら“ナンバーズの中で誰が一番好きか”って話だったらしい。

なんて生産性の無い討論してんだコイツら……むなし過ぎるぞ、せめて身近にいる女の話で盛り上がれよ。


「ニノはどうなんだよ!?」

『俺?』

「チンク姉だよな!?」
「ドゥーエだろ!?」


分身は何て答えたんだろう?





『関係無いけど、ナンバーズとバロックワークスって2番目と5番目の能力丸被りだよな』


「「「「……」」」」



………うわぁ。



「やめろおおおおぉッ!!俺のドゥーエを穢すなあああぁッ!!」

「チンク姉のノーズファンシーキャノン…………ヤベェ、ワクワクが止まらねえ!!」

「その理論で行くとセインさんはモグラババアと同列…………イヤだ!考えたくないィ!!」




一瞬で阿鼻叫喚に変わってしまった。ご愁傷様。




===================================








「おかげでドゥーエがオカマ拳法つかう夢見ちまったよ・・・」

「・・・・あー、その、悪かったな」


分身の非礼に詫びを入れる。夢を壊してゴメン、2つの意味で。



まぁそれはともかくとして、とりあえず今日の予定を確認しとくとするか。

修学旅行2日目は班別の自由行動になっている。事前に班ごとに何処に行きたいか決め、担任にその旨を伝えるのだ。

俺らのクラスは大阪での自由行動。道頓堀で女の子を引っ掛けてムフフ、とかダイチが言ってた。そんな上手くいくのかねえ?

当然、俺はそのナンパ計画には参加しない。
あのサル女がいつやって来るかわかんねえからな。遊びは分身君に任せて、コノカの護衛に努めさせてもらうぜ。


コノカ達は、確か奈良公園に行くとか言ってよな。

……早いトコメシ食って、先回りするとしますかね。























―――――ホテルのトイレで分身と入れ替わり、やってきました奈良公園。噂通りのシカ天国。あっちにシカ、こっちにシカ、どっち向いてもシカシカシカ。


着くのが少し早かったので、暇を持て余している間はシカと戯れることにした。
売店で買ったシカ煎餅をエサに、時に優雅に、時に大胆に、時にふてぶてしく、時に妖艶にシカと交流する。

動物園は嫌いだけど、動物がノビノビと放し飼いにされているこういう場所は、……まぁ嫌いではない。


柵も無いのによく逃げ出さないものだ。不思議でしょうがない。

何故なんだ、すぐそこに自由が待っているというのに。俺なら五秒で逃げるのに。



――――俺がしばらくそんな感じに奈良公園のナゾに挑んでいると、何処からともなく聞き覚えのある姦しい声が耳に届く。

咄嗟に近くに茂みに身を潜め、辺りをキョロキョロ。

入口付近にコノカ、セツナ、他五名の姿を捕捉。気配を殺して茂みの中をソリッドスネーク。


……む、ノドカが髪の毛を後ろでまとめてる?

珍しいな、人と眼ぇ合わすのが苦手でお馴染みのアイツが、あんな目ン玉むき出しのヘアースタイルにするなんて。




その後、ネギがシカに噛みつかれるハプニングもあったが、あの女の姿は見当たらず。今日は攻めてこないんだろうか。

……新しい眼鏡でも買いに行ってんのかもな。


と、いつのまにかコノカを含む図書館部四人の姿がどっかに消えているではないか。何処行ったアイツら?


「アスナアスナー! 一緒に大仏見よーー!!」
「何よ突然ってわぁ!?」
「せっちゃん一緒に団子食べへーんっ!?」
「え、ちょ!?」


と思ったら今度は何処からかノドカ以外の三人がセツナらに強襲、ネギを置き去りにまた消失した。あっというま劇場。

置いてけぼりにされポツンとするネギ。いじめ?


そんなパークアローンな少年の元に、おっかなびっくりな足取りで近づく一人の制服少女。


「あ、あの、ネギ先生……」

「あ、宮崎さん……」


正体は言わずもがな、ガッチガチに緊張したノドカだ。
数度口をパクパクさせ、精一杯の言葉を肺に残るわずかな空気と一緒に絞り出す。


「ハルナ達も、どこかに行っちゃって………よ、よかったら、一緒に廻りませんか…?」

「ええ、喜んで!」


居酒屋の掛け声みたいな返事で申し出を軽く承諾するネギ。同時にノドカの表情がパァっと明るくなる。


……はっはーン? なるほどなるほど、ネギを置き去りにしたのはそういうことか。なかなか友達想いじゃないか。

そういうことなら、これ以上の立ち入りは野暮ってモンだな。ニノマエミサトはクールに去るぜ。



……と思ったら、すぐ近くの茂みでユエ&ハルナが思いっきり出歯亀していた。悪趣味な…。

まぁちょうどいいや、コイツらが別行動とってるうちに一旦セツナ達と合流しよう。























「まったく……強引に引っ張って来たと思ったら急にいなくなるなんて、パルも夕映ちゃんも何考えてんのかしら?」

「のどかのためなんよ、勘忍や」

「ははーん? いやはや、青春ッスね~」

「? それってどういう……」


 ガサガサッ

――――四人の背後の草藪が音を立てる――――


「! だ、誰!? 敵!?」



「オッス、おらミサト!」


茂みからひょっこり顔を出す俺。アスナとカモは目を剥き、コノカとセツナは『知ってるよ』って顔してる。


「な、なんだ兄さんかよ」
「お、脅かさないでよ! 昨日のおサルかと思ったじゃない」

「そっちの二人は気付いてたみたいだぞ?」

「え、嘘!?」

「なんとなくやけどな」
「気配で大体わかります」


公園に入った時から『あ、居るな』って思ってたらしい。ウチの部下は実に優秀だ。

あとカモ、あんまどうどうとしゃべんな。公共の場なんだからな。


それはさておき、その場で臨時の現状報告会をおっぱじめる俺達。


「一通り見回ったけど、敵影は見当たらずだ」

「各班に撒いた式神からも、これといった情報は入ってませんね」

「やっぱり今日は攻めてこない日なのかしらね」


昨日コテンパンにしたからな。体勢の立て直し、作戦の練り直し、人員の補充、その他諸々の事情があるんだろう。


……人員の補充、か。

結局、奴らはどれくらいの規模の集団なんだろうか?

昨日の時点で判ってんのは、サル女とロリ剣士の二人。他のまだ仲間が居るかどうかは不明。

向こうの狙いは間違いなくコノカ。それとネギの持ってる親書だ。コレは決定事項と見ていいだろう。


……誘拐と妨害を同時に行うのに、二人だけというのは少なすぎる人数ではないだろうか。

となると、まだ他に仲間が居ると考えるのが自然だ。

昨晩の二人に加え、妨害に一人以上使うと考えれば、少なく見積もっても敵勢力三人。
いや、もっと多いかもしれない。もしかしたら五人、十人、あるいはそれ以上……。


対してこちらの勢力で戦闘可能なのは、俺・セツナ・ネギ・アスナ。

同行している魔法先生は各クラスの警護に当たるだろうし、エヴァさんは手を貸してくれるかわからない。

それにアスナだって身体強化できるとはいえ、戦闘に関してはド素人。あまり頼りきりにも出来ない。


「……数で攻められたら厄介だな」

「少人数の痛いところですね…」

「無い物ねだりしてもしょうがねえ、足りない分はチームワークでなんとかすっぞ」



「人員、か……」

「? カモ、なんか言った?」

「いや、なんでもねえッス」





「じゃ、俺は見回りに戻るわ」


臨時会議は終了。セツナ達に別れを告げ、再び警護に付く。

………そういや、ネギとノドカはどうなったんだろ?























「アイツも大変ねぇ」

周辺警護に戻ったミサトの背中を眺めながらアスナは呟いた。
自分だって修学旅行中だろうに、護衛とフォローの掛け持ちしながら奔走するのは堪えるだろうと若干心配になったのだ。

その発言を聞いて、少しだが、木乃香が申し訳なさそうに眉をハの字にしてはにかむ。


「フォローはともかく、護衛は私達が好きでやってることですから」

明日菜の発言に刹那が注釈を付けて答える。
暗に『なに、気にすることは無い』と言っているのだろう。おかげで、木乃香の眉が元の位置に戻った。



 ガサガサッ

――――と、また背後の藪が葉を鳴らして揺れる。


「ん? ミサトの奴、忘れ物かしら?」


警備のために去っていった少年が戻って来たのかと判断した明日菜が、藪に向かって声を掛ける。


「さっさと出てきなさいよ、もう驚かないわよ」

「……アスナ、コレ総統ちゃうよ」

「へ? じゃあ……」


気配で察したのか、木乃香が否定する。
予想に反して茂みの中から現れたのは――――――――



「ハァ…ハァ……アスナさん…このかさん…刹那さん…?」


―――――何かから逃げてきたかのように息を切らし、涙で顔を濡らしたのどかだった。


「本屋ちゃん! どーしたの!?」

「何かあったんですか!?」

「ネギ君と一緒やったんやないん!?」


その場にへたり込み力無く俯く内気な少女の姿に、口々に何があったのか問いただそうとする少女達。

特に木乃香と刹那は、付き合いの長い図書館部の仲間の一大事に大慌て。てんやわんやで、なんだかんだと、すったもんだの世紀末。


おかげで事態が落ち着くまで、しばらくの時間を要した。







「……わたし、もうどうしていいのか…」


ようやくのどかを含めた全員が落ち着いた所で、場所を変えて休憩所の前にて話を聞くことに。

聴けばコチラにおわすのどか嬢、なんと今日この場を持って、意中の男性―――すなわちネギ少年に告白しようとしたのだという。


だがその意気込みとは対照的に、やることなすこと全て空回り。

『大好き』と言おうとすれば『大仏』だの『大吉』だのおかしなことを口走ってしまう。

オマケに空回りが過ぎて、ネギにいろいろ痴態をさらしてしまうという始末。


そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて、ネギを置いて逃げてきてしまったらしいのだ。


「本屋ちゃん、本気だったんだ……」

「せやねん、せやからウチらも応援しとったんよ」


のどかの奮闘ぶりを聞いた明日菜は驚きを隠しきれない。木乃香も、のどかの頭をよしよししながら慰める。

そして明日菜の肩に乗ったカモは目を細めしみじみと若さに賛美を送り、刹那は何か思う所があるのか、黙ってのどかを見つめている。


「でも、なんでネギなの? ハッキリ言ってガキよ? お子ちゃまよ?」

「アスナさん、ハッキリ言いすぎですよ」


身も蓋もない明日菜の問いに、もうちょっと言い方があるだろうと刹那がツッこむ。



「……確かに普段のネギ先生は、皆の言うように……子供っぽくて……可愛いところも、あります」


惚れてる相手を蔑ろにするようなアスナの発言を、のどかはたどたどしい口調で肯定する。

じゃあなんで?と訊き返す前に、のどかはまたゆっくりと口を動かす。


「……でも、時々私達よりも年上のような、頼りがいのある大人びた表情をするときがあるんです」


想いを寄せる年下の少年の表情を想い浮かべ、のどかの頬に紅みが差す。
明日菜は『そうかな?』と首を捻っているが、木乃香と刹那は真剣に耳を傾ける。


「それは多分、私達にはない目標を、ネギ先生が持っているからだと思います。それを目指して、ひたすら前を見ている……」


のどかは、ネギが父親の影を追っていることなど知らない。もちろん魔法のことなど、知るわけがない。

だが、誰よりも少年を見ていた彼女にはわかった。

あの少年は、自分に無い“何か”を持っているということが。
あの少年が、自分には見えない“何か”を見ているということが。

だから、こんなに心惹かれるんだと。



「私はそんなネギ先生を見ているだけで、満足でした。それだけで、私は“勇気”をもらえました」




――――“ユウキ”――――

その短い言葉に、一人の少女の肩がピクリとふるえる。



「……でも、今日は自分の気持ちを伝えてみようと、思いました…………この気持ちは、ウソじゃないから……」


そこまで言い終えると、のどかは再度頬を紅潮させ俯いてしまった。

言葉に表したことで想いの大きさを再確認したと同時に、自分がとても恥ずかしいセリフを吐いたことに気が付いたのだろう。



……だが、紅みはすぐに消え失せ、悲哀の蒼さがその表情に浮かび上がる。



「……でも、やっぱりダメ………私には、そんな“勇気”……持てない…」


声のトーンが落ち、また瞳から涙がこぼれる。

少女達は、なんて声を掛けたらいいか、わからなかった―――――――






「……のどかさん」



―――――少女の一人が、スッと一歩前に出て、膝をついてのどかの肩に手を添える。



「……刹那…さん?」


その少女――刹那は、慈しむようにのどかの瞳を見つめる。

のどかの強い想いを秘めた瞳。哀しくて、どうしようもなく苦しくて、とめどなく溢れ出る涙。



「……私も、同じ思いをしたことがあります」

「え……?」

「のどかさんのような恋の話ではありませんが、私にも経験があるんです」


刹那は、その瞳の想いを知っていた。涙の苦さを知っていた。



「大切な人がすぐ近くに居るのに……嫌われるのが怖くて、何も言えない。

 言ってしまったら、今までのようには居られないかもしれない……壊れてしまうのが怖くて、何もできない。


 ………一歩、たった一歩踏み出すだけで変えることができるのに……その一歩を踏み出すことが、できない。


 こんな弱い自分には、そんな“ユウキ”なんて、持てっこないって………ずっと、そう思っていたんです」


弱い自分を噛み締めるかのように、刹那は一言ずつ、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



「でも、それは違うって……そうじゃないんだって、教えてくれたヒトが居たんです」


弱いだけじゃない。そう教えてくれたヒトがいた。



「そのヒトは、私と同じでした。嫌われる怖さも、壊れてしまう辛さも知っていた。

 それでも、そのヒトは踏み出したんです。


 私が持てなかったユウキを、いや、“持てないと思い込んでたユウキ”を持っていたんです」


言葉じゃ無かった。その手で、その瞳で、その心で、それを示してくれたヒトがいた。



「それが、すごくうらやましかった。とても眩しかった。

 …………だから、私も決めたんです。逃げないで、一歩だけ前に踏み出してみようって」


臆病な自分が覆い隠してしまった、小さいけど、確かにそこにある“ユウキ”の火。



「私も、一皮むいてしまえばただの臆病者です。

 でも、どんなヒトだって、“ユウキ”が持てないなんてことは、絶対に無いんです。だって――――――



 ―――――だって、こんな臆病者の私でも持っていたんですから」


持てないなんてことは無い。その小さな火は、必ず胸にある。



「それにのどかさんは、もう“ユウキ”を持っているんですよ?」

「え…?」


「“この気持ちはウソじゃない”って、言えたじゃないですか」

「あ……」


「自分の気持ちを否定して抑え込んでいた私なんかよりも、のどかさんは、ずっとずっと“ユウキ”のある人なんですよ?」


そこまで言うと、刹那はのどかの手を取り、ギュッと握りしめ――――




「――――あとは、一歩踏み出すだけ。アナタは、それができるヒトなんですよ」


―――――背中を押す、最後の一言を告げた。





「…私に…出来るでしょうか…?」

「できます。私が保証します」


きっぱりと言い切った。




「……私、もう一度、先生に会ってきます………会って、一歩だけ、踏み出してみます…!」

「ええ、がんばってください」

「……ハイ! ありがとうございました!」


ペコリ、ではなく、ブンッと音が聞こえてきそうなお辞儀をして、恥ずかしがり屋の少女は駆けていった。

自覚した己の弱さと、それに負けない心の強さを胸に抱いて。



「……え、あ、ちょ!? ちょっと、本屋ちゃーーん!?」


完全に話から置いていかれた明日菜が再起動を果たし、なんだかよくわからない衝動に駆られ、カモを肩に乗せたままのどかの後を追いかける。


力尽きた、とまではいかないが、結構な疲労感が話を終えた刹那の肩にのしかかり、ふぅっと息を吐いて休憩所の椅子に腰を下ろす。

その隣を木乃香がひょいっと陣取り、刹那の顔をニッコニコしながら覗きこむ。


「なんか私、偉そうなこと言っちゃいましたね……」

「せっちゃんカッコ良かったえ?」


一般人であるのどかと魔法使いであるネギ。“裏”の人間としては、彼らの接近は止めるべきなのだと思う。


だが、刹那には止められなかった。

気付いた時には、少女の背中を押してしまっていた。

あの瞳に、どれだけの想いが込められているかを知ってしまっているから。
あの涙に、どれほどの苦しみと辛さが含まれているかが解ってしまったから。


「……総統に怒られちゃいますかね?」

「んー……」


顎に指を当てて可愛らしく唸る木乃香嬢。


「でも、総統もおんなじこと言いそうな気ぃするわ」

「……フフッ、だといいですね」

「ん♪」


少女達は、互いに笑いあう。

恋する少女が踏み出す、小さく、大きな一歩を祝して。




そして、純白の少女は静かに決意する。



――――この旅行中に、もう一歩踏み出してみよう。


――――自分のことを親友と言ってくれたあの少女達に、もう一歩近づいてみよう。





――――私の名前は、桜咲刹那。

――――【漆黒の翼】の、戦闘主任。



――――総統の黒き翼は、“勇気の象徴”。

――――このちゃんの明るい笑顔は、“元気の太陽”。





――――そして、私の白き翼は、“決意の証明”なのだから。























「テメェこのやろサイフ返せコラァ! っておいコラやめろ! 樋口さんを喰うなァ!?」


―――――勇気の象徴は、シカと格闘していた。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


2日目・昼の部、いかがだったでしょうか?どうも私です。

あんまり動きのない感じで、どうもすいません。

早く3日目に行きたい今日この頃です。

のどかへの励ましは刹那にお願いしました。原作では『のどかの勇気に乾杯』状態でしたが、ウチの刹那は強い子です。


……過去編、そのうち復活させたいなぁ。


P.S おかげ様で30万HIT!! 本当にありがとうございます!!!





[15173] 漆黒の翼 #30
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:3ed6cbd4
Date: 2010/07/28 21:58

ネギ・スプリングフィールドは、かつてないほど苦悶していた。

奈良公園から帰ってきてから、ずっとホテルのロビーで呆けている。かなりの放心状態だ、眼が危ない。

かと思えば、責任がどうだの紳士がどうだの僕はダメな先生だの言いながら、ゴロゴロとその場でのたうち回る始末。とても見ちゃいられない。

事情を知る明日菜達は、やや離れたところで苦笑いしながら眺めていた。というより、それ以外に対処のしようが無かった。


なぜネギがこんな状態に陥ってしまったのか。

それというのも、全てはネギが受け持つ生徒の一人である少女・宮崎のどかに起因する―――――










――――本日の奈良公園自由散策の折、他の生徒達と“偶然”離れてしまったネギとのどかは、ぎこちないながらも二人で楽しく(?)廻っていた。


途中のどかの姿を見失い、ネギが途方に暮れていたところに再びのどか登場。顔がかなり紅い。

走って来たのか、息は切れ切れ。しかし、顔の紅潮は全力疾走が原因では無かった。


息を整え、深呼吸。


両の手をぎゅっと握りしめる。震える体を抑えるために。

堅く閉じた瞳を静かに見開く。奮える心をぶつけるために。



『――――私、ネギ先生のこと、出会った日から、ずっと・・・・・ずっと・・・!』


背中を押してくれた少女の言葉と、自身の中にある勇気の灯を信じて―――――



『わ、私・・・・私! ネギ先生のこと、大好きですっ!!』


―――――少女は、踏み出した。



限界に達した少女は、返事を聞く前にその場を走り去る。


別の意味で限界に達した少年は、「ありえないんだぜ」と叫んでバタンとぶっ倒れました。











――――とまあ、こんなことがあったもんだから、ネギの幼い頭脳はオーバーヒートを起こしてしまったというワケだ。

流石に10歳の子供にマジ告白を瞬時に処理しきれるメモリは搭載されていなかったようだ。


その後、噂の真相を追及してくる生徒達から逃げるようにネギは走り去り、歩きながら途方に暮れることになった。

懸案事項が多すぎる。もう少し減らしてくれ。
コレが今のネギの一番の願いだったが、今すぐ解決できるものがほとんど無くて、もうお手上げ状態だ。


そんなネギの肩に乗ったカモは、「兄貴もまだ青いなぁ」と、しみじみとオヤジ臭いことを考えていた。オマエは一体いくつなんだ。

そしてネギも背中に哀愁を漂わせながら、見回りのため玄関ホールへとトボトボ歩いて行った。





「・・・お、ウワサのネギ少年を発見♪ どこにいくのかな~?」


――――その哀愁の背中を、カメラを持った少女が尾行していることなど、ネギは知らなかった。
























――――――さてと、結局なんのアクシデントも無いまま旅館に戻って来たわけだが・・・まぁ、何も無いに越したことはなんだけどさ。

今日も今日とてホテル周辺の見回りだ。昨日はあっさり侵入されたからな、気を引き締めてかからないと。ふんすっ。

現在、ホテル横の路地を警邏中。今のところ特に異常無し。けど、気は抜けないな。


・・・・そういや、あれからネギとノドカはどうなったんだろう?

ノドカの引っ込み思案も相当なモンだからなぁ、楽しくやれてりゃいいんだけど。トモダチとしては心配だよ、ホント。



「ほう、見回りか。ご苦労なことだな」

「こんばんは、ミサトさん」


ふと聞き覚えのある声が後ろから聞こえたので振り返ってみると、メリハリのきいたボディをひけらかす金髪の美女が、お供のライムグリーン髪の少女を連れ立って佇んでいた。

これはこれは、いつか別荘で拝見した大人エヴァさんじゃないか。なにしてんだ、こんなトコで?


「幻術なんか使って何してんスか?」

「なに、これから夜の祇園に繰り出そうと思ってな」


・・・・このヒト満喫しすぎじゃないだろうか。修学旅行中に夜の歓楽街に繰り出すとか、はしゃぎ過ぎだろ。

それに大体そういう店は一見さんお断りだから、エヴァさんは入れませんよ?


「そんなモノどうにでもなるわ、私を誰だと思っている?」


あー、そーいやそうだった。このヒト結構なんでもできるんだった。洗脳くらいは楽勝だろう。

でも、夜遊びもホドホドにしてくださいよ? 旅行中に生徒が問題起こしたら担任のネギの監督不届きになるんですから。


「心配いらん、そんなヘマを起こす可能性など毛ほども無いわ」


おお、てっきり「知るかそんなこと」とか言うと思ったのに。
一応ネギにも感謝してるってことなのかね。

そのまま話は終わりだと言わんばかりに、エヴァさんはゴシックドレスを翻して後ろ手を振って立ち去り、チャチャマルもペコリと一礼して追従した。

・・・あ、よく見たらチャチャゼロが背中にへばりついてる。アイツも来てたのか・・・。


しかし、あの面子は濃いな。街に出たら目立ちそうだ。ホントに大丈夫なんだろうか・・・?

・・・大丈夫か、ヘマはしないんだもんな。



さ、パトロールの続きだ。・・・といっても、もう一通り巡回しちゃったんだよなぁ。

一旦表の通りに出てみるか。ホテルの入り口に怪しい奴が居ない確認しないといけないし。


そんな感じに、俺は一旦路地を抜けホテル正面の公道に出ることにして――――――――







ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 【風花・風障壁】!!



――――通りに出たところで、ネギが軽トラをムーンサルトさせている現場に出くわした。




・・・・・・え、ちょ、なにしてんの!!?



「ふぅ、危なかったぁ・・・・」


危ないは今の状況だと大声でツッコミたかったが、ネギが腕に抱えている子猫の姿を確認して、大体の状況が掴めたので止めておいた。

なるほどね、車道に飛び出した猫が轢かれそうになったから咄嗟に障壁張って助けた、と。

よくやった、と褒めてやりたいところだけど・・・・もうちょっとやり方なかったんだろうか。

あんな派手な奴じゃなくて、もっとこう、ギリギリ誤魔化し効きそうな奴、瞬動とかそういうの。

・・・あーでも、それ以前に瞬動を覚えているかどうかが微妙か。

非常事態だし、しょうがないっちゃしょうがないか・・・・。


幸いにも軽トラの運ちゃんはあまり深く考えないで走り去って行ってくれたみたいだけど、このまま放置するわけにもいくまいて。

普通の暮らしじゃアリエンティな現場を誰にも目撃されてないことを祈りながら、俺はネギに駆け寄った。


「ネギ!」

「あ、ミサトさん。見回りご苦労様です!」


ネギが笑顔でねぎらいの言葉を掛けてくれた。嬉しいけど、今はそんな場合じゃないんだよコレが。


「今の見てたぞ。人助け、じゃない、ネコ助けするのはいいけど、もうちょっとやり方なかったのか?」

「そうだぜ兄貴、そんな派手なまほムグゥッ!?」

(バ、バカ!! イキナリしゃべんな!!)


ネギの肩に乗ったカモを顔ごと鷲掴みひったくった。


(アホ、ココは公道なんだよ! オコジョが口きいたら一発で怪しまれるだろうが!)

(わ、悪ぃ兄さん、うっかりしてたぜ)


俺達にしか聞こえないくらいの小声でカモに厳重注意。
気を付けてくれホントに、ココは麻帆良じゃないんだから。認識阻害も無いし、一般の方が気のせいで済ませてくれるかどうか怪しんだから。


(とにかく、ココに居るのはマズイ。一旦安全な場所まで移動して、猫を放すぞ)

(ハ、ハイ、わかりました!)


迂闊なオコジョの口を抑え込みながら、振り返って周辺確認・・・・誰も居ない、よな?

見られてないなら問題ない、セーフだ。
仮に見られていたとしたら、カモは腹話術、軽トラは運ちゃんがスゲェってことで誤魔化すことにしよう。

多少無茶でもゴリ押せば道理くらい引っ込むだろう。
昔の人はイイことを言った。「成せば成る、洗えば食える、何物も」と。

人影が無いことを早急に確認し、ひとまず安心する。


よし行くか、とネギに声を掛けようと何の気なしに振り返る―――――――――







「ダメだよ、車道に飛び出しちゃ」

「うにゃ」



――――――振りかえると、ネギは子猫を抱えたまま、杖に跨りふわふわ浮いていた。









Q:ネギは何をしている?

A:宙に浮いています。






Q:ココは何処?

A:公道です。






Q:ネギ君はなんで飛ぶのんー?

A:10歳ですけどー?












「なにしてんのおおおおおお!!!?」

「あずまんっ!?」


今度は盛大にツッコんだ。ネギの首根っこを掴み、思いっきり引き摺り下ろす。

ネギが地面にビターンってなったが、この際どうでもいい・・・それよりも!!


「なにやってんのオマエは!?」

「こ、子猫を安全な場所に運ぼうと・・・・」

「何で飛んじゃうのさ!? 台無しじゃん!? 今までの誤魔化しがパーじゃん!? それともパーなのはオマエの頭か!? 阿呆陣クルクルパーなのか!?」

「あぶぶぶぶ!!?」

「に、兄さん落ち着いてくれ!」


ネギの両肩を掴みガクガク揺さぶる俺。

揺さぶられておかしな悲鳴を上げるネギ。

あおりを喰らう子猫。

宥めるオコジョ。


―――――カオスだった。



「ええい、とにかく離脱だッ!」


ミサトは にげだした!
ネギ は にげだした!
カモ は にげだした!








「・・・・宙を舞う車・・・・おしゃべりオコジョ・・・・飛行少年・・・・・・・き、キターーー!! 超特大スクーーーープッッ!!!」



―――――そんなカオスな現場を、一人のパパラッチが目撃していたことに、俺達は気が付かなかった。




















――――一方その頃、ミサトの分身は――――






「豪華夕飯争奪! 早押し大喜利大会ィィッ!!」

「「「「「「イエーーーーーーーーイィィ!!!」」」」」」


スーツにグラサン、ピコハンを携えたクラスメイトの号令にノリノリな分身、他一同。



「第1問!(デデンッ!) 『ホテル烏丸の最大のウリとは、一体何?』」


「『オプションで“妹”が付けられる』」

「近い!」


「『若女将の枕営業』」

「コラッ!」


「『月一でコナン君が泊まりに来る』」

「3班に刺身盛り合わせ!」



「クソ! 獲られた!」

「まだまだぁ! 次来い、次ィ!!」


―――――本人の代わりに、イベントを楽しんでいた。























「ま、魔法がバレたぁ!? しかもよりにもよって、あの朝倉にぃ!?」


時間は飛んで、ホテルの休憩所。

明日菜と木乃香、そして刹那はネギに泣き着かれていた。カモは席を外しているようだ。

先刻の『ネギが地面からふわふわタイム事件』の後、麻帆良のパパラッチこと朝倉和美はすぐさま行動を起こしたのだ。曰く、情報は鮮度が命らしい。

露天風呂で今日の出来事を整理中だったネギにしずな先生に変装した和美が突貫。
現場写真をネタに秘密を握られるが、ハプニングにより画像データは損失。どうにか世界に秘匿が明るみに出ることは免れた。

だが、『朝倉に知られたら世界に知られる』のキャッチコピーでお馴染みの和美が魔法の存在を知ってしまった事実に変わりはない。


「・・・・あー、もうダメだわ。アンタ、オコジョ確定ね。強制送還以外の未来が見えないわ」

「そんな~っ!」


もはや手遅れだろうと明日菜はさじを投げた。ネギ涙目。よしよしと木乃香に慰められる。

流石に事態を丸投げする訳にもいかない刹那は頭を悩ませる。なんで次から次へと問題が増えるんだこんちくしょう。


ネギは和美に強請られてから、すぐに明日菜達の元へ救援を求めに来たので、まだミサトはこの事を知らない。

まずは連絡を入れるべきか、刹那がそう結論付けようとした、ちょうどその時。


「・・・お、いたいた。おーいネギせんせーい!」


悩みの種が向こうからやって来た。間が良いのか悪いのかよくわからない女である。
よくよく見たら、肩にカモを乗せている。

あわあわと慌てふためくネギ。木乃香はそんなネギを宥め続ける。

どう切り出したものかと刹那は思案するが、その前に明日菜が立ち上がって和美を牽制にかかった。『考えるより先に身体を動かす』を地で行く女である。


「ちょっと朝倉、あんま子供イジメんじゃないわよ」

「イジメてないイジメてない♪ それより、話はカモっちから聞いたよ!」

「そうそう、ブンヤの姐さんもオレっち達の味方になってくれたんだぜ!」

「ほ、本当ですか!?」

「ホントホント♪」


曰く、カモの熱意に心打たれたとか、秘密を守るエージェントになるだとか、証拠写真は返すだとか。

いつの間にあだ名で呼ぶほど親しくなったんだろうという疑問はさておき、どうやら味方になってくれるというのは本当らしい。



「・・・で、カモっちが喋ってんのに驚かないってことは、この場に居る全員が関係者・・・・あ、あとミサト君、だっけ? あの男の子も含めていいのね?」

「な、なんでミサトの事まで知ってんのよ!?」

「さっき見かけたんだよ。ネギ君が浮いてたのに驚いてなかったし。別の意味で驚いてたみたいだけど」


どうやらネギとミサトのやり取りも見られていたようだ。予想外の事態にテンパったとはいえ、ミサトも結構迂闊である。上司の失態に、刹那苦笑い。


と、そこへ風呂上がりの生徒数名がワイワイガヤガヤ言いながら近づいてくる。

さらに新田教諭も現れ、早急に部屋に戻るように促されたため、この場はお開きとなった。

普段の和美の言動を知っている明日菜としては、やけに物わかりの良いパパラッチが腑に落ちないようだが、ともあれ、秘密は遵守してくれると判りネギの方は一安心のようだ。




「・・・まぁいいわ。で、これからどうすんの?」


警戒態勢を維持するのは当然のことながら、パトロール以外の事もした方がいいのかと明日菜は尋ねた。


「私は結界の強化に当たりますから、少し手伝ってもらえますか?昨日設置したのは簡易的なモノでしたので」

「ウチは一旦部屋に戻るわ、のどかの事もあるし」

「のどかさんの事って・・・・・・・ああッ!!?」


のどかの名前を聞いた途端、頭を抱えてしまうネギ。

どうやら魔法バレに気を取られて告白の事がスッポリと抜けていたらしい。悶絶した後、再びゴロゴロ転がり出す。


流石にこの問題は当人以外は手の出しようが無いので、明日菜達はひたすら苦笑いだったそうな。























―――――ネギに厳重注意をした後、俺はまたすぐに警邏に戻った。

時刻は午後10時を廻ったところ、今はホテルの裏手に居る。あんパンと牛乳を片手に一息入れている最中だ。


・・・しかし、まさかあそこでネギが飛ぶとは思わなかった。

ネギって頭イイのに所々抜けてるんだよな、最近はそうでも無かったけど。

任務でいろいろ疲れてるから、ボロが出ちまったのかもしれないな。

今日の警備は休ませた方がいいか? あんまり無理させてもいけないだろうし。



「・・・・コッチに・・・かな・・・・」

「・・たぶん・・・・・だぜ・・・・・」


ッ! 誰か来る!

残りのあんパンを牛乳で無理やり流し込む。
咄嗟にその場に設置されているポリバケツに飛び込み、蓋をして身を隠す。

・・・・ウヘッ、生ゴミ臭い!


裏路地に現れたのは、パイナップルみたいな髪型した女子生徒。

たしか・・・朝倉、だったかな。報道部の人間だったハズだ。

その肩には見慣れた小動物の姿があった。何やってんだアイツ?


少女は辺りを一瞥すると、「よっ」っと言いながら俺の潜むバケツに腰を掛ける。コレじゃなんも見えんじゃないか。


「カモっち、ホントにコッチに居るの?」

「ホテルの近くに居るハズなんだけどなぁ」


ふむ、なにやら誰かを探している模様だ。一体誰を・・・・・



「・・・・って、何普通に喋ってんだオマエは!?」

「「うひゃあッ!?」」


一般人と会話を交わしているカモのありえない行動に、思わず蓋ごと押しのけて登場してしまった。

まさかポリバケツにヒトが入ってるとは思わなかったらしく、二人とも目を白黒させている。


「あたたた・・・お尻打っちゃった・・・」
「に、兄さん、なんでそんな所に?」

「んなこたぁどーでもいい!! それよりもカモ、なんでの堅気の人間とベラベラくっちゃべって―――!?」

「あ、ミサト君やっと見つけたよ! 私、麻帆良学園報道部の朝倉和美だよ! 前にも会ったよね、学園祭とかで!」

「あ、ああ・・・」


女子3-Aのブースにお邪魔した時にインタビューされたくらいで、特に接点は無いけど。


「ねえねえ、君も魔法使いなんでしょ? ちょっと取材させてくんない?」

「んな゛!?」


100%好奇心な笑みで詰め寄って来る少女に、俺は驚愕した。

な、なんでコイツがそのこと知って・・・!?


「さっきの現場をこのブンヤの姐さんが見てたんスよ」

「そゆこと♪」


見られてたのかよ・・・・・くそっ、しくった・・・! どうする!?

落ち付けミサト、状況を整理するんだ。考えろ、マクガイバー・・・!


この娘は俺を探していたと言った。

カモが一緒ということは、コイツがココまで案内したんだろう。

“裏”の存在を知った人間を、わざわざ俺のトコまで連れてきたってことは・・・・



「・・・なるほど、わかったぜカモ」

「へ?」


そっとカードを取り出し、アーティファクトを顕現させる。


「俺にコイツの記憶を消せってことだな?」


光の収束とともに、一本のバットが俺の右手に収まった。


「え、ちょ、何それ、なんでバット持ってんの? なんで素振りしてんの?」

「ついに禁断の魔法、【記憶飛ばしの術】を使う時が来てしまったか・・・」

「待って待って待ってッ!! それ魔法違う!! そんなんやったら死んじゃうからッ!! 記憶以外のモノも一緒にトんじゃうからッ!!」


仕方ないじゃないか、俺は記憶消去の魔法なんて覚えてないんだもの。

安心しろ、痛くないから。痛いと思う前に記憶消すから。


「兄さん違うんだ! この姐さんは味方だって!!」

「・・・あんだって?」

「ほ、本日付でネギ君の秘密を守るエージェントになったから、ご挨拶をと思って参上した次第だよ、うん!」


なんだ、最初からそう言ってくれよ。こちとらテンパって、いつも以上に思考回路が短絡的になっちゃってんだから。

・・・疲れてんのかな、俺。


カモによれば、誠心誠意の説得によって味方になってくれたらしい。秘密も守ってくれるそうな。

ほほう、カモの奴やる時はやるんだな。見直したぜ。

でもバレたことには変わりないか・・・面倒事がまた増えちまったよ、ただでさえ今はゴタゴタしてるってのに・・・。


「いま仕事中だ、忙しいから取材はまた今度にしてくれ」

「桜咲達とはいつからの付き合い? どんな魔法が使えるの? この業界に入って長いの? 今の仕事って何? 自分のクラスに戻らなくて大丈夫?」


・・・・聞いちゃいねえよ。矢継ぎ早に質問浴びせるばっかで、コッチの話は無視か。イイ根性してんじゃねえかコラ。

こういう好奇心の塊みたいなのが一番厄介だ。危ないから入るなって言ったら真っ先に入りそうな感じだもん。


「・・・カズミっつったっけ? 取材なら麻帆良に帰ったらいくらでも受けてやるから、今は大人しくしててくれ。それどころじゃないんだよ」

「う~ん、しょーがないかっ。またの機会にするよ」


しっしっ、と手の甲で追い払うと、少し残念そうに愛用の手帳を閉じるカズミ。

とにかく、旅行中は他の生徒へのフォローに回ってくれるそうなのでコチラとしては大助かりだ。

細かい事情の説明は、カモに任せるとしようかな。好奇心の権化を丸め込んだ手腕に期待させてもらうぞ。



あらかた話も済んだところでカモとカズミに別れを告げられ、俺はまた警備に戻ることにした。

誰にも話すなよ、話したら記憶飛ばしだからな。と軽く牽制して、その場を後にする。


・・・・一応、麻帆良に帰ったらキチンと話し合いの席を設けないとな。




「あー兄ちゃん、ちょっとええかな?」

「ん?」


後ろから初老の男性らしき声が俺を呼んでいる。

くるりと振り向くと、紺色の制服に身を包み、ツバ付き帽と腕章を携えた中年のおじさんの姿が。

・・・どっからどうみても、ポリスマンだな。えっと、なにか?


「実はなぁ、さっき近所の人から連絡がありましてな? この辺をうろうろしとる不審者がおるっちゅうんですわ」


なに、不審者だと!? まさか、奴らの仲間がすぐそこまで来てるんじゃ!?

イイ度胸してるじゃねえか、俺がこの手でしょっ引いてやる!! で、ソイツの特徴は!?



「身長は160~170くらいで・・・」


ふんふん、それでそれで?


「短髪の黒髪で・・・」


それからそれから?


「えらい眼つき悪い、紅目の男やっちゅう話ですわ」


なるほど、眼つきの悪い紅目の・・・・・・・・・・・・・・ん?


「ちぃと、そこの交番まで来てもらえますかな?」




・・・・・・・・\(^o^)/



























「ミサト君て、なんか話に聞くほど愛想良くないね。眼付き悪いし」


手帳をパラパラめくりながら和美は呟く。何ページかめくったところで手を止め、自身の足で集めたデータを眺め読む。

データの内容は、件の少年・一 海里についての内容だ。

ミサトの事は以前から3-A内で名前が挙がっていたため、軽く調べたことがあったのである。


以下、データ本文より――――




[ 一 海里 (にのまえ みさと)

12月8日生まれ 射手座 身長163cm O型

所属:男子中等部3年A組(出席番号20)、図書館探検部

小学校卒業と同時に京都から麻帆良学園へ編入。
成績は良好、ただし絵がヘタらしく美術は低め。教師ウケはソコソコ。
女子3-Aの一部生徒、特に幼馴染の近衛・桜咲と非常に仲が良く、休日に一緒に出かけている様子をたびたび目撃されている。
一部では『ハーレムを作っている』、『ヤクザの血を引いている』、『古菲と互角に闘える』などの噂もあるが、そのあたりの真偽は不明。]



和美はペンを取り出し、データの最後に[眼付き悪し]と付け足しておいた。


「今は気ィ張ってるからしょうがねえよ。普段は気のイイ兄さんなんだ。眼付きはあんなだけど、気概や腕前は確かなんだぜ?」


フォローしてんだかしてないんだか微妙なカモの言葉に、ふーん、と軽く返す和美。

じゃあこの『古菲と互角に闘える』っていう噂はあながち間違ってないんだ、と和美は当たりを付け、その文に二重線を引いた。



「ふっふっふ・・・それじゃあ、その張り詰めた気を緩ませてあげないとね?」

「上手くいけば大幅戦力アップ、兄貴達の力になる! オマケに懐もホッカホカってなもんよ!」

「そんじゃ、〔ラブラブキッス大作戦〕始動開始だよ!!」



―――――カモに任せた事をミサトが後悔するのは、翌朝の事であった。






























「・・・で、身分を証明できるものは?」

「・・・・(イライラ)」
(姉さん、どうしましょう?)
(知ルカヨ)


――――――目立ち過ぎたらしく、エヴァンジェリンは職務質問を受けていた。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


約一ヶ月ぶりの投稿となります。どうも私です。

最近ホントに忙しくて、てんやわんやです。

ラブラブキッス大作戦は、ほぼ原作通りの道筋を辿ります。

なのでダイジェストでお送りして、3日目の朝まで時間を飛ばす予定です。

変化を期待した方、誠に申し訳ありません。






[15173] 漆黒の翼 #31
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:3ed6cbd4
Date: 2010/08/24 18:11


修学旅行の思い出の1ページとして企画されたイベント、〔ラブラブキッス大作戦〕。

その実態は、オコジョ妖精・カモミールと報道部員・朝倉和美とによって仕組まれた、〔仮契約カード大量ゲット作戦〕。


物欲にまみれたな思惑など知る由もない生徒達は、それぞれの想いを胸に参加を表明していく。


「ネギ先生と、キ、キキキ、キスッ!!? そ、そんな不埒なイベント・・・!」
「いいんちょ、やらないの?」
「全力で参加いたしますわッ!! いきますわよ千雨さん!!」
「・・・なんで私が」


ある者は己の欲求に正直に。ある者は嫌々ながら。



「正座はイヤです~っ」
「だいじょーぶだって、いくよ!」
「あ~んっ」


ある者は好奇心。またある者は否応なしに。



「ゆ、ゆえ~・・・私は別に・・・」
「いいえのどか、コレはチャンスです。今こそアナタの想いを形にする時です」

「・・・想いを、形に・・・」


そしてある者は、踏み出した先の“答え”を探すために。


そうとは知らないネギ少年は、失敗した紙型をクズかごに放り込み、見回りに出かけてしまう。
木乃香も、刹那と明日菜について廻っていたため、何が起きていたかなど知る訳もない。
ミサトとエヴァについては、言わずもがな。


様々な思いが交錯する大波乱の夜は幕を開けた。




「ネギ先生の唇は渡しませんわッ!」
「中国四千年をナメたらいかんアルッ!」


白熱する枕合戦。



「コラーッ! 何をやっとるか長谷川!!」
「なんで私がー!」

《最初の犠牲者は長谷川選手だー!》



「ゆえ吉、かくごー!」

「のどか! ここは私に任せるです!」
「ゆ、ゆえー!」


次々と倒れゆく戦友達。




「ネ、ネギせんせー、・・・・失礼します・・・!」

「「「「「どーも」」」」」

「・・・ひゃあああああああああ!!?」

《おーっと! ターゲットが増えたー!?》


ゴミから生まれた不完全な分身たちは、生まれた理由を求め彷徨い始める。

イベントは、大混乱の大波乱。熾烈を極めること山の如しであった。




――――そして、イベントもついに決着の時。


「宮崎さん・・・お昼のことなんですけど・・・」
「あ、あの、あれは、聞いていただければ、もうそれで・・・!!」

「僕・・・誰かを好きになるとか、よく分からなくて・・・宮崎さんはもちろん好きですが、アスナさんや木乃香さん、3-Aの皆さんも・・・」
「せんせー・・・」

「だからちゃんとしたお返事は出来ないんですけど・・・」
「・・・・」


「その・・・お友達から始めませんか?」

「・・・はいっ!」


少女の告白は、前向きな方向に進みそうなご様子。



「ていっ」

「「んむっ!」」


――――だが、親友の小さな後押しにより、恥ずかしがり屋の少女の運命は、大きく揺れることとなる。




「全員、朝まで正座ぁーーーーーーーッ!!!!」

「「「「「「「「「「ひぃーーん!!」」」」」」」」」」


鬼の新田教諭の怒号により、夢のような一夜は幕を下ろす。




――――夢は夢でも、ヒトによっては悪夢にもなるということを、この時はまだ誰も知らなかった。

































――――翌朝、修学旅行3日目。

女子3-Aの生徒達は、昨晩のイベントの優勝者であるのどかの元に群がっていた。

お目当ては勿論、豪華賞品と称された一枚のカード。それを一目見ようとワラワラと集まり、ワイワイと盛り上がっている。

アッチコッチから「いいなー」とか「私も欲しい」とか羨望の声が聞こえる中、優勝した当の本人はポワワンと顔を赤らめて微笑んでいた。

他の者から見れば『少女の絵が描いてある綺麗なカード』に過ぎないが、のどかにとっては『想い人とのファーストキスの証』。嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。

ココまで注目を浴びれば普段なら委縮して小さくなってしまうところだが、今は高揚感の方が勝り、頬のニヤケが止まらない。

のどかは、人生でベスト3に入るくらいの幸せを感じていた。いや、この様子だとダントツの1位なのだろう。


本日の自由行動のために生徒達が散開した後も、少女はウキウキと喜び、ハッとなって身悶えするという行為を数度繰り返し、ようやく自分も準備に取り掛かろうと行動を開始する。




――――踏み出してよかった――――



間違いなくそう思えるのは、あの凛とした少女の後押しがあったからこそ。
この証を手に出来たのは、あのちっちゃい親友がお節介してくれたからこそ。

のどかの慎ましい胸は、背中を押してくれた友人と足を引っ掛けてくれた親友に対する感謝の念でいっぱいになった。



そんな感じにのどかが小躍りしそうなくらいにご機嫌な様子でテクテク歩いていると、ロビーにて恩人の一人である少女の後ろ姿を発見。

これはお礼を言わなければという思いから、意を決して声を掛けようとし――――――






「ど―すんのよネギ、こんなにカード作っちゃって!」



――――聞き覚えのある怒声が耳を穿ち、驚いて咄嗟に壁に隠れてしまった。


ってダメダメこんなことじゃ、と弱気な自分に喝を入れるが、明日菜が何を怒っているのかが気になり、そっと覗き見てみることに。



「そ、そう言われても・・・」

「まーまー姐さん、いいじゃねえか」
「そーそー、細かいこと言いっこ無しだって」

「朝倉とエロガモは黙ってて!」


よくよく見れば、見知った顔が数名一緒に居るではないか。
刹那と明日菜の他に、ネギ・和美・木乃香・カモが居る。一体何を・・・・



(・・・・あれ? 今、ネギせんせーのペットのオコジョさん、喋らなかった・・・・?)


そんなのどかの疑問は、別の人物によって打ち切られる。



「・・・ハイ、ではすぐに・・・」


その人物は誰であろう、恩人の刹那。
どうやら携帯で通話中だったらしく、ちょうど電話を終えたところだったようだ。

携帯を鞄にしまい込み、傍に居た木乃香に向き直る。双方とも、神妙な面持ちである。


「なんて?」

「“すぐに連れて来い”、だそうです」


どこに? 誰を? 誰が?

そんな疑問符が、のどかの頭の中で次々と生まれてくる。


疑問の答えは、間を置かずに刹那が教えてくれた。



「・・・皆さん、ここは人目に着きます。移動しましょう」

「どこに?」

「・・・ホテルの裏路地や。総統が待っとる」

「ミサトが?」


話し合いはそこで一旦中断となり、刹那を先頭に全員ロビーを後にした。




「・・・・」


無言のまま、のどかはその後を追った。


















裏路地に入った一行を迎えたのは、眼を瞑り、腕組みして壁に背を預け佇む少年の姿だった。

路地の周りを見ると、壁の四方に札らしきものが貼られている。【人払いの結界】である。


「あ、ミサト君。おっはよー」


ミサトに気付いた和美が軽く挨拶する。
だがミサトは挨拶を返さず、沈黙したまま。普段なら「うっす」くらいは返すハズなのに。

そんな状況も意に介さず、刹那は集団から一歩前に進み、少年に近づく。



「・・・総統、ネギ先生他三名、お連れしました」

「・・・ん」



ここでようやく、ミサトはアクションを起こす。


腕組みを解き、預けていた背を壁から離し、ネギ一行に向き直り―――――双眸をゆっくりと開いた。




見馴れたハズの紅い瞳。


だが、ナニカが決定的に違った。




「・・・・セツナ、説明しろ」


一行が普段と違うナニカを理解する前に、少年は口を開く。


大まかな情報しか得ていないミサトは、まず第一に、事の詳細を刹那に尋ねた。

木乃香と刹那以外の者は、場の空気が冷たくなる感覚を覚え、ブルッと身震いを起こす。

声のボリュームこそ小さな物だったが、当人の雰囲気とあいまって、その声は妙に耳に響いた。



刹那は昨夜起こった騒動を、要点を掻い摘んでミサトに説明する。

何が原因で、誰が発端で、その結果どうなったかを、出来る限り客観的に話した。

明日菜などはその様子を見て、「刹那さんて秘書みたい」と場違いな事を考えていた。


報告の間、ミサトは終始無言を貫いた。普段の少年を知るネギ達にとって、その無言が逆に怖かった。





「・・・・結果、のどかさんの仮契約カードの他、不完全なカード数枚が発生してしまいました」

「ほらコレ、こんなに作っちゃって」


刹那の話を明日菜が補足する形で、報告は終了。

明日菜は出来上がったカードを扇状に広げ、ミサトに見せている。


ミサトは視線は、その中の一枚―――数冊の本に囲まれながら笑みを浮かべる少女、宮崎のどかのカードに向けられていた。





「・・・・カモ」

「へ、へいッ!」


突然名前を呼ばれ、和美の肩の上でカモは姿勢を正した。



「・・・なんでだ」

「へ・・・?」

「・・・なんで、こんな事をしたんだ」


それは、極めて単純な質問。主犯カモの行動の動機、それについての問い。

表情こそ影になって確認できないが、声のトーンは普段通り。

だが、少年と付き合いの長い者は、それが必死に震えを抑えた声だとすぐに解った。


「い、いやな? 兄さん達が人員が少なくて大変だって零してたからさ、いっちょ戦力増強を図ろうとしたんでさぁ!」

「・・・・」

「あ、あのクラスは見所のある掘り出し物がワンサカ居るし、ちぃとばかし兄貴に協力して、もらおう、と・・・・」


眼の前の少年の雰囲気に当てられ、カモの弁は尻すぼみになっていく。少年の表情は険しくなるばかり。

和美は場の空気を軽くしようと、「やだなー、そんな怖い顔しなくてもー」と茶化すが、刹那はおろか木乃香にまで白い視線を浴び、かえって逆効果となってしまった。




「・・・・オマエ、今の状況解ってるよな?」

「そ、そりゃもちろん・・・」


若干頬が引き攣りつつも、カモはニヘラッとした表情で質問に返す。笑って誤魔化そうという魂胆が見え隠れしている。

ミサトは更に続ける。



「・・・つまり、オマエは『生徒達に命の危険が及ぼうと知ったこっちゃねえ』って思ってた。そう考えて、間違いないな?」

「そ、そんな! オレっちはそんなこと――――」


これっぽっちも考えてない、と続けようとするが、カモは言葉が詰まる。


紅い瞳が身体を刺し貫く。その鋭く冷たい視線が四肢を絡め捕り、体の自由を奪う。殺気が声帯を拘束する。


恐ろしいまでの怒気を孕んだ眼光に当てられ、カモは完全に委縮してしまった。



「俺達は完全に敵の目に付けられてんだよ。そんな状況で『他に従者なかまが居る』って知られたらどうなるかぐらい、オメーならすぐに解るだろ?

 ・・・つーかよ、何も知らねえ一般人を無理やり“コッチ側”に引き摺り込むなんて、それ以前の問題だよなぁ?」

「それは、その・・・・・」


「カズミに現状を話したか・・・? ・・・・話してねえよなぁ・・・? 好奇心を煽ることしか言わねえで、今の状況も、ケガじゃ済まない危険性も説明してねえよなぁ・・・・?」

「あ、うぅ・・・・」


「何考えてんだ・・・って言いたいトコだけど、聞くだけ無駄だよな・・・・・・・だってオマエ、自分の利益以外“何も考えてない”もんなぁ・・・・ッ!」


口調は淡々としているが、声の震えは少しずつ強さを増していく。

少年はそれを悟られないようにするためなのか、無意識のうちに饒舌になっていく。


「テメェの、自分勝手な都合で、何の関係もないノドカを・・・・・・ッ!!」


ついに声の震えも隠しきれないレベルにまで到達する。

キレそうな精神の緒を必死に繋ぎとめ、ミサトはカモに詰め寄る。




「ストップストップ! 小難しい話はココまでっ! これ以上カモっち責めたらカワイソーだって!」


そこへ、今日一番の空気の読まなさで和美が割って入る。

ミサトはもはや、能天気なその声を聞いているだけで気が狂いそうだった。

だが、抑えなくてはならない。ココで感情に身を任せたら、自分はどんな行動を起こすか解らない。

感情を殺し、震える声と腕を、拳を握りしめることで抑圧する。



「・・・・カズミ、少し黙ってろよ」

「だからそんな怖い顔しないでってばー! それにさっきから大げさだよ、たかがイベントなんだからさ!」





―――――たかがイベント―――――


その言葉が、少年の感情の炎に油の如く注がれる。



もう声も出せない。

声を出したら、感情がカラになるまで止まらなくなりそうだった。




・・・・だが和美は言葉を止めず、ついに決定的な台詞を言ってしまう。









「いいじゃん、“面白かった”し、“儲かったんだから”さ!」
「そ、そうだぜ兄さん! “これくらい”大丈夫でさぁ!」






―――――瞬間、必死に押しとどめていた感情の堤が、音を立てて決壊した。


眼の前が真っ赤に染まるような感覚を覚える。感情が矛先を求めて荒れ狂う。





――――気が付いた時には、和美の胸倉とカモの身体を掴み上げ、その身体を外壁に叩きつけていた。




「・・・・ざけてんじゃねえよ・・・・」

「く、苦、し・・・ぃ・・・ッ!」
「が、はぁ・・・ッ」



ミサトは、手の中に居る小動物が悪魔の使いに思えてならなかった。

ミサトは、眼前の少女を“己の敵”としか認識できなかった。



「何も知らねえくせに・・・・勝手なことほざきやがって・・・・ッ」


純然たる怒りが少年の感情を支配し、喰いしばる歯と締めあげる両手の力を加速させる。






―――――“これくらい”だと・・・?―――――


「チカラも無い女の子を戦場に突き落とすことが“これくらい”なのか・・・・・?」






――――― “儲かった”だと・・・!?―――――


「そんな下らねえモノのために、何も知らないノドカを巻き込んだのか・・・・!?」






――――― “面白かった”だと・・・!!?―――――


「そんなふざけた理由で、俺のトモダチを死ぬかも分からねえ地雷原に放り込んだのかッ!!?」



和美は、魔法に関わる危険性なんて知らなかった。

カモが教えなかったから、知るハズが無い。解っている、そんなことは百も承知だ。




・・・だが、それでも怒りは収まらない。感情は黙ってはくれない。


――――知らなかったで済ませる気か?


――――知らなかったら、咎められないのか?


――――知らなかったら、何をやっても責めてはいけないのか?


――――知らなかったら、トモダチを傷つけられても許さなければいけないのか?




・・・・冗談じゃない。

故意か過失かなんて関係ない。重要なのは、『やったという事実』。

ヒトは、事実を事実として背負う責任がある。カモにも、和美にも、誰にでも例外無くだ。


この女は、事実を有耶無耶にしようとしている・・・・・そんなこと、許して堪るか・・・・・


・・・・もういい・・・・・このまま一思いに、絞めこ―――――――







「総統、それ以上はアカン」

「気持ちは解りますが、抑えてください」



――――気付けば、ミサトは二人の部下に肩と腕を掴まれ諭されていた。


頭にのぼっていた血が、ゆっくりと引いていく。

服を掴みあげている両手の力を静かに抜き、和美とカモを解放する。

よほど苦しかったのか、少女は壁に手をついてゲホゲホと激しく咳き込む。



「・・・・悪ぃ」


そっぽを向きながらではあるが、ミサトは謝罪する。

それでもまだ、少年の表情に陰りは残ったままだった。



「・・・朝倉さん。確かにアナタは“裏”の危険性も罰則も知らなかった、それは事実です・・・・・・ですが今の物言いは、私も許せません」

「・・・その、ごめん・・・」


切れ長の眼を更に鋭くさせて刹那は和美に向き直る。

本気で掴みかかられたのが堪えたのか、素直に謝る和美。殺気に当てられてか、その手には震えが残る。



「・・・・カモ君もや。のどかの気持ちをこんなふうに利用して・・・・ウチ、怒っとるんやからね」

「・・・すまねぇ、姐さん・・・」


普段は笑みの絶えない木乃香も、この時ばかりは厳しい表情。責め立てられたカモは消沈する。



「・・・ネギ、オマエもだ。安易に魔法を使ったりなんかしなきゃ、こんなことにはならなかったんだ」


猫の件はともかく、その後が最悪だった。
ネギは視線を落として落ち込む。明日菜は「そこまで言わなくても」と言おうとするが、ミサトの苦い表情を見て言葉が詰まる。


刹那は改めて、現在の状況・敵の危険性・その他諸々の情報の詳細を和美に説明した。

木乃香の誘拐と敵の薬漬け発言について聞き、事態がそこまで切迫しているなど思いもしなかった和美は、息を飲んで顔を青くする。

いかに自分の行動が浅慮だったかを思い知らされた好奇心旺盛な少女は、黙る他に何もできなかった。




「・・・カモ、カードはココにあるので全部か?」

「コピーカードを、賞品としてのどかの嬢ちゃんに・・・」

「・・・行動が早いな、おい」

「弁解しようもねえッス・・・」


回収しようにも、さっき渡したばっかりなのに取りにいったりしたら確実に怪しまれる。
ならば、今は無理しないでバレないように気を付ける方が賢明な判断だろう。

とにかく、コレ以上事態をややこしくしないためにも、旅行中はのどかを極力遠ざけておいた方がよさそうだ。



「やっちまったモンはどうにもならねえ、この話はココまでだ・・・・カズミ、それからカモ・・・・・もうコレ以上、余計な真似はするな」

「・・・わかった」
「・・・うす」


コレ以上は責める言葉しか出てきそうもない。
そう判断したミサトは、最後に戦犯二人に釘をさし、話を打ち切った。

普段の快活さがウソだったかのように、小動物と報道少女は沈痛な面持ちを浮かべていた。よほど堪えたのだろう。


しかし、このままボーっとしている訳にもいかない。
さっきまで殺気立っていた少年は頭を切り替え、今日の予定について話すべく口を開く。


「アスナは予定通り、ネギと西の本山へ親書を持って行ってくれ」

「アンタは付いて来てくれないの?」

「今日は俺らの戦力が分散されるから、敵が攻めてくるには絶好の機会なんだ。だから、俺はコノカの護りに就かせてもらう」


別に「コレ以上オメーらの面倒なんか見切れない」とかいう意味で言っている訳ではない。
今までの敵の動向を顧みるに、向こうの狙いは『親書<木乃香』だ。木乃香に危険が迫る以上、ミサトが優先すべきはそちらなのである。


「カモ、アスナにコピーカード渡しとけ。襲われてからアタフタしても遅いからな」

「ヘ、ヘイ! 姐さん、コレっす! コレでいつでも、あのハリセンを喚び出せますぜ!」


ミサトに促され、仮契約カードのコピーを明日菜に渡すカモ。
言われてすぐに取り出せるあたり、コレもあらかじめ用意していたものなのだろう。


「ミサトがやってたみたいにすればいいのよね? えーと・・・・【ア、アデ、アット】!


試しに武器を召喚してみようと、明日菜はたどたどしく呪文を唱える。
するとカードは光を放ち、形を変え、ハリセンとなって明日菜の手に収まった。

まるで手品のようだと、ややズレた感想を漏らす明日菜に、魔法関係者は苦笑い。

少しだけ、場が和んだ。


「・・・俺はもう戻る。コノカ、セツナ、あとは頼む」


そう言い残して、少年は周辺警戒に戻っていった。

ミサトのその背中を、黙って見届ける木乃香と刹那。
コレ以上の失態は重ねられない、と今まで以上に気合を入れるネギ。
まーた一人で気負ってるわねこのガキ、と呆れた視線を送る明日菜。
そして、すっかり肩を落としてトボトボ歩く和美と、肩のカモ。

六者六様の反応で、朝の臨時集会は終わった。


「すまねえブンヤの姐さん、オレっちのせいで・・・」

「・・・カモっちだけの責任じゃないよ、実行犯は私だもん」

「いえ、元々の発端は僕ですし・・・」


「ほら、いつまでも落ち込んでないで顔上げなさいよ。調子狂うじゃない」


「「「・・・はぁ・・・」」」


ダメだこりゃ、と明日菜はさじを放り投げた。



「・・・アイツ、本気でキレてたわね」

「・・・凄く、恐かったです」

「・・・冗談抜きに、殺されるって思ったよ」

「生きた心地がしないって、こういうことなんだな・・・」


全員の脳裏に、激昂した少年の姿――――刺殺せんばかりの視線を放つ、一対の紅眼が浮かぶ。



・・・同時に、四人が身震いを起こす。




―――湧き上る“怒気”――― ―――溢れ出る“殺意”―――


その二つ感情しか読み取ることができなかった少女達は、あの紅い瞳が恐ろしくて堪らなかった。









――――だが、誰一人動けなかった殺気の中で唯一動けた二人の少女の想いは、全く違うモノだった。





「・・・総統、すごく哀しそうやったな・・・」

「いつ以来でしょうか・・・・・総統が、あんな泣きそうな顔したの・・・」



――――二人の少女は、幼馴染の怒気と殺意以外の感情を、確かに感じ取っていた。





















・・・・その一連の様子を、物陰からのぞき見る影が一つ。



「・・・アスナさんのカード、私のと同じ・・・?」


――――知らぬ間に【魔法使いの従者】となった少女に、認識阻害は効力を示さない。



「・・・・えっと、・・・【来たれ】・・・!」


――――運命は、少年を嘲笑うかのように、一人の少女を巻き込んでいく。

































修学旅行3日目は班ごとの完全自由行動。
教師の引率も必要ないこの日は、ネギが親書を私に行く絶好の機会だ。

俺は距離を取って周辺確認と安否確認を交互に行っている。できるだけ自然に。もう捕まりたくない。

朝からいろいろあったけど、今は切り変えていかないと・・・。俺だって、一応はプロなんだから。

失敗を取り返すためにも頑張らないと。
頬を両手で張って気合いを入れ、今日の予定を脳内で反芻する。


まず、ネギが誰にも見つからないようにホテルを抜け出てアスナと合流。
その後すぐに電車を乗り継いで、西の本山へ直行。親書を詠春さんに届けて、任務完了。コレが今日のプランだ。


・・・・だったのだが、アスナがホテルを出る際にハルナに見つかってしまい、なし崩し的にユエとノドカも合流してしまうというハプニングが発生。

なんか、頭が痛くなってきた。なんでこう次から次に想定外の事が巻き起こるんだよ・・・。


仕方なく近場のゲーセンに入ることに。注意を散漫にし、その隙にネギとアスナが脱出するという緊急プランだ。

ネギがノンキにカードゲーム始めた時は、「そこは断るところだろうが」ってツッコミたくなったが、目立ちたくないので止めた。

そしてモタモタしている内に、地元の人間と思しき学ラン&ニット帽の子供がゲームに乱入してきた。だから早く行けって言ったのに・・・・・あ、ネギが勝った。


ちなみに、俺は格ゲーやってるフリしながら護衛中。デカめのパーカーを着て、キャップとフードを被り、グラサン装備。いかにも頭悪そうなゲーマーを装っている。



――――そんなこんなで、ハルナとユエがレアカード集めに夢中になってる間に、ネギとアスナ、ついでにカモはゲーセンを抜け出し、ようやっと駅へと向かっていった。


一段落したところで、コノカとセツナが俺と背中合わせに座り、バレないように小声で話し合う。



(今のところは大丈夫みたいやね)

(ちゃんと本山まで辿り着けっかな?)

(式神を一体送りました。逐一報告しますから、安心してください)


助言役も兼ねてセツナが式神“ちびせつな”を送ったらしい。抜け目のない女だ。



(ほな、今の内に遊んどこ! プリクラやろプリクラ!)

(そうですね。根詰めたら、いざという時に上手く動けませんし)

(? セツナにしては意外な反応だな、生真面目キャラのくせに)

(息抜きも必要ですよ。特に、今の総統には)

(旅行の間ずっと働きっぱなしやろ? ちょっとは肩の力抜かんと、倒れてまうよ?)


・・・余計な気を使わせちまったか。



(・・・そだな。んじゃ、お言葉に甘えるとするかね)

(ん、プリクラの機械は向こうや♪)

(総統、そのグラサン何処で買ったんですか?)

(変か?)

(変、ていうか・・・)
(なり損ないのチンピラみたいやな)

(バッサリだな、おい)


・・・・・コイツらには敵わねえなぁ。










「・・・・マズイですね」

「せっちゃん、どないしたん?」


ひとしきり館内を廻りコインゲームを興じていると、斜向かいでクレーンゲームをやっていたコノセツの片割れが眉をひそめた。

なんだ、お目当てのぬいぐるみが取れなかったのか?


(先程アスナさん達が本山前に到着したんですが・・・・)

(よかったじゃねえか)

(無間方処の術で千本鳥居の中に閉じ込められました)

(oh・・・)


無間方処、か・・・。確か、一定の範囲の空間をループさせる結界、だったけ?

・・・・無限ループって怖いよな。



(脱出する方法は、何かしらあると思うんですけど・・・)

(ネギ君達、大丈夫なん?)

(アスナさんがパニくってます)

(・・・やっぱ一緒に行ってやれば良かったかな)


だが今更そんなこと言ったところで後の祭り。なんとかそこに居るメンツで頑張ってもらうしかないな。

その後、一応は落ち着きを取り戻したことが、実況のセツナにより伝えられた。



(・・・・ネギ先生達の前に敵が現れました)

(来たか・・・・あのサル女か?)

(いえ、新手です。コレは・・・さっきネギ先生とカードで対戦していた少年ですね)


・・・あのガキ、刺客だったのか。

ってことは、もうココにも敵の手が伸びていると考えてほぼ間違いないだろう。おそらくはサル女、あるいは月詠とかいう二刀流が居る可能性が高い。


(セツナ、オマエはネギとアスナのサポートに専念。コノカは何かあったら、すぐにココから逃げ出せるようにしておけ)

((了解))


警戒レベルをMaxにまで引き上げ、コノカを背に隠すように席を移動する。

周囲を見渡すが、ピコピコ遊んでる者以外の影は無い。
だが、この中の誰かが敵勢の内の一人じゃないという保障も無い。

席を立つ者、新たに入店してくる者、疑わしきは全て監視する。




(あの少年は“狗神使い”・・・・どうやら、狗族と人間のハーフのようです)

(俺らと同類か・・・)


敵は前衛派のスピードアタッカーらしく、魔法使いと素人戦士には手に余る相手らしい。

果たしてネギとアスナのコンビで大丈夫だろうか。ネギも消耗してるし、アスナも微妙。カモとチビは論外。半妖相手に確実に勝利できるだけのピースが揃ってない。


・・・・・踏ん張ってくれよ、ネギ、アスナ。











――――――結果から言えば、ネギ達は敵を出し抜き、結界から脱出することに成功した。

ネギの意地と機転により狗族の少年に大ダメージを与え、オマケに敵を結界に中に閉じ込めることにも成功。

この部分だけ聞けば、誰にも文句のつけようもない大勝利。手放しで喜べるというものである。


・・・・しかしミサトは手放しどころか、両手で頭を抱えて項垂れている状態。

原因は、一人のイレギュラー。そのイレギュラーの正体こそ、件の少女・宮崎のどかその人だ。

ホテル裏路地での一件を目撃しアーティファクトを呼び出すまでに至ったのどかは、監視の眼を抜けてネギを追跡、尾行。
更に本山にて戦闘中のネギに的確な指示を出しサポート。無間方処の結界の破り方を敵より聞き出し、見事ネギ達を勝利へと導いた。

対象の表層意識を読み取るアーティファクト【いどのえにっき】が、それを可能にしたのだ。


――――これにより、のどかは完全に“コチラ側”の世界へと足を踏み入れてしまった。もはや誤魔化すことは不可能だ。

おそらく敵方にも、ネギ一行の仲間の一人として認識され得てしまっただろう。




もし、人払いの結界を敷いただけでは効果が無いことに気付いていれば。


もし、話を立ち聞きているのどかの存在に気が付いていれば。


もし、ゲームセンターでのどかが姿を消したことにすぐ気が付いていれば。





――――偉そうに他人に説教をしておいて、俺は何をやっているんだ。


――――ノドカを“コッチ側”に踏み入れたのも、トドメを刺したのは俺じゃないか。




そんなifが、頭の中をぐるぐると駆け巡る。もしもの仮定が、ミサトを責め続ける。



「ウチらにも責任はある。一人で抱え込まんと、一緒に考えよ?」
「今は、全力で護り抜くことだけ考えましょう」



幼馴染にそう諭され、無理やり頭を切り替えたのが、つい先ほどの話。


そして、今はどうしているかというと――――――――






「このちゃん、コッチへ!」
「ハァ、ハァ・・・う、うん!」

「ちょっ刹那さん、なんで私らマラソンしてんの!?」
「あー、聞いちゃいないですね」



「逃がしまへんよ~・・・セ・ン・パ・イ♪」


――――敵勢の一人、月詠の襲撃が開始されていた。



敵影を確認した刹那達はすぐさまゲームセンターを飛びだし、しかし目的地があるわけでもなく、とにかく走っていた。

事情を説明する暇も説明できる内容も無いので、ハルナと夕映もワケも解らず一緒になって走り、臨時のマラソン大会が催されている。


時たま、刹那が振り返りざまに腕を振るい、飛来する何かを掴み取る。棒手裏剣のような細長い金属針、千本と呼ばれる飛び道具だ。

『神鳴流に飛び道具は通用しない』という言葉があるが、まさにその通り。この程度の襲撃は、刹那にとっても許容範囲。
しかし、今自分達がひた走っているのは、人目の多い公道。死角から目立たない程度に襲ってくる敵に対して、コチラが取れる行動は限られている。

よって、とにかく走りながら周りに気付かれない程度に応戦する他ない。



「さ~、どんどん行きますえ~?」


間伸びした口調とは裏腹の俊敏な動きで、屋根伝いに翔け、電柱から電柱へと跳び回る。跳躍するたびに針を投げつけるのも忘れない。

一見人目に付きそうなこの行動だが、認識阻害の札を常備しているため、一般人には気付かれ難い。



「そーれ、もういっちょ――――」


 ズガガッ!


「―――っとぉ?」



再び跳躍しようと足に力を入れたその時、足下の瓦屋根に光を帯びた三本の矢が突き刺さる。月詠は咄嗟に横っ跳びし、近くにあった電柱に跳び移った。

誰ですー、邪魔するんはー?と言いたげな感じに、矢の発射された方向に顔を向ける。




「ストーカーも大概にしとけよ、訴えるぞ」

「おやぁ、ボウガンのお兄さん。二日ぶりどすなぁ?」


道の対岸の建物の屋根に、右腕に装着されたボウガンを月詠に向ける少年の姿がそこにあった。コチラも認識阻害符を携帯している。

動きにくかったのか、パーカーとキャップは脱ぎ捨て、グラサンもしていなかった。

月詠は新たなターゲットの登場に、嬉しそうな朗らかな笑顔を浮かべる。



「できれば二度と会いたくなかったんだけどな」

「そないなこと言わんとぉ。ウチお兄さんみたいな人、好みどすえ?」

「そいつはどーも。是非とも理由を訊きたいもんだね」

「うふふふ・・・・おとついの夜の殺気、ウチ好みでゾクゾクしましたわぁ♪」

「・・・やっぱ訊かなきゃ良かった」


肩を震わせ恍惚とした表情を浮かべる少女に、ミサトは背中に冷たいモノを感じた。
その台詞と表情から、この月詠という剣士が普通じゃない事が一発で理解できた。

彼女は、所謂バトルジャンキー。戦闘狂という奴だ。

しかも、戦いの中で“死”を身近に感じることに悦びを覚える、一番質の悪い戦闘狂。
サル女に協力しているのも、思想云々ではなく、猛者と死合えればそれでイイという単純な想いからなのだろう。



「でも、刹那センパイも捨て難いわぁ」

「節操の無いこったな」

「ウチ、かわいくて強い女の子が大好きなんですぅ♪」

「・・・アッチの方も二刀流かよ」

「ご想像におまかせしますー」


ミサトは思った。コレ以上、コイツをあの二人に関わらせてはいけない、いろんな意味で。



――――ミサトが月詠を足止めしている間に刹那らは距離を開け、いつの間にか京都の観光スポットの一つ『シネマ村』の前まで来ていた事に気が付いた。

人目の多いこの場所ならば容易には襲ってはこないだろう。
そう考えた刹那は、流れるような動きで木乃香を横抱きに抱え、追って来たハルナ達に「ちょっと二人きりになりたいんで」と断りを入れ、金も払わずにシネマ村内へ入ってしまった。

ハルナと夕映がそれで納得できるわけもなく、二人の後を追ってシネマ村に入っていった。コッチはちゃんと料金を払って。




「シネマ村どすかぁ・・・・面白いトコに逃げ込みましたなぁ、っと」

「いい加減に帰れ、よっ!」

「あん、いけずぅ♪」

「“裏”の秘匿があるのはテメェも同じだろ! 目立ちたくなきゃとっとと帰れ、二刀流バイセクシャル!」

「そーはいきまへん、コッチもお仕事どすからぁ」


軽口を叩いているだけに聞こえるが、さっきからずっとお互いに牽制し合いながら刹那らの後を追っている。

ミサトが矢を放てば月詠が小太刀で叩き落とし、月詠が千本を投げつければミサトが手甲ではじき返す。

もちろん、屋根を跳び回りながらだ。今更ながら、二人ともニンゲン離れしていると思う。


面倒な敵に舌打ちをして顔を顰めるミサト。牽制ばかりでどこか消化不良気味の月詠。需要と供給はまるで一致していなかった。



このまま牽制し合っていても一向に埒が明かない。

一旦体勢を立て直すべく、ミサトは踵を返して刹那の後を追うように塀を飛び越えていった。



月詠はミサトの背中を眼で追い、唇に指を這わせ、妖艶な笑みを浮かべる。





「逃がしまへんえ・・・・刹那センパイ、ニノマエはん・・・・・ふふふ♪」



それはまるで、極上の生贄を見つけた魔女とも思える仕草だった。





―――――シネマ村に、暗雲が立ち込める。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミサト激怒の回、非常に難産でした。どうも私です。

朝倉に対して言葉で諭すかどうか悩みましたが、手が出てしまいました。不快に思われた方、申し訳ありません。

彼の怒りは、“一般人を巻き込んだ”ことよりも“友達を巻き込んだ”ことに対する怒りの方が大きいんです。

詳しくは後々説明する予定。



次回は『シネマ村死闘篇』です。死闘するかどうかは分かりませんが。






[15173] 漆黒の翼 #32
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:3ed6cbd4
Date: 2010/11/06 12:22
―――シネマ村―――

時代劇を身近に体感できるアミューズメントスポットとして、京都観光というジャンルの中では割とメジャーな場所。


変態二刀流剣士を振り切ってそのレジャー施設内に無銭侵入した俺は、従業員に勘付かれないよう注意しながら小路を走った。


流石に有名なシネマ村だけあって、多くの観光客で賑っている。

こんだけ人が居るんだ、アイツらだって派手なことはできないハズ。

ココで迎え撃つか、人ごみにまぎれて脱出するべきか、それともホトボリが冷めるまで身を潜めておくべきか、それが問題だ。

いや、まずはセツナ達と合流するのが先決か? いやでも、ハルナとユエが一緒に居る可能性も高い。下手打ったら巻き込んでしまうのがオチだ。

コレ以上“コッチ”に引き摺り込むわけにはいかない。アイツらは、日常にいてなきゃ・・・・


そうやって思案しながら路地をアッチコッチ走り回り、一軒の茶屋っぽいセットの脇の小路に出た。

店の壁に背を預け、『御自由にどうぞ』とあるお試し抹茶に手を伸ばして一息。苦味がいい具合に頭を活性化させた。


・・・さて、これからどうするか―――――



「何を辛気臭い顔をしている・・・・・というか何でお前がこんな所に居る?」


――――姫っぽい格好をした金髪幼女が、眉を顰めて眼の前に突っ立っていた。アンタも来てたんかい。

一応、片手を挙げて「どもっ」と軽く挨拶しておいた。


「寺とか行かなくていいんスか? そういうの好きでしょう?」

「寺社巡りは明日だ。余韻を残して帰りたいんだ」


曰く、今日は俗物的なルートを巡るらしい。主に食べ歩きやレジャー系を廻っているそうだ。本人が楽しければ、別に文句はない。

それよか、エヴァさんの格好の方が気になったりする。折角レンタルするのなら、大人バージョンにすればいいのに。何でアダルト状態じゃないの?



「・・・・あの姿は・・・いろいろ目立つから、な・・・」

「何か遭ったんスか?」

「・・・なんでもない」


まぁいいや、コレ以上は訊かないでおこう。



・・・・ん、そういえばチャチャマルは? 一緒じゃないのか?

尋ねてみると、エヴァさんは親指で「んっ」と道の奥を指差した。指の示す方向を眼で追う。



――――ライムグリーンの髪をアップし、藍色の着流しを纏い、左腰に刀。


――――ガラガラと音を立てて風車を付けた乳母車を押し、その乳母車の中には変な髪型したチャチャゼロの姿が。





・・・・・子連れ狼?



「こんにちは、ミサトさん」
「チャーン」

「大五郎カットが意外に似合うな」

「ウッセェ。殺スゾ、チャーン」

「その『ちゃーん』は、言わなきゃいけない決まりなのか?」

「妹ガ言エッテシツケェンダヨ、チャーン」


チャチャマルって意外とこだわるヒトなんだな。
でも使い方を激しく間違えてるけどな。キャラ付けの為の語尾じゃないからなソレ。



「・・・で、何故こんな所に居る? 今日も今日とてこのかの護衛だろ、飽きもせずに」

「ヒトを護衛マニアみたいに言わないでくださいよ」


いいから早く言えと無言の催促を始めたエヴァさん他二名に、今の面倒な状況を説明する。

話し終えると、エヴァさんがニタニタした表情になった。何が嬉しいんだか。


「クックック、困れ困れ。小物がアタフタ駆けずり回る様は見ていて愉快だからな」

「・・・性格悪ぃ」

「何を今更」


「サイズがSなら性根はドSか」と思わず言いたくなったが、我慢して言葉を飲み込んだ。このヒトはいつもこんな調子だし。

この様子じゃ、手伝ってくれる気なんて毛頭ないんだろうな。ケチだし。



「ミサトさん、あそこに居るのはこのかさん達では?」

「ん?」


不意にチャチャマルが大通りの方角を指して俺に問う。

人差し指の延長線上を辿ると、俺達からやや距離の開いた場所に、和傘を携えた着物姿のはんなり嬢と、新撰組の羽織を着こなした女流剣士が一緒に写真を取って貰っていた。

カモフラージュのために衣装を借りたのだろう、よく似合っている。似合ってるけど、マッタリし過ぎだろオマエら。


ハルナ達は一緒じゃないみたいだし、ひとまず合流しよう。そう考え駆け寄ろうとした。




が、予期せぬ乱入者によって俺は足を止めることとなった。




乱入者とは、一台の馬車。

猛スピードで走り込んできたその馬車は、コノカとセツナのすぐ近くに停車。

一体何事かと周りに居た一般の観光客を尻目に、乗車していた人物がフワリと舞い降りた。



「どぉ~も~、神鳴流・・・じゃなかったです、そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人でございます~」


貴婦人と呼ぶには若干ちみっこい気がするその少女―――月詠は、白昼堂々、その姿を現した。

一体何を企んでいるのかと勘ぐる前に、月詠は続けて用意していたらしき台詞を並べる。


「そこな剣士はん、今日こそは借金のカタにお嬢様を貰い受けに来ましたえー?」


・・・・なーるほど。小芝居に見せかけて、ドサクサにコノカを攫っちまおうって魂胆か。

ココはシネマ村、突発的に客を巻き込んだイベントが起きたところで誰も疑問には思わないだろう。妙案と言えば妙案だ。

意図を察したセツナは、そうは問屋が卸さないとばかりに月詠とコノカの間に割って入り、「私が護る」宣言。俺も心の中で同意。

コノカはパァっと顔を綻ばせる。


しかし月詠は、断られたというのに嫌な顔一つせず―――それどころか、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。

そしておもむろに、はめていた手袋の片方を外し、ホイッとセツナに投げつけた。



そう、決闘の申し込みだ。



嬉々とした表情を押さえきれずに口元を手で覆う自称貴婦人。


「30分後、シネマ村正門横『日本橋』にてお待ちしてますー。お手合わせ、お願いできますなぁ・・・?」





――――逃げたらあきまへんえ?――――




瞳に浮かぶ、喜怒哀楽のいずれでもない感情。

深淵の如く闇に淀んだ“狂気”が、眼の前のセツナに、その後方に居る俺に、照準を定めた。




言いたい事を言い終えた月詠はそのまま馬車に飛び乗り、「ほな、よろしゅう♪」とだけ言い残して、その場を慌ただしく立ち去った。

コノカは狂気に当てられ震える身体をどうにか抑えつけ、セツナの手をキュッと握り締める。セツナはそれを、ギュッと握り返すことで応えた。




「・・・あの娘、狂人か」

「解ります?」

「あの手の輩はゴマンと見てきたからな」


流石は歴戦の吸血鬼と言うべきか、エヴァさんはすぐに月詠の中の狂気に勘付いたようだ。

面倒なのに眼ぇ付けられちまったなぁ、ったく・・・。


物思いにふける俺の耳に姦しい声が届く。目線を向けると、コノカとセツナの周りに軽く人集りが形成されていた。


ハルナとユエと・・・・あれ、カズミだよな?
それにあの派手な着物の奴って、もしかしてアヤカ?

その他にも何処かで見たような顔が数名並んでいた。


・・・マズイな、アイツらもシネマ村に来てたのかよ。ヘタすりゃあらぬ方向に行っちまいそうだ。どうしたもんか・・・・・。



解決案を五秒ほどで考えて、携帯を取り出す。そして登録したばかりの番号へ連絡。


姦しの輪の中に居た一人が着信に気付く。表示を確認し、ギョッとする。

そそくさと輪から外れ、ようやく通話ボタンを押して応じた。



《――――えーと、もしもし?》

「カズミか?」

《や、やっぱりミサト君だったのか・・・》


電話の相手はカズミ。やっぱりも何も、表示で解るだろ。昨日の夜に交換したんだから。


「絞め上げられた相手じゃ気マズイか?」

《い、いや、滅相もない!》

「そこまでビビんなくてもいい。それより後ろ見てみろ、茶屋の隣だ」

《へ? ・・・・・・い゛い゛ッ!?》


遠方に居た俺と目線がかち合い、ちょっとした悲鳴を漏らすカズミ。


「俺が居るってことは、大体の見当が付くんじゃないか?」

《・・・もしかして今の寸劇って、“ソッチ”関連?》

「Exactly」


察しが早くて助かる。つーわけで、オマエさんに特別任務を与えよう。

内容は一つ。ハルナやらアヤカやら、とにかく一般人をなるたけ遠ざけて欲しいんだ。


《えーと・・・・なんか桜咲達を応援する方向で盛り上がっちゃってるんだけど・・・》

「じゃあ、フォローとかその辺りを頼む。不可思議な事が起こっても『ワイヤーアクションだー!』とか『VFXだー!』とか言って誤魔化してくれ」

《お、おーけー、やってみるよ・・・・・・・あ、あのさ》

「ん?」


気後れ気味にカズミが問うてきた。なんだ?


《本屋の姿が見えないんだけど、ゆえっち達と一緒じゃないの?》


・・・ああ、そのことか。


「・・・ネギに着いてっちまった」

《・・・え?》


受話器の向こうから、「そんなバカな」的な意味を孕んだ声が漏れ聞こえた。


「裏路地での一件を見られてたらしくてな、完全にバレちまったよ」

《・・・そ、その、えと・・・私の・・・・》

「トドメ刺したのは俺だ、オマエが気にすることじゃない」

《でも・・・!》

「コレ以上誰かを巻き込まないためにも、だ。フォロー、よろしく頼む」

《・・・・うん、わかった》


押し問答になる前に話を切り上げ、通話を終える。カズミはチラッとコッチを一瞥し、また輪の中へと戻っていった。


決闘開始まで、約25分。この間に作戦の一つでも練っておかないとな。月詠の他に誰が待ち構えてるか分からないし


一応エヴァさんに、狂人相手の上手い対処法とかあるか訊いてみた。


「“殺られる前に殺れ”だな」


予想通りの返答だった。


「食欲より睡眠欲より、殺戮衝動の方が強い人種だからな。眼を付けられたが最後、放っておけば地の果てまで追い回してくるぞ」

「・・・・そスか」


エヴァさんへの相槌もそこそこ。


視線を落とし、開いた右掌をじっと見つめる。

その手をゆっくりと閉じ、拳を握り締める。



どうすっかなぁ・・・・。

































「見えたぜ兄貴、シネマ村だ!」

『うん! 思ったより時間掛かっちゃったけど、このかさん達無事かな?』


シネマ村上空を、ゆらゆらフワフワしたスピードで浮遊する一つの影。正体はネギ、そしてカモ。

正確に言うと、カモがネギの使役する式神に乗っかっているのだ。大きさも掌サイズ、顔の造詣もデフォルメチックだ。


狗族の少年『犬上小太郎』との戦闘に勝利した直後に、煙と消えた刹那の式。
コレは何かあったに違いないと奮い立ったネギであったが、消耗が激しくすぐには動けない。
そこで、元の紙へと戻った刹那の式符をリサイクルし、自らの分身を代わりに送ることにしたのである。

術式が西洋のモノと微妙に違うためコントロールに少し手間取ったが、なんとか目的地にまで辿り着いた。

一息つきたいところではあるがそんな暇はない。早く刹那達と合流して安否を確認しなくてはなくては。

焦る気持ちを抑えて村の中を見廻す。あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロ。

だが如何せん、観光客が多すぎて何処に居るかが分からない。オマケに時代劇風に仮装している客も多いため、更に混乱してしまう。

捜索に数分を費やしたところで、カモのセンサーに反応アリ。何やら大所帯で闊歩する女性軍団を発見した。


「居たぜ、姐さん達だ!」

『ホントだ! 刹那さーんッ!』

「ネギ先生!」
「わっ、ネギ君の式神や」

周りに気付かれないように球状の光になり、刹那の前で再び具現化してみせた。

もちろん、一般人には見られないよう配慮してだ。


「急に通信が途切れたから焦ったぜ」

『無事で良かったです・・・・あれ、ミサトさんは?』

「総統は・・・いえ、そんなことよりも今は――――」


姿の見えないミサトの所在を尋ねるネギに返答しようとした刹那。

しかし現状を説明するのが先だと判断し、自分の相棒を『そんなこと』扱いする。ミサトが聴いたら落ち込みそうな言い様だ。

そんなことはお構いなしに刹那が状況を伝えようと口を開こうとする。



――――しかし、眼の前の光景に再び口を噤むことになる。



「・・・ふふふ、ぎょーさん連れて来てくれはりましたなぁ。ほな、始めましょかー?」



宣戦布告から、ジャスト30分。既に刹那達は、指定された戦場『日本橋』まで来てしまっていた。


橋の上には両手に小太刀を携えた少女。その視線が、刹那を捕捉する。

にっこりとした影のある笑みを浮かべ、少女はゆっくりと歩み寄ってくる。


「一人少ないみたいやけど・・・・まぁ、そのうち出てきてくれますやろ」


少し残念そうな表情になる月詠だったが、すぐに「まぁええわ」と斬り捨て、再び視線を仕事のターゲットと個人的な獲物に合わせる。



「このか様も、刹那センパイも、みんなウチのモノにしてみせますえー・・・・♪」



笑顔の中の闇が、大きく膨れ上がる。



「せ、せっちゃん・・・」


木乃香に不安の色が浮かぶ。
幼馴染の羽織の袖を掴み、腕にすり寄る。


自分にも解る。あの女の子はフツウじゃない。

きっと、何か恐ろしいモノを内に飼い慣らしている。


子犬のように潤ませた瞳で、木乃香は刹那の顔を見上げる。





「――――何も心配することはありません」




そこにあったのは、いつも通りの笑顔。



「何があろうとも、このちゃんは私が・・・いえ、“私達”が、必ずお守りします」



ずっと傍で見てきた、最も信頼できるその笑顔。

不安は鳴りを潜め、木乃香の震えはどこかへ去ってしまった。





「いいぞー!」
「がんばってー!!」
「ひゅーひゅー!!」

ふと気付けば、少女達の周りには多くのギャラリーが取り巻き、拍手やら歓声やらを挙げて勝手に盛り上がっていた。

周囲を巻き込まないためにもできるだけ目立ちたくなかったのに、今やシネマ村で一番注目を浴びてしまっていた。


刹那は困った。
木乃香も困った。
月詠は嗤った。
ギャラリーはお気楽だった。


「お二人の熱い友情に感激いたしましたわ!」

「あらあら、女の子同士で・・・・うふふふふ♪」


そしてお気楽の権化たる3-A生徒も、ここぞとばかりに囃し立てる。マズイ流れだ。


「ココは私、雪広あやかが一肌脱いでモゴッ!?」

「ハイハイいいんちょ、邪魔しちゃだめだよー」


だが一人の少女がその流れを断ち切る。いつもは煽る側の和美がストッパーとなるという珍しい光景だ。


「―――ぷはっ、何をなさるんですか朝倉さん! ココはクラスメイトとして助太刀する場面でしょう!」

「ちゃんと台本があるんだから勝手なことしちゃダメだって。それとも、しゃしゃり出て折角の芝居をぶち壊してもイイの?」

「そ、それは・・・・私の流儀に反しますわね・・・」

「大人しく見守るのも友の務めだよ」


「・・・仕方ありませんわね。皆さん、応援いたしますわよ! なるべく安全なところからこっそりと!!」

「「「「おーーーッ!!」」」」


情に絆されたあやか他数名が前に出ようとしたが、和美の口八丁でなんとか踏み止まらせた。お手柄である。

和美は言いつけられた任務に成功しホッと一安心。その様子を見た一人のメガネは、首を傾げていた。



ギャラリーも静まったところで、刹那は衣装に付属している模造刀と愛剣の夕凪を引き抜き、構える。

ヤル気になってくれて嬉しそうな月詠。だがココで、一つ思案するように顎に手を添える。


「ん~センパイと死合えるのは楽しみやけど、ウチの仕事はお嬢様の奪取やからなぁ・・・・・ちょっと小道具使わせてもらいますぅ」


そう言って月詠は懐から十数枚の式符を取り出し、おもむろに宙に放り投げた。




【ひゃっきやこー】♪



気の抜けた掛け声と同時に、式符はその姿を変える。

鬼が出るか蛇が出るかと身構える一同だったが、出てきたのはやたらファンシーな魍魎達。

ギャラリーからは「かわいー!」だの「すげーCGだな!」だの「ワイヤーアクションだぁー!」だの声が上がっている。最後のはたぶん和美である。



「ウチらが闘ってる間にお嬢様を運び出しておくんなまし~♪」

「「「キュイーー!!」」」


式神達に命令を下し、刹那に向き直る月詠。刹那は舌打ちを漏らす。


命令を受けた河童・化け猫・なんかよくわかんないオバケは愉快な鳴き声を出して跳び上がり、木乃香の元へと急接近。


木乃香が身を竦ませ、刹那が迎撃態勢を取ろうとした。



その時――――――




忍法【曼珠沙華】!!




―――――炎を纏った手裏剣が上方から飛来し、三体の式を同時に貫いた。



式神は煙と消え、模造品の手裏剣も燃え尽きて形を崩す。


カワイソーという女性層の声もあったが、多くの観衆は派手なパフォーマンスに大喜び。

そして二人の少女は見覚えのあるこの技に、表情が自然と柔らかくなった。「やっと来たか」という呆れも込めて。






『―――貧しい町人の弱みに付け込み、暴利の限りを尽くす高利貸し“月詠屋”よ。貴様らの蛮行の数々、許し難し―――』




風に乗って朗々とした口上が場に届く。
己の僕を打ち取られた二刀流剣士は、投擲者を確認すべく顔を起こす。




瓦屋根に佇む一つの黒い影。

黒の足袋に、同じく黒の忍装束。




『―――乙女二人を相手に百鬼夜行など、多勢に無勢も甚だしい―――』




重量感のある鎖帷子を着用。背には長尺の刀と鞘。頭には金属製の大きな額当て。

首元には赤いマフラー、その両端を風に靡かせる。




『―――今宵、我が“義”の名のもとに―――』




妖しくつりあがった口角。


そして一際眼を引く――――





『――――“ボク”が成敗してくれよう!!』



――――ネコみたいな一対の耳。



変な着ぐるみが、そこに居た。






「・・・誰なのかは大体見当付きますが、演出上一応訊いておきましょ。一体何者どすか?」


その問いに、無駄にカッコいい動きでポーズを決める乱入者。その名は――――



『とおりすがりのブラック忍者、“トクナガ”推参ッ!!』



――――リバースカードオープン、≪ヒーロー見参≫。






いろいろツッコミもあるかもしれないが、盛り上がればソレでイイ観客達は新たな役者の登場に大賑わい。

何のキャラか解っている者はほぼ皆無だが、それなりに愛嬌のある見た目のため問題無かった。


トクナガはギャラリーを跳び越え、宙で華麗に一回転。刹那達の元へと着地。


「トクナガやー!」

『やぁ、待たせたネ』


久しぶりに見るトクナガに木乃香は大喜び。

何故トクナガ?と刹那は一瞬考えたが、顔を隠すための策だろうと一応納得した。


『あり? なんでカモネギがココに?』

「ちびせつなの式を使って来たそうです」

「な、なんでぃコイツ!?」

『ボクはトクナガ!』

『・・・もしかして、中身はミサトさんですか?』

『中の人などいないッッ!!』


説明しよう!
着ぐるみ状態の時は“一 海里”ではなく“トクナガ”として扱わないといけないのだ!
これは子供の夢を壊さないための配慮、暗黙の了解なのである! メンドクサイ奴だ!


ネギが居ることを確認すると、トクナガは思案する。使える人材は最大限に使いたいからだ。



『・・・よし、みんな耳かして』


――――作戦会議開始。








「む~、何をコソコソ話しとるんですぅ?」


突然の助っ人登場にしばし傍観していた月詠だったが、そろそろしびれを切らしてきたようだ。

さっきからボソボソ耳打ちばかり。一体いつになったら死合ってくれるのか、そればかり考えていた。



―――もういいや、十分待ってやったし。


待つことに見切りをつけた少女は右手を天に翳し、数多の式に突撃準備の合図を送る。

あとはその手を振り下ろせばいい。


開戦を告げるべく、彼女は右手を振り下ろす――――



『忍法・煙玉・・・もとい、【ディープミスト】!


―――直前に向こうが動いた。

行動を起こしたのは着ぐるみの乱入者。その掛け声と共に、彼らの周りに突如濃霧が発生する。

三人と一匹+αの姿を覆い隠す大量のスモーク。見様によっては、よくある演出。一般人は魔法とは思わない。


「眼眩まし・・・・」


存外につまらない戦法だと月詠は不満に思う。
逃げてもらっては困るのだ、主に自分の欲求のために。

せめてお目当てのセンパイくらいは残っていてほしい、と考え、


「やー!」


霧に向かって斬撃を飛ばしてみる。狙いは、先程まで少女が居た場所。


斬撃は一直線に宙を翔け――――


――――濃霧から飛び出した斬撃に撃ち落とされた。



間髪入れる隙もなく、一陣の疾風が霧を裂いて現れ月詠を襲う。

否。
それは疾風ではなく、刃。伝統ある神鳴の証たる、閃く野太刀。


「―――ハアァッ!!」
「やは♪」


ぶつかり合う小太刀と野太刀。

一瞬の均衡、制したのは刹那。跳び出した勢いそのままに、月詠の右刀を弾き上げる。

だが月詠も然る者。刹那が刃を返す前に、左刀を喉元へ突き立てる。

迫る小太刀を模造刀が迎え撃つ。

死合の鋭と、仮装の鈍。勝敗は明らか。

しかし刹那は関係ないとばかりに模造刀に氣を纏わせ、刀身を砕きながら無理やり小太刀を逸らせる。

夕凪、一閃。

が、軽さと速さが武器の月詠、斬り裂かれる前にバックステップ。前髪の一房を斬るに留まった。



月詠、観客、共に目線の先は刹那の剣に向いている。

その隙をついて、十体の月詠の手下どもが煙幕に突貫する。物量作戦で引き摺り出す気だ。



【双旋牙】!!


だがその目論見は、一陣の旋風によって一蹴された。

独楽の如き大回転による全方向殴打。その旋風が敵勢と濃霧をまとめて吹き飛ばす。


「も~回るなら回るて言うてくれな~~・・・・ぐるぐるや~~・・・」
『メンゴ!!』

煙の中から現れたのはトクナガ。その頭に、守るべき姫君がちょこんと乗っかって眼を回していた。
それでも振り落とされないのは特筆すべき点である。流石に小さい頃から乗って遊んでいただけのことはあると言えよう。

だが影はソレだけではない。トクナガの傍らにもう一つの小柄な影が佇んでいる。


『弟子壱号よ! 共に闘うのだ!!』
『は、はい!!』

その正体は忍び装束を纏った少年忍者ネギ。そして肩にはオコジョ。
霧で視界を塞いだ内に刹那が式神を実寸大の大きさに変化させておいたのだ。

いわば虚像、ハッタリ的な人材であり実体はほとんど持たないが、弱小の魑魅魍魎を振り払うことくらいはできる。力はカモと同程度だろう。



「怯んだらきあませ~ん、どんどん行ったってくださ~い!」

「「「「「キュッキュイーーー!!」」」」」


月詠の号令と共に着ぐるみの後を追いかける百鬼夜行達。鬼ごっこ開始である。


「お嬢様はあの子達に任せて・・・・さ、遊びましょう、センパイ♪」

「ほざけッ!!」


命を賭けた茶番がスタートした。











『オンドリャアアァァァッッ!!』

「「「「ギエピーーー!!」」」」


愛らしい見てくれとは不釣り合いなトンでもない怒号と共に、トクナガは縦横無尽に駆け回る。


とにかく殴る。敵が来たら殴る。囲まれたら回転して殴る。およそ忍者とは思えないケンカ殺法で敵を蹂躙する。

懐に潜られて襲われそうになっても慌てず、高々と跳躍。そのまま急降下して、目標を見失った魍魎達をまとめて踏みつぶす。

時たま獅子のオーラが跳び出して魍魎達が蜘蛛の子を散らすように吹き飛んでいる気がする。気迫でそう見えるのか、実際に跳び出しているのかは、きっと重要ではないだろう。


とにかく、このまま無双シリーズに出演が決まっても違和感が無いくらい、八面六臂の大活躍だった。



「すっげぇな・・・」

『僕たち要らないんじゃないかな・・・(…ヒュルルルル)・・・ん?』


傍らで『えいっえいっ』と地道に頑張るカモネギが異変に気が付く。

風を切るような音が何処からか聞こえてくる・・・・・上から?




ズドン!! という地響きがギャラリーを沈黙させる。



トクナガ、ネギ、刹那―――その場に居たすべての者が震源に視線を向けた。





「ウキャキャーッ!!」
「クマーーッ!!」



上空から登場したのは、トクナガと同程度のサイズの二体―――サルとクマ。



ギャラリーからすれば、“新たなマスコット”。

月詠から見れば、“援軍”。

刹那達からだと、糞女の存在を知らせる“ただのムカつき要素”。


―――そして、“想定内の役者”だ。



百鬼夜行はソソクサとサルとクマに道を開ける。待ってました親分!と言わんばかりの対応。

道の先には、ターゲットの少女・木乃香。そして、少女を守る砦トクナガ。



『・・・オマエらがボクの相手、ってワケだ』


二体の式神は、ニンマリと嫌な笑顔を浮かべる。おそらくは、肯定の意。


トクナガはネギを一瞥する。

示し合わせたかのように―――実際示し合わせた行動なのだが、ネギはトクナガの元へと駆け寄り、同時に木乃香はスルスルとトクナガの頭から地に降り立った。


『逃げますよ、このかさん!』
「うん!」


号令と共にネギは木乃香の手を引き、背を向けて走り出した。

百鬼達が甲高い声をあげて逃亡者を追跡。同時に、弾かれるように大ザルがトクナガ目掛け突進。トクナガを抑えにかかる。

それを避けるでもなく、トクナガは真正面から受けて立った。
勢いに押されはしたが、数メートル後退するのみ。トクナガの下半身ナメンな。

そのまま頭を掴みジャイアントスイング。回転エネルギーを全てサルに乗せ、クマへ叩き返した。


パワーとパワーの応酬劇。その派手なパフォーマンスに観客が気を取られている間に、少女と少年+αはその場から姿を消した。



『・・・足止めする気?』

「ムキャキャキャ♪」
「クマクックー♪」



「目論見通りだウッキー」って感じの嘲り声を出して挑発するサルとクマ。非常にムカツク。

一体ならまだしも、二体の大型の式神をすり抜けて木乃香たちを追うのは難しいだろう。
追おうとすれば妨害されるだろうし、何もしなくても向かってくるに違いない。


必然的に、トクナガはこの二体の相手をしなくてはならないことが決定した。




『・・・いいぜ。全部オマエらの思惑通りに進むと思ってんなら――――』


※AAでお馴染みのあのポーズをしています


『―――まずは・・・そのふざけた幻想をぶち殺すッ!!』



はい、皆さんもご一緒に―――――――






―――――ヤロォォーテメェェーブッ殺ォォォォスッ!!!















「まだ追って来とるよ!」
『このかさん、コッチです!』
「しつこいぜ! せりゃ! せりゃりゃっ!」


シネマ村内の細い路地をひた走るネギと木乃香、そして裾を掴んでくる式神を蹴散らすという意外な頑張りを見せるカモ。

現在、鬼ごっこ真っ最中。
木乃香も図書館探険で鍛えているとはいえ、こうも日に何度もマラソンさせられては流石に息も上がってくる。もうクタクタだ。

しかし全力疾走の甲斐あってほとんどの百鬼は追跡不能となり、今しがた最後の残りカスをカモが叩いた所である。



『・・・なんとか撒きましたね』

「(ハァ・・・ハァ・・・)」

「とりあえずは“作戦通り”ッスね」




“多分、またあの善鬼と護鬼が来ると思うから、ボクが足止めする。その間にネギはコノカを連れて逃げるんだ”




先程の作戦タイムの冒頭の台詞が、各員の頭の中で反芻される。

ココまでは予定通り。
敵方の思惑とコチラの思惑のスタートを同じにすれば、相手は油断する。そう考えての指示。滑り出しは問題ない。

木乃香は一旦、建物の物陰に隠れ息を整える。次の行動のためのインターバルだ。


『“目的地”はすぐそこです、頑張りましょう』

「・・・うん、大丈夫。息整ってきたえ」

「よっしゃ、このまま一気に――――」




「――――鬼ごっこの次はかくれんぼかいな?」

「『「!?」』」


路地の先から、聞きたくない声が聞こえた気がした。

違う、気がしたんじゃない。聞こえたんだ。

三人は同時に声のした方向に睨む。見たくもないが、見るしかない。


視線の先には、二つの影。

一つは少年。ベタを塗り忘れたかのような白い髪の無表情。初めて見る顔。

そしてもう一つは――――



「見つけましたえ、お嬢様」



――――会いたくもないのに会いに来る、はた迷惑なストーカー女だった。














【にとーれんげき、ざんてつせーーん】!
【斬空閃・双】!
【イカスヒィーーーッップ】!!
「ウキー!!/クマー!!」


日本橋の戦いは熾烈を極めていた。

互いに一歩も引かない、伝統の野太刀と亜流の小太刀。
疾風迅雷、電光石火。そんな表現がピッタリな、文字通り鎬を削り火花が迸る殺陣を演じている。

そしてもう一方のファンシー対決の方も負けてはいない。
2対1という数の上では不利な状況の中、飛び入り忍者は軽快なサルと屈強なクマのコンビプレーを捌き続けている。ちょうど今も華麗なる尻撃を喰らわせていたところだ。

・・・なに? “それはトクナガの技じゃないだろう”だって? 大丈夫、やって出来ないことはない。


そんなド派手なアトラクションに観客は湧き立つ。
もはや動きが人間離れしているだとかCGがスゴイだとか、もうそんなことはどうでもイイ。皆、目の前の殺陣に夢中だ。

当人達の気も知らず、「ガンバレ姉ちゃん!」「負けるなトクナガ!」と口々にエールを送り、白熱の応援合戦を盛りたてている。


もう何合斬り合ったか解らない。何回ド突き合ったか覚えてない。しかし決着は依然としてつかない。

激戦でありながら膠着状態。言葉にすればそんな感じ。

どこまでも続きそうな、終着の無い決闘。



「きーとるかー!? お嬢様の護衛、桜咲刹那!! あと、そこの変なの!!」


――――その均衡は、一連の首謀者たる女の声によって崩れた。


新たな役者の登場に、観客は三度ざわめき始める。
今度は何処から? 決闘者達は声の主を探すため、僅かに足を止める。


発信源は、上。
シネマ村のシンボル的な城、その足場の悪い屋根の上。

遥か頭上の頂に佇むは、憎きメガネの京女。その隣に予備の大ザル二号、更にその上に見覚えの無い白髪の少年。その対角線上に少年忍者ネギ。そして――――


『コノカ!!』
「このちゃん!!」


――――醜悪な化物に弩で狙いを定められた、若き姫の姿があった。


「この鬼の矢が二人をピタリと狙っているのが見えるやろ! お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!!」


トクナガは盛大な舌打ちを漏らし、刹那はこれでもかというくらい奥歯を噛む。

この時、刹那とトクナガの頭の中は苛立ちで溢れかえっていた。


作戦通りに進まなかったからか?
否、コレは作戦通り。




“なるべく遠く・・・というより、なるべく『ギャラリーの遠目に見える所』に逃げて欲しいんだ。例えば・・・・城のてっぺんとか”


“逃げ場の無い所に追い込まれたフリして、親玉を誘い込むんだ。そこで一気に叩く!”




トクナガがネギらに与えた指示はこのようなモノだ。
狙い通り、木乃香たちは城の頂上へと駆け上がり、尚且つ敵の主犯格を引っ張り出すことにも成功。順調である。

想定外なのは、拉致ターゲットである木乃香に矛先を向けていることだ。

彼女は相手方にとっても重要な存在。この場で傷つける必要性は薄いハズ。

だが奴らは強行手段も辞さない構えを採って来た。
必要なのは、あくまで内に秘めた膨大な魔力。五体満足である必要はない。そう言う意思表示だ。


故に、苛立ちの原因は、唯一つ。



(ウチの大事なお姫様に矢ぁ向けてんじゃねえよボケナスがぁ・・・!!!)

(貴様如きが刃を向けていいお方じゃないんだよこのアバズレェ・・・!!!)





「余所見はいけませんえ~」
「っ!」

足を止めたのは一瞬。その一瞬という獲物を狩りに月詠は強襲。刹那はその場に押し留められる。

同じく、トクナガが明後日の方向を見ている隙をつき、猿鬼が跳び蹴りで奇襲。
寸での所でガードを固め、大きく腕を振り襲撃者を弾き飛ばす。それはそれは大振りに。


「クマァッ!!」
『―――ッ!』


―――猿鬼の後ろから猛追してくる熊鬼の爪を避ける暇もない程に。


『ふぎゃッ!!』


クマの爪撃が忍装束を切り裂き、トクナガの巨体は放物線を描いて宙に投げ出され――――



 バシャァーーンッ!!


―――そのまま水堀へと叩き込まれた。


着ぐるみは浮かぶでもなく、その姿を水底へと眩ました。








「オホホ、なんや呆気ないモンやなぁ! ちぃーっと隙突いたらこんなモンか!」


女は高笑い。嘲笑い。超大笑い。もう護衛は間に合わない。

邪魔な神鳴剣士は、仲間が足止めしている。
変な着ぐるみは、己の下僕が堀の藻にしてやった。
眼の前には、護衛というにはお粗末な虚像と小動物。
そして狙いのお嬢様は、もうすぐ手の届くところに居る。

女は、苦渋と辛酸をいっぺんに舐めさせられた相手を手玉に取れたことに大喜び。
一昨日の夜の借りは返してやったわドアホ!って顔に書いてある。

対する狙われた少女は少年忍者の後ろに身を隠し、その怯えているであろう表情を窺い知ることはできないが・・・まあいい。

後は、この小僧の幻影を払い除けてターゲットを奪うのみ。


女は、己の勝利を確信していた。





・・・しかし、眼の前の少年忍者に悲愴の色は見えない。その肩に乗る小動物にも。

後ろの少女に至っては――――――



「―――おねーさん、ダメダメや」


――――イタズラが成功した子供のような、曇り無き笑顔。



「・・・お嬢様、ご自分の状況が解っておれんようどすな?」

「んーん、わかっとるえ。いっこだけ、じゅーぶんに」


怪訝な表情で眉をヒクつかせる誘拐犯を前にしても、その笑顔は崩れない。

振袖の中に手を隠し、そのまま口元へ。まさしくお嬢様のように、上品に笑う。




“向こうがショーに乗じるっていうなら、コッチもそれを利用した方がいい”



―――少女は理解していた。




“どうせなら派手にいこう、ある程度は誤魔化しが効くさ。なんてったって『ショー』なんだから”



―――今に始まった事ではない。ずっと前から解っていた。




“姿が消えたら、ソレが合図だ”



―――――改めて確認する必要などないくらい、少女は解りきっていた。






“そしたら――喚んでくれ”




少女の口が、小さく動く。


同時に吹き込む、一陣の突風。

煽られ揺れる、少女の身体。


バカな化物、超弩級の矢―――発射。


悲鳴を上げる観客。罵倒する誘拐犯。我関せずの白髪。成り行きを見る二刀流。



そして二人の少女の、確信を持った瞳。



矢は迫る。
十メートル。七メートル。五メートル。三メート―――――






『ふんぬらばッ!!』



――――屋根中央から光と共に飛び出たヘッドバットが、巨矢を真正面から砕け散らした。


驚愕する女。だが、驚いている暇などなかった。


跳び出した影に、光が集まっていく。

手から、足から、全身から、大気から、光のエネルギーが影―――――藻に塗れたトクナガの、その腹部に収束していく。


一日一回限定、トクナガ内臓秘密兵器。


腹部拡散極太光線。




“ド派手に行こうぜ!!”





「【X<エックス>――――バァスタアァァァァァーーーーーッ】!!!」




極太の光学兵器が天へと駆け抜け、化物一体を道連れに雲を突き抜けた。


ついでに、余波で女のメガネも吹き飛んだ。






ワッ!!
湧き立つギャラリー。絶体絶命、衝撃の救出劇に歓喜の嵐が吹き荒れる。


「ん、んなアホな! いつの間にココまで・・・猿鬼と熊鬼に見張らせといたハズ・・・・ッ!?」


下僕一体とメガネを失った女はそこまで言って、眼の前の着ぐるみの足元が光っている事に気が付く。

光の正体は、輝く方陣。何処かで見覚えのある、魔法陣。


まさか・・・と、視線をターゲットに戻す。
袖に隠された手の中にあったのは、一枚の札――――仮契約カード。


「・・・・そうか、召喚機能で・・・・!!」


そう、【仮契約カード】基本機能の一つ<従者の召喚>。
呪文さえ正確に唱えれば、少しばかり離れていても契約者を喚び出せる。

勿論、一般人の前で従者がイキナリ消失し、尚且つ一瞬で別の場所に現れたら大事件だ。魔法バレも遠くないだろう。

だがそれは、“消える瞬間と出る瞬間を間近で見られていたら”の話だ。

トクナガは消える直前、クマにクリーンヒットをもらった“フリ”をして水堀に落下、もとい潜水。
観客の眼からしばらく離れた後に、“召喚方陣の確認できない屋根の上”に“光と共に”現れ、“極太ビーム”。

これをギャラリーの視点から一貫してみてみると―――――


「スッゴーイ! 堀から屋根へ跳び出たよ! 瞬間移動!?」
「いやいや、着ぐるみが二体居ただけだろ。・・・でも大掛かりだな、昼間っからライトアップに大型花火かよ」
「最後のアレすごかったべ!! きっと火薬の量ハンパじゃないっての!!」
「ネズミ王国のパレードみたいだね! やるじゃんシネマ村!!」


――――こんな感じになる。



「はぁ~・・・やりますなぁトクナガさん」
「余所見はいけない、なッ!」
「わっ」


視線を外していた月詠に、先程の意図返しを込めて夕凪をフルスイング。

二本の小太刀もろとも月詠は弾き飛ばされ―――――堀にダイブ。

そのまま刹那は一目散に駆けだし、連続跳躍。
ヒョイヒョイっと城を外から駆け登り、木乃香のすぐ傍へと降り立った。



『・・・で、誰が呆気ないって?』
「さぁ、誰でしょうね?」

「ぐっ・・・・!」


小馬鹿にした掛け合いに頬を引き攣らせて唸る誘拐犯。




「せやから言うたやん、じゅーぶんわかっとるって」



麗しの姫君は、にっこり笑って、一言。






「【漆黒の翼ウチら】は、絶対に負けへんよ。なにがあっても」




――――キズナに裏打ちされた、揺ぎ無い笑顔だった。










「・・・ガキが、調子に乗り腐ってからに・・・・・!」


女は苛立っていた。

野望達成の鍵はすぐそこにある。眼の前にある。手を伸ばせば届く距離に。

なのに、その手は悉く弾かれる。しかも、年端もいかない子供によって。

単なる子供の抵抗、そんな単純なモノじゃない。そんな生温いモノじゃない。

周到で、眼障りで、隙間があるのに、隙が無い。


・・・否。眼の前に居るのは、子供などでは無い。


コレは、己の野望を邪魔する、敵。


己が歳月を費やし、ようやく掴もうとした希望の手を払い除ける、憎き、憎き―――悪魔。



黒い思考に支配された女は、懐から必殺の符を引き抜――――




「・・・止めておいた方がいい」


――――初めて、白髪の少年が口を開いた。


懐に入った手が、ピタリと止まる。



「・・・なんや新入り、アンタも邪魔する気ぃか・・・?」

「少し目立ち過ぎた」


凄みを帯びた女の声に動じるでもなく、機械音声のように淡々と言葉を発する白い少年。
その視線は女には向いておらず、下のギャラリーを見ている。

観客達は、滅多に見られない超ベガス級のショーに興奮冷めやらぬようで、その人数は最初期の数倍となっていた。




「・・・それに、ちょっと面倒なヒトも居るみたい」


白い視線の先に居る人物――――あくびをしながらコチラを見据えている金髪の少女を一瞥し、ようやく視線を女に向けた。

同時に、刹那を追ってきた月詠がようやく屋根まで上がって来た。ビショ濡れである。



「あ~ん、メガネに藻がくっついてしまいました~」

「・・・ちっ」


懐から空の手を引き抜き、そのまま右手をあげて合図。地上から猿鬼と熊鬼を呼ぶ。

元々居た大ザル二号に白い奴、クマに月詠、サル一号に主犯の女が飛び乗る。





「―――――覚えときや」



一昨日のような、単なる負け犬の遠吠えではない。

凄み、嫉み、憎しみ―――様々な感情の籠った捨て台詞を置いて、式達は屋根伝いに走り去り、彼方へと消えていった。








ギャラリーがざわめき始める。ざわめきの内容は、ご推察の通り。



――――コレで終わったのか?――――


――――お姫様は助かったの?――――






刹那、木乃香、トクナガの三人は顔を見合わせる。


(・・・どないする?)

(・・・よし、アレやっとくか)

(やるんですか・・・)



三人並んで屋根の縁に立ち、観客が良く見える位置に移動。





――――無事、平和が訪れた幸運を称えよう――――








勝利のポーズ!!



『チョロいぜ!』

「甘いぜ♪」

「ちょろ甘ですね」




――――今日一番の歓声がシネマ村を覆い尽くした。

































(オレっち達、途中から空気だったな)


――――言わぬが華。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『シネマ村死闘篇』改め『トクナガ乱舞篇』、いかがでしたか。どうも私です。

構想が煮詰まって煮詰まって、気づけば放置状態。ホントすいません(土下座)

先の展開は思いついても、目の前の展開をおろそかにしちゃ本末転倒だという教訓ですね、ハイ。

物書きとしては、いい意味で予想を裏切る驚きの展開というものを書きたいです。

この先も、皆様に驚いてもらえるよう精進します。


ところで、皆さんは最近どんなことに驚かれましたか? ちなみに私は―――





姉「私の同級生なんだけどさ、最近メジャーデビューしたらしんだ。ホラこれ(卒アルを見せながら)」

私「へー、すごいね。どんなの唄ってんの?」

姉「なんかね、○○○○とかいうアニメのオープニングだって」

私「ウソォッ!!?」 ←今年一番の驚き



固定概念を払い除けられた気分でした。



次回はいよいよ本山へ。







[15173] 漆黒の翼 #33
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:2f59ba9c
Date: 2011/02/25 14:40
大スペクタクルショーも終息を迎えたため、ガヤガヤと集まっていた観客達も次第にホトボリが冷めていく。

本日分の興奮ゲージが満杯になったギャラリー(と、それなりに楽しんだエヴァンジェリン一行)は、次々と各々の観光へと戻っていった。


その隙に刹那と木乃香、ついでにカモは一旦トクナガと別れ、急ぎ足で衣装屋へ直行。すぐさま元の私服へと着替えに掛かる。

先にトクナガが施設から離脱し、着替えを終えた二人と合流。そのままネギらの待つ本山へスタコラサッサ、という寸法だ。


アイドルコンサート顔負けの早着替えで衣装屋を後にする少女二人。そこへクラスメイト到着。


「あー! 居た居た!」
「スゴかったよー!」

などとまぁ口々に賞賛する姦しい少女らを尻目に、刹那は再び木乃香を横抱きに抱え、「それじゃ」とピッと右手を挙げてバッタの如く跳んでいった。


「まーた逃げられちゃった…」

「団体行動とかガン無視ですね」

「困りますわね、勝手な行動を取られては…」

「まーまー、きっと地元に戻って浮かれてんのよ。大目に見てあげようじゃないのっ」


文句は言いつつも決して陰湿な流れにはならない、それが麻帆良学生クオリティー。


二人の行く先が非常に気になる面々ではあるが、追う手段も無いし、特に当ても無い。

とりあえずジモティーガールズのことは「そのうち戻って来るだろう」と、放って置く方向で落ち着いた。


「でも追っかけらんないのは惜しいわねー。すっごい面白そうな気配がするんだけど」

「後で詳細を問い詰めれば済むです」

「しょーがない。んじゃ朝倉、後で取材よろしくねー……―――」


ゴシップやウワサ話が大好きなハルナは、その場に居るであろうノリのいいパパラッチに予約を入れる。




「……って、あり? 朝倉は?」



――――が、既に報道少女の姿はシネマ村から消えていた。






























トクナガという殻を脱ぎ捨てた俺の元に合流したコノカ達。一先ず無事を喜ぶ。

そのまま氣力にモノを言わせて翔ける。風の如く。
屋根から屋根へ、木から木へ。道なき道など屁でも無い。


そんなこんなで辿り着きたるは、懐かしき西本山の鳥居前。

すぐに入っても良かったのだが、戦闘後すぐ―――強化しているとはいえ、結構な長距離をひた走って来たわけだから、大なり小なり息は上がる。

よってアスナ達と合流する前に、ちょっとだけ休憩。


「随分と久しぶりな感じだな」

「丸二年も離れてましたからね」

「お父様元気やろか?」


一応、俺達は『裏切り者』という体でココを後にしたわけだから、公に連絡を取ると言うのも少々躊躇われた。

そんなわけだから便りも電話もあまりしていないので、こうして赴くのもかなり久しい。
年賀状くらいは出したけど。

懇意にしてくれた詠春さんや女中の皆さん、神鳴流の兄サマ姉サマ方に会うのも実に楽しみだ。



「そろそろ行きましょう。アスナさん達も待っているでしょうし」


脳内が帰郷前の浮かれ気分でいるところに、セツナの凛とした声が遮った。

いかんいかん、何浮かれてんだ俺は。まだ戦場に居ることに変わりはないんだ。



「ネギ君ケガしとるみたいやし、早ぅ治してあげな」

「宮崎も一緒に居るんだよね?」

「ああ、そのハズだけど………」



………ん?

今、ココに居るはずの無い奴の声が聞こえたような?

半身を反らし、声の発信源たる後方に身体を向ける。視線の先には―――




―――先日 関係者になったばかりの少女が、携帯電話を片手にバツの悪そうな表情で苦笑いしていた。



「あははは……着いてきちゃった」


視線を泳がせ落ち着かない様子で、カズミは頬をポリポリと掻く。


「……なんでオメーがココに居んだよ、完全に振り切ったハズだぞ」

「えっと、桜咲のカバンにGPSケータイ放り込んどいたから、それで……」


思ったままの疑問をぶつけると、少女は嫌に歯切れ悪く返事をした。


セツナがゴソゴソと自身の荷物をあさると、奥の方から見覚えの無いケータイが出現した。

いつの間に入れたのかと訊けば、路地裏に呼び出される前に既に忍ばせておいたと答えやがった。

科学が発達するのも考えモノだ。こんな使われ方をされてはいい迷惑じゃないか。

俺が睨んでいるせいか解らないが、カズミは随分と居心地の悪そうな表情をしている。そう思うなら来なきゃいいのに。

つーかアレだけ言われたのに、まだ首突っ込む気かコイツは。


セツナとコノカに「先に行ってろ」と目配せし、二人が階段を昇り始めたのを確認した後、再び目の前のカズミに向き直った。




「で、何で着いてきたんだよ」

「その…、宮崎に謝りたくてさ」


若干視線を外しながらカズミは答える。

俺は詰問を続ける。



「謝ったトコロでどうこうできるモンじゃねーし、トドメ刺したのは俺だって言ったろーが」

「でも、このまま放っておいて自分は安全地帯でヌクヌクしてたんじゃ、ジャーナリストとしてもクラスメイトとしても筋が通んないよ」

「来たところで何ができるってワケじゃないだろ」


さっきも言ったように、カズミは関係者となって日が浅い。現時点では一介の学生に過ぎない。
魔法の存在を知ったからといってすぐに魔法が使えるようになるワケではない。
クーのように拳法かじっているわけでもないから、当然の如く戦力にもならない。

ハッキリ言ってしまえば、居るだけ邪魔だ。


言葉の真意を汲み取ったのか、カズミは言葉が詰まり押し黙った。




数秒の沈黙。




意を決したように目線をコチラに向け、口を開いた。




「……いざとなったら、宮崎の盾くらいにはなれるよ」




―――少しだけ、イラッとした。



「ぜりゃ」

「いだっ!?」


感情のままに、カズミに強めのデコピンを喰らわした。

何をするんだと言いたそうな顔をしているが、そんなの知った事ではない。


「シロートがナマ言ってんじゃねーよ、ボケが」


それが、俺の抱いた率直な感想だった。
簡単に『盾になる』だの『身代わりになる』だの言うなっつーの。


「ノドカの代わりにテメェが犠牲になって、一体誰が喜ぶってんだよ」

「でも、それくらいしかできないし……」

「オメーの命だって軽かねーんだよ。背負わされる方の身にもなってみろ」

「う……」



“身を挺して誰かを守る”

美談としては聞こえはいいが、所詮は守った奴の自己満足と、関係の無い第三者の勝手な妄想の産物だ。

守られた方は、やるだけやって勝手に死んだ奴の為に自責することになる。「自分がいなければ」、「自分のせいで」と。

【漆黒の翼】内においても、その手の発言は絶対のタブーとなっている。
昔、この事に関して三人で大ゲンカした事がある。あのときは大変だった……っと、今は関係ないな。


とにかく、軽い命なんて有りはしない。命は皆、鉛のように平等に重たいんだ。

ましてやソレを背負うとなると重いなんてものじゃない。
鉛は水銀へと形を変え、体に纏わりつき、一生取れない錘となる。

……そんな思い、誰がさせたがるものか。



眼の前に視線を戻すと、普段の意気揚々とした快活さが鳴りを潜めた少女が俯いていた。

揚々どころか消沈しきっている。拳をギュっと握り締め、無力に打ち震えている。


「―――…何かしてやりたいって言うんなら、自分の身を放り出す以外のことにしろ」


俺はそのままカズミに背を向け、長い階段を昇りだす。

ポケットに手を突っ込み、背を丸めてツカツカと、メンドクサそうに段を踏む。


15段ほど昇ったところで後方から足音が聞こえない事に気付き、後ろを振り返る。



少女は依然、俯いたまま。一歩もその場から動いていなかった。




「…………ハァ……」


俺は深く長い溜息をつき、頭をバリバリと掻きむしる。どうにも扱いに困った。

無意識のうちに幾度か舌打ちが出る。もし鏡があれば、しかめっ面している顔が映ることだろう。

散々頭髪をグシャグシャにした挙句、俺はもう一度、盛大に溜息を漏らした。




「―――……早くしろ、置いてくぞ」

「え……?」


その言葉に、俯いて項垂れていたパイナップルヘアーがピクリと反応する。


「え?じゃねえよ。何時まで呆けてるつもりだ」

「だって、『シロートはサッサと帰れ』とか言われるかと思ったから……」


至極意外そうな表情で俺を見るカズミ。

……まぁ確かに俺、かなり突き放した発言してたからな。そう思っても無理ないか。



「ココにこうして居る時点で、もうオマエは俺達側の人間だって思われてんだよ。オマエ一人をホテルに帰したら、確実に狙われんだろ」

「……っ」


キレて絞め上げこそしたが、この状況で女の子一人を放り出せるほど俺は冷血じゃない。

ホテルに戻れば魔法先生やらエヴァさんやらが居るから大丈夫だと思うけど、そのままで終わる気がしなかった。

GPS頼りでこんな所まで付いてくる行動力を持ったカズミが、こんな状態で大人しくしているとは到底思えない。

思いつめた人間は何をしでかすか解らない。それなら、いっそ本山の結界の中に居てくれた方が安心できる。

ただでさえ今回の任務は、想定外の事が起こったり自分の行動が裏目に出たりで反省しっぱなしなんだ。コレ以上の不安要素は願い下げだ。


……それに、こんな奴でも、一応は知り合い―――『トモダチ』のカテゴリーに入る。放って置くわけにもいかねーンだよ。



「本山に入っても騒ぐんじゃねーぞ」


それだけ言って再びカズミに背を向け、階段昇りを再開した。

後ろからパタパタと石畳を叩く音が響いてきた。どうやらしばらく呆けて、急ぎ足で駆けあがって来たようだ。

足音はすぐ後ろでペースダウンし、俺の歩調と重なった。



しばらく静寂が続く。


聞こえるのは、葉の擦る音と息遣いのみ。


……どうにも気まずい。





「……悪かったな」


沈黙に耐えきれず、俺はそんな謝罪の言葉を口にしていた。



「何で謝るのさ、悪いのは……」

「昨日のうちにしっかり説明していれば、事態は避けられた。もとを辿ると俺にも原因があったんだよ。トドメ刺したのも俺だしな」

「……」


カズミが状況を飲み込めさえしていれば、こんなことにはならなかっただろう。

現に俺達が現状を詳細に教えたとき、コイツはすぐに事の重大さに気が付き、顔面を蒼白とさせた。お気楽モノだが、頭が悪いワケじゃない。

確かに考え無しの軽はずみな行動には頭にきたけど、本人としては軽い遊び心――エンターテイメントのつもりだったんだろう。

俺も激昂していろいろ言ってしまったが、コイツはまだ一般人の範疇を抜けていない。簡単に全てを悟れるワケなんて無いんだ。



「テメーのやったことを許容するつもりも無いけど、俺も偉そうなことは言える立場じゃない。それどころか、感情に任せてブチギレちまった。だから、謝る。悪かった」



言うこと言い終わって、またすぐに前を向いて昇る。


カズミはしばらく俺の横顔を凝視。


……やりづらい。



「……顔赤いよ?」

「るっせ」


少女は、久しぶりにニマッとした笑顔を浮かべた。

その「面白そうなモノ見つけた」みたいな顔やめろ。


「さっき『謝ったからどうなるワケでもない』って言ってなかったけ?」

「『謝罪してはいけない』と言ったワケでもないぞ」

「プッ、屁理屈っぽいね」


……ようやく、空気が軽くなった。シリアスは息苦しくてかなわん。



「ミサト君てさ、ツンデレ?」

「誰がべジータだコラ」


カカロット、おまえはナンバー1じゃない。俺がナンバー1≪にのまえ≫だ。


















しばらく山道を道なりに進んだところで、路傍に腰を据え休息する見知った顔達の姿が見えた。

先に合流したコノカは治癒効果のある符をネギに翳し、朗々と長ったらしい呪文を唱えていた。

顔や腕のアッチコッチに絆創膏を貼っ付けたネギの表情が、疲弊したモノから穏やかなソレに変わり始めているあたり、どうやら見かけほど大した傷ではないようだ。


それを差し引いても流石はコノカ。【漆黒の翼】が誇る女幹部の名は伊達では無い。治癒系統は随一の腕前だ。


「あ、ミサトさんお疲れ様です!」

「いーいー立たんでも。無理すんな怪我人が」

「あちゃー朝倉ホントに来たんだ……」


ネギが行儀よく向き直って挨拶しようとしたため、手で制して窘める。

既にセツナ達から話が通っているらしく、アスナが訝しげな眼でカズミを見ている。カズミ、三度苦笑い。



「………あ………」


そんな蚊の鳴くような声を出したのは、同じくネギのそばで介抱していた件の少女・ノドカ。

俺と眼があった途端、ササッとセツナの後ろに隠れてしまった。おっかなびっくりな様子でコッチを見ている。

路地裏の一件を見ていたせいか、激昂した俺の姿にビビってしまったのかもしれない。

元々こんな関係だった気もするが、遠い距離がさらに遠くなったような……。



アスナとカズミの間で一問答あった末、とりあえず回復したネギらと共に一路本部を目指すことに。積もる話は到着してからということになった。

ちなみに、ネギは俺が運んでいる。俵担ぎで。


またしばらく歩を進めると、やたらと大きな門が前方に現れた。西本部の実質的な入り口である。


すると門の直前でアスナの歩調がスローダウンした。

何事だと振り返ると、なにやら警戒した顔つきで唾をごくりと飲み込んでいた。


「どしたんだよ?」

「だってココ敵の本拠地でしょ? 何が出てくるかわかんないじゃない」


その言葉に肩の上のネギも賛同。カモも同じく。カズミも神妙な表情になった。ノドカはアワアワ言ってる。

どうにも互いの情報に齟齬があるらしい。


「セツナ、コイツらに西のこと言ってないのか?」

「そういえば……」


言い忘れていたらしい。うっかりさんめ。

ココで説明するのも面倒だし、すぐに解ることだからそのまま進むよう促す。

それを受けてアスナ、挙動不審にキョロキョロしながら前進。意味も無く忍び足。そして風に揺れた葉の音に威嚇。

何やってんだコイツ。


意気揚々、戦々恐々、様々な感情を携えた一行が大門をくぐりぬけたところで―――――





「「「「「「「おかえりなさいませ、木乃香お嬢様ーーーーーーっ!!!」」」」」」」


―――石畳の道に沿って、巫女装束の女中さん方がズラーッと並んで一斉に出迎えた。



「「……はへ?」」


人一倍気を張って警戒していたアスナ、そして任務を背負って緊張の極地にいたネギの両名は、眼を点にしてマヌケな声を挙げた。


「……えっと、ココって敵の本部なんだよね?」


カズミが問う。問われたので、コノカの実家である事を伝える。

「先に言わんかーーーいッ!!」とアスナに怒られた。そして殴られた。理不尽だ。













すったもんだの末、女中さん達に帰郷の挨拶をしながら屋敷内部へと案内されることに。

案内されたのは、俺達が『母屋』と呼んでいる本山内で最も大きな純和風建造物。

その中でも正式な謁見などに用いられる大広間へと通された。俺自身たまにしか入った事の無い場所だ。


人数分の座布団が中央に揃えられ、前列4枚・後列3枚となっている。

前列には主要の特使たるネギと京都組、後列にはその他3名が陣取った。


不慣れな場の雰囲気に浮足立つネギとアスナ、同じくカモとノドカ。

カズミはカズミでシャッターを切りたいのをどうにか我慢している。忠告が効いているようだ。

コノカは別の意味でウキウキしており、広間前方の舞台階段をニッコニコしながら見つめてる。

俺とセツナは前列両端の座布団の上で正座したまま、微動だにせず。こういうときは俺も真面目になる。


しばらくして、女中さん二・三人がパタパタと動き回り舞台を整える。

足音も立てないようなゆっくりとした足取りで、階段から正装した男性が現れた。




「―――お待たせしました」



やせ気味で若干色の悪い顔、メガネを掛けた陰陽服の中年男性。

この人こそ、関西呪術協会の長でありコノカの実の父。そして俺の恩人でもある、近衛詠春その人だ。


「ようこそ明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん。そして―――担任のネギ先生」


微笑むその表情に、何とも言えない包容力のようなものを感じたのは俺だけだろうか。

多分、この辺がコノカに継承されているんだと思う。


……そういや、今なんでアスナを別個で呼んだんだろう。『クラスメイトの皆さん』のくくりでいいハズなのに。


……もしやアレか? 詠春さんはアスナがどストライクなのか? 特別扱いにはそういう意味があるのか? マズいんじゃないかい詠春さん、それは茨の道だぜ。



「……渋くてステキかも」


おーっと更にマズイ台詞が後ろから聞こえてきたぞー? 相思相愛かコンチクショー。

やっべー、マジっべーわ。っべーってコレ、べーよ。
コノカっべーぞ、このままだとアスナの事を『お母さん』と呼ばなきゃいけなくなるぞ。抱きついて喜んでる場合ちゃうぞ。



「あ、あの長さん、これを……」


って、んなこと考えてる場合じゃなかった。今は謁見の方が重要だ。

ネギが親子の再会に失礼ながらも割って入り、内ポケットに忍ばせていた封書を取り出し、ススッと前に出る。


「東の長、麻帆良学園学園長―――近衛近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

「―――確かに、承りました」


大変でしたね、と一言添えて、詠春さんはネギから東西友好の親書を恭しく受け取った。
しかし、本当に10歳とは思えない見事な振る舞いだ。少し見習おう。

西の長はその場で親書の封を解き、中に収められていた紙を広げ、シワを伸ばして眼を通す。
その表情から苦笑が漏れた。何が書いてあったんだろうか。

読み終えたのか、手紙を元通り畳み直し、丁寧に封筒へと戻した。


一拍置いて、頷く。

ネギ、表情が強張ったまま息を飲む。



「―――いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください」


ニコリと微笑み、最後に一言。



「任務ご苦労、ネギ・スプリングフィールド君!!」

「…! は、はい!!」



これにて、任務達成。ミッション・コンプリート。

ようやく安堵したのか、ネギの表情が一気に綻ぶ。達成感と満足感が押し寄せて、心も体もフワフワしていることだろう。


それと同時に、後列がにわかに騒がしくなった。

流石はお祭り大好き女子3-Aの一角、やんややんやと盛り上がる。今にも胴上げが始まりそうな勢いだ。


祭に参加するのはまた今度、ということで後ろをガン無視してすっくと立ち上がる。

同じことを考えていたらしく、対に居たセツナも倣って腰を上げた。

数歩ほど中央寄りに前進。右に俺、左にセツナ。そして前に詠春さんと、じゃれつくコノカ。

そのまま俺達二人は片膝をつき、頭を垂れた。



「一 海里・桜咲刹那―――両名、ただいま帰還いたしました」

「長らく連絡せなんだ事、ご容赦くださいますようお願い申し上げます」

「フフッ、そんなに畏まらなくてもいいですよ」


朗らかに笑う詠春さん。優しいなぁ、相変わらず。

いやでもね、そうは言っても一応は正式な謁見である手前、おちゃらけるのも気が引けるんですよ。


「ここは君達の家でもあるんです。自宅でガチガチに凝り固まっているのも、おかしな話でしょう?」

「せやえ二人とも、もっとリラッ~クスや」


そう言いながらコノカは、詠春さんの膝の上でグデーっと猫のように寝ころんだ。オマエはリラックスしすぎだ。

流石の詠春さんもこのリラックスしきったコノカ――略してリラッコノを窘め、俺達の隣に座らせた。


「この二年間……いえ、それ以前からずっとですね、このかの護衛をありがとうございます。今まで私の個人的な頼みに応え、よく頑張ってくれましたね」

「勿体無いお言葉です。しかし……」

「そんなコレで終わりみたいな言い方はよしてくださいよ。俺らはまだまだこれからなんスから」

「それに何度も申し上げた通り、コレは私たちが自ら望んでしていることです」

「護衛ありきの関係じゃないんですよ」

「……フフッ、そうでしたね。このかは本当に良い友達を持ったものです」

「モチのロンや♪」


なんとなく、場の空気が暖かかった。このヒトは本当にあったかいヒトだ。

それに免じて、コノカの言い回しが古いというツッコミはしないでおこうと思う。


一通り挨拶も終わり、これからの予定を決めることになった。

先程も言ったように、俺達は敵にマークされている。今から山を下りれば日が暮れてしまうし、宿に戻るのはかなり賭けだ。ていうか、危ないだけで戻る意味が無い。


そんなワケだから、今夜はこの本山に留まる事になった。

ネギやアスナ達がホテルに戻らなくても怪しまれないように、詠春さんが気を利かせて“身代わり”を飛ばしてくれるらしい。俺のはもうあるから必要無い。


……そういえば、ココに来てから神鳴流の兄サマ姉サマ方を見かけないけど、どうしたんだろう。

詠春さんに訊いてみると、曰く、任務のため方々に出払っているとのこと。退魔師もいろいろと忙しいようだ。

西の本山は東ほどではないが強力な結界が張ってあるし、防御面は安心できると思うけど……ちょっと心配だ。杞憂に終わるといいけど。


方針も決まった所で、西の長が女中数名を呼び指示を出す。どうやら客人達の為に宴を開いてくれるらしい。

お祭り好きの3-Aには嬉しい気遣いだ。っといっても盛り上げ役が少ないから、それ程馬鹿騒ぎにもならないだろう。ハルナとか居たら煩そうだけど。


「宴の準備までしばらく掛かりますから、皆さんはそれまでゆっくりしていてください」


ありがたいお言葉を頂いた。少し休むとしよう。

ネギの方に視線を向ける。アイツも疲れていることだろう。イキナリの実戦だったのだから。


……ふと、ネギの洋服に視線が止まる。

戦闘後あまり間もないからだろうが、随分と汚れが目立つ。目立つ汚れはその場ではたき落としたらしいが、細かな土やら血やらがそこかしこに付着している。

顔や手足は粗方きれいに拭きとられているが、それだけに服の汚れが目立っている。

宴の席にその格好はいただけないな…………ちょっと訊いてみるか。


「詠春さん、俺の部屋ってまだ空いてますか?」

「ええ、もちろん。定期的に清掃もしていますから、埃まみれということもありませんよ。荷物もそのままです」


俺の考えを見透かしたような回答が返って来た。わざわざスイマセン、そこまでしてもらっちゃって……。

女中数名に囲まれている子供先生に声をかける。


「ネギ、服貸してやるからちょっと来い。俺のお古がまだあるハズだから」

「いいんですか?」

「汚れたまま宴会に出るわけにもいかんべ」

「それじゃぁ、お言葉に甘えて……」


そのままネギを引き連れ、俺が昔使っていた部屋がある『離れ』に向かうことになった。女子は女子でやる事があるとのことだ。

一応、言伝を残しておく。


「ついでだから、メシの時間までちょっち部屋で寝るわ」

「寝不足?」

「少しな」

「だから眼が真っ赤なの?」

「生まれつきだバカたれ」


総統はどうして眼が赤いの? ネテナイカラ!! 























―――ミサトがネギを引き連れ広間を後にして暫く後、女子軍団(とカモ)も行動を起こした。


「―――ほんで、ここがウチがよく使っとった部屋や」

「はー…ホント広いのね、この屋敷。まるで迷路だわ」

「姐さん、迷子にならないようにな」

「なっ、ならないわよ! シツレーな!!」


といっても、この広すぎる屋敷において一体何処に何があるのかを説明しながら案内する、所謂『建もの探訪』をするだけだが。

実はあやか張りのお嬢だったという新事実が発覚し、周りから引かれるかも、と心配していた木乃香であったが、友人たちにとっては些末なことだったようだ。

純和風の大邸宅というのは、欧風建築の多い麻帆良では見かける事が少ない為か少女達は興味津津。

和美も衝動を抑えきれなかったらしく、さっきからシャッターを切りまくっている。桜舞う庭園とか、画になり過ぎて撮らずにはいられないのだろう。


現在は一通り廻り終えて、麻帆良に来る以前に木乃香が使用していた書斎的な私室に腰を落ち着けていた。一時のくつろぎタイムである。


「本が一杯……」


この部屋は壁の大部分を本棚が埋め尽くしており、棚には多数の本がズラリと並べられている。

『本屋』の異名を取るのどかは、好奇心からかキョロキョロと目移りしてワタワタと部屋を歩き回る。

彼女にとっては、この部屋はかなり居心地がいい空間なようだ。


ココの主な蔵書は、占術関係や初心者用呪文経典など、木乃香の趣味や実用に関する書籍。片隅には少女マンガやちょっとした小説なんかも置いてある。

ミサトや刹那が鍛練で忙しい時は、よくこの場所に入り浸って読書に暮れていたのだと言う。ほぼ彼女専用の部屋といってもいいだろう。


その部屋の一画に、他の本に比べてやたらと年季の入った――有体にいえば、ボロっちぃ本が多く置かれている棚が配置されていることに気付く客人達。

すっかり色褪せてしまっているその本達の表題はというと―――


『漫画で学ぶ!脳の不思議』
『血管の不思議』
『神経の不思議』
『細胞の不思議』
『慌てない騒がない家庭の医学』
『ニワトリでも忘れない応急処置法』
etc…


「―――…医療系の本が多いね」

「見事に表紙がボロボロッスねぇ」

「よーさん読んだからなぁ」


彼女が魔法を学ぼうと決意したのは、鍛練後に傷だらけになって帰って来る親友を見たからだ。

彼らの助けになりたい。
守られてるばかりじゃ嫌だ。
自分も彼らを守りたい。

そう思ったから父親に直談判し、一番覚えたかった治癒魔法を習得する許しを得た。

この学習漫画シリーズは、「少しでも治療技術の足しになれば」と木乃香が自分の小遣いで購入した本。思い入れは、それ相応にあると言う事だ。

現在でもその姿勢は変わらず、偶に小難しそうな医学書を読んでいたりしている様子を、寮では相部屋の明日菜が、図書館では探険仲間の夕映らが確認している。



「そーいや、ネギ君置いて来てよかったの? ミサト君寝るとか言ってたし、手持無沙汰になってるかもよ」

「んー? へーきでしょ、別に」

「総統の部屋から戻るまで待てばよかったでしょうか?」

「そこまで面倒見切れないわよ。向こうは向こう、コッチはコッチよ」


今は戦闘の緊張状態から解放されている為か、ややネギの扱いがぞんざいになる明日菜であった。

現在も戦地の真っ只中に居ることに変わりはないが、思ったより西の雰囲気が平和なので精神の糸がだいぶ緩んでいるみたいだ。観光ムード満天である。



「……てかさっきから気になってたんだけど、なんでこのかンちにミサトの部屋があんの?」


散策を続ける中、ふと明日菜が木乃香に質問を投げかける。特に深い意図は無く、単にポロっと口に出た些細な疑問といったところだろう。

軽い口調の質問だった故に、木乃香も軽く答えた。



「住んどったからやけど?」


「「「………へ?」」」



総ポカン顔。



「せやから、住んどったんやて。この家に」


あまりに軽い返答にフリーズする客人一同。


が、あっと言う間に凍結から抜け出し一斉に詰め寄る。実に俊敏だ。



「え、ちょ、アンタら、同棲してたってこと!?」
「はわわわわわわわわわわ………!!!?」
「キタキタキタキターーー!! 特ダネゲットオオォォッ!!!」
「さっすが兄さん、漢の器が違うぜ!!」


なんだか意味を曲解して捉えたと思われる思春期の少女達+1、驚天動地の大騒ぎ。

あまりの騒ぎっぷりに木乃香は呆けてしまい、刹那もどうしていいやら解らず苦笑した。



「……えっと、同棲というか、同居や。せっちゃんもココに住んでたんやえ」

「妻妾同衾!?」

「……あの、一旦落ち着いてください」


住んでいた当時は三人とも小学生だったのだから、妾もへったくれも無いだろうに。

エキサイトする級友を十分くらい掛けてなんとか落ち着かせ、「いろいろ事情があって一緒に住んでいた」ことを理解させた。理解させるまで、かなり疲れたらしい。

濁して説明したが、少女達は「いろいろな事情」についてはあまり言及してこなかった。家庭の事情を根掘り葉掘り聞くのも失礼だと思ったのだろう。

しかし興味は尽きないのか、失礼じゃない程度に和美がインタビューを仕掛けてきたため、しばらく京娘コンビは質問攻めになったそうな。主に慣れ染めとかを。











――――その頃、ミサトの部屋――――



「『脱獄囚』Tシャツと『海人』Tシャツ、どっちがいい?」

「………えと、無地でお願いします」

「注文の多い奴め」


――――なんやかんやで暇を潰していた。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


連続投稿により、あとがきは次回へ。









[15173] 漆黒の翼 #34
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:2f59ba9c
Date: 2011/02/25 15:19
さて、時間は跳んで現在は夜。歓迎の宴もお開きとなり、腹も十分に膨れた頃。



「ふひぃ~~しみるぅ~~……」


ここは西の本山の大浴場。
檜造りの格式高いこの場所で、うら若き三人の乙女が湯浴みの真っ最中である。野郎どもには目の毒だ。


「アスナがお湯にとけとる」

「今日はいろいろありましたからね、疲れが出たんでしょう」

「やっぱお風呂はイイわー……リリンの生みだした文化の極みねー……、……………“リリン”て何?」


明日菜の疑問はさておき、確かに風呂は素晴らしい。疲れた体と心を癒してくれる。

しかもこの風呂、竹林が茂る庭園を眺めながら入浴できるちょっとした露天風呂だ。オマケに檜の香りが嗅覚さえも楽しませてくれる。贅沢なことこの上ない。

明日菜ほど溶けてはいないが、久しぶりに味わう実家の湯を楽しみにしていたのは木乃香や刹那も同じらしく、いつも以上に頬が綻んでいた。

三人娘は肩を並べて湯船に浸かり、しばらくポーっと呆けた。


「……あ、そーいえば」


ふと何かを思い出したように呟いて、湯船に溶け切っていた明日菜が身を起こし二人に向き直る。


「ソッチの方に出たんだって? あのサル女」

「ええ、性懲りも無くまた」

「なんなのかしらねー。そこまでして一体何がしたいんだか……」


話題に上げたのは、此度の騒動の主犯格たる女の事。
木乃香を着け狙うのは、その身に秘めた膨大な魔力を手にする為。しかし、その魔力を用いて何を企んでいるのか、ソレが解らない。

中身の少ない頭で考えを巡らせる明日菜。探偵には向かない性分だ。コナンで言えば元太のポジション。


「んー……お金儲けとか、かな?」

「多分やけど、違うと思うえ」

「なんでよ?」


明日菜の意見をあっさりと木乃香が遮る。明日菜は理由を問う。


「あのおねーさんが撤退する前に言うとった…―――」



“―――覚えときや”



「―――…なんていうか、この世のすべてを怨むような、そんな声やった」



―――自分には、身を削ってでも果たすべき目的がある。

―――何が何でも、全てを擲ってでも成し遂げなけれならない使命が。

―――それを邪魔をするというのなら、たとえ子供だろうとも、命の保証はしない。

―――それを果たす為なら、鬼にでも悪魔にでもなってみせる。


女の直ぐ傍に居た少女には、そういった感情が込められた言葉だと感じられた。


「サル女が成し遂げなければならないことって?」

「……わからへん」


あくまでも勘、憶測にすぎない。その先の明確な答えなど、少女は持ち合わせていなかった。


沈黙が湯気を押しのけ、場を支配する。



「―――……確かに言える事は一つです」


口を開いたのは、守護を司る剣の少女。


「たとえどんな理由があろうと、それがこのちゃんを犠牲にしていい理由にはなりません」

「……そうね、そのとーり!」

「……ん、ありがと、せっちゃん」


彼女たちにとっては、ソレだけ解っていれば十分な言葉だった。

湯浴み場に、また暖かな空気が戻る。それに伴い、自然と口調も軽くなる。やはり風呂は和気あいあいと楽しむのが一番だ。猿でも熊でも来いってなモンだ。

「何回来たってまた追い返してやるんだから!」と気分を高揚させる明日菜嬢は、見ているだけでその気にさせるカンフル剤。仲間にするととても頼もしい。

良い友人を持ったものだ、と木乃香と刹那はシミジミ思った。


「でもミサトも刹那さんも流石よね! あっと言う間に追っ払っちゃったんでしょ? 頼りになるわー。まるで姫を守る騎士<ナイト>ね」

「そんな、まだまだですよ。それに騎士というより私たちは―――」


刹那の口がそこで止まる。


「? 『私たちは』……何?」


確かに、木乃香という少女は『姫』と形容しても差し支えない雰囲気を持っている。偶におふざけで『お姫様』と呼称する事もあるくらいだ。

その木乃香を守る立場という意味では、『騎士』という称号は大変な名誉であり、誇るべき点と言えよう。


しかし、黒の少年も白の少女も『騎士』になりたいわけではない。

『騎士』とは、姫に忠誠を誓い、身を持って安全を確保する盾であり、仇なす者を斬り裂く剣。ただそれだけの存在だ。

彼らのなりたいのは、そんな空虚なモノではない。木乃香も、守られるだけの存在になり下がるつもりなどない。

共に生き、共に笑い、共に泣き、そして共に大空を翔ける。なりたいのは、そんな存在。


そう、彼らが目指すものは…――――



「―――…『ツバサ』ですかね、やっぱり」

「つばさ?」


刹那は身体ごと明日菜の方を向き、まっすぐ目を見つめる。明日菜、少し照れる。


「……アスナさん、お話があります」

「はひ?」


白の少女は、この修学旅行中に決意した事がある。

それは、この勝気な友人にもう一歩だけ近づいてみようというもの。


「……私は、アスナさんに隠していた事があります」

「?」


それは言い換えれば、『己の本当の姿をバラす』という事。

幼少の砌、忌子と蔑まれ、醜いと罵られた姿を、この場で曝すという事。

不安が無い訳がない。恐くない訳がない。仲好くなった友人に嫌われるのは、絶対に喜ばしい事などでは無い。

黙っているのも一つの手だろう。何も言わなければ、このままの関係を維持できる。間違った選択ではない。


だが、それでは嫌なんだ。嫌だと思ってしまったんだ。

踏み出す勇気を持った黒の少年を、眩しいと思ったあの時から。


信じたい。己の中の小さな勇気の火を。

信じたい。自分を親友だと言ってくれた少女を。


「……私、本当は…――――!」


白の少女は、その足を踏み出す―――――





「―――…ハハハ、しかし10歳で先生とはスゴイですね」


――――踏み出す前に、空気を読まない中年の声が響いた。



「いえ、そんな……ところでミサトさんは?」

「後から来るって言ってたぜ」


更に空気を読み飛ばす勢いで子供先生と小動物の声も、脱衣所から聞こえてくる。

完全に言うタイミングを逃した。


(あの声って、まさかネギ!?)

(長まで! ど、どうしましょう!?)

(二人とも、コッチや!)



―――少女の決死の告白は、もう少し先になりそうだ。

































「~♪」


鼻唄などを口ずさみ、長い廊下をタオルを携えてペタペタ歩む少年・MISATO、ってか俺。

先程まで開かれていた歓迎の宴も盛況のうちに終演し、宿泊していたホテルよりも豪勢な夕飯のおかげですっかり腹も膨れた。

勢いで隠し芸大会なども開かれた。【疾風怒濤<ソニックバスター>】を披露したらバカうけした。まぁどうでもいいが。


さて、俺がコレから何処へ向かってい居るのか、解るヒトはすぐに解るだろう。そう、風呂だ。

さっきカモが「兄貴が西の長と風呂入るらしいッス」とか言っていたので、俺もついでにお湯を頂いておこうというワケだ。

そんな気軽に本山で一番偉いヒトと同じ湯に浸かっていいのかと思われるかもしれないが、昔は何度も一緒に入っていたから、まぁ大丈夫だろ。多分。

ていうか早く入りたいんだよ、風呂に。しずかちゃん並の風呂好きという訳ではないが、ココの大浴場は気持ちいいんだよ。大衆浴場として金取っていいレベルだ。

そういえば、この前パソコンで『たいしゅうよくじょう』で変換したら『体臭欲情』って出てきた。それじゃただの臭いフェチじゃないか。

臭いフェチとか意味が解らん。臭いものは臭い以外の何物でもない。興奮などする要素が見つからないよ。

やっぱりね、女性の魅力は尻だと思うんだ。いやね、乳もいいと思うよ? でも乳か尻かって言われたら、俺は尻だね。こう、キュッとしたラインがね…――――


――――……閑話休題。全く関係ない話をしてゴメン。

とにかく俺が言いたいのは、風呂はイイってことなの。リリンが生みだした文化の極みなの。

……ところで“リリン”て何?



疑問もそこそこに歩き続けた結果、風呂の入り口に到着した。


「おろ?」
「あ……」
「ん?」


が、扉を開けようとしたところでカズミ&ノドカと鉢合わせした。もしかして、目的は同じか?


「ミサト君もおフロ?」

「そっちもか」


タイミングの悪いこって。残念ながら男の先客が居るから、君らにはお引き取り願おう。

……どーでもいいけど、客より先に風呂に入る家主ってどうなんだろう。実は非常識?


「どーする? 一緒に入っちゃう?」


ニタニタ笑いながら誘惑してきやがりました。胸なんか強調しちゃったりなんかして。チョーシこいてんな。

おふざけだってことは解ってる。しかし、眼をやってしまうのが男の性。必死に見ないふりをする。アハハ、中学生丸出しだーい。


「つーか、今ネギが入ってるぞ」

「ネギ君とだったら気にしないけど? ね、宮崎♪」

「ふぇ!? わっわたしは、せせせせんせーとおおおおフロなんて、そっそそそんな……はわわわわわわ………!!?」

「落ちつけ。あと、詠春さんも入浴中だ」

「あー……、じゃあパスで」


急激に温度が冷めるカズミ。
流石にオッサン相手にサービスしてやるキャバクラ精神は持ち合わせていないようだ。

本来ならレディファーストとやらで譲るべきところだが、先客が居るんじゃあしょうがない。ということで女性陣は後でという事になった。


このまま客間に戻るかと思いきや、ふとノドカの動きが一瞬止まる。なんだかモゾモゾしだした。

ノドカは俺と眼を合わせては逸らしを繰り返すばかり。なんぞ?と思っていると、


「……その、あの……あ、ありがとう、ございました……!」


イキナリお辞儀をされた。

そしてそのまま、一目散に客間の方へ駆けていった。

一瞬ポカンとなってしまい、何についてのお礼なのかを聞きそびれてしまった。

カズミに「どういうこと?」的な視線を向けてみる。


曰く、路地裏で自分の為に怒ってくれたことへの礼だそうだ。

ただ、ブチギレした様子を間近で見たせいで俺に対する怯えの度合いも何割か増大したようで、かなり複雑な心理状況らしい。

「恐い。けどイイ人。でもやっぱり恐い」みたいな状態なんだと。


「じゃ、私も戻るね」


そう言って踵を返し、その場を後にするカズミ。

ヒタヒタと、板張りの廊下を歩く音が耳に届く。



「カズミ」

「ん?」


その背中に、何か声を掛けなければならないような焦燥に駆られた。


「……何かあったら、ノドカ連れてすぐ逃げろよ」


自分でもよくわからないが、なんだか言わなきゃいけない気がした。


「うん、わかってる」


何度も口を酸っぱくして忠告したからだろうか、カズミからの返答も非常に簡素なモノだった。

カズミはそのまま歩みを止めず、廊下の角を曲がり、姿が見えなくなった。


「……なんも起こんなきゃいいんだけどな……」


誰に伝えるでもなく零れた独り言が廊下に響く中、俺は扉に手をかけ、脱衣所へと入っていった。












「うぃーす」

「おぅ兄さん、先に頂いてるぜ!」


タオル片手に湯気が立ち上る浴場へ踏み入れると、檜の湯船に浸かっている中年男性と赤毛の少年に挟まれてビバノノしているオコジョに挨拶された。非常にシュールだ。

そこらに転がっている桶を手に取り、掛け湯をしてから入る。それがヒトの道。

いざ檜風呂へ。


「……うぇ~~ぃ……」


思わず呻いてしまうほどの気持ちよさ。これぞ大浴場の醍醐味ってなモンよ。




(せっちゃん隊員、ターゲットは気付く気配なしや。オーバー)
(引き続き警戒しましょう。オーバー)
(楽しそうねアンタら…)






しばしボーッと周りの湯気を目で追いかける。

隣ではネギと詠春さんが、なにやらいろいろと話をしている。どうやらあのメガネザルについてネギが尋ねたようだ。


メガネザル―――本名『天ヶ崎千草』。西洋魔術師に恨みを持ち、その復讐に燃える女。


……なるほど。その復讐のためにコノカの超ド級魔力を利用しようって腹か。ふざけてやがる。

その後はネギの父親―――サウザンドマスターについての話だったので、別に興味もそれほどあるワケじゃないから、適当に聞き流した。


会話が止まったので首だけ振り向いてみると、ネギが口をポケーっと開きながら俺と詠春さんを交互に見ていた。


「どした?」

「あ、いえその……お二人とも傷が多いなって思って」


そりゃそうだ、詠春さんは踏んできた場数が違う。歴戦の勇士というヤツだ。俺もまぁ、それなりにいろいろあったし。


「兄さんの背中のコレ、火傷跡ッスね?」

「どんな相手と戦って出来たんですか?」

「ジャスコの自動ドアに挟まった時に」

「何ですぐ解るウソ吐くんですか……」

「A secret makes a man man.(秘密だ。なぜなら、その方がカッコイイから)」

「おぉ、至言ですぜ」ブラボー!

「はぁ……」


いまいち腑に落ちない顔で生返事するネギ。オマエは『察する』と言う日本の美学を学ぶべきだ。

詠春さんは理由を知っているせいだろう、少し困った顔で俺を見つめていた。あまり気にしないでください。


「なんだっていいさ。それよりネギ、髪洗ってやるからこっち来い」

「え!? い、いいですよ! 一人で出来ますって!」

「ウソこけ、オマエ偶に変なニオイすんだよ。普段ちゃんと髪洗ってねーだろ」

「兄貴の風呂嫌いは筋金入りだからなぁ」

「なに、そりゃいかん。俺が隅々まで殺菌してやろう、カビキラーの如く」

「え、遠慮しまうひゃあああああああああ!!!?」




※描写すると目も当てられないので、しばし音声だけでお楽しみください。




「ほら、動くんじゃねえって」(ワシャワシャ)
「め、眼に泡がぁ~!?」
「ふふふ、賑やかでいいですねぇ」
「詠春さん、後で背中流しますよ」
「おや、それは嬉しいですね」
「もういいですから~!」
「アホ、まだ頭皮まで浸透してねえだろが」
「なんかシャンプーからさわやかな香りがしやすね」
「『漢を磨く黒シャンプー』だとよ。脱衣所に置いてあった」
「おぉ、オレっちも是非!」
「オメーは全身毛だから一本で済んでいいな」
「いやいや結構気ィ使ってんスヨ? トリートメントは欠かさねえッス」
「石鹸で充分だろ」
「しどい!?」
「ホントにもう十分でぶぶぼぶぼぶげっほげほ!?」
「あーあ、泡流してる時に口開くからだよ」
「流すって宣言してくださいよぉ!?」
「気にすんな。んじゃ次、背中な」
「うぅ、もう好きにしてクダサイ……」
「男の身体を好きにするとか冗談じゃねーよ」(ゴシゴシ)
「ではその間、私は君の頭を洗うとしましょう」
「い゛!? ちょっ、いいですよガキじゃあるまいし! てか西の長に頭洗わせるってどんな暴挙ですか!?」
「権威は衣の上から着るモノです。裸になったら皆対等ですよ」
「……じゃあ、その……お願い、します」
「ふふふ……、昔を思い出しますねぇ」(ワシャワシャ)
「………」(ガッシガッシガッシガッシガッシガッシガッシガッシ)
「痛痛痛痛痛ッ!? 照れ隠しの被害が全部ボクの背中に!!?」




―――以上、『漢だらけのオフロ大会』でした。







「それじゃ~おさきにあがりますぅ~~」
「では私もそろそろ」


全身ツヤッツヤになった代償として背中にダメージを受けたネギと、終始にこやかな笑顔だった詠春さんは、一足早く大浴場を後にした。カモはまだいるようだ。

翻弄させ過ぎたせいか、ネギはあっちへフラフラこっちへフラフラとおぼつかない足取りで脱衣所へ向かっていった。アイツの背中の垢ハンパ無かったな。


人数が減って少し静かになった大浴場。

いつもはおしゃべりなカモだが、今は大人しく湯船に入って情緒に浸っている。

俺もそれに倣い、両肘を浴槽の縁に預けてボーッと天井を見上げ、滴る雫の行方を眺めていた。

時間が時間なら、このまま眠ってしまいそうだ。それくらい心地よい空間だ。


そんなのが数分続き、体も芯まで湯たんぽ状態になったし、そろそろ俺も上がろうかなーと膝を立てたその時。



「―――…兄さん」


隣に居たカモが、前触れも無く俺に話しかけてきた。

なんだ、おしゃべりモードはさっき終わったんじゃなかったのか?


「いや、その……まだちゃんと詫び入れてねえと思ってよ」


……コイツもか。

俺もコレ以上蒸し返すような真似はしたくない。それに、もうコイツだけの責任でもない。
俺も同罪だ。カモを罵れる立場じゃない。


「……路地裏でさ、オマエに言ったろ? 『自分のことしか考えてない』って」

「面目ねぇ…」

「俺も同じだよ」

「へ?」

「俺も自分のことしか考えずに怒鳴ったってことだよ」


失態による反省、後悔、自己嫌悪。
その中で自分を見つめ直し、出てきた答えの一つ。

“誰か”を巻き込んだから怒ったんじゃない。
“俺のトモダチ”を巻き込んだからキレてしまったんだ。


「どういうことッスか?」


真意を問い、コチラに向き直るカモ。

前髪に溜まる滴を指で払い、俺は口を開いた。


「俺さ、呪術協会に世話ンなる前は孤児院に居たんだよ」

「孤児院、ッスか……」

「そこがまたクソ面白くねえトコだったんだ。毎日毎日、生きるのが苦痛でたまらなかったよ」


とーぜん友達なんかいやしねぇ、と続ける。


――――そこまで言って、黒の少年は一呼吸入れる。


目線は、前。何処を見ている訳でもなく、焦点は何処か、ココでは無い場所に合わさっていた。


過ぎた記憶が、少年の脳裏をスライドショーのように駆け巡る。





――――あの時代、彼には何も無かった。


頼れる大人もいない。友達なんていない。信じられたのは自分だけ。

いや、あの時は自分でさえ信じてなかったかもしれない。

何も考えたくなかったし、何も感じたくなかった。

することといえば、嫌な現実を忘れるために我武者羅に身体を苛めてたことくらい。

剣に没頭し、魔法に没頭する。それだけが、生きる気力を失わないための支え。

楽しいことも無けりゃ、明日を夢見ることも無い。その場所から逃げ出すこともできない。

ただ生きて、何も無い明日を待つだけの存在。


まるで、押し込められた籠の鳥。




少年は再び口を開く。


「……そんでまぁ、いろいろチャンスがあって、院を跳び出したんだ」


行く当ても無いし、露銀もゼロ。

フラフラと何ヶ月も定まった住居も持たず、目的も無し。

もしかしたら、目的を見つけるのが目的だったのかもしれない。


「そっから縁あって詠春さんに拾われて、ココに住まわせてもらってたってワケ」

「波乱万丈ッスね……」


そうでもない。このくらいの話、その辺にいくらでも転がっている。

グダグダと回想などしてしまったが、結局何が言いたいかっていうと、だ。



『一 海里』にとって“トモダチ”は幸福<シアワセ>そのものなのだ、ということだ。



「だから、俺の大切なトモダチを―――俺のシアワセを奪おうとするのが許せなかったんだろうよ」

「…」


おそらく彼は魔法の秘匿がどうとかは口で言うほど重要視していない。

『トモダチ』ではなく『赤の他人』を巻き込んだって言っていたとしたら、あそこまで激昂することもなかっただろう。せいぜい拳骨と軽い説教くらいになっていたハズだ。

平穏で穏やかな日常の象徴であるトモダチを、故意に“裏”の危険に晒した。


だから許せなかった。
唆したカモミールも。
面白半分のカズミも。


そして、己のシアワセのことしか考えていない自身にも、反吐が出た。



「この話はココまでにしよう。オマエも俺も自分勝手、それが結論だ」

「……兄さん、コレで最後、もう一度だけ詫びさせてくれ。本当にすまなかったッス」

「二度とするなよ」

「おうとも! 漢カモミール、同じ愚行は繰り返さねえ!! 誓うぜ、兄さん!!」

「調子のいいヤローだなぁオメーは」

「ソレが売りッスから!」


とりあえずの決着は、こんなものだろうか。




(―――……ひょっとして、この兄さんがエヴァンジェリンの封印解呪に協力してたのって……)


「悪いな、つまんねー話して」

「いやいやトンでもねぇッスよ。オレっちこそ、本当にすまんかったッス」


(……まぁいいか。野暮な詮索はここまでにしておくぜ)







「いや~しかし兄さんも隅に置けねえなぁ。可愛い幼馴染二人と一つ屋根の下なんて勝ち組すぎるぜ」

「一つ屋根の下ってワケじゃねえよ。コノカは母屋、セツナと俺は離れ、しかも男女別の棟だ」

「同じ敷地内なら似たようなもんスよ。 アレですかい? 一緒に風呂に入ったりとかのラブコメチックなこともしてたんスか?」


喰いつき過ぎだバカ。あと風呂は別だ。

さらに言えば『着替えでバッタリ』も『窓伝いに起こしに来る』も『トイレに突貫』も無いから。

その旨を伝えると、カモは雷に打たれたような顔で俺を見た。なんだそのリアクションは。


「な、なんてこった……。兄さんともあろうお方が、漢の必修単位を落としているだなんて………」


そんな必修科目は無い。選択科目ですらない。


「いけねぇ、いけねえよ兄さん! そんなんじゃ卒業研究もままならねえ!」

「一体何から卒業させる気だオマエは」

「ヘヘッ、そらモチロン“魔法使い”からですぜぃ」

「誰が上手いこと言えっつったよ、このエロガモ」

「エロは漢の証ッス! いつかオレっちも、ゴールドフィンガーとなる予定でさぁ!」

「カモはタカにはなれねえよ」

「手厳しいッス」


ホント、コイツはエロいことしか言わないな。


「しかし勿体ねえなぁ。あれほどの上玉が二人も傍に居るってのに、ピーピングのひとつもしねえなんてよ」


覗きが許されんのはマンガだけだ。実際にやったら関係崩壊じゃ済まねえんだよ。


「気になんねえんスか? 日々成長していく幼馴染の肢体なんか垂涎モノだぜ?」

「成長っつっても、アイツら二人とも発育はアレだしなぁ……」

「いやいや侮っちゃいけねえよ。オレっちの見立てじゃ、まだまだ発育途上だぜ。バインバインも夢じゃねえっスよ」


いつ何処でどう見立てたのか激しく気になるんだが……覗いたんじゃねえだろうな?


「ま、胸は無くとも尻は育つって言うし……」

「おっ、兄さんなかなか通ッスね」


自然と俺も下ネタが多くなってしまう。
女どもの前じゃ大っぴらに言えないから、こういう所で帳尻を合わせようとしているのかもしれない。


「兄さんもイケる口だな。ウマイ酒が飲めそうだぜ」

「あーそうかい。そりゃどーも」


その後は、カモがダラダラとシモのオンパレードをやらかして会話終了。

十分身体も温まったところで、二人して浴場を後にした。

コーヒー牛乳飲みてぇな。










――――男性陣が全員退出した数秒後、岩陰からソロリと現る影が三つ。


「最初マジメな話だったのに、最後の方エロい話しかしてなかったわよ」

「発育がアレって、失礼な……」

「まあまあまあまあ」


息を潜めて隠れていた三人娘は、無理な体勢で凝り固まった肢体を伸ばす。

先程の会話に各々が若干思うとトコロがあったが、今はこの状況をどうにかしたいというのが共通認識だった。


「今の内に出よ、また誰か入って来てまう前に」

「出るったって、脱衣所はまだ空いてないじゃない」

「鉢合わせると拙いですから裏口に回りましょう」

「……何で風呂場に裏口があんのよ?」

「非常用や、ひじょーよー」


多分、敵衆から逃げるための逃走経路なんだろう。そうじゃなきゃ存在する意味が解らない。

裏口を目指そうとする三人。だがそのうちの一人―――刹那が、男性陣が使用した後の浴室の惨状を見て足を止める。

風呂用の椅子はバラバラの場所に散乱。桶もアッチコッチに転がっている。
床や壁に至っては、ネギがシャンプー中に暴れたせいで、泡の残骸がそこかしこに飛び散ったままになっていた。


「……先に戻っていてください。ちょっと整頓してから出ますから」


手伝おうかと友の申し出があったが、一人で十分だといって木乃香と明日菜を先に送り出す。

大浴場に一人になった刹那は、ふぅっと一つ溜息を吐いた。


(散らかしっぱなしで……『飛ぶ鳥 跡を濁さず』という言葉を知らないんだろうか……)


刹那は几帳面に片づけを開始する。転がっている桶を手に取り、湯を掬って床の泡を流す。

男というのはいい加減でいかん、と憤慨する彼女。

だが彼女の知識も割といい加減だ。『飛ぶ鳥』ではなく『立つ鳥』なんですよ。もっと勉強しましょう。


ふと、鏡に映った桶を片手にした自分の姿が視界に入る。


湯に濡れた艶やかな頭髪。

熱を帯び朱に染まる頬。

線の細いしなやかな鎖骨。

順々に視線を下げ……


……お世辞にも豊満とは言えない、己の胸部でピタリと視線を止めた。


桶を左手に預け、右手でペタペタと触ってみる。

無い、とは言わないまでも、同年代の少女達に比べると大分ボリュームが少ない。思わず深い溜息が出る。

ただでさえ周囲には長身忍者やらエキゾチックスナイパーやらの規格外<バケモノ>がワンサカ居るせいか、己の不甲斐ない部分が強調されてしまう気がしてならない。

全く不公平ではないか、なんでこんなに……せめて平均くらいあれば……


(……って、何を考えている! あんな脂肪の塊、戦闘では邪魔なだけだ! ああそうさ、そうだとも!!)


無意識のうちに湧き出てきた己の欲を頭を振って打ち消す。打ち消すというより、自己暗示に近い。

乱れた髪を撫でつけブツブツと念仏のように胸の不必要性を自身に言い聞かせる。彼女もやはり年頃なのだ。


(まったく……総統が悪いんだ。私達が聴いてないと思って、あんな開けっ広げに言うから……)


ブツクサ文句をたれ、片づけを再開する刹那。椅子や石鹸を所定の位置に戻す。

乱雑になっているシャンプー類も、キチンと等間隔に。
シャンプー、リンス、コンディショナー、ボディーソープと種類ごとに……



(……ん? こんなのあったか?)


手に収まっている一本のボトルを見る。

洗料に似つかわしくない黒いボトルには、『漢を磨く黒シャンプー』の文字が印字されていた。



(ああそうか、さっき総統が脱衣所から持ってきたとか言っていたヤツ……―――)


つまりは、彼の忘れ物。

忘れ物をしたという事は、つまりは…―――――





「いっけね、WAWAWA忘れ…も……の……………」



――――……突然ガラリと扉を開けて再登場しても、何らおかしくはない状況だということだ。



一方は肩にタオルのみ。もう一方は完全なる裸。


端的にいえば、お互い丸見え。



「「………」」



時が硬直した。ザ・ワールド。






(あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 『俺がさっきまで入ってた浴場に戻ってみたら いつの間にか幼馴染が入ってた』

 ……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺もわか「ほでゅぼッ!!?」


ポル的な思考は、超速で飛来した風呂桶によって打ち切られる。

攻撃をかわす精神的余裕などあるハズも無く、氣でしこたま強化された桶がミサトの額にクリーンヒット。すごくイイ音がした。


声にならない悲鳴を上げ、入り口とは反対方向の裏口に向かって猛ダッシュする刹那。

余談ではあるが、この時の逃走速度は『縮地』の領域に達していたと言う。


精神的にも物理的にも脳髄を揺らされ、意識が混濁していくミサト少年。

スローモーションの如く緩やかに流れゆく時の中で、彼が最後に見たモノは―――


―――蒸気で薄っすらと紅潮した、幼馴染のハリのある可愛いお尻だったそうな。




「……トレビ、アン…ヒッ……プ……………グフッ」




▼ミサト は 称号【スケベ大魔王】を取得した!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本山到着からお風呂イベントまで、いかがでしたか。どうも私です。

お久しぶりの投稿です。内容忘れちゃった人も多いかもしれませんね。

すみません。直しも多かったし、リアルにやることが多くて。課題とか論文とか発表とか。

毎度おなじみの「お風呂イベント」は、こんな感じになりました。ネギのお株を奪っての称号獲得。何やってんだコイツ。

レディアントマイソロジー3を買いました。スパーダばっかり使ってます。こがるんるん!


次回、いよいよ修学旅行篇のメインディッシュ。腹を空かせてまっててね。






[15173] 漆黒の翼 #35
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:66f70dd5
Date: 2011/05/05 22:38
“百聞は一見に如かず”という諺(ことわざ)がある。
物事は他人から百回伝え聞くよりも実際に一度見てしまった方が早い、という意味だ。

ワザワザ説明などしなくてもそれくらい知ってるよと思われるかもしれないがまぁ聞いて欲しい。

伝聞というのは、往々にしてあまり当てにならない事が多い。これは古今東西共通の事象だ。
どれだけ正確に伝えようとしても、そこには誇張・脚色・捏造・尾ひれ背びれが付いて回る。
意味合いは違うが『逃した魚は大きい』という言葉が良い例だ。

逆に、核となる部分を必要以上に削ぎ落とされ、真実が隠蔽されることもある。
八百長でも出来レースでも、“勝敗”しか知らされなければ同じ事だ。

現代以前より伝わる歴史だって、それは例外ではない。
教科書の記述が皆正しく、また全てを著している保証など何処にも無いのだから。

十七条の憲法を制定した政治家は、下着を穿かない主義の駄目男だったのかもしれないし。
英国の英雄アーサー王は、性別を偽って活躍した健啖家の美少女だったのかもしれないし。
古代中国における三國の英傑達は、やたら胸部の豊かな闘う美女だったのかもしれないし。

時を駆け戻り確認するでもしない限り、本当の真偽は誰にも解らない。

聴くは易し、されど視るは難し。

実際にこの瞳に収めてみないと、何とも言えないのが実情だ。


とまぁ長々と述べてしまったが、結局何が言いたいかと言うと、だ。









「―――……セツナの裸が頭から離れない」



―――この歳になってから初めて見る幼馴染の全裸の破壊力は計り知れない、という事である。





現在、俺とカモネギは離れにある以前使っていた自室に腰を据えている。
さっき起きた俺史上稀に見るお色気イベントの後、様子を見に来たカモが気絶していた俺を発見し、ネギを応援に呼んでココまで連れて来たのだ。

あ、ちゃんと服は着てるよ? Tシャツとカーゴパンツを。額は痛痛しく赤く腫れちゃってるけど。



なんてーか、うん、キレイダッタヨ。マジで。ヤラシイ意味も込みで。

ナイチチだと軽んじていたけどそんなことはなかった。ちゃんと膨らみはあったし、肢体は女性的な丸みを帯びていた。
そして良いケツしてやがった。ハリツヤ潤い文句無し。実にスバラシかった。

不覚にもレイジングハートが起動しかけた。根性で待機命令を出したけども。
わかっちゃいたけど、アイツは女だった。それを改めて認識させられた。

どうしよう。困った。ほら、俺ったら青春真っ盛りじゃん? どんなに余裕かましてもタダのガキじゃん?
もうアイツに会うたびに今日の光景を思い出しちゃうよ。ギクシャクしちゃうヨ、モンモンしちゃうヨ、フワッフワしちゃうヨ。

明日からどんな面してアイツの顔見りゃいいんだい俺は。ねえ誰かおせーてよ。


「話を聞く限りミサトさんは悪くないし、ちゃんと説明すれば……」

「兄さん案外ウブだなぁ。ドーンと構えてりゃ良いんスよ」


これが気絶した顛末を話した上でのカモネギの返答。
あまり詳しい事をコイツらに言いたくなかったが、運んでもらった恩もあるので已む無く説明した。

カモはラッキーだと思えとニヤつきながら囃し立てる。参考にならない。
中三男子の豆腐メンタルに多くを求めるなカモ。俺たちゃ思春期真っ盛りなんだよ。
股間のかっとビングとクリアマインドのループに日々の殆んどを費やしてる架空デュエル野郎なんだから。

そしてネギ。
この手のスケベイベントのベテランであるネギは、貞操観念がよく解らないのか軽く考えている。
ガキに裸を見られたところでダメージは微々たるものだから、女の方もあまり気にしないんだろう。気楽なモンだちくしょう。


「……風に当たって頭冷やしてくるわ、いろんな意味で」


冷たい夜風に吹かれりゃ気も落ち着くだろう。少なくとも今のモンモン状態よりはマシになるハズだ。

肌寒いかもしれないから、その辺に放っぽっておいたパーカーを拾い上げ羽織る。パーカーって万能だと思う俺。


「オレっちもお供しやすぜ」

「じゃあ僕も……」

「オメーは休んどけ。疲れてんだろ?」

「そうだぜ兄貴、英気を養うのも重要さね」

「えっと、それじゃあそうしよっかな」


詠春さんが明日サウザンドマスターの隠れ家に連れて行ってくれるという事で興奮気味だったネギ。
気持ちが早って寝付けそうも無いのは理解できるが、それでも身体を休めておいた方がいい。狗小僧との戦闘でボロボロにされたみたいだし。


その辺にあるマンガでも読んどけ、と言い残し、俺とカモは部屋を後にした。



「兄さん、おでこが見事に真っ赤ッスね」

「……バンダナで隠しとくか」


こんなんじゃカッコつかんぞしかし。総統の名折れじゃ。













先程までの宴会騒ぎが夢だったかのように、西の本山は静寂の真っ只中にあった。

夜もとっぷりと更け、月明かりが煌々と足下を照らし、頬を撫でるような春先の柔らかな微風が広大な屋敷に吹き込んでいた。

そんな情緒にあふれる本山の敷地内を、見回りも兼ねてブラブラと歩く。

敵影なし。変化なし。異常なし。ないない尽くしで平穏そのもの。敵に狙われているなんて嘘のような平和っぷり。

肩の上にはカモは珍しく静かにしている。空気化しているともいう。



風に吹かれたおかげか否か、頭の火照りはだいぶ落ち着いた。のぼせ気味だった身体もイイ感じにクールダウンしている。

そうさ、いつも通りだ。クールだ、KOOLになれ。いつも通り接すれば大丈夫。
俺とアイツの仲だ、変なふうにはならない。きっと笑って許してくれるといいなホント。
普段通り、俺らしく、気さくに声を掛ければヘーキやてホンマ。
いつもみたいに「おはようせっちゃん、今日もカワイイね!」とか言っときゃ大丈夫だろ。


……あれ、違ったかな。俺いつもどんなだったっけ。


「いや、別に? ぜんぜん気にしてねーし?」
―――ダメだな、気にしてる感がプンプン漂ってる。そもそも俺が気にしなくてもアッチが気にするっつーの。

「良いケツしてたぜ、イイ女になったな」
―――おぉダンディ。ちょっとカッコいい。けど言ったら殺されるかもしんない。

「ちっぱい・オッパイ・ボク元気!」
―――そこまでヤンチャBOYになれない。TоLOVEると遊ぶどころの騒ぎじゃない。

「そんなことより勝負アル!!」
―――違う、ゼッタイ違う。コレ俺と違う。違う誰かが乗り移ってる。


……ダミダ。もうわかんなくなちゃたヨ。

明日、ちゃんと謝っとこう。土下座も辞さない構えでいこう。夕凪でベシベシ叩かれるかもしれないから覚悟しとこう。



……それにしても、だ。

成長したよなアイツ。………いや、やらしい意味じゃなくて。

初めて会ったのがもう十年近く前だから、当然と言えば当然なんだけど。

普段から顔合わせてんのに、変化してても気が付かないモンなんだなぁ。

いや、近過ぎるからこそ解らないこともあるのかもしれない。俺たちが意識していないだけで、大規模にナニカが変わっていることだって大いに有り得る。

木を見て森を見ず、ってのは少し違うかもしれないが、大きな視点で見なければわからない事もあるのだろう。


俺たちは、変わったのだろうか。

そして俺自身は、ナニカ変わったのだろうか。



「キレーなモンすねぇ」


右肩に乗るカモの感嘆の声で、意識が内から外に戻る。キレーってなにが。


見上げれば、そこには桃色の花。
月光をその身に浴び闇を彩る、幻想にも似た夜桜。

昔から本山の敷地には多くの桜の木が植えてある。
もともとこの場所に存在していたのか、何処からか運び込み植林したのかは定かではない。
それでも、うすボンヤリとピンクの灯火を揺らす桜は、譬えようも無く美しい。それはいつの時代も変わりない。

麻帆良にも『桜通り』なる並木道が存在するが、放つ輝きはこちらも負けず劣らない。

散りゆく桜というのは何故か心を惹きつける。俺も日本人なんだなぁと再認識する瞬間である。

花は桜木、男は岩鬼。ラッキークッキー八代亜紀。 『き』で韻を踏むのがポイントだ。


「……あ」


『木』というフレーズで、記憶の隅っこに置いてあった一昔前の想い出が蘇る。

ガキの頃はよく木に登った。
木の上には遊び場があった。
俺たちだけの秘密の場所があった。

京都を離れしばらく経つ。あの場所にも久しく赴いていない。


「……久しぶりに行ってみっかなぁ」


カモも居るが……まぁいいだろう、許容範囲だ。
本当は秘密だが、特別に客として招待してやろう。

つま先の方向を翻し、やや速足で本山出入り口へ向かう。目的の地は、結界の外。

勝手に結界を出て大丈夫かとカモに問われたが、そこは勝手知ったる呪術協会。ちゃんと出入り用の通行符を持ってんのよ。



大門を抜け、石畳に沿って―――ではなく、石畳を右に逸れて進む。

逸れた先は山林へと続く。道という道も無いが、俺達の作り上げた桑田道モドキだけが生い茂った藪に隠されるように存在していた。

獣道にも似たソレを、鬱蒼とした小枝の群衆を掻き分けるように奥地へと足を進める。気分は藤岡弘、。
ちなみに『、』込みで『藤岡弘、』だから。
『。』込みで『モーニング娘。』だからな。間違えんなよ。


「ドコ行く気なんでぃ?」

「まあ黙ってついてきな。つってもオマエは歩いてねーけど」


十分ほど歩き続け、幾度目かの藪を突き抜けたところで、少し開けた場所に出る。

その場にそびえるのは、一本の大樹。
麻帆良の世界樹よりかは大分スケールが小さいが、それでも見上げなければ天辺が見えない程度には大きい。

周囲の木々が四方八方に枝を伸ばして視界を遮っているため、頂上付近は地上からは確認できない。

この場所こそが目的の地。更に言えば、目指す先はもっと上だ。


「――うしっ」


両足に氣と力を込め、大樹から伸びる枝へ、跳ぶ。
その枝から更に上にある枝へ、枝のしなりを利用しながらまた跳躍。

そこからまた跳ぶ、跳ぶ。
カエルのように。バッタのように。ネコのように。忍者のように。

跳んで、跳んで跳んで……――――



「―――着いたぜ」

「おぉ……」


目的の場所――視界の開けた大樹の頂上付近に到達した。


大木の幹を大黒柱とし、幹から生え出る太枝にベニヤ板を渡した床。
足場の端に設置してある、所々が風雨に曝され腐敗しかけている手摺りらしき棒。
枝葉を組み合わせて隙間なく設けられた、天然素材の屋根葺。


京都を離れて2年と少し経つが、懐かしきこの場所はカタチを変えずに残っていた。


「ツリーハウスっスか?」

「“秘密基地”だ」


ここは、幼き日に造り上げた手製の掘立小屋。【漆黒の翼】の秘密基地。

時間を決めては基地に集合し、日向ぼっこしたり、駄弁ったり。
楽しい時も。怒られた時も。ケンカした時も。
俺達の幼少期の記憶の中心は、いつもこの場所だった。

更に言うと、この場所は西の本山が一望できる絶景スポット。
更に更に付け足すと、何かあってもすぐに確認できる見張りポイントでもある。
この時期のこの時間だと、建物から漏れ出る灯りが桜を照らし、なんとも幻想的な風景が見られる。結構な好立地だと言えよう。


それなりに見る目があるのか、カモは肩から降りて基地内をチョロチョロ駆け回り「ほうほう」と感心している。
イイ仕事してるねーとかほざいたので「うっせ」って言いたくなった。が、褒められたので気分がイイ。よって許す。


「やっぱ秘密基地は男のロマンッスね」

「オマエが初めての客だ、光栄に思えよ」


“秘密”ゆえに本当は一人で来たかったが、特にやましいものがあるワケでもないから連れてきた。
カモに知られたところで別に問題もないだろう。弁当型携帯ファックスがこの先ずっと使われなくても問題ないように。


キョロキョロ辺りを見回すカモを尻目に、俺は幹に背を預けその場に腰を下ろす。しばし感慨に浸りたくなった。

見上げれば、空一面に輝く星。
耳をすませば、柔らかな風に揺れる葉の音が響く。

風は空に。星は天に。不屈の心はなんとやら。想い出に浸るには絶好のロケーションだ。

刻み込まれた記憶の一つ一つが、今の俺を形成している。
どの記憶が無くなっても『俺』じゃない。全てがあって『俺』なのだ。

これからも俺は、針が休むことなく時を刻み続けるように、新たな記憶を一つ一つ刻み続けるのだろう。

そして、刻むごとにカタチを変えていく。
ヒトとはそういうモノなんだろう。



「……あ」


『刻む』という単語で、また一つ思い出した。

いま背を預けているこの幹、ココに確か……―――







        こ     ミ     せ  
        の     サ    つ
         か    ト     な





―――…あった。


少し掠れてしまっているが、確かにそこに存在している。

木の幹に刻み込まれた、俺達三人の名前。



【友情の誓い】



彫り入れられた自分の名に指を添え、感触を確かめる。

お遊び感覚で名前を彫り込んだだけの代物。
だが、時を経て今なおココに存在し続けているそれを見て、不思議と頬が緩んだ。


……成長しても、変わらないものもあるんだろう。

この“名前”のように。







「―――…い―――!」
「――…に…――な…と…―――」


彼方より、何者かの声が届く。

声は2つ、男女のソレ。少しずつ俺達の居るこの場に近づいてきている。

基地内をウロチョロしているカモを素早く掴み取り、大幹に身を隠す。もちろん声が聞こえてくる方角とは反対の位置に。

手中の小動物がなんかモガモガしていたが、「誰か来る」と一言呟くと静かになった。


こんな時間に結界のすぐそばで何してんだろう、と考える。
デート中のカップルだろうか? こんな山に来る意味が解らない、バツだな。
俺のような想い出紀行者か? 考えにくい。そもそも人払いしてるから一般の方は来れない。
周辺警戒をする本山の見回り? 今は人員が出払っているから、コレもペケ。


まぁ、解り切った質問だったな。答えは――――――



「どないしてくれんねや新入りッ!!」


――――答えは、“招かれざる客人が来た”だ。


(チッ、あのクソアマ……)
(天ヶ崎千草ッスね)


シネマ村にて撃退した式遣いの女・天ヶ崎千草、そして仲間の白髪少年。

一番来てほしくない客が来やがった。


侵入者たちは、俺らが身を潜める幹から十数メートル離れた木の枝に降り立った。

意識は本山に向いている為か、秘密基地に気付く気配はない。



「アンタが放っておけ言うから何もせんかったのに、結局ガキ共は本山に入ってしもたやないかいッ!!」


姿を見せるや否や、憤りを隠そうともしない着物の女が、連れの白髪の少年にエラい剣幕で捲くし立てる。
額に無数の青筋が浮かび上がるほどの憤慨。今にも血管が弾けそうな形相だ。


「コッチはアンタがなんや策でも考えてんのか思て任せとったのに結界ン中入られてもうたら手出し出来ひんやないか!」

「そんな大声で言わなくても聞こえますよ千草さん」


対する白少年は、そんな罵倒も意に介さず涼しい顔。罵詈雑言も、何処吹く風。

“涼しい”という温度を感じるのかも不明瞭な無表情で、白いガキは淡々と言葉を吐く。


「あの程度の結界、どうという事はありません。アナタは僕に任せてくれればいい」

「……チッ、相っ変わらずイケ好かんガキやな」


イケ好かねぇのはテメーだろうがクソアマ。

つかあのガキ、本山の結界を『大した事ない』とか言いやがったよな。
んなワケあるかよ、仮にも呪術者たちの総本山だぞ? 麻帆良程ではないにしろ、強度は折り紙つきのハズ。
それを言うに事欠いて『大した事ない』って………本気かよ。


……だが、マジにしろハッタリにしろ、放置するわけにもいかねーか。

連絡は、マズイか。気付かれたら逃げられる。
なら、気付かれる前に捕まえる。


額のバンダナに念を込めるようにして詠唱態勢に入る。
ちなみに、このバンダナ自体も発動体の役割を果たしてる。仮にもアーティファクトだしな。

長々と呪文を唱える時間はない。
威力は落ちるが、詠唱省略バージョンでいくか。


魔力は収束し、意思を通じて形成されていく。
幹に手を当て、木々の力を借りるように。術を解き放たんとし、



―――白の少年と目線がカチ合った。


っ! 気付かれた!? ……いや、“気付いていた”のか!?
くそっ今更止められるかよ! 強行突破だ!!


「茨よ! 【アイヴィーラッシュ】!


魔力の解放と共に顕現したのは、棘を纏った無数の蔓。

大枝のヒビから飛び出したソレが、侵入者たちを足元から絡め取る。


「なっなんやコレ!? 放せっ、っづッ!?」


女は己の身体を拘束する蔓を振り払おうと躍起になる。しかし蔓は瞬く間に四肢を蹂躙し、拘束を完了する。
暴れるほどに茨は絞め上げ、幾多の棘が女の白い肌を傷つけ、その身に紅い化粧を施していく。



「よぅ。また会ったなクソアマ」

「ッ! 貴様、護衛の……!」

「……」


コンビニ前で知り合いに逢ったかのようなテンションで侵入者の前に躍り出る。優位は自身にあると誇示するように。

女はまさしく仇を見る眼差しで俺を睨み、目尻を痙攣させる。しかし動くことは適わない。
少年の方は特に身動ぎもせず、成り行きを見守るように俺の居る方向に冷めた顔を向けた。


「あんま暴れない方が身の為だぜ。合図ひとつで棘が伸びて“グサリ”だからな」

「ぐっ……!」


どうにか懐から符を引き抜こうと画策していた女だったが、俺の脅しが効いたのか動きが小さくなる。


コレはハッタリ。半分ホントだけど半分ウソ。

敵を茨で拘束し動きを封じ、無数の棘で全身を貫く魔法【アイヴィーラッシュ】。

本来なら『捕縛した後に一気に棘が伸びて敵がハチの巣になる』という工程があるが、如何せん熟練度が足りない。
しっかりと魔力を練り上げた状態で発動させれば出来ない事も無いが、今回は詠唱省略したから捕縛するだけでイッパイイッパイなのさ。

ま、捕まえるだけなら事足りるし、暴れれば更に棘が喰い込むから拘束具としては上等だろう。


「………植物操術……“調”と同じ………?……いや……コレは…別物か……―――」


白ガキの方は、なんかブツブツ独り言を漏らしているがよく聞こえない。
しかも勝手に自己完結したみたい。
この白ガキ、驚くほど冷静だ。肝が据わっているのか、諦めて達観しているのか、あるいは……

……まぁいい、とりあえず尋問が先か。


「狗のガキと変態剣士は何処だ?」

「……」

「オマエら四人の他に仲間は?」

「……」

「オイ聞いてんのかネーちゃんよぉ? さっさとゲロっちまえよ。この兄さん怒るとおっかねえぜ?」

「黙ってろカモ」


女はダンマリ。砕けそうなほど歯を喰いしばり、仇を視るように俺を睨みつけている。
白ガキはムッツリ。拘束されたってのに表情一つ変えんし、絞め上げてんのに痛がる素振り一つ見せない。

痛めつける目的で捕縛したワケじゃないが………仕方ない。

マリオネットの糸を手繰るかの如く指先を魔力を込めて曲げる。
それに連動するように茨の先端が宙を躍り、捕らえた二人の頬を叩く。


「さっさと質問に答えろボケ共」

「づ……ッ」
「…」


女と少年、其々の頬にできた引っ掻き傷。
女の傷の端から紅い雫が滲む。顔を顰め、眼光はさらに強くなる。
少年の方も、傷から―――――



――――血が、出ていない。


傷はできている、だが血の滴どころか僅かな赤みすら無い。
どこまで行っても、温かみの欠片も無い無機質な白い肌。
まるで陶器の椀に傷を付けた時のような、そんな冷たい感覚。

血も涙も無いとはよく言ったモノだ。まさしくコイツがソレ、血の通わない贋物。


「……テメェ、傀儡<くぐつ>か?」

「……」


俺が問うても、白い少年は答えない。

傀儡人形。身代わり符よりも高度な、人ならざる分身体。
なるほど余裕なワケだ。捕まったところで、文字通り痛くも痒くもないんだからな。
コイツが口を割る可能性はゼロに等しい、か。

女の方は……コッチもダメだ。睨むだけで自白なし。かえって抵抗の意思が増してしまった。

まぁいい、主犯さえ捉えちまえばどうとでもなる。あとは芋づる式だ。
詠春さんに突き出しゃ晴れて仕事完了―――やっとゆっくりできるってなモンだ。








「―――……や……」


「あん?」


――――女が呟く。蚊の鳴くような、喉の奥から絞り出したかの如き僅かな声。


「………ま………すンなや……」


「聞こえねーよ。言いたいことあんならハッキリ言え」



「………じゃま、すンなや…………ッ!」



ギシリと歯を鳴らし、

女はぐわっと面を上げる。

見開かれた血走った眼がミサトを射抜き――――






「――――――邪魔すなやこン糞餓鬼イイィィィィィィッッ!!!!!!」



憎悪の限りの叫びが、その場の全員の耳を穿つ。

肩に乗るカモが小さく悲鳴を上げた。


「もう少しで、あともう少しで全部叶うんや!! 誰にも邪魔立てさせんッ!! 楯突く奴は皆八つ裂きにしたらァッ!!!」


頬がビリビリ来る程の怒号が轟く。怒りと憎しみが大気を震わせる。
茨の拘束を引き千切ろうと、力任せに身を捩る。
もはや傷が増えようが血が吹き出ようが関係ない。
鬼の形相などという表現も生温い。
それ程の迫力。
それ程の鬼気。


「あの小娘を使ォて見せつけたるんやッ!!
 お父様とお母様を殺した奴らに!!
 助けを乞うても見向きもしなかった連中に!!!
 ウチからシアワセを奪い取ったスベテにッ!!!!」


降り掛かる悲劇への反逆。慟哭にも似た嬌声。

その叫びを反逆の狼煙とすべく、千草は喉が張り裂けんばかりに喚いた。






「履き違えてんじゃねェよ」




――――――ッッッ!!?

絶句。


女の叫びは、紅眼の少年が呟きに圧殺される。

血のように紅く、氷のように冷たい眼が、千草の声を認めない。

燃え盛る憎悪の狼煙は、零れ墜ちた冷水の如き感情に抗う術を持たない。



「テメーが誰に復讐しようが構いやしねぇけどよォ――――」



偶に“復讐は何も生まない”というセリフを吐く輩がいる。


そんな訳ない。

奪われた者からすれば、フザケルナと罵りたくなる甘過ぎる妄言。

怨みも憎しみもホドホドにしか味わったことの無い奴の考えそうな戯言だ。


“復讐”こそが生きる為の目的。
“復讐”こそが生きる為の活力。
“復讐”こそが生きる為の支柱。


己のすべては“復讐”からしか生まれてこない。


“復讐”の為に“生きる”のではない。
“生きる”為の“復讐”だ。


そんなマグマのように煮え滾る感情を向けられるからこそ、少年には理解できる。

“正しき復讐”は存在すると。


だからこそ、少年は理解している。

“正統な復讐”を邪魔する必要など無いと。


だが、




「―――何の関係も無ぇコノカを利用していい道理が何処にある?」



だがしかし、これは“正統な復讐”などではない。


復讐とは、当事者間において完結させてこそ“復讐”なのだ。

己を苦しめる獄炎に無関係の者を引き摺り込むなど、決してあってはならない。


その禁を犯した者は、もはや“復讐者”などではない。

復讐者という大義名分の皮を被った、三流風情の“悪党”。



そして、この女は“悪党”にも劣る三流以下。

自分独りがこの世のすべての不幸を背負っていると勘違いしている、憐れな道化。

似たような境遇の者など、この世界にはゴマンと存在するというのに。


そして見誤る。履き違える。見当違いの方向へ。

「ワタシがこんなに苦しんでいるのだから、オマエタチも苦しめ」と。

復讐と逆恨みの区別もつかない、子供の言い訳のような戯言を盲信するようになる。

己の目的の為に手段を問わず、無遠慮に、無配慮に、無神経に。

罪も無い周囲のニンゲンを己の罪に巻き込み。

無関係の他人のシアワセを喰い荒らす。



ただの醜悪な“害虫”。




「コレ以上、俺の大事なモンに手ェ掛けるってんなら覚悟しろよ……――――


 ―――――怨む気も熾らねえくれぇの絶望をくれてやるからよォ」



天ヶ崎千草はこの瞬間、灼眼の少年が持つ一切の情が消え失せるのを感じた。

京都駅で感じた灼熱の殺気とも違う。あんな煮え滾る感情とはまるで別物。

例えるなら、絶対零度。

奥の底から冷やかで、凍てつくような蔑んだ眼差し。

全身から気力が抜けそうになる。
震えが起こる。上手く歯の根が噛み合わない。
足に力が入らない。もはや茨に支えられている状態。

恐ろしい。
怖ろしい。
オソロシイ。

畏怖の感情が、千草を蝕んでいく。





「そろそろいいかな」


別の冷めた声が響く。

白い声が紅眼に問いかける。


「――あ? なんだ、何か話す気になったんか?」

「いや。もう夜も更けたし、時間も押してるからね」

「は?」

「“見物”は終わりってことだよ」



パキン、と乾いた音がする。

音源に眼をやるが、そこに少年の姿は無く。

捕縛していた茨の残骸が“砕け落ちていた”。



「な――ッ!?」


眼前に迫る白い拳。

防御の隙も与えられず、頬に衝撃が奔る。
ギリギリのところで首を捻り直撃を回避。
頬肉が削がれるかと思うほどの鋭い突きに肝を冷やす。

流れるように下からアッパーの追撃が迫る。喰らってたまるかと掌で受ける。
が、その拳には、この小柄な体の何処から湧いたのかと驚愕する程の力が込められていた。

受けた瞬間「マズイ」と感じたが時既に遅し。脚は枝を離れ、宙に浮き上がる。

コレ以上の追撃は許さない、牽制のつもりでミサトは貫手を白い少年の喉笛に突き立てる。地獄突きというヤツだ。
しかし白い少年は意に介さず放置。

ほどなく、貫手は喉に到達―――直前、不可視の膜が行く手を阻んだ。


「障壁ッ!?」


魔力による物理障壁。
つまり、目の前の少年は西洋魔術師であることを意味していた。

天ヶ崎千草が、遺恨のある西洋魔術師を仲間に引き入れていたなど予想の範疇に無かった。
驚愕に眼を見開き、ミサトの思考が一瞬止まる。

その一瞬に間髪入れず、白の少年はミサトの腹に中段蹴りを放つ。

ダメージを軽減しようと直前に腕を捻じ込む。
しかし風ごと蹴り抜ける勢いを殺しきれず、ミサトの身体は一直線に秘密基地の手摺りに叩き込まれる。

勢いそのままに破壊された手摺りごと、大幹の柱に背中を強か打ち付けた。


「―――がっはッァッ……!」

「にっ兄さん!」

「っんのヤロォ……三味線弾いてやがったのか……!」


衝撃で肩からカモが転げ落ちるが、気遣えるほど余裕はない。


白い少年がおもむろにパチンッと指を鳴らすと、再びパキリと砕ける音が響く。
千草を捕縛していた茨が灰色の石となり、一溜まりも無く崩れ去る音だった。

倒れ込みそうになるも、なんとか弛緩した手足を突っ張って転倒は避けた千草。
息遣いは荒く、艶やかな着物は血が滲み、瞳は揺らぎ、動悸を抑えるように己の豊かな胸を右手で押しつぶす。

過呼吸気味で動けない千草に、白い少年は淡々と言葉をかける。


「先に行って待っていて下さい」

「……あ、あんた、は……」

「アナタは目的達成の事だけ考えていればいい」

「……」


女は歯を喰いしばり、両足に起立の命令を下す。
無言で式符を抜き取り、お馴染みの大猿の式神を顕現。その身を委ねる。

力を振り絞り、憎き灼眼を睨みつけ―――闇へと去っていった。


追いかけようにも白い少年が道を塞いでいるため、追う事適わず。

ミサトはその少年と対峙する他なかった。



「―――ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト


白の少年が、聴き覚えの無い言葉を聴き慣れたリズムで紡ぎ始める。

始動キー。
魔法使いが魔法の使用に際して発する固有呪文。


―――小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ


ゆらりと白い指先をミサトに向ける。まるで照準を付けるガンマンのように。


その光 我が手に宿し 災いなる眼差しで射よ――――


 ゾワリ

全身の汗腺が開く。
脊髄からアラート音が鳴り響く。


―――【石化の邪眼】!


警告に従い、反射的に横へ転がるように身を躍らせる。

刹那―――下から上へ、鋭き光が疾る。
床を、幹を、灼眼の真横を、鋭利で硬質なナニカが駆け抜け、抉り取る。

その軌跡は一本の溝として残り、触れた部分を石と化していった。

高等魔術【石化魔法】。
その光景に、冷や汗が一気に噴き出す。


「勘がいいね。でも―――君には少し眠っていてもらうよ」


通過した石化光線は再び進路を変え、灼眼の少年に向かう。


ミサトは思考する。どうすれば打開できる?

攻撃―――違う。

回避―――違う。

迎撃、防御―――どうやって石化を――――


―――そうだっ“石化”ッ!!



額に念を込める。書き換える。迎え撃つために。


――“堅牢”――


―――右腕を、突き出すッ!!


突き出した右手が光線に触れた瞬間、その邪悪な輝きは塞き止められ、霧の如く消失した。


「ッ!? レジストしたのか!?」

「名付けて幻想殺し、ってな!!」


モチロン違う、幻想殺しではない。

これぞミサトの二つ目のアーティファクト
【Uma expectativa de soma contra destino<抗う運命の戦布>】の効果だ。

額に浮かび上がる文字によりその効果が決定する。

通常のデフォルト状態は“必勝”。効果は『筋力微上昇』。
以前別荘で使ったときは“覚醒”。効果は『集中力上昇』と『睡眠防止』。

そして今回使用したのは“堅牢”。効果は『防御力上昇』と『石化防止』。

殺せる幻想はピンポイント。
だが、相手を混乱させるには十分な効果だった。


「……驚いたね、レジストされるとは思わなかった。いや、“打ち消した”のか?」

「さーな」

「幻想殺し……【魔法無効化能力】のようなスキルかい?」


オイオイ、マジで信じたんじゃないだろうな? 最近の子はジョーダンも通じないのねまったく。
意外と素直すぎる白少年の思考にミサトは呆れかえる。

しかし油断はできない。
石化魔法というカードは封殺できたが、問題は山積み。
魔術師に似合わぬ卓越した胆力もさることながら、コチラの攻撃を阻む強固な障壁も厄介極りない。

この窮地、どう脱する?



「……ここで時間を無駄に取る訳にもいかないな」

「だったらどーすんだよ?」

「こうするよ」


少年の足場となる大枝から、にじみ出るように水が湧きだす。

水深数センチにも満たない水たまり。

水面へと溶ける雪のように、白き少年はその身を沈めていく。


「転移魔法だと!? 何処まで多才なんだっンにゃろォー!!」


逃がすまいと飛び掛かった時には少年の姿はなく、水たまりも消え失せ、伸ばした手は空を斬った。

窮地を脱しようとしたのに、脱せられたのは自分の方だった。


「兄さん、アイツ本山に向かったんじゃ……!」

「ッ!! コノカがヤバいッ!!」


一も二も無くミサトは枝から飛び降りる。地上までの最短ルートを最速で翔ける。
着地の衝撃を無理やり殺し、全身のバネを使いエネルギーを垂直から水平に変更。


護るモノの元へ、少年は駆けた。










―――――幹に刻まれていた己の名が、石化の光線によって抉り取られていたことにも気付かずに。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


東北関東大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。どうも私です。

当日は駅にいたんですが、揺れた瞬間「日本の終わりか」と思いました。恐ろしかった。

微力ながら義援金も納めさせてもらいました。一日も早い復興を祈っています。



今回は原作の千草とフェイトが本山を見下ろしていたシーンを引き延ばしたモノです。

話が全然進まない、どうしよう。

これじゃ修学旅行が終わらない。でもはしょりたくない。なんというジレンマ。

根気よく頑張ります。だからできれば根気よく待っていてください(土下座


次回、ミサト 怒りの鉄拳(仮)。お楽しみに。








[15173] 漆黒の翼 #36
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:66f70dd5
Date: 2011/05/06 01:56

―――時刻は、ミサトが意気揚々と茂みを歩き始めたあたりにまで遡る。



本山に残っている五人の少女達は、本日の寝床として貸し与えられた客間にて、それぞれが思い思いの行動を取っていた。

そしてその五人は三対二の小さな二グループとなり、それぞれが部屋の一角に陣取っている。


一つは、新参者の和美&のどかのコンビ。

和美は自前のデジカメを操作し、本日分の画像データを確認・編集する作業に勤しんでいる。
報道部員である彼女は、今回の修学旅行におけるカメラマンも兼任している。
別に周りから押しつけられたワケではなく、本人が嬉々としてやっているのだ。

普段はノリと勢いでゴシップを量産する彼女だが、今日の分の写真にはかなり気を使っているご様子。
アルバムとして使える写真は撮影総数の半分程度。
残りの画像は“裏”の存在を示唆する仰天マル秘映像ばかり。使える物も限られてくる。

シネマ村におけるコスプレ写真はバンバン使えるが、その先で起こった白熱のバトルシーンはお蔵入りとなる。
呪術協会内で撮影した写真も当然ペケ。『ザ・京都』と言わんばかりの風情あふれる情景なのに使用できないのは残念、とは本人の談。

もし何も考えずこれらの写真を公に曝した場合、間違いなく灼眼の粛清が待ち受けていることだろう。
嗚呼、恐ろしや。


その後ろで和美の編集風景を興味津津に覗きこむ少女のどか。
鼻歌交じりにノリノリで作業する写真家とは対照的に、そろ~っとした様子でチョコンと正座して見学している。
その姿は、主人の邪魔をしないよう気を遣う健気な忠犬のようにも見えた。

画面を流れる画像イメージが替わるたびに、ほぇ、わぁ、と感嘆の声を出すのどか。
実に感受性豊かな娘さんだ。

そして特定の人物が写真に写り込んでいると決まって、あっ、と嬉しそうな声を漏らし頬を紅潮させる。
言うまでも無い。スプリングフィールド家の息子さんの写真だ。


「あとで焼き増ししてあげよっか?」

「ふぇ!? あ、あの、あのその、えと……………………ぜひ……」

「おっけー♪ 素直なコにはサービスだよんっ」

「あ、ありがとう……」


振り向きもしないで見透かしたように尋ねてくる和美に慌てふためくのどか。
しかし結局ちゃっかりと注文するのは、やはりのどかが恋する乙女である所以だろうか。

なんやかんやで此度の旅行中に随分と仲良くなった二人なのであった。



一方、残る三人のうちの二人、木乃香と明日菜は互いに顔を見合わせ困ったような表情を見せていた。

「どうしようか」という声が聞こえてきそうなハの字の眉が、木乃香の愛らしい眉間にシワを寄せる。

対する明日菜も、頬をポリポリと掻きながら口角を引き攣らせている。
どうしたもんかと考えるが、木乃香が対応に困ってんのに私が解るワケないじゃん、と思考を放棄。

というのも、今現在、少女二人の眼の前に“異様な光景”が鎮座していることがそもそもの原因。

その原因となっているのは、








ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ
ゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッゴスッ





「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ
 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろわすれろわすれろわすれろわすれろ
 わすれろわすれろわすれろわすれろわすれろわすれろわすれろわすれろ
 わすれろわすれろわすれろわすれろワスレロワスレロワスレロワスレロ
 ワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロ…………――――」




自分らより遅れて大浴場より帰還した少女が、真っ赤な顔して額を壁に打ちつけ続けているからだ。



部屋に戻ってきてからずっとこの調子の刹那。

仕方がない、生まれたままの姿を間近でマジマジと見てしまったのだから。
無理もない、生まれたままの姿を間近でマザマザと見せつけてしまったのだから。

ミラレタ、自分のスベテを。
ミテシマッタ、総統のムスコさんを。

キツツキの霊でも憑依したんじゃないかと思うくらいの勢いで壁にヘッドバットをかまし続ける。
しかも呪詛の如く「忘れろ」と唱え続ける様は、異様を通り越して恐怖さえ感じる物がある。
ヘタに止めでもしたら、今度は自分が壁の役になるんじゃないかと明日菜が思ってしまうのも無理はない話だ。

同室の和美たちが触れてこないのは、『触らぬ神に祟り無し』の精神で見ないようにしているからだ。
おっかなびっくりののどかに「見ちゃいけません」と諭す和美の姿は、さながら姉妹のようだった。


「あのぉ~……刹那さん? そろそろやめといた方がいいんじゃない? おでこヤバいことになってるよ?」

「それ以上はアカンて。せっちゃんのチャームポイントが血塗れになってまうて」

「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………」


頬以上に額が紅に染まりゆく親友をコレ以上見ていられない。
明日菜は意を決して少女に声をかける。木乃香も肩に手を掛けて静止を促す。

だが刹那は周りの声も耳に入らないご様子。



「……仕方あらへん。最終手段や」


 スッ  ← 懐からトンカチを出す音


「せいっ」


 ゴスッ  ← 壁とは違うモノが当たる音


「はぅんっ!? ――――………ハっ、私はなにを……?」


「……アンタ親友にも容赦ないわね」

「親友だからこそ止めなアカン時もあるんよ」


後頭部に奔った衝撃に、ほどなく正気を取り戻した刹那。
木乃香が断腸の思いで振り抜いた鉄槌が、見事親友を負のスパイラルから救出したのだ。

大人しくなった刹那の頭を優しく撫でて手当てする木乃香。されるがままの刹那は少し照れ気味。

子供をあやす母親のように、「痛いの痛いのとんでけー」と古から伝わる呪文を唱える。
彼女の場合、マジで傷が治るから大したものだ。


「すみません、トリ乱してしまいました……」

「何があったん?」

「~~~ッ! ご、ごめんこのちゃん、思い出させんといてっ………!」

「おーよしよし」


京都弁になってるってことは相当テンパってんだなぁ。
それなりに彼女と長い付き合いである明日菜はそう判断した。

羞恥に打ち震え仔犬のように丸くなる刹那と、そんな彼女に胸を貸す聖母のような木乃香。
そんな微笑ましい光景を目の当たりにし、「ホント仲いいなコイツら」と明日菜は思った。

なんか可哀そうだから、追及するのはまた今度にしよう。
明日菜は、面倒な問題を先送りにする技術に磨きをかけることにした。


(仕方ないわねぇ、なんか別の話題でも振ってあげなきゃ……)


なんだかんだで人がイイのが彼女の人間性。
なんでもいいから今の状態を払拭できる話題を考える。


天気の話? もう夜なのにソレはないだろう。

政治の話? 私がそんな難しい話できるワケないじゃん。

流行の話? 悪くはないが、今話すべき事でもないか。

恋愛の話? 朝倉の前でソノ手の話題はやめといた方がいいかな。

秘密の話? だから朝倉の前でそんなこと―――――――


――――……秘密?





“……私は、アスナさんに隠していた事があります”





―――そうだ、秘密の話だ。




(ねえねえ刹那さん)

(はぃ……?)

(さっきのお風呂でさぁ……)

( ビクッ! )


和美の地獄耳に入らないように極力声を抑え、オッドアイの少女は仔犬化している少女に耳打ちする。
『風呂』という単語が地雷なのか、頬の赤みが更に増す。

顔を真っ赤にして震える刹那を見て、ちょっとカワイイな、と思いながら明日菜は続けた。




(“私に隠してた事”って……なに?)










―――震えが、ピタリと止まる。




言った。
確かに言った。

自分には秘密があると。
その秘密を告白すると。

決めたハズだ。踏み出すと。

踏み出して、踏み込んで、近づこうと。

さっき決心したじゃないか。


なのにナンだ。
何故、震えが止まっている?

なのにドウシタ。
何故、また震えそうになっている?


顔に溜まっていた熱が抜けていくのを感じる。

茹っていた思考回路が、急激な温度変化についていかずフリーズを起こす。

熱湯から抜け出した直後に、いきなり冷水をぶっかけられたかのような。
夢の中で遊んでいたときに、叩き起こされ現実に引き戻されたかのような。

そんな感覚が、怒涛の如く刹那の精神を飲み込んでいく。


不安定な心に攻め入るように、一つの感情が忍び寄る。

見ないようにしていた感情が首をもたげる。


“こわい”


恐い。責められるのが。

怖い。避けられるのが。

恐い。怖い。こわい。コワイ。

コワイ、コワイコワイ、コワイコワイコワイコワイコワい――――――――







(せっちゃん)


(――ッ!!)




よく知った声が、数瞬止まっていた刹那の思考を呼び戻す。


視線を上げれば、見知った少女の微笑みがあった。


慈愛に満ちた笑顔で刹那の肩に手を回し、きゅっ、と抱きすくめる。



木乃香は空いた方の手で指を一本立て、己の口元をトントンッと叩いて見せる。

よく見てて。
そう言っているかのように。


けっして口には出さず、唇だけ動かし、


一言。






 だ い じ ょ う ぶ






ただ、それだけ。


少女がしたのは、たったのそれだけ。







―――――ありがと、このちゃん




それでよかった。

それだけで十分だった。


少女の灯火は、ソレだけあれば十分過ぎるほど。

かの少年の灼眼の如く。

紅く、大きく、揺らがずにいられた。




(―――……場所を、変えてもいいですか?)

(え? いいけど……どこに?)

(大浴場にしましょう。あそこなら広さも十分ですし、人目も開けられますから)



先導するように刹那は立ち上がり、和美とのどかに一声かけてから、障子の戸を開く。

部屋に風が吹き抜ける。
冷たく、それでいて心地の良い夜風が刹那を迎えた。

一連のやり取りに少々首を傾げながらも、明日菜は刹那の背中を追いかける。

その後ろを、子を見護る母親のように追従する木乃香。




前に進むことを誓い、少女たちは決意の地へと赴く。





















「さっきの、なんだったのかね?」

「えっと……さぁ…?」


終始蚊帳の外だった和美&のどか。

刹那が壁に突進したと思ったら、木乃香が親友の頭をズコーンとシバいて。
ズコーンとシバいたと思ったら、刹那がいきなり木乃香に抱きついて。
いきなり抱きついたと思ったら、明日菜が呆れるように傍観して。
明日菜が呆れ果てたと思ったら、なにか思いついたように耳打ちして。
なにやら耳打ちしたと思ったら、刹那の様子がおかしくなって。
なんか様子が変だなと思ったら、なんかイチャイチャし始めて。
イチャつきだしたよと思ったら、刹那が清々しい顔して。

そのまま、三人で何処へやらと行ってしまいましたのですよ。

ホントもーワケわかんねーっスヨせんぱーい、とのどかに絡む和美であった。



「あ、さっきの美少女二人のカラミは撮っとくべきだったなぁ。勿体無いことしちゃった」

「そ、そういうのは、本人の許可を得ないとマズイんじゃ……」

「羞恥に震える桜咲なんかはレアだから高値で売れそうだったんだけどなぁ、剣道部の男子とかに」

「う、売っちゃだめですよ!」

「でもミサトくんに止められちゃうかなー………いやまてよ? 逆にミサトくんに売りつけるってのはどう!?」

「いやだから売っちゃ……」

「あー、ダメだ。ミサトくんじゃ写真買う必要ないじゃん。旧知の仲だし」

「あの、だから……」

「だったら普段お目に掛かれないようなセクシーショットならどうよ!?」

「…………もういいです…」

「そうだよね、いいよね! 宮崎の賛同も得られた案なら間違いなしだよ!」

「そっそういう意味じゃないですよぉ! なんでそこだけ聞いてるんですかーー!?」

「アハハハハ、ごめんごめん、ジョークジョーク」


漫才師のような掛け合いを見せる二人。
コンビ名は『のどかな朝』とかでいいんじゃねーの?

珍しく大声を出してしまった恥ずかしがり屋の少女。
やっぱり慣れないツッコミなどするモンじゃないなぁ、と顔を紅くして溜息。

和美の方もわかっていて弄っている感がある。反応してくれるのが面白いのだろう。

というか、のどかさん?
写真を売っちゃダメって言ったけど、自分がネギの写真を貰うのはアリなのかい?

なに? 『恋する乙女に野暮なこと言うんじゃないよ、このスットコドッコイ!』だと?

………それを言われちゃ何も言えないですよ。



「なんてーか、やっぱ宮崎はイジリ甲斐があるね」

「うぅ…ひどい…」

「クラス一の引っ込み思案かと思いきや、その実、愛の為ならとことん大胆になれる。
 実に興味深い娘だよアンタ。今度正式に取材させてくんない?」

「あっ愛!!? そそそそそっそっそそっそんなっああああいあいあいああいああいあああ!!!?」

「あちゃー……やり過ぎたか」




※ 本屋ちゃんの再起動までしばらくお待ちください。





「落ち着いた?」

「す、すみません……」

「や、私も悪かったけどさ」


九割方、和美が悪い。


「でもまぁアレだよね、恋する乙女は強いってホントなんだね。宮崎みてるとよく解るよ」

「あぅ……」

「私も恋しちゃおっかなー」

「え!?」

「でも手近にイイ男のコ居ないしなー」

「えっと、あの……」

「だいじょーぶ、ネギ君は盗らないから」

「そっそうじゃなくてっ」

「ミサトくんは……ありゃダメだ、もうお手付きっぽいし」

「……お手付きじゃなかったら?」

「んー……それでもパス、かな。恐いし。友達としてはイイと思うけど」

「……やっぱり、付き合ってるんでしょうか…?」

「桜咲と? それとも近衛の話?」

「……どっちかといえば……刹那さん、かな」

「案外両方とシッポリしけこんでたりして」

「りょ、りょうほう!?」

「ハーレム造ってるってウワサもあるみたいだし、ありえなくないと思うわ」

「それは…ウワサだけの話だと……」

「そなの?」

「仲はいいけど、くーふぇ達もゆえ達も、そんな感じじゃないですよ」

「ふーん……………てかアンタ、恋バナになった途端グイグイ喰いつくね」

「はぅ!?」

「やっぱ恋に恋するとちおとめは違うねぇ」

「それってイチゴの品種なんじゃ……」

「甘酸っぱいモノって意味なら一緒だよ」

「あ、上手い……」

「素直に感心されると恥ずかしいな……」



『女三人寄れば姦しい』というが、二人だけでも十分盛り上がる。
恋の話なら尚更だ。



しばらく乙女同士のキャッキャウフフな会話が続いた。









「で、でも…そう、ですね…」

「ん?」

「好きな人と、秘密を…共有、できるのは……嬉しい、です…」


途中何度かつっかえながらも、胸の内を語るのどか。

秘密。
すなわち、“裏”。魔法関係の事だ。


「ネギせんせーの従者になって…本の中でしか知らなかった世界にも入れて…………すごく、ドキドキしてるんです」

「……」


魔法。
それは絵本から飛び出したような、まさしくファンタジーな言葉。

そんな幻想の世界に飛び込んだ自分は、さながらウサギを追ってきたアリスのよう。

のどかは、胸踊るドキドキわくわくの物語のヒロインになった気分だった。



しかし、和美は素直に賛同できなかった。

最初こそネギの秘密を握りあわよくば大儲け的なことも考えた。
魔法の存在を知った時も、ちょっと使ってみたいなぁと素直に考えたこともあった。
魔法少女になりたかったワケじゃなかったが、それなりに魔法という言葉には夢があると思っていた。


だが、直面した現実はそんなに甘ったるいものではなかった。

復讐。誘拐。人質。薬漬け。
出てきたのは生々しい単語ばかり。
正直、魔法に出会ったタイミングがアレだった。

そんな極道世界ばかりでは無いということは聞いた。
魔法を使っているだけで、一般人と大差ない生活をしている者が多くいることも聞いた。

だが現実として存在している。それが真実。

ミサトは言った。今の状況は「死ぬかも分からない地雷原」だと。

“裏”の世界とはよく言ったモノだ。
なんでもない日常という“表”のすぐ側で全てが行われている。

不思議な穴に落っこちたアリスというより、塹壕に入り込んだ戦場カメラマンのような気分。
なんともそら恐ろしい世界に飛び込んでしまったというのが、今の和美の感想だ。

もっとも、いまのところ引き返す気なんてさらさらないが。



「……朝倉さん?」

「ん、ああゴメン。あまりのノロケに砂糖吐いてたわ」

「の、のろけ…なの、かな……」



幻想の世界に“幻想”を抱いているのどか。
幻想の世界に“現実”を見出した和美。

せめてココに居る間は、できる限りこの娘を護ろう。

小さくだが、和美は拳を握った。












「そだ、まだ私のケータイ番号もメアドも教えてなかったよね? 貸して、登録したげるから」

「あ…じゃあ、私の番号も……」

「だいじょぶだいじょぶ、もう登録してあるから」

「えっでも、まだ教えてないのに……」

「報道部ナメンな、とだけ言っておこうか」


個人情報保護法はどうした。


「そーしんっ。そして、じゅしーん♪」


慣れた手つきでメニュー00からプロフィールを赤外線に乗せて飛ばす。
のどかから受け取った携帯電話を操作して電話帳を開く。ちゃんと登録できたか確認のためだ。


「よしオッケー、登録完了っと。お、ゆえっちの真上だ。当たり前だけど」


電話帳の「あ行」の欄に表示された『朝倉 和美』の文字を確認できて満足そうに頷く和美。






――――ちょうど、その時だった。





 コンコン



障子戸から音がする。
入室の許可を求めるノック。


「あいてるよー」


和美が入室を軽く許可。

しかし、許可されたにもかかわらず入って来る様子はない。
不審に思いながらもう一度声をかけるが、やはり入って来ない。


どうしたんだろうと顔を見合わせる二人。

荷物で両手が塞がっていて開けられないのかな?
そう考えたのどかは、正座を解いて立ち上がり、戸の前まで移動。障子の取っ手に手をかける。


のどかが戸を開く直前、和美はふとこんなことを感じた。


―――なんか変じゃないか、と。


戸の向こうに居るのが明日菜たちなら、ノックせずとも勝手に入って来るだろう。
仮に手が塞がっていたとしても、三人もいるのだから誰か手の空いている奴がいるはずだ。

住込みの女中さんの可能性も低い。
声をかければ何かしらリアクションするだろうし、それ以前に「失礼します」とか言いそうなモノだ。


それだけじゃない。静か過ぎやしないか。

息遣いが聞こえないだけなら、まだわからないでもない。
だが、戸の向こうに居るはずのヒトの気配すらも感じないなんてことあるだろうか。
それに、先程まで遠くの方から聞こえていた微かな足音さえも無くなっている。


開けるのちょっと待った――――そう言おうとしたが、声を出す前に戸は開かれてしまう。


そこには確かに、敷居を挟んで佇んでいる人物がいた。

だが、のどかにはその人物に見覚えがない。

のどかは尋ねた。


「………えっ、と、アナタは………?」









「―――君にはご退場を願おうか、読心術師さん」




人形のような眼をした白い髪の少年が、その矛先を目前の少女に向けた。




―――【石の息吹】



生気を奪う灰色の煙が放たれ――――――






――――その直前、のどかの華奢な身体は後方へと吹き飛んだ。


否、吹き飛んだのではない。
襟首を掴まれ、力の限り引っ張られたのだ。

一体誰に?


決まっている――――――和美しかいない。


一度シネマ村で白の少年の姿を見ていた和美。
その姿を視認した瞬間、のどかよりも早く起動を果たし、脊髄反射的に行動を起こした。

腕力に自信があった訳ではないが、そんな言い訳している場合ではない。
体重移動をフルに用いて、のどかを思い切り後方へ投げ飛ばす。


こうしてのどかは、石化煙の魔の手から逃れることができた。






代償として、のどかと位置が入れ換わった和美が犠牲になることによって。




煙に触れた指先から急速に石化が進行する。

硬化した手から二人分の携帯電話が零れ落ち、石と化した足に当たり畳を転がる。


和美の身体は一般人のソレと変わらない。
魔法に耐性を持たない彼女が完全に石化するまで一秒とかからない。

だが和美には、その進行スピードがやたらとスローに感じた。



―――うわっなにコレ、コレってアレ? もしかして走馬灯ってヤツ?


わたわたと慌てふためきたいが、もう手足は固まってしまった。




石となりゆく自分に向かって声を上げる友人の姿が眼に入る。



―――早く逃げな宮崎、この朝倉さんがここまでカラダ張ったんだからさ。


自分の名を叫ぶ少女にそう言いたいが、もう喉まで固まってしまった。




動くことが叶わない自分の横を、白の少年が悠然とすり抜ける。



―――まいったねこりゃ、これじゃ宮崎を護ることもできないや。


そうやって苦笑したいが、もう頬まで固まってしまった。






頭頂部まで完全に石と化す直前。


脳裏を過ったのは、灼眼の少年の台詞。








“何かしてやりたいって言うんなら、自分の身を放り出す以外のことにしろ”













―――ごめんねミサトくん――――約束、破っちゃった―――


















床を転がる携帯のイルミネーションだけが、部屋で唯一 色の付いた存在となった。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今回はかなり早く書けました。どうも私です。

怒りの鉄拳どころかミサト出てきてねーじゃん(笑泣

次回予告詐欺とか言わないで。こちとらノープランであとがき書いてるんです。



のどかと朝倉のやり取りを書いていて思いました。


「なんか佐天さんと初春みたいになっちゃた」と。



シリアスが続きそうで気が滅入ります。

ギャグ書くつもりでこの作品書き始めたのに。どうなってんだ。


次回も続くよ、修学旅行。








[15173] 漆黒の翼 #37
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:66f70dd5
Date: 2011/09/29 23:01
 カッポーーーンっ



―――という擬音でお馴染みの大浴場。


明日菜を引き連れ再び風呂場までやって来た刹那。その傍らには木乃香が佇む。

サイドテールの少女は胸に手を当て、浅い呼吸を複数回繰り返し気を落ち着けている。

己の正体を明かす不安もあったが、本当の姿を受け入れてもらいたい―――本当の意味で友となって欲しい、そんな期待が心を占める。


「……それで? なんなのよ秘密って?」


そんな友人の改まった態度にしびれを切らし、ツインテールの少女は催促するように話を切りだした。
先の騒動から話を引っ張られたせいか、随分とソワソワしている。
『秘密を打ち明けられる』といシチュエーションがなんとなくこそばゆいのだ。

刹那の対面、明日菜の後ろに立つ木乃香は、両の手をグッと握り締め「せっちゃんファイト!」と声を出さずに応援。
その微笑ましい姿が、刹那にとってなによりのカンフル剤であった。



いよいよ決戦の時。



「――アスナさん」

「はっはい! なんでしょう!」



明日菜、なぜか敬語。



「私は…、私は本当は…――――」









   ――――― バギンッ ―――――







「――――ッッ!!!?」



突如、凄まじい悪寒が刹那を襲った。


粟立つ四肢が危険を訴える。
鍛え抜かれた第六感が警報を発している。


言い知れない不穏な空気が大浴場を―――


―――違う。大浴場だけじゃない。


計り知れない妖気が、この総本山全体を覆い尽くしている。



――――まさかッ!?





本能的に親友を抱き寄せ、庇うように背に隠す。


鞘から夕凪を引き抜き、臨戦態勢へ。
切っ先を大浴場の出入り口に向け、正眼の構えを取った。


「ちょっ…え、なに? どうしたのイキナリ?」

「アスナさんっアーティファクトを……! このちゃんは私から離れないで……ッ!」

「せっちゃん、それって……」

「嫌な気配が近づいています……おそらく、賊です…ッ!」

「そんなっ親書渡して一件落着のハズじゃ………ッ、まだこのかを狙って!?」

「強行策に出たのでしょう、まさか本山の結界を抜けてくるとは…一体どうやって……!」


刹那の言葉を受け、明日菜もまた木乃香に背にし『守り』の体勢に入る。

顕現の呪文と共にヒカリを放ち、カードからアーティファクトへ変貌。

正面出入り口を見張る刹那に対し、明日菜は裏口を睨みハリセンを握りしめる。
これで侵入経路は塞がれたハズだ。




「すみませんアスナさん、話はまた後で…!」

「あーもぅっ、話の腰折るヤツばっかりッ!」




――――どうやら、今日はとびっきりの厄日のようだ。























「――――――………ウソ、だろ……仮にも総本山の結界だぞ……!?」



山林の獣道を全速力で駆け抜け帰還した俺の眼に飛び込んできた、驚愕の光景。


破られている。
呪術協会の誇る大結界が、完全にその機能を失っている。

ハッタリなんかじゃなかった。
予告通り。あの白ガキは最大の障害を、容易く突破したのだ。


うろたえている場合ではない。立ち止まっている暇など俺にはない。

一分も無駄にできない。
一秒が運命を決める。
一瞬の隙が命取り。

最高速度を保ったまま大門をくぐり抜け、本山の敷地に飛び込む。


場を支配していたのは、異様な静寂。

出掛けに感じた、穏やかな静けさとは違う。

それとは対比、まるで真逆。


殺伐とした、生気の感じられない無音。


嫌な予感しかしない。
背中のジットリとした汗が、忍び寄る怖気を加速させた。


「先に向かう!! テメーはネギ呼んで来いッ!!」

「ガッテンだ!!」


『離れ』にいるネギをカモに任せ、一直線に女どものいる母屋へ。

灯篭をいくつか撥ね飛ばした気もするが、そんなことに構っていられない。



母屋に飛び込み、足音を置き去りにする勢いで廊下を走り抜ける。

寝室があるのは、中庭に面した客間。

正確な距離はわからない。
でも短くはない事だけは感覚が知っている。

広く入り組んだ屋敷をこれほど恨んだのは初めてだった。



中庭舞い散る桜さえも、今は不安を煽る兆しにしか見えない。

長い長い中廊下を超え、客間へと続く縁側へと抜け出る。



――――客間は――――奥から、三つ目の部屋ッ!






「お―――――――」



オマエら無事か―――――そう言おうとした。





両腕を広げた少女が、俺を出迎えた。



だがソレは歓迎の意ではなく、



背後の友を護り抜こうとする、少女の決死の姿だった。




「―――――おそかった………ッ!!!」



部屋の隅に追い詰められ、落とした仮契約カードを拾おうと手を伸ばした姿で硬化するノドカ。

ノドカに指一本触れさせて堪るかと、仁王立ちで行く手を阻もうとするカズミ。


温もりはすでになく、瞳孔に光もない。

血色の好かった肌も、冷たい灰色となり。

ただソコに存在しているだけの、物言わざる二体の石像。




「……………さっさと逃げろって言ったじゃねぇか…………っ!」




 ドゴンッッ!!!




「バカヤロォが………ッッ!!」




吐き出しようのない憤りを乗せた拳が、石の壁に叩き付けられた。









「ミサトさーーーんっ!!」

「兄貴連れてきたッスよ!! こりゃマジでヤベェぜ!!」


カモの緊急要請を受けたネギが、一足遅れて駆けつける。


「―――なっ、あっ朝倉さんが、石に!!?」

「本屋の嬢ちゃんまで……!! チクショウっ一足遅かったか!!」

「ど、どうしよう、みんなが……!!」

「落ち着け兄貴! 石化してるだけなら命の危険はねえハズだ!
 むしろワザワザ石化してるってことは、堅気を巻き込むつもりはないって意味!
 全部片付いたら長のオッサンか兄さんに解いてもらう、コレでどうにかできる!」

「そうかもしれないけど……!」


そうだ、まだ望みはある。

サウザンドマスターの呪いさえ蹴散らした俺の解呪魔法ならあるいは――――



――――違う。そうじゃない、そういうことじゃない。


そんなんじゃ感情が収まらない。


手を掛けた。
俺のトモダチに。

牙を向けた。
ノドカを護ろうとしたカズミに。

踏みにじった。
カズミの決死の想いを。


ハラワタが煮えくりかえるとは今のような気持ちを言うのだろう。

もはやまともな思考状態を保つのも困難だ。

一体俺は今どんな顔をしているのだろうか。


―――俺は、一体ナニヲシテイルンダロウカ。




「このかさん達は? 皆さん、一緒にいたハズじゃ…?」


ネギの一言にハッと我に返る。

そうだ、今は項垂れている場合ではない。
不幸中の幸いと云うべきか、まだ誰も命を落としてはいない。まだ間に合う。

なすべきことをしろ。

今、なすべきなのは―――




≪―――――総統、聞こえる?≫




―――ッ! 念話か!

ポケットのカードを引き抜き、額に押し当てる。


「コノカ、無事か!? 今何処にいる!?」

≪大浴場や。せっちゃんが、なんや変な感じがするから、連絡せぇって………≫


ああ、大当たりだよチキショウ……ッ!


「結界が破られた! 敵は一人――――シネマ村にいた白いガキだ!
 アスナも一緒だな!? 絶対二人から離れンなよ!! 俺達もすぐ向かう!!」

≪わっわかったえ!≫



連絡終了と同時に【来たれ】の呪文を唱え、カードからボウガンへと形状を変える。

手甲状態なら走る時に邪魔にならない。咄嗟の迎撃にも対応している。悪くない選択のハズだ。



「コノカたちは大浴場だ、急ぐぞ!」

「はい!」
「オウさ!」




気を引き締め風呂場に向かい走り出そうとした、その時。





「み、海里君……ネギ、君………」



――――廊下の角から、ある人物が姿を現した。



絶句。


一行は眼を疑った。

信じられない。

近衛詠春が、西の長が、かつての英雄が――――



―――――息を荒げ、石と化した下半身を引き摺っていた。



「詠春、さん…!!」
「長さんッ!?」

「申し訳ない……本山の結界を過信し、不意を突かれ…この様です……」


詠春は苦しそうに眉を歪める。

進行する石化に、全力でレジストしているのだろう。


「……平和な時代に、精神が鈍るとは……かつてのサウザンドマスターの盟友が、情けない…」


だが石の浸蝕は止まらず、少しずつ上半身へと忍び寄る。

完全に硬化するのも、もはや時間の問題。



「あの白ガキっざけやがって……!!」



友を踏み躙られた。

親友を奪い去ろうとしている。

その上、今度は恩人に凶刃を向けられた。


白の少年への怒りが、憤りが、すべての激情がグチャグチャに荒れ狂う。



「ミサトさんっ浄化魔法をッ!! 今ならまだ間に合いま―――ッ!!?」


ネギが必死にミサトに訴えかける。

助けなければ。
倒れゆく眼の前の者を救わなければ。
己が目指す【魔法使い】として、それは正しい想いのハズだった。

だが、その直訴を掌を突き出して真っ向から否定し遮る者がネギの眼の前に現れた。



「……見誤っては、なりません」


誰であろう、今まさに石にならんとしている本人―――詠春だった。


「長さん、なにを……!?」

「私は…レジスト、に力を使い、果たし、て、しまい…ました……
 今ここで…老兵が、一人増えても、戦力は望め…ません。足手纏いに…なるだけ、です…」

「でも…!!」

「戦場で選択を誤った者に……道は、ありません。私は、選択を誤った……」

「そんな……」

「察するに……君たちは、白い髪の少年に遭い…生き残ったのでしょう…?
 ならば、君たちには…活路がある。その、活路を……棒に振っては、なりません……」



―――なすべきことをなせ。

それが長の命だった。



「……了解しました」

「ッ! ミサトさん!?」



赤毛の少年の非難の声を意に介さないように、灼眼の少年は黙って命令を承諾した。



「……あとは、頼…み……ま………―――――――」



最後の抵抗も空しく、英雄はその姿を冷たい石へと変貌させた。




ネギは文句しかなさそうな表情でキッとミサトを睨む。


「なんでですか!? 長さんを助けられたかもしれないのに、どうして……ッ!?」

「……俺の浄化魔法で確実に解呪できる保証はない。エヴァさんの時みたいに弾かれる可能性もある。戦力にならない奴の為に魔力を無駄打ちするわけにはいかねーんだよ」

「無駄って……そんな言い方……!」

「……無駄話してる時間も惜しいんだ。早く合流するぞ」



言う事は言った、と言いたげに背を向け駆けだす灼眼の少年。
その後を追うようにネギ少年も翔ける。

納得できなかった。
ミサトは詠春を実親同然にしたっていたハズなのに、何故あんな冷たい態度がとれるのか。

ネギは前を走る少年に視線を向け、非難するように口を開こうとした。


「…ッ!」


その時、視界に移ったのは肌が白くなるくらいに握りしめられた少年の拳。

血管が浮き出るほどに力まれたその拳は打ち震え、一筋の紅い雫が滴っていた。



「……っ」


ネギは彼に非難の言葉が言えなくなっていた。



















一分も掛けることなく邸宅内を駆け抜け、勢いそのまま風呂場の入口へと滑りこむ。



「無事か!?」
「皆さん大丈夫ですか!?」

「「総統!!」」
「ネギ!!」


「オレっちもいるぜ!!」というカモの発言は無視して、ようやく大浴場に到着。
なんとか白ガキに出くわす前に合流できた。

大浴場の入り口には数枚の呪符が張り付けたあった。
おそらくセツナが設置した簡易的な気配阻害結界だろう。大した効果は無いが、多少の時間稼ぎにはなったハズだ。

俺達の姿を確認した三人は、緊張状態だった顔面筋を僅かばかり緩ませる。
アスナにいたっては冷や汗が洪水状態だったため、かなり安堵したようだ。



「ずっと空気が張り詰めててしんどかったわ…………朝倉たちは?」

「……石にされてしまいました」

「い、石!? ウソでしょ!?」

「……詠春さんもやられちまった」

「長が!?」

「そんな……お父さまが……」

「落ち込んでる暇はねぇぜ姐さん方。こっちの戦力はココにいる兄貴達だけ、しかも相手は強敵ときてやがる。やることは一つだ、早いトコ援軍を要請した方がいいぜ」

「カモの言う通りだ。ネギ、学園長に連絡を――――」




瞬間、ナニカが俺達の背後に出現する気配を感じた。




「「「フンッッ!!!」」」



三人―――俺とセツナとアスナ―――が、全く同時に裏拳を振り抜いた。




「―――今日は驚かされてばかりだ。まるで訓練された戦士のようだよ、カグラザカアスナ。素人とは思えない反応速度だ」



拳は空を斬ったが、ソイツは確かにそこにいた。
反射的にバックステップをとってかわしたんだろう。



「気配が読み難くなってたから見つけるまで時間が掛かったよ」

「マヌケがっ、おかげで俺らは合流出来たぜ?」

「そのおかげで僕も標的を発見できたよ」



口の減らない白髪の小僧が、陶磁器のような無表情でコチラを見ていた。



「……オマエが、みんなを石にしたのか……?」

「だったらどうするんだい、ネギ・スプリングフィールド」

「ッ、なんでこんな酷いことを! 許さないぞ!!」

「戦う気かい?」

「っ!!」



ハッタリではなく、この白ガキは間違いなく強い。
数手交えただけだが、障壁も体捌きも一級品だった。
実戦経験の浅いネギには荷が重い相手であることは確かだ。

俺とセツナのツープラトンでなんとかなるだろうか。いずれにしろそれくらいしか手は無い。


「……アスナ、コノカの傍についてろ」

「うっ、うん」


コノカを背に隠し、湯船と挟みあうようにアスナがハリセンを構え立ち塞がる。
俺とセツナがその一歩前に。ネギはその中間地点に立つ。

万全とはいえないが、出来る限りの布陣のつもりだった。


だがそれは甘かったんだ。



「ひゃあああッ!!」



突如、背後の湯船の中から飛び出した化生。シネマ村で俺が吹っ飛ばした式神だった。

その両の手がコノカの身を拘束。あっと言う間の出来事だった。


「しまっ――――!?」


揃って背後に注意を反らしたのがまずかった。

その隙を見逃してくれるはずもなく、瞬間的に間を詰められた前衛二人は白髪の少年の拳と蹴りによって左右に弾き飛ばされる。

ピンボールもかくや、という動きで浴室の床と壁面を跳ね、二人揃って桶の山に突っ込む。


「がっ!!」
「く…ぁ……!」

「刹那さん、ミサトさん!!」


ネギの声が遠くに聞こえる。後頭部を強く打ったせいか。


「コラァ! このかを返しなさーい!!」


ヴァーリ ヴァンダナ―――【水妖陣】


コノカを奪還すべく跳びかかったアスナに対し、白髪の少年は淡々と言霊を紡ぎ水術を発動。

何本もの触手のような水手がアスナを捉え、そのままくすぐりに掛ける。

……一種の拷問術だろうか。


「うひゃあ!? お湯がのびて……ちょっ、変なとこさ触んないでっあはははははははっ!!」

「……おかしいな、こんな術だったかな? ………まぁいいや、行ってルビカンテ」


ルビカンテと呼ばれた角の折れた式は、主人の命に忠実に、コノカの身を抱いて空へと飛び立つ。

唯一攻撃を受けていないネギが魔法の矢で撃ち落とそうと構えるが、人質ごと撃ち落とすことはできず躊躇。

その隙に憎き化生は闇へと消えていった。


歯噛みした。
意識はハッキリしているのに肉体が命令通りに動かない。
これほど己が不甲斐ないと感じたことは無かった。




「よくも……よくも皆をっ!!」


ネギの矛先は白髪の少年に向けられる。

だが幾ら睨みつけられても、白い敵は表情一つ変えず―――


「やめておいた方がいい、キミじゃ僕には勝てない」

「……っ!!」

「さて……そろそろ僕はいくよ。あまり待たせても悪いしね―――」



―――陶磁器のような無表情の少年は、飛び散った水たまりを媒介に転移した。








「兄さん姐さん、大丈夫ですかィ!?」

「へい、き、です……ゲホ…!」

「ざけやがって…あのクソガキ……っ!!」

「ヒー…ヒー…ごめん…ヒー…このか、連れてかれ…ヒー…ちゃった……!」

「アスナのせいじゃない、俺も甘かったんだ。あといいから息を整えろ」

「僕も…なにもできなかった……」

「ありゃ相手が悪いッスよ兄貴」


ネギが俺たちに簡易的な治療魔法を掛けてくれたおかげで、早々に態勢は元に戻った。

カモの言う通り、アイツは真正面から俺らの地力だけで勝てるほど甘い相手じゃなさそうだ。


「とにかく一刻の猶予もありません、早くこのちゃんの救出に向かいましょう!」

「ネギ、走りながらでいいから学園長に連絡してくれ!」

「わかりました、急ぎましょう!」

「ちょっちょっとまって! 浴衣じゃ動きづらいから着替えさせて!」

「姐さん早く!!」




待ってろコノカ、すぐに助けてやる―――!!

















「でかしたで新入り! これでウチらの勝ちは決まったも同然や!」

「ムー!! ムグー!!」


暗闇の森に、女の高笑いと少女のくぐもった声が響く。

待ち合わせ場所であるこの渓流沿いの岩場にて、天ヶ崎千草は目当ての人質を前に笑いが止まらなかった。

どんな手を使って護衛の少年たちや本山の結界を出し抜いたのかは知った事ではない。
眼の前には手足を縛られ口も塞がれた近衛木乃香。その身は己が猿鬼がしかと拘束している。

勝ったのだ。掴んだのだ。悲願は、今まさに果たされようとしているのだ。


「お嬢様さえ手に入れればこっちのモンや……あとはお嬢様を連れて“あの場所”へ連れていけばウチの勝ち……!!
 もう誰にも邪魔させへん……ウチのシアワセ奪った奴らも、あの舐め腐った小僧も、まとめて全部ぶっ壊したる!!」


狂気に駆られた亡者のように、女は眼を血走らせ嗤う。
チカラを手に入れ、全てを破壊しつくすことばかりが頭を支配している。

復讐など一過程にすぎない―――そんな女は復讐者として、もはや五流以下だった。


白い少年はその様子を、心底つまらない物を見る眼で眺めていた。




「さぁて、そろそろ『祭壇』に向かうとし………」

「―――そこまでだ!!」

「……あぁ?」


現れたのは四人の戦士達。
姫を救いに敵に立ち向かう勇者御一行。


「天ヶ崎千草ッ!! お嬢様を、このちゃんを放せッ!!」

「すでに援軍を要請した! 明日の朝には応援が来る! とっとと投降しろクソアマッ!!」


怒り心頭の様相で前に出でる護衛の少年と少女。
二日前に京都駅で対峙した時を遥かに上回る怒気が、双方の肩からマグマの如く溢れる。


だが今宵の天ヶ崎千草は怯んだりなどしない。
復讐を悉く阻まれ、長年の野望完遂を邪魔され、世間を知らない子供如きに恐怖させられた。

怒りが、憤りが、屈辱が、女の精神を歪に強固にしていた。


「ハッ! そう簡単に降伏するくらいなら最初から動いたりせんわっ! 援軍が何ぼのモンや、“あの場所”に辿り着ければこっちのモンやクソボケがぁ!!」


黙って佇んでいれば間違いなく「美人」と形容されるであろうその顔を狂気に歪め、千草は吐き捨てるように嘲笑う。
己が絶対的有利を確信し精神を昂らせ、尚且つ邪魔立てさせてなるものかと有らん限りの敵意を眼の前の子供たちに浴びせかける。

『復讐者の道』を踏み外した『外道』は、ある一枚の呪符を懐より抜き出し、人質の少女の喉下に張り付けた。


「何しやがる気だ……!?」

「……ガキが調子くれんのもここまでや、アンタらにもお嬢様のチカラの一端みせたるわ」


手に入れた宝を見せびらかすように諸手を広げ、女は渓流の澄んだ水面に降り立つ。



 オン――――


呪詛の始動。
木乃香の身体は痙攣を起こし、同時に目映い光を放つ陣が少女を中心に展開される。



  キリ キリ ヴァジャラ ウーンハッタ――――


水面に描かれたのは召喚陣。
輝きを発するソレから顕現するのは、ヒト以上の力を持つ異形。
それも一体やそこらではない。瞬く間に二体、五体、十体、三十体と増え続ける。

陣の光が終息を見せだした時には、辺り一面が人外の集団で埋め尽くされていた。


「ちょっ、ちょっとーー!? こんなのありなのーー!?」

「木乃香姐さんの魔力使って手当たり次第に召喚してやがる……!」

「軽く100体以上いるよ!?」

「こんなモン序の口だ。コノカのチカラはこの程度のモンじゃねーよ」

「ですが、それでもこの数は……」




「アンタらはここで鬼どもと遊んでなはれや」

「チィ……ッ!」


多勢に無勢。四面楚歌。状況を文字で表せばこんなところだろうか。
勇者と姫との間には人海戦術という壁が時を掛けずして生み出されてしまったのだ。


嘲る様に見下した表情を浮かべる呪符使いの女。


「まっ、一応命まではとらんよぉ言ぅとくけど……―――」


完全なる優位を誇示するため、余裕ある態度で無いに等しい慈悲を呟く。

その視線は、赤毛の少年、ツインテールの少女と移り―――剣客の少女と紅眼の少年にて止まる。

白く細い人指し指を向け、異形の集団に命を下す。



「―――そこの護衛の黒髪二人は別や。殺してもかまへんで」


その言葉を聞き歓喜する妖怪達。

千草は口角を釣り上げニタニタと笑みを零した。


「ウチを馬鹿にした罰や。残念やったなぁ小僧」

「下衆め……っ!」
「……テメェは正真正銘の“小物”だな」

「フン、小物かどうかよぉ見とれ。ウチは手に入れるんや、ウチに楯突く奴を黙らせる絶対的チカラを!!」



耳障りな高笑いと共に、千草は式神と白い少年を引き連れ闇夜の森へと姿を眩ませた。











「アイツ、最っ低ね……! 逆恨みもいいトコじゃないの!」

「だがこの状況はマズイぜ! とにかく作戦考える時間が欲しい、兄貴っ頼む!!」

「わかった、やってみる!」


ネギ少年は背丈以上ある杖を構え速攻で呪文を唱える。

誘うは風の精。敵を阻む強固なる壁。


ラス テル マ スキル マギステル 逆巻け 春の嵐 我らに風の加護を――― 【風花・旋風風障壁】!!


詠唱完了と同時に巻き起る旋風。
その渦は瞬く間に勇者一行を囲み巨大な竜巻を形成する。
これで身動きはしばらく取れなくなったが、一種の安全地帯を生み出せた。


「ネギ、これって!?」

「風の障壁です! 2,3分しか持ちませんけど!!」

「それだけありゃ充分さね! 早いトコ作戦を考えるんだ! 率直に言うと今はかなりマズイ状態ッス!!」


周りは百を超える妖怪。
関西の応援も関東の援軍もすぐには当てに出来ない。
引率の魔法先生達は一般生徒の守りの任務があるため動けない。
エヴァンジェリンのケータイに電話したら「電源が入っていない」ときた。
邪魔が入らないようにしているのだろう。今頃、御座敷で豪遊しているに違いない。

確かに状況は芳しくない。傍から見たら手詰まりだ。


その状況の中で、紅眼の少年は数秒俯き考えた後、顔を上げ相棒に視線を向ける。
相棒たる刹那もまた少年に目を向けており、数瞬、視線が交錯した。


二人は同時に頷き、口を開いた。



「俺ら二人がここに残って足止めする」
「ネギ先生とアスナさんは救出に向かって下さい」

「「なっ!?」」


この場のメインターゲット二人が足止めを申し出たのだ。


「なにいってんのアンタたち!? おサル女が言ってたこと聞いてなかったの!?」

「御二人がいの一番に狙われるんだぜ!? 殺されちまうッスよ!!」

「危険すぎますよ!」

「異形達は、殺しても構わない私達二人を優先的に襲ってきます。裏を返せば、私達さえこの場に残れば奴らはここを動かない。足止めとしてはコレ以上ない条件です」

「いやそうかもしれなぇけど……!」

「俺らが救出に向かえば妨害がデカくなるだけだ。どの道ここに残るしかねーんだよ」

「う……」


筋は通っている。負担は大きいが反論できる内容ではない。
素人に毛が生えた程度の経験しかないネギとアスナに、ベテラン二人の意見を覆せる案が出せるはずもなく、言葉が詰まる。


「心配には及びませんよ、妖怪退治は神鳴流の本分ですから」

「俺も慣れっこさ。そうじゃなきゃ神鳴の相方は務まんねぇよ」

「……わかった、兄さん方を信じるぜ! 救出役は兄貴、アスナの姐さんは兄さん達とここに残って足止めを頼むッス!」

「えっ私も!? でもネギ一人じゃ……」

「いや、今回の最優先目的は木乃香姐さんの奪還―――つまり無理に闘う必要はねぇってこった!
 兄貴一人なら杖でトップスピードが出せる。その勢いで人質を奪取、その後兄さん達と合流、何かあってもアスナ姐さんを召喚できるって寸法よォ!!」

「……確かに理には適ってるな」

「できれば刹那姐さん、あと兄さんも兄貴と仮契約してくれりゃ一緒に召喚できて助かるんスけど!」

「却下だ」

「いやっ打算とかじゃないッスよ!?」

「わぁってるよ。だが必要ない」

「でも何かあったら……!」

「心配すんな。鬼ども片付けたら、俺ら二人は“飛んで”いくからよ」

「ッ!! ――――…そうですね、すぐに“翔け”つけますので安心してください」

「……しかたねぇ、お二人を信用しやす! 頼んますよォ!!」


微妙に異なるニュアンスを聴き分ける暇はもう無くなっていた。
ネギの造り出した風障壁が少しずつ弱体し始めたのだ。


「もうすぐ障壁が解けるよ!」

「よっしゃ兄貴、ドデカイのブチかまして道をつくるんだ!!」


持久戦を控えるミサト達は体力を温存し、現パーティ最大魔力量を誇るネギが大技を繰り出す準備に入る。

狙うは一直線。姫奪還への最短ルート。


「ネギ、そのままでいい。動くな」


詠唱段階に入る直前、ネギは額に布を巻かれる感触を覚える。

ミサトが自身の頭に装備していたバンダナを解き、杖を構える背後からネギの額に巻きつけたのだ。

【堅牢】のバンダナ。対石化用の切り札である。


「これって……」

「白ガキの石化術はこれで無効にできる。無いよりマシだろ」


詠唱前の集中状態の為、ミサトの表情を窺う事はネギにはできない。

ただ、その声はいつも通りの不遜なようにも聞こえたし、なんだか震えているようにも感じられた。


紅眼の少年は、赤毛の少年の肩に手を置き、小さく、強く―――呟いた。





「……コノカを、頼む」



「っ! ――――はい!!」




障壁が霧散する――――――!




――― 【雷の暴風】ッ!!



豪ッ!! という効果音と共に撃ち出される旋風と轟雷の大嵐。
巨大レーザー砲のような火力に巻き込まれた正面数十体の妖怪達は戦う前に帰還する。

轟音の収まりを待たず、肩にカモを引き連れた赤毛の少年は地煙を突き抜け、闇広がる森の奥地へ翔ける。


額のバンダナをはためかせ、ネギは杖を強く握った。





―――――待っていてください、このかさん!!




















「ご主人さまからお許しが出たでぇ?」

「運が悪かったのぉ、おまんらの人生はここで幕切れや」

「簡単にくたばってくれるなよォ小僧。ワッシらを十分楽しませてくれや」

「オイは娘っ子の方を頂こうかのォ。あの年頃の悲鳴は格別音色がいいけぇ」



下衆な笑いを浮かべ得物を舐める鬼。
ニタニタとこれからの皮算用を立てる烏族。
久しぶりに真っ赤な血を見れると狂喜する狗族。

それぞれの眼光が、二人の黒髪をどう料理しようか舌舐めずりをする。

メインに狙われていない明日菜でさえ、そのおぞましさに身の毛がよだっている。
膝は笑いっぱなしだが、それでも尻尾を巻いて逃げるという選択肢は頭に無かった。

そして当のメインターゲット二人は、柄を握り、拳を握り、調子の最終確認をしている。

二人は同時に深く息を吐き、緊張に震える少女へ、にこやかに声を掛けた。



「アスナは無理に大物と戦わなくていい。目に付いた雑魚を片っ端から引っ叩いてくれ」

「わっわかった、やってみる……!」

「主な狙いは私達二人ですから、ある意味ここはアスナさんにとって安全地帯です。恐れる事はありません」

「そんな呑気な……」

「ヤバくなったらフォローに入るさ。ただ、それまでは――――」




その表情が一変する。



友人に向ける表情は剥がれ落ち。



抑えつけていた『怒り』がその姿を現す。




「―――それまでは、あまり俺らに近づくな」
「巻き込まれますから離れていてください」


「りょ、りょーかい……」




対なる般若がそこにいた。












ソソクサとその場から離れ、雑魚そうな妖怪が密集する地域に向かう明日菜を尻目に、二人の戦士は戦場の中心へゆっくりと歩を進める。

わざわざ羊が狩られに来たと喜ぶ鬼達。
飛び掛かる準備は万端、いつでも狩りを開始できる。



すると餌たる羊の一匹がスッと手を伸ばし、左手の指を二本立てた。

はてな? と疑問視する鬼達。


羊は構わず口を開く。





「――――選択肢をくれてやる」




二本の指は、鬼達の未来を示す。


その未来とは。





「ネズミのように逃げ果せるか、この場で死ぬか―――どちらか選びな」





一瞬ポカンとする鬼達。


だが次の瞬間には堰を切ったように大笑いを始める。

なるほど、コレは驚いた。
この状況で餌の羊如きが、とっておきのギャグを披露してくれた。


ならば答えてやらねばなるまい。


鬼のうちの二体が行動で答えた。




「「おまんらが死ねェ!!」」


鋭く生え揃った牙を剥き出しにし、巨躯な鬼は羊に咬みかかる。






瞬間―――ナニカが喉元を駆けた。




なんだ、と考える間に、いつの間にか空を見ている事に気が付く。

いや、空を見ているというより景色が回転して――――――






――――鬼は首と胴体が死に分かれていた。







羊の手に握られていたのは、身の丈ほどもある戦斧。
羊の手に握られていたのは、身の丈ほどもある野太刀。


その一振で数多の雄を屠り、血に飢え渇きを嫌う殺戮の凶刃。
その一閃で幾多の魔を断ち、血と共に千戦を生き抜いた活刃。



銘を、咬みつく悪魔―――――【ディアボリックファング】
銘を、駆逐する静寂―――――【夕凪】






「悪いが冗談言う気分じゃねェ。こちとらハラワタ煮えくりかえってんだよ」

「私達は最高最悪に虫の居所が悪いんだ。爪を起て牙を剥くというのなら――――」









――――――微塵に砕ける覚悟はイイか?







「ハ、ハッタリや! 本気でかかりゃワイらの敵やない!!」

「せや、所詮は狩られる羊! 捕食される末路は覆らんぞっ!!」

「いてこましたれやァッッ!!」





奮起し襲いかかる鬼、狗、烏。


否、ソレは奮起などでは無い。


羊に劣るはず無いという驕り。
羊に負けることなど無いという過信。
羊に感じた恐怖を認めたくないという逃避。





だが、鬼達は一つ見落としていた。



彼らは人畜無害なだけの羊などでは無いという事を。




彼らこそ、護る者のため得物を振り上げる狩人だったという事を。





大地に眠る破壊のチカラ。


天空に轟く神鳴のヒカリ。




背中合わせの両翼が、抗えぬ天災を呼び起こす―――――――――!!









「破滅の【グランバニッシュ】ッッ!!!」
「神鳴流奥義【極大雷鳴剣】ッッ!!!」










――――八つ当たりと云う名の狩りが始まった。



































「……嬢ちゃんの連れ、エライおっかないのぉ」

「いや、普段はやさしいのよ? 今はこのか助けなきゃだから怒髪天というか……」

「まぁ、オラたちは別に殺し合いしたいワケや無いから安心してや」

「ワイらはワイらで気楽にやりまひょか」

「気楽にやってる場合でもないんだけど……まぁいいわ、とりあえず―――えいっ」

「うわーやられたー」




―――――あっちと温度差があり過ぎた。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



姉の結婚が決まり、一抹の寂しさを覚えます。どうも私です。

長いこと放置してすみません。やっとこさ更新です。

いやぁ筆が進まないのなんのって、ホント参っちゃいますよね(泣

そのくせチラシの裏に思いつきのネタ書いたりしてね(笑

……ごめんなさいネ、ほんと(土下座



修学旅行篇、もちっとだけ続くんじゃ。





[15173] 漆黒の翼 #38
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:66f70dd5
Date: 2011/09/29 23:22

 ―――半刻前 麻帆良・学園長室―――





「……弱った。手の空いている者がおらん」


京都にいる特使ネギから電話を受けたのはつい先ほどの事。

電話口から語られた現状に近右衛門は驚愕を露わにした。

西の本山の結界崩壊。
英雄サムライマスター詠春の敗北。
謎の白髪の少年。その底知れない実力。
そして、孫娘・木乃香の安否。

まさかここまでの強硬手段を撃ってくるとは。

一刻も早く現地に援軍を送らなければマズイ。

あの地には封印された大鬼神がいる。
もし木乃香のチカラを利用され復活させられでもすれば、京の都は火に沈むことになる。

だが、学園長の手元には援軍として送れそう戦力が絶対的に不足していた。


「高畑君は出張中、エヴァも連絡が取れんし……マズイことになったの………」


頼りの二人は当てに出来ない。
学園長はその長い頭を雑巾のように絞り思索する。


現地にすぐに向かえ、裏の事情に精通し、且つ実力が確かな、そんな人材は―――――




「……っ! そうじゃ、まだ彼女がおったぞぃ!!」



すぐさまダイヤルを回し、件の人物へ依頼する。




「……おぉ、ワシじゃ。旅行中スマンな、いや緊急事態での―――――――」



















―――京都。暗闇に臨む森の上空において、ネギ少年と使い魔カモミールは一心不乱に杖を疾らせていた。

自動車並みの速度を誇る自慢の杖に魔力と云う燃料を注ぎ込み、助けを待つ姫君がいるであろう伏魔殿を目指す。


遥か前方に見えるは広大な湖。
昼間に見れば澄み切った清水を拝めただろう。だが今宵においては水面は闇夜を映しだし、あたかも奈落への入口のようにも見える。
その光景が使い魔カモの焦りを加速させ、少年ネギの杖も相乗するように速度を増す。


そんな焦りを嘲笑うかのように、風を切って飛ぶネギらの視界前方に前触れ無く光の柱が立ち昇った。


「奴さん、何かおっ始めやがったッスね」

「あそこにこのかさんが……」


発信源は湖の畔。
淡い光は少女の魔力の奔流。しかし色は淡くとも、その質は濃く厚い。
並の魔力量では無い。極東一の大魔力が、何かを導くかのように天へと伸び続ける。



「むぅっ!? この強力な魔力……儀式召喚魔法か!? 何かデケェモン喚び出す気だぜ!! 急げ兄貴!!」


魔力の気質を感じ取ることにおいてカモは優秀である。

封じられた何かを呼び起こさんとする魔力の圧。深き眠りから目覚めようとする強大な気配。
カモの体毛の一本一本が、危機を知らせるエマージェンシーコールをガンガン鳴り響かせていた。


使い魔カモの発破により、杖を握り締める力が増すネギ。
それの呼応するように加速する杖。既にトップスピードは優に超えている。それでも限界以上の性能を叩きだす。



「―――見えた! このかさん!!」


光柱の真っ只中、儀式の中心部たる湖の祭壇。

傍らには二つの影。しかしそんなモノは眼中にない。
ネギの視線の先は儀式の核―――横たえられ少女、木乃香に絞られていた。


まだ間に合う。絶対に間に合わせる。


その想いがネギに底知れぬ力と――――――――焦りと隙を創らせた。





 ドン!! ドドン!!



「ッ!?」



背後からの轟音。同時に吹き出る魔の気配。
カタパルトから発射された戦闘機のような勢いで、森の中から黒い影が跳び出してきた。


(―――狗神!?)


影の正体は四体の狗。実体を持たない獣がネギの後方を猛追する。

焦りと隙、そして既視感のある光景に、ネギの脳髄は対応の遅れを余儀なくされた。


「…っ、風楯 ――――――うわッ!?」


時すでに遅く、防ぐ間もなく少年と獣は空中衝突。
直撃ダメージはそれ程でもなかったが衝突の勢いは殺し切れず、少年は空を翔ける杖から放り出される。

その身体は、肩に乗る使い魔ごと真っ逆さまに森の木々の元へと吸い込まれていった。



「く……っ、杖よ――― 風よ!


だが空を飛ぶことに掛けては一日の長があるネギ。空中のアクシデントは初めてではない。
すぐさま信頼する魔杖を手繰り寄せ、風の加護を纏い態勢を整え見事に着地を決める。

この歳にして素晴らしい反射神経だが、称賛してくれる人間はここにはおらず。

ここにいたのは―――――――





「―――よぉ、昼ぶりやなぁネギ」


「コ……コタロー、君……!?」

(……ヤッベェ、最悪のタイミングだ……!!)



――――獲物を前に牙を磨く狼の姿だった。
























――――同じ頃。渓流の水辺・鬼の戦場。



百を超える鬼達。
その生贄として放り込まれた二匹の羊。


ボロ雑巾のように甚振り尽くす。
叩けば血の出る暇つぶしの玩具。
一方的な殺戮。抗う事さえ赦されない暴力。


鬼達は、血沸き肉躍る羊のスプラッタショーを信じて疑っていなかった。





だが、違った。
コイツらはスケープゴートなどではなかったのだ。








「ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



得物を縦横無尽に振り回し、触れる物全てを破壊しつくさんとする咆哮。

風の如く、光の如く、過ぎ去れば跡に残るのは何も無い。


無双。
この現状を一言で表すのならば、この言葉以外にないだろう。




灼熱の【バァァアアンストライクゥゥウウ】ッ!!


激しさを増す爆音。
虚空より出でた無数の火炎弾が、無差別に妖魔を焼き喰らっていく。



【斬魔剣―――“旋刄”】ッ!!


鋭さを増す瞬刃。
魔を断つ光の如き剣閃は、周囲360度の魑魅魍魎を一瞬に斬り捨てる。



『鬼気迫る』とか『鬼神の如き』とか云う言葉は、眼の前の光景の為にあるだろう。

召喚された鬼のうちの一体は、他人事のようにそう考え――――次の瞬間には還されていた。


既に還された魍魎は過半数を超えている。
だがその減少の勢いは留まるところを知らず、一体、また一体、もう二体、まとめて三体と消滅。
連鎖は止まらない。



「轢き裂けェッ!!!」


灼眼の少年は多大なる氣を込めた破壊斧を剛速球投手のごとく振りかぶり、水気の残る大地に得物を叩き込む。

瞬間、衝撃が爆ぜるように大地を蹂躙する。


【殺・魔神剣】―――地を這う悪魔の斬撃は断末魔さえ与えず、直線上の魔を根こそぎ屠り去った。



「「「ジャァアア!!」」」


攻撃後の硬直を狙い三体の鬼が背後から牙を剥く。
その後方にも第二陣が配備され、少年の前方にも第三陣が早くも組まれようとしている。

確実に仕留める為の策。
それ自体は間違っていない。

が、それは彼一人だけを相手取った場合の話だ。


少年は重鈍な斧を光粒子に変換。腕に纏わせ、垂直に高々と跳躍。

その元居た場所に、刃を煌かせた少女が間髪いれずに跳び込んだ。



「秘剣――――【百烈桜華斬】ッ!!


目にも留まらぬ抜刀。
舞い散る幾層の花弁を刃とし、周囲の二陣三陣ごと三体の妖魔を斬り伏せる。

だがまだ終わっていない。
虎視眈々と襲撃の機を待ち、木々の葉に身を隠していた烏天狗四体が突撃を仕掛けた。

位置は前後左右の斜。狙いは少女――――しかし甘い!


【鬼隼】!!


光粒子をボウガンへと変貌させた少年が放つ計12の魔法矢。
キリモミしながらの全方向空中乱射に対応しきれず。
眉間を射抜かれ消滅、両翼を貫き落下、脇腹と左肩を掠め躊躇、右眼に突き刺さり絶叫。

残る三体も【斬空閃】の連発で全て討ち取ってしまった。

自由落下する少年は態勢を立て直し、少女のすぐ後ろに脚から着地。
再び背中合わせの状態に戻る。



たった二人で殺気全開の妖魔を相手取るミサトと刹那。

全力で捻じ伏せ斬り伏せ続けているのだから疲労は並ではない。
それこそ肩で息をしていても何らおかしくない状態のハズだ。


だが二人は止まらない。
互いに背中を預け、大きく息を吐き出し――――続行の構えを取る。



取り囲む妖怪の軍勢は、動けない。



「……どうした、来ねェのか?」

「時間稼ぎのつもりか……?」


時間稼ぎの為に囲んでいる訳ではない。

飛び掛かった次の瞬間にはもう斬り捨てられ、一歩でも踏み込もうモノなら衝撃波が襲いかかる。
迂闊に跳び込めず、隙を窺うもソレが隙になり倒され、結果として取り囲むように動きが膠着する。




(ひ…怯むんやないっ! 相手は小童<こわっぱ>が二人、叩き潰すんや!!)

(この惨状見てまだそんなこと言ぅとんのか!?)

(ムリやムリ! アッチの方がホンマモンの鬼やで!!)

(恐っ覇<こわっぱ>やで!!)

(誰がウマイこと言えと……!)




要するにビビっているのだ。鬼が。子供相手に。







「……其方が来ないのなら――――」


顕現させる匕首。
柄飾りの付いたその姿がブレて、飾りの無い十五口の分身体が中空に現れる。

呼応するように少年は右腕を突き出し、足場を固め構える。
同時に分身刀の一つが飛翔し、突き出た右腕の発射台にその身を収めた。



―――――纏え稲妻。



刹那の念に応じ、カタパルトにセットされた匕首がバチバチと放電を開始する。



「――――コッチから仕掛けるまでだッ!!」


動力を与えられたボウガンが光輝く。



疾風と稲妻の協奏。

天を裂き、音を置き去りにする瞬光――――――!!







「「翔けよ雷――――【ヴォルテックライン】ッ!!」」




轟音を散らす光の砲撃が、敵勢力の一団を吹き飛ばす。

今日何度目かも分からない悲鳴、絶叫、断末魔。






――――後に、この場に召喚されていた河童は語った。




自分たちなどカワイイ悪戯妖怪に過ぎない。



彼らこそが正真正銘『戦場の鬼』。



奴らは“二騎当千”―――――『二体で一体のバケモノ』だったと。












「……ホンマ、わてアッチの担当やのぉてよかったわ」

「隙あり!」

「あひんっ」



河童、帰還。


明日菜、現在の撃退数―――15。























「どいてよコタロー君! 今は君と戦っている暇は無いんだ!!」

「ハっ、嫌やな! そないにつれないこと言うなやッ!!」


木乃香救出に向かうネギの前に立ちはだかる黒衣の少年、犬上小太郎。
正体は半妖。人間と狗族とのハーフ。そして無類の戦闘馬鹿。

その顔には笑み。ムカつくほどに無邪気なニヤけた表情が浮かんでいる。


ネギは覚えたての拙い肉体強化―――自身への【契約執行】を用いてくぐり抜けようと力むが、小太郎少年はそれを良しとしない。
元々肉体派の彼を身体能力のみで振り切れるハズも無く、ことごとくその拳で阻まれる。

ただでさえ明日菜への【契約執行】で魔力は流れ出ているのに、自分への魔力供給も加われば疲労は加速度的に増していく。


いたずらに時を潰し、眼の前の魔力の光柱は輝く強さを増していく。
儀式完了までもう時間は残されていない。


ネギは抱いている純粋な思いを眼の前の少年にぶつける。


「コタロー君なんで!? どうしてあのおサルのお姉さんの味方をするの!? あの人は僕の友達を攫ってひどいことを――――!」

「ンなモン関係あらへんわいッ!!」

「な……っ!?」

「千草の姉ちゃんが何やろうが知らんわ。俺はただイケ好かん西洋魔術師と戦いとぅて手ぇ貸しただけや!」


帰ってきた答えもまた、ある種の純粋な思い。

より強い相手と戦いたい。
気に食わない奴をぶっ飛ばしたい。
己の拳ひとつでとことん勝負してみたい。


「……けど、その甲斐あったわ―――――ネギ、お前に会えたんやからなッ!!
 俺は嬉しいんや! 同じ歳で俺と互角に戦えた奴はお前が初めてやったからなァ!!」


少年は、自分を更なる高みに連れて行ってくれる好敵手を求めていた。

ようやく見つけたライバルを前に、狗の血を引く少年は歓喜に打ち震えた。



「さぁ――――思う存分戦おうや、ネギ!!」



彼の興味は唯一つ。
ネギと自分、どちらの全力が上なのか。ソレだけだった。



だがネギがその誘いに応じることは許されない。
目の前に、今まさに、とてつもない危機が訪れようとしている。

悪い事は止めなきゃ。友達を助けなきゃ。

幼い心は、眼の前の純粋な意思を糾弾するように否定した。



「そんな………なら後で試合でも何でもするよ! 何もこんな時に……!」

「ざけんなや!! “こんな時に”やと? ちゃうで、“こんな時だからこそ”や!!」


小太郎の眼光はネギを捉えて離さない。

逃がしてなるものか。
そんな果てしない戦闘意欲が少年の本能を昂らせていた。


「俺にはわかるで。この騒ぎが終われば、オマエは絶対戦わへん。
 いや……仮に戦ったととしても本気やない。本気以下の生ヌルイ『ごっこ対決』や。

 俺の望みは、本気中の本気――――限界以上のッ! 全力の『死闘』なんやッ!!

ソレが出来るんは、“今”!! “この場所”をおいて他にあらへん!!

 さぁネギ……戦おうや!

 今ここで! この状況で!! この場所で!!!」



湧き上がる高揚。
騒ぎ立てる狗族の血。
待ち望んだ同等の存在への渇望。

それらすべてが犬上小太郎の倫理観を上回っていた。


カモは、いつの間にかネギの足を止めていることに今更ながら気が付いた。

逃がす気の無い小太郎の気迫。その圧力に、ネギの中の“何か”が傾く。

このままではマズイ。
カモはネギの襟をグイグイ引っ張り叱咤する。



「兄貴っ挑発に乗るな!! コイツを出し抜きゃまだ見込みは……!!」

「ここを通るには俺を倒すしか道は無い! モチロン俺は譲る気なんかサラサラ無いで!
 どないするネギ、全力で俺を倒せば間に合うかも知れんで!?」


カモの言葉を遮るように再び小太郎が発破をかける。
黒衣の少年の放つ単語の一つ一つに、ネギの中の“何か”は反応する。



―――……道は無い……時間が無い………なら…全力で……倒せばいい……―――



多方面から考える事を苦手とするネギ。その元々狭い視野が更に狭くなっていく。



「どないした、まさか臆病風に吹かれたんちゃうやろなぁ? やっぱ西洋魔術師は揃いも揃って腰ぬけかいな!?」



腰抜け。臆病。
違う、そんなこと無い。
僕は腰抜けじゃない――――西洋魔術師は―――父さんは――――――!!




もはやカモの言葉は響かない。



「来いやネギ―――――“男”やろッ!!!」



それがトドメ。


ネギの中の“何か”――――『負けず嫌いの子供心』は、目前の敵をロックオンした。



肩のカモの首根っこを掴み地面へと降ろし、その足を一歩、前に踏みしめる。

空気を感じ取った小太郎は、歓喜に満ちた表情で我流の構えを取る。



「ちょっ、ちょい待て兄貴? 待って、待っ、兄貴!?」




熱せられた鉄塊は自身の重みで歪み垂れる。




「……大丈夫だよカモ君――――――1分で終わらせる」



その瞳には、友もカモも、何も映っていなかった。







(ああぁあああぁぁああ!!? どうするどうするどうしよう!? マズイ、マズ過ぎる!!
 なんやかんや言って兄貴はまだ子供―――元来の頑固さと負けず嫌いが悪い方向へ出ちまったァ……!!)



ネギに勝算など無い。いや違う、勝つことしか頭にない。

勝つために闘う。採算度外視。
それこそ、魔力尽き果てるまでぶつかり合うだろう。

そうなれば今度こそ本当に終わりだ。



(ダメだッ、ここで戦ったらアウト……どう転んでもこのか姐さんは…………!!
 くぅっ……だ、誰か! 誰か、この場をなんとかできる奴はっ! 兄貴を止められる御人はいねぇのか!?)



右を見る。誰も居ない。
左を見る。木しかない。
後ろはどうだ。望みは薄い。


「ようやくその気か、ネギ」

「……すぐに終わらせるよ」



そして前。睨みあう子供が二人。




(……もう、ダメなのか……!!?)







  ――――望みは――――







「魔術師は、臆病者じゃないから」







  ――――断たれる―――――








(……誰か……兄貴を、兄貴を止めてくれるヒトは―――――――!!)











「ハッ、そんなだっさいバンダナしとったらカッコつかへんなぁ」






―――――ッ!!!

















『兄さん、コレで最後、もう一度だけ詫びさせてくれ。本当にすまなかったッス』

『二度とするなよ』

『おうとも! 漢カモミール、同じ愚行は繰り返さねえ!! 誓うぜ、兄さん!!』

『調子のいいヤローだなぁオメーは』

『ソレが売りッスから!』

















  ―――――望みは、まだある―――――




「いくぞ!!」




  ―――――『止めてくれるヒト』はいなくとも―――――




「来い!!」







――――――――『止めるべきオコジョ』はここにいる!!






走る! 奔る!! 疾る!!! 最大加速――――!!!!


渾身の力を振り絞り――――!!





「目ェ覚ませバカ兄貴ィィイイイイ!!!!」




――――ネギの尻目掛け、キリモミ回転で頭から突っ込んだ!!




「ひぐァッ!!!?」



命名「オコジョロケット」。
別名「ものっそいカンチョー」。

肉体強化中のネギを力技で止めるには、ピンポイント爆撃のこの方法しかなかった。

人生であげた事の無い悲鳴を漏らし、ネギは尻を抑えて蹲る。
衝突の衝撃で脳震盪を起こし鼻血をダラダラ流すカモだったが、湧きだすアドレナリンで転倒を何とかこらえる。

そして小太郎は目の前の素っ頓狂な寸劇に目を白黒させ、ハッとしたように非難を浴びせかけた。


「なんや仲間割れかいな……真剣勝負に水差すなや!」


ようやく痛みから回復したネギは荒くなった息を抑え、戦犯カモをキッと睨む。

今、やっとその瞳にカモの姿が映し出された。



「何するんだよカモ君!! 今はふざけてる場合じゃ……!」



ネギは言葉が詰まった。

そこにいたのは、カモであってカモじゃない、しかしてやはりそれはカモ。

普段の他人に媚びた小物は存在せず、決死の覚悟で奮い立った小心者が黒衣の少年と対峙していた。


「ふざげでんの゛は兄貴の゛方だろ゛ッ!!」

「ぼ、僕はふざけてなんか……!」


鼻血を撒き散らし、足元もおぼつかない状態でカモは言い放つ。
鼻息でムリヤリ鼻血を吐き出し口元を拭い、カモは絶叫に近い糾弾を続ける。


「このか姐さんの身がヤベェって時に犬っころと遊んでる場合かよ!!」

「だから!! そのためにもコタロー君を倒して!!」

「戦う必要ねぇだろ!! 出し抜くだけならやりようはいくらでもあるだろうよ!!」


先程の竜巻風障壁で閉じ込めるも、眼晦ましで怯ませるも、成功するか解らないがやってみる価値はあった。
だがネギは小太郎の挑発に乗り闘う道を選んだ。それこそ愚行に他ならない。


「でも、これは“男”同士の勝負なんだよ!!」

「違う、バカにされたままじゃ悔しいから噛みついてるだけだろ! 単なる子供のケンカだ!」

「子供のケンカって……! これはそんなんじゃ……――――!」




「―――なら、兄貴の頭に巻いてんのは何だよ!!」



前を向いたまま、カモは声を張り上げる。

その言葉にネギはハッとする。
小太郎がそれを貶した事さえ反応できぬほど、さっきまでのネギは直情的だった。


ネギは額に巻かれたソレ――――ミサトのバンダナに指を這わせ俯く。



「あの場に残った兄さんが……どんな想いで兄貴にそのバンダナ託したのか解ってんスか!!?」



ネギにバンダナを託したあの時、カモはしかと見ていた。

声だけは平静を装いながらも、憤りと不甲斐なさに打ち震えたミサトの姿を。



言わなければならない。

自身で正せない間違いは、周りが正すしかない。




「友達を石にされて一番悔しいのは誰だよ!
 親同然の恩人を眼の前で石にされて一番悔しいのは誰だよ!!
 大事な親友を攫われてっ! それでも助けに向かえなくて一番悔しい思いしてんのは誰だと思ってんだよ!!?」




解っている。これは自分が言っていい言葉じゃない。

彼の友人を巻き込んだのは他でも無いこのオコジョ風情だ。

間違いを犯し、いろんな人に迷惑を掛けた。




「刹那の姐さんだってそうだ! 本当は誰よりも早くこのか姐さんの元に向かいたかっただろうよ!!
 誰よりも早くこのか姐さんを助けたいだろうよ! あのムカツク白髪頭とサル女をブッ飛ばしてやりたいだろうよ!!」




だが今言わなければネギは歪んだまま固まってしまう。

なら、自分が言わねばなるまい。

固まり切ってしまう前に。
鉄を叩き込んで真っ直ぐにするために。




「それでもっ! 兄さんも姐さんも、自分のなすべき最善を考えてあの場に残った!
 全部抑え込んで兄貴にバンダナを―――その“想い”を託したんだ!! 兄貴はそれに応える義務があんじゃねぇのか!?」




間違いを正す。
叩いてでも真っ直ぐに。




「それなのに……それを託された兄貴は、こんな所で一体何やってんだよッ!!
 義務も想いも全部ほっぽり投げて決闘ごっこかよ!! それが“男”のやる事なのかよ!!」




そして送り届ける。
託されたモノを、どんなことがあっても。


それが、それだけが――――――







「大局を見ろ! 大義を見失うな!! 兄貴の――――ネギ=スプリンフィールドの戦場はここじゃねェだろッ!!!」





――――それだけが、間違いを犯した馬鹿野郎が通せる筋だった。







「生意気な口きいてすまねぇ………

 ―――………けどオレっちにも! 兄貴の使い魔として、一匹の“漢”として、託されたモンを届ける義務がある!!」



脳震盪とは違う理由で震える膝を掴みあげ、カモは再び一歩前へと躍り出る。



「やい犬畜生!! テメェ如きに兄貴の手は煩わせねー!!

 こ、こここの、ア、アルベール・カモミール様が、あああああ相手になってやらァッ!!!」


見上げるほどに体格の違う狗の少年に小さな指を突き付け、カモミールは一世一代の啖呵を切った。


「ざけんなやっ! ネズミ潰したかてなんも面白ないわい! 引っ込んどれッ!!」

「うるへー! げっ歯類ナメんじゃねーぞワン公!
 その気になりゃーなぁ、テメーのズボンの裾から潜り込んでタマキン噛み千切ることくらい出来んだぜ!?」


小太郎の顔が引き攣る。腰が若干引き気味に、そして気持ち内股になった。

もちろんカモだってやりたくない。死んでも御免である。
だが、それくらいの覚悟がなければこの少年を相手取ることなんてできやしない。



「……あとは任せたぜ、兄貴」

「カモ君ムチャだよ!」

「無茶でも何でもやるんだよ! 兄貴はこのか姐さんの所へ行くんだ!!」

「カモ君!!」





――――散らば諸共 真の空に 咲かせてみせよう 漢道<オコジョウェイ>――――






「かかって―――――こいやぁああああああああああああああ!!!!」




アルベール・カモミール、決死の特攻―――――――!!










「ふんっ」

「あべしっ!!?」

「カモくーーーーーーーん!!?」



―――あっけなくはたき落とされた。





「何がしたいねんコイツ………まあえぇわ、ネギ、今度こそ――――」










  パァンッ!!






「――――へ?」




―――――何か、強い衝撃が小太郎の額を貫いた。

黒衣の少年の身体が大きく仰け反る。
そのまま両足も大地を離れ―――――



「ぐはァっ!?」


――――2メートル後方まで吹き飛び仰向けに倒れ込んだ。


呆然とするネギ。そしてカモ。

乾いた音が響いたと思ったら眼前の少年が倒れ伏した。
何が何だか分からない。何が起きたのだろうか。



「もしかして、カモ君が……?」

「ぅえぇ!? オレっちは何も………ハッ!?
 まさかオレっち、秘められた勇気の魂が覚醒して賢者の能力が目覚めたのか!?」










「なかなかイイ啖呵だったよ。オコジョにしておくのが勿体無いくらいだ」




背後から届く落ち着き払った女性の声。

一人と一匹は未だ闇覆う森の中を凝視する。


現れたのは、褐色の肌を持つエキゾチックな美女。
モデル以上のスタイルと上背、闇夜のような艶めく黒のロングヘアー。

スナイパーライフルを片手に不敵な微笑を浮かべる凄腕銃士。
その名を、



「た、龍宮さん!?」

「なかなかピンチらしいじゃないか。助っ人にきたよ、ネギ先生」



麻帆良学園女子中等部3-A、出席番号18番―――龍宮真名。



「な、なんでここに!? ていうかソレ鉄砲!? ああああのえと、これはその魔法とかそういうのじゃなくて…!!」

「慌てなくてもいい、私も“関係者”だよ」

「はひ?」


咄嗟に誤魔化そうとするネギを冷静に窘めるクールビューティー真名。
想定外の登場、想定外のチャカ、想定外の真実に一気にテンパるネギだったが、一応は魔法を誤魔化そうとしたその姿勢は褒めてあげたい。


「今回は学園長からの依頼だがね、刹那や一に免じて格安で引き受けてあげたよ」

「お金摂るんですか……」

「傭兵だからね」

「こういうのをデキル女っていうんだなぁ」

「褒めてくれてありがとうオコジョ君」



照れるでもなく称賛を受け流し、天に伸びゆく光柱に目を向ける真名。
その魔眼は、正確に儀式完了までのタイムリミットを読み取る。


「もう時間が無い。早く近衛の所へ」

「でもコタロー君は……」


さっきからピクリともしない狗の少年を気にするネギ。


「後処理は私がしておく。大丈夫だ、死んではいないから」


真名は人差し指をスッと伸ばし、ネギの頬に当て、進行方向へと顔を向けてやる。


「さぁ行くんだネギ先生。大義を見失うな、だろ?」

「っ! ハイ、ありがとうございます!!」

「礼ならそのオコジョ君に言ってあげるといい」





「行こうカモ君……ごめんね、ありがとう」

「……その言葉で救われまさぁ!」


多大なる感謝を使い魔に捧げ、ネギは再び大地を蹴り飛翔する。



―――――熱した鉄塊は直ぐに叩き延ばされ、未熟ながらも刀剣の体を現し始めた。

















ネギが飛び立って数十秒後。
仰向けに倒れ込んでいた小太郎の眼が開く。

が、それ以上の動作はできない。


「な……なんやこれ……!? 動かれへん……どないなっとんねん…!?」

「術式を込めた弾丸だからな、悪いがしばらくは動けないぞ」


着弾と同時に破裂し術式をブチ込む魔弾。
妖の血を引く少年には非常によく効いたようだ。



「こなくそぉ……!! ネギぃ、決着はまだ付いとらんでぇ……!!」

「呆れた戦闘狂だな」

「クッソォ……やっとライバルに巡り合えたと思ぉたのに……!! 恨むで色黒ねーちゃん……!」

「私も仕事だからね」

「動け俺のカラダァ……!! 根性見せぇや……!!」

「ふむ、なんだか少し不憫だな」

「同情するなら術解かんかい!!」

「よし、ではこうしよう。知り合いにイイ感じに闘いに餓えてる奴が二人程居るんだがな、ソイツらを紹介してやろう」

「俺はネギがいいんや!」

「贅沢を言うな。私が無料でサービスするなんて滅多にないんだぞ?」

「知らんわそんなん!!」

「多分“刹那達の所に居る”はずだ。連れて行ってやろう」

「ぐふぇっ!! ちょ、コラ! 襟を持つな!! 首締まるやろがっ!!」

「礼は要らんぞ? 私も行くついでだ」

「話聴かんかい色黒ォ!!!」





褐色娘はデカイ荷物を携え、“自分の後を勝手についてきた友人達”の元へと向かった。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まさかのスーパーオコジョタイム。どうも私です。

ちょっとやっちまった感はあったんですが、これは外したくなかったんです。

#36の朝倉もそうですが、『ダメだった奴をダメなまま終わらせたくない』というコンセプトとでも言いましょうか。

まぁ千草みたいにとことんまで小物化しちゃったキャラもいるんですが。



……やっちまったかなぁ。




修学旅行篇、一体いつ終わるんだろう。







[15173] 取得称号集
Name: purepeace◆ca24e8cd ID:2f59ba9c
Date: 2011/09/24 18:23
「取得した称号が知りたい」との意見をいただき、こんなん作ってみました。

本編中には記されなかった称号など掲載します。ちょこちょこ更新予定です。

これから少しずつ増えていくと思うので、軽い気持ちで見て頂ければ幸いです。

基本的には、ミサトやコノセツなどの主要人物の称号を載せる場所です。
が、「○○の称号が見たい」との意見があれば、もしかしたら反映される……かも?
ムチャぶりは勘弁です。



















<一 海里>


【選ばれた者】
   神成るモノに選ばれし不運な存在。ヒトは、それをテンプレと呼ぶ。

 取得条件:初期取得済み




【半妖の少年】
   何の因果か半人半妖。宿りし妖血がもたらすのは、災いか、それとも……

 取得条件:初期取得済み




【そーとー】
   三人だけの秘密結社。黒き翼は勇気の象徴。俺がリーダーだ!

 取得条件:イベント『結成・秘密結社』を見る




【“幻魔天翔流”戦士】
   この世に一人の少数流派。免許皆伝は自己申告で。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【理不尽に抗う理不尽】
   不条理に対抗したければ、それを超える不条理をぶつけてやればいい。毒を喰らわば皿まで。

 取得条件:イベント『初めての仮契約』を見る




【鋭い眼光】
   ギラリと閃く三白眼。睨まれたら最後、鷹の眼からは逃れられない。

 取得条件:【電光石火流し目】を使用する




【雇われ傭兵】
   何は無くとも金は要り用。ボランティア? 何それおいしいの?

 取得条件:ストーリーで自動取得




【オオトリブラック】
   平和な学園は(金次第で)俺達が守る! ふたりはトリキュア、トリブラック!

 取得条件:イベント『東の初仕事』を見る




【不幸者<シアワセモノ>】
   辛いこともあった。哀しい事も経験した。でも、今ココに居る場所は、そう捨てたモンじゃないでしょう?

 取得条件:サブイベント『フツウを求める少女』を見る




【閃きシェフ】
   普通に作っちゃつまらない。独創性こそが俺のモットー。料理は勝負だ!

 取得条件:誰かに手料理をふるまう




【新術開発者?】
   詠唱・条件・形態、どれをとっても見知らぬ魔法。天は、彼に何を与えたのか。

 取得条件:イベント『【闇の福音】との邂逅』を見る




【図書館部の新入部員】
   麻帆良の英知が詰まった図書館を探る精鋭部隊。でも読むのはマンガ専門。

 取得条件:サブイベント『図書館島見学』を見る




【臨時講師】
   中学レベルの問題ならお手の物。でも気を抜いてると、高校で痛い目見るぞ。

 取得条件:サブイベント『真夏の宿題講座』を見る




【散財男】
   働けども働けども……いや、金はあるよ? 無駄遣いが嫌いなだけ。俺はお前らの財布じゃないっての。

 取得条件:サブイベント『正月 in 龍宮神社』を見た後、イベント『来日・英雄の息子』を見る




【リア充】
   いつも女子に囲まれてる噂のアイツ。「みんな友達」だ? うるせぇ爆発しろ。

 取得条件:一定人数の少女と知り合った状態でバレンタインデーを迎える




【soul full ギタリスト】
   【凛々の明星】のリードギター。男のシャウトを見せてやる、俺の歌を聴けぇ!!

 取得条件:サブイベント『結成【凛々の明星】』を見る




【マーボーカレー大好き君】
   カレーが語りかけます。ウマい、ウマすぎる!

 取得条件:マーボーカレーを作る




【人形士<パペッター>】
   物言わぬ人形に命を吹き込む、それはまさに匠の伎。なんということでしょう。

 取得条件:〔トクナガ〕を使用する




【シモネタリア】
   中学男子を舐めちゃいかん、どんなものでもシモに直結。なんつー馬鹿魔力……悔しい、でも(ry  ビクンビクン!

 取得条件:サブイベント『男子の会話』を見る




【技の求道者】
   奥義を極めし者、その先に秘めたる奥義あり。俺はまだまだ強くなれる。

 取得条件:イベント『秘奥義特訓 in 別荘』を見る




【憑依合体・筋肉ダルマ】
   おふざけは許さない、怒りの斧が彼奴を断じる。理不尽の化身、ぶるぁっと参上。

 取得条件:イベント『地下遺跡の勉強会』を見る




【アンチホラー】
   たとえこの身が妖<あやかし>だども、取憑かれちゃあ手も足も出ない。幽霊って言うな! オバケって言え! 怖すぎるから!

 取得条件:誰かとホラー映画を見る




【魂の決闘者<デュエリスト>】
   巷で流行りのカードゲーム。勝利よりロマンをリスペクトするため、BFは使わない。自慢のごった煮デッキで、ずっと俺のターンッ!

 取得条件:誰かとデュエルする




【闇の福音の従者】
   吸血鬼と交わした禁断の契約。コレでアナタも悪の仲間入り。ぼーやには刺激が強すぎたか?

 取得条件:イベント『【登校地獄】解呪』を見る




【エヴァの友人】
   ……まぁ、多少は認めてやってもいい。だが私の友を名乗るなら、もっとシャンとしろ。
   ケケケ、ゴ主人モ丸クナッタモンダゼ。
             by エヴァ&チャチャゼロ

 取得条件:イベント『【登校地獄】解呪』を見る




【机上の協力者】
   推測の中に登場する影の存在。その存在の真偽は、当事者のみが知っている。

 取得条件:イベント『学園長からの呼び出し』を見る




【フォロまえ みさフォロー】
   学園長から直々に頼まれた子供先生の助役。今日も明日も上へ下へのフォロー。もはや名前の原型が無い。

 取得条件:イベント『学園長からの呼び出し』を見る




【西のスパイ?】
   西と繋がりを持つ者。裏切りの序曲が、疑心暗鬼を駆り立てる……

 取得条件:ストーリーで自動取得




【協奏の戦士】
   魂を木霊させ、信じる仲間と響き合う。奏でる交響曲は強く、そして美しい。

 取得条件:ユニゾンアタックを使用する




【犯罪予備軍?】
   A.俺は何もしてない!
   B.あーはいはい、最初はみんなそー言うんよ。で、自分ナニしとったん? 正直に言うてみ?
   A.だーかーらー!!    (以下エンドレス)

 取得条件:ストーリーで自動取得




【激昂者】
   誰しもが持つ「怒り」の感情、その琴線は様々。彼の場合は……

 取得条件:イベント『激昂者』を見る




【ツンデラー】
   普段はツンツン、時々デレデレ。ギャップ萌えが、アイツの心を鷲掴み。 「いや、俺そんなんじゃねえし……」 ハイハイ、ツンデレツンデレ。

 取得条件:四人以上の者にデレを指摘される




【スケベ大魔王】
   脈々と受け継がれる不名誉な称号。故意でも不意でもラッキーでも、女からすりゃ皆同じ。この変態! ドスケベランド!!

 取得条件:サブイベント『本山の大浴場』を見る




【イマジンブレイカー?】
   一つだけ答えろ! テメェは木乃香を助けたいんじゃねぇのかよ!?

     ―――以下略―――
   
   いいぜ、そんな石化ビームで総統を止められると思ってんなら―――――とりあえず白ガキをブチ殺すッ!!!
   
 取得条件:状態異常を無効化する









<桜咲 刹那>


【幼馴染 その1】
   幼き日を共に過ごした信頼する存在。友情の誓いは、今なお健在。

 取得条件:初期取得済み




【半妖の忌子】
   白きその身は異端の存在。疎まれ、罵られ、蔑まれ―――……さりとて、彼女は前を向く。手を伸ばす者が、ココに居る限り。

 取得条件:初期取得済み




【しゅにん】
   三人だけの秘密結社。白き翼は決意の証明。………しゅにん、です。

 取得条件:イベント『結成・秘密結社』を見る




【テンパリスト】
   自己主張はちょっと苦手。やんちゃな少年と天然な少女に振りまわされ、今日も目が回る。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【“京都神鳴流”剣士】
   神鳴りを冠する雷光の剣士。悠久の紫電を刃に宿し、戦地に舞うは夜桜の如し。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【翼ある剣士】
   神風を白翼に纏い、蒼天より降り立つ銀<しろがね>の天使。その正体は、守護を司る気高き戦乙女。

 取得条件:イベント『初めての仮契約』を見る




【純白の血統】
   異端とされた白き羽根は、底知れない潜在能力の証。今なら胸を張って言える、「私の“白”は、大切なヒトを守れる“チカラ”だ!」

 取得条件:サブイベント『蔵の指南書』を見る




【百合のヒト?】
   このちゃん大好きコノカっ子。その実はレz「んなワケないでしょう。私はノーマルです」あ、そうですか。そりゃ失礼しました。

 取得条件:木乃香との仲の良さを指摘される




【流されて傭兵職】
   あれよあれよという間に決まってしまった傭兵職。……まぁ、総統と一緒なら別に構いませんが。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【総統の相棒】
   唯一無二のベストパートナー。居なくなったら豆腐メンタル、シルバー巻くとイイ感じ。ちなみに私は、神戸より亀山派。

 取得条件:イベント『東の初仕事』を見る




【コトリホワイト】
   キュアな部分を担うクロウ人。ふたりはトリキュア、トリホワイト!

 取得条件:イベント『東の初仕事』を見る




【見習い料理人】
   総統はイベント料理。このちゃんは家庭料理。私は…………ほ、包丁の扱いは上手いですよ? 味付けの方は……その、ちょっと……。

 取得条件:ミサトが 称号【閃きシェフ】を取得する




【図書館部の兼部員】
   剣道部との掛け持ちで、時々不参加の護衛要因。優先順位? もちろんこのちゃんが一番です。

 取得条件:サブイベント『図書館島見学』を見る




【ポストバカレンジャー】
   剣技の筋は鋭いけども、オツムの方はナマクラ刀。幼馴染に教えを請う今日この頃です。

 取得条件:サブイベント『真夏の宿題講座』を見る




【健気なベーシスト】
   【凛々の明星】のベース1。曲の深みは私が担う。前に出るのは恥ずかしいけど……が、がんばります!

 取得条件:サブイベント『結成【凛々の明星】』を見る




【剥かれ剣士】
   クシャミ一発、吹き飛ぶ衣服。胸のサラシが眩しいです。「ちょっ、見ないでくださいよっ!」

 取得条件:イベント『来日・英雄の息子』を見る




【決闘見学者1】
   頑張るアイツを応援。ちなみに彼女のデッキは【絵札の三銃士】。え、【六武衆】か【X-セイバー】だと思った? 違うんだなコレが。
   “剣”と“白き翼”のイメージから〈究極竜騎士<マスター・オブ・ドラゴンナイト>〉も出せる、総合剣士デッキです。

 取得条件:デュエルを見学する




【むくれ剣士】
   別に嫉妬しているワケじゃないです。色香に惑わされる相棒を咎めているだけです。胸がなんだって言うんですか、まったく……。

 取得条件:イベント『【登校地獄】解呪』を見る




【必殺看護人】
   無茶する相棒に気苦労が絶えない。でも「仕方ないか」と達観する自分も居たりする。総統が起きるまで、後どのくらい…?

 取得条件:イベント『【登校地獄】解呪』を見る




【西のスパイ?】
   西と繋がりを持つ者。そんな輩を信用していいのか、疑惑は渦を巻く……

 取得条件:ストーリーで自動取得




【ヤマトナデシコ】
   刹那の儚い輝きこそが、東洋が誇る美の象徴。今夜は、たった一人のヒトに巡り会えたような気がする。

 取得条件:サブイベント『嵐山の混浴』を見る




【伝統の異端】
   対武器戦闘に特化した、今までにない新たな神鳴のカタチ。伝統を捨てることなく、新たな風を呼び覚ませた時代の先駆者。

 取得条件:月詠と戦闘をする




【協奏の剣士】
   通じ合う心が、剣の閃きを昇華させる。アナタと響けば、私はもっと高く翔べる。

 取得条件:ユニゾンアタックを使用する




【ユウキの灯火】
   かつては自分も憧れた、一歩踏み出す小さな勇気。震えるその手に希望を照らし、恋する少女へ受け継がれる。そして新たな灯火は、違う誰かを照らし出す。

 取得条件:サブイベント『のどかの告白』を見る




【秘書検定?級】
   情報処理は的確に、上司の欲する内容を事細かに伝令するデキる女。引き抜きなんかにゃ応じない、私は彼にしか就かないんです。

 取得条件:イベント『激昂者』を見る




【ザ・スレンダー】
   貧相なんじゃない、無駄な肉が無いだけです。芯からしなやか、ハリとツヤなら負けません。

 取得条件:サブイベント『本山の大浴場』を見る










<近衛 木乃香>


【幼馴染 その2】
   ちっちゃい頃から一緒に過ごした気の置けない存在。存在そのものが幸福。

 取得条件:初期取得済み




【詠春の一人娘】
   娘というのは可愛いもの、できれば危険にさらしたくはない。しかし、運命はそれを許さない。

 取得条件:初期取得済み




【かんぶ】
   三人だけの秘密結社。明るい笑顔は元気の太陽。女幹部って、なんやカッコええ響きやね。

 取得条件:イベント『結成・秘密結社』を見る




【ぽわぽわさん】
   そこに居るだけで心が温かくなる、天然の癒しスポット。みんな笑顔で、みんな幸せ。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【見習い治癒術師】
   たとえ戦場には立てなくても、友の為にできる事はある。そのためには日々勉強、努力あるのみや。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【超優良物件】
   西の長を父に持ち、おじいちゃんは東の長。当の本人は歴代最強の超ド級魔力を持ち、気立てが良くて、おまけに料理上手。何この娘スゴいんだけど。

 取得条件:詠春から東についての話を聞く




【オットリルージュ】
   トリキュアに新たに加わった三人目の戦士。みんな仲良し、トリルージュ!

 取得条件:イベント『東の初仕事』を見る




【お料理小町】
   家庭料理はお手の物、包丁片手にお洗濯。せっちゃん、ちょっとソレとって。

 取得条件:茶々丸と料理について話す




【図書館部の癒し系】
   図書館を探る精鋭部隊が一人。探索で鍛えてるから、意外に体力あるんです。あ、そういえば占い部の部長でもあるんだった。

 取得条件:サブイベント『図書館島見学』を見る




【京風教師】
   生徒を優しく見守る女教師。慌てんでもええよ、ゆっくり解けば大丈夫。がんばった人には、生八ツ橋ごちそうしたるさかいな♪

 取得条件:サブイベント『真夏の宿題講座』を見る




【はんなりキーボーダー】
   【凛々の明星】のキーボード。やわらかな音色が曲を彩る。たくあんの用意は十分や! ………あ、いらへんの?

 取得条件:サブイベント『結成【凛々の明星】』を見る




【剥かれ小町】
   クシャミ一発、吹き飛ぶ衣服。ピンクの下着で可愛らしさが三割増し。「あーんっ、見んといてーっ!」

 取得条件:イベント『来日・英雄の息子』を見る




【スパルタンK】
   苦手を克服するには荒療治も辞さない。男の子やろ、シッカリしぃや。ふぁいとーいっぱーつっ!

 取得条件:ミサトにホラー映画を観せる




【決闘見学者2】
   頑張るみんなを応援。ちなみに彼女のデッキは【もけもけ】。もけけのけー。
   〈ガーディアン・エアトス〉と〈ブラックフェザー・ドラゴン〉も入れてます。本人曰く、“御守り”とのこと。

 取得条件:デュエルを見学する




【マジック・ブースター】
   貧弱な坊やだったボクの魔法が、たった一回の使用で見違えるほどの威力に! 彼女のおかげで自信が持てました!

 取得条件:魔力供給を使用する




【でっかい器】
   微笑み一つで万事解決。カリカリしたらいけません、心を広く深くする事が、円滑な対人関係を築く第一歩なのです。

 取得条件:イベント『【登校地獄】解呪』を見る




【おにぎり屋さん】
   精魂込めて、愛情込めて。梅にオカカに明太子、シンプルだけど奥が深い。 ……おっ、シャケ召喚。

 取得条件:おにぎりを作る




【さらわれ役】
   クレアしかり、イオン様しかり。どんな物語にも、誘拐されやすい人ってのはいるもんです。この際、さらわれ役の重鎮・ピーチ姫を目指してみては?

 取得条件:敵対勢力に身柄を取られる




【従者召喚師】
   契約者の名のもとに命ずる―――出でよ、オリジン! ちなみに『オリジン』は『オリジナル主人公』の略です。

 取得条件:<従者の召喚>を行う




【湯けむり美少女】
   フワリと佇む後ろ姿に、チラリと覗く熱ったうなじ。ウン年後に期待が持てる成長株。

 取得条件:サブイベント『本山の大浴場』を見る











<ネギ=スプリングフィールド>


【見習い魔法使い】
   魔法学校を卒業したばかりのヒヨッコ魔法使い。学び舎を飛び立った少年は世界の広さを知る。

 取得条件:初期取得済み




【英雄の息子】
   偉大なる先人の血を引く魔法界のサラブレッド。「英雄になるんだ! 父さんみたいな、すごい英雄に!」

 取得条件:初期取得済み




【占い死】
   簡単な未来ならある程度予測できます。でも教えると殴られます。親切で言ってあげたのに……。

 取得条件:イベント『来日・英雄の息子』を見る




【教育実習生】
   正式採用となるまでの試験期間。立派な先生を目指す前に、まずは教職のスタートラインを目指そう。

 取得条件:ストーリーで自動取得




【子供先生】
   最終試験も突破し、晴れて正式に採用された新米教師。教育委員会にはナイショだぞ!

 取得条件:イベント『地下遺跡の勉強会』を見る




【ヌギ・ストリップフィールド】
   風が吹けば桶屋が儲かる。クシャミをすれば服屋が儲かる。消し飛んだ洋服は番組スタッフが弁償させていただきます。

 取得条件:五回以上【武装解除】を暴発させる




【決闘<デュエル>初心者1】
   遊びは不慣れ……のハズだったが、コツを掴んで急成長。天は二物も三物も与えた。
   ちなみに彼のデッキは【ブラックマジシャン】。ピンチになってもチートドロー連発で大逆転だ!

 取得条件:デュエルを見学する




【和平の使者】
   東西の諍いを取り払うため任を託された親善大使。赤毛の親善大使……もう嫌な予感しかしない。「うぜぇ」とか言い出さない事を祈ろう。

 取得条件:学園長から特使の任を受ける




【幸運助兵衛】
   コケればスカートに頭を突っ込み、手を伸ばせばそこに乳があり、何をせずとも裸が舞い込む。そういう星の下に生まれた超絶フラグ体質。

 取得条件:サブイベント『嵐山の混浴』を見る




【恋愛ビギナー】
   知識はあっても、その辺はまだまだお子様。まずはお友達から――――手をつなぐところから始めよう。

 取得条件:サブイベント『のどかの告白』を見る




【ラブラブキッスネギ坊主】
   はじめてーのーチュウーー キミとチュウー  ウフフフ  あいうぃるふぃーふぃふぉーふぁいふぁーん♪ (うろ覚え)

 取得条件:ストーリー『ラブラブキッス大作戦』を見る










<神楽坂 明日菜>


【勤労健脚少女】
   親も無く記憶も無く、学費返済のため早朝新聞配達。字面だけ見れば不幸だが、それを感じさせない明るく元気なムードメーカー。

 取得条件:初期取得済み




【本家ヒロイン】
   ツインテール・オッドアイ・ツンデレなど、ある意味で御手本のような女の子。実に解り易い。

 取得条件:初期取得済み




【オッドアイ】
   正式名称『虹彩異色症』。左右の瞳の色が違う、キャラ立てには持って来いの要素。別にラムダが憑依しているワケでもユベルと超融合したワケでもない。

 取得条件:初期取得済み




【オジコン】
   歳とってりゃいいってワケじゃないのよ。理想はモチロン高畑先生ね!
   積み重ねた渋みって言うのかしら、ロマンスグレーなダンディズムが大人の魅力を何倍にもしてるのよ。
   それと背中、コレ大事よ。頼もしさと安心感を醸し出しながらどこか哀愁の薫る背中に乙女はグッとくるの。あとそれから(カットさせてもらうZE☆)

 取得条件:初期取得済み




【バカレッド】
   バカレンジャー筆頭。レッドだがリーダーではない。何も考えずとにかく突っ込む切り込み隊長。無鉄砲タイプのバカ。

 取得条件:サブイベント『真夏の宿題講座』を見る




【ビギナーギタリスト】
   【凛々の明星】のリズムギター。音のトッピングで味を出す。ツインテールのヤッテヤルデス!
   
 取得条件:サブイベント『結成【凛々の明星】』を見る




【剥かれ娘】
   クシャミ一発、吹き飛ぶ衣服。クマさんパンツは子供っぽいんではなくて? 「乙女に何してくれんのよ、このエロガキ!」

 取得条件:イベント『来日・英雄の息子』を見る




【傷付いた戦士】
   その身に刻み込まれし無数の傷は、護る者が後ろにいる限り増え続ける。
   退く事を知らず、倒れることも考えない。可憐なる戦士は、今日もまたその傷を増やす。

 取得条件:ネギと【仮契約】を行う




【決闘初心者2】
   初期の凡骨並のなぁにこれぇデッキだったがカモのアドバイスでそれなりの形に。
   ちなみに彼女のデッキは【スキドレビースト】。無効化しまくって殴り勝つ! でも何故か勝てない。

 取得条件:デュエルを見学する




【破魔扇士】
   ツッコミの申し子とは彼女の事。今日も今日とて自慢のハリセンで怒涛のツッコミを撃ちこむ。ついでに魔も還しちゃうゾ!

 取得条件:アーティファクトを使用する




【健康的色気】
   玉の肌、スラリとした脚、そこそこな胸。最近の中学生は発育がヨロシイこって。
   お風呂でゆったり、女同士なら恥ずかし気も無い。ついでにいえば恥ずかし毛も無い。

 取得条件:サブイベント『本山の大浴場』を見る







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