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[41566] 聖杯ランス(Fate/stay night✕鬼畜王ランス)
Name: 世界一位◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2018/10/28 00:05
ALICESOFTの傑作「ランスシリーズ」とTYPE-MOONの傑作「Fate/stay night」クロスです。
第五次聖杯戦争にランスが召喚されたら?というIF作品。

■あらすじ
魔人ケイブリスを倒し、ついに魔界を制圧し大陸統一を成し遂げたランス。
しかし、平和になったのも束の間、争いと混乱を望む創造神ルドラサウムによって世界中にエンジェルナイトによる攻撃が始まってしまう。
ランスはルドラサウムを倒すため、大陸の持てる全軍をもってして最後の戦いに挑んだのだが・・・




















以前投稿して消していましたが、また恥ずかしげもなく帰ってきました。
ハーメルンにも投稿しています。



[41566] 鬼畜王の終わりと始まり
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/09/19 01:57

――大空洞



並のもの達では動けなくなるほどの重圧。
レベル三十に満たない者達は強制的に地面に膝をつき動くことすら出来なくなっていた。
ランスと共に地下に降りていたリア王女は勿論、マリスでさえ表情を訝しめながら無様に膝をついていた。
ランスとまだ動ける部下たちは、その中を一歩ずつ進んでいく。動けるものは将軍クラスの部下だけで、各階層で遭遇した怪獣の戦闘を回避するために分断していたランスの軍はついには一軍にも満たない数にまで減少していた。
それでも進み続けるランス軍。ここで逃走したとして、待っているのは人類の絶滅だけ、彼らに最初から逃げ道など無いのだ。

終着点。
今までこの迷宮を降りてきた中で存在したどの空洞よりも広い空間に出る。なぜ、こんな深い地下迷宮でこれほどまでに広い空間が存在するのかは疑問だが、ランスたちはこの広い空洞よりも、そこに浮かんでいた物体に驚愕していた。
――否、それは物体などではなく、大きさを測るのも馬鹿らしくなるほどの宙に浮かぶ巨大なクジラのような生き物だったのだ。
少なくともその大きさは一国の巨大な都市にも匹敵するだろうか。

ランス達に気づいたのか、クジラのような生き物が、その目をランス達に向ける。

「わー、たくさんのぷちぷちの個体だー。なんでこんなところにいるんだろ?」

大空洞に巨大なクジラの声が響く。ランスの後ろにいた兵士たちはこれから戦うであろうこの敵の巨大さに震え、中には失禁する者や気絶までしてしまう者がいた。

(……こいつがルドなんとかとか言うやつか。)

ランスがひとりごちる。この巨大なクジラは、ランスが香姫を抱いたときに見た巨大なクジラ、ルドラサウムと同じだった。

「おーーい、そこのくじら野郎」

ランスは何故ルドラサウムが自分たちの世界を壊すのかを聞くために声をかける。何故、神とまで言われる者がわざわざ自分たちを滅ぼすのか気になったからだ。
しかし、ルドラサウムからの反応は無い。

言葉が通じていないのかと、ルドラサウムを見ているとランスの耳に寝息のようなものが聴こえてきた。

「……すう…すう……」

ルドラサウムは、ランス達を観察するのに飽きて、居眠りをしていた。

「むっかぁぁぁぁぁぁ!!!このスーパーな俺様が目の前にいるというのに居眠りこきやがって!!」

ランスがルドラサウムに怒鳴るが勿論反応はない。

「おのれ、超スーパー鬼畜アターーック!!」

業を煮やしたランスがルドラサウムに向かって必殺技を繰り出す。
雷のような爆音を響かせ、快心の一撃がルドラサウムの躰にヒットした。

「………ん……んあ……ふぁぁぁぁ………かゆい……むにゃ……」

「おい、起きろ、くじら!!」

だがその多くの魔人すらも打倒したランスの必殺技も巨大な体を持つルドラサウムには蚊に刺された程度でしかない。
ランスもそんなことはわかっているようで、得に驚く事もなく、いいかげんに目を覚ませと怒鳴る。

「くじら……くじらって……? ぼく、そんなんじゃないのに……」

ようやく反応したルドラサウムが、目をうっすらと開けて、声がする方へ向ける。

「あ……個体だ。そういえば、数を数えてて、眠くなっちゃったんだ…む にゃ…」

「おい、くじら!! どうして、俺様達の世界を滅ぼすんだ?」

「……つまんないんだもん……。
だって…世界を統一しちゃうなんて、馬鹿な事をするんだもん……。
世の中…やっぱ、混乱だよ、混乱。混乱を見るの…好き…くすくす…。
混乱がない世界なんか……せっかく混乱を起こす為に作ったのに……。
だから、いらない、つまんない」

ランスの問いにルドラサウムは独り言のように答える。その目は早々にランスなど見ておらず、ルドラサウムは次の遊戯について考え始めていた。

(やっぱりそうなのか…くそ……なんて奴だ……俺様達がこんな奴の為に作られたなんて…)

自分勝手な理屈を答えるルドラサウムに自分のことは棚にあげて憤るランス。ランスの後ろに控えていた奴隷、シィルがそっとランスのマントを掴む。

「ランス様……」

(しかし、事情はどうあれ、俺達は生きている。くじらの為なんかで死んでたまるか)

思案に耽っていたランスだったが、何か閃いたのか突如顔を上げる。

「わかった、滅ぼすのをやめろ。これから俺様がもっと面白くしてやる」

「……君が?」

ランスの言葉に興味を持ったのか、再びその目をランスに向ける。

「そうだ。混乱と混沌。破壊とバイオレンスとエロスに満ちた楽しい世界を、俺様が作ってやる」

「ほんとう??」

「ああ、本当だ。俺様は、嘘なんかついた事はない」

「……もう嘘ついてる……」

「なんだと?」

「君……ぼくが知らないとでも思っているの?」

ルドラサウムがすっと目を細める。

「君が世界を統一した個体だって事……わかってるよ」

「ぎく……」

思わず声に出すランス。
此の世界をゲームのような感覚で覗き見ていたルドラサウムには、ランスのしていたことなどは筒抜けだったのである。ましてやルドラサウムなどはこの世界の生命を作り出した創造神。元々嘘など通用するはずがない。
ランスが言ったその場しのぎの言葉など通用するはずがなかった。

「君が、ぼくの遊び場から混乱を奪った張本人じゃないか」

「ぎくきく……」

「そんな奴……信用、したくないよ」

ランスに興味を失ったルドラサウムはまた遊戯について考え始める。
その様子に、なんとかしようと慌てて答えるランス。

「こ……これから破壊してやる。お前の望み通りに」

「…………嘘。ぼくには、わかるぞ。君の心は、安息を求めている。
君は、真の鬼畜じゃないもん」

ルドラサウムの鬼畜じゃないという言葉に頭に来たのか、ランスが怒鳴る。

「なっ……何を言う! やると言っているだろうが、このくじら野郎」

「嘘つき、嘘つき、嘘つき!! やっぱ、君、信用出来ない!!」

次の遊戯について考えることすら邪魔をするランスに腹がったったルドラサウムはついにランスから目をそ向けてしまった。

「ええい、疑り深いくじらだなぁぁ!!」

一向に話のわからないルドラサウムに苛立ち、髪をかきむしるランス。
このまま無視されるのではと思ったつかの間、ルドラサウムが再びランスに向き直り、どことなく愉悦を含んだ声で話しかける。

「んじゃあね、人質ちょーだい」

「人質って……」

「君の、いっちばん、大切にしてるもの。それ、預かるの」

「俺様が一番大切にしているもの……それは…俺様の命か? 命なんか取られたら……」

「はーずれ。君。それより大事にしてるものあるじゃん。これっ!」

「きゃっ…!?」

ルドラサウムの掛け声と共に、ランスの後ろにいたシィルの躰が、ふわりと浮いた。

「シィル!?」

「ラ…ランス様ぁ!!」

シィルが悲鳴をあげて、ランスに向かって手を伸ばす。
手足をばたつかせて抵抗するが、シィルの躰はみるみるうちに空へと浮かんで行く。

「シィルーーー!!」

突然の出来ごとに呆然としていたランスも、そうはさせまいと手を伸ばす。しかし互いの手は届かず、ただ空をつかむ。シィルはそのままさらに高い場所へと浮かび上がった。

「これこれ…このちっちゃな魂…君が大事に大事にしてる、これ、ひとじーーち」

ルドラサウムの楽しそうな声が響く。ルドラサウムは新しい遊戯を見つけたのだ。

「えい」

「きゃあああ!!」

ルドラサウムが呟くと同時に、シィルに光が集まる。
その様子にどうすることも出来ずに、ただ見つめるランス。

「シィル………!!」

「……ラっ…ンス…さっ…まぁぁ!」

シィルの躰が巨大な氷に包まれていく。
完全に包まれると、それはまるで突きつける様にランスの前に落ちてきた。

「シ……シ……シィル……シィル!! シィル、シィル、シィル!!」

氷づけになったシィルの前に駆け寄り、その氷を渾身の力を込め叩くランス。
だが幾ら叩いても、叩いても、その氷は割れない。氷の中のシィルの表情も人形のように変わらなかった。

「シーーーーーーーーーーィル!!」

腕の鎧は歪み、指の骨が折れる。しかし氷が割れる事はなかった。
これでは埒があかないと、ランスが自分の後ろにいるであろう部下に叫ぶ。

「おい! 誰か魔法が使えるだろうっ! それでこいつを溶かせ!」

ランスの命令に、後で控えていたランスの軍から何人かの魔法使いが出てきて、シィルをまとっている氷に火の魔法をかける。
だがいくら強力な魔法を唱えても、溶けることも砕けることもしない。

「馬鹿剣! どうにかならんのかっ!」

普段は険悪している自分の腰に差してある魔剣カオスにも声をかける。

『いや……わしに言われても……』

そのランス達の様子をルドラサウムは愉快そうに笑う。

「くすくすくす……駄目だよ…そんな事しても。ぼくじゃないと、どーしよーもないよ」

「…………きっさまぁぁぁ!!!」

魔王ですら一太刀で切殺せるのではと思わせるほどの怒りを示すランス。だがそんな彼の様子もルドラサウムには娯楽でしかない。

「これ…返して欲しいでしょ?」

「…………」

ランスはルドラシウムの言葉に、ピークに達した怒りをなんとか押し込める。

「くすくす…楽しいな…君の心…怒ってる…怒ってる…ぼく、そーいうの大好き…くす」

「くじらの分際で、なんて事しやがる!! さっさと、シィルを元に戻しやがれ!!」

「や」

ランスの言葉を拒否するルドラサウム。しかし先ほどのような拒絶は含んではいなくて、ランスの怒りとは対称にとても楽しそうな声。

「なぁぁにぃぃぃ!!??」

「返して欲しかったら、ぼくを楽しませてよ。 OK?」

「むかむかむか……」

「あと、ちゃんと言う事きかないと、この子、ばらばらにしちゃう」

「…………ッ」

ランスはシィルを見ると、指の折れた手を握りしめて自分を落ち着かせる。

(落ち着け俺様。まずはシィルを取り戻さねばならんのだ。……くそ、シィルの奴、足引っ張りやがって。シィルさえいなければこんな奴直ぐに・・・。)

そんなランスの様子に見かねたのか、カオスが声をかける。

『…おい心の友』

「うるさい。黙れ。今考え中なのだ」

『いや、真面目な話なんですよ…?
…心の友、別にあの娘にそこまでこだわらなくてもいいだろう? 今はここから何としてもっ』

「うるさい。黙れといったろう。それ以上喋ったら、このままここに捨ててくぞ」

『……………』

ランスの言葉に黙り込むカオス。
ランスはカオスに向けていた顔をルドラサウムに向きなおす。

「俺様は何をすればいいんだ?」

ランスの言葉にルドラサウムは気分をよくして、「そーでなくっちゃ」と呟く。

「最近、面白そうな異世界を見つけたんだ。そこで君たちみたいなぷちぷちの個体の代表マッチみたいなのがやってたから、君がぼくのぷちぷちの個体を代表して優勝してきてよ」

「代表マッチ?」

「もちろん殺し合いだよ? 優勝者にはなんでも願いがかなう杯が貰えるんだって」

「…………!」

ルドラサウムの言葉にランスの顔に生気が戻る。
シィルを救うことが出来るかもしれない方法を提示したのはルドラサウムだが、ランスの心に希望が芽生えた。

「くす…くすくす……よーやっと、本気になったみたいだね…」
       
「やかましい!! この俺様を、誰だと思ってる!! ランス様だ!! 俺様が優勝するに決まってるだろう!! やると言ったら、やる!! この俺様に、二言はない!!」

しかし、ルドラサウムの言葉は癪なのは変わらないようで、噛みつく様に答えるランス。

「それじゃあ…君の活躍、楽しみにしてるね……
       詳しいことはコスモスに説明させるから、ばいばーーい……」


――――どうせ無駄なんだけどね。くすくす……。














「…で、あんたがあたしのサーヴァントなの?」

「おー! 美人ちゃんではないか! そうだ、俺様こそ究極優秀英雄王ランス様だ! 惚れていいぞ」



[41566] 鬼畜王召喚*
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/10/04 23:32
――――遠坂邸の地下。



午前二時。自身にとって最も調子の良い時間。
魔術師、遠坂凛は工房でサーヴァント召喚の儀をとり行っていた。

遠坂家の直ぐ下に流れる霊脈の上に位置するこの工房の床に、溶解した宝石で描いた召喚の陣を敷く。
凛は聖杯からのバックアップの下、降霊の詠唱を開始する。

「――Das material ist aus Silber und Eisen.(素に銀と鉄)

   Der Grundstoin ist aus Stein und der Groβ horzog des Vertrag.(礎に石と契約の大公)

   Der Ahn ist meiner groβer Meister Schweinorg.(祖に我が大師シュバインオーグ)

Schutz gegen einen hcftiger Wind.(降り立つ風には壁を)

Schlieβ alles Tor, Geh aus der Krone.(四方の門は閉じ、王冠より出で)

Zikulier die Gabelung nach dem Konig.(王国に至る三叉路は循環せよ)――」

十年来の目標だった聖杯戦争。それは遠坂家代々に継がれる宿願でもある。
前回の聖杯戦争で父が亡くなって以来、聖杯戦争へ参加するための準備を重ねてきた凛にとって、詠唱の間違いなどはありえなかった。

凛は高揚する自分を抑えて、一文一文確実に詠唱する。

「――full, full, full, full, full.(閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ)

Es wird funfmal wiederholt.(繰り返すつどに五度)

Nur ist es die volle Zeit gebrochen.(ただ満たされる刻を破却する)――」

自身を作り変えるための自己暗示を呟き、魔術回路が起動する。

「――Anfang」

魔術回路が開き、魔力が廻り始める。
その際に体に痛みが走るも、それは慣れたもので凛には苦痛になりえない。

「――Satz.(告げる)

Du uberlaβt alles mir, Mein Schicksal uberlaβt Alles deinem Schwert.(汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に)

Das basiert auf dem Gral, antwort wenn du diesem Wille und diesem Vernmnftgrund folgt.(聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば応えよ)

   Lidg des Gelubde hier.(誓いを此処に)

Ich bin die Gute der ganze Welt.(我は常世総ての善と成る者)

Ich bih das Bose der ganze Welt.(我は常世総ての悪を敷く者)

Du bist der Himmel mit drei Wortseelen.(汝 三大主言霊を纏う者)――」

召喚の陣が光輝く。
このまま何の問題もなく儀式が完了すると思われたが、突然魔力の流れが歪む。しかし、それは一瞬のもので凛は気にしないことにして詠唱を続ける。

(こんなところで失敗なんてあってたまるまんですか…!)

「――Komm, aus dem Kreis der Unterdruckung(抑止の輪より来たれ)

der Schutzgeist der Balkenwaage(天秤の守り手よ)――!」

凛の詠唱を終えたことによってさらに陣は光輝き、別の次元からある者を召喚する――!

と、思われたが一向に召喚されない。ついには陣からの光はおさまり工房に静けさが戻る。

「…え? ちょっと、なんで何も起こらないのよ!?」

術式も詠唱も完璧。まさか自分が失敗したのではないのかと、何か間違いが無かったかと魔道書を読み返して確認する。

「…まさか、失敗……?」

凛の心が絶望に支配されていく。総てこのときのためにしてきた準備が総て無駄になったかもしれないからだ。
再度、魔道書を読み返すが至らない点は見つからない。不安で一杯な精神が徐々に苛立ちへと変換されていく。

その時、突如、上の階から破壊音が響く。

「!! 居間の方から…!!」

いったい何事かと急いで上の階に上がり、居間に向かう。

「もう! なんなのよ! いったいぜんたい…」

召喚の失敗による苛立ちも募り、焦ってドアを開けようとするが、何らかの衝撃で壊れてしまったのかドアノブをひねっても開けることが出来ない。
それがさらなる苛立ちになり、凛はドアを蹴り破った。

「どうなってんのよ!!」

中に入るとそこには、無残にも破壊された家具と、その残骸の上に緑色の鎧をつけた口の大きい男がいた。















「いつつ、なんなのだこれは。雑な召喚などしおって、俺様を誰だと思っているのだ。もしこれでむさい男がマスターだったら殺すぞ。むかむか」

ランスは自分にまとわりついている何かの残骸を払いのけ立ち上がると、自分の周りをきょろきょろと見渡す。

(…そばにマスターなどいないではないか、コスモスめ。今度あったらお仕置きだ)

召喚される前に、ランスはコスモスという名のエンジェルナイトに、自身が参加するこの聖杯戦争についてある程度説明を受けていた。


『貴方はこれからサーヴァントとして聖杯戦争に参加するのですが、まずは、第一にそばに居るであろうマスターを守る事を優先してください』
『何故この俺様が見ず知らずの他人を守らねばならんのだ? 女ならともかく、むさい男なんて守りたくないぞ』
『マスターは貴方をその世界に留めておくための存在です。マスターが殺されれば貴方も終わりだと思ってください』
『うぬぬ…』
『相手側のサーヴァントもマスターを殺せば、マスター共々倒すことができる場合があるようです。少なくとも必ず有利にはなります』


詳しい情報は聖杯が齎してくれる、と言ってそれ程長々とした説明ではなかったが。

やれやれと首を振り、ランスは自分に聖杯戦争での敗北条件などを説明したコスモスを犯す妄想を始める。すると、突然目の前のドアが開き、黒髪の少女が入ってきた。
ランスはその少女の姿を確認すると、今考えていることを全て忘却し、直ぐに頭を切り替える。

「…ふむ。89点だな。もう少し胸に膨らみがあれば尚良かったんだが」

「…は?」

凛は、理解しにくいことを突如言い出した、おそらく自身が召喚したサーヴァントだと思われる男のセリフに唖然とする。
ランスはそんな凛のことは構わずに舐めるように凛の体を見回す。
ランスに視姦され、凛はさらに苛立ったが、取り敢えず状況を確認するために己が召喚したこの男に話しかけることにした。

「…で? あんたが私のサーヴァントってことで間違いない?」

「おう、俺様こそ究極優秀英雄王ランス様だ! 惚れていいぞ」

マスターが美人だったため、機嫌よくがはは、と笑い、ランスが答える。それに対して凛は少し不快そうだ。
あまりにも堂々と視姦してきたので逆にそれほど不快ではなかったが、それでも不快なものは不快なのである。

「…その英雄様は、召喚に応じてくれたってことは、一緒に戦ってくれると受け取っても良いのよね?」

脾肉をこめた凛の質問にすぐに答えようとしたランスだったが、口を開いた所で踏みとどまる。
その様子に凛が首を傾げる。

(…まてよ、これはこの娘とやるチャンスなのではないか?)

ただ無償で戦うことが癪だったランスはこれをこの少女との性交の良い機会だと判断した。

(そうすれば俺はヤれてウハウハで、この娘も俺にメロメロ…。流石俺様)

「ねぇ、どうなのよ? まあ、たとえ言う事を聞かない積もりでも令呪で」

「条件がある」

「…条件?」

召喚に応じて召喚されたはずのサーヴァントに、聖杯戦争に参加する条件を提示されたため、凛はキョトンとする。

「聖杯が目的で召喚に応じてくれたんじゃないの?」

「なに、ちょっとした儀式みたいなものをやらせてもらうだけだ」

「何? やっぱり英霊だし、忠誠の儀…とか?」

「まーそんなかんじだな」

まあそれなら、と言って、ランスがこれから行うことに許可をだす凛。

それに、ムフフとランスが笑みを零す。

「儀式はな…、これだぁぁぁぁあ!」

「っきゃあ!?」

ランスはニヤリと笑うと凛に飛びかかった。
凛は突然の出来ごとについて行けず、あっさりランスに組み伏せられてしまった。前から押し倒され、両腕はいつの間にかに片手で押さえつけられている。恐るべき早業である。強引な行為はこの男には十八番なのだ。

「ちょ、ちょっと! いきなり何するのよ!?」

とにかくランスから離れようと、肉体強化を使ってまで暴れ回る凛だったが、寝技が得意なランスにあっという間に組み伏せられ、スカートが捲れて黒い下着が丸出しになる。丁度、ランスの身体が両足の間に入ってしまっているので閉じることもできない。

「うむ、いい眺めだ」

がははは、と下品に笑うランス。

「これが俺様が聖杯戦争に参加する条件なのだ。セックスさせてもらう代わりに、君のためにいくらでも戦ってやるぞ?」

凛はランスをキッと睨みつけると、ランスにしっかりとホールドされている令呪のある方の腕をグイっと押し出す。

「ふざけないで! 何が忠誠の儀よ! これ以上すると令呪で命令するわ!」

「何を言う。これは歴とした俺様のハイパー兵器を使った神聖なる儀式だぞ? それにここまできて、もう止まれるか」

凛の忠告も、すっかり臨戦状態になってしまったランスには届かない。
ランスは凛の腕を片手で抑えつけたまま器用に腰の甲冑を外し、すっかり熱りたっている逸物をとりだす。腰に差してあった黒い剣が何かを叫んでいたが、ランスも凛もそれどころではなかった。

「ひっ…!」

男性の性器など生で見たことなどなかった凛は、そのランスの凶暴なフォルムに思わず顔を引き攣らせて小さく悲鳴を上げる。

「ん? 見るのは初めてか? やっぱり処女だったのか。まあ俺様は寛大だからな。初めてはなるべく優しくしといてやる」

強引に襲っておきながらこの言い草である。
ランスは自分の逸物を下着越しに凛の秘部に当てがうと、そのままそれを使って愛撫するように揺すり、凛の秘裂とランスの逸物が下着の布越しに擦れあう。

「まずはしっかり濡らさなければな」

「ひうぅ!? …こ、この…いい加減、…私の言うこと、聞けぇー!」

「がははは! 直ぐに気持ちよく…ん? …ぐおっ!!」

遂に我慢の限界に達した凛がランスへの令呪を発動し、ランスの体に強力な束縛が入る。
だがそれほど明確な命令ではなかったせいか、ランスの動きを封じるに留まっていた。…それはランスが令呪に抵抗していたからなのだが。

「うぐぐぐ、…ま…負けるかあああ!!」

「え!? う、うそッ!」

令呪による強制力を強引に突破したランスに、凛は驚嘆する。
ランスの体は令呪に逆らったペナルティによってかなり鈍っていたが、このまま行為を続行する分には十分だった。

「大分体が重いが、もう逃げられんぞぉ」

「くッ、…今すぐ離れなさいよ、この変態! 鬼畜!」

「がはははっ! それは褒め言葉だ!」

ランスは大口を開けて笑うと、そのまま挿入前の前戯を再開する。ランスはもうさっさと入れたかったのだが、処女が相手となると濡れていない時に入れたところで自分が痛いだけなので少し丁寧にする。マスターが美人で気分が良いということもある。

「もういい加減このパンツも邪魔だな。おりゃっ」

ランスは凛の下着を開いている左手で掴み、そのまま無理矢理引き裂いてしまう。
凛の秘部を守る物が完全になくなり外気に晒される。処女のせいか、初々しいふっくらとした綺麗な肉の割れ目だ。股を開かされているため秘裂の中がうっすらと覗き見える。

「…酷い」

「うむ、中も綺麗なピンク色だな」

「うぅ…」

凛はもう半泣きである。
しかし凛の目に溜まった涙などは、ランスには行為を行うときにさらなる興奮を促すアクセントにすぎなかった。
凛はランスを悔しさやら羞恥心やらで涙の浮かんでいる瞳でキッと睨みつける。

「あんた…覚えときなさいよ…、絶対、あとで後悔させてやるんだから…」

「うほほほっ! では、そろそろ本格的に始めるとするか」

凛の呪詛などランスは聞く耳も向けずに、鼻息を荒くしながら無骨な手で愛撫を始める。

「ひゃうぅ…っ、このっ」

「おう、やっぱり処女だけあってなかなかに締まるな」

無骨とは言え、ランスの指が一本入っただけで凛の膣はキツキツだった。
ランスは少しずつピストン運動させながら、徐々に速度をあげていく。ランスの指が動くたびに膣壁が摩れ刺激されていく。
凛は他者に秘部を刺激されるという新しい感覚に困惑していた。

「あっ、んっ、…くぅっ」

「ほれほれほれ~」

時折、甘い喘ぎ声を漏らしながら、声をだすまいと、歯を噛み締めくぐもった声だす。
ランスによる愛撫で、秘所の内部が熱く潤い分泌液を出しながら秘肉が痙攣を始めていた。

「なんだ、もう感じているのかこの淫乱女め、 アソコがもうひくついてるぞ?」

「し、知らないっ!」

もう濡れ濡れだぞ、と自身の愛液で汚れた手を見せつけてくるランスを、視界から外すように首を横に向ける凛。顔は羞恥心で真っ赤に染まっていた。

ランスはよし、と呟き、先程から臨戦状態で待機していたハイパー兵器を手に取り、すっかり熱く潤った秘裂へとあてがう。


「うーん。なかなか濡れてきたし、いよいよ開通式だ! よかったな遂に大人の女の仲間入りだぞ」

「……ッ!?」

ねちっと、亀頭を女陰の入口へ正確に押当てる。

「や、やめなっ」

「とおーっ!」

凛の静止の声も虚しく、ランスは容赦なく突入した。
他者を受け入れたことのなかった凛の淫部にランスの凶暴な肉棒が突き刺さり、結合部からは処女の証である破瓜の血が流れる。

「ぐっ! …うぅ、……うっ…」

凛は悔しさと痛みで遂に泣き出してしまった。
だがランスはそんなことなど気にせずに、まだ破瓜の衝撃でズキズキと痛み、みりみりと軋む膣の中を強引に動かす。常に自分本意のこの男に気遣いなど無縁だった。

「…な、にが…優しく、よ……。滅茶苦茶に痛いじゃないのよ…」

「がはははっ! こういう時はむしろ動いた方がいいのだ」

「ぐ、…うっ、あっ、くっ」

ランスの言う通り、凛の膣は無意識に、膣壁を守るためにじわじわと潤滑液を分泌させて痛みを軽減させようとしていた。
それが、ランスのハイパー兵器の動きを良くし、腰の動きが増していく。

「くぅぅ、うっ」

「お、だいぶ動かしやすくなってきたな」

「くっ、うっ、く、――えっ? なっ、に…これっ? …あっ」

動く度に、ただズキズキと痛むだけだった凛の膣が、次第にピリピリとした痺れにも似た別の感覚に変換を始めていた。
ランスはそれに直ぐに気づくと、数多くの経験を元に女性の快楽の坪を刺激する。それが着火点になり、凛のなかで快感の波が広がっていく。

「っ、うっ、あっ、あんっ」

次第に凛の声も甘い喘ぎ声に変わっていく。
腰から背筋にぞくりとした、甘美な刺激が行き渡り、腰が麻痺してガクガクと痙攣する。

(なんで、私……犯されてるのにこんな――っ)

「あぅっ、くぅっ、っ」

「もっと声を出せ! せっかく気持ちいいのに勿体ないぞ。おらっ」

ランスは凛の腕から手を離すと、凛の膝の裏から腰に手を回して、繋がった状態で強引に持ち上げる。
その時に、ランスの肉棒が更に深々と突き刺さり、先端が子宮を叩く。

「ひぐっ、あ、あぁぁっ!」

連続して来る絶間ない強烈な快楽の刺激に、凛は身悶えながら妖声をあげることしか出来なかった。
結合部は、破瓜の血などは溢れ出す愛液でとっくに薄れ、ジュクジュクと淫魔な音を立てながらランスの肉棒が出入りする。
床は少女の汁で染みが出来ていた。

「なかなかにいい具合だぞ。それにこの濡れよう、お前これでもホントに処女か?」

「ひゃうっ、あっ、くっ、勝手な、こと…っ」

「まあ、俺様が気持ちよければそれでいいのだ。がははは」

もはや凛に、ランスの発言に声を大にして反論する余裕はどこにもなかった。

「あんっ、あっ、んっ、あぁっ」

「そーいえば、名前を聞いてなかったな。名前はなんというのだ?」

腰はしっかりと振りつつ、ふと思ったことを質問するランス。
凛はなんで今それを聞くのかと思いつつ、健気にも、悶えながら答える。

「あうっ、遠坂っ、りっ、ん、よっ」

「リンというのか。なら凛、俺様はまだまだいけるが、ここらで一発中に出すぞ」

ラストスパートに入り、ランスは凛の腰を突き上げる動作を一気に加速させた。

「あっ、うっ、いやっ、中は…中には出さないでぇぇっ」

「うおおおお、俺様の皇帝液をくらえっ!」

どびゅっ! どびゅるるっ!!
ランスは、ずんっ、と深々と肉棒を膣に突き刺し、亀頭を子宮口に密着させて、どぷ、どぷ、と汚れの知らなかった子宮に特濃の精液を叩きつける。

「いっ、……あぁぁぁぁっ」

凛は反射的に弓なりになってビクビクと痙攣している。大量の精液は膣内に収まりきらず、結合部から溢れ出し凛の太腿を汚す。
かなりの量を出したのにも関わらず、僅かに縮んだがランスの得物は凛のなかで未だ健在だ。

「あぁ…あぁぁ……」

凛は蕩けた表情をしながら、快楽の余韻で体をビクビクと痙攣させていた。

「あへ…あへへ、えがったー」

「ぅ……っ、…もう良いでしょ、さっさと放しなさいよ…」

凛はランスから離れようともがくが、腰をしっかりとランスに固定されて身動きが取れなかった。それと、行為の後だったので、まだ体に力が入らないと言うのもある。
しかし、そんな凛の頼みなど、常人よりはるかに上回る体力を持つランスには聞きいられるはずもなく、むしろここからが本番だった。

「なにを言っている。まだまだこれからではないか」

ランスの逸物が再び凛のなかで膨張を始める。

「――えっ!? ウソ、まだっ」

「がははは! お楽しみはこれからじゃー!」

部屋の中を少女の悲鳴と男の笑い声が響く。
すっかりシッポリしているランスの様子を、投げ出された相棒の魔剣カオスはただただ見つめていた。


『寂しくなんかないもん…』







――――――その日、不思議なことに凛の魔術回路が一本増えた!――――――







[41566] ランスという男
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/10/04 23:33


――――古代遺跡最下層。



ルドラサウムの居座る大空洞、ランスがルドラサウムの玩具として異界に転送されたあと、ランスの引き連れてきた軍隊は全て地上に強制送還され、大空洞は静けさを取り戻していた。
ルドラサウムの前に、黒い塊のような浮游体が現れる。
顔と思われる部分はルドラサウムと似通った造形をしていて、体には4つの人面のような模様がある


「ローベン・パーン…? どうしたの?」

「創造主、何故あの個体をあの世界に送ったのですか? 大陸を統一したとは言え、作った私から言わせればあのような脆い個体群の一つでは、余り良い結果を期待出来ないのですが…。
私が別の強力な個体を用意してもいいのですよ」

三超神の一体、ローベン・パーンは自らの創造主、ルドラサウムの行動に疑問に思い、自分の代行を申し出る。
自らの作りだした個体への試練など、わざわざこのような大掛かりな手間などかけなくてよかったのだ。そのようなことは、もう一体の三超神、プランナーが率先して行ってくれるからだ。
異界に進出するという、未知の挑戦というのもある。ローベン・パーンが慎重になるのも無理はなかった。

「いーよ、あのぷちぷちの個体で。…そっちのほうが面白いじゃん。…くす。
…それに、さいしょから一気に強い個体で攻め込んだらつまんないでしょ? …だから決めたの、さいしょは、ばれないぐらいにゆっくりゆーっくり侵略して、最後にバーンて全部ぼくの世界にしちゃう。きーめたー」

「創造主がよろしいのならばこれで。
――では、私はその準備に取り掛かります」

ただ確認がとりたかったのか、ローベン・パーンはそう言うとあっさり引き下がり、すっ、とルドラサウムの前から姿を消した。

「…あは、…ははははは……。…たのしみだなぁ…侵略…くす……。ぼくが作った世界もまた戦争がいーっぱい始まったし、やっぱり混乱は最高だね。やっぱり混乱だよ…混乱…くす」

地上に戻ったランスの軍は、エンジェルナイトの攻撃による被害の復興活動をしていたが、ランスを失い狂乱したリア・パラパラ・リーザスの無謀な行動が祟り、彼方此方で内乱が起こり、分裂、崩壊し、再び大陸は秩序を失い悲劇と混乱に包まれていた。
魔法大国ゼスは、王ランスがいなくなったことによりリーザスを離れたガンジーによって再び再建され、ヘルマンも、もともと独立を企てていたパットンによって復活を遂げた。
リーザス王国は各地の反乱によって軍は大幅に縮小し、もはや最初期の自国内を守衛するのが精一杯だった。嘗ての世界統一を果たした頃のリーザスの姿など見る影もなかった。

「エンジェルナイト達の攻撃で食べ物とかもたくさんなくなちゃって、慌ててるけど、…ここに新しい世界が増えたらどうなるのかな? …くす……くすくす。」

広い大空洞のなかを、ルドラサウムの無邪気な笑い声だけが響いていた。




















―――遠坂邸。


結局あれから朝までランスに抱かれ続けた凛は、途中で失神してしまいランスによって居間のソファーに寝かされていた。

(今、何時かしら…)

壁に掛けられている時計は既に、中時を示し、学校の登校時刻をとっくにオーバーしていた。
目が覚めた凛はソファーから起き上がり、周りを見渡す。
壊れた家具と室内、そして未だに残るあの臭いによって、まだ朝起きたばかりで上手く機能していなかった凛の脳が再活動を始め、昨夜までの出来事を強制的に再認させられる。

凛は、昨夜の己のサーヴァントによる凶行によっていまだ痛む腰を抑えながら立ち上がり、自分の直ぐ傍らで寝ていたランスの横に立ち、見下ろすように見つめる。

(いつつ……、なんでこんな奴が私のサーヴァントなのよぉ……)

凛は気持ちよさそうに大口を開けて寝ているランスにガンドでも叩き込みたくなったが、そうするとまたこの鬼畜な男が何をするか分からなかったので、一先ずこの男が寝ている内にシャワーを浴びることにした。

破り捨てられた自身の下着を回収し、ランスが起きないように静かに移動する。

(…うぅー、髪も服もそこら中にかけられてなんかパリパリしてるし最悪…。この服、気に入ってたのに)

着ていた赤い服はランスの精液によって彼方此方に染みが出来て黒ずみ、みるも無残な状態になっていた。履いているニーソックスも裂けて穴が空いている。
凛は取り敢えずそれらを一纏めにして、ゴミとして処分すると決めた。あの男の精液の臭いが染み付いたこの服の匂いを嗅ぐだけで、昨夜の行為を思い出すからだ。
凛にとって昨夜の行為は今すぐにでも忘却したい記憶だったのだ。よってまずは物理的記録を消去することにした。

(私の処女が奪われたんだから…、これで優勝出来ないと割に合わないわ。別に、聖杯に叶えてもらいたい願いなんてなかったけど、今出来た――)

物理的な記録を抹消しても、体に残った傷の根本的解決にはならない。
完全になかったことにするには、それこそまさに『何もなかった』ことにするしかないのだ。それを、手っ取り早く解決する方法が聖杯による過去の改竄だ。

「――私は私を取り戻す。そして、ランス……いえ、あんな男、アイツで充分ね。アイツを何とかいうこと聞かせて、この戦いを勝ち残る!」

凛は瞳を決意で燃やし、仁王立ちで拳を握りしめていた。
ただ服装は下着(ブラジャー)のみで、傍から見れば、とてもシュールな姿だったが。

「兎に角、今はシャワーね…」

凛は身体についた色々な体液の汚れを落とすために、今後どうランスを律するのかを考えながらシャワーを浴びるのであった。

――――――

シャワーを終えて、学校への連絡を済ませた凛はランスの居る居間に戻ってくると、そこには未だに大口を開けて熟睡しているランスがいた。

(――というか、なんでこいつサーヴァントの癖にこうもぐっすりと寝てんのよ…)

魔力回復など、よほどなことでもない限りそれほど睡眠を必要としない筈のサーヴァントが熟睡している姿を見て、凛がため息を零す。
それに凛は怒りを感じていたが、それは不必要なことを行う己がサーヴァントに対する怒りではなく、ただ自分に対してあのような所業を行ったにもかかわらず、未だにマスターの警護を差し置いて睡眠に没頭するランスに対する感情的な怒りだった。
ランスは通常の英霊と異なり霊体ではなく、生身の肉体を持っているので、仕かたが無いと言えば仕かた無いが、肉体的な疲労と言うより、日常的に行っていたごく普通の生理的な欲求に従った行為だったので微妙な所だ。

凛は怒りも募り、ランスを起こすために、僅かな復讐の念を込めてランスの腹を蹴った。
靴を履いているので、無防備に裸で寝ているランスにダメージを与えるのには凛の力でも十分だ。

「――ぐえっ!? 誰だ! この俺様の腹を蹴った奴は」

腹部を蹴られたランスは一瞬で意識を覚醒させると、上半身を起こし自分の傍らに立つ人物を見やる。

「いつつ、なんだ凛ではないか。 この俺様の腹をけるなんて何事だ、幾らかわい子ちゃんでも許さんぞ!?」

「何が、かわい子ちゃん…よ、マスターにあんなことした挙句にゆっくり熟睡なんて、いいご身分ね?」

凛はランスの態度に込み上げる怒りを抑える。
しかし、僅かに漏れたドスの効いた声は、それを聞く相手に私は怒っていますと伝えるには十分だったが、他人の感情にほとんど無関心なランスにはまるで効果はなかった。
ランスは何故凛が不機嫌なのか、と疑問に思っていた程度だ。

「何を言ってるんだ凛、俺様が世界の中心なのだ。絶対王なのだ。その俺様が好きなことをして何が悪い?」

「………もういいわ」

自分の恋人(?)を神に等しい存在に人質に捕られた者の発言とは思えないことを言い切るランス。
凛はランスと言う人物の全体像がだんだんと分かってしまい、肩を落としながら呆れると、バカバカしくなり、ランスの態度に怒ることを辞めることにした。

「…ふぅ、いいからさっさと服を着なさい。何時までそんな格好で居るつもりよ」

「む……、だけどこのまま服を着ると色々気持ちわるい。いったんシャワーを浴びたいぞ?」

ランスは体液で汚れた自分の股間を指さす。凛はランスの下半身を見ないようにして、ドアの方を指さし、浴室の場所を伝える。

「だったら、この部屋を出て左に行った先にあるからさっさと行ってきなさい…」

「なに怒ってるんだコイツ?」

凛の素っ気無い態度にランスはむかっときたが、取り敢えず辺りに散乱している服と鎧をまとめることにした。

『朝までお楽しみだったな心の友。儂も混ぜてくれてもいーのにー』

ランスが落ちている剣、カオスを拾うとカオスが声を発する。

「城で散々いろんな子とさせてやっただろうが」

『たまには一緒にヤるのもいーじゃん。今度は儂も混ぜてー、ね? 混ぜてー』

「ええい、黙れ馬鹿剣! 何が悲しくて俺がわざわざ貴様なんかと一緒にせねばならんのだ」

剣に向かって怒鳴るランス。
剣と会話するという異様な光景に愕然としていた凛だったが、目を醒ます様に首を振って意識を回復させる。

「剣が喋ってる……インテリジェンスソード? 初めて見るわ。精霊でも宿っているのかしら…」

剣に興味を持ったのか、カオスを近くで観察するために先ほどまでランスと一定距離を常に保っていた凛がランスに近づく。
やはり、こういった神秘に類することのために一時的にとは言え、自身を強姦した相手に近づけるところは、まさに魔術師だからなのかもしれない。
凛の精神的タフさも勿論あると思われるが、やはり魔術師の研究者としての意識が優先してのことだろう。

『美人さーん、儂ともやらなーい?』

しかし、凛のそんな研究者としての意識で向けた視線にも、その観察対象はお下劣な返答で還す。
凛は一瞬にしてその猥褻物に興味を失った。
ランスとの距離も元に戻っている。

(使い手が使い手なら、剣も剣てことね…)

「もうこれ以上エッチなこというな! 俺様まで引かれているだろうが!!」

『うおぉっ!』

ランスはカオスを壁に叩きつけるように投げ捨てる。

『捨てんでよー! 儂だって生きてるんだぞー!』

床に落下したカオスは自律的に起き上がると抗議の声をあげながら器用に跳ねてランスの元に帰ってきた。それをランスはしぶしぶと拾うと乱暴に鞘に仕まう。
その様子を不気味そうに凛が見つめる。

「自立で動くことも出来るのね…」

凛には刀身を屈伸させて跳ねる様子はなかなかに奇怪だった。

ランスはカオスとの会話で、まだ起きたばかりで暴走している自分の分身に気づくと、男らしい眉毛をぴくりとさせ、シャワー室に向かおうとする足を停止させる。
普段から起きたときにはシィルや城に居る従者などに朝の生理現象を始末せていたランスは、此処にその人物達がいなくても当たり前のように言い放つ。

「うーん…。カオスはいらんが、せっかくだしシャワーを浴びる前にもう一回やっとくか…、一発抜いておきたいしな。
 ――では凛やろ」

「イヤよッ!!」

「む…!」

勿論そんなランスの註文は聞いられるはずもなく、ランスが言い終わる前に凛は突き放すように拒否すると直ぐに部屋から出て行った。

「なんだ? 照れてるのか? あいつ…」

可愛いヤツめ、と呟くランス。
常人から見れば嫌われていると見ても間違いのない反応だが、自分が女性の理想で英雄で、自身と交わることが女性の幸せだと思っている男には、自分に惚れているが素直になれない女性としか捉えられなかった。
ランスは、凛の反応にどこかデジャブにも似た感覚を味わっていた。

(なんかどっかで合ったことあるような気がするなあ…。まあ、俺様の抱いた女の中に似たような奴がいたのかもな)

城にいた頃に城下にいた民を攫ってまで何度もハーレムプレイをやっていたランスには、今更センズリなどする気も起きず、熱り立つ息子をそのままにシャワー室に向かった。


















「まさか、こんな所で令呪を使うことになるとは思わなかったわ…」

ランスはシャワーを済ませて、鎧は着ずに下に着ていた服だけを着て脱衣所から出ると、外に待っていた凛に別の部屋に案内された。
凛はランスと今後の方針を話すために嫌悪感を抑えながら、向いのソファーに座り話しを始める。
最初に出た言葉はランスに対する嫌味となってしまったが、自身を犯した相手と会話をするのだから仕方ないともいえる。

「確か令呪って3回までしか使えないんだよな? 凛はバカだなあ」

「…………っ」

自分が原因だと一切考えないランスには無駄だったが。
凛は憤慨しそうな自分をなんとか抑え、話を続ける。ここでいちいち切れていては会話どころか文字どうり話しにならないからだ。

「――――まあ、そのことはもういいわ…。 あんた、剣を持っていたけど、貴方のクラスはセイバーってことで良いのよね?」

凛は念を押す様にランスに確認する。
召喚時のランスの姿は胸から肩を守る甲冑になびくマント、腰に差した剣、凛から見て剣士のサーヴァント、セイバーと判断するには十分だった。
セイバーは凛が最も望んでいたクラスのサーヴァントだ。近接最強と謳われるクラスの英霊ならば魔術師の自分でも後衛としての役目を果ことが出来、最強の布陣と踏んでいた。
忘れたいほどのアクシデントがあったにせよ、凛にとって最優のサーヴァントを引き当てられたことは喜ぶべきことだったのだ。

「クラス? セイバー? なんだそれは? 俺様は学生なんかではないぞ」

「あんたのサーヴァントとしてのクラスのことよ。聖杯からの情報で分かるんじゃない?」

「…ふむ」

ランスが自身のクラスについて考え始めると、直ぐに聖杯から情報が伝えられる。

(俺のクラスはと、……イントルーダー? なんだそれはかっこ悪い。超エリートスーパーキングならともかく、こんなのが世界の英雄たる俺様のクラスなんて有り得るか)

ランスは考えるのをやめると一気に吐き捨てた。

「知らん」

「は!? 知らん、じゃないわよ! クラスが分らないんじゃ、何が得意で何が弱点なのかも分らないじゃない!?」

凛は白を切ったランスにたたみかけた。
聖杯は召喚される英霊達を、それぞれの英霊に相応しいクラスに分ける。極端な例をあげれば、剣を扱うならセイバー、槍を扱うならランサー、弓を扱うならアーチャーと、それぞれに見合った物に割り振られる。
故に、そのサーヴァントのクラス名を聞けば何を用いて戦うのかがある程度予想できるのだ。
しかし、クラスが分からなければ、そのサーヴァントの戦法、戦術、スタイルの予想を立てにくい。
もっとも、ランスの場合はわかり易く剣を腰に差していたので、その剣を用いて主に戦闘を行うのであろう事はある程度予測できることだが。
凛も、何故剣を持っているのにセイバーではないのか、ということに憤っていた。

「だいたい、その剣を使って戦うんでしょう? ならセイバーじゃない」

「ふん、そもそも宇宙最強の俺様に弱点など存在しないのだ。ならクラスなんぞなくても何も問題ないわ!」

「あんたはそれでよくても、あたしが困るのよ! ああもう! なんだってあたしがこんな目に」

凛は優美な髪の毛を振り乱しながらしゃがみこんだ。その悔やむ姿は普段の常に優雅に凛とした姿は一片とも残っておらず、まるで就職に失敗した大学生のようだ。
しかし凛は直ぐに立ち上がると、再度ランスに質問を投げかける。

「そもそもランスって言ったかしら? そのランスって名前も聞いたこと無いわ、一体どこの英雄よ」

「ん? この俺様を知らんのか? 世界を統一して魔人領すら制覇したリーザスの王だぞ?」

「リーザス? そんな名前の国聞いたことも無いわ。世界を統一したって言うならかなり有名なはずだし、あんた嘘ついてんじゃないでしょうね」

ランスへの信用がだんだんと下がってきた凛は、ランスの発言に信憑性がなくなってきていた。
信用どころか信頼も糞も最初に強姦された時から失っていたのだが。

「嘘なわけないだろうが! リーザスを知らんとは、どこの田舎だここは!!」

『ちょっちまて相棒』

王ということを疑われ怒鳴り声をあげ憤慨するランスにカオスが話しかける。

「なんだカオス。今俺様は気分が悪いのだ。くだらん話なら生ゴミの日に捨てるぞ?」

『儂と心の友の中ではないか。
 ――――それより、そこの嬢ちゃんがリーザスやお前を知らんのは此処が異世界だからではないか?』

「異世界…、そういえばあのくじら野郎がそんなこといっていたな」

ランスはカオスの助言でルドラサウムとの会話を思い出す。
凛はランス達の会話を聞いて、異世界を別の意味で捕らえていた。

「異世界ってねえ…、まあ、あんた達過去の英雄にとっては今の世界は異世界みたいなもんなんでしょうけど」

ランスは凛を無視して、独り考えに没頭し始める。

(ふむ…。シィルを人質に取られたとはいえ、このままあのくじら野郎の操り人形になるのは御免だからな。シィルを助け出すのは当然として、せっかく異世界に来たんだ、ここでまた俺様の軍を作って今度はあのくじらにも負けないほど強い軍隊を作ればいいのではないか? 聖杯戦争に勝てばシィルも取り戻せるしな。で、こっちの世界で最強の軍隊を作り英雄の様に元の世界に帰って来る。ついでにこちらの世界の美人を全部俺様のものにする。がははは! 我ながら完璧な作戦! 俺様が優秀すぎて少し怖いぜ…)

ランスは自身が考えた計画を勝手に感動しつつ、やれやれと自分の天才さに呆れていた。自分で。
凛はいつまでも自己泥酔しているランスにガンドを放ち強制的に現実に目覚めさせる。

「ぐお! 行き成り何をする!!」

「あんたが何時までもあたしを無視して惚けているからでしょ? それより、あんた対魔力は全然ないのね。良いことが分かったわ。戦闘には困るけど、これからは襲われずに済みそう」

「いつつ、凛、お前魔法使いだったのか」

痛む箇所を摩りながら質問するランス。
ガンドとは言え、凛の高い魔力密度から拳銃弾並みの破壊力を持ったものになっているはずなので、その一撃を受けて平然と立っているので魔人や神の撤兵と生身で戦ったランス宛らと言える。
凛も口には出さないが少なからず感心はしていた。

(ふーん。どこの英雄だか知らないけど、英霊は英霊ってことね。魔術的防御があるわけでもなさそうだし、少なくともただただ人間とはやっぱり違うか…)

「魔術師よ。とにかく、あんたがどこのマイナーな童話だか神話の英雄だか分からないけど、そうなるとこれからの計画を立てたりするのに困るわね。…調べてみるしかないか」

「ふん、相手がどんな相手だろうが英雄王たる俺様に敗北などありえんわ」

凛の今後を案じる発言にランスが胸を張って答える。

「はいはい。それは分かったから、あんたこれからは自分のことはセイバーって名乗りなさい。剣を使うみたいだし丁度いいじゃない」

「なんでわざわざ名前を隠さねばならんのだ?」

「名前を知られれば、それだけで敵に弱点を教えるようなものじゃない。まさか堂々と名乗るつもりだったわけじゃないでしょうね?」

凛はじと目でランスを見る。
今までの態度から導き出されるランスの性格から、間違いなくそうだと確信していた。

「だから俺様に弱点なんかないって言っているだろうが。もういい、俺様少し外に行って散歩してくる。異世界がどんなものか興味があるしな。ついでに女の子もゲットだ!」

「――あっ、ちょっと!待ちなさいよ!」

ランスは凛の制止を無視すると、高笑いを上げながらそのままずかずかと部屋を出て行ってしまった。
凛がその後を慌てて追いかける。
ランスはこの異世界という場所に実はかなり興奮していた。元々冒険者というのもあるのだろう、リーザス王として世界を統一したランスには大陸のことはほぼ把握してしまったので、新しい土地と言う新鮮感余りなくなっていた。
そこでこの異世界のまだ見ぬ迷宮や主に女性にわくわくしていたのだ。
なので凛の辛気臭いだらだらとした真面目な話はマリスとの国議を思い出させ、ランスは苛立ちを感じ、元々快楽に生きる男のランスは聖杯戦争の今後のことなどよりもまだ見ぬ未開の土地の探索を始めることにしたのだ。
リーザスの王だった時になんとか真面目にマリスと国議していたのは、国に縛られていたから嫌々行っていただけなのだ。

ランスはいつもの鎧を歩きながら着け終わると、後ろについてくる凛に振り返る。

「なんだ凛、わざわざ付いて来るのか? がはははは! なんだかんだ言ってもう俺様から離れられんのか」

「違うわよ! そもそもこの街をアンタに案内するのがこれからの予定だったのよ、これから戦うのに地形を知っておいた方が良いでしょ? だいたい、なんで私があんたに好き好んでついてかなくちゃなんないのよ」

「むむ…。可愛くない奴だなあ」

「うるさい。 じゃあ霊体化してついてきてちょうだい。 その格好じゃ今の世の中は目立つからね」

凛はランスを追い越し、そのまま早足で玄関に向かった。
その後ろを、凛の腰を眺めつつ実体化したままついて行くランス。

(むー、起きた時にやってないから少しイライラするぞ? 凛もさせてくれなさそうだしな、このまま襲ってしまおうかなー。でもあの魔法は痛いしな。いや、後ろを見せている今ならいける!)

あの魔術を放った腕さえ押さえつけてしまえば勝ちだと思い、ランスは羽交い締めにしようと、音もなく静かに凛の後ろに張り付くようにして近づく。

「むふふ…」

「…言っておくけど」

「ん?」

凛の肩を掴みかけたところでランスが動きが止まる。

「令呪にはあんたを自害させることもできるのよ?」

「なんだと!」

「次に強引に私のこと犯そうとしたら、…どうしようかしら?」

凛はランスに令呪が見える様に腕の裾をまくり、振り返って見せつける様にして突き出す。
ランスは凛を犯した時のことを思い出し、余裕の笑みを浮かべる。

「だが前は少し頑張れば何とかなったぞ?」

「それはあの命令が曖昧だったから。今度は違うわ」

凛はふん、と鼻を鳴らすとそのままランスに背を向ける。
ランスは今回はやばいと踏んだのかそれ以上動かなかった。

「俺様は王様だぞ?」

「そんなの私には関係無いわね」

「ぐぐぐ……卑怯だぞ…」

「どっちがよ! 分かったなら変な気起こさないでよね」

凛はそう言うと、ランスを無視して再び早足で歩きだす。

ただならぬ雰囲気を感じた凛は、ランスからの暴行に対抗するために分かり易く令呪による自害で脅して見たが、予想どうりあっさりとランスは引き下がった。
自分の命が確実に掛かってくるとなると、以外に弱気になるランスだった。
勿論、凛もランスを殺す気など無い。願望機足る聖杯にそれ程執着はないけど聖杯戦争を優勝したいという気持ちは本当だ。
ただこれ以上ランスに体を弄ばれることに我慢ならなかったから、あえてこのような脅し型をしたまでである。快楽主義のランスには効果抜群だったようだ。

ランスは暫く地団駄を踏んでいたが、とにかく一度諦めることにして凛に黙ってついて行くことにした。

(このままでは手がだせんぞ…。凛は感度も良かったしこのまま出来ないのは勿体ない。もう俺様に99%惚れてると思うが、あと1%たりんみたいだ。まあ、ハンサムな俺様を前に直ぐに自分からまた股を開いてくれるだろう。まだまだ可愛い子は一杯いるだろうしな!)

ランスはこれからのこと(女の子)を考えて再び気分がよくなり、下品な笑みを浮かべていた。


玄関に着いた。
外に出ると凛はもう一度ランスに向き直る。その額からは青筋が浮かんでいた。

「で? なんで霊体化してないのかしら?」

凛は外に出ても未だに鎧姿で実体化したままでいるランスに何度目になるか分らない苛立ちを感じる。
ランスは何のことかよくわからなかったので、そのままついて来ただけだが。

「よく分からんが、霊体化なんて出来んぞ?」

胸を張って答えるランス。

「あんたねぇ…、英霊って、ようは魂みたいな物でしょう? その身体だって魔力で維持してるんだから出来ないわけがないじゃない」

「魂? そんなもの、死人でも無いないのに出来るわけないだろうが」

「死人じゃない…? あ、そうか。実在しない童話や神話の中なら、そもそも死んでいない英雄だっているわけね。だから霊体になれないってことなのかしら…?」

凛はランスをみて自分なりの仮説を立てる。
しかし、ランスはルドラサウムによって英霊召喚に割り込んで召喚された存在なので、そもそも英霊でも精霊でも何でもないのだ。
ルドラサウムの大陸内では英雄であることは間違いないが、凛がそれを知ることはまだない。

「…はぁ、明日から学校どうしよう。まあいいわ、問題はそこじゃないし」

ため息が漏れる。
この問題は後で考えることにした。

「ん? 凛は学生だったのか?」

「ええ。 だけどあんたが霊体になれないから、今まで通り通うか考えていたところよ」

凛の言葉を聞いて、学校の女の子を美味しく頂くというグットなアイデアがランスに閃く。
男の先生にでも成りすまして女性徒をてきとうな理由で呼出せばチョロいだろう。なんなら俺直々に性についての実技でも――。

「ふむ…、それなら凛、俺様にいい考えがあるぞ。だから凛はいつも通りにするといい。がははは!」

「悪い予感しかしないけど…まあいいわ。それは貴方に任せる、私はいつも通りに通うから。
それより、霊体化出来ないんだからその鎧は脱いできなさい。剣は念のためそのまま持ってきて。なにか入れ物探してくるから」


「それなら必要ないぞ?」

そう言って魔法ボックスを取り出すランス。
魔法ボックスとは、魔法ハウスを応用した収納道具で大変高価だがアイテムを同時に1000個まで収納できる。
ランスは冒険中のアイテム収集などにこれをもっぱら利用していた。

魔法ボックスに鎧とカオスをぽいぽいと仕舞う。

「へぇ、それ便利ね。他にも宝具とかが入ってたりするの?」

「宝具かどうかは知らんが、便利な魔法アイテムとか武器なら入ってるぞ?」

試しに、リーザス聖剣を取り出すランス。
その剣に宿った魔力量に、思わず身構える凛。

「!…まさかとは思ったけど、まさか宝具を複数持っているなんて! あんたって何から何までむちゃくちゃね」

「ガハハハ!流石俺様」

(…こいつ、意外と当たりかもね)

口には出さないが、ランスを少し見直す凛。
宝具とはその英雄のシンボル。そのシンボルを複数も所持していることなどそうそう無いはずなのだが、ランスにはそのセオリーは通用しなかったようである。

「じゃあそれも街の案内が終わったら何があるのか教えてくれる? いろんな宝具があるならそれを使った作戦も考えられるわけだしね。持ってる切り札は知っておきたいの」

「うむ。構わんぞ」

「なら、行きましょ。このままだと日が暮れちゃうわ」

(『絶対差し押さえの札』は凛には隠しておかねばな)

先を歩き始めたリンのおしりを眺めなが思案するランス。

(リンのやつ、令呪があれば俺様が逆らえないと思ってるみたいだが、俺様には『絶対差し押さえの札』《こいつ》があるのだ)

『絶対差し押さえの札』とは、どんな契約でも無効にできる万能アイテム。魔法契約は勿論のこと、悪魔との魂を懸けた契約すら無効にすることができる。これによって、ランスは令呪による制約どころか、サーヴァント契約すら無効にすることができるのだ。

(『絶対差し押さえの札』があれば無理矢理襲ってエッチも出来るが、リンは可愛いくてあそこの具合もいいし、またやりたいからここはなるべく使わず和姦だな。そのために、なるべく言うこと聞いてあげて好感度アップだ!)

ムホホと鼻の下を伸ばしてだらしなく笑うランス。



――ランスと凛それぞれの思惑はあれど、今は同じ戦いに向けいざ歩き始める。




[41566] 初戦開幕
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/10/04 23:34

夕暮れ時――。

ランスに冬木の案内を終えて、すっかり太陽は沈み周囲は暗くなり始めていた。
凛は、最後に自分の通う学校を紹介するため、ランスを引き連れて通学路を歩いていた。

「そう言えば、まだ貴方の聖杯にかける願いを聞いてなかったわね」

凛は重要な事を聞き忘れていたと、後ろを歩くランスに振り返る。

「まあ、あんたのことだから世界中の美女を集めるとかそういう低俗な願いなんでしょうけど」

「ん…あぁ、そうだな」

珍しく歯切れの悪い返答をするランス。
凛は、唯我独尊の権化みたいなこの男が優柔不断な答えをするとは思わず、再度聞き返す。
傲慢不敬、唯我独尊を地で行くランスとしては、シィルを助けるためなどと素直に答えられるわけがなく…。

「一応だぞ一応。ついでのついでのついでだが」

らしくもなくこんな建前を並べる。

「何よそれ? まあいいわ。それでどんな願いなのよ?」

「うむ。俺様は美形で最強で無敵なのだが、ドジな奴隷が足を引っ張って神に封印されてしまったのだ。…ムカムカ。思い出したら、腹が立ってきた。シィルの奴め、俺様に迷惑をかけやがって帰ったらたっぷりお仕置きしてやる」

「まさか奴隷を一人助けるために聖杯戦争に参加したの!? あんた王だったんでしょ?奴隷なら一人や二人いくらでもいるでしょうに」

信じられないものでも見るようにランスを見つめる凛。
初対面の自分を躊躇なく犯すような男に、まさかこんな人間らしい情があるとはとても信じられないのだ。

「だからついでだって言っただろ。あいつがいないといろいろ不便なのだ」

「ふーん。それで、ついでの願いは良しとして、本当の願いは結局なんなのよ」

「うむ。とりあえず、当面の目標はハーレムだな。聖杯戦争中に可愛い子ちゃんがいたらその娘達もゲットだ!ガハハハ!」

「…呆れた。結局、女目当てか。でも、安心したわ。世界征服とか碌でもない願いだとしたらどうしようかと思っていたから」

凛は肩がっくり落とし溜息をはいた。
それを見たランスは聞き捨てならんとばかりに胸を張って言い返す。

「む。俺は、正義の味方だぞ?世の為人の為に日夜、努力をかさねているのだ。邪悪な願いなどありえん」

「どの口が言うのよ…」

再度溜息をはく。
このサーヴァントを召喚したのが遠坂家最大の失態なのではないかと思い、一度落とした肩をまた落とすことになる凛なのであった。



「ここが凛の通う学校か」

学校に到着し、校門の前に立つランスと凛。生徒の姿はない。最近の立て続けの事件の影響で生徒は早期帰宅を命じられていたため、普段は聞こえる部活動の掛け声もなくまるで休日のような静けさを帯びていた。
ランスは自分の世界の学校の外見とあまり差がなかったので、内心興味が半減しつつも、自分の考えている作戦に支障をきたさずに済むと安心する。

「そうよ。明日からいつも通り通うつもりだけど、貴方どうやって学校に潜入するつもりなの?」

「まあまあ、俺様に任せておけ。大船に乗ったつもりでいていいぞ」

「心配だけど、とにかく私の教室を案内するわ、ついてきて」

妙に自信満々なランスに懐疑的な眼差しを送る凛。
しかし、問題なく学校に通えるのは凛にとっても都合が良かったので、一先ず気にしないことにして校門の中へ入る。

―――学校の敷地内に足を踏み入れる。

その瞬間、凛に全身に寒気のような感覚、同時に吐き気のようなものが襲う。
凛の魔術回路が周囲の異常な魔力に反発に、全身を浄化するように自身の魔力を回す。

「!?…これって」

「む?どうしたのだ凛。俺様のかっこよさに気づいたのか?」

大した魔力も魔法的知識も持ち合わせていないランスは気付かず、凛がようやく自分の魅力に気づいたのかと曲解する。
それを否定するように畳み掛けるように凛はランスに事の重大さを伝える。

「分からないの?これ多分なにか結界が張られているわ」

「それが何か悪いのか?」

凛の異様な剣幕に疑問感じつつ、結界について知識のないランスは特に問題はなさそうに感じていた。
実際、ランスの持つカオスの魔力が周囲の結界の影響を相殺していたので何も問題が無かったりする。
しかし、カオスは自身の魔力と相殺している結界の魔力に鋭敏に反応していた。

『心の友。この結界、相当悪質ですよ?』

カオスが魔法ボックスから柄の部分だけ飛び出してランスにことの異常を伝える。

「何勝手に出てきてるカオス。うるさいぞ」

「カオスも気づいたのね。ランス、悪いも何もここまで異常を感じる結界よ? 間違いなくろくなものじゃないわ」

『間違いなく”魂食い”系の結界じゃろうな。そこの魔法使いの嬢ちゃんと儂を持ってる心の友なら平気じゃろうが、普通の人間じゃ発動した途端死んじまうだろうな』

「な、なんだと!」

魂は本来そう簡単に人の体から分離できるようなものではない。それを強引に生身の人間から魔力に変換する結界である。当然、取れる手段はどうしても過激なものになる。この結界もそのたぐいで人間を肉体ごと溶解し強引に魔力に変換するものである。
ランスは自分の運命の女(未定)ごと亡き者にするだろうこの結界に怒りを燃やす。男はどうでも良いが、可愛い女の子が犠牲になるのはランスにとって許せないことなのだ。
当然、凛も怒りを燃やす。ランスとは違い土地の管理者として、人間らしい道徳的価値観からの理由である。即ち、なんの罪もない民間人を巻き込みやがって!というやつである。

「やっぱり。なら一刻も早く止めるためにも、私の学校でこんな下衆なものを仕掛けた奴を必ず探しだしてぶっ倒すだけよ」

「うむ、こんな野蛮なものを仕掛けやがって、見つけ出したら切り刻んでぶたバンバラの餌にしてやるぜ」

ランスもやる気満々で凛の言葉に頷く。
凛はそんなランスを意外なものを見るような眼差しで見つめる。

(意外…、こういうことに憤る心を持ち合わせているなんて、人としての良心も持っていたのね)

凛がそんなことを思っている裏腹、当然ランスが人としての良心を刺激されて怒ったわけではなく。

(俺様の未来の女がいるかもしれないのになんてもったいないことしやがる。危ないところだったぜ)

それに気づかない凛は、ランスの良い一面見つけたと思い少しだけ見直していた。ランスもやはり人を救ってきた英雄なのだと。
凛はランスに微笑みかけると、背を向けて校舎に向けて顔を引き締める。

「ふふ、その意気よ。なら早速この結界を調べて見ましょう。破壊できるのならそれに越したことはないわ」

凛は不敵な笑みを浮かべると、結界の起点を探すために魔術回路を起動させる。凛にこの結界の起点を探す能力はないが、足を使って起点のありそうな場所自体の予測ぐらいなら凛にもできる。魔術回路を起動したのはこれを仕掛けたであろうサーヴァントとの敵対を覚悟し、いつでも戦えるようにするためだ。勿論、起点を見つけられればそれを弱らせるためでもある。
そんな凛が覚悟を決めてる横で、ランスは名案ありと言った具合で凛に語りかける。

「結界か…、なら俺様に任せろ。魔法大国ゼスと戦争した時に使った対結界アイテムがあるのだ」

そう言うとランスは魔法ボックスから一つの武器を取り出す。この世界では規格外過ぎて宝具と言っても過言ではないシロモノである。ランクにしてB。対結界アイテムにして武器としても抜群な性能を誇る魔法剣<結界ブレード>である。その能力はあらゆる結界を無効化するというものだ。
ランスはそれを無造作に左手で握る。ただそれだけで<結界ブレード>は効力を発揮し、凛の通う学校に張り巡らされていた結界かき消す。先程まで淀んでいた空気がまるで洗浄されたように澄み渡っていく。
凛はランスの持つ宝具の破格な性能に只々呆然としていた。そして同時にランスの力に恐怖する。この英霊にかかればどんな強力な魔術師の工房の守りなど障子戸ほどの意味しか持たないことを理解したからだ。

「…驚いたわ、たった一振りでここの結界を破壊しちゃうなんて」

まだ夢心地のような心境で凛は呟く。
それを聞いて気分を良くしたランスは豪快に笑い、<結界ブレード>を天に掲げて豪快に笑う。その姿は英雄として遜色ないものだった。

「ガハハハ!流石俺様!」

『いや、それ結界ブレードのお陰』

調子に乗るランスを茶化すようにカオスは呟く。

「がー!余計なことを言うなカオス!だからお前は使いたくないのだ!」

『それに結界ブレードは結界を破壊できるわけじゃないぞ?ただ無効化するだけじゃ。そいつがここから離れれば結界はまた復活しますし』

「なんだ、結局結界の起点を探して破壊するしかないのね」

<結界ブレード>確かに結界を無効化する能力を持つが別に結界事態を完全に破壊するわけではない。<結界ブレード>が展開する特殊な魔法により、結界による影響を遮断できるだけなのだ。しかしその遮断できる範囲は広大で、都市一つ囲む結界でさへも遮断することができる。
カオスからの説明を受けた凛は、結局事態の解決になっていないことが分かり少し肩の力が抜ける。

「ちっ、もう黙ってろ馬鹿剣が。もうちょっとで凛が俺様にメロメロになっていたのを邪魔しやがって」

「あるわけ無いでしょ馬鹿」

先程までの張り詰めていた空気と打って変わり、すっかり緊張がほぐれていた二人に第三者の声が掛かる。

―――楽しそうだな、俺も混ぜてくれや。

直ぐ様凛は警戒態勢を取り声のした方角に振り返る。電柱の上に影が一つ。そこには青い鎧装を纏い深紅の槍を携えた男が一人。
間違いなくサーヴァント。槍を持つということはランサー。拙速を尊ぶ槍兵のサーヴァントである。

「っ!?まさか、サーヴァント!」

「ちっ、男か」

危機感全開の凛と比べ、ランスは極めて自然体だ。むしろ気が抜けすぎているとも言える。

「その通り。それが分かるってことは嬢ちゃんは俺の敵ってこといいんだよなァ!」

ランサーは槍を構えて凛とランスの前に降り立つ。

「そっちの兄ちゃん。ちょっと気配がおかしいがお前が嬢ちゃんのサーヴァントだろ? そら、戦闘支度ぐらい待ってやる。さっさと武器を構えろよ」

ランサーは挑発するように手招きすると、構えていた槍を降ろしランスの装備を待つ。相手との全力の一騎打ちを望むランサーは非装備の相手に攻撃するようなことはしない。それはランスを舐めているとも取れるが相手と正々堂々戦うことが彼にとっての誇りなのだ。

「こっちとしては都合は良いんだけど。ランス! あなたの力ここで見せて!」

「女の子じゃなかったのは残念だが、さっさと殺して次を探すか」

ランスは欠伸をしつつ手慣れた手つきで装備を整える。盗賊団の頃から愛用している緑の鎧装纏い<魔剣カオス>を構える。だが本人のやる気のなさそうな態度とは裏腹に、ランスの眼は相手の槍の長さ、足の運び、息遣いまで何一つ見逃さないように睨みつける。左手で<魔剣カオス>握りいつでも斬りかかれる姿勢を構える。

「見た感じセイバーって感じだな。真名隠しもせずにマスターに呼ばせてるなんて潔さぎのいいやつだな。それともただの馬鹿なのか」

「うっ」

ランサーの何気ない言葉が凛の心にグサグサと刺さる。自分であれほどランスに真名を隠せと厳命しておいて自分でばらしてしまったのだから。
なんでいつも私は重要なことを失敗するのだろうかと悔やんでる凛を差し置き、ランスは豪快に笑うとランサーの言葉を一蹴する。

「俺様には弱点など無いからな!貴様ら軟弱共とは出来が違うのだ」

「へへ、良いぜ。お前みたいな奴は嫌いじゃねぇ。俺も名乗りたいところだが、マスターにそれは止められててね。このままで悪いが、―――さて手合わせ願おうか!」

「がははははは! お前を倒して凛ちゃんとえっちだー!」

緑の戦士と青の槍兵激突する中、凛の叫び声が夜空に木霊するのであった。



[41566] 強運と不運
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/10/04 23:38


私は完全に自惚れていた。
自分で五代にもなる魔術刻印を受け継ぎ、生まれながらにして五大元素の属性を持ちながら、その魔術回路もメインが四〇にそのサブがそれぞれ三〇と魔術師としてこれ以上ないほどに恵まれた才能を持って生まれたと思っていた。勿論、その才能に溺れること無く修練を重ねてきたし、この聖杯戦争のために準備も重ねて来た。
サーヴァント相手では魔術師は相手にならないことは知っていたし、でも自分ならただの足手まといにならずサポートとしての役目が果たせると、サーヴァント共になら戦えると、そう思っていた。

しかし、そんな私の甘い考えはランスとランサーを名乗るサーヴァントの戦いが始まった途端に粉々に砕け散った。

ランスが一歩踏み出す。ただそれだけで大地が砕け、一〇メートルもあった間合いが消える。それに対しランサーは槍を突き出し、目にも留まらぬ速さで豪雨ように槍を繰り出す。槍が振るわれるたびに大気に震え、大地が崩れ、砂塵が舞う。
そんな人間業を超越し、あらゆる戦場を、英雄を、怪物を、打ち倒してきた神速の連撃をランスは同じようにカオスを持った腕を残像を残しながら当然のように切り払っていく。
ランスとランサー、二人の姿が一瞬ぶれるたび姿を消し、武器と武器がぶつかる一瞬だけ姿を表しやっと視認できるぐらいだ。
こんな神話の再現とも言える戦いに、ただの魔術師の支援が一体何の役に立つのか。

「…すごい」

思わず感嘆のつぶやきが漏れる。
何度目かの打ち合いの後、槍による突きをすべて切り払ったランスがランサーの槍の間合いに入り、今度はランスが一気に攻め立てる。
剣が振るわれるたびに足元の大地ごと切り裂き、武器を一振りすると光のような剣閃を残してゆく。
それをランサーは紙一重で交わし、いなし、防いでゆく。
私にはこのままいつまでも魅入っていられるような戦いが永遠に続きそうかとも思われたが、ランサーがランスの攻撃を防いでから形勢が傾き始めたようだ。
先程まで切り払い、紙一重でランスの攻撃を交わしていたランサーがランスの攻撃を受ける事が多くなっていた。ランサーの足が止まったことで、ランスの火力を速さで上回り保っていた均衡が崩れていたのだ。

「ランスのやつ結構やるじゃない」

思わず笑み溢れる。
かれこれランスの言動に散々な目に合い、正直サーヴァントとしての強さを疑うほどにランスに対して信頼を失っていたが、その不信もこれだけの実力を見せられればそれも吹き飛んでしまう。

「やァ!」

突如、ランスの攻撃を受け続けていたランサーが強引にランスを弾き飛ばし、再度仕切りなおしの構えをとる。

「えぇい!ちょこまかちょこまかと、大人しく俺様に殺されんか!」

「はは。まあそう焦んなさって。お前、ランスとか言ったな。一体どこの英雄だ?日の円卓の騎士かと思ったがお前は騎士って感じじゃねぇしな」

「俺様を知らんとは。失礼なやつめ」

『だからここ異世界』

カオスのツッコミに吠えるランス見ながら私は考える。
確かランスは自らのことをリーザスの王と言っていた。
あれから私も思い当たる英霊がいないかいろいろ考えたが未だに検討がつかない。ランサーも言っているが一体どこの英霊なんだろうか。女好きで黒い喋る剣を持ち卓越した剣士の腕を持っている王。これほどの情報があって分からないのはよほどのマイナーな英雄なんだろうか。

「ついでにもう一つ聞いとくが、お互い初見だしよ。ここいらで分けって気はないか?」

「え?」

ランサーの意外な提案に一瞬思考が固まる。
しかし、そう言う割にランサー一切構えを解こうとはしない。むしろいつでも斬り掛かれるように待ち構えてるようにも見える。
先ほどの戦闘の流れは完全にこちらの優勢に傾いていた。ただ相手の宝具も判明していない今の段階で戦闘を強行するのは果たして正しいのだろうか。

「やだ。女の子なら兎も角、俺様に攻撃したんだからここで死んでもらう。死ね」

「ランス!相手の宝具もまだ何か分かっていないのよ?」

「ふん。甘いぞ凛。相手を叩けるときは徹底的に叩く。俺様が言うんだ間違いない」

そう言うとランスはカオスの剣先をランサーへ向ける。
確かにランスの言うことにも一理ある。次にこのサーヴァントと一対一で戦えるとも限らなければ、同じコンディションで戦えるとも限らな無い。そして、相手の宝具と正体が判らないように、相手もこちらの正体がわからない。情報がわからないのはあちらも同じなのだ。
しかし、戦況はステータスに差があるのか技量の差か、現状はランスが優位な上、相手にはマスター不在のため正確には二体一。この状態でせっかく取っている優位な流れを見逃すのは、ランスの言う通りもったいないのかもしれない。それに―――。

「それもそうね。残念だけどここで脱落してもらうわ。ランサー!」

―――常に余裕を持って優雅たれ。

遠坂ともあろう私が何を怯えていたんだろうか。待ちに待った聖杯戦争。その大事な初戦からこんな逃げ腰では勝てる戦いも勝てるはずがない。
ならば私らしく。圧倒的に、常に優雅に劇的に初戦を勝利で飾ろうではないか。
前に立って剣を構えているランスの背中を見る。あれほど毛嫌いした彼の背中だが、こうして彼の背後に立つとどれほどの脅威が立ちはだかっても負ける気がなしないように思えてくるのは何故だろう。絶対的な安心感、これが英雄の背中というやつなのだろうか。

「話し合いは終わったか?お前らみたいな奴らは好きだし、今回はただの様子見が目当てだったんだがそっちが逃がす気がねぇってんなら―――」

ぞくりと鳥肌が立つ。

ランサーの槍、彼が構えた瞬間、そこだけ温度が異様に下がったような感覚。そして目に見えるほどの赤黒い魔力の波動。
間違いない。明らかに宝具を使用しようとしている。
あまりにも強力な呪詛が魔力になって漏れ出している。あの槍はきっと避けられない。そういう類のものだ。本能的に私はそれを察することが出来た。
ランスにあの宝具を回避できるのか?それとも防御?
あれほどあった安心感もランサーの宝具の放つ魔力の波動で紙のように吹き飛ばされてしまった。なにが絶対の安心感だ。相手も同じ戦場を走破し怪物を打倒してきた英雄なのだ。絶対なんてある訳が無い。

「―――その心臓貰い受ける!」

『あ、これやばいかも』

拍子抜けなほど頼りない呟きがカオスから漏れる。この剣は今なんと言った!?
やばい?負ける?こんな初戦で相手の正体すら判らずに?こんなことならもう少し慎重判断すれば―――






―――ガサッ






「誰だッ!?」

ランサーが音を発した気配の方角に意識を向ける。
私も追いかけるようにそこに目を向ければ、学校の生徒が走り去る背中が見えた。男子生徒だろうか?

だが私とランサーが生徒に気を取られた瞬間、すぐそばで地面を蹴る音ともに強力な波動が生まれる。

ランサーも私も生徒に気を取られている。当然だ。魔術師として、神秘に関わるものとして目撃者は極力避けなければならい上、一騎打ちの最中、ボルテージが上がり決着すら着きそうな瞬間に第三者の横槍があれば警戒するのは当然だ。

しかし、その隙を、その一瞬の、瞬きとも言えないその僅かな気の緩みを、この男が、ランスが見逃すはずがなかったのだ。

「馬鹿め死ねー!隙ありランス~~~…ッ!」

「うぉぉぉッ!?」

不意をつかれたランサーはランスの必殺技を避けることが出来ずに受け止める。たとえ隙をつかれても一瞬で槍を盾に出来たのは流石の技量と経験である。

「アタタターーーーーック!!」

およそ三メートルほどの高さまで飛び上がり繰り出したランスの剣戟は勿論ただの斬撃ではない。ランスの高いレベルによってオーラのように視認できるほど束ねられた気力塊を剣撃と共に相手に叩きつける絶技である。

ランスの必殺技を防いだとはいえ、完全に受ける形になったランサーは地面から吹き上がったランスの衝撃波によって校舎側まで吹き飛ばされていった。

「がははははははは!流石俺様世界一ィィィ!」

「あんたって…」

「なんだ凛?俺様の華麗な活躍に濡れたのか?」

「なわけないでしょ。まあいいわ、それよりランサーはこれでやったの?」

勝ち方は兎も角、先程までのピンチを乗り越えられたのだから万々歳だ。それよりも、いまだ吹き飛ばされて校舎の瓦礫に埋まったランサーの反応が無いのが気がかりだ。直撃はしていなかったようだしあれで倒したとは思えないが、これで倒していたのならそれで結構である。

「知らん。なに、まだ生きていたらその時にまた倒せばよいのだ」

「そうね。ふふ、その時はまた同じようにぶっ飛ばしてあげましょ」

ランスの言葉を聞いていると考えている自分が馬鹿らしくなってくる。ほとほとこの男は強運なようだ。
初戦は運良く勝ちを拾えたが、あの時、あの生徒がランサーの隙を作ってくれなければどうなっていたことか。
…ん?生徒?

「いっけない。そう言えばあの時の生徒!」

「ん?」

「さっきあんたとランサーが睨み合ってた時に走って逃げた目撃者よ!多分男子生徒だった気がしたけど追いかけなくちゃ!」

「何だ男か。美女ならともかくなにが悲しくて男なんぞ追いかけなくちゃならんのだ」

「いいから行くわよ!」

そうランスに叫んでから凛はランスの返答を待たず走り出す。その後ろをランスは渋々追いかけるのであった。












「いつつ。あの野郎派手に吹き飛ばしやがって」

ランサーは瓦礫の中から立ち上がる。どうやら建物の中にまで吹き飛ばされてしまっていたようだ。

「分かってるよ。このまま撤退すりゃあ良いんだろ?ついでにあの目撃者も消しといてやるよ。たく、胸糞のワリィマスターだぜ」

誰もいない場所で独りでに会話のような言葉をつぶやくランサー。パスのつながったマスターと念で会話をしているのだ。
ランサーは体に纏った瓦礫を振り払うと廊下の窓から見える向かいの校舎に視線を向ける。

「どうやらこの校舎の中に逃げ込んだようだな。こいつも中々運が悪いな」

くくく、とランサーは笑いそのまま体を霊体化させて、壁をすり抜けながら向かいの校舎まで一気に飛び立つ。この程度の距離は俊足のランサーで無くとも英霊ならば一瞬である。

そして校舎内で息をきらせていた目撃者。一人の少年の前に静かに立つ。

「お前っ!」

「運が悪かったな坊主。こっちに逃げなければまだ生き残れたかもしれなかったが」

目撃してすぐ追跡したのならば兎も角、ランサーは一度ランスの攻撃で吹き飛ばされていた。あのまま街中に逃げていたならばこの少年は助かっていたのかもしれなかった。

「運も実力もなかったてめぇの人生を呪うんだな」

ランサーの槍があっさりと少年の心臓を貫く。
実にあっけない幕引きであった。








自分で書いていて思った。

遠坂さんうっかり多すぎぃ!



[41566] ランスのステータス
Name: たんぽぽ◆49ee30f8 ID:dec43ebf
Date: 2015/09/20 04:08
【マスター】

 遠坂凛

【真名】

 ランス・クリア

【性別】

 男

【身長・体重】

 173cm・65kg

【属性】

 混沌・悪

【ステータス】

 筋力:A 
 耐久:A 
 敏捷:C 
 魔力:E 
 幸運:A 
 宝具:A++

【クラス別スキル】

 --

【保有スキル】

 ・カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

 ・軍略:A
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

 ・鬼畜作戦:C
 窮地において常人が考えないような鬼畜な作戦を実行できる。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、そのチャンスを手繰り寄せられる。 

 ・才能限界無し:EX
 限界なく強くなれる才能。
 戦闘終了後、ステータスアップ判定を行う。成功時、ステータスを一段階上げる。
 
 ・闇属性:B
 光属性、主に神聖な存在に対して優位な補正が与えられる。

 ・コレクター:C
 レアアイテムを取得する才能。
 その適性は貝殻に偏っている。
 ただし適用は本人のみで、マスターには恩恵がない。

 ・冒険:B
 冒険に必要な技術をいろいろこなせる。
 Bランクならば、単独での冒険も可能。

【宝具】

 ・魔剣カオス
 ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
 「魔人・魔王を倒せる力」という願いによって神が人の魂を元につくった神造兵装であり、剣そのものが究極の神秘。
 対吸血鬼(魔人)に対して非常有効で、カオスが戦場にあれば魔王にすらダメージ与えることができる。
 カオスのテンションによっては、C~B程度の対魔力が付与する。
 装備中は常にAランクの精神汚染判定があるため、この剣の使い手になるのは非常に困難。

 ・魔法ボックス
 ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 道具入れの容量を魔法的に広げ、中に大量の道具を自由に出し入れできる。
 所有者の財があればある程強力な宝具になるのは言うまでもない。

 ・聖女ウェンリーナーの加護
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 命を司る聖女の恩寵。
 ダメージに対して回復(リカバリー)がかかるほか、あらゆる病、呪詛を無効化する。
 また、死亡した場合に完全な蘇生を行う。
 蘇生が行われた場合この加護は失われる。

 


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