このお話はナナシさんとシルフが来て何年かしたある日のことです。
その日、ナナシさんは茶々丸さんに夕飯のお遣いを頼まれスーパーに行きました
余ったお金でお菓子を買いルンルン気分で家路へとついたのです……なあ、もうナレーター風に話すの飽きたんだけどシルフ代わってくれない?
<駄目ですよ、マスターっ。ちゃんとしないと、お給料もらえませんよ?>
大体どっから給料出るんだよ……
<それは……国から?>
あっ、もう主題歌流れ始めたからナレーター終わり!
<……主題歌?わ、本当に流れてます!しかもJAMです!>
カッコイイぜ!
番外編 バトルしようぜっ
<マスター、これで買う物、本当にあってましたっけ?>
「大丈夫だろ? 5品中2品は直感だが、あとの3品は覚えてたし……」
<だから最初からメモを持っていけば良かったのに……>
「まあ大丈夫だろ?」
<……太宰治全集は入ってなかったと思うんですが。そもそも食材じゃありませんし>
「知らないのか?世の中には蔵書狂(ピブリオマニア)ってのがいて、その人たちは読書を糧にするんだぜ?あと時載りって種族もいてな」
<へ~、世の中には変わった人達がいるんですね>
そんなこんなで平和に帰っていたんだ
これが大体10分前
今はこれだよ……
<ねえ、マスター?>
「なんだ」
<何で、私たち刀を持った女の子に刀を突きつけられているんでしょう?>
「俺が聞きたいよ……」
これで大体は把握出来たと思う。
目も前の侍少女は使命感に燃えた目でこちらを睨んでいる。
「なあ、君? そのナンパ方法は時代を先取りし過ぎて誰もついて来ないと思うよ?」
「ナンパ!? ナ、ナンパじゃありません! そんな不潔な!」
なんだ違うのか。
いや俺も違うと思ってたけど……。
<そこの少女、今マスターは付き合っている時計がいるんです。告白ならその辺の野良犬にでもしなさい>
「告白でも無い!」
<なんだ、違うんですか……>
「じゃあ何の用だよ。新聞はいらんぞ?」
「……お嬢様の為、あなたには消えてもらいます」
お嬢様?
誰?
<私のことじゃ?>
いや、ありえんだろ
「人違いだろ?何のことだか……」
「問答無用!」
そう言うと少女は切りかかって来る!
聞く耳持たないようだ。
<問答無用って初めて聞きましたねっ>
……まずいな、本気だなアレは。
迎撃するか?
<無理ですね。精霊のバックアップを受けて無いマスターは一般人以下です。むしろ小学生にも負けかねません>
……悔しいが、そうなんだよなあ。言っておくが幼稚園生には勝つよ?
……転移で逃げるか
<バックアップ無しの転移なら2m程しか跳べません。5回が限界です>
しょぼい……
とりあえず相手の攻撃に合わせてランダムに転移で
<はい。ランダム過ぎて地面に埋まる可能性もありますが、行きます!>
「ハッ!」
斬撃が迫る!
<転移します!>
斬撃が届く前に俺の姿は消える。
「……ッ、瞬動! いや空間転移か!?」
俺は少女から10m離れた辺りに姿を現す。
「……けっこう跳べたな」
<超頑張りました……>
帰ったら褒めてやろう。
「しかし、どうするか……。……なんか視界が赤くなって? あ、頭から血が!?」
<相手の攻撃が予想以上に速かったので、かすったみたいです>
かすっただけでこの威力だと……!
なんてヤツだ……!
<いえ、マスターの装甲が紙なんです>
ペラッペラか……
ていうかこれじゃ、まともにあたったら峰打ちだろうが即死するんじゃ……
<いえ、即死には至りません。……いい感じに死の境を彷徨うことになります>
……いやなこと、聞いたな。
「……武器、なんか出せないか?」
<今の魔力だと……スプーンぐらいですね>
……スプーンは武器じゃないっ!
「せめてフォークなら……」
<そういう問題じゃないですけどね>
「なんか、お前さっきから冷静だな。俺が死ぬ=お前も死ね、なんだぞ?」
<気のせいか、いやな誤字を見てしまいました……私は既に来世でのマスターとのラブラブ予想に入ってますから>
「現実逃避かよ!」
<失礼な。計画的と言ってください。今からしっかりと人生設計を立てておくんですよ。既に二人は出会いお互いを意識し始めました>
「……」
駄目だ……こいつ!
自分で何とかするしかない!
しかしどうやって……
<マスター!>
「何だ!」
何かいい案でも浮かんだか!?
何でかんだ言ってもやっぱりお前は最高の相棒だよ!
<二人目の子供が生まれました!>
「展開早っ!」
来世の俺どんだけ手が早いんだよ
ていうか何で少しでもコイツに期待してしまったんだろう
「フ、フッフフ……フ」
「……!」
相手が軽くひいた様だ
そりゃ、こんな情けない声も出るよ……
<10人目が欲しいんですか?あなたったら……ふふ>
来世劇場は何気に凄いことになっている、俺凄いな……
「……ッ!」
少女が刀を再び構える
次でトドメを指しにくるか……!
転移は……無理か、さっきの転移で魔力を使い果たしたようだ
……そりゃ、5倍魔力使ったら、5倍の距離跳べるはずだよ……
ヒュッ
刀が迫る
……終わりか
こんな所で……あきらめるのか
……冗談!
「オラァーーー!!」
横っ飛びにダイビングする!
かっこ悪いが命には代えられない!
「……くあ!」
<……いたい!>
地面にダイビング!
シルフを地面に強く打ち付けたようだ
……立ち上がる
「……ッ!一体何なんです!?」
少女は酷く混乱しているようだ
気持ちは分かる
今の俺の眼を見たんだろう
生きる、と強い意志をこめた!
<死んだウサギの様な目に見えますよ?>
……本当に目の前の男が標的か戸惑っているのか
だが、彼女は止めないだろう
この子は本来この様に前が見えなくなる子ではないんだろう
何かが彼女をつき動かしているようだ
強い意志が
<あの……マスター>
「……何だ?12人目でも生まれたか?」
<いえ、15人目がさっき……じゃなくてお知らせが>
「何だ?」
<さっきの衝撃で……>
「また、中身がバグッたか……ただでさえ8割以上の機能が停止してるのに……」
<逆です。直りました。稼働率が80%を超えています!>
「……嘘だ!?そんなに都合良くいくはず無いだろ!」
衝撃で直るって……古いテレビかよ
時計だけど
アホみたいに修理に没頭した俺は何なんだよ……
<嘘じゃありません。……変換コア起動します!>
シルフが光を放つ
その言葉と共に門の中に眠る、何百もの武器
それに宿る精霊、俺と契約を交わした何百もの精霊が目を覚まし、その力を解放する
力は門を通りシルフに集まり
俺が使う全ての力に変換される
「……おお」
<Aランクまでのほぼ全ての武器に宿る精霊とラインがつながりました>
頭の傷が塞がる
体のありとあらゆる場所が活性化する
魔力がこぼれ落ちるほど湧き上がる
ついでに腰痛も治る
「……完全復活?」
<いえ、Sランク以上、神剣のたぐいからは完全無視ですね。あとAランクもいくつ>
……あいつら気まぐれだからな
Aランクは……竜火、りゅっこか
あいつツンデレだからなぁ
まあいい
「……いい気分だ。世界が違って見えるよ」
<視力も上がってますからね>
「体も軽い」
<常に界王拳がかかってるみたいなもんですからね>
「頭もすっきりしてるし」
<いえ、知能の方は……何とも……以前と変わりなく>
スーパーサイヤ人になった悟空はこんな感じだったのか
こんな形で力が戻るとは……
少女には礼をしないとな
「……一体……何が。あり得ない……」
少女は混乱している
そりゃ、そうだ
さっきまで格下だった相手が急にあり得ないレベルになったんだからな
「……ッ!」
それでも相手はすぐさま戦闘態勢を取る
相当な場数を踏んでいるのだろう
……しかしさっきまでの様にはいかない!
「シルフ、武器を」
<はい!張り切ってだしますよぉ!いくついりますか?調子がいいので何本でもいけますよ!3本くらい、いっときますか!?>
「一本でいい!俺はどこの海賊だ!?」
<……残念。はい、どうぞ>
目の前の空間から一本の刀が出てくる
名前は散花
初めて契約した刀
いいチョイスだ
<……久し、ぶり>
「……ああちーこ。いきなりだが力を貸してくれるか?」
<……うん>
<マスター、浮気は駄目ですよ>
スルースルー
刀を手に取る
馴染む
まるで生まれてから今までずっと手に持っていたかの様に
相手に刀を向ける
<マスター、ここらで一つカッコイイ台詞でも!>
……ふむ
「ここから、ずっと俺のターン!」
戦闘の結果は……言うまでも無いだろう
「本当に、すいませんでした!」
目の前の少女、桜咲刹那が頭を下げる
「いや、もういいよ」
「いえ!私は……!」
……まあいわゆる勘違いという物だった
話が巡り巡り、悪変してこの子の耳に入ったらしい
簡単に説明すると
じいさん「木乃香と見合いせんか?」
↓
俺「そのうちね」シ<マスター!?>
↓
木乃香に見合い相手がいる
↓
木乃香に求婚をしている男が
↓
木乃香を狙っている男が
↓
木乃香を自分の物にしようとしている男が
↓
木乃香を襲おうと
↓
お嬢様をお守りせねば!
こんな感じだ
そういえば見合いとか言われてたな
我ながら適当だなぁ
<……てき……とう>
<むしろ適当が売りのマスターですから>
「本当に……私は……!」
「いいよ、君は彼女を守ろうとしただけだ。それに俺も無事だったし」
「……でも!」
「俺がいいって言ってんだろが!」
「……っはい!」
<マスター、何か優しいですねぇ。普段だったらこれをネタにいやんな事に及ぼうとするのに>
<……するのにぃ>
「俺はどんな外道人間に思われているんだ……もういいから帰れ」
「……はい。……それでは」
「やっぱ待て!」
「……はい?」
「んー、何ていうか……」
「……」
「困ったら、誰かを頼れ。それは誰でもいいし、俺でもいい。要するに……一人で悩むな」
<マスターがこんな、恥ずかしい台詞を!私も恥ずかしい!きゃー!>
<……きゃー>
……
「こいつらは気にするな」
「……はい」
「だから何が言いたいかっていうと……えっと」
「……ありがとうございました」
「……えっ、ああ。どうもご丁寧に」
「っ!……それでは」
少女が去って行く
気のせいか笑った気がする
あの子も色々大変そうだな
まあ、若いから大丈夫だろ
若い内は苦労しとくべきだよ
「歯、磨けよーー!飯も食えよーー!」
「…………はい」
少女が見えなくなる
「帰るか……」
<はいっ>
<……おー>
家に帰ったらエヴァからの質問攻め
実は全部の品物を間違えていた
などの出来事により大層疲れました
……その夜……
「……zzz」
<……むにゃむにゃ。ますたぁ、そこは駄目ですよぉ。そんな大きいドライバー入りませんよぉ>
「……zzz……んあ」
<……駄目ですよ、ますたぁ。茶々丸が見てますよ……ぐえっ!>
「ぐおっ!……zzz」
<なんですか!何が起こったんですか、マスター!?……って床?ああ寝返りしてベッドから落ちたんですか……それで私は床とマスターの間に挟まれてれる……と>
「……zzz」
<普通に寝てますし……マスターが起きるまで、私このままですか……重い……!>
「……zzz」
<せっかくいい予知夢を見てたのに……。ん?……体に違和感が。何でしょう?>
「……zzz」
<……これは……やばいです。また、マスターに怒られます……>
……朝……
「……ん、ああ。よく寝た」
<……おはようございます、マスター>
「珍しいな、お前の方が早いなんて……」
……っていうか初めてじゃないのか?
……何で俺、床で寝てんだ
<夜中に寝ぼけて落ちたんですよ>
「……ああ、そうか」
まあ、たまにはそういう事もあるだろ
<それで、マスター。悲しいお知らせが……>
「……なんだ?」
朝からいやな予感だ……
<その……落ちた時の衝撃でですね?また壊れちゃいましたっ、テヘっ>
「……」
<まあ、寝ぼけたマスターも悪いんですけどね。ふふふ>
「……ははは」
<うふふふ>
「ふざけんなよ!ちょっとの衝撃で直ったり壊れたり、なんでそんなにデリケートなんだ!お前は豆腐か!?」
<豆腐は直りませんけどね。女の子はデリケートな部分がいっぱいあるんですよ?>
「やかましいっ!」
せっかく力が戻ったのに……
今日からナナシ無双が始まると思ったのに……
<で、でもっマスター!この世界に来た時よりましな稼動状況ですよ!>
「……どんな感じだ?」
<A,Bランクの精霊のラインは完全に断たれているますが……C,Dランクはぼちぼち繋がってます!>
A,Bランクの精霊からの供給は無しか……
「今の魔力で出せる武器は……?」
<今の魔力じゃ、ABランクは容量が大きすぎて出せませんね。C……は無理ですね>
「Cも無理?」
<はい、出せなくは無いですが……その場合、マスターの魔力を吸い尽くし、マスターが一瞬で骨だけになります>
「……具体的な供給率は?」
<……13%ってとこですね>
13%って……
これは俺のレベルと思ってくれて構わない
昨日は80だったのにいきなり13……
しかも出せる武器はしょぼい……
「……はあ」
<……マスター、かわいそう……>
「誰のせいだよ!?」
<……うるさい>
「何だと、てめえ!」
<私じゃないですよ!?>
じゃあ誰だよ……あ
<……おはよう……ナナシ>
<マスター!見て下さい! 散花ちゃんです! Aランクの!」
「……ああ。何でここにあるんだ?」
昨日使ってから……
それから……
<こんな事もあろうかと思って置いておきました!>
「嘘つけ!」
<……本当は昨日、戻すのを忘れてました、てへり>
「だろうな」
<……なー>
……まあ、結果オーライだ
これは力強い
例えるなら最初のアリアハンで、既に黄金の爪を持っているといった感じだ
……分かりづらいか?
立ち上がる
「うわっ、体だる!」
昨日のフルパワーからこれだと重りを背負ってるようだ……
「昨日のあの全能感が……」
<短い夢でしたね……>
「……ああ。飯食いに行くか」
<……はい>
<……お~>
憂鬱な朝食でした。