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[10409] 紐糸日記2 空白期編・完
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2010/09/27 00:12
\(●)/はじまるよー



1スレ目(A's編)
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=toraha&all=4820

上記スレの続きです。
チラシの裏にするかこっちにするか迷いましたが、前までこちらだったのでこれからも。
ではどうぞ。



[10409] その95
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/19 18:37
 ~A's編のあらすじ~

「さあ来て、けーと君! 私は実はあと一回ニコってされたら惚れちゃうの!」
「くらえなのは! 新必殺音速笑々拳!」
「にゃあぁぁぁぁん!」

「なのは、負けちゃったみたいだね……」
「ど、どうしようどうしましょう! はわわ! はわわ!」
「オリーシュに負けるとか。魔法使いの面汚しだな」
「くらええええ!」
「ひゃあぁぁぁぁん!」

「よく来たなオリーシュ……後は私を倒すだけやなクックック……」
「上等だ。このオレに生き別れた幼女がいるような気がしていたが既にニコポ済みだったぜ!」
「そうか……さあ来るんやオリーシュ!」
「ウオオオ行くぞオオオ! オリーシュの勇気にはやてが惚れると信じて!」

 ご愛読ありがとうございました!





「だいたいこんな感じだったよね」
「フェイトちゃんまで被害者になっとる件について」
「ていうかリインがどこにも登場してねーだろそれじゃ」
「わっ、私、はわわーだなんて言いませんよっ!」

 あれから一週間。つまりまだ冬。こたつに入りつつ、色々あって疲れたねー、などと話し合う。
はぐりんたちも机の上で、ぺたーっとなって遊んでる。
 事件の事情聴取もようやく一通り終わって、とりあえずヴォルケンリッターは特にお咎めなしと
いうことになった。大きな罪に問えることがなかったのだとか。
 それでも過去、管理局に散々迷惑をかけたことは事実(自分の意志でないにしろ)だし、今も生
きている被害者の人もたくさんいる。ということなので、たまにそちらのお手伝いをすることが決
定。しかし丸く収まりはしたので、まぁ良かった良かった。

「そういや、グレアムのおっちゃんが遊びに来たいって言ってたっけ」
「ホンマ!? な、な! それっていつの話!?」

 がばっ、とはやては立ち上がった。と思ったらぐらりと倒れそうになり、慌ててシグナムが支え
にかかる。神経は治っても筋肉が足りないので、ちゃんと歩けるようになるにはもうちょいかかる。

「温泉行って湯治した方がいいかもね」
「せやなー……じゃなくて! お、おじさん、遊びに来るん?」
「テロか? 事故か? 旅客機は謎の空中爆発を遂げた」

 はやてが俺のほっぺたをぐいぐい引っ張った。こんなギャグにマジになっちゃってどうするの。

「アースラでちょっと前に会って、近々来るって。そのうち手紙が届くと思うけど」
「ホンマやな!? たのしみやー!」
「あと、ぬこ二匹も来るって言ってた。皆からごはん強奪してやるって張り切ってたよ」
「……それは、極めて許し難い」

 リインが怖い顔をした。
 でもあんまり表情を変えるのに慣れていないので、そんなに怖いとは思えなかった。

「でも、皆がはやての手料理食べてるのが羨ましくて、そのあまりあんなコトしちゃった人ですし」
「ん? あんなこと?」

 リインは慌てて俺の口をふさいだ。あんなことっていうのははやての味覚のことで、要するにみ
んな美味しいものばっか食べやがってというささやかな仕返しだったらしい。
 以前そんな予想をしたわけだが、まったくそのとおりだった訳である。リインが秘密にしてくれ
と必死に頼み込んでいるのだが、まぁ俺は知ってるわけだ。夢の中とかで聞いたので。

「残る課題はフェイトそんの編入試験か」
「へんにゅーしけん?」
「ひんにゅーしけん!」
「貧乳試験……なんと甘美なる響き……!」
「うちのはやては頭大丈夫だろうか」

 ノってきたのははやてだというのに、両側から耳たぶ引っ張られた。千切れそうなくらいに痛か
ったので、必死に謝って勘弁してもらうことにする。

「それにしても、休日はヒマやなー……」
「麻雀でもするか! 鷲巣牌でコンビ戦やんね?」
「血液の代わりにプリンが動くわけだな」
「打てっ……あたしのプリンっ……! 垂涎のプリンっ……!」
「……何してるの?」

 そんな折だが、いつの間にかなのはが遊びにきていた。その背後にはフェイトの姿もある。リン
ディさんに無事引き取られたものの、なのはの通う聖祥大附小への編入を視野に入れているため、
地球に馴れるためにもちょくちょく遊びに来るのだ。

「ネタ振りして適当に遊んでた。あれ、ユーノは何処」
「クリスマスの日には来るけど、今日は無理だったの。忙しくて」
「むぅ。探検できる古代遺跡を紹介してもらう予定だったというのに」
「またそこらをほっつき歩くつもりなんか」

 しばらく家から出るんじゃないと、はやては俺の腕を雑巾絞りした。超痛かった。

「クリスマス?」

 聞きなれない単語に、リインが不思議そうに首を傾げた。

「お祝いの日。日本中でしっとマスクが燃えに燃える一日でもある」
「プレゼント交換もあるよー。ちょっと豪勢に、お肉やケーキでパーティーしたりとか」
「パーティー……」

 リインはちょっとうれしそうな顔をした。口の端っこがちょこっと上がってる。

「そして九月のある日に生まれた子の、第二の誕生日でもある」
「逆算すな」

 この話題にさえ食いついてくるはやてって一体何なんだろう。

「そう考えるとグレアムのおっちゃん、プレゼント渡しに来るんじゃなかろうか」
「おー、なるほど。なら、それまで入念に準備せな!」
「さて、フェイトはもう準備したんだが、なのはへのプレゼント何にしよう」
「え……よ、用意してくれたんだ……?」

 この習慣を知らなかったフェイトは、驚いたように言った。
 そりゃまぁ、だって。家の中では散々ネタにして楽しませていただきましたし。

「わ、私も……?」

 なのはもそんなことを言う。

「その辺の草と石で構わないなら、それでもいいけど」
「よくないよ! ……え、えと、えっと……た、楽しみなんかじゃないよ? ホントだよ?」

 なのはは誤魔化し誤魔化し言った。何だろう、尻尾つけたらぶんぶん振ってそうな雰囲気。

「楽しみじゃないとは残念。ドラクエ世界行って光魔の杖拾ってきてやろうと思ってたのだが」

 どうせそーだと思ったよう! とか言いながら、なのはがシャマル先生に慰められていた。遊び
に来たときはヴィータともよく話すみたいだけど、シャマル先生とも結構仲いいな。

「プレゼント代わりに音速でなでこなでこしてやる案もあるけど。音速で」
「なのはちゃんがオリーシュにナデボされるようです」
「最近、けーとくんに完全におもちゃにされてる気がするよう……」

 ぺたぺたと動いてるはぐりんを手であやしながら、なのはが諦観じみた声で言うのだった。



(続く)

############

はじまっちゃった。でも超スローにいきます。作者体力ない。
まずは空白の期間。



[10409] その96
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2010/02/09 13:01
 ザフィーラとヴィータが、管理局にお手伝いに行くことになった。なんでもロストロギアっぽい
のが見つかったらしく、その調査をするらしい。ついでに俺も遊びに行くことにした。見学+付き
添いにて候。
 取りあえず移動まで時間があるので、局の建物の控室でくつろぐことにした。リンディさんたち
ハラオウン一家は作業に出て行ってしまい、室内にいるのはヴィータとザッフィ−、はぐりんたち
と俺。

「標準装備のバリアジャケットに加え、はぐりんズを装備したヴィータに隙は無かった」
「やってみたいけどやめとく。重量オーバーだし」

 万が一の時はヴィータ無双を期待したんだけど、あんまりにも重いのを理由に断られた。
 確かに、接近戦メインのヴィータやシグナムにははぐりん装備はキツいかもわからんね。足を止
めて撃ち合うタイプのなのはだったら問題ないかもしれないけど。

「ところで、どうしてお前が付き添いに来てんだ? 何もできないと思うけど」
「はぐりんたちもここでちょっとアルバイトする約束だし、見学にちょうどいいと思って」

 以前言っただけだったのだけれど、意外にもはぐりんたちが乗り気だったので、本格的に実行す
ることにしたのである。幸いクロノが面倒みてくれるみたいだし。

「待て。ということは、まさかお前も……」
「いやいやいや。前線出るとか無理だから。たまに監督はするけど」
「そうか。なら安心だが……たまに、でいいのか?」
「リンディさんとクロノの指示聞くように言っとくから大丈夫」

 何だこの理不尽、という顔でザフィーラが俺を見る。多分どうして言うことを聞かせられるんだ
ってことなんだろうけど、できちゃうものはできちゃうので仕方無い。俺に説明責任は無い。

「その理屈で言うと、ヴィータたちも言うこと聞くはず。ヴィータ、ジュースよこせ」
「トマトジュースならすぐ作ってやるけどいいか?」

 ヴィータがパキパキと指を鳴らした。俺を潰れたトマトみたいする気だ。残念ながら二回死ぬの
は御免なので、潔く平伏する。

「あっ、あの……あの!」

 必死こいて謝罪していると、部屋にフェイトがやってきた。後ろにアルフと、クロノの姿もある。
 手には渡しておいた参考書(はやてのオススメ)。挟んである一回り大きな紙には、ぴっちりと
書き込みがされていた。
 地球の学校の勉強だ。編入を狙っているので、魔法の勉強と並行してこちらも頑張っているのだ。
 ちょうどいいということなので、先生役を頼まれたのである。と言ってもフェイトさん頑張り屋
だから自力で結構やるので、こうして答え合わせの時にコメントしてあげるくらいしかできんけど。

「終わったとな。不正解一問につき一枚脱ぐという規定がありますが、本当によろしゅっ」

 つかつかと歩いてきたクロノとアルフの拳骨が、はやての比じゃなく痛かった。少しの間悶絶し
て、立ち直ってから答え合わせ。

「おー、全問正解。これはすごい」
「ほ……本当ですか?」
「うん。じゃあご褒美をあげよう。はやてから、差し入れのガトーショコラ」

 はやての手作りを嬉しそうに食べるフェイトを見つつ、皆でおいしくいただきました。

「……うまい……」
「うまいなぁ……」
「……コア捨ててよかったとしか言いようがないでござる」

 俺達ははやての手料理が元に戻ったことにしみじみとした感動を覚えたんだけど、クロノた
ちは事情を知らないためしきりに首をかしげていた。





「そういえば、クロノはどうする? クリスマスに八神家と翠屋でパーティーやるけど」

 今度はクロノと、しばらく待機。フェイトにアルフ、ザフィーラとヴィータは今、ちょうどリン
ディさんにお仕事の説明を受けているところ。皆への差し入れで持ってきたアイスコーヒーを飲み
ながら、残されたクロノと話す。はぐりんたちはお昼寝中。
 俺も説明受けに行ってもいいんだけど。でもちらっと任務の資料を見た時に、ああこりゃ無理だ
という結論に至った。魔法の仕組みとか知らないので、ロストロギアやら周囲に予測される影響と
か説明されてもわかんない。はぐりんたちは今日は見学だけだし。

「何時だ?」
「一週間後。おいしい料理あるよ」
「そうだな……少しなら、顔を出せると思う。ところで、クリスマスとは?」
「ググれ」

 しかしクロノはグーグル先生を知らないようで、首を傾げるばかり。地球ではワ
ールドワイドな
グーグル先生だけど、世界をまたいじゃうと流石に知名度が下がるらしい。

「偉い人の誕生日」
「なるほど……そう言えば知らないんだが、君の誕生日は?」
「クリスマス。つまり俺は偉い」

 冗談だったんだが、クロノにしらーっとした目で見られた。ちょっと辛かったので本当の誕生日
を教えておいた。

「この日……だった。うん。そう」
「?」

 その際だけど、思わず転生前の誕生日を言ってしまってちょい慌てた。こっちの戸籍と一致して
いたか、一瞬だけ忘れていたのだ。
 大丈夫だったと思い出したけど、クロノは不思議そうにする。これはちょっとマズい。

「ところでそのパーティー、手作りお菓子あるって知られて、リンディさんはすでに参加表明済み」

 コーヒー飲んでたクロノがむせた。誤魔化しはうまくいったようだ。
 とかやりながら、やることがないので雑談。クロノも今は休憩に近いらしく、時折任務資料に目
を通す以外はくつろいだ雰囲気である。

「言ってなかったけど、闇の書事件の後始末お疲れ様。ありがとです」
「破壊した君のコア、魔力量だけなら軽くAランク以上はあったんだ。説明に苦労したよ」

 苦笑しつつクロノは言う。これは苦労かけちゃったかもわからんね。

「……口が滑った。言うつもりはなかったんだが……気にしないでくれ」
「いやいや。縁の下の力持ちだったわけですな。感謝」
「ところで、フェイトは? 編入は大丈夫か……君の見立てはどうだ?」
「飲み込み早いからギリギリ間に合いそう。あれかね。なのはと一緒に学校行きたい一心かね」

 クロノは安心したように息を吐き出した。

「今のうちに地球の常識を教えとくのもありかも。やっておく?」
「……羞恥心も育ててあげてくれ。例の軽量バリアジャケット、まだ持ってるみたいなんだ……」

 どうしたものか、とクロノは頭を抱えた。また脱ぎ捨てを見られる余地があるみたいで、ひそか
に俺はほくそえんだ。

「……顔がにやついているが」

 そのつもりだったんだけど表に出てしまった。クロノが非常に怖い顔になったので、必死に謝っ
て切り抜ける。

「また謝っているのか」

 そこに、皆が戻ってきた。ザッフィーとヴィータが呆れたように俺を見ていた。

「お帰り。何調べるって?」
「古代文明の兵器。ガセか分かんないけど、大陸一つ吹っ飛ばしたって伝説もあるらしーぞ」
「じゃあ俺も! 俺も伝説に……あれ。どうやったら伝説になれるんだろ」

 メイクレジェンドしてみたかったけど、どうすればいいのかわからず悩ましい。

「上層部では結構知られているぞ。魔法の才能を放棄した例は稀だから」
「何と……じゃあ、それを機にテレビや雑誌からの取材が来たりとか!」
「それはない」
「あり得ねー」
「取材しても記事が書けない気がするな」

 あっさり否定されて悔しかった。特に最後のクロノがひどかった。

「こうなったら伝説になるにはもう、ドラクエ世界で魔王を倒すしか……!」
「お前の場合は仲間にして帰ってきそうで怖いな」
「ゾーマ様はともかく、バラモスくらいなら何とかなるよーな気がする」

 一歩間違うとはらわたを食らいつくされるので、魅力的だがやめておこう。

「なのはは最近魔王っぽくないから倒してもなぁ。この前腕相撲で撃破したし」
「ああ、見た見た。腕二本使って頑張ってたよな」
「うーうー掛け声出すのはいいんだけど。でも全然力が入ってないっていう」

 なのはは砲撃とか超すごいけど、素の状態だと腕力はへなちょこなのである。具体的に言うと、
ドッジボールではボール持たせてもらえないんだろうなぁ。というレベル。

「そ、そうなんだ」

 話を聞いていたフェイトが、意外そうに呟いた。

「今度腕相撲してみるとわかると思うけど。意外でござるか」
「うん。その、なのはの魔法、威力が高いから……そのイメージなんだけど」
「しかし実際は逆上がりも出来ないなのはであった」

 ソースは桃子さん。お菓子の作り方とかいろいろ話をすることがあるんだけど、そのついでに
聞いたネタである。

「はやてはこれから足とか鍛えるけど、なのはも全身やった方がいいかもね」
「オリーシュブートキャンプと申したか」
「語呂がいいな。ちょっと変装してやってみろよ」
「あ、あの……ブートキャンプって?」

 任務開始までずっと駄弁ってました。



(続く)



[10409] その97
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/29 17:10
 学校から帰ってくると、ヴォルケンリッターの姿が無い。
 訊いてみると、リインの社会科見学を兼ねて、みんなで買い物に行くことにしたのだとか。
 はやてはちょっとお菓子を作っていたので、行かずに帰りを待つことにしたと聞いた。はぐりん
たちもくーくー寝ているので、はやてが二人きりである。
 ちなみにはやての学校なんだが、もうちょい足が治ってからということにしたらしい。
 しかし回復は順調。ここのところ具合がよくなってきているみたいで、松葉杖を使うとなんとか
歩けるくらいにはなっていた。次の定期健診が楽しみである。

「にゃwwwwwはwははwwwwwwやっめwwwwひゃwwwwwwwめwwwwww」

 とりあえずすることがないので、感覚のチェックを兼ねてうつぶせになったはやての足をくすぐ
った。抑え込みもかけているので逃げることができず、はやてはバンバンと床を叩いた。

「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……」

 解放されて息を整えてから逆に抑え込まれ、続けざまにボディーブローを入れられた。セコンド
が見ていたら即刻タオルを入れていたであろう、強烈な連続攻撃だった。はきそう。

「暇になったら悪戯する癖はどうにもならへんのか」
「人生楽しくがモットーですので」

 とか言ってる間も、暇で暇で仕方がない。なのはいじりに出かけるっていう案もあるけど、寒い
のであんま外に出たくない。こたつでじっとしてるのが正着手。
 テレビ見ながらぽへーっとしていると、はやてが近くに置いてあった車輪つきの箱を引っ張って
きた。トランプやら麻雀牌やら将棋セットやら、いろんな遊び道具が入っているのだ。

「ナインの全引き分けならこの前やったじゃないですか」
「赤木と曽我の手順ぜんぶ覚えとるとは予想外やったわ……」
「お互い様やがな」

 知らない人は本当に知らないと思うので、くだらねーことして遊んでんだなって感じに脳内変換
を推奨します。
 はやてが取り出したのは碁盤だった。神の一手を極めたくなったのかもしれない。昔ちょっとや
ったことあるので、お相手つかまつる。こっちが先攻。

「じゃあここ」
「なら私もここで」
「いやいや俺がここだから」
「残念でした。ここはもう予約済み」

 石がどんどん高く積まれていった。確かに神の一手かもしれない。方向が違うけど。

「これで七段目」
「次で八段……あっ、ああっ! しもーた!」

 石のタワーががらがらと崩れ去った。ゲームの趣旨がいつのまにか変わっていた。

「ひまー」
「ひまー」

 こたつの中で足で突っつきあいしながらテレビ観てました。





「そういえば昨日、どやったの? 管理局のお手伝い」

 向かい合ってみかんをむきむきしつつ、白い筋はどうするかについて軽く舌戦を繰り広げている
と、はやてが訊いてきた。

「ヴィータから話は聞いたと思いますが、ロストロギアってのはガセでした」
「そうやなくて。あそこで働きたいーとか思ったりした?」
「はぐりんたちは乗り気だったけど俺はちょっと。働くなら翠屋のお手伝いがいいや」
「そっかー。ま、おもちゃ役のなのはちゃんもおるしなー」

 はやては茶を啜って、からからと笑った。もう何か完全になのはいじりが浸透している八神家で
ある。当初は魔物か何かのようになのはを恐れていたヴィータも、最近では友達感覚で話したりし
ているみたいだし。

「魔王もへなちょこになったものである」
「豪鬼がベガになったよーな感じやな」
「いや別にやられ役という訳では」
「一回ヴィータが負かしたんとちゃうん?」

 そういえばそうだった。プリン食われたと勘違いして、ヴィータのやつ無謀にも挑みかかってい
ったんだっけ。結果的に勝ったけど。

「……天地魔闘の構え、ティアナに悪いけどちょっと見たかった」
「カラミティエンドがただのぽこぽこパンチに……」

 少々もったいないというか残念な気がして、しょぼーんな感じになる俺とはやてだった。

「で、第二期終わったらどうなるんやっけ。次が十年後ってことは聞いとるけど」

 自分の出てるアニメの先の展開聞いてくるアニメキャラって一体何なんだろう。

「すくすくとアホの子に成長したはやてが、変態博士スカトロッティを相手に戦うお話」

 割と間違ってないことを言ったはずなのに、こたつの中のはやての足がぺけぺけと俺を蹴る。

「キャッチ」

 その足首を捕まえて引っ張る。

「むあー! はーなーせー!」
「はやてがこたつと合体してしまったようです」
「まさかの炬燵プレイ……こんなのが横行する日本恐るべし。日本青少年の明日はどっちだ」
「こっちだ」

 ずるりずるりと引きずり込む。と、俺の方から顔だけ出してきた。

「……もう何か、このまま十九歳になりたい」

 はやてがしみじみとそんなことを言う。

「しかし十九になったら、ちょっとこたつが小さいんじゃなかろうか」
「あ。そっか、せやな。その時には買い替えが必要かー」

 ふむむ。とはやては唸った。先の話なので、気にする必要はないと思うけど。

「というかそのころ、俺は精神年齢二十九ということか」
「しかし一生変わらないような気がするのは気のせいなんやろか」

 はやての顔の上に剥いたみかんを落としてやっていると、そんなことを言い出す。たぶん間違い
じゃないような気がするけど、でもまぁいいや。変わんなくて。

「十年後の俺って何やってんのかね」
「例の博士に捕まって悪の改造人間になっとったりとか」
「しかしそうなった場合、どう考えてもモブ扱いになりそうな気がします」
「イー!」
「イー!」

 十年後とかわかんないので、ヴォルケンズが帰ってくるまでずっと雑談してました。



(続く)

############


 (⌒
  \ヽ(#゚∀゚) <目標をセンターに入れて…
   (m   ⌒\
    ノ   / /
    (   ∧ ∧
  ミヘ丿 ∩Д` )
  (ヽ_ノゝ _ノ

  ↑こんなかんじ。



[10409] その98
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/07/30 17:46
 グレアムのおっちゃんから手紙が来た。
 なんでもクリスマス前後に時間がとれたので、都合がいい日に遊びに来たいとか。わかってたこ
とだけど、はやてのはしゃぎっぷりがハンパない。

「あわわ、ど、どないしよどないしよ! ケーキ作ってお料理出してそれからそれから……」
「まず手紙返信するのが先じゃなかろうか」
「クリスマス本番は来週だと思う」

 慌てて準備しようとするはやてに対し、俺とヴィータの突っ込みが入るという珍事。はやてはは
っと気付いたようになって、咳を払い平静をよそおう。

「はやて、ニヤけてるニヤけてる」
「えっ? う、嘘っ」

 はやての顔が自然とニコニコしはじめたので、その試みは失敗に終わったと考えられる。

「どうする? こうなったらパーティーの日に合わせよっか」
「もちろん! ……あ、でも、ええんかな。みんなと一緒で」
「確認すればいいじゃない。メルアド書いてあるよ」

 シグナムに抱っこされたはやてが、パソコン目がけてすっ飛んでった。よっぽど懐いてるんだな
と思いながら、協力してくれもしたおっちゃんとぬこたちに思いを馳せる。

「そういやお前、面識あったんだっけ」

 すると、ヴィータが思い出したように言う。直接それと説明したことはなかったかもしれないけ
ど、最終決戦の時にぬこ姉妹はモニターに映してたような気がする。多分それだろう。

「万が一に備えて、あのとき凍結処分の準備してくれてたので。みんなも感謝するように」
「お前は時々、さらっと凄いことを口にするな」

 ザッフィーが言うのに皆頷いた。感心されているのか呆れられているのか。

「管理局のお偉いさんだったんだっけ?」
「そうそう。でもって使い魔が食いっぱぐれの猫さんたちで、ご飯作ってあげたりした」
「この人たちにも、一度会って謝らないと……」

 うつむき加減のリインが口にする。自力ではどうしようもなかったみたいだけど、悲しい思いを
させてしまったことに責任を感じているらしかった。

「じゃあ夕飯全部プレゼントする?」
「そっ、それは……」

 リインは葛藤しているような表情になった。はやての手作りごはんが大好きな子なので、それは
決して許せないのだろう。

「……は……はんぶんなら……」

 ようやくそれだけ絞り出した。苦渋の決断だったらしい。

「この人たちからは話を聞きたいって言われてたので、まぁいい機会っちゃいい機会だわさ」
「ん? 今回の事件、まだ何か残ってたのか」
「そうなんだけど、そうじゃないって言うか。個人的に知りたいことがあったらしい」
「しょこたんって誰か、とかか」

 リインがちょっと暗い顔をした。しょこたん呼ばわりは本気でイヤだったようで、その単語が話
に出てくると今でもこんな感じである。

「まぁいいや、とりあえずご飯作りましょうか。シャマル先生、今日何にする?」
「そうですね……パンとシチューと、お魚のホイル焼き、とかどうでしょうか」
「いいな。あたしも手伝うよ」
「シチュー……?」

 リインは楽しみそうな顔をした。これは頑張らなきゃ。と、シャマル先生が張り切った様子でキ
ッチンに向かう。

「ヴィータちゃん、万能ネギお願いしますっ」
「煩悩ネギ」
「万能ヌギ」

 最近のシャマル先生は意外と頼りになったりするので、横からまったりお手伝いしてました。





 うまかっ です。

「そういや、お前のコア残ってんだって? 今聞いたんだけどさ」

 こたつでくてーっとしていると、ヴィータがそんなふうに聞いてきた。後ろに座ったリインの足
の間に、すっぽりと収まった格好だ。サイズ的にぴったりらしく、リインも結構気に入ってるらし
い。

「そういや、ヴィータたちには言ってなかったか。ほらこれ」

 戸棚からビンを取り出して、こたつの上にトンと置く。全員がそれをじっと見つめた。中に入っ
たコアの破片は、キラキラと綺麗にひかり輝いている。やったことないけど、ビー玉砕いたらこう
なるんだろうか。

「……色一緒じゃなくてよかった」
「確かに。そうなったらちょっと複雑だったかも」

 ちなみに俺のコアは綺麗な銀色だった。はぐれメタルから集中的に魔力集めてたので、きっとそ
の影響なのだろうと個人的には思っている。

「ていうかこれ、体の中に入るんだろうか。ガラスっぽくてそうは見えないんだけど」
「体外に出ている時点で、普通のリンカーコアとは一線を画しているのかもしれんな」
「RPGのラスボスみてーだな。人型のと本当のコアが別になってるっていう」
「オリーシュがラヴォス第三形態に変身するようです」

 とか言っているとゲームがやりたくなってきたので、有志を募って遊びに入る。
 八神家も七名からなる大家族になったので、やることもまちまちだ。ゲームする俺達、見物する
リイン、お菓子作りに挑戦するシャマル先生、それを物欲しそうに見てるはぐりんたち、将棋の駒
を並べてるシグナム、フツーに寝てるザフィーラ。

「じゃあこれに勝ったら、リインに手作りアップルパイを御馳走しよう」

 そう言ってやるとリインがスマブラで頑張って挑んできたのだが、メタル化能力もゲームの前で
は張り子の虎。投げられまくった後吹っ飛ばされて敗北した。クールっぽく締まってた真剣な顔が、
ふにゃりと崩れて涙目になる。

「ちゃんと手加減せんか」

 その直後、はやてのサムス砲にぬっ殺された。そうしてからリインを慰めるのを見ると、母子の
背丈が逆になったように見える。

「それはそうと、おっちゃんの来る日取りはどうなったんでしょう」
「あ、そうそう! パーティーの日に合わせて来るんやて!」

 たぶんぬこたちの差し金だと思う。グレアムのおっちゃんはともかくあの食いっぱぐれのぬこた
ち、ヴォルケンズの分のパーティー料理食いつくすのが主な目的みたいだし。

「となるとゲーム本体が足りないような」
「コントローラーもだいぶ不足すんな」
「なのはちゃんに当日持って来てもらおっかー」
「じゃあ明日頼みに行ってみる。パイも明日多めに焼いて、持ってってやるか」
「ついでに桃子さんに味見してもらって、習ってきたらええんちゃう?」

 そんな風にクリスマスの計画を練りつつ、皆で夜まで遊ぶのでした。

「将棋の相手をしてほしいのだが」
「こっちのクッキー作りも手伝ってほしいですっ」

 割と忙しかった。



(続く)



[10409] その99
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/01 21:53
 昨日計画してたアップルパイが焼き上がった。ヴィータたちの試食によれば美味いらしく、俺も
食べたがなかなか出来がいい。
 ちょうど休日なので、さっそくなのは部屋に持っていき、食わせてみることにした。お菓子につ
いては舌が肥えてるなのはなので、美味いと言わせれば自分の中では合格。本当は桃子さんにも批
評をお願いしたいんだけど、残念ながら忙しくて無理っぽかったのだ。

「え……く、くれるの? わたしに?」
「アップルパイよか芸人用のクリームパイの方がいいなら、そっちにしますが」
「良くないっ……あれ? そういえば、あのパイって食べられるのかな」
「ホイップクリームで作れば食えるんじゃないか。超胸焼けしそうだけど」

 しかし経費かかるから、ホイップクリームで作るにしても砂糖とか入れないよね。それはちょっ
と食べられないよう。とか。

「い、いただきまーす……あ、美味しい。美味しいよ、これっ」

 おずおずと食べはじめたなのはだが、一口食べたあとは美味しそうにぱくぱく食べていく。ひそか
にガッツポーズ。

「よかった。ちょっと酸味が出てるってヴィータは言うんだが、それはリンディさん対策でして」
「うんっ……あ、でも、ちょっと焼きが甘いかな?」
「急かされてちょっと焦った。早く食べたいオーラ出してるメタル軍団がいたし」

 なのはは苦笑した。ちなみにメタル軍団にはリインを含む。

「それにしても、色々作るようになったもんだ。最近までチャーハンばっかだったのに」
「チャーハンって……こんなにおいしく焼けてるし、そうは思えないんだけど」
「将来もっと上手くなったら、桃太郎印のきびだんごを開発する野望があるんだ」
「本当に作っちゃいそうで冗談になってないよ……」

 ドラクエモンスターズの世界に持ち込んだら、巨万の富を得られる気がした。やらないけど。

「完成したら、まずなのはに食わせよう。きゅーきゅー鳴きながら尻尾振るようになるかも!」
「……きゅう。きゅーきゅーっ」

 てっきりいつも通り怒ると思っていたのに、なのはがきゅーきゅー言いながらすり寄ってきた。
意外すぎてびっくりする。

「ねぇ、ねぇ、びっくりした? びっくりした?」
「それなりには」

 反応が予想外すぎて硬直する俺を、してやったりという顔で見上げてくる。やられた宣言をする
と、嬉しそーににぱっと笑うのだ。

「でも撮られてる気がするんだがいいのか。そこにはやてとヴィータいるけど」
「ばれとったか」
「お前よく気付いたな」
「うにゃあああぁっ!?」

 しかし後から遊びに来ていたはやてとヴィータが、一部始終をこっそりばっちり録画していた。

「カメラの回ってる音が微妙に聞こえたから」
「とっ、とと、と、撮ってたのっ、全部!?」
「おー。そりゃもうばっちり」
「今度アルバムにして、桃子さんあたりにプレゼントせな!」

 顔真っ赤で抗議するなのはがにゃーにゃーうるさかった。





 こう見えても身体が子供なので、なのは部屋で遊んでいるとそのうち眠くなってくる。
 でもってついうとうとしてしまい、ふと目が覚めたら、いつの間にか三人全員の枕にされていた。
重たいのとかは別にいいんだけど、要するにうつぶせのままで動けない。

「……今ここで俺が横に転がったら、こいつら全員頭打つよね」
「やめときなさい。可哀そうでしょ」

 ドアの方から聞き覚えのある声がする。
 見てみると、いつか見た金髪が。その向こうには紫っぽい髪も見えた。

「…………」
「ど、どうしたのよ。きょろきょろして」
「や、せっかくなのに投げるものが無い」

 俺が身動きできないのをいいことに、アリサがテンプルにたくさん蹴りを入れてきた。すずかが
止めなかったら、多分頭蓋骨陥没してたんじゃなかろうか。

「お二人とは久しぶりでござるな」
「久しぶり、じゃないわよ。今までどこに行ってたわけ?」
「ほっ、ほんとうだよ。行方不明って聞いて、心配したんだよ?」
「料理作ってお金稼いで、恵まれないしょこたんのために臓器移植のドナーしてたんです」

 すずかが首をかしげ、アリサが詐欺師を見るような目で俺を見た。しかし事実なので、こればっ
かりはどうしようもない。

「みんな、寝ちゃってるんだ……」
「俺が真っ先に寝たんだが、起きたらいつの間にやらこんな状況に。動けない」
「今なら足の裏思いっきりくすぐれそうね」
「俺の靴下に触ると指が溶けるトラップが発動するけどいいのか」
「それをはいてるアンタの足は一体何でできてるのよ」

 そんな風に話していると、すずかが眠りこけているヴィータを発見する。

「あれ? この子……」 
「ああ、うちの子。はやての親戚の子ということで」
「ふーん……名前は?」
「ゾッド」

 名前がごつすぎて、すずかがドン引きしていた。もちろん後でヴィータにべっこんぼっこんにさ
れたけど、この時はあんまり後悔していなかった。

「しまった。こんなことならもっとお菓子作ってくればよかった」
「何? 何か作ってきたの?」
「パイなんだけど」
「す、すごいね! 何のパイ?」
「タオパイパイ」

 ネタが通じず、二人して首をかしげてみせたので、リンゴ使ったよと教えてあげた。

「……んー……んぅ?」

 そのうちはやてが起きだした。

「んー……」
「久しぶりね、はやて。目覚めはどう?」
「……だれか、おっぱいってゆーた?」
「タオパイパイとしか言ってませんが」
「アンタたちって……」

 がっくりうなだれるアリサだった。



(続く)

############

22:00
ちょいと修正。



[10409] その100
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/03 19:17
 こたつでごろごろしながら、ヴィータを相手に雑談する。

「バリアジャケットってあるよね」
「おー。それが?」
「あれってパピヨンスーツにできるんだろうか」
「やろうと思えばできるけどやめれ」

 「愛を込めて!」とか言ってる自分を想像したのだろうか、ヴィータはかなり嫌そうな顔をした。

「第3期の悪の親玉、スカトリエロッティの手下たちがいるんだが、そいつらに着せようと思って」
「その親玉にやらせろよ。写真撮って全次元世界にばらまいてやる」
「万が一それがウケて、愛され怪人になったらどうなさる」
「平面になるまでぶったたく」

 さる事情、主に俺からの情報により、今現在ヴォルケンリッターから異様に毛嫌いされているスカ
山博士だった。俺はあの人割と好きなんだけどなぁ。

「なーなーなーなー」

 うつ伏せになってごろりごろりとしていると、背中に何か乗ってきた。ほっぺたをぺしぺしと叩か
れたので見てみると、またがっていたのははやてだった。
 寝てる人の上に乗ったり枕にしたりするのはやめれと言っているのだが、あんまりやめようとしな
いので最近は諦めつつある。

「何ですか」
「なー、酢豚。酢豚食べたい」
「あ、いいな。久しぶりで」

 夕飯のリクエストだった。そういえば今日は俺がすることにしたんだ、と思い出す。じゃんけんし
て決めたんだった。

「何で酢豚」
「や、何か、すっぱいのが食べたくなったん」
「素豚なら冷蔵庫にあるじゃない」
「わたしを食中毒で死なすつもりか」

 生肉は直接食べないように。危ないから加熱調理しましょう。

「すーぶーたぁー!」

 はやてがじたじたした。

「はーやーくーつくれー!」

 ヴィータがばたばたした。

「……」

 リインが期待の眼差しで見つめてくる。

「あのぅ……」

 エプロンつけたシャマル先生がお手伝いしたそうにはりきっていた。





「最近いろんな方面で大人気ですねオリーシュ」
「大人気……?」
「便利と言った方がいい気がするのだが」
「一家に一台の時代が来たようです」
「日本の家庭が崩壊するぞ。主に人格面から」

 パソコンいじりながらザフィーラ・シグナム組とぽつぽつ話す。
 はやてとヴィータは風呂。シャマル先生はリインにお箸の使い方をレクチャー中。
 リインは和食も気に入ってるみたいなので、本人にとってはこれが意外と必要だったりするのであ
る。シャマル先生なんだか楽しそう。

「私の将棋の相手も居なくて困っていたところだしな」
「だから今こうやってネット対戦ページ探してる所でしょうが」
「便利な世の中になったものだ」
「魔法使いどもが何を言うか。舞空術だの瞬間移動だの使ってからに」

 魔法普及したら楽チンだろうに。転送とか飛行魔法とか地球で商品化したらノーベル賞、というか
お金がっぽがっぽうっははーじゃないのか。

「あれは意外と事故があるんだぞ?」
「え。そうなんか」
「転送も、座標を間違えると大惨事になるからな。特に、転送先に障害物があったりした場合……」

 リアルで「かべのなかにいる」状態になったところを想像したが、あまりにもグロすぎてさすがの
俺もドン引きする。

「……」
「……」
「……」
「わっ、わたし、しませんよっ!? 絶対絶対ぜったいしませんようっ!?」

 三人して疑いの視線を投げかけてみたが、シャマル先生は必死に否定した。心なし半泣きに見えて
きたので、少しだけで勘弁してあげることにする。

「おお、あった。ここなら一日じゅう対戦できるよ」

 そのうち探していたサイトが見つかったので、シグナムに操作をバトンタッチしてあげる。

「そのページの下の方までスクロールすると、ダウンロードのリンク張ってあるよ」
「……?」
「あ、ごめん。スクロールはそこ。下向きの矢印の書いてある……そうそう、そのボタン」
「そっ、そうか。すまない」

 シグナムがお礼を言ってくれるのも珍しく、少し新鮮な感じがしたのは内緒。

「おお、入れた。よかったでござる」
「これでいいのか? もう対戦できるのか」
「うん。相手がこれで、上手い下手がここで見れる……ってか、魔法はこういうのできないの?」
「我々の知る限りはな。今のミッドチルダにはあるかもしれないが」

 なるほどなるほど、と思いながら画面を眺める。シグナムは対戦相手選択中のようで、アクセス者
のリストを上に下に動かしていた。
 と思ったら、こんなことを言う。

「ところで、その……これは、全国の相手と対戦できるのか」
「そうだけど」
「だ、大丈夫なのか? ウイルスというのがあるそうじゃないか」
「んあ。大手サイトだし、ノートン先生が割と厳しいから。変なことしない限り大丈夫」 
「ノートン?」

 シグナムは首を傾げた。

「こんな感じに、パソコンの中を掃除したりチェックしたりしてる」

 色鉛筆を手に取って、敵キャラ追いかけたり吸ったり空飛んだりしてるカービィの絵を描いてあげ
た。

「……」

 シグナムは気に入ったのか、ちょっとうれしそうにその絵を眺めていた。

『時間切れです。あなたの負けです』

 その後もちらちらと絵を見ていたためか、初対戦が敗北に終わってしまい、何故か俺にくどくどと
恨み言を言うシグナムだった。理不尽だと思います。



(続く)

############

シグナムとかザッフィーはあんまゲームしないのでカービィわかりませんでしたの巻。
100いっちゃいました。何書こうかなと思いましたが、ご覧のとおり八神家の日常。
シグナムも女性なので、可愛いものとかは嫌いじゃないはず。たぶん。



[10409] その101
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/05 22:51
 ちっこいなのはの大群があらわれた。知らない広い部屋に、それはもう凄まじい数がわらわらと。
 いつかなのはさんハウスとか言ったことはあるけど、まったくもって訳わからん。ちょっと可愛い
ような気もするけど、基本的に意味不明。冗談だろこれ。

「なんというバッドカンパニー……このままいくと、ティアナがマジで蜂の巣にされるんじゃ」
「はっち?」
「はっち」
「はっちー」

 てってこてってこ歩き回りながら、無数のなのはたちが口々に言う。本体は頑張って向上させてい
るみたいだが、こいつらの言語能力には多少不安があるらしい。

「……逃げよう」

 と分析したところで、日頃なのはをさんざっぱらおもちゃにし続けたことを思い出した。
 ティアナより先に、まず俺が蜂の巣にされそうだと気付く。こんなのどうせ夢だけど、磔にされて
砲撃とか現実だろうが夢だろうが絶対嫌だ。急いで逃避を試みる。

「どこ? どこいくの?」
「いっちゃうの? いっちゃうの?」
「あそんでよう。かまってよう……」

 逃避を試みたのだが周囲をかこまれており、しかも既に袖やら裾やらを掴まれていた。脱出とか不
可能であり、要するにあきらめざるを得ない。

「……じゃあ、お手」

 言う通りにしないと大変なことになりそうなので、恐る恐る遊んでみる。

「おて!」
「はい!」
「うん!」
「うわあああああああああああああああああ」

 ニッコニコの笑顔のなのは軍団が押し寄せてきて、潰されて死にかけた。





 そんなアホすぎる夢を見た。夢で良かったとしか言いようがない。

「わたし、そこまでアホの子じゃないよう……」

 フェイトと一緒に遊びに来たなのはに正直に話してみると、そんな反応が返ってきた。自分がそう
なってるところはさすがに想像したくないみたいだ。はやてとかヴィータは横で机バンバン叩いて笑
ってるけど。

「逃げればよかったんじゃないか。いずれにせよ悪夢であることにかわりはないが」
「無理。さすがにあの大軍で囲まれたら無理だって」

 マジ怖かった。夢と知りつつも死を確信したのである。隕石直撃した時は即死だったのでわからな
かったから、感じた中では人生初の命の危機だったかも知れない。夢だけど。

「ちっちゃいなのはが、たくさん……」

 フェイトさんが非常に見たそうにしている。

「でも全員レイジングハート持ってたよ」
「……!」

 ちょっと怖がるフェイトさんだった。最近クロノに聞いたけど、バインドされて砲撃食らったこと
があるのだとか。そりゃ怖いって。

「あれだけの大群にかまってかまって言われると流石に気が遠くなるぞぇ……」
「……コアを捨てると言い出した時は大した肝だと思ったが」
「いやいやいや。実際見てみればいいんだ。あれは絶対絶望するって」
「わたしって……けーとくんの中のわたしって……」

 しょぼーんな感じのなのはだった。





 とかやりながら、今日は今日で遊ぶことにする。クリスマスパーティーまでまだ何日か日があるの
で、皆でお菓子作りの練習をしたりもした。はやてもなのはもクッキー焼いたりしたことが何度もあ
るため、結構充実した時間でした。
 あと今日は折角フェイトさんが遊びにきたので、地球の習慣とかを教えることにもなった。
 現在お箸の使い方をシャマル先生に教わって、リインと豆移し競争の真っ最中だ。もともと力加減
は上手な方らしく、後から始めたのになかなか上手みたいだった。

「勝った方にはなのはの手作りクッキーが贈呈されます」

 両者ものすごくスピードが上がった。二人とも食べたいからなんだろうけど、微妙にニュアンスが
違うような気がする。

「負けた方にはシャマル先生特製の当たりプリンが進呈されます」

 リインのスピードが超上がり、フェイトは訳が分からなそうに戸惑って、シャマル先生が隅っこの
方でいじけた。シャマル先生がいじいじすること自体はいつものことなんだけど、今日は犬型フィー
ラに慰められている。なんだか妙にシュールだった。

「やっぱり嘘です」
「…………!」

 リインから何とも言えない視線を向けられた。責められているのか礼を言われているのか、よく分
からない感じだった。

「……」
「しゃ、シャマルさんっ。その……よかったら、クッキー、一緒に焼きませんか?」
「黒こげジェット」
「黒こげジェット」

 はやてと二人で囃し立てていると、シャマル先生がさらに凹んだ。最初に誘いかけたなのはに、二
人して超叱られた。

「なのはちゃんこえぇ」
「夢の中だとちょっと可愛いような気もしたがそんなことはなかったぜ!」
「え……か、可愛かったの?」

 なのははちょっと期待した眼差しで見つめている。

「うん。主に、舌が足りなくて頭の弱そうなところが」
「もっ、もう! しらない! しらないっ!」

 ぷんぷん怒ってキッチンにずんずか歩いていくなのはだった。



(続く)

############

101匹なのちゃん / なのちゃんハウスだ!
「黒こげジェット」のネーミングセンスはすげーと思う。まったくもってどうでもいいですけど。

あと妊娠するとすっぱいもの食べたくなる人いるんですね。知りませんでした。
オリーシュは別に幼女に欲情したりはしないので気にしないでください。別に何も暗示してないです。



[10409] その102
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e757d09e
Date: 2009/08/11 01:09
 クリスマスパーティーまで三日となったので、プレゼントを含めていろいろと買い物を済ませる。
家具の移動も終って、あとは前日の準備とかが残っているだけ。
 というわけで、皆こたつに集結してまったり過ごす。当然ながら結構狭い。あと常にみかんが置い
てあるのだが、それがみるみるうちに減っていく。

「みかんをむくときの擬音って何がいいんだろう」
「わきわきわき」
「指使いがやらしそう」
「めりめりめり」
「きしんでる。それ絶対何かきしんでる」

 最近はやての頭の中が怖くて仕方ないことがあるのは気のせいでしょうか。

「……」
「……」

 しかしそんな風に雑談に参加しているのは少人数で、基本的に会話もあんまし続かない。皆みかん
むいてるので、そういうときの八神家はとたんに口数が少なくなる。
 ちなみに手がないはぐりんたちは皆からもらってます。薄皮までむいたのが好きらしい。

「……~~~~~~っ!」

 そうこうしていると、リインが急にぐしぐし目をこすりはじめた。シグナムのを見て真似している
うちに、つい汁が目に入ってしまったらしい。何気にむくのに慣れてないので、ともすると指で中身
をつぶしてしまうのだ。しきりに目をこすっているのにティッシュを差し出してやると、ごしごしご
しごし拭きはじめる。

「ああああああ。超痛そう」
「だっ、大丈夫なん?」
「いっ…………う……ぅ、は、はい。だ、大丈夫です」

 魔法をはじくというその特性ゆえ、全次元世界で最強クラスの戦闘力を誇るかもしれない――そう
クロノとリンディさんが言ったこともあるリインであるが、今目の前でごしごししているのを見ると
全然そういう感じがしない。
 普段の生活で戦うことがないからだろうけど、すっかり忘れれてしまうのだ。言っとくけどこの子
強いです。みかんの汁が目に入ってうぐうぐ言ってるけど強いんです。

「リイン2号もこんな感じなのだろうか」

 手の中に新しいみかんを取り出して、このくらいのサイズの原作キャラがいたっけと思い出す。リ
インによく似たちっこいのが、ふわふわ浮いてるのを観たことがあるような。

「……ん?」
「何だよ? その、ライダー2号みたいなのは」

 いつのまにか視線が集まっていた。そういえばリイン2号の話をしたのは、リインの名前を決める
ときにはやてに教えたくらいのもの。はやて以外にリイン2号の話ってしてなかったような気が。

「えと、妖精さんみたいなリインなんやけど……」
「リインが助からなかった未来では……ちっちゃいリイン? が作られる。手乗りサイズ」
「作る……ですか?」
「うん。でもって確か、他のキャラと合体した。スーパーサイヤ人みたく、髪の色とか変わって」
「融合騎のことか……」

 シグナムが言った単語には聞き覚えがあったので、多分そう。とうなずいておく。

「あと、ヴィータが妹みたく可愛がってたような気がする」
「ほ、ホントか、それ!?」

 ヴィータの食い付き方が半端ない。妹が欲しかったりしたんだろうか。

「新キャラいっぱい第3期、やなぁ」
「ちっちゃなリインちゃん、会えるのが楽しみですねっ」
「そいつが氷を、似た敵キャラが火を使ってた。会ったら芸させて遊び倒してやる」
「こいつには会わない方がいいかも知れんな」

 うんうんと頷く一同だった。

「そんな。携帯冷蔵庫とミニコンロにするだけなのに」
「せんでいい」
「じゃあメドローア作らせる」
「覚えておくんだな。これがマホカンタだ……!」

 その一言を皮切りに、魔王つながりで話題がティアナに移り、そのうち新キャラ談義に花を咲かせ
る。

「スバルってのにデンプシーロール仕込みてーんだけど」
「ティアナにはゴルゴ13並みの狙撃を練習してもらうこととしよう」
「じゃあエリオのハーケンディストールはシグナム担当で」
「槍は門外漢なのだが」

 えらい期待されてる新人たち。十年後が今から楽しみでした。

「フリードよりはやーい」

 俺の一言がはやてに嫌な思い出を呼び起こしたようで、ヴォルケンからひたすらなじられた。



(続く)

############

新人にげて。超にげて。



22:30 修正。
そういやはやてとはミュウツー……じやなくてリイン2の話はしてました。すみませんです。
08/11 01:16 修正しました。記号を手直し。



[10409] その103
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/10 09:26
「シグナムたちってお酒は何が好きだっけ?」

 パーティーを翌日に控え、部屋を飾りつけたりツリーを出したり。そんな準備を進めているうち、
ふと気になったので尋ねてみた。そういえば飲んでるところを見たことがない。

「……そういえば、久しく飲んでいないな」
「そうですね。こちらに来てからも、一度も……すっかり忘れていました」
「こっちのお酒はいろいろあるけど、飲むときは潰れるまで飲まなきゃいけない習わしが」
「十年くらい後が楽しみやな」

 酔っぱらったシャマル先生とか見てみたかったのだが、聞かれてはいけない人間に聞かれてしまっ
た。将来的に酷い目に遭わされそうな気がするので、嘘つきましたごめんなさいと素直に謝る。

「またやってる……」

 フェイトと一緒に手伝いに来ていたなのははこの光景には慣れっこのようだ。驚くこともなくただ
見ているだけである。

「だって酔ったシャマル先生とか見てみたいし。俺の予想だと相当ふにゃふにゃになるはず」
「見てみたいのは同感だけどな。泣き上戸のようなイメージはすんだけど、どうだったっけ?」
「さっ、さぁ……ずっと前ですから、覚えてないです……」
「というか、酔うほどお酒は出さへんよ。メンバーほとんど未成年やし」

 よく考えれば確かにそうだ。グレアムのおっちゃんはいろいろ話するって言ってたから、あんまり
飲まなさそうだしなぁ。

「よっしゃ。これでツリー完成やな」

 はやてたちがてきぱきと作業を続けていたため、いつの間にかツリーが完成間近。あとは最後の星
を頂上につけるだけ。

「はやて、その……てっぺんの星、つけていいかな……」
「あっ。わっ、わたしもっ」
「あ、う。えと、この役はやなぁ……」
「もうやっちゃいましたがな」

 最後の飾りをやりたがっているフェイトなのははやてを尻目にさっさと星をつけちゃったのだが、
どうもお気に召さなかったらしく、なのはとはやてに松葉杖で肩胛骨をぐりぐりされた。それでもっ
て悶えている間に星は外され、三人でわざわざもう一度つけ直される。何この理不尽。

「……お前らなんて、十年後に三人で百合ってればいいんだ」
「や、私、絡むなら男の子がええんやけど」
「そうなのか。でも原作だと、同じベッドで寝てるシーンがあったような」

 余程ショックだったらしく、はやてがずずーんと沈み込んだ。

「けーとくん、ゲンサクってなに?」
「ユリ……?」

 誤魔化すのに苦労した。





 準備が終わったので、前夜祭でござる。おのおのがた、前夜祭でござる。

「明日もあるから、あんまりはしゃいでも仕方ないんやけどな」
「とりあえずなのはとフェイトにホラー映画見せるくらいはやりたいんですが」

 なのはがじりじりと後退し、そろりそろりと部屋から出ようとする。

「なのはをキャプチャーしました」

 つかまえる。

「何処へ行くつもりでありまするか」
「えっ、え、と……そ、外の空気がね? 吸いたくなって……」
「もしかして恐いんですか。魔法使えるくせにホラーものが駄目な泣き虫でござるか」
「なっ、なぁっ! 泣き虫じゃないもん! そんなのぜんぜん平気だよ!」

 なのはから言質を取った。フェイトは大丈夫みたいなので、さっそく鑑賞させることにする。

「……」
「……ぁ……ぁ」
「うええぇぇ……ぇぇっ……」

 雰囲気に耐えられなくなったのか、開始から二十分と経たずに限界が来た。俺の背にまわってテレ
ビが見えないようにして、弱弱しい声を上げてめそめそ泣きはじめる。

「…………あ゛あ゛あ゛ああああ゛あ゛あ゛!!」
「わあああああ!! ああああああ! わああああああ!!」

 仮面着けたリンクみたいな叫び声を出してみると案の定、なのはがすんごい悲鳴をあげる。

「わたしらの心臓まで止める気か」

 はやての松葉杖がみぞおちに直撃し、嘔吐感という嘔吐感に悶え苦しむ。

「……っ! ……っ!!」

 悶えている間に、まだ顔真っ赤で涙目になったなのはが余ってたクリスマスツリーの飾りを投げま
くってきた。腕力ないから勢いは弱いんだけど、星型のがあって刺さったりするから地味に痛い。

「……冗談のつもりだったのに……だってまだ序盤じゃないですか……」
「まぁ確かに、まだゾンビのゾの字も出てきとらんけど」
「なのは、わたしの魔法の時はぜんぜん怯まなかったのに……」
「だっ、だって……だってだって、だって……だってぇ……っ」

 わたわた手を振るなのはだけど、怖いモンスターがダメな魔法使いってどうなんだろう、というの
は全員の共通意見みたいだ。フェイトは意外そうにしているけど。

「もっ、もう! けーとくんにはプレゼントあげない!」
「えー」
「えー、じゃないよっ! ぜったいぜったいあげないんだからっ!」

 とか言ってなのはは半泣きのまま帰ってしまい、フェイトもそれを追いかけて行った。クリスマス
直前なんだけど、今回はさすがにやりすぎたかもしれません。

「悪いことしたかも。明日あやまろうか」
「そーしとき。砲撃プレゼントされるかもしれへんし」

 さすがにそれは死ぬかもしれないので、今から何を言うかいろいろと考えることにする。

「プレゼントくれよ」
「そんなに砲撃が欲しいんか」
「グミくれよぉ!」
「やーだよっ」

 なかなか思い浮かばなくて困る俺だった。





「……で、どうしてシャマルが気を失ってんだ?」
「いや、その……高町の悲鳴がとどめだったみたいなんだが」
「その前から結構震えてはいたがな」

 はぁと溜め息を吐く一同だった。



(続く)

############

9:32 ちょっと修正。



[10409] その104
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f621e8a2
Date: 2009/08/14 23:18
 とうとうやってきたパーティー当日。学校の帰りに最後の買い物を済ませてから、翠屋に向かう。
 パーティーがはじまる前に、なのはと仲直りしておきたいと思ったのだ。今日この時間は店の手伝
いをしてると聞いた。もちろんもう怒ってない可能性もあるけれど、昨日はさすがにやりすぎた気が
しなくもない。
 ちなみに会の予定は八神家→翠屋→八神家ということになっているから、まだ謝る機会はあるんだ
けど。

「あ、けーとくんっ」

 店に入るとなのはは、嬉しそうにとてとて駆け寄ってきた。ちょっと希望が見えてくる。

「あっ……」

 しかし次の瞬間、なのはの表情ははっとしたようなものになる。
 そしてふいっと顔を背けると、つんとした横顔を見せて奥に引っ込んでしまった。やっぱりまだ怒
ってるみたいだ。ついさっきの反応だと大丈夫そうだったんだけどなぁ。

「これはもう、ハラキリして許しを乞うしか! こいつで一気にズブリズブリと!」
「お前それ手品のナイフだろ。刃が柄の中に引っ込むやつ」

 切腹を高らかに叫んで誘いだそうとしたのだが、先に店に来ていたヴィータにあっさりネタばらし
されて不発に終わった。空気読んでくれよ。

「なのは、なのは。昨日は悪かった」

 桃子さんに挨拶してから、店の奥へ足を踏み入れる。謝りながら室内に入ると、なのはがひょこっ
と顔だけ出てきた。

「……反省してる?」
「してる。超してる。罰としてあの後あのDVD観て、死ぬレベルの恐怖におののいた」

 だからすまん許してと言うと、なのはの表情がわずかに緩んだ。

「ん? お前ホームアローン観て爆笑してたよな。クリスマスつながりで」

 と思ったらヴィータがいらんことをいうものだから、けーとくんのばかばかばか等と言い残して奥
の方に行ってしまった。

「余計なことを言うのはこの口か」
「ふるへー。事実ふぁほ」

 ヴィータとしばらく互いの口を引っ張り合っていたのだが、空しくなったのでもう外に出る。

「今までなのはからはあんま怒られてないからなぁ。勝手がわからん……」
「パーティー来たとき謝ればいいだろ。ってか、もうクロノとか来てるみたいだぞ」
「グレアムのおっちゃんは飛行機でちょい遅刻らしいね。ぬこたちも久しぶりなのだが」

 しかしせっかくのパーティーも、しこりが残ったままだと何だかなぁ。

「怒らせた経験者として何か一言」
「んなこともあったな。素直に謝ったら許してくれたけど」
「よっしゃ楽勝。素直とか正直とか俺の十八番」
「ちょっと三分前の自分殴ってこい」

 ぺしぺし叩かれた。

「ふと気が付けば口から出任せ言ってるときってあるじゃん」
「ねーよ」

 ばしんばしん蹴られた。




 家に戻ると、お茶とお茶菓子でくつろいでいるハラオウン一家の姿が。

「本当に家族でいらっしゃいましたか。お仕事どうしたんですか」
「昨日と一昨日で捌ききったよ……まだ目がチカチカしてるんだ」
「おかえりなさい。お邪魔してますね」
「いえいえどうも」

 それでいてなお元気そうなリンディさんの様子に戦慄していると、苦そうな顔をして頑張ってお茶
を飲んでるフェイトを見つける。

「紅茶かコーヒーに替えようか?」
「あ……その、えと」
「日本の飲み物だから、慣れたいんですって。ちょっと薄めに淹れたんですけど」

 シャマル先生の言葉にフェイトが頷く。なるほどーと思いつつ、俺もシャマル先生が持ってきてく
れたお茶をすする。

「パーティーまではまだちょっと早いかな」
「なのはは?」
「後から。ケーキはその時……ちゃんと甘いの頼みましたから。そんな目で見ないでください」

 甘いのにしたよね? したよね? という目でリンディさんが見つめてきていた。ちゃんとやりま
したよと言うと、安心と期待が混ざったような表情になる。

「でもこいつ、なのはに怒られてさ。まだ許してもらえねーんだって」
「え……あ。昨日の、映画の……?」
「そうそう。謝りに行ったはずなんだけど、どこで何を間違えたのか」
「どうせまた余計なことでもゆーたんやろ」
「うるせぇはやて。スポンジでも食ってろ」

 はやてが湯気の上がったお玉をニコニコしながら持ってきた。火傷の未来が迫っている気がする
ので、ジャンピング土下座で謝罪。

「だっ、駄目だよ、仲直りしなくちゃ……」
「いやそうなんだけど、どうも上手くいかなくてなぁ。プレゼント増やそうか」
「今からか? 無理な気がするのだが」
「通信でミュウあげたら手っ取り早くね? あと確実に喜ぶ気がするんだけど」
「くっ、くれ! こっちにくれ!」
「わっ、わたし! わたしも欲しいですっ!」

 約二名が面倒なことになりそうなので、ポケモン関連はやめておこう。

「じゃあちょっと早いけど、お菓子でも食べますか。クッキーとかありますんで」
「いや。その前に、君には……」
「クロノ、それは後にしましょう。せっかくのパーティーですもの」

 何か言いたそうなクロノだったが、リンディさんがそれを止める。

「はっ。まさか! コア無しでも使えるデバイスをプレゼントしてもらえるのかも!」
「安心しろ。それはあり得ないから」
「むしろそんなのもらったら即刻叩き壊すし」

 からから笑うヴィータのクッキーだけ、裏にタバスコかけてやろうと誓う。

「~~~~~~っ!」

 実際やってみるとこれがよく効いたみたいだ。涙目のヴィータが襲いかかってきて、再びほっぺ
たをぐいぐい引っ張る俺たちだった。



(続く)

############

23:25
上げてしまってすみません。
ちょっと修正。「~」マークは携帯から打たないようにしなくては。

ヴィータやシャマル先生、なのはあたりのキャラはやっぱり動かしやすいですね。
はやては紐糸の場合、動かすというより安定してる印象があるので、最近は彼女たちの方が目立ち気味かも。

パーティー前後ではいつも通りの光景を描きつつ、色々と先に向けての地ならしをやろうと思っています。
あとはシグナム、ザッフィー、フェイト、クロノたちももっと動かしてみたいですね。

いつも読んで下さってありがとうございます。今後もお楽しみくださいです。



[10409] その105
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/15 14:00
 フェイトがあまりにも弱すぎて困る。

「フェイトちゃん、その、次の番やけど」
「うん…………ぁ……」
(引いたみてーだな)
(間違いなく引いた)
(ババはフェイトの手の中か)

 主にトランプ的な意味で。パーティー前哨戦ということで遊んでいるのだが、連戦連敗すぎてちょ
っとかわいそう。

「あっぶね。何とかビリ回避だな」
「…………」
「そ、そや。別のゲームにしよ! そこの箱ん中にウノがあったはず!」

 何を隠そうフェイトさん、手の内が表情の変化で分かりやすい。たとえばババ抜きだと、ジョーカ
ーを引いたらひきつったような、引かなかったら安心したような顔になるものだから、フェイトが引
いたかがよく分かる。おまけに手の中のババを引こうとすると期待に満ちた表情に変わる。これはも
う勝ち目がないというわけである。

「……あ、えと、どうも」
「あ、はい。どうも……」

 とここではっと気がつくと、フェイトと二人になっていた。さっきまで遊んでいたヴィータや付き
合っていたシグナムの姿も、はやてと一緒に消えている。大方はやてが招集をかけたのだろう。
 あまりにも手加減しなさ過ぎた気がするので、その件でお叱りがあるのだろうか。そんなことを考
えながら、目の前のフェイトに向き直った。

(この子が十年後、かの高名なスカトロリエロッティ博士をホームランで血祭りに上げるのか)

 あまり話したことが無いので話題を探していたが、そんなことばかり思いついて困る。
 しばらく考えてみて、やっと思いついたので切り出してみる。まぁやっぱりというか、なのはの件。

「ああ、その、フェイトって、なのはと喧嘩したことあったんだって? どうやって仲直りした?」
「え……えと、喧嘩っていうわけじゃ」

 言われてからよく考えてみると、石ころめぐって争ってたわけだから喧嘩ではなかったんだっけ。
最後に無印見たのももうずっと前の話になるから、結構忘れてきてるなーと実感する。

「一瞬見た感じ、気にしてなさそうではあったんだが」
「……普通にごめんなさいって言えば、許してくれると思うけど……」
「……どうしてかなのは見ると、つい冗談言ったり遊んでやりたくなっちまうんだよなぁ」

 友達って難しい。はやてとはまた違う感じで。

「何の話だ?」

 いつの間にかクロノが来ていた。お昼寝中のアルフをカーペットの上に降ろして、自分も近くに座
り込む。

「なのはの件。そういえば、何気にこの組み合わせも久しぶりですなぁ」

 確かに。とクロノが言い、本当だ、とフェイトが頷いた。確かこのペアと一緒になったのは、いつ
かのピクニック以来になるか。

「勉強はどう? 進んでる?」
「あ、はい。試験までには……なんとかなりそうです」
「そのうちいいモノを紹介してあげよう。入ると頭が良くなって部活でレギュラーが取れて、恋人ま
 でできる優れもの」
「これのことか? どうも胡散臭い気がするんだが」

 クロノが手に取ったのは、はやてと俺でため込んでいた進研ゼミの漫画だった。暇つぶしにとはや
てが引っ張り出してきたんだと思うけど、クロノにはイマイチ受けなかったようだ。

「……あの、それ、自分も言っといてアレですけど、別に絶対そうなるとは限らないんで」
「え? ……も、もちろん!」

 でも後ろの机で読んでいたリンディさん、ちょっと真に受けていたのが丸分かりでした。





 そんな感じで話しているうちに、フェイトがクッキーの作り方を覚えたいと頼んでくる。

「なのはに聞かなかったの?」
「え……えと、その……」
「? ……ああ。内緒で作って、食べさせてあげたいとか?」
「は、はい。お兄ちゃんにも……」

 フェイトはこくりと頷いた。いいやつというか、純粋な子だなぁと思う。
 そういう心意気にはぜひ協力してあげたい。ちょうど時間もあるし、作らせてみることにする。

「まずスーパーに行きます」
「既製品買ってくる、ってのはナシやからなー」

 いつの間にか戻ってきていたはやてに、完璧に考えを読まれて戦慄する。

「ダービー弟も真っ青のはやての読心術……」
「今のはまるっきり分かりやすかったんやけど。てか、普通に教えんか」

 ぽこぽこ叩かれたので、普通に教えることにする。材料の配分を教えて、ちょっとだけ混ぜさせて
みた。

「わぷっ……」

 電動ハンドミキサーが扱いにくいらしく、生地が顔とかにかかって大変そうだった。拭いてやる。

「ああああ。それ違う。それ味の素! 砂糖こっち!」
「いやいやいや、卵の黄身は殻を使ってやなぁ」
「お砂糖はお玉で山盛り四杯……」
「リンディさん黙ってください。耳元で刷り込むの止めてください」

 色々とカオスな調理の結果、面白い生地が出来上がる。

「…………」
「…………」
「ご……ごめんなさい……」

 恐る恐る味見した結果は、結構すごいものでした。一時のシャマル先生ほどとはいかないまでも、
それをちょっと彷彿とさせる感じ。食材名をまだはっきり覚えてない状態なはずなので、仕方ないっ
ちゃ仕方ないけど。

「……次は頑張れ」

 味見にやってきたクロノが、ぽんぽんと頭を撫でて慰めてやっていた。ちょっと元気が出たみたい
で、フェイトはこくりと頷く。やっぱりお兄さんなんだなぁと思う。

「はやては、どうやって練習してたの……?」
「んー? わたしは暇やったから……レシピ見て、その通りに作っとっただけやよー」
「レシピを勝手にアレンジしない。これ重要」
「え……ダメなの?」
「人が作ったレシピにはちゃんと理由があるしなー。それが分かるまでは、いじったらあかんよ」

 我が家にも先例がいることだし。
 初期のシャマル先生とかひどかった。「これ美味しそう」と思ったが最後、何でもかんでも放り込
むものだから、おでんとか鍋でさえ訳のわからない状態になったものである。最近はあんまりそうい
うことしないけど。

「あとミキサー、持ち方はこう」
「こう?」
「そうそう。そんな感じで、こうこう」
「えと……こう、かな」

 フェイトとちょっと仲良くなりました。



(続く)

############

パーティー入ってるようで入ってない……だと……?



[10409] その106
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/17 15:37
 トイレから出て手を洗っていると、玄関チャイムがピンポンと鳴った。
 ちょうどいいやと思ってがちゃりとドアを開けたのだが、その向こうに現れたのはなんとなのはだ
った。
 予定ではパーティー一次会開始直前、なのはが翠屋のケーキを持ってくる手はずになっていた。だ
からなのはがそこにいる可能性はあったのだが、すっかり失念してしまっていた。何を言えばいいの
か分からなくなる。謝っちゃえばいいはずなんだけど、いざとなると言葉が口から出てこない。

「……と」
「あ……えと……」

 それはなのはも同じだったみたいだ。互いに何か言おうとまごまごするのだが、結局何も口にでき
ない。結果見事にお見合い状態。

「…………ふ、ふーんだ」

 それでもどうにか謝ろうと口を開いたところで、なのはがそっぽを向いてしまった。
 そのまま家の中に入っていったので、慌てて追いかけることにする。そして言う。

「すまん。本当すまん。今度砲撃の的にでも何でもなります。今度は嘘じゃないです」

 追いついてローリング土下座。

「いや、それ重症じゃ済まんと思うんやけど」
「お前本気で言ってんのか」

 やっと出てきた最大限の言葉でなのはに許しを乞うたが、はやてとヴィータの突っ込みでそれが死
亡フラグだったと知る。早まったかもと思い、盛大に冷汗が吹き出る。

「だーめっ」

 しかし当のなのはは相変わらずつーんとした態度である。はやてと一緒に室内に入ってしまい、俺
一人が玄関に取り残される形になった。

「そのうち許してくれるだろう。行くぞ」
「…………」
「動けないなら」
「ごめんなさい行きます」

 軽く凹んでいたのだが、このままだとザッフィーに家中引き回しにされるような気がした。大人し
く部屋に戻る。

「焼き土下座したら許してくれるんだろうか……」
「とても耐えられない気がするのだが」
「おもしれ。引っ張っても反撃ないし」

 応答しないのをいいことに、ヴィータが俺の耳やら鼻やら頬やらで好き勝手遊ぶ。

「ん? ……いたっ、いいいいたいいたたただだああっ!!」
「……はっ」

 無意識にそのヴィータの身体を絡め取り、コブラツイストをかけていることに気付く。

「は……はなせ! はなせって……い、いたい痛いいたい!」
「素数を数えて冷静に考えるから、ちょっとまっててくれ」
「無限に続くだろそれっ! 早く解けはやくううううあああああ!!!」

 どうしようどうしようと思いながら、そのまま技をかけ続けることにする。
 しかし技を解くと案の定ヴィータからの反撃に遭い、手足がどこから生えてるのか分からんような
珍妙な生物にされてしまう。
 びっくり人間のパフォーマンスみたいな。関節が痛くて仕方ない。

「ヨーガヨガヨガヨガヨガ……」

 どうしようもないのでダルシムの真似をしたら、ヴィータとはやてに受けたらしく爆笑される。

「できればそろそろ元に戻りたいのですが」
「次はブランカ! ブランカにしよ!」
「えー。髪そろえてガイルにしたいんだけど」

 体色か髪型かはわからないが、いずれにせよ体の一部がとんでもないことになりそうだ。あまりに
も怖すぎる。

「あ。ダルシムなら、手も伸ばさんと」
「何メートルだっけ。ものすっごいのびるよな」

 手足がこんがらがった状態のまま、悪魔二人から頑張って逃げようとする俺だった。

「あ、逃げやがった!」
「なのはちゃんつかまえて! バインドでホールド!!」
「え? え、あ」

 思わずといった感じのなのはが俺を拘束し、お見合い再び。

「……」
「…………」
「……腕伸ばすの見せてくれたら、許してあげる」

 \(^o^)/





「あのね? だから、その……そう。程度の問題なのっ」

 あんまりにも無理難題過ぎたので、すみませんそれはできないですとなのはに謝罪。
 すると正座させられて、衆人環視の中ハイパーお説教タイムが敢行された。こちらとしては恥ずか
しいことこの上ないのであるが、これでなのはの気がやっと晴れてくれそうなのでちゃんと聞く。

「遊んでくれるのは楽しいけど、えと……優しくしてほしいの。お兄ちゃんみたいに」

 エロゲ主人公並みの性格の良さを期待されてもちょっと応えられない可能性があるけど、ここは素
直にうなずく。

「あ……でっ、でも、イヤじゃなくて……遊ばれるのはその、えっと、嫌いじゃないっていうか……」

 なのはの主張がどっちなのかよくわかんないや。

「まーまー。その辺でその辺で」
「そろそろケーキ切りますよーっ!」

 はやてが宥め、シャマル先生が呼びかける。猛烈なダッシュではぐりんたちがテーブルに向かい、
リインとリンディさんが仲良く期待に満ちた目でケーキの箱を見つめた。ヴォルケンリッターの皆も
ハラオウン兄妹も手伝いに向かい、はやてとなのはが俺と一緒に取り残される。

「なのはちゃん、言ってることが一貫しとらんよーな」
「えっ……」

 なのはは一瞬思考を巡らせた。

「あ、あの……あのね? ……イヤだけど、イヤじゃないの」

 でもやっぱり曖昧ななのはだった。語彙力の問題なのかどうなのか。

「とっ、とにかく! けーとくんは今後、嫌がられないよーに遊んでくれたらいいのっ!」

 微妙な感じのはやての視線を受けて、なのはが誤魔化すように言い放つ。

「うん、済まんかった。程度を注意するので、今後も遊ばれてくれると嬉しいです。ごめんね」
「あ……う、うんっ」
「なのはちゃんが玩具でいいよ宣言してる件」
「はやて、録音。録音しといた」

 ヴィータからレコーダーを受け取ったはやてと、それを奪おうする顔真っ赤のなのはの間で追いかけ
っこが勃発。しかし片方は松葉杖のため、あっという間に捕捉される。

「なのはって説教すんの下手だよな」
「確かに。あと関係ないけど、録音とロックオンって似てるよね」
「本当に全然関係ねーな」
「カンケイケーイ!」
「カンケイケーイ!!」

 はやてがなのはにぽっこんぽっこん叩かれて、ヴィータと俺がそれを眺めていて、何とか仲直りが
完了して、ケーキ入刀と共にパーティーが開幕するのでした。



(続く)

############

前回フェイトにちょっと控えめにしてたのはなのはの一件が堪えてたから。
次回以降で書きますが。やっとパーティーはじまるお…。

ちょっと最近3話くらいはネタを織り込むスペースがなくて大変でした。
感想欄でもご指摘を頂きましたが、今回のでオリーシュも通常営業に戻りますのでご安心を。

関係ないけどエプロン着けてニコニコしながらケーキ切ってるシャマル先生ってけっこう可愛いんじゃなかろうか。


08/17 15:44
クロノが女の子になってたので修正しました。



[10409] その107
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/17 23:40
 ようやくパーティーはじまるよー!
 ということでまずはじめに、翠屋特製のケーキを食べつつ皆で雑談する。
 管理局での話、地球の話からはじまり、それはもう色々なことを。フェイトの試験勉強が順調だと
か、最近八神家であったこととか。
 滅多にない機会だったからか、あんまり喋るイメージのないクロノやフェイトも、積極的に話に加
わってくれてにぎやかになった。でもって時間も流れていき、そのうちゲームをしようということに
なる。

「あ。そういえば、ユーノいないね」

 ふと気がついてみると、約一名足りない人員が。なのはは知っていたみたいだが、八神家の面子は
そうではなかった。もちろん俺も聞いていない。

「遺跡の土産話を楽しみにしてるんだが。遅刻?」
「う……うん。外せない用事があるみたいで……でも、遅れて来るから」

 フェイトが答え、リンディさんが頷く。途中参加も退出もバリバリ自由なパーティーなので、あん
まり気にしていなかったらしい。

「宴会には間に合うのか。じゃあケーキ残しておかないと」
「お前たち。そういうことでストップだ。食べたいのはわかるが」

 メタル軍団が物欲しそうな目でケーキの箱を見ている!

「……代わりに、こっちを」
「昨日気絶したシャマル先生の気付けに使った当たりクッキーじゃないですか」

 リインがなかなかえげつないことを言う。あまりにもユーノが可哀想だったので、それは却下する
ことにする。
 しかし取ろうとすると、泣きそうな顔のシャマル先生が横からかすめ取って行った。そのままキッ
チンに向かったのを見ると、処分しに行っているのだろう。お疲れ様な話である。

「……黒くてごつごつしていたが、あれは一体何だったんだ」

 クッキーの外見はそんなクロノのコメントから察してください。

「け……け?」

 でもってそうこうしているうちに、クロノの隣にいたなのはが、何かを考えるそぶりを見せた。

「け……け、けっ、けーとくん、あああのねっ」
「文頭に人名はダメだって最初に言ったじゃないですか」
「ケーキで始めとったらよかったのに」

 がたりと椅子を動かして、ほぼ全員が立ち上がる。不穏な気配を察知して、なのはが脱兎のごと
く逃げ出した。

「こら待て。逃げんな」
「ザフィーラ追っかけて! 逃がさんといて!」
「シグナムそっち行った。そうそう、ドアの向こう」
「じっ、人名言ってる! 言ってるよぉっ!」

 あまりにも多勢に無勢だったため、あっという間に捕獲される。そのまま床にホールドして、罰ゲ
ームを敢行。

「にゃあぁっ! やっ、やめ、や……ひっ、ふひゃぁぁぁああっ!!」

 総員で全身くすぐられて、妙な悲鳴を上げるなのはだった。





 そのうち雑談も一段落し、別な遊びへと変化。

「ビンゴ! ビンゴしよ!」
「わしのフリーポケットは25式まであるぞ」
「ダメに決まってんだろ」
「失格だな」

 いきなりハブにされそうになった。それは勘弁願いたいので、チート技は無しということになる。

「ビンゴまであったか。何でもありますなぁ八神家」
「プレゼント用意しとったん! 文房具とか小物とか、変なのとか!」
「変なの……」
「……変なのって」

 はやてが何を用意したのか気になりつつも、ビンゴ用紙を受け取る。もちろんフリーポケットは真
ん中の一個だけなので、とりあえずそこをぽこっと開ける。

「クロノ、ビンゴわかる?」
「ん? ああ、さっき聞いたよ。一直線に並ぶといいんだったな」

 カードを配りつつ、クロノと話す。こたつは女性メンバーに占領されてしまっているので、手近な
ソファに腰掛ける。

「……ユーノおせぇ」
「まったくだ」

 現在パーティー参加メンバーは女性がほとんどなため、少数派な男性陣はちょっと勢いが無い。ザ
フィーラはシャマル先生のビンゴの手伝いをしてしまっているから、話そうにも相手が少なすぎる。

「ミッドではこういうのってないの?」
「あるぞ。魔法は使っているが。色々な世界から、様々な文化が持ち込まれているからな」
「地球からもってことか。旅行に行ったりしてみたいですなぁ」
「みたいですなぁ」

 横からはやてが現れた。

「むぎゅー」

 松葉杖で歩いてきたのをぱっと手放し、そのままソファに押しつぶしてくる。

「なーなー。クロノくん、ミッドってどんなとこ? びゅんびゅん人が飛んどるの?」
「いや、そうでもないよ。市街地は飛行が禁止されているんだ。緊急時は別だが」
「何と……ほんなら、移動手段って何やの? やっぱり車?」
「ああ。道路も通っていて……それはそうと、ぴくりとも動いていないが」

 酸欠で死にそうなところを、クロノのコメントによって救われる。

「陸上で窒息死とか勘弁してほしいでござる」
「窒息は苦しそうやからなー……私もちょっと勘弁やな」
「じゃあ理想の死に方は?」
「腹じょ……悶死」

 お前今何言おうとした。

「ん? 悶死ってなんやろ?」
「悶々としながら死ぬ。つまり、エロいこと考えながら死ぬんじゃなかろうか」
「死ぬ直前にえっちなこと考えたらあかんってことになるけど」
「……君たちは一体何を話しているんだ」

 クロノに何とも言えない視線を向けられた。



(続く)

############

久々に遊んでみたあいうえお作文。

なのははやっぱり国語力が不足気味だったようです。便利ですね。



[10409] その108
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/21 14:24
 ビンゴの一位はなのはさんでした。さすが原作主人公と言うべきか。

「なんという事態。魔人ブウか餃子がいればこんなことには!」
「そういや最近ギョーザ食ってねーな」

 チャオズっつってんだろばかやろう。
 とかヴィータとやってるうちに、さっそくはやてからの賞品贈呈に移る。ビンゴ一番乗りの幸運な
人には、それ相応の豪華賞品があるらしい。なのは超うれしそう。

「ねぇ、ねぇ見て! ほらビンゴ、ビンゴだよっ!」
「じゃあ俺もビンゴ! 3列くらいの超絶ビンゴが!」
「さっきもゆーたけど、いらんとこ開けたらそのビンゴカード無効やからなー」

 はしゃいでるなのはに張り合おうとしたのだが、はやてがそんなことを言ってきた。
 仕方がないので諦めて、大人しくなのはの賞品ゲットをながめることにした。やたら大きな包みを
乗せて、えっちらおっちらはぐりんたちが這ってくる。

「わぷっ……わ。わ、わわ」

 はやてが紐をほどいた中身は、超でっかい熊のぬいぐるみでした。なのはの身長の四分の三ほど。
 あんまりにもでっかかったため持ちきれず、こてんと床にしりもちをついた。皆微笑ましそうにし
ている中、一人なのはだけ恥ずかしそう。

「あーあ。あたしも狙ってたのに」

 と、ヴィータが残念そうに言う。そういえばパーティーの買い出しに着いていってたのを思い出し
た。景品の内容知ってたのか。

「……お前確か、手先すっげー器用だよな」
「こっち見んな。さすがにあのサイズは無理だって」

 ちぇっ、とこぼす。便利屋じゃねーです。

「頑張れば、そうできなくも無いと思いますけど……」
「と言いつつ、自分もちょっと作って欲しいシャマル先生でした」
「……そっ、そんなことないですよ? ただその、ちょっと思っただけで……」

 あはは、と笑って、シャマル先生は誤魔化した。

「そういうスキルが高かったら、ヴォルケンズのプレゼントにも手作り感を出せたのだが」
「つーか偉いなお前。全員分のプレゼント、きっちり用意したんだって?」
「ほら。例の、失踪中に稼いだお金があったので。あれ換金したら大した額になったから」

 実はパーティーの費用、そこから出てきてたりする。金貨や銀貨がたくさんあったので、グレ
アムのおっちゃんにこっそり渡してみたのだ。結構な額になって返ってきた。

「ヴィータだけチロルチョコ」
「一日五個で一年分だったら許してやるぞ」

 塵も積もればすんごい額になるので、ごめんなさい嘘ですと訂正する。

「実はここだけの話、シグナムのだけ迷って。結局カービィのぬいぐるみにしたんだけどどうだろ」
「……どーなんだ? それって」
「イメージ的にはあんまりだけど。でも前絵を描いたとき、何か気に入った感じだったから」

 まぁ渡してみねーとわかんないよな、という結論に落ち着く。それもそうなので、もうあんまり気
にしないことにした。

「最初はレバ剣用の砥石にする予定でした」
「クリスマスプレゼントにそれは少し……」
「まずお前が試し斬りされそーな気がするぞ」
「戻し斬り! 戻し斬り!」

 いつの間にか横にいたはやてが恐ろしいことを連呼するので、シグナムの耳に入らないように必死で
止める俺だった。


 


 その後ビンゴは無事終了。なのはの次がフェイト、ヴィータ、でもってシャマル先生の順番。ちっ
こい人形セットやら文房具やら、いろいろと良さげな賞品が出てきた。

「……はやて、そういえば変なの用意したって言ってなかったっけか」
「ヘンなキャラクターのグッズだったぞ。実害はねーだろ」
「……それをもらってきてしまったのだが」

 クロノがだるーな感じの猫のストラップをゲットしてたのはちょっと面白かったです。
 でもってその後は、すこしイベントには時間が空く。トランプしたりお菓子食べたり雑談したりで
、賑やかなパーティータイムを楽しむことになる。

「大人気ですねザッフィー。さっきから色んな人乗せて」

 ザフィーラが人間型になったり犬型になったりで忙しそう。何故かというとはやてが乗りたがるか
らであり、それを見たなのはやフェイトもやってみたそうな顔をしてくるからである。あんまり断り
きれないらしく、それぞれ背中に乗せてあげたりしていたみたい。

「あまり乗せたことはないのだが……」
「考えてみたんだが、ザッフィーの色を白くしたらもののけ姫が……あれ。誰がサン役だろ?」

 そう考えると、実はハマり役がいない気がする。野生っぽい登場人物っていなかったか。

「というより、お前は事あるごとに私の体色を変えようとしていないか」
「でも外出する時は魔法で白に変えてるよね」
「目立つからな。あれは仕方なくだ」

 ホワイトザッフィー、いいと思うんだけどなぁ。ソフトバンクっぽいし大神っぽいし。

「そう言えば思ったんだけど、闘ってるとき人乗せたりしないの? こう、騎馬武者みたく」
「……あまりやらないな。だが、少し面白いかもしれん」
「わくわくわくわく」
「いや、お前は戦えないだろう」
「闇の書のバグ破壊のあれが、本当に最初で最後だろうな」

 横合いからクロノにも指摘される。そういえばそうでした。

「いいや。ヴィータが悪戯魔法作ってみるって言ってくれたし」
「『扇風機の前で声を出したくて仕方がなくなる呪い』だったか?」
「いや。『かた結びが解けない呪い』か『きのこの山の柄が全部折れてる呪い』にしようと」
「君はどうしてそういうことばかり考えつくんだ」

 クロノが呆れたような表情でこちらを見ている。

「暇さえあればこんなことばかり考えているからな」
「あとは、なのはいじりとか。最近はパターンが少ないので、はやてやヴィータと相談中」
「この間ので、ホラーすぎるのはダメってことになったからな」
「桃子さんの前でいろいろやってみると、面白いことになるかもなー」

 いつの間にか俺の座るソファの背中のところに、ヴィータとはやてが腰かけていた。

「てや」
「とう」
「今日二度目やがなぐええ」

 そのままなだれ込んできてつぶされた。



(続く)

############

ちょいとペース落とします/落ちてます。



[10409] 番外7
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/23 02:28
 聖王閣下が あらわれた! コマンド?

「面倒をみると言われても……十年前のなのはよりちっこいんじゃないか……」
「?」

 確か原作のラスボスだったと思う、ヴィヴィだかビビだかという子供の世話を一時間だけ引き受け
ることに。
 しかし具体的にどうすればいいのか、どうも勝手がわからない。子供のころははやてやらなのはや
らとよく遊んだけど、世話をする側となるとちょっと違うような気がするのである。

「……お、おにーさん、だれ……?」

 カイジでやってた十七歩をするわけにもいかんしなぁ、と思っていると、不安そうな目で見上げて
きた。
 それにしてもこの娘っ子、金髪オッドアイとは小癪なやつ。厨二か。俺を差し置いて厨二なのか。

「てめぇの目は何色だ!」
「えっ? ……え、えっと……?」

 娘っ子は解答に窮しているようだった。

「しかし、なのはが子守りか。よくよく考えると、もう二十歳近いんだったなぁ」
「な、なのはママの……お友だちなの?」
「わしが育てた」
「……?」

 年齢的にあまりにも不自然なためか、娘っ子は何やら指を折って数えるそぶりを見せた。

「ともあれ、はじめまして。名前ビビだっけ」
「……ヴィヴィオ……お、おにいさんは……?」
「ひとし君」

 ついつい嘘を吐く癖は抜けていない俺だった。

「そのうちスーパーひとし君になります」
「けーとさんがボッシュートされちゃいます! ……ちょ、ちょっと見てみたいです!」

 いつの間にか近くにリイン2号が来ていて、何やら不穏なことを口走る。

「けーと?」

 そして本名がバレる。

「それはともかく、何して遊びましょうか。トンボでも捕まえてみましょうか」
「今の季節だと、トンボは飛んでいませんよ?」
「じゃあリインがトンボ役。ほら、目の前で指回してみ」

 ヴィヴィオが恐る恐る指を差しだし、リインの目の前でくるくる回しはじめた。

「あ、あっ……きゅーぅ」

 リインが素で目を回してしまったので、その両足に細い紐をくくりつける。ヴィヴィオに反対側を
持たせてやると、戸惑いながらも受け取った。

「……はっ! つ、つかまってしまいました! リイン一生の不覚です!」
「ほら。こう持ってみ。そうそう、風船みたく飛ぶから」
「玩具にされちゃってますー……」
「まぁまぁ。後で何かお菓子でも作ってあげるから」

 リインがふよふよと飛んでみせると、娘っ子は嬉しそうにそれを見つめた。

「じゃあ喜んでもらったところで、ちょいと写真を見せてあげよう。フェイトの昔のやつ」
「え? フェイトママの?」
「そうそう。ヴィータが確かデータを保管してたはず」

 もちろん十年前のから。シグナムと戦ってるやつとか

「リイン、アクセスできますけど……い、いいんですか?」
「面白そうなのでGO」
「りょーかいですっ!」

 そしてこれにより影響を受け聖王陛下はちょっと道を踏み外しはじめるのである。
 やがて月日は過ぎ時は流れ、ついにやってきた最終決戦。そこには、絆創膏のみの装備で戦うフェ
イトとヴィヴィオの夢の共演が!





「という計画を思いついたんですが」
「壮大なカオスの予感がします……リイン、なんだかワクワクしてきました!」
「エンディングまで、脱ぐんじゃない」
「え、えっちに聞こえます! でもでも、このフェイトちゃんの写真を見ると否定できません!」

 写真鑑賞会中のリイン2号とのやりとりでした。



(続かない)

############

きみと脱がしあうRPG。



[10409] その109
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/25 23:11
 遅れてアルフに連れられて、ユーノがやって来た。

「ハイパーユーノタイムはじまるよー!」
「ぼ、僕は一体何をすれば……」

 いきなり困惑気味のユーノだったが、取り敢えず先にみんなと挨拶して回る。地球暮らしのなのは
とは久しぶりみたいで、お互いすっごく嬉しそうに笑ってた。

「アルフいなかったのは迎えだったのか……あれ。そういや、エイミィさんって今日は」
「来られなかったの。残念だけど」
「そゆこと。あ、美味しそうだねー。ひとつおくれよ」

 話し込んでいるユーノとなのはを見ながら、机の上にあったビスケットをひょいとつまんでテーブ
ルにつくアルフ。席はフェイトの隣である。
 逆にシャマル先生が席を立って、ぱたぱたとキッチンに向かった。コーヒーが切れていたので、そ
の準備をするのだろう。

「じゃあこっちはブラック!」
「むしろ紅茶で」
「バニラアイスのせてな!」
「……コーラ、飲んでみたい」
「あ、え? あ、あう……」

 それを見ていたヴォルケンズとはやて+リインから矢継ぎ早に注文が飛び出し、あうあう言って混
乱した様子のシャマル先生だった。

「でもって主人の責任として、全部混ざった失敗作をはやてが一気飲みするようです」
「堪忍許して」

 はやてが許しを乞うたため、ドリンクの融合事故は未然に防がれた。その結果ちゃんとしたコーヒ
ーが出来上がり、テーブルにやって来たユーノとアルフが一服する。

「ようやく男性陣は揃ったか」

 クロノがそんなことを言う。ザフィーラがぴくりと反応したが、とくに何も言いだすことはなかっ
た。本当はまだグレアムのおっちゃんが来るのだが、サプライズということにして伏せてあるのだ。

「アリサちゃんとすずかちゃん、翠屋から参加やて。今ので全員そろったことになるなー」
「じゃあそろそろいいかな。なのはもフェイトも、ちょっとおいで」

 ちょうどいいので、プレゼントを渡すことにする。ちょいちょいと手招きをすると、二人とも何だ
ろうといった様子で歩いてくる。

「お手」

 二人ともわんこ扱いしてみたところ、アルフから強烈なお手を腹部にいただいて悶絶する。

「おかわりならもう一回やってあげるけど」

 顔の形がお変わりになりそうなので遠慮する。
 そそくさとカーテンの裏に隠してあった紙袋を取って来て、袋分けしてあったプレゼントを取り出
して渡した。中身は水彩で描いてみたそれぞれの似顔絵と、ちっちゃな箱がひとつずつ。

「わぁ……すごい、そっくり……」
「あっ、ありがとう……!」
「聞いてはいたけど……本当に上手いねぇ。そっくりだよ」
「僕のはフェレットモードのも描いてある……」

 ユーノのフェレットは見たことないので、なのはの部屋で写真見せてもらって描いたんだけど。
まぁ好評みたいで、よかったよかった。

「これは……指輪?」

 でもって箱の方を開いたクロノが、中身を確認して言葉をこぼした。
 手の中に持っていたのは、銀色の石が埋め込まれた指輪だった。子供が気軽に着けられる軽いやつ
だ。以前行ってたドラクエ世界にエルフっぽいのがいて、仲良くなったため売ってもらえたのだ。

「ほっ、ホントだ……!」
「……あれ? これって……」
「マジックアイテム?」

 他の面々もそれに続く。中から出てきたのは同じ品物だった。フェイトが何やら気づいた様子で首
をかしげ、アルフがこちらを見て確認を求めた。勘のいい人たちだなぁ。

「いのりの指輪っていうんだけど。その銀色のは俺のコアの欠片埋め込んだ。綺麗でしょ」

 なのはが驚いた顔になって、クロノとリンディさんがすんごいむせた。このアイテム知ってそうな
のは確かにこの三人なのだが、ハラオウン親子の反応がちょっと予想外。

「超壊れにくくなったのでびっくりしました」
「最初に作ったのが50回超えとったからなぁ。指輪壊れてもコアの破片残るし……」
「回復魔法とか修復とかには適性あったのかもな。もー粉々だけど」
「まっ……ま、待て! 最初から話を聞かせてくれ、最初からだ!」

 はやてやヴォルケンズと制作秘話を語っていると、何やら大変慌てた様子になるクロノだった。な
んだろう。





 クロノに話を求められたので、いろいろとお話することに。
 粉々にだけどコアが残ってて、リインが集めていてくれたこと。とりあえず思い出の品ということ
で、ビン詰めにして保管してあること。何か銀色でキラキラしてるので、プレゼントに使ってみた今
回の件。

「そういやクロノたちには、コア残ったこと報告して無かったね。ごめんね」
「いや、まぁ、僕たちは……いいんだが」

 これがどうしたの、と聞いてみると、リンディさんが話してくれる。

「レアスキルの調査……バグ取りのですか」
「そうなのよ。研究できれば、大きな発見があるかもしれないっていう見解があって……」

 どうも闇の書のバグって、通常の魔法程度では除去できないほどになっていたらしい。これを俺の
コアが完全な形で修復したとなると、生半可な魔法ではない。おそらく何らかのレアスキルで、医療
や治療関係のものである可能性大。
 そんな推測に至るまでは簡単だった。ではそれは一体何だったんだ、という疑問の声が、管理局の
上の方から出ていたそうな。
 あの日、無人の平原で最終決戦を繰り広げた時、バグを修復した後のコアは、役目を終えて書の中
に帰って行った。その映像が残っていたらしく、書を調べれば何か出てくるんじゃないかという話が
持ち上がっていたらしい。まぁ実際そうだったわけだが。

「それでだ。ひとつ、聞いてもらいたいことがあるんだが……それを、だな」
「ああ、そっか。持ってく? ビン詰めとかにするけど」

 クロノとリンディさんが驚いた顔になった。でも俺はまぁ使えないし、クロノたちならあげちゃっ
ていいや。リインとかシグナムたちも横で聞いていて何も言わないあたり、とくに問題ある行動って
わけでもなさそうだし。きっと渡しちゃっても問題ないでしょう。

「完全に機能停止してるけど……でも指輪は壊れにくくなったし。何かあるのかも」
「……いいのか? 本当に?」
「いいよー。しかし飾っときたいので、三分の一くらいは残して欲しいんですが」
「い、いや、そんなには。このくらいで大丈夫だ。ビンも必要ない」

 クロノは五、六個の欠片を手に取って、俺にもう一度確認した後、リンディさんに手渡した。自分
の体の中にあったものがこういう貴重品扱いされるのは、なんというかちょっと不思議な感じ。

「最初クロノがなにか話そうとしてたのって、もしかしてこれのこと?」
「いや、これもあるんだが……また後にしよう。とにかく、ありがとう」
「ありがとうね、玉坂くん」
「その名前はこそばゆいのでオリーシュでいいんだぜ!」
「ねぇねぇけーとくん、見て! ほらほら!」

 クロノとリンディさんの話がそうやって一段落するや否や、横合いからなのはの嬉しそうな声が届
いた。
 何ぞと思って目を向けると、そこにはプレゼントを既に装備してはにかむなのはの姿が。喜んでく
れたみたいでよかったよかった。ジャケットに比べれば微々たるものだけど、守備力もちょっとだけ
上がるみたいだし。

「残念だ。なのはなら鼻につけてくれると信じてたのに」
「自分でやってよ……」

 想像してしまったのか、なのははちょっと痛そうな顔をした。

「でも、ありがとう! 大事にするね!」
「ところで私らのは? まだくれへんの?」
「あたしはちゃんとかっこよく描いたんだろーな」
「いやまぁ描いたけど。後で渡すからちょい待ってて」

 最後のお楽しみがあるので、今はまだ教えてあげないことにする。

「僕たちからもプレゼントがあるんだが……」
「僕からもおみやげがあるんだけど。はい、女の子はこっち」
「わ、ヘアバンドだぁ……ユーノくん、ありがとう! ちょっと着けてみる!」
「実はわたしからもあるんよー! 手作りのストラップ!」
「ストリップ?」
「ストラップ」

 なし崩し的に、賑やかなプレゼント交換会になりました。



(続く)

############

壊れにくい祈りの指輪っていいですね。ほしいです。
クロノが何やら言いかけてたのは、上にあるようにこの件ではないです。それは次回以降。


4日おきには24時間くらい早い気がするけどまぁいいや。
次は28日か29日の予定です。ではまた。



[10409] その110
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/08/28 11:26
 面子がそろってしばらく時間が経ったので、翠屋に行って二次会としゃれ込むことになりました。
 途中で八神家の方にグレアムのおっちゃんが来ると待ちぼうけ状態になるので、はぐりんたちにお
留守番をお願いしておいた。ケーキを買って持ち帰り、それが報酬ということで。
 言葉は通じないけどちっこいホワイトボードにメッセージを残しておいたので、それを見せれば多
分大丈夫。あいつら玄関の鍵開けられるし。運動したそうにしていたので、空き巣が来たら黒コゲに
してくれそうだし。

「……お……おっ、ひ、さ、しっ、ぶっ」

 しかしドアを開けると、そこには士郎さんの姿が。
 別に般若の面みたいな顔をしてるとかっていうわけじゃないんだけど、口が上手く回らなくなる俺
だった。以前(その12参照)ちょっと怖い目にあってしまい、それ以来苦手意識ができてしまった
のである。あれ以来、まともに顔を合わせる機会があんまりなかったのだが。

「そ、そこまで怖がらなくても……大丈夫かい?」

 あんまりにも目に見えて恐怖していたためか、逆に士郎さんから心配される。

「そ、そ、そっ、その節はっ、平に、ひら」
「平井銀二」
「絞られる奪われる」
「殺される…!」

 後ろからはやてとヴィータが続けて妙な事を言うので、思わずタイムリーにものすごいことを口走
ってしまった。一瞬してから我にかえり、二人まとめて久々にこめかみぐりぐりの報復をお見舞いし
てやる。涙目でやめてやめて言ってるけど許さない。

「あ……アリサちゃん、みんな来たよっ!」
「やっと来たわね。待ちくたびれたわよ、もう」

 後ろからすずかと、遅れてアリサがひょっこり顔を出した。こちらとしては既にカオス極まりない
状態になっていたため、非常に助かった形になる。

「……珍しいわね。いつもと立場が逆じゃない」
「じわじわとなぶり殺しにしてくれる」
「それはむしろ覚醒なのはちゃんがティアナに……あっ、あぁあっ! にああ゛あ゛あぁ!」
「あだだだぁっ! よっ、よせ、頼むから離しああああ!!」

 そんな感じに落とし前をつけてから、とりあえず皆で席に(店外のテーブル)つく。攻撃を受けた
直後のはやてとヴィータは、シグナムとシャマル先生に運ばれて行った。
 二人ともいたいよーいたいよー言いながら恨めしそうな目を向けていた。でもあいつらが悪いので
知ったこっちゃないです。

「あれ? ユーノが……どうして?」
「美由紀さんたちが会いたそうにしてたそうだから。フェレットモードで参加だって」

 フェイトが不思議そうにつぶやいているので、こっそり事情を教えてあげた。
 現在ユーノは高町家と再会を果たして可愛がられてます。なのはが何かボロを出すかも知れんし、
まぁこれでちょうどいいのかも。アルフもいろいろ食べて眠くなったためか、わんこモードになって
フェイトの膝の上で大人しくしてるし。

「ちょっとしたらユーノは戻るって。アルフもそうらしいし、その後は中に行こう」
「そこ。何こそこそ話してんの」

 ツンデレアリサに見つかった。

「久しぶりだね。元気にしてた?」
「あ……うん。すずかも……」
「あれ知ってるの? 初顔合わせだと思ったんだが」
「なのはの家に遊びに行ったとき、一度だけ会ったのよ」

 実は俺の知らないところで交流が進んでいたらしい。もうほとんど覚えてないけど、原作だとどう
だったっけ。

「来年からの聖祥の編入試験受けるって。たまに勉強見てるけど、いい線行って……なに?」
「……その勉強見てるアンタって、実は結構頭いいってこと? 意外ね」
「それなりには。少なくともなのはよりは」
「みっ、見ててよっ。次のテストは八十点……ううん、九十点だって取ってみせるんだからっ!」

 負けないよっ、と意気込みを見せるなのはだった。その意気自体は応援したくなるんだが、果たし
て元大学生に追い付ける日は来るのだろうか。

「そういえば、今日は終業式よね。通信簿も配られてるのかしら?」
「あっ、はい。今日ですよっ」

 桃子さんとすずかの声を聞いたなのはが硬直し、表情がさっと変わるのを、正面にいた俺とアリサ
トだけが見ていた。

「九十点?」
「九十点?」
「……きゅ、きゅうじゅってん……」

 九十点。





 そのうちお菓子やら軽い料理やらが運ばれてきて、パーティーは再開。色々な人と初対面だったシ
グナムたちの挨拶が済んでから、再び楽しい楽しい時間が戻ってきた。
 しばらくすると桃子さん発案で、お菓子の正体何だろうゲームなんてものが開催された。目隠し
して食べたパイやらシューやらの中身を当てるゲームなのだが、これがなかなか難しい。翠屋のメニ
ューなら間違えない自信はあるのだが、新作予定のお菓子まで色々出てくるのでなかなか当たらん。

「……これは実は、新作の試食も兼ねていたりするのでしょうか」
「あら……ふふっ、正解。みんなの口に合えばいいんだけど、どうかしら?」

 商売人恐るべし。どれもこれも美味いし、この手際。

「……もっ、桃子さん。あ、あのう、今度、ケーキ作りを、教わりに来てもいいですかっ?」
「え? ……ええ、喜んで! シャマルさんでしたら、きっと上達しますよ」

 いつの間にか横合いからシャマル先生が、そんなお願い事をしていたのはさておく。
 ……試食して撃沈くらうのはそう遠い日でもないのかも知れない。今度なのはを通して警告してお
こうと心に誓った。

「ああ……そうか、君が玉坂くんか」

 でもってパーティーも進み、ふと横を見ると、高校生くらいの男の人が近くの席に座っていた。
 誰だろうかと一瞬思ったけれど、そうだなのはの兄さんだ。前写真見せてもらったんだった。会っ
たことはなかったけど。

「そ、そんなに珍しい顔はしてないと思うんだが……何かついてるか?」
「あ、いや、その、すみませんです。ぼけっとしてて」

 思わずじっと見てしまう。エロゲの主人公を生で見るのが初めてだったのでつい。

「なのはと仲良くしてくれてるんだってね。一度会ってみたかったんだ。ありがとう」
「言おうとしたことを全部持って行かないでくれよ……」

 士郎さんが向こうの方から歩いてくるのも見える。そういやさっきは有耶無耶になったままだ。こ
こはきちんと謝っておかねば。

「あのですね士郎さんその、いつぞやのサクランボうんたらはその、単なる冗談のつもりで」
「ああ。初対面で、君が一目散に逃げ帰ったときのあれかい?」
「お前って謝るか逃げ回るかだよな基本」

 仕返しのつもりか、ヴィータが後ろからうるさい。

「仲良うしとるっていうか、遊び倒しとるだけやけどなー」

 ぐりぐりの恨みか、はやてが背後からとてもうるさい。

「いやいや、そうでもないさ。聞いたことはないと思うけど、家では楽しそうに話すんだよ」
「それはちょっと予想外な……」
「昨日はどうやって仲直りしよう、どうしよう、って相談されたな。あれには参ったよ」

 知らなかった事実を聞いて、ちょっと驚くオリーシュでした。ということは、割といい友達やって
られてるのだろうか。はやての言うとおり遊びまくってるだけだけど。

「そーなのかー」
「……うん? うん。そうなんだが……」

 ネタが通じなくて困る。このままだとヘンな子扱いされてしまう予感!

「あ。桃子さん桃子さん、今日こそケーキの寸評をいただきたいのですが。厳しめで」

 ちょうどよく桃子さんが通りがかったので、慌てて呼び止める。なんだか微妙な空気になってしま
っていたので、これで一気に挽回をはかる!

「何だ。自分で焼いてきたのか? すごいな」
「昨日から準備してまして。一次会では好評だったんで、皆さんどうぞ」
「いい色に焼けてるわね……じゃあ、一切れいただくわ」
「お願いします。アリサもすずかも、こっちにチョコケーキあるよー」

 一次会では会えなかった面子を交えて、引き続き楽しい時を過ごす企業バンダイの提供でお送りし
ます。

「昔は超大企業、ゴラン・ノス・ポンサーがあると信じてました」
「月極コンツェルンと同じ原理やな」
「あっ、あれ、違うんですか? いたるところの駐車場に書いてあるから、私てっきり……」

 シャマル先生……。





「あ……久しぶりね、お前たち」
「何これ。書き置き……待ってろって?」
「入れ違いか……待たせてもらおう。日本も、冬は冷えるな」

 そして八神家では、秘密裏にサプライズの準備が整いつつあるのだった。



(続く)

############

たくさん土地持ってる月極って何者だ、とか昔はよく思った。
高町家の印象は割と悪くないみたいなオリーシュでした。次回も話すと思います。



[10409] その111
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/03 23:39
 パーティーが始まってちょっと過ぎてから、フェレットモードのユーノとわんこのままのアルフを
連れて、シャマル先生が八神家の方向へ移動を開始。シャマル先生は戻る必要がないので、途中まで
の見送りである。
 パーティーのメンバーへの(特にユーノの)顔見せが終わったので、アニマル組はひとまず八神家
で三次会まで待機することになったのだ。
 そういうことなので、会は翠屋屋内へ移動。この時間は一時的に貸し切り状態になってるので、気
兼ねなく存分に話したり食べたりする。
 ……はずだったのだがその前に、なのはから特別プレゼントがあるとこっそり告げられた。
 でもって誘われるまま着いていくと、なんと空中散歩に連れていってくれた。

「…………」
「さっきから上の空やなぁ。嬉しかったん?」
「いやいやいやだってその。凄かったんだって。夕焼けの空がこう! 赤と青の絨毯みたいな!」

 背中に乗ってみたり、直立したままつかまって飛んだり。
 速度は全然出せなかったけど、そんなことは問題じゃなない。二十分くらいあった筈なのがおっそ
ろしいほどにあっという間だった。感動と興奮でまだ心臓がばくばく鳴ってて、今日はもう眠れない
かもしれないと思う。

「寝るつもりなんか」
「いやまぁ今日寝ようとは思わないけど」
「スト2の相手と麻雀の面子足んなくなるだろ。絶対寝んな」

 今日の八神家は力尽きるまで遊びつづけるつもりなので、寝つけなくてもそんなに問題はないのだ
った。

「その……よ、よかった? あの、けーとくん、魔法捨てちゃったから。だから……」
「良かった。超良かった。夢みたいな時間だった。もう俺一生忘れない」

 不安げに聞いてきたのに答えてやると、なのはは嬉しそうにはにかんだ。この発想はちょっと思い
つかなかった、と横でヴィータが言う。魔法ってやっぱすごいんだなと俺が返した。

「えへへ。よかったぁ……どうする? 本当は夜にするつもりだったんだけど、もう一回する?」
「ちょ……頼む。街灯ついたあとの海鳴とかマジ見たい」
「うん、わかった。じゃあ、こっちの会が終わってからだねっ」
「やべぇ楽しみすぎる。あとこれもありがと。大事にします」

 ミニサイズのクリスマスツリーのついたキーホルダーを鍵ごと取り出すと、ちゃらりちゃらりと鎖
が鳴った。なのはからのプレゼントである。
 八神家ではなく翠屋に置いてあったとのことで、フェイトのプレゼント(小さなクリスマスの置き
もの。リンディさんと一緒に選んだらしい)と同時に配られたのだ。アリサから一家に一つもらった
オルゴールや、すずかのいろんなぬいぐるみも加えると、持ち帰る量もけっこうすごいことになって
いたり。

「夜になったら、街が星のかたまりみたいになってそう。これは写真に残さねば」
「星みたいな海鳴……スターオーシャンやな!」

 はやてがまた変なことを言う。

「もう痛いほどに幸せなんですが」
「オリオンはまだ地平線に輝かんのやろか」

 ノータイムで同じネタを切り返してくるはやて。こいつの頭ん中って一体どうなってるんだろう、
と最近よく思うんです。

「しかし、これはお返しをせねば……よし。お礼に、逆上がり達成の感動を与えてくれる」
「え……い、いいよ、お、お、お返しなんてそんな、さ、さっきすごいのもらったし……!」
「桃子さん桃子さん! なのはに逆上がりの特訓をしたいんですがかまいませんねッ!」
「わ、わぁっ! わああぁぁあ!」

 顔真っ赤にして必死の様相を呈するなのはだった。しかし間に合わなかったようで、しっかり気が
付いた桃子さん。目が明らかに笑ってる。

「い、い、言わないって約束! 約束!」
「指きりしなかったから無効でござる」
「うぅ……じゃ、じゃあ今して。今すぐ、ほら」
「なのはが俺に指を詰めろと言う」
「うそつき前提になってるよう!?」

 だっていつ遊びたくなるかわからないし。

「も、もう! せっかく連れていってあげたのに! してあげないよ、もう!」
「じゃあ俺も、なのはいじりを卒業することにする」
「えっ……い、いいもん。べつに、けーとくんになんてそんな、遊んでもらわなくたって……」

 言葉に反して、なのははしゅんとなってしまった。耳がぺたんと伏せたわんこみたいな雰囲気。

「嘘。うそです。冗談でしたー」
「……ふ、ふーん。な、なーんだ。本当でもよかったのに」

 尻尾つけたらぶんぶん振ってそうなくらい復活するなのはだった。横に座ってるはやてとヴィータ
がめっちゃ笑いをこらえてる。

「なのはがおもちゃにされてる……」
「遊んでて楽しいです。いつも大体こんな風です」
「よくわかったよ」
「こんな感じなんだ」

 ちょうど近くに高町ファミリーがいたので説明する。なのはははっとして振り返り、ちがうもんち
がうもん言って抗議した。

「いじくりまわして喜ぶドSがおる」
「なのはがMなだけなんじゃないかと思うんですが」
「……懐かしの補完計画、どーやら成功してたみたいだな」
「成功しすぎて別な生き物が出来上がってしまいましたが。第三期どーなるんだろ」

 十年後に思いを馳せる俺たちだった。 

「け、けーとくんも黙ってないで! 何か言ってよ、誤解されちゃ……」
「お黙り」
「日だまり」
「吹き溜まり…!」

 はやてとヴィータが拾ってくれたおかげで、ものの見事な連携が決まった。ちょうど帰ってきたシ
ャマル先生に、助けを求めて泣きつくなのはだった。





「やっぱり女子どもは超うるさくて困る」

 クロノとシグナム、あとフェイト。一通り騒いでから、そんな感じの落ち着いた面子のい
るテーブルに足を運んだ。

「一番はしゃいでたアンタが言うんじゃないわよ」

 すれ違いざまにぽこんとアリサが頭を叩いてきたのは御愛嬌である。間違ってないので言い返せな
いし。

「だいたい男女比おかしいだろこれ。ユーノも戻っちまったし」
「ここも女性が半分以上……ああ、今のでちょうど一対一になったかな」
「管理局もやっぱ女性が多いの?」
「そうでもないよ。ここが異常なだけさ」

 管理局には男性の職員もちゃんとたくさんいるとのこと。

「そういやクロノのプレゼント、あれなんだったの? まな板みたいだったけど」
「箱の中に説明書を入れておいた。それを読んでのお楽しみさ」
「お楽しみ?」
「お楽しみ」

 楽しみにしててもいいらしい。

「楽しみ」
「楽しめ」
「楽しむ」

 クロノがあったかいコーヒーを口に含み、俺はクッキーをぽりぽりと食べる。

「あの」

 すると、横合いから控え目な声がかかった。見るとフェイトが、仲間になりたそうな目でこちらを
見ている!

「仲間にしてあげますか?」
「いつの間に君の敵になっていたんだ?」

 しかしよく見ると仲間になるのではなく、何かを聞きたそうな雰囲気でした。

「何? どうしたの」
「あ……い、いえ、なんでも」
「話したいことを話さない兄妹ですなぁ」
「悪かったな」

 クロノがむすりとした。

「そうだ。言い忘れていたが、さっきのケーキはなかなか美味かったぞ」
「ん? ああ、シグナムは食べてなかったんだっけ」

 思い出したようにシグナムが言う。八神家でのパーティー一次会でもふるまったけど、その時には
食べていなかったらしい。その時はいろんな人と話をしていたみたいで。

「色々とダメ出しされちゃいました」
「まだ改良の余地があるのか……」
「まだまだ美味くなるってこと。超楽しみなんですが」

 焼き加減甘さ加減クリームの泡立て方混ぜ方等々、自信はあったのだがいろいろな改善点を指摘さ
れたのである。
 しかしそこをもっと突き詰めていけば、次にはもっと美味いものができる&食えるはず。本音言う
とちょっとうずうずしてる。次を作るのが楽しみである。

「もういっそこの店で働いたらどうだ」
「それは……客が増えるのか減るのか予想できない」
「むしろなのはが成長してから、わざわざ翠屋の目の前に店開いてやるっていう案がですね」
「いっ、嫌がらせだ! それ絶対嫌がらせでしょうっ!」

 話を聞きつけたなのはがうるさいので、とりあえずプチケーキを口の中に突っ込んで黙らせる。し
ばらくもがもが言ってたけど、そのうちむぐむぐ食べ始めたので大人しくなった。

「俺は将来何で生計を立てるんだろうか」
「君の場合はまったく想像できないな」
「何もしなくても案外死なないのではないか?」

 そんな気はしなくもないけど、それではあまりにも人間離れしすぎてやしないか。

「それとも案外、十年後も主に養われてたりしているかもしれんな」
「容易に想像できるよ」
「しかしそれだと、今のヴォルケンズと同じですなぁ」

 コーヒーを飲もうとしてぴしりと硬直するシグナムだった。





「つけ髭とこれを着るのか。サンタクロースの衣装じゃないか」
「トナカイに変装って……できなくもないけど……」
「ていうか、どうしてつまみ食いしたパンの中にメッセージカードが入ってるのよ……」
「……あの子は本当に一体何者なんだろう」

 首をかしげるグレアム一派だった。


(続く)

############

なのはさんはこう、道に落ちてたらついつい拾って帰りたくなる感じの子。が目標。
・本当はSなのがオリ主、本当はSなのがオリーシュ  New !



本音言っちゃうと実はグレアムのおっちゃんとの話がすごい書きたかった。A's終盤からずっと。
あとちょっと。あとちょっと。



[10409] その112
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/02 11:38
 賑やかな中を、相変わらずハラオウン兄妹と同席のテーブルでまったりと過ごす。
 シグナムはどういうわけか席を外して、何やら慌てたような様子でリンディさんやシャマル先生と
話していた。ということで3人だけのテーブルだが、まぁこれはこれで静かでいいかも。
 近々はぐりんたちが管理局のお仕事(主に暴れてる動物やら犯罪者やらの鎮圧)をお手伝いしに行
くことになっているので、主な内容はその打ち合わせ。物理攻撃を十回やら十五回やらもらっちゃう
と駄目なんじゃなかったか、と心配されたので、全員にやくそういっぱいといのりの指輪を持たせる
ということに落ち着いた。

「やくそう一枚で完全回復とはすごいな……」
「あとあいつら、指輪どこにつけるのか未だにわからんのですよ」
「王冠みたいに頭に乗せたりしてな」
「やばい割と似合うんじゃなかろうか」

 クロノもモンスターについてはいろいろ調べていたらしく、またフェイトも資料を見ていたのか知
っていた。ということなのでしばし、はぐりん談義で盛り上がる。最近の重量はどうだとか、どうや
ら新技のジゴスパーク身に付けたみたいだよとか。あとはあいつら、薄くしたら気円斬になるんじゃ
ないかとか。
 と、そんな風にまったり話をしていると、すずかが近くに寄って来た。
 管理局やら魔法関係は聞かれるとちょっとまずいので、クロノと協力して話を違和感のない程度に
他の方向へ持って行く。そうしてちょっと待っていると、すぐ横にやって来て口を開いた。

「ここ、いいですか?」
「すずかが再び男をマイノリティにしようと画策する。恐るべし腹黒、何という計略」
「普段の君の方が女子よりよほど喧しいじゃないか」
「ごもっともです」

 クロノからの指摘を受け、反論できなくて困惑する。

「そういえば、『ごもっとも』って言うときの漢字ってあれだよね。犬みたいなやつ」
「え……あ、そうなんだよね。パソコンで変換して、初めて知ったんだけど……」
「あれってけっこう間違えるよね。『最も』ってよく書くでしょ」
「そ、それ、もしかしてなのはに書かせるつもり……?」

 フェイトの恐るべき推理能力に驚嘆する。

「どうして分かった」
「すぐわかったぞ」

 クロノのコメントに、そういうものなのかと安心する。

「あはは……ね、ねぇ。フェイトちゃん、聖祥に編入するってホント?」
「あ、うん。試験に通ったら、だけど」
「今の調子だと通るでしょ。覚えるの早いし」
「そうなんだ。フェイトちゃん、一緒のクラスになれるといいねっ」

 穏やかに笑うすずかと、お返しにほほ笑むフェイトだった。
 なんだか二人の話題に入ってしまったため、取り残されてしまった形の俺とクロノ。取りあえずコ
ーヒーに口をつけながら、男女の間って壁があるなぁと二人で話す。

「そう言えば、君はどうなんだ? 同じ学校、興味はないのか」
「中学から考える。毎日毎日なのはいじりすんのも疲れる」
「聞こえてる、ぜんぶ聞こえてるよう!?」

 なのはが向こうの方でじたんじたんした。

「なのはは疲れるなぁ。クロノも面倒見てて大変だったでしょ。すぐ無茶しそうだし」
「……」
「ひ、否定してよクロノくん! クロノくんってばぁ!」

 なのはが向こうの方でばたんばたんした。





「あ、雪! 雪降って来た!」

 シャンパン・ジュースを片手にふらりふらりと歩いていると、どこかの席からそう聞こえてくる。
 近くの席について窓の外を見ると、いつの間にやらひらひらと雪が降っていた。街灯が点きはじめ
た薄暗い街路に、大輪の花のような大粒の雪が、静かにゆっくりと降り積もっていく。

「こたつに入りたいですなぁ」
「温泉行きたくなってきたわ」
「みかん食いてー」

 上から俺、はやて、でもってヴィータ。八神家のちっちゃいの三人はだいたい冬はそんな感じ。

「みかん……」

 リインがひそかにリベンジを誓っていた。

「クリームついてるよ」

 微妙に赤くなって口元をぬぐうリインだった。すましてる振りしてるけど、なんだかちょっとそわ
そわしてた。

「てか、温泉いいな。換金したお金まだ余ってるし、冬の間に皆で行こうか」
「いや一体お前いくら稼いできたんだよ」
「お城の人って、金銭感覚とかおかしそうやしなぁ」

 実際その通りなんですが。

「こっちが遠慮しても金貨倍プッシュしてくるから。あれは困った」
「倍シュプールだ…!」
「倍倍倍倍倍倍倍倍倍倍倍倍プッシュや…!」
「シュプップッシュシュプッシュプー…!」
「……何してるの?」

 皆で倍プ倍プ言っていると、心底怪訝そうな顔をしたなのはが立っていた。そろそろやめよう。

「今気付いたが、次の俺の空中散歩。もしかしてすごい絶景が見れるんじゃなかろうか」
「うん……あ、でもね。私も、その、はじめてなの。雪の空は、飛んだことがないから」
「まぁ風はそんなになさそうだけどな。寒いから凍死して帰ってくんなよ」
「マフラーどこにしまったっけ。玄関近くで見た覚えがあるんだが」

 防寒グッズどこだっけ、とはやてと二人で話し合う。しかしまぁ家に帰ってから探せばいいか、と
いうことに落ち着いた。二回目の空中散歩も三次会の途中ということに。

「とりあえず一年お疲れ様でした」
「激動の一年だったよ……」
「今年がこんな感じになるとは夢にも思ってなかったわぁ」

 しみじみと言うなのはとはやてだった。本当にいろいろあったからなぁ。

「なのはは今日泊まり? 夜まで皆で遊んでるつもりだけど」
「え……そうだけど。い、いけないんだよっ。夜はちゃんと寝ないと……」
「眠れない夜と申したか」
「キミのせいだよー」
「自分のせいだよっ!」

 コーヒー飲みながらゆっくりしてました。



(続く)

#############

いつも通り話が進まない。



[10409] その113
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/03 23:35
 翠屋貸し切りの二次会も、あっという間に時間切れ。
 お客さんはまだこれから来るらしいので、名残惜しいけどとりあえず撤収。桃子さんたちにお礼を
してから、雪の降る中をさくさく歩く。次は八神家で遊び通すことになっているのだ。

「八神家料理できる組が腕によりをかけた夕食をお楽しみに」
「下ごしらえだけやけど、今回はシャマルも失敗しとらんかったしなー」
「最近腕が上がってんのは喜ばしい限りだよな」

 後ろにいたヴィータの言葉にうんうんと頷くと、その隣のシャマル先生がすっごい嬉しそうにニコ
ニコしてた。一応はやてと俺が近くで別の作業をしつつ監視していたとはいえ、今回は止めなきゃい
けないような事態にはならなかったのである。食べてもらうのが楽しみなのだろう。

「今から帰るって伝えといたぞー」

 後頭部に何かがぱすんと当たる。

「え? いつ電話したのよ」

 背中にもぱしぱしとぶつかる。

「……つ、ついさっき。出る前に、電話借りて」
「ふーん……なんか怪しいけど、まぁいいわ。それにしても降るわね。もう積もってるじゃない」
「明日はいろいろ遊べそーやな。けっこう積もりそうな」

 言ってるヴィータか、アリサやはやても一緒になってるのか。どうなのかはわからないけど、さっ
きから背中に頭に足にぺしぺしと雪玉らしきものが当たってくる。
 しかし挑発に乗るようなオリーシュではないのでござる。そのままさくさくと歩き続け、子供の遊
びに興味はないと無言のまま背中で語る。

「反応しないわね。つまんない」
「そこにちょうどいいシャベルがあったんだけど」
「投石機の要領やな」

 ヴィータが俺に雪のシャワーを浴びせかけようとしてきやがる。さすがに嘘だと思うが、この雪の
中でやられると悲しいくらい寒くなりそう。敵に背中を向けると危険なので、とりあえず後ろを振り
返る。

「そぉい!」

 顔に雪玉ゴッドフィンガーされた。

「あむぁい」

 顔面が凍るような冷たさに襲われながらも、隠していた雪をヴィータの背中に入れてやる。

「はははははやて取って! さささっささむいさむいさむい!!」

 あまりの冷たさに悶絶し、はやてに助けを求めるヴィータを満足げに眺める。

「詰めが甘いわね」

 伏兵のアリサがいつの間にか背後に立っていて、首根っこに雪を押し当てられた。悲鳴も出ないく
らい冷たかった。





「やべーあったかい」
「手がもう霜焼け確定なんですが」

 途中の自動販売機であったかいコーヒーを買って、冷えた顔やら手やら首やらを温める。

「ったくもー。アホなことしとるから」

 はやての台詞は少なくとも、途中までニヤニヤしながら見ていたヤツのものではない。

「アリサが何気に回避してるのがなんかムカつく」
「あら。何ならやってみる? 返り討ちにしてあげるけど」

 くすくすと笑う。しかしなのはの話によると、この娘っ子はとんでもなく運動ができるらしい。
 小柄で軽い子供の身体は動きやすいものの、挑んだ場合こっちも再び雪まみれになりそうだ。ここ
は悔しいが諦めることにして、何か別の件で復讐することを考えよう。

「雪玉でリベンジするなら土龍閃覚えてからだな……」
「雪の上でやったら楽しいことになりそーだな」
「な、な、シグナム! もしかしてできる!?」
「え? その、それはどういう……」

 シグナムに技の説明をしはじめるはやてを見ながら、コーヒーを飲みつつゆっくりと歩く。辺りに
はぼたんみたいな雪がしんしんと降りつづけていた。夜の闇の中を街灯の明かりに照らされて、淡く
ほのかな輝きが幻想的だった。

「これ見ながらこたつ入ってぬくぬくして寝てたい。大福とかみかんとか食べながら」
「贅沢な願いだな」
「でもって台所からいいにおいがするの。お汁粉とかの甘い香りがこう」
「想像しただけで和んじゃうんだけど……」

 なのはが気がゆるんだような表情を見せたが、クロノは首をかしげるばかりだった。どうやらお汁
粉を知らないようだ。今度御馳走してあげようと決める。

「ちなみに三次会は好きに寝たり帰ったりなので、布団が埋まるとこたつで寝ることになります」
「あら。夜中まで騒ぐつもり? ダメよ、日付が変わるまでには寝ないと」

 リンディさんがたしなめるように言った。聞かれてはいけない人に聞かれてしまったような気がす
る。ここは我々の夜更かしのために、秘密裏に買収工作をせねばなるまい。

「自作のキャラメルを作ってみようと思うんですが」
「止めてくれ。却下だ却下。これ以上血糖値を上げようというのか」
「か、母さんダメだよっ、今日はケーキだってたくさん食べたんだし……!」

 コロッと陥落しそうになるリンディさんを必死になって止める子どもたちだった。惜しかったなぁ
と思いながら、到着した八神家の玄関にすずかとアリサが向かうのを見つめるのだった。





 と思ったら、すごい声が上がったので慌てて駆け付ける。

「こ、こ、これ、メタル……?」
「何でゲームの中の生き物がここにいんのよ……」
「け、け、けーとくん! けーとくんどうして!」
「やばいしまった。アリサとすずか居たんだった」

 はぐりんたちに帰ってきたら玄関の扉開けるように言っといたのを忘れてた。どうせ全員魔法メン
バーだしいいやと思ってたんだが、実はさっき二人ともいなかったんだった。やばいどう説明しよう
かと、なのはと二人で超テンパる。

「あああたしは悪くないんだよ!? 説得したけど伝わらなかっただけで!」
「み、耳が……あ、あ、あれ、尻尾? 動いてるわよ!?」

 でもって空気を読まずに登場したアルフ人間フォームの御蔭で、もう完全に容疑かかった。まぁい
いやさてどうしようと暢気に思う俺とは対照的に、真っ白な灰になるなのはだった。



(続く)

############

グレアム一味は家の中に隠れてます。



[10409] その114
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/04 15:43
 廃液の中の有機化合物か……超強酸に溶け出した重金属イオン……
 あるいはそれら全てが水銀の中で出会ってしまい――化学反応を起こしスパーク……!

「それを拾ったって言うわけ?」
「そうそうそう。工場跡地でたまたま拾って懐かれた」

 はぐりんたちをこたつの上に置きながら、とりあえずアリサとすずかの説得に当たる。
 なのはが魔法はいつか自分の口から話したいから、今は今だけはどうしてもと頼み込むのだ。苦し
い説明だと分かっているが、まぁそれが信じてもらえなかったとしても、話せないっていうことがわ
かってもらえればいいだろう。

「よくあるよねこういうの。段ボールの中に捨てられてたら拾っちゃうじゃん!」
「はぐれメタルはふつう段ボールに捨てられてないよ……」
「それにあっちの人は……どこかで会った気がするんだけど……」
「さっきの耳と尻尾はこれです。パーティーアイテムの装飾品で、着用するとこんな感じになります」
「き、きゅうん。くー、ひゅーん」

 パーティー用に買っといてよかった、各色のわんこ変身セット。赤いやつを装備したなのはが鼻を
鳴らして、必死の演技を試みる。
 現在アルフは耳と尻尾をうまく隠しているため、これさえ説得できればあとはどうとでもなるので
ある。ヴィータが回してるカメラの電子音が聞こえるが、そんなことを気にしている余裕はないみた
い。気付いてないだけかもしれないけど。

「動いてないじゃない」
「気のせいじゃね?」

 もちろん尻尾が動いたりはしない。そこは気合いで誤魔化すしかない。

「……わかったわよ。どーしても言いたくないって訳ね」

 そのうちアリサが、諦めたように言った。どうやらとっくに意図はバレていたらしい。

「近いうちにお話するので、そのあの、しばらくご勘弁くださいです」
「べっつに。アンタの行動が突拍子ないのはいつものことだし。いいわよ、もう」

 まったく仕方ないわね、とアリサはぼやいた。なのはがほっとした顔になる。
 要するに日ごろの行いが良かったらしい。八神家での出来事ということで、なのはとは直接むすび
つかなかったのも幸いしたのかもしれぬ。

「ね、ねぇ……こ、怖くないの? その子たちのこと」
「ん? まぁ特には。普通に飯食ったり風呂入ったりするし……何で?」
「う、ううん、何でもないよっ」

 言ってやると、何かを考えるような素振りを見せるすずかだった。どうしたんだろう。

「……きゅーん」

 と思っていると、いつの間にか置いてけぼりになっていたなのはが、手持無沙汰に小さく鳴いた。

「はぐりんより先にこいつに餌やろうぜ」
「な、なのはちゃん、似合いすぎ……」
「はい、あーんしなさい。あーん」
「あ、あーん」

 普通に遊ばれるなのはだった。





「何とかなりました」
「あの状況からどうにかなるもんなのか」
「どうやって説得したのかしら……」

 台所に向かい、どうにかセーフとのご報告。
 どうやったのかと問われると、その場のノリ的な何かとしか答えようがない。
 もしくはなのはの身体を張ったファインプレーと言った方がいいのかも知れない。あれで「まぁい
いか」的な雰囲気に持って行けたのは大きかった気がする。

「……さっきの映像、第3期に公開したらどーなるんだか」

 やっぱりヴィータは撮っていやがった。

「なのはも割とノリノリだったし。新人たちの畏敬の念が吹っ飛んじまうんじゃなかろうか」
「教え子に振り回される教育実習生か。見てみてーな」
「でもでも、すっごく可愛かったですよっ!」

 オーブンレンジで肉を焼いてるシャマル先生が言う。皿を運んでいる時に見えたのだそうだ。

「もうなのはは八神家で飼育されとけばよくね」

 いつの間にか隣に来ていたなのはが、顔真っ赤にしてふくらはぎにへなちょこキックを浴びせてく
るのだった。
 とかやりながら俺も作業に加わり、なのはもささやかながら皿運びやら何やらで応援に入る。
 料理を作る段階はほぼ終わっていたので、肉が焼けたらもう大丈夫といった感じだ。フランスパン
を切ったり皿に野菜盛ったり。 

「あれ、シグナム。どうしたの」
「……き、気にするな。作業に集中していてくれ」

 ちょうど焼き上がったお肉の盛り付け作業中、後ろの方でじっとシグナムが手元を見つめてくるの
に気が付いた。しかし口出しするとあんまり良いことにはならなさそうなので、黙って作業を続ける
ことにする。リンディさんとシャマル先生が微妙にニコニコしてるのが気になるけど。

「さてできました。ハイパーディナータイムでござる」
「……小学生の作品とは思えないわね……」
「はやては分かるけど、お前ってたまにすごいチートだよな」
「3年チャーハン作り続けるとこうなります」

 嘘吐くんじゃねぇふざけんなとののしられつつ、リンディさんにお手伝いありがとうございますと
告げる。テレビ見たり雑談したりで待ってた連中に声をかけ、テーブルとこたつの2か所の席に座っ
てもらう。

「じゃあ食べましょうか……ん? 何か忘れてるような……」
「え? ……そんな。料理でしたら、全部ちゃんとそろってますし……」

 いただきますをしようとした時、何か足りないような気がした。
 しかしどうにも思い出せない。食事の前に、何かイベントの仕込みをしていたような気がするんだ
けど。

「まぁいいさね。いただきましょうか」
「いたがきます」
「いたがきます」

 きっと大丈夫、ということで、楽しい楽しい夕食の時間が始まるのでした。





 と思ったらいきなり後頭部を叩かれてびっくりする。

「お、お前、お前っ……!」
「まぁいいで済ませるなっ、こんな格好させたまま待たせるなっ!」
「あ、アリア、ロッテ!? …………な、何だその格好?」

 振りかえるとそこには、何とトナカイのカチューシャと茶色のドレスを着こんだぬこ姉妹の姿が!

「この服は……あ、暑すぎ……る」

 でもって誰かがドアを抜けたと思ったら、ばたりと倒れこんだのはサンタスーツ着込んだグレアム
さんだった。

「ぐっ、ぐ、ぐ、グレアム提督! な、何故、どうして!?」
「……どうなってんのか、1から10まで説明してもらおーか」

 慌てて看病に向かうシャマル先生とはやて、あとクロノやリンディさんの気持ちを代弁して、ヴィ
ータがものすごい形相で問い詰めてくるのでした。



(続く)

############

オリーシュ「前回のはぐりんエンカウントのおかげですっかり忘れてました」



[10409] その115
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/15 17:52
 とりあえず具合の悪い人が約一名でてしまったので、パーティー三次会の開始はちょっとだけ見送
り。ひとまずそちらの介抱にあたることになった。
 幸いにも暑すぎて調子が悪くなっただけみたいなので、ひとまず八神家でゆっくり休んでもらうこ
とにする。シャマル先生が回復魔法使えば済むんじゃないかという話にはなったんだけど、そいつは
アリサとすずかがいるから却下されたのだ。

「ドッキリとはいえ、こんな厚着で暖房かかった部屋に待機させるとか」

 つめたいジュースの入ったコップを片手に、団扇でぱたぱたと風を送るはやて。ソファで横になっ
たグレアムのおっちゃんを介抱しながら、久しぶりのお説教である。相手はもちろん俺。

「と……年甲斐もなく張り切ったのが、失敗だったか……」
「……ドッキリどころの話ではありませんでした」
「私なんて、心臓止まるかと思いましたし」

 まだちょっとぐったりしてるおっちゃんだったが、特定の人にはドッキリの効果があったらしい。
 クロノとリンディさんは確かにものすんごい驚いてたので、一応報われたと言っていいのではなか
ろうか。

「よう久しぶり」
「久しぶりね。あんまりうれしくないけど」
「再会を喜べよ」
「十年くらい振りだったら喜んであげるわよ」

 とりあえずグレアムのおっちゃんの回復を待つということで、先にぬこたちにごあいさつ。
 とはいえ今日はアリサやすずかがいるので、耳とかしっぽとかは隠してもらってる。なんでも変身
魔法が得意ということなので、それを使った擬装法である。アルフの一件でもう疑念を抱かれている
状態なので、このカモフラージュは正直ありがたい。

「……あれ。どっちがどっちだ」
「はぁ……また忘れたの?」
「だってお前らどっちがどっちかわかんなくなるんだもの。似てるから」

 このやり取りも何回やったかわかんないんだけど、こいつらは髪型と声、あと態度くらいしか見分
ける部分がない。なかなか覚えられないので、いつもこんな風になってしまうのだ。

「覚えなさいよ……私がリーゼアリア。こっちがリーゼロッテだってば」
「いいよもう。二人まとめてロッテリアが分かりやすいって何度も言ってるじゃん」

 なのはたちがジュースを噴出し、クロノが笑いをこらえようとして耐えられてなかった。

「そっ、そのまとめ方はやめてって言ってるでしょう!?」
「わ、わ、笑うなクロスケ! おまえたちもぉお!!」

 顔真っ赤になって火消しに奔走するぬこたちだけど、全然功を奏してない。

「こんな愉快な人たちですが。どうかよろしくお願いします」
「アンタ、年上でもちゃんと手玉に取るのね」
「なんだろう……あの人たち。不思議なんだけど、仲良くなれそうな気がする」

 初見のアリサとすずかに、ぬこたちに代わって紹介してやる。すずかの反応が気になったが、そう
いやなのはの話だと猫好きとのことでした。

「ろ……ロッテリアって……!」
「たっ、確かに、名前、そうだけど……」

 アリサは後からじわじわ効いてきたらしく笑いをこらえ、すずかは笑っていいのかどうしようかと
いう複雑な表情になった。飛び火しまくりの現状に、もう首まで真っ赤っ赤のぬこたちは俺に向かっ
て恨めしそうな視線を向けるのだった。

「真っ赤なお顔のトナカイさんやなぁ」
「いつもみんなの笑いものですなぁ」

 はやてが言い始めたのに、すんごい勢いで追っかけまわされるのは俺だけだった。





 少しするとグレアムのおっちゃんが回復してきたらしく、ソファの上とはいえ起き上がる。

「情けないところを見せてしまったね」
「いえ……あの、は、はじめまして……になります?」
「そうだね。こうして会うのは、初めてになるか……」

 とか何とか、介抱していたはやてとのやりとりが始まる。口ぶりを見ている限り、調子はもう悪く
なさそうだ。横から聞いてるのもアレなので、とりあえず三次会の準備をしにキッチンに向かう。シ
ャマル先生にお手伝いを頼むと、横からリンディさんとなのはもひっついてきた。

「……」
「……」
「言っとくけどバトル開始したら、そいつらだけコーンスープが食塩水になるから」

 テーブルについた面子のうちヴィータとリインが、さっそくぬこ姉妹と睨み合っていた。一触即発
といった感じになってしまっているんだが、喧嘩とか好きくない。釘を刺してから調理を開始。

「ロッテリア」
「……ロッテリア」
「~~~~っ!」 
「こっ、このぉ……!」

 ヴィータが挑発し、リインが迷いながらも真似をした。超怒りだしそうになるロッテリア、ならぬ
ぬこ姉妹だったが、そこはなんとか堪えてみせた。偉いね。

「シャマル先生。ヴィータとリインだけポテト水浸しで」

 二人して半泣きになって必死にごめんなさいをしに来たので、兵糧攻めは勘弁してやるでござる。

「ったくあいつら。人のことからかって挑発するとは、言語道断」
「だったら毎日、わたしのことからかって遊んでるのは何なの……?」

 なのはからの突っ込みには、何と答えていいのかわからなかった。作業をシャマル先生にお任せし
て、そそくさと退散。クロノとフェイトがいるこたつに向かうと、気付いたクロノが尋ねてくる。

「……どうやってあの二人を抑えたんだ君は」
「自然とこうなった。どうも人外には強いタチらしく」
「理不尽にもほどがある……」
「そっ、それってすごいことなんじゃ……」

 フェイトが言うのはわかるんだが、実はそうでもなかったりする。さしあたっての目標はアルフに
お手をさせることなのだが、まだ達成できていないのだ。

「……それでなんだが、どうしてはやてと話を? 何かつながりがあったのか?」
「親の友人だったみたいで。その件でお話があるみたい……何ですかその疑わしげな目は」
「君はたまに、本当に隠すのがうまいことがあるからな」

 詳しい事情を俺の口から言うのははばかられるので誤魔化したのだが、訝しげな視線をむけられる
ことしきり。普段はわかりやすいんだが、と言うクロノは、勘がいいというか何というか。

「まぁいいでしょ。おっちゃん回復してきたし、パーティー中こっそり聞いてみたら?」
「そうしようか……と。ところで、料理はいいのか? キッチンから出てしまって」
「シャマル先生には二人監視役がついてるから。たぶん大丈夫だと思います」
「しっ、シグナム……ザフィーラも、失敗なんかしませんからぁっ!」
「悪く思うな。これも皆のためだ」
「口では何とでも言えるからな」

 キッチンから聞こえる声に苦笑するクロノたちだった。シャマル先生が必死というか泣きそうで、
シグナムとザフィーラは本気で警戒してる感じ。

「……まさか、こんな日がくるとは思わなかったよ」
「クロノが親父くせぇ気がする」
「なぁなぁ聞いて! プレゼント、プレゼントもろーたよ!」

 料理ができるまで、そんな感じに話すのでした。



(続く)

############

二人そろってロッテリア。
どうでもいいけど作者はモスの方が好きです。値は張るけど。


18:00
ちょっと修正。



[10409] 番外8
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/19 23:34
 公園でもしゃりもしゃりと草を食っていると、誰だかわからん娘さんにあんまりにも心配された。
来なさいこっち来なさいと言うものだから、仕方がないのでついていってやることにした。

「ついて行ってやろう。ありがたく思うんだな!」
「え……え? わ、わたし、どうして怒られてるんだろう……?」

 何やら混乱する娘さん、話を聞くと小学三年生とのこと。身長は俺とそう変わらないのだが、髪を
両横でしばってるのが、歩調に合わせてふわふわと揺れていた。

「頭の横にバナナをくっつけるのが最近の流行なんでしょうか」
「え? バナナって……こっ、これは、ツインテールって言って。女の子の髪型なんだよ?」
「食えると思う?」
「それは無理だよ……」
「何のためにくっつけてるんだ。食えるだろ普通」
「えっ、わ、私? 私が悪いの?」

 戸惑う様子の娘さんだった。

「いかん。空腹すぎて、目の前で揺れる髪が全部バナナに見えてきた。食っていい?」
「たっ、食べられないよ! 食べられないよ!?」
「でも、100本取ったら1UPしそう。残基が足りないので、ここは確保しておくことにしよう」

 千切っては取り千切っては取りしよう。と口走ってみたところ、走って逃げだした。追いかける。

「はぁ、はぁ、はぁっ、はっ」

 しかしすぐに追いついて、顔をみてみるとすっごい疲れて息も切れてら。この子は体力がダメな子
みたい。

「バナナ食べるとたぶん回復するよ」

 かろうじて首を横に振る娘さんだった。呼吸が整い終わるのを待つ。

「うぅぅ……どうしてこの子に声かけちゃったんだろう……」
「ミミックの可能性があるのに宝箱に手を突っ込むからだ」
「宝箱には見えないよ……」

 むしろ不審者か、変な遊びをしているただの子供がせいぜいであろう。 

「ザラキザラキザラキザラキ」
「……タ」
「聞こえんなぁ。ザラキ!」
「マホカンタぁ!」

 半ばやけになって返してくる娘っ子であった。

「……なのは、どうしたの? そんなに大声出して……」
「あ……お母さんっ!? な、なんでもないよっ。うん!」

 いつの間にか喫茶店らしきお店に到着してしていて、表にいた若い女の人が話しかけてきた。

「なのは……? なのはって確か。確か、えっと……誰だっけ。まぁいいや」
「なのは、どうしたの? この子はお友達?」
「ちっ、ちがうよ、わたし、食べられちゃいそうだったんだよう……!」

 どうやらお母さんらしく、なのはという名の娘さんが助けを求めて飛びついた。

「ということなので、この子テイクアウトでお願いできますか」
「すみません、お持ち帰りはできないの。店内でお願いしますね?」
「よっしゃ。じゃあ今からハイパー無限UPタイム……あれ、こら。どこへ行く」

 お父さんお兄ちゃんお姉ちゃん、と助けを求めながら、バナナの塊が店内に逃げた。あわてて追い
かける俺だった。




「歴史にIFが許されるなら、こんな感じだったに違いない」
「ありありと想像できるわぁ。これはこれで面白いかも」
「そんなに今と変わってないよ……」

 こたつに足を突っ込みながらさりさりさりとリンゴをむく俺と、同じく暖をとりつつしゃくしゃく
と食べる中学生が約2名。

「いい匂いがするー。なのはちゃん、これ何? いちご?」
「あ、うん。お母さんが、ジャム作るって言ってたから」
「じゃあ今日泊まってっていい? 明日の朝、トーストに乗っけて食ってみたい」
「一昨日もそう言って……ここ一応、女の子の家なんだけど……」

 私も私もと言うはやての隙をつき、残り2個のリンゴを奪取する俺となのはだった。
 文句言われる前に飲み込んだが、こたつの中で二人まとめてがしがし蹴られた。結構痛かった。



(続く)

############

もしあのとき現場に来たのがなのはだったら。
ちなみにその後も戦場にはまったく顔も出さなかったに違いない。
守護騎士たちは主人の意味不明の料理の数々に泣いていたに違いない。
でもっていずれにせよはやてとは何処かで会って意気投合していたに違いない。

最後は中学行ったあとの雰囲気でした。
この人たちの場合はどうせこんな感じだと思う。



[10409] その116
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/24 14:59
 パーティー3次会開始と同時にディナータイムが始まったわけだが、それもどうにか無事に終了。
ぬこたちとヴィータやリインの間に流れる雰囲気はお世辞にも良いものとは言えなかったものの、な
んとかバトル開始は防がれた。兵糧攻めが効いたらしい。

「久しぶりですね。そういえば」
「君と会うのも、そうか。久しぶりになるんだな」

 大人組には食後のワインやらシャンパンがふるまわれ、子供たちはジュースを飲みながら談笑中で
ある。そんな中グレアムのおっちゃんが一団から外れていたので、隣の椅子に腰かける。

「さっきのプレゼント、ありがとうございました」
「ああ。つまらないものだが、まぁ受け取ってくれ」
「ありがたく。後でこちらからも、皆のぶんのプレゼントが」
「ほう」

  とか言ってると、何やらアリサがいぶかしげというか、「こいつ変なものでも食ったんじゃない
か」と言わんばかりの目で俺を見る。

「……何者よアンタ」
「何者って何ぞ。みんなの味方のオリーシュですが」
「あんな丁寧な話し方、アンタにできるわけないじゃない」
「アリサお嬢様。まことに残念ながら、今ご覧に入れておりますのが私めの実力にございます」

 すらすらすらと言うと、アリサは何やら精神攻撃を受けたような苦悶の表情を浮かべた。頭を抱え
て後退りしてから、逃げるように退散する。

「局員にもそうやって、付き人の振りをして誤魔化していたな。相変わらずだ」
「この面子だとこの口調のことが多かった。癖になってたかも」
「こいつがどこでこんなの身に付けたか不思議でならないんだけど」
「アリア、うるさい」
「ロッテだよ……」

 クロノと話していたロッテリア、ならぬ猫姉妹たちまでもが近くに来ていた。向かいの椅子を足で
押してやる。

「行儀悪ぅ」
「うるさし。魚の形のクッキーあるけど」

 冷蔵庫から出してやると、さくさくさくとおいしそうに食べはじめた。夕食も結構な量があったの
だが、この様子を見るとまだ食べられるみたいだ。その様子を見ながら俺も席に戻る。

「それよりふたりとも、気持ちの整理はついたのか」
「……つくわけないでしょ、バカ。空気乱しすぎないように合わせてるだけよ」
「ロッテリアの呼称が出てから、一気に場に馴染んでったからいたいいたいいたい」

 嫌なことを思い出させたらしく、テーブルの下で両足をどすどす踏みつけられた。

「まぁリインたちも、後できちんと謝りたいって言ってたから。話は聞いてあげてください」
「わかったわよ……」
「ああ、そうだ。はやての件はいつごろ?」
「……折を見て切り出すよ。そのために来たのだからな」
「その時はぜひ本音でお願いします」
「ああ……わかったよ。本音でな」

 俺の言葉に対し、グレアムのおっちゃんは静かに答えた。ついと傾けたグラスの中には、もう残り
がわずかだった。

「また何か、秘密の会議でもしているのか。君は」

 と、そこにクロノが現れた。俺とグレアムのおっちゃんはそうでもないんだけど、ぬこ姉妹があた
ふたと慌てる。

「おっ、お、思い出話だよ。うん」
「そうそうそう。たとえば昼寝から起きると、寝ぼけてお互いのしっぽをエサと勘違いしt」

 二人して顔を赤らめて口をふさぎ、やめろやめろクロスケにそんな話するんじゃないと怒られる。

(あとで詳しく)

 姉妹の向こうではクロノが不敵な種類の笑顔を浮かべて、そんな風に目で言っていた。俺はちらり
と視線を投げかけてから、こっそり親指を立てて答えるのだった。





「今のうちになのはに麻雀教えといた方がよくないか」

 パーティーも盛況なので、今のうちに夜のプランをはやてと一緒に考えることにする。コーヒーを
淹れて少しずつ飲みながら、ソファに座るはやてに相談する。
 せやな、なるほどー。とはやては言ったが、でもまぁ今日参加するのは無理かもしれんけどな、と
付けくわえた。麻雀はシャマル先生にもやってもらってるんだけど、これが何ともよわっちいので物
足りないのだ。俺とかはやてとかヴィータとかが主に。

「はやてちゃん、まーじゃんってなあに?」

 聞きつけたなのはがソファの背中からひょっこり顔を出して、はやてに向かって尋ねてきた。

「んー? えーと。鳴いて点数を競うゲーム、やな」

 略しまくりのはやてだった。

「にゃーにゃーとか、きゅーきゅーとか?」
「そうそう。そうなんよー」

 何やら勘違いするなのはだった。はやてがすっごいニヤけてた。

「……それ、けーとくんもやってるんだから、絶対そういうゲームじゃないよね?」

 しかし即刻バレた。ずいずい詰め寄られて問いつめられて、はやてはしどろもどろに弁解した。
 とかやっているうちに、足が疲れたのではやての右側に座る。つられたようになのはも動き、逆側
の左側に腰かけた。
 そうしてそのまま、今日の夜どうしよう的な話題に移る。普段の就寝は何時だとか、ねぇねぇさっ
きのマージャンって何とか。最初は寝なきゃだめだよとか言ってたなのはだけど、聞いてみると「も
ういいや。今日は遊ぶことにしたもん!」とのこと。八神家に最も出入りしてる人の筆頭なので、そ
の方がこちらも遊びやすくて嬉しかったりする。

「今日こそあのはかいこうせん軍団をボッコにしてやる」

 何やら意気込むヴィータだった。最近はわりと頻繁にシャマル先生と通信してたから、ゴローニャ
あたりでも作っていたのかもしれない。フーディンだったらご愁傷様。

「あ。そういえば、今日って誰が泊まるの? フェイトちゃんとアルフさんは?」
「リンディさんは帰るみたい。フェイトちゃんと、私らの目付役にクロノくんは泊まりやな」
「あとはユーノがご宿泊。アリサとすずかはやっぱり抜けるそうな」
「……あ! なぁなぁ、おじさん泊まるってゆーとった!?」
「言ってません。でもホテル取ってあるから、そっちに戻るって」

 と言う感じに、今日の今後を話す。徹夜突貫して遊び尽くすか、それとも適当なタイミングで切り
上げてパジャマパーティーに移行するか、が悩ましいところだった。遊ぶならトーナメントとかやる
と楽しそうだし、メンバー沢山だからただ駄弁ってるだけでもいいと思うし。

「バトルロイヤルでトーナメントと聞いて」
「魔導師入場! 全魔導師入場です!!!」

 俺がふと思いついて振ってみたところ、隣のはやてが一瞬で答えてくれました。
 でもってそのまま「筋力ないけど頑張ります! 高町なのはだ――ッッ!!」とかやろうとしたん
だけど、なのはがやめてよーやめてよーと懇願するので中断した。すずかとアリサがまだ帰ってない
のである。

「残念やなー。そのまま全オリ主入場に続く予定やったのに」
「リザーバーで勘弁してください」

 魔境に俺を放り込もうとするはやてだった。なのはは首をかしげてたけど。

「……あ、けーとくん。そろそろお外に行く?」
「おぉぉ。そうだった空中散歩だ。ちょっくら天上行ってくる」
「無茶しやがって……」

 立ち上がる俺たちを見上げて、完璧な敬礼で見送るはやてだった。



(続く)

############

混乱させちゃってすまぬ



[10409] その117
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/25 14:37
 とある聖夜の空中散歩。
 と一言でいえばそれだけなのだけれども、眼下に広がる光景はとても言葉にできないものだった。

「雪が星みたいだ」
「あ……ほんとだぁ。曇り空だけど、晴れてるみたいだね」

 会話にした言葉が、雪に吸い込まれて消える。はらはらと舞う雪が街の明かりにわずかに照らされ
ていて、まるで星が降ってきているみたいだったのだ。マフラーをきつく巻いてるわけでもないのに、
もう何か息が止まりそうな感じだった。こんな光景はそう見れるもんじゃない。

「これは一生にそう何度もなくていいかもしれませんなぁ」
「え、なんで? どうして?」
「そっちの方が大切に思える気がする。さすがの俺も五千人いたらありがたみも薄れるでしょ」
「五千人ってそれちょっとした町になっちゃうよ……」

 でも星はいくつあってもきれいだよね。いやこれ星じゃなくて雪ですがな。たとえばの話だよっ。
 とか話しつつ、無人の空をなのはに手を引かれて飛ぶ。なのはのやつ筋力大丈夫かと最初は思った
ものであるが、今はレイハさんのサポートで力も結構上がってるらしかった。でもってものを浮かし
たりする魔法があるらしく、今回のためにちょっと練習しておいたのだとか。

「しかしすごいなぁこれ……もうこのまま死んじゃってもいいかも」
「死んだらいやだよ?」
「いや死なないけど」

 よろしい、と満足そうに言う。

「……この風景ビン詰めにして全部持って帰りたい」

 それは無理だよ、と苦笑いされた。

「時間とまんねーかな。そういう魔法って使えないのか」
「えと、それはちょっと……でも、そうだね。時間なんて、このまま止まっちゃえばいいのに」

 都合よくDIO様出てきてくれないかな。それは二人とも食べられちゃうよう。とか話しながら、
ふたりともしばらく何もせず、どこまでも続く空と宝石みたいな街を見つめていた。

「け、けーとくん。その、ちょ、ちょっと休けい……」

 しかし補助があっても、引っ張って飛ぶのはやっぱり大変らしい。筋力的な意味で。
 バインドで空中に固定してもいいかと言われたのでうなずくと、胴の部分をおっきな光の輪っかで
とめられた。

「磔にされた。このままカートリッジロードする気だ。リアル銃殺刑される、やも」
「うぅ……休けいするだけだって言ってるのにぃ……」
「求刑と申したか。これはリアルに死刑にされる予感!」

 恐れおののいてみせた。ちょっとうまいこと言えたような気がして達成感。
 と思ったんだけど、なのはは首をかしげるばかりだった。ひょっとしてと思って、求刑ってわかり
ますかと聞くと、お休みのことじゃないんだよね、と不安そうに返してくる。裁判用語だよと言って
あげたところ、なんだかしょぼーんな感じになった。

「少し……社会の勉強しようか」
「うん……」

 こうして楽しませてもらっている以上どうにもからかえず、妙な空気になってしまったのでした。





「なんてヤツだ……この星を斬りやがった……!」

 その後地上に降りて、雪を払った公園のベンチであったかい缶コーヒーを飲みながら言う。なのは
は情けなく眉をハの字にして、ぶんぶんぶんと首を横に振った。

「つまらん。好きな魔法見せてくれるというから期待したのに」

 いろいろ注文してみたんだけど、どれもこれもできないと言いやがるのだ。困る。

「むっ、無理がありすぎるもん。メテオなんてできないし」
「えー。修得しろよ。『体中の穴という穴からディバインバスター』とか、敵さんビビるのに」
「それはビビるよ……」

 次元犯罪者がビビること間違いなし、となのはが認めるアイデアだったのだが、どうも習得不可能
であるらしい。

「アスラ先生にバスター撃ちまくってたらそのうち豆電球出るっしょ」
「その前に死んじゃうよ……」

 鍛えてるのを見せたことがあるので、なのはも知ってるネタだった。確かに単身でアスラ道場に道
場破り仕掛けたところで、あっという間にアビス行きになるような気がする。LP0的な意味で。

「ね、ねぇないの? ほかには、他は」
「というかこだわるな。今日はもうお腹いっぱいなんですが」

 しかしまぁいいやと思っていると、何やらなのはが積極的に問いかけてくる。ちょっとその理由が
わからず、俺としては戸惑うばかりである。
 何か俺にしてほしいことでもあるのかと思ったけど、なのはだったら別にそんなことをせず、直球
ストライクで言ってくるような気がしなくもない。じゃあなにか負い目でもあるのかと思ったけど、
これまたあんまり心当たりがない。パーティーはじまるまでケンカしてたけど、それはもう仲直りし
たし。

「ひょっとしてなので聞き流してくれて構いませんが、もしかしてコアの件、まだ気にしてる?」

 ぴくりとなのはが固まるのを見た。どうやら当たりなのかもしれない。
 とりあえず家に戻ろうということになって、その道中で聞いてみることにする。すると少しして、
ぽつぽつと話しはじめてくれた。

「まだ……まだ思ってるの。あれでよかったのかなって。ずっと、そう思ってる」

 あれ以上はないというに。別に俺が死ぬわけでもなし。と本心から言ってやったんだけど、何とも
すっきりしない様子だった。はやてだと魔法使えなくても「そんなのかんけーねぇ!」で二人とも納
得しちゃうんだが、なのははどうもそうはいかなかったらしいのだ。
 歩きながら横顔を見ていると、なんだかいつもの元気がない。こういうの好きじゃないんだけどな
ぁ、どうしようかと思いなやむ。

「そういやあの時、ずびずび泣いてたっけ。つい最近なのに、何だか懐かしいですなぁ」

 ちょっとでも雰囲気もどるといいなぁと思って言うと、ずびずびとか言わないでよう、と恥ずかし
そうに抗議された。少しだけ元気が戻ったみたいだ。ちょうどいいので、話を続ける。

「これ以上続けるとトルネード土下座してでもやめさす」
「トルネードって……ちょ、ちょっと見てみたいんだけど」

 失敗した。作戦を変更する。

「まぁいいじゃん」
「いいじゃん、じゃないよ……」
「いいんだってば。俺が魔法使えなくても、なのははずっと友達でいてくれるんでしょう?」

 はっとしたように、なのははこちらを見てきた。

「そ、それは、そうだけど……」
「ならばよし」
「え……よ、よくないよ。そんな」
「ならばよし!」

 しんみりしたのはキライなので、強引に通そうとする。しかしネタはわかっていないらしく、なの
ははしきりに考え込んだ。

「………………うん、そうだね」
「ならばよし!」
「……ならばよしっ」

 しかし何やら心境の変化があったためか、なのはは今度は食いついてくれた。後で聞いてみたとこ
ろ、やっぱりネタの内容は知らなかったらしいけど。後で元ネタ本見せようとしたら、はやてにすっ
ごい叱られたけど。

「そうだっ。じゃあ私、けーとくんのこと守ってあげるよ。その、ピンチの時にささっと出てきて!」
「じゃあ俺が試験でピンチになったときに助けてくれ」
「あ……え、えと、それは勘弁してほしいんだけど……」

 しどろもどろになるなのはだった。

「じゃあここは物語を盛り上げるため、わざと邪悪な次元犯罪者の魔の手に堕ちざるを得ない」
「ああっ、だめだよ。そんなのだったら、助けないもん」
「そうなる前に助けろよ」
「助けないよーだっ!」
「ヨーダ? むしろ逆じゃね?」

 八神家が見えてきた。二人とも足早になっていく。

「ありがとう。また思い出したころに連れてってくれ」
「うん、いいよ。じゃあわたし、翼になってあげる」
「俺が牙、お前の魔法が翼……」
「それ、なんて言う漫画だっけ?」
「人間を飼うマンガ。そうだ、なのはで試してみよう」

 ひどいことしないから飼っていい? と聞くと、雪玉が飛んできた。そのまま雪合戦に突入した。
冷たかったけど楽しかった。



(続く)

############

ずっと友達。

一話まるまるこの組み合わせっていうのは初めてかもしれない。なんか変な感じですね。
なのはの中ではまだ決着がついていなかった問題でしたが、とりあえず一区切り。
A''''s編終了時から書きたかったお話のひとつでした。
でもって↓は噂のトルネード土下座。文字サイズは中推奨。



_ミ`ー‐、         トルネード土下座
  `⌒丶、''''ー-、_       +             十
     ̄\―ヽ._ 二_‐-
       \   \   ̄ ‐-       ̄二二_ ―_,r''''⌒ヽー、
        ̄\ ̄ \‐-     ╋__..ニ -―― ´ ̄ __... -―一┘
  +  ニニ ー--\   ⌒Y´ ̄ `丶     __,. -‐二´  ̄ ―     +
           ̄\    !   =,. -‐ 二_          /ヽヽ
          _   ヽ.._     ノ           /ヽヽ  \
           ̄   〉   ー- ノ三二   +    \    _
    十       ̄―/  ,''''   /二  ̄ _      _     ∠、
        ニー/⌒∨  /  二/ /⌒''''l    ̄    ∠、    oノ
      _   / l /二    /  ,イ  |二_      oノ    /
        / /| / .ノ 〈. ′ / | _|__     ╋   /     /^ヽノ
      ̄_/ _/_ヽ_,   .__,/  |  |_      /^ヽノ
     彡ニ ,ノ __(     )_   〈__ 三ミ      +
   +  `⌒   ̄∨ ̄∨―

※ 服は着て行います。

危険ですので真似をしないでください。作者は責任を持ちません。



[10409] その118
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/25 12:23
 なのはとの間に勃発した雪合戦の結果、雪やら雪やらで非常に寒い思いをして帰宅。

「マフラーの防御力が高すぎてワロタ」
「それを笠に着た結果がこれというわけやな」

 調子に乗ってずっと遊んでいたのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。家に入ったなのはは
俺以上に寒がっていて、はやてにお風呂を勧められると一目散にすっ飛んで行った。その隙にはやて
にお説教されて、もう少し自重せんかと責められる。

「明日雪が残ってたら雪だるまの刑にしようぜ」
「永久氷晶あったら火術要塞まで連れてくんやけど」

 ヴィータが発案し、はやてが俺に死亡フラグを立てようとする。おっそろしいのでこっそり逃げる。

「あらアンタ。どこ行ってたのよ」

 そそくさと脱出していると、横合いからアリサが話しかけてきた。見てみると、手にはなにやら紙
袋を持っている。その隣にはすずかもいたが、こちらも同じく持っていた。プレゼントの紙袋だ。

「ちょっとなのはと雪合戦してた。お帰りですか」
「もうちょっとしたら、だけどね」
「楽しかったよっ。ごちそうさま、ありがとうっ」

 帰るまではゆっくりしていってね! と言ってみたのだが、家の方でも何やらあるらしい。まぁそ
れなら仕方ないか、また遊びに来てねと告げる。アリサとすずかが帰ったらユーノがフェレットから
元に戻れるし、魔法の話題も解禁できるなぁとひそかに気づいた。

「今日はこの家の不思議な一面を垣間見た気がするわ」
「まぁ俺がいるって時点で奇妙だし」
「あら。よくわかってるじゃない」
「そ、それ、自分で言っちゃうんだ……」

 とか、いろいろとお話する。この組み合わせというのも珍しいもので、割と話も盛り上がった。フ
ェイトの編入試験、しっかりサポートしてあげなさいよとか。あんなに絵が上手いなんて思わなかっ
たよとか、また会ったら翠屋でも行こうかとか。あの銀色の物体の正体は何なんだという風にも聞か
れたけど、そこは禁則事項ですの一言で誤魔化しておいた。
 でもってしばらくすると、なのはが脱衣所の方から現れた。
 服は変わってるけど普段着だ。まだ寝巻きには早いとはやてに相談したところ、はやてが服を貸し
てくれたのだと言っていた。さっきまで来ていた服は雪合戦で水がしみてしまったらしい。とりあえ
ずスマンと謝っておいた。

「お先に……あっ。アリサちゃん、すずかちゃん。帰っちゃうの?」

 でもってさっきの俺と同じやりとり。予めわかっていたのだが、それでも残念そうにするなのはで
ある。

「あ。帰っちゃうの?」
「そうよ。さっき言ったと思うけど」
「ん? なーなー、帰っちゃうん?」
「そ、そうだけど……」
「帰んのか?」
「帰るんだ」

 フェイトがやってきて問いかける。それにつられたように、はやてやヴィータやアルフが寄ってき
て、わらわらわらと二人に群がる。

「お帰りでござるか」
「アンタには最初に話したでしょうが!」

 真似しただけなのに、何故か俺だけ怒られた。





 でもってアリサとすずかが帰路につき、ようやくユーノが人間に戻って俺歓喜。

「あああああよかった。男の話し相手がクロノだけだったんだ」
「え? ザフィーラさんは……あ、そうか。喋れないよね」
「念話も使えないしな。こいつにコアがないから、今までどうにもならなかった」

 ということでこの面子に、クロノも交ざって机をひとつ占拠。グレアムのおっちゃんも誘ったんだ
けど、リンディさんと何やら話しているので遠慮された。でもってそれまでわんこ型で我慢してたザ
ッフィーが、人間フォームに変化する。翠屋では迷惑にならないように、店の表で雪見していたので
ある。お疲れさま寒かったでしょうと言っておく。
 よくよく見てみるとやっぱり女性多いよねなどと話しつつ、しばらくなかった同性だらけの会話を
楽しむ。女子は元気だなーとか、これでもまだ男がマイノリティだなとか。ユーノが行ってきた遺跡
の話も出たり、クロノの知ってるロストロギアで、機密じゃないもののお話をしてもらったりとか。
お返しにこちらとしては、リインの生態を語ったり。あれほど凶悪な戦闘力を持つリインであるが、
普段はちょっと抜けてるところもあると知ると結構びっくりしていた。みかんに悪戦苦闘してると知
ると、二人とも笑いを必死にこらえてた。

「あ、ユーノくん! 戻ったの?」

 するとそこに、人間ユーノに気づいたなのはがやってくる。フェイトもそれに続いて近寄ってきて、
そのまま三人で思い出話に突入していった。俺にとっては無印の復習みたいな感じで、ザフィーラは
以前俺が話したことのある内容と頭の中で照合しているようだった。隣のクロノはあんまり表情を変
えていないけど、ちょっと懐かしんでいるらしい。ためしに聞いてみたところ、「少しな」と穏やか
に語った。

(それにしてもよかったなぁ。なのはの補完計画成功して)
(まったくだ。若本声になっていたらと思うと、二人とも不憫でならん)

 このパーティーの次はいつ会えるのいつ会えるの、となのはがユーノにしきりに尋ねていた。人懐
っこい笑顔を浮かべていて、なんだか非常にうれしそうだ。それを見ながらザフィーラと二人でこっ
そり、しかししみじみと話してみる。

「……魔砲少女も、おとなしくなったものだ」
「あ。クロノもそう思う?」

 なのはに聞かれたら怒られそうだったけど、現在ユーノと夢中になって話しているので聞いてない。
 ということなのでザフィーラ・クロノと、割と好き放題に語ってみる。悪魔かと思ったら普通の少
女だったが、やはり最終決戦時の攻撃力はすさまじかったなとか。なのはがカートリッジシステムを
実装すると聞いた時は正直言って戦慄したよ。とか。

「殺伐としとるテーブルに救世主が!」
「あまり殺伐としてはいませんが」

 そこにはやてが、戸惑いがちなリインを連れて現れた。

「えー。決戦がどう、とかゆーとったやん。リイン戦とちゃうの?」
「あの……私のことで、何か」
「いや、そうでもないが……そういえば、今でもメタル化できるのか?」

 クロノがふと尋ねると、リインはこくりとうなずいた。右手を目の前に掲げて念じるそぶりを見せ
て少し経つと、手首から先の肌の色が綺麗な銀色に変化した。

「ちょ……これはすごい。なら一部分だけ変化させて、自動で簡易のアーマー作れるんじゃ」
「いやここは拳だけメタル化してやなぁ」
「戦闘力の高さは相変わらずか……」

 ちょっと戸惑いがちのリインだったが、どうやら悪い気はしなかったらしい。その後も皆でいろい
ろ注文してみたところ、恥ずかしそうだけど嬉しそうに披露してくれるリインだった。



(続く)

############

あれ男子だけのつもりだったのに結局混ざった。

シグナムとシャマル先生とヴィータは別のところでコーヒー飲んでます。
戦闘力最強クラスだけど大人しいリインでした。
八神家では彼女が一番普通なのかもしれません。



[10409] その119
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/26 21:57
「この家にいたら間違いなく太る気がする」
「本当……」

 ゲームしようかということになり、例によってスマブラなどをやっていると、抜け番になって休憩
している俺の横で猫姉妹が何やら言っていた。
 聞いてみると、食べ物が基本的に美味しすぎるのだとか。管理局で食べる分にはそうでもないのだ
が、時々滞在したりするイギリスではものすっごく大変なのだとか。そういえばイギリスではあんま
り食べ物がおいしいという話は聞かないなぁと思いながら、適当に話し相手になってやる。

「……!」

 聞きつけたリインがはっとして、何やらおろおろと困惑するのが向こうに見えたのは気のせいでは
ないと思う。

「や、でもなぁ。はやての奴がハンバーグに豆腐使ってたりしてるし。だいいち俺が太ってない」
「お前の場合はあっちこっち動き回ったりしてるからでしょ」
「あー……たしかにいつも徒歩だ。でもそれで十分なレベルってことでしょう」

 あっちの方でリインがシャマル先生に、ザフィーラに次のお散歩はいつなのかいつなのかとしきり
に問いかけているのが見えた。やっぱりたくさん食べる自覚はあったらしい。

「……どうしてこいつら、こんな平和に生きてんのよ……」

 そんな姿を見ながら、やるせなさそうな顔をするロッテかアリアかわからん猫人間だった。仕方な
い日本はこういう国、とか返しながら、やっぱりこいつら覚えにくいなぁと思う。これだけ時間があ
ってもダメなんだし、どうしたらいいんだろうと悩む俺である。
 しかし。次の瞬間、とてつもないアイデアがわいてきた!

「ちょ、すっげぇこと思い付いた! クロノ、ポタラみたいなロストロギアってどこかにない!?」
「いや、意味が分からないのだが……」
「たぶんないぞ。それもうロストロギアどころのレベルじゃねーって」
「えええぇぇ。フュージョンで代用は……まぁいいや。ちょっとやってくんない?」

 ヴィータに否定されてしまったため、急きょ代替案を実行しようと試みる。とりあえず説明のため
に、本棚からドラゴンボール四十巻を持ってくることにする。
 でも見せる前にひっぱたかれた。でもって中身を閲覧したあと、ものすごく叩かれた。「フュージ
ョン」の単語からやらせようとしたことの目星をつけていたのと、あとは踊りのカッコ悪さが気に入
らなかったらしい。

「ロッテ、痛いよ」
「アリアだよ!」

 更なる追加攻撃をくらってしまい、顔が爆弾岩みたいにぼこんぼこんになった。メガンテは効かな
いはずなのに、はぐりんたちにさえ怖がられた。

「メ……メ………………メガマック!」

 同類意識からか、リインの足下にぴったり引っ付いて怯えるはぐりんたちだった。

「わ、わ。何のモンスターやろ! 新種や新種!」
「核ばくだん岩です」
「出会った時点で近くの都市が全部終了フラグな件」
「いや普通に生息しとったらむしろ世界が終わる件」

 次の抜け番で抜けてきたヴィータとはやてにやんややんや言われながら、メガンテメガンテと連呼
してみた。でもやっぱりMPがスッカラカンのため、じゅもんはむなしくこだました。





「魔法の話題解禁になっても、別にそれ一辺倒になるわけじゃないんですなぁ」

 ゲームしてないクロノやユーノとまったりコーヒーを飲みながら話す。今までの雑談やら何やらを
総合するとそんな感じだ。別に普通のおしゃべりと大して変わらないということに気づいた。

「その他の話題が豊富だからな……」
「僕はこっちの方が好きかもしれない」

 すっかりくつろいでいる感が満載のお二人さんであった。泊まることが確定しているはずなので、
そっちの方がまぁいいんですが。

「もうパーティーというか、ただ遊んでいるようにも見えるが」
「いつの間にかゲーム大会にはなってますけど」
「あれ? そういえば、戻らないの?」
「強すぎるからってつまみだされた。ボンバーマンとか、キックの使い方は完全に極めたからなぁ」

 勝負にならんということで、しばらくはじき出されることになったのである。たまに席に戻って自
信満々なヴィータをべっこんぼっこんにしたりとかはするけれども、基本的にはお休みタイム。

「ところで、あのフィールド外から爆弾投げてるやつ。みそボンって言うんだけど、由来は何だろう」
「妙な名前だな……こっちの料理の味噌汁と、何か関係はあるのか?」
「あ、それはありそう。あとは……『みかた』に『そと』かなぁ」

 いやいやあれは敵なんじゃ。あ、そう言えばそうだったね。とか話しているうちに、いつしかみそ
ボン談義で盛り上がる。
 「みそ」のたった二文字なんだけど、実際何だろうと考えるとこれがなかなかわからない。ミとソ
で音楽関係じゃないかとか、味噌の原料は大豆だからえーと、などとあれこれ話し合った。何でユー
ノが味噌と大豆の関係知ってるんだという流れになって、高町家で話しているのが聞こえたという風
なことも話す。

「みそっかすボンバー」

 ゲームをしているはやてが背中を向けたまま奇妙な単語を口走ったので、三人の視線が集中する。
しかしいやいやそれはないということになって、再び元の会話に戻っていく。
 でもやっぱり気になったので、こっそりグーグル先生に相談してみることにした。

「ちょ、ちょっ! 本当にみそっかすで合ってる!」
「な……本当か?」
「ああっ、本当だ! みそっかすなんだ……」

 いきなり正答にたどりついた男子連中だった。

「またつまらぬことで盛り上がってしまった」
「一体何を話していたんだ僕は……」
「え、えっと……あはは……」

 一気にクールダウンして、下らないことしていた自覚が出てきた俺達だった。ひとしきり落ち込む。

「……最近徐々に君の影響を受けているような気がする」
「そんなまさか。シャマル菌じゃないんだかrモガモガ」

 半泣きのシャマル先生に背後から口をふさがれた。

「シャマル菌……?」
「ほら例の。昔のシャマル先生の味覚が……あれ。あれってなんで治ったの?」

 シャマル先生が去ってから、リインがこっそり聞いてきた。でもってそういえばどうしてだろう、
と思いだしたので、そちらについて尋ねてみる。

「……確かお前のコアが、バグと一緒に直していたはず」

 驚いてこちらを見るクロノとユーノだった。でもって俺はもっとシャマル先生に感謝されてもいい
んじゃないか、と思うのでした。まぁいいけど。



(続く)

############

ようやく男で話してると思ったらザフィーラ入ってねぇ。ゲームの話題だとザッフィー書きにくい。
キャロと愉快な仲間たちの時の彼は非常に書きやすかったのですが…。

たまにまったく進んでない回が紐糸にはあります。つまりこういう回です。
電車の中で携帯片手にネタを練ると大体こんな感じになる。



[10409] その120
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/28 11:39
 いい加減そろそろ遊び疲れた感が出はじめたので、ハーフタイムを提案する。
 つまり簡単に言うと、後半戦の前にお風呂やシャワーはいかがでしょうかという。時計を見るとか
なり早めだが、人数を考えると実はそうでもないということになり、提案は了承された。ゲーム大会
も中断することに決定。

「なのははどうすんだ。さっきシャワーだけだったなら、もっかい入るのか?」
「あ、うん。ヴィータちゃん、一緒に入る?」
「おじさんは? おじさんはどうするん?」

 はやてが尋ねるのに対し、帰ってホテルのを使うよ、とおっちゃんは言う。ぬこ姉妹にも聞いてみ
たがこちらも同じだそうだ。

「非力ななのはは果たして、桶で水をすくえるのだろうか。疑問である」

 ふとした疑問を口にしてみたのを聞きつけて、そこまでよわよわじゃないよう、とぷんぷんご立腹
のなのはである。

「しっかし、えらい人数やなぁ。お風呂も時間かかりそーな」
「今さらだが女性だらけすぎるけど。はやて、今の気分は?」
「オラわくわくしてきたぞ」

 賑やかなのが好きなはやてである。当然お風呂も例外ではなく、初めてのメンバーがいる今回は非
常に楽しみだったみたい。
 でもってお風呂の方なんだけど、はやてとシグナムはフェイト+ちびわんこ状態のアルフと、シャ
マル先生とヴィータはなのはと一緒に入ることに。子供だけで入るとはやての風呂がちょっと大変、
ということでこうなった。はやく完治せぇ完治せぇ、と残念そうに言うはやてだった。

「しかしこう女の子だらけやと、いくら賢者モードのオリーシュでも耐えられるか疑問やなぁ」

 と思ったら、ニヤニヤしながら失礼なことを言いやがる。

「子供とつるぺたに興味はないと何度言えばわかるか」
「盗んだパンツを?」
「被りだす」

 振られたネタに答えただけなのに、脱衣場付近2m以内立ち入り禁止を宣告してくるのは理不尽だ
と思います。まぁ入らないからいいですけれども。

「けーとくん、変態さんだったんだ……!」

 しかしながらここでなのはが、日頃の反撃とばかりに追い討ちをかけてきた。一瞬素で言ってるの
かと思ったけど、明らかに目が笑っていやがった。

「なのは様には今後、ずっと敬語でお話しすることにいたしましょう」

 ふにゃっと情けない表情になって、いやだいやだやめてよやめてよぉ、といやいやをしながら懇願
された。仕方なく取り下げてやる。

「高町なのはの分際で、口で俺に勝とうなどとは十年早いわ」
「これはたしかに嫌すぎるわぁ……」
「君を知る者にとっては、割と強力な嫌がらせかもしれない」

 はやてとクロノがとてもうるさかったです。





 女子どもの風呂が長い。

「水死体ごっこでもしてるんじゃないのか……」
「ずいぶん退屈そうな遊びだなそれ」

 やっと上がってきた、寝間着姿のヴィータが言う。今ははやて組の番である。しかしこれがなかなか
出てこないのだ。もちろん、はやてがかける時間を考慮に入れても、である。

「まだ治らねーな。いつ完治すんだ?」

 どうして俺に訊くのかと思ったけど、よく考えるといちおー原作知識持ちのオリーシュでした。現
在のなのはやリインの存在を考えると、もうだいぶあさっての方向に外れはじめているような気はす
るけれども。

「中学では元気に走り回ってるはず。でも詳しい時期はわからん」
「イマイチ当てになんねーな……」
「三学期に間に合うといいけどなぁ。一月にはもう始まっちまうし、やっぱ無理か」

 そういやお前、死ぬ前の成績ってどんなもんだったんだ。小学校のときは上の下くらい。さすがに
今みたいなチートはなかった。
 という話から例のごとく、なのは可哀想という流れになりました。いやでも最近は勉強の方も頑張
りはじめたらしいんだがと、弁護するだけはしたけど焼け石に水。だって確か中学出たらすぐ管理局
だろ、と言われると、どうにも言葉が返せませんでした。

「……あれ。そういえばはやては……あれ。あれ……?」
「ん? はやてがどーかしたのか?」

 ふと恐ろしいことに気がついたように思えなくもなかったけど、しかしまぁここのはやてさんだっ
たら大丈夫だよなと思って誤魔化しといた。とりあえずオリーシュのレベルまでは行ってみたいなぁ
と話していたので、そこらへんは信頼することにしよう。

「…………」
「…………」
「んー? なに、けーとくん? ヴィータちゃんも」

 パジャマ姿のなのはがちょうど近くにいたので、隣のヴィータと一緒に思わず視線を向けてしまっ
た。何も知らずにニコニコしてるなのはだけど、この子の将来は本当に大丈夫だろうかと心配になる。
もし何かの拍子に魔法が使えなくなるなんてことになったら、もしかしたら路頭に迷うんじゃなかろ
うか。

「ああでも、翠屋あるから大丈夫じゃねーのか?」
「それはそうだが。なのはなのは、ケーキの生地は自力で練れるようになった?」
「……れっ、練習中だよっ。うん!」

 不安が増してきた。

「……今度うちで勉強会するから。その時はおいでね」
「え……あ、あれ? けーとくん、変に優しくない?」
「あ、あたしも、何か手伝うからさ。何かあったら言ってくれよ」

 ヴィータちゃんまでどうしたの。とあわてて尋ねるなのはだった。この子を高校までは絶対連れて
行こう、と固く決心する俺達だった。



(続く)

############

キャラが全員そろってるとついつい雑談させたくなってしまう。
ということで今回も全然進まなかったです。

本当に深刻なことだと優しくなるオリーシュでした。
関係ないけど変換したときよく「オリー酒」ってなってちょっと美味しそうです。

次あたりで例の話に続く流れにできるといいなぁ、と思わなくもないです。



[10409] その121
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/28 11:42
 女子に続いて男子どもも風呂に入り終わって、再びお遊び会を再開する。

「だんだん動けなくなってまいりました」
「僕も……今日は、本当にいろいろあったね……」

 しかし風呂の後ということもあって、もう何だか半ばパジャマパーティーに移行しつつある気分。
ゲーム画面見てる皆は結構白熱してる雰囲気なんだけれども、それでも床にうつ伏せになったりぺた
んと座り込んだり、ヴィータやなのはみたくこたつに足を突っ込んだりだ。ちょっとゆるやかな空気
になっている気がする。

「あ。そういえば、リインさんは誰と入ったの?」

 思い出したように、ソファの隣に座ってたユーノが尋ねてきた。もしかして一人になっちゃったの
かなという感じに、どうやら心配してくれているらしい。
 答えようと口を開くも、言葉が出る前にやめておいた。聞きつけたリインが近くに歩いてきて、俺
の代わりに答えてくれたのだ。

「この子たちと」

 リインが視線で示したのは、その後ろを一列に並んで、ちょこまかついてくるはぐりんたちでした。
今日はいろんなものを食べたりしたので、確かにちょっと表面が汚れていた気がする。でも今はきれ
いさっぱりといった感じで、もとのきれいな金属光沢を放っている。

「……湯に入れたら、何か溶け出たりはしないのか」

 その後に入ったクロノが、非常に不安そうな顔をした。微妙に声が震えてる気がするぞ。聞いてた
ユーノもはっとした表情になる。

「何か溶かした?」

 はぐりんたちに尋ねてみると、ふるふると首(?)を横に振った。でもって先頭のはぐりんがその
場でくるりと回って、今度は縦にうなずいてみせる。

「違うそうです。水で溶けるほどヤワじゃないって言って……何?」
「……君もたまには、こちらに遊びに来てくれると嬉しい」

 どうやら管理局には他の世界で、未発見の生物の記録とか、辺境の動物や自然をハンターから保護
するお仕事があるらしい。野暮な引きとめもしないから、暇な時にアルバイト感覚で来ないかとのこ
とだ。おやつ用意して待ってるよ、とか。

「日給は3シュークリームでいかがでしょうか」
「君には物欲がないのか」
「物欲センサー対策で、普段から節制することにしたんですよ」

 訳がわからん、とクロノが言う。

「え……でも、大丈夫かなぁ。もし密漁者に出くわしたら……」
「まぁ問題ないっしょ。強力な護衛がいることだし」

 魔法がダメなため防御手段がない俺を気づかうユーノだった。でもぺたぺたソファーを上ってきた
はぐりんたちを手にのせて見せると、それもそうだねとあっさり納得する。

「魔法が全く効かないもんね」
「拳銃で来られるとちょっと困るけど、こいつら一瞬だけなら銃弾より早いし」

 さらにジゴスパークの習得が確認されているため、心強いことこの上ない。

「いや。それもあるが君の場合、そういう危険な状況にならない気がするんだ。どうしてか知らんが」

 クロノが核心ついた。
 そういえば言われてみると、コアぶっ壊したあの時以外は割と無事に過ごせているオリーシュであ
る。「平穏」かどうかと言われると疑問符がいくつも積み重なるけれども、しかしまぁ少なくとも、
混乱したり死にそうな目にあったりということはないんだよなぁ。

「とりあえずわかりました。またはぐりんたち連れて遊びに行きます」
「その時には、その子たちに軽めのお仕事を用意しておくわね」

 リンディさんがそう答えたところで、この話題もひとまずおしまい。再び向こうの方のゲーム画面
を眺めたり、トランプの遊びを紹介したりやってみたりで過ごす。
 でもってウノなんかもやったんだけど、これがけっこう好評でした。数だけじゃなく色で条件をつ
ける、という発想が面白いとクロノは言う。当然のようにウノ忘れを頻発する魔導士組なんだけど、
けっこう楽しんでくれてるみたいだ。こちらとしても願ったり叶ったりである。

「ドロー2」
「ドロー2。あって助かった」
「じゃあドロー4で色は赤ね。リイン、これで8枚」
「………………き、黄色に」
「赤でござるよ」

 戦闘能力ではもうほぼ最強なんだけど、あんまり経験がないからか、こういう競いごとには強くな
いリインだった。表情から持ち札の色を読んでいるらしい魔道士たちと、英語カードの枚数をカウン
トしている俺に隙がない、という要因も大きい。

「そうだ。フェイト、こっちおいで。カードゲームしよう」
「え……えと、ちょ、ちょっと……」
「フェイト、大丈夫だ。今回はいい勝負ができそうだぞ」

 ふと思いついて、ゲーム観戦中のフェイトを誘ってみる。やっぱりちょっと尻込みしたみたいだけ
ど、しかしクロノの言葉を聞いて、おずおずとやってきた。その周りにちょろちょろとはぐりんたち
が、遊んでもらいたそうに集まる。でももう慣れたらしく、膝の上やら前やらで遊ばせてくれていた。
 そのままルールを説明し、メンバーに加えてプレイしてみると、これがまたリインといい勝負をす
る。そういえば例の決戦の時も、速さで競い合っていい勝負してたなーなどと思い出した。案外相性
がいいのかもしれない。おとなしいところもちょっと似てるし。

「あああ。点数かぞえるの忘れてた」
「何だ。点数制だったのか」

 まぁいいや、と続ける。

「…………?」

 しかしふと視線に気がついて、こっそり顔を上げてみる。
 グレアムのおっちゃんが、ぬこ姉妹にはさまれるかたちで立っていた。指ではやての方を指して、
ちょんちょんと動かしている。
 お話に移る気なんだろう。小さくうなずいて見せると、観戦中だったはやてに何やら話しかけに行
った。隣のリインの肩をちょんちょんと叩いて知らせると、こちらもこっそり抜けていく。はやては
うなずいてからおんぶをねだったみたい。ぬこ姉妹が連れてきたヴォルケンズと一緒に、背負われた
まま別室行き。

「別室行きっ……!」

 言ってはみたが誰も反応しなかった。「また妙なことを」くらいにしか見てもらえなくて、なんだ
かちょっと寂しい気がする。

「あれ、なのは。どうしたの」
「……アルフさんとゲームしてたら、気がついたらみんないなかったの」

 アルフに連れられて、しょぼーんな感じのなのはがやってきた。二人ともまぜてやる。

「さっき出ていくのは見えたが……どうしたんだ?」
「見えてたんか。ちょっとお話するみたい」

 とりあえずはやてに聞かせたいみたい。と言うと、浮かせはじめていた腰を下ろしてくれた。何と
なく察してもらえたみたい。

「……? 君はいいのか?」
「もう知ってる話だから」
「ひょっとして、闇の書にかかわる話かしら?」
「いやまぁそうなんですけれども」

 クロノの後ろからひょっこり顔を出したリンディさんに答える。こう見えてこの人、すっごい勘は
いいみたいだ。脳ミソに大量にエネルギー補給してるからだろうか。もちろん糖分的な意味で。

「あ、リンディさん。その、うちの連中、クライドさんのことは」
「ええ。皆さんから、お話はいただいてるわ」

 気がついて尋ねてみると、どうやらもう話はしていたみたいだった。
 聞くと、決戦が終わって事情聴取があったときに、どうやら揃って謝りに行っていたらしい。もう
原作のシリアス成分が面影もない気がするヴォルケンリッターだけれども、締めるところはきっちり
締めていたみたいで安心する。
 と思っていたら、リンディさんが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
 どうしたんだろうと首を傾げていたら、その理由はクロノが答えてくれました。

「……それで、どうして父の名前を知っているんだ? 話していない気がするんだが」

 あ。

「……。ぬこ姉妹が、昔話してくれて」
「あ、考えた。いま考えたでしょう? どうしたの?」

 一瞬ですごい弁解を思いついたと思ったら、なんとなのはに読みきられてしまった。クロノとリン
ディさん、信じかけてたのに元に戻った。

「なのはのばかやろう」
「えっ、ええっ? わ、わたし、何か悪いことしたかな?」
 
 まぁいいか、しかしどうしよう、と少し考える俺だった。



(続く)

############

競技ルールじゃないのでドロー4でのチャレンジは無し。
グーグル先生に訊いてみたところ、競技版には自分の知らなかったルールが満載。面白いです。

どうでもいいところで隠し事がバレるのは紐糸ではよくあること。
なのはもちょっと成長したらしく、気づかぬ間にオリーシュに念願の反撃を果たしていたようです。



[10409] その122
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/09/29 17:39
 とりあえず話の前に、なのはをポッキーの刑に処す。

「説明しよう。ポッキーの刑とは、喋れないように次々とポッキーを口に突っ込む刑罰である!」

 本当はじゃがりこあたりでやってもいいんだが、かなり堅いのでポッキーに減刑してやったのだ。
ふはははありがたく思うがいいと言いながら、なのはの口に一本ずつポッキーを送り込む。具体的に
言うと、常に一本をくわえているペース。

「んうー……」

 ぽしぽし音を立てながら食べるなのはが、なんだか不満そうな表情で鼻を鳴らした。

「むぅ……んむ、んーっ」
「日本語でおk」

 手を止めると、噛んでいた分をごくりと飲みこむ。

「……けーとくん、わたし、トッポの方が好きなんだけど」
「じゃあ望み通りトッポで再開してやろう」

 冗談だようやめてよう、と弁解するのでやめてやる。

「そもそも、どうしてわたし、こんなことされてるんだろう……」

 なんだかやるせなさそうななのはだった。見ていたフェイトとユーノが曖昧に笑い、アルフがやれ
やれまたこいつはという感じの表情をする。
 とそんなとき、こぽこぽと鳴っていたコーヒーメーカーの音が止まったのに気付く。
 砂糖を入れたマグカップを取って、ひとつひとつ注いでいく。それを契機にリンディさんやクロノ
が、再びなのはたちの近くに集まっていった。

「さて。話はまとまったのか?」

 話はコーヒーが入ってから、ということにしてあったのである。話す内容をまとめておくという口
実で。

「まだ」
「まだか」
「まとまった」
「まとまったか」

 ソファに座ったクロノにミルク少なめのマグカップを渡し、俺も隣に腰かける。視線が集まってく
るのを感じながら、ぼちぼち話をはじめることにした。まずこの世界の出身じゃないってことから。

「俺の本当の故郷なんですが。ここに来る前にいたところ」
「そこからか。で、どこだ? どこから来たんだ?」
「VIPからきますた」

 反射的に間違えちまった。クロノが首をかしげてみせた。

「ピップエレキバン?」

 なのはが何やら口にしたけど、どこをどう聞き間違えたらこうなるのか。

「そういえば、あれってどうなってんだろ。やっぱ磁力なんか」
「え? えーと、エレキだから、電気じゃないのかな」

 あれれ。と考えはじめるなのはだったが、俺としてはそれ以上の事実に気付いてしまった。

「なのはが英語……だと……?」

 今までの常識がひっくりかえるくらいの、驚愕に値する事実であった。

「そっ、そのくらいわかるもん! バカにしないでよ!」

 聞いてたなのはがぷりぷり怒った。

「話はどうなったんだ」

 見ていたクロノがほとほと呆れた。





「要約すると、つまり……次元漂流者、でいいのかな?」
「もう多分戻れない世界ですけど。それでも漂流者になるならそれで」

 リンディさんの言葉に答える。その前の成り行きが成り行きだったため、ここの地球とめっちゃ似
てる別な世界から飛ばされましたと言っても、ちょっと納得してもらえるまで手間取った。特にアル
フ辺りがなんとも。

「けーとくん、この世界の人じゃなかったんだ……」
「一応、予感は当たっていたということか」
「あれ。何かヒントっぽいのあった?」
「以前僕に誕生日を教えたとき、日付を迷っていただろう?」

 いくらなんでもさすがにそれは、ということになったらしい。地球に暦がいくつもあるのかと調べ
たけど、そうでもないと分かったし。という。

「まぁ、別の可能性もありはしたが」
「あ。じゃあ今日、クロノとフェイトが聞きたそうにしてたのって、俺の誕生日か」
「あ、うん。そう、です」
「もしくは、直接核心をついてもよかったけど」

 二人してうなずき、俺も納得する。つっかえていたものがすとんと落ちてきた感じ。

「気がついたら近くの公園にいました」
「こっちに飛ばされる直前、未来を夢で見たんだったな?」
「そうそう、そんな感じ。もう変わっちゃったけどね」

 でもって説明についてなんだけど、いきなりアニメの住人でうんたらと言ってもアレなので、こう
いうふうにしておいた。闇の書の件、やたら情報持ってたのはそれです。と言うと納得してもらえた。

「念のために聞くが……こちらが本題なんだ。帰りたいと、思わないのか」
「こっちで天寿を全うする予定です」
「…………なら、いいんだ。それだけが心配だったから」

 これでクロノも、心配してくれていたらしい。何かお菓子を持ってきてあげることにする。

「けーとくん……ほ、本当に帰りたくないの?」
「帰りたくないでござる」

 お菓子の入った棚をあさっていると、なのはが何やら心配そうに、念を押すかの如く確認してきた。
否定してやると、良いのか悪いのかよくわからない、複雑な感じの表情になる。でも深く聞いてこな
いということは、たぶん何となく察してくれたんだろう。

「お。ちょうどよくポッキーがあった。ポッキーの刑の続きができそうだ」

 なのははフェイトの影に逃げ込んで、「人が心配してあげてるのにー!」と抗議した。

「あ……そういえば、けーとくんの誕生日っていつ?」
「2月30日」
「そっか……え? あれ? 2月って……28か29まででしょうっ、絶対違うよ!」

 嘘つき嘘つきとなじられた。アホの子でならしたなのはであるが、どうやらそこまでではなかった
らしい。仕方がないので、本当の誕生日を教えてやる。

「…………わ、わたしの方が……おねえさんだったんだ……」

 すると何やら衝撃を受けたような感じになって、一人で何かを考えはじめるなのはだった。なんだ
か面白そうなので、今話そうか迷ってたんだけど、俺の本当の年齢はしばらく黙っておこうと心に決
めた。

「話はおしまいです。じゃあトランプでもしながら、はやてたちを待ちますか」
「……重大な話だった気がするのだが。割とあっさり終わったな」
「そうだ、こっちのやつを使おう。このトランプ、JOKERをプレデターにしたんだった」
「お断りだよっ!」

 予備用の白紙のトランプでJOKERを自作したのだが、なのはには気に入ってもらえなかったよ
うだった。はやて遅いなーなどと話しながら、ポッキーを食べつつ大富豪なんかをして楽しむ俺たち
だった。



(続く)

############

マジメな話するとネタが入りにくいから紐糸っぽくない。
オリーシュの身の上話とかいやだなーと思ってたらこうなりました。

はやての方もそろそろ決着がつけられそうです。今回はおまけに近い感じ。



[10409] その123
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:c61ac231
Date: 2009/10/03 22:01
 背に負うはやての言葉に従い、空き部屋を目指してとんとんと床を歩いて、グレアムがたどり着い
たのははやての寝室だった。
 後ろからヴォルケンリッターとリインフォース、そロッテとアリアが着いてきているのを確認し、
ドアを開いて中に入る。

「ここ。ここや。落としてー!」
「大丈夫か?」

 ええからええからと言うので、ベッドに背を向けてパッと手を離す。背後でぼすんと落ちる音と、
同時にはしゃぐような悲鳴と笑い声がした。

「……」

 ヴィータは自分もやりたそうだった。

「足の具合が、良くなってきているのか」
「うんっ! 来年の春には、学校行けるようになるかもしれんって」
「……それってもしかして、アイツと同じ学校?」

 部屋に入ってきたロッテが尋ねると、はやては首を縦に振る。

「合衆国ニッポン国民に洗脳したって聞いたから楽しみや」
「どうする? 全員黒仮面にマント羽織ってたら」

 ヴィータの言葉に、ちょっとぎくりとするグレアム一味。そんな変装をした記憶があったりする。

「片っ端から剥ぐ。てか、さすがにないやろ」
「あの格好、カッコ悪いですものね」
「もはやネタのレベルだからな」

 ニッポンの最新流行かつ俺の晴れ着、と言われてまんまと騙されたグレアム一味だった。嵌められ
たやら恥ずかしいやらで、特に猫姉妹たちは、次に顔を見たら絶対ひどい目に逢わせてやると固く誓
う。アイツの弱点を探さないと、とぶつぶつ二人で相談しはじめた。
 それを見て何かを思い付いたような顔をするヴィータ。
 さりげなく近づいて、おもむろに口を開いた。

「そういやあいつ、チーズケーキが弱点だって言ってたような」

 饅頭怖い。そんな言葉が八神ファミリーの頭をよぎった。

「そっ、そうなの?」

 見事にかかった。こう見えてなかなかの釣り師なヴィータである。

「そう、苦手。すごく苦手」
「明日大量に買ってきてやる……」
「駅の近くに売ってたわね」

 ポーカーフェイスを保ったリインが、美味しいチーズケーキに我慢できず便乗した。明日はコーヒ
ーが美味しそうだ、と思う一同だった。

「嘘かな?」

 姉妹に聞こえないように問うグレアム。はやては声を落として答える代わりに、にかっと笑った。





 そうやっているうちになし崩し的に、例の居候の話に入っていってしまった。普段はどういう生態
なのかという質問が姉妹から出て、はやてとヴォルケンが答えていく形式。
 逆に行方不明だった期間はどんな感じだったのか、とはやたちも問いかけた。これにはグレアムも
加わって、いつの間にやら普通の会話で盛り上がってしまっていた。
 そのままずっとそうしていたい、とグレアムは思った。
 刑の宣告を受けに行くつもりで来た、そのはずであったものを。笑っているはやての顔を見ている
と、そんな決意が鈍ってしまいそうだった。本音で話すと先ほど約束したはずなのに、少女から笑顔
を奪いたくないという気持ちが、グレアムに話を躊躇させた。

「『前』のときのこと……そして、クライドさんのこと。ごめんなさい」

 しかしリインが話の途切れ目に切り出して、ヴォルケンリッターが揃って頭を下げた。
 都合のよい言い訳を探していた自分に、グレアムは気付いた。

「いや。その前に、こちらからも話がある」

 私には止められなかった、と言うリインと、それに戸惑う姉妹を横目に、息継ぎをせずに言った。
 少しでも止まってしまったら、もう話ができなくなるような気がした。

「あかーん! いくらおじさんの頼みでも、リインはもううちの子なんや!」
「いや、局員としてではなくて」

 研究ダメ絶対と言って、リインフォースをむぎゅーと抱きしめるはやて。戸惑っているリインと一
緒に微笑ましく思いながら、静かに声を発した。

「はやて。私は、君を殺すつもりだった」
「……んん?」
「簡潔に言おう。起動した闇の書と共に、封印するつもりだったんだ」

 語りはじめたら、もう止められなかった。本当の願いと理由、そして本当の思いを、ぽつぽつと語
る。どれだけ話しても話し足りないような、何かが腑に落ちないような気がして、言葉をつむぐ口が
止まらなかった。

「はぁ……で、オリーシュプランに移行、と」

 しかしほとんどすべてを語り終えてなお、何かが足りないような気がする。そんなグレアムの内心
を知らず、はやてはピリオドを打つように付け加えてしまった。一言も発さずに見つめているヴォル
ケンリッターの目の前で、グレアムが頷く。

「じゃあ前、ぬこ鍋にされかけとったのは、リーゼさんたちやったんやなぁ」

 時期的に、ヴォルケンリッターの知らない話である。姉妹はぎくりとした表情になって、やめてや
めて思い出させないでと詰め寄った。どうやら図星だったらしい。

「そっかぁ」

 はやては懐かしそうな顔をしてから、何かに気付いたように表情を変えた。

「じゃあ計画変えたのって、やっぱり私を死なせたくなかった、ってことでええんでしょうか」

 そう言ってから、少し嬉しそうに笑った。
 それに反して、目の前のグレアムは愕然とした。
 はやてが言葉にしたのは、ずっと心の奥底に押し殺してきた思いだったからだ。
 本音で話すつもりだったのに、すべて話したと思っていたのに、それでもまだ隠していた、それが
本当の気持ちだった。

「ああ」

 口を開いて、声を絞り出した。

「そうだ。死なせたくなかった」

 虫のいい話だが、と付け加える声は震えていた。

「そっか」

 安心したように言って、はやては静かに微笑んだ。

「助けてくれてありがとう。私、まだ生きてます」

 はやての顔を真っ直ぐに見ることができず、グレアムは顔を伏せたままだった。
 姉妹が寄り添うようにやってきてから、ようやくひとつだけ、小さく頷くのだった。



(続く)

#############

ヴォルケンたちがクライドさんの名前知ってるのはクロノやリンディさんと話したから。
紐糸でもたまには真面目な話をお楽しみください。もう二度とないかもしれませんので。

やっとA’sおしまいな気分です。その64からここまで。
超長かったような気がするけど一年経ってません。不思議ですね。


age忘れたので上げときました。すみませんです。



[10409] その124
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:02a5dfda
Date: 2009/10/06 00:48
 話がついたらしく、はやてたちが帰ってきた。こちらの話は終わっていたので、会はなだらかに
再開していた。はやてに気付いたなのはがとてとてやって来るのを皮切りに、またゲーム大会をし
ようという流れになり、再び賑やかになっていく。
 ちらと見たおっちゃんの表情が、前よりやわらかくなったような気がしないでもなかったので、
きっとうまく収まったんだろうと思う。
 その後少しして、リンディさんとおっちゃん、ぬこ姉妹は帰っていった。はやては残念がってい
たが、また明日来るそうな。それを言うときぬこ姉妹が何やら不敵な笑みを浮かべていたが、さて
一体どうしてでしょう。

「明日コーヒーの豆買いに行くぞ」

 質問してみるとヴィータがわくわくした様子で答え、リインがこくりと頷く。だいたい察した。

「ぬこたちともちょっと仲良くなったみたいで」
「お陰様でな。お前の話で盛り上がったりした」
「何を話したのかとても気になるところですが」

 教えねー! と笑われた。今日この後の麻雀では、山越ししてでも狙い撃つことを決める。

「で。おっちゃんの本音は聞けましたか」

 しかしこいつは重要なので、念のために聞いてみた。

「ん」

 はやてが答えてくれた。ならまぁいいか、と安心する。

「はやてちゃん、何のお話してたの?」

 ビンゴの景品の大きなくまさんをもふもふしながら、パジャマ姿のなのはが尋ねてきた。おっち
ゃん関係の話はクロノも興味があるらしく、視線がこっちを向いている。

「なのちゃんはへなちょこという、オリーシュ情報の検討やな」

 もうへなちょこでいいもん、となのはが拗ねた。シャマル先生がよしよししてあげていた。

「麻雀すると腕力つくよ? 拳圧で卓が飛ぶくらいに」
「親指の握力で牌が削れてまうように」
「振り込ませるだけでダメージ与えたりもできるぞ」

 出鱈目を振ってみたところ、はやてとヴィータが便乗する。

「…………」

 シャマル先生にしがみついて怖がるなのはだった。あんまりにも可哀想になったので、嘘だよ冗
談だよと慌ててなだめる俺たちだった。





「布団を敷こう。な!」

 とはやてが言いはじめたので、とりあえず寝床の準備はしておくことにした。どうせずっとテレ
ビの前にいることが確定しているので、そこに敷けるだけ敷こうということに。

「ところでけーとくん、普段はどこのお部屋で寝てるの?」
「精神と時の部屋」
「寝苦しそーだな。時間の節約にはなるけど」
「八神家が天界になっとる件」

 とか話しながら、布団を次々と運び入れる。昼間に干しておいたふとんはふかふかで、もうそれ
だけでぐっすり眠れそうだった。遊ぶだけ遊んだらぽかぽかの布団に潜り込む。これを贅沢と言わ
ずして何と言う。

「西という」
「北という」

 はやてとヴィータは麻雀したいらしかった。

「おおお! ユーノとなのはがマスターヨーダに」

 ヴォルケン主導で進んでいた運搬作業だが、子供は子供で手伝いに参加していた。していたのだ
がふと気付けば、二人は魔法で布団を浮かせてふわふわと運んでいる。ずるい。

「なのは、いつの間に?」
「最近覚えたの。一人で練習してたんだ」
「ずるい。ずっこい。なのはのくせに」
「ずるくないもーん」

 なのははしてやったりの表情をして、そのまま布団を下ろした。三つ折りを広げてぱんぱんと叩
き、そのままうつ伏せに体を預けてみせる。

「あう……だめだよ、これ……眠くなっちゃう」
「日本人でよかったわぁ」
「これはすごいな。確かに、ぐっすり眠れそうだよ」

 早くも布団の魅力に取りつかれはじめたクロノだった。ゆっくりしたかったらいつでもとはやて
が言うと、いつかまたと返した。まんざらでもないみたい。

「スト2やるやつ! 早いもの順!」
「あっ。やるやる! フェイトちゃんも、一緒にやろ?」
「え? わ、わたし、やり方が……」
「あたしたちがハンデとして足でやればいいだろ」
「無理だよそんな……けーとくんじゃないんだから……」

 いつの間にか俺が曲芸師扱いされていることに軽く驚愕しつつ、今回もまた観戦にまわる。ちょ
うど美味しいコーヒーが入ったところなので、テーブル席についてお砂糖とミルクでいただいた。

「こっ、今回は、今回は自信ありますよ? 本当ですよ?」

 とシャマル先生が必死に勧めるので、お茶菓子のクッキーも恐る恐るいただいてみたが、今回は
これがなかなかいけた。
 という風に伝えてみると、すっごいニコニコしてリインにも持っていったシャマル先生。市販の
クッキーに溶かしたチョコをかけてみたらしい。恐らく桃子さんに、チョコの湯煎をやってみよう
と言われたのだろう。

「チョコをそのまま火にかけていたあの頃が懐かしい」
「あれはトラウマものやろ……見たとき思わず悲鳴が出たわ……」

 その影には哀れな食材と悲惨な歴史があったことを忘れてはならない、とか思いながら、ひたす
ら嬉しそうにお菓子を配るシャマル先生を眺めた。

「終わりましたなぁ」

 ふと、ソファのはやてが口を開いた。

「終わりましたか」
「謎がすべて解けた感じやな」
「じゃあこのまま眠りの小五郎いってみようか」
「残念。麻酔針は間違ってはぐりんに刺さりました」

 机の上ではぐりんが嫌そうな顔をした。どくばりにはいい思い出がないのかもしれない。

「とりあえずお疲れさまでした」
「とりあえずお疲れさん」
「さてこれから十年間、まずは何をしましょうか」

 第三期まで長いので、何をして過ごすかは割と悩ましいところである。とりあえずなのはを高校
までは連れていくべく活動する予定だが、始動はもうちょい先になるし。

「足治して温泉とか夏休みには海とか!」

 でもってあれもこれもと言いはじめる。やりたいことが沢山あるらしい。

「ていうか、管理外世界にも温泉とかあるんじゃね。クロノ、ユーノ知らない?」
「? 温泉とはなんだ?」「えーと、火山がないとできないみたいだから……」


 とか話しながら、やりたいことをぽんぽんと話していく俺たちだった。

「ポン」
「ポン」

 はやてとヴィータは麻雀したいらしかった。



(続く)

############

A’s編のあとしまつ。
ここからが本当の空白期だ…!
次はちょっと時間が飛んで、翌日のお話になります。



[10409] その125
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/07 20:58
 微妙に陽の光が部屋に射しこんできていて、それでようやく目が覚めた。時刻は9時前。少々遅
めの起床である。
 左右でははやてたちも眠り続けている。子供陣はまだ誰も起きていないらしかった。そのかわり
台所からは、ぱたぱたと誰かが動く足音がしている。シャマル先生あたりが朝食を作っているのか
もしれない。
 加勢にいくべきかと一瞬思ったが、止めておくことにした。同じ方向から、監視にあたっている
であろうザフィーラの足音(わんこ型は区別がつきやすい)が聞こえたからだ。それにまだ眠い。

「んー」
「ん……」
「んんぅ」

 伸びをしていると、隣のユーノの向こう側で寝ている、なのはとフェイト、あとはやてが、鳴き声チックな何か
を発してきた。

「オリーシュの こうげきりょくがさがった。」

 思わずポケモン風に実況してしまってから、とりあえず枕元に向かってみる。

「ん……おにいちゃ……なのは…………」

 フェイトの夢には現在、クロノとなのはが出てきているらしかった。

「……やっ……やぁ…………こないでぇ……」
「…………まそっぷ……」

 なのはは何かに追われているらしく、何かから逃げている感がある。
 はやてはもうなんかいつも通りでした。

「カートリッジロード」
「……そにっ……く……」
「でぃばい……ばすたー……」
「なに……それ、おいし……」

 試しに言ってみたところ、それぞれ違った応答を返した。しかしフェイトだけはちょっとマズい
気がする。そんなにぽんぽん脱いじゃ大変でしょうに。

「オッス、オラ悟空!」
「…………ん……」
「……ぅん……むー……?」
「いっちょやってみっかー……くぁぁ」
「おお起きた」

 はやてだけが反応したと思ったら、眠い目をこすって起き上がった。これは残りも起こさねば。

「ベギラゴン! ベギラゴン入りました!」
「わっ、わ、わ、ばっ、ばるでぃっしゅ、ばるでぃっしゅ!」
「えっ! あ、えあ、あ、せ、せ、せっとあっぷっ!!」

 リイン戦をまだよく覚えているらしかった。記憶を刺激してみるといきなり起き出して、真っ先
に変身しはじめる魔法少女が約二匹。

「おはようございます」
「え……あ、あれ……?」
「け、けーとくん? あれ、リインさんは?」

 いい感じの目覚ましになったらしく、クロノたちも起き出すのだった。





 あたたかい味噌汁をうまうま言いながら飲み、ご飯をお腹に収めたところで、ようやく頭がしゃ
っきりしはじめる。

「普通ならここで『ゆうべは おたのしみでしたね』と言うはず。しかし俺は発想の質が違う!」
「ほほう。して、何と」

 ノリだけで話しはじめたところ、はやてに突っ込まれた。次のセリフが思い付かなくて困った。

「けーとくんが困ってる。へーんなの」
「うるっさい。昨日布団に巻かれて、カッパ巻き状態を楽しんでた分際で」
「あ、あ、あれはけーとくんがやったんでしょお!?」

 パジャマパーティー中の出来事である。いろいろ遊んだ中に、なのはを布団固めにしてみるとい
う遊びがあったのだ。本人も割と楽しそうだった。巻き寿司にして転がしてみたところ、喜んでる
ような感じに声がしたので。

「ちなみに外からバインドかけたのはクロノでした」
「……」

 ロープがなかったので次善の策である。とうとうクロノにも遊ばれはじめるなのはだった。微妙
な雰囲気でクロノを見ているも、当のクロノはしれっとコーヒーを飲むばかり。

「さて。どうする? ユーノたちはいつ帰る予定?」
「昼まで休んでいきなよ。おいしいチーズケーキが食えるから」

 今日帰ると聞いていたのだけれど、何時ごろというのはまだ知らんのである。ヴィータが勧める
と、じゃあお言葉に甘えてということになった。
 ぬこ姉妹がどうして持ってくるのかという話だが、昨日ヴィータに聞いたのによると、俺の弱点
がチーズケーキということになっているらしい。実際にはとても好きな部類であるけれど、姉妹の
ためだ。さぞ不味そうに食ってやることにしよう。

「ああはやて。プレゼントありがと」

 そういえば。と思い出して、はやてに声をかけてみる。

「どういたしまして」
「どういたされました」
「機種はどう? 気に入った?」
「気に入った。この通り」

 昨日もらったストラップをつけた携帯電話を、パジャマのポケットから出してみせる。
 はやてからのプレゼントだ。結局渡されたのはかなり遅くなってからだった。でも超うれしかっ
たりするのです。何気に最新機種だし。

「あ、そうだ。けーとくん、アドレス交換しよ!」
「あっ。わ、わたしも」
「あれ? フェイトちゃん、ケータイ買ったんだ!」
「う、うん。地球での連絡用に……お母さんが、プレゼントしてくれて」

 ちょうど食事も終わっていたので、そんな感じにアドレス交換会が催されました。なのはがフェ
イトのアドレスを知らなかったらしく、さっそく試しにメールを入れてみたりとか。

「そういえばけーとくんって、あだ名で入れる派? 本名で入れる派?」
「あだ名にすると電話帳がカオスになるので、本名で入れることにしました」

 猫姉妹がひとくくりになったりとか。
 あとはフェイトの頭文字が「ぬ」だったりとか。

「今度は絵以外の何かを考えようと思います」
「何かと思ったら、全員で一枚の集合絵だったとはな。あれは良かった」
「いいでしょ。じっちゃんとぬこ姉妹も入れてみたんだけど」
「そうか、それがはやてへのプレゼント……後で見せてもらっても?」

 食後のコーヒーをいただく、賑やかな朝のひとときでした。



(続く)

############

フェイトはまだ編入してないので、携帯うんたらのイベントはここまで先延ばし。
オリーシュもプレゼントちゃんともらえた&渡したみたいです。

だらりだらりとしてるのは紐糸ではいつものこと。
夜中につまむポテトチップスくらいの気持ちで楽しんでいただけると嬉しいです。


P.S.
ぬこたちは本名でもら行でしたね。修正してみた。
よりダイレクトになった。



[10409] その126
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a760e9dc
Date: 2009/10/07 21:40
 午前中は騒いだりせず、昨夜よりもまったりと遊ぶことになった。でもってお昼になるとお腹が
減るので、あったかい蕎麦やらうどんやらをみんなですする。うまうま言って幸せな気分になる。
 体も温まったところで、なのはが雪だるまを作ろうと提案してきた。フェイトと一緒に作りたい
らしい。寒いので後から行くと言うと、フェイトとユーノの手を引いて行ってしまった。後で雪玉
持って殴り込みに行ってやろうと決める。

「ん? もう戻って来たのか……おろ」

 しかし五分と経たぬうちに、玄関でチャイムが鳴った。
 なのはたちかと思ったけど、それなら別にチャイムを押す必要がない。じゃあ誰だろうと思って
いると、応対したシャマル先生が連れて来る。
 グレアムのじっちゃんとリンディさんでした。チーズケーキならぬモスバーガー、じゃなくて、
えっと、ぬこ姉妹もいるぞ。

「えっと……マックと、ドナルドだっけ」

 あの道化師って本名はロナルドなんよ、とはやてがトリビア的な知識をヴィータに教えていた。
でもってぬこたちは顔を赤くして、何やら悔しそうな表情になる。
 しかしちょっと見ていると、よゆうの表情(笑)を浮かべてこちらを見てきた。

「ふっ、ふん。そうやってられるのも今のうちよ。こっちにはアンタの天敵がいるんだから」
「別に病気にはなっていませんが」
「ほんのちょっぴりだが、栄養補給させてもらったぜッ!」
「え……え? え、栄養?」

 俺の振りとはやての追撃を受け、早くも困惑気味の猫姉妹だった。俺とはやての間に生じる圧倒
的な破壊空間はまさに歯車的ネタ嵐の小宇宙。

「じっちゃんもリンディさんも。おはようございます」
「ええ、おはよう。昨日はちゃんと寝たのかしら?」
「お、おはようございますっ」
「あ、ああ。おはよう」

 俺とリンディさんの隣で挨拶するおっちゃんとはやては昨日の一件があったからか、なんだかち
ょっとぎこちない感じだ。しかしここまできたら、時間が解決してくれるだろう。と言う感じに思
い直して、とりあえず来客用のコーヒーを用意しておく。

「あ、お前。わたしたちから、プレゼントがあるんだけど。もちろん受けとるよね?」
「…………」
「あれ……え、え!?」
「なっ、なぁ! な、な、何してるのっ!?」

 目の前にあるふさふさの二本の尻尾が俺を魅了して仕方がないので、両方を糸で縛ってハートを
つくるという形で尻尾愛を表現してみた。ぬこ姉妹が慌てた。

「なのはにも生えてこないかな」
「なのちゃんに大猿フラグはNO THANK YOUや」
「ほっ、ほどけっ、ほどきなさいこの馬鹿!」
「あ、ごめん。かた結びしちゃった。ほどき方とか超わかんない」
「にゃっ、にゃぁぁ! ほどいて、ほどいてよーっ!!」

 相当嫌みたいで、にゃーにゃー抗議する姉妹だった。鳴き声が割と可愛いので、今度録音してな
のはに真似させてみようと思った。





「ああ、まずいなあ。腸が腹から飛び出そうだなあ。よりによってチーズケーキとはなあ」
「お……お、お前ぇっ……!」
「これは死ぬ。死ぬほどまずい。ここに食後の三矢サイダーがあったら、即死する、かも」
「かっ……かも、じゃない。かもじゃないっ!」

 その後姉妹からチーズケーキが振る舞われたので、外にいたなのはたちも呼び戻して皆で食す。
 俺はチーズケーキが嫌いなことになっているので、ぬこ姉妹のために不味そうにぱくぱく食べて
みた。しかし完璧な演技にも穴はあるらしく、どうしてか情報の間違いに気付かれたらしかった。

「うまかった」
「……美味しかった」

 とても満足そうに、ヴィータとリインがニコニコしていた。怨めしそうに見つめる猫二匹。

「……もうこいつらなんて、ぜったい信じるもんか」
「先にこっちから泣かせてやる……!」

 ターゲットが俺からヴィータたちに移ったらしい。喜ばしく思います。

「ヴィータはガトーショコラが大嫌いだよ?」
「そうそう。プリンもアレだな。ダメだ」
「いちごショート、苦手」

 うるさいうるさい言う姉妹でした。
 とか話していると、はやてにグレアムのおっちゃんが何やら話しかけているのが見える。
 おっちゃんは何やら紙袋を取り出して、はやてに渡して見せているらしかった。席からだと中身
がうかがえないので、後から直接訊いてみた。

「魔法の教本ですか」

 グレアムのおっちゃんが頷いた。昨日、はやてが頼んでいたのだとか。

「お節介かもしれないが……選択肢のひとつだと、私は思うよ」
「将来どうするかはわからんけど、昨日なのちゃんがお布団運んどったの見て、便利やなーって」

 あとは第三期対策やな、と小声でこっそり付け加える。

「魔法はわからんのでお好みでどうぞ」
「今ので思いついたんやけど、今日の夕飯、お好み焼きでええ?」
「あ、まぜる! あたし、生地まぜる!」
「青のりがありませんでしたね。後で買いに行きましょっか」
「決まりやな。えっと、豚肉はあるし……ああ、紅しょうがなかったわ」

 いつの間にか話が冷蔵庫の中身になっているのは驚愕すべきかせざるべきか。と思いつつ、温か
いお茶を一口。

「もっとぐいぐい勧誘するかと思ってました」
「はやての意志に任せることにしたよ。管理局の力になって欲しいのは本音だがね」
「本人は料理に使うのを楽しみにしてそうな気が。リインだと火力が強すぎるし」

 最近料理のお手伝いをしたがるようになったリインであるが、コンロが足りないときに加熱をお
願いすると、張り切ってがんばりすぎてしまい、食材が発火する始末。今は地道にはやてのを見て
習得を試みているところである。

「そういやはやて、リインと融合したらメタルはやてになれるんじゃない?」
「ついに私にもスマブラへの出演依頼が……!」
「あっ、あの……た、多分、ジャケットがメタルになるだけ、だと思います」

 ちょっと悔しそうなはやてだった。

「イオナズン使えればもう十分だと思うけど」
「基本からやるのー。私も空飛んでみたいやん」
「空中からイオナズン爆撃か。強そうだ」

 強いどころか、チートなんじゃなかろうか。
 と思ったけど、似たようなのになのはがいた。しかしこっちは何と言うか、どうも強くなさそう
なんだよなぁ。

「だってなあ。なのはだしなあ。戦ってるよりケーキ食ってる方が似合ってる」
「誉めてるのか誉めてないのか、どっちなんだろ……」
「どっちかっつーとナメてるよーな」

 抗議の視線を向けるなのはだった。

「ほっぺたにケーキついてるよ?」

 真っ赤になってわたわた慌てるなのはをニヤニヤしながら観察したところ、俺だけ後で文句言わ
れた。贔屓だ。



(続く)

############

次は不定期。



[10409] その127
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/11 23:02
 お昼のおやつタイムももうおしまい。リンディさんはユーノやクロノたちを連れて、じいちゃん
は猫姉妹と一緒に、それぞれ帰る運びになった。たいへん名残惜しい。

「あれ。なのははまだ残るのか」
「うん、もうちょっと。ヴィータちゃん、後で五目並べやろう?」
「五目あんかけチャーハンと申したか。これは作らざるを得ない」
「誰もそんなこと言ってないよ……」

 もうちょい残っていくことにしたなのはであった。まぁどうやって遊ぶかはさておいて、帰還の
準備を進める管理局関係者一行の手伝いをする。荷物運びとか。

「あ。そうだ。俺のコアの解析、面白い結果が出たら教えて欲しいんですけれども。やっぱ機密?」
「いや、大丈夫だ。提供者本人だし、何か判ったら連絡するよ」
「治療系の能力があったのかもしれないね。実際どうなんだろう?」
「むしろ病原菌の類なんじゃないかと僕は思う」
「オリーシュが原核生物に分類されるかも知れない件」

 割と仲良く話をした男三人、けっこう親交が深まった感がある。オリーシュは超暇してるのに対
して二人ともなかなか忙しいので、時間ができたら連絡しようと約束。また会って遊ぼうというこ
とになった。機会があったら、こちらから遊びに行くとも。

「あっ。ユーノくん、ユーノくんっ。わたしも、時間できたら連絡ちょうだい?」
「まずアリサとすずかに魔法バレすんのが先じゃね? 全員集まるとユーノが人間になれん」
「あっ……う、うん。そうだね……」
「あ、あはは……そ、そっちの方が、僕も助かる、かな」

 荷物運びが終わってからは、そんな感じに今後について話してました。次こうして集まれる機会
が、いつになるかわからないので。

「あれ? はやてちゃんは?」

 気づいたなのはがきょろきょろと見回した。はやてはちょうど、別な部屋でじいちゃんと話して
いるところでした。

「魔法の入門と将来の進路、よく考えて決めるんだよって言ってるんじゃないかな」

 ユーノが指摘したのはだいたい正解だったりする。

「じいちゃん本心言わないけど、本当は静かに過ごしてほしいんじゃないかなぁ。闘ったりせずに」
「え……どうしてそう思うの?」
「なんとなく。入門書の中に戦闘魔法の記述少なかった、ってぬこたちが言ってたし」

 昨日魔法の本を渡していたじっちゃんだけど、内心はやっぱしそんな感じで心配しているらしか
った。

「私もいつか、考えないとなぁ」
「なのはは目の前の社会のテストの方が先じゃね」

 ぺけぺけ叩かれた。

「いいじゃん中学入ってからで。早いうちに即決すると、クロノみたく堅物になるよ」
「うるさいな」

 どすんと蹴られた。

「……しかしまぁ、今回の一番の収穫は、あの二人の話をいろいろ聞けたことかな」
「背中にガムテープはやってみるべき。あれは本当に半泣きだった」

 クロノは何やら楽しみそうにしていた。どうやら猫姉妹とは仲良くやっていけそうである。

「今回はあまりフェイトと話さなかったから、次はそちらを意識してみようと思います」
「きっ、気をつけて、フェイトちゃん! 先手取られたら、あっという間に取り込まれちゃうよ!」
「えっ……と、とり……?」

 なのはが俺の悪評を吐きやがる。あとでこいつのコーヒーに、ガムシロップと偽って水溶き片栗
粉を混ぜてやることに決めるのだった。





 なのは以外のみんなが帰ったあと、ぽへーっとしながらこたつ周辺でぬくぬくする。

「そう言えば、バイトももう条件が終了ですなぁ」

 ふと思いついたので、向かいのはやてに言ってみる。

「バイト? なんの?」
「ホームヘルパー。足が治ってきたようですので」
「ああ……そんなこともあったなぁ」

 なつかしそうな顔をするはやて。横からなのはが訊いてくるので、軽く説明してやった。

「じゃあ延長やな」
「了承」

 交渉が成立し、戦力外通告は免れた。

「あやうく野良オリーシュになってしまうところでした」
「道に落ちていても誰も拾ってくれないだろうな」
「そんなバカな……ほらあれ、ほねつきにく。ほねつきにく一個でついて行きますけれども」
「チョコレート一枚だったような」
「タンポポの葉っぱって聞きましたけど」
「むしろまもののエサで十分だろ」

 あまりにも雑食過ぎて、自分の生態がわからなくなってきた。

「もうヒトとは違う種族なんじゃね?」
「ヒト科ヒト属のオリー種と申したか」

 とっさに切り返したらすっごい受けたらしく、聞いてたみんなが口を手で押さえて、コーヒーを
ぼたぼた垂らしはじめた。ばっちいのでティッシュを持ってくる。

「なのははもう一晩泊って生物の勉強していこうか」
「ううっうううるさいなぁあ!」

 笑いどころがわからなかったらしく、本棚から図鑑を引っ張り出してきて急いでめくってるなの
はだった。ほっぺた赤かった。

「よーやく通常営業にもどったな」

 ヴィータがこたつの布団からもぞもぞと顔をだして、まったりした雰囲気でそう言った。

「ヴィータが枕営業と申したか」
「ぶっ殺す」

 まったりした雰囲気から一転、すごい形相で追い回された。死ぬかと思った。



(続く)

############

別に新種でも違和感なかった
本当はホモサピエンス種とか言わないけどほら。語感で。



[10409] その128
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/15 09:38
「男は俺だけひとりぼっちか」

 パーティーが終わったので、あれだけ賑やかだった八神家にも落ち着きが戻ってきた。なのはが
残ってるけどもうすぐ帰るらしいし、もともとザッフィー以外に男はいない。ひとりぼっち。

「サノバビッチ」
「ダブルダッチ」

 いつも通りのはやてとヴィータだった。ストイコビッチとか返そうと思ったけど、字数が合わな
いのでやめといた。

「しっかし暇だ。暇すぎるあまり、隣でうとうとしてるシャマル先生に落書きしたくなってきた」

 ソファでくつろいでいるのだが、隣にはシャマル先生が座っていて、目を閉じてすぅすぅと寝息
を立てていた。

「目玉増やして天津飯にしようぜ」
「額に肉が定番やろ」
「肉じゃがならぬ肉シャマと申したか」
「どー考えても不味そうだな」

 好き放題言ってみたのだが、一向に起きる気配がないシャマル先生。料理に家事に大活躍だった
ので、やっぱりお疲れみたいである。

「しゃ、シャマル先生をいじめちゃダメ、ダメーっ!」

 同族をかばう生態があったらしく、必死の様相を呈するなのはが後ろから襟をぐいぐい引っ張っ
てきた。相変わらずへなちょこなんだけど、今回は首がしまるので思いのほか苦しい。

「あれ。なのはがシャマル先生って呼んでる」

 ヴィータがふと気付いて言う。

「え? あれ。どうしてだろう? 今までは、シャマルさんって……」
「そういえば、いつからだったっけ。先生ってついたの」
「せやなぁ。考えてみると、なんでやろ。先生って言っても違和感あらへんのは」
「俺が言いはじめたんだと思いますが」

 またお前か、という感じに見られるのはもう慣れた。

「なんで先生。教員免許でもとってたのか?」
「そんなこたぁない。でも将来、そんなフレーズで呼ばれるはずなんですよ」
「シャマル専制」
「八神家が独裁されてる件」
「3年A組」
「革ジャン先生!」

 はやてが懐かしいネタを振ってきたので、そこからファンタのCMの話題で盛り上がった。

「しかしとりあえず、額に目玉は書いておこう。超リアルに」
「ハガレンのお父様みたいにしようぜ」

 想像してしまったのか、なのはが涙目で怖がった。超必死に止めてくるので、手元が狂って実行
できなかった。





 なのはが帰った後、夕飯のお好み焼きをうまうましてからふと気付いて、食器棚の上から紙袋を
取り出す。

「何だよそれ」
「クリスマスプレゼント」
「へ? 絵じゃなかったん?」

 はやてたちにはクリスマスに絵を贈ったのだが、絵以外にもプレゼントがあったのをすっかり忘
れていたのである。

「はぐりんたちにもあるから。ほら、欲しがってたビー玉」

 用意していたのを渡してあげると、超嬉しそうにころころ転がして遊びはじめた。シグナムやザ
ッフィーもなんだなんだと見にきたので、ちょうどいいから渡しはじめる。

「おおー。新しい枕! ありがとな!」
「わぁ、新しいミトン……はやてちゃんっ、似合ってますか?」
「あたしのが腹巻きってのはどういうことだコラ」
「待て腹巻き違う。それ枕カバー! ほら、はやてとおそろいの枕!」

 ザッフィーには毛繕い用のブラシとか。
 リインには綺麗な髪どめのゴムとか。

「なのは用に知恵の輪もあったのに渡せなかった」
「……それはそうと、これは本当に私宛てなのか」

 必死こいて解かせようとしたのに、と思っていると、カービィのぬいぐるみを手にしたシグナムが問
いかけてきた。

「前好きそうな感じだったので選んでみたんですが。どうでしょうか」
「いや、構わないのだが……し、将としては、相応しくないと言うか」
「今さら将って(笑)」

 腕を極められて痛かった。

「いいじゃないですか、リーダー。似合ってますよ?」
「シャマル。髪の色を見て言うんじゃない」

 よくよく見てみると、割と色彩的にお似合いだった。

「じゃああたしがもらってやる」
「い、いらないとは言っていない!」

 ヴィータが言うとかばってみせた。気に入ったみたいだと思ったけど、口にすると否定されそうな
ので言わない。

「ていうか忘れてたんだけど。あたしたちからもプレゼントあった」
「おおおお。何という僥倖……何これ。重いんですけど」
「中華鍋だ。フライパンばかりだった気がしたのでな」

 よりチャーハン作りの腕に磨きがかかりそうな俺だった。

「次の標的はなのはで」
「了解した」

 ヴィータには割とサドっ気があるんじゃないかと思った。



(続く)



[10409] その129
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/17 11:41
「ヴィータは信長型な気がする」

 テレビで豊臣秀吉モノをやっていたのを観ていたところ、ふと思ったので口にする。

「それってあれか。ホトトギスのやつか」
「そうそう。鳴かなかったら叩いてぺったんこにしそう」
「そこまで鬼じゃねーよ……鳴かないなら殺すとか可哀想だろ」

 案外心優しいヴィータだった。

「ホトトギス?」

 とかやっていると、話を聞いていたリインが訊いてくる。

「鳥。鳴かなかったらどうする、っていうのが性格の例えになる。待ったり工夫して鳴かせたり」
「そういえば、ホトトギスってどんな声で鳴くんだろ」
「そういうときはグーグル先生に相談や」
「実物は見たことありませんね、そう言えば」

 番組そっちのけで、いつのまにか雑談へと移行するのはいつものこと。

「鳴かぬなら 泣いちゃいますよ ホトトギス」

 ふと思いつき、ちくちく縫い物をしていたシャマル先生に言ってみたところ、顔赤くして泣きま
せん泣きませんようと責められた。しかしはやてやヴィータは、なんだか納得したような感じ。

「鳴かぬなら きゅーきゅーにゃーにゃー ホトトギス」
「なのはちゃんか。自分で鳴いて手本になるとは」
「脱いでみせよう ホトトギス」
「さすがにフェイトも鳥相手には脱がねーと思う」

 という話を振ってみたところ、「身近な人をホトトギスを使って表してみよう大会」的な企画が
成立。始めてみるとこれがなかなか面白い。人によって全然違う句ができて楽しい。

「鳴かぬなら おいしい焼き鳥 ホトトギス」

 そんな非道いことはしないとリインに言われた。心外であるらしかったが、同時に沢山食べてる自
覚があることを確認する。

「ところでお前はどーなんだよ。そんだけ人のこと言っといて」
「……頼めば鳴くよ ホトトギス」

 どうしようと思ったけど、良さそうなのが思いついたので言ってみた。

「ああ、合っとるな」
「ぴったりじゃねーか」
「最適だが理不尽だ」

 納得されたのやらされていないのやら。





「焼き鳥ならぬ焼きいもを買ってきました」

 牛乳が無くなったので買いに行ったのだが、帰りに出会ったいい匂いにどうしようもなくつられ
てしまったのだ。家に電話してみたところ許可が出た。よかった。

「携帯はこういうときに便利だ」
「さっそく役に立ったようで何よりや。じゃあ食べよか、3時のおやつ」
「サンジのおやつ」
「それは真面目に美味そーなんだけど」

 とか話しつつ、こたつに入って熱い芋をいただく。後からちょっと塩を振ってみたのだがこれが
うめぇ。体があったかくなる感じ。

「皮食べる派?」
「食べない派。食べるんか」
「食べる。皮の裏にひっついてるのがもったいない」
「わ。ホントに食ってるし」

 焼き芋は皮ごと食べる派なオリーシュなんだけど、八神家では皮を取っちまう方がメジャーなよ
うだ。気にせず食べてるザッフィー以外、みんなきちんとむいている。

「しゃりしゃりしてるのがいいんですよ」
「味がないから特に変わらないがな」

 人それぞれだよね、ということに落ち着いた。シャマル先生がはぐりんたちにふーふーしたお芋
を楽しそうにあげてるのを観察したりして、しばらく美味しい思いをする。足も腹の中もぽかぽか
してきた。

「うまかったなぁ。イモなのにやたら甘々やし」
「そのせいか、なんか塩辛いのが欲しくなってきた」
「塩舐めればいいじゃん」
「その発想はなかった。絶対やんねーけど」

 ヴィータが醤油せんべいを持ってきたので、あったかいお茶を飲みながらばりばり食べてました。

「そして伯方の塩を博多の塩と思い込んでいるヴィータだった」
「え……あれって違うのか。九州の博多じゃないのか?」
「そういや、伯方ってどこなんだろ。有名な都市じゃないと思うけど」
「そういうときはグーグル先生に相談や」

 グーグル先生が大活躍の一日だった。



(続く)

############

オリーシュ「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう なのはさん」

と迷ったけどこっち。



10/17 11:51
ちょっと修正。



[10409] その130
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:29145f31
Date: 2009/10/18 17:12
 なのはの家に遊びに行こうと思った。しかし思ったはいいが、ただ行くだけではつまらぬ。

「私、メリーさん」

 ということで、電話をかけて悪戯をしてみることにした。メリーさんっぽく携帯から。

『けーとくん、携帯の番号見えてるよ……声も男の子だし』

 容易に看破された。思慮が足りなかったのかもしれない。

「じゃあ新妖怪、メリーくんとして再デビューする。かけ直すからちょっと待ってれ」
『通話料金使いすぎると、はやてちゃんに怒られちゃうよ?』

 なのはのくせに真っ当な指摘で閉口する。

「アホの子なのにこういうことには頭が回りやがる」
『あっ、アホの子じゃないよ! 冬休みでもちゃんと勉強してるんだからっ!』
「平仮名の書き取りを?」

 なのはが激しく抗議してきた。

「間違えた。漢数字の練習か」

 電話の向こうがにゃーにゃーうるさくなった。

「なのははうるさいなあ。まあいい、お医者さんごっこで鬱憤を晴らす」
『嫌な予感しかしないんだけど……』
「針と糸で口を閉じるだけだから大丈夫」
『ぜっ、ぜんぜん大丈夫じゃないよう!?』
「糸はたこ糸だから丈夫だよ?」
『聞いてないよ! より痛そうだしっ!』

 Mの素質があると思うなのはだが、どうやら痛いのは好きではないらしかった。

「なのははわがままだなあ」
「わがままじゃないよ……痛くない遊びにしようよ……」
「仕方ない。じゃあ、レベル上げでもしようか」
「あ、いいよ。ポケモンの?」
「いや、なのはのレベルをドラクエ世界で上げる」

 はぐれメタルには勝てないよう、と遠慮された。

「まぁいいや、遊びに行くけどいいですか」
「あ、いいよ。今どこ?」
「あなたの後ろにいるの」
「またそんなこと……ひゃああぁぁぁああっ!?!?」

 もう既に部屋に入っている俺だった。首筋に冷たい氷を押し当ててやると、期待以上に驚いたら
しく反応が面白かった。





 プレゼントの知恵の輪を渡して必死こいて解くなのはを観察したり、ゲームしたり本読んだりし
て帰ってきてみると、夕食当番のシャマル先生がキッチンで作業をしていた。
 どうやらグラタンを作っているらしい。確かヴィータのリクエストだったな、と思い出す。

「あ、おかえりなさい。新しいミトン、後でさっそく使いますねっ」

 とか言って下ごしらえをしていた。練習していたとか言っていたので、たぶん食わせるのが楽し
みなんだろうと思う。

「俺も年貢の納め時か」
「安心しろ。今回は一応、主はやてのお墨付きだ」
「消し炭付きと申したか」
「割と洒落にならねーんだけど」

 これ以上やるとシャマル先生がしょぼーんな感じになるので止める。シャマル先生が拗ねるタイ
ミングは、日々のシャマルいじりの結果みんな習得済みである。

「……だめだ落ち着かない」
「不安で不安で仕方がないな」
「思い起こされるは今までの悪行の数々……!」
「前回のグラタンは何故か色が赤かったんだっけ……」

 聞こえないように言いたい放題。
 しかしながら出来上がってみると、何か知らないけど普通に美味しかった。上にチーズをのっけ
て焼いてあって、ばっちり満腹になれるおいしいグラタン。

「……おいしかった」

 皿洗いを手伝うリインが言うあたり、間違いではないのだろう。事実明らかな上達がうかがえた。
失敗なら「【真っ赤なマカロニ】シャマルの飯がマズい【摩訶不思議】」スレを立てようとしてい
たのだが、どうやら延期することになりそうだ。

「しかし代わりに、戦闘能力が落ちるなんてことは」
「ない。クロノに適度に任務を振ってもらって……そういえば、コアの調査はどうなった?」
「ワケわからないって。魔力流すとある程度吸うらしいけど」

 という感じな話になって、食後はソファでまったりしながら、あのコアの正体をいろいろ想像した。

「謎を解く前に撃ってしまったからな……」
「シャマルのバグも取ってったんだっけ。そーいえば」
「えっ……ええっ! そうだったんですかっ!?」
「らしい。しょこたん情報によるとですが」

 つい懐かしい名前で呼んでしまったところ、リインにじーっと視線で責められた。

「命名ははやてなんだけど」

 それでも責められ続けた。不公平だ。



(続く)

############

考えてたスレタイがどこかに消えててかなり涙目。

16:47 上がってなかったのでageました。
17:22 ちょっと修正。



[10409] その131
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/19 17:20
「いつの間にか大晦日が近づいて参りました」

 遊びに来たなのはも交えて、はやてとこたつやソファでまったりしていると、ふと気付いたので
言ってみる。

「せやなぁ、大掃除はじめんと。なのはちゃん家は、お正月は海鳴やの?」

 最近だと自宅じゃなくてホテルとかでお正月を過ごす人も多いらしい。それを思い出したのか、
はやてがそんなことをなのはに尋ねた。

「うん。家にいるよっ!」
「そっか! なら、落ち着いたらまた遊ぼうな!」
「うんっ!」

 女子の付き合いは広く浅くと聞くけれど、こいつら見てるとそうは思えんなぁとしみじみ思う。

「ってか、俺の担当栗きんとんだった。試作するから、うまくいったら明日持ってくわ」

 正月のお節料理を作ることになったのだが、俺とシャマル先生とはやての分担制に決まったので
ある。甘いものについては舌が肥えているなのはなので、ぜひ味見をお願いしたいのだ。お節は買
うばかりで作るのは初めてなので。

「えっ、ほ、ほんとう? けーとくんが作るんだ……絵の具とか混ぜたりしないよね?」
「チャーハンばっかだったオリーシュも流石にクチナシの実くらいは知っとるわい」

 なのはの場合はいい加減慣れてきたのか、それとも単に無意識なのかわからんかった。たぶん両
方だと思う。仕返しに眉間をぐりぐりしてやったところ、あうあう言って眉毛が困ったハの字にな
った。

「なのはが構わないなら栗きんとんに加え、クリントン氏やクリリンさんもプレゼント」
「それは明らかに栗きんとんよりすごいやろ……」
「作れるものなら作ってみてよ……」

 でも昔は本当にクリントンさんって栗きんとんの一種かと思ってた。とか。わたしは筋斗雲って
聞くと栗きんとん連想するわぁ。とか。

「クリキントン大統領やな」
「元をつけるべし。そういえば、八神家のお雑煮はどんな感じ? 餅は入れるとして」

 ふと気になったので尋ねてみる。雑煮ははやて担当なのだが、地方や家によって随分食べ方が違
うそうで。

「味噌でござるか」
「醤油やよー。なのはちゃん家は?」
「うちもお醤油!」

 味噌派のマイノリティが確定した。

「何と……味噌は少数派と申すか」
「肩身が狭いオリーシュでござるなぁ」
「少々切ないでござるよ」

 はやてとござるござる言いつつ、皆でお節料理の話題で盛り上がっていると、リインが急須と湯
呑をお盆に載せて持ってきた。どうやら仲がいいらしく、お茶菓子の皿を持った(乗せた?)はぐ
りんたちがちょこちょこと着いてくる。

「よう。食べる人」

 この呼称は不服であるらしく、リインは反応せずに澄ましてお茶を飲みはじめた。

「しかし実際、今年は面子がえらい沢山おるからなぁ。賑やかなお正月は楽しみや」
「おおう……しまった。クロノたちも誘いたかった。コア調査の結果聞いた時に言えばよかった」
「でも忙しいって言ってたから……また来年になるのかな。会いたいねー」

 なのはには、フェイト経由で結構情報が来るらしいのである。しかし次はいつか空いてるか知っ
ているかと聞いてみたが、それもまだわからないとのこと。やっぱり管理局は忙しいらしい。ユー
ノはなのはですら連絡取りにくいらしいし。

「バイト情報もらう時、ついでに訊いてみるか……」
「クロノ君がハロワになっとる件について」

 近いうちにフェイトが勉強の経過確認ということで訪問する予定になっているので、その時にク
ロノからシグナムたちのお仕事をもらうのと同時に、お休みがいつになるかも聞いてみようと思う。

「仕方ないでありまするか。まぁパーティーしたばっかだし、ちょうどいいかもわからんけど」

 次は春までに会えるだろうか。管理局のお手伝いに着いてったらええんちゃう。などと話をして、
持ってきてもらったカステラを切り分ける。皿にのせてそれぞれ配り、もくもくもくと皆で食べた。

「年越し蕎麦はえび天で」
「えー。かき揚げがええんやけど」
「……とろろ蕎麦、食べてみたい」

 意見が真っ向から対立してにらみ合う。

「じゃあなのはに決めてもらおう。どれがよろしいか」
「えっ、え。ええっ? え、えと、えと……」

 三人で視線で圧力をかけてみたところ、あうあう言って困惑しはじめるなのはだった。あんまり
困らせてもあれなので、じゃあ天ぷらも芋擦りもやってお好みで作ろうかということに落ち着くの
だった。

「……けーとくんも困っちゃえ」

 お返しだと言って、眉毛引っ張って無理やりハの字にしてくるなのはだった。脱出しようとして
みたが、リインとはやてが腕を固めてくるので無理でした。屈辱。



(続く)

############

ちょっと成長したなのはでした。
しかしこのあと、ヘアバンドでおでこを剥き出しにされてひたすら
指でぐりぐりされるという、世にも恐ろしい仕返しをされることに。

オリーシュはクロノとユーノのことを大事な友達だと思っています。
ということで彼らも書きたいです。そのうちまた絶対。


日に二回更新したのは平日が修羅場だから。ちょっと間が空くかも。


10/19 17:30
携帯から少し修正。



[10409] その132
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/22 15:09
 大晦日を翌日に控えた、十二月三十日。
 年が替わってしまう前に髪を切ろう、ということになった。そういえばしばらく切ってないので、
いつの間にか頭の上がうざったくなってきたところである。

「えー……あたしが切りたかったのに」

 出かける支度をしていると、ヴィータがそんなことを言った。意外なことに、髪にハサミを入れ
るのに興味があるらしい。はやてのも切ったことがあるとかないとか。

「残念ながら近くの床屋さんで切ることになってる」
「あたしがやる! あたしがやる!」
「いや、大掃除だし。人手減ると大変だし」
「じゃあ明日にしてやるからすぐ伸ばせよ」

 呪いの日本人形みたく扱われた事実に全俺が驚愕する。

「何がヴィータを惹きつけるのだろう。はやてでやってるなら別によくね?」
「えー。ほら、あれがやりたい。夏に高校野球観てたんだけど」

 それ以上は言われなくても理解した。今後絶対ヴィータにバリカンを持たせないように注意しよ
うと思う。たいへん危険なのでヴィータの手の届かない所に保管しよう。

「仕方ねーな。3センチくらい残してやるか」
「なんという曖昧3センチ」

 曖昧すぎて逆に不気味なことになりそうである。

「というか、ヴィータたちは髪伸びたりしないのか」
「ん? ああ。伸ばそうと思ったら伸ばせるけど、勝手に伸びたりはしねーな。身長といっしょだ」
「便利な」
「いーだろ」
「なになに? 何の話?」

 はやてが横から加わってきた。

「ヴィータが純粋なサイヤ人と同類だったって話」
「死の淵から蘇るとSSSランクになるん!?」
「はやて、それ無理」
「そんなぁ……」

 はやては残念そうな顔をした。

「……SSSの人よりリインの方が強くね?」

 それもそうかと納得された。割と核心だったようだった。





「頭切ってきた」
「輪切りのソルベ乙」

 別にボスの正体を探ろうとしたわけではなく、普通に床屋さんに行ってきました。

「何か寒い」
「短くなったなぁ……おぉ。ざりざりする」

 はやてが首の後ろあたりを指で触った。だいぶ短くなったので、じゃりじゃりじゃりと音がする。 

「あ、ほんとだ。いいなこれ、ざりざりして」

 ヴィータにまでざりざりやられた。

「あんまりやりすぎると、俺の髪が暴走してブヂュブヂュル潰しにかかる」
「ざりざりだけにザリガニと申したかー!」
「むしろラブデラックスじゃね?」

 とか話しながら、しばし弄ばれるのに任せる。窓ふきは午前中に終わっているし、年賀状も書き
終えた。あと残っているのは床掃除だけだ。そちらを開始する前に、とりあえずこたつで一休み。
皆集まってきて、熱いお茶で一服する。

「お疲れ」
「帰ったか。随分さっぱりしたな」
「しかし逆に寒くなった。ザッフィーはその点あったかそうだよね」
「元に戻ればだがな」

 直立してた方が掃除には便利なので、人間フォームに切り換えていたザフィーラであった。

「使わないなら毛皮くれよ」
「どうやって寄越せと言うのだ」

 こたつの中で足の指でつねられて痛かった。

「ところで思ったんだが、雑巾がけははぐりんたちの出番じゃね」
「……あ、それ、いいアイデアかもしれませんねっ。地面這ってますし、動きも速いですし!」

 しかしはぐりんたち、なんだか乗り気ではないようである。不安そうな目を向けてきたので、何
となく言いたいことを察する。

「や、自分の体を雑巾にするんじゃないから。雑巾押して歩くだけ」

 ほっと安心した様子のはぐりんたちだった。お煎餅を砕いてあげると、一個ずつあぐあぐ食べは
じめた。

「というわけで、だいぶ楽になりそうです」
「助かります。夕方までには終わりそうですね」
「終わったら門松引っぱり出しとこうか。ザッフィー後で手伝って」
「心得た」
「かどまつ?」

 大掃除の続きを考えたり、リインにお正月の知識を教えたりして過ごしてました。

「ざりざり」
「ざりざり」

 はやてとヴィータはそろそろやめてほしいと思う俺だった。



(続く)



[10409] その133
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6204c204
Date: 2009/10/24 11:20
「かき揚げうめぇ」
「エビ天がええってゆーとったくせに」

 夕飯の時間。大掃除も何もかも終わったので、みんなでゆっくり蕎麦をすすって一年の終わりを
待つことに。ずるずるずる。

「……将来、無事第3期に突入したら、『絶対に笑ってはいけない機動六課』をやりたい」

 大晦日にやってるテレビの番組を思い出して言ってみた。

「笑ったらフェイトが鬼殺しザンバーケツバットで」
「何だその番組は。観たすぎるぞ」
「新任のジュウシマツ部隊長を紹介せな!」
「あたし耐えきる自信ない」

 割と盛り上がった。

「おかわり自由やっけ。おー、おいもの天ぷら、美味しいなぁ」
「天ぷらだけで食ってるやつがいる。ずるい」
「あ、いえ。たくさんありますから大丈夫です。どんどん食べてくださいねっ」

 天ぷら担当のシャマル先生だったのだが、ニッコニコの笑顔で上機嫌そうだった。評判がいいの
が嬉しいんだと思う。

「シャマル先生もメシマズの汚名挽回ですなぁ」
「汚名返上ですよぅ……」

 なのはなら一発で引っ掛かりそうなものだが、こういうトラップには対応力の高いシャマル先生
だった。
 とか思っていると、ふと視線に気が付いた。なんだろうと目を向けると、シグナムがこちらを見
ている。

「何でござる?」
「あ。いや……大したことではないのだが」

 少々戸惑ってから、こほんと咳払いをして、

「気になってな。ゆで加減はどうだ? うまくいったとは思うのだが」

 実は蕎麦の茹で上げ担当はシグナムが買って出たのである。自分も家事に加わりたいとのことだ
った。急にどうしてかと聞くと、なぜかお前のせいだと言われるのだが。

「超うめぇ。ていうか、駄目だったらもうヴィータにぶっかけて嘘です冗談です」

 不穏な気配をしたヴィータがガタリと席を立ったので、必死に謝る。

「美味しいよー。上手くできとる!」
「そ、そうですか……いや、聞くまでもありませんでした。将たるもの、この程度はできて当然」

 うんうんと頷くシグナムだったが、口調とは裏腹にどこかほっとしたというか、嬉しそうな様子
だった。

「……」
「自分も作ってみたそうなリインだったので、今度チャーハンの作り方と投げ方を仕込もう」
「やめろ」

 机の下でザフィーラの足に引っ掛かれた。爪がけっこう痛かった。





 日付替わった。

「あけまして」
「明けまして」

 こたつの向かいに座るはやてと、ぺこりと一礼。

「一年終わりましたなぁ」
「変な一年やったなぁ」
「まさか死んで生き返って臓器吹っ飛ばすことになるとは」
「一人暮らしだったのがあっと言う間に二桁なんやけど。はぐりんズ入れると」

 とかやっていると、携帯が鳴った。俺のもはやてのも。

「勝手に着メロを笑点のテーマにするなと何度も……はやてのあけおめメールですか」
「あー、そっちからも……同じこと考えとったんか」
「ちょっと待て。立て続けにメール来た」
「あ。こっちも、アリサちゃんとなのはちゃんから。すずかちゃんからも来とる!」
「何故アリサたちがアドレスを……あ、なのは経由だって」

 明けましておめでとうラッシュきた。ちょうどこっちも送ろうと思っていたので、しばし返信に
時間を使う。今度遊びに来てねと言うすずかとか、アドレス教えときなさいよと言うアリサとかに。

「親指がつる」
「こっちもや」

 一仕事終えて、ふぅと一息。

「これをあと十回か……StSまで先が長い」
「わたしたちはまだ登り始めたばかりやからな。このはてしなく長い空白期をよ……」
「リリカルなのはに打ち切りフラグが立ったようです」
「プリンセスハオと申したか」

 とか話していたところ、明日のために今日は寝る! な流れになった。

「こたつで寝たい」
「風邪引いてまうよ?」
「毛布持ってきた」
「もろた」

 一枚はやてに取られた。二枚もってきてよかった。

「?」

 置いといたもう一枚をいつのまにか使ってるリインが無邪気に首を傾げていた。ちくしょう。

「ちょっと入れて。さむい」
「半分だけ入ることを許可するッ!」

 それだと風邪を引くというより、むしろ何かのウイルスにやられそうだ。あとけっこう寒いので、
頼み込んで全身入れてもらった。

「あ。私もはいりたい」
「はやてちゃん、私もいいですか? 毛布持ってきましたしっ」
「……私も、やっぱりそちらに」
「ええよー。みんな一緒に寝よ!」

 全員寄ってきた。てんとう虫の越冬みたいな八神家だった。

「ザフィーラの枕が超あったかいんやけど」
「はぐりんが乗っかってきて寝苦しいんですが」

 平和な大晦日の夜でした。



(続く)

############

全員で寝るときはたぶんこんな感じですよ。



[10409] その134
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/31 02:06
 元旦は当たり前のように朝寝坊をして、朝ごはんだか昼ごはんだかわからん時間になった。
 とりあえず明けましておめでとうをしてから、お雑煮とおせち料理をいただく。これがなかなか
美味しいのである。昨日から頑張ったかいがあるというものだ。

「醤油味の雑煮もなかなか悪くないが、わざわざ中の餅を出して醤油つけるのはどうかと」
「美味しいんやもん。やる?」
「お断りします」
「さよか」

 とか、食べ方についても話しながらうまうまする。雑煮はもちも野菜も入ってるので、これ一つ
で結構お腹いっぱいになるのだ。

「リインはちゃんとお餅を食べられるだろうか」
「ば……かに、しないで。食べ、られる」

 口調からわかる通り、早くも箸にくっついた餅に悪戦苦闘するリインである。

「黒豆に田作りに栗きんとんですか」
「……う、うるせーな。いいだろ別に」

 でもって向かいのヴィータは甘いもの尽くしだったけど、それだけじゃなく美味しいものはあれ
これと。
 紅白の蒲鉾とか煮しめとか。伊達巻もあるし数の子もあるぞ。

「数の子と申したか」

 はやてが何やら反応した。

「はやてちゃん? 数の子が何か……お、おいしくなかったですか?」
「ああ、そうやなくてその。第三期の登場人物がやな」
「例のナンバーズのことでござるよ」
「ああ。敵になるやつだっけ」

 数多すぎて覚えらんないやつだよな、とヴィータが言った。これからのことで俺が知ってること
は色々と話してあるのだ。覚えにくいというのは確かに否定できないけど、その扱いはどうなんだ
ろう。

「ウインディさん、でしたっけ」
「シャマル先生ちがう。それポケモン混ざってる」
「あ。ガーディがようやくかえんほうしゃ覚えたんだった。後で進化させよ」
「おっとっと、というのもいた気がするな。食べたくなってきて困る」

 既にもてあそばれている数の子たちだったが、これで戦い挑まれたらどうなるのだろうかと心配
になる。会うのはみんな楽しみみたいだけど。

「チンなんとかってのもいたよね」

 乗っかってネタを振ってみたところ、まだ何も核心を突いてないのにはやてとヴィータにべっこ
んぼっこんにされた。顔がちょっと人には見せられない状態になった。ネタにしても捻りがなさす
ぎたかと反省する。

「あとクアットロってスカット□に似てるよね。製作者が製作者だけに」
「これはひどい」
「お前それはひどいって」
「親が親なら子も子ということか」
「なんといってもスカの名前がアレやからな」

 今度は親子要素をも盛り込んでみたところ、ボッコにされることはなかった。これからはネタを
振る時も吟味しようと決める。

「スカット□……?」

 首をかしげる純粋無垢なリインだった。やっぱり許さんと言われていろんな人にぶっ飛ばされた。
理不尽極まりないと思った。





「年賀状来てた」

 おいしい料理でお腹いっぱいになった後、ヴィータが郵便受けを見に行って、手紙の束を手に戻
ってくる。

「ちゃんと年賀状くれる石田先生の優しさに涙が出そうだ」
「あ、これ……学校の先生から? 私、学校行けてへんのに……嬉しいなぁ」
「なのはからだ。すずかは……『干支に猫年があったらいいのに』だと」
「何で猫年だけあらへんのやろな。言われてみると不思議やわ」

 辰なんて現存しないのに。巳や酉なんて哺乳類ちゃうやん。などと、はやてと十二支の不思議を
語り合う。

「あたしは卯年だな」
「自分で決めるものじゃねーです」
「わかんない場合はいいじゃんそれで」
「それもそうか。まぁいいや」

 横から来たヴィータにあったかいお茶を注いでやる。

「冷たい水がいい」

 注ぎ終わってから言うあたりに悪意が感じられた。

「栗きんとん全部はぐりんたちに食べさせてやることにしよう」

 やめろよやめろよと超必死に訴えられた。気に入ったのか、明日も食べると言っていたのである。

「……」
「どうしたん? 何かゆーとる?」
「スライム年はないの? だって」

 再び席に戻ると、はぐりんたちが質問してきた。ないって返すと、三匹揃ってしょんぼりしょん
ぼりな感じになる。

「『ドラゴン年はあるのにずるい』ってスタスタが」
「お前それ絶対嘘だろ」
「いや本当だって。ほらゆうぼうが頷いてるし。首縦に振ってるし」
「えぇぇ……いや、でも、うーん……」

 なんだか納得がいかなそうなヴィータだった。

「そういえば、例の数の子も十二人!」
「スカット□は4番だから……卯ですか。イメージに合わん」
「もうすっかり変態性癖持ちって印象ついちまったしな」

 軽く引いてみせるヴィータだった。



(続く)

############

冷酷で残忍なスカリエッティ軍の参謀はこうして、騎士たちに生みの親と同じ嫌悪の目で見られることが決定しました。


10/31 02:07 少し修正。



[10409] その135
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/26 11:01
 何と地道な草の根活動の結果、ついにスライム年が追加されることが決定した!

「ということでご褒美って」

 はぐりんたちがぺたぺた寄っていき、ちょっと戸惑いがちなオリーシュだった。

「いや、その、さすがにフェイト一年分とかは用意できんけど」

 とりあえず手元にあるのはおやつの板チョコだけなので、どうにもならない。どうしよう。

「ご褒美なぁ。何が……なに? これでいい?」

 こくこくとうなずくはぐりんたちだった。

「ならいいけど……じゃあそれで。食べる?」

 ぱきぱきとチョコを割ってあげました。





「そして24時間ずっとおやつタイム、という夢をみたそうです」

 お昼寝中のはぐりんたちに美味しいジュースを飲ませようとしたところ、眠そうな感じでスタス
タがそんなことを言ったのである。

「言った?」

 多少語弊があった。実際は勝手に聞き取っただけ。

「あったらよかったのにな。スライム記念日とか」
「あ。そういえばこの子たち、誕生日はいつなん? わかる?」
「ん? んー……覚えてないらしい。じゃあ俺と一緒で良くね」

 はぐりんたちは うれしそうだ!

「人外にはとことん強いよなお前」
「今なら白い悪魔がああなった理由、わかる気がする」
「あれは補完計画が成功したからだと思うんですが」
「……ちょっと思ったけど、お前なら補完計画どころか、使徒と友達になるんじゃね」

 正八面体のあいつ、かっこいいから連れてこいよ。と無茶を言われて困惑する。

「そういや、あれどうしてる? 経験値たまってくすごい靴」

 はっと気付いたようにヴィータが言った。今まで存在を忘れていたらしく、他の騎士たちも、は
やてまでもがこっち見んな。

「しまってあるよ」
「使わないのか」
「たぶんMP増えないし。あと、ぶかぶかなので皮膚が擦れて痛くなる」
「あ。確かに、勇者たちのサイズに合っとるくらいやしなぁ」

 若くても14や15とかの男がはく靴なので、さすがにオリーシュの足だとサイズが合わなさす
ぎるのである。

「……モンスターが勝手に落とした装備で、よくサイズが合うものだ」
「禁句! それ禁句!」

 はやてに咎められたので自重する。

「ん? ……おお、よし。微妙に俺の勝ち」
「へ? あ……ふっふー、残念でしたー。ギブス装備で私の勝ち」
「それ無し。卑怯。ほら俺のがでかいし。足広いし」
「わたしの方がひーろーいー!」

 サイズの話題からどういうわけか、はやてと足の大きさを比べあう流れになっていた。

「あ、爪伸びてる。切ろうか」
「ん? あ、せやなぁ。じゃあお願い!」
「……アクロバティックな切り方を考えてたけど思い付かん。どうしよう」
「普通にお願いします」
「御意」

 ぱっちんぱっちんしてました。





 別に切った爪を集めて長さを記録したり殺人の日取りを占う趣味はないので、そのままゴミ箱へ
捨てに行く。爪切りを戻して元の席へ。

「勝手に回転したりせーへんかった?」

 本体の境遇的な意味では、そのスタンドははやてにぴったりな気がしなくもない。

「ジョニィ・ジョースター……足が動くのか……」
「実際今ならちょっと動くしなー。徐々に良くなって来とるんよ」
「っていうかあのスタンド、足の爪は回転しないんじゃ。どうだったっけ」

 とかいう話になり、そのまま漫画を読みなおす流れになる。それで一通り確認が済むと、今度は
別の本を読むことになった。はやても俺も小説とかは結構読む人なので、図書館で借りてきたもの
を回して読んだりするのである。

「回してみた」
「そういう意味ではない」

 はやてがやってきて、読んでいた本を上下逆さまにしやがった。「8」とか「ー」とかの例外を
のぞき、逆転してすっごい読みにくい感じ。

「回してみた」
「そういう意味とちゃう」

 こたつに足を突っ込んでいたはやてを前後ろ逆さまにしてやった。頭をこたつの中に突っ込んで、
膝から先がでている感じ。

「引っ張った」
「引っ張られた」

 こたつの中ではやてが声を上げ、手で床を叩いたので、反対側から出してやった。むくりと起き
上がる。

「ったくぅ……あ。本取って。さっきまで読んでたの」
「おきのどくですが ぼうけんの書は 消えてしまいました。」
「消えとらんし。そこに落ちとるし」
「『それだけは承服できない。ミシアの目にもう迷いはなかった。しかし次の瞬間、顔を上げた彼
 女の、その目に飛びこんできたものは――』」
「あー、あーっ! こ、こらぁ! 先読むなぁ!」

 夕飯時までずっと本読んでました。



(続く)

############

例によって平日がアレですので今回もダブル更新。
はやてと2人で話させるとまったりした時間になって個人的には好きです。でもなかなか書けなくて最近ちょっと焦ってた。やも。
ゆっくりいきます。



12/26 8:15 & 11:01 ちょっと修正。



[10409] その136
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/26 10:56
 うとうとしたり本を読んだりでまったりしていると、突然地面がぶるぶると揺れた。地震か。

「地震」
「あ、ホントや。揺れとる」

 上を見上げると、ライトのスイッチになってる紐がわずかに揺れていた。地震のときはこれでわ
かるのだ。震度は3といったところだろうか。

「元旦から割と揺れるなぁ」
「ところで初揺れと初夢と初雪って似てるよね」
「初揺れってあるんやろか。あと気付かんだけで、震度1以下の地震があったかもしれへんよ?」
「確かに。まぁもう収まったし、特に心配する必要もがふっ」

 震度は弱いわ時間は短いわで安心しきっていたところを、お腹の辺りに三つの衝撃が立て続けに
襲ってきて身悶える。

「はぐりんたちや。あれ、怖がっとる?」

 ふるふる震えてすり寄ってきた。たぶん怖かったんだと思うけど、もうちょっと自分たちの重量
を把握してほしいと思う俺。苦しくて声が出ない。

「ふふーん。さすがのオリーシュも、こういう状況ではまものの制御も不可ぐはーっ」
「はっ、は、はやて! い、いま揺れた! 地面がぐらぐらって!」

 はやてにはヴィータっていう名前のでっかい塊がぶつかって事故った。というとなんか自動車の
クラッシュみたいだけど、ぶつかったのは人の形してるので特に問題なかった。
 とか思っていると、また何やら振動が。

「ぶるりと来た」
「け、携帯の着信のバイブやろぉ! この状況で紛らわしいこと言うな!」

 さらにヴィータに抱きつかれて困ってるはやてがうるさいのを尻目に、電話に出る。相手は何故
かなのはだった。

『け、けーとくんっ、大丈夫!? 家具に潰されたりしてないよね!?』
「なのはの家では物が飛んだり家具が倒れたりしたのか」
『そ、それは大丈夫だけど!』

 なら別に八神家もそう変わらないはずなのに、すっごい焦ってるなのはだった。きっと不意打ち
の地震だったため動転しているんだろう。

「……もしかして今、机の下から電話してるとか」
『え……ちっ、ち、ちが、ちがうよ。そんな、怖がったりしないもんっ!』

 たぶん図星なんじゃないかと思った。機会があったら観察しようと決めた。

「うっ……ううぅ……」
「…………っ」

 あとは驚いた拍子に壁に激突したシャマル先生が涙目になっていたり、足をソファーの角にぶつ
けたリインが痛そうにしてました。メタル化しとけばよかったのにとは思ったけど、よく考えたら
それだとソファーが壊れていたかもしれないので助かった。





「反省しろ」
「……はい」
「はいぃ……」

 でもって騒動がおさまると、全く動転していなかったシグナムとザフィーラから騎士たちに喝が
入った。主のはやてが落ち着いていたのに、従う者たちが狼狽えるとは何事か、という。

「リインとシャマル先生は不可抗力じゃね」
「む……まぁ、確かにそうだな」
「しかしヴィータ、お前は駄目だ」
「だっ、駄目言うな! ちょっとびっくりしただけだろ!」

 ちょっと驚いただけの人間は人に抱きついたりなんかしない。

「このまま「ビビリータ」にでも改名しようか」
「ビリリダマなのかチコリータなのか紛らわしいですね」
「両方混ぜてみたら、非常に弱っちそうな名前になった。ヴィータとも似てるしこれでいいよね」
「か、勝手に話を進めるな! お断りだっ!」

 とかやってから解散して、テレビの地震速報を取り敢えず見はじめる。

「震度は3までやな。とりあえず安心……わああああ!」

 震災の余波とかじゃなかったのでほっとしていたはやてだが、こたつをがたがた揺らしてみると
面白いくらいに反応した。

「…………」
「ぎwwwぶwwwwぎっwwwぶwww」

 こたつの中で足首つかまれて、無言のはやてにくすぐられた。呼吸困難と疲労で身動きが取れな
くなる。

「てぇ」
「ぐ」

 身動きできなくなった背中に乗っかられて、一瞬自発呼吸が怪しくなった。

「じゃあ地震! このままさっきの地震いってみよか!」
「馬になれと申しまするか」
「それは馬に失礼やろ」

 はやての辛辣すぎる物言いにもめげず、身命を賭して馬になりきってました。

「どうせ馬になるからには、風雲再起くらいのかっこいい馬がいいなぁ」
「はぐりんたちがうずうずしていたから乗せたぞ」
「さっきはよくも言ってくれたな。あたしも乗せろ」

 たくさん乗られて背中が痛くなった。風雲再起不能になった。



(続く)

############

何故か月曜が暇になっちまったのでストック投下。
最近はどうもノリが悪いというか、どこかに違和感がある気がして作者が不安な感じです。気のせいかもしれませんが。
何か気付いたら遠慮なくおっしゃってくださいです。


なのはは真っ先に机にもぐってました。



[10409] その137
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/30 20:28
 魔物になつかれやすいことがわかっているオリーシュだが、これはひょっとしたらモンスターだ
けではなく、鳥とか猫とかの普通の動物についてもそうなんじゃないかと思い立つ。
 動物は割と好きな方なので、もし本当ならこれはうれしい。早速確かめに、エサを持って公園に
出掛けてみた。

「おかえり……わ、わ。なにそれ。上着が羽だらけやん」

 三十分後、そこには羽毛まみれでげんなりしているオリーシュの姿が!

「もう公園に菓子パンを持っていったりしないよ」
「すごー。これ全部集めたら、ちっちゃな翼とか作れるんちゃう?」
「別に小学生のオーバーヘッドキックは見たくないです」
「それ人間やろ」
「いや人間じゃなくね」

 割と間違ってるわけでもなかったため、はやては何やら納得した雰囲気になった。

「戦うなら正々堂々、チャーハンで戦おう!」
「チャーハン世界平和宣言と申したか」
「別に変じゃなくね。毎年トマト投げ祭やってる国だってあるんだし」

 いつの間にか話が脱線しているのはともかく、鳥たちに懐かれるのを通り越してまとわりつかれ
てひどい目にあった。聞きつけたシャマル先生がブラシを持ってきてくれたので、使わせてもらっ
て落としてから部屋に戻る。

「こんなはずではなかった。もっとこうミステリアスで、インプレッシブでトロピカルで、エキゾ
 チックでラメンタブルな光景になる予定が!」
「な、なにを言ってるのか分からないんですけど……よく無事でしたね。フンもついてませんし」
「ところで今ラーメン食べるっぽいのが聞こえたせいで、無性に食べたくなってきたんやけど」
「心なしか同感です」

 お昼ごはんが決定した。その日も朝は雑煮とおせちだったので、そろそろ濃い味な何かが欲しく
なってきたところである。

「チャルメラだな」
「一平ちゃんやろ」
「チキンラーメンがいい!」

 横から口を出したヴィータの意見が通り、野菜をたくさんのっけたチキンラーメンに決定。

「なのは戦では見事にチキンだっただけにか!」
「う、う、うっさい! それとは関係ない!」

 ビビリータの暗示かと思ったが、本人によるとちがうらしい。

「はやてとシャマル先生の陰謀により、キッチンから追い出されたんですが」
「そりゃそうだろ。あんだけ羽まみれになってたんだ」
「ツバメの巣とか混ざってたかもしれないのに。はやてももったいないことするなぁ」
「別にいいけど自分で作ったの全部食えよ」

 遠慮する。あと自分の作ったもので腹を壊されたらイヤなので、今回は自主的な意味でも退去す
ることにしよう。

「念のためシャワー浴びてくる。今のうちに」
「早くしろよ。遅かったらお前のぶん食べとくから」
「その場合、ヴィータの髪の毛が全部チキンラーメンになると心しておけ」
「……悪いけど意味わかんない」
「そういう呪いを考えてたんだけど。どうかな」
「無理。ていうかそれ普通に怖いって」

 さっさかシャワーを浴びに行くのでした。





「脳みそすっからかんの鳥類が相手だったからいけないと思うんだ」

 昼ごはんを食べてから騎士たちに事情を話し、何がいけなかったのか分析を図る。

「こいつらは頭いいしな」

 はぐりんたちの頭を撫でながらヴィータが言う。撫でられながらちょっと得意げにしている地上
最速の生物たち。HPは10くらい。

「なら、以前仲間にしていたおどるほうせきはどうなんだ?」
「確かに。あれは頭良くなさそうだったけど」
「マホトーンかけて、不思議な踊りか攻撃しかできなくした。近くのバンパイアさんに頼んで」
「……意外と考えていたんだな」
「あとかしこさのたねをちょっと食わせたっけ。ドラクエの知識がなかったらできなかったなぁ」

 とか話していると、ふとその時の失敗に気付いた。

「……なのはに残してやればよかった」
「ああ……それはちゃんと取っとかんと」
「でもそれよりインテリ眼鏡の方が確実だと思う」
「なのは用にぬいぐるみ買ってくるのが先じゃね。名実ともに愛玩動物に!」

 とかやっているうちに、ドラクエ談義に花が咲く。理力の杖持ってきてクロノに頼んで改造して
もらったら光魔の杖できるんじゃないかとか、ヴィータにはかいの鉄球が似合いそうだとか。

「あ! そういえば、すごろくけんまだ残っとる?」
「おお。そういや残ってる。やりたいって言ってたっけ」
「今度また、ピクニックしません? 足が治って、すごろくできるようになってからですけど……」
「そうだな。あれには落とし穴もあることだ。ヴィータがよく掛かっていた」
「ざ、ザフィーラっ! 一言余計だっ!」

 割と細かいことを覚えているザッフィーだった。

「ピクニック……」

 念願叶った感じで微笑んでいて、楽しみにしてるっぽいリインだった。



(続く)

############

何がおかしかったのか分かりかけてきました。そのうちHPの方にまとめて報告します。
メッセージたくさんありがとうございました。
焦りとか惰性とかいうものを蹴散らして、まったり書いていきたいと思います。



[10409] その138
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/10/31 02:05
 正月三賀日も今日でおしまい。つまり1月3日。とりあえずともかくやることがないので、今日
も今日とてこたつに寝そべって本をめくる。一度死ぬ前に読めなかった小説とか。はやてが食べた
いと言っていた料理の本のレシピとか。

"What is it?"

 すると、隣に寝そべっていたヴィータが何やら口に出しはじめた。
 はやてが持ってた、超簡単な英語の教科書である。小学校で英語をやるとかやらないとかいう話
をテレビでやっていたので、自分でも本屋で買ってみたと言うのだ。後でヴィータに聞いてみたと
ころ、地球の英語ってどんなんだろうと思って開いてみたのだとか。 

"Is it a pen?"

 横を見てみると、ヴィータが消しゴムを持ってこちらを見ていた。ここはオリーシュの言語力が
問われている予感!

"No, it is not a pen."
"Oh. So, what is it?"
"It is Tom."
「そんな馬鹿な」

 あまりのオリーシュの言語力に、日本語が恋しくなったヴィータは帰国を余儀なくされたらしい。

「……そ、それは、ト、トム……トム……!」

 じわじわきたらしく、寝たまま顔を伏せ、ひとしきり肩を震わせるヴィータだった。

「教科書通りに答えてみたんですが」
「それよりあたしの質問に答えろよ……」
「普通にイレイサー言ってもつまんないでしょう」
「それはそうだけど……そうだけど……っ」

 どくどくみたいに後から強くなるらしい。少し待つ。

「……おろ? ところで、ヴィータは学校行かないのか」

 そんな折、ふと気がついたので聞いてみた。
 確か原作だと、行ってなかったような気がしたのだ。管理局から命ぜられた社会奉仕とかで忙し
かった、というような理由なんじゃないかなと思うけど、今回はそいつがそこまでキツくない。

「ん? ……んー」
「ああ。まぁ、今さら苦痛かね。算数の演算とか」
「そーだな。確かに、頭の中で計算しちまうし」
「オリーシュ仮面とか」
「苦痛すぎるぞ」

 ヴィータはまだ仮面をつけるのに抵抗があるようだ。ゼロの騎士団とかやってみたいのに。

「だいいち、戸籍がないからな。どうにもならねーって」
「残念。給食で牛乳口に含むから、毎日楽しいことになると思ってたのに」
「別にいいけど、お前やったら全部拭けよ」
「わかった。じゃあ全部拭くから全部噴け」
「誰がうまいこと」

 それに200mlも噴けるかよ、と言われるともっともな感が否めなかった。

「牛乳拭いた後の雑巾ってどうしてあそこまで臭いんだろう」
「……そこまで臭いのか? よく話には聞くけど」
「発酵してるんじゃね。床の汚れに雑菌混ざってて」
「ヨーグルト?」
「いいえ、ケフィアです」

 ぱらぱら本をめくりながらぐだぐだ話した。
 でもってそのうち、近くにリインがやってきて、何か手頃な読むものをと俺に頼んでくる。

「地図帳」
「全然手頃じゃないだろ」
「そんなことない。眺めてるだけで時間が経つのを忘れること間違いなし」

 頑張って主張してみたのだが、結局はやてが図書館で借りてきた推理小説に落ち着いた。地図帳
がダメならタウンページを主張しようと思ってたのにと言うと、ヴィータはあきれたようにため息
を吐いた。

「じゃあポケモン図鑑で」
「まず紙媒体じゃないだろ」

 とか言っていると、いつの間にか隣にヴィータがいない。どこに行ったかと見上げると、こたつ
の向かいでリインの膝の間にすっぽり収まってた。二人して本読んでた。

「仲がよろしいようで」
「あ……う、うるさい。ただ座りやすかっただけだって」

 ヴィータは照れ隠しにさっきの消しゴムを投げてきた。ぱしんとキャッチして、ペン立てに突っ
込む。リインはそこまであからさまに反応しなかったが、やや挙動が遅くなったような。照れてい
るのは照れているのか。

「照れんなよ」
「照れてねーよ!」

 照れる照れないで押し問答する。

「あー。ヴィータが照れとるー!」
「てっ、照れてない!」

 はやてがやってきてクスクス笑った。必死に否定するヴィータだった。

「ヴィータが照れていると聞いて」
「ヴィータちゃん、どうし……あ。こうして見ると、まるで親子みたいです」
「どれ……なるほど。本当だ」

 聞きつけてやってきて、口々に言う騎士たちだった。照れ隠しに言い返す間も与えられず、ヴィ
ータはあうあう言ってうろたえるばかりだった。

「ぜんぶぜんぶぜんぶお前が悪い!」
「否定はしない」

 ヴィータの気が済むまでプリンを作らされた。



(続く)

############

「それはペンですか?」
「いいえ、それはトムです。」


「照れてる」って言われるとつい否定したくなるヴィータでした。
1回まるまるヴィータにあげてみましたが、できたら八神家の各人についてもやってみようと思います。



休日平日関係ない不定期に入ります。ご了承ください。



[10409] その139
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a760e9dc
Date: 2009/11/03 11:14
 現在冬真っ盛りなので家の中では長袖のTシャツを着ていたのだが、けつまずいた拍子に柱のさ
さくれに引っかけてしまった。肘のあたりに立派な穴があいた。

「弱った。これでは肘が丸見えだ。叩かれてビリッと来ること請け合いではないか」
「あ。それ、私もよくなる。波紋流れたみたいにビリビリするんよ、ぶつけると」
「オーノーだズラ」
「お仕置きされちまったズラ」

 はやてに報告し、とりあえず駄弁ってから、応急措置をということにはなった。しかしよく考え
ると、ジーパンならともかくTシャツに縫い目はちょっとアレだと気付く。どうしよう。

「直し屋さんに持ってくのもなぁ。遠いし」
「はやてちゃん? どうしたんですか?」
「あ、シャマル。あのなあのな、腕のとこに穴が空いてしもーたん」
「ふさがねばならんのだが、あまりやったことが……シャマル先生? シャマル先生!?」

 顔面から一気に血の気が引いていくシャマル先生、あたふたテンパってお医者さんに電話しよう
とする。もちろん腕に穴が空いたわけではない。はやても別に故意ではなかったらしく、なんとか
なだめて落ち着かせる。

「ふと思ったけど、ここはむしろ自分で治療魔法使う場面じゃなかったのか」
「あ……え、えっと、も、もちろんです。そそ、そうしようとは思ってましたけれどもっ」

 嘘つけ。119番プッシュしようとしてただろ。

「そっ、それはともかく……穴が空いちゃったんですか? お洋服に?」
「そう。腕ではなく、服に。断じて腕ではなく、服の方に」
「…………は、はやてちゃん、ど、ど、どの部分ですか?」
「肘が破けたんやけど、血が出たわけやないからなー。救急車は必要あらへんからなー」
「……ご、ご、ごめんなさぁいいっ……」

 誤魔化しが利かないと悟ったらしく、ごめんなさいが出てきたので許してあげることにする。腕
をくるりとひねって、穴が空いた部分を見せる。

「これは……派手に空いちゃいましたね」
「どうするか困った。縫い合わせるにも縫い目が残るし」
「Tシャツってどうやって直すんやろ。あんまりやったことあらへんなぁ」
「あの……普通に直しますか? それよりいっそのこと、半袖にリフォームしたらどうですか?」

 名案だった。ちょうど俺の半袖が足りなかったところなのだ。

「なるほどー。ほな、袖の縫い方だけグーグル先生に聞いとこか!」
「あ。わたし、出来ますけど……」
「グーグル先生の代役ができると申すか! すごい、すごいぞシャマル先生!」
「ちっ、ちがいます! 縫い方の方ですよっ!」

 シャマル先生がネットワーク社会を制したかと思ったが、残念ながら違うらしい。

「……ちょい待った。シャマル、お裁縫できるん?」
「はい。大丈夫ですけど……お裁縫セット、持ってきましょうか?」
「いや俺が持ってくる。ついでにこれ脱いで着替えてくる。いい?」
「ん。なら、私は夕飯の準備しとるでなー」

 破けてしまったTシャツを着替えて、再び戻る。はやては料理をしにシグナムを連れてキッチン
に向かい、シャマル先生だけが待っていた。

「じゃあ切っておきますから、針にしつけの糸を通しておいてくれませんか?」

 細い白糸と縫い針を渡される。

「了解した。100分の40秒で支度しな!」
「お願いしますねっ。じゃあ……」
「できた」
「ええええっ!? は、早すぎませんか!?」

 本当に100分の40秒で支度したところ、シャマル先生にとても驚かれた。

「お袋とよく競ったせいだ。これでも一度しか勝てなかった」
「そうなんですか……あの、その一回って」
「針が指に」
「やっぱりそうですか」
「穴を潰された」
「どういう握力だったんですかっ!?」

 などと冗談混じりに話をしていると、いつの間にか袖が切られていた。あれよあれよと言う間に
作業が進み、いつの間にかミシンの登場。

「できましたっ!」
「早えぇよ」

 そしてあっという間に終わってる。

「おおおおお。すげぇ普通の半袖になってる。どこで身につけたんだか」
「お料理といっしょに練習してたんです・・・・・・あ、あの、どうですか? ヘンな所ありませんか?」

 不安そうにこちらを見てくるシャマル先生。ここは正直に答えてあげよう。

「半袖になってる」
「そ、それは最初からの話ですよ!?」

 と思ったら口が勝手に。思いっきり困惑された。

「冗談。これなら長く着られそうだ」
「よかったぁ……また何かあったら、ぜひ言ってくださいねっ」

 と言って、花のような笑顔を向けてくる。

「じゃあこのジーパンの穴を」
「ずっと前から空いてたじゃないですか……」

 もっと仕事をあげようとしたのだが、同じ穴でも勝手が違ったらしい。

「俺も練習しようかなぁ。はぐりんのぬいぐるみ作りたいし」
「あ……でしたら、教えてあげましょうか? ケーキのレシピと交換で!」
「ホットケーキなら」
「箱に書いてありますよ……ねるねるねるねの次にそれ練習しましたし……」

 とはいえ非常にありがたいので、縫い方をいろいろと教えてもらうことにした。まつり縫いをマ
スターしている間に、チョコレートケーキの良さげなレシピを紹介してあげました。

「一週間後、そこには何故かカカオ99%並の苦さになったミルクチョコケーキの姿が!」
「錬金術じゃないんですから……でも本当に、次のケーキはうまく焼けそうな気がします!」

 美味しいケーキに思いを馳せて、ニコニコと楽しみそうに笑うシャマル先生だった。





「……」
「シグナム。シグナムー? どうしたん、何かあるん?」
「あっ……も、申し訳ありません!」

 台所の方でそんな声が聞こえた気がした。



(続く)

############

丸々シャマル先生の回。

針に糸を通すのが無駄に早いオリーシュ。
家事全般がハイスペックなシャマル先生。
そして焦るシグナム。

あれ? これで料理マスターしたら最強じゃね?
と思うかもしれないけど、相変わらず一定確率で死の料理ができるのでそんなことはねーです。



[10409] 番外9
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:5b3c8664
Date: 2009/11/06 00:10
『けーとくん顔文字使える?』

 なのはからは割とよくメールが来るが、大抵はこんな感じである。
 他愛もない雑談だったり、変わったことの報告だったりする。今回は前者みたいだ。とりあえず
使える顔文字を送ってやる。

『 <●>  <●> 』

 こんな顔文字を披露したところ、返事が全然来なくなった。怖かったようだ。なんてこったい。

『<●>ナンテコッタイ』

 仕方がないので伏線を消費してみたところ、なのはからやっと返事が返ってきた。びっくりさせ
ないでよとのことだった。確かにあの目玉だけだと、さぞ驚いたにちがいない。

『(「 ・ω・)「』
『かわいい! (「 ・ω・)「 がおー』
『(´・ω・`)』
『(`・ω・´)』

 しばらく顔文字だらけのメールが続きます。10分ほどお待ちください。

『ところで今さらだが突然何』

 顔文字ラッシュが一通り落ち着いたので、ようやく根本的な疑問を投げかけてみた。

『フェイトちゃんが顔文字を覚えたいって言ってたの。まず何がいいかなって』

 状況を把握した。やっと事情が呑み込めた。

『話は聞かせてもらった。取っておきのを直伝してやる』
『嫌な予感しかしないよ』
『⌒*(゚∀゚)*⌒ これ教えるだけ』
『それわたし!?そんなかおしてなう!そんなかおしつなあ!』
『なのはがバグった』
『けーとくんのせいだよ!!!!』

 打ち間違えたメールをそのまま送信しちゃうくらいびっくりしたらしい。

『⌒*( <〇> <〇> )*⌒ こうですか!わかりません!><』
『怖すぎ!なお悪いよ!』
『⌒*(´・ω・`)*⌒ じゃあこうですか!わかりません!><』

 少し遅めの福笑いを楽しむ。

『そんな情けない顔してないし』
『そんな情けない顔してなのは?』
『そんなこと言ってない!』
『そんなのは。言わなのは。』

 そうこうしているうちに、直接電話がかかってきたので応対する。

『ひっ、ひとの名前で遊んじゃダメなんだよっ! そういうの、やっちゃいけな……』
「おかけになった電話番号は現在使われてオリーシュです。何?」

 ひとの名前で遊んではならないとのことなので、とっさに自分の名前で遊んでみた。電話の向こ
うが静かになった。

「ウケてたでしょ」
『ちっ、ち、違うよっ。笑ってなんかっ』
「声が笑ってますけど」
『わわわ笑ってないもん! 笑ってないもん!!!』

 意地を張るなのはだった。



(続かない)

############

結局電話する。


10/06 0:10 少し修正。



[10409] その140
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/11/09 17:02
 美味しいお正月料理の数々をようやく食べつくし、幸せな気分で過ごしていた八神家の一同。
 今日も今日とてまったりと過ごしていると、なんと珍しいことに、クロノからメールが届いた。

「というか、クロノも携帯買ってたとは」
「どうしてアドレス……ああ、フェイトちゃん経由やな」
「ちょうどこっちの物件探してるとこらしい。フェイトの編入後の生活のために」
「どうした?」
「何だ何だ?」

 暇な時間をそれぞれ持て余していたので、外から舞い込んできた情報にみな興味津々らしくわら
わらと集まってきた。おかげで携帯を持つ俺の周囲が窮屈で仕方ない。

「頭の上で顎かっくんかっくんするのやめれ」
「うるさい。早く読めよ」

 頭頂部におけるヴィータの行動にやる方のない不満を覚える俺だったが、しかし止める気配がな
い。ここで押し問答をしていても仕方がないので、しぶしぶメールの内容を説明する。

「お仕事ですか?」
「そのよう。はぐりんたちとリインに、シグナムとシャマル先生。今週の土曜日」
「ふーん。で、お前はどうすんだ? メタル軍団の指揮に行くのか?」
「リインの言うことも聞いてくれるから、どっちでもいいんだけど。暇なら見学に行ってみる」

 同類意識があるためなのか、リインの指示にも割と正確に従うはぐりんたちである。可愛がって
あげてくれてるみたいなので、割とよく懐いているのかも。

「いやお前は常に暇だろう」
「Exactly.(毎日が日曜日でございます)」

 などというザフィーラとの会話を最後に、やっと解散。せまっ苦しい空間から解放され、元通り
ソファでゆっくりとくつろぎつつ返事のメールを打ちはじめる。今度遊びに行っていいか、とかそ
ういったことも付け加えて。

「明日の朝食、今日のハンバーグ使ったハンバーガーで了承してくれるかな?」
「いいともー!」

 こたつで本を読んでいるはやてから許可が出たので、明日の朝ごはんが決定した。当番は俺だ。
シャキシャキのレタスや玉ねぎとトマトソースを使って、朝から満足できる一品を作ろうと思う。

「あ。そういやシグナム、照り焼きチキンもできるけど。そっち挟む?」

 と考えたところで、思い出して聞いてみた。シグナムはどちらかと言うと和食の方が好みらしい
のだ。そちらの方が取っつきやすいような気がする。

「む……あ、ああ。そうだな。お前が平気ならお願いしよう」

 しかしどうも、返事の歯切れがよくない。何かあったのだろうか。

「もしや28日周期か……」
「何の話をしている?」

 すっごい小声だったのに、どういう訳か聞かれていたらしい。あわてて誤魔化して火消しする。

「ともあれ、どうしたの。照り焼きチキンに何かトラウマでもお有りか」
「い、いや。そういう訳では……ないのだが」
「ないのだが?」
「……ないのだが」

 ないのだが何だ。

「そ……その……な、何だ。正月の料理も、もう終わりかと思っただけだ。長かったからな」
「ああ、確かに。思えば雑煮が続いたよね」

 毎朝毎朝主食が雑煮のなかの餅だったので、いかに美味しいとはいえそろそろ飽きてきたところ
である。具体的には濃い味が欲しくなってきた感じ。

「濃い味の恋しい季節になってまいりました」
「それで上手いこと言ったつもりか」

 シグナムがくだらない物を見る時の、白けた視線で俺を見た。

「ヒモ生活を気にしてるニート侍のくせに」
「………………っっ!!」

 シグナムがすごい勢いで口を塞ぎにきた。でもって誰も聞いていなかったことを確認してから、
小声で静かに訊いてくる。

「……い、いつ気付いた……?」
「蕎麦茹でたあたり。何となくだったんだけど、当たってましたか」
「くっ……屈辱だ……!」

 こちらとしては軽く言ってみただけだったのだが、予想以上に気にしていたらしい。珍しく顔が
紅潮している気がする。

「いやまぁ大丈夫だって。クロノが仕事持ってきてくれるから。家計の手助けもできるって」
「ふ、ふむ。確かに、そうだな」
「そのおっぱいで」
「ななな何の話をしているッ!」
「牧場しぼり」

 いよいよ顔が赤くなってきたのはいいが、同時に表情が地獄の赤鬼のような顔をになった。おと
なしく口をつぐむ俺だった。

「折角おっぱいゆーとったのに入り損ねた。何やったの?」
「入らなくていいですッ! なんでもありません!」

 横から入ろうとするはやてに必死に訴えるシグナムだった。



(続く)

############

シグナムについてはまた書きたし。
次はザフィーラかリイン。



[10409] その141
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0ddfa90
Date: 2009/11/11 08:55
「『そこに三人の魔法少女がおるじゃろ』」

 ヴィータがポケモンをまた最初からやりはじめた(主にイーブイ目的)ため、最初の場面でふと
思い付いたことを口にしてみた。

「好きなのをやろう。さあ、選ぶのじゃ!」
「『3つのインテリジェントデバイス』の方が語呂がいい気がする」

 確かにそうだが、デバイスから人が出てくる怪奇現象が発生するので却下。

「もちろんボールの中身はなのはとフェイトとはやてで」
「モンスターボールからなのはが出てくるとか。まるで違和感ないって」
「その代わりジムリーダーは全部俺」
「違和感ありまくりやな」

 横からはやてが加わってきた。

「まず最初のジムは岩タイプなので、とりあえずばくだんいわを繰り出すとしよう」
「勝てる気がせんわ」
「挑戦したくない」

 とかなんとかうだうだと話す。要するに退屈で、なんだか刺激に飢えている感じ。

「クロノんとこ行くのが本当待ち遠しくなってきた」
「だからといってクロノトリガーを最初からはじめるのは何か間違えていないか」

 言っているうちに懐かしくなって、思わずニューゲームではじめてしまった。ザッフィーに横か
ら言われたけど聞こえないふりをする。

「ああああっ!」

 とかやっているとキッチンの方から、シャマル先生の悲鳴が上がった。なんだなんだと集まる。

「たっ、た、大変です! カレー粉が、カレー粉がっ」
「カレーパンになっちゃった!」
「それは驚きますよ……」
「さすがに魔法だろそれ」

 思わずネタが口から出てきた。しかしシャマル先生の様子からして、マギー審司っている場合で
はなさそうだ。話を聞く。

「いっ、今気付いた! マギとシンジって両方エヴァネタじゃね!?」
「話聞けよ」

 話を聞く。

「買い忘れましたか」
「はい。カレー粉切らしてるの、すっかり忘れてました……」
「カレーからカレー粉抜いてみるのも、それはそれで乙かもしれへんなぁ」
「せめてデミグラスソース入れてハヤシライスにしようぜ」

 しかし本日のカレーは、はぐりんたちのリクエスト。それにみんな楽しみにしていたので、今さ
ら変更するのは気が引ける。

「行ってきま」
「行ってらっさい」

 とりあえずおつかいに行ってきます。

「私も行こう。少し体を動かしたい」
「そう? ここんとこ屋内続きだったしねぇ」

 雪降ってなくてよかった、などと話しながら外に出た。
 でもって時間がないからということで、ザッフィーが背中に乗せてくれる運びになる。

「おっしゃあアマ公! その『翠屋』ってところまで、大神様の脚でひとっ走りでェ!」

 例によって街中では真っ白な毛並みに変装しているので、思わず前々からやりたかったキャラク
ターを真似てみた。誰がアマ公だ、と一蹴された。

「それにしても、よくそのしゃべり方ができるものだ。原作そっくりではないか」
「むしろこのフニャフニャ喋りを解読できるザッフィーの方が驚きです」
「何となくだ。あと行き先は、翠屋ではなくスーパーだ」
「御意」

 無駄口をやめ、とりあえず人気のない裏道を急いで走りはじめた。四つの脚で力強く疾走する感
覚は、やはり何度乗ってもいいものである。風は冷たいけど。

「何をきょろきょろしているんだ」

 大通りに入ってから下ろしてもらい、目立たないように歩いていると、道路を見て車を探してい
たのがザフィーラに見つかった。

「ちょっとアリサ車を探してて。いないならまた今度かな」
「……また下らない事でも企んでいるとみたが」
「いや、これだけ貼ってみたかった」

 「ツンデレが乗っています」と目立つように書かれた、黄色いステッカー(マグネット式)をひ
ょいと見せる。

「活字みたく文字を塗るのが大変でした」
「無駄に精巧だな」

 無駄に、の部分を強調しているあたりから、下らないことをしているのがよくわかると思います。

「しかしこれでは、後ろの運転手がまともに運転できなくなりそうだぞ」
「なぬ。それはマズい」

 交通事故になっては大変なので、残念だが計画は取り消しにする。

「フェイトって将来ミッドの免許取るんだよね。『脱ぎ魔(♀)が乗っています』」
「野次馬の車に囲まれて動けなくなるな」

 しかし車の中では脱がないだろうと言われ、それもそうかと納得する俺だった。

「しかし思うのは、黒塗りの高級車の場合、普通に若葉マーク貼った方が面白いかもしれない」
「悔しいが否定できん」

 少し歩くと人の姿がちらちらと見えはじめたので、話をやめててってけてってけ歩くのでした。



(続く)

############

次はリインのお話。



[10409] その142
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/11/15 00:15
 管理局での新たな仕事を明後日に控え、八神家の一同に緊張走る――!

「みかん足りなくね?」
「大丈夫やろ。追加のぶんも買ーてあるし」
「それにしたって食べすぎだろ。日に五個までにしとけよ」

 ということもなく、とりあえず朝から昼にかけてはいつも通り。送られてきた資料を確認する以
外は、特に変わったこともないです。

「仕方ない。仕方ないが、アイス食べてるヴィータが言うのはどうかと」
「まだ一個目なんだからいーだろ」
「こんなに寒いのに、こたつに入ると食べたくなるんよなー」
「一口くれ」
「やなこった」
「みかんと交換で」
「アイス食べた後だと酸っぱい気がすんだけど」

 とか話していると、対面に座るリインがこちらを見ているのに気づいた。同じくみかんを食べた
り本を読んだりでくつろいでいたのである。読んでいたものから顔を上げて、そうなの? と目で
訊いてくるような雰囲気。

「やったことないから分かんないけど。甘いものは甘くない順に食べるのが鉄則」

 なるほどという感じに、小さくうなずく。

「それを考えると、スイカに塩というのも頷ける気がしなくもないでござる」
「両極端やけどなー……今の聞いて、海に行きたくなってきたんやけど」
「潮干狩りやってみてー」
「砂浜で探すのは邪道。海に入って足で探すのが本物」
「オリーシュが漁師になるようです」

 夏が来てはやての足が治ってたら、貝取り勝負をしに行こう。などと何気に楽しみな約束をして
いるうちに、隣のヴィータからカップアイスを一口かすめ取る。

「むぐむぐ一口だしむぐむぐいいでしょむぐ」
「こっ、この……! ひ、一口の割にごっそり減ってるじゃねーか!」
「了解した。じゃあバニラアイスの代わりに、このみかんの白い筋をあげよう」

 差し出した手のひらをがぶがぶ噛まれた。アイスを付けて食べる用のビスケットを取りに行き、
ご機嫌を取ることにする。

「わたしにも」

 戻ってきたところではやてが追加を注文してきた。しぶしぶ、二袋目を取りに戻る。

「私の分はどうした」

 戻ってきたところでザフィーラが追加を注文してきた。超しぶしぶ、三袋目を取りに戻る。

「私のは……?」

 戻ってきたところでリインが真似して(ry

「ばりばりばり」
「あーっ! な、何してんだこの馬鹿!」
「ぼりぼりぼり」
「くっ、食うなアホ! 私のビスケットぉ!」
「わっ、私の、私の……!」

 全部食ってやった。ザフィーラ以外にすごい責められた。





 夕飯が終わって風呂からも上がって、もう少ししたらお休みしようかということになる。

「またザフィーラの取り合いがはじまるお……」
「ジャンケンでいいだろ……常識的に考えて……」

 夏は暑苦しそうなことこの上ないザフィーラであるが、ご存じのとおり毛皮がもこもこしている
ので冬になると大人気である。皆で一緒に寝る時はともかく、部屋にわかれて寝る時は誰と一緒に
なるかで結構もめる。俺とヴィータやはやてとの間で。

「負けたー。今日はヴィータやね」
「思うんだが、ザフィーラはさんで両側から寝ればどうか。はやてとヴィータなら」
「ベッドのサイズがなぁ。布団のときはそれでえーけど」
「なるほど。まぁ今日もはぐりん湯たんぽでいいか」

 ちなみにであるが敗北した人たちにも、お湯を飲んだはぐりんたちに足をあっためてもらう「は
ぐりん湯たんぽ」があるのでなかなか嬉しい。
 最初はこれでいいのかとちょっと戸惑ったけど、暑かろうが寒かろうが涼しい顔をして寝るので
お願いしているのだ。今では冬の八神家に欠かせない名物である。今後も活躍してくれるだろう。

「あぶれた」
「あぶれた……」

 しかし当たり前だが、数量には限りがある。俺とリインが抽選(あみだくじ)に外れてしまい、
二人そろってしょぼーんな感じになる。

「仕方ない。リインのメタル化を応用して、はぐりんの代わりをやってもらおう」
「……私が暑くて眠れなくなる」

 リインが首を横に振ったのを最後に、希望が断たれた。今日は特に冷えるので、寝る前に靴下を
二重くらいにして履いておこうと心に決める。

「あーあーどっかにもう一匹落ちてねーかなザフィーラ!」
「想像しがたい状況だな。残念だが私はここにいるぞ」
「いるのかよ。ならシグナム、ザフィーラをちょっと右半身と左半身分割してほしいんだけど」
「まずお前で試してからになるが、それでいいか」

 あきらめるしかないようだった。そのうちみんなお休みを言ってから寝に行ってしまい、二人残
される。その間考えたものの、さしたる名案も出てこない。

「仕方ない。あったかいココアでも飲んで寝ましょうか」
「ココア?」
「チョコ味のあったかドリンク。作っとくから、マグカップ出しといて」

 どうやら飲んだことがないらしい。思えば最近コーヒーばっかりで、ココアとか久しぶりな気が
した。かなり昔にぶちまけて挨拶したような記憶がなくもないが、今日はもう眠くなってきたので
そういう気も起きてこない。

「おいしい。あったかい……ありがとう」
「ん」

 気に入ってくれたらしい。とりあえず安心して、体が芯からぽかぽかしていくのに任せる。こく
こくと飲んでいく。

「あ。お砂糖は控えめにしといたからご安心を」

 ふと気にしていたのを思い出したので言ってみた。

「なっ、何を、言って……」

 視線が微妙に揺れてるあたり、動揺が隠し切れていないリインだった。

「まったく太る太るって。そんなに骨と皮になりたいか」
「そ、そこまでは、言っていない」
「そう聞こえる! よく考えろ、1kgの俺と40kgの俺だったら確実に後者選ぶだろう!」
「……それは当たり前」

 などと、ぐだぐだと太る太らないの言い争いを行った。

「余計あったかくなってきた」
「私も……」

 怪我の功名なのだろうが、それにしてもちょっとあったまりすぎた。

「このままだと寝苦しい……あれ。布団敷いたっけ」
「持ってきておいた。本棚の前に」
「じゃあ何か読もうか。さっきので目が覚めちった」
「うん」

 寝るまで漫画とか本を読み始める俺たちだった。





「……冷えてきた」
「またココアの素入りのマグカップにお湯を入れる仕事が始まるお……」

 ループしてしまう俺たちだった。



(続く)

############

ちょっとボリュームあります。



[10409] その143
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b5d5857e
Date: 2009/11/21 00:36
 昨夜は結局夜中までリインと遊び呆けてしまい、二人そろって朝の10時くらいまで寝てしまっ
た。起こしてもらったのだが起きることができず、おかげで朝食を食いっぱぐれる。

「三回は起こしたぞ」
「面目ない。面目ないが、俺が起きれなかったのはリインが貧乏神をなすりつけてきたせいで」
「夜中に99年設定で桃鉄やりはじめるのが間違いやろ」

 全く返す言葉もないので、黙って平伏する。

「CPUやリインにはミニボンビーなのに俺の時だけ頻繁にキングが来る件」
「ちょうどいいハンデだと思いますけど……」
「つーか、聞いてたらやりたくなってきたんだけど」
「真ん中のデータは途中だから消さないで。とりあえず、遅めの朝ごはんにしますか」

 リインがこくりとうなずくのを確認して、キッチンへ。トーストかホットケーキのどちらが言い
かと聞くと後者がいいらしい。一応チャーハンも聞いてみたけど、それはちょっととのこと。

「朝はしっかり食べた方がですね」
「寝起きで、それは……」

 仕方がないので、とりあえずフライパンを取り出すことにする。

「昔の漫画でそんなのがあったよーな」

 着替えた服の背中からするりするりとフライパンを取り出すと、はやてが口走った。思い出すよ
うにあれでもないこれでもないと考えはじめる。

「主人公の夢は世界制服」
「それや」
「それはそうと、バタ子さんが不足する気が。買っといたっけ」
「バタ子さんなら冷蔵庫の上の奥で寝とるよ」
「それ凍死やがな」

 あの強肩とコントロールの秘密をはやてと議論しつつ、「イチローVSジャムバター」の夢の対
決についてぐだぐだと話しながらホットケーキを焼く。エプロンつけたリインが引っくり返したい
と言うので、それを監督して出来上がり。食す。

「うめぇ」

 ひっくり返しただけなのだが、リインの口元が微妙に笑顔になった。

「ところでリインはいつまでエプロンを着けているのか」

 自分の格好を見てから立ち、少し慌てた表情になってからそそくさとエプロンを脱ぎに行った。

「しかし物足りないので、ホットケーキの素使ってアメリカンドッグ作ろうと思うのですが」
「あー! あたしも食べる!」
「そうか。ということでリイン、まだエプロン脱がなくて良かったわ」

 視線で責められた。





 昼過ぎになると、なのはが遊びに来た。みんなそろってギニュー特戦隊、ではなくみんなそろっ
て出迎える。

「二週間くらいしか経ってへんのに、ずいぶん久しぶりな気がするなぁ」
「そうだね。クリスマスのときに会ってるのに」
「冬休みの宿題が手付かずなのに無茶しやがって……」
「もうぜんぶ終わったもん」

 玄関口で軽口を交わすのはよくあることだが、聞き捨てならない言葉を聞いてしまい驚く。

「なのはちゃんが偽者に……」
「その可能性は大いにありそうですなぁ」
「ま、またそういうこと言う! はやてちゃんまで!」

 本物だよ本物だよと主張するも、とりあえずスルーしてさっそく遊ぶ。なのは的な意味で。

「よし。魔王の証明に、『一秒間に十回レイハ発言』をやってもらうことにしようか」
「それできる人ぜったい舌おかしいよ……」
「おのれクラウザーさんを馬鹿にする気か小娘!」
「……っていうかお前、それ出来てなかったか?」

 しかしヴィータの発言によって、なのはにドン引きされた。不覚。

「とっ、とにかくよく来たな! 上がっていくがよろしいであります!」
「あ、その前に……はい、はやてちゃん。昨日お願いした、例のお手紙」

 なんとかうやむやにして家の中に上がってもらうことにしたのだが、靴を脱いだなのははそう言
って、はやてに大きめの封筒を渡してきた。何だろう。

「お手紙とは何ぞ」
「アリサちゃんとすずかちゃんと、あと私のも! 今回は一緒にクロノくんたちのお手伝いには行けないから、フェイトちゃんに渡してほしくって」
「昨日二人でメールしたん。フェイトちゃんも携帯は普通のやから、地球におらんと繋がらんし」

 なるほど。と納得しつつ、封筒を受けとる。

「お手数ですが切手を貼ってください」
「けーとくんががめつい」
「お手数すぎますよ……」

 お手数というか手数料だろそれ、というヴィータの指摘はもっともだと思った。

「ほな、渡しとくな!」
「うん、ありがとう!」
「さて用事は終了。遊んでくでござるか」
「うんっ! 今日はね、オセロ持ってきたの。けーとくん、教えてくれるんだよね?」

 とか嬉しそうに言いながら、なのはが玄関から上がってきた。

「じゃあ私、コーヒー淹れてきま……」
「ならお菓子出して……あれシャマル、どーしたんだ? そんな所で固まって」
「せ、洗濯もの、干してる途中でしたっ……!」
「私がやっておこう」
「……シグナム。お手伝い、必要なら」

 慌ただしくなるヴォルケンズ+リインだった。

「あ……気遣わせちゃって、あの、すみませんっ」
「気にするな。私たちも楽しんでいるんだ」
「なのは、そこの段ボールからみかん取って」
「け、けーとくんは気にしなさすぎだよっ!」

 部屋にもどる俺たちだった。



(続く)

############

一秒間に十回レイハって言えてしまうオリーシュ。あとなのは久しぶり。
次はクロノの所に行きますです。



[10409] その144
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/11/24 01:33
 そうだ、管理局行こう。

「なんだ。結局全員で来たのか」
「はやてもこいつも行くって言ったからな。あたしとザフィーラだけ居残りってのもアレだし」

 呼ばれたのはリインにシグナムとシャマル先生、あとはぐりんたちだけだったのだが、「来たい
なら何人でも来ていい」と言われていたので、結局八神家全員でお邪魔することにした。

「多すぎかね」
「そうでもない。君が来たのはちょうどよかった、コアの調査の途中結果があるんだ」
「ほほう」

 ということなので、はやてたちと別れる。リンディさんやフェイトは待合室で待っているとのこと
だが、コアの調査報告書は別の部屋に保管してあるらしい。

「電子化してあるものだと思ってたけど」
「デバイスに保管してもいいけど、それだと君が扱えないから」

 そんなわけで、男二人で別行動。

「ああそうそう。はいこれ、よかったら」

 連れ立って歩いているところで、ふと気がついた。荷物の中から大きなタッパーを取り出して、
そのままクロノに渡してみる。

「何だ? 料理?」
「お汁粉。クロノが知らなかったみたいなので、ためしに作ってみた。食べてみてよ」
「ああ。ありがとう……確認するようだが、甘いものか?」
「甘いものです。鍋に入れて、温めて食べる」

 みんなで食べてねと言ったところ、母に注意しなくてはと返してきた。

「相変わらずのようで」
「ああ。相変わらずだよ……」
「コーヒーに入れる砂糖をダイエットシュガーにするだけで大分違うと思うけど。どう?」
「普通の砂糖5杯がカロリーハーフの砂糖10杯になるだけだと思う」
「どっちもダメだわそれは」

 などと話しているうちに、目的の部屋にたどり着く。

「あれ、クロノ君? 待合室に行ったものと思ってたけど……」

 でもってドアを開くと意外なことに、エイミィさんが顔を見せた。

「おろ。エイミィさんこんにちは」
「あ、こんにちは。ずいぶん久し振りだね、いつからかな?」
「闇の書最終決戦後の、検査やら事情聴取やらかと……何?」
「いや。君がまともにあいさつしているのが新鮮だったから」

 エイミィさんに普通にあいさつしていただけなのに、クロノから理不尽ないわれを受けて憤慨する。

「これだから執務官は……」
「いや、意味がわからない」
「そうなのよ。クロノ君って、昔からちょっとキツいのよねー」
「エイミィ、話の繋がりがわからない」

 この三人の組み合わせというのも珍しいと言えば珍しいのだが、揃ったら揃ったでこんなふうに
よくわかんない感じになる。

「君は一体何をしにここまで来たのか」
「雑談でござる」
「正直だね」
「褒めるなよエイミィさん」
「君は照れるなよ」

 部屋の中を本棚に向かって歩き、目的の書類を見つける。当たり前だが俺は読めないので、クロ
ノとエイミィさんが概要を報告してくれることになった。

「つまりわけわからんってことですか」
「魔力を吸うとこと、特定条件で吐き出すことはわかったんだけど。あとは、構成物の組成だね」

 エイミィさんが読み上げるによると、途中経過ということ。概要はそんな感じらしかった。研究
材料としてはとても興味深い素材だと各方面から喜ばれているらしいが、まだ実験を繰り返してい
る段階で、成果もそこまで出ていないようだ。

「組成が隕石に似てる、っていうことはわかったんだけど……」
「さすがの君も、宇宙空間では生存できないからな。これは偶然だと思う」
「……あ、ごめん。隕石って、超身に覚えあるわ」

 前世で吹っ飛ばしてくれたアレのことを思い出して、クロノたちの話にとっさに口をはさむ。

「……」

 何だかクロノが頭を抱えはじめた。

「……君って、本当に地球人?」

 エイミィさんがそう言ったけど、異世界人には言われたくないやい。

「参考になるなら話しましょうか」
「……なら、後で頼む。今聞いても、僕が混乱すると思う」
「頭が固いからこうなる!」
「どう考えても君の所為だ」

 というのを最後に、報告会は終了となった。隕石云々はまた次回話し合うことにして、エイミィ
さんが持ってきてくれたお茶で休憩することになる。

「じゃあ、この報告書はしまっておくからね」
「さぁさぁ、管理局の機密書類はどんどんしまっちゃおうねぇ」

 エイミィさんが立つのに合わせて、ついつい懐かしいキャラの台詞を口走った。

「無駄にいい声を出すんじゃない」
「すごい声だね。誰かの真似?」
「しまっちゃうおじさん。ありとあらゆるものをしまっちゃう能力を持つ。脱出はできない」

 今度DVDを見せて、フェイトに紹介してあげようと思っている人である。昔は子供心に怖がっ
たものなので、魔法が使える人でも怖がるものなのか見てみたいのだ。

「と思ったけど、もうなのはで確認済みだったわ」
「おおよそ結果の察しはついてるよ」

 ずずず、と茶を飲みながら言うクロノだった。

「あの映像見たときは、びっくりしたなー……あーあ、私もナマで見たかった!」
「しまっちゃうおじさん?」
「そうじゃなくて、なのはちゃんの変装! あんなに可愛いなんて思わなくって」

 ヴィータが撮っていた映像、どうやらリンディさん経由で横流しされているらしかった。

「じゃあフェイトの編入がうまくいったら、ハラオウン家でまたパーティーしようぜ。料理持ち寄って」
「いいな。それだと、数カ月後になるか」
「やけに自信満々でござるなぁ」
「身近で見ているからな。熱心に勉強しているよ」

 兄ちゃんの顔になるクロノの表情を見て、どこか懐かしい気分になる俺だった。

「今度は参加したいなぁ……」
「参加しない子はしまっちゃおうねぇ」

 移動するまでゆっくりしてました。



(続く)

############

(なのは勉強中)
オリーシュ「漢字が書けない子はしまっちゃおうねぇ」
なのは「やっ、や、そ、その声やめてって言ってるのにばかぁーっ!」

無駄に覚えてるアニメのシーンってありますよね。
自分の場合コレ↑と、あとスレイヤーズの魚っぽい敵がリナ食ってるシーン。
意味わからん。




※ 感想板から転載

自分から言い出すのをずいぶん迷っていたのですが、最近目立つような気がしなくもないので。

コメントへのコメントはお控えください。

いまの感想板内の和気あいあいとした雰囲気が損なわれてしまったならそれは残念ですが、万が一荒れてしまい、方々に迷惑をかけてしまうことがあれば、そちらの方が自分にとっては心苦しいです。
今までの感想を見ている限り(ぜんぶ読んでます!)大丈夫だろうという確信に近い思いはありますが、それでも意識が緩んでなぁなぁになってしまうのはイヤだったので念のため。

「言うのが遅いよ!」とおっしゃる方もおられるかもしれませんが、ごもっともです。申し訳ありませんでした。
あと自分もたまに感想掲示板でレスをつけていましたが、それも今考えてみると、コメントへのコメントを助長してしまうような雰囲気が、もしかしたらあったかもしれません。
今後問題が起こるようでしたら削除致します。すみませんでした。以後気をつけていきたいと思います。

遅れましたがいつもいつも、面白い感想ありがとうございます!
完璧に作者の知力に依存(ネタ・会話的な意味で)するという妙な作品ですが、それ以上に感想もネタまみれで楽しませていただいてます。ついでに元気ももらってます。
今後も楽しんでいただけると嬉しいです。ペースは落ちつつありますが、これからも頑張るのですよ。



1:33 少し修正。>>[1717]表現直してみました。



[10409] その145
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a63c67a8
Date: 2009/11/25 10:33
「エイミィさんから宇宙人扱いされたと聞いて」

 お仕事終了後、それぞれやったことの報告会(@管理局)で、はやてがそんな風に聞いてきた。

「この世界出身ってこと、伝わっとらんかったんか」
「や、前の世界も地球って言うことは知ってたみたい。それに対してだって」
「なるほど。それにしても、隕石が体の中に入っとったかも知れんとは」
「俺が思うに、この体って、死んだときのを寄せ集めた結果なんじゃないかと思う。仮説だけど」
「そっか。使えなくなったの以外を寄せ集めて、隕石もそのとき……想像したくないわぁ」
「同じく」

 気分が悪くなりそうなので、この話は一時中断にする。後から来るフェイトによろしくない。

「なーなー。私、みかん食べたいんやけど」
「管理局にみかんは……あ、食堂に果物売ってるわ。メニューこれじゃん」

 でもってはやてが食べ物を要求するので、いろいろ買ってきて仕切り直し。

「そちらはシグナム前衛のリインがウイングで、犯罪者成敗とか聞きましたが。ウイングって何」
「トップのフォローと、横方向の機動戦ですね。リインには適任だったみたいです」
「まぁ単独でもアレだしな」
「この寝顔見てると想像つかんけど」

 現在リインは疲れたのか、シャマル先生の隣に座ったままこてんと首を預けて眠っている。運動
したいと言っていたから、はりきって働いていたにちがいない。

「こいつらが後衛に控えてる時点で勝ち確だよね」
「言えてる」

 とか言ってはぐりんたちと遊んであげたりしているうちに、時刻は午後3時半。そろそろ来るか
なといった空気になったところで、ちょうどドアに付けられた鐘が鳴る。

「誰がために」
「我がためだ。今日はお疲れ様」
「エイミィさんとリンディさんは」
「活動報告まとめてるところだ。後から来る」

 クロノとフェイトとアルフだった。軽く手をあげて応じる。

「お前と会うのは久しぶりだね。ここ、失礼するよ」
「お、おじゃましますっ」

 俺の正面を見張るように座るアルフに続き、フェイトも入ってくる。ここは八神家じゃないんだけど、ちょっぴり緊張しているら
しい言動はご愛嬌。

「いらっしゃい、フェイトちゃん!」

 にっこり笑ってはやてが答えると、フェイトははやてのところにとてとて歩いて、そのまま隣に
座った。ちょっぴり嬉しそうだった。

「仲良くなっていたみたいだな」

 微笑ましそうに見るクロノだった。

「はぐりんたちと?」
「ひゃっ……く、くすぐったい……!」
「こっ、こら! 言ってないで早く押さえろ!」
「フェイト。そういう時は『めっ!』って言わんと」

 はぐりんたちも久しぶりに会えて嬉しいらしく、遊んでもらおうとフェイトの方に集まっていっ
た。しかし背伸び(?)したところテーブルから落ちてしまい、フェイトのいろんなところが銀色
になっていた。これも久しぶりな光景だった。





「おしるこ?」

 報告会が終わると、次第にそんな話題になる。お仕事が予想以上に早く終わったので、クロノた
ちが次の仕事に行くまで時間があるのだ。聞きなれない単語を聞いたフェイトがこちらに質問して
きた。日本のお菓子的なものだよと説明してやる。

「いっぱい作ってきたので、よかったら。感想聞かせて下され」
「……うん。ありがとう」

 と答える素直なフェイトだが、それとは別にそわそわしている影がひとつ。

「おっぱい作ってきたと聞いて、と言いたいけどつまらないので止めるはやてであった」
「くっ、クロノくん。コーヒー用のお砂糖どこなん?」

 図星だったらしく、あたふたとテーブルを探すはやて。

「これでござるか」
「そ、そう、それ! ほな、こっちのカップに……」
「残念だが中身はすべて塩に入れ換えたでござるよ」
「それ最初っから塩ってことやろ」

 最近のはやてはなかなか騙されないので面白くない。

「フェイトちゃん、気ーつけてな。この人フェイトちゃんのこともだまくらかして弄ぶつもりや」
「人の妹にちょっかいをかけるのは止めてもらえるかな」
「ちょっかいだなんてそんな」
「返事はイエスや」

 そしてクロノとはやてが手を組むと、なかなかどうして厄介なようである。

「まぁそれはともかく。勉強は順調?」
「あ、うん。もらった参考書、最後まで終わらせたんだ」
「早っ」
「地球にハラオウン家の拠点が早々に出来そうですなぁ」
「あ、そうそう。そっちの『こたつ』が欲しいんだけど、あれ何処に売ってるの?」
「ん? 家具店に普通に売っとるよー」

 こたつの魅力に気付いたらしいアルフである。

「ザフィーラと並んで寝てると赤青できっと綺麗だよね」
「否定はしないけど……」
「お前が言うと何か裏があるように聞こえるな」

 裏も何もなかった発言なのに、ザフィーラがなにやら失礼でならない。

「何も裏はない。というか、ザフィーラが白くなったら紅白そろう件。ブリーチしようぜ」
「漂白……だと……?」
「じゃあアルフ。アルフとアルビノって語感も似てるし……すごい! 大神様と性別合うじゃん!」
「何の話だよっ!」

 ネタが分からないが、とりあえず抗議することにしたらしいアルフだった。

「あっ、アルフを染めちゃだめだよっ」
「染める違う。漂白して洗うだけ。服だってほら、洗濯するでしょ」
「え……? そ、そうなんだ。じゃあ……」
「フェイトっ!? お、お前っ、フェイトをたぶらかすなっ!」

 フェイトははやてと違って遊びやすいなぁ。

「海鳴で会うのが楽しみだ。またこっちに来るかもしれないけど」
「あ……ありがとう。私、頑張るからっ」
「ところで、あのなのはからの封筒。ぽこってしてたけど、手紙のほかに何か」
「お守りが入ってたんだ。三人で買ってきてくれて」
「交通安全?」
「が、学業成就だよ!」

 ゆっくり話してました。



(続く)

############

遊びやすいフェイト。
この子はオリーシュと二人にしちゃ駄目だな。



[10409] その146
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b9a8cd2c
Date: 2009/11/26 21:45
 お仕事の翌日目覚めてみると、口内炎ができていた。食べ物を食べると非常に痛い。

「あー、もう穴になっとる。痛そうやな」
「食ったものが当たって痛いです」
「野菜食べへんとなりやすいって聞いたけどなー。とりあえず、軟膏塗って経過待ちやな」

 唇をめくって見せてみた。ほっぺの内側にできているらしい。

「噛み切りたい」
「いやいやいやいや」

 あんまりにも痛いので患部を直接取ってしまいたいのだが、はやてに止められてしまう。

「夕食は食べやすいものがええかもなぁ。何にする?」
「ポッキー」
「野菜を食べなさい」
「じゃあプリッツサラダ味で」
「それサラダちゃう」

 しかも塩味は痛いところにしみると気が付いて、おとなしく撤回した。

「今思ったんやけど、野菜サラダにプリッツ砕いて入れたら美味しい気がする」
「アリな気がする。それでよくね?」
「ならそれと、辛くないものでえーか。焼き魚に、茶碗蒸しとか」
「プリンと申したか」
「茶碗蒸し」

 空耳にもほどがあったようだ。

「8人3匹分かぁ。お魚は大きめのにして、皆でつまむのがええかも」
「8人って……あ、あれ? もしかして、わたしが食べてくのも前提になってない?」

 こたつの対面で、なのはが何やら困惑したような声を上げた。

「えー。なのはちゃん、食べてかんの?」
「え、あ、じゃあ、お母さんにメールしないと……」
「もう了解取っといたけど」
「私より早いってどうなんだろう」

 遊びに来ていたなのはである。口にはしないけど、玄関のチャイムが鳴った時には既に許可をも
らった後だった。
 ちなみに桃子さんアドレスは、シャマル先生経由で入手済み。お店の新メニューとかの情報もも
らえたりするので、メールの受信回数もそこそこあったりする。今度は高町家に泊まりに来てねと
も言われてるし。

「8人って大変だよね……はやてちゃん、わたしもお手伝いするっ!」
「お。ありがとなー、ホンマ助かるわぁ」
「うんっ……えへへ」

 はやてに頭をぽんぽんされて、まるでただの子供のようにニコニコ上機嫌ななのは。

「なにこの茶番」

 正直に言っただけなのに、二人から口の中にみかん突っ込まれて沈黙を強要された。とりあえず
なのはにこのあと、プリッツをひたすらポキポキ折る作業を押し付けようと決意した。一本ずつ。





「それで、それで? フェイトちゃん、何て言ってた?」
「言葉少なに喜びを表現していたと思われる。感動しているように見えた」

 そもそもどうしてなのはが来ているかと言うと、つまり手紙とお守りを受け取ったフェイトの様
子が知りたいとのことだった。ご飯を食べ終わってから、今さらだけどつらつら話す。

「わたしたちも、お守りとか持っていけばよかったかもしれへんなぁ」
「じゃあ俺が次回、アルフを超かっこよく描いた絵馬を持っていってやろう」
「けーとくん、もうそれでご飯食べていけるよ……」

 しかし絵師の世界は厳しいので、飯を食うには売れるものを描かなければならないという現実。

「……アニメ内で同人誌製作って新しくね?」
「この作品における登場人物および団体、施設名は実話を元にした実話です」

 売れるもの思いついた。しかしはやては理解したようだが、なのはが首を傾げたのでアニメ世界
うんたらの話は止めておこう。まぁ別になのはなら話しちゃってもいいんだけど。

「それはさておき。ありがとう、また遊びに行くから、ってゆーとったよ」
「そっか……早く会いたいなぁ」
「行けばいいじゃん。喜ぶでしょうに」
「けーとくん、私たち、もうすぐ学校あるんだよ?」
「………………………あっ」

 今気がついた。
 すっかり忘れてた。

「し、仕方ない。月3月4の授業を切って金4と金5に」
「こら」

 衝撃のあまり、自分を見失うことしばし。

「もう明後日とは。宿題終わらせてあって良かったでござる」
「もう冬休みも終わりなんか。この分やと、学校参加は春以降になってまうなぁ」
「あ、そっか……はやてちゃん、足の具合って、治るにはまだかかるの?」
「順調にいけば、今月中にリハビリに入れるって言われとるよ」

 学校生活に向けて、ただいま着々と準備中。

「あ。じゃあ、私はこのくらいで……」
「えー。なのはちゃん、帰ってまうの?」
「さっき桃子さんに許可は得ましたが」
「は、早すぎるよっ!」

 結局泊まっていくことになりました。



(続く)

############

なのはの泊まらせ方。
この三人とヴィータは書きやすい筆頭です。



[10409] その147
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:74c43ade
Date: 2009/11/30 22:46
 学校が始まって時も過ぎ、そろそろフェイトの試験の日が近くなってきた。

「問題ないレベルに達してるから心配いらないけど。試験は一発勝負だから、それさえ意識すれば」
「お前にしては実感のこもった言葉じゃないか」
「大学の本試験で危うく解答欄間違えそうになったことがありまして」

 よく合格したな、と言われた。感心してるのやら呆れてるのやら。

「うまくいくといいですねっ!」
「そういや今日は、なのはの家に泊まってるんだって?」

 試験前はリラックスが大事! ということで、現在なのはの家に滞在中なフェイトさん。
 メールが届くのを読むと、アリサやすずかも集まって、軽く激励会なんかをしているらしい。俺
やはやては行けなかったけど。

「いたたたたた」
「死にそうなはやてがいる。何か飲む?」
「お願い。あーあ、私も行きたかったのに!」
「仕方ないでござる。次会う時は行けるといいね」

 主にはやてのリハビリと、その付き添いのため病院に行っていたのである。ようやく始まったは
いいのだが、これがなかなか単調かつキツいのですっごい疲れるそうだ。フェイトの件はメールで
の応援で我慢することにして、今はこちらはこちらで奮闘中。

「そっか。もう2月かぁ」
「春休みが待ち遠しいけど、この分だとあっという間に来てしまいそうです」

 というわけで、一月たっても変わらない八神家です。
 たまにクロノからお仕事が舞い込む以外は変わったこともなく、基本的にのんびり生活してます。
それでも時間って流れていくんだなぁと最近思ったりしなくもない。

「つーか聖祥って、中学から男女別なんだな。共学だと思ってたけど」

 ふと、ヴィータが思い出したように口にした。そうなんだよねという話になる。

「……途中で女子校になる、って思ってた」
「それだと男の子たちが追い出されちゃいますよ」
「それなら、男子が全員爆発するとかすれば解決」
「新手のスタンド使いだろそれ」
「海鳴で恐怖の連続殺人と申したか」

 しかしそれだと海鳴でトニオさんに会える気がするので、喜んでいいのかよくないのか。

「……ん? そういや数の子の中に、そんな人がいたような」

 そんな時、爆弾使いと聞いてふと頭をよぎるキャラクターがいて、とりあえず口に出してみる。

「キラークイーンの顔した敵が出てくるってことか?」
「意味が違う」
「怖すぎるぞ」

 さすがの俺もそれはドン引きする、というかそんなのがいたら記憶にはっきりとどめてるんじゃ
ないかと思う。

「そいつの名前は?」
「えっと……あれ。ちょっと前、話に出なかったっけ」
「そうやったっけ。思い出せんけど」
「三文字で、真ん中に『ン』の文字が入ってた気がする」

 もうなんか全然思い出せなくなってきた。また観なおしたいとは思っているんだが、あたりまえ
だけどこっちには置いてないし。

「それで爆弾を使うのか」
「頭文字とラストが思い出せん。以前は覚えてたんだけど」
「ああ。それって」
「リンクとちゃう?」

 ヴィータとはやてから結論出た。

「ああそう! そんな感じ! 語感がそれだった!」
「なんでスマブラキャラが出て来てんだよ……」
「あれじゃね。スカさんが使い手だったりとか」
「ちょっとスカ山の印象が良くなってしもーたわ」

 主に俺の言動によってどん底まで行っていたスカさんの評価でしたが、微妙に改善の傾向がみら
れるようだった。

「この調子でピカチュウとかカービィとか作ってくれるんじゃなかろうか」
「な……ほ、本当か?」
「いや、あの人面白いことが好きそうだし。どうしたのそんな急に」
「なっ、何でもないっ! 余計なお世話だっ!」

 なぜかシグナムは顕著みたいだった。





 魔法の勉強を入門編からかじっていたはやてだが、いつの間にかメラを覚えていたらしい。

「今のはメラゾーマではない……メラや」
「ふーっ」
「あっ! こ、こらそこ! 息吹き掛けんなぁ!」

 立てた指先に小さな火をともしたはやてが、大魔王を詐称しはじめた。身の程を思い知らせるた
めに、よこからふーふー息を吹きかけて消し飛ばしにかかる。

「オリーシュは バギをとなえた!」
「それただの息……あーあ、消えてしもた。せっかく点けたのに何するんよ」
「こんな若いバーン様が居てたまるかと思って」
「本編中でも若返っとったやん」

 確かにその通りだけどじいちゃんの方が好きだ。奇遇やな私も大好きや。という会話から、見解
の一致がうかがえる。

「ところで何でメラ? リイン的な意味では、ギラやイオの方が早そうなのに」
「メラがいちばん楽なん。今デバイスなしやから、カンタンなのにしよ思て」
「じゃあ後はヒャドか」
「間違っても対人戦で使えへん呪文を考えとるやろ」
「なら指先ぜんぶに火の玉を」
「寿命が縮む件」

 それはいやだなぁ。

「しかし見てみたい。リインはできる?」
「……練習してみる」

 話しかけると、うなずいてみせるリインだった。しかしこの子の場合はコントロールして火の玉
 5個作るより、大量に魔力注ぎ込んでベギラゴン使った方が強いような気がしなくもない。

「そういえば、そういう小回りの利く魔法の使い手っていないよね。なのははあんなだし」
「せやな。リイン2号には、そこを担当してもらお!」
「はやてのデバイス作るのが先じゃね。その時は是非俺のコアをどこかに」
「『靴紐がすぐほどける呪い』にかかりそうだから却下や」
「……『タンスに小指をぶつけやすくなる呪い』にかかりそう」

 こんな感じに、ネタで呪いのアイテム扱いされるオリーシュコアである。あと思いの外リインの
発想がとてもえげつないです。

「ああ、そういえば。オリーシュコアで不思議な現象が」
「ん? どーしたん?」
「いやさ、この間クロノから連絡が来たんだけど。オリーシュコア盗もうとした人がいたらしくて」

 そうなん!? と驚くはやて。リインも興味あるみたいで、しきりに続きを促してきた。

「『一日中くしゃみが出そうで出ない』って泣きついてきたのを逮捕したらしい。これって呪い?」
「呪いすぎるわ」

 戦慄走るはやてたちだった。



(続く)

############

ちょっと作中の時間の流れが早くなるかもしれません。
ぽつぽつ番外では出てますが、そろそろリイン2の出番を用意したいところですね。



[10409] その148
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a5474f17
Date: 2009/12/03 12:55
「今回の一件で、君のコアの使い方を思い付いたよ」

 コア窃盗事件の詳細を口頭と書面で教えてくれたクロノは、謝罪を述べた後でそう口にした。

「事件の容疑者に持たせておけば、簡単に白黒の判定がつく」
「ただの嘘発見器ですか」

 期待して耳を傾けていたのに、案外しょぼい使い方だったのでがっくりする。

「実際大変なんだ。今回の件で、加工を検証する研究者が相次いでリタイアしてしまって」
「なるほど……とにかくお疲れ。なんかその、悪い。知らんところで苦労かけて」
「あ、いや、そんなつもりじゃ。研究したいと言ったのはこちらなんだ」

 こんなときこそスーパードクターSの出番を期待したいのだが。などと密かに考えつつ、かりか
りかりとペンを動かす。

「明日か……」
「明日ですなぁ」
「あの、3枚目……採点、どうだった?」

 何に書き込んでいるかというと、フェイトの解いた問題の答え合わせである。試験を翌日に控え
て、苦手意識のある国語を最後に確認することになったのだ。ちょうどコア窃盗事件の顛末も伝え
たいとクロノが言うので、今回は単独でクロノたちを訪問した次第。

「……おー。いいんじゃなかろうか」
「ほっ、ほんとう?」
「イケるイケる。算数できるから、国語はここまで解ければ上々。漢字よく頑張ったね」
「日本語は複雑みたいだからな。仮名が二つに漢字もあるのか」
「ただ、言葉づかいに違和感がある。難しい言葉もいいけど、迷ったら簡単な方でいいかも」
「あ、うん。わかった、気をつけるっ」

 しかし大まかに見て、心配は要らなさそうである。算数がえらいできる子ということもあって、
多少のミスは全部カバーできると思うし。

「あの……今日まで、ありがとう」
「今日までお疲れ。本番はとにかくリラックスして……何ぞ?」

 アドバイスをしてあげていると、クロノが不審物を見る目で俺を見るのに気付いた。

「君にしては大人しいと思って」
「最初からクライマックスで行くと、赤いわんこに後でかじられる可能性があるので」
「あ、アルフはそんなことしないよっ」

 自分の使い魔を信用しきっているフェイトだった。

「かじらないよ。お前不味そうだし」
「たしかに煮ても焼いても不味そうだ」

 しかしアルフもクロノも失礼でならない。

「フェイトはこうなっちゃいかんでござるよ」
「フェイト、こいつには気を付けなよ。ザフィーラから、色々聞いてるんだから」
「美談?」
「悪名だっ!」

 俺の名は悪い意味で知れ渡っているようだった。

「俺の名を言ってみろ」
「オリーシュでしょ」
「もう一度だけチャンスをやろう!」
「えっ……オリーシュじゃないの?」
「俺は嘘が大っ嫌ぇなんだ!」
「自己矛盾してるぞ」

 クロノに看破され、アルフに紛らわしいこと言うんじゃないと怒られた。微妙に屈辱だったけど、
笑ってるフェイトがリラックスしてるみたいなので良しとしよう。




 そして翌日の夕方、クロノとアルフの失礼な言動の腹いせに、なのはの髪を両手でつかんで思う
存分ぐしぐしする。

「きっ、昨日のはなしなんでしょお!?」
「というのはもうほとんど口実に過ぎず、たまにはイメチェンさせてみたかったぐしぐしぐし」
「や、やーっ! フェイトちゃん、はやてちゃあん!」

 試験が終わって高町家に泊まりがけで遊びに来ていたフェイトと、隣で傍観を決め込むはやてに
助けを求めるなのはだった。しかしそのフェイトは、どうしていいものかと手をこまねくばかり。
はやては最初から手出しするつもりもないみたいだし。

「うぅー……ぐしゃぐしゃだよぉ……」
「後のメドーサボールである。似合ってるね」
「にょろにょろ蛇さんだよ……なおしてくる」
「あかん! 鏡見てしもーたら、なのはちゃんが石像に」
「ならないよう!」

 はやてに一喝してから、なのはは髪をとかしになのは部屋から出る。

「似合ってたのに」
「フェイトちゃんもする?」
「いっ、いいよっ、大丈夫っ」

 フェイトは遠慮がちな性格のようだ。

「フェイトちゃんをいじめちゃ駄目ーっ!」

 そしてすごい早さで戻ってきたなのはだが、状況を掴み損ねていると言わざるを得ない。

「俺にいじめられるのが楽しいドMのくせに」
「な、なのは……そうなの?」

 フェイトに事実を教えてあげただけなのに、なのはは何故か真っ赤っ赤になって、ぶったたく用
の枕持って追いかけ回してきた。理由がよくわからない。

「ご覧の通り、いじめて喜ぶドSでした」
「な、なのは……そうだったんだ……」

 フェイトはどこか納得したようになった。なのはははやてに泣きついた。

「というように、学校入ったらこんな、楽しい生活が待ってます。お楽しみにね」
「楽しくないよ! ぜんっぜん楽しくないよ!」

 なのはは机をばしばし叩いて訴えた。

「試験お疲れさま。出来もよかったようで安心です」
「フェイトちゃん、お疲れ! 今日は夜中まで遊ぼうな!」
「あ、遊ぶだけ遊んだくせに、用が済んだら無視するの禁止!」

 やたらうるさいなのはだった。

「……」
「フェイトちゃん、楽しいの?」
「はやて……うん、楽しい!」

 フェイトが楽しそうに微笑んでいるのに、隣のはやてだけが気付いていた。



(続く)

############

昼間の更新はお昼のおやつ感覚でお楽しみください。
夜は夜食な感じで。

Q.ツインテのままぐしぐしできるの?
A.ちゃんとほどいてあります。

なんとまぁなのはの書きやすいこと。このキャラに頼りすぎちゃ駄目だな。
でもStS編ではスバルと二人並べて遊んでみたいです。二人ともなんかわんこっぽいので。



[10409] その149
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:c93eaa1b
Date: 2009/12/05 11:26
 はやてと一緒に訪れた高町家でフェイトやなのはと遊んでいるうちに、夜がきた。当初の予定通
り夕食をいただいてから、このまま泊まることになる。

「男が一人しか居らず、虎の巣に放り込まれたウサギの心境。何処で寝ましょう」
「あら、なのはたちと一緒は嫌かしら?」

 という感じに桃子さんが言うこともあり、なのは部屋に布団を敷かせてもらうことに相成った。
これからいったい何度宿泊することになるかも分からないなのは部屋。これが記念すべき一回目。

「こんな女だらけの部屋にいられるか! 俺は廊下で寝る!」
「け、けーとくんが、けーとくんが! 様子を見に来たはやてちゃんに死体で発見されちゃう!」
「なんで私なんよ」
「えっ? えっと、なんとなく……」

 特に根拠もなかったらしい。とりあえず布団を敷いて、寝床の準備をすることにした。もう既に
風呂は済ませてあるので、あとは寝るまで遊び倒すだけ。

「こちらの布団様もなかなか……んんう、ぷはーっ」

 自宅の布団と甲乙つけがたいらしく、昼のあいだたっぷりとお日様を浴びた布団をさっそく満喫
するはやて。ふかふかの掛け布団を抱き込んで、胸いっぱいにお日様の匂いを吸い込んでは、ほに
ゃんとゆるゆるな顔になって和んでいる。

「あらかじめ泊まりたいと言っておいてよかった。布団はやはり干したものに限る」
「んむー」
「話聞けよ」
「きかーん」

 情けないが布団様に骨抜きにされてしまい、はやては行動不能のようだった。

「なのは」
「えへへ。あったかぁい……」
「フェイト」
「わぁ……もう、起きられないかも……」

 なのはもフェイトも同様らしかった。あっという間に布団様ハーレムが形成されているではない
か。八神家の布団といい高町家の布団といい、布団様は手を出すのが早いようだ。

「仕方がないので、一人スマブラで鬱憤を晴らす俺だった」
「あっ。けーとくん、私も! 私もやる!」

 弱っちいの来た。

「やるって何を? リアルスマブラ?」
「高町家終了のお知らせやな」
「な、なのはのお家が壊れちゃう……!」
「じゃあリアルスト2という代替案」
「乱闘から離れようよ……」

 確かに高町家が物理的に粉砕した場合、翌朝なのはがみかん箱のなかで鳴いていたりするかもし
れない。対処に困るので取り下げよう。

「フェイトがスマブラやらスト2を知っているのが意外でした」
「えっ……だって、お昼はずっと見てたから」
「なるほど」

 とか話しつつ、適当にゲームを選んでプレイ開始。

「ジョインジョインザンギィ」
「ウィーンザンギィ」

 しばらくスマブラをやってから、普通にスト2アニバーサリーエディションを楽しむ。相手は堪
える気のない待ちガイルやリュウを使うなのは、堅いのだが必殺技に頼るはやて、あと基本ノーガ
ードのフェイト(初心者練習中)。敵ではない。

「……オリーシュは右手使うの禁止やな」

 連勝に連勝を重ねて「答 コロンビア」をやってるやる夫AAみたいな雰囲気を醸し出している
と、はやての口からとてつもない指示が飛び出した。直訳すると、「死ね」と言っているのに違い
ない気がする。

「しかし片手ではなく親指を禁止と言うのなら、取り敢えず8割は勝つ用意がある」
「ほっほー。ゆーたな?」
「嘘ではない。取りあえず、はやてのリュウあたりになら」
「はっ、はやてちゃん、思い知らせてあげようよっ!」
「はやて、やろう。勝てるよっ」

 常日頃からヴィータに色々と物理的な縛りプレイを要求されていることも知らず、意気揚々と挑
みかかってくるはやてたちだった。

「答え コロンビア」
「そのAA、前ネットで見たよぉ……」

 全員まとめて美味しくいただきました。





 遊んでいるうちに、はやてとなのはがうとうとしはじめる。画面を見る目がとろんとしてきて、
なのはなんかはもうかっくんかっくん船をこぎはじめる。

「フェイトは比較的平然としてますが」
「うん。最近、遅かったから」
「なるほど。なのは、寝るか?」
「寝なーいよぉー……」

 眠たいのは目に見えてるのに、なかなか認めないなのは。めんどくせぇ。

「だってぇ……けーとくん、どっか行っちゃうでしょぉ……?」
「わけわからん。こいつどうしよう」
「なのは、こっちにお布団あるよ?」
「んー……やぁ……」

 フェイトと協力してあやしてみるも、画面前から動こうともしない。そのくせもはや目は開いて
おらず、コントローラを強く握ったまま。タチが悪い。

「……ぷふー……むぷー」
「あ……はやて、寝ちゃった」
「どうでもいいが、この人のこれは寝息なのだろうか」

 枕に顔をうずめているため、はやての寝息が何やら変なことになっていた。

「んー……まだ寝ないぃ……」
「ハイパーめんどくせえ!」
「めんどくさくないよう……めんどいいにおいだよ……」

 そして言動が意味不明である。

「なのは、なのは。フェイトいるぞ。フェイトが隣でカモンカモンして待ってるぞ」
「えっ」

 もう本当に面倒なので、生け贄を用意することにした。

「……フェイトちゃぁーん」
「ひゃっ」

 なのはがフェイトに飛び付いた。ふふふ、いと容易し。

「じゃあおやすみ」
「ちょ、ちょっと! ひ、一人だけ寝ないで!」
「実は、『1時までに寝ないと眉毛がブライアン・ホークになる病』にかかってるんだ」
「本当!?」
「嘘だ」
「嘘なの!?」
「おやすみ」

 ひとり布団をかぶる俺だった。

「まっ、待って、まっ……」
「……あぐあぐあぐ」
「きゃっ……な、なのは! それわたしの腕だよ、食べられないよ!?」

 おやすみなさい。



(続く)

############

ねぼけたなのはが おそいかかってきた!

あれ、恭也と話をさせるつもりが……
宿泊させてみたら混沌としてしまった。

答 コロンビア AA [検索▽]



[10409] その150
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:576be8f4
Date: 2009/12/08 19:38
 俺のコアの加工を検討する人が撤退というか激減してしまったため、一部が返ってきた。
 もともと家にも残ってたけど、ちょうどいい機会である。ここは八神家でも、こいつを使って実
験やら考察やらをしてみようと思う。

「リイン的にはどう? 何かに使えるかわかる?」

 とはいうものの全く未知の材料なので、唯一体内に持っていたことがあるリインに聞いてみる。
いま案が出てくるとしたらここだ。むかしは体の一部だったらしいし、分かることは少なくともヴ
ォルケンズより多いはず。

「カートリッジとか」
「おー、なるほど。魔力吸うなら、確かにいいかも」
「……それより。クロノたち、指輪を」
「あ。一時期はめて使ったこともあるけど、大丈夫だったって。やっぱプレゼントしたからかな」

 これは本当に助かったというか、よかった。プレゼントしたものが呪いのアイテムだったら、さ
すがの俺も全力で土下座するしかない。別になのはあたりが「みかんの汁が目に入りやすくなる症
候群」にかかっても面白いだけだが、クロノが行く先々でタンスの角に足の小指をぶつけていたらと
想像すると、これは申し訳ないどころではすまされない。
 それにしても意味不明な俺のコア。なのはたちには一応「使わないで」と言ってあるが、このま
まではその制限も解除できん。そのうち危険物として、ロストロギアの仲間入りを果たしてしまっ
たらどうしよう。

「後のレリックならぬ、オリックである」

 勝手に命名してみたのだが、リインには伝わらず首を傾げていた。レリック云々は話してなかっ
たかもしれないし、もう忘れているのやも。

「ボルビックに聞こえた」

 惜しいけど微妙に間違っている。

「そういや喉乾いたね」
「うん」

 でもって水を連想して、欲しくなってきた。話を一時中断し、二人揃って台所に足を運ぶことに
する。

「とぉ」

 その途中、はやてが背後から襲撃してきた。腰のあたりに衝撃を受ける。

「どこ行くんどこ行くん」
「はやてがチープトリックになって俺を襲う。背中を見られたら皮が剥げる、かも」
「もうリインに背中見られとる件。なーなー、どこ行くん」
「振り返ってはいけない場所」
「連れてかれてしまい」

 しかしちゃんと冷蔵庫と答えたのに離れないので、そのままずるずると引きずって運んでいく。
どこか羨ましそうに俺を見ていたリインにはコップを取りに行かせ、作っておいたお茶を冷蔵庫か
ら取り出す。

「はやて……」
「ん? んー……、ん!」

 はやてがソファに座ったリインの膝の上でぬいぐるみみたくむぎゅーされているのを横目に、コ
ップに茶を注ぐ。

「なーなー、リイン。さっき何話しとったん?」
「返された、コアの話。加工できないかな、って」
「ついさっきオリックと名付けました」
「んー、加工なぁ」

 聞いちゃいねぇ。

「パニックがどうしたって?」
「確かに向こうお前のコアで相当なパニックになったそうだが」

 他の騎士たちもわらわらと集まってきたが、なにやら間違って伝わっている。

「ではなく、オリックと。将来危険物認定されるかもしれぬ、数々の魔術を秘めた素材であり」
「トリック?」
「マジック?」
「ミスターマリック?」

 上からザフィーラ、シャマル先生、でもってヴィータ。わざとやっているには違いないのだが、
よくもここまでマジック用語を揃えられたものだ。あとミスターマリック懐かしいな。

「冗談はともかく、いろいろ試してみたらどうだ? シンプルに冷やしたり、温めたりとか」
「雪で冷やしてみたけど、雪の方がすぐ融けた。リインが魔力流したからかな」
「ほう。炎の適性があるのか?」
「いや。お湯に突っ込んだら、すぐ常温にもどっちった」
「何のマジックですかそれ……」
「もうトリックに改名しろよ本当」

 せっかくの命名をキャンセルされそうで、どうしようかと思案に暮れる。

「しかしリインはこれが体の中にあったわけだから、リインのデータからデバイスの試験機がやな」
「リイン2号のことでござるか」

 だが思わぬタイミングで、はやてから名案浮かんだ。おおお、とどよめくヴォルケンズ。

「きっかけはそれか……それでいいのか?」
「いいのだ。シグナムも妹できたらうれしいでしょうに」

 リインがこくこくと頷き、シグナムもまんざらではないようだった。

「家族が増えるよ!」
「やったねたえちゃん!」

 ぶっとい死亡フラグを立ててみる俺とはやてだったけど、当たり前だが何も起こらなかった。



(続く)



[10409] その151
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:1f083032
Date: 2009/12/11 19:11
「そこに三人の魔法少女がいるだろう」

 クロノに連れられて管理局の建物に入ると、そんなことを言われた。見てみるとそこには、たし
かになのは・フェイト・はやての姿が。

「約一名、阿呆少女が混じっているようですが」

 そう言ってさした指を、ぷんすか怒ったなのはにかじられた。フェイトが抑え、はやてが笑う。
歯形をつけられてから話を進める。

「で、何? 魔導士図鑑とか作るの? 各地のトレーナーから金品巻き上げるの?」
「図鑑は図鑑だが魔導士ではない。誰か一人を連れて、野生動物をだな」
「じゃあこの全員で勘弁してやろうか」
「話を聞いてくれ」
「ぬぬ。しかしこの場合、ポケモンというよりむしろ、ドラクエの方が近いんじゃ」
「話を聞いてくれ」

 大事なことのようなので、ちゃんと話を聞くことにする。

「ふむぅ。はやては育成に時間が……なのはとフェイトは、既にニビジムで死亡フラグだし」

 どれを取っても一長一短、良いところと悪いところがあって悩ましい。
 そうして思案に暮れた結果、ついに俺は、完璧なる選択肢を見出した!

「クロノでよくね?」
「話を聞いてくれ」

 最初にもどる。





 という夢を見た。

「見所は回を重ねるごとにげんなりしていくクロノでした」
「なのはちゃんがあくタイプの技を習得している件について」

 べつに現実でも良かったのになぁと思いながら、ゲームボーイをぴこぴこいじる。
 もちろん中身はポケモンである。この冬でだいたいやりきった感はあるのだが、その完璧なデー
タどうしで対戦したいとはやてが言うのだ。やり尽くしていないシャマル先生やヴィータをギャラ
リーに、技や入れ替えの駆け引きや運ゲー具合(命中率的な意味で)を楽しむ。

「負けた。まさかあのタイミングで、だいもんじが外れるとは」
「ふっふー。ほな、今日のお好み焼き、お願いな!」

 実は夕食当番決めも兼ねていたりする。

「じゃあだいもんじ焼き作る」
「焼け目が大の字になるのか」
「しかしザフィーラだけ、点を加えて犬の文字に焼くことにしよう」
「できるのか」
「器用だな」

 シグナムに加え、ザフィーラ本人からも感心された。本当にやってみようかと思いはじめる。焼
き目でつくるのは難しい気がするので、生地にのせる海苔の配置で文字を書こうと思う。

「ところで垂らして広がった生地と、はぐりんたちのシルエットがすっごい似とる件」
「銀色のお好み焼きと申したか」
「んー、さすがにそれはなぁ……金のチャーハンなら食べるんやけど」

 それは漫画クラスのハイパー料理人に頼まないと厳しいかもしれない。

「あなたが落としたのは金のチャーハン? それとも銀のチャーハン?」
「金のチャーハン」
「嘘つきなあなたには全部ぶっかけまそぉい!」
「普通のチャーハン」
「正直なあなたには全部あげまっそぉい!」
「言うと思った」
「ただ投げつけたいだけだろそれ」

 などとアホらしい会話をしていると、次はおやつ決定権をかけてシャマル先生とヴィータが対戦
をはじめていた。

「……ん? 何でしょうか」

 それを横から見物していると、後ろからリインがやってきていた。

「……わ、私も」
「ああそうだ。『自分もやりたい』って、本の中から言ってたよね」
「本の? ……ああ、決戦前のことか。そうやったんか……なら、確かこのへんにカセットが」
「勝った! ……お。リインもはじめるのか?」
「う、うん。だから教えて、ヴィータも、シャマルも……お願い」

 シャマル先生とヴィータの勝負もついたらしいので、初心者様一名にポケモン講義を始める。

「最初に選ぶのはヒトカゲ以外がいいですよ。はじめのジムで詰まっちゃいますから……」
「その発言はリザードン使いのあたしに対する挑戦とみた」
「あとこのゲームの目的は、あくまでポケモン図鑑を完成させることだということを忘れないでください」
「強いポケモン作ることやと思っとったけど」
「オープニングイベント百回見直してきなさい」

 などと、ポケモンの知識についていろいろと語る。 

「ああ。それ、主人公の名前」
「あ……私の名前、でも……」
「ええと思うけど……ん? リイン、何嬉しそうにしとるん?」
「な、なんでもないっ」

 はやてだけは微妙に気付かなかったようだけど、自分の名前を入れられるのが嬉しかったんだと
思う。その後も楽しそうにプレイするリインの周りで、一つの画面に視線を集めて見守ってました。

「ライバルはレッドさんなので、ここは改名して『あかさん』にすることを推奨」
「その赤さんから毎回毎回お金を巻き上げる主人公の方が外道やろ」
「シャマル、この『なきごえ』って……」
「相手の攻撃力が下がります。最初に使っておくといいですよっ」
「あっ。きずぐすりない!」
「ちょっ……アカン。あと二回ひっかかれてしもーたら……おおおおおおお! 神回避きた!」

 プレイしてる本人も真剣かつ楽しそうだったが、それ以上に熱くなる俺たちだった。



(続く)

############

151回目だったので。
夢の中でも損な役回りなクロノ。そして人の指をかじるなのは。
そして自分の名前を入れられるのが嬉しくてしょうがないリインでした。



[10409] その152
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/12/14 00:04
「ということで、ユニゾンデバイスを作りたいのですが」

 リイン2号についての案が漠然と出はじめたので、そんな感じにクロノに相談してみる。

「それはいいが、さっきから愛してる愛してるうるさいこの歌は何なんだ」
「リインフォース2号のテーマ予定。合体の時に毎回流す予定でして」

 バレンタインデーということもあり、アクエリオンの主題歌を流していたのだが、クロノの気に
は召さなかったらしい。

「リインフォースとはやてのデータを採取、それを君のコアで補うのか」
「どう? どう? いい案でしょ?」
「いやそれはいいのだが、その……誕生した子の人格が……」
「失礼なやつだな」
「君にだけは言われたくない」

 最近のクロノは如実に遠慮がないような気がします。と思いながら、コーヒーを口に含む俺だっ
た。

「わかった、掛け合ってみるよ。データの提供を求められるかもしれないが」
「ふふふ……私らをデータで測れると思うでないわ……!」
「はやてが厨二病を発症した。投与投与! 薬を投与!」

 クラウザーさん乙とヴィータに言われつつ、はやての口の中に次々とポッキーを押し込んでおい
た。ぽきぽき音を立てて食べていく。

「んー、んまいわぁ。手作りとは思えん!」
「バレンタイン大統領チョコとどっちか迷った。フェイトの合格祝いを兼ねるので自重したけど」
「なんか分裂しそうやなそれ」
「あとホワイトデーにしようとも思ったが、それだと大統領の……大統力? が薄れる気がして」
「メタルウルフと申したか……スタンド持った上にあのアーマー着込んだら最強じゃね?」

 という訳で、フェイトは合格しました。
 ただいま翠屋で合格おめでとうパーティー中で、ちょうどバレンタインが重なったのでハイパー
チョコレートタイムの真っ最中なのです。ハラオウン一家はもちろんのことアリサもすずかも来て
くれて、今はあっちでフェイトと喜びを分かち合ってます。
 お菓子業界の謀略に全力で釣られてみた俺も、自作のポッキー片手にいろんなテーブルを練り歩
く次第。

「ねぇねぇ、けーとくん! ほら、ガトーショコラ焼けたよ!」
「なのはがケーキの生地を自力で練り上げた、だと……?」
「練習したんだもん。ほら食べて、食べてみっ……ああっ! ひ、一口でぜんぶ食べたよこの人!?」
「ちゃんと味わってるから大丈夫だ」
「それならいいけど……あの、チョコレートのケーキは久し振りで。味、どうかな?」
「チョコレート味だと存じます」
「そっ、それは当然だと存じます!」

 なのはのケーキをそんな感じに食ったり、翠屋特製のカフェモカに舌鼓を打ったり、主賓の挨拶
に手こずるフェイトを観察したりしてしばし。

「あ、あのっ」

 フェイトがなんかこっち来た。

「あの……あ、ありがとうっ!」

 そうお礼を言って、ぺこりと頭を下げる。

「…………」
「わっ……ど、どうして頭を押すの?」
「どうしてかは知らんが、つむじを押してみたくなったんだ」
「そ、そうなんだ……楽しいの?」
「楽しい。この後、フェイトがお腹痛いよーと言ってクロノに泣きつくところを想像すると」
「えっ……わ、わたし、お腹痛くなるの? どうして?」
「そういうツボを押しているのです」

 どこからともなく、俺の自作ポッキーがクナイみたいにものすごい勢いで飛んできた。クロノか
らの投擲だ。とりあえず刺さったりすると痛そうなので、全部口で受け止めて食す。

「……今、口の動きが目で追えなかったぞ」

 クロノが妖怪を見るような眼で俺を見ていた。

「しかし、本当にお腹が痛くなるのかは疑問である」
「分からないでやっていたのか」
「半ば都市伝説と化しているような気がしなくもない。実際どうなんだろうね」
「じゃあお前で実験してやるよ」

 アルフが背後からつむじを思いっきりぎゅうぎゅう押してきた。別に平気だと思うけどあんまり
気分のいいものではないので、頼み込んでやめてもらう。

「まぁとにかく、おめでと。学校はじまったら、いつでも遊びに来て下せぇ」
「うん。また、みんなで遊ぼうっ」

 フェイトは嬉しそうにはにかんだ。

「そのときは是非、ハラオウン家に泊まりたいものです。そういえばリンディさんは?」
「ああ、エイミィと一緒にいるよ」

 と思ったら、そのリンディさんがやって来てこちらを見ている!

「あ、あの、あのね? クロノ……」
「艦長、今日はもう終わりだって言ったはずです。タンポポでも食べててください」

 禁止令がかかって、冗談じゃなく涙目で物欲しそうにしているリンディさん。
 そして何気に発想が俺と同じなクロノ。

「クーロノくんっ、チョコちょうだい!」
「何か勘違いしてやしないか」

 あとエイミィさんは、そんな感じでノリノリでした。





 そして、一カ月後。

「そこには、見事に完成したリインフォース2の姿が!」
「あなたと……合体したい……!」

 とりあえずアクエリオンの主題歌を流しながら、リイン2号とお留守番をする俺だった。

「リイン、この曲大好きです! テンション上がりますし!」
「テンションあがってきた」
「け、けーとさんの首が3つくらいに……ああっ、これ作り物じゃないですか! 一本取られました!」
「そう言いながら、首を一本引き抜くリインだった」
「そういう意味ではなく、まいった降参の意味ですよ?」
「知ってるよ」
「そうですか! 安心です!」

 この子とはとてもウマが合う。と思いながら、八神家のテーブルでコーヒーを口に含む俺だった。

(続く)

############

リインフォース2号と申します。お姉ちゃんっ子です。いつも笑顔の子です。どうぞよろしくお願いします。
時間がちょっと飛びましたが、これからももしかしたらこういうことがあるかもしれんです。
リイン2の出番がえっらい早い気もしますが、誕生エピソードはまた後日。
一話くらいはさんで、そろそろなのはのハイパー魔法暴露タイムをやろうかしら。



※ 感想掲示板よりコピペ
今まであんまり言いませんでしたがこの際ですので申し上げます。
感想掲示板では、感想と関係のない書き込みはご遠慮ください。削除規定に抵触します。
紐糸で使ったネタで盛り上がっていただけるのは作者自身嬉しいのですが
それだけに作品そのものの感想と認識しがたいコメントが散見される現在、
逆にこれが大変心苦しくもあります。
今にしてみれば後書きの内容がそれを助長していたかと思い、自分自身
反省する次第であります。
言い出すのを今の今までずるずる引きずっておいて言えたことではないかも
しれませんが、どうか「Send」ボタンを押す前にご確認をお願いします。
お願いします。



[10409] その153
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:78ad8cd3
Date: 2009/12/15 18:38
 見事に八神家のメンバーに加わったちっちゃなリインであるが、せっかくなのでリイン2号とい
うだけではなく、この子だけの名前を考えてはいかがだろうかという話が立ち上がる。

「ということなら第一候補『ステファ二ー』、第二候補『キャサリン』が頭にあるのですが」
「アメリカのホームドラマに出てきそうやな」
「そうそう。ステファ二ーよくね? 何か、響きが親しみやすいっていうか」
「呼ぶ度に笑い声が聞こえてきそうなんだけど。HAHAHAHAって」

 とりあえず却下された。せっかく考えてたのに残念である。

「というか、ご本人様はいいのだろうか。リインも」
「私は……この子が、いいのなら」
「んー、あんまり気にしません。でもでも、名前が二つあるとちょっと素敵かもしれません!」

 ちっちゃなリインはわくわくした感じで、期待の眼差しを向けて言う。となると、格好いい名前
をつけてやらねばならんという気分になってきた。呼ばれると嬉しいような、そういうしっかりし
たものがいいよなぁ。

「リインフォース・Y・ステファ二ー……!」
「全米のミドルネーム持ちに謝れ」
「安直過ぎるわ」

 はっと名案が浮かんだのだが、はやてたちに一蹴されて水泡と帰してしまいがっかりする。

「あたしは別にそれでもいーけど、それならお前も『トーマス』に改名な」
「面白そうだ。トムと呼んでやろう」

 後悔するほど嬉しくない。

「み、ミドルネームですか……ちょっと気に入りました! アルファベット、何がいいでしょう?」
「それを実行すると俺の名前がしゃべる機関車みたいになるので、ズバリやめた方がいいでしょう」
「えー……でもわたし、ジェリーよりトムの方が好きですし」
「ゼリーよりハムが何だって?」
「あっ、あっ。わたし、ゼリーの方が好きです。ということで取り消し、無効を宣言します!」

 リイン2は両手で大きくばってんを作った。かくして俺の精緻極まる話術により、トーマス襲名
は防がれた次第。

「審議中」
「ちょ」

 しかしそれを聞くと皆は、俺たちを除いてテーブルのまわりに輪になって、今の宣言の正否を検
討しはじめやがった。

「否決」
「けーとさんけーとさんっ、こんなのもらっちゃいました!」

 ややあってリイン2が呼ばれ、シグナム議長により宣告がなされた。「不当判決」と書かれた紙
を渡されて、屈託のない笑顔で戻ってくる。

「顔と手元が不一致すぎるわ」
「それはそうだろう。否決したのはお前の名前だけだからな」

 どうやらリイン2号の名前は据え置きで、俺の名前だけトムになってしまったようだ。

"Hi, Tom! What's wrong?"
"Tom, would you like any coffee?"
「やめて」

 横文字は嫌いじゃないのに、死にたくなるほど嬉しくないのはなんでだろう。

「そう遠慮するな。呼びやすい、いい名前じゃないか」
「じゃあザフィーラも改名してよ……一人だけ略称持ちとか嫌だわ」
「常日頃から私をザッフィーと呼ぶその口でそれを言うか」

 そういえばそうだった。

「やはり、責任の所在はリイン2だな。こうなったら道連れに、この子もステファ二ーに」
「おねえちゃーん、助けてください!」

 リインはそっと妹を抱き締め、戸惑いがちにかばう仕草をした。おねえちゃんどいて。そいつ許
せない。

「やめろトム」
「嫌がっとるやろトム」
「トムちょっとお茶淹れてきてよ」
「うああああああああ」

 その日は一日トムトム呼ばれ続ける俺だった。一日で済んで本当によかった。





「ステファ二ー。ステファ二ー!?」

 それからというものの、リイン2はステファ二ーと呼んでも答えてくれるようになった。

「はい! 何ですか、トムさんっ」
「トムやめて」
「トムじゃないです。トムさんです!」

 しかしその代償に、彼女は俺をたまにトムさんと呼ぶ。



(続く)

############

シグナム議長とステファ二ー。
そしてトムさん。

トムでなくトムさんなのがリイン2号のこだわりです。



[10409] その154
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:97158d40
Date: 2009/12/23 16:26
 本日のおやつはシャマル先生が作ってくれるそうなので、何かな何かなとわくわくして待っていたら、
台所からすごい悲鳴が聞こえてきて、シャマル先生がエプロンしたまま飛び出してきた。

「くっくくくくも、くもくもくもぉ!」

 何ぞ、と思ってキッチンをみてみると、ちょうど立ち位置の目の前にちっこい影が。近づいてよく
見てみると、天井から蜘蛛さんが糸を垂らして下りてきてる。

「なんだ。てっきり黒いアイツかと思った」
「な、なんだ、じゃありません! あ、あ、あ、あんなのが目の前に来たんですよ、目の前に!」
「てぇ」
「っきゃあぁぁあぁぁっ!?」

 かなりテンパってて面白いなぁ、と思っていると、歩行器を使って立っているはやてが、蜘蛛の糸を
つまんでひょいと差し向けた。シャマル先生が再び悲鳴を上げて逃げ、はやては楽しそうにけらけら
笑う。蜘蛛>>>(超えられない壁)>>>シャマル先生、という図式を思い浮かべながら、とりあえず
この侵入者を動かしてあげることにする。

「クモは益虫やから、殺したらあかんの。ハエとか食べてくれるしな」
「にしても、はやてがクモ大丈夫とは知らんかった。黒いアイツ並に嫌がるかと」
「それは例外やろ……あ、知っとる? あれって、実は飛べるんやけど」
「飛ばれたことがあるのでござるか」
「そ。あのときは足が動かんのを本気で嘆いたわ……」

 はやてにも思い出したくない記憶があるようだ。嫌な事件だったね。

「まぁ何とかなったんやけどな。ゴキジェット二刀流が当たらんのなんの」
「あ、あれが飛ぶって……勝てる気しないだろ……」
「や、やめてください……想像しちゃうじゃないですかぁ……」
「シャマル先生お帰り。肩に何か乗ってるよ」
「じょ、冗談でもそういうこと言わないでください!」

 久々に涙目のシャマル先生である。どうやら虫全般があまり好きではないみたいで、リインの服の袖を
握りしめたままだった。

「しかしこれからは、ちっこいリインが氷殺ジェットしてくれるから安心でござるよ」

 しかしちびリインがいることに気付き、これなら大丈夫と安堵する。

「はっ……そ、その発想はありませんでした!」
「さすがオリーシュ、私らに思い付かんことを平気で思いつく」
「そこに痺れろ憧れろ。ところで、ちっこいリインはなんでブリザド使えるんだろうか」
「誕生時の気温があったかかったので、その反動だと思います!」

 魚か何かの性転換みたいだなぁ、と思う。

「じ、じゃあ、わたし、おやつの続き、作ってますねっ!」

 一連の騒動と失態をごまかすかなように、そそくさキッチンに戻るシャマル先生だった。

「シャマル先生足下」
「えっ! や、やぁっ!」
「嘘です」

 涙目でにらまれた。





 ひょっとしたらオリック搭載のステファニー、ならぬリイン2なら、俺ともユニゾンできちゃったり
するかもしれないと思い立つ。

「できるのか」
「できますよ?」
「できますか」
「できます!」

 即答だった。やっぱりと思いつつも、意外な展開にちょっと戸惑う。

「あれ。お前、まだ魔法使いたかったのか? 『もういい』って言ってなかったっけ」
「いやぁ、俺はいいんだけど。でもリインがたまに、気にする素振りするんだ」
「……し、してない」

 リインは否定するのだけれど、この子の場合は顔色から気分が読みやすい。あとは、まぁ何となくだ。
俺の頼みごとなら、何だかんだで色々聞き入れてくれたりするので。

「そ、そんなの、してないっ」
「わかったでござるよ」

 横から抗議するリインをスルーし、とりあえず本題に入る。不服そうにしてるけど気にしない。

「で、合体したら何が使えるようになるんだ?」
「『解除するまでくしゃみが出そうで出なくなる魔法』です!」
「いきなり例のあれですか」

 初っぱなから最強のチートきた。

「他にも『貧乏神がすぐキングボンビーになる魔法』や『声がコロ助と同じになる魔法』など、斬新な魔法の数々が!」

 自分で言うのもなんだが、このときの俺の目はすっごい爛々と輝いていたと思う。

「お前それあたしたちに使ったらぶっ飛ばすからな」
「……許さない」

 だがしかし、ヴィータがすごいぶっとい釘を刺してきた。みんなで桃鉄ではよく遊ぶので、リインも同じく
止めてくる。楽しい光景が見られそうだと踏んでいたのだが、とりあえず命は惜しいので諦めることにした。

「でもでも、そっち系統にますます特化しますので、ユニゾンしたら攻撃魔法はたぶんできないです。残念ですー……」
「何の問題があるや。とりあえずコロ助ボイス魔法だけでも使ってみたい」
「だからやめろって」
「自分にだけど」
「お前にかよ」
「あの声好きなんですよ。とりあえずステファニー、今はユニゾンとかいいので、単独で俺にかけられるか」
「できます! 了解しました、トムさん!」

 そんな感じに、ちびリインの魔法で遊ぶ俺たちだった。

「我輩、コロ助ナリ。好物はメンチカツナリ」

 とか言ったらはやてとヴィータの腹筋が崩壊したので、しばらくコロ助ボイス禁止令が出たのはここだけの話だ。



(続く)

############

別作を書いている+年末は忙しい、で更新遅くなったナリ。

16:00 上がってなかったようなのでageました。



[10409] その155
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2009/12/29 22:55
 ユーノが珍しく時間ができたというので、クロノも頑張って時間を作り、海鳴のハラオウン宅に
男連中が三人で集合することになった。

「……なのはでも呼んで、煮込んでシチューにしようか」
「駄目だよ……ここはあれだよ、フェイトとアルフを、帰ってきたら唐揚げにしよう」
「人の家族に何を……はやてを縛って丸焼きにするのが先だ」

 想定外のことだったんだが、ハラオウン家はまだ生活の準備が整っておらず、冷蔵庫の中身は基
本的にすっからかん。
 フェイトたちが昼ごはんを買いに行ったのだが、帰りが遅くて食べられない。空腹に苛まれるあ
まり、だんだん頭が回らなくなってきた。

「出前取ろうぜ」

 とりあえずこたつに突っ伏しながら提案する。このままだと原作主人公たちのうち、誰かが食べ
られかねない気がするので。

「出前?」
「電話一本で住所を伝えると、美味しいものが届くサービス。ピザとかラーメンとか丼ものとか」

 ユーノの目に生気が戻ってきた。

「すまない……君たちに、非常に残念なお知らせがある」

 しかしクロノは、なにやら深刻そうに言う。とてつもなく嫌な予感がしながらも、俺とユーノは
続きを促して黙って聞く。

「…………じゅ、住所がわからないんだ」
「そこはわかれよ」
「それは知っててよ」

 あんまりにもあんまりなオチに、口々に非難する俺たちだった。

「あーあ! どっかに仙豆落ちてねーかな!」
「大声を出すな……腹に響く……」
「…………叫んだら余計腹が減ってきた」
「自業自得だよ……」

 そんなことを言うユーノを見て、はっと起死回生のアイデアが頭を過った。

「今、すごくいいこと思い付いた」
「奇遇だな。僕もだ」
「二人してこっち見ないでよ。どうせ変身させて食べるつもりでしょう」

 最後の策が看破されてしまい、どうしたものかと途方に暮れる。もうこうなったら、炬燵の足で
も食べるしか。

「あぐあぐあぐ」
「わああああっ! ななな何するんだお前っ!!」
「そ、それアルフの足だよっ、食べちゃだめ!」

 いつのまにか、アルフとフェイトが帰ってきていた。手近な炬燵の足をかじりついたつもりが、
アルフの足に標的が変わってしまった。アルフにたくさん蹴られながら、フェイトに一生懸命引き
剥がされる。

「……アルフの耳がとても美味しそうに見えてきた」
「うん……僕は、尻尾をあぶって食べたい……」
「ふ、二人ともどうしたんだい!?」
「たっ、食べちゃだめ、食べちゃダメーっ!」

 クロノとユーノを必死に止めるフェイトたちだった。





 その後、フェイトたちが仕入れたお昼ごはんを食べはじめ、三人はなんとか事なきを得ました。

「この馬鹿この馬鹿この馬鹿! 何てことするんだっ!」
「まぁまぁ。ちゃんと足も残ったことですし」
「当たり前のことをさも自分の手柄みたいに言うな!」

 全員でこたつを囲んでいるのだが、ユーノとクロノはフェイトに感謝+恐縮+面目なさそうにす
るばかり。そして俺はこの通り、アルフに怒られまくっている次第。

「ったく、お前はいつもいつも……」
「銀だこカリカリでうめぇ」
「む、無視して食べるな! そんなのおあずけだ!」
「その銀だこを返さないなら、怒りのあまり全身の穴という穴から血を噴出して死ぬ用意がある」
「明らかに餓死の水準を超えているぞそれは」

 とかやりながら、ぺろりんちょ。ごちそうさま。

「ごちそうさま。フェイト、助かったよ」
「ああ、おいしかった……そういえば、何をするか決めていなかった」
「あの……三人ともグロッキーになる前、何をしてたの?」
「ほら、あれだ。ポカリスエットとアクエリアス、どっちが美味いか議論してた」
「クロノ。あたし、すごくどうでもいい気がするんだけど」
「……すまん。その指摘については、弁解の余地が全くない」

 要するにせっかく集まったはいいが、またぐだぐだしていただけなのである。特に議題も何もな
いので、あったかい部屋でゆっくり暖まっていただけなのである。

「あ。そういえば、なのはの誕生日が近いね」

 と。何かすることを考えていたらしく、ユーノがそんなことを言い出した。

「誕生日と言えば、実は俺もその二日後です」
「あ、そうなんだ。今度何か持ってくるよ。欲しいものある?」
「世界」
「ついに君を次元犯罪者として逮捕する時が来たようだな」
「いや、そこは誠死ねと言って欲しかった」
「とりあえず意味が分かんないんだけど」

 仕方がないのでお好きなものをお任せすることにして、それはそれでなのはの誕生日だ。

「ああ。それで、ユーノも時間を取ったのか」
「うん。長めに取ったから、君の誕生日まで大丈夫だね……で、それはともかく、なんだけど」
「ともかく何? 実はユーノも誕生日?」
「ううん、違くて。なのはが、ご両親とお友達……すずかとアリサに、魔法のことを話すんだって」

 おやまぁ。

「誕生日に?」
「そうみたい、お誕生会のときに。僕もクロノも、参加することになってるんだ」
「……おお、そういえばさっきメールが来たのはそれかも」
「それは早く返事打とうよ」
「餓死直前で指も動かしたくなかったんです」

 言いながらメールを確認するとなのはからで、結構長い文章で予想通りの内容が書かれていた。

「何だって?」
「当たりでした。お誕生会のお誘いと、あと俺のことを聞かれたらどうするかって」
「どうするつもりだ?」
「はやてと相談する。はぐりんたちとか書の絡みは話すかもしれんけど。いい?」
「君たちに任せるよ。信用が置けるなら話して構わない」

 とりあえずクロノに相談してみるも、答えはそんな感じでした。信用してくれているんだなぁと
思いました。帰ってからゆっくり決めることにしよう。

「丸投げクロノ」
「うるさいな」
「丸禿げクロノ」
「誰が丸はげだ」

 話しているうちに、だんだんのどが渇いてくる俺だった。

「フェイト! フェイト、お茶どこ!」
「あ……あう、ごめん。お茶はなくて……お水なら、買ってあるけど」
「ぬぅ。仕方ない……取りに行くか」
「ちょ……それ僕の足だよ、踏んでる!」
「く、クロノ、それ私の手だよっ!」
「ユーノっ! あたしの尻尾踏むなっ!」
「み、みんな、おちついて……」

 ぎゃあぎゃあうるさいハラオウン家のこたつ周辺でした。



(続く)

############

リンディさんは外出中。



[10409] その156
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2010/01/02 14:45
 ユーノはこのままハラオウン家に宿泊するとのこと。俺も一緒に泊まりたかったのだが、なのはの
魔法暴露についてはやてたちと話し合わなきゃならん。ということで残念ながら、この日は八神家に
帰ることにした。夕飯をすませて風呂に入り、現在はやてとシグナムの風呂あがり待ちである。
 こたつでふにゃーっとしていると、向かいのリインが何だかものほしそうにしているので、あった
かいココアをいれてあげることにした。どうやら好物らしく、頼まれるのでよく作ってあげるのだ。
作るタイミングはだいたい寝る前かお風呂上がりで、無言でくいくい袖を引っ張ったり、目で促して
くるのがその合図。

「……! ~~!」

 しかしそのせいで、結構な頻度で舌をやけどするのが困りものだ。目尻にうっすら涙をためながら、
こうして見せにくることがけっこうある。

「あーあ。舌をメタル化すればいいんじゃ……なに? それだと味がわからない?」

 食事はいつも美味そうにはむはむ食べるリインだが、たまにはこういうこともある。コップに冷た
い水を入れてあげながら、言い分を聞く。聞くといっても喋れないのでなんとなくだけど。

「け、けーとさんの解読能力が半端ないです! 驚異的です!」

 リイン2に驚かれた。

「しかしちびリインもヴォルケンズも、リインとは無言で通じあってることがあるような」
「わたしたちはほら、念話がありますから!」
「なるほど念話がありますか。ところでマスカラとマラカスって似てるよね」
「言い間違えること請け合いです! こういうリインも、わからなくなることがそれはもう!」
「スカラ」
「ルカニ!」
「ピオラ」
「ボミ……あれ? い、いつの間にか話がそれています。けーとさんの話術、相変わらず驚異的です!」

 この子は外に出して大丈夫なのだろうか、と少々不安に思う。

「……あ、あふい……」
「あっ。おねえちゃーん、大丈夫ですかっ?」

 いつの間にやらリインを放置してしまっていたので、とりあえず手元の水を渡して手当てさせる。
 冷やすだけだけど。

「おねえちゃんっ! 必要でしたら、私がエターナルでフォースなブリザードを!」
「しかしレベルが足りないので、プリンを冷やしたりする用途にしか使えないリイン2であった」
「ななななな! 馬鹿にしないでくださいっ、リイン2号は、もっと幅広い用途にお使いいただけます!」
「と、昨日チャーハンの具になりかけたちっこいのが申しております」
「あっ、あああれは仕方がないんです! フライパンの蓋が重かったんです!」

 昨日作って置いたチャーハンを温めなおそうと思ったら、フタの中からリイン2の声がしたのであ
る。どうせ自分の体は冷却して保護してるから、そのまま炒め続けても面白かったけど、しかしそれ
だといつまでたってもフライパンが高温にならないので出してあげたのだ。これがアギトなら問題な
かったのに。

「一家に一台とは言い難いですなぁ」
「むうぅぅ……おねえちゃんっ! わたし、もっと頑張ります!」

 リインの胸の中に飛び込んで、むんっと自分に気合を入れるちっこいの。何だか可愛く思ったらし
く、それをそのまま抱きしめるリイン。

「そしてまたプリンを買って持ってくるシャマル先生だった」
「だっ、駄目でしょうか……リインちゃんが冷やすと、ちょうどよくなるんですが……」
「ていうかお前、最近プリン作んないよな。そろそろ食べたいんだけど」
「言いながらこたつの中で足引っ張るのやめれ。暑い」
「食べたいんだけど」
「言いながら足の上にはぐりん置くのやめれ。重い」

 はやてたちが出てくるまでぐだぐだしてました。





 はやてたちが風呂からあがってきたので、本題へ移る。なのはの魔法公開やら、それに付随しては
やての話をするかどうかについて話す。とりあえずあったかいココアなんぞを振る舞いながら。

「振舞っていい?」
「文字通り振って舞うことになりそうやから却下」

 とりあえず問題は、前回アリサたちに発見されたはぐりんたちについての説明だった。
 結果を言っちゃうと、まぁこれは話してもいいんじゃね、ということになった。丸投げクロノによ
り「何してもいい」と許可が出てるも同然だし、近いうちにちゃんと話すと約束もしてあるので。と
くに捻りもなく、仲間モンスター、ということで説明しちゃっていいと思う。

「ん? ふふー、大丈夫よー。前会ったときも、怖がっとらんかったやろ?」

 はぐりんたちは不安そうにしていたが、まぁそれは考えすぎということで。あの二人って多分、適
応能力はけっこう高いんじゃないかと思うんだ。

「はやてやヴォルケンズについては何だ。話す?」
「んー、話題になったらやな。それよか、お宅の身の上とかはどうするんか」
「ミラクルめんどくせぇ」
「そらそうやろ」

 まぁこれも、その手の話になったら話すということになった。その辺りで、話し合いはおしまい。

「そんなことより麻雀しようぜ!」

 とりあえず麻雀することになった。局の途中でお風呂タイムになったのである。

「どこからだったっけ?」
「ああ、あれや。カンが入ったけど流局したとこ」
「ドラが増えたよ!」
「やったねたえちゃん!」

 俺とはやてが言うと、ヴィータがうずくまって笑いをこらえ始めた。八神家で麻雀すると、点数も
そうだが面白いことを言ったやつの勝ち的な雰囲気がある。

「魔法で混ぜると相変わらず楽だな」
「そのうち魔法で全自動卓とか作ろうか」
「それなのはのプレゼントでよくね?」
「やめれ」

 夜遅くまでじゃらじゃらしてました。



(続く)

############

あけましておめでとうございます。
残念ながらスライム年ではありませんでしたが、今年もどうぞよろしくお願いします。



[10409] その157
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:c75cc697
Date: 2010/01/07 12:36
 高町家でハイパーバースデーパーティーはじまるよー!

「まさかの二人まとめてとは驚きでござるよ」
「二日違いだしね……ちょっと新鮮だねっ」

 しかし誕生日の近い俺もいっしょに祝われてしまい、予想外で想定外。画材とか調理器具とか、
俺までプレゼントもらっちゃったし。いや死ぬほどうれしいんだけど。

「はやてちゃんのプレゼントがセンスに満ちあふれてるんだけど……これ、どこで買ったの?」
「ん? な、何やこれ、自転車のサドルだけって……あっ。オリーシュ! オリーシュどこ!?」
「さっき『ちょっくらデルムリン島にゴメちゃん探しに行ってくる』って……あ、はやてちゃんあそこ!
 逃げようとしてる!」

 はやてからなのはへのプレゼントを戯れにすり替えた結果、歩行器装備中のはやてに信じられな
い速さで追い回された。
 がらがら迫る車輪の音に恐怖しつつ逃げ回り、最終的にすり替えたプレゼントを返却+今度駅前の
おいしいクレープをおごることで、何とか許してもらう。

「くそう。自転車のサドルは面白いと思ったんだが……」
「……面白いのは認めるが、すり替えられた側の反応としてはあれが正しいと思う」
「なるほどなぁ……しかしもしかすると、補助輪の方が良かったという可能性も!」
「わざと言ってるでしょそれ」

 クロノやユーノとそんなことを話しつつ、おいしいコーヒーでケーキをいただく。俺にとっては
サプライズなパーティーだった(なのはのパーティーだけだとばかり思っていた)のだがそれはそれ。
祝われるのは久し振りなので、とても幸せな気持ちだ。もう思いきり楽しみたい。

「あそこに放置してきたはぐりんたちとちびリインは大丈夫だろうか」

 ふと見ると、ちっこいのを置いてきたお菓子テーブルに人が殺到していた。
 もう今日魔法バレなら連れてきてもいいよね、ということになったのだ。主に女性陣に人気らしく、
わらわらと集まっているのが見える。

「おとなしくしていたよ。みんな、すごく可愛がっている」

 という声に頭上を見上げると、いつの間にやら恭也さんがテーブルに来ていてびっくりした。席
は空いているかと訊かれたので、大丈夫ですと伝えると腰かけてきた。

「こんちあ」
「こんにちは」

 とりあえずコーヒーを皿に戻しつつ、ぺこりと一礼。

「なんかその、すみません。こんな会開いてもらっちゃって……はやてと相談して?」
「かーさんが、ね。『あの子を驚かせてあげよう!』って張り切ってたよ」
「ケーキのサイズを見ると大まかに予想がつきます」

 二人ぶんということもあったのだろうが、ケーキの大きさがホールで普通のサイズの二倍くらい
ある。みんなぱくぱく食べてるから安心だが、桃子さんの気合の入り具合がうかがえよう。

「ところで、あの子たちは……どこから連れてきたんだ? できたら、話を聞きたい」

 恭也さんはそんな感じに問いかけてきた。そりゃあ目の前にはぐれメタルをでんと置かれたら、
まぁこういうことになるだろう。

「それも含めて、なのはから後で話があるかと」
「ん? なのはも絡んでるのか……ああ、もしかしたら、その件なのかな」
「何か」
「なのはの誕生日プレゼントなんだが、『当日話すから待ってて』って両親に言ってたんだ。それ
 と関係があるのかなと思って」

 そんな話を聞いていて、魔法関係のことを話して認めてもらうのがプレゼントなんじゃなかろう
か、と瞬時に察した。そのくらいはお見通しである。

「もしかすると、あの子たちをペットに、という話なんじゃ――」
「残念ですが、あいつらは既にうちの家族ですので」

 ありそうだが無い話なので否定する。恭也さんはのどの奥で唸って、真相はなんぞやというふうに
考え込んでしまった。しかしそれもそう長くは続かずに、なら話を待とうという感じになって、再び
コーヒーを口にした。

「気長に待とうか」
「ほととぎす。ああ、あの、プレゼントありがとうです。食用ハーブの鉢植えとはこれまた」
「料理が好きと聞いていたから……苗は選んでみたが、うまく育たなかったら申し訳ない」
「育ったらまずチャーハンに入れてみることにします」
「……その話をよく聞くんだが、君が20人分を1枚のフライパンで作ったのは本当なのか?」
「はやてのデマかと」
「そ、そうだろうな。さすがにな」

 ぐだぐだと話した結果、恭也さんとちょっと仲良くなりました。調べてくれていたようで、もらっ
た鉢植えの育て方とか教えてもらいました。





 なのはの話はじまった。

「アッー!」

 という間に終わった。というわけではないが、割と早めにカタはついた。
 しっかりした家族会議はパーティーが終わってからということになって、今は高町家の面々はあっ
ちのテーブルでリンディさんとフェイト、エイミィさんにユーノと語らってます。クロノとアルフは
お休み中。
 なのははとりあえずきちんとお話できてよかったね。

「アンタまで地球外生命体だったなんてね。納得だわ」

 一応闇の書の話とか俺の身の上も(アニメ云々は伏せて)教えちまったので、真相を知ったアリ
サがもう遠慮なく失礼なことを言う。地球外じゃなくてちがう地球なのに。

「おのれ小娘! 時空管理局元帥の俺になんという口をきくか!」
「管理局が勘違いされるからやめてくれ」
「いろんな意味でな。楽しい組織にはなりそうだ」
「こんなところで油売ってないで仕事しろよ元帥」

 クロノとシグナムとヴィータあたりは、相変わらず容赦がない。

「すごく……失礼です……」
「あ、あはは……でも、びっくりしたよ。違う世界って、本当にあるんだ」
「今年はいくつ回れることやら」

 しかしすずかと話し始めると何だか和んできたので、とりあえずクロノたちそっちのけで語らう。
横合いからアリサもやってきて、特にはぐりんについて質問されることしばし。

「それにしても、アンタもいろいろやってたのか……魔法なんて、よく捨てられたわね」
「捨てなくちゃ。そりゃ残念だけど、カイザーフェニックス開発ははやてがしてくれるらしいし」
「わけわかんないわよ……まぁ、アンタに魔法なんて使わせたら大変なことになるでしょうけど」

 実は魔法消えたわけじゃなく、リイン2号がだいたい持ってる訳だが。でもって頼んだら、いろんな
魔法を使ってくれるわけだが。
 このツンデレアリサにも一度、イタズラ魔法の数々を味わわせてやろうと思っているのは内緒だ。
 いずれ機会をうかがって、誕生日の時にでもちっこいリインと共謀し、「パーティーメンバー全員
コロ助ボイスでハッピーバースデー斉唱」を試してやろうと思う。腹筋ぶっこわしてやる。

「違う世界って、本当にあるんだ。行ってみたいなぁ」
「俺もまた旅行したい。ピクニックとか」
「そのうち八神家のキャパが限界来そうなんやけど。行く先々でいろんなモンスターに懐かれそうで」

 またまたご冗談を、と言ってみたが割と洒落になってない気がした。しかしそのときが来たら、
クロノがなんとかしてくれるんじゃないかと楽観している。
 実際本当になんとかしてくれることになっちゃうんだけど。

「あの……あのね。どうして、そんなになつかれるの?」

 とか思っているとすずかが、おずおずといった感じに尋ねてきた。

「持って生まれた大徳ゆえ」
「ちょっとトラックに轢かれて玄徳に謝ってこい」

 うちの連中が三国志に詳しいのは主に蒼天航路とKOEIさんのおかげです。はやてのソースはも
っと広いけど。

「だってもう説明できませんから。体質だよこれ」
『おいしいごはんがあるからやー!』

 机の上のスタスタがいきなり喋りだしたから何かと思いきや、実は向かいに座っているはやての声だった。
はぐれメタル(CV.はやて)というのも悪くないかも。

「じゃ、じゃあ。例えば……たとえばだよっ。もし、お友だちが魔物だったら、どうする?」

 しかしすずかは少しして、思いきったように口を開いて訊いてきた。
 しっかり見ると、「『やっつける』とか、『つかまえる』って言われたりしらどうしよう」みたい
な言葉が透けて見える。
 でも別に何もしないので、「どうする」と言われても困る。捕まえなくても仲間になるみたいだし、
嫌いなモノに気を付けるくらいか。吸血鬼ににんにくとか。

「モンスターペアレンツならぬモンスターフレンズ、略してモンフレ。これは流行る!」

 とかそんなことを考える間にも、勝手に動いている俺の口が恨めしい。

「流行らんわ。それは即刻絶交やろ」
「いやいや、そこの凶暴ツンデレの子とか! 確かに人格がモンスター!」
「何というお前が言うな」
「いま、とてつもないブーメランを見た気がしますー!」
「あなたの家のブーメランは、吸引力が落ちていませんか?」

 返答は上からはやて、リイン2、そしてヴィータ。しかしそれよりもなによりも、無言の得意顔で
見下ろしてくるアリサの視線にぐうの音も出なかった。

「こいつら全員爆発しろ」
「そ、そんなつもりじゃなかったんだけど……あの、ごめんね?」
「魔物の方が突っ込み厳しくないわ……」
「あ、ありがとう。うれしいよ、うれしいからっ。ね?」

 俺を慰めようとするあまり、うやむやになった挙げ句なにやら自白のような発言をしていたすずか
だった。幸いはやてもアリサも気付いてないので、今度から苦手なものに気をつけてやろう。



(続く)

############

人外限定で勘のいいオリーシュ。

12:39 上がってなかったのでageておきます。



[10409] その158
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2010/01/10 22:31
 なのは(と俺)の誕生日パーティーが終わって、ユーノや管理局の皆様は、そのまま高町家でもっ
と魔法やら何やらについてのお話をすることになった。
 2日おきくらいで足を運び、管理局についての資料だとかを届けに行っているそうな。

「で、何? リハビリ終わって、直で高町家行くって?」
「リインたちも一緒にな。夕飯外で食べるから要らないってよ」

 そういうことがあるため、現在はやてもリハビリをこなしつつ、高町家に足しげく通っている。原
作どおり管理局で働くかどうかはわかんないけど、とりあえず資料は欲しいとのことだった。リイン
姉妹やはぐりんたちの魔法のデータをあげる(本人了解済み)のと同時に、ちょっと高価めの魔法の
本をもらう約束にもなっているのだとか。

「で、お前は行かなくていーのか?」

 でもって俺はというと、当然のように家でお留守番してます。本読みながらスーパーごろごろタイ
ム。やることねーです。

「魔法についての資料もらってもしょうがないでしょうに」
「そりゃそうか。でも、野生動物がうんたらとか言ってなかった? お前に調査してほしいとか」
「その話はもう決まった。今度はぐりんたちつれて協力することになってる」

 まぁそういう訳である。用事は済んじゃってるので、俺が行ったところでできることはないんです。

「……ああ、もしかして、リインがあっちにいるからか?」
「なるほどな。お前のいるところで魔法の話をしていると気にするから……それで行かないのか」

 最近のヴォルケンズはだんだん俺の思考をも理解しはじめているようで、俺としては努力が足りな
いんじゃないかと思わなくもない。ネタ的な意味で。

「いろいろな意味で、そろそろ転換期に差し掛かっているようですな」
「あと十年ほどの間に、お前がどう変わるかというのも見ものか。変わっていないかもしれないが」
「『もう君にチャーハンを作ってあげることはできない』とか言ってきたらどうするのがいいか」
「フライパン持たせれば元に戻るんじゃね」

 改造したやつの方をぶっ飛ばす、という発想はないらしかったがそれはもういいや。

「ちょっくらカステラ焼いてくる」
「そう言いながらなぜフライパンを持つ」

 見抜かれては仕方ないので、おとなしくフライパンを置き台所へと向かう。カステラにアイスのっ
けて食べるのが今日のおやつだ。とっても甘いので幸せな気分になる。
 でもってカステラを作っていると、テーブルの上に置いておいた携帯電話が音をたてはじめた。
 はやてのやつが着信音を勝手に「ショウヘイヘーイ!」にしやがったのに気付いて報復を考えつつ、
ぱかりと開くとメールが届いていた。複数同時だ。

「ヴィータちゃん、アウトですよっ!」
「往生際が悪いな。騎士の名が泣くぞ」
「こ、こ、こここっち来るなシャマルもシグナムも! なんなんだよあの卑怯な着信音!」

 とかやってるのを背中で聞きつつ、読む。はやてがそろそろ帰る、というクロノからの連絡が最初
だった。
 今日はやてに説明したことが簡潔にまとめて添えられていて、クロノらしいというかなんというか。
あとさきほど話にもなった、俺への調査依頼(絶滅危惧動物の生態うんたら)についての説明とか。
日程がどうとか。

「休日だったらいつでもやりまスライム、と」

 とりあえず処理しつつ、次を見てみると珍しい送り主に行き当たった。アリサとすずかだ。

「ってて……で、何なんだよ。さっきのふざけた着信は」
「はやてに言ってくれ……お、すずかからお茶会に呼ばれた」

 尻のあたりを痛そうに押さえるヴィータに答える。ツンデレの方は「またみんなで集まるからアン
タも来なさいよ」ということだったのだが、すずかの方はお家に来ないかという誘いだった。もち
ろんはやてにも送ったらしいけど。

「今度プリン焼いて持ってきマスドラ、と」
「マスドラ爆発しろ。っていうか、マスドラがお前に出くわしたら何て言うんだろーな」
「バーン様に会った場合が気になる。『飼っておくのも面白い』とか言って生かしてくれるかなぁ」
「破邪の洞窟あったら潜ってみなって。アバン先生の記録更新できるぞ」

 ヴィータとそんな与太話をしながら、ユーノのメールを見る。カステラが焼けるまで相当暇らしく、
どこからか下敷きを持ってきて俺の頭を超野菜人にしてくるけどそこは無視。
 ユーノは三日後に帰っちまうそうだ。それまでは高町家に置いてもらったり、海鳴のハラオウン家
に泊まったりするらしい。その時には俺も遊びに行こうと思う。あと今後も時間ができたら、地球に
たくさん遊びに来るよ、とのこと。
 時間ができないならむしろこっちから行くと打つ。でもって、最後の最後はなのはから。

「なのはの家族会議は高校行くことを前提に行われたらしい。本人含む」
「噂の『中卒魔王』の前半部分は回避されたわけか」

 人間フォームのザフィーラ(毛が飛ぶという理由で、わんこフォームはキッチンでは自重している
らしい)が来ていた。何やら安心した様子だ。

「管理局に入るかはこれから決めるらしいけど……もう魔王にはならんだろ。ティアナよかったね」
「残念と言えば残念でもあるがな。続きは?」
「ご家族のコメントがいろいろ。『よかったら日曜日に、ケーキ作りに来てね!』とか」

 それにしても将来のことなんて、わざわざ律儀に自分にまで報告せんでもいいのだが。とは思わな
くもないのだが、俺も知りたいと思ってるのは事実であるから、こういうメールはちょっと嬉しい。

「アイス任せた」
「任された」

 とかやっているうちに、そろそろカステラが焼ける頃になった。
 まぁ、考えるのとか面倒くさい。先のことは先のことと割り切って、今は目の前のおいしいお菓子
に集中することにする俺だった。





「おろ?」

 しかし焼きあがったカステラを食べていると、再び携帯電話のメール着信音が!

「着信音戻したと思ったら笑点のテーマか。今日はひっきりなしにメール来るな」
「こういうのも珍しい……おりょ? またクロノ……ザッフィーザッフィー、教会ってどこだっけ?」
「呪いの装備でも引いたか?」
「聖王教会。はやてが見に行くことになって、俺も来ないかって」



(続く)

############

オリーシュ「聖王遺物の中に七星剣がないんだけど」
はやて「あったら困るわ」

あとオリーシュが破邪の洞窟に潜ると、何のトラップも発動しないまま、出会ったモンスターを
片っ端から引き連れて際限なく潜れる。
そして途中で飽きてきて、何の呪文も修得せず帰ってくる。アバン先生にも女性パーティーにも
会えず、しょんぼりしながら帰ってくる。



[10409] 番外10
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:debc04f8
Date: 2010/01/13 11:23
 新しいデバイスとの初陣。エリオの危機、キャロの覚醒。
 新人たちの活躍により、列車を占拠していたガジェットは全滅。暴走していた車両は制御を回復
し、任務は完了する。
 はずだった。

『――車両最前部に生命反応! 制御室の奥に人がいます!』

 任務の終了を確信し、安堵しきっていた新人たちに伝えられた、そんな通達。
 新人たちは我が耳を疑った。しかし列車が止まる気配を見せない今、あり得ないはずのそれが異
様な真実味を帯びて聞こえても来る。
 ガジェットはフェイクなのか? この期に及んでどうして残っているのか? 何故?
 様々な疑問を胸に、新人たちは現場に向かうのだった――。





「ぬう、アクセルがわからない……スカさんの説明書読めないわ、余計な文章書きすぎだって」

 すると制御室の奥には、何やらぶつくさ文句を言っている男の姿が!

「……何をしているんですか?」
「いやさぁ、スカさんに『電車でGOやろうず』って言ったらこうなって……ん? あれ。誰?」
「あっ、あの……それは、こちらの台詞ですっ」

 振り返る俺をツインテの子が警戒しつつ、帽子の子が前衛からじりじりと後退する。全部で四人
の八つの瞳が、不審物発見の雰囲気で俺を見る。
 見覚えのある顔だなぁ、と思っていると気づく。アニメで確か出てきたぞ! 白い悪魔に仕え、
訓練を受けて強化されていく四天王的なキャラクターじゃなかったっけ。

「えっと、ティアナと……ズバット、ギャロップ、サンダースだな?」

 ティアナがますます警戒したようだが、他は戸惑いがちに顔を見合わせた。ティアナは撃墜イベ
ントの記憶が鮮明なので覚えていたのだが、その他3人はハズレみたい。

「いずれにせよ、一緒に来てもらいましょう。事情を聞かせてもらわないと」
「えー……チャーハンやるから勘弁してよ」
「応答願います。不審人物一名、現在四人で包囲中です。これより列車の停止を試みます」

 ガン無視。
 とか思っていたのだが、そのティアナっぽい人から出た言葉にふと気付く。

「なに? この列車止めるの?」
「え? あ、はい。そうですけど……」
「止めないとマズい感じ? この路線ってスカさんの私物じゃないのか」
「……スカさんが誰か知りませんが、この列車は私物ではなく、かつ止めないと危険です」

 はじめて聞く事実に驚愕しつつ、スカさんの悪戯だったことにようやく気付いた。
 電車でGOできると喜んでいたのだが、現実はそううまくいかなかったらしい。残念だ。

「なっ、何を……!」

 しかたがないので、手近なボタンをぽちっとな。

「いや、止めないといかんと聞いて、自動運転に切り替えた。ブレーキかかってるでしょ」
「ああっ、本当です! 減速してます!」

 ギャロップが驚いた感じに言う。

「……ますます不審ね。それで、同行してもらえるのかしら」
「俺のチャーハンを失った数の子の一部が悲嘆にくれそうだが、天地魔闘の構えに興味があるので
 同行しましょうか」

 警戒しっぱなしのティアナと、首をかしげるサンダースだった。しかしアレだ、サンダースって
言うとケンタッキーっぽいな。

「誤ー射、誤ー射、ふしあわせー」

 ふと思いついたフレーズをCMソングに乗せてみたが、この意味を新人たちが知るのはまだ先の話
だった。

「……この人とは、長い付き合いになる気がするわ……」

 一連のやりとりを指令室から眺め、予感めいたものを感じるはやてだった。





「もしトリップ先を間違えても、こんな感じに六課には遊びに行けたと思います」

 もちろんそんなことはなく、今のは単なる未来想像図でした。原作第三部についてはやてに話し
ていたところ、「もしオリーシュが敵サイドに行っちゃっていたら」みたいな流れになったのだ。

「題して『オリー・ポッターと謎のオリーシュ』」
「主人公が二回繰り返されとるな」
「ぬ……じゃあ、『オリー・ポッターとナノハサンの新人』で」

 どうやら二回目でツボに入ったらしく、治った足をばたばたさせてひぃひぃ笑いをこらえるはや
てだった。面白いので観察しつつ、こたつでおしるこを食べるお昼時でした。



(続かない)

############

短めな番外。
新人たちにももうちょっと喋ってもらいたかったけど、初対面だったらこんな感じでしょう。

第一部「オリー・トリッパーと賢者タイム」とか考えたけど中身が出てこなかったのでやめた。



次の更新はちょっと遅くなるかもしれませんがよろしくです。



[10409] その159
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e32ef082
Date: 2010/01/18 20:38
 聖王教会に行って融合騎を見せるとかなんとかということになったのですが、もしかして合体を
見せるんだったらリハーサルした方がいいんじゃね? という感じになる。

「ということで、オリーシュもリイン2との合体を試してみようと思います」
「つ、ついにけーとさんが、目と髪の色を変えるときが来てしまいました!」
「金髪碧眼ならちょっと面白いな。超サイヤ人っぽくて」
「そこはやっぱりカヲル君やろ……常識的に考えて……」

 ということで一応リイン2と融合できるらしい俺も試してみることになったのだ。やる前はそん
な感じに割と盛り上がる。

「やってみた結果がこれだよ!」
「まさか白目になるとは思わなかったわ」
「頭も、ぜんぶ白髪になってますね……」

 実際にやってみたところ、色素が完璧に抜け落ちて目も当てられない事態に陥った。驚きの白さ!
 当然だがこれだと外を出歩くこともできない。あんまりにもあんまりな結果に、そのままこたつ
で不貞寝することにした。

「タイトルは『同居人が厨二病こじらせて寝込んだ』で決まりやな」
「何をしておられますか」
「いやな、久し振りにスレでも立てようかと」

 はやてが某巨大掲示板にネタを投下しようとするので、復活してなんとか阻止に走る。

「今ので思い出したが、『【中国料理】シャマルの飯がマズい【中毒料理】』立てようぜ」
「あ、ええなそのスレタイ。この前のヴィータ、顔色まで変えて苦しんどったからなぁ」
「久し振りにつまみ食いしたらアレだ。最近美味くなったからって油断してた」
「ど、どうしてミスがなくならないんでしょうか……そういう時に限って味見を忘れますし……」

 普段のシャマル先生のご飯はすごい美味しくなってきたんだけど、警戒しておかないと交通事故
に遭うという恐ろしい仕様になっているのだ。その都度スレを立てて報告したりしているのだが、
シャマル先生の懇願があるのでこの場は引き下がる。夜にでも立てるとしよう。

「リイン2号とユニゾンしたら、チャーハン限定で料理スキル上がったりするかな」
「針の穴に糸を通す速度でしたら、通常のおよそ3倍になると思われます!」
「だったらユニゾンしたとき赤くなればいいのに」
「あっ……な、なるほど! それでしたら、真っ白な状態にしてから染めちゃったりすれば!」

 自分の頭がキャンパスになるとは新しいが、出来ることなら回避したいことこの上ない。

「ヴィータちゃん、けーとさんっ。わたし、虹を書いてみたいです!」

 この子の発想もなかなかぶっとんでいる気がしなくもない。頼み込んで諦めてもらった。

「つか、そういえばヴォルケンズやはやての融合状態を見たことがない気が」
「あ、それもそうやな。ならちょうどええし、ユニゾン大会とかやってみる?」
「『融合解除』の伏せカードをオープンするがよろしいか」
「見たいのか見たくないのかはっきりしろよ」

 ということでユニゾンお披露目になった。みんなカラーリング変わってかっこよかったが、真っ
白な人は出ませんでした。

「それより、リイン2とはぐりんでメタルライダーしよう」
「それだと、戦闘力的にはわたしが足を引っ張る予感が……でも、すごく楽しそうです!」
「名前呼ぶと来るけど、区別つく?」
「つきます! えーと……クリリン、ズタズタ、とうぼうですねっ?」
「惜しい」

 ちっこいの一人と三匹で遊んでました。





 その日、風呂の順番を待ちつつソファでうとうとしていると、パソコン使用中のシャマル先生が
すっとんきょうな悲鳴を上げた。

「こっ、こ、こっ、こここ、こっ、こっ……!」
「あっ、鶏だ。唐揚げにしよう」
「にっ、に、にわとりじゃないです! そんなことよりこれ、これっ!」

 卵とか生ませたかったが諦めて、画面を指差す先を見る。

「…………」
「AltとF4キーに手を伸ばさない! どういうことですか、こんな……ひ、ひどい!」
「同姓同名の人違いじゃね」
「特徴が合致しすぎです!」

 履歴出しっぱなしという初歩的なミスにより、一週間前に立ててまだ残っていた「シャマルの飯
がマズい」スレがシャマル先生に見つかってしまった。不覚。

「しかもに、に、26番って……!」
「次で27番目だった。いやはや、よく続いたものだシャマルスレ。シャマル先生すごいね」

 褒めることで許してもらおうとするも、逆に涙目でなじられた。

「なるほろ。それでいきなりプリン作りはじめとった訳か」

 という訳で謝罪と賠償の意味を込めて、ただいまシャマル先生にプリンを振る舞っているニダ。

「だいたいっ、あむ……最近、羽目を外しすぎですっ……はむ」

 珍しくぷんぷん怒った様子のまま、すごい勢いでぱくぱくと食べてます。もうこれで三つめが空
いてしまった。横でヴィータとリインがとても食べたそうにしていたが、手を出すとマズいとわか
っているのでひたすら我慢してる。

「済まんです。しかし、一月前にポテトサラダ食べて身動きできなくなったはやての無念が」
「目隠しして作ってみてって提案したじゃないですかっ」
「何故オレはそんなことをしたのだろう。奇っ怪な」

 「都合の悪いことは忘れる程度の能力」を発動してみたものの、すべてを見透かすシャマル先生
の視線を前に即時解除を余儀なくさせられた。素直に謝り続け、スレ立てしないという約束により
なんとか許してもらうことに成功。

「はぁ……お料理、こんなに練習してるのに……うぅ」

 しかしシャマル先生も、ごく稀にすさまじい何かを制作してしまう自覚はあるみたい。お説教が
ひと段落してから、ため息まじりにひとりごちている。

「シャマル先生は上達してるよ。味見して気絶することも、最近は少なくなってきたし」
「慰めになってないです……あんな書き込みしておいてぇっ……!」
「……シャマル、頑張って」

 まだ根に持っているらしく、恨めしそうに俺を見るシャマル先生だった。見かねた様子のリイン
がよしよしすると、嬉しかったのかぎゅっと抱きしめた。

「あ、明日の朝ごはんは私が作りますからっ。『参った』って言わせるくらいの……!」
「参ったって言ってばたりと倒れるのか」
「違います! も、もう、もう! 反省してるんですかっ、怒りますよ!?」

 涙目で怒られてもあんまり怖くないのだが、さすがに気の毒に思ってからかうのはやめました。
翌朝の朝食は美味しゅうございました。



(続く)



[10409] その160
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b9a8cd2c
Date: 2010/01/21 20:51
 聖王教会に行く前に、とりあえず対となる魔王様にもご挨拶せねばなるまい、と思い立つ。

「ということで、マオさんこんにちは」
「マオさんって誰! わたしの名前が跡形もないよ!?」
「魔王っぽいからに決まってますが」
「も、もう、それやめてって言ってるのに……わたし、普通のおんなのこだってば! ほらほら!」

 なのははスカートのはしっこをつまんで立ち上がり、くるりとまわってアピールした。確かに見
た目はちっちゃい女子そのものだが、仮にも魔法少女がノーマルな女の子を主張するのはどうかと
思われる。

「仕方ない。なのはさん改め、なのハッサンというあだ名をやろう。ついでに髪もモヒカンに」
「せいけんづき!」

 なのはは俺の発言を遮り、手のひらをぺちぺち叩いてきた。どうやらその名の通りナノサイズの
ハッサン程度にしか力がないらしく、俺にダメージを与えられない。

「うー、少しもこたえてない……」
「腕力差考えるとそんなもんだ。しかしそれにしても、なのハッサンも不服と申すか」
「不服すぎるよっ! こ、こうなったら、けーとくんにも変なあだ名つけちゃうんだからっ」
「それは楽しみ。このチラシの裏にでも書いてくれ」
「ど、どうしてすぐチラシを取り出せるんだろう……どこにしまってたの?」
「腹の中。げふー」
「雑食にもほどがあるよ! そんな胃液まみれの紙なんて使いたくないし!」
「賢明だな。俺の胃液にかかれば、なのはなぞ三秒で溶かし尽くしてしまう!」
「けーとくん、そんなの出しててお腹大丈夫なの?」
「胃の中であれば大丈夫だが、頭の中はいつも通り大丈夫じゃないです」
「じっ、自分で言っちゃったよこの人!」

 しかし否定はしない辺り、なのはが俺を頭のおかしい人認定していることが示されている予感。
自覚してるからいいけど。

「喋りすぎて疲れた」
「こっちの台詞だよ……それで、けーとくん、ご用はなあに? 何かあったの?」
「用を足しに」

 ドン引きされたのでおとなしく撤回し、説明。

「教会? 聞いたことないけど……あっ。クロノくんが、はやてちゃんに話してた気がする」
「そこに行くことになって、知っていれば心構えとか聞きたかったけど。知らない?」
「うん。ごめんね、あんまり知らないや」
「そうなのですか」
「そうなのですよ」

 用事が終了し、一気に暇になる。

「なのはのせいで暇になったので、俺を楽しませることを命ずる。ははは、苦しゅうない」
「ぜんっぜん私のせいじゃないし……あれ、けーとくん暇なの? お夕飯の支度は?」
「今日はシャマル先生がやる。ということで、何か踊れ。キタキタ踊りとか踊れ」
「知らないよそんなの……き、きたきた、きたきたー!」
「タコ踊りしてるアホがいる。ついに頭がおかしくなったか、アホ毛とか立たないかにゃ?」
「かにゃ、じゃないよお! けーとくんが言ったんでしょう!?」
「そんなこと言ったかにゃ?」
「言ったよ!」
「言ったかにゃ?」
「言ったかにゃあ!」

 言ったみたいだにゃあ。

「もー、そうやってすぐとぼけるしぃ……」
「おとぼけ星人だから諦めろ。あと思い出したが、聞きたいことあった。なのはの足のサイズ」
「え……もしかして、何か作ってくれるの? ぜ、ぜんぜん、まったく嬉しくないけどっ!」

 なのははふいっと顔を背けたが、ちらちらとこちらを窺ってきているのでおもしれぇ。

「シャマル先生から編み物を習ったので、なのはの足より小さい靴下をやろう。ははは、喜べ」
「ありがとうだけどありがたくないよう!」
「ありがとうだって。照れるぜ」
「つ、都合のいい部分だけ聞かないの! ありがたくないありがたくないありがたくない!」

 都合の悪い部分を連呼されたため、どうにか頭に入れることに成功する。

「きょ、教会でもこんなことしないか、心配だよ……」
「心配なら聖王様の本拠地だし、マオさんも着いてきたらどうでしょう」

 再び抗議するなのはだった。一周まわって最初に戻る。



(振りだしに戻る)

############

久しぶりになのはが書きたくなったので、頭のなかフル回転させてセリフ回してみました。
止める人(はやて)がいないとこうなる。



[10409] その161
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:cb298221
Date: 2010/02/09 12:57
 教会に行く前日。支度も終了してやることがないので、はやてと何かして遊ぼうと思う。ヴォルケンズは
ヴォルケンズでボードゲームやらに熱中しているので、あんま邪魔しない方がいいだろう。

「暇なので、二人で『くぁwせdrftgyふじこ』の発音を検討しようか」
「いま自分でゆーたやろ」

 いきなり終了した。あとはやてなのに指摘が真っ当すぎて、やるせない気分になる。

「子音ばっかなのによー言えるなぁ」
「いっつも舌ばっか回してるからだ。ついでに言えば頭も回るぜ」
「悪い方向にか」
「良い方向だろ」

 良い悪いで小競り合う。なかなか決着がつかないでいると、姉妹でお風呂に入っていたリインたちが
上がってきたので聞く。妹の方に。

「むー、む、難しいですっ。二つの逆回転の渦により、リインの頭が2つに裂けてしまいます!」
「プラナリア?」
「さ、再生はできません! トムさんはたまに凄く鬼畜です!」
「ドSだもの みつを」
「だ、断言しました! 戦慄を禁じ得ません! 痛くするのは好きですか? 我慢するリインにグッときますか?」
「グッとくるかはわからないが、グッとガッツポーズして応援してあげよう。がんばれ」
「応援されてしまいました……もうこれは、日常的に『ひぎぃ』を言うところから慣れていくしか!」

 調子に乗り続けていると、はやてに肘の出っ張ってるところをたたかれた。無言のまま「ひぎぃ」の顔になり、
リイン姉妹にとても怖がられる。

「化け物の顔やな。プレデター?」
「一気に人間の範囲を通り越した気がするんですがその表現」
「コア摘出してあったりする時点でがけっぷちだと思うんやけど」
「……いや、まだだ。まだなんとか、指一本引っ掛かってるはず」
「それ体は崖から落ちとるよな」

 墓穴を掘った。がっかりする。

「おお、がっかりしとる。陰気がうつるから止めれ」
「がっかり星人なので止めるとか不可能」
「うっかり星人?」
「ちょっくらうっかり星まで行ってくる」
「今度はちょっくら星人か」

 俺の出身が定まらないどころか、進化の方向がダメダメな気がする。

「うっかり風呂に入り損ねていたので、ちょっくら行ってくる」
「うっかりのぼせやんよーに」
「気をつけてくださいっ。うっかり足を滑らせないように!」

 ちょっくら風呂に向かう俺だった。

「さささささささむい! シャワーの給湯電源切れてんぞこれ!」
「あ……わっ、わたし、最後だと思って……!」

 リインが本日のうっかり星人でした。





 凍えるような寒さにびっくりしつつも、浴槽のお湯で事なきを得て上がる。
 上がると、テーブルでリインが待っていた。ヴォルケンズはもう寝たそうな。はやてとちっちゃいリインはまだ
寝ておらず、その手元を凝視している。

「手、ここに」
「ん? ……おお、メラじゃないか。これはいい」

 両の手の間で、小さな火がゆらゆらと揺れていた。お詫びのようなので、向かいに座ってありがたく
温まらせてもらう。

「いいな。メラいいな。旅行のときに役立ちそうだ」
「メラの必要な旅行って……あ、冒険?」
「そそ。はぐりんたちのギラはビームみたいだから、使い勝手がいまいちなのですよ」

 ちなみにはぐりんたちはもう寝てます。確かこたつの近くに置いた座布団の下で、越冬する虫みたいになってるはず。

「リイン2はヒャドが得意だから、年中いつでもかき氷が食えるな」
「そっ、その発想は……! シロップを、シロップと練乳を用意しないと!」
「搾ってみよか! ちょうど搾りがいのありそうな方がおるし!」
「今ここでとな。望むところだっぜ!」

 大きなリインを凝視しつつ、はやてと俺が口々に言う。
 しかしシャマル先生ならおもしろいリアクションが見られるはずだったのが、リインは不思議そうに
こちらを見て首をかしげるばかりだ。俺もはやても、なんだかとても悪いことをした気分になる。

「こっ、困りました。リインをいくら雑巾しぼりしても、多量の水分とタンパク質しか……」
「……なにやら勘違いしているリイン2だが、そのおかげで助けられた気がしなくもない」
「あれ? か、感謝されたのは嬉しいですが……わわわわっ、頭を撫でられています! なんということでしょう!」
「匠の技で一時間撫で上げた結果、劇的に頭蓋骨が陥没する予定です」
「なんということでしょう!」

 匠の技を見せつける前に、ちっちゃいリインが姉の胸の中に逃げ込んだ。

「嘘ですよ」
「安心しました!」

 安心されたので、しばらくまったり温まった。それから会話がないため、かち、かち、と時計の針の音だけが聞こえる。
 手元にはあたたかい炎。物語で出てくる感じの家の、暖炉みたいでいいなぁとぼんやり思った。

「教会もこんな感じなんだろうか。こう、おとぎ話の中の建物のような」
「ステンドグラスとかあるんやろなー……こう、東京タワーくらいのパイプオルガンがあったりとか!」
「甘いな。古今東西から取り寄せたステンドグラスで、壁面が全部透明になっているにちがいない!」
「地震来たら崩れるやろ」
「そこはほら。魔法でなんとか……リイン、できる?」
「できない」

 その後も教会ってどんなとこなんだろうとあれこれ議論してから、居間に敷いた布団でみんなひっついて眠りました。






「お近づきのしるしにチャーハンお届けにあがりました!」
「え? えっと……ど、どうしてフライパンごと……?」
「*おおっと バナナのかわ*」
「っきゃぁああああっ!?」

 別にどんな建物でも、やることは変わらなかった。後ではやてにすっごい怒られて、防御が間に合わなかった
教会の金髪の人(名前忘れた)は苦手意識をもたれて、付き人には追いかけまわされた。



(続く)

############

書くキャラをはじめから絞ってみた。
作者の事情により更新遅いですごめんよ



[10409] その162
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:0d123a96
Date: 2010/02/15 19:40
 はやての足がいい具合に回復してきて、今日病院に付き添いに行ってみたところ、ついに自力で
立てるようになった。まだ大変そうではあるけれども。

「ジョニィ・ジョースター……足が動くのか。このまま爪弾いってみようぜ」
「昨日切ってしもーたわ」

 同じく付き添いに来ていて感極まったシャマル先生や、熱心に手を尽くしてくれた石田先生に祝
われてから、とりあえず帰宅。その日の夜は「はやてが立った記念」ということで、家の中で盛大
に祝うことになった。はやてが酒まで出してきた。シャマルつぶれた。

「酔うの早くね?」
「よ、酔……ってないです。そんなことないです。ないですよ?」
「シャマル先生、指なん本立ててるか分かる?」
「ん……さ、3……いえ、2本です。甘いですね、騙されませんよっ」

 俺のグーの手を見て、頬を紅潮させながら自信満々に答えるシャマル先生。
 埒があかないのでもうザフィーラと協力して運び出し、とりあえず布団の中に放りこんだ。うだ
うだ言ってた。すやすや寝た。

「どーやった?」
「ぷーぷー文句言ってたけど寝た。布団で巻いて海老フライにしたかったけど止めたわ」
「正解やな。せやけど、なんでやろ。もうちょい強かったよーな気がするんやけど」
「気が緩んでたんでしょ。病院じゃあすごい喜んでたし」

 とか言いながらも席に戻る。テーブルにはシャマル先生渾身の料理がずらりと並んでいた。美味
しい美味しいと皆が言うたびに、シャマル先生もすっごい幸せそうにニコニコしていたものだ。し
かしそのせいでお酒も進みすぎたみたいだった。

「俺はもうあと十年近く待たなければならん」
「災難やなー。親知らずもあと何回も抜かなあかんし」
「予防接種もダブルで受けることになるな」
「受験も全て受け直しですねっ。知識が残ってるのがせめてもの救い、だと思います!」

 転生のデメリットが目立ちすぎる。素直に寿命だけのばすだけじゃ何故ダメだったのかと、生き
返らせてくれた黒いのと白いのから話を訊いてみようと思う。もう生き返ったりはしないと思うけ
ど、死に際に話くらいはできる気がする。

「……頑張って」

 何をどう頑張るのかはよくわからないが、おっきなリインは声援を送ってくれるようだ。まぁ好
きに生きてみよう。

「まぁそれはいいけど。はやては4月の新学期に間に合うのだろうか」
「ん? まぁ、なんとかなりそーやな。松葉杖は必須やけど……んー、楽しみや!」
「6年の組体操でマイケルジャクソンのスリラーPVやりたいから、根回し手伝って欲しい」
「誰がメイクを担当するんだ」
「ああ、そか。ならハルヒをパロって、『恋のピクル伝説』でもいい。もちろんバキ的な意味で」
「とんでもない想像させんなばかやろう」
「常々思うのだが、お前の頭のどこからそういう発想が次々に出てくるのか」

 誉められているのか呆れられているのか。たぶん後者。

「先学期のテスト、開始直後に『この問題進研ゼミでやった!』って言って爆笑されたりしたわ」
「なぜ私が行くまでそのネタ取っとかんかった……!」

 そして怒られ+悔しがられる。

「まぁいずれにせよ、順調に治ってよかったわさ」
「……ああ! な、治ったらピクニックって約束、やくそく!」
「あ。そーいや、そんな約束あったな!」
「完治じゃないけど、まぁいいか。お疲れさん、よく頑張ったね」
「…………な、何や。そんなん言われると気持ちわるいなぁ!」
「何故耳を引っ張るか」

 祝い続ける俺たちだった。





「これは……何だ? すごい発泡だな」
「バブルスライムみたいになってら。触ったらヤバそうな」

 ビールを飲んだはぐりんたちが、バブルスライムばりにしゅわしゅわ泡を出して寝ていた。大丈
夫かなと思ったけど、翌日はちゃんと動いてました。ちなみにシャマル先生は遅くまで寝てました。

「活きのいい鉄火巻きやな。シャマルは緑のイメージやから、むしろかっぱ巻き?」
「ヴィータのバインドがナイス過ぎるわ」
「へへ、ナイスだろ。もっと誉めろ」
「どっ、どうして巻かれて……! と、解いてっ、このバインド解いてくださぁいい……」

 なかなか起きないので、布団で巻いてかっぱ巻きにした。助けを求めるのをゆっくり観察した。



(続く)

############

八神家で酔って眠るとこうなる。
データ量的には昔の紐糸(1)に戻してみた。やっぱり大変書きやすいです。



[10409] その163
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:445d0746
Date: 2010/02/23 14:38
 夕飯のメニューをあれこれ考えていたところ、ちっこいリインが目の前をふよふよと飛んでいく
のを見てひらめく。

「リイン、リインちょっと。新しいお風呂を考えたんですが」
「えっ……こ、これは困りましたっ。いきなり一緒にお風呂の特殊イベントですか! はわわ!」
「そうそう。だからおいで。こっちにいいお湯があるから」
「はっ! そ、それは土鍋……! い、嫌な予感しかしないのですが、どうするべきでしょうか!」
「関係ない 行け」
「けーとさんが荒木デッサンに……リイン2号、突貫します!」

 着衣のまま飛び込んだ。蓋をする。

「やややややや! やっぱりこうなりましたか! ……だ、出してくださいーっ」

 中からばしゃばしゃ音がする。常々思うのだが、この子は一人で表に出したら駄目だな。

「ここにごま豆乳なべの素を投入するとえろい図になるよね」
「けーとさんがオープンにいやらしいです! あとあと、豆乳を投入ってナチュラルにうまいこと言ってます!」
「じゃあうまいことついでに、美味い出汁を出してくださいな」
「し、仕方ありません。こうなったらリインの穴という穴から、世界120ヵ国のスープがそれはもう大量に!」

 味がひどいことになるのでやめよう。蓋を開ける。

「ということで、夕飯は湯どうふにしようと思います」
「マジですか!」
「マジだ」
「な、なんという壮大な前振り……しかも鍋ではなく、あえて湯どうふに持っていくとは!」

 なにやら言うのはともかくふきんと着替えを渡してやり、ざくざくと野菜を切る。人数が多いの
で具材もけっこう多めだ。鍋もひとつでは足りずふたつある。

「ねぇ、ゆどうふって?」

 ロッテが横からのぞきこんできた。

「む、熱いから猫舌のふたりには厳しいか……ああ、普段コーヒー飲んでるし大丈夫か」

 「熱い」「飲む」というキーワードから、ロッテじゃない方が推理をはじめた。

「どうした? えと、なんだっけ。リア……マリアンヌ?」

 アリアだと主張した上で引っかかれた。
 ということでぬこ姉妹も、ここにはいないがグレアムじいちゃんも来てます。復学の手続きには
保護者がいた方がいいので、時間を見つけて来てくれたのだ。じいちゃんとはやてと一応シャマル
先生が、ちょうど今学校に行ってるところ。
 猫好きということですずかでも呼んでやろうかと思ったが、ちょっと滞在していくらしいから今
日はいいや。はやては手続き書類も書かなきゃならんし。

「で、ぬこ姉妹はついでに遊びに来た、と」
「お父さまの付き添いよ。こいつらが何するか分かったものじゃないし」

 ヴィータとリインが聞きつけてなにやら構えを取った。事件解決後も相変わらず騎士たちは嫌い
みたいで、こんな感じに刺々しい態度になることがある。

「じいちゃんとはやてにシャマル先生がついいったとき、何も言わなかった件について一言」
「そっ、それは……さ、さすがに、街中では何もしないと思ったからで……!」

 アリアがなにやら言い、ヴィータたちも構えを解いた。まぁこういうところを見るに、少しずつ
歩みよってはきているのかもしれなかった。

「そっ、そんなことより! お、お前も教会行ってきたんでしょう? 何かやらかさなかったんでしょうね」
「安心しろ。いつも通りだったから」

 ヴィータはとりあえず間違ったことは言ってないが、既にぬこ姉妹は不安そう。

「しかしあの時とは違い、呪いのアイテムを装備した猫の解除とかはしてなかった。がっかりだ」
「あ、あれはお前が着けさせたんでしょう!?」
「そうだったっけ。いやぁしかし、いしのかつらだったか。あれ装備したアリアは面白かっt」

 羞恥で顔真っ赤+涙目のアリアに口をふさがれた。

「がり」
「にゃあああああっ!?」

 口元にある指を噛んだら、猫みたいに飛び上がって猫みたいな声出して猫みてぇ。

「お前も楽しんでたんじゃねーか。もっと話聞かせろよ」
「わかった。じゃあぬこたちがマホトーンかけられたときの、あの涙目加減とか語ってみようか」
「や、やめなさいよ、やめなさいよーっ!」

 ざくざく野菜を切る背後がとてもうるさかった。

「ちなみにクロノには話してあるから」
「えっ……う、嘘っ」
「マホトーン習得を真剣に考えてた。猫たちのためにって」

 ぬこたちが石化した。



(続く)

############

少し歩み寄った感。
失踪期間に何があったかもいつかどこかで書きたいですね。



こちらやHPに寄せられる感想や拍手を見ていると、「やったね!(ry」については賛否両論ですね。
作者は死亡フラグの代名詞くらいの気持ちで使わせたのですが、確かにはやての前だと洒落にならんかったかも。
はやては作中では気にしてませんでしたが、もう少し考えてみます。そのうち直すかもしれません。
ご意見ありがとうございます。参考になります。何かありましたら、どんどん言っていただけると嬉しいです!



[10409] その164(前編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:2791b494
Date: 2010/03/15 23:22
 「はやての足が回復してきたので復学するよー」の旨をとりあえず手当たり次第にメールしたと
ころ、まずなのはとフェイトが30分と経たずすっ飛んできた。

「はっ、はやて、足がなおっ、治ったって……!」
「いらっしゃい。リハビリうまくいってな、ここまで戻ってん」
「あ……ほっ、ホントだ。ホントだっ」

 はやてが玄関に現れると、二人とも感極まったような表情になった。そのままどちらからともな
く近づいて、三人でむぎゅーときつく抱きあう。

「ヴォルケンズとリインたちが泣きそうだ」
「う、うるせえ。誰がっ……お前、どーして背中向けてんだよ」
「……人が幸せそうにしているところを見ると、全身にじんましんが出て寒気がするんだ」
「声が震えてるぞ」
「天の邪鬼め」

 やかましいので退散する。それにしてもはやてが立った瞬間じゃなく、今になってこんな状態に
なるのはなんでだろう。もらい泣きとかいうアレなのか。

「……ま、まぁ、良かったんじゃない。お前も、魔法捨てた甲斐があって」
「へ、変な顔しないの。ほら、ティッシュ」

 とか言ってくれる、先に戻ってたぬこ姉妹(滞在中)。ヴォルケンズ嫌いって公言してたりする
けれど、実は根はいい人なんじゃないかと思います。

「この俺にティッシュを食えと申すか……これだからリア充は。落下しろ」
「リア……? わ、私はアリアだって何度も!」
「モハメドアリア?」
「リーゼアリア!」
「リーゼントとな。名前と髪が一致しないからセットしてやんよ。『グレートだぜ』とか言え」

 怒られた。

「まぁはやての足は俺のコアとは直接関係ないんだけどね。ところでグレアムじいちゃんは?」
「あ、そうだったっけ……父様なら、さっき一人で、その……」
「……そか。まぁ一人にしておくわ」
「お、お前が空気を読むなんて……!」
「やっぱチャーハン持って様子見に行ってくる」

 止められた。

「ドドリア、離して」
「アリアだよ!」

 責められた。





 でもってその後しばらくして、なのはたちも玄関から上がって落ち着いたところでグレアムじい
ちゃん再登場。よく見なきゃわからん程度に目が赤かったけどそれはそれ。

「何でしょうか。ついに俺に遺跡探索の依頼が来たとか」
「いや。実は……はやてが望むなら、の話だが」
「私たちが魔法の指導してあげようか、ってことなんだけど」
「リーゼさんたちが?」

 みんなの前で話しだしたのは、そんな提案だった。いわく、ぬこ姉妹がついて来たのはじいちゃ
んの護衛のほかに、そんな意味があったのだとか。

「やる」

 即答だった。少しは悩め。

「独学はどうした」
「んー、自分でやってみたんやけど……初歩のマスターまでは教わった方が早いって思ってん」
「そうでもない気が。マホトーン修得したら終了なんだし」
「犯罪者相手ならそーやねんけど。でも他にも、空飛んだりもしたいしなぁ」

 あとは物を運んだり、壁作ったりとか、と挙げていく。ベギラゴンやらイオナズンやらを自力で
覚えるのもいいけど、やっぱりそういった応用力のあるものも勉強したいのだとか。なるほど。

「教本読むだけじゃ限界あるしなぁ」
「把握。じいちゃんどうですか。これを機に八神家に長期滞在とか」
「あー! それ、ええな! ええかも!」
「む……む?」

 戸惑うグレアムじいちゃん。満更でもないようだ。
 よく考えると向こうの家に管理局員が出入りしてるかもしれないから、難しいかもわからんけど。
まぁ今後はしがらみもなく、本当の親子みたいになってほしいなぁと思ったり。

「あ、あのっ。わたしも、一緒に教わることってできますか?」

 しかしふと気づくと、なのはが声をあげていた。見てみると、表情は真剣だ。
 意外そうな表情をするぬこ姉妹だが、そのまま話すのを聞くとどうやら乗り気らしい。そういや
なのははユーノに教わってたんだっけか。ユーノにはなかなか会えないから、教えてくる人がいな
くて困ってたのかも。

「原作やとどないやったん?」
「空白期はあまり記憶がないのでわからん。何か事件があったようには思うんだが、なのは絡みで」
「使えへんなぁ」
「お役に立てず」

 はやてからの質問には答えられんかった。中途半端な知識は今さらなのでどうとでも。

「ま、誰かさんのぶんまで頑張って来たるから。期待して待っとってなー」

 とか言って、にかにかしながら肩を組んできた。口にはしないけどやっぱこいつ優しい。

「気持ちは嬉しいが無茶はすんな。車イスを押す作業お断りします」
「む、心配された……ふふー。怪我なんてせーへんから、安心しとれ」
「暮らし安心」
「クラシアン」
「水道トラブル5000円」
「家庭のトラブルお断りします」

 家庭の問題は裁判所へどうぞ。

「あとできれば、ソニックとサマソを会得して欲しい。『待ちガイル式訓練法』とかやろうぜ」
「残念やけどリュウ使いなので却下」

 却下された。他の人に頼もう。

「なのは」
「お断りだよーだっ!」
「フェイト」
「わ、わたしも、ちょっと……」

 スト2でいじめられた記憶しかないためか、次々にお断りされる。こうなるとリインが頼みの綱。

「…………」

 両手でばってんを作られた。ちくしょう自力でサマソ会得してやる。



(続く)

############

毎回毎回名前を間違えられるアリア。挨拶みたいなものです。

はやてはなのはやリインたちとは対照的に、オリーシュが払った犠牲についてはあまり触れません。
気を遣って態度を変えられるのはあんまり、と思っていることを感じているからです。オリーシュもそこらへんは察しているみたいな。



[10409] その164(後編)
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:15d41486
Date: 2010/03/15 23:23
 なのはも結局はやてと一緒に、ぬこ姉妹に魔法を教わることになったとさ。でもって、滞在期間
は延ばすのだとか。はやてがにっこにっこしております。

「でお前はどうするの? 教本読んだりするけど、一緒に読む?」
「マジックアイテムの作り方とかなら知りたいけど、まぁいいや。自分で情報あつめる」
「わかった。それにしても好きよね、そういう地道に、足で稼ぐ感じの」

 基本的にRPGは大好きなので。町の人から情報集めたりするのが特に。
 あとはまぁ、隣で講習聞いてるとなのはやらリインやらが気にするかもー、というのもあるけど。
口には出さんが。

「情報ソースもあるし。いのりの指輪売ってくれたエルフたちとは仲良くしてるからなぁ」
「仲良くじゃなくて、あれは人間扱いされてないだけだと思うけど」
「あのときはニンジンを狙うアルミラージを大量に引き連れてたから」
「それじゃなくて、登場するときのマイケルダンスが決定的だったんじゃない?」

 とかいう話をきっかけに、なにやらそれぞれ今後どうするか、という話題になる。俺は管理局で
正社員採用とかは考えてないので、まぁせいぜいお手伝い止まりか。

「なのは。『嘱託魔導士』って漢字で……」
「あ、言うと思った。練習したから書けるもーん。えへへ、すごいでしょ。すごいでしょ?」
「五十回書け」
「よ、要求が理不尽すぎるよ!? たまには褒めてよ、もう、もー!」

 とりあえず、なのはは魔法の勉強しつつ考えるとか。今は「嘱託いいかも」な気分がある感じで、
確固たるものがある雰囲気ではないような。
 確かにまぁ、決めちゃうのはまだ早いかもわからんね。学校と両立させるつもりなら。

「ところではやては? 八神家がミッドに移住する未来はあるのでしょうか」
「んー、まだそこまではなぁ……仕事はまぁ、魔法のレベルしだいやな」
「そか。ていうか、フェイトも学校行こうぜ。戦ってばかりだと脳味噌筋肉になる」
「うん。でも今はそんなに大変じゃないから、心配しないで」

 前から嘱託やってるフェイトそん。リンディさんが気を遣ってあげているのだろう、と個人的に
は思う。そうでもないと、この人たち戦いっぱなしだもんなぁ。

「そして出稼ぎヴォルケンズですか。派遣切られてしまえ」
「誰が派遣だ誰が」
「訂正を要求する」

 口々に文句を言われたけどまぁいいや。何はともあれ、みんなストイックに働いたりはしなさそ
うだから安心である。特になのは。

「砲撃しまくって、いつの間にか絞った後のボロ雑巾になる、なんてことも想像してたし」
「ボロ雑巾って」

 すごいたとえだなぁ、と苦笑される。
 とかやっていたら、「そういえば」と思い出したように言うなのは。

「けーとくんは、考えてないの? 管理局でお仕事とかは」

 続きを促すと、出てきたのはそんな言葉。割と真面目っぽいような目をしている。

「特に考えてない。冒険ミッションとかはクロノがくれるらしいが」
「どっかの食堂でバイトしてもいい、ってゆーとったような」
「それはそれで。『お残しは許しまへんでぇー!』とかやってみたいかも」
「け、けーとさんが最強キャラに……ど、どうしましょう、この体では胃袋のサイズに限界が!」

 何やら慌てているリイン2号だが、多分おねえさんの方が食べてくれるので大丈夫だと思う。

「まあ何にせよ、やりたいことはたくさんある。俺は俺でそれを、まぁ楽しくやれればそれで」

 とか言うと、なのはは何やらはっとしたような表情になった。なんだろうと思って見てみたが、
すぐに戻る。でもってよくわからないが、なんだか嬉しそう。

「何をにやにやしているか」
「え? んー……なんでもないよっ」

 よくわからんかった。悪いことじゃなさそうだし、まぁいいかね。





「アリサはマッチ売りの少女じゃね」
「どうしてそんな過酷な未来になってんのよっ!」
「1箱525円出すよ? すごいなタバコより高いぜ!」
「そういう問題じゃないと思うけど……」

 ちなみにはやての回復メールを受けて、後からアリサとすずかも来ました。こちらとも将来の話
とかで盛り上がった。



(続く)

############

話が連続なので前後編。

なのはがオリーシュについて抱いてる感情は、友情のほかにもいろいろあるんです。
その辺りももうちょい書きたいなと思ったり。あとはヴォルケンズの様子とかももっと。
ヴィータだけならすっごい出番多いんですけどね。というかヴィータが使いやすすぎるっていう。

StSではまたエンディングまでジェットコースターするので、空白期はゆっくり進行。
残りイベントはすずか関係、中学以後の管理局との話、なのはボロ雑巾あたりですね。割と絞られてきた。



[10409] その165
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:e7388da7
Date: 2010/03/16 20:41
「シグナムやシャマル先生なら、髪の長さ的に昇天ペガサスMIX盛りができそうだ」

 こたつでまったりしていたところ、ふと思ったので言ってみた。二人とも怪訝そうな顔をする。

「できそうというか、してみたい! どうだろう、していい?」
「髪型か? どんな形になるんだ?」
「出来てからのお楽しみで。やっていいなら即試してみたいのですが」
「ちょうどパソコン点いてますから、画像検索してみますねっ」

 押しきれるかと思ったのだけれども、シャマル先生が気付いてパソコンの方に向かった。失敗。

「な、何ですかこれ……なんですかこれっ!」
「マリーアントワネットでも模したんじゃね。俺に聞かないで」
「この髪型にセットできるなら逆にすごいが……なんだこれは。鳥かごか?」
「頭の中に花でも咲いてそうな髪型だよね」
「外側には咲いてますよ?」

 確かに。

「こんな姿にしようとしたのは兎に角……たしかに、髪型を変えてみるのはいいかもしれないな」
「シグナムはお団子作ってみても似合うんじゃね?」
「髪型ですか……わたしはどうでしょう。似合いそうな髪型ってありますか?」
「……丸刈りとか」
「ちゃんと答えてくれるんじゃないんですかっ!?」

 そんなこと言ってないです。

「も、もっとこう、真面目な感じの……」
「マルガリータ」
「単語だけ真面目っぽくしてもダメです!」
「ゴブガリータ」
「変わってませんよう!?」

 面白くなってきたので、このままシャマル先生でひとしきり遊ぶ。

「う、ううぅ……どうあっても真面目に答えてくれない……」
「不真面目と遊ぶことにかけては、お前は天才的かもしれんな」
「そんなバカな。真面目とかすごい得意なのに」
「言いながらこたつに潜ってるじゃないですかぁ……」

 とか言ってから、シャマル先生はしょげた感じでどこかに行ってしまった。いつものことだけど
さんざっぱら遊んでしまったので、後でお詫びにお菓子でも作っておこう。ゼリーとか。

「シグナムはコーヒーゼリー大丈夫?」

 コーヒーが飲める以上は大丈夫だと思うが、食べられない人もたまにいるので聞いておく。

「ああ、平気だが……作るのか?」
「そのつもり。アイスのせたりする」
「む……そ、そうだな。手が必要なら、いつでも言うといい。力になろう」

 と、シグナムは珍しいことを言った。
 実は何を隠そうこのお方、こっそりお菓子作りの練習をしていたらしいのだ。
 シャマル先生が桃子さんに教わっていると聞いて、何やら刺激されたようだった。以前から家事
やら料理やらの腕を上げたがっていたから、その延長にあるみたいだ。腕試しがしたいのだろう。

「まぁもう少ししてからなので。喋りすぎて疲れた」
「遊びすぎだ。少し休んだらどうだ?」
「そうしよう。寝る」
「……どのくらいだ?」
「1時間以内」

 微妙にそわそわしているシグナムだった。よほど腕試しがしたかったのか、1時間きっかりで起
こされて、ゆっくりゼリー作りしてました。





「シャマル先生、お詫びにアイスとコーヒーゼリーを……あっ」
「きゃっ……!」

 仕上がりに満足した感じのシグナムの横で、シャマル先生の分を渡そうとしたら、普通に転んだ。
ゼリーとアイスがぶっかかった。

「……」
「……」
「……お団子が似合うと思います」
「ゼリーとアイスが乗っかっただけだと思いますっ!」

 怒られまくった。平謝りした。



(続く)



[10409] その166
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6258c0d3
Date: 2010/03/19 15:30
 学校がはじまった。はやても初日から通うので、通学路をはやてと連れだって歩く。

「不思議な気分すぎるのですが」
「わたしの方は新鮮やなぁ。超歩いとるし」
「常々思うのだが、松葉杖を持つとガンダムになった気分になるよね」
「返せ」

 念のため松葉杖を運んでいたのだが、遊ぼうとすると取り上げられる。

「そんな理不尽な。やるだろう傘でアバンストラッシュの練習とか!」
「残念でしたー。傘つかう機会なんてあらへんかったもん」
「もやし娘とな」
「髪の毛もやしの人に言われたくないわー!」

 とか遊びながら、でもどこかくすぐったいような気分のまま、てくてくと歩く。はやての表情が
緩み加減なのは、春の陽気だけのせいじゃない気がした。

「おっと」
「わぷっ」

 と、十字路。はやての横から飛び出る人影が。
 なんと、俺のクラスメイトだった! トーストをくわえ直して謝ってから、「遅刻遅刻!」と言
って先を走っていく!

「あれ、もしかしてうちの学校の?」
「相違ない。同級生」
「ほー。これまたギャルゲみたいな……どうして笑いをこらえとるん?」
「……はやて、左」
「ん? あたっ」

 再び十字路。はやての横から、トーストをくわえた人影が次々と!

「いたっ」
「ご、ごめん急いでるから!」
「あてっ」
「あっ、悪い! 遅刻ギリギリだから、じゃあ!」
「にゃー」
「ごめんっ、朝礼が!」





「ぜんぶお宅の差し金か」

 帰宅後、当たり前のように問い詰められました。
 クラスメイトに裏で手を引いていたのが、完全にバレていた。認めると耳を引っ張られる。

「やめれ。痛い」
「痛くしとるから当然。ったく、どうして毎回こうもくだらんことを」
「登場したはやてを見て、連中の『あっ、あのときの!』が重なったときのあの爽快感がね」
「爽快感ってより完全に大爆笑やったろ。クラス全員で計画しよってもー」

 でもクラスには早く慣れたでしょう。それとこれとは話が別や。となってしばらく引っ張られ続
ける。離された後てじんじんするのを、ちっこいリインに冷やしてもらう。

「お、帰ってる。はやて、学校どうだった? またこいつが何かしたのか?」
「通学路でトーストくわえたクラスメイト10人くらいとぶつかったんやけど」
「……お前おいしいこと考えすぎだろ。言ったらカメラ持ってったのに」
「先生が写真とってた。3UPくらいしてそうだよね。敵キャラ踏みまくったマリオみたく」

 このぶんだと楽しそうだな、とヴィータ。記録できなかったのが微妙に残念そう。

「で、全員仮面はかぶってたんだろーな?」
「いやいや。あれは正装ということにしたから、最近は滅多なことでは」
「でも図工室に仮面のストックはたくさんあったわ」
「黒いのがか。そういえば、今日は学校の中を回った感じだったっけ」

 と、はやてによる今日の活動報告。ヴィータそのうち親戚役として遊びに行ったりしようかと考
えてるらしく、ふんふんと相槌を打っている。
 こうなると周りから、わらわらとみんなが集まってきた。そして微笑ましそうな表情で、はやて
の話に耳を傾けるのだ。ぬこ姉妹も日本の学校に興味津々みたいだし、グレアムじいちゃんは言わ
ずもがなだ。はぐりんたちはよく分かってなさそうだけど。

「ちなみに席はガン離れでした」
「あ行とや行なら当然だな……ん?」
「あっ、そうですね。名前順なら、最初と最後……えっ?」

 なんか忘れてる気がするけどまぁいいや。

「お茶いれてくる」
「麦茶が」
「緑茶を」
「ウーロン茶!」

 めんどくさいので緑茶。淹れて戻り、みんなで飲む。リクエスト通ったシグナムが機嫌よさそう
で、却下のはやてとヴィータがぶーたれてた。ぬこ姉妹も熱い熱いとにゃーにゃー文句を言ってい
たが、熱い茶ならこんなもんだ。慣れろ。

「で、放課後は休憩をはさんで魔法の訓練か。週3くらいで」
「ん。なのはちゃんももう少しで来るって……んー、何か充実してきた! テンション上がる!」
「希望通り、最初からびしびしいくからね。覚悟しなさいっ」

 でもって学校がはじまると同時に、ちょっと特殊な習い事も。生活が一気に変わってきて、はや
てもなんだかすごい気合い十分かつ嬉しそうだった。

「なーなー、見とってな! わたし、勉強も魔法も頑張るから!」
「ならまず、通学路で転校生五十人とぶつかる魔法を」
「クラスの人数超えとるやろ」
「それ男も混ざってるよな」

 ぬこ姉妹にも問いただしてみたが、「そんな魔法ない」とのこと。残念。

「安心しろ。ばっちり看取ってやる」
「ニュアンスが不穏なんやけど……ったく。いつもそーなんやから」

 とか言いながらも、にこにこと満足そうなはやてだった。こちらまで幸せな気分になりながら、
魔法使い二人のためにクッキーでも焼こうかと思う俺だった。





「けーとくんけーとくん! こ、このサクランボって、もしかしてレイジングハート?」
「クッキーに切れ目入れて魔導書とか。チョコで十字も書いてあるし見事すぎるんやけど」

 存外に気に入られた。横でシャマル先生が、触発されて気合いを入れていた。

「あっ、おいしい。おいしいーっ!」
「そいつはよかった。動物の形のはこっちに……シグナムはどうして食べないの」
「……い、言われなくても、わかっている。いま食べるところだっ」

 けっこう可愛い感じのが作れたと思ったが、シグナムはなぜか食べるのを躊躇していた。可愛す
ぎて食べれない、とかだったりして。



(続く)

############

ノリノリのクラスメイトたち。
そして可愛すぎて食べれないシグナム。

ここから時間の流れは早くなるかもしれません。



[10409] その167
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0ddfa90
Date: 2010/04/02 23:54
 はやての話によると、どうやらちっこいリイン2号は、実は大きく変身できるのだとか。
 聞いた直後は「またまたご冗談を…」とか言っていたのだが、そのとき誰かにとんとんと肩をた
たかれた。まさかと思って振り返ると、そこには自分らと同じくらいの身長になったリイン2号の
姿が!

「リイン2号が合体して、キングリインがあらわれた。コマンド?」
「キングスライムみたいでかっこいいです! でもでも、残念ながら王冠がありません!」
「貴様にはこのお菓子の冠がお似合いだ」
「じゅ、準備が良すぎです! これはもう、けーとさんが予知能力を身につけたとしか!」
「普通にはぐりんたち用に作ってたんやっけ。みんなのぶんもあるんか」
「ひとつもーらいっ……お、美味いなこれ」

 どういう流れか、コーヒータイムに突入。ヴィータがうまいうまい言いながら食べ、リインは美
味しそうにはむはむ食べてます。この人たちは特に嬉しそうに食べてくれるので、毎度ながらいい
お客様。

「で、なんだっけ……そう、ちっちゃいリインが巨大化した件だ。すっかり忘れていた」
「はっ! そ、そうでした! いつの間にか全くちがう話題にっ」
「それはそれで驚きなのだが、大きくなれるなら常時それでいい気がするのですけれども」
「たしかにそうですが、その場合『お菓子の家に泊まる』という夢が遠のいてしまうのですっ」

 姉がそうであるためか、妹もけっこうお菓子は好きだったりするみたいです。

「……あれ? それ作るの俺じゃね?」
「期待してます、けーとさんっ!」

 無邪気にニコニコするリイン2号だった。これはお菓子作りの腕を本格的に磨く必要があるかも
わからんね。

「じゃあせっかくリインがコントローラ持てるから、あとでゲームとかやりますか」
「分かりましたっ。普段はできない分、今日はリインのコントローラが火を噴きます!」
「日本のゲーム? わたしたちも、やってみたいんだけど」
「残念だけどこのゲーム3人用なんだ」
「コントローラが4つある理由を説明しろ」

 ザフィーラの指摘が真っ当すぎて何も言えません。
 まぁ後でぬこ姉妹も混ぜてゲームするとして、それはそれとしてリイン2号だ。
 サイズ変更は自由だけれど、エネルギーを食うのでそこまで長持ちはしないとのこと。せっかく
大きくなっていることだし、ゲームの前に今しかできないことをしてみてぇ!

「フュー……」
「ジョン!」
「はっ!」

 目配せしてからやってみたら、リインが瞬時に合わせてくれた。背丈があってるうえに本当に合
体できるのがすげぇ、とか思っていると、はやてとヴィータが笑いすぎてひぃひぃ言ってた。

「俺はオリーシュでもリインでもない。俺はお前を倒す者だ!」
「お……お前、そ、それ、それ反則……!」
「あとちょうど白目だし、金髪にしたらブロリーになれるかと今思ったのですが!」
「テンション上がってるな」
「リインの影響かと」

 テンション高めに遊んでました。





 というのも放課後少しの時間限定で、ちょっとするとなのはやフェイトが家に来る。
 フェイトもよくよく考えるとなのはと一緒の学校に編入したわけだし、スケジュールが似通うの
は当然だった。しかし嘱託のお仕事も入ってくるだろうに、ちゃんと休んだり遊んだりしてるのだ
ろうか、と心配になる。ゲームとか映画とか。

「フェイトが休日にひとりジェンガしてたら泣く」
「ひとりジェンガ……」
「何だいその……聞いてるだけで悲しくなる遊びは……」

 というわけでぬこ姉妹講習の休憩時間に訊いてみたら、フェイトは微妙な表情に、アルフはやり
きれない顔になった。ハラオウン家は遊ぶの下手そうだと思ってたけど、このぶんなら大丈夫そう。

「クロノは本の虫かな。リンディさんはお茶と和菓子でのんびりしてそうだわ」
「そういうお前はどうなんだい。魔法の講習の間も暇だろうに、何してるのさ」
「わしの趣味は108以上あるが、ついさっきフュージョンの練習にハマった」
「フュージョン……?」

 何のことだろう、と首をひねるフェイト。あのダンスが趣味なのもどうだろうと思わなくはない。
 でもすでにちっこいリインの振り付けが完璧なので、しばらくすると飽きそうではある。

「あっ、けーとくん、フェイトちゃん。コーヒー入ったけど、何のお話してるの?」

 元気なのがコーヒー持って来た。

「ひとりしりとり」
「みんないるのに!?」
「フェイトにならって」
「えっ……ち、違うよなのはっ」

 なのはが哀れみのあまり、目に涙をにじませてフェイトを見る。必死に誤解を解くフェイト。

「ま、また嘘八百だし……フェイトちゃん、気をつけてね。けーとくん、すぐ嘘つくから」
「天の邪鬼だから仕方ないんだ。ドラえもんとずっと一緒に暮らさなぁい!」
「感動が台無しだよ……」
「ここで気になったのだが、フェイトはドラえもん分かるのか」
「え? あ、うん。テレビでやってるアニメだよね?」

 テレビとか観てるかなと思ったが、案外目は通しているようだ。

「そうかそうか。……ではリイン2号、こちらへ」
「なんでしょうかっ?」
「ビッグライトー」
「むむむ……てあー!」

 ネタが通じるようなのでやってみた。本当に大きくなるとは思っていなかったようで、ふたりと
もびっくりしてコーヒーむせてた。

「お前それズルいだろ」
「リインが大きくなれるとネタ幅広くなるわ本当」
「あっ。お、お前、フェイトに何したんだこのっ!」

 アルフには怒られたが満足した。今後もいろいろな応用を考えようと思う俺だった。

「ガクラン八年組」
「そ、そのサイズの巨大化はちょっと厳しいです! すっごい量の魔力とエネルギーが!」

 限界はあるらしかった。巨大綾波でエヴァごっことかやりたかったので残念だ。

「残念だよ、リリン」
「リインがついに第十八使徒に……!」

 ネタバレも甚だしいステファ二ーだった。





「……あれ。この家にない漫画を何故ご存じか」
「あれー? ……んー、けーとさんのスキルを、一部引き継いでいるからだと思います!」
「ネタ的な意味でか」
「おそらく!」

 そういう可能性が示唆されているらしい。俺が思っていた以上に色々なものを、俺からオリック
経由で習得してるのかもしれなかった。



(続く)

############

奴の能力とかはまた今度。
魔法の講習、合間はこんな風に楽しくやってます。

>ガク八
八神家になさそうな漫画で思い浮かんだのがこれだった。八繋がりかね。

2010.4.2 23:54 最後だけちょっと修正。



[10409] その168
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/04/04 22:24
 なのはに頼むと、訓練の途中で背中に乗せてくれたりすることがある。

「仕方ないなぁ。ちょっとだけだよ、ちょっとだけっ」

 とか言いながら。これはこれで、浮力を調整する練習になるらしい。
 そして背中に乗せてもらっていると、アンパンマンに拾い上げられたような気分になる。
 頭にかじりついてみようかと思ったけど、前にやったら空中でわたわた暴れられたうえ固かった
のを思い出した。やめておく。

「そう考えるとなのはの頭から生えたツインテールが、バイキンマンのアレに見えてきた」
「バイキンマンは自分で空飛ばないよ?」
「あの飛行マシン作れるバイキンマンって実は天才なんじゃなかろうか。どうよ」
「す、すごい仮説が……あれ? けーとくん、それで、どうして髪をいじってるの?」
「ポニーテールが2つもあるので、ニンジンくくりつけて目の前にぶらさげようと思い」

 降ろされる。

「なのははニンジンが食えないようです」
「違うよもう、もう! 背中に乗ってるあいだ、人の髪の毛で遊ぶの禁止!」
「ならフェイトで」
「えっ……」
「も、もっと駄目!」

 フェイトは戸惑い、なのはは却下した。人の髪を釣糸にしてはいけない、という新事実を記憶に
刻みつける。

「やれやれ。世界はやっちゃいけないことばかりだ」
『マホトーンで黙らせてくれ』
「あいにくながら未習得や」

 通信機越しのクロノと、俺の隣でギラ練習中のはやての息がすごい合ってる気がなんとなく。

「はやては飛ばないの」
「まだ飛べへんよー」
「それ下に撃ったら爆風で飛べるんじゃね」
「そんな両津勘吉みたいな飛び方イヤやわ」

 ということで、魔法講習の見物に来ています。訓練施設が予約できたのでそこで。
 ぬこ姉妹も張り切って教えてるらしく、飛行組の切り替え速度が上がったような気がしなくもな
い。
 はやてははやてで魔法に慣れるべく下級魔法を使い続けているが、かなり上達してきているよう
だ。もうハンドボール大のメラを作れるようになったし、飲み物にヒャドで作った氷を入れたりし
ているし。

「なぁなぁ、あとどのくらいで飛ぶ練習するん?」
「焦らないの。まだ基礎の基礎なんだから」
「あんまり遅いと久々にはぐりんのパルプンテな」
「あ、あの怖いのもう呼ばないでって言ってるでしょう!?」

 尋常じゃない怖がり方をするぬこ姉妹の片割れ。有明だったかアリアスだったか。
 昔一度だけはぐりんにパルプンテを使ってもらったとき、変なやつが出てきたことがあるのだ。
そのときは俺以外の全員が、恐怖のあまり気絶しちゃって。

「流星降ってこなくてよかったな」

 ヴィータの指摘で、その可能性があったことにはじめて気付いた。
 多用しないようにしようと心に誓った。と思っていたのだが10年後、また役に立つことになる
のは別の話。

「あー疲れた。指輪指輪、と」

 そのうち魔法を使い続けて魔力が減ってきたらしく、はやてが火炎を維持しつついのりの指輪を
はめる。

「いのりの指輪は役に立っているようで何より。何回目?」
「58回目。なのはちゃん、フェイトちゃん! そろそろ魔力足らんのとちゃうー?」
「大丈夫ー! わたしたちも持ってきてるからー!」

 大事に使ってもらえてるのは嬉しいが、魔法を使いながら魔力補充できるとか初耳でした。
 なのはに持たせたのは正解だったかもわからん。「ドルオーラ!」→「連発だぁーっ!」フラグ
が立ちまくり。

「そういえば第三期で、なのはに砲撃勝負を挑んだ憐れな数の子がいたような」
「可哀想すぎるって」
「焼き数の子にされそうや」

 聞いたことない料理だがどうなんだろう。

「……うまそーなんだけど。すごい食べてみたい」
「そういえば、夕食はまだ決まってないんだったよね?」

 ヴィータとロッテが想像を膨らませていた。こんな時だけ仲が良くなるのはご愛嬌。
 夕食にせがまれたけど未知の料理なので、代わりにニシンでも焼いて勘弁してもらった。「まぁ
いいか」ってなってた。



(続く)

############

エイプリルフールだ!

「オリーシュがデスノートを拾ったようです」でいいよね

まったりしてたらいつのまにか午後になってたよ!

嘘吐けるの午前までじゃねーかイタチェ…

パルプンテで呼ばれたのはあれです。強制的に戦闘終了になるあれ。
焼き数の子は実際にあるらしいですね。美味しいのかわからんけど。

次はちょっと時間が飛んで、春→夏になる。かも。

あと前回のを末尾だけちょっと修正しましたです。



[10409] その169
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/04/04 22:24
 春が過ぎ梅雨を越し、夏がやって参りました。

「1学期もあっという間やったなー」

 しみじみとはやては言うが、あっという間な割にイベント目白押しな1学期だったと俺は思う。
家ではヴォルケンズ生誕一周年パーティーもやったし、学校では毎日がクライマックスだったし。

「というわけで、あまりあっという間には感じないのですが」
「……あっという間! あっという間やったやろ!」

 机をばんばんと叩いて、何故かこだわりを見せるはやて。その机の上を見て、理由を察した。

「あっという間だったから、荷物を持って帰り忘れるのも仕方がない、と」
「んんうぅ……」

 机のうえに山と積まれた荷物に突っ伏して、はやては嘆きの声を上げた。学校にはよくある事。
可哀想なのでいくつか持ってやることにした。その上で促すと、なんとか再起動してのそりのそり
と動き出す。

「鍵盤ハーモニカにプール用具になわとび。あとこれはあれか、図工で作った貯金箱」
「早めに持って帰らんかったのは失敗やったわ。持たせてしもーてごめんな?」
「夕飯シチューで」
「よっしゃ」

 荷物係と引き換えに、夕食メニュー決定の優先権を発動することに成功。パンより和食派のシグ
ナムには悪いが、まぁ今日は勘弁してもらおう。朝が和食だったことだし。

「自由研究どないしよ」

 クラスメイトたちと学期末恒例の「じゃあな! しみったれたじいさん長生きしろよ! そして
そのケチな孫(ry」をやってから、がっちゃがっちゃと荷物を持った帰り道ではやてが言う。

「ミミック連れてきて『貯金箱』って言えばよくね」
「呪文唱えはじめたらどないするつもりなんか」
「あらかじめMP削ればいいんじゃね」
「『お、宝箱を作ったのか。中身はどうなって、えっ、あっ、痛い』」

 生徒の宝箱に手を噛まれる可哀想な先生の姿をまざまざと想起させられた。気の毒な気分になっ
たので、ミミックを使うのはやめておこう。

「なははー。なんやろ、この話題、去年もあったよーな気がするなぁ」
「あん時は、欠席のはやても課題出されて嘆いてたんだったか」
「あったあった。かき氷の食べ過ぎでおなか壊したりとか」
「今年はヴィータのに、イチゴ味と偽ってケチャップぶっかける計画がある」
「えらいことになりそうやし却下な」

 あいつ赤好きそうなのに。

「んお。セミや」

 ジジジッと掠れた声をあげながら、電柱からアブラゼミが飛んでいった。

「アブラゼミか」
「アブラゼミや」
「カナ……」
「カナ……」

 アブラゼミじゃなくなった。節足動物の進化についていけず、俺たちの頭がカンブリア爆発。

「思い出したけど、去年はセミもスケッチしとったっけ」
「そう。そうだった……今年はイラストつきモンスター図鑑にでもしようか」
「あ、えーかも。でも図鑑やと、データ集めるのが大変やったりせん? 身長とか」
「それについてなんだが、クロノのクリスマスプレゼントって説明したっけ」
「ん? ううん、聞いとらんけど?」
「闇の書サイズのポケモン図鑑」
「マジで!?」

 マジで。

「『ポケモン図鑑風モンスター図鑑』だった。ポケモン図鑑についてはちらっと話してたから」
「はー。クロノくんも、凄いものくれたんやなぁ」
「これで後でイラスト化するのも安心。『野生生物の調査に協力を云々』のメモもついてた」
「それは協力せな。――ポケモン図鑑風って、自動でデータが増えるやつ?」
「音声はアニメ版準拠でした」
「細かいんやな」

 ページは666なんか。甘いね容量777だわ。とか話しながら、てけてけ歩く俺たちだった。

「まずプールやな。ちょうど水着あるねんけど……」
「偶然なのだが俺も今日持ち帰りのため所持のうえ、そして今日は午後の買い物まで時間がある」
「プールが私らを呼んどるな」
「はやての集束ヒャダルコで一部水域だけ超快適にしようぜ」
「承知」

 寄り道しました。超気持ちいい!



(続く)

############

夏までに中級魔法覚えました。あと飛んだりとかも>はやて
クロノのプレゼントはいろんな所で言われてましたがこれね。
「多分趣味で使うだろう」+「生態調査に使ってもらいたい」の意図。

前回のポニテちょっと直しました。



[10409] 番外11
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0d3aa45
Date: 2010/04/06 23:06
 昔々あるところに、一人の漁師がおりました。
 その名を、浦島太郎。短く略して、オリーシュと申します。

「海に入ると魚がなついて寄ってくるので、可哀想だから海草でも取って食おう」

 自給自足の生活を続けるオリーシュは、村でも「こいつは何を考えているか分からん」「魚群寄
せに重宝する」「でも魚群どころか鯨も寄ってくるから手に負えない」「むしろ徹頭徹尾手に負え
ない」などいう評価があり、そこそこ有名でありました。

「ワカメの髪型を再現するには色が……しかし乾燥させると艶が消えるし……」

 そんなオリーシュが、今日も某ワカメ高校生の髪型について検証をしていると。

「ユーノくん、その、どうかな? 『こっち』用のクッキー、焼いてみたんだけど……」
「このサイズから人間にまで大きくなれるって、やっぱり信じられないわ……」
「うん。初めて聞いたときは、びっくりしたなぁ」

 なのは、アリサ、すずかが、一匹のフェレットのようなものを可愛がっておりました。

「餌ヲ ヤラナイデ!」

 オリーシュは子供たちを、意味不明な理由で追い散らしました。頭の上にワカメが乗っかってい
るため、ワカメなのかワカメでないのかワカらない感じでワケワカメです。

「死語だよそれ!」
「うるっそぉい!」

 生意気にも突っ込んできたなのはに、頭を振ってワカメをべちゃりと投げつけます。頭の上にワ
カメが乗っかって省略。

「どっ、どうしてこんなことするのっ! ユーノくんにごはんあげてただけなのに!」
「そうなのか。いや、台本と違くね?」
「え、えっと……だ、だってイヤだもん、ユーノくんにディバインバスター五輪刺しなんて」
「今のなのはなら『ブ・レ・イ・カ・ー』のかけ声で五本くらいSLB撃てるかと」
「寿命が縮むよそれぇ……」

 頭の上のワカメを取ろうともがきつつ、なのははうんざりした声をあげて去っていきました。

「はぁ。こんな時でもアンタは……えっと、なんだったかしら。この先って」
「ワカメを乗せた後はやっぱりコンブなんじゃあないか。食えよ」
「わっ! やややや、やめなさいそれ! 髪から生えてるみたいで気持ち悪い!」
「これが嫌なら物語の進行のため、ユーノがフェレットのまま泳げるような案を出してくれ」
「アンタが役割決めたんでしょうがッ!」

 アリサは苦情を上げてから、ワカメ男から逃げて行きました。最後までデレとかなかった。

「そして常々思うのだが、何を食べたら紫の髪になるのだろう。ひじき?」
「食べ物とは関係ないと思うけど……」
「しかしリンディさんは、砂糖入り緑茶の飲みすぎで髪が緑色になった説があるのだが」
「すごい説明が……た、確かに緑色だけど、そういうことじゃないんじゃ」
「すずかは……さつまいもの皮か。ひもじいなぁ」
「そ、そんな目しないで、ひもじくない、ひもじくないから!」

 しかしすずかの主張は聞き入れられず、しばらくすると何かを決意したような顔で、自分のお屋
敷に駆けて行き、そのまま戻りませんでした。
 実はひもじくないことを示すため、家から輸血パックを持ち出そうとしていたのですが、家人た
ちに止められていたのは別のお話。

「すずかが文字通り血迷ったようです」
「誰がうまいこと言えと」

 横合いから一匹の青い狼がふらり、人語で正鵠を射るのでした。
 そしてその口元には、哀れフェレットのようなものが、牙の間に捕らわれているのでありました
とさ。





「こうして漁夫の利という故事が誕生したのである」
「なんですずかちゃんが輸血パックなん」
「吸血鬼か」

 あれそういえば何でだろう。と首をかしげる俺だった。



(続かない)

############

昔話シリーズ第一弾。
ザフィーラに全部持ってってもらったけど意外と面白いかもしれない

ヤツがすずかで血を連想してるのは天然ね。人外相手だと、気付いてなくてもカンが強い。



[10409] その170
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:03c7d7a7
Date: 2010/04/11 14:57
 勝手知ったるドラクエ世界がちょうどいいので、図鑑のページを集めに遊びに行くことにした。

「地球の生き物が書き込まれてないけど」

 とか言いながら、ヴィータが白紙の図鑑をパラパラとめくる。今のところ登録されているモンス
ターははぐれメタルだけで、他のページは全部まっさらだ。

「俺がモンスター認定して、図鑑を起動すると登録されるから。人間とか書き込んでも不毛だし」
「思ったより高性能だな……で、これ、完成したら何かあるのか? 景品とか」
「特に何も」

 拍子抜けした顔になる。

「こういうのは集める過程が楽しいんだって。景品目的は無粋かと」
「……なるほど。言われてみっと、確かにそうだ」
「ポケモンも本当の目的は図鑑完成のはずなんだが」
「途中からポケモンリーグ制覇にすり換わってるよな」

 ぱたんと図鑑を閉じた。よっし、と立ち上がり、真っ青な空に向かって伸びをするヴィータ。

「最初はレア度に関係なく埋めていこう。慣れるまでは強いモンスターに来られても困るし」
「こいつら連れてるんだから困らないと思うけど」

 振り返るとそこには、うにうにと背伸びをするはぐりんたち。
 「襲われてもジゴスパーク3連発で蹴散らしてやんよ」と言っているらしい。そこらのモンスタ
ーに対しては明らかにオーバーキルだが、久々の運動のため気合いが入っているようだ。

「じゃあ行こうぜ。はやてたち、まだすごろくするみたいだし」
「通信便利だな」
「便利だろ」

 ということで出発。ヴィータとはぐりんズしか面子がいないのは、他の皆がすごろく場に遊びに
行っているからなのだ。
 おっきな方のリインはかなり心配そうにしていたが、人数が多いと魔物が逃げる可能性があるの
で、たまの遠出を楽しんでもらうことになった。ヴィータが同伴と聞いて安心していたし。

「どうしてヴィータなのかというと、以前すごろくやりすぎて飽きたからなのです」
「う、うるっさいな!」

 ぐだぐだと話をしながら、てけてけ歩きだす。辺り一帯は心地よい風の吹く大草原なので、モン
スターのいそうな山岳地帯や森のある方へ移動することになる。

「ヴィータ。ヴィータ。こんなん見つけた」

 と、角の生えたウサギが近くに寄って来たので、首の後ろを捕まえてみた。ぷらんぷらーんと大
人しく吊られているのがなんともシュール。

「おお、ちゃんと『いっかくうさぎ』でなく、『アルミラージ』と出た。レア度は下から2番目か」
「う、ウサギじゃん! あたし、本物初めて見た!」
「本物? ああ、帽子にぬいぐるみつけてたか。はやて作の」
「そうそう! こいつが……モンスターだからか、ぬいぐるみのウサギよりちょっとでかいな」
「その人形、切り離して爆弾に使えるのかと思ってた」

 気にくわなかったらしく、ヴィータは首をくいくいひねり、編んだ髪をべしべしぶつけてきた。
鼻に当たってけっこう痛い。

「いたいです」
「あたしがはやてのプレゼントをそんな風に使う訳ないだろっ」
「はやてが仕込んでいた可能性は否定できまい」
「一年間爆発しない爆弾って何なんだよ」
「負けた」
「へへ、勝った」

 屁理屈マンなのに、屁理屈勝負に負けてしまった。あと全く関係ないのだが、屁と屈って漢字似
てるよね。

「で、こいつはなんで大人しくしてるんだ? モンスターは人間を襲うんじゃないのか?」
「確かに。その辺どうでしょう、うさぎさん」

 地面に下ろしてやって訪ねてみるも、角の生えたうさぎさんはきょとんと首をかしげるばかり。
わからないようです。

「こ、こいつ、連れて帰りたいっ……」
「強制連行は却下。俺らが去ってもついてくる場合のみ」

 そんな仕草が琴線に触れたらしいヴィータ。
 とりあえず宥めて、その場を立ち去ってみた。しかしうさぎさんは動かず、その場に立ち
尽くして、こちらをじっと見つめるのみ。

「……」
「俺たちの匂い覚えてるので、見かけたらぴょんぴょん寄ってくるから。また今度な」
「…………うん」

 珍しく落ち込んでるヴィータが見れました。超名残惜しそうにしてて、気の毒なので慰めた。





「実はモンスター3匹連れて歩いてるから、許容オーバーだっただけなんじゃ」
「さ、最初に気付けよっ! この馬鹿この馬鹿この馬鹿っ!」

 馬鹿呼ばわりしつつ、はぐりんたちを投げつけられた。べちべち当たった。いたいです。



(続く)

############

4/11 14:54
ちゃんと書けていなかったので一部修正しました。ご指摘くださった方ありがとうです。
初めて見たというより、図鑑がしっかりしてることに対する発言なのでした。書き方が悪かったです。



[10409] その171
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/04/19 13:23
 モンスター図鑑を評価してくれる、オーキド博士みたいなポジションの人が欲しい!
 という旨をクロノに相談すると、自然保護にあたっている部署に頼んでくれることになった。

「あと図鑑の改善点と、要望がいくつか。とりあえずこれなんだけど」
「ん? ああ、索引機能か……なるほど。たしかに、条件検索ができると面白いな」
「……思ったけど、この図鑑って管理局の方は使ってないのだろうか。超便利なのに」
「使ってるが、全生物を把握してはいないから。その点君なら、新種も見つけられると思って」
「誉めるなよ照れる」
「うわ気持ち悪い」
「うっさいアルフ。なのはぶつけんぞ」
「……お前の中で、あの子はどういう扱いになってるのか聞きたいよ」

 ハラオウン家に赴き、そんな感じに話を進める。ちょうどクロノとアルフがおりました。
 アルフがいるのはもちろんのこと、クロノもちょっと休みを取れたとかで、最近は地球にもけっ
こう顔を出すようになった。やっぱりフェイトがこっちで生活してるのが大きいのかな。

「あとついでに、この機能の有無って切り替えできませんか」
「……自動探知・登録機能? なにか不都合があったか。便利だと思うんだけど」
「人外の可能性がある友達がいるんで、自動で登録されると困るんです」

 クロノもアルフも、怪訝そうな顔をしてこちらを見た。
 言わずもがな、すずかのことである。一応名前は伏せたけど。

「地球に? ……もしかして、あたしも知ってる中で?」
「特定されるからノーコメント。図鑑見たいって言ってるんだけど、起動したら登録されるからマズい」
「……なるほど、わかった。誰かは聞かないでおくよ」
「あっと。危ない感じの人ではないので」
「わかってる。もしそうだったら、君も友人扱いしたりはしないさ」
「……それ、本当にそう?」
「……取消す。よく考えるとあり得る」
「はぁ」

 多分人間じゃない、と思われるすずか。なのはたちと一緒に家に呼ばれたりもしたが、春が過ぎ
夏になった今も、疑問に決着はついていなかった。
 でも最近は、「言いたくないなら別にいっか」などと考えていたりする。向こうがこのままの状
況を所望なら、この秘密は墓の下まで持ってくってことで。

「人外確定って訳でもないし。念のためっちゃ念のためなのですが」
「わかった、やっておくよ。図鑑は改良に3日間預かる」
「よしきた、じゃあ今までのをイラストに起こすか。フェイトに絡みつくはぐりんたちから」
「小学校の提出物と聞いたが……?」
「へー。描いてるところ、あたしにも見せておくれよ」

 さすが戦闘者、ふたりとも視線が怖すぎたので平伏する。それにしてもこのところ、俺の平謝り
スキルがうなぎ登りしている気がするのはいかがだろうか。

「さて用は済んだ。お茶いれようぜ」
「ああ。茶なら……どうして君が茶葉の場所を知っているんだ」
「今さら。なのはの家なんか、普通に宅急便受け取ったりするけど。俺もはやても」

 と。がたり、とドア方面から音がした。

「侵入者! 動くな! 動くと俺の命がないぞ!」
「何かおかしくないか」
「クロノを人質に取るとアルフが妨害し、さらにクロノが止めを刺すところまで確定してる」
「フェイト、おかえりっ」
「ただいま。アルフ、お兄ちゃん」

 帰宅したフェイトでした。完璧にスルーのアルフより、拾ってくれるクロノの優しさに感動。
 兄さんとかやっぱり懐かしい響きだなぁ、とちょっと昔を思い出したりしていると、そのフェイ
トがなにやら含みのある視線で見ているのに気づいた。何ぞ?

「フェイトって目からビーム出せたっけ。狙われた?」
「ち、違うよ。そうじゃなくて、その……な、なんでもないっ」

 何でもないそうです。





 ちなみにその翌日。なのはからはやて経由で聞いた話によると、なのは部屋にフェイトが朝っぱ
らから居座ったとか。玄関のチャイムが鳴ると出ようとしたとか。印鑑の置き場所がわからず涙目
になってたとかあったらしいです。

「……うーっ……」

 3日後図鑑を取りに行くと、やたら羨ましそうに見られた。面白そうなので適当ぶっこむ。

「実はなのはの臍は拡張でき、そこに色んなものが収容できるのだ。印鑑もそこに」
「えっ……う、嘘っ」

 だいぶ迷ったようだが翌日試したらしく、なのはもフェイトもメールで抗議してきた。今さら再
認識したけど、魔法少女っておもしれぇ。



(続く)

############

gdgdすぎわろた

4/19 13:22
修正しました。誤字入りのもの公開するとかテンション下がる
米と夢さま、ありがとうです。携帯で打つとミス率あがるのです。



[10409] その172
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:08f46253
Date: 2010/04/28 00:27
 夏は海、秋は山。というわけで木の葉が色づく頃、魔物探しを兼ねてとある管理世界の山の麓に
紅葉狩りにやってきましたこんにちは。

「まず言っておくが、紅葉狩りは山の木という木から葉を刈るイベントではない。鎌をしまえ」
「えー……紛らわしいな。じゃあ一体なにを狩ればいいんだ?」
「どうしても狩りたい、いや刈りたいのなら、なのはのツインテールを片方どうぞ」
「女の子の髪に対して扱いがひどすぎるよ!?」
「いま気付いた! これやったらなのはがサイドテールになるんじゃね!」
「サイドテールはそういう作り方じゃないわよ」
「いびつな髪型になりそうだね……」
「うん……」

 なのはStSバージョンの作り方を発見してテンション上がっていたのだが、アリサに否定され
て残念だった。フェイトとすずかは苦笑いしてた。
 というわけで、今回はかなりの大所帯です。家の面子に加えてなのはにフェイト、アリサもすず
かも参加してきた。
 アリすずはnot魔法組なのだが、図鑑のページが増えるところを見てみたいらしい。夏休みの
課題用にイラストに起こした分は好評だったのだが、図鑑はまだ777ページ埋めきったわけでは
ない。まだちょくちょく出掛けては集めてるのだ。

「ほい図鑑。夏休みに見せたときから、100種くらいは増えてる」
「そんなに! ……ほ、本当だ。すごいハイペースだね」
「いいや、まだまだ。過去に試した、24時間で150種の記録に比べたら」
「ポケモン的な意味やな? ……あー、そういえばタイムアタックしとったなぁ」
「達成した直後にメールしてたわね」
「付き合わされたこっちの身にもなれよな。楽しかったからいいけど」

 でもこんな感じで賑やかなので、あまりモンスターは寄ってこないと思うなぁ。なのでそっちは
期待せず、素直に紅葉を楽しむとしよう。

「バギマバギマバギマバギマバギマ」

 幸いはやてが魔法で演出をしてくれて、赤や黄色の葉っぱが舞い上がって綺麗ではあるので。

「……この世がこんなファンタジーな世界だったなんて、一年前は想像もしなかったわ」

 舞い上がっては落ちてくる木の葉を眺めつつ、アリサがしみじみといった様子で呟く。

「まぁ人生なんてそんなもんだ。世の中はいつもこんなはずじゃなかったことばかりだ」
「アンタが言うと説得力があるんだかないんだか……」
「ありまくりだろ」
「胡散臭いって言ってるのよ!」
「おっさん臭いとは失礼ナリ! こう見えてもあの日、黒いのと白いのに会うまではだな!」
「……聞き間違いはともかく、まだまだいろんな秘密があるみたいね」

 ふと気がつけば、大変いぶかしげな目で見られていた。こっちの世界ではどうでもいいところで
隠し事がよくバレる気がする。

「もうどうにかしてこの人本当鋭い」
「今のは自滅しただけだと思うんだけど……」
「すずかの目が節穴すぎる。節穴さんと呼んでやる」
「フシアナさん?」
「フシ・アナさん」
「わ。アナウンサーさんみたいになったね」
「すずかのことですが」
「ま、まだその流れなの?」

 ティアナさんも同類です。そういえばティアナとスバルって、もう生まれてるんだったよなぁ。

「スバルには待ちガイル式訓練法を是非プレゼントしてみたいところだ」
「前もゆーとったけど、何やのその訓練法?」
「訓練システム上にガイルを実体化、対象をどこまでも待ちガイルする訓練法。倒すまで居残りで」
「鬼畜」

 スバルの未来を憂えたらしく、はやては心底気の毒そうにした。

「ソニック撃てたら俺が生身でやるんだがなぁ。サマソは十年あれば……無理か」
「サマソ失敗のジャンプキックは上手くなっとったのにな」
「練習したから」
「れ、練習して上手くなるものだったの?」

 フェイトに驚かれた。紅葉狩りなのに話の花が咲くとはこれ如何に。





 でもってしばらくしてからモンスターを探しに、秋の色づいた山を散策しはじめる。

「おーこんなところに洞窟があるぞ入ってみよう」
「この棒読み、最初から思考する気ゼロじゃない! 待ちなさいよっ!」
「仕方ないさ。穴があったら入りたい年頃なんだ」
「聞き方によっては尋常でなくいやらしい響きが! ……あっ、ま、待ってくださいーっ」
「ま……待って、まだ様子を……」
「け、けーとくん、あぶないよっ!?」

 なんか護衛のリイン姉妹に加えて、アリサやすずかをはじめとする見学組、さらにはフェイトや
なのはまでもがついて来て賑やかです。

「わっ、真っ暗……けーとさーん、どこですかーっ?」
「あの子のスカートの中」

 複数の布地の音がした。スカートを押さえたらしいけど暗くてよくわかんない。

「ざ、残念ですがリインのスカートは、けーとさんが入れるサイズでは!」

 そして一人だけ反応がなんかおかしい。

「俺たちの身長まで巨大化すればいいんじゃね。今ここで。さぁ」
「そこまでしてスカートの中に入ろうとする執念に戦慄しました……!」
「ふはははは。……うん?」

 後ろからちっこいリインの声がして、話しているとお姉さんの方に背後から抱き上げられた。大
丈夫かと問われる。

「勝手に行かないで。見失う」
「すまん。しかし洞窟が俺を呼んでいたのだ」
「この前は『そこに森があるから』って言っていたような気が……」
「そこにスカートがあるから」
「や、やはりわたしが今ここで、けーとさんサイズになるべきなのでしょうか!」

 ちっこいのと馬鹿やってただけなのに、俺だけアリサに蹴られた。理不尽。
 とかしているうちに、おっきなリインが松明に火をつけて、辺りを明るくしてくれた。入り口
はかなり狭かったのだが、中は思ったよりも広い。

「巣穴っぽいけどハズレだな。今は使われてなさそう」
「すごいね、わかるんだ?」
「この辺の獣は賢いから。冬になる前に落ち葉のベッド作ったりするらしい」
「さっきのはやてちゃんみたいに?」
「そうそう。あの木の葉の山は見事だったわ」

 バギマで地面から集めた、紅葉のベッドを思い出す。あれはふかふかで気持ちよかったわ。帰る
前に全部燃やして芋焼くけど。

「てか、帰るまでになんか魔物見つかるのかこれ。期待できないわ」
「いいじゃないですかー。秋の山を満喫できましたし!」
「リイン2は春のイメージだけど。秋の山は好きですか」
「はいっ。根拠はないですけど、なんだか懐かしい気持ちになるんですっ」
「秋山さんと呼んでやろう」

 ついに3つめの襲名が! とちっこいリインが大興奮。

「それにしても、何の気配もないわね。この人数だから、動物が寄りつかないのは分かるけど」
「まったくだ。さっき入り口に鹿らしき影がいたのも逃げちまったし」
「ええっ!? そ、それって、追いかけなくていいの!?」
「変わったところはなかったから問題ない。強いて言えば、角が銀色だったけど……」

 慌てて洞窟を飛び出すなのはたちだった。「鹿さん、しかさーん! ああっ、いた! 本当に銀
色だ!」とか叫んでた。

「……ヴィータがいたずらしてるだけなのに。ああ、話を最後まで聞かないやつらだなぁ」
「け、けーとさんの顔が邪悪です! 計画通り、という台詞がぴったりです!」

 後でヴィータと二人怒られたけど、面白かったからまぁいいか。



(続く)

############

お待たせしたのでボリューム多めなのはいいや許容範囲。

ちょいと今後の流れを整理してました。
空白期は最短で190いくまでに終わるかも。手元の紙に182って数字があるけどちょい余裕を見て。
長くしようとしたらいくらでも長くなっちゃうので、区切ろうと思ったところでしっかりまとめたいと思います。

本編に関係ない内容は別途、おまけとして書き足していくという方針を考えてたりします。
人様のお庭で長々とだらだらとさせていただいてしまって恐縮な思いでいっぱいです。いつもありがとうございます。



[10409] その173
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/05/08 13:14
 冬もう間近に迫り、またこたつ様にご登場願おうか、という話になった頃。
 ぬこ姉妹がやって来て言うには、はやてたちの基礎訓練が終わったのだとか。だから労をねぎら
いなさいだとか。夕飯は魚がいいだとか。

「強制的に成長したんだ……ボクを倒せる年齢まで!」
「?」

 せっかくコミックス派に喧嘩を売ってみたのに、姉妹には通じなくて悲しい。

「よっしゃ。なら俺が洞窟で見つけてきた、古い金貨やら綺麗な石やらを」
「きゃっ……ち、近づけないでよ、そんなチカチカしたの。目に痛いでしょ」
「駄目か。なら『浦島オリ太郎』に続き、『長靴にハマった猫』の主役をプレゼントしよう」
「えっ? そのタイトル……こっ、こっち来るな! その長ぐつ置きなさいよっ!」
「大丈夫だ。電子レンジに入れたら怒られるけど、この程度なら許されるはず!」

 ばりばり引っ掛かれたので、たぶん許されなかったんだろう。

「レンジは駄目、長ぐつも却下……フェイト、俺はどこに猫をしまえばいいんだ?」
「べつに、しまう必要はないと思うんだけど……」
「しまっとかないとアルフに喰われる」
「あ、アルフはそんなことしないよ!」
「誰がするかっ!」

 戸惑うフェイトを見るのは大変面白いが、アルフが怖いのでこの辺にしておく。

「して、はやて。ぬこたちがそこまで言うからには、カイザーフェニックスくらいは覚えたのか」
「まだ火の鳥にはなってへんよ……あ、でも、三個くらいなら同時発射できる気が」
「寿命縮むからやめれ」
「ん、まぁ、やらへんけど……おー、心配された」
「当然だ。はやての趣味がマトリフ師匠と重なるため、最近は顔まで同じに見えてきて老い先が」

 間違ってないのに鼻を引っ張られたので、多分はやての機嫌を損ねたのだろう。マトリフ師匠の
趣味にも、おっぱいの項目はあるはずなのだがおかしいなぁ。

「あれはただのスケベ。こっちは、えと……愛。そう、愛やな。おっぱい愛。アンダースタン?」
「その愛は山より高い乳も、海より深い乳をもあまねく愛でるか?」
「人間と呼べる範囲でお願いします」

 はやての愛は超乳奇乳には届かないらしかった。

「で、今日はフェイトたちはうちで夕飯食べるんだったか。そして当然泊まる、と」
「え……ええっ、い、いいよ悪いよ、お泊まりだなんてそんな……」
「泊まらないと二人だけ、夕食を明日使う予定のとびっきりの肉にしろとはやてから指令が」
「とっ、泊まる、泊まります! ……うー……」

 フェイトの場合はこう言った方が早いのだ。期待したような表情を見せつつも、はやてと俺に視
線で抗議してきた。やばいこの子面白い。とか思いながら、ぬこたちの希望通り夕飯は魚に決める。
明日はとびっきりの刺身でも買ってきてやることにして、今日は鮭を焼く。
 じゅうじゅうしゅうしゅうと音が鳴り、よだれが出そうな匂いが漂い始めるころ、背後にぬこた
ちの気配がした。振り返ったらホントにいたので、とりあえずねぎらう。

「お疲れさまでした。あいつら強くなりましたか」
「なったわよ。もともと才能に手足が生えたような感じだったんだし」
「なのはとフェイトについてはそうかもしれんが、はやてにその評価は違和感がある」
「どういう表現なら納得するんだか……上級魔法もあっという間にマスターしたのに」
「上乳魔法?」

 手でひっぱたくのも面倒なのか、尻尾でべしべし叩かれる。料理してるんだからやめれ。

「はぁ……ちっとも変わらないし。フェイトもいるんだから、程々にしなさい」
「程々ならいいと認可された!」
「全然してないッ!」
「囀ずるな。唾が飛ぶ」
「お、お前がそんなんだからでしょうがっ!」
「ははは。しかし、ぬこたちは変わったなぁ。最近はヴィータやリインとの睨み合いもしないし」
「……あ、相手にするのが馬鹿らしくなっただけよ。変な風にとらえないで!」
「いいぞいいぞ。仲が良いのはいいことだ。私は一向に構わんッッ」

 以前に比べてかなり歩み寄ったと思うのに、姉妹は後ろでにゃーにゃー騒ぐばかり。

「いや。ふたりとも、変わったよ。私も含めて、だがね」
「とっ、父様まで!」

 テーブルでコーヒーを飲んでいたグレアムじいちゃんまで、柔らかい笑みを浮かべて口にした。

「味方ゼロわろた」
「う、うううるさあい! も、元はと言えばあんたが、あんたがぁ…・…!」
「アンタガ? FFっぽいね」
「黙っててよもぉーっ!」

 やたらうるさかった。



(続く)

############

ゴンさんじゅうにさいのAA貼ろうと思ったけどやめた。
超不定期で申し訳ないです。

「方法は分からないけど強制的に進行したんだ。第三期の年齢まで――!」
↑これやりたい



[10409] その174
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:07b56483
Date: 2010/05/14 14:40
 ぬこ姉妹による訓練が終わったので、ちょうどいいからはやてと一緒に、なのはとフェイトを軽
くお祝いしよう。
 もてなしてやろう、ということになったのでメールで呼ぶと、まずなのはがものすごい速さです
っ飛んできた。

「けっ、けーとくんけーとくんっ! スタミナの種大量に拾ったってホント!?」

 この人は釣られるときまで全力全開だから油断ならない。

「はいこれ」
「こ、これが……あれ? これひまわりの種だよ? これじゃなくて、スタミナの種だってば」
「似たようなものだ。ささ、ぐいっと」
「ぐいっと、じゃなくて! だから……ああ! け、けーとくんまた嘘吐いたでしょ、その顔!」
「この顔は生まれつきです」
「表情のことだよぉ!」

 なのははよほど期待していたのか、むきゅむきゅ言いながら俺の胸をぺけぽこ叩いた。

「所要時間5分を切るとかさすが。一本釣りしたのは悪かったが、祝ってやるからチャラな」
「むうぅ……え、お祝い? どうして?」
「ぬこ姉妹の基礎訓練修了祝いだ。ケーキも焼いたし、フェイトも呼んだ」
「……フェイトちゃんには、何て嘘吐いたの」
「いや普通に呼んだだけで、嘘は吐きませんでしたが」

 ずるいずるいと文句を言いはじめたので、てきとーにあやす。
 そのうちフェイトとアルフが到着した。さてお祝いだ。食い物を出す。

「アルフはこれな」
「……なにこれ」
「見ての通り、ひまわりの種です」

 同じネタを使い回してみたのだが、アルフに人が死ぬレベルの眼光を向けられたので中止。とてつもない恐怖に身を震わせながら、素直にケーキを取り出して切りはじめる。

「またやってるし……怒られるの分かってて何でやるんだろ……」
「オリーシュは誰に対しても公平なんだ。公正なんだ。平等院鳳凰堂ってどこなんだ?」
「じゅ、十円玉の? ……えっと、京都かな……?」
「まじめに答えてあげるフェイトちゃんの優しさに感謝せえ」
「答えていただけるとか想定外でした。まあ切れたから、とりあえずフォークをだな」

 切り分けて食わせる。ちょっと甘味が強いかも、となのはからコメントをもらったものの、基本
的にけっこう評価は高かった。だがまだまだ道のりは険しい。

「暇にあかせて練習しまくってたのだが……ぬぬぬ、まだ桃子さんの背中さえも見えん」
「休みの間、頻繁に焼いとったのは練習やったんか……で、当座の目的は?」
「ここだけの話、前人未到の新領域、『甘いチャーハン』が最終目標だったりする」

 口が滑って、偉大なる目標がこぼれてしまった。

「前人未到の恐ろしいこと計画してるよこの人! ……で、でも、甘さはちょうどいい……」
「完成品ができあがったら試食をお願いします。さもなくばぶつける」
「いずれにせよ食べさせるつもりなんだ……」
「自分で食べればいいだろ」

 フェイトとアルフの反応の落差に泣きそう。

「それはともかく、三人ともお疲れさん。もう管理局入れんの?」
「えっ……ううん。まだ資格を取ったり、正規の訓練を受けたりしないと」
「わたしも、まだまだ考え中だし」
「魔法社会って世知辛いんだな。就職活動みてえ」
「就職って……確かに、局員に採用されるならそうなるけど……」

 苦笑いされた。しかし甘いものを食べて幸せそうにしているのを見ると、こいつらがビーム撃ち
まくりの戦闘集団とかにわかには信じられんのだがなあ。

「見た感じはこんな弱そうなのに」
「よ、弱そうって……そんなかな……?」
「アルフを狼とするとチワワくらいにしか見えん。チワワが目からビーム撃つの想像してみろよ」

 全員コーヒーむせた。何やらツボにはまったらしい。

「分かっていただけたようで何よりだ。ともあれ強くなるのはいいが、怪我などしないようにな」
「すでに苦しいんやけど」
「けほっ……も、もー! それだけ言えばいいのにぃ!」

 咳き込みながら言われたので、やれやれとお茶をくみに行く俺だった。



(続く)



[10409] その175
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/05/24 10:58
 スタンド使いに憧れる毎日。なんとか身に付ける方法はないものか。
 あれやこれやと考えていると目の前を、ふわりふわりとリイン2が飛んでいた。その姿を見ては
っと閃いたため、とりあえず来てもらう。

「何ですか、けーとさんっ」
「よく来たリイン。今夜は俺とお前でゴールドエクスペリエンスだ」
「ななっ! ……わ、わかりました! 今から二人の心がラブ・デラックスですねっ!」
「おお……リインのサバイバーがとてもジェントリー・ウィープスだぜ……」
「いっ、いけません、そんなに激しくスタープラチナをザ・ワールドしたら……!」

 この子と話すとこの通り、気付かぬうちに寸劇になっているから油断ならない。

「脱線しました。それはともかく、スタンドです。リインなら氷でホワイトアルバム作れない?」
「むむ。むー……氷の像ならともかく、けーとさんの体に合わせて移動させるとなるとー……」
「そうか残念。おっきなリインは常にメイドインヘブン状態なのに」
「略して『常にヘブン状態』ですか?」
「常に快楽にさらされているというのか」

 この子の発想は俺ですら目を見張るものがあるけれど、姉の方はさも心外という様子で俺を見て
いた。信憑性は低いらしい。

「ヘブン状態がなんだって?」
「メインの話題は残念ながら、ヘブン状態ではありません」
「プリン状態と申したか」
「申しておりません」

 ヴィータとはやても来た。そのまま雑談になる。

「スタンドっぽい魔法はあらへんなあ。火にしろ氷にしろ、直接作った方が早いし」
「氷の彫像でしたらいつでも作れます。北海道雪祭もどんとこいです!」
「夏場は全部かき氷になったけどな」
「暑い時期は舌で、寒い時期は目で楽しめます。一粒で二度美味しいです!」
「冬はお台場のアレにならって、今度実物大のガンダムを作るらしいから楽しみだ」
「実物大ですか! ……す、スケールを小さくしないと、リインの魔力が……」
「そんな君にこのカートリッジといのりの指輪をプレゼント。やったね」
「に、逃げ道をふさがれてしまいました! レインボーブリッジ封鎖です、おねえちゃん!」

 リイン姉は困ったような表情をした。反応に迷っているようだ。

「……あれ、何やの? このカートリッジ。なんか、変な感じがするんやけど」
「オリックを試験的に埋め込んである。実験がてら、機会があれば使ってみたい」

 全員がいぶかしげな顔をした。何故だ。

「爆発しねーだろうな?」
「爆発はしないみたいだがオリックの性格からして、悪用すると呪いはかかりそうだ」
「……こんなもん誰が作ったんだよ」
「わたしです」
「何と。作り方知っとるとは、さすがやな!」
「いや、適当に分解してオリック入れてフタ閉めただけです」
「帰れ」

 却下された。他のみんなを見回しても、全員がノーという感じで残念。

「仕方ない。クロノ経由で、どっかの研究所に預けてみるか」
「責任丸投げか。さすがや」
「まあ大丈夫だろ。悪用しそうな人のところには行かないだろうし」
「第3期のラスボスん所に流れたりしてな。いつの間にか裏ルートに入ったら」
「ハハハこやつめ」
「ハハハ」

 ハハハ!

「……あと9年か? なげぇなげぇ」
「時間加速しねーかな。どっかの神父はさっさとスタンド進化させろよ」
「そういえば、『メイドインヘブン状態』と聞くと『ヘブン状態』が……ん?」
「あっ! は、話が戻ってます!」

 いつの間にか、宇宙は一巡していたようだった。

「ならばリイン妹、今夜は俺とお前でゴールドエクスペリエンスレクイエムだ」
「ああっ、だ、駄目ですそんな、エアロなスミスさんをズッダンズッズッダンするなんて……!」

 なんかループしました。



(続く)

############

10:58
ちょい修正。



[10409] その176
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/06/02 09:49
 秋が過ぎ、また冬が来た。前日には雪がたくさん降ったので、かまくらを作ってみた。中にミニ
サイズのちゃぶ台やらヤカンやら持ち込んで、まったりしているとはやても来た。

「なにこれ温かいんやけど。てか、どうして雪が少しも融けへんの」
「戯れにオリック埋め込んだらこうなった。濡れないし暖かいし快適だわ」
「相変わらず謎だらけの物質やな。物質?」
「臓器じゃね」

 はやては納得したようなしていないような顔をする。しかし少しすると、どーでもいいやといっ
た感じになった。

「まぁ、役に立つみたいやから何でもえーけど」
「形状記憶合金的なあれなんじゃないかってクロノは言ってた」
「形状どころとちゃう気が。魔力流すと溜め込むんやろ?」
「カートリッジに使えないかと画策してるって。なぜか上手くいってないらしいけど」
「いのりの指輪は簡単に加工できとったのになぁ」

 とか言って、はやてはからからと笑った。でも言われてみれば、確かにそうだ。
 指輪の台座にてきとーにくっつけてみただけなのだが、素人目に見ても完璧に機能しているのは
どういうことか。
 いやそれだけならまだいいけど、だったらプロの魔法使いがお手上げ、っておかしくね?

「……めんどくさ。いいやもうかったるい」
「言うと思たわ。あ、お茶淹れる? ちょうど、カステラあるねんけど」
「いいな。お湯沸かすとき、沸騰石代わりにオリックぶちこんでみようぜ」
「オリ主汁が出てきそうやから却下」

 オリ主汁って。
 とか思いながら、てきぱきと動くはやてを見る。持ってきた手提げからふたつ湯呑みが出てくる
あたり、最初から一服する気満々だったようだ。
 ぽひゃーとしていると、カステラを切るよう頼まれた。あとで裏の紙の取り合いになるんだろう
なと思いながら切ると、ヤカンがピーピー鳴きだした。

「ギラをくるくる回してコンロ代わりにするとは考えましたな」
「誰かさんがコンロ持ってくるの忘れるからやろ……っとに、抜けとるなぁ」
「いやいや。どうせ後からはやても来ると思ったのであります」
「さぁ、どーやろな。それにしたって、人任せやし」

 とか言いながらも怒っている様子はなく、むしろまんざらでもなさそうな感じでお茶が入る。
 湯呑みから立ち上る湯気と、あったかーいにおい。雪の壁に吸い込まれるような茶をすする音。
でもって目の前には相方。なんか落ち着くなぁ。

「んあ。ない。カステラの皿なくない」

 なんだか眠いのでちゃぶ台に突っ伏しつつ、カステラの皿を手探りで探すも見当たらない。

「そないな取り方したら手がぺたぺたになるやろ。ボッシュートや」

 見上げると、はやてに取られていた。生意気な。

「将来ぺたんこが、何を」
「……ぺたんこを馬鹿にする者は、ぺたんこに泣くことになる」

 割とうまいことを言った気がするが、はやてはぺたんこの誇り(笑)をもって切り返した。正直
なところ意味はよく分からないです。

「あと、原作知識ありのオリ主に予言をするとは10年早いと思います」
「正直に言わんか。もう最近の展開とか頭にないやろ」
「ついでに言うと、第3期のはやてのスタイルは最初から正直おぼろげでした。やったね」
「なん……やと……?」

 アイデンティティーの崩壊を前に愕然とするはやて。そんな相棒に、真実を導く方法を伝える。

「もしもう一度隕石に当たったら、現世に戻ってDVDレンタルして確認してやろうか」
「頭といっしょにTSUTAYAの会員証も吹っ飛んどるんとちゃう」

 一瞬で冷静に分析するはやては絶対に頭の回転が早いと思いました。

「まぁさすがに次は生き返るつもりないけどな。親父たちをいつまでも待たせてもあれだし」
「ほー。なら、気をつけんとな。もし隕石降って来たら、全力で撃ち返したるわ」
「期待しとく。あとそろそろカステラをくれ。ちゃんとフォーク使います」
「素直でよろしい」

 二人でまったりしながらカステラ食べてた。しっとりふわふわでぽふぽふしてた。



(続く)

############

久しぶりに二人だけにしてみたらgdgdすぎて泣いた

そろそろStS準備期間に入りますっていうかもう入ってる。
・「占いCO すずか●」
・オリーシュと愉快な管理局員たち
・スカリエッティ博士、お許しください!
あたりをやってからになります。
今はジェットコースターの上りの部分な感じで。



[10409] その177
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:4ff32349
Date: 2010/06/09 00:43
 はやてに連れられて、なのはの家に泊まりに行った。フェイトも呼んで夕飯をいただいたら、満
腹からか寝てしまった。目が覚めたら22:00とか何の冗談?

「もう寝れないだろこれ」
「あ、起きた……も、もしかしてご飯食べたあと、いつもすぐ寝てるの?」
「実はそうなんだ。飯の後は常に押入れ直行だぜ」
「お宅はたまに押し入れで寝とるよな」
「けーとくんの生態がわからなくなってきたよ」

 なのはによく分からない生物扱いされて悲しいがそれはさておく。
 見回すと、勝手知ったるなのは部屋だ。ベッドを借りてしまっていたらしい。三人とも小さなこ
たつに入り、雑誌をめくったり本を読んだりしていたようだ。

「お前たち! 退屈だったようだな!」

 ベッドから飛びたち、華麗に降り立つ。

「わ。足、すごい上がるんだね」

 荒ぶるオリ主のポーズで立ち上がる俺を見てフェイトが感心した。
 残りの二人が変な生き物を見る目をしているのとはまるで対照的です。

「毎日柔軟体操してるから。体術の奥義をサマソ会得すべくサマソ休まずサマ続けサマサマソッ」
「本音隠す気あらへんな」
「根は正直者なんだ。自慢じゃないが、イヤなことをやった経験はあまりないぜ」
「……けーとくんは、自分に素直だからね。いろんな意味で」

 どういう意味だ。と思ってなのはを見るも、この子はなんかニコニコするばかり。ひょっとして
単に褒められただけ?

「いかん。褒められると心身に異常をきたし、身体中の穴という穴から紫色の毒汁を出して死ぬ」
「ひ、ひとの部屋でそんな死に方しないでよ……」
「大丈夫だ。すぐに蒸発し、周囲の生命体に感染して全部道連れにするから寂しくない」
「め、迷惑なんじゃ……」
「人にあるまじき死に方やな」
「エルフの女王には亜人扱いされるぞ。あれは冗談か本気かわかんないけど」

 そのおかげでいのりの指輪を買えたわけだが、自分本来のアイデンティティを誤認されていると
いうのはなかなか切ないものである。
 すずかももし本当に人間じゃないなら、こんな気持ちになることがあるのだろうか?

「だがしかし問題はない。オリーシュはただ、オリーシュであればいいのだ!」
「キリッ」

 効果音ひとつで台無しにするはやてが大変むかちゅく。

「もういいや。ふて寝しよう」
「けーとくん、今まで寝てたんじゃないの?」

 そうだった。どうしよう?

「とりあえず風呂いただいてくるわ」
「紫色の汁を撒き散らさんよーにな。翌日の風呂掃除が大変やから」
「大丈夫だ。浴槽くらいなら軽々と溶ける」
「わ、わたし、まだ入ってない……」
「よっしゃ。紫の汁は無理にしても、絵の具溶かせば再現できるな! ちょっくらやってくる!」

 部屋を出るより早く、はやてにバインドかけられた。

「さて、窓際に吊るそか。バインド追加してエビフライみたいにしとこ」
「えびふりゃー上級者の俺をもうならせる、この手際。はやても成長したものだな!」
「ぴ、ぴちぴち跳ねてて気持ち悪い! けーとくん軟体動物みたい!」
「際どいですが、哺乳類です」
「際どいんだ……」
「まぁギリギリやな」

 いつの間にやら、哺乳類崖っぷち認定が確定してしまい驚愕の嵐。

「こうなったらなんとか証明を……あれ? よく考えたら俺、この星の哺乳類じゃなくね?」
「ああっ! そ、そういえばそうだ、そうだったよっ!」

 この星の無数の塵のひとつですらない俺だった。



(続く)

############

泊まりだとたぶん毎回こんなん。
この人たち19才になってもこれで違和感ないから困る。



[10409] その178
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/06/15 22:03
 休みがくるたび、まったり図鑑の収録を続ける俺。最近ヴィータ・ザフィーラやリイン姉妹あた
りに加えて、かなりの頻度でそのすずかとアリサも様子を見に来るようになった。
 どうやら、はやて経由で予定を聞いているのだとか。地球にはいない、面白い動物が見たいのだ
とか。動物園気分だな。

「そのへんに生えてたキノコの醤油バター焼きうめえwwwwww」

 でも人がいるからといって変わらず、オリーシュはいつも通りのオリーシュです。

「ほ、ホントに食べてる……危ないと思うんだけど、大丈夫なの?」
「おそらくな。信じがたいことだが、今まで一回も中ったことがない」
「もし食べたのが毒でも、コイツのことだからすぐ治るんでしょうね」
「毒見には最適だよな。そのおかげであたしたちが美味い食材にありつけるっていう」

 行く先々でよく現地の食材を漁ってきたが、今まで一度も中毒になったことはない。
 詳しくは分かんないけど、たぶん平穏無事だかなんだかのおかげだろう。黒いのと白いのに聞い
てみないと分からないが、「俺が毒を食べる」という事象が存在しない、とかそんな感じになって
るような気がする。

「夕食の材料も集まったことだし、出発するか。残りは30ページ弱だ」
「けっこう少ないんだね。……もしかして、今日でぜんぶ集まるかな?」
「わからん。わからんがまあ、今月で決着はつくだろ。あとは早いか遅いかの話だわさ」

 まあそれはいいのだが、こうして普通に話しかけるすずかの考えだけは読みきれなかったりする。
 図鑑の登録に自分が含まれる可能性を、まったく恐れる様子がないのはどういうことか。
 そういえば最初にすずかが同行した図鑑収集でも、席を外したりすることは最後までなかった。
 「バレていい」と思っているような気配しかしないのだ。
 しかしながら確証がないから、正直言って判断つかないんだよなあ。

「なにを唸ってるのよ。棒に当たった犬みたいな声して」

 アリサに見つかった。そのまま話すわけにもいかず、何とか言い訳を考える。

「うまい棒の真ん中の穴には、いったい何があるのかと思い悩んでいました」
「うまい棒?」

 よもやとは思ったが、首をかしげる様子を見ると、なんとうまい棒を食べたことがないらしい。
今度泊まりになった時に、髪の毛一本一本にカーラーと偽り、うまい棒に巻くという悪戯をやって
みようと心に決める。

「熟考に熟考を重ねた結果、少年少女の夢と希望がつまっているにちがいないという結論が」
「棒か何かに巻いて焼いてるからに決まってんだろ」
「ああヴィータが少年たちの夢をぶち壊す! これだからおおきいおともだちにしか人気が出ない!」

 うまく誤魔化したはいいけど、体からいろんな液体が出るまで殴られるのはよく考えると割に合
わない。

「もうライフ残ってないです」
「安心していいぞ。あたしはいつでもオーバーキル狙いだかんな」

 当然ながら死にたくないので、逃げるように出発する。

「やれやれ。ヴィータは軽い冗談ですぐ殺しにかかるから困る」
「か、軽い冗談じゃないからこうなるんじゃ……」
「余計な一言っていうのよ」

 アリすずの言葉をそれぞれもっともだと思いつつも、草を踏んで山道を歩きだす。いま地球は冬だ
が、こちらは春。必ずしも世界間で季節は一致しないらしい。
 今回も参加人数が多く、野獣なんかにはすぐ逃げられてしまうように思えるが、野生の生き物な
んてのはいるところにいるものだ。山に囲まれた向こうからいい感じの気配がするので、とりあえ
ず登ってみる。

「毎回思うけど、わざわざ歩きにするのも物好きよね」
「この手間が好きなんだ。それはそうと、いつもながら二人ともやたら動きがいいな」
「お互いさま。アンタも尋常じゃないほど体力あるじゃない」
「今年はすごい歩いたし。運動神経はともかくとして、疲れとは縁がなくなってきた」

 険しい山道をひょいひょいと登るアリサとすずか。険しい道を歩いたことは何度かあったが、そ
のたびにこの人たちの運動能力には驚かされる。

「こうして見ると、運動神経ゼロのなのはがお前らと同じグループにいるのが不思議である」
「うーん……なのはちゃん、身体は柔らかいんだけど……」
「このままだと中高で完璧にもやし扱い……もとい、あだ名がもやしになるかも。もっと運動誘ってやろうぜ」
「……菜っ葉にもやしってセンスあるな。本人が喜ぶかは別として」
「ついでに言うとあの子は嘘も下手なので、大根役者ともかけてます」

 リイン妹が何やら感激したらしく、しきりにメモを取っていた。ザフィーラから「誰がうまいこ
と言えと」の切り返しが飛んでこないあたり、本当に上手いこと言った気がする。

「アンタのその頭の回転が、もっと別の方向に向けられたらね……」
「俺の灰色の脳細胞は、いつでも黄金長方形に回転しているぜ?」
「灰色なのに黄金って洒落てますねっ!」
「敵にぶつけたら結構ダメージ出るってことか?」

 ことあるごとに危険な発想を披露するヴィータが大変おそろしかったです。





 とかやってるうちに山を登り切り、下りに入った。
 そのま谷へ下りると、川が見えたので一休み。

「あの、図鑑、また見せてもらっていい?」

 水分を補給しつつ一息ついていると、すずかが寄って来てそんなことを言う。

「縦にして俺を殴る用途に使わない、というのなら」
「……いつも、そんなことされてるの?」

 軽く引かれつつも、図鑑を渡す。最近クロノに加え、話を聞いたユーノまでもがプログラムを更
新してくれているおかげで、図鑑も少しずつながら軽量化が進んできた。辞書くらいの重量だった
のが、今はそこらの参考書くらいにまでスリムアップされている。
 しばし川のせせらぎと、ぱらぱらとページをめくる音だけが聞こえる。
 横合いに様子を窺ってみたが、新しく増えた分をチェックしているようだった。777ページと
か気が遠くなる数字だと思っていたけれど、実際こうしてみるとあっという間だ。

「や、やっぱり載ってない……おかしいなぁ。てっきり、私……」

 しかし見ていると、すずかは何やらあたふたとしはじめた。何だろ。

「何か期待に添えなかったようだが、さすがにクトゥルーの神々はまだ登録されてないです」
「……お前なら見ても余裕で帰って来るように思えるのは、何故だ」

 様子を見にてくてく歩いてきたザフィーラが、理不尽なものを見る目で俺を見た。

「パルプンテの恐怖の召喚も耐える点から察するに、SAN値が減らないようになってるのかと」
「それは結構なことだが、お前は自分がまだ正気を保っていると思っていたのか?」

 さらっと失礼極まりないザフィーラ。
 隣でふき出しそうになってるすずかも大変許しがたい。

「世が世なら斬り捨て御免だぜ。なかなか言いやがるなザフィーラ」
「盾の守護獣だからな」
「しゅ……? えっと、何の関係が?」
「盾の守護獣だからな」

 ザフィーラは答えるのがめんどくさいようだった。

「それはさておき、どうしたの。さっき何か図鑑に、足りないものがあるように言ってたけど」
「あっ……う、ううん。何でもないよっ」
「うん。なんでもないなら、すずかは先に爆発しようか。斬り捨て御免の代わりに」
「おっ。お前、暇そうだな。アリサが飽きたって言うから、ちょっと相手しろよ」

 ヴィータに背後から掴まれた。

「今からすずかを爆発させるという、重大な任務があるのですが。何の相手?」
「タイマンドッヂボールだ。アリサがけっこう強くて……ほら、さっさと来いよ。暇してんだろ」
「……こやつめ。ハハハ」
「ハハハ」

 引きずられる俺だった。





(やっぱり、私の思い違いだっ……あ、あれ? このスイッチ、自動登録がOFFになってる……!)

 ドッヂ弾平なみの過酷なドッヂボールをさせられる俺の後ろで、すずかが何か気付いたようだっ
た。だがそうとは知らず、休憩なのに超疲れるばかり。死ぬぜ?



(続く)

############

複数イベントの同時進行を狙ってます。

ヴィータはオリーシュと遊びたいだけなんだよ。ほ、本当だよ!



なんかヘンなことになってますが、Arcadia掲載分の感想以外は感想掲示板でなく、HPのメールアドレスの方にお願いします。

※連絡

作者個人としての見解と結論を、先方の感想掲示板に書き込ませていただきました。
連絡な意味で一度だけageます。携帯からですが上がってるでしょうか。

今までも何度かありましたしこれからもゼロにはならないとは思いますが、改めましてこちらでお願い申し上げます。
拙作の話題を、他作品関係の場所にに持ち出さないでください。
自作の感想掲示板に「オリーシュうめぇwww」「チャーハンメテオは初めてか? 力抜けよ」とか書かれたら、自分がその立場なら少なからず憤りを覚えます。
それでもどうしても言わなければならないと思うことがあれば、まず何らかの形で、私自身にご連絡ください。
飛び散った水を拭くのは一苦労ですが、蛇口を閉めたらそれ以上広がることはないのです。

最終的には読者の皆様のモラルに頼ってしまうことになりますが、本当に、よろしくお願いします。
今回不快な思いをさせてしまった方、今までそのような思いになった方、重ね重ねお詫び申し上げます。



2010/06/15 21:44   しこたま



[10409] その179
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:d9a34572
Date: 2010/06/26 00:44
 シャマル先生とならんでテレビを見ていたリインがやってきて、愛とは何か、と尋ねてくる。
 どうやら観ていた内容がそんなお話だったようだが、なんとも答えがたい問いである。このまま
だとリインに愛を知らぬ男だと思われてしまうので、家人の皆様に解答を求めることにした。とり
あえずはやてに尋ねる。

「はやてよ。愛とは何だ?」
「それを知るのが人生や」

 リインは感銘を受けた表情になった。生粋の詩人ぶりに俺も完敗を悟る。

「キリッ」

 なんか悔しかったのでこの前の仕返しをした。脛を蹴られて非常に痛かったが、多少溜飲は下が
ったような気持ち。

「はぁ、なんやの藪から棒に。今日はいつもに輪をかけて妙なことを」

 リインが愛の何たるかを知りたいそうなのでと報告しつつ、常日頃の俺を奇人認定するはやてに
やるせなさを感じた。戦逃奇人?

「ともあれ、さすがはやて」
「伊達に本読んどらんよー。しかし、愛かぁ。人生ぜんぶ懸けても、理解しきれるかどうか」
「すなわち愛とは、とらえがたいものなのだ。で、どうした。リインは愛に飢えているのか」
「飢えていない」
「そいつはよかった。この家で愛に飢えられてしまっては、愛の伝導師オリーシュの名が廃るぜ」

 はやてが露骨に胡散臭そうな顔をして、さすがのリインも微妙な感じで俺を見た。

「話はすべて聞かせてもらいました! 地球は滅亡します!」

 元気なちっこいの来た。「なっ、なんだってー」とローテンションで答えてやると、それなりに
満足したご様子。

「リインよ。お前に愛が語れるか」
「愛を語らせたら、このリインの右に出るものはないと自負する次第です!」
「リイン妹 愛を騙るの巻」
「い、イントネーションが不穏です! とてつもない悪女に聞こえたような気が……!」
「とてつもないドロンジョ様が何だって?」
「趣味が古いですっ! あ、でももし再放送で知ったのなら、もうこれはにわか乙としか!」
「本日のビックリドッキリメカはやたらうるさいですなぁ」
「本日の!? もももももしや、リインはいつのまにか大量生産されていたのでしょうか!?」

 こんなのが本日のビックリドッキリメカだったら、たぶんドロンジョ様たちはお仕置きを受けず
に済むんだろうなぁ。

「あれも愛のなせる業や。愛は理解することもその一面やし」
「……はやてたちの周りには、愛があふれていることになる」
「うん! ええなぁ、愛にあふれた人生ええなぁ!」

 あちらはあちらで何やら盛り上がっているようだ。はやては愛にあふれた人生をご所望らしい。

「もう額に愛って刺青しとけばいいと思うよ」
「ご心配なさらずとも、八神家はすでに愛であふれとります」
「八神家が愛の巣に! ……な、なんだかいやらしいですねっ!」

 姉とは違い、そっち方面の知識も完備のリイン2だった。

「あたしも混ぜろ。要するにあれだ、お前の髪を愛の字にカットすればいいんだろ?」
「見物させてもらおうか」
「レヴァンティンは貸さんからな」
「ほ、本当にやるんですか? 鏡は用意しましたけど……」

 おっとろしいことをのたまうヴィータからひたすら逃げ回りつつ、この家で言う愛の定義を疑問
に思う俺だった。





「なんで私たちがお前の湿布を……ほら、さっさと脱げ!」
「愛の力で介の字貼りだな。気持ちいいぜ」

 勝手にオチまで持ってきてくれたぬこ姉妹。さすがです。



(続く)

#############

すずかイベント始まってますが幕間。
「話題をなにかひとつに統一してみよう」の実験。なにこの統一感のない会話……!
リインはこうして成長していくのです。あと一生分くらい愛って書いた気がする。



[10409] その180
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/06/27 15:26
 ヴィータはよく俺の髪を切りたがる。自分としても八神家の床屋代がちょいと浮くので、たまに
任せることにした。任せるたびにいつベジータヘアーにされるかと思うと、ちょっとオラわくわく
してこないぞ。
 なのでそういうときは、鏡を数枚合わせて切られる様子を観察できるようにしている。とはいえ
最近は確認もおざなりで、半ば任せきりにするようになってきた。そんなイベントが二か月に一度
くらいあり、今日がちょうどその日にあたる。

「どちらかというと、昔は俺が切る側だったんだがなぁ」

 ちょきちょきとハサミを入れる音を聞きながら、ちょっと昔を思い返してみた。

「そうなのか? てっきり逆だと……こら、顔下げんな」
「本当だ。兄貴が楽しい奴で、床屋のお金が映画やらお菓子やら、いろんなものによく化けた」
「だあああもう! 振り返ろうとすんな!」
「注文の多い理髪店。ということは、俺はこのまま食われてしまうのだろうか?」
「ハサミ持ってるんだから注文多いに決まってんだろ。あと、じっとしてないと五分刈るかんな」

 五分刈られては敵わないので、大人しく従う。ハサミだけでどう刈るのか興味はあるが、実演さ
せると俺の頭がすごいことになりそうなので却下。

「お、若白髪発見。……最近多くないか?」
「知らぬ間に『シラガハエルダケ』でも食ったんじゃね」

 そんなキノコあるのかよ、と冷静に突っ込まれる。しかしそれに似た種類で既に、「テノツメノ
ビルダケ」を見つけているためあり得ない話ではない。と思う。

「若白髪と普通の白髪の境界っていつ頃なんだろーな」
「二十歳だと思われる。それはそうと、若白髪って切っちゃだめなんじゃないっけ?」
「ん? ……いや、違うだろ。抜いたらダメだったはずだぞ」
「いやそんなはずは」
「絶対そうだって。てか、もう切ったし」
「ああヴィータが人の白髪を勝手に切った! もし髪が生えなくなったらどう責任取らせてくれよう!」

 そんなんで生えてこなくなったら今ごろ、日本全国の理髪店が訴えられてんだろ。とまともに突
っ込むヴィータの主張に思わず納得する。

「……!」

 様子を窺いに来たリインが自分の純白の髪を見て、はやてのいる居間の方に一目散に駆けて行く
のが見えた。ヴィータの最後の主張だけ聞こえていなかったようです。

「あー……ほら、お前が間違ったこと言うから」
「リインのあれは普通の白髪じゃないだろ……まぁ、ちょい待って。行って訂正してくる」
「念話でやっとく。それよか、まだ作業残ってんだ。シャンプーさせろ」
「ん? いや、流すだけでよくね。切る前にやったような気が」

 気がするだけではなく、確実にやったはずなのですが。

「いーからやらせろ。残念だが、お前のそれは気のせいだ」
「気のせいなんだぜ?」
「気のせいなんだぜ」

 なんでこの人こんなに楽しそうなんだろうと思いつつ、されるがままになる俺だった。





 ついに図鑑も、残りあと数種類というところにきた。さっそくクロノに報告し、見たい見たいと
言っていたなのはにも持っていくも、部屋にいない。とてもがっかりする。
 しかし恭也さん情報によると、体力をつけるべくアリサ・すずか監督の下、何やらトレーニングをして
いるのだとか。いま聖祥に行くと会えるようなので、はやてと一緒に見学も兼ねて、差し入れも持って見
に行った。さっそく見つけた。はひはひ言いながら走ってた。

「おー、お疲れのようだな。そして何気に初見か? こんにちは聖祥」

 アリサが露骨に「うわっ出た」という顔をする。すずかは驚いたのか、目を白黒させるばかり。

「関係ないが、聖祥は一発変換不可なんだ。毎回『聖なる吉祥寺』と入力する俺に謝罪と賠償をするべき」
「……何しに来たのよ」
「なのはウォッチングおよび、図鑑のお届け。ついでに差し入れと、聖祥の見学に」
「私は見張り役なー。まぁ、遊び半分やけど――」
「まったく。校舎の壁にビスケット・オリバさんの巨大肖像画を描く計画が実行できぬ」
「このように、まったく目が離せへんので」
「納得」

 冗談半分だったのだが、納得されては仕方ない。とりあえず主目的たるなのはの観察を敢行しつ
つも、今日もまた少し奇人扱いが深まっていくなぁと実感する。戦逃奇人?

「まあいい。ところで、あいつはいつから走っているのか。もうへろへろっぽいけど」
「時間は測ってないけど……結構長くやってるわね。ノルマはあと1周」
「アリサたちは走らないのか」
「あの……実はもう、けっこう前に走り終わっちゃって……」

 納得である。
 しかし見るからにへとへとの様子で走るなのはだが、それでも止めないあたり根性は一流だ。な
んとなくカッコいいので、走路上にバナナの皮を置く妨害行為のはやめておこう。

「はぁ、はぁ……あ、あうう……」

 走り終えるや否や、ふらふらもたれかかるなのは。アリサが受けとめる。

「今ならティアナでも簡単にぼっこんぼっこんにできる気がするぜ」
「またわけの分からないことを……ほら、なのは。お疲れさま。ギャラリー増えてるわよ」
「え……あ、はやてちゃん、けーとくん……つ、つかれたようたてないよう……」
「体力の限界に挑むからそうなる。差し入れだから、ポカリでも飲め」
「あ、ありがとう……ん、ん〜〜っ! あ、開かないぃ……」

 なのははうんうん言いながら、必死に缶を開けようとする。仕方ないからあけてやったら、結構
な勢いでごきゅごきゅ飲んでいく。

「なんなんだろうこのいちいち面白いいきもの」
「ひ、人のこと面白いって、んぐ……し、失礼だと……ん、んぐ」

 んぐじゃねぇ。日本語を喋れ。

「しかし、いきなり体力作りとは。ぬこ姉妹にさせられたものとてっきり」
「確かにそれもやっとったけど、魔法メインやったから」
「なるほど。だが、なぜこの寒い時期に。もうちょい暖かくなってからでもよかろうに」
「……すずかちゃんもアリサちゃんも、図鑑集めで山登ったって、言ってた」

 動機が判明した。どうやらなのはも行きたかったようだ。

「ちょうどその図鑑を見せに来たんだった。聖祥の図書館ででもやろうか。案内してくれ」
「また勝手に……でもま、いいタイミングかもしれないわね。今日はもうおしまいだし」
「あっ……そ、そうだ! けーとくん、残りあと3種類って本当なの!?」
「本当だぜ。遅かったな」
「う、うう……じゃ、じゃあ、最後の図鑑集め、絶対呼んでね! やくそくだからね!」
「なのはに針千本されて1000ダメージか……」
「破ること前提になってるよう!?」

 ここ最近図鑑集めがにぎやかになってきたなぁ、と思いながら、また一つ約束が増える俺だった。
終止様子をうかがっているすずかが気になったが、まぁいいかとてくてく歩くのだった。



(続く)

############

179をずいぶんお待たせしちゃったのでもう一個ストック投下。午後は身動きとれないので今。
人の髪をいじるのがドキドキするけど楽しいヴィータ。
あとすずかは結局自動登録のスイッチを入れませんでした。見ればわかると思いますが。

ぜんぜん関係ないけど作者はWカップと聞くと心のときめきを抑えきれません。

13:56 はやてがヴィータになってたのを修正。
携帯から手直ししたけどsage更新になってるかな…?



[10409] 番外12
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:932bdabc
Date: 2010/06/28 09:43
【視点チェンジ実験】



 学校から部屋に帰って来てみると、なんだか窓の辺りに不自然な影が差しているのに気付いた。
 なんだろう、と思って見に行ってみる。カーテンをめくってよく見てみると、巨大なてるてる坊主だった。頭がバレーボールなんていうレベルじゃなく、身体も自分たちと同じ背丈くらいある。

「……って、これの中身わたしのぬいぐるみだ! だっ、誰なの、こんなことするのはっ」
「そのてるてる坊主はわしが育てた」

 ベッドの下から人がでてきた!
 ……と思ったら、予想通りけーとくんだった。毎回毎回思うんだけど、どうしてこの人は普通に登場しようとしないんだろう。

「けーとくんが作ったぬいぐるみじゃないでしょう?」
「確かに俺の作ではないが、そこにおわしたルイスくんから、たまには窓際で吊られてみたいという声が聞こえたのです。よってわしがプロデュース」
「いまの一言、いったいいくつ突っ込みどころがあるんだろう?」
「追いつかないから突っ込むな。以前から思ってはいたが、なのははまだまだ速さが足りん」
「ど、どーでもいいからっ!、これ、下ろすの手伝ってっ。けっこう重い……え? ぬいぐるみだけなの、これ?」
「中に枕とかいろいろ詰めたなそういえば」

 悪質ないたずらにもほどがあるので、とりあえずけーとくんのほっぺをぐにーと引っ張る。

「なぜ引っ張るのですか。なぜ引っ張られているのですか」
「自分の胸に手を当てて聞いてみるべきだと思うよ」
「手で声が聞けるわけないじゃんばーかばーか」

 ほっぺは堪えないみたいだ。引っ張る対象を耳に切りかえちゃえ。

「冗談はさておき。遊びに来たので、手を離してほしいのです。ルイスくんを下させてほしいのです。ルイスたんの桃髪ブロンドをくんかくんかしたいのです」
「そんな名前じゃないよ……っていうか、けーとくんがコピペに染まってる!」
「今のでなのはがルイズコピペを見たことあるのが確定したのですね。わかります」

 さ、最初はけーとくんが見せに来たはずなんだけど……このひと、絶対違うって言うのが目に見えてる……!

「け、けーとくんは都合の悪いことをすぐ忘れるくせをどうにかした方がいいと思います! どうにかするまで離しません!」
「ああなのはが俺の耳を引きちぎろうとする! これはもうマジシャンではなく、グラップラーなのは幼年期がはじまっていたのか!」
「こ、こういうときだけ撤回しないでよ! いつもへなちょこって言うくせにぃ!」
「それはすまなかった。そういえばなんだが、この部屋ってバキないよね」
「ここが女の子の部屋だってそろそろ認識しようよ……あ、でもはやてちゃんの部屋にはあるよね」
「俺にもそろそろわかり始めたが、あれは異常だ」
「けーとくん、鏡あっちだよ?」

 割と会心の切り返し。と思ったら、逆にほっぺたをつかまれる。部屋の真ん中でけーとくんと私が、お互いほっぺと耳たぶを掴みあっているという、よくわからない構図になった。

「ひゃ、ひゃうぅ……ひゃふー……?」

 ぜんぜん痛くないのはいいけれど、変な声が出てしまって思わず赤面する。

「ひゃふー星人が赤くなった。こりん星が千葉県だから…新潟辺りか?」
「……ひゃふー星は、そんなところにありません」
「地球上どころか、どの銀河を探しても存在しないと思われます」
「あ、遊ぶなら最後まで付き合ってよばかー!」

 そんな感じに、今日もまた楽しく振り回されました。海鳴は今日も平和でした。



(続かない)

############

寝る前に書き始めたら一本書けてしまった…!
実験完了。案外いけるもんですね。寝る。



[10409] その181
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:5679df93
Date: 2010/07/01 22:33
 ユーノがクリスマスを前に、長期の休暇を取ることに成功したらしい。もう地球に来ているらし
いので、さっそく到着したというハラオウン家に直行する。上がると、いた。ソファーでクロノと
何やら話してた。

「久し振りだな! 故郷の用事は片付いたのか。えっと、スクラ……スクライド一族だっけ。やたら強そうだ」
「……?」

 せっかくクロスネタを思いついたというのに、クロノにもユーノにも全然通じなくて悲しい。

「お前たちはもっとジャパニーズアニメを観るべきである」
「ははは。久し振りだね、元気そうでなによりだよ」
「長期の休みと聞いたけど、具体的には?」
「二か月くらい。こっちで言う、夏休みみたいなものかな。季節はちがうけどね」

 などと、お互いの近況を報告する。図鑑収集の関係上クロノとはしょっちゅう顔を合わせている
ものの、ユーノと会うのはしばらくぶりだ。そりゃあ話に花も咲く。

「ダンジョンっぽい遺跡で見つけた魔導書……だと……?」
「心当たりあるかなと思って。中身がまったくの白紙で、ちょっと使い道が不明というか……」

 などと、見つけてきた用途不明のアイテムを披露してくれて感動した。
 ユーノはユーノで楽しい冒険をしていたようだ。
 その遺跡を制覇してから魔導書に「せいいき」と書いてみるようアドバイスしてから、今度連れ
ていってもらう約束を取りつける。ダンジョンとか心踊りまくりなんですけど。

「……天職かもしれないね、これ」

 図鑑の中身をみたユーノの、第一声はそれだった。

「お互い様だと思いますが」

 俺のこれも率直な感想だ。そうかなぁ、とのんきに返される。

「……言っておくが、君たちは既にこれだけで食っていけるレベルだぞ」
「俺は遊び半分なんだがねぇ。機会があれば、今度は鳥系統で縛りプレイとかやってみたいわ」
「マゾだな」
「違います」
「マゾだよ」
「違います」

 そんな感じに図鑑をめくりアイテムを眺め、しばしだらだらと時を過ごす。到着したばかりのユ
ーノもややお疲れのようだった。なのはには明日会いに行くことにして、今日はこのままハラオウ
ン家にご厄介になるのだとか。

「フェイトにも、積もる話があるしね。今度の任務についても言っておかないと」
「あ。そういやフェイトは。ひとりツイスター中?」
「人の妹にまた変な趣味を……高町家だ。遊びに行っている」

 そうだったのか。
 と思ったが、なに? 任務?

「得体の知れない機械が、遺跡付近で哨戒を行っていると報告があったんだ」
「で、撃退と確保か。まあすぐ終わるんじゃね?」
「それが……ちょっと、厄介な性能があるらしくて……」
「どんな性能?」
「魔法が効かない」

 危うくむせそうになった。
 あれ……これもしかしてスカさんの仕業じゃね……?

「こちらとしても対策を練らないと。襲撃がいつ起きるかわからないから」
「大丈夫だと思うけど、僕も心配で心配で」

 こんなイベントもあったかなぁ、と思う俺。なにやらStSの足音が、ようやく聞こえてきたよ
うな気がした。





 翌日になると、八神ファミリーにも正式に依頼が舞い込み。
 三日後には、例の機械も再度出現。出撃して撃退にあたることになり、なのはもフェイトも交え
ての合同任務ということに相成った。
 魔法が効かんということで、さしもの魔法使いたちもやや手を焼いたようだ。だがしばらくする
と対処にも慣れてきたらしく、物を飛ばしたり地形を変えたりで追い込み、殲滅していく。
 卓越した技能と戦術で、たとえ不利な相手であっても互角以上に戦う。魔法使いの底力を実感さ
せる、高度かつ見事な魔法戦であった――。





「メタル化ナックル強すぎだろ」
「誉めて」

 一方リインは素手で殴った。



(続く)



[10409] その182
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:4ff32349
Date: 2010/07/08 11:24
 任務の後はそのまま予定の空いてる人が集まって、お疲れ様の食事会。
 今回はリイン無双もあったけど、個人的には初陣のはやても目を引いた。そんなことをその席で、
クロノとユーノに話してみる。

「あの面子だと見切りが抜群によかった気がしたんだが、二人の視点ではどうだった?」
「君と同じ感想になるとは」
「あの思いきりの良さはすごかったよ……」

 どうやら正解だったようだ。ユーノによると手持ちの攻撃魔法が効かないと分かった途端、あっ
さり下がってスクルト連打にかかった判断力が評価されたらしい。
 絶え間なくかけ続けてくれたおかげで、あまり防御に気を回さなくてよかったとクロノも褒めて
いた。自分のことではないけど、ちょっと嬉しい。

「人に見られたデビュー戦って、功を焦ることが多いはずなんだけど……」
「功とかあんまりこだわり無さそうだからな。功を焦るはやてとか想像できねぇ」
「それもそうだね」
「違いないな」

 どうやら想像してみたらしく、二人してぷっとふき出した。

「いや、それにしても、強くなった……」
「最近はジゴスパークの研究をしてるとか……そういえば、クロノのマホトーンはどうなったのか」
「……あれはもう禁呪扱いでいいと思うんだ」
「修得してたんだ」
「なのはたちもう勝てなくね」

 あとついでに言うなら、スカさんの勝ち目も確定的に消えた気が。

「……ラスボスがついで扱いってどうなんだろうね」
「何の話?」

 つくづくこんなんで大丈夫か、多少疑問に思う俺だった。
 まあ、大丈夫なんだろうけど。





 その後は当然のように、八神家で泊まりになった。残念ながらクロノは仕事のため居残りだが、
久しぶりに大人数が押し寄せて賑やかだ。
 でもってちょうどいいので、寝る前に今回のはたぶん第3期ラスボスの仕業だよー、というのを
はやてたちに素直に伝えてみた。どうも自分は危機感とかそういうものが狂ってるのかもしれない
ので、ここは皆さんの意見をうかがいたい。

「……第3期というからには、発明品にもゾーマ様なみのセンスのよさを期待しとった」

 はやてはがっかりそうな顔をした。大して俺と変わんなかった。
 すっかりドラクエに染まっていたようだ。あといくらラスボスとはいえ、そこまでとなるとハー
ドルが高すぎる。

「原作だとスカさん、基本的に親切だからなぁ。自分のモノには名前書く人だし」
「……その人、本当に悪さをするんでしょうか……」
「襲撃はしてた。あと味方の子を拉致して、何故かドリルくっつけてたなぁ」
「発想がお前と酷似してる気がすんだけど」
「俺ならドリルより『指にさしたとんがりコーンが硬化したうえ抜けなくなる呪い』を開発するわ」

 ヴィータは前言を撤回した。「こいつと同列扱いの方が可哀想だった」そうだ。失礼極まりない。

「お前とはいつか決着をつけなければならんな……」
「おっ。力ずくか? いいぜ、何でも相手になってやるよ」
「じゃあパワプロの対戦でいいかな」
「ひ、卑怯だぞ! 撤回しろこら!」

 何でもと言うわりに、勝ち目のない勝負は却下らしい。

「スカさんも今のヴィータみたいな気分を味わってるかもわからんね」
「今回のレベルのままやと、本拠地にリインぶっこめば勝ちやからなぁ。やらんけど」
「そのうち新発明でもするだろ。さてそんなことより、今日の暖房要員争奪戦が心配になってきた」
「はやてちゃん、けーとくんっ。見て見て、あったかいよ?」

 見ると、ぬこ姉妹とユーノ(フェレットver.)とザフィーラとアルフとお湯を飲んだはぐりんた
ちをフェイトといっしょに抱きしめたなのはが、大量のもこもこ毛布から顔だけ出してぬくぬくし
ていた。言ってるそばから取られていたらしい。フェイトなんかはもうすでにうとうとしてるし。

「えへへ、あったかぁい。……このまま寝てもいいかなぁ?」
「寝てもいいが、その場合なのは撫で放題だな。光速で撫でてやんよ」
「わたしがチリも残んないよぉ……それで、どうしよっか? 今日の配分」
「いま思ったんだが、風呂上がりのリインに可能な限り抱きついて寝ればカンタンじゃね?」

 リインは困惑のあまりおろおろと狼狽した。

「こ、困りました……お姉ちゃんに、ハーレム結成の夢を先取りされてしまうなんてっ!」

 リイン2のその夢は本格的に諦めた方がいいと思う。冗談だろうけど。冗談だよね?

「まーいいか。毛布も相当な枚数あるし、このまま寝よう。なのは、入れろ」
「あっ、そこ、ザフィーラさんが……」
「……いま踏んだのは誰だ」
「なら私も……だっ、だれや蹴ったのー!」

 折り重なって寝ました。


(続く)

############

塊魂。



今だから言うけど紐糸1、2の半分以上は携帯小説(笑)でできています。
次あたりからすずかと管理局関係の二本立てであります。



[10409] その183
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a4a08015
Date: 2010/07/17 10:21
 例の任務から数日が経った頃、はやてに管理局から、クロノ経由でメールが来た。
 なにやら士官学校や魔法訓練校の資料付きで、入局への誘いがかかっているのだとか。という訳
で返事こそ保留なものの、見学できるところを見に行くらしい。

「このバリアフリーな八神家がバリアーだらけになるから、楽しみにするがいい」
「その場合、お宅の股間がバリアフリーになる予定やからそのつもりで」

 はやてがにこやかに告げたマニュフェストに戦慄しつつも、読みたい本と観たい映画のために志
願して留守番を敢行する。

「こんにちはーっ……あれ、けーとくんだけ!? そしてどうして部屋の隅に!?」
「留守番だ。隅っこで布団被ってればおとなしくできると思ったんだ」
「何もしなければいいだけなんじゃないのかなぁ……」

 とまぁそんな感じに、事情を知らないなのはがやってきた。
 なんでも嬉しいことに、ケーキを焼いて持ってきたのだとか。小腹が空いていたこともあって、
ありがたく食すことにする。

「うまいうまい」
「そ、そお? ……えへへっ。いっぱい焼いたから、たくさん食べていいよ?」
「まずは醤油だな」
「混ぜたら危険だよ! そのまま食べるの!」
「人生チャレンジ精神が大切だぜ?」
「人の料理で未知の領域にチャレンジしないでよー……」
「冗談だ。ともあれやはりと言うべきか、さすがと言うべきか」

 甘さは多少強いがフルーツの酸味もあり、味にすごいまとまりがあるように思う。職業が魔法使
いなおかげでたまに忘れそうになるが、この人パティシエの娘でした。
 しかしそれを考慮してなお驚嘆に値するのは、ホイップクリームをなのはが自力で泡立てたとい
うこの事実。

「偉いね」
「腕が棒みたいになったんだから。もっと褒めてくれないと割に合わないよ……」
「えろいね」
「全然褒めてないよ! むしろおとすめ……お、おとすめてる? あれ?」
「貶める」
「……お、お、おとしめてるよ! うん!」

 なのはは顔はおろか、首筋まで真っ赤にして息を巻いた。小学生には非常に難しい漢字なことだ
し、美味しいケーキに免じて追及はしないでおこう。

「……けーとくんの沈黙って、人の心をざくざくえぐるよね」

 せっかく黙ったらこの言われよう。俺はいったいどうすればいいのだ。

「まあいい。はやてたちはいないから、残りは帰ってくるまで冷やそう。ごちそうさま」
「うん! そういえば、リーゼさんもシグナムさんたちも、誰もいないの? 何してるのかな?」
「ミッドチルダへ、『ミッドクリフ』を観に」
「ミッドがひどいことになってるよ!?」
「語呂が良かったんだ。あと、さっきの醤油の瓶を見てたら周瑜に脳内変換されたんだ」
「どういう回路になってるんだろ……所々ショートしてないかなぁ?」

 そう言って俺の頭をぺたぺた撫でる無礼者に、とりあえず見学の件を説明する。

「……ちょうど良かったかも。あの、あのね、けーとくん。ちょっと、お話があるんだけど」
「ごめん俺模擬戦はぷよぷよだけって決めてるんだ」
「話す前から誤解されてる!? 違うよ、その……すずかちゃんのことなんだけど」
「鈴鹿サーキットが何だって?」
「この人ちっとも話を聞く気がないよぉ……」

 げんなりするなのはだった。……待て。すずか?

「すずかがどうした」
「あ、うん。アリサちゃんとも話してたんだけど……最近、様子がヘンなの。何か知らない?」
「アリサとなのはが知らんことを俺が知ってるとお思いか……」
「……けーとくんの名前が出ると、あたふたするんだけど」

 おぉう。

「……」
「あっ、こ、心当たりあるんでしょ、絶対っ」
「なななぜ言いきれる」
「顔見れば分かるもん! ……い、今さら顔に洗濯バサミつけても無駄だよ、無駄無駄!」
「オラオラ」
「言ってるのにどんどん付けてるよこの人! ……け、けーとくん、それ反則……!」

 まつ毛の一本一本にぶら下げようとしたところ、ついになのはが音を上げた。

「け、結局はぐらかされちゃったよぉ……うぅ……」
「まあ俺から言うより、ご本人から聞いた方がいいかと。違いますか」
「う……わ、わたしも、同じことしたことあるからなぁ……」
「洗濯バサミをか? 常習者だったとかマジで引くわ」
「隠し事の方だよっ、ばかばかばかぁ!」

 顔についてる洗濯バサミをひっぺがそうとするなのはと、逃げる俺。疲れるぜ。





 そしてすずかからメールが来たのは、ちょうどその晩のことでした。



(続く)

############

周瑜が変換候補に挙がるこの携帯すげぇ

ちなみに作者は英魂より赤壁が怖いです。なにあのMAP兵器



[10409] その184
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:fe0e6eb0
Date: 2010/07/26 16:21
 すずかからのメールは至極単純、「お話があります」とだけ。
 なんだろうと思いつつも、とりあえず恋愛フラグでない確信はあるので「ごめん自分よりぷよぷ
よ弱い人とは付き合わない主義なんだ」と半ば反射的に返信を入れた。

『それだと、女の子と一生お付き合いできないような気がする』

 返事は早かった。そのままメールで語らう。

『無性生殖する方法考えるわ。あと、具体的にどうお話を伺えばよろしいか』
『書き忘れちゃった。今度の土曜日うちで、お茶しながら、とか。いい?』
『へそで茶を沸かす芸を身につけて行きます』
『万が一見せられても反応に困るよ……』

 というやりとりの果て、週末にすずかの家にお邪魔することになりました。
 でもよくよく考えると、話ってもしかして家系の関係だろうか。仮にそうだとするならば、俺が
察してるのっていつごろバレたんだろう? それともバレてなくて、探りを入れるだけなのか?

「い、いらっしゃ……あれ? ど、どうしたの、髪ボサボサだよ? 羽毛まみれだし!」

 でもって土曜日。まあ考えても無駄なので実際に訪問してみたところ、緊張した面持ちですずか
が応対した。と思ったらすごい驚かれた。

「空を飛んで登場したかったんだ。ハト千羽くらい集めたら飛べるかと思ったが、紐結ぼうとしたらくっくるくっくる怒ってつつかれた」
「い、いつもそんなことばっかりしてるんだ……?」
「すずかがへそで茶を沸かすなって言うから」
「普通においでよ……」

 それがいいかも。と思いつつ、申し訳なく洗面所に案内してもらっていろいろ整える。改めてお
邪魔します。

「移動中、そこここから視線を感じたような気がします」
「あんな登場したからだと思う……とっ、とにかく、ようこそ。来てくれて、ありがとう」
「この反応。もうなのはとか普通にすると『あ、来てたんだ』くらいしか言わないからなあ」
「異常だよ」
「異常ですか」

 異常らしいです。

「いつごろからこうなったか……もはや居て当たり前な感じだ」
「あ、あはは……あ、コーヒーでいい? 紅茶にする?」
「寒いから味噌汁で」
「……えっ、えと……す、すみません、お味噌汁を……」
「すずかの作った味噌汁が飲みたいなあ」

 すずかは見ていて可哀そうなくらい狼狽した。飲み物を聞きに来たメイドさんらしき人の視線も
痛いので、素直にコーヒーに変更してもらった。飲む。

「……ふう」
「ふぅ」

 誰もいなくなったところで、さて、という感じに息を吐く。

「……や、やっぱり、もう一杯飲んでからで……」
「お? おお、じゃあ俺も」

 付き合いで、二杯目を飲み干す。

「あ、も……もう一杯」
「おー。俺も」
「……」
「……」
「……も、も、もう一杯っ」

 あれ……話まだ?





「帰るなり『お腹痛い』って……すずかちゃん家でいったい何してきたんか」
「俺何しに行ったんだっけ」

 すずかに付き合い続けた結果、コーヒーの飲みすぎで胃がひどいことになっただけの俺だった。





 翌日。さすがにこのままだと収まりがつかんので、もう一度月村家を訪問する。

「あ……い、いらっしゃ……」
「すずかの顔がコーヒーカップに見えるんだけど。なにこれこわい」

 すずかは真っ赤になって俺の手を引いた。そのまま歩き二度目の客間へと連れていかれ、顔を近
づけ口を開く。

「か、カップ、ぜんぶ撤去したからっ!」

 この家これから大丈夫だろうか。

「いやその、昨日は俺も悪かった。促すでもなく、聞く一方だったし」
「あ……う、うん。ごめんね、お腹大丈夫だった?」
「何故すずかが平然としているのか不思議だ」
「あ、ほら、わたし紅茶だったから」

 そういえばそうだった。途中で替えればよかったんだ、と今さら思い知る。

「まあいいやもう。で話なんだけど、どうぞ」
「あ、うん。えと、まず……ず、図鑑についてた自動登録機能、私がいるときいつも切ってあって。なんでかなあ、って」
「コーヒーをかけすぎて壊れたんだ」

 すずかはうらめしげな顔をした。

「……いじり倒されるなのはちゃんの気持ち、わかった気がする……」
「ははっは。それはともかく、自動登録か。……なのはやアリサも見るから切っといたが、余計な気遣いだったか」
「あ……う、ううん、ありがとう。……実は、知られちゃってもいいかなって、思ってたんだけど」

 伝わったようだ。でもってどうやら、既にすずかも気づいていたらしい。

「……やっぱり、気づいてたんだね」
「後付けの根拠ではあるが、図鑑の閲覧履歴もすずかの時だけ極端だから。そこから種族も想像つく」
「う……こ、行動にも出てたんだ……」

 自覚はしていなかったようだった。この調子だと、過去に自分で人外発言ぽいのをしてるのも覚
えてないんだろうなあ。

「なので、すずかの口から聞くのは今じゃなくていいです。なのはたちより先に聞くのはなんか悪いし。いい?」
「あっ……う、うん、ありがとう。なのはちゃんたちにも、もうすぐ話すつもりだったんだけど」
「俺は練習台か」
「やっぱり、その、……ゆ、勇気、要るから」
「わかるが、あいつら多分種族で態度変えないから大丈夫だぞ。うちが既にごった煮だし」
「よ、よく考えたらそうかも。……はやてちゃんの家って、賑やかだよね」
「布団の数がギリギリなのはキツいけどな。リイン姉妹とはよく押し入れで鉢合わせするし」
「押し入れで寝てるの?」
「そういう年頃なんだ」

 などと話しているうちに、なんだかほっとした雰囲気になってきた。よかった。

「とりあえず、なにかアレルギーとかあったらさりげなく気を配っとくから教えて。俺はコーヒーがアレだな」
「う、ううぅ……」

 すずかは不服そうにした。

「というか、その……いつから気づいてた?」
「去年の終わりかな」
「ええっ? そ、そんなに前から?」
「そんな前から」

 普通に語らってました。





「けーとくんけーとくんっ。すずかちゃん、なんだかご機嫌だっ……ど、どうしてマスクしてるの! けーとくん風邪!?」
「何も飲まずにずっと喋っとったら、今度は喉が痛くなったんやて」

 カップが再び入るまで、しばらく月村家には行くまいと誓う俺だった。



(続く)



[10409] その185
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:d997c16d
Date: 2010/07/29 21:45
「わたしの名前、なんではやてなんやろ」

 朝。てくてくと通学路を歩いていると、はやてがそんなことをこぼした。

「親御さんが少年サンデーの愛読者だったんじゃね」
「あれはカタカナや」

 一番あるかと思ったが違うらしい。

「名付けやなくて、どうして漢字にしなかったんかってことなんやけど」
「ひらがなの方が柔らかいからじゃね。俺もこっちの方が好きだし」
「口説かれた」
「ちがいます」
「人生、一度でいいから口説かれたい。耳元で甘い言葉とかささやかれたい」
「和三盆和三盆和三盆和三盆」
「早口上手いんやね」
「照れるね」

 この人と話すと脱線しても気づかないことが多い。あんま困らないけど。

「昨日ミッド語で書類書いてたんだって?」
「簡単なのやけどな。クロノくんのお手伝いで、体験してみないかって」
「それで漢字とひらがなの違いを認識した、と」
「そんなとこ。まあ、もう理由を知る人には会えんしなあ」
「家探ししたら何か出てくると思うぞ」
「……大晦日、大掃除のついでに探してみる」

 ぐっどあいであ、とばかりにうなずくはやて。

「手伝いましょうか」
「お。おおきになあ、お願いするかも」
「家中ひっくり返すよ」
「戻せ」

 のんべんだらりと歩きます。
 学校前の交差点にさしかかりました。

「交差点やね」
「そうだね。交差点だね」
「ここの信号長いんよな」
「どっかの神父が加速してくれればいいのにね」
「その場合、青の時間も短くなる件について一言」
「はやてって基本的に頭いいよね」
「もっと誉めれ」
「俺実は頭フェチなんだ」
「豆腐の角に頭ぶつけて転生すればええのに」

 てくてくと渡る。渡ったら渡ったで、はぁとやる気なさげなため息が出た。

「お互い今日テンション低いな」
「……朝ごはん、一口も食べとらんからな」
「シャマル先生が炊飯ジャーのスイッチ押し忘れたんだよね。あの絶望した泣きそうな顔がまた」
「ヴィータが写真撮っとったからあとで見よ」
「残念だが、写真でお腹は膨れないぜ」
「思い出させんな」
「すまないね」

 とか言いながら、帰宅後のシャマル先生の処遇を考える。
 しかしまあ、本人すっごい泣きそうな顔してたし写真公開だけで許してやるか。となったその直
後、図ったかのようなタイミングで二人ともお腹がきゅるきゅる鳴った。

「……このまま給食室に押し入ろうぜ」
「……やりたいのは山々やけど、いろんな人に阻まれるわ」
「全員煮込んでトロトロのシチューにすれば……!」
「次元犯罪者一直線やな」
「次元犯罪者じゃなく、ただの犯罪です」
「それもそうか。臭い飯食わされることになるな」
「臭い飯でいいから食べたいですね」
「今ならシュールストレミング食べれられるわ」
「俺高町家に避難してケーキ食ってるから」
「そこは手伝えよ」
「手伝わねえよ」

 二人してお腹を空かせてました。



(続く)

############

テンション低いとこんな感じになる。



普通に書いても十分楽しいけど、最近文章的な意味で縛りプレイとかやりたい。
・会話一文字目統一縛り
・一文字目「あ」→「い」→「う」→… 縛り
・物理的な意味でフェイト縛り
・会話文5つ以下縛り

とかそのうち。つっても空白期終了近いですけど。



[10409] その186
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:9dd4cd1a
Date: 2010/08/03 16:06
 クリスマスのプレゼントを準備していたところ、すずかから連絡(電話)がきた。
 よれば、なのはとアリサに素性を話したとのこと。フェイトは次に任務が空いた時に、はやてに
は次の土日で、できるなら同時に話すのだそうだ。

「アリサちゃんが鋭くて。モンスター図鑑に登録してる物体がいるんじゃないか、って言うの」
「いま俺が無生物扱いされた件について一言」
「あっ……ち、違うんだよ、その、あ、アリサちゃんが言ったのをそのまま伝えただけでっ」

 あわてて取り繕うすずかだった。しかしまあ、声色から察するに、なのはたちとの関係は望まし
い状態らしいので安心である。

「アリサへの説明も考えるか……まあいいや。良かったね」
「あっ……うん。ありがとう。それで、お話の件ね。今度はやてちゃんと一緒に、またうちに」
「ああ今度こそ胃に穴が! 助けてくれえ!」

 電話の向こうが弁解なのか抗議なのかよくわからん感じになってめんどいので、とりあえずフェ
イトやはやてと話を聞く約束だけ取り付ける。
 でもって当日。とりあえずクリスマスの準備も兼ねるからという理由で、結局なのは部屋に集合
の約束になったので集まる。

「いきなりで悪いが、もう帰りたいです」
「いきなりすぎるよ……」

 男女比1:5の空間に尋常ならざる居心地の悪さを感じて困る。まあ話が話なので、帰る気とか
さらさらないけど。

「いいから誰か一人性転換して来いさ……」
「アンタがしてくればいい話よね?」

 その発想はなかった。
 とかやっているうちにすずかが切り出したので、原作で暴露話ってあったっけかなぁ覚えてない
わもう、などと思いつつ話を聞くことにした。
 種族名は「夜の一族」。
 身体能力は高く、あとたまに血が欲しくなる体質だそうです。
 図鑑の履歴を見てみたところ、ハンキョウコウモリ(人間に聞こえる高音域でコミュニケーショ
ンするコウモリ。繁殖期に洞窟で聞くと何かのコンサートみたいで面白い。別名:歌うコウモリ)
や、ミントモスキート(刺されたところがひんやりする蚊。気持ちいいからといって刺されまくっ
ているともれなく風邪をひく。かなり希少)などの吸血種を異常に閲覧していたので、予想通りと
いうか。まあ納得である。

「朝の一族と昼の一族はいないんですか。いないんですかいないんですか」
「い、いないと思うけど……」

 ふと気になったので迫ってみたが、実在しないらしい。がっかりする。

「今のは居る流れだろ……常識的に考えて……」
「いたら何するつもりやったん」
「いや、特には。三人揃えるとなんか勝てそうってだけで」
「……あ、相変わらず、すごい発想だね」
「言ったでしょ。こいつだけは何があろうといつも通りだって」
「いつも通りすぎて涙が出てくるよ……」
「あ、あはは……」

 誉めているのか貶しているのかわからないアリサに、曖昧に笑うなのはとすずか。
 しかしまあ、はやてもフェイトも特段何かが変わった様子もないので安心した。良かったねの意
をこめてすずかを見ると、やっぱりほっとした様子で微笑んだ。

「……今ので、ちょっと安心したんだけどね。アンタに聞きたいことがあるんだけど」

 と思っていたらその後、解散した後になって、アリサに何やら呼び止められた。

「忙しいから後で。『バイソン〜突進力の変わらないただひとりのボクサー〜』のCMを考えt」
「いいから聞け」

 大変怖いので、首がちぎれんばかりに頷く。

「……アンタ、前から知ってたわね。あの図鑑、周囲にいる種族を自動で判定するんでしょう?」

 直球来た。
 しかしながら、どうやら責めてる感じではなさそうだ。それなら全員がいる目の前で追及するだ
ろうし。

「いや、図鑑で判定はしてない。でも言動にポロッと出てたから。最近向こうも気づいて、相談されたりしてた」

 そういう訳なので半ば安心しつつ、正直に答えることにした。その方が良さそうだし。

「いつ頃気づいたのよ……」
「一年前のこの季節。話すことも、まあ考えないではなかったけど。悪かったね」
「……いいのよ。これだけ近くにいて、気づかなかったのが複雑なだけだから」
「アリサとなのはに打ち明けるのは勇気要る、って言ってたからなあ。普段は特に注意してたんだろ」
「あー……そうね。それは……そうかも」

 ほんのちょっと嬉しそうな気配がしたのは、すずかにとって自分が、そういう「特別な友達」だ
ったことがわかったからなのだろうか。

「今だから言うけど……てっきり、アンタが余計なことをしたかと思ってたのよ。図鑑のデータ、すずかも含めて公開しちゃってたりとか」

 そう前置きしてから、疑っちゃって悪かったわねと謝られた。
 誰もいなくなるのを待っていたのは、他の人にあんまり聞かれたくなかったからなのかもしれない。

「言わなきゃ俺は何も知らないんだから、黙っててもよかったのに」
「イヤよそんなの。ずっとモヤモヤしたままになるじゃない」
「いや、まあ、いちいち全部伝えんでも……まあいいや何でも」
「いつも思うけど、アンタってすぐ『まあいいや』って言うわね……」

 と言いつつも、こちらも割とスッキリした表情のアリサだった。

「あ。アリサちゃんにけーとくん、まだ居たんだ。コーヒー入ったよ?」
「言っておくが、しばらくコーヒーは飲まんぞ」
「あれ? 好物じゃなかったの、コーヒー?」
「胃が痛くなったんだ。すずかん家で、すずかに付き合って飲みすぎた」
「一体何杯飲んだのよ」
「痛くなる前に自制しようよ……」

 割と正論だった。



(続く)

############

会話頭文字アイアイ縛り
あとなんで朝の一族いないん?



[10409] 番外13
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:0a2d1a69
Date: 2010/08/05 21:22
 今日もぽけーっと過ごしていると、ある瞬間とんでもないこと思いついた。ミッドの最先端技術
を結集すれば、もしかしたらGPチップ搭載のミニ四駆作れんじゃなかろうか!

「空気の刃やら空気砲やらが質量兵器扱いになるだろ」

 喜び勇んで早速組み立てていたところに、後ろからひょっこりヴィータが現れて水を差す。

「……やはり合法ロリの心には、一片の夢さえ見当たらない」
「あたしはいつも夢一杯だぞ。それはともかく、ごうほうろりって何だ」
「外見と年齢とが一致しない、空想上の生物です」
「……まぁ、見た目よか長生きしてるのは自覚してっけど……」

 ヴィータは微妙そうな顔をしてから、そのままなにやら考え込んでしまった。意外だったけど、
もしかして気にしていたのだろうか?

「と、取り消すわ。いやいやいやその、なな長生きそのものはいいものであってですね」
「ん? いや、それはどーでも。じゃなくてお前も、外見と中身の年齢ズレてるなって思ってさ」
「……おぉ」

 俺も合法ロリの一員だったのか。
 いや男だから、むしろ合法ショタか。

「これは流行る」
「どうでもいい」

 同感です。

「それよりだ。……その調子だとお前、あたしと卓球しに行く約束、どうせ忘れてんだろ」

 ヴィータは作りかけのミニ四駆を指差して、なんだか呆れたような拗ねたような顔をする。

「あれは本気だったのですか」

 いや忘れた訳ではないのだが、この人は基本的に身体能力が人間のそれではないので、結論から
言うとドライブとかが頭おかしいレベルと言って差し支えない。

「大半カットしてたじゃんか。正直ショックだったんだぞ?」
「ひぃひぃ言ってたかんねあの時。しかも接戦とはいえ負けたでしょう俺」
「いいから付き合え」
「はい」

 約束は約束なので作りかけを置いて、とりあえず近くの体育館へ。

「へへっ。じゃあはじめるからな。準備はいいよな?」
「あと3日待ってくれたら、俺のシェイクハンドが必殺技『マックシェイクS』に進化するのに」
「……飲みたくなってきた。後で買いにいこーぜ」
「ヴィータはいつも唐突だ」
「悪かったなオラぁっ!」

 唐突にサーブを打つのは止めてください。あと、ガッツポーズすんな。「サー!」じゃねえ。

「あまり私を怒らせない方がいい」
「そういえば、お前が怒ってるのって見ねーな。記憶にもないし」
「そんな怒りっぼい生活してないだろ。俺もヴィータも」
「それもそうだオラぁ!」
「なんの」

 今度は対応した。ひいこら言いながら拾い続け、最終的にはヴィータのミスで1:1に。

「オフサイドだ」

 何言ってんのこの人。

「そういうヴィータこそ昔はどういう生活を……あ。そういや、以前は大変だったんだな。悪い」
「別に。大変じゃない人生なんてどこにもねーだろ」
「何いまのかっこいい」
「そうだろ。褒めちぎれ」
「何このイケメン」
「メンズかよ」

 ぱかんぱかん打ちあう。それだけのスポーツなのに、どうしてこんなに楽しいんだろう。

「でも疲れた」
「疲れるのも人生だ。でもってこの後、冷たいもん飲みに行くのも人生」
「いいな人生。人生いいな」
「ほら立て。言っとくけど、走ってくのも人生だかんな」
「くたばれ人生」

 ばたりと倒れた俺を起こし、背中をぐいぐい押してきた。

「人生とは……無情…………破顔拳」
「座んな。ほら、行くぞっ」

 ヴィータは楽しそうに俺の手を引いて、にかっと笑った。





「おなかいたい……」
「一気に飲むからだ馬鹿」
「う、うるっさい! 勝負なのにひとりだけゆっくり飲みやがって!」
「ばーかばーか」

 超追いかけられた。



(続く)

############

気づいたら書いてたけど作中と季節が合わないので番外。
暑中見舞申し上げます



[10409] その187
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:f0d3aa45
Date: 2010/08/09 00:50
 はやてがクロノに呼び出されたのだが、「ちょっくらテニヌの再現動画作ってくる」って言って
シグナム(たぶんプレイヤー)・ヴィータ(確実に撮影係)と出かけたきり帰ってこない。という
わけで代理としてハラオウン家に顔を出すと、一枚の写真を見せられた。
 すわフェイトの進化形、フェイタンの登場か。と思ったら、何やら見覚えのあるような、いやな
いような、トゲ団子が写っていた。なにこれ。

「なんだこれ。トゲゾー?」
「この間出現した機械の、改良型らしい」

 あんまりにもあんまりな改造を受けたガジェットの姿に、思わずほろりと涙が零れそうになる。

「どうしてこうなった……どうしてこうなった……!」
「前回殴り壊されたのをデータにとっていたんだろう。『やいばのよろい』の理論だな」
「ああ……あれね。自動で反撃してくれるっつう……」
「近接型の魔導師に対しても防御力を上げたかったんだろうな」

 確かに防御力は上がったかもしれないが。
 第3期まであと9年くらいな訳だけど、それまでにどんなことになっているかとても心配になっ
てきた。数の子が全員サボテンダーになったりしたら俺はどんな顔をすればいいのかわからない。
 嘘でした。確実に笑い死ぬ。

「こいつがくす玉みたいに割れて中からヴィヴィ子が出てきても俺は驚かないからな……」

 その場合なのは、フェイト、はやてを仲間にしたうえ四人でスカ退治してもらおうと思った。ク
ロノは不思議そうな顔をしていた。

「まあいい。それで、慣れない魔導師が苦戦するから、対策を考えていたところなんだ」
「『はかいのてっきゅう』思い出した。捕まえて鎖つけてぶん回したら?」
「……ああ……なるほど。意外と、面白い気がする」

 しかし実現は難しそう、とのこと。ぶっとい鎖を一瞬で巻きつけたり、魔力の補助があるとはい
え自由に振り回したりするのは特殊なスキルが要るらしい。召喚とか。
 ん?

「まあいいや。はやてのスクルトあれば問題ないし、何よりリインが殴れば確実だし」
「僕もそれが気になっていたんだ。どうだろう、大丈夫か?」

 一緒に家に呼ばれて、黙って話を聞いていたリイン姉妹に目を向ける。

「だいじょうぶ」
「トゲごと潰せると思います! それはもう、サンドバッグを断ち割る烈海王のごとく!」
「リインの顔が筋骨隆々とした鬼の顔に見えた」
「失礼」

 姉に不満げな顔をされた。しかし確かに、この人の手刀は手加減しても鉄板を引き裂く強さなの
で頼もしいというか、さすがというか、相手が可哀想というか。

「……君の戦闘力がまだ発展段階、というのは本当なのか」
「本当です! お姉ちゃんの場合、技術面では成長が見込めるみたいです!」
「格闘は、まだ中途半端だから」
「昨日覚えたサマソ見せてもらって、あまりの綺麗さに見とれました。俺あれを目指すわ」
「……がんばって」

 微妙に照れた様子のリインから、激励をいただいた。ついでにそっと頭を撫でられた。撫でられ
ること自体はそんなに悪くない気分なのだが、その手がメタル化したままなので何と言うか、謎の
感動を覚える。

「すげぇ。いま俺地上最強の鉄拳で頭撫でられてる」

 リインはあわててメタル化を解除した。残念。

「まあ魔導師に共通して言えるのは、スクルトを覚えましょうってことじゃないかね」
「あれは……要するに、ジャケットの複数強化だからな。魔力量と修練を積まないと難しいんだ」
「はー……はやてちゃんって、実はすごいんですね」
「そういや『頭おかしくなる回数スカラ練習した。紅白歌合戦に出てきそうなフルアーマーシャマルができた。でも二度とやんない』って言ってたな」
「……見てみたい」
「俺も見たい。でもその時、ちょうど写真係がいなかったらしい」
「どうしていなかったんですか、ヴィータちゃん……っ!」

 で。話し合いの結果、結局のところ速効性の対策はないということになった。
 しばらくははやてたちやリインの手を借りることになる、とクロノは言った。任せて、とリイン
は頼もしげにうなずいた。

「あと、フェイトが脱いだ状態でスカラかルカニかけたらどうなるか実験したいんだけど。フェイトどこ? 持ち帰っていい?」

 クロノは玄関への扉を指さし、「帰っていいぞ」と言った。





「まったく……装甲を工夫しても、ここまで完璧に壊してくれるとは……」

 その頃、とある秘密の場所。

「どこまでも高い壁を用意してくれるね……面白い、面白いじゃないか!」

 一人の天才が、今、燃えに燃えていた。



(続く)

############

なのは撃墜関連イベントを完璧に忘れてました
リアルに「あっ、やべ」って声に出ました



[10409] その188
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:15d41486
Date: 2010/08/13 21:09
 クリスマス。はやてが腕を振るった料理に舌鼓を打ったり、なのはに連れられて星空を流星のよ
うに駆け抜けたり、はぐりんたちにはぐれメタル人形をあげて反応を観察したりで楽しいのだが、
その最中あることに気づく。

「よくよく考えたら、まるっと一年いらっしゃいましたね」

 はやてへのプレゼントを渡すタイミングをはかっていたグレアムじいちゃんとぬこ姉妹たちが、
一斉にはっとした表情になる。

「ぬこ姉妹なんて『この家乗っ取ってやる』とか言ってたのにね」
「い、いつやるかはこっちの勝手でしょ。それだけよ」
「明日から本気出す?」

 そうよそれよ、と口々にうにゃうにゃ言う。とりあえず本気出すことは永遠にないんだろうなと
確信する。
 一応それなりに、八神家を気に入っているのかもしれなかった。ヴォルケンたちとは馴れ合いこ
そしないものの普通に買い物行ったりするし、はやての膝には二匹揃って乗ったりもするし。

「お、思いもかけず長居してしまった……迷惑だったか」
「そんなことないのは、はやての顔を見てるじいちゃん自身よくご存知だと思うんです」
「そうか。……そうか……」
「そうです」
「何の話しとるん?」

 何かを噛みしめるような表情をするじいちゃんの背後から、はやてがひょっこりと顔を出した。
気が動転したのか、ぬこ姉妹なんかはプレゼントを押しつけるように渡して逃げるように走り去っ
ていく。
 ひとり残されたグレアムじいちゃんは逆に、やれやれと鼻息を吐いてから渡し、ひとしきりはや
ての頭を撫でるのだった。満面の笑みで受け取るはやてを見ると、こちらまで嬉しくなってくるか
ら不思議だ。

「なんか、長居がうんたらとか聞こえた気がしたんやけど……」
「……これからも長居するか、と話していたんだ」
「ホンマ? ……ああ、安心した。なら、明日もいっぱいご飯作らな!」
「こんなんですよ」
「ああ。言う通りだったね」
「ふたりして、何を隠してるんや」

 はやてが憮然とした顔になったので、じいちゃんに押しつけて退散する。

「やれやれ。大人って面倒くさいものだな」
「お前も中身はもう20じゃないのか」

 ザフィーラに言われて思い出したが、そういや俺はもともと成人に近かった気がしなくもない。

「その割には子供すぎるか」
「男はガキのまま大人になっていくものなんだぜ?」
「クロノという反例がいるな」
「あの人は大人びすぎてるわ」
「話は変わるが、あれは誰のプレゼントだったんだ。お前が大事そうに持っていた、木の箱は」
「恭也さんと美由希さんが選んだ、上等な彫刻刀。鮭くわえた木彫りのザッフィー作ってやんよ」
「プレミアが付くぞ?」

 なにそれすごい。俺に手が八本くらいあれば量産するのに。

「人間の腕ってなんで二本しかないんだろう?」
「単純かつ奥の深い疑問だな」
「……まあいいや何でも」
「言うと思ったぞ」

 俺の発言は一部が先読みされやすいらしかった。

「ともあれ、ザフィーラの彫刻を売るのは諦めるか……別な方法を探そう」
「金が要るのか?」
「ああ、家計がうんたらではなく。リイン妹の魔法開発用に、触媒がいることがわかったので」
「何の魔法だ」
「『頭の後ろがとてつもなく痒くなる呪い』」
「地味だな……もう少しどうにかならんのか」
「くすぐり魔法とかへの応用は考えてるけど、感覚操作系は結構難しいらしくて。まだ開発段階」
「……下らないことを考えるのに関して、お前の右に出るものはそう居ないだろうな」
「そうですよね」

 しかしこのときはまだ、この開発段階の魔法が特定の相手にクリティカルであることに、俺たち
はまだ気づかないでいたのだった。

「さて、パーティーに戻るか……ところで、先程は何を話していたんだ?」
「じいちゃんとなら、管理局の最高評議会とやらに提案し、局員のランクにジムリーダー制を導入する案を」
「却下だな」
「ですよね」

 主にその、最高評議会の皆さまとかに。



(続く)

############

管理局逃げて 三脳超逃げて



[10409] その189
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:8424a504
Date: 2010/08/13 01:23
 年明け。ごろごろしながら本を読んでいると、突如はやてが背中に座ってきた。そのままゆさゆ
さされる。

「重い。なんだ」
「なー、さっきから何を読んで……それ広辞苑やん。私のやん」
「卑猥な単語に蛍光ペンで印つけてやろうと思って」

 私の広辞苑がとてつもないやり方で汚される、とはやては戦慄する。

「いま『らめえええ!』って言ってるよ。早く助けないと中身が全部みさくら語になるよ」
「それ欲しいんやけど」

 何言ってんのこの人。

「それはともかく、勉強しよ。なーなーなー、勉強しよ」
「人の背中でうつ伏せにならないで。なんの勉強?」
「聖祥の入学試験」
「あー……そうだねえ。早いうちからやっときますか」
「と思ったんやけど、私にはお宅がどんな類いの卑猥な単語をマークするか見届ける作業が」
「とんだ羞恥プレイだ」
「早く。ほら早く」
「死ねばいいのに」

 肩の横でにやにやしながら急かすはやてから這いずるように逃げ、とりあえずこたつへ。
 勉強するのである。俺とて万が一にもすっ転ばないよう、万全にせねばならん。正直試験範囲も
把握したいし。

「でも入っても、はやてとは別々なんだよねえ」
「小学校は共学やのにな。そのままにしとればええのに」
「まあどうせ通学はふたり一緒ですけどね」
「部活の朝練とかさえなかったらな」
「でも今の連中とはあと一年か。ちょい寂しい気もするけど。いろいろあったし」
「学級活動での委員決めとかな。あれは面白かったなー、もめにもめて」
「俺が『そんなことより野球しようぜ!』って言ったら、先生が乗って本当に野球になったんだよね」
「あの後決め直したら丸く収まったんよな」
「ノーベル平和賞だよね」

 しばらくぐだぐだと思い出を語らってから、さてやるか、と買い置きの参考書を広げる。

「……」
「……」
「……オリヌンティウス」
「……」
「オリヌンティウス」

 なんなんだ一体。

「オリーシュは激怒した。オリーシュには魔法がわからぬ。けれどネタに対しては人一倍敏感であった」
「『このフライパンで何をするつもりだったか。言え!』」
「オリーシュは言った。『待て慌てるな。これは孔明の罠じゃ』」
「『こやつめ。ハハハ』暴君は笑った」
「オリーシュはフライパンを、中身ごと振りかぶった。完」

 やり遂げた漢の顔になっているはやてのほっぺたをとりあえず引っ張る。

「暴君は犠牲になったんや……オリーシュの犠牲にな……」

 堪えてないようなので、もう片方も引っ張る。

「まさか開始30秒で集中が途切れるとは思いませんでした」
「目の前に顔があると喋りたくなる」
「隣に来ればいいんじゃね」
「ええの?」
「目の前で『走らないメロス』とかやられるよりかは」
「わろすわろす」

 チョップしようとしたが避けられた。そのままとてとてと回り込み、隣のスペースにすとんとおさまる。

「んーっ……なんや、せまいなぁ」
「分かってて来る方も来る方だと思います」
「肩当たる。肩が」
「気を付けないと、俺の肩からは緑色の液体がにじみ出るよ」
「溶かしてスペースを確保する気か……」
「溶かすといえば、塩酸の色は?」
「無色透明。BTBやと黄色、PPは変わらん。紫キャベツ液なら赤」
「大したヤツだ」
「やはり天才……」

 自分で天才とか言ってるよこの人。

「知識はいいか。数学やろうぜ数学」
「算数な。早く解けた方が何か命令、とかどう?」
「俺の利き腕側にいるはやてが超有利だよねそれ」
「6秒に1回、緑コウラの直撃を模したクラッシュが腕を襲う予定や」
「緑当てるのうますぎだろ」
「そして8秒に1回のペースで赤コウラによる追撃も加わります」
「3度目に同時攻撃が発生するのは開始から何秒後?」
「72秒」
「すごいね」
「ふふー。いと容易し」
「そんなにアイテムボックスないけどね」
「バランス崩壊しとるよね」

 勉強しました。





「そんな感じです」
「ええと……え? あ、うん……べ、勉強?」

 過去問を持ってきてくれたなのはに勉強の様子を説明したら、しきりに首をかしげていた。



(続く)

############

掛け合いのカンは戻ったかなと自分では思うのですが。
この2人は置いとくと勝手に喋ってくれるから書いてて楽しい。

同時に2話書いてたらこっちが先に上がっちゃったので投稿。
一個前の話(クリスマス)はもう眠いので明日で。



[10409] その190
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:a443f848
Date: 2010/08/14 21:48
 試験勉強をはじめてからというものの、聖祥に通ってる皆が様子を見に来るようになった。なの
はとかフェイトとか。

「な、なんで話しながら勉強できるんだろう?」
「どうしてこれで成績上がるのよ……」

 でもってなのはから様子を聞いて来たすずかやアリサなんかは、ぐだぐだ話しながら算数を解く
俺たちを見て特に納得いかないといった表情である。

「文系の時間はもっと楽しいぞ。童話や歴史をいろいろ改造したりとかで」
「昨日の国語の『はだかの王様〜ぱんつじゃないから恥ずかしくないもん!〜』は傑作やったな」
「いつのまにか大作が出来てるんだよね。歴史の『牛若の拳 十二世紀末亡命者伝説』とか」
「……今度、私も来ていいかな。勉強しに、道具持って」
「……そうね。たまには基本をやり直すのも、わ、悪くないかもしれないわね」

 と何やら期待するような表情になり、勉強会の約束を取り付けてきたのが先週の話。
 でもって一週間後、すなわち今日。確か来るとか言っていたので、先に勉強を始めつつ待つ。

「図鑑完成したし、ちょうどいいから見せてやるか」
「お。ついに完成したん。……残り3ページになってから、ずいぶんかかったなぁ」
「最後はレアなモンスターを厳選した。ヒトカゲがいるっていうから見に行ったりもした」
「何と! で、で? おったん!!」
「ただのサラマンダーだった」

 はぁ。とふたりしてため息を吐く。

「ポケモンマスターへの道は険しそうやな」
「まぁぼちぼちやるさ。あとクロノから、なんかミッドの学会に誘われた」
「おお。発表とかするん?」
「パネル作れないから発表はしない。でもいろんな人が、なんか動物について聞きたいらしい」

 はやてはほほう。と興味深そうな声を出した。

「オリーシュも偉くなったもんやなぁ」
「タンポポで空腹を凌いだあの日が懐かしいわ」
「全くや……あ、でも、説明できるん? 動物についての、その感覚的なものとか」
「それだ。『動物の言うことが分かるのはどういうことか』とか聞かれても、正直困る」
「客観性ゼロやからな」
「『あっ、それははぐりんがうにゅーんってなって、ぐにゃぐにゃぽちゃんだから、シーザーサラダを食べたい気分なんですよ』」
「日本語でおk」

 オリーシュはサイエンスに向いていないのかも知れなかった。

「将来どうするん? 冒険家?」
「冒険家になるかはわからんが、暴言家にはなっているかもしれない」
「儲からなそうな職業やな」
「むしろお金減ってくよね」
「損害賠償とかでね」
「日清戦争の賠償額は?」
「ラ王二億食」
「食べ飽きて燃やされるよ。『ほうら明るくなったろう』ってされるよ」
「ならラオウ二億人やな」
「中国半端ないな」
「二億人のケンシロウとユリア用意せんと」
「もういいから天に還れよ」

 とかぐだぐだ言ってる間に、チャイムが鳴った。
 玄関まで迎えに行くと、アリサとすずかだ。ようやく来たか。

「遅かったな。『毛利元就「そこに3本の矢があろう。アロー。わし今うまいこと言った」』の時間はもう終わったぞ」

 不意をつかれたのか、アリサもすずかも吹き出した。

「そのあと息子たちが黙って矢を弓につがえてジ・エンドやなそれ」
「さすがの俺も『この親父死ねばいいのに』って思うわ」
「お宅もやりよるな」
「照れるね」
「アンタの頭の中、脳みそ以外のものが入ってんじゃないわよね……」

 アリサの疑問に、失礼にもこくこく頷くすずかだった。



(続く)



[10409] その191
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:2ad7f546
Date: 2010/08/16 14:41
 ガジェットの方は、クロノによると最近、出現がはたと止んでいるらしい。
 大方モデルチェンジの最中だろう、とのことだった。針団子バージョンをリインがぽきぽき折り
つつけちょんけちょんにしてから、確かにまだ日は浅い。
 図鑑の完成品を渡すついでにそんな現況を聞き、次はどんな奇想天外な機械になるのかわくわく
していると。
 クロノから不意に、何枚かの地図を渡された。

「申請の結果、新たにいくつかの管理・管理外世界の探検を許可された。その地図だ」
「テンションあがってきた」

 ただし危険なので、知り合いの魔導師から一人以上連れていくという条件つきらしい。パートナ
ーを選んで冒険する、というゲームみたいな展開に、ドキドキワクワクがおさえられない。

「できればリインを連れていって欲しい。近ごろ上から、彼女のデータをという要請が多いんだ」
「わかった。探検は少し軽めになるけど……あとあの人、本気出したら測定器爆発させるよ?」

 「ちっ、スカウターが爆発しやがった!」というやつである。耐えられるのを用意してある、と
準備のいいクロノは答えた。

「しっかし、楽しみだ。砂漠の世界に森林の星、常に夜の大草原ときたか」
「コア持ちの生物も多いから頑張ってくれ。報酬も上がるそうだ……あと、前回の礼金なのだが」
「報酬はいいから、今度はガセじゃないヒトカゲの情報をお願いします」
「……言っておくがあのサラマンダー、特級のレアモンスターだぞ」
「でも二足歩行してなかったし、進化もしないし、尻尾に火が燃えてなかったし」

 どんな化け物だ、とクロノは後ずさった。言われてみるとこの描写では、ただの怪物と受け取ら
れても不思議ではなかった。



 なんだか受験勉強を始めた俺たちに刺激されたらしく、なのはもフェイトも今度の夏休みで、管
理局の学校とか何だとかに魔法の勉強をしに行くことにしたのだという。

「8月31日の二人の様子が楽しみだぜ」

 なのはとフェイトは憂鬱そうな顔をした。

「あぅぅ……これさえなかったらなぁ……」
「夏の宿題、けっこう多いから……」
「管理局はそろそろ精神と時の部屋を作るべき」
「十年先まで予約でいっぱいになるやろ」

 さすがのはやてもピオリムあたりが限界で、世界の時間そのものを早くしたり遅くしたりするの
は無理とのこと。火を燃やしたり雷落としたり何でも魔法で出来そうなものだが、単独の時空操作
はレアスキルの域に入ってしまうのだとか。

「……フェイトは電気を細かく操作して、筋肉刺激して超運動できるようになると信じてる」

 フェイトの属性を考えるとかなり期待が持てると思ったのだが、本人はぶんぶんぶんと首を横に
振るばかり。

「まったく。どいつもこいつも期待外れだぜ」
「期待のレベルが高すぎるよ……」
「いやいや。俺はマックでモスバーガーを要求したりはしない主義だし」
「当たり前やろ」
「ぬこ姉妹は間違えてモスでマックシェイク頼んだことあるけどな!」

 うるさいうるさあい、と後ろが何やら騒がしいけど放置で。

「解けた」
「ああああ……負けてもーた……」
「この人、頭と手の動きが分離してるとしか思えないよ……」
「……受験も、絶対大丈夫だと思う」

 フェイトからお墨付きを頂いた。それはそれで嬉しいのだが、俺は今の発言から、ふとひらめく
ものがあった。

「ドクターとダイジョーブ博士って、どっちがすごいんだろう」

 なのはとフェイトは首を傾げ、はやてはキラキラした目でこちらを見る。

「将来この2人のサイボーグ対決になっても俺は驚かない」
「超人野球選手とガジェットの夢の対決か……胸が熱くなるわ……」
「2問目終わった」
「あっ……ああーっ! す、少しは手加減せぇ!」
「言いながら手が動いてる……」
「はやてちゃんも、十分すぎるくらい早いのに……」

 勉強はそんな感じで、今日も続いていく。



 そうして春が行き夏が過ぎ、秋が去り、冬が明ける。
 季節はくるりくるりと巡り続け、ゆったりとした時間が流れていった。



(続く)

############

さてそろそろ。



[10409] その192
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:70b58a35
Date: 2010/08/17 12:53
 あれから二年後、中学入学を控えた頃。

「はやての射撃能力がえらいことに」
「さしもの合体ガジェットも、多重集束魔法の乱れ撃ちには敵わないか……お、ついにスクルトか」
「ああああ、みんなわらわらとガジェットに。ピクミン思い出すわ」
「死なない突撃部隊ほど恐ろしいものはないな」
「か、数の暴力すぎて笑えません! 家に群がるシロアリのようにしか!」

 そこには、今日も元気に局員の皆にスクルトをかけ続けるはやての姿が!

「スクルトの使いすぎでヤクルトファンになりそうや」
「百烈張り手されるスト2の乗用車思い出したわ」
「人生ボーナスステージだぜ、坊主!」

 とんとんとはやての肩を叩いてやる目の前で、ウオオオン! と勝どきの声をあげる魔導師の皆
さま。バリアジャケットがまだスクルトで強化されていて、なんだかゴツゴツしてて怖い。アメフ
トみたい。

「局員の皆さん、頼もしいですねー」
「合体ガジェット恐るるに足らずといった感じですね」
「一昨日いきなり三機が変形合体した時はどうなることかと思ったがな……」
「なのはが呆気に取られるあまり、前を飛んでたリインに追突したんだよね」
「……ちょっと痛かった」
「落ちたなのはは打撲のうえ頭にコブ作って、いたいよーいたいよーさすってよーって呻いてたよ」
「心配」

 というわけで、ガジェットとの戦いはまだ続いていたりする。あちらさまもなかなか考えている
みたいで、攻撃、装甲、妨害型といろいろ試作しては実戦投入を繰り返しているようだ。
 この度、ついにそれらが変形して合体する新型が登場。
 AMF強度も装甲も弾数もサイズも何もかも三倍になった高性能にヒヤヒヤしたものの、こちら
もリインが修得していた「禊」(俺が見たい見たいと言った)で各個撃破に成功。
 しかしリインだけでは手が足らん、ということになり、今回はやてによるスクルト積み→魔導師
ファランクス殺法、が試されたという次第である。これがうまくいった。

「今後のガジェット対策は、リインとはやての二本立てになりますか」
「リインに追い付いてないのはええんやけど、最近のガジェットはえらい硬くなってきとるんよなぁ……」
「心配いらんさ、俺らが指一本触れさせはしない」
「俺たちの熱いソウルは誘導弾ごときに燃え尽きたりはしない! そうだろう野郎共!」

 歓声が上がった。はやてがついてると一人も欠けずに任務が終わることもあり、なんだか局員の
間ではけっこうな噂と人気があるらしかった。

「宴やー!!」
「勝利の宴会ですー!」
「おっしゃあ坊主! お前なんか踊れ!」
「よく言った……モンスター直伝、『ふしぎなおどり』の奥義を見せてやろう」
「止めろ。おい、止めろと言っている」
「知らないのか。オリ主は踊りを踊るんだぜ?」

 こんな感じに、局員の皆さまとは仲良くやっています。





 一方、こちらは高町家。

「あ。タンコブ姫のなのはさんじゃないですか。こんちわ」
「……あ、けーとくんだ……いたた。い、いたいよう……」
「ごめんなさいね。昨日よりは良くなったんだけど……」
「うう……おかーさんかけーとくん、あざとコブ、ひとついらない?」
「帰る」
「あら、もう?」
「あっあっ、行かないで、行かないでよう……」

 そこには追突事故の結果、ひんひん言って寝込んでいるなのはの姿が!

「リンゴ持ってきてやったよ。ほーら、3つ重ねて合体ガジェットだよ」
「け、けーとくんって、ホントいい性格してるよねっ」
「そんなこと言われると照れるぜ」
「これっぽっちも誉めてないのに……けーとくん、想像以上の剛の者だよ……」
「剛毛を目指してるから仕方ないんだ。まあとりあえず、食え」

 丸ごと差し出してみるも、何故か食べようとしないなのは。

「き、切って。切って、せめてっ」
「なのはならそのままでも、ぞぶっと噛んでショム……モニュ……ってうまそうに食べれるはず」
「グラップラー!? わ、わたし魔法少女、魔法少女!」
「そんなこともできない魔法少女なんて俺は認めない」
「けーとくんの魔法少女の定義が知りたいよ……」

 できないできないと言うので仕方なく皮をむき、切り分けて食わせてやる。

「……い、いたい。……いたいよう」
「まったく」

 布団から目だけを出して視線で訴えるので、仕方なくコブをさすってやる。

「これ以上バカになっても知らんぞ」
「あっ……ば、バカじゃないもん。ちょ、ちょっと、楽になったけど」
「ゴッドハンドだから治っちゃうんだ」
「けーとくんは誰を生け贄に捧げるんだろう?」

 下の毛だな、という台詞をかろうじて飲み込む。

「さすりすぎるとなのはの額が削れるのが欠点か」

 布団の中に引っ込んだ。

「なのはの髪が擦りきれても、桃子さんがちゃんと手入れしてくれるのに」
「さすがに、なくなったらお手入れはできないですよ?」
「……けーとくんが、ついにおかーさんまで巻き込もうとする」
「台風の目だから仕方ないんだ。とりあえず心配してるはやてたちに、現状をメールしてきます」

 そう言い残し、ぱたんと扉を閉じた。

「あっ……お、おかーさんっ」
「どうしたの?」
「り、リンゴ、食べたいですっ」
「はいはい」

 真っ赤になって桃子さんに甘えるなのはと、心配そうながらどこか嬉しそうな桃子さんの会話が
ドア越しに聞こえた。怪我してるところ悪いが、ちょっと和んだ。

「桃子さん後で見たがるだろうし、ヴィータ呼んでみるか」
「呼ばれる前に、もう来てるぜ」
「準備が良くて感心です」
「崇めてもいいぞ。その前に、さっさとメールしてきな」
「御意」

 カメラ片手になのは部屋に入るヴィータだった。



(続く)

############

二年後のはやて・なのは編。
次は同じ時期のフェイトと誰かで。



[10409] その193
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:fe0e6eb0
Date: 2010/08/19 22:08
 フェイトは今、リインやはぐりんの速度に追いつこうと、頑張って特訓を重ねているらしい。

「あのレベルを目指すのは、そもそも間違ってると思うんです」
「テスタロッサ。目標は高い方がいいとは言うが、さすがに限度があるぞ」
「そ、そんなことは……うう……」

 やはり自分でも無理があると実感しているのだろう。これから行われる模擬戦の相手・シグナム
にも言われて、なんだか弱気になっているような雰囲気。

「唯一リインに勝てるとしたらカウンターだよ。回避不能の、って条件はつくけど」
「ああ……この間のあれか」
「えっ! か、勝ったんですか!?」
「偶然だ。風圧で取り落としたレヴァンティンが、ちょうど懐に入ったリインの額に当たってな」
「当たったのは柄だけど、あのとき超痛そうにしてたよね」

 ヴォルケンズもガジェット対策、あるいはその他管理局のお仕事(頻度が上がってきた。はやて
の入局と同時に正式に入局するらしい)以外に、たまにリインを相手に体を動かしたりしている。
 模擬戦で勝ったのはこれが最初であり、おそらく最後だろうというのが共通の見解である。リイ
ンの速さに目は追い付くようになったものの、4人がかりでも終始翻弄されっぱなしなので。

「以来、警戒心が強くなったからな。あんなことは二度とないだろう」
「あれからシグナムはリインにすごい尊敬されるようになったよねえ」
「そ……そうなのか? あれは偶然だと言ったのだが」
「バリアジャケットのスカート、ロングにしたいって相談された」
「り、リインさんって、形から入るんだ?」

 など、リインについて話していると、突然部屋の扉が開いた。

「フェイトっ、お待たせ! ……げっ」

 ばーんと入ってきたアルフが、俺を見つけるなり明らかに顔をしかめる。

「お、お前は……えーと、赤毛丸! 赤毛丸じゃないか!」
「今考えんなっ! ふ、フェイト、大丈夫? 何かされてないかい?」
「安心しろ。今のところは大丈夫だ」
「あ、アルフ、何もないから落ち着いてっ」

 こいつらの中で俺はどういう位置付けなのだろうか。てか、シグナムは監視役も兼ねるのか。

「揃ったし、そろそろはじめるか……あ、レフェリーやる! レフェリー超やる」
「お前は脈絡もなく『二歩です』と言いそうで怖いな」
「オリーシュミラクルルールにより、二人とも失格にして審判の勝ちにしたいんだ」
「とりあえず、出てけ」

 アルフに言われてとぼとぼ引き下がる俺を見て、苦笑するフェイトだった。





「あっ、やってるやってる! フェイトちゃん、頑張ってーっ!」
「えっ……な、なのは?」
「よ、余所見しちゃダメーッ!」

 なのはとの仲も、どこか抜けてるところも相変わらずのようです。





 ユーノも最近はかなりスケジュールに空きができたらしく、ヒマを見つけてはハラオウン家なり
うちになり、あるいは高町家とかに遊びに来ている。

「ユーノはドロンジョ様を知っているか」
「え……ああ、こっちのテレビの、キャラクターだっけ? ちらっと聞いたことはあるけど」
「その衣装をフェイトに着てもらう、未来に向けた計画があるんだ」

 パソコンで検索した画像を見せてみた。
 ユーノは「これはないよ」とだけこぼした。

「バルディッシュさんさえ味方に引き込めばイケると思うんだ」
「何がイケるか全く分からないんだけど……あと、それはどうやっても無理だと思う」
「やっぱムリか。別な方法かネタを考えるとするか……」
「実行前には立ち止まって考えなおそうね」
「あまり本気で止める気がなさそうですね」
「いや、ほら、無駄って知ってるし」

 それもそうかも。まぁとりあえず、他にも案はある。フェイトが駄目だとしても「ギンガにギン
ガマンのBGMでセットアップしてもらう。もちろん衣装はセンターマンのスーツで」とか「スバ
ルにロケットパンチ→ヘルズフラッシュのコンビネーションを習得してもらう」などなど、今後に向けてアイデアを温めてお
こう。

「考えれば考えるほど弄り回し計画が浮かんでくるから困るぜ……」
「そ、その中に、まさか私も含まれてるの?」

 センターマン懐かしいな。などと感慨深く思っていると、部屋に戻ってきたなのは(お手洗いに
行ってた。コブはとりあえず痛くなくなったみたい)が不安そうに口を開いた。

「なのはにはナデポニコポにとって代わるかもしれない新要素、『なのポ』を習得してもらう予定です」
「な、何なのそのあやしい単語」
「実は俺もよく知らないんだ。でも、誰かにやれと言われたような気がするんだ」
「自分も知らないことをどうして人に求めるんだろう……?」
「人は足りないものを補いあって生きる生きものなんだ」
「どや顔してるけど、足りなくて問題ないものはその限りじゃないと思うよ」
「なのポはなかったら問題あるだろ!」
「あるの!?」
「あるものなんだ!?」

 俺が信じていることを人に語ると、何故か驚かれることが多いから不思議である。

「どうしてだろう」
「信じるコトが変なんだよ……けーとくんに、異教徒さんの称号をあげよう」
「あ、何だろう。なのはの表現、すごくしっくりくるような気がする」
「いやいや、俺こう見えても敬虔なクリスチャンだから。『ピューリたんとクリスちゃん』って漫画書いちゃうくらいの狂信者だから」
「全然敬ってるように聞こえないよ! ……ところで、どんな漫画なの、それ?」
「昨日描いた。イエスマンなクラスの子に想いを寄せる二人の少女が、下僕な少年ジュージくんをこき使いつつ悪と戦うお話」
「そ、それ読む。読みたい! 見せて見せて!」
「嘘だばーか」

 超怒られた。

「相変わらず平然と嘘をつくね……」
「けーとくんの作り話には、いつも騙されてばかりだよ……」
「でもクロノはあんまり引っかからないんだ」
「クロノは無理だよ」
「それは厳しいよ」

 この二人が口をそろえて言うあたり、クロノはやっぱり凄いポテンシャルを持っているのかもし
れなかった。



(続く)



[10409] その194
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:82c62e44
Date: 2010/08/22 22:54
 合格した喜びからか、はやてが暇さえあると制服姿やら何やらを見せにぴょこぴょこやって来る
ので、こちらも負けじと何か着てみることにした。

「ナイスジャージ」
「ナイスジャージ」

 あまりにトレンディなジャージ(名前入り)の着こなしの見事さに、お互い熱くガッツポーズを
交える。

「裸エプロンや制服エプロンはもう古い。最近の流行はジャージ。ジャージエプロン。これ最強」
「エプロンの後ろからジャージが見えるんか……なんという生活感。だがそれがいい」
「いったい何を熱く語っているんですか……?」

 新ジャンル「ジャージにエプロン」について忌憚なく論を交えていたところに、シャマル先生が
怪しいものを見る目つきで登場する。

「あ。見せっこですか? ……そういう場合、制服を着るものだと思いますけど」
「シャマルはジャージは制服に勝てへんと申すか」
「やれやれ。これだからバリアジャケット厨は」
「そんなものになった覚えは毛頭ありませんよ……制服ですらないじゃないですか……」
「いやー、何度も何度も制服着るとシワんなる思てな。で、どうどう? 似合っとる?」

 ジャージでくるくる回られても反応に迷うのか、シャマル先生は言葉を探して誉めながらも曖昧
な笑みを浮かべるばかり。

「アメリカにはニュージャージーという州まで存在するのに」
「ジャージャー麺の美味しさをあまりなめない方がいい」
「どちらもジャージとは毛ほども関係ありませんよ……あと、後でアイロンかけますから、脱いでおいて下さいね?」
「半脱ぎジャージがグッと来ると申すか……俺を越えたな……」
「ひとっことも申してません!」
「もうもううるさいなぁ」
「理不尽極まりないですよぉ……」

 遊ぶのはこの辺にして、そろそろ大人しく退室する。
 でもってちょちょいと着替えてきて手渡すと、さっそくとばかりにアイロンをかけ始めた。その
うち楽しくなってきたのか、鼻歌なんか歌ったりして。

「音外れてるよ」

 はっとして顔を赤くしながらも素知らぬふりをして続けるあたり、この人もなかなか剛の者であると言えよう。

「中途半端に耐性つけやがって。……あれ。そういやはやては?」
「いつから一緒に生活してると思ってるんですか……はやてちゃんなら、さっきコンビニに」
「マジか」
「マジです」
「ジャージで?」
「普段着です。はやてちゃんのも、ここにありますし」
「これ以外に予備が五着くらいあるかと思って」
「どれだけジャージが好きなんですか!?」
「冗談だ。でもあの人『このジャージにみずのいし使って、水の羽衣にして家宝にならんかな』って言ってたし」

 すごい発想なのか意味不明なのか、よくわからないとシャマル先生は困惑した。

「……みずのいしそのものを家宝にすればいいと思いました」

 そして案外もっともなことを言う。

「みずのいしで思い出したが、シャマル先生ブースター派だっけ」
「そうですけど……何かあったんですか?」
「この前似たのを見つけた」
「ほっ、ほほほ本当ですか!?」
「火は吐かなかったから違う子だったけど。毛皮狙われて絶滅したと思われてたらしい」
「さらりと凄いことやってるんですね……で、でも、見たいです。とても!」
「ならブースターと引き換えで」

 シャマル先生は泣きそうな顔をした。

「冗談。冗談です。クロノが自然公園で預かってるから」
「……冗談にしていいことと、いけないことがあると思います」
「すみませんでした。確かに『お前のシャワーズは預かった』って言われたらさすがの俺もブチ切れるしな」
「苦労して育ててましたもんね……」
「レポート書かずに電池切れた時はさすがに泣きそうになったわ」

 いまだにポケモンマスターを目指している俺たちだった。



(続く)

############

鼻歌で音を外してるのを人に聞かれると異常に恥ずかしいよね



[10409] 番外14
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:42ec2acb
Date: 2010/08/24 07:11
 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんは住んでおらず、大きな桃は今日も川をどんぶらこ
どんぶらこと流れ、ついに鬼ヶ島にまでたどり着きました。

「この大きな桃の外殻は鬼たちに食べられるために育ったんですものねオニ」
「へへへ。おい! 割れ目を攻めるんだ。中身を引きずり出してやるオニ」
「老夫婦さえいれば、こんなやつらにっ……!」
「良かったじゃないですか。おじいさんとおばあさんのせいにできてオニ」
「くやしいっ! でも……生まれちゃう!」

 鬼たちと寸劇「桃 ハード」を演じつつ、くやしいでもびくんびくんとやたら口走りつつ桃から
生まれた男の子は、「桃」の文字をとって桃太郎と名づけられ、鬼たちの手によりすくすくと育て
られました。
 ちなみに短く略すと文字通り、オリーシュと申します。

「鬼さん鬼さん、鬼ヶ島に豆まいていい? 豆まきのあれなんだけど。ていうかもうまいたけど」
「泣いたオニ」
「終わったオニ」
「外道の極みだオニ」

 鬼より鬼畜な発想で全鬼を号泣させつつも、あまりの泣きっぷりになんだか申し訳なくなってし
まった桃太郎。
 しかし掘り起こすのは面倒なので、そのまま島を飛び出し、豆をたくさん食べてくれそうな仲間
を探しに行くことにしました。
 芽が生えてから抜くという発想はありませんでした。

「もーもたろさん、ももたろさんっ」
「お腰につけた、吉備団子」
「ひっとつ、わたしにくださいなー」

 川をさかのぼっていると、なのは、アリサ、すずかの三匹が面倒なのでまとめて登場します。

「岡山出身ではないので吉備団子はないけど、代わりにシャマル先生作の当たり団子が」

 三匹は一斉に距離を置きました。
 どこからかしくしくと泣き声が聞こえましたが、能天気な桃太郎は空耳だろうと高をくくること
にします。

「冗談だ。しかし、なのはに犬はやはりハマり役だな。きゅいきゅいとか言え」
「犬の要素がひとつも見当たらないよ?」
「そうだった。危うくファーストキスから二人の愛のヒステリーが始まってしまうところだった」
「今日も絶好調で意味不明だよ……」
「『この馬鹿犬!』とかけた究極に上手い洒落のつもりだったのだが。まあよろしくね」

 馬鹿犬呼ばわりが気に入らなかったのか。なのはは仲間になりながらも、差し出した手にあぐあ
ぐと噛みつきます。

「アリサは豆とか出しても食べるのだろうか?」
「どんな偏見かッ! 豆なんて、いつも食べてるわよ」
「いやー。しかし、アリサが普段何食べてるかなんて知らんからな」
「あら。……そういえばアンタ、うちに来たことってそんなにないわね」
「俺ツンデレの家なら手足が生えて動き出してくれると信じてるから」
「そんな家に住むやつの気が知れないわよ……」
「バーン様に謝れ! ええいバーン様いねぇ! もう魔王つながりでなのはでいいから謝れ!」
「うっさい!」

 アリサは仲間になりつつも、桃太郎の顔をバリバリと引っかきました。あと魔王扱いが気にいら
ないのか、なのはは文句を言いながら桃太郎の背中をぺこぺこ叩きます。

「すずかまで怒らせると、俺の頭蓋骨がキツツキの的になるな」
「あ、怒らせてる自覚はあるんだ」
「考えるより早く口が動くので、後の祭になっていることが多いです」
「そこは踏み止まろうよ……」
「あ、最近どう? 忍さん元気にしてる? 今度『下の方が割れてないプリングルス』の作り方を相談したいんだけど」
「ふ、二人で何の話をしてるかと思ったら、そんな相談してたの!?」

 こうして最後の一人、すずかも仲間になりました。
 スルーされ続けてそのへんの隅っこでいじけていたなのはを引っ張り、いざ帰らん、故郷鬼ヶ島へ!





「ごめん間違えて仙豆植えてたわ。やっぱ俺すごくね?」

 絶望する鬼たちと、裸足で逃げ出す仲間たちでした。



(続かない)

############

なんだこれ



[10409] その195
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:7a623933
Date: 2010/09/02 09:30
 中学に上がったら、長い休みのどこかを使って旅をしたい。

「自分探しの旅(笑)」

 という話をザフィーラにしてみたのだが、鼻で笑われたようでなんとなく悔しい。

「自分探し(笑)ではなく。ポケモンマスターになりたいというか、不思議なダンジョンに潜りたいというか、道祖神の招きにあったというか」
「最上川あたりで流されてしまえ」
「大丈夫だ。河童あたりを説得して助けてもらうし」
「残念ながらお前が見ることができる河童は、質量を持った残像に過ぎん」

 どんな化け物河童だ。

「……旅か。まあ確かに、お前は根なし草の方が似合ってはいるな」
「馬鹿を言うない。俺んちはここだぜ」
「草の根を食べて生き延びていたと聞いたが?」
「根なし草の意味が違います」
「あの公園に、今もたまに水やりに行っていると聞いたぞ。タンポポの栽培か」
「食べません。むしろあれはザッフィーが食べるべき」
「単子葉植物の葉の方が好ましいな」
「笹でも食ってろ」

 尻尾が脇腹にばしばし当たって痛いので移動する。

「まぁ本当言うと、はやても旅行に行きたいとか言ってたから、そういう拠点が欲しいんですよ」

 おや。という顔をしてこちらを見上げた。そういうことは早く言えとばかりにぐるるると喉を鳴
らされたので、ここはこちらも何らかの対抗措置を取らざるを得ない。

「たっだいまー! なぁなぁこれな、ミッドの土産の……何しとるの」

 ちょうどカリムさんのところから帰宅したはやてが、いつのまにか遠吠え合戦になっていた俺た
ちを見てたいへん怪訝そうな顔をした。

「主。この男、やはりおかしい。私より声質が犬に近いとは何事ですか」
「獣人その他に会った時のために、各種動物の声は基本的にマスターしてあります」
「ほんま? ならマンドラゴラの泣き声リクエスト!」
「現実に存在する、哺乳類でお願いします」
「えー……しゃーない、イルカのソナー音で勘弁したるわ」
「超音波。それ超音波だから」

 はやてはさらっととてつもないレベルを要求するから油断ならない。

「このオリ主使えへんなあ」
「もうやだこの人本当頭いい」
「照れる。それより、何話しとったん。まさか何もなく遠吠え合戦やったんか」
「いえ……主はやて、旅行に行きたいというのは本当でしょうか。その話をしていたのですが」
「あ、うん。そのな、卒業旅行、行きたい思てん」
「なら、全管理世界バシルーラの旅しようぜ」

 その発想はなかったわ、とはやては感心した。冗談のつもりだったのだが、そのうち実行に移さ
れそうな気がしなくもない。

「しばしお待ちを。旅行の拠点を、この男が自分の足で探すそうですので」
「ホンマ!? なら、なら山! 山いきたい。動物いるの!」
「日光で猿と戯れてればいいと思うよ」
「動物園の猿にガラス越しで芸を仕込んだお前が言うか」
「マイケルダンスはさすがに無理だった。さそうおどりしか」
「自由な人やなあ」
「何も考えていないだけでは」

 はやてにもふもふされながら言うザフィーラだった。





 俺が頼み込んだのがきっかけで様々な格ゲーの技を練習したリインは、現在それをガジェット潰
し等、実戦に活かしているとかいないとか。

「リインさん。お言葉ですが、常人には真空竜巻なんてできません」

 しかしこの日は、その技を俺に教えようとしてきた。お気持ちは大変嬉しいのだが、大抵の格ゲ
ー技は体の構造と筋力的に無理なものばかり。やればできるとばかりに応援されても、その、困る。

「え? ファイナルサイコクラッシャー? いやいやいや、俺がやるとただのヘッドスライディングですって」

 リインは悲しそうな顔をした。

「サマソ覚えたのはとてつもない量の情熱と修練を積んだからでして、二度は無理です」
「コマンド、似てるのに」
「いやまぁ十字キータメはあるが、そういう問題ではない。でもまあ、ありがとね」
「……うん」

 どうやら俺がサマーを覚えたのを見て、ならば次をと思ったらしい。
 あとは俺の護身術に、だそうだ。これから色んな世界を回ることもあるだろうし、確かにアリな
のかもしれん。

「そういやシグナムにも、剣の稽古をつけてやろうかと言われたな……もしかして、聞いてた?」
「ん。……剣が重いから嫌ったのかも、って言われた」
「シグナム自身、剣の腕上げる時間か欲しそうだったし。リインに無意識の剣が当たるって分かって、気合い入れてたし」
「脅威」

 リインもまた、久しぶりに攻撃を受けて、逆に刺激されたようだった。切磋琢磨するのはいいけ
ど、誰かさんみたいに頭にコブ作ってひんひん言わないようにね。

「まぁ俺の方は、誰かしらがついて来てくれれば、万が一の時も安心だしなぁ」
「……その万が一の場面、想像がつかない」
「歩く永世中立国だからな。エアロスイスさんと呼んでくれ」

 世界にまたひとつ平和な国が誕生した。と思ったらエアロなスミスさんを知らないらしく、リイ
ンはきょとんと小首をかしげるばかり。

「エアロスイス、ならぬエアロスミスというのは……まあいいやめんどい」
「面倒くさがり」
「いつものことだ。昔からそうなんだ」
「……昔の話、あまり聞かない」
「部屋を散らかしてはお袋に怒られ、押し入れで反省させられた。と見せかけて、ぐっすり寝てた」
「今と変わらない」
「いつまでも変わる気配がないんだ。どうすればいいと思う?」
「手遅れ」
「匙を投げないでください」

 リインは面白そうに微笑み、顔を近くに寄せてきた。

「こうして見ると、よく顔が変わるようになりましたねぇ。表情が」

 いいことである。リインはそうだろうか、とばかりに自分の頬に手を当てているけれども。
 身体(?)の一部をわかち合ったからか。リイン姉妹にははやてとは別種の近しさを、時折感じ
ることがある。

「シャマルにも、同じことを言われた」
「そうか。気をつけろ。あの人には人間の顔の皮を集める趣味が……ここは俺に任せろーバリバリー」
「やめて」
「まあそうなったら、無理やり当たり玉食わせて正気に戻すわ」

 リインも頷くあたり、シャマル先生特製・当たり玉(何故か腐らない)の気付け薬としての万能
性が窺い知れよう。

「あれ。もともと何の話してたんだっけ……まぁいいや。寝る」
「そればっかり」
「死ぬまでこんなもんだ。あと温かいココア入れるから、リインメタル化して湯たんぽやってよ」
「……やだ」

 ふいっとそっぽを向くリインだった。





「お姉ちゃん、やっぱりここに……え、ええっ? どうして二人で押し入れに詰まってるんですか!?」
「二人とも譲らなかった結果がこれだよ」
「……せまい」

 押し入れでこんがらがっている俺たちを見て、ぎょっとした様子のリイン妹だった。



(続く)

############

オリーシュ「そうだ、介の字で寝よう。」



[10409] その196
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:41edfa52
Date: 2010/09/05 20:10
 今日も今日とてリインがガジェットのトゲをぽきぽき折っていると、その事件は起こった。
 見慣れた旧式の機体に混じって、今までにないカラーリングの針山ガジェットが現れたのである。
 しかしながらフォルムは今まで通りだったため、警戒しながらも同様に折りにかかると――

「……上から、トゲが降ってきた」
「あれ……これもしかして、シグナムの真似してるつもりなんじゃね……?」

 突然トゲがスライドして、リインの脳天を狙いに来たのである。
 ちなみに一瞬ヒヤリとしたらしいけど、「見てから昇竜余裕だった」そうです。

「ガジェット×シグナムという異色のカップルが成立したのか……胸が熱くなるな……」
「何やそれ。異色すぎやろ」
「恋心を抱いてしまった機械が使命と感情の間で揺れ動く、感動のラブストーリー。……あれ? 普通に面白そうじゃね?」
「ものは言い様やな」
「最終的には濃厚なベッドシーンがお待ちしております。種族を超えた愛に感動の嵐が!」

 俺の新作が気に入らないらしいシグナムに超威力のデコピンをくらい、あまりの激痛にもんどり
うって転げ回ることしばし。

「取れた。首。首、取れた」
「ついとるついとる」

 死んだかと思ったが大丈夫だった。さすがの俺も首がとれたらたぶん生きてはいられない。

「それにしても、どないしよ。いつかの試合の情報が漏れとるのは」
「データには閲覧制限がかかっているはずですが……いずれにせよ、こちらも何か手を打たねば」
「クロノくんによると、アクセス履歴も見事に消されとったらしいし。内部犯なんやろか?」
「そういや、透明になったり変装したりする……えっと、サマージャンボもいたような気が」
「……ナンバーズ」
「そうそうそれだ」

 という感じに話し合い、とりあえずはリインのデータのセキュリティチェックや、そもそもリイ
ンのデータ提出を控えてみるかという結論に達した。
 「借り暮らされのスカリエッティ作戦」と称し、俺が潜入して情報操作する案も出してみたが、
見つかって改造されたらめんどいのでやめた。俺がドリルで天を突く展開になってもきっと誰も喜
ばない。
 シグナムが捕まったらおっぱいドリルボンバーとかやらされそうだけど。

「久しぶり俺の原作知識が役に立つ時が来たようだな……!」

 とりあえず並行して、そろそろ敵戦力の情報をできるだけ整理してみようという流れになった。
 まず手始めに、はやてによる事情聴取が。これは……俺の情報で六課大幅強化フラグ!

「ほな、まずは敵さんの名前からいってみよか。覚えとる範囲でええよ」
「えっと。一番二番三番が……ウーノ、トランプ、遊☆戯☆王だった」
「さよか。帰ってええよ」

 仕方ないからちゃんと話す。

「クワトロバジーナさん以外うろ覚えだわ……ああそういや、その人透明になれるな」
「最初からそれを言えと。他には?」
「全部で12人くらいいる」
「なるほろ。で?」
「……最終的には全員がスカさんの手で融合し、超数字ロボ・ナンバトラーVになります」
「嘘やろ」
「嘘です」

 とりあえず話せるだけ話しました。
 しかし残念なことに、大した情報はありませんでした。

「馬鹿な。こんなはずは」
「相変わらず役に立たん知識やな……」
「役に立つ立たないですべて判断してはいけないと思います!」
「ま、えーけどな。まったり考えよ。敵が少数って分かっとるだけでも大きいしな」
「ナンバーズは小数でなく、整数です」
「だれうま」

 うだうだ話すのに終始してました。





「どうですか。何か有益な情報を……その様子だと、駄目か」
「雑談してる……」

 聞き取りが終わってはやてとしばらく雑談していると、シグナムとリインが様子を見に来た。
 でもって一瞬で状況を把握したらしく、「やっぱり」と言わんばかりに、ふたり揃ってふぅと息
を吐き出す。

「まぁ予想しとったけどな」
「自分で思っていた以上に記憶が曖昧でした」
「忘れっぽい」
「うっさい。しかしまぁ、いいや。なるようになるさね」
「お前が言うと妙に説得力があるな……」
「なるように生きてきた人ですから」

 とりあえず解散となり、はやてとリインはクロノに相談するとかで出ていった。一息ついていた
ところでシグナムが茶なんかを淹れてくれたので、ずるずるすすって一服する。

「妙なことになったものだ……」

 先のことを考えてか、茶を飲むシグナムは少し眉間にシワを寄せた。

「大丈夫だ。俺が一番妙だぜ」
「確かにそうだな」

 事実は事実なのだが、あっさり肯定されるとなんだか複雑な気持ちになる。

「シグナムなんかスカさんに捕まって、おっぱいからハイパーデスラー砲出せるようにされればいいんだ」
「……ま、待て。何だそれは」

 シグナムは少しどきりとした表情になり、胸をかばうそぶりを見せた。おっぱい大きいのを気に
してる、とかはやてが言ってたけどそのせいかしら。

「そ……そんなことをする男なのか」
「んー、んーん。さすがにそんな図はアニメ本編で見たことない」
「そ、そうか。……もしそこまでの男なら、情状酌量の余地なく斬り捨てていたところだ」
「でも12人全員ぴっちりしたスーツ着せた挙げ句、そういえば子供産ませようとしてたような……すごいね?」
「この世から抹消せねばならんな」

 スカさんに死亡フラグが立ったようだ。
 そういえば忘れてたけど、ヴォルケンは基本的にあの人嫌いらしいからなぁ。なんでか知らんが。

「まぁいいや。冥福を祈るか……あれ、お茶ないよ」
「自分で行け」
「シグナムがお茶を淹れてくれたら、ひとつぬいぐるみを縫ってあげよう」
「明らかにそちらの方が大変だな……ところで、何のだ?」

 呆れたような表情を見せながらも何だかちょっとだけ期待した雰囲気をしている辺り、食い付い
たと判断していいのだろう。

「座布団」

 一気に白けられた。

「冗談、冗談です。本当はトイレの便座カバーくらい縫います!」

 席を立たれた。超引き留める。

「あれ……俺、どうしてお茶淹れた挙げ句肩揉んでるんだろう?」
「相変わらず面白いな、お前は」

 ふふっ、と肩で笑うシグナムだった。

「ええい腹が立つ。仕返しに右のおっぱいを付け根から右回転、左のおっぱいを左回転してやれ」

 真空状態の圧倒的破壊空間を作る前に、三度デコピンされた。額割れるかと思った。



(続く)

############

StSでナンバトラーVやろうかと妄想したけどただの組体操にしかならなかった。



[10409] その197
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:3accd627
Date: 2010/09/08 12:55
 そろそろいのりの指輪のストックが足りなくなってきたので、久し振りにエルフの隠れ里なんか
へ買い出しに来てみたり。

「懐かしい。ぬこ姉妹が眠らされて身動き取れなくなって、起こしてもらいに来たあの時のままだなあ」
「い、嫌なこと思い出させんなっ、ばか!」
「あれは、ちょっと油断してただけで……!」
「おもいっきり油断してた俺が眠らなかった件について一言」
「そ、それは……とっ、とにかく黙るっ!」

 抗議するはぬこ姉妹。行くと言うとついて来た。八神家にはいつからか常駐しなくなったけれど
も、じいちゃんともども事あるごとに遊びに来るのであんまり以前と変わらなかったりする。
 とまあそれはともかく、久し振りなのでエルフの女王様に謁見してご挨拶をば。

「こんにちは、女王様」
「あら。お久しぶりですね、亜人族の方」
「何度か申しましたが、人間です」
「……ふふ、相変わらず冗談がお上手ですね。お元気そうで何より」

 この方は基本的に優しいのだが、何度言っても俺を人外と思ったままなので油断ならない。

「ここまで人間扱いされないと自分が本当に人外な気がしてきたぜ……!」
「猫の方々も、お久しぶりですね。……リーゼさんと、ロッテリアさん」
「違います! どうしてそこで間違えるんですか!」
「えっ……し、失礼を。しかしその方がほら、そのように書かれた紙を……」
「カンペ☆モッテリアです。よろしく」

 リーゼロッテリアが怒った。
 あと略称のつもりだったんだけど、リーゼロッテリアってなんか言いにくいな。

「そんなに怒らないで。今度すずかに頼んで、リーゼのためにを弾いてもらってやるから」

 腕をかじられて痛いのでお土産だけ渡して、ほどほどにしてお店へ向かうことにする。

「らっしゃい。ずいぶん久し振りじゃな、亜人の……ん? お前、猫人間じゃったのか」

 猫たちに頭をかじられながらお店へ向かうと、髭もじゃドワーフのおやっさんに大変驚かれた。

「全員まとめて、オリーゼロッテリアです」
「やっと改名したか。ついでに踊り子にでもなってくれば良かったのに」

 道具屋のおっちゃんは得心した顔をした。この方といい女王様といい、どうも俺の扱い方を心得
ているような気がしてならない。

「踊り子は考えとく。お店繁盛してる?」
「ぼちぼちじゃ。おっと、いつかの猫もいるな。まーた怒らせとるのか」
「俺が心のままに行動するとこうなるんだ。いのりの指輪ください」
「あいよ。誰が持つんだい」
「こいつらの穴という穴に、入るだけ入れていただきたい」

 さっきから腕をかじられっぱなしなのだが、伝わる痛みが当社比2倍増くらいに。

「……ふくろくらい使った方がいいのう。ほれ、ひとつやろうか」

 しかしながら、なんだかいいものを貰えたのでよしとしよう。

「そういえば、あいつらはどうしたんじゃ。銀色でぺたぺたの」
「久し振りに故郷に行って散歩するって。たまには遊ばせないと」
「そうかい。あいつらとは、もう年単位の付き合いか」
「今度、長期のバイトするとか言ってたなあ。何もかも懐かしい」
「懐かしいのう。女王の呪いに巻き込まれて、その猫たちが眠らされて持ってきたんじゃったな」
「アニマルゾンビに追い回されて、半泣きになって逃げ回ったりもしてたなあ」

 ふたりで思い出を語らっていたのに、何故か俺だけ噛まれる不公平を味わいつつ店を後にした。
 フコウヘイヘーイ!

「この馬鹿この馬鹿この馬鹿! どうして人の恥ばっかさらすのよぉお!」
「いくら俺でも、ぬこたちの恥部をいきなりくぱぁしようとはしないよ?」

 たくさん引っかかれた。

「あっ、亜人の踊り子さん。今まで何処に……き、傷だらけだけど、海賊に転職したの?」
「阿呆色の覇気を修得したんだ。目指せグランドライン」

 よくわからない顔をするエルフの村人さんだった。




「え、なに? 仲間を連れて行こうとしてたと。透明になったから、ジェットストリームベギラゴンぶっぱでやっつけた……メタルゴーレムの女の子?」

 その後、自慢げにうにうに伸びをして報告するはぐりん軍団。

「スタスタそれゴーレムちゃう。戦闘機人や……メガネ落として逃げてった? ……まあ、取り合いにならないようにね」

 嬉しそうにするはぐりんたちと、4番の子が欠番にならないか心配する俺だった。



(続く)

############

クワトロバジーナさんとの因縁はここから始まるのです。



[10409] その198
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:3accd627
Date: 2010/09/11 22:38
 どうやらスカさんも、リインのメタル化とガジェット討伐隊にたまに参加していたはぐりんたち
の姿から、ドラクエ世界に強化のヒントを見出だしていたようだ。
 インテリメガネ装備のスタスタを見ながら、そんな推理をはやてに話してみる。

「また拐いに来るかもしれないので、警備をお願いしてみることにしました」
「ほほう。誰に?」
「そこらへんでメガンテしたそうにしていた、ばくだんいわの皆さんです。これで安心」

 ぐっとガッツポーズしながら答えた。

「クアなんたらさん逃げて。超逃げて」

 はやては真剣な顔で祈りを捧げる。

「にしても、機人の皆さまはこんな時期から動き出してたんだな。びっくりした」
「びっくりするのはあちら側や……えげつないトラップ使いよってからに」
「基本的に横着者だから二の矢とか用意したくないんだ。大丈夫だよね!」
「これでダメなら諦めていいレベルやろ」

 はやてからのお墨付きを得た。まぁこれ以上の護衛はいなさそうなので良しとしよう。

「あと、そろそろアリサちゃんたち来るって、さっき電話が」
「そうか。眠いけどなあ」
「自分で呼んだんやろ……コーヒーのむ?」
「のむ」

 とりあえずスカさん関連の話は切り上げて、はやてはコーヒーなんかを淹れに台所へ向かった。
と同時に、玄関のチャイムが鳴った。メガネからグラサンに換装した三倍早いクワトロさんを楽し
みにすることにして、今は少し忘れてしまおう。
 アリサやすずかとは今もちょくちょく会っている。そこそこ仲もいいと思う。
 いろんな次元世界でみつけた面白いものを見せたり、特に用もなく呼んでは茶を飲んだり、春休
みに作ってみた鈴鹿サーキットの模型を披露してみたりといった感じ。

「ミニミニサイズのゴーカートをつくるのが大変でした。泣いて喜べよ」
「どこからどう見ても出落ちじゃない……」
「あ、明らかな名前ネタなのに……どうしてここまで頑張れるんだろう?」

 やってきたアリサたちには、驚きや不思議や呆れが混ざった目で見られた。俺が精魂込めて作っ
たものには、よくこういう反応が返ってくるのでもう慣れっこである。

「見えてる地雷もトリプルトゥループで踏みに行く主義なんだ。ただ労力がかかったというか、疲れたというか、お休み」
「人を呼びつけといて寝るなっ!」
「昨日夜の3時まで作業してたんだ。その後ドラクエ3を発掘しちゃったんで、ついつい縛りプレイしてたんだ」
「飽きないなぁ……今度は、何ではじめたの?」
「リュウ、ケン、ゴウキ、ブランカで武道家素手縛り」
「文字通り毛色の違う人がいるけど……」
「一昨日見た夢にブランカが登場したので、もうこれは何かのお告げだと思って」
「一体どんな夢だったのよ……」
「『彼女こそスターの座を駆け上がっている、超時空シンデレラ・ブランカちゃんです!』って」

 盛大に噴かれた。
 ちょうどいいので、その隙をついてさっさと寝ることに。

「ザメハザメハザメハザメハザメハ」
「うるせぇ」

 だがソファーでうとうとし始めたところで、ひょっこり出てきたはやてが安眠妨害も甚だしい。

「寝るのです。カビゴンもかくやとばかりに、深い眠りにつくのです」
「人を呼んどいて寝るとか。アリサちゃんたち、コーヒーでええ?」
「いいと言わなければ、お前たちの飲み物はにんべんつゆの素になる」
「黙らんか」
「ブランカだと? 今日は大人気ですね!」
「お黙り」
「はい」

 今日も言いなりにされてばかりだ。

「アンタはいつまでも変わらないわね……」

 アリサはそんな俺をため息混じりに見ている。

「二年前に多少毛が生えた程度だな。いま俺うまいこと言った! ていうか超嬉しかったんだぞ、超!」

 どうやらセクハラだったらしく、すずかは赤くなりながら困った顔をし、はやては後ろからほっ
ぺたを引っ張ってきた。バイキルトでもかけたのか、超いてぇ。

「んーっ、やりにくい。背ばっか伸びよってからに」
「やりにくいとは思えんばかりに力が入っているのですが」
「体重かけとるから、その感覚は正解やな」
「ありがとうございます。そろそろ頬が伸びてしまいます」
「ついにオリーシュもゴム人間やな……」

 頑張って抵抗する俺だった。

「アリサにすずかよ。ダルシムな俺とブランカちゃんな俺とだったらどっちがいい?」
「どっちも島流しにしてやるわよ」
「りょ、両方ダメかな……」

 悲しさと切なさと心細さを感じる俺だった。



(続く)

############

だってほら…ふたりとも緑っぽいし…

22:35 にんべんつゆの素修正しました。いやお昼が素麺だったので。
報告してくれた方ありがとうです。助かります。

あと完全に私事ですが院試受かってたんで、今しばらくはこのペースを維持できそうです。(空白期もそろそろ終わりますが。)
SSの事ばっかり考えてても案外なんとかなるものなんですねぇ。




[10409] その199
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:b27b5b65
Date: 2010/09/21 20:22
 リイン妹は氷を作って飛ばしたり、周囲の温度を下げたりするのが得意だ。そのため暑い場所の
冒険に連れていくと、何かと快適で過ごしやすくしてくれる。

「しかし最近のリインの仕事は、冷製パスタを冷やす作業ばかりです!」
「なのは世界はスパゲッティ=エリクサーという噂を聞いたので、はやてで実験してたんだ」
「何と! ……んー、炭水化物がいいんでしたっけ」
「今度なのはにご飯にお好み焼きつけて食わせてみようと思う。泣いて喜ぶぞ」
「なのはちゃん、太っちゃいますよ?」
「大丈夫だ。馬車馬のように走らせるから」
「いつぞやのオリーシュブートキャンプですね! 日焼けしたけーとさんが、おもむろに剃髪を」
「しません」

 砂漠のど真ん中で、リイン妹は実に悲しそうな顔をした。

「ブートキャンプ面白いのに……」
「それより、リイン妹よ。宝箱が埋まってたぞ。なんかの罠がかかってるけど開けるねいいよね」
「い、意見を求める振りして問答無用です! リインがくらった場合、どう責任を取るつもりなのでしょうか……!」
「責任持って復活させるよ。囁くよ詠唱するよ祈り念じるよ」
「ハイになりました! ……あれ? この場合は成功と言えるのでしょうか?」
「通常状態に戻ったという意味では、成功と言えるのではないでしょうか」
「なるほどなのでしょうか!」
「さて開けましょうか」
「た、たたた、退避なのでしょうかー!」

 しょうかしょうか言うリインが逃げてったのを確認してから開ける。やっぱ罠かかってました。
 でもどうしてか作動しなかった。俺が開けると罠が機能しないのは何故だろう。この前ひとくい
ばこ開けた時も寝てたし。無理矢理起こして焼き肉ご馳走してやったけど。

「わ……罠は解除したのでしょうか?」

 リイン妹がサボテンの影からひょっこり現れ、恐る恐る口を開く。

「実はもう作動してるんだ。ここにいる俺は質量を持った残像で、本体は別地点にワープしたんだ」

 正直に話すつもりが、ついつい出鱈目言ってしまうのはよくあることです。

「まさかのテレポーターですか! 避難しておいて正解でした! ……あれ? 残像長くありませんか?」
「残像と蜃気楼が因果応報で、マスターヨーダのマグネティックフォースがリインの目をオプティックブラストしてるんだ」
「フォースを極めたのなら仕方ありません! ところで、本体は今どちらでしょうか?」
「*いしのなかあったかいナリぃ*」
「いろいろ混ざった結果たいへんなことになってます! えと、えと、あったかい石……マグマですか?」
「その呼び方で間違いはない」
「マグマですか! ついにマントル貫通しちゃいましたか! いつかやると思ってました!」
「嘘です」
「知ってました!」
「どのへんから?」
「マントル貫通ドリルレーザーのあたりです!」
「遅えよ」

 ぐぐっとガッツポーズするリインのおでこをぺちんとはたく。

「あうう……世の中の目まぐるしい変化は、こうまでもリインを置き去りにするのでしょうか」
「でしょうか」
「しょうか!」

 しょうかしょうか言うリインが見守る中、お宝の鑑定を済ませる。
 危ないものを見つけたらクロノ経由で管理局にプレゼントすることになっているが、今回は普通
にちょろっと銀貨が入っていた程度だった。せっかくだからもらっておこう。

「旅行の資金やらで、何かと要り用だしねぇ」
「一時期は小金持ちでしたのに……いつの間に減っていたのでしょうか?」
「二倍に増えないかなと思ってポケットに金貨を入れて叩いたら、なんと金の粒になってたんだ。すごいね?」
「大豆ですねばねばです枯草菌が大繁殖です!」
「抗生物質を投与したから大丈夫だ。……その名も、ペ」
「えっちです!」
「ヨンジュンさんです」
「や、やられました。ヨン様にそんな効果があったとは……!」
「ありませんよ?」
「知ってました!」
「ハハハこやつめ。ハハハ」
「ハハハ!」

 一緒に歩いていて飽きないリイン妹だった。



(続く)

############

ペニシリンって名前卑猥じゃね?
あと遅くなりましてどうも。



[10409] その200・完
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:8af9171a
Date: 2010/09/27 00:08
 物理的に目が覚めた。

「はやてはやてはやて! なのはが、なのはがレイハさんをビーダマンに入れて相手のゴールにシュゥゥゥウ!」
「それ夢や」
「なんだ夢か」

 目が覚めた。精神的に。

「危なかった。さすがの俺も弟子入りを検討しはじめるところだったぞ」
「いつもながら妙な夢を。フロイト先生涙目やな」
「意識があろうとなかろうと関係なく、いつもこんなもんです」
「知ってる」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「どうも」

 よくわからない感じに会話をしながら、眠い目をぐしぐしこする。
 そういえば今日は、中学の初日だったなあ。ずいぶん早く目が覚めてしまった。はやてはテーブ
ルでお茶なんか飲んでるけど、この人いったい何時に起きたんだろう。

「6時」
「はっや」
「寝つけなかったん。今日のこと考えとって……まあ今思えば、どうせ書類もらって終わりやけど」
「夢のないことを。どうせなら部活選びとかで悩めばいいのに」
「それよりお宅が賢者モード解除したあと、購入しとるはずのやらしい本を探すのがもう楽しみで楽しみで」
「超隠すよ。自室の引き出しにデスノート隠すキラ様レベルのとてつもない小細工を弄するよ」
「八神家だけにか」

 よくお分かりで。

「しばらくは帰宅部やなー。様子見てから決める」
「俺もだわ。奇遇だね」
「そうやね」
「プロテインだね」

 とか言ってるうちに、腹が減ってきたので早めの朝食。
 スクランブルエッグとソーセージの相性の良さを熱く語り合い、制服に着替えたりなんかして、
準備万端の状態でうだうだと雑談なんかをする。

「……死んでニートになったはずが、今日から中学生とは」

 今になって現実を認識し、いろんな意味で「どうしてこうなった」な気持ちになる。

「よく面接通ったなぁ。今さらやけど」
「特技聞かれてまともな受け答えになったのが今でも奇跡にしか思えない」
「『さそうおどり』がまともな受け答えやったとは」
「いやいや。実際踊ったし。試験官の先生も誘われて納得してたし」
「いったいどんな原理なのやら」
「レベル上がってたのかもしれん。最近はリインまでものの見事に釣れるからね」

 唯一リインに対抗できるのはお宅やったんか、とはやては戦慄する。

「そんなリインも、今はダンジョン・秘境巡りのパートナー。いい相棒です」
「護衛の意味も兼ねとるしな……そういえば、冒険の方は進んどるんか」
「順調。歩きながら地図と図鑑埋めてる。伊能忠敬みたいな気分だわ」
「地図? そんなん、管理局に頼めば」
「まもの生息図も兼ねたハイクオリティな仕上がりですから」

 見せれ見せれと言い出したので広げてやると、おお。と感心した声が上がったので誇らしい。
 冒険は順調だ。旅先ではいろんなものに出会えて楽しい。あとは冒険に出る度に感じる、鉄っぽ
いメガネ臭さえなければ。諦めてくれないかなあの人。

「まぁいいや。今度はここから、東に行きます」
「ほう。理由は?」
「はるか東にはプレスター・ジョンの国があって、悪い人たちを蹴散らしてくれるんだ」
「節子。それモンゴルや」
「はやて世界史取らなくて良くね?」
「面白おかしく解説したのが誰やと思っとるんか」

 それもそうだった。

「まぁともかく、根拠はない。ただのカンです」
「適当やな。そんなんでええのか」
「いいのです」
「さよか。ほな、早いけど学校いこか」
「はいはい」

 ひらひらと手を振るはやてに続いて立ち上がった。非日常などなく、日常がどこまでも続いていく。



 俺より面白いやつに会いに行く。
 クロノの結婚式でドヴォルザーク「新世界から」を流しつつヘリコプターからライスシャワーす
る計画を練りながら、当面の目標を定める俺だった。



(おしまい)

############

おしまいだよ!
後書きつけといたよ!



[10409] あとがき
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:11a58429
Date: 2010/09/27 00:11
お疲れ様でした。後書きなんかを。


まさか200までいくとは思っていませんでした。
以前192ほどで目処は立ったと言いましたが、紐糸が蛇足だらけの作品だという認識が甘かったです。会話もそうですが、話の進行の勉強にもなりました。
空白期はひとまず終了となります。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
携帯でドキドキしながらその1を投稿してもう2年。充電のトラブルには悩まされっぱなしでした。水に落として完全に機能停止したりもしました。トイレのトラブル8000円どころではありません。あれからなんとかモデルチェンジを経ました。「司馬懿」を一発変換できるスペックには今も驚愕することしきりです。
オリ主作品を書くのは実は初めてで、純然たる手探りでした。程度を知らずかなり暴れさせてしまいましたが、なのはたちの引き立てはうまくやってくれたんじゃないかなと思います。

中学行ってから〜StS入るまでの期間で、メインにならないだろうと思われるお話(話?)は、空白期おまけという形でどこかに載せようと思います。
少なくともHPの方には。今まで続けておいてアレですが、おまけ話までarcadia様に投稿するのは迷っています。
書こうと思ったら半永久的に書けてしまうのです。スレが縦長になること請け合いです。そのせいで携帯から投稿後編集ができなくなったのには笑いました。WEBブラウザ無料体験版の使用回数を節約する作業には今月も苦心しました。でもそれもひっくるめて楽しかった。

今後の予定や方針はHP「あしたしこたま」にてお知らせします。StS編は別作を書きつつ、少しずつ書きためていきたいと思ってます。
StSはできれば手元で完結させてから毎日投下とかしたいのですが、やはりせっかちな自分には無理そうです。推敲して即投下できるarcadiaにはお世話になりっぱなしでした。自分が原因の鯖負担ってどうなってるんだろうとこっそり心配したりもしました。
arcadiaがなかったら自分は紐糸を書いていませんでした。管理人の舞様には、本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。
紐糸本編は長めのお休みに入ります。ではまた、いずれStS編でお会いしましょう。


2010/9/27 しこたま


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