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[3132] それが答えだ! 15話更新)
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2010/10/21 17:43
このお話はオリジナルの主人公がネギまの世界にやってくるお話です。
基本的にギャグが多めです。シリアスは滅多にありません。
文章能力もありません。ないないだらけです。
それでも良かったら、読んでください。
更新速度にはムラがあります。

感想も受け付けてます。




[3132] 1話
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2011/01/14 18:05
――熱い。
熱気が俺の下半身を轟々と焼く……。
これで終わりなのか………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――!
まだ俺にはやるべきことがある。
やらなければならないことがある――!
だから………俺は――!


「茶々丸さーん、こたつの温度高すぎるよー」

そう言ったのだった。




第一話 こたつから始まる物語


「――申し訳ありません。ただいま温度を下げます」

茶々丸さんがこたつ内のスイッチを調節し、こたつ内の温度が適温になっていく。
おぉ……いい感じだ……。
じわじわと程よい温度の熱気が下半身を暖めていく。

「お茶のおかわりはいかがですか?」
「頼むよ」
「茶々丸、私にも頼む」
「では少々お待ちください」

俺に続いて大層偉そうな感じで言ったのは、俺から見てこたつの左側に入っている金髪の少女だ。
どうでもいいが偉そうではなくエロそうなら「私、にもっ……頼、むっ。あっ…ん――ひぐぅっ」みたいな感じになるのだろうか?
ほんとにどうでもいいな……。
で、このエロそうな少女の名前は……。

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェーールゥゥゥァァァァァァァンン!!!」
「何故いきなり人のフルネームを叫ぶ!?」
「特に意味は無い。強いて言うなら説明……かな?」

俺がそう言うとエヴァは俺をジト目で見つつ、「相変わらず頭がアレな奴だ……」とぼそりと言い、テレビの方へ目を向けた。
アレってなんだアレって、人をパーみたいに言って! まったく!
俺がパーならお前はグーだ!
……何かうまい事言えた気がするぞ。

<いえ、まったく全然うまいこと言えてないですよ、マスター>

俺の耳に届いたのは、聞くものの心を落ち着かせる可憐な少女の声。
その声は俺の胸から聞こえた。
別に俺が自分の胸から声が聞こえてくる様な人種ではなく、声は胸に掛けている時計から聞こえてくる。
銀色に輝く懐中時計。

「そこはうまい事合わせろよ」
<無茶言わないで下さいよぅ……>

こいつは……まあ色々あって俺の補佐みたいな事をしている時計だ。
日本語的に何かおかしい様な気がせんでも無いが、まぁ少し不思議な時計だと思えばいい。
名前は……「ド・まり子」だっけ? 時計だけに。

<ち、違いますっ! 誰ですかまりこ!? 私の名前は――ヴェネルブルガリアルス48世ですっ>
「お前も嘘つくなよ! 何その超噛みそうな名前!? ドリル的な物で解体するぞ!?」
<すいません……私の名前はシルフです。生まれてきてごめんなさい……>

尋常じゃない落ち込み方をするシルフ。
まあ、いつもの事なのでスルーだが。

「さっきからうるさい! TVの音が聞こえんだろうが!?」

俺とシルフのやり取りにとうとうエヴァが怒った!
あのエヴァが! 
どのエヴァだろう?
そりゃ怒るか……。

「お待たせいたしました」
「ああ、ありがとう茶々丸さん」
「む」

いいタイミングで茶々丸さんが戻ってきたのでお茶を飲む。
エヴァもその怒りを霧散させ、大人しくお茶を飲み始めた。
そして茶々丸さんはこたつの右側に入る。
ロボットだけど暑さとか感じるのかな……。

「ああ、うまい。相変わらず茶々丸さんのお茶はうまいなぁ」
「ありがとうございます」

少し頬を染めたように見える茶々丸さん。
しかし……。

「これだけうまいとラムネが食べたくなるなぁ」
「何でだ!?」

ギョっとした目でエヴァが突っ込んできた。

「そりゃ……好物だからな」
「お茶関係ないじゃないか!」

まあ関係ないとも言える。
しかし、だ。

「世の中に関係無いものなど存在するのか……俺は全ての物が関係していく、そんな世の中になって欲しいと思ってるんだ」
「やかましいわっ」
「私はとても良いお言葉だと思います」
<いい台詞だと思いますが、びっくりするほど脈絡がありませんね……>
「お前が脈絡を作れ」
<だから無茶を言わないで下さいよ……>
「……ふぅ」

エヴァがため息をつく。

「若いのにため息ばかりつくとはげるぞ」
「はげるか! それに私がため息をついているのは貴様のせいだ!」
「そうやって人のせいにばかりして、お父さん怒るよ。なあ母さん?」
「そうですねお父さん」
「――っっ、茶々丸まで! もういい!」

ぷいっと彼方を向くエヴァ。
そんなに怒ることないのに。
カルシウムが足りてないのかな? 色んな意味で。
エヴァもラムネをもっと食べればいいのに、俺みたいに。

「しかしラムネ、ですか。……申し訳ありません。既に買い置きは空になっていたかと。気が利かず、すいません」

本当に申し訳なさそうな顔の茶々丸さん。
逆にこちらが申し訳なってくる。

「いや、いいよ。自前で用意するから。シルフ、まだラムネの在庫あったよな」
<ん~~、はい。けっこう、ていうか大量にありますね>

そういえば特売で安かったから大量に買い込んだったっけ。
それじゃ……。
俺は右手を突き出し、シルフに告げた。

「開けろ――セルフ」
<……>

シルフは答えない。

「お前……無視とか、いい度胸だな」
<えっ、セルフっていうから自分で開けるものかとてっきり……>
「いらん気の使いかたすんな! お前の名前を間違えただけだよ!」
<えぇー……というか10年近く一緒にいて名前を間違えるのもどうなんですか……>

俺がギロリと睨むと慌てた様子で――シルフが発光した。
そして俺の目の前の空間がグニャリと歪む。

<ひ、開きました>
「よし」

俺は目の前の歪み――『門』と呼んでいるそれに右手を突っ込んだ。
俺の肘辺りから先はグニャリと何かに飲み込まれたかの様に消失している。

「相変わらず不思議な光景だな」

機嫌が戻ったらしいエヴァが肩肘をつきながら言った。
俺は門の中をごそごそと手探りで探す。

「おい、無いぞ」
<も、もっと奥ですっ。――んん、あっ、あぁ……んんー!>
「……」

シルフの体を張ったギャグには関心するが今はラムネ優先なので無視する。

「ん」

何かが手の先に当たる――これか?
その何かを掴み、歪みの中から手を引き抜く。
手に握られていたのは――

「セミの抜け殻か。ハズレだな」
「何故セミの抜け殻が……」

エヴァがあきれたように言った。

「んなもんこっちが聞きたいわ!」
<逆切れですねっ、マスター!>

シルフがやたら嬉しそうだ。
何で嬉しそうなんだ。
しかし、セミか……。
抜け殻を弄びながら、ぼんやりと虚空を見つめる。

「思いだしたよ」
「前世の記憶でも思いだしたか?」

エヴァがからかう様に言うがスルー。

「これ、カブトムシ取りに行った時に拾ったものだ。二年前、だったかな」
「カブトムシですか?」
「ああ、何ていうか童心に戻って、みたいな? へへっ」
<テレビでカブトムシが高く売れるというにを見たんでしたよね、マスター?>
「ばらすなよ!?」
「………」
「童心に戻ることはとても素晴らしいことだと思います」

茶々丸さんのフォローが地味に心に染みる。
そしてエヴァの視線が痛い……。
別にいいじゃん一攫千金目指してたって。

「そのお金でさ二人にプレゼントでも買おうと思ってさ」
「……あ」
「おい茶々丸騙されるな。大体だ、普通はその前に家賃を払うところだろうに」

ちっ。
それにしても家賃か……家賃!?

「家賃……だと……!?」
「ああ家賃だ」
「ただで泊めてくれると聞いた所存で御座いますがね!」

動転してわけわからん言葉に!
初耳だ!

「ああ、確かに言ったさ。……だがな貴様が来てどれくらい経ったと思う」
「時間とかさ、俺たちの間には無意味なものだと思うんだよ」

――ごつん。

頭をぶたれましたよグーで。
超痛い。
真面目に答えないとその先に待っているのは死か……。

俺は宙を見つめながら、指を一本ずつ折った。
一本、二本、三本……

「今日で――3週間だっけ?」
「………」
「すいません。3年です」

エヴァの視線が刃物を連想させる鋭さになったので、真面目に答えることにした。

――そう、俺とこの時計がこの世界に来て3年が経過している。
まずは俺たちがこの世界に来て、如何にこの少女に出会ったかを説明せねばなるまい。
そう始まりは3年前のあの日だった……。




[3132] 2話
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2011/01/14 18:06
そう始まりは3年前のあの日だった……。
あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
そう――あの日は雨が降っていた。


第二話 こたつから動かない物語



それはそれとして、相変わらず茶々丸さんのお茶はおいしい。

「茶々丸さん、お茶おかわり」
「はい」
<あれ……?>
「何だおかわりするのがおかしいのか? ハンマー的なもので壊すぞ?」
<壊さないでください。……そ、そうじゃなくて回想は?>

回想? 何を言っているんだコイツは……?
シルフはぶつぶつと不思議そうに<前回からの流れで……あれぇ?>と呟いている。

「マジに壊れたか? 分解するか……」
<しないで下さい……もういいですっ>

シルフは何やら言いたいことがありそうだったがそれきり黙りこくった。
そして俺はエヴァの方を向いて言う。

「家賃か……少し待ってくれないか?」
「まあ、かまわんが。そもそも貴様、一線も金は持ってないのか?」
「宵越しの金は持たない主義なんだ」

そう言うとエヴァは納得したようなしないような顔になった。
……が何かを思い出したかの様に言った。

「貴様、普段から大量にラムネを買いだめしていただろう。その金はどうした?」
「茶々丸さんにお小遣いもらってだが、何か?」

俺は胸を張って言った。

「何が?じゃないだろう!? 何でそんなに誇らしげなんだ!?」
「へへっ」
「照れるな! 褒めとらんわ!」

何だ、褒めてないのか……。
俺は顔にかかったエヴァが吹いたお茶を拭いた。

「茶々丸もコイツを甘やかすな!」
「……申し訳ありません」
「あまり茶々丸さんを責めないでくれ。悪いのは誰でも無いんだから……」
「どの口が言うかっ」

エこたつを跨いでヴァのパンチがとんでくる!
その数およそ8。
すかさず俺は防御を展開した。
シルフガードである。

・シルフガードとは、文字通りシルフで防御する技である。
欠点としては、シルフが懐中時計なので、防御範囲が狭いことだ。

<いたたたっ! マスター、私を盾にしないで下さいっ!」
「横ならいいのか?」
<そういう意味じゃないです!>

ひとしきり攻撃してきた後、エヴァは唖然とこっちを見てくる。

「な、なんという硬さだ……。岩を砕くほどの力で殴ったというのに」
「まあな、コイツは俺の世界で最も硬い金属『アルミィ』で出来ているからな」
「何か、凄まじく適当に付けた感のある名前だな……」

アルミィは希少金属で滅多に採取できない。
加工するとアルミィホイールというタイヤが作れる。
竜の炎でも傷一つ出来ないぜ!
しかし噛むと気持ち悪くなる。

どうでもいいが岩を砕く威力の拳を俺に向けてきた事について何か言っとくべきか……?
まあ、いいか。それだけ俺を信頼しているという事か。

<気持ち悪いほどポジティブですねぇ……いたたた! 何でも無いですぅ!>

何か言ったシルフを黙らせる。

「まあ、お前の金の出所は分かった――が」
「何だ?」

まだ何かあるのか。

「お前が金を持っていないというのは、やはりおかしい!」
「おかしいなら笑えばいい」
「……」
「どこがおかしいんだ?」

スルーされたので話を進める。
人間関係を円滑にするにはこういった気遣いも大事なのだ。

「お前ジジイからたまに仕事を請けていただろう」
「ああ、ファッション関係のな」
「警備関係のだ! ……その報酬は結構な額だったはずだが?」
「……むむむ」
「私に隠し事をするのか?」
<……むむむ>

シルフと二人で唸る。
……痛いところをつかれた。
痛い所を突かれると疲れるなあ……。

「疲れたから寝るか」
「待たんか!」
「何だよ、明日早朝会議があるんだよ……」
「嘘付けニート! 金の事を聞くまで今日は寝かさんぞっ」
<寝かさないって、いやらしい台詞ですね>
「俺もそう思う」

さて……どうするか。
あと、ニートじゃない。ないったらない。
こたつを経由して、接近してきたエヴァに、俺の逃げ場はない。
そんな絶体絶命の俺を助けたのは、予想外の人物の声だった。

「待って下さい、マズター!」
「何だ、茶々丸!?」

茶々丸さんである。
茶々丸さんにしては珍しく声が大きい
茶々丸さんがこんなに感情を出すなんて……。
俺はその事に驚きつつ、茶々丸さんが台詞を噛んだことに少し笑った。

「……ふふっ」
「何がおかしい!?」
「すいませんでした」

俺は素早く、それでいて深くエヴァに謝った。
自分が悪いと思ったらすかさず謝るのも人間関係を円滑にする重要なことだよ。
<誰に言ってるんですか?>

「それで何を待つのだ茶々丸? コイツの死刑か?」
「異議ありっ、異議ありっ」
「……」

ヒュッ。
俺の異議は拳と言う名の風で鎮圧された。
しかし茶々丸さんは何を言うつもりだ?
まさか!?
茶々丸さんの次の言葉で、俺の危惧は当たっていたと知らされた。

「ナナシアさんが今まで稼いだお金――そのお金は貯金されています」
「貯金? ほう……何の為だ?」
「それは……」

茶々丸さんが言い辛そうに、視線を彷徨わせる。
すかさず俺は援護することにした。

「そんな事よりババ抜きしようぜっ」
「それは?」
「それは……」

当たり前のように流される。
秘密がー機密がー! らめぇ!

「マスターの為です!」

……ああ言っちゃったよ。

茶々丸さんの力の入った告白に、エヴァは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

「……私の、為?」
「はい、事情は話せませんが、ナナシさんはマスターの為に貯金をしています」
「私の為に……貯金……」

……言っちゃったよ。
あとナナシって俺の名前な。
何か突っ込み所のあるこの名前については後ほど語るかもしれない。
<その時が楽しみですねっ>

眉を寄せ、少し混乱気味の表情をしたエヴァが俺を見る。

「……本当なのか?」
「んん、……まあ、そういう事だったりなかったり……」
<マスター、照れてますねっ>
「うるせえっ、スクラップにするぞ!」
<ふふふ、マスターったらカワイイ!>
「いや、マジだから」
<すいませんでした!>

エヴァはこっちを見ている。
心なしか頬が赤い。
まるでケチャップをかけたトマトの様に……。
<そこ普通にトマトでよくないですか?>

ぼんやりとした表情のエヴァに、俺は「ゲホン!」と少しわざとらしく咳をして言った。

「だから家賃は少し待ってくれないか? あとこの事も……できれば忘れてくれ」
「……家賃? ――あ、ああっ、家賃か。ああっ、私は優しいからなっ、いくらでも待ってやろうじゃないか! あ、あとこの事はもう忘れたっ!」
「そうですか」

健忘症を疑うほどの速さだな……。
こたつから出て立ち上がる。

「ど、どこへ行くんだ? ついて行ってやろうか?」

エヴァのテンションがおかしい。
少し怖い……。

「トイレですが何か?」
「そ、そうかっ、さっさと行って出してこいっ」
「女の子が下品なこと言うな!」

なんか部屋にいると俺もおかしくなりそうだったので慌てて部屋を出る。

「く、くそう……何か照れくさいな」

廊下の鏡を見て自分の頬も赤いことに今さら気づくのだった。



[3132] 3話
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2011/01/14 18:08
「この大嘘つきめ!」
「何と馬鹿げた男だ!」
「追放せよ! 追放せよ!」
「貴様なぞここにいる資格も無いわ!」

俺は間違ったことは言っていない、こんな事を言われる筋合いも無い。
だが現実、俺は罵声を浴びせられている。
何が奴らの琴線に触れたのか。
分からない。
俺は俯いたまま、ただその罵声を聞くだけしかできないのだった。


――悔しい。

――ただ、悔しい。



第三話 こたつから離れた物語


声が聞こえる……。
俺を呼ぶ声が。
その声は俺のすぐそばから聞こえてくる。

<マスター! マスター! どうしたんですかー!>
「……っ、何だうるさいぞ、ミンチにするぞ」
<こわっ……ってマスターがぼんやりしてたから声を掛けたんじゃないですかっ。どうかしたんですか?>

……さっきまでのは、そうか。
どうやら夢を見ていたようだ。

「少し寝てた」
<寝てたんですか!? 歩きながら!? 廊下で!?>
「別に歩きながら寝ても、誰に迷惑をかけるわけじゃ無いだろうが」
<いやぁ、結構かかると思いますけど……何か機嫌悪いですね>
「……そうか?」
<それはもうべらぼうに>

べらぼうて……いいけど。
さっきまで見ていた夢、あれは悪夢だ。
しかし幻ではない。
現実にあった出来事だ。

「嫌な夢を見ただけだ」
<靴の中にあふれんばかりのゼリーが入っている夢ですか……>
「それは嫌だな!」

ぐちょ、ぬめろんといった感じだろうか……。
嫌な夢でそれが思い浮かぶコイツはどうなんだろうか。
少し付き合い方を考えたほうがいいかもな。

下らないことを喋りながら館の中を歩く。
ぺたぺた、ぺたぺた。
ぺたぺた、ぺたぺた。
静寂で満たされた廊下に響くのは俺の足音だけだ。

――ふと無人のはずの廊下で、何かの気配を感じた。

「なあ、ちょっと」
<はい? ちょっと? まさかその歳で!? お漏らしちゃったんですか!?>
「漏らすか! 何かさ、変な感じがしないか?」
<はあ、膀胱のことには詳しくないんで……>
「そこから離れろ!」

コイツ、本当に解体してやろうか……。

<変な感じですか……? 具体的には?>
「こう、何かに人ならざるモノが背後に立っているような……」
<古そうな家ですから、そういうモノもいるんじゃないですか?>
「お前、けっこうドライだな……」
<金属ですからね>

金属だけに……か。ウマイこと言うじゃないか。
……。
……いや、言えてないな。
全く上手くないな。

しかし本当に背筋が寒くなってきたぞ。
廊下も暗いし、本当に何か出そうだな。

<意外と後ろに何かいたりするんじゃないですか?>
「こ、怖いこと言うなよ! ぺちゃんこにするぞ!」
<ぺちゃんこて。マスターは意外と怖がりですっ、かわゆい!>
「ああ、こう見えても8歳まで一人でトイレに行けなかったからな」
<うわぁ、知りたくなかったです……そんなに怖いなら、さっさと後ろを確認すればいいじゃないですか?>
「ふっ、簡単に言ってくれるな」

もし、本当にお化けな何かが後ろにいたら、俺は衝動的に放尿する自信がある。
それもこれもこの後ろに何かいるかもしれない状況が悪い!
よし、大丈夫だ。もう覚悟した。
見てやるぞ!
幽霊なんかいないんだ。
後ろをっ、見てやるっっ!!。

「おらぁ!」
<後ろを見るのにどんだけ気合入れてるんですか……>

時計が何か言っているが無視。

「ふう」

後ろには何もいなかった。
ただ暗い廊下が広がっているだけだ。
当たり前だ、幽霊なんかいないし。
ていうか怖くないし。
本当に怖いのは――人間の方だからな(どや顔で)

<もういいですか、ならさっさとトイレに行きましょう。……やれやれ>

コイツ急に偉そうになったな。
お化け的な物を怖がっている俺を見て、少し馬鹿にしているのだろう。

そして俺は再び前を向いた。
だが映画でもある様にこういう状況では、この安心しきった時に来るんだ。
俺は決して気を緩めるべきではなかった。
そう、俺が気を緩め前を向いたときソイツは……そこにいた。
白い、白い、人ならざる気配をしたその少女は……俺の目の前に……。

<いやああああああああああああああ!!!>

シルフの悲鳴が響く。
反対に俺は冷静そのものだった。
何故なら……。

「何だ茶々丸さんじゃないか」
「はい」
<いやああああああああああああああ!!!>

目の前にいたのは、お化け的な存在ではなく、この家のメイド的存在の茶々丸さんだった。

「どうしてここに?」
「いえ、ナナシさんが部屋を出て、すぐ追いかけたのですが……」
<いやああああああああああああああ!!!>
「何か用事かな? ――うるさい!」
「も、申し訳ありません」
「いや、茶々丸さんに言ったんじゃないから」

俺が声をかけるまでも無く、シルフは黙った。
見ると、何やらエクトプラズム的な何かを吐き出している。
気を失ったのか。
人を散々馬鹿にしておいて……。

「で、何か用事?」
「はい……謝罪をしに」

……謝罪?
俺は茶々丸さんに謝られる様なことをしただろうか。
考えてみるが、全く思い当たらない。

目を伏せ、申し訳なさそうにしている茶々丸さんに問いかける。

「謝罪って何が?」
「マスターにあの事を喋ってしまって……」

ああ、その事か。
てっきり俺の部屋のガンプラを誤って壊したことを謝るのかと思った。
まあ、本当に壊してたとき、例え相手が茶々丸さんだとしても、俺は自分を抑える自身が無いけどな……。

「その事はいいよ。結果的に本質的なことはバレて無いし。それに命が助かったし。エヴァデレが見れたし」
「ですが……」
「いいって、それこそこっちがお礼を言いたい所だよ」
「……はい」

それでも茶々丸さんはとても気にしているようだった。
いい子だなあ。
頭をなでてあげよう。

「……ぁ」

なでられた茶々丸さんは顔を俯けぶるぶると震えて始めた。
これ見る人が見たらセクハラと訴えられてもおかしくないな……。
拒否出来ない少女に無理やりみたいな。

「どうも、ありがとう、ございました」
「いえいえ、こちらこそ」

変な会話だなぁ。
それにしても――

「なあ、茶々丸さん?」
「……はい?」
「エヴァはどうしていきなり家賃なんて言い出したのかな」

俺がそう聞くと茶々丸さんは少し考え。

「私には何も言っていなかったので真実は分かりません……ただ」
「ただ?」
「推測することは出来ます」
<私にも出来ます!>
「何だ、もう復活したのか」

いきなりの会話に割り込み、そして自分の意見を主張。
本来なら捨て置くところだがその積極性には目を見張るものがある。

「発言を許可する。茶々丸さんはシルフの後に」
「はい」
<珍しく寛大なお言葉! これは失敗できません!>

何か気合入ってるな。
対抗心でも燃やしてるのか?

<エヴァ……さんが急に家賃と言い出した理由っ、それは!>

今コイツ呼び捨てにしようとしてなかったか?
まあいいか。

「それは?」
<それは!!>

一拍溜めて――

<大家さんと店子プレイをしたかったに違いありません! 『もうっ、ナナシさん? 今月のお家
賃がまだですよ』『す、すいません大家さん……! あと二日! 二日だけ待って下さい!』『いーえ、だめです』『そ、そんなぁ……お、俺ここを追い出されたら行くところ無いんです!』『ふふふ、追い出しなんかしませんよ。ただ――何か別のもので支払ってもらいます』『ええ!? 一体何を――ってわあ! どうして僕のズボンを脱がしに!?』『フフフ……代わりの物は、若いエキスよ。三ヶ月分のお家賃を滞納してるから……ね、分かるでしょ?』『ゴ、ゴクリ……』――みたいなプレイですよ! わっ、エヴァさんったらいやらしい!>
「お前マイナス20ポイントな」
<えぇぇーー!? ひ、酷いです!>
「ひどいのはお前の頭だよ……」

全く期待して損したよ……。

<ちなみにマスター、そのポイントって何のポイントですか?>
「俺の中の、その人に対する評価、ポイント。略してOSPだ」
<PSPを伏字にしているみたいですね!>
「マイナス5ポイント」
<ヤブヘビでしたぁっ!>
「あの……」

シルフの涙混じりの声を遮るように、茶々丸さんがおずおずと手を挙げた。

「何かな?」
「その……私のポイントは如何ほどでしょうか?」
「む、ちょっと待ってね」

茶々丸さんも気になるのか。
俺は門に腕を突っ込み手帳を取りだした。

<何ですかそれ?>
「これに書いてあるんだ。シルフ、マイナス30ポイント、と」
<増えてますっ>

無視して手帳に書き込む。

「四捨五入なんだよ――で茶々丸さんは……48ポイントだな」
「48ですか……多い方なのですか?」
「かなりね。あと2ポイントでイベントが起こるよ」
「イベント、ですか?」
「そうイベント。俺が料理作ってくれたり、俺が風呂覗かれたり、俺が起こしに来たり……」

その他色々盛りだくさん! ポロリもあるよ!
そして100ポイント溜まると、俺ルートに突入するのだ。

<何でマスターがヒロイン側なんですか?>
「それはまあ、そういうもんだし。上が決める事だしね」
<上ですか>
「そう上、超上。神様的な存在がな」
「――私、頑張ります」
<気合入った!? 何でですか!?>

何が茶々丸さんをやる気にさせたのか。
グッと小さくガッツポーズをとる茶々丸さんを見ていると、少し穏やかな気分になる。

っと、話がずれたな。
どうしてエヴァが家賃なんて言い出したのか、だったな。

「んで茶々丸さんの推測は?」
「はい、おそらくですが……何か繋ぎ止める物が欲しかったのでは」
「繋ぎ止める? 船をか?」
<何でこの流れでそうなるんですか……マスターをですよ>

……俺を?

「はい、あくまで私の推測ですが。……急に不安になったのではと」
「不安?」
「マスターは昔、親しい人を失っています。――ですから、ふとナナシさんがいなくなる事を考えてしまった――あくまで私の推測ですが。そしてナナシさんが自分の下から去らないように、家賃と言う名の鎖で繋ぎとめようとしたのかもしれません」

茶々丸さんは「……私の推測です、実際はどうか分かりせん」と釘を差すように言った。

ああ、成る程な。
そういうことか。
あいつとの付き合いも結構長い。
付き合いが長い奴が急にいなくなると寂しくなるから。
エヴァは一度そういう経験をしてるのか……。

「こんなに誰かとずっといるのは久しぶりなので、だから、多分……」

なかなか可愛いとこあるな。
ポイントプラス30だな。

「何度も言いますが、あくまで私の推測なので……」
「急にいなくなったりはしないよ。消えるとしてもちゃんと話す」
「いつか……いなくなってしまうのですか?」

不安そうにこちらを見る茶々丸さん。
<ぐっときたんじゃないですか?>
やかましいっ。

シルフにそう言うが、否定はできない。

「今のところその予定は無い、これからも多分ね」
「そう、ですか……」

茶々丸さんは、ホッと胸に手を当てた。
そしてジッと俺の目を見つめてくる。

「――よかった、です」

その時の茶々丸さんの顔を、俺は一生忘れることはないだろう。
ほんのわずかに頬を動かし形作られたその笑顔は――俺の心を揺さぶった。
廊下が暗くてよかったと思う。
明るかったら、今の俺の真っ赤な顔を見られてしまうから。

<マスターってば、詩人ですねー>
「お前空気読めよ」



[3132] 4話
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2011/01/15 11:26
研究所を追放された。
無能で愚者のレッテルを貼られた。
既に俺の事は伝わっているらしく周りの人間から侮蔑の目で見られる。
……そんなのはどうでもいい。
どうでもいいんだ。
ただ、本当に悔しいのは、誰も信じてくれなかったこと。
誰一人も俺を信じてくれなかった。
それが自分の全てを否定されたようで、悲しくって仕方がなかった。

膝をつく俺に誰かが近づき、声をかける。

「私は、信じます。マスター」

一人だけいた。
どんな時でも俺を信じ、側にいてくれる少女が。
顔をあげてその少女を見る。
少女の顔はいつも通り無表情だが、それが俺には何よりも嬉しかった。

「……ありがとう。シルフ」

俺は涙を堪えて言った。
この少女が側にいれば、俺は大丈夫。
まだ、大丈夫。
大丈夫だ。


第四話 再びこたつへ――


<――はっ、何か今凄い夢を見ましたよ、マスター! 超シリアスです!>
「夢て……寝るなよ。――何で寝るんだよ!?」
<別にいいじゃないですか。時計だって休みたい時があるんですよ>

時計だって休みたい……か。
深い台詞だな。
じゃなくて。

「それは、毎日休まず働いている時計が言っていい台詞だ。お前、毎晩普通に寝てるだろ?」
<夜は寝る時間ですよ、マスター>
「お前が寝ると俺が困るんだ!」
<……困る? 夜に、私がいないと……。はっ!? すいませんでした! マスターも男の子なんですよね。わ、私の身体で良かったら……そ、その……大丈夫ですよ?>
「何を想像しているか、知りたくもないが違うと言っておこう。お前が寝ると機能が半停止になって時計が止まるんだよ。朝の9時に約束してて、起きて時計見たら12時だった時の気持ちが、お前に分かるか!? 何とか言え!」
<何ってナニですけど?それに、マスターが言ってる事はおかしいです。10時に起きるとちゃんと10時になってますもん>
「それは、俺が起きてからお前の時間を合わせてるからだよ! 朝起きて、まずする事がお前の時間を合わせる俺ってなんだよ!?」

大体何でコイツは俺より起きるのが遅いんだ。
従者を名乗るのなら、普通は主を起こすものだろうに。

<はあ、私が寝ている間にそんな事を……どおりで朝起きると、体に違和感を感じると思いました……マスターが寝てる間に私を弄くりまわしていたんですね>
「誤解を招く言い方はやめろ。そもそも、お前に睡眠機能をつけた覚えは無いんだ。というか時計に睡眠機能をつける発想がまず無い」
<女の子は常に進化する生き物なんですよ。その内、きっとマスターの子供が出来るようになりますっ>
「怖っ!」

コイツが言うと本当になりかねないから困る。
それにしても……夢か。
時計が見る夢、非常に気になる。

「どんな夢を見たんだ?」
<それがですね、マスターが出てきました! あと私と同じ名前のかわゆい子も出てきたんですよー>
「それは本当か!?」

俺はシルフの胸倉を掴んで叫んだ。

<は、はいっ、本当ですけど。どうしたんですかマスター、まさか私と何か関係が?>
「……いや、お前は気にしなくていい。――それにしても今になってメモリーコアとソウルドライブが同調したのか?」
<マスター!? 何か凄い重要っぽい台詞が丸聞こえですけど!? 何ですか、その凄そうな機関は!?>
「お前は気にしなくていい――この調子でいけば第二存在のディザスターに神化するのは近いか」
<進化!? 私、進化ですか!? 何かワクワクしてきたんですけど!>
「……神化が間に合わなければこの世界も……。クソっ、忌々しい、魔王ヴェネルブルガリアルスめっ」
<それラスボスですか!? なんか凄いダサいんですけど!? そして凄く言いにくいです!>

やたらテンションが高いシルフ。
もちろんほぼネタだが。
別に神化もしなければ、魔王なんちゃらも出てこない。

<私にそんな使命があったとは――よーし! 私頑張っちゃいます! 打倒魔王ヴェネルブベッ、ブルベッ、ブルヴァッ――ああっ、言いにくいです!>

シルフは来るべき自分の戦いに向けて熱血している。
いつ嘘だって教えるべきか……まあいい。

「あの……お手洗いには行かないんですか?」

不思議そうな目でこっちを見ている茶々丸さん。
今気づいたが、シルフの胸倉掴むって、要するに俺自身の胸倉を掴むってことなんだよな……。
そりゃ、不思議そうな目で見るわ。

しかし、トイレか。
あの部屋を出る口実が欲しかっただけで、別にトイレに行きたかったわけでも無いんだが。
あのエヴァと一緒にいるのが照れくさかったからって、正直に話すのもなあ。

<もう、マスターはトイレに行く必要は無いんですよ、茶々丸>

一通りテンションを上げ終わったシルフ。
どうやら俺のフォローにまわるようだ。
私に任せてください!、という気持ちが伝わってくる。
お前ってヤツは……ここぞという時には頼りになる。

「必要ないとは?」
<はい、マスターは歩きながら膀胱内の尿を、分子レベルで体外に放出できる特技を持ってますから>
「俺に変な設定をつけんな! 茶々丸さんが軽くひいてるだろ! 自分のマスターがそんな特技を持ってるのはやだろ!?」
<私は構いませんが。それすらも受け入れる大きな心がありますから>

期待した俺が馬鹿だった。

そのあと、茶々丸さんに弁解しつつトイレに行き。
いらん事を茶々丸さんに吹き込もうとするシルフを殴り。
シルフの硬さに手を怪我し、部屋に戻った。

そして今エヴァ、俺(withシルフ)、茶々丸さん、チャチャゼロでババ抜きをしている。
誰が最初に提案したのか覚えてないがそういう流れになった。

 ――10分前――


「ババ抜きをするをするのはいいが3人でか」

ちなみに「3人でかっ」だと3人が大きいことになるが本当にどうでもいいな!
俺の言葉に、エヴァがジト目で俺を責める様な視線を向けてきた。

「提案したのは貴様だろう」
「そうだけど。もう一人人数を増やすか……」
<マスター、子供はそんなすぐにはできませんよ?>
「わかっとるわ!」
「私は子供が作れない体ですので、申し訳ございません……」
「茶々丸さん!?」

茶々丸さんがボケるとは……。
順調にシルフの影響を受けてるな。
これは由々しき事態だ。

「増やすと言ったがどうするんだ? 使い魔でも召喚でもする気か?」
「そのとおりだ」

エヴァが小さく目を見開いた。

「――ほう、面白い。見せてもらおうじゃないか」
<ククク、楽しみですね>

何故シルフがエヴァ側にいるかは分からない。
俺は目の前に門を作り、腕をつっこんだ。
ゴソゴソと漁る。

「召喚 、そういうことか……」

何やら期待はずれな声を出すエヴァ。
恐らくはこう『我が呼びかけに応えよ!(魔方陣がピカー!)』みたいな光景を想像していたのだろう。
サモンナイトでもやってろ。

目的の物が手の先に当たり、ソレを引きずり出す!

「フィーーーッシュ!!!!」

魚を釣り上げる要領で、引き上げる。
引き上げられたソレは、ベチャリと俺達が囲んでいるテーブルの上に落ちた。

「どれどれ、貴様の使い魔を拝見――ってチャチャゼロじゃないか!」
「ヨウ、御主人。久シ振リダナ」

カタカタと笑いながら、主に挨拶をするチャチャゼロ。
対するエヴァは驚愕の表情でチャチャゼロを見つめ、次いで俺を見た。

「ナナシ! 何故貴様がチャチャゼロを!? そ、そういえば最近姿を見たいと思っていたが……」
「学校の帰りに拾ったんだ」
「嘘をつけ! 大体貴様、学校に行っとらんだろが! というか何故動いている!?」

学校か、なつかしいな。
ホントのところは、「チャチャゼロ咥えたドラ猫、おいかけ~て~」な状態を近所の公園で発見したので速やかに保護して今至る。
そして動けないらしいチャチャゼロに、魔力を注いでやったのだ。

「オレガ頼ンダダヨ。動ケナクテ暇ダッタカラナ」
「と、いうことだ。少しの間、貸してくれないか?」
「……むぅ」

唸るエヴァ。
長い間の付き合いの従者を忘れていたことに、少しは罪悪感を感じているのだろう。
そして今のエヴァには魔力が無い。

「……私からもお願いできませんか、マスター」
「茶々丸……」
<私からもお願いします、エヴァ……さん。ところで何の話ですか?>

シルフは全く話を聞いていなかったようだ。
茶々丸さんの懇願を受けたエヴァは、腕を組みぷいっと、顔を背けた。

「……勝手にしろっ、どうせ今の私ではチャチャゼロに魔力を供給出来ないからな。だが、そいつは私のモノだ、覚えておけ!」
「分カッテルヨ、御主人。取リャシネェッテ。」
「貴様に言ってるんじゃない!」
<ほんとのところはどうなんですかねぇ? 言っておきますが、マスターの首から上は私のモノですから>
「……私も、出来れば欲しいです」

俺は俺の物だ。

……ともかくこれで4人揃ったわけだ。
半分が人じゃない事を除けばだが。
あと何かチャチャゼロが、少しの間俺の従者になったようだ。
とりあえず名前をイクラに変えようかな。

「やめんか!」
「はい」

元マスターから禁止が出たのでやめる事にする。
元マスターの発言だからやめたのであって、決して暴力に屈したわけではない。俺の名誉のためにそれだけは言っておく。

「ソレニシテモ何デ、オレヲ呼ンダンダ? 御主人ニ自慢スル為カ?」
「俺、どんだけ嫌なやつなんだよ。ババ抜きをしようと思ってな」
「ジャア、御主人ハ抜キダナ、ケケケ……痛エ!」

チャチャゼロがエヴァに殴られた。
今なんで怒ったんだ……?

そして遂に始まる、命を賭けたババ抜きが!
<賭けてるのは、罰ゲームですけどね>

ちなみに罰ゲームは勝った者が負けた者に命令するというものだ。

「エヴァは勝ったら俺に何を命令するんだ?」
「ククっ、教えてほしいか? 後悔するぞ」

ニヤリといつもの笑みを浮かべるエヴァ。
……まさか、

「全裸に首輪をつけ町内散歩をさせる気か!?」
「せんわ! 私もヤバイだろがっ! そ、それにしても貴様、そんな趣味があるのか……?」

……俺?
あとさっきから茶々丸さんが、じっとこっちを見ているんだが……。
茶々丸さんの視線から、何を考えているかを読み取ってみる。
『ナナシさんにそんな趣味が……。わ、私で良ければ……そ、その……お付き合い、してもいいですか?』だと!?
茶々丸さんがそんなこと考えるわけないか。

「俺にはそんな趣味ないが――ちなみに首輪をつけるのはタカミチだぞ?」
「何故だ! おかしいだろうが!? 何故タカミチなんだ!?」
「……じゃあじいさんでいいよ」
「じゃあとはなんだ! じゃあって! その場合首輪をつけるのは貴様のはずだろう!?」
「いやぁ、俺にそんな趣味は無いしな」
「私にも無いわ!」

違うのか……。

「じゃあ、やっぱり全裸で授業を受けるのか……エヴァが」
「だからじゃあとはなんだ! そして何故自分に罰ゲームを出さねばならんのだ! 私はMか!」
<エヴェさんMだったんですか?! これからはMさんって呼びますね!>
「呼ぶな!」

これも違うのか。
あとエヴァが出しそうな罰ゲームは……

「全裸で1年を過ごすのしか無いぞ? これは本当に辛い。お前にその覚悟があるのか、エヴァ?」
「無いわ! しかもまた私か!? 大体なんだ、全裸全裸って! そんなに全裸が好きか!? 全裸マニアか!? 全裸教か!?」
「あまり、全裸全裸って連呼するなよ。ご近所の評判が悪くなるだろ? あと全裸教って何だ?……どうやったら入れるんだ、教えてくれ>」
「貴様が言わせてるんだろうが!?」
<全裸ー全裸ー>
「うるさい!!」

遂に闘いが始まる!



[3132] それが答えだ!ご
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/01/27 15:22
「……今までお世話になりました」

長年世話になっていた師匠に声を挨拶をする。
俺が弟子入りした時から、全く姿が変わらないその男は、こちらをちらりと見て

「ああ」

と答えた。
最後までこの人の事は、何一つ分からなかったな。
俺が研究所を追放された時も、初めて魔法を成功させた時も、この国を出ると告げた時も、この人は何の感情も見せなかった。
ただ、「そうか」と言っただけだ。

「……どこへ行くんだ?」
「さあ、出来るだけ遠くへ行くつもりです。」
「……そうか。研究は?」
「もちろん、続けます」

この人にとって俺はどんな存在だったんだろう。
気まぐれでとった弟子か?
……もうどうでもいい事だが。

「……では。失礼します」
「……待て」
「……?」

振り向く。
袋をこちらに投げてくる。
中身は……大量の金貨だった。

「これは……?」
「ワシには必要ないものじゃ。研究するにしろ何にしろ、金はいるじゃろ?」
「……でも!」

なんだって急に、こんな……!
俺の事なんて、どうでもいいんじゃ無かったのか。

「……頭の固いガキ共は、お前の理論を完全に否定したようじゃがな、ワシはそうは思ってはおらん」
「……」

研究所の最高権力者をガキか……

「既に、ワシは引退した身じゃ。何の発言権も持っておらん。お前にしてやれるのはこれぐらいじゃ」
「しかし、こんなに!」
「良い。どうせ老い先短い身じゃ……そうじゃのう、もし理論が完成して、その時ワシが生きておったら、発表する前にワシに見せてくれんか?」
「……はい。最後に聞きたいのですが?」
「なんじゃ?」
「どうして俺を弟子にしたんです?」

師匠は昔を懐かしむ様な目をして

「……お前の事を気に入ったからに決まっておるじゃろう。」

そう、初めての笑顔で言った。

「……ありがとうございました。行くぞシルフ」

部屋を出る。
今俺はどんな顔をしているのだろう。
ずっと聞きたかった言葉を聞けて。

俺が部屋を出て

「……シルフ。弟子を頼んだぞ」
「……はい。お元気で」

そんな会話があったそうだ。



第五話 こたつ上の決闘<賭博黙示録 ナナシ>

<うぅ……泣けますねぇ。私こういう男同士の友情に弱いんですよぉ。いい夢を見ました……こういうのってBLって言うんですよね?>
「気色の悪い事を言うなっ!塩水につけるぞ!」
<勘弁して下さい……あれ、地味に辛いんですよぉ……>

弱弱しい声を出すシルフ。
……ノリで切れてみたがBLってどういう意味だ?
B L
バーニング ラブ?
バーニング ライブラリー?
……とにかく暑そうな言葉だ。

「おい、配ったぞ」

エヴァが声をかけてくる。
ババ抜きをするんだったな。
……さて

「始める前に一つだけ言っておく」
「……?」
「……なんだ」
「イカサマは許さん!」
「……一番しそうな男が何を言う」
「あと、罰ゲームは絶対遵守だ!」
「ふん、分かっている。……ククク、まあ罰ゲームを受けるのは貴様だがな」

……言ってくれる。
ちなみに罰ゲームは自分より下の相手に出す。
つまり、一位から三位が執行する権利を持っているということだ。
エヴァが勝てばまず、俺に罰ゲームをやらせるだろう。
……なんとしても、エヴァには勝つ!
……どんな手を使ってもなあ!

<マスター>
「……何だ?」
<エヴァンジェリンには絶対勝って下さい!>

もとよりそのつもりだが?

「一応聞くが、何でだ?」
<あの女……いや、あの雌はマスターの体を狙っています!>
「……」
<マスターの貞操を狙っています!>
「言い換えんでも分かるわ!……根拠はなんだ?」
<乙女の勘です>

……言い切ったな。

「……そんな事はありえないだろうが、まあ大丈夫だ」
<何か策でも?>
「ああ。負けたときの最後の手段もある」
<流石はマスター!なんという……なんという九州男児!>

九州男児は関係ない。

「まあ、それは最後の手段だがな。勝つための布石もある」

注意すべきはエヴァだ……
ヤツは普段でこそあんなだが、こういった駆け引きは異常に強い。
10そこそこのガキとは思えんほどに……
ヤツを攻略することがこのゲームに勝つための鍵と言えるだろう。

次は茶々丸さんだ。
彼女の強みはそのポーカーフェイスだ。
逆に言えば少しでも表情に出れば、一気に攻略できる。
こうみえても俺は茶々丸さんの表情を読むのがうまい。
攻略は簡単といえるだろう。
だが、気になることが一つ。
……妙にやる気満々だ。

最後にチャチャゼロ
こいつは……

(おい、聞こえるか?)
(アア、感度ハ良好ダ)
(手はずは分かってるな?)
(アア。御主人ニ取ラレタカードヲ言エバイインダナ?)
(完璧だ)

……こういうことだ。
ぶっちゃけグルである。
ラインを結んでいるので念話ができるのだ。
これでエヴァの手札をある程度予想できる。
終盤手札が減った状態ならなおさらだ。
相手の手札にジョーカーがあるのが分かるのも心強い。
どんな相手でもジョーカーを持っていれば少なからず反応がある。
その反応を見てジョーカー以外のカードを引けばいいのだ。
……容易い

(ソレニシテモテメェモ悪ダナァ。イカサマヲスルナ、カ。聞イテアキレルゼ)
(いい事を教えてやる。ばれなきゃ、イカサマじゃ無いんだよ)
(ケケケ、イイ事言ウジャネエカ)
(ククク、褒めても何も出んぞ……)
(<尿は出ます>)
(出るか!聞いていたのか、シルフ……黙ってろよ)
(<はいそれはもう。マスターの勝利のために>)
(ソレデ、分カッテルンダロウナ?)
(ああ、約束のブツはちゃんと渡す)

ちなみにブツとはコレクションの剣だ。
中にいた時、大層気に入った物があったらしく、しきりにねだられていた。
まだ、存在年数も浅いもので精霊もいない。
それなのに、何で持っていたかというと。
まあ、なんとなくその時は気に入ったからだ。

(<マスターは衝動的に拾ったモノを入れる性癖がありますからねぇ>)
「変な言い方をするな!俺が変態みたいだろ!?……ハっ!?」
「……」
「……」

いきなり叫び出した俺を二人が変な目で見る。
しまったっ……。つい興奮してっ。

「ご、ごほん!じゃ、じゃあ始めるか!」

……babanuki……



ゲームも中盤に入った。
俺の手持ちのカードは三枚。
エヴァのカードは二枚。
俺のカードはキングとクイーン。
エヴァのカードもキングとクイーン。
さっきはジャックをひかされたが……。

(オイ、御主人ガジョーカーヲヒイタゼ)

……来たっ……。

エヴァの表情を見る。

眉の一つも動かさないっ……!
流石にやるっ……!
どんなポーカーフェイスがうまいヤツでもここまではっ……!
それでこそ俺のライバルっ……!
だがっ……!
手札にジョーカーがある以上、なんらかの反応を示すっ……!
<ざわ……ざわ……>
いくら表情を取り繕おうが俺がジョーカーを選ぼうとした時必ずっ……!
……ヤツは微笑むっ……!
常人には分からないほどの小ささで、微笑むっ……!

「さあ、ひけ」

こちらにカードを出す……
俺は恐る恐る手を左のカードに……
ヤツの表情は変わらない……!
手を右に……
変わらない……!
<ざわ……ざわ……>
真ん中に……っ

「……っ」

見えた……!
今確かに……!ヤツの顔が……!……微笑んだ……!
普通は気づかないっ……!
だがしかしっ……!
分かる……!
これはジョーカー……!つまるところジョーカー……!
ひくな……!
これはひくな……!
これは死神……!
ウイルス……!
これ以外なら……!
俺の勝ちっ……!

左のカードをひく

一瞬エヴァの顔が……!
絶望に染まる……!
カカカ……!
その顔っ……!
その顔っ……!

裏向きのカードをこちらに寄せる

何だ……!
王のキングかっ……!?
王女のクイーンかっ……!?
<意味被ってますよ>

裏返す……!
どっちだ……!?

「…………!?」

ジョーカー……!
死神のジョーカー……!

<マスターに電撃走るっ……>

馬鹿なっ……!?
ありえないっ……!
読み違えたっ……!?
偶然……偶然……!

エヴァの顔を見る

「……クク」

……笑っている……!
……笑っている……!

騙されたっ……!
ヤツは気づいていた……!
俺がジョーカーを持っていると知っていることにっ……!
そのうえで……!
俺を騙しっ……!
やられた……!
うう……!
悔しい……!悔しい……!
認めたくないっ……!
だがっ……!認めなくてはならない……!
勝つために……勝つために……!
負けた……!
だが……!
一度……!
一度負けただけ……!
次は勝つ……!
そのためにはこのジョーカー……!
引き取ってもらう……!
ジョーカーは……真ん中に……!


「はい、茶々丸さん」

カードを出す

……さあ!
ひけ……!
ジョーカーを……ひけ……!
ひけ……!
ひくんだ……!

<マスター軽くキモイんですが……思考がダイレクトに伝わってくるんで>

「はい、ひきます」

指が真ん中に……かかる……!
よし……!
そのまま……そのまま……!
カードを……ひけ……!
ひけっ……!
ひけっ……!
ひけっ……!

「……異常な心拍数を感知。……回避します」

指が隣に……!
うそっ……!?
ないっ……!
それはないっ……!
ああっ……!
待て……!
キング……俺のキングっ……!
行かないでっ……!
俺を助けてっ……!

「……キングを頂ました」

声に出してるっ……!
ていうかっ……!

「それは反則だろ!?」
「……はあ」
「はあって!?茶々丸さんといえど容赦はせんぞ!?」
「……ですがルールに相手の心拍数の感知が反則とは……」
「んなもん載ってるか!」
<マスターが茶々丸に……初めてでは……>
「何でもありになっちゃうじゃん!だったらチャチャゼロと念話してる俺もありだろ!?……はっ!」
<……マスター、今のはちょっと……わざとじゃ……>

殺される……。
エヴァに殺される……。
……エヴァを見る。

「クックック……」

笑っている。
想像しているのか……!
俺の無残な姿を……!

「もちろん気づいていたさ……。イカサマをしていたことはな。だが敢えて無視した。……おかげで良いものが見れた。……クク」

何だと……!
気づいていた……!
そして優位に立ったつもりでいる俺を笑っていた……!?
まさか……!まさか……!あの時の微笑みは……!
<……あの、マスター。もうこれやめません?……しんどいんですけど>
もうちょっとだけっ……!
<はあ、まあいいですけど。……ざわ……ざわ……>
どこまでやったっけ……!?
<微笑みまでです>
そうか……!
……
微笑みは……!
無駄な足掻きをする俺への……嘲笑……!
……悪魔……!
まさに悪魔……!
悪魔の所業……!
それにイカサマがばれた……!
命……!俺の命……!

「イカサマについては不問にしてやろう。……面白いものも見れたしな。もちろん次は無い」

やった……!
助かった……!
まるで砂漠から一気にオアシスっ……!
命がこんなに尊いものだったとは……!
神……!
神はいる……!
俺を見ている……!
ありがとう……!ありがとうっ……!

「あとそれやめろ。アゴが長くなってキモイんだ」

……それがいいんだ……!
……じゃなかった、それがいいのになあ。
まあいい、命が助かっただけ儲けモノだ。


……babanuki……

既に何順かした。
俺の手元にジョーカーは無い。
誰が持っているか分からない。
……おそらく、そろそろ決着がつくだろう。

「……ひけ」

カードをひく。

「……!」

ジョーカー!
……顔に出すな!
……絶対に表情にだすな!
出したら負ける!
 
「……っ」
「……ほう」

堪えた。
何とか堪えた。
あとはこのジョーカーを何食わぬ顔でひかせるだけだ。
シルフが叫ぶ

<あっ、マスター!ジョーカーですよ!>

ピシリ、と
何かが壊れた。
おそらくそれはもう、限界でどこかに発散せねば、いずれは暴発していたものだろう。
それが、さっきの台詞で、爆発した。
……それだけだ。

<マスター、どうしたんですか?急に立ち上がって。窓を開けるんですか。ん~、いい風ですねぇ。……えへへ、少し寒いですね>

首にかけていたチェーンを外す。
もちろんシルフは俺の手元にあり、重力に引かれて床に落ちることはない。

<どうしたんですか、マスター?急にポーズを取って。あっ、これ見たことあります、テレビで!えーと遠投でしたっけ?その時のポーズです!>

俺はニコリと笑う
そして回る!
その場で回る!

<目が~、目が~、回ります。ますた~、世界が~。は!?つまりこれが地動説!>

そして!
あとは分かるだろ

<きゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………>

投げた!

「悪は去った……」

再び座り込む

「……」
「……」
「……何か?」
「……いや、続けよう」


……babanuki!……

ゲーム終了。
俺は最下位だった。
三位から順に命令を出す。
三位はチャチャゼロ

「アレヲ寄越セ」
「……ほら」

ブツを渡す。
本来ならイカサマがばれた時点で取り消しになったものだ。
これが罰ゲームなら安い。
……次は茶々丸さん

「……私は……」

チャチャゼロに目を向ける

「俺カヨ。ッタク」

俺じゃなかったんだ……。

「何シロッテ言ウンダ?」
「……お耳を拝借」

ごにょごにょと擬音で表すとそんな感じで会話をしている。
……何だろ?
終わったみたいだ。
何故か、茶々丸さんの顔が赤い。

「……ソンナンデイイノカヨ」
「……はい」
「チッ、分カッタヨ。オイマスター」
「その呼び方だと<オイマスター>って星みたいだな。なんだ?」
「……今日一緒ニ風呂ニ入ラナイカ」
「……はあ?」

何言ってんの?

「別ニ深ク考エルナ。主従ノ絆ヲ強メル程度ノ考エ方デイイ。ソレトモ俺ニ欲情スルノカ?マア、時計ニ欲情スルオ前ナラアリエルカ」
「それなら別構わないが……。あと時計に欲情したことは無い」
<呼びましたっ?>
「うわ!」

突然胸元から声がする。
別に、突然俺の胸に二つの膨らみが出来てそれが話しかけてきた、というわけでは無いので安心しろ。
あるのは時計だ。

<マスター!酷いですよ、いきなり投げて!凄く怖かったんですからね!?月に出来た新しいクレーター、あれ私ですよ!>
「お前、それは嘘だろ……」
<飛んでる途中に忍者にぶつかったし。……そう、忍者ですよ!マスター!>
「はいはい。それにしても何で……?」

シルフが<本当ですよ!>とうるさいが無視。
何故戻ってきたんだ……?
……あ
ていうか、俺がそう設定したのか……。
こいつ、俺から離れて時間が経つと勝手に転移してくるんだった。
……完全に忘れてた。

<ジャア、アトデ待ッテルゼ>
「ああ……うん」
<何の話ですかっ?>
「何でもないです!」

……何故茶々丸さんが言う?
まあいい。
……残りはコイツか……。

「クックック……」

……わろてるで。
いやだなぁ。
……続きは次回で

「おいっ!」
<幕降ろしまーす>
「こらっ!?」



[3132] それが答えだ!ろく
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/06/04 20:36
今日の夢はお休みです
次回にご期待を……




第六話 こたつみまつわるエトセトラ



<今日の夢は、おやすみですかー。残念ですっ>
「お前いきなり何ぶつぶつ言ってんの?塩水につけるぞ?」
<おっと、マスター!それ以前言いましたよ!マスターともあろう方がネタかぶりとは……マスターも甘くなりましたね……ふふふ>

……なんだコイツ
普通にむかつくなあ。

「じゃあ、砂糖水につける」
<嫌あっ!太っちゃいますよお!>

太るのか……。

「馬鹿なことばっかり言って……。明日も早いしもう寝るぞ」
<はいっ、そうですね>
「お休み、エヴァ、茶々丸さん」
「はい。お休みなさい」
「ああ……、って待てや!」

……なんかエヴァに呼び止められた。

「……ナンだよ?」
「なんだよじゃない!」
「……パンだよ?」
「くたばれっ!そうじゃなくて罰ゲームだ!何普通に帰ろうとしてるんだ!?」

ちっ、覚えていたか……。
覚えていたもなにも、ついさっきの事だけどな。

「くくく。……さあ罰ゲームの時間だ、坊や」

何させられるのかな……。
考えるだけで恐ろしい……。

<あああっ……!マスターの貞操がぁ……!こうなったら、かくなるうえは私も混ざるしかっ!>
「こっ、こいつの貞操になんか興味は無い!バカ時計は黙ってろ!大体その体で何ができる!?」
<ふふふ……。世の中にはエヴァさんの知らない世界がまだまだあるんですよ……ふふふ>
「知りたくないわ!」

エヴァは髪を振り乱し叫ぶ。
俺も知りたくないな……。

「私は少し興味が……」
「茶々丸!?」

おずおずと発言する茶々丸さんに愕然とするエヴァ。
……俺も気持ちはわかる。
どうでもいいが、「その体で何ができる!?」って少年マンガに出てきそうな台詞だな。
ボスが満身創痍主人公に言う台詞……みたいな。……本当にどうでもいいな。

<では茶々丸その事については今度じっくり話し合いましょう。……どうでもいいんですけど「その体で何ができる!?」って少年マンガに出てきそうな台詞ですねっ>
「……」
<どうしたんですか、マスター?>
「……いや」

コイツの同レベルの頭なのか俺は……?
酷くショックだ……。

「ふん。それで罰ゲームだが……」

うう……一体何をさせられるんだ……。
一体どんな変態的行為を……。
……だが、エヴァの発言は俺の予想外の発言だった……。

「……私の買い物に付き合ってもらう!」

……。
……買い物?

「……全裸で?」
「全裸じゃないっ!」
「……半裸?」
「半裸でもない!何故貴様は、そう脱ぎたがるんだ!?」

そんな人を露出狂みたいに……。
……しかし買い物?

「本当にそれでいいのか……?」
「ああ。な、なにか文句でもあるのかっ?敗者は勝者に従え!」
「いや……はい」

エヴァは顔を赤くして叫ぶ。
いや、それですむなら俺もうれしいが……。

<で、そのデートはいつですか?>
「デ、デートじゃない!馬鹿が!買い物だ、ただの買い物だ!日にちは暇な時でいい!」
「……はあ。了解しました」

俺はうなずく。
……まあいいか。

「じゃあ、もうそろそろお開きにするか」
「わかりました」
「ああ、罰ゲーム忘れるなよっ?」
「分かってるよ」
「……お願いします」
「ハイハイ、分カッテルゼ」

その場は解散し、部屋に戻った。

「……買い物か」
<マスターも罪つくりな男ですねっ>
「ふふふ、ほめるなほめるな」

その夜はチャチャゼロと風呂に入り早く寝た。
次の日にやることがあったからだ。
……どうでもいいが、風呂に入っている時、チャチャゼロの方からシャッターをきる音がしきりにしていたが……。
……まあいい、風呂に入るとシャッターの音がする、そういう体質なんだろ。
<ありえない体質ですね……>


……翌日……

「……ふああ。……起きろシルフ」

シルフを起こしながら時計を10時に合わす。
シルフの時計は2時で止まっていた。
……この時間まで何やってたんだ……?

<……むにゃむにゃ。……ダメですよぉ……ますたーぁ。……東京タワーで……こんな事……>
「……」

夢の中の俺は東京タワーで何をしようとしてるんだ……?
……綱渡りかな?

「こらっ!起きろ!」
<はっ、はい、マスター!オハヨウゴザイマス!戦闘行動を開始しますか!?>
「しない」

何と戦うんだよ……。
さて……。

……

顔を洗いリビングに行く。

「……あ」

こたつの上にラップにかけられた皿があり(温めて召し上がり下さい、茶々丸)と書かれたメモがある。
いつもいつもすまないねえ。
レンジで温め食事をする。

「オ前ラ起キルノ、遅エナア。御主人共ハ学校ニ行ッタゼ」
「いたのか、チャチャゼロ……おはよう」

いつの間にかチャチャゼロが来ていたようだ。

<マスター、今日はどうするんです?チャチャゼロと地球○防衛軍2ですか?>
「……今日は予定がある」
<そういえばそんな事言ってましたね。……何の予定ですか?>

そう、今日は予定がある。
いつもの様にエヴァ達が帰って来るまで暇な俺では無いのだ!
……言ってて悲しくなるな。

「ふっふっふ……。聞いて驚け……」
<えええええっーーー!?>
「そういうのは本当にいいから」
<……驚けって言ったのマスターじゃないですか……>
「オ前ラ、本当ニウルセエナ」

チャチャゼロが心底うっとおしそうに言う。
……まあいい。

「実は……」
<はあ……>
「……就職しようと思ってな」
<えええええっっっーーーーーーー!?>
「ウルセエヨ!」

まあ、コイツが驚くのも分かる。
俺はこちらの世界に来てから定職につかず、たまに来るじいさんの仕事やエヴァの手伝いしかしてなかったからな……。
あとは家でゴロゴロしたり、教室に遊びに行ったり……そんな感じだ。

「ニートジャネエカ」
「ニート言うな!」

……ニートじゃない……多分。
たまに仕事をしてるし……いうなれば<ネオニート>といったところか……。

<……何故いきなり就職を?……ああ、昨日の……>
「まあな」

昨日のエヴァに言われた家賃云々が理由でもある。
まあ、いつかは仕事をしようと思っていたからいいきっかけだった。

<立派です、マスター!>
「へへ……まあな」
「アンマリ自慢ニナンネエト思ウガ……」

人形がうるさいがスルー。

<それにしても、就職ですか……。あてはあるんですか?>
「まあな」
<へー。……はっ!?まさかマスター、まさか体を!?>
「売らんわ!普通の仕事だよ!」

こいつは何を言い出すんだ……。

<そうですか……安心しました。それでどこに行くんですか?>
「じいさんの所に行く」
<学長室ですか……>
「ああ……ご馳走様でした」

席を立って部屋に戻る。
クローゼットを開けスーツに着替える。

「ふむ……どうだ?」
<超イケてます、マスター!よく夜の街で見かける人みたいですっ!>
「……」

……褒めてるのか、それは?
まあいい。
準備はできた。

<……どこ、いくの>

ベッドに立てかけられた刀から声が聞こえる。

「おお、ちーこおはよう。ちょっと外に用事があってな」
<……いく>
「……お前も?」
<……シルフばっかりずるい。……いく、いくったらいく>
「……あんまりいくいく言うなよ」
<何故顔が赤いんです、マスター?いいじゃないですか別に、一緒でも>
「……まあいっか。一緒に行こう」
<……わーい>

玄関に向かう。
途中でチャチャゼロと出会う。

「ドッカ行クノカ?」
「ああ」
「ソウカ、俺ハ寝テルカラ」
「ああ、じゃあ行ってくる」

玄関を出て外に出る……うぅ、日差しがまぶしい。
なんか久しぶりに外に出た気がする……。
いや、実際にそうなんだが……。

<フフフ>
「……何笑ってるんだよ?」
<いえ、今の私たちってどう見えてるのかあ、って思いまして>
「……」

いや、どうもなにもスーツ着た男が刀持って、首に下げられた時計と話してるだけだと思うが……?

<……やっぱり、恋人同士ですかね……あっ、でもちかちゃんがいるから、ふ、夫婦に見えるかもしれませんね?ふふっ>
「お前のその思考が俺には分からない」
<……わたしの方がとしうえ>
<いいじゃないですか、お母さんより年上の娘がいても>
「いや、ダメだろ」

どんだけ複雑な家庭なんだよ……。
複雑っていうかあり得ないだろ。
……ああ、再婚したらあり得るのか……。

<……ままー>
<はいはい、なんですかちかちゃん?>
「まだ、続けんのかよ」
<……車でぶつかってお金がいるのー>
<それは大変です!>
「詐欺だ!?」

そんな感じで騒ぎながら学園へ向かった。
…………



……留置所……


「……」
<……>
<……zzz>

……。

<……捕まっちゃいましたね>
「……ああ」
<……銃刀法違反っていうらしいですよ>
「……らしいな」

……。

<……カツ丼出ませんでしたね>
「……ああ、楽しみだったのに」
<……テレビでは食べてたのに>
「……テレビは嘘つきだな」

……。

<警察凄かったですね>
「ああ……超怖かった……」
<マスター半泣きでしたしね……>
「お前もな」
<正直なめてましたしね>
「ああ……テレビじゃいつもかませ犬だもんな……」
<テレビは嘘つきですね……>
「……ああ」

……。

<でも、マスターも悪いと思うんですよ>
「……なんで?」
<警察に呼び止められた時、何て言ったか覚えてますか……?>
「いや……てんぱってて……覚えてない」
<「俺はやってない!それでも俺はやってない!」、って叫んだんですよ>
「……ああ、そんな事言ったかも……テレビでやってたからさ……」
<またテレビですか……そりゃ追いかけられますよ……>
「……うん。……でもお前も悪いと思うんだ……」
<……何でですか?>
「逃げてる時に何て言ったか覚えてるか……?」
<……いえ>
「いきなり<パンツもろ出しの女の人がっーー!>って叫んだんだよ……」
<……ああ、確かに……でも本当でしたよ?>
「……いや本当だったけどさ……あのタイミングで言う意味が分からんし……パンツってズボンの事じゃん……思いっきりこけたし……」
<すいません>
「俺も悪かったよ」

……。

ガラガラガラ!
鉄格子が開いて看守が入ってくる。

「おい」
「すいません!俺がやりました!」
<マスター!?>
「……何を言っている。釈放だ……迎えが来たぞ」
「えっ?」

鉄格子の外を見る。
そこには……天使がいた。
こちらを慈愛の目で見つめる天使がいた。

「……帰りましょう、ナナシさん……家に」
「茶々丸さーーんっ!」
<茶々丸ーー!>

俺は飛び出した、自由に向かって……!


家に帰るとエヴァにひどく怒られた。
茶々丸さんは「……よしよし」と慰めてくれた。
俺は軽く半泣きだった。



……翌日……


「よしっ、行くか!」
<はいっ>

再び学園に行く準備をしている俺たちがいた。
銃刀法違反……?
今度は大丈夫だ!

「完璧だな……」
<ええ完璧です……>
<……りりかるりりかるぴろりろりーん>

そこに<散花>は無かった。
そこにあるのは何のへんてつの無い魔法のステッキだった。
昨日茶々丸さんに手伝ってもらい<散花>に改造を施したのだ!
ふんだんにフリルを使い、過剰な装飾をつけ、先端には……こう、なんていうかハートの……クルクル回るやつを取り付けたのだ!
どこからみても刀では無く、魔法のステッキ!
これは俺たちと茶々丸さんの努力の結晶だといえるだろう!
これで警察も文句は言えまい!

「……今日モ行クノカ?」
「ああ!」
「俺モ行クゼ」

……?

「何で?」
「御主人ニ言ワレタンダヨ。無茶シナイヨウニ見テロッテ」
「ふーん」

まあいいか。
これでスーツを着て、首から時計を掛けて、魔法のステッキを持ち、頭に人形を乗せた男が誕生したのだ!

「行くぞ!」
<はいっ!>
<……おー>
「アア」


……留置所……


「……」
<……>
<……zzz>
「……」

……。

<……また、捕まっちゃいましたね>
「……ああ、何でだろ?」
「即効デ追ケカケラレタナ」
<不思議ですね……完璧だと思ったのに>
「警察ってあんなにいるんだな……」
<マスター、普通に泣いてましたね……私もですけど>
「ああ、認める……凄い怖かった……」

……。

<看守さんにまたか、って顔されましたね>
「……ああ。……またカツ丼出なかったな」
<次はどんな感じで捕まるんでしょう?>
「次!?もう次のこと考えてるのか!?」
<ええ、だって……「二度ある事はサンディーヌ」って言うらしいですし>
「言わんわ!それを言うなら「二度ある事はサンバイザー」っだろ!」
<……>
「……」
<あの、マスター……そこでスベると私まで寒くなるんで……>
「……すまん」
「オ前ラ元気ダナア」

コンコン
隣の房から壁えお叩く音が聞こえる。

「あっ、すいません!うるさかったですか?」
「いえいえ、そちらが楽しそうだったもので……私も混ぜていただこうかと」
「……はあ」

人の良さそうな声だ。歳は……よく分からんな。

「私、アルビレオ・イマと申します、そちらは?」
「ナナシです」
「ナナシさんですか……お互い大変ですね。そちらの事情はさっきから聞こえてました」
「あはは……アルビレオさんはどうして?」

いい人そうだ、どうしてこんな所にいるんだろ?

「それがですね、近くに住んでいる知人に会おうとしたんですよ」
「はい」
「しかし久しぶりで……道に迷ってしまって……」
「まあ、広いですからね」
「それで、女子寮に迷い込んでしまって……」

それで捕まったのか……?
だが、それぐらいで……

「その時たまたま眼鏡にスクール水着を着て上にセーラー服を着ていたもので……変身に失敗しちゃったんですよねー」
「……」

この人普通に変態じゃないか!
変身の意味は分からないが変態だということは分かった。

シルフが小声で話しかけてくる。

<……マスター、変態さんですよ>
「ああ、俺も初めて会ったよ……」
<サインもらっちゃいますか?>
「いらねえー」

「全く、運が悪かったようです。知人に会うのは今度にしますよ」
「……はあ」
「巡り合せが悪かったんでしょうね。……そろそろ私はこれで」
「えっ……はい」
「それではナナシさん、また会いましょう」

カッ!
光が隣の房からあふれる。
……は?

<マスター、隣の生体反応消えました……>
「……えー?一体何だったんだ……?」
「ドコカデ聞イタ名前ダナア」

チャチャゼロがしきりに何かを考えているようだった。

再び茶々丸さんが向かえに来て俺たちは帰った。
エヴァは昨日より怒った、仏の顔も三度までという言葉を思い出し俺は震え上がった。



……翌日……

俺たちは学長室の前にいた。
エヴァに言われた通りちーこを置いて来たら普通に来る事ができた。

<三度目は無かったですね……残念です……>
「残念だったのか……」

そして遂に学長室に入る!



[3132] それが答えだ!なな
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/11/29 11:34
今回の夢も作者急病につきお休みです。



第七話 春なのにこたつって……



<また、お休みですかー。お手紙とか出した方がいいんでしょうか、ねえマスター?>
「また分けの分からんことを……。お前……もういいか……」
<マスター! 突っ込み無しですか!? 放置プレイですか!?>

ギャーギャーうるさいシルフを無視して扉の前に立つ。
扉には学園長の部屋、と書いてある。
コンコン、と軽くノックをする。
中から声が返ってくる

「……誰かね?」
「俺だよ、俺!じいさん俺だって!俺俺!開けてくれよ!」
<……また誤解されそうなことを>

少し間があり、

「ほうほう、その声はナナシ君かね?――合言葉を。愛は?」
「盲目」
「牛は?」
「モーモー」
「羊は?」
「モコモコ」
「ヤギは?」
「メェーメェー」
「やんのかこらっ!?」
「まーまー」

数秒間を置き……

「ふむ、正解じゃ。ナナシ君、入りなさい」
「わーい」
<相変わらず、頭がどうかしたとしか思えない合言葉ですね>
「な、なんだと! 俺とじいさんが一週間寝ずに考えた合言葉を……」
<……一週間も何してるんですか……>

失礼なこと言うな、こいつは……。
まあいい。

「お邪魔しまーす」
「ほうほう、よく来たのお。最近来んから心配しておったぞ?」
「三日前に来たばっかだっつーの。もうボケたか?」
<……いえ、来たのは五日前です>
「「わははは」」
<そこで何故笑いが……?>

まあ、見て分かるとおり俺とこのじいさんは仲がいい。
というか、向こうがこっちを妙に気に入ってくれている。

「……ん?」

よく見るとじいさんの隣に男が一人立っている。
あれは……タカミチだ。
タカミチは「何だったんだ、今のは……?」という目でこちらを見ている。

「何だったんだ、今のは……?」

あっ、口に出した。
一応言っておくがエロい意味ではない。

「よお、タカミチ。元気?」
「あ、ああ。君もも元気そうだね」
「二人で何か話してたのか? ……俺邪魔だった?」
「いやいや、構わんよ。新しく赴任してくる先生の話をしておったところじゃ」

……先生か。
ちょうど、いいかも……。

「……へえ、どんな先生が来るんだ?」
「タカミチ君の知り合いでな、メルディア魔法学校を首席で卒業した生徒なんじゃよ」
「名前はネギ・スプリングフィールドというんだ。10歳という歳で首席で卒業したとても優秀な子なんだよ」

……10歳?
10歳で先生ってなれるのか?
<なれるんじゃないですか? ほら、ベッキーも子供先生ですし>
あれは漫画だろ……。

「僕の代わりに2-Aの担任になるんだよ」
「へえ……じゃあタカミチはクビか……ご愁傷さま」
「……いや、別にクビになるわけじゃないんだよ……だから哀れみの顔で見るのはやめてくれないかな?」

……それにしても10歳の先生か……。
……凄い時代になったもんだ。
10歳で教師になれるなら……。

俺が色々と物思いに耽っていると、じいさんが尋ねてきた。

「それはそうとナナシ君、何か用があったんじゃないのかね?」
「ああ……実はじいさんに相談が……」
「ほう……なにかね?ワシに出来ることがあったら何でも力になるぞい?」
「ありがとう……実はさ……」

俺は少し悩んだ末……

「――教師になろうと思うんだ!」

無駄に声を張りあげる。
じいさんとタカミチはポカンとしている。
少し間を置きタカミチがおそるおそる話かけてくる。

「……教師、かい?」
「ああ……変かな?」
「……いや、僕はいい事だと思うよ。将来の目標を持つことは大切だと思うし、立派だと思う。君なら立派な教師になれる…………んじゃないかな」

何だ今の間は。
いや、将来的になりたいわけじゃないんだよな。

「うむ。ワシでよかったら力になろう。――そうじゃ! ワシの知り合いのいる大学に推薦状を出そう。なに、金なら心配せんでもいい」
「……」

……なんかうまく話が伝わらなかったかな?

「……いや、そうじゃなくってさ」
「……うむ?」
「今すぐ、教師になりたいの。この学園で」
「……」
「……」

……?
……俺、なんか変なこと言ったかな?
<さあ?>

少し間を置きタカミチがこちらを諭す様な口調で話しかけてきた。

「……あのね、ナナシ君。教師になるには必要なものがあるんだ、分かるかい?」

……必要なものか。
えーと、

「やる気と、元気と、本気と……あとやる気!」
「……君にやる気があるのは分かったし、それも間違いでは無いけどね。……もっとこう、精神的なものじゃなくてさ……」

……精神的なものじゃない……

「……金?」
「いや、それも間違いでは無いけどね……」
「それはワシが何とかしよう」
「学園長!? ……ま、まあ……お金もそうだけどね、教師である証というか……」

……教師である証か……。

「……七三分けの髪型?」
「僕七三分けじゃないだろ!? ――教員免許だよ!」
「……教員免許」

教員免許か……。

「それもワシが何とかしよう」
「学園長!?」
「わーい」
「……じゃがな、ナナシ君?」
「……?」

まだ、何かいるのか?

「ワシに用意できる物ならなんだって用意しよう……じゃがな……ワシにも用意できないものもあるんじゃ……」
「……ああ、それは学園長でも用意できない」

……?
じいさんでも用意できない……?
なんだろ……?
<……謙虚な心とか?>
うるせえな!
俺に無いもので、じいさんでも用意できないもの……

「それはな……頭じゃ。……学力と言おうか」
「ああ。生徒に教える以上、教師には最低限の学力がいるんだ……分かるよね?」
「……」
「だからの、学校で学んでから来なさい。それからでも遅くはないじゃろ? 君にそのつもりがあるのならワシの知り合いがいる学校の紹介しようかの」

……。
俺は二人から距離を置きシルフと話し合うことにした。

「……なあ?」
<何ですか、マスター?>
「俺ってさ……」
<はい>
「もしかして、凄く頭悪い人と思われてる?」
<ぶっちゃけそうですね>

……やっぱり。

「なんで?」
<普段の発言と行動が原因かと……>
「そんなことは――」

無いと言おうとした、が

<マスター、この前ここで何て言ったか覚えてますか?>
「……?」
<ほら、アイドリンクストップのことですよ>
「ああ、目薬禁止って意味だろ?」
<……>
「……違うの?」
<はい、全然違います。かなり頭が悪い発言です>
「そうだったのか」
<……はい、残念ながら>
「速やかにイメージを改善せねば……どうしよう?」
<アレを使っては?>

シルフが指す方向を見る。
タカミチが持っているプリントだ……なるほど。

「あのさ、ちょっといいかな?」
「なんだい、学校へ行く決心がついたかい?」
「そうじゃなくて……そのプリントさあ」

タカミチは自分の持っているプリントを見て

「ああ、これかい。生徒の答案でね、正直僕には理解できない解き方なんだ……僕よりも頭がいい生徒はたくさんいるからね、恥ずかしながら」

ははは、と笑うタカミチ。
俺はそのプリントを手に取る。
名前は……超鈴音か。

「それはなこうやって―――解いてるんだ。こうやって――解くから―――こうなる。分かるか?」
「…………え……君分かるのかい?」
「俺はこう見えても学者だったからな」
「……嘘だ」

信じてないタカミチに向かって俺は自分の頭のよさを出来るだけわかりやすく証明した。
先ほどの問題の解き方、相対性理論について、まだ誰も発見していない公式、ぷよの効率的な崩し方、スパロボ最速クリア方法。
その他いろいろを分かりやすく、出来るだけ華麗に、なおかつ大胆に、それでいて謙虚に語ったのだった。


…………



「……君、本当は頭良かったんだね」
「まあな、ははは」
「ワシもびっくりじゃよ……」
「んで、教師の件は?」

タカミチと学園長は二人で話しだす。

「……どうするんですか?」
「ワシに二言は無い」
「といっても、いきなり……」
「だから……ネギ君の……」
「……ああ、成るほど」

二人はこちらを見る。

「ふむ、君を教師として雇おう」
「わーい」
「じゃが、少し条件が……」
「……?」
「いきなりじゃから、副担任という事になるんじゃが……」
「いいよ、いいよ。仕事もらえるならなんでも」
「それでは君には2-Aの副担任としてネギ君の補佐についてもらう」

ネギ……新しい子供先生か……。

「詳しいことは追って説明するから今日は帰りなさい」
「ん、分かった。じゃあまた」

部屋を出る。

「本当に良かったんですか、学園長?」
「よいよい、彼は信頼できる」
「……学園長がそうおっしゃるなら」



……帰り道……

<……まさか本当に教師になるとは>
「ふふ、自分が恐ろしいよ。それにしても2-Aってどこかで?」
<エヴァさんと茶々丸のクラスですよ>
「ああ、そうか……」




……エヴァさん家……

「ただいまー」
<サンダー!>
「……何それ?」
<流行らせようとしてるんです。挨拶の代わりにサンダー!って>
「……流行らんだろ」

とたとた、と茶々丸さんが玄関に来る。

「お帰りなさいませ、既に食事は出来ています。……マスターもお待ちです」
「了解ー」
<サンダー!>
「……!」

茶々丸さんが少しびっくりした。


……リビング……

「エヴァっち、ただいまー」
「……遅かったな。あとエヴァっちって言うな」
<サンダー!>
「……遂に壊れたか……」

席にすわる。
茶々丸さんも来て食事が始まる。

……。

「突然ですがお知らせがあります!」

俺は今から重要なお知らせがあるのですわ、皆さん!……といったオーラを醸し出して立ち上がった。
そして座る。

「何故立ち上がったんだ……? ……知らせとはなんだ?」
「ふふふ」
<ふふふ>
「ふふふのふ」
「早く言え!」

いちいち切れるなよ……。
これだから最近の若者は……。
まあいい。

「私、この度教師として麻帆良学園に勤めることになりました!」
<拍手!拍手!>
「……な!?」
「それは……おめでとうございます」

茶々丸さんがぱちぱちと手を叩きながら祝ってくれる。
エヴァは……

「き、貴様が教師だと! わ、笑わせてくれる! ふははははは!」

むう。
やはりこういう反応か……分かってはいたが……
くらえっ――

「はははは!はは!はははあ!あはははははっっ!!……脇をくすぐるな!!」

ガゴンっ!
頭を叩かれました。

「……だって、笑わせてくれる?って……」
「貴様はアホか!?」
「実は頭がいいから教師になりました」
「知らんわっ!」

……。

「その……教師とは……どういう……」
「ああ、2-Aの副担任」
「なに!? 私のクラスじゃないか!?」
「……その言い方だと、エヴァが支配しているみたいだな」

このクラスは私のものだ!みたいな

「……という事はタカミチの補佐か……」
「いや、ちがう」
「……なに?」
「新しく先生が来るんだ。……えーと、ネギ……なんだっけ?」
<ネギ・スプリングフィールドです>
「それそれ」
「何だと!?」

俺の言葉にエヴァは顔色を変えて詰め寄ってきた。
ちなみに顔色を変えると言ってもナメックな感じになったりする訳ではない。

「今の名前、本当か!?」
「……いや、タマネギだったかも知れんが」
「シラタキの線も濃厚かと……」

なんか食べ物の名前だったんだよな……。
そんな俺たちには目もくれずエヴァは震えていた。

「ネギ・スプリングフィールド……スプリングフィールド! ……間違いない! ヤツの……ヤツの息子だ! なんて私は運がいいんだ!」
「……なんかテンション急に上がったな」
<……はい>

エヴァはさらに一人で盛り上がる。

「フフフ、アーハッハハハ! やっと……私にも運が! ハーハッハッハッハ! アーハッハッハッハッハッハ! アーハッハッハッハ――」
「茶々丸さん、救急車を」
「はい」
「待て、呼ぶな! 私は正常だっ!!」
<異常者はみんなそう言います>
「黙ってろバカ時計がっ! おい、茶々丸、受話器を置け!!」
「……はい、麻帆良の……はい」
「病院にかけるな!」


……。



救急車は呼びませんでした。

「まったく、貴様らは……」
「いや、俺たちは間違ってない」
<はい、私達は間違ってません!>
「ふん……それにしてもスプリングフィールドか……。ククク、ハハハ……おいっ、受話器を置け!!」

茶々丸さんは未だに受話器を離さない。
少しでも変な動きがあれば救急車ないしは警察を呼ぶ気だろう。

「……知ってるのか、その……誰だっけ?」
「ネギ・スプリングフィールドだ。まあ、そいつの父親とな……。 ――全く忌々しい過去だ!」
<今井マシーン?>
「ああ」
「ああ、じゃない! 適当に答えるな!」

父親か……。
一体どんな因縁が……?
困惑している俺の顔を見て、エヴァが意地悪そうに笑う。

「……奴との関係が知りたいか?」
「ああ……まあ、それなりに」
「フフフ、そんなに知りたいか? ククク、嫉妬するな。いいだろう。教えてやろう」

エヴァは妙に機嫌がいい。
嫉妬て。
いや別に嫉妬はしてないんだが……本当だよ?

「実はな――」

……説明中。


「――というわけだ」

「シルフ、さっきのエヴァの話を1行で説明してくれ」
「聞いてなかったのか!?」
<そうですね……茶々丸には姉妹機が色々います>
「成るほど」
「成るほど、じゃない! 一体何を聞いててんだ!?」

あ、噛んだ。
まあ話は聞いていた。
眠かったのでぼちぼちとしか聞いてないが……。
要するにエヴァがこの学園にいるのはその人のせいだと、こんな感じだ。

「大体貴様という奴はなあっ――!」

エヴァはまだ騒いでいる。
まあ、そんないつもの夜だった。






[3132] それが答えだ!はち
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/04/14 18:16
……作者取材のため今回の夢はお休みです。




第八話 こたつはもういいか



<また夢は無しですか……。このまま1年くらい無くて、忘れた頃に復活するんじゃないでしょうか……。ねえ、マスター?>
「お前の言ってる事は理解出来ないし、これからも理解することは無い、と言っておこう」
<つれないです……マスター>

いつもの様に意味不明なシルフは置いておき、俺は身なりを整える。
俺が今いる場所は学園長室前。
今日は副担任としての初出勤である。
一度学園長室で、担任の…………にぇ、にぇ……
<ネギです、マスター>
そう、そのネギ君と合流してから教室に行くらしい。

――コンコン

ノックをする。
数秒してから、中から

「……ナナシ君かね? ……合言葉(省略版)を」
「はい。……やめて下さいっ、お米屋さん! 主人が帰ってきますっ!」
「そんなこと言って奥さんの……以下略。入りなさい」
「はーい」

合言葉が承認されたので中に入る。

<いい歳した大人二人がこんなアホにたいな合言葉を考えている所を想像すると鳥肌が立ちます……。しかもその内の一人は私の主……それはそれでいいかも……>

いいのかよ。
こいつも大概変だな、知ってたけど。
……。
中に入るとじいさん、タカミチ、しずな先生、その他子供がいた。
……とするとこの子がネギ先生か。
一人の子供の手を取る。

「これからよろしくお願いします、ネギ先生」
「よろしくな~」
「ほっほっほ、それは孫のこのかじゃよ」
「知ってます」
「「「はははは」」」
<やっぱり頭が……>

お前に言われたくない。
どうやら俺が手を取った子供はじいさんの孫のこのかだった様だ。
……とするともう一人は

「よう、アスニャ」
「勝手にあたしの名前を猫っぽく変えるなっ! ……それにしてもあんた本当に教師に……」
「ああ……ってなんで知ってるんだ?」
「全くっ……こいつが教師になったり、こんな子供が教師になったり……絶対おかしいわよ」

聞いてないですね。
こいつは神楽坂明日菜、ツインテール、あと多分ツンデレ。
<分かりやすいですね>
何で教師になった事知ってんだろ?

「ナナシ君は元気~?」
「おお、超元気。このかは?」
「ウチも元気やで~」

この子は近衛木乃香、じいさんの孫らしい。多分将来は後頭部が伸びる。
<遺伝ですね>

……ということは残りの一人がね、にょ、にょ……
<ネギです>
そのネギ君か。

「じゃあ、このかとアスニャちゃんは先に教室へ戻っておりなさい」
「は~い、じゃあ後でな~」
「……分かりました」

二人が部屋から出て行く。

「では自己紹介といこうかの。ナナシ君、こちらがネギ君じゃ」
「は、はい! ネギ・スプリングフィールドです! よろしくお願いします!」
「は、はい。ナナシ君です、よろしくお願いするんだなあ」
<マスター、緊張して裸の大将みたいになってます!>
「え……あの、何か言いましたか?……女の人の声?」

急にシルフが口を挟んだのでネギ君が驚く。
……まあいいか。

「今喋ったのはコイツ」
<どうも~>
「……と、時計がしゃべってますっ」
「うん、まあそういうものだから」
「はあ……えっと、よろしくお願いします」
<シルフよん、よろしくね坊や。フフフ>

何で急に大人の女キャラを演じているんだ……?
うぜえ……。
どうでもいいけど。

「じゃあ、そろそろ教室へ行こうか」

タカミチが促して部屋を出る。
部屋を出る直前にじいさんが声をかける。

「では二人とも頑張るのじゃぞ」
「はい!」
「はいはい」

……移動中……


隣を歩いているネギ君が話しかけてくる。

「これからよろしくお願いします!」
「う、うん」
「ナナシ先生は……魔法の関係者なんですよね?」
「う、うん。まあね……」
「僕もなんです!」
「うん、知ってる……」
「え、えへへ。そうですよね」
「うん」
「えへへ…」
「……」

無言で歩く。
隣のタカミチが小声で話しかけてくる

「……なあ、ナナシ君」
「なんだ、タカミソ?」
「タカミソ!? な、何でネギ君に……その……妙に他人行儀なんだい?」
「他人じゃん」
「いや、そうだけどさ……なんていうか、いつも君はもっとこう……失礼じゃないか」
「お前も何気に失礼だな……」

まあ、気持ちは分かる。
いつもはもっと明るい俺がいつもと違うのが気になるんだろう。
まあ理由は一つだ

「……人見知りなんだよ」
「……えー」
<マスターは結構なレベルの人見知りですからね>
「いや、それでも僕と初めて会った時はいきなり『眼鏡に指紋付けていいですか?』とか聞いてきたじゃないか?」

そんなこと言ったっけ?
<言いました、ていうかやりました>
やったのか……。
……まあもう一つの理由は……

「……このぐらいの歳の子供と話したことないんだよ」
「あー、成る程」

正直どんな事話せばいいか分からないし、どんな調子で話せばいいのかも分からない。
変な影響与えるのもいやだしなあ
<マスターがそんな事考えていたとは……脱帽です。まあ私に帽子はないですけどねっ、えへへ!>
……。

「普通でいいんだよ。ネギ君は賢いしね、みんなと同じ様に扱ってほしい。変に意識しなくていいよ」
「そうか……うん、分かったよ」

普通にね、普通に。

そんな事を話していると教室についた。
ネギ君が深呼吸をする、緊張しているのだろう。

「じゃあ、僕が先に入って自己紹介をしますので、僕が呼んでから入って下さい」
「ああ」
「頑張れよ、ネギ君」
「うん、タカミチ!頑張るよ!失礼します!」

――ガラリ、ドサっ

ネギ君がドアを開ける……と同時に上から黒板消しが落ちてくる。

――ガンッ

更にバケツに足を取られる。

――タタタッ

こけた所を吸盤つきダーツが襲う。

――ガラララララララララン!

とどめに大量のタライが頭上から落ちてくる。

「ひ、ひでえ」

俺はその様子を教室の外から見て震えていた。

「はっはっは、このクラスはいつも通り元気だねえ」

タカミチが笑う。
俺、このクラスの副担任になるのか……怖い。
ぶるぶる

<あの、震えている所悪いんですが……タライ仕掛けたのマスターですよ?>
「……そういえばそうだった」

昨日セットしたんだった、忘れてたよ。

教室を見ると立ち上がったネギ君が自己紹介をしている。

「「「「キャーッ!!!カワイイッーー!!」」」

中から黄色い声が聞こえる。

「いや、照れるなあ」
<マスターが言われたんじゃないですよ、一応>

知ってるよ……。
いいなあ……俺もキャー、とか言われたいなあ。
インパクトのある自己紹介すればいけるかな?
っていうか何も自己紹介考えてなかった……。

「インパクトのある自己紹介をしようと思う」
<成る程……最初が肝心ですからね……いい事だと思います!>
「普通でいいと思うけどね」

タカミチが言うが無視。

「何か無いかな、インパクト」
<とりあえず、全裸で入ってみては?>
「成る程……確かにインパクトはある!」
<……一応言っておきますが冗談ですよ?そんな事したらインパクトと共にトラウマも植え付け、更にはマスターの恐れている人達がたくさん来ますよ>
「やっぱ却下で」

あいつらが来るのは嫌だ。
ほかにインパクトのある自己紹介は……

「だから、普通でいいと思うよ」

再びタカミチが言う……
……タカミチ?

「こういうのはどうだろう!」
<何やら名案が浮かんだ様子 !これは期待出来ます!」
「……どんな案だい?」
「まず、タカミチが教室に入る」
<ふむふむ>
「そして、『今日から副担任になるナナシです』と自己紹介をする」
<はいはい>
「そうすると誰かが言う、『何してるんですか、高町先生?』と」
<それで?>
「タカミチがこう言う、『何を言ってるんだ君たち?俺は……タカミチになっているーー!?』」
<へー>
「そして、『まさか!?さっき階段でぶつかった時に入れ替わったのか!?なんてこったい!』ってな」
<それでOPが流れる、と>
「うん」
「それで……?」
「いや、……うん、それだけ」
「そうか……」
「……」
<……>

変な空気になったな……。
誰のせいだよ……。

「ではっ、ナナシ先生入って下さい!」
「……!」
<マスターっ、呼ばれましたよ!>
「どどどど、どうしよう!? ま、まず、どうするんだっけ!?」
「落ち着くんだ、ナナシ君」
「え、えっとまず服を脱いでっ」
<脱いじゃ駄目ですっ!>

え、えっとどうするんだっけ!?
やばいパニックでわけが分からなくなってきた!
こういう時は端数を数えてっ、端数は!?
ヤバイヤバイ!

――ぽん

「……!?」

パニックに陥っている俺の肩を誰かが叩く。

「落ち着くんじゃ、ナナシ君」

その声は……じいさん!?

「で、でも俺!」
「ふぉふぉふぉ、いつもの君はどうしたんじゃ? ワシの知っているナナシ君はどんな時でも自身に満ち溢れておったぞ?」
「う……く」
「ふむ……それではワシがいい言葉を教えてあげよう」
「……?」
「……Do your best!」
「……!」

Do your best!
ドゥーユアベスト!
イマイチ意味は分からないが何て力強い言葉だ!
俺の中に言葉が染み込んでくる!
ふふふ……さっきまでの自分がバカみたいだ

「ありがとう、じいさん! 俺やるよ!一発ぶちかましてくるよ!」
「ふぉふぉ、それでいいのじゃ。やはりワシの目は狂っておらんかったようじゃ」
<早く入りませんか?>

じいさんが去って行く。
ふふふ、また助けられちまったなあ。
いつかこの恩は絶対返すぜ!

……。

扉の前に立つ。
もう俺に迷いは無い!

――ガラッ!

扉を開け、堂々と胸を張り歩く……そして教壇に立つ。
くっ……視線が集まる!
やはり多少は緊張するかっ……。

「――」

この視線は……茶々丸さん!?
視線を辿って教室の後ろの方を見る。
茶々丸さんはこちらをじっと見ていた。
その視線に篭った想いを感じ取る。
(頑張って下さい。ナナシさんなら出来ます。あと今日の夕飯は何がいいですか?)
そんな想いを感じ取る。
俺も想いを込めて茶々丸さんを見る。
(ありがとう、俺頑張るよ!あと、夕飯はカレーがいい!)
よしっ!
やる気は十分だ!
いける!!

「今日からこのクラスの副担任になるナナシです。ナナシなのに名前はある……不思議ですね。苗字は秘密です、知りたかったら我に忠義を示せ!これから一生よろしくお願いします!」
<……ダメでしたね>

シーン
クラスは静まりかえっている。
おいおい。
いや、すべったけどさ……。

「え、えっとじゃあ、ナナシ先生に質問のある人は?」

すかさず入るネギ君のフォロー!
やるじゃないか!

「「「……」」」

やはり静まっている教室。
なんだこれは?

「なんだよお前ら! いじめか!? これはいじめか!? 少しは反応しろよ!」

叫ぶと一人が手を挙げる。
この子は……佐々木まき絵だ。

「だってナナシくんさー……」
「誰がナナシくんだ!? 先生と呼べ! あと喋る前にはサーをつけろ!……やっぱりつけなくていい!」
「…………だってナナシ先生さあ……」
「おいおい、どうしたんだよまき絵? いつもみたいにフレンドリーにナナシきゅんって呼んでくれよっ」
「……も、もういいよ」

手を下げるまき絵。
やばい……緊張してわけわからんことを言ってしまった……

「じゃあ、私が」

小さい少女が手を挙げる。
……綾瀬夕映だ。

「おう、ゆえゆえ。なんだ?」
「その呼び方はやめてほしいです!……何でみんなが無反応か、それは……」
「それは?」
「先生が自分で言ったからです」
「……?」

意味が分からない。

「その顔は忘れている様ですね……。一昨日教室に遊びに来て自分でこう言いました、『俺が先生として来たら総スルーで』と」
「なんでそんな事を……?」
「自分で分からないのに私たちが分かるはずないです!」
「そうだな」

一昨日の俺は何故そんな事を……?
っていうかだからアスニャは俺が教師になる事知ってたのか……。

「じゃあ、もういいわ。それ無しで」
「「「……」」」

教室中から「なんなんだこいつ……」といった視線が集まる。
本当になんなんだろうな……。

「質問は?ほどほどに答えるよ」
「では私が」

手を挙げたのは茶々丸さんだ。

「なんだい、茶々丸さん?」
「明日の夕食は何がいいですか?」
「ハンバーグ!」
「分かりました」
「家でやれっ!!」

最後のはアスナだ。

「では、拙者に質問が」

次に手を挙げたのは糸目の忍者だ……長瀬楓だったっけ?
<たまに一緒にお仕事してるんだから忘れちゃダメですよ>

「質問でござるが……」
「朝はご飯派だ」
「拙者もでござる……ってそうじゃござりゃん!」
「ござりゃん!」
「……」
「質問どうぞ」

糸目が超怖かった。

「前々から思っていたんでござるが、師匠はエヴァ殿の家に住んでいるんでござるか?」
「ああ」

どうでもいいが、殿殿言われたら自分が偉くなった気分になるなあ。

「その……エヴァ殿と師匠の関係はどんなものでござるか?」

成る程……そうきたか。
関係ねぇ……なんだろう?

(おいっ、ナナシ!)

む、念話のようだ。

(なんだよ、じいさん?)
(違うわっ! 私だ私! じじいと間違えるな! 貴様の耳は腐っているのか!?)
(……う、家にエヴァはいませんが?)
(俺俺詐欺じゃないっ!)
(……なんだよ、エヴァ?)
(さっさと答えろ。さっきのヤツの質問だが……)
(ああ、関係がどうかって……)
(どう、答えるつもりだった?)
(いや、考え中。あ!今一つ案が浮かんだ、ヒモってのはどうだ!?)
(貴様はそれでいいのか!?……無難に親類とでも行っておけ)
(人類?)
(親類だ!)

何故か、イライラしていたエヴァとの念話を切る。

「俺とエヴァの関係だが……」
「ふむふむ」
「ただならぬ仲、とでも言っておこうかな?」
「ぬぬっ!?」

親類はただならぬ仲だよな?
<なんで、マスターはそこで誤解を招く発言を……>
その後で大体5千円くらいの仲かなって言おうとしたんだよ。

「貴様ぁぁっーー!!」
「落ち着いて下さい、マスター」
「エヴァちゃんと先生ってただならぬ仲なんだって」
「びっくりしたよねぇ」
「いや、私は前からそうと、睨んでいたわ!」
「ハルナが言うと嘘くさいです」
「はい、は~い質問!ウチとのお見合い、いつすんの~?」
「お見合い!?このかアイツとお見合いするの!?やめときなさい、全力でやめときなさい!!」
「なんだよ、こいつら!本当にうるせえなっ!」
「みなさ~ん!静かにしてくださ~い!」
「皆さん!ネギ先生が静かにする様に言っていますよ、皆さん!!」

なんか教室がとてもうるさくなった。
やれやれ、初日からこれでやっていけるのかね?
<その台詞絶っっっ対にマスターが言っていい台詞じゃないですからね?>



[3132] それが答えだ!きゅう
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/01/27 15:33
………。






第九話 そろそろこたつ片付けるかな……



<……。……また夢を見ませんでした。ふふっ、おかしいですね、元々私は夢を見るようには作られて無かったから、元に戻るだけなんですけどね……。でも、とても楽しい経験でした。束の間の夢ってやつですね……夢だけに。あ、今のうまくないですか、マスター?>
「……」
<無視ですかっ!?……はっ!?これは放置プレイの次の段階というやつですか!?……な、なんでしょうこの気持ちは……?無視されているはずなのに何とも言えない感情が……ま、まさかこれが!?>
「……え?……ごめん、聞いてなかったわ」
<……>


……。


「ネギ君最初の授業お疲れさま」
「はい!ありがとうございます!」

ネギ君が元気に返事をする。
俺とネギ君は無事に最初の授業を終え、二人で校内を散歩している。
授業の内容は……流石天才児というべきか、非の打ち所の無い授業だった。
途中、アスナの消しゴム砲撃による、ネギ君への授業妨害もあったが俺の武力介入により鎮圧された。
具体的にはアスナへの消しゴム砲撃によりこちらとの砲撃戦になり、俺が勝利をした。……決め手はなんだっけ?
<消しゴムの中に混ぜたパチンコ玉が直撃して、対象の沈黙によってマスターが勝利しました>
そうだ、さすがのヤツもパチンコ玉を混ぜてくるとは思っていなかったらしい……まだまだ甘い。
<普通は思わないですけどね……>

「とてもいい授業だったと思うよ」
「ありがとうございます!……ナナシ先生のおかげです!」
「……俺は何もしてないが?」
<本当に座ってただけですからね……>

うるさいな……。
いや、本当に言うこと無しの授業だったからな……。
何か問題があれば助言するつもりだったからな。

「その……ナナシ先生が隣で見ていてくれたから、とても心強かったので……」
「そ、そうか。力になれたのならよかったよ」
「これからもよろしくお願いします、ナナシ先生!」
「うん、こちらこそ。……そのナナシ先生って呼び方なんだけどさ……」
「はい?」
「もっと柔らかい呼び方でいいよ、俺もネギ君って呼んでるし。それに、呼び方を変えると親しみやすくなるだろ? 俺もネギ君とは仲良くしていきたいと思ってるからさ」
「そうですか?……じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!」

ネギ君は少し考えたあと……

「これからよろしくね、ナナシ!」
「ああん!?」
「ひぃっ!?」

つい睨み返してしまった……
……だってさいきなり呼び捨てにされるとは思わなかったからさ……

「……え、えっと……ナナシ……君?」
「……」
「……ナ、ナナシさん?」
「ああ、これからもよろしくなネギ君!」
<大人気ないですね……>

そんな話をしながら歩いていると中庭についた。

<あ……あれ見て下さい>
「……?」

シルフが指した方向を見る。
あれは……

「ほ、本が動いてる!」
<違いますよ、ちゃんと運んでる人がいます>
「あ、本当だ……あれは宮崎のどかさんですね」

もう生徒の名前覚えてるのか……凄いな。
俺なんか未だに覚えてない生徒いるからな……。

<凄い量の本ですね……流石あんなあだ名をつけられるだけはあります>
「あだ名か。確か……BOOKOFFちゃんだっけ?」
<本屋ちゃんです!なんですかそのありえないあだ名!?」
「惜しかったか……」
<惜しくないです!……大体そのあだ名だと中古本屋ちゃんになるじゃないですか。……中古本屋ちゃんってなんかいやらしいですね」
「すまん、俺にはどの辺がいやらしいのか分からん」

当の本屋ちゃんこと、宮崎は大量の本を抱えてふらふら歩いて、階段を下ろうとしている……危ないなあ。
……!
足を滑らせた!

「危ない!」
「シルフ!時間を止めろ!」
<はい!……ストップ・ザ・ワールド!!>

シルフの叫びが響く!

<……そんな能力がほしかったです>
「……俺も」
「僕が行きます!!」

バビュン、とネギ君が走り去る……速っ!
……間に合うか?
……。
……ナイスキャッチ!……今宮崎が一瞬浮いたような?

<魔法を使ったようですね>
「成る程」

キャッチされた宮崎は自分の現状に気づくと猛烈な勢いで顔を赤くした。この距離から分かるほど赤い。
宮崎はしきりに頭を下げ、ネギ君は顔を赤くしながら応対している。
これは……

<青春ですね~>
「ああ、俺的には赤春って感じだけどな、二人とも顔赤いし」
<それ、別にうまい事言えてないですよ>
「……」

ネギ君と宮崎は何かを話し、宮崎は去った。
……やれやれ。
それにしても非常時とはいえ魔法を使ったのはまずかったな……誰も見てないよな?
周りには……誰もいないっぽいな……

「シルフ、周囲に人は?」
<……>
「おい!」
<マスター……ばれた様です>
「なに!?……まさか楓の秘蔵のたい焼きを食べたことがばれたのか!?」
<いえ。そちらの方は茶々丸との隠蔽工作により今もばれていないようです>
「ふう……驚かすなよ。じゃあ何がばれたんだ?」
<――あちらをごらん下さい>
「……?」

まるでバスガイドの様な言葉に俺は素直にそちらを見た。
――そこには

「……げぇっ!?」
<……最悪ですね>

――アスナがいた。
アスナの顔は何か信じられないものを見たような顔だ。

「待て待て、まだ魔法を見られたとは限らん」
<いや、でもあの顔は……?>
「アレだよ、ヤツは偶々ここを歩いてふと思ったんだ……「私ってもしかしてバカなんじゃ……」ってな。その顔じゃないか?」
<それは無いです。バカがバカたる所以は、バカは自分がバカと気づいていないということなんですよ?>
「お前バカに恨みでもあんの?」

そうこうしているうちにアスナはネギ君に走り寄る……そして胸倉を掴みあげる。

<あれはさっきの事について問い質しているのでは?>
「あれは……「うわあ、ネギってかる~い」って感じじゃね?」
<そんなのどかな光景じゃないです!>

……やっぱり見られたんだろうな。
仕方ない。

俺は二人に近づいていく。

「おお!アスナさん、いきなり先公いじめっすか?流石はウチの学校のボス!そこに痺れるぜ!!」
<憧れますね!>
「誰がボスよ!?……あんたも近くにいたなら、さっきの見たでしょ!?」
「さっきのって?」
「だからさっき、このガキが魔法みたいなのを使ったところよ!」
「魔法?」
「そう!魔法よ!!」
「ふぅ……」

俺は腕を肩まであげ、やれやれなポーズを取り、この人は何を言っているんだろう、みたいな顔をした。

「なによ、その顔!?ムカツクわね……っていうか本当にその顔やめろ!!」
「ふう……なあアスナ?」
「なによ!?」
「魔法を見たって?」
「え、ええそうよ!」
「魔法?」
「……う、うん」
「魔法なんて本当にあると思っているのか?」
「で、でもさっき!」
「見間違いじゃないのか?」
「で、でも……階段から落ちた本屋ちゃんが急に浮いてネギが凄い速さで……」
「ただの風じゃないのか?突風で人が飛ぶなんてよくある話だろ?」
<そんな頻繁に人が飛ぶ世の中は面白いですね!>
「で、でもネギの凄い速さは……?」
「将来オリンピック出れるかもな!……どうだ、見間違いじゃ無かったか?」
「……そう言われてみれば……ただの見間違いだったかも……」
「そうだろ?」
「そ、そうよね。魔法なんて……あたしったら……」

よし!誤魔化せた!!
あとはぶんぶん振り回されて涙目のネギ君を……

「ほら、ネギ君大丈夫か?」
「う、うう~……。どうしましょうナナシさん!アスナさんに魔法使ってるところ見られちゃいました~!」
「このクソガキ!!あっさりバラすなよ!!」
「魔法!?やっぱりあたしが見たのは見間違いじゃなかったんじゃない!」
「ちっ、ばれたか」
「ばれたか、じゃにゃいわよ!!あんた達は一体何者なのよ!?」

うーむ……どうするか。

「おい。ネギ君」
「ど、どうしましょうナナシさん……」
「一般人に魔法がバレたらどうなるか……知ってるな?」
「は、はい。オコジョに……」
「そう、ちくわになる」
「ちくわ!?嫌です~!絶対に嫌です~!」
「あんた達何の話をしてんのよ!?」

アスナを無視してネギ君に問いかける。

「チーズちくわにはなりたくないか?」
「はい!絶対にいやです!」
「なら、やる事は決まっているだろう?」
「は、はい。……記憶を……」
「ああヤツを……埋める」
「ダメです!!」
「冗談だよ……さあ記憶を」
「はい」

二人でアスナに向きかえる。

「き、記憶?あんた達一体何を?」
「アスナさん……あなたの記憶を消させてもらいます」
「い、いやに決まってるでしょ!」

だっ、と振り返り逃走を図るアスナ――そうはさせん!

「きゃっ、なによ!?」

ガシリ、と後ろから羽交い絞めにする……ふふふ、この光景を見られたら確実に通報されるな……
<私がしておきましょうか?>
すんな!

「さあ!ネギ君、俺がコイツを抑えてる隙に記憶を……!」
「は、はい!」
「は、離しなさいよ!――誰か!!」
「くくく、さっき結界を張ったから誰も来ないぜ、へへへ」
<マスター、なんか輝いてますね……>

すぐ、近くに剣が突き刺さっている。俺が先ほど仕掛けたものだ、これで周囲10mに人は寄ってこない。

「え、えーと記憶を消す魔法……ぶつぶつ」

ネギ君が詠唱に入ったようだ……そうだ、ついでに!

「ネギ君ついでに、三日前のアスナのおやつのジャムパンが消えた事件、についての記憶も消しておいてくれ!!」
「は、はい!……ぶつぶつ」
「やっぱ食べたのあんたかー!!楽しみにしてたのに!」
「代わりにジンギスカンキャラメルを置いておいたぞ?」
「うるさいっ!絶対に殺す!!」
「ひぃっ!ネギ君、速く記憶を!!」
「ま、まって下さい!あ、あれ……おかしいな?」

押さえつけているアスナが暴れる!
なんだこの馬鹿力!?

「あ、暴れるな!なんなのこの力!?」
「殺す!殺す!殺す!」

あ、アスナの髪がネギ君の顔に……

「ふあ……へ、へ、へ、へっくしょんっ!!!」
「うわ!!」
「きゃあ!!」

ネギ君のくしゃみで突風が吹く……な、なんだこれ?
……。
風が止む…………何故かアスナは全裸だった……

「お、おい。お前なんで服着てないの?」
「え?……きゃあっ!何よコレ!?」
「ご、ごめんなさい!多分魔法が暴発して!」
「あんたのせいか!!くそガキ!」
「俺好きな人いるからさ……こんな所で迫られても困るよ……」
「誰が迫るか!?……もう、なんなのよぉ~」

う……アスナは半泣き状態だ。
仕方ない……

俺は門の中からソレを取り出すしてアスナの渡す

「ほら、これを着ろ」
「え……?あ、ありがとう。……この際なんであんたが制服を持っているかは気にしないことにするわ……」
「ああ、そうしろ」
「で、でも何であたしを助けるのよ……さっきはあんなひどい事しようとしたのに」
<これだけ聞いていると、マスター普通に犯罪者っぽいですね>
「うるさいわ!……いや、悪かったよ。少し俺もやりすぎたよ……とりあえず着替えてこい」
「う、うん」

アスナが近くの茂みの中に入っていく。

「やれやれ」
<あの、格好つけてるところ悪いんですが……マスターも服を着替えたほうが……>
「わお」

俺も全裸だった。
急いで茂みに入った。

「……予備のスーツあったっけ?」
<うーん、どうでしょう?エヴァさんの制服ならありますが?>
「サイズが合わんだろ!!」
<……その言い方だとサイズが合えば……何でも無いです。……スーツありました!」
「よし!」

再びスーツに着替えて茂みを出る。
遅れてアスナも出てきた。

……。

「どういう事か説明してくれるんでしょうね?」
「ネギま!を読め……冗談だよ、だから拳を納めろ」

振り上げた拳が僕にはとても恐ろしく見えた。

「……ネギ君説明してやれ」
「ええ!?……いいんですか?」
「仕方ないだろ……記憶消せないし」
「……はい」

ネギ君はアスナに事情を説明した。自分が魔法使いであること、最終試験で教師になるために来たこと、その他色々話していたが俺は途中で寝たので聞いていない。
……。

<マスター、そろそろお話終わりですよ?>
「……んん。ああ……おはよう。それでその恋人達はどうなったんだ?」
「え……?」
<何でもないです。それでアスナ……>
「……今の話本当なの?」
「はい……お願いです、アスナさん!このことは内緒にして下さい!僕この学園で教師を続けたいんです!」
「……」
「なあアスナ、俺からも頼むよ。別にお前に迷惑はかけない」
「……もう十分かかってるんだけど」
<別にいいじゃないですか、アスナ?私たちに不利益があるわけじゃないですし>
「なんであんたはこっち側なのよ!?……。……別にいいわ」
「本当ですか!?」

ネギ君は嬉しそうにジャンプした。

「――でも」
「デモストライカー!!」
「何よ!?」
「今思いついた必殺技だけど……?」
「脳内でやれ!……でも何か変な行動をしたら分かってるでしょうね?」
「は、はい!分かってます!」

ネギ君がビビリながら答える。
しかし変なことってどんなだろう?

<サマーソルトしながらラーメンを食べるとか……?>
「確かにそれは変だ……だがカッコイイ」
「あんたらうるさいっ!!」

……怒られた。
何はともあれネギ君はちくわにならずにすんだわけだ、よかったよかった。
それにしても……

「アスナ、お前はここに何しに来たんだ?」
「あんた達を探しに来たのよ」
<二股はどうかと……>
「告らないわよ!……あんた達の歓迎会をするからよ」
「あっ、さっき宮崎さんにも言われました!」
「ほら、さっさと行くわよ」
「はい!」
「サンダー!」
<ぱくらないで下さい!!>


――歓迎会会場――

アスナに連れられてドアをくぐり――
――パン!パンパン!
大量のクラッカーが鳴らされる。

「うわあ、すごいですね、ナナシさん!!」
「ああ、これは凄い」

会場には2-Aの生徒がいて机には大量の料理が乗っている、これは凄いな……。

「「「「2-Aへようこそ!!」」」」

大勢の生徒が迎えてくれる。

「ありがとうございます、みなさん!」
「みんな、サンダラ!!」
<ああ!勝手に応用しないで下さい!!>

複数にはサンダラで。

「とりあえず先生から何か一言!」

マイクを渡してくるのは……朝倉だ。新聞部だったな。

「じゃあ、ナナシ先生からどうぞ」
「ああ」

マイクを持つ……場が静まる。
うう、緊張するなあ……。
よし!

「言いにくいんだが……今日は俺の誕生日じゃないぞ?」
「歓迎会って言ったでしょ!?何でわざわざあんたの誕生日会を開かないといけないのよ!!」
「ガーン!」
<自分でガーンって……>

今のアスナの台詞は何気にショックだ……。
別に俺の誕生日なんてどうでもいいってか……ふふ。
落ち込むなあ……。

「ちょ、ちょっとなんでそんなに落ち込むのよ……あ、あたしが悪いみたいじゃない」

アスナがうろたえている。
何人かの生徒が近づいてくる。

「元気だしぃや~ウチは誕生日祝ってあげるで~」
「にんにん、拙者もおよばずながら」
「わ、私も」
「せっちゃん……」
「お、お嬢様!……失礼します!」

走り去る刹那……何をしに来たんだ……?
ともあれ、誕生日を祝ってくれる人はいるみたいだ……こんなにうれしいことはない。
再び立ち上がり……

「みんな、取り乱してすまなかった、今日はありがとう。存分に俺の誕生日会を楽しんでくれ!!」
「だからあんたの誕生日会じゃないって言ってるでしょっ!?大体あんた今日が誕生日なの!?」
「12月24日……」
「大分先じゃない!!……それにしても妙に縁起がいい日ね」
「……の半分」
「何で半分にするのよ!?――どちらにしろまだ先じゃない。もういいわよ、次ネギ」
「は、はい!」

ネギ君にマイクが渡る。

……。



会場をうろつく、生徒はそれぞれ楽しんでいるようだ。
おっ、あれは……刹那と楓と龍宮だ

「よう!バトルサンライズ!」
「何でござるか、その呼び方は……?」
「いや、ほら……侵入者と戦う三人でさ」
「ライズは?」
「刹那に聞いてくれ」
「わ、私ですか!?」
<すごいキラーパスですね>

急に振られておろおろする刹那、かわいそうに……。

「ラ、ライズは……あがるでしょうか……?」
「ははっ。ところで最近はどうだ龍宮?」
「え……あれ?」
「まあ、そこそこといったところだな。先生は?」
「ぼちぼちだな」
「フフ、そうかい」
「あ、あの……」
「どうした刹那?」
「……い、いえ。なんでもないです」
「少し聞きたいことが……」

楓がそういえばという顔で尋ねてくる。

「師匠、拙者のたい焼きを知らないでござるか?」
「知らんな。そもそもたい焼きが何か知らんわ」
「たい焼きとは生地に餡子を詰めて鯛の形にしたもので……」
「説明ありがとう刹那」
「あ、はい。どうも……」
「そうでござるか……」

やばいな……感づいてきてるな……。
こういう時は誤魔化すに限る

「何か言いたそうな顔をしてる刹那君」
「え、はい?」
「何か?」
「いえ、あの……ああ!」
「何?」
「あの、良かったら……また鍛錬に付き合ってくれると嬉しいのですが……」

うっ、いらん事をしてしまった。
刹那との鍛錬は本当にキツイ、特に模擬戦が尋常じゃない。手を抜くなんて考えられない。
最初の模擬戦で耳をもぎ取られそうになったからな……真剣にやってるってことだけどな……。
なんか、俺がやたら強いと思い込んでいて、いつも本気だからな……実際はかなりギリギリの所だと思う……剣士としては。
<マスターは剣士じゃないですからね>

「……駄目でしょうか?」
「いや、うん……そのうちにね」
「はい!ありがとうございます!」
「拙者も――」
「パス!」
「つれないでござる……」

……。
その後は適当に会場を周り家に帰った。


「ただいまー」
<ライブラ!>

ライブラ?
すたすた、と割烹着姿の茶々丸さんが歩いてくる。

「お帰りなせいませ、マスターがお待ちです」
「分かった」
<ホーリィィーーー>
「うるせえよ!」
<……すいません>

しゅん、とするシルフ……最近こいつがよく分からん。……昔からか。

リビングに入ると、エヴァがふんぞり返って座っていた。

「ふん、遅かったな。歓迎会とやらは楽しかったか?」
「……もうお婿に行けない」
「な、何があったんだ!?」
「想像にお任せします」
<まさか、マスターがあんな事になるとは……>
「だから何なんだ!?気になるだろう!?」
「食事の用意が出来ました。……いただきましょう」
「カレーだ!いただきまーす」
「おい、聞け!……くっ、私も行くべきだったか……」

……。
とてもおいしいカレーでした。



[3132] それが答えだ!じゅう
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/11/29 12:11
「な、なんだってーー!? 今度のテストで平均点最下位を脱出しないとネギ君がクビになるんだってーー!!?」
「……あのナナシさん、授業中に叫ばないで下さい……僕びっくりしちゃいました」

胸に手を当てて俺に言うネギ君。
そうか……今は授業中だったのか……。

キーンコーンカーンコーン

「あ、チャイムが鳴りました。……今日の授業はここまでです」
「テストが近いから勉強しとけよー」

クラスの生徒に向かって言う。
生徒はやっと授業が終わったと言わんばかりに散って行く。
そう、もうすぐいわゆる期末テストというものが始まる。
さらに厄介なことにこのテストで、最下位を脱出できなければネギ君がクビになってしまうのだ!

<マスターにも何かペナルティがあるんですか?>
「ふむ……俺はじいさんにデコピンをされる」
<キモイ関係ですね……>

さて、デコピンは嫌なので頑張るとしよう。




第10話 漂流教室



「……と、いうわけでお前らに残ってもらったわけだが!」

俺とネギ君の目の前には放課後にもかかわらず、数人の生徒が残っている。
別に今からこいつらがネギ君に告白したり、はたまた俺が告白されたりする修羅場だったりはしない。

「なんで、ワタシ達だけが残らないといけないアルかー?」
「そうよ! あたし達が何かしたって言うのっ!?」

アスナとクーフェイが不満そうに声を上げる。

「……本当に分からないのか? ここに集まっているメンバーを見ても分からないのか?」
「……!」
「……!」

何かに気づいたらしく二人は目を合わせる。

「師匠、拙者はちっとも分からんでござる」
「……」
「ここはズバリ師匠の口から皆に言って欲しいでござるよ」

ふむ……なるほど。
ここで己の立場というのを分からせておいた方がいいというわけか。

「何故お前らに集まってもらったか、それは……」
「「「それは……?」」」

教室がシン、と静まりかえる。
そして俺はゆっくりと口を開いた……

「俺が聞きたいぐらいだよ!!」
「何で逆切れすんのよ!? っていうかあんた知らないでここにいたの!?」
「うん、なんかネギ君に言われてさ」

授業が終わった時にネギ君に一緒に残るように言われたのだ。
なんで、こいつらだけ残っているのか皆目検討もつかない。
……いや待てよ。
ここに残っているメンバー……確か……

「ああ、思い出した! お前ら……えーと……無能戦隊バカレンジャーだったよな?」
「少し名前を付け足すな!」
「まあ、間違ってはいないです」

アスナの慟哭に綾瀬がぼそりと答える。
そうか……つまり……ここに残っているメンバーで……

「カンニングの準備でもするのか?」
「そんなわけ無いでしょ! 大体それなら、あんたとネギがいる意味が分かんないでしょ!」
「でしょでしょ、うるさいなあ」
<てっきり私はマスターとネギ君を懐柔する為と思っていました>
「実は俺も……。……じゃあ何のために集まっているんだ?」
「実は――」

ネギ君が俺に説明をしてくれる。
話はいたって簡単だった。クラスの平均点を上げるために点数が低い生徒を集めて勉強会をするようだ。
なかなか合理的である。
ネギ君がプリントを取り出し

「それじゃあまず、小テストをします」
「「「えー!?」」」
「つべこべ言わずさっさとおやりなさい! ……どう、今の委員長のモノマネ似てた?」
<23点です>
「47ピスカでござる」
「なんだその単位は?」

テスト用紙を配り少々待つ。
少しして綾瀬が歩いてくる。

「……何だゆえゆえ? トイレなら部屋を出て左だぞ」
「違うです! しかもそっちは男子トイレの方です! あとゆえゆえって言わないで欲しいです!」
「注文が多いなあ。……お前はあれか、あの……あれだ、あれ」
<思いつかなかったんですね>

何て言おうとしたのか自分でも忘れたよ。
トイレじゃないならなんだろう?

「できたです」
「あ、相手の男は!?」
「……」
<マスター、今のはナンセンスですよ>

こいつに駄目だしをくらうとは……不覚!

「……問題を解き終わったです」
「なんと!」

少々キレぎみの綾瀬から用紙を受け取る。
……むむ、これは!

「満点じゃないか!」
「それはどうも」

文句ないほどの満点でした。

「お前頭良かったのか……」
「本は好きです」
「何で成績悪いんだ?」
「勉強は……嫌いです」

まあ、気持ちは分からないでもない。
かくいう俺も勉強は大嫌いだったからなー。
本ばっかり読んでたしな。

<分かります! 私も勉強は大嫌いで、隙をみては教室から逃げ出してたりしましたよー。あと盗んだバイクで走りだしたり!>
「な、なんか時計に共感されてしまったです……」
「……まあいい。基本的に頭はいいみたいだし、少し勉強をすれば成績も良くなる」
「……そうですか」
「デコも広いしな」
「デコは関係ないです!」

さて、そろそろ時間か
ネギ君の方を見る。

「ネギ君」
「……あ、はい。終わりです、回収しまーす」
 
ネギ君の声でテストが終わり、一人一人生徒が前に来る。
最初は楓か。
……これは

「お前もっと頑張れよ……」
「面目無いでござる」

反省のポーズでうな垂れているが、こいつは絶対反省してない。

……。

次々に採点していく。
やっぱり全体的に悪いな……これはバカレンジャーとも言われるわ。
最後は……アスナか。

「どれどれ、バカレッドの力とやらを見せてもらおうか」
「ふんっ」
 
採点終わり
……これは……悪すぎる。
……っていうか0点ですか

「……」
「な、何よその目は?」
「いや、なんか……ごめんなさい」
「何で謝るのよ! いつもみたいに馬鹿にしなさいよ!」
「……うぅ」
「泣かないでよ! あたしが悪いみたいじゃない……」

そりゃ泣きたくもなりますよ。
俺の教え方が悪かったのかな……?
責任感じますよ……。

「し、師匠泣かないで欲しいでござる……。せ、拙者も死ぬ気で頑張るでござるから!」
「そ、そうだよ先生……私も頑張るから!」
「そうやって、うちも頑張るでー」
「お前ら……ていうか、このかはいたのか……」

俺が落ち込んでいると周りに生徒が集まってくる。

「ワタシも努力するアル!」
「わ、わたしも少しは勉強するです!」

なにやら盛り上がってきたようだ。

「……そうよ! いつまでもバカレンジャーなんて呼ばせはしないわよ!」
「ええ!」
「そうでござる!」
「うん!」
「そうアル!」
<いっちょやりますかー!>

俺の予想もしない所でバカレンジャーが一致団結しているようだ。
……よく分からんがやる気が出たのならそれでいい。

「じゃあネギ君、あとは任せたよ」
「え!? 帰っちゃうんですか!?」
「ああ、ちょっと用事がな」

ネギ君はとても心細そうだ。

「……僕に皆さんをまとめ事が出来るでしょうか?」
「ああ、出来るとも。俺が保証する」
「は、はい! 頑張ります!」
<ネギ君、少しは疑問を持ったほうがいいですよ……>
「では、さらば」

俺は部屋を出て行く。
中からは未だに生徒達の熱くたぎる声が聞こえる。
ふふっ、こいつらなら俺がいなくてもやってくれるだろう。




……エヴァの家……



「ただいまー」
<帰りましたよー>

ドアを開けて声をかける。
少しの時間をおいて茶々丸さんがやってくる。

「お帰りなさいませ。お先にお食事にしますか――」
「お前だーー!」
「きゃー」

無表情で声も棒だが、ノってくれる茶々丸さん。
昔これをやった時は素でスルーされたからな……。

リビングに入り腰を下ろす。

「おい! そこは私の頭だ!」
「おっと、失礼」

ほどよい高さに何かがあったので座ってみたら、エヴァだったようだ。

「遅かったな」
「ああ、テスト対策をしていたからな。……エヴァと茶々丸さんは大丈夫なのか」
「私は問題ありません」
「ふんっ、私にはテスト等どうでもいい」

おいおい学生が言うことじゃありませんよそれ。
いや、別にいいんだけどさ。
……そうだ用事だ。

「それで、用事って何なんだ?」
「ん……ああ、少し頼み事がある」
「今履いているのでいいのなら」
「誰がお前の下着などいるかっ!! おい、脱ごうとするなっ!!」

脱ぎかけたズボンを履き直す。
なんだ違うのか……

「じゃあ、なんだよ。……あとは女子寮に忍び込んで下着を取ってくるしか思いつかないが?」
「下着から離れろ! というかどこから下着の話が出たんだ!?」
「ズボンの下からだが?」
「やかましいっ!!」

ハーハー、と息を吐き威嚇してくるエヴァ。
下着の話で興奮するとは……まだまだガキだな。

「んで、さっさと本題に入れよ」
「貴様……まあいい。頼みというのはだな――」


エヴァの頼みは一行で表すと『図書館島に行って本を取ってきて欲しい』といったものだった。


「――というわけだ」
「……いや、いいんだけどさ。何で自分で行かないんだ?」
「……会いたくないやつがいるからだ」
「ふーん」

会いたくないやつね……まあいい。

「で……行ってくれるのか?」
「いいぞ」
「……」

俺の言葉にエヴァは少し呆けた顔をしている。

「何だその顔は……?」
「いや、あまりに素早い答えだったんでな……もっとしぶるものかと」
「たまにはお前のご機嫌も取っておかないとな」
「ほ、ほう……良い心がけじゃないか。お前がそういった従順な態度で私に尽くすのなら、いつか私の従者にしてやる事もやぶさかではないぞ」

顔をほんのり赤くして偉そうなエヴァ。
少々気に障るが……まあいい。

「それで、図書館島か」
「ああ……茶々丸、あれを」
「はい」

茶々丸さんが奥にひっこんだかと思うと巨大なリュックサックを背負って現れる。

「……なん……だと?」
「なにって……探索用の荷物だ」
「……俺、図書館に行くんだよな?」
「ああ、そうだが?」

最近の図書館はこんな荷物が必要なのか……?
俺が呆然としている事に気づいた茶々丸さんがエヴァに声をかける。

「あの、マスター」
「何だ、茶々丸?」
「ナナシさんは……図書館島の事を知らないのでは?」
「ん……ああ」
「……?」



……。




「はいっ、というわけでここが図書館島も深部というわけですけど!」
<はっ! 気がついたらいつの間に!?>

……というわけで俺とシルフは図書館島の深部にいる。
エヴァが語った通りここはただの図書館ではなく、一般生徒の立ち入りが禁じられている区域があるような場所なのだ。
トラップも大量にあったが、俺は以前危険な遺跡に何度も挑戦していたので、余裕の吉田くんだった。

<マスター、お尻に矢が刺さっています!>
「どうりで痛いと思った……」

まあ、割りと余裕で深部まで来れたのだ。
地図は持たされていたので迷うことは無くたどり着いた。
それにしても……

「すごい所だな」
<ええ、地下とは思えないです>

深部は地下にいるとは思えない様な場所だった。
俺たちの目の前には湖?があるし緑が生い茂っている。
さらにそこら中に本や本棚が散乱している。

「こんな中からどう探せと……?」
<難題ですねー>

エヴァから本のリストはもらっているが……どうしようもないじゃないか。
行けば何とかなる、と言っていたが……

――ガサッ

「――っ!」
<マスター!>
「ああ、分かってる!」

誰かが近くにいる……!
気配は少しずつ近づいて来て……

「おや? これはこれは、ナナシ君……でしたか? こんな所で会うとは奇遇ですね」
「あ、あんたは!?」

この声、覚えている!
確か留置所で隣にいた……

「ヴェイムス=ローゼンバーグさん!!」
「誰ですか、それは?」

違ったようだ……

<しかもそれ、マスターの脳内ストーリーの主人公の名前じゃないですか……>

そうだった……
ヴェイムス=ローゼンバーグ。35歳、職業は傭兵。
そちらの世界では知らない人はいない程有名な男である。
豪腕のヴェイムスと呼ばれこの男の名前を聞いた者は震えあがる。
数々の能力者が跋扈するこの世界で唯一能力を持たない傭兵である。
2年前、最強の傭兵と言われていた時間を操る能力者《セイジ=ドウナッテンノ》を打ち倒し、世界最強の傭兵となった。
本人の性格は至って温厚、よく女性にもてる。
特に熟女と呼ばれる歳の女性にもてる……が本人はロリコンの気があり正直複雑である。
……しかしそのロリコンというのも、昔最愛の妹を目の前で失ったという過去があったからであり……

「あの~、自分の世界に入っている所悪いですが、そろそろ話を戻していいですか?」
「えっ……ああ、どうぞ」

つい、いつもの悪い癖が出てしまったようだ。

「名前もう一度聞かせてもらっても?」
「アルビレオ=イマです」
「どうも……それでパレパレオスさんは何故ここに?」
<すいません……わざとじゃないんですよ>

何故かシルフが謝る。
……?

「いえいえ、分かってますよ。私がここいるのは、私がここの司書長だからですよ」
「始祖蝶?」
「それは素敵な生き物ですね」
<すいません……>

再び謝るシルフ。

「それであなた達は何故こんな所に?」
「ええ、実は――」

俺はここに来た経緯を話した。
といっても知り合いに本を探してくるよう頼まれたと言っただけだが。
あと、探し方が分からないということも

「――という事です」
「それはそれはご苦労なことです。ここで会ったのも何かの縁でしょう、同じ留置所にいれられた仲間ですし探すのをお手伝いしましょう」
「ありがとうございます」

……いやな仲間だなあ。

「それで、探す本とは?」
「これなんですが」

リストを渡す。
イマさんは一通り眺めたあと

「……汚い字ですね、心なしかどこかで見たような……」
「字に性格が表れていますな」
「それに本が……超上級魔道書に古文書、発禁された物……その知り合いはどういう人なんですか?」
「俺も良く分かりません、強いていうならツンデレですね」
「ツンデレですか……あとは《初心者の為のチョコレート作り》……魔道書のあとにお菓子本とは……」
<エヴァさん、いくらなんでも気が早すぎるのでは……>

何やらシルフがブツブツと言っている。
イマさんはさらに何かを見つけたようで

「最後にこっそりと、異常に綺麗な字で《萌えるロボット大全》が載ってますね」
「茶々丸さんか……」

何を考えてそれを書いたんだろう……ていうかあるのか?

「……分かりました、ここに載っている本ならあります」
「あるの!?」
「少し待ってくださいね、うーん」

イマさんは何やら目をつぶって唸っている。
……何をしているんだ?

「あ、見つけました……それっ」

――ポンッ

煙と共にイマさんの手のひらの上に数冊の本が現れる。

「おー、びっくり手品だ」
<すごいですね、マスターっ>

パチパチパチ

俺とシルフは拍手をする。
イマさんは少し照れくさそうに

「いやいや、大したことは無いですよ。ではどうぞ」

本を俺に渡す。
……っていうか

「……いいんですか、持って行って?」
「ええ、けっこうですよ。……あなたの知り合いにも目星はつきましたし」
「はい?」
「いえいえ、その知り合いさんによろしく言っておいて下さい」
「……はあ」

イマさんはふと何かに気づいたように

「もう少しお喋りをしていたかったんですが……少々用事が出来たそうです」
「そうですか」
「まだここにいるなら、食料はそこにありますのでご自由にどうぞ」
「ありがとうございます……色々と」
「いえいえ……それではまた会いましょう」

――ビカッ

以前の様に光を放つイマさん。

「うおっ」
<まぶしっ>

光が収まるとそこにはイマさんの姿は無かった。
何かよく分からないが助かったなあ。
よかった、よかった。

<あの、マスター……安心している所悪いのですが>
「何だ?」
<また、誰かが近づいて来ます!>
「またか!?」

気配を探ると確かに人の気配が近づいてくる。
それもさっきと違い複数だ。
……どこからだ?

<う、上です!>
「なんだってーー!?」

慌てて上を見る。
そこには見覚えのある顔たちが降ってきているところだった。

――ドボーン!

そいつらが目の前に着水する。
複数の水柱が次々と上がる。

「おや……師匠、こんな所で何を?」

ちゃっかりと陸地に着地していた楓が近づいて来る。

「それはこっちの台詞だ! ……と言いたいところだが先にあいつらを回収しよう」

湖に落ちた残りの奴らを指差す。

「それもそうでござるな」


……回収……


回収したヤツラは殆どは気を失っていた。
俺は最後に回収した綾瀬に近寄る。

「おーい、起きろー」
「……」
「もう朝だぞー、ゆえゆえー」
「……う」

おお、もう少しで起きそうだ。

「おーい、起きないと先生、いたずらしますよー」
<捕まりますよ?>
「う、うーん」
「それそれ、いたずらいたずら」

ごそごそ。

「……う……?」
「あ、起きた」
「か、顔が近いです! な、何やってるですか!?」
「もう終わった」
「え……一体何を……?」
「ふふふ」
「……そんな……うそです……初めてだったのに」

何やら勘違いをしているっぽい綾瀬がいるがまあいい。
誤解を解いたり、解かなかったりするのも人生だろう。意味は分からないが。

「ちょっと、何であんたがここにいるのよ!?」
「おお、アスナか」
「おお、じゃないわよ!」
「俺からも聞きたいんだが……テスト前のお前らがどうしてここに?」
「うっ……」 

気まずい顔をするアスナ。

「それはな~」
「このかもいたのか」
「ちょっとこのか!」
「ええやん、別に~」


……説明中……


「……つまりその魔道書を探しに?」
「そうやで~」

おいおい、団結したと思ったらこれかよ……。

「ネギ君もネギ君だよ」
「す、すいません」

しゅんとするネギ君。

「お前らなあ、そんな怪しげな物に頼らず勉強しろよ……」
「だって……」
「だってもdatteもない!!」
<何故英語……?>

目の前で座っている生徒達に熱弁する。

「大体そんなもので勝ってもうれしいのか!? お前ら悔しくないのか!? お前らは腐ったみかんだ!!」

とりあえずそれっぽいことを言ってみた。

「……そ、そうよね。あんな物で頭が良くなっても結局は自分の力じゃないのよね」
「そ、そうアル」
「拙者達が馬鹿だったでござる!」
「それは知っている」
「そうです、皆さん! ここで勉強をしませんか!?」

ネギ君が我意を得たりと言わんばかりに言う。

「ここなら、勉強する本にも事欠かないし、食料もあるみたいです!」
「それはいい考えです」
「そうね!」
「それがいいアル!」

何やら盛り上がってきたレンジャーズ。
デジャヴを感じる……。
それにしてもこいつらはノリやすいなあ。

「ナナシさんも手伝ってくれますよねっ?」
「え……ああ、うん」

ネギ君の熱心な眼差しについ頷いてしまう。

「それでは皆さん頑張りましょう!」
「「「おおーー!!」」」
「……」
<スゴイ急展開ですね>
「ああ」

……。


そこからの生徒たちは凄かった。
こいつら本当にバカレンジャーか、と思うほどの勢いで勉強をした。
正直少しひいた。
そんな時間が過ぎ……


……。


『待たんかーーーー』
「「「キャアーーー!!」」」

俺たちはゴーレムに追われて走っている。
もうなんか色々説明が面倒くさいのでそれでいい。

『それを返せーーー!』

それとはアスナが持っている本である。
ゴーレムにひっかかっていた物を佐々木が回収した物だ。

「きゃあっ!」
「綾瀬さん!」

俺の前を走っていた綾瀬が転ぶ……が追いついた俺が抱え上げる。

「大丈夫か?」
「ど、どうもです」

顔が赤い綾瀬。
風邪か……等とは、鈍感系の主人公ではないので思わない。
この年頃の少女が異性に接触したら顔も赤くなるだろう。

「見えた! エレベーターよ!」

先頭のアスナがエレベーターを見つけたようだ。
ふむ……

「おい、楓。綾瀬を頼む」
「了解したでござる。師匠は?」
「ちょっとな……パスっ」
「きゃああっ!?」

ぽーんと綾瀬を楓に投げる。

「ほいっ、キャッチでござる」

ナイスキャッチ。
再び走る。
俺は最後尾につく。

「みんな、速くエレベーターに!」

次々と乗り込んでいく。
……が

――ブーブーブー

ブザーが鳴る。

「おい、アスナ……」
「何で私を見るのよ!?」
「これを……ポイっとな」
「ああ!!」

アスナが抱えている本を捨てる。

「何すんのよ!?」
「怒られた……」
「まだブザーが止まらないでござる」

まだ重いのか……
なら……

「ナ、ナナシさん!?」

エレベーターの外に出る……ブザーは止まった。

「よし、さっさと行け」
「そんな!? 先生を置いて行けないです!」
「そうよ!」

ゴーレムは近づいてくる。

「いいから早く行けよ――ここは俺に任せて先にいけ!!」
<何で言い換えたんですか?>

こっちのほうがカッコイイからだ。 
まだエレベーターは出ない。

「ここは師匠に任せて先に行くでござるよ」
「何を言ってるの!?」
「そうアル!」
「僕が残って魔法で……」
「あんた今は使えないんでしょ! それに皆が見てる前で……」
「そ、そうでした」

ゴーレムは寸前まで迫っている。

「先生、危ない!」

仕方ない。
刀を取り出す。

「おい、起きろちーこ」
<……んー? ……おはよう>

ここに来る前から寝ていたちーこを起こし刀を抜く。

――ガガガガガガ!

『ぬおーーー!』

ゴーレムの表面に複数のキズが走り、その衝撃でゴーレムは後ろに下がる。

「え……今何したの!? 刀を抜いて……え……?」
「ほう、抜いたのが見えたでござるか? アスナ殿は中々目がいいでござるな。かくいう拙者もはっきりと見えなかったんでござるが。……斬ったのは8回、でござるか?」

鞘に刀を収めて振り返る。

「惜しいな、楓。……10回斬った」
「なんと!」
<あの、自信満々なところ悪いんですが……8回であってます>
「……」
「……」

まあいい。

「これでわかったろ? 俺はこんなヤツには負けないから。さっさと行け」
「う、うん」
「ナナシ君も速く帰ってきてな~」
「ナナシさん……」

ネギ君が真剣な目でこちらを見る。

「ネギ君、こいつらを頼んだぞ」
「は、はい!」
「先生……」
「綾瀬……俺帰ったらお前に言わないといけないことがあるんだ」
「……! ……は、はい、待ってるです!」

頬を染める綾瀬を真剣に見つめる。
アスナがスイッチを押しエレベーターのシャッターが閉まる。
俺は親指を立て

「アイム、ティーパック」

あの映画のラストシーンの様に言ったのだった。

「「「……?」」」

イマイチ伝わらなかったようだ……残念。
エレベーターはすぐに見えなくなる。

「さて……」

ゴーレムに向き直る。

『ちょ、ちょっと待ってくれんか、ナナシ君!』
「……分かってるよ」
『き、気づいておったのか……?』
「当たり前だろ」

現れたタイミングが良すぎるし、こちらを追うスピードも妙に不規則だし、何より攻撃してこないし……

『あの子たちの本気を見てみたくてのう』
「ははは。お前も案外世話焼きなんだな、エヴァ」
『違うぞい!? ワシじゃよ! 彼女に殺されるぞ!?』
「……え、あれ……じいさんだったのか」
<声で分からなかったんですか……?>


……。


その後、俺は転移で教室に向かった。
既に発表は終わっており、クラスはお祭りムードだ。

「なんだ、最下位脱出出来たのか……」
「そうです。トップですよ」
「ああ、綾瀬か」

いつの間にか綾瀬が側にいた。

「戻って来るの速かったですね」
「すぐ戻るって言ったからな」

良く見ると綾瀬の顔は赤い。

「それで……」
「なんだ?」
「その……私に言わなくいけないことって……」

……ああ、そういえばそうだったな。

「なあ綾瀬……いや夕映!」
「……! ……で、でもやっぱり教師が生徒にこういう事は……き、気持ちは嬉しいですが……」
「やっぱり駄目かな?」
「で、でも聞くだけなら出来るです!」
「そうか……じゃあ言おう」

いつの間にかクラスはシン、としている。
俺と綾瀬のただならぬ空気を感じとったようだ。

「実は……」
「はいです……」
「おでこにいたずらで『魔』って書いたの俺なんだ……お前起きなかったからさ……」
「……は? ……の、のどか、鏡を」
「……う、うん」

宮崎から鏡を受け取る綾瀬。

「――な、なんですこれは!?」
「すいません」
「言いたかったことってこれです!?」
「これです」
「う、うう。何て屈辱……! 勘違いした私がバカみたいですっ! というかのどかも何で言わなかったんです!」
「ご、ごめんね。先生がアレはファッションだって……」
「何でそれを信じるんです!?」

まあ何はともあれ、無事に期末テストも終わったし……

「一件落着!」
<いつか訴えられますよ……>



[3132] それが答えだ!じゅういち
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/07/12 00:11
……どっかの魔王城……


「ねー、ウェイちゃん?」
「なんじゃ、ダリア? ワシ3年振りくらいに起きて眠いんじゃが……」
「御主人様とシルフ見なかった?」
「む……そういえば気配が無いのう……」
「お城にはいないの」
「いつから姿が見えないのじゃ?」
「うーんと……これくらいっ」
「……3日か」
「ううん、3年ぐらいっ」
「何じゃと!? ワシが眠りについてからすぐではないか!」
「どこいったのかなあ?」
「お主、3年も城の中を探しておったのか……?」
「かくれんぼみたいで楽しかったよ?」
「……」


第11話 君と響きあうRGP!


「……なんか噂をされている気がする」
<奇遇ですね、私もですよ>
「まあ、いいか」
<そですね>

……。

さて期末試験も終わり、無事ネギ君はクビならずに済み、俺たちは何事も無く終業式を迎えたのだった。
そして……

「パーリィー?」
「無駄に発音がいいわね……」
「そや。無事にテストも終わったし、寮で打ち上げパーティーしよかって事になってん」
「なったんか……」
<楽しそうですねっ>

終業式が終わりどこか浮かれた気分の教室。
浮かれているのは春休みに入るからだろう。
そして俺の前にはアスナとこのかがいる。
話の内容はさっきの通りだ。
いいねえ、打ち上げ……青春してるねえ。

「それで何だ? 『皆でパーティーするけど、先生は一人寂しく家でテレビでも見るんですか?』……とか言いに来たのか? 馬鹿にすんなよ、俺にも予定はあるんだよ! エヴァと遊んだり、茶々丸さんと遊んだり……あとエヴァと遊んだり……あと、茶々丸さんと遊んだり……」
<マスター……>

シルフが悲しそうな声を俺にかけてくる……べ、別に泣いてないんだからねっ。

「な、何でいきなり泣くのよ……」
「ウチらはナナシ君を誘いにきたんやで~」
「……悪の道に?」
「違うわよ! パーティーによ!」
「何だ……それならそうと早く言えよ」
「……で、参加するの?」
「する!」
「よかったあ~」

このかが嬉しそうに微笑む。

「全員参加なのか?」
「えっとな~、エヴァちゃんと茶々丸さんは来ないみたいやなあ……残念」
「ふむ……俺が呼ぼう」
「ほんまに~?」
「まかせろ」

せっかくの打ち上げだし、全員揃った方がいいだろ。
さてと……

<呼ぶってどうするんですか?>
「携帯を使う」
<マスター、携帯持ってたんですか!?>
「まあな、便利だし。最近持つようにしたんだ」
<はあ、先進的ですねー>

携帯で先進的も無いだろ……。
まあいい。
えーと、どのボタンだっけ……?

<あの……私を見つめてどうしたんですか?>

……これか。
ポチっとな。

<な、なんですか!? 私からアンテナが出てきましたっ!>
「まあ、落ち着け」
<落ち着けませんよ! 携帯って私ですかっ!? いつの間にこんな機能を!>
「お前が寝てる時にさっくりと」
<マスターの鬼畜!>
「今度はワンセグをつけようと思う」
<勝手に機能を増やさないで下さいっ!>

シルフがかなりうるさいが無視してボタンを押し耳に当てる。

『はい、茶々丸です』
「俺だよ俺、俺。何ていうか……俺!」
<マスター、それ大好きですね……>
『何でしょう、ナナシさん?』

む……一発で当てられたか……やるな。

「何で俺だと分かったんだ?」
『ナナシさんの声を聞き間違えるわけがありません』
「……」
<顔が赤いですね、マスター>
「うるさいよっ」
『それで御用は……』
「茶々丸さんは今は暇?」
『はい』
「じゃあ、打ち上げパーティーするから寮に来てくれ」
『分かりました』

これで茶々丸さんは参加っと。
あとは……

「エヴァは?」
『今は浜辺で日光浴をしています。ナナシさんをお待ちの様です』
「分かった。じゃあ一緒に連れて来て」
『かしこまりました。では、後ほど』
「ばいばーい」

ボタンを押して電話を切る。
これでエヴァも参加、と。
アスナとこのかの方を見る。

「エヴァと茶々丸さんは参加だって」
「やった~」
「まあ、良かったんじゃないの」
「これで全員参加か?」
「いや、あとは……あ、ネギ」

アスナが見る方へ視線を向けると、ネギ君がトボトボと歩いていた。

「どうしたんだ、ネギ君?」
「あ……ナナシさん。あの……長谷川さんに打ち上げに参加を断られてしまいました……」

ネギ君の話を聞いていると長谷川はネギ君の誘いに対して『クラスの変人集団にはなじめない』と言って帰ったらしい。
変人か……。
確かにこのクラスは変人と言っても過言では無いメンバーが揃っているからなあ。
彼女の様に普通っぽい子は馴染めないのかも知れないな。
む……しかし俺はすぐにクラスに馴染めたな。
……。
……俺は適応能力が高いってことか!

「じゃあ、俺がちょっと話してくるよ」
「えっ、でも……」
「いいからいいから。ネギ君は色々と無理しすぎなんだよ。こういう時のために俺がいるんだろ?」
<マスターが極珍しくいい事を言いました! 明日はカエルでも降るんじゃないでしょうか……>
「は、はい……。じゃあ、お願いします」
「ああ。じゃあ、先に会場へ行ってくれ」
「頑張ってな~」
「……」

ネギ君の期待の篭った目とこのかの声援とアスナの不審に満ちた眼差しに見送られて、俺は長谷川のもとに向かった。

……。

「面倒だな」
<えぇー! いきなりですか!?>

シルフが愕然とした声をあげる。

「違う……歩いて行くのが面倒だって言ったんだ。パっと転移して行こう」
<そうですね……では転移を――>
「ドアの前に転移しろよ? いきなり部屋の中だと色々面倒だ」
<分かりました! ドアの前……ドアの前……はいっ>

シルフの声と共に目の前に人が通れるほどの門が現れる。
俺はそこをくぐり――再び門をくぐり世界に戻った。
俺の転移は一般的に使われる転移と違い……まあいろいろある。
無駄に条件が多いが出口はこの世界のどこにでも作ることができる。
……まあいずれは説明する事になるだろう。逆に言えば、説明しない事にならないだろう。

<はい、見事にドアの前に転移しました! かるーく褒めてくれたりなんかしちゃったりしてくれたらこれからも頑張る気が増し増しです!>
「……」

確かにドアの前に転移はしていた。
しかし……

「……」

後ろを見ると毎日使うアレが見える。
……確かにドアの前だ、間違いは無い。
しかしここは……

「トイレじゃないか!」
<そうですけど……なにか?>
「何で自分は正しいみたいな言い方なんだよ!? おかしいだろ!?」
<でもドアの前……>
「玄関に設置されてるドアの前だっ! ここもろに部屋の中じゃないか!」
<……70点くらいですかね?>
「0点に決まってるだろがっ!」

なんて自分に甘い採点だ……!
しかし、トイレの中はまずいな……。
いきなり部屋の中のトイレから人が出てきたら超びびるしな……。
俺だったら即通報するな。
まあ……なんとか……なるか?
ドアノブに手を掛け考える。
まあ、自然にトイレから出て、自然に挨拶すれば……まあ、有耶無耶になるだろ。
俺なら行ける……行ける!

ガチャリ

自然にトイレを出る。
そして自然に……

「いずれ生まれいずる生命達にこんにちは!!」
<全然自然な挨拶じゃないです! どこの挨拶ですか!?」

……。
……?
反応が無いな。
正面に目を向けると……

「よっしゃーー! 今日も私のブログがぶっちぎりのトップ!! このままNET界のカリスマになって、世界中の人間を私に跪かせてやるわーー! ほーほっほっほー!」
「……」
<……>
「『ちうたん今日も可愛いね』ですって!? そうよ! 私は可愛いのよ! つまり私は最強!!」

……成る程、通りで気づかないわけだ。
俺は無意識の内に後ずさる……おそらくヤツのオーラに当てられての行動だと考えられる。

ポキっ

「……!」

何故こんな所にお約束の様に枝が……!?
あ、小枝か……おいしいよね。

「だ、誰だ!?」

気づかれた!

「や……やあ、ちうたん」
<お、お邪魔してます>
「な!? お前らなんで……ってか何で私の部屋に!?」
「トイレと間違えて入っちゃいました」
「あり得ない言い訳をするな!」

あながち間違いではない。

「それにしてもいい格好だな……ククク」
<本当ですねえ、人は変わるもんですね……フフフ」
「なっ……!」

長谷川が自分の体をかき抱く様に体を隠す。
今の長谷川の格好はバニーガールだ。
教室に居る時のような大人しいイメージとは程遠い。

「ク、クラスの奴らに言いふらす気なのか……?」

長谷川が目に不安の色を滲ませて尋ねる。

「いやいや、そんな酷いことはしないよ……なあシルフさんや?」
<ええ、そうですよ……マスターは優しいですからね……フフフ>
「ちょっとお願いを聞いてもらえれば、この事は心の中に閉まっておくさ……ククク」
「! お、脅す気か!? 大人がやる事か!?」
「大人だからやれんだよぉ!!」

長谷川はほぼ半泣き状態だ。
自分の趣味をバラされるか、このまま大人しく俺の言う事を聞くかで葛藤しているのだろう。

「クソっ、最悪だ……こんなヤツが教師だったなんて……!」
「俺は『最悪のナナシ』の二つ名を手にいれた!」
<チャララーン!>
「何なんだよ!?」
 
さて……

「じゃあ、お願いだが……」
「待て! 私はまだ従うなんて言ってない!」

その言葉を無視して俺はブツを取り出し長谷川に渡す。

「じゃあコレを使って……あとは分かるよな、ちうたん?」
<マスターってば鬼畜ぅ!>
「……」

長谷川はブツを見て呆然としている。
そりゃそうだろう……あんな物を渡されたらな!

「これを……どうすればいいんだよ?」
「おいおい! カマトトぶってんじゃないぜぇ!」
<本当は分かっているんですよねぇ!?>
「……ぅ」
「しっかり俺達に見えるように頼むぜぇ!」

呆然としていた長谷川はゆっくりと腕を動かす。
その顔は羞恥心によるものか、紅く染まっていた。
……。
そして長谷川の腕の動きに一段落がつく。

「……こ、これでいいのか!」
「どれどれ…………オイっ!!」
「な、何だよ……!?」
「『ナナシ君へ』を忘れてるだろうが!?」
<『シルフちゃんへ』もですよ!!>
「……うぅ」

さらさらと慣れた手つきで色紙にサインを書いていく長谷川。
おそらくかなりサインの練習をしたものと思われる。

「……これでいいのかよ?」
「まあ、いいだろう」
<やりましたね! マスター!>
「サインゲットだぜ!」

俺は大事にサインを保管する。

「……何で私のサインなんか?」
「そりゃ、ファンだったからに決まってるだろう?」
「ファン!? 私の!?」
「ああ……まさかこんな身近に本物がいたとは……」
<お釈迦様でも思わないですねっ>

まさか長谷川が、あのネットアイドルのちうちゃんだったとは……。
正直心臓ドキドキしてますよ……。

「そ、そうか……私のファンなのか」

心なしか長谷川は嬉しそうだ。

「ああ、懐かしいな……。最初にちうちゃんががホームページを作ってな……」 
<ええ……。最初右も左も分からなかったお嬢ちゃんにネットのルールを教えて……>
「まさかネットアイドルの頂点に立つとは思ってもいなかったよな……」

ああ懐かしい。
あの頃たまたま寄ったサイトに明らかにネットを始めたばかりの少女。
初めてのコスプレ。
色んなことに一喜一憂。
あの時の少女がまさかここまで来るとは……父さん嬉しいよ。

「……おい待て」
「何だよ?」
「お前らの話を聞いていると私がホームページを作った頃から私を知っていることになるんだが……?」
<大きくなりましたね、ちうちゃん>
「絶対嘘だろっ!! 確かにホームページを作った頃からの知り合いで色々とお世話になって、今も個人的にメールのやり取りをしている人はいるけどな……お前らのハズが無いだろ!!」
 
ピロリロリーン

「今その人からのメールが来た! このホラ吹き教師が!! どれどれ……『こんにちは、ちうちゃんお元気ですか? 突然ですが今僕は君の目の前にいます、よろしこ byナナシ』……う、嘘だ!」
「どうも、力の一号ことナナシでーす」
<技の二号ことシルフでーす>
「二人合わせて……」
「<2000万パワーズでーす>」
「……」

ちなみにこれはネット上での持ちネタだ。
メールは大体一日5通程のやりとりだ。
最近オフ会の話題も出ている。

「う、嘘だ……こんなヤツらだったなんて……」
「オフ会どうする?」
「やるわけないだろ!?」
<既にこれがオフ会ですねっ>

俺が言おうとしたのに……!
しかしこの長谷川の呆然具合を見ていると不憫になるな……。

「なあ……」
「何だよ……!?」
「そんなにショックだったか?」
「当たり前だろ! 教師にバレるわ、ソイツが実は前からの知り合いだったんだぞ! 最悪に決まってるだろ!?」
「俺は嬉しかったけどな」
「……何?」
「だってさ、長谷川の知らない一面は見れたし……しかも前から憧れてた人だったし……」
「憧れてた……?」
「ああ、ずっと尊敬してたさ。ネット上とはいえそのまんまの自分を見せるんだ……とてもじゃないが俺には出来ない」
「そ、そうか……?」

長谷川の顔に微笑が浮かぶ。

「あのさ……長谷川が良かったらだけどさ」
「……?」
「改めて友達になってくれないか?」
「は……!?」
「こういうさ、ネットアイドルとか教師とか抜きにしてさ……そのままのお前と友達になりたい」
「お、お前……馬鹿じゃ……ねえの?」
「ダメか?」
「……」

長谷川は顔を伏せて小刻みに震えていたが……

「……条件がある」
「性転換だけは勘弁してくれないか……?」
「違うつーの! ……私がネットアイドルだと黙っていること」
「大丈夫だ、俺の口の堅さには定評がある……って隣の家の小池さんが言っていたからな」
「もう一つ」

スルーされた。

「ネット上では今まで通りにしろ」
「今まで通り?」
「ああ。……いつもみたいにどこが悪いとか……分からない所を教えろ」
「しょうがないなあ、ちうちゃんは」
「あとその名前で呼んだら殺す。……千雨って呼べ」

まあそんなわけで俺と千雨は友達になったわけだ。
まあ、まず最初にすることは……

「じゃあ行くか」
「は? どこにだよ?」
「打ち上げ!」
「おい! 引っ張るな!!」

俺は千雨の手を引き会場へ走ったのだった。
……。
……。
会場について
 
「おーい、待たせたな!」
「あ、ナナシ君!」
「遅いわよ!」
「あっ、千雨ちゃんも一緒だ! 本当に連れて来れたんだ!」
「流石師匠と言うべきでござるか」
「仮装してるアル」

クラスの輪の中に入る。

「長谷川さん! 来てくれたんですね!」

ネギ君が嬉しそうに聞く。

「べ、別に……暇だったから来ただけです」

ツンデレ度30ってとこかな……

「これで全員揃ったわけだな!」
「じゃあ、始めよか~」
「「「「わーい!」」」

そして2-Aとしての最後のパーティーが始まった。
いつもの馬鹿騒ぎと変わらないが皆楽しそうだ。
俺は会場をうろつく。

「おや……バトルサンライズ+1じゃないか」
「……+1は私の事ですか?」

でこっぽい少女の綾瀬が少々不機嫌そうにこちらを見る。

「何でゆえゆえはこっちいるんだ? 宮崎は?」
「あれです……」

綾瀬の指差す方を見ると宮崎とネギ君が一緒にいた。
何やら初々しさで固有結界が発生しているようだ……。
周囲10メートルには誰も近づけないみたいだ。

「……成る程」
「私としてはのどかが幸せならいいです……」
「むう、友達思いだな……チョコをあげよう」
「……どうも」

綾瀬にチョコを渡す

「師匠! 拙者も欲しいでござる!」
「何か一発芸を」
「心得たでござる! ……むー」

忍者っぽい構えをして唸る楓。
……一体何が出る?

「奥義――『一人扇』!!!」

3人に分身した楓が手を繋ぎ扇の形を取る。

「どうでござる!!」
「来世からやり直せ」
「酷いでござる! 今のは奥義と扇をかけて……」
「説明せんでも分かるわっ! 修行が足りん!」
「……しゅん」

糸目のままうな垂れる楓。
これをバネにして自己を磨いて欲しいという師匠の想いは伝わっているだろうか……?

「では私がやろうかな」

龍宮が俺の前に出てくる。

「え……お前もやるの、一発芸?」
「ああ、これで先生が認めれば、楓に勝ったことになるからね」
「……さいですか」
「じゃあ、これを投げてくれないか?」

龍宮は俺に大量の空き缶を渡す。
……一体どこから?
まあいい。
それでは……

「おりゃあ!」

宙に向かって缶を投げる。
それらは重力に従い地面に向かって――

「――ハッ!」

――落ちない。
缶は地面に付く寸前に何かに弾かれた様に浮かび上がる。
龍宮は二挺拳銃を構えて銃口を様々な方向へ動かしており、タンタンタンとその都度軽い銃声が鳴る。
タンタンタンと舞うように拳銃を振り回す龍宮は――まるで缶と踊っている様だった。

カランカランカラン

缶が次々と地面に落ちていく。

「残念……弾が尽きた様だね。……どうだったかな、先生?」
「前の楓がアレだっただけに一層スゴイと感じた。僕にはとても出来ない」
「小学生の作文みたいです……」

綾瀬が最もらしい突っ込みをくれる。

「いや、本当に見事だったよ……お前の缶踊り」
「……変な名前をつけないでくれるかな、先生」
「じゃあ、チョコをあげよう」
「報酬がチョコか……フフ」

何やら自分の発言に受けたのかクスクス笑う龍宮。
……あと、チョコを物欲しそうな目で見る楓が何とも言えない。

「じゃあ、次刹那な」
「えぇ!? わ、私ですか!?」
「お前以外に誰がいる?」

キラーパスにあたふたする刹那。
コイツこういう急なのに弱いな……。

「せっちゃん……」
「……!」

遠巻きにこのかが見ていることに気づいたのか刹那に変化が生じる。
これは……お嬢様にいい所を見せねば……ってとこかな?

「で、ではナナシ先生との真剣試合を……」
「アホか! 却下に決まってるだろ!?」

コイツは何かと俺と真剣で試合をしたがる。
何だろ……キリデレとかなのかな?

「えっと……それでは……あの……その……」

それしか持ちネタ(ネタと言えないが)が無かったらしく目に見えてパニくっている刹那。
……大丈夫か?

「刹那ー、こうなったら脱ぐでござるよー」
「脱ぐ……? ……脱ぐ、脱ぐ……脱ぎます……」

いい感じに混乱している刹那は悪魔の囁きに応じてしまう……。
スルリと服を脱いでいく刹那……ってあかんだろ!!

「待て刹那!!」

俺は刹那の前に飛び出す。

「せ、せんせい……?」

ぼんやりとした目がこちらを向く。
刹那は既に下着状態だ。

「やめるんだ、落ち着け……刹那」
「あ……先生、やっと試合を受けてくれるんですね?」
「えぇー、何言ってんの……?」
「私……嬉しいです」

頬を紅く染め、ゆらりと刀を構える刹那。

「流石に何かオカシイだろ!?」

いくら混乱しているとはいえ、これはおかしい!

「やはり、先ほど混ぜた酒がまずかったでござるか……」
「まずいに決まってんだろうが!!」

またこの馬鹿忍者か!

「いや、凄くおいしい……らしいでござるよ?」
「そういう事言ってんじゃねえよ!」

つまり今の刹那は酒に飲まれているってことか……。
笑止!
いつもの刹那ならまだしもこんなフラフラの刹那に負ける気はしない!

「いいぜ、相手してやるよ……」
「先生……!」

下着姿で顔が赤い刹那に相対する俺。
この状況で国家権力の介入があれば申し開きは出来ないだろうな……。

「いきます……!」

フラフラとおぼつかない足取りで近づいてくる刹那。
しかしその足取りから考えられないほどのスピードで接近してくる。
神鳴流は伊達じゃない……ということか。

「……」

対する俺は今さらながら何も武器がない事に気づいた。
遅すぎである。
シルフはおそらく反応が無いのでおそらく寝ている。
ちーこは家。
ふふふ……死んだかも……。

「ざ、ざんがんけーん」

ガキンッ

刀は俺のわずか数cm横を凪ぎコンクリートの地面に突き刺さった。
刹那は俺に倒れ込む様に密着している。
この距離からだと何をしても回避できない……!
……死んだな。
ベッドの下のアレ……はフェイクで机の二重底に隠してアレを何とか処分してから逝きたかった……。
……。
……。

「……?」

おかしい……次が来ない。
……っていうか刹那が全く動かない。

「……zzz」
「寝とるー!!」

俺はベタベタな突っ込みを入れてしまった。
そりゃベタベタなネタだったからね……密着しているだけに……。

「zzz……すいません先生……むにゃむにゃ」

こいつどうしよう……?

「ナナシくーん」
「……このかか」
「ウチがせっちゃん引き取って行くわー」
「そうか……頼むよ」
「ええよー」

引っ付いていた刹那を剥がしてこのかに渡す。
このかはそのまま木陰に刹那を連れて行き……膝枕をした。
……起きたときが楽しみだ。
さて命は助かったしまずは……

テクテクテク

ズビシッ

「い、痛いでござるよ、師匠!!」
「デコピンで済んだだけましだと思え!」

これで良し。
全く酷い目にあった……。
周囲を見渡すとさっき集まっていたヤジウマクラスメイトは既に散ったようだ……速いな。
む……あれは……

「茶々丸さん」
「ナナシさん……先ほどはご無事でしたか?」
「ああ余裕だよ。茶々丸さんは楽しんでる?」
「はい、とても楽しく思います。来て良かったです」

そりゃ良かった、誘った甲斐があったよ。
良くみると茶々丸さんの後ろには露出度の高い小柄な少女がいる。
……ていうかエヴァか。

「エヴァ……何で茶々丸さんの背中に? 茶々丸さんの背中にいても世の中のしがらみから解き放たれることは決して無いぞ?」
「……」

ズイっと茶々丸さんが移動する。
つまりそこには当のエヴァが残るわけだが……

「何で水着なんだ……?」

エヴァは水着だった。
さらに無理して真っ赤なビキニなんぞを着ている。
さらにさらに体を隠すように腕を使っているため犯罪の香りがする。
個人的に犯罪の香りは柑橘類の匂いがすると思う。

「別荘で日光浴をしていたらいつの間にか眠ってしまってな……気が付いたらここにいた。……フフフ」
「ふしぎ!」
「貴様が茶々丸に指示して連れて来させたんだろうが! おかげでヤツラのいい笑いの的だ!」
「射撃訓練の的よりはマシだと思うが……」
「……ッ!」

ゲシリ

エヴァの見事な蹴りが俺の水月に決まった。
でも、俺は頑張って我慢した……しかし頑張って我慢すれば良いというものではなく前のめりに倒れた。
3秒で立ち直った。

「化け物が……」
「ひ、ひどい言い方だ!」
「ところで……」

俺の水月をさすりながら茶々丸さんが俺に尋ねる。

「シルフさんが静かですね?」
「そういえば、いつものやかましいのが聞こえないな」
<……>

……?
確かにさっきから妙に大人しい……。
ああ……!

「電池入れ替えるの忘れてたよ」
「電池で動いていたのか!?」
「ああ、単三電池二本でな」
「目覚まし時計かっ!!」
「いや……時計ではあるんだけど……」

そんなこんなで2年の3学期は終わった……。


……どこかの魔王城……
……誰かの部屋……

「ふむ……部屋に大規模な魔力行使をした痕跡が残っているのぉ」
「なるほどー」
「おそらくその魔力行使が原因でどうにかなったんじゃろう」
「ど、どうなったのかな」
「木っ端微塵に――」
「う…………うえぇぇぇん!!!!」
「じょ、冗談じゃ! 泣くでない!」
「……ほんと?」
「ほ、本当じゃ! ワシを信じろ!」
「う……うん、分かった……」
「ほっ……(魔王の子守も大変じゃのう)」
「さいきんは一人でさみしかった……」
「勇者とやらはどうした?」
「左の方に困ってる人がいる――ってはしっていったの」
「左て……あちらの方で魔物が発生した様じゃな」
「ご飯一人で食べるのはさみしい……」
「……まあ、ヤツらが帰ってくるまではワシが相手になってやろう」
「やった!」
「……それにしてもこの魔力量は一体?」



[3132] それが答えだ!じゅうに
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/07/12 00:16
……どこかの魔王城……


魔王城……にはあまり見えない城のある一室に二人の少女がいた。
片方は10にも満たない年頃に見える少女でありメイド服を着用している。
もう一人の少女はメイド服の少女より多少歳は上に見える。

「おそらく何らかの魔力行使でヤツが消えた事は分かったのじゃが……」
「じゃが?」
「どんな魔術かさっぱり分からん」
「あちゃー」

メイド服の少女……ダリアがこりゃ参った、といった顔をする。

「ワシは人間の魔術に詳しく無いからの」
「こまった、こまった」
「そういえば、自称大魔法使いの小娘はどうした?」
「『旅に出ます、探さないで欲しいですの』って手紙があったよ」
「……肝心な時に役が立たない小娘じゃ」
「どうしよう……」
「……」
「……」

しばらく無言が続くが、ふと浴衣姿の少女……ウェイが

「む、待てよ? あやつなら何か知ってるかもしれんな……」
「あやつ?」
「地下にゆくぞ!」
「う、うん」

二人は部屋から走り去る。



第十二話 YAOH



春休みも終わり新学期を翌日に控えた夜のことである。
ちなみに春休みは色々な事があった。
主にエヴァと茶々丸さんと遊んだ。
色んな真実もあった。
超鈴音という生徒を、俺は今までサイヤ人的な鈴音と思っていて超鈴音2や超鈴音3がいるものだと思っていたが実は違う事を知った。
何を言っているか分からないかもしれないが俺も良く分からない。
……。
あと千雨とオフ会をした。俺とシルフと千雨、それに昔からサイトに来ていたハンドルネーム『みいたん』も近くなので誘った。待ち合わせである喫茶店で俺達3人(シルフ含む)を待ち受けていた『みいたん』は予想もしていなかった人だった!!
ていうか近衛近右衛門こと、じいさんだった。いい年して『みいたん』って……。
しかもネット上では完全に女だったからな……。
さらに孫同伴だった。理由は『一人で行く度胸が無かったんじゃ……』とのこと。何なんだよ、あんたは……。
オフ会自体は楽しかった。千雨が色んな意味でブチ切れて大いに盛り上がった。
色々楽しかった春休みだった。
そんなこんなで新学期の前日、俺は自室の机に向かい一心不乱に筆を動かしていた。

「うーん、イマイチだなあ」
<マスターはネーミングセンス無いですからね>
「何だとっ!?」
<やーめーてーくーだーさーいぃぃぃ!!>

俺は不届きな事を言うシルフの鎖の部分を持ちグルングルン振り回す。
全く、失礼なヤツだ!
俺がグルングルンに熱中しているといつの間にか部屋に人影があった。

「こんばんわでござるよ、師匠」
「楓か……ノックぐらいしろよ」
「急に入って来られたら、何か困るでござるか?」
「……色々あるんだよ男には。……あと、どこから入ったんだ?」

部屋のドアが開けられた形跡は無い。

「もちろん窓からでござる」
「……玄関から入れよ」
「普通に入るとエヴァ殿に追い出されるんでござるよ」
「あー……」

何か目に浮かぶわ、その光景が……。

「で、何か用なのか? 金なら無いぞ?」
「いやいや、ただ遊びに来ただけでござるよ?」
「遊びにってお前……いや、いいんだけどさ……」

ホイホイ生徒が家に遊びに来る先生はどうなんだろうか……。
最近は色々と問題になってるしな。
まあ、生徒と一緒の部屋で暮らしている先生もいるしな、大丈夫だろ。
<マスターも生徒と同じ家に住んでいるんですが……>

「ところで何をしているんでござるか?」

楓が俺がさっきから向かっている紙を指す。
……と思ったら既に楓の手元に紙があった。……速いな。
楓は紙をも見て読み上げる。

「どれどれ……『真紅の稲妻』、『魔術師の赤』、『赤い水棲』『レッドクライム』……何でござるか、これは?」
「二つ名だが?」
「誰のでござるか?」
「俺の」
「……そんな風に呼ばれていたんでござるか?」
「いや、呼ばれたいんだ」
「……?」

何を言っているか分からないという顔をする楓。

<つまりですね>

シルフが補足説明をする。

<マスターはこんな二つ名で呼ばれたいんですよ>

全然補足になってないな……。

「いや、言いたい事は分かるんでござるが……何でまた?」
「ふふふ、これを見ろ」

俺はパソコンの待機状態を解いて楓に見せる。
ちなみにこのパソコンはハカセが誕生日の日にくれた。
配線やセットアップは茶々丸さんがしてくれた。
何壁紙は、茶々丸さんの恥ずかしそうな顔で写った水着姿で固定されており変更できない。
……いや、いいんだけどね。

「これは……何でござるか?」
「凄く有名な魔法使いの情報が載っているサイトだ」
「……魔法使い?」
「ああ」

楓は再び何を言っているんだこの人は、みたいな顔をした。

「……魔法使いは……いるんでござるか?」
「ああいる。実はけっこういるよ」
「拙者、世間知らずでそんな事知らなかったでござるよ」
<魔法の事はバラしたらいけないのでは……?>

そういえば、そうだった……。
バレたらチーズにされるんだっけ。
今さらだが、何でこんな簡単に魔法使いに情報が手に入るんだろう?
パソコンの性能がいいのかな? そういうもんでも無いか……。

「今の情報はオフレコで」
「……分かったでござる」

これで大丈夫だろ。
つーかえらくあっさり信じたな……。

「それでこのサイトがどうしたんでござる?」
「ああ。見て分かる様にこういう有名な人達には大体二つ名がついているんだ」
「それがどうしたんでござる?」
「俺もカッコイイ二つ名で呼ばれたいんだ!」


それで戦闘前とかに『神速の騎士、ナナシ――参る!』とかやりたいんだ!
それを聞いた敵は『神速の騎士だと!? あの伝説の!? こりゃ敵わなねえや! ヒイィーー!』みたいな感じになる。

「というわけでカッコイイ二つ名を考えていたのさ」
「……そうでござるか」
「俺のオススメはこの『神速の騎士』……カッコイイだろ?」
「……」

楓は微妙な表情だ。何でだろ?

<却下です>
「何でだよ!?」
<マスターは別に神速でも無ければ、騎士でもないじゃないですか>
「え……無いとダメなの?」
<ダメですよ! それだと詐欺になるじゃないですか!>
「……うーん」

難しいなあ。みんなどうやって考えてるんだろう……?

<私の案はどうでしょう?>
「どんなのだ?」
<……『時を支配する時計』……鳥肌立ちましたっ>
「立たねえよ! お前も詐欺じゃないか! しかもそれお前がメインになってるじゃねえか!?」

ちなみに今さらだが『レッドクライム』はベッドでグースカ寝ているちーこの案だ。
最近西洋かぶれが酷くなってるなあ……。
あと刀のくせに俺のベッドを占領しているのはどういう事だろう……。
やいのやいのと言い争っていると楓が口を挟んできた。

「そもそもでござるが……」
「せっぱ」
「……」
「何だよ」
「普通そういった二つ名の様なものは自分で広めるものじゃないと思うでござる」
「え、そうなの?」
「自分では知らぬ間に広がっているものでござるよ」

なんだ、自分で決める物じゃないのか……。
てっきりネットとかに『デスメガネのタカミチだ……これからも応援よろしく!』ってな感じで広めるものかと思っていたよ。
二つ名を決めたら千雨に手伝ってもらって広めるつもりだったよ……危なかった……。

「いや、助かったよ楓」
「礼には及ばんでござるよ。ん? ……この御仁でござるが……」

楓がパソコンの画面の一部を指す。
楓が言っている人物は……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。

「エヴァ殿?」
「ばっか、ちげーよ。全然ちげーよ!」
<二回違うんですね>

全く……あんな生意気小娘と一緒にするとは……。

「……違うでござるか?」
「全然違うって! たまたま名前が一緒なだけだろ?」
「……」

楓は何か言いたげだ。
サイトには写真が載っておらず、どんな顔形か分からない。

「その人スゴイだろ? 600万ドルの賞金首で悪の中の悪! でも女子供に手は出さない! 『闇の福音』『人形使い』『不死の魔法使い』……もうなんていうか……ハンパねえよ!!」
「そんなに有名人でござるか」
「ああ。こっちの世界でこの人知らないのはモグリだぜ!」
「ほー」
「もう俺超リスペクトでサスペクトでアスベスト、みたいな!?」
<マスターがどんどん頭悪い人になります……>
「ハア、ハア……」

少し興奮しすぎたようだ。
しかし、やはりかっこいい。
いつか会ってみたいなあ、どんな人なんだろう……?

さて……。

「じゃあ帰れ」
「酷いでござるっ!?」

楓はわさび入りシュークリームのロシアンルーレットに挑戦したがわさびでは無く砂鉄が入っていた、みたいなリアクションをした。
……どんなリアクションだろう?

「そりゃ無いでござるよ師匠!」
「つーか、今何時だと思ってるんだよ」
「……9時でござるが?」
「寝る時間だろ?」
「早いでござるよ!」

え……早くないだろ?
俺いつも平日の前の日はこの時間に寝るんだが……。

「小学生でござるか!?」
「いや、わりといい歳したお兄さんですが?」
<おっさんと言わない辺り、マスターのプライドを感じ取れます>

まあ俺は永遠の17歳だからな、気持ち的に。

「俺は寝るからさっさと帰れ」
「……むう、分かったでござる。では明日学校で」
「ああ、前みたいにカツラ外したまま登校すんなよ?」
「カツラじゃないでござる!」

楓はそう言って、窓から飛び降りた。ここは2階だ。以前俺が同じ事をしたら足首がグキッてなった。
あの時はエヴァに大笑いされるわ、茶々丸さんにお嬢様抱っこされるわ大変だったな……。

「じゃあ、明日に備えて寝るか」
<おやすみなさい、マスター……zzz>
「早いな!?」

即効で寝たシルフはおいといて一つ重要な問題がある。
ベッドを占領しているちーこだ。
ちーこは一度寝ると何らかの力が働いているのかその場から動かせない。
持ち運んでいる時は普通なんだが……。
しかもちーこは寝る時下着だけで寝る派らしく、服(鞘)をつけていない。
仮に俺がこのままベッドに入れば、明日にはバラバラ死体が一つ出来上がっているかもしれない。
ここで俺が選ぶ行動は……

1.俺は漢じゃいっ!!……とベッドにイチかバチか入る
2.リビングのこたつで寝る
3.むしろエヴァの部屋で寝る
4.実は茶々丸さんの部屋で寝る
5.寝ない
6.寝る寝る詐欺
7.寝るという行為は本来、人間に必要な機能なのだろうか……?

さて……他にも選択肢はあるだろうがこんな感じになってしまった……。
1はまあ置いておくとして、2は……風邪をひきそうだな。
3は……何がむしろなんだろう? ……だが一つの手でもある。エヴァが寝た後にこっそり忍び込めば……どうなるだろう? 意外に普通にいけるかもしれないな。
4は……何かドキドキするな……。何だろうこの胸のトキメキは……? ……や、やっぱりダメだ、そんな事出来ない!
5は問題外だな。
6は……何これ? こんな感じかな? 『おい寝るぞ? 本当に寝るぞ? いいのか、ほんとーうにいいのか? 後悔しないか? じゃあ寝る……嘘だよ!』……こんな感じかな。
7は今の考えている事を根底から覆す考察だな……。
……。
……そんな事を考えていたら既に11時を回っているっっ!?
やばい……早く決めなければ!
<サ、サンダー……zzz>
……3だ!
何やら天からの啓示を受けた気がする!
よし3で行こう!
よしダッシュ!!


……エヴァの部屋……


と、いうわけで簡単に侵入できたわけだが。
いつみても人形だらけの部屋だ……あ、前に俺があげた熊のぬいぐるみ(名前はクマったなあ)が置いてある。
なんだ、大切にしてくれているのか。
さてベッドにエヴァは……いないな。
おかしいな……? 他の部屋に居ない事は確認済みなんだが。
……まあいい、寝よう。
……。
こ、これは中々のふかふか具合!
ね、眠気が……

「ふぁぁ……zzz」

……。
……。

「ふう、今日の獲物は足が速くて疲れたな。……む、布団が暖かい。……茶々丸が温めておいたか? フフ、気が利く従者だ」


……次の日……


「ふぁぁ……よく寝た」

なかなか良い目覚めだ。
よし、顔を洗いに……

「ぐえっ!」

なんかカエルを踏んだ様な感触が……

「っ! ……一体なんだ……ってオイ!」
「なんだよ?」
「なんだよじゃない! 貴様が何故私の部屋のベッドにいる!?」
「逆だ、お前が俺の部屋にいるんだ……全く、寝ぼけて部屋を間違えたか?」
「な、何? そうなのか……」

私としたことが……と顔を赤くしてキョロキョロと辺りを見回すエヴァ。
そして……

「どこからどう見ても私の部屋じゃないか!?」
「ですよね」

誤魔化せないか……。
そもそも昨日の俺は何でこんな事を考えたのだろう……?
あまりに眠かったからかな?

<おふぁようございます~>
「ああ、おはようシルフ」
<おはようございます、マスター……ってエヴァさんがいますっ!! 昨夜はお楽しみでしたか!?>
「違う! 何故私の部屋にいるのか説明しろ!!」
「そんなこと……男の子から……言わせる気?」
「キモイ事を言うなっ!!」

ガツンッ!

見事な裏拳だ……。
鼻血が滝の様に流れているよ。

「マスター、どうかいたしましたか?」

騒ぎを聞きつけた茶々丸さんが部屋に入ってくる。

「こ、これは……!?」

プンスカ怒っているエヴァ
鼻血を流している俺。
そして……

「よりによってこんな体型のマスターに……。私に言って下さったら……」
「どういう意味だ!?」

茶々丸さんの台詞のどこかにカチンときたらしく、エヴァが吠える。
ついでに茶々丸さんの中で俺は小さい子を愛する類の人間になってしまったようだ。
仮に茶々丸さんにそれらしい事を言えば、何かそれらしい事が起きるのだろうか……? ……何かドキドキしてきた。
……収集がつかなくなりそうなので説明をしようか……。

全く新学期の初日の朝から大変だなあ。








……どこかの魔王城……


「この部屋だったかの?」
「うん」

ギィー、とドアを開ける音が地下に響く。
ダリアとフェイの二人は目的の人物に会うため地下に来ていた。

「……相変わらず趣味の悪い部屋じゃ」
「また、ぬいぐるみ増えてる」

入って早々ウェイが言う。
部屋には大小様々なぬいぐるみが散乱していて一見可愛い物好きの少女の部屋である。
……だがその雰囲気を壊す物体が部屋の中心に存在した。
それは棺桶であった。
フェイは迷うこと無くその棺桶を蹴る。

「さっさと起きんか!!」
「きゃん!」

棺桶の中から少女の声が聞こえる。

「うう、いたいっす……。……我の眠りを妨げるのはだ~れ~だ~!!」
「そんなのはよいから、さっさと出てこんか!!」

再び棺桶を蹴るウェイ。
彼女の服装は浴衣であり激しく蹴ると色々危うい。
ガタン、と棺桶の蓋が開く。
姿を見せた少女は小学校高学年もしくは中学校に通っているであろう年頃の少女であった。
着ている物は一般的にセーラー服と呼ばれるものである。

「一体なんなんすか~? もう少し眠りたかったんすけど……」
「やっとお目覚めか、吸血鬼」
「おはよー、みっちゃん」
「あやや? これはこれはお久しぶりっす、ウェイさん。もういいんすか?」
「ん? ……ああ。十分に力は蓄えた、後10年はこちらにおれる」
「そうっすか……よいしょ」

のそりと、みっちゃんことミネルヴァが立ち上がる。

「それでお二人さんは自分に何か用っすか? 自分としては久しぶりに先輩の姿を拝見したいな~、なんて思ってるんすけど」
「その先輩とやらのことじゃ」
「……何かあったすか?」
「実はの――」



[3132] それが答えだ!じゅうさん
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/07/26 02:48
「ナ……ナナシさん? ナナシさんですよね!?」
「……ん?」

魔法世界のとある町で、俺は懐かしい声に呼ばれた気がして、立ち止まり振り向いた。

「やっぱり! ナナシさんだ!」
「……君は?」

俺の前に立つ青年は……見覚えが無いな。
……いや、この赤毛、どこかで……?

「僕ですよ、僕!」
「あの、詐欺とか……本当にいいんで……お金無いし」
「違います! 忘れちゃったんですか……? ぼ、僕ネギです……」
「え?」

ネギ? あのネギ君? 俺が知っているネギは、一緒に教師をした男の子とすき焼きに入れる物しかないが……。
目の前に立つ青年。幼さが残る顔立ちだが、目には強い意思が篭っている。
……この目は……

「ネギ君……? 麻帆良で一緒に教師をした?」
「そうです! 良かったあ。覚えていてくれたんですねっ」
「でも俺が知ってるネギ君はもっと小さくて、いわゆるショタ系?って感じだったし……」

お姉様に大人気だったからなあ。……別に羨ましくは無いよ?

「ショタ系って……。もうっ、あれから何年たったと思ってるんですかっ? 10年ですよ。僕だって立派な大人ですっ」
「む、そうか……」

10年か……。もうそんなにたつんだな。
とするとこの青年は本当にネギ君らしいな。

「久しぶりだなネギ君。随分立派になったな」
「えへへっ。ナナシさんだって…………全く変わってないですね」
「そうか?」
「はい。……本当に変わって無いですね。服装が少し……独特になったみたいですけど」

ぼそりと付け加える様に呟くネギ君。
今の俺の格好は全身は覆う黒いコート。
昔の俺からしたら考えられないだろう。

「それよりネギ君」
「はい?」
「君の噂は聞いてるよ。白き翼のこと」
「知ってるんですか?」
「ああ。本当に立派になって……」

白き翼。あの紅き翼の後継者とも呼ばれ始めている集団。
その活躍振りは俺の耳にも届いている。

「ありがとうございますっ。でも皆がいてくれるからですよ」
「ははは、そういう所ネギ君は変わってないなあ」
「えへへへ」

和やかなムードになる。
ネギ君は立派になった。……それに比べ俺は……

「そういえば今までどうしてたんですか? あの時の3-Aが卒業した後、エヴァさん……師匠達と急にいなくなって……。皆心配してたんですよ? 楓さんや刹那さんなんか凄く落ち込んで……。今でもたまにナナシさんの捜索に行ってるんですよ」
「……」

ネギ君の少し責める様な口調にほんの少し後悔する。
いや……それでも俺達は間違っていなかったはずだ。
……それにしても楓と刹那か。
最近誰かに嗅ぎ回られていると薄々感じていたが……。
もう少し気をつけた方がいいな。
沈黙を保つ俺に気を遣ったのかネギ君は話題を変える。

「そ、そういえば挨拶してなかったですねっ。お久しぶりです、シルフさんっ」

ネギ君は俺の首に掛けてある時計に向かって挨拶をする。
……。

「……」
「あ、あれ? 寝ているんですかね? あはは……」
「……それはシルフじゃない」
「へ?」

時計を握りしめる。
昔ならシルフの喜びの混じった悲鳴が聞こえただろう。
だが、それは二度と無い。
今の俺の顔はどうなっているんだろう?
……きっと歪んでいるんだろうな。

「シルフはもういない。これは俺のただの未練であり残骸だ。……不甲斐なかった俺の」
「え……あ、その……」
「……すまない。この話は――」
「い、いえ! 僕こそ、なんか、聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいで……」
「君のせいじゃないよ」

俺は笑う。
おそらくは笑っている様に見えるだろう。
でも、俺が本当に心から笑える日はきっと来ない。
シルフがこの世界に存在しない。
ただそれだけの事で俺は笑えなくなった。
かわりの笑うマネは上手くなったが。
いなくなってから気づいた。俺はシルフがいないとこんなに弱いということを。
陳腐だが失ってようやく分かる大切さというヤツを。
再びネギ君が話題を変える。

「し、師匠はお元気ですかっ? 今の僕なら師匠に勝てるかも……なんちゃって、えへへ」

エヴァか。
これは伝えるべきなんだろうか?
いや、いずれ分かってしまうことだろう。

「エヴァは死んだ」
「え?」

ネギ君は今言われた事が全く理解出来なかった様な顔をする。

「死んだ。エヴァは死んだ」
「も、もうナナシさんっ。冗談でもそんな事を言っちゃダメですよ? 師匠にまたボカーンってされちゃいますよっ?」

ネギ君は腕を大げさに振り笑う。
……信じないか、当然だな。

「俺がじいさんに頼んで隠蔽してもらっている……が、もう限界だろう。最近どちらの世界でも噂が流れ始めている。真実が分かるまでそう時間はかからない」
「……う、嘘です」
「残念だが本当の事だ」

俺はネギ君の顔をまともに見れない。
エヴァが死んだ原因は……俺のせいでもある。

「だ、誰が殺したんですか……?」

ネギ君は誰が殺したと言った。
俺はまだ死んだとしか言っていない。
ネギ君の耳にも噂は入っていたんだろう。

「知らない方がいい。それに知ってどうする?」
「……仇討ちをします」

ネギ君の顔を見てしまう。
悲しみと憎しみと怒りが混ざった複雑な顔だった。

「君には無理だ」
「どうしてですっ!?」
「ヤツは強い。君の力では無理だ」

一瞬でやられた。
あのエヴァがだ。
おそらくヤツを倒せる人間……生物等、この世には存在しないだろう。

「僕を子供扱いしないで下さいっ!! 僕は強くなりました!! 仲間だってたくさんいます!!」
「……」

激昂するネギ君をぼんやり眺める。
こんなネギ君を見たのは初めてかもしれない。
エヴァが死んで感情を抑えられないのだろう。

「今の僕なら師匠にだって勝てます! それぐらい力を手に入れたんです!! ナナシさんにだって…………負ける気はしません! だから教えて下さい!!」

俺に詰め寄ってくるネギ君。

「やはり……教えることは出来ない」
「なんでっ!?」
「それは俺の役目だからだ」
「なにをっ――――ぐうっっ」

どさり、と突然ネギ君が倒れ落ちる。

「……」

気を失っているようだ。

「……大丈夫でしたか、ナナシさん」
「ああ」

倒れたネギ君の背後から現れたのは茶々丸さんだ。
ネギ君を昏倒させたのも彼女だろう。

「危険を感じましたので無力化しましたが――ネギ、先生?」
「そうだ」
「……私としたことが」
「いや、助かったよ。ありがとう」

あのままだと色々危なかった。
……。
ネギ君を近くの宿に預け再び町に出る。

「……そうでしたか」

歩きながらさっきの事を説明する。

「ああ、驚いたよ」
「……私も驚きました。ネギ先生がこんな所に」

驚いたと言っている茶々丸さんの顔は相変わらず無表情だ。

「それで情報は?」
「はい。……ヤツの居場所が分かりました。確かな情報です」
「……そうか」

ここまで長かった。
中々尻尾を掴ませないヤツを、やっと追い詰めた。

「茶々丸さん」
「はい」
「多分、これが最後になると思う」
「……そうですね」
「無理して俺に付き合う必要はない」
「……」
「エヴァの仇は俺が取る。だから――」

帰ってくれ、そう言おうとした。

「マスター」
「――!」
「今のマスターはあなたです。私は従者、主と共に在る存在です。」
「……そうか」
「はい。あなたにどこまでも付いていきます」

でも俺は知っている。
彼女にとってマスターはエヴァ一人だと。
エヴァの仇を取りたいと。
……俺と同じ気持ちだ。

「じゃあ、行くか。……茶々丸」
「! ……はい」

俺達は町を歩く。
復讐の為に。
そんな事をしても無駄って事は分かっている。
……それでも止められない。
ヤツをこの手で殺すまでは。




第13話  たった一つの冴えたやり方





<――という夢を見たんですよ>
「前振りが長いな」

ここはエヴァ家リビング。
時間は早朝、登校前だ。
ちなみに今日から新学期である。
3人(なんとなくシルフは外す)で席につき朝食をとっていると、聞いてもいないのにシルフが昨日の夢を語りだしたのである。
何回も言うが、時計は、夢を、見ない。
しかしスゴイ夢だな。まるで劇場版だ。似たシチュエーションのアニメを見た気がする。
「もう、君にラメーンを作ってあげる事は出来ない」……こんな台詞が出るアニメだ。
夢の内容を聞いた他のヤツはどうなんだろう。
エヴァは……

「私が死んでるじゃないかっ!? なんて夢を見ているんだ、このバカ時計がっ!!」

エヴァはご飯を盛大に撒き散らしシルフを罵った。

<べ、別にいいじゃないですか、夢なんですし…………って私も死んでますっ!!>
「お前、今気づいたのか」

夢は自分の願望を表すと言うが、コイツ自殺願望でもあるのか……?
……いや、悲劇のヒロイン願望か。

「マスターは何故お亡くなりに?」

いつの間にか俺のご飯をよそいながらシルフに尋ねる茶々丸さん。
……ご飯のお代わりが欲しいと思った瞬間に茶碗が回収された様だ。
侮れない……!

<はい。ヤツが初めて現れた時「何だ貴様は? 死ねいっ! ふはは! この私に喧嘩を挑むからこうなるのだっ!! ふははは!! ……。 ――何!? 無傷だと……!? 馬鹿な!? 私より……強い!? そんな事認められるかーっ!! ぐふっ……この私が、こんな、ヤツに。ナナシ……私は貴様の事を……ガクリ」ダイジェストでこんな感じです>
「滅茶苦茶かませ犬じゃないかっ!! ふざけるな貴様!!」
<ちなみに私は銃弾からマスターを守り昇天しました。美しい死に様ですっ>
「それ今考えただろうっ!? このバカ時計が、表に出ろ!!」

ご飯粒やら、納豆やら、味噌汁やら色んな物を口から飛ばしつつ立ち上がるエヴァ。
その全てが俺の顔面にかかっている。
そしてそれを茶々丸さんが拭き取ってくれる。
いわゆる一つのループ現象である。
今、まさにリアルファイトに発展しようとしているこの状況はどうしよう?

<あ、もう学校の時間ですよ>
「誤魔化すな!」
「いや、本当だ。そろそろ出ないと」

新学期から遅刻するわけにはいかん。

「ちっ、帰ったら覚えておけよ……」
<それはネギ君の台詞ですよ、ふふふ>
「私の台詞だ!!」
「……マスター、そろそろ」

茶々丸さんがウマイ事場を収めて(収まってないが)登校する。
……。


「ではナナシさん、後ほど」
「さっさと行け」
「じゃあな、二人とも」

学校で二人と別れ職員室へと向かう。
入ると声を掛けられた。

「やあ、ナナシ君」
「……?」
「……タカミチだよ、君の同僚の」
「いや、知ってましたけど?」

同僚の眼鏡の人と挨拶をして席に行く。
少しして

「おはようございますっ、ナナシさん!」
「……何故子供が?」
<マスター、それマジですか? ネギ君ですよ?>
「じゃあ、そろそろ行くかネギ君」
「はいっ」

二人で教室に向かう。
最近記憶力に自信が無くなってきたな……。
……。

「地震なんて怖くないという自身の強さに自信が無くなってきた」
「……はい?」
<どうかしましたか?>

何となく呟いてみたダジャレは誰にも聞かれなかった。
……恐ろしくつまらないダジャレだったな。
……。
ネギ君と雑談をしながら教室へ向かう。
……教室の中が妙に静かだな。
ネギ君がドアを開けると……

「「「3年!!」」」
「「「A組!!」」」
「「「ネギ&ナナシせんせーーーい!!」」」

にぎやかな声に迎えられた。

「じゃあ、授業始めるか」
「スルーっ!? 何か反応しなさいよっ!!」

アスナが声高々に言ってくる。

「うるせえ、愚民が」
「愚民!?」
<マスターの機嫌は急激に変化するので注意です>
「あと、授業じゃなくて……身体測定です」

……。
……。

「す、すいませんでしたっ!」

ネギ君が顔を真っ赤にして教室から出て行く。
身体測定をするので服を脱ぐ様に言ったところ生徒にからかわれたのだ。

「ネギ君可愛かったねっ」
「顔真っ赤にしちゃってえ」
「あんなに慌てなくてもよろしいのに……大丈夫でしょうか、ネギ先生……」

委員長が何ともいえない顔で呟く。
何ともいえない顔がどんな感じの顔か、何とも言えないので俺に説明することは出来ない。

「おいおい、委員長。ネギ君の事がそんなに心配なのかいっ?」

面白いのでからかってみる。

「そ、それはネギ先生は子供ですし、こういった事でトラウマになってしまうかもしれないと思ったからで……」
「いいんちょはネギ君大好きだねっ」
「私も好き好きーっ」
「くひゅーくひゅー」
<マスター、口笛吹けてませんよ>

委員長は真っ赤になり

「もうっ、先生っ、からかわないで下さい!」
「ははは、ごめんごめん」
「まったく……」

まんざらでもない委員長。
この子はショタコンなのかな?
ショタコンって何の略なんだろう?

<ショータ君こんこーんっ>
「むかつくアニメ声を出すな」

教室はいつの間にか『桜通りの吸血鬼』とやらの事件の話になっている。
話を聞く限り桜通りで最近起こる吸血鬼を模した変質者の事件らしい。

「気をつける事だな、神楽坂明日菜。吸血鬼は貴様の様な無駄に元気のいい女子を狙うらしいぞ、ククッ」
「ふ、ふーん」

エヴァがアスナを脅かしている。全くアイツは……
アスナも口では強がっているが内心怖がっているみたいだ。
大丈夫か?

「おい、アスナ。あまり気にするなよ」
「な、なによ。あんたがあたしに気を遣うなんて珍しいじゃない。そ、それに別に怖くなんて無いわよっ。逆に吸血鬼に会ったら蹴っ飛ばしてやるわよっ」
「ははは、それでこそアスナだ」
「ふん。……でも心配してくれてお礼は言っておくわ。……ありがとう」
<な、なんてツンデレ反応っ! 化け物ですかっ!?>

何故かシルフが尋常じゃなく震えている。
シルフ曰くアスナとエヴァのTP(ツンデレパワー)はエヴァが圧勝しているらしい。
しかしアスナには秘められた潜在能力があるとか……。

「べ、別に生徒の事を心配するのは当然だろっ。勘違いすんなよっ?」
<しかし、マスターのTPも侮れないっ! 私はどうすればっ!?>

どうもしなくていいと思う。

「か、勘違いなんてしないわよっ。全くたまに先生らしい所見せたと思えば――ってオイ!!」
「アスナ殿がノリ突っ込みをしたでござる!」
「アスナやるなあ~。でももっとスナップ効かせた方がいいで~」

このかに突っ込み云々言われてもなあ。
説得力が無いこと山の如しだ。

「そうじゃなくてっ! あんた!!」
「俺が何か?」
「何当たり前の顔して教室にいるのよっ!?」
「……じゃあ不自然な顔でいる事にする」

難しいな。

「そういう事じゃないっ!! 身体測定をする教室になんであんたがいるのよ!?」
「そ、そういえばそうです……!」
「ほんまやな~」
「あまりに自然だたので気づかなかったでござる。拙者も見習わなければ」

言われてみればそうだな。
だからネギ君はあんなに急いで出ていったのか……。

「じゃあ、俺も身体測定すればいいんだろ?」
「早く出て行けっっ!!!」
「ギャインッ!!」

アスナに思い切り蹴られて教室の外の飛び出す俺。
ネギ君が駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫ですか? 犬の悲鳴みたいなのが聞こえたんですけど……」
「まあ、生きていればこんな事もあるさ」
<人生は辛いですね……>


……。
俺とネギ君は廊下で身体測定が終わるのを待っている。
やる事が無いのでネギ君とシッペ・デコピン・ババチョップゲーム(地域により多少差がある)をしていたらデコピンでネギ君がマジ泣きした。反省した。
あと、好きな人の話をした。「俺はいない。ネギ君は?」と繰り返していたらネギ君がマジ泣きしたのでやめた。反省した。
そんなことをしていると向こうから生徒が走って来た。相当焦っているようだ。
な、何があったんだろう?

「先生先生! 大変やねん!! まき絵が! まき絵が!」
「おい和泉少し落ち着け」
<深呼吸ですよっ>

とりあえず落ち着かせる。

「う、うん。……すーはー」
「落ち着いたか?」
「うん……まき絵が……」
「落ち着くんだ。まず、まき絵なんて生徒この学校に在籍していないんだよ……」
「しとるわっ!! 先生が落ち着いてや!!」
「落ち着いて下さい、二人とも! 和泉さん、まき絵さんがどうしたんですか?」
「う、うん、まき絵が――」
「一応言っておくがさっきのは和泉を落ち着かせようとしてだな……」
<マスターは黙っていた方がいいと思います>


ドアを開けて保健室に入る。
そこには……

「間に合わなかったか……っ!」
「そ、そんなあ!」
「先生。寝ているだけですよ」

ベッドの側に座っているのはしずな先生だ。
嘘みたいだろ……? こいつ寝てるんだぜ……?
話を聞く限りこいつは桜通りで倒れていたらしい。
集まってきたクラスメイトは落ちたものでも食べたんじゃね?と言って安心している。安心しちゃいかんだろ。
寝ているだけねえ……。
……!
こいつは!
何かに気づいた俺に気づいたらしいネギ君が声を掛けてくる(ややこしいな)

「ナナシさんも気づきましたか?」
「ああ。ネギ君も?」
「はい。これは――」
「ああ、まき絵って佐々木の事だったんだなあ」
「そこですか!? さっき本当に分からなかったんですか!?」

さっきとは和泉が走って来た時だろう。
まき絵まき絵と連呼されても分からなかった。
俺は苗字、もしくはあだ名でしか名前を殆ど覚える事が出来ないんだ。
……これが契約の代償。

<その代償は初耳ですね>
「ああ。でネギ君は違ったのかい?」
「はい。まき絵さんの首筋から少しですが魔力の反応が……」
「なにぃ!?」
<私も気づいてましたよ>

魔力の反応!?
つまり……

「佐々木が魔法使い……っ!!」
「違います!! いや、違わないかもしれないですけど! ……犯人が魔法使いなんだと思います!」
「やはりそうか」

桜通りの吸血鬼の犯人は魔法使いか……。

「警戒しておいた方がよさそうだな」
「はい! 僕も見回りをしますっ」

少女を襲い、吸血鬼のマネ事をする犯人。
さらに魔法使い。
くっ、犯人は一体どんな変質者なんだっ!?
犯人はこの中にいるのか!?

<黒い全身タイツの人が犯人ですね>
「あー、あるある」

とりあえず、俺はどうするべきか……。
今後の展開に大きく影響する気がする……!








……どこかの魔王城……


「つまり先輩達が失踪したと……」
「そういう事じゃ。この部屋を見て何か分からんかのう?」
「うむむ……。さっぱりっす! 自分魔法とか詳しくないっすから」
「……役立たずが」
「何か言ったっすか?」
「役立たずがと言ったのじゃ」
「なんですとー!」
「やるのか?」
「や、やらないっす」
「お主それでも吸血鬼か……」
「自分勝てない勝負はしない主義っす」
「……zzz」
「ってダリアちゃんが先輩のベッドでー!?」
「い、いつの間に……」
「では自分の失礼して……よいしょっと」
「お主らなあ」
「……zzz」
「……zzz」
「はあ……。……ワ、ワシも」
「……zzz」
「……zzz」
「……zzz」



[3132] それが答えだ!じゅうよん
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2008/08/09 04:19
「ま、負けた……」
「私の勝ちですね」

現在午後10時頃。
場所はエヴァ家リビング。
俺と茶々丸さんはこたつで向かい合いインディアンポーカーをしていた。

「これで私の10勝です」
「ち、ちくしょう……!」
<何てこと……!>

最初は俺の5連勝から始まったが、10勝したら相手に何でもお願いが出来るというルールを(後から)付け足したところ、怒涛
の勢いで10連敗した。
……マジにあり得ない。
茶々丸さんはいつも通りの無表情だが、どこか嬉しそうだ。

「では、私の願いですが……」
「うう……」

……ま、まあいいだろう。
茶々丸さんならそんなに無茶なお願いはしないだろう。

「死ねとか無しね」
「……そんな事を言うわけがありません」
<こ、これはまたしてもマスターの貞操のピンチっ! ……まあ茶々丸ならいいでしょう。私も混ざれそうですし」

何に混ざる気だ。
な、何をされるんだろう……。

「まあ、Cまでならいいよ」
<それ行くとこまで行っちゃってますっ>

え、Cってチューの事じゃないの?

「それも捨てがたいですが、私の願いは……」
「……ドキドキ」
<……ワクワク>

そして茶々丸さんは――

「――ナナシさんの本当の名前を教えてください」
「――!」

――そんなお願いを言った。

「何で偽名って分かったんだい?」
<まあ、分かりそうなものですけどね>

茶々丸さんは少し考えた後、

「自分の名前を名乗る時に……どこか辛そうな顔をしていました」
「……そうか」
「何か罪を感じている様な、そんな顔で……」

そうか……。
俺もまだまだ甘いな。
……確かにこの名前を名乗る時に罪悪感を感じる。
特に――エヴァとネギ君の前では。
当たり前だ、騙しているのだから。
いずれは明かさなければならないだろう。
いくら罵られようと。
こんな俺がエヴァの家で居候をして副担任としてネギ君の補佐をしている、馬鹿げた事だ。
それでも楽しいと感じるんだ。
いつかは明かさなければならない俺の秘密。
一人ぐらいに明かしてもいいかもしれない。
――それがただの自己満足だとしても。

「分かった。――俺の本当の名前は……」
<マスター!?>

シルフが俺を止め声をあげる。
――それでいいのか、と。

「シルフ……いいんだ」
<で、でも……!>
「いいんだ」

……。

<マスターがそこまで言うのなら……>
「……すまない」

いつも苦労をかけるな。

「あ、あの聞かない方が良かったのでしょうか……?」

茶々丸さんがこちらを気遣う様に声をかけてくる。

「いや、気にしなくていい。……俺も誰かに知って欲しかったから、俺の罪を」
「罪……ですか?」
「ああ」

そう、確かに罪だ。
この俺がこうやってのうのうと暮らしている、それが。
何故なら……

「俺の本当の名前は――」
「……」

何故なら……



「――ナギ・スプリングフィールドだ」


――これが俺の罪だ。




第十三話 名前を呼んで









<――というわけなんですが>
「お前が何を言っているか分からない」

時間は夜の9時頃。
家に帰宅している途中。
いつもの如くいきなりシルフがワケの分からない話をしだした。

<いや、だからマスターがナギさんなんですよ>
「ナギって……ネギ君のお父さんだよな」
<ええ、そうですが>
「それが何で俺?」

全く意味が分からない。

<え、だって……驚きますよね?>
「いや、驚くけど……伏線もクソも無いじゃん」
<……いやそれは、私の妄想の話ですから、突っ込まれても>

あ、これ妄想だったのか。
何を言い出すかと思ったよ。

「ていうかお前、いつもそんな事考えてんの?」
<はい、寝る前とかは特に>

……高校生かよ。

<この前はマスターが実は竜族最後の生き残りで、私はそのマスターを守りに来た最強の護衛……という妄想をしました。もちろん学園物です>
「マジかよ」
<はい、大体1クールぐらいの長さになりました。もちろんサービス回もあります。最後は何だかんだでエヴァさんが犠牲になります>
「……」
<あと、実はマスターが私の実の弟だったという展開なんかですね。そして何だかんだでエヴァさんは爆発します>

……いやだなあ。

<あとはですね――>
「いやいい。それ以上聞きたくない」
<えぇー……>

不満そうな声のシルフ。
何が好きで人の妄想話に付き合わなくちゃならないんだ、全く。
早く帰ろう。

<それにしてもすっかり暗くなっちゃいましたね>
「ああ、刹那がなかなか離してくれなかったからな。かなり激しかったし……」
<凄く誤解を招く発言ですね>

さっきまで刹那の鍛錬とやらに付き合っていたのだ。
おかげでこんな時間だよ。

<それにしてもマスター、大丈夫ですか?>
「何がだ?」
<いえ、刹那ちゃんに……思いっきり鳩尾に入れられてましたから>

あいつ本当に手加減しないからな……。
その後、こっちがひくほど謝られたが。

「べ、別にあんな小娘の一撃なんて屁でもなかったんだからっ!」
<でも……マスター泣いてましたよね>
「泣いてないわっ!!」
<目がウサギさんの様に真っ赤です……>
「……この話はここまでだ」
<よしなに>


――ふと空を見上げる。
綺麗な満月が空に浮かんでいた。

「……満月か」

俺の声には嫌なものを見た様な声が混じっていただろう。

<昔から思っていたんですけど、マスターは何で満月が嫌いなんですか?>
「ん? 嫌いってわけじゃない……苦手なんだ」
<だから何でです?>
「……やけに食い付くな」

そんな事を言うとシルフは照れている様な声で

<す、好きな人の事は何でも知りたいこの乙女心を分かって下さいよっ>
「分かりたくないです」

まあいいか。

「昔俺の祖父はな俺にたくさんの話を聞かせてくれたんだ。冒険の話、勇者の話、モンスターの話」
<いいおじいさんですねっ。グッドジジイですねっ>
「ぶち殺すぞ。……まあそんなじいさんが満月の日に必ずする話があったんだ」
<それは?>
「『満月の夜には恐ろしい事が起こる』……ってな」
<まさか、それを今も信じて……>
「違うわっ……最後まで聞け」

満月の日には恐ろしい事が起こる、それがどんな事かは教えてくれなかった。

「今は信じていないが、子供の頃は信じていた。純真な少年、ピュアボーイだったからな」
<……>

何か言えよ。

「当時の俺はその話を信じて満月の夜がとても恐ろしかった。満月の夜はいつもより2時間も早く眠っていたぐらいだ」
<流石マスターっ。子供の頃でもその聡明振りは窺えますっ>
「だがある満月の日、俺はフライングをしてしまった。……具体的に言うと夕方の5時頃に眠りについてしまった」
<流石マスターっ。子供の頃でも少しあれな感じが窺えますっ>

本当に分解してやろうか。

「当然俺は夜に目覚めてしまった。時間にして深夜2時だ」
<ヤ、ヤバげな時間に起きましたね……それで?>
「俺はじいさんの話を思い出し、慌てて眠りにつこうとした。……しかし眠れない。そこで俺は別室の両親の部屋に向かったんだ……」
<実に子供らしい考えですね>

確かに、子供にとって親は最も信頼出来る存在だ。
子供の頃の俺が真っ直ぐ向かったのも当然だろう。

「――だが、その考えが間違いだった」
<――!>
「部屋の前についた時、俺は嫌な予感を感じた。――この先に進んではならない、と」
<――>
「でも俺は入る事にした。一目でも早く両親に会いたかったからだ――それが間違いとも知らず」
<……ゴクリ>

シルフが唾を飲み込む音。

「俺は両親の寝室のドアを開け――見てしまった」
<な、なにを、ですか……>
「俺が見たのは――」

今でもその光景を思い出せる。
優しかった父と母、いつも仲良しな二人。
その二人が――

「獣の様な声で裸のまま取っ組み合う二人が――」
<もういいです>

俺の話をシルフが遮る。

「な、なんでだよう。ここからがいい所なのに……」
<こ、これセクハラですよっ?>
「お前からセクハラという言葉が出るとは……」

……どの辺りがセクハラなんだろう?
とにかく恐ろしくてたまらなかった。
当時の俺は二人に見つからない様に部屋に帰り布団をかぶった。
……もちろん眠れなかった。

「ちなみに次の日、昨夜の事を両親に聞いたんだ。……でも二人は否定するんだ、そんな事は無かった、夢でも見てたんじゃないか、ってな。……でも俺はその時の二人の言葉に確かに焦りがあったのに気づきこう思った。――二人は嘘ををついていると。それ以来この話はしていない。この話をしてまた二人が豹変するんじゃないかと思ったんだ」
<……>
「怖いだろ?>
<ほんとに……勘弁して下さい>

俺が話の感想を聞くとシルフは顔を赤らめ(顔無いけど)珍しく弱々しい声で言った。

「今年の夏の怪談話にこの話を使おうと思ってるんだ。今年こそエヴァをひーひー言わせてやるぜっ」
<……ご自由に、捕まらない程度に>

なんか急にシルフのテンションが下がったなあ。

<……早く帰りましょう>
「う、うん」

俺達は再び家路へとつく。
ちなみに見覚えがある道まで何か小さい刹那が送ってくれた。
多分刹那のスタンドだ。
……。
人気の無い道を歩く。

「そういえば最近変質者が出てるみたいだし気をつけないとな」

例の吸血鬼の事だ。
ネギ君、パトロールをすると言っていたが大丈夫かな。

<多分マスターが襲われることは、無いと思います>
「ん? 何でだ?」
<……乙女の勘です>
「そうか」


……。
歩いていると突然、

<あれ……? ま、マスターっ、あれを見て下さいっ!>

シルフが言い出した。
何なんだ一体?
シルフが指す方向、建物の上を見ると……複数の人影があった。
よく見ると見覚えがある。

「あれは……」
<エヴァ丸君達ですね>
「……!」

今こいつスゴイ略仕方したな……。
シルフの言う通りそこにはエヴァと茶々丸さん、それにネギ君がいた。

「あんな所で一体何を……?」
<それに様子が変ですね>

よく見るとネギ君がエヴァにしがみ付かれており、それを茶々丸さんが見守っているという、よく分からない状況だった。

「逢引か?」
<言い方が古いですねっ。……それは無いと思います>
「何で?」
<ほら、エヴァさんって実はマスターにホの字ですから>
「お前も大概古いだろっ!」

人の事を言えないやつだ。
……まあエヴァが俺を云々は置いておいて、一体何を……?

<あ。あれを見て下さい!>

再びシルフが指す方向を見ると……何やらエヴァ達に向かって爆走しているツインテール(怪獣ではない)がいた。
ていうかアスナだった。

「あいつ一体何を……」
<走ってますね>
「お、飛んだ」
<飛びましたね>

アスナは走って来た勢いそのままに飛び上がった。


「<そして蹴ったーーっ!!>」

エヴァを蹴り飛ばした。
エヴァくんふっとんだ!
エヴァはゴム鞠の様に後ろへ飛ばされる。

「い、一体どういう状況なんだ?」
<ただならぬ感じですねっ>

飛ばされたエヴァとアスナは何やら言い争っている様だ。
そしてアスナは再び助走をつける……また蹴る気か?
このまま見てるワケにもいかないだろう。
喧嘩を止めるのも教師の務めだ。
それにエヴァが蹴られているのをただ見ているワケにもいかないだろう。

「シルフっ! 間に割り込むぞっ!!」
<はいっ……転移の準備できました!>

目の前に門が現れる。
俺をすぐさま門をくぐりエヴァとアスナの間に転移して――

「そこまでだ! ――アスなだぼふぉがっっっっっ!!」

アスナに思いっきり鳩尾を蹴られた。
別にアスなだぼふぉがというモンスターを召還しようとしたわけではない、一応。

「……ごふ」

俺は膝をつく。

「えっ!? 何であんたが目の前に!?」
「ナ、ナナシさん……!?」
「き、貴様何故ここに!?」
「……っ」

色々言われるが俺はあまりの激痛に声が出ない。
本当に痛い。
……何これ凄く痛いんですけど?
例えるなら、ジョンス・リーを本気にさせた一撃の様な……!

「ま、まさか……エヴァさんを庇って……!」
「何ですって!?」

ネギ君とアスナは驚いている。

「じゃあ、アイツもエヴァちゃんの仲間ってこと……!?
「そんなはずは……。……あ、あれは!?」
「どうしたのよ!?」
「ナナシさんの……目を見て下さい!」
「目? ……あ、赤いわ。そ、それがどうかしたの?」
「はい、もしかするとエヴァンジェリンさんに……洗脳を受けているのかもしれません!」

何か勝手に話が進んでいるな。
あとこいつら『!』←これ使いすぎだろ……。

「洗脳ですって!?」
「はい。……吸血鬼にはそんな力があるそうです」
「それじゃアイツは自分の意思には関係なく……」
「そうかもしれません」
「そ、そういえばさっきからアイツ、とても苦しそうにしてるわね。やっぱり自分の意思に関係なく体を動かされているのね」

苦しそうなのはお前に蹴られたからだよ、ボケが!……と言いたいが相変わらず声が出ない。

「茶々丸」
「はい、マスター」
「私はアイツに洗脳をかけた事があったか?」
「私からは何とも……」
「……まあいい。そうか私を助けに来たのか……」

エヴァと茶々丸さんが近づいてくる。

「ナナシさん、私の肩に掴まってください」
「……っ」

大人しく肩を貸してもらう。

「卑怯ですっ、エヴァンジェリンさん!! ナナシさんを洗脳するなんて!!」

ネギ君は心底悔しそうだ。

「卑怯だと……最高の褒め言葉だよ」
「――っ」

あ、痛みがひいてきた。
さっきから茶々丸さんが「いたいの、いたいの飛んでいけ~」的なジェスチャーをしている事に関係があるかもしれない。
おお、一人で立てる様になった。

「いいか、坊や。私はお前を――」

エヴァのネギ君に対する口撃は続く。
何やら、ネギ君を近いうちに襲うとか何とかかんとか……

「――というわけで貴様を――」
「そ、そんな!」

何とかかんとか。
……長いよ。
よく事情は分からんがこいつらをこのまま一緒にさせてはマズイか。
また喧嘩をしてはかなわん。
あと、面倒くさい。
……よっこらしょっと

「だから坊や――って何をするっ!!」

エヴァを肩に担ぐ。
そして茶々丸さんにアイコンタクト。
『ここから離れよう』

「分かりました」

うん、通じた。
エヴァを担いだ俺と茶々丸さんはネギ君達から離れていく。

「オイっ! ――坊や覚えておけ、私は貴様をっ――!!」


……フェードアウト……



エヴァの家の近くまで来たのでエヴァをドサリと下ろす。

「おいっ、もっと丁寧に扱えっ!」
「マスター、おケガの方は……」
「ふんっ、大したことはない」

そう言うエヴァの頬は赤くなっている。
別に茶々丸さんに対してツンデレ的な反応をしたから赤くなったわけではなく、蹴られたから赤いのだ。

「それにしてもコイツは……」

エヴァは俺を見上げる。

「洗脳だと……? 私が無意識の内にかけていたのか? それで私の危機に現れた……筋は通っているか」

通ってません。

「洗脳か……面白い。今ならそんな命令でも聞くということか……」

エヴァはフフフと不敵に笑う。

「おい、命令だ。……わ、私の頭を撫でてみろ、壊れ物を扱う様に丁寧にだ」
「……」

俺は言う通りエヴァの頭に手を置く。

「そう、それでいい――って頭が痛いぃっ!!!」

そして万力の様に頭を締め付ける!(技名:ギガントクラッシャー)

「違う!! そうじゃない!! 放せ放せぇぇぇっ!!」

言われた通りに手を放す。

「――はぁ、はぁ。……酷い目にあった」

エヴァが恨めしそうにこちらを見る。

「では私の頭を撫でて下さい」
「お、おいっ、茶々丸!」
「……」

言われた通り茶々丸さんの頭に手を置く。
そして壊れ物を扱うかの様に繊細にそして時には大胆に頭を撫でる。

「……あ、ありがとうございます」

茶々丸さんの顔の温度が40度を越えた辺りで中止した。

「おいっ! それだ! それを私にしろ!!」
「……」

言われた通りに頭に手を置き、

「ギガントクラッシャーっっ!!」

万力の様に頭を締め付ける!(技名:ギガントクラッシャー)

「いたたたたっっ!!! 放せぇぇぇっっ!!」

言われた通りに手を放す。

「はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……」

エヴァの妙に艶かしい声に俺の疲れた声がシンクロする。
ギガントクラッシャーは大量のSP(しゅごおぉぉいぃぃぃ・パワー)を消費するのだ。


「……って貴様喋れたのか。せ、洗脳は……?」
「何のことかさっぱりですな」
「――っ。さ、さっきの事は忘れろ」
「さっきのってエヴァが頭を――」
「忘れろっ!!」

……仕切りなおして。

「さっきはネギ君達と何をしていたんだ?」
「そ、それはだな……」

あからさまにとぼけようとするエヴァ。
最近何やら変な行動をしている様だが……一体何なんだ?

「襲うとか、襲わないとか物騒な事を言っていたな」
「はい、マスターは……」
「いきなりバラそうとするな、茶々丸!!」
「ですが……」
「……」

エヴァと茶々丸さんは俺に聞こえる程度のボリュームでごにょごにょと話す。

「……仕方ないか。いずれは話すつもりだったが」
「うん?」
「実は――」
「やっぱりいいわ。お腹空いたし先にご飯にしよーぜ」
「そうですね」
「おいっ!?」

俺は茶々丸さんと共に家に向かい、その後をエヴァが追いかける。

「ちょ、ちょっと待てっ。聞かなくていいのか!?」
「昔の人は言いました『何はともあれ、まずご飯』……と」
「言ってないっ!!」
「俺のじいさんが言ってたんだよ!!」
「知るか!」

俺達は走り続ける、家に向かって。
走り続ける人生。
その先に何が待っているのか分からないけど(多分夕食が待っている)
それにしても……何か忘れているような……。





……ネギ……


「ど、どうしましょうアスナさん、ぼ、僕はどうすれば~」
「あ、あたしに聞かないでよっ」

……。

「とりあえず帰って考えましょう……」
「そうね……ってあれ?」
「それはナナシさんの時計……?」
<……ど、どうも>

……。

「シルフさんは何でこんな所に落ちているんですか?」
<さっきの誰かさんの蹴りで自動帰主装置が壊れてしまって>
「うっ……」
<どうかしましたか、アスナちゃん?>
「ご、ごめんなさい」



……エヴァ家……


「はっ!? 思い出した!!」
「米粒を飛ばすな!!」

何やらエヴァが怒っているが問題ない。
それより……
何てことだ。こんな大切な事を忘れていたなんて……!
そう……

「リベリオン録画し忘れたぁぁっっーー!!」

何てこったい!!
神は死んだ! あと兄貴は死んだ!!
……!
そんな俺の肩を優しく叩く手が……

「ち、茶々丸さん……!?」
「大丈夫ですよ、ナナシさん」
「……!」

ま、まさか……!?

「私が撮っておきました」
「さっすが茶々丸さん!! 愛してるぜっ!!」
「そんな……私は……心の準備が……」
「こいつら本当にうるさいな」
「ソウダナ」

何か他に忘れている気がするがもうどうでもよくなった!




[3132] それが答えだ! じゅうご
Name: ウサギとくま◆9c67bf19 ID:e5937496
Date: 2010/10/21 17:39
神楽坂明日奈の朝は早い。
早朝5時に起き、新聞配達のバイトをする為だ。
そこで稼いだお金を、自分を学園へと通わせてくれている学園町長への返済に充てているのだ。
何とも立派な少女である。
勉強は出来ないが。

――パシャ、パシャッ

「……んん。……ん? あ、あれ、もう朝なの……ふわぁ」

二段ベッドの上で大きな欠伸と共に、アスナは目を覚ました。
窓を見ると外はまだ暗い。
しかし時計は五時を指している。
バイトの時間だ。

――パシャ、パシャッ

「あれ?」

寝ぼけた頭で何かがおかしい事に気づいた。
ぼんやりと思考する。

「このか?」

そして気づいた。
いつも自分を起こすのは、親友でありルームメイトの近衛木乃香のはずだ。
しかしその親友の声はしない。
そして未だ部屋は暗い。
少しずつ朝の寝ぼけた状態から、感覚が戻っていき、アスナの聴覚は二段ベッドの下の寝息を捉えた。
どうやら親友はまだ寝ているらしい。

――パシャ、パシャッ

「……何であたし起きたんだろ?」

彼女の目覚めは悪い。
自分から起きることは稀だ。

――パシャ、パシャッ

「……ていうかさっきからパシャパシャパシャパシャ何よ? 眩しいし」

彼女が目を覚ましたのは、その謎の音+発光現象が原因らしい。
眩しい光を手で遮断しながら、その発生源を見る。

――時計が浮いていた。

時計である。
銀色の懐中時計。
それが鎖を垂らして、宙に浮いているのだ。

「……ひ!?」

アスナは思わず悲鳴をあげようとして……それが何かを思い出した。

「あ、ああ……シルフさんかぁ。もう朝から驚かさないでよっ。心臓に悪いじゃない」
<おはようございますアスナさんっ>
「あ、うん。おはおう」

話は昨夜まで遡る。
通り魔事件に出くわしたアスナとネギ。
何だか色々あって、クラスメイトが今話題の通り魔であることが分かり、何だかんだで敵対することになってしまったのだ。
そして更に、アスナのクラスの副担任までも、その通り魔・エヴァンジェリンの仲間かもしれないことを知ったのだ。
驚きに二重奏である。
そして更に更に、その副担任の……何だかよく分からない時計が自分達の手元に残ってしまったのだ。
そこは特に驚きでは無いが。そのせいで三重奏にはならなかったのだ。
何だかんだで疲れていたアスナ達は、部屋に帰るなり倒れるように眠ってしまった。
その時計も一緒に。
そして今、その時計、シルフが彼女の目の前に浮いている。

――パシャ、パシャッ

シルフは定期的に光を発している。

<随分と早いですね。実はおばあちゃんですか?>
「何よその質問!? 新聞配達のバイトがあるのよ! おばあちゃんじゃ無いわよ!」
<しー! アスナさんしー! 二人が目を覚ましちゃいますよ!!>

いや、お前のその声もかなりデカい。
そう突っ込もうとしたアスナだが、同じやり取りが繰り返されるだけだと思いやめた。

――パシャ、パシャッ

「……ところで、さっきからパシャパシャ何なの?」
<はい? ああ、これですか。気にしないで下さい>
「いや気になるから言ってるのよ」
<わ、分かりましたよ。答えるからそう睨まないで下さい……>

寝起きだからか、アスナの目つきは相当に悪かった。

<別に怪しい真似じゃないですよ。ただちょっとアスナさん達を撮影していただけです>
「……は? 撮影って。……も、もうやめてよっ。寝起きなんだから髪とかグシャグシャなのにっ」
<寝起きじゃなかったら、いつでもどうぞって言ってる様に聞こえますが……それにアスナさん個人を撮っていたんじゃありませんよ>
「え?」
<正確にはアスナさんとネギ君を撮っていたんです>  

――パシャ、パシャッ

「あたしと……ネギ?」

そこでアスナは思った。
どうして自分しか寝ていないベッドを撮っているのに、ネギと一緒に撮っていると言われるんだろうか?
答えは彼女の腰にあった。

「……うー、お姉ちゃぁん……」

アスナの腰にしがみ付く様にして寝ているネギ。
夜のうちに寝ぼけて潜り込んだんだろう、と彼女は推測した。
彼女のパジャマのズボンは少しずり落ち、下着が見えている。
傍から見ると、かなり危うい光景だった。
『同衾する男女! ショタ趣味の女! 昨日はお楽しみでしたネ!』みたいな三面記事が付きそうな。

――パシャ、パシャッ

そしてその光景を撮り続ける時計。

「や、やめて! ちょ、ちょっとカメラ止めなさい! っていうかいい加減に離れなさい、ネギッ!」
<いいよいいよー。いいアングルですよー。ネギ君、もっとこう下着に顔寄せて行こうかー>
「う、うーん」
「こら! 言われた通りに動くな馬鹿ネギ! あんた本当は起きてるんじゃないの!?」
<よーし、じゃあそのまま下着をズリ下げて……>
「いい加減にしろーーーーーー!!!!!」

アスナが爆発した。
寮にいた全ての人間が起きるほどの、凄まじい爆発だったとさ。


■■■


「おはようございまーす!」
「あらあらアスナちゃん、今日も元気ねぇ」
「こっちも元気になってくるよ」

アスナはあの後、起きたこのかが作った朝食を食べ、いつものバイト先へ向かった。
雇い主の夫婦がにこやかに迎えてくれる。
それだけで今日もバイトを頑張れる彼女だった。

(よし! 今日も頑張るぞー!)

グっと気合を入れるアスナ。
そんなアスナに、おじさんが「おや?」と何かを見つけたかのように声をかけた。

「珍しいね、アスナちゃん。今日は珍しい時計持ってるね。懐中時計かい? いやー、年季が入ってていいじゃないかー」
「あらほんと。でも、ちょっと年頃の女の子の趣味にしてはアレよ」

そんな夫婦の言葉にアスナは頭に?マークを浮かべた。
時計? 腕時計のことじゃなくて? 懐中時計?

(ま、まさか……!?)

グリンと自分の胸元に視線を向けるアスナ。
そこには……

<はぁー、朝はやっぱり寒いですねー。しばれますー>

何故か北海道弁のシルフがいた。



■■■


「はっはっはっは……」

タンタンタンと一定のリズムで麻帆良の街中を走るアスナ。
そして合間合間に新聞を投函していく。
かなりレベルが高い、新聞戦士だった。

「はっはっはっは……」
<いやー、それにしても、アスナさんは立派ですねー>
「ふぅふぅ……何が?」
<こんなに朝早くからバイトして、しかもそのお金をおじいさんに渡してるらしいじゃないですか>
「誰にっ、聞いたのよっ」
<このかさんです>
「……あ、そう」

走りながら「もうお喋りなんだから……」と未だ部屋にいるであろう親友にげんなりする。
悪気があって話したのでは無いんだろうが。

一人と一つは共に新聞配達に出ることになった。
その辺にシルフを捨てようとしたアスナだが、そうするとシルフが切なげに泣くのだ。
何ともいやらしい、人の慈悲に訴えかけるような声で。
その泣き声に負けたアスナは、仕方なくシルフを胸に配達に出かけることになった。

<早起きは大変じゃないですか?>
「別にっ、もう慣れたし……っと」

シルフと会話している間も、投函にミスは無い。

「そういうシルフさんだって、早起きじゃない。あたしが起きる前から起きてたんでしょ?」

前提として時計が眠るという事実が無くてはならないが、それに関してはシルフのマスター?である男に聞いていたので知っている様だ。
そもそも目の前の時計には謎が多い。
何故喋っているのか。何故浮くのか。その時計を持っているあの男は何者なのか。
疑問は尽きない。
あまりにも謎が多すぎるので、アスナはシルフが喋るという事に関してはスルーすることにしている。
突っ込んだら負け、そう思っているからだ。

<あー、私は昨日から寝てませんから>
「え、そうなの? 何で? シルフさんも……眠るのよね?」

今ひとつ自身が無いアスナ。
それはそうだ。
彼女の常識では、時計は喋らないし眠らない。

<ええ、寝ますよ。でも昨日はマスターがいませんでしたから>
「え?」
<私ってマスターの側じゃないと眠れないんですよ。何か安心できないっていうか。……別にアスナさん達を警戒して、眠れなかったわけじゃないですよ?>
「あ、ああ……そうなの」(意外と繊細なのね。何か新しい一面を見た気がするわ)

タンタンタンと、アスナの足音が街中に響く。

「やっぱりあいつのこと好きなの?」
<マスターですか? ええ、勿論大好きですよ! 当たり前じゃないですか>

えへーと可愛らしく笑うシルフ。時計だが。

「ふーん。じゃあ早く戻らなくいいの?」

アスナの何気ないその言葉に、シルフはぶるぶると震えだした。
忙しない時計である。

<……戻りませんよ。ええ、戻ってやるもんですかぁ!>
「え、えー……何で?」

正直早く戻って欲しいと思うアスナだ。
身に着けてから分かったことだが、この時計かなり喧しい。
よくこんなのを四六時中つけていられわね、と感心するほどに。

<だって! だってですよ!? わ、私……置いて行かれたんですよ!? 酷く無いですか!?>
「まあ……そうね」

時計だからややこしくなる。
アスナは時計を少女に変換して考えることにした。
シルフとナナシが何やら密接な関係にあることは、普段の彼らから理解している。
それを踏まえて考えると、少女は大切な人に置いていかれ、そして未だ迎えに来ない。
そして少女がいるのは、敵……少なくとも敵と思われる場所なのだ(未だナナシがはっきりと通り魔の仲間だと分からないため、断定できないが)
敵に捕らわれ、助けを待つ少女。
それは何とも悲劇的で怒りを感じる光景だった。

「うん、そうね。酷いわ! 確かにあいつは酷い!」
<マスターの悪口はやめて下さい!>
「ええー……」

アスナは『何だこいつ……』みたいな顔をした。

<まあ、でも確かにマスターは酷いです。生まれた頃から一緒にいる大切な存在を忘れるとか……本当に酷いです! 鬼! マスターは鬼です! 鬼マスター!>

鬼の凄いバージョンみたいな発音で怒りを表すシルフ。
アスナはその言葉の中に気になる部分を見つけた。

「生まれた時から一緒? ……えっと、それって……どういう?」

相手が時計なので、上手く理解出来ないアスナ。

<ああ、簡単な話ですよ。私を作ったのがマスターなんです。そして私が生まれて初めて目にしたのもマスター。それからずっと一緒です>
「へ、へー」

時計であることを実感させる言葉だった。

「じゃあ、あいつってシルフさんのお父さんみたいなものなの?」
<……そう言えばそうですね。パパ……今度パパって呼んでみましょうか?>
「あははっ、意外と喜ぶかもねっ」

初めて自然に笑ったアスナ。
何となくシルフと上手くやれるかもしれない、そう思った。

<パパ、と言えば……アスナさんのご両親は?>
「ん? ……物心ついた頃にはね、いなかった」
<そうですか。で、マスターの話の続きなんですけどね>
「ちょ、ちょっとちょっと!?」

アスナはよろめいた。
シルフは何故アスナがそんなリアクションをしているか分からない、そんな顔をした。

「い、今のそうやって流すとこ!? 何かもっとこう……あるでしょ? 少なくともそんなどうでもいい風に流すような場面では無かったんじゃない!?」
<はい? あー、はいはい。つまりあれですよね? さっきのアスナさんの言葉に私が『そ、そうなんだ……ゴメン』でアスナさんが『ううん。気にしてない。もう慣れたし』、『でも……ううん、いいわ』『ありがと……』みたいな展開を望んでいたんですよね>
「いや、それは、ハッキリ言われると……」

否定は出来ない。
しかし、それなりに衝撃の告白をしたのだから、少しでもいいから何か反応が欲しい、そう思うアスナ。
別に自分可哀相でしょ?アピールをするつもりは無い。
しかし、ああやって流されると自分に全く興味が無いようで、ショックなのだ。
さっき少し友情を感じた後だけに。

<だってそうですよね? そのやり取りしかないじゃないですか。で、ちょっとお互い気まずくなりますよね? 私そういうのって嫌いなんですよ。アスナさんだって同情とかされるの嫌いですよね? 私もそういうの嫌いなんです。もっと適当でいいじゃないですか適当で>
「あ、あはは……」

乾いた笑みを浮かべるアスナ。
しかし悪い気はしなかった。
今まで他人がアスナの親関係の話を聞いた時の反応は、みんな同じだった。
そしてシルフの反応は全く違った。
適当な反応。
しかし、互いが気まずい思いをするよりはずっといいのかもしれない。

「あー、そうよね。うん。……あたしシルフさんのこと結構好きかも」
<あの私、特にスールとか興味無いんで……>
「あたしも無いわよ!」

走りながら器用突っ込みを入れるアスナ。
その顔は心なしか楽しそうだ。

<で、マスターの話に戻るんですけど>
「はいはい」
<生まれたときからずっと一緒で、マスターは私にとって父親みたいなものなんです>
「うん」
<で、恋人みたいなものでもあるじゃないですか>
「何で!?」
<いや、何でって……話聞いてましたか?>
「聞いてたわよ! 何でちょっとあたしが責められる空気なのよ!?」

やれやれ、とため息をつくシルフ。
アスナはそれを見て、かなりイラッとした。

<マスターと私って恋人関係みたいなものじゃないですか>
「あーはいはい。そうですねー」
<そして夫婦でもあります>
「……っ」

何とか突っ込みを押さえたアスナ。
邪気眼患者のように腕を押さえつける。
自分を落ち着かせる為に、深呼吸。
そして自分の周り、早めの通学や通勤をしている人間が自分のことをヤバいものを見る様な目で見ていることに気づいた。

<その! 娘でもあり、恋人でもあり、妻でもある私をですよ! 置いて行くとか……ねえ? もうありえませんよね!?>
「……」
<ねえ!? ですよね!?>
「う、うん分かったわよ。分かったから声抑えて。今気づいたんだけど、あたし街中で独り言叫んでる危ない奴みたいだから……」

周りを見渡しながら言うアスナ。
その顔には汗が浮いていた。
本当に今更自分の状況に気づいたのだ。
顔が真っ赤である。

<どうしたんですかアスナさん? 顔が真っ赤ですよ。ペース速すぎるんじゃ?>
「……」
<おーい、アスナさーん。どうして無視するんですかー?>

顔を真っ赤にして走るアスナ。
凄まじいスピードで、新聞を投函していく。
この場所から速やかに離れたいという彼女の想いが、彼女に限界以上の力を与えているのだ。
それはそれで注目されているが。

「これで! 終わり!」

新記録を打ち立て、新聞配りを終えたアスナ。
人がいないところまで走る。

「……はぁ。明日からどうしよ。……う、ううん。大丈夫よね! 麻帆良は変な人多いし!」

彼女の言う通り、魔帆良は変な人間が多い。
多少独り言が大きい人間がいたとしても、次の日には忘れているだろう。

<もう! どうして無視するんですか!>
「あ、ああ。ごめんごめん。……で、何の話だっけ?」
<だからマスターが酷いって話ですよ。それで私決めました!>
「決めたって何を?」

汗を拭いながら聞く。

<もうアレですアレ! あの、ほら……ストライプ?」
「は?」
<いやストラテ……ストラトス? ストライカー……ストライダム? だからあのアレですよ! スカーフェイス? アレをやるんです!>
「もしかしてストライキのこと?」
<それですそれ!>

何となくシルフが言いたいことを理解出来たアスナ。

「ストライキって……具体的に何するのよ?」
<マスターの元に帰りません! マスターが私の大切さに気づくまで絶対に!>
「そ、そう。まあ、うん……頑張って」

自分が知らないどこかで、と心の中で続けた。

<で、それまでアスナさんの所にいていいですか?>
「はぁ!? な、何で!?」
<いや、何でって。私とアスナさんの仲じゃないですか……。昔は良くヤンキー狩りとか一緒に行ったじゃないですか>
「あたしの記憶にそんな物は無いわよ!!」

アスナは断固拒否した。
話していて割と楽しい、そうは思った。
しかし、自分の部屋に居座られるのはかなりウザい。
四六時中一緒にいたら、突っ込み死にしてしまうと、そう考えた。

<そ、そう言わずに……! 家事とかしますから! お料理だって……出来ないですけど。お洗濯は……無理ですよ。でも、でも! あれです! チャンネル変えたりぐらいは出来ますから!>
「自分でするわよ!」
<お願いですよぅ。この通り! この通りですから!>

この通り!と叫びながら、懐中時計の蓋部分をパカパカと開閉するシルフ。
一見カスタネットに見える。

「どの通りなのよ……」
<このパカパカは人間で言う土下座みたいなものなんです!>
「それ絶対嘘でしょ」
<本当ですよ! アスナさんに時計の何が分かるっていうんですか!? これは紛れも無く土下座に当たる行為なんです!>

パカパカと凄まじい勢いで蓋を開閉する。
胸元でそんなことをされると、非常にうっとおしい。
恐らくはアスナがいいと言うまで、永遠に開閉し続けるのだろう。
アスナはため息を吐いた。

「分かった、分かったから。いいわよ。部屋にいていいわ」
<ほんとですか!? わーい!>

シルフの歓喜の言葉と共にパカパカと開閉する蓋。

「も、もう土下座やめてよ」
<へ? ああ、これは土下座じゃなくて、万歳なんです>
「違いが全く分からない!」

そんなこんなで、二人は共に過ごすことになったのだ。
ここにアスナとシルフという新コンビが誕生したのだ!

<あ、でも一週間ぐらいでいいです>
「え、何で?」
<それ以上マスターから離れていたら寂しくて爆発するからですよ!>
「そ、そう。どうでもいいけど、爆発するなら離れて爆発してよね……」


続く。



[3132] それが答えだ!じゅうなな
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/03/27 02:31
「では私は買い物に行ってきます」
「うん」
「マスターの事をよろしくお願いします」
<任せてください!>

では、とぺこりと頭を下げ、茶々丸さんは家を出ていった。
さて……行くか。


第十七話 プラトーン



コンコンとドアをノックする。

「……勝手に入r――」
「お邪魔シマウマ」
<シマウマとパンダが合体するとどうなるんでしょう?>

そして入室。
あとシマウマとパンダが合体したら名前はシンダ。

「最後まで聞いてから入れ……けほっ、けほっ」

ベッドで寝ているエヴァが咳きをする。

「……大丈夫か?」
「ふん、ただの風邪だ……くしゅんっ」
<あと花粉症もですね>

そういうことらしい。
風邪と花粉症が併発したエヴァは昨日から寝込んでいる。
目も鼻も真っ赤である。

「何をしにきた……けほっけほっ」

じとっとした目を向けてくる。
失礼なやつだ。

「看病だよ、看病」
<看病と言う名の……虐待ですけどね>
「何だと!?」
<いや、普通に看病ですけどね>

今の嘘いらんだろ……。
俺はお盆に載せたお粥と水を持ち、ベッドの側の椅子に座る。

「貴様が私の看病だと……茶々丸はどうした?」
「買い物」
<ウインドウショッピングってやつですねっ>

違う。

「そうか。……匙を寄こせ」

エヴァはお盆の上にある匙を取ろうと……したが俺が持ち上げたので取れなかった。

「……何をする」

いつもなら『何をする!? 死ね! 溺死しろ!』という剣幕だろうが、病気のエヴァは元気がないのでこんな感じだ。
俺は持ち上げた匙をエヴァに突きつけ、

「アレをする。ほら、よく漫画とかであるあの『あーん』ってやつ……正式名称はしらんが……別になんでもいいわ」
<匙を投げた! 匙だけに! 匙だけに匙を投げたんですね、マスター!>

……今のは上手いと思ったが、流石にここまで連呼されるとウザイな。

「あーん? ……私に食べさせるということか?」
「ああ」

ちなみに今の『あーん』は、「あーん? あんたがあの雷神の貴公子だってぇ……ふははん」的な使い方ではない、一応。

「……何故だ」
「面白そうだから」
<あとで私にも『あーん』ってしてださい! 『にゅーん』でもいいですよっ>

嫌だ。にゅーんてなんだ。
『あーん』は俺の中の『一度はやってみたいリスト』の23位にランクインしている。
つい最近8位の『ここは俺に任せて先に行け!』をしたところだ(図書館島参照)
え? 1位?
流石に1位は言えないな……。
ちなみに3位は『遅かったな!』と言って自爆する。
しかし実生活で使い道が全くない。
さて、俺の面白そうだからとの発言にエヴァは

「拒否する……と言っても聞かんか」
「分かってるじゃないか」
「何年一緒にいると思っている……やるならさっさとしろ。腹が空いた」

エヴァはやれやれとしながら顔を背けた。
ほんの少し頬が赤いのは風邪だからだろうか?

「では」

俺の匙でお粥をすくい

「……」

おいしそうだな。

「……おい」
「……」
「……こら」
「ぱくり」

食べた。

「おいっ? ……けほ、けほっ! それは私の食事だろうが!?」
「つい……おいしそうで」
<マスターは欲望に忠実なんですよ>

ふむふむ、これは旨い。
病人用に味を薄くしてあるが、しかしその味のつけかたもまた格別だ。
流石茶々丸さんと言うべきか。

「味の品評をしとらんでさっさと食べさせろっ」

エヴァはお冠のようだ。
仕方ない。俺も後で作ってもらおう。
では改めて……お粥を掬う。

「はい、あーん」
「……ちょっと待て」
「何だよ」

エヴァのストップに俺は匙を止めた。

「その匙、今貴様が使ったから……その、なんだ」
「何だよ」

エヴァはちらちらとこちらを見ながら、ぶつぶつ言っている。
あれか。間接何とかとかか。
今さら別に気にする仲でもあるまいに。

「……貴様が気にせんのなら別にいい」
「じゃあ改めて……あーん」

俺は改めて、エヴァの口の中に匙を運ぶ。
ぱくり。
匙が口の中に入る。
もぐもぐ、と租借。
雛鳥に餌を食べさせる親ってのはこんな気持ちなのかな?

「……なかなか、うまいな」
「だろ? もぐもぐ」

俺も再び食べる。
何でまた貴様も食べる……というエヴァの視線を無視。
そして再びエヴァに匙を運ぶ。
そして俺が食べる。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。

<……>

むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。

<……>

むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。

<そういえば>
「「……?」」

口にお粥を含んだまま、俺とエヴァはシルフの方に視線を向ける。

<さっきお粥の中にゴキブリが入ってましたよ?>
「「ぶほぉっ!」」

俺とエヴァはお粥を互いに噴出した。
そして互いの顔にお粥をぶちまけた。
そしてお粥の熱さに俺は床を、エヴァはベッドの上を転げ回った。

<わ、私の何気ない冗談が……ここまでの惨状を生み出すとは……!>
「言っていい冗談と悪い冗談があるだろうがっ!」
<だってマスターとエヴァさんが、いい雰囲気だったのでつい……てへっ>
「「……」」

俺とエヴァの心は今一つだった。
『こいつ殺すか』

「ただいま帰りました」

ドアが開き、茶々丸さんが入って来た。
丁度いい。

「茶々丸さん、チャチャゼロが刃物の切れ味を試したいって言ってたよね」
「はい、その様なことを言っていましたが……」
「こいつ練習台にしてって言っといて」

シルフを茶々丸さんに渡す。

<ま、またまた~、マスターったらそんな冗談ばっかり>
「頼むよ」
「私からも頼む」
「分かりました」
<ええっ!? う、嘘!? ちょっとしたお茶目だったのに!? そして茶々丸のまさかの裏切り!?>

シルフ退場。
その後、シルフの悲鳴や嬌声が10分程続いた。
俺とエヴァはそれをオカズにお粥を食べた。

<……>

戻ってきたシルフは一言も喋らなかった。
時折り<の、のこぎりはらめぇ……!>などと言った台詞が聞こえる。
そして再びお粥を食す。
ていうか多いなお粥。
まさか俺が食べることも見越してこの量を作ってたのかな?
俺が何度目かエヴァの口にお粥を運んだとき

コンコン。

ドアがノックされた。

「ふぁいれ」

エヴァは口に匙を入れたままの状態なので、上手く発言出来なかった。

「入っていいよ」

代わりに俺が言った。
しかし変だな。
茶々丸さんなら声を掛けてからノックするんだが……

「し、失礼します! エヴァンジェリンさん! 僕ともう一度勝負して下さい! 僕が勝った……ら?」

入って来たのはネギ君だった。
手には何やら手紙を持っている。

「ようネギ君」
「……もぐ」

エヴァはポカンとしたまま咀嚼している。

「あ、はい、こんにちはナナシさん。……あ、あのぼ、僕もしかして……邪魔でしたか……?」
「いやいや、そんな事ないよ」
「……ごくん」

エヴァの咀嚼が終わる。

「……坊や」
「は、はい! な、何ですか?」
「今、坊やは……何かを見たか?」

エヴァは汗をだらだら流している。
顔が尋常じゃない程赤い。

「な、何も見てません! ナナシさんがエヴァさんに『あーん』ってやってたなんて知りません! 教室で見ているエヴァさんと全然違うなー、なんて思ってません!」
「ほう……そうか……そうか」
「は、はい! そうです!」

ネギ君は背筋をピンと伸ばして答える。
何であんなに緊張しているのかな?

<今のエヴァさんの殺気が尋常じゃないからじゃないですか?>

確かに今のエヴァの殺気は尋常じゃない。

「……勝負、と言ったな坊や」
「は、はい。もし僕が勝ったら授業に出てもらおうと……思ってましたけど出直します! だ、だから殺さないで……!」
 
ネギ君は大変な事になっている。
今のエヴァの殺気から言って、本気で殺す気なのかもしれん。
そしてその殺気に当てられているネギ君は気が気じゃないだろう。
あれか。よっぽど普段の姿を見られたのが恥ずかしかったのか。

「なに、出直さずともいい。ここで勝負をしようではないか……安心しろ、殺しはせん。……ただ」
「た、ただ……何ですか!?」
「少々記憶を失うほど……7分殺しするぐらいだ……クククッ」
「ひぃっ!?」

ネギ君は腰を抜かし、床にぺたりとへなった(へなる:動詞・へなっとなるよという意味)

「フフフフ……」

エヴァは殺気を漲らせながら、薄気味悪い笑いを浮かべ、ベッドから出た。

「た、たすけ、たすけて……」

ネギ君は涙目のまま、ずりずりと後ろに下がる……が、すぐにドアにぶつかる。
立ち上がることも出来ないようだ。
そして立ち上がったエヴァは、ふらふらとネギ君に近づいて行く。

<た、大変ですマスター! このままでは若い命が一つ失われてしまいます!>
「そうだな……しかしこれもまた……運命なのかもしれんな」

俺は『一度はやってみたいリスト』の18位にある『腕を組みながら何かを悟ったかの様に運命を嘆く老人』をした。

<もうそんな悠長な! ここでネギ君が死んじゃうと大変な事になりますよ!>
「具体的に何が大変なんだ?」
<え? ほら……ネギ君の紅茶が飲めなくなりますよ>

む、確かに。
ネギ君が淹れる紅茶はおいしい。
しかし茶々丸さんが淹れるそれには敵わない。

<ほら、他にも……えーと……あれですよ。……色々と処理が大変ですよ?>
「大丈夫だって。この家の裏に埋めるから」
<何が大丈夫なのか分からないですけど。それに現代社会で人が一人いなくなるのはすぐに発覚しますよ>

確かに。
特にネギ君は結構知名度が高いみたいだしな。

「あれだ。ハカセにネギ君そっくりのロボットを作ってもらおう」
<成る程。ハカセならやってくれますね! しかし他にも重大な問題が一つ>
「何だ?」
<ネギ君がいなくなると担任がいなくなるじゃないですか>
「そうだな」
<つまり自動的にマスターが担任になるって事ですよ>

……え? そういうシステムなの?
しかしそうなると……

<マスター、ネギ君がやってるような仕事出来るんですか? ただでさえネギ君に任せてる仕事が多いのに……>

……。
……困る。
それは困る。
……大変困る。

「俺の友達のネギ君がピンチだ! 俺は友情にぶ厚い男! 今助けるぞ!」
<わー凄い変わり身ですねー>

今まさにネギ君を亡き者にしようとするエヴァを止めようと俺は立ち上がった。
しかし椅子から急に立ち上がったので足を引っ掛け、俺は前のめりに倒れた。
そしてほぼ同じタイミングでエヴァにも異変が起こった。

「フフフフ……」

ふらふらと覚束ない足取りでネギ君に近づくエヴァ。
エヴァの意識は朦朧としているのか足元にあるソレに気付かなかった。

<……zzz……>

足元にあるソレ……散花。
最近寝る場所を選ばないことで有名になっている。
この間は何故かオーブンの中で寝ていた。
エヴァはその散花を踏みつけた。

<……いた……い>
「……ん?」

エヴァは足元の感触と声に気付いた。

<……。 どい……て!>
「ぬあ!?」

寝起きでイライラしていた散花が体を起こす。
当然エヴァの片足は宙に放り出される。
そして熱でふらふらしていたエヴァはバランスを崩し、後方に倒れた。
……。
この時奇跡が起こった。
前方に倒れる俺、そして後方に倒れるエヴァ。
そのタイミングは同時だった。
そしてそれは起こった。
前に倒れる俺の、何かを掴もうとバタバタさせていた手が何かを掴んだ。
それは後方に倒れつつあるエヴァの顔だった。
この時の俺とエヴァと床が作った形は正三角形であった。
一瞬俺達は完全に拮抗した……かに見えた。
しかし人は重力には逆らえない。
俺達は重力に引かれ床に落ちた。
俺はエヴァの顔で一瞬体を支えた為、割とゆるやかに胴体着陸。
そしてエヴァは後頭部から床に倒れた。
その時エヴァの後頭部にかかったダメージは、重力+俺の体重。
その衝撃は推して知るべし。

「ごはぁっ!?」

エヴァはとても女の子が挙げる悲鳴ではない悲鳴をあげた。

「……いたた」

俺はぱんぱんと体を払い立ち上がった。

「おい、落ち着けよエヴァ。少し冷静になれよ……ネギ君が怯えてるだろ?」
「……」

エヴァからの返答は無い。

「大丈夫かネギ君?」
「え……あ、はい……そのエヴァンジェリンさんは……」
「大丈夫だろ、コイツ頑丈だし」
<凄いタンコブできてますけどね>

シルフの発言にエヴァを見ると、確かに後頭部に巨大なこぶが出来ていた。
痛そうだ。

「おい、大丈夫かエヴァ。しっかりしろよ」
「……」

ゆさゆさと体を揺らす。
エヴァはピクリとも動かない。
……。
……。

「あの……ナナシさん?」
「……」
「あの、エヴァンジェリンさんは……」
「……」
「……え、ど、どうなったんですか!?」

……。

「俺達……共犯だよな」
「ひぃっ!? ぼ、僕、関係無くないですか!?」
「ははは、逃がさん」
<取り合えずどうしましょう……埋めますか?>
「そうだな……」
「埋めちゃだめですよ! 自首! 自首しましょう!」
「しかし現代社会で人が一人いなくなるのは問題あるな」
<そうですね……あ! じゃあマスターがエヴァさんに変装して日常生活を送ればいいんですよ!>
「そうか!」
「無理ですよ!? 僕ならまだしもナナシさんには無理があります!」
「じゃあ、ネギ君に変装してらおう。……しかしそれだとネギ君がいなくなって問題になるな」
<じゃあ、マスターがネギ君に変装すればいいんですよ>
「そうか!」

「……ぅ」

俺達がワイワイと今後の身の振り方について話あっているとエヴァが復活した。

「一体……何が……頭が痛い」
「エヴァンジェリンさん!? ……よ、良かったぁ」

ネギ君は心底安心したようだ。
ただの冗談だったのに。

「ん? 坊や……何故私の部屋にいる?」

エヴァは記憶が一部吹き飛んだようだった。

「何だその紙は?」
「え、いえその……果たし状なんですが……」
「果たし状?」

エヴァはネギ君から手紙を奪い読み始めた。

「ふん……そうか。いいだろう」
「え、いいんですかっ?」
「ああ、だが私が勝った場合は……分かってるな?」
「ネギ君をメイドとして雇うのか?」
「違うわっ! メイドは一人で十分だ!」

エヴァはネギ君と勝負の約束を取り付けた。
頭を打ったおかげで色々と上手くいった。

「……う、また熱がぶり返してきた……。用が済んだらさっさと出て行け」
「は、はい、お邪魔しました!」

ネギ君が部屋から出て行き、俺もその後に続いた。

「……別に貴様も出て行けと言ったわけじゃないんだが」

俺とネギ君はリビングで茶々丸さんの紅茶を頂いた。
そして久しぶりに、斬り試しを楽しみ上機嫌なチャチャゼロにネギ君の父親、サウザンドマスターについての話を聞いた。  

「何か僕が想像していた人とイメージが……」

ネギ君は軽くショックを受けていた。
ネギ君を見送りに玄関に。

「……僕とエヴァンジェリンさんの勝負なんですけど」
「ナナシさんは僕の味方になったりは……」
「無理。サイバー無理」
<出た! マスターのサイバティック発言!> 

俺はかなり無理ですよといった意味の発言をした。

「……そう、ですか……」

ネギ君は少し落ち込んだ。

「まあ、直接ネギ君の敵になることはないよ」
「でも、エヴァンジェリンさんの手伝いをするんですよね」
<とは言ってもエヴァさんとネギ君に邪魔が入らないようにするだけですけどね>
「そうですか……」

やはりネギ君は少し寂しそうだ。
そんなに俺に手伝ってほしかったのか。

「頑張れよネギ君。エヴァは抜けてる所があるからそこをつけば勝てるかもしれんぞ」
「……え? いいんですか僕に助言なんかして……もし僕が勝ったら」
「いや、滅多な事が無い限りネギ君は勝てないよ。まあ、ちょっとしたハンデってやつかな」

本当はそうでもないんだけどな。
今回はエヴァは負けておいた方がいいと思ってるからな。
色んな意味で。

「……分かりました。僕頑張ります!」

そう言ってネギ君は走って行った。

<いいですねー、ああいう熱意に燃えてる少年って>
「そうだな」

俺も昔はあんな風に燃えていたのだろうか。
……何か年寄りくさいな。

「帰って茶々丸さんにお粥を作ってもらおう」
<まだ食べるんですか!?>



[3132] それが答えだ!にじゅう
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/10/17 00:17
「これは……いるな。これは……いらない、と」

俺は大きなカバンの前に座りせっせと荷物を詰めていた。いる物、いらない物。いらない物はダンボールへ。
歯ブラシ、着替え、筆記用具etc……をカバンに詰め、アッシマーは……いる、デンドロビウムは……入らない、この時計は……

「これは……いらねっ」

ぽいっ、と新しく手に取ったそれをダンボールに投げる。

<――いりますよ!! 何で、私を投げるんですか!? しかもダンボールの中ベタベタしてるんですけど!?>
「……つい」

投げたのはシルフだった様だ。
ベタベタは前に刹那にもらったおにぎりの一つが机の間にころりん、今さら発見で涙がホロリン、とりあえずダンボールへ。

<少し荷物が多すぎじゃないですか? たかが修学旅行に……>
「いや、何が起こるか分からないからな。突然無人島に流されるかもしれん」
<京都に向かう途中で何故無人島に……>

そんなシルフとのやり取りの途中でも手は動かす。
まあ、多分準備しなくても茶々丸さんが勝手に準備してくれるだろうが……あまり頼り過ぎもよくない。

まあ、そんなこんなで――明日は修学旅行だ!



第20話 王の紅


<……あの、マスター……?>
「なんだよ?」

準備を終えて寝る直前、シルフが恐る恐る話しかけてきた。

<何かあり得ないことが起こった気がするんですが……>
「……はあ? 何が?」
<いえ、その……時間が……飛んだ気が……近くに死亡記録更新中の彼がいるのでは……?>

時間が、飛ぶ?
何を言ってんだ、コイツは。
漫画の見すぎだ。

<何か、学園の停電の前後に起こった全てのイベントが飛んでしまった気がするんですが……具体的に言うと5話程>
「いや、どう考えても気のせいだろ」

全く何を言い出すかと思えば。

――少し前にエヴァとネギ君の間で大規模な戦闘が起こった。
学園の停電により魔力を復活させたエヴァとネギ君の戦闘。
その結果なんだかんだでネギ君とエヴァの間には不戦条約が結ばれた。
俺もエヴァを手伝い、エヴァとネギ君の間に邪魔が入らないように、魔法先生と魔法生徒の集団と戦闘を行った。
いや、見せてあげたかったね、俺がタカミチを筆頭に魔法使いをバッタバッタと切り倒して行くところを、本当に。
あと、なんかエヴァは吸血鬼だったらしい。いや信じてないけどね、あいつがあの伝説のあの人だなんて信じてないからね。

<そう、ですよね。何か前代未問の出来事が起こったかと思いましたよ>
「そうだよ」
<私ったら……てへりっ>
「……っ」

シルフの心配も解決したところで、俺は素早く眠った。
明日の修学旅行に備えて。



……次の日……



「忘れ物はありませんか?」
「ああ、大丈夫だよ茶々丸さん」

俺は玄関の前で今まさに外に出んと靴を履いている。
目の前には茶々丸さん、エヴァ、チャチャゼロの三人。
エヴァは何やら俺の荷物を漁っている……っておい

「何してんだよ!?」
「いや、いくらなんでも荷物が多すぎる。どうせ下らん物でも入れているんだろう?」

ごそごそとカバンの中身を引っ掻き回す。

「どうせ自分の枕でも……」


冗談交じりにそう言ってエヴァカバンからが取り出したのは――

「本当に枕を入れるなっ、アホかっ!?」

俺の枕だった。枕カバーがデフォルメされた茶々丸さんの絵なのですぐに分かる。

「枕が変わると眠れないだって言ってみたかったんだ……」
「下らんネタを仕込むな!!」

そうして枕は部屋に戻って行く。……グッバイ枕。

「――これは何だ……」

再びエヴァが取りだしたのは……

「何で布団一式が入っているんだ!? 枕二つ目か!? 貴様は何をしに京都に行くんだ!? 寝に行くのか!?」
「え、引率だけど?」
「素で答えるなっ!」

布団一式が部屋に帰っていく。……グッバイ布団。
余談だが布団にも茶々丸さんの絵が刺繍されている。
さらに余談だが俺のパジャマもデフォルメされたパジャマ姿の茶々丸が刺繍されている。
さらにさらに余談だが全部茶々丸さんの手作りである。
ちくちくとこれを縫っている茶々丸さんを想像するとドキドキ止まらない……。

「他にもいらん物を仕込んでそうだな……」

ゴソゴソとカバン漁りを再開するエヴァ。
ハラハラとそれを見つめる俺と茶々丸さん。
グーグーと寝息を立てるシルフ。
ケラケラと笑うチャチャゼロ。
チラチラとさっきから見えるエヴァのパンツ(カバンを漁るのに夢中で気づいていない)

「ん? この長い物体は……」

そうしてエヴァが取り出したのは……

<……おはよう、おやすみ……zzz>
「……」

エヴァは無言で<散花>をカバンに戻す。

「ま、まあまだ荷物が多い気がするがこんなものだろうっ」

エヴァは見なかったことにするようだ。
……自分も連れて行けってうるさかったんだよ……。

「じゃあ行ってくるよ」

カバンを肩にかけ玄関を出ようとする……

「……少し早いんじゃないのか?」
「ネギ君と待ち合わせしてるからな」

ネギ君のことだから20分前には来ているはずだ。

「……ふん、仲がいいことだな」
「何だ? 嫉妬か?」

俺がそう返すと、エヴァは顔を赤くして

「何で私が坊やに嫉妬しなければならないんだ!?」
「いや、茶々丸さんと俺の仲に嫉妬してるんじゃないかって聞いたんだけど……」
「するかっ!」

何だ……茶々丸さんが俺のネクタイを締めているから嫉妬しているのかと思ったぜ。

「奴らは手段を選んでこないだろう……一応気をつけておけ」

真面目な顔になったエヴァがそんなこと言う。
……何にだ?

「まあ、貴様のことだから心配はしていないが……」
「……ああ。土産ね、分かってるって」
「違うわ!」
「ちゃんと木刀とヌンチャク買ってくるから心配すんなって。もちろんチャチャゼロにもな」
「イラネエ」
「だから違う!」

土産のことでもない……とすると

「生水は飲まないって」
「それも違う! じじいに何も聞いていないのか!?」
「……じいさん?」

……。
ああ、そういえば……



……数日前……


「~~♪ ~~♪」
「ご機嫌だなネギ君……hey!ネギboy!ご機嫌だねぇ!ハーハーン?」
<何で外国人っぽく言い直したんですか……>

俺とネギ君はじいさんに呼ばれ、学園長室に向かっている。
別に以前、楓と遊んでいてじいさんの銅像を破壊してしまった事がバレて呼び出されたわけではない(多分)
……いや、だってさ……あそこであんなデカイ手裏剣出されるとビビるじゃん? 避けるじゃん? それがたまたま銅像に当たっても仕方ないじゃん? アロンアルファにはもっと頑張って欲しかったじゃん? 
……反省してます。

「だってもうすぐ修学旅行なんですよっ。僕楽しみで楽しみでワクワクが止まりません!」
「ハハハ、子供だなあネギ君は」
<……ネットの履歴が京都の事で埋まっているマスター――っ! んーんーっ>
「ど、どうかしたんですか、シルフさん?」
「気にすんなよ。こいつたまに喋れなくなるんだ」
「へー」

口を塞ぐのは間に合ったか……
全くコイツはいらん事を言う。

そうこうしているウチに学園長室に着く。
ドアをノックしようとするネギ君を止める。

「え、どうしてですか?」
「まあ、見てろ」

――ネギ君の代わりにノックをする。

「……誰じゃ?」
「――因果の四宣」
「……ほう。では……赤炎の――」
「メイガス」
「青水の――」
「ゴドロック」
「黄雷の――」
「ゼネルヴ」
「緑蝕の――」
「ライヴォルフ」
「全ては――」
「因果律と共に」
「……」
「……」
「ふぉふぉふぉ、入りなさい」
「しつれいーす」

一週間おきに変わる合言葉を交わしドアを開ける。
もしネギ君があのまま入っていたら……ああ想像するのも恐ろしい。

「何やってるんだ、ネギ君?」
「え? あ、は、はい……失礼します」

ぼーっとしていたネギ君を促し中に入る。
何やら白昼夢でも見た様な顔だ。

「ふむ、何の用かね?」
<ボケてますっ!>
「ワシはまだボケとらんよ。……ところで君らは誰じゃ?」
「僕ネギです! こっちはナナシさんです! 忘れちゃったんですか!?」
「いや、ネギ君。まともに取り合わなくていい」

つーかマジで笑えん。
ネギ君が落ち着いたところで用件を聞く。

「――というわけなんじゃが……」
「中止!? ど、どうしてですか!?」

ネギ君が涙目で詰め寄る……ところを俺が止める。
そして俺はじいさんの前に立ち……

「てめえぇぇっっ! どういう事だぁぁぁ! 中止だとぉぉぉぉ!?」

じいさんの頭の長い部分を鷲掴み上下に揺らす。

「お、落ち着くんじゃぁっ! そこは駄目じゃぁぁっ! 最後まで話を聞いてくれい!」
<マスター! 殿中です、殿中ですぅ!>
「はっ! ……俺としたことが」

つい熱くなってしまった……
それにしても中止? 何で?

「それに中止ではなく変更になるかもと言ったんじゃよ」
「変更? ちなみに変更だとどこになるんだ?」
「ふむ。……ハワイや……東京になるかの。どこか行きたい所でもあるのかのう?」

行きたい所か……

「第三新東京都市」
「まだ時代が早いのう」
「真幌市」
「マイナーじゃのう」
「アナハイム」
「ワシはジオニック社の方がいいのう」
<二人共アニメの見すぎですよ……>

む、確かに。
まあ、この学園も言ってしまえばアニメみたいな所なんだけどな、ハハッ。

「じゃあ、お前はあるのかよ?」
<もちろんですよ。――バイストン・ウェルかラ・ギアスがオススメですね>
「お前はロボットアニメの見すぎだ」

しかも地下繋がりか。
話が逸れたな。
取り合え何で中止や変更になったんだ?

「実は――」

……。

「――というわけじゃ」
「はあ、関西呪術協会ですか……」
「その関西じゅじゅちゅ……じゅじゅつ……関西じゅつつ、……。関西充実協会との仲が悪い……と」
<なんか関西を盛り上げる協会みたいになってますねっ>

なんでこの二人はこんな噛みやすい言葉をスラスラ言えるんだ?
これ絶対エヴァも噛むわ。

「まあワシも向こうとは仲良くしていきたいとは思っているんじゃ。そこでネギ君にこの親書を届けて欲しいんじゃ!」
「ぼ、僕ですか!?」
「どうじゃ、やってくれるかね?」
「……はいっ、やります! 任せてください!」

ネギ君は手紙を受けとると勢いそのままに出て行く。
さて……

「俺にも何かあるんだろ?」
「ふむ、……このかのことなんじゃ」

……。
……。
……。

「狙われるねぇ……何で? 美人だから?」
「いやいやそれだけではないぞい! 料理も出来る、器量もいい! そして可愛い! どうじゃナナシ君、このかとのお見合いは? もし君とこのかが結婚すれば君はワシの義弟ということになるぞい?」
「ならねーよ! あんたみたいな兄がいてたまるか!」
<でも玉の輿ですよ? あ、私は愛人でいいです。人間の寿命は短いですからね、最後に隣にいた者が勝者ですよ>

いや、お金の問題じゃなくでだな。
……いやいや、お金は大事だけどね。
……また逸れて来たな。

「良く分からんが、その西の関西じゅじゅ……関協の刺客が現れるんだな? そいつからこのかを守れと」
「そうじゃ、頼まれてくれるかの? もちろん報酬はそれなりに用意するぞい」
「むう……」

護衛か……。
刹那がついているからいらないと思うけどなあ……心配性だなあ。

「むむう……」
「ふむ……こんなものでどうじゃ?」
「……仕方ない、友人の頼みは断れないしな」

そろばんがはじき出した報酬を見ずに答える。
まあ最初から受ける気だったけどな。
……一応幾らか見ておくか。
……。
ぜ、ぜぜぜぜぜぜ、ぜろがいっぱい……

「け、けけけ、け、けいやくせいりつだ」
<マスター……声が震えてますよ……>

足も震えている。





……現在……

「ぜ、ぜぜぜ、ぜろがいっぱーいだー」
「ど、どうした!?」

い、いかん思い出してしまった。
お金怖いわ、本当に。

「いや、な、何でもない。じいさんから話は聞いている」
「そうか……ならいい。関西じゅじゅっ、っじゅずつ協会も一枚岩ではないからな。あまり公に仕掛けてはこないだろうが気をつけておけ」

噛んだけど平然と言い切ったなあ。
こういう見栄っ張りなところ真似したいね、うん。

「ん、心配してくれてありがとう。じゃあ行くわ」
「だから心配などしていないっ!」
「ハハハ」

こんな会話も数日はお預けか。
ちと残念だな。

「行ってきます」
「ああ、行ってこい」
「迷ウナヨ」
「ではマスター、戸締りには気をつけて下さい」
「ああ、分かっている――っておいっ!? 茶々丸!!」

突然エヴァが大声をあげた。
エヴァは俺の隣に立つ茶々丸さんを見ている。
……何で茶々丸さんは唐草模様の風呂敷を背負っているの?
……何で家出スタイルなの?
……何でメイド服なのに似合うの?
疑問はつきない。

「どうかしましたか?」
「どこへ……行く気だ?」
「人はどこから来てどこへ行く……俺も昔はそんな事ばかり考えてたよ、答えなんてないのにな。いや、答えがるとしたらそれは……それぞれ違うものなんだろうな。人間って不思議だな byナナシ」
「答えろ……どこへ行く気だ?」

当たり前の様にスルーされたが、まあ、いいよ……別に。
かなりキているエヴァの問いに茶々丸さんは平然と答えた。 

「修学旅行ですが」
「ふ、ふふ……そうか。……貴様の主は誰だ、茶々丸?」
「ナナ……エヴァンジェリン・A・k・マクダウェル様です」

エヴァの質問に流れる様に答える茶々丸さん。
なんかハラハラしてきた……っ。

(オイ、マスター)

む、この声はチャチャゼロか。何だ?

(テメエガ何トカシロヨ、コノ状況)

いやいや、ムリムリ!
人間の手で10年育てられた猿を野生に返すぐらい無理!

(例エガ分カリズレエヨ!)

え、ほんとに?
……じゃあ。
魔族の手で20年育てられた冥竜を冥界に返すぐらい無理!

(意味分カンネエヨ!)

そもそも魔界と冥界には環境に決定的な違いがあってだな……

(説明イラネエヨ!)


「それでその主は修学旅行中はどこにいる?」
「家にいます、学園から出ることが出来ませんから」
「……それで従者のお前はどこに行く?」
「修学旅行です」
「……」

――と、いうわけで冥竜の赤ちゃんを引き取ることになったんだよ。

(ヘー、オ面白イジャネエカ)

いやいや、大変なんだよ子育ては……。

(ケケケ、父親ミテエナ事言ヤガッテ)

まあ、喋れる様になってもナナー、ナナーって呼ぶんだけどな。パパと呼びなさいって言っても聞かねえんだわ。

(パパッテ柄ジャネエヨ、テメエハ)

いやママだと性別が違うだろ……

(ソウイウ事言ッテンジャネエヨ! ア、終ワッタミテエダゾ)

ん?
あ、本当だ。茶々丸さんがしぶしぶ家の中に入っていく。
エヴァはエヴァでほんのり頬を赤くしている。
な、何があったんだ……っ!?
なんか『抜け駆け』とか『違う』とか『認める』的なワードが聞こえたが……。
チャチャゼロとの念話に夢中になりすぎたか。

「……さっさと行け、時間だろう?」
「え? あ、いいのか?」
「……行ってらっしゃいませ、ナナシさん。お困りの時はいつでも電話をお掛け下さい……お、お困りでない時も」
「へ?」
「……いえ、何でもありません」

一瞬茶々丸さんの顔が急激な赤くなったあと急速に元の顔に戻った。
まあ、そういう季節なんだろう。

「じゃあ、行ってくるよ」
「ああ」
「……どうかご無事で」
「北ハ上ダゾ」

そんな声に見送られて、俺は家を出た。



[3132] それが答えだ!にじゅういち
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/12/11 20:51
『……そっちの方はどうだ?』
「ん? 今ホテルに着いたよ。特には……何も無かったかな」
『……何だその間は?』
「まあ少しはあったんだよ」

ホテルに着いてからエヴァから連絡があった。
全く心配性だ。
ホテルに着くまでに関協の攻撃は特には無かった……多分。
それらしいのもあったがイマイチ意図不明なものばかりだった。
いちいち説明が面倒なので今日一日をダイジェスト風にいってみよう。



第二十一話 エターナルサンシャイン



・ネギ君と合流

「おはようございますっ! いよいよ修学旅行ですね!」
<……それがネギ君の最後の台詞だとは誰も思いませんでした……>
「やっ、やめて下さいよ!」
「『やめて下さいよ!』……それがネギ君が俺に託した最後の台詞だった……」
「だ、だからやめて下さいよう!」

ネギ君が半泣きだったのが印象的だった。

・駅でクラスに合流

俺達は一番に駅に着いた……と思っていたら先客がいた。

「おや、師匠とネギ坊主。早いでござるな」
「わっ! 一番乗りだと思ったのに……」

ネギ君は少し残念そうだ。
……しかし楓が一番乗りだとは……予想外だ。
てっきり遅刻ギリギリで来ると思っていたんだが……。

「まさかお前が一番に来てるとは思わなかったよ。……まさか昨日の夜から来てたんじゃねーの?」

わははと笑う俺。
そんなわけないじゃないですかと笑うネギ君。
たははと頭をかく楓。

「実はその通りでござる」
「馬鹿じゃねえの!?」
「まさか一発で見破られるとは……流石は師匠でござる」

楓がアホだということが改めて分かった。

・クラスメイト続々集合

「あー、ナナシ君とネギ君おはよー」
「おはよう……流石に教師は早いわね」

アスナと近乃香が来た。

「ああ、おはよう。……ちっ!……アスナが遅刻するに500円かけてたのに!」
「何で賭けしてんのよ!? ていうか他に誰が賭けてんのよ!?」
「じいさんとネギ君」
「ムキー!!」

ネギ君の胸倉を掴むアスナ。

「ぼ、僕は賭けてませんよ!」

よくよく考えてみると近乃香が同室なんだから遅刻は無いよな……。
じいさんはここまで考えていたのか……。
喰えないじじいだ。

「エヴァちゃんは一緒に来てへんのー?」
「そういえば茶々丸さんも来てないわね」

アスナと近乃香はそんな事を尋ねる。
ふむ……どうしようか。
ネギ君もどう説明するか考えているようだ。

「え、えーとその二人はですね……」
「留年した」
「意味分かんないわよっ!」
「つまり成績が次の学年に上がるのに芳しくなく、もう一度同じ学年をやり直すことで……」

ネギ君が留年の説明をしてた。

・乗車

次々と生徒達が乗車して行く。
全員が乗ったのを確認した後、乗車。

「師匠ー」

車両を歩いていると楓に声をかけられた。

「何だよ」
「ここに座るでござるよっ。しっかりと温めておいたでござる!」

バンバンと隣の席を叩く楓。
……色々と言いたい事があるがまあいい。
お言葉に甘えて座らせてもらおう。

座席には古菲、ハカセ、超、その他がいた。
……。
適当に雑談をしたりカードゲームをしたりして過ごす。

「ハカセ、昨日の『装甲戦神ディザスター』見た?」
「ええ、見ましたよ。Bパートの作画が良かったですね」
<ですよねー。作監が宮さんでしたね>
「宮さんは相変わらずいい仕事をしますよね」
「今期は『マジカルティーチャーNEGIMA!』もいい感じだよな」
「私原作持ってますよ。貸しましょうか?」
「頼むわ」
「「「……」」」

わりと引かれていた。

「師匠、このおはぎはどうでござるか?」

楓のおはぎはそこそこおいしかった。

・定時報告(エヴァ)

ポケットの中に入れてある携帯が震えた。
取り出し画面を見ると『妹』の文字。
……エヴァか。

「もしもし」
『私だ。そっちはどうだ?』
「ただいま電車に乗っているので電話に出る事が出来ません。ピーという発信音の後にお名前と最近あった恥ずかしい出来事を言ってください」
『む、留守電か。……仕方ない。エヴァンジェリンだ。最近あった恥ずかしい出来事は朝珍しく早く起きたので、バカを起こそうと部屋に入って布団をめくったら――』

――電話を切った。

聞きたくない話には蓋をしておこう。


・カエル発生

「……zz……もう食べられないよ茶々丸さん……」
「師匠! ベタな寝言言ってないで起きるでござる!」

何やら切羽詰まった楓に起こされた。

「なんだよ……いい夢見てたのに」
「あまりいい夢とは思えなかったでござるが……そんな事より!」
「そんな事とか言うな!!!!」
「な、何故このタイミングで怒るでござる……」

あまりいじめるのも可哀想なので起きる。
何やら車内が騒がしいな……?
テロリストに占拠でもされたのか……?
まあ仮に占拠されたとしても元海軍のコックが乗っているだろうから安心だね!
……寝起きで頭が回って無いな。

「先生! カエルがっ! カエルがっ!」
「キャー!」
「こ、こっち来たー!!」
「パソコンに張り付くな!!」
「服に入った! 誰か取ってー!!」

……阿鼻共感の絵図だった。
カエルが大量に発生している。
ここは某映画の様に『こういう事もあり得る……あり得るんだ』とでも言っておこうか。
……ていうか何でカエル?

「シルフ」
<はい、何か魔法……っぽい反応ですね。発生源は……移動してますっ! 後部車両です!」

……行くか。

――。
――。

後部車両に入ろうとした時車両内のカエルは消えた。
……誰かが発生源をつぶしたんだろう。
一応入っておくか。
……。
ドアを開ける前にネギ君とすれ違った
ネギ君の目は何やら使命感に溢れていた。
軽く言葉交わして俺は一人でドアに。
ドアを開けるとそこには……

「……刹那か」
「あ……先生」

刹那の足元には紙が落ちている。
……あれが発生源か?

「お前がつぶしたのか?」
「そうです」
「やっぱりこれが……」
「関西呪術協会の手のものの様です」

そうか……。
仕掛けてくるの早いな……。
ついでに護衛の件も聞いておくか。

「俺の仕事は聞いてるよな?」
「はい、よろしくお願いします」
「つーかお前一人でも大丈夫じゃないか?」
「そ、そんな事ありませんっ。私はまだ未熟なので……でもお嬢様だけは、命に代えても!」

相変わらず気合が入った少女だ。
いつか潰れそうで怖いな……。
近乃香の為なら本気で命を投げ出しかねないからな……。

「取り合えず、近乃香の護衛はお前に任せるよ。俺は周囲に気をつけるから……後、絶対自分一人だけで何とかしようとか思うなよ?」
「……はい」
「俺は呼べばすぐに来るから。……お前は一人じゃない」
<『お前は一人じゃない』>

シルフを窓から放り投げた。
流れていく景色の一部と化すシルフ。

「あと、命に代えてもとかやめろ。そういう事言うヤツは大体死ぬんだよ」
「……先生はどうしてそこまで私を……心配してくれるんですか?」
「好きだから」
「ぃえっ!?」
「嘘だ」
「えぁ!? ……あ、あ……う、嘘ですか」

年頃の少女に好きとか言うと7割りぐらいの確率で顔が赤くなる。
これってトリビアになりませんか?

「まあ心配だしな……後ゲームの面子が少なくなると困る」
「ゲ、ゲームですか……」
「……だから命に代えても守るなんて言うなよ」
「で、ですが……」

不服そうな顔だ。

「つーかお前が死んだら近乃香を守るヤツいなくなるじゃないか」
「それは――」
「だからお前が死なない程度に守れ……足りない分は俺が補うから」
「……」

……説教っぽくなったな。
まあ、教師だからいいか。

・酒混入事件

「た、大変ですっ! ナナシさん! 皆が酔っ払っちゃってます!」

ネギ君の慌てた声。
辺りを見回すと確かに生徒が酔っ払っている。
これは……!?

「落ち着くんだネギ君! 落ち着いてそれから一端家に帰った所で俺はふと気づいたんだ、あ……鍵忘れちゃったよってな……まあそれが俺の命を救ったりしなかったり……科学万歳トカ! まあそれはいいんだが最近の政治ってどうなんだろうな……もういっそ俺がなるか、大統領に俺はなる!ってか!? それにしてもこの水うまいな! ウマイ! もう一杯!」
「の、飲んじゃったんですか!?」
「ああ、まるで酒の様な味だ」

フラフラする……酔っ払っているみたいだ……。


・現在

「――という事があった」
『ほう……いきなり仕掛けて来たか』
「あと他にもあったんだがな……特に問題は無かった」
『そうか』

エヴァに今日の出来事を報告した。
……。
報告の後ネギ君を見つけた。

「どこ行くんだ?」
「はい、お風呂に行こうと思いまして」

よく見るとタオルやら温泉セットを持っている。
温泉か……

「ん……じゃあ俺も行くかな」
「え! い、一緒にですかっ……?」
「何故赤くなる」
「何でもないですよっ?」
<つ、ついにこの時が……早くインストールをしないと……!>

ネギ君と共に風呂場へ向かう。

……風呂場……

服に手をかけ……ふと止めた。

「おい、シルフ」
<んー、何ですかマスター? 今私忙しいんですけど? インストールが上手く……あ、出来ました>
「ガムテープ出してくれ」
<へ? ……分かりました>

虚空からガムテープが現れる。
虚空からガムテープって字面が思ったよりかっこ悪い。
虚空から一振りの刀が現れた……とかだったらカッコイイのに……

「ナナシさん、ガムテープなんてどうするんですか?」
「ん? まあ一応な」
<ん~♪ 最新型の防水ビデオのインストールも完了しましたし……これでマスターの……ふふふ>

何やら怪しげな事を言っている時計がいる。
取り出したガムテープを高速でシルフに巻きつける!

<ひぇ!? な、何するんですかマスター!?>

巻きつける!

<ちょっ、み、見えないです! な、何も見えないです!>

ガムテープが無くなるほど巻きつけた辺りで手を止めた。
シルフは元が時計だとは分からない、ただの茶色い物体になっている。
……これでよし。
最近俺の盗撮されたであろう映像が出回っているので犯人を捜していたが……やはりコイツだったか。

<ち、違います! わ、私だけが犯人じゃないです!>
「じゃあ誰だよ」
<ち、茶々丸です>
「嘘だ!!」

全く、茶々丸さんがこんな事するわけ無いじゃないか。
油断も隙も無いな。
……さて盗撮の心配も無くなったし風呂に入るか。



[3132] それが答えだ!にじゅうに
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/01/07 21:44
「茶々丸」
「……」
「おい、茶々丸!」
「……? ……どうかしましたか、マスター?」
「それはこっちの台詞だ。さっきから呼んでいるだろうが」
「……申し訳ありません、少し考えごとを……」
「……ふん。そろそろ食事の時間だろう?」
「……! も、申し訳ありません……!」

……10分後……


「もう出来たのか?」
「……申し訳ありませんマスター。今日の食材買い物を忘れてしまいましたので……」
「はあ……別にいい。簡単な物で構わん」
「……はい」

……10分後……

「食事の用意が出来ました」
「ああ……おい、これは何だ?」
「食事です」
「……白米しか無いように見えるが?」
「こちらを」
「……バターと……醤油?」
「買い物を忘れてしまいましたので」
「……」
「……ナナシさん……」
「……一日でこれか」

……10分後……

「茶々丸、そんなに奴の下に行きたいのなら……」
「――ではマスター、戸締りだけ気をつけておいて下さい」
「待て待て待て! 冗談だ! 待て! バーニアを吹かすな!」


第二十二話 温泉わくわく大決戦!



「あー、いい湯だなー……ネギ君」
「そうですねー……ナナシさん」

俺とネギ君は温泉に入っていた。

「そういえばカモ助は?」

俺はネギ君の相棒であるオコジョの姿が見えないことに気付いた。

「カモ君は部屋でお酒を飲んでますよー」 
「畜生の癖に酒を飲むのか」

……侮れんな。

「しかしいい湯だなー」
<うぅっ……何も見えません……>

先ほどガムテープでぐるぐる巻きにしたシルフがさめざめの泣いている。
いい気味だ。

「じゃあネギ君、どっちがお湯の中で長く呼吸を止められるか勝負しようか」
「えぇ!? いきなりですか!? 他のお客さんに迷惑に……って誰もいませんね」

ネギ君がぐるりと辺りを見回す。
俺とネギ君の他、この露天風呂には誰もいない。

「だろ? だからしようぜ?」
<な、何をするんですか!? 露天風呂で二人っきりで!? だ、駄目です! そんな……非生産的ですっ!>

無視無視。

「いや……でも……」

ネギ君は迷っている。
例え誰もいなくても負い目があるんだろう。
……挑発してみることにした。

「何だ、負けるのが怖いのかい?」
「……む」

ネギ君はムっとした。
子供である。

「それに君の父親のナギ・スプリングフィールド……」
「……!」
「こんな二つ名も持っていたそうだ――『1000の時間を水の中で過ごした者』……と」
「ほ、本当ですか!?」

嘘です。

「さあどうするネギ君?」
「や、やります!」

憧れの父親に対する負けん気からやる事にしたようだ。
自分で騙しておきながらこの子の将来が心配になってきた……あと何となく今後のゲーム業界の将来も心配になった。

「負けたらコーヒー牛乳奢りで」
「分かりました。言っておきますが……」
「……ん?」
「僕、肺活量には自信がありますよ」
「……面白い」
<肺活量!? い、一体どんなプレイを……!?>

これもネギ君なりの挑発なんだろう。
あとプレイって言うな。

「じゃあスタートって言ったらスタートで」
「はい」

俺とネギ君は一緒に息を吸い込む。
限界まで吸い込みそして俺が合図を……

「スタート――って言ったらだぞ?」

ジャボン、とネギ君がお湯に潜った。

「……」

……。

「……」

……。

「す、すたーとっ!」

俺はおよそ1分程あとに自分の合図で潜った。
――。
お湯は乳白色なので潜ると視界が真っ白になり何も見えない。
――。
お湯が顔面に当たり結構熱い。
――。
まだまだ余裕だ。
――。
そろそろネギ君は上がったかな。
――。
俺はまだまだいけるし、ここで大人の偉大さとやらを見せ付けてやるか。
――。
……5分はたったかな。
――。
ちょっとキツイか……いや全然いけるわ。
――。
もう10分はたったかな。
――。
これは世界新が出たかもしれんな。
――。
う、ごごご……急にキツくなってきた。
――。
いや、まだまだいけるけどね。ほら、そろそろネギ君が心配して救急車呼ぶかもしれないし……な!
――。
まあ、あと10分ぐらいはいけるだろうけどほらやっぱりネギくんがそろそr

「――ごふぁ!」

俺は湯から顔をあげた。

「ごふっ! げほっげっほ! おぇぇぇ! ごぇぇぇぇ!」

少しむせたが問題ない。

「シルフ、何分経った?」
<はい? マスターとネギ君が無言になってからですか? えーと……2分30秒ですね>

2分30秒……?
少し力を抜き過ぎたか……俺も甘いな。
俺はネギ君の方を向き

「まあ、こんなもんだ。少し手加減しすぎたが、君は子供だし気にすることは――あれ?」

ネギ君がいない。
いや……ネギ君がいた所の湯にゆらゆらと赤い髪が……。
時々ネギ君がはいたであろう気泡がぽこぽこと湯にのぼる。

「……」

――。

「……悪いなネギ君。君に負けるわけにはいかない……許してくれ」

俺はゆらゆらと揺れるネギ君の髪に懺悔をしてこの罪を一生背負っていくことを誓いつつも大きく息を吸い……

――ざぼん

再び湯に潜った。


――other side――

ナナシが再び潜り2分後、ネギが最初に潜ってからおよそ6分後。

「――ぷわっ!」

ざばん、と音を立てネギが湯から顔を上げた。

「はぁ……はぁ……6分ぐらい、かな? お湯じゃなかったら8分はいけたと思うけど……」

ネギは呼吸を整えながらナナシの方を見た。

「僕の勝ちです、ナナシさ――わぁ! スゴイ! まだ潜ってる!」

ネギは驚愕の声をあげた。
正直自分の肺活量には自信があったので負けるとは思わなかったようだ。

「負けちゃったのか……ナナシさんってスゴイんだなぁ……」

ネギはナナシに尊敬の目を向けた。

「僕も修行が足りないってことか……頑張らなきゃ!」

ぐっと拳を握りネギは気合を入れた。
と、同時にネギは自分に近づく気配を感じそちらに気を向けた。

「誰です!? ……えっ? 貴方は!?」



――NANASHI side――

「――ぐふぉあっ!」

俺は再び湯から顔をあげた。

「げほっ! げっほ! げぇっほぉ! うおぇぇえぇっ! うえぇぇっ……うぇぇ」

俺はゆっくりと呼吸を整えた。

「ど、どうだネギ君……おぇぇ。……こ、これが俺の力だ」

俺はネギ君の方を向き指をビシりと指し決め台詞を吐いた。
……?
あれ……ネギ君?
……。
……ま、まだ潜ってんのか!? 何この子!? ば、化け物かっ!
……いや、いないぞ?

「おいネギ君どこに……」
「――な、ナナシさん!」
「え――」

ネギ君の切羽詰まった声に俺は振り向いた。

「――」

俺は振り向きその光景を見て絶句した。

「う、うぅ……ナナシさぁん……」
「ね、ネギ先生……!? そ、それに先生も……!?」

そこにはネギ君がいた。
あと何故か刹那もいた。
そこにアスナがいたらネギセツアスと美少女トリオの完成だ!
……少し動揺してしまった。
そりゃ動揺もします。何故なら刹那はタオル一枚(風呂だから当然か?)でネギ君はタオルすら纏っていない。俺もタオルは纏っていない。
そしてネギ君の股間には刹那の腕が伸びている。……伸びているのだ!

「刹那……お、お前……」
「ち、違うんです先生! これは――」
「修学旅行でハメを外したくなる気持ちは分かるが、合意無しでそういう行為はどうかと先生は思う」

俺は冷静に教師的な意見を出した。
顔を赤くした刹那が俺の言葉に涙目になった。

「だ、だから違うんですっ!」
「合意の上なのか?」
「だからそうじゃないんですっ……!」

真っ赤な顔の刹那がネギ君を解放した。
ネギ君はざぶざぶと湯を掻き分け俺の元に来た。

「な、ななしさぁん~」

7割り泣きのネギ君。
完全にトラウマになったようだ。

「しっかりするんだネギ君!」
「は、はい!」

俺の気合を入れた発言にネギ君はシャキっとした。

「……で、どういうことだ?」
「は、はい。刹那さんは西のスパイだったんです!」
「そ、そうだったのか!」

ま、まさかこんな近くにスパイがいたとは……!

「私はスパイじゃありません! ネギ先生! 貴方の味方です!」
「え……?」
「ふふふ、その通り! 本当のスパイは俺だったのだー!」

取り合えずややこしくしてみた。

「先生!」

刹那に怒られた……軽いジョークなのに。

「そうだネギ君。刹那は敵じゃない」
「そ、そうなんですか?」

刹那が俺達に近づいて来る。

「はい、私は出席番号15番桜咲……あの先生」

誤解を解く発言中に刹那が言葉を止めた。
刹那は顔を赤くし、ちらちら視線を俺に向けながら……

「何だ刹那? 何故チラ見?」
「そ、その……か、隠して下さい!」

隠す?
……?
ああっ!

「こらっネギ君! 子供は見ちゃダメだ!」
「わっ! み、見えません!」

ネギ君の目を俺の手で隠した。
刹那もお年頃なので自分の体を見られるのが恥ずかしいのだ。

「そっちじゃありません! 先生の……その……」

刹那は視線を逸らしつつ俺の方を指差す。

「た、タオルを巻いて下さい!」
「ネギ君の目に?」
「先生のそれです!」

……。
……。
……。

何だかんだで俺はタオルは腰に巻き刹那と向かいあった。

「と、言うわけだネギ君。刹那は敵じゃない」
「ごめんなさい刹那さん……僕勘違いしてしまって……」
「いえ、構いません。私も早とちりをしてしまい申し訳ありません」
「ゴメン楓……お前のたい焼き食べたの俺なんだ」

取り合えず誤解は解けたようだ
そしてどさくさに紛れて俺の懺悔も終わった。
そうしてペコペコしている俺たちの耳に……

「きゃあぁぁぁー!!」

と、少女の悲鳴が聞こえた。
脱衣所から聞こえたようだ。

「この声は……!」

刹那が走り出す。

「あ、アスナさん!?」

ネギ君も走り出す。

「殺人鬼がいるかもしれない部屋なんかにいれるか! 俺は自分の部屋に行く!」

俺も走り出した。



――脱衣所――

到着した俺たちが見たのは予想だにしない光景だった。

「いやぁぁ~離して~」
「何なのよあんた達! ちょっ! 離しなさいよ!」

下着姿の近乃香とアスナが小猿に襲われていた。

「こ、この温泉には猿も入りに来るのか……!」
「どこに驚いてんのよ!? さっさと助けなさいよ!」

アスナは義務の様に突っ込んで助けを求めた。

「あ、アスナさんっ! 今助けます!」
「お嬢様! 貴様らお嬢様に何をするっ!」
「お前らの血は何色だー!?」

俺たちは小猿の集団に突っ込み追い払った。
しかしこれが西の刺客の仕業か……。
これはもう本気で近乃香を狙いに来ているとみていいんだろうな。
……楽な仕事だと思ってたんだがな……。

「ありがとー、せっちゃん!」
「いえ……」

刹那はすぐに出て行った。

「せっちゃん……」

近衛香の悲しげな顔が印象に残った。



[3132] それが答えだ!にじゅうさん
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/01/14 19:34
「私はお嬢様を追います! 神楽坂さんはここで待っていて下さい!」
「いやよっ! 私も行くわっ! このかが攫われて黙って待てるわけないでしょ!?」
「……っ。……分かりました。私についてきて下さい!」
「ええ!」

刹那とアスナは部屋を飛び出す。
謎の猿に攫われた近乃香を助ける為に。
ネギと合流し、近乃香を追う刹那はあることを思い出す。
……ナナシの事だ。
どうやらまだ攫われたことに気付いていないらしい。

「……先生」

刹那はナナシの言葉を思いだす。
自分のことを心配してくれていた言葉を。

『お前は一人じゃない』

何かあったら自分に言え、と。
その言葉を思い出し、ナナシに式神を飛ばした。



第二十三話 ミッドナイト・ラン




――ほぼ同時刻――



「4!」
「5でござる」
「……6だ」
「……な、なな」
「「ダウト!(でござる)」」
「ちっ!」

舌打ちをする。

「何で分かったんだよ」
「師匠、顔に出てたでござる」
「分かりやすすぎんだよ」

今、俺は楓と千雨とトランプを囲んでいる。
中心に散乱したトランプを全て回収する。

「じゃあ次だ。7!」
「しかし驚いたでござるよ、8」
「……何だよ? ……9」

楓の疑問に少し不機嫌さを滲ませつつ答える千雨。
しかし、楓が驚いたこと……?

「まあ、俺が実は腹筋を5回しか出来ないことは驚くことだとは思うが……」
「いや、違うでござるよ。……そうなんでござるか!?」
「しょぼすぎだろ……」

楓の驚く声と千雨の馬鹿にした声。
いいじゃん別に……腹筋出来なくてもいいじゃない、人間だもの。

「じゃあ、何に驚いたんだよ……10!」
「師匠と千雨殿の仲が良かったことでござるよ、11」
「……べ、別に仲がいいわけじゃないつーの……12」

千雨が少し動揺している。
まあ、部屋にいる以上多少は仲がいいわけだが。
千雨は先ほど、部屋のヤツラがうるさいと俺の部屋に避難してきた。
その後楓がいつもの様に遊びにやってきてとりあえずトランプをしているわけだ。

「ただの○○○フレンドってやつだよ、13!」
「そ、そうなんでござるか!?」
「ちげーよ! アホか!? つーかそれセクハラだぞ!?」

顔を赤くして詰め寄ってくる二人。

「メールフレンドなんだが……セクハラか?」
「……め、めーる? ああ! メールでござるか! いや拙者は知ってたでござるよっ?」
「……どちらにしろ伏字にする意味が分かんねえつーの」

元の位置の戻る二人。
少しぶすっとした千雨がそういえばと尋ねてくる。

「長瀬とナナシの――」
「先生をつけろよ、デコ助が!!」
「……長瀬とナナシ先生の関係は何なんだよ?」

その質問に楓は、

「師匠と弟子でござるよ」
「……何のだよ?」
「……な、内緒でござる」

内緒らしい。
一応楓は自分が忍者であることを秘密にしているらしい。
いや、秘密もくそもないわけだが。

<あのー、マスター?>

いきなりのシルフの声。

<ちょっと報告しないといけないことが……>
「今盛り上がってるから後にしろ」
<はぁ……あとで「何で報告しなかったんだ!?」って怒らないで下さいよ?>
「怒らん怒らん」

シルフは何か伝えたかった様だが、それほど重要なことではなかったようだ。

「じゃ、じゃあ1でござる!」
「別に先生とあんたがどんな関係でもいいけどな……2」
「3!」

……。
……。
……。

ダウトと呼ばれるゲームは続く。
現在中心には捨てカードが大量にある。
ここで直撃を受ければ、全ての捨てカードを引き受けなくてはならない。
慎重に行くべきだ。
俺はカードを出す。

「4」

そして次は楓の番。
楓は5を出さなくてはならない。
……だが!
楓が出すカードに5は無い。
何故なら……全て俺が独占しているからだ!
捨てカードも溜まってきた。
ここらで楓にはキツイのをくらってもらう……!
楓がカードを出す……!

「5でござる――」

今だぁぁぁ!

「ダウトォォォォ!!」

俺の咆哮が響く。
楓の体がビクリとなり、千雨の「うるせえ」という視線。

「はっはっは! 残念だったな楓。 このカードは全てお前の物だぁ!」

ズイっと捨てカードの山を楓に押し出す。
……が楓はニヤリと笑い

「いや、師匠の物でござるよ」

そう言い山のてっぺんのカードを表にした。
……5!
……5!
……5!?
な、なんだとっ……!
確かに俺の手札には5のカードが4枚っ……!
楓が出せるはず……ないっ……
な、なら何故楓の手元に5のカードがっ……?
……いや、ていうか……

「イカサマするなよ!!」
「あうっ」

ベシリと楓のデコを叩く。
俺が4枚持っている以上、楓が一枚増やしたのしかありえない。
汚いな忍者さすが汚い。

「お前、今日はイカサマ無しって言っただろ!」
「駄目駄目言うでござるから、やれってフラグかと思ったでござる……」

デコを押さえ、涙目で言い訳をする楓……芸人かよ。
これだから最近のガキは……
そんな感じでゲームをしていた俺たちの元に……

『先生! 大変です!』

と声が響くと同時に何かが現れた。
その声の発生源である小さい何か。
俺はその小さい何かを見て全てのことを理解した。
そして行動に移した。

「そぉい!」
『へ?』

近くにあった湯のみを小さい何かに被せ捕まえる。
湯のみを押さえ、呆然としている二人を見た。

「お前ら……今の見たか?」
「み、見たでござる……」
「い、今のなんだよ? 何か……桜咲に似てたような……」

二人にも見えていたようだ。
間違いないこれは……

「妖精だ」
「妖精でござるな」
「……は? そ、そんなもんいるわけないだろ?」

頑なに否定する千雨。
だが動揺している。
しかし驚いたな……。
自分の心が綺麗だとは前から思っていたが……妖精が見えるほど綺麗だったとは……筋斗雲に乗れるかもしれんな。
湯のみの中からは『出してください~』『暗いです~』『お願いですから~』と半泣きの声が聞こえる。

「しかし捕まえたのはいいがこの妖精どうしようか?」
「そうでござるなー……標本にするのはどうでござるか?」
『ひぃ!?』

湯のみが揺れた。

「お、お前ら標本って……可哀想とか思わねえのかよっ?」

千雨が焦った声で訴える。
何だかんだで優しいのである。
恐らく皆で歩いていて捨てられた子犬を見て、その時は無視してあとから一人で拾いの来るタイプだ。どんなタイプだ。

「何だよ? 妖精なんか信じてないんだろ?」
「し、信じてねえよ! ……凄い小さい人間かもしれないだろっ!」
「アホだ」
「うっせー!」

顔を赤くして怒鳴る千雨。

「まあまあ、怒らないで欲しいでござるよ。ちょっとした冗談でござるよ、師匠?」
「……え? ああ、うん。……じょ、冗談に決まってるじゃないか」
「……」
「……」

千雨の「こいつ……」という視線と楓の「……し、師匠?」という視線を受ける。
も、もちろん冗談ですよ?

<あのー、盛り上がってるところいいですか?>
「よくない」
<その子……刹那ちゃんの式神ですよ?>
「……なに?」

その言葉を聞き湯のみを取る。
……うわ、まじだ。
刹那のスタンドであるちびせつなだ。
うずくまって泣いてるよ……。

「や、やあちびせつな! どうしたんだいっ?」

アメリカのホームドラマばりに陽気に声を掛けた。

『うぅぅ……はっ!? せ、先生!』

ばっと胸に飛び込んでくるちびせつな。

『い、いきなり暗くなって……そ、それで怖くて……』
「よしよし」

俺がやったとは思ってないようだ。
多少罪悪感はあるが、アスナのスカートがめくれていたのを指摘せずにそのまま学校から家に帰った時の罪悪感よりはずっとましだ。
ちびせつなから説明を受ける。
かくかくしかじか……。
近乃香が攫われたらしい……。
成る程……しかしおかしいな?
確か近乃香の状況は常にシルフにチェックさせておいたはずだが……。

「どういうことだ、シルフ?」
<はい。もちろん気付いていました、私優秀ですから。凄いスピードで部屋から遠ざかるこのかちゃんに気付いていました>
「何で報告しなかったんだ!?」
<ほらぁ! 言うと思いましたぁ!、怒らないって言ったのにぃ! 私ちゃんと言いましたよぉ!?> 
『あ。せ、先生! ほ、本体さんが敵と――』

ポンと音を立てて消えるちびせつな。
ひんひんと泣くシルフを無視して立ち上がる。

「む、師匠。勝負を棄権でござるか? と、いうことは拙者らの勝利で拙者と千雨殿で山分けでござるな」
「あれは小さい人間。あれは小さい人間……」

楓の少し咎める様な発言と千雨の現実を見ない発言を聞き流しドアに走る。
ドアを開けようと……

「先生、ちょっといいですか?」

綾瀬夕映が入ってきた。

「アスナさんや刹那さんがいなくなってしまったです……」

そうか……近乃香と同じ部屋か。
それよりも丁度良かった。

「ゆえゆえ!」
「ゆ、ゆえゆえって言わないで欲しいですっ」
「いいからちょっと部屋に入れ!」

夕映の手を引き部屋の中に引きずりこむ。

「へ、部屋に連れ込んで何をする気ですか!?」
「楽しいことだ!」
「えぇ!? だ、だめです! 幾らなんでも色んな段階を飛び越えすぎです!」

顔を真っ赤にした夕映を無理やり引きずり込み、部屋に戻る。
夕映は「た、確かに先生のことは嫌いではないです、……で、でも幾らなんでも」とか言ってる。

「おや? 師匠、もう戻ってきたでござるか? 夕映殿?」
「……え? 楓さんと……千雨さん? ここで何をしてるです?」

夕映を俺が居た席に座らせる。
 
「今からゆえゆえが俺の代打だ」
「代打? ……トランプ? お、お金を掛けてるですか!?」

ゆえゆえの咎めるような発言。
心外だな……

「金なんて無粋な物は賭けて無いさ。賭けているのは……誇りだよ」
「お菓子でござる」
「お菓子だ」
「うっせえ! じゃあちょっと行って来るから! あ、あと就寝時間になったら帰れよ!」

上着を羽織り、ドアから廊下に出る。
背後から「行ってらっしゃいでござるー」「い、一体何なんだよ……」「……楽しいこと……です?」と声が聞こえた。
廊下を走る。

「シルフ! 場所は分かってるな!?」
<はい! このかちゃんの魔力はすっごい分かりやすいですからね! 刹那ちゃん達も追いついてるみたいです!>
「よし! 次元門(ディメンション・ゲート)起動しろ!」
<はい!? 何ですかそのカッコイイの!?>
「ふふふ……ただ転移するのはつまらんからな。この前思いついた」
<テンション上がりまくりですっ! ディメンション・ゲート起動しました! 空間跳躍(イリーガル・ジャンプ)いけます!>
「それカッコイイな! イリーガル・ジャンプ!!!」

俺は技名を叫びつつ、目の前の空間の歪みに飛び込んだ。



[3132] それが答えだ!にじゅうよん
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/01/21 01:57
「どんどん行きますえ~――ざ~んが~んけ~ん」
「くっ!」

刹那が苦悶に満ちた顔でその斬撃を受け止める。

(この女……ふざけた格好をしているが強い!)

ヒラヒラとしたロリータファッションの少女……月詠。
ぽやぽやとしていて喋り方もとろとろしているがその実力は本物だった。
キンキンキンと連続で刹那に打ち込まれる二本の小太刀による攻撃。
刹那はそれを夕凪で受け止める。

「うふふ~……先輩、楽しいですね~」

言葉通り本当に楽しさを感じている笑みを浮かべる月詠。
反対に刹那の顔には焦りが浮かんでいた。

(お嬢様……!)

視線を近乃香の方へ向ける。
そこではもう一人の敵とその護衛の式神がネギとアスナと相対している。
近乃香はその敵に捕らえられている。
その視線の移動による小さな隙を月詠は見逃さなかった。

「先輩~、よそ見はいけませんえ~」
「――しまっ……」

その一瞬の隙は致命的な隙となった。
一瞬で月詠は刹那の懐に入り込み……

「じゃあ~いただきますぅ~」
「……っ!」

長い刀の夕凪ではここまで接近した月詠に対して攻撃出来ない。
刹那は次のくるであろう一撃に身を硬くした。

「じゃあ~、おやすみなさい~先輩ぃ~――ふにゃあ!?」

一撃はこなかった。
月詠はまるで踏み潰された猫のような声を出し、文字通りべちゃりと潰れた。
そして月詠を踏み潰したそれはその場にそぐわない緊張感の無い声で喋った。

「ご、ごめんなさい……」


第二十三話 空から降る一億の星


<……ZZZ……zzz……はっ!? わ、わたし寝てました!?>
「ああ寝てた」
<ご、ごめんなさい! でもすっごい夢みたんですよ! 何かツインテールの女の子に召還されてクラス<クロック>として魔法使いの人達と戦う夢を見たんですっ!>
「へ~」
<他の魔法使いさん達を倒した私達は何でも願いが叶うっていう『聖杯』の元に辿り着いたんですっ! ……でも、それは願いが叶える願望器なんかじゃなかったんです>
「ぽえ~ん」
<試しにマスターを10人程下さいと頼んだところ、黒いドロドロなマスター達が現れて、あわや私達はBADエンドになるところでしたっ! BADエンドのタイトルは『急に選択肢が出たので……』ですっ!>
「まうまう~」
<まあ、その後なんだかんだでその聖杯を破壊してその女の子とは別れました。最後の会話は『わ、私の家の修理費を払ってから帰りなさいよっ!』『○さん……私なら大丈夫です。私はこれからも頑張っていきますよ』でした! 泣かせる演出満載でした! ……って、ちゃんと聞いてくださいよマスター!>

目を覚ますなり、いきなり電波の夢の内容を語り始める時計を無視してもそれは間違いなんかじゃない。

「ていうかそうな事言ってられる状況じゃない」
<へ? 私が寝てる間に何か……>

俺は黙って下を指差す。

<はい? 下に何が……地面が無いですね>

俺の足元に地面は無い。
正確にはあるのだが、それは遥かに下だ。
つまり俺達は……とても高い所にいる。
ついでに落下している。

<な、何故こんな事に……!? ま、まさか……これが聖杯を破壊した影響!?>
「夢の話を現実の持ち込むな」

そんなことを言いつつも落下し続けている俺達。

「つーかさ、いつも言ってるだろ? 転移の際の注意点!」
<は、はい! えーと……『転移後の高さには気をつける』『下に人がいない事を確認する』『絶対に宇宙には転移しない』『おやつは200円まで。バナナはおやつに入りますがチョコバナナは入らない』『転移する前にもう一度、転移後の場所の確認』……です!>

……何か変なの混じってたな。 

「お前な、幾ら俺でもこんな高さから落下したらどうなると思う?」
<新しい力に目覚めます!>
「……まあ、その可能性も無いことは無いが……」
<今度からは気をつけますっ。……今、重力操作を行いました! 落下時の衝撃については大丈夫です!>

確かに先ほどより落下のスピードが落ちている。
この速度なら……捻挫くらいですむかな。
む……地面が近づいてきた。
人影がぱらぱらと見れる。
あ……やば……このまま落ちると……


「――ふにゃあ!?」


踏み潰してしまった……。
目を回している……よ、よかった死んでない。
とりあえず謝っておこう。

「ご、ごめんなさい」
「せ、先生!?」
「ごめんなさいっ!」

目の前から掛けられた声に反射的にもう一度謝ってしまった。
……なんだ刹那か。
周囲を見渡す。
刹那の他にネギ君とアスナと眼鏡の女がいた。
全員、驚愕の目でこちらを見ている。
な、なんだよ……まるでいきなり人が上から降って来たかの様な目でこっちを見て……

<まさにその通りなんですけどねっ>

まあ、近乃香もまだ無事なようだし……間に合ったか。

「待たせたな諸君」
「先生! 申し訳ありません! 私がついていながら敵にみすみすお嬢様を……! それに今先生が現れなければ私は……」

責任を感じている顔で謝る刹那。
……俺、部屋でトランプしてました。
普通に遊んでました……ゴメンね?

「い、いや、お前はようやった! お前がいなければ近乃香はとっくに敵にされわれとったはずや!」

何となく関西弁を使ってみた。

「とりあえずさっさと近乃香を奪い返すぞ!」
「はい!」

ネギ君達の下に駆け寄る。

「ナナシさん!」
「待たせて悪かったなネギ君」
「あんた遅すぎんのよ! ていうか何で上から降ってきたのよ!?」
「ラピュタから落ちた」
「嘘つけっ!」

アスナは巨大なハリセンを持っていた。
俺はいつその巨大なハリセンでしばかれるかとビクビクした。
俺は近乃香を捕まえている女に向き合う。

「う、嘘や……月詠はんが一瞬で……」

その眼鏡女は俺のメテオインパクトにより仲間がやられたことに衝撃を受けているようだ。
一気に畳み掛ける!

「おい、そこのモブキャラ!」
「も、モブキャラ!?」
「お前以外の誰がいる? さっさと背景に帰れ!」
<明らかに攻略対象外なキャラっぽいですねっ>
「いくら眼鏡と京都弁でキャラを固めようが無駄だ! お前は一生見せ場が無いタイプだ!」
<仲間になると弱いタイプですねっ>
「なっ……は……は……?」

俺のシルフのコンボ口撃は眼鏡女に確かなダメージを与えた。

「……ふ、ふん。どうせウチを怒らせてその隙にお嬢様を取り戻そうって作戦やろ! こっちには人質がおるから迂闊に攻撃は出来へんからな……ウチにはお見通しや!」
「そ、そうだったんですか?」

ネギ君がこちらを見て言う。
思ったままの感想を言っただけなんだが……それでいいや。

「いくら強い味方が来てもこっちには人質がおるんや。……有効に活用させてもらいますえ!」
「早くこのかを返しなさいよ! 大体このかをどうするつもりなのよっ!」
「せやな~。取りあえず呪薬と呪符で口聞けんようにして、ウチらの言いなりになる操り人形にするのがえ~なあ」
「「「――っ!」」」

刹那とアスナとネギ君から怒りを感じる。
特に刹那からのは殺気に近い。

「操り人形ね。確かにいい手だが……操り人形になるのはお前の方だぜ?」
「ど、どういう意味や!?」

……。
いや、特に意味は無いのだが……。

「ふ、ふん! つ、強がりを言っても無駄や。こっちにはこのかお嬢様がおる……ウチの勝ちや」
「強がりね。……こっちにこのかがいるのは俺達かもしれないぜ?」
「だからどういう意味や!?」

律儀に突っ込みを入れるのは関西人のSAGAなのか?
あーエヴァの突っ込みが恋しくなってきたなー。

「さっきからわけの分からんことを……。あんたらが幾ら強がったってお嬢様はこっちにおる。フフ……可愛いケツしよってからに、可愛いもんやな~。ほな、ウチはこれで行かせてもらうわ。ほなな~ケツの青いガキ共、おし~りぺんぺ……あらこのかお嬢様、随分と硬いおし……り!?」

余裕ぶっこいていた眼鏡女の目が驚愕に開かれる。
そりゃそうだ。
眼鏡女が近乃香だと思って、ケツを叩いた物、それは……

「か、カーネル!?」

随分馴れ馴れしい呼び方だが、その通り。
カーネルのおじさんだった。

「あ、本当だ! カーネルさんだ!」
「本当……カーネルさんね」
「か、カーネル?」

刹那は分からないようだ。
マックの方が良かったかな?

「ど、どういう事や!? このかお嬢様は……何であんたが持っとるんや!?」

眼鏡は近乃香を抱えている俺に向かい怒鳴る。

<説明しましょう! ……やっぱ面倒くさいのでしません>
「やれよ!」

説明キャラであるシルフが役目を放棄した。
仕方ないから俺が説明しよう。

「お前自分でも言ってだろ? 『ウチを怒らせてその隙にお嬢様を取り返そうって作戦やろ!? 素敵! 抱いて!』ってな」
「こ、後半は言っとらんわ……。じゃあ、さっきまでのわけの分からん言動は、全部ウチを怒らせてこのかお嬢様を取り返す為の作戦……!?」
「そ、そうだったんだ……」
「コイツそこまで考えて無いわよ、絶対」
「せ、先生……お見事です」

刹那とネギ君は尊敬の目でこちらを見つめる。
そしてアスナの冷静な発言。
いや……まあね。何か隙だらけになったから転移して近乃香をぱっと奪い取って、代わりに前拾って処分に困っていたカーネルさんを置いてきただけなんだけどね。
……まあいいや。
  
「それじゃあ……覚悟はいいわよね?」
「僕の生徒さんになんて酷いことを……」
「無傷では返さない……」
「ひっ!? ちょ、ちょっと待った! 降参! ウチ降参するから!」

手を挙げて降伏を示す眼鏡……がもう止められない。

すぱーん! どしゃぁ! しゅごぉぉぉぉ!

三人のミックスデルタ的な攻撃が眼鏡に叩き込まれる。
しかし温厚なネギ君まで……。

<人間の集団心理って怖いですね>

そうだな……。
眼鏡は俺達から離れた所に吹っ飛ばされた。
突然その体が水の中に沈むかの様に、ずぶずぶと沈んでいく。

「ふぇ、フェイトはん!? た、助かったわ……」

ちなみにこの場合の『ふぇ』は『ふぇ、ご主人様?』みたいな使い方とは別だ。ここテストに出るよ。
ずぶずぶと沈んでいく眼鏡。
ネギ君達はこのかを心配してこのかの元に駆け寄っているので気付いていない。
ずぶずぶと沈んで……途中で止まった。
まるで何かに引っかかっているかのようだ。
例えるなら、エニグマに紙にされている途中のアトムヘアーの人が支柱を直して、紙から出てこようとしているかのように……!
ゴゴゴゴゴゴ……!

「な、なんや!? 腕に何かが……時計!?」

眼鏡の腕には時計が巻きついていた。

<フフフフ……>

笑った。
俺の知っている限り喋る時計はシルフ以外に見たことが……あるか。最近喋る時計って結構あるからな。『8時だよ! お兄ちゃん! 全員集合の時間だよ!』って時計が行き着けの玩具屋に置いてあったしな。
まあどうでもいいが。
この場合はシルフだ。
シルフが眼鏡の手に巻きついている。
しかし俺の元から眼鏡まで20m程距離があるんだが……。

<フフフ……こんな事もあろうかと! 一回言ってみたかったんですよ! ――こんな事もあろうかと!>

よっぽどその台詞を言えたのが嬉しいのか2回繰り返す。

<こんな事もあろうかとぉ!!>

3回言った。

<こんな事もあろうかと、ハカセに頼んで鎖が伸びるように改造してもらっていました!>

またハカセか。
ハカセも嬉々として改造したがるからな……。
その内俺もライダー的なものに改造されかねんな……それはそれでいいかも。

「は、離せや!」
<いーやーでーすー! ここで貴方を捕まえて、洗いざらい吐いてもらいますっ! そしてマスターにいい子いい子してもらうんですっ!>

最近いい所が無かったシルフは妙にハッスルしている。

<フフフ……私の拷問にかかればどんな人間でも吐かざるをえません……>
「ご、拷問!?」
<あ、大丈夫ですよ。割とソフトな拷問ですから。病み付きになること間違いなしですよ?>
「いやー! 堪忍してぇー!」
 
眼鏡は泣いている(笑)
と、眼鏡の側に突然小さな水の固まりが現れた。
その固まりは人の姿になる。
白髪でネギ君と同じ歳ぐらいだろうか。

「……一体何をしているんだい」
「ふぇ、フェイトはん!」
「遅いから様子を見に来たら……何を遊んでいるんだい、千草さん?」
「遊んでるわけやない! この時計が腕に絡み付いて……」
「……そう」
<な、何ですか!? や、やりますか!?>

白髪の少年にじっと見られ、ファイティングポーズを取るシルフ。
少年は無表情で手をかざす。
詠唱をしているようだ。
少年の手元に魔力が集まり形を成す。

「『障壁突破・石の槍』」

少年が召還した石の槍がシルフに迫る。

ガインッッ!!

槍はシルフに直撃して火花を散らす。

<いたぁっ!? マスター! 凄く痛いですぅっ!! この子可愛い顔して真剣(マジ)に私を殺りにきてますよっ!! 助けて下さい!>

念話で直接頭に声が響く。
俺はシルフにボディランゲージで言葉を伝えた。
『ガ・ン・バ・レ』

<頑張れ!? そんなんじゃなくてもっと具体的なアクションを起こして下さいっ!!>

火花に包まれながらのシルフの声。
俺は具体的な言葉を伝えた。
『フ・ン・バ・レ』

<踏ん張れないですっ! いたっ! いたっ! も、もう限界です!>

そう悲鳴をあげると同時に、まるで掃除機のコードを巻き取るスイッチを押したかの様にシュルシュルと俺の首に戻ってきた。

<うぅぅぅ……痛かったですよぉマスター……>

よよよよと泣くシルフ。

<慰めて下さいよぉ……。ほらっ! 見て下さい! 私の玉のようなお肌に傷が!>

シルフの表面を見るとよーく見ないと分からないぐらいの小さな傷がついている。
例えるなら1円玉を爪で引っ掻いたかのような……。

「分かった分かった。帰ったら好きなだけ慰めてやるから……」
<わあい!>

ころりと態度を変えるシルフ。
それにしてもあの白髪少年……人間じゃないな。

「……あの時計……傷一つつかなかった。あの持ち主の男……注意しておいた方がいいかもしれない。行こう千草さん」

眼鏡女と白髪少年は水の中へと消えていく。

「……ん」

俺の膝にいる近乃香から声。
目を覚ましたようだ……

「……んんー。あれー、ここどこなん、ナナシ君? ウチ部屋おったはずやねんけど……」

少し記憶が曖昧になっているようだ……

「実はお前は誘拐されたんだ」
「えぇっ! ほんまに? 誰に誘拐されたん?」
「俺」
「ナナシ君が誘拐したんや……何で?」

何でだだろう?

「実は俺とお前は駆け落ちしたんだ」
「駆け落ち!?」
「ああ、愛し合っていたが……互いの両親に認められず仕方なくな……」
「そうなんやー……。でもおかしいで? ウチのおじいちゃんはナナシ君認めるはずやでー」
「知ってる。しきりに見合いを勧めてくるしな」
「ええやんー、ぱっと見合いして、ぱっと結婚しようやー」

ああ怖い! これだから最近の若い子は!

「お嬢様!」
「せっちゃん……? 何でここに……?」
「俺達の追手だ。駆け落ちを邪魔する為に雇われたんだ」
「そうなんやー」
「良かった……お嬢様……ご無事で……!」

刹那は近乃香の手を取り、俯いている。
その目には涙が……

「このか!」
「このかさん!」
「ネギ君にアスナ……?」
「この二人も追手だ」
「あんたはちょっと黙ってなさいっ!」

ついにあのハリセンで叩かれた。
意外と痛く無かった。
 
「えーとー、よう分からんけど皆助けにきてくれたんやー。ありがとなー」

ほにゃりと笑う近乃香。
 
「せっちゃん」
「……このちゃん」
「よかった~。ウチのこと嫌ってた訳や無かったんや~」
「そ、それはっ、……私かて、もっとこのちゃんと話したり……あっ」

顔を赤くしながら答えてた刹那は突然立ち上がり、

「……失礼しました。私はお嬢様をお守りするだけで幸せ……これからも影からお支え出来れば……十分ですっ。……それでは」

刹那はそのまま去った。
近乃香は少し悲しそうな顔をしている。
仲良くしたいんだったらすればいいのに……。

「……ひゃっ!? ウチなんでこんな格好しとるん~!?」

近乃香は今さら自分の格好に気付いたようだ。
浴衣ははだけ、その健康的な色々が見えている。

「ナナシ君、責任取って~」
「ネギ君が取ってくれるらしいぜ?」
「ぼ、僕ですか!?」
「え~、ナナシ君取ってや~」
「じゃあこうしよう。俺とネギ君で半分ずつ責任を取る」
<つまり挟み撃ちの形になるんですね>

ならない。

「あ、あんたたち……」

アスナが呆れた目で見てくる。

「じゃあ、アスナは俺とネギ君の責任の連帯保証人になってくれ」
「いやに決まってるでしょ!?」
「くしゅんっ」

近乃香がくしゃみをした。
俺は浴衣の上に着ていたジャンパーを近乃香に渡す。

「あ、ナナシ君ありがと~……えへへ」

ジャンパーを抱えてほにゃっと笑う。

「ナナシ君の匂いがするな~」
「カレーのいい匂いがするだろ?」
「あんたの匂いって……カレーなの?」

その後皆で旅館に戻った。

……。
……。

「……よっこらしょっと」

俺は次元門から出る。

「……先生」

刹那がいた。
どうやらここは旅館の屋上のようだ。

「先ほどはありがとうございました。先生がいなければ……」

頭を下げて礼を言う刹那。
いや、ぶっちゃけ俺がいなくても何とかなった気がするんだが……まあいい。

「ま、仕事だしな。それに個人的に近乃香の事は好きだしな」
「へ? ……す、好き……なんですか?」

顔を赤くして声を震わせる刹那。

「そりゃ好きだよ。面白いしな。……このクラスは面白い生徒が多くて皆好きだよ」
「あ、……そういう意味ですか……」
「もちろんお前の事もな」
「……あ、ありがとうございます」

さて……

「近乃香の事だけど……いいのか?」
「……何のことでしょう」
「何のことって……もっと近くにいたいんだろ? 昔みたいに仲良くやりたいんだろ?」
「先ほど言ったとおりです。私は影でお嬢様を支えることが出来れば……それで……いいんです」

嘘下手だなー。

「どうしてそこまで私とお嬢様の仲を……それも学園長からの仕事の内ですか」

あ、今のはちょっとムカついた。
いや怒っちゃだめだよ俺!
あれだよ、刹那は今色々戸惑っているんだよ。
本当は仲良くしたい……でもどうすればいいの?
私分かんない! この想いは誰にぶつければいいの!? 青春って何でこんなに甘酸っぱいの!?
知らんがな。

「じいさんの仕事じゃない。……俺の個人的な意思だ」
「個人的な……」
「お前ら二人はな……何ていうかな。……二人一緒だといい感じなんだ」
「いい感じ……ですか?」
「ああ、いい感じだ。こう……一緒にいる時のオーラがスゴいんだよ」
「……オーラ……ですか?」

自分で言っててなんだか分からんな。
いやでもそんな感じなんだ。
二人でいる時の覇気というか……なんだろう?

「とりあえず! お前ら二人の仲がいいと俺はとてもいい感じなんだ」
「……良く分かりません」

俺も分かりません。

「……でも、少し考えてみます。私もお嬢様のお側にいる時が……一番幸せです。もし出来るならいつも一緒に入れたら……」

まあ、意識だけさせとけばいいだろう。
何だかんだいって二人とも繋がってるっぽいし……俺が何かする必要も無いのかもな。

<つまり、マスターは同時攻略がしたいと……あ>

屋上から捨てた。

その後刹那と別れ部屋に帰った。

――部屋――

「先生! 見て欲しいです! 私の一人勝ちです!」

まだトランプをしていた。
夕映は誇らしげにお菓子の山を俺に見せる。
何か珍しく興奮してるな……。

「夕映殿は強いでござるなー、拙者もすっらかんでござるよー」

こりゃ、やられたという顔の楓。

「……まあ、負ける時も……あるな」

強がっているが悔しそうな顔は隠せない千雨。

「では先生、どうぞです」

俺に差し出される菓子の山。

「いや……ゆえゆえの賞品だろ」
「いえ、私はこれだけで十分です」

夕映の元にはジュースのパックの山。
『どろり濃厚』『飲む熾天使薬』『エリクサー』『ベルモント産の水銀』『神父印のマーボー』
随分なラインナップだ。
夕映は嬉しそうな顔だなあ。
だから興奮していたのか……。

「ふあぁ……眠くなってきたでござるな……」
「つーか就寝時間だ。部屋に帰れ」
「おやすみでござる」

忍者の素早さを無駄に発揮して布団に潜り込む楓。

「……連れて帰ってくれ」
「はいです」
「……分かったよ」

楓は二人に引きずられ帰って行った。

「今日は疲れたな」
<そうですねー>
「明日も大変そうだから早く寝る……おやすみシルフ」
<おやすみなさいマスター>

何か寝るのが凄いマスターみたいだな……。

「おやすみ、茶々丸さん、エヴァ……あとチャチャゼロ」

家にいる家族に向かって呟く。
……また明日。



[3132] それが答えだ!にじゅうご
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/02/05 01:11
「おい茶々丸……茶々丸! 聞こえていないのか?」
「……」
「全く私が呼んでいるのだから返事ぐらい……何を見ている? ……写真か?」
「……」
「大方アイツの写真だろう……全くまだ一日しか経っていないのに何という腑抜け具合だ」
「……」
「しかしどんな写真を見ているんだ。……どれどれ――ぶふぉっ!」
「……」
「お、おま、な、何だその写真は!?」
「……はい? あ……マスター……どうかされましたか?」
「どうもこうもあるかっ! なっ、何だその写真は!?」
「……いくらマスターといえどこれを譲るわけにはいきません」
「いやいやいや! 大体どうやって撮ったんだ、そんな写真!?」
「……企業秘密です。ちなみにこれはBランクです。最高はSSSランクになります」
「それでBか!? これをアイツは知っているのか!?」
「……」
「何故そこで頬を染める!?」

今日も愉快なエヴァ家だった。 



第二十五話 トナカイホーン



「おい楓や」
「何でござるか師匠?」

俺はそれに指を差す。

「鹿だ」
「鹿でござるな」

ここは奈良公園。鹿がたくさんいる。
奈良は50%が鹿で構成されているので、この公園には奈良の半分がある事になる。
後の48%は仏像だ。
残りの2%はローソンだ。

<奈良の人に怒られますよ?>

怒られてはまずいので残りの2%はファミマにしておく。

「……鹿食べたことあるか?」
「以前山に篭って修行をしてた時に食べたでござるよ」

俺達は目の前の鹿を眺めながら話す。
……鹿刺し。

「ふーん。おいしかった?」
「美味でござった……鍋にするとまたウマイんでござるよー」

楓はその味を思い出したのかよだれが口の端から垂れる。
鹿鍋か……おいしいんだろうな……。
……じゅるり

<あぁ……二人がアホの子の様によだれを垂らしています。……これも旅の記念ですね、撮っておきましょう。タイトルは『鹿と戯れるマスター』で>
「そのままステーキにするのもおいしいんでござるよー……」
「まじで? ステーキか……」

俺は目の前の鹿を見つめながら、それが素敵なステーキになったところを想像した。
ああ……肉汁が……

「シチューにするのもいいんでござるよー……」
「シチュー……!」
「……? 二人共、何やってるですか?」
<あ、夕映ちゃん。……お二人は夢を追っているんですよ、鹿だけに>
「……うまく言えたみたいな口ぶりですけど、どこも上手くないです」

目の前のつぶらな瞳でこちらを見つめる鹿……仮に妙子にしよう。
妙子が素敵なシチューになるシチュエーションを想像した。
……いい。凄くいい。
あ、茶々丸さん、お代わり。
茶々丸さんが皿にシチューをなみなみと盛る。
……え? 食べさせてくれるの? て、照れるなあ。

「な、なんかナナシ先生の顔がニヤケてるです」
<……何でしょう? ……はっ!? ま、まさか私がお風呂に入っているところを想像しているのでは!? も、もうマスターったら……>

茶々丸さんがスプーンを俺に差し出す。
俺は少し緊張しながら口を大きく開け、スプーンに口を近づけ……むしゃりと食らいついた。

――むしゃり!

「ひぇ!? せ、先生! 何故いきなり私の髪を口に入れるですかぁ!?」

むぐむぐ……なんかシャリシャリするな……。

「あぁ、あぁぁ……うぅ……」

やっぱ何かシャリシャリするな。
え? こういうもんなの?
そうか……鹿ってシャリシャリするものなのか……デカルチャー。

「ちょっとあれ見なよ」
「あ、ナナシ先生と夕映ちゃんじゃん」
「うわっ……何してんのアレ……」
「……イチャイチャ?」
「え? 先生とゆえっちってそういう関係だったの!?」
「知らなかったー」
「わ、私のラブセンサーが反応しなかった……!」
「あれ、でも先生ってエヴァちゃんとそういう関係なんじゃなかったの?」
「えぇー? 違うよー、長瀬さんでしょ? っていうか長瀬さんも傍にいるけど……どういう状況なのかな?」
「あら? ですが私この前、このかさんと一緒に町歩いていたの見ましたわ」
「それを言うなら、先月タカミチ先生とラーメン屋にいたの見たよ」
「ネギ先生とスカッシュやってるの見たよー」
「何でスカッシュ?」

ふぅ……ごちそうさまでした。
ん? 何か周りに人が集まっているぞ。

「……うぅ」

そして足元から聞こえる恨みの篭った声。
夕映がそこにいた。
涙目である。顔が赤い。へたりこんでいる。

「何してんの?」
「こっちの台詞です!」
「ご、ごめんなさい」

剣幕が凄かったので反射的に謝ってしまった。

「……髪がベタベタです。……! 責任を取ってもらう……って何を言ってるですか私は!」

突然ぶつぶつ言ったかと思うと顔をぶんぶん振った。
その後夕映はお手洗いに行くと言って去っていった。
今さらだが楓は何でここにいるんだろう? 別の班のはず。

「分身でござる」

何ともまあ、便利なものである。
……。
そのまま公園をぶらついていると刹那がいた。

「刹那ぁぁぁ!」
「は、はいぃ!? ……あ、先生ですか。な、何かありましたか、そんな大声で」

……いや、特に意味があったわけではないんだが。
つーか刹那が飛び上がるとこなんて初めてみたな。

「いやお前こそ一人で何を……って木乃香の護衛か」

刹那の視線の先にはアスナと木乃香がいた。
下手したらストーカーに見えるぞこれ。

「何もこんな遠くから護衛しなくても……」
「……いえ。私はここからで十分です……ってああ!」

俺は無言で刹那の腕を引きアスナ達の下に向かった。

「むぎゃ!?」

ん? 何か踏んだか?
まあいい。

「やあやあ諸君! スモークチーズはあるかい!?」

俺は背を向けている二人に声を掛ける。
いや、今のエヴァの物真似は自分でも自信があった。

「きゃあ!? ……ってアンタか。今いいところだから静かに」
「しー……やで?」

木乃香は口に指を当ててサイレントポーズ。
二人は木陰に身を隠して、何かを覗き込んでいる。

「何を見てるんだ?」
「あのね……ってあんた何でよだれでベタベタなの!?」

アスナはこちらを見てそんな事を言う。

「は? やめろよ、そういう誹謗中傷は……訴えるぞ!」
「いや、だってベタベタじゃない!」

人の事をベタベタベタベタと……。

「お前幾ら俺がカッコイイからってそういう人気投票に影響が出るような中傷はやめろよ! 卑怯だぞ!」
「意味分かんないわよ!」

全く……人気投票前にそういう手段に出るなんて卑怯なやつだ!
俺も実はアスナの趣味が競馬だってデマを流すぞ!
俺達が騒がしいのに気付いたのか木乃香がこちらを見る。

「ちょっとしー……やで。……あ、せっちゃん」
「ど、どうも……」
「せっちゃんどこ行っとったん? 同じ班やねんから一緒におらんとめっ、やで?」
「も、申し訳ありません」

恐縮する刹那。

「せっちゃん連れてきてくれてありがとな~……何でナナシ君の口ベタベタなん?」
「え、俺ベタベタ?」
「うん、ベタベタやでー」

あははと笑いハンカチを取り出す木乃香。
木乃香はハンカチをおもむろに俺の口元に近づけてくる。
 
「拭き拭き……っと。はい、綺麗になったで~」
「む、ありがとう」
「……」
「……」

アスナは何か駄目な物を見る目でこちらを見て、刹那は羨ましそうな目でこちらを見た。

「HAHAHA! 鹿を見てたらちょっと小腹が空いちゃってSA! なあアスナ!」
「私に振らないでよ」

凄く嫌そうにアスナは言った。

「……鹿食べたいん?」
「まあ、鹿か歯科かで言ったら鹿かな」
<マスター、歯医者嫌いですもんね>

それとこれは今関係無い。
まあ、歯医者に行ったことは無いんだがな。

「んー、じゃあ学校帰ったらウチが鹿料理作ったるわぁ~」
「マジで? 頼むわ」
「あんた教え子にご飯たかるのやめなさいよ……」

アスナの呆れたような発言。
たかる……だと?

「おい訂正しろアスナ!」
「な、なによ」

俺の意気込みにたじろぐアスナ。

「俺は教師からもたかるぞ!」
「たかるって部分を訂正しなさいよっ!」
「ナナシ君、料理スゴイおいしそうに食べるから作り甲斐があるわ~」

木乃香がふふふと笑う。
……そうなのか?
そういえばタカミチも「ははは、君は実に奢り甲斐があるなー」って言ってたしな。

<そうですね。マスターのいい所はご飯をおいしく食べるのと、安らかな寝顔と、私に優しいぐらいですからねっ>

もっとあるだろ……。
つーか三番目はお前の願望だろうが……。

「……それでお嬢様とアスナさんは何を見ているのですか?」

話が逸れて来たので刹那が刹那的に本筋に戻した。

「あれよ、あれ」

アスナが指を刺した方を見る。
あれは……ネギ君と、宮崎?

「のどか……! ついにですね……!」

と俺の下から声。
夕映がいつのまにかそこにいた。
つーかこの人数で隠れている狭いな……。
しかし……ついに?

「ついに……年貢の納め時?」
<ついに……確定申告ですかっ?>
「違うわよっ! ……見ればわかるでしょ?」

見ればねえ……。

「刹那分かるか?」
「……その恐らくですが……告白かと」

ほんのりと頬を染めながらそんな事を言う刹那。
告白ね……告白……告白!?

「え、そういうアレなのか?」
「せやで~、ラブやで~」

ラブらしい。

<へー、告白ですか。初々しいですねー。これも撮っておきましょう。タイトルは『大人への階段で』>

さて当の二人はどうかというと……。
まだ告白はしてないようだ。
だが、ネギ君も宮崎のただならぬ気配に何かを感じ取っているのか緊張している。
アレがカチンコチンだ(足がだぜ? 何だどこだと思ったんだ?)

「のどか……! 頑張るです……!」

拳をにぎり応援する夕映。
何で髪がビショビショなんだ?
その応援が届いたかどうか分からないが宮崎がアクションを起こした!
顔を真っ赤にして何かを叫ぶ宮崎。
それを聞いたネギ君は……

「……きゅう」

倒れた。

「ネ、ネギ先生……!?」

宮崎の悲鳴がこちらにまで聞こえる。

<マスター?>
「どうした?」
<私スッゴイお茶の間どっかんなボケを思いついたんですけど>
「まじで?」

妙に自信満々なシルフ。

<いきますよ……『早すぎたんだ……!』……どうです?>
「やべ、それ超ウケルー☆ あれだろあの巨神兵のパロディだろ?」
<あの解説するのやめてもらえませんか>

シルフの改心のボケがアスナ達には伝わったか……!?

「確かにネギ先生には早かったのかもしれないです……」
「そうね……アイツまだ子供だったのよね」
「ネギ君にはまだ恋愛とか早いのかもしれへんな~……」
「確かに。幾ら教師をしていると言ってもネギ先生はまだ10歳の子供なんですね」

シルフのボケが思いのほかシリアスに受け取られた。
俺達はネギ君を介抱する宮崎を眺めつつ、各々ネギ君に対する認識を改めた。

「あ、兄貴……」

夕映よりさらに下から声が聞こえた。
白い生物。
カモ助である。

「お前いたのか?」
「……ナナシの兄貴の足の裏にな」
「え、何? お前そういう趣味なの?」
「ちげーよ! 兄貴が踏んだんだよ!」

良く見るとカモ助には靴の跡。

「しかし……これは新しく仮契約に使えるかもしれねえな……くくく」

畜生の分際で何かを企んでいるようだ。
こりゃ……嵐が来るかもしれんな……!

<それって京都の嵐山と掛けてたりします?>
「解説すんなよ!」



[3132] それが答えだ!にじゅうろく
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/04/14 18:14
「じゃあ、お邪魔しましたっ」
「ああ、頑張れよネギ君」
<ネギ君が信じるネギ君を信じればいいんですよ>
「は、はいっ! シルフさんもありがとうございます!」

シルフの台詞のとても感動したネギ君が俺の部屋から出て行く。
パクリじゃねえか。
パクリじゃねえか!
……いや、いいけどさ。
30分程前にネギ君が来て「少し相談が……」との話を切り出された。
相談内容は昼の宮崎からの告白の事。
俺は大人の男らしく大胆にかつ繊細にネギ君に助言をした(時折りシルフがいらん茶々を入れた)
結局ネギ君の中ではどうするか決めていたらしく、俺はその後押しをするだけの形となった。
「友達から始めようと思います」
ネギ君は多少照れつつ、そんな風に言った。

<いや、しかしあれですね>
「なんだよ?」
<子供から相談を受けるなんて、マスターってば先生みたいですねっ>
「……」


第二十六話 グッドウィル・ハンティング



ネギ君が出て行き静まり返った部屋。
俺はその部屋に向けて声を掛ける。

「おーい、もういいぞー!」

……。
……。
……もそもそ。

敷きっぱなしの布団がごそごそと揺れる。
そして布団から青い髪の頭がひょこりと出てくる。
特徴的なそのデコは綾瀬夕映のものだった。

「……ふう、暑かったです」

30分間布団の中で隠れていた夕映の額には汗が付いていた。

「ネギ先生はもう行ったですか?」
「ああ……つーかアレで良かったのかな」
「はい?」

夕映は頭を傾げ何事かと俺を見る。

「いや、ネギ君は友達から始めるって決めてたみたいだけどさ……上手く宮崎と付き合う様に誘導する事も出来たと思うんだが」
「いえ、アレで良かったんです。ネギ先生とのどかも、まだ子供です……焦る事は無いです。ゆっくりと行けばいいんです」

腕を組み、うんうんと頷きながらそんな事を言う夕映。
良く宮崎の事を考えてるんだなあ……

「ゆのっちは友達思いだなあ」
「親友ですから当たり前です……っ、頭を撫でないで下さい! あとゆのっちって誰ですか!?」
「ははは」
「おでこを撫でないで下さい!」

頭を撫でないで、と言われたのでおでこを撫でた。

<夕映ちゃん、夕映ちゃん>
「はい? 何です?」

シルフが夕映に話しかける。

<さっきマスターの布団に隠れてましたよね?>
「……そうですけど何です?」

思い出したのか少し顔が赤くなる夕映。

<どんな匂いでした?>
「匂いです!?」
<はい、匂いです>

一体何を聞いてるんだコイツは……。
しかし俺も気になるな。
いや、別に体臭を気にしてるとかじゃないよ? ほ、ほんとだよ?

「……そ、それは何ていうか……その……レモンの様な匂いが……したです」

顔を俯け、細々とした声で答える夕映。
別に無理して答える必要は無いんだが……。
しかし俺の匂いはレモンか……
夕映は「ア、アレが男の人の匂いですか……」何て言っている。
……。
そういえばさっき布団の上でレモン味のクッキー食べてたんだよな……。
まあ、いいか。

――がた、がたがた

天井から物音。

――がたん

少しの後、天井の一部が外れた。

――すたり

そして現れる忍者。

「しかしネギ坊主も恋をする歳でござるか」
<恋をするのに年齢は関係ないですよ>
「確かにシルフ殿の言う通りでござるな」

はははと笑いあう時計と忍者。
楓は天井裏に隠れていたからか、所々汚れている。
風呂行けよ風呂。

「師匠はどうでござる? 恋をしてるでござるか?」
<何言ってるんですか楓さん、マスターは私に年中無休で年中夢中ですよっ!>
「ノーコメントで」

あとダジャレうぜぇ。

――ばん

布団を収納する為の押入れの襖が開く。

「……たくっ」

膝を刷りながら、ノートパソコンを持った眼鏡の女の子が押入れから出てくる。

「つーかなんで私らが慌てて隠れなきゃいけないんだよ」

出てくるなり悪態をつく。

「そりゃ男性教師の部屋に女生徒がいるのがバレるのは困るからだ」

まあ、ネギ君にならバレても良かったんだが。

「というかあんた子供に嘘つくなよ」
「何かネギ君に嘘ついたっけ?」

はて?
さっきの相談中、何か嘘とかついたっけ?

「いや、ついただろ。あんた子供教師の『今まで何人の女性の方とお付き合いした事があるんですか?』って質問されてただろ?」
「うん」

確かにそんな質問されたような……

「あんた付き合った女の数、200人とか小学生レベルの嘘ついてたじゃねーか!」
「う、嘘じゃねーよ! 本当ですー!」
「確かにアレは無いと思ったです」
「そうでござるな」

こ、こいつら……完全に嘘だと思っていやがる……!
いや嘘に違いは無いんだが、少しは教師を信じろよ!

「いや、本当だって! クルルだろ? 麗華に彩にるい、涼ねえにこずぴぃ、このみに小町に鳴だろ、刀子先輩にあずさに風子と風ぽに――」

俺の必死な弁解は半笑いで返された。
女三人は風呂に入るからと部屋から出て行った。

「く、くそう……信じてくれなかった! 茶々丸さんなら信じてくれるのに!」

俺は畳みを叩き慟哭した。

<でも、マスターも可愛い所がありますね。本当に好きな私の名前を出さなかったのは、恥ずかしかったからですよねっ?>
「お前が厚生労働省か!」
<何ですかそのツッコミ!?>  

……。
……。
……。

「お空きれい」
<い……いくじなし>
「死んだ母ちゃん氷だったも」
<も、も……問題無い>
「い……行っておいで……ばか息子」
<肥をかける>
「る、る、る……るー」
<ルラーダ・フォルオル>
「またるかよ。る、る、る……るー!」
<さっき言いましたよソレ>
「いやこっちは双子の方だから」
<ズルイですよ! う、うぅ……る、る、る、る……る……>

さて三人がいなくなって暇になった為、俺とシルフはしりとりをしている。
マイブームだ。
しかしこれはある程度のレベルが無いのと勝負にならない。
先ほどからシルフは<る、る、る……>と唸っている。
これは俺の勝ちだな……

――ばん!

突然部屋のドアが開いた。

――だだだだだ!

誰かが部屋に駆け込んでくる。
ネギ君だった。その後をアスナが追ってくる。

「た、たたた大変ですナナシさんー!!」
「騒がしいぞお前ら。殿中だぞ殿中」

殿中が何かは知らんが。

「そうよネギ! いきなり風呂場から走って出てきたと思ったら何なのよ!?」

アスナはただ走っているネギ君を追いかけて来ただけのようだ。

「は、はい、実は――」

――。
――。

「朝倉に魔法がバレたー!?」

アスナの悲鳴にも似た声が部屋に響く。

「は、はい……うぐうぐ」

うぐうぐと変な声で泣くネギ君。
朝倉……パパラッチか。

「ど、どどうしましょうナナシさん~!」
「落ち着けネギ君、それを相談する為に俺の部屋に来たんだろ? 俺に任せとけ!」
「……! そ、そうでした。やっぱりナナシさんがいて良かった……」

ネギ君が胸に手をあてほっとする。
さて……

「安心しろネギ君。オコジョになったら俺が飼ってあげるから」
「嫌です! オコジョは嫌ですぅ!」
<ちゃんと散歩にも連れて行きますよ?>

再び泣き出すネギ君。

「あんた子供イジメんのやめなさいよ……」

アスナが呆れている。

<じゃあ、真面目にどうするか考えましょう。そうですねぇ……まずネギ君が朝倉さんを旅館の裏にでも呼び出します、魔法の事で話がとでも言えばいいです>
「は、はい」

ふむふむ。

<朝倉さん、裏に来ます。ネギ君適当に話します>
「それで?」

アスナが促す。

<注意をネギ君に惹きつけた隙に、アスナさんが背後から近寄ります>
「……うん?」
<限り無く鈍器に近い物で後頭部を殴ります>
「ちょっと!?」
<埋めます>
「だ、だだダメですよ!」
<みんな幸せ!>
「なって無いわよ!? 色んな人が不幸になるわよ! 私の心が一生罪に苛まれるわよ!」

シルフは非難轟々だった。
仕方ない……。

「まずネギ君が朝倉を呼び出すだろ?」
「は、はい」
「んで正直に事情を説明すればいい。バレたら困る、だから黙っていて下さいって」
「それで黙る様な輩かしら……」

確かにそうだが、朝倉もそこまで鬼じゃないだろう。

「アスナも一緒に説得すればいい」
「私も……?」

保護者みたいなもんだしな。

「そして二人で埋めればいい」
「だから埋めちゃ駄目ですっ!」

埋めちゃ駄目らしい。
いや、冗談だけど。
そんな感じのやり取りをしながら、どうすれば朝倉を説得出来るか話合った。
正面から説得する、逆に朝倉の秘密を握る、色仕掛け、記憶を消す、朝倉の家族を人質に取る、オコジョの飼育方法。
話合いは難航した。
俺の出す数々の案は却下された。
『落とし穴でイヤン』作戦は上手く行くと思うんだがなあ……。
頭を突き合わせて話合っていると突然ドアが開いた。

「ナナシの兄貴、お邪魔するぜー……おっ、ネギの兄貴。やっぱここにいたか」
「失礼しまーす。ネギ君さっきはごめんねー」

肩にカモ助を乗せた朝倉だった。

「ひぃ!? 朝倉さん!?」

ネギ君は俺の後ろに隠れた。

「わ、悪かったって先生。ほら、ゴメン、この通り」

手をチョップの形にして謝る朝倉。
……どういう事だ?

「兄貴! もう心配はいらないぜ! この姉さんは俺らの味方になったんだぜぃ!」
「えー……味方ぁ? どういうつもりよ朝倉?」

アスナが胡散臭そうに問いかけた。

「いや、本当だって! カモっちの熱意に押されてね、ネギ君の秘密を守るエージェントとして協力する事になったのよ」

『エージェント』と書かれた腕章を見せる朝倉。

「ほ、本当なんですか……? 僕……オコジョにされませんか?」
「本当本当!」
「そうだぜ兄貴! 心配無用だぜ!」
「よ、良かったです……!」

ネギ君は安心した笑みを浮かべた。
良く分からんが、朝倉がネギ君に脅威になる事は無くなったようだ。
いや、良かった良かった。

<本当に良かったですね、マスター>
「ああ、俺も朝倉を埋めたくなかったからな」
「え、埋め……なに? あとこの紙に書いてある『朝倉をどうこうする方法』ってなに……? 何か物騒な方法が一杯書いてあるんだけど……」
「本当に良かったわね……朝倉」
「な、なによ、その乾いた笑い!? 私何されるところだったの!? 何で部屋に怪しげな薬とかスコップが置いてあんの!?」

あ、閉まっとかないと。
閉まっちゃうぞー。
それらを収納する。

「……ちょっと待って。って事はもしかしてナナシ先生も関係者……なの?」
「ああ、ファッション関係だな」
「違うって! 魔法関係かって聞いてるの! ていうか何がファッション関係なの!?」
「教師辞めた次の仕事」
「……あんたには向いてないわよ」

向いてないらしい。
いや結構得意なんだけどな……あの舞台の上でクルって回るやつ。
魔法関係云々については濁しておいた。


……。
……。
……。

夜、11時頃……部屋には俺とシルフしかいない。
ネギ君達が帰ったあと、再び楓達が来たが、就寝時間なので帰らせた。
さて、定時報告でもするか。
電話を取り、家に掛ける。

『――茶々丸です』
「ぐへへへー、お嬢ちゃん……今何色の下着をつけてるの茶々丸さん?」

ふざけていたが、途中から素に戻ってしまった。

『白です』
「……」
『白です』

普通に答えられた。

<マスター……顔が赤いですよ?>

……そりゃ恥ずかしいからな。

『白です』
「俺は青だ」
『そうですか』 

……。
やはり素で返された。
少しは恥らってくれたりするといいんだが……。
さて真面目に報告するか。

「エヴァは?」
『黒です』
「いや、違うから! 下着の色を聞いたんじゃなくて、今どこにいるかって聞いたんだって!」
『……申し訳ありません』

あ、ちょっと恥ずかしそうな声だ。
今のは天然だろう。

『……今代わります』

ん? 何か不機嫌そうな声だな。
……気のせいかな?
すぐに代われって言ったからだったりして……それは無いか。
……。

『――私だ』
「俺だ」
<私です>
『……』

……。

『切るぞ』
「まあ待て。冗談だって」
『ふん。……でそっちはどうだ?』
「ああ、実は――」

俺は木乃香が攫われそうになった事を説明した。
あと、ついでにネギ君が告白されたことも言った。

『――ほう、直接仕掛けてきたか。相手のレベルはどうだった?』
「あー……うん。何かクマ出す女とかゴスロリ女とかいたけど……結構余裕だった」

まあ、ゴスロリの人は良く分からんかったが。

『そうか、貴様らで十分対応出来る相手か……つまらんな』
「つまらんてお前。……でも一人何かスゴイのいたわ」
『……ほう、どんなヤツだ?』
「一瞬しか見てないけど……何かスゴかった」
『どこがどうスゴかったか具体的に言え!』

いや、そんな事言われても……本当に一瞬しか見てないしなあ。
どこがスゴイか……うーん。

「何かあと2、3回は変身を残してそうな強さ」
『意味が分からんわっ!』

……。
そしてネギ君の話。

『しかし……ククク、坊やがなあ……ククッ』

電話から楽しそうな声が聞こえる。

『坊やの事だ、うじうじと悩んでいただろう?』
「うぐうぐと悩んでいた」
『どっちでもいい。……これを機に仮契約でもすればいいさ……ククッ』

仮契約?
まあいいか。

「じゃあ、そろそろ切るぞ」
『待て。茶々丸に代わるから一時間程話をしろ』
「何で?」
『いいからしろ! ……頼むからアイツの機嫌を取ってくれ』

エヴァの声はとても切実そうだった。

「今茶々丸さんは何してんの?」
『台所で鍋を回している……空のな』
<エヴァさんには見えない料理を作ってるんですよ、きっと>

ああ、裸の王様的なか。

『いいか、代わるぞ? 何でもいいから褒めるなり、照れさせるなりしろ! 分かったか!? 朝昼晩と卵ご飯は嫌なんだ!』
「コラテラルが溜まりそうだな……」
<違いますよマスター。コロッケロールですよ?>
『コレステロールだっ!』

その後茶々丸さんに代わってもらい、一時間程会話をした。
……何だ、いつもの茶々丸さんじゃないか。
エヴァも大げさだなあ。
……。
……?
何か部屋の外が騒がしいな……。



[3132] それが答えだ!にじゅうなな
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/04/14 18:57
「それが答えだ」作詞作曲・シルフ 歌・麻帆良歌劇団

あー、天空から舞い降りる一筋の光ー
それは何だー(何だ?) それは誰だー(誰だ?)
それとは関係無いけど麻帆良学園3-Aはいい所だよー、一度はおいでー
いつも明るく騒がしくー、時にはちょっぴり切ないのー

台詞「だって……女の子だもん」

忍者とかー、吸血鬼とかー、サムライとかー、スナイパーもいるんだぜー
たぶんー、未来人とかー、団長とかー、超能力者とかもいるんだと思うぜー
でも幽霊はいない、絶対いない、マジで。
アー、アー、アー、アー、ウーゥー……ラブミィドゥー

……間奏20秒(ヘッドバンキング)……

そして忘れちゃいけないこの人!(人!)
天才でー、ちびっこでー、先生でー、モテモテなんだよー(ベッキーじゃないよ)
その名はー、その名はー
ネギ・スプリングフィールド!(可愛いー!)
ネギ・スプリングフィールド!(紳士ー!)
ネギ・スプリングフィールド!(あ、え……眼鏡!)
そんな感じの3-Aでやってますー

台詞「おっと……誰か忘れちゃ……いえねかい?」

おっとどっこいすっとこどっこい(ペペンペン)
この人忘れちゃ始まらねぇや!
そう、天空から舞い落ちる一筋の光!
その偉大なる天使……いや神の名は
ナナシ!(ナナシ!)
ナナシ!(ナナシ!)
ナナシ!(ナナシ!)
シルフ!(キャワイイ!)
楽しい生徒に頼れる先生ー溢れる麻帆良魂ー

……間奏25秒(ソーラン節)……

アー、アー、アー、アァー……酒は飲んでも飲まれるなー(飲んだら乗るな♪)
我らが学び舎ー(麻帆良学園ー)
我らが3-Aー(楽しいなー)
……いつか訪れる別れの日まで(スウィートメモリー……)


第30話 アマキス

<こんな感じになったんですけど。あとこの歌を生徒達に歌ってもらって、12ヶ月連続リリースする計画を立ててます>
「……ふむ」

俺達は部屋を出て、ロビーに向かっていた。
その途中にシルフが作った校歌を聴いた。
つーかなんでこいつが校歌とか作ってんだろう……。

「結構いい出来なんだが……」
<本当ですかっ!?>
「……今一つと言うか」
<どっちなんですか!?>

それはそうとして俺達はロビーに向かっていたのだった。
原因はこの騒がしさ。
先ほどから、ドタバタと走り回り、ギャーギャーと少女達のやかましい声がホテルに広がっている。
まあ、あいつらだろうな……。
ここは教師として一言言ってやらねばなるまい。
あと、うるさくて眠れない。


――ロビー――

ロビーに着くと不思議な光景が広がっていた。

「正座?」

数人の生徒が正座をしている。
いや、させられているのか?

「あ、せんせ~」

と、こちらに気付いたのか、佐々木が涙目の視線を向けてきた。

<体をぷるぷるさせて涙目の女の子はマスター的にどう思いますか?>
「早くトイレ行けよ」
「トイレじゃないよ!」

確かにトイレを我慢している人が正座しているのはおかしい。
いや、それが快感って人もいるかもしれんが。

「何で正座してんの?」
「えーとねぇ……あはは」

何かを誤魔化すかの様に笑う佐々木。
ん? ……千雨もいる。

「お前まで何してんの?」
「……う。ち、ちげーよ! わ、私はただ巻き込まれただけだ!」

巻き込まれたとな。
千雨は頬を染めて何事かを弁解している。

「ん? 先生!」

俺に掛けられる野太い声。
この声は……新田先生か。
この人苦手なんだよな……

「はあ、どうも……」
「どうもじゃないですよ、まったく!」
「う、うちの生徒何かしましたか?」

超こえぇ……。
新田マジこえぇ……  
意味も無く泣きそうだ……。
新田が言うには、うちの生徒が枕を持ってホテル内を暴走しているらしい。

<あれですか、枕投げってやつですか? 別にいいじゃないですかそれぐらい、定番ですよ定番>
「いいわけないでしょう!?」
<ひぃっ!? 新田先生こわい……>
  
んな、時計にマジ切れせんでも。
しかし枕投げか……。

「お前らなぁ……」

生徒達に視線を向ける。
全く……

「うぅ……ごめんなさい。もうしません」
「何で俺も混ぜてくれないんだよ」
「そっちかよ!?」

千雨が立ち上がり突っ込もうとしたが、足に痺れが来たのか再び正座に戻った。

「元気なのはいい事なんですけどね、先生のクラスの生徒はやんちゃが過ぎる!」
「はぁ……す、すまいせん」
「教師なら教師らしく、生徒にビシッと言ってやって下さい!」
<キビシイッですね>

シルフがどさくさに紛れて微妙に上手いこと言ったがムカついた(いや……あんま上手くないな)

「じゃあ、まだ走り回ってる他の生徒を捕まえてきます」
「頼みますよ」

俺は正座している生徒達に背を向け、ロビーを去った。

<マスターって新田先生の前じゃ弱いですね>
「だって怖いし。何か学校の時の怖い先生を思い出す」
<マスターにも怖い物があったんですね! 私的に好感度アップです!>

別にこいつの好感度が上がっても嬉しくない。
テクテクとホテルの中を歩く。

「あ」

倒れている少女を発見。

<クーちゃんですね>

クーフェイが年頃の女の子的にはどうなんだろう的な格好で倒れていた。

「おーい、クーフェイ」

ぱしぱしと頬を叩く。

「……うぅ、……裏切ったアルね……楓ぇ」

寝言の様な声が聞こえた。
ふむ、まあいい。

「シルフ」
<はいはーい>

シルフに命じて、ロビーに繋がる門を開く。
そしてその門にクーフェイを投げ入れた。
よし、1人確保……と。


――数分前――

「よし! 頑張るアルよー!」
「古はネギ坊主との接吻が目的でござるか?」
「ネ、ネギ坊主との接吻アルかー」

キスを想像したのか顔を赤く染める古菲。

「んー、では師匠でござるか?」
「ナナシ先生アルかー……まあ、ワタシは強い男が好きアルから……どちらかといえば今の所はナナシ先生アルな」

いつか手合わせしてみたいアル……と古菲。
それを聞いた楓はふむふむと頷きながら、

「ほほう、古は師匠狙いだったでござるか」
「ん? いや、手合わせするならナナシ先生と言ったアルが……」
「ではライバルは1人消しておくでござる」
「……へ?」
「てりゃ」

ぺしり、と背後から手刀。
ぱたり、と倒れる古菲。

「友の亡骸を乗り越え、拙者は参るでござる」

楓は、今の自分カッケエと思いつつその場から去った。


――現在――


ところどころに落ちている生徒を拾ってはロビーに送っていく。
まあ、楽しそうで羨ましいな。
俺の学生の頃もこんな感じだったな……懐かしい。

<マスター>

シルフが呼ぶ声に視線を前に向ける。
そこにはふらふらと歩く少年が1人。

「……ネギ君?」
<ですね>

おかしいな……。
さっきパトロールに行くって言って、出て行ったんだが……。
もう終わったのかな?

「おーい、ネギ君」
「……」

無言のままこちらに視線を向ける。
気のせいか目が虚ろだ。
ふらふらしたままこちらに歩いてきた。

「……」
「ど、どうしたんだネギ君? 何か調子悪そうだけど?」

やはり無言のまま、こちらに歩いてくる。

<マ、マスターッ!>
「どうした!?」

シルフの焦った声。
やはりネギ君の身に何か起こっているのか!?

<いや、呼んでみただけです>
「……」

俺は居たたまれない気持ちになった。
何でこのタイミングで俺を呼ぶのか、全く分からない。
こいつの事が心の底から理解出来ない。
そんな俺達に突っ込む事も無く、ネギ君は近づいて来る。
な、何か怖いぞ……。

「……」

ネギ君が俺の手の届く範囲に近づいてきた。
しかし止まらない。

「……」

当然俺にぶつかる。
ポスッという柔らかい感触。
俺の腹当たりに顔を埋めたまま、動かないネギ君。

「お、おい、本当にどうしたんだネギ君?」
「……ナ、ナシ……さん?」

久しぶりに聞いたその声は、どこか妖艶ささえ感じさせる声だった(男相手に妖艶とか表現したくないが)
ネギ君はゆっくりと顔を上げ、俺と視線を合わせる。

「……ふふ」

そして薄く笑った。
その顔はいつものネギ君からは想像出来ない様な、怪しい笑みだった。
ていうか少しキモイ。

「よ、よく分からんが……ちょっと離れてくれるかな?」

俺は本能的に嫌な予感を感じた。
肩を掴み、押し返そうと――

「……いやです」

グッと手を俺の腰に回し、離れないネギ君。

「な、何なの? いきなりホームシック? 急に人肌が恋しくなったとか? そ、そういうのはアスナ辺りに頼んでくれよ」
<マスターの声が震えてます>

いや、さっきから本気で引き剥がそうとしてるんだが……離れない!?

「……ナナシさん? ちょっとお願いがあるんですけど……」
「な、何? そ、それ聞いたら離れてくれるのか?」

先ほどからネギ君の締め付けはキツくなってきている。
多分アナコンダとかに締め付けられたらこんな感じだろう。
そしてネギ君はそのお願いとやらを口にした。

「――キスしませんか?」
「……ジーザス」

夢であって欲しい。
何を言い出すんだこの子は。
いきなり何なんだ。
何で急にそっちの道に落ちたんだ。
昨日まで女の子に囲まれて、ウハウハしてたじゃないか!

<男子三日会わざれば何とか……というやつですね!>

いや、まだ最後に会ってから一日も経ってない。

「ネ、ネギ君? そういう冗談はいいから。うん、だから離れてくれ」
「いやです……えいっ」
「うおぉっ!?」

その可愛らしい声とは裏腹に、見事な背負い投げを決めるネギ君。
な、なかなかやるじゃないか……と俺は投げられながら思った。

「――ナンッ!?」

俺は硬い床に背中から叩きつけられ、好きな食べ物の様な悲鳴をあげた。

「……ふふ」

そのままマウントポジションを取るネギ君。

<……この子……出来る>
「うるせえ! さっさと助けろよ! マスターの危機だぞ!?」
<は!? ……す、すいません。あまりに見事な背負い投げだったので……つい>
「……じゃあ、いただきます」
「くんな!」

ネギ君はマウントした俺の顔に唇を近づけてきた。
俺はその顔面を鷲掴みにし、押し返す。
ぐぐぐ……つ、強い。
というか段々顔に近づいて来る……な、何だこのパワーは……

「お、おい、シルフ! 本気で何とかしろ!」
<え、な、何とかとか言われても……>
「何か適当に剣とか刀とか見繕って、ネギ君を串刺しにしろっ!」
<予想以上に恐ろしい指示が出た!?>

仕方ない、仕方ないんだ……。
悪の道に落ちた同僚を始末するのも俺の仕事だ。
俺はこの罪を永遠に背負っていく……冥府までな。

<いや、まあやれって言うならやりますけど……>
「ああ、やれ! 速くしないと俺の唇が!」
<マスターとネギ君が密着してるので……一緒に串刺しになりますけどいいんですか?>
「……よ、よくない」

串刺しとか勘弁。
え? ていうか本気でヤバイじゃん。
詰んだ? これもしかしてBADエンド?
ど、どこで選択肢を間違えたんだ……?
や、やっぱり夕食の時にネギ君のエビフライを食べたのがマズかったのか?
で、でも「僕、油物嫌いですからあげますよー」ってニコニコして言ってたじゃん!
内心では腸煮えくり返っていたのか!?

<こ、このままではマスターの清い唇が……ど、どうすれば!? 私に出来ることは何か無いんですか……!? 何か! 何か! ……ハッ!? 出来ることはあります……! 私には立派な目があるじゃないですか! そうです! 私にはこの状況を見届ける義務がありますっ! そうと決まれば見ます! 穴が開かんばかりに見続けます! ついでに録画もします!>

シルフは何らかの答えを見つけたようだが、俺の危機を救う事はならなかった。
つーか本当に勘弁してくれ!
俺って結構繊細なんだよ!?
こんな年下の男の子に無理やり唇を奪われた日には、引き篭もるよ!?
「うるせえ、クソババア!」とかエヴァに言っちゃうよ!?
それで根気良く接してくれる茶々丸さんには心を開いたりするかもしれないよ?!
いやいやいやいやいや!
ちょっと待てって!
ていうか誰か助けてくれ!

「楓でもいいから助けてくれっ!」

俺の悲鳴は廊下に響き渡った。
答える人間はいない。

「誰か! 刹那ぁ! 近乃香ぁ! じいさん! 助けてくれ!」

響き渡る。
誰か、誰か、誰か――

「――エヴァッ! 茶々丸さんッ!」


 
――エヴァ家――

「……ん?」

エヴァは、ふと何かに呼ばれた気がして顔を上げた。
手には梅昆布茶が入った湯のみ。

(……誰かに……呼ばれたような……)

虚空を見つめる。
そして……

「……ふっ」

笑った。

(どうせあの男が寝言で私の事を呼んだんだろう)

「……ククッ」

クスクスと笑う。

(全く……まだ2日も経って無いというのに、もうホームシックか)

「……クククッ」

(まだまだガキだな)

小さな笑い声を発しながら薄く笑う。
傍から見れば、宙を見つめながらニヤニヤする不審者だった。

「……ズズ」

お茶を啜る。

「……ん? もう無くなったか。おーい茶々丸!」

空になった湯のみを手に台所にいるであろう従者に呼びかける。
しかし、その呼びかけに返答はない。

「……何だ? また、あの男の写真を見てボーっとしているのか?」

やれやれとかぶりを振り、台所へ向かうエヴァ。

(しかしあの写真はどうやって手に入れたのか……カメラ目線の物など殆ど無かったが……。そ、それに風呂や着替えなどの……い、いやどうでもいいっ)

思い出しつつ、頬を染め、頭をブンブン振りながら台所へ。

「おい、茶々丸!」

台所を覗き込みながら従者を呼ぶ。

「一体何を――」

エヴァの予想通り従者はそこにいた。

「――して……いる……んだ?」

呼びかけの語尾はどんどん小さくなり、最後の方の言葉は蚊が羽ばたくかの様な声だった。
包丁を構えつつ、虚空を見つめ、ぶつぶつ言っている人を見かけたら誰でもそうなるだろう。
彼女の従者である茶々丸は現在そんな状況だった。
恐らくは料理中に何かを受信したのだろう。

「……マスター?」
「――!?」

今気付いたかの様に掛けた茶々丸の声に、エヴァは3cm程飛び上がった。
少し「ひぅっ」といった声も漏らしていた。
内心はドキドキなエヴァであったが、外面には出さず、冷静かつ慎重に従者に声を掛けた。

「ど、どどどどうした茶々丸っ?」

どもりまくりだった。汗もかきまくりだった。
そのエヴァの問いかけに茶々丸は宙を見つめながら

「――ナナシさんが……呼んでいます」

そう言ったのだった。


――旅館――


――もう駄目だ。
そう思った。
もうどうする事も出来ない。
このままネギ君に無理やり唇を奪われ、部屋に引き篭もり、誰とも会話せず、食事を持ってくる茶々丸さんとたまに会話をしながら俺の一生は過ぎるんだ……!
こんなはずじゃなかったのに……!
俺は身を硬くして、次に来るであろう衝撃に備えた。

「――っ」

備えた。
……。
……。
……?
衝撃が……来ない?

「……」

恐る恐る目を開ける。

「……あれ?」

そこにあるであろうネギ君の顔のアップは無かった。
さらに俺をマウントしていたネギ君の姿もそこには無かった。
ど、どういう事だ?
ま、まさか俺の秘められし力が発動して、ネギ君を消し飛ばしたのか……!?
し、しかし戦闘中ならまだしも、こんな状況で発動するのは恥ずかしいな……。

「――大丈夫でござるか?」
「ひぃ!?」

突然掛けられた言葉に思わず悲鳴が漏れる。
あ、いや悲鳴じゃない。
い、いや悲鳴とかじゃないから。
別にビビッてないから。ほ、本当だよ?
と、というか誰だ?

「ふむ、危ない所だっだったでござるな師匠」

師匠?
俺をそう呼ぶのは一人しかいない……!

「楓!?」
「長瀬楓――見参でござる」

そうやって、いつもの様に目を細め、笑いながら楓は俺の側に立っていた。
楓の足元には頭にたんこぶを乗せたネギ君。
……一瞬だけ楓に惚れかけた。
こ、これが襲われていたところを主人公に助けられるヒロインの気持ちか……。
危うくフラグを建てられてしまう所だった……。

波乱の夜はまだ続く。
来週も面白カッコイイぜ!



[3132] それが答えだ!にじゅうはち
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/05/30 12:30
シルフさんの前回のお話。

いやー、びっくりしました!
何がびっくりしたかって、あのネギ君が急にマスターに襲いかかったんですよっ!
いくら麻帆良一の策士と名高いこの私とはいえ、全く予想出来ない事態でした!
そして大ピンチなマスター!
顔を歪めて、絶望に打ちひしがれるマスターを見て私は興奮……じゃなくて、自分の無力さを嘆きました!
そして今まさにマスターの唇が奪われるといった瞬間!
一陣の風が吹きました!
その風はネギ君を吹き飛ばし、マスターを助けたんです!
いやぁ、格好良かったです。危うく私も惚れちゃうところでしたっ!
あ、あと何か茶々丸が電波を受信したそうです。
その辺の話だそうです。
あと、マスター出ないそうです。


幕間「エヴァさんと茶々丸さん」


エヴァは走っていた。
「ナナシさんが呼んでる」
と言って家から飛び出した従者を追いかけるためだ。

「……はぁっ、はぁっ」

茶々丸を追いかけた先は家の庭だった。
今のエヴァの体はそこら辺の子供と同じな為、数メートル走っただけで息が上がってしまった。

「お、おい茶々丸っ、急になんだっ」

突然の奇行を従者に問う。

「……」

しかし茶々丸は返事を返さない。

「おいっ!」

再び呼びかける。
茶々丸はようやく今気付いたかの様にその視線をエヴァに向ける。

「どうかしましたか、マスター?」
「どうもこうもあるか! 一体なんだ、急に庭になんて来て!」
「ナナシさんが助けを求めていますので」
「……は?」

エヴァは混乱した。
助けを求めている? ナナシが? 何故? というか何故分かる? 盗聴機でも付けているのか? そして何故庭に?
混乱しているエヴァをよそに茶々丸は庭にしゃがみこんだ。
庭には茶々丸が育てている野菜や花、ナナシが育てている金のなる木(比喩でなく本気で小銭を植えている。そして何故か芽を出している)の畑や花壇が存在していた。

(何故庭に来る……? このタイミングで土いじりか?)

エヴァは茶々丸の行動を訝しげな目で見る。

「……ん?」

目をこらしてみると、茶々丸は地面を押しているようだ。
さらによく見ると、押しているのは何らかのコンソールのボタン。

(な、何故庭にボタンが……?)

何に使用するのか、土の温度でも調整するのか、何か出るのか。
エヴァの疑問は尽きない。
流石に我慢出来なくなったエヴァは茶々丸に問いかける。

「お、おい茶々丸……そのボタンは一体なん――」
「マスター、少しお下がり下さい」

エヴァの問い掛けを遮り、茶々丸が言った。
そこ、というのが自分が立っている場所だと気付いたエヴァは、茶々丸の変なプレッシャーの圧され後ろに下がった。
そのエヴァの様子を見た茶々丸は再びコンソールに向かった。
そしてエンターキーを押した。
押すと同時に地面が揺れる。

「な、何だ!? じ、地震か!?」

突然発生した揺れにエヴァは軽く混乱した。

「落ち着いて下さい、マスター。そして涙を拭いてください」
「泣いとらんわっ!」
(……ん? 今のやり取りはどこかで……)

はて、と考える。

(あ、そうか。ナナシとのやり取りか……また茶々丸に変な影響が……)

ああ、昔は良かった……茶々丸は自分をしっかりとマスターだと認識していたし、自分の事を最優先に考えていたし……。
そんな風に過去を懐かしんでいたエヴァをよそに揺れは続く。
揺れが増すにつれ、地面に切れ目が走り広がっていった。
すわ地殻変動か!? などとエヴァが戦慄しているとその切れ目の中に何かが見えた。

「……か、階段?」

地面が割れ、現れたのは地下に続く階段だった。
揺れが止まり、階段が完全に姿を現わすと茶々丸は一目散に階段を下りていった。

「わ、私の家の庭に階段が……? まっ、待てっ、茶々丸!」

呆然としていたエヴァは茶々丸が階段を降りていくのを見て、慌てて後を追った。
階段を降りるとそこは何らかの施設らしきものだった。
一本の通路が存在してその脇の壁に幾つものドアが存在している。
分かりやすくいえば、何かの研究施設のようだった。

「待てっ、茶々丸!」

ずんずんと進んでいく従者になんとか追いつき、スカートを掴むエヴァ。
多少引きずられた後に茶々丸は停止した。

「……何でしょうか、マスター?」
「色々と聞きたいことがある」
「手短にお願いします」

停止した事を確認したエヴァは、引きずられた時についたホコリを手で払い指を突き出し言った。

「ここは何だ!?」
「秘密基地です。正確には『主にエヴァに秘密基地』です」
「……誰が作った?」
「私とナナシさん、時々ハカセ、ところにより学園長です」
「……」

エヴァは頭を抱えた。
自分が知らない間の勝手に地下に基地が作られ、しかも作ったメンバーに突っ込みどころが多すぎるからだ。

(というかじじいまでいい歳して何をやっとるんだ……)

「……いつから作っていた?」
「丁度2年前にナナシさんの『秘密基地を作ろう』の発言より建築開始、半年後知り合いになったハカセが参加、それから2ヶ月と12日後に学園長が参加、完成直前に自爆装置が作動し基地壊滅、丁度いいので建築案を見直し、建築再開始。寝ぼけたマスターが侵入、撃退、対侵入者用トラップの強化、今から半年前に完成。同日打ち上げ、ナナシさんの後をつけていた長瀬さんが侵入、撃退。……以上になります」

まるで、カンペを読むかの様にスラスラと喋る茶々丸。
それを聞いていたエヴァは再び頭を抱えた。

「何故、今まで気付かなかった……私はそこまで鈍っていたのか……!?」

思わず、壁に頭を打ちつけ様としたが途中で思いとどまった。

「……まあいい。いちいち気にしていたらやってられん」

エヴァはナナシが来てから変な方向にメンタル面が強くなっていた。
ならざるを得なかったのだ。
恐らく強くなっていなかったら、胃に穴が開くかハゲるかのどちらかだっただろう。

「秘密基地……か。あいつはここで何をしているんだ?」
「秘密です」
「何かを作っているのか?」
「秘密です」
「……」
「秘密です」

ふう、と肩を落としエヴァはため息をついた。

「まあいい、自分で確かめる」
「あ」

そう言うとエヴァは近くのドアを開け中に入ってしまった。

「……何だここは」

そこはまるで小さな工場だった。
何やら機械が動き、ベルトコンベアで運ばれ、何かの培養液に落とされていた。
培養液の中には白い錠剤の様なもの。

「……おい」

エヴァはじっとりと汗をかいた。

「ここは生産工場です」
「何のだ!?」
「……」
「言えっ! あれは何だ!? 何の錠剤だ!?」
「合法的な物です。販売されている物に満足出来なかったナナシさんが、自分用に生産している物です」
「目を逸らしながら言うな!」

エヴァの体は嫌な汗で湿っていた。

「こ、これは大問題だろうが!? 教師だぞ、教師! 教師がこんな物を作っていたら大問題だ! とうかじじいは何をしている!?」
「合法的な物です。売られている物より、少し純度が濃いですが」
「何の純度だっ!?」
(な、なんて事だ……身内に犯罪者がいたとは……。い、いや懸賞金を賭けられていた私が言える台詞では無いが……)

ふらふらする頭を自分の手で押さえ、何とか立っている状態のエヴァ。
自分が知らぬ間に、リアルな犯罪が身近で起きていた事にショックを隠せない。
それを見た茶々丸は培養液に近づき、錠剤をいくつか手に取った。

「マスター、これを飲んで下さい」

頭痛薬を手渡されたと思ったエヴァはそれを一口で飲んだ。
飲み干してから、あれ?と思い従者の顔を見た。

「……い、今何を飲ませた?」
「お味はいかがですか?」
「ふ、副作用は……?」
「あまりありません」
「あまりとは何だ!?」
「合法的です」
「うるさい!」

飲んでしまった物を吐き出そうかと、口に指を突っ込もうとしたエヴァはふと指を止めた。
先ほど飲んだ錠剤の固まりが口に残っていたのだ。
それを舌で転がす。

「……甘い」
「市販の者より砂糖を多めにしています」
「そして強めの酸味」
「市販の物よりオリゴ糖を多めにしています」

培養液に近づき錠剤を取り、口に含む。

「……ラムネか」
「はい」
「副作用は?」
「虫歯になりやすいです」
「……そうか」

入り口に戻ったエヴァはその部屋のドアのプレートを見た。

『ラムネ生産工場』

エヴァは黙って通路に戻った。
茶々丸はその後を黙ってついていった。

「……で、お前は何の為にここへ来た?」
「ナナシさんを助ける為です」
「……あいつは今助けを求めているのか?」
「はい」

躊躇せず頷く自分の従者を見て、「もう、どうでもいいか」とエヴァは思った。

「よく分からんがこの先に行けばあの男を助ける事が出来るのか」
「はい」
「……はぁ。分かった、もう何も言わん」

やれやれ、と通路の奥へと進んでいくエヴァ。
その後をメイドの様についていく茶々丸。
二人はまるで従者とその主の様だった。
と、突然茶々丸が立ち止まる。

「止まって下さい、マスター」
「何だ?」
「その先のは侵入者用のトラップがあります、解除してから……」
「はっ、何がトラップだ。この私を誰だと思っている?」

茶々丸の発言を無視して進むエヴァ。
その目は爛々と輝き、トラップに対する恐怖など感じさせない。

「何度も危険な遺跡に潜った経験がある私に素人が作ったトラップなど――」

突然真横の壁からパンチンググローブが飛び出てきた!
しかしエヴァはそれを予想していたかの様に、前方に飛び、

「――効かんに決まって……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

着地した床がパカリと開き穴に落ちた。
落下中に体勢を整え、底に仕掛けているかもしれない針の山を待ち受ける……が底には何も存在せず、普通に着地した。

「……ふ、ふん。ただの落とし穴か……やはり素人が作った物だな」
「マスター、ご無事でしょうか?」

上から茶々丸が呼びかける。

「問題ない、さっさと引き上げろ」
「……! マスター!」

珍しい従者の強い声に頭上を見上げる。
見上げると、落とし穴の真上の天井が開き何かの固まりが落下してきていた。

(二段トラップ……! くっ、鉄球か!?)

落ちてくる何かを見ながら、迎撃体勢を取る。

(狭い落とし穴の中に鉄球……やるじゃないか……!)

ニヤリと笑い、製作者に賞賛を送る。

(だが、この私には……通用せん!)

大量に落ちてきた物体を避けながら、自分に当たりそうな物を手で掴んでいくエヴァ。
その完成された身のこなしは、600年生きてきた経験のそれだった。
落ちてくる物体が尽き、エヴァは手を開いた。
エヴァの手から大量にこぼれ落ちる物体。
全て手で掴みとったものだ。
さながら飛んでくる銃弾を掴んだかの様にニヒルな笑みを浮かべ、足元を見下ろす。

「……」

そこには自分を襲った物の山。
ニンニクの山が出来上がっていた。

「……」

穴の上からロープが下がってきて、それを掴み穴から出る。

「お怪我は無いですか?」
「……おい」
「……?」
「これは何だ?」

自分が落ちた穴を指差す。

「……侵入者用のトラップです」
「明らかに私用のトラップだろうがっ!」
「どの様な侵入者が現れてもオールマイティに対応出来るように……」
「私だけだろうがっ!? 私のみに対応しているだろうがっ!?」
「……先を急ぎましょう」
「おいっ、こら!」

すたすたと通路の奥に向かう茶々丸。
その後を何か言いたげな表情でエヴァが着いて行く。
その後何度かトラップが発動し、エヴァがかかり、茶々丸が助け、たまに茶々丸がトラップにかかり、二人でかかったりしながら奥へ向かった。
そして通路の行き止まりの扉の前。

「ここです」
「……そうか」

エヴァの表情はまるで三日三晩戦い続けた者のそれだった。
服はぼろぼろで、ニンニク臭い。
あと、何故かカレーが付着している。
ドアを開け部屋の中に入る二人。

「……ここは何の部屋だ?」
「まさかこれを使う日が来るとは思いませんでした……」
「聞け」

エヴァを無視して部屋の中央に向かう茶々丸。
そこには巨大な物体が鎮座していた。
ホコリ対策か布が被せられているので中身は窺えない。

「何だこれは……でかいな」

エヴァは思ったままの感想を言った。
そう言うしかない程巨大な物体だった。
仮にライトノベルに例えるなら、終わりのクロニクルの最終巻程であった。
その巨大さを衝撃に例えるなら、お姉ちゃんきゅーぶについていた特典くらい衝撃的だった。

「おい茶々丸、これは何だ?」
「今が……封印を解く時です」
「聞け」

ばさり、と布を取る。
そして現れた巨大な物体。
それを見たエヴァのは驚愕した。

「こ、これは……! ……何だ?」

取り合えず驚いてはみたが、本当に何か分からなかった様だ。
本当に良く分からない物体だが、よく見ると下に車輪がついている。

「雷神の鎚(トールハンマー)です」
「雷神の鎚!? ……で、結局何だ?」
「ハカセとナナシさんが作りあげた……いえ、作り上げてしまった」
「だからこれは何だ!?」
「ですが今はこれが必要です……行きましょう」
「聞け!」

茶々丸はその物体の取っての様な物を掴むと押し出した。
からからと音を立てて、移動する物体。
傍から見ると、マグロを乗せた台車を押している様だった。
茶々丸は押しながら来た道を引き返していった。

「だから……何なんだ……」

エヴァは呆然とそれを見送った。



[3132] それが答えだ!ばんがいへん
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/03/08 21:58
それはナナシさんと不思議な時計シルフちゃんが、エヴァンジェリンの家に来てまだ一年も経って無い、ある夏の日の事でした
それはお昼、みんなでざるそばを食べていた時に起こりました
話は変わるが、これナレーションとかじゃなくて、俺が思ってる事だから。一応。
<そうだったんですか……どうでもいいですけど>


番外編 ナナシとシルフの夏の午後



つるつるとそばを啜る音が聞こえるリビング
俺は唐突に立ち上がった!

「……?」

エヴァが怪訝な目でこちらを見る

「いきなりだが、今日俺は、どんな質問にも答えようと思う!」
「……」
「そう、何でもだ!どんな赤裸々な質問にも命がけで答えると誓う!」
「……」
「……それは今すぐにするべき事なのですか?」
「ああ、出来るだけ早い方がいい」
「……では食事の後にしませんか?」
「そうだね」

俺は再びイスに座り、ざるそばを啜るのだった……

……食事終わり

「さあ!どんな質問でも来い!」
「何でこんなに元気なんだ……このクソ暑いなかで……それに急過ぎて意味が分からんのだが……」

エヴァは非常にげんなりしている

<……もしかして?茶々丸、今日は何日ですか?>
「……今日は21日ですが?>
<やっぱり>
「何か知っているのか?」
<はい。21日は、マスターがどんな質問にも積極的に答えてくれる日なんです!>
「……そのままじゃないか。……別にかまわんが……」
<あれぇ?妙にあっさり納得しましたね?いつもなら凄い剣幕で突っ込みを入れるのに?>
「……もう慣れた。コイツが変な事を言い出すのも、変なのも……」

エヴァは本当にげんなりしている
この暑さに相当きているようだ
あと、さりげなく変人扱いされてるな……俺

「……いや、やはりおかしい!今まで21日にそんな事無かったじゃないか!?」
<まあ、私が適当に合わせただけですからね。本当はマスターのいつものきまぐれだと思いますよ>
「なあ、コイツ壊してもいいか?」
「いいよ~」
<駄目ですよ!何でそんなに軽いノリなんですか!?>

まあ、壊せないと分かってるからな

<じゃあ、私の質問から>
「……お前からなんだ。別にいいけど」
<私の名前ってやっぱり精霊の名前から取ったんですか?精霊の様にカワイイからですか、えへへ>
「常識的に考えてそれはないだろ」

エヴァが突っ込む
俺もそう思う
……というか

「俺がつけたんじゃ無いから知らんよ」
<……え?それじゃあ誰が?>
「そりゃ、お前の両親じゃね?はい次の質問」
<何気に凄いこと言いませんでした!?え……え、両親って。>

「……好きな食べ物は何ですか」
<茶々丸!普通に流さないで下さい!>
「基本的に雑食だし、何でも好きだよ。雑草や雑魚も好きだし」
<マスターもスルーしないで下さい!あと雑食は雑草や雑魚が好きという意味じゃないです!多分!>
「……そうですか。今度、雑草料理を作れるようにしておきます」
「ありがとう……茶々丸さん」
<もう……いいです>

次はエヴァか

「前々からお前に聞きたい事は、山ほどあったからな」
「バストのサイズは内緒だ」
「聞くか!聞きたいのはお前が使っている力のことだ」
「……これか?」

そう言って門からラムネを取り出す

「門と呼んでいたが、具体的にどんな力なんだ?」
「説明が難しいんだが……ふわって感じかな?」
「貴様、答える気ないだろ?」

睨むエヴァ
……ほんとに難しいんだよ

「説明!」
<……はい。簡単に説明すると、マスターが使う力は一応、空間魔法に分類されます。空間魔法とは、文字通り周囲の空間を操作する魔法です>
「……ほう」
<普通は空間を歪めて相手の攻撃を逸らす防御などに使用されますが、マスターのそれは通常の物とはかけ離れています>
「……ふむ」
<マスターの力は強すぎて空間を歪めるどころか、空間に穴を開けてしまうのです!その穴を門と呼んでます>
「……そうだったのか」
「貴様、知らんで使っていたのか!」

いや、フィーリングで使ってたからなぁ

<そしてその穴の先は、世界と世界をつなぐ異次元になっているのです>
「貴様、何気にすごかったんだな……」
「ああ、俺も驚いているよ……」
<異次元は理論上は無限に広がっているので、マスターはそこに武器やら、お菓子やらを収納しているのです>
「武器とお菓子を同列に扱うなよ……」

なんかしょぼく感じるだろ……

「……という事は、その異次元を門でくぐってこの世界に来たというワケか?」
<……まあ、そうとも言えないような、言えるような……>
「……?」
「まあ、いいじゃないかそれは。説明を続けろ」
<はい。説明といってもこれでおしまいなんですが……基本的にマスターは適当に物をつっこむので私が整頓しています>
「……む」
<それに、そこら辺で拾った綺麗な小石やら、アレな本も入っているので、正直扱いに困ります。あとマスターが貯めているお金も金庫に入っています。パスワードは3396、散々苦労すると覚えています>
「待て待て!いらんこと言うなよ!てめぇの秘密もばらすぞ!?」
<別に秘密とか……>
「お前の自爆コード、<今日は死ぬには良い日だ>ってのをばらす」
<自爆!?そんなのあったんですか!?何かタイマー出てるんですけど!?>

しまった……
声に反応するんだっけ

<止めて下さいマスターっ!>
「どうしようかなぁ?」
<止めないとマスターの秘密をさらにばらしますよ!?>

……いい度胸じゃないか
あと何でエヴァと茶々丸さんは興味深々なんだ……

「はっ、そんなんでビビると思ってんのか?」
<……いいんですかマスター?この前、エヴァさんの大福を勝手に食べたことをばらしますよ!?>
「アホか!?ばらすなよ!殺されるだろ!?」
「……貴様の中で私はどんな腹ぺこキャラになっているんだ。……後で部屋に来い」

怒ってるじゃん!

「てめえ!俺もお前の充電の電気代が、地味の酷いことになってるのばらすぞ!?」
<……それはマスターが怒られるのでは?ああ!タイマーが一桁に!>
「……そろそろ解除してやれ。よく考えたら一番被害を受けるのは貴様だぞ?それから後でさっきのを詳しく聞かせてもらうぞ」

……そうじゃん
考えてなかったよ
解除、解除と……
…………

「茶々丸さん、解除ってどうするんだっけ?」
「申し訳御座いません。私は知らないのですが……」
「だよね」
「……貴様……まさか?」
「貴様まさかって回文になるよな?」
「ならんわ!……解除の方法を忘れたと言うんじゃないだろうな?」
「人は常に何かを忘れて生きていく……」
「死ね!本気でどうするんだ!?爆破の範囲は!?」

……ふむ

「この館は完全に吹っ飛ぶな……ははは」
「笑うな!」
「ちゃんと、立て直すから。忍者屋敷にしようと思うんだが、どうだ?」
「どうだじゃない!その前に、私たちも木っ端微塵になるだろ!」
「みんなで仲良くアフロになろうぜ!」
「ギャグ漫画か!」

親指をグッとたてる
ボキリと折られる
……マジでやりやがった

「……仲良くじゃれているところ悪いのですが。タイマーが……」
「「え」」

<…………ごーる>

その台詞のすぐ後、視界は白く染まった

どうなったかって?
……みんなアフロになったよ
エヴァに「……その髪型も似合ってるぞ」と出来るだけ恥ずかしそうに言ったら普通に死にかけた
……何故だろう
俺の予想では「……ばか」と俯いて呟く予定だったんだが……
シルフ?
ぴんぴんしてるよ
というか、物理的に壊すことは出来ないからな、誰にもな

俺たちはそんな夏を過ごしたんだ……

「……家、直せよ」
「……うん」

本気で怒ったエヴァは怖かった
館は俺の魔法で直しました……正確には魔法じゃないけど
ついでに隠し扉も少々
まだばれてません

そんな夏だった



[3132] それが答えだ!ばんがいへん弐(追加)
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/03/08 22:10
このお話はナナシさんとシルフが来て何年かしたある日のことです。
その日、ナナシさんは茶々丸さんに夕飯のお遣いを頼まれスーパーに行きました
余ったお金でお菓子を買いルンルン気分で家路へとついたのです……なあ、もうナレーター風に話すの飽きたんだけどシルフ代わってくれない?
<駄目ですよ、マスターっ。ちゃんとしないと、お給料もらえませんよ?>
大体どっから給料出るんだよ……
<それは……国から?>
あっ、もう主題歌流れ始めたからナレーター終わり!
<……主題歌?わ、本当に流れてます!しかもJAMです!>
カッコイイぜ!




番外編 バトルしようぜっ





<マスター、これで買う物、本当にあってましたっけ?>
「大丈夫だろ? 5品中2品は直感だが、あとの3品は覚えてたし……」
<だから最初からメモを持っていけば良かったのに……>
「まあ大丈夫だろ?」
<……太宰治全集は入ってなかったと思うんですが。そもそも食材じゃありませんし>
「知らないのか?世の中には蔵書狂(ピブリオマニア)ってのがいて、その人たちは読書を糧にするんだぜ?あと時載りって種族もいてな」
<へ~、世の中には変わった人達がいるんですね>

そんなこんなで平和に帰っていたんだ
これが大体10分前
今はこれだよ……

<ねえ、マスター?>
「なんだ」
<何で、私たち刀を持った女の子に刀を突きつけられているんでしょう?>
「俺が聞きたいよ……」

これで大体は把握出来たと思う。
目も前の侍少女は使命感に燃えた目でこちらを睨んでいる。

「なあ、君? そのナンパ方法は時代を先取りし過ぎて誰もついて来ないと思うよ?」
「ナンパ!? ナ、ナンパじゃありません! そんな不潔な!」

なんだ違うのか。
いや俺も違うと思ってたけど……。

<そこの少女、今マスターは付き合っている時計がいるんです。告白ならその辺の野良犬にでもしなさい>
「告白でも無い!」
<なんだ、違うんですか……>
「じゃあ何の用だよ。新聞はいらんぞ?」
「……お嬢様の為、あなたには消えてもらいます」

お嬢様?
誰?
<私のことじゃ?>
いや、ありえんだろ

「人違いだろ?何のことだか……」
「問答無用!」

そう言うと少女は切りかかって来る!
聞く耳持たないようだ。

<問答無用って初めて聞きましたねっ>

……まずいな、本気だなアレは。
迎撃するか?

<無理ですね。精霊のバックアップを受けて無いマスターは一般人以下です。むしろ小学生にも負けかねません>

……悔しいが、そうなんだよなあ。言っておくが幼稚園生には勝つよ?

……転移で逃げるか

<バックアップ無しの転移なら2m程しか跳べません。5回が限界です>

しょぼい……
とりあえず相手の攻撃に合わせてランダムに転移で
<はい。ランダム過ぎて地面に埋まる可能性もありますが、行きます!>

「ハッ!」

斬撃が迫る!

<転移します!>

斬撃が届く前に俺の姿は消える。

「……ッ、瞬動! いや空間転移か!?」

俺は少女から10m離れた辺りに姿を現す。

「……けっこう跳べたな」
<超頑張りました……>

帰ったら褒めてやろう。

「しかし、どうするか……。……なんか視界が赤くなって? あ、頭から血が!?」
<相手の攻撃が予想以上に速かったので、かすったみたいです>

かすっただけでこの威力だと……!
なんてヤツだ……!

<いえ、マスターの装甲が紙なんです>

ペラッペラか……
ていうかこれじゃ、まともにあたったら峰打ちだろうが即死するんじゃ……

<いえ、即死には至りません。……いい感じに死の境を彷徨うことになります>

……いやなこと、聞いたな。

「……武器、なんか出せないか?」
<今の魔力だと……スプーンぐらいですね>

……スプーンは武器じゃないっ!

「せめてフォークなら……」
<そういう問題じゃないですけどね>
「なんか、お前さっきから冷静だな。俺が死ぬ=お前も死ね、なんだぞ?」
<気のせいか、いやな誤字を見てしまいました……私は既に来世でのマスターとのラブラブ予想に入ってますから>
「現実逃避かよ!」
<失礼な。計画的と言ってください。今からしっかりと人生設計を立てておくんですよ。既に二人は出会いお互いを意識し始めました>
「……」

駄目だ……こいつ!
自分で何とかするしかない!
しかしどうやって……

<マスター!>
「何だ!」

何かいい案でも浮かんだか!?
何でかんだ言ってもやっぱりお前は最高の相棒だよ!

<二人目の子供が生まれました!>
「展開早っ!」

来世の俺どんだけ手が早いんだよ
ていうか何で少しでもコイツに期待してしまったんだろう

「フ、フッフフ……フ」
「……!」

相手が軽くひいた様だ
そりゃ、こんな情けない声も出るよ……
<10人目が欲しいんですか?あなたったら……ふふ>
来世劇場は何気に凄いことになっている、俺凄いな……

「……ッ!」

少女が刀を再び構える
次でトドメを指しにくるか……!
転移は……無理か、さっきの転移で魔力を使い果たしたようだ
……そりゃ、5倍魔力使ったら、5倍の距離跳べるはずだよ……

ヒュッ
刀が迫る
……終わりか
こんな所で……あきらめるのか
……冗談!

「オラァーーー!!」

横っ飛びにダイビングする!
かっこ悪いが命には代えられない!

「……くあ!」
<……いたい!>

地面にダイビング!
シルフを地面に強く打ち付けたようだ
……立ち上がる

「……ッ!一体何なんです!?」

少女は酷く混乱しているようだ
気持ちは分かる
今の俺の眼を見たんだろう
生きる、と強い意志をこめた!
<死んだウサギの様な目に見えますよ?>
……本当に目の前の男が標的か戸惑っているのか
だが、彼女は止めないだろう
この子は本来この様に前が見えなくなる子ではないんだろう
何かが彼女をつき動かしているようだ
強い意志が

<あの……マスター>
「……何だ?12人目でも生まれたか?」
<いえ、15人目がさっき……じゃなくてお知らせが>
「何だ?」
<さっきの衝撃で……>
「また、中身がバグッたか……ただでさえ8割以上の機能が停止してるのに……」
<逆です。直りました。稼働率が80%を超えています!>
「……嘘だ!?そんなに都合良くいくはず無いだろ!」

衝撃で直るって……古いテレビかよ
時計だけど
アホみたいに修理に没頭した俺は何なんだよ……

<嘘じゃありません。……変換コア起動します!>

シルフが光を放つ
その言葉と共に門の中に眠る、何百もの武器
それに宿る精霊、俺と契約を交わした何百もの精霊が目を覚まし、その力を解放する
力は門を通りシルフに集まり
俺が使う全ての力に変換される

「……おお」
<Aランクまでのほぼ全ての武器に宿る精霊とラインがつながりました>

頭の傷が塞がる
体のありとあらゆる場所が活性化する
魔力がこぼれ落ちるほど湧き上がる
ついでに腰痛も治る

「……完全復活?」
<いえ、Sランク以上、神剣のたぐいからは完全無視ですね。あとAランクもいくつ>

……あいつら気まぐれだからな
Aランクは……竜火、りゅっこか
あいつツンデレだからなぁ
まあいい

「……いい気分だ。世界が違って見えるよ」
<視力も上がってますからね>
「体も軽い」
<常に界王拳がかかってるみたいなもんですからね>
「頭もすっきりしてるし」
<いえ、知能の方は……何とも……以前と変わりなく>

スーパーサイヤ人になった悟空はこんな感じだったのか
こんな形で力が戻るとは……
少女には礼をしないとな

「……一体……何が。あり得ない……」

少女は混乱している
そりゃ、そうだ
さっきまで格下だった相手が急にあり得ないレベルになったんだからな

「……ッ!」

それでも相手はすぐさま戦闘態勢を取る
相当な場数を踏んでいるのだろう
……しかしさっきまでの様にはいかない!

「シルフ、武器を」
<はい!張り切ってだしますよぉ!いくついりますか?調子がいいので何本でもいけますよ!3本くらい、いっときますか!?>
「一本でいい!俺はどこの海賊だ!?」
<……残念。はい、どうぞ>

目の前の空間から一本の刀が出てくる
名前は散花
初めて契約した刀
いいチョイスだ

<……久し、ぶり>
「……ああちーこ。いきなりだが力を貸してくれるか?」
<……うん>
<マスター、浮気は駄目ですよ>

スルースルー

刀を手に取る
馴染む
まるで生まれてから今までずっと手に持っていたかの様に
相手に刀を向ける

<マスター、ここらで一つカッコイイ台詞でも!>


……ふむ

「ここから、ずっと俺のターン!」


戦闘の結果は……言うまでも無いだろう





「本当に、すいませんでした!」

目の前の少女、桜咲刹那が頭を下げる

「いや、もういいよ」
「いえ!私は……!」

……まあいわゆる勘違いという物だった
話が巡り巡り、悪変してこの子の耳に入ったらしい
簡単に説明すると
じいさん「木乃香と見合いせんか?」

俺「そのうちね」シ<マスター!?>

木乃香に見合い相手がいる

木乃香に求婚をしている男が

木乃香を狙っている男が

木乃香を自分の物にしようとしている男が

木乃香を襲おうと

お嬢様をお守りせねば!

こんな感じだ
そういえば見合いとか言われてたな
我ながら適当だなぁ
<……てき……とう>
<むしろ適当が売りのマスターですから>

「本当に……私は……!」
「いいよ、君は彼女を守ろうとしただけだ。それに俺も無事だったし」
「……でも!」
「俺がいいって言ってんだろが!」
「……っはい!」
<マスター、何か優しいですねぇ。普段だったらこれをネタにいやんな事に及ぼうとするのに>
<……するのにぃ>
「俺はどんな外道人間に思われているんだ……もういいから帰れ」
「……はい。……それでは」
「やっぱ待て!」
「……はい?」
「んー、何ていうか……」
「……」
「困ったら、誰かを頼れ。それは誰でもいいし、俺でもいい。要するに……一人で悩むな」
<マスターがこんな、恥ずかしい台詞を!私も恥ずかしい!きゃー!>
<……きゃー>

……

「こいつらは気にするな」
「……はい」
「だから何が言いたいかっていうと……えっと」
「……ありがとうございました」
「……えっ、ああ。どうもご丁寧に」
「っ!……それでは」

少女が去って行く
気のせいか笑った気がする
あの子も色々大変そうだな
まあ、若いから大丈夫だろ
若い内は苦労しとくべきだよ

「歯、磨けよーー!飯も食えよーー!」
「…………はい」

少女が見えなくなる

「帰るか……」
<はいっ>
<……おー>


家に帰ったらエヴァからの質問攻め
実は全部の品物を間違えていた
などの出来事により大層疲れました

……その夜……

「……zzz」
<……むにゃむにゃ。ますたぁ、そこは駄目ですよぉ。そんな大きいドライバー入りませんよぉ>
「……zzz……んあ」
<……駄目ですよ、ますたぁ。茶々丸が見てますよ……ぐえっ!>
「ぐおっ!……zzz」
<なんですか!何が起こったんですか、マスター!?……って床?ああ寝返りしてベッドから落ちたんですか……それで私は床とマスターの間に挟まれてれる……と>
「……zzz」
<普通に寝てますし……マスターが起きるまで、私このままですか……重い……!>
「……zzz」
<せっかくいい予知夢を見てたのに……。ん?……体に違和感が。何でしょう?>
「……zzz」
<……これは……やばいです。また、マスターに怒られます……>


……朝……


「……ん、ああ。よく寝た」
<……おはようございます、マスター>
「珍しいな、お前の方が早いなんて……」

……っていうか初めてじゃないのか?
……何で俺、床で寝てんだ

<夜中に寝ぼけて落ちたんですよ>
「……ああ、そうか」

まあ、たまにはそういう事もあるだろ

<それで、マスター。悲しいお知らせが……>
「……なんだ?」

朝からいやな予感だ……

<その……落ちた時の衝撃でですね?また壊れちゃいましたっ、テヘっ>
「……」
<まあ、寝ぼけたマスターも悪いんですけどね。ふふふ>
「……ははは」
<うふふふ>
「ふざけんなよ!ちょっとの衝撃で直ったり壊れたり、なんでそんなにデリケートなんだ!お前は豆腐か!?」
<豆腐は直りませんけどね。女の子はデリケートな部分がいっぱいあるんですよ?>
「やかましいっ!」

せっかく力が戻ったのに……
今日からナナシ無双が始まると思ったのに……

<で、でもっマスター!この世界に来た時よりましな稼動状況ですよ!>
「……どんな感じだ?」
<A,Bランクの精霊のラインは完全に断たれているますが……C,Dランクはぼちぼち繋がってます!>

A,Bランクの精霊からの供給は無しか……

「今の魔力で出せる武器は……?」
<今の魔力じゃ、ABランクは容量が大きすぎて出せませんね。C……は無理ですね>
「Cも無理?」
<はい、出せなくは無いですが……その場合、マスターの魔力を吸い尽くし、マスターが一瞬で骨だけになります>
「……具体的な供給率は?」
<……13%ってとこですね>

13%って……
これは俺のレベルと思ってくれて構わない
昨日は80だったのにいきなり13……
しかも出せる武器はしょぼい……

「……はあ」
<……マスター、かわいそう……>
「誰のせいだよ!?」
<……うるさい>
「何だと、てめえ!」
<私じゃないですよ!?>

じゃあ誰だよ……あ

<……おはよう……ナナシ>
<マスター!見て下さい! 散花ちゃんです! Aランクの!」
「……ああ。何でここにあるんだ?」

昨日使ってから……
それから……

<こんな事もあろうかと思って置いておきました!>
「嘘つけ!」
<……本当は昨日、戻すのを忘れてました、てへり>
「だろうな」
<……なー>

……まあ、結果オーライだ
これは力強い
例えるなら最初のアリアハンで、既に黄金の爪を持っているといった感じだ
……分かりづらいか?

立ち上がる

「うわっ、体だる!」

昨日のフルパワーからこれだと重りを背負ってるようだ……

「昨日のあの全能感が……」
<短い夢でしたね……>
「……ああ。飯食いに行くか」
<……はい>
<……お~>

憂鬱な朝食でした。



[3132] それが答えだ!ばんがいへん参
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/03/08 22:15
「唐突だが、今日はこの刀、散花との出会いについて語ろうと思う」
「……」
「……」
<本当に唐突ですっ!でもそんなところも素敵!……それにしても、散花ちゃんとの出会いですか……。私は知らないので楽しみですっ>
<……zzz>
「むかし、むかし俺が各地の遺物を探し回っていた頃のことです……」
<マスターの秘められし過去が、今!>

俺は常に眠そうな刀、ちーこに目を向ける。
……っていうか寝てる。
まあいい。
そう、こいつとの出会いは……


番外編 ~出会い・おぼえてますか?~

ファールベウト王国・地下迷宮「竜園」地下55階

「……もうゴールしていいかな?」
「駄目です」

俺は座りこむ。
……疲れた。
何、ここ?
罠だらけだし、モンスター強いし、セーブ出来ないし……セーブ?

「回復頼むー」
「いたいのいたいのとんでいけー」
「なめてんの?」
「……っ」

顔が赤くなるシルフ。
恥ずかしいならやるなよ……

「ここが最下層の様です」
「着いたのか!?」

そう、俺たちはこの迷宮に遺物があると聞き、この国にやって来たのだ
目の前には何かが置いてある祭壇がある

「はい、あれが一級指定遺物<散花>です」
「あれが……。あと、呼び方はAランクで」
「……はい?」
「そっちの方が、何ていうか……スペシャライズって感じじゃん?」
「……。……あれがAランク遺物<散花>です>
「あれが……。よし」
「……マスター!? いきなり近寄るのは危険です!」

珍しく慌てるシルフ。
大丈夫だろ。
祭壇に奉られている刀に近づく。
こちらに気づいたのか一人でに浮いた。

<……こんなところに何のようだ、にんげん。……ふああ>

……えらく眠そうだな。
「……マスターっ」

シルフが追いついてくる。

「力を貸してもらう為に来た。俺の目的のため力を貸してくれ……ちーこ」
「また勝手にあだ名を!? 怒らせたらそこまでなんですよ!?」
<……ちーこ?>
「ああ、散花だからちーこ……我ながら恐ろしいネーミングセンスだ」
<……ちーこ>

ちーこが興味をこちらに向ける。
俺のことをじっと見ている。
……刀に見られるって変な気分だな。

「俺と来てくれ」
「マスター、なんでそんなに偉そうなんです!? 相手は一級指定遺物なんですよ!? 私たちなんか、一瞬でバラバラにされるんですよ!」
<……うん、いく。あなたは……?>
「ナナシだ」
<……うん。ナナシといく>
「ええぇ!? そんな簡単に!? 一級遺物の精霊がそんな簡単に!?」
「お前キャラ崩れてるぞ」
「……。馬鹿な」

瞬時に無表情に戻るシルフ。
……面白いな。

「これが精霊眼(グラムアイ)の力だ!」
「変な設定つけないで下さい!」

キャラ崩れが激しいな……

「……それでは契約の言葉を」
「契約? そんなの知らないんだが」
「……なんでもいいんです。マスターが相手に自分に従う言葉をかけ、相手が了解したなら」
「成るほど。それっぽい言葉ならいいんだな」

……むむむ
これでいいか。

「…………汝は健やかなる時も、病める時も生涯、俺に従うことを誓いますか?」
「アホですか!?」
<……ちかいます>
「えぇー!? ……こんなんでいいんですか」

なにやら、呆然としているシルフ。
なにはともあれ無事に契約できたようだ。

<……ちゅー>

ぐさり

「痛い!? なにすんじゃい!?」
<……誓いのキス>
「キス!? 誓いのブスッの間違いだろ!?」
「……なんで、ちょっとうまい事言えた、みたいな顔なんですか……」

<散花>を腰にさす。

「行くか」
「はい」
<……うん」
「……」
「……?」
<……?>
「……お前ら」

……これ

「……どうしたんですか、マスター」
「……かぶってる」
「……はい?」

怪訝そうな顔でこちらを見る

「キャラが被ってんだよ!」
「……はあ?」
<……はー>
「無口っぽい、キャラが、被ってんだよ!」
「……そんな事ですか」
「そんなこと!? 死活問題だぞ!?」

世界に対する冒涜だ!

「……そんなこと言われても、どうすれば?」
<……すればー>
「シルフ、お前のキャラ変更で。なんかアホみたいに明るいキャラで」
「……変更って。そんなの無理ですよ」
「お前には素質がある」

俺の眼に間違いはあまり無い!

「……そんなこと……」
「やる前からあきらめるなよ!」
「……」
「お前には素質がある。お前には素質があるんだ!」
<……2回言った>
「お前にはっ、素質がっ、あるんだっっーーー!」
<……3回>

俺の言葉に感銘を受けたのかシルフは、

「……はい。マスターがそこまで言うなら、努力します……」
「パーフェクト!」

なんで俺、こんなにテンション高いんだ……





エヴァの家 リビング

「……と言うことがあったのさ」
<はー、そんなことがあったんですか……>
「……」
「……」
<マスターと散花ちゃんは、その時からの付き合いなんですね>
「まあな」
<……まあなー>
「あっ、肉が焼けてる。……うまい。やっぱり茶々丸さんのご飯はおいしいなあ」
「……ありがとうございます」

うまうま

「……あの、ちょっといいでござるか、エヴァ殿?」
「なんだ」
「いきなり、師匠が立ち上がって昔話を始めたんでござるが……なんでみんな普通に食事をしてるんでござるか?」
「……もう慣れたんだよ……」
「……そうでござるか……」

「今日はエヴァの家で焼肉をしている。友達になった忍者も一緒だ」
<……誰に言ってるんですか?>

エヴァがそういえばという顔で

「何でその刀は喋るんだ?」
「時計もしゃべってるが?」
「それは……もう、なんか……どうでもいい」
<む。どうでもいいってなんですか!「どうか、お願いします。でも、いいや」の略ですか?>

どっちだよ……

「……ふむ。説明!」
<はい。調べたところ、日本でも同じような伝承がありますが、長く存在したモノには魂が宿ります>
「……九十九神、ですね」
<はい。私たちの世界でも同じことが起きます。長く存在した武器には精霊が宿り、長く存在すれば、するほど強い精霊となります。強い精霊=強い武器ですね>
「ふむふむ」

楓がこくこく頷く

<ちかちゃんはAランクですから……軽く3000年以上は存在してますね>
<……はずかしー>
「ババアじゃん」

ぐさり
べきり

「痛い!? 冗談だよ! あとなんでエヴァも殴るんだ!?」
「……うるさい」

明日も、学校か……
先生も大変だぜ!



[3132] それが答えだ!ばんがいへん四
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/03/08 22:29
「そう言えば、元の世界にいた時、貴様らはどんな事ををしていたんだ?」
「……ほう、俺の過去が聞きたいと……小娘? ククッ、いいだろう。だがそれなりの代価は払ってもらうぞ。クハハッ!」
「……なあ。なんなんだ今日のコイツのキャラは? 普通にイラっとくるんだが……」

目の前で悪態をつく小娘。
ククク。

<まあ、マスターもお歳頃ですから、こんな痛いキャラクターを演じたくなる時もあるんですよ>
「痛いって言うな! かっこいいだろ!?」

茶々丸さんを見る。

「なあ、茶々丸さん?このキャラ、かっこいいよな?」
「はい、それはまあ……人によっては……じゃないでしょうか」

濁した!
えっ!? マジでこのキャラ痛い!?
当分これで行こうと思ってたんだけど……
エヴァがこちらを見て、

「ありえないほど似合っておらん。……そういう役はな、私の様に滲み出るカリスマを持っている者にしか出来ないんだよ、坊や。クククッ」
<いや、あなたのソレも相当痛いと、常々私は思ってましたけど>
「痛いっていうな! っく、こういうのは分かる者にしか分からんのだ……」

ぶつぶつと呟くエヴァ。
カリスマか……。
借りてきたスマガワさんの様に大人しい……って意味かな。
誰だよスマガワさん……。
まあいいか……。
それにしても、元の世界か……。

<懐かしいですね。もう3年になりますか……。黒ちゃんは元気でしょうか……>
「……誰だっけ、それ?」
<……うわあ。流石にそれはひきますよ……マスター……>

黒ちゃん……?
黒……黒……
……!

「ダリアか!」
<はい。1年も一緒にいたのに忘れたら駄目ですよ、マスター>
「……3年だよ」
<へっ!?そうでしたっけ!?……おかしいなあ。この世界に来る3年前に会って……あれ?でも私が稼動し始めたのは、この世界に来る1年前ですよね……>

……やっぱりその辺の記憶は混ざっているのか

「……あまりその辺は気にしなくていい。稼動直後で記憶が曖昧なんだろう」
<そうですか? じゃあ、そうします>
「……誰なんだ? その黒……ちゃんというヤツは?」

エヴァが聞く。
今思えば黒ちゃんって……CROSS†C……まあいい。

<えっとですねえ、プリチーな女の子で……メイドで……>
「ふむ」
<……あとは……魔王です!>
「……はあ? ……魔王?」
「ああ、魔王だ」

意味が分からないといった顔のエヴァ。
まあ、気持ちは分かる。
魔王なあ……。
そういえば魔王だったなあ……。

そして俺は回想する……あの時のことを……。
<マスター! 回想ですねっ!?>
……いや、そうだけど……何でそんなに嬉しそうなんだ……?
<そりゃ、そうですよ! この世界に来る前! 登場人物はマスターと私だけ!二人の愛の旅ですから!>
お前出ないけど。
<なんで!?>
だって回想するの、俺が始めてピーマンを食べたシーンだし……。
<何で、この流れでソレなんですか!? 普通に黒ちゃんに会った時の回想でいいですよ!>
いや、だって普通に回想しても捻りが無いし……。
<いいんですよ、無理に捻らなくて!>
そうか……。まあそこまで言うなら……。
(どちらにしろ、シルフ出ないけどな……)
<何か言いました?>
……いや

あれは俺とシルフがとりあえず、各地の大体の精霊との契約を終え、旅が一段落した時のことだ。



番外編 勇者×魔王 


ノースランド・世界の果て

「ここは世界の果てと呼ばれている土地で、俺とシルフはそこに眠っていると言われていた遺産を探しに来た。既にブツは手に入れ、さあどうしようといったあたりだ」
「……いきなりの説明口調に少なからず驚きました。これからどうします?」

隣を歩くシルフが言う。

「そうだなあ、とりあえず契約もぼちぼち終わったし、研究する拠点が欲しいな」
「そうですねえ」

辺りには何も無く、荒れ果てた大地が広がっているだけだ。
何でも、この辺りは魔王が存在した土地らしい、学校で習わされた。
魔王が倒された今も生物は存在しない土地になっている。

「拠点ですか……言い換えれば私とマスターの愛の巣、というわけですねっ」
「どちらかというと哀の巣って感じだが……」

何はともあれ拠点だ。
さすがにこの辺りには住める様な場所は無いだろうし。

「マスター、あれなんかどうでしょう?」
「……あ?」

シルフが指差した方向を見る。

「……!」

そこには巨大な城が建っていた。
……さっきまで何も無かったはず。

「あそこにしましょう、マスター! 私昔からお城に住んでみたかったんですよね! やっほーい!」
「おいっ!」

ビューンと走り去るシルフ。
昔と比べ、態度が柔らかくなったのはいいが、頭の方もいい感じになってしまったようだ。
走って追いかける。
シルフは巨大な門の前で立ち止って城を見上げている。
俺も見上げる。
これは……。
なんだろ……。
なんというか嫌な感じがする。

「……マスター」
「ああ」

シルフも気づいたようだ。

「この城……」
「ああ……」
「すっごくかっこいいです!」
「……」

何も感じていなかったようだ。

「おじゃましまーす」

シルフが門を開ける。
止めようかと思ったが、やはりこの城は気になる。
少し調べてみるか。

「おー」
「……」

城内は綺麗になっており、手入れもされているようだ。
……誰かいるのか?

「……マスター」
「なんだ?」
「この扉の向こうに人の気配が」

目の前の扉を見る。
こんな所に住んでいる人間か……。
気になるな。

「入るぞ」
「はい」

扉を開けて中に入る。
室内には玉座がぽつんと置いてある。

「マスター、玉座に」
「ああ」

何者かが、玉座に座っている。
遠いので姿は良く分からない。
近づく。
相手は反応しない。
何故なら……

「……zzz」
「寝てる」
「寝てますね」
「しかも」
「女の子ですね」

玉座に座っているのは10にも満たない少女のようだ。
……何故こんな所に?
しかもなんだこの格好は……。
黒いマント……。
どっかで見たような……。

「……ふ、ああ」
「……!」

目を覚ますようだ。

「ふああ、あ……zzz」
「寝るんかい!」
「zz……ふえ?」

目を覚ました。

「……おはよう、パパ、ママ」
「おはよう、もう起きなさい。学校の時間ですよ」

なんかシルフがのっていた。
俺は……

「隣のシルフさん! 勝手に家に入らないようにいつも言っているでしょ!」
「私奥さんじゃ無いんですか!?」
「……! だれ!?」

やっと気づいたそうだ。

「そっちこそ誰だ!」
「……そこでマスターが言うんですか」
「……わたしは魔王です……じゃなかった……魔王だ!」

言い直した!

「……魔王?」
「そうだ。えーと、……勇者よ、よくここまで来た。世界のはんぶんをやろう」
「無条件で!?」
「え? あれ、……えーと」

魔王(仮)は何やら手帳をめくる。
「魔王の心得」?

「……あっ、これか。……み、みごとだ、ぐふっ」
「……」

……

「君さ、こんな所で何してるの ?親は? 名前は?」
「わ、わしは魔王ダークダリア、わしの仲間になれば世界のはんぶんをやろう」
「……」

これは……いわゆるごっこ遊びか。
しかし何でこんな所に一人で……。
うーむ。

「……マスター、マスター」
「何だよ」
「……その」
「トイレなら一人で行けよ」
「違います! 女の子はトイレなんか行かないんです!」

……そうなんだ。

「じゃあ、なんだよ。まだ3時じゃ無いぞ」
「おやつでもありません! あの子ですが……」
「……おやつ!」

魔王(仮)に目線を向ける。
おやつに反応した。
やっぱ子供じゃん。

「……マジモンの魔王です」
「……それはあれか。マジモンというモンスターの中の魔王か?」
「そういうのはいらないです。本気で魔王です。保有魔力知りたいですか? マスターはショック死しますよ」

……まじで?

「……いや、魔王って死んだじゃん。なんだっけ……勇者ガリウスだっけ?」
「はい。確かに50年前に」

ちなみに勇者ガリウスは歴代勇者の中でも一番強いと言われている男だ。
存命で70越えてなお現役勇者である。
超がつく程の女好きだ。
……ん、50年?

「はい、今年でちょうど50年です。既に新しい魔王が発生する年ですね」
「……でもなあ」

少女を見る。
とてもじゃないが魔王には見えない。
あっ、こけた。
ガゴン!

「うぅ、いたい……また壁こわしちゃったぁ……」
「……えぇー」
「こけた時の衝撃波が壁にあたったようですね。子供であれですから、大人になるともっと凄いことになるのでしょう」
「……えー」

本物の魔王かよ……。

「……どうするんです、マスター?」
「どうするもなにも、逃げるだろ……んで勇者に通報する」

餅は餅屋だ。
あんなこけただけで壁壊すようなの相手にしてられん。

「……その、勇者ですが……」
「なんだよ」
「1年前に死亡したようです」
「……えぇー」
「死因は腹上死です」
「……えぇー」

魔王倒した勇者が腹上死って……。
ある意味うらやましいけど。
腹上死の意味が分からない人はお母さんに聞こう。

「……じゃあ、次の勇者がいるだろ」

勇者が死んでいると、魔王が発生すると共に新しい誰かに勇者の権利が譲られる。
大体それっぽい、正義感にあふれていたり、カリスマがある者が選ばれる。
ちなみに勇者になると、それっぽい力に目覚める、異性にもてる、色んな特権を持つ、家宅捜査が出来るなど盛りだくさんだ。

「その……勇者の子供の事なんですけど……」
「……子供なのか?」

勇者が子供なんて話はよく聞く。
……子供にそんな重荷を背負わせるのは酷だが……。
基本的に魔王を殺せるのは勇者だけだ。
魔王を見る。
こけたので涙目だ。
……罪悪感が……。

「その子なんですが……ハイハイをしたばかりなんです……」
「……ハイハイか。属に言う反抗期だな。母親に「勉強しなさい!」と言われ「ハイハイ、ちっ、ババアが!」って感じか」
「……」
「子供っていうか赤ん坊だな」

すっごいスベったよ。
……流石にそんな子供じゃあな……。

「どうするんです、マスター?」
「逃げて、王にでも知らせる。まあ、なんとかなるだろ」
「……そうですか」

心なしか残念そうなシルフ。
……俺にどうしろって言うんだ。

「じゃあ、ダッシュ!」

俺とシルフは逃げ出した!
しかし、逃げられなかった!

「何で!?」
「知らなかったんですかマスター?……魔王からは逃げられない……」
「何でかっこつけてんだよ!? ちくしょー!」

まじでやばい。
魔王は……。

「相手がこたえないときは……えーと、「勇者は基本的に無口なので、無言は拒否と取る」……。……それでこそ勇者だ。しりょくをつくしてかかってこい!」
「何か話進んでる!どうしよう!……何かボスっぽいBGMも!」
「戦うしか無いですね、マスター」
「無理だろ!」
「っ! マスターのバカ!」

……!
シルフが俺に怒った!
……。
……いや、いつも普通に切れるか。

「何だよ!?」
「マスターなら勝てます!」
「いや、無理だって! 俺の力で勝てるわけ無いだろ!」
「忘れたんですか。……マスターは一人じゃありません!」
「……!」
「私もいます。ちかちゃんもいます。他にもたくさんの精霊がマスターの味方です! それに私も!」
「お前二人いるぞ。……そうだったな、俺は一人じゃなかったな。忘れていたよ」
「マスターっ」
「戦う。あいつを倒す! 力を貸してくれるか!?」

ドクン、と
返事の代わりに大量の魔力が流れてきた。
ああ、一人じゃない!
みんながいる!
剣が門から出てくる

「行くぞ!シルフ!」
「はいっ!」

俺は剣を構え魔王に突進した……!



……batlle……

<すいません! もう、無理です!>

俺の手元から剣が落ちる
剣が持っている魔力が無くなったようだ。
これで、再び魔力が戻るまでただの剣になってしまう。

「次!」
「はい!」

シルフの補助で手元に剣が現れる。
Cランクの<魔刃>だ。

<行くぞ、主。我が力を見せてやろう!>
「ハアッ!」

剣を持って魔王に走り寄る。
剣を振りかぶって斬る!

「え、えっと……ばりあー!」

バリバリと剣と障壁の間で火花が散る!
そして……

<ふふっ、ここまでか。また会おう!>
「おいっ!もうちょっともたせろよ!」

手元から剣がすっ飛んでいく。
これで何本目だ……。

「82本です。やはりBランク以下では障壁すら突破できませんね。……ここまでとは」
「冗談じゃない……! 強すぎる! ゲームバランスがおかしい!」

流石魔王といったところか。
その魔王は再び手帳を読んでいる。

「えーと……い、いぐにっしょん!」
「……!」

大量の炎が上から降ってくる!
シルフが前に出て、

「プロテクション!」

防御魔法を唱える。
炎が障壁に遮られる!

「っ!っ!」

シルフは苦しそうだ。
あまり長くもたないだろう。

「来い!」

手元に新しく剣が現れる。
Bランクの<氷牙>
炎に向かって剣を振る!

<――凍れ>

冷気が氷牙からあふれだす!
炎が徐々に消えていく

<――っく>

完全に炎は消えた……が

<――ここまで>

同時に氷牙も消える。

「大丈夫か、シルフ?」
「はい、とてもじゃないですが全然余裕です」

どっちだよ。
まだ冗談を言う余力はあるようだ。
……しかし

「……まずいですね」
「ああ」
「……既に打つ手はありません」

障壁を破れるAランクの武器は使い果たした。
障壁は貫いたが、魔王の元々の防御力でかすり傷を負わせただけだった。
しかも、そのあと涙目の魔王の猛烈な反撃を受けた。

「……来い」

新しい槍を召還する。

<やっと自分の出番ッスね! 今か今かと待ちわびていたッス! さあ先輩、相手は誰ッス?! 私を誰だか知っるッスか!? ……そう、自分の名前は星屑! 落ちてきた星を鍛えて作られらた素晴らしい槍ッス! 実際は星で作られたがどうか分からないッスけど! 自分がやらねば誰がやる! この刃のきらめきを恐れぬ人はかかってくるッス!!>

……なんかすごいうるさいのが出てきた。
先輩て……。

「お前、あれ倒せる?」
<先輩! 何弱気なこと言ってるッスか! 自分がいればどんな敵だってけちょんけちょんに…………すいません、自分帰っていいッスか?>

相手のあり得ない力を見た星屑が弱気になる。
……だよなあ。Cランクだし。

「マスター、ここまでです。相手に攻撃は通らない、私の魔力は無い、勝てません。私のせいです」
「……別にお前のせいじゃないよ。俺も乗り気だったし」
「でも……! 分かりましたマスター。……私の体を好きにして下さい!」
「今言う台詞じゃないだろ!?」

こいつもいい感じに疲れてるな……。

「……え、えっと、でもんずらんさー!」

魔力の槍が飛んでくる!
星屑で払い落とす!

<痛いッス!? いたっ! いたっ! ……自分もう駄目ッス!>

3本払い落とした辺りで星屑が消滅する。
もちろん残りの槍は全て俺にささる。

「……かはっ!」

3本の槍がささり体に穴が開く。
回復は……しない。
精霊からの供給が止まったようだ。
……ここまでか。

「っ! マスター!?」
「お前は逃げろ!」
「かっこいい台詞ですけど、私も逃げられません!」

一回言ってみたかったんだよなあ。
これで……満足かな。

<ほう、ここで終わりであるか?>

……!

「マスター!」
「この声は……姐さん!」
<その呼び方で呼ぶなと言っておろうが!>

剣は一人でに門から出てくる。
きらびやかな装飾の施された刀。
銘は<神薙の太刀>
Sランクの刀。
本人曰く神を斬る刀らしい。
嘘っぽいが教科書で同じ刀が出ていた。

「何をしに出てきた?」
<つれないことを言うの。あまりにもみじめなものでな、つい出てきてしまったわ、ホホホ>
「見たなら帰れ」
<そ、そんな言い方は無いであろう? 汝が心から頼めば力を貸してやらんこともないぞ?>
「いいです。さっさと帰って下さい。どうせマスターの魂と引き換えとか言うんでしょ?」
<ち、違う! 妾はただ、契約者が死ぬのは面倒になるから……!>
「……」
<……心配になったのだ。ナナシ殿に死なれると、……その……困る。だから……>
「……分かった、力を貸してくれ神薙」
「……マスター!?」
<さ、最初からそう言えば良いのだ。では妾を手に取るがよい>

<神薙>を手に取る。

「……!」

傷が一瞬で塞がる。
AからDランクの武器を合わせた以上の魔力が体に流れ込む。
……これが永級指定遺物か。

「……でアレに勝てるのか?」
<馬鹿にしてくれる。妾を誰だと思っておる? 神薙であるぞ? あんな雑魚如き一振りで終える……! だが魔王だけあって血はうまそうじゃ>
「……本当に代償とか無し? ちょっと魂取られたり……」
<無い! 信用しろ妾を!>
「……使ったあと貯金が減ってたり……」
<くどい!>

自身満々だな。
まあ、そこで言うからには大丈夫だろ。
刀をその場で構える。

「……!? ……ば、ばりあー!」

何かをこの刀に感じとったのか障壁を張る。
いい勘だ。
だが……!
振り下ろす!

「……えっ! きゃあっっっ!」

ズシャリ、と衝撃波が魔王を襲う。
障壁も貫通し、魔王にもダメージを与え背後の壁まで吹き飛ばした。

「……うぅ」

魔王は立ち上がらない。
……本当に一振りで……

<どうじゃ、みたか! ホホホ!>
「ほほほほほ!」
<まねをするでない!>
「マスター!」

シルフがこちらに来る。

<……さて、魔王の血はどんなも味であろうか?>

魔王に近づく。

「……っ。っ……」

……何かぼそぼそ喋っているようだ。
……何だ?

「……しにたくない。しにたくないっ。しに、たくない。しにたく、ない。」
「……」
<ホホホ、すぐ楽にしてやろうかの>

門を開く。
神薙を門に突っ込む!

<っ汝! どういうつもりじゃ! お、押すな!>
「ぐぐぐ! 俺は約束した覚え、は! 無い!」
<な、なんだとぉ!?>

ぐぐぐ、と押し込んでいく。

<恩を仇で返す気か!?>
「ありがとう。超助かった。愛してる」
<……っ! そ、そんな事で! ……あ>

すぽん、と刀が門に納まる。
シルフがじとっ、とした目で見てくる。

「……マスター」
「何だ?」
「……ジゴロ」
「……」
「その子はどうするんですか?」
「任せろ」

魔王に目を向ける。

「おい」
「……ころさないで。ころさ、ないでっ」
「殺さない」
「……ほんとう?」
「ああ、だがお前は俺に負けた……分かるな?」
「……う、うん」
「俺が勝ったからお前は俺の物だ、分かるな?」
「……マスター」
「え、えっと……」

また、ぱらぱら手帳をめくる魔王。
どこかのページで手が止まる。

「……う、うん。まけたらなかまにしてほしそうな目で見るって書いてある」
「……」

大丈夫か……その本?

「な、なにすればいいの……?」
「まずこの城をもらう」
「う、うん。どうせ一人じゃ……さみしかったし」
「あと、お前……ダリア。ダリア、メイドな」
「……ダリア。うん、……じゃなかった、はい!」

元気に答えるダリア。

「あと、力とか使うの禁止。暴力、ダメ、絶対!」
「う、うん。……分かった。メイドふくに着がえてくる」

ツテテーと走りさるダリア。
……タラちゃんみたいな足音だな。

「マスターっ! 凄いです! 魔王を支配下に置くなんて! 何て……!何て…………何も思いつきません!」
「思いつかないなら言うな!」

……さてこれで拠点も確保したし……これからだな……

「俺、城の探検行ってくるわ! ヤッホー!」
「ちょ、マスター!」


「……え、えっとシルフ様?」
「ダリアちゃん似合ってますね!シルフでいいですよ」
「えっと……御主人さまは……?」
「……ああ、マスターの事ですか。……探検に行きました」
「わかった。……ねぇ、シルフ」
「はい、なんですか?」
「シルフ……もうすぐ死んじゃう……よね?」
「……分かるんですか?」
「う、うん。わるいものが体中にひろがってる」
「……マスターにはナイショですよ」
「……う、うん」





……エヴァ家……


「……という事があったのさ。……どうしたの皆?」
「……いや、貴様にしては……なかなかハードな話だったから……嘘じゃないのか?そもそも、そんなに貴様強くないだろ?」
「嘘じゃないヨ! 魔王たおしたヨ! ワタシ嘘つかないヨ!」
<何でカタコト……そういえばそんな出会いでしたね! 思い出しました! 元気にしてますかね!>
「さあ、まあ、ぼちぼちやってるんじゃないか?」

まあ、なんだかんだいっても魔王だし大丈夫だろ。

明日は修学旅行か……楽しみだな!



[3132] それが答えだ!ばんがいへん五
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:1c9fc581
Date: 2009/03/08 22:35
<今回の話はまだマスターが教師になる、かな~り前の話です。そう、あれは刹那ちゃんに襲われて数日したある日のことでした>
「お前の独り言はうるさいんだよっ! テストの採点に集中できないだろがっ!」
<……怒られちゃいましたよ、茶々丸>
「元気を出してください……いつものシルフさんらしくないです」
<そっ、そうですね! ふふふ……どんまい私! こんな事でへこたれてはいられないんですよ!!>
「うるせえっつってんだろうが!! 宇宙に放りだすぞ!?」
<あわわわ……ついに私、宇宙進出ですか……!?>







番外編 激闘!超忍者大戦!




「たったひとつのハートで~」
<守りたいんだきーみを~>
「ふふふ、ふんふんふ~」
<君でよかった~……って続き覚えてないんですか?>
「まあな」
<……なんで自信満々なんでしょう>

そんなわけで俺とシルフは無駄にテンションを上げながら行進している。ちなみにちーこも俺の腰に差してはいるが……

<……zzz>

寝てます。こいつ何かと寝ます。ほぼ一日を睡眠に費やしているといっても過言では無いと言えるだろう。

今俺たちは学園長室での第37回定例会議を終え、いい感じに帰宅しているところだ。そりゃテンションもあがるさ!
今日の議題は「何故、女子高生はあんなに可愛く見えるのか?」であった。とてもいい感じの意見交換を行いとても満足のいく会議であった。ちなみに前々回の議題は「昨今の世界情勢について」であった。

「明日はハカセの所に行くかな?」
<そうですねっ、またDVDを借りに行きましょう!>

ハカセ、本名「葉加瀬 聡美」とは以前茶々丸さんについて行った時に知り合った。何やらロボ魂的な部分で互いに非常にシンクロして、魂で繋がっているといっても過言ではない!……いや、過言か? 
いつか俺専用のMSを作ってくれることを約束した。
ロボちっくなアニメのDVDを交換したりする仲である。最近はシルフが妙にはまっている。主にスーパーロボット系が好みのようである。

<そういえば、今日茶々丸はハカセの所じゃないですか?>
「そうだっけ?」
<はい、確か定期健診とかだと……>

そうか……だから今日は家にいなかったのか。
そういえば茶々丸さんってロボットなんだよな……あまりに人間っぽいから忘れてたわ。





……ハカセの研究室……



「――くしゅんっ」
「どうしたの茶々丸?風邪……はないか」
「いえ、問題ありません」
「そう?……はい間接部の人口皮膚の取替え終わりっと」
「ありがとうございます、ハカセ」
「……ふふ」
「どうかしましたか?」
「いや、前に茶々丸が「出来るだけ人間っぽくして欲しい」って言ったこと思いだして」
「……やはり変でしょうか?機械がこんな感情を抱くのは……」
「んー、私はそんな経験したこと無いから分からないんだけどさ。好きな人に綺麗に見てもらいたいと思うのは普通じゃない?」
「そう、ですか……。じゃあ、ナナシさんを見て胸がドキドキするのも……」
「うんうん」
「画像フォルダが常に一杯なのも……」
「……うんうん」 
「あわよくば盗撮したいと感じるのも普通なんですね……安心しました」
「……最後のは聞かなかったことにするね、はい調整おしまいっ」
「ありがとうございます」
「今度はさHなこと出来る機能つけようか……なんちゃってねっ」
「是非」
「……」
「是非、お願いします」
「…………う、うん……検討しとくね……」
「よろしくお願いします」




……ナナシとシルフ……


「チャイコフスキーッッッ!……ふん、誰かが俺の噂でもしているのかな」
<今のくしゃみですか!? 心臓止まるかと思いましたよ……>
「別に普通のくしゃみだろ? ……お前も昨日寝ている時に<……トウモロコシ畑の……子供たち……ふふ>って寝言を言ってたぞ」
<くしゃみの話じゃなかったんですか……っていうか私そんな寝言言ってたんですか!?>
「ああ、おかげで昨日はトイレに行けなかったよ……」

本当にすっごくこわかった……。
朝まで我慢できてよかったよ……。

<……それにしても>
「ん?」
<……ここどこなんでしょうね?>
「……うん」

本当にここどこなんだろう……途中までちゃんとした道歩いてたんだけどなあ。

<森の中としか言いようがないですね>
「ああ……森というよりは山かな」
<迷った……ってことでいいんですかね?>
「……っ、そもそもお前がこっちの道だって言ったんだろ!?」
<あっ、私のせいにしますか!?マスターがいつもの道と違う道がいいって言ったんですよ!?>

こ、こいつめ言ってくれるわ……!
確かに言ったけどさあ!

「そもそもなんで迷うんだよ!?ナビゲートシステムは!?」
<え、そんなのついてたんですか?>
「いや、ついてるだろう?じゃあどうやって道を選んでいたんだ?」
<え、勘ですけど?>
「勘かよ!?」
<今日は勘が良く働く日の様な気がして……>
「このポンコツがっ!!」
<ポ、ポンコツですって!?言うに事欠いて何てことをっ……どういう意味なんです?>
「ポンコツ!ポンコツ!ポンコツ!」

ダメだ……こいつ。

うっ、日が暮れてきた。
本当になんとかしないとなあ……こんな所で遭難とか洒落にならん……。
しかしどうやって……

<……ナナシ>
「あ、ちーこやっと起きたのか」
<さっきから……だれかにつけられてる……zzz>

また寝るのかよ!
……それにしても……つけられている……だと?
穏やかじゃないな……

「おい、シルフ」
<なんですか?>

小声でシルフに話しかける。

「周囲に誰かいるか?」
<はい?……あ、近くにいます。……何で気が付かなかったんでしょう?>

成る程……本当につけられているようだな。
そうと分かれば、気配は……これか!

「おい! さっきからつけているお前! そこにいるのは分かっているから出て来い!!」

草むらを指さして叫ぶ!

<なんか、死亡フラグっぽい台詞ですね>
「うるさいよ!」

ぼそりと呟くシルフに一喝。

「くっくっく、よく気づいたでござるな」

どさり、とその少女は現れる…………反対の木の上から

<マスター、反対です>
「……」
<反対です、しかも木の上です>
「二回言われんでも分かるわっ!!」

くっ、いらん恥をかいた……。

それにしてもコイツは何だ?
俺をつけていた事といい、服装といい……服装!?

<マ、マスター! 忍者です、忍者ですよ!>
「あ、ああ。まさか実在したとは……サインくれますか?」
「はあ、拙者のでよければ……」

やった!サインだ!……何か色紙代わりになるものは……あるじゃん!

「これに<親愛なるナナシ君へ>って書いてください!」
<マスターっ!? 私を色紙代わりにしないで下さい! 色紙なら門の中にありますから!!>

え、あんの?
ごそごそ
門の中を探す……あった!

「じゃあ、これにお願いしまーす」
「――これでいいでござるか?」
「やったー!エヴァに自慢できるぜ!」

色紙には<親哀なるナナシくんへ~長瀬楓より~>と書いてある。
……字間違ってる……
……ん?長瀬?……どこかで……

<エヴァさんのクラスメイトじゃないですか?>
「いかにもそうでござる」
「なんだと?」

エヴァのクラスメイト……?

「そのクラスメイトが何のようだ?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれたでござるな」
「やっぱ言わなくていいわ」
「何ででござる!?」

絶対なんかたくらんでるし……嫌な予感がもりもりするしな……

<まあまあ、マスター。聞くだけきいてみましょうよ>
「む、むう。……手短に話せ」

仕方が無い、さっさと話してもらって帰ってもらおう。

「では手短に。――拙者と手合わせ願うでござる」
「俺帰るわ」
<帰りたくても帰れません>

そうなんだよ!帰れないんだよ!
やっぱ嫌な予感はあたったよ……何だよ手合わせって……お前は武士かよ……。
<忍者ですね>
分かっとるわ!

「意味が分からない。何で俺?俺のこと好きなの?」
「違うでござる……刹那に面白い男がいると、話を聞いて参上したんでござるよ」

刹那?
……ああ、あの時の侍少女か

「聞いた話によれば、刹那を見事に打ち負かしたとか」
「まあな、圧勝だったぜ」

実際はかなりやばかったんだけどな。

「それで、一つ拙者も手合わせしてもらおうかと」
「何でそうなる……それに俺にメリットが全く無い」
<え、シャンプーの話ですか?>

シルフは途中から話を聞いてなかったようだ……。

「メリットでござるか?」
「ああ、俺が勝負を受けて得することが全くない」
「帰り道を教えてあげるでござる」
「あ?」

帰り道?

「先ほどからこの辺りをうろうろしていたので迷っていると思ったんでござるが……違うでござるか?」
「ま、迷ってない!」
<マスター、意地を張らないで下さい。このままじゃ私たちここで一夜を明かすことになりますよ?まあ、その前にマスターに仕掛けてある探知機で茶々丸が来てくれるかもしれませんが……>

え、探知機?
……なんか嫌なこと聞いたような……気のせいか……

それにしても……どうなんだろう?
こいつと戦えば家に帰れる、断ると一夜をここで過ごすことに……
う~ん……
べ、べつに負けるかもしれないから迷ってるんじゃないぞ!?
<誰に弁解してるんですか……>
……よし!

「やってやろうじゃないか!」
「にんにん」
「ジャンケンでいい?」
「ダメでござる」

ちっ!

「おい、ちーこ起きろ!」
<……zzz>
<あー、これはダメですね。当分起きませんね>

くそう、ちーこなら一瞬で終わるのに……!

「では始めるでござるよ?」
「……くそう。……かかってこいや!」

そして戦闘が始まった!



……battle……



「ふん、なかなかやるじゃないか。……くっ」
<マスター、その台詞は最低互角に戦っている時に使う台詞ですよ?間違っても膝を突いているほうの台詞じゃないですからね>
「わかって……るよ」

強い、この忍者超強い。
ただの忍者コスプレした糸目だと思ってなめてたわ。
なんか分身して4人いるし……分身ってお前……忍者かよ……
<忍者ですよ?>

「もう、終わりでござるか?」

忍者は余裕の表情で言う。
くそ……これでも――

「――くらえっ!!」

ヒュッ!

取り出した投擲用の剣を4人に投げつける!
剣は同時に4人に肉薄して――

「――よっと」

体を捻るだけでかわされる。
――だが本命は剣のすぐ後に投げた短剣で死角に……!

「そりゃっ」

キンッ

……簡単に弾かれました。

「ふう、危ない危ない」

わざとらしく汗をぬぐう忍者。
……余裕でかわしておきながら!

それなら一人を集中して狙う!

「シルフ、武器を!」
<はいはーい>

門から槍が出てきて俺の手に収まる。……コイツは

<どうも久しぶりッス、星屑ッス! やっと自分の出番ッスか!? いや~待ちわびていたッスよ! ずっと決め台詞考えてたッスけど言っちゃっていいッスかっ!?>
「……どうぞ」
<では失礼して……こほん。……「その一閃は星屑の煌きの如く、貴様を星の屑にするだろう……」……どうッスか!? かっちょよくないッスか!?>
「うん……そうだね」
<では改めて自分の相手は…………って同じ顔が4人いますっ!!>

今気づいたのか……。

<ご家族ッスか?>
「怖い家族だな……」

では……

「行くぞ!」
<はいッス!>
「……む!」

近くにいる分身の一体に向けて走りだす。
いきなり突っ込んでくるとは思わなかったのか忍者は構えを取っていない。
よしっ!

「殺った!!」
<その首いただくッス!!>

槍を首に突き出し――

「ほいっ」
「――ぐはあ!」

――後ろにいた一体に回し蹴りをくらう。

ズサーーー!

そのまま5メートル程吹っ飛ばされる。
槍も彼方へと飛んでいく。

「いやいや、危なかったでござる」
「ちっ!!」

完全に見破られていたようだ。

<ヤバイですね>
「……ああ」
<忍者さん、相当強いですよ。今のマスターと比べてスペックからして違い過ぎます>

確かに……何で中学生がこんなに強いんだ……?
あの刹那って子のかなり強かったし。

「そろそろ本気を出してほしいのでござるが……?」
「本気もなにも、これでいっぱいいっぱいだっつーの!」
「それでは話が違うでござる……」

忍者は困惑している。
あの子、忍者にどんな話をしたんだ?

「話によれば、手も足もでなかったらしいのでござるが……」

あの時とは状況が違いすぎる。
あの時はたまたまシルフの機能がほぼ完全に回復していたし……シルフ?

「……」
<な、なんですかマスター? 私をじっと見つめて――って痛い! 何で私を地面に叩きつけるんですか!?>
「どうだ、何か変化は無いか?」
<……マスターに対する不信感を抱きました>

そうそううまく治ったりしないらしい。
シルフの機能の回復も当てに出来ないし……後は……

<……zzz>

コイツか……。
さっきから一度も目を覚まさないな……。

「おい、起きてくれちーこ」
<zz……んん。……なに?>

凄く機嫌が悪そうですね……だがここでひいてはいけない!
ガツンッと言ったれ!

「今凄いピンチでさあ、力貸してほしいなあ……なんて」
<スッゴイ腰が低いですね……>
「お前は黙ってろ」

ちーこは

<んー、……眠いしめんどうくさい……>
「おいおい」

こんな事言ってるし

「頼むって! お前だけが頼りなんだよ!」
<……んー、ほんとうに?>
「本気も本気!」
<……むー。……あいしてる?>
「超愛してます!!」
「……」

さっきから忍者の目が非常に厳しいが背に腹は変えられない!

<……じゃあ、たすけてあげる>
「よっしゃあ!!」
<……かえったらちゅーしてね>
「……善処します」
<私も是非っ!>
「お前は鉄板でジュージュー焼く」
<その差はなんですか!?>

よし! 散花も使えるようになったしこれなら……!

「もういいでござるか……?」
「ああ、だが一つ言っておく……」
「……?」
「ここからはさっきの俺とは違う! 新しい俺、いわばニューオレだ!!」
<なんかお菓子みたいですね>

散花を手に取る 

「刀一本じゃ戦局は変わらんでござるよ?」
「ふん、吠えずらをかかせてやるぜ!」
<マスターの台詞って、いちいち小者くさいですよね……>
「うるさい」

散花腰だめに構える。

「ちーこ、アレで一気にケリをつける」
<……アレ?>
「ああ、奥義『神速の太刀』でな」

ちなみに名前をつけたのは俺だ。

<……ちがう>

……?

「何がだ?」
<……技の名前。……『デッドエンド・ブレイド』>
「何でだよ!?」
<……これはゆずれない>
「俺も譲れんわ! 大体お前日本刀だろ!? なに西洋かぶれしてんだっ!!」
<……こっちのほうがかっこいい>

また変なのに影響されたのか……?
しかしこれは譲れん!

「……『神速の太刀』!」
<……『デッドエンド・ブレイド』>
「ぬぬー!」
<……むー>

ちーこと睨みあう

<まあまあ、マスター。ここは第三者の意見を聞くというのはどうです?>
「……む」
<……むー>

成る程……他のヤツの意見を取り入れるか……では

「お前的にはどっちがいい、忍者?」
「せ、拙者でござるかっ?」
「お前以外に忍者はいない」

いや、もしかしたら実は俺が忍者の血を引いていたりするかもしれないが、この状況では関係ないのでスルーする。

当の忍者は突然のパスに少し戸惑っていたが……

「……拙者的には『神速の太刀』の方が……」
「よっしゃーー! これで2対1! 俺のに決定だあ!!」
<では、私は散花ちゃんの方につきます>
「何でわざわざややこしくするんだよっ!?」
<……これで2対2>

振り出しに戻ってしまった……。
このやり取り全く意味が無かったな……。

「それでは、こうしたらどうでござる?」
「……?」
「お二人の意見を尊重して、二つの技名を合体させるのでござる」
「……!」
<……!>

合体!
その考えは無かった!
ちーこを見る。

<……うん、それでいい>

ちーこも満足しているようだ。
まさかこんな解決方法があったとは……!

「お前いい事言うなあ!」
「ははは。て、照れるでござるな」
<……>

シルフは何か言いたいことがありそうな目をして黙っている。

――では

「行くぞ、ちーこ……いや散花!」
<……うん!>

改めて刀を構える

「では、勝負をつけさせてもらうでござる!」

その言葉と共に三体の忍者が飛び掛ってくる。
一気にケリをつけるつもりか……!?
……だが!

シャキン

刀を鞘に戻す。

「……っ! まさか居合い!?」
「その通り!」

忍者は気づいて三体を戻そうとするが……もう遅い!

「奥義……『神速の――』」
<……『――ブレイド』!>
<うわあ……>

シルフが「この人たちやりおったわ……」という様な声を出したが気にしない。

奥義の新たな名前と共に――

カツンッ!

刀を抜いた音と鞘に戻した音が同時に聞こえる。
三体は……

「「「……」」」

倒れ伏している。
……。
一瞬あとに、煙のように消え去る……やはり三体とも分身か。

「まさか、三体が一瞬で斬られるとは……本気を出した、という事でござるな?」
「さっきの俺とは違うと言ったはずだ」
「居合い……全く太刀筋が見えなかったでござる」
「くく、もう一ついい事を教えてやる――」
「……?」
「――そこはもう俺の射程距離だ」
「なっ!? 8メートルはあるでござるよ!?」
「最大射程は40メートルだ」
「……っ!?」
<今のマスター、久しぶりにかっこいいです! ……録画しておきます!>

ふふふ、あの忍者の驚いた顔……!
愉快、愉快!

「動くなよ、動くと峰打ちに失敗するからな……くくく」
「……ぬう」

忍者はぴくりとも動かない。
さっきの居合いがかわせない事を理解しているからだろう。

「それでは――」
<……むり>
「――何だよっ?」

俺は刀を構えたまま、つんのめる。

「何が無理なんだよ?」
<……いまのナナシの力、凄くよわいから……>
「……あ?」
<つまりですね、今のマスターは精霊からの供給が少なくて、完全に散花ちゃんを扱うことは出来ないって意味だと……>
<……そう。……だから少しとどかない>
「具体的には……?」
<……7メートルくらいしかとどかない>

成る程……それで無理か。
相手まで大体8メートル、射程距離は7メートル。
うん、届かないな。
ならば……射程距離まで……!

「……」

ジリジリ

刀を構えたまま、じわじわ近づく。

「……!」

ジリジリ

忍者も同時に後ろに下がる。

「……何で下がるんだ?」
「拙者は耳がいいでござる。……それ以前に声が異常に大きかったでござる」

……聞こえていたのか。
むう……

「……」

ジリジリ

「……」

ジリジリ

俺が進むと相手も下がる。

「痛くしないからさ、大人しく斬られてくれよ」
「い、いやでござる!」
<これが本当の一進一退ってやつですね!>

ジリジリ

ジリジリ

「……っ!」
「言っておくが、あの瞬間移動みたいなのしようとしても無駄だからな。アレ使う時に一瞬隙ができるから……その隙に斬る」
「むう、ばれたでござるか」
「ははは」

ジリジリ

ジリジリ

<今日の晩御飯なんですかね?>
「多分、カレーハンバーグだな」
<またですか? いい加減エヴァさんがぶち切れますよ>
「何で? おいしいのに……」
「お腹減ったでござる……」

ジリジリ

ジリジリ

「そういえば最近警備員が増えたと聞いたでござるが……」
「ああ、それ俺だな」
「これからよろしくでござる」
「こっちこそよろしく」

ジリジリ

ジリジリ

「いい加減負けを認めたらどうだ?」
「いやいや、まだまだ負けではござらんよ」
「足が震えてるぜ?」
「そちらも同じでござる」
「「ははは」」
<zzz……はっ、寝てました!>

ジリジリ

ジリジリ




……。
……。
……。





ジリジリ

ジリジリ

「……」
「……」
<もう、真っ暗ですね>

一進一退の攻防はまだ続いていた。
辺りは真っ暗で俺は立っているのがやっとというところだ。
相手も同じらしく、体がゆらゆらと揺れている。

ガチャリ

ドアが開いたような音が近くから聞こえた。
だが、そちらに意識を割く気力は無い。

「全く、何で私がヤツの心配など……!」

聞き覚えのある声が聞こえたが、やはりそちらに意識は割けない。

<あ、エヴァさん。ただいまです>
「……貴様ら私の家の前で、一体何をやっているんだ? ……っていうか貴様、今までどこにいた!?」
「……エヴァ殿? ここは……」

忍者が一瞬、意識を別の方へ向けた。
今だ!

「隙ありっ!!」

実はとっくの前に睡眠に入っている散花を投げる!

すこーん!

見事に頭にヒット!

「……きゅう~」

ばたり

ぐるぐる目を回して忍者は倒れる。

「よっしゃーー!! 勝ったーー! アイム、ウインナー!」
<おいしそうですね>
「はははははっ! よしこれで帰り道を――ってあれ?」

ここは…………家だ。
それに……

「よう、エヴァ。……家の外で何してんの?」
「こっちの台詞だ!!」
<どうやら、一進一退の間に家についたみたいですね>
「……そんなバカな」

すごいご都合主義だな……。
まあ、いいか。

「本当に貴様らは何をしていたんだ……?」
「まあ、いろいろあってさ。……茶々丸さんは?」
「お前らを探しに行った……が、戻って来たようだな」

ゴオオオーー

ジェット音がして上を向くと茶々丸さんが降りてきているところだった。

「ご無事でしたか、ナナシさん?」
「うん、ごめんね心配かけて」
「いえ、ご無事なら良かったです」
「……私の時と随分反応が違うな」
<そんなもんですよ>

少し反省……。

「……貴様、今度から家を出るときは茶々丸についていってもらえ……もしくは私を誘え」
「えー? 子供じゃないんだからさあ」
「実際に迷子になっているだろうがっ!!」
「す、すいません……そうします」

言い返せない……。
く、くやしい!

「それでは家に入りましょう」
「ああ、腹が空いた」
「……待っててくれたのか?」
「ふんっ」
<ふんっ、別にあんたの為に待ってたんじゃないんだからね!>
「貴様、喧嘩を売っているのかっ!?」
<半額セール中です>

何やら第二のバトルが始まりそうだ。
……あ……こいつどうしよう。

忍者を見る。

「……きゅう」

……とりあえず連れて帰るか。

……。




夕食は予想通りカレーハンバーグでした。

「ごちそうさま――」
<――でした!>

食事を終える。
まだ食べているエヴァが

「むぐむぐ……それにしてもコイツ目覚めんな」
「ああ」

近くのソファーで眠る忍者を見る。
まだ、気を失っている。
当たり所が悪かったのだろうか……?

「貴様が逮捕されても、私は弁護しないからな」
「捕まるのは怖い……」
<あの人たち怖いですからね……>

このまま目覚めなかったら俺は……

「大丈夫ですよ、ナナシさん」
「茶々丸さん……」
「いざという時にマスターに罪を被せる準備は出来ています」
「茶々丸!?
「流石茶々丸さん! 大好きっ!」
「……もう一度お願いします。……今度は録音準備OKです」
「……? ……『いでよ漆黒の炎よ!』……これでいい?」
<それどの次元の話ですか?>
「いや、昨日の夢」

そんな事を話ているとソファーから

「……うーん」

……!
目が覚めたか!

「ここは……?」
「私の家だ」
「エヴァ殿?」
「ああ、貴様はこの男に――ぐふっ!」

いらん事を言いそうなエヴァに地獄突きをかます。
エヴァはごろごろ転がっている。

「よう、忍者」
「……誰でござる?」
「……」

いい感じに記憶が無くなっているようだ。

「覚えてないか? さっきまで戦っていたんだぞ?」
「……ああ! 思い出したでござる! 拙者、刹那に聞いた男に会い行き……」
「勝負を挑んだんだ。 優しい俺は二つ返事で受けたよ」
<いい感じに脚色してますね>

……別にいいじゃん。
いきなり喧嘩売られたんだし。

「それで……勝負は?」
「お前はここで眠っていた、分かるか?」
「それでは……拙者、負けたござるか……?」
「ああ、お前は頑張った方だと思うよ。 しかし如何せん実力の差は大きく、俺の必殺『T・B・S』によりお前は敗れた」

ちなみに『ツインバードストライク』ではなく『スローイングブレイドスゴイ』の略だ。

「そうだったんでござるか……やはり刹那の話に嘘は無かったのでござるか」
「ああ、しかし落ち込むことはない。忍者、お前は俺が戦った忍者の中で一番強かったよ」
「……! 本当でござるか!?」
<そりゃ、初めて忍者見ましたからね――ってマスター、エヴァさんの攻撃の盾にしないで下さい!!>

復活したエヴァの攻撃をシルフで受ける。

「ああ、誇っていいことだぜ、忍者」
「楓……と呼んで欲しいでござる」

楓の目はキラキラと輝いている。
俺に向けられるこの視線は……尊敬か?
うう……純粋な目が痛い……!
……だが、ここで止まるわけにはいかん!

「そうか、楓。……俺のことは――」
「――師匠!」
「……え?」
「師匠と呼ばせて欲しいでござる!」
「……。 よかろう」

俺は意外とノリがいいので乗ることにした。
別に師匠という存在に憧れていたからではない。断じてない!



こうして俺と楓は出会い今に至るのである。



[3132] それが答えだ!ばんがいへん六
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/11/05 10:23
良い子のためのキャラクター紹介

<ナナシ>
主人公。本名不明。魔法使い。
とある事情によりこちらの世界に来てなんやかんやでエヴァの家に居候する事になった。
今はなんやかんやで教師をしている。(なんやかんや好きだな)
交友関係は狭いが変な人によく好かれる。
というか変な人や、人じゃない物にしか好かれない。
好きな物はシルフ。普段の様子から見るとあり得ない様に見えるがツンデレなので、愛情の裏返しである、多分。
どのくらい好きかというと、履歴書の名前の欄に『シルフ』と書いてしまうぐらい。そして「これじゃ、シルフの履歴書じゃん!」と言う。
嫌いな食べ物は足が妙に多い生物。
最近茶々丸の事を見ると胸がドキドキするが、それはただの動悸で愛しているのはシルフ唯一人。
何が言いたいかというと『シルフLOVE!』
得意技は土下座をするとみせかけてのカエル跳びアッパー。

<シルフ>
ヒロイン。
その容姿たるや女神もかくやといわんばかりで、すれ違った人間の10人に9人は振り返る。そして「今あの時計喋ってなかったか……?」と呟く。
年齢不明、出身不明、行方不明と謎の多いミステリアスな時計である。
ナナシの唯一無二の相棒であり、時には恋人であり、時には妻であり、時々時計である(時計だけに)
戦闘でのサポートが仕事でどんな時でも冷静に助言を行う。例「そこです!」「上です! あ、やっぱ下です!」「今です! エヴァさんごとヤツを!!」「早く帰らないとみ○なみけが始まります!」
たまに夢を見る。それはナナシと学園に通っていたり、一緒に冒険したり。もちろんただの夢だが、妙にリアリテイのある夢です。
得意技は相手を鎖で絞め落とす『デンジャラスビューティーハリケーンミキサーオメガドラモン』

<散花>
刀。Aランク遺物。
ナナシが初めて契約した刀で何かと思い入れがある。
Aランク遺物はそれ自体が限り無く幻想に近い存在である。
このランクになると自分の意思で移動する事ができ、エヴァの家に至る所で確認される。その場所はゴミ箱の中、風呂、トイレ、電子レンジの中と多岐に渡る。
良くナナシのキスを求めるが私が同じ様に求めると「時計にキスする様な変態じゃないいんだ……」と言う。色々おかしいと思う。
よく眠っているが、これは以前の持ち主の性格や特徴が魂に刻まれているからであり、以前の持ち主もこの様な性格であったと思われます。

<茶々丸>
ロボットっぽい。
感情表現が薄いがナナシや私レベルになると余裕で理解出来ます。
シルフとは同盟を組んでおり、写真やデータの交換を良く行っている。
メイド服が似合っていますが私の方が似合います。
得意技は……何でしょう?

<エヴァンジェリン・A・……C? まく、まく……マクノウチ?>
ナナシが居候している家の持ち主。
自称悪い魔法使い。
口癖は「~~でやんす」
例「親ビンのカウンターが決まったでやんす!」「オイラ将来は会計士になりたいでやんす……」「シルフさんには適わないでやんす!」
よくビン底眼鏡とマスクをつけている。
あと……好きな食べ物はエビが入ってないエビフライ。
得意技はエターナルフォースブリザード。
……やりすぎたでしょうか?

<長瀬楓>
忍者。糸目。強い。

<桜咲刹那>
サムライ。
この国にはまだサムライがいたんですね。
感激デース。

<ネギ・スプリングフィールド>
立派な魔法使いになるために教師をしている少年。
マジメで責任感が強く、礼儀正しいが少し天然が入っている。
ナナシの事は兄の様に慕っている。
その憧れの感情が違うベクトルに行かないか私は心配です。
……。
……ナナシ×ネギ。……ネギ×ナナシ?
……。
好きな物は……紅茶? そう紅茶! 
イギリス人らしく四六時中紅茶を飲んでいる。もう紅茶の味がすればうどんの汁でも構わないと言っている。
もちろん履歴書の趣味、特技、出身、顔写真まで全て紅茶に埋め尽くされている。
得意技は煮えたぎった紅茶を相手にかけること(そして逮捕される)

<タカミチ何とか>
タバコ眼鏡。

<近衛近右衛門>
おじいさん。
ナナシと仲が良く、まるで20年来の友人の様。
後頭部が異様に長く、ナナシ曰く「あの中には来るべき終末の日の為に食料を貯めているんだ。……俺も見習うかな」やめて欲しい。
今でこそこんな仲だが、会ったばかりの時はナナシをとても警戒していた。
得意技はローリングクレイドル(多分)

<何とかアスナ>
ツインテール。
ツンデレ。
つ、つ……佃煮?
……の3Tを達成している少女。
得意技は蹴り全般。

<ゆえゆえ>
……?

……。


<……とまあこんな所でしょうか?>
「何やってんだ?」
<うひゃいっ!? い、いたんですかマスター!?>
「いたもなにも、お前は基本的に俺の首にかかってるじゃないか」
<そ、そうですね>

さっきから妙に大人しく、ぴこぴこしていると思い、声をかけると予想以上に驚いた声が返ってきた。
……本当に何をしていたんだ?

「で、何をしていたんだ?」
<え……。あ、えーとですね、あれですよ。ピクシィ……ですか? あ、あれをしていたんですよ>

妖精をするってなんだろう?
多分ミクシィの事だと思うが……。
まあいい。

<マスターこそ何をしているんですか?>
「ん? ああ、茶々丸さんが買い物に行ったから暇でな。何をしようかと思っていたところだ」
<そうですか。……じゃああそこに行きませんか?>

あそこ……?
………。
ああ、そうか。

「そうだな、行くか」
<はいっ>


番外編 休みにしたい10の事



と、いうわけで……

「京都にやって来ましたーっ」
<イエーイ!!>

ここが京都か……

「流石京都だな。何というか……趣があるな」
<そうですね。人もいっぱいいますし……>
「あとは……趣があるな。それに趣が――スゴイ」
「貴様のボギャブラリーは少なすぎるな……。趣と言いたいだけじゃないのか?」

声のした方を向く。
そこにはエヴァがいた。

「何だ、お前も来ていたのかっ!?」
<暇人ですねっ>
「……。ここで何をしている?」
「何って、京都探索だよ」

エヴァはわけが分からない物を見る目で

「ここは私の家の私の部屋だ」
「……」
<……>

……。

「おい、シルフっ! あれは何だっ?」
「無視か」
<あれは……八橋ですよっ。Y・A・T・S・U・H・A・S・H・I!>
「あれがあの八橋……」

うーんおいしそうだ。

「いただきますっ、……うまいっ! 甘くて、柔らかくて……甘くて……柔らかい!」
<これは初めての食感ですねっ>
「貴様がさっきから八橋と言い張ってむさぼり食っているのは、私のおやつのおはぎだ。後でしばく」
「……」
<……>
「何だその目は?」

……ふぅ。

「お前が何なんだっ!?」
「ここで逆切れされる意味が分からない」
<そうですよっ! 折角私とマスターが京都ごっこをして遊んでいたのにっ>
「……京都ごっこ……」

京都ごっこはその名の通り、京都に行っているイメージを形作る遊びだ。
もちろん実際に行った事は無い。

「茶々丸さんなら嬉々として一緒に遊んでくれるのにっ」
「じゃあ、茶々丸に遊んでもらえ」
<今いないいんですよ>

エヴァはふぅ、とため息を吐き

「私は忙しいんだ。見ればわかるだろう?」

言われた通り見てみる。
エヴァはベッドにうつ伏せになり本を読んでいる。
あと、本人は気づいてないがパンツが見えている。
ふぅ。俺がロリコンじゃなくてよかったな。もしそうだったとしたらどうにかなってたかもしれないぜ……。

「見てわかる通り私は忙しい」
「そんな事言わずに遊ぼうぜ、パンツ」
「パンツ!?」

おおっと、うっかり声に出してしまった。
エヴァは自分のそれが見えている事に気づきたたずまいを正した。
顔が赤い。
そして……

「見たのかっ!?」
「ああ、見た見た。最後のポニョのシーンは感動したよ」
「違うわっ! ……その、あれだ……私の……」
<生き様ですか?>
「……いや、見てないならいい」

エヴァはやれやれと汗を拭った。

「でも黒はどうかと思うぞ?」
<同意です。やはりエヴァさんみたいな人はしましまがいいかと……>
「死ねっ! 死んで忘れろっ!!」

ベッドから跳躍して襲い掛かってくるエヴァ!
俺はバックステップでそれを回避し、着地後の硬直を狙いしゃがみキック。ひるんだところを中パンチから足払い、浮いたところで空中コンボに持っていき華麗に3ゲージ技でとどめをさした。
――という妄想を実現させようとしたが、最初の跳躍からの飛び掛り攻撃により転倒。マウントをとられパンチのラッシュラッシュラッシュ!!
そして……

「はあーっ、はぁーっはぁーっ……忘れたか?」
「ふぁい、わ、忘れました……」

危うく自分の存在も忘れそうになった……

「――はぁ。無駄な体力を使わせおって」
「……いつか、ひぃひぃ言わせてやる」
「何か言ったか?」
「何も言ってないでござる」

とりあえず楓も物真似でしのいだ。

「……本を読む気も失せた。いいだろう遊んでやる」
「はぁ? 何で上から目線すか?」
「――っ」
「い、いやったー! エヴァと遊べるぜぇ!」
<う、うう……何かスゴイぼこぼこにされた夢を見ました……>

シルフが目を覚ました。
記憶が飛んでいるようだ。

「で、私を誘ったからには何か遊ぶことを考えているんだろうな?」
「うーん。そうだ! ジャンケンをして勝ったエヴァと負けたエヴァが、凄い勢いで回転しながら校舎の壁に激突する遊びはどうだ!?」
「何が『そうだ!』だ!? 勝った貴様と負けた貴様はどこだ!?」
<多分部屋で紅茶でも飲んでいるかと思います>

不満そうだなあ。

「じゃあ回転はしなくていいよ」
「……。私が決める。……これを使って遊ぶ」

そう言ってエヴァはトランプを取り出した。

「何をするんだ?」
「ふむ。そうだな……ポーカーでもするか」

ほう、ポーカーとな。

「下町のロイヤルストレートと呼ばれた俺に勝負を挑むとは……」
「御託はいい。やるのか、やらないのか?」
「やる!」
「いい返事だ。……しかし人数がな」
<そうですね……3人では少ないですね」
「流石に2人では少し足りんな」

エヴァが何気にシルフをカウントしていない……!
いや、俺もしてなかったけど……!

「じゃあ俺が人を揃えるよ」
「当てがあるのか?」
「任せろ」

俺はそう言い窓に近寄った。
そして……

「おーーい! かーえーでーー!!」

叫んだ。

「アホか!? そんな事で来るわけ――」
「――呼んだでござるか?」
「来た!?」

部屋の中に楓が湧いてきた。
前々から思うがどこから入っているのだろう?
まあ、忍者だからいいか。

「いや、遊ぼうかと思って呼んだんだが……忙しかったか?」
「いやいや、師匠は気にしなくていいでござる。拙者、師匠の為なら例え食事中だろうが、入浴中だろうが、埋葬中だろうが、あの世にいようが駆けつけるでござるよ」
「ちょっと、怖いよお前(ああ、ありがとう。最高の弟子だぜ!)」
<マスター! 本音と建前が逆です!>

ついうっかり……。
そんな楓にばかり気を取られていたが、もう一人少女が居ること気づいた。

「何だ、刹那もいたのか」
「は、はい。楓と鍛錬をしていたのですが……」
「まあ、休憩も大切でござるよ」
「ま、まあそうなんだが……」

刹那は少し不服そうだ。

「……で、これがメンバーか?」

エヴァは少し不機嫌だ。

「ああ、ポーカーをするんだが……ルールを知っているか? 楓は?」
「花札と似た様な物でござるか?」
「……やりながら覚えろ。刹那は?」
「はい。何度か経験が……」
「……意外だな」

刹那はこういう遊びには疎いと思っていた。

「はい、子供の頃にこのちゃ……お嬢様と何度かしましたので……。……このちゃん」
「……へぇ」

……聞かなければ良かった。刹那のテンションがガクリと下がったのが分かる。

「ま、まあいい。では始めるか。もちろん罰ゲームありで」
「またか……」
「面白そうでござるな」
「罰ゲーム……でしょうか?」

俺は以前と同じ様に勝者が敗者に命令出来るといった説明をした。
今回は1ゲームごとに行う。

<ではゲーム開始ですねっ。……フフフ、全てが私の策略とは知らずに……>
「お前は参加してないぞ」
<え……?>


……。
……。


ゲームの内容は熾烈を極めた。
徐々に白熱するバトルに、罰ゲーム!
あまりに罰ゲームの内容がアレになってきたのでほぼ全員がイカサマに走っていた(ネタは分からないが)
その内容はまたいつか語るかもしれないが個人的には封印しておきたい。



















[3132] それが答えだ!ばんがいへん七
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/10/07 18:45
番外編 ナナシユニバース


ある休日の昼。
俺はこたつに入り優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいた。
今日は茶々丸さんはハカセの所でいない。エヴァは部屋に篭って何かをしている様だ。人形でも弄くり回しているんだろう。……何か卑猥な感じがするな。
俺はとても暇だが、まあこんな日があってもいいだろう。

「うーん、いい香りだ。流石ボジョレーヌーボー(紅茶の種類とか知らんが)」
<フフフ>

シルフが何やら嬉しそうに笑う。
……気味が悪いな。

「な、なんだよ……急に笑い出して」
<いえ、久しぶりにマスターと二人きりだなぁ……とか思ったりしてっ、キャッ!>
「うざっ!」

静かだと思ったらそんなこと考えていたのか……。
まあ、確かに家でこいつと二人でこんな時間を過ごすのも久しぶりだな。

<そういえば……>
「……?」
<向こうの世界の皆さんは元気でしょうか……>
「……ああ」

シルフのしみじみと昔を思い出す発言に俺もふと思う。
向こうの世界か……。
……元々俺は向こうの世界の人間だったんだよな。
こちらに馴染みすぎて忘れてたわ。

<……少し怒ってるかもしれませんね>
「そうだな……」

こちらの世界に来たのは事故の様なものだったからな。それでもあいつらに一言も言わずに消えたことになる。
あいつらからしたら、俺が急に出て行った様なものだろう。
……やっぱり帰るべきか……

<ダリアちゃん、ウェイさん……>

シルフがあの城で一緒に暮らしていたヤツラ名前を挙げていく。

<ミネルヴァさん、モーリスちゃん、それに斉藤正さん……>
「斉藤正さん!? 誰!?」
<え? 忘れちゃったんですかマスター? 随分懐かれてたじゃないですか。いつもマスターの前だと尻尾を振ってましたし……>
「尻尾あんの!?」
<それにここだけの話、マスターを異性として意識していたみたいですよ?> 
「女の子なんだ……」

えぇー……全く記憶に無いんだが……。
俺が知らないウチに一人増えていたのか……?
名前だけ聞くとサラリーマンのおっさんにしか思えないんだが……。
ま、まあいい。

<斉藤正さんの妹が来た時は驚きましたねっ>
「え……う、うん。」
<まさか斉藤正さんが上位世界《ウミヤマショウジ》に住んでいたのは驚きましたよねー>
「ウミヤマショウジ……?」
<しかも《ブチョウ》クラスだったとは、思いもしませんでしたよね>
「ブチョウ……?」

と、そんな感じでシルフと過去話をしていたところ……

ドタドタドタドタ

――誰かが廊下を走る音。

ガチャリ

――これは俺がいるリビングのドアを開ける音だ。

「おいっ! ナナシ!」

そんな怒号と共に入って来たのはなんと!!
――まあエヴァなんだが。
この家であんな風に走るヤツは二人しかいない。
俺とエヴァだ。
俺がここにいる以上走るのはエヴァしかいない。
……一体なんだ?

「何だ騒がしいぞ?」
「き、きさまぁ! よくもヌケヌケとそんな事を!」

エヴァは大層お怒りの様だ。
どうでもいいがエヴァは俺の事を貴様と呼んだりナナシと呼んだり、呼び方にブレがある。……統一してくれよ。

<どうしたんですか? ついに体重がスゴイ事になったんですか? だから言ったんですよ、最近食べすぎじゃないですかって>
「なってない!! た、確かに最近茶々丸の食事がおいしくてよくおかわりをするが……」
「ああ、分かる分かる! 最近のご飯滅茶苦茶おいしいよなっ? 前からおいしいのはおいしかったけど、最近のは何ていうか……ヤバイよな!?」
「ヤバイって貴様……。まあその気持ちは分かるが――ってそうじゃない!!」

茶々丸さんのご飯を思い出しよだれを垂らしていたエヴァは「垂らしていない!」自分が何を言おうとしていたのか思い出した様だ。

「そうじゃないってことは……ヤバイじゃなくヤベエってことか?」
「だからそうじゃない!」
<ハンパネエですか?>
「飯の話はもういい!!」

エヴァは顔を真っ赤にしてプンスカしている。
……やりすぎたか。

「で、何なんだ?」
「これを見ろっ!」

そういってエヴァが差し出したのは食べかけのドラ焼きの皿。

「ドラ焼きだな。それで?」
「これがついていた」

再びエヴァが差し出したのは……あれだ、あの……怪盗とかが犯行現場に残していく紙……なんだっけ?
思い出せないから仮に『メッサーラ』としておこう。

「これは……メッサーラだな? どういうことだ?」
「メッサーラ!? お前がどういうことだ!?」

エヴァにはうまく伝わらなかった様だ。

<私がそのメッサーラを読みます>

シルフには伝わった様だ。

<どれどれ……『フフフ、あなたのドラ焼きの半分はこの私が盗みました。オーホッホッホッホッホ!! 怪盗N,S』……こ、これは!?>
「怪盗N,Sだと!? まさかあの!?」
「……」
<マスターこれは……>
「ああ、俺達成人探偵団の出番だな!」

成人探偵団のメンバーは成人で構成されている。
俺、シルフ、じいさんを筆頭にタカミチ(本人の了承を得ていない)、ネギ君(大人扱いして欲しいそうなので)、瀬流彦先生(暇そうだったんので)、ガンドルフィーニ先生(名前がカッコよかったので)が構成メンバーになっている。
今の所たまに集まって先生同士の仲を深める為に食事をする以外これといった活動は無い。
成人探偵団という存在も特にない。

「よしっ! 行くぜ、シルフ!」
<はいっ!!>
「――待て」

エヴァに腕を掴まれ引き止められる。

「安心しろエヴァ、お前のドラ焼きは俺が絶対取戻して見せる!」
<例え消化中だとしても!>
「じいさんの名にかけて!!」

ここで言うじいさんとは学園長の事だ。特に名前を借りる了承は得ていない。

「小芝居はもういいか?」

エヴァはこちらを真っ直ぐ見て言う。

「な、なんのことだ?」
「――食べたのは貴様だろう?」
「ドキリ! な、ななななんのことかか、かかかかななあ?」
「そこまで焦られると逆に清清しいわ」

エヴァは犯人を見つけた探偵の如く俺に指を突きつける。

「貴様には前科があり過ぎる!」
「何だ、まだ前の事を根に持っているのか?」
<全く……過去の事をうじうじと……>
「つい一昨日のことだろうがっ!?」

……。

「た、たしかに一昨日お前の大福を食べました。認めましょう。しかし! だからといって今回のが俺の犯行とは限らない!!」
<そ、そうですよ! マスターは心を入れ替えたんです! 入れ替えた心を再び入れなおしたんですっ>
「口に餡子がついているぞ」

エヴァはほれ見たことか、という顔で俺の口元に指を差す。
……だが甘い!

「そんな誘導尋問に引っかかるか! ちゃんと食べた後に歯を磨いて鏡で確認したっつーの!」
<……あちゃー>
「……」
「はっ! や、やられた……」

こ、こいつ……何て策士なんだ……。
孔明か!? 地球最後の日か!? 
将来が恐ろしい……。

「何か言い残すことはあるか?」
「フフフ、良くぞ見破った! だが第二第三の私が――」
「……」
「ごめんなさいでした!」

エヴァが拳を握るのを見てつい謝ってしまった。
トラウマには勝てないってことか……

「最初から謝っていればいいものを……だが今回は許さん!」
「ひぃっ!」
<仏の顔も三度まで……ということですか>

シルフの言ってやったみたいな声がむかつく。

「三度どころじゃない! これで何度目だ!?」
「野球のチームが作れるんじゃね?」
「サッカーが出来るわっ!」

なんと……そんなにしていたのか。
いや、しかしバレていない分を含めればラグビーのチームぐらいは行くかも……何人でやるか知らんが。

「な、何でもするから許して下さい」
「ほう……何でも、と言ったな」
<駄目ですマスター! ヤツはこの機に乗じてマスターの貞操をっ!>
「狙うか!」

どうやら貞操は無事の様だ。

「――土下座をしろ」
「なっ!?」
<土下座ですって!?>
「それで今回は許してやる」

エヴァの顔は愉悦に歪んでいる。実に楽しそうだ。
こういうの好きだからなあ、人が自分に屈服する姿とか。
前も足舐めろとか言われたし……舐めたら殴られたし……アホか!?って言われたし……

「くっ! こ、この俺が土下座だと……!?」
「どうした? 出来ないのか? 何でもすると言っただろう、ククク」
「ど、土下座なんて……」
「……ほう」
「やり方がわからない!」
「は……?」

エヴァはポカンとしている。

「ていうか初めて聞いた、なにそれ? あっ、あれか! たい焼きの中に入っている黒いやつか!?」
「それは餡子だ!! ……本当に知らないのか?」
「ああ、すまん」
「ちっ。まず正座をして……」

エヴァは舌打ちをすると説明を始めた。

「こうか?」
「違う! そこで腕を曲げて――もういい! 私がやる、見てろ!」

うまくいかない俺に業を煮やしたのか実演をするようだ。
エヴァは正座をして手のひらを地面につけ、頭を地面につける。
――それにしても

「――キレイだな」
「はっ!? な、何がだ!?」
「いや、正座。姿勢っていうか振る舞いっていうか……」
「……あ、ああ。茶道をしているからな、自然とうまくなる」
「へー。それにしても本当にキレイだな……」
「あ、あまりじろじろ見るなっ」

エヴァは顔を赤くして否定するがどことなく嬉しそうだ、土下座をしているが。

「……惚れ惚れするよ」
「惚れっ!? な、なにを言っているっ?」
「べ、別にお前のことじゃないぞ」
「わ、分かっている! せ、正座のことだなっ?」
「あ、ああ」
「……っ」
「……う」
<……>

自分の顔が赤くなるのが分かる。エヴァの正座を褒めただけなんだが。

――パシャッ、パシャッ

カメラの音が隣から聞こえる。

「あ、茶々丸さん。帰ってたのか」
「はい、今しがた」

――パシャッ、パシャッ

「――茶々丸、お前は何をしている?」
「いえ、あまりにも綺麗なお姿だったので思わず撮影を……」
「そ、そんなに綺麗か?」
「ええ、とても。ナナシさんが惚れ惚れするのも分かります」
「ち、茶々丸さん! 恥ずかしいだろっ?」
「……そ、そうか。まあこの私の姿だからなっ、惚れ惚れするのも無理は無い、ククク」
「では撮影を続けても?」
「ああ、いいだろう。だが美しく取れよ?」
「お、俺もいいかな?」
<私も是非!>
「ククク、いいだろう。そこまで言われてはな。好きなだけ撮るがいい!」

俺たちはエヴァを撮った。
エヴァが自分の置かれている状況を正しく認識するまで撮った。
ネット上に写真をあげようとした辺りで正気に戻った辺りで止められた。
――その後は予想の通りだ。
屈辱を味合わされた怒りに満ちたエヴァに久しぶりにオリジナルコンボをくらった。
着地キャンセルやらロマンキャンセル(どんなのか知らないがロマンと言うだけあって切ない感じなんだろう)やらとても人間には出来ない攻撃だった(途中で宙に浮いていたし)

「私は部屋に戻る! 写真は消しておけ!」

エヴァは部屋に戻ったようだ。

「大丈夫ですか、ナナシさん?」
「あ、ああ……大丈夫だよ」

そんなこんなで茶々丸さんに膝枕をされている。

<もうっ、膝枕なら私がするのにっ>
「お前に膝枕されているビジョンが浮かばない」

膝ないじゃん。

「ソレニシテモ御主人……」
「い、いたのかチャチャゼロ……略してチャロ」
「サッキカラズットイタゼ。……御主人モ随分丸クナッタナア」

チャロは少し残念そうにそんな事を言う。

「確かに、そうだな。特に胴回りがな……」
「チゲエヨ! 昔ノ御主人ナラオ前殺サレテタゼ?
「そうでしょうか? 私がこの家に来た頃からあまり変わっていないように思いますが……」

そうか……茶々丸さん、略してちゃるは俺より後に来たっけ。
ちゃる……よっち?
……確かに昔のエヴァはもっとこう……ピリッとしていたな……
 
「昔のエヴァの方がいいのか、チャロ?」
「アア、当タリ前ダロ……ッテ言ウノハ嘘ダ。正直楽シソウナ御主人ヲ見テルトドウデモイイ。……後勝手ニ略スナ」
「略していいですか? そうか……あれで楽しそうなんだ……」
「アア、昔ノ冷酷ナ顔ノ御主人モイイガ今ノ御主人モ……悪クナイ。……後俺ニ了解ヲ取レッテ意味ジャネエ」

楽しそう、か……。
昔からの従者が言うならそうなんだろう。
エヴァは変わった。3年でそれだけ変わったならこれからどんな風に変わるんだろう……
やっぱりもう少しこっちの世界で過ごしてみるのも悪くないな……

「――悪いな、皆……もう少し帰るのが遅れそうだ……」
<ところでマスター?>
「フッ、何だ?」
<オチは?>
「――無い」



[3132] それが答えだ!ばんがいへん八
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/10/31 16:46
前回予告(ばんがいへんろく)

ある休日、優雅に昼を過ごしていた俺の元にエヴァが現れた。
曰く「退屈だからポーカーに付き合え」と。
俺はやれやれとかぶりを振りながら、仕方がないお嬢様だなあ、などと思いつつそれに付き合うのだった。
俺の弟子(自称)であるところの長瀬楓、俺の弟子その2(多分)である桜咲刹那をメンバーに加え、ゲームは始まるのだった。
明日はどっちだ!?


番外編 カッコーの巣の上で



ゲームの内容は熾烈を極めた!
俺は順調に勝利を重ね、トップを独走。
続いて僅差でエヴァ、少し離れて楓……さらに離れて刹那(0勝)
途中ゲームのカラクリに気づいた楓が猛烈な追い上げを見せ、気づかない刹那はいい感じに負け続けた。
勝負が重なるにつれ激しくなっていく罰ゲーム!

――罰ゲームはこんな感じだった。

「じゃあ、勝者から敗者への罰ゲーム! この部屋にいる者は全員猫耳を装着、そして語尾には『ニャ』をつけろ!」
「く、屈辱だにゃ……!」
「師匠は強いでござるにゃー」
「い、一勝も出来ない……にゃ」
<流石マスターにゃ!>

上から俺、エヴァ、楓、刹那、シルフだ。
エヴァは妙に付け慣れた感があるのはどうしてだろう?
シルフは参加してないのに罰ゲームに何故参加するんだろう。時計が猫耳をつけると……ナニコレ?
そもそも時計サイズの猫耳が何故……?

<茶々丸に作ってもらいましたにゃ>

そうか……。
……それにしても

「くはは! 何それ!? エヴァ似合い過ぎ! にゃ、とか馬鹿みたいだにゃ!」
<なんでマスターもつけるんですかにゃ!?>
「……よく考えたら部屋にいる全員って俺も含むにゃ……」
「無駄に律儀な男だにゃ……」
「師匠は男らしいでござるにゃー」
「先生とエヴァジェリンさん、いくらなんでも強すぎます……にゃ」

……。
更に罰ゲームは続く!


「師匠、アレやって欲しいでござる!」
「ちっ、罰ゲームなら仕方ない……」
「……アレ?」

エヴァの困惑顔。
刹那は尋常じゃない負けの量に半泣きで「このちゃん……このちゃん」と呟いている。
アレか……。けっこう恥ずかしいんだよな……。
……。
……ふぅ。

「じゃあ、エヴァの物真似いきまーす」
「おいっ!?」
「ごほんっ、…………逆転ほーむらーん!」
<うまいっ!>
「上手くないっ!! それのどこが私だ!? 声ぐらい真似する努力をしろ! まんまオッサン声じゃないか!?」
「オッサン言うな! まだピチピチだっつーの!」
<最近ズボンもピチピチですよね?>


……。
そして混迷していく罰ゲーム……!

「――私の足を舐めろ」
「……最近エヴァの足調子乗ってんじゃないすか? いくらあんたが足っつっても俺にかかれば……フルボッコすよぉ?」
「そういう意味じゃないっ!!」


……。
ゲームでは稀にあり得ないことが起こる……!


「……え? 私の勝ちですか……? え、あ……こ、このちゃんと……また、昔みたいに……仲良くしたい……」
「無茶を言うな……」
「それ罰ゲームにならないでござるよ……」
「いや、協力はするよ……まあ」

刹那は負け続けた為、いい感じに混乱していた。

……。
この辺りで流石に刹那が可哀想になってきたのでこのゲームの趣旨をこっそり教えることにした。

「――というわけだ」
「い、イカサマですか!?」
「声が大きい……!」
「す、すいません……」

俺はイカサマをいかにバレない様に仕掛けるかによる集中力、見破る直感力……を養う鍛錬だと、いい感じにそそのかした。

次の回からちび刹那が忍者っぽい布で姿を隠しながら、プレイヤーの手札を盗み見る光景が目撃されたが、あまりにもお粗末な穏行で全員が気づいていた。
初めてイカサマの様な行為を行う刹那は汗をたらたら流しながら緊張に震えていた。
……皆、刹那のイカサマは見なかったことにした。

ちなみに俺のイカサマは以前と同じ様にチャチャゼロを使い手札を知る、といったものだが前回と同じ愚行は行わない。
今回はゲームに参加していないチャチャゼロにハカセに借りた光学迷彩を被せている。
現在この部屋の隅にいるが、集まったメンバーが達人レベルの連中ばかりのため、動くと確実にバレる。
というわけで隅から動けないチャチャゼロには角度の問題でエヴァと刹那の手札しか見ることが出来ない。

楓のイカサマは全く分からない。一瞬楓の姿がブレて二人になった気がしたが気のせいだろう。

エヴァは……もっと分からない。前から何とか見破ろうとしているが尻尾さえ掴ませない。
事前にチャチャゼロから確認した手札の中身が勝負の時にはすり替わっているし、時間でも止めているのだろうか?


まあ、そんな感じでイカサマをしつつされつつ、ゲームは進んだ。
……。
……。

「休憩!」
「何だもうバテたのか?」
「まだまだこれからでござるよー」
「……」

――疲れた。
罰ゲームの内容も過激になってきたし、このまま終わった方がいいだろう。
皆の格好もスゴイ事になっている。
楓はナース服で片手逆立ちをしたまま、眼鏡を掛けているし。
刹那はエヴァのゴスロリを着て、お客様の注文を取りつつ眼鏡をかけているし。
俺はバスローブを着こなしながら、片手にワインを持って猫を膝に抱いて眼鏡を掛けているし。
エヴァにいたっては猫耳にツインテールに片足だけニーソックス上はセーラー服下はジャージ、これなーんだ? ……って感じだし眼鏡2つ掛けてるし。
これ以上いくと何か取り返しのつかない事になりそうだ……もうなってるか。

「いや、休憩! 休憩! 休憩しないと死ぬ! 疲れ死ぬ!」
「わ、分かったから落ち着け……」

エヴァがたじろぎしながら認める。よっぽど俺がスゴイ顔をしていたのだろう。
……。


「ところで拙者聞きたいことが……」
「なんだ?」

疲れを癒していると楓が思いついたかの様に尋ねてきた。

「師匠とエヴァ殿の事でござる。前ははぐらかされたでござるから、ここらで本当の事を知りたいんでござるよ」
「……む」
「私もそれは知っておきたいです」

復活した刹那も食いついてきた。
……俺とエヴァか。

「エヴァ、いいか話しても?」
「……勝手にしろ」

……なんか不機嫌だな。
まあいい。

「俺とエヴァの出会い、それは3年前に遡る……」


――。
――。
――。


「――というわけだ」

俺は3年前別の世界からやってきて、エヴァに出会いどーたらこーたらと説明した。
意地でも過去編はしたく無いのである。……何を言っているんだ俺は?

「成る程……そんなことがあったのでござるか」
「あの……質問が」

おずおずと刹那が手を挙げる。

「どうぞ」
「先生の話を聞いていると……その……先生は異世界人という事に……」
「Exactry!(その通り)」
「そういえばそうでござるな。……通りでズレた発言ばかりすると……」
<それは元々です>
「俺のカツラがズレてるだと!?」
「い、言ってないです」

何やら失礼な事を言われた気がする。
それにしても余り驚かないな。
やっぱり、身近に魔法があるからその辺の感覚が麻痺してるのかな?

「師匠の世界はどんな所でござるか?」
「ガソリンが100円以下で売っている」
「スゴイでござる!」

もちろん嘘だ。

「あの、他には……無いんですか?」
「同性の結婚が認められている」
「ほんまに!?」
「……」
「……」
「……」
<……やっぱり>

皆何となくやっぱりなーといった顔になった。

「ち、違います! そ、そうやなくて! ウチ、ほんまは男の人が好きやねん! ほんまやで!?」
「男好きなのか?」
「そ、そう、そう! ウチ男好きやねん!」
 
凄いこと言うなあ……。

そうこうしているウチに茶々丸さんが帰って来た。

「すぐにお夕食の準備を致しますので」
「では私たちはこれで――」
「構わん」

刹那達が帰ろうとしたところエヴァが引きとめた。

「いえ、ですが……」
「私がいいと言っているんだ」
「何か今日はエヴァが変に優しいぞ」
<毒でも入れるのでは?>
「入れるかっ!>

……。
かくして夕食となった。

「お待たせしました」

夕食はオムライスだった。

「これはおいしそうでござる!」
「だろ?」
「何で貴様が自慢げなんだ……」

順に皿が配られ、俺のもとにもやってきた。

「では師匠の所にも渡ったところで……師匠の皿でかっ!?」

ござるを忘れてるぜ?
うん、でかいな。皿もでかけりゃ、中身もでかい。
いや前からあったけど、他の人より多いとかあったけど!
こりゃ露骨過ぎますよ!?

「え? あ……本当に大きいですね。私たちの2倍は……ありますね」
「……楓さん?」
「な、何でござるか、茶々丸殿?」

茶々丸さんは楓の方を真っ直ぐ見て、

「遠近法……というものをご存知ですか?」
「知っているでござる」
「そういうことです」
「そうでござるか!」
「……楓」

納得しちゃったよ! 
刹那は納得した楓を何とも言えない顔で見ている。 
エヴァは「いつもの事だ」といった顔をしている。

「あの……私も少し」
「……何でしょう刹那さん?」
「その……先生のみかんが……私達の倍はある様な気が……」
「……」

そういえばデザートっぽくみかんが皿の隣にあるが俺の所は異様に多い……!

「それは……その……」

茶々丸さんが困っている!
ここは俺が……!

「おい、刹那さんや?」
「は、はい、何ですか?」
「遠近法って知っているかい?」
「は、はい」
「つまりそういう事だよ」
「え? でも……」
「つまりそういう事だよ」
「いや、あの……」
「つまりそういう事だよ」
「……」
「つまりそういう事だよ」
「そ、そうですね! 私の勘違いでした!」

よし、ナイスフォロー!
こんなに上手くいくとは自分が恐ろしい……!

夕食は割りと静かに済まされた。
その後普通に二人は帰った。
それから俺も普通に寝た。
まあそんなどうでもいい休日だった。


……。
以下ネタバレ

<やっぱりオチは無いんですね>
「いいんだよ別に。お前はそんなにオチが欲しいのか?」
<そ、それなりに>
「そんな事言ったら凄いの来るぞ? 誰も想像の出来ない様なオチが……」
<た、例えば?>
「そりゃお前、蛙が降ったり、真ん中の人が犯人だったり、箱の中身は奥さんだったり……」
<あと、お姉ちゃんがずっと後ろにいたり、僕の顔は僕じゃ無かったり、ヤツは経験地を貯めていたりするんですね?>
「……」
<……>
「怒られない?」
<大丈夫ですよ……多分>



[3132] それが答えだ!ばんがいへん九(追加)
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/11/06 13:07
ある昼下がり……

「――チェス?」
「ああ。カードゲームもいいが、たまにはこんなのもどうだ?」
「うーん」
「どうせ暇なのだろう?」
<暇じゃありませんよっ! マスターは今どうすれば簡単にお金儲けが出来るか考えていたんですよっ!>
「……何か浮かんだのか?」
「株……とか?」
「……やめておけ」

というわけでチェスをする事になったのである。


番外編 マイフレンドフォーエヴァー



「しかしいい度胸だな?」
「……何がだ?」
「この『3丁目の18ダイバー』と呼ばれている俺にチェスを挑むとは……」
「……前にもこんなことが……」

テーブルの上にチェス盤をセットして駒を並べていく。

「チェスは面白いとは思わないか、エヴァ?」
「……ん?」
「王を取られれば負け。王の首を獲れば勝ち……まるで戦争だ」
「まあ、そういうものだからな」
「王の取り合い……命の取り合い。……つまりこの王は『俺』というわけだな」
「……何がつまりなのか分からんがこちらの王は『私』自身というわけだな」
<何言っているんですか? 大丈夫ですか? ――うぎゃん!>

水を差してきたシルフを部屋の隅に放り投げる。
駒のセットが終わった。

「では始めるとするか」
「貴様からでいい」
「……よし」
<――時は聖暦774年、帝国MAHORAは世界を統一した。しかしその栄華は長く続かなかった……大魔王の復活である。50年振りの大魔王復活、それにより世界は混乱を迎える。後の『アポカリウス』である。MAHORA女王エヴァンジェリンは魔族の撲滅を発令。これによりMAHORAの聖騎士団が魔王城が存在する禁断の地『ノースランド』に進行。迎え打つは大魔王ナナシ率いる魔族の軍勢。――これが後に『ラグナロク』と呼ばれる事になるのは、まだ誰も知らない……>
「……」
「……」
「うむ、ナイスだ。褒めてつかわす」
「――!?」
<やたー>

エヴァが何か凄い物を見る目で見て来たが気にしない。
やはりこういうバックストーリーがあった方が萌えるな。

「――じゃあ開戦だ」
「あ、ああ」


――『ラグナロク』――


「まず俺のターン。ユニット『魔王ダリア』を行動」
「待て!?」
「酸素を媒介に敵陣中央に転移、詠唱開始――詠唱短縮……発動『ぐらうんど・ぜろ』
「タイムだ! タイムタイム!」
「……認めよう」

エヴァが必死な形相だったので思わず止めてしまう。
全く……何なんだ?

「これは……一体何だ?」
「チェスだろ?」
「どこの世界にこんな馬鹿げたチェスがある!?」
「え……でも、いつも茶々丸さんや楓とする時はこんな感じだけど……」
<楓さんの『王の変わり身』や『忍者部隊』+『暗殺スキル』のコンボは強烈でしたねー>
「茶々丸さんの『機械の反乱』も強いんだよなー」
「……私が……間違っているのか?」

エヴァは何やら今までの常識が打ち崩されたかの様な顔をしている。
……が奴も歴戦の勇士といった所か、すぐに吹っ切れた顔になる。
それでこそ俺のライバルだ。

「つまり……何でもあり……という事でいいのだな」
「まあ、言ってしまえばそうなるな」
「いいだろう……後悔させてやる!」
<――再戦>

――『ラグナロク』――


「『ぐらうんど・ぜろ』発動、『魔王・ダリア』を中心に半径50キロに渡り魔法の効果発動」

ちなみに俺のこの設定はリアルに存在するものである。
……つまり実際にダリアが使う物である。
酸素を媒介に転移も実際に使用していたし(これで近くの村、隣の大陸まで買い物に行っていた)、詠唱短縮も『魔王ダリアのなまえにおいて命じる、わが力のみなもとを依りしろとし……えーと……うーん……うりゃー省略……ぐらうんど・ぜろ!』といったものである。
これでいいのか魔王?
そしてこの『ぐらうんど・ぜろ』、魔王ダリアの究極魔法は、ダリアを中心に半径50キロの生物を死滅……では無く――ショートケーキに変化させてしまう魔法である。
それでいいのか魔王?
何でショートケーキなんだ、チーズケーキじゃないのか?……といった突っ込みもあるだろう。
そもそも何でこんな頭悪いのが究極魔法なのか?……それは魔族の使う魔法に起因する。
通常、人間が魔法を行使する時……仮に炎の魔法を使用するとしよう(シャレじゃないよ?)
方法はいくつかある。火の精霊に頼む、媒介を使う、どこぞから召還する、酸素で指パッチンでどーたらこーたら……といった感じである。
魔族はまず根底からして違う。
魔族の子供が最初に習う魔法、それは『ワールド』。世界を曲げる魔法だ。
要するにアホみたいな魔力使って無理やり世界に干渉して現象を起こすのである。
この場合は世界に対して、『そこに炎が存在する』と捻じ込むわけだ。
何言ってるか分からない?
……俺もわかんねーよ!!
ていうかダリアの魔法を見て無理やり理論っぽくしたんだよ!
何あれ!?
『えいやっ』でゴキブリが蝶になるところ見た事あるか!?
何か真面目に考えるのどうでも良くなったわ!終わり!

「……というわけでエヴァ軍の兵は全部ショートケーキになってしまいましたー」
「何故だ!?」
「おっとエヴァさんは障壁のおかげで大丈夫だった様です。……おや? エヴァさん、ふらふらとショートケーキの方に近づいて行きますよ……食べました! 食いしん坊! 食いしん坊万歳です!」
「食うか!!」
「残念! エヴァさん、1回休みです」
「……そんな馬鹿な……」
<真面目に考えると負けますよ?>

続けて俺のターン!

「『冥竜・ポチ』召還! 影を使った空間転移で敵陣の中央へ! お腹が空いていたので周りのケーキを食べちゃいました! これぞ食物連鎖!」
「私の軍がぁぁ!?」
「さて、エヴァのターンだぜ!」
「……フ、フフ」
「……?」

壊れた……か?
いや、この程度で壊れるタマでは無いはず……!
エヴァなら……!

「フフフ……いいだろう! 私を怒らせたことを後悔させてやる! ……私のターン! 『女王・エヴァ』を行動!」
<自分で女王とか言ってます……ふふ>
「やかましいっ! ――影を使った空間転移で敵陣中央へ! 詠唱省略! 『魔法の射手300矢』敵『王・ナナシ』に向けて全段射しゃちゅちゅ!!」
「おっとー!? 誰かが走り込んで来たー!? 『吸血鬼・ミネルヴァ』です! 自称吸血鬼のミネルヴァです! 体を張って全てを受け止めましたー!! 身を挺して王を守ったー! ありがとう、みーこ! そしてさようなら、みーこ!」

みーこはばらばらになった。
この光景も学生時代に良く見られたものだ。
みーこが後輩だった頃、俺に何らかの危機が迫った時ヤツはどこからでも現れた。
先輩に締められそうになった時、馬車に轢かれそうになった時、昼飯代が無かった時、自販機の隙間に小銭を落とした時……ヤツは現れた。
そして言うのだ――『先輩! 無事ッスか!? 今助けに来たッス!!』……と。
授業中に問題が分からない時も現れるので俺は有名になってしまった。(その癖頭がよろしく無いので、『廊下に立ってるッス!』と言って出て行く。アホである)
まあ、何だかんだで可愛い後輩ではあった。

「そして俺のターン! 『ダリア』と『ポチ』を敵陣から戻して終了!」
「――っ。私のターン!……『茶々丸軍団』召還!!」
「――てめえ!? 卑怯だぞ!! 俺が茶々丸さんに攻撃出来ないのを分かっていて!!」
「どやかましいわっ!! 今さら卑怯も糞もあるか!!」
<まあ、エヴァさんたら口が悪いこと……ほほほ>

くそう……どうすれば……!

「『茶々丸軍団』によるレーザー発射!! 標的は『ナナシ』!」
「危ない俺! ……しかしヤツならやってくれる! 再び走り込んで来たのは……『ミネルヴァ』だー!! 全てのレーザーを受け止めたー!! ありがとう、みーこ! そしてさようなら、みーこ!」

みーこはあなだらけになった。

「待て!? そいつはさっき死んだはずだ!」
「みーこは吸血鬼なんで無駄に死にません。塵になろうが昇華されようが、およそ3秒で元通りです」

マジである。
さらに言うと本当の意味で不老不死である。
あらゆる吸血鬼の弱点を持っているが絶対に死なない。
昔、にんにくが大量に入ったカレーを銀のスプーンで水をがぶがぶ飲みながら食べていたが、『死ぬっスー、死ぬっスー』と言いながら寝込み、次の日に復活していた。同じことを月一のペースで繰り返す、アホである。

「そして俺のターン! 子分をやられた『村娘・ウェイ』出撃! 敵陣に突撃……徒歩で!」
「アホか……。そのアホにレーザー一斉掃射!」
「『ウェイ』は気合でかき消しました」
「どこの村娘だ!?」

本当だよ!本人がそう言ってたんだぜ!?

「敵陣に踏み込んだ『ウェイ』は次々と茶々丸さんを撃墜! ……デコピンの風圧で……優しく」
「そんな人間はいない!!」
「いるよ!」
<いるんですよねー。……そしてこの少女『ウェイ』が大魔王の右腕になることを今は誰も知らない……>

これで残るはエヴァだけだ……!

「私のターン! ――『断罪の剣』、『ナナシ』に攻撃!」
「そしてやってくるヤツ! 再び『ミネルヴァ』が立ちふさがる! またお前か!?」
「ふんっ! 真っ二つだ! ……続けて私の連続攻撃!」

ああ……盾が……!
ふふふ……ようやく分かってきたじゃないか……エヴァ!

「壁の無くなった『ナナシ』に直接攻撃!」
「――そこにたまたま『ダリア』が通りかかったー! エヴァの断罪の剣は……魔王の障壁を破った! おめでとう、Bランク以上の威力で良かったね! 障壁を貫通したエヴァの剣は……『ダリア』の頬に蚯蚓腫れを残したー!!」
<かわいそかわいそなのです>
「んな馬鹿な話があるか!?」
「あります。全部本当の事です。『マーガレット』に誓って本当です」
「……何だそれは? お前の世界の神か何かか?」
「子供の頃、隣に住んでた年上のお姉さんだ」
「そんなものに誓うな!」

元気かな……? 
初恋だったんだよな……。

「……郷愁と共に俺のターン! 満を持して登場『俺』!」
「ふん、貴様の力などたかが知れてる……」
「『胸部・オメガクラスター』展開!」
「待てい!?」
「弾丸装填! 『対邪神必滅弾頭・神無月弐型』――発射!!」

『対邪神必滅弾頭・神無月』は科学の最先端と魔法の叡智を結集して作られた(という設定)
いつか来る(様な気がする)邪神に備えて聖暦555年からプロジェクト開始(という設定)
このプロジェクトは『ワルギプス・プロジェクト』と名づけられた(らいいなあ)
弐型はこの計画の副産物。コストと威力を抑えて、生産が可能となった。
これは本来の『神無月』とは違い、本来核の1000倍の威力を誇る『グリモア』とその範囲内の現象を瞬間的に20倍に高める魔法(つまり2000万パワーズである)『レーヴァンティン』を複合させた弾頭を詰める所を相手に応じて中身を入れ変え、臨機応変に使用できる仕様にしようとしたものである(クドいがシャレではない)
今回は対吸血鬼仕様だ(という設定だぜぃ!)

「真っ直ぐに砲弾は飛ぶ!」
「避けるに決まっているだろうが!」
「しかし謎のバイオパワーによってエヴァは動かない!」
<ジ・O! 何故動かん!?>
「では障壁だ!」
「弾頭の先端にはBMS(バリアなんて・無効化・しちゃいますよー)が搭載されている為バリア消滅! パリーン!」
「ぬがー!」
「そして着・弾! 同時に内部に詰められていたボーリングサイズのベアリングが炸・裂!」
<粉・砕!>
「玉・砕!」
「<大・喝・采!!>」
「――っ」
「至近距離で直撃を受けたエヴァはミンチよりひでぇ事になった!」
<かわいそかわいそなのです>

む……エヴァがプルプル震えている……!
ここまでか……!?
ここまでなのか……!?

「ふ、不死者をなめるな!! そんなもの一瞬で再生だ!!」
「しかし残念ながらベアリングは法儀礼済の銀で出来ていたぜ!」
「……っ……っ」
「完・結!」
<魔王軍の勝利ですねっ。魔王暦の始まり……その日は『黄昏の落日』と名づけられた>
「フフ……フフ、フフフ」

おお、エヴァが笑っておられる……!?
そんなに楽しかったか……!

「……や……や……」
「や? やはりお前には敵わないな?」
<や? やんだー、おらまけちまっただー?>

俯いて震えていたエヴァはおもむろにチェス盤を掴む。

「――やってられるかーー!!!」

――がしゃーん!(盤をひっくり返す音)
――がらがらがらがら!(駒が飛び散る音)
――ひぎーー!?(盤が俺の頭に直撃する音)
――ナンダァ!?(驚いたチャチャゼロがハンモックから落ちる音)
――こんな感じでしょうか……(茶々丸さんがお菓子を作っている音)
――クシュンッ!(ネギ君のくしゃみの音)
――ズバァ!(一緒にいたアスナが脱げる音) 

――阿鼻叫喚の絵図である。
地獄というものが存在するのならこんなものなのだろう(んなことはない)

や、やりやがった……コイツ……『デウス・エクス・マキナ』(盤ひっくり返し)を……やりやがった……!
これをすると十中八九、拳を用いたリアルな戦闘になるので皆注意だよ!

もちろんそのままリアルファイトに発展した。

「何すんだー!」
「うるさい、馬鹿がー!!」
「俺は勝者様だぞー!」
「うるさいうるさいうるさい!!」
<ひーん!>

ぽかぽかと殴りあう。
おおよそ一般的な(小○館的なギャグマンガのレベルの喧嘩埃が舞い上がる。
この埃が舞っているうちは重症にならないので安心だ。

「このやろーっ! ロリ! ババア! ロリババア!」
「何だと貴様!? 朴念仁! 唐変木! 痴れ物!」
「罵倒のチョイスが古いんだよ!!」
「うるさい! ロリコン! ロリコン! ロリコン!」
「ろろろ、ろ、ロリコンちゃうわっ!」

な、何を言い出すんだこいつは……!?

「ふんっ! どうだかな? どうせ今私とくっついて興奮しているのだろう? この変態がっ!」
「常識的に考えてそれは無い」
<ですよね>
「い、いや! 少しはあるはずだ! 正常な男子ならそれが当然のはずだ!」
「じゃあある」
「変態!」
<変態!>

もう意味分かんない!
どうすればいいんだよ!?

「何だお前は!? 何を言っているんだ! お前は本当に人類か!?」
「吸血鬼だ!」
<微妙な乙女心ってやつですね、分かりますよ>
「ち、違うわっ!」

こんな会話をしている間も取っ組み合いは続いている。
――その時、俺の耳がある声を捉えた。 

「――お菓子が出来たのですが……お二人はどちらへ……?」

茶々丸さんが呼んでいる!

こんな取っ組み合いを続けている場合じゃない!
今こそあれを……使う時!

楓から教わった忍術(パクったとも言う)――変わり身の術を!

今、必殺の――『変わり身の術改』!

――。

かくして俺は喧嘩雲の中から逃れた。
後ろでは未だに喧嘩が続いている。
エヴァと――シルフの……


「このっ! 駄目男! 甲斐性無し! 朴念仁!」

ガンッ、ガンッ!

<いたっ!? え、何で! いた、いたっ!! な、何だか分かりませんが受けて立ちますよっ!? 世界中の時計の皆、私にパワーを!! もしくは貯金を!!>


――。

「あ……ナナシさん。マスターは?」
「シルフと遊んでる」
「そうですか。……ではお先にいただきましょう」
「それがいい」

俺と茶々丸さんは共に椅子に座る。
茶々丸さんも今では一緒に食事を取ることになった。
まあ、それに至る話はまたいつか……。


――。
――。

「……ふん、中々やるじゃないか馬鹿時計……」
<エヴァさんも……ね>
「く、ククク……ハハハハハ!」
<フフフ、ウフフフフ!>

何か友情が生まれていた!

「――何て言うと思ったか、馬鹿が!!」
<フフフッ! やはり私達は相容れない様ですねっ!>
「初めて見た時から気にくわなかった!」
<奇遇ですねっ! 私もです! やはり同じ男性を愛した以上これは仕方が無いことなんですねっ!>
「ハハハッ! その通り……じゃない! 何を言わす気だ!?」
<ちぇっ>

友情は生まれた直後に死んでいた!


「このアップルパイおいしいよ」
「ありがとうございます」
「はい、茶々丸さん、あーん」
「――! ……あ、ああぁ、ぁーん」
「非常にうまし?」

――もぐもぐ(咀嚼)
――……(沈黙)
――じわぁぁあ(顔面赤化)
――しゅごおぉぉぉ(蒸気噴出)

何やら人間には出すことの不可能な音が茶々丸さんから発しられた。

「……あの、少し、席を、外します」
「顔赤っ!? 蒸気やばっ!? 大丈夫なの!?」
「……少し、走って、来ます。夕方には……帰ります」
「あ……速っ! 喧嘩雲の中突っ切た! エヴァ吹っ飛んだ! シルフは……いいや」
<ひどひ……>
 
次の日街中を走り周るメイドが現れたと噂が流れたが俺は噂をしている人に『あれはあなたが見た、遠き日の幻ですよ』と吹き込んだ。
割りと信じた。メイドが車より早く走って行く光景は幻に近い何かだったらしい。
まあ、いつもの休日だった。

――後日談

西暦20××年人類は絶頂期を迎えていた。
科学は発展し、エネルギー問題、人口問題、年金問題……あらゆる問題は解決された。
宇宙へ定住することも可能となり
『そろそろU.C(宇宙世紀)って呼んでもいいんじゃね?』
と誰かが言い始めたくらいである。
……が、人類は唐突に滅亡を迎えることになる――邪神の出現である。
邪神『ヴェネルブルガリアルス』4さい――趣味はにんげんかんさつ。
北極に出現したそれは世界各地を観光するかの様にのんびりと、だが確実に滅ぼしていった……徒歩で。
邪神が出現した時点で全ての人類はその土地に縛られ、他の国に移動する事が不可能となった。
もちろん人類は反撃を行ったが、先の制約のせいで戦力の集中は不可能で、邪神には傷一つ負わせることが出来なかった。
そうして、出現から丸50年をかけて邪神は最後に残った国、日本へと現れた。
人類は最後の戦いへと赴く。


「お邪魔するでござるよー」
「何だ楓、また来たのか? ……働けよ」
「師匠は戦いに行かないでござるか? ……師匠も無職でござる」
「めんどーいですぅぅぅ。 後、俺は自宅警備員な」
「ネギ坊主は行ったでござるよ?」
「すごいねー、もういい歳なのに頑張るなー。……つかお前何歳だよ? 何で歳取ってないの?」
「忍者でござるから」
「あー……なるほど」
「師匠も歳取ってないでござるよ?」
「ほら、俺は……先生だし」
「なるほど」



その時点で魔法の国も滅亡しており、残る全ての魔法使いは戦力を集結して邪神に立ち向かった。負けた。
その時の戦争を『獅子戦争』と呼ぶ。
邪神は去り、後には人間が存在しない星が残された……と思われた。
人類は生き残っていた。やはり人間はしぶといのである。
各地に細々と人間は生き残っており、それは日本も例外では無かった。
特に麻帆良と呼ばれる地には他に比べ、多くの人間が生き残っていた。
『ナナシ』と『エヴァ』も当たり前の様に生き残っており、近衛このかの子孫と共にその地に共同体を作った。
各地に残った人間は麻帆良に集まり、共同体はやがて国になった……MAHORAの誕生である。
王は近衛の一族が代々選ばれたが、実質裏で国を操っていたのは、『ナナシ』と『エヴァ』であった。
この二人はよく衝突した。
最初に新しい暦を決める際にも『宇宙世紀』か『エヴァ暦』かで揉めに揉めた。
結局、ネギ・スプリングフィールドの子孫であるノーギ・スプリングフィールドの案を取り、『聖暦』となった。
――。
その後の歴史は闇に包まれており、何故『ナナシ』が大魔王と呼ばれる存在になったかは不明である。(何らかの対立が元となっている)
……。
……。

「――と。……シルフの話が面白くて、つい設定を補完してしまったぜ」
<マスター生きてますね>
「まあ、生きるよ。後、ダリア達は向こうから俺が召還した……という設定」
<何で、魔王になったんでしょう?>
「多分あれじゃね? エヴァの秘蔵の珍味を摘み喰いしたとか」
<あー……>



[3132] それが答えだ!ばんがいへん十
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/12/11 21:04
食事が終わり時間も9時を過ぎた頃、

「そろそろロードショーの時間だな。今日は……おおう! デロリアンが見れるぜ!」
「またやるのかそれ……1年に一度は必ずやってるな……」

エヴァのそんな言葉を無視してテレビの前のソファに座る。
本来ならコタツに入って見たかったのだが、先ほどの鍋の時に盛大にコタツが汚れる出来事が起こってしまったので洗濯中である。

「茶々丸さんも一緒に見ようよ」

皿洗いを終えた茶々丸さんに声を掛ける。

「では……隣に失礼します」
「どうぞ」

俺の右隣に座る茶々丸さん。……ち、近いな。
ドキドキ。

「……」

エヴァは何やらこちらをじっと見ている。
……と思ったら立ち上がりこちらに近づいてきた。
なんだ?

「おい、もっと詰めろ」
「お、おいっ」

左隣に無理やり体を詰め込んでくるエヴァ。
ソファの定員は二人なのでかなりキツイ。

「狭いっつーの! お前降りろよ!」
「はんっ! 何故この家の主たる私が降りねばならん。貴様が降りろ!」

グイグイと押し合いになる。

<まあまあ、いいじゃないですか座れてるんですし。喧嘩はいけませんよ?>
「じゃあお前が降りろ」
<何でですか!? 私が降りることによってスペースは発生しませんよ!?>

……まあいいか。

……。
……。
……。

映画が中盤を過ぎた頃、左の腿に軽い重みを感じた。軽いのに重みとは如何に?

「ん? 何だよエヴァ……って寝とる」
「すぐにベットに連れて行きます」

茶々丸さんが立ち上がろうとして……

「いや、いいよ」
「……ですが」
「いいって。……たまにはこういうのもいい」

膝を枕にして眠るエヴァを見る。
こうして見ると本当にただの子供だ。
……無防備な寝顔。会ったころには考えられない行動。
……3年だ。あれからもう3年が過ぎている。

――そう、全ては3年前に始まった。

……何か壮大なストーリーが始まりそうな台詞だな。



番外編 バック・トゥ・ザ・フューチャー




「……本当に異世界から来たのか」
「やっと信じてくれたのかい?」

目の前の少女を見る。
金髪のストレートに気の強そうな目。
どこから見てもただの少女に見えるが、そうでないことを俺は知っている。
――彼女は魔法使いだ……この世界の。

「やっとも何も、いきなり違う世界から来たなんて言われて信じられるわけがないだろうが」
「まあそれもそうだね。僕も同じ立場ならそうだよ」

ちなみに俺は超猫を被っている。
本来なら『生意気なガキめっ! こうしてやる!』『ごめんなさぃ……もう堪忍してぇ』
……な行為を行うところだが、初めて会った異世界人だ。印象を良くしておいた方がいい、多少年下の少女に生意気な態度を取られたぐらい我慢しよう。

「事故で来てしまった……というのも分かった。一応助けてくれたのにも感謝する」
「当然のことをしたまでだよ」

助けた……ね。
別に手助けしなくても一人で倒せていたんだろうな。

「とりあえず貴様を保護する」
「……」

まあ、そうだろうな。いきなり現れた不審者を放っておくわけにもいかないだろう。

「悪いが一緒に来てもらう。危害を加えるつもりはない」
「うん、分かったよ」
「それと――」

……まだ何かあるのか?

「――いい加減その猫被りはやめろ、不愉快だ」
「……へぇ」

……気づいていたのか

「私をあまり舐めるな」
「悪かったよ」

やはりただの少女ではないらしい。

「ふん、さっさと付いて来い」
「や、優しくしてね……」
「殺すぞ」

とても怖かった。

――。

「ここで待っていろ」
「ああ」

連れて来られたのは建物の扉の前。扉には学長室と書いてある。
少女は俺を扉の前で待たせ室内に入っていった。
……。
さてどうでるかな。
あの少女は俺に助けられたと思っているが、実際は逆で助けられたのは俺の方だ。
あの少女がいなければ俺は多分死んでいただろう。
助けられたからには恩は返さなければならない。
この場合の恩は大人しくしていることだろう。
……。
「よし、言った通りに黙っているな……頭を撫でてやろう」
<えへへ……ありがとうございますっ。でも何で私は喋っちゃいけないんですか?>

シルフの頭?を撫でているとそんな事を聞いてくる。
シルフにはあの少女と接触する前から一言も喋らない様に命令している。
そりゃなあ……

「いろいろと面倒な事になるからな……」
<……面倒ですか? あっ! あれですかっ? いわゆる修羅場ってやつですねっ>
「……うん、それでいいよもう」
<私一回でいいから『この泥棒猫!』って言ってみたかったんですよっ>

嫌な願望を持つ時計だ……。



……そろそろ20分ぐらいたったな。

「――入ってこい」

お呼びがかかったようだ。
さて……

――ガチャリ

扉を開け室内に入る。
室内にはさっきの少女と……

――モンスターがいた。

「――!?」

俺はその姿を捉えると目にも止まらぬ動きでソレの背後に回った。

「はあっ!!」
「ぐふぉっ!?」

そしてすぐさまヘッドロックの体勢に入る。

「いきなり何をしている!?」

少女が叫ぶ。

「大丈夫だったかっ!? こんな所にもモンスターが入り込んでいるなんて!!」
「何を言っている!? そいつはこの学園の学園長だ!」
「……ちょっ……っ」

くっ! こいつなかなか力が強い!
それにしても学園長だと……!?
そ、そうか……!

「成る程、幻術で他のヤツラを騙しているわけかっ! へっ! だが俺には効かん! お前の長い頭が丸見えだぜ!!」
「……っ……っ」
「そこの少女! 俺はいいから早く逃げろ!」
「いや、だからっ――」
「そして人々に伝えてくれ……俺の戦いは正しかったと……」
「おいっ――」
「……キャシーにはよろしく言っておいてくれ……愛している……と」
「キャシー!?」

……。
誤解だと分かるのに数分を要した。


「ごめんなさい」
「ふぉふぉふぉ、いきなりヘッドロックをされるとは思ってもみなかったぞい」
「本当にごめんなさい」
「全く……私が止めなければ本気で死んでたぞ」
「カッとなってやった、反省している」

いきなり殺人犯になるところだった。
驚いたことにこのじいさん、本当に学園長だったらしい。
見た目完全にモンスターである。
多分モンスター学園長等と生徒にあだ名をつけられているに違いない。

「まあ、気にしなくていいぞい」

おお……心が広い……。
このじいさんは、いいじいさんだ。
ごめんね、ヘッドロックして。

「それで君……」
「ナナシだ」
「ナナシ君や、これからどうする気かのう?」

既に少女が事情を説明したらしい。

「この子の家に泊めてもらいます」
「はあっ!?」
「ほう……そうかのう」
「泊めてたまるか! 何で会ったばかりの男を泊めなくてはならない!?」
「え……でもさっき、『私の家、今日誰もいないの……意味分かるよね……?』って言ったじゃん! 嘘つき!」
「言ってない! 過去を捏造するな!」

さりげなく泊めてもらおうとしたが駄目らしい。

「エヴァンジェリンや」
「何だっ!?」
「泊めてやってはくれんかのう?」
「正気かじじい!?」
「正気じゃ。ふむ……ナナシ君や、少し席を外してくれんかのう?」
「またかよ」

俺は発言権が無いので大人しく従って外に出る。
しかし本当にどうしよう……。
この世界のこと殆ど分からないしな……。
これからどうしようか……うーむ。



……学長室……


「どういうつもりだ、じじい」
「本当は分かっておるのだろう?」
「……監視か」
「そうじゃ」
「自分でやれ……と言いたいところだが、条件付きでやってやろう」
「ふむ……?」

……。
……。
……。

「――この条件をのんでもらう」
「まあ……いいじゃろう。そのかわりと言っては何じゃが……」 
「分かっている。ヤツが何らかの害を持つ者なら……私が始末する」
「頼むぞい」


……。
……。
……。

何だか分からないが本当に少女の家に泊まることになったらしい。
建物を出て道を二人で歩く。

「……本当にいいのか?」
「構わん」
「でも金とか持ってないし……」
「私がそんなにケチな人間に見えるのか?」
「でもな……」

何か条件はありそうだな……。

「もちろん条件はある。貴様の世界の全てを私に教えてもらう」
「いや、いいけど……」
「……えらくあっさりだな」
「これから一生長靴で過ごせって言われるよりはましだ」
「……比べ方が分からん」

まあそんな条件なら軽い。
別に隠すような情報も無い。

「でも本当にいいのか? 衣食住を保証してくれるだけじゃなく、仕事も紹介してくれて、しかも月1万円の小遣いをくれるなんて……」
「だから構わんと――どさくさに紛れて何を言っている!? 何で私が小遣いをやらねばならんのだ!?」
「……じゃあ5千円で譲歩するよ」
「ぶち殺すぞ!?」
「――6千円、これ以上は譲れないぞ!」
「本気で殺されたいのか!?」

殺されてはかなわないので小遣いはあきらめた。
……。
道を歩く。

「君の家ってさあ……」
「おい」
「へ?」

どこまで歩くのか尋ねようとしたら遮られた。 

「――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
「え……ああ、今日の天気か。そうだなエヴァンジェリオン・A・K・B・マクダウェルだな。明日にはグルンガスト・O・G・弐式になってるかもな」
「何の話だ!? 私の名前だ! 私の名前!」

随分と噛みそうな名前だ。

「えーと……何て呼べばいい?」
「好きにしろ」
「漆黒の豹」
「常識の範囲内で呼べ!」

常識について語られてしまった。
……いいじゃん漆黒の豹、かっこいいじゃん。

「えーとじゃあ……エヴァンジェリンだから……リンリン」
「却下だ」
「……ジェリヴァン」
「却下」
「田の助」
「田の助!? 却下だ!!」
「……せ、聖緑の……虎?」
「自身が無いなら言うな!」

怒られた。
自分で好きにしろっていったのにさ。
世の中は嘘と欺瞞に満ちているよ。

「貴様いい加減に――」
「エヴァ」

まあこの辺だろう。

「……いきなり呼び捨てか」
「駄目か?」
「……構わん。その代わり私も貴様の事を――」
「ああ、エヴァって呼んでくれ」
「何でだ!?」

いちいち大声で突っ込む子だなあ。
元気があっていいけどな。
こんな子が生徒だったら授業は楽しそうだなあ。

「エヴァは私だ!」
「え……じゃあ……俺はマクダウェルでいいよ」
<私はA・Kですか……かっこいいかも……>
「じゃあって何だ!? さっきから何を……」
「でも居候先の家主の名前を名乗るのは最低限の礼儀だし……」
「は? ……む。……そうか……そういう事か」

エヴァは何か納得いったという顔をしている。

「成る程……世界が違えば風習も違う……ということか……」 
「……?」
「怒鳴って悪かった。貴様もこの世界で生きるなら自分のいた世界とこの世界の風習の違いを理解しておけ。いらん所で恥をかくぞ」
「……はあ」
「貴様がいた世界では家主の名前の一部を借りて名乗る風習があるかもしれんが、この国でそんな風習は無い」
「まあ、俺の世界にもそんな謎の風習は無いけどな」
「おちょくってるのか!?」
「ああ、おちょくってるんだぜ!」

いちいち反応が面白い少女だ。
これから楽しそうだな。


……現代のエヴァ家……



……。
……。
……あんま変わってないな。
つーか昔からエヴァはこんなヤツだったな。

「……zz……な……なし」

ん? 寝言か?

「……全く……貴様という男は……いつもいつも……zz」

夢でまで俺に悪態をついてんのかよ。
そのわりには顔はにやけてるな。

「……私がいなければ……何も……むにゃ」

ははは。
ちょっとお姉さんみたいなこと言ってさ。

「ふふふ……そうだ……犬の様に……ふふふ……首輪が欲しいのか……いい大人がいいザマだな……ふふ」
「……」
「……なかなか似合っているじゃないか……ふふ……そんなに私の従者になりたいのか……可愛いやつめ……くく……zzz」
「……」

……。
なるほどね。うん。そうかそうか。
ははは。

「茶々丸さん」
「はい」
「油性ペン頂戴」
「どうぞ」

メイド服のポケットから取り出されるペン。
いつも常持してるのか……。
まあいい。

――狂乱の宴の始まりだぜぇ!

次の日教室ではエヴァの顔をチラチラ見る人間が絶えなかった。

「……何だ? 今日はやけに見られるな……」
「それはエヴァがキュートだからさっ」
「……アホか」

そう呟いたエヴァの顔は少しだけ赤く染まっていた。
そしてその後トイレの鏡で自分の顔を見たエヴァの顔は鬼に染まっていた。
その日は《鬼の狂乱》と呼ばれたとか。




[3132] それが答えだ!ばんがいへん十一
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2008/12/11 21:02
前回までのあらすじ

――『御堂謙次』は改造人間である。
何とか、敵の幹部の一人――『X』を倒した『御堂謙次』
彼は日常に戻り、友人達との安穏とした学園生活に戻った。
幼馴染『美智子』の傍で思う。

――無事に戻れてよかった。

そんな彼を見つめる瞳。
サーカスであれば違和感は無いが、日常であるなら異端の存在にしか見えない格好のピエロ。
彼、『ジョーカー』は笑う。

――ククク、ようやく見つけましたよ……。

美智子との帰りに突然襲撃を受ける謙次。
彼女の前で変神することは出来ない、絶対に。
――絶対絶命である。



装甲戦神ディザスター 第8話「真実――そして」



「クックックック。どうしたんですかぁ? 逃げ回るだけですかぁ?」

日が落ちた町に不快な声が響く。
謙次は美智子の手を引いて町を走る。

「ね、ねえ! 謙ちゃん!? あ、あれ何なの!? 警察の人がい、いきなり……!」
「いいから逃げるぞ!」

不審者に絡まれていると思ったのか警官が二人近づいて来た。
……声を掛けた瞬間に警官の首は飛んでいた。
『ジョーカー』がその力を行使し、警官を一瞬で殺害したのだ。
それを見た瞬間謙次は美智子の手を引き逃げた。
ジョーカーは警官の死体を嬲るのに夢中で気づかれなかった。

走る、走る、走る……

「は、はは、は、はっ、はっ……け、謙ちゃん!」
「あ、ああ!? つ、疲れたか? 距離は……稼げたか」

美智子は息を荒げている。
ただでさえ小さな体で体力も無いのだ、無理も無い。
警官のおかげで隙を見て逃げ出すことが出来た。

(ヤツは確実に俺を追っている……どうすればいい)

考える……どうすればこの場を切り抜けられるかを……
その時、謙次の頭に慣れ親しんだ声が響いた。

『――美智子を見捨てればいいじゃないか』

(謙吾!? そんな事が出来るワケが無いだろ!?)

『じゃあ、どうするんだ――兄貴? ここで殺されるか?』

(――っ!)

「……美智子」
「な、何!?」
「先に行け」
「だ、駄目だよ! そんな風にかっこつけても駄目だよ!? 一緒に逃げよう!」

時間は過ぎていく。
すぐにも追いつかれるだろう。

「……俺なら大丈夫だから」

『ひゅー、かっこいいねー兄貴♪』

(うるさいっ!)

「お願いだ美智子……先に行ってくれ!」
「だ、駄目だよぅ! 一緒じゃなきゃだめぇ!」

駄々っ子の様に離れない美智子。

(まずい……このままじゃ……)

『いいじゃないか、変神すれば』

(出来ない! 美智子の前では出来ない! ……だって……そんな事をすれば……)

『……ふぅ、時間切れだ』

「――追いつきましたよ」

そしてジョーカーが現れる。
先ほど警官を殺害したその姿と違い――紅い、赤い装甲を纏っている。
異形の装甲を身にまとい血に塗れた――ピエロだ。

「――くっ!」
「やれやれ、やあっと追いつきましたよ……さあ、大人しく捕まりますかぁ?」
「誰がっ!」
「ククク……それは良かった。私も見てみたかったんですよ……『X』を倒した力というのを……」
「ね、ねえ!? 謙ちゃん、アイツ何言ってるのっ!?」
「……っ」

『さぁ、どうするんだ……兄貴』

脳内に響く、弟の声。

「さあ、見せて下さい! 力を!」
「……っっ!」
「け、謙ちゃん……」

『さぁ!』

(無理だ……美智子の前では……変神出来ない……)

「……」

両腕を挙げ無抵抗を示す謙次。

「大人しく捕まる……だからこの子は……」
「け、謙ちゃん!?」
「……」
「見逃してくれ……」

ジョーカーはその姿を見ると、薄く笑い……

「嫌です」
「――なっ!?」
「言ったでしょう? 力が見たい……と。そうですか……その女の子が邪魔ですか」

その薄い笑みが美智子の方へ向かう。

「その子を殺せば……理由も無くなりますね?」

ジョーカーはその腕を振り上げる。

「や、やめろ!」
「では見せて下さい力を! さぁ、変神しなさい!」
「く……う……うあ」

『兄貴! 早く変神しろ!! 大丈夫だ!』

(何が大丈夫だ!? 美智子の前で変神!? 無理だ! 一体何のために今まで……!?)

「どうして変神しないのです? その子の前だと問題が……ん? この子どこかで……。――ああ! 思い出しましたよ!」
「――っ!?」
「あの少女ですか……ククク……面白い縁もあったものです……そういう事ですか……貴方がこの少女に固執するわけが分かりましたよ……理解は出来ませんがね」
「え、な、な何を……言ってるの?」
「やめろっ!」
「……お嬢ちゃん。あなたの両親が何故死んだか知っていますか?」

(あ、ああぁ……!)

「お、父さんとお、お母さんは……事故で……」
「違います。私達が殺しました。まぁ彼らの自業自得とも言えるでしょうね」
「え、……あ、え?」

美智子は自分が何を言われているのか理解していない様だ。

「私が所属している組織『アンジェロス』とそこの男『御堂謙次』の戦闘に巻き込まれたのですよ」
「え……え?」
「御堂謙次が初めて覚醒した戦闘の時でしたか……上手く力を扱えていれば助けることが出来たかもしれないですね、ククク」
「や、やめてくれ!!」

顔に絶望を浮かべる謙次。

「いい顔です! その顔が見たいんですよ私は! 人の顔が絶望に染まる瞬間! あぁゾクゾクします……!」

ジョーカーは笑う。
謙次は打ちひしがれる。
最も知られてはならない事を本人の目の前で知られて。
謙次に美智子の顔は見れない、美智子がどんな顔をしているかも分からない。

「もう一ついいことを教えてあげますよ、お嬢ちゃん」
「……」
「あなたの両親を殺したアンジェロスの『ワーム』、兵士の事なんですけどね。人間のある部分を覚醒させた存在、元人間なんですが……まあそれはいいです」
「……」
「そこの男の正体を知っていますか? ……ここまで言えば分かりますよね?」

『おいっ!? しっかりしろ兄貴! ここで死ぬ気か!? ぶちのめせよ!!』

弟の叱咤の声が響く。
謙次は動けない。今まで隠してきた……隠さなくてはならない秘密が明かされようとしている、それでもだ……動けない。

「そこの男『御堂謙次』は――『ワーム』なんですよぉ!! あなたの両親を殺した存在と同じ! 私達と同じ!! どうです、どんな気持ちですかぁ!? 見せて下さい! 絶望の顔を!」
「……う……そ」
「ククククク! ハーッハッハッハッハーァァァ!!」


――装甲戦神ディザスター――



「ククククク! ハーッハッハッハッハーァァァ!!」
「け、んちゃん……?」
「……あ、ぅぁぁあ」
「ねぇ……けんちゃん?」

謙次は見ることが出来ない、すぐ隣に立っている少女の顔を。
見れば確実に自分は潰れてしまう。
もし自分を見る顔が憎悪に満ちていたら……。
その時彼は……終わる。

「……ねぇ、本当に謙ちゃんはあの人達と同じなの……?」
「……」
「いつも私を助けてくれたあの黒い人も謙ちゃんだったの……?」
「……」
「そう、なんだ……」


沈黙を肯定と取る。
声には何の感情も篭ってはいない。
次に出る言葉は罵声か嘆きの言葉か絶望か……
――当然だ。今までずっと隠してきたから……嫌われたくなくて、恐れられたくなくて。
……だが次に出る言葉は彼の予想外の言葉であった。

「――ありがとう」
「――!?」

聞き違えたか……そう思った。
だがそれはあり得ない。自らの強化された聴力で聞き間違えることなど決して無い。

「私に隠してたのは……私に嫌われたくないから?」
「――っ」
「ありがとう、謙ちゃん。いつも守ってくれて」
「……ぅ……え?」
「昔っからずっと守られっぱなしだね、私」

謙次は顔を見上げる。
少女の顔は――笑っていた。

「やっぱり謙ちゃんは私のヒーローだねっ!」
「……でも! 俺はお前の両親を――」
「助けようとしてくれたんでしょ? 分かるよ、謙ちゃんだもん」
「み、ち……こ」
「ねえ、また……助けてくれるんだよね」
「あ……」
「だって謙ちゃんは……い、いつも……私のことを……助けてくれたもんっ」

少女は泣いていた。
謙次も泣いていた。

「だ、だって昔から謙ちゃんは……私の王子様で……ヒーローで大好きだったんだもん! 謙ちゃんが化け物かなんて関係ないよっ! 大好きだから嫌えるわけないじゃん!」

(なんだ……そうだったのか。馬鹿だな……俺。コイツはこんな子だったんだ……昔から変わってない……)

『だから言ったじゃねえか。大丈夫だって』

(知った様な口を利くじゃないか)

『俺は兄貴と一緒に生まれたんだぜ? コイツの事もずっと見てた……兄貴とな』

(そうだった……な)

涙を拭う。
美智子を後ろに下がらせる。

「守るから。絶対守るから」
「……うん!」

相手、ジョーカーを見つめる。
ジョーカーは落胆した声で

「……何ですか、この茶番は。――下らない! 下らない! もっと絶望を見せて下さいよ! 目の前に親を殺した仇と同じ存在がいるんですよ!?」
「関係ないもん! 謙ちゃんはお前らなんかと違うもん! 馬鹿ぁ!」
「こ、小娘が……! その顔、絶望に歪めてあげますよ……! この私の手で!」

言うやいなや美智子に迫るジョーカー。
謙次は進路を塞ぐ様にして立つ。

「……ジョーカー、訂正しておく事が一つある」
「遺言ですかぁぁぁ!?」

迫るジョーカー。

「俺は『ワーム』じゃない」
「何を馬鹿な!? 私より遥かに下級の存在でぇぇぇ!」
「俺は――」

『やってやれ兄貴』

(俺は――)

右手に刻まれた刻印を頭上に掲げる。
体内の生成路に火を入れる。
全身のサーキットが稼動――内部組織の変異
空気に含まれている『レステア』を抽出――装甲形成
――変神可能。


(俺は――)

「――装甲戦神ディザスターだぁぁぁぁぁぁ!!!」


――変神――


光、爆発、衝撃波。

その全てが同時に発生。

「――っ! 変神しましたか!」

ジョーカーは距離を取り、体勢を整えた。

――煙が晴れる。


「――変神……完了」


そこには異形が立っていた。
見た者に嫌悪感しか抱かせないフォルム。
全身を黒く染めた装甲。
ほとばしる蒸気。
例える言葉があるならそう……昆虫。
……それが彼『御堂謙次』のもう一つの姿だった。


「ククク。相変わらず下級のワームの姿は醜い……虫そのままだ」

ジョーカーの姿は謙次の擬人化した虫を思わせるそれと違い、洗練された……より人間に近い姿だ。
一見すると悪と正義は逆に見える。
……しかしこの場を見た誰もが謙次を正義と主張するだろう、そう思わせる『何か』が謙次から溢れている。
――それは想いや信念と呼ばれる。
その何かと守りたい者がいる限り謙次は限り無く『正義』である。

「言ったはずだ。俺はディザスターだと……お前達とは違う!」
「全く同じ存在であるというのに……滑稽ですね」
「お前を――滅す」
『やってやれ兄貴!』

謙次――ディザスターは構える。
既に彼の内部ではレステアが『ミード』に変換され拳に集まっている。
彼固有の能力――『緋炎の拳(バースト・ナックル)』
空気中に散布されているレステアを誘爆させるその拳がジョーカーに向けられる。

「いい事を教えてあげましょう」
「……?」
「――CC(クリティウス・チャージ)ランク」
「……なに?」
「貴方のランクですよ、ワームとしての。ちなみに戦闘兵はEEE(エスト)ランクが最低ランクです」

ジョーカーの顔に浮かぶのは嘲笑だ。
自分が絶対的強者である事を確信している――笑みである。

「それがどうした!」
「あなたが仲間と共に瀕死になって倒した『X』は……BB(ベガリウス・ブースト)ランク」

恐らくランクにより強さが決まっているのだろう。
謙次達は遥かに格上の敵を倒したことになる。

「正直驚きました。普通はあり得ないことですからね、上位……3つもランクが離れた相手を倒すとは……褒めているんですよ?」
「……仲間との絆、そして正義の心だ」
「正義、ですか……ククク」
『……ムカツク笑い方だ』

依然として嘲笑を浮かべるジョーカー。

「まず貴方に絶望を与えてあげます」
「……」
「私のランクは――」

今の謙次に恐れる物は無い。
例え相手のランクが高くても、一緒に戦う仲間がいなくても……彼には守るべき者がいる。
それが今の謙次を支える力だ。

「――AA(アヴェリスト・アナザー)ランクです」


……。
……。

『次回予告』

圧倒的な力の差を見せ付けるジョーカー。
謙次は必死で戦うが勝負にもならない。
地に伏す謙次。
剥がされる装甲。
奪われる手足。
ジョーカーは標的を美智子に定める。
ここまでか……その時脳内に響く声。
『仕方ねえな、兄貴は……俺がいねえと何も出来ねえ』
生まれた時から共に一緒の体で過ごしてきた弟。
『まあ、仕方ないわな』
彼が決心した想いとは……!
『……仕方ない……な』

次回 装甲戦士ディザスター 『永遠の別れ――そして覚醒』

『あばよ……兄ちゃん』


……。
……。
……。


「おぉぉぉぉぉ! うおぉぉぉぉぉ!」
<あぁぁぁぁー! いやあぁぁぁぁー!>
「うるさい! テレビぐらい静かに見れんのか!?」

リビングにエヴァの罵声が響く。

「だってさあ……しょうがないじゃん!? 次週を待てないじゃん!?」
<謙吾ぉぉぉ! 死なないで下さいぃぃぃぃ!>

シルフはオイルの涙を滝の様に流している。
いや、これいいわ。最高だわ。
ハカセに言われて見始めたけどここまで熱中するとは。
よし、明日原作借りに行こう!

「シルフ! 一週間時間を飛ばせ!」
<謙吾ぉぉぉぉぉぉ!!>

少しひいた。



[3132] それが答えだ!ばんがいへん十三
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/01/17 23:26
<今回のお話は、マスターと私が元の世界にいた時のお話ですっ。と、い・う・こ・と・は! 今回エヴァさんやネギ君は出ません! もう一度言います、出ません!! それでも良かったら下にスクロォールゥしてくださいっ>
「おい、馬鹿時計。さっきからぶつぶつと何を……」
<ひぃっ!? エヴァさん!? だ、駄目です! 出ちゃ駄目ですっ! 今日は帰ってください! お願いしますから、今日だけは! 今日だけは勘弁してください! 明日までには払いますからっ! 息子の、息子の入学式があるんですぅっ!>
「何でこんなにテンションが高いんだ……おい、ナナシ。貴様の時計だろうが、何とかしろ」
「いや、今から茶々丸さんと買い物に行くから無理だ」
「では、マスター行ってきます」
「ま、待てっ! 私も行く!」
「いや、いいよ。お前と一緒に歩くと職務質問されるからな」
「いや、行くと言ったら行く! 貴様は目を離していると何をしでかすか分からんからな」



番外編 禁忌・前編



「入るぞ」

3回ドアをノック。
どうぞ、と中から声が聞こえて俺はドアを開けた。

「おはようございます……マスター」

部屋の中のベッドにいる少女。
俺が住んでいた国では珍しくない青い髪、それをショートにしている。
着ている服はパジャマ。
小柄なので裾が余っている。
顔色が少し悪い。

「おはようシルフ。……調子はどうだ?」
「いい感じです……と言いたいところなんですけど――けほっ、けほっ!」

シルフが背を丸めて咳きをした。
俺は近づき、シルフの背をさする。

「けほっ、けほっ! ありがとうございます、マスター……今日は優しいですね」
「今日はって……お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「ふふふ……」
  
シルフが笑った。咳きは止まったようだ。

「でも、私……駄目かもしれません……」

シルフが儚げに笑う。

「自分の死期っていうんですか……そんなのが少しずつ近づいている……そんな気がするんです」

窓の外を見るシルフ。
窓のすぐ外には木が生えていて、その枝には葉が一枚だけ残っている。
寒くなってきた……もう冬なんだな……。
シルフはその葉を見つつ呟く。

「きっとあの葉が落ちた時……私の命も尽きるんですよ……」

ふふふ、と憂いを帯びた笑みを浮かべる。
俺は窓の外から下を見下ろした。
ちなみにこの部屋は2階だ。
下を見下ろすと……ダリアがいた。
せっせと落ち葉を箒で掃いている。
うーん、働き者の魔王だ……略して働き魔王だ。
あ! 危ない! シルフの歩く先の大きめの石が! ああっ! こけた! 

――ズバンッ!

こけた時の衝撃で真空破が発生する。
真空破は木に直撃した! 折れ……あ、消えた! 木が消えた! 消滅した!
ダリアのメイド服のスカートは捲り上がり、お仕置きして下さい、御主人さま……みたいな感じになっている、どんな感じだ。
涙を拭いつつ、スカートを整え……目の前の木が無くなっていることに気付いた。
きょろきょろと辺りを探し、頭を傾げる。
あ、気付いた。自分が木を消し飛ばしたって気付いたみたいだ。
腕を組んで悩んでる。
あ、何かポケットから取り出した……種?
その種を植えて、ぱんぱんと手から土を落とす。
そして額を拭い、あーいい仕事したって顔。
そして城の中に帰っていった。

「……」
「……」
「……おい、葉落ちたぞ」

俺はシルフを見た。
死んでない。汗をたらたら流しているが。

「葉が、落ちたぞ」
「の、のーかんです」
「ノーカンとな?」
「ええ、本当の葉はあっちの木の葉です」

シルフが窓の外を指差す。
先ほどの木から10m程離れたところに違う木があった。
さっきの木の倍の太さと大きさだ。
木には青々とした葉がもっさりと茂っている。

「あの木の葉っぱがぜーんぶ落ちた時……私は死ぬんです……」

全部か。
ん? 木の下に人影が……あ、ミネルヴァだ。
赤い髪に俺が通ってた学校の制服だからすぐに分かるな……。
何をしてるんだ……?


――木の下――

「はー……行くッス! ミネルヴァ超電磁スピンレムリアインパクトエンペランザガチコブランドンハッパカッターフルバーストハイパーメガヒカリノツバサアンリミテッドブレイドディソードダイバクハツジャイロボールシツリョウヲモッタザンゾウ……ミネルヴァパンチィィィッッッ!!!」

渾身の力で木に向かって腕を突き出すミネルヴァ。

――ボッ!

腕から発生した何だかよく分からない(NYE)エネルギーが木に直撃。
直撃した何だかよく分からないエネルギー(NYE)により辺りが何だかよく分からない光(NYH)に包まれた。
光が収まったあとには……

「ふ、ふふふふふ……」

木が根元から消し飛んでいた。
ミネルヴァは自分の拳を見つつ、怪しげに笑う。

「か、完成したッス! 自分の新しい必殺技――ミネルヴァ……ミネルヴァパンチ! この必殺技さえあれば……ウェイさんに勝てるッス! そしてウェイさんを倒したとき! 先輩は自分の物に! ダリアちゃんはお菓子で釣れますし、シルフさんは何とかなるッス……ウェイさんを倒した時それは全ての障害が無くなる時ッ! ふふふ……今行くッスよ、ウェイさん!」

ミネルヴァは馬鹿笑いをしながら走り去った。


――部屋――

「木が消し飛んだぜ?」
「……よくよく考えれば葉が落ちたぐらいで人の生き死にがきまるわけないですよねー」

あっけらかんと言うシルフ。

「つーか、お前ただの風邪じゃん。大げさすぎ」
「いやーそうなんですけどね……風邪引いて部屋に一人でいるとこんな事ばっかり考えちゃうんですよねー」
「へー……俺腹減ったからもう行くわ」

シルフに背を向け部屋から出ようとする。

「あ、マスター……」

振り返る。

「えーと、そのー……また来てくれますか?」

寂しげな雰囲気を漂わせつつ言うシルフ。
らしくない……精神的にきてるのか……?

「あーはいはい。また来る来る」
「本当ですかっ! じゃあ私待ちます! いや……私待つわ!」
「何で言い換える?」

部屋を出て食堂に向かう。
そろそろ昼飯の時間だろう。



――食堂――

食堂に入り、厨房にいるだろうダリアに話かける。

「ダリアー」
「あっ、はいっ。もうすぐできますよ?」

厨房から少し顔を出し答えるダリア。
もうすぐか……座って待つか。

「おー、いい匂いじゃのう」

扉を開け少女が入ってきた。
浴衣を着た白髪の少女。

「よおウェイ」
「ふむ、おはようじゃ」

そのまま俺の隣に座る。

「あ、あ……死ぬッス……自分もう死ぬッス……」

再び扉が開き、ミネルヴァが入ってきた。
……ていうか

「何でお前ボロボロなんだ?」
「せ、先輩! 聞いて下さいよぉ! ウェイさんが、ウェイさんが酷いんですよぉー!!」

ひーんと泣きつつ俺の元に駆け寄ってくるミネルヴァ。
俺は椅子から腰を浮かし回避の準備をした。

「ワシが……どうかしたかのう?」

駆け寄ってくるミネルヴァがピタリと動きを止めた。

「ウェイさんはちょうびじんさんッスと言おうとしたッス」
「何で棒読み?」
「ククク……ワシに刃向かうなど一万年早いわ」

ウェイが不敵に笑い、ミネルヴァがぶるぶる震える。
何かあったのカナ? どうでもいいカナ?

「そういえば……」

ウェイが何かを思い出したかのように話しかけてきた。

「シルフの様子はどうじゃ?」
「ん? あー……普通」
「そうッスよね。自分もお見舞いに言ったッスけど結構元気そうだったッスよ?」

シルフはここ1週間風邪で寝込んでいる。
別に体調はそれほど悪そうでは無いのだが……1週間前から状態が全く変わらない。
良くもならないし、悪くもならない。

「まあ、あと1週間もすれば治るんじゃないか?」
「む、そうか……ワシの思い過ごしかの……」

ウェイは何か思うところがあるみたいだ。
しかし風邪か……風邪ね……

「風邪って辛いのか?」

前から疑問のに思っていたことを尋ねてみた。

「へ? 先輩もしかして風邪ひいたこと無いんスかっ?」
「ああ、そうだが……」

ミネルヴァはとても驚き笑った。

「ま、まじッスか? ぷぷぷっ! 先輩、自称天才の癖に風邪もひいたことないんスか? ぷぷぷ……ひぎぃっ!?」

馬鹿にされているようなので顔面をわしづかむ。

「ご、ごめんなさいッス! も、もう言わないッスからぁ!! パシリでいいッスからぁっ!」

ギリギリと腕に力を入れ、泣きが本泣きになってきたところで離す。

「ひー……やぶへびだったッス……」
「つーかお前はひいたことあんのかよ?」
「そりゃもちろん! ……あ、あれ? 風邪っすよね……あ、あれ? 自分もひいたこと……無い?」
「無いんじゃねぇか!」
「ひんっ!」

デコをびしりと叩く。
こいつ自分のことを棚に上げて……泣かしたろうか……

「ククク……」

ウェイが俺達を見て笑っていた。
どこか馬鹿にした笑みだった。

「アホじゃ、アホが二人おる」
「な、なんだと!?」
「いい事を教えてやるぞ……馬鹿は風邪をひかないのじゃ」
「「!?」」

ば、馬鹿? 俺が馬鹿? こいつ(ミネルヴァ)と同類?
いやいやいや、無い無い無い。
ミネルヴァを見ていると何を勘違いしたのか……

「え……? 何スか先輩? そんな熱い視線で自分を見て……あっ、告白ッスか!? とうとう告白ッスか!?」

赤くなった頬に手を当ていやんいやんとするミネルヴァ。
無視無視。むしむしQ。
それよりウェイだ!

「お、お前俺のことを馬鹿だと言うのか……」
「さっきからそういっておるじゃろう? ……ククッ」

お、俺が馬鹿だと……!
天才の俺を……! 辞書で天才を引いたら俺の名が出るくらいの俺を馬鹿だと……!?

「俺は馬鹿じゃ、ない!」

ウェイのデコを人差し指でびしびし突く!

「ちょっ! やめっ、やめんかっ! 無礼じゃぞ!?」

無視してびしびし突く。

「やめっ、やめぬか! こら! こらぁ!」
「やめろって言ってるわりには嬉しそうな顔ッスねー……自分もやるッス!」

ミネルヴァも俺と同じように指で突こうとウェイに近づき……

「そりゃーッス……ひぎぃ!?」

悲鳴をあげた。
ウェイはミネルヴァの指を握り締めている。
なんかミシミシいってる……。

「今ワシに……何をしようとした? 駄犬」
「パン買ってきますぅ! パン買ってくるッスからぁ! 折れるッス! 指折れちゃうッス! もうこの際奴隷でもいいッスからぁ!!」

もの凄い卑屈になるミネルヴァ。
何かしらんがこいつはウェイに頭が上がらないんだよなぁ……。
上下関係が出来上がってるというか……生物として負けてるというか……。

「ごはんできましたよー」

そんな無様な争いはたった一つの声で止まった。
ダリアだ。
ダリアは明らかに自分より大きい鍋を抱えて厨房から現れた。

「おお、食事じゃ。……今日はここまでにしてやるかの」

指を離すウェイ。

「た、助かったッス……やはり正面からでは勝てないッスか」

涙目で指を押さえつつ、ぶつぶつと呟くミネルヴァ。
まあいい……今は食事だ。

テーブルの中心に巨大な鍋が置かれる。
中身は……シチューか?
器に注がれたシチューを皆で食す。

「うまい!」
「あ、ありがとう……ございますます」

照れ照れと顔を俯けるダリア。

「いや、本当にうまいッスね! 特にこのお肉が……何の肉ッスか?」

確かにこの肉がまた旨い。
鶏肉でも無いし、豚でもない、牛でもないし……今までにない食感だな。

「え、えーとね、ウルネスペインのお肉ですよ?」

照れた状態でダリアが答える。
ウルネスペイン? 聞いたこと無いな……。

「みーこ、知ってるか?」
「いや、自分も聞いたこと無いッスね」
「まあ、普通は知らんじゃろうな」
「ん? ウェイは知っているのか?」

流石、自称情報通の村娘。
何でも知ってるなぁ。

「で、何の肉なんだ?」
「まあ、……魔物の肉じゃな」

魔物か……あまり食べたこと無いけど普通に食べられるらしいな。
へー、こんな味なんだ。
しかし聞いたことが無い魔物だな。

「ウルネスペイン、生息地は魔界。魔界危険指定魔物の一体じゃ。魔族でも下級の魔族なら一瞬で殺されるじゃろうな。強い固体なら上級の名前持ちの魔族すら喰われることもある。遺物でも三級以下の物では傷すら与えられん。爪にある毒に注意じゃ。弱点は膝の裏じゃ」
「つめはあぶなかった……」

ふぃーと額の汗を拭うダリア。
へぇー魔界かースゲェー。
魔族しか行けないんだよなー、そういえば昨日の夜に出かけるって言ってたなー、ご苦労さまですー。

「あ、あんまり危ないことはしないように」
「ふぇ? だいじょうぶですよ? ……でもつめはあぶないです」

爪は危ないらしい。

「しょうへき溶かされました……」

溶かされたらしい。


――食後――

「ん、ダリア? その小鍋は何だ?」

ダリアがお盆に小鍋を載せていた。

「シルフのごはんですです」

シルフの……お粥か。
ふむ……

「俺が持っていくよ」
「ふぇ? で、でも……」
「いいからいいから」

お盆を取る。

「じゃあ……お願いしますします」

語尾を繰り返すことにはまっているらしいらしい。
  
「あー、何か先輩優しいッスね。病気ですか?」
「何だと!?」
「あ、言い間違えたッス。シルフさんが病気だからッスか?」

ああ、そうか……優しくしただけで病気扱いってどんなんだよって思った……。

「まあ、たまにはな。病気の時ぐらい優しくしても罰は当たらんだろ……じゃ」

扉を開けてシルフの部屋に向かった。

「……自分も病気になったら先輩に優しくしてもらえるッスかね?」
「ご主人さまはいつも……やさしいよ?」
「ま、ダリアにはいつも優しいのう」
「うー、自分も看病して欲しいッス! どうすれば病気になるッスか!?」
「屋上から飛び降りてみたらどうじゃ?」
「それで先輩に心配してもらえるッスか!?」
「まあ、心配されるじゃろうな……頭の」
「行ってくるッス!」

……。

「しかしシルフの病気……本当に風邪なのかのう?」
「?」


――シルフの部屋――

「あーん」
「……今日だけだぞ?」
「分かってますよう」

ぷくりと頬を膨らますシルフ。
そのシルフにお粥を食べさせる。

「もぐむぐ……あー食べさせてもらうと格別ですねー」
「はいはい」

しかし結構楽しいな。
雛に餌を上げる親鳥はこんな気持ちなのかな?

「マスター、私のお口か空っぽですよー」

口を開けて催促をするシルフ。
うぜえ……が我慢だ。相手は病人病人。
少し手が震えているのを感じながら口元にスプーンを運ぶ。

「ほら次いくぞ――なうっ!?」
「熱ぅっ!?」

俺はある物を見て動揺してしまいお粥をシルフの顔にぶちまけてしまった。
そのある物、信じられないが……窓の外を落下していくミネルヴァ。
な、何で俺はあんな物を見たんだ? ……幻覚だよな。

「熱ぅ! 熱々のお粥が顔にぃ! わ、私もう舞台に立てません!」

大げさな……もう結構冷めてるつーの。
ごろごろとベットの上を転がるシルフ。

「あー悪い悪い。これで許してくれ」
「どれですか!? そのマッスルポーズは謝っているんですか!?」
「俺の筋肉の免じて許してくれ」
「マスター、筋肉ないじゃないですか……」

渡したタオルでごしごしと顔をこする。
 
「あぁ……ご飯粒で顔がべたべたに……興奮しますか?」
「ゴメン。俺、顔にご飯粒付いてる人に興奮しない人種なんだ」
「えー? でも私が読んだ本には男の人の90%がご飯粒を顔に付けた女の子に興奮すると……」
「何の本だよ」

……。
……。
……。

「そういえばマスター?」
「ん?」
「研究の方は進んでますか?」
「お前がいないから人手が足らん」

助手であるシルフは俺の研究には必要不可欠だ。……いや、そんなに必要でもないか?

「どんな具合ですか?」
「んー、俺の目的に必要な物……俺が持つ遺物の魔力を効率的に運用しつつ、管理をする機能を持つ……そういう能力を持った遺物を作ることは出来た……出来たんだがなぁ……」
「問題でも?」
「そもそも人工的に遺物を作った人間がいないから手探りなんだが……能力を持つ遺物があってもそれを操作すること……」
「精霊ですか」
「そうなんだよな……幾ら遺物が完成してもそれに憑く精霊がどうにもならん。100年近く放置しれば下級の精霊が憑くのかもしれんが……」

そもそも本当に何から何まで自分で考えなければならないのだ。
俺が完成した時計型の遺物、厳密に言えばそれはまだ遺物ではない。
遺物は精霊が憑いて初めて遺物と呼ばれる……筈だ。
そもそも精霊のことは俺の範囲じゃない。
いや、人工的に精霊を作る……それも考えたが……ん?
待てよ……精霊ってのは人間の魂と同じなんだよな。
持ち主の魂が長い年月をかけて刻まれ精霊になる。
だとしたら……生身の人間の魂を直接移すことが出来れば……!
いやいやいやいや。
それは倫理的に駄目だ。
他の方法を考えるか……

「そうですか……私も手伝えれば……」
「いらん、つーか寝てろ邪魔」
「ひどいです……」

うゆうゆと泣き真似をしながら布団に潜り込む。

「……雑用係がいなくて研究が進まん。……さっさと治して雑用をしろ」
「えへへ……やっぱり私がいないと駄目駄目ですか」
「治ったら泣かせる」
「えへへへ」

布団の中から薄気味悪い笑い。

「じゃあ、俺は研究の続きするから」
「また来てくださいねっ!」

廊下に出る。
あー研究だるいなー。
ミネルヴァに手伝わせるか。

――シルフの部屋――

「えへへ……マスターは優しいですね。これならずっと病気でもいいかもしれませんね」

……。

「早く治せ……か。――ごほっ、ごほっ! ……あ……布団に血がついちゃいました……」

……。

「あと、三ヶ月ぐらいでしょうか……」

……。

「ゴホッ、ゲホッ! ……ふう。――ごめんなさい……マスター」

……。


それから一ヶ月たったがシルフがベッドから出ることは無かった。
病状も悪くもならず、良くもならず平行のままだった。
俺がシルフの異常な状況に気付いたのは遅すぎた。
もっと早く気付いていれば……いや、どちらにしろもう遅いか。
ただ一つ言うことがあるすれば……この時が俺とシルフにとってのターニングポイントだったのかもしれない。


――続く



[3132] それが答えだ!ばんがいへん十四
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/02/10 01:19
「……そんなに怯えなくていいですよ? 出来るだけ優しくしますから」
<い、いやぁ! さ、触らないで下さい!>
「そーいうわけにはいきません。約束したじゃないですか、今度好きなだけ体を触わらせてくれるって……」
<そ、そんなこと言ってません!>
「ちゃんとナナシ先生には了承を取ってますから……はい脱がしますよー」
<きゃあっ!? ま、マスター以外に見せたことないのにっ……>
「ちょーっと入れますよー」
<そ、その棒をどうする気ですかっ!? あ、あぁ、あ……ら、らめぇ……>
「ふむふむ、こうなってるんですかー」
<……く、悔しい! で、でも……感じちゃいます!>


番外編 SMG(サンデー・マガジン・ガンガン)


<……しくしく、マスター……私汚されちゃいました……>
「へ、変な事言わないで下さいよ。ちょっと中身を見せてもらっただけじゃないですか」
「……そのわりには、ハカセの心拍数の上昇が……」
「い、いや……だってほら……未知の機械を弄ってるとさ、興奮するじゃないですか……」

そうやって、少し照れながら話すのは葉加瀬聡美――『ハカセ』だ。

「……ハカセは……本当に機械が大好きなのですね」

無表情でこんな事を言うのは茶々丸。

<しかしハカセとマスターの間でそんな裏取引があったとは……>

シルフだ。

「裏取引って……。試作品を貸す代わりに、ちょっとシルフさんを弄らせてもらっただけですよ」
<もう……乙女の体をなんだと思ってるんですかっ。私軽い女だと思われちゃうじゃないですかっ!>
「あはは……」
<それで私の体を調べて何か分かりましたか?>

その言葉にハカセは少し唸ったあと

「……何というか……普通の懐中時計でした」
<何を今さら。ハカセには私がチーズバーガーにでも見えていたんですか?>
「いや、そうではなくて……」
<つ、月見バーガーですか!? さ、さすがにそれは私を買い被り過ぎですよ……!?>
「えっとね……」

流石に話が進まないと思った茶々丸が

「……普通の懐中時計だと何かおかしい所でも?」
「うん……本当にただの懐中時計なの。AIチップも無いし、配線も無いし、小型の演算装置も無い」
「……つまり?」
「何で喋ってるのか分からないの」

ハカセは頭を抱えて言った。

「また弄らせてもらっていいですか? 私の科学者魂に火がつきました。絶対に仕組みを解明します、科学的に!」

自分に理解出来ないことがあると燃えるタイプの様だ。

<お断りします。さっきも言いましたが、私はそんなに体をホイホイ開くほど軽い女じゃないんです!>
「そ、そこを何とか……」
<ぷいっ>
「……うぅ、分かりました。またの機会にします」

諦めないようだ。
科学に魂を売った女――それがハカセである。

<じゃあ、早く茶々丸の調整をしてくださいっ>
「おや、何か用事でも?」
<いえ用事は無いんですが……>
「では何故?」

ハカセの疑問にシルフは答えた。

<家にはマスターとエヴァさん二人しかいないんですよ!>
「何か問題でも?」
<ビッグアントです!>
「へ……?」
「……大有りと言う意味かと」

茶々丸がシルフの微妙なボケを律儀に補足した。

<問題だらけですよ! エヴァさんはこの機に絶対何かします!>
「何かですか?」
<それはピーーとかピーーとかですよ>

検閲されました。

「――ぶふぅっ!」
「……ハカセ、鼻血が」


――エヴァとナナシ――


「ふん、情けない格好だな」
「……ぅ」
「何とか言ったらどうだ? 見られているだけでこんなにして……いい大人が恥ずかしくないのか? それも教師が」
「……ぃ」
「ん? 何だ、聞こえないぞ」
「……さい」
「聞こえないと言った」
「踏んで下さい!」
「踏んで……だと?」
「あ、ああ! 踏んで下さい!」
「……くくっ。くくく……あーはーはっはっは! 面白いぞ! いいだろう! 踏んでやろうじゃないかっ! ほらっ! ほらっ! これがいいんだろう!?」
「……うっ、ああ……いいっ!」
「変態教師め! ほらっ、ほらっ! 何だその顔は? それでも人間のつもりか? まだ犬畜生の面の方がマシだぞ!」
「く、……ううあ、ああっ!」
「何だ? 犬以下と言われて悦んでいるのか? 手の施しが無い変態だな貴様は!」
「へ、変態で……ゴメン」
「変態でごめんなさい、エヴァンジェリン様だろうが! 犬以下が生意気な口を聞くな!」
「も、申し訳ありません! 変態でごめんなさい、エヴァンジェリン様! 僕は犬以下です! ミジンコです!」
「ミジンコに失礼だろうが!」
「は、はい僕はミジンコ以下の……あれです! トイレのすっぽんってやるやつ以下です!」
「くくく、ははは! トイレのすっぽんてやるやつ以下だと? そうだ、その通りだ! 貴様はトイレのすっぽんてやるやつ以下だ! 無機物以下だ!」
「はい僕は無機物以下です!」
「無機物が人間の言葉を喋るか!」
「すっぽんすっぽんすっぽん!」
「くくく、あーはっはっは!」

――。

「どうだ?」
「いや、……は?」
「だからどうだって聞いてる。この文はどうだ? 興奮するか?」

俺は呆然としているエヴァに再び問うた。

「いや、というか……何だ、それは?」

『それ』とは俺が持っている台本だろう。
正確に言うなら、優雅に紅茶なんぞを飲んでいるエヴァの隣で朗読した台本の中の文だろう。

「まあ、ちょっとした勝負だ……じいさんとの」
「じじぃとの? ……何の勝負だ?」

胡散そうかつげんなりしているエヴァに俺は答えた。

「どちらがよりいやらしい官能小説を書けるか」
「貴様らはアホかっ!?」
「アホじゃない俺は天才だ……俺が天才だ!」

しかし何でこんな勝負をする事になったんだろうか……?
いや、考えるまでもない。
男とは常に闘争を求める生物だ。勝負の理由なんて些細なものだ。

「……で、この文はどうだ? じいさんに勝てるか?」
「知るかっ! 大体どうやって勝敗を決める気だっ?」
「学園祭で展示して票を集めるんだ」

俺の論破不能な案にエヴァは頭を抱えた。
手の施し様がない……とぶつぶつ言っている。

「一度じじぃとも真剣に話し合った方がいいな……学園のトップがアレだと?……悪夢だ」
「で、どうなんだ? 俺の官能小説は……何かクるものがあったか?」

俺の再度の質問にエヴァは溜息をついたあと

「……トイレのすっぽんとするやつの正式名称はラバーカップだ」
「マジで!?」

修正しておこう。
  
「大体なんだこのシチュエーションは……」

エヴァは俺から台本を奪い取り、パラパラとめくった。

「明らかに私と……貴様じゃないか」

後半は呟く様な声だったので聞こえなかった。
エヴァは頬を染めると

「貴様はあれか、その……そういう願望でもあるのか?」
「そういう願望?」
「だから……こうやって私と……そういう事をする願望だ!」

……?

「……ま、まあ貴様がどうしてもと言うのなら……この台本の内容を実演してやっても……いいぞ。流石にここまでハードなのはアレだが」

エヴァは顔を赤くして「リアリティを加えるためだけだからな! 貴様の文は少しリアリティに欠けているからな……勘違いするなよ!」などと言った。
……俺?
何か勘違いしているようだな……。

「その台本のエヴァの相手は俺じゃないぞ?」
「……は?」

エヴァは再び台本をめくる。

「しかし『教師』で……変態」
「何故俺見?」

不愉快過ぎてエセ中国語っぽく答えてしまった。

「タカミチに決まってるじゃないか」
「タカミチ!?」
「ちなみに学生の頃の秘めた想いをタカミチが打ち明ける……というシチュエーションだ」
「やめろ! 設定をリアルにするな!」

何だよ、さっきはリアリティが足りないとか言ってたのに。

「……貴様の中のタカミチはそんな変態なのか?」
「いや、絶対アイツこんな性癖持ってるって! 眼鏡だし!」
「眼鏡は関係無いだろう……」

スゴイむっつりっぽいんだよな……。
全然女に興味ありませんよ、みたいな顔してるしな。


 
――タカミチ――

「――へっくしゅん!」
「あ、大丈夫タカミチ? 風邪?」
「ん、いや。誰かが噂でもしてるんじゃないかな」
「へー。じゃあ次はタカミチの番だよ」
「じゃあ、この桂馬をここに動かして――王手!」
「ええっ!? な、何で……」
「はははっ。ネギ君は少し前だけを見すぎだよ……そこが君のいい所でもあるけどね」
「うー……。じゃあ王をここに動かして……」
「ははっ、無駄だよ。この状況で勝つ方法は無いよ」
「まだ諦めないよ! ナナシさんが『どんな時・でも諦めちゃ・駄目だよね――季語入れるの忘れた』って言ってたんだ!」
「その状況が良く分からけど……そうか、彼がそんなことを。ネギ君がこんな事を言うなんてね……これが彼の影響か」
「うん、だから諦めない! 王をここに移動して……」
「でも、どちらにしろこの状況で勝つ方法は……」
「移動先で伏せカード発動! 『カラミティジャンプ』でタカミチの陣にワープ!」
「ワープ!?」
「それから即効魔法発動! 『暴君』の効果で互いの陣の王以外の駒は全て死亡!」
「ちょ、ちょっと……」
「続けて陣の『ラベリングフィールド』効果により僕がドロー!」
「ら、らべ?」
「よし! 今引いたこのカード、もう分かってるよね?」
「いや、すまないけど分からない」
「ふふそうだよっ、『オーガニック的な何か』発動! 死亡した駒達の怨念がタカミチの王に憑依!」
「……」
「これで僕のターンは終わりだけど、次のターン……タカミチの王はカードの効果によって行動出来ない!」
「だから僕のターン! 王を移動してタカミチの王を……獲った!」
「……うん」
「やった! 僕の勝ちだ! わーい、タカミチに勝ったー」
「……ネギ君?」
「どうしたのタカミチ? あ、待ったは無しだよ」
「いや、……最近の将棋はこういうものなのかい?」
「え? あっ、そうか。タカミチは公式ルールでやってたんだね。ゴメンね、この辺りで公式ルール使ってる人って殆どいないから」
「……公式」
「僕も驚いたよー。ナナシさんに教えてもらったんだ。マホラ特別ルールていうらしいよ」
「初耳だよ」
「でもクラスの皆知ってたよ? 皆ナナシさんから聞いたって言ってたけど。ナナシさんってスゴイよねー」
「これが……彼の影響か」



――エヴァ家――

「――へっくすん!」

紅茶は飲んでいる時にくしゃみをしてしまったので、危うく紅茶を噴出すところだった。

「ところでエヴァは何でビショビショなんだ? そういう日なのか?」
「……貴様が私に向かって紅茶を噴出したからだ」

なるほど……。
俺は噴出したと思っていなかったが、現実には噴出していた。
自分の思っていたことと、実際に起こったことに相違が発生する。
これが……リアルブート(現実を侵す妄想)か。

「……私もいちいちこんな事で腹を立てるほどガキじゃない。土下座をすれば許してやる」

ビショビショのエヴァは明らかに怒りを我慢している様子でそんな事を言った。

「えー、土下座とかー、なんかー、いやだー」
「やらないとこれから貴様のことは『ナナピー』と呼ぶ」
「そ、それだけは勘弁してくれ!」

こ、こいつ……何てことを言うんだ……!
俺がやられて一番嫌なことを即効でするなんて……!
そうかこれが……『闇の福音』の恐ろしさってわけか……まさかこんな所で味わうなんてな。

「早くやれ、ナナピー」
「おぇぇぇ。わ、分かったやるから!」

仕方ない。たかが土下座をするだけだ。
殴られるよりはましまし。
しかし土下座か……

「でも、俺土下座が何なのか分からないぜ? あっ、あれか! あのたい焼きの中に詰まってるやつ!」
「それは餡子だ!」
「カスタードかもしれないぜ?」
「やかましい! というかこの流れは前もあった!」

あったっけ……?
良く覚えてるな。
誤魔化せそうにないか……仕方ない。
俺は土下座のポーズをとった。
エヴァの足が見える。
俺の前に仁王立ちをしている。
そして俺は顔を上げて聞いた。あ、パンツ見えた。

「……これで満足か?」
「ふん、満足した……わけがないだろう?」

ニヤリと笑った。

「最近少し調子に乗りすぎだ。ここらで上下関係というのを叩き込んでおこうと思ってな」
「上下関係……だと」
「忘れているかもしれんが、貴様は私の家の居候だ。つまり私のモノ……つまり私が貴様に何をしようが自由というわけだ」

な、何をする気だ……?
つーか俺ってこいつの所有物なのか……。

「額を地面につけろ」

有無を言わさない口調。
こいつ絶対今笑ってるよ……。
まあ、これであいつの怒りが収まるのならいいか。
額を地面につける。

「そのままこう言え、『私はエヴァ様の所有物です。エヴァ様には一生逆らいません』とな」
「……」
「早くやれナナピー」

……。

「私はエヴァ様の所有物です。エヴァ様には一生逆らいません、死ね!!」
「おい今何を言った!?」
「私はエヴァ様の所有物です。エヴァ様には一生逆らいません、猫と間違えてビニール袋を助ける為にトラックの前に飛び出て死ね!!」
「き、貴様反省する気は無いのか!?」

ぴゅ~と口笛を吹く。
俺は言われたことしか言ってませんよー。
何てことを思ってたら頭に何かが乗せられる感触。
これは……足か。

「どういうつもりだ?」
「貴様がマジメにしないから罰だ。……どうだ、この私に踏まれている気分は?」
「水虫がうつる」
「いい事を教えてやる……美人は水虫になんてならない」

こいつ自分で美人って……。

「じゃあ、このままでこう言え『私はエヴァ様の奴隷です。貴方に一生仕えます』……さあ言え」
「……」
「よし学校で貴様の事をナナピーと呼んでやろう」
「私はエヴァ様の奴隷です。貴方に一生仕えます」
「ふふん」

エヴァの楽しそうな声。
多分今、エヴァはスゴイいい笑顔をしていると思う。
我慢だ。我慢我慢。

「次はこうだ、『エヴァはとても美人だ。実は初めて会った時からお前のことが好きだったんだ』……こうだ」
「エヴァはとても美人だ。実は初めて会った時からお前のことが好きだったんだ」
「……ぅ」

たじろいだエヴァの声。
何でこいつ自分で言わせておいて照れてるの、馬鹿なの?

「……も、もう一度だ。いや、待て」

そう言ってエヴァは部屋から出て行く……と思ったらすぐに帰ってきた。
その手には……テープレコーダー。
カチリ、という音。

「よし、さあ言え」
「ゴメン。エヴァが俺のこと好きって言ってくれて嬉しいけど、想いには答えられない。別に嫌いってわけじゃない……そりゃトンボと比べるとお前の方が好きだ。でもカンガルーと比べると……カンガルーの方が好きなんだ」
「さっきと台詞と違うだろうが!? 私はカンガルーより下なのか!?」
「パンダ以上カンガルー以下かな」
「何でどっちも有袋類なんだ!? ……ふんっ!」

ズシリと頭にかかる重さが増えた。
たかだか女一人の力だが……それでも額が痛い。

「ほらっ! どうだっ! どんな気分だっ! 生徒に頭を踏まれてどんな気分だ? はははは!」

ぐりぐり。

「こうなったらあれだ。貴様が家で私に全身全霊を捧げていると噂を流してやろう。くくく……そんな事になれば貴様の元には小娘一人寄り付かなくなるだろうな! あーっはっはっは!」

もう、いいよね。
いいんだよね。
俺、我慢したよね。
ねえ、茶々丸さん?

(はい、ナナシさんは良く我慢しました……好きにしていいです)

よし脳内茶々丸さんからの許可が出たところで反撃だ。
さあ、諸君。反撃の時間だ!(cv.大塚明夫)

「ほらほらほら!」

ぐりぐりぐりと頭を踏みにじる足。
今エヴァは油断している。

「あ、茶々丸さん」
「何!? おい、違うぞこれは! 別にこいつに何かをしてたというわけじゃ……」

慌てて背後に弁明をしだすエヴァ。
俺はその足を掴む。

「……っと、な、何を……」

当然エヴァはバランスを崩す。
すかさず俺は立ち上がりながら、もう片方の足も掴み、エヴァの両足を引っ張り上げた!

「のわぁ!?」

エヴァは後方に倒れる。

「――ご!?」

あ。頭を床にぶつけた。
まあいい。
その間にマウント……と。

「……つぅー……貴様ぁ」
「ふはははは! 逆転だな!」

悔しそうな顔のエヴァ。
そして頭を打ったせいか涙目だ。

「幾らエヴァが合気道の達人だとしてもマウントを取られちゃどうもならんだろう」
「……どうかな」

不敵な笑みを浮かべるエヴァ。

「何を……っ!?」

――しゅっ
目に向かって直進してきた目潰しをギリギリで交わす。
こいつ……本気で潰しにきやがった!

「ちっ! 交わされたか……だが!」

再び狙いに来る目潰し。

「あ、ドドリアさん」
「誰だ!? ……はっ!」

隙が出来たエヴァの両手を掴み、そのまま床に押し付ける。
格好が格好なのでエヴァと顔をつつき合わせる格好になる。

「どうだ降参か」
「ぐぬぬ。 ……あと顔が近い」

顔を逸らしそんなことを言うエヴァ。
今の状況を客観的に考えると、俺が涙目のエヴァを押し倒している状況になっているが……問題は無いだろう。
勝った! エヴァに勝った!

「ふはははははは!」
「……く」

――がちゃり

「「あ」」

部屋の扉が開く音。

――どさり

俺達の状況を見た茶々丸さんが買い物袋を落とす音。

――一足おそかったです……

シルフの絶望の声。
……。
……。
……。
……頑張れ俺の脳のスーパーコンピューター!
この状況を打開出来る案を……!
かつて何度も俺の危機を救ってくれた脳よ……!
今再び我が身に光を……!
……。
……。
……そ、そうか! その手があったか!

俺は馬乗りになっている状態から立ち上がる。
そして茶々丸さんとシルフの元に向かう。
そして……

「え、エヴァが! 俺の事をピーーしようと! 誰もいないのをいい事に!」
「……そうでしたか」
<やっぱりそうだったんですね! 私の予感は当たっていました! マスター、まだ何もされていませんか!?>
「……16禁ぐらい」
<16禁!? え、それって……具体的には……?>
「……『ふふふ、いいじゃないか私達の他には誰もいない。天井のシミでも数えていればいいさ』そう言ってエヴァは俺の服を脱がし……」
<退学です! 退学ですよー!>

俺は顔を覆ってさめざめと泣く。
楓から教えてもらった『嘘泣きの術』がこんな時に役立つとは……。
よし、今度あんまん買ってやろう。

「……マスター」
<エヴァさん!>
「いや、待て! 貴様らはさっきの状況からその男の言う事を信じるのか!?」

エヴァの異議あり!

「……信じます」
<信じるに決まってるじゃないですか! 見て下さい、このマスターの目を! 明らかに光が無くなって心に傷を負った目です! いわゆるレ○プ目です!>
「もう、お婿に行けない」

楓から教えてもらった『希望無き者の眼の術』がこんな時に役立つとは……。
よし、今度たい焼き買ってやろう。
……。
……。
まあ、何だかんだで誤解は解けた。
エヴァは未遂だという事で茶々丸さんに厳重注意を受けただけですんだ。
……解けてないな。


――次の日――

「おい楓」
「何でござるか、師匠?」
「あんまんとたい焼きを買ってやる」
「……風邪でござるか?」
「失礼な奴だな。いらんのか?」
「食べるでござるー」

オチなし。



[3132] それが答えだ!ばんがいへん十五
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/03/13 08:06
「マスターが凄く安らかに眠っています……ナナシさんの膝の上はそんなに落ち着くのでしょうか」
「そ、そうかな」

茶々丸さんの少し羨ましそうな声。
俺は膝の上に頭を預け眠っているエヴァを見る。

「う、うーん……ぐぅぅ……うぅ」

安らか……かな?
すっごいうなされてるな。
何故うなされてるか?
↓こんな感じ

ソファーで映画を見る。
エヴァ途中で寝る。
エヴァの寝言に俺がイラッ☆
顔に落書き<額に肉を書きましょう>
落書き中に「あれ? これ油性じゃん」
消そうとする。
消えない。
やべぇ……怒られる。
どうしよう……
シルフ<確かマヨネーズで拭けば……>
俺「マジで!?」
マヨネーズで拭く。
消えない。
エヴァの顔がべたべたになった。
マヨネーズ臭い←今ここ。
……。
まあいいか!
ソファに座り、テレビを見ながら心地よい空気を楽しんでいたら、唐突に茶々丸さんが言った。

「私はナナシさんに会ってから変わりました」

茶々丸さんの過去を懐かしむ様な声。

「そうだね。茶々丸さんは変わった。……そこら辺の人間よりずっと人間らしいよ」
「そう、でしょうか?」

頭を傾げこちらを見つめる茶々丸さん。
茶々丸さんは変わった。
無表情なのは今も昔も変わらないが、今はその無表情の中に確かな感情を宿している。
それに見た目もそうだ。
初見で茶々丸さんをロボットと思う人は少ないだろう。
それぐらい人間に近くなった。
肌なんか人口皮膚とは思えないぐらい……あれ?

「また皮膚変わった?」
「はい。ハカセが前より人肌に近い材質の物をつけてくれました」

確かに前に比べ肌がこう……しっとりしてる?

「触っていい?」
「……どうぞ」

許可を得たので茶々丸さんの頬に触れる。
……。
こ、これは……!
すごい……!
何というか……しっとりしてて、スベスベしてて、モチモチしてて……何だこれ?!
な、なんという感触! 人間の肌ではあり得ない幻想の様な感触!
スゴイよハカセさん! いい仕事してますね!
モチモチと頬を触っていたら、手の平に仄かな熱を感じた。

「……あの」
「あ、ゴメン。……痛かった? 離した方がいい?」
「いえ、その……」

茶々丸さんは目を伏せて

「私も……触ってもいいでしょうか?」

そんな事を言った。
成る程……等価交換というわけか。

「いいよ」
「……では」

茶々丸さんの手が恐る恐る俺の頬に触れる。
……少し冷たい。
茶々丸さんの手は俺の頬を撫でる様に触れる。
そして茶々丸さんも俺の頬をモチモチする。
俺もモチモチ。
茶々丸さんもモチモチ。

<これ私が突っ込んだ方がいいんでしょうか……?>

シルフはムシムシ。
モチモチしながら、俺は茶々丸さんの顔を見ながら昔を思い出していた。
そう……茶々丸さんと初めて会った時のことだ。
あれはエヴァの家に厄介になってから半年経った頃だろうか……


番外編 アイ・ロボット(前編)



<マスターの~好きな食べ物は~蜂蜜たっぷりの~フルーツ盛り合わせた~~……そば!>
「そばぁ!?」

シルフの謎の歌に俺はズシャンと吉本ばりのアクションで俺は転んだ。
――パリーン!
そして何かが割れる音。
……げ!
背後を見ると高そうな壺が真っ二つに割れている。
え、えらいこっちゃ!
……。
さて、俺が何をしていたか。
ズバリ掃除だ。
何故俺が掃除をしているか。

――数週間前――

俺がこの家に厄介になって3ヶ月が経った。
その間俺は、食っちゃ寝食っちゃ寝をしていたわけだが。
この世界の情報集めの為にテレビを見ていた時、ある単語が出てきた。

「……ニート?」

そうニートである。

<何だか強そうな響きがしますねっ>

俺もそう思った。
名前の上に『ネオ』や『スーパー』をつけるといい感じではないだろうか?
テレビの説明では良く分からなかったが、その単語は俺を強く惹きつけた。
というわけでエヴァに聞いてみた。

「……ニートか。……また下らん知識を取り入れたな」
「ああ。何なんだそれは?」

俺の質問にエヴァは顎に手を当て、少し考えたあと手をポンと打ち、

「今の貴様そのものだな」

いつもの様にクククと笑いながらそう答えた。
今の俺……?

「つまり二枚目で歌って踊れるティーンエイジャーというわけか」
「覚えたばかりの言葉を得意げに話すのはやめておけ……いらん恥をかくぞ」

結局エヴァに聞いても分からなかった。
というわけで俺は最近知り合いになった少女Aに聞いてみることにした。

「……ニートですか」

俺の隣でベンチに座る少女。
恐らくこの学園の生徒なのだろう……エヴァと同じ制服を着ている。
そして体型はエヴァに負けず劣らず小さい。
そして青い髪に特徴的なデコ。
会う時は常に何かジュースを持っている。
彼女とは少し前に出会い、たまに公園で会ったら話す程度の仲だ。
俺は彼女の名前を知らず、彼女の俺の名前を知らない。
だが、俺は彼女のことを友人だと思っている。
俺の数少ない友人の一人である。
ちなみに彼女との出会いはびっくりする程漫画チックな感じだった。

「そうニート。一緒に住んでいるヤツには『今の貴様そのものやで』って言われたんだが」
「その人は関西出身の方ですか」

数少ない友人であるる京都出身の少女と混じってしまった。
少女Aは少し考えたあと、少し聞き辛そうに

「その……貴方は……定職に就いてるですか?」
「定職?」
<仕事の事ですよ>

仕事。
仕事か。
……。
してないな。

「いや、特には仕事に就いてないけど」
「……では……もしかして学生だったりするですか?」
「いや学生じゃない。確かに俺の放つオーラのそれは知性の豊かさを豊潤に含んでいるけどな」
「……」

少女は再び考えこんだ。
そしてやはり言い辛そうに

「……やっぱり貴方はニートです」

やっぱり俺はニートらしい。
ふむ……エヴァにも言われていることから俺がニートであるのは間違い様の無い事実の様だ。
しかして、その言葉が持つ意味は何なのだろうか?
聞いてみた。
……。
……。
……。
……聞いてから後悔した。
俺は家に帰ると、ソファで寝転ぶエヴァの足を掴み、ソファから引きずり下ろし(もちろん殴られた)宣言した。

「仕事をする!」
「……いきなり何だ」

エヴァは頭のコブを押さえながら、胡散臭い物を見る目で俺を見た。
俺はそのエヴァに如何に俺の労働意欲が凄まじいかを伝えた。
そして今日の夕飯にビーフシチューが食べたいとも伝えた。

「夕飯の方は無理だ」
「何で!? 家政婦さんは!?」

この家には家事をする為に家政婦さんがいる。
エヴァの話では本来世話をしてくれる従者がいるらしいのだが、諸事情により働けないらしい。
というわけでこの家には家政婦が通っているのだが、エヴァの余りにも暴虐っぷりにやめる人も多い。
俺が来たばかりの頃には7人程居た家政婦さんは、今では一人、市原さん(23歳)のみになってしまった。
市原さんはいい人だった。口が悪いエヴァにも冷静な大人の対応をするし、料理も上手い、仕事もテキパキこなす。
色んな意味で完璧な人だったが、容姿が少し、その……人を選ぶ感じだ。天は人に二物を与えず。

「ああ、今日やめた」
「何故に!?」
「結婚するそうだ」

何と!
相手の人は何て物好……いや、市原さんの内面を見てくれる素晴らしい人に違いない!
幸せになってくださいね!

「というわけだ。今この家には家事をする人間がいない、料理もな」
「じゃあ、テメーが作れよ」
<うわぁ、マスターってば居候なのにその態度……そんな所も好きっ!>

エヴァは俺の発言に怒るかと思いきや、妙案が浮かんだとばかりに言った。

「貴様仕事がしたいと言ったな?」
「言ったけど何だよ」

エヴァは俺に指を突きつけ

「貴様、この家で家政婦をしろ!」

ズバーーーーン!(効果音)
家政婦?
俺が?
エヴァは自分の発言によっぽど自信があるのか腕を組み、うんうん頷きながら

「我ながらいいアイデアだ。貴様なら加減せずに好き放題言えるからな」
<マスターが家政婦……? はっ!? まさかエヴァさん!? マスターに御主人さまとか呼ばせてニャンニャンする気ですか!? 何て鬼畜! 今すぐ私と代わって下さい!>
「そんな事するかっ!」
<じゃあパヤパヤするんですね!>

……。
……と、まあこんな事があったのさ。


――現在――

「よ、よし……くっついた!」

俺は壺を修復した。
アロンアルファは素晴らしい。
さながら神の力だ。

<いや……どうでしょう? 割れ目がくっきりと残ってますけど……>
「大丈夫だって。エヴァ結構アホだし、模様だって言い張れば何とかなるって」

俺は修復した壺を元の場所に戻した。
しかし俺も家政婦が板についてきたな。

<そうですねー。最初の頃はお皿を洗っても6割ぐらい割ってましたからねー>
「ああ、打率ならイチローを超えてるな」

見かねたエヴァが残りを洗っていたのは印象的だ。
しかし人は学ぶ生物。
俺の技術は上達した。
学園にいた頃は(ある意味)天才と言われていた俺だ。
その技術の上昇率は凄まじかった。

<流石マスターと言うべきか、今ではお皿を割る確立は0%! もはやマスターの称号は『家事マスター』……いえ『家事プレジデント』と言ってもいいでしょう!>

ああ、そうかもしれない。
あれだけ割っていた皿は、今ではヒビを入れるだけに留まっている。
このまま極めれば『家事ゴッド』に至る事も容易くない。

<あ、そろそろエヴァさんが帰って来るころですねっ>
「もうそんな時間か」

時計を見る。
確かにエヴァが帰って来る時間だ。

「夕飯の準備だな」

台所に向かう。

<今日は何にするんですか?>
「取り合えずご飯は炊いてるから……和食にするか」

既にご飯は炊けている。
もちろん水で洗った。
昔の様に洗剤で洗う様な愚行は侵さなかった。
戸棚を開ける。
和食だから……

「今日は醤油にするか」
<昨日は味噌でしたね>

一昨日はトンコツだった。
それを取り出す。
炊飯ジャーと今取り出したそれを食卓に置く。
後は……お湯を用意して

「出来た!」
<これぞ日本の食卓ですねっ!>

後は取り出したこれにお湯を注ぐだけだからな。
最近は種類も多いし、飽きることはないしな。
飽きることは……ないんだ。
……。
……やっぱり飽きるよなぁ。
毎日カップラーメンて。
一人暮らしの大学生じゃないんだから。
はぁ……。
幾ら天才と言われた俺にも短所はある。
それは料理だ。
向こうの世界にいた時もそうだが、調理が全く出来ない。
する必要が無かったともいうのだが。
子供の時は親が作ってくれたし、学生の時は学食があったし弁当を作ってくれる人がいた、旅をしている時もシルフがいた、魔王城にいた時もダリアが作ってくれた。
いきなり料理を作れと言われても無理なのだ。
それでも俺は努力した。
卵焼きを作ることは出来るようになった。
取り合えず中途半端は嫌なので卵焼きを極めてみた。
そして卵焼きを極めた。
エヴァには好評だった。
正直卵焼きだけなら世界で10本の指に入っていると自負している。
しかし余りにも卵焼きを極めてしまったせいで、何を作っても卵焼きの味がする様になってしまった。
もうこれは卵焼きの呪いと言ってもいいかもしれない。
……。
卵焼き作るか。
俺は卵焼きを作り食卓に並べた。
とても変な食卓になってしまった。

<あ、エヴァさん帰って来たみたいですよ>

まだ玄関から音も気配もしないが、シルフ言うならそうなのだろう。
玄関に向かい待つ。

――がちゃり

玄関の扉が開く。

「お帰りエヴァ。卵焼きにする? 卵焼きにする? それとも……た・ま・ご・や・き?」
「……またか。他に何か作れるようにはなってないのか」
「卵焼き味のハンバーグが作れた」
「……はぁ」

ため息を吐くエヴァ。
しかし思いのほか落胆した様子は無い。
何か考えがある顔だ。

「その卵焼き生活とも今日でお別れだ」

エヴァは不敵に笑った。
……何だ?

「入れ」

エヴァは背後に声を掛ける。
誰かいるのか?

「分かりました」

その声は感情の篭っていない無機質なものだった。
しかし綺麗な声だった。
エヴァの背後から一人の少女が現れる。

「――っ」

変な声が出てしまった。
多分俺は見ほれてしまったんだろう。
とても綺麗な少女だった。
エヴァより頭二つ程高い身長。
光沢を放っている緑色の髪。
頭には白い……何だろうあれ?
そして無表情。
何となく、エヴァの部屋に飾ってある人形の様に感じた。

「……だ、誰?」
「私の新しい従者だ」

少女は一歩前に出て、きっちりと腰を曲げ

「初めまして、これからよろしくお願いします」

そんな事を言った。

<や、やばいです……! メカ娘とか私と完全に被ってるじゃないですか……!?>

シルフもそんな事を言った。
……。
これが俺と茶々丸さんの出会いだった。

――後編へ続く



















[3132] それが答えだ!ばんがいへん十六
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/04/14 18:13
「ふぁ~……眠い」

教室の扉の前で欠伸をかみ殺す。

<もう、マスターったらしっかりして下さいよっ。生徒達に笑われちゃいますよ?>
「む」

それはいかんな。
俺は人を笑うのは好きだが、笑われるのは嫌いなんだ。

「せいっ!」

パンッ、と自分の頬を叩き……と思ったが、痛そうなので通りがかった瀬流彦先生にピースをした。
ピースし返してきた。
なかなかノリがいい先生だ。
さて……

「今日もピリッと行きますか!」


番外編 基本的にこんな感じの仕事


扉を開け、教室に入り――

「……う」

頭上から落ちてきた黒板消しが頭に着地した。
そのまま教卓の前まで歩き、教卓をバンッと叩く。
生徒達を睨みながら

「朝から舐めたまねしてくれるじゃないか……誰だ! これを仕掛けたのは!?」

黒板消しを指差す。
生徒達は無言で、気まずそうな顔でこちらを見る。
ふん……だんまりか。

「お前か! 楓!」
「拙者が師匠にそんな真似をするはずがないでござる」

手をパタパタと否定する。

「……あの」

恐る恐る手を挙げたのは綾瀬夕映だ。

「何ぃ!? お前がやったのか!? ……はっ!? ま、まさか前にお前がいない隙にジュース飲んで、余りのマズさにそのままジュースに逆流させたことを恨んでの犯行か!? つーか何あのみたらし団子ジュースて」
「初耳ですよ!? しかも私それ飲んだですよ!?」

凄くマズかった。
噴出さなかっただけマシだと思う。

「そ、その事については後でしっかりと追求させてもらうです」
「追求する者には死が訪れる」
「しっかりと追求するです。……で黒板消しを仕掛けた人ですが」

む、そっちの方が重要だ。
この俺にあんな真似をする愚かな人間は誰かな……クク」

「先生が自分で仕掛けました」
「……」
<あ! そう言えばそうでしたね。「へへへ、こんなのに引っかかる奴がいたら大笑いだぜグヘヘ」とか言って仕掛けてましたね>
「出席を取る」
「誤魔化したです!?」

出席簿を開き名前を呼ぼうと、

「あ、あの……ナナシ先生?」
「どうした、いいんちょ?」
「……ネギ先生は?」

……。
あーそうか。

「死にました。死因は紅茶の飲みすぎだ」
「はいぃ!?」
「適当言うんじゃないわよ!? 風邪よ、風邪! 今頃部屋で寝てるわよ!」

アスナが言った。
そういうわけである。
やっぱアレかな。
昨日二人で卓球してたのが原因かな……?
妙に白熱して、二人とも上半身裸だったからな。
でも俺はピンピンしているんだが……鍛え方が違うんだな。

「というわけでネギ君は休みです。で、今から出席を取るから呼ばれたら、元気に返事と最近あった印象的な出来事を報告してください」
「また面倒なことを……」

アスナが嫌そうに言った。

「えー、では1番……相坂さよ」
『ハイ! え、えーと最近あった出来事は……えーと』
「2番、朝倉和美さん」
<マスター、まだ喋ってる途中なのに酷いじゃないですか。マスターも悪気は無いんですよ、さよちゃん?>
『い、いえ! いいんです! いい人なのは知ってますし……見えないから仕方ないんですよ』
<さよちゃん……>

……さっきからシルフが誰かと話している。
そこには誰もいないんだが……なんか怖い。
気にしないことにしよう。

「はーい! 最近あった出来事は……この間、ナナシ先生の後つけてて、裏路地の行き止まりで先生が消えたんだけど……どういう事?」
「ストーカーはやめろ」
「だって先生って何か秘密ありそうじゃん、ネギ君もだけど」

最近誰かにつけられてると思ったらこいつか……。
……。

「4番綾瀬……ゆえっち」
「そこまで言ったんなら最後まで名前で呼ぶです! 最近あった出来事は……この前の休みの日に、先生が公園のベンチの下に蹲っているを見たですけど何をしてたですか?」
「内緒」

……。

「7番……かきざきいぃぃぃぃっ!!?」
「な、なに!?」
「特に意味は無い」

……。

「8番、神楽坂アスナ」
「はいはい」
「パン買ってこい」
「いやよ!? 何であんたのパシリにされないといけないのよ!?」
「パシリとパシェリーのどっちがいい?」
「どっちも嫌よっ!」
<わがままですね>

……。

「10番、茶々丸さん」
「はい。最近私は思うのですが……人とは一体何でしょうか? 何をもって人と定義されるのでしょうか? ……私には分かりません。……私はどうしたら人になれるのでしょうか」
「茶々丸さん……」
「……申し訳ありません……私は……」

茶々丸さんの席まで行き、手を握る。

「俺にはさ、その答えは分からないけどさ……どうでもいいんじゃないかな?」
「……え」
「だって……茶々丸さんは茶々丸さんじゃないか」
「私は……私……?」
「そうだよ、茶々丸さんは茶々丸さんで……俺の大切な……」
「大切な……何でしょうか?」
「……大切な……大切な……家族だよ」

ガタン。
生徒達が次から次でと席を立つ。

「そうアル! 茶々丸は茶々丸アル!」
「そうよ!」
「いい事言うじゃない!」
「感動したわ!」

パチパチパチ!
拍手が響く。

「みんな! 先生と茶々丸さんを胴上げよ!」

ワーッショイ! ワーッショイ!

「皆さん……ありがとうございます」
「お前ら、サイコーだ!」

ワーッショイ! ワーッショイ!

「……何だこの茶番」

長谷川千雨の呟きは喧騒に掻き消えた。

……。
……。

「えー、では12番クーフェイ」
「はいアル!」

いい返事だ。

「最近あった印象的な出来事アルかー……特にないアル!」
「あるのか無いのかどっちだ」
「ないアル!」

……。

「13番、近衛木乃香」
「はーい。最近あったのはなぁ……あ! 実家の方からおっきいスイカが届いてん。ナナシ君食べにくる?」
「いくいく! 今から行こうぜ!」
「授業しなさいよっ!」

……。

「14番、早乙女ハルナ……パルパル」
「はい。この間、ナナシ先生とネギ君が一緒に銭湯に行くの見たんだけど……」
「ん? ああ、行ったよ。ネギ君、銭湯に行ったこと無いって言ってたからさ、連れて行ってあげたんだ」
「へ、へー……ふーん」
「何だその怪しげな笑みは」

……。

「15番、桜咲刹那……せっちゃん」
「はい。先生、今日の放課後よろしくお願いします」
「あー、うん」

いわゆる一つの鍛錬だ。
たまに一緒にする。
相手がいると非常に良い鍛錬になるそうだ。

「せっちゃん、ナナシ君と何かすんのー?」
「へ? え、ええ、少し用事が……」
「ウチも行ってええ?」
「ええ!?」
「あかんの? ……せっちゃん」
「是非来て下さい!」

木乃香のウルウルとした視線に刹那は負けた。
修学旅行終わってから、大分仲良くなったな……いい事だ。

「16番、佐々木まき絵……まっきー」
「はーい! ねえ先生、ネギ君のお見舞いに行っていい?」
「いいよ。ネギ君ラムネが大好物だから持って行ってやれば喜ぶよ」
「……それあんたの好物じゃないの」

アスナがボソリと言った。
…….

「19番、超鈴音……ちゃっぴー」
「……」
「ん、何だよ?」
「……いや、何でもないネ」

何だ今の何かを探るような視線は。
……。

「20番、長瀬楓」
「師匠! 拙者にあだなは無いのでござるか?」
「えー……忍ペンまん丸」
「不服でござる!」
「今度までに考えとくよ……あと返事しろよ」
「はいでござる。最近の出来事は……この間のかくれんぼで結局師匠は見つからなかったでござるが、一体どこに隠れていたでござる?」
「修行が足らん」

正解は公園のベンチの下。
……。

「22、23番の双子」
「色々と酷いよ!」
「ボク達一まとめ!?」

……。 

「24番、葉加瀬聡美……ハカセ」
「はい」
「ハカセ、例のアレはどんな感じだ」
「ふふふ、今最終調整中ですよ」
「そうかそうか……ククク」
「例のアレって何でござる?」
「え? えー……あー……安眠まくら?」
「何で疑問系でござる?」

……。

「25番、長谷川千雨……ちうたん」
「……っ。……はい」
「最近あった印象的な出来事は?」
「ねーよ……無いです」
「あのコスプレいい感じだったよ」
「言うなよっ!? 二人の時に言えよっ!」

他の皆は?といった感じの反応だった。

……。

「26番、エヴァ」
「……」
「おい、エヴァ」
「……zz」

寝てる。
そうか……昨日遅くまで一緒にテレビ見てたからな。
はは……仕方ない。

「茶々丸さん、何か顔に書いといて」
「分かりました」

……。

「27番、宮崎のどかさん」
「は、はい」
「ネギ君とは上手くいってるか?」
「え、ええ!? い、いえそのあの……」
<この間、図書館でデートしてませんでしたか?>
「ち、違います! あ、あれはデートとかじゃなくて……その、ネギ先生がオススメの本を教えて下さいって……言ってその……」

顔を真っ赤にして俯く宮崎だった。
……。

「29番、雪広あやか……いいんちょ」

……ん?

「いいんちょ?」

あれ?
っていうか席にいない……。

「あー、ネギ君が風邪って聞いた瞬間に出てったよ」

隣の朝倉が言った。
……。
いいんちょ、欠席と。
……。

「えー、では授業を始める。居眠りした人には、漏れなく落書きがついてくるので気をつけろよ」
<皆さん、勉強は嫌いだと思います。ですがきっと役に立つ日がきます! 将来きっと役に立ちます! 私が言うんだから間違いありません>
「お前に言われてもしっくり来ないと思うぞ」
<皆さんも頑張って勉強して私のようなカッコイイ時計になってくださいねっ!>

無理だろ……。




[3132] それが答えだ!ばんがいへん十七
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/04/14 18:12
<マスター、おはようございます!>
「……う」

朝から騒がしいシルフに起こされた。
こいつの方が早く起きるなんて珍しいな。
しかし朝からこのテンションは何だ。

<あの、マスター。私ずっと前から思ってた事があるんですけど>
「……なんだよ?」
<マスターって両生類っぽい顔ですよねっ?>
「死ねよ」

朝でイライラしていた俺は机の角にシルフをガンガンぶつけた。

<ちょ! いたい! 痛いですよ!? へこむ! へこんじゃいます! 嘘です! さっきのは嘘ですよ! エイプリルフールですよっ!>
「……エイプリルフール?」


番外編 ライアーライアー


<――というわけで、今日は嘘をついてもいい日なんですよ>
「へぇー……合法的に?」

変わった日もあるもんだ。
サンタといい、シシマイといいこの世界はどこか狂ってるな。

<はい、合法的にアリです>

法的に嘘をついてもいいのか。

「すげえな。じゃあ今日は詐欺師が大活躍だな」
<そうですねー。統計的に4月1日は詐欺師の被害報告が1年の内でトップになってますねー>

ほほう。
詐欺師が儲かる日か。
しかし、面白い。
俺もこの日にあやかってみるか。

「じゃあ、今日は会う人全員に嘘をつくかな」
<流石マスター! 空気を読める男は言うことが違いますねっ>
「ふふふ」

じゃあ、取り合えずさっきのお返しのシルフに嘘をつくか。

「えーと、じゃあ……シルフ、お前って実は男なんだよ」
<へー、それは驚きですね>
「あー、あと……この間お前の修理した時になんかネジが一本余った」
<わー、それは大変ですねー>

む、こんなもんじゃ駄目か。
実はいうと後者は本当の事だったりするんだが……まあいいや。

<じゃあ、私も……マスターなんて大っキライです! 顔も見たくありません! 考えうる最悪の死に方で死んで下さい! Hな本買った帰りに死んで下さい!>
「え、お前って俺のこと嫌いなのか……」
<え? あ、い、いや嘘ですよ! 本当は好きで好きでこの思いをどこにぶつければいいか分からないんです! さっき私は机の角にぶつけられましたけど!>
「俺って結構お前の事……好きだったんだけどなぁ……」

俺は残念そうに言った。

<え!? ま、ますたー!? 今なんと!? ワンモアセイ!> 
「お前のこと結構好きなんだけどなぁ……なぁ……なぁ……(エコー)」
<ほ、本当ですか!? 今の聞きましたか皆さん!?>

誰だよ皆さん。

<わ、わ……凄く嬉しいです……な、なんか照れてしまいますね。……私とマスターって両思いだったんですか……ふふ>

こんな感じで嘘をついていけばいいんだな。
よし、取り合えずはエヴァだな。
俺はぽわぽわしてるシルフを放っておいて、リビングに降りた。
そこには新聞を飲みながら紅茶を見ているエヴァがいた。
あ、いや違う紅茶を飲みながら新聞を見てるんだ。

「ん? 貴様か……随分遅い起床だな」
「茶々丸さんは?」
「卵がきれてるとかで買いに行った」
「ふーん」

なら丁度いい。
さてエヴァにつく嘘か……。
予想外かつ、信じられる内容の嘘にしないとな……。
うーむ。
よし!

「エヴァ、大切な話がある」
「何だ? ……おい、まさか!? また壁に穴を開けたと言うんじゃないだろうな!?」
「ち、違います」

俺は敬語で否定した。
前科があるのでキッパリと否定出来ないのが辛いところだ。

「大切な話なんだ!」

俺は出来るだけ真剣な目で、エヴァの目を見つめながら言った。
エヴァに俺の真剣さが伝わったのか、

「……そうか。本当に大切な話らしいな」
「ああ」

信じた。
俺は座っているエヴァに視線を合わせる様にかがみこみ、手を握った。

「……一体何なんだ」

エヴァは俺から視線をずらす。
よし、頑張れ俺! やれば出来る! 
そうして自分に暗示をかけ言った。

「――実はお前の事が好きなんだ」
「……は?」

エヴァはポカンとした表情になった。
む、確かに今のは信じにくいか。
だが、まだだ……!

「あのな、私は忙しいんだ。貴様の与太話に付き合っている暇は無い」

エヴァはやれやれとかぶりを振りながら言った。
しかし、少し目が泳いで頬が赤い。

「ははっ……やっぱり信じられないよな」
「当たり前だ。……どういうつもりだ? 何を企んでいる?」
「企んでなんかいない。本当に好きなんだ」
「……今の今までそんな素振りは見せなかっただろうが」
「うん、多分ずっと近くにいたから……これが好きって気持ちだって理解してなかったんだと思う。……でも、やっぱり駄目なんだ! 幾らこの感情について考えてもお前の顔しか浮かばないんだ! ……おげぇ」
「何故えずいたっ!?」
「気にするな」

余りにも今の自分の台詞がキモかった為、朝からリヴァースしてしまうところだった。
ここで畳み掛ける!

「お前のことを考えると食事も禄に通らないんだ」
「……いや、昨日3杯もおかわりを……しかしいつもは5杯は食べるな」

3杯目はそっと出しました。

「夜も眠れないんだ」
「昨日10時に部屋に帰った……いや、昨日貴様の部屋から何か唸る声が聞こえたな」
「ああ、お前の事を考えていて眠れなかったんだ」

本当はシルフの寝言だったんだが。
何か<今です!今がアーカードを殺す最後のチャンスです!>とか呟いてた。
何だよその夢。
まあいい。
最後の畳み込みだ。
俺は立ち上がり腕を上げ

「うぉぉぉー!! あぁぁぁーー!! エヴァぁぁぁlー!! 愛してる! お前に夢中だぁぁー!!」

と叫んだ。

<エレナとエヴァって似てますよね>

シルフが元ネタを匂わす台詞を言った。

「わ、分かったから落ち着け! 貴様が真剣なのも分かった。まあ、私の様に美人な女と一緒に暮らしていて惚れるなというのも無理があるか……」

俺は少しイラッときたが我慢した。

「貴様の気持ちは分かった。……だが、その……あまりにも突然過ぎて正直私もどうすればいいか分からん」
「そうか……そうだよな」
「だが今日中に何らかの返答はする」
「ああ、分かった」
「……少し一人にさせてくれ」

そのエヴァの言葉に俺はリビングを出た。
出た後にこっそり覗いてみた。

「……クククッ、そうか奴がな……フフッ。まあ、当然といえば当然か……いや、遅すぎたぐらいだ」

エヴァが一人でニヤニヤしている

「これで眷属にする口実が出来た。奴も私と共に一生を歩めるのを光栄に思うだろう……ククッ」

そのまま見ていると笑ってしまいそうなので、その場から去った。
しかし意外と信じるもんだな。
そんな風に思っていると、玄関にドアが開きメイド服の茶々丸さんが帰ってきた。
よし次は茶々丸さんだ。
しかしどんな嘘にしようか……。

<あー、嘘で良かったーみたいな嘘はどうですか?>
「成る程。しずかちゃん方式か」

それにしよう。
俺は玄関前の廊下で茶々丸さんを待ち受ける。

「茶々丸さん、お帰り」
「はい、今戻りました」
「とても大切な話があるんだ」
「大切な……ですか?」

茶々丸さんは微妙に頭を傾げた。
リビングに入るのはマズイのでその場で話すことした。
廊下に正座して向かい合い俺と茶々丸さん。

「……それで、お話とは?」
「実は――」

俺は深刻そうな顔をしつつ、十分に間を空け

「――元の世界に帰ることになった」

そう言った。
こういう嘘なら、後で、嘘で良かったーとなるだろう。
さて、俺の嘘を聞いた茶々丸さんはいつもの無表情だった。
というより俺が何と言ったか理解出来ていない顔だった。

「もう一度よろしいですか?」
「うん……元の世界に帰ることにした」
「……元の……世界?」

茶々丸さんは俺の言葉を反芻する様に呟く。

「……かえ……る?」
「うん」
「……かえる……のですか?」
「遺憾ながら」

相変わらず無表情の茶々丸さんだが、気のせいか目が潤んでいる様に見える。

「……え?」

茶々丸さんは自分の顔に異常を感じた様だ。
自分の頬に手を当てる。
そして液体に触れる。
……これは。

「……これは……洗浄液が……何故?」

茶々丸さんの目に溜まっていた液体は、目からこぼれ出した。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。

<あー! マスターが茶々丸泣ーかした! いーけないんだ、いけないんだ! せーんせいに言ってやろー……ってマスター先生でしたねっ! まーすたーにに言ってやろー>

シルフうぜぇ。
まさか泣くとは思ってなかった。
しかも初めての涙がこんな何気ない番外編で……。
や、やっぱりこれ以上は無理だ。

「ご、ごめん茶々丸さん! 今の嘘!」
「……嘘、ですか? 以前私に言った『ずっと側にいる、どこにも行かない』……というのは嘘だったのですか」
「いや、違うから! そっちじゃなくて……っていうか言ったっけ!?」

俺は茶々丸さんに説明した。
今日が嘘をついていい日で少し調子に乗った。どこにも行きません。

「……そうでしたか。では、元の世界には……」
「帰らないよ」
「……それは……安心しました」

そして茶々丸さんは

「洗浄液が止まらないので、ハカセの元に行ってきます」

と言い出て行った。
俺はかなりの罪悪感を感じた。
そして茶々丸さんには二度と嘘をつかない、と決心した。
そしてあまり人を傷つけるかもしれない嘘は駄目なんだなぁと小学生っぽく思った。
そして俺の能力は嘘を現実にする能力!と中二病っぽく思った。
取り合えず、二人だけにしか嘘をつかないのも勿体無いと感じたので外に出ることにした。
道中

<あっ、そういえばマスター>
「なに?」
<私達が両思いになった記念日として今日という日を『インデペンデンス・デイ』と名付けようと思うんですが>
「いや、俺達両思いじゃないから。あと別に独立とかしてないから」
<え!? だってさっきマスター、私の事好きって――あぁぁぁぁ!? エイプリルフールでした!?>

そんな事があったが別にどうでもいい。
本当にどうでもいい。
歩いていると仲良さそうに歩く二人組みがいた。

「おーい! そこのラブラブカップル!」
「ら、らぶらぶ!?」
「ウチら、らぶらぶやって~。良かったなぁせっちゃん」
 
修学旅行を経て、かなり親密になった二人だった。
よし嘘つくか。

「そういえば木乃香」
「なにー?」
「結婚しようぜ!」
「結婚!?」

俺の『デュエルしようぜ』的なノリの告白に刹那が噴出した。
正面に立っていた俺に唾がかかったが木乃香が拭いてくれたので問題は無かった。
刹那の顔は真っ赤になり、わたわたしている(わたわた:混乱している的な意味でよい)

「け、結婚ってそんなっ、何故!? それにお嬢様にも心の準備というものがっ!」
「ええよー」
「いいってさ」
「何でそんなに軽いんですか!?」
<刹那ちゃんも軽そうですね……羽だけに>

木乃香の『了承』並のスピードの返答に刹那に混乱は有頂天に達しようとしていた。

「いや、俺もそろそろ身を固めようと思ってな。それに木乃香と結婚したら楽しそうじゃん」
「せやなあ、ウチも楽しいと思うでー」
「そ、そんな理由で!?」

でも仮に結婚したとして、じいさんの孫になるのはいやだなぁ……。

「あ、でもそしたら、せっちゃんが一人になってまうなー」
「じゃあ、刹那とも結婚すればいい」
「重婚ですよ!?」
「それええなー。ウチの嫁がせっちゃんで、ナナシ君の嫁がウチやな」
「俺は刹那の嫁か」
<凄いトライアングルが完成しましたね>

俺達は30分程そんな会話をした後、解散した。
木乃香は刹那の腕を引き「じゃあ、おじいちゃんに報告行ってくるわー」と言って去った。
楽しそうでとても良かった。

それから俺の調子に乗って嘘をつきまくった。

――長谷川千雨の部屋――

「何の用だよ」
「お前ってツインテール似合いそうだよな」
「入るなりいきなりそれか!?」
「いや、でも絶対似合うって!」
<そうですね。マスターの目に狂いは無いんですからね! ……あ、何か今のツンデレっぽくなかったですか?>

俺とシルフに言いくるめられ、千雨はツインテールになった。

「……こんなガキっぽい髪型似合うわけねーじゃねえか」
<それアスナさんに言ってみて下さいよ>
「予想以上に似合うな」
<そうですね! もはやツインテールになる為に生まれたとしか思えませんね! 言い換えればツインテール以外の千雨さんは抜け殻みたいなもの、という事になりますね!>
「……本当に似合ってるのかよ」
「ああ、似合ってる似合ってる」

後日、ツインテールにした千雨が学校に来るが、それはまた別のお話……


――ネギの部屋――

「やー」
「あ、ナナシさん! えーと……僕、実は……もう20歳過ぎてるんです!」

目が泳いで、台詞を噛みながらの嘘なので微笑ましかった。
ここは俺も返すのが礼儀だろう。

「そういえばさっき、カモ助っぽいオコジョが保健所のおっちゃんに捕まってたよ」
「カモくーんっーーーー!?」

ネギ君は全力で走り去った。

「あ、あんたねぇ……」

アスナが呆れた目でこちらを見ている。
む、バカレッドのアスナか。
まあ、こいつなら簡単な嘘にもひっかるだろう。

「そういえばさっき、タカミチっぽいオッサンが保健所のおっちゃんに捕まってたよ」
「馬鹿にしてんの!?」


――楓の部屋辺り――

「ししょー」
「ん、楓か」
「さっきそこに100円落ちてたでござるよ」
「マジで?!」
「嘘でござる」
「やられたー……そういえば、お前がこっそり隠しておいた回転焼き食べたぞ」
「ぬ!? い、いやそれは嘘でござる! その回転焼きなら拙者が肌身離さず……はっ!?」
「甘いな……そしてこの回転焼きも甘い」


――図書館――

「おーい、ゆえっち!」
「先生ですか……それとゆえっちって……もういいです」
「これあげるわ」

ジュースのパックを渡す。

「見たことないジュースです……どこに売ってるですか?」
「ひろ――いや、非売品だから」
「今拾ったって言おうとしてたです!?」
「いや、流石にそれは冗談だよ。毒とかは入ってない……つうか俺が作った」
「ほ、本当ですか? ……じゃ、じゃあ飲むです」

渡した俺が言うのもなんだが、あっさりと飲みすぎだろう。

「……う、まずいです……でも病みつきになる味……です? どうやって作ったです?」
「んー……ドリンクバーってあるじゃん」
「はいです」
「友達とレストラン行って、ドリンクバー頼んで、席を外して戻って来たら……何か変なジュースが自分のテーブルにあったりするじゃん」
「いえ、……無いです」
「つまりそれ」
「どれです!?」

その後、俺は麻帆良をねりねり練り歩き嘘をついて回った。

――エヴァの家――

「ふー、今日は一生分の嘘ついたなー」
<そうですねー、しかしマスター……明日大変だと思いますよ>
「何が?」
<いや、あれだけ嘘つきまくったんですから……結構皆さん怒ってるかと……>
「何ぃ!? で、でも今日はいくら嘘をついても怒られない日なんだろ!?」
<いや、怒られないわけではないんですけど……>
「……寝るか! 明日は明日の風が吹く! 明日の事は明日考えるぜ!」
<無理やりまとめましたね>



[3132] それが答えだ!ばんがいへん十八
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/04/29 03:29
・<神薙>のオープニング

む? 妾か? 妾の名は神薙である。
最近、主からの呼び出しが全くといって良いほど無い。
全くどういう事じゃ!
この神剣の一振りである妾が契約をしてやっておるというのにあやつときたら……!
そもそも妾が地上の生物に力を貸すこと自体稀なのだぞ!?
というか初めてなのだぞ!?
だと言うのにあの男は……妾以外の小童共を使役して……!
いや、そもそも決定権は妾にあるのだから、妾が直々に現界する事も出来るのだが……。
いやいやそれでは立場が逆であるぞ! あやつが妾に頼み、妾が渋々力を貸してやるというのが普通なのだ!
そう……そうじゃ! 妾を誰だと思っている!?
世界を司る支柱の一柱、生命を司る神剣<命姫>の姉刀、戦神ウェルファウサスの魂を写した神器、この世で最も尊い神の遺物!
神を薙ぐ刃……神薙であるぞ!
そうだ……何を地上の生物相手にこだわっていたのだ妾は……!
……ん?
……んん?
む……お、おおぉぉぉ!
呼びかけが来た!
ふ、ふむ、仕方なし、契約に従いこの力を振るおうか。
全く主は仕方ないのう。

――では<神薙>参る。


番外編 ロスト・メモリーズ(小ネタ集)



・ナナシ君とシルフさん

<マスター! マスター!>
「何だよ」
<大発見です! 私大発見しちゃいましたぁ! これはノーブラものですよ!>
「な、なにそのエロス漂う発見……。で、その発見って何だ?」
<はい! どんな台詞を言っても恥ずかしく聞こえてしまう裏技を発見しました!>
「何それ?」
<言葉の後に『///』をつけるだけで、どんな真面目な台詞も照れて言ってる様に聞こえるんですよ!>
「意味が分からん」
<今から私が実践してみます。余りの驚きに体中の汁という汁を撒き散らすこと間違いないです!>
「マジかよ……」
<では行きます! 『今日はカレーなのか……///』……ほらっ、どうです!?>
「……た、確かに何の変哲も無い台詞なのに仄かな照れが伝わってくる……」
<ですよね!? 『お前を殺す……///』>
「別の意味で殺されそうだ! よし俺もやってみよう! ……『狙い撃つぜ……///』」
<何かエッチです!>
「『君を一生……許さない……///』」
<許しちゃいます!>
「『ハイパー兵器///』」
<きゃーエロスー!>
「『残 念 だ っ た な / / /』」
<子猫って呼ばないでー!>

わいわいと騒ぐ一人と一つを見ていたエヴァが呟いた。

「……人生楽しそうだな」

・ナナシ君とタカミチさん

麻帆良のとある場所にあるラーメンの屋台。
ここに二人の教師がいた。
いわゆる俺とタカミチである(何がいわゆるか分からないが)

「いや、しかし悪いね」
「ん? いや、気にしなくていいよ。僕が好きで奢っているんだし」
「そうか。じゃあ替え玉頼むよ」
「……ははは」

タカミチが笑う。
何か結構奢ってくれるけどいいのかな……。
たまには俺が奢った方がいいのかな?
俺がラーメンを啜りながらそんな事を考えているとタカミチが言った。

「ネギ君はどうだい?」
「もうちょっと多めで」
「いやそうじゃなくて……君の同僚のネギ君の事だよ」

いつも側にいる俺に様子を聞きたいって事か。
増量されるネギを見ながらネギ君について考える。
ネギ君、ネギ君ね。

「結構頑張ってるんじゃないかな」
「そうかい?」
「うん。あの歳であそこまでしっかりしてるのは凄いよ。俺も助けられる事もあるしな」
「……それは良かった」

タカミチが顔を綻ばせる。
何か父親みたいな顔するなぁ……。
べ、別にタカミチが老けてるって言うわけじゃないヨ?

「僕少しの間、学園を離れるからその間の事はよろしく頼むよ」
「ん? どっか行くのか? ……左遷か」
「違うよ」

タカミチは即効で否定した。

「出張だよ出張」
「ほー、出張ね」
「AAAの仕事でね」
「何でそこでエヴァの胸のサイズが?」
「いや、AAAってのは僕が所属している組織でね……っていうかエヴァの胸ってそんなに……」

何故か悲しそうな顔になった。

「僕の見立てではもう少しあると……っていやいや何を言ってるんだ」

ぶんぶんと頭を振る。

「えっと、で……その組織の仕事で行かなくちゃ行けないんだ」

ふーん。
そういえば、タカミチを数週間見ないことがよくあったな。
それでか。
ていうか何回か聞いたな。
お土産ももらってるし。

「で、どこ行くんだ?」
「そうだね……遠い場所だね」

む、ヒントか。
遠い?
遠い……遠い……。

「栃木?」
「違うよ。それに何で栃木?」
「何となく……」

俺の中では遠いんだ。
タカミチは顎に手をあて、うーんと唸り

「そうだね……雪山があって、城があって、村があって、砂漠に海もある」
「ああ、鳥取か」
「君最後しか聞き取ってないよね。鳥取に城は無いよね」

無かったっけ?
鳥取城とか無かったっけ?
しかし雪山もあるし、砂漠に海……?
どこだそれは?
うんうん唸る俺を見かねたのか、タカミチが再びヒントを出す。

「妖精や獣人、竜なんかもいるね」

これで分かるよね、というタカミチの顔。
ふむ、成る程。

「やっぱ栃木じゃん」
「違うって! 君栃木をなんだと思ってるの!?」
「栃木こわい」
「こわくないよ!」

タカミチは席を立ち上がってツッコミをいれた。
ラーメンの汁で眼鏡が曇り滑稽だ。

「あと他にヒントは……」

再び唸るタカミチ。
あ、と何かを思いついたのか顔を上げた。
その顔は何故か複雑だ。

「……奴隷制度があるね」
「栃木はやっぱ怖い」
「だから違うって! 君怒られるよ!?」

栃木の人ゴメンね。
栃木は大好きだよ。

「魔法世界だよ」

魔法世界。
もう一つの世界。
ちなみにこっちの世界は旧世界。

「ふーん」
「ちょっと厄介な連中が暴れているらしくてね」
「大変だ」
「ははは、そうだね」

慣れたもんだよ、と笑った。
俺も笑った。

「また、ネームレスが現れるかもしれないしね」
「……ふ、ふーん」

俺の顔は少し強張っただろう。
ネームレス。
少し前、学園の停電の際に現れた謎の男。
その正体は謎で包まれている。
何年か前に魔法世界でも確認されたらしい。
いやー、誰なんだろうねー。
あははー。

「な、なに? ネームレスに恨みでもあんの?」
「恨み、か。まあ話をしてみたいとは思うね。以前会った時には会話をする暇も無かったからね」
「話合いで終わらせようとするその考えはいいね」
「あの時現れた理由も謎だしね。誰に依頼されたかも分からない、痕跡も全く掴めない……謎だらけだよ」

やれやれと肩を落とす。
俺も肩を落とす。

「懸賞金もついたって話だよ」
「マジでぇ!?」

思わず席を立ち上がってしまった。
いやいやいや。
そこまでの事はしてないじゃん。
何で懸賞金とかついてんだよ!

「そ、そこの所を詳しく!」
「うん? ついたらしいって噂だけだよ」
「そ、そうか」

思わず胸をなでおろした。

「……」

タカミチが何か、ニヤニヤとこちらを見ている。

「何だよ」
「いーや、何でもないさ」

タバコに火をつけるタカミチ。





・ナナシ君と日本史

「えー、でこの二刀流の人が宮元武蔵、超有名人だな。個人的にはYAIBAの宮元武蔵が好きだ」

チョークで黒板に宮元武蔵の絵を描く。
背後からの複数の視線。
相変わらすこの視線には慣れないな。

「えー、であだ名をつけるとしたら……みやむーということになる。ここはテストに出すぞ」
「「「嘘!?」」」

凄い勢いで黒板を写し出す生徒達。
何か楽しいなぁ……。
支配者ってこんな感じなのかな?

「あとこの絵もテストに出すぞ」
「その宇宙人の様な絵が出るでござるか?」
「お前減点な」
「言わなかったらよかったでござる……」

教室では俺が正義だ。
いや、ちゃんとやってるよ?
仕事だしな。
ほ、本当だよ?
再び教科書を読む。

「えー、でこのみやむーのライバルが……佐々木小次郎だな」

読みながら教室を歩く。

「で、その小次郎のあだ名が……同じ苗字の佐々木まき絵、答えなさい」
「え!?」

突然当てられた佐々木が体を硬直させた。

「え、えーと、うーん……こーちゃん?」
「こーちゃん?」
「う、うん、こーちゃん」

こーちゃんか……。

「いいね!」
「やた!」

ぐっと親指を立てる。

「それ幼馴染を起こす感じで演じてみてくれ」
「凄い無茶振り!?」

しかし佐々木はノリがいいのでやってくれた。

「……お、起きてよー、こーちゃんっ! 朝だよー! 遅れちゃうよー!」

少し照れながらの佐々木。
いいノリだ。

「いい感じだ。お前はいい幼馴染になるぜ」
「わーい、ありがとー」
<ちょっと待って下さい!>

突然シルフが割って入った。
何だよ……っていうか急に喋りだすなよ……。

<いや、マスターが授業中には黙ってろって言ったんですよ?>
「で、何だよ?」

無視して促す。

<私の方がもっと上手く幼馴染を出来ます! 10年とちょっとしか生きてない乳臭い小娘なんかには負けませんよ!?>
「乳臭い小娘……」

佐々木が少し落ち込んだ。

「そこまで言うのならやってみろよ」
<では! 『朝だよー! ドーン(ドアを蹴り開ける音) ゆさゆさゆさ(体を揺らす音) 起きてー!』>

まるで中の人が変わったかの様に演じるシルフ。
効果音から効果音の説明までしている。

<『遅刻しちゃうよー! 早く起きてってばぁー! こーちゃーん! 起きてよー。起きてー、ねえ起きて。……ねぇ、起きてよこーちゃん。こーちゃんってば……ねえ。お願いだから……目を覚ましてよ……お願い……もう一度笑顔を見せてよ……こーちゃん』>
「やめろよっ!? 何か怖いよ! 双子が泣いてるだろうが!」
<す、すいません……で、この女の子はずっと幼馴染の子を待ち続けるんです……一生>
「だからやめろって!」

 

・ナナシ君と茶々丸さん

にゃーにゃーにゃー
にゃーにゃーにゃー
にゃーにゃーにゃー

周りから聞こえる獣の鳴き声。

「ふん、鳴いていれば餌をもらえると思っている弱者が……」
<と、言いつつ、マスターの顔はにやけているのでした>
「う、うるさいな」
「……ふふ」

猫に囲まれている俺を見てわずかに微笑む茶々丸さん。
逆なら絵になるんだが……。

「ほれっ、くらえ! 餌をくらえ!」

言いながら猫に餌をやる。

『にゃー』

ぺろぺろと牛乳を飲み顔を洗う猫達。
そして体に纏わりついてくる。
く、くそう……可愛いじゃねえか。

<相変わらずマスターは動物に好かれますねー>
「そうなのですか?」
<ええ、そうなんですよ。昔っからマスターは人間以外の生き物には無条件に好かれるんですよ。私がいい例です>
「動物は人間の内面を見るといいます。やはりナナシさんの綺麗な内面が見えているのでしょう」

そんな事を言われたら照れるな……。

『にゃーにゃー』

しかし可愛いな……。
くっ、泣き声に反応して無意識に頭を撫でてしまう。

『にゃぁーん』

くすぐったそうに体をくねらせる。
その動きがまた保護欲を掻きたてる……!

<にゃーん>

ここにもいたのか……よしよし。

<にゃーん、……えへへー、我ながら策士です>

……。
……。
こいつに騙されたという事実がムカツクな。

「ほらこれで遊んでろっ」

首からシルフを外し猫の群れに投げ込む。

<ちょ、ちょっとマスター!? あ、あ、駄目、駄目です……! そ、そんな所舐めちゃ……って痛い!? 研がないで! 爪を研がないで下さいぃっ!>

ははは、楽しそうにじゃれてるなぁ。

『にゃー』
『にゃー』
『にゃー』

お、おい集まりすぎだって。

『にゃー』
『にゃー』
『にゃー』
『にゃー』
『にゃー』
『にゃー』

へ、へへ……いいぜ。
全員相手してやるぜ……!
手当たりしだいに撫でまくる。

『にゃー』
『にゃー』
「……にゃー」
『にゃー』

ん? 何か違う肌触りがあったような……。
気のせいか?

『にゃー』
『にゃー』
「……にゃーにゃー」
『にゃー』

――。

ふう、疲れた。
猫達は遊び疲れたのか、住みかに帰って行った。

<……>

まるで複数の男に蹂躙されたかの様なシルフが残った。

「……じゃあ、帰ろうか茶々丸さん」
「はい」

……?
何か茶々丸さんの様子が変だな。

「どうかした、茶々丸さん?」
「……いえ、何も。帰りましょう」

気のせいか。

「……はい、帰りましょう。……ふふ」

・ナナシ君とシルフさん2

<マスター! マスター!>
「何だよ、うるせえな」
<大発見です! 私、超大発見しちゃいましたぁ! これは鈴無賞ものですよ!>
「またかよ……鈴無? ……ノーベル?」
<今度の発見はですね! どんな台詞でも格好良く聞こえる発見です!>
「マジかよ……それは興味あるな」
<やり方は簡単ですっ。台詞の前に『――』をつけるだけです>
「『――』?」
<はい『――』ですっ>
「それで格好良くなるのか?」
<ええなります! もう貧弱な坊やとか言わせませんよ!>
「何その深夜通販」
<では行きます! 『――――ここで装備していきますか?』>
「あ、何か格好いい。ラスボス直前の町の武器屋って感じがする」
<ですよね! 『――――ぶるっきゃおう、ぴらむに』>
「必殺っぽい! 『――――パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』」
<でも恥ずかしい! 『――――ふもっふ』>
「攻撃力高そう! 『――――アルキメデスの原理って知ってるか?』」
<ネタバレ! 『――――縦横微塵切りぃ!』>
「やっぱそれはないな」

同じ部屋で本を読んでいたエヴァが言った。

「――――茶々丸早く帰って来い」


・ナナシ君とエヴァさん

ソファにうつ伏せになり本を読む。
うん、こういう何気ない一時が幸せなのかもしれないな。
ちなみに呼んでいる本は近乃香から借りた漫画。
バトル漫画だったが、急に異世界に飛ぶ急展開っぷりだ。
これからどうなるんだろう……ドキドキ。

「こんな所にいい椅子があるな」

ん? 
頭上からの声。
高圧的なそれは聞きなれたものだ。
まあいい、今は漫画に……
――とん

「……ぐぅ」

背中に僅かな重み。

「おも――」
「何か言ったか?」
「重い」
「な・に・か・言・っ・た・か!?」
「お・も・い・!」

いや、重くは無いが上に乗られるというのは中々屈辱的なのだ。

「ふふふ、おかしな事を言う。私が重いはずがないだろう? 貴様は病気か?」
「うるさいよ! 重いっつってんだろエヴァ! どけ! 速やかにどけ! むしろ飛んでけ! 空高くFly away!」
「拒否する。こんなに座り心地のいい椅子は滅多にないからな」

ずしりと体重をかけるエヴァ。
こいつ隙あらば俺を屈辱的な目にあわそうとするからな……。
茶々丸さんがいる時はしないんだが……。
ふん、まあいい。
たかが小娘1人だ。
俺のパワーオブパワーで押しのけてやる!

「ふぬぅぅぅぅぅあぁぁぁぁ!!!」
「ほう? まあ頑張れ」
「ぬぅぅぅぅぅいぃぃぃぃぃにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「何だその声は」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁしぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「や、やめろ、また近所の人間が不審に思って通報するるだろうがっ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃたすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!!!!」
「黙れと言っているだろうがっ!」

――ごつんっ。
普通に頭に拳骨を落としやがったこいつ……。
つーかおかしいな。
本気で押しのけようとしたんだが……。

「お前……何をした?」
「ん? ククッ、人間には面白いツボが色々あってな、押すだけで体が動かなくなるものもあるんだよ」

さっきから背中の一部に指っぽい感触を感じるが……それか。
また無駄な技術の使い方を……。
まあいいか。

「……ふぅー」
「何だ? もう抵抗は終わりか? 詰まらんな」
「別にお前を面白がせる為に生きてるんじゃねーよ」

抵抗は諦めて漫画を読むのに再開する。

「……」
「……」

……。

「……おい、読むのが遅いぞ」

……へへ。
やりたい放題だな、こいつ。
へ、いいさ。

「何だ、違うのを読むのか?」

違う漫画を取り出す。
表紙には女の子がキラキラしている。

「……」
「……ほー」

ペラペラと読み進める。

「……」
「……むっ……ん? な、何だこれは……」

ペラペラ。

「……」
「ちょ、ちょっと待て」
「……」
「待て! いいから待て!」
「何だよ」
「……何だこれは?」
「少女漫画」
「嘘付け! 小娘が読む本がこんなに……アレだ。……露骨な描写があるか!」

最近のは凄いな……。
そして『おすすめやでー』と言って渡してきた木乃香はどうなんだ?

「いや、本当だって。普通に読まれてるらしいぞ」
「本当か? ……最近はこんな事になっているのか」
「凄いよな……」
「確かに……だから最近のガキは無駄に耳年増なのか……」
「あーそうかもな」

ぺらぺら。

「うわーすごーい」
「ほ、ほう……って待て! 何を当たり前に読み続けている!?」
「きゃー、頭がふっとうしちゃうー」
「や、やめっ、やめろ! ページを押し付けるな!」

お、体が動く。

「おらぁ!」
「なっ!?」

そして背筋の力をフルに使いエヴァを背中から落とす。

「おらぁぁぁぁ!」

そしてページを顔に押し付ける。

「やめろっ! お、おい、やめろと言っているだろうが!?」
「そのまま成仏しろ!」
「してたまるか!」

ページを押し付けあう。
俺達は何してるんだろう……。
あ、いやいかん。ここで素に戻ると色々キツイ。

「ぐおぉぉぉぉぉ!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」

そのまま揉み合いになる。
どうでもいいが、揉み合いってイヤらしい気がする。
『ケンタとナオミは揉み合いになった。その様子をマイケルが見ていた』
あんまりイヤらしくないな……。
『ケンタとナオミはもみあいになった。その様子をマイケルが興奮して見ていた』
こ、これはイヤらしいな……!

「なんとぉぉぉぉぉー!」
「舐めるな若造がぁぁぁ!」

くっ、マウントを取られた!

「ククク……これが経験の差だ」

勝利の笑みを浮かべるエヴァ。
――がちゃり
そしてドアが開く音。

「ただいま帰りました」
<お土産ありますよー!>

そしてマウントを取るエヴァと取られる俺。
二人共息を切らし、服を乱れさせている。

「ふふ……またこの展開か」

エヴァが何かを諦めたかの様に呟いた。
あぁ……楽しいなぁ……。



・<軍神>のエンディング

小官の名は<軍神>、階級は少佐であります!
上官でありますか?
直接の指示を受けるのはシルフ准将であります!
人として尊敬してるであります! ほ、本当であります!
その准将の上、最も上におられるのが――ナナシ元帥であります。
小官が戦う意味であり、命を預けるに値する人であります。
ふ、不満でありますか? 
め、滅相もありません!
た、確かに小官が召集を受ける機会は少ないでありますが……そ、それを不満に思ったことは無いであります!
そもそも小官の任務は直接的な戦闘では無く、防衛線に特化しているであります!
前線に立つ<散花>大佐や、汎用性の高い<星屑>軍曹とは違い、戦場に立つ局面が限られているからであります!
べ、別に元帥に嫌われているからではない……はずであります。
そのはず……であります。
そ、そうだよね?



[3132] ばんがいへん十九
Name: うさぎとクマ◆246d0262 ID:a5cef6f4
Date: 2009/09/29 22:14
<塩辛い水、水着、スイカ割り――ここから連想される言葉は!?>
「スイカ柄の水着を塩辛い水でじっくり煮込んだシチュー!」
<はい、海です! だいせいかーい! 流石マスター!>


と、いうわけで俺達は海に来ていた。

何故海に来ているのか?

暑いからである。

何故暑いのか?

夏だからである。

何故夏なのか? 修学旅行は?

番外編だからである。

もう秋になりかけなのでは?

番外編だからである。

ここだけの話、こういうメタ発言は番外編の時だけしかしていなかったりする。

……。

嘘だ。


番外編 海辺の家


「わー! 暑いですね、ナナシさん!」

俺の隣ではしゃぐネギ君。

少し腹筋が割れ始めている。

……この子怖い。

俺達は今砂浜に立っている。

場所はエヴァの別荘。

『暑い……暑い……ああ暑い……このまま暑かったら暑い死ぬ……死んだらエヴァを暑い殺す……』
『やかましい! 分かったから離れろ!』

という様な感じの会話があった。

そういうわけでエヴァの別荘の海に来たのだ。

折角だから知り合いも誘ってみた。

『な、何だ……他のヤツも誘うのか……き、貴様と二人が良かったのに……』
『似てない物真似はやめろ』
『<でもエヴァさん言いそうですよね>』
『言わんわ!』

そういう会話もあった。

俺とネギ君は先に着替え終わり先に砂浜に来たのだ。

女性は着替えに時間がかかるからな。

「ナナシさん、僕海に来たら一回やってみたかった事があるんです!」
<あ、もしかしてネギ君>
「はい!」
<お風呂を覗きに行きたいんですね! もう、ませちゃってー!>
「ち、違います! というか僕達温泉に来たわけじゃないですから!」
<それもそうでした。……じゃあ、海を覗きに行きたいですか?>
「覗きじゃないですっ!」

海に覗きって何だ?

「これです、これ!」

そう言ってネギ君が取り出した物。

大きくて、丸くて、縞模様が入っている。

「じゃーん!」
「おっ、爆弾か」
「違いますよ! 何でこのタイミングで爆弾を出すんですか!」

……爆発オチの為?

<わー、おいしそうなスイカですねー>

ネギ君が取り出したのは、スイカだった。

太陽の光が反射して輝いている。

「はい、奮発しちゃいましたー!」
<それを使って……>
「はいっ」
<渋谷に繰り出すんですね!>
「はい、スイカ割りです!」

お、シルフをスルーした。

ネギ君も慣れて来たなあ。

いい成長だ。

というか今日のシルフはいつにも増してウザいな。

夏だからか?

「した事無いのか?」
「はい。今まで機会が無くて」

スイカ割りは日本独自の文化なのか。

「じゃ、ルール教えてやるよ」 
「ル、ルールですか? あるんですか、スイカ割りなんかに?」
「当たり前だろっ!!」

俺は無意味に声を荒げた。

本当に無意味だった。

何でこのタイミングで切れるのか?

自分でも分からん。


「ご、ごめんなさい……!」

そして半泣きで謝るネギ君。

<ネギ君、マスターはネギ君が憎くて怒っているんじゃないんですよ>

そしてフォローに走るシルフ。

<マスターのスイカ割りに対する想いは本物なんです>
「……え?」
<マスターはスイカ割りを愛しているんです。いえ、スイカ割りがマスターを愛していると言ってもいいでしょう>
「……はい」

いや、意味が分からん。

そして頷くネギ君も意味が分からん。

<さっきネギ君は『スイカ割りなんか』と言いました>
「……!」
<『俺の歌を聴け』とも言いました>

言ってないな。

「……そ、そうかそんなにも愛しているものを僕に馬鹿にされたから」
<はい、だからネギ君を怒ったんです>
「ごめんなさい、ナナシさん! 僕が悪かったです!」
「あ、ああ、いいよ。うん」

別に怒ってないし。

そもそも怒るところがなかったし。

<さ、流石マスター……何て慈悲深い……! マスターの慈悲深さたるやゴットハンドの領域ですっ>

何でベルセルク?

しかし悪い気はしない。

「ま、まあな。俺の慈悲深さは結構な物だと思うよ。噂では次の慈悲深さオブジイヤーは俺かも、なんて言われてたり」
<私マスターに謝らなければならない事が……>
「何だよ、俺とお前の仲だろ? いいよ、言ってみな。『静かなる慈悲の王・ナナシ』に言ってみな」

ああ、今の俺なら何でも許せそうな気がする。

偽りの言葉による結果だが、これはいいかもしれない。

この先の人生、俺は何もかも許しながら生きていこうか。

<ヴェスペリアにデータ上書きしたの私だったんです>
「お前処刑」
<お慈悲はーーーっ!?>

海に向かって投擲した。

こいつだったのか。

まあ、俺のデータ消すのなんてエヴァか楓かシルフしかいないわけだが。

「ナナシさん!」
「な、何ですか?」

投擲体勢の俺にネギ君が妙に気合を入れて話かけてきた。

思わず、敬語になってしまった。

「僕にスイカ割りのルールを教えて下さい!」
「……」
「僕間違ってました。スイカ割りの事を何にも知らないのに……軽く見て……! どんな危険に繋がる競技か分からないのに……!」

スイカ割りで怪我人は出ないだろ。

「教師として皆さんを守る為に……僕にスイカ割りを教えて下さいッ!」

頭を下げるネギ君。

……どうしよう。

「お願いしますッ!」
<――その言葉が聞きたかったんです>

いつの間にか戻ってきたシルフが言った。

<頭を上げてください、ネギ君>
「シ、シルフさん……」
<貴方はいい子ですね。自分の非を認められるのはてとても難しいことですよ>
「そ、そんな僕は……」
<もっと誇りに思っていいです>

まるで三文芝居だ。

いつまで続くのか。

座って待っとこう。

……みんな遅いな。

喉が渇いてきたぞ。

……。

しょっぱっ! 海の水しょっぱ! 予想以上にしょっぱい!

いけると思ったけど、無理だ!

「ナナシさん!」
「おぇぇぇぇ……な、何ネギ君?」
「それではお願いします!」

何がだ?

<マスターのスイカ割りの全て……ネギ君に教えてあげて下さい>

何でそういう事になったんだ……。

まあいいか。

退屈だし。

「では今からネギ君にスイカ割りの何たるか教えてやろう」
「はい!」
「今回は通常の大会でも使われているベーシックルールの説明をしよう」
「大会?! 大会あるんですか?!」

そりゃあるだろう。

レジ打ちの大会もあるんだし、おかしくは無いだろう。

「まず用意するもの」
「はい」
「甘えの無い不屈の精神」
「はい!?」

ふふふ、物質的な物で無くて驚いただろう。

俺も驚いた。

<スイカだけに甘えの無い不屈の精神――何度聞いても深いです……>

どの辺が?

「次はスイカ」
「はい!」

満面の笑みで差し出してくるネギ君。

俺はスイカを砂浜に置き、神妙な顔でシルフをスイカに当てる。

「……シルフ、どんな感じだ?」
<そうですね。……84オーバーってところですね>
「中々いいスイカだ」
「そ、その数字は?」

何だろう……?

強いて言うなら……

「――スイカらしさだ」
「ら、らしさ?」
「どれぐらいスイカらしいかを表す数字だ」
「な、成る程……」

どこぞから取り出したメモに書き込んでいくネギ君。

「参考までに聞きたいんですけど……30ぐらいだとどうなるんですか?」
「それは最早スイカじゃなくてメロンだな」
「メロン!?」
「逆に言うとそれぐらいの数字で妥協してもいいなら、メロンでスイカ割りをしてもいいってことだ」
<ちなみに50ぐらいだとボーリングの玉です。一見スイカに見えますよね?>
「た、確かに」

見えないし、確かにでもない。

こいつら暑さで頭をやられているのか?

「で、次に用意するもの……棒だ」
「はい、何か規則とかあるんですか?」
「これといって特には無い。長くて、硬い物なら何でもいい」
<マ、マスター……昼間っからそんな長くて硬いだなんて……誘ってるんですか?>
「お前帰ったらワンワンカーニバルの刑な」
<初めて聞く刑ですっ。でも何か楽しそうな罰ですね!>

ちなみに発情した犬の群れに投げ込む刑である。

「棒はそれぞれ持参した物を使う。人の棒を使うのは原則禁止だ」
「ど、どうしましょう……棒が無いです……!」

辺りをキョロキョロ見回すネギ君。

「持ってる来てるじゃん」
「え?」
「あれ」

荷物の所においてある物を指差す。

「あれを使えばいい」
「……杖なんですけど」
「硬くて長い」
「……大切な杖なんですけど」
「想いが篭れば、それだけいいスイングが出来る」
「そ、そういうものですか……」

何か面倒になってきたな。

「ちなみにナナシさんは何を使うんですか?」
「俺か?」

俺は……。

どうしようか。

おお、いいところにアレが。

「アレ」
「へ?」

離れた所に立っているパラソルを指す。

影には刀が一本突き刺さっている。

「おーい」
<……zzz……zzz>

返事は無い。

<寝てますね>
「ああ」
「あの……散花さんを使うんですか?」
「ああ」
「そ、そうですか」

ちなみに散花は夏仕様だ。

どの辺が夏仕様かと言うと、鞘が透けているのである。

鞘が透けているのである。

……。

刀が海水浴に?とか錆びるだろ?とかそれ裸なんじゃ無いの?とか言いたい事は色々あるが、気にしない。

そもそもそのスケルトン鞘を作った人は頭がおかしいと思う。

まさに誰得だ。

……。

……。

……作ったの俺だった。

何で俺はあんな意味不明な鞘を作ったのか?

答え→夏だから。

「……じゃあ、そろそろルールの続きに行こうか。スイカと棒を用意したらまず――」
「回すんですね!」
「ちっがーうッ!! まずはスイカを拝むんだよッ!!」
<アロウン様、そろそろ出陣しますかな?>
「オガム違いだな」

違いすぎるが。

「お、拝むんですか?」
「ああ拝む」
「な、何でですか?」
「……良く考えてみろネギ君。割るんだぞ? 棒で。ネギ君は棒で頭を叩かれたらどうなる?」
「痛いです」
「だろ?」

何がだろ?なにか自分でも分からん。

「そう……ですよね。割るんですよね……このスイカ」
「ああ、割る」
「礼を尽くすのは当たり前……なんですね」
<私もマスターに謝る時はいつも頭が割れる様に痛いですねっ>

そりゃ結構な確立で床に叩きつけているからだと思う。

「割るまでスイカを丹精込めて大切に扱う。名前を付けるのもいいぞ」
「名前……ですか?」
「そう、大切な人の名前でもいい。そうするとよりスイカを身近に感じる事が出来る」
「……大切な人」

スイカを見つめるネギ君。

「――アーニャ。……アーニャにします」
「そうか」
「よろしくね、アーニャ」

誰だよ。

スイカを見るネギ君の目が大切な物を見るそれに変わった気がする。

影響されやすいな。

「拝んだ後は回す」
「何回ぐらい回せばいいんですか?」
「……歳の数だけ」

節分か!

自分で突っ込んだ。

<その前に目隠しですね>
「忘れてた」
「目隠し、目隠し」

メモるネギ君。

<目隠しする布が無い時は目潰しでもいいですよ>
「目潰し、目潰し」

メモってるよ。

「その後は目隠しされた人を声で誘導するんだ」
「あ、はい! 『左、左』とか『そこ、そこ!』とかですよね!」
「で、もし上手くスイカを叩けたら……」
「はい」
「『キアヌ・リーブス!!!』と叫ぶ」
「どういう意味が!?」
「特に意味は無い。サッカーでもゴール決めた時に『ナイスシュート!』とか意味不明な事言うじゃん。それと同じ」

アレ何なんだろう?

みんなゴール決まってテンション上がるから、支離滅裂なのかな。

それにしては皆同じ発言なんだよな……。

「いや、それはいいシュートってそのままな意味で……」
「スイカを叩くのに失敗したら、舌打ちな」
「し、舌打ちですか……」
<出来ればウインクしたままで>

言いたい放題だな。

「割れたスイカの分配だが」
「そんなのもあるんですか!?」
「ああ。……胸の小さい人から順に大きなスイカを渡していく」
「胸の控えめな人から……と」

メモる。

「こんなもんかな」
「ありがとうございました!」

結構時間も潰れたが……遅い。

まだなのか?

<みんな海と間違えて梅田に行ってるんじゃないですか?>
「……あり得る」



「――あり得ないです」

……ん。

この声は……

「貧n……ゆえちーじゃないか!」
「かまちーみたいに言わないで欲しいです。……あと、最初に何を言いかけていましたか?」
「貧乳」
<言い切ったーーーっ!! マスターが言い切ったーーーっ!!! そこは普通だったら『ひ、ひ……ヒンドゥー教だよ』『え、ほんと? 私も……って馬鹿ぁぁーー! 誰が貧乳よ!!』『い、言ってないのに……』って感じのラブコメ展開になるはずなんです! そこを捻じ曲げたマスターは凄いと思いました。私も見習いたいとおもいました>

どこが普通なんだよ。

何で最後の方作文風なんだよ。

「……まあ、いいです。胸が無いのは自分でも分かっていることです」
「その代わりと言っちゃあなんだが……お前にはデコがある」
「大きなお世話です!!」

怒られた。

「他の皆は?」
「もうすぐ来るです。……ところでネギ先生はどうしてスイカを磨いてるです?」
「夏だから」
「そうですか」

便利だな、夏って。

「しかし、遅いな」
「先生達が早すぎるです」
「服の下に着てきたからな。……でも、こんなに時間かかるか?」
<大方アスナさんが全員の胸を揉みしだいてるんじゃないですか?>


「そんな事するかーーーーーっ!!」


頭に衝撃。

浮遊感。

海に着水。

海水を飲む。

えずく。

ちょっと泣く。

……。

ここでようやく自分が蹴られたことに気付いた。

「お前もうなんかやめろよ! こういうの! ほんとに痛いんだよ! アホっ!」
<マ、マスターがマジ切れしてます……謝って下さい、アスナさん!>
「そいつが悪いんでしょ!? 何であたしのキャラがセクハラキャラになってんのよ!?」
「俺が言ったんじゃねーよっ!」

そんなこんなで皆集合した。

「待たせたでござるな」
「おそいぞ。……楓」
「どうして師匠は拙者を見て顔を赤くするでござるか?」
「何でも無いでござる」
<か、楓さんずるいです!! 卑怯です!>
「な、何がでござる?」

中学生の癖に……!

悔しい……!

これだと俺が楓の胸の大きさを僻んでるみたいだな。

……しかし喉が渇いたな。

さっきから海水しか飲んでないぞ。

「どうぞ、ナナシさん」
「ん、ありがとう」

差し出されたそれを反射的に受け取る。

コップに入った水だった。

「茶々丸さん」
「暑いので脱水症状には気を付けて下さい」
「う、うん」

茶々丸さんはメイド服だった。

少し残念。

「茶々丸さんは泳がないの? 水着とか……」 
「このメイド服は追加装甲です。下には水着を着ています」

それって普通に服の下に水着を着てるってことじゃないの?



・スイカ割り

何人か挑戦したが、みんな外していた。

その度に舌打ちが聞えこた。

「じゃー、あたし行くわよ!」

と、意気込むアスナ。

手にはハリセン。

ぐるぐる回す。

「……ととっ」

回転が止まった。

しかしふらつかない。

流石の運動神経だと言えよう。

「流石アスナ殿」
「ああ、中々やるな」
「しかし、師匠」

……ん?

「何で拙者は参加禁止でござる?」
「お前、目隠ししても意味ないじゃん」
「いや、その通りでござるが……」

少し残念そうな楓。

参加したかったのか……。

とか言ってる間にアスナはスイカの前まで接近。

ハリセンを振り上げる。

そしてそのまま勢いよく降ろし――

「アーニャァァァァァァーーー!!」

滑り込んできたネギ君がスイカを奪い取った。

「あ、あれ? 外した……ってネギ!? 何してんのよ!?」
「ご、ごめんなさいアスナさん……つい……」
「何がついなのよ」
「ちっ」
「何で舌打ちすんのよ!?」



・競争


「師匠もやるでござるかー?」

楓に呼ばれたので行ってみると、波うち際に数人の生徒。

「何やるんだ?」
「あっちの島まで競争するんでござるよ」
「競争か……」

しかし子供の中に大人の俺が入ってもなあ。

うーむ。

「なに、あんた負けるのが怖いの?」
「俺を……チキンと言ったか?」
「言ってないわよ」

……ふふ。

いい機会だ。

「おい、アスナ」
「なによ」
「この前のアスナの弁当の卵焼きが無くなった件だが……食べたのは俺だ」
「やっぱあんたかーーっ!」

飛び掛かってくる。

「まあ、話を聞け。おふっ! は、話を聞け」

ちょっと殴られた。

「あんたねぇ! あれで何回目よ!?」
「丁度50回だ」
「何で覚えてんのよ!」

俺は今まで食べたパンの数を覚えている。

もちろん嘘だが。

「俺が勝負に買ったら今までの事を無かったことにしてもらいたい」
「……へぇ」

面白いじゃない、とアスナが笑った。

「次いでに次からは10回溜まるとアスナが怒るというシステムにして欲しい」
「毎回怒るわ!」
「じゃ、じゃあ俺のポイントを20点にして、一回摘み食いする毎に1ポイント減って0になった時にアスナが怒るという減点方式に……」
「摘み食い自体をするなっ!」

分かりやすいと思ったんだが……。

「ポイント云々は置いといて……いいわ、チャラにしてあげる」
「そうでなくっちゃな!」
「もちろんあたしが勝った時は分かってるでしょうね」
「当然。お前が勝った時は……そうだな、うん……何も無いわ」
「何でよッ! 今までの分奢ってもらうわよ!!」
「お、横暴だ!」
「どの辺がよ!?」

俺は仕方なく条件を飲んだ。

子供の駄々に付き合うのも大人の務めである。


――そして勝負。


<じゃあ、私が合図をしますねー!>

砂浜に並ぶ。

<よーい、どんでスタートですよー>

シルフは俺の胸元にあるので声が良く聞こえる。

そろそろか。

<では……ょーぃ……ぉぅ>
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

上手くロケットスタートが出来た。

一気に独走だ。

まだ他のやつはスタートしていない。

「ス、スタート!?」
「き、聞こえなかったけど」
「卑怯よ!」
「ふふ、流石師匠」

後ろから聞こえてくる声は無視。

ただ走るのみである。





「……」

島に向かって泳いでいく生徒達を見送る。

……。

俺、泳げなかった……。

いわゆるカナヅチだった……。

 
「ナナシくーん」

参加していなかったのか波打ち際にいる木乃香と刹那。

「こっち来てお城作ろー」
「……うん」

三人で城を作った。

――。

――。

――。


日が暮れてきた。

生徒達は花火をしている。

俺は離れてそれを見ていた。

「参加しないのか?」
「エヴァ。……足が痛いんだ」
「軟弱者」

クククとエヴァが笑う。

「ていうかどこ行ってたんだ? 今日全然見なかったけど」
「離れ小島にいた。騒がしいのは好かんからな」
「でもあの島って競争で……」
「ああ、途中からやかましくてしょうがなかった」

そう言うエヴァの顔に嫌悪感は無い。

仕方ない、といった感じの顔だ。

「貴様は楽しめたのか?」
「ああ、そうだな」

楽しかった。

とても。

まるで夢みたいだった。

こうしてのんびりと何のしがらみも無く過ごす。

……普段から結構のんびりと暮らしている気がするが。

「……楽しかった」
<マスター……もう……いいんですか?>
「ああ……もういい。……これで満足だ」

体が透けていくのを感じる。

虚ろになっていく感覚。

「ナナシ」
「エヴァ、またな」
「あまり待たせるな。私は気が短いぞ」
「分かってるさ」

最期にエヴァの笑顔を見て、俺は……消えた。

……。

……。

……。

――という所で目が覚めた。



「……うわぁ」
<酷い夢でしたね>
「お前も見てたの?」
<はい、私とマスターは繋がってますから……それにしても酷かったですねー>
「あまり言わんでくれ、恥ずかしい」
<途中からの省略っぷりが凄まじかったですね。如何にも夢ですって感じの>
「うぐ」
<最期とか意味不明でしたからね。ちょっと感動要素を付け足そうとして失敗したみたいな>
「うぬう」
<記録してたんですけど見ますか? 『……これで……満足だ』……ふふっ>
「再生すんなーー!」



[3132] キャラクター紹介
Name: ウサギとくま◆9a22c859 ID:d1ce436c
Date: 2009/09/29 22:16
キャラクター紹介 

・オリジナル

<ナナシ>
主人公。
自分の提唱した理論を証明する為に、異世界(ネギま!)の世界に出現。
出現した時点で目標を果たしているのだが、なんかこちらの世界が楽しいのでエヴァの家に居座る。(帰る方法が見つからないとも言う)
魔法使いのタイプとしては、特化型の空間魔法使い。
人外や変な人間に異常に好かれる。
本人も変な人や面白い人がとても好き。
好きな食べ物はカレー(茶々丸が作った)
ななぴーと呼ばれるのを非常に嫌がる。

<シルフ>
時計でヒロイン(本人曰く)
時計なのにインターネットをするわ、ゲームをするわ、テレビを見るわ、日記をつけるわ、寝るわ、歌うわ、踊るわとやりたい放題。
行動原理はナナシ中心。
ナナシの周りに女が寄って来ると、取り合えず威嚇するが自分が正妻だと思っているので結構余裕こいている。
茶々丸と機械同盟を組んでいる。
ある人の写真やデータを交換したり、ある人を影ながら見守ることが目的の同盟(余り影ながらではないが)
最近キャラが増えてきて、自分の存在が薄くなってきたと思っているので、ここらで語尾に何かつけようかと考えている。

<シルフ(人)>
ナナシの従者。
青い髪に、青い瞳、小柄な体からロリブルーと呼ばれていた。
ナナシとは学校の通っていた時からの関係。
万能型の魔法使い。
学校に居た頃はナナシの『無口で本読んでいる様な人がタイプ』との話を聞き、そういうキャラを無理やり作っていた(偶にボロが出た)
実際はお喋りで能天気なキャラである。
享年21才。

<ダリア>
魔王。
ロリブラック。
先代魔王が敗れて魔界に帰った後、45年程経ってから出来た子供なのでまだまだ子供。
魔界に居た頃は、家の手伝いが大好きで親に超可愛がられていた。
魔王として現れたが、まだ子供で何をすればいいか分からず城に引きこもっていた時にナナシに敗北。
親鳥を見つけた雛の如く慕う事になった。
魔王としての力を最大限に使い城の家事を一人で行う。
よくこけ、よく照れ、よく笑う。

<ミネルヴァ>
吸血鬼(らしい)
ロリレッド。
ナナシが学校に通っていた頃の後輩。
学生時代に始めて会った時は、高飛車で偉そうな言葉遣いだったが、ナナシの教育的指導により現在の後輩的キャラになった。
尋常じゃない程強いが、自分より強い相手にはへたれる。

<ウェイ>
村娘。
ロリホワイト(ロリじゃないが)
いつの間にか城に居座ることになった少女。
妙に事情に詳しく、城にいるメンバーの素性を完璧に把握している。
尋常じゃない程強いミネルヴァが話しにならないぐらい強い。
服装は基本的に改造浴衣。

<リール>
魔法使い。
ロリグリーン。
年齢不詳の魔女。
妹的なキャラをアピールしているが、ウェイに「いい歳をして……」とよく言われる。

<散花>
ナナシが初めて契約した遺物。
世界に12本しか存在しない一級指定遺物で3000年近く存在している。
あだ名はちーこ。
今だから『神速の太刀』や『デッドエンド・ブレイド』等と勝手に名前を付けられているが、この居合いの本当の名前は『一閃』
文字通り一閃で相手を斬ることから名付けられた。最大射程は丁度100メートル。
基本的に寝ている。

<星屑>
なんかうるさい槍。
三級指定遺物。
ナナシはこの槍を手に入れた際、猛烈なデジャブを感じた。
というかミネルヴァと完全にキャラが被っている。

<神薙>
すごい刀。
戦神ウェルファウサスが使っていた正真正銘の神器。
一度刀を振るえば、海は割れ、山を砕け、天は裂け、何かすごい事になる。
4本のみ存在する永久指定遺物の内の一本。
世界を支える柱でもあり、他の遺物とは一線を画す。

<ポチ>
冥竜の子供。
最近話せる様になった。
初めて喋った言葉は「ななー」
ロリパープル(予定)

『装甲戦士ディザスター』
 
<御堂謙次>
普通の青年だったが、悪の組織『アンジェロス』に攫われ改造される。
本来ならそこで敵の兵士・ワームとして支配されるところだったが、何故か洗脳が解ける。
その時から、彼のアンジェロスとの闘いは始まった。
正確はお人よしで朴念仁。
ワームとしてのランクはCCランク。
固有能力は『緋炎の拳』
後に謙吾と融合を果たし、二段階神化を果たす。

<御堂謙吾>
健次の双子の弟。
本来、双子として生まれる予定だったが死産。
そのままこの世から去る予定であったが、謙次が受け入れ魂だけの存在として健次に宿る。
第9話『永遠の別れ――そして覚醒』にて謙次の魂と融合。
融合した事により、本来はあり得ない二回目の進化を果たしジョーカーを圧倒した兄の姿を見て、笑いながら彼の意識は消滅した。

<工藤美智子>
メインヒロイン。
御堂謙次の幼馴染で生まれた時から一緒にいる。
両親が死亡した時も、心配をかけられないとすぐに立ち直る。
物語の後半、アンジェロスに『クイーン』と呼ばれ拉致される。
胸が小さいのが悩み。

・ネギま

<エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル>
吸血鬼。
闇の福音、人形遣い、不死の魔法使いと呼ばれ、恐れられていた。
ロリゴールド(期待の星!)
作中での役柄は主にツッコミ。
最近では突っ込む事よって精神を安定させている節がある(何かエロい)
何だかんだでナナシを信頼していて、しきりに所有権を主張する。
最近の悩みは従者である茶々丸の事と、一週間の内の殆どがカレーである事。

<茶々丸>
ガイノイド。
エヴァンジェリンの従者である(多分)
表には出さないが、ナナシの事を心から慕っている。
余りにも慕い過ぎて偶に暴走する事もある(女の子だからね)
勘違いされている様だが、エヴァの事はちゃんと主だと思っている。
最近ではハカセの力により、どんどん見た目が人間に近づいている、でもアンテナは取らない。
夜、眠る前に自分の中の膨大な画像データをパソコンに移すのが日課。

<長瀬楓>
忍者。
休日は殆どナナシの部屋に居座っている。
最近鍛錬をさぼりがちだが、ナナシとのヒートアップしすぎた遊びによりメキメキと強さを得ている。
ナナシの事は尊敬する師匠であり、一緒に遊ぶ友人であり、たまに教師であり、将来的には故郷の両親の元に連れて行こうと思っている感じである。

<桜咲刹那>
現代に蘇った侍。
木乃香を守る事が使命であり、それを果たす為には自分の命を捨てる事も辞さない。
木乃香の事を心から慕っており、木乃香が言う事は絶対だと思っている。
ナナシの事は木乃香が慕っている相手であり、そして自分達の事を考えてくれている人として良い感情を持っている。

<ネギ・スプリングフィールド>
立派な魔法使いを目指す少年。
反面教師が傍にいるので、何気に真っ直ぐ成長している。

<綾瀬夕映>
変なジュースを愛飲する少女。
友人の恋を応援しつつ、自分の恋は進展しない。
ナナシとの出会いはかなりドラマチックで、今でも夢に見るらしい。

<長谷川千雨>
頑張れちうたん!
今最も熱いネットアイドル!
ネットの支配者になるのも近いぞ!

基本的に良識人なので、教師を含み変な人間だらけのクラスに辟易している。
ナナシとのメールは、ほぼチャット状態。
週一のペースでオフ会を行っている。

<近衛木乃香>
じいさんの孫なので必然的に仲がいい。
一緒にご飯食べる。
スイカ送ってくる。

<その他の生徒>
本誌の方で頑張って下さい。

<高畑・T・タカミチ>
デスメガネ。
ナナシとは良くラーメンを食べに行く。
今の仕事を辞めたとしたら、ラーメン屋をしたいらしい。

<学園長>
何気にナナシと一番仲が良かったりする。
ナナシが来る前に仕事を全て片付け、茶菓子を用意して待つのが日課。
リアルに孫の婿にしようと考えている。

<ネームレス>
謎に包まれた人物。
黒い仮面で顔を隠し、黒いスーツ、黒いマントと黒で統一された姿で夜に現れる。
最も古く活動が確認されたのは数年間の魔法世界。
最近の活動は麻帆良学園の停電時。
正体、目的、組織と全て謎である。
好きな食べ物はカレー。
「私の目的? 世の中に混沌をもたらすことさ! あと自分の部屋に冷蔵庫をつける事さ!」

<エリザベス>
ネームレスと活動を共にする少女。
姿は見えず、声のみが聞こえる。
「あ、マス……じゃなかったネームレスさん! ネーちゃんって呼んでいいですかっ?」

<DJネームレス>
麻帆良ラジオのメインパーソナリティー。
ラジオは不定期で配信される。
サブパーソナリティーのド・まり子とゲストのロボ娘さんと軽快なトークを繰り広げる。
一番の人気コーナーは『今、麻帆良で一番熱いヤツ!』
好きな食べ物はカレー。 


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