<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

XXXSS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38600] 【異世界転生・TS・チート】~詰んでる転生記~ 南の島でこの先生きのこれるか【異種族・恋愛・逆ハーレム】
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:43

まえがき。

・某所で連載していた物語の微修正版です。
・オリジナル板からXXX板へ引っ越しました。
・基本一人称
・古典的ファンタジーRPG風世界への憑依転生?(記憶転送?)もの
・TS(性転換)もの
・異種族逆ハーレム恋愛もの
・つまり主人公のTS娘が、ファンタジー世界の異種族異性複数と交遊します。
・主人公は下衆。ついでに馬鹿。かなり屑。
・主人公以外の登場人物も、蛮族だったりキ印だったり外道だったりする率が高いです。
・いろいろウザイ
・いわゆる転生特典活用による、NAISEIもの要素あり。
・エロネタ・描写あり。
・残酷描写・胸糞悪いシーン及び設定あり。でも18禁Gほどではないかと。
・多少のヤンデレ描写あり。でも18禁Gにはならないかと。
・多少のMC(マインドコントロール)または洗脳(ブレインウオッシュ)描写及び設定あり。
・幾らかの同性愛(ホモセクシャル)描写あり。
・引かぬ! 仏教に後退はないっ


上記のような要素が含まれておりますので、ご注意ください。





[38600] 1
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:43





 ☆1日め、12℃低いだけで☆


極楽浄土にいるご両親様。
現在、私はピンチです。命の危機と言ってよいでしょう。わりと本気で。

寒い。
枝葉末節を省いて一言で言えば、凍死しかけています。
体温が下がりすぎて、もう手足に力が入らない。意識が混濁し始めるのも遠くはありません。
状況は絶望的過ぎて笑う気も起きない。

我、味方無し ‥‥周囲はキロ、いや下手をすると数十キロ単位で無人地帯です。
我、物資なし ‥‥役に立つ物など一つも持ってません。
我、装備なし ‥‥着の身着のままどころか、今の私は全裸。すっぽんぽん。
我、技能なし ‥‥私は所詮ひ弱な現代人、しかも都市生活が長すぎた。
我、体力なし ‥‥推定10~11歳の幼女にそんなもの期待しないでほしい。

そう、私は女の子なのですよ。少なくとも外の人は。

いや、主観時間にしてつい三時間ほど前まで使っていた肉体も、その肉体と共に過ごしてきた数十年の人生も、
ひょっとしたら錯覚や妄想で、私は遭難しかけている夢見がちな女の子なのかもしれないけど。

‥‥生まれ落ちてから四半世紀過ぎてるから数十年で良いよね? 



少なくともこの寒さだけは本物です、夢ではありません。こんな物理的に苦しい夢があってたまるか。
故に、これはリアル、現実なのです。そう思って行動すべき。
もし仮にこれが夢だったなら、仲間内での馬鹿話のネタが一つ増えるだけのことです。


気が付いたら10歳前後の女の子になっていて
どこか知らない場所、どう見ても熱帯の無人地域に
服も靴も荷物もない状態で、以後絶賛放置中。


これは酷い。
初っ端からここまで全力で 「死ぬがよい」 と宣言される状況は今時ゲームの中ですらありません。 
いや、中学生の頃遊んだTRPGセッションでなら、同じくらい酷いかもしれない状況はあったか。
あのときは難破した船から脱出したあと、食料無しで足手まとい多数を引き連れた状況で、
五月雨式に波状攻撃を仕掛けてくるゾンビの群から逃げ回るシナリオでした。

ゲームマスターは私だが。シナリオ組んだのも私だが。

ただあのときはパーティメンバー全員無事だったし、武器と防具の持ち出しも認めてあげたじゃないか。
今の私より数段マシですよ。うん。


パーティ(一行)か。一人ぼっちで山登りなんかするんじゃなかった。
日本の、地方都市郊外の元里山だって遭難者が出ることはありえます。
ほぼ無人の、開発されてない、見知らぬ土地で子供が一人歩きなんぞしたらそりゃ遭難もするわな。
これが山の天気の変わり易さをなめた報いなのでしょうか。



最初は夢だと思ったんだよねー いわゆる明晰夢。
本人に夢を見てる自覚があって、ある程度なら夢の内容を自由に変えることもできる特殊な夢。

とある漫画では主人公が夢の中でアイスクリームを、どこからともなく出したりしていましたが私の場合、
明晰夢のなかでは時間の巻き戻しと行動の再選択ができることが多かったですねー。
それこそアドベンチャーゲームのように。
大岩に追いかけられながら坂道を突っ走っている夢の中で、選んだ分かれ道が行き止まりだったなら、
分岐点まで巻き戻すことができたりしました。

だからこれは夢ではない。巻き戻せないから。
もし巻き戻せるものなら二時間前に戻って山を降ります。

そう、いま私は山の中にいます。
野外で迷った時は峰など高い場所に登り周りの地形を確認するという、サバイバルの基本を忠実に、
いえ何も考えずに実施した結果が御覧のありさまですよ。
うわー海青ぇー! あれ珊瑚礁だよね? とか ここ無人島っぽくね? とか、高台で暢気していたら
あっという間に積乱雲が出てきて急成長して‥‥山を降りようとしたときには既に遅かった。

そんなわけで今現在、目を開けるのも難しい風雨に晒されています。
周りは笹藪ぐらいしか生えてない岩だらけの斜面で、天気は土砂降り+強風。
雨の温度そのものは温いぐらいだけど、目も開けていられないほどに風が強すぎる。
雨と風が、容赦なく体温を奪っていきます。どちらか片方だけならまだしも、この連携攻撃には今の無防備すぎる
身体では耐えられません。

冗談抜きで凍死しかねない。
嘘だと思った人は真夏の夕立の中、シャツ姿で自動二輪車に乗って走ってみてください、法定速度で良いから。
人間は体温が25℃以下になれば死ぬ。平熱からたった12℃下がっただけでお終いなのですよ。


だからなんとかして風雨を、せめて風だけでも防がねば‥‥と思うのだけど、辺りに雨風凌げそうな洞窟や
岩陰は見当たりません。もし有ったとしても今の天候では十メートル先も見渡せない。
今の私が身に付けているのは、山の麓で倒木の樹皮と蔓草から作ったサンダルもどきだけ。
蕗っぽい大きな葉で作った帽子やポンチョも、ツタの葉っぱで作ったパンツも風に飛ばされてどこかへ行って
しまいました。


うん、これはもう駄目かも。かなり本気で。
低体温症になりかけてる。いやなってる。限界が近づいてる。


夢だったら良いなー。
もし夢だとしたら、何故に幼女になって南国全裸サバイバルする夢を見ているのかが気になるけど。
私はTSものそんなに好きじゃないんだけどなー 面白ければ読むくらいで。
憑依転生物でも主人公が幼い頃から大活躍してる話は違和感が‥‥ 
あ、不味い、現実逃避してたら目の前が暗くなってきた。

と思ったら日が沈んできただけですか、ちっともよくありませんよ。



溶岩のなれの果てっぽい岩や石を手がかりにして精一杯手足を動かします。
「本人にとって、手は顔よりも良く見る場所である」と言ったのは何処の誰だったっけ?
今の私の手はちっちゃくて細くて柔らかい、どう見ても子供の手だ。どうしてこうなった。
これは毎年夏冬の聖地巡礼でロリものばかり買い漁っていたことの報いなのかなあ?

ロリは好きですよ、ええ。
でもね、私は別にロリとあんなことやこんなことをしたい訳ではないし、ましてや自分がロリになりたい訳
でもないんですが。
ロリは愛でるものであって突っ込むものじゃないし、ましてや突っ込まれるものでもないのですよ、ええ。


寒さが頭に来たのか、風よけにならない大岩へもたれかかったまま動けなくなってしまった私の思考は、
そんな下らないことを最後に途絶えたのでした。






 ☆3日め、その昔見た気がする眺め☆


親鸞上人が嘘つきでない限り極楽浄土にいるはずのご両親様、貴方たちの息子はまだいきのびてます。
相変わらず身体は幼女のまんまですけど。
なんとか生き延びてますが、やはり夢ではなさそうです。

夢でないのにあの限りなく詰んだ状況から生還できたのは、たまたま通りすがった旅人に助けて貰ったからです。
もっとも被発見時に私は気絶してましたし、介抱して貰っているときも意識がはっきりしていなかったので、
詳しいことは解りません。

気が付いたら毛皮にくるまって、焚き火の傍で誰かに抱えられていました。
何か仄かに甘いドロドロとしたものを食べさせて貰った記憶がありますが、その時は既に風邪をひいていたので
記憶が曖昧です。

で、洞窟かどこかで一晩過ごした私たちは雨が小降りになった次の日の昼過ぎに出発して、今に至るわけです。
会話らしい会話もしていないのに、なぜ助けてくれた方が旅人だと思ったかというと、半日以上それも結構な
速さで殆ど休みなく歩いているのに、まだ目的地に着いていないからです。


まあそんなわけで1~2時間おきの小休止以外、毛皮に包まれたまま名も知らぬ旅人と共に移動中なのです。

もちろん風邪ひき幼女にこんな強行軍ができるわけもなく、私は旅人が背負った背負い袋の中に入ってます。
荷物として運搬中。
背負い袋と言うよりかは毛皮の風呂敷包みかもしれません。
私が入っている毛皮の袋は、中でくるまっている毛皮や頭に被せられた毛皮と同じように縫い目らしきものが
一切ないのです。

触ってみた感じでは、袋の中に入れて貰った即席懐炉‥‥焚き火で焼いた石を包んでいる麻っぽい布切れにも
縫い目や刺繍の類がないようです。

まあ凍死の心配がなくなっただけ状況は好転しているのですが‥‥。

あ、今唐突に気付きましたよ。今私が見ているこの眺め、遙かな昔に見たものと似ている。
子供の頃、幼稚園に上がる前ぐらいの時に父上に背負われて見た景色に似ているんだ。



それから更に数時間後、いつの間にか眠っていた私は騒々しい鳴き声で目を覚ましました。
雨は止んでいて、空は曇っているけど明るくなってきてる。周りは薮や茂みが点在する緩やかな斜面ですね。
前方向には岩肌が剥き出しの崖と、その崖へぽっかりと開いた洞窟と、洞窟の前の小さな広場が見える。

「「「プギィー! プギィ──!!」」」

豚のような、しかし本物の豚とは明らかに違うわめき声を上げている数体の人型生物もいます。
広場の土を踏み固めたのは彼らなのでしょう。


ああ、うん、想定通りですね。

腕に比べて明らかに短い脚、ずんぐりとした胴体から突きだした太鼓腹、豚に良く似た頭部を除いても一目で
人間じゃないことが解るシルエット。
腰ミノに動物の牙や爪をつないだ首飾りといった野蛮人ルック、手に手に持っている雑な作りの槍や棍棒‥‥

どう見てもオークです。

そうです。土砂降りのなかで凍死しかけていた私を拾ってくれた親切な旅人はオークだったのです。
ファンタジーRPG定番の雑魚敵種族、混沌の尖兵である豚頭の亜人(デミヒューマン)ですね。
最近はともかく、一昔前のゲームでは初心者に試し切りされる役が多かった。
更にその昔はもう少し手強かったそうですが。

要するに、私は彼らオークの巣穴にお持ち帰りされてしまったのか。

やはり詰んでいるのかなぁ? この状況。





 ☆4日め、ああ見苦しい☆


前略、ご両親さま。私はまだ生きてます。


とりあえず、一日寝たら風邪はだいぶ良くなりました。
まだ熱っぽいけど意識ははっきりしているし、手足にも力が戻りつつあります。
走るのは無理でも歩くぐらいは問題なくできるし、トイレにだって自力でいけます。

ええ、あるんですよトイレが、オークの巣には。
巣‥‥というか、住居だよねここまでくると。
たとえばこのトイレ、厠もとい川屋です。水洗式の元祖のアレ。

洞窟の床に掘り抜かれた下水溝(!)の上に竹を組んで作った囲いがあり、囲いの中には便座らしきものまで
あります。この便座、丸太を二つに割って溝にはめ込み、丸太端の中心部分を削り取ったものでして。
つまり一本の割り丸太の両端がUの字型便座になっている。
ご丁寧にも座る場所はつるつるに磨き上げられ、漆かなにかを塗って棘が立たないようにしてあります。

囲いは入り口が二つあって中は衝立で区切られているので、この洞窟には実質二つのトイレがあるのです。

そして、トイレットペーパーはないけどスポンジがあります。
用を足したあと、このスポンジ‥‥いやスポンジに良く似たなにかを水にひたし、拭き清めるのです。
もちろん下水の水など使わず、囲いの上に渡した竹から吊してあるヒョウタンに溜めた水を使います。
ヒョウタンの水は使った者(つまり私)が補充します。

ローマ人と違うのは、使ったスポンジを再利用せず捨ててしまうことですね。
どうやらこのスポンジもどき、たくさん採れるものらしく洞窟内に幾らでも置いてあるのです。
実は、私が今借りている寝床もマット代わりにこのスポンジもどきが使われています。


いきなりシモの話でなんですが、私の受けた衝撃が一番伝わりやすいネタだと思うので一番に言及しました。
何が言いたいかというと、オークって意外に文明的だなあ と。

いやね、ここに連れてこられたとき、真っ先にやたら苦い薬草汁を飲まされたり、その口直しに蜂蜜のたっぷり
詰まった蜜蜂の巣を貰ったりしたのは、別に驚かなかったのですよ。
原始生活してる人型生物が生薬の効能を知っていたり、味覚が人間に近いというのは良く解る。
しかしオークがここまで文明的というか、生活の快適さにこだわる生き物だとは思いませんでした。

それとも逆なのかな? 

彼らオーク族は原始的であるが故に人口密度が低く、その結果生活に余裕があるのかもしれません。
人類史で水洗便所が一時廃れた大きな理由の一つが、人が増えすぎて汚物の量も増えた為に生態系による浄化が
間に合わなくなったからなんだし。


今回は小のほうなのでスポンジもどきもヒョウタンも出番ありません。
竹の囲いを出て、シャワーへ向かいます。
言い忘れていたけど、トイレ兼ゴミ捨て場とシャワーというか落水式水浴び場があるこの部屋は天井にいくつも
採光窓らしき穴が開いていて、割と明るいです。
更に夜になると松明や火鉢のようなものが置かれてます。月や星の明かりでは流石に暗すぎますからね。

そうそう、こちらも言い忘れていたけど下水溝の終点は外部と繋がっていて、水がほぼ垂直に落ちていきます。
ダストシュートのような構造なのです。


シャワーですよシャワー。
正確に言うとここの上の階層に温泉が涌いていて、そこから溢れたお湯が滝になって降り注いでいるのです。
お風呂ですよお風呂。
ここのオークたちにはお風呂文化があるんですよ!
道理で、背中に負われていたときに不快感がなかった訳だ。
いわゆる 豚 小 屋 の よ う な 臭 い が一切ありませんでしたからねー。

オークたちは毎日入浴どころか朝昼晩+トイレの度にシャワーを浴びているようです。
自宅に温泉、しかも維持費0って‥‥正直羨ましい。



毛皮のワンピースを、漫画の原始人が着ているような毛皮の服を脱いで素っ裸になります。
腰に結んだ紐を解いて毛皮を脱ぐだけなので脱衣には五秒ほどしか掛かりません。

体温より僅かに温かい落水を浴びて、寝汗を洗い流します。もちろん股間付近の、汗じゃない臭いの元も。
こちらは想定どおりですが、オークたちは嗅覚が鋭いのです。
元文明人として、そして新米とはいえ女の子として身だしなみを怠るわけにはいきません。

湯冷めすると拙いので手早く済ませ、スポンジもどきで水分を拭う。
そして滝近くの岩にかけていた毛皮の服を着ます。

そう言えば、この毛皮もある意味文化的かも。
この毛皮、一見すると私が着るにはちと小さい。そして片袖というか肩ひもが一本しかないのです。
当然ながらそのまま着ると上半身はおっぱいが片方露出して、下半身は前もお尻も隠せそうで隠せてない
状態になるわけで。

一言で言えば、某ハジ○人間のお母ちゃんが着ているアレをややミニスカート気味にした感じですね。

なにこれセクハラ? と最初は思いましたが、良く見るとこの毛皮の服は同じ柄で左右一対になって
いるのですよ。
つまりこれは元から二枚重ねで着るものなのです。左右両方着てさらに丈を調節すれば隠したいものを
なんとか隠せる訳です。

ええ、一応隠せています。
丈の短いワンピースと言うより袖無しのミニ・チャイナドレスが近いかな? 横開きだけど。

両サイドを縫い合わせてないし胸と背中が開いてるしで露出度高めですけど、装身具以外は腰ミノ一つの
彼らからすれば身体を半分以上毛皮で被うこの服は、厚着のうちなのかもしれません。

‥‥ところでこの毛皮、黄色の地に太い黒の縦縞模様で裾部分の端が白かったりします。
なんかこの縞模様、前世というかここに来る前、地球でも見た記憶があるのですが。
この毛皮の服ってひょっとして、虎の輪切りが元ですか?
それに私が使っている寝床で、毛布代わりにしている毛皮も見覚えがあります。どうみても黒豹のものです。
 

と、まあ意外に文化的で、想定以上に強いらしい彼らですが‥‥
想定どおりというか半分想定どおりだったこともありました。


「プギィ──!」「「ブギィィー!!」」「プギ──ッ!」

ああもう、またですか。

トイレとシャワーのある部屋は出入り口が一つしかなく、その出入り口はこの巣の中心に位置する大広間と
通じています。
で、大広間の南側は下っ端オークの溜まり場になっています。

そして彼ら下っ端オークたちは私が大広間を通る度に騒ぎ立てるのです。
行きの、私の部屋からトイレ&シャワー室まで歩いたときには居なかったので、安心していたらこれだよ。


「プギッ」「プギィッ」「プギ──ッ!」

敵意や悪意じゃないだけまだマシかもしれませんが、流石にこれはどうかと。


ゲームやらなにやらに登場するオーク族は、種族的特徴として雌がいない雄だけの種族であり、繁殖のために
他の種族の腹を借りなくてはならない‥‥という設定があったりすることもあります。
ここがそういった設定の世界だとすれば、彼らの文化では異種姦&略奪婚が基本かつ正道になる訳で。

どうも、私の容姿は彼らの好みに直撃しているようなのです。
ただ単に見境がないだけかも知れませんが、それで何が変わるというものでもなく‥‥ はあ。

彼らはやや離れた位置までしか寄ってきません。
触られるわけでも物が飛んでくるわけでも道を防がれる訳でもありません。

ですが、手足や太腿はともかく、地面に這いつくばってまでして毛皮の服の裾付近をローアングルから覗こうと
されるのは、正直言って嫌すぎる。

恐怖心や羞恥心もあるけどそれ以前に、コスプレ広場でコスプレイヤーの後ろからこっそりスカートの中へ
カメラ突っ込んでる奴を見たときの感覚がフラッシュバックして‥‥。

恥とか見栄とか外聞とかはないのかお前ら。





 ☆4日めの2、どうしよう?☆


騒ぎはいつもと同じく、すぐに静まりました。
留守番役のノッポさん(仮名)が奥から出てきて騒いでいる連中を怒鳴りつけたからです。

怒鳴られたオークたちは猫と出くわしたネズミのように逃げていきました。ノッポさん(仮名)は偉いのです。

これまた想定どおりですが、オークの巣では身分関係というか立場の差が大きいようですね。

私を連れてきた旅人オークがここの族長で、幹部扱いがノッポさん(仮名)ともう一人います。
この巣の住人はあと十人ほど下っ端がいますが、正直言って下っ端同士の区別はできません。

外見も行動パターンも気持ち悪いぐらい一緒で、しかもいつも群れているので判別つけ辛いです。
大きいのとか小さいのとか、太めなのとか細めなのとか、一応個体差はあるのですけど見分られない。


ノッポさん(仮名)に送られて、私は洞窟の奥の方にある部屋に戻りました。今私が寝起きしている部屋です。
下っ端たちと違い、幹部達は至って紳士的。気遣いが有り難いです。

部屋の広さは六畳か七畳ぐらいで、スポンジ+毛皮製のベッドと石造りの火鉢的なものが置いてある。
あとは物を置く卓に使っている、大きな平たい自然石が二つ。

火鉢は暖房と照明を兼ねたものですが、昼間の内は採光窓の明かりがあるので火は最小限にしています。
火が強い方が温かいけど、煙たいですからね。通気がよいから窒息の心配はありません。

温泉や外気の熱があるトイレ付近と違って、洞窟の奥は寒いのです。
火を焚いていても気温にして20℃前後でしょうか? 
焚き火を絶やしたら昼でも毛皮にくるまってないといけなくなります。

さて、まだ慌てるような時間ではありません。ここらで差し入れの果物でも食べつつ状況を整頓してみましょう。
見慣れない果物が多いので、バナナやザクロなど地球と同じ種類のものを優先して食べています。
毒ではないと思うけど、体力が落ちているときに食べ慣れない物は危険ですから。



私は、私の記憶は二十一世紀日本に住む平凡な小市民のものです。
名は猪養令治(いのかい れいじ)。もちろん男。

ごく普通に生まれごく普通に暮らし、ごく普通に学校に通い成長し、失恋したり就職したり親と死別したり‥‥
ただただ平凡で平穏な生活を願って過ごしていました。
激しい喜びはいらない、ただ植物のように平穏でありたいと思って暮らしていたのです。

まあ、実際のところ言うと植物は他の植物枯らして栄養独り占めするためにせっせと根で毒物作っていたり、
カビや病原菌を殺すためにせっせと葉や枝から毒物を噴射していたり、捕食者から守るためにせっせと実に
毒物を蓄えたりしている訳で、もし彼らに心があるとしたらとても穏やかなものではないのでしょうけど。



思い出しましたよ。あの日私は呼び出されて父の実家に行ったのでした。
そして叔母に「娘の許婚になってくれまいか」と頼まれましたが「流石に20も年下の嫁さんはちょっと」と
丁重にお断りしたのです。

父の実家はそれなりに広い田畑を持つ農家です。
農業の収入自体は微々たるものですが、土地はそれなりの値段で売れる訳でして。

しかも近いうちにその辺りが開発される予定なので、値上がりが確実な土地を狙う遠縁や何が何でも嫁が欲しい
ご近所さんたちから、まだ幼稚園児の我が従妹は熱烈すぎるラブコールを受けている訳です。
今思うとちょっともったいなかったかなー。従妹は今でも可愛いし、叔母さん似だから美人に育つだろーし。

でもガチで親子に間違えられる夫婦というのもなー。
私には結婚願望ありませんから、従妹が大人になるまでの虫除けになるのは良いのだけど、田舎でそれをやると
周囲からの圧力で無理矢理にくっつけられてしまう可能性がある。

可愛い従妹を不幸にするのは嫌ですよ。
断言します。私の妻になると彼女は幸せにならない。
何の自慢にもなりませんが、幸せな家庭を築く能力が自分にはないことぐらい自覚してます。


で、その日の夕方。
泊まっていけとの祖父の勧めを断った私は雷雨のなか帰宅を急いでいる最中、落雷に遭ったのでした。

多分落雷だと思います。上から強烈な光と衝撃が来た記憶がありますから。
あれで死んだのでしょうね、前世の私。
レンタルしたDVDの返却期限がきていたことを思い出したからといって、あの雨の中を歩くのは無謀すぎたか。
せめて骨組みと石突きが樹脂製の傘にしておけば。



ここは多分来世、しかもファンタジー世界っぽい。
私は年端もいかない幼女、推定年齢十歳前後。
係累・財産・技能・特殊能力一切なし。極めて非力。
周りは人類の勢力圏外? 


詰んでいますよねえ、これは。
オークたちが友好的なのが唯一の救いです。
もしここが同人エロゲ的世界だったら、私なんかとっくの昔に「ひぎぃ」で「らめぇ」になっているでしょう。

とにかく今は彼らの好意に甘えて風邪を治しましょうそうしましょう。まずは体力を回復させてからです。






[38600] 2
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:44



 ☆6日め、ある晴れた日に☆


昨日は雨でした。一日中寝ていたおかげで、熱は引きました。
雨は一日で上がり、空は爽やかに晴れ上がっています。

不思議なことに、雨が降ったのに私の部屋は雨漏りがありません。採光窓があるのに、です。
まさか窓にガラスが填っているのでしょうか? 
調べてみたいのですが、天井が高すぎて見るのも難しい。
洞窟の天井まで10メートルはあり、採光窓はその更に10メートルは上にありますよ。


太陽の高さからみて今は朝の九時ぐらいでしょうか、久しぶりに洞窟の外に出ています。
出たいと言ったらあっさり出して貰えました。
言葉は通じませんでしたが、身振り手振りでもなんとかなるものです。

もちろん私一人ではなく、彼らと一緒です。幹部三人集最後の一人むっちりさん(仮名)と下っ端オーク二名。

しかし、こうして太陽の下で見比べてみると同じオークでも、幹部と下っ端では大きく違うことが解ります。
幹部層の方が人相・プロポーション共に人に近く、体毛が薄いです。
大げさに言うと「豚っぽい人」と「人っぽい豚」の違いでしょうか。
頭蓋骨の形とか全然違いますよ。ひょっとしたらオークはオークでも別の種族なのかもしれません。

あと、両者は知性の点でも全く違います。
一目で分かるくらい、幹部のほうが頭が良い‥‥というか下っ端オークは頭悪すぎ。
そりゃあね? 第一印象や僅か数日の観察で全てが解るなんて言いませんよ。でも解る事は解る訳でして。




洞窟の外は緩やかな斜面になっていて、草地に小さな森や薮が混在しています。
植生的には南九州から沖縄にかけてが近いでしょうか? もう少し南かもしれません。 
広葉樹が多いですが針葉樹や竹藪も生えていて、椰子の木らしきものや極彩色の花を付けた見慣れない樹木も
見かけます。

太陽の具合から見て赤道直下とかではなさそうです。正午でも一応影ができますし。
日射しが強いので、蕗っぽい大きな葉を使って日よけを作ろうと思ったのですが何枚かの葉を摘んだ所で左手の
人差し指に僅かな痛みが。

見ると、私のようじょおててに大豆粒ぐらいの丸いものがへばりついているではありませんか。
そしてそれは見る見るうちに丸く赤く大きく膨れあがって‥‥ってダニだー!? 
しかも指で摘んでもとれないし潰せない!

「グヒィー?」

慌てる私の所へむっちりさん(仮名)が飛んできました。
一目で事情を察したらしいむっちりさんは軽く頷いて近くの薮に入って、一掴みの草の葉を摘み取ります。
そしてその葉を指ですりつぶし、絞り出した汁を涙目の幼女の指に食いついているダニに数滴振りかけると、
マスカットの粒大にまでなっていたダニが、ころりと落ちたのです。

え、何これ? ファンタジー版除虫菊ですか? ダニの歯?‥‥いや口吻が抜けるって、なんて強力な!?
さらにむっちりさん(仮名)が辺りの葉っぱや枝で蠢いている虫たちを、汁で濡れた指でつつくとポロりと
落ちたり逃げていったり。

この草の効果は絶大で、肌や髪に絞り汁を擦り込むとダニや蚊など不快な虫が寄りつかなくなりました。

というかこの独特の香りはあの洞窟、いや彼らと初めて会った時から嗅いでいましたよ、そういえば。
族長の背で揺られている時も、スポンジベッドで寝ている時にも。
この薬草はオークたちの生活に欠かせないもののようです。

考えてみれば、今まで洞窟の中で毛皮にくるまって数日過ごしてるのに、ノミやシラミの被害に一度も
遭っていませんよね?! 南京虫どころか蚊にすら刺されていません。
20世紀後期以降の日本でも、洞窟暮らしでそこまでやるのは難しいですよ。すごいやファンタジー!





 ☆6日めの2、どこかで見た気がする光景☆


洞窟の近くを歩き回ると、果物やキノコなどの食材がたくさん見つかりました。
私はむっちりさん(仮名)の肩に乗っかって、何か気になるものがあればそちらへ向かって貰っています。
イチジクや木イチゴやライチに似た果実などは、籠や竹筒などに入れて下っ端オークたちが運んでいます。

早速試食してみたのですが、見た目は特大のライチなんですけど味と食感が違うのです。特に食感が。
ナタデココとコンニャクを混ぜて割ったような歯触りです。
ふむ、こちらの枇杷の実は地球産とほぼ同じ品種かな? うまいうまい。
土壌や気候の影響なのか、どの果物も野生のものとは思えないぐらい甘くて瑞々しくそのくせ風味豊かで、
この島は果物好きの楽園ですね。
生態系が豊かな分、虫や鳥など果実を狙うものも多いようです。と言うかこの島の虫類大きすぎ! 
普通サイズの虫もいますけど大きいのは怪物的なサイズでして、セミとか枕より大きいのが飛んでいる。


あと、やはりオークは視力が弱いようです。私に見える遠くの果実が、むっちりさん(仮名)たちには
見えなかったりします。
視力で言うと1.0以下0.5以上ぐらいでしょうか? 

一方、今の私は推定ですが2.5はあるでしょう。
コンタクトレンズ付け外しの手間がいらない点は、幼女ボディも悪くないですね。

ただむっちりさん(仮名)個人だけかもしれませんが、動体視力はかなり良いみたいです。
小石を投げて鳥を撃ち落としたりしていますし。
‥‥鳥ですよねえ、あれ。羽毛が生えている生き物が鳥と定義するなら。


果物を集めたり途中の湧き水で涼んだりしていたら、洞窟に戻ったときには正午近くなっていました。
朝方出かけた族長とノッポさん(仮名)はもう帰ってきてます。焚き火で焼かれている魚貝類を見ると、
海へ行っていたのかな。

とりあえずシャワーを浴びました。むっちりさん(仮名)は外の泉で水浴びしたようです。
お供オーク×2は大広間の南側にある彼らの居住区へ入っていきました。
下っ端勢も定期的に水浴びしているようなので、彼らの居住区の方にも水場があるのでしょう。

どうも、私が使っているお風呂場もシャワーもついでにトイレも、幹部専用のようです。
というか下っ端オークたちは基本的に出入り口・出入り口近くの詰め所・大広間・下っ端用居住区以外には
入ってきません。

そういえばあの水洗トイレ、オークたちが使うにはあの便座(代わりの丸太)は小さすぎるんですよね。
多分幹部オークたちは溝の上で直接踏ん張っていると思います。
ではあの便座は何のために存在するのでしょうか?
この洞窟、しょっちゅう人間ないし人間サイズの種族が泊まりに来るとか?
それともトイレを作ったのはここのオークたちではないとか? 謎は深まるばかりでございます。


私と幹部オークの合計四名が揃ったところでお昼ご飯となりました。
メニューは野山で採れた果実や木の実やキノコ、瓜や芋などに加え魚介類に鳥肉やトカゲ肉などです。
彼らは生肉も好んで食べるようですが、私には肉や魚貝そしてキノコ類の生食を勧めることはありません。
あと芋類や野菜類の殆ども生食を薦めてこない。

一々尋ねたり勧めたりしないところをみると、人間の子供がそれらを生食しないことは彼らにとっ
て常識なのでしょうか。

「グヒィー?」
「あ、ありがとう」

これ美味いぞ という感じでノッポさん(仮名)が突きだしてくるアボカドの実を笑顔で受け取り、お礼を言う。
彼の横では族長がナイフでココナッツの実を割ろうとしています。

愛想笑いよりも本気の笑顔、それも歯が少し見えるぐらいの笑顔の方がオークたちに受けが良いですね。
勘というか感覚が鋭い彼らはこちらの表情を読むことに長けていて、特に私の不安や不快感に敏感です。

「グヒ?」
「ありがとう」

これ好きだったよね、熱いから火傷しないように気をつけて という感じでむっちりさん(仮名)が私の膝の
前に置いてくれた牡蠣の殻付き焼きを、二股の竹製フォークですくって食べます。

あちあちあちっ はふはふもぐもぐ くちくちゃごっくん  ふぅ。  

う~む、デリシャス! この絶妙な火加減、料理人の素質ありますよ貴方。
天然の海鮮スープとレアな貝肉が、口の中で絶妙の競演を奏でてます。
大きい癖にちっとも味がぼやけてない、最高の牡蠣ですね。これ、日本でだと一粒いくらになるんでしょう?

他にもバナナの葉で包んだバナナの蒸し焼きとか、きちんとヒレ・鱗・ワタを取ってある魚の串焼きとか、
料理と呼べるものが色々と出てきますけど、とても全部は食べ切れません。
それぞれ一口ずつで済ませても全部食べる前にお腹いっぱいです。
胃袋が小さいんですよ、幼女だから。

‥‥はて? 今の状況、昔どこかで似たようなのを見た記憶が。
前世の、それも10年以上前だったと思うのですが。 


ううむ、それにしてもオークは大きいというか体格が違いすぎる。
今の状態を喩えるなら「幼稚園児一人と幕内力士三人が焚き火を囲んでご飯食べている」ような。
しかも力士達がやたら園児に気を使っているというかちやほやしているというか。

私の先祖は山中で猪を飼う一族だったそうですが、その末裔が来世で豚人間たちに助けられ養われているのは
運命の皮肉でしょうか?







 ☆9日め、これは まずい☆


オーク族の巣で客人生活を始めて約一週間。暇です
療養中はともかく身体が動くようになると、途端に暇を持て余すようになりました。
なにせすることがありません。
一日の半分近くを眠っていないといけない幼女ボディなのですが、残りの半分をどう使えば良いものやら。

この洞窟には書物もゲーム盤もないので、暇を潰すなら誰かに構って貰うのが一番。
下っ端オークは煩いし怖いし、何よりこちらの話を聞いてくれない。
なので自然と幹部オークたちに接触することになります。

族長たち幹部オークは、三人のうち一人か二人が狩りや採集に出かけ、行かなかった一人か二人が留守番する
流儀のようです。
私が連れて来られた日は族長が単独行動する日だったのでしょう。
もちろん誰も出かけない日もあり、今日は三人とも巣にいます。
下っ端たちは出かける幹部に何人か付いて行ったり、一人も付いて行かなかったりですね。


朝風呂から上がって大広間に行くと、幹部総出で毛皮をなめしていました。
動物の死体から毛皮を剥ぎ取って、竹べらや軽石で丹念に擦って脂を落としたり、濃い塩水や未熟な果実の
絞り汁を塗りつけたり、時間を置いて休ませたり、岩などでごしごし擦って柔らかくしたりしています。

重労働なので私には手伝えません。だってあの梨もどきの汁に触るとかぶれるし。
外見だけは梨そっくりで美味しそうなのですが、匂いは青臭くて味は激マズというか半分毒物なのです。
しかし革なめしに使えると知ったので、ロクデナシと命名することだけは勘弁してやりました。


今の私は刺激に餓えているので、作業を見ているだけでも退屈しません。
ついでにオーク語の勉強をしてみましょう。
オーク語は文法が緩いというか融通が利く構造になっていて、極端に言えば単語を羅列するだけでも
通じることは通じます。

接続詞が難解だったり二人称が複雑だったりで簡単とも言い難い言語なのですが、数が十進法で、
しかも数詞が憶えやすいのは有り難いです。オーク達も十本指だからでしょうね。

面白いことに、彼らは指を折って数えるだけではなく指の関節と頂点を親指の先で触っても数を数えます。
小指の付け根から先端までで4、人差し指の先端で16、そこからは人差し指で親指の付け根を触って17、
親指の腹を触って18、親指の爪の付け根を触って19、最後に拳を握って20。
つまり片手で20まで数えられるのです。

ハンドサインでは真っ直ぐ指を立てると、立てた本数分の数を示します。
曲げた指の先と親指の先をくっつけると4・8・12・16のうちどれかを表します。
故に地球のオーケーサインは、彼らにとって16になる訳です。



そんな感じで、なるべく作業の邪魔にならないようにしながら語彙を一つ一つ増やしていく私なのでした。
ただ、オーク語には人間が使えない発音がいくつかあって、もうひとつ正確ではないのです。
それでも通じますけどね。

仮称(族長)が、ギュー・グェス。
仮称(ノッポさん)が、ゴォ・ドス。
仮称(むっちりさん)が、レェ・ウォス。という名前だそうです。

実際の発音はメェクダァネルとマクドナルドぐらい違いますが、超々強濁音とでも言うべき彼ら独自の発音は
カタカナで表記できないので、これで妥協しています。

私の方は、前世の名前の一文字から「レイ」と名乗っています。
こちらも「ルェイ」みたいな発音になっていますが、そこはお互い様ってことで。通じさえすれば良いんです。


詰まったり引っ掛かったりの会話と学習を続けている内に、彼らにも年・月・日そして週の概念があることが
解りました。
星座が一回りすれば一年、月が満ち欠けすれば一月、日が昇って沈めば一日、また日が昇るまでが一夜。
そこまでは解るのですが、なぜ一週間が六日なのでしょう? 
一月が30日なら五日で一週・月六週でも良さそうなものです。

気になりますが、もっと語彙を増やさないと質問もできません。


あ、この世界でも月は一個ですよ。サイズは大きめで模様は全然違いますが。
つまり、ここは地球じゃない可能性大ってことです。
模様はまだ大自然の驚異で変わった可能性も無くはないですけど、月があんなに大きく見える時代の地球に
バナナが生えている訳ありませんからね。

まあ、何らかの要因で月軌道が低くなった未来の地球という可能性も微粒子レベルで存在していますので、
断言は避けましょう。

更に質問を続け、彼らには閏年の概念がないらしい事も解りました。
これがオーク族限定の文化なのか、それとも世界構造的に一年がきっかり360日なのかはまだ不明です。

‥‥おや? 三人の様子が変で って、しまった!

私が話に夢中になって膝立ちで乗り出していた身を大慌てで引き戻し毛皮の服の胸元を合わせると、
はだけていた胸元というか覗けていたものに視線釘付けだったオーク達は、毛皮やなめし道具を放り出して
その場に這いつくばり、悲しげな声で鳴き始めました。

彼らが口にしているのは ごめんなさい とか ゆるして とか きらわないで とか、そういう意味の
言葉でして‥‥。

「ね、もういいから 怒ってないから 嫌いになったりしないから ね?」

いたたまれない気分になった私が引きつった笑顔で話しかけて、場を治めるのがパターンとなっています。



拙い。なんていうか、とてもマズイ。

色々と風聞と言うかゲーム世界におけるオークの設定とは違う彼らですが、人間の女の子を性の対象としている
点は同人エロゲと同じなのです。
彼らが紳士的というか変態紳士的に、私に嫌われたくないと強く思い行動しているので普段はまだ良いのですが、
さっきのように胸がはだけたり裾がめくれ上がったりすると凝視されちゃうんですよ。

眼力というか、視線を本当の意味で熱く感じるのは初めてです。
オーク族にも他人をジロジロと見つめるのは無礼とする文化があります。しかしそんな礼儀を吹き飛ばして
しまう魅力が女の子の肢体にはあるのです。困ったことに。

私が嫌がることは絶対にしない彼らですが、不意打ち的に目に入るとつい見つめてしまうのです。
元人間のオスとしては、そんな彼らに本気で怒ったり蔑んだりはとてもできませんが‥‥。

さあ、弱った。これからどうしよう。
彼らオーク族はなかなかに知的で文化的生活を営む生き物ですが、所詮は男。
野郎の理性に重い信頼なんて置けません。

いつかは決壊すると考えておかないと。
いくら紳士的とは言っても、異種族の幼女にハァハァできちゃう変態紳士を相手に同居は危険すぎます。





[38600] 3
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:44


 ☆10日め、突撃!隣の宝物庫☆


前世の私は絵が下手でした。絵心がないというか三次元の存在を二次元に転換する能力が劣っていたのです。
でも彫刻とかは好きだし得意でした。校内コンクールでなら入賞したことも何度かあります。
今の私も、絵の才能はなさそうです。

なので暇つぶしに彫刻を始めました。練習台として、おやつのバナナをモデルに石像を一個作ってみます。
適当な石を叩いて割った欠片を私の部屋に持ち込み、より固い石で削って形を作っていく。
天窓からの明かりを頼りに削り続けること数時間。なんとかバナナに見えるようになってきました。

「グヒ?」

ふと気が付くとレェ・ウォスが傍にいて見てました。外から呼んでも返事がないので入ってきたようです。
そう言えば彼らには彫刻や石像の文化はあるのでしょうか? 石鍋や手水鉢や火鉢といった実用品の石器なら
洞窟の中に沢山あるのですが、この洞窟周辺には道祖神やトーテムポールの類が見当たりません。

「グヒー?」

作りかけの石バナナを見て何やら考えていたウェスに 付いておいで と誘われて彼の後を歩いていくと、
ウォスは大広間でも彼の部屋でもなくギュー・グェスの部屋へ向かいます。


彼ら三人の中ではグェスが一番偉いのですが、その立場は族長とかキングと言うよりも代表とか名主の方が
近いようです。
いわゆるビッグ・マン(大物)なのでしょうか? 稼ぎ頭が一目置かれている的な。
そんな彼ら三人は互いの上下関係が殆どなく、衝立がわりの壁や柱はあるものの実質的に繋がってる大部屋に
三人で暮らしています。 

だからグェスの部屋というより、グェスの寝床があるあたりの方が正しいのかもしれません。

グェスの寝床のあたりには、さらに奥へと通じる穴があります。
そういえば、ここにはまだ入ったことありませんでしたね。
ほら、今の私は女の子ですから。殿方のお部屋に入り浸る訳にもいかないでしょう? 特にオークの部屋は。


松明片手のウォスに付いていくと、そこは宝物庫でした。
直系10メートルほどの丸い部屋で、部屋のあちこちに色々なものが積み上げられています。

透明な、中が中空なら私がすっぽり入ってしまう程大きな水晶の柱が何本も。
翡翠らしき緑色のものを始め、色とりどりの宝石や貴石の原石。
小さめのバスタブぐらいはあるシャコ貝の貝殻。
丁寧になめされた毛皮。絹や毛織物の反物が入った箱。
銀色に磨き上げられた金属製の大鏡。
頑丈そうな大樽や小樽に、フジツボが付いた陶器の壷。
大斧や両手剣、石弓など鋼鉄の武器類。
シャベルにツルハシ、ノコギリなどの実用金属製品。

ウォスが見せたかったのは最後の小山でした。
大工仕事や野良仕事で使いそうな道具類が積み上げられています。
確かに、この中なら彫刻に使える道具もあるでしょう。

道具の山からタガネと木槌、あとピッケルっぽいものとナイフを一本選びました。
当座はこれで良いでしょう。ノコギリとかは外に行く時に使ってみたいですね。


さて、ではいよいよ見てみましょうか。
正直なところ、さっきからアレが気になって気になって仕方ないのです。姿見が。
今の私って、転生した姿って一体どんな子なのでしょうか。水鏡だと細部がはっきりしませんし。

鏡の中には黒目黒髪ショートヘアの、色白な女の子が立っておりました。
毛皮の野生児系ルックが全く似合ってない、なまっちろい少女です。
‥‥うん、少女だ。幼女とはちと言い難いです。

今のボディの推定年齢を少し引き上げましょう。12、いや11±2歳ってところですね。

日本人にも居る顔立ちというか、縄文系日本人の顔ですね。それもなかなかの美少女。
絶世と言うほどではありませんが、前世の小学校ならクラスで一番人気になれるかもしれません。
学年だと絶対無理だけど。

身長体重は、とりあえず推定145センチ・30キロ前後としておきますか。違っていても誤差10%以内に
収まる筈です。円周率を3にする蛮行に比べれば大したものじゃありません。

「グヒー」

振り返ってみるとウォスが反物の山をどかして、宝箱風の箱の蓋を開けて私を手招きしています。
オーク族のボディランゲージは人間のものと共通点が多くて分かり易いです。
首の縦振りが「はい」で横振りが「いいえ」だとか、そういう感じのやつ。
そして手の平を上に向けて指さしして、指を屈伸させると「こっち来て」になります。

宝箱の中身は薄絹のハンカチや金ラメ入りのリボン、大粒真珠のネックレスといった装飾品の類でした。
どれも女物かな? 
地球の中世だと、女物にしか見えない服を強面の大男が着ている肖像画が残ってたりするので油断なりません。

「これ使って良いの?」
「ゼンブ、ツカウ、カッテ、ヨシ」

この部屋の物は何でも好きに使って良いようです。
あれかな? 原始的共産主義で、巣のものは全部共有財産なのかな?
お言葉に甘えて好きなように漁ってみましょう。

お、裁縫箱発見! 中身は針に糸にハサミに指ぬきに‥‥地球の物と変わりませんね。
サイズから考えてメイド・イン・人類でしょうね、この宝箱とその中身は。オーク用じゃありません。

これは香水瓶かな? 中身カラだけど。霧吹きに‥‥おおっ巻き尺まで! 
でも数字らしき記号がクサビ文字で読みにくいです。
バネが付いてないから、伸ばしたら取っ手を回して巻き取る必要有り。
とはいえ、巻き尺に違いはない。久しぶりに見る人類文明の産物にちょっと感動してしまいましたよ。

指輪やブレスレットなどもありましたが、どれも私には大きすぎますね。残念。
試しに腕輪にはめ込んである青い宝石で水晶の欠片を擦ってみると、簡単に水晶が削れます。
ということはモース硬度8、いやこの削れ具合だとそれ以上かも。
サファイアかな? それにしては大き過ぎですが。

「グヒッ」
「うん。またねー」

宝箱を夢中で漁る私を眺めているのに飽きたのか、ウォスは来た方向へ戻っていきました。
松明を持たずに出ていったけど、彼らは夜目が効くから平気なのです。

うーむ、服はあるけどサイズが合わない。
合ったとしても、ふわふわひらひらな半透明素材のナイトウェア系が殆どなので着ませんけど。

この偏り具合、どこぞの後宮(ハーレム)の寵妃が使っていた衣装箱か何かかも。
いくらこの巣のオークたちがノータッチ主義者な変態紳士でも、体力と精力持て余している雄どもの前で
こんな服着れるほど私の心臓は太くありません。

そもそも今着ている毛皮の服自体が危険です。露出度高い上にノーパンノーブラですから。

ためしに姿見の前でラジオ体操第一などかる~く‥‥うん、これは襲われる。
ほとんど裏物ロリータ写真集のモデル状態です。
見えてはいけなものがチラチラと見えて、素っ裸より拙いかも。

しかし女の子の身体だけあって関節柔らかいですねー。前屈すれば両手の平が楽に床へつくし、肩胛骨の上で
両手の手首を掴めちゃいますよ。前世の身体より手足が長いせいもありますが。
マットか藁の山でもここにあれば、バク転できるかどうか試してみるところですが流石に床が岩ではやって
みる気になれません。

試しにY字バランス‥‥おお、できた出来た。腿を抱えて片足立ちが余裕でできます。
今の身体なら一輪車を乗りこなせそうです。こっちの空いてる小樽に乗ってみると、うん、乗れる乗れる。
軽業師見習いぐらいなら名乗れますねこれなら。


違うだろ。冷静になれ。この格好は拙い、って話ですよ。
ノーパンミニスカートの小学生が玉乗りって、どこの場末曲馬団ですか。
世界名作劇場の薄い本じゃあるまいし。
でもこの世界の、人類文明圏の大半で存在しているんだろうなぁ、ロリがいかがわしい芸している風俗兼業の
サーカス団は。
21世紀の地球にだって無かった訳ではないし。


服というか毛皮の加工は後でゆっくりやるとして、とりあえず下着をなんとかしましょうか。
四角い麻布を△に折って縫い合わせたものを二枚作り、90°の角を重ねて、重ねた所を小さな四角形の布で
挟んで縫いつけ、45°の角に一本ずつ紐をつける。
これでおぱんつ試作一号の完成です。

ブラジャーは‥‥体育用ブラというか袖無しシャツの上半分で良いか。カップなんて作れないし。
実際問題まだカップ入りのブラが必要ない身体ですしねー。
 

手作り下着を装着し、裁縫道具などを持って宝物庫を出ようとしたところで、更に奥へ続く横穴があることに
気付きました。
このオーク巣窟は 出入り口 → 門番の詰め所 → 大広間 という構造でして、大広間の西側が食料や
日用品の倉庫になっています。
広間の南側が下っ端たちの居住区、東側が風呂場と水飲み場、南東がシャワーとトイレとゴミ捨て場。
そして北が幹部達の居住区で私の部屋は幹部居住区の端ですね。

つまりこの宝物庫が洞窟の最奥部な筈なのですが、さらに奥には一体なにがあるのでしょうか?
行ってみたいのですが松明が‥‥取れませんね。凄い力で岩肌の穴にねじ込まれています。




 ☆10日めの2、真・突撃!隣の宝物庫☆


取れない松明は諦め、樽の中に入っていた干し草状のものを捩って火縄を作ってみました。
暫くの間片目を瞑って闇に慣らしておけば、この頼りない明かりでもなんとかなります。

奥へ進んだ私が見たものは、財宝の山でした。

金貨と銀貨の小山、自然金らしき金色の砂や小石の小山、色とりどりの宝飾サンゴ、色とりどりの水晶柱、
磨かれた水晶球、ピンポン玉より大きい真珠、研磨加工済みの宝石、象牙や鼈甲らしきもの、冠や錫杖など
宝石や貴金属で飾られた装飾品‥‥なるほど、こっちが本命の宝物庫ですか。

ふむ、武器防具の類がないですね。
ちょっと戻って確認してみると、宝石などが付いている武器も無骨な武器と一緒に置いてありました。
二つの宝物庫に入っているお宝は、なにか彼らなりの判別基準で分けられているようです。

そういえば奥の方には布関係のアイテムがありません。毛皮は何枚かありますけど。
うーむ、比べてみると奥の方の宝物庫に入れられている毛皮の方がより高級品です。
手前の部屋の毛皮は穴があったり毛並みが悪かったりするものも混じってますから。

ちなみに奥の部屋で、竹を組んだ毛皮掛けの一番上に置いてある毛皮は虎のでした。
奥の部屋にある毛皮の中でも一番良いと思われる代物です。
ええ、私が今着ている服の元がコレですよ。試しに脱いで合わせてみると模様がぴったりです。

うーん、一番良い毛皮を使ってくれたことは素直に嬉しいけど、せめてあと10センチ丈が欲しかった。
彼らにその手の配慮を求めても無駄でしょうけど。


そろそろ火縄も短くなってきましたし、帰るとしましょうか。

はて、この部屋の更に奥があるのでしょうか? いえ、横穴ではなく窪みですね。
入り口の反対側に小部屋くらいの窪みがあって、そこに何か白いものが‥‥  え?!


その窪みには、裸の女が座っていました。鉄の首輪と金の細鎖で壁に繋がれて。

年齢は十代末から二十代前半でしょうか。
色白の肌に金髪碧眼、減り張りがあって適度に肉の付いた身体、滑らかで艶々の肌。
女神様の化身だ、と言われたら納得してしまいそうな素晴らしい肉体美の持ち主ですが、天井近くの中空を
見つめる虚ろな眼差しと痩けた頬、バサバサの髪で美人が台無しです。

上半身は首輪と鎖以外何も付けていません。そして下半身は白い毛皮を被せられてますが‥‥
毛皮の膨らみ具合からみて両膝から下が、ありません。


闇の中の美女を呆然と見つめていた私は、火縄が燃え尽きて真っ暗闇になった宝物庫から転がるようにして
出ていきました。
そのあとは自分の部屋に駆け戻り、毛皮を被って震えるばかり。

震えがとまらない。
甘かった。オーク族との文化の違いを舐めすぎていました。

彼らにとっては、異種族の女を監禁調教することはごく当然なのです。
私の場合は閉じこめる必要なんかないだけ。
この巣の周り100メートル四方のことだって、ろくに知らないのですから。


よし、逃げよう。

彼らには彼らの都合と思惑があり、私には私の都合と思惑があるのです。
この洞窟の住み心地は悪くありませんでしたが、一生を過ごす気にはなれません。


鉄のナイフ、風呂敷代わりの毛皮に着替えの服と予備の手作りサンダルを包み、灰と種火を入れた竹筒や
ヒョウタンの水筒、保存食の殻付きクルミ、虫除けの草、糸と針、などなどの旅支度を素早く済ませて
大広間へ向かいます。

大広間から詰め所の様子を窺うと‥‥駄目ですね起きてます。
見張り役の下っ端オークたちは居眠りしていることも多いのですが、眠るまで待つ時間はありません。
当初の予定どおり、シャワーから逃げるとしましょう。

この洞窟に何カ所かある採光窓ですが、シャワー滝の近くにある一つだけは吹き抜けになっていて雨が降ると
水が降り注いできます。スコールの時だとシャワー代わりにもなりますね。
そして、この天窓は私でもぎりぎり通れるか通れないかの広さしかないのです。小さくても私の4~5倍は
体重のあるオークたちには絶対に無理です、通れません。

前世よりずっと関節柔らかくて身軽な身体のおかげで、思ったより楽に脱出できました。
天窓の上は岩場でした。
辺りを見渡して地形を確認すると、ここは海に突きだした小さな岬の、尾根に近い場所のようです。

オークの巣のダストシュートは尾根を挟んだ斜面のうち東側、急な方に繋がっていて、反対側の緩やかな
斜面は果樹が多くオーク達の庭のような場所です。

南は海ですから、逃げるとしたら北か東ですね。東は急斜面を降りるのが辛いですから尾根ぞいに北へ向かう
のが無難かな?


北へ向かおうとしたのですが、直ぐに蔓草の茂みに行く手を阻まれてしまいました。
蔓草の葉を裏返してみると‥‥うん、ダニが居ますね。でかいのが。
虫除けの草はそこらに生えています。しかし茂みの中にはヒルとか蛇とか、ダニ以外にも危険な虫や小動物が
いるかもしれません。
薮や茂みに入るのはなるべく避けることにしましょう。

蔓草の茂みは尾根全体を塞いでいます。避けて通るには、少し戻って回り込むしかありませんね。
振り返るとオーク達の巣から一筋の煙が立ち登っていました。燻製でも作っているのでしょうか。


さようなら、豚さんたち。そしてありがとう。
この一週間余りで受けたご恩は一生忘れません。踏み倒すけど。




 ☆10日め3、野生の王国☆


尾根の頂上は風が強く、時折吹く突風で転げ落ちそうになるので、斜面の中腹あたりを歩いています。
沢の方は足下が不安定で危険ですから、必要なとき以外は近寄らない方が良いでしょう。

今の時刻は午後の3時過ぎぐらいでしょうか、相変わらず日射しが強烈です。
暑いですけどこの島は火山島地質で、綺麗な湧き水か多いのが有り難いですね。
湧き水の傍で、水場と一緒に見つけた甘い瓜にかぶりつきつつ休憩といきますか。

地球では見たことのないこの瓜は、味はメロンに似ています。
果肉の色は黄色スイカっぽいですね。種の色は乳白色から褐色で、スイカのものに近い形をしている。
食感はスイカ寄りで、しかも種が中心近くに固まっているので食べやすいというファンタジーな代物です。
しかも成長が早くたくさん実るという至れり尽くせり。都合の良い植物もあったものです。


ごちそうさま。美味しい瓜だったので、夕食用に一個貰っていきますか。


「プギ──!!」「プギィ──!」

って、もう追い付いて来ましたか!

ど、どうしましょう? 走って逃げ切れるとも思えませんし‥‥ ここは野生の知恵に倣ってみましょう。
まずは自分の足跡をなるべく正確に踏んで、後ろ歩きで踏ん張りの効く石の上まで後退します。
そしてそこから頭上へ跳んで、蔓草に掴まってよじ登り、木陰に隠れる!

「「「プギ──ッ」」」

オークたちが通り過ぎたら木から降りて、来た道を逆走。
うまく行けばこれで時間が稼げる筈です。
どうやらうまく行ったようです。 追っ手は幹部三人だけか、なら逃げ切れるかも。

さて、稼いだ時間を引き延ばすなら臭いをなんとかしないといけませんね。
あまり気が進みませんが、沢に降りて水を利用しましょう。

オーク族、しかも力自慢の幹部たちと私では圧倒的な体格差があります。
しかし、その体格ゆえに彼らは木登りが得意ではありません。
また彼らは視力が弱いため、何かを探すために「高台に上がって見渡す」という発想に欠けているのです。

一度臭いを切ってしまえば、追跡を振り切るのは警察犬を連れた人間達を相手にするよりも楽な筈。
私が逃げ切れるとしたらここを衝くしかありません。


沢の底はなかなかに流れが激しく、大きな丸岩がゴロゴロしています。
海が近いのに、これだけ大きな岩があるということは余程山が険しく、雨の量が多いということですね。
やはりなるべく早く、沢から離れた方が良さそうです。
鉄砲水なんかに巻き込まれたら命が幾つあっても足りません。

水質は悪くなさそうですが、飲むのは止めておきましょう。湧き水の方がまだ安全だ。
手の平に乗るぐらいの川魚が暢気に泳いでいる所を見ると、近くに危険な動物は居ないようです。
待てよ? サメやワニの類がいないとしても、オコゼやカツオノエボシの類もいないと言い切れるのか?

水に入ること自体を避けた方が良さそうです。

石から石へ跳んで沢を渡ります。今の身体は非力だけど身軽で柔軟で、ぶっちゃけ前世よりも動きやすいです。
何事もなく対岸に到着。見つかりたくなければ、ここから暫くは東に進むしかないでしょう。

ガサッ

斜面を登ろうとしたところで、前方の茂みが鳴りました。
出てきたのは毛深い豚のような‥‥いえ豚そのものな顔でした。
追っ手のオークではなく、イノシシです。牡丹鍋の元になるアレ。

体重100、いや120キロはある大型のが一頭、そしてその後に続く半分ぐらいのが六頭ほど。
みな私を無視‥‥はしていないけど、特に警戒もせずに目の前を通り過ぎていきます。

水辺で食べ物を漁るイノシシたちを見て、私はこの島には人間が住んでいないことを改めて確信したのでした。
いくらなんでも無警戒すぎます。前世でいえば隣家の猫たちの方がまだ警戒心がある。

ああ、そういえばオークたちは猪を狩らないのですよ。少なくとも洞窟での食卓に猪肉が出たことはなく、
イノシシの骨や毛皮も洞窟にはありません。
鹿や牛の角や、肉食獣の牙などは家具や装身具に使われているのに、です。
もしかするとこの島の猪たちにとって、二本脚の生き物は脅威ではないのかもしれません。


後になって思えば、このときの私はイノシシたちの観察などせず逃走を急ぐべきでした。
あるいはもう幾らかの距離を取っておけば、獲物として狙われずに済んだでしょう。
しかし、それは私にとってあまりにも唐突に現れたのです。
現れたというかその場にずっと居たのです。それは。

いきなり岩が動いて、小さいイノシシが水中に引きずり込まれました。
岩ではなく生き物です。
巨大な、いままで岩に擬態していた亀が首を伸ばしてイノシシに食らいついたのです。

ゾウガメのように丸く高い甲羅を動かして沢の深みに入っていく巨大亀。
半身を呑み込まれながら水中で暴れる被害者。
パニックを起こして逃げ惑うイノシシたち。
イノシシたちを次から次へと岩が動いて襲いかかり、それらを呆然と見つめる私。

突然の惨劇に散り散りになったイノシシたちが一匹また一匹と食らいつかれ、呑まれていきます。
囲まれている? いや元々肉食亀の群が待ち伏せしていた狩り場へ、獲物たちがやって来ただけでしょう。

亀さんを舐めてはいけません。たまたま地球の間氷期の日本列島には肉食性大型亀がいないだけの話で、
太古には全長3メートル以上、体重1トンを越える捕食者な亀類もいたのです。
ワニが結果的にとはいえ群で狩りをするのなら、近縁の爬虫類が群で待ち伏せ猟をしても不思議ではない。

最後のイノシシが食いつかれる前に気を取り直した私は、その場から逃げ出しました。
幸い移動する筈だった東方面には亀も、亀が擬態できそうな大岩もありません。
大きいだけに地球の同類より足が速そうですが所詮は亀、走れば私でも振りきれる筈です。


斜面を駆け上がって、平地に出て、森の入り口まで来ましたが森の中は蔓草や茨が濃すぎる!
木々の隙間から覗いてみましたが、生身の人間ではちょっと入れそうもありません。
森の奥まで茨など棘の多い植物が生い茂っていて、鉈があっても切り開くのは苦労しそうです。

後ろから巨大亀のものらしき移動音が、バキバキベキベキと凄い勢いで近づいてきてますので、
早めに次の行動を決めなくては。

ふむ、森を迂回して南側に回るとしま‥‥あれ? 動けない?! 
服が茨に引っかかって  違う! 茨の方が服に絡みついてきてます!

動いてる、動いてるよこの茨!




 ☆10日め4、そういえば☆


ここはファンタジーっぽい世界でした。
豚頭の異人種や巨大肉食亀が闊歩する世界に、食人植物が存在してはいけない理由はないでしょう。

とりあえず茨からは脱出できました。
毛皮の服に絡みついた分は服を脱いで、手足に絡みつこうとしていた分はナイフで断ち切りました。
両足の腿と脛が血塗れになりましたが浅手です。荷物の風呂敷は無事なので換えの服だってあります。

ひそかに(丈以外は)お気に入りだった虎毛皮は取られてしまいましたが、大丈夫です。まだ詰んでない。
あとはここから離れることさえできれば‥‥

ずぼり

右手にナイフ、左手に毛皮の風呂敷包み。身体は手作り下着装備で足はサンダル履きな私の下半身がいきなり
地面に埋まる。
いえ、地面ではありません。落ち葉の下、地面の窪みを埋めていた何か柔らかいものの中に、です。

何コレ?

膝の上ぐらいまでが変なものの中に埋まっています。
温かくて柔らかくて半透明で、うねうねと動いています。地球上では見たことがない‥‥
いえ、物理世界ではなく二次元でなら割と頻繁に見たことがありますが。

スライム。もしくはジェリー系モンスター。
巨大アメーバ的な不定形の生き物で、主に暗くて湿った場所で獲物を待ち伏せしていて、迂闊な獲物が近寄る
と襲いかかり補食する、多くのRPGで冒険の序盤から登場する怪物です。

全部当て嵌まってるー!

私はゴブリンどころか飼い猫一匹にも勝てる確信がない弱者中の弱者であり、知識も技能も一切持たずに
怪物だらけの野外MAPに乗り込んだ、迂闊極まりない獲物なのですよ考えてみれば!

もがいたところで、填り込んだ両脚は抜けません。
ナイフや木の枝で突いたり叩いたりしても、動くゼリー状の捕食者には全く効果がない。
物理攻撃に耐性ありですかこの野郎。

焦るな私。ここがファンタジー世界なら、怪物の弱点もファンタジーRPGと同じ筈。
スライムの弱点といえば炎か? それとも電撃か氷か、とにかく物理以外の属性攻撃なら効くでしょう。
私は電撃も氷も出せませんが炎なら‥‥って、あれ?

火種を入れた竹筒は、毛皮の包みごとスライムの中に沈んでました。
ああ、そういえば木の枝を掴むときに放り出したんだったけ。
取り返そうとして半透明のなかに手を突っ込んだのが拙かった。左手も抜けなくなりました。
手首が入ったあたりで、がっちり捕らえられてしまってます。


下半身はそろそろ太腿の辺りまで沈んでいます。左手も手首から先が固まってしまいました。
と言うかさっきから左手首から先が動かせませんし、怪我している筈の両脚がちっとも痛みません。
このスライム、麻痺毒持ちでしょうか?

今の私が使えるのは右手と右手に持ったナイフ、そして首から上ぐらいです。
時間の猶予はありません。このままだとあと数分で私はゼリーに全身が呑み込まれてしまいますし、
その更に数分の一の時間で巨大肉食亀が追い付いてくるでしょう。


考えろ。考えろ私。
何か一発逆転のアイデアを思い付かなければ、死あるのみ。
亀とスライムに食われて死ぬぐらいなら、その前に右手のナイフで咽かっ捌いて自害した方がまだマシです。

詰んでない。まだ詰んでない。
あと一分ぐらいは時間がある。慌てるべきだけど絶望するにはまだ早い。
私にはまだ打てる手が残っているのです。

「助けて────!!」

そう、悲鳴をあげるという手が!


いまここで死ぬよりは、オークに囲われる方がなんぼかマシです。
不様と言いたければいくらでも言って下さい。私はまだまだ命が惜しい。
死のうと思えばいつだってできます。今はまだそうしたくないのです。

「ぷりーずへるぷみー!」

オーク達が、私の声が聞こえる位置にいる可能性が何%で
私が生きているうちにここまで来れる可能性が何%なのかは解りません。
ただ、叫ばなければその可能性は更に低いでしょう。

「助けて──!」

早く、早く来てください豚さんたち。
貴方がたのお嫁さん候補が絶体絶命の大ピンチなのですから。


あ、今唐突に気付きました。
いつぞやの昼食で、アレ食えコレ食えとオーク達に御馳走責めにされたましたけど、あれって恋人や婚約者の
故郷へ連れてこられた嫁さん婿さんの候補が、家族親族が集まった宴会でされる事と同じですね。うん。



ばっさばっさ と耳を疑うような大音響の羽音と共に、巨大な羽毛生物が舞い降りました。
極彩色の鳥類。いや羽毛恐竜? クチバシがあるから鳥だ。そういうことにしておこう。

地響きを立てて着地した、動物園のキリンさんぐらいある鳥のような生き物が、小首を傾げて私を見ています。
そしてそこに潅木の茂みを押しつぶしながら、稜線を越えて巨大亀がやってきました。
巨大亀の後に続いて、半周りほど小柄な別の亀がやって来るのが見える。

昔の不良同士のような、あるいは庭先で不意に出会った猫とイタチのような睨み合いが始まりました。
亀と鳥。どちらも敵意丸出しです。獲物を横取りしようとしている敵だと、双方が確信している。


私を挟んで睨みあう、巨大な爬虫類と鳥類。そろそろ股のあたりまで迫ってきた透明な粘液塊。
いよいよ詰んできました。
今の私が自由に出来るのは右手とナイフだけ。もう声一つ出せません。
もうすぐ、数秒かその倍ぐらいの時間内に獲物の取り合いが始まるでしょう。
生きたまま二匹の鶏に引っ張られ、食いちぎられ飲み込まれるミミズになるよりはいっそのこと‥‥。




 ☆12日め、覚悟は幸福です☆


間一髪、助かりました。
具体的に言うと巨大亀の頭が、ナイフが届く寸前に、飛んできた棍棒に叩き割られました。
その後は怪獣大決戦。
巨大亀×2VS豚人間戦士VS大怪鳥の壮絶バトルは、ギュー・グェスが二匹と一羽を倒して勝利しました。

目の前で繰り広げられた屠殺屋(ブッチャー)も蒼白の流血劇に、漏らしてしまったことは秘密にしたい。
もちろん無理です。オークは鼻が利きますから。
幹部達も下っ端たちも漏らしたことを知っていて、紳士的になかったことにしています。

大怪鳥というのは、あの極彩色な巨大鳥のことでして。
オーク語の「オオキナ、オカシナ、トリ」を直訳してみました。
この島に生息する割と遭遇率の高い巨大生物でして、猛禽類ではなく雑食性。
ただし主食ではないだけで、気が向けば人間も襲うので亀程じゃありませんが危険度高めです。


スライムの方はバトル中に突然逃げていきました。どうやら竹筒の中の灰に触れたせいのようです。
オークたちによれば、あの種のスライムは動きが遅く消化も極めてゆっくりしているので不意打ち以外は
怖ろしくない敵なのだとか。松明の一撃か灰の一掴みで簡単に撃退できますし。
ですが森の奥や鍾乳洞にいる別種のスライムには、比較にならないくらい厄介なのもいるそうです。


スライムから解放されても、両脚と左手にまだ麻痺毒が残っていた私が、右腕一本で何ができる訳もなく。
グェスと、そして別の亀や他の怪物と戦って勝ったドスとウォスに回収され、洞窟に戻ってきました。
そして二日ほど寝込んでというか、ふて寝していまして。今日の夕方近くになって部屋を出てきた所です。


大広間に出てみると、下っ端オークたちは亀鍋の残骸を囲んだまま寝ています。
巨大亀の肉はオークたちにとって御馳走らしく、大小十頭ちかい巨大亀が獲れたあの日は宴会になりました。
宴会気分は今日まで続いてまして、下っ端オークたちは最後の一匹で亀鍋パーティをしていたのです。

ちなみにこの亀鍋、頭と手足を縛った巨大亀を仰向けにしてから、薪で囲んで火を付けた焚き火で炙り、
焼き殺して食べるというやば‥‥もとい素朴極まりないしろものです。
ええ、鯛の活け作り食べていた元日本人がとやかく言えた義理じゃありません。
よく火を通してから横から叩くと、割と簡単に甲羅が外れるのですよこの亀は。

小さな亀は生け捕りにして、縛って転がして保存食。
生け捕りにできなかった大型の亀はその場で捌いて、肉や甲羅はオークたち総出で洞窟に運ばれました。
干し肉にしたごく一部を除いて、肉はオークたちの腹に入りました。私も少しだけ食べましたけど。
亀肉美味しかったです。煮物もステーキも蒸し焼きも。ここに米がないのが悔しいぐらいに。

いや、それにしてもオークたちの食欲は凄いですね。
山のようだった巨大亀や大怪鳥の肉が見る見るうちに消えていきましたよ。
力士の中には飲食店の食材がなくなって準備中にしてしまうぐらい食べてしまう人もいるそうですが、
グェスたち三人がいれば相撲部屋の食料庫を食べ尽くすことも簡単でしょう。

もっとも翌日からはグェスたちは普通の食生活に戻っていたので、彼らは飽食に強いか食いだめが利く
体質のようです。
豊作や大漁のときは鱈腹食べて、そうでないときは小食で済ませる生き物なのでしょう。

なるほど、こんな体質のうえに年中食い物が取れる南国で暮らしていたら、そりゃ貯蓄の概念や技術など
生まれも育ちもしませんわ。
彼らは基本的に餓えず飢えず、長くても数日で収まる嵐の日以外に備える必要がないのですから。

いえ、極端に言えば干し肉や燻製の魚だって、私がいなければ作る必要がない。
芋や椰子の実は洞窟の中にしまえば半月ぐらい持ちますし、オーク達はその気になれば嵐の中に出かけて
その日食べる分の食料ぐらい簡単に手に入れられるのです。


私の待遇ですが、びっくりするぐらい何も変わりませんでした。
叱責らしい叱責もなし。むしろ頭撫でて慰められたぐらいでして。
そりゃ確かに怖い思いはしましたし、洞窟の奥に鎖で繋がれるよりはマシですけど。

ひょっとしたら、逃げたと思われてないのかもしれません。

まあ、そうですよね。
右も左も解らない、現代日本で言うなら 「信号の色どころか歩道と車道の区別もつかない異邦人の幼児」
にも等しい無能力者が思いつきで脱走を挑むよりは、好奇心で外に出かけて帰れなくなったと考える方が
まだ自然でしょう。

就学前どころか幼稚園に入る前の幼児級な無能者に本気で怒る人は‥‥居るな、日本にはときどき。
その良し悪しは別として。



この二日間、いろいろ考えたのですよ。
そして出た結論は、今の私は 無 能 だってこと。転生者ではあってもヒーローには程遠いのです。
余命幾ばくもない病人や老人の方がまだマシなぐらいに非力な存在なのです。
体力は勿論のこと、知力だって無いに等しいのですから。

現代知識チート? 
地球とこの星と、何がどう違い何がどう同じなのか解らなくては意味がないのですよ知識なんて。
とにかく今は現状を把握しなくては。
知らなくては何も出来ません。

ですので、これから実験を行います。
危険は伴いますが、どんなに悪くても命には届かない筈。
一度は死を覚悟した身です。怖いけど、乗り越えられる怖さですよ、たぶん。


私は、大広間から風呂場に入っていきました。ちょうど今、幹部オークの誰かが入浴中なのです。





[38600] 4
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:45


 ☆12日めの2、肉弾特攻(人それをヤケという)☆


「グヒー?」

風呂場入り口まで来ると、「入ってます」的な声が聞こえてきました。この声はギュー・グェスですね。
耳がよい変態紳士な彼らは、混浴を避けている私とは一緒に入らないようにしているのです。

私は手早く服を脱いで、湯から出ようとしているオークの所まで歩きます。

「あー、いいからいいから、そのまま入ってて」
「グヒッ?」

真の紳士なら出ていってしまうのでしょうが、少女に引き止められると従ってしまうあたりが変態紳士の
変態紳士たる所以。‥‥まあ、前世の私が5年後の従妹に同じ事されたら従ってしまう自信ありますけど。

何かの卵の殻を加工した手桶で熱い湯を被り、汗を流してから湯船代わりの窪みに入ります。
そこには先客のグェスがいるのですが、私一人なら隙間に入ってまだ余裕がある。

うん、困ってる困ってる。内心嬉しいけど、うかつに見ることも動くことも出来ないから困ってますね。
ええと、その、とりあえずお風呂場では見られても気にしない という態度でいってみましょう。


何の実験かって? 
そりゃもちろん ど こ ま で や っ て 襲 わ れ な い か を確認するのです。



具体的に言うと一緒にお風呂入って大丈夫なのか とか 洗いっこはどこまでが安全圏なのか とか。
背中のみ? 手足は? 全身どこでも? 直接お触りあり?

危険ではあります。

しかし、今の私が一番怖れないといけないのはオーク達に「お前いらない」と巣から放り出される事な訳で。
そうなったら一時間も持たない自信があります。
ここがゲームの世界だとしたら、遭遇表に書いてあるモンスターリストの最弱のもの一匹にだって勝てません。


この島に来た最初の数時間はただ単に幸運だっただけです。
もしあのとき山に登らずジャングルに近い場所に留まっていたら、また何もない山の中で嵐が来なければ私は
今頃モンスターの糞として虫や細菌のごはんになっているでしょう。あるいはその更に排泄物かも。
結果論ですが、遭難したからこそ私は助かったのです。

いやまあ、押し倒されて事が済んだあと「やっぱりいらない」と捨てられるという、より最悪な展開も
ありえますが‥‥
宝物庫に虜囚がいることを考えればその可能性は低いでしょう。
彼らにとって若く健康な人間の女は、宝物庫に入れておきたいくらい価値がある筈。


ん? そういえば、あの人のことで何か気になることがあったような? なんでしたっけ?

茹だってきたのか考えが纏まりません。今の身体は小さい分すぐに温まってしまうのですよ。
お湯から上がって身体を洗うことにしましょう。

同じく茹だっていたグェスを促してお湯から出して、私は石鹸を用意します。
これは焚き火跡の灰から掘り出してきたもので、肉とかを焼いたときの脂が灰の中に落ちて固まった物です。
石鹸の元祖というかプレ石鹸とでも言うべき代物ですが、一応泡は立ちますよ。

石鹸水を含ませたスポンジで身体を洗う少女と、岩の床に正座してそれを見つめるオーク族長。
何 こ の 光 景 。

何故に正座? 元日本人の転生者が私以外にも居るのでしょうか?
見られるだけだと間が持たないので、続いてグェスを洗ってあげることにします。

全身ガチンガチンに緊張したまま、泡まみれの少女に洗って貰う巨体のオーク。
駄目だ、光景のシュールさは変わってない気かします。どうしましょう?

しかし広い背中ですね、スポンジじゃなくてデッキブラシが欲しくなる面積ですよ。
根気がいるというか汗が出るぐらいの運動量です。
あ、耳の後ろとか垢が溜まってますね。洗っておきますか。


デッキブラシは酷いと言う意見もあるかと思いますが、彼らの皮膚は厚く丈夫なのです。
茨の棘ごときでは傷一つ付きません。
傷の治りも早く、先日の巨大亀との戦いで受けた傷も殆ど残っていない。

体毛は薄いというか殆ど生えてません。でも産毛は人間より濃くて、触るとちょっとくすぐったいですね。
皮膚の色は明るい茶褐色ですが、腰ミノの下がやや色白なところを見るとオークの地肌は白くて、ただ単に
日焼けしているだけなのかもしれません。
比較対象に完全洞窟性のオークとかいたら分かり易いのですが。

良し、背中・肩に続いて頭部も終了。次は腕にいってみますか。
何か当初の目的とずれてきた気もしますが、グェスの緊張も解けてきたのでこれはこれで。
もう辛抱溜まらんという様子でもないので、押し倒される心配はなさそうです。リラックスリラックス。

右腕右手は何の問題もなく洗えました。それにしても太い腕ですよねー。
左腕側は‥‥こう言ってはいけないのでしょうが、正視に耐えません。
彼の、ギュー・グェスの左手第4指、薬指はありません。根本の所から、あの亀に食いちぎられたのです。

相手は野生のイノシシを一撃で仕留めるほどの捕食者です、元々楽に倒せる獲物ではないのでしょう。
でも私を助ける為でなければ、そして私がスライムに捕まってさえいなければ素手で巨大亀と組み討ち
などしなくて済んだ訳で。
指一本とはいえ、私の短慮が彼を不具にしてしまったことは間違いありません。

ファンタジーな世界で亜人種なんだから、取れた指の一本や二本再生したっていいじゃありませんか。
二度も命を救われた上にこれでは、流石の私も踏み倒すに躊躇ってしまうほどの借りです。

「グヒッ」

そして、見た目は豚でも心は錦なオークの族長は、落ち込んでいる私の頭を撫でて慰めてくれるのでした。


おかしい。
こんなに優しくて人の心が解る彼らが、何故あの人を監禁しているのでしょうか?

いや待て、あれは本当に監禁なのか?
ろくに動けないはずの不具者を鎖に繋ぐ理由は、繋いでおかないと危ないからでは?
たとえば重度の痴呆で、自由に動かれると焚き火に突っ込むとかの自傷行為に及ぶからかもしれません。

この三人に、幼女のみ有り難がり大人の女を虐待する文化や性癖があると考えるよりは、人間の村から
追放された痴呆の不具者を拾って世話している と考えた方がまだ有り得る気がします。


ん? そうか、何が気になっていたのか解りましたよ。
あの人、妙に肌艶が良すぎたんですよ。

今にして思うと、バサバサの髪や痩けた頬はともかく腕や乳房やらの色や張りが健康的に過ぎるんです。
あれは毎日たっぷり寝て過不足無く食べて、適度に動いて欠かさずお風呂に入っている人間の肌です。
更に時々日光浴もしている筈。
プロポーションもですね。どう考えても虐待受けている人間の身体じゃありません。
少なくとも上半身には傷一つありませんでしたし。


風呂? 毎日? それも介護付きですよね、どう考えても。
あの様子では一人で入浴なんて無理でしょうし。

それで何故私と鉢合わせしないのでしょうか。
私は日に何度もお風呂入ってますけど、今まで一度もあの人をお風呂に入れている所を、見たこと
ありません。痕跡すら見つけたことがない。

私が寝ている時にこっそり? いやいやそれは有り得ません。
彼らは、オーク視点では何も疚しいことはしていないのです。隠し事している様子もありませんし。
もしそうしているとしても、髪の毛の一本ぐらい残っていても良さそうなものです。


変ですね。
確かめてみるしかないか。





 ☆12日め3、鏡よ鑑☆


お風呂から上がった私は、グェスと一緒に宝物庫へ向かいました。今度は私用の松明を持ってます。
オーク式の松明は何種類かありまして、松の枯れ枝を松ヤニ溜めた壷に突っ込んで数日放置して作った芯に、
蔓草を叩いて潰してから乾かした物を巻き付けて作る大型の物もあれば、大きな葉や樹皮をリボン状に細長く
切ったものを、ゼンマイ状に捲いて乾かした携帯型もあります。

いま私が持ってるのは携帯型。
後ろにいるグェスは大型の松明です。

そして来ました宝物庫。
前とは比べものにならない明かるさなので宝物の豪華さがより解りますが、今はそれどころじゃありません。
問題の虜囚の前まで来ましたが、後ろのグェスには特に緊張や警戒の感はない。
私の様子にやや疑念というか疑問はあるようですが、やはり彼の立場ではこの虜囚は何一つ疚しさを感じない
存在のようです。

とりあえず近寄って、観察します。
反応は特になし。いや、全くなし。

えっと、生きてます‥‥よね? 呼吸音がしますし、胸も僅かですが上下してますし。
でも目の前で手や炎を動かしても全く反応しないというのは、変です。


唐突ですが、前世の私が嫌いだった言葉の一つに「白痴美人」というのがあります。
これ、誤用というか間違っているにも程がある日本語です。
だって白痴ですよ? もっとも酷い状態の、精神が崩壊しきっている級の精神薄弱ですよ。
それが美人って、有り得ないでしょう? せめて魯鈍美人とかなら解るのですが。
知性ゼロの表情って、正直見れたものではありませんよ。人間の尊厳崩壊しきっているんですから。

この人は、美しすぎる。
知性のない顔に美しさを認めない私の、前世の私の価値観でも、あまりに美しい。
だけど知性が充分に残っている顔なのに、反応がない。無視とか拒絶でもない。意思が欠片もないのです。
何だこれ?

え!? ちょっ え??

この人、睫毛に埃が溜まっている!?
と言うか、さっきから瞬きしてませんよね?

「グヒー」

そこにグェスが、はたきを片手にやってきました。
ええ、棒の先に何枚かの布きれを取り付けた掃除器具の、はたきです。

「グヒッ」

そーいやこのところ掃除してなかったなあ とでも言いそうな雰囲気で、グェスは囚われの美女にはたきを
掛けて埃を落としていきます。
そして同じくうっすらと埃が溜まっている毛皮を、美女の下半身を被っている白い毛皮を無造作に剥ぎ取って
毛皮からも埃を落としはじめました。

下半身が、ない。

美女の、臍のやや下からがありません。
あるのはスポンジもどきを縄で縛って作った腰と太腿から膝までの形をしたパーツだけです。
美女はウェストラインで輪切り状態。断面は肌色です。

おそるおそる、つるつるの切断面を触ってみると温かく柔らかい。
人間の肌そのものの触感です。

に‥‥

人形だこれ──────!!


恐ろしく精巧に作られた人形です。
体温もあれば呼吸もある。脈拍は‥‥うん、ある。一分あたり六十から七十回で。
余程の趣味人が作らせた抱き枕か、それとも王侯貴族の影武者用か。
上半身だけとはいえ、なんでこんなものがオークの巣穴にあるんだっていう級のお宝です。
だってこれマジックアイテムですよ? 常動しかも永久型の。


ああ、うん、これならオーク達が宝物庫の一番奥に飾っておいても不思議はないよね。
金銭的価値もそうだけど、人間の女性美を尊ぶ彼らにとっては女神像みたいなものだろうし。


あは、あははははははははは!

馬鹿か私は。

わははははははは!

馬鹿に決まってます。何故こんなことに気付かなかったのでしょう。
こんな洞窟のどん詰まりで、鎖で繋がれている生身の女が、こんなに美しいままでいられる訳がない。

げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!

そもそもこの鎖、ミリ単位の黄金製じゃありませんか。どう見ても大人を繋いでおける強度はないし、
鎖の先は岩肌に撃ち込まれた鉄釘に引っかけてあるだけです。
ちゃんと確認しろよ、私。

げらげらげらげらげらげら!


腹を抱えて、狂ったように笑う私を見てギュー・グェスが慌てています。
心配させてごめんなさい。でも我慢できない、今笑いを堪えたらきっと発狂してしまう。

とうとう洞窟の床に転がって、転げ回りながら笑いだした私の周りに幹部オークたち三人が集まって来ました。
あー 笑いすぎてお腹痛い。
でも止められないんです。

笑うだけ笑い、なんとか発作を押さえられるようになって、起きあがろうとする私をオーク達は優しく支えて
くれました。
気は優しくて力持ち。
こんな気の良い生き物たちが人間の女を捕まえて監禁しているだなんて、何故考えてしまったのでしょうか。

決まってます。私がそういう生き物だからです。
悪口は己の鏡。他者は自分の鏡なのです。自らがそうだから、他人もそうだと決めつける。
私はオークたちを利用することしか考えてなかったから、彼らもそうだという可能性‥‥可能性の影を
見つけて恐怖に震え上がったのです。

醜い。
なんてみっともない生き物なのでしょうか。
まあ、前世の頃からわりと腐っていたんですけどね。性根が。




 ☆12日め4、コンゴトモヨロシク☆


どうやら今の私は肉体だけでなく脳内も前世とは違うらしいのです。
おそらくは記憶の一部だけが前世と同じなのでしょう。

その証拠に、意識としては視力が急に良くなっているのに、眼鏡やコンタクトレンズを買い換えたときの
眩暈に似た感覚を一切感じていないのです。
あれは急に視覚情報が増えたことにより、情報処理が追い付かなくなった脳が困っている現象なのです。
つまり今の私の脳にとっては、今の2.5はある視力が普通な訳で。

何が言いたいかというと、今の私は脳も子供でしてその結果として感情の抑制が利きにくいのです。
笑いの発作が収まった後、今度は妙に悲しくなって泣き出してしまいましたがコレは本意ではないのです。

なので赤ん坊みたいにあやそうとしないでください、そこのオーク。
でも頭なでなでは気持ちよいから続けるように。


ふう。泣いたら気持ちが落ち着きました。


これで現状の再確認はできました。
要するに私は超弩級の無能で、オーク達の庇護がないと一日だって生きていけないのです。
そしてちょっとやそっとの事故(アクシデント)なら、血迷ったオークたちに手込めにされることもなさそうです。
もしそうなったとしても、虐待や監禁にはならないでしょう。
あくまでもオーク基準でですが、大切にしてくれますね。

だと思うのですが。だと良いな。ゴミみたいに捨てられるよりずっと。

うん、詰んでる。絶望する程じゃないけど。
諦めなくても試合終了というか、夏の甲子園とかで時々ある二桁の得点差がつけられた試合の七回裏あたりを
見てる気分です。
もういっそ止め刺された方が楽かも。


いかんいかん、思考がネガティブになってます。
オーク達が心配しているじゃありませんか。

前世から割と性根が腐っていた私ですが、それでも最低限の社会的常識は持ち合わせている訳でして。
私は今まで彼らを利用してましたし、これからも利用するつもりです。
利用するからには私も彼らに利用されねばなりません。世の中持ちつ持たれつ。

とりあえずネガティブ禁止!
女の子が鬱々としていると、それだけで男どもの気分が暗くなってしまいますからね。


床に正座して姿勢を整え、衣服の乱れを直し、髪を手櫛で梳き、顔をスポンジで拭いて、両手で頬を叩いて
気持ちを切り替える。
私につられたのか対面に並んで正座している三人のオーク達に、深々とお辞儀します。

「皆様、寄る辺ない私を拾い上げ住まいと糧を与えてくださっただけでなく、二度にわたり命を助けてください
ましたこと、まことに有り難うございます。
受けたご恩には深く深く感謝しておりますが何分にも、今の私にはご恩をお返しする力も何もありません。
厚かましいかぎりですが今暫くの間、ご迷惑をかけ続けることをお許しください」

そう言って再度、更に低く頭を垂れ、床に額を擦りつけんばかりの勢いでお辞儀します。
これぞ最終奥義ジャパニーズ・ドゲザ!
全部日本語ですが、こういうのは気持ちです。単語もろくに知らないオーク語でやるよりはまだマシでしょう。

「コチラコソ、ヨロシク」

向こうもオーク語で来ましたか。
細かい意味はともかく、深々と下げる頭から気持ちだけは伝わってきます。


うん。とりあえずこれで、オークの巣に居候として過ごす覚悟は固まった かな?
あとは成るようになるでしょう、ええ。






[38600] 5
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:45


 ☆13日め、復活の日☆


昨日はあの後、何故か宴会に突入してしまいました。
いやー飲んだ呑んだ、こっちに来てから舐める程度にしか飲まなかったお酒を浴びるように飲んじゃいました。
前世の私も日本人の平均よりは飲める体質でしたが、この身体はそれ以上の酒豪のようです。
あれだけ飲んで翌日一切残ってません。

いえね、今までは酔いつぶれてしまうのが怖かったのですよ、男はみんな狼ですから。
遠慮なく飲んだのは彼らをある程度信用することにしたのと、どのみち抵抗できないんだから諦めた訳です。

だって、幹部オークって強すぎますから。
下手な象並に大きい肉食亀を持ち上げて投げ飛ばせるんですよ、彼ら。拳の一撃で岩ぐらい割っちゃうし。
今まで彼らを相撲取りに例えていましたけど、あれは不適切でしたね。
彼らと比べたら全盛期の雷電為○衛門だろうが、千代の○士だろうが、朝○竜だろうが半死人同然です。

考えてみれば投石や棍棒で虎を狩れるのですから、幹部オーク達は12の難行に挑む前のヘラクレスと
闘えるかもしれません。

いくら警戒していても、彼らがその気になれば私の貞操なんて守りようがないのです。
だからもう開き直りました。

襲いたけりゃ襲えコンニャロー、でも本当に襲ったら泣いちゃうからな! 
すっごく女々しく、虐げられた弱者の哀しみ全開で泣き暮れてやる!

などと内心思いつつ、表面上は慎ましやかに飲みました。もうぐびぐびと。

ファンタジーRPGでよくある設定と違い、オーク酒は割と美味しかったです。
大概の作品だとオークの作る酒は度数がきついだけで、殺人級に不味いことになってますけど、あれは
出鱈目だったようです。

技術的にはどぶろくか精々自家製ワイン程度のものですが、様々な果実や蜂蜜など原材料が豊富な分色々と
飲み比べが楽しかったですね。


そして一夜明けた今日、私はまたも宝物庫に来ています。
いえね、あのお人形さんのことが気になりまして。より正確に言えばその髪の毛が。
もったいないでしょう、あれだけ美人さんなのに髪がボサボサだと。だから手入れしてみようと思って。

て、アレ? 髪が取れちゃった?
いや、これはカツラですね。まあ良いか、カツラでもすることは同じです。‥‥なにこれ、櫛が通らない。
髪に水分が少なすぎるのかな? 裁縫箱に入っていた霧吹きに水を入れてきて、と。

色々とやってみましたが、衣装箱ではなく宝物庫の宝飾品の山にあった宝石だらけなブラシを使ってみると
一発で髪が解かせました。
それも、今までの苦労は何だったのかと言いたくなるぐらい簡単に。

ま、解けないままよりは良いでしょう。

そんなわけで気合いを入れて梳ると、カツラの髪はくすみがとれて見事な金髪になりました。
ややウェーブをかけたストレートに、いや、サイドは縦ロールにしてみますか。

‥‥ってこのブラシ、ドライヤーやパーマネント機能付きですか!? 
ああ、うん、持っているだけで使い方が解ります。
ふんふん、なるほどこのブラシは女性でないと使えない魔法のブラシなのですか。

脳内に勝手に使い方が流れ込んできます。どんな頑固な髪も素直になる梳き梳きモードや、髪癖を一定期間
固定するパーマネントモードなどが使えるけど、所詮はブラシなのでカット機能などはない、と。
うーむ、ファンタジー恐るべし。

カツラを被せて、と。目は‥‥閉じさせちゃいますか。
頬は、ん? 触っていると ガチッ とか音がして、痩けていたのが治りましたよ?

まさか? 


‥‥‥‥うん、この人形もマジックアイテムですね、やはり。それも人間しか使えない設定の。
魔法の櫛とおなじように、触っていると使い方が解りました。

用途は、特殊な抱き枕です。今は上半身しかないので機能の殆どが使えませんが。
下半身とコアパーツ、それに様々なオプション部品があると色々できるみたいです。

とりあえず今使える機能で目の焦点を合わせて、唇の端を上げて淡い笑顔にします。
ポーズを変えて、毛皮の寝台に頬杖突いて寝ている姿にして、下半身はこれまで通り毛皮で隠す。
ただし、衣装箱の長靴下に詰め物をして膝から下も作って、毛皮で隠すのは臍の下から膝の上までにします。
首輪は鉄製の無骨な物に交換。鎖も同様ですが壁の鎖止めは釘を打ち込んだままにしておきます。

これで、洞窟の寝床に寝そべり男を誘惑する首輪つき絶世の美女 が立体で出来上がりました。


完成! 題して『囚われの女神様~今夜もいっぱい可愛がってくれないと天界へ帰っちゃうぞ♪』

えーと、その、これは天女の羽衣奪って無理矢理嫁にした系の昔話的状況(シチェーション)に興味を持った
女神様が、一人暮らしの卑しい男の前に降りてきて、どちらかが飽きるまでという条件を付けて奴隷妻生活を
はじめちゃう という頭の悪いエロゲ的バックストーリーの一部を表現したものでして‥‥ 

なんか創作の電波が来たので盛り合わせてみました、色々な方向にごめんなさい。


創作の憑き物がとれた私が背後の気配に振り向くと、そこにはいつの間にか揃っていた三人の幹部オーク達が
跪いておりました。
無言で涙を流し、寝そべる美女を拝んでいます。

え、えーと‥‥ 気に入った のかな? 私のコーディネートが。





 ☆16日め、地道に行こう☆


阿弥陀仏の御許にいるご両親様。先に行った飼い犬と猫2匹、ついでに金魚たちは一緒でしょうか?
私は元気に過ごしています。今日は私の一日を朝からご報告してみたいと思います。


朝、天気が晴れなら日の出頃に目が覚めます。天井の採光窓が明るくなりますから。
反対に雨や曇りの日は起きるのが遅くなります。

朝起きると大きく背伸びして、柔軟体操を始めます。解すだけほぐしたら服を着て、火鉢に薪を追加します。
次に部屋と大広間までの通路を箒で掃除します。棘や尖った石ころや骨の破片とかがあると危ないですからね。
大広間は時間がかかりすぎるのでざっとしか掃除しません。

次に火鉢の灰や履き集めたゴミをゴミ捨て場に捨てて、トイレとシャワーと洗顔を済ませます。
気分によっては朝風呂に入ることもありますが、今日は止めておきましょう。

宝物庫に行き、女神様の祭壇を清めます。
ハタキをかけて、掃き掃除と拭き掃除のあと女神像の手入れをします。髪の毛は特に念入りに。

ええ、あの特殊な抱き枕はオーク達の御神体になってしまいました。
私の手で半廃人状態から女神の化身に戻った光景が、彼らの信仰心に響いたのです。
というか伝承の一部と重なったようでして。

あの日私がやったことは、某宗教で言うところの涙を流す聖人像のような効果があった訳で。
宝物庫は半ば神殿に、そして女神像を扱える私は巫女のような立場になってしまいました。
有り難すぎてオーク達は御神体に触れないのですよ。


うん、悪くない。悪くはないんだけど、何だろうこのコレジャナイ感は。
転生ものとかトリップものだと、普通は医療とか製鉄とかの、なんて言うか‥‥現代っぽい技術や知識で
認められるのが定番じゃありませんか?
何故に私は特殊な抱き枕のポージングとデコレートなのですか。理不尽な。
いえ、居候としては家主が喜んでくれるならそれで良いのですけど。


掃除と手入れが終わったら女神像のポーズを変えます。
‥‥今日は下半身をトーガ風の布で覆って「手ブラで胸を隠して恥ずかしがる純朴な少女」にしてみますか。
設定年齢を下限の十六歳まで下げて、胸もちょっと小さくして、と。

この人形、年齢や肌の色やある程度までの体型顔立ちなどを変えられるのですが、髪や瞳の色は変えられない
んですよね。そうするには交換用のカツラや目玉、もしくは稼働状態のコアパーツが必要なのです。

この御神体は人間族の制作らしく、オークたちでは上手く操作できません。
使用制限の付いたアイテムは珍しくなく、宝物庫に積んである宝飾品の中にも何個かそれらしいアイテムが
ありました。
人間族の三十歳を過ぎた男が装備すると少しだけ荷物が軽くなる指輪とか、そんな感じの物です。

残念ながらざっと見た限りでは、私やオーク達にとって直接役に立ちそうなアイテムは、魔法のブラシしか
見つかりませんでした。

例えば 汚物や汚水を浄化する機能付き真珠のネックレス という良さげなアイテムもあったのですよ。
浄化機能を使おうとすると「ステータス不足」の意味を持った警告が出て、発動しませんでした。
問題は何のステータスが足りないのか分からない点でありまして。説明機能が貧弱過ぎますよコレ。
せめて不足しているのが、レベルなのかスキルなのか基本能力なのかぐらいは表示して欲しい。

毎日ポーズ変えてたら、そのうちパターンを使い尽くしそうですね。これも今後の課題に追加しておきますか。
お供え物を置いて、陰干しにした虫取り草をお香代わりに小型火鉢で焚いて、朝のお勤め終了。


大広間に戻ると、夜明け前に狩りに出ていたグェスとウォスが帰っていました。
今朝の獲物は 大コウモリが三匹、サボテン大トカゲが一匹、大ウサギが一羽、鳥もどきが二羽ですか。
あとキノコや果物がいっぱい。
近くにあるという浅い洞窟と、そこまでの行き帰りで捕ったもののようです。

鳥もどきを一羽分けて貰って、私も調理開始します。

頭落として血抜きして~ 羽毛毟って腹割いて~ 内蔵取って~ 焚き火で炙って細かい羽焼いて~ 
雉や鶏より大きいですけど、やることは変わりません。
この種類の鳥もどきは既に何度か調理しました。鶏と似ているけど脂が少なくて淡泊な味ですね。

時間がないので半分は串焼き、半分はフライにしましょう。

愛用のナイフで鳥もどきを捌き、肉を小さく切り分けます。肉の筋を切り、細い竹串でメッタ刺しにして、
ぺしぺし叩いてから生パイナップルの果汁に浸けて柔らかくした肉片を、塩水と刻んだハーブに再度浸けて
味付けします。
これを串に刺して焚き火で焼けば塩味の串焼き。
椰子シロップと砕いたナッツの衣を付けて椰子の実油で揚げればフライのできあがりです。

前世からがさつな料理しか作れなかった私ですが、オーク達からの評判は悪くありません。
まあ、何でも美味しく食べられる彼らにとって、料理の味よりも「女の子の手料理」である事が重要なのです。

ちょろいと言えばちょろいけど、やはり感じるコレジャ(略)。

「ブギ」

骨や血や内臓や羽毛などのアラは、入れていた椰子の実のカラやバナナの葉ごと下っ端オークに渡すと捨てに
行ってくれます。
洞窟の外からも確認できますが、南側の下っ端居住区にも彼ら用のダストシュートがあります。
幹部たちほどではありませんが、下っ端たちも居住環境の快適さに気を配る生き物なのです。多分。
一日中傍で見ている訳じゃないので、断言はしません。

ふむ、まだ朝食まで時間がありますね。さっと一品か二品、追加してみますか。
一つはココナッツの刺身を烏賊素麺風でいくとして‥‥。





 ☆16日めの2、コツコツとね☆


まあ、私なりに色々やってはいるのですよ。生活向上も兼ねて、現代知識の応用ってやつを。

結果、インテリアコーディネイト?は、まあ成功。料理は、失敗ではないが戦果少なし。
そして、火種関係は全滅です。

いえね、オークたちって火打ち石や火起こし弓を知らないのではなく、必要ないだけなんですよ。
彼らは松の樹液や油椰子の胚乳から作るファイヤースターターまで持っていまして、怪力だから付け木さえ
乾いていれば火起こし板と棒きれだけで火が起こせるんです。
しかも灰を使った火種保存法や水晶球を使った集光式着火方も使ってますし‥‥ 
なんでも彼らの母の母の母の(略)に教えて貰った秘伝だそうです。

そうそう、オーク語を学習しながらの会話で彼ら三人の母親が人間だと解りました。
あと三人とも母親は違いますが父親は同じ人物というか同オークで、三人は腹違いの兄弟にあたるそうです。
父親は二年前に大蛇と闘って死んでしまいましたが、母親たちは三人とも健在で「大きな洞窟の巣」という
所に他の兄弟たちと一緒に暮らしているとか。


私が今いるこの巣は、巣分けした分家というか新たな氏族扱いのようです。
ここは一番新しくて一番小さい巣なので、幹部が三人しかいません。
一番大規模な「大きな洞窟の巣」には三十数人の幹部オークがいるとか。

この島全体には合計300人以上の幹部オークがいるそうです。
死亡率が高くリアルタイムの人口把握は無理なので、概数でしかないようですがね。

あれだけ強いオークたちでも、この島で生きのこるのは楽ではないのです。人外魔境にも程がある。
こんな所の野外へ、特に当てもなく出ていこうとした私って‥‥つくづく無知とは恐ろしい。
この島にくらべたら、ヨハネスブ○グの方がまだ安全かもしれません。

私の脱走未遂というか家出は、喩えるならばヨハネスブル○のスラム街を金髪碧眼な白い肌の美少女が、
サランラップ製のビキニ姿で片手にドルの札束もう片手に「PLEASE FUCK ME!」と書いた看板を
持って歩いているようなものだった訳で。

そりゃ血相変えて探しに来ますよねえ、オークたちも。


で、三人の母親に会ってみたい と言うと幹部オークたちがパニックになりました。
普段の胸チラとかの騒ぎを十三倍ぐらい酷くした感じで。
どうも誤解というか、「この巣を出て、大きな洞窟の巣に移りたい」という意味に受け取られたようです。

直ぐに誤解は解けましたが、涙目のオーク達をなだめるのには苦労しました。
なんですかね、やっと授かった赤ん坊の世話している新米パパですか貴方たちは。
お猫さまのご機嫌に一喜一憂している猫好きな友人一家とも似ていますが。

異性にちやほやされる身になってみて初めて分かりました。好意って意外に重たいんですね‥‥。


干しキノコと干し魚を丸一日漬けておいて取った出汁で、シダ類の若芽とタケノコを煮込んだ煮物。
ちゃんと藁の灰を入れた鍋で灰汁抜きしてますよ。

蒸かしたやや若い芋の実を石鉢とスリコギで潰し、柚子に似た酸っぱい果実の汁と油と塩水それにバジルっぽい
香草を刻んで混ぜてマッシュポテト風。

うーむ、野菜が少ない。特に葉物系が。アブラナ科野菜が見あたらないですからねえ、この島。
これにココナッツ果肉の刺身と、鳥もどきの串焼き&フライを加えます。
とりあえず今朝の料理はこの五品を四人前。
オーク基準だとそれぞれ一口分ぐらいにしかなりませんが、それでも喜んで食べてくれます。


生きている人間の女か。会ってみたいですね。
たぶん彼らの母親達にも日本語通じないでしょうけど、オーク語で良いから会って話がしてみたい。
オークたちはお喋りの相手としては今一ですからね。何処に地雷が潜んでいるか分からないし。


ご飯の後、幹部オークたちは寝たり風呂に入ったりしています。
下っ端達は適当なつまみを囓りつつ、どぶろくのような手作り酒を飲んで騒いでます。

実は私も自家製果実酒を醸造中です。
オークたちから酒種を分けて貰い、果実の絞り汁に入れて発酵させています。
ここで知識チート使用! 発酵中に糖分を追加投入することで連続発酵させ、これを繰り返して酵母菌に
アルコール耐性を付与!

いやまあ、要は絞り汁がお酒に変わっていく途中で少しずつ煮詰めた砂糖椰子の樹液やサトウキビの搾り汁を
混ぜるだけです。
これを繰り返すとアルコール発酵が長続きするので、素人でも簡単に濃度20%以上の果実酒が作れます。
読んでて良かった菌類漫画。


細い銅パイプがあれば蒸留器が作れるのですが、生憎と資材置き場にはありません。

あ、そうそう私が最初宝物庫だと思っていた場所は宝物庫ではなく、高級資材の倉庫でした。
本物の宝物庫は女神像が安置されている方です。
宝物や換金アイテムとして扱う物が奥の宝物庫に、実用品として使うものが手前の資材置き場に置かれていた
訳ですね。
オーク達に分類基準について訊いたら一発で教えてくれました。

水晶の柱は採光窓に埋め込んで窓ガラス代わり、色の悪い宝石は研磨剤の元、大きな貝殻や壷などはバケツの
ような実用容器に使う訳です。
オーク達は余った資材を交易に出し、宝物に変えて蓄えています。倉庫と金庫の違いですね。




 ☆16日め3、出来ることを☆


醸造中の果実酒を試飲してみると、少しずつアルコール濃度が高くなっています。まずは順調です。
しかし砂糖椰子シロップはともかくサトウキビの方は搾り器がないと大変ですね。まさか一々オーク達に手で
搾ってもらう訳にもいきませんし。
彼らは喜んで搾ってくれるでしょうが、それは労働効率が悪すぎる。

試作している螺子式搾り器が完成の暁には、私の腕力でもサトウキビを搾って搾って搾りまくれるのです。
いやその、どうもこの身体になってから甘い物なら幾らでも咽を通る体質になってしまいまして。
甘い物は別腹とはよく言ったものです。
今は甘味をとことん追求したいのです。甘さ=正義!

なかなか進まない木ねじ加工のことは一旦置いておきましょう。設計間違えてる気もしてきましたし。
あとで設計図を再確認してみましょう。
まずは作りやすい物から作る、ということで青竹を組んで家具を作っています。

青竹を適切な長さに切って、表面を石で擦って細かい傷を付け、縄で縛ります。
テコの原理とウナギ縛りで、ぎちぎちに縛りあげます。
ウナギ縛りとはその昔、引っ越し手伝いのアルバイトで憶えた積み荷が崩れない縛り方です。
こう、縄をたぐってウナギの頭みたいにして、ウナギの首周りを三回捲いて‥‥と。

正式な名前は知りませんが、この方法を使えば何倍もの力で締め付けることができるのですよ。
縛り上げたあとは樹液などから作った接着剤で固めて完成です。

オーク族は松ヤニや漆など私も知っている素材だけでなく、この世界独自かもしれない様々な天然資材を活用
しています。どう見ても蛮族じゃないよね、彼ら。
いやまあ、ニューギニアの高地人だって石器文明でありながら農学は日本の十八世紀レベルとほほ同水準まで
達していた訳ですが。
熱帯の豪雨に対応した排水路などの現地に根ざした技術では、現代農法より優れているとか。


昨日は座椅子を作りました。今作っているのはベッドです。
本当は青竹よりも乾燥させた竹の方が良いのですが、どうせ乗るのは私だからなんとでもなります。
ベッドが完成したら次は棚と竹籠ですね。
亀の甲羅や卵の殻やシャコ貝などで容器の需要は足りているようですが、竹籠には竹籠の良さがあるのですよ。

数時間をかけて、ついに竹ベッドか完成しました。
竹の骨組みの上に竹籠が乗った、ベビーベッドの親玉のような構造ですがこれでもベッドには違いありません。
陰干しした虫取り草とスポンジもどきを敷き詰めて毛皮を被せて出来上がり。
早速使ってみると‥‥うん、やはりベッド派としては視点が高い方が落ち着きますね。

おや、虫取り草の在庫が残り僅かになっています。ゴミを出すついでに補充にいきますか。
オーク達が暇なら外へ取りに行っても良いでしょう。
この草は葉や茎よりも若い芽や花の方が薬効強く、ドライフラワーにして擂り潰すとノミ取り粉になる。
種子は更に薬効が強いけど、種子の粉末は他のアルカロイドが強いので使用には注意が必要です。

あとは蚊取り線香も是非開発したいですね。
この洞窟に蚊はいませんけど、元日本人としては欠かせないアイテムなので。


しかし若い身体って良いですねー 元気漲りすぎてて怖いぐらい。
何時間も作業していたのに身体に凝りや強張りが一切ありません。目のカスミや疲労もないのです。
ただ、限界越えると突然眠てしまうのがこの身体の難点ですが。

シャワー室に行くとちょうどウォスが出る所だったので、後で外へ薬草摘みに出してくれるよう頼みました。
もちろん快諾されました。
他の二人と比べても更にウォスはオープンスケベで、私と一緒にいるのが大好きだし隠しもしないのです。


うーむ、異世界物で現地人に一目惚れしたりされたりするのは王道展開ですが‥‥
イケメンとか王子様じゃなくてオークなんですよね、私の場合。
まあ腰抜けのイケメンや根性腐った王子様に見染められるよりは、変態紳士なオーク達に囲われてる現状の方が
余程マシですけど。
オーク達は美形じゃないし典雅でもないけど、醜くないし気の良い奴らです。
いや、生き物として見れば充分に美しい。地球で写真集出しても一般受けはしないでしょうけどね。


中世はもちろん近代や現代の外国文学やら漫画やらを見れば分かりますが、日本人基準で見て根性腐っていない
王侯貴族の方が少数派なんですよ。
はっきり言えば日本の殿様連中はお行儀が良すぎます。
あくまで平均値で言えばの話で、日本産殿様でも酷いのはそこそこ酷いですけど。

某国の少女漫画とか、ある意味凄いですよー日本の漫画なら2ページだって場を持たせられない下衆キャラが
王子様でシリーズ通してヒロインの相手役なんですから。
まあ、あの国のアクション漫画では、北○の拳のモヒカン雑魚にも劣るゴミキャラが主人公なのがデフォルト
ですけど。


異文化というのはそういうものです。
千夜一夜物語のシンドバッドとか、現代日本人の基準だと近寄りたくもない危険人物ですからね。

そういえばプロレスだったか総合格闘だったか、お米の国出身の有名選手の逸話に凄いのがありました。
ただの力自慢な高校生だった時分に、クラスメイトの女子と牧場でデートしていたその某選手は、近くに
いた牛だか馬だかを殴りつけて一発KOし、男らしさをアピールして彼女のハートを射止めたそうです。

これだから蛮族は。
何の罪科もない牛さん馬さんをなぜ殴る。

日本で同じ事をやったなら、クラスメイトがドン引きどころか通報ものですよねー。
もし現場の動画があれば動画投稿サイトで盛大に晒し者決定です。
器物破損と動物虐待で訴えられますし、その前に牧場関係者に殴り倒されるでしょう。

文化が違うというのは恐ろしいものです。
え? アメリカ人は基本蛮族ですよ? 合衆国は文明国だけど。
 

この世界はファンタジーなようですが、権力者のイカレっぷりもファンタジーだと困るのです。
主に元日本人の転生者が困る。

え? 王子様以外は対象外なのか って?
言っちゃなんですが、権力者の横暴から身を守れる人物じゃないと頼りにはできません。
己の身も守れない人物が私のことを守れる訳ありませんから。


何の後ろ盾もなしで中世欧州的世界に飛び出すのは、私にとってこの島を目隠しして横断するよりも難しい。
難しいというか危険すぎます。
この島なら運が良ければ、紳士的なオークの旅人に拾って貰える可能性があるだけマシです。

それは言い過ぎだろうと思った人は、マロリー版の円卓騎士物語を読んでください。
あの世界観で後ろ盾なしの異邦人やるぐらいならこの場で首くくりますよ、本気で。
それなりに可愛い小娘、超非力、係累も保護者もなし、言葉も通じない異邦人‥‥と唯でさえ破滅フラグの
満漢全席なのに、戦国日本の方が遙かにマシに見える既知外さんの巣窟へ飛び込む気はありません。

言っておきますけど、騎士道物語の作中世界って本物の騎士団とかと比べたら少年漫画よりも綺麗事の塊です
からね?



おっと、人を待たせているのですから急がないと。
早くシャワーを浴びることにしましょう。


最初はセクハラかと思ったオーク式の毛皮服も、前回の経験で隙間が大きくてすぐに脱げる構造の服でないと
危険な事を思い知りました。
なにせこの島には動いて絡みついてくる茨や締め付けてくる蔓草、トリモチ状の樹液を噴射してくる肉食樹
などがいくらでも生えています。
植物でこれですから、巨大クモなど動物系の脅威は言うまでもありません。
いえ、キノコとかの菌類も決して侮れませんけど。

袖ありの服は、脱ぎにくくなるので危険。
同じ理由で、脇が大きく開いてないと危険。
ハカマにしろ脛当てにしろ、一瞬で外せるものでないと危険なのです。
そして服が左右に分離できないと脱ぐときに首や手足がひっかかりかねません。

つまり、この二枚重ね蛮人ルックは安全面から見れば限りなく正解に近いデザインなのです。丈も含めて。
裾を長くし過ぎると茨が引っ掛かり易くなりますからね。
正直、半分以上セクハラだと思ってました、ごめんなさい。

異民族の風習や慣例は一見野蛮に見えるものですが、実はそれなりの由来と合理性があるものなのです。
同じ地域で暮らしていた同じ民族でも、時代が変われば当時は合理的だったことが後の人間には奇習や
愚行に見えてしまうことがあるのです。まして異世界の異種族においておや。

いや、ほんとにそういう事例が多々あるのですよ。
例えばお歯黒には虫歯予防の効果があったりとかね。煙草は蚊やノミやその他諸々の害虫を遠ざける効果が
あったりします。
煙草が伝来した当時なら、煙草を吸った方が延びることだって有り得たんですよ、寿命。


反省の意味も込めて、今後はなるべくオーク達の行為や流儀を尊重したいと思います。
少なくとも頭から否定しないように気を付けましょう。
もしあの時に、脇を縫い合わせた改造済み虎毛皮服を着ていたら茨から逃げることも出来なかった。
そうなればグェス達の助けが間に合っていたかどうか。

そんな訳で服の改造は諦めました。これは一朝一夕で解決できる問題ではありません。
しかし何もしないのも腹が立ちますので、端切れの毛皮でポケットを付けてみました。
あと裾に鉄片や銅貨を縫いつけてそう簡単には裾が捲れないようにしてます。読んでて良かった仕立屋漫画。


シャワー代わりの、小さめの滝あるいは落水の下に入りお湯を浴びます。
竹の樋と同じく竹製如雨露の先めいたものが設えてありまして、これは下から縄をぐいと引けば雨粒の様な
落水に切り替えられます。
足元に敷いた、丸く平たく大きな一枚岩の砂岩もシャワーの備品です。表面に細かい波模様が彫り込まれて
いまして、滑り止め効果充分。

オーク達は風呂や水浴びが大好きですし、好きだからこそ風呂場造りが得意です。
より快適なお風呂を求める居候のおねだりにも、二つ返事で答えてくれました。
もちろんこのシャワーも風呂場の色々と同じく共用設備。

あと、シャワーと入り口の間に立ててあるヨシズも、オーク達に用意して貰いました。
ヨシズ(葦簀)というのは立てて使うスダレのようなもので、海水浴場にある海の家の周りに日除けとして
立ててある、アレです。
トイレの周りを囲んでいる竹材の壁と違いまして、乾かした葦と細竹を麻紐を使い編んで作ってます。

視覚以外の五感がド鈍い人間族は、シャワーのある部屋に入るまで先客がいることに気づかない可能性が
あるのです。

いえ、別に私にシャワーシーンを見られても彼らは気にしませんけどね。
そもそもオーク達は腰ミノを付けたまま入浴するので、昔のラブコメ漫画みたいな状況にはなりません。
私は彼らにシャワーを浴びる姿を見せないのに、私だけ彼らのシャワー姿を見るのは不公平ですから。
葦簀を用意して貰った理由はそれだけです。



汗を洗い流して水辺を上がり、裸のままつるつるの丸石に腰掛けて髪にブラシを掛ける。
流石は魔法のブラシだけあって髪がすぐに乾くわキューティクル綺麗になるわ雲脂が出なくなるわで、
これはもう手放せませんね。
一家に一本でシャンプー要らずです。もちろんリンスも。




 ☆16日め4、手伝って貰いながら☆


上着の改造はひとまず諦めましたが、下着の研究は進めています。
その成果がこの試作おぱんつ四号です。
衣装箱の中にあった半透明の布地を砂時計形に切り抜いて、中央部分を二重にして補強、上下の裾をVの字型に
折り返して紐を縫い込んで作りました。

いえね、毛皮の下に肌着がチラチラ見えるとオークたちがかえって気にするようなので、横からは見えない
デザインの下着を開発してみたのですよ。
紐はハイレッグで腰の上で結び、毛皮上着の幅を広めにとって腰部分は肌が露出しないようにしてます。
体育用ブラも止めて、金太郎腹掛けの上半分みたいなものを二枚作って前後から挟む形にしてみました。
こちらも紐は肩と腰の毛皮で隠れているので、普段は直接見えません。

両方とも素材は半透明の謎布地です。
ふわふわに軽くて柔らかいくせに丈夫なこの布、異様に吸湿性が良く汗でべたつくことがありません。
透明系素材でさえなければ上着にも採用したいぐらいです。

とまあ、これで不必要にオークの劣情を煽らず、普通にしていれば ちらり とか ぽろり とかの
ラッキースケベ現象が起きにくい服が出来上がった訳です。

まず間違いなく、このまま年単位の時間この洞窟で暮らし続けたなら私は押し倒されるでしょう。
時間の問題であって、結果は見えています。
そりゃね、彼らには恩もあれば借りもあるし、好意も抱きつつありますよ? 
寄せられているものの百分の一程度ですけど。

だからといってオークのお嫁さんになってあげる訳にはいかないのです。


元男だという過去を除いても、日本でならランドセル背負っている筈の年齢で嫁入りする気にはなれません。
喪女や毒女を貫き通すならともかく、女の子として新たな人生を生きていくなら何時かはそうなるでしょう。
でも、今ここで決断しろというのはあんまりです。

あと、流石に異種族は恋愛対象にはちょっと、ねえ。人間の男でもきっついのに。
母親たちや祖母が人間な三人にとっては、人間の女の子がそういう事の対象で当然なのだとしても、
こっちはそうもいかないのです。
私の親も親族も人間のみでしたからね。



シャワーと髪の手入れを終えて、ついでに下着も洗ってから大広間に戻ります。
この謎布地、吸水性高いのに乾燥しやすいから洗っても乾いた岩とかに引っかけておけば二分とかからずに
乾くんですよ。ファンタジーって凄い。

おや? 大広間にウォスがいませんよ。待ち合わせていたのに。
長めのシャワーになったから待たせてしまったと思っていたのですが。
しばらく待っていると、風呂場からどう見ても風呂上がりなウォスが出てきました。
何故にシャワーの後で風呂へ入っていたのでしょうか? オークの習慣は解らない事だらけです。

「いいお湯だった?」
「オレ、ヨシ。オマエ、ヨシ」

何処の海兵隊訓練教官ですか貴方。

「ルェイ、カワイイ」
「はいはい」

ま、良いか。とっとと行きましょう。


いつも通り外へ出てからは、オークの肩に乗って移動します。
私が歩くと毒蛇や毒虫を踏んづける可能性250%ですから。
一度徒歩で薬草摘みに行って、帰るまでに六回ぐらい死にかけました。
うち二回は私を庇ったウォスが身代わりで毒蛇に噛まれてます。

そのとき噛んだのは小さな緑色の蛇で、毒はまだ弱い方ですが下っ端オークだと噛まれた場所によっては
死に至ることもある種類。
人間が噛まれると助かるかどうかは半々ぐらい。私だと身体が小さい分、死亡率七割はいきますね。

荷物持ちのお供たちを引き連れて、まずはミズカイメンの採集です。
乾かすとスポンジもどきになるこの水草は、水が温かく流れの緩い川岸によく生えています。

その近くでイモの実をいくつか収穫します。
これは果実なのに、味や食感はサツマイモそのものな実を付ける不思議な樹木です。
最初はイモの一種だとばかり思ってましたよ。つくづくファンタジーな世界です。

虫取り草や野生のニンニクなどの薬草・ハーブ類も少しずつ集めます。
薬味や調味料が増えると料理が捗ることをオークたちも理解していて、スパイス探しにも協力的です。

とりあえず山椒の木は見つかりましたが、そう言えば胡椒の木ってどんなのでしたっけ?
実物見たことないんですよ、これが。
月桂樹とパクチーと唐辛子は見つけましたが、クミンやカルダモンはどんな植物でしたっけ? 
こんなことならハーブやスパイスの図鑑をもっと読み込んでおくんでした。

この島は植生が豊かすぎるぐらいに豊かなので生えてる可能性は高いのですが、探すのにも一苦労です。
果物にしても知っているものより知らない、見たこともない種類の方が多いくらいですからねー。

「この木もお願い」
「ヨシ、マカセロ」

数日前から、巡回コースにある果樹でツタなどが枝に絡んで実の付きが悪くなった樹の手入れを始めました。
農耕の文化がないオークたちに、一足飛びで農業させる訳にもいきません。
ですのでまずは果樹園を作ってみようかと。
ツタや宿り木を取り、枝を落として葉を減らし、樹の近くに穴を掘って生ゴミを埋める といった素人農法を
試しています。

最後の生ゴミは埋める端からネズミや虫に食べられているので肥料になってませんが、それら分解者の排泄物
が代わりになっているでしょうから失敗ではありません。おそらくは。

分解者と言えば、日本ではめったに見れないのが蟻塚ですね。
蟻塚はアリが掘り出した土と唾液を固めて作る小山のような構造物です。
地球のものより大きくて凄いのになると3~4階建てのアパートぐらいになります。
蟻自体も大型のものが多い。小さい方は地球と変わりませんが、大きな蟻だとオオスズメバチ級のもいます。
人の指より大きいアリがうようよしている光景は、特に虫嫌いでもない私にも結構キツイ。

大雑把に肉や脂を落とした巨大亀や大蟹の甲羅を蟻塚の近くに置いておくと、一晩で綺麗にしてくれるので
便利ですよ。骨でもできます。
しかも連中、蟻酸を振りまくので殺菌処置にもなるというお得さ。革なめしには使えないのが残念です。


蟻にも色々な種類がありますが、オークたちが食用として好むのはアリマキの放牧をする緑色の蟻です。
体長3~4センチほどで、透き通った緑色をしています。
樹液や花の蜜そしてアリマキが出す甘い液が主食で、蟻としては比較的穏和な種類です。

この種類のアリは成虫も幼虫もそのまま食べられますが、オークたちは特に蟻蜜を好んでいます。
蟻蜜は美味しいですよ。
蜂蜜の風味豊かな濃厚甘味も良いものですが、蟻蜜のすっきり爽やかな端麗甘味もまた格別ですね。

蟻塚まで来てみましたが、今日もアリクイが来てませんね。餌場を変えたのかもしれません。
アリクイは丈夫な爪で塚を壊し、長い舌で成虫幼虫お構いなしに食べまくる蟻の天敵です。
蟻蜜を手に入れるには、アリクイが壊した直後の塚を漁るのが一番早いのです。

蟻の反撃は虫取り草のエキスで防げますが、蟻塚を正面から壊すのは幹部オークたちにも一苦労です。
あれの強度は鉄筋コンクリート以上ですから。
‥‥コンクリートか、サンゴの砂を焼けば石灰は手に入りますかねえ? 今度やってみましょう。

「私ねー、東の海の向こうにある大きな島から来たんだよー。その島には人間しか住んでないの」
「オレ、シマ、デル、ナイ」

作業の合間とかに、前よりも積極的に会話をしています。
オーク語学習のためでもありますが、より大きな理由は彼らを知りたいからです。
そして私のことも知って欲しいから。

「シマ、トオイカ」
「遠いよー どんな船でも行けないくらい」

オーク語と日本語ちゃんぽんで会話しているうちに、少しずつ話が通じやすくなってきました。
今の私は耳の性能上がってますし、脳年齢若いせいなのか学習効率も高いのです。
学習に励む動機も切実なので、これで捗らなければその方がおかしい。

あと、オーク達も語学に才能あるみたいで毎日語彙を増やしています。





[38600] 6
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/03 12:45


 ☆17日め、遊びじゃないんです☆


無知で非力な私が、この巣に貢献できることはまだ多くありません。
比較的危険が少ない筈の、洞窟周辺での食料や薬草集めだって命懸けです。と言うか幹部オークの誰かと
一緒じゃないと、命が幾つ会っても足りません。
そもそも何が食べられるのかとか、まだよく分かりませんし。

しかも、オークが食べても大丈夫なものの中には、いえ、オークが食べられるものの殆どは人間にとって
問題があるのです。
オークたちは平気で食べていても、私には毒だったり、不味かったり、消化に悪かったりで食用に適さない
ものが多いのですよ。

なお、実際にはオーク達がより分けてくれるし、頼めば教えてくれるので害はありません。
教えて貰ってもなかなか解らないのが困りものですが。
磯蟹と朽ち葉蟹くらい見分け易いものは解るんですがねえ。

浜辺から泉まで湿気の多い所なら何処にでもいる、赤くて小さい蟹は食用で美味しい。
この蟹は新月の夜に磯辺に集まって交尾して、また元の場所へ戻ったり戻らなかったりします。

でも湿った森や籔の中にいる、朽ち葉を食べる大きな蟹は人間にとって毒です。
朽ち葉を食べる蟹は、大きいのになると甲羅がタライ級になります。
でも不味いのでオーク達も積極的には捕まえません。
動きが鈍いので捕まえるのは簡単でして、ハサミと足を取ってから、肉食蟻の蟻塚近くに置いておくと
次の日には皿や洗面器が手に入ります。

朽ち葉蟹のしかも小さいのにすら苦戦する私が、オーク達の狩りに付いて行ける訳がありません。


考えてみれば、私は家事も掃除以外は殆どやってないのです。
服と言えるものがないに等しいので、針仕事や洗濯も殆どする必要ありません。
貯蔵の必要も少ないので、保存食作りとか籠等の消耗品作りとかも直ぐに需要を満たしてしまいます。
食器が少ないから洗い物とかも少ないし、そもそも料理の殆どはオーク達がやっています。

マズイ。これは拙い。
このままでは居候どころかペット一直線です。食って寝て遊んでいるだけと言われても反論できません。

遊んでません、遊んでいるように見えるけど遊びじゃないんです。
投石器(スリング)は玩具ではないのです。玩具にもなりますけど。

生産・調達系で役に立てないので、巣の防衛で役に立つ知識はないかと試行錯誤してみたのですが‥‥
目の前の光景はその錯誤部分です。

簡単に言うと砂浜で下っ端オークたちが、漬け物石サイズの岩塊をツタで縛った投石器もどきを投げ合い、
避けるか棍棒で撃ち落とすかする、というゲームで遊んでいるのです。

私が開発したのは、石を結わえ付けた紐を振り回し、遠心力で勢いを増して投げつけるものです。
南米の原住民とかが使っていた簡易な投石器(スリング)ですね。
戦国期の日本でも、農民兵が甲冑武者をうち倒せる武器として使われていたとか。


革帯に小石を挟んで振り回して投げる形式の投石器は、不採用。
不器用な下っ端オークだと、ポロポロと小石を落としちゃうのでこちらの方にしました。
アウトドア対戦ゲーム用の遊具だと解釈されてしまいましたが。

ゲームのルールは簡単。ひも付き岩で直撃されるかあるいは避けようとして体勢を崩すかして、
足場にしている岩場から落ちた方が負けです。


「グワッ!」

飛んでくる、ひも付きの漬け物石を棍棒で打ち返そうとしていたオークが目測を誤りました。
空振りして石に顔面直撃され、悲鳴と共に砂浜に転がり落ちます。


違うの! それはそういう用途で作ったものじゃないの! 
遠くの敵や獲物に岩をぶつける為に作ったんですよ! 分かれよそのくらい!!


「プギッ ブッププッ プッ!? ‥‥プギィー!」

あ、三人抜きを果たしてふんぞり返って調子こいてた下っ端オークが足を滑らして岩場から落ちました。
四戦目は不戦敗ですね。

「「ブギャーッwwwww」」

砂地に落ちた下っ端オークが野次馬どもから指さして笑われています。



ええまあ、近視な彼らには遠距離攻撃の概念がありませんから、こうなるのも当然ですね。
実用性のない発明が娯楽に流用されるのも珍しいことじゃないですし。

ないんですよ、実用性。
彼らにとって50メートル以上の間合いは無限と同じですし、それ以内の距離なら素手で石を投げた方が
速射性能・連射性能・命中精度どれをとっても上ですから。
しかも投石紐を振り回している間は、回避や移動がやりにくくなるときたもんだ。


威力だけはあるけど他がダメダメの攻撃だから遊技で駆け引きができるようになって、ただ石を投げ合う
これまでの石合戦より娯楽として楽しくなったのだそうです。



飛び道具が駄目なら罠で と掘って貰った落とし穴には、速攻で下っ端オークが落ちました。


いや、直前に実演付きで説明したでしょうが貴方たち。
なんでデモンストレーションに使った丸太を引き上げて、蓋を再設置したばかりの落とし穴に、まだ三十秒も
経ってないのに落ちるんですか!?
捕獲用の落とし穴だから良かったけど、下に槍畑作ってたら大事でしたよ!
洞察力ってものがないのかあんたらは。

第一印象通り、下っ端たちはお馬鹿でした。
ひょっとすると私よりもお馬鹿かもしれません。

虎ばさみとか首吊り罠とかの危険な罠は、私が引っかかると命取りになるので仕掛けられません。

え、オークたちは良いのかって?
首吊り罠の方は無問題です。彼らは首括っても平気ですから。
首周りの強度と筋肉量が人間と違いすぎるんですよ。
オークの首は、自分の体重程度が縄でかかってもびくともしないんです。
虎ばさみもまあ、大したことにはならないでしょう。この巣には虎ばさみなんかありませんけど。

幹部に比べるとかなり打たれ弱い下っ端たちですが、それでも人間なら兜付けてても即死している筈の攻撃を
受けて笑っています。
漬け物石をロープで縛って頭上で振り回し、プールの反対側ぐらいの距離に立っている対戦相手へぶん投げて
ぶつけ合うんですよ?
これがスポーツになるんですから、人間とは耐久性が違いすぎます。


「おーい、帰るよー?」
「プギッ」

貝掘りや干し昆布の回収という目的も忘れて遊んでいた下っ端たちも、置き去りにされるのは嫌なのか慌てて
付いてきました。
双六やオセロなどのボードゲームには興味がない彼らですが、荒っぽいスポーツは大好きなのです。
暇ですからね、彼らも。

一日あたり一時間も働けばその日の食い扶持が、居候の分まで手に入る生活やっていればそりゃ暇でしょうよ。
気候が安定している時期なら、農耕民より狩猟採集民の方が暢気に生活できるんですよねー。
縄文人が土器の模様に拘った理由がよく解ります。

幹部オークたちも決して遊び嫌いではなく、石合戦ならぬ石決闘も時々やっています。
下っ端達と違うのは勝負事は一日一度と決めている所ですね。
今日は三人総当たりで石当て勝負をして、二勝したグェスが帰り道で私を肩に乗せる権利を獲得しました。

これって、やはり外堀を埋めにかかっているのでしょうか?
私が どこまでやって襲われないか を確かめたように、彼らも私を験しているのかもしれません。
考え過ぎかな?
しかしこのまま既成事実を積み重ねられて、私を嫁にする権利を賭けて決闘とかされた日には‥‥ううむ。


負けたドスとウォスにはそれぞれ一本ずつ、枝を落とした長い丸太を運んで貰っています。
このうち片方は巣に近い、風通しの良い岩陰で乾燥させて材木にします。
もう一本は巣で加工して新しい発明品を作ります。今度は成功すると良いのですが。

あ、もちろん実際に作るのはオークたちなんですけどね。私、非力ですから。




 ☆17日めの2、遊びじゃないんだってば☆


下っ端達の一部が大広間の西側にある薪置き場に、落とした枝などの薪材を運んでいる間。
同じ大広間で、重量計を作っています。
いわゆる両天秤です。つり下げ式ではなくヤジロベエ形の、いえ一言で言うなら木製シーソーですね。
これと試作品の小型天秤があれば重量が量り放題です。

ただ、重量の単位をどうするかが問題ですね。
何処かの専制君主みたく自分の身長体重を単位の基本にしようかとも思いましたが、日々刻々と変化するものを
基準にするのは、こう、美意識に反するものが。

ん? そういえばアレがありましたよ。重量、いや長さの方も基準になりそうなものが。
早速資材置き場へ行き、麻布の反物を二つ折りにしてから切り取り、ちくちくぬいぬいと縫い合わせて正方形の
麻袋を作ります。とりあえず四袋で良いか。

そして宝物庫の金貨と銀貨を一枚ずつ、十枚ずつ、二十枚ずつ‥‥と枚数を変えながら試作小型天秤で量ります。
ふむ、思った以上に重量が揃っていますね。
コイン自体も鋳造ではなく板金打ち抜きのようですし、この世界の人類文明圏はかなりの金属加工技術があると
みた。侮れませんファンタジー。

長さというかコインの大きさも統一されています。誤差は殆どありません。
やったねレイちゃん、物差しの基準ができたよ!
重量・長さ共に基準は1コイン(暫定)とでもしましょうか。


‥‥‥‥あれ? 変ですよ?

大きさ、全くと言って良いぐらい同じ。
厚さ、殆ど同じ。いや、僅かに銀貨の方が薄いですね。
なのに何故、金貨と銀貨が一枚あたりの重量もほぼ同じになるのでしょう。

アルキメデス大先生のストリーキング伝説とかで解るとおり、金と銀ではかなり比重が違います。
大きさと重さがほぼ同じなら当然、銀貨の方が分厚くなる筈です。
現に服の裾に縫いつけてある銅貨を金貨と比べてみると、一目瞭然に厚みが違います。

まさか、この銀貨‥‥

急いで大広間に戻り、石鍋を二つ用意して焚き火に掛け、焚き火の周りに石を置いて略式の竈にします。
そしてそれぞれの石鍋の中に金貨と銀貨を数枚ずつ入れる。
燃料の松ヤニ塊と特製松材を注ぎ込み、火吹き竹で空気を送り込む。

「オレ、ヤル」「オレモ」

見ていたオークたちも、私が使っていたのや他の火吹き竹を使って火力の維持に協力してくれました。
やがて熱せられた金貨はドロドロと溶けていきます。
銀貨の方はびくともしません。同じぐらいに、石鍋の底が赤熱する程に熱されているのに、です。

やっぱり。白金(プラチナ)だ、コレ。
金とプラチナの比重はわりと近いのです。プラチナの方が少しだけ重たい。
この世界の冶金技術、更に一段階評価を上げなきゃ。下手をすると産業革命期レベルです。
白金が使えるってことは、高品質の鋼鉄が使えるってことですからね。技術水準だけで言えば。


はて、これが白金貨だとすると銀貨はどこにあるのでしょうか?
まさかこの世界では銀が貴金属扱いされていないとか? 
少なくともオークは銅を貴金属として扱っていません。銅貨は一般資材の倉庫に山になっているのです。
松ヤニとかと漆とかスポンジもどきと同じ区分けですね。

一枚あたりの重量はどのコインも同じなので、分銅代わりに銅貨を麻袋に詰め込むことにしましょう。
錆びているのは除かないといけませんが。
あ、そういえば銀ってすぐ錆びるんですよね真っ黒に。湿度の高い洞窟で放置して錆びないんだから、
宝物庫の白い硬貨は銀じゃないと直ぐ気付くべきでした。迂闊です。

顔を上げると、幹部から下っ端までのオークたちが興味津々で石鍋と私の手元を見守っていました。
え、えーと そういえばこの溶かしちゃった金貨数枚分の黄金、どうしましょう?



良し、せっかくだからアレを作りましょう。とりあえずプラチナ硬貨を鍋から出しておいて、と。

そして溶けた金のなかに細い鳥の骨を沈めてから取りだして、冷やします。
冷えたら骨の両端を切り落として、果実酒のなれの果てである酢の壷に漬け込みます。
あとは何日か置いておけば、酢で骨が溶けて金の管ができる筈。
洗って乾かして繋げば蒸留器用金属管の出来上がりです。

残った溶かし黄金は、適当な鋳型に流し込んで小さな金塊にします。
これは冷えてから叩いて棒材にしてみましょう。


溶かした金を使い切るころには、作業を見るのに飽きた下っ端たちが調整前の大型天秤で遊んでいました。
ギッコンバッコンと、それはもう楽しそうに。
尖った岩の上に、真ん中を抉って窪みを付けた丸太を乗せたシーソー状天秤を、その上でバランスを取る遊具
だと解釈したようです。
上で踊るように動くと丸太が傾いたり回ったりするのが新感覚で面白い、となかなかに好評です。

なんでその発想力を罠の理解に使わないんですか貴方たちは。




 ☆17日め3、遊んじゃいましょうか☆


気を取り直して大型天秤の調整作業に入ります。
はい退いて退いて。
だから、遊びたいなら自分で作れば良いじゃありませんかシーソーぐらい。そんな目で見ないでください。

下っ端たちには後で同じ、いやより遊びに向いたものを作ってあげますか。実際に作るのはグェス達だけど。

あちこち削って、木製シーソーが天秤として使えるように調整します。
生木なのでこれからも時間の経過ごとに調整が必要ですが、使えるなら良しとしましょう。

年輪がない木なので乾いてきても歪みは少ない‥‥と良いのですが。
元よりこれは直ぐ作れることが取り得の試作品。精度と実用性は乾燥済みの木材を使って作る本命に期待
しましょう。


森羅万象の半分以上は数字で表現できるのです。
つまり数量を計ることができるなら、それは世界の半分以上を計れるということ。

数は学問と文明の基礎。まずは数値化しないと知識チートもなにも有ったものではありません。
天秤ができたなら次は分銅です。そのものズバリ、麻布に入れた銅貨を重りに使うことにしましょう。
錆びてない綺麗な銅貨を数えて並べ、枚数の決まった小山を作っていきます。

四つだけでは袋が足りませんが、手間が惜しいので量産しません。
そのかわりに袋の重さも計算に入れて量り、コインX枚分の重さの石を選び出します。

百枚袋、五百枚袋、千枚袋、二千枚袋を作って、それらと同じ重さの分銅石を何個か作るのです。
石には分かり易いように顔料で数字を書いておきましょう。
石の重量調整は削って減して、減りすぎたら石鍋で溶かした銅をかぶせて加減します。
ああ、金属って便利だなー。落としても割れたりしないし、増やすも減らすも自由自在。


分銅も出来たのでひとまず完成。複数作った重りを組み合わせれば、かなり詳しく重さが量れます。
ちなみに試用してみた結果、私の体重は600コイン未満でした。
三人のうち一番軽かったドスが約4800コインです。一番重いグェスは6000以上。

何故約が付くかと言うと、当然ですが重心がかかる位置によってテコの原理で計測値がズレるからです。
これは、計測対象を棒の上に直接置いたり座ったりしていては、正確に計れませんね。
丸太の上に皿、いや特大の画鋲でも乗せて更にその上に重りを乗せれば良いのですが‥‥
ありませんよねえ、そんな都合の良いものは。

ならば丸太から同じ重さに調節した籠でもつり下げますか。
でもそれだと中央の柱が高くて丈夫でないといけませんし、床にしっかり固定しておかないと危険です。
うーむ、今回も部分的成功に終わりましたか。でも次の試みで実用大型天秤が完成しそうですね。


うん、だから天秤を遊具にしようとするんじゃありません、そこの下っ端。
今から作るからそっちで遊びなさい。

そう言えば、遊具と言えば竹馬と竹トンボですね(断言)。ついでだからこれらも作ってみますか。
これなら私の手で直接作れますから。
実用性ゼロですけど、最初から玩具として開発するならそれもまた良し。
竹製の水鉄砲なら幾らかは実用性もあるかな? とりあえず作っておきましょう。


そんなわけで作ってみた玩具はなかなかにウケてます。下っ端たちは早速竹馬で競争とか始めてますし。
こうしてみるとちゃんと好奇心ありますよねえ、彼ら。理解力もあるし。
もしかすると危険に関しての洞察力だけが低いのかもしれません。
あるいは危険に鈍感で頓着しないのかも。

彼らのキャラクターシートには種族特性に「蛮勇」と設定でもされているのでしょうか? 
有り得ないと言えないのが怖いです。




 ☆17日め4、そういう遊びじゃありません☆


実用性なしと見ていた竹馬ですが、意外に良いかもしれません。
高下駄のようなものを作れば、棘のある草や毒虫を気にせずに果物集めができるかも。
研究の価値はありそうです。

遊具か、あと何が再現可能でしょうか。
公園の定番と言えば滑り台‥‥作るのが面倒くさすぎるので×。
砂場‥‥オークたちは泥浴びの方が好きそうなので△。
雲梯やジャングルジムは体型的に無理があるので×。
ベアリングがないから回転系も×。
タイヤ系も駄目ですよねえ。

ブランコなら、どうにかなるかな?
グェスに頼んで大広間の壁を抉って貰い、そこに樫の丸太をねじ込んで、その丸太から二本のロープを垂らし、
ロープの先を水平にした板へ結びつければ‥‥即席ブランコの出来上がりです。

ロープの長さが私の身長の二倍もないのでストロークが短いですが、洞窟内で使うなら問題ありません。
ブランコは野外で風を切って使うべきものですが、この島の野外でブランコ遊びは危険ですね。
オーク達に見張って貰わないと野生動物が怖い。そしてブランコ遊びは好奇心旺盛なオーク達の注意と関心を、
これでもかとばかりに惹き付ける訳でして。
最悪の場合、オーク達もろとも食べられてしまいかねません。


うーん、明るくて広くて風通しがよくて、ついでに草花とかが生えている安全な場所が欲しいなあ。
中庭とか公園とか作れないでしょうか?
原始生活ってこの辺りが不便です。


では早速、試乗してみましょう。
板にちょこんと座り、膝から下を前後に揺らすとやがて身体全体が揺れ始めます。
段々と揺れは移動距離と勢いを増し、やがては風を起こす程になり、オークたちにどよめきが。
ブランコがどういうものか彼らなりに理解したようです。

あはははっ 何か楽しくなって来ましたよっ
思えば何年ぶりのブランコになるのでしょう。中学に上がってから乗っていないかもしれません。

気が付くと私は、作り笑いでも愛想笑いでもない満面の笑顔でブランコを漕いでいました。
ああ、気持ち良い。久しぶりの爽快な気分です。
この気分をもっともっと味わいたい!!

ロープを掴んで板の上に立ち上がり、両脚のそして全身の力を使いブランコを漕ぎます。
興奮して床に伏せ、あるいは背伸びして私の肢体と翻る裾の奥を覗こうとする下っ端オークたちに、
私は屈託ない笑顔を振りまきます。
どうぞどうぞ、見たければいくらでも見てかまいませんよ。

作って良かった見せパンツ。
実は昨日、「見えちゃった事故」対策に虎毛皮の端切れでアンダースコート的なものを作ってみたのです。
題して「パンツじゃないから恥ずかしくない」作戦。
まあ、ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいですけど、ノーパンや透明素材下着よりは断然マシです。

これ穿いてるとかなり気が楽になりますねー。作業時に一々脚の角度とか気にしなくて良いですし。
あ、毛皮の面積自体は下着とほぼ同じで、緊急時には直ぐ外せるようにしてあるので安全面でも大丈夫です。
これで(視線が)多い日も安心!


などと調子に乗っていたら軌道の頂点で宙に投げ出されました。ロープが上の丸太から外れたようです。
慌てる暇もない短時間な飛翔の後、私はみっちりと肉の付いた腕に抱き留められました。
素早く反応したギュー・グェスが落下地点近くまで動いて、優しく受け止めてくれたのです。

「ありがとう、ギュー・グェス」
「グヒィ」

グェスの腕の中で感謝の言葉を囁きながら、私は乱れた服の裾を正します。
太腿のあたりを凝視する異種族の雄に、小さな拳を振り上げるふりをして、

「だけど、ブランコから降りた女の子をジロジロ見ちゃいけません!」

と抗議するとグェスは

「ワカッタ、ミナイ」

と残念そうに視線を外すのでした。
彼も私が本気でないことは分かっています。
変態紳士としての筋を通しているオークたちを、元男としては怒ったり蔑んだりなんてとてもできません。

むしろよく我慢しているものだと感心しているぐらいです。
彼ら、特にギュー・グェスに見られること自体は嫌ではありませんし。
時と場所と状況と、あとは頻度とこっちの機嫌を弁えたり察したりして欲しいと思ってしまうのは我が侭
かなあ。


おや? 他のオークたちは何故か喧嘩してますね。
下っ端たちが全員目を回して伸びてるなかで、ドスとウォスが一対一の殴り合いをしています。
私を降ろしたグェスが騒ぎのなかへ乗り込んでいき、幹部二人を殴り倒しました。
そして何やら兄弟達に説教しています。

ダメージは軽そうですがあれだけで喧嘩は中止ですか。グェスの言い分に道理があるようですね。
二人が何か謝って、喧嘩の原因になったらしい黄色地に黒縞模様の布、いえ毛皮の切れ端をグェスに渡します。

おや? どこかで見た色合いと形と大きさの毛皮製品ですね。

恐る恐る、私が毛皮服の裾の下に手を入れてみると、ふわふわさらさらの手触りでした。
言うまでもなくあの謎布の感触です。つまり‥‥

私 、 さ っ き ま で パ ン モ ロ シ ョ ー 状 態 。

満面の笑顔で、透明布下着を見せびらかしながらブランコ漕いでました。全力で。


うわぁぁぁああああああっ もうお嫁に行けないぃっ
元々行く気ないけどそういう問題じゃないっ


そして私は、ブルマー的効果を発揮することなく何時のまにやら脱げていた毛皮製品を内心で罵りながら
自分の部屋へ走り去ったのでした。


この日からこの巣では「遊具に乗っている女の子はいくらガン見しても良い、ただし降りたらもう見ない」
というルールが出来ました。
以来、次はいつするのかな~ と期待のこもった視線が痛いです。

だから、ブランコはそういう遊びに使う遊具じゃないんですよ。そういう用途にも使えますけど。 




 ☆18日め、旧敵との邂逅☆


恥ずかしくて穴があったら入りたい今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
そう言えば前世の従妹と叔母さんにはあの後、迷惑かけただろーなー 天災とは言え親族が突然死したから。


あ、件の毛皮ぱんつは後で返して貰いまして、分解して端切れ素材にしました。

しかしあれですね、オークの理性って頑強ですよ。
ここがもし日本のロリ野郎どもの巣窟なら、好みドストライクの少女に目の前で同じ事をやられて血迷わな
い奴の方が少数派です。

見せパンツの争奪戦で済んでるんだから平和というか紳士的というか。
変態だけど同時に紳士なんですよ、彼らは。

いや、狼のつがいが一夫一妻制でライオンがハーレム制だからといって、狼が貞淑でライオンがふしだらと
するのは間違っています。
それぞれの生き物としての生存戦略に人間社会の、それも偏った価値観を当てはめているだけなのですから。


オークのやることには彼らなりの合理性がある筈。
ただ単に理性的なだけではないとすれば、彼らが変態紳士的に振る舞う理由は何なのでしょうか?

例えば日本の田舎などには、異境の人間を稀人として歓迎する風習があります。
これは、この習わしを行う部族なり集落なりが「よそ者はとりあえず殺しとけ」という風習を持つ者たちと
比べて交易や情報収集や技術交流がやりやすく、その結果として生き残る確率が上がったからでしょう。


考えてみたのですが、オーク族は変態紳士的にふるまった方がお嫁さん候補の生存率が高いのでは?
理由もなく優しくされるのは不気味に感じるものです。
素直に好意をアピールする習慣を持つ部族のほうが、自己表現が下手で女の子側に不必要な不安や不信感を
抱かせてしまう部族よりお嫁さんのストレスが少なく、より長生きでより健康的なお嫁さんを得て部族全体
が効率の良い繁殖をできたのではないでしょうか?

誰だって乱暴に扱われるより優しくされた方が良いでしょうからね。軋轢で不協和音鳴りまくりの巣よりも
平穏な巣の方が、巣全体の生存率が高い筈です。
嫁さんに内のことや子供の世話を任せていられる家庭と、見張っていないと嫁さんが逃げ出したり首吊った
り飯に毒入れたりする家庭のどちらが効率良いかなんて、考えるまでもありません。
そして大概の場合、効率の良い組織は効率の悪い組織を駆逐するのです。

その効率の良い繁殖を行った諸部族のなかで、特に高効率を達成したのがこの巣のオーク達のご先祖様なの
ではないでしょうか。


嫁を乱暴に扱う巣 < (越えられない壁) < 優しいけど説明しない巣 < 優しくして好意も伝える巣 
の順で生存率が違ったのだとすれば、ここが変態紳士の巣窟なのも納得できます。

あれですよね、世紀末な世界でヒャッハーな連中が簡単に人殺したり種籾食べちゃったりするのって、未来に
希望が持てないからなんですよ。
今日植えた苗が明日も無事な保証がないから、種籾をそのまま食べちゃう訳で。
つまり彼らが私を押し倒さないのは、三日後も三週間後も三年後も私を守り通す自信があるからなのでは。

彼らにとって、私は明日になったら食べられなくなっているかもしれない握り飯ではなく、数年後たわわに
実をつける柿の苗なのかもしれません。
だとしたら、今は大丈夫でも数ヶ月後か数年後には押し倒される可能性大ですね。

それまでには、借りを清算しておきたいものです。
いや、だって、今のままだと借金のかたにお嫁さんにされるようなものじゃありませんか。
オークは嫌いじゃありませんが、だったら嫁になってよと言われても困ります。


だから私は今日も頑張ります。元男の、文明人の、現女の子の尊厳を守るために。

「せ、せっかく作った干し貝がー! 昆布がぁー! トビウオの干物があー!」
「プギィー!」

だから出汁取り用の保存食群がネズミにやられても泣かないのです。くやしいっ でも涙は流さないのっ!

オーク達が食料を溜め込まない理由の一つがコイツらですね。食料庫にネズミが住み着いちゃうから。
出入り口にはネズミ除けの香料を散布しているのですが、それでも入ってくるとは根性の据わったやつらです。

むむむ、どうしましょう? 
この島に家猫はいませんし、アオダイショウみたいな無毒で大人しい蛇もいません。いるかもしれませんが
何処にいるか知りません。
ゲジゲジやクモなどの虫系捕食者は、虫取り草を使っているからこの洞窟に入れるとすぐ死んじゃいます。

天敵による処分が無理なら罠を使ってみますか。
人間なめるなよ齧歯類。溝という溝、隙間という隙間を貴様らの死骸で埋め尽くしてくれるわ。

旧敵どもよ。食い物の恨み、思い知れ。
二万年間貴様らと戦い続けた日本人の叡智、思い知らせてやりますとも。




 ☆19日め、なんてこった☆


う、うーむ まさかここまでとは‥‥

「ブギ?」

昨日は夜中まで(と言っても精々十時過ぎぐらいですが)かけて対ネズミ用の罠を量産しました。
竹筒の中にトリモチを塗ったネズミホイホイとか、青銅の壷と漏斗を組み合わせたネズミ用落とし穴とか。

正直、予想どおりだったこともあります。
バナナの葉一面にトリモチを塗ったネズミ取りシートを下っ端が踏んづけたりとか、
弱い毒を混ぜたイモの実団子を下っ端が味見して寝込んだりとか。

ねえ、やるなって言ったよね。何度も言ったよね、私。
なんでやっちゃうんですか貴方たち。芸人魂ですか? 「押すなよ、絶対に押すなよ」とでも聞こえましたか?

予想外だったのは、殆どの罠が有効だったことです。
ネズミホイホイやネズミ取りシートにもそれぞれ何匹かずつくっ付いていますし、落とし穴なんか壷の底が
見えないくらいネズミで一杯です。

ああそうか、敵も味方も罠に慣れてないんだ。この島の住民はみんな。
ネズミたちはオークが巣に罠なんて姑息なモノ仕掛けるとは夢にも思わなかったのでしょう。


捕まえたネズミの始末は下っ端たちに任せて、消耗した罠を補充します。
壷改造落とし穴は、灰と炭と水を入れてよく洗ってまた使うとしますか。
椰子の実繊維から作ったタワシもありますし。
これも針金が安定供給できれば亀の子タワシに進化できるのですけど。

この調子なら罠設置を何回か繰り返せば、数日中に敵対的齧歯類を殲滅できるかもしれません。
ゴォ・ドスも入り口や通風口などに、秘伝のネズミ除けハーブ絞り汁濃厚版を散布してますし。

食料庫の改善も考えるべきですかねー ネズミ除けに蓋付き容器を普及してみて‥‥いや駄目か。
湿度が高い洞窟内でそんなもの使ったら結露してカビが生えてしまいます。
まずは吸湿材の開発が先か。
洞窟生活はこれが困りものですね、緑が多く薪には不足しないことが救いです。
火を焚いて風通しをよくしていればいれば、結露しにくくなりますから。



薪節約のために、日本式カマドの導入も考えてみるべきかもしれません。
しかし効率の概念が薄く、「たくさん薪がいるならいっぱい拾ってくるよ!」的な発想から離れられないオーク
たちに薪の使用量が減る事の価値を理解させられるかどうか、怪しいものです。
この島は人口密度が低いから、資源が有り余っている。
効率を追求する意味が薄いのですよ、特に薪などの再生可能な資源だと。


午後は足りない薬草を探しに行くドスと一緒にお出かけです。ウォスは留守番、グェスは遠征中。
下っ端達は半分が留守番で、半分の半分がドスのお供。残りは巣の近くで薪拾いや食料集めです。

途中で蟻塚に寄ってみると、幹部オークたちより二周りほど大柄な哺乳類が蟻たちを虐殺していました。
おお、食べてる食べてる。蟻食いとはよく言ったものです。
あの食べっぷりだともうしばらくかかりそうですね。塚から離れるまで近くで薬草摘みでもしてましょう。

地球のはともかく、この島のオオアリクイの邪魔はしないに限るのです。
一見すると蟻ばかり食べている暢気な生き物に見えますが、実は虎や豹でも避けて通る武闘派なのですから。
その爪は鋼鉄より固く、力は岩をも砕く。
実は動きも鈍くなく、皮膚の下には無数の骨片が鎧のように身を守ってます。

蟻蜜や幼虫を横取りしようとした黒熊が、怒ったオオアリクイの爪で穴だらけにされてしまうのは珍しくない
光景です。つい先日に私も見ました。暢気そうな外見に騙されたりしません。

と、よく見るとあのアリクイ、その熊をアントイータークロー・ベアハッグで仕留めた個体じゃありませんか。
あの特徴ある毛皮の模様は間違いない。先日は熊肉ごちそうさまでした。
捌いたときはまだ心臓が動いていたから血抜きが上手く行きまして、煮込むと悪くない味になりました。
普段の料理と違って量がたっぷりあったから、下っ端たち全員が食べられましたし。


何よりも、哺乳類だけあってオオアリクイは知能が高く警戒心が強い。
一度でもオークに虐められたオオアリクイは、二度とそのオークの巣には近寄りません。
つまりオオアリクイと揉めると、巣に近い蟻塚を壊しに来てくれなくなるのです。

虎どころか幹部オークでも油断すると返り討ちに合う相手です。あえて喧嘩売る必要はありません。


お腹いっぱいになったオオアリクイがいなくなった蟻塚を素早く漁って、蟻蜜を回収してから次の目的地へ
向かいます。

アリクイはさほど蟻蜜を好みません。
大人しいアリクイなら、巣を襲っている最中に近づいて横から蟻蜜を漁っても問題ないそうですが、万一にも
怒らせてしまったときが怖いので、邪魔しないことにしています。
ごく稀に機嫌の悪いアリクイもいるそうですし。

蟻蜜は手に入れたらその場で腹の蜜玉を千切っておきます。
蟻蜜は、蟻の一種が蜜を腹に蓄えてパンパンに膨れあがっているものです。
捕まえた蜜玉蟻をそのまま放置しておくと、蟻が蜜を吐き出して只の蟻になってしまったり、蟻にストレスが
溜まって蜜の味が悪くなったりします。

なのでぷちっと千切っておくのですよ。この状態なら一月やそこらは保存できます。
蜜玉の大きさは梅干しぐらいかな? 小粒もあれば大粒もあるという意味で。


大きな竹筒の容器いっぱいに蟻蜜が取れました。これだけあれば毎日食べても十日やそこらは‥‥っ!? 
ドスの肩の上で、ホクホク顔で歌っていた鼻歌が、止まりました。

食べられてます。数日前から素人農法で実の付きを良くしていた果物がみんな。ほぼ全滅してます。
そして、即席果樹園のなかで果実を啄んでいる巨大鳥類が一匹。いや一羽。

恐竜ならぬ恐鳥とでもいうべき生き物ですね。ダチョウより何倍も大きな鳥類が、せっかく実った枇杷やら
ナツメやらを美味しそうに貪り食ってます。

ああ、なるほど。
自然界ではありえない程に、特定の植物を一カ所へ集めるとそれを食べる生き物を引き寄せてしまうんだ。
無農薬のキャベツ畑が青虫の楽園になってしまうように。モンシロチョウ死すべし慈悲はない。

オークたちは果樹を管理できないのではなく、しないのです。
この生物密度の高い島で、有害生物から果樹園を守り通す労力と所々に生えている野生の果樹を巡って歩く
労力を比べて、後者を選んだだけなのです。

下っ端達に守られて、ドスと恐鳥の一騎打ちを見守りながら私は文明の不便さを痛感するのでした。
‥‥‥‥野生とか自然とかって、手強いですね。





 ☆21日め、夕日のなかへ☆


オーク集落の居候、はぐれ人間族のレイちゃんです。
この島に来てから三週間‥‥いやこっちの数え方だと更に+三日が経ちました。
最近は洞窟暮らしにも慣れてきて、毎日ぐっすり眠っています。

いやぁ、人間って本当に図太い生き物ですよねえ。
押し倒されたらどうしよう、とか怯えてたのが馬鹿みたいです。馬鹿でしたけど。 


毎朝のお勤めや家事手伝い以外の時間は色々な発明や技術の再現に勤しんでいますが、成果はもう一つです。
例えば釣りです。
釣り針は水に浸けて柔らかくした鹿の角を削って作り、釣り糸は毛虫の腸を引っ張って作りました。
読んでて良かった釣りマニア漫画。

竹の竿に小石の錘、木ぎれの浮きと藻エビの餌、とそこそこ手間をかけて釣りの六点セットを揃えて、いざ!
と挑んでみたら、最初の獲物に糸を切られてしまいました。
1メートル級の図体で藻エビの餌にくいつくなよ其処のシーバス!

この島、生態系が豊かなのは良いんですけど全般的に生き物が大型で、しかも危険なものが少なくないのです。
羽の面積が電話帳より広い蝶とかまだ可愛い方で、殻が乗用車のタイヤぐらいある陸生巻き貝とかそれを襲う
柴犬サイズの甲虫とかが、ごく普通に居るんですよ。マイマイカブリ擬きは特に危険ですね。

幹部オークたちが強いのも当然です。
こんな過密なモンスターランドで狩猟採集生活していれば、自然と経験値が溜まっていくでしょう。


とりあえず釣りには失敗しましたが、道具か漁法の工夫次第で再挑戦できます。諦めません勝つまでは。
いつかあのスズキ目を釣り上げて魚拓とってやりますよ。墨はともかく紙がないけど。

「グヒィー」

岩場で青竹の釣り竿を握りしめる私の所へ、ゴォ・ドスが三又銛で突き刺した魚を手にやって来ました。
長さも重さも私以上な、大きな熱帯魚です。
見た目は極彩色かつ過剰装飾のクエといったところですが、味はむしろ脂が強くブリに似ています。

「グヒッ」
「はーい、任せて」

まだ痙攣している熱帯魚のエラ付近と尾鰭の付け根を愛用のナイフで刺し、止めを刺します。
獣の血抜きの概念は知っていた彼らですが、魚の血抜きは知らなかったようです。
一度見たら直ぐに理解しました。血抜きしたほうが保存しやすくなり、味も良くなりますからね。

オーク族の味覚ってかなり鋭いというか、美味しいかどうかの判断力は高いのです。
ただ彼らはよほど不味くない限り、そのまま食べてしまうだけの話で。




今日の午後は近くの岩場に、のっぽさんことゴォ・ドスと一緒に来ています。あと下っ端達も一緒に。
三人の中ではグェスはやや寡黙で口数が少なく、ウォスがお調子者で話好きです。
ドスは普段はともかく、一度しゃべり出すと話が長い傾向がある。

あれですね、戦隊もので言うとドスはブルーかグリーンの役回りですね。
グェスがブラック、ウォスがイエローで。バランス的に後は熱血さんと天然さんが欲しいかな?

捕った魚貝や集めた海草を下っ端たちに持たせて、帰ることにします。
下っ端達は竹製の銛やヤスを使って、小型や中型の魚を主に捕っていたのですよ。

私はドスの肩に乗り、ドスは三又槍片手に即応体制。巣に近いとはいえ油断は禁物なのです。
岩場から離れてしばらく山道を歩くと砂浜に出ます。
サンゴ質の砂が綺麗だけど獲物が少ないので、狩り場としては不人気な場所です。
逆に言えば危険生物もあまり来ないから比較的安全な‥‥ あ、下っ端オークが一人砂浜に倒れている。

彼と一緒にいた筈の、他の下っ端たちの姿が見えません。

「オリル、ウゴクダメ」
「分かった」

ドスの言葉に頷いて、砂浜に降りた私を守るように三人の下っ端たちが取り囲みます。
普段は騒々しく鬱陶しい下っ端たちも、緊急事態では幹部達の命令に従いキビキビと行動できるのです。
ただし幹部が一人もいないと、烏合の衆になってしまいます。

三又銛を構え、ドスはまぶしい砂浜を無造作に進んでいきます。
投げ槍は彼の得意武器なのです。サイドアームは腰ミノに下げた、溶かした銀を被せて重みを増した棍棒。

ドスは倒れたオークのすぐ傍、波打ち際の砂地へ向けて銛を投げつけました。
飛び散る白砂、そして波打ち際の砂から飛び出てのたうちまわる、大きく平たい生き物。
赤エイです。地球の同類より縦横厚み全てで倍は大きく、毒の強さもそれに比例するかそれ以上でしょう。

赤エイは砂浜で最も危険な生き物の一つなのです。
なにせ砂地に潜るから見つけること自体が難しく、その毒棘は大人でも一撃で仕留めかねないのですから。
でも南国の海には、もっと危険な生き物もいるんすよねえ。
この島にイモガイの親類がいないことを祈るばかりです。たぶん居るだろうけど。

ドスが仕留めた赤エイの尻尾を切り落として沖の遠くへ放り投げた頃、姿を消していた下っ端オークたちが
ウォスに引き連れられてやってきました。仲間が刺されて驚いた彼らは洞窟まで逃げたのです。

刺されたオークは駄目でした。ほぼ即死状態で、長く苦しまなかっただろう事だけが救いです。



「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

合掌して念仏を唱えます。
阿弥陀仏は全知にして全能、そして無限の慈悲を持つ仏様なのです。仏典の作者が嘘つきでない限りは。
全ての生類を救ってくださるのが阿弥陀仏。
海に流され水葬された下っ端オークがその慈悲を受けられない理由などありません。
心から祈り、救いを求めさえすれば本人であろうと他人であろうと阿弥陀仏は救ってくださるのです。
浄土宗の教義ではそうなっています。


ですから阿弥陀如来さま、名もないオークの魂を極楽浄土へお導きください。お願いします。
さもないと浄土宗やめます。本気で。






[38600] 7
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:47


☆26日め、会議☆


大広間の北側で、幹部達三人が車座になって相談しています。
話題も表情も明るいものではありません。

無理もありません、これで三人目です。私が来た時には十二人いた下っ端達は、今は九人しかいません。
一人は24日目にまた大赤エイを踏んづけ、もう一人は今日の朝に巨大蜘蛛の巣に引っかかりました。

特に親しくはなかったにしても、同じ洞窟で暮らした仲です。
最近やっと何人かの下っ端は区別が付くようになってきて、個人特定ができるようになったのに。
顔を憶えたのが居なくなってしまうと、こたえますね。今朝死んだのは、気の良い下っ端オークでした。

私ですらこうなのですから、同族の哀しみは察するに‥‥ と、思いきや、あまり悲しくないみたいです。
特に下っ端たちは嘆いていない。

達観していると言うか慣れていると言うか。毎日が命懸けなこの島では死が身近なのは理解できるのですが。 
オークたちにも信仰があり、特に死と生を司るオールクゥス神はオーク族の守護神として崇められています。
勇敢に生き勇敢に死んだオークはオールクゥス神の宮殿に招かれ、毎日毎夜遊んで暮らすのだそうです。

まあ、下っ端オークの遊びって酒・喧嘩・子作りそして戦争でほぼ全てなんですけどね。
スポーツとかはオーク的には喧嘩の分類です。
葬式代わりの宴会で飲んだくれていた下っ端オークたちは、死んだ者は今頃オールクゥス神の宮殿で楽しく
暮らしているんだから悲しむことはない と言っていました。多分本気で。

オーク達にとって、日々の生活は危険ではあっても苦しみの連続ではないのです。
故に彼らの世界観というか死生観は、どこか脳天気なのでしょう。

ちなみに元特殊な抱き枕は、炎の女神様の御神体だそうです。
知恵と炎を司る女神エスティアは、人間の守護神であり幸せな家庭を見守る神。
金髪碧眼な若い女性の姿で表現されることが多いので、自動的に決まったみたいですね。


ちなみに、オーク族の神話では主神級の神々は六柱です。

闇の神オールクゥス
地母神マグナサラ
知炎神エスティア
泉源神ミャトリカ
風雲神ウィナノア
月星神ルミナァサ

後ろに ~ス と付くのが男名前の基本のようです。そして女名前は末尾の子音がaになるのが多いとか。
幹部三兄弟も全員が、~スになってますね。
もちろん例外はいくらでもあるので、今の私が名乗っているレイという名も変な印象はないそうです。

名前といえばオーク語学習の成果が出てきまして、幹部達の名前の意味が分かりました。
ギュー・グェスが 「素早く歩くもの」。
ゴォ・ドスが 「やり遂げるもの」。
レェ・ウォスが 「器用なもの」という意味です。
それぞれ日本語に無理矢理変換すると、健太・徹郎・巧己といった印象ですかね。
オークの名前は成人の日に母親達が決めるそうで、それまでは適当な幼名で呼ばれます。


オークを守護するのはオールクゥス神ですが他の神々も人気があります。
特に三人は母親が人間なので、女神エスティアを篤く信仰しているのだとか。

知炎神が人間、泉源神がエルフ(耳が長くて長命の種族だから多分エルフ)、地母神がドワーフ(これも特徴から
いってまず間違いなくドワーフ)、風雲神が小人族を。
月星神がその他様々な少数種族を守護していて、人魚とかはエルフの親戚扱い。


ひょっとしたら、オーク視点だと人間やエルフの女は異種族じゃないのかもしれません。
オークという生き物の雄が彼らで、雌が幾つかに分類できるだけなのだと考えているのかも。
交尾して問題なく子孫を残せる生き物は同種であると考えるならば、決して間違いではない。

オオカミと犬は同じ生き物で、馬とロバは違う訳です。
産まれた子供に生殖能力があるか一代限りか、の差ですね。
ううむ、また謎が増えてしまいました。


三人の会議は平行線となっているようです。
私と話しているときと違ってえらく早口なので殆ど聞き取れません。
察するに、直ぐにでもと増員を訴えるレェ・ウォスと慎重論を取りたいゴォ・ドスの意見が合わず、議長の
ギュー・グェスは意見を決めかねているようです。

うーむ、気になるけど居候の私に何ができる訳でもないしなあ。
口を挟む資格も能力も、ついでに覚悟もないし。

心情的には人手というか頭数が増えてくれた方が寂しくなくて良いけど、三人の中で知恵者的役割のドスが
躊躇っているからには何かデメリットがあるのでしょう。




☆27日め、旅ですか?☆


今日も今日とてモノ作り。適当な歌を口ずさみつつ手を動かします。はーんどめいど、はーんどめいど♪
何時の間にやら小物や道具が増えてきた私の部屋に、グェスがやってきました。

「スコシ、ハナス、ヨイカ」
「ん、なら座って座って」

金箔を巻いて金管を作る作業を中断して、グェスが座るスペースを作る。
尻に厚い脂肪層があるオーク達は柔らかい座布団の類を好まないので、岩の床に熊の毛皮を敷きます。

「で、何の話?」
「アス、トオデ、イッショ」

え? 何処かに連れて行って貰えるなら嬉しいですけど。
前日から行くことを予告するってことは、遠くなのですか?

「ヒノヤマ、ムコウ」

えーと、火山の向こうって、島の反対側じゃありませんか。

この島の正確な大きさは分かりません。淡路島や佐渡島よりは大きいと思うのですが。
大雑把な形は、時計で言えば四時と十二時を両端とする変形三日月型。
傾いたクロワッサンみたいな地形です。
火山は島のほぼ中央、八時の辺りにあり時折噴煙を上げています。標高は推定1500メートル以上。
島はその殆どが山地で低地が密林、高地が禿げ山、中間層では様々な植物が薮や茂みを作っています。

言うまでもなくこの洞窟は低地にあります。海抜30メートル程度ですから。
でも地形の関係上、津波の心配は低いですね。

「うん。一緒に行きましょう」

断る理由はありませんね、毎日洞窟とその周りをうろうろしているだけですし。
これを機に見分を広めたいところです。

「アサ、デル」
「分かった。準備しておくね」

遠出か、まずは着替えやナイフや火口などのサバイバル用品を揃えましょう。
おやつには蜂の巣を持っていきますか。
水筒もあるし裁縫道具もあるし‥‥ 無いのは、銀の武器か。


銀貨は宝物庫や高級資材置き場ではなく、一般倉庫の奥にありました。
オークたちにとって銀貨は通貨や換金アイテムというよりも、石膏や松ヤニなどのように実用資材なのです。
何故に銀が装飾品ではなく実用品なのかと言うと、ここはファンタジー世界だから。

実際に出るのですよ、この島は。お化けというかアンデッドモンスターが。
そしてゾンビとかの下級アンデッドは銀に弱いのです。
幹部オークたちはもしもの時に備え、腰ミノの下に銀貨を数十枚から百枚ぐらい溶かして作った投げつぶて
を隠し持っています。あとは銀の棍棒や短剣などを持つこともある。。


オーク族伝統の腰ミノは、投石用の弾や火起こしセットなどを装着する紐や環が付いていて、意外と複雑に
できています。
更に外からは見えない所にワニの革とか大怪鳥の鱗とかを仕込んであり、たかが腰ミノと侮れない防御力も
持っています。

防御力と言えば、私の装備が良くなって防御力が若干上がりました。サンダルを徹底的に改良したお陰で
機動性が上がったから、回避力もかなり上がったのです。装甲の方もいくらかは上げときたいのですがねー。


それはさておき、用心のために私も銀の武器を一つや二つは用意しておきましょう。
しかし棍棒や短剣では重すぎるので、投石器用の飛礫とダーツにしましょうか。
ゲーム用の玩具ではなく、ミニサイズの投げ槍と矢を混ぜて割ったような武器のダーツです。
弓矢の矢を太く短く丈夫にした代物で、使い方は玩具のダーツのように投げるか、あるいは手に持ったまま
突き刺すかですね。日本の古武器にも似たようなものがありました。

石鍋で銀を溶かして、粘土に杭を刺して作った型に溶けた銀を流し込みます。
銀が固まる前に棒を刺して冷えるのを待ち、冷えたら型から抜いて鏃の形を整えます。
棒の端に矢羽を付けて完成。5本もあれば護身には充分でしょう。

ついでに金管も作っておきますか。余った銀を石鍋から出して、代わりに金貨をいれて、と。
金管ですが、骨に金をコーティングする方法は失敗しました。
上手く骨が取れなかったり管の壁が弱すぎたりで、綺麗な管にならなかったのです。

今は資材置き場にあった鋼の槍を使っています。総鋼鉄の槍の丸棒部分に何度も何度も溶けた金を浴びせて、
冷えたら剥がして金箔にします。
この金箔を適当な太さの竹を芯に、互いが重なり合うように何重にも丸めて、焚き火で焼いた石を焼き鏝に
溶接すれば金管の出来上がり。


この鋼の槍はいわゆる魔法の武器で、低級の魔物なら影(シャドゥ)や霧(フォッグ)のような物理攻撃に
耐性を持つモンスターも倒せます。槍使いのドスは三又銛(トライデント)の方が気に入ってますけど。

もちろんあの三又銛も魔力を帯びた武器でして、普通の火や酸では焼きが回ったり腐蝕したりしません。
武器としての威力も使いやすさも上です。
こんな特殊な槍の柄だから金箔が作れるのです。
普通の槍の柄に溶かした金を被せただけでは、こんなに綺麗には剥げません。


所詮は金箔なので強度とか色々足りてませんが、蒸留に使えれば良いんですよ使えるなら。
木ねじ開発にまた失敗したので作業効率は悪いままですが、怪力のオーク達が手伝ってくれるのでレイちゃん
酒造は順調に稼働中です。

現在使っているサトウキビ搾り器はテコ式のもの。
下っ端オークのうち一番非力なのでも幕内力士以上の力持ちですからね、バーベル上げで200㎏の重さを
軽々と持ち上げる馬鹿力を頼らない手はありません。

彼らも蒸留酒の存在自体は知っていたし、飲んだこともあります。
でもラム酒がこんなに簡単に作れるとは思っていなかったようです。
サトウキビを潰して搾って、汁に酒種入れて放置して、酒になったら手作り蒸留装置で蒸すだけですからね。
しかも絞り滓を水で溶いたものからでも原液というか蒸留の元が作れますし。

どんどん酒を作って貯蔵しておきましょう。
漆塗りのヒョウタンや竹筒を量産してますが、それではとても足りません。
倉庫の空き酒樽や壷の数にも限りがありますし、土器の制作も考えるべきかも?

そんなに酒を造ってどうするのかって? 何年も寝かせて古酒にするのですよ。
この島には酒税法などという無粋なものはありません。
酒なら保存が利くしネズミに食べられたりもしません。古くなればなるほど美味しくなります。
交易品になるなら、初めて財産的にこの巣へ貢献できたことになりますからね。

容器が手に入りやすくなったら、蒸留酒を入れた壷を海や川に沈めて熟成を早めてもよいかもしれません。
早くまろやかな
蒸留酒が飲みたいものです。

ん? お手軽が身上のラム酒にまろやかさを求めてどうする ですか? 
ハギスやフィッシュ&チップスを美味しくしちゃう元日本人に何を今更。

まあ、それとは別に再蒸留して濃度を高めたラム酒も作り溜めしておきますか。
消毒用などの医薬品に使うのであれば、喉越しが悪くても関係ない。


交易品と言えば、蚊取り線香が完成しました。
これは細い紐状に切ったスポンジもどきを虫取り草の絞り汁に漬け込み、竹に巻き付けて乾かしコイル型に
固めたものです。
絞り汁に乾燥した虫取り草と、いくつかのハーブの種子や樹脂、その他色々の粉を混ぜて燃焼速度を落とし、
一度火を付ければ一日ほど燻り続けるようにしてあります。

オークたちは悪い意味で我慢強い一面があり、便利さの追求に熱心でないのが不安要素ですね。
そのあたりは巣にいる人間の女達に期待しましょう。
なにせ大概のことは力業で解決してしまうので、工夫というものをさほど重視しないのですよ。オークは。




☆27日めの2、旅支度☆


武器の調達に続いて旅支度を進めます。
水筒。着替えの服。塩。ナイフ。裁縫道具。護身用の銀武器。おやつ。金管などの交易品。消毒薬。
蚊取り線香と火起こし弓に火口箱、ハンカチ、スポンジ、予備のサンダル。

迷子になったときの為に呼び子笛も持っておきますか。
荷物を増やすと面倒ですが、かといってアレがないコレがないでは困ります。
コンビニや百円ショップがこの島にはないのですから。

んー 魔法のブラシは女神様の祭壇に返しておきましょう。
おいといても誰も使えませんが、旅先で無くしてしまう危険性は無視できません。
極論すれば私が持ち帰るのは私とグェスだけで良いのです。最悪でも命、できれば五体満足で。
他に大事なモノを持っていくのはフラグが立ちすぎる。

幹部居住区から奥に向かうと、資材置き場でドスが原石を選り分けていました。
この資材置き場に集められた原石は、オークたちが日々の生活の合間に拾い集めたものです。
その割りには大した量ですが、考えてみれば地球でも宝石の産地では原石がザルですくうほども取れる訳で。
この中から商品価値の高いものをより分けて交易に使い、宝飾品や不足気味な実用品と交換するのです。

他のオーク集落との交易が主ですが、全くの異種族と交易することもあるとか。
今回の遠出で異種族と会えるかもしれません。ちょっと楽しみです。
オークたちがこれだけゲーム的世界の常識と違っていたのですから、他の種族も豪快に違う筈。

‥‥できれば人間にも良い方向に違っていて欲しいものですが。
ああ、もちろんこの場合の良い方向とは「私にとって都合の良い方向へ」という意味です。念のため。


ブラシを祭壇に安置。朝早く出発するそうなので、いまのうちに祭壇周りを大掃除しておきますか。
前世だったら考えられない殊勝さですが、ぶっちゃけ私は無駄飯食いも良いとこでして。
農家の猫並に食費がかからない分まだマシですが、無為徒食の自覚があるからには何かしないと気がひけます。

で、毎日せっせと祭壇と神像磨いて、酒醸して、得体の知れないオブジェを作っては壊し、作っては壊し。
そうこうしているうちに、オーク族のシャーマンじみた立場になってしまいました。
地球の技術やその産物を再現しようとする試みは、宗教活動の一種として受け取られたようです。


いや、確かに怪我人の治療とかしましたけどね。
オーク達は丈夫でそう簡単には怪我しませんが、無敵ではないので怪我するときはします。
小さな傷なら舐めて治し、重い怪我なら薬草などを使います。

で、問題はどちらとも言い難い怪我の場合です。
蛮勇を尊ぶオーク族は、怪我や危険に一々頓着しないのが美徳であるらしく、細かいことは気にせず突き進む
傾向があります。
当然、余程の傷以外は舐めるもしくは放ったらかしで。

そういう場合は見つけ次第有無を言わさず治療することにしました。
傷口を綺麗にして、薬草や薬草の汁を染み込ませたスポンジを当てるだけの簡単な処置でも、やはり放置する
よりは治りが良いようです。

地球の古代社会では、地方や部族によっては「怪我の治療は臆病の表れ」とされる文化がありました。
オーク族の場合シャーマンに治療して貰うのは全く恥ではなく、むしろ誇らしいことなのです。
それだけ評価されている訳ですからね。
実際、オークたちにこれ以上死んで欲しくないですし。



その結果、下っ端オークたちが私の真似して合掌するようになりました。南無阿弥陀仏とは言いませんけど。
それも発音できないからという理由ですけど。
代わりにオールクゥスの名を唱えています。

いえね、幹部達にオーク族の信仰について色々聞いていたときに、流れで阿弥陀仏について説明したのですよ。
相互に理解しあってこその異文化交流ですし、彼らの信仰を訊いたからには私の信仰を語らねばなりません。

で、彼らの解釈では阿弥陀仏は
「死と生を司り、慈悲深くも救いを求める者全てを救い、冥界の宮殿に住まわせる偉大な神」
となります。
‥‥これ、彼らの主神オールクゥスそのままです。当然、神格の同一視が起きます。
彼らの文化は、少なくとも宗教的には古代なのですから。

そういう訳で、念仏が決め手で私は居候から見習い巫女にクラスチェンジしました。たぶん完全に。
まあ良いですけどね。現地宗教との融和と習合は仏教の基本。気にしない気にしない。
なんかますます、ここから離れにくくなった気もします。
逆に言えば突然放り出される危険性もその分減っているので、そう悪い結果じゃありません。

うーん、しかし祀っている神様が一柱だけというのも座りが悪いですね。元日本人的な意味で。
他の神々も祀るべきかな。日本の神社仏閣ならあと二柱、合わせて三柱で祀るのが普通です。
余所の神殿や祭壇が見学できれば良いのですが。


数日分のお勤めをまとめてやって宝物庫兼神殿を出ると、資材置き場にドスはいませんでした。
ちょうど良いので、姿見を使って服装のチェックをしてみますか。

姿見の前で色々ポーズを取って、危険性などを確認します。
体育座りや横座りから始めてラジオ体操、はては四つん這いやM字開脚まで試してみます。
思い付く限りの姿勢を試してみましたが、服が脱げたり、外れたり、はみ出したりはしません。

ふむ、見せパンツ四号の性能に問題なさそうですね。色々と改良した甲斐がありました。
何せ今度の旅先はオーク達が一杯いるそうですから。
群衆の前で はらり とか ぽろり とかは勘弁です。ちらり も避けたい。

しかし、ここに来てから結構たつのに一向に日焼けしませんねー 日照性火傷はするんですけど。
肩ひもとかのラインがちっとも分かりません。
この身体の髪は黒いし目玉の虹彩は濃い茶色。アルビノではないからメラニン色素はあるはずなんですけど、
なぜか日焼けしません。もしかすると人類じゃなくてファンタジーな種族だったりするのかもしれない。

まあ良いか。実害なさそうだし。




☆27日め3、旅支度?☆


長くても4~5日の旅だそうですが、保存食を用意しておくべきでしょうか。

私一人なら一日500グラムもあれば生きのこるには充分ですから、干し肉や干し芋の実や干し果物を竹筒に
詰めておけば問題ないでしょう。
最近恐ろしいことに気付いたのですが‥‥今の身体、三食蜂蜜でも大丈夫みたいです。少なくとも味覚的には。
なにこの身体。実は人間じゃなくて熊の精霊だとか? どこまで甘いもの好きなんだか。

もう纏められてるグェスの荷物は、干し貝や干しキノコなどの乾物と毛皮や原石や鉄製品などが主です。
この巣には宝石研磨の技術持ちがいないので、原石の塊を売って小さな宝石の欠片を手に入れています。

なにこれ搾取? 搾取ですか?

まあ予備知識なしで、地球の宝飾品事情を当てはめて怒りを蓄えるのは止めておきましょう。
案外妥当なとりひきなのかもしれませんし。

怒りといえば、ウォスがなんだか不機嫌です。
どうも、私たちと一緒に行けないのが悔しいようです。

どうして二人旅なのかと言うと、ギュー・グェスはその名のとおり足が早いからです。
他の幹部の数割り増し、下っ端達の倍以上の速度で野山を歩けます。
逆に言うともしウォスが付いてくると、長くて5日の旅が7日8日になってしまいます。その間、ドス一人に
洞窟の統制と防御と御神体の番をさせるのは、ねえ。無理ではないけど疲れるでしょう。

もしものことがあったらどうするんですか。
幹部オークでも手こずるモンスターが出たり、オークに敵意を持つ異種族の襲撃があったら? 
ドスが病気や怪我で動けなくなったら?

その程度のことはウォスも分かってます。彼は助平でお馬鹿ですけど頭は悪くないんです。
分かっているからこそ機嫌悪いのでしょうが。

さて、どうしたものか。


話はやや離れますが、その昔「成功とは西洋風の屋敷に住み、中国人の料理人を雇い、日本人の妻を娶ること
である」というチャイニーズジョークがあったそうです。この傾向は今でもある程度残っています。
日本人ってわりともてるんですよ、外国人枠の中ではね。

いえね、ある小説家の自伝でありましたけど、日本じゃどうしようもない跳ねっ返りのきかん坊扱いだった
女の子が高校卒業後にアメリカに渡るのですが‥‥アメリカだと彼女は内気で引っ込み思案な箱入りお嬢さん
扱いだったそうです。
そのくらいアメリカ女は厚かましい。

まあ、日本だと隔離病棟行き確実な異常者が大手を振って歩いているのは男女変わりませんけどね、あの国は。
それが彼らの文化なのですから、日本人がとやかく言うようなことじゃありません。
彼らの価値観で言えば公開処刑級の犯罪者が、のうのうと生きていられるのが日本ですし。

しかし偶に自国の文化がしっくりこない不幸な人も居たりします。
そして更に不幸な人は日本人女性と出会ってしまい一目惚れしちゃったりします。

「彼女、俺が脱ぎすてた上着拾ってハンガーに掛けてくれたんだ。俺に気があるってことかな?」とか
「あの娘、俺ん家に来たとき家族がもう飯を食べ始めているのに、ママンが席について食べ始めるまで
待っていたんだ。あんなに礼儀正しい娘初めて見たよ」とか
「付き合い始めた日本人の彼女に服買ってあげたんだけど、たった一着で良いって言うんだぜ! 
信じられねえよ! 良い娘を紹介してくれてありがとうな!」とか

男としてはあんたらの国の女ってどうよ、と思ってしまう外国人達の証言も多々ありました。
まあ、隣の芝生は何とやらで外国人達にも日本人にはない(珍しい)美点があるのでしょう。きっと。

もちろん日本人男性の場合にもありますよ。
前世の知人には「日米の幼児教育における差違についての研究」に来たアメリカ人女性に大泣きされた
ことを切っ掛けにおつき合い始めた教職の人もいました。

なんか、二人で幼少期の思い出を語らいあっていくうちにその女性が、それまでごく普通だと思いこんで
いた自分の幼児期体験が、虐待の見本みたいなものだったことに気付いてしまったのだとか。
その後色々あったようですが、本人たち的には上手く話が纏まったようです。
落雷に遭わなければ、私も二人の結婚式に行けたんですがねえ。諸行無常。


何が言いたいかと言うと、日本人的常識に従って行動すると言動が乙女というか大和撫子的になっちゃう
事例が多いのです。
ネカマやってた訳でもないのに、大規模オンラインゲームで女だと思われてちやほやされたりとかね。

私は基本男キャラで遊ぶ人だったので、そういった経験はありません。
飛竜を狩る山猟師も男、城壁掘り崩して鉱石拾う観光客も男、大地を浄化して巡るトロッコ乗りも男、
救国の使命を帯びてうろ覚えの呪文を頼みに旅立つ魔法剣士も男。おっさんキャラばかり使ってましたねー。

しかし現在、外見上は女の子。
そして女の子の振りというか「男から見た理想の女の子」像を演技できる程度には知識もあるわけで。
平たく言えば、これからウォスのご機嫌取りします。これも巣の安定の為ひいては私の安全の為。
安楽な暮らしのためなら笑顔ぐらい幾らでも売ってあげるのですよ。ええ。



ん? なにやら下っ端オークたちの雰囲気がおかしい。
妙に士気が下がっているというか、浮き足だっていると言うか。
まあ良いか、危機感という程の深刻さは感じませんし。

ねーレェ・ウォス、ちょっと力を貸して欲しいんだけど。

既に五着ほどある毛皮の服ですが、今着ている豹毛皮のは裾に銅貨や大型魚の鱗を仕込んでいません。
故にちょっと強めの風でも、裾がめくれ上がってしまう危険度が高い。
自然と動きが慎重になるのでウォスにはそれが お淑やかでGOOD! のようです。
グェスやドスはむしろお転婆路線の方が好みですね。

そりゃお淑やかにもなるでしょう。
今の私、見せパン装備してませんから、突風がきたらサービスカット間違いなしです。
いきなり襲われる心配がないと分かっていてもちょっと‥‥いえ、かなり止めとけば良かったかもと、
今更ながら思ったり思わなかったり。

せっかく作ったもの脱いでどうするんだ って?
お強請りするときに彼氏の好みな格好をするのは、おおいにアリだと思うのですよ。
彼氏じゃありませんけど。

良いじゃありませんか媚びぐらい売っても! 誰も傷付いてなんかいないんですから。
これが問題になるなら、前世日本の各店舗でレジスター横にいるお姉さんはどうなるんですか。
スマイル0円が風営法に引っかかりますよ!


関係ないと思うけど、最近下っ端たちが聞き分けよくなったというか、一目置かれていると言うか。
今までが舐められていただけかな? ちゃんと話を聞くようになりましたからね。

なんにせよ大分気楽になりましたね。
怖くて入れなかった下っ端達の居住区にも、一人で入れるようになりました。

お邪魔した感想は‥‥思ったよりも普通。
人骨や人皮製の玩具や家具とかが無造作に置いてあったりはしませんでした。
やはり彼らはゲーム世界のオークとは違うようです。
『戦闘幻想』のオーク族だと住居はゴミ屋敷ですが、この洞窟は毎日大雑把にだけど掃除されてます。


オークの肩に乗って移動するのにも慣れちゃいましたね。近場だと徒歩や竹馬で歩くこともありますけど。
ある程度以上、洞窟から離れるときは運んで貰う方が早いし安全です。
やって来たのは洞窟に近い浅い森のなか。
下っ端達が大ムカデや爆発カメムシを虫取り草エキス入り水鉄砲で追い払い、ウォスが樹上性ワニを棍棒で
脅して追い払います。

ワニと言っても外見は木登りする足の長い大トカゲといった感じで、主に果実を食べます。
生態系的には猿とムササビの中間的位置にいるようです。
いや、骨格的特徴がもろワニなんですよ、あいつ。目と鼻孔が口と平行の一直線上にあるし。
ちなみに肉は独特の臭みがあり、あまり美味しくありません。

今回の目標はこの樹です。仮称アイアンウッド。
オーク語だとむしろ「超合金の木」の方がより意味的に近い。
この木の木材が欲しいのですよ。高さは私の背丈くらいで、太さは私の腰周りぐらいのが。

おー 流石に「面倒だなー」という空気が漂ってますね。力自慢の彼らにとっても超合金はしんどいか。
冗談抜きで下手な金属より硬くて堅いですからね、この木は。
オークたちは若い樹の根っ子を掘って乾かして、棍棒にするぐらいです。

「ね、お願い♪」

女の子奥義、にっこり笑ってこき使う!

「「「「「グヒー♪」」」」」

うん、男って馬鹿だ。本当に。
何かご褒美を考えておくかな。後で椰子ジュースのお酌ぐらいしてあげようか。

アイアンウッドの森に作業音が木霊します。
大きなキクラゲっぽい乾質キノコに腰掛けて、その様子を見守る私。
オークたちの半分が作業に当たり残りが周囲を警戒しています。

途中で騒音に惹かれたのか怪鳥が一羽寄ってきましたが、ウォスが棍棒で威嚇すると去っていきました。
この島の野生動物は全般的に狂暴で好戦的な物が多く、大怪鳥はどちらかといえば穏和な部類に入ります。
他人の喧嘩に乱入したがる悪癖を除けば、ですが。
主食は木の実や虫の類で、生態系的地位は飛ぶのが比較的得意なニワトリでしょうか。

体重は小さな個体だとオークたちと同じぐらいで、大きなものになるとトンの桁を余裕で越えます。
羽毛が生えてるイャ○クック先生が、外見だけなら近いかな。



切り出した頑丈そのものの木材を大広間まで持ち込み、一方の端を削って尖らせます。
手斧などで荒削りしてから、岩壁に擦り付けて削ります。
洞窟の壁の平たい部分へ屑宝石の粉入り接着剤を塗りつけて、乾かしたサンドペーパーならぬサンドウオールに
擦り付けて貰って削り取るのです。紙ヤスリや布ヤスリの類も合わせて、ヤスリ系は成功した発明品ですね。

尖らせた方を上にして大広間の床にアイアンウッドの幹を埋め込みます。
つまりシーソーの基部にする訳です。普通の木材を使わないのは、上に乗せる横棒をこれまでのものよりも
太く重たいものにするからです。

横棒の重心位置に開けた穴が深ければ抜けにくい。棒が重いと動かし辛いので中央付近はそのままにして、
途中から木材の下側を削って軽量化しますか。これで重心が中央寄りになって動かしやすくなった筈。

今作ってるシーソーは天秤の流用ではなく、最初から遊具として開発するものなのです。
何を作っているのか理解してから、オークたちの動きが良くなってきました。
思うに彼らは生来の怠け者ではなく、働くことの意味が薄い生き物なのですね。
生きていくだけなら、そこらへんの草木や小動物を適当に取って食ってりゃ良いんですもの。

娯楽というか楽しみのためなら意外に良く働くのですよ。酒にする果物や椰子の樹液を集めたりとかね。
タライ一杯に集めた野葡萄を潰して、葡萄ジュースと粗製ワインを作ったときは特に動きが良かった。
女の子の素足で踏み潰したワインを珍重する変態紳士は、この島にもいるのです。


なんかもの凄く期待した視線の集中砲火を食らっているので、ブランコも作り直すとしましょうか。
今度は台や梯子を使って、天井そのものへ環付きの鉄杭を打ち込み、松ヤニから作る充填材で固めます。
この充填材、乾くと硬質プラスチック並かそれ以上の強度を発揮するのです。

しかし、何故にオーク族はゴムの木を知らないんですかねえ。
ゴムが手に入れば色々と作れるものが増えるのですが。




☆27日め4、これも旅の準備です☆


さて、天井から垂らしたロープで板を固定して、と。
今度のブランコはストローク長いですから、優雅な感じに漕げますよ。
洞窟だから風通し悪いけど。明かりがあっても薄暗いけど。

うーん、見られる一方というのも詰まりませんね。オークたちが乗れるブランコって作れないでしょうか? 
つり下げる縄か鎖を、よほど丈夫にしておかないと持たないだろう事が問題ですね。

あ、新しい遊具思い付きましたよ、こう木材を立てて、根本に石材を縛り付けて下を丸くして、と。
おっと、いけない、今の私は増加装甲なしでした。
ブランコから飛び降りたり、片膝立てて座ろうとしたりしてはいけません。お淑やかお淑やか。

高さ2メートルの起き上がり小法師めいたものを作りまして、上半分にスポンジもどきを貼り付けると、
変形パンチング人形の出来上がり! 左を制する者は世界を制す! 明日のために打つべし打つべし!


ついでだからブランコ一号の跡に、洗濯物干し場に吊り下げる靴下干しみたいな器具を付けて貰いますか。
ロープに繋げた棒きれを幾つも用意して、靴下干しに靴下を吊すように結びつければ訓練道具の出来上がり。
これは縄で吊した棒きれの中に入って使います。棒きれを叩いて外へ弾いて、弾いた棒きれが戻ってくるのを
また叩いてはじく、チャンバラ稽古用の道具ですね。実際に剣術の訓練機材として効果がある遊具ですよ。

両方とも直ぐに遊び方が理解されました。

ただ私が設計したものは彼らにとって軽すぎたらしく、幹部オーク達は自分たち用の遊具を自作しています。
なんか、拳法もの映画で師匠が弟子をいびるときに使うような代物が、出来上がりつつありますね。
天井から吊られた複数の丸太が一カ所に集中してやって来る、凶悪な遊具になってます。
お寺の鐘を突く棒みたいなものが、遊戯者の立っている所へ四方八方から押し寄せてくる状態。

‥‥って、ちょっと待った! 突き棒の先に石槍の穂先付けるのは止めて! 


「「「グヒ?」」」

いや、そこで不思議そうな顔しないで下さいよ。
言っとくけど、大トカゲの歯とかバショウカジキの槍先とかも駄目ですからね。
え? 危なくないと訓練にならない って? ‥‥これは遊具なんだってば。

結局刃物は止めて貰ってその代わりに、丸太の先へ石や青銅の重しを付けて威力を増すことで妥協しました。
オークの打撃耐性は半端じゃないので、この方が怪我人少ない筈です。

痛くしなければ憶えませぬ、ですか。つくづく怪我の価値が低い連中ですね、オークって。命も安いですけど。
日々の生活が危険すぎて、感覚が麻痺してますよ、これは。
貴男方はそれで良いかもしれないけど、少しは残されるこっちの身にもなって欲しいです。
これ以上の死者など見たくないのですよ。オークが減れば減るほど私の危険度が上がっていくのですから。

あ、今ちょっと嫌な遊具というか儀式が再現可能なことに気付いちゃいました。肝練りが。

まず、天井からロープを垂らし、その周りに肝練りに参加するオーク達で車座に座ります。
次に資材置き場にあった石弓に矢をつがえて、天井からぶら下げたロープでなるべく水平になるよう吊るす。
そして吊られた石弓を回転させてロープを捩っていきます。

あとは氷‥‥は難しいから脂とか接着剤で、時間が経つと石弓の引き金を引く絡繰りをしかけて手を放せば、
石弓が回転していくうちにいつかは矢が発射されます。車座に座るオーク達目掛けて。
そのときを待って飯でも食っていられたら、薩摩隼人の端くれです。

運が良ければ誰も怪我しませんが、怪我人死人がしょっちゅう出ます。
これを定期的に行い、人数が半減する頃には生き残った面子は一騎当千の猛者ぞろいになってます。

薩摩人マジヤバイ。頭おかしいですよこんなの。
効果は絶大だそうですが、知り合いにやって欲しい事じゃありません。
絶対に教えません。嬉々としてやり始める姿が目に浮かぶ。
‥‥もう既にやってたら嫌だなー。「有り得ない」と言いきれない辺りが怖いです。



薩摩と言えば薩摩揚げ。
今夜のご飯はちょっと気合い入れて作ることにしました。下準備から自分だけでできるものを中心にします。

小魚をすりつぶし、塩と酒と香草・スパイスを加えて練り、平たくして油で揚げます。
椰子の実油よりクルミ油の方がさっぱりした味になりますね。

ブリっぽい味の魚を粗塩漬けにした塩魚。塩鮭と生の鮭の風味が違うように、洞窟の涼しい所で保管していた
塩ブリっぽい魚肉は熟成が進んでて食べ頃です。
今日始末しておかないと、帰る頃には腐ってますからね。全部焼いて食べることにします。
大根がないので、おろしではなくタマネギ類の薄切りを付け合わせにしましょう。

そういえば鮭はいませんが鱒科の淡水魚ならいるんですよね。この島の生態系はやはりおかしい。
草食ワニや淡水サメが普通にいる時点でもうアレですけどね。たしか両方とも地球では白亜期末に絶滅して
しまった筈です。

絶滅動物と言えば、この島の鳥類は尻尾の長いのや、指の生えたのや、脚にも風切り羽根が生えてるのや
嘴ではなく歯があるのまで、実に多種多様です。
と、言うか幾つかの種類は骨格標本にしたら小型恐竜そのものな気が‥‥ティラノサウルスとか居るのかなあ。

オーク達の話だと居るらしいんです、暴君竜かどうかはともかく大怪鳥よりずっと大きい鳥系モンスターが。
私にとっては逃げ隠れしにくい分、小型肉食獣の方がより怖い捕食者なんですけどね。
敵わないのはどっちも同じだし。


塩魚の開発成功で分かるように、海塩の生産にも乗り出しました。
好塩性雑菌の繁殖が怖いので、まずは汲んできた海水を煮沸消毒。次にシャワーのある部屋の隅に作った、
シャコ貝の殻と竹と松葉製の落下式製塩装置に煮た海水を入れ、少しずつ松葉に掛けて水分を飛ばしていきます。

最初は直接柄杓で汲んでは松葉に掛けていたのですが、面倒くさすぎたので竹を組んで櫓を造り、小さな穴を
開けたヒョウタンや竹筒を乗せて、その中に塩水を汲んで入れることにしました。
これならときどきやって来て、下のバスタブサイズ貝殻に溜まった塩水を上の穴あきバケツ類に組み上げるだけ
で良いのです。
穴から少しずつ零れた塩水が松葉を伝ってしたたり落ちるうちに、乾燥して塩分が濃くなっていきます。

‥‥洞窟の外だと出入りが面倒だし、危険だし、虫や鳥の糞とかの混入が煩わしいのですよ。
時間はかかっても洞窟内の方がマシです。

バナナの葉でカバーもつけたので、埃やコウモリの糞などが混入する危険性も低くなりました。
日光の熱に頼っていないので日照角度とか計算しなくて良いのです。
こうして濃くした塩水を石と粘土で作ったカマドで煮詰めれば海塩の出来上がり。

副産物のにがり(のような何か)も取れたのであとは大豆さえあれば豆腐を作れますよ。
まだ大豆は見つかってませんけど、野性の豆類で試作を始めてます。


そういう訳で、数日前から洞窟の食卓には塩を盛った皿が置かれるようになりました。
ただ、この島の大きな集落の殆どは、海産物が手に入りやすいか塩が含まれている湧き水を持っているので
交易品としての塩の価値は低そうです。
それとオークたちって、見た目より汗かかないんですよね。同重量あたりの塩分摂取量は私の方が多いのです。


前世で、夏とか冬とか祖父のところに遊びに行くと必ずといって良いほど出てきた料理があります。
蛸とワカメとキュウリの酢の物、やたら水っぽい馬鈴薯サラダ、分厚く切ったサツマイモの天ぷら、
そして季節の魚の刺身。
この四つは祖父の好物だったのでしょうか、毎回出てました。

せっかくなので再現してみましょう。てんぷらは芋の木の実に澱粉の衣を付けて竜田揚げにするとして‥‥
小麦が見つからないのですよ、この島。
麦類らしい穀物はありましたが、粒が小さい穂が少ないそもそも臭くて不味いと食用に適さない品種でして。
グルテンが少ないからパンやうどんにもならないし。

どうしましょうコレ? ビールにはさほど思い入れがないので、麦茶ぐらいしか利用法が思い付きません。
いっそのこと野菜不足の解消に、若葉をすりつぶして青汁にしてみましょうか?

石臼や粉ひき器は、薬や研磨剤用のものがオークたちの文明内に既にありました。
その小型版を幾つか作って貰って料理に使っています。彼らと私では歯と顎の性能が違いすぎますから、
これらがないと大変です。
ちなみにオーク族の石臼は突き棒式と車輪往復式が主流で、回転式は珍しいようです。
できれば回転式が欲しいけど、あれは石工の技能持ちじゃないと作れないでしょうね。

馬鈴薯はありませんが、芋サラダは食感が似ている食材を濃いめに味付けすれば良いでしょう。
キュウリも同じく代用品がある。
ワカメは干物がありますし、蛸は今からタコツボを引き上げて貰えば一匹や二匹は手に入ります。
適当な壷を沈めておけば獲れるからタコツボ漁は有り難いですね。
蛸を絞めて捌いてぺしぺし叩いて貰って塩こぎして湯通しして、と。

問題は刺身です。黒曜石の包丁しか持ってない現状で刺身作りに挑むのは無謀です。
やはり今回は見送りましょう、塩魚と薩摩揚げもありますし。
新鮮な蛸と魚が手に入ったので、魚は塩と酢で締めてハーブを乗せて、シメサバならぬシメ熱帯魚に。
蛸は半分湯引きして酢の物や串焼きにします。残り半分の半分はさっと熱湯に浸けてから水で冷やし、
皮を剥いでお摘みに。残りは素揚げにしましょう。墨煮も良いかも。
徹底的に叩いて柔らかくした蛸肉が私の分で、オーク達の分は叩き方を加減して歯応えを残します。


あと御馳走と言えばハマグリの潮汁ですね。これは刺身(ナマス)と共に古事記の昔から伝えられている
由緒正しい日本料理なのです。

日本料理かー 味噌と醤油が懐かしいなー。
ああっ ご飯が食べたいっ 白いご飯が恋しい。無いけどね。
気候的には小麦や馬鈴薯よりも自生を期待できるので、諦めずに探してみます。
今度の旅で米か何か見つかると良いのですが。

芋澱粉で作った葛切りで麺料理にしてますか。
ご飯をわしわしが無理ならせめて麺類をちゅるちゅる啜りたい。


気合い入れたデザートも作りましょう。
蒸かして潰した芋の実に、サトウキビ汁を煮詰め石灰入れて越して作った黒糖を混ぜて黒蜜芋餡を作ります。
クルミ油を塗った石鍋に生の芋の実の薄切りを敷いて、その上に黒蜜芋餡を盛り、餡の表面に椰子シロップを
掛けて染み込ませ、その上にまた芋の実の薄切りを被せて、その上にたっぷりの蜂蜜を掛ける。
後は石釜で蒸し焼きにすればスイートポテト風ハニーパイの出来上がり。

このレシピの完成は、小型天秤試作三号の活躍がなければ不可能だったでしょう。お菓子作りは算術なのです。


そんな訳で、その夜は普段の10倍ぐらい料理を作りました。
芋パイも一口分くらいは下っ端たちに行き渡ったようです。
昼間お願い聞いて働いてくれたオーク達にはカットフルーツ各種を配り、椰子の実ジュースを注いであげます。
好評でしたけど、なんか腑に落ちない。
女の子が切り分けただけで他は全く違わない果物なのに、何故こんなに喜べるんでしょう。不思議だ。


皆さん留守をお願いします。
帰ってきたらもっと美味しいもの作りますから、楽しみにしておいてください。




☆28日め、旅路☆


日の出と同時に出発しました。特に見送りとかしないのがオーク流らしく、グェスは普段一人で遠出するときと
同じように洞窟を出ていきました。違うのは荷物が多いことぐらいです。

荷物の私は、彼が背負った背負子と羽織ったマントに挟まれて運ばれています。
少々暑苦しいですが安全には変えられません。

前は熱で朦朧としていたのでよく分かりませんでしたが、ギュー・グェスは本当に健脚なのです。
人間で言えばマラソンランナー級の速度で殆ど休み無く、坂や崖まである山道を突き進んでいます。

この島は地面は岩や石ころが多く土は少ないですね。島の地盤が若いのと雨が多いせいでしょう。
火山島なので殆どの岩が火成岩です。

土が少ないのにこれだけ木々が育つのだから、よほど岩がミネラル豊富なのでしょう。
火山灰が元という点では同じでも、関東ローム層とシラス台地では地力が違います。
ここの火山は比較的農業向けの火山灰を出しているのですね。
砂地で育つ作物‥‥タマネギとかメロンとかなら洞窟内で鉢植え栽培できるかもしれません。

道中は思ったより平穏です。
何度か鳥系やら獣系やら爬虫類やらの捕食者たちと遭遇しましたが、武装した幹部オークに喧嘩を売る物好きは
いませんでした。

ついさっきまでは。


「グヒィー」

心配するな、と言うグェスを信じて背負子の木枠にしがみつきます。足手まといにならないように。

両手に武器を構えじりじりと動くグェスの相手は黒い牛です。
でもサイズは日本の牧場に居た同類と比べものになりません。

なんですかねこの島、生き物が大きくなる呪いでもかかっているんですかね。
昔のハリウッド製SF映画とちがい、道ばたに生えているタンポポとかツツジの一種らしきものは地球と
大差ない大きさなのですが。

狭い山道に立ちふさがり、蹄を鳴らしてこちらを威嚇する大牛目掛けてグェスは左手の武器を投げつけました。
握りこぶし大の石を革紐で結んだ武器、ボーラ(石飛礫連結紐)です。
2~3個の石ころを丈夫な紐で結んだだけの代物ですか、相手によっては絶大な効果を発揮します。

飛べない恐鳥やこの牛などの直立歩行で脚が長くて重心が高い生き物には特に効きますね。
牛でも二本の脚に絡まれば機動力激減ですし、手も牙もないのでそう簡単には外れません。
こちらはその隙に攻撃するなり離脱するなり、どのようにでも出来るのです。

投石と比べ、一発あたりの威力以外に取り得がないスリング(投石紐)の価値を認めなかったオークたちも、
ボーラの方は認めてくれました。
狩りにも護身にも使える自由度の高さが気に入ったようです。

そんな訳で初見のボーラを受けてしまい、あっさり動けなくなった大牛は続く棍棒の一撃で絶命。
皮と角を剥ぎ取られてしまいました。
すぐさま集まってきた虫や鳥など中型小型の肉食生物に死体処理を任せて、旅路を急ぎます。


朝から歩き続けて数時間。山を越え谷を越え火山を迂回して、踏破距離は概算で100キロ前後。
峠を超えたところで目的地が見えてきました。

南洋の海岸に浮かぶ白亜の城。小山一つをお伽話の宮殿のような、大理石の建築物で埋め尽くした文明の残骸。
威風堂々たる気配を振りまく、見事な遺物です。
デザインはともかく地形と雰囲気はモン・サン・ミッシェルが近いですかね。
海岸の山なんだか島なんだか判別付け辛い地形の上に、びっしり建てている感じが。

ギュー・グェスらの話だと、この島も大昔は人間が住んでいたそうです。
今の私のようにオークの巣に人間が居るのではなく、人間だけが住んでいる集落があったのだと。

しかし大昔に「鉄の王」という魔王が攻めてきて、この島の原住民はグェスたちのご先祖様とコボルド族、
そして僅かな他の種族以外は滅ぼされてしまいました。
その後オークたちは長い長い戦いの末に「鉄の王」を打ち倒しましたが、それ以来人間もエルフもドワーフも
種族としてはこの島に存在しなくなったのです。

宴会のときに聞いたオーク族の伝承ではそういうことらしいです。
約一世紀前のことなので詳しくは解りません。
モン・サン・ミッシェルもどきはその魔王が建てたものだそうです。

この 魔王 とは、魔法や魔力を支配基盤にしている王様のことです。
悪魔の王だったり、お寺でキャンプファイヤーするのが趣味だったりする訳ではありません。


何でしょうね? この島は金属加工技術に優れた民族に侵略されていた歴史があったのでしょうか。
戦いの末に侵略者は去り、島の覇権はオーク族に移った、と。
だとしたら、この島の植生がデタラメなのも分かります。「鉄の王」やその配下が、自分たちの都合に合わ
せて持ち込んだ植物が根付いたのでしょう。多分動物も。

かつての魔王城は、今ではオーク族の神殿になっています。
そして島に住むオークや他の種族達が集まる交易所でもある。

月末から月初めの、新月を挟む時期に交易が行われます。ちょうど今頃ですね。
ギュー・グェスが山の中で私を拾ったのは、この月に一度の市場から帰る途中の出来事だったのです。


峠からの標高のわりに急な斜面には、所々に果樹園の跡らしき樹や林が残っています。
魔王軍の置き土産なのか、旧魔王城に近づくにつれて果樹や花畑の比率が増えていきますね。
城の周りには私たちを全く怖がらないイノシシたちが居て、野草や木の実を漁って食べている。あと虫とかも。
スモモの大樹の下にいるオークが、先端が二股になった長い棒でスモモを落としてイノシシたちに食べさせて
いる様子からすると、野生ではなく放し飼い状態なのかもしれません。

飼っているとしたら、何のために?
牛や馬と違い、豚は労働力に向いてません。山羊や羊と違い、乳や毛糸が取れる訳でもありません。
人間から見れば豚の価値は第一に肉と脂、第二に脂と肉、つまり食用なのです。
三四がなくて五に皮と骨と糞、というか生ゴミ処理器代わり?

しかしオークは豚やイノシシを食べません。
それとも、ただ単にグェスたちがイノシシ肉嫌いなだけで、この辺りのオークは食べるのでしょうか?


「グヒィー」

モン・サン・ミッシェルもどきの前で、背負子から降りた私が手足を伸ばして柔軟などしていると‥‥ 
何ですかその紐は。

グェスが荷物の中から飾りがたくさん付いた紐を取りだして、毛皮の上から私の腰に回して結びつけました。
巨大クモの糸から作った丈夫な紐に、珍しい貝殻や穴を開けた水晶や翡翠、そして金箔を丸めて作った金管
などを通した飾り紐です。その端はグェスの左腕に縛り付けられています。

むう。あまりに自然で手慣れた動きだったので何も反応できませんでしたが、それで良かったのかな?
邪念の類は感じませんし、この紐にも何か意味や必要性があるのでしょう。迷子防止策とか。


そして太陽が中天に差し掛かる頃、私はオークの肩に乗って元魔王城の城門を潜ったのでした。






[38600] 8
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:c16d3038
Date: 2018/08/01 12:47


☆28日めの2、要塞☆


城門を潜るとそこは市場でした。
石畳が敷かれた広場の所々に、商品らしき荷物の置かれた布やバナナの葉や毛皮が並んでいます。
各店舗には数人のオークたちが居て、店長らしきオークが下っ端たちを仕切っています。

いや、良く見るとオークだけじゃありませんね。
私より小さいぐらいの、直立した犬のような人型生物が開いている店もあります。
あれがコボルド族ですか。ゲームによっては鱗が生えていることもあるのですが、この島のは毛皮ですね。
でも微妙に可愛くない‥‥不細工とも言い難いですが。実に微妙。

造作が微妙なのに加えて、短毛種ばかりというのが可愛く感じない理由でしょうか。
コボルドたちは地球の犬で言えばチワワやボクサーやダルメシアン系なんですよ。私の好みではありません。
まあ柴とかハスキーみたいなふさふさもこもこ系だと、常夏のこの島では熱中症になってしまうのでしょう。
オークたちもイノシシよりも豚に近く、体毛薄いですし。

店は全部でオークが9軒、コボルドが3軒ですか。
並んでいる商品というか交易品は、重なっていたり違っていたりですね。
鉱石や毛皮や骨細工などが商品の主流ですが、生鮮食品などのナマモノ類も扱っています。

客層は店主たちよりも多様です。数的にはオークとコボルドが多いですけど牛頭の大男(ミノタウロス)や、
肉食性としか思えない人相の巨人(オーガ)などの異種族もいます。
頭が馬や羊の種族もいますね、とりあえずミノヒッポス及びミノクリオスと呼ぶことにしましょう。


「グヒィ────!」
「「「グヒ──!!」」」
「ウォン ウォン ウォン!」

早速大勢に囲まれてしまいました。周りの商店や木陰物陰からワラワラと人外さんたちが集まってきて、
私たちに寄ってきてます。
そしてグェスは右手を挙げて挨拶しながら、肩に乗せた私の腰を支えて群衆へ見せびらかすように
ゆっくりと動いてます。

オーク族の挨拶にも色々あるのですが、利き腕を軽く上げ手の平を見せる挨拶ですね。
群衆達もそれぞれの部族や立場に応じた挨拶で応えています。


ふむふむ、この旅は私のお披露目も兼ねているのでしょうね。
写真や精密な似顔絵がない社会だから、直接顔を見せてないと人捜しもできませんから。

つまり、もし私が余所のオークに攫われたらグェスたちは「あの時つれていた子知らない?」と、ここで
聞き込みする訳です。
で、その結果「○○の奴が担いで自分の村へ持って帰ったぞ」などの情報が手にはいる と。

誘拐犯が余程上手く立ち回るかグェス達が総スカンくらっているのでもない限り、なんとかなる訳です。
有り得るのですよ、そういう展開も。
原始社会だと暴力と略奪はコミュニケーションの基本ですから。あーやだやだ。




グェスとオークや他の種族たちが話し始めてから半時間ぐらい経ちました。私は辺りや異種族達を観察中です。
コボルド族は毛並みや顔立ちの違いが大きく、下っ端オークたちよりずっと個人の区別が付けやすいですね。

比べるとオーク族は、幹部級オークは顔とかにも割と個性があるのですが下っ端達は見分けづらいです。
ただ、今ならうちの巣の連中と他の部族の下っ端は区別できますね。
腰ミノとかの意匠が違うこともありますが、表情や動きの雰囲気がわりと違います。
あれですね、ここの下っ端たちがヤンキー生徒ならうちの連中は文化部生徒ですね。
良く言えば穏和、悪く言えば軟弱です。

人だかりも大分減ってきたかな? しかし、なんかさっきからグェスの会話に不穏な単語が多いのですが。
「可愛い」とか「働き者」とか「メシウマ」とかいう意味の言葉が聞こえてきますが‥‥誉め殺しですか?
いや外見はそこそこだと思いますけどね。


数えてみるとこの広場には130人前後の人出があるようです。
六割以上がオークで一割少々がコボルド、ミノタウロスなど幾つかの種族が合計で一割程度。
残りの一割ちょっとが人間族。
もちろん人間族は全員が女で、それ以外の種族は男ばかり‥‥でもないか。
コボルドたちの中には雌らしき個体もいます。

十数人の女達は子供から大人‥‥十代前半から三十台後半までの年齢です。
少なくとも赤ん坊や老婆はいません。
おしなべて薄着ですが、金属や宝石などを使った細工物を競い合うように身に付けています。
表情は明るく肌艶や血色も良く、健康そうですね。
見るからに不幸そうな、辛い目にあっている女はいないようです。

いや、その、殆どの女が首輪と鎖を付けているのが、とっても気になりますけど。
無骨な鉄製のものもあれば金銀宝玉で飾られた華美なものまで色々ですが、どれも頑丈そうです。
私が毎朝飾り立てている女神様を繋いでいるのと違い、鎖も実用性ありまくりですね。

この場に首輪を付けていない人間族の女は私と、私より数歳年下らしき金髪美少女と、桃色がかった金という
地球にはない髪を持つ褐色の肌をした妊婦さんだけです。

あ、言うの忘れてましたが女達の半分近くは妊婦です。
中には私と同じぐらいの年齢で、臨月近くまでなっている娘もいます。

うん、拾ってくれた三人が紳士で良かった。流石にこの歳でママにはなりたくありません。
時間の問題なだけかもしれないけど、早いと遅いだけでも大した違いです。
結局は同じ結果になるなら何も違わないと言う人は、今すぐ首でも括れば良いのです。
結果が同じなら今すぐでも後でも違わないのでしょう? なら今すぐ首を括れ。どうせ人間はいつか死ぬのです。


この場で一番年少らしき女の子は首輪を付けていませんが、代わりに腰へ銀色の鎖を巻いています。
そして鎖の端は保護者らしい幹部オークが握っている訳で。
すると真の意味での例外は褐色妊婦さんぐらいかな? 周りに保護者や旦那様や主人と思しき雄もいませんし。

何というか雰囲気で、女達とそのパートナーの関係を察することができます。
どっちがどれだけ主導権握っているのかとか。
付き合い始めたばかりで初々しかったり、長年添い遂げて以心伝心だったりとか。おおまかにですけどね。

異世界人とはいえ、人間はやはり人間ですねー。表情読みやすいです。
みんなして幸せそうというか、不景気な顔している女はいませんね。機嫌良さそうな人が多いです。
月に一度のバザーに来てるのですから当然かな?


しかしあれですよねー、この女たちの殆ど、いや私以外のほぼ全員がやっちゃってるんですよねえ。
オークやミノタウロスと子作り。
というか今でも物陰でいちゃいちゃしているカップルがいますし、更にその奥で励んでいるらしき物音と声も
聞こえてきます。
暗がりの中で丸々とした肉塊に白くて細い手足が絡みついて、どこのエロゲ挿し絵ですかこれは。

だ、大丈夫ですよね?
ギュー・グェスは強いですから攫われる心配はないし、本人は紳士だから今すぐここでどうこうもされない筈。
少なくとも無理強いはしてきません。たぶん。

そう言えば女達の肌は全体的に白いですね。
日焼けしていない色白の白人か、色白の日本人ぐらいの色が多くて、濃淡合わせても褐色系が二割ぐらいです。
私はわりと色白な方かな。
気候的に言えばもっと色が濃い人が多いはずなのですが。私と同じく、女達も地元民じゃないのかな?


あと、金髪が異様に多い。半分近くが金や銀もしくはそれに近い金属質の色です。
茶や栗色も多めで、赤毛や黒髪は少数派ですね。
異世界人だからか、毛染めの文化があるのか、それともオーク達は金髪フェチなのか。また謎が増えました。

色白金髪でも、地球のコーカソイド系とは違う人種のようです。
と言うのも彼女達には、額が広くて鼻梁が長くて眼窩が落ち窪んでて目が細くて頬が鋭角的で顎が大きくて
しかも割れている、いわゆるゲルマン顔の持ち主がいません。
それっぽい特徴がある人もいますが極端なものではなく、日本人にも馴染みやすい顔立ちが多い。

こちらの世界にも多種多様の人種や民族がいるようです。
何人かは服を着替えたら日本人と言い張れそうな娘さんもいます。
もしかしたら私というか、この身体の元の持ち主のことを知っているかもしれません。
日本風の女達と、この身体が同郷だとすればの話ですが。



オーク達以外の情報源と出会い、興奮していた私は注意力が落ちていました。
いえ多分気付いていても反応できなかったと思いますが。

グェスを中心とした話の輪から つい と離れた下っ端オークがいきなり黒曜石のナイフで、私を結んでいる
飾り紐に切り付けてきたのです。
もちろん切れる訳がありません。
地球産の蜘蛛の糸ですら、同じ重量の鋼鉄より遙かに強いのです。
ましてファンタジー世界の、重たいものだとトン単位の獲物を捕らえる巨大クモの巣からとった糸を寄り合わせ
漆を塗った飾り紐を、石のナイフで切るのは不可能ではありませんが難しいでしょう。
そして力で無理矢理切ろうとすれば紐は動くし、紐がいきなり引っぱられれば私は転けるのです。

思わず反射的に、石畳の上で柔道の受け身をとった私が手を打った痛みに悶えるよりも早く、誘拐未遂犯は
ギュー・グエスの鉄拳で殴り倒されます。
ああ、このための腰紐でしたか。確かに後先考えずに暴走する輩はいますよね。

誘拐未遂犯は私が保護者のオーク戦士に助けおこされるよりも前に、その場のオークや異種族の男衆から
倒れているところに追い打ちくらって袋叩きにされました。





 ☆28日め3、待てやコラ☆


結局誘拐未遂犯は、袋叩きのあと縄で縛って浜辺に転がされました。処分を決めたのは私だけど。
いえ、グェスが重くない罰で済ませたい様子だったので、軽めの処分にしたのですよ。
縄は緩めにしておいたから気絶から覚めればすぐ解けるでしょう。
潮が満ちても目が覚めなかった場合はご愁傷様です。
誘拐未遂犯は魚の餌にならなくても、元の群から追放されるかもしれないそうですが私には関係ありません。


オーク族の掟では、他者の女を連れ去ること自体は合法です。成功したのならば。
で、失敗して捕らえられた間抜けをどう扱おうと、それは捕まえた側の自由な訳で。
捕まえられた間抜けを見捨てるのもそうしないのも、所属している群の自由。
周りのオークたちが未遂犯を袋叩きにしたのは、私が転んで痛がっていたからですね。

「オンナ、ナカス、ダメ」
「オンナ、タタク、マモル、ヨシ」

オークたちにとって女を痛めつけることは禁忌なのです。緊急避難的に、怪我か大怪我かのどちらかしか
選べないときにあえて怪我をさせることは有り得るようですが。

当然ですよね、彼らにとって人間の女とは自分か同族の嫁さん、しかも高い確率で妊婦な訳で。
おまけに彼らと比べると圧倒的に弱者。これを虐めるやつがいたら屑扱いでしょう。
不快にさせることもNG。わざと意地悪なんかしたら他のオークに袋叩きです。

この手の騒ぎはよくある事らしく、広場の空気はすぐに収まりました。
グェスも監督責任の追及とかしないようです。
甘いのか、一々気にしていたらきりがないからか。多分後者でしょう。


そんな訳で、やっとお披露目が終わって動けるようになりました。もうお昼はとっくの昔に過ぎています。
道中で摘んだ果実や巣から持ってきた手作り干し魚を、木陰でぱくついてお昼ご飯にます。
オークと違って人間は定期的に食べないといけないのです。
特に野外で動くなら、水分と塩分とタンパク質を取らないと身が持ちません。
グェスもウリとか食べてますけど、肉体的な必要があってそうしている訳ではなく、付き合いです。

ウォーゲーム風に言うなら、オークは物資搭載量が多いユニットなのですね。
しかも砂漠などの荒廃した土地でない限り、現地で物資調達ができる特殊能力付きの。
彼らはその気になれば雑草や腐葉土でも栄養源にできますから。
ゲリラ戦挑まれると死ぬほど嫌な相手ですねー。この世界の人類、よく滅ぼされずにやってるもんだ。

お昼ご飯が済んだら交易開始。洞窟の倉庫から持ってきたものを露天で交換します。
市場では物々交換が主流ですが、金貨やプラチナ硬貨も使ってますね。銀貨や銅貨も一応、通貨としての
価値があるようです。

動物の爪や牙は市場価値が低く、質の良い毛皮はそれなりに高価です。
私のお気に入りな虎毛皮は最高級品質で、市場の評判ではグェスたちは毛皮なめしの名人扱いですね。
なるほど、なめし作業を下っ端達にやらせない訳です。
下っ端たちが自力で集めた毛皮をなめす分には自由にさせていますが、自分たちの作業には一切関わらせて
ません。作業の邪魔にならない位置で黙って見ている事は許しています。



動物系素材や原石を宝石と交換して、大分身軽になりました。
それにしても決済早いですねー 細かい値段交渉とかしないのがオーク流なのでしょうか。
あと、干し貝とか干し肉は売らないのかな? 

それにしても日射しがきついです。毛皮のフードじゃなくて麦わら帽子が欲しいぐらい。
日傘とか開発すべきかなー 里芋の葉っぱの日除けだと長持ちしないし。


この店舗は店主こそ幹部級オークですが、仕切っているのは奥さんですね。
大柄だけど肥満体じゃなくて、脂がのった旬の魚みたいなぷりっぷりの肉付きをした女の人です。
歳は二十台後半かな? まず間違いなく経産婦。
黒絹のストッキングにガーターベルト、プラチナ装飾の本体に赤い宝石が埋め込まれた首輪、
そしてビキニ風に胸と腰を被う銀色の鎖帷子 と、いかにもオークに調教されましたという感じの格好です。

でもアップに結い上げた栗色の髪と、顔の縁なし眼鏡が文明人の矜持とでも言うべきものを感じさせますね。
口紅など化粧品の使い方一つとってもセンスが違います。
言っては何ですが、広場の女達の中にはせっかくの容姿を化粧の拙さで割り引かせてる人もいます。


眼鏡の奥さんはいわゆる貴種ではありませんが、それなりに裕福で教養のある家庭出身と見ました。
食うや食わずの生活を続けて育ったのではなさそうです。てきぱきと下っ端達をつかっている様子からも、
彼女が自分の意志と知恵でこの店や夫に貢献している事が解ります。

うん、堕ちてる。完全に、精神的な意味で。
暴力に屈したり快楽に溺れたりではなく、この人は心の底から夫オークが好きなんだ。
いや、間接的な暴力や快楽による調教はあったのかもしれないけど、それを忘れるぐらいに馴染んでる。

で、その夫オークの方は、店を奥さんに任せてもう一人の奥さんを可愛がってます。
私と同年代もしくはやや年下の、臨月近い大きなお腹をした女の子、もちろん首輪付きのを膝の上に乗せ、
優しく撫で回しています。特にお腹を。

服装と言うか格好は眼鏡の方の奥さんと同じですね、ストッキングは色違いでこちらは薄い灰色ですが。
胸の鎖帷子がズレてて小さなふくらみが露出していますが、グェスは礼儀正しく無視してます。
周りの店員さんとかの下っ端オークたちは、いちゃいちゃしている店主たちを羨ましそうにチラ見してる。
ガン見している店員も偶にいて、店長や手代のオーク達に拳骨くらってます。

ええもう「モウスグ、ウマレル、オレ、ウレシイ」「イトシイヒト、オタネ、タクサン、オカゲ」
「カワイイ、オンナ」「イトシイヒト、ズット、イッショ、ハナレル、イヤ」とか、断片的に聞こえてくる
だけでも蜂蜜トークです。
こちらも完堕ちですね。あんな歳なのに、もうすっかり女の表情になってます。

こうなると他人事ながらもう一人の嫉妬が怖いですが、さほど気にしていない様子です。
ふむ、年下の新妻が夫といちゃいちゃしてるのに特に嫉妬していないとすると、この店主リアルハーレム
持ちには必須とされる家庭円満の秘術でも持っているのでしょうか。



「ルェイ、イク、オク」

商談を済ませたギュー・グェスの肩に乗って広場の向こうへ、ひときわ大きな建物へ向かいます。
女達と話してみたかったのですが、グェスが

「オオハハサマ、アウ」

と言っているので後にします。そう、この拠点、交易所にして大神殿の主に今から会いに行くのです。
大母様といってもグェスの直接の祖母や曾祖母ではなく、マザーなんとかやパパなんとかと同じように、
親しみを込めた敬称だそうです。


「‥‥‥‥えっと、あれ、何?」
「?」

広場の端まで来て、見事な彫刻の施されたアーチ状門を見上げた私が指さしたものを、グェスは怪訝そうに
見上げます。

「シルシ(ルーン)」
「印?」
「コントン、ホウ、フタツ、シルシ」

知らないの? とでも言いたげなグェスの表情からすると、ごく普通に、それこそ神殿や祠なら何処にでも
ある印らしい‥‥。
日本人にとっての鳥居みたいなものでしょうか。

両方とも一枚の大理石岩盤から削り出されたらしい、手間も費用もかかっていると一目で分かる代物です。
これも魔王の手によるものでしょう。オークたちが造ったならもっと大雑把な出来になる筈です。

はあ、これが混沌(カオス)と法(ロウ)の聖印ですか。卍とかアンクとかクルスとかと同じだと。
改めて、門の上に飾られている石材のオブジェを見上げます。

法のルーンとやらは、円形の輪(リング)の下に十字そして上に矢印を付けたデザインでした。
つまり♂マークと♀マークの合体です。
‥‥この世界のロウ勢力って何? 
オカマですか? サドのヒロインにペニパンで犯されちゃう男の娘なんですか!?

混沌のルーンはもっと酷い。
三重の円を中心のみ除いて縦棒が貫き、外の円に左右と斜めの計六方向に短い線放射状の線がついている。
早い話、その昔便所の落書きに時々あった卑猥なマークです。女性器を表すアレ。


この世界の設定決めた奴出てこい。助走して勢いのせた上で殴るから。石で。




 ☆28日め4、ミロのヴィーナスって本当は何の像なのか分からないそうです☆


なんか嫌な予感はしていたんですよ、この世界。
オーク語のなかに時折英単語らしきものが混じってましたし。アックス(鉄斧)とかボート(船)とかね。
あ、オーク族は大きな船もボート呼ばわりしてます。

そのときは「他の転生者の影響かも」と軽く流していたのですが、まさか世界中というか文明全体レベルで
何者かの干渉を受けているとは‥‥。

なんてこったい。しかも、どう考えても決めた奴から好意や善意を感じませんよ。
あの二大勢力のルーンデザインに込められた冷笑的悪意と性に関する不慣れさからして、設定者は重度の
中二病患者かそれともリアル中学生なのか。
そして少なくともこの近辺の文化は、そんなのに弄り回されている可能性が大。

いったいどうなってるんだこの世界。知りたくないけど知るしかない、のか。やれやれ。


「グヒィー?」
「もう大丈夫。心配させてごめんね」

突如頭を抱えて悩みだした私を、控え室らしき部屋に運んで水を与えたり毛皮で扇いだりしていたグェスに謝り、
頭を撫でます。普段はともかく二人っきりだと甘えてくることもあるのですよ、この族長オークは。


「はぅんっ あっ ああっ イイッ」
「グヒッグヒッ」

早くここを去りましょう。
大母様を待たせているし、衝立の向こう側で盛ってるカップルの気が散ると気の毒ですから。

部屋を出るときにちらりと見えた衝立の向こうでは、外で見た年下の女の子がオークの顔に跨って喘いで
いました。首輪を付けていなかったあの娘です。

ほんの少し見ただけでしたけど、綺麗な娘でした。今は女の私でも将来が楽しみになってしまうぐらいの。
白い肌を真っ赤に染めて恥じらいながら、見事な金髪を振り乱して悦びの声を上げて‥‥ エロいなあ。
一瞬視線が会ってしまった、微笑む金髪幼女の余裕に満ちた笑顔がまだ脳裏に貼り付いている。
初対面の年下小娘に格下認定されちゃったけど、それがちっとも悔しくない。
まあ、私は精神的に男のままですからね。彼女よりもむしろ乗っかられていたオークの方が羨ましい。


黙っているとなんだか気まずいので、話の一つも振ってみましょう。

「んー やっぱり金髪の娘がもてるのかな?」
「ソウデモナイ」

グェスが言うには、髪の色に拘るオークもいるけど拘らないオークの方が多いとか。
産毛以外の体毛が殆どないオーク族にとっては、髪があるというだけで女の魅力になるのです。
綺麗な髪ならなお良し、そして長さ。色合いは二の次三の次の話題ですね。
前世でならおっぱい談義が近いかもしれません。
男の大半にとって、胸の大きさはそうたいした問題ではない、という意味で。


さて、控え室から出て本殿の方に向かいますか。
天井や壁に埋め込まれた水晶柱が光っているので、屋内とはおもえないほど明るいですね。
天井も高いし風通しも良いし、ここなら住み心地よさそうです。

幅広の廊下には壁際に奇妙な像が幾つも並んで飾られていました。いえ、像のデザインそのものはごく普通です。
人間の成人女性ですから。こちらにももれなく首輪と鎖が付いてますが。
妙なのは、それらの女神像が全部船首像だってことです。
フィギュア・ヘッド。大型帆船とかの舳先に付いてるアレです。

人間の数倍サイズですが上半身だけなのでそれほど大きくは感じませんね。ジオング理論?
殆どが木製ですが、何個かは金属製のものもあります。
で、それらの船首像なのですが腕が省略されているものには袖が付けられ、腰から下にはスカートや腰布が
布や毛皮で巻かれ、その下には詰め物が入っています。五体満足の身体に見えるようにしているのですね。

そういえばうちの御神体も、欠けていた下半身をなんとかごまかそうとしていた痕跡がありましたね。
あれも文化的な意味があっての事だったのでしょうか?

ん? 船首像の後の壁に掘られている記号は何でしょう? 
月と星座と単独の星と‥‥まさか、カレンダーですか?

間違いない、これは日付です。手前の船首像ほど古びていて壁に刻まれた月日も昔です。

「イクサ、カツ、フネ、シズム、オンナ、タスケル」


‥‥捕虜? いや彼らにとっては女神の奪取かな?
そういえば狩猟民族にとって野生動物はそれ自体が神や精霊達の贈り物で、それを狩らないことは神や精霊に
背くことであると考える文化があるとか。

遊牧民になると更に露骨で、負かした敵から奪う財貨は当然の報酬であり、正当な配当を受け取る事は勝者の
義務ですらあるのです。原始もしくは古代社会においては特に。

するとこの合計17体の船首像は文字通りのトロフィーですか。戦勝記録。
ん? オークは航海技術を持ってなくて海には特に思い入れもなかった筈ですが?
彼らも海で戦うことがあるのでしょうか?


詳しく質問したいですけど今はその余裕がありません。




 ☆28日め5、祈り☆


神殿の奥、お寺で言うなら本堂ですねここは。元は魔王城の大広間、公式な儀礼を行う場所だったのでしょう。
中には誰もいません。私たちだけです。

大きな広間なのに柱が立っていませんが‥‥ははあ、成る程。
つや消し加工された金属質の、頑強そうな素材で作られたアーチ型の梁が放射状に天井を支えています。
天井や壁の上側には色とりどりの天然水晶が花が咲くように埋め込まれていて、外からの光を通して輝いている。
これがこの世界風ステンドグラスですか。お金かけてますねえ。

入り口の反対側、一段高くなった所に黒い金属製の玉座が置かれ、そこに大柄で太めのオーク像が座ってます。
マントと褌以外は腕輪と首飾りしか身に付けていません。
これがオールクゥス神の像だそうです。
三人で言えばレェ・ウォスに一番似ているかな? 人相的な意味で。

て、ことは玉座の両脇と斜め後ろにある四つと、やや離れた位置にある一つの像が五大女神の像ですか。
十代の初めと終わり、そして二十台の初めと後半の四柱が地水火風四大の神々で、離れている十代半ばの神像が
月と星そして太陽を司る神ルミナァサですね。
名前は書いていないけど身に付けているもので察しが付きます。

どの像も等身大で、ギリシャ彫刻のように写実的な作風です。ただしギリシャ彫刻と違ってフルカラーです。
女神像の殆どの部分が肌色に塗られている。
ピンクがかってたり、抜けるように色白だったり、やや濃いめの色だったりで肌の色はそれぞれ違います。
オールクゥス神の地肌は明るい茶色ですね。

確かローマ時代の彫刻は写実的な色が塗られていて、遠目には生身の人と見間違いそうな像も多かったとか。
オークたちもローマ人と同じく具体派の芸術を好んでいるのでしょう。彼らも風呂好きだし。

うーむ。確かによく出来た像だけど、うちの御神体と比べると数段見劣りしますね。主に美人さの点で。
大河ドラマとか見て「あんな役者使うな」と愚痴をこぼす歴史好きの気分が少し分かりますね。
この造型レベルで主神級女神の像を名乗られては困ります。


グェスは四柱の女神に傅かれた主神像の所まで歩き、肩から降ろした私と並んで祭壇の前に立ちました。
そして荷物の中から乾物や蟻蜜やラム酒の壷や最上の毛皮を取りだし、祭壇に並べます。
ああ、干し貝とかを売らなかったのはこのためでしたか。

供物を並べたグェスは片膝をつき、両手を地に付けて祈り始めました。
むう。私も祈った方が良いかな? グェスの横にぺたんと正座して、両手を合わせて目をつぶります。
ええと何か祈ること祈ること‥‥特に神頼みすることもないので感謝の祈りでいいか。

始めましてオールクゥス様。グェスたち兄弟を紳士に育ててくださったことに感謝致します。

実際に育てたのは親たちだろうけど、その群や種族を守護しているのはこの天界ハーレム王な訳で。
このファンタジーな世界に神様が実在するのなら、オールクゥス神には感謝しても良いのです。
オークたちに養って貰っている身としては。

「グヒィー」

一分ほど祈った後、グェスは立ち上がりました。お供物は‥‥え!? 消えている???
そんな馬鹿な、目を瞑っていたとはいえ誰か来たら音や気配で分かる筈なのに。
絡繰り仕掛け‥‥いや、これもマジックアイテムでしょうか!?

つるつるに磨き上げられた白い石の祭壇に触って、脳内の知識の繋ぎ口を開きます。
洞窟にあったブラシとかのアイテムと同じなら、これで脳に使い方が流れ込んで来る筈!

【調停の神々の祭壇】
・神に祈るために使う祭器だ
・それは厳かだ
・それは石でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは調停の神々と交感できる
・それは供物を捧げることができる
・それはとても重たい
・それは入信者以上の信仰技能がないと使えない
※あなたは使用条件を満たしている


‥‥‥‥うわぁ  なにがなんだかとってもうわぁ。
いるんだ神々。
この世界には神そのものか神と名乗って許される超越者なのかはともかく、実在するんですね。

えーと、供物供物‥‥条件は私にとって価値があり、捧げる神格の嗜好や加護に関わるものですか。
食べ物系が無難ですね。蟻蜜にしてみますか。

さっきは舐めた口たたいてごめんなさい。でもオールクゥス様に感謝したいのは本当です。

そして祭壇に捧げた一掴みの蟻蜜は、私の目の前で祈りに合わせて音もなく消え去ったのでした。
うん、本物だ。奇跡が日常の社会なら、そりゃ誰でも信心深くなるわ。
なんだか前にも増して神像が厳かに見えます。ただでさえ頼れそうと言うか強そうなオーク像ですし。



「ギュー・グェス、イノリ、スマセタカ」

後から誰かが話しかけて来ました。
オーク語ですけど、オークではなく人間の女の人の声です。

「オオハハサマ、コレ、ルェイ。ヒロッタ、ヒノヤマ、フモト」

あれ? グェスが緊張している?
祭壇の前から立ち上がり振り向くと、そこにいたのは見覚えのある褐色の妊婦さんでした。
広場で唯一人、首輪も鎖も紐も身に付けていなかったあの人です。
赤紫の薄絹の、踊り子さんの衣装っぽい衣を纏っていますね。装飾品は特になし。
あえていうなら衣に珊瑚の珠や象牙質の輪が付いているぐらいです。

でも、なんていうか気配と言うか雰囲気が違う。
本当の大物にしか出せない、風格とでも言うべきものがあります。


私より頭一つ分くらい背が高くて、地球基準で言えば細身の身体ですね。
まだ若いけど娘じゃなくって母親の体型しています。
顔はやや派手目で、前世の私の好みではありませんがかなりの美人。
小顔で垂れ目気味で顎が細くて耳が‥‥  凄 く 、 長 い で す 。

エルフだ、この人。
オークの島の大巫女はエルフでした。あー そりゃ尊称も付くでしょう、何百年も現役の聖職者がいたら。




 ☆28日め6、神話って大概元ネタがあるのです☆


※~

むかしむかしそのむかし、この島は暴虐な魔王に支配されておりました。
「鉄の王」と呼ばれるその魔王は、鋼鉄の軍団を率いて島に攻め込みそのまま乗っ取ってしまったのです。
侵略に対し島の諸部族は勇敢に戦いましたが、天から鉄の雨を降らし地から鉄の茨森を生やす魔王の大魔法と、
鋼鉄の武器で武装した小人や鋼鉄の巨人に乗った魔女たちの軍勢には勝てませんでした。

戦いに敗れたオークたちは女子供を連れて山中の洞窟や深い森の奥に逃げ込みました。
魔王は戯れに山を削り森を燃やし、野と水辺に沢山の怪物を解き放ちました。
オークたちは放たれた怪物と戦いましたが、次第次第に追いつめられていきました。

追いつめられ捕らえられたオークや、戦わずに降ったものたちは、幼い子供らを除いてみな殺されました。
あるオークは一本ずつ槍を刺されて殺され、あるオークは生きたまま火で炙り殺されました。
女達は孕んでいる者もそうでない者も一人残らず腹を割かれ、はらわたを引き出されて死んでいきました。

そして子供らはゴミ捨て穴の中に閉じこめられました。穴の扉は一日の内太陽が一番高く昇る時だけ開かれ、
その僅かなときに魔王の手下はゴミ屑や死骸や糞尿を投げ込み、子供たちに石や鉄の雨を浴びせました。
ゴミと汚物の中で仲間が一人また一人と減っていくなかで、子供たちは絶望に喘いでいました。

そのとき、ゴミ穴に女神が降り立ちました。
オークの守り神オールクゥスが我が娘を地上へ送り込んだのです。
オールクゥスの娘は、奇跡を起こして神の助けが来たことを信じない子供らを説得し、地下に抜け穴を掘って
一人また一人と子供らを逃がしました。

オールクゥスの娘は魔王城の墓場と屠殺場を漁り、人とイノシシの骨を見つけるとそれを子供一人を逃がす
ごとにゴミ穴にいれました。
魔王の手下はゴミ捨て穴の扉を開けるたびに子供が減って骨が増えているのを見て、オークの子供らが共食い
をしていると思い込み、笑いころげました。

こうして、二十人の子供らが魔王の城から逃げ出しました。
オールクゥスの娘は、魔王が放った怪物を殺せば自分たちが逃げ出したことに気付かれると分かっていました。
なので魔王の手下もやってこない、島の奥の奥にある洞窟の更に奥で隠れ潜むことにしたのです。
こうしてオールクゥスの娘に率いられた子供らは、山の中の一番深い洞窟にこもり、湧き水で咽を潤し、
時折迷い込む大コウモリや大ネズミを捕らえて生き延びました。

「鉄の王」に勝つには強い戦士がたくさんいると考えたオールクゥスの娘は、二十人のオークが五人になるまで
互いに戦わせました。そして残った五人を自らの戦士にして、その子供を産みました。

もっともっと沢山の、強い戦士がいると考えたオールクゥスの娘は、天界に援軍を頼みました。やがてその願い
に応えて五柱の女神達が降り立ち、オールクゥスの娘と共に最も強い戦士達の子を産みました。

女神達はその神力で食べ物を作り出し、自分の子とその父親達に分け与えました。しかしその数は限られていて、
オークたちはなかなか数が増えませんでした。

「鉄の王」とその軍勢を倒すには、とてもとても強い戦士たちを揃えないといけないと考えた女神達は、あえて
オークの数を増やしませんでした。女神達はより強いオークの子を産みましたが、戦士がそれ以上に強くならな
いと次の子を産むことはありませんでした。
戦士達は女神の産んだ息子や兄弟達と競い合いながら腕を磨いていきました。

そして、ついに約束の時が来ました。女神達が認める戦士の中の戦士たちが、十の十倍揃ったのです。
オークたちは洞窟を出て、魔王とその軍勢に戦いを挑みました。


~※


と、これで前半終了です。

ここは神殿の一室。エルフの大母様の語る伝承を、女達だけで聞いていたのです。
ちなみにグェスは酒盛りに行ってます。付き合いって奴ですね。
元男で社畜経験有りな身として快く送り出しました。


いえね、私はこのあたりの文化とか何にも知らないじゃありませんか。
だから大母様に色々と聞いてみようと思ったのですが、偉い人がそんなに暇な訳がありません。
結局、大母様の後についていきながらその言葉を聞いて学習することになりました。

で、早速ですが幾つか分かったことがあります。
共通語(コモン)って凄く簡単です。オーク語よりずっと。
単語の羅列だけでも使えるし、曖昧な部分や不規則性がないのですぐに憶えられます。その分奥も浅そうですが。

そんな訳で大母様と一緒に、神殿奥の男子禁制な部屋でお茶会したり、お喋りしたり、物語を聞いたり語ったり
しているレイちゃんなのでした。
お茶はグァバ茶やミント茶です。女達のなかに茶を飲む人々がいて、故郷の味を再現したり広めたりしています。

ためしに試作品の麦もどき茶を出してみましたが、そこそこ好評です。
お茶請けに出した煎りクルミの糖衣かけや蟻蜜には到底及びませんでしたけどね。やはり甘いは正義か。


さて、神話とはその民族の無意識を語っているものです。
つまり先程からの物語もオークの文化文明を理解する重要な手がかりになる筈なのですが‥‥
今はちょっとその暇がありません。

「イ、イタイ! イタタタタァッ」

後半が始まる前に、最年少の妊婦が産気づいてしまいました。
そう、広場で店主オークといちゃいちゃしていたあの娘です。





 ☆28日め7、すっぽん☆


無事出産しました。
いや、その、私にも何が何だか。

陣痛おこした、私と同年代かむしろ若年の妊婦さんが広間に運ばれ、呼び出されたダーリンオークに手を握って
貰って励まされながら、一時間もかからずに産んでしまいました。もうあっさりと。
今は胎盤やへその緒の処置も終わり、産湯を使った赤ん坊は母親の乳を吸っています。
旦那さんオークも眼鏡の奥さんも嬉しそうに幼妻と赤子の世話をやいてます。仲良いなあ本当に。

はて? お産って、もっと時間がかかるものじゃありませんでしたっけ?
従妹のときもかなり時間がかかったと聞いてますし。
特に初産で母体が幼い場合、安産でも10時間20時間かかることは珍しくもない筈なのですが。

Q、お産ってこんなものでしたっけ?
A、オークの子だとこんなものです。

大母様たちに聞いたら直ぐに答えが返ってきました。
彼女や周りの経産婦達によれば、オークの子が難産になったことなど聞いたこともないとか。

あー そういえば、妙だとは思っていたのですよ。
オークたちって、人間の女体美が好きで人間の女と子作りするのも大好きなのに、妊婦の姿をした像や呪物が
全く見あたらないんですよ。巣にも神殿にも。

縄文期の土偶などのように、人類にとって出産は難業、奇跡を祈りたくなる出来事の筆頭だった訳です。
少なくともこの百万年かそこらは。


つまり、オーク族や彼らの子を産む女たちにとって、出産は怖くも危なくもないことなのでは?
時代劇で岡っ引きのおかみさんが、旦那が家を出るときに火打ち石で厄払いしますよね。
あれは、一々そんな儀式が必要なくらい岡っ引きは危ない仕事だからです。
家を一歩出れば七人の敵がいるという諺が洒落にならないくらいに。
彼らは元々ヤクザ屋さんで、岡っ引きはそれに加えて権力の走狗なのですから当然だけど。


流産や死産、産後の肥立ちなど出産関係の危険性がゼロに等しいのがオークという生き物だとしたら、
そりゃ呪物を作って拝んだりしませんよ。彼らにとって女とは、必ず子を産んでくれる存在なのです。
現代人が日食の度に「世界の滅びるときが来た」と騒いで生け贄捧げたりしないように、オーク達は
出産そのものに命の危険があるとは考えない。

実際の話、子供が産めない筈の女、いわゆる石女がオークの子をばんばん孕んで産むのがこの島の
日常だそうです。
安産のお守りはこの島では需要がありません。
あと産まれた直後はともかく、目が開いてからは赤ん坊を壊れ物扱いしたりもしないのだとか。

病気一つせずにぐんぐん育って、一年で大人になるのがオーク族なのです。
この島では、オークの主な死因は戦闘か事故かモンスターかであって、飢えと疫病ではありません。


‥‥ファンタジーって凄いや。
あれですよね、オークの赤ん坊ってサイズ的には人間の新生児と同じかむしろ大きいぐらいなのです。
ただし人間と比較して頭が小さいというか頭蓋骨の幅が細い上に、関節の自由度が高いのですよ。
観察した限りでは、です。

大人オークでも、大打撃を受けると頭蓋骨がずれて衝撃を逃がすのです。
新生児オークの頭蓋骨関節が柔軟でも不思議はありません。
問題は柔らかいはずの脳をどうやって守っているかですね。何かファンタジーな秘訣でもあるのでしょうか?


大母様たちが言うには、オークの子を産むことは苦痛ではなく快楽であって、最初は少し痛いけど産めば
産むほど気持ちよくなり、痛みも減るのだとか。
早い場合は四~五人、遅くとも七~八人目を産む頃にはもう、孕むときの悦びより産むときの悦びの方が
優るようになるそうです。

眼鏡の奥さんとかも、オーク出産の回数を重ねるごとに分娩が楽になっていくことや、陣痛が怖くなくなり
むしろ楽しめるようになっていくことを認めています。
痛いのが気持ち良いって‥‥陣痛が楽しめるならそりゃ究極のどMですね。



21世紀でも人類が完全には克服できない問題をあっさりクリアしているのですか。なんというチート生物。
経産婦たちが初産や妊娠前の女達に、妊娠と出産の喜びをここぞとばかりにアピールしてます。

「コドモ、ハラム、タノシ、ウム、モット、タノシ」
「ソウソウ、ニドメ、ハラム、モット、モット、タノシ」

ここの女達、私を除く全員がオークと子作りもしくはその準備段階な事しちゃってるし、半分以上が子供産んだ
ことがあるしで、完全にオーク贔屓なのですね。たとえ帰れるとしても故郷には帰らないぐらいに。

「コドモ、ソダツ、シアワセ」
「トテモ、シアワセ、タクサン、ウム、ヨシ」

更に言うと産んだ子供と別れる気にはなれませんか。そうですよね。
血を分けた我が子が愛しいのは何処でも一緒か。地球と同じく、例外もあるのでしょうが。





 ☆28日め8、やっぱり詰んでました☆


物語の最後は聞き損ねました。寝てしまいましたから。
今日は朝早くから起きっぱなしだったので、後半部分の終わり際で活動源界時間が来てしまいました。
つまり寝落ちです。

一応三人から大雑把な話は聞いているのですけど、大母様の話の方が詳しいですね。



その後、壮絶な戦いの末に魔王軍は敗れました。
魔王が倒されたときには十の十倍いた精鋭達は片手で数えられる程しか残りませんでした。
オーク式の数え方で片手だから20名以下としても、死亡率八割って‥‥文字通りの全滅じゃないですか。
酷い戦もあったものです。

その後、生きのこった戦士たちは魔王軍に捕らえられていたオークや女達を解放し、残党を掃討し、魔王の
集めた宝を奪いに来た余所の島の諸部族を撃退しました。

余所から来た部族のうち、トカゲ族だけは宝を奪うのではなく取り引きで手に入れようとしました。
トカゲ族は魔王の手下の船を沈め、魔王軍残党が連れて逃げようとした女達を保護して、宝と引き替えに
島へ送り返しました。

トカゲ族や、トカゲ族と同盟した部族は今も女達を集めて島に連れてきます。
なので今もオークたちは宝を集めて女達と交換するのです。


で、ここのあたりで意識が飛んでしまいました。あとはぐっすりです。



目が覚めたらもう夜中でした。
同じ部屋にいたギュー・グェスに頼んでトイレへ連れて行って貰って、ついでに水浴びもして、その後に
海が見える城壁の上に来ました。
熱帯の海岸なので夜になっても涼しくなりませんが、暑くはないし風があるのでまずまずの過ごし易さです。
少なくとも日本の熱帯夜よりはマシです。あれはインド人でも音を上げますから。

はあ、今まで断片的だった情報が組合わさってきましたよ。
残っている調度品や壁画などからみて、「鉄の王」は人類文明圏の大国かその走狗だったのでしょう。
つまりここは原住民の反乱が成功した元植民地という訳です。

近代の西洋列強が強すぎたせいで馴染みにくい概念ですが、実は技術的に優れていた筈の入植者が現地民に
敗れ呑み込まれていった例は少なくないのです。植民地を無事保てた例の方が少ないぐらいです。
有史以前の日本にしても、稲の大規模水耕栽培技術や鉄を持って入植した渡来人を征服した縄文人たちが、
自らの技術や文化に渡来人のものを取り入れて、その結果として弥生人になった訳ですし。

西洋列強の無敵っぷりは技術や国力だけでなく、疫病や策略も込みでの結果ですからねー。
まあ、なによりも欧州という特殊な地勢があっての話ですが。
ヨーロッパ地域がもう少し平らだったり逆に山だらけだったなら、歴史は確実に違っていたでしょう。

北米だって、たまたま植民した現地の先住民がお人好し揃いだったから、欧州からの入植者たちは生き延び
られたのであって、そうでなければ初年の冬に飢えて全滅している筈なんですよね。
その後おもいっきり恩を仇で返されましたけどね、原住民は。




この世界には幾つかの文明圏が存在し、互いに交流したり対立したりで群雄割拠しています。
この近辺ではトカゲ族(リザードマン)と人類(ヒューマン)の文明が二大勢力で、その他幾つもの中小勢力が
同盟したり従属したり中立を守ったり、はたまた交流を絶って立て籠もったりしています。
この島はトカゲ帝国寄りの中立勢力~実質従属状態の同盟勢力のうち、何処かに立ち位置があるのでしょう。

グェスたちの母親や昼間会った女達は人類文明圏から売られてきた奴隷で、オーク族は外部からお嫁さんを
買い入れて繁殖しているのです。
買われた女達はこの神殿で、大巫女の大母様に指導されて半年から数年の花嫁修業を積みます。
そして充分に修行を積みオークの嫁になる覚悟が決まった女達は、彼女たちを見染めたオークのところへ
送り出される、と。

なんか、このときに一応拒否権もあるみたいですね。求婚相手に勝てば、嫁に行かなくて良いそうです。
‥‥‥‥オークに勝てと? 人間の女が?

「ツヨイ、オンナ、カツ」

勝てることもあるそうです。
鍛えれば女でもそこそこは闘えますし、オーク側には武装とか色々制限が付きますので。
負ければそのままお持ち帰りですね。基本が変態紳士なので虐待とかはないでしょうが。


大母様はエルフです。何百年も生きていて、当然ながら魔王戦争のときも現役だった筈。
大神官で建国の母で解放戦争の英雄、しかも老害どころか叡智を極めた大賢者。
そして嫁や母親や婆様たちのお師匠様。

そりゃ誰も逆らいませんよね、賢人政治の理想像みたいなものですし。
大母様の前ではどんな戦士も子供同然です。

いえ、実際にこの島のオークは、少なくない割合で大母様の子孫な訳ですが。
本当に神の化身なのかはともかく、そう崇められた女達が百年以上前に実在していたのは確かな訳で。
そのなかの一人だった女エルフが今も生きて子孫達を導いているのですね。
‥‥ファンタジーですねえ。

待てよ? 一般人にも姿が見えて、話せて、触れて、法力まで振るう弘法大師が今もお遍路を歩き回っている
四国みたいなものと考えれば、それほどぶっ飛んだ世界観でもないかな。普通ふつう。



やはりここは人間世界の勢力圏外でした、最寄りの大都市から千キロ単位で離れています。
この島から出るにはリザードマンの軍艦か人間の海賊船が必要で、しかも無事に辿り着ける保証はありません。
外洋もモンスターで溢れかえってますから。

もっとも今の私がグェスたちの庇護下から離れたら、即とっ捕まって奴隷行きですけどね。
人間の文明圏自体も、無知で非力で天涯孤独な小娘に優しい環境ではなさそうですし。

例えば眼鏡の奥さんは、とある大国の新興貴族のお屋敷で侍女をしていたそうですが、若旦那に見染められて
手込めにされ孕まされたあげく、若旦那の婚約者に睨まれて奴隷に売られたのだとか。
どうもその国、王侯貴族かそれに匹敵する金持ちでないと人権はないも同然らしいです。

で、銅貨一枚でトカゲ人商人に売られた眼鏡の侍女さんはこの島に転売され、半年余りの花嫁修行の後、
お腹にいた娘と一緒にオークに嫁入りしたのです。
その娘さんはこの島ですくすくと育ってまして、同じ巣や近所の住人達から「是非嫁に」と望まれているとか。

他にも大勢いますが、借金のカタにされたとか、戦で負けて捕らえられ売られたとかはまだ良い方です。
なかには市場で買い物していたら強制徴募と称して有無をいわさず船に連れ込まれ、さんざん弄ばれた末に
船員として役に立たないからと反逆罪に問われ、そのまま奴隷に売られた女もいました。

まあ、中~近世世界なら珍しくもありませんね。
日本でも上杉謙信とか‥‥いや、あっちは男の労働奴隷目当てでしたか。
有馬氏とか大村氏とかのキリシタン大名の方が近いですね、領民を売って金稼ぐあたり。


オークに人間の男奴隷は売れません。全くではないにしろ売れいきは悪い。
特にこの島だとさせる仕事もありませんし、とても貴重な技術持ちならあるいは? といったところですか。
でも女奴隷は良い値で売れます。特に強くて特技持ちだと高値が付きます。

眼鏡の奥さんは腕っ節はダメですけど高い教養の持ち主で、七つの言語と五つの文字を使いこなし計数や
簿記の技能を持っています。今では夫と共に部族の金庫番を任されているとか。
ついつい昔の癖で儲けを出そうとして、夫に叱られちゃうの(意訳) と笑う奥さんはとても幸せそうでした。

オーク族は相手の足下を見た商売を好まないのです。気に入らなければぶん殴るのが彼らの流儀ですから。
相手の弱みにつけ込んで暴利を貪ることは卑怯者のやり口。ぎりぎりの線を狙うのも下劣であるとされます。
昼間の市場も交易の場と言うよりは、むしろ部族の交流や財産の誇示の場が近いのかもしれません。
交換レートは店舗側が有利ですが、各店舗は上がりの中からかなりの分を神殿に喜捨するので、大儲けして
いる訳でもないのです。


そして神殿は集めた富と物資で外から奴隷を買い込み、買い込んだ女達を何処に出しても恥ずかしくない
お嫁さんに鍛え上げる、と。
神殿の運営は大母様とその弟子の巫女たちが切り回していて、各地の集落から来たオーク戦士たちが奉仕と
修行を兼ねて警備に就き、下っ端たちが雑用で働くのです。

‥‥‥‥これ、宗教国家っていいませんか? ねえ?


航海技術がないオークたちは、嫁さんが欲しけりゃ神殿に従うか喧嘩を売るかの二択になる訳で。
で、カリスマの権化みたいな、教祖にして教主な大聖人がガッチリ統率している宗教組織は根本的には腐敗や
堕落と無縁なので少々の不満持ちが騒いだところで喧嘩にもなりません。
というか不満があっても騒がないかも。
大母様に直訴されれば隠し通せる不正なんてありゃしないのですから。

うん、こりゃ余程の外圧がないとひっくり返らないや。魔王の再侵略とか。


さて、オーク社会の将来はひとまず置いといて、私の将来なのですが。
どうしましょう? 本気でオークのお嫁さん以外の未来が見えてきません。

どうにかして船を造り島を出る → モンスターの餌。
トカゲ人の船に乗る → 即、奴隷。
海賊の船に乗る → 即、奴隷。
裏切られない程度にまで強くなる → どうやって? 誰に稽古して貰うの?
神殿で修行する → やったねレイちゃん、数年後にはお嫁さんだよ!

神殿で強くなるまで修行して、異世界知識フル稼働でグェスたちに借りを返して、グェスの指も生やして、
私の代わりになるお嫁さんも世話して、それから外の世界へ旅に出て‥‥。


うん。むりでしょそれは。ちーとどころかわたしはむのうなのに。







[38600] 9
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:48


 ☆29日め、美女と触手☆


今朝は日の出より先に目が覚めてしまいました。せっかくだから神殿の見物でもしますか。
神殿の奥は男子禁制なので、気が楽です。
いやもう、うちの巣でさえも周りが男ばっかりで気を使うのに、市場とかは見知らぬオークや他の人型種族で
いっぱいだから気が抜けないんですよ。
安全だと分かっている場所でも熱い視線が鬱陶しくなるときがあるのに、市場だと実際に誘拐の危険性まで
加わるのですから堪りません。

もし地球に帰ったとしたら、私は女性専用列車に文句言わないことにします。
周りの異性全員が、いざとなれば暴力で自分を好きに出来る能力を持っている環境って、疲れますよこれは。
小国の悲哀ってこんな感じなんでしょうか?
この島ほど極端ではないにしろ、地球でも男女間の体力差はちょっとした超能力なみだから、女達が男を
怖れる理由が今なら少しだけ解ります。

まあ、逆に言えば男の方も痴漢冤罪という呪術の前に無防備で晒されている訳ですけどね。
だからこそ、地球に帰ったら声を大にして主張したいのです。男性専用列車も作れ! と。
一生そっちにだけ乗るから。


さて、この城もとい神殿は一般参拝者が入れる場所と、参拝者でも女しか入れない場所、巫女しか入れない
場所などがあるのです。私が歩いているのは二番目です。
しかしまあ、至る所に肌色の人物像が立っていて教育に悪い所ですね。
女奴隷の洗脳施設として見れば教育に良い場所なんでしょうけど。

大事にされているのは解りますが、この島の女達は奴隷です。いや、人権を持たず人格を認められず所有物と
して扱われる一神教世界的な奴隷(スレイブ)ではなく、人権が一部制限された人間としての奴隷(ぬひ)ですが。
両者の違いはそれなりに大きいのです。
別に後者を擁護する気も賛美する気もありませんけど、これだけ違うものを同一視するのも変です。

私的には両者の違いは五十歩百歩ではなく、喩えるなら前線から五十歩勝手に後退する事と戦闘中に裏切って
さっきまでの味方の背中に銃剣突き立てる事ぐらい違います。
まあ、ソヴィエト赤軍的にはどっちも反革命的サボタージュとして督戦隊から撃たれますけどね。
アカにしてもロシアにしても、その思想発想にはどうしても馴染めません。
毛蟹の足だけ取って他を捨てちゃう奴らなんて、最初から信用する気ありませんが。



実質的奴隷制度だとしても、私はそれを批判することができません。
だって他にどうしようもありませんから。対案もなしに現状を批判しても意味ありませんし。

女達の腹を借りないと子孫繁栄ができないオークたち。
オークにすがってでも生きたい女達。
人間社会からはじき出される女がなくならない以上、オーク達は奴隷を買い続けます。

これを止めるなんて神様でもないと無理ですよ。
もしやり遂げたなら、そいつが神格化することは間違いありません。
もしオークたちが買わなくなれば、人間社会か別の種族が新たな顧客となるだけですし。



そもそも、批判したり止めさせたりする必要があるのでしょうか。
人権云々言い出したら、前世の某国や某地域の女達の方がよっぽど悲惨です。
いえ、先進国で文明地帯の筈なのに実質的な奴隷制度が残っている国なんて幾らでもありますし。
と言うか、それらの地域の女達連れてきて私と同じ立場に置いてから「元に戻るかここに残るか」を選択させ
たなら、残る人絶対にいますよ。そりゃ戻る人の方が多いでしょうけど。

この世界生まれならなおのことです。
眼鏡の奥さんとかは、死んでも故郷というか元の職場には戻りたくないそうです。
いえ、彼女がもし戻ったら死んだ方がマシな目に遭わされちゃいますけどね。

もう何人もオークの子を産んで育てている彼女は、西方人から見れば亜人の蛮族に身も心も売り渡した
裏切り者なのです。「いや、売ったのはお前らだろ」というツッコミは通じません。
文明人である西方人らの心には、とっても広くて使いやすい収納力抜群の棚があるのですから。


元男で異世界人の私ですら、亀や鳥のご飯になるくらいならオークのお嫁さんになる方を選びます。
まあ、相手がグェスたち三人の誰かで、もう何年か待って貰って、選ぶのがこっちで、優しくして貰うのが
最低条件ですが。
人間各国と異種の諸部族が血で血を洗う抗争繰り広げている最前線で、好戦的で野蛮なオークに捕らえられ
虐待されている女達が聞いたら呪われそうな条件ですが、良いじゃありませんかこの程度の我が侭ぐらい。
お婿さん側もかなりの部分了承してくれるでしょう。


話を戻すと、私は造物主じゃありませんし、光の国から来た巨人に守護されている訳でもありません。
なんでもかんでも思いのままにはできないのです。
世界に 否! と言い放つなら、それなりの力がないと。

もっとも、私にはこの世界を否定するに足る根拠なんてありません。
前世ではもちろん奴隷制度反対派でしたが、そりゃ地球の現代文明では奴隷制度が効率悪いからです。

少なくとも地球では奴隷社会よりも自由社会の方が効率良いのです。
効率がよい社会の方が、幸せな人間が増えます。
一億総中流なんてそのものな言葉ですね。だからこそ社会制度として自由制を支持するのは当然なのです。

奴隷とは大概不幸な存在です。
その不幸な奴隷を踏みにじっている社会全体の効率が悪ければ、支配階級ですらあまり幸せにはなれません。
独裁政権や専制国家の末路は、おしなべて悲惨なものですし。

前世が主権国家にして国民国家の一国民だった者としては、奴隷制度国家の王侯になるより自由制度国家の
一般人になる方が幸せだと感じます。
だってそうでしょう? 
北○鮮の特権階級と日本の小市民、来世で生まれ変わるとしたらどちらが望ましいですか?


もしも現代の地球で、奴隷制度敷いた方が幸せになれるのなら私は奴隷制を支持しますよ。
物理法則か人類の遺伝子が激変しでもしない限りそんなことは有り得ませんが。



結局のところ、私にはすーこーな理想なんてありませんから。心静かに生きていられりゃそれで良いのです。

だからといってこのまま、あの温泉が湧いてる洞窟でオークの嫁さんになるのもなー。
庭にブランコどころか植木鉢の一つも置けない生活は、ちょっと嫌です。
今でも置けないことはないけど置いた後の管理が面倒くさすぎます。


はて? この像、色が塗りかけですね。
材質は‥‥大理石ですよね。硬くて滑らかな石を丁寧に彫り込んであります。何故これにだけ色が半端に?
いえ、このあたりの像は色が付いてないものが多いです。となると、色つき石像はオークたちの趣味で、
石像制作者たちの趣味ではないのでしょうか?

未彩色の像がたくさん並んだ部屋に入ってしまいました。ここは行き止まりですね。
そろそろ日の出のようですし帰りますか。

‥‥あれ? 迷ったかな?
ええとあっちが東だから、うん、こっちが宿舎の方角です。

行きとは違う道筋を歩いていた私は、途中の中庭で気がかりな喘ぎ声を聞いてしまいました。
甘いとろけるような声に、粘液と粘膜がかき回される独特の音。
どうきいてもあの音声ですが、ここは男子禁制の筈。

こっそり覗いた小部屋では、二十歳前後と思しき美女が触手と戯れておりました。


えーと、何でしょうか アレは?
色は黒と灰色と焦げ茶がぐちゃぐちゃに入り交じっていて、形は吸盤や目玉や牙のある口がデタラメに
出たり消えたりする不定形の‥‥触手モンスターかな? 
蛸やイソギンチャクのように頭や胴体から触手が生えている生き物ではなく、触手自体が本体です。
網の目のように縦横に絡まる触手だけで構成される身体を持つモンスターだ。

描写が難しい生き物ですね。
肉塊と言うには細い部分の方が多いし、太さが一定でないのでスパゲッティと喩えるのも不正確です。


思ったより冷静ですね、私。いえ別に触手恐怖症ではなく、長くてぬらぬらしたモノも特に嫌いではない
ので触手モンスターを見てパニックにならなくてもおかしくありませんが。
ホラーゲームと違って、人は常識外の存在を見たぐらいじゃ狂ったりしないって事ですかね?
それとも私は既に狂っているのか、ただ単にあの触手モンスターの精神汚染レベルが低いだけなのか。

その触手モンスターが、青と白を基調とした、女学生の夏用制服とチアガールの衣装を混ぜたような服を
着た短い金髪の女を、エロゲ挿し絵のような目に遭わせています。
うん、入ってる。ぜったい入ってるよ、あのミニスカートの下で。

エロ妄想の産物な筈のモンスターが、目の前にいます。
ぐねぐねと変形して女を苛む触手。女の身体に絡みついて支える吸盤の生えた触手。人そっくりの目玉を
いくつも生やして喘ぐ姿を見つめる触手。
それぞれが数本ずつ、金髪の美女に優しくねちっこく絡みついてます。


え、えーと、これは、助けを呼びに行かなくても良いのかな?
だってどう見ても合意の上というか、女の方が楽しんでますし。

あの触手、さっきから「ダメッ」とか「イヤ」とか制服もどきの人が喘ぐたびに動き止まっているんですが。
で、女が平手で軽く触手を叩くと、またいやらしく動き出すのです。
この触手モンスター、ぐいぐい変形する上に目玉とか新しい触手とかの必要とする部位を自在に生やしたり
引っ込めたりできるのですね。うーん、寄○獣を実写で映画化したらこんな変形シーンになるのかも。


小部屋の戸口から顔を半分出していた私と視線が合った美女は、羞恥からか更に頬を染め目を潤ませて、
より一層喘ぎ声を上げるのでした。


あー うん お楽しみ中お邪魔しました。





 ☆29日めの2、婦人服(ドレス)と紐(コード)☆


一緒に寝泊まりしてる女達から聞いた話だと、あの触手モンスターはローパーとかセラピとか呼ばれる魔物で、
大母様の使い魔だそうです。
エロ用ではなく本業は治療行為で、生理不順など女ならではの病気を治してくれる聖獣なのだとか。

妊婦がこの神殿に来る理由の一つがあの触手で、あれに治療してもらうと産後の体調が楽になるし次の子も
産みやすくなるそうです。
オークの子を産んだ女は、普通出産後一ヶ月程度は身体を休めないといけません。
その間は重労働はもちろん重くない労働も禁止です。できなくはないがオーク達がやらせない。
これは夜のお勤めも含むというか、少なくとも「ずっこんばっこん」は駄目です。

しかし、あの触手モンスターに施療して貰えば出産から一週間で元気に働けるようになるのです。
もちろん性交渉も解禁です。そして、その月からまた妊娠できてしまいます。
更にその場合は妊娠しても母乳が止まりません。と言うか正確に言えば、触手性獣の施療を受けた授乳期間中
の女は、母乳が出ているのに妊娠できる体質になるのです。

この世界の人間も、普通は出産してから母乳が出て、子供がある程度育つと母乳が止まって、母乳が止まって
からまた月のモノが始まって孕めるようになるそうですが、あの触手にかかると一年中母乳が出る身体にして
もらうこともできるのです。

もちろん女がそう望めば、ですが。


で、オークの子は受胎から出産までが六ヶ月前後なので、無理をすれば年あたり二回‥‥は無理としても
三年で五回の出産とかも可能な訳です。
文字通り無理があるので神殿は緊急時以外の連続出産を勧めていないそうですけどね。
まあ、どう考えても健康に影響でそうだし当然か。



という訳で、あの触手くんはトンデモ性能のエロモンスターでした。
ただしオークには治療も施療もしません。アレが面倒見るのは人間やそれに近い種族の女だけです。
それも病人怪我人体調不良の女だけで重症の者ほど優先します。

うん、やっぱりエロモンスターだ。性差別主義者めっ。
あの触手は見たところ雄っぽかったから、気持ちは解るけど。

ん? するとあの戯れていた人、どこか悪かったのかな? ぱっと見は健康そうでしたが。



今朝も巫女や参拝者たちと話して、情報収集に励みます。
この島の地理も歴史も文化も習俗も知らないことだらけですから。

女達に話を聞いて、この島でも胡椒が取れることが解りました。
というかここの近くの山にも自生しているそうです。
オークたちは素材そのままの味でも平気だし、大量の肉を長期保存しないし、食べ物が少しぐらい痛んでいても
お腹壊さないので彼らにとって胡椒の価値は低い。
でも人間社会風の味付けを忘れられない女達、特に南国出身者たちは胡椒をよく使っているのです。

胡椒も枇杷やイチジクの樹と同じく、魔王が外から持ち込んだもののようですね。
果実と違い胡椒は、オークたちが種を運ばなかったので島の反対側には生えていないのでしょう。

胡椒だけでなく、神殿には薬草や生薬の類が豊富に備蓄されてました。
で、昨日のうちに市場でグェスにお強請りして、クミンやクローブ、カルダモンにウコンそれに見知らぬものも
含めて色々と香辛料を買い込みました。

安くはありませんでしたが、これで、これでカレー粉が作れます!
確か初期のカレー粉には6種類とか8種類の限られたスパイスしか入ってませんでした。
これだけあればカレー粉と言い張れるものが作れる筈です。



文化的なルールやタブーについても、ほんの少しですが学びました。
異文化の塊だから一度に呑み込むのは無理です。

例えば気になっていた神殿のドレスコードですが、私が腰を飾り紐で縛られたのは迷子や誘拐対策であると
同時に、ギュー・グェスの保護下にあることを宣言する意味があります。
あと、飾りが多く豪華で装飾センスが光る飾り紐なほど、保護者が被保護者を気に掛けている証拠だとか。


紐と鎖の違いは、移籍の自由があるかどうかですね。
早い話、鎖で繋がれた女達は奴隷妻やその候補で、離婚離縁の自由がないのです。
もっとも本気で離縁したがるオークの妻なんて見たことないそうですが。
ちょっとした不平不満はあるでしょうが、夫婦仲が拗れる前に周りが仲裁するのがこの島の日常だそうです。

で、金や白金の鎖は錆びない(色あせない)思いの象徴で、逆に無骨な鋼鉄の鎖は「誰にも渡したくない」と
いう執着の表れなのだとか。
ともあれ女の身に付けた鎖は、屈服した証なのだそうです。


では首輪はと言えば、女の首に付けられた首輪は「いつでも引っ張れます」という意味です。
つまり隷属の証。眼鏡の奥さんが身に付けている、赤い宝石の付いた白金の首輪と白金の鎖は「知炎神の
加護を受けた我が妻よ、汝への思いはくすむことがない」という意味になる訳で、ほぼ最上級の誉め言葉と
いうか絶賛ですね。

うーむ、流石はリアル円満ハーレム持ち。嫁さんしっかり誉めてます。


どうもこの首輪がオーク社会での結婚指輪のようですね。いや、確か地球でも元々は指輪ではなく首飾りが
既婚者を表す呪物だったという説を聞いたことが‥‥。

ふむ。では昨日控え室でいちゃついている姿を見た年下の金髪美少女は、被保護者で肉体関係ありだけど
結婚や嫁入りは考えてない関係なのでしょうか?

え? あの娘は肉体関係なし? 

ふむふむ、腰にベルトのように巻き付けられただけの鎖は、あくまでも身柄の保護を宣言したものであって
貞操の保護は宣言していない。つまりあの娘は性的にはフリーで保護者に縛られていない訳ですか。
性的に縛られている女は、股間にも紐や鎖を通して他の雄には触らせないことを表されるのだとか。
腰に回された紐や鎖が ― ではなく π とか T の形になると、保護者と被保護者の間に肉体関係が
あります宣言になるそうです。

あのいちゃいちゃと言うには激しすぎるプレイをやっておいて、フリー?!
い、いや だとするとあの金髪ちゃん、とんでもないエロ娘? ‥‥には見えなかったけどなあ。
あれは気持ちよければどうでも良い、相手が誰でも構わない って感じではありませんでした。
具体的に言うと強烈なラブラブ臭立ちこめてて、長時間近くにいられなかったくらいでして。


ええと、一部理解できない点もありましたが、首輪つきの女は既婚または婚約済み。
鎖付きの女は束縛されている。紐で結ばれた女は誰かの保護下にあるけど自分の意思で抜け出せる。
ということですかね。



神殿の敷地内では、オーク(や他種族の参拝者)と女の関係によって決まった格好をしないといけないのです。
少なくとも市場とか大聖堂とかの公共の場では守るべきです。
守らなければ巫女達に、叱られたり他の罰を受けたりします。
これは参拝者の立場を公表し余計なトラブルを避けるための処置ですね。
オークもオーガーもミノタウロスも、短気と脳筋には事欠きませんから。

合理的と言えば合理的だけど、風情に欠ける制度ですね。
てっきりファッション的な意味があるのかと思ったのに。
うーん、只でさえ野蛮というか血の気が多くて脳筋ぞろいで嫁さん大好きな連中に極力喧嘩させない為だから、
仕方ないのかなあ。

お洒落のたぐいは装飾品や衣服や小物でやっているようです。
奥さん達もお喋りしながらハンカチやガウンに刺繍とかしてますし。
女達が裁縫で作る品は、素材の豪華さよりも技術と手間暇とセンスの良し悪しが評価基準のようです。
宝石細工の首飾りや貴金属の腕輪などは、素材の豪華さが評価に占める割合が多そうです。

さて、女達と話し込んでいるうちに、朝から出かけていたグェスが帰ってきましたが‥‥。
もうお昼ごはんですか? 時刻は10時過ぎぐらいですけど。
昼前から何処かに行くようなので、いまのうちに食べておくことにします。一体何があるのでしょうか。


貸し切りの待合室で軽めのお昼ご飯を済ませ、腰に飾り紐を巻いて貰ってから出かけます。

この紐は、巣網を張る巨大蜘蛛の糸から作った物です。
しかも太くて良質な糸ばかりを使った、幹部オークにとっても相当に価値のある紐なのです。
採取時に下手を打てば蜘蛛の餌食ですから。
紐に通した飾りは、幹部オーク達と私が作った穴あきの宝石や貴石それに金箔を丸めた筒などです。

そしてこの紐はギュー・グェスの左手にしっかり縛り付けられ、私の腰には私が解きやすい形で
結びつけられています。

結び目から出てる紐の一本を引っ張れば解け、他の紐を引っ張るとかえって固く絞まる仕組みです。
私が解く紐を毛皮服の下に隠してしまえば、いつぞやの誘拐未遂犯のように血迷ったのが解こうと
してもそう簡単には解けたりしません。

この島の住人が見れば、私の腰に掛けられた紐の意味は一目瞭然です。
グェスは私を、命を張ってでも守り通すけど束縛はしないと宣言しているのですよ。


いや、あの、何故にグェスたちの私に対する評価というか関心というか執着は、こんなに高いのでしょうか。
私、なにかしましたっけ? 迷惑しか掛けてない気がするのですけど。

はっきり言って、ここまでされると頼もしさより戸惑いの方が大きいです。
ねえグェス、貴男方三人はちょっと紳士教育行き届き過ぎなんじゃありませんか? 
世の中、都合の良い男を好む女の子ばかりじゃないんですよ? 

私は女の子じゃないけど。少なくとも心は。




 ☆29日めの3、闘技場☆


この大神殿、仮に聖ミッシェル山とでも呼びますか、このミッシェル山の北側には石造りの舞台のような施設
があります。一片3メートル程度の正方形石版を縦10枚横12枚並べたものです。
プールぐらいはある石の平原は、幅6メートルほどの水堀と鉄の柵で観客席と分かたれています。

観客席ですよね、私がいるのは。それも大相撲で言うなら升席。
最前列で周りを手すり状の柵で区切ってあります。
しかし座布団はありませんのでグェスの膝の上に乗ってます。広さは二畳敷きかもう少し広めぐらい。

舞台をコの字型に囲んで観客席があり、観客席の中央を突ききって歌舞伎の花道のような通路が通っている。
升席は舞台や花道よりやや低い位置になりますね。
花道の反対側、北の端には階段があって下から上れるようですがここからではよく見えません。

両隣や後から切れ切れに聞こえてくるオーク語やコモンの単語から察するに、これからオーク同士の闘いが
始まるようです。
それでこの人出ですか。喧嘩は宴会と並ぶオーク族の主要娯楽ですからねー。
今何百人いるんでしょう? ここ。この島の推定人口(オークのみ)が四千人前後ですから、一割弱?


はて? 武闘大会が始まるなら見ながらお弁当食べても良さそうなものですが。
周りの観客達も食べたり飲んだりしているオークや女達が多いですし。
まあ、グェスのことだから何かもっともな理由があるのでしょう。

ちなみに升席の右隣は眼鏡の奥さんたちで、昨日産まれた子供は今も元気に母乳吸ってます。
オークの子は産まれた時点で首が据わっているので、見ている側も安心です。


ならばもう少しお腹に何か入れておきますか。始まる前にね。
竹筒に入れた蜂蜜を巣ごと食べながら、舞台を清掃する巫女たちを観察します。

巫女さんたちは、あの謎の透明素材でできた服を着ています。ただし一重ではなく十枚近く重ね着して
いるようで、観賞用金魚のヒレのようにふわふわでボディラインとかは見えませんね。
布地に金ラメや刺繍も入っているし。
舞台の上は全くの平らではなく、西の端に石造りの祭壇があります。
神像はありませんが大広間にあった祭壇と同じ構造のようです。


花道の上付近に置かれた銅鑼のようなものが鳴らされました。低く大きな音に鼓膜が振動するのが解ります。
そして銅鑼の音を合図に北側の階段から、ぞろぞろと下っ端オークたちが上がってきました。
数は、三十人ぐらい?



なんか違う。

変です。うちの下っ端たちと、うちの下っ端達がよくやっているど突き合いと 空 気 が 違 う 。 
何ですか、これ? 

なんと言うか 暢気なはずの下っ端たちからただならぬ気配を感じます。
喧嘩は素人の私にも解る、本気の気配。

なにこれ。


「「「「「オールクゥス! オールクゥス! オールクゥス! オールクゥス!」」」」」

観客と舞台のオークたちが声を合わせて叫んでいます。
オールクゥス神の名を、彼らの神を称える聖句を。

この聖句を遠くで聞くと「オーク!オーク!」と聞こえなくもありません。
実際オーク語でもオークとは「オールクゥスの子」という意味ですし。


あ、違和感の理由が少しだけ分かりました。
舞台に上がったオークたち、全員が棍棒じゃなくて鋼鉄の武器を握ってます。
槍や剣や斧などですが、どれも握りなどの部分をオーク族が使いやすいように改造してあります。

人間が両手で使うサイズの武器をオークの片手用に作り替えたものですね。
盾は何割かが持ってますが鎧の類はなし。腰ミノだけです。

最後のオークが上がり、武器を振りかざしてオールクゥス神の名を唱えました。
それを最後に歓声は一気に途絶え静寂が辺りへ広がっていきます。

そして、何の合図もなく。
三十人余りが舞台に上がりきり、静かになったところでおもむろに、
オークたちは 殺 し 合 い を 始 め ま し た 。



は?

え? あの血、本物ですよね。血糊じゃなくて。
槍を突き立てられたオークが斧で突き立てたオークの頭をかち割り、剣を持った右腕を切り飛ばされた
オークが残る左腕で切り飛ばしたオークに掴みかかる、そんな地獄絵図が舞台の上で繰り広げられています。



ちょ ちょっと待って 

まってくださいよ

なんで なんでそんな簡単に

そんな簡単に死ぬな! 殺すなぁ! あんたら命をなんだと思ってるんだぁっ!!



絶望で目の前が真っ暗になったのは、何年ぶりですかね。

私を真に絶望させたのは舞台上での凄惨な殺し合いでも、それに歓声を上げ野次を飛ばす観客席のオークたち
でもありませんでした。 
何事もないかのように菓子を食べ、子供をあやし、お喋りに興じる女達です。

うん、前世で散々見ましたよ似たようなのを。
あれは好きでもない野球見物に連れてこられた奥さん達が、二死満塁の場面に興奮している夫や息子達の
横顔を見ているときの顔です。


なんてこったい。




 ☆29日め4、解っていたつもりだったんですよ☆


どうやら脳貧血を起こしていたようです。
意識がはっきりしたときには、舞台上の戦いは終わっていました。勝者らしきオークが観客の喝采を浴びつつ
花道を歩いて出ていき、舞台にまだ残っている血や肉片を巫女達が水と竹箒で堀まで洗い流しています。

なんて安いんでしょう、彼らの命は。
彼ら自身にとっては価値があったのでしょう。でも観客席の女達には一時の退屈しのぎにもならない。
ええ、解ります。所詮人間は身内が可愛いのです。
前世の私だって地球の裏側にいる見知らぬ他人よりも、お隣さんが飼っている犬の方が余程大事でした。

本来、私から絶望される謂われなんてないのですよ、奥さんたちは。
見知らぬ他人より顔見知りの犬猫の方が大事なのです。人間なんてそんなものです。
そして死んでいった下っ端オークたちはただ単に彼女達の共感を得ていなかった。それだけです。

思うに私は、一つ屋根の下で暮らしているオークたちに情が移ってしまったのでしょう。
グェスたち幹部三人はもちろんですが、下っ端達のためでも一骨折るぐらいの覚悟はあります。
私、思ってたよりあいつらのこと好きなようです。もちろんライクの意味で。

「グヒィー」

ギュー・グェスがいてくれて良かった。優しく撫でてもらっているうちに少しずつ落ち着いてきました。
彼は私を案じてくれています。
ただ単に心配してるのではなく、私の哀しみと受けた衝撃を理解してくれているのです。
彼自身もこの行いを、儀式だか行事だかを快く思っていないことが撫でる手から伝わってきます。

グェスの膝の上で、頼もしい太鼓腹にすがりついて泣いているうちに落ち着いてきました。
私は死んでいったオークたちを悼み、惜しみます。でも哀れむのはやめましょう。
彼らは決意して死地に入ったのですから。私には分からないだけで、彼らには納得できる理由で死んで
いったのですから。

無理矢理に強制されてではなく、自分の意志で。
その死を哀れむことは、蔑むよりも酷い侮辱です。


舞台の上では、次の戦いが始まってしまうようです。前と同じく殺し合い前提の装備をしたオークたちが、
今度は十六人で舞台に上がっています。
そして、今回も参加者の人数分の回数、聖なる御名が唱和されます。

今度こそ、最後まで見なくてはいけません。
私は知ることを欲したのですから。世界を、この島を、オークを知るためにここに来たのですから。
知らなくてはいけません。


凄惨な戦いは、最後の一人が生きのこるまで続きました。
勝ち残った、妙にふてぶてしい顔つきのオークは倒れた仲間たちの死体を引きずり、オールクゥス神の祭壇に
乗せて立ったまま祈りを捧げます。
すると祭壇の上の死体が消え失せました。
同じようにして、次々と一五人分の下っ端オークの死体が消えていきます。

ああ、うん、これは奇跡だわ。こんなの日常的に見せられていたら死後の世界を信じたくなるのも解ります。
ましてここは神様と、わりと気軽に話せる世界なのですから。

全ての仲間たちを神の御許へ送り届けた下っ‥‥ いえ、彼はもう下っ端ではありません。
幹部でこそないものの、一人前の戦士オークです。

「ホシ、フタツ、ジュウロク、ハチナル、ホシ、ミッツ」
「何のこと?」
「ホシ、ミッツ、ハチ、ヨンナル、ホシ、ヨッツ。ホシ、ヨッツ、ヨン、二ナル、ホシ、イツツ」
「えーと星を5個持つ者同士が闘って、勝ったのがあのオークで、星は6個になる訳ね?」
「ソウ」

オークたちにはランク分けの概念があります。
強さを証明したり役に立つ技能を持っていたりすると巫女たちから、称号としての星が貰えるのです。
自分の身長より長いワニを生け捕りにすると星二個とか、大怪鳥を一人で仕留めると星三個とか、
強さを証明するごとにランクが上がっていきます。

そして、星六つ以上の、言わば6レベル以上と認められたオークだけが神殿からお嫁さんを貰えます。
貰うときには同時にお布施も要りますけどね。結納みたいな感じで。

強くないと嫁さんも貰えない。そして強い雄が良い雌を独占するあたりオークはチンパンジーよりも
ゴリラ寄りの生き物のようですね。
類人猿じゃないけど、雄の体格が雌より大きい哺乳類は一夫多妻型ハーレムを作る、という生物学の
常識に合ってます。

ああ、そう言えば人間社会で一夫一妻制度が多いのは、ホモ・サピエンスが難産体質な上に未熟児で産まれ、
子育てが大変だからですよね。
子育てが大変だから群に繁殖自体には不必要な、言わばもてない男を入れて働いてもらわないといけない。

もてない男どもに必死こいて数人分の食い扶持を稼ぎ出してもらうには、お腹空かせて泣いている子供が
自分の子なのだと思い込ませるのが一番効率が良い訳で。
子供と父親の遺伝的連続性を保証するために、一夫一妻制度で縛りを入れた訳ですね。
本当はどうだか解ったもんじゃないけど。

そしてオークにはその手が使えないしその必要もない。オークは鼻が良いから浮気はまず無理ですし、
自分の子なのかそうじゃないかぐらい嗅ぎ分けられますから。
もしも人類がオークと同じぐらい鼻が良かったなら、とっくの昔に滅びていたかもしれません。
まあ、その場合は何か折り合いを付ける方法を見つけていただろうと思いますけど。


オークの子は超安産で育児も楽で、直ぐに大人になります。
オーク自体が人間より生活にあくせくしないで済む生き物だし、社会構造はともかく技術水準や生活程度は
原始時代の人間など比べものにならないレベルにあります。

だって、たまたまグェスたち三人に鍛冶屋や鋳物師の心得がなかっただけで、オーク族全体で言えば彼らは
青銅の鋳物や鍛鉄の工具を自作して使いこなしているんですよ?
日本の歴史で言えば古墳時代かそれ以上の技術水準です。

オークの子と嫁を守り食い扶持を与えるには、少数の強いオークがいれば良いのです。
実際の話、短い期間に下っ端が三人死んだうちの巣は、ちょっと寂しい気分になった以外に目に見える損害が
ありませんでした。うちには幹部3名下っ端12名の、計15人しかいなかったにもかかわらず。

これが人間社会なら、村や部族の働き手の二割がいなくなったら大打撃ですよ?
近代国家で人口がいきなり二割減ったら存亡の危機です。

オーク社会では、弱いオークの価値は人間社会の弱い男より遙かに低いのです。
強いオークが飛び抜けて強いせいで、相対的に価値が下がっています。
でも下っ端達が危険極まりないこの島で生き延びるには強いオーク達を頼らないといけない訳で。

まさか「強くなくては生きていけない、優しくなくては生きていく価値がない」という言葉が、こんなに重く
感じるようになるとは。洒落になりませんよ、これは。



オーク族は‥‥少なくともこの島のオークたちは弱い雄をどうにかして活用するよりも、とっとと切り捨てる
方が効率がよい社会になっているのです。

嫁をとれない弱いオーク同士で殺し合い、生きのこった一人だけが嫁を貰って繁殖できる。
星のない最下級オークでも64名集まって、最後の一人になるまで闘えば嫁を貰う資格が手に入る。
それが嫌なら一生をうだつの上がらない下っ端として過ごすか、他の手段で能力を証明するしかないのです。

昨日私を攫おうとしたオークのように、暴力で嫁を手に入れる方法もあります。
しかしグェスたち追っ手や横取りを狙う他のオークたちを出し抜いて私を手に入れるのはまず無理でしょう。
私だって全力で妨害しますし。


うちの巣穴にいる下っ端どもは、この血みどろ椅子取りゲームに参加したくない連中なのです。
オーク基準で言えば軟弱者ですが、結婚願望なかったというか無くなった前世からして私個人としては共感
できますねー。

正直、ここまでやって欲しがるほど良いものなのでしょうか、嫁さんって。
一月未満ですが女やってる側から見ても‥‥そこまでして求められても、その、困ります。





[38600] 10
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/03 12:46


 ☆29日め5、まだ見ないと‥‥ダメですよね☆


ちなみにギュー・グェスは星11、つまり11レベルのオークです。ドスとウォスは9。
うちの洞窟で、回転シーソー上ロープマッチとかで遊んでいる下っ端たちは星0か1です。そりゃ違う訳だ。

同族で殺し合う以外にも星を貰いランクを上げる方法もありまして、強いモンスターを仕留めるとか戦争で
活躍するとか、大岩を持ち上げたりとか、コモン(共通語)が流暢に話せるとかでもランクが上がります。
ただし評価基準はあくまでも、戦闘能力>>荒事にも使える能力>>その他になりますので、かなり強く
なければお嫁さんは貰えません。

グェスたちも毛皮なめし職人の評価を入れると1ランクずつ上がります。
しかし幹部(最低でもランク7以上の強さで、リーダー適正持ち)オークが戦闘力以外の要素で評価に下駄を
履かせるのは「不躾」だと見なされます。犯罪じゃないけど顰蹙を買う感じ。


で、二回目の同士討ちというかセルフ壺毒な戦いが終わり、しばらくして次の出し物が始まりました。
もう血は見るのも嫌なのですが、こうなったら最後まで付き合いましょう。


今度は階段から上がってきたオークは一人だけです。
相変わらず鎧の類は身に付けてませんが、得物は棍棒ですね。

それも超合金木材や大牛の骨などの本気が伺えるものではなく、太くない木の枝に分厚く麻布を巻き付けた
代物です。
見た感じ、うちの下っ端やさっき大勢で上がったオーク達よりは強そうですが、幹部級には及ばない程度の
実力でしょうか。

グェスによると「硫黄の集落の戦士ブゥ・グゥーン、星六つ」だそうです。

顔見知りなんですね。へえ、交易でよく顔を会わせる仲なのですか。
6レベルってことは、この闘いに勝てばお嫁さん貰える訳ですね。
 

その対戦相手も一人です、オークではなく人間。十代半ばの黒髪少女が花道を歩いてやってきました。
極端な色白‥‥いやあれは白粉かな? 肩までとどく黒髪と顔の白さが好対照で印象的ですね。
顔立ちも、まず美人と言ってよいでしょう。口紅の鮮やかさが目立ちます。

得物は身長よりやや長い程度の刃物武器。
長めの柄に小ぶりの曲刀が付いた、グレイブより長巻に近い武器ですね。
なんというか、愛用のナイフとかとは刃の輝きが違います。本物の武器とは凄いものですね。
当然ながら盾はなし。
鎧ではなく半袖で裾をミニスカート並に短くしたゴスロリのドレスのような服を着ています。
いや、赤い布地ですからゴスじゃないか。甘ロリならぬ赤ロリ? 辛ロリ?

長巻担いだ辛そうなロリドレスの少女は、余裕たっぷりの仕草で舞台に上がりました。ミニスカートだから
フリルがいっぱい付いた下着がちらちらと覗いていて、観客席のオークたちが「ミエタ」「ミエナイ」と
騒いでいます。下着の色は白。



いよいよ始まりますか。
ええと、星つまりランクが同じかより高い者に挑戦することがこの闘技場のルールなので、この長巻さんは
少なくとも6レベル以上なわけですよね。
うん、グェスに聞いてみたらやっぱり、花道から来る選手が挑戦される側です。
うちの下っ端が五人や十人で一斉に襲いかかってもあっさり返り討ちできる実力が、本当にあるのでしょうか?

ありました。

速いというか早いですね、動きが。動作が素早いだけじゃなくて、常に先に動いて主導権を握り続けています。
振り回される棍棒が届かない間合いを保って、長巻の斬撃で少しずつ手傷を負わせています。
作戦としては真っ当ですね。体格差から言って一発入ればおしまいですから。

うーん、確かにこれは、うちの下っ端連中が総がかりしても厳しいかも。
それに持久力も大したものです。この炎天下であれだけ動いているのに息がちっとも乱れていません。
もっともそれはオークのブゥ・グゥーンも同じですが。
受けた傷は多いですけど全部浅手で、まだまだ気合い充分ですね。長巻使いの方は未だ無傷。

双方じりじりと回り込みあいながら隙を窺っています。


と、ブゥ・グゥーンが棍棒の先に巻いていた麻布に手をかけました。布を外すようです。
元々星6つの同格ランカー同士、武器に付けたハンデを外すのは反則になりません。
いえむしろ、これまで武器に布を巻いて闘っていたブゥ氏は対戦者を舐めてると思われかねな!?

違う! あれは‥‥ブゥ・グゥーンは布を外したんじゃなくて、解いたんです!

オーク戦士は布を解いて、布の端を掴んで棍棒の方を先端にして殴りつけました。
喩えるならハタキの布先を掴んで、ハタキの柄を振り回しての不意打ちです!
木製の、比較的軽い棒きれとはいえあの速度で叩かれては只ではすみません、長巻さんに何発も
クリーンヒットがっ 

しぶとい!

私なら一撃で堀まで吹っ飛んでますよあんなの。
何発も受けて立っていられるなんて、見た目以上にタフですね彼女。
長巻さんは刃を振るって布を絶ちきりますが、その隙にオーク戦士に接近を許してしまいます。

そしてブゥ・グゥーン渾身のタックルが って 跳んだっ!?
なにあれ? 彼女、膝のため無しで、立った姿勢のまま後に跳び退きましたよ?
床の升目一つを3メートルと計算すれば、10メートルは跳んでます。さては仙道使い?

飛び退き、着地して、今度は彼女から大振りに長巻を振りかぶって‥‥

「駄目! 突っ込んじゃダメぇ!」

思わず叫んだ私の声など届く訳もなく、相手が滞空中も予想着地点のあたり目掛けて素手で走っていた
ブゥ・グゥーンは左腕を盾のようにかざして、黒髪の女戦士へ突進します。

そして一撃で切り伏せられました。



だから無理だって‥‥ 
これがグェスなら、あるいはウォスやドスでも左腕で食い止めて右手で張り倒せたでしょうが。
ブゥの腕では持ちませんよ、技術的にではなく強度的な意味で。
あそこで追撃なんかしないで下がって棍棒を拾えばまだ、勝ち目も残っていたのに。

ブゥの負傷は、左腕は完全に切断。左肩と鎖骨が断ち切られて、どう見ても戦闘不能。
下手をすると致命傷です。
女戦士が、倒れたオーク戦士の前で血に染まった長巻を振りかぶりました。

「「「コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ!」」」

血に酔った群衆が拳を振り上げて叫びます。観客席を見渡した女戦士は薄笑いを浮かべて‥‥


見ないと。
ここで最後まで見なければ、もう二度とここには来れないし見れないでしょう。



最後まで、見ました。 

「ツヨイ、イキル、ヨワイ、シヌ。ソレ、オキテ」

ギュー・グェスは大きな手で私の背をさすってくれてます。

「でも、殺すこと自体を好む女(ひと)は、嫌いなんでしょう?」

グェスは何も言いません。小なりとはいえ一氏族を束ねる族長としては、口に出来ないこともあるのです。
まあグェスが、これで「ぐわぁ──っはっはっはっ そうだ殺せぃ!」とか言っちゃう人(オーク)だったら、
私はとっくに逃げちゃってますけどね。この世から。

生きる為に成したことで、犬畜生と呼ばれるのは構いません。
でも外道として自分でも納得できない生命を長らえる気もないのですよ。私は。
極端に言えば、心静かに生きるためなら命もいらないのが前世の私だった訳ですし。





 ☆29日め6、血には飽きた☆


その後、何組かの決闘がありました。舞台の上で、オークの戦士が斧使いの女の子に切り刻まれて堀の中に
叩き込まれたり(星は減ったけど命に別状はなさそうです)、甲冑姿の女騎士がミノタウロスの闘士に捕らえられ
剥き身にされたりしました。

惨いのは女達もなのですよね。負けたら公開強制ストリップの上に公開強姦ショウですから。
しかもその後は奴隷妻。人間の常識残していたら、とてもじゃありませんが心が持たないでしょう。

人間の、特に異世界人の私の常識で彼ら彼女らを計ってはいけません。
いえ計るのは良いですけど、それを唯一の基準にしてはいけないのです。ここは私の世界ではないのですから。
昔からローマに行けばローマ人のように振る舞えと言うではありませんか。


あと、彼女喜んでましたから。ミノタウロスに負けた騎士風の女(ひと)。
快感とかじゃなくて、解放の喜び。「もう誰も殺さなくて良いんだ」って本気で喜んで、自分をうち負かして
陵辱した牛男をそれはもう甲斐甲斐しく世話してます。升席の隣で。

ええ、眼鏡の奥さんたちとは反対側のお隣が勝ったミノタウロスだったのですよ。
だからもう見物しながら盛る盛る。
お前らこんなところで合体すんなと言いたい。言えないけど。

どうもこの升席って、名のある幹部級オークなどのVIPが嫁さんとのイチャイチャを見せびらかす目的で
作られているみたいなんですよ。
だから周りの二等席三等席からよく見えてしかも試合見物の邪魔にならない、舞台より一段低い最前列に
あるわけでして。


意外かもしれませんが、オーク族は野外での性交渉を好みません。
危険ですからね。
か弱い人間やエルフの嫁さんには、大型モンスターはもちろん一匹の毒蛇毒虫が命取りになりかねません。

でも野外じゃない安全な場所があれば、オークは明るい時間に開けた地形で嫁さんと乳繰りあうの大好きです。
眼鏡の奥さん達がリアルタイムで証言しているので事実でしょう。
そして夫にベタ惚れだったりご主人様のち○こに全面降伏しちゃったりしてる女達は、恥ずかしがりながらも
最終的には従ってしまう訳でして。

神殿の庭などでは、四阿の長椅子や噴水の周りや芝生の上で「いちゃいちゃ」したり「ずっこんばっこん」
しているカップルが結構います。
この神殿は、この島では珍しい安全地帯なのです。
奥の方なんて、生身の小娘が一人でふらふら歩いていてもヤブ蚊一匹寄ってこないぐらいです。
元魔王城で現聖地は伊達じゃない。どんだけ厳重に警備されているのか見当もつきません。



何かに夢中で無警戒でも何の心配も要らない青空は、この島では貴重なのです。
裸の女が寝そべっても何の問題もない、虫も棘も小石すらもない草むらや芝生も貴重です。
この贅沢な場所と時間を楽しめることはオーク戦士たちにとって何よりのステータスですね。
強くて、喜捨の額が多くて、神殿に貢献していて、出来た嫁さん持っている戦士ほど良い場所を良い時間帯で
使える事になってますから。

あと、オーク的思考では、夫婦の営み自体は隠すようなものじゃないんですね。
むしろ可愛い嫁さんや自慢の奥さんを見せびらかしたいと思っているオークもいるようで、眼鏡の奥さんの
夫は見せびらかす派です。
見せびらかすだけではなく、嫁さん恥ずかしがらせること自体を好む露出系羞恥プレイヤーも結構います。

交易や交流の邪魔になるので、露店とその周りでは流石に盛ってはいけないことになってます。
買い物客も、売り手側も、通りがかっただけの連中も、市場付近では合体行為などは木陰や物陰、あるいは
休憩室でしないと神殿の巫女にどやされます。

あの市場、炎天下に簡単な天幕や傘を張って、ときには何も遮蔽物無しで店開いてましたけどこれが理由か。
そりゃあんな暑い石畳の上でいちゃいちゃしたがるカップルは少ないから、店を開くには都合良いですけど。

オーク達が値切り合戦とかしないのは、市場が暑いせいもあるのかな? 
あそこで延々値切り交渉続けるよりも、とっとと取り引き済ませて嫁さんと木陰に入っていちゃいちゃとか
まったりとかする方がよっぽど有意義です。


ん? でも何処ぞの店主と奥さんは市場のど真ん中でいちゃいちゃしてましたよ?
ふんふん、店と客の迷惑にならないなら構わないのですか。
店主が店の中でいちゃいちゃするのは良いけど、店の周りで同じ事をするのは駄目なのですね。

そして、この闘技場も青空の下でいちゃいちゃできる貴重な空間なのです。
騒がしい場所なのでゆっくりはできませんが、見せたい見られたいという露出願望持ちにとっては観衆に
不自由しない良い場所です。


舞台の上で下っ端オークや戦士オークが死ぬか生きるかの勝負を繰り広げているその横で、幹部オークたちは
嫁さんに「死んじゃぅぅ」とか「逝くぅ」とか言わせまくっている訳で。
格差を見せつけるにはこれで良いんでしょうねえ。つくづく弱者に優しくない島ですよ、ここは。



この島の女達は流血に慣れています。慣れざるをえないのでしょう。
でも女達がみんな殺すことを好んでいる訳ではありません。なかにはそうとしか見えないのもいるだけです。
あ、眼鏡の奥さんたちはそもそも闘技場に出たことがないそうです。元侍女ですしね。

戦いの心得があり闘うことを選んだ女達がこの闘技場で闘い、負ければお持ち帰り。
勝てば神殿での待遇が良くなります。
また勝つたびに挑戦者の納めるお布施から割合で報奨金が出るので、そのお金で買い物もできます。
この神殿で売っているものなら、お金さえ貯めればなんでも買えます。買えないのは自分以外の女ぐらい。

つまり、ファイトマネーを貯めれば自分で自分を買い戻すことも出来るのです。
大抵は貯まる前に負けるか諦めてしまうけど、それでも数年か十数年に一人やり遂げて自由になる人が出ます。

ちなみに眼鏡の奥さんは星五つ扱いで集団見合い会場と競り市を混ぜたようなイベントに出まして、
そこで旦那様に見初められて嫁入りしました。
闘わない女なら、女側の星が少々不釣り合いでも当人達が嫁入り嫁取りを望むなら問題ないのです。
もちろんやっかむ奴は出てきますが、自分の嫁さん守れないオークに子孫を残す資格はない訳で。

自分と同等かより格上の女を闘技場で倒すと嫁にでき、格下の場合は双方が納得すれば嫁になる と。
一度でも闘う能力と意思を示した女は、形式上だけでも闘って勝たなければオーク(か他の友好種族)は嫁に
できません。


ああなるほど、誤解してました。
女側からすれば闘技場に出なければ無理矢理嫁さんにされる可能性が減るのですね。
闘技場に出た女は強さ以外に断る口実がなくなる。ただし負けない限りいつまでも独身でいられる。
そして細く険しいとはいえ、自由の身になれる道もあるのです。

嫌がる女を星の数にものを言わせて無理矢理娶るのは「不作法」の極みですから、非戦闘系の嫁さん
候補に断られたオークはもっと星を増やすか、財力やそれ以外の男振りを上げて再挑戦するのが掟です。
あるいは誠意を認めて貰うまで頑張るか。

女側もただ断るのは三回ぐらいが限度で、四回目の断りを言う前に他のオークの求婚を受け入れるか、
執念に負けて嫁入りするか、それとも「貴方の嫁になるぐらいなら死んだ方がマシです」と正直に
伝えるかを選択することになります。

あるいは闘技場に出ることを選んでも良し。
戦闘系から非戦闘系になることはできませんが、逆はいつでも大丈夫。
力こそ正義のこの島では、強くなろうとする者の前には常に道が拓かれているのです。
まあ、その道があまりにも険しくて登り切れない者が多すぎるあたりが切ないところですが。

で、ごくごく稀にいる、何処にも引き取り手がないと言うかなくなった女は巫女になるしかないのだとか。


眼鏡の奥さんは闘いが苦手だった事もありますが、なによりも生き物を殺すことが出来なかったので闘技場に
出る気が端からなかったそうです。

闘技場に出る訓練って、下っ端オークを刺し殺すところから始めるんですって。
柱とか杭に縛り付けられた半死半生のオークを、腰溜めにした剣でドスッと。
刺されるのは死刑囚のオークや集団決闘で死に損なったオーク達ですね。

うん、神殿で修行するのやめよう。
刺すのはもちろん、見るだけだってそんなの嫌だ。耐えられません。
そんなもの見てたら、そりゃ下っ端たちに感情移入しなくなるわな。そうしなければ心が持たない。


最初に、下っ端オークたちの生き残り戦。次に、戦士オークたちの嫁取り戦。
この二つはより星の少ない低位ランカーから一つ一つ順番に片づけられていきます。

それが終われば、まだ一人前ではない女闘士たちの練習戦が行われます。
一人で、あるいは複数で、妙に弱った大イグアナとか爪が削られた小恐鳥とかの獲物をまだデビュー前の、
訓練中の女闘士たちが次々に仕留めていきます。

あー なるほど、生け捕りにしたモンスターってこう使うんだ。
猫が子猫に半殺しにしたネズミを与えるのと同じですね。
この戦いは未熟な新人さんの顔見せと、闘技場の雰囲気に慣らすためでしょうね。

うわっ ロングスタッフ使いの女の子が大蛇に絡みつかれた! 

と思ったら観客席から石つぶてが飛んできて、蛇の頭に直撃しました。
女の子はなんとか蛇の拘束を振りほどいて逃れます。
蛇は、ああ駄目だこりゃ。頭が半分潰れて長い身体をデタラメに動かしてます。
そして動かなくなった大イグアナに絡みついて締め上げ始めましたが、相手はもう死んでるっての。


へー 練習戦に限り、観客席からの加勢や乱入も許されるのですか。
まあ女達が死んだりしたらいけませんからね。動物には女達に手加減する理由なんてないし。

え? 実は嫁取り戦にも乱入あり? 許されないだけで。
嫁候補も、その対戦相手も、便乗して乱入してくる奴も、物言い付けてくる巫女も全部、
とにかく異議を唱える者を全員倒してしまえば乱入者が嫁取りできるのですか。近い例では8年ほど前に、
異議が出なくなるまで無双した幹部オークが見事乱入からの嫁取りを成し遂げたとか。

ただし、乱入者の星が嫁候補より高すぎる場合は没収試合になって、嫁さんは貰えません。
これをひっくり返すには大母様から下される無理難題ってレベルじゃない試練を成し遂げないといけません。
一人でドラゴンを仕留めるとかね。

強ければ、ただひたすらに強ければ意が通るのがこの島の掟なのです。

もしくは大母様を含む神殿の巫女達全員に勝てば、誰でも嫁に出来ます。
そうなれば口を挟む者は出ようがありません。流石にこっちをやり遂げた者はいないそうです。
‥‥ってことは挑んだ奴はいるのか!? 蛮勇にも程があります。


ときおり危なげな場面もあったものの、新人達の闘いは特に怪我人も出ずに終わりました。
地球にあった、怪物を狩る猟師になるゲームと違いこの島では同種以外のモンスターは基本敵同士ですので、
味方同士で援護や連携ができる女達の方が圧倒的に有利なのです。観客席からも援護投擲とか来ますし。
 

さて、どうやらこれで最後のようですね。
訓練中の女闘士たちの顔見せ戦が終わると、次は特別戦だそうです。

ええと、挑戦者が6人。星5と6のオーク連合軍に対するは‥‥朝方見た人です。触手と戯れていた人。
人気者のようで、登場時の歓声もこれまでで最大です。


身長体重は‥‥大きくもなければ小さくもなし。
どちらかと言えば痩せて見えますが、あれは余分な筋肉が付いていないだけですね。
年齢は19±2歳ぐらいかな? もうちょっと年嵩かもしれません。異民族の年齢は解りにくいです。

綺麗な金髪碧眼だけど、顔の骨格とかはコーカソイドじゃありませんね。
どっちかと言えばネアンデルタール人少女の復元顔の方が似ているかも。
顎が出っ張ってなくて細いし、眼窩がヒサシ状じゃなくて、顔の凹凸が激しくない。
いわゆるベビーフェイスです。
うん、十年後の私は彼女に負けてるでしょうね、容姿で。僅かにですけど。ちょっと悔しい。

服装は女学生の夏服とチアガールの衣装を混ぜたようなデザインです。
半袖の上着にミニスカート、首元にネクタイみたいな飾り布があるので余計にそう見えます。
色は青地に白、少量の赤と黄色がアクセント。
手は白布の長手袋、足は灰色のタイツに革の長靴装備。腿まであるタイツは釣り糸のような半透明素材の
ガーターベルトで吊ってます。

ん? ノーブラに見えるけど歩いても胸が揺れてませんね。
紐が見えにくい特殊なブラを着用しているのでしょうか? まさかヌードブラ? それともパッド?

武装はショートソードに丸い小型盾。あと頭に白いカチューシャみたいな髪飾り。

「彼女、強いね」
「ツヨイ」

なんというか格が違いますね。素人の私にも解るくらい。
あの金髪さんは星8ですが、グェスでも勝てるかどうか解らない程の凄腕だそうです。
って、この島でも10本指に入る戦士が、ですか? 何処まで凄いんだ彼女。


宿舎の女達に聞いた話ですが、グェスはこの島の住人なら余程小さい子供たち以外は名を知られてます。
若手最強の一人とも言われるその強さだけでなく、適齢期なのに嫁も貰わず子供もおらず、同じく変わり者の
兄弟達と一緒に、ろくな果樹もなく良い狩り場もない辺鄙な所に住んでいる変人(オーク)として有名なのです。


さて、彼女の星がまだ8なのは、強すぎて挑戦者がなかなか現れないからですね。
同格以上のオークに勝たないと星は増えません。
挑戦者側も負ければ良くて降格悪くて死亡。恥もかきます。強すぎる女にはそうホイホイ挑戦しません。
血の気が多いけど、いざ戦いが始まる前までなら意外と慎重に振る舞えるのですよ、幹部級オークは。

そしてグェスのような格上が星の少ない相手に挑戦するのは「不作法」で「不名誉」な行為なので、
星9以上の戦士たちは闘いたくても相手の昇格を待つしかないのです。
がさつで脳筋で暴力による格差社会ではありますが、弱い者虐めしないのがオークたちなのです。
女や赤ん坊は守るものだし、弱いオークは虐めなくても放置しとけばすぐに死ぬんですよ、この島では。
それが虐めだと言われりゃそこまでですが。


多分ですけど、強い戦士が成長途上の女闘士を独占し過ぎない為のルールですね、これは。
上位者の青田刈りを制限してそこそこの戦士達にも嫁取りのチャンスを与え、同時に篩にかける訳です。
神殿は、女に負けるヘタレや手加減もできないマヌケに鍛え上げた嫁をやる気なんかないのですね。

あ、言い忘れてましたけど女に重傷負わせると挑戦者側の負け扱いです。星は減りませんが嫁は貰えません。
更に、とても不名誉なことなので、女を怪我させたオークは暫く(少なくとも女の怪我が全快するまでは)
闘技場に出ないのがマナーだとか。
圧倒的に強くないと嫁はやらん ということですね。ブレないなあ大母様。

そして、どうしても欲しい女を格下の戦士に譲ってやる気になれない場合は、乱入して嫁取り戦を
ぶち壊せば良いのです。
その場合も勝ち続けていれば、神殿の期待に応え続けていれば欲しい嫁が必ず手に入ります。
この島の勝利の女神は、常に強者へ微笑むのです。要は勝てば良いんですよ勝てば。


「彼女と闘ってみたい?」
「マエハ、ソウ」

今は特に意欲がない、と。


長らく同格の挑戦者が出てこない場合は、このように複数のオーク連合軍と変則マッチになることもあります。
オークを全員倒すか降参させるか堀に叩き込めば彼女の勝ちで、星9に昇格。
彼女は既に何度もこういった変則式決闘に勝利しているので、そろそろ昇格させないと拙いのです。

彼女を戦闘不能にした時点でオークが一人でも残ってればオークたちの勝ちで、彼女はオークたちのもの。
誰の妻になるかは生き残り達で話し合うなり殺し合うなりして決めます。
大概は一妻多夫制の共同妻になるみたいですが。

こういった変則的決闘の結果だと、星が6に足りなくてもお嫁さんを貰える訳です。
けど、それってオーク側の勝率が凄く低いからですよねえ。むう。


当然ですが、同格や格上の女を倒しても挑戦者側は昇格しません。嫁さん自体が賞品であり名誉なのですから。
これが本当のトロフィーワイフ! ‥‥笑えねぇ。
今回は関係ありませんが、星一つぐらいなら格下の女に挑戦することが認められる場合もあるそうです。
武器を弱くしたりとか、片手を縛ったりとか山ほどハンデ付けなきゃいけませんけど。

で、ドスやウォスには、そんなハンデ付けてこの闘技場の現役最強選手に勝つ自信はない訳です。

妥当な判断だと思いますよ?
というかハンデなしならそこそこ闘えるのだとしたら、あの二人の強さも相当なものですよね。


決闘ですが、一分かかりませんでした。6対1なのに、しかも血の一滴も流さずに。
4~50秒ぐらいですかね、動いていたのは。

半包囲して押し込んでくる連合軍を軽やかなフットワークで翻弄。
傍目からは双方が打ち合わせての模範演技なのかと思うほどな絶妙の動きで武器攻撃とタックルを避け、
堀の傍まで誘導します。
あとは挟み撃ちタックルに失敗して堀際で団子状態になっているオーク達を次々蹴り飛ばしたり、
投げ飛ばしたりで堀へ叩き込み、なんとか一人だけ残ったオークは以後立つことも許されずに延々と
足払いで転かされ続けて、心が折れたのか武器を投げ出し這いつくばって降参しました。


「「「「「ゾーニャァ!! ゾーニャァ!! ゾーニャァ!!」」」」」

大歓声の中、降伏を受け入れる証として這いつくばったオークの頭を女闘士が踏みつけて終了です。
うわー いい笑顔で踏んでるわー うん、ファンが多いのも解ります。
彼女、剣闘士ソーニャは今まで一人もオークを殺したことがないそうです。

あ、いや一度だけ、対戦相手を殺したこともあります。
ソーニャが嫁取り戦の新人で星6つぐらいだった頃、毎回なるべく血を流さずに勝っているので、
相手を殺せないんだと勘違いしたオーガーが素手の素っ裸で「刺せるもんなら刺してみろ」と組み討ち
仕掛けてきた事があったそうです。

そのときは軽やかな舞を見せながらオーガの左目・左耳・左手の小指・左の玉・左足の小指と次々潰して
切り落としていき、「次は右側いきましょうか?」とあの良い笑顔を見せたとか。

え? 結局殺してないじゃないかって? この次に、これを見た流れ者のトロル傭兵が飛び入り参加して
きたのですよ。
「所詮は速さが取り得の軽業師、手数だけでは殺戮エリートの俺様を仕留めるには足りまい」と豪語して。
地球のゲームと同じく、この世界のトロルも傷が高速で回復し、不死身に近いしぶとさを誇っているそうです。

もっともグェスに言わせると不死身は大げさで、ひたすら面倒くさいだけだとか。
勝負ではなく、作業感覚になるのであまり闘技場では対戦したくない相手だそうです。

「実戦なら?」
「ツブス、マゼル、ムシクワス」

ああ、この島の野外なら巨大昆虫やスライムとかの酸系属性攻撃してくる分解者がいくらでもいますもんねえ。
適当に潰して他の死体とかと混ぜて放置しとけば彼らが土に返してくれます。
再生するにしても大幅に弱体化するでしょう。
でもこの闘技場なら、虫も小動物もモンスターもいないここならトロルの再生能力が有効なのですね。


時々ですが、賞金目当てに外部の者が挑戦してくることもあります。
この島の戦士以外は勝っても嫁は貰えませんが、賭金に見合った賞金が支払われます。
この場合は女側に挑戦そのものを拒否する権利があり、女が辞退すれば同格のオーク戦士が代理で戦います。
部外者に勝てば、その女やオークには部外者が賭けた金品がそっくりそのまま渡されます。
女達には更に報奨としてファイトマネーが追加で出ます。


一撃だったそうです。
ただの一断ちで頭蓋を輪切りにされたトロルは脳味噌をえぐり出されて観客席の篝火に放り込まれました。
脳が焼けこげてしまっては、再生能力があってもパーツごと失われた器官はそう簡単に復活しません。
あとはゾンビ以下の木偶の坊になった巨体がうろうろしているだけです。
炎の付加魔術で燃える魔剣となったショートソードで細切れにされて、トロルは消し炭にされました。

最初から魔剣状態で戦わなかったのは、一撃で頭蓋骨を断ち切るためにカウンターを狙ったからでしょうか?
対抗手段があると分かりきってる相手になら、いくらトロルだって慎重になりますもんね。
攻めてこない相手にカウンターは決まらないし、軽量級の剣士がデカブツを倒すには急所への大ダメージが
必要です。末端からちくちく削るやり方は再生能力の高いトロルには効きませんから。


しかし、あれだけ強くて更に魔法まで使える魔法剣士ですか。なんてファンタジーな。

花道の両岸に首を並べて「フンデクレー!」と叫ぶ下っ端オーク達の頭を、オークの頭だけを因幡の白ウサギ
のように踏みつけて帰るソーニャさんの退場を持って、今回はお終いのようです。

ちょっと年嵩の巫女さんが出て、次の新月にまた開催すると告知しています。
はー 毎月やってるのですか、これを。


うん、最後はちょっと良いもの見れた。たぶんだけど彼女は‥‥いいえ、憶測で語るにはまだ早いですね。
あと、彼女やっぱりノーブラでした。決闘中は動くとちゃんと揺れてましたので詰め物じゃありません。




 ☆29日め7、ソーニャさんって‥‥☆


あのあとは本殿に戻って、そのまま寝てしまいました。そしてまた夜になって目が覚めました。
疲れてたんですね、やっぱり。

今は一人で夜中の神殿をお散歩中です。
と、人気のない回廊を触手の塊が這いずっていってます。
女、特に妊婦さんには有り難い存在だそうですけど、もう少しデザインが可愛くならないかなー。
夜中に見るとグロさ倍増しですよ本当に。

触手くんの来た方向を見ると、噴水でソーニャさんが服を着たまま水浴びしていました。
どうやら事後のようですね。

噴水の傍に盾と剣が並べて置いてあります。
相当に激しいプレイだったのか、青地に白のステージ衣装っぽい服がズタボロです。
胸とか布地が半分以上破り取られていい形してる右の乳房が丸出しですよ。
乳首の回りについた人間のものとは全然違う歯形が痛々しい‥‥ん?

ソーニャさんの服、なんだか見る見るうちに直っていくのですが。
逆再生フィルムのように布地が勝手にくっついて元の姿に戻っていきます。

ははあ、これも魔法の品ですか。耐久度自動回復機能付き。同じ服を何枚も持っているのではないのですね。


「貴女もどう?」

おおう、流暢なコモン(共通語)ですね。日本語並に分かり易いです。
えーと では毛皮の上着と見せパンツとサンダルは脱いで、肌着でご一緒しましょうか。
昼前から水浴びしてませんし。水浴びしながら、とりあえず自己紹介を交わします。

「私はバルキアのリガ生まれなの。貴女はどこから?」
「‥‥日本の○○○県○○○市です」

県と県庁所在地の名前が一緒の所って、結構ありますよね。九州地方とか。

「○○○○? 聞いたことないわね。ヒルデニアの何処らあたりなの?」
「いえ、日本って島国でして、ヒルデニアじゃありません」
「? だからヒルデニアでしょ?」

しばらく混乱してましたが、この世界にはヒルデニアという地域があるそうです。
で、そのヒルデニアの別名が日本、「太陽が昇るところ」という意味でして。
上の会話、ヒルデニアをハポンと入れ替えればまんまスペイン人と日本人の会話ですね。

色々話し合ってみましたが、ヒルデニアはあくまで日本風の一地域であって私の前世とは関係なさそうです。
地形からして弓状列島じゃなくてフィリピンとかに近い群島地域のようですし。
言語や文化の一部が日本風なので、日本からの転生者がいた(今もいる?)のかもしれません。

しかし話しやすいって良いなー 話が通じるってこんなに快適なものだったんですねえ。
共通語(コモン)が分かり易い言語なのはもちろんですが、それにしても分かり易すぎる。
どうやら今の私の身体は、もともと共通語(コモン)を喋れるみたいですね。異世界人の記憶が上書きされた
せいなのか、そのことに気付かなかっただけで咽や舌が言葉を憶えている感じがします。

ソーニャさんは東方人類文明圏、バルキア地方、リガ公国の出身で冒険者兼剣闘士だったそうです。
剣奴ではなく武闘大会に招待されるプロですね。人気の高いスター選手だったのは間違いありません。

ある日、航路を脅かす海の魔物を退治しに船出したソーニャさんたちでしたが帰り道で嵐にあって船は難破。
流れ着いた島は湧き水も出ない不毛の土地で、生存者達はやむなく通りがかったトカゲ人の船に自分から
奴隷として売り込むことで救助して貰ったのだとか。

そしてソーニャさんはオーク島史上三番目の高値でこの神殿に買われ、剣闘士兼お嫁さん候補として過ごす
ことになったのです。
ボロ儲けしてんなー トカゲ人たち。

「でもないわよ、待遇悪いから船の中で暴れてやったし」

船が動くのに問題ない人数は生かしておいてあげたわ、とくすくす笑う彼女の目は、本気でした。
そーいえばソーニャさんってグェス級に強いんですよね。
グェスの本気の戦いって、巨大亀二匹と大怪鳥一羽との変則マッチしか見たことありませんが‥‥。

うん、あれが船の中で暴れている図なんて想像もしたくない。
ラッシュ時の駅前に闘牛をけしかけるより酷い光景になること受けあいです。
ソーニャさんを怒らせないようにしましょう。機動隊100人がかりでも止められそうにありません。


私の方も身の上話をしましたが、そうたいした話にはなりません。
何故か故郷を遠く離れたこの島に来ていて、その経過を一切憶えていないこと、遭難して親切な旅人に
拾ってもらったこと、温泉のある洞窟で居候していること、改めて数えてみると再現に成功した文明の
産物が殆ど遊具と酒造関連だったこととか、せいぜいそのぐらいです。

いえ、酒屋の娘だった訳ではなくて‥‥伝統的に自家製のごにょごにょ(略)


水浴びしながら話しているうちに、ソーニャさんの服は完全に元へ戻りました。便利な服だなあ。


「ねえ、レイ」
「あっ はい、なんでしょう」

ソーニャさんが、水に濡れた肌着を脱いで搾っている私に話しかけてきました。

「貴女、私の所で修行してみない?」
「は?」

何故かスカウトされてしまいました。

「貴女には戦いの素質がある」
「え? いや 何のことだか分かりません」
「アマンダが‥‥長巻使いが切り込んだときに、ブゥ・グゥーンに言ったでしょう? 下がれって」
「えーと、その あれは」

何か妙な誤解をされてしまったようです。
あんなの見れば誰にでも解りますよ。
切られた側だって、素手はもちろん普通の得物でもきつい相手だからこそ、舐めてるように見せかけた奇襲を
仕掛けた訳ですし。

どうもオーク族は気短でいけません。
策略の意味や重要性は理解しているくせに、頭に血が上ると突撃しちゃうんですよ。

「巫女や周りの娘たちとは反りが合わなくてね。貴女となら上手くいきそうな気がするの」
「あの、私は闘いたくないんですが」
「大丈夫。私が鍛えてあげる。血を流さずに勝つ方法も教えてあげるわ」

ううっ 正直それは魅力的です!




 ☆30日め、もしかして☆


結局、居候の身としては独断では決められないということで保留してもらいました。
うちのオークたちに借りがなければ一も二もなく飛びついちゃったでしょうけど、流石に今そうしたら
恩知らずにも程があります。

グェスたちは私のために怪我したり蛇に噛まれたりしてます。
死んだ下っ端たちだって私が洞窟に来なかったら運命は変わっていたかもしれません。
この流れをどうにかしてからか、あるいはどうにかする為にでないとあの洞窟を出るのは気が進まない。

保留したら今度は基礎の基礎だけでも教えるからと、手取り足取りで稽古が始まって‥‥
で、せっかくだから教えて貰おうとしたら、剣の握り方や足運びの基本が既に出来てると言い出して‥‥

いやあの、剣道の授業で習っただけなんですが。
すり足とか、これで経験者扱いはちょっと勘弁して欲しいです。
確かに前世より身体が動く実感はありますけどね。身軽だしバランス感覚とかは比較になりません。


ああだこうだと身体を動かしているうちに朝になってしまいました。とても眠たいです。
本殿の奥に朝ご飯食べに行ったソーニャさんの見立てだと、私には素質が有るそうですが、本当かなあ。

今日も朝からバザー風の市場が開かれてます。
オークやコボルド族はどちらかと言えば夜行性なのですが、この神殿は基本昼間動いています。
巫女も嫁候補も、女達は昼行性ですからね。
あ、何件か店が変わっている。そういえば眼鏡の奥さん達は今日の朝に帰るのでした。


眠いなー 確か今日一日ここにいて、明日の朝帰る予定でしたよね、私たちは。
いっそ寝ちゃいましょうか。あ、その前に、ここにも知炎神の神像あるんだから朝のお祈りしましょう。

そうして本堂の方へ向かった私は、入ろうとした所で引き返しました。
なんか、今、嫌なものが視界の端に映ったような気が。

振り返って十歩ほど歩いて、西の海を見ます。ああ、良かった亀じゃありません。
首の短い首長竜ですね。
いえ、絶滅動物にはそういうのがいるんですよ。
首の長い首長竜の親戚で首が短くて口というか顎の大きい生き物が。

ヒレとかがウミガメにちょっと似ているのでびっくりしました。
あの事件以来、亀はすっかりトラウマです。
もう公園の池で日向ぼっこしている亀見ても暢気な気分にはなれないかも。

待て。 首長竜?
絶滅動物が普通にいるのはファンタジーだからまだ良いとして‥‥ もう一度確認。

頬を抓ります。うん、夢じゃない。

旧魔王城の近くまで、首が短めな首長竜が泳いで近づいて来てます。しかも二頭。サイズが怪獣なみなのが。
目算で全長約40メートル。体重は70トン近くあるでしょう。




さて、前の情報でこの近辺には人間とトカゲ人の二大勢力がシド星のごとく文明争覇していると言いましたが、
正確には人間文明の一つ、西方文明圏がトカゲ人勢力と戦っています。眼鏡の奥さんはこっちの出身です。
ソーニャさんの出身地は東方文明圏で、ある程度の交流はあるものの西方とは社会基盤がかなり違います。
当然ながら文化も違います。
代わりに東方文明は北側にある別の文明圏と抗争中なのだとか。この世界にも戦乱は絶えないのですね。


「鉄の王」は西方諸国の、もう滅んでいる列強の植民地総督だったようです。植民地経営に失敗したから
本国が滅んだのか本国が滅んだから植民地も滅んだのか、その辺はまだ分かりません。

この世界の文明は基本的に魔法文明ですが、その活用法の違いがそれぞれの文明の特色になっているのです。
東方文明は、ある意味なじみ深いというかファンタジーゲームの定番に近い文明のようです。
遺跡からの発掘品で武装した少数精鋭の特殊部隊(勇者パーティ)に国運を託して支援する、そんな文明です。
参拝者の女達にも東方出身の、元傭兵や遺跡荒らしが何人かいました。

西方文明は、機械や工業技術が発達した文明で、ある意味地球の近代文明に近いかもしれません。
そしてトカゲ人の文明はと言うと、大型生物の使役や品種改良など生物学的な技術に特化した文明なのです。


例えば、危険なモンスターがうろつく野原を通って隣の町まで荷物を運ぶときには

東方では無限袋や積み荷が軽くなる魔法の行李などを使い詰め込んだ荷物を、腕利きの兵隊や冒険者が
担いで「加速」や「飛翔」の呪文を使って移動力を上げ、一気に運びます。
西方ではゴーレム部隊で森を切り開き道を舗装して街道を造り、近くのモンスターの巣を潰し、用心のため
輸送隊に連射式パリスタを持たせて運ばせます。
トカゲ人なら、辺りを支配しているボスモンスターを捕らえて支配して、道中の安全を図ります。

そうです。トカゲ人文明は生物、特に爬虫類系の捕獲・使役・飼育・調教・品種改良などを得意とする、
生物技術を極端に発展させた文明なのです。
東方人の船乗りは帆船を操り、西方人の海軍は動力船を動かします。
トカゲ人たちは海竜に船を曳かせたり海獣そのものに乗って海原を渡るのです。
つまりあの巨大海生爬虫類はトカゲ人たちの生体兵器。

こんなのや、こんなのと互角に渡り合える西方文明と渡り合って、東方文明はよく今まで生きのこって
これたものです。それとも意外な弱点とかあるのかな? あの生物兵器というか兵器生物にも。





 ☆30日めの2、面倒なタイプですか?☆


なんなんですかあの海獣軍団は。眠気が一発で吹き飛んでしまいました。

首短首長竜‥‥良いじゃないですかこの程度の名前! 
地球にはトゲアリトゲナシトゲトゲなんて訳の分からない生き物だっているんですから!
とにかくクビミジカ首長竜に曳航された半水没船に乗ったトカゲ人たちが、この島にやってきました。

曳航船は二隻。曳いてる竜も二匹。これがトカゲ人の戦列艦だそうです。
統一規格で作られた量産型戦艦ですね。
サイズは全長70、いや65メートルぐらいかな? 
上から潰してやや平たくしたアーモンドかラグビーボールのような形をしています。
船体はほとんど黒に近い、濃い紺色や臙脂色でまだらに塗られてます。

見た目より船足が速いですね。曳いてるのがナマモノだけに反応も良さそうです。
曳航型とはいえ潜水艦だから、運動性も水上船の比ではないでしょう。

ええと、大航海時代の帆船が早めの船種で時速15キロぐらいでしたっけ? 順風なら8ノット以上出た筈。
21世紀地球なら、速度最優先で設計すれば15ノット近く出せる帆船も作れた筈です。
この世界なら現代水準に負けない船体素材や帆布も手に入るでしょう。
そんな船でも大海獣には追い付けるかどうか。

なんにせよあの曳航戦艦が、地球のガレー船より速くて小回り利くことは確かですね。
ガレー船が速くて時速9キロぐらいでしたっけ?

大砲とかはないようですが、火力はどうなっているのでしょう? まさか切り込み戦主体とか?
流線型していて水の抵抗に気を配っていますが、艦橋らしき部分が低いですねー。
見張り台もないようですし、目視による警戒は考えていないのでしょうか? 
ううむ、軍事オタの血が騒ぎます。

どんな兵器にもそれなりの合理性がある筈。特に戦争中実際に使われている兵器なら。
‥‥兵器の英国面は例外ですレアケース。

潜水戦艦。
地球では、燃やしてしまうべき妄想戦記ものにしか登場しなかった兵器は、何故にここでは作られ使われて
いるのでしょうか?

地球の戦争で潜水戦艦が作られなかった理由は、使いどころがないからですよね。
そもそも戦艦は外交で圧力をかけたり、実戦でも見せ札として使うべきもの。陰陽でいえば陽の兵器です。
それを隠してどうするって事ですよね。


戦艦としての力を持ったまま潜っても隠れきれないから隠れる意味がない。
潜水艦としての能力を優先すれば火力や装甲が落ちて戦艦とは言えない存在になってしまう。
およそ使い物にならないんです。

未来人とか宇宙人が手を加えれば両立する超兵器も作れるでしょうが、そんなことするぐらいなら最初から
その技術でステルス戦艦とかミサイル潜水艦とか作れば良い訳ですし。

うーん、ここはひとつ発想を変えてみましょう。水上艦だと拙い理由があるとしたら‥‥何でしょう? 
潜れない船だとクビミジカ竜の機動性が損なわれるからでしょうか。
ほら、馬車やソリに天馬とか赤鼻のトナカイとかを繋いで飛行機能を持たせたとしても、曳かれる荷台の方が
それに対応してなかったら意味がないでしょう?

ドラゴンと空中戦する天馬車の荷台から人や荷物がポロポロこぼれ落ちてたんじゃサーガにもなりません。
曳航する船が潜水可能ならクビミジカ竜も安心して三次元機動ができますね。
いや待て、あの巨体で水中三次元機動!? そりゃ出来るだろうけど、見たいような見たくないよーな。

良く見ると潜水戦列艦にもエビの腹にある小さなヒレのようなものが、いっぱい付いてますね。
水中ガレー船? ある程度の自力航行力があるのでしょう。


あ。

‥‥違う あれ、船じゃありません。


あれもナマモノです。頭足類か甲殻類か、なにか良く分からないけど生きてます。
あっちも海獣でしたか。そりゃ艦橋がない訳だ。
元から水に潜る生き物だから兵器化しても潜るのですね。思ったより単純な理由でした。


合計四匹のナマモノ戦艦の周りに、数体の大海蛇やクジラらしき生物がいて泳いでます。
魚竜かな? あれは護衛艦か艦載機でしょう。
曳航索を竜から外して、黒っぽい硬質のナマモノ艦が二隻とも、浜辺にはい上がってきました。

うーん、ファンタジーですねえ。グロいけど。

「レイ、貴女ずいぶんと軍事に詳しいのね」
「え?」
「トカゲ人の戦列艦が気に入った?」

いつの間にか、ソーニャさんが後に立っていました。
独り言を聞かれた? いや、私は日本語で考えてました。呟き声が聞こえたとしても日本語の筈。
細かい内容は解らないでしょう。つまりカマかけかな?

「ええまあ、珍しいと思います。見たことがない船でしたから」
「私も初めて見たときは驚いたわ」

あの、顔が近いです。
警戒する暇もなく近寄られてしまいましたが、やっぱりこの人は‥‥

「貴女なら直ぐにあの船に乗れるようになるわ。そう、一年もあればこの島から出ていけるようになる」

ああ、やっぱり。この島から出ようと思えば出られるんだ、この人。
直ぐにでも。やろうと思えば一日もかからずに。
この人は下っ端どころか、一人前の戦士達が束になってかかっても遊ばれてしまう程の凄腕で、
しかも魔法も使える訳で。
身のこなしと布鎧が一張羅ってところから察するに、斥候や探索の心得もあるのでしょう。つまり万能系です。


ソーニャさんを含め闘技場に出る女達は、指名したオークに挑戦することができます。
これは、女達が挑戦されたときと同じく、オークに拒否権はありません。
挑戦を受けるか戦士の名誉を大きく失うかどちらかになります。
具体的には星が大幅に減ります。
オーク側から挑戦した場合は負けると星が一つ減りますが、女から挑戦されて引き下がれば星が最低でも二つ
減ります。
オーク側から挑戦して勝った場合は、星は増えません。そして女から挑戦された闘いで負けてもオークの星は
減らないのです。

ちなみに減った星は、強さを証明することで返して貰えます。
毒持ちの大怪鳥など特定のモンスターを生け捕りにしたり倒したりするのが定番ですが、一晩のうちに
素手素足で坑道を掘り抜くとか、山から大木を一人で切り倒し神殿まで運んでくるとかの作業系や、
一月の間神殿の警備に就くとかの地味な奉仕でも星は戻ります。
敵対勢力の討伐や亡者の駆除、貴重なアイテムの入手など特別な使命を神殿から与えられることもあります。



闘技場参加者が人間主体なら八百長だらけになるでしょうが、オーク族だとこれでもシステムは破綻しません。
だって彼らにとっては、貴金属や宝石よりも女達の方がはるかに価値がありますから。比較にもならないぐらい。
ワザと負けてもオークは得しないし、そもそもそんな発想が出るかどうか。


女達もオークと同じく、ハンデを付ければ一つぐらい星の数が下のオークにも挑戦できます。
女側から挑戦しても、やることは同じです。勝てば報奨金が普段の倍増しで手に入り、負ければ嫁入りです。
ただし負けてもオークの方が嫁に欲しくなければ神殿に突き返せます。
本当に突き返された例は、闘技場の100年余りの歴史でも数回程度だそうですので、十数年に一度くらいの
頻度で出るようです。


この島の、数多い戦士のうち彼女に勝てる可能性があるのは僅か数人。
それも正面から尋常の勝負をすればの話です。
ソーニャさんが本場仕込みのえげつないテクニックを、闘技場の試合でしか使えない特殊な小技を駆使すれば
ギュー・グェスにだってどうにもなりません。
殺す気でいけばまた話は別ですが、グェスにはそこまでする理由がありませんし。

神殿の警備などについている戦士オークたちから適当なのを選んで挑戦して、勝ち続けていけば直ぐに自分を
買い戻せる。
負けさえしなければ、女の側から一日に何度でも挑戦することが認められているのですから。

妨害はできません。この人を怒らせたり、本気で敵に回そうなんて大母様が考える訳がない。
もしそう決めたなら即座に潰しにかかるでしょうけどね。
逆に言えば、余程のことがない限りソーニャさんも大母様に喧嘩売りません。
神殿の宝物庫荒らして略奪した後、船を奪い逃走‥‥とかの馬鹿な真似はしないのです。


ソーニャさんは元剣闘士ですが、意識の上では今でも剣闘士、つまり芸人なんです。
剣奴とは違う精神構造の持ち主なのです。だからサービス精神たっぷりに闘い、自分の強さを演出する。

今でもその気になれば即座に出ていけるから、必死さがない。
だから態度も余裕たっぷりなのです。
ソーニャさんは、オークが嫌いじゃありません。
少なくとも何かと理由を見つけては殺しにかかる程嫌ってません。
むしろ逆に、なるべく傷つけないようにしています。

今すぐ、何が何でも島を出て行こうとするほど嫌ってもいません。
多分しばらくこの島で芸と色気を振りまいてお小遣いを稼いで過ごし、飽きたら出ていく気でいるのです。
そしてそれは十分可能です。
彼女はギュー・グェスが本気でかかっても必勝の自信がもてない程の強者であり、オークたちは彼女を
大怪我させないよう手加減して闘わないといけないのですから。


うん。これで周りと反りが合う方がおかしい。
言っちゃあなんだけど、ぼっちで当然ですよ貴女。

悪い人じゃないのは解るんですけどねー。


現に、放置しておいても何も問題ない私を、再開する旅の道連れにして外へ出そうとしてくれているのですし。
信用する理由が特に有るわけではありません。あえて言うなら直感です。
私なんかを騙してどうこうする暇があれば、その手間を他の事に使った方が遙かにお得なのです。

でも下心というか利用したいという考えはあるかもしれません。
ソーニャさんは女の人ですから。
女性は大概お喋り好きです。男だって気の合う喋り相手がいないと気が滅入るのです。
女の人なら尚更でしょう。

彼女が本当にぼっちなら、気の合う話し相手は手放そうとしないはずです。








[38600] 11
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:49


 ☆30日め3、つわものどもがゆめのあと☆


わたしレイちゃん、いま浜辺にいるの。


ギュー・グェスと合流して、トカゲ人の船を見物しに来ました。
なぜかソーニャさんも一緒です。神殿の外にもほいほい出られるんですよ、ソーニャさんぐらいになると。
この島では強さこそが掟。ただ強ければそれだけで大概のことが通るのです。

溜め込んだファイトマネーからお金を出して、外出する時間を買っている形にしてますけどね。
特別扱いは流石に妬まれるし、神殿にも面子とか体裁ってものがありますし。

神殿が保護している女達を買い取ることは出来ませんが、それ以外なら何でも買えるんですよ。
女達を買い取れるのはオーク族の戦士か、嫁として大事にすることを誓った友好部族の戦士だけです。

オークだけではなく、この神殿から嫁取りする部族では嫁=人間系種族の雌が常識なのです。
嫁さんを大事にする文化も神殿由来で広がっています。
そしてうちの幹部オーク三人は、その中でも特に紳士なのですね。

そう言えばミノタウロスとかって、思ってたよりも普通ですよね。
いえその、ファンタジー世界的常識からあまり外れてないという意味で。
勇猛な脳筋種族で、雄しかいないから人間など他種族の女を嫁にするあたり想定どおりでした。

オークと違うのは加工技術を殆ど持ってなくて、布や毛皮や金属製品などを交易や発掘で賄っている
所ですかね。その生活様式は牧歌的というか、オークたちよりも更に単純なようです。

文化的なことまではまだよく分かりませんが、ミノタウロス系の種族でも頭が牛の部族は一夫多妻の
ハーレム型で、頭が馬の部族は一妻多夫の逆ハーレム型の社会を築いているようです。
頭が羊の部族は多夫多妻制ですね。

コボルド族の婚姻形態はよく分かりません。
乱婚らしいと推定できますが、そもそも制度として決まっていない可能性もあります。


オークに比べると数が少ない牛男や馬男や羊男たちは、同族の若人達をそれぞれの村や集落で鍛えに
鍛えてから神殿へ送り込みます。
そして神殿が用意する試練を突破すれば、その実力に見合った星を評価として貰える訳です。
星が6になれば自由に嫁取り挑戦ができますし、4や5でも条件付きで嫁取りを試みることができます。

でも闘技場に上がる者たちはみな例外なく、星の数を増やしたがります。
この島では強さこそが権勢であり栄誉であり魅力なのですから。
ウチの巣の連中のように、「そこまでして嫁さん欲しくない」と言う雄は少数派なのです。


日射しの強い砂浜は、昨日の闘技場ほどではありませんがそれでもざっと百数十人の人出があります。
しかも少しずつ増え続けている。
みんなして見に来たのですね、新しい嫁さん候補を。

む、野次馬の中に見覚えのある顔を発見!
昨日の生き残り戦で二人目の合格者になった、ふてぶてしい顔つきの戦士オークです。

そうか、彼ももう星6つの戦士ですもんね。
今日来る新人さんにだって将来的には求婚できる身分になったんですよ。
この島のオーク達は、公式な名を持ち嫁取りする権利を持つ戦士オークと、名も求婚権もない下っ端オークに
別れています。
だいたい、星が0から3ぐらいまでが下っ端として扱われます。
星4から5が未熟な戦士、星6以上で一人前と見なされます。

グェスたち幹部は、戦士オークのうち高い戦闘力と指揮官特性を持つ者です。
早い話、命令すれば下っ端達が反射的に「サー!、イエッサー!」と従ってしまうのが幹部です。
幹部に命令された下っ端オークたちは「この人(オーク)は強いからとりあえず言うこと聞いとくか」とかの
損得や有利不利で従っている訳ではありません。

下っ端達に、疑うことを許させないカリスマが幹部の必須条件なのです。 
ウチの巣の下っ端達は決して勇敢とは言えない連中ですが、グェスたち三人が「動くな」と命令し続け
ている限り絶対に動かず、私を守り通してくれます。


下っ端達の生き残り戦は、一度始めたら絶対に星6の戦士が生まれるまで続けられます。
参加者が最後の一人になるまでやりぬきます。うっかり生きのこってしまうと、かえって残酷だからです。
ソーニャさんが訓練の合間に教えてくれましたが、あの生き残り戦はそのまんま壺毒というか呪術じみた
魔法儀式だったのですよ。いやほら、神殿での一般的な修行とソーニャさんの弟子としての修行は何処が
どう違うのか教えて貰うついでに、教わりました。

弱いオーク同士が互いに殺し合うことで、強いオークを作り出す。カードゲーム風に言えば、同格の
オーク二体を生け贄にして1レベル上のオーク一体を再配置する儀式(リチューアル)なのです。

星が増えるのは、何よりも実力あってのことです。実際に強くないと神殿は星を増やしてくれません。
承認漏れや遅れなどで、実力よりも低い評価になることはあっても、弱者が実力や実績に見合わない
評価を受けることは有り得ないのです。
何かの罰や懲戒処分で一時的に星が減らされることはあっても、水増しされることはないですし。

仲間の死と引き替えに自分が、自分の死と引き替えに仲間が、確実に強くなる。命が羽毛のように軽い
オーク達の常識では、あの血みどろ椅子取りゲームはそれ程理不尽なものでもないのでしょう。




儀式の効果は絶対にして確実。
だからこそ儀式に参加して敗れて、それでも死ねなかった者はオークをオークとしている 何か を生きた
まま吸い取られることになります。
その結果は、気力体力を急速に失って生きながら腐りはてていく惨めな死。

だからこそ、生き残り戦で負けたのに死に損なったオークは、女の手にかかって死なねばなりません。
彼らの魂は呪術で歪められ不自然な状態にあるので、逆方向の儀式によってでないと矯正されないのです。

つまり、同じオークの手に掛かって殺される筈だった死に損ないのオークは、女達の手に掛かって死ぬ
ことで救われるのです。
死ぬ覚悟を、殺す覚悟を決めて納得ずくで修羅場に飛び込み、死に損なったオークは、
どちらの覚悟もない、納得など欠片もしていない女の手で殺されねばならない。
それでやっと綻んだ呪術の辻褄が合うのです。

ちなみに、刺すのが辛ロリな長巻使いみたいに躊躇いなしの女だと救われません。
その場合遠からず島のアンデッドモンスターが一匹増えることになります。それもかなり質が悪いのが。


これだけの犠牲を払うだけあって、儀式の効果は絶大です。
たった数分の闘いで、下っ端の群が一人前の戦士オークに変身するのですから。

一人前の戦士になったオークは、神殿に仕える奉仕者となったり、伝手をたよって知り合いの巣に入れて
貰うことになったりします。腕と運に自信があれば、当てもない旅に出るのも自由です。

一握りの勇敢なオーク戦士は、神殿から貸し与えられる装備品を手に旅立ちます。
神殿から、つまり大母様から与えられた試練を成し遂げる為です。
その試練を成し遂げたならば、彼は新たな族長としてこの島の何処にでも巣を作る資格を得ます。

この儀式で一足飛びに強くなったオーク戦士も多いですが、硫黄の集落の戦士ブゥ・グゥーンのように
地道にコツコツ修行して強くなっていったオークもいます。
しかしどんな方法で強くなったとしても、どんなに強くなったとしても死ぬときは死にます。

かつて当代随一の戦士と言われたグェスたちの父親も、最後にはモンスターの牙に倒れたのですから。




 ☆30日め4、神聖有鱗帝国☆


砂浜に上がってきた甲殻類なんだか泳ぐ貝なんだかよく解らない戦艦の船首が動いて、外版が外れました。
そのまま板が倒れるように降りて、その奥の絞り込みシャッターみたいな扉が開きます。
うーん、潜水揚陸戦艦と来ましたか。トカゲ人の兵器って火葬系なんですかねえ。
この世界では実用性あるのかな?


良かった、シャッター扉から降りてきた昇降用板は普通でした。
ナマモノのエスカレーターとかだったらどうしようかと思いましたよ。
木製の板に滑り止めらしき鉄の棒が等間隔に打ち付けてあります。

板を降りてきたのは鱗が生えた肌を持つトカゲ人間達です。

‥‥人間って呼んで良いのかな、アレ。
少なくとも人型していないんですけど。体型的に。トカゲそのものじゃありませんか。
そりゃワニの先祖とか恐竜みたいに脚は直立してますし、腕は人間にかなり近い形をしてますけど。
手は、形が全然違います。五本指だけど小指がなくて、代わりに親指の反対側にもう一本親指が生えています。
手の平の両側に支えがあるから、把捉力は人間の手より上でしょうね。

人間じゃない というか人型種族じゃないのですね。トカゲ人は。
うん。ミノタウロスもコボルドも、みんな仲間だ友達だ。爬虫類と比べれば。

だってあれ、人間じゃないよ! 表情が読みにくいとかのレベルじゃなくて、そもそも表情筋そのものが
存在しないっぽいんですけど!?
あれは顔じゃない。頭部前面だ。

ま、まあ 動作とか振る舞いを見る限り知的種族であることは間違いない。
ならば表情を読むことも出来るはず。
慣れれば鶏の機嫌だって分かるんです。トカゲの仕草だって慣れれば分かるでしょう。
あんまり慣れたくないけど。


体型も、シルエットがまんまワニや大トカゲです。
長いんですよ彼らは。
全長の半分かそれ以上を尻尾が占めています。体重に占める割合だって四割以上あるでしょう。

そして姿勢が低い。
いえ、止まっている時はカンガルーや昔の恐竜映画のティラノサウルスみたいな三点立ちで立っています。
ジ○ラシックパークじゃなくて、尻尾ずるずる引きずってる恐竜100万年の方のティラノさんです。
立っているときはかなり頭が高いです。
でも歩くときは前傾して、頭が腰とほぼ平行になる高さまで下がります。

人間は、言ってしまえば直立した棒のような体型です。重心的には棒そのものです。
人間の歩行とは、棒を傾けるように重心を崩して、倒れる前に片足を動かして前に出し支えるという
動きが基本です。これに筋肉の力を、残したもう一本の足で地面を蹴った反動で得た運動エネルギーを
足すと前に進んでいく訳です。

オーク族もエルフも、コボルドもミノタウロスも人型種族の歩き方は変わりません。
人型種族は、立っているときの姿が 「I」 で、歩いている姿が 「人」 なのです(横から見た図)。
一方トカゲ人は、立っている姿は 「入」 で歩いている姿が 「丁」 なのです。

うん、トカゲ族は人類とは完全に別物ですね。
あれだ、インスマ○スの最終形態を爬虫類にしてみた感じですよ。人の要素が殆どないんです。

普通の‥‥というかゲーム世界に良く出てくるリザードマンとかのトカゲ人間種族の、鱗が生えた人間のような手足を、恐竜
みたいに歩く大トカゲへ植え付けた生き物を想像してみてください。
それがトカゲ帝国人です。

とりあえず知的生物は人として扱いましょう。オークたちもそうしてますし。



ぞろぞろと大勢の‥‥それも多種多様のトカゲ人たちが出てきて、砂浜に降り立ちました。
トカゲ人は体格や体型の差というかバラツキが大きいですね、種族差も個体差も。
ちらほらとですがトカゲっぽくない爬虫類系種族も見かけます。

あれですね、洋服が色々な布地やデザインがあっても洋服という区分に入るように、和服が一定の範囲に入る
ように、爬虫人類であることは変わりませんが、その中でのバリエーションが豊富なのです。


察するにイグアナっぽいのやカナヘビっぽいのが文官で、コモドドラゴン風のが武官でしょうか。
文官風のトカゲ人は目が痛くなるくらい白くて光沢のある布地を緩やかに身体へ巻き付けています。
翡翠や瑪瑙っぽい光沢の宝石が付いた装身具をそれぞれ身に付けていますが、飾りが豪華なトカゲ人ほど
高位文官のようですね。

武官風の厳ついトカゲ人は服や衣ではなく鎧のみ身に付けてます。
黒い金属の胸当てに同じ材質の籠手と脛当て。兜は付けてません。武器は鞘に収めた三日月刀。
片手持ち刀と小型丸盾装備の武官が多いですが中には斬馬刀なみに大きな刀を背負っているものもいます。

降りてきたのはそれら武官文官が合わせて15名ほど、そして下働きらしい幼年のトカゲ人たちが20名前後。
さらに加えて首輪と鎖で繋がれた奴隷が7名。当然ながら全員人間型種族の若い女です。

十代半ばから二十歳過ぎぐらいの四人組+十代後半から二十歳前後の三人組。
グループごとに出新地や出自が違うようですね。
仕草や表情から四人組と三人組がそれぞれ仲間なのが解ります。

三人組は顔立ちがよく似ているので姉妹か親族かもしれません。
大柄で肉付きがよく、健康そうな若い娘達です。
首から下だけならお米国の男性向け写真集でメインになれるくらいの爆発的な体型してます。
首から上は、日本の男性向け写真集でメインになれますね。
なんなんだこの世界。美人しか生まれない法則でもあるのでしょうか?

でも表情が暗い。いかにも奴隷というか不幸全開オーラ垂れ流しで、薄絹の肌着姿に手枷足枷付けられて
引き立てられていく様子が痛々しいです。


比べてみると四人組は総じて小柄ですね。
平均身長が先の三人より頭一つ分以上低くくて、一番小柄な女(ひと)は私より小さいぐらいです。
でも小柄で童顔なだけで子供の体型じゃありませんね。いわゆる合法ロリ。
あっちの三人が豊かすぎるだけで、小さくてもBはあるし大きい娘はD近くあるし。

四人とも服装は、私の常識範囲内‥‥かな? 
膝下丈ぐらいのスカートを穿き、薄地ですが透けても破れてもない女物の服を着てます。

Dカップの娘さんだけは上半身がレオタードとタンクトップの中間みたいな、体の線がはっきり出る服装で
ショートパンツ穿いてますけど。


ところで、あの一番小さくて白い髪の女(ひと)、頭に ウ サ ミ ミ が つ い て る んですが。
それに良く見ると足が、爪先から踵までが長いですね、私の5割り増しぐらいに。
単純に足が大きいのではなく足の形自体が細長い感じです。
足型を比べてみれば私の足よりも幅が狭いでしょう。

なるほど、あれが獣人族ですか。
四人の内一番おっぱい大きい娘も、良く見ると耳が尖っていて長いですね。
大母様ほどじゃありませんがミスター○ポックよりやや長めな感じで。こちらはハーフエルフですか。
残る二人は人間ですが、二人とも法のルーンが入った聖印を首から下げています。
服装は微妙に違いますがどちらも神官職のようです。

こちらの四人は雰囲気明るいですね。浜辺に集まった雄どもの視線にも怯えてません。
頬を染めて恥じらう聖印の二人に、瞳を輝かせて辺りを見渡すハーフエルフに、視線を受け止めて
不敵な笑みを見せるウサミミさん。
うーん、なんか態度からしてあのウサミミさんが一番世慣れているというか年長者に見えるのですが、
異種族だから外見が幼く見えるのかな?

四人とも首輪と鎖は付けていますが手足に枷はなし。
神殿の奥さん嫁さん達が首輪をごく普通の装身具として身に付けているのに比べて、四人は胸を張り
鎖で四連結された首輪を誇らしげに視線へと晒してます。

うん、あれは運動会の入賞者が首から下げたメダルを自慢している顔つきですね。


計7人。人数的に今回は多めだそうです。
元々トカゲ人が連れてくる女達は数が少なめで、そのかわり健康管理が万全なのだとか。
逆に人間の奴隷商人が運んでくる女達は人数多めですが質はバラバラです。
ただ来る頻度はトカゲ人の方が高いので、総計すると5対3ぐらいでトカゲ戦艦経由の方が多くなります。
実際、今月はトカゲ人だけしか来ませんし。

この島は人類の文明圏から外れていますが、時々難破船や命知らずな探検船、後ろ暗さ満載の海賊船などが
やってきます。
この島はオークたち‥‥というか神殿の領土扱いなので、新月期にこの海岸へ来た船以外は見つけ次第拿捕
または撃沈して良いのだそうです。

もちろん平和的に交渉や交易しても構いませんし、襲われる側が反撃するのも当然です。
ああそうか、神殿の廊下に飾ってあった船首像はその記念品ですか。



炎天下の砂浜に女奴隷たちを立たせたまま、値段交渉が始まります。
あー 交渉が長びくと売られてきた女達が熱中症でまいってしまうから、神殿側はあんまり粘れないのか。
汚い、流石トカゲ人きたない。文明人はこれだから嫌なんですよ。

奴隷娘たちの辛そうな様子に保護欲を刺激された、周り中の雄どもから発せられる「とっとと話まとめろ」と
いう圧力に耐えかねた巫女達は交渉を適当なところで切り上げました。
ふわふわな絹もどきの謎素材って、通気性と吸湿性が良いから着ていると涼しいんですよね。
服装の違いで、巫女さんたちと奴隷娘たちでは熱暑耐性が違いすぎます。

そう言えば、巫女さんの格好って新入りや見習いほど厚着で、ベテランほど薄着のようですね。
砂浜にいる巫女達のうち一番偉そうな巫女さんの服は三枚重ねぐらいです。大母様は一枚っきりだし。


樽や壷に詰め込まれた金銀財宝がどんどん運ばれてきて、砂の上に山を作ります。

うっわー 凄い量だこと。金貨で何枚分になるんでしょう。
地球のコインよりもずっと大きくて重たいこの世界の硬貨は、約一万枚で樽一杯分になります。
重量は400㎏以上。
あっちの樽に入っているのは金貨ではなく、白金貨ですから額面価値は10倍。
それに加えて銀貨銅貨や金塊銀塊、各種宝石に真珠や珊瑚に象牙に毛皮と‥‥うちの宝物庫総ざらいしたより
多いかもしれませんよ、コレは。


ざっと目算で金貨240万枚以上ってところですか。これってどのくらいの金額なのでしょうか。
ソーニャさんに貨幣の価値を聞いてみましょう。

「港湾人夫の日当が金貨1枚から2枚ってところね。ちなみにリガ港の闘技場で賞金最高額が金貨4000枚」
「一般的な町民一家の年間生活費は?」
「地域や景気によるわ。数年前のリガなら、五人家族で金貨600枚ぐらいかしら」

うん、そんなもんですよね。金貨一枚あたり数千円ぐらいでしょうか。
その百分の一、銅貨一枚で駄菓子が買えるなら物価的にもそうおかしくないですね。
江戸時代だって一番小さい金貨(一朱)が小銅貨250~375枚分だった訳ですし。寛永通宝なら金貨一枚で
銅貨百枚ちょっとになります。

凄い! びっくりするぐらい金(ゴールド)が安い! 
地球と比べて数パーセントの価値しかないですよこの世界では。
18金として換算しても一枚当たり最低30グラムは金が入っている硬貨が数千円ですからねー 
神殿に金細工や金の装飾が多いのも道理ですね。

となるとこの世界では白金が希少なのかな? 
地球では金より高価だけど精々数割り増し程度、10倍もはしなかった筈です。


数十億円ですか‥‥ いや、わざわざ戦艦できているならそうおかしくも‥‥ おかしいよ!
なんでたかだか数人の女奴隷売りに来るのに戦列艦二隻も出してくるですか爬虫類は!

砲艦外交!? 砲艦外交ですよねコレ!? 言い値で買わなきゃ撃つぞと言いたいんですね!? 
たかがオーク相手に大帝国が何大人げない真似


え? つまりこのトカゲ人たちが底なしの間抜けでないかぎり砲艦外交する価値があるってことですよね? 

この島に?


ソーニャさんソーニャさん、質問です。なんで彼らは戦艦まで出してここへ来たのでしょうか?


「あのね、レイ」
「はい」

説明されるまで気付かなかったけど‥‥
ソーニャさんは強いのです。グェスと大差ないぐらいに。つまりグェスもソーニャさん級に強い訳で。
で、それ以外にも今この場にいるだけで星10が七人、星9に至っては三十人近くいます。
星11級の実力者はソーニャさんを除くと三人だけですが。

オーク達は美女や美少女が大好きです。故にこの浜辺には野次馬が続々と集結中なのです。
闘技場と違って、遅れたら見逃すなんてことがないので朝一番から来ないで、他の用事すませてからという
連中が多いのですね。


冗談抜きで、今浜辺にいる人数だけでトカゲ人たち皆殺しにしてお釣りがくるんですよ。生物戦艦含めて。
やりませんけどね、巻き添えで女達も死ぬから。

オークたちはトカゲ人たちと戦いません。理由と利益がありませんから。
トカゲ人たちもオークとは戦いません。
勝てば神殿が蓄えている財貨を奪えるでしょうが、それよりも定期的に捕虜や奴隷を送りつけて高値で
買い取らせる方がローリスクハイリターンです。

トカゲ人としては、こんなモンスターまみれの火山島を直接支配するより交易で金銀をむしり取った方が
採算良い訳で。
最悪でも敵がこの島を拠点として使えないようにしときさえすれば良いのです。
オークたちにとって「鉄の王」の眷族である西方文明は不倶戴天の仇敵。妥協や同盟なんてありえません。


ごめん、砲艦外交じゃなくて自衛行為でした。
言ってみれば野生の○田島塾長がうようよしてるというか、島民みんなが男塾○生な所に米軍が来たような
ものですか。ファンタジーって凄い。

でも、それにしたって一人十億は暴利過ぎやしませんか? 
ポルシェやフェラーリどころか戦車もびっくりのお値段です。私なんか只ですよタダ。拾いものだから。



いや、考えてみればトカゲ人の持ち込む女達は健康面に文句無しな優良人材。
幹部オークたちをどんどん産んでくれる戦略兵器と考えればそう高くないのかな? 
神殿側としては金で近海の安全を買っているようなものでしょう。
月一回のペースで軍事大国の船が来てくれるのですから。トカゲ人としては勢力範囲の見回り中に高額ペット
を運んで同盟国の機嫌取りと資金稼ぎができる訳ですね。


どちら側にも嫁不足状態を維持する理由があります。
そうしないと島一杯にオークが溢れかえってしまいますから。
航海技術を持たずまた将来も持てないだろうオークたちが、近所の島々より遠い所に進出するのは難しい。
増えに増えたオークたちが口減らしのために殺し合う未来よりかは、嫁候補の取り合いで殺し合う今の方が
まだマシということですか。

もし増えすぎて口減らしのために殺すのなら、女子供も間引く事になります。
そうなれば誰にとっても不幸です。
今は弱いオークたちに不幸が押し付けられているけど、無計画に嫁を増やせば破滅の未来しかない。
これは、難儀ですね。もし誰かがこの問題を解決できたなら、神格化されて当然ですよ。


しかしよく出来てるなあ、この仕組み。
需要と供給のバランスに気を付けていれば値崩れもしないし、トカゲ人ボロ儲けですね。

トカゲ人の人夫たちがせっせと財宝を運ぶ傍らで、奴隷女たちは布天幕の下に入り水を与えられ手枷足枷を
外されてます。
首輪も外されて、新しいのに交換されてますね。新しい方が軽くて楽そうです。
おや? あっちの四人組はなぜまだ砂浜に立たされているのでしょうか? 
って、そっちは別口で交渉開始ですか!


さっきのは三人だけであの値段だったとは。
一人80万ゴールドぉ!?  暴利貪ってますね爬虫類め!





 ☆30日め5、えげつない☆


ちなみに買い取り済みの三人は姉妹だそうです。
西方文明圏の植民地で下級領主兼大地主やってた家の跡取り娘とその妹たちですね。
裕福な田舎貴族として悠々自適の生活をしてたのですが、近場の領主軍に襲われまして。
屋敷は焼かれ、当主一家は逃げ散り、逃げそこねて捕まった三人は仲良くまとめて売り飛ばされてきたのです。

なんか、西方文明圏では女に対する最悪の侮辱行為みたいですね、トカゲ人の奴隷商人に売るって。
お前なんかじゃナニも起たねーよ、トカゲが弄り回せばオークぐらいなら買ってくれるかもな! 的な。

で、襲った領主はそのままだと本国軍に討伐されてしまうので、トカゲ人の軍を呼び込みました。
トカゲ人帝国は従属受け入れの条件として、トカゲ帝国と組むことに反発し抵抗したあげくに敗れて捕虜に
なったその地域の貴族豪族を、残らず連れ去っていった訳です。老若男女問わず。

なるほど。貴族とは支配と統治のプロフェッショナルです。
それを、根こそぎもっていかれたらその土地ではまともな領地経営なんぞできません。
従者や執事や乳兄弟といった、貴族ではない者も含む側近まで一緒に連れ去ればなおのことです。

家族親族に加え家臣や使用人まで売り渡され、実験体や兵器生物の苗床にされたのでは、反乱起こされた
本国の有力者たちも、謀反人の降伏や講和に応じる気にはなれないでしょう。
謀反人が本国側へ、再度の寝返りをしないようにするには良い手かもしれません。


こうなると反乱軍が生き延びたければ、引き続きトカゲ帝国の軍と官僚を頼りにするしかない。
反乱勢力が負けて本国が植民地を取り返したとしても、現地の統治に支障きたすこと請けあいです。
人材と現地運営の知見や秘訣が完全に失われて仕舞うのですから。

そして統治するのは難しい土地だけど、放棄するには現地のハードウェア的被害が少ないから捨てるに
捨てられず、時間と人材を使って再建することになり、結果として本国の財政が苦しくなる訳ですね。
きたないさすがトカゲ人汚い。


トカゲ人たちは、援助と交換した捕虜の貴族子女を、ただ殺すのはもったいないから色々と活用するのです。
で、値段によっては兵器生物の苗床にするよりオークたちに売りつけた方が得ですからねー 
エルフや強い冒険者ほどじゃありませんが、若くて健康な貴族の娘は売れ筋商品ですし。

いえね、この世界の貴族、特に下級貴族って強くないとやってけないのですよ。
お公家さんじゃなくて武士団の頭目の方が近いですから。ヤクザとか山賊の親玉の方が更に近い。
肉体的に弱い貴族がいない訳ではありませんが、地方領主やってる下級貴族は武闘派がデフォルトなのです。

ファンタジーなお話によくある「ドラゴン倒したら姫をやるぞ」という展開は、市井から成り上がった
強者を支配層に取り込むためにあります。そうやって強者の血を入れていく訳です。
つまりファンタジーなこの世界の貴族令嬢って、肉体的能力の意味でサラブレッドなんですよ。
オークほど極端じゃありませんが、人間にも個体差があり血統的な優劣‥‥というより適正の差がある訳で。

もちろん貴族の血統にもダメダメなのやイカレてるのもいます。というか一般人より遙かに多いです。
優秀ってことは逆に言えば偏っているってことですからね。頭の良い馬鹿や馬鹿な天才はもちろん、
頭の悪い馬鹿も天才な馬鹿も掃いて捨てるほどいるのが貴族階級なのです。



‥‥というようなことを、文官っぽいヘビ人が話してくれました。
爬虫人類の一種ですが、目とか鱗艶とかがヘビそのものです。舌先も二つに割れてるし。

トカゲ人の変種である彼らは学者や研究員としての面を持っていまして、トカゲ人たちは実用的でない
会話を好まないため、ヘビ人たちは知的な会話に飢えているのだそうです。
それをペラペラ喋っているあたり彼自身も「頭の良い馬鹿」な気がしますが、頭の悪い馬鹿である私が
とやかく言うようなことでもありません。

「その玉石混淆な素材の中から、需要にぴったりの宝玉を探し出し磨き上げるのが栄光なるトカゲ人帝国
畜人研究組合の秘匿技術であり、今回出荷した三姉妹は特に受胎が容易で多産及び連産に適した個体と
なっておる。脳内、特に記憶は殆ど弄ってないので精神的に不安定ではあるが、自傷行為に強い忌避感を
持たせてあるので危険度は少なかろう」

あ、まだ話続いてました。

話というか、テレパシーですね。ヘビ人は思念というか知識の通路なるものを使って他の種族と円滑な会話が
できるのです。
ただし、双方が興味を、知的好奇心を満たせる会話だけですが。
興味が途切れたり話題がずれると途端に通じなくなってしまいます。

「怪我するのが嫌だと、闘技場には出られませんが?」
「それは仕方がない。そもそもヒュー族に限らず哺乳類の雌に戦闘行為を行わせること自体に無理がある。
しかし需要に応えるのが研究者であるので、戦闘性は元遺跡荒らしたちの方に発揮させることにしたのだ」

四人組はいわゆる冒険者で、とある遺跡で石化した姿で発見されました。
トカゲ人の調査隊に回収されて、研究素材にされていたのです。
この世界では、生き物を石に変えてしまう毒や呪いの存在は珍しくありません。
トカゲ人の社会でも、重症時の緊急避難や生き餌の鮮度維持などに使われています。

母胎としての商品価値が高かった元冒険者の四人は、トカゲ人の研究者から催眠暗示や脳内改造と条件付け
などを施され、嫁候補として改造されました。
たとえば催眠暗示によりオークへの嫌悪感を除去したり、オークから性的な刺激を受けた際に快楽物質が分泌
されるように脳を改造したりとか。

トカゲ帝国人怖い。なにが怖いってこれらのことを嬉々として喋っているあたりが。
やってること自体は人間が犬猫やエンドウ豆にしてる事と大差ないのですが、何故ソレを平然と人間の私に
話せるんでしょう。
オークたちとの文化差に悩んでいたのが馬鹿みたいです。
思えば彼らは健全でした。蛮族じみたところはあったけどまだ納得のいく野蛮さなのです。


「脳内の感情回路は弄りすぎると動作が不自然になるのでなるべく弄りたくないのだが、好戦性と親和性と
いう要素を両立するためには致し方なかった」
「うーん、いっそのこと脳内にはなにもしない方が良くありません? その方が顧客は喜ぶと思うのですよ」

ギュー・グェスたちは母親が人間のハーフ・オーク。しかも知性を保ったままの母親達に教育されています。
精神的にかなり人間寄りのハーフ・オークなのですよ。文化の違いはあっても共通点も多い訳で。

でも、トカゲ人は根本的に違う生き物なんですよね。
哺乳類が感情の基本セットとして持っている、お腹を痛めて産むという親の感覚や、無力で弱々しい幼年期を
育てて貰ったという子供の感覚を持っていない。

命に対する認識が、人間族とトカゲ人では違うんです。
彼ら爬虫人にとって命とはお手軽でいくらでも換えが利き、気軽に弄り回すべきものなのです。

年に何十個何百個と卵を産んで、卵を温める温度や時間で性別や気質体質が変わってしまう生き物と、出産が
命懸けで子育てに下手すると半生使って、まだ終わらなかったりする生き物とで意見が合う訳もありません。


彼らに比べりゃオークだって命の価値は安くないですよ。
臆病者や卑怯者への値引率が凄まじ過ぎるだけのことで。
自分の子供でもカラーひよこなみに選り分けて間引いていく爬虫人類と哺乳類では価値観が違いすぎます。


「筋肉組織の感情ネットに干渉した以上そうもいかぬ。脳を合わせて調整せねば消耗が激しくなる故にな。
確かに顧客にはより自然な反応が喜ばれるが、満足度調査では約8年ごとに不満が半減しておる。修正による
不自然さは、いずれ誤差として認識できなくなろう」
「不満点がいつまでも解消されないから、質問調査(アンケート)に真面目に返答する人が減ってるだけですよ。
あなた方は人間やオークの心理を根本的に理解できないんだって、何言っても無駄だって諦められてるんです」

私は爬虫人類の心理を理解しきれるなんて、元から考えてません。
ハーフ・オーク相手でも異文化交流で苦労してますし。
でも彼らは、オークや人間の心理を完全に解析できるものと見なしてます。

「そもそも心理の根本的理解とは何かという定義が必要なれど、お主の言うとおり我々は知性のなんたるかに
ついてさえ共通認識が出来ておらぬ。更に研究を積まねばなるまいて」
「ええ。この話はここまでにしましょう」

そろそろ会話を切り上げるべきでしょう。精神衛生に悪い。
正気値がおろし金かけられてるみたいに減っていく実感があります。
理性も知性もあり、下手な人間より余程話しやすいくせに話せば話すほど精神的疲労が‥‥チタン合金製の
柵越しに連続食人鬼の教授と問答している捜査官の気分です。



ヘビ人は去っていきました。遠目には綺麗なんだけどなあ、ヘビ肌は。近くにいると落ち着きませんね。
やはり私個人に限って言うと、ペットや隣人には向いてませんよ爬虫類は。特に亀は。

つ、疲れた。
外国人と議論するだけでも疲れるのにネタが哲学入りで異種知性でしかも本職相手って、ナニ馬鹿なことやって
いるんでしょうか。

「話は終わった?」
「とりあえずは」

名も知らぬヘビ人と入れ替わるようにソーニャさんが帰ってきました。ちなみにグェスはずっと一緒です。
念話の最中も傍にいて手を握っていてくれました。彼がいなかったら途中で気絶していたかもしれません。
いやー 頼りになる保護者がいてくれるって有り難いですねー。精神汚染されずにすみました。



「ルェイ、ココ、イル、ウゴク、ダメ」
「うん」

ギュー・グェスは私の警護をソーニャさんに任せて足早に離れていきました。
なにやら巫女達のうち特に偉そうな一団と、強そうな幹部オークを交えて話し合っています。
あー グェスは何か神殿に用事があったのかな? ヘビ人との長話に付き合わせてしまってごめんなさい。
空いてる方の手で、ボーラの紐を弄り回していたからてっきり暇なんだと思ってましたが、あれは苛立ちを
鎮めるためだったのかもしれません。


何やら甘いものが食べたくなって来ました。自家製干し葡萄が少し残っていた筈ですから食べましょう。
もぐもぐもぐ、ああ美味しい。

「レイ、貴女なにもの?」
「いひょーろー くぇん みにゃらい巫女ですが、他の何かに見えます?」

最後の干し果物を食べながら返事する私にソーニャさんは言いました。

「密造酒作りが趣味な、工房務めの女の子には見えないわ」
「そうですか?」

嘘は言ってませんけどねー 前世はともかく今は女の子ですし。特に身体は。

「でも良くソーニャさん無事でしたね。トカゲ人に洗脳されそうになりませんでした?」
「脳を洗う? 面白い表現ね。仕掛けてきたわよ、飲み水に変な薬混ぜてきて」

あー それで暴れたわけですね船内で。
トカゲ人が「言うこと聞きますからもう勘弁してください」って泣きを入れるまで。

「ううん。首謀者が自分から首差し出してきた後も暴れたの」

鬼だ、鬼がいる。
そりゃ江○島塾長を騙し討ちにしようとして失敗したら、戦艦だって制圧されちゃいますよねー。
無敵コックが乗ってりゃ別ですが。トカゲ人も馬鹿な真似をしたものです。


さて、向こうの様子は‥‥ そろそろ値段交渉が終わらされる頃合いかな?

おや? 鎖で繋がれた女の子が前の方に出てきましたよ? ‥‥四人組の一人、ハーフ・エルフさんですね。
亜麻色の髪に金色というか琥珀色の瞳、エルフ系と言われたらたしかにその通りな細面の可愛らしい娘です。
服装とかから察するにクラスはアーチャーかスカウトかレンジャーか、そのあたりですね。

「ミナ、サマ、マダ、ハヤイ。タカラ、ダイジ。ワタシ、マダ、ゲンキ」

たどたどしいオーク語でハーフ・エルフさんが何やら語り出しました。
纏めると「私たちはまだ大丈夫だから交渉を続けて欲しい」「大事なお宝をボッてる連中の言い値で
払うなんて間違っている」「私たちのために使うなら一時のためでなくもっと大事なことに使ってください」
というような事を言ってますね。

「グヒッ」「グヒィー!」「グヒッグヒッ」

あ、駄目だこりゃ。
ただでさえ暑くて頭に血が上ってるのに、こんなこと言われて「じゃあお言葉に甘えてもう少し値切ろうか」
なんて言えたらオークなんかやってませんよ彼ら。良くも悪くも馬鹿なんですから男は。

「「「グヒィィー!!」」」

いいからとっとと話纏めちゃえよ金が足りないならお布施払うからさ という男衆の圧力に負けて、
巫女達は約600万ゴールドで四人組を落札しました。

でも、グェスによれば法外と言うほど高い値段ではないそうです。
もともと冒険者も長寿命種族も呪文使いも特技持ちも人気要素ですから。相場より高めなのは確かですけど、
交渉で負けたときはもっと高い値段になることもあるとか。

平均すれば星4つ級の使い手で、そのうち一人はハーフエルフ。
技能的に見てもそこそこの信仰呪文使いが二人、熟練者級の治療師が一人、弓術の使い手が一人。
そしてウサミミさんは小集団指揮の特技持ち。
前衛系をオークたちにやって貰うなら割と良い編制ですよね。
ソーニャさん的には、できれば信仰系以外の呪文使い(スペルキャスター)が一人追加で欲しいそうですが。


値段交渉で巫女達が粘っていたのは、実験使用済みの半廃棄品を改造しまくって見た目だけ誤魔化していると
受け取ってたからです‥‥が、それをこう返してきましたか。
完全調教済み、貴男だけの奴隷娘。我が社が自信を持ってお薦めします、と。

あの四人娘はトカゲ人なりの解釈で「こういう言動がオークどもには好まれるだろう」という言動と性格を
叩き込まれています。半ば以上洗脳されている訳です。
えっちで、純真で、素直で、献身的で、でも旦那様にふさわしいかどうかは血を見ないと決められない、
危険な女の子。全員からではありませんが、この島のオーク達から少なくない支持が得られる性格ですね。

で、そんな女の子達から「私はもうあなた方のものなんです。必ずモノにしてくださると信じてます」と
間接的に言われて燃え上がったところに、やや高めぐらいの値段を提示されたら飲むしかないですよ。
雰囲気的に流されてしまう。



目が 合いました。

見ていました。あのヘビ人が、私を。
あんたの仕込みかこの野郎。「感情? 少なくともこの程度は理解している」とでも言いたいのですかね。
ああ、仰るとおり馬鹿ですよ当然じゃないですかオークで男なんだから。


でも商売人としては四流ですね。
ここはむしろ焦った振りでもして相場どおりか、むしろやや安めの値段で売るべき場面です。
そして交易品の秘薬もおまけで付ける。

一見損しているように見えますが、相手は逆に得した気分になっているからその分財布の紐が緩む。
その緩みに付け込んで次回そして次次回の取り引きで取り返すんです。
一度便利なものを使い始めたらそう簡単には止められません。秘薬の需要は次回から確実に高まります。

トカゲ人の技術は文句無しに高いですが、商業水準はそうでもないのかな? 
取引相手がポトラッチ(大盤振る舞い)思想のオークたちでは、商売感覚の磨きようがないでしょうけど。

「貴女、商家の生まれなの?」
「農家ですよー。今のは負け惜しみです」

研究一筋のヘビ人氏が商売に疎いのは当然ですからね。それに私自身が負けた訳でもないし。
いや、負けたと感じている時点で私の負けか。いつかどうにかして、この借りは返します。




 ☆30日め6、賭けましょう☆


奴隷市というか競りが終わりましたが、まだイベントが残っていました。
これからオーク族とトカゲ人との交流決闘が始まるのだとか。
親睦を深めるためだけど試合じゃないので死人出まくりな催しだそうです。
こちらは奴隷の取り引きと違って遅れると見逃してしまうので、野次馬達の集まり具合が加速しています。


またですか。なんでこの世界こんなに命が軽いんでしょうか。
え? 出るって、グェスが? 何故? 聞いてませんよそんな予定。
聞いてないけど、確かに決闘の支度をしているのはグェスです。

本人の強い要望で予定変更して、ですか? なぜそんな急に?


だ、大丈夫なんでしょうか? 

グェスが強いのは知ってますが、向こうだって弱いのを代表戦士にする訳ありません。
でも、最早私が止めてと言って止められる状況でもないし、勝利を祈るしかないのですね。


そんな訳で砂浜を舞台に決闘の準備が整えられます。
保護者のグェスが代表戦士やっているので、私の身柄は神殿の巫女達が守っています。あとソーニャさんも。


島側の代表がギュー・グェス。星11のオーク戦士です。対する艦隊側は、大柄なワニ男ですね。
ワニ人間と言うより人間っぽいワニな、本当に人外の種族です。
彼ら爬虫類系人は魔法的な手段を使わないと哺乳類とは混血しません。
実質的に人間と同じ生き物だと言って良いオークやエルフとは全然違う生き物なのです。

爬虫人類は目や耳以外にも、人間で言えば額や鼻先のあたりに独特な感覚器を持つ者がいます。
ヘビ人は生き物の熱を感じ取る熱感知センサーを持ち、カナヘビ人間は嗅覚に近い感覚器があります。
ヘビ人の話だとそうなんです。
ワニ人間にも独特の感覚器があるはずですが、何でしょうね? 地球のワニは哺乳類よりも可視光線領域が
広いと聞いたことがあるような、ないような。


ワニ人間は、昔の少年漫画にいたピンクの噛ませワニさんと違って、細長い体つきをしています。
胴体の骨格がほとんどワニで、首周りや手足が半ば人型生物のものですね。
あまり器用そうには見えませんが、両手に幅広の曲刀を持っています。
本人の身体が長いせいで解りにくいですが、あれって人間なら両手持ちで使う大きさですよ。
鎧の類は一切なし。‥‥つまり全裸?


グェスの方は普段と変わりません。
腰ミノに牙や爪の首飾りと腕飾り、武器はとても硬い木の根っ子から削りだした棍棒。そして三連のボーラ。


巫女達やソーニャさんたちによれば、ワニ人間は爬虫人類の間で蛮族扱いされている獰猛な部族で、
モンスターがわんさか出てくる危険地帯で素朴かつ野蛮に暮らしているのです。
トカゲ帝国に部族ごと雇われて傭兵みたいなことやってます。グルカ兵みたいなものでしょうか。

皆さん「あんなに大きいワニ人間は初めて見た」とおっしゃられてますが‥‥ 
確かに大きいですね。体勢低いくせに頭の位置がグェスとほぼ同じです。体重は倍以上違うでしょう。
だ、大丈夫ですよ。グェスはもっと大きなワニ仕留めたことありますし。
体重1トンはある大ワニも、温泉洞窟の族長の前では獲物に過ぎませんでした。


って、おい、そこのコボルド。人の身内が決闘するのに敵に賭けんな! 
種族は違えどあんただってこっち(島)側でしょうが。

「ソレ、コレ、ベツ」

よっし、よく言った。なら私はグェスに賭けましょう。ええと、元手はどうしましょうか? 
宝石は巣のものですから、こっちで手に入れた食材と香辛料と種や種芋で良いか。これはもう私のものですし。

「私はワニ人にこの腕飾りを」

え! ソーニャさんはあっちに賭けるの!?
一瞬グェスと何か因縁でもあるのかと思いましたが、彼女の目は悪戯っぽく笑ってます。
私を弟子に欲しがっているソーニャさんが、私に決定的に嫌われるような真似をするとは思えません。

敵に寝返った小姓に屋敷の武器全部駄目にされたから素手で敵軍勢に突貫して敵の足軽から武器を奪い、
数十人の敵将兵を道連れに討ち死にした武将とか、裏切った愛人に刀を隠されて素手で盗賊団十数人と渡り合う
羽目になったけど返り討ちにした剣豪とか、飼い犬に手を噛まれた強者は幾らでもいるのです。
遺恨を持ったままの弟子が噛みつかない訳ありませんよね。

ソーニャさんの隙をどう突くかが問題ですが、松林無雲だって孫みたいな歳の女中さんにやりこめられてる
のですし、やりようによってはなんとかなりますよ。
私がそういう人間な事ぐらい解るとおもうんですが‥‥? 

ああ! そうか、グェスが負ける訳ないんだから意地を張るふりをして掛け金釣り上げろという事ですね! 
流石は花形剣闘士、解ってらっしゃる。
ソーニャさんほどの使い手が賭ければ便乗してワニ人に賭ける者も増えますもんね。それを根こそぎ頂けと。
私が大金を得ればグェス達に借りが返しやすくなって、ソーニャさんへ弟子入りもし易くなる。
彼女にも利益があります。


でも残念ながら私には種銭がないのです。‥‥持ってる宝石は預かりものでして。
ええい、女は度胸!

「ギュー・グェスに全財産!」

砂浜に身を乗り出して宣言すると、辺りからどよめきが上がりました。ふっふっふっ、計算どおり! 
浜辺に集まった数百人のオークや他の種族たちは九割以上がロリスキーなのです。
具体的に言うと人間が性欲の対象じゃないコボルド族以外の全員が。ただ単に見境ないだけかもしれません。

「ソレ、ホント?」
「ええ。全部賭けちゃいますよ」

胴元のコボルドに頷きます。思った以上の食いつきですね。
一月あたり多くて10人ぐらいしか供給がないのなら、一昨日来たばかりの新顔でそれなりの美少女の
オールヌードには需要があるはず。

全財産ということは荷物も下着も全部渡す訳です。
私の全財産に対抗して賭けた誰かは私のストリップを拝めるのですよ。宝石とかを隠し持ってないか
どうか確かめるために、ご開帳とかだってしちゃいますよー。

いえ、結局はグェスが勝つからしませんけどね。

「レ、レイ‥‥」
「良いんですよ。負けませんから」

ソーニャさんがちょっと焦ってますね。もしグェスが負けたら神殿に保護して貰うしかありませんから、
そのときはソーニャさんにもお世話になるでしょう。グェスが負ける筈ありませんが。

‥‥負けないよね?
 


え?

なんか砂浜に凄い勢いでお宝の山が出来上がっていくんですけど、何これ?
周りのオークたちやミノヒッポスたちが交易品の宝石や白金塊を、嫁さんたちまで身に付けていた装飾品を
外して山に積み上げています。

「やっぱり、理解してなかったのね」
「ど、どういうことですかソーニャさん??」


‥‥‥‥は? ああいう風に身を乗り出して賭を宣言するのは「新規の賭けやりましょう」と受け取られる
のですか?
それが何か? 今ある賭けに便乗するのと何が違うのでしょう。

え? 全財産って、私自身も含まれるの!?  
あ、そうかこの世界だと自分から奴隷に売り込むのもアリなんだ! 
現にソーニャさんも緊急避難的にトカゲ人へ身売りしたんだし。

「えーと、つまり?」
「ギュー・グェスが負けたら、貴女は負けに賭けた連中のものになるの」


やっぱりそうでしたかぁ────っ!!




 ☆30日め7、賭けちゃいましたからねえ☆


賭が締め切られました。
どーしましょうこの宝の山。目算で30万ゴールドは軽くありそうなんですが。

元々この島では、女の子の値段が高いのです。トカゲ人が長年暴利を貪り続けたお陰で。
貧弱で無能な小娘とはいえ、数年すれば子供を産むという最低限の需要は満たせる訳ですし、オークたちにも
光源氏願望というか女の子を自分の好みどおりに育てたいという層がいるのです。
そして私は神殿に買われていない以上、神殿の管理下にはなく教育も洗脳も受けてません。
文字通りの手つかずです。

お嫁さんに一番大事な相性も、ギュー・グェスとあれだけ仲良くしているなら問題なし。
奴隷の運命を受け入れるしかない哀しい女達やトカゲ人の洗脳で言動が歪んでいる女達にはない魅力を、
脳天気な私に感じている連中がいるのです。
あー そういえばうちの幹部三人も下っ端たちも、殺伐とした女が苦手なタイプでしょうねー。


そして、私が好みでない連中も賭けに参加する理由があると言えばあるのですよ。

うちの女神像。ギュー・グェスが酒の席で自慢したせいで結構評判です。
上半身しかないとはいえ、あれなら100万や200万は身代金とれるでしょう。
そして私を人質にすれば、あの像と交換できるかもしれません。
うちの連中ならやりかねません。像はいつか取り返せば良い訳ですし。


自爆じゃありません。自爆なんかしてないんです。
気が付いたら地雷原の中だっただけで。

良いんですよ、勝てば丸儲けなんですから。
神殿の巫女たちが見張っているから誰も小細工なんか出来ません。あとはグェスが勝つだけです。


負けたとき?

そんなの考える必要ありませんよ。人生にリセットボタンはありませんが電源コードはあるんです。
いざとなったらいつでも引っこ抜けますよ、私は。
グェスと出会わなければ確実に三回は死んでいる身です。
不確実な危機も入れればこの一月で十回以上死にかけてます。

命は惜しい、惜しいですけど嫌いな男の嫁になってその子供を産まされるぐらいなら、そこの籔に生えている
夾竹桃の実を食べて死にます。
この島では命が軽いのですよ。そうせざるを得ないからですけど。

生きていれば、嫁入り後に好きになれるかもしれない? ありえません。
たとえ仮定の話でも、グェスの敗北と死を願っているやつなんかを好きになれる訳がありませんよ。
向こうは何か手前勝手な夢見ているかもしれませんが、こっちの知った事じゃありません。


いよいよ対戦開始です。グェスの様子は、普段と何も変わりませんね。落ち着いたものです。
‥‥あれ? どうしたんでしょうか、砂浜をおりて波打ち際に向かいましたよ?

グェスは膝から腿ぐらいの深さまで海に入り、ボーラを腰ミノに戻して、棍棒を天に振りかざして‥‥
足下に投げ出しました。棍棒はあっという間もなく沈みます。
アイアン・ウッドの棍棒は水に浮かないんです、重たいから。


トカゲ艦隊側が怒ってます。
そりゃそうですよね、ハンディキャップ・マッチにしても有り得ないぐらいですもの。
挑発に応じる形で、ワニ人間も海に入りました。
自分だけ武器無し+水中戦って、ワニ人間に圧倒的有利な状況ですから当然です。


爬虫人類は、全般的に設置圧が高いのです。体重の割りに足裏の面積が小さいですから。
つまりオークと比べると、足が地面にめり込みやすい。柔らかい砂地ではやや不利となります。
交流決闘の舞台となる砂浜の一郭は固く踏みしめられているので、それほどの差はないのですがそれでも
岩場とかの方がワニ人にとっては有利です。

ヘビの類がそうするように、爬虫人類は背後の地面や壁を足場(というか尾場)にして、筋肉の塊である長い
尻尾で推進力を得て突進することができるのです。

今、目の前にワニ人の戦士がいない人は、仮想敵が人間で良いから想像してみてください。
貴方の目の前にいる対戦相手の尻から、まるで人の下半身だけを背中合わせで背負っているかのように
二本の足が生えている光景を。
そして対戦相手は壁を背後にする位置で構え、地面に着いた自前の二本だけでなく、尻から生えた足が壁を
蹴った反動も利用した勢いで突っ込んでくる光景も。


爬虫人類の戦士は、尻尾を使った近距離ダッシュを得意としています。
これは当然ながら地面が柔らかい所では威力が落ち、固い地面でより威力を発揮します。
そしてこの特技は水中戦でも、沼地や海などでも充分に効果を発揮します。

オークは意外と水泳が得意なのですが、爬虫人類に比べると数段落ちます。
特にワニ人は、その気になれば島から島へ泳いでこの島から数千㎞離れたトカゲ帝国本拠地や、そこから更に
1000㎞は離れたワニ人の故郷まで泳いで帰ることすら不可能ではありません。

途中で自分より強いモンスターと出会さなければの話ですが。

まあ、小型ヨットで世界一周とかと同じで、本当にやる奴はまず居ませんけどね。
居ても途中で飽きるでしょうし。最寄りのトカゲ軍基地を目指す方がよほど合理的です。
トカゲ帝国にはギネ○ブックがないでしょうから、敢えてやる馬鹿もいない筈です。


ワニ人間は無造作に、半ば泳ぐような姿勢で水面を突き進んできました。
顎の噛みつきと二刀流の三段攻撃がグェスに迫ります。
そしてグェスは‥‥登った!?
跳ぶのではなく、階段を登るような段差を乗り越えるような、低くて気軽な上昇で三段攻撃を避けました。

おお、なるほど。沈めた棍棒を水中で立てて、それを足場に最低限必要な高さまで垂直飛びしたんだ。
予備動作というか消費する筋力が少ない分、ただ跳ぶよりその前と後の動きがより効率的になるのでしょうか? 
格闘ゲーム的に言えば硬直時間が短く隙が小さいとか。

攻撃を避けられてグェスの下を高速通過したワニ人間は浜辺近くで反転しようとして、失敗しました。
手足に絡みついたボーラに戸惑ってます。
後で教えて貰いましたが、このときボーラの紐には浮きが取り付けてありまして、ボーラを水中に沈めると
紐の部分だけが浮いて、草を結んで作る足引っかけ用の罠みたいに紐が水中でアーチ状になるのです。

これを幾つも仕掛けたところに突っ込んだワニ人間は、当然ながら手足に石つきの紐が絡みつきました。
したばたと、もがいてます。

棍棒かざしたときにも捨てるときにも不自然な動きはなかったような? 
グェスはいつ罠を仕掛けたんでしょう? 今度暇なときにでも訊いてみます。

もがいているワニ人にグェスが飛びかかりました。私の脛までぐらいの水深で組み討ちになっていましたが、
十秒もしないうちに跳ね飛ばされ、というか一緒に跳んでます。
尻尾を含めた全身の筋肉を跳躍力に変えて、ワニ人間がオーク戦士と共に水煙と砂煙を上げて跳んでます。
飛距離は10メートル以上。

で、落ちました。ボーラの紐も千切れました。

いくら丈夫とはいえ革紐が幹部オーク級の怪力を拘束でき続けるわけもありませんよね。
しばらく持っただけでもたいしたものです。
砂浜に落ちたグェスは‥‥平気みたいです。幹部オークはとても頑丈なのです。

一方ワニ人間はというと、様子が変です。水辺で起き上がろうとしては転んで、のたうちまわっています。
酔っぱらいみたいに足腰がたたないのですね。

グェスはそんな対戦相手にのっしのっしと歩いて近づくと、首飾りから長めの牙を一本とって暴れている
ワニ人の頭を掴み、側頭部にその牙を突き刺しました。そしてぐりぐりと抉ります。
またもや跳ね飛ばされましたが、ギュー・グェスは打撃耐性持ちなのでびくともしません。
幹部同士で毎日している、墓石みたいな岩をぶつけ合う訓練は伊達じゃありませんね。

解りました! 耳です。ワニ人にも頭の横に耳があって三半器官があります。
そこを抉ったから立てなくなったのですね。内耳を壊されては平衡感覚が働かない。
あの十秒足らずの組み討ちが成立した時点で勝負が決まった‥‥と、いうことは最初から策略でしたか。
そしてもう片方の耳も潰して駄目押しした。

大丈夫なんでしょうか。
力押し万歳のオークたちにはこの勝利、小賢しいものに映ったりはしないでしょうか。


「「グヒィ──♪」」「ウヒッウヒッ」「「「「ギュー・グェス! ギュー・グェス!」」」」

やんやの喝采が上がってます。
オークたちも勝てば官軍なのか、トカゲ人が嫌われているのか、勝者を称え妬まない文化なのか。
たぶん全部でしょう。元々オーク族は冷静なときなら策略の価値を認めますし。

その後は勝負とも言えない状態になりました。
どうしても立てないワニ人が尻尾をグェスに掴まれて海に引きずり込まれ、波間で泳ぐことも浮かぶことも
できずに溺れて窒息しかけている時点で戦闘不能と判断され、決着が着きました。

爬虫人類の機嫌は表情が読めないので解りにくいですが、どう見ても嬉しそうではありませんね。
いつか吠え面かかせてやると誓ってましたけど、こんなにも早く見れるとは思いませんでした。

‥‥あ、そうか、ギュー・グェスにも解ったんだ、あのヘビ人の仕込みが。そして怒った。
女の子を虐めて、あざとい台詞言わせて、オークを馬鹿にした爬虫人類に怒ったんだ。たぶん私の分まで。

だから闘った。そして圧倒的に勝った。
ううっ 良い男じゃないですかギュー・グェス。
それで相手を殺してないあたりがまたニクイ! 男でも惚れそうです。

さて、チャンピオン(代表戦士)を迎えにいきますか。
嬉しいですけどあんまし誉めるとまずいかな? 本人は勝って当然って顔してるし。
ま、良いか。ここは素直に喜んで、勝利を祝福しておきましょう。


ほ、ほっぺにキスぐらいなら、しても良いかな? 勝利の女神なんて柄じゃないけど、嫌がられないよね?






[38600] 12
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2018/08/01 12:51




 ☆30日め8、私もやってみました☆



で、あの宝の山ですが。
全部私のものになるんですけど、多すぎて運ぶこともできません。

決闘の出場権譲ってくれた幹部オークに謝礼しようとしたら「借りを返しただけ」と断られてしまいました。
前に事情があって、彼にグェスが挑戦権を譲ったことがありまして。
今回はそのお返しに出番を譲って貰ったのです。
戦いについての貸し借りは、それ以外では返してはならないのが戦士の掟だとか。男って面倒くさいですね。

なお、彼はレェ・ウォスと同じ母を持つ兄だそうです。父親は違うようですが。
言われてみれば似てますね、体型とか顔の輪郭とか肌艶とか器用そうな所とか。
やはりあのむっちり感は母方からの遺伝でしたか。

性格は兄弟でかなり違うっぽいです。
兄さんの方は真面目というか常識人扱いされていて、ウォスは変人扱いです。
弱い訳でもなく稼ぎが悪い訳でもないのに、浮いた話どころか闘技場や奴隷取り引きの見物にすら来ない
ウォスとドスはオーク社会では変わり者とみなされているようです。
地球でなら同性愛疑惑から疑惑の二字が取れかけてる状態。

グェスは一応毎月欠かさず此処へ来て、取り引きも見物しているので、ただ単に好みが偏り気味で無意味に
理想が高いだけだと思われています。マザコンを拗らせていると思っているのもいるようです。


賭の配当ですが、結局重たい財宝は諦めました。
交易に使えそうな宝石などを旅の邪魔にならない分だけ持って帰ることにします。
残りの重たいモノは神殿の女達に分配して貰います。分配の詳細はソーニャさんに任せて、代わりに全体の
二割をソーニャさんに手数料込みで受け取って貰います。

「なぜ私が?」
「他に信用できる人、知りませんし」

神殿の巫女さんに任せると予備費とかに回して分配減らしそうな気がするので、後腐れとか考えなくていい
ソーニャさんに分配して貰おうかと。
公平性? そんなもの知りません。所詮人間のやることだから不備が出るに決まってます。
私よりは適任だからこれで良いんです。

月に数人が入って数ヶ月から数年間修行しているのですから、神殿には修行中の女達が数十人から百数十人
ぐらいいるはず。
全員で分ければ一人あたり二千か三千かその程度にしかなりませんが、ないよりは良いでしょう。
ファイトマネーに足すことはできませんが、それ以外のことには使えます。
最悪でも嫁入り道具代の足しになります。


いえね、私って運良くグェスたちに拾って貰えたからまだ生きてる訳で。
そして、もしもグェスたちが女と見れば襲いかかるエロゲ仕様オークだったら、と思うと、ねえ。
たとえ下心ありでも、優しくしてくれる紳士なオークたちが今以上に増えて欲しいのです。
この際紳士なら変態でも可。

優しいオークが育つには円満な家庭が必要です。嫁入りの持参金が増えれば、新婚家庭に金銭的余裕が多少なり
ともできるでしょう。そうなればその分、家庭の円満さも上がる訳です。

そういう訳で金銭ばらまくことにしました。どうせ泡銭です、身に付かないならぱっと使ってしまいましょう。
賭で損したオークたちも、将来の嫁さん達の懐が潤うなら文句はないでしょうし。

ねえ、ギュー・グェス。なにか買いたい物とかありますか? 私は特にありません。
スパイスなら宝石一個で一月分は買えますし、これ以上買いだめしても湿気で駄目になるだけですからね。

「クスリ、イル」

え? トカゲ人の秘薬が欲しいのですか? 神殿が買い付けたのがあるから分けて貰いたい?
確かに、生命工学が発展した彼らの文明は薬学にも通じていて、いわゆるポーションの類が発達していると
聞きましたが。

神殿以外がトカゲ人と直接交渉するのは厳禁です。
女もそれ以外のモノも全て神殿を経由して取り引きしないといけません。トカゲ人側も密輸を禁止しています。
だからトカゲ人の秘薬はかなり割高なのですが、グェスが欲しいというなら無問題です。
ポーションでもエリクサーでも幾らでも‥‥神殿の都合もあるから数本で止めときますか、そうですよね。

ちなみに人間の商人との奴隷密輸も厳禁です。奴隷の取り引きは神殿を経由しなくてはいけません。
奴隷以外の商品は何を売り買いしても構いませんが。
ただし例外というか抜け道もありまして、戦闘の結果として手に入れた捕虜は好きにして構わないそうです。
後で神殿に連れて来て大母様かその代理の高位巫女と顔合わせする必要がありますが、所属などは戦って
勝った巣に属します。

あと、神殿で修行させるのにはお布施が要ります。
神殿から奴隷嫁を身請けするのと比べたら、捕虜の授業料は格安ですけどね。


戦利品の女は、巣に連れ帰って監禁して陵辱洗脳コースか、神殿で花嫁修業洗脳コースの二択になります。
密輸で手に入れた女は、いずれはバレて没収コース。
ただ、実際に密輸した例は今までありません。大母様が怖いですからね。

試みた奴はいたのかもしれません。
でも事が大きくなる前に全て な か っ た こ と になってしまったのでしょう。


十年以上前に、漂着した船から水や食料や資材や財宝と交換で奴隷を手に入れた集落もあったそうですが、
そのとき手に入れた女奴隷は速やかに神殿へ送られ献上されました。大母様が怖いですから。

で、私の場合は漂着者を拾ったのと同じ扱いのようですね。
この場合も戦利品と同じく好きにして構わないのですが、紳士教育が行き届いているオークたちは漂着者を
優しく丁重に扱うことが多いです。特に漂着者が可愛い娘の場合は。

罰則とかがある訳ではありませんが、戦いで手に入れた捕虜の女は無理矢理にでも可愛がって、嫁にして
しまうことが奨励されています。昔からの習慣だそうですので、戦争やってたころの名残でしょう。
どうしても嫁になると承知しない捕虜は神殿に引き渡されます。
これは割と恥というか名誉を損なう事態ですが、捕虜に逃げられたり死なれてしまうよりはまだマシです。

あまりお薦めはされませんが、捕虜に手を出さずそのまま神殿に連れてくるのもアリです。
ま、オークにだって好みはあるでしょうし、女のことで困ったときは神殿へぶんなげるのも良いでしょう。


漂着者を強引に犯して快楽漬けにして孕ませて、そのまま嫁にしてしまうことも許されます。
しかしそれは名誉なことではありません。余裕がない者の、がっつき過ぎな行為だからです。

保護した漂着者が元気になるのを待ち、本人が巣から出ていくことを望むならせめて神殿までは送り届けて
やるのが正しいオーク戦士のあり方だとされています。

ソーニャさんの勧誘もその観点からすればごく当然なのですね。
私があの場で「お願いします」と言えばグェスたちは何も言えなくなるのですよ。
というか今からでも、移籍できます。

ソーニャさんは神殿に買われた身で、移籍の自由など人権の一部が制限された奴隷(ぬひ)です。
でも島の住人でない者を弟子にする権利も、漂流者の小娘を保護下に置く権利も買うことができます。
この島では強者こそ正義なのです。

それを承知の上で、連れていくことにしたのですよ、グェスたちは。
私が神殿に入ってしまう可能性を承知した上で、お別れになる事もありえると覚悟して。
うん、うちの三人マジ紳士。変態だけど許す。


秘薬の代金は私の配当ではなく、グェスが持って帰る筈だった宝石(交易で手に入れた分)から払いました。
一度配ると言った財貨を引っ込めるなんて恥ずかしい真似、できませんからね。

そうそう、その財貨の分配ですがソーニャさんが半時間でやってくれました。

「何か?」
「いえ、期待通りのお手並みでした」

精度より処理速度の方が大事です。どうせ明日の朝早くには帰るんだし。
この島でも一日は24時間です。
正確には一日が朝・昼・夕・宵・夜・明の6つに分けられていて、それぞれが4分割されてます。

ところでソーニャさん、神殿へのお布施が半分近くになったのはともかく、ご自分の取り分を全部コインに
して良かったんですか? この量だと神殿まで持って帰るのも一苦労でしょうに。

「ああ、これはこうするのよ」

そう言ってソーニャさんは金貨をつかんで、浜辺に集まった下っ端オークたちの頭上に投げ撒き始めました。
おおっ!? 銭投げ! どこの穀蔵院ひょっとこ斎ですか貴女。
金離れの良さも人気の秘訣ですか。
こりゃ同じ立場の筈な女たちからハブられて当然だわ。本人は気にしないでしょうけど。


そーれ銭まくど銭まくどな騒ぎの後、樽二つ分ぐらいあったコインを全部投げ終わる頃には日も傾き、
女奴隷以外の交易品についても交渉が纏まりました。

その昔は交流決闘の後で全部の取り引きをしていたそうですが、やはり決闘に負けると交渉も強気に出られず
買い叩かれたり吹っ掛けられたりして余計に遺恨が貯まるというか貯まり過ぎる事案が発生しました。
なので、今は奴隷の買い入れだけは先に済ませておくのだとか。

下っ端オークたちが神殿から砂浜へ、砂浜から船へトカゲ人夫たちが物資を運んでいます。
積み荷は銅貨や青銅製の家具、錫食器や真鍮製の日用品、鉄屑や鉛の玉‥‥
はて? あの鉛玉スリング・ブレッドみたいですが、なぜそんなものが? え? 遺跡に落ちてるの?

金属系以外にも火山で取れる硫黄や重曹、軽石に火打ち石などの地下資源など、それに籠や檻に入った
生きている動物類などが積み込まれていきます。
なるほど、これだけの資源や物資を運ぶのなら大型艦が必要でしょう。
トカゲ戦艦からは積み降ろされるものは殆どが商品ではなく、空の樽や桶や壷のたぐいですね。
次回の取り引きに使う分ですか。


ちなみに分割した木を組み合わせて鉄のタガで固定する樽は東方の産物で、薄い金属板を噛み合わせて蝋付け
溶接してるのが西方製の容器なのだそうです。
トカゲ人のものは金属や樹脂の金網ケースに不織布の包みを入れる形式が主流のようです。

トカゲ人の現場では使えるなら何でも使っているようです。
彼らは計量単位を統一しようとか考えないのでしょうか?




日が沈みかける頃には積み入れが終わり、トカゲ人の艦隊は浜辺から去っていきました。
クビミジカ竜がいなくなったので早速もどってきた大型魚を狙って、大型のサメなどが沖合を泳いでいます。
大勢が暮らしている神殿とその付近一帯は良好な漁場なのです。イノシシたちもいますしね。


作業に当たっていた下っ端オークたちは銭まきで拾ったコインで買い物にいったり、神殿が労働の対価として
振る舞う晩ご飯を貰いに行ったりしています。
今は月に一度の交易期で、特に今日は決闘で島側が勝ったから普段より一層豪華なものが振る舞われるのです。

私たちの晩ご飯はアンモナイトのゲソ串焼きにアワビの酒蒸し、カメノテのスープ、焼いた芋の木の実、
野草と海草のサラダ、割ったココナッツ、種がないイチジクのような食感の果肉を食べる巨大な果物。
あと海鳥の卵から作った卵料理などです。
酒蒸しとスープとサラダそれに卵焼きと温泉卵は私が作りました。
ゆで卵とゲソ焼き、焼き芋の実はグェスです。あと材料調達も。

アンモナイトですよねえ、これ。殻の直径が1メートル以上ありますけど。
海岸にはエビやシャコの類も居ましたが、闘技場の排水もこの海に流れ込んでいますから、今はちょっと。
いえ、それを言い出したら今夜の食卓に並んでるものの殆どが、オークたちの血肉から何某かの恩恵を受けて
いるのですが。

アンモナイトは地球の頭足類に似た味と食感でした。ゲソ焼きだと歯ごたえが柔らか過ぎる気もしますが、
不味くはないですね。煮物にしたら大根入れなくても柔らかく食べれるかもしれません。
大根、食べたいなあ。


「なにこれ!? この貝、こんなに美味しかったの??」
「「「グヒィ──♪」」」

ソーニャさんと、ウォスの同腹の兄だという幹部オークと、その他十人ほどの下っ端オークたちが一緒に
焚き火を囲んでいます。
まあ、彼らもバナナとか山羊肉とかウリとかタマネギとか色々持ち寄ってくれたので別に良いんですけどね。
旅に出て以来料理してなかったから、ご飯作るのも楽しかったですし。
差し向かいのご飯や一人飯も良いものですが、大勢で囲む食卓というのもまた良いものです。


そうそう、決闘の時にいつの間にか仕掛けられていた罠ですが、仕掛けたのはウォスの兄たちでした。
つまりギュー・グェスは戻ってきたソーニャさんと私が話し込んでいるときにウォスのお兄さんに頼んで、
予備のボーラをこっそりと下っ端達の手で海に沈めさせたのです。

その時には、決闘はウォスのお兄さんがする筈でした。
つまりウォスのお兄さんを楽々と勝たせるための布石だった。でも直後にヘビ人のえげつない挑発を受けて、
グェスは予定変更して自分で殴ることに決めたのです。
ちょうど都合良くウォスのお兄さんに貸しもありましたし。 

グェスって、この辺りが恐いんですよねえ。良い意味で、ですけど。
自分で策も立てられるし、闘う前から勝ってしまおうとします。勝利への執着が半端じゃありません。
そのくせ力押しの方がより強いから隙がないんです。


「オカワリ、クレ」
「はいどうぞ」

椰子の実殻のお椀になみなみと海鮮スープを満たして、グェスに渡します。
何を作っても喜んで食べてしまうグェスですが、料理の味そのものよりも女の子に給仕して貰うことの方が
重要なようです。


しかし、アワビの味を広めてしまったのは拙かったかもしれません。乱獲されなきゃ良いのですが。
この島ではヒルデニア人とヒルデニア滞在経験者の一部がこっそり食べている珍味扱いだったのですよ、
アワビやトコブシは。
ソーニャさんにしても「アワビ? 毒はないみたいね」とかいう反応でしたし。

あ、そうだ毒と言えば、猫がアワビ食べると大変なことになることも伝えなくては。猫にアワビは駄目です。
この島には飼い猫がいない筈ですが、絶対とは言い切れません。

「大丈夫よ、猫耳生えてても猫そのものじゃないし。それに‥‥」

やはり居ましたか猫耳獣人族。‥‥それに?

「もし耳が落ちたなら治せば良いじゃない。大母様がいるんだし」


あれ?
そう言えば大母様は島一番の、それも英雄級の大神官(ハイプリーテス)でしたよね。
ソーニャさんから見ても更に格上の。
そのレベルの大神官ともなれば耳の欠損修復や貝毒の治療も簡単なものですか。

はっ!? そういえばここはファンタジーな、神の奇跡がわりとありふれている世界でした。
ゲーム世界では毒や麻痺、朦朧や盲目状態なども呪文やアイテムで解除できます。
ゲームシステムにもよりますが、一時的でない状態異常や先天的な状態異常を解除できる場合もあります。

地球でも立川のロン毛を始め、各地の聖者たちは病気や盲目をどんどん治しているじゃありませんか。
見たことないけど。
耳とかの欠損も状態異常の一つとしたならば、呪文や何かで治せますよね。ええ。

なんで気が付かなかったんでしょう?
大母様ならグェスの指を治せるし、今なら治して貰うよう頼めます。
お布施に使える資金だってまだ10万ゴールド近く残ってるのですから。





 ☆31日め、早く言ってくださいよ☆



「1000万ゴールド」

へ?


あの後、早速大母様の所に行こうとして「メシ、クエ、ソレカラ」とグェスに止められ、神殿に行けば
居ないと言われ、探し回っている内に活動限界が来て意識を失いました。
こんなに長時間起き続けていたのは初めてですから仕方ありませんが。

で、翌朝に大母様に会ってグェスの指を生やして貰おうとしたら「1000万ゴールド、ハラエ」うん、
聞こえてます。


なにそれ。暴利ってレベルじゃないでしょうが。
ギュー・グェスはこの島指折りの強者で、昨日も代表決闘したばかりじゃありませんか。
その怪我を治そうとしてるんだからそんな意地悪しないで下さいよ。
一千万あれば完全治療の霊薬11本買ってお釣りがきちゃいますよ。

え? 身内以外の依頼は本来受けないのですか? 同盟部族ならまだしも?

あれ? 私、ひょっとして部外者扱い?



この神殿は、「オーク島調停六大神教オールクゥス派総本山」とでも言うべき寺院です。
で、ここの認可を受けていない私は見習い巫女であっても無免許。もぐりの宗教者なんです。

あれですね。日本の中世で言えば「乞食が勝手に住み着いたあばら屋に拾った仏像置いて拝んでいる」のと
大差ないんですよ。
できちゃった信者の方は本気ですけどね。

ええと、ショバ荒らしはお詫びしますので何卒寛大な処分をお願いし‥‥え、違うの?
はあ、元々本拠地以外は宗教的統制してないので、新しく祠や寺院を造るのは全然構わないのですか。
教義的にも同じ宗派だし敵対もしてないから、それを責めている訳ではないのですね。

問題は、宗教面より民事的な面にこそあります。
私はオーク族にとって、この島のオークたちとその妻たちにとって部外者であることです。
つまり「オークの子も産んでない小娘が嫁面すんな」と。

あー 怪我を治す治さないのはオーク達の問題であって、まだ部外者で将来も部外者かもしれない私に口を
出される謂われはないのですね。そりゃそうか。
でも、1000万ゴールドも出されたなら、ギュー・グェスの意向を無視して無理矢理遠隔治療しても神殿の
面目が立つのです。

この島では強さこそ正義。そして財力だって力のうち。
無理が通れば道理が引っ込む、女奴隷が何人も買える金額なら星11の戦士に臍を曲げられても請け負う
価値がある訳です。

‥‥‥‥なんだ 話は簡単じゃありませんか。

「という訳で、治療代出すから指を治しましょう」
「ヤダ」

お ま え は な に を い っ て い る ん だ 。

いや、治さないと駄目でしょうが。指一本少ないと握力が何割落ちると‥‥ あれ?

ひょっとして、もしかしてですけど。

「ギュー・グェス、怒ってる?」
「オコル、ナイ」

元々仏頂面というか三人の中では表情が読みにくい顔ですけど、どう見ても機嫌の良い顔じゃありません。
怒ってはない。怒ってこそいませんが。はて?

うーん、なんか周りの視線も、どちらかと言えば私を責めているというか不支持感がしますね。
これはいったいどういう事なのでしょうか?


そう言えば昨日の夕方頃からグェスの様子がおかしいのですよ。無口なのはいつもと同じなのですが。
妙に過保護になってしまってます。傍を離れなくなったりとか、私の腰に巻く飾り紐が四重になったりとか、
まるで目を離すと何をしでかすか解らない問題児のような扱いですね。

うん、まあ、昨日のアレは軽率だったと思います、流石に。
でもあれはグェスが勝つと分かり切っていたからでして。


ちょっと相手の身になって考えてみましょう。
一、この島はゴールドラッシュ中の西部の方がまだマシなんじゃないかっていうくらいの危険&無法地帯。
ここでは原住民が開拓者側に勝ってるけど。
二、グェスは猟師兼毛皮職人兼宝石堀りたちのリーダーで、ほぼ同格の仲間や下働き連中と一緒に男所帯で
暮らしてる。
三、私はある日拾われてきた、言葉もろくに通じない外国人の女の子。ちょっと目を離すと毒虫や猛獣が
うろついている外へふらふらと出てしまうような危なっかしい異邦人。

さて、自分がグェスの立場だったとしてそんな小娘が、自分が決闘しているときに自分の勝利に全てを賭け、
大儲けして、その利益の殆どを慈善に使っちゃったとしたら? 
余りで巣のために高価な治療薬を買ったとしたら?

うん、怒れない。怒れないけど愉快になりようがありませんね、これは。もし自分の娘がロアナ○ラで同じ
ことやったら、おしりぺんぺんじゃ済ませませんよ私は。娘なんかいないけど。

「もうしない! もうしないから!」
「オコル、ナイ」

ああっ 本当に怒ってはいない辺りが始末に悪いです! 不機嫌なだけで!
男のプライド持ち上げたり踏んづけたりで、これじゃ私は男心を玩ぶ悪女というか小悪魔?




良し、事情はだいたい解りました。

周りの視線が痛い。ひそひそ話も耳に痛い。
そりゃそうだ。
私はグェスに「私はあんたの保護下にあるけど、私の全ては私のもの。何に使うかは私が決める。文句ある?」
と言っただけでなく、本当にそう行動しちゃったようなものなんですよ、彼女達から見れば!

こりゃソーニャさんより質が悪いわ。遙かに。

「何か?」

いえべつに。
あ、大母様いつのまにかいなくなってる。忙しい方だから当然だけど。



まあそれはそれとしても、治療はしましょうよ。
素人の私が言うのも何ですが、故障を放置するのは戦士として如何なものかと。

「レイ、ちょっとこっちに来て」
「なんでしょうかソーニャさん」

ソーニャさんは噴水の水飛沫に左手を浸しました。
普通に手の平へ水が‥‥指の間が開いているのに水がこぼれず、貯まってます。

なんと。こんなところにもファンタジーな要素が。
横で見ていたギュー・グェスも左手を水飛沫に浸しました。大きな手の平に水が溜まっていきます。
根本から無くなっている薬指の所から、漏れる筈の水が漏れていません。

何でしょうか、二人の手の平に妙なものが見えるというか見えないというか。
映像特殊効果の歪んだガラス越しに撮影した空間の歪みのようなものを感じます。
大げさに言うなら格闘漫画とかの描写にある、オーラで周りの景色が歪んで見える感じ。

「グヒィー」
「やっぱり、貴女そっちの素質があるわ」

二人の話だと、星が二桁ぐらいの戦士や闘士なら誰でもこういった事ができるのだそうです。
というか出来ない方がおかしいとか。
地球だと闘気法とか気功術とかが近い概念ですね。
その活用方法の中には、さっきの実演のように手指の把捉力を高めるものもあるのです。
幹部オークたちが見た目以上に怪力である理由の一つですね。


あー それでみんな、ドスやウォスはグェスの指がもげたことをたいして気にしてなかったのかー。
前世の私で言えば生爪が剥げたようなものかな?

‥‥‥‥いや、それでもやっぱり治療はするべきだと思うのですよ。
私が思っていたよりも支障が少ないとしても。





 ☆31日めの2、久しぶりでしたから☆


結局、治すことになりました。
押し問答の末に私が泣き出したら折れたので、ギュー・グェスが何を嫌がっていたのかは解りません。
たぶん解らなくても良いことなのだと思います。

前にも言いましたけど、私の脳味噌はまだ子供、幼児以上思春期前なのです。
感情の抑制が利かなくなるとすぐに泣けてくるのですよ。これはちょっと理性では抑えきれないのです。
ですから別に女の武器として使ったわけではありません。そう思われても仕方がないけど。


「これが軽傷快復薬。これが重傷快復薬。こっちが致命傷快復薬」
「で、どれを使えば指が生えるのですか?」

大母様に頼むとお布施がとんでもない額になるので、ソーニャさんに治療薬を分けて貰うことにしました。
彼女はトカゲ帝国の戦艦から分捕った秘薬をこの島に持ち込んでいるのです。持参金扱いですね。

あー そうか。
史上三番目の高額になった代金って、「もうこれ以上トカゲ帝国はソーニャさんにかかわらない」ことを
約束させるお金、つまり手切れ金なんですね。
神殿は抱え込んだトラブルごとソーニャさんを引き取った訳です。

そこまでして引き取る価値が‥‥あるんでしょうねえ。大母様は個人武勇絶対主義みたいですし。
神殿の戦術ドクトリンについてまだ詳しくは解りませんが、地球と全然違うことぐらいは見当つきます。


さて、指などの欠損は致命傷快復薬などでも治ることがありますが、確実ではありません。
そこでより高価で入手困難な「癒し手の秘薬」を使うことにしました。これならまず間違いなく治ります。


代金代わりに、ソーニャさんと色々話をしました。
まずは昨日愚痴った経済論じみたことの詳細です。

と、言っても基本的なことだけなんですけどね。
通貨は蓄えていても意味が無く、経済は価値を作って回せば回すほど豊かになることとか、権力者の懐を
温かくするにはまず下層部に生活の余裕を与えて富の蓄積を行わせることとか、その為には減税もしくは
効率的な公金の運用が、できれば両方が必要なこととか。

で、それを行うには為政者に、好きに使える纏まった財源と頼もしい暴力装置が必要だという、何の面白み
もない結論にたどり着くのですよ。世の中銭と暴力で大概なんとかなるんです。

話を戻すと、経済活動はその組織の長期戦略に一致してるものなのです。
つまり何をして食っているかでそいつの考えが解る訳で。あのヘビ人のように取れるところまで取るタイプは、
長期的な取り引きではむしろ損をします。
常勝不敗を義務づけられると戦術的自由度がなくなるのと一緒です。
負けが許されない軍隊は、囮りを使って敵を誘引するとか、ゴミみたいな連中だけ集めた懲罰部隊をぶつけて
敵を消耗させるとかの戦法が使えなくなります。

百回取り引きして百回儲けようなんて、不健全すぎるのですよ。
彼が女奴隷の値を吊り上げるごとに島側の不満が溜まり、それは秘薬などの売れいき減少と他の奴隷商人の
販路拡大に繋がるのです。このままだと近いうちに島で秘薬製造が始まりますよ。
神殿が薬草や生薬を集めているのも、できるだけ秘薬に頼らないためでしょうし。


「‥‥それ、予言?」
「ただの当てずっぽうです」

なにが言いたいかといえば、長期間同盟(利用)したい相手にはそれなりに配慮しろってことです。
配慮しないってことは、いずれ縁切りする気満々だと受け取られかねませんから。


この日は朝から晩まで、ギュー・グェスも交えて三人で色々話しました。
私が何か喋ったらソーニャさんが何か喋り、その次私が喋って、更にその次にグェスが喋る。
そんなローテーションで話しました。

話に疲れたら身体動かしたりもしました。
グェスが引っ越し志願者の下っ端たちを扱いたりとか、私がソーニャさんに剣技の初歩を教わったりとか。


今回の神殿行きは、できればで良いから下っ端たちの補充もすることになってます。
面接と試験はギュー・グェスの仕事ですが。

なんだかんだで、三人の中ではグェスが一番人(オーク)を見る目があります。
で、軟弱者の吹き溜まりとして悪名高いうちの巣に来たがる下っ端オークは、良く言うと慎重で堅実な
安定主義ばかりです。
何十分の一の確率に掛けて闘技場に行くより、コツコツ功績を積んで星を増やしていく方が好きな連中です。

この方法でだって、本人の運と才覚と努力次第でのし上がることは出来ます。
もちろん、殆どの者は途中で倒れます。
最終的に一人前の戦士になれる確率は、闘技場に行くのと変わらないか、より低いかもしれません。

ですが、それまでに下っ端達は何ヶ月も何年も生きて、命を、人生を楽しむことができます。
そんな道程を選ぶ者たちだけを、グェスたちは巣に下働きとして引き入れているのです。

あー 下っ端オークって見分け付けにくいと思ってましたが、これもその理由の一つですね。
気質や信条が似てる連中選りすぐって集めてりゃ、体型や行動パターンが似てる者の割合も増えるでしょうよ。




ちょっと心外というか戸惑ったのは、軍学の話振られたから孫子兵法のさわりを話したらドン引きされたこと
ですかねー。
兵法三十六計のさわりで更に引かれちゃったし。いや、ソーニャさん、貴女も普通に使ってる技術でしょうが。


今日は市場の最終日で、各店舗は売り尽くしセール中です。
更に各地から集まっては帰っていった参拝者や交易者が置いていったお布施のうち、保存が利かないものが
神殿直営店で投げ売りされてます。
後者は時間が経つにつれどんどん安くなっていき、最後には只でばらまかれるそうです。

そんな訳で今日のご飯は安売りの材料を主にして、簡単に済ませました。
グェスが野太刀魚を焼いて、私が茹で芋を潰して塩と油と酢と香草で和えてマッシュ芋にしまして、
あとはウリやら果物やら。
できるだけ疲れた顎に優しいメニューにしてみました。

野太刀魚は、地球のタチウオに似た銀色で細身の魚です。
大きくて顔が凶悪で、柔らかい白身肉は脂が乗ってるくせにさっぱりとした味わいで、地球のタチウオより
美味しいかもしれません。小骨が少なくて食べやすいですし。

そういえばトマトもあったんですよね。
これは野生のものではなく、神殿の中庭で巫女さんたちが栽培しています。
むう、何か作ってみますか。久しぶりのトマトですからね。

フライパンも香味油もないから焼きトマトにしますか。
まず手頃なトマトを選びへたを取って、種が流れ出ないように果肉の部分だけを切って切り分けます。
読んでて良かった家庭料理漫画。皮も剥いときますか。
これを焚き火の側に置いた石で石焼きにして、程良く火が通ったら同じく石焼した刻み香草と一緒に
中身をくり貫いた完熟ピーマンに入れます。

後はピーマンに火が通るまで炭火で焼いて、仕上げに軽く魚醤を垂らします。
これで完成。みんなで食べましょう。

うん。魚醤は癖があるけどこれはこれで。
そーいやこれで醤油が一応手に入りましたから、次はバルサミコ酢とか欲しいですね。
あれは確か葡萄から作る筈。今度試作してみますか。

「焼きトマトとこんなに合うなんてっ‥‥何にでも魚醤かける西方人の気持ちが解らなくもないわ」

あ、ソーニャさんが野菜と魚醤の甘み×3+旨味×3の連続コンボに圧倒されている。
東方ではトマトに魚醤をかけて食べる習慣がないのかな? 
新鮮な反応で有り難いですね。オークたちは何作っても「ウマイ」しか言わないし。

「ウマイ」
「ん。もう一個どう?」
「クウ」

精錬した魚醤は西方やヒルデニアの産物で、東方人たちにはあまり馴染みがない調味料のようです。
でもねー これにキノコや香味油や乾物が加わったら更に凄くなるんですよねー。
カツブシ、作れるかなあ? まずは干物を研究しないと駄目でしょうね。

え、グェスの指ですか? とっくに生えてますよ。飲んで直ぐに。
こんな簡単に治るなら治療に焦らないのも解る気がします。これだからファンタジーは困るんです。





 ☆32日め、帰り道☆


昨日は結局夜まで話し込みました。喋りすぎて咽が痛いし顎が痛いし、もう一月分は軽くお話しましたねー。
最後はなぜか大母様までいましたけど、なぜでしょう? お酒が入っていたせいか記憶が曖昧で‥‥。
なぜか五輪の書と戦争論と君主論をまぜこぜにしたものを語っていた記憶が。
それも武蔵やクラウゼヴィッツが聞いたら怒り出すような解釈で。
マキャベリはたぶん怒らないでしょう、あの人は誤解曲解にも過大過少評価にも慣れっこでしょうから。


そしてまたもや突然の活動限界で私の意識は途絶え、気が付けば次の朝でした。

なんか懐かしいですねー。
子供の頃は夜、布団の中で目を閉じた次の瞬間に「もう朝ですよ起きなさい」と言われて、親にからかわれて
いるのかと思ったら本当に朝だった。なんてことがしょっちゅうでしたよ。
本当にもう、スイッチ切られたみたいに意識が飛ぶんですよね子供の身体って。

ここ数日は密度の濃い、イベント盛りだくさんの日々でした。
洞窟暮らしに戻ればまた、朝の惰眠を貪ることになるのでしょうか。

「グヒッ」

おっといけない、お家に帰るまでが遠足でした。
ここは危険がいっぱいのモンスターランド、油断して良い場所ではありません。


新月のバザーが終わった日の翌朝早く、私たちは神殿を出て帰路につきました。
毎月の新月に市場と武闘会と嫁候補の引き取りがあるのですが、満月にも定期や臨時でお見合い大会や
武闘会じみた交流会などのお祭りが開かれるそうです。

で、私たちというのは、私とグェスの他に新人の下っ端オーク四人が一緒なのです。
みんなうちの洞窟で暮らすことに決めた連中です。

どうもオークの社会構造は解らないというか、幹部と下っ端の関係って解りにくいのですよ。
移籍の自由があるから農奴とかとは違うし、税も納めないから領民でもない。上下関係はあるけど
命令系統がある訳じゃないし、労働の義務や対価がないから社員でもない。
家族やペットにしては心理的に距離があるし、家畜というほど扱いがぞんざいでもない。

あえて地球で似たような関係を探すと、傾奇者とその取り巻きみたいなものでしょうか? 

似てないこともないですよね? 
地球のゴロツキより余程善良ではありますが、何かあると直ぐ逃げ散っちゃう所とか、雑用には使えるけど
大きなことはとても任せられないあたり。
頼もしい(おっかない)旦那が陣頭に立っていれば、それなりに統率取れた動きできるんですけどねー。
そうじゃないと烏合の衆もいいとこです。


朝早くに神殿を出発したのですが、道程はなかなか捗りません。
下っ端達の足が遅いというか、グェスの足が速すぎるのです。
これは焦ってもどうしようもないですから、気にせず歩くしかありません。
いえ、私は背負子に入りっぱなしですけどね。

オークの背中は広くて頼りがいがあって、乗っていて安心できます。特にグェスの背中は乗り心地抜群。
もっちもちのお肌なウォスの背中も悪くありませんが、乗るならグェスの背中です。
でもお腹の触り具合はウォスの方が上かな。
肩に乗るなら、高さと安定感とセクハラされる心配の低さの複合でドスが一番です。


帰路は移動速度が低いこともあって、周りの風景とかがよく見えます。
この島では大型の爬虫類や鳥類が目立ちますが、哺乳類も決して負けてないようです。
面白いのはオーク族や人間の女達、この世界の知的種族にもモンスター(怪物)の概念があることです。

たとえばあそこにいる、数日前グェスが仕留めた大牛の骨を囓っている大ネズミ(ジャイアント・ラット)は
モンスターです。
でもその反対側にいる、竹藪の茂みでタケノコ囓っている大型齧歯類(カピバラ)はモンスターじゃありません。


並はずれて大きい生き物はモンスターですが、大型生物全てがモンスターではありません。
でも私より重たい昆虫類とかは残らずモンスターですね。
連中は謎の呼吸システムで酸素を吸入して、謎の循環方法で体液を回して活動しています。
いわば魔法的なサイボーグというか強化生物。
オークもモンスターです。だから高レベルのオークは見た目以上に強いのです。
人間もかなり鍛えればモンスター扱いですね。闘技場に出られるまで鍛えた女たちとか。


モンスターと普通の生き物の違いはマナを使えるかどうか、そしてその質と量で決まります。
つまり魔力とか霊力とか、そういった要素を持つものがモンスターです。

なので生き物でないモンスターもいます。
死骸が動き回るアンデッド類や、呪力が込められた器物が動き出す付藻神などですね。
なかには山火事や落雷などの現象そのものがモンスター化した、歩く災害級もいます。

モンスターは凶暴なものが多く、概ね危険です。
ですが狂暴で好戦的で縄張り意識が強いために、多くのモンスターはオーク戦士にとって絶好の栄養源そして
訓練相手になります。

好戦的だから向こうから襲ってくるし、狂暴だから途中で逃亡されることが少ないのです。
強いオークにとってモンスターとの遭遇は腕試しが出来て肉や毛皮も手に入る、大自然からの贈り物なのです。
負けたら死にますけど。

オーク族が飛び道具を重視しない理由の一つですよね、敵の好戦性は。
視力の関係上、投石の有効射程はせいぜい50メートル。
その間合いは足の速い敵なら数秒で詰めてこれる距離なのです。
直接殴る方が早い、と棍棒に頼る気持ちも解ります。

逃げ隠れする獲物を追いつめて包囲することもあります。
しかしオークの狩りは基本的に待ち伏せと迎撃戦です。わざわざ逃げ上手の獲物を苦労して捕まえなくても、
足の遅いのや向こうから来てくれる美味しい生き物は幾らでもいるのですから。
こうして「殴ってから考える」「困ったときは力押し」な脳筋が量産される訳ですね。

いや、悪くありませんよ。半端な策士なんかより突き抜けた脳筋の方がずっと頼りになりますし。




 ☆32日めの2、帰るところ☆


日が暮れても、洞窟には着きませんでした。移動速度が遅いから仕方がありません。
幸いオーク族は夜目が利きますし、聴覚や嗅覚も鋭いので夜道でも歩けます。
ですので野宿はせず強行軍で帰りを急ぐことになりました。

その判断は裏目に出たようです。

巣から一時間もかからない場所なのにアンデッドの群に遭遇してしまいました。
錆び付いた板金鎧を着た骸骨の重装甲歩兵が三体。そして同じく骸骨の雑兵が十体あまり。
しかも避ける暇もなく接近されて乱戦になりました。
夜は亡者の天下、夜中のアンデッドは昼間の倍は厄介なのです。


もちろんギュー・グェスの俊足なら亡者の歩行騎士を振り切ることくらい簡単です。
でもそうすれば下っ端たちが逃げ遅れて殺されるでしょう。

「プギィッ」
「だ、大丈夫っ 私は無事だからっ」

なので、私とグェスが囮になって騎士を惹き付け、殴り倒しても殴り倒しても復活する敵と戦っています。
私はグェスの邪魔にならないよう背負子に掴まっているので精一杯です。
せっかく用意した銀の投げ矢や神殿で購入した聖水を使う余裕もありません。


この骸骨騎士たちは、しぶといだけでなく連携が巧みで、腕も決して悪くありません。
骸骨の雑兵は騎士に比べると再生能力も弱く、4~5回壊せば動かなくなります。
騎士はあと何回砕けば良いのでしょうか?


グェスは右手の棍棒で敵の剣をあしらい、隙があれば蹴飛ばし、左手の銀飛礫(シルバーブレッド)を投げ
つけて雑兵を砕きます。


この骸骨達、本当に戦い慣れてます。個人の技量もだけど戦術が上手い。
常に二対一以上で戦い、包囲や挟み撃ちで有利な状況を作っています。
私や下っ端達が足手まといになっているのに、この三騎士を既に数十人分たたき壊しているギュー・グェスも
たいしたものですが。

騎士がこの三体だけで良かった。もしもう三体ほど同等の弓騎士でもいたら、私は昆虫採集の標本のように
されているかもしれません。

さてどうするか、このまま続けてもじり貧です。
せめて雑兵だけでも残らず片づければ下っ端達を‥‥何処に逃がせと。

幹部の統制がなくなった下っ端は直ぐに士気崩壊して逃げ散ってしまいます。
せめて洞窟の位置を知っていれば、私たちが騎士を引き止めている間に逃がすこともできるのですが。
いまここで浮き足だった星無しの下っ端オークたちを解散させれば、神殿にたどり着くまでに半分は夜行性の
モンスターに食われるでしょう。


さてどうしたものか って、背負子が壊れたぁっ!

木材を結んでいた紐が千切れました。
崩れた背負子から投げ出されそうになった私は、咄嗟にグェスのマントを掴みます。
あ、危なかった。
間に合わなかったら火山岩の岩場で受け身取る羽目になるか、グェスの手を患わせて更に不利にしてました。

壊れた背負子を投げ出したグェスは左手で私を支え、右手の棍棒で骸骨騎士を牽制しようと‥‥

おや?


何故か正面にいた骸骨の騎士が倒れています。

あ、いや立ち上がりました。でも動きが鈍いというかぎこちなくなってます。
他の二体も同様ですね。士気が落ちたというか攻撃意欲が感じられません。
嘆いてるというか、まるで泣いているような感じです。

この隙を一流の戦士であるグェスが見逃す訳もなく、骸骨の騎士達は一呼吸のうちに殴り倒されました。
そして今度は倒れたままです、起き上がろうとしてますが立つのは無理でしょう。

あー これはひょっとすると、あれですかね。

試しにちょっとグェスの首に手を回して、ほっぺにスリスリしてみます。
すると正面の骸骨騎士が崩れ落ちました。ついでに雑兵も。
グェスに他の骸骨達の前まで行って貰います。
見せつけるように片腕お姫様だっこから、ほっぺ ちゅっ をすると、アンデッドどもは崩れて風化しました。

やっぱりだ。こいつら私がグェスと、オークと仲良くしているのを見て幻滅というか醒めちゃったんですよ。


この骸骨たちの生前は「鉄の王」の配下で、昔の戦いで死んだけど死にきれなくて迷っていたのでしょう。
そして今夜はオークに攫われてる(ように見えた)女の子を見つけて、なにがなんでも取り返そうと執念で戦って
いたんですね。
ところがその女の子はオークにべったりで心を許している様子。なので心の支えが折れちゃったんです。

乱暴狼藉は戦場の常ですし、戦争中はオークに攫われたり手込めにされたりする娘もいたでしょう。
その結果、オーク側に寝返っちゃうのも、間違いなくいた筈です。

察するにこの三人は、家族か身内か主君の係累かは分かりませんが、私に似てないこともない女の子を奪還しに
来て戦って、そして間に合わず寝取られた絶望の中で死んだのでしょう。
騎士達の目の前で、当てつけるようにオークといちゃいちゃしている黒髪の少女から蔑みの視線を浴びながら、
彼らはオーク戦士に殴り殺されたのです。

で、亡者になってからは死の直前の記憶が都合良く消えちゃっていて、オークとみれば無差別に襲いかかる
ワンダリングモンスターとなったのですね。

そして私たちを襲ったことが切っ掛けで、死亡直前のトラウマほじくり返して自滅した。
忘れていたからこそ怨霊やってられたのに、思い出してしまって現世への執着が消え失せたのです。


同情はしますけど、もの凄く迷惑なんですが。私は大昔の戦争なんか関係ないのに。



はあ。
怪我をしなかっただけマシだと思うしかありませんか。

してませんよね? 
私は無傷だし、グェスもかすり傷‥‥ にしては血の臭いがキツイのですが、下っ端達が怪我したのかな?

「‥‥グヒー」

してました。それも致命傷です。
下っ端オークのうち一名が、骸骨騎士に切られて内臓はみだしてます。
これは、いつもの応急手当ではどうにもなりません。

「ええと、ギュー・グェス、ものは相談なんだけど」
「ゼンブ、ツカウ、カッテ、ヨシ」

ん。相変わらず太っ腹ですね。
では荷物の中からスポンジもどきで包んだ水晶瓶を出して、そのうち一本を選びます。
ここは文字通り致命傷快復薬で良いか。

そんな訳で。名もない下っ端オークは助かりました。相変わらずファンタジーな威力です。
いきなり一本使っちゃいましたけど、仕方ありませんよね。
ここで霊薬惜しさに見捨てたら目覚めが悪すぎます。


さあ、生きてるならさっさと立ってください。おうちは直ぐそこですよ!





 ☆34日め、新生活☆


骸骨騎士の一団を倒してからは、特に何もなく洞窟に着きました。
留守番組の方もこれといった事件はなかったようです。

帰ってきた夜とその次の日はゆっくり休みました。掃除と女神像の世話と料理ぐらいしか働いてません。
あと、持ち帰った交易品やスパイスの保管ぐらいですね。

そして昨日の夜に、三人と話し合って今後のことを決めました。
いえ、私の意向が全部通っちゃったから話し合いなのかどうか微妙ですけど。

結論として、
一、神殿で修行はしない。ソーニャさんには来月会って断る。
二、しばらくはここで厄介になる。
三、二年以内‥‥あと686日以内にそれ以後もここに残るか出ていくかを私が決める。
四、お嫁さんになるかならないか、そして誰のお嫁さんになるかは私が決める。 
ということになりました。


あと二年すれば、私も諦めがついてる頃なんじゃないかと思うのですよ。
何のコネも才能もない小娘が、生き馬の目を抜く大文明圏で生きていける訳もありませんし、蛮地だと
命そのものが長続きしません。

もう人間社会へ出るの諦めて、この島で暮らす方が無難な気がします。幸い永久就職の当てもありますし。
この島、いいえこの洞窟には私のように無能で非力で根性腐っていても、若くて可愛ければお嫁さんにして
くれるお馬鹿さんたちがいるのですよ。

まあ、オーク基準で言えば料理は得意ですが。取り得はそれくらいかな?


今日はドスとウォスの二人と、新人の四人+古参三人の下っ端たち7人で採集に出ています。
私を入れると10人の大所帯で何を取りに行くのかというと、薪の類です。
ついでに道すがらで色々集めますけど。

たとえば捕獲茨の実。ミニサイズのリンゴに似ていますが、味は地球の姫リンゴより上ですね。
水気の多い紅玉という感じです。
この絡みついてくる茨ですが、厳密に言えば補食してくる訳ではありません。

どちらかと言えば過剰防衛であって、大型の生き物が近づくと棘のついた蔓が動いて追い払おうとするのです。
結果として人間が絡みつかれるので、山羊や猪はうっかりしても鼻を棘で刺されたりするだけで終わります。

オークや大怪鳥のように皮膚が厚くて怪力の生き物なら捕獲茨の実を難なくとれます。
そして実を食べられることで茨は種を遠くまで運んで貰える訳です。

そして棘桃の実。これはコケモモに良く似た果実です。
赤い実の中に鋭い棘しかも返しが付いたのが仕込まれていて、うっかり食いつくと口の中が大変なことに
なってしまいます。
この植物は、棘をものともしない生き物や棘を器用に避けて食べる生き物に種を運んで欲しくてこんな進化を
したのですね。
こちらは摘んで集めてから潰して、汁をジュースにしたり発酵させて酒にしたりします。

タケノコは日の出頃に近くの竹林で集めたものがあるから要らないとして、帰りに荷物の余裕があれば椰子の
林で椰子の実を集めますか。ヤシガニも何匹か捕まえられるでしょうし。


そこらへんの木でも充分薪になります。
わざわざ遠出して纏め取りする価値があるのは火炎松など限られた木だけです。
見た目は地球の赤松そっくりなこの植物、実は植物型モンスターの一種なのです。
といっても動いたり歩いたり松葉を吹き矢のように発射してくる訳ではありません。

病気や害虫に強くて、砂地や岩場などの痩せた土地に好んで生え、薪としてだけでなく松ヤニや松の実が
とれる有り難い植物なのです。
柔らかくて節が多いので建材には向きませんが、腐食に強いので地中に埋める補強材など土木系には使えます。

そうです。
この火炎松は、利用価値を上げに上げて知性ある動物に保護される方向へ進化した魔法植物なのです。
油分が多く、とにかく良く燃えるのでこんな名前で呼ばれています。
欠点は燃え易すぎる点ですね。
落雷とかあると一発で山火事になってしまうので、人里やオークの巣に近い火炎松の林は時折斧を入れて
間引いておかないと危ないのです。

松は利用したいが火事は怖い。故に人やオークはあちこちの岩場に松の実を撒いたり挿し木をしたりで
松林を増やし、同時に一カ所に増えすぎないように気を配るのです。ある意味プレ農林業ですね。
私は考え無しに果樹園を作ろうとして失敗しましたが、オークたちは火炎松以外にも椰子類やクルミなどの
比較的狙われにくい植物を撒いたり植えたりして増やしてるのですよ。

一本一本に世話をして一本あたりの収穫量を上げるのではなく、広い地域の至るところに食用植物の種を
まいて地域あたりの収穫量を上げるのがオーク流なのです。
人口密度が低くて植物が良く育つこの島では、これ以上の進歩が必要ないんです。
今だって巣には食べきれないぐらいの食料が蓄えられているんですから。主に私のために。


必要ないと分かっていても、食料庫が寂しいと不安になるのが人間‥‥というか日本人の本能なのです。
冬に備えて秋の稔りを蓄えよ! と常夏の島なのに幻聴が聞こえるのです。ああ、業が深い。

新入り四人の担いでる樽が一杯になったら帰る頃合いです。他のオーク達はあまり荷物を持ちません。
警戒が疎かになりますからね。それでも一度で数百キロの物資が運べます。数往復すればトン単位になります。


さて、慌ただしかった旅から帰ってきて、至極まったりしている私ですが少しばかり悩んでいるのですよ。
何時までも名無しでは可哀想なので、せめて見分けが付く下っ端だけでも名前を付けようと思ったまでは
良いのですが、どうにも良い名前が思い付かないのです。

私は彼らの母親ではありませんから、オーク語で名付けるのは拙いですし、まさかコロとかタマとか安易
過ぎる付ける訳にもいきません。かといって日本人名というのも、ねえ?



そんな訳で、極楽浄土のご両親様。ついでに愛犬と猫たちよ。
私は今日も元気に生きています。

楽園には程遠いこの島だけど、生きていく余地は充分あります。
状況は詰んでるけど、王手(チェック・メイト)はまだまだ先なのですから。






[38600] 構想ノートの切れ端
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2013/10/13 13:59


作者はSS書きの端くれであり、SS書きの例に漏れず妄想を形にまとめ文章化し物語とすること自体に喜びを感じる存在です。
しかしネットの啓示場に投稿できた物語を妄想の海というか沼から這いだして来れたカエルだとすれば、その数十倍数百倍に及
ぶ物語の卵や幼生が沼地でひっそりと消えていくものなのです。
以下はそんな生き物たちの中から、オタマジャクシ程度にまでは成長したものの沼の外には出られなかった連中を晒してみます。



【オークなりました(仮題)】

・あらすじ
平凡な勤め人、トンカツこと噸多勝三(とんだかつぞう)はある日、配信が終わった名作フリーゲームANOLEシリーズ幻の最終更新版
を手に入れた。同シリーズをこよなく愛する彼は早速解凍して遊び始めるのだが、プレイ中に意識を失ってしまう。
再び目覚めたとき、勝三は彼が育てたプレイヤーキャラ、オーク戦士ギュー・グェスとしてANOLE世界にいた。
殺伐しすぎている世界観に定評があるANOLEだが、勝三の新たなリアルとなったラグニアス亜大陸はゲームに輪を掛けて陰惨な土地で
あった。貧困と野蛮、無法と暴力が渦巻き、災害と疫病と飢饉そして戦争がローテーション組んでやって来る呪われた世界で、オー
クの肉体と人の心を持つ勝三=ギュー・グェスは安住の土地を求め当てのない旅を続けるのだった。


・問題点
ふと気付いたら、主人公が街道商隊を襲って皆殺しにして、ヒロインの幼女(主人公に拾われた捨て子、顔にひどい損壊痕あり)が、
商人達の死体を黙々とさばいて人肉料理作っている図が日常化していた。あまりにも冥府魔道なのでボツ。

・コメント
脳がカタツムリ観光客に占領されたとしか思えないしろもの。どうしてこうなった。
でもこのネタでオーク族の生態はほぼ決定。



【辺境伯夫人の秘密(仮題)】

・あらすじ
ウェストリア辺境伯領のカトリーヌ辺境伯夫人は、政治に興味を持たぬ夫に代わり家中をまとめ領地を切り回し領土を守り抜
く、若く美しい女傑であった。
一児の母でもある賢夫人には秘密があった。竜ですら単独で仕留める彼女は、オークの肉棒と精でないと決して満足できない
色情狂の異常性欲者だったのだ。
倒錯した欲望を持て余したカトリーヌは、辺境伯領に侵入したオーク族の巣穴にこっそりと全裸で忍び込み、奴隷として調教
されている捕虜たちの中にこっそり紛れ込んでは陵辱されることを好んでいた。城の地下室で飼っているペットオークたちに
はない野性味が、必死で子孫を残そうとするひたむきさがカトリーヌの被虐心を刺激するのだ。
しかし彼女のお楽しみはいつも長続きしない。それまで玩んでいたカトリーヌが遙かに格上の存在だと気付くと野生のオーク
たちは萎縮して何もできなくなり、命乞いを始める始末。
カトリーヌが理想とする、かつて勇者気取りの小娘だった彼女を返り討ちにしてオークに純潔と生涯変わらぬ忠誠を捧げる悦
びを教えてくれた本物のオークのような強者にはどうしても巡り会えない。
ご主人様、どうして貴男は死んでしまったのですか。
思いあまったカトリーヌは同好の志を集め、手飼いの侍女達を手始めに領内の女達を洗脳調教してオークとその男根を種神の
化身として崇める邪教団を立ち上げる。
禁断の呪術を使って決行した淫靡な儀式は、はたしてカトリーヌを満足させられる豚魔王を造り出せるのだろうか。


・問題点
なぜヒロインがここまでオークを好きなのか、説得力のある説明が付けられない。そして彼女の高すぎる理想に追い付けるオ
ークを出すとしても説得力(カリスマ性)のあるキャラクターになるとも思えない。男役のキャラ作りに失敗したためボツ。

・コメント
こんな良い(意味で酷い?)女がちん○しか取り得のない屑キャラに惚れるのは変だ。なんでこんな設定組んだんだか。




【大河のほとりにて(仮題)】

・あらすじ
平凡な女子校生、平野素子(ひらのもとこ)は修学旅行中に旅客機が墜落し死んだ筈だった。が、彼女は目覚めたとき見知らぬ
ジャングルの中にいた。旅行バッグを抱え、制服姿のままあてもなく彷徨う素子はオークの群に遭遇し、捕らわれる。
オーク達の巣に軟禁された素子は隙をついて脱走を計り成功するものの、狂暴な野生モンスターに襲われ瀕死の重傷を負う。
絶体絶命の素子を救ったのは追いかけてきたオークたちだった。
オーク達の手厚い看護で命をとりとめた素子は、療養生活を送るうちに軟禁と感じた処遇は彼女を守るためだったと思い知る。
ジャングルも平原も水辺も、狂暴な怪物や蛮族が蠢く危険地帯なのだ。
他に頼るものなどない素子は水平線が見える大河のほとりで、言葉も通じないオーク達の好意にすがって日々を生きるのだった。
少しずつオークたちとうち解け、群の一員となっていく素子。だがそんな彼女の前に次々と地球文明の産物が痕跡や残骸として
現れる。この場所は何なのか、地球と繋がっているのか、だとしたら帰れるのか。素子の心を千々に乱したまま物語は終局へ。


・問題点
なぜオークたちが好意的なのかについて一応の説明はつく設定になっているが、オークたちがお人よしすぎてキャラ的に嘘臭い。
あとヒロインがオークたちを受け入れる過程があっさりし過ぎていて、話として盛り上がらないのでボツ。

・コメント
舞台と男役の設定にひねりや深みが足りなさすぎて上手くいかなかった例。しかし「紳士的なオーク」の概念が確立した点だけ
は収穫。
ネタや展開のいくつかは「詰んでる」に流用。



【豚の勇者(仮題)】

・あらすじ
魔法学院の爆発娘、ゼロのルイズことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した使い魔はオーク
だった。それもただのオークではなく強力なマジックアイテムを完全武装に装備して、何故か山のような家具と宝物を背負った
オークの勇者が現れたのだった。
ただ強いだけでなく、料理の達人で、弦楽器の名手で、読書家で、錬金術師で、大工でもあり鍛冶屋でもあり樵でも農夫でもあ
る、万能の勇者。無口でマイペースに、ただし常にルイズの幸せと成長を願って行動する使い魔にルイズは少しずつ心を開いて
いくのだった。


・問題点
似たような話は幾らでもある。既にある作品読んだ方が早いし面白い。故にボツ。

・コメント
何か一つでも新しい切り口を見つけていたら、と今も惜しむネタ。ゼロ魔系の新規開拓は茨道過ぎる。




[38600] 13
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:54



 ☆45日め、力こそ権勢(パワー)☆



なんか、やる気がどっか行ってしまいましたね。

こんにちは。オーク島の見習い巫女、レイちゃんです。
どうもここ数日、腑抜けてます。

いえね、私ってつくづく無力というか非力なんだなー と実感しまして。


10日前ぐらいは割とやる気に満ちていたのですよ。頑張るぞー って。
ギュー・グェスの指生やしたりして、幾らかはこの巣のオーク達に恩返しもできたしこの調子で色々やってみよう って。
で、色々やってみて、自分の無力さを思い知らされてる毎日なのです。

例えば酒造ですね。
一時期はまっていた蒸留酒の製造は、今は止めてます。もう充分ストックがあるのと、作ってもあまり意味がないことに
気付いちゃったので。
いくら作っても売れないんですよ。商品にならないんです、レイちゃん酒造の主力製品であるラム酒を始めとする焼酎類は。

だって市場までの運搬手段がないんですから。
黒猫も飛脚もいないこの島では、荷物は一々担いで運ばなくてはいけません。そして大規模な取り引きができるのは月に一
度だけ。
これじゃ商品を作り置きする意味がないんです。

だってそうでしょう? 幹部オークは人間より多くの荷物を運べますが、道中の安全も考えれば大荷物を運ぶのは無理です。
一度に運べる量はお酒なら精々120㎏程度でしょう。

一月に100㎏ちょっとしか運べないんですよ? 焼酎よりずっと単価の高い、宝石とか毛皮とかを運ばないと運送力が
もったいなさ過ぎます。石とか金属とかの比重が大きいものなら200㎏以上運べる訳ですから。
道が悪い上に地雷原並に危険なので荷車とかは使えません。かといって人海戦術で運ぶのも無理。
だって、輸送にあたる幹部オークを増やすと巣の防衛が厳しくなりますし、下っ端達は人夫にするには能力と信用の両方で
無理。
神殿への往路だけでも命懸けですからね、彼らにとっては。
大荷物を持たせて運ばせておいて、落とすな! 零すな! 勝手に飲むな! とはとても言えません。


なんですかねえ。
初遭遇した保護者が腕自慢の有力者でそこそこの資産家で、しかもとっても好意的でやりたいことは大概好きにやらせてく
れるという、異世界ものでいえばイージーモードの筈なんですけど‥‥。

こんな環境でどうやって知識チートやれっていうんですか。
縄文時代以前のプレ農業しかないこの島じゃあ、ノーフォーク農法もなにもあったもんじゃありませんよ。
まあ、転生もののテンプレート的世界よりこっちの方が暮らしやすいですけどね。この巣のオーク達は21世紀の日本人なみ
にきれい好きですし、21世紀日本人の平均以上に紳士ですから。

何の自慢にもなりませんが、もし私が転生したのが某有名ラノベ世界だったなら三日持たない自信があります。
三日以内に私が首括るか、召喚主が刺されるか、魔法学院が焼け落ちます。全部かもしれません。


経済構造が原始から精々古墳時代なので、複式簿記とかの経営チートは無理。
オークたちは病気知らずで医薬知識持ちで、いざとなれば魔法的な治療に頼れるので医療チートも無理。
農業が無理なのに狩猟や採集でチートなんて無理の無理無理。

結局、私は何の役にも立ってない訳です。昔飼ってた猫たちの方が、今の私より余程役に立っていたでしょう。
とにかく食料が豊富な島なので、家計というか餌代の面では猫より負担が低いのですが嬉しくありません。

はあ。私はこれからどうすれば良いのでしょうか。


「グヒィー」
「え? 引いてるって?」

おや、考え事してるうちに掛かったようです。紐をたぐってみると‥‥あちゃあ、外道でしたか。大海星です。

1、赤蟹やハマグリなど、固くて捕まえやすい生き物を捕まえます。
2、それらを丈夫な紐で縛り、海に投げ込みます。
3、頃合いを見計らって紐を引っ張ると、タコとかエビとかが釣れることがあります。
4、鈎針とかを付けておくと更に効果的です。

仕掛けが簡単で同時にに幾つも仕掛けることが出来るのがこの漁法の利点ですが、外道がかかりやすいのが難点ですね。
この大海星は地球のオニヒトデに近い生き物で、食べる場所がない上に毒棘があって人やオークを刺すわ貝は食うわ珊瑚
は枯らすわで嫌われ者です。仕方がないので焼いてしまいましょう。

海星類はクマムシの次ぐらいにしぶとい生き物ですが、流石に炭になるまで焼けば復活してきません。
砂浜に掘った穴に石と粘土を敷きつめて、海岸に生えている火炎松の松葉や松ぼっくりを海星と一緒に入れて焼いてしまい
ます。
乾いた松ヤニの欠片や枯れ枝を入れると更に良く燃えます。砂中に節抜きした細い竹を埋めて空気穴を付けてありますし、
焚き火の上には重し付きの鉄網を被せてますので逃がしません。
オニイソメやウミウシならともかく、海星にかける情けなど持ち合わせていないのですよ、私は。
灰は海に捨ててやるからこんがり焼けてしまえ。


今日は砂浜に来ています。巣に近い狩り場では獲物が少ない方ですが、反面生き物の密度が低くて視界が広く遮蔽物が少ない
ので、実は洞窟の中に次いでモンスターに不意打ちされる危険度が低い場所です。
なので石投げとか駆けっことか、広い場所が必要なスポーツはたいていここで行われます。
油断すると大海星や大クラゲや大赤エイに刺されて死んでしまいますけどね。ごく稀に大イモガイ。


他の紐を引いてみると、見慣れない魚が一匹掛かっていました。ギュー・グェスに訊いてみると、砂地や泥の上で一日中寝て
いる魚だそうです。待ち伏せ型捕食者ですね。
黒っぽくて肌がぬめぬめしてて口が大きくて見た目は悪いですが、毒はなく白身で美味しいそうです。
焼き魚より煮物向けだそうですが、小骨が多いのかな?

知らない生き物が釣れたら、必ずオーク達に、特にギュー・グェスがいれば彼に見せて安全かどうか、どう扱うべきなのか尋
ねることにしています。
グェスには知識だけではなく、生き物が毒や病気を持っているかいないか、どんな毒や病気なのかが解る特殊能力があるから
です。これは彼の守護神オールクゥスが授けてくれた加護なのだとか。
奇跡や神罰が身近なこの島では、彼のような加護持ちは珍しくありません。

たとえば幹部オークのむっちりさんことレェ・ウォスは、「緊張していない状況での負傷が常に最小限になる」という、何が
なんだかよく解らない加護を持っています。
普段はともかくピンチの時ほど役に立たなくなる加護って、意味があるんでしょうか? いえ、ついうっかり系の怪我をしに
くいのは良いことなんですが。

そういえば彼はしょっちゅう私の代わりに毒蛇や毒虫の被害を受けていますが、毒などで苦しんでいる様子はありません。
てっきりオーク族は毒耐性が高いのかと思っていたのですが、人間に比べれば効きにくいだけでやはり毒はオーク達にとって
みても恐ろしいもののようです。
ウォスが平気なのは加護の力で毒への抵抗が成功しやすいからでしょう。


毎日毎日感謝を祈り、時折の供物を欠かさなければ私もそのうちに加護が得られます。うちの御神体を含む、オーク達が崇め
る神様たちは求める者にはわりと気軽に御利益をくれるのですが、欲しがらない者には何も与えません。
ただ、法もしくは中立の属性とされる調停の神々と違い、混沌から中立までの領域を司る混沌の神々は、要るとも言っていな
いのに気まぐれに加護や御利益をばらまくことがあるそうです。

その御利益というのが、大概えげつなくしかも法則性皆無な副作用込みなので、混沌神はあまり人気がありません。少なくと
もこの巣のオーク達には。でも嫌われてはいませんし畏れられています。
法と混沌は対立する概念ですが、神々は特に争ったりはしてないようです。信者や教団は激しく争っている場合もありますが、
法と法同士や混沌と混沌同士でも容赦なく抗争繰り広げている場合もあるので、イデオロギーで戦争とかはしてないみたいです。
まあ、考え方の違いから抗争中の組織が、互いに講和したくても話のまとめようがなくなっちゃう事例も多いようですが。

この世界の神格は調停神と混沌神、二陣営の上級神たちとそれ以外の下級神たちがいます。
六柱とも十二柱とも言われる調停の神々と、何柱なのかさっぱり不明な混沌神が上級の神々でワールドワイドな存在で、
それ以外にも大勢いる神々は一地域か、精々文明圏一つ分の範囲で崇められているだけのようですね。

この巣は宗教コンパス的言うと、ややロウよりの中立で善導主義です。
狂王の練兵場で言えばG属性なのです。

オークがG属性ってのもアレですが、実際の話彼らはとてつもなく善良なのです。
・命を粗末にするな。
・無闇に殺すな。
・仲間を守れ。
・女子供は絶対に守れ。子供を産んでくれる女は何が何でも守れ。
・一人は皆のため、皆は一人のため動け。
・勝手に物事を決めるな、緊急時以外は相談しろ。
・決闘は一日一回まで。
幹部三人はこんな不文律に従って生きています。

そりゃ当然だろうって? 当然のことを当然にやるからこそ善なのですよ!
「戸締まり用心火の用心」とか「お父さんお母さんを大切にしよう」とか、本来なら言うまでもないことでしょうが。

「借金はきちんと返せ」とか「基盤地域に富を還元しろ」とか「信用より重い利益はない」とか、地球でも言うまでもないこ
とを守れてない企業がどれだけ多いことか。
普通の人間って、普通のことを普通にやりとげることすらなかなかできないんですよ。組織になればなおのことです。 

私? 普通のこともできてませんが何か。前世でも、現世でも。
狂王の練兵場でなら一階の階段下で合流でもしないと、オークたちと一緒には潜れませんよねえ、私は。
だって私、しょっちゅう命捨てかけてますし。徹底的に止め刺さないと気が済まないし。仲間‥‥いないし。

私は、彼らを仲間だと言い切れません。
私は、彼らと生死を共にする覚悟がないのです。彼らが私に捧げてくれるものに見合うものを、捧げる事ができないのです。


ま、なるようになります。
状況は限りなく詰んでいるけど、最後の一手が決まるまで最長であと645日あります。何処かの宇宙戦艦ならマゼラン星雲
まで二往復して地球を三回ぐらい救える時間ですよ。
その間に何か起きるかもしれませんし、何か変わるかもしれません。
それに、将棋やチェスと違って王手が決まってからも続きますからね。私の人生。
それも割と希望のもてるのが。


さて、釣った魚を血抜きしてシメるとしますか。
腐りにくい魚だそうなので塩ふって笹の葉っぱで包み、涼しいところに吊っておけば帰るまで充分持つでしょう。
釣り針の回収も忘れずに。

前回の交易でグェスが細い鎖を何本か買い入れてまして、その鎖を釣り針に付けてみたら魚が釣れるようになりました。
愛用のナイフでは傷一つつかないこの鎖、噂に聞くミスリル銀製だそうです。
鹿の角針とミスリルチェーンの釣り道具。なにこのミスマッチ。

考えると負けな気がするので止めておきましょう。なお、チェーンに繋ぐ糸は巨大蜘蛛の巣網から取ったり、ロープ用の繊維
を流用したりしています。

タコツボ漁法やザリガニ釣り漁法の他に、ルアーフィッシングも広まりました。プラチナ硬貨などのきらきらするものに浮き
で浮力を調節して釣針を取り付けて、ひも付きスリングの要領で沖に投げ込み、あとは緩急をつけて引いていけばルアーに引
き寄せられたダツとかシイラとかの攻撃的な魚がばんばん釣れます。
この漁法は仕掛けを遠くに投げ込み、紐をたぐり寄せる腕力が必要なのでオークたちに向いてますね。

餌を使う普通の竿釣りも、それなりに人気があります。
釣りはオークたちの感性に合ったのか、一度有効性を認められると一気に馴染みました。この島の魚介類は釣針に対する警戒
心が無いに等しく、ダボハゼよりも簡単に釣れます。
なんか、釣りも半分ゲームとして受け取られてる気がします。元々娯楽性が強い漁法ですから仕方ありませんが。


ゲームといえば、オークたちにボードゲームやお遊戯の類を教えるのって難しいです。
例えばオセロですね。オークたちは、白黒の板を挟めば裏返して色が変わるというルールは理解するのですが、なぜそれが勝
利条件になるのかが理解できず、納得して貰えません。
彼らの文化では殴れば大概のことが解決しますので、逆に殴らずに解決することが実感しにくいのです。何事も殴り合いか話
し合いかで決めるので、現実味がないルールには従えないのですね。

彼らの脳味噌には一から十まで具体論しか詰まってなくて、抽象的なものごとは理解の外なのです。加えて精神論者なので、
将棋の駒が攻撃を受けると取られるというルールにも納得して貰えません。
個人武勇絶対主義で実際に戦場で無双できたりされたりするオークたちには、将棋のルールは非現実的過ぎて納得できない
のです。
槍兵が来ようが騎兵が来ようが戦象が来ようが、全部殴り倒すのがオーク流ですので。
スパ○ボ方式ならまだ納得‥‥しないでしょーねー。あれの1%は日本人でも理不尽ですし。


そんなわけで、地球産ボードゲームの普及は頓挫しています。
文化の違いは大きくて、なかなか越え辛いのでした。

結局ですね、この島では腕力が全てなんですよ。大概のことは棍棒でぶん殴れば解決しちゃうんです。
文明人の小賢しい知恵なんて、単純な筋力には敵いません。





 ☆45日めの2、煮詰まりません 茹だってます☆


白身魚は生姜煮にしてお昼ご飯の一品にしました。わりと美味しかったです。次はすり身にしてカマボコにしてみましょう。

毎日楽しく過ごしてますしご飯も美味しいのですが、どうも気詰まりですね。
不満はない、日々の生活に不満はないのですが。

「グヒィー」

ご飯の後片づけをしていると、下っ端の一人がゴミ出しをしに来てくれました。新入りの一人「ハラキズ」です。
結局、見分けがつく下っ端にはあだ名を付けることにしました。安直ですが「おい」とか「そこの」とかよりは一億倍マシ
です。

お腹に目立つ傷跡があるからという身も蓋もない命名ですが、意味も知らない本人はあだ名を貰って喜んでいます。
なんか妙に私に懐いているんですよね、彼は。オーク的には命は救われてもさほど恩義を感じる必要はないはずなのですが。
なにせ命が軽くて、彼らの世界観では二度と帰って来れない引っ越し程度でしかないのですから。死は。


ハラキズに魚の骨や焼きバナナの皮などの生ゴミを手渡して、私は焚き火あとからまだ熱い灰を集めます。半分は残して、
置き火に被せてますが残り半分は石鹸などの材料に使うのです。
灰を溶かした水の上澄みと油と香料を適切な割合で混ぜると液体石鹸が作れます。オーク達には微かな香りの方が受けが良
いですね。

昨日の灰を溶かし込んだ水が澄んできてますね。追加で石鹸を作っておきますか。
混ぜて練って混ぜて練って、休ませて。
作るだけ作ったら竹筒に入れて保管します。私と三人の幹部オークたちが使う分だけだから、それほどの量は必要ありませ
ん。


ときどきですが、お風呂は幹部オークたちと一緒に入ってます。二人だったり四人いっぺんだったり日によって違いますが。
最初は緊張しまくりな男衆でしたが、最近は私が泡まみれで身体洗っているのをゆったり湯につかりながらガン見する余裕
ができてます。

いえね、変態紳士な彼らは女の子の裸をじろじろ見ないというマナーを守ろうと努力していますが、一緒に風呂入っててそ
れは難しい訳で。
そこでお風呂場に、スポンジもどきを麻布で包んで布団状にしたものに樹脂をかぶせて作ったお風呂マットを持ち込み、こ
れは遊具の一種だということにしました。

この巣限定のルールでは、遊具の上にいる女の子はいくらガン見しても構いません。むしろ見ない方が失礼なぐらいです。
遊具の上の女の子は、見て貰いたいから遊具の上にいるのですから。


ごめんなさい。嘘‥‥というか発言に間違いがありました。
ときどきじゃなくって、割としょっちゅう一緒にお風呂に入ってます。あと、シャワーや外での水浴びを一緒にすることも
あります。


えっとですね、その、 見 ら れ る っ て 気 持 ち が よ い ことに最近気付きまして。
一挙手一投足に注目が集まる感触というか、憧憬と賛美が入り交じった欲望の視線が身体中を這い回る感触がもう、堪え
られないんです。はっきり言って中毒状態。

これは吊り橋効果の変形なのでしょう。押し倒されるかもしれないという緊張感を興奮とかときめきと錯覚してるのです。
たぶん、きっと。

何日間一人風呂に耐えられるか試してみたのですが、三日が限界ですね。一日だけならあの感触を味合わなくても平気で
すけど、二日目ぐらいにはもうソワソワしてきて、三日目の朝には我慢できずお風呂セット小脇に抱えて誰かが入浴中の
お風呂場に突撃しちゃうんです。
訂正します。三日持ってないや。二日ちょっとしか我慢できてない。


アイドル気分というか女王様気分というか、無言の賞賛だけで人間はこんなに気分良くなれるのですね。
神様は三日やったら止められない って新興宗教団体の暴露本で元教主が言ってましたけど、アレは本当です。保証します。
外の泉で足ぱしゃぱしゃしている時の、下っ端たちの視線なんてもう崇拝レベルですからね。
猫教徒が子猫の可愛さに腰砕けてるよりも凄いです。

あ、もちろん外で水浴びするときは毛皮服を着たままで、顔や手足を洗ったり浸したりする程度ですよ。
女の子になってから一月半の新米ですが、だからこそ慎みを忘れてはいけないのです。
オークたちの「女の子への夢(幻想)」ってものを守ってあげないと、ね。


しっかし、地球でも美人やイケメンの皆さんはこれを毎日浴びて育ってる訳ですよね。そりゃ性格や価値観が違ってくる筈
です。
うん、イケメンとそれ以外は違う生き物だ。同じカテゴリーに分類してはいけません。思えば身分や階級制度が無いに等し
い21世紀の日本で、一般人が確実かつ頻繁に感じる格差が顔面偏差値だった訳で。
19世紀イングランドの貴族と平民ぐらいには意識が違っても仕方がありません。

まあ、気にしないことにしましょう。その代わり彼ら彼女らは憎悪や嫉妬の視線も浴びつつ生きないといけない訳で。
遊具やステージから降りれば控えて貰える分、今の私は環境に恵まれています。
この巣にいれば、ストーカーとかに狙われても安心ですし。

そういう訳で、私は今日もスポンジマットの上で泡まみれな手足を伸ばし、同居人達の熱い視線を全身に浴びながら角切り
スポンジや塩煮したヘチマでこしこし洗っているのでした。
一日一回が限度ですね。あんまりお風呂に入りすぎると肌から脂気がなくなっちゃいますし。
朝にギュー・グェスと一緒に入っているので、今日はもうしません。

ちなみにお風呂セットは、朽ち葉蟹の甲羅製洗面器にタオルや石鹸や軽石や垢擦りや香油などを詰め込んだものです。
これに新開発の身体洗い用ブラシと湯帷子を合わせたものがお風呂用装備一式。あと魔法の髪用ブラシも。

湯帷子は例のふわふわ半透明な謎素材で作りました。帷子と言うよりはビキニ風水着+パレオ+ベビードール風ですね。
ええ、お風呂場よりもむしろベッドの上で着ているべきデザインです。

‥‥だって、こーゆー格好するとオーク達が喜ぶんですよ。
布地を多重にして、一応は隠してます。見えそうで見えないけどなんとなく解る、ぐらいの域を目指したデザインです。

湯帷子以外にも、何か良いことや嬉しいことがあったらお祝いやご褒美を兼ねて彼ら好みの衣装を着て楽しませてあげてます。
洞窟内限定ですが、ロングのスカートやワンピースみたいな服も着たりします。
オーク達はロングスカート大好きですよ。女の子がブランコやシーソーに乗っているときは特に。


これも最近やる気が湧かない理由の一つですね。だって何か発明したり開発するより、ちょっと脱いだりはだけたりした方
がみんな喜ぶんですもの。
おまえら欲望に正直過ぎだ。責める気はないけどなんか悔しい。

地味に拙いです。
この状態が続くと私は、受け狙いでストリップぐらいしてしまうかもしれません。
‥‥‥‥やってませんよ、今はまだ。でもこのままだと来月ぐらいには始めているかも。





 ☆45日め3、産卵の様子は一見の価値有りです☆



お風呂場から出て私の部屋に戻り、こしこしと水晶板を磨いてると、大広間の方が騒がしくなってました。
そういえばドスとウォスの二人が朝からいませんでしたね。また大猪でも仕留めてきたのでしょうか。

オークたちは猪を狩りませんが、例外として巣に近づく大猪は狩ります。
この大猪というのが何処のもののけランドから来たのかというような大物でして、地球で言うなら動物園のサイやカバな
みの大きさです。
当然ながらモンスターなので危険度は地球のサイやカバ以上です。この島の普通の猪は大人しいというか人型生物を警戒
しないし滅多なことでは人やオークを襲ってこないのですが、大猪はなんでもかんでも突撃してきます。
当然ながらオークにだって遠慮や容赦はありません。

中には巨大亀や大型ワニを仕留めて食い殺す大猪もいるぐらいで、若く未熟な幹部オークのうち少なくない数が大猪の牙に
かかって息絶えるのだとか。
些細な油断で、成人の試練の最中に三体の大猪に囲まれてしまった時はもう駄目かと思った とドスが言っていました。

大猪を一匹仕留めるとかなりの肉が手にはいるので、鍋や焼き肉にして宴会が開けます。
肉は固いですけど生姜焼きや叉焼が食べられるのはちょっと嬉しいですね。パン粉さえあれば猪カツだって作れるのですが。
あと圧力釜も開発したい。あれば猪骨スープも簡単に作れるんですがねえ。どうもこの島にはゴムの木がないようです。


戦って仕留めた大猪の肉を食べたり骨からスープを取るのは構いませんが、行き倒れたり他の生き物に倒された大猪を食べ
るのはオーク族にとってタブー(禁忌)です。大猪の肉はただの食料ではなく、強者を尊敬しその強さを取り込む儀式の供物
として食べられるのです。

私や巣の女子供など、闘わない者たちが仕留めた者から大猪の肉を分けて貰って、食べるのは問題ありません。
というかこの場合、大猪の肉をあげるのは「貴女の健康を願ってます」と相手に言っているのと同じですからむしろ受け取
らないと大変なことになります。

なのでオークの巣には猪の毛皮や骨製の家具道具の類はありません。それらはこの世に留めるべきではなく、速やかに大地
や神の御許へ帰すべきものなのです。
オークたちにとって、猪は身内扱いというか非常に距離の近い生き物です。だからその肉は限られた場合を除いて口にしま
せんし、死体を住処に飾ったりもしません。骨や毛皮を道具の素材にするなんてもっての外です。

このへん、私の育った現代日本とは逆ですね。
日本では家族やペットの遺髪や遺骨を形見として保存しますから。



大猪ではありませんでした。二人は遺跡に潜っていたのです。
この島には、大きなものだけで十数カ所の遺跡があります。遙か昔の、何千年も何万年も前から、神世の頃から存在すると言
われるものまで。
それら遺跡(ダンジョン)は洞窟風だったり廃墟風だったり樹海風だったりと色々ですが、中は凶悪なモンスターが徘徊し、
至る所に罠や仕掛けがあり、そしてゴミ同然のガラクタから一個で城が建つほどの財宝まで様々なアイテムが手に入ります。
無事に生きて出られたのなら、ですけどね。

生き物や物品ではなく場所そのものがマナを取り込み、モンスター化した存在。それが迷宮(ダンジョン)と呼ばれる場所なの
かもしれません。そのうち古代に人為的に作られたモノが遺跡ですね。
そんな場所の一つに二人は出かけ、無事帰ってきたのです。お土産も持って。

「「グヒィ──♪」」

二人とも上機嫌ですね。いかにも一仕事やりとげたって感じです。
どれどれ、どんな戦利品なのか見せてもらいましょう。

まずは、お供オークが担いでいた金属壷とその中の硬貨と宝石類。宝石の殆どは原石ですね。この島ではザルですくうぐらい
宝石が取れるのです。もちろんその大部分が商品価値の低い屑石ですが、中には当たりもあります。
屑石だって研磨剤や機械部品の材料になりますし、良質の石は触媒や魔法の品(マジックアイテム)の素材になるので、大規模
文明地帯はいくら宝石があっても足りない ‥‥のだと大母様に聞きました。
大母様は知識の宝庫でした。伊達に何百年も生きてないです。

幹部オーク二人で担いで持って帰ってきたのは蓋付きの宝箱です。太い木材と分厚い金属素材を組み合わせた、いかにもファ
ンタジー風のチェストですね。
肝心の中身は、やたら古ぼけた皮袋・薄汚れた布靴・薪としか思えない木切れに革紐を巻いた棍棒・小さな素焼きの壷・極彩
色の羽毛や甲皮の飾りが付いた腰ミノなどです。

あー この虹色に光る硬い皮はグンタマムシの外羽根ですね。常に群を作って行動するこの昆虫型モンスターは地球の玉虫に
似た綺麗な甲皮が特徴ですが、数が多くて狂暴なので除虫剤がないと面倒くさい相手です。あれば雑魚ですけど。

昆虫やサソリなど、この世界の虫系モンスターは地球の虫類にはない強力な呼吸器官を持っていて、旺盛に酸素を取り込み巨
体を活発に動かしています。しかしその分呼吸を止めていられる時間は短く、液体や粉や霧状の毒物を浴びると確実に毒を呼
吸してしまいます。
故に、発見されやすく毒が回りやすい中型の虫系モンスターはオーク達にとってはカモです。不意打ちされやすい小型の虫や
毒が回りにくい特大サイズの虫は、下っ端達や私にとっては厄介ですが。

近縁種のオオグンタマムシは二回りぐらい大型ですが性質は大人しく、こちらからちょっかい掛けなければ何事もありません。
ですが、生憎と甲皮の模様がはっきりしないのでグンタマムシに比べると綺麗とは言い難いです。
卵は宝石みたいで綺麗なんですがね。オオグンタマムシの方がより大粒で輝きに艶があって。


さて、宝箱の中身は一見するとガラクタばかりですが‥‥これは、うん、やっぱり。
全部魔法の品(マジックアイテム)です。

ゴォ・ドスの加護は物品に魔法がかかっているか否か、そしてその魔法が危険なモノかどうかが解るという加護です。
ゲーム的に言えばディティクト・マジックとディティクト・カースがパッシブスキル化してる訳です。ただし隠蔽の効果を持
つアイテムや、直接的でない災いをもたらすひねくれた呪いのアイテムは見破ることができません。

つまり毒や病気はギュー・グェスが、呪いや魔法薬はゴォ・ドスが見抜き、絡繰り仕掛けの罠などはリラックス状態のレェ・
ウォスが器用に弄くって解除する訳ですね。もし発動しても加護があれば解除役のダメージは最小限で済みますし。
三人は子供の時からの名トリオだそうですが、納得のチームワークです。

遺跡で見つかる魔法の品物はその全てが役に立つ訳ではありません。むしろ殆どが能力や種族の制限でオークには使えない代
物です。
人間用の防具とか、とてもオークには使えませんからね。盾なら改造すればなんとか、と言ったところでしょうか。武器はま
だ比較的流用しやすいようです。

二人は、普段は使えないから放置していた代物を、今日はわざわざ持って帰ってきたのです。
魔法のブラシのように、オーク達には使えなくても人間の私には使えるアイテムが有ったりしますからね。

私のため‥‥でしょうねえ。どれか一つでも魔法のブラシなみに使えるなら嬉しい限りです。
たとえ全部使えない代物だったとしても、どんなものなのか調べるだけでも退屈しのぎになりますよ。

では、まずは腰ミノからいってみましょうか。


【踊り子の腰ミノ】
・踊り子が身に付ける衣装だ
・それは羽毛でできている
・それは凍らない
・それは腰を守る防具として使える
・それは魅力を2上げる
・それは冷気への耐性を授ける(※※)
・それは水泳を下手にするが、上達しやすくなる(※)
-それは舞踏中に脱落する(※※※※※)
※あなたは使用条件を満たしている


‥‥なにこれ。
他のはまだ解るとして、最後のマイナス効果ってアレですか? 
南洋の踊り子さんが踊ってたら腰ミノの紐が切れてすとーんって定番ネタですか?

ジト目で睨んでも、差し出した当人は怪訝そうにしています。ええまあ、オープンスケベのウォスはともかく堅物のドスはこ
んなあからさまなセクハラはしませんよね。そもそもこの腰ミノの性能や特製を知らないでしょうし。

一種のジョークアイテムでしょうか? 戦闘中に踊り系の技能使うと脱げちゃう装備って、踊り子さんが絶対身に付けてはい
けない装備ですよね。少なくとも冒険者や軍隊に付いていく踊り子さんにはお薦めできません。


き、気を取り直して次行ってみましょう。
次は素焼きの小さな壷ですが、ちょっと端が欠けてますね。

【グヌックの壷】
・魔力が込められた壷だ
・それは陶器でできている
・それは燃えない
・それは朽ちず錆びない
・それは清水を作り出す
-それはもうすぐ壊れる

うーむ、役に立つけど頼りないアイテムですね。耐久度が落ちすぎです。一見すると綺麗な湧き水がいたるところにあるこの
島では需要が低そうですが、空気中の水分を集めて水を作るアイテムなので除湿効果が期待できるかも。
とりあえず私の部屋で水差し兼湿気取りに使ってみますか。直ぐ壊れるでしょうけど。


お次は棍棒ですが、オークが使うには少し小さすぎますね。人間の大人でもメインウェポンにするには物足りないかも。
私やコボルド族で適正サイズです。

【誉れあるナノレドの棒きれ】
・雑な作りの棍棒だ
・それは木でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちない
・それは武器として使える
・それは片手でも使いやすい
・それは命中力を増し、威力を大幅に上げる
・それは毛皮を持つ敵に対し、通常より割り増しの損害を与える
・それは回避力を上げる
・それは炎への耐性を授ける(※)
・それは電気への耐性を授ける(※)
・それは冷気への耐性を授ける(※)
・それは運勢を7上げる
・それは戦術の理解を深めるが、上達しにくくなる(※※)
-それは味覚を鈍らせる
-それは腹減りを増大する
※それは使用条件が存在しない

‥‥‥‥人間の小娘が使うサイドウェポンとしては優秀かなあ? マイナス要素が微妙に嫌ですが、装備している時だけの悪
影響ならそう気にするほどのものでもないかな。
食料の調達が難しい地下迷宮とかならともかく、島の地上は食べるものがいっぱいですから。
ちょっと実験してみますか。蜂蜜をひとかけら口に含んで、魔法の棒きれを手に取ります。

っ!!  なんですかこれは!

味が全然違う! 確かに甘味だと理解できますけど、こんなの蜂蜜じゃありません。
喩えて言うなら、コンサートの生演奏が鉱石ラジオの中継に突然切り変わったような、急激な落差です。

そして棍棒を離すと、口中に蘇る味覚の混声合唱。うん、甘いは正義!
あれですね、この棒きれ新米兵士の養成所からでも発注されたアイテムですかね? 不味いご飯をとにかく食べさせるために。

この棍棒は特に使用制限が無く、人間でもオークでも使えます。老若男女関係なく全ての職業(クラス)が使えるからオークの
子供が護身用に使うには良い武器かな?
武器としての性能はサイズ以外申し分ないようですし、これは私の予備武装にしても良いかもしれません。
緊急時にだけ装備する方向性で。








[38600] 14
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:54




 ☆46日め、数日後に後悔したのは言うまでもありません☆


極楽浄土のご両親様。
家主達の心遣いが身に染みる今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか?

いえね、役立たずなのを気にしていたらオークたちが突破口を見つけて、しかも切り開いてくれたのですよ。
そう、私には人間専用アイテムを使えるという長所があったのです。
ちなみに布靴は歩くのが少しだけ早くなる魔法が掛かってました。皮袋はまだ効果確認中です。

これからは遺跡で使えないアイテム拾った場合、なるべく捨てずに持って帰ってくれるそうです。
ドスとウォスは、気が鬱いでいた私のために危険な遺跡に潜ってアイテムを探してくれたのです。本当の意味で紳士なのです
よねえ、彼らは。

おかげで昨日は一週間ぶりぐらいの気合いを入れてご飯つくっちゃいましたよ。
松露の汁物にウツボの香草蒸しにヤマネの唐揚げにアワビのステーキ、ウニの軍艦巻きと今の私が作れる料理の中では特に贅
沢なメニューにしてみました。
ただし板海苔が手に入らないので軍艦巻きはウリの薄切りで代用してます。
これはこれで悪くないですが、やはり私は軍艦巻きは海苔の方が良いですねー。


そうです。握りはド下手ですが、このたび寿司の開発に成功しました。
もっとも椰子シロップとサトウキビ酢を調味料に作ったので純粋な寿司とは言い難い代物ですが、米はジャポニカなので寿司
と言い張ることにします。
実は、米を神殿で手に入れていたのです。この世界にも米があり、ヒルデニアには大規模な短粒米の水田もあるそうです。
そして神殿にいる女達の何割かは米がないと生きていけない身体なので、神殿には米が備蓄されていました。

地球の日本人達と同じく、ヒルデニア人達も米を食べないと数日から十数日で禁断症状を起こすので米はこの島の数少ない輸
入食料品です。野生の陸稲が自生してる場所もありますが、穂が少なく実が小さくしかも味が悪いので神殿はもっぱら輸入に
頼っています。
そんな訳で、玄米を一升半ほど持って帰っていたのです。
二合ばかり試食して残して置いたそれを、精米して炊いて酢飯も作って握ってみました。

でもオーク的には寿司よりも、白飯を好みの味と具で握って貰うおにぎりバー方式の方が気に入ったみたいですね。
前世の私でも、普通に寿司を出されるよりもその場で握って貰えるおにぎりの方を喜んでいたかもしれません。
というか握るのが従妹だったら間違いなく、そっちを選んでいたでしょう。

え? なら注文を受けてから好みのネタで握る、握り寿司方式にしたら良いじゃないか って?
軍艦捲きではない、普通の江戸前風にぎり寿司を再現するには私の技術は低すぎるのですよ。舎利が握れませんし、まともな
刺身が作れる腕前でもありませんので。
せめて板海苔と巻き簀があればアボカド巻きや魚の燻製巻きが作れるのですが。いえ、巻き簀は竹細工の要領で作れますが、
この島には海苔が自生していないのですよ。

ワカメとコンブとヒジキは生えているのですが、海苔とテングサは見当たりません。神殿での聞き込みでも、この二つが島に
生えているという情報はありませんでした。
ヒルデニア出身の巫女さんから聞いた話では、輸入する以外に手に入れる方法はないそうです。
ええ、ヒルデニア人には海草を食べる文化があります。そしてヒルデニアから持ち込まれたというか船底などに付いていたの
が繁殖してしまったコンブ・ワカメ・ヒジキの三種類は、オークたちにも馴染みのある海草なのでした。
オーク達はヒルデニアからの渡来種だけでなく、この海域土着の海草を何種類も採って食べています。海草を食べる文化自体
はヒルデニアから来た嫁達が広めたものだそうですが。

思い切って、米は全部炊いてしまいました。どうせ月末にはまた神殿に行きますからね。大母様からもっと話聞きたいし、
ソーニャさんにもはっきりお断りしないといけませんし。


で、一夜明けた今日は朝というか夜明け前からギュー・グェスが別の遺跡に行ってしまいました。
かなり遠くの遺跡だそうですが、一人で大丈夫でしょうか? 意地の張り合いとかはあまりして欲しくないのですが。 
帰りは明日の朝になるだろうという話なので、今日のうちにハマグリやマテ貝を捕っておいて砂を吐かせておきましょう。
タコツボや魚取り網を仕掛けて置いて、明日の朝一番で回収すれば新鮮な魚貝を朝食の卓に載せれます。疲れて帰ってくるで
しょうから、疲労回復に良いという貝類を食べさせないと。

肉や魚だけでは栄養が偏りますので、下っ端たちに浜の近くで掘ったレンコンや百合根やキクイモなどの根菜入り籠を運んで
貰います。食料庫には里芋や長芋の親戚もありますので、これで何か作ることにしましょう。
確かニンニクと貝類は栄養学的に相性が良かった筈なので、小粒ニンニクも掘っておきますか。

オークたちに料理をふるまい続けた結果、海水を舐めて塩分不足を補うよりも、塩を料理に使った方が美味しいことに彼らも
気付きました。
味覚は充分鋭いのに雑な食い物でもストレスが溜まりにくいオークたちですが、やはり不味いものよりは美味しいものが好き
なのです。

なので今では海水の入った重たい壷を、幹部も下っ端も進んで洞窟まで運んでくれます。運搬力に余裕があるなら一回の採集
でそこそこの量が運べますけど、現状では100リットルの海水から1㎏も作れていないので効率悪いですね。
なんとか濃縮して手間を省きたいのですが、雨がよく降るから入浜式や揚浜式の塩田は難しいですし、浜辺に流下式製塩装置
を作るにしても、雨に備えて見張りというか濃縮した海水の回収要員とその護衛を貼り付けてないとまともに稼働できないの
ではマンパワー効率的に問題があり過ぎますからねえ。
下っ端だけで行動させて死人が出たら意味がありませんし。


今日は浜辺まで往復しましたが往路はウォスの、復路はドスの肩に乗って移動しました。
どちらのときも乗せてない方の幹部オークが警戒と採取グループ全体の護衛を行います。
巣の近くは比較的安全なのですが、危険がない訳ではありません。現に1㎞もないこの道程でも、オークたちが踏み固めた道
の端には危険な生き物がうようよしているのですから。

たとえば、あそこのナツメの木陰には体長4メートル級の太蛇がいます。ただの大蛇ではなくて、異様に身体が太ましいヘビ
です。その太さは地球のヒメハブ以上ツチノコ以下といった所でしょうか。比率的な意味で。
綺麗な緑色のヘビですが、もう少し大きくなると捕まえられてなめし革の素材にされてしまいます。でも下っ端だと一対一で
は厳しい相手です。

あそこの竹藪には毒笹王が生えてます。竹や笹と共生してるもこもこした外見のキノコですが、猛毒で電話ボックスなみに大
きくなりしかも生き物が近寄ると毒の胞子を撒き散らします。色は灰色から暗い茶色なことが多いですね。
哺乳類にはよく効くけど虫類にはまったく効かない毒なので、本来は虫に胞子を運んで貰おうとしているだけなのかもしれま
せんが区別してくれないので甚だしく迷惑です。

小さいうちに取ってしまう方が良いのですがあそこまで大きくなると下手に近寄れません。
オークたちはともかく、私が毒胞子を吸えば命に関わります。
数日で胞子を出し切って溶け崩れてしまうので、それまでの辛抱です。

それでも巣の近くはまだ安全です。本当に危険な植物とかは燃やしたり海水をかけたりして駆除してますからね。
穴を開けて中身を取りだした卵の殻や椰子の実に油や海水詰めて穴塞いで、遠くから根本に投げつけて処理します。

複数の幹部オークがいる巣に自分から近づく、めんどくさいモンスターが稀にいますがあくまでも稀でして、大概のモンスタ
ーはオークの巣には近寄りません。
殆どのモンスターは縄張りを荒らされると怒りますが、怒るモンスターの大部分は自分から積極的に他者の縄張りを乱したり
しないものなのです。
でもやっぱり例外はいます。大猪とか。



さて、レイちゃん酒造はお休み中なのですが、そうなると代わりにやれることができました。そう、 納 豆 作 り です。
納豆菌はとてもしぶとい上に酵母菌と相性が悪く、酒作りするときは納豆を控えねばならない程です。
まあ本業の人はともかくご家庭で密ぞ‥‥もとい酵母菌を育てる趣味の人なら、失敗しても自分が損するだけですからそれほ
ど気にしなくて良いんですけどね。

と、いう訳でこの数日色々な豆で納豆を作っています。
麦もどきを刈ってきて干してから沸騰した湯で数分煮て、蒸した豆に突っ込みあとは風呂場の隅において一日待てば出来上がり。
今のところ、私の握り拳くらいある大きな豆を乾かして挽き割りにしたものから作った納豆が一番味や食感が似てますね。

植生豊かなこの島では豆類の種類も豊富で、巣の近くだけでも十種類以上取れます。
昔、縄文人が一年あたり四千種類の食材を食べていた という話を聞いて驚いた事がありますが、この島はもっと食材が豊富
かもしれません。

私が判別できるだけで豆が二十種類、里芋の親類を始めとする根菜が二十種類以上、ヒエやキビなどの穀物が数種類、豆か穀
物かはっきりしないものが数種類、そのまま食べられるナッツ類が十数種類、焼いたり澱粉を取ったりして加工すれば食べら
れるナッツが五十種類近くあります。

野菜は地球より少ないですがカボチャが二種類、オクラの親類が一種類、ピーマンの類が六種類、茄子の類が二種類、食用菊
の類を三種類確認しています。

ウリの類が二十種類以上、タマネギやニラ、ニンニク等の香味野菜が十数種類。フキやセリなどの山菜やシダ類や他の食用植
物が数十種類。これだけでも二百種類以上になります。
そして ベリー類を含む果実の類が数百種類。ハーブやスパイスも百やそこらはあるでしょう。

植物だけでこれですから、これにキノコや魚貝や鳥獣、虫や甲殻類も入れたなら私が把握しているものだけで千種類近くにな
ります。食用のクラゲだけでも十種類はありますからね。
この島の食材は本当に豊かなのです。自分が食べられる立場になりかねないあたりが嫌ですが。


そんなわけで今日も納豆を作っています。燻製にすると保存も利くし摘みにもなるんですよ、納豆は。
油で揚げても美味しいです。好みのスパイスや干し魚の欠片と一緒に低温の油で炒めて、食べるラー油みたいにしてみるのも
悪くありません。
同じ豆製品ということで、豆腐も試作はしているのですがどうももう一つで、上手く形になりません。
おぼろ豆腐みたいで固まりきらない豆腐もどきも充分美味しいのですが、やはり冷や奴や麻婆豆腐が食べたいし厚揚げや油揚
げも作りたいのです。

比較的簡単な豆腐でこの有り様です。味噌や醤油を作れるようになるのは何時になるやら。
いえ、和風文化のヒルデニアには麹菌が存在するらしいので、人間の船が来たら交易で手に入れられる可能性が高いのですよ。
種麹さえ手に入れば素人でも味噌もどきぐらいは作れるはず。


とりあえず今は梅干し作りを目標に塩の増産を目指しましょう。梅の実はいつでも手に入りますし。
この島の梅は常夏の気候に適応していて、一本の木で同時に花が咲き実が実り熟すのです。時計回りにこうぐるぐると回転す
るように幹を中心に開花前線が動いていくのですよ。梅だけでなく枇杷もレモンなどの樹も、いつ見ても花が咲いてます。
オークたちが地球の桜並木を見たら、異様に感じるかもしれませんね。花ばっかりで葉や実がないですから。



 ☆48日め、異文化交流って難しいです☆


ギュー・グェスは無事に帰ってきました。本人は気の利いたお土産が手に入らなかったと不満げでしたが、無事に帰ってきて
くれることが何よりです。
帰りが少し遅れたので心配してしまいましたが、考えてみればこの島で生き抜いてきた幹部オークがちょっとやそっとの死亡
フラグでどうにかなる訳もありませんね。

昨日の夜から雨になって、今日は嵐になってます。嵐の最中はろくに動けないし、収まったあともしばらく魚介類が捕れなく
なるのですが、偶には嵐がこないと川の水が腐ってしまうので致し方ありません。
で、雨の日はロープ作りや革なめしなどの屋内作業をするか、酒でも飲んで騒ぐかになるのです。

今日はバンブーダンスで遊んでます。下っ端たちが。
何故か私が実演したものと違い、足下で打ち鳴らすかのように素早く定期的にぶつけ合う竹竿を避けながら太竹の棍棒で殴り
合う勝負になってますけど。
オークは青竹で足を挟まれても痛くもなんともないのですが、動きは鈍るので不利になります。ダンスが下手だと負け越す訳
ですね。


どーしてこう脳筋なんですかね、こいつら。
どうもオーク族はスポーツというか競技全般に向いてない気がします。だって縄跳びすら出来ないんですもの。
もちろん彼らも飛び跳ねることぐらいできます。回転する縄を避けて飛び跳ねることもできます。
でも、縄に引っかかったら失格というルールに納得することはできません。

地球の話ですが、原始生活を営む部族の中には「嘘」の概念を持たない人々もいるそうです。
日本でも、千年ちょっと前の蝦夷たちには「条約破り」の概念が無く、大和朝廷に何度も何度も同じ手で謀られたとか。
それと同じように、オーク族には演技とか見なしの概念が無い、もしくは弱いのではないかと思われます。
極端に言えば虚構と現実を連動させることが出来ない、もしくは苦手なので劇や芝居の概念が馴染まないのです。


これは日本にもときどき居る、虚構と現実がごっちゃになってしまう人々とは違う心理です。
図にしてみると



  ※普通の人(現代日本人)の心理

( 現実・ノンフィクション )         ( 虚構・フィクション )
           ( どちらとも言い切れない領域 )



  ※小さな子供とか、ちょっとアレな人(現代日本人)の心理

( 現実・ノンフィクション )  
         ( 虚構・フィクション )



  ※オーク族の心理

( 現実・ノンフィクション   ???  )  
                  


こんな感じですかね?
彼らの心にもファンタジー(幻想)が存在するはずなのです。
オークは人間と、殆ど同じと言って良いぐらいよく似た生き物なのですから。少なくともこの巣の幹部達は、十世代以上も前
から人間の母親達に育てられた続けた血脈なのです。そもそもハーフオークですし。

でも彼らはリアルとファンタジーを連動させるというか関連づける機能が弱い。「それはこういうことにしておいて」が通じ
ないのです。
ジャンケンで言うなら、オーク達は「石が紙に負ける」という相性に納得してくれません。
包まれたら突き破れば良い と考える前に実行しているのがオーク式ですから。

彼らは虚構を虚構として楽しめない。故に虚構はそのまま真実として扱われるのです。
これでは、オーク達の世界では詩歌や小説は発展しようがないですね。
そういえば幹部オーク達から彼らの神話や英雄伝や民話の類を聞いたことはありますが、法螺話の類は聞いたことがないよう
な気がします。彼らには、明かな嘘を楽しむ文化がない。
彼らが語る伝承は、オークたちにとって紛れもない真実なのです。


どうもオーク族はユーモア・諧謔のセンスに欠けると思っていたのですが‥‥ひょっとすると彼らには冗談の概念がないのか
もしれません。その昔は、日本人ぐらいにしか肩こりの概念がなかった的な意味で。
いや、だって、よくよく考えてみるとオークたちって‥‥悪戯したことありましたっけ?

無いような気がします。少なくとも自ら意識してはやってない。
彼らの遊びって飲んで騒いで喧嘩して、ですし。イタズラや悪ふざけしている所を見た憶えがありません。
そりゃまあ、一瞬の油断が命取りなこの島で、迂闊な悪ふざけをすれば死人が出かねないのは理解できますけど。
ふざけ好きなオークは大自然と同族の圧力で、物理的及び文化的に排除されてしまったのかもしれません。

でも膝かっくんレベルのおふざけもないって、変じゃありません? 
いえ、肉体の構造上できないだけかもしれませんが。私の腕力じゃ棍棒で殴ってもかっくんできそうもないのは確かです。
 

ああ、そうか。
オークたちって、ある意味で糞真面目なんですよ。遊び心というか、グレーゾーンを楽しむ気持ちがないんです。
小学生に喩えるなら、スカートが風に翻ったりその結果としてその奥が見えちゃったりするのは大好きな癖に、自分から女子
のスカートを捲ったりは考えもしないタイプですね。
のっぽさんこと幹部オークのゴォ・ドスはその典型で、戦場とベッドの上以外では紳士で堅物なんです。

下っ端達はスカートが捲れやすい踊り場などの覗きスポットに興味を持つ層ですね、全体的に。
幹部達は捲れただの覗けただのに一々騒ぐのはみっともなく、それで女に怖れや不快感を与えては元も子もない という思想
のようです。

もしもスカートを自分からめくりに行く痴漢がいれば、オーク達は制裁を加えるでしょう。もしも族長などの特に偉い幹部が
痴漢行為を働けば、一気に名声と支持を失います。
そりゃそうです。オーク的価値観で言えばスカートを女の許可も無しに捲り上げるのは、無理矢理に女の服をひっぺがすのと
変わらないのですから。

敵ならともかく、身内や客人にそんなことは出来ません。オークにだって恥や名誉があるのです。
でも女の方から自分で捲り上げてくれるなら、喜んで見ちゃいます。オークたちは良くて変態紳士ですから。


そういえばむっちりさんこと幹部オークのレェ・ウォスはオープンスケベで、この巣では比較的遊び心に理解がある方です。

イタズラとユーモアはかなり近い関係にあります。苦みやえぐみのない、笑えるイタズラが洗練されてユーモアになる訳で。
受け入れるしかない切ない現実を笑うユーモアもありますけどね。


あ、オークが冗談言わない理由がまだありました。
種族全員がそうではありませんが、オーク族って葉隠武士がドン引きする級の戦既知外でしたね。伝統文化レベルで。
山崎九郎○衛門やその同類が数割を占める民族集団だとしたら、そりゃうかつに軽口も叩けませんよねー。
即座に「○○と申したか」で ぱきぃっ されてしまうでしょうから。
というか元々オーク語は、言葉遊びに向いた言語ではありません。定例から崩せば崩すほど誤解曲解が起こりやすくなります。


‥‥ん? つまりレェ・ウォスが比較的にですが軽口を叩けるのって、不意打ちで怪我しにくい加護を持っているからなんで
すかね!? 相手が反射的に手を出しても怪我しにくいから自重しない結果だとか。
有り得るあたりが怖いです。



とにかく暇なので、同居人達の性格(キャラクター)のまとめでもやってみますか。

幹部三人のなかでは、むっちりさんことレェ・ウォスが一番コミュニケーション能力高い気がします。
というか他の二人がバランス悪い。

ゴォ・ドスは真面目で常識人ですが融通がきかず頑固な一面があり、論理的弁証で議論相手をうち負かすのは得意でも仲裁と
かには向いてません。グェスは三人の中では一番繊細というか、他者の気持ちに敏感なのですがいかんせん寡黙すぎて会話が
進まないんです。対人能力で逆方向に不器用なんですよ、ドスとグェスは。

毛皮なめし職人として一番腕がよいのは、のっぽさんことゴォ・ドスです。凝り性というか技を磨くこと自体に悦びを見出す
気質なのですね。戦闘者としても、技術(テクニック)面では三人の中で一番かもしれません。
とにかく鍛錬好きで、暇があれば身体を鍛えています。そうでなければ薬草を調合してるか。

私が来るまでは、資材置き場の姿見はほぼ彼専用だったそうです。
鏡の前で色々なポーズを取り、筋肉の付き方を確認する姿はまるで地球のボディビルダー。でも、正直言うとドスの身体って
鍛え過ぎていて触り心地がもう一つ‥‥もう少し肉付けた方がもてると思うんですけどねえ。オークとしては痩せすぎです。

触ってて一番気持ちよいのは族長ことギュー・グェスです。
お肌の触り心地では僅差でウォスの方が上ですが、グェスは皮の下の脂肪層や筋肉の触り心地も良いのです。
他にも産毛の感触とか体温とかの評価基準もありますが、さらに加えてグェスは私が触りやすいように気をつかっている点が
大きいですね。ウォスやドスは触られるままなのです。

グェスが他者というか女の子の気持ちに敏感なのは、彼の容姿とそこからくるコンプレックスに原因があるようです。


神殿の大聖堂に、オールクゥス神の像がありましたよね。レェ・ウォスに似てる顔の。
地球でもそうですが、神像の顔かたちって基本的に「望ましい・好ましい」顔なんですよ。
豊穣の女神なら、母性と包容力たっぷりの成熟した美女に。
武神や軍神なら、厳めしくも頼もしい渋めの美男子・イイオトコに描かれます。普通は。
当然ながら、オーク族の守護神であるオールクゥスはオークの美的感覚で、万人が認める男前に描かれる訳です。

つまり、オークやオーク的価値観に染まった女達の基準では、ウォスやウォスの兄は美形でドスはそうじゃないんです。
式で表すと
※イケ面寄り※  ウォス>>>>>>>>>ドス>>(越えられない壁)>>グェス  ※ブサ面寄り※
ぐらいの差があります。

グェスの顔って、女の子受けしないというか怖がられる顔なんだそうです。


‥‥どこが?
あえていうなら目がやぶにらみ気味で口が大きめなところですかね? グェスの顔の特徴は。
むしろ男前の顔つきだと思うのですが。オークらしくって。

何しても何もしなくても怖がられるという、とてつもないハンデを付けられて生まれ育ったからこそ、グェスは繊細で敏感な
のですね。よく女性不信にならなかったもんだ。 
‥‥と思いきや、実母やドスの母やウォスの母や他の兄弟の母親達には可愛がられて育ったのでグェスはマザコン気味なので
した。いえ、私も含め日本人も大概マザコンですけど。

ええそうです。当代随一のオーク戦士だった三人の父親は、同時に七人の嫁さんを養っている超絶リア充だったのですよ。
しかも嫁さん達同士、とても仲良かったみたいです。
強さだけじゃなく、性格の方もさぞやイケメンだったのでしょうねえ。子は親の鏡ですから。




 ☆49日め、考察☆


今日も雨です。まだ嵐が続いています。

暇があったのでつらつら考えてみたのですが、オークの社会って中世末期の武家にかなり近いんじゃないでしょうか。
幹部オークたちが騎乗士とか徒士侍で、太閤○志伝で言えば足軽組頭以上。下っ端たちは足軽だとすれば応仁の乱以降秀吉以
前の軍制と共通点多いのですよ。

足軽は農奴兵じゃなくて、基本的に自由契約です。敵前逃亡はともかく契約変更はできるのです。足軽相手に不義理やらかし
ていざという時に兵卒が足りず、奥方に「その銭束に槍持たせて戦に行け」と叱られた守銭奴の殿様とか居ましたし。

下っ端オーク達も巣から巣への移籍の自由があり、薄給を補うために独自の裁量で現地調達します。
戦場や修羅場では幹部達の命令を聞く代わりに普段はかなり安全な場所に住むことができ、女子供の次の次ぐらいに守って貰
えます。
余り物で避ければ獲物を分けて貰えますし、手柄を上げれば戦利品の分け前にもありつけます。
そして形勢不利になるとあっさり逃げ散ります。正確には幹部オークの指示がこなくなれば。

ほら、こうしてみると下っ端オークって鉄砲が普及する前の足軽に似てませんか?


ソーニャさん始め、元戦士や傭兵の女達から聞いた話では東方文明圏の軍制はオーク族のものと比較的近いようです。
典型的ハイローミックス思想ですね。ローである一般兵が多い部隊で拠点防衛や後方の治安維持を行い、ハイである高レベル
冒険者や冒険者上がりの精鋭部隊で諜報や工作を行う訳です。
まあ妥当なとこですよね。費用対効果で言えば、下っ端オーク百人よりも星6以上の戦士オーク十人の方が安上がりで強いの
ですから。


えっと、確か年あたり百人弱ぐらいの女達が嫁さんとして神殿から出荷されている訳で。
仮に人生五十年としても余命が三十年はある筈。死亡率を多めに考えてもこの島には1500名以上のオークの嫁やミノタウ
ロスの妻がいる筈です。
仮に平均五人出産するとしたら年あたり300人のハーフオークが産まれている訳です。平均十人だとすれば600人。

いえ、寿命以外で死んだ女達もそれまでは子供を産む訳ですから、もっと多くても良い筈です。
この島の幹部オークや戦士オークは、合計でも900名いないでしょうね。幹部が300前後ですから。
オークの平均寿命をやや長めの20年として、約二万弱の子供が千人足らずにまで減って一人前になるのですか。
‥‥計算、合ってますよね? うん。 


西方文明圏の軍隊は、諸侯の私兵や傭兵団が主力で民間の自警団(自称冒険者)や重武装山師(自称冒険者その二)は良くて補助
戦力、悪いと不穏分子扱いだそうです。異民族及び異種族狙いの殺人強盗団(自称冒険者その三)は明確に不穏分子ですが、海
賊などと同じく領主や政府に取り込まれることもあるようですね。
あの三姉妹の先祖とかも含め、地方の下級貴族のうち何割かはそういう成り上がり系です。

ただ幾つかの列強諸国はそれ以外に政府直属の国軍を持っていて、人員の募集から編制・訓練・輜重に至るまで完全に政府予
算で動いている列強正規軍の強さは、私兵団や傭兵団の比ではないのだとか。
確かに伝承や壁画から察するに「鉄の王」の軍勢は重ゴーレムや装甲歩兵部隊、それに砲兵隊もあったようですからねー。
西方軍は技術的に地球の近世レベル並かそれ以上なのかもしれません。



話は変わりますが、そう言えば西方人である眼鏡の奥さんが言ってましたよね。ついつい儲けを追求しようとして夫に叱られ
るって。
つまりオークは商売について理解している訳です。少なくとも一部の店主は阿漕な稼ぎ口というものを理解していて、あえて
それをやらないでいます。
幹部オークは戦いの駆け引きや策略が理解できるから、当然商売の駆け引きもできますよね。能力的には。

ではなぜしないのか? それは私欲を追求し過ぎると公益を損なうからです。
ただでさえ閉鎖した市場で、客も他の店もみんな顔見知りですから、一見さん狙いの詐欺まがいぼったくり商売はできません。
江戸の町人たち以上に逃げも隠れもできないんです。もう正直に穏便に取り引きするしかない。
故にオーク同士、友好部族同士の取り引きは法外な掛け値も根切りも存在しない、と。

つまり、敵というか味方じゃない奴は騙してOKなんですかね? ギュー・グェスがワニ人を罠に掛けたように。


考えてみれば、地球でも普通な思想ですよね。
コンビニ強盗を店員が殴り倒して捕まえればお手柄ですが、同一人物の店員が飲んで帰っているサラリーマンを殴り倒して
金品を奪えば強盗です。人を殴り倒すという行為そのものは同じでも社会的には全く違う扱いになります。

昔の映画でありましたよね「十人殺せば極悪人で、千人殺せば英雄だ。人殺しにはかわりないのに」って。
あれ、詭弁というか論理的に破綻してるとしか思えないのですが。私というか猪養令治としては。
だってこの論法って「子供を食い殺そうとした狼も、その子を守りきった番犬も同じ犬科動物だ。畜生にかわりはない」と言
うのと同じではありませんか? 

そうでしょう? 戦場で敵兵を殺すことは公共の、所属する母集団の利益になる行為です。
孫子兵法で言うところの天道に則っている限り、つまり国民の意思と政府の戦略が一致している限りは。
故に敵兵を千人殺した優秀な兵士が称えられるのは当然なのです。ムーミ○谷の白い死神とかね。
片やチャップ○ンが演ずる毒殺者は、平和な時期の戦場ではない場所で、味方であり利害を共にするはずの同じ市民を殺して
いるから憎まれ罵られるのです。両者は立場的に全く逆の存在です。


まあこれは物事を単純に考えればの話で、必ずしもそうだと言い切れない場合もありますけどね。近代戦ではむやみに敵兵を
殺さない方が良いことだってありますし、誰もが所属する団体に帰属意識を持っているとは限りません。

いやしかし、ハイジャック犯を射殺した警官を殺人者呼ばわりした大手マス○ミの記者って、無政府主義者なのでしょうか?
他に解釈のしようがないのですが。
乗客の安全よりも、社会の安定と利益よりも犯罪者が犯罪を行う権利を優先するのは無政府主義ですよ。
「人間の屑」なんて罵倒じゃ表現が追い付かない級の害毒です。


話を戻すと、「敵は欺いてよし。味方は欺くなかれ」がオークたちの信条だとすれば‥‥いえ、敵と味方で態度をはっきりす
るのがオーク流だとすれば納得いきますね。
嫁さんたちは味方だから守り、可愛がる。嫁さんになってくれるかもしれない女子供も守り、可愛がる。矛盾はありません。


ある意味現金というか欲望に正直すぎるオークたちですが、あまり不快に感じないんです。
私個人としては特に。

これは彼らが紳士的だから、つまり穏和で鷹揚で、知的で慎重で、優しくて思いやりがあって、お嫁さんとその候補と子供を
何よりも大事にする生き物だからなんじゃないかと思います。

もしも彼らが

狂暴で仲間内の虐めが横行し、隙さえあれば足の引っ張り合いする殺伐とした生き物だったら。
貪欲でせせこましく、盗みやぼったくりの商売を好む生き物だったら。
知恵を軽んじ論理や時系列を理解せず、矛盾もダブスタも自分の得になることなら一切気にしない生き物だったら。
短慮で軽率で、最悪のタイミングで最悪の方向へ最悪の勢いで突っ走る生き物だったら。
他者を思いやる心が一切無い、自分以外はどうでも良い我が侭勝手な生き物だったら。
他種族の雌は性欲の発散と子孫を残すための道具でしかないと考え、虐待する生き物だったら。
そのくせ雌の方には自分への尊敬と忠誠と献身を強要する生き物だったら。
危機になれば女子供を見捨てて逃げ出し、それが出来ないときは戦いもせず立ちつくして泣きわめく生き物だったら。

正直で態度がはっきりしているというオーク族の特性は、ただただ欠点を増幅するだけだったでしょう。



強く悪辣で容赦ない敵に対しては容赦なく。
弱く無垢で友好的な客人・稀人に対しては穏和で寛容に。
返り討ちにした自称勇者な強盗殺人犯しかも悪質な差別主義者を手込めにして、強制労働で損害を補填させることと
遭難した上に風邪こじらせていた年端もいかぬ見習い巫女を保護して看護して、その後も客人としてもてなすことは
彼らにとって表裏一体、同じ事なのです。

それにもし私の態度が違っていたら、敵意や悪意全開だったらこうはいかなかったでしょう。

私はこの身体が女の子だから、遭難したところを拾って貰えて
無知と非力故に、穏和で友好的に振る舞ったから信用して貰えて
神事や酒造りや遊具の開発などで彼らに幾らかの利益をもたらしたから、一目置いて貰ってる訳で。


結局、一日延々考えて出た結論が

・オークたちは結構論理的で信用できる
・私の思考や行動基準と、彼らのそれは相性悪くない

ですか。そんなことずっと前から分かってましたよ。




 ☆51日め、すごく‥‥大きいです☆


何でも大きければ良い、というものでもありません。
もしそうならキャデ○ックやリンカーン○ンチネンタルは、フェ○ーリやロールス○イスと同じように日本でもてはやされ、
売れている筈です。

でも、大きいということが魅力になることも有り得ます。特に見かけ倒しじゃなくて、大きさに見合った力が、逞しさや勢い
が実際にあるのなら大きいというのは悪いことではありません。

「おっきいなぁ‥‥」
「グヒッ」

真っ黒でずんぐりしたものが、盛大に潮を吹き上げてます。のたうってます。


私たちが暮らしている洞窟の周辺は、比較的遠浅の海岸になっています。このオーク島は全般的に西側海岸が浅めで東側が切
り立った地形になっているのです。
海流と地形の関係で、洞窟のある尾根と繋がる岬から隣の岬までの海岸が砂浜です。その北側は珊瑚の少ない岩場海岸が続き、
反対の南側へ進むごとに珊瑚が増えていきます。

この辺りは、食料や鉱石がさして豊富ではないのに大怪鳥や巨大亀など強めのモンスターが出ることもある、中途半端な土地
なのです。豊かな土地でハイリスクハイリターンを狙う層や、静かな土地で安心して暮らす層にとっては魅力に欠けています。
うちの連中が何故ここで暮らし始めたかと言えば温泉の魅力もありますが、他の巣と縄張りが接しなくて気楽だからですね。

そこそこ獲物がとれるから食い扶持には困らないし、そこそこ辺鄙なので気ままに暮らせる。
好き好んでと軟弱者どもを養っている変人達にとっては住めば都だったのですよ。
ここがもう少し安全だったりもう少し獲物が豊富な場所だったら、近くに巣ができて人口密度が上がり、縄張りがどうの通行
権がどうのといった煩わしい付き合いも出来ていたでしょう。

それに、砂浜があるというのは良いことですよ? ないよりもずっと。
砂が簡単に手に入りますし、ときどきクジラが砂浜に打ち上げられますし。


嵐が収まった翌日、椰子の実を集めた帰り道に砂浜へ行ってみると、大きなクジラが砂浜の浅瀬でじたばたしていました。
ついでで流木や貝殻を拾いに来たらこれですか。しかし時期が悪いですね。

「グヒィー」
「グヒッグヒッ」

グェスとウォスの二人も、今回は見逃すつもりのようです。

遠浅の砂浜には、時々クジラやイルカが打ち上げられるというか自分から突っ込んでくることがあります。
ある種の地形ではクジラなどが持つ生体音波探信儀が誤動作を起こすことがあるようなのです。遠浅の砂浜を普通の浅瀬だと、
まだまだ水深に余裕がある距離だと勘違いして突っ込んでしまうのですね。

しかし現在は下弦の月六日目。大潮の時期から離れているうえに今が干潮の時刻です。つまりこれ以上潮は引きません。
あれだけ元気に暴れているクジラはあと一時間や二時間では死なないでしょうし、かといって今捕まえようとしてもあの水深
では泳いで逃げることは出来なくても、暴れてオークたちを跳ね飛ばしたり下敷きにしたりすることはできるでしょう。

全長15メートル以上、体重20トンはある巨体です。いくらオークでも気楽に接近戦を挑める相手ではありません。
大きすぎて、棍棒とかで殴ってもあまり効かなさそうですし。
時間をかければ捕らえる前に、潮が満ちて逃げられてしまうでしょう。

惜しいなー クジラは捨てる所がないぐらい良い獲物なんですが、生憎とうちの巣穴にはクジラ漁に使えそうな武器はドス
の三又銛(トライデント)ぐらいしかないのですよ。
流石にあれ一本でクジラを仕留めるのはしんどいでしょう。かといって下っ端たちの持っている竹製のヤスじゃあ‥‥。
いや、他の槍も一応ありましたね。金箔作るときに使ってるやつとか。


あれ? そういえば、アラスカかどっかの原住民が銛を使わずにクジラを捕るという話をどこかで聞いたような。
確かあれは、うん、いけるかも。

「二人とも、今日はクジラ鍋にしましょう!」
「「グヒィ──?」」




 ☆51日めの2、激闘くじら漁☆


この島には色々な植物が生えてます。その中には蔓草の類も沢山含まれています。
で、トカゲ人か西方や東方の人類文明圏なのか、それとも私が知らない未知の文明かもしれませんが、この世界には蔓草の幾
つかを執念深く品種改良し続けた連中がいたようです。
そうとでも考えないと、特に何の加工もなしでそのまま建築資材に使える丈夫な蔓草が、何種類も自生しているなんて不自然
すぎます。

そうです。この島は火山付近などの例外を除けば至るところに草木が生えています。当然ながら蔓草も大概のところに生えて
いるのです。

「タレミミとケサガケは引き続き鋼蔦を取ってきて。二人一組で片方は常に警戒を緩めないこと!」
「「グヒィ」」

「ハラキズは蔦を結ぶ作業を続けて。一つの山を一本に繋いだら隣の山に移動! 他のことはしない! 解った?」
「ゼンブ、ツナグ、イッポン。チガウ、ヤマ、ツナグ、ナイ」

「レェ・ウォスは繋いだ縄の確認と固定、それと輪っかを作ってください」
「マカセロ」


私が20秒で考えた作戦は、こうです。
1、その辺から丈夫な蔦や蔓草を集めて縄を作り、一方の端を大岩や大木に縛り付けます。
2、縄の反対側を輪の形にして、投げ縄を作ります。
3、同じモノを量産します。
4、投げ縄をクジラ目掛けて投げ、絡みつかせます。
5、上手くはまれば、後は援軍を待つだけです。


しかし予定どおりには進まないのが作戦というもので、投げ縄の数が揃う前に、留守番組のオーク達を連れたギュー・グェス
が帰ってきました。
あー、そうか、お荷物の私がいないからグェスは全力で走って帰ったのですね。それで私の予想よりも速く移動できた、と。

グェスたちも巣から作り置きの縄を持ってきているので、増援到着から僅か数分のうちに計6本の投げ縄が完成しました。
これだけあれば充分です。足りなきゃ追加しますし。

では第一回投げ縄クジラ捕り合戦開始~! 賞品は特にありませんけど。
‥‥え、ないと寂しい? そうですね、オリーブの冠とほっぺに ちゅっ ぐらいならだせますけど?


なんか、異様に盛り上がりました。
前世の運動会で引っ張ってた綱引き用ロープよりも太い鋼蔦の投げ縄を、暴れてるクジラに掛けるのは難しいのです。
実力はもちろん、勇気と機転が足りなかったり偏っていたら出来るわけがない行為です。


結局冠は、一発で投げ縄をクジラの尻尾にひっ掛けたレェ・ウォス
そして両方の胸鰭(フリッパー)を大斧で切り落として勝負の流れを決定づけたギュー・グェスに
クジラが弱ってからとはいえ、接近して尻尾に追加の投げ縄を掛ける勇気を見せたハラキズとコブハナには敢闘賞として冠で
はないけど小枝を一本あげて、頭なでなでしてあげました。

冠と祝福のキッス両方を受けたMVPはのっぽの槍使いゴォ・ドスです。
彼の投げ槍が大暴れしなければ、必死で暴れるクジラに逃げられていたかもしれません。というかもしも今日が嵐の翌日でな
くて普通の日だったら、そして幹部達の誰か一人でも遠出していたら捕鯨は失敗していたでしょう。
まあその場合は無理なクジラ捕りはせずに、見逃してやったでしょうけど。

サメなどのおこぼれを狙う生き物に注意しながら、息絶えたクジラを砂浜に引き上げて解体します。
えーと、豚とか牛とかの可食部分が重量あたり五割前後でしたっけ? 
ならこのクジラからは10トンやそこらの肉が取れる筈。


なんだ、たかが10トンですか。運送に問題なしですね。
幹部オークは下っ端三人分以上の労働力と見なせるので、現在の人手はオーク20人分以上。人間換算なら更にその数倍。
小さな漁村よりウチの巣の方がマンパワー優ってますよ、筋力的には。

重量的には数往復で洞窟まで運べるとして、問題は保存方法です。洞窟の涼しいところに放り込んでおけば何日かは‥‥ 
ダメか、ネズミが来るに決まってます。

あれ? 亀のときはどうしたんでしたっけ? 
確か生け捕りにした小型のやつ以外は、美味しい部位だけを切り取って持ち帰ったような。
そしてまだまだ肉が残っていた亀の死体は、四日後に通りかかった時には骨だけになってました。完全に。


これは拙いかも。巣にある燻製竈じゃクジラ肉を1トン処理するのに何日かかるやら。干し肉とかは良くて燻製の半分ぐらい
しか作れません。‥‥干す場所が無いんですよこの島には!
安全な場所自体が巣の洞窟ぐらいしかありません。砂浜とかだと敵は来なくても鳥や虫が来てつまみ食いされてしまいます。
しかし洞窟内では天日干しは無理だし涼しくて湿度が高いから陰干しにも向いてません。


みんなでお腹いっぱいクジラ肉を食べたとして、消費できるのは精々3トンぐらいですかね? もっと少ないかも。
駄目だ。どうしても半分以上が腐ってしまいます。冷凍なんて無理だし、保存加工するにしても塩が足りません。スパイスや
油や焼酎はまだ備蓄に余裕がありますが、塩が決定的に足りません。塩がないのではクジラジャーキーもクジラベーコンも作
れないではありませんか。
今から製塩を増産しても間に合いません。

コレはまいった。捕るのに夢中で、どう処理するかまでは具体的に考えてませんでした。
腐らせるわけにはいかないし、かといってこのまま大部分を自然界にお裾分けするのも惜しすぎるっ。


「せめて、せめて塩があればっ!」
「塩ですか?」


誰?  綺麗なコモン(共通語)だけど、聞いたことのない声です。


熱い砂浜に膝を突いて頭を抱えていた私が声の方向に振り返ると、そこには見知らぬ女の人がいました。
クジラの血で赤く染まった波打ち際に、ダイナマイトどころじゃない身体(ぼでぃ)をした大人の女が寝そべり、ほぼ全裸の上
半身をもたげてこちらを見ています。

上半身に身に付けているのは、両胸の頂点に貼り付いたホタテ貝のような貝殻のみ。
下半身は何一つなし。焦げ茶色の立派な尾鰭が付いた、アザラシ類な下半身がむき出しです。

細かく波打った緑色の髪を見るまでもなく、彼女も人外さんですね。この島は人間が少ないから当然だけど。
人魚(マーメイド)‥‥ではなくって、セルキーかな?


確か神殿で聞いた話では、付近の海に住む女だけの種族で、オーク達とは友好関係にあるそうですが。







[38600] 15
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:41ef73a6
Date: 2016/07/24 11:55




 ☆51日め3、薄笑いの暴君(現食材)☆



「よくぞあのならずものを退治してくださいました。感謝いたします」
「はあ。お困りだったのですか?」


浜辺にやって来たのは数人のセルキー族たちでした。人魚の哺乳類版みたいな格好の、綺麗なお姉さん達です。
どいつもこい‥‥もとい、どの方もC4爆薬みたいに魅惑的な肢体の持ち主です。というか胸が凄い。形も大きさも。
あれですかね、水中生活が基本だから垂れにくいのでしょうか?

顔も充分美人に分類できますね。少なくとも私は不細工には程遠く感じます。上半身だけ見れば人間としか思えません。
下半身はアザラシ風だったりイルカ風だったりジュゴン風だったりで様々ですが、上半身の肌の色はやや色白から小麦色ま
ででそれ程の差はありません。髪の色は緑や青もいれば黒髪や金髪もいます。


「はい。あの性悪クジラは二月ほど前から私どもの縄張りに居着きまして、住処を沈めたり魚礁を壊したりと乱暴狼藉の限
りを繰り返していたのです」
「それはそれは。では、これで少しは溜飲が下がりましたか?」
「正直、すっとしました」


水族館のショウを見るまでもなく、クジラ類の知能は割と高いのです。河馬さんの親戚ですから当然ですが。
だから、クジラの類がモンスターになると手が付けられません。特に歳を重ねて知恵を付けると最悪です。
セルキー族に「ニタニタ野郎」と名付けられたあのクジラは、他の知的種族に嫌がらせすることを生き甲斐にしている嫌な
奴だったそうです。

只でさえ大食らいの髭クジラが縄張りにいると獲物が減るのに、セルキー族のボートや筏と見れば遊び半分に攻撃されるわ、
こつこつ整備していた魚礁群は暇つぶしに壊されるわ、夜中に絶え間なく変な歌やブリーチ行為の大音を聞かされ続けるわで、
セルキーたちにとっては迷惑なんてものじゃありません。

セルキーだけではなく自分より弱いと見た相手には見境無しに嫌がらせしていたのですが、強さだけは本物で今まで誰も手
出しできなかったそうです。元から話し合いが通じる相手じゃないし。
大鮫(メガロドン)や巨大王イカ(クラーケン)などの水棲モンスターを召喚(サモン)してけしかけてみたこともありましたが、
「ニタニタ野郎」の超音波ビーム砲には敵いませんでした。


いえね、水中の目標には効果絶大でしょうけど、砂地の上にいる私らには効くわけないんですよ。超音波MAP兵器は。
水の中に入らないで捕鯨したいから投げ縄使った訳ですし。クジラ系モンスターと水中戦する気は起きませんからね、流石に。

縄を掛けられてからは、水深があと50センチ深ければ逃げ切れたかもしれないくらい暴れましたが結局は浅瀬に引きずり上
げられてしまいました。
水がなければ、クジラの頭部が水に浸かっていなくては超音波砲は撃てないのです。というか撃っても届きません。

地球のクジラでも超音波ビームで魚を失神させるとか言われてますからねー。モンスター化したこの世界のクジラなら水中
では、ほぼ無敵だったでしょう。同じくモンスター化したシャチの群なら勝てるかもしれませんが。

「えっと、良かったらクジラ肉、持って帰りますか?」
「ありがとうございます。あと、不躾ですが宜しければあ奴のヒゲを一本分けてくださいませ」

ちらりとオークたちを見ると、ギュー・グェスが頷きました。彼らはコモン(共通語)を喋るのが苦手ですが、聞き取りは
問題なくできるのです。

「一本でいいんですね?」
「はい。お手数をおかけします」

ドスが引っこ抜いてきたクジラヒゲを、セルキーの代表に渡します。緑色の髪をした、人間なら二十歳前半もしくは半ば過
ぎぐらいに見える女(ひと)です。最初に私へ声を掛けてきたお姉さんですね。

彼女達セルキー族は、オーク族というか神殿と友好関係にある部族です。でもオーク語は聞き取りできません。
学習意欲うんぬんの問題ではなく、耳の構造上オークの喋る言葉が聞き分けられないのです。彼女達にはオークの声は潰れ
てしまって聞きとり困難なのですね。

だからセルキーはオークと話すときは神殿の巫女たちを通じてやりとりします。
札付きクジラに止めが刺されるところを見届けに来た彼女達ですが、オーク達のなかに人間の女の子がいたのでこれならお礼
を言えるだろうと波打ち際まで来たのです。オークたちだけだと一方通行の挨拶にしかなりませんから。
セルキーの耳は、人間の喋るコモン(共通語)なら充分聞き取れるのですよ。

最近気付いたのですが、どうも私、日本語で独り言しているつもりでコモン(共通語)を使っていることがあるみたいです。
多分言語野が無理矢理上書きされているせいでしょう。
つまり神殿でソーニャさんが言っていた軍事知識がどうのこうのはカマ掛けじゃなくって素のまんまだった訳で。
うん、地球の日本でも、小学生の女の子が「○」とか「世○の艦船」の記事みたいなことぶつぶつ言ってたら、そりゃ変に思
いますよね。 


「よろしければこのヒゲの代金として、塩を一樽お送りしましょう」
「塩ですか。それはありがたいです」

塩は、宝飾サンゴや真珠と並ぶセルキー族の主力輸出品です。
女しかいない種族である彼女達は、トカゲ人や海賊などから婿さんを買って繁殖しています。この島一帯の相場では、繁殖用
男奴隷は女に比べると安いそうですがそれは平均すればの話。最高級品を求めるとそれなりの値段になります。
だから彼女達も有力商品を開発する必要があり、人間族の元技能奴隷に作ってもらった製塩施設は彼女達の重要な資金源なの
でした。
なお技能奴隷に 元 がついているのは自由の身になったからで、今はセルキー族の集落で彼女達の夫をしているのです。

あの化け物クジラの嫌がらせのせいで燃料供給が途絶えがちになり、製塩も滞っていましたがこれで安心して神殿から薪を輸
入できますね。

しかし、それほど困っていたならトカゲ帝国に駆除してもらう訳にはいかなかったのでしょうか。
ナマモノ兵器が主力のトカゲ人達にとって、高品質の食塩は戦略物資です。安価に生理食塩水が作れなくなったらとても困る
でしょうから、交渉の余地はあったのでは?

「貴女、トカゲ人に借りを作りたいですか?」
「‥‥浅はかな発言でした」

連中、どんだけ嫌われてるんだ。覇権国家の軍勢が国外で好かれてたらその方が変ですけど。
前に米軍と喩えたことがありましたが、考えてみればトカゲ帝国軍は現地に金(かね)を落としていきませんからねー。金属資
源を法外なレートで持っていくだけで。
陰気でしみったれた米軍みたいな連中が好かれる訳もありませんね。連中の傲慢さはアメリカ人の比じゃありませんし、トカ
ゲ帝国にはハ○ウッドもデ○ズニーラ○ドもなさそうですから。

まあ、現場が勝手な判断で略奪とか始めない分、イスパニア帝国とかと比べればまだマシなんですけどね。規律正しいし。
厳格+石頭+超傲慢+差別主義+技術盲信+非社交的+全般的にケチ臭い。‥‥なんか、こう言うと勝ってるときのナチス親
衛隊みたいな連中ですね。ヒューミント(人力諜報)にやたら弱そうでしたし。
非文化的というかドイツから芸術性引っこ抜いて、構成員を爬虫類に置き換えたような感じです。



ん? セルキーたちの集落がご近所さんということは、つまり塩の産地が直ぐ近くにあるわけですね。
そしてそこには元文明人が暮らしている。更に彼女達はそこそこ強い水棲モンスターを使役できる。海の安全を脅かしていた
無法者はついさっきいなくなった。

これは イケるか?



 ☆51日め4、うまくいけば‥‥☆


その場で30秒で立てた計画は、即座に実行されました。大戦略についてはともかく、現場指揮官として幹部オーク達はとん
でもなく優秀で、即断即決即実行が本当に出来てしまう凄い連中なのです。特にうちの巣の三人は、三人組限定でならこの島
でも最強かもしれない抜群のチームワークを誇っています。

1、クジラ捕りに使った蔦と適当な木材や竹材を使って、筏を作る。
2、筏に交易したい物資を積む。
3、セルキーたちが召喚した海獣に筏を引っ張って貰い、運送する。
4、海獣たちへのお礼は余ったクジラ肉で支払う。

これで、不良在庫化していたラム酒が日の目を見ます。いや、まだ熟成が足りず刺々しい味わいの焼酎類よりも、高濃度果実
酒の方が良いかもしれません。
蜂蜜酒や椰子シロップや黒砂糖は輸出品の定番ですね。せっかくですから薪倉庫の火炎松の松ヤニや松ぼっくりも出しちゃい
ましょう。


この日は幹部から下っ端まで、とにかく働きました。
いえ、労働ではなくて殆どお祭りのノリでしたね。

全員が一丸となって闘うクジラ漁。
その後の解体祭に、保存食作りや鯨油作りや皮剥作業。
合間合間に届く塩を始めとする交易品。折り返しで送られる酒樽。もう戦のような騒ぎです。

「タレミミ、隙間はあまり気にしなくて良いですよ。煙が漏れるところは後で塞ぎますから」
「グヒッ」

私は洞窟と浜辺を往復しながら、通訳と保存食作りの指導をしています。今は洞窟前で燻製肉の下ごしらえをしながら、燻
製小屋作りの手伝いもしています。
正直言うとクジラ肉は殆ど調理したことがないのですが、まあなんとかなりますよ。

解体現場の砂浜と、本拠地の洞窟と、その間を往復する輸送隊には必ず指揮官として幹部オークがいます。何処もクジラ肉で
いっぱいですからね。大怪鳥とか黒熊とかの、ちょっと強いモンスターや野生動物が出たら下っ端だけでは面倒です。

適正の違いから、器用で竹細工を作るのが上手いウォスが洞窟前で燻製小屋作りの指揮。
搭載力と移動力に優れているグェスが輸送隊の指揮と護衛。ときどき単独輸送。
比較的視界が広く、有効射程の長い飛び道具を使えるドスが解体班の指揮と護衛。という役割分担になっています。

ゴォ・ドスの得意武器は槍です。手に持って使うのも投げるのも得意です。
オークとしては規格外に高いというか長い背丈と手足が、コンパスの差で他のオーク戦士には出せない、圧倒的球速を可能と
するのです。

「クカカカッ」
「プギィ──ッ」

見張りのコブハナが上げる警告の叫び声よりも先に、大怪鳥の鳴き声が聞こえてきました。大漁祭が好奇心旺盛なモンスター
の注意を惹き付けてしまったようです。

「ルェイ。ドコ、ナゲル?」
「んー。こっちの方向」

下っ端達に警戒態勢を取らせたウォスは、こんなこともあろうかと用意しておいた新兵器を手に取ります。
長い長い柄が付いたそれは、大型の柄杓というかスプーンの先のようなものに長柄を取り付けた武器です。武器らしくありま
せんが神殿から帰って直ぐに実用化した新しい武器です。

オークの身長の二倍以上あるそれをレェ・ウォスは大きく振りかぶり、肩に担ぎます。近くにいた下っ端の一人が、両手に
掬った小石をスプーンの窪みに乗せました。
私はその間も滞空してる大怪鳥の現在位置を報せ続けます。指さしで方位を、口頭で距離を。
今の身体は前世基準にして視力3.0以上。空間把握能力や体内定規の精度は、視力よりも前世と比べて向上しています。

「25、24、23」

距離の単位は3メートルです。つまり現在大怪鳥は75メートルから70メートル程度の距離をホバリングしています。高度は
私たちが立っている場所を基準にして約20メートル。
大怪鳥は単純な鳥頭モンスターですが、モンスターなので能力的にはファンタジーなのです。
あの図体と頑丈さで垂直離着陸や空中静止を易々とやってのけるなんて反則ですよ。重力制御装置かミノフスキークラ○ト
でも搭載しているとしか思えません。

ウォスは私が告げる目標の位置を狙って、長柄の柄杓に盛った小石の山を投げ飛ばしました。投げ釣りの要領です。

オーク族は総じて近視ですが、近視の人間と同じで、ある程度以上の距離から先が全く見えないわけではありません。
見えにくいだけなのです。
今も、大怪鳥らしき生き物が飛んでいることはみんな分かっています。ですが正確な位置を、方向と距離を把握してるのは
私だけです。そして、その位置を教えることが出来るのも私だけです。

つまり、石投げ名人であるウォスが普段は50メートル以上離れたものに石を投げようとしないのは、彼の視力ではそれが
60メートル先に立っている熊毛皮の服を着た女の子なのか、それとも80メートル先に立っている直立した熊なのか、さ
っぱり分からないからです。
オーク族は、そこで「ならば近づいてみるか。熊だったら殴れば良いし」という方向性に進化した生き物な訳ですね。 

しかしそこに私がいれば、何がどの位置にいるか教えることが出来ます。
位置さえ見当がつけば、そこめがけて石を投げることは難しくありません。そして命中率の低下を数で補うために洗面器
一杯分の小石を投げつける訳です。
ぶん投げるのは相撲取り10人分の怪力ですから、これが結構侮れない射程と威力になるんです。
疑う人は金物ゴミに出す予定のお玉の先を、竿にでもつけて実験してみてください。
流れ弾が出ると危ないので、人気のない砂浜とか何処か広いところでお願いします。




 ☆51日め5、交易先げっとです☆


そんな訳で、直撃こそしなかったものの来るはずがない距離から飛礫攻撃が来たのに驚いた大怪鳥は逃げていきました。
元より追い払えば良い相手だったので、そのまま放置して作業を続けます。
お肉はもう持て余すぐらいありますし、天敵の大怪鳥を狩り過ぎると森に大ムカデや大サソリが増えすぎてしまいますからね。

この二種も、巣の近くに出没する巨大昆虫と同じく体長は数十センチ程度です。大きくても1メートルを超えるものはまず居
ませんが、毒虫なのでとても危険なのですよ。特に大ムカデは食欲旺盛で攻撃性が高いので要注意です。
大サソリは毒がムカデよりも強いのですが、自分より大きな生き物を狙うことはまずありません。

ちなみに毒が弱い方の大ムカデでも、噛まれた下っ端は二日歩けませんでした。私なら死んでいたと思います。
巣の近辺は、これでも昆虫系モンスターが少ない方なのですよ。というか巨大昆虫の類は、樹上性の巨大蜘蛛が何種類かいる
だけです。網で巣を作るやつですね。
それ以外は大きくても精々人間サイズ。地球でいえば牧場の乳牛や動物園のサイに匹敵するようなものはいません。

島の端の方には出るそうです。オークより重たい土蜘蛛(タランチュラ)とか、大怪鳥より拡げた羽根の幅が広いカマキリとか
の重量級虫系モンスターが。あと深い迷宮の中にも時々。


日が暮れてもまだ作業は終わりません。解体して肉と皮の粗方それとヒゲは手に入れたので、残りの肉や内臓はセルキーが呼
んだ海獣たちや呼ばれてないのに来た連中に渡しました。みんな喜んで食べています。
空気もとい海水を読まない大型サメが血に酔っぱらって暴れ出しましたが、セルキーに呼ばれたシャチに体当たりで粉砕され
ました。この海域ではよくあることだそうです。

オークたちの信仰では、シャチはオールクゥス神の使い‥‥でこそありませんが、お気に入りの生き物です。インドの神様に
象へ乗っている神格が多いのと似たような感覚で、オークたちにとってシャチは特別な生き物です。
もしも浜辺に打ち上げられたのがヒゲクジラではなくシャチだったら、オークたちは担いで海に帰してやったでしょう。

実際、そうやって救助したことも何度かあり、そのお礼のつもりなのかこの島近海に定住しているシャチの群はオークを襲わ
ないのだそうです。
野生のシャチが、難破して漂流しているオークや人間を島まで引っ張ってきてくれることもあるとか。
オークは結構泳ぎが上手なのですが、いかんせん近視なので岸から離れてしまうと帰るのが難しいのです。帰巣本能を発揮で
きるオークばかりじゃありませんからね。

セルキーたちは、お土産のクジラ肉を持って日が暮れる前に帰りました。今夜は一族全員でクジラ鍋を食べて、ニタニタクジ
ラに殺された仲間たちを弔うそうです。
一番良いところの肉を大目に分けてあげたけど、もっと渡した方が良かったかなあ? 足りるとは思うんですが。

塩と交換したのは焼酎や果実酒などの酒類に蜂蜜や黒砂糖など甘味料、そしてスポンジもどきや漆の類です。あと燃料類。
これらの物はセルキーたちの夫や子供が暮らしている島では手に入りにくいのですよ。
加えて、蚊取り線香とかコロン風の傷用アルコール消毒剤とか石鹸とか亀の子タワシもどきとかの特産品化を狙っている品々
を詰め合わせにしたお試しセットを一樽分。


おめでとう! タワシは亀の子タワシに進化した!

ええ、先週頃に針金というか銅線の開発に成功しまして、さっそく亀の子タワシを作りました。
で作ったのは良いけど作りすぎて倉庫に眠らせていたタワシをセルキーたちへのお土産に混ぜておいたのです。
作ってるときは気付かなかったんですよ、たくさん作っても運送力がないことに。

まず、ハラキズとかに手伝って貰いながら量産してる最中に「これ、作るの簡単だから交易品にはならないよね」と気付きま
した。が、しかし「定番掃除道具としてタワシが広まれば、島のみんなが掃除を楽にできるようになる。それは回り回ってこ
の巣の利益になるはず」と思い直して、樽一つ分のストックができるまで作り続けたのです。
神殿の巫女達全員に行き渡る数があれば、亀の子タワシをこの島に広めることも出来るだろうと思いまして。

その直後に、タワシを運ぶだけで一月分の運送力を使ってしまうことに気付いて、盛大に落ち込みました。続いて焼酎類も運
送コストが悪いことに気付いちゃいましたから、あとは気力消失のドミノ倒しです。

ちなみに今回開発した銅線の作り方は単純明瞭、銅貨と錫食器を一緒に溶かして作った青銅を細い穴から水に落として冷やす
だけです。
遺跡(ダンジョン)からは金属製の雑貨が割と良く出てきまして、この島の有力資源の一つです。
何故この方法を思い付くというか思い出すのに長い時間がかかったかと言うと、昔やった「熱した鉄を水に浸けて冷やす」実
験の印象が強くて、水に浸けると針金の素材が脆くなってしまうと思い込んでいたせいです。
銅合金だと焼き入れしても鉄ほどには劣化というか脆くならないのですが、思いこみって恐いですねー。


そんな訳で、第一回の取り引きは完了しました。なんとかこの新規交易先との流通を保ちたいものです。
ウチの巣には塩の需要があるというか作ったので、放っておいてもある程度は勝手に進むと思うんですけどね。

肉を濃い塩水にしばらく浸けて、その後で薄い塩水に浸けて塩気を薄め、陰干しにして水分を減らしてから燻製機で燻せば
燻製肉のできあがりです。
細く小さく切った塩漬け肉にハーブやスパイスを揉み込んでから水気がなくなるまで燻したものをジャーキー。大きめの塩
漬け肉をまだ水分残した状態に燻した物をベーコン、と私は呼んでます。異論は認めるけど聞きません。

固いだけの食感としょっぱいだけの味しかしない干し肉より、熟成した肉の旨味が楽しめる燻製の方が嬉しいのはオークたち
も人間と同じ。そして毎日燻製をつまみにしようとすれば大量の塩が必要なのです。
セルキーたちにとっても、神殿経由で薪を購入するよりは近くて値段もお手頃な取引先の方がお得。
今まで取り引きをしなかったのは接点がなかったから。そして取り引きする際の通訳がいなかったからです。









[38600] 16
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2013/10/28 13:51

 ☆52日め、わたし馬鹿よね☆


一夜明けて、まだクジラ祭は続いています。
食べても食べても減らないし、切っても切ってもきりがないんです。そして塩も油も香辛料も余裕が無く、なによりも容器が
足りません。
トン単位のお肉って、ぎゅぎゅう詰めに押し込んでも六畳間埋め尽くしてまだ余るぐらいあるんですよ。これを一時保管する
だけでも膨大な容器が必要です。

大まかに切って塩水に浸け込んだクジラ肉は、塩漬けと塩抜きで何日も容器を占領しちゃうんです。かといって一々細かく切
って直接塩をまぶす方法だと手間がかかりすぎるし塩の消耗が激しすぎます。
酢漬けや油漬けは更に長時間容器を占領してしまいますし、元々量産が効くものじゃありません。

「ああっ せめて肉スライサーかミンチメーカーがあれば!」
「?」

怪訝そうに私を見つめるオークたちに、大量の肉を手早く細切れにする道具が欲しいと言ってみました。駄目もとというか愚
痴ですね。
すると彼らは節を抜いた竹で細めの竹槍というか竹の短剣のようなものを沢山作り、縄と速乾性樹脂で固めて青竹製剣山を作
りました。
この束ねたストロー状の物体で、まな板に乗せた肉塊を刺しまくれば上の穴から細切れになったクジラ肉がむりむりと押し出さ
れていく訳です。

挽肉というよりはコンホエール製造器ですか? 細切れ肉量産器。
そうか、オークたちは肉の長期しかも大量に保存なんてしないから、する必要がないから普段は使わないだけなんですね。
でも挽肉や細切れ肉の作り方は知っている。
彼らの母親は殆どが文明人で、その半分以上が食肉を保存する文化圏から来たのですから当然です。

この島の女達は、オークに嫁入りした女達は人間としての知性を保ったままで、夫や息子達とは仲睦まじく暮らしているので
すから。そりゃ挽肉の概念ぐらい息子達へ伝えてますよね。
オーク族、特に強い戦士オークたちは普段から肉なんて幾らでも食える生活しているから、屑肉端肉を食べるための工夫が特
に必要なく、挽肉料理に馴染みがないだけなんです。

第一、彼らの頑丈な歯と顎なら軟骨もすじ肉も ぼりっぼりっ と美味しく食べてしまえますからね。ミンチにする必要がない。 
今回挽肉を作る理由は、足りない塩を少しでも節約するためですし。


肉を加工する手間はこれで解決しましたが、問題は塩などの不足です。緊急輸入しても余裕ができるには程遠い。
仕方がないので、海水煮詰めて作った濃いめの塩水に細切れ肉を笊ごと浸してから引き上げ、水切りした後に薫製機に突っ込
んで軽く燻してみました。
海水を汲んでは煮詰めて塩水を作り、できた塩水をどんどん浸け液の中に追加していきます。どうしても間に合わなくなれば
セルキーたちから買った塩を投入して塩分濃度を保ちます。

賞味期限は短いですが問題ありません。何ヶ月か持つジャーキー類用の肉に塩が染み込んでいっているこの時間に、手早く作
れることに意味があるからです。一週間持てば良いんですよ一週間持てば。

作った半生干しの即席燻製は網に入れて、ハンモックやネット袋の要領で天井からぶら下げます。焚き火の煙が通る位置に吊
しておけば自然と燻されるでしょう。これからしばらくは焚き火を絶やさないようにしておきますか。素人農法で伐採した梅
の小枝がかなりありますから、これを砕いて焚き火にくべましょう
残りの肉は塩漬けか半干し状態で涼しい場所に吊しておいて、燻製機が空き次第これも突っ込みます。


生肉は今日中に処分して、軽く燻した燻製は数日中に食べきるか再度燻して、ベーコンは一月以内に食べきってしまえば良い
のです。
腐らなきゃ良いんですよ腐らなきゃ。腐ったら腐ったで撒き餌になりますけど。
胡椒の備蓄が尽きてしまったので、巣の近くに生えている山椒などのスパイスや試作中のカレー粉まで動員して保存食作りに
励みます。


容器の問題も、オーク達に頼めばなんとかして貰えるかもと思い、相談してみました。

「肉を浸ける容器が欲しいんだけど、なんとかなる?」
「「グヒー♪」」

オーク達は近くの森から直径1メートル半かやや細いぐらいの樹を切り倒して持ってきました。一年中葉がついている広葉樹で
すが、樫の親戚らしくドングリに似た実が付きます。この近くでは大きい方の樹ですね。
直径1メートル半近く、長さ3メートル足らずの丸太をオークたちはクサビを使って縦割り真っ二つにしました。次に切断面を
上にして地面に置き、二つに割った幹の中心部分をニガウリの種部分を取り除くように抉ります。

幹部オークは素手で、下っ端達は鉄斧を使って、いとも容易く木材を抉ります。前世の私がフランスパンを千切るときの方がま
だ気合いを入れていたでしょう。
そしてある程度抉ったらその窪みに火炎松の松葉や小枝を入れ、火を付けます。
焼くことで水分を飛ばし、木材の強度を上げる方法ですね。確か南洋の原住民が丸木船を作るときに似たようなことをしていた
筈です。

二本の半分丸太が燃え上がると、オークたちはまた出かけて新しい丸太を担いで帰ってきました。前の丸太の上部分らしく、同
じ種類の樹木ですがやや細くなっています。長さはほぼ一緒ですね。
この幅1メートル余りの丸太も、同じように真っ二つになって火が付けられました。火が消えたら灰を出して炭化した部分を削
り取ってまた燃えるものを入れて火を付けて、同じ事を窪みが適切な深さになるまで繰り返します。

うん。確かにこの方法で大きな入れ物が作れますね。蓋は‥‥同じ物を作って片方を上に乗せれば良いか。松ヤニや樹脂で周り
を固めたらネズミも恐くありません。漆モドキを使って加工すれば湿気対策も何とかなりますね。石灰はすぐ作れるから密封容
器用の湿気取りも作れますし。
オークの知恵と力を舐めてました。これだからファンタジー種族は。

丸木船式の容器が出来上がるまで、私はミートローフもどきでも作りますか。
クジラの細切れ肉をクジララードと塩で揉んで練って、香辛料の粉や刻んだ香草と混ぜて青竹の筒にぎゅうぎゅうと詰め込み、
丸めた笹の葉で蓋をします。密閉感が欲しければ笹の上に石で上蓋をして、紐を蓋と底に通して縛りあげてみましょう。
これを焚き火の傍に置いて蒸し焼きにして、程良く焼き上がったら竹を割って取り出せばできあがりです。
もう一手間かけて中にゆで卵を仕込むと、よりミートローフに近くなりますね。
好みの組み合わせを見つけるために調味料の組み合わせを色々変えて試してみましょう。砕いたナッツや干し果物や芋の実など
を混ぜても楽しいです。

この前火炎松の林で掘ってきた松露がまだあった筈‥‥あったあった。松の木の根元近くに生えるキノコの一種で、トリフェの
親戚なのですがオーク達が好むというか、ちょっとした御馳走扱いしているキノコです。
独特の香りがあって美味しいキノコですし、滋養強壮効果もあるそうなので地球の親類と同じく人間達にも好まれています。
あだ名付き下っ端のひとりコブハナは、鋭い嗅覚が自慢で松露取りの名人なのでした。
これもミートローフもどきにいれてみますか。


容器の問題が解決すると、燻製小屋が順調に動き始めました。椰子油の備蓄には余裕があるので、塩浸け用に使っていた壷の幾
つかはオイルホエールを作るのに使います。スパムホエールも試作してみますか。金属缶や大型ガラス瓶はありませんが確か陶
器は‥‥あったあった。
こっちの安物風の壷を使ってみますか、いかにもな量産品で屑肉の塩漬けに使っても心が痛みません。
これでなんとかなるでしょう。
惜しいなー ここに台形の金属缶があればコンホエールが作れるのですが。



こうして、目が回るほど忙しいクジラ祭はこの日の夕方まで続きました。
楽をするためならどんな苦労も厭わない。つくづく業が深い生き物ですねえ、人間って。

あ、足りなくなってた胡椒ですが、気を利かせたグェスが途中で取って来てくれました。神殿の近くよりも手近な所に生えている
のを取りに、手が空いた時にひとっ走りしたのです。
‥‥‥‥いや、あそこですよね。火山の手前の、神殿からの帰り道で見つけた群生地。ここから片道三時間はかかる筈なんですが。
となると、私を背負っていたときは最大速度の半分どころか三割程度しか出していなかった事になりますよ。

つくづく健脚ですよねえ、ギュー・グェスは。「速く走る者」の名は伊達じゃありません。




 ☆52日めの2、馬鹿は死んでも治りません☆


クジラ祭も一段落つきました。今も竹組みの拡大燻製装置には交代で見張り番が火の管理をしていて、燻煙を上げています。
下っ端に見張りさせると際限なくつまみ食いしてしまうので、幹部かあるいは下っ端でも信頼できるオークでないと見張り番
にはなれません。

で、落ち着いて考えてみたのですが、あれですね。私、馬鹿ですよね。とんでもなく。
彼らに、オーク達に一言いえば解決する問題を一人で悩んで迷って困り果てて‥‥馬鹿過ぎる。

何故彼らに相談しなかったのか、それは怖かったからです。何をするにしても作るにしても彼らの意見を聞かねばなりません
でしたから。
だって、「いま一番したいこと何ですか?」と訊いて、もし「コヅクリ」とか言われたらどうするんですか。
答えに窮するなんてもんじゃありませんよ。


そこで、そう言われたときに「はいはい二年たっても私がこの巣に居たらね」と想像の中ですら返せないあたりが、というか
そもそも彼らがそんなことを言い出すんじゃないかと、まだ疑ってるあたりが私の限界なのです。
他者を信じることができない。信頼関係を築くことができないんですよ、性根が腐っているから。
前世の私は、よく社会生活が営めていたものだと感心してしまいます。

私はオークたちを信用しきれません。彼らがオークじゃなくて、人間の男だったらもっと警戒するというか今頃は神殿でソー
ニャさんの弟子やっているでしょうけど。
この世に人間ほど信用ならない生き物はいませんよ。人間の私が言うんだから確かです。

でもこれからは、オークたちをもっと信じることにしてみます。これまでのように無闇に疑わない、文化の違いを悪意で解釈
しないだけでなく、彼らを信じて積極的に行動するのです。
万が一にも地雷を踏みつけてしまったら謝り倒せば良いし、それで足りなければ償えば良い。償いきれないときは生涯かけて
償いましょう。

彼らは、この巣の幹部達、ギュー・グェスとゴォ・ドスとレェ・ウォスの三人は私のために身体を張り、命を懸けてくれます。
その点は疑いありません。
ならば私も、せめて自分の為に自分自身をチップにして賭ける覚悟ぐらい、あって当然でしょう。
とんでもない大失敗やらかして、言い訳する事もできず巣から放り出されたそのときは、潔くこの島の土となれば良いのです。
そこまでオーク達を怒らせたなら、非があるのは私の方に決まってますし。


いえね。今日というかこのクジラ祭りで思ったんですけど。
私、全くの無能じゃないかもしれません。

非力で脆弱であることに変わりはないけど、私の肉体や知識は決して役立たずではないのです。
だって、オークたちは投げ縄でクジラを捕る方法を知りませんでした。もし、私がこの巣にいなければ性悪だったというあの
クジラは今も元気に泳いでいて、セルキーたちは困ったままだったでしょう。

クジラ漁を切っ掛けにセルキーたちとご縁が出来ました。通訳がいるから交易もできました。
人間用の道具が使える。地球由来の知識。共通語(コモン)の理解。そしてオークの数倍に換算できる視力。これだけ揃えばもう
立派な特殊能力です。

小賢しい知恵は単純な筋力に敵わない。ならば、単純な筋力に小賢しい知恵を掛け合わせれば良いのです。
私とオークたちは、爬虫類でもなければ公安関係者でもありません。
スタンドプレイの応酬による結果としてのチームプレイではない、本物のチームプレイが可能な筈なのです。

しかし、理屈は解っていてもなかなかそのとおりに身体が動かない、頭が働かないのが凡人というもの。
地面に置いてある丸太の上なら誰でも平気で歩けますが、地上30メートルの高さに渡された丸木橋を即座に歩ける人は少数派
なのです。

一体どうすれば‥‥。

前に、まだオークたちを疑っていたときは一緒にお風呂に入って、とりあえず疑念を除いた訳で。
となると、 添 い 寝 ですかね? 寝食を共にするって言葉もあることだし。



「突然ですが、今夜は泊めてください」
「「「グヒッ!!?」」」

と、いうわけで信頼関係構築の一環として三人と一緒に寝てみることにしてみました。寝ると言ってもそのままの、スリープの
意味しかありませんが。もちろんインサートも故意のタッチもなしですが。
精々互いの匂いを嗅ぎ温もりを感じ合う程度です。

これでどうにかなった時はどうにでもなります。優しくして貰えるでしょうし。
寝間着にはふわふわ布地のガウンと、丈の長い腹掛けを着てみました。屋内履きのサンダルは寝床にはいるときに脱ぐので、寝
ているあいだ身に付けているのはこの二枚だけになります。

どちらも布地は白一色。衣装箱の中にあったフリルのふわふわ布を縫いつけてみたので、ロリ野郎だった前世の感覚で言うとかな
り可愛い姿だと思います。
元々私の外の人は、少女ファッション誌のモデルが務まりそうな美少女ですし。
自惚れではなく、美女と美少女ぞろいの神殿でも私より確実に可愛いと言い切れるローティーンの娘は、白金の鎖で腰を縛られて
いたあの金髪ちゃんぐらいでした。

他の女の子となら、負けているかもしれないけど僅差だったのですよ。
まあ、神殿にいた同世代かより年下の女の子は、巫女さんの見習いを入れても10人もいなかったのですけど。


紳士だけど同時に変態でもあるオークたちが、意中の女の子との同衾を嫌がる訳もなく、私は幹部達の居住区で一晩過ごすことに
なりました。
しかし、オーク族ってやはりきれい好きなんですよね。毎日腰ミノ変えてるし、洗濯もしています。
唯一身に付けている防具らしい防具でもありますから、手入れを欠かさないのは当然ですけど。

早速訊いてみたのですが、オーク族は水浴びや入浴のときにも腰ミノを外しません。文化的こだわりがあるようです。
一見同じに見える腰ミノでもお風呂用とそうでないのがあって、お風呂用は付けたまま入れるように耐水素材を使っています。

腰ミノがオーク族の腰に付いていない状況は、三つの場合しかありません。
まだ歩けない子供の時か
戦場で死んで身包み剥がれた時か
巣穴の奥で嫁さん相手に本気の子作りしている時だけです。

ええ、こーゆー話題が怖かったからいままでは迂闊に質問できなかったのですよ。地雷踏みそうで。
そーかー 神殿の控え室や闘技場の升席でやってたアレコレは、オーク基準だと軽めのプレイだったのかー。
オークって、やっぱりエロモンスターですね。
でも、オーク族の生態や文化について調べるならこっち系統の話題に触れない訳にはいきません。これからは逆セクハラになら
ない程度に、気になったことは積極的に質問することにします。


そして、何か変わったことをする暇もなくいつもどおりの活動限界が来て、私は眠ってしまいました。




 ☆53日め、馬鹿とハサミは使いようなのです☆


まあ、物理的な心配はしてませんでした。
眼鏡の奥さんとかからも、オークと一緒に寝ていて寝返りの下敷きにされたとかそういう話は聞きませんでしたし。
気が付いたらグェスに寄り添って寝てました。お陰で今日も快眠です。
ちなみに反対側にはウォスが寝ていました。こっちは起きてたけど。
ドスは何人かの下っ端をつれて薪取りに行っているそうです。

オークはどちらかというと夜行性の種族で、夜になると足手まとい度が急上昇する私を連れていなければ、夜間活動の危険度は
昼間と殆ど変わらないのです。
獲物や草花の性質によっては、時間帯で捕れ易さが違ったりそもそも手に入らなかったりするので、オーク達は完全な夜行性や
昼行性にはなりません。だから野生の猪みたいな生活時間で動いてます。

ドスたちが取りに行ったのは、神殿から帰って直ぐに行った林とは違う火炎松の林です。
火炎松は痩せた土地を好むので、定期的に落ち葉や枯れ枝を拾わないと腐葉土ができて枯れてしまうのです。針葉樹の腐葉土は
質が低い筈なのですがそれでも栄養過多になってしまうあたり、植物モンスターも難儀なものです。
こまめに手入れしないと、松の実はともかく松露や松茸は手に入りにくくなります。

グェスはまだ寝ています。夜中まで辺りの見回りとついでの採集をしていたそうですし、まだ眠いのでしょう。
ウォスは入り口前で燻製小屋の見張りをしつつ朝の鍛錬。ハラキズは燻煙の番をしています。今度はアーモンドの大鋸屑を増や
して風味を変えてみるとかなんとか。
彼は下っ端の中では味覚や嗅覚が鋭い方ですね。というかあだ名を付けた連中は大抵そうかも。積極的で気が利いてるから目立
って、目立つから特徴も捉えやすい訳ですし。


さて、暇を持て余している普段ほどじゃありませんが、塩漬け肉の処理が順調なので下っ端達に時間の余裕が出来てきたようです。
掃除や礼拝などの朝の日課が終わったら、さっそく実験に付き合って貰うとしますか。


1 まず、半分に割った椰子の実の殻を何十個か用意します。
‥‥駄目だ、大きすぎる。海鳥の卵の殻は‥‥割れるから却下。ハマグリなど二枚貝の殻にしましょう。カルシュウム多めな、
固くて分厚い貝殻を選びます。大きさもなるべく揃えて。

2 半分に割った丸太の断面を削り、平らにします。丹念にヤスリがけして、私が素手で撫で回しても棘が立つ心配がなくなれ
ばとりあえず良し。

3 ハマグリの殻を、丸太のテーブル上に規則正しく並べます。今回は七掛ける七で49個にしますか。

4 蟻蜜・煎りクルミ・さくらんぼ・燻製肉の欠片をそれぞれ12個ずつ用意して、その殻の下に入れます。
余ったハマグリ一個には13個目の蟻蜜をいれておきましょう。

5 準備できたらゲーム参加者たちを呼びます。


はい。つまり神経衰弱の具体化版です。札(カード)に書かれた記号(スート)を揃えるのではなく、二回の手番で殻に隠されたお
やつを揃えることができれば、そのおやつが貰えるわけです。
オークの脳味噌には具体論しか詰まっていないのなら、こっちも徹頭徹尾具体論でやれば良いんですよ。


「グヒッ♪」
「あめでとー。はい、あーんして」

記憶を使って見事当てたケサガケに、賞品のさくらんぼを食べさせてあげます。
周り中から羨望の視線を浴びて、下っ端オークは得意満面ですね。

このルールなら納得いったオーク達は、数回のお試しですっかり理解しました。
殻で隠したおやつを当てたら、巫女に食べさせて貰えるパーティゲームとしてですが。
やりました。ついに私はオーク族に地球のゲーム文化を伝える、その取っ掛かりを掴んだのです。これは人類にとっては小さな
一歩ですが、私個人にとっては大いなる一歩なのです。


あと、深い考え無しに49個にしたのですが、これをオークたちは「余るおやつと最後に取ったおやつの組み合わせが同じなら、
最後の一組を取ったプレイヤーが余ったのも貰える」というボーナスだと解釈してしまいました。
これはこれで盛り上がりそうなので、即公式化です。

知能、低くありませんよねえ下っ端たち。なのに何故あそこまでやらかすのでしょうか?
危険や損害に対する危機意識がない? と言うより 用 心 が で き な い 精神構造になっている?
いや、もしそうなら彼らはとっくの昔に全滅している筈。

学習能力はあるんですよ、一応。ネズミ用毒団子も二回目からはつまみ食いしなくなりましたし。ネズミの方も学習しやがりつつ
ありまして毒団子の効果自体も薄れてきましたけどね。
ですのでネズミ対策の中心はネズミホイホイとかの粘着罠が主体になりつつあります。シート系だとうっかり踏んでしまうので、
筒系や箱系が頼りになりますね。


ふむ? 実体験してないことを実感できない と言った方が正しいのかな? でもそんな人は地球にもいくらでも居ましたし。
なんか違うんですよね。
このオークの種族性について、彼ら自身は深く考えないことにしているようで質問しても、何が問題なのか理解できないようです。

うーむ、まあ私というか人類だって行動の殆どは本能と衝動の産物であり、理性で把握している部分なんてほんの僅かなのですが。
日々の行動を一々解説しろと言われても、困りますよねえ。


四セットほど繰り返し、今巣にいる下っ端達全員が一回は遊んだら神経衰弱は終了。賞品の蟻蜜も尽きましたからね。
さあて、次は縄作り競争といきますか。は~い、二人組作って~。

オーク式の縄作りは、蔦の一種を切り出し、塩水や灰汁で煮込み、叩いて繊維をとり、乾かしてから捩って作ります。
この作業を競技化とまではいかなくても競わせてみる訳です。
縄の備蓄は有った方が良いですし、余るようならもう一個養殖用筏を作れば良いのです。

ええ。作ってみたのですよ、今月の頭だから三週間近く前に養殖用の筏を、砂浜の北側へ二つほど。
牡蠣が良く取れる岩場の近くに大型浮き兼日陰の筏を浮かべてました。筏の下に縄を水平に渡した構造の物と、水平に渡した縄へ
短い縄をくくりつけて魚の背骨のようにした構造の物とを作って、どちらが良く牡蠣が付くか実験中です。

食べられる大きさにまで牡蠣が育つには何年かかかりますので、問題はそこまで筏の浮力が持つかどうかなのですが沈んだら沈ん
だで、魚礁になるから損はしません。
縄が余ってオーク達が暇を持て余すようになったら、今度は海草用の筏を作ってみましょう。上手く胞子がつくか解りませんが、
失敗したら失敗したで魚礁に(略)。


縄作り競争の賞品はレイちゃんの手作り蒸しプリンです。彼らの好みに合わせて香料を減らしたら、なにやらお菓子仕立ての茶碗
蒸しっぽくなってしまいましたがこれはこれで。
普段は(作るの面倒だから)幹部オークたちにしかふるまわれない蒸しプリンが、縄作りに競争に優勝すれば誰にでも!
しかも見習い巫女さんが竹製スプーンで、食べさせてくれるサービス付き! 熱すぎたらふーふーだってしちゃいます!
これで燃え上がらない奴はオークじゃありません。




 ☆53日めの2、その昔は何人ものプレイヤーが私が演じるNPCの魅力に萌え転がったものです☆


変わったなー 私。
前世ではメイド喫茶のサービスとか、傍から見てることさえ耐えられなかったのに。
いや、当事者じゃないから耐えられなかったのかも。TRPGの未経験者がTRPGプレイ中を横から見ている感じで。

そう、私は女の子の役を演じているのです。オークたちが、ファンタジー世界の常識からかなりズレてるこの島のオーク達。
その中でも特にズレてる連中が好む女の子。理想の少女(ファム・ファタル)を演じているのです。というか、どうせならそこ
まで演じたい。


私は女の子。私は可愛い女の子。
私は男(オーク)にとって都合の良い女の子。
ちょっとぐらいのセクハラに怒ったりしませんし、なんでも善意で解釈するからそうそうセクハラだなんて思いません。
穏やかで優しくて、男(オーク)たちへの感謝を常に忘れません。
男(オーク)たちを信じ、頼り、敬っています。
恥ずかしがりやさんだけど、本当はとってもえっちで、男(オーク)たちにえっちな目で見て貰うのが大好きです。

後宮資材置き場で、素っ裸で姿見の前に立って、私は日本語を呪文のよーに唱えます。
今の私は、肉体的には女の子なのです。「野郎の妄想の中にしか存在しない女の子」の仮面(ペルソナ)を被るのに、全裸な自
分自身の姿ほど強力な補強材料はありません。


良し、自己暗示完了!
オークたちのアニマ(女性原理)は人間の、つまり私のアニマと殆ど同じ筈。私が「こんな女いるわけねーよ」と思う、都合良
すぎる人格は彼らにとってもそう映る筈なのです。
本来なら溢れる母性とか包容力とかも盛り込むべきなのですが、ちょっと無理です。
私はどちらかと言うと、夜叉よりも羅刹寄りの人格してますので。観世音菩薩の真似はとてもできません。


さてと、セルフ洗脳も終わったことですし服を着て作業に戻りましょう。
三人が独立後にせっせと溜め込んだ資材は潤沢で、特に衣類や反物などは私一人では使い切れない程です。今でもたっぷり備
蓄されていますが、新作の衣装が見たい一心で幹部達は遺跡から出る繊維類や装飾品をせっせと倉庫に運び込んでいます。

三人が三人とも、ゲームの世界なら屋敷や小城を建ててメイドやお抱え魔術師とか雇って、嫁やペットたちを住まわせている
べきレベルの強者ですからねえ。稼ぎっぷりが良いのですよ。必要さえあればいくらでも勤勉になるのがオーク族ですし。
むしろ、悪い意味で働き者というか効率を優先し無さ過ぎる傾向がありますね。
種族的なものだけじゃなくて、文化的というか文明スタイルの問題もありますけど。まあ、原始生活やってる彼らにクオリテ
ィ・コントロールの概念を押し付けるのは無理があります。


宝物庫に溜め込んだお宝は、いつか見つかる嫁さんにしたい女の子を神殿から買い取るために集めたのかと思いきや、実はあ
まり熱心に集めてはいなかったそうです。
神殿で花嫁修業している女達は殺伐系だったり悲壮な覚悟決めていたり、あるいは捨て鉢になっていたり逆に打算的になリ過
ぎていたりで、彼らの好みにはもう一つ合わなかったのだとか。

オーク的世界観からすれば、そんな女達を可愛がって可愛がってとろっとろに溶けさせて、オーク○んこに身も心も委ねてし
まう素直で従順な奴隷妻に仕立て上げるのが嫁取りな訳で。
三人は、周りというかオークの世間一般から「贅沢言い過ぎ」「嫁に夢見過ぎ」と言われていたみたいです。
更に大母様や実の母親達からは「孫はまだか」「少しは焦れお前ら」とか言われていた訳ですね。


特に差し迫った必要が無くても財宝を蓄えるのはオークの常識ですし、いつか彼ら好みの女の子が海から打ち上げられたり空
から落ちてきたときに備えて、財貨をコツコツ蓄えていたそうです。
風呂やトイレや採光窓や水飲み場など、人間の女の子が快適に暮らせる環境作りの方をより優先していましたが。

ええ、そうです。あの人間専用としか思えない木彫り便座は、やはり人間用でした。
いつかやって来るお嫁さんを迎えるために、三人がコツコツ作り上げていった設備の一つなのです。

そんなところだろうと思ってましたよ。
そもそも幹部オークたちにとっては水洗トイレ自体が、使う必要性薄いものですからね。
私や下っ端達と違い、幹部オークは野外で排泄してもそれほど危険じゃありません。催したら気軽く外へ出て、用を足せばそ
れで良いのです。
平地の少ないこの島ではフンコロガシこそ見かけませんが、昆虫など動物の糞を処理する分解者が幾らでもいます。踏みわけ
道の道ばたに落ちていた猪の糞とかなら一時間もせずに消え失せてしまうのですよ。

でも女達には、弱くて脆くて一人ではとても外を出歩けません。時には何日も洞窟の中に籠もりっぱなしなこともある人間の
女の子にこそ必要な設備なのです。清潔で安全なトイレはね。
お風呂場もそうですね。この洞窟のお風呂場って、オーク達には不必要なくらい明るいんですよ。明らかに人間が入るための
設備です。


彼らが私に入れ込んでいる理由が、少しだけ解りました。
私は、未知の土地から来た見習い巫女のレイちゃんは、彼らにとって奇跡の産物だったのですよ。
確率論から言えば、とても有り得ないことですからね。私とギュー・グェスの邂逅は。

私が転生(憑依?)してから、直ぐに山へ登らなければモンスターの餌食になっていたでしょう。
グェスの旅程が少しでもずれていたら、神殿や帰路に立ち寄った集落での誰かとの会話が少しでも伸びたり縮んだりしていたら、
彼はどこか適当な場所で雨宿りしていた筈です。

たまたま近くに雨宿りに適した場所がない地点で土砂降りになったからこそ、雨の中をグェスは強行軍で歩いていた訳で。
たまたま私がうずくまった場所が雨宿りできる場所への通り道でなければ、私は見つけて貰えなかったかもしれません。
あのときもし私が大岩の反対側で気絶していたら、グェスは気付かずそのまま通り過ぎていた可能性が高いのですよ。そのくら
い酷い雨だったのです。

更に言えば、見つけた場所から数分の位置に、グェスが強行軍で目指していた雨宿りできる洞窟がなければ。
そこへ心臓止まりかけてる女の子を抱えて運んだグェスが、島一番の俊足オークでなければ。
数日前その道を通った時に、たまたま近くで火炎松の倒木を見つけていたから薪用としてその洞窟に運び込んでいなければ。
私は凍死していた可能性が高いのです。


驚いたでしょーねー。ふと見たら道ばたに女の子が落ちているんですもの。
私のように奴隷でも捕虜でもない漂着者が拾われちゃうことも、ごく稀にあります。三人が話してくれたオーク達の伝承でも親
族の先祖である戦士○○が、どこそこの海岸に打ち上げられた女の子を拾ってうんぬんという話などがありました。
百人近い戦士を擁するこの島最大の集落でも十年に一度あるかどうかの希少イベントなのですよ。漂着者の保護は。
宝くじの一等賞なみに珍しいのです。普通は一生に一度もない、親族に一人いるかいないか級の希少体験ですね。

なにせ人類の文明圏から遠く離れてますからね。
偶に来るのは海賊か重武装山師か軍の偵察部隊か、どいつもこいつもろくでなしの荒くれ者ばかりです。
女の海賊だっていますけど男以上に荒くれているのが基本ですし、自称冒険者の殆どにとってオークは経験値や財宝の供給源か
皆殺しにすべき仇敵です。
とてもじゃありませんが、オーク達の被保護者向けな人材ではありません。


一方オーク族から見れば、敵対的な重武装山師の女や西方文明圏列強諸国軍の女軍人や女軍属は「鉄の王」の眷族に攫われ洗脳
されてしまってる哀れな戦奴隷です。
何が何でも打ち負かして奪還し、解放してあげなくてはいけません。
洗脳を解くために、時には乱暴なこともしなくてはいけませんが、ねばり強く根気よく「説得」を続ければ、女達は必ず心を開
いてくれます。

どんな強情な女でも、二ヶ月もすれば心を開きオーク達に感謝するようになります。自分から股を開いて、オークち○こをねじ
込んで欲しいとおねだりするようになるんです。
そして更に一ヶ月後には、オークの腹の上で腰を振って子種をお強請りしているか、あるいはもう既にオークの子を孕んだ腰を
振っているのです。
神殿で会った、オークの妻になった女達はみんなそう言ってました。


たとえ互いが親の仇同士でも、ご奉仕愛奴にできてしまうんですから本当にエロモンスターなんですよね、オークって。
幸い私はヒルデニア人にしか見えない外見ですし、弱っていたところを看病して貰ったからオーク達に敵意を表しませんでした。
というかこの巣に来てから数日間は、まだ夢かもしれないと疑ってましたし。

ヒルデニアにはオークが殆ど住んでおらず、その僅かなオークも僻地で細々と暮らしているそうです。
オークの居住地域と付近のヒルデニア人たちは、細かい揉め事などはあるものの血で血を洗うような酷い抗争はしておらず、一
般的なヒルデニア人はオーク族に恨みや憎しみを抱いてないことが多いのです。
オーク達も、船乗りなどヒルデニア人の男に対する態度は東方人の男に対するそれとは段違いです。オークから見れば西方人の
男は悪魔の手下みたいなものですが。

なのでオーク族には「嫁はヒルデニア育ちが一番だよ派」が、結構いる訳です。海賊との小競り合いも、ヒルデニア船とする
ことは珍しく、人間(ヒュー)族としては例外的に友好度が高いのです。敵対度が高くないと言った方が正しいかな。

もし私の外の人が典型的な西方人の容姿だったとしても、女の子であるなら優しくしてくれると思うんですけどね。三人とも
変態紳士だから。
ヒルデニア人の男や男の子だったなら、オーク達は取りあえず介抱ぐらいはしてくれるでしょう。女に対するほどの真剣さや
熱意は湧いてこないと思いますが。
でも見つけた行き倒れが軍人風な西方人の男だったりしたら、止め刺されるのがオチです。


一刻を争う緊急事態でない限り、彼らは女を手込めにする必要がありません。いえ、戦闘中とかの本当の緊急事態ならレイプな
んかしている暇ありませんけど。
命に関わるような事態でもない限り、オークは強姦なんかする必要がないんですよ。
優しく紳士的に振る舞ってれば、そのうち女の方から誘ってくるのですから。

いままで、ちょっと誤解してたかもしれません。
この巣の幹部オーク達は、私のような年端もいかない女の子と甘酸っぱい系のいちゃいちゃな恋愛をしたがっているロリータ趣
味者だと思っていたのですが、そもそもオーク族ってロリ以外の人間族とは恋愛できない生き物なのかも。
少なくともプラトニック・ラブは難しいでしょう。
長続きしません。普通の、大人の女だとすぐに性愛というか「ずっこんばっこん」の方に行ってしまいますから。


身体が子供なせいか、今の私って性欲ないっぽいんですよ。
ソーニャさんとかセルキー族のおねえさん達の爆裂ぼでぃを見ても、下半身というか臍の下からくる興奮を感じません。
「綺麗だなー」とか「エロいなー」とか「かっこいいなー」とかは感じるのですが、それは首の上からくる興奮なんですよね。
前世で感じた、何か切っ掛けがあれば否応もなく下半身からこみ上げてきた溶岩にも似た熱さは、今の私は感じません。

ではオーク達を見て男性的魅力を感じるか感じないかと問われたら‥‥。
どうなんでしょう?
幹部オーク達を見てると、頼もしいと思うし格好良いとも思います。人間とは基準が違いますが美しいとすら思います。
私は彼らのなかに、グェスの思いやりやウォスの機転やドスの探求心のなかに、知性のきらめきを感じているのです。
前世も今世も、知性が感じられない異性に惹かれたりしないのですよ。私は。


いや、同性だって御免ですけどね。知性が存在する証拠を探すのに苦労するような奴は。
は? そういう自分はどうなのかって?
自分に足りない要素だからこそ拘るのですよ。財布が重すぎて困るぐらいの大金持ちが玉の輿に乗りたがりますか?
無くて、足りなくて、散々苦労したからこそ結婚や恋愛や交際相手にそれを求める訳で。

ん? すると「牧場でデート中に、たまたま通りがかった馬だか牛だかを特に意味もなく殴り倒した同級生に惚れ直した」米国
の女子高校生は、腕力の不足に悩まされる世界観で生きていた訳ですね。
文字通りに「強くなければ生きていけない」社会だからこそ、暴力を振う能力がある事自体が魅力になるのです。
ブル○ーカーの広告そのまんまで、あっちでは貧弱な坊やは男として見て貰えないのか。しんどそうな社会ですね。


話を戻すと、下っ端たちもよくよく見れば味のある顔しているのもいますね。特にあだ名を付けた連中は個性が分かり易くて、
見ていて楽しいです。
あれですね、新人の芸人や俳優がデビューしたての時は「こいつらクローン人間か?」と思うぐらい没個性的で特徴が見えて
こないのに、何年かたって経験を積み芸を磨き淘汰されていくなかで段々とキャラが立ってくる感じに似てますね。

動物学者や動物園の職員は、素人が見てもさっぱりな猿山の個体識別や人(猿)間関係の把握とかができますからねえ。
何事も慣れですね。




[38600] 17
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:41ef73a6
Date: 2013/11/08 17:58




 ☆53日め3、やっと完成です☆


しかし、布地や小物は沢山あるけど肝心の腕が足りません。こんなことならもっと真面目に家庭科の授業受けとくんでした。
立体裁断とか、素人の私にはちょっと無理ですよねー。
待てよ? 布地は余っているのだから、私の原寸大人形を作ってそれに布地を当てながら採寸していけば、微修正の繰り返しで
服が作れるかもしれません。
一度試してみる価値はありそうです。

「ルェイ、デキタ、ミル」
「うん。今行く」

資材倉庫の入り口までレェ・ウォスがやって来ました。頼んでいた試作品が出来上がったようです。
二人で大広間に行ってみると、そこには真新しい木造機械がありました。長い棒で中心の木工部品を回転させネジの原理で素
材を締め上げる装置。木ねじ式の油搾り機です。

訊いたら一発で答えが返ってきましたが、オーク達も木ねじ機械の概念は知っていました。彼らの生活では特に必要なかったの
で原理や構造については大まかにしか知ってませんでしたけど。
オークの腕力と生活様式なら、機械がなくても丈夫な麻布などに搾りたい物を包み布の端を適当な棒に結びつけて、後は棒を捩
るだけで必要量の油が手に入るのです。効率が悪い分は材料を増やせば帳尻合いますからね。

手作業よりは私が先月開発したテコ式搾り機の方が作業効率は良いのですが、あれは持ち歩けないという欠点がありました。巣
の中でしか使えないのです。
オーク達は「オーク(男衆)がいないときや忙しいときに女の手だけで油を搾り取るための道具」として捉えていたようですね。
あると便利ぐらいの代物だった訳です。前世で言えば空き缶潰し機の感覚かな。


今回開発したというか、ウォスに概念図と見本の手作り玩具を見せて作ってもらった搾り機は、木ねじを使った高性能機体です。
原始から古墳時代な技術レベルのこの巣では、まずこれ以上は無理なくらいの能力を持っています。持っている筈です。
さっそく試運転。‥‥おお、絞れる絞れる♪ サイズはテコ式の半分以下なのに性能は三倍近くありますよ。
三号D型とKV1型ぐらいは性能違いますね。ザ○とガン○ムでも可。

油椰子の実から搾った液を布や椰子の実繊維で漉して、沈殿させて、上澄み油を遠心分離器にかけて分離させます。
遠心分離器と言ってもただのヒョウタンですけどね。油を入れたヒョウタンに上澄み油を入れて、長めの紐で結んでオークたちに
ひも付きスリングの要領で振り回して貰うだけです。
振り回している最中、うっかり固い物にぶつけると一発で割れてしまうので器用なオークにしか頼めません。

分離した物を取り分けて更に漉して沈殿させて上澄みを取ると、幾らかはさっぱりした味になりますね。
油粕は肥料にするから、お盆やテーブルクロス代わりに使ったバナナの葉っぱに包んで置いておきます。上澄みを取った残りの下
濁り部分の油は‥‥捨てるのももったいないし、芋でも揚げてみますか。
味が今一なだけで、下濁り油にも体に悪いものは含まれていない筈です。グェスも毒じゃないって言ってますし。
今日のお昼はフイッシュ&チップスにしてみましょう。


昼前に起きてきたグェスと、朝取ってきた薪の分別や倉庫の整理をしていたドスが、二人だけで川へ行って魚を捕ってきてくれま
した。海魚に比べると全般的に味が落ちる川魚ですが、揚げたら美味しくなるかもと思い、捕ってきて貰ったのです。

巣の近くには幾つかの小川と、排水路が繋がっている中くらいの川と、この巣の狩り場になっている大きめの川があります。
もちろん、この大中小の基準は日本人の観点から見ての話で、アマゾンやミシシッピのような大河とは比べものになりません。
具体的に言うと、大きめの川でも平均して幅20メートル足らずですかね? 普段は私の膝か腰ぐらいまでしかない浅い川ですが
水質が綺麗で澄んでいるので水遊びしやすい点は良い場所です。

中くらいの川は、広いところでも幅10メートル程度です。でも深めで水量自体は大きい方とあまり違いません。
巨大亀が餌場にしていたことからも解るとおり、元々栄養分が多めなでしかも巣の生ゴミや汚物汚水が流れ込み、それらを狙う生
き物やその更に排泄物などを狙う生き物まで集まる場所なので、元日本人としてはとても飲用にはできません。

食物連鎖はかなり上流まで遡りますからね。具体的に言うと、巣から出る汚物を食べた魚のなかには川の上流や下流、そして海岸
南側の珊瑚礁まで泳いでいく種類のもいる訳でして。
この巣のオーク達が砂浜とその北側の海岸でしか釣りや貝掘りをしない理由は、お分かりいただけたかと思います。

海は繋がっているからあまり意味はないかもしれないけど、気分的に、ねえ?
万葉集にも「(鮎は川苔しか食べないと解っていても)厠の下流で捕れた鮎は食う気になれない」という詩がありますし。 
ああ、この場合の厠は川屋つまり川の上に作った古代風水洗トイレのことです。


大きめの川はそのまま飲めるぐらい水が綺麗ですが、獲物はあまり捕れません。栄養物が少ないのでしょう。
この川が流れ込んでいる砂浜の獲物が少ないのも、たぶん水に有機物が少ないせいです。
その割りに砂浜の端では魚などが良く捕れるので、その辺りで真水と海水の混合や沈降や上昇が起きているのでしょう。海底の砂
地に染み込んだ真水が噴き出して、程良い汽水域になっているのかもしれません。

海よりも逃げ場のない川の方が、追い込み漁に向いてますね。網の目を大きめにしておけば魚を取り尽くす心配もないし、手軽に
そこそこのタンパク質が手に入るのが川漁の取り得です。
欠点は嵐が来ると仕掛けが壊れたり流されてしまうので、いちいち片づけないといけないことです。

嵐が来る前に竹製の仕掛けを外して、水が来ない所まで運んで縛っておくのはちょっと面倒ですが、幹部オーク達ならひとっ走り
で行ける距離なので実用上の問題はなさそうです。
もし壊れたり流されたりしてもまた作れば良いんですよ。材料はそこらに生えているし、オーク達なら暇つぶしで作れます。

そんな訳で、狩り場として今三ぐらいだった(巣の近くでは)大きめの川ですが、竹製の梁や大型の漁網を使った漁法の導入で今二
ぐらいまで価値が上がりました。
釣りほどじゃありませんが、網などを使った追い込み漁もオーク達は受け入れてくれました。元々彼らも岩を組んで魚礁というか
魚のねぐらを作り、魚が住み着いたら棍棒で岩を殴って魚を失神させて捕る一種のガッチン漁法をやっていたので、罠を仕掛ける
こと自体に抵抗感はなかったようです。


あれですね。大猪とか大牛とかに罠を使うのと、魚を捕るのに罠を使うのとでは感覚が全然違うようです。
棍棒で岩を殴って魚を捕るのも、竹製のヤスで突き刺して魚を捕るのも、網ですくって魚を捕るのも、竹を編んだ罠に追い込んで
魚を捕るのも、オーク達には同じ事のようです。
でも、大猪相手にボーラ(投げ連結石つぶて)を投げて闘うことと、落とし穴に誘導することは違うんですよね。オーク的には。

そういえば、オーク達はネズミ退治に罠を使うことには反対しませんでした。むしろ協力的でしたよね。
相手がモンスターかどうか、命を懸けて闘うかどうかが違いの基準なのでしょうか?



川魚を捌いて頭やワタやヒレを取り、タワシや藁束で鱗やぬめりを取り、塩や香草や香辛料で下ごしらえをして、揚げたり焼いた
り蒸したりして昼食にします。
淡水性の川蟹や沢蟹は、蒸したり焼いたりでは赤い食用蟹と比べて味は今一なのですが、揚げて塩胡椒を利かせると結構いけます。
同じく揚げたり焼いたり蒸したりした芋やレンコンや野菜が副菜ですね。ドングリ主体の塩味クッキーパンが主食というかご飯の
代わりで。干しキノコとクジラの脂身と白瓜の煮物を汁代わりにして、漬け物は神殿で買ったオリーブの塩漬けで良いか。

一度米の飯食べてからは、食事の献立が日本料理方式でしか組み立てられなくなってしまいました。
米飯がないから、芋やドングリなどの澱粉類がメインで、汁物と漬け物が付いて基本セットの一汁一菜。これに肉・魚貝や野菜類
の主菜副菜が何種類か付き、果物とナッツと干物類が十種類以上付き、塩や蜂蜜や酢などの調味料が数種類付きます。
あと、それぞれが作った手前どぶろくや手前果実酒を持ち寄れば準備完了です。

魚醤は昨日尽き果てました。これならもっと買っておけば良かったですねー。
セルキーの集落でも魚の塩漬けや干物と一緒に、魚醤を作っているそうなので今度試しに注文してみましょう。

干した海草と干しキノコで濃いめに出汁を取って、竜田揚げ風に澱粉の衣を付けて揚げた芋や野菜を浸せば天ぷら気分。
塩やレモンの絞り汁を適当に振りかけて食べればフイッシュ&チップス気分です。
うーむ、返す返すも前回の神殿行きで小麦粉を買わなかったのは失敗でした。
ヒルデニア人の米ほどじゃありませんが、文明人にはパン中毒者が少なくないので神殿は小麦も輸入しているのですよ。米ほど切
実じゃありませんけどね。

米や魚醤を手に入れただけで満足していたのと、宝石などを持ち帰る為に荷物を減らしたかったから、小麦や小麦粉は見送ったの
です。
いや、あの日というか夜に骸骨騎士たちと遭遇したことを考えれば、荷物を減して正解だったのですがね。安全第一。
失敗というのは、白金貨を減らしてその分小麦粉を持って帰るべきだったという意味です。



試作しては失敗を繰り返していた木ねじ加工ですが、ウォスに頼んだら一発で成功しました。
成功の秘訣は、雌ねじを切らずに板材で済ませた事のようです。雄ねじ自体を大きめに作り、ねじの角度を緩めにして、必要な回
転数を上げてネジ山への負担を減らしたのですね。
雌ねじ代わりの板材を雄ねじよりやや弱い材質で作ってあるので、頻繁に交換する必要がありますがこの巣で使う分には問題あり
ません。
油を絞るのも、交換部品を用意するのも、部品を交換するのもオークたちですし。

そっかー 手彫りで雌ネジ作る必要なんてなかったのかー。
これもちょっと訊いたら解ることだったんですよね。この島で一番大きいオークの巣に搾り機が一つもないなんてありえないし、
その巣で育った幹部オーク達が搾り機の作り方を知っていても何もおかしくないのです。
現にウォスは、無理に雌ねじを作らなくても搾り機が作れることを知っていました。


なんで私、こんなにお馬鹿なんでしょうか。


あー 前世のお寺で坊さんが「地獄と極楽はたった一つしか違わぬ。それは住人よ」と説法してたのを思い出しました。
例えば地獄も極楽も、食堂ではメートル単位の箸を使ってしか食べられない決まりになっていて、極楽だと住人達が互いに食べさせ
あうから飢えずにすむけど、地獄は住人が互いを思いやれず信用もできないので食事もままならずに延々苦しむ羽目になるのだとか。

要は、信じることが出来ない人間、疑り深いだけの奴は馬鹿だってことですね。少なくとも信じすぎる、疑うことを知らない者と
同程度ぐらいには。
現に、私がオーク達をもう少し信じていたらこんな無駄を積み重ねなくて済んだのですから。
「無闇に疑わない」のと「信用する」のは、決して同じではないのですよ。


木ねじが出来たことで、私的産業革命への道が一歩前進しました。これが「重労働の一部を嫁に任せることもできる」という概念
をこの巣に浸透させる布石となるのです。

私がこの先どうなるのか、単純化すれば嫁入りするか出ていくかのどちらかになるわけで。
どちらにしても、数年後この巣には女達が暮らしている筈です。
私が嫁入りしない場合は、なんとかして代わりのお嫁さんを世話してあげたいのです。幸いこの巣のオーク達はとびきりのイイ男
揃い。彼ら好みの女の子で、オークの巣に嫁入りしても良いという人材も探せばきっと見つかるでしょう。
私が嫁入りするとしたら、女一人では色々キツイし寂しいからやはり嫁さんを増員します。

‥‥いや、だって、嫁入りはまだしも一妻多夫制の共同妻というのは元男な異世界人にはちょっと。一夫一妻でいくとしたらあぶれ
る二人にも嫁さんあてがわないといけません。
いえ、まだ決めてませんよ? 決まってないけど、一応そうなってしまった時のことも考えておくべきです。備えあれば憂いなし。


この巣では、木ねじ以上の工業的技術を求めるには無理がある。しかし、将来この巣で暮らす女達のために更なる設備投資を進め
たい。となれば外部の技術に頼るのが吉ですね。
神殿かあるいはコボルド族の集落に行けば、金属製で高精度な歯車が手に入る筈。高性能の歯車さえあれば本格的な遠心分離機も
作れます。そんな高性能機手に入れて「何に使うの?」と言われると困ってしまいますが。

蜂蜜の量産でも狙いましょうか?
あ、そういえば蜜蜂の巣箱設置したけど、それっきりで放置していて確認してませんでしたね。まだ新しい女王は入ってないと思
いますが、この前の嵐に耐えられたかどうか、雨漏りとかしてないかだけでも調べときましょう。


そんなわけで午後は近所を一巡りしようと思うのですが‥‥ うん、ウォスは一緒に出ますよね。今日はずっと洞窟かその手前か
ら動いてないし。




 ☆53日め4、うわぁなんかすごいことに☆


小外出のお供はウォスとドスに決まりました。お留守番で寂しそうにしていたグェスは、後で慰めてあげましょう。
そう言えば幹部たちとは神経衰弱やってませんね。帰ったら四人で遊技用テーブルを囲んでみますか。

おや、ヒョウタンの備蓄がもう無いですね。前に取ってきたヒョウタンが乾くにはあと何日かかるやら分かりませんから、今日
は青竹の入れ物を余分に作って持って行きますか。
節を抜いて、細長いコップ状またはバケツ状に加工した太竹に蜂蜜や果物を、ヒョウタンに漆や松ヤニなどの樹脂類を集めるつ
もりでしたが、両方とも太竹製容器に入れるとしましょう。

この太竹は地球の孟宗竹に似ていますが、より太く短い印象を見る者に与える植物で大きいモノは直径20センチ以上にもなり
ます。
私の頭がすっぽり入る大きさです。これなら中に輝夜姫が入っていても窮屈ではないでしょう。竹取のお爺さんの腕力で切り倒
せるかどうかが問題で‥‥もないか。

前世のご近所には、七十代後半にもなって自分より重たい杉の丸太担いで歩くご老体もおられましたからねー。
その昔は米寿過ぎてるのに、鎧着て馬乗って戦場に出て敵の首取ってくる化け物みたいなじーさんも実在したそうですし、マン
ガや映画に出てくる老達人は、決して嘘ではないんですよね。後漢の馬援とか。

まあ何処の業界でも、お歳をめされて動けなくなるご老体の方が数の上では多いのでしょうけどね。名君中の名君だった光武帝
も晩年には老害化の兆しが出てしまいましたし。それでも完全に老害化しないあたりが名君なんですけど。


何本も煙が立っている入り口前の空き地から、近所の採集地点を巡回しに出かけます。煙は燻製小屋の燻煙だけではありません。
余った木材でまた、丸木船式の容器を作ってもらっているのです。
この巣の住人のうち、幹部オークは比較的の忙しいです。やれることが多いですから。そして下っ端達は暇です。
巣の方へ近づく危険なモンスターがいないかどうか巡回して確かめたり、巡回中見かけた危険なモンスターを狩ったり、遺跡で
財宝や資材を漁ったりと、やれることが多くてそれなりに忙しい幹部オークたちと違い、下っ端オーク達は暇を持て余し気味な
のです。

だから、可愛い女の子に「これを作ってください」と頼まれたら、下っ端達は喜んで働いてくれます。
頼むときにきちんとお願いすること、頼んだことが出来たら感謝の気持ちを伝えること、仕事の出来映えを正当かつ公平に評価
すること、目覚ましい働きがあった者は誉めること、これさえ守っていればオークたちは良い労働力になります。
下手な人間よりよっぽど使いやすいというか、言葉や文化の問題がなければ前世の職場に来て欲しいぐらいですよ。管理職の適
性ゼロの私でも使いこなせるバイトなんて、そうそういませんからねー。

ええ、人を使うの駄目だったんですよ、前世の私。でもある日、職場の模様替えするからバイト君数名を使って作業しろって命
令されて‥‥。


何というか、妙な健気さがあるんですよね。下っ端達は。
私の肢体とか毛皮服の裾の下とかに興味津々な癖に、直接触れたりしないのですよ。アイドルの親衛隊やスタァのファンなら、
絶対に見逃さない好機にも、なんにもしないんです。
私が遊技用シーソーの上で踊ってたりするとガン見するし匂い嗅ぐし鼻息荒くして騒ぎますが、それだけです。

粗にして野なれど卑にあらず ってことでしょうか? 彼らには彼らなりの規範と美意識があるのです。
え? 本能に従っているだけじゃないのか ですか?
当然ですよ。人間だってその行動は99%本能に基づいてるのですから。昆虫類とかは完全百%本能ですけど。
咲き誇る花を見て感動する心も、子犬や子猫やカルガモ親子を見て和む心も、動物としての本能に基づいています。



棍棒片手のウォスが前衛、私を肩に乗せたドスが中衛、竹籠や竹筒を背負ったコブハナたち四人の下っ端が後衛の順で進みます。
オークや他の大型動物が踏み固めた小道をしばらく歩くと、この前恐鳥に荒らされていた適当果樹園に着きました。
実を言うと、蔦を取ったり枝を落としたり肥料を撒いたりといった大型果樹への手入れは、今も続けています。

「グヒッグヒッ」
「「ブギィィー!」」

レェ・ウォスが前に出て迎撃態勢を取り、下っ端達が警戒の声を上げます。
防鳥対策をしていない果樹の実をつついていた一匹の恐鳥が、私たちを見つけて突進してきました。

野生動物がマナを取り込んでモンスター化すると思い上がりというか無敵モード感覚に陥ってしまい、相手が格上でもお構いな
しに襲ってくることが多いようです。
恐鳥は突進してウォスへ蹴りつけてきました。人間の格闘技にありがちな小賢しい蹴りと違い、運動エネルギーの軸が全く揺ら
いでない、体重を乗せきった蹴りつけです。これを避けるには身体ごと脇に飛び退くしかなく、もしウォスがそうすれば恐鳥は
そのままの勢いで私たちの所まで突き進んでくるでしょう。

もちろんウォスがそんなことをする訳もなく、正面から受け止めました。棍棒で。
アイアン・ウッドの棍棒を両手で構え、野球のバントのように短い振りで蹴りを迎撃します。
そして、マンガなら「ゴシカァン!」という擬音で表現されそうな勢いで素足と棍棒が激突し、棍棒が勝利しました。

まあ、相撲取りで言えば関取と幕下ぐらい実力が違いますからねー。
もっとかな? 星システムで言えばモンスターになりたての恐鳥は精々4レベル前後の強さ。黒熊よりは強くて大怪鳥よりも弱い
ぐらいでしょう。幹部オークの敵じゃありません。

折れた足を引きずって逃げようとする恐鳥に止めを刺し、手早く血抜きと腸抜きと羽根毟りを済ませます。
恐鳥の死体はドスが担いで巣に走っていきました。ここからは幹部オークの脚力なら往復に10分もかからない距離なのです。

下っ端達は新鮮な鳥レバーをお裾分けで楽しんだ後、果樹の手入れを始めました。
残った幹部オークのウォスは私の護衛、そして周囲の警戒と緊急時に即応するために、手入れには参加しません。
私がいなければ、または下っ端の人数に余裕のあるなら違いますけど今は私とウォスを入れても6人しかいませんからね。

下っ端達は割と真面目に作業してます。木登りの下手なのが地上で蔦や蔓草を根本から切ったり、低い位置の実をもいだり、穴
を掘って生ゴミを埋めたりとかしてます。
さっきの解体で出た生ゴミだけでなく、巣から持ってきた生ゴミも埋めます。
卵の殻とか食べ残しの骨とかバナナの皮といった、臭いや蛆虫が発生しにくいゴミを持ってきて埋めるのです。
食器やテーブルクロス代わりに使ったバナナの葉っぱに包んだ、絞り滓や豆殻なども果樹園に埋めたり撒いたりします。
魚のアラとかの腐りやすい生ゴミは以前と同じくダストシュートから洞窟裏の川に投下しています。時間を置くと臭いますからね。

木登りの上手いのは木製の足場や梯子、切り取った蔓草から作った縄梯子などを使って高い位置に上がり、蔦や蔓草を切り取り、
枝を落としたり、多すぎる葉や蕾を取ったりと手入れをしています。
これらの作業は、私がやっていた手入れの様子を真似ているのです。下っ端達は意外に観察力高いのですよ。
見られているときは私にばかり視線が集中していると思いましたけど、見るべき所はきちんと見ていたのですね。

ええ、私が枝に上がって作業していた時は、これでもかってぐらいガン見されましたよ。今でも樹上に上がって手入れをすれば
見られまくりでしょうね。
見られる事が怖かった頃は高いところに上がるなんてとても出来ませんでしたが、見て貰える楽しさに目覚めてからはむしろ
積極的に上がって手入れ作業をしました。
今日はやりませんけどね。この人数でやると、覗けない見張り役と覗ける地上作業者と作業放り出してガン見してる奴が頻繁に
交代することになるので、仕事が進みませんから。

見られること自体は嫌じゃないし、巫女が落ちたり枝に毒蛇がいたら大変だからと言われれば「見るな」とは言えません。
命綱は付けてますけど、絶対安全なんてとても言えませんからね。万が一落ちたときは受け止めて貰わないといけないし。
今は付けていませんが、オークでも落ちたら怪我をする高さで作業するときは下っ端達にも命綱を付けさせています。巫女特権
で命令してます。


下っ端達の視線は熱烈すぎて引いてしまうこともありますが、いつ死ぬかも分からないこの島では仕方がないのです。
刹那的でも享楽的でも、少々がっつきすぎでも。
恥ずかしいですけど、今でも恥ずかしいですけどそれで彼らが少しでも幸せになれるのなら、気持ちよく一日を送れるのなら見
せパンツぐらい幾らでも見せてあげますよ。
今はあんなに元気な下っ端達ですが、明日には誰かいなくなっているかもしれません。一ヶ月後にはまず間違いなく、誰か欠員
が出ます。それがこの島の掟なのですから。




 ☆53日め5、なっちゃったような☆


どうもオーク達は、果樹の手入れをしたら果実目当てに鳥が来るようになったのを、私が最初から鳥が食べたいから鳥の餌場を
作っていたと解釈してしまったようです。
そりゃそうですよね。彼らにとってみれば果物は毎日の見回りや狩り場への往復のついでに集めるものであって、増産する必要
なんて欠片もないのですよ。今の時点で幾らでもあるんですから。

一人のオークが散歩するついでに集めたら、それだけで数人のオークが一日食べるだけの果物が手にはいるのですよ、この島は。
この辺りは比較的食料が乏しい地域なので、居候に食わせる分も入れると一時間近く散歩する必要がありますけどね。
それ以上集めても今度は持ちきれなくなりますので、一旦巣に帰る必要があります。

だからオーク達の巡回は一度に数㎞、一時間前後で終わります。基本的には。
私が一緒だと大抵伸びますね。巡回時間や道筋が不規則な方が巡回の盲点は少なくなるので、悪い事じゃありません。

他の目的がない限り、わざわざ果物の収穫量を増やす必要なんかないのです。既に食べきれないぐらいあるんですから。
果樹の実の付きを良くすれば虫や鳥が集まる。沢山実った果物だけでなく果物をねらう虫や小動物が目当てな肉食獣も集まる。
鳥や獣が集まればその糞や死骸が肥料になり、種や花粉が一緒に移動します。

つまり、何も考えずに果樹園を作ろうとした私の思いつきは、オークたちには新しい狩り場を作ろうとする試みに見えた訳です。
道理で協力的だと思った。


もちろん彼らも、見晴らしの良い水場や果樹の密集地が良い狩り場になることは知っています。
でも、南国で農業やるって結構難しいんですよ。雨が多いから土が少ない上に痩せ気味ですし、生態系が豊かすぎるから何か特定
の作物を植えようとすると競合する植物が邪魔するんです。
赤道付近で焼き畑農業が多いのは、それ以外の農業方式が難しいからなんですよ。可能だけど面倒なんです。石器時代から延々続
けられているだけの事はあって、焼き畑農法にも取り得があるのです。

例えば、桃なり梅なりの樹が欲しいからとその辺の地面に穴を掘って種を埋めても、無事に芽が出るとは限りません。うまく芽が
出てきても育つ途中で枯れたり腐ったり食われたりするかもしれません。そもそも梅の苗が根を伸ばそうとしても、栄養不足で量
も少ないこの島の土壌には、既に先客の植物がしっかり根を張っているのです。そこに割り込むのは簡単ではありません。

だから撒かれた種の殆どは樹になれません。それが自然の摂理です。ごく稀に、土壌を占領していた先客が枯れたり腐ったり燃え
たりして余裕が出来れば、上手く行けばその土地に根を張って大きく育つことも出来るかもしれませんが。
もしマンボウの産む卵が全部親になるまで成長したら、海が全てマンボウで埋め尽くされるのと同じ理屈です。


オーク達も果樹園を作るという概念は知っています。でも取り急いで作る必要もないのに、作るのにも維持するのにも少なくない
労働力が必要で、完成に何年もかかる果樹園を作ろうとは思わないのです。
わざわざ果樹園なんか作らなくても、食べるものは幾らでもあるのです。日々の生活の中で毎日好きな果物を食べて適当に種を撒
いていれば、果実のなる樹は減らないしむしろ増えていきますし。
オーク達は必要以上の収穫を必要としません。彼らの社会は自給自足地産地消が基本で、余分な食べ物を集めても腐らせてしまう
だけなのです。

そして私がやっていた、やろうとしていた素人農法は僅か数日で効果が現れ始め、一月余りが過ぎようとしている今では確実に以
前の数割り増しから数倍の果実が実っています。
そりゃーそうですよね。農法の歴史的に言えば弥生時代に鎌倉時代の農法を持ち込んだようなものですから。里山の柿や栗だって
放置しておくと蔦が絡まって枯れたり、枯れるまでいかなくとも実が殆ど付かなるんです。
仮にそれまで実を付けなかった樹が一割あったとして、その一本の樹が平均レベルにまで実を付けるようになれば、全体では一割
以上の収穫増になるんです。
蔦を取り除きや互いに絡まった枝を切り払って日当たりを良くして、僅かな肥料を撒くだけでも格段に違います。

撒いた肥料は消え失せる訳じゃありません。草木の幹や葉や実になって残ります。その残った(増えた)ものがまた他の生き物の糧
となり住処になるわけで、毎日肥料を撒けばその栄養素は食物連鎖の中に取り込まれてぐるぐる巡り回るのです。
理屈では解ってましたが、実際に見るとまた違いますね。

巣から直接川に、そして川から海に栄養分を帰すのではなく、巣から森へそして森から川へと経由する場所を増やすだけですから、
自然界を循環する栄養量自体は変わりません。
しかし人間は栄養の移動を意識的に行い、生態系を調整することができるのです。
万物の霊長とまでは言いませんが、人類が特別な生き物であることもまた確かなのですよ。


既に生えている果樹の実りを良くすることで狩り場を作り、その狩り場に集まる生き物が出す肥料や二酸化炭素を使って果樹を増
やし、狩り場の価値を段階的に上げていくこの手法は、種を撒いたり苗を植えたりする方法より格段に必要労力が少なく、効果が
直ぐに出て、段階的になら拡張だって簡単にできます。
オーク達にとって正にコロンブスの玉子だったようです。

ええ、私にとってもコロンブスというか、私がコロンブスの立場です。
ところで、トリビア的ですが「コロンブスが新大陸を発見したというのは間違い」という話はご存じでしょうか。

コロンブスの前にヴァイキングやフェニキア人が大西洋越えてるとか、更にその前に縄文人とかサモア人とか南洋の航海者が太平洋
越えてるとか、更に更に前の氷河期に干上がって出来たベーリング地峡から新大陸に渡った連中がいるだろとか、そういう問題じゃ
なくて‥‥。
実はクリストファー・コロンブス氏本人は、死ぬまで自分のたどり着いた場所がインド洋のどこかだと信じていたのですよ。
本人的には新大陸なんて概念自体が、なかったのかもしれません。

コロンブス氏は数学が苦手で、地球の大きさを間違って計算していたのです。西回りでインドを目指す方法を考えついた人々はそ
れまでも大勢いましたし、実際に試みた人も少数ながらいました。
しかしコロンブス氏と違って数学が得意だった多くの航海者たちは、余りに長い航路を考えて西回りを諦めるか、あるいは周到な
準備を重ねなければと考え慎重になりすぎて、コロンブス氏に先を越されてしまったのです。

思いつきで適当に行動したのに、成功してしまうこともあるんですよねえ。
もしもコロンブス氏に数学能力か、数学能力を持った友人があれば帆船でインドまで無補給航海なんて無茶は試みなかったでしょう。
‥‥‥‥忠告してくれる友人がいなかっただけかな?


二週間ぶりに来た果樹園は、前にも増して賑やかになってますね。オーク達が近寄ると大ニワトリや七面鳥サイズの鳥モドキが飛
んだり走ったりで逃げていき、日光浴中の大トカゲが捕獲イバラの茂みに潜り込みます。
そして虫や猪たちは構わずに餌を漁っています。樹上の大型毒蛇は警戒してますが、逃げるのはもっと接近してからですね。
彼らは自分がオークたちに敵わないことを知っていますが、同時にオーク達にとって魅力のある獲物でないことも知っています。
この島には、もっと狩りやすくて肉が美味しく皮が綺麗なヘビが幾らでもいるのですから。

恐鳥避けに張った木条網はそれなりに効果があったようで、モンスターでない普通の生物な大型陸生鳥類の食害は減ってきていま
す。
果樹の枝から枝に、地上2メートル半から3メートル半の高さに縄を張り巡らせて、その縄に捕獲イバラなど棘が生えた植物の蔓
や枝を絡ませたり括りつけたりしただけの代物ですが、大型鳥類に鬱陶しい思いをさせるには充分だったようです。
全部の果樹に張り巡らせてはないので完全ではありません。そもそもモンスター化したのや根性の据わった恐鳥は茨の棘を突破し
てしまうので、それなり以上の効果は望めないのです。


「プギー!」「プギッ」「プギッ」

オーク達の所に若い猪や子供の猪が集まってきて、果実を落としてくれるように強請っています。
猪が掘り返して倒さないように、果樹園の樹は根元付近に倒木や枝打ちして落とした果樹の枝や岩などを積んであります。
ですが猪たちには「根元に色々積んでいる樹の果物はオーク達が取ってくれる」という認識がありまして、オークたちは見回りの
度に果物を取ってくれと頼まれるのです。
猪がオークに食べ物を強請る習性というか伝統は、神殿発祥のようですね。この猪たちあるいはその先祖たちは、神殿の近くで育
ったのでしょう。

で、オーク族にとって猪は仲間みたいなものですから暇が有れば手が届く範囲の、持て余すぐらい暇が有れば梯子や踏み台や先端
が二股になってる棒を使って取れる範囲の果実を取ってやる訳です。
オーク達は、猪がいないときでも猪たちのために熟した果実や熟しすぎた果実を取り、果樹園の地面に投げ落としています。

地面に落ちた熟しすぎの果実はあっという間に虫やその他の小さな生き物に食べられてしまいますが、猪たちにとっては熟しすぎ
た実に集る虫や虫を狙う小動物も御馳走なのでそれはそれで良いのです。
地球の猪も鶏小屋襲ってブロイラー食い殺すぐらいはやりますからねー ファンタジー補正が付くこの島の猪にとっては小型の毒
蛇やヤシガニや大ムカデは美味しいおやつに過ぎません。
巨大ハンミョウとかのメートル越え級肉食甲虫は、流石におやつ感覚では食べられませんが。

若い果樹や苗の周りにも石や木材を積んで、掘り返しにくいようにしています。この木材はいずれ朽ちて腐葉土になり、果樹園の
新たな土になるでしょう。上手く行けば数年後には新たな果樹になるはずです。
たしか、果樹は苗を鉢植えにして根を刈り込んでから地面に植えれば、あまり高くならないのですが‥‥猪たちがいるから、この
島では無用の技術ですね。
私の手が届くくらいの高さに実った果実は猪たちが食べてしまいます。

いや、最初から猪に食べさせるためと考えればそれでも良いのかな? 根本に木条網や鉄条網を張り巡らせて、果樹の根を掘り返
したり幹を折ったりできないようにすれば、何十年でも猪たちが果実を食べれる訳ですし。

そんなに猪を優遇する意味はあるのか? と問われれば、私にはあるのですよ。
猪が増えれば、彼らが小型恐鳥や陸生ワニなどの恐ろしい捕食者の肉盾になってくれます。
それらの捕食者にとっても、普段は洞窟の中に隠れていて外に出るときは武装したオークに守られている人間の女子供を狙うよりは、
果樹園でうろちょろしているウリ坊を狙うほうが簡単な筈。猪が狙われる分、私の危険度は減ります。

捕食者たちが多すぎたり巣に近づきすぎるなら、捕殺して数を調節するまでです。
時間に余裕が出来たら、落とし穴や捕獲檻などの非殺傷系罠を仕掛けてみますか。猪や下っ端オークが引っかかったなら救助すれば良
いのです。


鉢植えから地面に植え直す方式の利点は、大きさを抑えることで実の付きを良くする所にあります。
上手く行けば野生状態の半分程度の時間で、果実が実るようになる筈。読んでて良かった園芸漫画。

試してみる価値はありそうですね。常夏で木々の成長が早いこの島なら、今から苗を集めれば鉢植えを2年以内に実の付く果樹に
育てられるでしょう。日本でも柿が4年、李や栗は二年で実が付くのです。年中温かいこの島なら半分近くにまで短縮できる筈。

あ、駄目だ。鉢植えを保管する場所がありません。
どうしましょう?
な、苗だから虫やモンスターに積極的に狙われる訳ではないし、いっそのこと保管しないという手もありですかね? 多少の損害
は覚悟の上で。それが嫌なら温室でも‥‥板ガラスが手に入りませんけど。
巣に帰ったらオーク達に、温室の概念について話してみましょう。何かヒントぐらいは掴めるかもしれません。


猪たちが割と暢気している事から分かると思いますが、この新しい狩り場は割と安全です。傍にオーク族がいれば、私が自分の足
で歩ける程度には。
果実を狙って集まるのは当然ながら植物食の生き物なので、護衛付きならそれほど危険でもないのです。猪たちが囮兼警報機にな
ってくれてますし。

でもこのまま果樹園が大きくなっていけば、虫や鳥や猪を狙う捕食者も増えるでしょうね。罠の設計を急いだ方が良さそうです。
青竹の檻じゃ強度が足りないかなあ? 確か北海道でヒグマ対策に檻の罠仕掛けたら、鉄の檻があっさり破られて逃げられたとか
いう話を聞いたのですが。
太さ12ミリの軟鉄棒材を溶接して作った檻だったそうですが、あれは犬用の檻をそのまま拡大した構造に問題があったと思うん
ですよね。もし15センチ角の格子状檻だったなら、そう簡単には破られなかった筈です。
まあ、私なら軟鉄でヒグマ用の檻なんか作りませんけど。


つくづく思うんですが、この島に来たばかりの頃の私って命知らずでしたよねえ。比較的安全な場所を通っていたとはいえ、何時
間も野外で単独行動していてヘビにも噛まれずサソリに刺されもしなかったあたり、運だけは良いのかもしれません。
洞窟裏の川で巨大亀に襲われたときも、猪たちがもう少し遅れて水辺に来ていたら、私が真っ先に食べられていたでしょう。

ここぞという時の運だけは本当に良いんですよねえ、私。
最初に出会ったオークがギュー・グェスな事も含めて。



 ☆53日め6、豊かなる大地の実り☆


恐鳥の死体を巣に届けてきたドスも混ざって一通り果樹の手入れをしたあとは、蜜蜂の巣箱の確認に行きました。
前世で見たのと同じ、木の板を組み合わせて作った四角い巣箱を竹の小屋に収めてみたのですが、次作るときは丸木船式の容器
にしましょう。今のままでは黒熊に見つかったらひとたまりもありません。

おお、10個作って半月で2個に入ってますよ。蜜蜂用建て売り住宅の需要はありそうですね。この島は常夏だし蜜蜂もセイヨ
ウミツバチかその近縁っぽいからこれからも新規入居が見込めます。
オーク達が野生のミツバチを襲って蜂蜜集めるのを止めて、巣箱で飼育するようになれば‥‥ どうしましょう? 

そりゃ沢山取れるようになりますけど、今でも食べきれないぐらいあるのでして。
蜂蜜酒を量産しても、売る相手がいなければうちの巣からアル中患者が出るだけです。神殿への奉納は運送力限界が、セルキー
たちへ売るには需要の限界がありますから。

あー 最悪の場合、黒熊をおびき寄せる餌だと思えば良いか。蜂蜜や蜂の子主食の熊って美味しいそうですし。
そう易々とは食べさせませんけどね。


農家育ちがミツバチを増やす理由はただ一つ、蜜蜂は可愛いからです! 見て愛らしく草花の受粉に役立ち蜜も蜜蝋も取れる。
しかも巣箱の設置と時々の世話以外ほぼ放置で良し! 常夏のこの島なら花が途切れて飢えることもありません。
昆虫界のスーパー○ブかトヨタ○イラックスかってぐらいに使い勝手の良い生き物ですよ。まさにキング・オブ・益虫!

将来のことはさておいて、巣箱に近い野生の蜜蜂の巣を襲い蜂蜜と蜜蝋の元を手に入れます。
黒熊やスズメバチと違いなるべく蜜蜂達への被害が少なくなるように配慮してますが、やはり壊してしまうことには変わりあり
ません。早く養蜂を軌道に乗せたいものです。


蜜蜂の様子を見たあとは漆やその他の樹脂類を回収して、新しい容器を取り付けます。明日にもまた回収する必要ありますね、
これは。別に溢れても良いけど、もったいないですし。
南国補正とファンタジー補正で、この島の漆類はたくさん取れます。量も種類も豊富です。
漆は防水・防虫・絶縁・補強・美観と万能の塗料ですが、ゴムの代わりにはならないのが問題ですね。


そういえば、ハラキズたちがアーモンドの実が無くなったと言ってましたね。次はアーモンド林に行きましょう。
プレ農業とはいえ、何十年何百年とやっていれば効果は出るもので、この島には食用植物が多いのです。有毒植物も多いのが
難点ですが。
とりあえず毒のない、食用の実がなる樹には目印代わりに縄を巻き付けて区別できるようにしています。
オーク達と違って、嗅覚が鈍い私には毒の有無が判別付けづらいし、一々場所を憶えてもいられないのですよ。

これも私の次に巣へやってくる女達のために‥‥ え? 普通の女は毎日採集に出たりしない?
いや、普通じゃない女、たとえばソーニャさんあたりなら嫁入りしても外出したりしますよ、きっと。


「グヒッグヒッ」
「おー いっぱい捕れましたね♪」

二人の幹部オークたちが、手投げ飛礫で落としたヤマネを何匹も持ってきました。オーク達がクルミなどの堅果類を増やして
いることもあってこの島には齧歯類も結構います。
小さな獲物を潰さないように仕留めるのって、意外と難しいのですよ。

某動物王国の主曰く、ネズミなど齧歯類の肉は大概美味しいそうですがヤマネの美味しさは本当でした。
いえねー 戦前生まれの人だからかもしれませんけど、ムツゴ○ウさんって美味と不味の境界値が低い人な気がするんですよ。
少なくとも私はコマイの干物がそんなに美味しいとは思わないんですよねー。ム○ゴロウ氏の著作だと本当に美味しそうに描
写してますけど、食べてみた感じそれ程でもないと‥‥いや、不味いとまでは言いませんが。

地球のものより大きい気がするヤマネですが、それでも精々温州みかんか甘柿程度の重さしかありません。量がある食材ではあ
りませんが、オーク達は珍味として楽しんでいます。
どうも西方文明圏の南部あたりで、ヤマネ料理はちょっとした御馳走扱いらしいです。たくさん捕れないせいかな?
そういえば某風呂漫画でもヤマネの揚げ物がローマ名物扱いだったような。

小動物は体温高いし肉が少ないから直ぐに腐ってしまいます。とっとと捌いてしまいましょう。
血抜きして、頭取って、腸取って、皮剥いで尻尾取って、肉に塩と香辛料を擦り込んで保存。皮にも塩をまぶしておきます。
ヤマネの毛皮は小物に使うと良い感じですよ。なめすのが面倒だけど。 
身は煮ても焼いても美味しいですが、やはり揚げ物が良いですね。フライドヤマネにすれば骨まで食べられるし。

オークたちは圧力釜は知りませんが、高圧力蒸気を使う料理方法は知ってました。
1、水で濡らしたバナナの葉で食材を包みます。
2、椰子の実殻に入れて、大岩の下敷きにします。
3、下敷きにした椰子の実殻の回りに薪を詰めて火を付けます。
4、殻の中の水分が尽きて殻が焦げ始めたら薪を除けて岩の下から殻を取り出します。

これは蒸気がダダ漏れになってしまうと只の蒸しものになってしまいますが、そこを腕と経験でなんとかするものだそうです。
漏れるけどそう簡単には漏れない、微妙な加減が要るのですね。
ヤマネ如き生でも骨ごと食べられる彼らがこんな料理法を知っているのは、母親達の料理を見ていたからです。
でも料理技術が大雑把な彼らには、ヤマネの揚げ物は難しい料理なのでした。

美味しい、少ない、手間が掛かる。確かにヤマネは御馳走として扱われる条件が揃ってます。
まあ、私が下処理のコツを掴んだからには毎日だって作れますけどね。毎日作ると乱獲になってしまいますが。


この島の生物でも、何でもかんでも大きくなる訳ではありません。セイタカアワダチソウらしきものなんかは、地球のものよ
りかなり小さいぐらいです。と言うかちっともセイタカじゃありません。
食用フルーツやナッツそれにベリーの類は全般的に大きいですね。草苺や蛇苺の類でもピンポン玉ぐらいにまで育ちます。
栗のなかには地球の小玉スイカやカボチャぐらいにまでなる種類もあり、数十メートルの樹上から落ちてくる大型イガの実は
凶器そのものだったりします。オークならともかく人間には危険すぎる。

太平洋を舞台にした実録戦記もので、南洋の島には「椰子が三本あれば人一人暮らせる」という言い回しがあると読んだこと
があります。実際の話、三本は言い過ぎですが椰子などの有用な樹が30本もあれば独り者が暮らすには充分な収入になるとか。
この島だと100メートル四方の土地があれば、一家族養ってお釣りが来ますよねえ。それもオークの胃袋で。
タンパク質はジャングルや迷宮や海に頼れば良い訳ですし。

極端な話、うちの巣の縄張りだけでも整備すれば千人ぐらいの人口が保てます。
きちんと整理整頓された、文明人が思い浮かべる農地とはかなり違いますが、人間を養う生産力は充分あります。

うん、「鉄の王」がこの島を狙ったのも解る。現神殿の周りだけでも一万や二万の人口が養えるだけのカロリーが手に入りま
すからね。
生で飲める豊富な水に、殆ど放置で幾らでも実る農地、豊富な地下資源。外洋を渡る海軍力さえあれば手に入れたくもなるで
しょう。モンスターがいなけりゃもっと良いんですが。

これだけ空き地というか無人の空間があるんだから、もう少し人口抑制策を緩めても良いと思うんですがねえ。もしまた西方
の列強国や他の魔王達が攻めてきたらどうするんでしょう?

何か増やせない理由があるのか、人間の10倍は生きる大母様の時間感覚がとにかく長いだけなのか。
これも調べるべきですね。



薪の備蓄を増やすために、また違う火炎松の林で松葉や枯れ枝や松ぼっくりを拾います。ついでに松の実を集める準備をして
おきますか。

1、バナナや椰子の葉を適当に折って、箱や袋のようなものを作ります。
2、傘が開きかけた松ぼっくりに、箱や袋を下側から被せて紐で固定します。
3、松ぼっくりが成熟して種を落としたら、被せたものを外して種を回収します。これで松の実を拾う手間が省けます。

薪や松ヤニや松の実や、松露や松茸などを貰っているだけではいけないので、生木の枝を何本か折って帰り道の荒れ地に突き
刺しておきます。取った種の一部も埋めましょう。
このうちの幾らかは根付き芽が出て育つでしょう。運が良ければ新い松林にだってなるかもしれません。




[38600] 18
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/05/01 11:36





 ☆53日め7、便利なものは誰でも欲しいのです☆


採集と見回りを終えて巣に帰ると、グェスが倉庫の拡張工事をしていました。大広間の壁を殴って壊しています。
ああ、縄やらスポンジもどきやら漆やらの以前から備蓄していたものに加えて、塩や石灰や油など新規の備蓄も始めましたか
ら、倉庫が狭くなったのですね。

持ち帰ったもろもろの品を食料庫やその他の場所に仕舞って、採集組も拡張工事に加わりました。
幹部オークたちが競い合うように拳で岩を砕き、下っ端達が砕かれた石や岩を外に運び出しています。
洞窟の中で、しかも狭いところに固まって岩を砕きまくってるので、とにかく喧しいです。退避退避。


うーむ、帰ったら神経衰弱しようと思っていたのに。まあ良いや。掃除の準備でもするとしましょう。
まずは耳栓を作りますか。蜜蝋を火鉢で炙って柔らかくして、糸くずに絡めてから耳穴に蓋をします。これで少しは騒音に耐
えられます。

次にほうき、ちりとり、ゴミバケツ、雑巾代わりのスポンジなどを用意します。バナナの葉っぱに弱い粘着剤を塗りつけて生
乾きにすれば、ガムテープの代用品になるのですよ。細かい粉取りには欠かせません。
工事現場には下っ端たちが竹製の水鉄砲や霧吹き器で絶えず水を掛け、石粉が舞わないようにしていますがそれでも工事すれ
ば洞窟全体が粉っぽくなることは避けられないのです。

というか、洞窟って全般的に暮らしにくいのです、人間にとっては。暗いし狭いし湿っぽいし。
温度が安定しているのは良いんですが。あと、外からゴミや埃が入ってくることは多いのに出ていくことが少ないのが困りも
のですね。

いや、考えてみればこの洞窟は土足で暮らしているようなもの。居住環境としては掘っ建て小屋レベルなのです。
これはいけません。オーク達はそれで一向に構わないのでしょうが、私はそうもいきません。
私だけでなく、私の後に来る女達のためにもこの巣の住み心地を改善せねば。

しかし何処から手をつけるべきか。
屋内用スリッパの導入‥‥は無理か。有事の即応性が下がったら本末転倒です。しかし土や泥が雑菌の塊なのも事実。
となるとまずは手水鉢と足洗い場の整備、その次に玄関マットの開発といきますか。長いタワシを並べて金網で挟めばそこそ
このものが作れる筈です。
ガムテープもどきは既にありますから、ゴミ取りローラーも直ぐに作れる筈です。手作りなのでコストが見合うかどうかが問
題ですけど。

元々きれい好きなオークたちですから、帰ったら手足を洗うことを習慣づけることも出来る筈。今だって帰り道の泉に足を浸
しているのですから、あれを巣の前まで引っ張ってくれば問題ない筈です。
いっそのこと出入り口の前に玉砂利でも敷いて‥‥スライムが湧きそうだから止めときますか。
浜辺の砂を撒くと砂が洞窟まで入って来るでしょうし、なかなか難しいですね。



そう言えば、袋の実験が途中でした。
私の部屋に戻って壁に吊した皮袋を手に取り、中身を床の毛皮にぶちまけます。
オーク達が持って帰った魔法の品(マジックアイテム)の一つであるこの皮袋は、見た目の数十倍の物品が入る上に物を入れても
重さや大きさが変わらない、いわゆる無限袋なのです。なので‥‥すが。

粘土を塗りつけた板に竹ナイフの先で刻んだメモ板と黒熊毛皮の上にある品々を見比べて、何が何個あるのかを確認します。
入れたものと時刻をそれぞれ記しておいたのですが、うん、やっぱり減ってます。
朝にはあったUの字型タワシが、三個ともなくなっています。消えたのはこれと、竹細工の水筒の二種類だけのようですね。
他の竹製品や違う形のタワシは無事です。それ以外の入れた物、石ころや塩コンブなどはちゃんと残っています。

大量に作ったタワシですが、大きく分けて丸型とUの字型と棒形があります。そしてこの袋にはそれぞれを三個ずつ入れていた
のですが、一種類消えて二種類しか残っていません。
私やこの巣の誰かが持っていってしまったのではなく、袋の中から出ることなく消え失せてしまったのですよ。
この魔法の袋は、無限袋ではなく貪り食う無限袋なのです。

水がいくらでも入る水筒とか、山ほど荷物を詰めても重くならない鞄とかはお伽話の定番アイテム。RPGの世界にも数多く出
てきます。近年の日本産RPGなら全種類のアイテムを最大限界まで入る袋を、主人公が初期から持っていることも多いですね。

しかし、TRPGプレイヤーは鑑定が完全でない限りその手のアイテムは使いません。余程の初心者でない限り。
この手の収納系アイテムのなかには、入れた物が何時のまにやら 消 え 失 せ る という洒落にならないものもあるから
です。それもかなりの頻度で。
沢山の荷物が入るけど、入れた物がなくなってしまう袋アイテムをゲーマーたちは 貪り食う袋 と呼び、スライムの次の次の
次ぐらいには警戒していました。

かく言う私もゲームマスターとして色々な変わり種を含む、無限袋に見せかけた貪り食う無限袋を出したものです。
容量限界の半分以上入れると物品消失のスイッチが入る袋とか、ただ消えるのではなく消えた物品そっくりに見える幻影魔法が
かかったガラクタと入れ替わる袋とか、特定種類のアイテムだけ消える袋とか色々。
そんな経験があったので、物がどんどん入る袋を手に入れても直ぐに活用したりせず、セミの抜け殻やや松ぼっくりやパパイヤ
の実や生きてるヤマネなどの様々な物品を入れて、様子を見ていたのです。

いやその、過去の経験とかよりも、自分なりに鑑定してみた結果がアレでして。

【???の袋】
・魔力が込められた袋だ
・それは革でできている
・それは凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは100種類までの物品が入る
・それは硬貨にして一万枚分の物品が入る
・それは物を入れても膨らまない
・それは物を入れても重さが変わらない
・それは入れた物の鮮度を保つ
・それは入れた物を???に???へ???する
※あなたは使用条件を満たしている

こんなメッセージが出てきた代物を、使ってみる気になれる人はまずいないと思います。
少なくとも私は、食料や財宝や秘薬を、この袋に入れて持ち歩く気にはなれません。危険地帯を動くときは尚更。
他は申し分ないのですが、一行だけが不穏すぎます。

多分、鑑定しきれてない一行は「それは入れた物を不定期的に???へ転送する」なのではないかと思います。???が何処な
のかはこの際どうでも良いですから気にしません。

中身が消えない無限袋なら幾つあっても邪魔になりませんが、この手の袋はそう幾つもは要りません。だからゲームの中では余
ったら売り捌いてました。
一家に一袋や二袋なら貪り食う袋も割と使えるのですよ。ゴミ出しに行く手間が省けますし、開けた宝箱などのガラクタを始末
するのに使えますからね。

でもやっぱり無限袋の方が良かったなー 交易に使えば数回分の物資を一度に運べますから。
グェスたち三人に、袋系のアイテムを優先して持って帰るように頼んでますのでそのうち無限袋も手にはいると思うのですよ。
数ヶ月後とか数年後になるかもしれませんけど。
神殿なら備品に使っているでしょうが、譲って貰えますかねえ? 貰えない可能性は高いです。

無限袋は運送だけでなく作業にも使えて、ナマモノや生き物の保存にも使えますからねえ。戦闘でも役に立つし。幾らあっても
足りないぐらいでしょう。
戦闘中、とっさに懐やポケットから取りだして使えるモノはそう多くありません。でも無限袋を懐やポケットに入れておけば、
予備の武器でも、回復薬でも、目潰し粉でもなんでも好きに取り出せます。

某怪物を狩る猟師になるゲームで、自宅の何でも入る大箱を狩り場に持ち込めるとしたらどれだけ狩りが楽になるか考えてみて
ください。無限袋を幾つも持てば、それとほぼ同じ事が可能になるのです。
余程の事情がないと手放す気にはなれませんよね。



 ☆54日め、寒いときに薄着でお酒を飲んではいけませんもっと寒くなります☆


おはようございます。ただいま玄関マット試作中の見習い巫女、レイちゃんです。
柔らかい方の玄関マットは、スポンジもどきを麻布で包み麻糸の網を被せて座布団をネットで包んだようなモノを作ってみま
した。
問題は泥を落とすための、固い方の玄関マットなんですが‥‥青銅の針金だと金網の強度に問題が出るので、いっそタワシを
むき出しにしてみようかと。
なにせ素足で岩山やジャングルを歩けますからねオークたちは。タワシがむき出しでもくすぐったいだけのようです。

風呂で使う簀の子のようなものを作って、その上に丈夫に作った大型タワシを並べ、連結して固定します。
これを出入り口に置いて、この上を通るようにして貰えば、いくらかでも洞窟内に入り込む泥が減る筈。手足を洗う手水鉢は
既に完成してますので、あとは水を引いて洗い場を作ればひとまず完成です。

あ、そういえば洗い場には屋根があった方が良いですよね。水気取りのスポンジが湿ってしまいますし。
でも小屋とか作ると目立ちすぎますし‥‥場所をずらして岩陰の下に移しましょうか? いや、それだと入り口付近で戦闘に
なった場合、戦力を潜ませておく場所が塞がってしまいます。
私の一存で決められるこではないので、後で三人と相談してみましょう。

手水鉢と言うより、牛や馬の水飲み桶が近いですかね? 西部劇の馬を繋ぐ所に置いてあるアレ。
底を平たくしてますので、むしろ細長いバスタブの方がより近いかもしれません。木製の洋風風呂桶。


風呂桶と言えば、一昨日あたりから余った木材で風呂桶を作っているのです。丸木船方式で焼き固めてから削った木材に漆を
塗り、乾かしてはまた塗るという漆器方式なので完成はかなり先になりますが。
‥‥作ってる最中で言うのも何ですけど、これはこの巣の風呂場では使いにくいですよねえ。
漆器だから使わないときは乾かした方が良いけど、温泉だから風呂場は年中無休二十四時間体制で湿度百%ですし。シャワー
も湿度的には同じようなものです。
使わないときは風呂場から出すとしても、一々運ぶのは面倒ですし。

ま、良いか。風呂場で使えないのなら、他の所で使えば良いのです。食料庫で殻付きのクルミや栗とかを入れるのに使っても
良いですし。その場合、蓋は金網で提灯みたいなの作って被せてみましょう。
銅や青銅でも、針金を太くしておけば普通のネズミには破られない筈です。モンスター化した巨大ネズミは破るでしょうけど。

ん? これ、ひっくり返したら蜜蜂の巣箱被いに使えませんかね?
漆塗りでない、木の地肌むき出しな丸木船風容器は既に何個か出来上がってます。これを屋根にして、下半分は岩で支え金網
で隙間を防げば蜜蜂にとって理想的な環境になるかもしれません。
天井にも補強して頑丈に作れば黒熊も怖くありませんし、金網を細かくしておけばスズメバチの被害も減らせます。
これも要研究リストの中に入れておきましょう。

巣といえば、果樹園や果樹園近くの木々に巣箱を置いて小型中型の鳥を繁殖させる計画も検討してみるべきかもしれません。
これまでは巣箱を量産する手間が面倒なので後回しにしてましたが、考えてみれば太竹を適当な長さに切って適当に穴を開け
たものでも小鳥が住むには充分なのですよ。
雨が吹き込まないように屋根を付けておけば完璧です。

木製の巣箱と比べると寿命は短くなりますが、毎年新しいのを作れば問題ありません。鳥は古びた巣箱には入らないので落下事
故などの可能性も低いですし。虫や蛇や齧歯類が住み着くかもしれませんがそれはそれで。
どっちにしろ生態系の密度は上がります。読んでて良かった羆害漫画。


私は本質的に趣味人(ディレッタント)ではありませんので、趣味のために生きている訳ではありません。
手段のために目的を選ばない人生は破滅への道があるのみです。戦略的に正しい行動を最初から放棄しているのですから。
「目的と目標を混同してはならない」って言ったのはモルトケだったっけ? ルーデンドルフ? 忘れちゃいました。

目的は私の生活が安定すること。目標はこの巣の住人を増やすこと。手段は食糧事情始め巣の周りの環境を改善すること。
故に、ただ周りの植生を豊かにすれば良いというものではありません。
亜熱帯よりの温帯もしくは温帯よりの亜熱帯なこの島ですが、いわゆる密林って人間から見ると生物の種類が多すぎて使いづら
い土地なんですよね。
生物全体にとって豊かな土地は、そのうちの一種である人類にとっては使えない部分が多すぎるのです。

密林は人口密度低いですからねー。暑い地域だと特に。
人類は、もう生まれ故郷である森には帰れないのです。少なくとも文明人は。
でも森は文明の維持に必要だから、育てなくてはいけません。自分たちにとって都合の良い森を。そんなわけで細々とですが苗
作りを始めました。
今は種の選別と植木鉢代わりの卵の殻集めをしている段階ですが。

昨日仕留めた恐鳥などを含め、この島には大型の鳥類が結構います。火山島ですが蟹やら魚やら昆虫やらからカルシュウムを
摂取しているらしく、大型鳥類の殻は分厚く丈夫なのです。
これを半分に割って、下側に水抜き穴を開ければ簡易植木鉢になります。

堆肥の製造も細々と始めていますが今は間に合わないので、腐葉土というか朽ちた倒木を砕いて川の泥などと混ぜたモノで代
用しています。これに軽石や火山灰土を混ぜて鉢植えの土にしていますが‥‥培養土って、どうやって作るんでしたっけ?
オーク達はプレ農業しか知らないので、この問題のヒントは貰えませんでした。
神殿に行けば、元農家の巫女さんからなにか聞けるかもしれません。今度行くときには手土産を忘れてはいけませんね。


手土産といえば、お菓子とか高級酒とかの贈答用アイテム制作を再開しました。レイちゃん酒造再稼働です。
自家製ワインのなかで特に出来の良いものを蒸留して、アルコール度数40前後のものを作ります。私論ですが、蒸留酒でその
まま味わえる限界が40°強だと思っています。
火がつくような酒はあくまでも水割りお湯割りカクテルなどに使う用であって、人間がそのまま飲むべき代物じゃありません。
ロシアの人だって緊急時以外、ウォッカは20°以下に薄めて飲むのですから。

ここまでは、普通のブランデーと変わらないのです。ここで現代知識チート発動! 出来上がった蒸留酒を壷に詰め、しっかり
と封をした上に椰子の実殻の被いを取り付けます。
隙間は粘土で塞いでおいて、椰子の実殻の更に上に薄い石板を置き、滝の下に安置すれば後は熟成を待つだけです。

蒸留酒は時間をおくと熟成が進み、味がまろやかになります。これは主に酒の中の水分子がアルコールの分子とくっつくからな
のですが、実はこの働きは微細な振動が加わることでより速く進むのです。
21世紀の地球では超音波発生装置を使い、通常の百倍速で熟成させることができました。
それ以前でも経験則的に「海に沈めた酒は良く熟する」事は知られていました。海の波や流れの振動が熟成を助けたのでしょう。

つまり、防水処置をした酒瓶を滝の下に置けば、通常の十倍速以上で熟成が進む訳です。海中に沈めた場合通常の五倍速で熟成
すると言われていますからね。絶え間なく振動が加わる滝壺なら、海中の倍は熟成が進むでしょう。
三年以上熟成させた酒が古酒(くーすー)と呼ばれる筈ですから、数ヶ月沈めておけば滝壺酒の味は格段に変わっている筈です。
これなら贈答用にぴったり。
この巣にはまだお客さんが来る予定はありませんけど、来客用に備えて幾つか増産しておきましょう。問題はそろそろ滝壺に
置く場所がなくなりつつあることですが‥‥水に頼らない熟成方法も考えてはいますので、近いうちに試してみます。


さて、何故に中断していた蒸留酒作りを再開したかと言えば‥‥ ふっふっふっ。
作ったお酒の運搬手段が見つかったからなんですよ。ええ。




 ☆54日めの2、オー・デ・コロンは傷の消毒にも使えるのです☆


さて、件の貪り食う無限袋なのですが、アイテムを入れたり出したり色々しているうちに、解ったことがあります。
というか今日気付いたのですが。
それは、この袋は 中 に 入 れ た モ ノ が 消 え る の に 一 時 間 以 上 か か る ことです。

つまりですね、何かをこの袋に入れて、59分59秒以内に取り出せば消えない訳です。
この事実に気付いて以来、問題の一行が

・それは入れた物を1~100時間後に???へ???する

に変わったので、間違いありません。実験記録を纏めたノートを参照してみると、確かに入れっぱなしにしておいたアイテムで
丸四日以上経って消えていないモノはありませんでした。
余談ですが、この巣には時計はありませんが線香や蝋燭や水時計代わりの竹筒などでそこそこ正確な時間が計れます。
誤差は一時間あたり精々1分か2分でしょう。少なくとも5分6分という違いはない筈です。


50分動いて5分か10分休憩して、休憩の度に貪り食う無限袋から荷物を出しておけば、一万コイン分の荷物を重量ゼロで運
べるのですよ。
和マンチキン的発想ですが、それが出来てしまうのだから仕方がありません。ゲームの中ではゲームマスターが「ダメ」と言わ
ない限り何しても良いんです。
ましてや現実なら、出来ることは何でもやって良いのです。それが人間の業なのですから。
近代で最も大きな被害を与えた詐欺手口の開発者も言ってます、「人間は、空想できる事は大概実現してしまう」と。

複数そして多種類の荷物も大きな樽などに入れておけば、纏めて一つのアイテムとして出し入れできるので手間も要りません。
やったねレイちゃん、これで運送力大幅UPですよ!

これで交易の効率が数倍に上がります。無限袋の数が増えれば増えるほど運搬力が上がってきます。
普通の無限袋に比べると手間が掛かりますが、需要の問題で貪り食う袋の方が手に入れやすい筈。魔法の収納袋が複数揃えば、
整備された街道と馬車が手に入ったのと同じです。

あー うん、東方文明圏でインフラ整備が進まない理由が解りますね。
橋や街道や港湾を整備して維持する手間暇よりも、収納系アイテムを手に入れて管理する手間暇の方が少ないのですよ。
敵というか味方以外にも使われてしまう公共物よりも、臣下や同盟者に無限袋配った方が富と権力を独占し易いでしょうし。
他の者は荷物を運べないのに自分は運べる。これは絶対的な優位となるのですから。

え? オーク島の市場で捌ける量には限度があるから、交易で儲けることは難しいんじゃないのか? ですか?
儲けるために交易するんじゃありません。 浪 費 す る た め に するんです! 

南洋の土着民にあるポトラッチ(大盤振る舞い)思想ですね。
この島は財産を持っている者ではなく、財産を分け与える者がビッグ・マンとして尊敬され何目も置かれる社会なのです。
溜め込む者が偉いのではなく、使う者が偉いのですよ。むしろ儲けなんか出しちゃいけません。

極端な話、辺りに腐るほどある果実や薪材を集めて神殿に奉納するだけでも良いのです。
そうすればこの巣の評判は上がり、神殿を中心としたこの島の社会で舐められなくなるのですから。
実力と比べて世間の評判が悪いのですよ、グェスたち三人は。強いけど変人扱いですし。


ええと、一万コインが500㎏未満ってとこですよね。
確か常人が一日に必要とする食料は、穀物なら800グラム、肉なら300グラムでしたっけ? カロリー的には。
つまり米なら一月当たり一人約600コイン。一万コイン分の食料を月に一度運べば人間の嫁さん15人分の食い扶持が満たさ
れる訳です。
よほど大きな集落でない限り、複数の無限袋を持った採集隊を月に何度か出すだけで必要な物資が揃うでしょう。巣の近くでも
手に入らない物資の方が少ないでしょうし。
採集の指揮と本陣の護衛に5~6名の戦士オークがいればなんとでもなります。出来れば幹部オークが2名欲しいですけど。


コボルド族は獲物の少ない火山地域に住んでいて、採掘品や加工品・工芸品を平地や海際の部族と交換して暮らしてると聞いて
ましたが‥‥彼らも無限袋かそれに近いアイテム類を運搬に使っているのですね。
この島の道路事情とモンスター遭遇率からして、そうでもしなければ山中の集落は貿易なんてやってられないでしょう。


ああ、なるほど。
神殿の市場で店開いていたオークたちに付き添っていた女達は、無限袋の管理が仕事だったんだ。
彼女達がいればオーク達に使えないアイテムが使えるから、運搬力が一気に上がります。
眼鏡の奥さんのような、店番もできる女もいますけどまず第一の役目はそっちなんですね。ついでに健康診断や交流もすると。
ひ弱な女と値打ち物の交易品を守りきるには、腕力と度胸そして判断力が必要です。
そして、それでも足手まといがお馬鹿過ぎると守り切れません。
オークの交易者は腕自慢で、切れ者で、よくできた嫁さんがいないといけないのですね。
神殿が嫁さん候補たちに武術を、基本だけでも仕込みたがるのも尤もです。


三人に聞いてみたところ、彼らが生まれ育った集落でもこの手の袋は貯蔵庫や金庫、そしてゴミ箱代わりに使われていたそうで
す。
流石にゴミ箱へ荷物を詰めて運ぶ人はいなかったようですが、神殿への行き来に同行する女達は無限袋を使っていたのです。
あー そう言えば、浜辺でワニ人と決闘したときに、凄い勢いで金貨の山が出来てましたけど、あの金貨のうち何割かは収納系
アイテムの中から出ていたのですね。
道理で凄い勢いで山ができた訳だ。

無限袋などのアイテムは大事に使えば100年やそこらは使える訳でして、代々の戦士達が遺跡から掘り出してきたアイテムは
遺産相続などで受け継がれ、巣の繁栄に役立つのです。
でもオーク達には無限袋の有難味がもうひとつ解ってないようです。そりゃまあ、無くても生活できますからね彼らは。
この袋のように自分では使えないアイテムなら尚更です。


何はともあれ、交易の可能性が見えてきました。今月末の神殿行きに備えて、今から交易品やお供物の用意をしておきましょう。
景気のよい巣だと評判になれば移住希望の下っ端も増えて、人手が増えます。
将来、私がこの巣に留まるにしても出て行くにしても、大いに盛り上げたいじゃありませんか。

まずは薬用アルコールの増産ですかね。傷の消毒に良し、焚き火の着火に良し、汗取りにも虫さされにも良し。
こっちは熟成する手間も要りませんし。
さっそく今日からでも酒の仕込みを増やしましょう。サトウキビの運搬にも無限袋が役に立つ筈です。



 ☆54日め3、一人一袋欲しいぐらいです。できればもっと☆


突然ですが、貪り食う無限袋の違う活用法を見つけました。
このアイテム、危険物処理器としてつかえます。

例えば、うっかり猛毒の蔓草汁(クラーレ)を床に零してしまったとします。
普通はスポンジなどでふき取るのですが、手に怪我をしていたりすると迂闊に触るわけにはいきません。
しかしこの貪り食う袋をこぼれた毒液に近づけて念じれば、これこの通り。掃除機で吸い込むように収納できました。
あとは容器に戻すなり、ゴミ捨て場に捨てるなり好きにすれば良いのです。

この無限袋は、中に入れた物からはダメージを受けないのですよ。中に入れた物は時間が止まっているから当然ですけど。
間違いありません。火のついた蝋燭や、丸めたクジラのヒゲなどを入れて観察してみた結果です。
蝋燭だけでなく、松明も焚き火の燃えさしも袋の中では写真や模型のように炎が止まって見えます。竹細工やクジラのヒゲなど
を使った絡繰りは、弾性を発揮しようとしているその瞬間のまま静止してるのです。

前世の私は、貪り食う無限袋って罠アイテムの類で、完全に鑑定していないアイテムを使っちゃう迂闊な冒険者を嘲笑うために
作られたものだとばかり思っていました。
でも今はちょっと違います。
ひょっとすると貪り食う無限袋って、爆弾処理用具みたいな物なのではないでしょうか。
多種類の危険物を大量に入れる事ができ、しかも最低一時間は保管でき、静止状態とはいえ観察もできる。立派に実用品です。
一度仕舞えば、後は放置しておけば消え失せるのですからこれ程楽な危険物処理方法はありません。


考えてみれば、いくらゲーム世界だからとはいえジョークアイテムにしては出現頻度が多すぎるんですよね。貪り食う袋って。
下手をすると普通の無限袋よりも頻繁に、宝箱などから出てきたぐらいですから。
あれは暇な魔術師が冒険者への嫌がらせで作りに作くりまくった結果だと考えるよりは、一部屋に一つとかの感覚で使っていた
魔法のゴミ袋だったと考えた方が自然な気がします。

制作者の真意は確かめようもありませんが、今は洞窟内の運搬用に貪り食う袋を使ってます。
私一人ではびくともしない大荷物でも入れて運べるので、近場の運搬にはもってこいですね。
て、言うか数日前に解っていたらクジラ肉の運搬にも使っていたのですが。


更に、というか今更気付いたのですが‥‥この袋、物を数えるのに使えます。
適当に硬貨を詰め込んでから中身を確認すれば、それぞれ何枚の硬貨が入っているか分かるのです。ちなみにさっき入れたコイ
ンの山は金貨が876枚、白金貨が681枚ですね。

で、袋に入れるときは混ぜこぜで入れても、袋から出すときは一種類だけ選んで出せるわけでして。
文字通りの玉石混淆な状態のアレコレを一気にぶち込んで、その中から玉なり石なり好きなモノを選んで引っ張り出せるのです。
流石はファンタジー世界。凄すぎる。

‥‥‥‥あ、そうか。
コレ、砂金掘りが、いや採掘者が使うべきアイテムなんだ。
砂金なり宝石なり鉱石なり、掘った土くれを放り込んで分別して取り出せる。要らない物や危険なモノは袋に入れっぱなしにし
ておけばそのうち消えてなくなるのですから、土壌や水源を汚染する危険性が低いのです。
勘違いかもしれないけど、貪り食う無限袋が分別処理用のアイテムだとしたら、あの出現頻度にも納得できます。
そうか、そういう事だったんですね。奥が深いなあファンタジー。

この巣の活動で言えば、砂金掘りに宝石掘りに薬草集め‥‥キノコの選別には使えないでしょうね。私が識別できない物は一緒
くたに扱われますから。
袋の使用者というか中を覗いている人間の認識によって、分別基準や並び方が変わるようです。
グェスなら見分けが付くキノコも、私だとさっぱり解らないのですよ。だから食用と有毒のキノコの区別が付かない訳で。
もしも私に毒物を見分ける能力があれば、雑多なキノコの山を有毒と無毒に分けることも出来るのですが。

うん、やっぱり袋系のアイテムを集めないといけませんね。貪り食う袋も食わない袋も、どちらも使えるアイテムですから。


さて、採ってきたサトウキビを車輪式の石臼で潰し、新型の搾り機で搾ってラム酒の元を作ってみました。
ちなみに醸し用の容器は太竹を切って作った特大の竹製花入れ状のものです。大瓶に入れて作ると雑菌が勝っちゃった場合に全
滅する危険がありますから。
蒸留するから、薬用やファイアースターターに使う分にはちょっとぐらい雑菌が混じっていても構わないのですが‥‥流石に納
豆菌入りはちょっと。

バチルス・ナットウは菌類の中でも特にしぶとい連中で、酒造りの大敵なのです。
煮たり揚げたりでは死滅どころか、活性化して益々元気になるぐらいですから。
いえね、オークたちが納豆の味に目覚めちゃいまして。巣の風呂場や出入り口近くには蒸し豆の入った竹筒や椰子の実殻が置か
れるようになってしまったのです。
二つに割った椰子の実殻に蒸し豆と藁を入れ、スポンジもどきを挟んで殻を被せて軽く縛り、温かいところにしばらく置けば出
来上がり。朝仕込んで出入り口近くの木陰に置いて、夕方回収すれば丁度食べ頃です。

この島は昼間でも野外気温は木陰なら精々30℃から32℃程度、夜になっても数度下がるだけです。
つまり酒造りに適した環境なのですが同時に納豆菌にも住み良い環境でして‥‥顕微鏡で見ればこの洞窟とその周辺は至るとこ
ろで酵母菌と納豆菌が仁義なき抗争を繰り広げている筈です。
一応容器にはゴミや埃が入らないように、火で炙ったスポンジもどきで蓋をしてはいるのですが、納豆菌がそんなもので止まる
訳もありませんし。

そんな訳で、新規のラム酒は太竹製容器に詰めてシャワー室の隅や下っ端居住区の端で醸しています。
巣の外側に近い場所で洞窟の中では温かいから酵母菌が活動しやすいし、外から絶えず空気が流れ込んでいるので比較的納豆菌
が入り込みにくいのです。



 ☆54日め4、船に乗っていても地上最強は地上最強です☆


朝のお勤め、玄関マットなどの試作と製造、見回りを兼ねたサトウキビ採取、お昼ご飯、酒造りと結構忙しいのですが、座学と
実学の比率が逆転していることさえ除けば前世の小学生時代も似たようなものでした。
頭のおかしい教師や保護者がいない分だけ、こっちの方が過ごしやすいぐらいです。古代というか原始社会は色々と面倒ですが、
敵と味方がはっきりしている点は有り難いですね。
この巣では、モンスターは外にいるのですから。


さて、夕方が近くなってきた時刻ですが、オークたちはグェスとウォスがそれぞれ単独で見回りに出ました。
ドスと下っ端達はお留守番、私は宝物庫で金貨を運んでいます。

いえね、幹部オーク達三人に魔法の品(マジックアイテム)について色々訊いていたら、宝物庫の中にまだ幾つかアイテムがあっ
た筈という話が出まして。
どうもこの金貨の山に埋もれているようなのです。
で、貪り食う無限袋を使えば私でも金貨の運搬と混じっている物の選別が出来るので、宝物庫に丸木船式容器を持ち込んでコイ
ンを運んでいる訳です。もうジャラジャラと。

しかし、金貨もこれだけあると有難味が薄れますねー。どももこの世界では黄金がレアメタルと言うよりアンコモンメタルにな
るくらい豊富に採掘できるようですし。
いや、待った。そもそも金鉱石の採掘なんてしていないかも。この世界の貴金属類は迷宮から掘り出すものであって鉱石を鉛や
水銀で煮込んで絞り出すものではないのかもしれません。

確か神殿でソーニャさんと、その辺りについても話した筈なのですが‥‥さっぱり思い出せません。
お酒飲んで聞いたのが拙かったかなあ。


バスタブ風容器に金貨を山盛りしてみましたが、それでもまだ半分以上残っています。
金貨は元々宝物庫の窪みに入れていたので、見た目よりも更に量が多かったのですね。
グェスたち三人が元の集落から独立して引っ越してきたのが二年ちょっと前でしたっけ? たった二年で、しかも特に優先せず
に集めた金貨がトン単位になるのですから、この島全体だと年間数百トンの黄金が採掘されている訳です。

うん、これならトカゲ人じゃなくても戦艦で巡回したくなるわ。
佐渡島に岩見と阿仁の鉱脈とダイヤモンドビーチを上乗せしたような土地が、信長の○望に出てくるようなものです。


で、金貨の池から出てきたアイテムは‥‥事前情報のとおり、変な形の箱ですね。総金属製の金庫というか電子レンジのような、
扉付きの四角い箱の上下に、大きな椀のような飾りが付いています。
オーク達がここに引っ越したばかりの頃迷宮の奥で見つけたこの箱は、何がなんだか解らないけど強い魔法のかかったアイテムな
ので持って帰って宝物庫に入れたそうです。

直接的な危険はなさそうなので、触ってみますか。

【???の???】
・金属を加工する魔法装置だ
・それは特別な品だ
・それは鉄でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは入れた硬貨を金属塊に、金属塊を硬貨に変換する
・それは硬貨にして一万枚分の金属が入る
・それは価値のある金属でないと入らない
・それは物を入れても膨らまない
・それは物を入れても重さが変わらない
・それはとても重たい
・それは大地の上でないと使えない
※あなたは使用条件を満たしている

見た感じ、コイン鋳造機でしょうか?
三人の話では、彼らにもこの取説メッセージは分かったものの何故か使えなかったそうですが。

確かに、コインを中に入れても何も起きませんね。でも、金庫の扉を閉めることが起動スイッチなのは確かなのです。
ふむ? 不親切な取扱説明書を読みながら機材の操作方法を探る。元文明人にはお馴染みの状況ですね。
取りあえず見やすい場所まで引き上げますか。一旦袋に入れて、平らな地面に出し‥‥って重たっ! 本体重量5000コイン
分って、オーク並かそれ以上に重たいですよ。
私では袋を使わないと動かすこともできませんね。


ん? 箱の裏面にも同じ形の扉が付いてますね。でも表側とは取っ手も開き方も反対で、そして片方が開いているともう片方は
決して開かない構造になっています。
なんだこりゃ? よく見るとこのアイテム、表面と裏面が上下逆向きで対称になってますよ。巴模様というか棒磁石を二本重ね
た状態というか。数字の69でも可。
そもそも、このでかいお椀みたいなものは一体何なのでしょう。箱と一体化してますし只の飾りではなさそうですが。

使用条件を満たしているから使える筈なのに、使えない。ということは使い方が間違っている?
材料を置いて、扉を閉める。そうすると機材が効果を発揮して硬貨やインゴットをインゴットや硬貨に変換する訳ですよね。
‥‥‥‥もう少し、触ってみますか。

はて?
何やら 置く → 閉める →     → 開ける → 取り出す といった感じの操作イメージが湧いてきたのですが?
空白の部分には何が入るのでしょうか。なにやらもやもやとしたイメージしかありませんがこの感覚は‥‥前世で言うなら自動
販売機のアレに似てます。ごっとん って擬音で表現されるべきものに。

もしかしてこの「大地の上でないと使えない」って、地脈がどうの根の力がこうのといった話じゃなくて、重力がないと使えな
いってぐらいの意味ですか?
‥‥うん、今触ったら「・それは地上でしか使えない」に取説メッセージが変わってます。
海の上でも地上って呼びますもんね。海底だって地面のうちだし。


と、言うわけで名称不明アイテムの使い方が解りました。
地面に置く → 上の椀にコインか金属塊を置く → 下の箱の扉を閉めると椀の上のものが消える、どちらか一方でも扉が開
いていると椀の上の物は消えない → 表の扉を開けると硬貨が、裏の扉を開けるとインゴットが出てくる。
という訳ですね。二つの扉が同時に開かないのはこのためですか。

うーん、役に立つのか立たないのか微妙なアイテムですね。いえ、私が財政建て直しを目指している地方領主やその部下なら有
り難いアイテムなのですが、この島で金貨と金塊の変換が出来てもそれ程嬉しくはないので‥‥。
でもないか。砂金を金貨に変えられるだけでも結構違います。

一度コインかインゴットにすれば、金属製品の成分調査もできるようですし。‥‥あ、でも金銀銅のような「硬貨にする」金属
でないと使えないのか。
なんか変な制限ですね。価値のない金属なんてこの世に存在するのでしょうか? 産業廃棄物にかなり近いパチンコ玉だって護
身具の材料になりますし、使い捨てハンガーの針金だって朝顔の蔓を這わせる事ぐらいには使えます。
産業廃棄物だって、嫌がらせや自然破壊の道具としては使える訳ですし。

資材倉庫の金属で色々実験してみましたが、どうやら大概の物が「価値がある」ものに含まれるようですね。
日本語で言う「金目の物」的な意味なのでしょうか?
資源備蓄のために、ニッケルとかで通貨を作っている国もありますからね。大昔は鉄が貴金属扱いでしたし、アルミも電気精錬
技術が開発される前は超高級品でした。

変換できるのは銀食器や真鍮の壷など総金属製の品物だけで、鱗鎧(スケイルアーマー)とか木製の柄がついた鉄の金槌は変換で
きませんでした。
そして実験の結果、この装置は錆びた金属をある程度還元できることも解りました。
ぼろぼろに錆びてしまうと無理ですが、黒ずんだ銀貨や緑色になった銅貨程度なら硬貨→金属塊→硬貨の変換で元に戻せます。
ただ大量に錆び取りすると、ほんの僅かですが目減りしてますね。
真っ黒になった銀貨でも千枚還元して一枚分にも満たない量ですが、消えた質量が何処に行ったのかはさっぱり分かりません。






[38600] 19
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/10/03 12:15



 ☆54日め5、ミル○ーはママの味☆


本日の夕食は
・どんぐり粉のお好み焼き(すり下ろし山芋入りでとってもやわらか)
・青ウリの塩漬け
・磯の小魚汁
・昆布とクジラ肉とカボチャの煮物(カレーもどき風味)
・大トカゲの蒸し焼き(腸抜きして香味野菜などを詰めてます)
・ナマズ切り身の揚げ物(果物ソースがけ)
・ヤシガニの炙り焼き
・クジラベーコンとタマネギと未熟な碁石豆の炒め物
・茹でオクラと蒸かした芋の和え物
・器に盛った果物に椰子シロップとラム酒を振りかけたフルーツパンチ(じゃぶじゃぶと)

などです。
お好み焼きはソースが無いので塩ダレ味です。塩ダレは塩とトビウオの干物と干し昆布で作りました。
マヨネーズは作れたのですが、日本風ウスターソースはちょっと作れる気がしませんね。あれは製法が複雑すぎる。
いえ、基になった英国風ウースターソースの方も作れませんけど。

カレー粉は未だ開発中です。試作を繰り返して徐々に地球のものへ近づいてきてはいるのですが、何か違うんですよねー。
こんなことならもっとカレー屋漫画を読み込んでおくんでした。

これらに定番の芋やバナナや各種の生果物に生野菜、燻製肉や蜂蜜などが付いてます。
この島のバナナは果物として食べるバナナもありますが、芋のように主食または準主食として食べる甘味の少ないバナナもあ
るのです。
この島でも、バナナはおやつに入らないのでしょうね。遠足文化というか、幼年オークたちにはボーイスカウトの行軍演習み
たいな行事があるようですし。


ふむ。駄菓子の開発もしておくべきですね。私も食べたいし。
もし私がこの巣に留まり続けるとしたら、早ければ(遅くとも?)三年後ぐらいには子供オークがこの場にいて焚き火を囲んで
いる訳で。
子供たちには駄菓子を食べる幸せだけではなく、駄菓子を選ぶ悩ましさも与えてあげたいものです。おやつは三百円まで~。

今この場にある駄菓子と呼べそうなものは里芋チップスや芋の実の芋ケンピもどき、煎りクルミの糖衣掛けぐらいですか。
干しぶどうや塩味の炒り豆や蜂蜜そのままとかは駄菓子と呼ぶには無理がありますし。
駄菓子の定番と言えば、羊羹・煎餅・キャラメル・飴玉・粟おこし・大福餅・サキイカ・酢昆布・甘納豆・ドライソーセージ
・マシュマロ・チョコレートぐらいですか。
幾つかは私にも作れそうですね。この世界にも定番のお菓子はあるでしょうし。

「んー みんなの定番お菓子って何ですか?」
「「「グヒッ?」」」

幹部三人の話ではクッキーに近いものやパイらしきもの、果物のシャーベットなどがお菓子の定番だったようです。
ただ、オークの文化ではお菓子と軽食にはっきりした区切りがないらしく、カミキリムシの幼虫の炙り焼きや大セミの幼虫の
素揚げなどもお菓子の類に入るようですね。
中華料理の点心に近い感覚かもしれません。

ちなみにそこそこの魔術師は魔法で氷を作れますし、大きな巣だと氷を作るアイテムが一つや二つはあるのでオーク達も氷菓
子や冷酒の概念は知っています。
全般的にオーク族は冷たい食品を好まない傾向があるようですが。
まあ、麺やコーヒーどころか、カレーまで冷やして食べる日本人の方が変と言えば変なんですけどね。



夕食の後、幹部オーク達は部屋に引っ込んだりお風呂に入ったりで思い思いに過ごしています。
下っ端達は自分達で作った料理やおつまみに私たちの残り物も加えて、宴会に突入しました。
私やレェ・ウォスの影響でしょうか、先週あたりから下っ端達の一部が料理を始めました。
失敗が多いようですが少しずつ経験を積んでいるようです。
デコバチやタレミミなど見所のありそうなオークには私が手取り足取りで教えていますので、料理技能持ちオークが誕生する
のもそう遠くはないかもしれません。


私は、自分の部屋でこしこしと水晶板を磨いています。
堅い木材に強力接着剤を塗って屑宝石の粉を振りかけて作った棒ヤスリや同じようにして作った布ヤスリなどを使い、ひたす
らに磨きます。
なんとか形になってきましたかね? この凹レンズも。

水晶球を使った火起こしとかも知っていたオークたちは、当然ながら凸レンズの概念も知っていました。
凸レンズを使った虫眼鏡(ルーペ)は点火用だけでなく、細かい作業‥‥特にややお歳を召された女達が針仕事などをするとき
の必需品だそうです。
コボルド族が磨き上げた透明で大きな凸レンズは「このレンズが手放せなくなる歳になるまで一緒にいよう」という意味を込
めた贈り物として、年上の女に求婚する時の定番アイテムだとか。
ウォスの兄さんも、三人の父親が死んで寡婦となった母親を引き取る時に自分で磨いたレンズを渡したそうですし。

‥‥思いっきり近親婚ですよね、それって。
ただ単に一緒に暮らしているだけじゃなくて、子供も出来たそうですし。
まあ、人類だって原始社会だとそっち方面の縛りが緩いですからねー。神話の世界だと母×息子・父×娘・兄×妹・姉×弟の
組み合わせが民族の祖になった話だらけですし。

あれは数万年前、天変地異で地球総人口数が一万人を割り込んだ時代とそこからの復興期の記憶が物語として伝わった結果な
んじゃないかと思います。
数万年前既に人類は地球のあちこちに分散してました。つまり大絶滅が起きたのに幸か不幸か絶滅しきれなかった地域では、
一家族だけとか一組のカップルしか生き残れなかった所もある訳で。
そうなれば数代先では血縁者しか相手がおらず、その状況で種族維持の本能が発揮されれば結果は一つしかありません。

この島のオークたちも、百年ちょっと前まではリアルで存亡の危機でした。その時期はもちろんそれからしばらく後までも、
決して小さくはないこの島に、一人前の雄が数十名しかいないという時期があったのです。


種族の寿命的に仕方がない部分もあるんですよね。
オークは一年で大人になります。二年経てば地球なら選挙にいけるくらいになります。
平均寿命の統計資料はありませんが、40歳まで生きるオークは殆どいないそうですから、大人オークの年齢は実年齢から2
引いて2掛けて20足した感じですかね?

この計算で言えばウォスは20代半ばってことになります。
うん、原始社会でこの歳になっても独身って、変わり者扱いされても仕方ないでしょう。本人の趣味と意向しか障害がないの
ですから。

で、寿命が倍近く違うわけですし死亡率もオークの方が断然高い。となれば大概の嫁さんは再婚再々婚する羽目になる訳で。
巣の存続と繁栄のために、受け入れるべき子種の製造元が実の息子しかないなんてことも偶には有る訳です。


恐ろしいことに、何処ぞの(誉め言葉として)頭おかしいエロゲメーカー謹製の呪われた家系図みたいなことも可能なのですよ、
この島では。
縦軸横軸に血縁関係が入り乱れた、比喩表現ではなく実線で譜面が真っ黒になっているアレが。


人間だけだと孫の子供を産むのがせいぜいですが、オーク相手なら十世代ぐらい続けられますからね。理論的には。
2年ごとに、産んだ息子が一歳半になるごとにその子に種付けして貰い続ければ、人間でも玄孫の玄孫の孫を産むぐらいはで
きます。まして百年単位で生きる長命種族ならば‥‥。
大母様なんてダース単位で産んでいるでしょうし。いや、下手すればグロスに届くかも?
確か日本人女性の出産記録が11人でしたっけ? ファンタジー補正が効くこの世界ならもっと産まれるかもしれません。

あくまでも物理的に可能なだけであって、実行されたことはないようですけどね。曾孫やその孫との子作りは。
少なくともありふれたことではありません。
近親婚自体、神殿は奨励してないのですよ。
神殿は大枚はたいて外から買い込んだ上に手間暇かけて教育を施して嫁さんを用意してますし。
そもそも ママより素敵な女がいないんだよー という末期的マザコンは、この島でも少数派ですから。

でも、警察も裁判所もないこの島では、末期的マザコンのオーク戦士とそのマザコン息子を溺愛している母馬鹿女がどうにか
なっても神殿は関知しないのです。
力こそ正義のこの島では、一人前の戦士が自分の責任でやる限り何しても良いのです。暴力に抗える掟もモラルも有りはしな
いのですよ。


話は少しズレますけど、ソドムとゴモラが滅びたときに逃げ延びた父と娘達が近親姦しちゃう話が聖書にありましたが‥‥。
あれってどう考えても父親が家庭内強姦した結果ですよね? 娘達に酔い潰されて云々と誤魔化しているけど。
異民族というかユダヤ教徒以外の種で孕んだ女は死罪なんですから、娘達が無事子供を産んだということは父親が誰なのかみ
んな解っていた筈です。

でも原始や古代はともかく現代に近づくにつれ近親婚が禁じられていったからには、遺伝学を知らない人達にも近親婚の弊害
が解っていたのでしょうね。政略結婚しすぎて血が濃くなり過ぎた近代の欧州貴族は遺伝病で大変なことになりましたし。

どうもオーク達には遺伝病や先天的障害の類が無いようなのです。少なくとも目立たない。話を聞く限り幹部達の方が近親婚
率が高そうなんですよ。どの巣や集落も、一度手に入れた嫁さんはそう簡単には手放そうとしませんから。
夫に先立たれた寡婦は、同じ集落のオークと再婚することがその巣のオーク達には望ましい訳です。
同じ所に住む同じ一族なら前夫と今の夫に血縁関係があるのは当然としても、巣の人口や人間関係によっては妻自身の血縁者
の所に嫁ぐこともあるわけです。

オークは遺伝病が発現しないのなら、彼らは遺伝子的に安定しすぎている程に安定しているのかもしれません。
粒ぞろいと言えば聞こえはよいですが、その分揺らぎや変化に乏しいのかも。研究している生物学者がいれば是非とも著作し
て欲しいものです。もっとも、存在していたとしても手に入れる方法がありませんけど。




 ☆54日め6、武器や防具は装備しないと意味がないのです☆


良し、とりあえず凹レンズ試作一号完成! 前に作った凸レンズと組み合わせると‥‥うん、望遠鏡代わりに使えます。
倍率は精々五倍程度。望遠鏡と言うより片目分しかないオペラグラスですが、試作品だから仕方有りません。
この凹レンズ、オペラグラスよりもむしろ近視矯正用です。しかし眼鏡に使うにはまだ早い。
眼鏡嫌いのオーク達には直接眼鏡を作って渡すよりも、まずは凹レンズが便利な物だということを擦り込まなくては。

オーク達は、眼鏡を付けるのが嫌いなのですよ。人間の男が付けていても気にしませんし、女が付けている分にはむしろ好き
なぐらいだったりしますが、自分が付けるのは嫌なのです。

眼鏡に限らず、オーク族は装備品というか「身に付ける道具類」を意識して軽視している傾向がありますね。
鎧兜どころ身に付けている防具類といえば腰ミノぐらいです。腕輪や首飾りには防御効果を期待できませんし、オーク達も期
待してません。
武器にしても、この巣の幹部オークたちのうち魔法の武器を標準装備にしているのはゴォ・ドスだけで、他の二人は手作りの
棍棒がメイン・ウェポンです。ドスも予備武器は手作りの棍棒(銀被せ加工済み)ですし。


オーク族が棍棒や投石を好んで使う理由、その一つはもし間違って味方を攻撃してしまっても致命傷になりにくいからです。
オークは打撃耐性高いですからね。
実際の話、狩りの最中に下っ端へ誤射というか誤投擲してしまったとして、それがウォスの投げ飛礫(ロック)とドスの三又銛
(トライデント)の場合、どちらが致死率高いかといえば間違いなく後者な訳で。

ただ三人の話だと、オーク族はそれ以前の問題として装備にあまり拘らないのだそうです。特に戦士オークは。
彼らも武器の使いやすさとか、手に馴染んでいるかとか、信頼できるかとかは気にします。

壊れやすい、華奢な武器は好みません。しかしそれ以上のものは求めないのです。
薬丸自顕流の剣士には「刀は丈夫で、折れなければ良し」とする者が多かったとかいう逸話に近いものがあります。
オーク族は二次大戦後期の戦闘機乗りになったら、F4UやP51よりもF6FやP47に乗りたがる連中ですね。
間違いなく。


オーク族も魔法や魔法の品(マジックアイテム)の威力は知っていますし、利用もします。
ただしアイテムの力に頼るというか、マジックアイテムがあることを前提にして戦術を考えることを嫌うのです。
オーク達にとって魔剣や魔法の鎧は便利ではあっても頼りにはならない、頼ってはいけない代物なのです。

どんな良い武器を集めてもなくせば終わり。
ならば決して落とすことも奪われることもない素手・素足・素肌を鍛えるべし‥‥というのがオーク族の根本的思想。
とことん脳筋で、精神主義で、個人武勇万歳思想なんですよ。

それがあながち間違いでもないあたりが凄く厄介です。
幹部オークの鉄拳は下っ端オークが振るうハンマーよりも素早く重たいですし、闘気を満たして気合い入れた状態なら素肌で
下っ端オークが投げた手斧ぐらいなら余裕で跳ね返しますから。
地球にはなまくらな刃物の一撃を素肌で受け止める大道芸がありますけど、幹部オークたちなら日本刀の一撃だって止められ
ます。
相手が余程の達人か、特殊鋼製の刃物を振り回すオーク戦士だったなら話は別ですが。


いつぞやの嫁取り戦を見ていたとき私は、長巻使いの一撃はドスやウォスなら素手で受け止められると感じました。
実際、二人ともやれば出来るそうです。星6ぐらいの女戦士が渾身の力で打ち込む斬撃を、この巣の幹部達は素手素肌ではじ
き返せるのです。誰でもです。
ええ、星が3つも違えば勝ち目なんてありゃしないんですよ。普通は。
というかドスもウォスもしばらく昇格試験受けていないから星9なだけで、実力的には星10に近いのです。

星が少ない相手に挑戦することが不名誉になるのも当然ですね。弱い者虐めそのものです。
でも、長巻使いは弱くありません。星6ってことは普通の虎や獅子やヒグマなら充分倒せる訳で、強めの大怪鳥や弱めのオオ
アリクイに匹敵する実力です。
地球の武道武術で言えば、二段三段なんてレベルじゃないでしょう。
一流競技者級かそれ以上の身体能力を持ち、実戦派の戦闘技術を習得し、実戦で生き物を切りまくっているのですから。

今の私は、地球で言えば英才教育を受けている若年選手ぐらいの運動能力があります。十年後のメダリスト候補ぐらいの。
足から飛び降りれば、3メートル程度なら怪我の心配りませんし、90度近い岩壁を素手でよじ登ることだってできます。
というか、10日めのプチ脱走中、とっさに頭上の蔓草掴んで木の上までよじ登るなんてことやらかしてますからね。

あのときは慌てていたので気にしませんでしたけど、あれが平気で出来るこの身体ってかなり凄くないですか?
今の私の肉体は、非力でひ弱なことを除けばとんでもなく高性能なのです。
私、素手で自分の髪の毛、四分割できますけど、やってみましょうか? 
髪を一本抜いて、それを先端から指で二つに裂いて、裂いた半分を更に半分に裂くことができるのです。素手で。
昭和中期の伝説的スリ名人は八分割してみたそうですが、流石にその真似はできませんでした。

でも、私の運動能力はあの長巻使いにはとても及びません。
闘技場の闘いはもちろん、駆けっこでも、ハリセンじゃんけんでも、○鼓の達人でも、勝ち目はないでしょう。
ソーニャさんあたりになるとどれだけ差があるのか考えるのも嫌なぐらいです。

ただ、ソーニャさんの話だと私の素質は動く方面ではなく見取る方面、観察力だそうなのでそれほど気にすることでもないの
かもしれません。非力でも良いんですよ、力仕事はオーク達に任せるんですから。



まあそんな訳で、近眼揃いのオーク達ですが眼鏡で視力を矯正する気はないのです。
しかし、私としては彼らの視力を向上させたい。シミュレーション系戦闘ゲームをやったことのある人なら、視界(索敵範囲)
が一マス広がることの意味はよく解って頂けるでしょう。

ですので、まずは望遠鏡やオペラグラスのようなものを作ります。そしてそれらを使うときだけに使って貰うのです。
老人が針仕事をしたり新聞を読むときに虫眼鏡や老眼鏡を使うように、見回り中に発見した不審物を観察する時や、遠距離の
的を狙撃する時にだけ使って貰い、常に取り付けている装備品ではなく必要なときに取り出す道具の類である眼鏡の存在を、
オーク達の脳裏に焼き付けるのです。

眼鏡は服や靴のようなものではなく、筆とか火口箱の類だと思わせ、使わせるのですよ。
そうして身近で便利な物として普及させるのです。眼鏡か望遠鏡か、どちらか一つでも受け入れて貰えば大成功です。
三の矢が用意できないのが残念ですね。策略は数ですよ兄さん! 私は兄なんて前世も現世もいませんが。

全くの私見ですが、策略は落ちゲーに似ていると思います。
それも複数のプレイヤーが思い思いのものを巨大な盤上へ、勝手に繋げて積み上げていく三次元の落ちゲーです。
いえ、積んでおいた連鎖が時間経過で切れたり繋がったり化合したりする、四次元的要素を含む落ちゲーなのです。
誰か作ってくれませんかねぇ? そんなゲーム。21世紀の地球なら技術的には簡単だと思うのですが。
作られても私は遊べないけど。


つまりまあ、策略とか作戦なんて九割以上が外れると見て打つものなのですよ、私的には。
連打していればたまには当たりますし、外れたと思っていたのが巡り巡って予想外の成功を招いたりします。
一見上手く行ったと思った事が、後になって大失敗だったと気付くこともありますけどね。

策が両方とも外れた場合を見越して、ブルーベリーの栽培にも手を出しています。
果樹園の端でもブルーベリーを増やしていますし、苗を幾鉢か育て始めました。

よく考えてみると植木鉢の保管場所がありました。シャワー横の天窓から上がった場所です。
ここなら鳥や獣もこないし、虫も少なく、日当たりも良いのです。
暑すぎるようなら適当な日影を作れば良いし、水場も近いし、嵐が近づけば洞窟の中に仕舞えます。
人が出入りしませんから、うっかり鉢を蹴飛ばしてしまうこともありません。

ブルーベリーには視力補強効果があるのです。オークにだって効果があるはずです。
アントシアニンに視力強化の薬効はないという説もありますけど、海軍航空隊が取り入れていたからには何らかの効果がある
と見て良いでしょう。なくても美味しいですし手間がいらない果実なので育てる価値はあります。
この島は酸性土壌気味なので育てやすいですし。

そういや、オーク達の正確な視力って計ってませんでしたね。視力検査表も試作してみますか。コインの大きさ(約3センチ)
を基準にして、Cマークの大きさ一段ごとに揃えて‥‥ 
うん、作れそうです。今夜にも適当な板材を白く塗って作ってみましょう。




 ☆54日め7、あくじゅんかん☆


さっそく竹定規と針金製の手製コンパスを使って、視力検査表を作ってみました。
地球の物とは微妙に違いますがなに、使えれば良いのですよ使えれば。地球には自分の平熱を温度計の基準にしちゃったお前
何様な学者だっていたのですから、私が自分の視力を基準に検査表を作っても構わないでしょう。

早速明日にでも幹部達に視力検査を‥‥いや、まずは下っ端達にしてみるべきかな?
ちょっと離れたところに置いたクルミの個数を当てるゲームとかに変換すれば、競技の一種として受け入れるでしょうし。

いえね、幹部達は忙しいでしょう? 比較的に。
三人が揃うのって割と少ないんですよ。最近は特に忙しくなって、遠出しない日でも三人が揃うのはご飯の時ぐらいです。

全部私のせいなんですけどね。
幹部達が忙しいのも、スケジュールがズレているのも、グェスが微妙にのけ者にされているのも。


ほら、最近は何かと活動していて、幹部オーク達にも働いて貰ってますよね。
だからみんな忙しいのですよ。これまでは食べていくだけなら一日実働一時間で済んでいたのです。
でも近い将来、何人ものお嫁さんを迎えるためにはその準備をしなくてはいけません。正直言ってこの巣は、お嫁さんが一人
か二人しかいないことを前提に造ってあるんですよ。
住み心地良いのは確かなのですが、こじんまりとし過ぎています。

で、巣の拡張と改修の計画を立てて、一部は進めている訳です。
巣の出入り口近くを固めて、泥やゴミが洞窟内に入りにくくする工事も明日から始めます。
近くの湧き水から水道を繋げる工事はその次ですね。屋根は造らないことになりました。いやほら、わざわざ拭かなくても水
切りすれば殆どの水分は取れますし、オーク達はその程度の気化熱で冷え性とか起こしませんから。

なのでここ数日というかクジラ祭り以降、三人揃うことが減っています。
仲間はずれの件は、その、実は神殿から帰ってきたときから続いてまして。
妬んでいるのですよ、ドスとウォスが。私とグェスが、目に見えて仲良くなっていたから。

だってしょうがないじゃないですか。
旅先で男女の仲が進展するのはよくあること‥‥ではなく、色気とは違う所で私とグェスは互いを理解し、共感してしまった
のですから。
少なくとも私は、命の軽すぎるこの島の現状をなんとかしたい、セルフ壺毒な儀式ではない手段で一人前の戦士を育てられる
ことを証明したいというギュー・グェスの志に感動してしまったのです。

あまりにも無謀、あまりにも愚か。
たった二人の兄弟たち以外は賛同しない、彼の保護下にある下っ端達だって本気で出来るとは考えていない、無意味な理想。
でも、その志のなんと気高いことか。
本当に男前ですよねえギュー・グェスは。私がオークなら何処まででも付いていきたくなるぐらいに。

オークでなくても、もしも私が見た目通りヒルデニア人の少女で、漂流してグェスに拾われた身だったなら。
神殿で会った女達の殆どが考えているように、ヒルデニアから奴隷としてこの島に売られに来る途中で船が難破し、幸運にも
漂流者として救われ、帰る場所がないから、奴隷に戻るのは嫌だから素性を隠している少女だったなら。
今頃は妊婦かその手前ですね。間違いなく。
この島に何千人の婿さん候補がいるかは知りませんが、グェス以上の好物件はまずありえませんし。


もしも前世が男じゃなかったら、今でも思考形態が男のものじゃなかったら、私はギュー・グェスに惚れていたでしょうか?
解りません。多分惚れなかったんじゃないかな? 私が転生前から女の子だったら。
いや、今でも男というか漢としての部分はかなり惚れ込んでますけどね。手助けしてやりたい気分で一杯です。

そんなわけで、一人だけお嫁さん候補の巫女見習いと仲良くなった兄弟に残る二人が羨んでいるというか拗ねているのです。
蛮族というか戦士文化圏の住人である彼らには、下半身関係の情報は秘匿されません。
アメリカ原住民(いわゆるインディアン)の某部族では、戦士達が出陣前の宴で「自分が今まで何処の誰と何回寝たか」を告白
する儀式があったそうです。
痴情のもつれを戦場に持ち込ませないための知恵ですね。地雷処理は早いにこしたことはありません。

オーク達も同じ巣の仲間には、誰と寝たとかイチャイチャしたとかの情報を隠しません。
妬むのはアリですが、その思いは自分をより磨く努力の源にすべきというのがオーク流です。
もてないのは本人の 努 力 が 足 り な い か ら だ ! というのがオーク族の恋愛観ですから。
何処まで行っても脳筋なのですよ。

幹部オーク達は清く正しい脳筋なので虐めとかは起こりませんが、「お前は神殿行きで良い目を見たんだから俺らにも」とい
う要望が出てくるのも当然でして。
そんなわけで、グェスは二人から微妙に仲間はずれ気味で、そんな彼が不憫な私はこっそり優しくしたり隠れてサービスして、
オーク的価値観からグェスが馬鹿正直にそのことを二人に伝え、ドスとウォスは「「兄者ずるい!」」とますます拗ねる‥‥
という泥沼が続いています。

どーすりゃよいんでしょうかね、これ?
解決策は私が三人に増えるぐらいしか思い付かないのですが。
とりあえず、次回の神殿行きはドスとウォスの二人に護衛(エスコート)してもらって、グェスは留守番ということに決まって
います。
いいかげん二人にも昇格試験受けさせないと、巫女さん達からの心象が悪くなる一方ですし。

いい歳こいた、普通の巣なら稼ぎ頭になっている筈の強者が神殿に寄り付かず、嫁も貰わず子供も作らず奉仕も交易もしない
で引き籠もっていたのでは世間体が悪いのですよ。
特にウォス。せっかくの(オーク的)美男子なのですから、愛想の一つも売るべきです。




 ☆55日め、どうしましょう?☆


おはようございます。宝物庫の奥で朝のお勤め中の見習い巫女、レイちゃんです。
さて困った。そろそろ女神像にとらせるポーズが品切れになってきました。
いえ、ネタが尽きたら尽きたで普通に座ってて貰えば良いんですけどね。元々下手な演出なんかいらないぐらいの美貌なわけ
ですし。
ただそれはオタ系創作者としては敗北宣言なのです。


‥‥亀甲縛りにしてみるか。
ちょっとキツめに縛って、胸を強調する感じに縛ってみます。うーむ、お人形さん相手とはいえ、縛りとは難しいものですね。
なんかズレてる。やり直しましょう。

うろ覚えの知識として知っていただけの亀甲縛りですが、なんとか再現できました。
いえね、前世の私は三次元の造型というかフィギィア系にも多少の興味がありまして。で、その中には手のリサイズの人形を
縄で縛って喜ぶ人達がいる という情報も入っていたのですよ。

ちなみに私にはフィギィアやガレージキット収集の趣味はありません。木材や石膏や粘土やアルミホイルで彫像を造る趣味は
ありましたが。
アルミホイルでも人形は作れるのですよ。こう、木材や針金で骨格を造って、紙粘土で肉付けして、あとは千切ったアルミホ
イルを巻き付けて巻き付けて、薄皮を何十枚何百枚と重ねて貼り付け質感を出していくのです。

チラシの裏に「ぼくのかんがえたかっこいいかいじゅう」とか、子供の時に描きませんでした? 
私の場合はそれを立体でやっていた訳です。なにしろ致命的に絵心がなかったもので。


女神像の表情を弄って縛られて喜んでいるどMさん風にしてみましたが、何か足りない気がします。
あれですね、女神像が一体だけというのが拙いのですよ。やはり六大神が揃わないと。
今日の朝ご飯は幹部が勢揃いしそうだから、神像を増やすことを相談してみましょう。

朝のお勤めが終わったら、お風呂にしますか。
風呂場の入り口に竹竿を渡し、毛皮服を引っかけます。これは「一人でお風呂入りたいです」のサインです。
これで緊急時以外オークたちは入ってきません。

誰かと一緒のお風呂は楽しいですが、たまにはのんびり入りたいのですよ。
彼らと一緒だとできないこともありますし。


湯船に大の字でぷかー とか、ばた足じゃばじゃば とかもですけど、それより切実なのが身だしなみでして。
なるべく明るい天窓の下で、衣装箱から持ってきた手鏡も使って、隅々まで綺麗にします。おへその穴とか、その更に下側の
穴とか。

清潔にしておかないと病気の元ですからねー。大抵の病気は「癒し手の秘薬」か「致命傷治療薬」を飲めば治りますし、神殿
に行けばもっと確かな治療が受けられますが、病気はならないにこしたことはありません。

この世界にも性病というか厄介な感染症があるようですし、偏見かもしれませんが南国というと疫病だらけな印象があります。
神殿で見た感じ、嫁さん達はもちろん下っ端に至るまでオークたちにもそれらしい病痕は見当たりませんでしたけどね。
あれ? 考えてみれば、この島の生き物で痘痕があるものを、天然痘に罹った痕跡のある人や動物を見たことありませんよ?

野生の牛がいるからには牛痘や天然痘があってもおかしくない筈。
ということは、この世界には元々天然痘が存在しないのか、それとも21世紀地球のようにほぼ絶滅状態なのでしょうか?
これも調べておくべきですね。また質問リストが長くなりました。


普段あまり洗わない場所の汚れを指やスポンジで落とし、お湯で綺麗に洗います。今は生えてないから良いけど、むだ毛の手
入れとか大変でしょうねえ。トカゲ人なら脱毛クリームぐらい開発していそうですが、積極的に試したい代物ではありません。

毎日綺麗にした方が良いのは解っているのですが、怖いのでどうしても数日おきになってしまいます。
何が怖いかって、怖いぐらい気持ちよいんですよ。触ると。

今の身体に性欲が無くて、無いと言っていいぐらい性欲が希薄で助かりました。
もしも前世の十代半ばの半分でもあれば、もうどうなっていることやら。
皮膚感覚なんて前世死亡時の5倍は鋭敏ですからね。
全身性感帯みたいな今の身体で発情して、一度そっちに目覚めてしまったら本気で色情狂になってしまいます。

実際、この島では私より年下の女の子が愛奴だったり新妻だったり妊婦だったりしている訳で。
もしも今日ここで、辛抱堪らなくなってしまったギュー・グェスが風呂場に乱入してきて、押し倒されて全身舐め回されたり
したら抵抗もできないと思います。精神的なものも含めて。

あくまでも聞いた話ですが、オークとのえっちって、初めてでも気持ちよいのだそうです。もうすっごく。
流石に痛みも無しとはいかないようですが。

痛みかー そう言えば今の私は記憶以外女の子ですから、出産の痛みにも耐えられる筈なんですよねー。
脳の構造はこの世界の人間のものですし。
出産の痛みに耐えられるのなら、破瓜の痛みに耐えることもできるでしょう。



いやいやいやいや、待った、ちょっと待った。
なに自然体でグェスとの初夜を想像しているんですか私。落ち着け、まずは落ち着け。

いくら彼らがロリ好き異種姦は正義の変態紳士でエロモンスターだからといって、元男で現在も精神的にはまだ男な私が、
生き延びるためにこの身体を使うのは拙いでしょう。

この身体の、本来の持ち主の人格が残っていたらどうするんですか。そして何かの拍子に目覚めたりしたら。
ふと気が付いたら何年も時間が過ぎていて、何も知らないうちに知らない男の嫁にされてて子供が何人もいる って悲惨すぎ
ますよ。
未だに名前も分からないヒルデニア人らしき少女本人もですが、妻や母を失う夫オークや子供たちにとっても悲惨すぎます。



はあ。
結局、情報が足りないという、いつもと同じ結論にたどり着く訳ですね。

私はなぜ女の子になってしまったのでしょうか?
なぜ素っ裸で、オークも通らないジャングルの中にいたのか?

答えは当分見つかりそうもありません。




 ☆55日めの2、賭博風雲録ハラキズ☆


お風呂から上がって、大広間に行くと三人が夜明け前の狩りで捕った獲物を捌いてました。狩りというか夜釣りかな?
ロブスターでも伊勢海老でもないけど負けず劣らず美味しい大海老とか、石鯛とか、サザエとかが主なところを見ると岩場の
方で釣っていたのでしょう。

この巣に近い狩り場は 
【近くの砂浜】 危険度 ※    獲物の豊富さ D     
【大きめの川】 危険度 ※※   獲物の豊富さ C+   
【近くの岩場】 危険度 ※※   獲物の豊富さ B     
【近くの森】  危険度 ※※※  獲物の豊富さ A   
【新しい果樹園】危険度 ※※   獲物の豊富さ C
ぐらいですね。

ちなみに踏みわけ道巡回コースの平均は
【踏みわけ道】 危険度 ※※   獲物の豊富さ D+~C
ぐらいです。
踏みわけ道より砂浜の方が生き物少なくて安全なのです。というか大型の生き物がよく通るから道ができる訳でして。

なお、この場合の「獲物」とは魚とか鳥とかの「捕まえるのに失敗するかもしれない」生き物のことです。捕獲イバラの実の
ように「食べて食べてー私を食べてー」と主張しているものは含みません。

芋と栗のおかゆ
塩漬けクジラ細切れ肉と縞ウリの煮物
温泉卵
金時豆もどき(白砂糖がありませんから)
石焼き鳥もどきのパイナップル包み
サザエの壺焼き
昆布素麺

などなどで朝食にします。もちろんこの他にも定番の茹で芋や蒸しバナナや焼き魚なども作っていますし、果物やナッツ類も
当然付いています。石鯛は一匹コブ締めにして、残りは焼いたり煮汁にしたり。
しかし、よくよく考えるとこの島の植生って異常ですよね。食用植物が多すぎです。
これだけ食料が取れるのに、何故この島では大文明が起こらなかったのでしょうか?

案外、この島の人間族はモンスターとの生存競争に負けたのかもしれませんね。そしてオークやその他の種族に嫁を出すこと
で生き延びていたけど「鉄の王」の侵攻で全てが壊され、そして元どおりには戻らなかったのかも。


それはさておき、今日は出入り口近くの舗装工事と水道工事をすることに決まりました。
といっても急ぐ必要はないので、ゆるゆると準備してゆるゆると始めるのですが。
古代というか原始の生活は、緊急時以外はのんびりしているのですよ。

朝食の後片づけをしてから、食休みを兼ねて神経衰弱しましょう神経衰弱。
幹部オークたちとするのは初めてですよね神経衰弱。

「グヒ?」

神経衰弱はですね、えっと、やってみせた方が早いか。
ええと、道具は‥‥下っ端達が使ってますね。

見に行くと、ハラキズとコブハナとケサガケが神経衰弱をやっていました。ただし、 真 剣 勝 負 で。
あれですね、私とやっていたのがカラオケBOXでのポッ○ーゲームなら、今やっているのは鉄火場での賭け将棋ですね。
そのくらい雰囲気が違います。

ちょっと見ないうちに何かルール変わってませんか、これ?
ハマグリの殻に隠したものを揃えるゲームなのは同じですけど、隠されている物が 木イチゴ・どんぐり・胡椒の塊・毒ホオ
ズキの実 に変えられているのですが。
正気か!?
毒ホオズキは確かに5粒や6粒食べたぐらいで死んだりはしませんけど、食べて良いものじゃありませんよいくらオークでも。


卓を囲むプレイヤーが順番に貝殻を二回ずつ捲り、欲しい物を揃えていくゲームだとグェス達もすぐに理解しましたが‥‥ 
いえこれは記憶力を競うゲームであって、嗅覚の鋭さを競うゲームじゃないんですよ現状ではそうなっちゃってるけど。ええ。
下っ端オーク達は、貝殻の下の臭いを嗅ぎ取り、ある程度の目星をつけてから捲ってますね。
鼻の鋭いコブハナは嗅覚を頼りに貝殻を捲り、物覚えがよいハラキズは記憶力で判明した地雷を避ける。二人のような明確な
長所を持たないケサガケは押され気味です。

毒でも何でも、取ってしまったものは食べないといけません。
そして得点は取った貝殻の枚数で決まります。
つまり無害な木イチゴの次に、ほぼ無害なドングリも狙い目です。
このドングリは数あるドングリのなかでもわりと渋い種類で、私ではとても食べられやしませんがオーク達なら生でも食べら
れるのです。彼らにとっても不味いですけど。
粒胡椒は、刺激が強すぎて一時的にですが鼻が鈍くなり集中力が乱れるというデメリットがあります。
毒ホオズキは死ぬほど不味くて感覚器官と知力にダメージを与えます。体力にもダメージが来ます。私だったら3粒であの世
行きです。


白熱した勝負でしたが、結局は判明した地雷の位置を全部憶えていたハラキズが僅差で勝利しました。26手めでコブハナが
自爆して毒ホオズキを食わなければ勝負は解りませんでしたが。
あの一回がなければコブハナが逃げ切っていたんですけどねー。あれで自慢の鼻が役立たずになってしまい、嗅覚を完全に捨
てて粒胡椒食べまくってたハラキズに逆転を許してしまいました。


ちがうのよー。
わたしがしたかったのはねー しょくごのだんらんにかぞくとするわきあいあいなげーむなのー。
しくしく。


なお、ケサガケは毒ホオズキ四個目の段階で私がドクターストップをかけて失格扱いにしました。
そしてこの後、この手のゲームでは「毒物は四個取った時点でそのプレイヤーは失格」というルールが追加されました。
失格というか自分から降りないと、巫女に怒られるのです。しまいには泣かれます。泣かした奴は袋叩きです。

ちょっとやりすぎなので、袋叩きにされて伸びてるケサガケの頭を膝枕して濡らしスポンジで冷やしてあげてるのですが‥‥。
重たい!
オークとしては小柄な方ですが、それでもケサガケは幕内力士の平均より重たいのです。そしてオークは頭蓋骨の質量が人間
の3倍はある訳で。
ほとんど小学生が正座してスイカを膝に乗せている図、になってます。

‥‥わ、凄い耳垢が溜まってるなー 耳掃除してあげましょうか?
いや待った。人間でも耳垢が虫の侵入や耳穴の過度の乾燥を防いでいるという話を聞いたことがありますよ。
オークの耳穴って、掃除しても良いものなんでしょうか? ちょっと訊いてみましょう。幹部達は勝負モードに入ってますの
で下っ端達に。

「耳掃除、したことある?」
「ナニ、ソレ?」

やっぱり、そういう習慣がないのですねこの溜まり具合は。痒くなったら小指でほじるぐらいしかしてないみたいです。
うーむ、ここは掃除するとしますか。耳穴の。
例外的な、不幸な事故はありますがそれ以外で耳掃除して死んだという話は聞いたことありません。
オーク達は丈夫ですしちょっとやそっとのことでは死なないでしょう。まして耳垢が減ったぐらいでは。

それにまだ致命傷治療薬やその他の霊薬は残っていますし、月末には神殿で買い足します。だから大丈夫‥‥でしょう。
何かしなければ、この詰みまくってる現状は変わりません。
だから思いついたことはなるべくやってみることにしてます。一見くだらないことでも、それが巡り巡って何かに繋がるかも
しれませんから。


神経衰弱も、ゲーム文化の伝導もそういう意味があるのですよ。一緒に遊ぶゲーム仲間が、特に対戦相手が欲しいという理由
もありますが。この洞窟は娯楽に乏しいのです。

上手く行ったと思ったんですけどねえ。なんでこう無駄に殺伐としているんでしょうか彼らは。
そういや、ファンタジー小説とかRPGでは「オーク族は意外に知的で発明の才能がある、ただし破壊と殺戮に関してのみ」
という設定な世界が多かったですけど‥‥あれってこういう意味だったのでしょうか?
何を見ても聞いても物騒な方向へひん曲げてしまうのが、オーク族の本能なのでしょうか?

とりあえず、幹部オークたちにはゲーム盤と貝殻にカレー粉もどき(失敗作)を振りかけてからやらせてます。
そのままだと嗅覚勝負になってしまいますからね。

これはあくまでも記憶力を競うゲームなのですから。
 




[38600] 20
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/04/15 15:52




 ☆55日め3、どこまで都合の良い肉体してんだこいつら☆


手すきの下っ端に資材倉庫から竹片と麻布の切れ端を取ってきて貰い、膝枕をしたままオーク用耳掻き棒を作ります。
麻布で竹屑が飛び散らないようにして、愛用のナイフで竹を削るのです。ほどなく小さな竹匙のような耳掻きが二つと、竹製ピ
ンセットのようなものが出来ました。
ピンセットというより洗濯ばさみを細長く引き延ばしたものですね。持つところに青銅製の板バネがついていて、握力の加減で
先端が開閉します。

「うんうん、丁度良い加減ですよ」
「グヒッ♪」

青銅板を指で折り曲げて板バネを作ってくれたギョロメの頭をなでなでしてあげます。
ギョロメは新入りオークの一人で、ちょっと気弱で引っ込み思案なところがありますが、物の微細な違いが解るオークなので
すよ。
鉱石のより分けとかでは幹部オーク達に匹敵する眼力の持ち主です。

今着ている大イタチの毛皮服はポケット付きで、ポケットには裁縫セットや小さめの工具などを入れてあります。
なにか作りたくなったらすぐ作業に入るためです。ポケットの内袋は小動物の膀胱から作りました。
しかし、この島にはビニール類というかポリエチレンがないのが残念ですね。
透明で薄くて柔らかくてそこそこの強度があり水や空気を通さない って結構凄い素材なのですよ。
文明の産物とは、使えなくなってはじめてその真価が分かるものなのです。試験中の消しゴムとかね。


道具も出来たので、耳掃除をすることにします。
うーむ、近頃は従妹ぐらいにしかしてなかったからオーク相手だと勝手が違いますねー。耳孔の形自体も人間と違いますし。
幸いケサガケの耳垢は乾燥質なので助かります。比較的に。

なんか妙にやりにくい‥‥って当然ですよ、この暗さじゃあ。
耳掻きなんて洞窟の中で使うべきものじゃありません。

失敗しましたね。もっと明るい場所でやるべきでした。
大広間のまばらな天窓や携帯用松明の明かりでは、細かいところが見えません。
止め止め、こんな所でやっていたら目が悪くなってしまいます。
下っ端居住区でも南端の方は明るかったですよね、特に朝のうちは東側から光が入るから更に明るくなる筈です。

「場所変えま‥‥」

耳掃除を中断して、手作り座布団から立ち上がろうとした私が見たものは、行儀良く一列に、正座して並んでいるオーク達の
姿でした。
ドス、グェス、ウォス、タレミミ、コブハナ、デコパチ、ギョロメ、その他‥‥と、耳掃除されていたケサガケと灯り持ちを
してくれていたハラキズ以外のオーク達全員が並んで順番待ちしています。正座で。


「「「グヒッ?」」」「「グヒー」」「グヒッグヒッ」「グヒ?」

ああうん、解った。解ったから。全員してあげるから、大人しく言うこと聞くように。
もっと明るいところに移動しますからね。
何時のまに並んでたんですか貴男たち。耳掃除に集中しているから気付きませんでしたよ。



結局、この巣の住人17名全員が出入り口前の小広場に出ることになりました。
風通しの良い木陰で、一人ずつ片づけていきます。
耳掻きしながらの話で解りましたが、幹部オーク達は月に一度か二度は母親達に耳掃除して貰っていたそうです。
今は自分でしていますけど。
下っ端達の母親はしてくれなかったというか、下っ端オークは母親が誰だかわからないのが普通のようですね。

はて? 幹部というかハーフオークたちは母親達に溺愛されて育つのに、下っ端達はそうじゃない? 
どうやらハーフじゃないオークにも、母親に育てられたオークとそうでないオークがいて、下っ端は‥‥うちの巣にいる下っ
端達はみんな孤児オークみたいですね。



たかが耳掻きされど耳掻き、16人も耳掃除すると疲れるものです。
自分で耳掃除する習慣がある幹部達はともかく、下っ端達は耳垢が溜まってましたし。
民話の垢太郎じゃないけど、16人分の耳垢をまとめるとフンコロガシが転がせそうな量になりました。

小休止をとりながらでしたので、全員終わったときには舗装工事が終わっていて、水道の竹樋が完成寸前。
耳掃除している私と、耳掃除されているオークと、万が一に備えた見張りと護衛以外は工事していたのです。


ちなみに舗装工事は至って単純です。
地面をならして火山灰を撒き、丸太で作った杵(月面ウサギが餅ついてるアレ)で突き固め、砂利を敷いて、雨の日でもサンダ
ル履きの足を濡らさず歩けるように平石を並べて足場を作り、石灰と火山灰を混ぜた古式セメントを練って流して、固まるま
で待つだけです。
平石を敷くのはセメントを節約するためでもあります。

竹樋は節を抜いた竹を連結して岩を組んだ足場に乗せ、石と粘土で固定します。
水源は近くの山肌に湧いた山水‥‥じゃなくて直接竹槍を水脈に突き刺したのですか!?
確かにこのへんに水脈が通ってますけど、豪快というか大雑把というか。


枯れた珊瑚の塊をカマドで焼いて黄色っぽい低品質セメントも作ってみたのですが、それでも過剰品質な気がするので今回は
使ってません。鉄筋代わりの銅線や竹も入れてません。頑丈に作りすぎると改築の時とか面倒ですからね。

スライム類は中性から酸性の土壌を好み、アルカリ性の土や水を嫌います。以前私が捕まった最弱級のスライムなら一掴み分
の灰や石灰を振りかければ逃げていく程です。
だから古式セメントがひび割れても隙間に石灰を詰めれば、スライムは湧かない筈です。
この洞窟は石灰岩ではなく火山岩なので、スライムが湧かないように排水溝には毎日灰や石灰を撒いて消毒してます。
幹部はともかく私や下っ端達だと、寝ているときとかにスライムに不意打ちされると危ないですからね。


樋は繋がりましたが、セメントが乾くまで水は引きません。足洗い場の完成はしばらく先ですね。
下っ端達に「固まるまでセメントは踏むな」と言っても無駄なので、平石の上には竹と丸太を組んで作った筏のようなものを
乗せました。これならわざと足跡を付けようとしない限り大丈夫でしょう。
舗装して固めた面積は10畳足らず。微妙に傾斜をつけてあり、水は洞窟以外の三方向へ流れるようにしてあります。


えー ちなみにというかなんというか。本日おもしろい発見をしました。
オーク族の耳って、蓋が閉まります。

ほら、オークの耳って豚の耳に似てるでしょう? だから動くんですよ。
そして耳たぶだけでなくて、耳孔の中も動くんです。広がったり窄まったり自由自在に。耳掻きの先が入らないぐらいに耳孔
を細くする事だってできるのです。
なるほど、オーク達に耳栓が要らない訳です。必要がないから需要もなく、芽が出た発明が育たないのですね。

オークの生活様式が原始的なのは、原始生活でもやっていけるからなんですよねえ。
いえ、地球でも強い外敵がいない地域では文明の加速なんて緩やかなものなんですけどね。オーク達は文明を発展させなくて
も基本性能の高さで外敵に、モンスターや他文明に負けずに生き延びてこれました。
そして神殿というか大母様は、ひたすらに個々の基本能力を磨き上げて大文明勢力に対抗しようとしています。

しかし、本当にできないのでしょうか。オーク達が文明を発達させていく事って。
私は地球文明の移植を試みては失敗してますけど、全部が全部失敗している訳でもありません。
釣りとか定着した文化もありますし。

ま、一々考えずに動くとしますか。案外、何かの拍子で上手く行くかもしれません。
そう、思いつきで適当にやってみたら、もう一度卵が立つかもしれないじゃないですか。



 ☆55日め4、深い考えなんかありません☆


そんなわけで工事は終了。
備蓄の食材と巣の近くで採った果物や香草を使って、手軽くお昼を済ませます。
オーク達は食いだめがきくので、一食ぐらい抜いてもどうと言うことはありませんが、できるだけ私と一緒に食べたがります。
普段は幹部たち三人と一緒に食べてますけど、祭りとか大がかりな共同作業とかがあると下っ端達も一緒に食べるのですよ。

今日のは、工事ではなく耳掻きの方を記念しているみたいですが。昼間から酒入ってるし。
そんなに嬉しいのかなあ? 耳掻き。

まー 彼らにとっては私、アイドルみたいなものですし。特に下っ端たちは、冷たくて高慢で暴力的な神殿の女達なんてもう
見たくもない気分で一杯だそうです。
そりゃ言い過ぎだろう と思うのですが、下っ端達と巫女さん達の交流の実態を知っている訳ではないので、ノーコメントに
徹します。本当の所は、次の神殿行きで調べれば良い事ですし。

‥‥喩えるなら、私は二次元の世界から抜け出してきた「嫁」ですか? 外国産のロリータ同居人とかのレベル飛び越えて。
うーん、断言はできませんけど、ソーニャさんはともかく神殿の巫女達も嫁さん候補たちも基本的に下っ端には冷淡だった気
がしますねー 偶に攻撃的な女もいたけど。
いや、眼鏡の奥さんとかの既婚者が夫以外に冷たいのは、それで正しいのですが。
オークって、どうも嫉妬深いみたいですし。


昼からはグェスと下っ端三人をつれて高台へ向かいます。荷物は壷やバナナの葉の包みに入れた灰と消し炭。
花咲か爺さんの昔話がありましたよね。あれは里山に灰を撒いて梅やら桃やらを元気にした農法が民話に取り込まれたものな
のです。屎尿や堆肥は臭くて重たいから山まで運ぶのは面倒ですし、効力が強いからまず田畑に使いたいのが人情というもの。
その点灰は軽いですし、余ることも多いし、野山に撒いて直接的な効果があります。
酸性土壌が中和されますからね。

熱帯雨林ほどじゃありませんが、雨の多いこの島の土地も酸性化する傾向があります。
そこに灰を撒けば土壌がアルカリで中和され、酸性土壌を好まない植物にとって育ちやすい環境になります。
つまり、環境の変化+カリウムの散布により、灰を撒くと野山が豊かになるのです。全体的には。
薄く撒かないと草木が枯れるし、かといって薄すぎると効果が少ないのが悩ましい。

いえね、広範囲にばらまける肥料って、他に思いつかなかったのですよ。石灰より灰の方が安いというか余っていたし。
先日のクジラ祭りで脂取りや燻製作りに薪を沢山使いましたから、灰の在庫が出来ていたのですよ。
環境問題という言葉は知らなくても、オーク達は一度に大量の灰を川に捨てると良くないことが起きることを知っています。
具体的には魚が死んで川や沼の水が腐ったり、川の下流や海が荒れたり、余りにも酷いとセルキー族など海の種族が怒鳴り込
んできたりします。

灰が大量に出ても一度に纏めて捨てないから、灰の在庫が外の岩陰で山になっていました。
それをやや遠い位置に、山の方で撒いてみることにしたのです。
ここらあたりは草が殆ど生えていない荒れ地なのですが、多分土地の酸性化が進みすぎているせいだと思うんですよね。
ですのでこの上の方から満遍なく灰を撒いてやれば、草木が生えるようになって荒れ地にも花が咲く筈なのです。多分。
考え違いかもしれませんが、失敗しても特に問題ない筈です。‥‥と思うのですが。


高台から風下に向かって、灰と消し炭を満遍なくばらまきます。
裏の畑でポチが鳴く~♪ と。

うーん、灰だけだと効果が限られますが、かといって他に肥料の当ては‥‥ 
生ゴミ類は果樹園に使いますし、屎尿は取り扱いが難しい。海草は重たいし、この島は雨が多いからグアノ(海鳥の糞化石)は
採れないし。適当な物がありません。
化学肥料って偉大ですよねー本当に。空気から作れるんだもの。

魚肥という手もありますが、あれは食べきれないor食べられない魚の利用法であって、最初から肥料にするのはちょっと。
これも元農家の知恵を借りるべきですね。質問リストに書き足しておきましょう。


撒き終わったら尾根から降り、小川で灰まみれの手足や壷を洗った後は、流れに沿って小さな湖を目指します。
きれいな円形の、というか不自然なまでに整った丸さなこの湖は、巣に近い大きめな川の源流です。
直径3㎞足らずと小さいですが、天然で水深はかなりあるので池ではなく湖だと思います。池と湖の違いというか区切りって
大きさと深さと天然かそうでないか‥‥でしたっけ?

水は澄んでいますが淡水サメや川カマスなどの危険な生物がいるので水泳には向いてません。
火山島で島の地盤自体が新しいのと、湖そのものがまだ新しいのと、上流地域に生物資源が少ないから栄養物が少なく、その
割りに雨が多いので水が澄んでいるのでしょう。
でもそこそこ大きい生き物が棲んでいるから、生態系そのものはは豊かなんですよね。
そう言う意味ではこの島は古代の日本に似ています。


魚礁の周りには‥‥うん、魚がいますね。前より増えてます。
狩り場の価値を上げるべく、湖にも幾つか魚礁を設置しているのですよ。色々なものを作って投入していますが、今の所太め
の竹で作ったパイプを束ねて沈めたものが簡単で効果が大きいようです。あと生木も。
中に小石を詰め込んだ竹と一緒に縛って沈めておけば、生木の木材も沈めることが出来ます。縛った蔦が腐るころには木が水
を吸って重たくなりますので浮いてきません。
水中に沈んだ枝葉つきの木材は、絶好の魚礁になるんですよー。すぐ朽ちるけど。

鹿角製や鋼鉄製の釣り針に適当な餌を取り付け、釣りを開始します。
まだ釣り針に慣れていない魚たちは、次々と釣り上げられていきます。でもオーク達は食べる分しか釣りませんし、自然界が
分解できないゴミも出さないので自然破壊の心配はありません。
以前の主流だったガッチン漁法よりは、釣りの方が生態系への被害が少ないですし。

私と下っ端たちはそこそこでしたが、ギュー・グェスは2メートル近いチョウザメを釣り上げました。
この島のチョウザメは地球の親類と違って捕食性で狂暴ですが、流石にミスリルの鎖を噛み切る事はできません。
産卵期じゃないからキャビアは食べられませんが、チョウザメは肉も美味しいですよ。

いえ、地球のチョウザメ肉は食べたことありませんから、同じ味なのかは解りませんけど。神殿の市場で売っていた卵の塩漬
けは正に上物のキャビアでした。
うーむ、年に2~3回あるという産卵期が待ち遠しいです。‥‥やっぱり、地球のチョウザメとは別種なんでしょうねえ。
タコとアンモナイトぐらいの関係なのかも。


「グヒッ」「グヒグヒッ」

下っ端達にとってもチョウザメは御馳走なので、今からお裾分けを楽しみにしていますね。
では、魚が腐る前に洞窟へ帰りますか。

前衛&斥候にタレミミ、本隊に私を肩に乗せたグェス、後衛に荷物を担いだ名無しの下っ端二名の隊列で進みます。
通り道で採れる果物や野菜やキノコなども一緒に集めているのです。あと虫取り草やスポンジもどきも。
湖のほとりから山の斜面へ戻り、南に歩くと丘陵地帯に降りれます。あとはまばらに木々が生えたなだらかな丘を三つほど越
えると海が見えてきて、そこから右に行くと新しい果樹園、左に行くと洞窟です。真っ直ぐ歩くと砂浜の端に出ます。


「ブギィィー!」

む。丘の横からなにやら哀しげな声が聞こえてきました。
オークではなく猪の悲鳴ですね。

寄ってみると、そこには大地の掟な生存競争が繰り広げられていました。
いつぞや私が捕まったのと同じ、透明種のスライムがまだ縞模様が残っている猪の子供を捕らえ、呑み込もうとしています。
母親らしき雌の猪が取り返そうとしているのですが、スライムは透明な身体を捩って獲物を持ち上げ、母猪が触れない高さに
抱えています。

この透明スライム、獲物を生きたまま溶かすことが好みで、捕まった獲物は数時間から十数時間ぐらいをかけてゆっくりと溶
かされていきます。普段は虫やネズミを食べていますが、ときには子猪などの御馳走にありつくこともあります。
物理攻撃に耐性があるスライムには、猪ではどうにもできません。捕らえられた子猪の運命は決まっているのです。
私たちが何かしなければ、の話ですが。

「ルェイ」
「うん、殺っちゃいましょう♪」

スライムに罪はありません。彼は本能と自然界の掟に従っているだけです。でも殺ります。
私は堂々と、無責任に、自己の精神的快楽の為だけに大地の掟に反逆します。人間はそういう生き物です。
理屈より感情が優先します。ウリ坊は可愛いじゃないですか。可愛いは正義なのです。


では、松明に火を付けて‥‥ あっこら逃げんな! ウリ坊と手前ぇの命、両方とも置いてけこの原形質が!
むう。油をまく前に逃げられてしまいました。側溝に蓋として敷かれている金網の上に落としてしまったプリンのような素早
さで岩の隙間に入り込んでいきましたけど、あの逃げ足の早さが透明スライムの武器なのですね。
今度からは周りに油や灰を撒いてから火を付けることにしましょう。

まあ、隙間が狭くて子猪が引きずり込まれなかったのは幸いでした。地面に投げ出されたウリ坊を回収します。
麻痺していて動きませんが、呼吸はしっかりしているので大丈夫でしょう。
鳥もどきとか巨大シデムシとかが獲物の時は放っておくのですが、猪だと助けずにはいられません。猪は仲間なのです。

変わったなー 私。前世では農家育ち的にネズミはもちろん猪も鹿も野うさぎも仇敵だったのに。
特にニホンカモシカ。
連中、天然記念物なことを良いことに態度でかすぎなんですよ。こっちが手出しできないからって舐めくさりやがって‥‥。
猿が出ないだけまだマシなんだそうですけどね。私が育った地域は。




 ☆55日め5、居候なのか下宿人なのかペットなのか☆


まだ麻痺している子猪を私が抱え、そんな私をギュー・グェスが肩に担ぎ、親猪と下っ端達が後からついてきまして、洞窟に
帰り着きました。

ふー やれやれ。
そうだ、せっかく近くに水源があるのだから子猪を洗ってあげましょう。山肌に突き刺さった竹槍の所まで行き、流水で泥や
粘液を洗い流します。子猪の顔に水がかからないように注意して、と。
透明スライムの麻痺毒は長く続きませんから、日暮れぐらいには動けるようになっている筈です。
猪の親子は下っ端達に任せておいて大丈夫みたいですね。扱い慣れているし。


洞窟に入ってチョウザメや他の魚類をさっそく捌きます。
鯉類やナマズ類、フナなどの雑魚には漏れなく寄生虫が付いてますが、チョウザメにはいないようです。
少なくとも肉の所にはいません。実はこのチョウザメもモンスターなので、一般の生物とは免疫力などが桁違いなのです。

モンスターって、食べられるものは意外と食用に向いているのですよ。
まあ地球でもジークフリートは倒したドラゴン捌いて食べてますし、モンスターを食べてはいけないなんて決まりはありません。
食えるか食えないか、食べて美味しいのか不味いのか。それだけです。


チョウザメ肉の一部はカルパッチョ風にしてみますか。ソースがあり合わせだけど。
醤油か、せめて味噌がないと刺身はキツイですよねえ。いえ、日本でも古代は塩や酢でナマスを食べていたみたいですが。
これだけ地球と似た世界なら、ヒルデニアには山葵が生えている筈。輸入できないか今度確かめてみましょう。

更に一部は燻製にします。チョウザメ肉の燻製は手頃なお土産になるのですよ。皮や鱗も加工すれば交易品になります。
ナマズなどの他の魚は捌いたり、水瓶に入れて泥を抜いたりします。
魚介類に泥を吐かせる知恵は、魔王侵攻以前に人間の女達からオーク族に伝わっていたようですね。
ヒルデニアとかもそうですが、人間と血で血を洗う抗争を繰り広げていない地域のオーク達は割と温厚というか融和的で、
人間族の文化や習慣に理解があるのだそうです。
「鉄の王」侵攻前のこの島も、そうだったのでしょう。

実際、「泣いた赤鬼」をオークに変換したような昔話をヒルデニア出身のお嫁さんから聞きましたし。
ヒルデニアの辺境では、食うに困った一家が口減らしに娘をオーク族の巣へ送り出すこともあるぐらいなので、ヒルデニア娘
にはオークの島に売られることの抵抗感が少ないのですね。

あくまでも比較的に、ですが。好き好んで来る訳ありません。

そういう訳で、この島では「ヒルデニア育ち、本人の意思で身売り、非調教、良家の出身、ヒルデニア文明圏で高度教育済み」
が嫁さん候補の最良ブランドの一つなのです。
ヒルデニア育ちの高レベル元冒険者がこれに並び、東方文明圏の元冒険者がその二つに続きます。
エルフやハーフエルフは、並の品質でも最高級の人間娘に匹敵する値段で取り引きされるようですが。

先日の奴隷取り引きも、ハーフエルフの女の子一人で西方貴族の三人姉妹まとめてより高かった訳ですし。
ええ、あの四人組冒険者達の買い取り価格のうち、45パーセントを彼女一人が占めていたのです。
やっぱりオークはエルフ好きなんですかねー。
ウサギ族は多産系なのは良いのですが、人間よりやや寿命が短いのが難点なのだとか。
反面成熟が早いので若い獣人娘は人気が高く、年増はどうしても価格が下がります。人間より年齢による値引率が高いのですね。

ああそうか、残る三人の元冒険者たちって、一人一人は三姉妹とそんなに値段変わらないんだ。精々数割り増しですね。
そう考えれば、四人で600万ゴールドって法外ってほどの値段でもないのかな? 相場的には。
相場そのものが狂っているけど。


東方文明圏でなら並の爵位持ち領主どころか、下手な国王の年収より多いですからね、600万ゴールドという金額は。
そこそこの規模の要塞建てて兵隊雇って3年は楽に維持することが出来る金額です。江戸時代で言えば10万両以上かな?
うん、東方やヒルデニアの海賊が命懸けで来る訳だわ。一攫千金なんてレベルじゃありません。


このチョウザメ皮は、神殿に持っていくとしたらクジラの皮と一緒に来月ですね。ヒゲとかは今月持っていっても良いけど、
革は加工に時間がかかりますから。
革と言えば、確か先月仕留めた大ワニの革がなめし終わって倉庫にありましたよね。あれを喜捨品に持っていくことにしますか。

ちなみに、クジラの背骨や肋骨の一部は浜辺から拾ってきて肉食アリの蟻塚近くで晒しています。
そろそろ取り込んで、材木倉庫で陰干しにすべき頃です。
というか確認したら既にグェスとウォスが回収に行ってました。直に帰ってくるでしょう。
クジラの肋骨って、大きくて丈夫ですから資材や建材にもってこいなのですよ。

あとは透明シートさえあれば温室が作れるのになー なんかこう、ファンタジーな素材で塩化ビニールやポリエチレンの代わ
りになるものはないのでしょうか?
え? 南国なんだから気温は我慢して細かい網で被えば良いだろうって? それだと雨が防げないじゃないですか。
虫や鳥を防ぎ、温度を高め、湿度を逃がさず、過度の降雨から苗や果実を守る。
現代科学の産物も、あれはあれでチートな存在だったんですよねえ。色々問題はあったけど。


さて、そろそろ喜捨品や交易品の選別に入りますか。
今回は「貪り食う無限袋」を使いますから前回の10倍近い荷物が運べます。
喜捨はお歳暮と違ってなにも帰ってこないのが少し悲しいですけど、税金の一種だと思えば腹も立ちません。この島の行政は、
対応の早さだけは21世紀の日本より上ですし。




 ☆55日め6、もっと素材を増やさなくては☆


ええと、亀の子タワシは各種混ぜこぜで計100個にしておきますか。蝋燭は神殿製のものに品質で敵わないから自分用以外
は持っていかないことにして‥‥と。
各種の香料入り液体石鹸、消毒用の薬草汁入りアルコール(純度約80%)、虫刺され用レモンの菓汁入りアルコール(純度約
50%)、棒ヤスリと布ヤスリの見本、蚊取り線香、鹿の角製釣り針を大中小一本ずつ、金箔パイプが少し。
ふむ、こんなものですかね?

あとは一月余り滝壺で寝かせた各種の焼酎に、黒砂糖の塊、良くできた燻製、干しキノコなどを持っていきましょう。
毛皮や原石など、いつもの荷物はいつもと同じようにオーク達に運んで貰います。

「一つの籠に卵を盛らない」これ冒険の鉄則。

万が一、何かの手違いで貪り食う無限袋に入れた物が消滅してしまっても、普段どおりの荷物が有れば普段どおりに交易が出
来ます。


もう暗くなってきたからやりませんが、明日は新しい背負子の慣らしもしておかないといけませんね。
新型の背負子は樫材と鋼蔦を巨大蜘蛛の糸とオーク族秘伝の強力接着剤でつなぎ合わせた逸品です。前回の荷物用の改造品と
は強度も乗り心地も大違いですよ。シートベルト風命綱も付いています。
地球の乗用車に付いているモノと違って動きにくいし外しにくいので、更なる研究が必要ですが当座はこれでなんとかなります。

あまりに使いにくいのなら使わなければ良いのです。それでも以前のと同じですから。

出発は明後日の早朝。遅くとも夕方には神殿へ到着するはずです。
今回の目標はドスとウォスの昇格もしくはそれに繋がる運動と、下っ端を二人か三人増員すること。
人数増やしすぎると狭苦しくなりますからね。一応、私が留守の間に下っ端達は居住区の拡張工事をする予定ですが。

果樹園の罠に引っかかった鳥もどきや、湖で釣った魚、一昨日掘っていた芋などで夕食にします。
メインはチョウザメのフルコースですね。



「花咲き乱れる塔の上、月の光に照らされて、杯は男達の輪を巡りゆく。生え茂る松葉のようなあの栄光は、今はもう見る影
もない。
戦士達の天幕は建ち並び、鳥が降りる場所に困るほど、刃と穂先が森となって生い茂ったあの栄光は、今はもう見る影もない」

レイちゃんです。
夕食後の余興で、手製のハープを鳴らして歌っています。聴衆はオークたち。
今の身体は前世より歌が上手いですね。少なくとも声の質と通りは格段に上です。

オーク達は歌はあまり歌いませんが、人間の音楽は好みます。どちらかといえばしっとりした曲の方がウケますね。
今歌っているのは「荒城の月」を翻訳というか翻案した歌です。滝先生が聞いたら苦笑いすること受けあいな出来ですが。
最初は日本語で歌っていたのですが、歌詞の意味が知りたいという意見が多かったので共通語(コモン)に訳してみたのです。

オーク達に分かり易いように、「ヒルデニアで傭兵稼業をしていたオーク戦士が、廃墟と化したかつて過ごした城を訪れたと
きの歌」だというバック・ストーリーを勝手に付けてみました。

地球産の歌だけでなく物語もそこそこウケてます。
やはり単純明瞭な話の方が面白く感じるようで、映画の「蛮人コナ○」と「破壊者○ナン」の粗筋を物語風に語ったものは続
きを要求されてるぐらいです。

この手の話はストックが幾らでもありますし、その気になれば即興ででも作れます。伊達にTRPGやり込んでませんから。
まあ、良質の娯楽作品を数万点見て読んで聞いて視聴してプレイして、TRPGを何百回かやれば誰でもこれくらいは出来る
ようになりますけどね。やはり私は音楽より話芸の方が向いている気がします。


さて、と。
ここで、ついさっき思いついた新しいゲームをしてみようかと思います。
1、麻布のカーテン(屏風?)のようなものを作り、その影で果物やナッツなどを刻んだり砕いたりします。
2、それらの材料を組み合わせてフルーツパンチを作ります。
3、作ったものを椰子の実殻の器に盛り、バナナの葉で蓋をします。

こうして出来上がったシークレットなおやつの、材料を全部当てたオークに巫女がそのおやつを食べさせてあげるという実に
平和なゲームです。
分かり易くするために柔らかいモノ(果実)、固いモノ(ナッツ)、汁モノ(シロップなど)、酒(焼酎など)、その他(スパイスなど)
のように材料の種類を分けておき、それぞれが何種類使っているかを最初に明言しておきます。

たとえば今作ったのは、キウイとパパイヤとマンゴーの果肉を一口大に刻んで混ぜ、砕いた煎りクルミを振りかけ、
蜂蜜とブランデーをふりかけています。
この場合、柔3・固1・汁1・酒1になるわけですね。
さあみんな、このおやつの材料を当ててみてください!



「(省略14)「キウイ、パパイヤ、マンゴー、クルミ、ハチミツ、ブドウショーチュー」(省略14)」


全員正解かよ! しかも即答ときたもんだ。
オーク族の嗅覚舐めてました。そういえば豚の嗅覚は犬に匹敵するとかいう話があったような気が‥‥。
人間とは感覚が違うのですね本当に。

「グヒ?」

はいはい解りましたよ。全員に食べさせてあげますから待ってなさい。

そんな訳で、車座で待っているオーク達に一匙ずつ「あーんして」を繰り返す私なのでした。
次やるときはもっと難度上げてみましょう。うん。
材料の種類が少なすぎたから分かっちゃったんですよ。きっと。そうに違い有りません。


数日ぶりのレイちゃん弾き語りショウも無事終わったことですし、お風呂に入って寝ることにしましょう。
そろそろ活動限界が近いですからね。



 ☆56日め、そう言えばベテルギウスはどうなったんでしょうか☆


早く寝たせいか、まだ暗い内に目が覚めてしまいました。せっかくなのでそのまま起きていることにします。
ちなみに起きたというか寝ていた場所は、グェスの寝床です。

ドスとウォスの二人は、夜のうちから近くの遺跡に潜っていて留守なのでのんびりできます。
いえね、誰か一人と一緒に寝ていると他の二人がやきもち妬くでしょう? でも二人と川の字だと一人余るし。
かといって交代で代わりばんこに添い寝されると落ち着きません。
だから一人か二人が遠出しているとぐっすり眠れるのです。

「なら独りで寝てろ」という意見はごもっともですが、三日に一度は添い寝しないと寂しくて堪らないのです。
肉欲の疼きとかそーゆーのではなく、小さな子供が親の布団に入りたがる心理に近いですね。
オークはエロモンスターで生まれつきの肉体派ジゴロというか竿師というか女体調教者なのですが、子供好きで子供の保護者
としての能力もあるのですよ。

オーク族は女を溶かしてしまうフェロモンと同時に、子供の警戒感を麻痺させる電磁波か何かを出しているのだと思います。
脳細胞レベルで肉体的に子供で女の私は、ふと気がつくと一緒の寝床で寝て起きて、一緒のお風呂に入って洗いっこするのが
当然な仲になってしまいましたからねー。

三人の注目を一心に浴びながらマットの上で泡まみれになるのも気持ち良いですけど、肌をなるべく見ないように気を使われ
ながら洗って貰うのもまた格別です。壊れ物扱いで優しく丁重に扱ってもらえるって、幸せですよー。まさにお姫様気分です。

今はグェスと一緒に二人きりでお風呂を楽しんでます。

いや、かなり拙いというか危険なのですが。貞操の危機とかじゃなくて私の精神的に。
だって今の私「スポンジでこれだけ気持ち良いのなら、素手で洗って貰ったらどうなるのかなー」とか考えちゃってますから。
私は同性愛者ではありません。前世も現世も。でも何故かスキンシップが止められなくなっています。


うん、オークの巣から奪還された女が社会復帰できない理由がよく解ります。
これは持たない。どう考えても二年なんて持久できません。このままだと私は好奇心の延長線上でオークとあんなことやらこ
んなことやらかしてしまいます。下手をすれば三ヶ月持たないかも。

なによりも拙いというか厄介なのは、そのことがちっとも恐くない事です。
たぶんその時が来たら、嬉々としてやってる気がします。私は。
最強の技とは「自分を殺しに来た敵と友達になる技」だとするならば、オーク族は人類の過半数に対して最強の奥義が使える
訳で。
ある意味究極生物ですよねー。


「ね、外に連れて行ってくださいな」
「グヒ?」

お風呂上がりにギュー・グェスにおねだりして、まだ暗い外に出して貰うことにしました。
遠出はしません。直線にしてほんの数十メートル程度です。ただし縦方向に。

詰め所で眠そうにしている見張りと、眠りこけている猪親子の横を通って洞窟前の広場に出ます。そしてここから岩肌をよじ
登って尾根の上に出ます。
砂浜と違って遊ぶには向いてませんが、尾根の上は比較的安全な場所なのです。夜は大怪鳥が飛んでませんから特に。
獲物も草木も少ない岩場しかない尾根の上は、虫も獣もモンスターも少ない落ち着ける場所なのです。夜は。
昼間は日影がないと耐えられません。

「ツイタ、ドウスル?」
「星が見たかったんですよ」
「ホシ?」
「そう、星」

極楽浄土のご両親様。来世というか、私が今いるこの場所は地球じゃありません。ほぼ確実に。
夜空の様子が全く違います。
星座の形が違うなんてレベルじゃなくて、星の密度自体が違うんですよ。一等星以上の明るい星がどう見ても100個以上あ
ります。
新月が近くなって夜空が暗くなると尚更よく分かりますね。ここ、太陽系じゃありません。
もっと恒星密度の濃い、賑やかな星域です。銀河中心域ではないと思いますけど。

まあ、月がやたら大きくて月面の模様が全然違うし、金星の代わりに朝夕出てくる星が青かったりしている時点で分かってま
したけどね。
というか、惑星がこの星入れて5個しかありませんし、この星系。

手製の望遠鏡でも見える巨大ガス惑星が外軌道に有って、その更に外に真っ黒な多分氷惑星があります。
内側にはこの星とほぼ同じ大きさの地球型惑星が2個あります。
ご丁寧にも、一番内側のマグマむき出しな赤い惑星は「火星」、二番目の一面海らしき青い惑星は「水星」と呼ばれていて、
三番目のこの星が「地星」または地球で、四番目五番目が「風星」「闇星」と呼ばれています。


神殿で見た壁画と、幹部オークたちから聞いた星読みの知識、そして手製の望遠鏡で観測した結果、嬉しくない結論に達しま
した。
この星というかこの世界、どう見ても人工品です。下手をしたら太陽も。

一年がきっかり360日で一ヶ月がきっちり30日なあたりで、嫌な予感はしてましたけどね。
テラフォーミングならぬソルフォーミングぐらいやっていても驚きませんよ。

この世界、ヴァーチャル・リアリティとかじゃないよね? もしそうだったら嫌すぎです。できれば現実であって欲しい。
私の悩みや失敗も、下っ端達の生き死にも、なにもかもがマウスとキーボードの入力一つでひっくり返ってしまう幻だなんて
考えたくもありません。


それに比べれば、力と暇を持て余した厨二病患者な超越者が作り出した箱庭な方が断然マシです。どちらも創造者の指先一つ
で左右される塵芥にも等しいものに違いはありませんけど。
あー 私ってつくづく日本人なんですねえ。物体に拘るあたり。

ほら、日本語だと「一家の大黒柱」とか「御国の礎石」とかって誉め言葉のうちでしょう?
でも知り合いのメリケン人の話だと、メリケン的価値観だと「人材」って日本語は違和感あるそうです。
彼らは「材」より「財」を重視しますから。
「人材」だと人間を消耗品扱いしているような感覚になるらしいですね、メリケン文化的または英語的に。

日本人にとって良質の木材は、それこそ大寺院の柱に使うような巨木はそれ自体がお宝ですけど、メリケン人にとってはそう
じゃありませんからねー。
極端な話、彼らにとって木材って ゴ ミ ですし。


農地一つにとっても考え方が違いすぎますからねー。アメリカ式農法は言ってしまえば「土地が再生しない焼畑農法」ですし。
イナゴのように土地を食い荒らしつつ突き進む彼らと、狭い田畑を何千年も守り通してきて今後も少なくとも20万年は守る
気な日本の百姓とでは意見が合う訳もありません。そりゃ交渉も拗れるでしょう。
前世のこととはいえ、農業問題については気になりますねえ。私の家庭菜園がどうなったかの方はもっと。
そろそろ新ジャガ掘ろうかと思っていた頃だったのですが。


「ルェイ、ホシ、スキカ?」
「好きですよ。でも月や太陽のほうがもっと好きかな」

日本人的に考えて。
月を詠んだ和歌はいくらでもあるのに、星を詠んだ詩や俳句って少ないんですよねー 何故か。星に対する興味が低いのかな?
私にしても、星空の違いに気付いたのは月よりかなり遅れてでした。



それからギュー・グェスの膝に乗って、色々な話をしました。星や月や太陽の話から始めて、色々な話を。
でも外だと警戒が抜けないからもう一つ話しにくいみたいですね。
巨大昆虫や巨大コウモリなどの飛行性モンスターがいるこの島の夜は、月見もゆっくりできないのです。

やはり、巣周辺の要塞化を押し進めるべきでしょうか? 
塀や柵や堀、生け垣やネットで何重にもバリヤーを張って外敵の侵入を防ぐのです。
そこまでやると周辺の生態系に影響出るかなあ。

ならば逆転の発想で、洞窟の中から夜空が眺められるようにするべきかな? 強化ガラスかアクリルか、大きくて頑丈な透明
素材が手に入れば楽なのですが。
昼間は温室や日光浴部屋に使えば良いし、作れないかどうか検討する価値はあるでしょう。




 ☆56日めの2、りびんぐ・でい・らいつ☆


オーク達に伝わる創世神話によれば、原初のこの世界は何もかもが入り交じった塊として「無」の中に浮いていたそうです。
そこに現れた二柱とも四柱とも言われる創造神たちが、塊を混ぜたり捏ねたり伸ばしたりして加工を始め、世界は軽い物と重
い物、固い物と柔らかい物、熱い物と冷たい物、暗いものと明るい物などに別れていったのだとか。

熱い物が丸まって大地となり、次第に冷えていくうちにその中で冷えていない、冷えようとせず燃え盛る熱く明るく軽いもの
が大地の殻を破って飛び出して、天で輝くようになったのが太陽なのだそうです。
太陽が飛び出した後が火山の火口であり、地中には今も太陽が埋まっていた頃の余熱が残っていて、ときおり火山から火や溶
けた岩などが噴き出してくるのだとか。


ギュー・グェスの母親はヒルデニア人で、ヒルデニア群島の中心にそびえるヒルデニア山こそが太陽が飛び出してきた火口だ
と主張して譲らないそうです。ヒルデニア人にとっては日本人にとっての富士山かそれ以上の霊峰なのです。
しかし息子のグェスは、この島の火口跡こそが太陽が出てきた場所なのだと信じてます。

「えっと、どっちも正解だと思うんですけど」
「?」

怪訝そうなグェスに、「太陽が出てきた場所は幾つもあって、天に昇った太陽たちが一つに合体して今の太陽になった」ので
はないかという説を提唱してみると、妙に喜んでいました。
この説なら、創世神話の中で大地から太陽が産まれたという一節と大地が纏まる前から太陽があったという一節の矛盾が解消
されますからね。
今度母親と会ったときにこの新説について話してみるそうです。

前にも言いましたが、グェスの母は「大きな洞窟の巣」という集落で暮らしています。
普段は洞窟の中と周辺だけで暮らしていますがときおり神殿へ出ることもあるので、毎月神殿へ行けば年に何回かは会うこと
もできる訳です。
グェスの母はそこそこの腕前で、オークが連れて歩きやすい女なのですよ。小柄で軽いから運ぶのも楽だし。
‥‥分かってたけど、グェスってマザコンですよねえ。私もだけど。


山の向こう側で太陽が昇ったのでしょう、周りがどんどん明るくなっていきます。
緯度が低いから朝焼けの時間が短く、すぐ昼みたいになるのが南国の難点ですかねー ロマンな雰囲気に欠けます。

明るくなってきたので巣の周りで果物集めなどをしてから帰りますか。

「アレ、ワカルカ」
「うーん。岩かな?」

見回りの途中で、怪しげな岩を見つけました。
尾根の上から革紐式の投石器(スリング)で小石を飛ばして下の沢にある、見慣れない岩にぶつけます。
飛距離は40メートル程度なので、女子供の腕力でも充分有効射程内です。

この中くらいの川は例の巨大亀が狩り場にしていて、巣の近くでは一番危険な場所なのです。二番目がこの川の河口付近。
巨大亀や大型の陸生ワニなどは早めに狩るか追い払うかするべき相手です。猪や下っ端オーク達には危険すぎますから。

小石は岩?に当たって跳ね返りました。音の硬さからして本物の岩のようです。
念のためにグェスが漬け物石ぐらいの小岩を投げて、確認をします。うん、ただの形が紛らわしい岩ですね。当たった場所が
砕けて岩の破片が飛び散りました。
岩の下から衝撃で気絶した小魚が何匹か腹を見せて浮いてきましたが、川にいた鴫か鶴のような足と嘴の長い鳥たちが素早く
寄ってきて、流れていく魚を捕まえて食べています。

ソーニャさん曰く人並み以上にあるという私の観察力ですが、日々の生活で鍛えられてきたのかモンスターや野生生物の擬態
がだんだんと判るようになってきました。
下っ端たちと一緒に動いていたら嫌でも観察力が鍛えられます。
どうもオーク族は危機感が足りないというか、迂闊すぎる面がありますね。体力や耐久力に自信がありすぎなんですよ。
これに命が軽すぎる世界観が加わって脅威の死亡率になる訳です。

おかげで今は何処の窪地にスライムが潜んでいそうだとか、薮の下にいるどの蛇がどの順番で危険なのかとかが判るように
なってきました。
で、一度試しにですね、ドスの肩に乗ってシャワーの天窓から森の手前までの脱走ルートを再度通ってみたのですよ。
出た結論は「なんで私、まだ生きているんでしょうか?」でした。

毒蛇毒虫毒キノコ、巨大クモの巣や眠り草の茂みを綺麗に避けて通っているんですよあの時の私。
スライムを踏んづけるまでは。
いえ、もしあのときスライムに捕まらなければ下っ端オークでは一人歩きが躊躇われる森や草原といった危険地帯に、血塗れ
半裸の姿で走って入るという即死確実コースだった訳ですが。


巣に帰ると、入り口近くでコブハナたちと猪の親子が出迎えてくれました。
おみやげの捕獲イバラの実をみんなに配ります。はいはい、一人二個ずつですよ。ウリ坊は一個ね。

さあみんな、今日も働いて貰いますからね。

「昨日より良い今日のために! 今日より良い明日のために!」
「「グヒー!」」

喋るのは苦手でも、共通語(コモン)の聞き取りは得意なオークたちは巫女のかけ声に応えて拳を振り上げます。
良い指揮官がいる限り、彼らは優秀な兵なのです。つまり上司さえまともなら労働者としても優秀な訳で。

この無駄に有り余っているマンパワーを上手く使いこなせば、彼らにもっと良い暮らしをさせてあげられます。多分。
住み心地の良い、広くて安全なねぐらに美味しい酒と食べ物。日々の娯楽。そして可愛くて気立ての良いお嫁さん。
全部いっぺんには無理ですが、一つ一つやっていけばなんとかなりますよ。






[38600] 21
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/12/18 13:27



 ☆56日め3、はまべのきけんないきもの☆


程なく帰ってきたドスとウォスを加えて、巣の全員で旅の準備を始めます。今回は前よりも日程的に長くなるので、準備も
入念にしておかなくてはなりません。
薪の備蓄一つとってもまだクジラ祭り以前の水準に戻っていません。幹部二人が長期間いなくなるからには薪集めの効率が
落ちる訳で、人手が足りているうちに少しでも集めておくべきです。

女神像の手入れと祭壇のお清め。大広間の掃除。「貪り食う無限袋」を使っての物資輸送。私も結構忙しいのです。
え? 浜辺にセルキー族達が来てる!?

本当だ。クジラの骨がまだ残っている浜辺に数人の哺乳類系人魚(人海獣?)たちが浮いています。洞窟出入り口に近い場所で
オークの肩に立てば、砂浜が見えるのですよ。直線距離だと4~500メートル程度だし、今の私なら充分見える距離です。
耳を澄ませば、微かにですが彼女達の歌が聞こえてきます。なるほど、これがインターフォン代わりですか。


さっそく浜辺に降りてみると、やはり前に来ていたセルキーたちでした。
新顔さんもいますが半分ぐらいは前回と同じ人達でリーダーも前と同じ、緑髪で柔らかなそうな頬をしたお姉さんです。

「こんにちは、【熱い淡水の洞窟の巫女】よ」
「こんにちは、【青い穴の一族】の人」

ふむふむ。今日は交易に来たのですか。交易品は‥‥これはまた立派な貝殻ですね。
蓋つきのカタツムリのような、太い円盤状の巻き貝です。生命感が欠片もないから殻に中身はないでしょう。

セルキーたちはリアカーに乗せたら荷台からはみ出すぐらいの、大きな巻き貝の殻を持ってきていました。この貝殻が売り物
な訳ではなく、殻に詰め込んだ中身が交易品です。
中に荷物を入れて、比重が水とほぼ同じになるように調節してから蓋をして密閉したものを水中に沈めて運ぶのですね。
潜水艦が引っ張る運貨筒と同じ理屈ですか。考えてみれば海生ワニやクビミジカ竜のいる浅い海域より、深い水中の方が安全
かもしれませんよねえ。

巨大イカや巨大イソギンチャクなどの軟体系モンスターはセルキーたちの友達(という名の下僕?)なので、恐くありません。
でも爬虫類系のモンスターは友達ではないので、危険なのです。ゲーム的に言うとセルキー族はコントロール・アニマルやコ
ントロール・フィッシュは使えますがコントロール・レプタイルは使えないのですね。
基本的に魅了や交渉が通じない爬虫類系や、セルキーとの交渉に価値を見出さない一部の哺乳類系のモンスターがセルキーた
ちの天敵なのです。

だから水中を進むのは良い手です。彼女達にとって最強最悪の天敵となりうる、人類と爬虫人類は主に水面かその近くを移動
していますから。
セルキーたちには海図も方位磁針も要らないだろうし、水中呼吸(ウォーター・ブリージング)の呪文が使えるなら息継ぎの必
要ありませんし。

え? 呪文じゃなくて種族魔法ですか? ふむふむ、セルキー族は先天的に水中で肺呼吸ができて、彼女達にキスしてもらうと
数時間から数十時間水中でも呼吸できるのですね。時間の長短はセルキー側の気合い次第ですか。
つまりセルキーの旦那さんは、三行半突き付けられたら水中から出て行かざるを得ないのですね。溺れるから。


貝殻の中身は壷詰めの塩に真珠、珊瑚に鼈甲、あと魚の塩辛に魚醤ですか。全部買いましょう。
そちらの希望する商品は、酒類に甘味、薬草に香辛料、油類と火打ち石、スポンジもどきとタワシですね。分かりました。


ではさっそく洞窟まで‥‥
! 止まりなさいそこのマルマルした奴!

そう! そこの貴男です! 
そのままゆっく  ではなくっ 三つ数える前に私の所へ来なさいっ ひとぉーつ! 

魚取り網片手に波打ち際から浅瀬へと歩きかけていた特に丸っこい体型の下っ端オークが、こっちへすっ飛んできて「ふたぁー
つ」のー あたりで私の足下までやってきました。砂煙を立てつつ、片膝を立てた忍び座りで目の前に座ります。
ふう、やれやれ。
聞き分けが良いオークで助かりました。せっかくだからあだ名付けますか。では、今後「マルマル」と呼ぶことにしましょう。

レェ・ウォスが流木でマルマルがついさっき進もうとしていた辺りをつつくと、海草の茂みから大きめの巻き貝が出てきました。
クリーム色の、ホラ貝に似た形の貝殻をもつこの巻貝は浜辺で最も危険な生き物の一つです。
殻の長さは1メートル少々ですが、怖ろしい武器を持っています。オークたちが鬼殺しと呼ぶほどの。

うん。観察力上がってますね、私。
一月前、いいえ10日前だったら気付かなかったでしょうが、今の私は鬼殺し貝の擬態を見破れたのです。とりあえず今回は。
幹部オークより先に発見できたのは位置が良かったからですね。もう数メートル離れていたら間に合わなかったかも。


オーガ(鬼)でも即死させることから鬼殺しと呼ばれるこの貝は、地球のイモガイに似た武器を持っています。早い話水中銛です。
水中でも数メートル、陸上だと10メートル近く飛ぶ銛状の歯を撃ち出すのです。しかも猛毒つき。

この長さ30センチ前後の銛歯は削ろうとしたらヤスリの方が削れるくらい硬いのですが、耐久性が無く時間が経つと劣化して
どんどん脆くなりしまいには砕けてしまうので武器としては利用しづらいのです。
採取したその日のうちに使い切るなら問題ないのですがね。オーク達は「鉄の王」との戦でもそういう風に使った訳ですし。


「グヒィ♪」

そうですよ、危険だから怒鳴ったのであって、怒った訳じゃありませんからね。

巫女が心配してくれたことを理解して喜んでいるマルマルの頭を撫でて、言うことを素直に聞いてくれたことを誉めてあげます。
うんうん、良い子良い子。おかげで死人を出さずに済みましたよ。
最近、下っ端たちの操縦方法が少し分かりました。「するな」ではなく「しろ」と言えば良いのです。

具体的には「落とし穴の蓋に乗るな」ではなく「落とし穴は避けて通れ」と言えば良かったのですよ。
そう言うと私がオーク達に穴に落ちて欲しくないと思っている事を、理解してくれます。
先程のマルマルなら、「それ以上進むな」よりも「今すぐこっちに来い」と命じた方が反応が良く遂行率が高い訳です。

実験してみましたが、下っ端オークに蟻蜜などの美味しいおやつを渡して「日が暮れるまで食べるな」と命令するよりも、
「預けておくから、日が暮れたら私に渡しなさい」と命令する方が遂行率高いのですよ。
「食べるな」の命令だと我慢しきれず日が沈む前に食べてしまう奴がどーしても出ますが、「渡しなさい」なら九割近くが渡し
てくれます。
渡さない残り一割ほども、命令があったこと自体をど忘れしているだけですし。

オーク族は、少なくともウチの巣の下っ端達は禁則事項で縛るよりも細かく指示を出し続けた方が良さそうです。
なるほど、指揮能力持ちじゃないとオークの巣の運営なんてできませんねこれは。
ちなみに「渡しなさい」ができたオークにはおやつを私と半分こしてあげてます。
しかも交互に「あーんして」ができるという特典付き。
ただし忘れていた場合は特典無しでおやつ支給のみ。巫女と「あーんして」がしたかったら記憶力と我慢が必要なのです。


鬼殺し貝は、ウォスが抱えて沖の方に捨てに行きました。
殻を掴む方向さえ間違えなければ刺されないのですよ。あの銛は前方向にしか撃てませんし。

貝にとってもその方が幸せです。この浜辺には彼らの主食であるウニやヒトデが少ないですから。
多分フグみたいに、毒持ちの獲物を食べてその毒を生体濃縮してるんでしょう。大海星を食べてくれますし。

あの貝はヒトデなど棘皮動物の毒に免疫があり、大海星の天敵なのです。
そんな彼らを遠くまで力一杯投げ捨てて、もし殻が割れてしまったら可哀想というかもったいないじゃないですか。
貴重な環境維持戦力が無駄になってしまいます。


危険だけど狂暴ではない生き物なんですよね。
知能が低く臆病なので過剰防衛してしまうのと武器の威力が洒落にならないのが厄介なだけで。

ん!? 待てよ? ‥‥うん、できる筈です。

「レェ・ウォス! その鬼殺し貝捨てないで、こっちに持ってきてください!」



砂浜の上に巻き貝系モンスターを置いて、棒などでつついて丸太を盾にしたウォスを攻撃させました。丸太に刺さった銛を回
収すれば猛毒の凶器が手に入ります。しかも複数。

銛の残弾が厳しくなってきた巻き貝には、お詫びの大海星を何匹も与えてから沖で放しました。お腹いっぱい食べさせたから、
しばらくは狩りをせずに過ごせるでしょう。


大海星はセルキーたちが見つけるのを手伝ってくれました。彼女達にとっても、珊瑚礁を食い荒らす大海星は害獣ですから。
本人主観では何の脈絡もなくオークに捕らえられ貝に食べられてしまった大海星たちよ、呪うなら私と出会った運命を呪って
ください。いえ、私だけなら恨んでも呪っても別に構いませんけど。

で、直接触れないように注意しながら丸太から歯舌を抜き、肉ヒモを削ぎ落として木製の柄に取り付けます。地球のイモガイ
と違って、この銛には根本近くに目釘穴のような穴が開いているのですよ好都合にも。
穴を開けた柄の先に穂先を縛り付けて、樹脂でガチガチに固めて出来上がり。
バナナ葉の鞘で穂先を包み、竹筒の容器に差し込めば必殺の毒銛が完成です。

時間が経つと劣化するなら、時間を経たせなければ良いのですよ。
無限袋の中では時間が経たないのですから、入れておけば熊でも虎でも殺せる毒の銛が保存できます。6本作っておきました
から運さえ良ければ一週間後でも何本かは残るでしょう。別々の竹筒に入れておけばまとめて消えたりしませんし。




 ☆56日め4、住まいのリフォーム計画☆


銛作りも終わったことですし、交易再開といきますか。
巣と浜辺を往復して、備蓄に余裕のあるものから順に貪り食う無限袋へ詰め込んで運びます。
他のものはともかく香辛料が不足気味ですねー。穴埋めに、スパイスたっぷりの激辛クジラジャーキーを付けておきますか。

交換レートは「持ってけドロボー」な勢いで相手側に有利にするのがオーク流です。ケチってはいけません。
がめつい = 生活苦しい = 稼げない = 弱い = 生きる資格がない という五段理論がこの島の世界観ですから。
誰がどう見ても等価交換じゃないよというレベルの物資を集めて、浜辺に戻ります。

その甲斐回あってか、物々交換自体はすんなり纏まったのですが。

「明日からしばらく遠出しますので、よろしくお願いしますね」
「グヒー」
「‥‥‥‥‥‥はい。お任せ下さい」

しばらく(長くて10日ぐらい)交易が出来ないことを告げると、セルキーたちはどんよりとした顔つきで帰っていきました。
はて? 彼女達の集落では、そこまで香辛料不足が深刻なのでしょうか?
うーん、これは園芸計画を前倒しすべきかもしれません。鉄筋とコンクリートの量産ができないと辛いのですが。


魚醤が手に入ったので、今日のお昼は牡蠣とサザエを焼きましょう。オーク島風の麻婆豆腐とナポリタンも作ります。
ただし小麦粉がないので、麺は澱粉とドングリ粉から作った葛切りもどきで、豆腐は石膏で無理矢理固めた大陸式豆腐です。
当然ながら、美味しくありません。
うーむ、トマトソースで料理しても誤魔化しきれないとは、想定以上の酷さです。
豆腐はそれ以上に酷いのですが、食べられない程じゃありません。
時間が経つとどんどん不味くなっていくのでとっとと始末しときましょう。


「グヒ?」

怪訝そうな下っ端(まだ名無し)に、オーク語と日本語ちゃんぽんの説明をします。‥‥いや、これが一番通じやすいんですよ。
えっとね、その料理はもっと美味しくできる筈だったのですよ。でも材料が揃わなくてね。

「グヒー♪」

うんうん、今度神殿から色々持って帰るから楽しみにしてなさい。


この洞窟の周りにも野生のトマトが生えていますが、有毒です。私が食べるとお腹を壊します。当然ですが今日ナポリタンも
どきに使ったトマトはこの野生種なので、出来上がった料理も人間が食べるには向いてません。
でも料理の最中に味見するぐらいなら大丈夫です。呑み込まずに吐き出してすぐ口を濯げば。

オーク達は十個くらいなら平気ですね。ナポリタン葛切り一皿分ぐらいなら問題なく食べられます。流石にバケツで山盛り食
べると気分が悪くなるみたいですけど。

栽培種のトマトは神殿とその周りにしか生えていませんので、私がトマトを食べたければ神殿から苗を仕入れて育てるしかな
いのでした。
ナス科植物はたいがい毒物ですからねー 地球のジャガイモやトマトだって原種は有毒だった訳ですし。


そーゆー訳で、まずは手始めに生け垣の概念を導入してみました。
原始的とはいえ火炎松やナッツ類の植林をしているのですから、オーク達も生け垣の意味は理解しているはずです。
多分理解していると思うんですが、しっかり確認しておきたいところです。文字も言葉も通じている日本人同士でも、時に訳の
分からない勘違いが起こったりしますからねえ。念には念を入れておかないと。


とりあえず、巣の拡張工事などで出た岩を組んで、石垣というか塀のようなものを作ります。高さは50センチ程度で。
これを幅3メートル程度で二重にして、石壁の小道というか堤防の外壁のようなものを作ります。
堤防というか、完成すると川沿いの堤防から道を除いて並木だけを植えたような構造になりますね。ミニサイズだけど。

石壁はノヅラ積みです。中世日本の一般的な堤防や城の石垣のように、土砂の堤を石を包んで崩れないようにします。
ノズラ積みは見た目こそ悪いですが、積んだ岩の隙間から雨水が出るから意外に長持ちするんですよ。要塞の防衛拠点として
使うには性能が半端ですけど。

底と壁面から 岩 小さめの岩 小石 砂利 火山灰土 土や泥や腐葉土などの混合物 等の順番で入れていきます。
そして一番上の土の所に茂みから掘り出した捕獲イバラの根と芽を埋めて、芽の周りには水や直射日光から土を守る被いを被せ
ます。古いスポンジもどきやバナナの葉や豆殻などですね。この被いが風化すればそのまま肥料になります。

土の中にはミミズを多めにいれておきましょう。土の上に朽ち木や落ち葉やそのへんから刈った青草を山積みにしておけば、
ミミズや他の虫たちが土に変えてくれます。
腐葉土や落ち葉を取った場所には川で水に晒した海草や巣から出た生ゴミ類を山盛りにしておきます。あと大鋸屑とか。
取りっぱなしだと土地が痩せてしまいますから。

ミミズは益虫の中の益虫、緑の大地を作り出す偉大な開発者なのです。可愛くはないけど。
でももしミミズが可愛かったらニワトリに食べさせたり釣りの餌に使うのが辛くなるから、今のままで良いのかもしれません。
猪もミミズ食べるし。食べるなとは言えないし。


図にすると

   被被被
  岩土芽土岩
 岩石砂土砂石岩
岩石石砂砂砂石石岩

こんな感じですかね。無事成長すれば、

    茨
   茨茨茨
  茨茨茨茨茨
   被幹被
  岩土根土岩
 岩石砂根砂石岩
岩石石砂砂砂石石岩

になり、恐鳥類や大型猫類などの侵入をある程度防いでくれる筈です。まあ、本命は対人防御用なんですけど。
人間の力で捕獲イバラのからみつきに対抗するのは楽ではありませんから、防壁と警報機を兼用できる筈。鳴子も付ければ効
果倍増です。

まずは実験と言うことで、巣に近い位置に岩を組んで3メートル四方の四角い花壇(茨壇?)を作ってみました。これでうまく
育つようなら、同じ物を幾つも作って繋げていけば攻撃型生け垣のできあがりです。

某カードゲーム風に言えば、緑マナ1で呼び出せるノーコスト再生(リジェネーション)能力持ちの1/2壁クリーチャー‥‥
ぐらいになってくれると嬉しいのですが。
対空能力と対「森渡り」能力も欲しいところですねー。このままだと蛇の侵入とか防げないし。

「【地下牢と竜】なら 魔法のクモの巣(ウェブ) を永久化して張り巡らすんですけどねー」
「グヒ?」
「なんでもありません。というか、そんな高レベルの魔法使いがいたら苦労はないんですよねー」

うちの主力は戦士系です。純粋戦士じゃなくて狩人や野伏や遺跡荒らしの要素もあるので潰しは利きますが、呪文使いは一人も
いないのです。

「‥‥いませんよね?」
「ジュモン、ツカウ、ナイ」

オーク・シャーマンやオーク・ウォーカンなど呪文が使えるオークも偶にいますが、本当に稀な存在です。人口比で言えば戦士
の2~3%程度でしょう。この島全体でも数十人、地球の学校なら2クラス分はいかないぐらい。
グェス達三人が住んでいた「大きな洞窟の巣」には20人以上の呪文使いが居ましたがその八割方はオークじゃなくてその嫁さ
んたちだった訳で。


元々魔法使いに向いてるとは言い難いオーク族ですが、母親が呪文使いだと息子達も呪文使いになる可能性があります。
魔術について母親達ほどの腕になるハーフオークはいませんが、人間の魔術師と比べれば腕力と耐久力が圧倒的なので潰しは利
きます。それに半端な使い手でもいるといないでは大違いですから。


うちにも欲しいですねー 呪文使い。でも高いだろうなー。お布施とかが。
そもそもウチの巣の連中に嫁さん貰う気がないのが問題ですけどね。あるなら今頃この巣は女の子で溢れかえってますよ。




 ☆56日め5、目指せ要塞(モスクワ)☆


さて、一口に石と言ってもピンキリですが、石とは基本的に重くて硬いのです。軽めの凝灰岩とかでも直径1メートルの球体だ
とトン単位の重量になります。これが崖の上から転がり落ちてきたときの破壊力は洒落になりません。
巣の防衛手段として導入したいのですが、力押し万歳な脳筋たちには「使える罠」というものはそれだけでは魅力的ではありま
せん。

だから、これも遊具だということにしちゃいましょう。

「行きますよー!」
「グヒー!」

合図をしてから洞窟の上、尾根に続く岩場の上にいる私はテコを使って丸太の輪切りを下へ転がり落とします。
直径約60センチ、長さも同程度のこの木材は、クジラ祭りの時に切り出した木材の一部です。それを本日たったいま輪切りに
して貰い、岩場の上まで運んで貰ったのです。

岩場の下、洞窟前の小広場にはギュー・グェスが両手を拡げて待ち構えてます。私が何かを転がして、グェスが転がり落ちてく
る物体を受け止めることができれば勝ち。
とんでもない位置に転がすとゲームが成立しないので、捕手側プレイヤーは守備範囲以外に転がってくる物は受け止めなくて良
いことになっています。

一方通行のキャッチボールというよりは、サッカーのPKみたいな感じですかねー。とにかく止めればグェスの勝ちです。
これまでにも、幹部達の間では岩や丸太を投げつけ合う遊びというか鍛錬をやっていました。でもこのゲームなら、非力な巫女
にも参加できるのですよ。転がす専門ですけど。


オーク達は、巫女に転がしてもらったものを受け止めるという新しい遊びを気に入ったようです。
なので次々と選手を交代しつつ続けていたのですが、四巡めの途中で中止になりました。
理由? 私が大暴投して燻製小屋に丸太をぶつけちゃったからですよ。コースから外したら変な方向に跳ねてしまいまして。


元々急ごしらえだったこともあり、竹製の燻製小屋は大破してしまいました。
今は稼働していないから怪我人は出ませんでしたし、火事にもなりませんでしたが‥‥。
うん、威力が充分なことは証明できました。
どーしてこう、お馬鹿なんでしょーかねー私は。流れ弾が出ることぐらいやる前から分かるでしょうに。


ま、良いか。どうせ近いうちに建て直すつもりでしたし。
今度作るときは罠の‥‥遊技の邪魔にならない所に、隙間から煙が漏れない燻製小屋を作るとしましょう。
毎日普通に獲れる獲物を燻製にするなら、丸木船方式で作った薫製器が一つあれば充分ですがいつまたクジラなどの大物が獲
れるか分かりませんからね。

この転がし遊技のために丸太や丸石を洞窟の上に貯蔵しておけば、洞窟前で戦闘になった場合に役立つでしょう。
適当に転がせば人間にとっては即死級の攻撃になりますから。奇襲できれば効果倍増です。
転がす物を木材や小さめの石にしておけば味方に当たっても死にはしないでしょう。オークは打撃に耐性ありますから。


人間がオークと戦うときは暗い洞窟を避け、明るくて広い場所で飛び道具や範囲呪文を使うのが基本戦術です。
もし私が冒険者や兵士だとしても、全盛期の室○やボ○トが虚弱体質に見えるような脳筋連中と狭い洞窟で接近戦なんかした
くありません。

1、オークの巣を見つけたらだいたい何匹のオークが中にいて、その人員構成や用心棒や人質が居るかどうかなどを探ります。
2、裏口が有れば塞ぐか伏兵をおき、出入り口近くで騒ぎを起こしてオーク側の見張りを仕留めます。
3、騒ぎを聞きつけたオークたちが巣から出てきたら一旦逃げて、広いところまでおびき出します。
4、ほいほい出てきたところを「眠り(スリープ)」や「クモの巣(ウェブ)」などの範囲呪文で一網打尽にします。
5、取りこぼしを飛び道具や白兵戦力で一匹一匹潰していきます。その後、寝たり絡まったりしてる連中に止めを刺します。
6、巣に入り、残りの敵を掃討します。

これが、オーク討伐の必勝パターンですね。虚構世界の中とはいえ、TRPGだけでも何百匹殺したことやら。
大規模戦闘ルールを使ったシナリオも入れれば万単位いきますけど。
まあ、あのオークたちは文化的でも変態紳士でもなく、ちっとも可愛くない連中でしたけどね。
多くのゲームでは姿形からしてここのオークたちとは違いますし、名前が同じだけの別種族なのでしょう。

あー そう言えば上の 1 を省いたばっかりに、オーク・ウォーカンの「眠り(スリープ)」をくらってパーティ全滅したこ
ともありましたねー。ゲームの中での話ですけど。
逃げる振りをしたオークに巣穴の奥へ引き込まれ、待ち伏せしていた本隊に奇襲されてしまったのですよ。
普段やっているのと全く同じ作戦で逆にやられてしまったのだから世話はありません。

あのときはゲームマスターがヘタレ‥‥もとい温情派だったので、全滅後に奴隷として売られ、モンスター種族が運営してい
る鉱山に送られるだけで済みましたけど、本当なら死ぬか死んだ方がまだマシな目にあわされてますよねー。


話を戻すと、この巣にその手で攻めてきたら上から丸太を転がしてやるのですよ。
捕獲イバラの生け垣で行動を封じて、投石と丸太で弱らせ、その後に突撃で勝負を決めます。
問題は呪文使い対策ですが、大型の投石機(カタパルト)を作って小石や茨のぶつ切りを辺りに打ち上げるとかの手が良いかも
しれません。
達人はともかく、半端な使い手ならかすり傷でも集中が乱れ呪文詠唱が失敗する可能性があります。

いっそ、素直に転がす丸太の量を増やした方が良いかな? 丸太を避けながらでは呪文を唱えるのは難しいでしょうから。
ふむ、誤爆対策としてドッジボールならぬ丸太避け競争もやってみましょうか。
こう坂の上から次々転がってくる丸太を避けながら坂を駆け上るやつを。これなら脳筋達にも分かり易いでしょう。

「グヒー」

え? 危険物を避ける訓練なら「火山の火口まで行って帰ってくる」とかの方が実戦的で役に立つ ですか?
それは訓練じゃなくて 実 戦 そ の も の ではありませんか?

「?」

もしや、訓練と実戦の区別がない!? というか曖昧なのですか?
そういえば貴男たちは戦闘民族でしたよね薩摩人なみの。故に全ての鍛錬は実戦みたいなもので、実戦こそ最高の鍛錬だと。
これだから脳筋は‥‥。


おっといけない、丸太止めで好成績を上げたオーク達を誉めてあげないと。具体的には撫でてあげるのです。
何時のまにやらご褒美にもランク分けができてしまいました。

原則としてほっぺに「ちゅっ」や「すりすり」は戦や決闘や大がかりな狩りなどで目覚ましい手柄がないとしてはいけない事
になってます。
だから神経衰弱とか丸太止めとかゴミ投げで勝っても、頭なでなでとか膝枕一回とか巣に帰るまで巫女を肩に乗せる権利とか
しか与えてはいけないのです。

ワニ人との決闘、亡霊騎士の撃退、お化けクジラ狩り、といったことの報奨というか祝福の「ちゅっ」が、制度化してしまっ
たのですよ。いつのまにか。
えっと、これ、喜ぶべき事なんでしょうか? 私の唇は命懸けレベルの勇気を示さないと得られないってことですよね。うん。


ちなみにゴミ投げは最近始めた競技です。バナナの皮とかマンゴーの種とか魚のアラとかの生ゴミを廃棄するスポンジもどき
と適当な植物の葉で包み、蔦で縛ったものを投石紐(スリング)の要領でぶん回して、遠くの目標にぶつけるのです。
目標は荒れ地にある大岩とか、緑地にある放棄された蟻塚とかですね。投擲技術の訓練と肥料の散布になるので一石二鳥。

放棄された蟻塚は土に帰れば良質の土壌になりますから、その周りに肥料と食用植物の種を撒くことは間違っていない筈です。
生ゴミ目当てに寄ってきた鳥獣がフンをすれば、そこから出てくる芽もあるでしょうし。



うちの巣は住み心地の良い場所なのです。色々問題はありますが、規模と技術レベルとなによりも洞窟という前提条件がある
なかでは最高の場所でしょう。この島では。

でも防衛拠点として考えると最低とまではいかなくても赤点は免れません。
外に見張り場所や伏兵を置く場所が無く、出入り口は実質一箇所だけ。一度外敵の侵入を許してしまえば中で連携もできません。
大広間を通らないと何処にも行けない構造になってますからね。

この巣にお嫁さんたちを呼び入れるなら、拡張と同時に戦闘力の向上が必要です。
生憎と一人前の戦士オークが来てくれるような巣ではないので、新しい戦士オークを呼ぶ以外の方法で防衛力を上げていかねば。





 ☆56日め6、○胴鈴乃介‥‥なんて誰も知らないですよねー☆


燻製小屋は分解して、素材の竹は岩陰の隅に積まれました。乾いたら薪に使われるでしょう。
ふむ。炭焼き小屋も開発する価値がありますかね? 
わざわざ焼いて炭にしなくても、燃料としては火炎松や油椰子とかがあるし、浄水の必要も特にないし、農業は縄文時代以前
なので今まで放置していたのですが。

しばらくは必要ないかなあ? 炭焼竈はタールや燻製用液やクレオソートやメチルアルコールなど、役に立つ副産物もあるし
いずれは作るべきですが、今すぐには要りません。
焼き物や果樹園作りには炭があると便利だからそのうち作りましょう。そのうちに。


グェスたち幹部オークは一流の戦士で、実戦経験も豊富です。野生動物やモンスターだけでなく、知的生物との戦争も経験し
ているようです。詳しいことは話したがりませんけど。
そんな彼らが暮らしてるこの洞窟は、幹部オークが三人もいると考えれば規模の割りに戦力が充実しています。

しかし私から見れば、それだけではもの足りません。
人は石垣、人は城。ですがそれは一度人材の壁が崩れたならば丸裸になってしまうわけで。
更なる強化が必要です。
指揮官は充分に優秀。主戦力も充分に強い。防衛設備の改築には時間がかかる。
となれば、一番手っ取り早い強化手段は弱点の補強です。


「さあ、来なさい!」
「グヒッ」

そんな訳で、巣の大広間であだ名つきの下っ端たちと一緒に鍛錬中です。私が。
この巣で一番弱いのは私ですからね。私の足手まとい度が下がれば、巣全体の戦力が上がります。
苦手科目の補強こそが、平均点を上げる一番の早道なのです。
優れたモノをより優れた状態にするよりは、ダメダメなモノをダメな状態にするほうが楽ですからね。

しかし、下っ端達は敵以外の女に殴りかかるなんてことはできません。たとえ乾燥ヘチマの棍棒や丸めたスポンジの飛礫でも。
幹部オーク達も、手心を加えた鍛錬なんてしたこともされたこともないので教官には向いていません。
彼らは木刀や本身の武器で容赦なくど突き回されて強くなったので、戦闘における手加減は苦手なのです。
ただでさえオーク族は戦闘中頭に血が上っちゃいますし。


なので私ができる鍛錬は、道具を使ったものが主流になります。
今やっているのは天井から吊した紐に棒きれを結びつけて、棍棒で叩いて跳ね飛ばし、戻ってくるのをまた跳ね返すという方法。
日本剣術の世界に伝わる、伝統的鍛錬方法です。

これの上級編に、刀持ってバンジージャンプしながら立木の枝を切るという鍛錬方法もあるのですがあれは最低でも初段ぐら
いの腕がないとできないのでやりません。したくてもこの島にはゴム紐がないし。
え? 昔の日本にはゴム紐がない筈? 
そりゃありませんよ。ないから 紐 無 し でバンジージャンプしながら切るんです。海や滝壺に飛び込みながらね。

薩摩人以外の日本人も、わりと頭おかしいです。


ハラキズたち下っ端オークが、私を囲むように吊した棒きれを思い思いの方向へ引っ張り、適当な間合いと呼吸で手を放します。
私は四方八方からやってくる棒きれを避けたり棍棒で打ち返したりして、周辺視野や空間把握能力を鍛えます。
あと心肺機能とかも。息が上がるまで続けますからね。

訓練の成果は僅かながら出てきてまして、あまり大きくない朽ち葉蟹なら一人で仕留められるようになりました。
もっとも、オーク達が捕まえてきた大蟹をこの大広間で殴り倒しただけなので、まだ実戦で通用するレベルではありません。
せめて小型恐鳥や山猫相手に時間稼ぎができるぐらいにはなりたい。
陸生ワニは木に登ればなんとかなりますが、大蛇や熊は木登り得意だから厄介なのですよ。

汗みずくになるまで動いたあとは、始める前と同じく入念に整体と按摩を行います。
読んでて良かった青春格闘漫画。あと家庭の医学+ストレッチ本。

武道やスポーツに限らず運動をするならば、医学書とくに骨格・筋肉・内臓などを描いた人体解剖図は丹念に読み込んでその
構造を頭の中に叩き込んでおくべきです。
自分の身体がどうなっているのか、どう動いているのかを仮想(イメージ)するのに、現物の構造図ほど頼れる手がかりはあり
ません。
「ただ何となく」で成果を出せるのは天与の才能を持つ者だけです。凡人が何かするなら理論で武装しないとねー。


何故かオーク達には、この鍛錬はブランコと同じく見せ物扱いで、「鍛錬につきあえる=特等席で見物できる」というご褒美
状態です。ですので名無しの下っ端達は巫女に顔を覚えて貰おうと、進んで作業や雑用やゲームに参加してきています。
幸いにも、オーク族には悪ふざけの概念がない(または薄い)ので、わざと危険な真似をして巫女の注意を引こうとする馬鹿者
は出てきません。

もしいたら即座にあの世行きですけどね、この島では。
オールクゥス神はそんな馬鹿者でも宮殿に迎え入れてくれるでしょうが、扱いはさぞや悪かろうかと。



運動の後には手作りのスポーツドリンクもどきを飲みます。
塩と黒砂糖をそれっぽい比率で混ぜて湯冷ましに溶かしただけの代物ですが、やはりただの水よりも吸収率が良いですね。
現在の最強装備である魔法の棍棒【ナノレドの棒きれ】は使うとお腹が減るという欠点があるので、スポーツドリンクを開発
してみたのですよ。

でも一日や二日ぐらいは飲まず食わずで動けるオーク達には、嗜好品にしかなってません。
どうも彼らは体内に「○○ふくろ」とでも言うべき器官があって、そこにカロリー源やミネラル類などの栄養物を貯蔵してい
るのではないかと思います。昔のウルトラ怪獣じゃあるまいし、チート生物にも程がある。


シャワーで汗を流し、肌着を洗濯して服を着替えてからドスとウォスが持って帰ってきたアイテムの見分をします。
少しでも危険な感触のある、呪いや厄がこもってそうなアイテムは除いてあるそうですが、取り扱いは慎重にしないと。
念のためにグェスにも見て貰って、毒の塗料などが塗られていないかどうか確認します。

「ドク、ナイ」
「ありがとうギュー・グェス」

金貨や財宝に毒を仕込むのは、罠の定番ですからね。えーと、確かグェスは寄生虫などの害虫も見分けられましたよね?
うん、危険なものはありませんか。それは良かった。
ノミやダニの卵とか、もっと厄介な生き物の卵や種が振りかけられていたりしたら堪りませんからね。
毒カビや毒キノコの胞子とかも。





 ☆56日め7、おたからかんていだん☆


二人が持ち帰った本日の戦利品は、小さな翡翠の珠(オーブ)・霊薬の入った水晶の小瓶・皮袋が二つ・鉄の鱗鎧(スケイルアー
マー)・鞘と柄に宝石飾りの付いた両手持ち刺突剣(エストック)・白いドリル状の角・足が一本取れてて扉に傷が付いている
木製の戸棚、そして薪の燃えさしのような先が炭化した木片を10本ほど円形に集めて固めた置物‥‥ 

なんでしょうか、これは?


【リンの焚き火】
・それは火を灯すことができる
※残り48時間使える


鑑定してみた結果、見た目は暖炉の飾り用物体(オブジェ)ですが実用品のようです。
なるほど魔法のカセットコンロ、いやどちらかといえば灯油ランプですか。灯りが主目的だけど暖房や煮炊きにも使えるあたりが。


その他のアイテムをざっと調べてみましたが、翡翠の珠は火炎耐性を上げてくれる護符(タリスマン)のようです。
首から下げて、ついでに焚き火の試運転もしてみますか。では、点火!
あれ? 火がつきませんよ?

‥‥‥‥ついた。

火が付くの遅いですね。なんでこんな事だけリアル寄りなんだか。ファンタジー力が足りません。
しかも炎が安定するまで本物の焚き火と同じぐらい時間がかかるし、その割りに火力が低いです。
やっと安定した火は小さめの松明ぐらいの明るさで、小さな松明なみの熱と炎が薪オブジェ中央から吹きだしています。

つ、使えねー!
 
色々調整して光量を下げるとその分火力が上がりました。それでも火鉢未満の熱量ですが。
うーむ、火打ち石と薪が要らないという点は評価できますが、それ以外の取り得が‥‥。
貪り食わない普通の無限袋があれば迷わず予備の暖房&調理器具として入れておくのですが、今の所は私の部屋の置物にして
おきましょう。


自分の身体で調べてみた感じでは、翡翠珠は装備しておくと火炎ダメージを1割ぐらい下げてくれる効果があるようです。
これは地味に使えるかな。


霊薬(ポーション)は能力回復、つまり一時的な脱力や疲労などを治してくれる薬ですね。量は一回分だけ。

残念ながら皮袋は無限袋ではありませんでした。片方は燃えず凍らず朽ちず錆びないという保存処理された只の皮袋で、
もう片方には「極端に暑かったり寒かったりしない限り、袋の中の温度を外気より約10℃上げる」という効果が付いてます。

えーと、つまりこれは洞窟の気温が18℃だとしたら、袋の中身は28℃になるわけですね。使えるような使えないような。
どの程度の効果なのか私の部屋で実験してみますか。食料庫のサトウキビを搾って酒種を入れて醸してみましょう。

傷物の木製戸棚は、逆に戸棚の中を「外気より約10℃下げる」効果があるようです。
洞窟の一番涼しいところに置けば、ご家庭用冷蔵庫の野菜室ぐらいの温度になりますね。容量は150リットル未満かな?
酒や果物を冷やすには良いかもしれません。あとは発酵食品の低温熟成に使えるかも?


鱗鎧(スケイルアーマー)はごく普通の性能ですね。魔力を帯びていない鎧よりも若干性能が良く、保存処理済みなので錆びた
りしません。特にこれといった付与効果(エンチャント)も欠点もありませんから、高級資材倉庫送りです。
オーク達には使えませんが、男女兼用なので将来やってくる筈のお嫁さん用装備兼いざというときの換金アイテムとして置い
ておきましょう。大人になれば私でも着れるでしょうし。


長さ30センチ、根本で太さ4センチ余りの白いドリル状物体は‥‥。

【ユニコーンの角】
・癒しの力を持つという一角獣の角を模した治療器具だ
・それは骨でできている
・それは燃えない
・それは錆びない
・それは毒を中和する(※※※)
-それはいまにも壊れそうだ
※あなたは使用条件を満たしている

使い切り型の解毒アイテムですね。
オーク達には使えないのが惜しいですが、壊れかけな点を計算しても有り難いアイテムです。
触ってみた感じでは、あと2~3回なら持ちそうですし。

そうか、この世界にもいるのですね、赤飯前の小娘好きな白いケダモノが。
この角は仕留めた淫獣の頭から引っこ抜いた本物じゃなくて、名前にあやかった偽物のようですが。カニ蒲鉾みたいな。
グェスたちの話では、この島に野生のユニコーンはいないから私の貞操は安全です。

え? だってユニコーンって 処 女 好 き ですよ。いわゆるヴァージン・マニア。しかも幼児性愛者の。
リアル中世欧州には赤飯前じゃないと処女なんてまずいませんよ? 当時の女の子はローティーンで嫁に行くのが普通ですし、
修道院は○春宿というか特殊風俗店兼業でしたから。

ですからシェイクスピアの悲劇でハムレットがオフェーリアに「尼寺に行け」と言うのは、拒絶の塊みたいな言葉の訳で。
蛇足ですけど、かの有名な「生きるべきか死ぬべきか~」の台詞は、「恥を忍んで生き延びるか、死を覚悟して決起するか」と
いう意味であって哲学的な意味はあんまりないのです。私の解釈では。

それこそ継承権持ちお姫様級の箱入り娘じゃないと非貫通ではいられないし、そんな箱入りがユニコーンと接触する訳ないし。
故に、ユニコーンは初物好きロリペド逆獣姦野郎なのです。証明終わり。

しかも玩んだ後で責任取らない分、オークより余程質が悪いです。エロモンスターの風上にも置けません。



さて、最後の一つである両手持ちエストックですが、何か気になるのです。


【匠の刺突剣】
・突き刺し攻撃専用の剣だ
・それは鋼でできている
・それは良い仕事をしている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは武器として使える
・それは両手で使うべき重さだ
・それは命中力をやや増し、威力を上げる
・それは貫通攻撃が発生する可能性を上げる
・それは貫通攻撃時に追加して被害を与える
・それは金属鎧の防御力を大幅に減らす
・それは感覚を1上げる
・それは魅力を1上げる
・それは礼法の理解を深めるが、上達しにくくなる(※)
※あなたは使用条件を満たしていない

柄と鞘に縞瑪瑙が飾られた、儀礼用にもつかえる実用剣ですかね。対板金鎧用の重歩兵殺し。
私が使うには重すぎてオーク達が使うには軽すぎる武器ですが、これもお嫁さん用にとっておくべき武器かもしれません。
正直、魔力を帯びた武器は有るだけでも嬉しいものです。
モンスターは、レベルを上げて物理で殴れば勝てる相手ばかりではありませんからね。

でも、妙な違和感が‥‥。
何かが気になっているのですが、はて?


「ルェイ、ドウシタ?」

うーん、ああ、鍔がこうなっていて刀身がこの幅だから‥‥ アレかな、これは。


オーク達に頼んで、太さ10センチほどで長い木材の先に交差する角度でエストックの柄を縛りつけます。
蔦や麻縄ではなく銅の針金でがんじがらめに縛り上げ、真っ赤になるまで焼いた石で針金を焼き潰して溶接します。
このくらい固定しておけば大丈夫でしょう。
そして、その状態で剣先を洞窟の壁に突き立てて貰います。

「おもいっきり強くお願いします」
「ワカッタ」

ウォスが振りかぶり、勢い良く棒材とそれに固定した剣を叩き付けると、破片を撒き散らして壊れました。刺突剣の柄が。
そして砕けた柄の中からは、剣先と同じぐらい鋭く研ぎ澄まされたもう一本の切っ先が覗いています。

ああ、やっぱり。「両刃の剣」だ、これ。
つまりですね、この剣身は入れ替え式ネジ回しのように両端が武器になっていて、その片方はある程度の強度しか持っていな
い柄にはめ込まれていた訳です。
今は棒に固定していましたが、もしもこれをそのまま実戦で使っていたら命はないでしょうね。
廃品の板金鎧相手に試し刺しするとかしても死にかねませんけど。

豆腐みたいな柔らかい敵はぷすぷす貫けますけど、硬い敵を刺そうとしたら柄が砕けて、持っている者の腹に突き刺さる訳で。
嫌なトラップですねえ。毒でも呪いでもないから知識がないとまず気付きません。

私が気付いた理由ですか? 鍔の穴が大きすぎて、刀身が素通りしてしまうからですよ。
普通は、破損や経年劣化などで柄が脆くなり砕けてしまったときの用心に、こういった刺突剣は鍔と刀身が一体化していたり、
刀身が根本あたりで窄まっていて、たとえ柄が砕けても鍔の穴を通らない構造になっているのです。普通はね。

迷宮で拾った武器を、ろくに調べもせず使う間抜けを仕留めるために作った仕掛けですか。根性の悪い奴もいたものです。


「グヒー」
「んー 気付かなくても無理ありませんよ。というか貴男ならかすり傷で済むでしょうし」

この武器で試し刺ししていたら、当然それを行うのはレェ・ウォスなのです。
ただの試用に緊張する訳がありませんから、彼の持つ加護「緊張していない限り負傷が最小限になる」が発動してこの性悪な
罠はただの粗悪品として扱われてたでしょう。

ですが、私のやったことは無意味ではありません。
ウチの巣の資材置き場に溜め込まれた人間用武器の中には、この「自分が串刺しになる刺突剣」以外にも危険なものがある可
能性に気付けたのですから。

やれやれです。出かける前にやっておく仕事が増えましたよ。




 ☆56日め8、てんのひかりはすべてほし‥‥なのですが☆


つ、疲れた。
とりあえず資材置き場の武器類を全部集めてから分類して、3割ほどを調べました。
その結果仕掛けがある武器が2個見つかりました。
どうやら昨夜ドスとウォスが潜った迷宮は、この手の罠アイテムが出る場所のようですね。

ちなみに見つかったのは柄に蝶番が仕込んである戦鎚(ウォーハンマー)と、頭が外れやすくなっている大斧です。
どちらも思いっきり振り回すと武器が壊れて、持ち手や仲間に当たる訳ですね。

三人が今までこの手の仕掛けに気付かなかったのも無理はありません。
オークは一旦分解して作り直したものでないと、人間用の武器を使いませんからね。
ばらして作り直していけばこの手の仕掛けは、ただの故障や不良品として処理されてしまいます。
神殿では戦わない女達にも武器の手入れ方法などを教えていますので、この巣に嫁さん達がいたら気付いているでしょう。


まあ、今すぐ使う代物でもありませんから残りの武器は神殿から帰った後で調べましょう。
問題なく使えることが解った魔法の武器がドスの三又銛以外にも幾つか有りますので、狼男や中級以上のアンデッドが襲撃し
てきてもそこそこ戦える筈です。


もうすぐ夕食の時間です。これからしばらく男どもは私のご飯を食べられなくなるのですから、今日は多めに料理しなくては。

水桶に数日前から泥抜きしているウナギとスッポンが入れてあるので、まずはあれで蒲焼きと生姜汁にしてみますか。
タレは魚醤と蜂蜜と濃厚昆布出汁と塩辛の汁でそれっぽいものをでっちあげて、と。
小蟹を使って蟹の殻詰め焼きをマヨネーズ味で作って、卵の白身は泡立ててメレンゲ風にしてみましょう。
白砂糖がないから黒っぽくなってしまいますけど。
生きてる牡蠣がまだ残っているから、香草といっしょに牡蠣炒めにしてみますか。
牡蠣フライは小麦粉が手に入ってパン粉を作ってからのお楽しみとしておきます。

味噌があれば牡蠣のおぼろ汁や土手鍋にできるのですが‥‥やっぱり味噌って偉大ですよねー。
味噌汁一つとっても毎日飲んで飽きない味のスープってなかなかありませんよ。
グェスの母親などヒルデニア人たちは細々とですが自家製の味噌を作っているそうなので、ヒルデニアの船に頼まなくても種
麹が手に入りそうです。朗報ですね。


これで五品目。鳥もどきはどうしましょう? ロースト鳥もどきも乞食鳥もどきも今から仕込んでいる暇はありませんし‥‥
鍋の具にしますか。
すり下ろしたタマネギに漬け込んで柔らかくしてから鍋で炒めて、水入れ手果物やキノコや野菜を入れて煮込み料理にします。
これで六品目。

「メシ、デキタ」
「はい。ご苦労様です」

料理助手のデコパチが蒸籠で蒸していたイモを持ってきました。
ではさっそく潰しまして、刻んだクジラの塩漬け肉と混ぜます。

すり下ろして練った山芋と混ぜて、空気が入らないように丸めて潰して、ドングリ澱粉の衣をつけて揚げれば‥‥コロッケの
代わりにはなりませんねー やはり。パン粉がないと駄目か。

ドングリ粉+すり下ろし山芋で作った生地を焼き、果物ジャムや豆餡子を挟んだどら焼きにします。
生地を出汁と塩で味付けして餡を肉まん風にすると主食になりますね。
無毒トマトとチーズが手に入ればピザ饅風にもできるのですが、この島では酪農やってないっぽいんですよねー。
少なくともホルスタイン種の牛は飼われてません。
馬頭のミノヒッポスたちが山羊を飼っているそうなので、山羊の乳製品ならなんとか手に入るかな? 


今晩の主役は、夕方にグェスが捕まえてきた フグ です。刺身は無理なのでフグ鍋と揚げフグとヒレ酒にします。
オーク族というかグェスのフグ漁は、岩場に素潜りして毒がなく食いでのありそうなフグを見つけたら棒で叩くというものです。
ほら、フグって怒ると膨らむでしょう? 棒で叩いて膨らまして、動けなくなったところを捕まえる訳です。
今日も捕虫網兼用の柄付き片手網でぺしぺし叩いて良く太ったフグを捕まえてきてくれました。

フグの毒は食物由来なので、場所によっては毒が弱かったり無かったりします。
そして加護持ちのギュー・グェスは毒の有無強弱が見ただけで解ります。
どうも、調停六大神の加護は本人の望みや怖れに深く関係した能力が授けられる傾向にあるようですね。

三人の親族には「女がなぜ怒っているのかなんとなく解る」というアレな加護持ちの幹部オークもいたそうです。
いや、確かに便利ですけどそんな加護が欲しくなる生活送っていたのでしょうかそのオークは。



毎日料理を作っているうちに、段々と腕が上がってきた気がします。味よりもむしろ量の方面で。
この巣にきたばかりの頃は幹部三人に一口ずつぐらいしか食べさせてあげられませんでしたが、今は下っ端達にも4~5口分
は行き渡る量が作れています。
料理は愛情って、本当なんですねえ。愛があれば良い訳じゃないけど、ないと詰まらないモノしか出来上がりません。


料理を作るのが楽しい理由の一つが、後かたづけが楽なことです。食器類は原則使い捨てで洗う必要ありません。
それに料理しない下っ端達も片づけの手伝いをしてくれます。
料理器具の手入れは調理技能(資格?)持ちにしか任せられませんけど。
ブドウ球菌とかポツリヌス菌とか恐いですからね。ギュー・グェスが留守の時だってあるのですから、用心はしておかないと。


「ルェイ」
「どうぞ、入っていいですよー」

ごはんの後で、ウォスとドスが連れ立って私の部屋にやって来ました。

「ルェイ、ソト、イク」
「外ですか?」
「ホシ、ミル、イッショ」

子供かあんたらは。
グェスから一緒に星を見たことを聞いて、羨ましくなったのですよこの二人は。

「はいはい、この粘土細工ができたら一緒に行きましょうね」
「グヒ?」

これですか? この巣の模型ですよ。200分の一スケールの。1メートル四方が5ミリ四方になる換算です。
50センチ四方の板に粘土の塊を乗せ、岩山の形に似せてから巨大蜘蛛の糸で引き切り、切った断面を竹べらで抉ってこの巣
の間取りを再現したモノです。

本当は1メートルあたり1センチで作りたかったのですが、それだと大きくなりすぎますからねー。
洞窟の形もなるべく似せてますし、風呂などの水場には水晶板をはめこんでそれっぽくしてあります。
水瓶などの大きな家具は模型で再現してますし、食料庫にはクルミの殻を置き、宝物庫には金貨を置くなどして視覚的に分か
り易くしてます。

現時点でもほぼ完成しているのですが、今日作った石垣花壇(茨壇?)部分はまだ作ってません。
なのでそれっぽいものを作っているのです。
縦横15ミリ厚さ2.5ミリの台の側面に接着剤を塗って砂利をくっつけていきます。
これに地球のエノコロ草の穂に似た草の実を緑色に染めて茨の模型に見えなくもないかなって感じにしたものを取り付けて、と。


「グヒー」
「おお、これは良い出来ですね」

私の作業を理解したウォスが、木切れを手早く削って足洗い場の丸木水桶を作ってくれました。うむ、形もサイズも合格です。
さっそく採用してしまいましょう。模型の入り口付近に接着剤で貼り付けます。

ドスはというと、資材置き場から石灰を持ってきて水を加え漆喰を作っています。ああ、確かに足洗い場を再現するなら模型
にも漆喰を塗るべきですよね。



そのうちにグェスも加わって模型作りに盛り上がったので、星を見る時間は短くなってしまいました。
まあ、行きたがった二人も星空そのものにはあまり興味がないようですが。

「グヒー♪」

でも月の様子は気になるようです。特にドスは飽きずに望遠鏡を覗き込んでます。
そういえばオーク族の神話では、月には神々の宮殿があるのでしたっけ。

「月の宮殿は見えますか?」
「ミエル、ナイ、バショ、ワカル」

へえ、伝承で何処にあるとされているか知っているのですか。流石の博識ぶりです。
あー 前世の私だってアポロ宇宙船が降りた「静の海」は望遠鏡使わないと探せませんでしたからねえ。そうった種類の感動
があるのですね。同好の士もいることですし、高性能のレンズが手に入ったらもっと倍率の高い望遠鏡を作りましょう。うん。

ドスに教えて貰いながら、望遠鏡を返して貰った私は神々の宮殿があるという辺りを探してみます。
ウォスに数歩離れた位置で見張って貰ってますので、夜行性モンスターに怯える必要はありません。
えーと、月面の中央から縦軸沿いに北上して、緯度にして15°あたりでやや右にいったところでしたね。
実際に何か有ったとしても肉眼で確認できる距離じゃありませんが。

その昔、「万里の長城は月面から肉眼で観察できる唯一の建造物」というトリビアがありました。
今はともかく、その昔はこれ決してデタラメではなかったのですよ。その昔は長城を境に生態系が区切られていて、長城より
北が砂漠で南が緑地という区分けになっていましたから、20世紀初期か半ば近くまでは月からでも確認できた筈なのです。
長城そのものではなく、植生の区切りが、ですけど。

清王朝の崩壊で中華文明に止めが刺されたあおりをくらって長城が機能しなくなったことと、中華文明を滅ぼしちゃった蛮族
が長城内部でせっせと砂漠を拡げているので21世紀の今は月面どころかヘリコプターからでも区切りなんか見えませんけどね。


あれ?
いま、月齢27日めあたりですよね。つまり下弦の三日月。
うん。肉眼で見ても望遠鏡で見ても月の殆どは真っ暗です。ドスはあんなに、何を熱心に見ていたのでしょうか?

ええと、月の中央を基点として北緯10°東経3ないし4°あたり‥‥何も見えませんが。


いや、見えないものが見えます。 
グェスやソーニャさんが神殿の噴水で見せてくれたものに近い、力の波動とかそういったものが、確かにドスが言うあたりか
ら押し寄せてくるのが解ります。
間違いない。あそこには何かがあります。たぶんこの世界の根源にかかわる何かが。


ああ、そうだった。いるんでした、この世界には。
神々か、そう名乗ることが許される存在が。





[38600] 22
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:55



 ☆57日め、良い日旅立ち☆


今日も朝から良い天気です。空は明るくしかし所々に雲があり、大怪鳥は飛んでいません。

極楽浄土のご両親様。私は今日も元気です。
というかこの島に来てそろそろ二ヶ月経ちますが、状況に適応してきましたねー順調に。
前回の旅よりも更に余裕を持って荷物やっていられます。

まあ、先月の旅とは道筋が違いますからね。見慣れないモノもその分多い訳で、退屈する暇もありません。
前回は火山の西側に回り込んで進みましたが、今回は東側に回り込むのです。
やや遠回りになるのと、道が更に山がちになるので時間がかかるのですが朝早くに出発したのでなんとかなるでしょう。

何故遠回りするかと言えば、途中でコボルド族の村に寄るからです。往路の途中立ち寄って注文すれば、物によっては復路
の途中で受け取ることもできるでしょう。納得のいく物を作って貰うためには職人と直接会って話したいですしね。

今回はハラキズはじめ何匹かの下っ端たちが付いて来たがったのですが、背負子担いだ幹部オークに付いて歩けるかどうか
試してみたら全員失格してしまったんですよね。だから留守番です。
下っ端達は駆け足があまり得意じゃありません。というかグェスが速すぎるだけで、他の幹部オーク二人も充分健脚なので
すよ。


そんなわけで、1時間につき10分弱の休憩を取りつつ山道を進みます。オーク族の腹時計はかなり正確で信頼できます。

ふむ、やはり標高が上がると植生が寂しくなって、生き物の姿が減ってきますね。前の休憩から今まで、大型の動物はサボ
テン大トカゲぐらいしか見かけません。

オーク語を直訳した名前の、この爬虫類はサボテンなどを食べる大型の草食性です。偶に虫とかも食べますが基本は草食です。
肉はやや固めですが臭みが少なくて食べやすいですね。皮は安物扱いですが。

この島にもサボテン類は自生しています。小さくて棘がなくてプニプニした触感の多年草として。
地球の乾燥地帯に生えている、針状の棘がびっしり生えたタイプのサボテンは一部の迷宮や洞窟の中にしかいないそうです。
それらの乾燥に強いサボテンは、この島の野外だと雨が多すぎて根腐れしてしまうのですね。


ん? あそこの岩というか岩肌の地面、何か変ですよね? 何故か違和感があります。
軽く石を投げたら届く距離ですが、その半分にだって近寄りたくない不吉さというか危険度を感じてしまうのですよ。

「カクレヘビ、アブナイ」
「ヨケル、ドカス、アンシン」

ドスによると、あのトグロを巻いた大蛇のような岩はそのまんま大蛇だそうです。カメレオンのように色覚迷彩能力持ちなの
ですね。あの蛇は推定体長7メートル、体重は160㎏ってところでしょう。しかも猛毒持ちだとか。
て、ことはあのサイズの迷彩能力持ちが毒で武装しないといけないぐらいの捕食者がこの辺りには出るの?

「デル、ドラゴン、ツヨイ」
「デル、シトメル、アンシン」

ワイバーンとかワームとかの、ゲームでは亜竜(デミ・ドラゴン)とか下位竜(レッサー・ドラゴン)とか呼ばれる大型モンスタ
ーが隠れ蛇の天敵だそうです。あと大猪も。
二人ともワイバーンとは何度か戦ったことがあり、ドスは大型のワイバーンを仕留めたこともあるとか。ウォスは逃げられた
そうです。

この辺りに出るワイバーンは二種類で、細身で飛ぶのが得意で猛毒持ちのと、大型で飛ぶのが下手で毒は弱いけど火を噴くの
がいます。細身のが遠くを飛んでいるところしか、私は見たことありませんが。
火を噴かないリオ○ウスと火を噴くティ○レックスみたいな感じでしょうか?
神殿の庭に竜とかの頭蓋骨が飾られてましたね、そういえば。強いオークならワイバーンとの一騎打ちも出来るのでしょう。


巣を出て三時間半余りが過ぎました。ちなみに1時間事の休憩が済むと、私を背負う係も交代します。
ええ、オークたちは私のこと大好きですから。困るぐらいに。

大樽や竹筒など、休憩中に出しておいた私の荷物を無限袋に入れて出発します。無限袋は毛皮服のポケットにいれてあります。
つまり未来の国から来たタヌキロボットのように大荷物を小さなポケットへ出し入れしてるのですが、幹部オーク達にはこれ
が普通の光景なのです。ファンタジーって凄い。



ガコォォォォォォン

それにしても、先程から一定時間(6~7分ぐらい)置きに聞こえてくるこの音はなんなのでしょうか? 
なにやら金属質の鹿脅しのような音ですが、オーク達によればコボルド族の作業音だそうです。どんな作業なんだか。
あの距離から聞こえてくるってことは、とんでもない大音響ですよね。‥‥耳栓の用意をしておきますか。



火の山の中腹にある、コボルド族の村に到着しました。まだ入り口前ですが。
山の岩肌に、巨大亀が親亀子亀孫亀の三段重ねですれ違えるほどの大穴が開いています。縦横7~8メートルぐらいかな?

大穴の前には10人近いコボルドたちがいます。
全員が武器を持ち、警戒している様子です。でも私たちに対する警戒ではないようですね。コボルド族はオークと同じぐらい
嗅覚が優れ、聴覚はそれ以上です。私たちの接近は遙か前から気付いていたでしょう。

武器は柄の半ばまで鉄で出来た槍やメイス、それに予備の武器に刀などですね。飛び道具は小型のクロスボウとショートボウ。
コボルド族どころか私でも余裕で隠れられる大きな盾を持っている者もいます。
コボルドファイター×4、コボルドシューター×3、コボルド(盾持ち)×2って所ですか。鎧は胸当てや脛当て、それに上腕
部に巻いた革や布きれなどで、警備兵としては軽装ですね。




 ☆57日めの2、犬っぽいから掘るのが好きなのかな?☆


長いトンネルをくぐるとそこはすり鉢の中腹でした。
すり鉢と言うより逆ウエディングケーキ構造ですかね。階段状になってますし。
露天掘りから始めてどんどん下方向へ掘り進んでいった鉱床跡に、コボルド族は住んでいるのです。

跡というか、今でも鉱山として営業してますけどね。「鉄の王」が掘りまくっていた時期とは産出量が比べものにならない
だけで。
この島の金属需要は量的には迷宮から出る一般アイテムで飽和していますから、わざわざ鉱石掘って抽出する資源は量と種
類が限られているのです。チタンとかモリブデンとかアンチモンとか。

コボルド族は、クロム鋼とかマンガン鋼などの硬度鋼を実用化しています。「錆びない鋼」も作っているそうですがステンレ
スのことでしょうか?


東方文明圏などではコボルド族は、ドワーフや人間の山師や鉱夫に「銀を腐らせる」と言われ嫌われています。
が、その「腐った銀」とは即ち白金やニッケルやコバルトの事なのです。大母様がそう言ってましたし、コボルド製の調理器
具や雑貨類にも白金細工や白銅製品があるので間違いないでしょう。

つまりコボルド族の集落を襲い、コボルドの工房や倉庫に積み上げられたそれらの金属を奪っていった人間やドワーフが、
後で奪っていったものが銀じゃないことに気付いて「コボルドが銀を腐らせやがった」と罵っている訳ですね。

‥‥‥‥この世界のドワーフって、蛮族ですかもしかして?
地球にも漆塗りの漆器とプラスチックのお椀が区別できなかったり、漆喰の白壁とコンクリート製の壁が区別できなかったり、
貴族が毒殺を防ぐために愛用した銀の食器とステンレスの犬用食器の区別ができない蛮族がいましたけど、アレと同類!?

いや、連中は日本の大河ドラマ見ると腹を抱えて笑い出すんですよ。
「15世紀なのにプラスチックの鎧着てる、城がコンクリート製だ!」って。
連中の時代劇だと16世紀の厨房にカセットコンロが置いてあるんですけどね。
まあ、その隣の国の、日本軍相撲取り部隊と少林寺尼僧ゲリラがワイヤーアクションで闘う愛国映画よりはマシかもしれませ
んが。どうやったらアレを史実だと思いこめるのやら。



話を戻すと、この世界ではコボルド族は高度技術を持っているのです。特に冶金に関しては右に出るものがいません。
この巣の職人達なら、私の欲しい物を作ってくれる筈なのです。

すり鉢の壁面には無数の穴や窪みが掘られています。その昔に掘られた坑道を基点に、どんどん追加して掘っていった結果で
しょう。

道案内の見張りコボルドは、すり鉢内部で辺りを見張っていた戦士コボルドに私たちの案内を引き継いでトンネルへ戻ってい
きました。
出入り口もでしたけど、中側もなにやらピリピリしてますね。あちらこちらに武装した目つきの鋭いコボルドが居て、辺りを
警戒しています。



ガコォォォォォォォン

不思議なことに、すり鉢の中の方が外よりも静かです。数分おきに聞こえてくるあの音は、どうも山の更に上にある洞窟から
聞こえてくるようです。
つまり私たちの道筋はメガホンというか伝声管の前方向だった訳ですね。

「オト、ウルサイ、トリ、コナイ」

ああなるほど、確かに普段ならその辺を飛んでいる大怪鳥が、今日は一羽も見かけませんね。
イャンク○クに似てると思ったら、大きな音が嫌いなのも一緒ですか。


おお! この鉱山、地面にレールらしき鉄棒が敷いてありますよ! 枕木はなく、岩肌に直接犬釘打ち込んで‥‥いやねじ釘
と座金で固定しているのですね。隙間や高低差は石材を噛ませて樹脂で固めてます。

ネジ穴はマイナス式で統一されてます。プラス式のネジ穴は無いのかと訊いてみましたが、「何でそんな不合理なもの作らね
ばならんのだ?」と一言で切り捨てられてしまいました。
そういえば、地球のネジ穴って何でプラス型に統一されつつあるんでしたっけ?
二種類ある理由は、ほぼ同時期に別々の所で別々の人間が規格を作っちゃったからだと思うのですが。


レールの幅が狭いから軽便鉄道というか、ぶっちゃけトロッコ用ですか。そういえば周りにはコボルドサイズの台車や荷車が
置いてあったり使われたりしていますが、車軸や車輪はもちろん、荷台にすら金属部品が使われてますね。
このあたりはほぼ禿げ山だから木材に乏しいのでしょう。


「グヒー」
「ウッォンウォン」

ドスと案内のコボルドが割と熱を込めて話しています。それぞれが自分の母国語(種族語)で勝手に喋ってますが、通じている
ようなのでそれで良いのでしょう。というか声帯や口の構造上、互いの種族語は他の種族では正確な発音なんてできませんし。

この集落とは、普段はグェスが神殿に行くついでに取り引きしています。
ですが大きな水晶や色鮮やかな顔料などが追加で欲しくなったときはドスが取り引きに行っています。なのでドスと顔見知り
のコボルドや馴染みの職人がいる訳です。
うちの巣からの産出品は、海産物や保存の利く果実、薬草類、特に虫取り草の乾かしたものが喜ばれています。
支払いの殆どは現金(硬貨と宝石)ですけど。
だって幹部オークが一人で運べる物資なんてたかがしれてますし。高額の取り引きには宝物で決済するしかないのです。


そんな職人達の所へ、やってきました私たち。
なんかねー 犬っぽい生き物に囲まれていると前世の記憶が蘇りますね。狂犬病予防接種の日とか。
愛犬よ、毎年騙して連れて行ってごめんなさい。

同じコボルドでも子供は少し可愛いかな。チワワっぽいコボルドはかえって不気味さが増している気もしますが。
雌雄では外見は殆ど変わらないですね。区別はつきますけど人間ほどは性差がない種族のようです。ただ単に見慣れていない
からかな?

唐突ですが、私がコボルド族を可愛く思えないのは私の幼児体験によるのではないかと思います。
というのも私が物心つく頃に、私の周りにいた犬ってみんなふさもこ系だったのですよ。日本犬とかコリー系とかシェパード
とかの。なので私的には「犬とはふさふさもこもこしている生き物」だという固定観念が有るわけで。
猫はお隣がシャム猫を飼っていたので、毛が短めの猫も可愛いと思えるのですが。犬はやはりふさもこ系でないと違和感が。


お目当ての工房に到着しました。
お邪魔しまーす。
見習い巫女のレイちゃんです。


今日の目的は素材の調達と道具の発注です。
ゴムかその代わりになるもの、ビニールシートかその代わりに(略)、板ガラス(略)といった素材探しと、自作できない工具
類の発注に来たのですよ。

具体的言うと、刺身用包丁・金属製の車輪と車軸・各種の板バネ・コイルバネ・調理用毛抜き・爪切りとニッパー・安全ピン・
洗濯ばさみ・無段階ベルトの金具・ミンチメーカー・たこ焼き用鋳物プレートなどです。
素人があれこれするより本職に任せるべきだと思うので、設計図と概念模型を持ってきました。工具類以外にも大型の水晶レ
ンズやガラスのプリズム、白金の糸細工などコボルド族の工芸品も色々と注文します。

なんと、コボルド族は白金懐炉や白金触媒を実用化しているのですよ。
流石に懐炉はホワイトガソリンではなく、錬金術で精製した火炎松油を使っていますが。

「コレナラ、ドウカ」
「ふむふむ」

で、いま私の前に出されたものはというと、極細のコイルバネですね。数種類のレアメタルを配合した特殊鋼製です。
うーむ、確かに伸び縮みするし柔軟性もあるからゴム紐の代わりにならないことも?
薄絹と硫化処理した樹脂で防水絶縁被膜は作れますから、組み合わせたらそう簡単には錆びないものが作れるかもしれません。

ゴムシートの代わりになるものは、流石にないか。

「ゴム、ナニ?」
「樹脂の一種なんですけどね」

とりあえずゴムの木の特徴と、硫黄や木炭を加えて性質を変える技術について語っておきます。
向こうの反応は「そんなに便利なら探してみるか」という感じですね。
ビニールシートは難しいですね。既存の樹脂類は強度・柔軟性・保存性・価格・透明度などの要素で、二つまたはそれ以上の
問題があります。

ん? 樹脂のことならここじゃなくてエルフ族に聞くべきかも? 彼女達の専門分野ですし。

「然り」
「あれ? 共通語(コモン)喋れるのですか?」
「喋れない。これしか知らない」

本当に? なんか完璧な発音で「I CAN NOT SPEAK ENGLISH」と言われたメリケン人の気分なのですが。


ガコォォォォォォォン

ああもう、五月蠅いですね。なんなんですかこの音は?

「ミル、ヨシ」

お、案内してくれるのですか? ならば遠慮なく。




 ☆57日め3、ほとばしる熱いパトスで☆


「板バネ+巨大クモの糸+滑車で金属製ショートボウ試作一号が完成しました。研究資金を追加しますか?」
「グヒ?」
「気にしないでください」

怪訝そうなウォスに手を振って誤魔化します。電波が口をついて出てきただけですから。


えー コボルド族ですが、水圧式ならぬ岩圧式のプレス機を使ってました。あの音はプレス機の音だった訳で。
要はアレですよ、金属製の打刻機です。特殊合金製のカタに鉄材を入れて、上から特大超威力のハンマーで叩く装置です。
この巣にあるのは重しに大岩を使っていて、ある種の魔法装置ですね。

放置していても勝手にマナを蓄えて、千トンはありそうな岩を持ち上げる魔法的装置がまだ生きているのです。
で、「鉄の王」謹製と伝えられるこの装置は20分に一回、一日当たり72回岩を持ち上げることしかしないし、できません。
なのでこの打刻機が三台有るこの巣では、コボルドたちが毎日216個の鍛造品を作って‥‥ません。

需要と供給の問題がありますので、一日の半分かその更に半分ぐらいしか作業していないそうです。
一日百回でも多すぎるぐらいなのですね。
この魔法装置は冷鍛方ですが、コボルド族は熱鍛方もやってます。火の粉が飛び散るやつ。


で、手作りの木製模型を見せて地球産21世紀型ショートボウの制作を頼んでみたのですが、30分で試作一号ができました。
さっそく試射してみますか。私では滑車つきでも弦が引けないのでコボルド族の戦士にやって貰います。
オーク? 生まれて初めて弓の弦引っ張る人にこんな物騒な物持たせやしませんよ。危なっかしいから。


試射の結果はまずまずですね。弓の中心部分をCの字に曲げて矢が直進するようにしてますし、弓自体が小さいので狙いも付け
やすいのです。
滑車やら何やらで同じ長さの木製弓より重くなっているのですが、威力が大幅に上がったことで「同じ威力の弓よりも軽く、
段違いに小さい」という評価になる訳です。命中精度も扱い易さも一~二段上ですし。

難をいうなら部品数が増えた分故障しやすいという点ですが、それでもクロスボウに比べたらずっと少ない訳で。
並のショートボウなら弾かれる装甲でも、この弓なら貫通できます。
矢が短く軽い分、遠距離戦では今一ですが近中距離戦ならロングボウより強いでしょう。完成すれば。

これは試作品ですからねー。実戦で通用するものになるにはもっと作り込まないと。
滑車を弓に使うという思いつきはコボルド族になかったらしく、試作品で射たり二号機三号機の図面を引き出したりと職人達が
興奮しています。


あー これですよ、これ。私はこーゆーのがやりたかったんです。
せっかく転生したんですから技術チートの一つや二つしないと駄目でしょ。

オークたちだとこうはいきませんからね。技術的に出来ないことが多いし、そもそもオーク族にとっては嫁(人間型異種族)の技
術が優れているのは当然なので、何作っても「へー凄いね」か「役に立つのそれ?」のどちらかで終わってしまうのですよ。
技術そのものに、あまり関心がないのです。特にカラクリ方面には。

しかしコボルド族は技術オタが多く、新奇な物への好奇心と理解力が高いのです。巣の様子を見たところ、彼らは実用品だけで
なく玩具や娯楽用道具も作っているようなので更に話が進めやすそうです。
玩具ですよね? あのヤジロベエのようなものは。



さて、武器も兵器も所詮は道具です。
道具という物は用途と試用環境が合っているときにのみ役に立つのであって、合っていなければ無用の長物です。
昼間の行燈とか。
最高級の銀狐毛皮のコートも、お盆の東京では役に立たないでしょう。花火大会のお供は浴衣に扇子or団扇ですねやはり。

実際、欧州戦線では一線級だったスピットファイア戦闘機が太平洋では旧式化していた零戦にボコられたこともありますから
ねー。いや、あれは隼の誤認でしたっけ?

逆に零戦や隼の部隊が欧州に行けばなぶり殺しにされていたでしょうけど。
何が言いたいかといえば、どんな発明品もこの島の環境に合っていなければ意味がないのです。
たとえばヨーヨーとかは作っても意味がない、活用できない武器なのです。

いやその、ヨーヨーって元々は武器なんですよ。女子校生覆面警官が振り回す遙か前から。
フィリピンあたりの原住民が20世紀まで使ってます。今も使ってるかもしれませんけど。
こう、金属や密度の高い木材で大きなヨーヨーを作ってですね、直径数十センチのその縁に刃を付けるまたは埋め込むのです。
あとはこれに丈夫な紐や鎖をまきつけて、樹や崖の上などから敵に目掛けて落とす訳です。

ただの落石と違いこの殺人ヨーヨーは落下時に回転しつつ切り付けて、なおかつ巻き戻って下から切り上げてくるのです。
何度も何度も揺れ動きながら、運動エネルギーを使い切るまで攻撃を続けます。
気候的に露出が多くなる南方の兵士にとっては実に嫌な武器です。熱帯雨林で怪我したら感染症まっしぐらですから。
刃に毒や糞尿をまぶしておけば更に効果的です。
でも、この戦闘用ヨーヨーはオーク島というかうちの巣では使い物になりません。

だって、罠に使ったら私が引っかかる可能性大ですから。
マーフィの法則というやつで「失敗する要素があるものは、いつか誰かが必ず失敗する」のです。
お馬鹿で粗忽な私が、自分が仕掛けた罠に引っかからない訳がありません。なので殺傷用の罠は迂闊に仕掛けられないのです。
下っ端達は、私が死ぬ程度の罠では軽い怪我しかしませんけどね。幹部オークなら無傷でしょう。

なので、前世の私が無駄に蓄えた罠や武器の知識は持ち腐れているのです。作っても意味がありませんからね。
ブーメランとかチャクラムとかの投擲武器は射程の問題もありますが、そもそも装甲が薄くてこちらの攻撃を突っ立ったまま受
けてくれる鈍い敵がこの島にはいません。
そんな敵がどこに居るのかって? いますよ、というか地球にはいました。たとえば方陣組んでいる軽歩兵の群とか。


この世界は魔法が実在し、文明社会の基盤になっています。
魔法文明が発達している世界だと散兵戦術に徹して決戦をとことん避けて消耗戦に持ち込むか、対魔法防御をガチガチに固めた
大戦力で決戦を強要し最重要拠点を制圧するか、が戦争の基本になるのです。

で、後者の攻略法は色々ありますが、人間同士の戦争で多用されるのが魔法でも物理でも良いからどんどん矢玉(ミサイル)をぶ
つけて対処しきれなくする戦術です。
手数で押しまくれば、敵の防御魔法が間に合わなくなって魔法弾や石ころで兵員が倒され、陣形が保てなくなりますから。

もちろん敵も同じ事を考えているので、人間の(東方文明の正規)軍が戦うときは流血我慢比べ大会になることが多いそうです。
方陣を組んだ軍隊が、前列は槍や剣や棍棒で殴り合い、中列は飛び道具と投射魔法を撃ち合い、後列が防御魔法と回復魔法を連
打する。そんな戦闘になるのです。そして先に我慢しきれなくなった方が崩れて負けます。


まあ、たいていはそこまで事が大きくなる前に、軍の本拠地やその近くでモンスターが暴れたり邪教団が蜂起したり地方貴族が
反乱起こしたりして戦争当事者のどちらかあるいは双方が外交的解決を図ることになるのですが。
少なくとも東方文明圏では文明が荒廃するような大戦争は起きないでしょう。そんな余裕はありません。

オークの軍勢が人間軍と戦うときは、オーク戦士の群が敵陣に突っ込んで前衛を蹴散らし、魔法で防御している呪文使いたちを
なぎ倒すのが必勝形なのですが「鉄の王」の軍勢はゴーレムや重装騎士でオーク戦士たちの突進を受け止め、攻撃魔法の火力を
集中して討ち取る戦術でこの島を征服しました。

で、大母様が採用した戦術が「独自判断で動ける幹部オークを量産して、四方八方から小部隊をぶつけて各個に敵陣を食い破る」
というものでして。浸透突破戦術でテルシオ(人間要塞)攻略すれば、そりゃ死体の山もできるでしょうよ。

一方、散兵戦術を突き詰めていくと小部隊によるゲリラ戦から特殊部隊のテロ合戦、そして工作員と外交官が活躍する謀略と
防諜の世界へと入っていく訳です。
上策は謀を討つ、というやつです。



話を戻します。
解りますか? 槍投げ器(スピアスロアー)とか投石機(カタパルト)とか作っても作りたくても、無駄な努力になると分かり切っ
ているこの空しさが。
そんな訳で、この日は理論を語り、喋っては設計図を描き、模型や実物を作る作業に勤しみました。
神殿でも似たようなことしてしまいましたが、あのときは相手がソーニャさんとかの機械にうとい人ばっかりでしたからねー。

あのとき話せなかった、話しそびれたネタもこの際だから語ってしまいましょう。どんどん話しましょう。
先月の交流決闘の賭けやなにやで、私はちょっと名が売れてます。なにせあのときの胴元コボルドがこの巣の住人でしたし。
賭け事は誰が勝っても胴元は損しませんから、名は売れても敵意(ヘイト)は溜まっていないので助かりました。

逆に言うと素人の客がボロ勝ちしたら別室にご案内されてしまう賭博場は、胴元がインチキやってる訳ですね。
客の誰も勝たせないことを前提に予算組んでいるから不測の事態に困って実力行使に出る訳で。


撒くぞ~撒くぞ~ばらまくぞぉ~♪ 持ってる知識大盤振る舞いです。

知識の秘匿? 隠していても腐るだけでしょうが私の立場だと。それに私に何かあれば腐る前に消え失せてしまいます。
使いもしない知識だから忘れてしまえばそれきりなのですよ転生知識なんて。だから語ります。
ばらまき続けていけばいくらかはこの世界に根付くでしょう。

消える前に語って伝えれば、幾らかでもこの世界に知識の欠片が残る筈。今日だけでも滑車式金属弓と顕微鏡と温度計の概念を
コボルド族に伝えました。気の早い連中がもう試作品を作り始めています。
振り子式時計の概念も理解しては貰えましたが、種族的に優れた体内時計を持っているオークやコボルドたちには一日に10分
20分もずれる時計は意味ないでしょうねえ。良くて玩具扱いです。

顕微鏡というか拡大鏡(ルーペ)の高性能版はコボルド族は既に持っていたのですよ。レーウェンフック父娘が使っていたと同じ
一枚レンズのやつが。
私はそれを、作るのが楽な倍率の低いレンズを複数重ねることで倍率を上げ、ガラスや水晶の薄板で挟んだ対象物を反射鏡の明
かりで照らすという複式顕微鏡の概念を持ち込んだだけです。あとついでに回転式の切り替え装置の概念も。

それでもコボルド達の好奇心に火を付けるには充分だったようです。もう質問されることされること。
例えば彼らもプリズムの原理は知っていましたし実物を宝石などの鑑定に使っていましたが、プリズムを使って「望遠鏡を折り
畳む」という発想はなかった訳です。望遠鏡(遠眼鏡)は知っていても双眼鏡は知らなかったのです。

結局、この日はコボルド族の巣に一泊することになってしまいました。




 ☆57日め4、ゆめであえたら☆


「レイ、レイや、起きなさい」
「んぇ?」

誰かに揺り起こされてみると、そこは薄明るい不思議な空間でした。明るいのに視界が狭いという、昼間の濃霧のなかにいるよ
うな場所です。

私を揺り起こしたのは、金髪のもの凄い美人さんです。しかも全裸。
ここには私とこの見慣れな‥‥いえ、見慣れた美人しかいません。毎日みている顔です。話したことはありませんけど。

「私は知恵と炎の女神エスティアです。この姿は貴女が毎日飾り立ててくれている像を基にしました」
「かみさま?」
「はい。この島では家庭と結婚と女たちの守護神をしています」

うん。似てる。というか今朝方、衣装箱の中にあった半透明のエロっぽい寝間着を着せた女神像そのまんまです。
全裸で全身そろってるけど。
て、アレ? 何時のまにやら全裸から薄絹の寝間着姿になってる!?

「貴女の飾り立てを毎朝楽しみにしています。このような衣装も良いのですが、もっと過激な飾り立てかたでも構いませんよ」
「か、過激なのがお好みで?」
「ええ。私、首輪とか縄とか大好きですの。次に縛るときは吊して貰えると嬉しいです」

へ、変態だぁ──!!? 
いや、オーク族の伝承ではエスティアって異種姦大好きな妊娠出産マニアだけどさぁー!

気が付けば、自称女神な金髪超絶美人が何時のまにやら亀甲縛りになって、目の前で悩ましげなため息ついています。なにコレ。
どう見ても変態なのに目が離せないくらい別嬪さんです。でも悔しくないっ納得!
嫉妬する気も起きないくらい美しいとは流石は神。美人は何をしても絵になるのですよ。


「あと、神像が一つだけというのはいけません。他の神像も据えなさい。特にオールクゥスの像を優先で」
「えっ でも、出来の良い神像はなかなか手に入らなくて」
「神像など心がこもっていれば良いのです。貴女と夫達が満足して拝める像ならなんでも構いません」

無茶振りキター! 
いくら建前はそうでも、こんな超絶美人の像の横に出来の悪い神像を並べて置ける訳ないでしょうがっ。
性格もオーク的イケメンな(筈の)オールクゥス神はともかく、他の女神達から罰が当たりそうで恐いんですけどっ。

「解りました。では貴女に彫刻の才能を授けますので、貴女が作りなさい」
「わー 凄いことなのにあんまし嬉しくないのはなぜなのかなー?」


ゲーム的に言うと、知炎神の加護を受けた私は、今後【彫刻】スキルの経験値獲得率が10倍になるそうです。つまり理論上は
常人が10年かけて身に付ける技術が一年で得られると。
彫刻のスキルが上がっていくと獲得効率も少しずつ落ちていくので実際にはもっと遅くなるでしょうけど。

「安心なさい、私の加護は一年間保証付きです。今後一年は何があっても貴女の才能は10倍固定です」

神様舐めてましたごめんなさい。というか何故にそこまでなさるのか!

「それだけ貴女に期待しているのです。お礼は気合いの入った神像を作ることで払いなさい。まずはオールクゥスの像を作って、
私の像と毎朝絡ませるように」
「えーと、絡ませろ言われましても、上半身だけでは厳しいものが」
「解りました。近いうちに下半身もなんとかしましょう」

うわぁ 神様って恐ぇえ。言い逃れとかできませんよこれは。
○○がないから無理とか、そんな泣き言を許さないんですね分かります。
全知全能とまではいかなくても超絶的に強力な存在なんですから、神力チートで望みをごり押しできるのです。だって神だもの。

命令する側が無知で無能で無力だからこそ、試練だ何だと無理難題を部下や信徒に押し付けてくる訳で。
上司とは、部下に血や汗や涙を流す事を強要する存在ではありません。部下が気兼ねなく汗を流せるように水と塩を用意する存
在なのです。
地球の自称「神」も人間の上位者を称するなら、せめて宇宙地上げ屋の元締ぐらいの器量を見せてくれないと困ります。


「あのー 絵心の才能も欲しいのですが」
「絵画はミャトリカかマグナサラの領分ですね、神像を作って拝んで飾り立てなさい。そのうち夢の中で会えるでしょう」

駄目もとで聞いてみましたがやはり無理ですか。能力的にではなく管轄の問題らしいですが。
そりゃそうか、絵心の加護が与えられるならセットで付けてますよね。

「やっぱり夢なんですねコレ」
「夢だけど現実ですよ」

うーむ、生憎ですが私は元異世界人なので、証拠がないと信じられませんね。
たとえば現実世界で起きたら枕元に一掴み分のドングリが置いてあったりとかできませんか?

「貴女の信仰は既に入信者の域に達しています。起きているときも私の声が聞こえるようになるでしょう」
「おおっ では見習い卒業ですか。これで私も一人前の巫女(シャーマン)に!」
「いえ侍僧(アコライト)です」

むう。結局は半人前のまんまですか。夢なんだからもっと大盤振る舞いしても良いのに。
それにアコライト(侍僧)と聞くとどうしても打撃戦職の印象があるのですが、もっと白兵戦の修行をするべきでしょうか?

「そもそもレイ、貴女は巫女(シャーマン)としても見習いではありませんよ?」
「え? そうなんですか?」
「貴女は精霊の声が聞こえないでしょう? 巫女(シャーマン)なら見習いでも精霊の声が聞こえるものです」

つまり、私の見習い巫女生活って只の成りきりコスプレだった!? メイド喫茶の店員レベルかそれ以下?
なんてこったい。
確かにシャーマンっぽいことってあんまりしてませんけど。治療とか歌舞音曲とかは神官(プリースト)もやりますし。



うーむ、せっかくだから訊きたいことを聞くだけ聞いてみましょうか。
本物の女神通信ならヒントぐらい貰えるでしょうし、私の夢なら精神分析の材料になるでしょう。

「あのー、女神様。一つ質問なんですけど」
「なんでしょう?」
「私、今はその、幸せなんだと思います。でもこの幸せって、このままずっと続くものなんでしょうか?」

近頃思うんですよねー。
もしかしたらギュー・グェスたちが只のエロモンスターだった方が、私は悩まずに済んだかもしれないって。
もしそうなら女の子になっちゃったことを悩まずに済んだんですよ。
転性して転生したのはオークの子を産むためなのだと納得して、今頃はオーク達の上で腰を振っているでしょう。


「何も、生涯をあの巣で過ごさなくても良いのではありませんか?」
「はい?」
「レイ、貴女には幾つも道があり、また道を切り開く力があるのです。広い世界が見たいのなら見に行けば良いのです。
自分の力を試したいのなら試せばよいのです。貴女の愛が真実である限り、夫達は応えてくれますよ」

えーと。その、そういえばさっきも「夫達」という聞き捨てならない語句があったような気がするのですが。
私はいつから既婚者になったのでしょうか? もしやこの身体の持ち主が既婚者だったとか?

「貴女とオーク達は同じ火で調理した物を食べ、同じ湯に浸かり、同じ寝床で寝ているではありませんか。夫婦以外の何なので
すか?」

じ、事実婚認定? 確かに肉体関係ないのが不思議なくらいですけど。
しかも 達 って、重婚状態!? 

ううっ、正直そんな気もしていたんですよねー。下っ端達の態度とか、幹部と同様に言うこと聞いてくれたりとかしてますし。
先月というか今月頭に神殿から帰ってきてからかなあ、態度がはっきり変わったのは。
そっかー 私、巣のお客さんと言うよりはもうお嫁さんなんですね、オーク文化的には。下っ端たちから見たら姐さん状態。

あはははははははっ そうかそうか、そうだったんですね。
私はオークの お さ な づ ま ♪

これは‥‥あれ?
私、困ってません。弱ってもいません。マズイとかヤバイとか、そういう感情が湧いてきません。
むしろ、いえ明らかに嬉しい。

嬉しいんです。私は。
私はこれからずっとオーク達と、ギュー・グェスと一緒に暮らすんだって。
甘えたり甘えられたりしていちゃいちゃしながら日々を過ごして、近い将来にオークの子を産んで育てるんだって思うだけで
こう、体幹軸というか身体の中心から温かな幸福感が湧き出てくるんです。
もうこんこんと出湯のごとく。


堕ちてる。それも完全に。

いつのまにか堕とされてました。もう社会復帰不可能です。はっきり自覚できます。
だって私、グェスのお嫁さんになる以外の選択肢を選びたくないですから。
精神的には男なのに、男のままなのにお嫁さんになりたがっています。

今までは「お嫁さんになってもいいかな」とか「襲われてもしょうがないよね」とか考えて誤魔化してましたけど。
実は、襲って欲しかったんです。私。グェスに。
そうでなきゃあんな、エロ漫画の主人公を誘惑するヒロインみたいな格好で毎日一緒に寝たりお風呂に入ったりしませんって。

そうかそうか。私、変態さんだったんだ。
異種姦&異種交配志願者で強姦願望持ちでしかも精神的に同性愛者。なんという変態三重苦。

いや、肉体的には異性で子供だって作れるんですから、同性愛者でも問題ない。‥‥のかな? 
うん、生産性は高いので大丈夫の筈。子孫繁栄できるなら同性愛でも構わないでしょう、うん。
異種姦はこの島ではごく普通のことですし、こちらは更に問題なし。うん。



あー なんかこう、目の前が開けてきたというか希望が湧いてきましたよ盛大に。

今の今まで、私は「巣に留まってオークのお嫁さんになる」という選択肢と「巣から離れて独立する」という選択肢の二つしか
頭にありませんでした。
でも、「オークのお嫁さんになって、巣から離れる」という選択肢もあったのです。

不可能じゃありません。
オーク族は航海技能を持たず船乗りに向いてませんが、船に乗ることはできます。女海賊や女の海軍軍人や船乗り適正のある女
冒険者を数十人集めれば、小型の帆船ぐらい動かせます。オーク達だって手伝いぐらいできるでしょう。

資金は、ある。伝手とかもなんとかなるでしょう。
うん、できそうです。
対外的にはオーク戦士団を作業員(切り込み要員)に乗せてる武装商人(海賊)だってことにしておけば良いし。
神殿で花嫁修業している女達の中には航海技能持ちがいるはずです。何が何でも引き込まなくては。

良し。いままでもう一つふわふわしていた長期目標が固まりましたよ。
巣をもり立て栄えさせる → 下っ端達を一人前のオーク戦士に育て上げる → 船と船員を手に入れて交易商になる。
これで完璧。

義理と夢と欲望と危機対策が全部かなう素晴らしい案です。女神様ありがとう! 
うん、これならお嫁さんになれるし、この世界の謎も探れます。


「帰ったらお礼に世界一男前な神像作って神殿に並べますね!」
「楽しみにしていますよ。あと、今の位置では四人しか信徒が私の像を拝めません。なんとかしなさい」
「えっと、下っ端達に見せちゃっても良いのですか? 神像とかその絡みとか」
「むしろ何故見せてあげないのですか。どんどん見せなさい」

あーなるほど。そうか、守護神がこれなら神殿が露出趣味者の集会場と化す訳です。
地球の露出狂がこの島では一般人。
女と家庭の守護神が見せたがりで露出緊縛拘束系ファッション大好きで、夫との情事を信徒に見られて燃える気質なんですから。


むう。帰ったら祭壇の引っ越しやるべきかな。
食料庫の真向かいがちょうど空いてますし、あそこに窪みを作って安置して大広間で拝めるようにしてみましょう。


「そうそう、それはそれとして」
「何ですか?」
「レイ。今、貴女には危機が迫っています」

へ? つまりゴイスーにデンジャラスな危険があると?

「そうです。この危機は貴女がこの島に来てから最大の物となるでしょう」


あ、コレやっぱり夢だ。この展開どこかで見たことがあると思ったらあの吸血鬼漫画かー。懐かしいなー。

「だから夢だと言っているではありませんか」
「そういやそうでした」

で、確かこの次は‥‥。
女神様が物体エッ○スみたいにフェイス・オープンして中から病気のニワトリっぽい正体がでてくるのしたっけ? 

「違います。それにこの危機は現実ですからね、起きてからは夢の続きだと思って油断しないようにしなさい」

嫌な夢だなー。不幸の予告ですか。
私に期待しているならその危機とやらを切り抜ける加護の一つや二つ下さっても良いと思うんですが、どんなもんでしょうか
女神様?

「既に貴女には充分な加護を与えてあります」
「はあ」
「最後に一つだけ助言しておきましょう。どんなときにも、自分らしさを忘れてはいけませんよ」

え、ちょっとなにその粗製乱造作詞家がボツにした応援ソングの歌詞みたいな台詞は!? 
そんな言葉で道が切り開けるなら誰も苦労なんかしませんよ! おーい女神様!? 聞いてますかー?




 ☆57日め5、鼻つまみ者の襲来☆


目が覚めるとそこは戦場でした。もしくは限りなく戦場に近い場所。
血と得体のしれない異臭が漂い、そして悲鳴と騒音が耳を突き抜けて脳に届いてます。

「ブギィィー!」

声のする方を見るとレェ・ウォスが部屋の直ぐ外で両手に持った棍棒を振り回して戦っています。
この部屋の入り口を守っているのでしょう。
ええと、こういうときは落ち着いて、まずは現状把握しなきゃ。

昨夜は日が暮れるまで話したり試作したり、作った物を試験したりしたのです。
そして日が暮れたから泊まることにして、客用の洞窟に案内して貰いました。

枕元に一掴みのドングリは置いてありませんね。


「キューン、キューン」

目の前で子供が泣いている、というのは嫌なものです。たとえ人外の異種族であっても。 
私はコボルド語なんて解りませんが、既にこときれた親らしき個体ににすがって泣く子供が何言っているかぐらいは察しがつく
訳で。

現状確認。
外は乱戦状態。敵の正体と戦力は不明。この部屋には避難してきたらしいコボルドが4名、うち死体が1、重傷2、軽傷1。
死人に致命傷を与えた物は弓矢? ですかね、矢にしては矢羽根が無くて代わりに魚のヒレみたいなものが付いてますが。

と、とりあえず負傷者の手当をしましょう。出しっぱなしにしている荷物の大樽から治療の霊薬や包帯を取り出します。

「傷口を見せて‥‥」

って、死んでる!? こっちもか! さっきまでは息があった筈の大人コボルドたちが死んでしまいました。
これは毒? 毒矢なのですか? 死人の背に刺さっている矢を‥‥抜けない。非力すぎるぞ私。

「ギャィン!」

私の背後で、子供コボルドが悲鳴を上げました。
振り向くと、立ち上がって逃げようとするその背中に三又のフォークのような切っ先が迫っています。

<<敵。無防備。無警戒。奇襲可能。単独。即時攻撃もしくは即時離脱推奨。徹底攻撃もしくは至急離脱せよ。>>
「小手ぇ! 面ん! 胴っ! 胴っ! 胴っ! 胴っ! 胴っ!」

視界の隅に入った敵らしき影を、とっさに抜いた魔法の棍棒で殴って殴って殴り倒します。というか倒れてからも殴り続けます。
<<徹底攻撃続行。油断禁物。連打せよ。連打せよ。連打せよ。連打せよ。>>
手足がここだから頭と胴体はここらあたりかな? と適当に見当付けて殴りましたが上手く行きました。
この敵にとっては、結果的に奇襲になったようですね。非力そうな女で子供がいきなり殴りかかってくるとは考えもしなかった
のでしょう。

敵ですよね? この人型生物は。撲殺したあとでいうのも何だけど。
ちょっとやりすぎましたか? 手にした「ナノレドの棒きれ」が囁くとおりにめった打ちにしてしまいました。
胴体半分ミンチというか嫌な方向に潰れてますし。背骨砕けてますねこれは。

学校の授業だけとはいえ、中学高校で六年もやっていた剣道の授業は無駄ではありませんでした。
とっさの時に身体が動きましたよ。
流石は戦術アシスト機能付きアイテム、魔法の武器とはありがたいものです。
オーク達はこの「武器の囁き」機能が鬱陶しいと感じる者も多いのですが、私のような素人には頼りになります。


侵入した敵はこの一体だけ? のようですね。 

「プギィッ?!」
「無事です! 仕留めましたっ」

声を掛けてくるウォスに返事します。彼が外で相手しているのも同じ種類の敵ですね。
苦戦しているというより数が多くてうざったい様子のようですが。
ああもう、この大事なときにドスは何処に行ったのですか!?

「プギィ!」

あ、帰ってきた。
二人は交代して、今度はドスが入り口を守りウォスが敵の駆逐に当たってます。
具体的に言うとその辺の石やガラクタを掴んでは投げ掴んでは投げているのですが、ウォスが何かをぶん投げるたびに敵が
減っていきます。
暗闇の中で蠢く影が、こう ぱーん ってはじけてますよ。昼間ならグロシーン決定ですね。

ドスが帰ってきて外は少し余裕が出来たっぽいので、改めて観察してみます。
思わず殴り殺しちゃいましたけど、なんでしょうかこれ?


人型の生き物ですね。いわゆるヒューマノイドモンスターです。
しかし人間でもオークでもコボルドでも、もちろんエルフやオーガやミノタウロスでもありません。初めて見る種族です。

体格的には人間と同じか、やや小さいぐらい。体型は頭が大きくて腕が細くて脚が短くて、腹が中途半端に出た締まりのない
身体をしています。ミノ系種族のマッチョぶりやオークたちの堅太り体型と比べると、醜い種族ですね。顔も含めて。

顔は‥‥深海魚系半魚人のそっくりさんかな? あえて言えば。哺乳類っぽいけど。
頭部の半分が顎でできていて、額がないと言ってよいぐらい狭くて、鼻が穴しか開いてません。目は細くてつり目で瞳孔が縦長
の楕円形です。山羊とはまた瞳の形が違いますけど。


駄目だ、分からない。こんな種族はゲームの中でも見たことありません。
皮膚はトマトみたいな真っ赤です。頭髪含め体毛は一切なし。ウロコも羽根も尻尾もありません。
かぎ爪もなし‥‥指の爪は人間と似てるのがかえって不気味ですね。中途半端に似てるって、鳥肌が立つぐらい気味が悪いです。

服装はボロ切れに穴を開けて頭を通し、腰のあたりを紐で縛ったものです。
ドラ○エ風にいうと「どれいのふく」状態ですが、布地が汚れ過ぎていて元の色や形が分かりません。
武器は細身の三又槍に短刀、あとこの個体は持っていませんがショートボウと毒矢ですか。武器の工作精度はお粗末の一言です。


ん? なんですかねコレは?
私が殴り殺した死体は、腰の辺りにポーション用の小瓶を付けていました。
封がしてないし、中身の濁り具合からして霊薬ではなさそうですが‥‥。


やめときゃ良かった。蓋を開けるなんて。

臭い。とんでもなく臭いですよこの瓶の中身。
ちょっと蓋開けただけなのに、すぐ栓をしたのに眩暈がするぐらい臭いです。
始めて嗅いだ、二度と嗅ぎたくない種類の臭さです。
ず、頭痛がする。それに吐き気も! 目の奥が痛い! 脳震盪でも起こしたのかと思うぐらい臭いでダメージが来ています。

分かった。分かりましたよコイツら、トログロダイト(穴居み)です!
姿形は私の知っているトログロダイトとかなり違いますが、行動様式から見て間違いないでしょう。
オークやゴブリンほどじゃありませんが、ファンタジーRPGではそこそこの頻度で出てくる人型モンスターです。
ゲームや世界設定によって違いますが、大抵は野蛮で話が通じず排他的で残忍な蛮族として扱われてます。

オークとかゴブリンはまだ独自の文化や文明を持ち、場合によっては取り引きも出来るのですがトログロダイトと交渉事が成立
したという話はとんと聞きません。
爬虫類じゃないってことは「地下牢と竜」じゃなくって「戦闘幻想」寄りの世界観ですかね、このトログロダイトは。

その最大の特徴は悪臭です。トログロダイトは自前の臭腺か、あるいは持ち歩いている香油で強烈な悪臭を発生させることがで
きます。
この臭いで他の種族を苦しめるのですよ。香油というより臭油です。
臭い、うざい、儲けがでない、と三拍子揃った嫌われ者ですがこの島にもいやがりましたか。




 ☆57日め6、レイちゃん絶対の危機?☆


とりあえず荷物をまとめます。私の荷物は無限袋に入れて、ドスとウォスの交易品は‥‥置いときましょう。
命有っての物種です。それなりに価値はありますが命と釣り合いがとれるようなものじゃありません。
私の荷物を減らせば無限袋に詰め込めますが入れ替える時間がありません。私の荷物の大半は大樽に纏めて入れてありますし。

外の戦闘は一段落ついたようですね。もちろんオークたちの勝利で。
臭油の蓋を開けた余波で目を回している子供コボルドを担いで、洞窟の入り口に出てみます。

「二人とも無事ですか?」
「オレ、ムキズ」

二人とも怪我はないようです。でもドスはあの臭油を浴びて崖から落ちたそうです。
落ちたというか崖下のため池で臭いを洗い流したのですね。
嗅覚の鋭いオークやコボルドはあの臭いが付いたままではまともに戦えませんから、一時の戦線離脱もやむなしですか。

「ルェイ、サケ、クレ」
「はいどうぞ」

ドスは私が無限袋から出した消毒用アルコールを自分の腰巻きや臭油の零れた地面にふりかけています。
あの臭さ成分はアルコール溶液によく溶けるので酒で洗うと臭いがとれるようですね。
アルコールと反応するのか臭いそのものも格段に弱くなるようですし。

さてと、月はやせ細ってますが星が多いので夜でもなんとか見えます。まだ巣のあちこちで戦闘が続いていますね。
辺りにコボルドやトログロダイトの死体が転がっていますが、良く見るとトログロダイトは赤だけでなく何種類も色があります。
どうも色分けで兵種の区分がしてあるようです。

赤が接近戦軽武装、青が射撃戦軽武装、緑が接近戦中武装、黒が接近戦重武装。黄色はほぼ武装無し。
青いのがショートボウ装備で、他は槍や棍棒などで武装しています。
接近戦要員のうち、ボロ切れしか着ていないのが赤、ややマシなボロ切れを着ているのが緑と黄色、ボロボロだけど一応鎧らし
きものを着ているのが黒ですね。
赤トログロダイト以外は、肌の色と似た色合いの布地を着ています。

察するに黄色いのが呪術師で緑が戦士、黒が重戦士、青が弓兵、赤が捨てゴマですか。
色の違いは身分制度かな? 色鮮やかですが見たところ戦隊ヒーローと違って団結心やチームワークはあまり感じられない動き
をしています。いつぞやの亡霊騎士達はもちろん、ウチの巣の下っ端達にも及ばない連携の拙さです。まさに烏合の衆。
所々では同士討ちまでやってますし。


流れは変わってきたかな? 
トログロダイト側の毒矢や臭油が弾切れになったのか、奇襲と悪臭で浮き足立っていたコボルドたちも立ち直ってきたようです。
近場での戦闘は完全に逆転しました。ウォスとドスが石や槍を投げるたびにトログロダイトが一匹ないし数匹倒れ、浮き足だっ
た敵をコボルド達が追いつめ切り刻んでいます。

というか、コボルド族の戦士って凄く強いんですが。
体格は小さいですけど見たところ腕力は人間以上ですし、速度と技の切れは人間なんか比べものになりません。
強い戦士となると飛んでくる毒矢を切り払いながら敵中に突っ込んで、ばっさばっさに切り倒しています。
大根みたいに気軽くトログロダイトの首や手足が飛んでますね。

昔の水○黄門や暴れん坊○軍みたいな活劇シーンがあちこちで繰り広げられてます。
10対1、20対1でも圧倒できるって、コボルド族の戦士は板東武者並ですね。
なるほど、「鉄の王」の侵攻に耐えて生き延びたのは伊達じゃありませんか。

ん!? なんか今、コボルド弓兵隊の矢を受けた赤トログロダイトが 爆 発 しましたよ!?
こう ぼんっ て弾け飛びました。爆発の威力は手榴弾以下というか精々数メートル範囲の者に軽傷かやや重たい傷をを負わせ
る程度でしかないようですが、まさか自爆兵ですか?

どうやらそのようです。
赤トログロダイトは瀕死になると自爆する兵種のようです。でも即死すると爆破しないのですね。

うわぁ、すると私、かなり危なかったんだ。
もしも連打を途中で止めたり外したりしていたら、赤トログロダイトの自爆に巻き込まれていた可能性大です。
かといって不意打ちしないと勝てる自信なんてないし、あの時に外へ逃げていたら乱闘中だったウォスの足を引っ張っていたで
しょう。 

子供コボルドにも感謝すべきですね。この子の方をより脅威と見なしたから赤トログロダイトが私を警戒しなかった訳で。
正面からの一対一だとあそこまで楽には倒せなかったでしょう。


戦況は徐々にコボルド側が有利になっていきます。

これなら勝てる。
私が、そして多分防衛側の誰もが思ったその時。そいつは現れました。
巣の入り口の、洞窟をくぐって。


大きい。ちょっとした家屋ぐらいはありそうな巨体です。あの化けクジラに匹敵する体重があるでしょう。
トゲトゲです。背中にも尻尾にも、手足にも頭にも短い、それでも40センチはありそうな鋭い棘がびっしりと生えています。
ハリネズミ、いや甲羅に棘の生えたアルマジロのような、4本足の巨大な肉食生物が出てきました。

そして吠えた。
この窪地が震えるほどの咆哮が、コボルド達の士気を、希望を消し飛ばしました。

次の瞬間、敵味方が纏めて消し飛びました。
ついさっきまで無双状態だったコボルド族の戦士達が、逃げ遅れたトログロダイトもろとも挽肉になって崖や路面に飛び散ります。

なにあれ。
あんなデカブツが、なんであんな速さで動くんですか。
地球のものに喩えるなら、ブルドーザーがドラッグレースでスポーツカーの群をぶっちぎって突っ走っているような馬鹿げた
速度です。
しかもゴールしてから引き返して後続の車という車を跳ね飛ばし挽きつぶしている感じ。


流石に怯んだコボルド族の後続部隊に向けてデカブツが口を大きく開け、その口から吐息と共に熱線が放たれました。
とても直視できない光量に、私は思わず右腕で目を庇います。

爆音と激しい光が収まってから目を向けると、デカブツの前方数十メートルの地面と突き当たりの崖が、所々溶けて半ば溶岩と
化していました。
赤く光る焼けた岩と、所々にある黒こげの炭塊を踏みつけてデカブツがすり鉢の反対側をのし歩き、巣の奥を目指しています。


なにあれ。
あんな馬鹿げた化け物が、居て良いんですか。
反則でしょ存在自体が。


「‥‥ドラゴン、ホンモノ」

ドスが ぼそり と呟きます。
ああ、なるほどあれがドラゴンですか。レッサーでもデミでもない本物の。
ドラゴンね、島一番の戦士だったという三人の父すら倒したという怪物の同類。あれが。


こいつは確かに、生涯最大の危機かも。






[38600] 23
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:e85abbba
Date: 2016/07/24 11:55


 ☆57日め7、戦☆


極楽浄土の我が愛犬よ、元気‥‥ですよね? 極楽ではバッドステータスが持続しない筈ですから。

突然ですがやはり犬は柴系に限ると思います。もう一度犬を飼おうとは思いませんが。
犬は一生に一匹で充分です。思えば私はあまり良い飼い主ではなかったかもしれません。
いえ、前世で飼っていた犬にとっては我が家の家長である父上こそが「群れの長」であって、前世の私はせいぜい兄弟分扱い
だったのでしょうけど。


どうも、見習い巫女改め新米尼僧(アコライト)のレイちゃんです。
いま相当にピンチなので、現実逃避はこのへんにしときましょうか。
このたびクラスチェンジ致しました。あの夢が正夢だったとしたらですが。と、いうか正夢なんでしょうねえ。
本当に最大級の危機がやってきたし。ドラゴンですよドラゴン。

ううっ、まだ目が痛いです。せっかく暗順応した視覚があのバケモノの炎で台無しですよ。
人間の目はこういうときに不便です。


ん? 何でしょうか、ドスとウォスが目と目で語り合ってますが。
アイコンタクトにしては長いですね。

ドスが私を、担いだままの子コボルドごと肩に乗せました。そしてドラゴンが出てきた巣の入り口方向へ向かいます。
デカブツの進路とはすり鉢坑を挟んだ反対側に回り込んで、そのまま脱出するのですね。
あれ、ウォスは? 付いてこないんですか? 前衛が欲しい所なんですが。 


「オールクゥス!!」

闇の中から、ウォスの大音声が聞こえました。巣の奥側です。
そして炎の照り返しの中で、愛用の棍棒片手にドラゴン目掛けて突っ込んでいく見覚えのある背中が!

そんな無茶な。勝ち目があるようには見えないんですけど。

いや、これは必要な行動の筈‥‥殿(しんがり)か?
誰かが囮になって引き付けないと、もしもあのバケモノに狙われたらおしまいです。
固まって逃げている所へ、あのブレスだかビームだかを受けたら防ぎようがありません。まとめて焼き払われてしまいます。

敵と全く接触せずに逃げ切れるとは思えませんし、この状況であのドラゴンがトログロダイトと無関係とは考えるべきじゃない。
もし只の乱入者だとしても、トログロダイトと戦えばその騒ぎが化け物を呼び寄せる可能性が高すぎます。
ならば最初からバケモノに戦力をぶつけて離脱する味方に注意を向かわせない。うん、妥当な判断です。無茶だけど。

ウォスなら、アレを避けられる可能性があるでしょう。
彼には「緊張していない限り怪我が最小限になる」という加護がありますから。


って、駄目ですよ。
アレ相手に暢気にたわむれられる奴がいる訳ない。そもそも強敵相手には発動しない加護なんですから。

というかあの雄叫びは、オーク族の守護神の名は気軽に口に出来るものではありません。
あれは命を賭した勝負に挑むときに唱える聖句なのです。


死ぬ気だ。少なくともウォスは今夜ここで死んでも良いと思ってます。
私たちを、違う、私を逃す時間を稼ぐためになら死んでも良いと。
足手まといがいなければ、ウォスとドスの二人だけなら崖をよじ登ってでも逃げられますが、私がいるからそれは無理です。
なにしろこの私は、へなちょこな流れ毒矢一本で即死しかねないのですから。


またか。
またもや私はやらかしました。この巣に泊まらなければ、日が傾く前にここを出ていればこんなことにはならなかったのに。
なぜ私は、コボルド族が警戒している理由を聞き出さなかったのでしょう。
あの警戒ぶりは、トログロダイトの襲撃に備えていたからだったのです。多分。

もう少し気を付けていれば、こんなことにはならなかったのに!
でも私には何もできません。非力で貧弱な私には戦うことはおろか、オーク戦士の早足程度でしかない全力疾走を続けることすら、
十数秒しかできないのです。

背後でまた閃光の余波らしき光と爆音が届きます。あの怪物が二度目の炎を吹いたのでしょう。
でも振り向きません。見ても何もできないから。ウォスが無事であることを祈るばかりです。

彼の強さだって並ではありません、私たちが避難する時間を稼いでから脱出することも不可能ではない筈。
地球には、落下傘無しで飛行機から飛び降りて生還した人間が何人もいるんです。オーク戦士がドラゴンから逃げ切ることだっ
て出来るはずです。


あれは! 

「止まれぇぇぇっ!」

私が耳元で叫ぶまでもなく見えていたのでしょう。とっさにドスは三又銛(トライデント)の石突きを地面のレールに突き当てて、
腕力も使って急停止します。首筋にしがみついていた私と子供コボルドが慣性の法則で振り子のように前方へ出てしまいますが、
ドスの首飾りに腕を絡めていたので落ちずにすみました。

一瞬の間をおいて、私たちを小脇に抱え逆方向へ走り出したドスの足下に矢が次々と突き刺さります。
もちろん身体の方にも毒矢が飛んできているのですが、それはドスが銛を振り回して叩き落としました。
視界の広さ、判断力、技量のどれか一つを僅かにでも欠いていれば不可能な、まさに達人の技。流石は三人集随一の使い手です。


矢がどこから飛んできたかって? 洞窟からですよ。
ドラゴンが這い出てきた入り口の洞窟には、数えるのも嫌になるくらいのトログロダイトどもが詰まっていて、その最前列の連
中が弓を構えていたのです。

こっちが本隊ですか。私たちが押し返していたのは前衛、いや威力偵察部隊に過ぎなかったのですね。
確かにこれは人生最大の危機です。戦争ですよここまできたら。

洞窟から、鮮やかなのに気持ち悪い印象を感じる色で染まった人型生物が、わらわらと湧き出てきました。
トログロダイトどもは細い槍で、逃げ損ねたコボルドの女子供やドラゴンに蹴散らされたもののまだ死にきれてない戦士コボル
ドたちをなぶり殺しています。一撃で仕留めずに、つつき回す感じですね。
根切りか。
こりゃ降伏できません。連中は身代金とか欲しがりそうじゃありませんし。


すり鉢の反対側ではウォスとドラゴンが戦っていました。ウォスは血塗れですが生きてます。まだまだ元気です。
スピードは互角。ていうかウォスってあんなに速く動けたんだ。当然ですが小回りではウォスの方に分があります。
でもパワー面では圧倒的に不利です。耐久性も。いや、防御力かな?
ドラゴンに何発も棍棒が当たっているのに、殆ど効いていません。
見えない鎧でも着てるかのように衝撃が伝わっていないのです。


「カクレル、セマイ、アナ」

そう言ってドスは私たちを元の宿舎巣穴の近くに降ろし、三又銛片手に走っていきました。
空振りした攻撃の勢いが余ってすり鉢の下段に落ちたドラゴンと、その鼻先を棍棒で殴りつけているウォスの戦いに参加する
つもりなのでしょう。

た、確かに私とコボルドだけならトログロダイトが入れない穴を通って隠れるなり逃げるなりできる筈。
ウォスとドスの二人がかりならドラゴンだって倒せ‥‥ないかもしれませんが追い払うことぐらいできるかもしれません。
あのバケモノさえなんとかできて足手まといの私がいなければ、ドス一人でもカラー分け蛮族の軍勢ぐらい蹴散らせます。


庇護者無しで不安だけど、やるしかありません。ここに留まっていても巻き添えで死ぬかトログロダイトに殺されるだけです。

「と、いう訳で隠れる場所はありませんか?」
「クゥン?」

‥‥あれ? まさかこの子、共通語(コモン)が分からないとかいうオチですか?

「ウォン!」

良かった、通じてるようです。岩壁際の排水溝らしき溝の前まで案内して貰えました。
狭くて暗い穴ですが、この狭さならトログロダイトは入れません。無駄に大きい頭蓋骨が引っかかります。



私が、排水溝に入ろうとする子コボルドの尻尾を引っ張ってどかせたのはウォスの声が聞こえたからです。
聞こえた気がしたんです。

次の瞬間、排水溝の所に血塗れのオーク戦士が叩き付けられました。
叩き付けたのは言うまでもなくあのデカブツで、今はすり鉢の崖からはい上がって来ようとしているのをドスが抑えています。
ウォスはついにあの化け物の顎に捕まってしまい、くわえて振り回されたあげくここへ叩き付けられたのです。

「‥‥グヒー」

投げつけられた本人は弱々しく身振りで「逃げろ」と言っているようですが、そりゃ無理ってものです。
心遣いは有り難いですが言い出すのが50日ほど遅い。
それに忘れてやしませんか? こんなこともあろうかと、今日は癒し手の霊薬を巣の宝物庫から持ってきているのですよ。
これを傷にぶっかければあっという間に、ほら傷が塞がって、また開いたぁ!?

そんな馬鹿な。
致命傷治療薬を振りかけて‥‥駄目だ、確かに治るのにすぐ傷が、まるで見えない化け物の顎がウォスを噛んだままのように、
治しても治しても傷ができてしまいます。

どう見ても状態異常ですね。となると出血毒? いや呪いか!?
ならこのユニコーンの角はどうです!

白い螺旋型のアイテムをまた開いた傷口に押し当てると、角がみるみるうちに紫色に染まっていきます。
ユニコーンの角は毒に触れると色が変わるという伝承が正しければ、これは毒の効果なのでしょう。
そしてこの傷にもう一度治療薬を振りかけて、良し、今度は傷が開きません。

腹側の傷はこれで塞いだから次は背中‥‥あれ? 
ユニコーンの角が、背中の傷口に当てた途端に真っ黒になって砕けてしまったのですが。
もう限界かよ。頼りにならないアイテムです。
治療薬を振りかけてみましたが、傷は小さくなったもののまだ出血が続いてます。

残る霊薬は二瓶、致命傷治療薬と重傷治療薬がひとつずつ。これを使い切って傷が塞がらなければお終いです。
しかし使わない訳にもいきません。


ん?
何時のまにやら周りが静かになった、というか背後から聞こえていた戦闘音が途絶えているのですが。

後になにかいる感じがします。
感じます。前世の雑誌売り場でよくあった、後から見られている気配を。

気配って一言で言ってますが、その解釈はいろいろ有るのです。
今私が感じてるのは音波とか電磁波とかの変化だと思います。ほら、目を瞑ったままでも音源の前に人とかが割り込むと音の
違いがなんとなく分かるじゃないですか。

振り向くとドラゴンがいました。
手を伸ばせば触れる位置に、軽トラックと同じぐらいの幅がある鼻面があります。猫とも犬とも違うけどネズミやアナグマは
もっと違う、甲羅と棘で被われたどこか人間めいた顔。
うん、醜い。トログロダイトがこいつの手下か飼い主かは分かりませんが、どちらにしても不細工さでは似合いの主従です。

そして化け物は大きいだけが取り得の口を開き、私に喰らいつこうとして、外しました。


いや、避けますよそんな大振りで動きの遅い噛みつき。何不思議そうにしてるんだか。
ああそうか、私が舐められてるだけか。人間の小娘なんかドラゴンに襲われたら腰抜かして漏らしちゃうと。


食いつき攻撃をすり抜けるように、立ち上がり歩くことで避けた私を化け物は身を捩り、頭で押しつぶそうとします。
うん。こりゃ死ぬわ。視界の殆どが棘まみれのケダモノで埋まっています。
敵がでかいって、ただそれだけで白兵戦では致命的です。

某怪物を狩る3Dアクションゲームでならガードか転がり避けを試みるべき局面ですが、どちらをやっても私の体力と装備では
挽肉にされるだけです。

だから殴ります。 そ の 目 玉 貰 っ た !

<<迎撃。急所攻撃。眼球。全力打撃>>
魔法の棍棒が囁くアドバイスに、セコンドの指示に従うボクサーのように忠実に従って棍棒を叩き付けました。
全身全霊、全ての力を込めた一撃。これぞ正にクリティカルヒット。
生涯最高。もしもここが地球の中世なら、鎮西八郎の矢だって打ち落とせると断言できる当たりです。



ここが私の死に場所なんだ。
道連れにできるのがこんな不細工な化け物の目玉一つだけというのも業腹ですが、やむを得ません。

さようならみんな。最後にせめてみんなの顔が見たかった。
などと思っていたら巣のみんなの顔が次々と脳裏に浮かんできました。
ハラキズ、タレミミ、ケサガケ、コブハナ、デコパチ、ギョロメ、マルマル、そしてまだ名付けていない6人の下っ端達。
そしてみんなの真ん中にいるゴォ・ドスにギュー・グェス‥‥ ん? なんでウォスは脳裏に出てこないの? 
 



 ☆57日め8、力戦☆


何故生きているのでしょうか、私は。

えっと、何が起きたのかは分かります。私が渾身の力で振り抜いた魔法の棍棒、【ナノレドの棒きれ】がデカブツの右目に直撃
したのです。
そしたら、デカブツが跳ね飛びました。

なんかこう、見えない破壊鉄球というか、今ここに透明状態のスーパー○イヤ人のちびっこがいて、透明のまま私の一撃に合わ
せてデカブツの目を殴り飛ばしたような状態です。
ティラノサウルスの復元模型より数周り大きいあの怪物が、体長の倍以上すっとんで地面に倒れ、そのまま転がってコボルド族
の巣穴に突っ込んで止まりました。

そして私は全くのノーダメージです。


夢? じゃありませんよね。うん。
今のは何か不思議なことが起きたのではありません。何故かは解りませんが何が起きたのかはよく解ります。
オーク達や神殿の女剣闘士たちが使っている闘気法のアレが、ドラゴンの身体を包んでいた分厚い不可視の壁が、私の一撃が当
たった瞬間に反転したのです。

そしてドラゴンは泣きわめきながら起き上がろうとしてもがいてます。

うん、解る。あいつは見た目ほどには強くない。
一見無敵に見えるけど、それはあくまであの闘気が鎧としてあればこそです。
言わばあのドラゴンは魔力だか闘気だかのパワードスーツを着込んだ着ぐるみ野郎であって、素の状態が格別に強い訳ではあり
ません。

考えてみれば全身の甲羅やトゲトゲや猛毒自体が、弱者の証拠ですよねえ。
地球でも生態系の頂点に立つ生き物はその手の武装を持っていません。
入り江ワニ(クロコダイル)は亀のような甲羅を持っていませんし、虎や獅子は棘針で身を守ったりしてません。
トゲトゲなのはハリネズミやヤマアラシなどの、捕食される側の生き物です。


何故かは解りませんが、あいつは私には弱い。
あのドラゴンの全身を覆う防護&強化フィールドは、私には効かない。
むしろ私の攻撃を百倍いや数千倍増しに増幅してしまうのです。


もしや、これが私の加護ですか? 特定もしくは条件を満たしたモンスターの天敵となる程度の能力とか?

いや、違う。あれは明らかに、私ではなく奴が、ドラゴンが自分自身の力で勝手に吹っ飛んでいったのです。正に自爆状態。
いくら魔法の棍棒で殴ったとはいえ、私の貧弱な身体にあのデカブツをどうにかする力なんかありません。
奴は自分の力でふっ飛んでったのです。私が天敵なのではなく奴が勝手に負けるのですよ。


「ルェイ!」

ドスが走ってこちらへやって来ました。
彼の名誉のために言っておくと、ドスは今さっきまでトログロダイトの群と戦っていたのです。ドラゴンの鼻先に銛を突き立てた
ら振り払われて落ち、そこで治療中の私とウォスを狙ってた毒矢部隊を切り倒してたのです。
ドラゴンの鼻先にそれっぽい傷跡があったので間違いないでしょう。
本人的にも、まさか戦闘可能な自分を無視してデカブツが瀕死の怪我人と非力な小娘を先に狙うとは思わなかったのですね。

ん? 工場兼巣穴の方で、まだもがいているドラゴンの背後に回り込もうとしていたコボルド族がドラゴンの後ろ足で蹴飛ばされ
て挽肉になりました。
‥‥今のコボルドの動きは戦術行動でしたよね? 避難とかじゃなくて。
明かな抗戦の意思があったけど攻撃でもない、すくなくとも直接攻撃じゃない。

あれは、ああ、そういうことか。
デカブツが突っ込んで暴れたせいで、コボルド族の工廠はすっかり見通しが良くなってしまいました。三機並んだ打刻機とその奥の
溶鉱炉がここからでもよく見えます。


「ドス、あのレバーを狙えますか?」
「グヒ?」

って、オークの視力じゃ見えませんね。オペラグラスもどきを覗いて貰って、レールの切り替えスイッチみたいな棒を見せます。
たしかアレを向こう側に倒せば落ちる筈なんですが。

「ヨシ、マカセル」

何度もこの集落に通っているだけのことはあり、ドスにも解ったようです。
そう、彼がぶん投げた三又銛は‥‥って、それ投げちゃうの!?

ドスが投げた銛は見事切り替えレバーに命中。名も知らぬコボルド族が命を賭して押そうとしてたスイッチが入り、鍛造ハンマー
が落ちました。
冷鍛用打刻機が、鋼鉄の塊をぺしゃんこにする威力が、ちょうど打刻機の中に入っているドラゴンの尻尾の中程へ炸裂します。

おー 千切れた千切れた。ぶっつりと。
そして痛みと傷に狂乱状態のドラゴンは炎と熱の吐息を吐き出して、そのファイアーブレスはすり鉢を飛び越えて出入り口の洞窟
に直撃しました。
ええ、トログロダイトの本隊がまだ入っている所に、岩をも溶かす熱線がぶちまけられたのです。
あのデカブツ、哺乳類だけに痛みには弱いようですね。


おお、燃えてる燃えてる。爆発までしてます。
本隊の中にも赤トログロダイトが混じっていたのでしょうか? 派手にぼんぼんと連鎖爆発しています。ざまぁみろ。

全滅じゃない。全滅じゃないけどトログロダイトの三分の一以上が今ので吹き飛びましたね。
あ、軍事用語で言えばそろそろ全滅判定ですか。損害4割で全滅扱いだから。


おっと、それどころではありません。ウォスの傷をなんとかしないと。
さっき死を覚悟したときにウォスの姿だけを幻視しませんでした。あれを予知にする訳にはいきません。
直ぐにあの世で再会できちゃうだろうから、私は無意識に彼の姿を思い浮かべなかったのかもしれません。しかし私は生きている。
まだ生きてるのです。だからウォスを死なせません。

しかしこの傷をどうにかして塞がないといけませんね。方法は一応、さっき思いつきましたが。

いや、うーん、出来るかな?
上手く行かなかったら私がこの手で止めを刺してしまうことになります。
でもやります。やらなきゃどうせ助かりません。


「レェ・ウォス! 今から荒療治しますけど力を抜いてください!」

自分でも解るくらい無茶苦茶な事を言ってますが、力を抜いていて貰わないと治療ができません。

そして私は、地面に突っ伏したウォスの背中に馬乗りになって、消毒酒をぶっかけた愛用のナイフでウォスの傷を抉り始めました。
この傷の異常が毒ならば、傷口付近の肉をえぐり取れば快復薬の効果が優る筈。
呪いの類なら私が傷つけることにより傷が上書きされる筈です。
もし間違えていたら? その時は私が引導渡してあげますよ。

抉る、抉る、切り取る! 取ったら致命傷治療薬をぶっかける!
塞がった傷口が、今度は開きません。
良し、ファンタジー的な発想でしたが正解だったようです。読んでて良かった少年○ャンプ。
頑張りましたねウォス、偉いですよ。あとでご褒‥‥あれ?


ウォスの顔が二重写しになって、いえ、半透明のウォスが気絶したウォスから、セミが殻を脱ぐように出てきたのですが。
これはもしかして、魂? 死にかけてる?

逝くなこの馬鹿ぁっ! 幽体離脱なんかしている場合か!
こらっ、起きろレェ・ウォス!

むにむにな頬をひっぱたいても目を覚ましません。傷は塞がったのに、血を流しすぎたせいですか!? 
人工呼吸‥‥私の腕力じゃ無理。心臓マッサージも無理。でかすぎるんですよオーク族は。
ドスの手を借りれば、無理か。彼は暴れるドラゴンを避けてこっちにやって来たトログロダイトを防ぐのに手一杯です。

どうしましょう。

ああっ そうこうしているうちに半透明のウォスが全身抜けちゃったあ!
頼むから浮くなウォス、帰ってきなさい! 爽やかな笑顔で夜空へ登っていこうとしないでぇ!?
あんたまだなぁんにもしてないから! だからやり遂げた漢の顔して昇天なんかすんなぁっ!!

最後の一瓶、重傷治療薬を口に含みます。
効果があるかどうか分かりません。でも他に何も思いつかないのです。

突っ伏したままのウォスの横顔へにじり寄り、唇を合わせます。この治療薬が咽を通れば幾らかでも快復する筈。
傷口ではなく内臓が活性化すれば、心臓が動き出すかもしれません。

神様。知恵と炎と、幸福な結婚と家庭の守護神エスティア様。
もしも貴女が本当に私を気に掛けておられるなら、どうか力を貸してください。
供物は後払いになりますけどきちんと奉納しますから。




 ☆57日め9、私の戦い☆


オークの唇って、熱いぐらいに体温高いんですね。分厚くて柔らかくて弾力があって、ちょっと他にない感触です。
できればもっと平穏な場所と状況で知りたかった。

飲んで。飲みなさい。
帰ってきなさいレェ・ウォス。帰ってこないとこれが最初で最後になってしまいますよ。
キスもその続きも、生きてないとできませんからね。
だから生き返りなさい。

唇を合わせ、少しずつ唾液混じりの霊薬をウォスの口中に流し込みます。
横目で上の方を見ると、半透明のオーク戦士がこっちを見ています。表情は、なにやら心残りありげですね。
よし、掛かった。
ほーらほーら、身体の方はこんなに良いことしてますよー 生き返らないと続きはできませんよー。

おおっ 咽が動いた! 自力で霊薬を呑み込みました。
呑み込んだ薬は効果覿面で、心臓が元気になったのか脈もしっかりと感じ取れます。
でも半透明のウォスはまだ戻ってきません。

すぐ近くの、殆ど重なった位置まではきているのですが、あと30センチが縮まりません。
そのせいなのかもう呼吸もしっかりして血も完全に止まっているのですが、意識が戻らないのです。

このいやしんぼめっ 私の唇だけじゃ足りませんかそうですか。
良いでしょう。ご褒美あげるって や く そ く し ま し た し。

毛皮服左肩の紐を外し、透明肌着の首紐を緩めて、と。
うおっ重たいっ。オークの頭を持ち上げるのは無理か。泥酔した相撲取りの頭を幼稚園児が持ち上げようとしているようなもの
ですから無理もありませんが。

では、添い寝する感じで寝そべって含ませますか。ウォスの口に、私の胸を。
私の実年齢は分かりませんが、体型的にはぎりぎりで少女です。つまり胸は膨らんでいます。
ソーニャさんの胸が山岳なら野球のピッチャーマウンド並の低さですが全くの平面ではありません。

あるかなしかのささやかな膨らみとその頂点を意識がないオーク戦士の口に含ませると、半透明の方は かっ と目を剥いて身体
に戻りました。
げ、現金すぎる‥‥ これだからオープンスケベはっ。

でも許す。これで生き返るなら許します。こんな助平でお馬鹿な所も含めて好きなんですから。
ええ。私、ウォスのこと好きなんです。ライクもですがラブの意味で。失いそうになってはっきり分かりました。
問題はグェスの方が更に好きだってことですが、その手の心配は巣に帰ってからにしましょう。


そして意識を取り戻したウォスがしたことは、真っ先に口の中のものを優しくくわえて、吸いあげることでした。
このエロモンスターがっ て、怒る余裕もありません。

気持ち良いんです。
喩えて言うなら、痛みじゃなくて快感を与えるスタンガンを左胸に突き付けられっぱなしのような状態。
分かる。理解してしまう。
身体が、私の肉が、オークの雄に求められていることを分かってしまいます。


こ、これは酷い。ひどいというか卑怯すぎるっ。
こんなひたむきな想いを、好意と熱意をぶつけられて動じない人なんているんでしょうか?! 
ウォスって本当に私のこと好きなんですね。分かっていたけど、でも嬉しい。いつまでも吸っていて欲しいぐらいです。
乳首を優しく吸い上げられていると、もうなにもかも許してしまいたくなります。


ちょっとおっぱい吸われてこれじゃあ、本気で愛撫なんかされたら狂ってしまうかも。
で、でも、本番というか「子孫繁栄」しちゃう行為はもっともっと気持ち良いんですよね、神殿で会った女達はみんなそう言っ
てましたし。

ああっ、こんなことしてるばあいじゃないのにぃ。


「す、すっちゃダメぇ‥‥」 
「グヒー」

違う! 舌先で乳首転がせって意味じゃないっ。‥‥にしても上手すぎるっ このエロモンスター今まで何人たぶらかしてきた
んだ。
き、気持ちよすぎてあたまおかしくなりそう。これじゃもう自分でおな○ーなんかできなくなっちゃいます。
この島だとする必要ないけど。


やめんかこのばか!
鼻面に ぽかっ と拳を入れると、流石に正気に戻りました。オークの目に焦点が戻ります。
まったく、レェ・ウォスあんた後でドスに謝りなさいよ。
彼が今もトログロダイトを引き付けているから治療も蘇生もできたんですからね。


素早く服を戻してウォスを立たせようとしますが、まだ無理か。ならこの霊薬の空き瓶でも舐めててください。
左胸のさきっちょがじんじん疼いて、気になるけど気にしてはいられません。今は非常時なのです。
あれですね、痛みではなくて快感を与える火傷をしたらこんな感じかもしれません。
どうしても左胸に意識がいって気が散ってしまってます。



‥‥あれ、子供コボルドは何処に行った?
ドスはトログロダイトの群れ相手に無双してますし、ドラゴンはひぃひぃ泣きながら撤退中。
トログロダイトは同士討ちしているのが2割、コボルドの倉庫や資材置き場を荒らしているのが3割、ドラゴンを追いかけて
撤退中が1割、残りは残敵掃討中ですか。

略奪目的と掃討目的の連中が三々五々というかひっきりなしにこっちにきては、ドスに蹴散らされてます。
予備武器の銀コーティング棍棒が大活躍ですが、素手素足や石ころやその辺に落ちている工具まで使ってますね。


「ギャワン、ギャワン!」

子供コボルドが帰ってきました、後に数体のトログロダイトを引き連れて。
え? なに? 私が相手しなきゃならないの? このトレイン。ウォスはまだ立てないし。

よく見ると子供コボルドはドス愛用の三又銛(トライデント)を引きずって運んでいます。なるほど、あれを回収しにいって敵と
遭遇しましたか。アレ持ってあの速度で走れるってことは、私並かそれ以上の筋力があるのか。コボルド侮りがたし。
致し方ありません。いっちょ殺りますか。


てけててーん、鬼殺し毒銛~。
無限袋から取り出した青竹の鞘から抜き出した毒銛を、先頭のトログロダイトにめがけて投げつけます。
なにやら投げ損ねて真っ直ぐ飛ばず、毒銛は横だおしに飛んで敵の顔に当たりました。

危なかったー もう少しで子供コボルドに当たる所でした。手作りそれも使い捨て前提だから工作精度甘いんですよね。
オークもオーガーも一撃死する威力を顔面に受けて、先頭の黒トログロダイトが棒を倒したように転げました。
敵の得物は槍。となれば内懐に入り込むしかありません。大丈夫、やれる、私は弱いけど敵はもっと弱い。
毒矢と臭油の不意打ちさえなければトログロダイトは恐くない。

棍棒を持って、残る三匹の緑トログロダイトに突貫します。
他の種族、オークやコボルドや人間相手ならこんなこと、突撃なんてとてもできません。
でもこいつらなら話は別です。連携がてんでなってない。
一人目の槍先を弾いて接近、この時点で他の種族なら後続の槍襖に刺し貫かれてますがトログロダイトは味方を支援する気がて
んでない。一対三ではなく、一対一が三組あるのと変わらないのです。

そして私の握っている【ナノレドの棒きれ】は「地下牢と竜」で言えば、
棍棒+3、獣または毛皮防具装備した敵に追加ダメージ50~100%、装甲+1、炎・電気・冷気属性への抵抗+1
の優良アイテムです。鎧無しの緑相手なら攻撃力防御力ともに引けを取りません。

決定的優位にあるのは士気です。
私は敵を撃退しないといけませんが、向こうは逃げちゃっても良いのですから。この差が勝負を決める筈。



奇襲が成功したのは二人目まででした。そして一対一だと私とトログロダイトの戦闘力は良くて五分。客観的に見て4割以下。
押されてます。向こうはまがりなりにも戦闘員、こちらは似非巫女なので当然ですが。
槍と棍棒では間合いを取られたらお終いですが、かといって接近しすぎて組み討ちになればそれもまた不利。
その躊躇いが敵にも伝わったのかさっきまで持っていた主導権が取り返せません。

まずい、息が上がってきた。この身体は貧弱すぎる、これからは普段から運動して鍛えないと。
最後の一体になるまで戦って、背水の陣的な狂熱が冷めたのでしょうか。
私の剣先というか棍棒先は自分でも分かるくらい勢いが鈍ってきました。

「ウェェッッヘヘ」

対する緑トログロダイトは余裕が出てきました。‥‥こいつ、一匹だけの方が強い? いや、安心している?
困惑する私をトログロダイトの槍が追いつめていき、ついに棍棒が打ち据えられて叩き落とされました。

そして勝ち誇った表情で大きく槍を振りかぶった緑色の人型生物は、横合いから飛んできた夏ミカン大の石塊に頭を叩き割られ
て倒れます。
ええ、なんとか立ち上がったレェ・ウォスの投げた石つぶてが命中したのです。
時間稼ぎ、成功。こっちは彼が回復しさえすれば自動で勝てるのですよ。

ちなみに棍棒で殴り倒したけど止めは刺していない二匹の緑トログロダイトは、子供コボルドが始末してます。
拾い上げた毒銛でこう ぷすっ と軽く刺しただけで死ぬんだから鬼殺し貝の毒って強力ですよね。
子供コボルドが持った毒銛は件のトログロダイトの背中に迫っていたので、もしウォスの石つぶてがなくても私は助かっていた
でしょう。

まあ、周囲の状況を把握していたからこそ優位を確信してしまい、その結果、追い込まれていたが故の狂熱が冷めて負けそうに
なったのですが。やはり私には戦士の素質はなさそうです。集中力がなさすぎる。


一通りの敵を倒したドスと合流します。はい、愛用の銛ですよ。
考えてみれば三又銛だからレバーに引っかかったんですよね。普通の投げ槍だと当てることだけでも難しいです。 

さて、これからどうしましょう。
最強の敵駒(ユニット)こそ消えましたが周りはまだまだ敵だらけで、こちらは戦力が減ったうえに足手まといが増えました。




 ☆57日め10、戦いはこれからだ☆


コボルド族は、人型種族では小さい方です。そして洞窟に住むことを好みます。
つまり洞窟の脱出坑をコボルド族の大きさに合わせて掘っておけば、敵はそう簡単には追撃できません。
ドワーフとかは筋肉ダルマ体型で縦横に幅がありますからね。

地球には、コボルド族はノーム族と特に仲が悪くて出会えば即座に流血沙汰になるという設定のゲームがありました。
思えば、あれも当然ですね。だって、ドワーフよりも小柄で痩せているノーム族はコボルド族をより追撃しやすいのですから。
逃げることができないなら一人でも多くの敵を道連れに討ち死にしたほうがマシな訳です。多くの場合、敵対種族の捕虜は奴隷
かなぶり殺しになるのがファンタジー世界ですから。
私だってゲームの中とはいえ、捕虜に洞窟探検の先頭歩かせる程度のことは日常的にやってましたからねー。


うん、人間の女の子に転生して良かった。しかも拾って貰えたのが人間嫁を大事にする文化なオーク部族で本当に良かった。
この巣は、私がギュー・グェスに拾われた山中から直線距離で10㎞程度しか離れてません。
運が悪ければトログロダイトが転生したての私を見つけていたかもしれないのです。おお、恐い恐い。


レイちゃんです。今はオーク達と別れてコボルド専用の抜け道から脱出を計っています。
どうもコボルド族の大半はもう避難しているみたいなのですよ。なので私と子供コボルドはこの抜け道を通って移動中です。
二人も、ウォスとドスも無事だと良いのですが。

結局、あのとき選べる策は二つだけでした。
私と子供コボルドと歩くこともおぼつかないウォスの、足手まとい三人を抱えたウォスが無事正面突破できるかどうか賭ける策と、
私と子供コボルドが抜け穴から、ドスはウォスを抱えてそれぞれが脱出を計る策です。
籠城案と徹底抗戦案は、毒や臭油や黄色トログロダイトの呪術を防ぎきれる保証がないので却下されました。
くどいようですが、ひ弱な私や子供コボルドや半死人のウォスは毒矢一本で死にかねないのです。霊薬も使い切りましたし。

で、別行動で脱出しその後に合流することになったのです。
こっちの方が生存率高いと思うのですよ。計算外のことが起きると詰みますけど。


「クゥ~~ン」

地元民の子供コボルドに先導を任せていたのですが、どうやら計算外の何かが起きたようです。
臭っ。
進もうとしている方向から鼻を殴りつけられているような異臭が漂ってきました。コボルドに比べたら嗅覚などないに等しい私
ですら苦しいのですから、子供コボルドにこの先へ進めと言うのは無理すぎる。
離れていてこれですから、直接臭油を浴びてしまったコボルド族には何も期待出来ません。

しかし、音はなし。静まりかえってます。


コボルドがすれ違うのも難しいこの狭い坑道で案内人を置いていくには、上方向に避けて通らないといけません。
よっこいせっと。
鼻を押さえてむずがっている案内人を通路に残し、抜き足差し足で前進します。音がしないのは毛皮服装備の取り得ですね。

静まりかえっているのも当然、中にいるのは死人だけでした。
直径20メートルほどの円形というか半球形の大部屋で、壁には私が入ってきたのを入れて五つの出入り口があります。
天井の一番高い場所に握りこぶし大の光源がありますね。蝋燭のように頼りない弱い明かりですが、炎ではなく電球のように安
定した明かりです。照明系魔法装置かな?
人間の私には少々暗すぎですがコボルドたちにはこれで充分なのでしょう。

で、その暗い照明でも分かるくらい現場は歴然としていました。何が起きたのかはっきり分かります。
一言で言えば虐殺現場です。この大部屋に避難していたコボルド族の女子供たちをトログロダイトどもが襲撃したのです。
床にまだ温かいコボルド族の死体が十数体転がっていて、半分以上が子供のものです。


でも、変だ。変ですよ。
襲ったのはトログロダイトです。まだ若いコボルドの雌が、短刀で相打ちに刺し殺した青トログロダイトの死体や、真鍮の壷で
頭を叩き割られている緑トログロダイトの死体があるから間違いありません。
この部屋一杯に広がる悪臭は、この緑トログロダイトが倒れたときに割れた油瓶から出ているようです。
‥‥とりあえず酒ぶっかけて消臭しておきますか。

変なのは、この部屋に通じる通路の幅はどう見てもトログロダイトが通れる広さじゃないってことです。
コボルドだって、鎧を着た大人だと出入りに苦労するような幅しかありません。コボルド達の遺体も、殆どが女子供です。

足跡などから察するにこの現場、下手人であるトログロダイトが五本ある通路の何処からも出入りしてませんね。
壁際に近寄っているトログロダイトの足跡がない。まるで、大部屋の中央に突然現れて避難していたコボルドたちに襲いかかっ
たかのような有り様です。

ある種の密室状態?
有り得るのがファンタジー世界です。
例えば「トンネル(隧道)」の呪文などを使えばこの部屋の中央にいきなり出現することだって出来るのです。
コボルド族がノームを見かけたら即殺しにかかるのも無理ありません。ノーム族はその手の魔術が得意ですから。
トログロダイト(穴に住むもの)は文字通りの地下生活者。その手の移動手段を持っていても何の不思議もありません。
そう、いまこの瞬間に壁や床に穴があいて敵が湧き出てきてもおかしくないのです。


あれ?
つまり、コボルド族かコボルド並に小さな生き物しか通れない抜け道を通って着いた先が、実はちっとも安全地帯じゃない?
ははっ。これはまいった。笑うに笑えませんよ。


いっそのこと、狭い通路のどん詰まりにでも籠城しましょうか?
私とあの子だけなら10日やそこらは軽く持つ食料を無限袋に入れてありますし、水も【グヌックの壷】を持ってきているので
大丈夫です。
あの壷には「-それはもうすぐ壊れる」なんて不穏な説明文がありましたけど、あれってファンタジー世界というか魔術師の時
間感覚で見てのものなんですよね。つまりこの場合の もうすぐ って、「何ヶ月もは持たないよ」という意味なのです。

悪くない案かもしれません。
もしもトログロダイトがこの巣を占領してしまい、生命反応を見つける方法を持っていたら詰みますけど。
いや、無理か。この手の洞窟にはワンダリング・モンスターが湧くと決まっています。
オーク達が住んでいる私の巣にだってネズミは湧くしメートル級のヘビが入ってくることだってあるのです。
大ムカデの不意打ちでも受けたら目も当てられません。


長居は無用です。早くウォスたちと合流しなくては。
とりあえず臭いところを消臭しておいて、子供コボルドに地上への道を教えて貰いながら進みます。


狭い坑道を登って出た、次の部屋は‥‥食料庫かな? 天井から干し肉や干し魚がぶら下がっているし。
でも天井以外の食料はダメになっています。穀物や木の実が詰められていたらしい大きな瓶が倒されて中身が掻き出されてます。
イモの入った木箱に例の臭油が振りかけられていたり、新鮮な肉の切り身が床にぶちまけられてその上に大便がしてあったりと、
奪うこと自体より敵の食料を使わせないことの方を優先しているようなやり口ですね。
トログロダイトを嫌いになる理由がまた一つ増えましたよ。

あ、酒樽の横で赤トログロダイトが一匹酔いつぶれている。こいつらも酒飲むのかー。
うん、刺しちゃって良いですよ。
子供コボルドがまだ持っている毒銛でつつくと、酒泥棒はそのまま死んでしまいました。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。


他に潰れている敵や、隠れている味方はいないようです。
私たち二人は聞き耳を立てながら慎重に進みます。嗅覚は臭油の臭いを嗅ぎすぎてもう鼻が馬鹿になっていますし、暗くて狭い
地下では視覚は頼りになりません。

おや? 食料庫の隣はずいぶん明るいですね。
明るいと言うより眩しい。
いまが夜でなければ外の光が入ってくる場所なのかと間違えそうな明るさです。


入ってみると、そこは明るくて緑溢れる場所でした。あと温かい。坑道や洞窟よりも数度は気温が高いでしょう。
床一面に石造りの水槽というか浅い風呂桶のようなものが並べられ、それぞれに筒や樋で水が注がれまた流れ出てます。
風呂桶の中にはスポンジもどきの塊と、それに根を生やした葉野菜の類が浮いていて葉が光を浴びて生い茂ってる。

水栽培だ。
野菜は地球で言うレタスや水菜やホウレン草の類のようです。なんか違うけどアルファルファのような草もあります。
明かりは魔法のものでしょう。これが噂の便利魔法「持続光(コンティニュアル・ライト)」なのかもしれません。


屋内栽培ですね。温室にしては気温が低いですが、奥の扉が開きっぱなしのせいかな? 
食料庫にいたコボルド達は奥の扉を通って逃げたようですね。

普段使っていないのか所々にクモの巣が張っている通路を二人で進みます。丁度大人コボルドが通ったらしい高さにあるクモの
巣は全部破れていますので、この通路を通った先導者がいるのは間違いないようです。


「ギャワン!」「ウォンッウォンッ」
「ウォ──ッハハッハッハッ」

コボルド達の悲鳴と、それに数倍するトログロダイトの哄笑が前方向から聞こえてきました。
悲鳴は直ぐに止んでしまいましたが、笑い声と聞いたことのない言語のお喋りは続いています。
先導者が敵と遭遇したようです。いえ、時間帯からいって別の避難経路を通っていたコボルドたちかもしれませんが。
どちらにしても進路を変えた方が良さそうです。
一人二人はともかく、三人以上のトログロダイトを同時に相手にしたくありません。


‥‥‥‥あれ? 私、いつの間にか平気でコボルド族の巣穴を歩いてますよ? 
明かりらしい明かりもないのに、暗闇の中でも目が見えています。道案内は子供コボルドだけど前衛は私になってるし。
いつから暗視能力が付いたのでしょうか私の目は。
ああ、うん、いつかは分かりませんが少なくともドスに打刻機のレバーを狙撃して貰ったときには暗視できるようになっていま
したね。
夜中でろくな明かりがないのに、オークに見えない距離のものが見えていたのですから。




 ☆57日め11、ぴんちはつづくよどこまでも☆


なんとか地上に出ました。ここはすり鉢の外、私たちが通り抜けた、そしてあのデカブツが入ってきた入り口の反対側のようです。
直線距離では数百メートルしか離れていませんが。

さあて、別れる前に決めた合流地点はここから2㎞ほど南に行った岩場ですけど‥‥。
2000メートル! 
凶悪な敵対種族と野良モンスターの蠢く荒野を、護衛無しで2000メートルですか。これがTRPGの一場面ならGMに皮肉の一
つも言ってやるのですが。
でも行きます。もしかしたら合流地点前で二人と会えるかもしれません。


おや?
何ですかね、このしゅるしゅるという音は?

振り向くとそこには大蛇がいました。隠れヘビです。猛毒有りの。
昼間の道筋でみかけたのと同じ種類の大蛇ですが多分あの個体とは別ヘビです。推定体重180㎏級。
保護色能力がありますが色の判別が付けづらい闇の中ではあまり変わりません。昨日ならともかく今の私には問題なく見えてます。
昼間に明るいところで遭遇していたら不意打ちされていた可能性が高いですけど。

<<接近戦に勝ち目無し。子供コボルドを狙い襲いかかる何割かの確率に賭けて距離を取るべし。>>

右手に握ったままの魔法の棍棒が、【誉れあるナノレドの棒きれ】が脳に囁くアドバイスに‥‥従わないっ!
警告を囁き続ける魔法の棍棒を、鎌首を持ち上げた大蛇の頭部に叩き付けます。
しかし当たりが浅いっ HPで言えば2割未満しか削れてません。この蛇はあと6~7発は殴らないと死なないでしょう。
元々棍棒の類は爬虫類には効きにくいのですよ、こいつら震盪するほどの脳味噌持ってませんから。


死にたくない、死にたくない、私は死ぬのが嫌だ。嫌なんです。
まだ何もしていない、何も出来ていないんです。私はまだいくらでもしたいことがある。まだカレー粉すら完成してないし。
でも引きません。
この子を、名も知らぬコボルド族を囮にして逃げるなんて選択肢は選べません。この子や私の体力では大蛇の一撃が致命傷になり
ます。当たればお終いですから、私が下がればどちらかが確実に死にます。
二人とも生きのこるには、大蛇を仕留めるか追い払うしかない。だから殴らねばなりません。


帰るんだ。あの巣に、仲間たちが待っている海辺の、温泉が自慢の私の巣に。
私は巣に帰って、こんな私でも良いと言ってくれる人(オーク)のお嫁さんにして貰って、子供作って幸せに暮らすんです。
その幸せな暮らしに「仲間を見捨てて逃げた」なんて汚点があって堪るもんですかっ。

名前も知らない、出会ってから1時間も経ってないけど仲間は仲間なんです。仲間を見捨てるオーク戦士はいません。
帰るんです、私は。あの巣の一員になるために。
いま此処で道を踏み外したら、巣に戻る資格なんかない。仲間を大蛇の餌に差し出して逃げる外道がオークの、私の巣の花嫁に
なりたいなんて言い出したら私のこの手で殴り殺してやりますとも。


だから、失せろ。この爬虫類がっ。
たかがでかい蛇の分際で、いつまでも私の前にいるなぁ!

二発、三発、まだやる気かこの野郎。
<<危険。離脱推奨。警戒しつつ後退すべし。勝ち目無し。勝ち目無し。勝ち目無し。>>
ああああ喧しいっ オーク達が「武器の囁き」機能を嫌がる気持ちがよく分かります。でも手放せないっ。今手放したら負けるっ。

隠れ蛇が噛みついてきた!
おおっととっと危ない、でも地球の大蛇に比べると随分と動きが鈍いですね。避けられます。
地球のニシキヘビやアナコンダが相手ならとっくの昔に絞め殺されてますよ私は。

<<危険。右方向から不意打ち。緊急回避。緊>>

不意に横合いから殴られて、私は地面に叩き付けられました。強烈な打撃を受けて手の中の棍棒がすっぽ抜けます。
何? ああ、尻尾か。隠れ蛇の尻尾が鞭のように動いて私の右肩を打ち据えたのです。
こんな攻撃をする大蛇がいるとは、なんてファンタジーな。


呼吸ができない。身体が痺れて立てません、あと何秒か十何秒かは。
隠れ蛇が長い体をたわめて攻撃態勢をとっています。噛みつく気だ。こりゃダメだ、次の攻撃が来る前に棍棒の回収は無理です。
立てないし動けない。
無限袋からアイテムを出そうにも左手が痺れて動きが鈍い、しかもポケットから離れすぎてる。

間に合わない!?
そして、大蛇が身を縮めて力を蓄えたそのときに、子供コボルドが突きだした毒銛が蛇のウロコを破って突き刺さりました。


確かに私に勝ち目はありませんでした。一対一でなら、ね。
魔法の武器は使用者である私の味方で、その分析は正しい。でも私の仲間の味方ではないし、味方の行動や戦力までもは計算に
入れていないのです。
確かに、この機能はオーク戦士の好みではないかも。


え? 隠れ蛇ですか?
死んだよ、一撃で。

どこまで強力なんでしょうか鬼殺し貝の毒は。天敵の大タコなど効かないのもいますが脊椎動物相手には正に必殺ですね。
毒銛は連続使用が祟ったのかヘビの胴体から抜こうとしたら折れてしまいましたが、期待以上に役だってくれました。
今度あの種類の貝を見つけたら忘れずに大海星を食べさせてあげましょう。ヒトデが見つからなけりゃ食べかけのウニでも譲って
あげますよ。そのくらいはしないと罰が当たりそうです。


さあ、先を急ぎましょう。

と、痙攣もしない隠れ蛇の死骸を放置して歩き始めようとした私たちの周りは、いつのまにやら数十匹のトログロダイトに囲ま
れておりました。
拙いことに【ナノレドの棒きれ】は地面に落ちたままで、しかもトログロダイトに拾われてしまいました。たった今目の前で。
あー そういえばあの武器は 一切の使用条件が存在しない という無節操な代物でしたねそう言えば。
拾った緑トログロダイトが嬉しそうに装備しようとして、後の黒トログロダイトに殴られて奪い取られました。
彼らの世界にも○ャイアンみたいなのは居るのか。魔法の武器の価値が解る相手から取り返すのは難しそうです。


棒立ちの私を狙いつづけている毒矢は、全部で11本。

武器の囁き機能がなくても分かります。避けようがありません。
これは、いよいよもって詰んだかな?








[38600] 24
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:56



 ☆58日め、レイちゃん最大の危機(確信)☆


多分もう朝なんだと思いますのでおはようございます。レイちゃんです。
私は今、トログロダイトのねぐらにいます。
ええ、捕まっちゃったんですよ。


トログロダイトの捕虜というと、最悪に限りなく近い死亡フラグなんですが他にどうしようもありませんでした。
私は死にたくありません。
ギュー・グェスのお嫁さんになって、あぶれるウォスとドスにお嫁さん世話して、ハラキズたちが一人前になるまで見守って、
産み育てた子供達‥‥いえ曾孫や玄孫やその孫達に囲まれて天寿を全うするまで死にたくないのです。

さもなくば即死したい。痛みもなく速やかに。


別に命を粗末にしたい訳じゃありません。
この島では死者の蘇生ができますから、死んでも生き返れるのです。現にグェスの母上は一度死んでから蘇生した経験がある
そうですし。
死者の復活には色々と条件があります。特に重要なのは蘇生させられる側の意思というか未練のあるなしですね。

ウチの巣の幹部オーク達は異種婚するならこれ以上はないぐらいの優良物件ですが、唯一の欠点は死ぬと生き返らない事です。
オーク族は仮死や臨死ならともかく、一度完全に死んでしまうと 復 活 し な い んですよ、主に死生観の問題で。
悪い意味で潔いというか、昇天すると心残りがなくなってしまうのです。
そういえばオークの幽霊って聞いたことないですね。死人使い(ネクロマンサー)に無理矢理ゾンビとかにされてしまうことは、
稀によくありますけど。

その点、私には心残りがあります。ありまくりです。
だから死体の損壊が酷すぎたり、人生復帰するのが嫌になるレベルの苦痛を受けて心がくじけたりしない限り、私は生き返れ
る筈なのです。
私の死体さえ残っていればオーク達は、神殿に馬鹿高い復活費用を払ってくれるはず。
もし復活を試みずに埋葬しようとしたりしたら枕元に化けて出てあげますよ。


で、何が最悪かというとトログロダイトは底抜けのサディストなんです。種族レベルで。
もしかしたらそれは地球のゲーム世界に限った設定であって、この世界のこのトログロダイトは違うかも‥‥などと、思った
こともありましたがダメでした。ええ、元から期待はしてませんでしたけど。




ちょっとだけ時間を巻き戻して、回想してみます。


私たちが捕まって縛られた直後に、敵の後列にいた黄色い呪術師トログロダイトが怪しげな呪文を唱え始めました。
すると呪術師の前に、鈍く光る黄色い門というか絞り込みシャッター扉のようなものが現れまして。
知りませんか? 昔のSFとかアクション映画で秘密基地の必須設備なアレですよ。通行部分が丸いやつ。

普通の扉と違って、半分閉めた状態でも浸水とかが防げるから便利なんですよね。半分だけ閉めておくと隙間があるから音は
聞こえるし空気も流れるけど、人の出入りは出来なくなるので研究所や軍事基地とかに向いているのです。
その扉部分が丸く開いて、トログロダイトのねぐらへと繋がった訳です。

ゲーム的に言うと「大規模次元扉(マス・ディメンジョンドアー)」でしょうか。
ただどうみてもあの黄色トログロダイトに、こんな高度な呪文が使えるとは思えないのですが。
レベルというか神殿式のランク付けで言えば、せいぜい星2つぐらいですよあの黄色いのの力量は。
赤や緑の雑魚トログロダイトと比べても特に格上とは思えません。



で、ねぐらに連れてこられた私たちは、同じように捕虜になった十数名のコボルドたちと一緒に空プールの底みたいな場所に
入れられています。

いえね、周りに観客席のような張り出しというか段差があって、大きさとかの違いはありますが学校のプールに近いのですよ、
このねぐらの構造は。
私と子供コボルドと、同じく捕虜にされてしまったコボルド達がいるのが水を抜いたプールの底です。
ほぼ四角形のプール底の角に、隅の所に縛られて一塊りに座らされてます。

赤青緑黒のトログロダイトが冬場のメジロみたいに固まっている場所がプールサイドと、その上の何段にも壇になった観客席。
ただし事故や喧嘩で爆発連鎖が起きても良いように、赤トログロダイトだけは観客席が離れてますね。

そして紫のトログロダイトがいるのがプールで言うなら見学者のいる場所です。
地下なので日除けの屋根はありませんが何本も石の柱が聳え立っていて、玉座なのか祭壇なのか分からない石舞台があります。
黄色トログロダイトはその真下に固まっていて、一匹だけしかいないらしい紫色のトログロダイトは石舞台の上に一匹だけで
立っています。
あの地肌も衣も紫色の奴が族長や大神官なら、護衛や秘書役ぐらい近くにいても良さそうなものですがそういう役割の側近と
かはいないらしい。

紫の後側、石舞台の向こうにある岩壁に何か気になる模様が描いてあるのですが、地下で暗い上に角度が悪いこともあって、
よく見えません。
壁画の前に柱が突っ立っていて全体像が見えにくいせいでもあります。
なんかあの一本だけ柱の形が妙に歪ですけど、トーテムポールみたいな装飾付き柱なのでしょうか? 位置的にはアレが宗教
的中心でもおかしくないですが。


私たちのいる一番低い場所から雑魚トログロダイトのいる次の段までの高さが2メートル強、次の段から紫色のがいる石舞台
までが4メートルちょっと、石舞台から天井までが10メートル程度。
プールの底から天井までが15メートルぐらいですが、場所によっては更に数メートル高くなっています。
岩壁の様子から見て、このねぐらは天然のものではなく人が掘った人工洞窟ですね。「鉄の王」の石切場だったのでしょう。
トログロダイトの石舞台は、移動中だった石材をそのまま使っているのです。

 
出入り口もしくは開口部が上段に少なくとも三箇所、下段に一箇所あり。
下段の、つまり私たちがいるプールの底のような場所に開いた開口部からは外からの光が射し込んできています。
だから多分今は朝、夜明けからさほど過ぎていない時間帯です。日光の角度的にみて。
開口部は私たちがいる場所とは丁度反対側です。プールなら対角の隅。

周りは全体的に暗いですね。洞窟の壁には苔かカビのようなものが一面に生えていて、ぼんやりと光ってます。
ヒカリゴケ?だけではなく、洞窟の所々に松明や焚き火が置いてあります。でも普通の松明ではなくて、そっくりな形をした
魔法具ですねアレは。貪り食う無限袋の中に入れといた薪風オブジェと同類の。
焚き火や松明にしては火力が弱いし、薪が燃えて減っている感じがありません。


ざっと見ても、プールサイドだけでトログロダイトが150匹はいます。
こっちは怪我人と子供入れても全部で19人、しかも武器もなく縛られたまま。
私がここに連れてこられた時はトログロダイトどもも、もっと少なかったのですがねー。
捕虜コボルドの数は増えていません、どうやら私たちは最後に捕まったようです。

増えた敵は、何カ所かある坑道を通って増援が来た訳ではありません。その半分は黄色呪術師が連れて帰ってきた部隊です。
よくよく見てみると、あの大規模次元扉って決まった場所にしか開いてませんね。
となると黄色いトログロダイトが自分の魔法で開いているのではなく、魔法装置の一種でしょうか? 
ここが西方の魔法文明圏が造った大規模石切場跡地なら、その手の施設がない方が不自然です。
黄色い連中が唱えている呪文は、地球のエレベーター嬢が言う「上に参りまーす」ぐらいの意味しかないのかもしれません。


そして増えた連中の残り半分は‥‥まだ召喚する気か。

紫色の、一匹しかいないトログロダイトがもったいぶって手を振ると、祭壇の下に数体のトログロダイトが現れました。
こう、 ぽんっ とマジックの如く。いや実際魔術(マジック)なのだけど。

あれが召喚(サモン)魔術ですか。本物は初めてみました。


忽然と出てきたトログロダイトは、赤赤青緑緑緑の6体ですね。一度の召喚で5~8体ぐらい呼べるようです。
呼び出された連中は何やら戸惑ってるようですが、紫トログロダイトが一言二言何かいうとその場にひれ伏して、以後は素直
に命令を聞いてます。
呼び出すだけでなく服従もさせる能力が紫トログロダイトにあるのか、それとも元々身分的な立場の差があるのか、それは解
りません。


召喚能力か。ゲームの世界では色々な解釈がなされてましたけど、これはどういう仕組みなのでしょうか。
たとえば、あの新たにやってきたトログロダイトは呼び出される前は何処にいてどんな生活をしていたのでしょう。

回答例1、狼が遠吠えで仲間を呼ぶように近くにいる同種族がやってくる。‥‥これは×。ありえません。
もしそうなら、この島というか近隣地域に数千数万のトログロダイトが生息していないとあっという間に弾切れになる筈。
そんな数の敵対種族がこの島にいたら、とっくの昔に神殿とトログロダイトの全面戦争になってますよ。


何故かって? トログロダイト族は、少なくともここにいるトログロダイトどもは同族を使い捨てているからです。
こんな無駄な消費ができるってことは、無限に等しい備蓄があるということです。

ほら、さっき召喚されたトログロダイトの中に子供もしくは幼体らしき小柄すぎる緑トログロダイトが一体いたのですが‥‥
彼?はいま、石舞台の下にある小さな祭壇の上で解体されてます。

泣き叫んで、しかしそのくせ逃げようとも暴れようともしない緑トログロダイトへ黄色トログロダイトどもが寄って集って
ナイフで切り刻んでいます。
うわー やっぱりだ、あいつらワザと急所外して肉切り取ってる。できるだけ生かしたまま苦しめているんです。
やはりトログロダイトは種族レベルでサディストなのですね。


あの紫トログロダイトが呼び出す仲間は、別世界かどこかから無限に湧いてくるのだと思います。それが自然です。
いくらでも呼び出せるから無駄遣いできるんです。自爆兵とかその最たるものでしょう。
もしこの世界の何処かで暮らしているトログロダイトを引っ張って来ているのなら、この紫トログロダイトが余程珍しい存在
でない限りトログロダイト族は滅亡している筈です。ええ。とっくの昔に。


観客席どころか、一緒に召喚された新参のトログロダイトまでもが仲間の解体調理を見て、笑っています。
音程外しまくりですが口笛を吹き、手拍子を打ち、歓声を挙げています。直前に、あるいはたったいま解体された同族の新鮮
な肉片を囓りながら。


そうか。やはりこれはトログロダイト的には普通なんだ。
だって無限に、無尽蔵に労働力と肉が手に入るんですよ? ボスの疲労というささやかな代償で。
数十㎏の新鮮な肉塊が、狩りも採取もせずに手に入るんです。何の危険もなしに。

その気になれば、この連中は延々と共食いして生き延びられるんです。紫色のボスさえ無事で、自分がいつか食われる側に立
つことにさえ目を瞑れば。
人間が楽な方に楽な方にと流れていくんです。人型生物のトログロダイトがそうなってもおかしくはありません。


なるほど、穀物は盗んでいくのに干し肉はあまり欲しがらなかった訳だ。肉は彼らにとって有り余る食材なんですね。
そして酒は同族召喚では手に入らないから普段飲みつけてなくて、略奪中に酔いつぶれる馬鹿も出る、と。
食料はトログロダイトにとって重要な物資ではありません。食料は命の燃料ですが、彼らにとっては命そのものに価値があり
ませんから。


まあ、召喚能力って突き詰めていくと厄ネタの権化ですからねー。
ありえないぐらいマイルド設定な某有名ライトノベルでも、考察や二次創作などでは非人道魔法扱いでしたし。いや、原作で
も一部登場人物がその危険性について指摘してましたねそう言えば。

そーいや居たなぁ昔のTRPG仲間に、召喚魔法でエルフ娘を大量に呼び出して娼館経営していたプレイヤーが。
許可したゲームマスターは私だけど。いやその、当時は悪漢小説に填っていまして。経営もの気分で楽しめましたし。
今頃気付きましたけど、あれってやっぱり召喚娼館という駄洒落だったのかなあ? 


召喚した者を支配できるってことは、無限に奴隷が手に入るという事ですからね。健全嗜好のルールシステムでは召喚能力は
禁じ手にするしかないでしょう。さもなくば呼び寄せる際のコストか維持コストを上げて使い勝手を悪くするか。

ゲームの世界ですら禁じ手になりかねないのですよ、召喚能力って。
戦略兵器にも程がありますよ、紫トログロダイトは。熊猫コ○バーターより驚異的です。
しかしこの能力があるからこそ、トログロダイトの一匹一匹は弱いことになります。個々が強くなくても勝てますから。

いつでも数の暴力で圧倒できるのですから、連携も作戦も必要ない。
常に数で押せるから質の向上が省みられない。
手間暇かけて精鋭に鍛えあげるより、その手間で百倍二百倍の数を揃える方がずっと強いのです。
損耗も被害も気にしなくて良いから組織経営の必要がない。運用の工夫も必要ない。
兵の数が減ったら呼び出して、余れば肉にしてしまえば良いのです。


そして、この召喚能力がある限りトログロダイトは他の種族と共存できません。
トログロダイト視点で言えば、ちょっと時間がありさえすれば元手なしで際限なく増えていける種族が他の種族と共存(妥協)
する必要がありますか? 戦えば必ず勝てるのに。勝てば全てが手に入るのに。

他種族から見れば、生産基盤も家族も持たない相手に取り引きができますか? 相手はなくして困るものなんて紫トログロダ
イトの命ぐらいしかないのに。
地球のヤクザ屋さんたちだって「これ以上戦い続けても採算が合わない」からこそ抗争を止めて手打ちにするのです。採算度
外視でやっていけるトログロダイトが妥協する必要なんかありません。仮に妥協すると言っても誰も信じないでしょう。

トログロダイトは大自然の驚異とかそれに匹敵するような、どうしても勝てない相手ならともかく、そうでない相手になら消
耗戦に持ち込めば必ず勝てるのです。補給不要で兵力無尽蔵の軍勢もってて負ける奴はまずいません。


故に、トログロダイトは他種族から根絶レベルで討伐されます。共存できないのですから。
オークと人間なら、最悪どちらかが奴隷になれば共存できるでしょう。この世界の何処かには確実に、この島とは逆にオーク
が人間の奴隷として暮らしている地域がある筈です。
そしてそれらの地域の中には、この島と同じように奴隷達が幸せに生きていける所もあるでしょう。
ひょっとしたら、人(ヒュー)族とオーク族双方が理解しあって仲良く共存している所もあるかもしれません。
というかあって欲しい。



人とも、オークとも、コボルドともトログロダイトは共存できません。奴隷にもなれないしするまでもないのです。
共存できないなら互いの姿が見えなくなるまで逃げ続けるか、どちらかが滅びるまで殺し続けるしかありません。
人間やオークたちがトログロダイトのねぐらを潰したとしても、逃げ延びたトログロダイトの中に紫色の奴が一匹でもいれば
容易く逆転されます。ある程度の空き地や隙間さえあれば数百匹のトログロダイト軍団が直ぐに出てきますからね。
そして、勢力圏の全ての場所にトログロダイトのねぐらを潰せる戦力を常時用意できる部族や領主は、そう多くないのです。

だからトログロダイトとの戦いは根絶やしにするしかなく、トログロダイトの戦術も根切りが基本になる訳です。
強すぎる能力、有利すぎる特性は恐怖の的にしかなりません。


彼らとは、トログロダイトとは何もかもが違いすぎる。たった一つの、召喚という能力が全てを決めています。

彼らにとって命とはゴミのようなものではなく、ゴミそのものなんです。
だってそうでしょう? 貴方はいくらでもあるものを貴重だなんて考えますか? あればあるだけ使っちゃいませんか?
貯めておこうとか残しておこうとか、そういうことは不足を感じたことがあるから考えつくので。
足りないことを実感したことがないと思いつかないんです。

人材だってそうです。いなくなって困るから他人を大事にするんですよ。
従業員が只でいくらでも手に入り使い捨てに出来るのなら、社内検診なんかいりません。休暇も給料もいりません。



身内(同族)にゴミそのものとして扱われる者が、他人(異種族)をゴミ扱いしない訳がない。
いや、おもちゃとしての価値は認めるか。 
自分でない誰かを攻撃している間だけは、誰かを傷つけ痛めつけ虐め抜きなぶりものにしている時だけは不安を誤魔化せる。
弱い奴、負けた奴、落ち目の奴は仲間じゃないし味方でもない。代わりはいくらでもいるんだからすげ替えてしまえば良い。

トログロダイトと交渉したしたとか交易したとかいう話を聞かない筈です。
こいつら人間じゃない。 間 がない。人間基準で社会生活と呼べるものをしていないんです。
ヒューマノイドだ。トログロダイトは異種族ではなくて、本当の意味で人間もどき(ヒューマノイド)なんだ。
グェスたちが戦の話をしたがらない訳です。こんな連中と殲滅戦やっても名誉になんかなりませんよおぞましい。


そうこうしているうちにも、新たなトログロダイトが次々と呼び出され、配属されていきます。
黄色は祭壇の下へ、青黒緑は観客席へ、赤は隔離された観客席へ、弱そうだったり怪我していたりするのは色に区別無く群衆
トログロダイトどもの胃の中へ。ああ、赤だけは食われませんね自爆するから。

命が安いなんてものじゃありませんよ本当に。兵隊が畑で採れるロシア軍より酷い。


自国の兵隊に地雷を踏ませて処理したり、核爆弾投下直後の場所に突入させたりするのは人口が多すぎて困っている大陸国家
だけです。マンパワー不足に悩んでいる国はやりません。あれは一般兵の命が雑草並な軍隊にしかできないのです。

そういやナポレオンが批判される理由の一つが、人命の軽視でしたね。
でもフランス人の軍隊は伝統的に無駄死にしたがる癖があるから、ナポレオン一人を非難しても始まりませんけどね。
クレシーしかり西部戦線しかり。
コルシカ島を併合したのがフランスでさえなければ、ボナの字だってもっと兵隊を大事にする将軍に育ちますよ。



などと現実逃避している場合じゃありません。なんとかしなくては。
今は昨夜消耗した戦力を補充していますが、それが終わったらトログロダイトどもはお待ちかねの余興に移るでしょう。
いつでも幾らでも呼び出せる同族と違い、攫ってこないといけないコボルド族は珍しい玩具の筈。
だからお楽しみにとってあるのです。
ましてこの私はコボルド族より希少な人間の小娘なのです。たっぷり時間をかけて楽しまれちゃうこと請けあいです。


嫌な予感はしていたんですよねー。

捕まって武装解除されたとき、私は毛皮服を剥がされました。
だから今の私は透明生地のスリップもどきの下に透明生地のショーツを穿いて、サンダル履きで後ろ手に縛られているという
エロ同人誌の主演女優そのものな格好なんですが、あいつらの視線には一切エロスが入ってません。

あるのは三割の食欲と五割の嗜虐願望、そして二割の妬み? 嫉み? 嫉妬とは微妙に違う嫌な感情。
生き物なのに生きている意味がない、攻撃性だけ持っていて性欲すら持ってない存在がこんなに不気味だとは思いもしません
でした。
このねぐらには捕虜以外の子供がいません。もちろん赤ん坊も、老人も。怪我人も病人もいません。
それら役立たずは直ぐに始末されてしまうからでしょう。

老いも成長も、恋も病も全て切り捨てた生き物。
いやまて、自己遺伝子の複製を止めてしまった彼らを生き物と呼んでいいのでしょうか?


まるでアンデッド(亡者)です。そうだ、こいつらどこかで見たような奴らだと思ったらゾンビ映画のゾンビ共に似ているんだ。
一部のホラー映画マニアが「正統派じゃない」と評する「走れるゾンビ」に。
まがりなりにも知能があって、際限なく増えて、そのくせ生産的なことは何一つやらない。正に亡者です。



ここは嫌だ。
外が恋しい。生き物で満ちた世界に帰りたい。ここに比べれば弱肉強食の畜生道の方がマシです。
ここも弱肉強食ではあるけど、こいつらには 生 がない。こいつらに比べれば畜生たちの生き様は輝いて見えます。

もう、生きたまま亡者やっている連中の、際限ない恨みと嫉みに満ちた視線を浴びたくない。
むっつりスケベだったりオープンスケベだったり隠れスケベだったりするオーク達の熱い視線が恋しいです。
エロスって、文字通り生きている証なんですよ。人間賛歌は命の賛歌、つまりエロスは人間賛歌なのです。


こんなことになるならオーク達にもっと見せてあげれば良かった。裸でもなんでも出し惜しみせずに。
いや、どうして私は彼らに抱いて貰わなかったのでしょうか。
この島が、生きのこること自体が難しい場所なことぐらい知っていたのに。

‥‥って、ダメですよ帰る方法を考えなきゃ。
帰らなきゃ処女のまま一寸刻みでなぶり殺しにされてしまうし、そうなったら蘇生させて貰っても復活できるかどうか。
いくらファンタジー世界でも、生きているのが嫌になっている人間の魂は現世に引き戻せません。


幸いにも奴らの注意は祭壇の解体実演ショウに向いています。今ならあるいは。

あ、弱った。子供コボルドは捕虜達のなかでも私とはやや離れた所に座らされてます。
あの子の助けがいるのですが、距離にして3メートル以上離れていますから近寄ろうとすれば目立ちますよねえ嫌という程。
ええと動いても不審をかわない位置に、つまり直ぐ隣にいるコボルドは‥‥。

ちょっとブルドッグ似の顔したごついコボルド戦士。‥‥瀕死の重傷なので無理。
白い毛並みの、細面な若い雌コボルド。‥‥明らかにパニック寸前なので無理。下手しなくても舌とか噛まれそうです。
その雌コボルドに寄り添っている、ちょっとイケメンなコボルド戦士。‥‥これかなあ? 
近くにいるコボルドのなかでは一番落ち着いてるし。
念のために言うけど、あくまでも犬としてのイケメンさですよ? 格好良いけど恋愛対象にはなりません。


「ええと、名前も知らないそこの貴男」
「‥‥?」

人間的感覚で男前というか美犬なコボルドの耳元に口を寄せて、囁きます。
観客席は騒がしいですけどトログロダイトの耳は鋭いですし、共通語(コモン)が解る個体だっているかもしれませんから。
コボルドには珍しく物静かな人ですね。これで毛皮がもさもさ系ならもっと好みなんですが贅沢は言えません。
ええと、共通語(コモン)は分かるみたいですからオーク語に切り替えるよりはこのまま続けた方が良いかな?

「お手数ですが、貴男のその長い舌を私の口に突っ込んでおもいきり刺激して欲しいのです」
「?」

あ、漏れ聞いていた更に隣のひょろ長い顔と体型したコボルドが引きまくってる。言われた本人は理解してないっぽいけど。
違うから! 色狂いな人間の雌が絶望的状況にとち狂って、「この際コボルドでも良いや」とか考えてるのと違うから!
私は冷静だ、焦ってません。
頭の隅で走馬燈がぐるぐる回り始めているけど冷静なんです。


 

 ☆58日めの2、思い出はメリー・ゴーランド☆


いわゆる「走馬燈が回る」って、危機を察した脳が過去の記憶を引っ張り出して役に立つ情報を探そうとしているのだとか。
この島に来て以来の記憶が、日々の暮らしやアレコレが次々と順不同で脳裏に浮かんでは消えていきます。

石鹸で泡まみれになったギュー・グェスの背中、巨大クモの巣に捕らえられ体液吸い尽くされた下っ端オークの死骸、嵐の日
に見た紫色の稲妻、大トンボの複眼に映った無数の私の顔、ゴォ・ドスが両手に持って差し出す私にはどうしても見分けがつ
かない毒キノコと食用キノコ、沼地で鮮やかに咲いている赤い蓮の花、逆立ちした少女の下半身(裸)に似すぎている森に生え
た木の股を愛しげに撫でさすっているコブハナとケサガケ、たどたどしい口調でオーク族の伝承を話してくれる名無しの下っ
端オーク、透明スライムの中でゆっくり溶かされていく良く解らない種類の大きな甲虫、透明な軟質物体の中で見る見るうち
に大きくなっていく子供の手、腹を割かれた瀕死のハラキズ、神殿の中門に飾られた巫山戯たデザインのルーン、大ウナギに
絡まれてパニック起こした私の所に駈けてくるレェ・ウォス、可愛いいびきをかいて寝ているウリ坊、砂浜に乗り上げるトカ
ゲ人のナマモノ戦艦、流れでる汗でぴったりした服の布がますます肌に貼り付いてしまっているハーフエルフの奴隷女‥‥。

記憶がぐるぐる回った甲斐があって見つかりましたよ、使えるのが。

知識の通路です。
この世界では、ある程度の共通項を持つ知力と、意思の疎通がしたいという双方の意思があればテレパシーじみたやり取りが
できる。
ファンタジーTRPGの世界では「属性語」とか「魔法語」といった、発声器官そのものが違う生き物同士で通じる謎の言語
がありましたけど、それに近いのかも。

トカゲ帝国のヘビ人が得意としていますが、ヘビ人以外には使えない訳じゃありません。
ゲーム的に言えば僧侶の1レベル呪文で使えるのです。そして私は知恵と炎の女神エスティアのアコライト(侍僧)なのです。
更にゲーム的に言えば、僧侶呪文は使いたいときに使いたい呪文を使えることになっているルールシステムが多いのです。


そういうわけで、無事に意思疎通が成立しました。接続完了です。
先月にヘビ人と繋いだ時よりもかなり回線速度が遅い感じですが、私は初心者なので無理もありません。
うん、まだ使える。あと2~3回は同じ事ができそうです。
魔法が使える感触って、どう喩えるべきですかね? もう一つしっくりくる表現が思いつきません。
後でじっくり考えてみます。

奇跡も魔法もあるこの世界ですが、やはり魔法が使えるようになったのは有り難いですね。
あれはやはり正夢でしたか。帰ったら彫刻に励むとしましょう。

で、コボルド族の戦士とディープキスしています。
コボルドって人間よりも舌が長いですから、人間同士だと絶対届かない場所まで届きます。具体的には咽の上の方まで。


しかしファーストキスが名前も知らない異種族というのも‥‥アレ?
違うや。私、これが初めてじゃない。
まだ回りっぱなしの走馬燈の中で、私はギュー・グェスと口付けしています。

多分熱のせいでしょうが、いままで忘れていただけで私はグェスと初めて会った日にキスしていたのですよ。
風邪ひいて寝込んで介護して貰っている最中に、グェスがかみ砕いて唾液と混ぜた流動食を口移しで食べさせて貰っていたの
です。
あー あのとき、なんか甘くてドロドロしたものを食べさせてもらったけど、口移しだっのかー。
しかも焚き火で炙った干しイモの実と唾液の混じったそれを、お代わりするように自分から舌を差し込んで欲しがってる。

は、恥ずかしいなー 熱出して寝込んでるのにこれか。どんだけお腹空いていたんだか。
そういえばオーク達が最初から私をはらぺこ系キャラ扱いしていましたが、コレが原因ですかね。

帰ったらグェスに、自分から口移ししてみましょう。普通のキスを済ませてから。


うん、良かった。初キッスは好きな人とできてた。
まあ元からこれは浮気じゃないしノーカウントにする必要もないし。
ここで帰る動機がまた増えました。意識がある状態で、ゆっくりじっくりセカンドキスしたいですからね。


何故に行きずりのコボルドとディープキスじみたことをしているかといえば、吐くためです。
常に必ずではありませんが異物や毒物を飲み込んでしまったときには、吐いた方が良いこともあります。
生食用じゃないナマモノを間違って食べちゃったときとかに、吐くと幾らかでも症状がマシになります。

そんなときは咽の奥に指を突っ込んで上方向を刺激すると、簡単に嘔吐できます。
事前に水やぬるま湯を飲むとより吐きやすくなります。
今の私みたいに後ろ手に縛られていると自分では刺激できないので、コボルドの舌でやってもらった訳です。

で、吐きました。げろっと。
無事に出てきましたよ。呑み込んでからそんなに時間が経ってないから十二指腸に入ってしまう心配はしてませんでしたが。

吐き出したものは、小さな小さな革の輪。

ええ、「貪り食う無限袋」です。捕まる時にへたりこんで両手で顔を被うふりして口に入れ、呑み込んだのです。
本当は釣り糸か何かで歯に引っかけてから呑み込むべきだったのですが、時間がありませんでしたからそのまま呑みました。
この手の袋は、容量が満杯でない限り袋自体を袋の中にしまって小さくできるのですよ。無理すれば口や胃や他の場所に隠せ
るぐらいに。詰めに詰めればビー玉よりは大きい程度にまで縮まります。

袋の中に袋を詰めるという騙し絵みたいな図さえ想像できれば、ポケットに突っ込んだままの指をちょっと動かすだけで縮め
ることができます。マジックアイテムですから。
「地下牢と竜」でレベルが二桁になるまで遊べば、誰だってこの程度は思いつくようになります。やってて良かったTRPG。


前世では、仮想世界の中とはいえ脱獄した回数と脱獄された回数合計すれば三桁いっているんです。この程度の小細工はでき
て当然。
相手が人間、特に年季を積んだ冒険者や傭兵や看守だと通じない手ですけどね。こんなことする隙などありません。
召喚馬鹿が、貴様らは元日本人を舐めた。
相応の報いを受けて貰いますからね。私の平穏無事な生活を邪魔した報いを。


召喚能力持ちのトログロダイトと戦うのは初めてですが、トログロダイト自体とはゲームの中で嫌になるぐらい戦いました。
彼らの手口は読めています。
この洞窟の構造からいって、「アロー&ラン」をやるつもりなのでしょう。



「アロー&ラン」とは走らせた捕虜や罪人を弓矢で射て、矢が届かない距離まで逃げ切ればそのまま釈放という簡易裁判or
処刑方です。元々はイングランドの、娯楽と訓練を兼ねた捕虜処分方法だそうですが。
もちろん元ネタどおりなら、捕虜が逃げ切るには奇跡がグロス単位で起きないといけません。

イングランド人の根性の悪さは天下一品ですからねー。疑う人は一度英国製TRPGかゲームブックを遊んでみてください。
まあ、川島四郎閣下によれば英国というかブリテン島の住人は気質が穏やかでつきあいやすいそうですけどね。


縛られた後ろ手で無限袋を元に戻して、中から愛用のナイフとコボルドの巣で買った工具類を引っ張り出します。
ハサミなどの刃物を捕虜のみんなで分けて使えば直ぐに縄も外せる筈。
あと武器になりそうなものも幾つか渡しておきますか。
本当は戦斧や刺突剣(エストック)とかの予備武器を渡したいのですが、それをすると流石にバレて毒矢の雨が降ってくるでし
ょう。
精々短剣(ダガー)や包丁ぐらいですね、こっそり渡せるのは。小型ハンマーとかの工具も渡しておきますか。


私の手首を縛った縄は、力を入れればすぐ千切れるぐらいに切れ込みを入れて貰います。
件のイケメン風コボルドとはまだ知識の通路が繋がっているので、力加減の指示もできるのです。もちろん他の指示も。
私のような小娘が歴戦の戦士に指示だしというのもアレですがここは従って‥‥最低でも邪魔にならないように理解して貰い
ます。
コボルド達には私に従って貰います。いや、彼らは私に従わざるをえない。

私には作戦があり、彼らにはないからです。
策がない者は先の見通しが立たず、戦略の持ちようがない。自分の戦略がなければ他者の戦略に乗っかるしかありません。
作戦の予想成功率? とんでもなく低いに決まってますよ言わせんな恥ずかしい。

肝心の命綱、貪り食う無限袋は取りだした巨大クモの糸で右の手首に縛り付けて貰います。縄を切ったとはいえ、まだ縛られ
ているかのように見せかけている状態の後手でこれが出来るんだから、コボルドって器用ですよね。
彼らは、技術力でドワーフを凌ぐノーム属と不倶戴天のライバルやっているのだから当然か。

あ、貪り食う無限袋は縛りつけても何も問題ありません。
手首を縛った縄に隠れるように縛り付けて貰いましたし、そもそも無限袋は、袋の口さえ開いてて使用者が手を突っ込めるな
ら袋自体は折り畳んでいても丸めていても普通に使えるのです。
でなければ、折り畳んだ状態で使えなければ、私の毛皮服のポケットに入れてアイテムの出し入れなんて出来ません。
私の服のポケットは、青狸型ロボットの腹に付いているのと違って小さいのです。



さあて、ここからが本番です。走馬燈も止まったことですし。

「どんなときにも、自分らしさを忘れてはいけませんよ」

うん、聞こえた。幻聴じゃない。いや、これこそが本当の幻聴なのかも。
神の声が聞こえるって、こういうことなんですね。
きっとオーク達も、戦いの前にはこんな感じでオールクゥス神の声が聞こえるんだ。そうに違いありません。
解る。理解できる。この声は味方だ。ここは、このねぐらは敵地だけど私は孤立無援じゃない。


ええ、私らしさを忘れてはいけないのです。
このどうしようもなく詰んでいる状況では、この世界基準の普通に振る舞っていても助かりません。
何か普通でないことをしなくては。そして元異世界人の私にとって、ごく当然のことをすればそれが最悪を避ける一手にな
る筈。

今の私の望みは無事に帰るか、さもなくばなるべく楽にくたばることです。蘇生できる範囲で。
生きたまま一口サイズに切り刻まれて、何日もかけて殺されるような事だけは避けなくては。

ん?

私はエスティア神のアコライト(侍僧)ですよね、間違いなく。信仰魔法らしきものも使えたし。
ならアレができてもおかしくない筈です。辻ヒールが。




 ☆58日め3、朝日に向かって走れ☆


私は縛られたまま立ち上がり、プールの底じみた空間の中央あたりまで歩きます。
コボルドたちが縄を解き終わるまで時間を稼がないといけません。できれば手当てしたごつい戦士コボルドが息を吹き返すま
での時間も稼ぎたい。治療呪文を二連続でかけておいたから、なんとか動けるようになっている筈なのですが。

トログロダイトどもも解体ショウを中止して私に注目してますが、私は薄笑いを浮かべて、外見も行動様式もとことん醜い異
種族を下から見下しました。
トログロダイトどもは敵意と嘲りのわめき声をあげ、生意気な人間を罵ります。
どう見ても頭おかしいですよね。裸同然の格好でしかも両手縛られた小娘が、200体近くいる敵を挑発しているのですから。


さて、察するにトログロダイト族は紫色が王侯(神の代理人?)で、黄色が官僚(神官?)ですね。
赤が捨て駒(屑)、緑が兵卒(奴隷?)、黒が下士官(奴隷監督?)、青が将校(貴族?)でしょうか。

ちなみに彼らが崇める神は、祭壇の奥の一番高い柱に飾られているオブジェが神像のようです。
トーテムポールかと思ってましたが、そうではなく柱に奇妙なものがまきつけてあったのですよ。
どんなものかと言うと、UMA(未確認生物)のミイラかな?
ほら、大型魚と猿の死骸を合体させて乾かして作った人魚のミイラとかあるじゃありませんか。あんな感じの。

こう、ですね。大きな蛇さんの死骸の腹部分を切り取って、そこに同じぐらい大きな大ムカデの死骸をはめ込んで、蛇とムカ
デの頭を切り取って肉食獣の頭にすげ替えたようなキメラ(合成獣)のミイラが、柱に巻きつけてあります。

本物の、生まれつきそういう姿をした生き物の乾物や剥製ではなくて、手作りの合成ミイラですね。
不揃いな縫い目がここからでも見えます。
‥‥って、どうなってるんだ私の目は。視力で言えば5.0は固いです。今ならマサイ族とだって視力勝負ができるかも。

更に言うと歩いて視界というか見る角度が変わったから、UMAミイラが巻き付いている柱の更に奥の岩壁に描かれている文
様が混沌の印(ルーン)であることも分かりました。随分と歪で稚拙な塗り方ですが、あのふざけたデザインは見間違えようが
ありません。
旭日旗の上に二重円重ねて更に長い縦棒重ねたような図形ですが、どう見ても卑猥な落書きそのものです。
となるとこいつらは混沌神の信者? あのミイラは混沌系勢力に属する小神の像でしょうか。


信徒が醜いから神も醜くなるんですかね、やっぱり。
あの神像は醜い。でも恐くない。
嫌悪の対象であって畏怖や恐怖の対象じゃないのです。私にとっては。

トログロダイトは、飛び道具優先主義のようです。考えてみれば当然ですが。
非力で連携のれの字も知らない彼らがオークやミノタウロスといった強者達を倒せるとしたら毒矢を使った遠距離攻撃、
それも不意打ちするか臭油で弱らせた所に矢の雨を降らせるしかないのです。

白兵戦要員の緑トログロダイトは青や黄色といった遠距離戦要員の肉盾で、黒が盾の監視役なのです。
赤は使い捨ての自爆装置付き偵察要員。赤トログロダイトを突っ込ませて爆発すれば敵が居る、と。
勇気も個人武勇もいらない彼らにとっては、毒矢を連射できるショートボウこそが主力装備であり特権階級の証拠。


弓矢を持っている青トログロダイトこそが余興である「アロー&ラン」の主要参加者であり観客なのです。
つまり青トログロダイトがいる位置からよく見える場所こそが、走らされる捕虜が射殺されるべき場所の筈。
丁度ここから出口らしき所の中間当たりが矢の集中するキルゾーンかな。あの辺の地面にどす黒い染みができていますし。

血痕らしき染みは、そののあたりが一番多いですが、それよりも先の所にも前の所にも点々とあります。
開口部のすぐ傍、日光が差し込んでいる辺りにも小さな染みがありますので、あそこまで辿り着けた捕虜もいたのでしょう。
そして最も近い染みは、私が経っている中央の場所にあります。
察するに、ここが「アロー&ラン」に参加させられた捕虜のスタート地点か。

怪我か絶望かその他の理由で、一歩も動かず射殺された捕虜もいたのでしょうか。この場所の染みは。
‥‥? 臭い。
この場所はあの臭油の臭いがします。地面の、足下の岩肌から。


ああ、なるほど。いつもいつも捕虜が獲れるとは限りませんものね。そういうときは召喚した同族を射る訳ですか。
外道だ。外道にも程がある。
コイツらには地獄にすらいて欲しくありません。もしいたら、相手をしなきゃならない鬼達が気の毒すぎる。
地獄に落ちることすらできないって、こういう存在になることなんだ。


さて、彼らは私の挑発に乗ってくれたようです。キルゾーン(殺し間)に矢が届く位置へ、青トログロダイトどもが集まってい
きます。
ではもう一煽りしてみますか。
私は踵を帰して壁際へ、「アロー&ラン」のゴールである開口部の反対側へ歩きます。
一言で言えば走る距離を増やしたのです。

おめーらのへなちょこ弓矢じゃあ、このくらいハンデ付けてやらないと勝負にならねーよ的な嘲笑を浮かべているのですが、
良く解っているようです。侮蔑や軽蔑には敏感なのですねトログロダイトは。
違う、恐怖に敏感なのか。
恐怖に敏感だから、今の私が彼らをちっとも怖れていないことを敏感に察知して興奮しているんです。

観客席がもう総立ち状態です。
今の私を許せない、私を恐怖と絶望で打ちのめさないと気が済まないのです。そうしなければ、他者に苦痛と恐怖と絶望を与
えることしかすることのないトログロダイト族の自我は壊れてしまうのです。

煩いだけで恐くない。今の私に恐怖はありません。乗り越えたのか単に麻痺しているのか、まあどっちでも変わらないか。


良し。時間を稼いだ甲斐がありました。治療魔法を使ってみたコボルド戦士が復活したようです。しかもトログロダイトには
気付かれてない。私がここから逃げ延びるか楽に死ぬには、少しでも多くの戦力が必要です。
ならばヒール二回分の投資は、無駄にならない筈。多分あのごつい顔のコボルドが、捕虜の中では一番強いはずです。
本職剣闘士のソーニャさんが認めた私の感覚を信じましょう。

しかし気付くのが遅すぎた。信仰魔法を使えることが昨夜に解っていたらヒール四連続でウォスの傷を治して、あの場から一
緒に逃げられたのに。間抜けにも程があります。
あのときは怪我人を治療したいと本気で思ってはいても、治療魔法を使いたいとは欠片も思っていなかった。
だから解らなかった。
知識の通路だって、知識の通路を繋げたいと具体的に考えていたから繋ぎかたが解ったのであって、意思の疎通がしたいだけ
だったなら、私は今でも信仰魔法が使えることに気付いていなかったでしょう。


女神様は本当に「最大の危機を乗り越えるのに充分な加護」を与えていたのですよ。私が気付かなかっただけで。
普通気付きますよね。ファンタジーTRPG風の世界で神の加護と言えば信仰魔法だし、そもそも私の職業(クラス)は夢の中
で侍僧(アコライト)だと明言されてますし。


なんかもう、失策連打しすぎで頭痛くなってきたのですが。
打つ手打つ手が全部裏目に出てる感じです。


でもやります。たとえ既に詰んでいるゲームだとしても、私が最低最悪の指し手だとしても最後の一手まで続けます。
明かな間違いでも何もしないよりは良い。いや、何もしない事だって行動です。
茫然自失と静観と待機は似てるようで違うんです。そして今は動くべき時です。

ひょっとしたら、この地獄にすら入れて貰えないねぐらのすぐ近くにまで援軍が着ているかもしれません。
ゴォ・ドスやレェ・ウォスや、もしかしたらギュー・グェスと下っ端オーク達までがやって来ているかもしれません。
だから諦めないのです。死んでも幽霊になって自分の死体回収と蘇生を手伝います。
だから走ります。朝日の射し込む開口部目指して。

生きて巣に帰れる可能性は、あそこでしか拾えません。
罠であるとは分かり切っていますが、それでも走ります。




 ☆58日め4、だまされるほうがわるい☆


走ってます。

走る距離を長めにとったのは、コボルド達が縄を切る時間を稼くためですがそれだけではなく、運動エネルギーを貯めるため
です。
想像してみてください、100メートル走のレーン中間地点50メートルの所に立っている陸上競技の選手が、100メート
ル走競技中の選手が50メートル地点に到達したと同時に走り出す所を。
元々の足の速さが余程違わないと、50メートル地点から走り出した選手が追い付くことはできません。0速度から加速して
いくのはそれだけ時間がかかります。

この「アロー&ラン」が見せ物で娯楽であるからには、標的が観客席からよく見えるキルゾーンまで達しない限り射撃してこ
ない筈。
キルゾーンを駆け抜ける時間が0.1秒でも短い方が私には有利になります。

キルゾーンの手前まで、後ろ手に縛られたまま走っていましたが‥‥ここで縄を引きちぎる!
近代スポーツ走法が身に染みついている元日本人としては、手を振って走る方が早いのですよ。
いえ、実際は振ってる余裕はありませんけどね。青トログロダイトの中には気の早いのがいて、もう矢を放ち始めましたから。
両手はあの矢を防ぐことに使わなくては。

‥‥‥‥‥‥あれ? 何故に私は進行方向へ顔を向けているのに、斜め後ろの様子が見えているのでしょう。
何故か見えてます。
そうか、これは闘気です。
幹部オークや一流剣闘士達が使っている闘気法を、私は視覚限定で使っているのです。

地球で言えば肉眼の視界に魚眼レンズやペリスコープやバックミラーを混ぜてみた感じでしょうか? 私は顔の回りに発生さ
せた闘気で光を集めたり曲げたりして、視力を上げると同時に視界を拡げているのです。
昨夜、突然に暗視能力が上がったのも闘気法の影響でしょう。

そうか、闘気ってこう使うんだ。

この感覚は分かり易いです。
喩えていうなら、それまで乗れなかった自転車に突然乗れるようになった時の感覚。
あるいは突然身体が水に浮くようになった時の感覚です。

何かに 目 覚 め る 瞬間って、ありますよね? 意味不明な数字の羅列だった計算式の意味が解ったときとか。
味気ないだけの食べ物だった素麺の美味しさが理解できたときとか。
それまでとは逆に、何故いままではできなかったのかが解らなくなるこの感覚は久しぶりです。

見える、見えるぞ、私にも全周囲300°以上の範囲が見える! 視界が広い!
これが戦士達の視野なんですね。凡人とは文字通り 見 て い る 世 界 が 違 う んだ。


毒矢の雨がやってくるのがはっきりと見えます。私の足では絶対に間に合わない、開口部の手前数メートルで裁縫箱の針刺し
クッションみたいにされてしまいます。
無防備なら、の話ですが。

私は無限袋の中から大樽を中身ごと取り出し前方に、朝日が射し込む開口部に向けて転がします。
今回の旅行に備えて、無限袋の性能試験は思い付く限りやってるんです。この世界では無限袋の中身を取りだしたとき、
その運動エネルギーは取り出す者のそれに一致することぐらい確認済みなのです。

つまり、全力疾走中の馬に乗った冒険者が無限袋の中から火炎松オイルの詰まった大樽をとりだして転がせば、大樽は時速数
十キロ分の運動エネルギーを与えられた状態で出現し、そのまま転がっていくのです。
この場合、オークが風呂桶に使ってまだ余裕のある大きさの頑丈な樽が、中身と合計で400㎏以上の質量を持ったまま少女
の全力疾走と同じ速さで転がっていくのです。

そうでなければ、たとえば時速100㎞で飛行中の天馬やロック鳥に乗っている冒険者が無限袋から何か荷物を出せば、出し
たアイテムが時速100㎞の速度で冒険者の手の中から飛び出しそうになることになってしまいます。
そんな話は聞いたこともありません。
故に無限袋から出した物体は、その運動エネルギーが取り出す者のそれに一致するのです。証明終わり。

ん? これ、何かに使えそうですよね。後でじっくり考えてみましょう。


いけ、大樽! 行って罠を粉砕しろ!
降り注ぐ毒矢は大樽と同時に無限袋の中から取りだした、大ワニの革を羽織って防ぎます。
この島のワニ(クロコダイル)は、特に大きいのになるとマナを吸収して闘気の使い方を身に付けていますから立派なモンスタ
ーです。
大猪とかと同じで、幹部オークだって気軽に狩れる相手じゃありません。下手すれば返り討ちにされます。

一月ちょっと前にギュー・グェスが仕留めたこの超大物ワニ革は、神殿への奉納品として持ってきた代物です。
毛皮類は原則的にオーク達が運ぶことになっているのですが、この革は荷物として大きすぎたので無限袋の方に入れておいた
のですよ。
地球産の大ワニだって、その革はへなちょこな猟銃の弾など通さないのです。
紛れもないモンスターの革が速射性能しか取り得がないトログロダイト製の弓矢を通すわけがありません。
私がすっぽり入って余裕のある大きさですから一方向から射られている限り防備は完全です。

転がる大樽を追いかけて、担いだ大ワニの革を引きずりながら走ります。慣性の法則で、今止まろうとすれば転んだうえに転
がってしまいますから。
職人達が丹誠込めてなめした、せっかくの大物革が傷だらけになってしまいますが命には換えられません。

先行する大樽は、狭い開口部の両側から飛び出してきた合計30本ほどの細槍をへし折って転がり続け、その先で落とし穴に
填って止まりました。
やっぱりか。もしも矢の雨を振り切って走り抜ける者がいても、この二重の罠で仕留められる訳です。
そしてその様子を見て観客は馬鹿笑い、と。トログロダイトのやることは何処でも同じなのですね。

足裏スライディングで勢いを殺しつつ、私の身体は落とし穴に填った大樽へのりあげるようにして止まりました。
うん、やっぱりだ。穴と樽の隙間から見えます。樽が落ちてもう折れてますけど、落とし穴の底は槍畑が生えてました。
やはり生かして帰す気ゼロですねあいつら。


ガコッ

お? なんか今、上から嫌な音がしたような。
見上げると天井から縄で吊されていた石の角材が、次々と落ちて来るところでした。これが第三の罠か。



たとえ太さが10センチ角であってもメートル級の石材は軽くて重量数十㎏、そんなものが雨霰と落ちてきたら‥‥オークな
ら下っ端でも怪我で済みますね。私は死ぬけど。
ではなぜまだ生きているかといえば、とっさに大樽を無限袋の中にしまって、開いた落とし穴に入ったからです。
次々角材が落ちてくる方式の罠で助かりました。一個の塊が落ちてくる罠だったら間に合わなかったでしょう。

あと、もしもこの落とし穴がトログロダイト手作りの、ただ岩に穴を掘っただけの構造だったなら助かりませんでした。
というかこの落とし穴は本来床下の資材倉庫か何かで、トログロダイトが天井板を外して落とし穴に改造したのでしょう。
幸いにも落とし穴の中の方が穴の縁よりも大きい、昆虫採集の虫捕獲用罠みたいな構造だったので槍が折れてる穴の中に入っ
て壁際に貼り付いて石材の雨を避けたのです。


もう、落ちてこないよね?

身軽さが取り得のこの身体は、落ちてきた石材を足場にすれば簡単に落とし穴から出られます。
登ろうとして何かに引っかけた透明生地のスリップが裂けてしまいましたので、そのまま剥ぎ取ってしまいます。
破れてただの布きれになったものをこのまま身に付けていて、いざというときに何かに引っかけたら命取りになりますからね。

出てみると、落とし穴の中以上の土埃で煙幕状態でした。
石粉の煙が舞う向こう側に、色とりどりの影がうごめいている。奴らが止めを刺しに来たんだ。
更に奥から闇雲に矢を射た奴がいたようですが、私ではなく目の前の味方に当たったようで弦が鳴る音や矢が飛ぶ音はしまし
たが矢そのものは来ませんでした。
代わりに悲鳴と罵声が上ってます。本当に同士討ちを怖れない連中ですね。


もう罠はない筈。
あったらあったでそこで死のうと決意を固め、私はスリップの残骸で鼻と口を塞ぎ身を屈めて開口部に、外部に向かいます。
そして、たどり着いた外部は、断崖絶壁に開いた穴でした。



ここは谷の壁面に開いた、岸壁を四角くくり貫いた人工の石洞窟。20メートルほど離れた谷の向こう側はこちら以上に険し
い断崖絶壁です。谷底までは幅の倍以上、50メートルはあるでしょう。
この穴、周りの岩壁に規則正しく丸穴が開いていて、そこに錆びきった鉄塊が填っています。
その昔は鉄骨製の階段や昇降機(エレベーター)があったのでしょう。錆の塊は岩壁に打ち込まれた基礎材のなれの果てです。


やった。賭けに勝ちました。
最悪強化ガラス張りとか太陽光そっくりな発光板とかの詐欺も考えていましたが、期待通り外部に繋がっていました。
いや期待以上です。鉄格子すらありません。

さっそくなので登り始めます。岩壁を。
せっせと登ります。
どんどん登ります。
非力な人間の小娘をなめんなトログロダイト(穴住み)ども、岸壁登りだけならお前らなんかよりもよっぽど上手いんですよ。
悔しければその中途半端にせりだした腹ひっこめて追いかけて来なさい。
そうすりゃ捕虜のコボルドたちが動く隙ができるかもしれません。


‥‥弓矢は止めとけ弓矢は。この風じゃ当たりませんって。
弓矢はとても難しい武器なのです。投射兵器至上主義を万年単位で続けてきた地球人類だって、まともな射手を養成するのに
何年もかかるんですよ? 元々が穴居生物で不意打ち闇討ち専門の彼らに、この強風でこの距離の目標に当てるのは難しい。

そりゃ中には腕の良い射手や落ち着いた射手もいるのかもしれません。横風を計算して射れるのが。
でも、あの僅か数人しか立てない岩穴にいま立っているトログロダイトがそんな事出来る奴な訳がない。
どこでも真っ先に突っ込んでくるのは勢い任せな奴らです。
そして勢いだけの連中は私の計略に引っかかって頭に血が上りきっている。

戦いとは 駆 け 引 き なのですよ、力押ししか知らない奴には負けられません。


おっと、この張り出しは拙いですね。私の腕力では越えられないかも。
やや遠回りになりますが迂回して登りましょう。
眼力というか、視力と直感だけは戦士に近いんですよ私は。あと身の軽さも。どれも岸壁登りに役立つ才能です。

念のため見下ろしてみるとトログロダイトどもは‥‥うん大丈夫。
何人かの緑が岩壁をよじ登って追いかけてきたけど、そうそう追い付かれるような登坂速度じゃありません。


ん? 何やら嫌な感じが視界の隅にあるのですが? なんでしょうか。見てみましょう。
うあぁっ! 谷底の水面に波が走ってる!?
あの波の立ち方は拙い、強い風が、突風が壁面を伝わってここまで来るっ。

きたー! 無限袋の中のピッケルを出す暇もありません。
‥‥って元から無理ですよ、あれは捕虜のコボルド達に渡したんですから。

た、耐えるしかないっ。


なんとか耐えました。危なかったー! 気付くのが数秒遅かったら、飛ばされてましたよ実際。
よじ登って追いかけてきた緑連中の殆ど全部、そして青連中の半分ぐらいも突風で飛ばされてしまいました。紙切れよりも簡
単に飛ばされて、棒きれのように速やかに落ちていきます。

そりゃーそうでしょ。パンツ一丁の私ですら飛ばされそうになったんです。
只でさえ私より岩壁登りが下手なのに、風を受けたらパラシュートみたいに膨らんでしまうあの服を着たトログロダイトども
が無警戒のところに突風を受けて、飛ばされない訳がありません。


落ちたら助からないよなー この高さだと。
なるべく落ちないようにして登りましょう。落ちるのはまだ構いませんが、落ちて死んだら谷川にいる生き物に食われてしま
います。
ワニだろうがサンショウウオだろうが、食われるのはまだしもトログロダイトと一緒の胃袋に入るのは御免です。






[38600] 25
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:56



 ☆58日め5、元帥はスパイに弱い☆


はるばる来ました頂上部。
遂に崖を登り切ったのです。えらいぞ私の身体。

崖の一番上まで登ってみたら、そこは岩山の中腹にある広場でした。
広場を挟んで、登ってきた断崖の反対側には垂直じゃないけど崖と呼べる角度の坂が続いています。
崖の先は険しい山です。
あの山、思いっきり見覚えがあるというか、コボルドの巣があった山の反対側ですよね、ここは。


このねぐら、誘拐地点から近すぎです。長めに見ても数㎞しか離れていません。
あっちで登っている煙はコボルドの巣からの煙ですよね、地形から見て間違いなく。
やっぱり目と鼻の先だ。
盛大に煙が上がっていますが、煙の色からして火事ではなさそうです。
あれはきちんと制御された焚き火の煙だと、前世が農村育ちの者として断言しましょう。

そう言えば、ゲームの中でも「次元扉(ディメンジョンドアー)」の呪文って、移動距離が短めでした。
精々1マイル(約1.6㎞)とかそのくらいですね。それを考えれば凄い性能なのかな?
アフリカ某地域の諺では「獅子は自分の巣近くで狩りをしない」と言うそうですが、トログロダイトは獅子じゃないし。


この広場は自然のままではなく、明らかに人の手が入ってますね。地球で言えば石切場とヘリポートを混ぜた感じです。
こんな風の強いところを空港にして重たい石材を空輸していたとも思えませんが、魔法文明のことですから地球の常識で云々
するのは止めておきましょう。重力制御とか天候管理とかしててもおかしくありません。
実際の話、地球基準で言えば非常識の塊が向こうで寝てますし。

そうです。ここはあのバケモノの、私が片目を潰してさしあげたドラゴンのねぐらがあるのです。
ちょうど在宅中しかも熟眠中とは有り難い。起きていたらその時点でお終いでした。
ドラゴンは丸くなって朝日を浴びながら寝ています。外見からして夜行性っぽいですが、眩しくても寝られるのかな?

正直言えば、アレが野外にねぐらを持っているのなら高いところに上がれば見つけられるかも、ぐらいしか思っていなかった
のですが‥‥まさか直ぐにねぐらが見つかるどころか、たどり着いてしまうとは。


ドラゴンが寝ているのは石切場っぽい箇所の、他より一段高くなっている場所です。
なんとかとボス敵は高いところを好む。意外に常識的な奴ですね。
それにしても可愛げのない寝顔してるなー。
ここまで邪気たっぷりというかヒール路線まっしぐらな寝顔って見るの初めてですよ。
普段は強面なハシビロコウさんだって寝顔は穏やかなのに、あいつはどんな夢を見ているのやら。 

とにかく休憩を‥‥とっている暇はありませんが、今の私には歩くことすら重労働。
疲れ切った、震える手で無限袋をあさり霊薬(ポーション)の瓶を取り出します。
これは怪我の治療用ではなく状態回復用の薬で、飲めば疲労や脱力・意気消沈などを治してくれるのです。

ごっくん。

うん、効いた。咽と胃から全身へと元気が漲っていきます。
矛盾した表現ですが「無味無臭なユ○ケル○帝液」とでもいうべき味わいですね。
味も香りもないけど刺激的で、脱水症状寸前の時に水を飲んだ感覚の百倍増しで疲労が消えていきます。
飲んだ後の瓶は袋にしまっておきましょう。
ソーニャさんの話では、きれいなポーション空き瓶は5ゴールドとか10ゴールドで故買屋が引き取ってくれるそうですから。


念のため崖下を覗いてみると、登ってくるトログロダイトが増えてました。崖の上から顔を出した小娘目掛けて、穴の所にい
る青トログロダイトが矢を射ようとしてます。
だからそのお粗末な弓矢の性能と腕じゃ当たらないっての。えっと、近くに何かないかな。この石でいいか。

適当な石を掴んで投げつけて、良し命中。
狭い戸口(穴口?)で固まっている青トログロダイトの間で、石に当たって興奮した奴や避けようとする奴が周りの者と押し合
いへし合いして‥‥うん、落ちた落ちた。ポロポロ落ちてる。
ついでだから崖をよじ登っている連中にも小石をプレゼント。
先頭の奴が後続を巻き込んで落ちていったので、あと2分や3分で這い上がってくることは無い筈です。


さあ、行きますか。
ドラゴン仕留めるなら寝込みを襲うのが定石です。小娘一人でやるのは非常識ですが。
でもやります。だって、私はみんなを信じていますから。

ドスとウォスは無事あの場を切り抜けて、逃れていると信じています。そして今頃は懸命に私を捜してくれているでしょう。
たとえ私がここで死んでも、グェス達留守番している面々は私の死骸を回収して蘇生してくれると信じています。
ついでに仇も取ってくれるでしょう。

信じているのです。
私の巣の、とっても強いオーク達はこのねぐらを見つけることさえ出来ればあっという間に外道どもを蹴散らしてくれるって。
だから、あいつだけは 私 が 仕 留 め な け れ ば 。
あの謎の効果が有る限り、防御闘気の逆転現象がある限り、私はあのバケモノに勝てる。
最弱の私でも勝利に貢献できるのです。
あのバケモノが生きている限りここから逃げられても安眠できませんし、殺れるときにやってしまいましょう。

あいつと正面から戦って仕留めるのは、グェス達三人が束になっても難しいでしょう。
大猪とかと違って、あのバケモノは不利になれば即座に逃げちゃいますからね。
ならばここで仕留めるのみ。ワン・ポーカーで最弱の札が最強の札を倒すように、私はドラゴンを殺すのです。

と言うかですね、あのドラゴンブレスの直撃だけは嫌なんですよ。骨も残りそうにありませんから。
蘇生呪文で生き返るためには死体が残っていないと拙いのです。でないと難度が劇的に上がります。
だから、こいつだけはいま此処で仕留めておかないと。





 ☆58日め6、バケモノの誕生☆


懸垂の要領で段差をよじ登って、ドラゴンのねぐらに近づきます。気分は怪物狩人。
ん? ここから見ると、あの石切場の窪みは只の窪みではありませんね、深くて奥が見えません。
もしかしたら、いや確実にトログロダイトのねぐらと繋がっていると考えるべきでしょう。
何故か四人までしか同時に入山できない怪物を狩る猟師になるゲームでは、大概そうでしたし。


それにしても規則ただしい寝息ですね、そっちは暢気に寝てますけどこっちは夜中にたたき起こされてから散々ですよ。
せっかくだからそのまま寝てなさい。永眠させてあげますから。

て? あれ? 潰れた筈の右目がちゃんとある!?
いや、そういえば尻尾も生え替わっています。千切れたはずの場所から先が微妙に色違いになってますね。
再生(リジェレネーション)能力持ちですかこいつ? 一撃で仕留めないと拙いですね。やはり毒銛でいきますか。


無限袋の中から毒銛入りの青竹を取り出します。
さっきの霊薬は、「無限袋」の中に入った「大樽」の中から「薬箱」を選び、その蓋を開けて瓶を外へ取り出しました。
パソコンで言えば「自作文書」のフォルダをクリックして開き、さらにその中の「書きかけ」フォルダをクリックして開き、
「投稿用記事」のフォルダの中から目当てのメモ帳を取り出すような感覚です。

無限袋の類は、中に入れている箱や壷の中身を箱や壷そのものを出さずに取り出すことができます。実験して確かめました。
もしも無限袋へ無限袋を入れることができたら輸送が楽になるのですが、そうもいかないようです。
今取りだした毒銛は、大樽にまとめてではなくバラバラに一本ずつ入れてあります。もちろん消失対策です。
うん、大丈夫。既に一本出してて、ちゃんと残り四本とも袋の中にある。
消失対策に袋へ入れておいた石ころが一つ減っていますが、他に消えたものはなさそうです。

夢を見ているのか先程からドラゴンの眼球が元気に動いてます。REM睡眠ですね。
起こさないように、そっと青竹の鞘から毒銛を抜きます。鞘は袋に‥‥それも大樽の中の奥の方に入れておきましょう。
慌ててると中身の入った鞘と間違えて取り出しそうで嫌ですから。
必殺の毒銛を構えます。いくらバケモノでもこれが脳髄に達すればくたばる筈。

では‥‥ あれ? 


何でしょう、アレは。
奴の鼻先に何か付いています。透明で、朝日を反射して鈍く光る小さなものが。
あれは、そうだ見たことがある。
ついさっき、いや違う二ヶ月近く前に。ついさっきのは思い出しただけ。


私は、いつの間にかバケモノの鼻先に付いたそれを手にとっていました。
目の前に持ってきて観察します。

大きさは指の先程度の、小さな欠片。
透明樹脂のおもちゃのように歪な丸っこい塊。細かい気泡が入っていて、手触りは温かく柔らかでぷにぷにのすべすべです。
外見はワラビ餅の食品模型ですが触感は軟質ゴムの方が近いですね。


これは。この物体を私は知っていた。私はこれに触ったことがある。そのときは鑑定なんか思いつきもしなかったけど。

【生命の粘土】
・それはとても貴重な品だ
・それは第一の物質(プレーン・マテリアル)でできている
・それは錬金術の素材になる
・それは呪文の触媒に使える
・それは食べることができ、望むままの変異をひきおこす


そうだ。思い出した。
これはさっきの走馬燈の中で見た透明なもの。スライムに似ているけど違うものなのです。
記憶の中にあったどんどん成長していく子供の‥‥私の手を、そして全身を覆い包んでいた透明の物体です。

あたたかく、懐かしい感触。

これだ。私は、この身体はこれに包まれていたのです。私がこの島に転生したその時に。
私は透明な球体のなかに、生命の粘土の中に居のです。多分胎児の姿で。
そしてこの透明なものの塊の中で10歳過ぎぐらいにまで成長してから、揺りかごを破って外に出たんだ。
文字通りの、生まれたままの姿で。

私は、この身体はあの日あの場所で産まれたんだ。この姿で。



夢の筈。よくある胎内回帰と再生の夢。見るのは初めてでも、話としては珍しくもない夢。
だから忘れていました。
それに転生したその日のことは記憶が曖昧で‥‥。
そりゃそうです。生まれたてだったのですから。


生命の粘土。各地の創世神話に似たようなものが出てきます。神々はこれをこね上げて望みのままに生き物を造ったと。
うん、解る。これは存在自体が魔法だ。いや奇跡です。
錬金術でいう【賢者の石】は、人がこの透明粘土やその同類を再現しようとして出来た、言わば神話級アイテムのデッドコピ
ーにすぎません。
この神話級素材を元に魔術を使えば、どんな合成生物(キメラ)も新生命(ホムンクルス)も自由に造り出せます。
ただ食べるだけで、怪我も病気も一瞬で治り、能力値が上がり、成長も若返りも思いのまま。

ゲーム的に言えば最上級の「願い(ウィッシュ)」の呪文が、効果範囲が限定されるとはいえ使えるようなものです。
分かり易く言えば食べることもできるドラゴン○ール。
私がいま持ってるこの欠片だけでも、口にした者が望みさえすれば新たな能力の一つや二つは得ることができるでしょう。
たとえば口から火を噴くとか、毒物全般にある程度の耐性が付くとか、にっこり笑うと敵や獲物が逃亡しにくくなるとかの。



そうか。そうだったのか。
このバケモノは本当に 化 け た も の だったのです。「存在自体が反則」と感じた私の直観は正しかった。
こいつはトログロダイトです。
あの日、生まれ出たわたしがふらふらと森の中を歩いていった後でこいつが、一匹のトログロダイトが抜け殻になった私の揺
りかごを見つけたんだ。そして、生命の粘土でできた揺りかごを、言わば私のこの身体の胎盤を食べた。
魔力の塊を食べて、ただのトログロダイトがドラゴンに変身したのです。それも反則(チート)能力付きのが。

こいつは願った。生命の粘土を貪り食いながら願った。無敵の存在になりたいと。
棘と甲羅だらけで猛毒の牙を持ち炎の息を吐くこの醜い姿が、こいつの「ぼくのかんがえたすごいかいじゅう」だったのです。
そしてこいつは己が思い付く限りの強さを身に付けた。


どこぞの塾長なみというか、一人で列強諸国の正規部隊を相手にできるどころか向こうの方から譲歩して来るようなのがゴロ
ゴロいるこの島では目立ちませんが、ドスやウォスだって余所の地域に行けば勇者や英雄として扱われるだけの実力があるの
です。
その二人が二対一でも対等にすら戦えなかった‥‥いや、むしろ二人で戦ったからこそウォスはこいつに負けたのでは?
一人で戦っていたときは、不利ではあっても負けてはいませんでしたし。

もしこいつの願った加護が、変異が「どんな勇者にも負けない」というものだったなら?
あるいは「強い敵に対してより強くなれる」能力だとしたら? 「敵の数が増えれば増える程強くなる」能力だとしたら?
オーク戦士が二人がかりでも負けたことにも納得がいきます。


呪いと祝福は紙一重です。そして物事の長所は大概において裏返せば短所になります。
こいつの全身を覆っていた分厚い闘気は、オークやコボルドの戦士に対しては無敵でした。
おそらく「女の腹から産まれた者には決して負けない」とかそういう能力でガッチガチに固めていたのでしょう。

だけどその能力は裏目に出た。こいつの目を潰した私は女の腹から産まれていないし、尻尾を断ち切った打刻機もそうです。
私の方は不明ですが、打刻機は「鉄の王」お抱えの技術者が造りコボルドの職人が改造したのですから。
魔法であるからこそ、奇跡であるからこそ、単純な無敵状態にはなり得ない。
どこかに必ず落とし穴があるのです。
どんなバケモノであっても、いやむしろバケモノであるからこそ思わぬ弱点が。



後から騒がしいだみ声と足音が響いてきました。振り向くとさっき見つけた窪みの奥からトログロダイトの群が湧き出てきて
います。やはりあそこから下へ繋がっていましたか。
しくじった。出生の秘密というか私の肉体の由来にかまけすぎました。
あの人数に出て来られたら、とてもじゃないけど逃げ切れません。

ええい、せめてコイツだけでも。
私は毒銛を構え直し、騒ぎに目を覚ましたバケモノが見開いた目玉に思い切り突き刺しました。

突き刺さらない。


突き刺した筈なのに、毒銛が届きません。
バケモノの眼球直前で、何か見えない物に突き刺さっているかのように毒銛が止まってしまいました。
押しても押しても進みません。


え? 何故? どうして!?





 ☆58日め7、誤算☆
 

突き刺さらない銛を刺そうとジタバタしていたら、バケモノの鼻息で吹っ飛ばされました。
体重は25㎏ちょっとしかないとはいえ人一人を鼻息で5メートルは吹き飛ばすなんて、どんな肺活量しているんだこいつ。


「ウォッハハッ」「ハハッ!」「ウォーッハッハッハッ」「フォッフオッ」

鼻息で吹き飛ばされて、地面をごろごろ転がる私の不様さを見てトログロダイトどもが喝采を挙げています。
このバケモノは彼らにとって暴君であり守護神なのでしょう。
恐くて理不尽で頼もしい、そんな存在。


神、か。確かに神とまでは言わずとも半神ぐらいは名乗れるかも。こいつの肉体は奇跡の産物なのですから。
その点、私の身体だって奇跡の産物なんですけど。でもどうしてこんなに違うんでしょう。
パワーが、筋肉の量自体が違いすぎる。相手にもならない。ウェイト差はいったい何倍なんでしょうか。

バケモノは猫みたいに身体を振るわせて伸びをする余裕があります。
それもそうか、私はもうあいつの敵じゃない。天敵ではなくなってしまっていたのです。


ドラゴン。
ドスの見立ては正しかった。あれは只のモンスターではなく、本当にドラゴンと呼べる存在なのです。

勇者ジークフリートが倒したドラゴンは、かつてはファーブニルという男でした。
しかし彼は呪われた金塊に魅入られてしまい、金塊を独占するために家族を殺しあるいは追放した末に竜(ドラゴン)へと変身
してしまったのです。
金塊に込められた呪いはとても強く、金塊を守るために無敵の肉体を欲したファーブニルの身体を造り替えてしまいました。
それがドラゴンの姿だったのです。

ファーブニルが考えたドラゴンは「この世に存在しているどんな武器も通じず、大地の上にいる全ての者に対し無敵」という
ものでした。そして黄金に込められた呪いは、ファーブニルの身体を望み通りに作り替えたのです。
ですがジークフリートは折れてしまっていた家宝の剣を鍛冶屋に鍛え直させ、ファーブニルが通る道に穴を掘ってそこに入り、
待ち伏せに気付かず寄ってきたファーブニルの心臓へ、地中から剣を突き刺して討ち取りました。

ファーブニルがドラゴンになってから新たに打ちあげられた剣に対しては、そして大地の下にいるままの勇者に対しては、
ファーブニルが考えたドラゴンは無敵でもなんでもなかったのですよ。
魔術とは、奇跡とはそんなものです。



そうか、奇跡が、奇跡の種がまだ残っていたんだ。
あのバケモノの鼻先に付いていた【生命の粘土】。あれが奇跡の源です。
あいつはまだ生命の粘土を隠し持っていた。全部食べていなかったのです。

昨夜の戦いで目玉を潰され尻尾を切られたバケモノは、ここに逃げ帰って隠して置いた生命の粘土をもう一度食べて肉体を造
り変えたのです。
例えば、「この地上で産まれた者に対して無敵」とかに。
あの欠片はそのときの食べ滓だったんだ。


これは拙い。全ての目算が狂ってしまいました。


ドラゴンが、石切場の岩の上に転がっている私の前までやってきます。のしのしと歩いて。
ああ、爬虫人類と違ってトログロダイトは表情が分かり易すぎる! ドラゴンになっても腐れサディストの本性が丸解りです。

不思議です。何故恐くないんでしょう? 絶体絶命の危機なのに。
あれはあんなに強いのに、ちっとも恐くない。
ゴォ・ドスですら昨夜あのバケモノを見て、「ドラゴン」と呼んだ声には畏怖というようなものが含まれてました。

なのに何故?
身も心も軟弱そのものの私が、何故あいつを怖れない? 思えば夜中にあの咆哮を聞いたときにも、畏れというようなものは
特に感じませんでした。
百戦錬磨のコボルド戦士達が一発で士気を砕かれたのに、私は何故怖れなかった? 
普段なら震え上がっていた筈なのに、むしろあの時には呆れていました。

もしそれが、昨夜の時点では私の無意識に奴の無敵モードが通用していなかったのだとすれば?
昨夜と同じく今も精神的には、心にだけは通じてないのだとしたら?
いまの私が恐怖に震え上がっていないのは、私の心が、記憶が、
精神の一部が こ の 世 界 で 産 ま れ た も の で は な い からだとしたら。

記憶



精神

意思の力

魔法

攻撃呪文


「きぃてぇぇ!」 

あらん限りの気合いを込めて、私は目の前まで迫っているバケモノの顔面に、左手の平を突き付けます。
でも出ない、詰まったかのように次の言葉が出てこない。
イメージが、何をすべきかの絵が、心象風景が僅かに足りません。だから出ないのです。

バケモノは一瞬身をすくませて後じさりましたが、直ぐに緊張を解いて寄ってきました。
時間稼ぎのハッタリをかましているらしい小娘をいたぶろうと、軽く噛みつこうと迫るその口に、

「破ァ!!」

左腕に仕込んだ小型大砲を発砲するイメージと共に、私はエネルギー弾を打ち出します。
ゲーム世界ではフォースブレッドなどと呼ばれる初歩の物理攻撃魔法弾が、バケモノの口中に命中して下顎を打ち砕きました。
今日の今日まで魔法なんて使ったことない初心者にも、左腕に仕込んだ先込め式カノン砲を発射するイメージなら思い浮かん
だのです。読んでて良かった狂戦士漫画。


顎を撃ち砕かれたバケモノがもんどり打って転がり、辺りに血と肉片骨片が飛び散りました。
恐竜よりでかいバケモノが、昨夜の悲鳴以上のやかましさで泣きわめき、のたうちまわってます。

致命傷じゃない、致命傷じゃないけど軽くもありません。人間なら緊急手術の後一月以上入院ものの傷ですから。
私の放ったエネルギー弾そのものは、前世の私が思いきり投げた硬式野球の球程度の威力しかありません。
無防備の人間が至近距離で顔面に受けても、気絶か入院はするでしょうがまず死にはしない、その程度の威力です。

しかし命中した瞬間に奴の全身を包んでいる闘気の壁が反転して、攻撃呪文の威力を数千倍に増幅したのです。
昨夜のあのときと同じように。

やった、やってやりましたよ。イタチの最後っ屁的一撃ですが。
非力な小娘だからって、いつまでもやられっぱしだと思うなこの野郎。



で、問題はこれで残弾0だってことなのですが、どうしましょう?
やはり初心者がぶっつけ本番で使うといけませんねー これ以上はないぐらいの好機だったのに急所を外してしまいました。
たとえ信仰魔法の残弾があったとしても、もう一発当てるのは難しそうです。
初級魔法だけあって射程短いですし。

あれですね、魔法を使うのってアレに似てます。あの感覚に。

ほら、健康な青少年やそれ以上の年齢の男が実感することがある、あの感触ですよ。もう一滴も出ない、出しようがないあの
感覚ですよ。
血清を作るために毒腺から液を全部搾り取られてしまった毒蛇なら、この感触を理解してくれるでしょう。
一晩寝れば回復します。せめて数時間休憩すれば1発か2発は撃てるようになるかもしれません。
でもいまは無理です。ないものは出しようがないのです。


石切場に出てきた野次馬トログロダイトどもが、固まっています。声一つ出ていません。
あー そうか、こいつらの半分ぐらいは新入りで、古参のもう半分は昨夜の襲撃でバケモノが醜態晒したところを見ていない
のですね。見たトログロダイトの殆どは死んじゃったし。
彼らの守護神が、無敵の筈の聖獣が傷付き、血を流し、泣きわめいているのですからそりゃ固まりますよね。


ふっ ふふっ 

「ふぁ──はっはははははははははははははははははは!」

思わず声に出して笑ってしまいました。もう笑うしかない。

はい死んだ! 実質的にいま死んだよ私! これで脱出不可能です。
バケモノを仕留められなかったから野外を逃げるのは無理。
かといって地下に隠れるのも、この数のトログロダイトがいると無理。
これだけやったからには降伏しても捕虜には戻れません。私が逆の立場なら、なにがなんでもその場で仕留めます。
詰んだ。今度こそ詰みました。


では、無限袋から予備武器のサーベルと新しい毒銛を取り出しまして、と。
いえその、鼻息で飛ばされたときにその時持っていた毒銛はどこかへ行っちゃいましてね。生命の粘土も同時に。
無限袋までなくしていたらお終いでした。右手首に縛り付けて貰っておいて正解です。読んでて良かったギャングもの漫画。

サーベルというよりも、これはグルカ兵の使うクックリ刀が近いかな? 地球のものとは細部が微妙に違いますね。
この刃物はコボルド族の刀鍛冶が鍛えた業物でして、魔法の棍棒を敵に奪われ、魔法の短剣(ダガー)を捕虜コボルド達に渡し
ている今では一番頼りになる武器です。
柄を丈夫なものに取り替えた魔法の刺突剣(エストック)は、私の腕力では構えることもできません。戦斧は持って運ぶのにも
苦労します。


クックリ刀に良く似た、くの字形武器の内側に付いた刃を使って、この二ヶ月近く伸ばし続けてきた黒髪を一掴み分切り取り
ます。
切った髪の毛は辺りに撒き散らす。谷底から強い風が吹いてますから、この髪の毛は至るところへ飛んでいく筈。
死んで、しかも身体の損壊が酷すぎるときは幽霊になってオーク達を導き、この髪の毛から蘇生して貰いましょう。


こーなりゃヤケです。
一匹でも多くのトログロダイトを殺してから死んでやりますとも!

そうして私は、トログロダイトの群れに毒銛と片手剣を振り回しつつ突入しました。
事態をまだ呑み込めていないのか、弓に矢をつがえてもいない青トログロダイトの集団を右手の毒銛でつつき、弓矢の弦を左
手のクックリ刀で断ち切ります。
青連中は密集しすぎているため逃げるに逃げられず避けるに避けられず、毒銛でつつかれてバタバタ倒れていきます。
しかし数が違いすぎる。いずれは囲まれて圧殺されてしまうでしょう。


接近戦を嫌がった青トログロダイトどもは泣きわめきながら私から離れ、距離を取ろうとします。
‥‥ん? 距離を取らずに、そのまま逃げていきますよ? 緑や黒や黄色まで一斉に逃げ出してますけど、いったい何故?
士気崩壊にしてはいくらなんでも早すぎますが。


まさか。


背後の騒音と気配に振り向くと、石切場の更に上の斜面へ貼り付いたあのバケモノが、下顎から血をドボドボ流しながら斜面
の大岩を石切場へ転がそうとしてる所でした。ちょうど犬がゴムボールとかを前足で蹴って前に転がすような仕草です。
いや、既に幾つかの岩が転がり始めていてるし、そのうちの少なくとも一つは私に直撃する進路を転がってます。

なるほど。石を転がして攻撃すれば近寄る必要ありませんね。反撃も受けない。
さしずめ「小娘、おまえが何回分の攻撃呪文を残していたとしても関係ない処刑方法を思いついたぞ!」といった所ですか。
意外と頭良いですね、あいつ。
誰でも思いつく作戦ではあるけれど、この短時間で考え出して迷わず実行に移せるのはたいしたものです。




 ☆58日め8、想定外☆


良し、逃げよう。もちろん地下へ。
怒り狂ったバケモノと野外で追いかけっこするよりは、暗くて狭い地下で臭いトログロダイトと鬼ごっこしている方がまだな
んぼかマシです。
幸い、この窪みから繋がっている坑道はバケモノが入るには少々狭すぎる。
自分で自分を挽肉にする覚悟がないと入れません。


でも岩は入ってくるんですよねー。
ドラゴンではなく岩が追いかけて坑道にまで入ってきました。
とっさに通路の隅に伏せた私の横を、丸っこくてよく転がりそうな大岩が転がり落ちていきます。
この坑道は緩い坂道になっていますので、下った先で邪魔になる構造物に当たるまでそのまま転がっていくでしょう。

鬼ごっこより隠れんぼにしますか。トログロダイトと一緒に挽肉になるのは嫌です。
下の、私が脱出に使った開口部には落とし穴に槍襖に吊り天井と三つの罠がありました。
「鉄の王」こと西方文明の植民地総督やその部下が石切場にわざわざ罠を仕掛けるとは思えませんから、あれはトログロダイ
トが構造物の空いている場所を使って作ったものの筈。
ならば、このあたりにも空き部屋や支道の一つや二つ‥‥あった! 壁の暗がりに通風口らしき穴が開いています。


坂道の上の方から物騒な物音が迫ってきています。落石攻撃の第二弾でしょう。
坂道の下の方からは悲鳴と盛大な激突音が聞こえてきました。さっきの岩が逃げたトログロダイトに追い付いたようです。
大慌てで通風口に入って落石の第二波、第三波をやりすごします。

まだだ、まだやれます。状況は詰んでいるけどまだ終わってません。
私は相変わらず馬鹿で非力だけど、無力じゃない。一月半前とは確実に違うのですよ、一月半前とは。
闘気法応用の暗視能力がなければ明かりも無しに坑道を歩くことはできませんし、最近益々敏感になっていってる皮膚感覚が
なければ通風口があるとは分かりませんでした。頬に当たる空気の流れで分かったのですよ。

今の状況だって、トログロダイトの呪術師を相手にまな板解剖ショウの主演やってるよりは遙かにマシです。


なので四つん這いで通風口の奥を目指します。羅刹場を乗り切るコツはとにかく動いて場を停滞させないことです。
あ、羅刹場というのは私の造語です。修羅がやるorやりそうなのが修羅場で羅刹がやるorやりそうなのが羅刹場。
ええ、今更いうのもなんですが、私は羅刹系少女なのですよ。殺伐サツバツ。


後から何か凄い音と熱気が!?
あのバケモノ、入れないからって穴にファイアーブレス吹き込みやがりましたかっ!

熱い熱いあちあちあちあちちちっ!
早く逃げないと焼き殺されるっ。なんて火力だ、通風口の奥に逃げてこれですか。
ああもう、噴霧式殺虫剤持った子供に追い回される虫になった気分です。これは確かに、屈辱の極みだ。


あちあちあち。熱いじゃないですかあの腐れ外道めっ。
万が一私にファイアーブレスを防ぐ力があったとしても、ブレスで温められた石材が発する余熱は防げません。
そんな能力は私は持っていませんがバケモノはそれを知りません。もしも私が、ブレス攻撃を無効化したり反射する能力を
持っていたら。

持っているかもしれないと考えてしまえば、直接攻撃に出るのを躊躇っても無理はありません。
だから奴は私を狭い石穴に追い込んでから、余熱で焼き殺すことにしたのです。
元トログロダイトにしては知恵の回る奴です。まさか、最初からこれを狙っていた? 有り得るのかそんなことが。


なんとか別の縦穴に逃げ込みました。私を足方向から炙り立てていた熱い空気は、更に熱く激しくなりながら通風口から縦
穴の上方向へ煙突のように登っています。
この縦穴は、小型エレベーター用の穴かな? 3メートル四方ほどの四角い縦穴で、私はその壁際の張り出しに立ってます。


この、約3メートル四方というのが、この島だけでなく全世界に点在する古代遺跡の基準サイズのようです。
古代文明人にとってはこの大きさが手頃だったようですね。
そういえば同じくコインの大きさも古代遺跡産が基準になっていて、1ブロック基準の約3メートルは丁度コイン100枚分
なのです。
1コインの長さ=3センチと仮定しても構わないでしょう。

縦穴の所々に生えている発光苔の僅かな明かりを頼りに、無限袋から出した革紐を壁際の柱に結びつけて、と。
革紐に腕を通して、と。これでもし突風が来ても大丈夫。
水筒を出して、水を足や腿など炙られた箇所にふりかけます。幸い重度の火傷はしてないようで、水ぶくれとかはありません。
咽が乾いているので水を飲んでおきますか、一度に飲むと身体が重たくなるので一口ずつ様子を見ながら。


ふう。ひと息つきました。


さて、これからはどうしますかね? パン焼き釜戸みたいになっている通風口へはもどれませんし、縦穴の上に行くのも熱対
策的に無理。
手持ちの装備では翡翠の珠に火炎耐性がありますが一割程度では焼け石に水ですね。まあ、ないよりはマシだから首にでも装
備しておきますか。
装備完了。これで気休め程度にはなるでしょう。


考えるまでもなく、下に行くしかないか。
行きましょう、ここで突っ立っているよりは幾らかマシです。
では、無限袋の中にロープがあるから取りだすとして‥‥。

いや待てよ、その前に服を着ましょう。
今の格好は破れて千切れかけた透明生地のショーツにサンダル履きですからね。あと首飾り。

出来ることなら今すぐでも、この格好どおりの身分になりたい。
エロ同人誌の主演女優になって孕みエンドの続きをやるんです。相手がギュー・グェスなら文句ありません。
まあ、ドスやウォスでも妥協できなくはないですが。他のオークは要りません。
うーん、ハラキズなら、星6にまでなってくれたらお嫁さんになってあげても良いかな? 5以下だと外野が煩いでしょうし。



では、ぼろぼろの残骸となるまで頑張ってくれた手縫いショーツよさらば。
そしてしばらく頼みますよ新しい衣服達よ。
チラ見できて喜んでくれる相手もいないことですし、実用一点張りの下着にしておきま‥‥?


ぶわぁぁっん と。
音ではありませんがこれが漫画ならそんな書き文字が記されそうな感触で空間が歪みました。
丸く、カメラのシャッターのように。


縦穴の壁際に貼り付くようにして立っているサンダルと首飾り以外全裸の私の前で、空間が絞り込み式扉のように丸く開きま
した。
開いた向こう側には黄色いトログロダイトが列をなして立っています。
そうでした。あいつらコボルドの巣では、避難所の中央に「次元扉(ディメンジョンドアー)」を開けて奇襲までしていた。
つまりトログロダイトは㎞単位先までの生体反応を探って、そこと空間を繋ぐことができるんです。


し、しくじったぁ──っ!! 

散々「止まるな、動け」と自分に言い聞かせ続けてこれですよ! ぱんつなんか穿いてる場合じゃなかったっ!
穿き変える必要なんかなかったのに。少なくとも命の危険はないんですよぱんつなんかなくても!

「うぁぁぁあああああ!」

叫びながら安全革紐から腕を抜き、手にとっていた新旧二つの布ぱんつを投げ捨てて私は壁際から跳びました。
半分パニック状態のまま、空いたばかりの次元扉に飛び込みます。


奇襲を許した以上、不利は当然。
ならばそれを逆転するのは死に物狂いの蛮勇以外ありません。

身軽さだけは一人前のこの身体は、黄色トログロダイトの列を飛び越えてその奥の石段に着地しました。
ここはあの石舞台の下段のようです。正面斜め上方向に不細工で雑な作りのUMAミイラが絡みついた柱が見え、まっ黄色の
肌と衣の呪術師たちは私より一段下に、プールサイドの位置に並んでいます。


くらえっ!

まだ状況を把握していないらしい奴もいる黄色トログロダイト呪術師団の中央に、無限袋から取りだした消毒用高濃度焼酎の
瓶を叩きつけます。
重たすぎて私の腕力では持ちあげることも出来ないこの瓶も、頭上にかざした無限袋から取りだして下段に落とせばそのまま
質量兵器になります。しかも中身は引火性可燃物。

ちっ 一人しか潰せませんでしたか。
しかも潰れた黄色がクッションになりすぎて、瓶にはヒビしか入ってません。焼酎が漏れてはいるけど少なすぎる。
何処の誰だか知りませんけどこの瓶焼いた焼き物職人、良い仕事し過ぎですっ もっと割れやすく作っとけよ!


黄色トログロダイトの何匹かが私を目標に呪文を唱えてる。例の次元扉用呪文じゃないですね、どう考えても攻撃呪文です。
間に合うか!? 高濃度焼酎の瓶をもう一つ取りだして投げつけます。良し、今度は床に当たってきれいに割れた。
火を付ければ即座に燃え上がる濃度のアルコール液が、辺りに飛び散ります。

そして今度は火種の入った竹筒を出して‥‥ダメだ、間に合いません。向こうの呪文の方が早い。
なんのっ 抵抗(レジスト)してみせます! 

ぽんっ ぽんっ と間抜けな軽い音を立てて、竹筒を無限袋から取りだし中の私の周りに幾つも煙が立ちました。
薄い霧のような煙が辺りに充満します。
ガス系魔法か!? ‥‥でも何の効果もなさそうですが? 遅効性? まさか幻術?

ええいっ なんだか解りませんがこれでもくらえっ。


このとき、目の前数メートルの所には次元扉(ディメンジョンドアー)が開いていました。そしてその下というか床には高濃度
のアルコールがヒビの入った瓶から勢い良く漏れ出ていました。
それだけならともかく、製御者が瓶で潰された次元扉(ディメンジョンドアー)は急速に締まりかけていました。
更に、このとき私が飛び込んできた縦穴の気圧は通風口が煙突と化していたこともあって祭壇前よりかなり低かったのです。

つまり、気圧差で空気が激しく吸い出され、高濃度焼酎の飛沫が空気と共に吸い上げられ、霧状飛沫になってるところに、
私は竹筒を振って火種入りの灰を投げ込んだ訳で。
当然ながら空中で引火して 爆 発 しました。


死ぬかと思った。本気で。


爆発の火球が見えました。火炎耐性つきの飾りをお守りに装備しておいて本当に良かった。
でなければ爆発の余波で祭壇の基礎に叩き付けられて、前髪が焦げるぐらいでは済まなかったでしょう。
ええ、一割引きでも馬鹿にできたものではありません。

なんとか立ち上がれます。爆炎吸い込んで咽や肺が焼けていたら危なかった。やはり私はここぞという所で運が良い。
爆発で黄色いトログロダイトは全滅‥‥はしてませんが殆どが黒こげか気絶か火達磨状態になっています。
おお、燃えてる燃えてる。身分の高いトログロダイトは衣服が布地たっぷりで分厚いので、焼酎が良く染み込んでますね。


あ、二番目に投げた瓶は、神殿に奉納しようと思っていた一番出来の良い焼酎でした。滝壺で寝かせたやつです。
トログロダイトなんかには見せるのも惜しい代物ですが、投げちゃったものは仕方ありません。

火が付いていない生き残りの黄色も数匹います。
でもそいつらは、後から切り付けてきたコボルド戦士にあっさりとやられました。
私目掛けてさっきとは違う呪文を唱えていたので、背後からの一撃に全く気付かなかったのです。
切り倒したのは無限袋を吐こうとしていたあのとき話を漏れ聞いてドン引きしていた、ひょろ長い顔と手足という特徴がある
わりには地味な印象のコボルド戦士です。無事でなにより。


コボルドたちも脱獄頑張ってるようですね。
ええと、いたいた。あの子も無事です。子供コボルドは敵から奪ったと思しき弓矢で射まくってます。
適正サイズの弓矢じゃないから使いやすそうではありませんが、近距離で毒矢を使っているのでとにかく矢が飛んで当たって
かすり傷を付けることさえ出来れば有効なようです。当たったトログロダイトはみんな倒れて戦闘不能になってます。

ふーむ、やはりトログロダイトは自分たちが毒矢に使っている毒に免疫がないのかー。
トログロダイト族は青が貴族というか士大夫階級で、黒や緑が下人階級なのですから当然か。
青い弓兵連中が持つ毒矢は、気に入らない下人共をすみやかに射殺すためにも使われるのです。ロシア軍の士官が持っている
銃と同じですね。
対して下人階級である黒や緑の使う槍に毒は塗られません。彼らの身分では毒を使うことが許されない。
トログロダイト的には、毒は貴人が使う物なのです。


子供コボルドの矢を嫌がって逃げ惑う緑トログロダイトどもを、妙に見覚えのある黒トログロダイトが怒鳴り散らして戦列を
建て直そうとしています。
何処かで見た顔だと思ったらあの黒トログロダイト、手下が拾った棍棒巻き上げてたジャイ○ン(仮)じゃありませんか。
今も【ナノレドの棒きれ】を振り回して督戦してますが、あまり効果はないようですね。指揮下の緑トログロダイトの中には
怪我もしていないのに床に突っ伏して泣きわめいている奴や、床を這って逃げようとしている奴や、乱戦のどさくさに紛れて
味方を刺そうとしているのまでいます。

で、その一匹である緑トログロダイトが床に落ちてる流れ矢を拾って、その毒矢でジャ○アン(仮)の尻を刺しました。
後からの不意打ちで泡吹いて倒れたジ○イアン(仮)を、緑トログロダイトは嬉しそうに何度も何度も蹴りつけてから魔法の棍
棒を奪い取ります。そして装備したそのときに、子供コボルドの射た矢が顔面へ突き刺さる。

督戦役の黒トログロダイトが倒れたら、当然ながら手下の緑連中は逃げ散る訳で。
他のは逃げているのに一匹だけ残ってる敵が、魔法の武器を手に持って笑っていたら子供コボルドじゃなくても射ちますよ、
そりゃ。隙だらけだったし。



おや? 見渡してみると、なんかコボルドたちの数が合いませんよ?
気のせいではなく、増えているとしか思えないのですが? 知らない顔のコボルドもいるし。


答えは直ぐに出ました。
無数のトログロダイトと、比べれば遙かに少数のコボルド達が入り乱れての乱戦状態の真っ最中。
そのただ中に、空間が歪んで次元扉(ディメンジョンドアー)が開きました。
そしてその中から数名のコボルド戦士たちと、その後に続いて出てくるのっぽなオーク戦士の姿が。

「ゴォ・ドス!」

思わず叫ぶ私に愛用の三又銛を振って応え、ドスは目の前のトログロダイトどもをなぎ払います。
ただの一撃で十数匹が消し飛びました。

強い。というか次元が違う。
コボルド戦士達も強いけどドスの強さは桁違いです。黒だろうが緑だろうが関係なく一瞬で消し飛んでる。
あそこだけ「ゲームが違う」状態です。
コボルド達の剣舞が包丁で大根切っているようなものなら、ドスの銛は木の葉を箒で掃いているようなものです。
そうですよ、足手まといがいなければドスはこんなに強いんです。


「ブギィィィーッ!」

あの声は!
やっぱりウォスだ!
プールの向こう側にある坑道から雄叫びと共に走り出てきたウォスが、立ちふさがろうとするトログロダイトを片っ端から叩
き潰してます。そして彼の後から走ってきた数名のコボルド戦士達が続きます。


「レェ・ウォス!」

ああっ 叫んだけど遠すぎるのか聞こえてないみたいです。でも元気そうで良かった。
とても数時間前に臨死体験していたとは思えない暴れっぷりです。得物は愛用の棍棒に‥‥金物の大柄杓ですか?
ウォスは大きな柄杓のようなものを振り回してます。あ、赤トログロダイトの一匹を柄杓ですくい上げて投げ飛ばしました。

柄杓で掬い上げられ青トログロダイトの戦列目掛けて投げつけられた赤トログロダイトは空中で毒矢を受けて、青い弓兵連中
の頭上まで飛んで爆発します。
爆発に混乱する弓兵の列にコボルド達が切り込んで崩していく。
うん、戦い慣れている。やっぱりみんなトログロダイトと戦ったことがあるんだ。それも嫌というほど。

そうか、コボルド族も使えるんだ、次元扉(ディメンジョンドアー)。
考えてみれば彼らも「鉄の王」との戦いを乗り切った強者たちなのですから、使えてもおかしくありません。


戦況は五分、いえ、じわじわと味方が押しています。
トログロダイト側も増援が現れてはいるのですが、消耗に追い付く速度ではありません。
敵がコボルドたちだけなら外道どもも数で押せるでしょうが、オーク戦士二名の存在が大きいですね。

となると、私の前に開いたあの扉は脱走中の捕虜捕獲用ではなく、味方の回収用だった? 私の反応を味方と誤認した?
そう考えれば黄色連中の反応が鈍かったことも納得いきます。


良し。ならばもう一押し。
敵の増援を止めれば一気に勝負が決まる筈。

私は石材を適当に積み上げただけの祭壇をよじ登り、石舞台に上がりました。





 ☆58日め9、なんてこった敵の新手です☆



石舞台の頂上には、やはり紫色のトログロダイトがいました。石舞台の端に立ち、足下の石段に次々と同族を召喚しては前線
に送り込んでいます。
では、貪り食う無限袋から毒銛を取りだして、と。

「シャァァ──ィ!」「シャッ! サシャッ!」

トログロダイト語は解りませんが警告の叫びな事ぐらいは判ります。祭壇の近くにいる緑や青のトログロダイトどもが私を指
さして喚いてます。無粋な奴らですね。貧弱な小娘がこっそり登ってきたんだから気付くなよ、もう。
当然ですが、紫野郎にも気付かれてしまいました。

ままよっ

とっさに投げつけた毒銛は、こちらもとっさに呼び出された緑トログロダイトの首に突き刺さります。
惜しい、あとちょっと緑の出現位置がズレてたら紫の方に届いていたのに。
ならば直接刺すのみ!
新しい毒銛を取りだして切り込みます。一撃、一撃当てさえすれば!


ずるり。

足が滑りました。解体ショウの余波なのか石舞台の床に血飛沫が落ちていて、私はそれを踏んでしまったのです。
完全にバランスを崩してしまいました。
こ、転ける! 態勢を保てない!
ならばせめて転がる! 

映画の中のブ○ンドン・リーのように、私は床を転がり、滑り、回転しつつ両手の武器を振り回します。いや、あのシーン
はそっくりさん使ったスタント撮影だったっけ? どうでも良いですけど。


一通り切り付けて周りに立っている敵がいなくなってから、私はフィギュアスケートの要領で手足を縮めて回転力を増し、
その運動エネルギーを使って一挙動で立ち上がりました。
本職と比べれば流石に劣りますが、サーカスの見習い芸人程度の動きはできるのですよこの身体は。
非力で貧弱で頭脳がマヌケなことさえ除けば最高級、いや超高品位な肉体ですからね。なんせ奇跡の産物です。

毒銛とクックリ刀で無防備の脛やふくらはぎを切り付けられた雑魚トログロダイトは残らず倒れています。そう、残らず。
何匹かいる赤いトログロダイトも。そして最悪なことに数匹の赤い奴は、まだ死んでませんが今にも死にそうです。


もう何度目なのか数えたくもないとっさの判断で、無限袋から大樽を出します。
そして隠れる。
次の瞬間、毒銛が足を僅かにかすったために瀕死状態だった赤トログロダイトが爆発しました。

連鎖、連鎖で次々と爆発してます。とにかく頑丈な大樽の陰に、耳塞いで口を半開きにして隠れてる私は無事ですがトログロ
ダイトどもはそうもいきません。この石舞台の上、他に遮蔽物がありませんから。

あー 紫トログロダイトの奴、私が血糊の上で昔懐かしのブレイクダンスみたいなことしている間に、後先考えず石舞台の上
とその近くへ同族召喚したんですね。もう山ほど。
私一人を相手にするには、どう考えても呼び出しすぎなぐらいに。
で、その中に一定比率で含まれている赤トログロダイト自爆兵がいま連鎖爆発してる訳です。自爆兵の自爆に対してとっさに
同族召喚して肉盾にしたら、その盾自体に爆発物が混じっている訳で。

うん、これが本当の自爆行為だ。オウンゴールも良いとこです。



終わったかな?
そっと大樽の影から覗いてみると、石舞台の端の方は酷いことになっていました。アジのタタキ作っているまな板の上みたい
な惨状です。あるいは全部生肉系材料のもんじゃ焼き?
本当はもっと臭くてグロいですが、ここは叙述上のモザイク処理ということでお願いします。
赤トログロダイト一匹一匹の爆発力はそれ程でもありませんが、狭いところに密集していたから効果範囲が何重にも重なって
しまったのです。もう少し召喚された数が多ければ、私も爆発に巻き込まれていたでしょう。

て、言うか洒落にならない臭さですよ! 爆発で例の臭油瓶が割れたせいですね。
履いているサンダルが魔法の品(マジックアイテム)で良かった。性能は地味ながらも、昨夜から酷使しまくりなのに私の足を
しっかりと守ってくれています。
これが手縫いの肌着なみに脆い代物だったなら、素足でこの汚物の上を歩かなきゃいけない所でした。



ぽんっ ぽんっ  と空気のはじける軽い音が連続します。

大樽の陰から出て、紫ボスの死骸を探そうとした私の周りに数体のトログロダイトが現れました。
生きてた!? そんな馬鹿な!
盾代わりに召喚した赤トログロダイトの至近距離自爆を何発も受けたのに、ボストログロダイトがなぜ生きている!?

見れば半ば挽肉になった紫トログロダイトが、床に転がったまま引きつった笑みを浮かべていました。全身傷だらけというか
傷しかないような惨状ですが、何故かまだ生きてます。
似ている。
この紫色の奴、近くに寄って見てみればあのデカブツと、トログロダイトが変身したバケモノとそっくりです。
いや、これはそっくりと言うより‥‥。


次々と召喚されるトログロダイトの包囲網が、突如として切り崩されました。
援軍です。あの、見覚えのあるひょろ長い顔のコボルド戦士が、比較的近くにいた彼が助太刀に来てくれたのです。
私も彼に合わせて両手の得物を振り回し、包囲の一角を切り崩します。

良し、切り抜けた! これで四方から袋叩きにされる事だけはありません。
‥‥って、なぜか助太刀コボルドがその場に残っています。私だけ包囲から逃れても意味がありませんよ。


「貴方も引いて下さいよ囲まれちゃうでしょ!」

それに貴方裸足じゃないですか。この床にぶちまけられている汚物は、血糊と肉片骨片の中には猛毒の鏃や毒液の壷だって
混じっているんです、踏んづけたら終わりですよ!?

私の忠告も聞き入れず踏み止まって敵と切り結んでいたひょろ長い顔のコボルド戦士は、しがみついてきた10匹以上のト
ログロダイトに集られて団子状態のまま石舞台から落ちていきました。
言わんこっちゃない。コボルド戦士の強さは速度と正確さがキモだから、囲まれたら不利なんですよ。
それに他の液体と混じって大分マシになってますが、臭油の瓶が幾つも割れて撒き散らされたこの石舞台は強烈に臭いから、
コボルド族がまともに戦える場所じゃないんです。



ぽんっ ぽんっ ぽんっ

ああ、ヒトモドキ垣の向こう側で敵増援がどんどん呼び出されてる!
しかもさっきから召喚されている連中に、赤いのが一匹も混じっていません。緑緑青緑黒青青緑黄とごた混ぜですが、自爆兵
だけは抜きで呼び出されています。
なるほど、とっさでなければ選んで召喚することもできるのですね。意外に便利ですよ同族召喚。

もう紫野郎に近寄ることすら出来ません。
新手と白兵戦を続けながらじりじりと後退中ですが、毒銛の即死性能がなければとっくの昔にやられています。
かといって今更逃げても青トログロダイトの毒矢で射殺されるだけだし、もうどうしたら良いものやら。

せめて大ワニの革がここにあれば走って逃げてみるのですが、あれは開口部の吊り天井罠で石材の下敷きになっています。

ん? 
‥‥あれ? あのときに無限袋の吸い込み機能を使ってれば、石材の下敷きになったワニ革を回収できましたよね。
無限袋は対象の物体だけを選んで取り込めるんだから。一日に何度命取り級の失策やらかせば気が済むんだ私は。


どんどん増えていくトログロダイトどもの更に更に向こう側で、閃光と爆発が巻き起こりました。
この洞窟の、トログロダイトねぐらの端の方で爆発火事が起きてます。
そして爆炎と煙を押し除けつつ、奥の壁際に開いた大きめの坑道からドラゴンが這い出てきました。
岩すら溶かす高温の火の粉が舞い散るその向こう側に、元トログロダイトなバケモノがいます。


うわぁ。
あいつファイアーブレス吹き込むだけじゃ満足せずに、狭い坑道無理矢理に通って追いかけてきましたよ。

えっとですね、まだ砕けた下顎が治りきってない、でも血は止まって傷口に肉が盛り上がりはじめているデカブツがファイア
ーブレス吐き出したのですが‥‥。
そのの余波らしい火の粉が、バケモノの周りを舞っているのですがそれに当たった岩がそこだけ溶けてます。
更に、赤トログロダイトの一匹に火の粉が触れて、ただそれだけで人間サイズの生き物一匹が一瞬のうちに燃え上がってしま
いました。私の作った火達磨と違ってごろごろ転がらずに、ばたっと倒れてそのまま燃えています。

もしここが本当にTRPG世界の中だとしたら、ルールブックの誤植だとしか思えない威力です。
いや「地下牢と竜」の世界ならこれで正しいですね。あの世界のドラゴンブレスは、二連続でくらえば同格のドラゴンですら
耐えられない代物ですから。下手すれば一撃で即死しますし。

しかもあいつ、何故か姿が変わってる!
手足が短くなって胴体が細く長くなって、まるで首から下が蛇になったような姿です。前と比べても気持ち悪さ七割増し。
また肉体を造り替えましたか。奇跡を無駄遣いし過ぎですよこの浪費家め。



突然ですが、トログロダイトがあんな合成ミイラ作って拝む理由がちょっとだけ解りました。
穴居生物の彼らにとっては、大蛇とか巨大ムカデとか巨大イタチとかの、細長くて穴に入るのが得意な肉食生物こそが脅威で
あり、その力を取り込みたい強者なのです。

地下捕食者たちの合体した姿が、節足動物と爬虫類と哺乳類の三種混合体がトログロダイトが思いつく神々しい姿なのです。
と言うことは何ですか? あのデカブツ、ドラゴン止めて今度は神様になるつもりですか?







[38600] 26
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/24 11:57



 ☆58日め10、死はさだめ☆


前略ご両親さま。相変わらずピンチです。いえ、一時に比べると状況は好転してますが。

問題なのはこれから劣勢になりそうだって事です。
この世界は電源が必要なゲームと違って、音楽変更やシステムメッセージの通告はありませんがそんなもので説明してくれな
くても分かるぐらい味方の士気が下がっていきます。
オーク達はまだしもコボルド達は確実に勢いが落ちてます。逆にトログロダイト側は急上昇中。


拙い拙いまずいです、頭の隅で無慈悲な三択問題プラカードを持ったフランス人青年の姿がちらついてます。

Q、さあこの状況から何が起きるでしょう? 次の三つから選びなさい。
A1、可愛いかわいいレイちゃんは素晴らしい反撃の奇策を思いつく。
A2、仲間が来て助けてくれる。
A3、助からない。でも死出の仲間が大勢いるから寂しくないよね!

一番、一番しかない。答えは一番です! 
三番は論外。二番はもう実現してしまいました。後は一番だけ。何か気の利いた、一発逆転の良案を思いつくしかありません。
でも、どうすれば良いんですかこの状況で!?

か、考えが纏まらないっ。
ひょっとして、私、パニック起こしてますか!? 何故?! もっと追い込まれていた時でも冷静だったのに!



入り乱れて戦っていた敵と味方が、長くなったドラゴンの進路から大慌てで離れます。
そしてその無人地帯と化した空間を身をうねらせて祭壇方向へ、こっちへ進むドラゴンの左目に三又の銛(トライデント)が飛
んできて突き刺さりました。

「オールクゥス!!」

愛用の魔法の銛を投げつけたゴォ・ドスが、雄叫びと共に予備武器の棍棒を振りかざして突撃します。そして目に刺さった三
又銛を抜こうとしていたバケモノの短い左前足を殴りつけました。
効いてる。
ドスの攻撃は確実に効いてます。ほら、棍棒が当たったデカブツの指がへし折れて曲がってる。バケモノも痛がってますし。
あの無闇に分厚かった闘気の壁が、まだ残ってはますが薄くなってます。もう格段に。


あれ? ドス、結構戦えている? 昨夜の戦いよりぐっと優位、ではありませんがそう悪くない勝負になってます。
‥‥あいつか! このパニック状態はあいつのせいか!

さてはあのバケモノ、身体を長くするついでに「この地上で生まれなかったものに対して無敵」とでも自分を造り替えやがり
ましたね。

私の攻撃呪文を警戒してでしょうけど、そのせいで「地上で生まれたものに対する無敵」効果がなくなってしまったのですよ!
「~に対する無敵」能力は同時に幾つも身に付けられないか、矛盾する条件では発動しないのでしょう。
たとえば「この島で生まれたものに無敵」と「この島以外で生まれたものに無敵」の二つが同時に身に付いたりした日には完
全無敵状態ですからね。
いくら奇跡や魔法でも、いえ奇跡だからこそ、そんな安直には無敵になれません。


とにかく現在の奴は、私に対抗して身体を造り替えてしまった後なのです。たぶん、いえ間違いなく。
だから私の心は、バケモノの姿を見ただけで冷静ではいられなくなった。
士気を、戦意を、敵の心を挫けば戦いは勝ったも同然です。奴の判断は、私が一人だけなら正しかったですね。


一瞬。一瞬ですがバケモノとドスの一騎打ちに気を取られたトログロダイト側に隙ができました。今なら叫べる。

「レェ・ウォス! 援護を! 投石!」


群がる敵を二刀流で吹っ飛ばしつつ石舞台へ近づこうとしていたウォスは、私の声に応じて腰ミノの下から銀の球を取りだして
投げつけました。オーク達がアンデッド対策に持ち歩いている純銀製飛礫が、トログロダイト数匹を石舞台とこの世から叩き落
とします。
彼の怪力で投げつければ只の小石でも必殺の武器になります。重金属の塊なら更に凶悪な威力になって当然。


「もっと、もっと投げて!」

支援攻撃のお陰でできた隙に、緑トログロダイトの槍に当たって折れてしまった毒銛を捨てた私は新たな毒銛を無限袋から引き
出しながら叫びました。
ドスの方は格闘続行中。バケモノの顔に顔面に取り付いて、眼窩に刺さったままの三又銛を更に押し込もうとしています。

ウォスは近くにあった、遙か前に切り出されてからずっと放置されていたらしい細い石の棒材を掴んでぷん投げました。
今度は10匹ぐらい一気に消えましたね。でも増殖速度にはまだ及びません。

拙い。私は圧力が減って楽になりましたが、攻撃を受けた石舞台にいるトログロダイトどもの敵意がウォスに集中しています。
現に後列の青トログロダイトどもが矢をつがえようとしている。
毒矢の一本や二本でやられるウォスじゃありませんが、数十匹と撃ち合いになると危険です。へなちょことはいえ毒矢だし。

更に拙いことに、私のいる祭壇とウォスのいるプールサイドの間には、ドラゴン対幹部オークの戦いから逃れようとする敵味方、
あるいは逆に参加しようとする血気盛んなコボルド戦士などでどうしようもないぐらいに混雑しています。
いくらウォスでも一気に突っ走るのは無理ですね、これは。


練度も士気もろくなものじゃない烏合の衆でも、敵の数が多ければそれだけで厄介です、数の暴力とはよくぞ言ったもの。
ん? 数の暴力。数の差。‥‥数?
あるじゃありませんかウォスには、雑魚をまとめて潰せる範囲攻撃手段が。

「対空攻撃! 今すぐ!」

他のを押しのけて前へ出てきた黒いトログロダイトと切り結びながら、もう一度叫びます。
あれ? ウォスの反応が鈍い?
聞こえているみたいですが‥‥意味が通じてない? 
飛んでる大怪鳥に向けて柄杓にすくった小石を投げたように、この石舞台へ向けて投げ込めって言っているんですよ。


「ここに投げ込んで! 石つぶて! ありったけ! 柄杓!」

理解してくれたようです。でも納得していない。
ああもう、じれったい。もう時間がないっ。私はあと1分かそこらしか戦えないんです、体力が続きません。
どう考えてもそれ以上は無理です。
危機にあるのは私だけじゃありません。このままだとみんな揃って全滅してしまいます、とにかく敵を減らさなければ。
紫トログロダイトを仕留めて敵増援を止めさえすれば、こっちにも勝ち目が出てきます。
コボルド戦士たちがドスに合流できるし、敵弓兵部隊も今の数ならまだ対処できます。でもこれ以上増えたら拙い。

何故かは分かりませんが、ここに来てトログロダイトの召喚速度がどんどん上がっているんですよ。
一秒でも早く紫のボストログロダイトに止めを刺さねばなりません。
それには目の前の有象無象を蹴散らす必要があって、そのためにあの範囲攻撃が要るんです。


「オークの投げた石がオークの巫女に当たってたまるかっ 早くはやくはやくぶちこんでよぉぉ! しぬっ しんじゃうぅっ!」

いまの私、嫁入り前の女の子がしちゃいけない顔していると思います。絶対に。
必死の形相に押されたのかウォスは金物の大柄杓で近くの壁際に積まれた小石の山を掬い取りました。そのまま振りかぶります。
良し、いけそうです。青連中の矢が何本か飛んでますがウォスには届いてない。
邪魔なトログロダイトを体当たりでふっ飛ばしつつ、余裕を持って毒矢を避けてます。
物理的に避ける隙間さえあれば避けてしまうんだから幹部オークって凄い。無理矢理隙間作ってでも避けるし。

そ、それにしてもこの黒トログロダイト‥‥弱っ! 何コレ弱すぎ、見かけ倒しも良いとこです。
正直言って緑の方がまだ手強い。
確かにパワーは緑連中よりもありますが、動きが遅いし雑すぎる。フェイントにあっさり引っかかるし。
そのパワーだってハラキズとかの下っ端オークに比べたら鼻で笑ってしまう程度のものでしかありません。

僅か数回の白兵戦体験でも意味はあったようで、昨夜の立ち回りに比べると体力の消耗が抑えられてます。
あの時はたった三匹を殴り倒せずに息が上がってしまいましたが、今はその10倍以上仕留めてるのにまだ動けます。
あと45秒かそこらは全力で動ける筈。


そして生きた盾というか敵への障害物として使った黒も含めて、目の前のトログロダイトの過半数が投げ込まれた石つぶてを
浴びました。密集してるので避けることもできず、次々と投石が当たって手足を折られ頭を割られ、血反吐を吐いて倒れます。
やると決めたらとことんやるのがウォスの良い所でして、石舞台の上には小石や小ぶりな石材が雨霰と降り注いでいるのです。

でも私には 当 た ら な い 。
元々的として小さい上に、敵の群が遮蔽物になっていますから余程運が悪くない限り当たりません。
そして私はここぞという時にだけは運が良いのです。
まあ、当たったら当たった時のことですよ。


「死にたくなけば其処をどけぇぇっ」

言っても無駄と分かっていますが威嚇の言葉を叫びつつ、両手の武器を振り回してトログロダイトの群れに切り込みます。
いやほら、次々と小石や小石とは呼び辛い石が降ってきてますからより積極的に敵を盾にしてみようかと。
近づかないと紫ボスは刺せませんし。

傷付き、慌て、右往左往しているトログロダイトの隙間を縫って走り抜けます。もう私の燃料タンクは空っぽですが、だから
こそ逃げることはできません。逃げたって途中で力尽きて動けなくなって、流れ毒矢にでもやられるのが落ちです。
どうせ無駄死にするなら敵を一匹でも減らさなければ。

走り抜ける途中でまだ士気を保っていたトログロダイトに捕まりそうになりましたが、汗と埃と若干の返り血が付いた私の肌
は片手の指が引っかかった程度では掴まれません。
私が服を着ていたり、トログロダイトの指に生えているのが平爪ではなく肉食獣系のかぎ爪だったりしたら別ですが。
追撃が恐いので、掴みかかってきた奴の脇をすり抜けるついでに毒銛で軽く撫でておきました。
これで戦闘能力は残らないはず。


崩れました。
ついさっきまで、石の雨が降るまでは数を笠に着て私を取り囲もうとしていたトログロダイトどもが、悲鳴を上げて逃げ惑って
います。
小娘一人に追い回されて敵前逃亡って、どんだけ脆いんだこいつら。好都合ではあるけど。
雨霰と石つぶてが飛んでくる中を、逃げ散る敵に両手の武器で切り付けながら突き進みます。
逃げてる奴らが自分から石舞台を飛び降りているのは良いとして、何故か頭からダイビングしているのがいます。

パニック起こしてるのかな? まあ敵の戦力が減るのは良いことです。
高さと勢いとトログロダイトの耐久力から考えて、頭から落ちていった連中は死んでないとしても怪我ぐらいしている筈。



抜けた! ヒューマノイド垣を突破しました。
よし、紫トログロダイト発見‥‥? ん? 別人!?
ヒトモドキ垣の向こうにいたのは、確かに紫色ですが別のトログロダイトでした。人相も違いますが雰囲気がもっと違います。
同じ紫色ですが、一言でいえばこいつの方が遙かに格下です。ボス臭さがありません。怪我もしてませんし。

とりあえず刺しておきますか。別の個体でもどうせ敵だ。
とっさに同族を召喚しようとした紫トログロダイトの首筋に軽く毒銛を刺すと、敵はいつもどおり即死しました。
相変わらず酷い威力です。スプレー式殺虫剤を浴びせられた蝿より速やかに死んでますよ。


さて。
今死んだのを入れて、ここには四体の紫トログロダイトがいます。
残りは無傷の新手紫二匹と、さっきは挽肉同然だったのに今は満身創痍程度まで回復しているのが一匹。
そして満身創痍のが手を振ると ぽんっ という音とともにその横に紫トログロダイトが一匹現れました。

なるほど、こいつは同族召喚で紫色を呼び出せるように自己改造しましたか。あるいは今まで舐めプレイ中だったのが挽肉
になりかけて禁じ手を解放したか。

またまた直観ですが、こいつも奇跡の種持ちです。自己改造ぐらいできても不思議はありません。異様にしぶといのもその
せいでしょう。
この再生途上の紫トログロダイトは、いまドス+コボルド戦士達に袋叩きくらってるデカブツの分身なのです。
もしかしたらこっちが本体かもしれませんが、どちらにしても元は同じ一匹のトログロダイトだ。


私の直観が正しければ、この二匹は元が同じ生き物の筈。

こいつは、こいつの前身であるトログロダイトは私の揺りかごを食べて変身しましたが、その時に「無敵の肉体が欲しい」と
いう想いと「この姿のままボスになりたい」という想いが相容れなかったのです。
そして一匹のヒューマノイドは分裂し二匹のバケモノとして生まれ変わりました。
このねぐらは後方担当の紫ボスと前線担当の棘ドラゴンの二匹が動かしていたのです。

ですが、もう終わりです。

石舞台の上に出していた肉盾は逃げ散りました。そして新たな肉盾を呼び出そうとした二匹の紫と、まだ状況を理解してない
新参の紫は投石の無差別攻撃を受けて倒れます。ボスと違って呼び出された紫は、並のトログロダイトと大差ない耐久力しか
持っていないようですね。横殴りの石つぶてで頭蓋骨割られて、血反吐吐いて倒れてます。

凄いや。本当に私には、ウォスの投げた石は当たりません。
勝ってる。私勝ってます。運だけはこいつより圧倒的に勝ってる。

これが加護ってやつでしょうか? だとしたらファンタジー世界って本当に凄い。これなら神様信仰しない奴が馬鹿扱いされて
当然です。


えい。
ぷすっと刺しました。横たわっていた紫のトログロダイトは何か言おうとしていましたが、私にトログロダイトの命乞いなど聞
く耳はありません。
命乞いじゃなくても聞きませんけど。外道死すべし。

あれ? 死なない? 刺すと満身創痍の紫トログロダイトは白目むいて泡を吹きましたが、即死せずにもがいてます。
ふむ。この毒銛はもう何匹も刺しましたから、毒が弱くなっているのかも。新しい毒銛を出して刺しておきましょう。

袋から出した新しい毒銛をぶっすりと刺しましたが、まだ死なない。
‥‥しぶといにも程があります。ロシアの山師かこいつは。

弾切れです。これが最後の毒銛ですから。
どうしましょう? いっそのこと油かけて焼いてやろうかしらん。
斧で首を切り落とせば死にますよね? いくらなんでも。
しまった、予備の武器を出そうにも、魔法の戦斧も魔法の刺突剣(エストック)も大樽に入れたままでしたよ。
面倒くさいけど樽から出すことにしますか。武器としては駄目でも道具としてなら、私にも斧が使える筈です。



私の周りだけ、急に静かになりました。

ええと、現状確認してみます。
まず石舞台の上と周辺。ここは私が制圧しました。砲兵支援万歳。
現在のウォスは石舞台の下から離れようとしているトログロダイトどもに柄杓で投擲を続けています。
士気が完全に崩壊してしまった青緑黒のトログロダイトどもは武器を放り出して逃げ惑い、逃げない奴は突っ伏したり突っ立っ
たりしたまま泣きわめいています。地球の子供みたいに仰向けに倒れて、手足をジタバタさせている奴までいます。
もう見苦しいなんてものじゃありません。


次に石舞台からやや離れたプールサイドのあたり。ここは呼び出されたばかりのトログロダイトと石舞台から逃げてきたトログ
ロダイトそして坑道や次元扉(ディメンジョンドアー)から出てくる増援コボルドに押されて後退してきたトログロダイトでごっ
たがえしてます。
紫ボスが全滅したせいかトログロダイトどもは完全に士気崩壊していて、コボルドたちに切られる奴より同士討ちで刺される奴
の方が多いくらいです。

さっきまでの味方を刺すことで、殺したばかりの味方の死骸を差し出すことで、降伏しようとしてるトログロダイトもいます。
もしかすると同士討ちしている連中の大半はそれが動機なのかも。
言うまでもありませんが、命乞いされる側のコボルド達は全く気にとめていません。降伏を始めから無視しています。

勝ち目がなくなればこの有り様か。つくづくトログロダイトってのは‥‥。
っていうか自分は捕虜をなぶり殺しにするのが平常運行なくせに降伏したがるって、連中の思考回路的には矛盾しないのかな。

まあ地球の軍隊でも文字通り全滅するまで戦い続ける方が少数派ですけどね。
訓練された正規兵でも不利になった途端に逃げ惑い、あるいは我先に降伏することも珍しくありません。
規律正しく粘り強い兵隊さんって、近代以降の列強or先進国の精鋭軍じゃないといないんですよ基本的に。基本的に。


続いて対ドラゴン戦線。順調にバケモノが削られています。袋叩きとまではいきませんが、ドス以外にも10人以上の戦士に
囲まれたバケモノに勝ち目はありません。
ファイアーブレスの残弾があれば別ですが、あるならとっくの昔に使っているでしょう。
ドラゴンは所詮ドラゴン。どこぞの河馬さん似の派遣魔王みたいに、無限にブレスを吐くことはできないのですね。


確かに奴はドラゴンで、ドラゴンは強い。でも今の奴は無敵ではないのです。その甲羅は凄腕の戦士たちなら貫けるのです。
見覚えのあるごつい顔つきのコボルドが暴れるバケモノの首筋によじ登り、クックリ刀もどきの片手剣を耳穴に突き立て‥‥
おや惜しい、もう少しだったのに振り落とされました。

やはりバケモノは無敵設定が外れているようですね。
昨夜の襲撃ではかすっただけでコボルド達が挽肉にされてましたが、今は体当たりや蹴りつけが直撃しても一発や二発なら耐
えられるようです。無傷とはいきませんが一撃で致命傷にはなってません。
コボルドたちにも負傷者や戦死者も含めた戦線離脱者が次々と出てますが、それ以上の勢いで補充されています。



勝った? ‥‥のかな。


考えが甘かった。
油断していた訳ではありませんが体力の限界が来た上に集中力が途切れていた私には、その一撃は反応できませんでした。
突然の衝撃と共に視界が揺らぎ、身体がぐらつきます。

殴られた? 誰に? 何処から?
よろめきながら後退する私に向けて、何かの追撃が来ます。上方向からです。
防御‥‥ 無理か。もう指に力が入らない。とうとう気力体力の限界が来ましたね。
上から来る正体不明の攻撃に対して掲げ、構えようとしていたクックリ刀もどきの柄が手から離れていく。

どんどん暗く狭くなっていく視界の端で、長くて素早く動く肉色の鞭のようなものが迫ってきています。
あれは‥‥舌?


そのとき、不意に横合いからのびてきた逞しい手が、私の顔へ向けて落ちかけている片手剣の柄を掴みました。そして上から打
ち付けてくるバケモノの舌先を刃で迎え撃ちます。
私が万全の状態で迎撃しても多分防げない、掲げた刃と腕ごと叩きのめされている筈の攻撃が自爆しました。
逞しい手と腕に支えられた、コボルド刀鍛冶の鍛えた刃がカメレオンのそれよりも長く伸びた舌先を切り落とします。

そして大きくて逞しい手は掴んでいるクックリ刀を振りかぶってから投げつけて、回転しながら飛んだ片手剣は見事バケモノの
右目に突き刺さりました。

よく知っている手です。私がこの二ヶ月で一番多くこの目で見た手。
その手はまだよろけている私の腰に回り、片手で抱えて小脇に抱えました。思わず私は、いつもと同じように彼の毛皮マントを
掴んで太ましい身体にすがりつきます。
見上げて見えたのは、もちろんよく知ってる顔でした。

「‥‥ギュー・グェス?」
「グヒッ」

グェスです。何故か分かりませんがグェスがここにいます。
夢じゃ、ありませんよね?


信じてました。そりゃ信じてましたよ、ええ。
でもまさか本当に、すぐそこまで来ていたなんて。
安堵のせいか、どんどん視界が広く明るくなっていきます。私ってほんとうに現金。
ああ、ギュー・グェスって本当に良い男だなー 男だけど惚れ直してしまいます。


集中攻撃を浴びていたドラゴンが遂に倒れました。まだ暴れていますが、流石に両目を潰されては反撃もままなりません。
腹側にも甲羅と棘が生えているんですねアイツ、背中よりは生えてる箇所が狭いけど。
あの舌先攻撃は最後の一手だったようです。もう奴に逆転の目はありま‥‥ ある!

「ギュー・グェス! あの紫を!」
「?」

指さす私と走るグェス。
事情は分からないものの、何が言いたいかは理解してくれたグェスは毒銛が二本刺さって痙攣しているボス紫トログロダイトを
確保しようと走り出しましたが、一瞬遅かった。
先端を切り落とされて石舞台の上をのたうっていたバケモノの舌先が、瀕死の紫ボスに絡みついて引き寄せます。本物のカメレ
オン程じゃありませんが私たちが追い付けない程度には素早く。

馬鹿、私の馬鹿! ちょっと考えれば、考えるまでもなく分かった筈なのに!
奴は追いつめられた状態で何故私を狙った? それも近くにいる、自分の命を狙っている戦士達よりも優先して! 
あのバケモノは私を、奇跡の産物である私の身体を狙っていたのです。生命の粘土から作られたこの身体を食べれば再度の奇跡
が起きると信じて。奴にも私の正体が解ったんだ。
そして、私が無理だから紫ボスに切り替えた。私の直観が正しければアレも奇跡の産物ですから。

「誰か止めてぇぇ!」

私の悲鳴が聞こえたのか、ドスが咄嗟に目の前の空中を通り過ぎようとしてる紫色物体を掴み取りました。
二方向からの力が拮抗して、三割ぐらい挽肉な紫トログロダイトをバケモノの舌先と幹部オークが引っ張り合います。
当然ですが千切れました。ぶちっと。
ぶちゅっと の方が正しいかな。内臓こぼれ出ましたし。

引っ張る勢いが余って、千切れた腕を掴んだままドスがたたらを踏み、紫トログロダイトの破片が床に飛び散ります。
毒銛と血と肉と骨と臓物、そして透明な塊が床に転がりました。
やはりあの紫ボスも変身済みでしたか。あいつは皮下脂肪の代わりに、中途半端に突き出た腹に生命の粘土を隠していたのです。

バケモノの舌先は紫ボスの千切れた下半身を投げ捨て、小型のスイカぐらいある透明な塊に絡みつきます。そして舌を縮めて一
気に呑み込みました。紫の頭部ごと。
え? あの舌、生命の粘土にだけしか絡みついてませんでしたよね? なんで紫トログロダイトの生首まで一緒に?


後でドスや近くにいたコボルド達から聞いた話ですが、このとき紫ボスの生首は「何だか分からない透明な塊」に食いついてい
たそうです。まあ、地球でも斬首刑に処された罪人の首が近くの岩に囓り付いたという話が残っていますから、まがりなりにも
奇跡の産物である紫ボスの生首がそのくらいできても不思議はありません。
ここはファンタジー世界ですし、生命の粘土は岩よりずっと柔らかいですし、奴は地味ながらもバケモノですし。


不気味な沈黙が、ねぐら全体を支配しています。みんな戦いを止めて倒れたままのドラゴンを見つめています。
分かる。何故かは説明できませんが分かります。これは拙い。
元異世界文明人の鈍い感覚でも分かる、本能の叫びが聞こえます。
危険! 危険! 危険! と。

一斉に、逃げ出しました。敵味方関係なく、半分以上死んでいる筈のドラゴンから離れようとして。
そして殆どが逃げ切れませんでした。

ドラゴンの、いえ今度こそ本物と化したバケモノの身体がはじけて広がります。
あえていうなら‥‥なんでしょう?
タンパク質でできた巨大食虫植物の集合体でしょうか。あるいは陸生巨大イソギンチャクの多種混合生物(キメラ)?
先端に口が付いたのやトリモチみたいな粘液まみれのや、とにかく多種多様な触手がでたらめに生えたわけの分からない生き
物が蛇っぽいドラゴンの腹を破って現れます。

でかい。
もしここが太陽の下なら見上げてしまうような巨体です。
膨張した身体が天井にぶち当たって潰れてます。そして潰れたまま固まって定着しました。イソギンチャクの足みたいに天井に
貼り付いてます。

その形容しがたい巨体の半ばから、巨人サイズのトログロダイトただし上半身のみが生えています。
生えている巨人トログロダイトの顔は、紫ボスに似てますね。
二匹が融合したのかな? これは。

食虫植物やイソギンチャクのように、バケモノの身体から無秩序に生えた触手が生者死者の区別なく掴み、絡みつき、食いつい
て捕らえ、貪り食らいはじめました。
口付きの触手は直接食いついてますが、そうでない触手は獲物を幾つもある口に放り込んで噛み砕いたり溶かしたりしています。
トログロダイトやコボルドの死体はもちろん、挽肉になった爆死体まで漁って食ってます。


あ、パニックが収まっている。もうあのバケモノを見ても想定外の恐怖が湧いてきません。
見た目のグロさでは巨大物体エッ○スの方が遙かに上なのに、あの理不尽な動揺が起こりません。
と、いうことは奴はまた無敵モードの対象変更をしたのですね。
あの物体エッ○スもどき、私に対しては、少なくとも精神的には無敵じゃなくなってます。



私を小脇に抱えて走るグェスに、ドスとウォスが合流しました。ごつい顔のコボルドをはじめコボルド戦士たちも一緒です。
うんうん、逃げて正解です。
逃げることもできない女子供が後にいるならともかく、そうでないならあんな物体エッ○スもどき相手に踏み止まって戦うのは
勇気じゃありません。無謀というか悪趣味?

元々の数が多いこと、個体ごとの動きが鈍いこと、コボルドたちと違い触手を切り払うなどの逃れる手段を持っていないこと、
何よりも仲間同士で助け合うことなく足を引っ張り合った結果として、食われているのはほぼ100%トログロダイトです。
更に上半身だけな巨大トログロダイトが次々と新たなトログロダイトを召喚していますが、呼び出す端から触手に捕まって食
われてますね。
どうやらひたすら呼んでいるのが元紫ボスで、ひたすら食っているのが元ドラゴンのようです。

これなら逃げ切れる。

逃げ切れました。私たちは。

「キャィ──ン!」

逃げ遅れたあの子供コボルドが、触手に絡みつかれて引きずられて行ってます。



あれ? グェス?
私が何か言うよりも早く、ギュー・グェスは隣を走るウォスに私を手渡しました。
突然巫女を渡されて戸惑っている兄弟を置いて立ち止まり、踵をかえして元の方向へ走っていきます。


ええええっ? ちょっ ちょっと待った!
いや確かにいま「止まって」とか言いそうになってましたけど!? 察し良すぎですよ貴男は! なんで事情も知らないのに助
けに行くんですか?!

「「プギィ!」」
「行きますよ!」

どう考えても拙いので、というか考えるまでもなく私たちは戻っていました。「先に行け、後で追い付く」なんて死亡フラグに
も程がありますよ。
ほーら、グェスが触手に絡まれてます。触手相手に貴男の棍棒じゃ相性悪すぎでしょうに。まったくもう。

触手からグェスと子供コボルドを助けだすのは、私たち三人だけでは無理でした。いえ、グェスなら放置しても大丈夫です。
彼なら何時間でも触手と渡り合えますし嫌になったら逃げ出せます。素手で触手千切れますし。
ですが、そうしている間にあの子が連れ去られるか括り殺されてしまいます。グェス一人では、そして四人がかりでも間に合
いません。
実際、救助途中から助太刀に来てくれた、ごついの&イケメンのコボルド二人組がいなければ間に合わなかったでしょう。
こと触手に対してだけは、オーク族の棍棒よりコボルド族の刀の方が優れた武器なのは認めざるを得ませんね、これは。



なんとか救助した後、戦士五人で足手まとい二人を守りながら再度の脱出を試みている最中に、私たちを狙っていた触手の動
きが鈍くなっていきました。
まあ、そうでしょうね。
冷静な時ならまだしも元紫ボスも元ドラゴンも瀕死状態でしたから、いくら奇跡の種があっても有効に使える訳がありません。
元々使い方が上手くなくて無駄遣いだらけだった上に、限られた分量を朦朧&恐慌状態の二匹が取り合っているのですよ? 
それも協調性と計画性が皆無なトログロダイトが。

上手く行く訳がない。船頭が多い船なんてものじゃありません。


見てみると、ねぐらの奥で物体エッ○スもどきがぐったりしていました。
巨人の上半身が派手に吐血しながら喉元を抑えて倒れていて、そのまわりで触手が力無くのたうってます。
うん、死にかけてる。原因はやはり毒物の誤飲です。
青トログロダイトは毒矢と毒壷を標準装備してますし、臭油を持っているトログロダイトも結構います。毒に対するよほど強
力な免疫を持たない限り、召喚したてのトログロダイトを片っ端から食べればそりゃ中毒ぐらい起こしますよ。

そして毒に対する免疫が必要なことが分かったときには、もう最後の一欠片まで生命の粘土を使い切っていたのです。
計画性とか戦略なんて概念は、トログロダイトには無いのです。必要ありませんからね。

これも直観山勘第六感の類ですが、ドラゴン形態よりも今の物体エッ○スもどきの方が耐久性やHPは遙かに高くなっているよ
うです。奴はそう簡単にくたばりません。故にまだまだ苦しむことになるでしょう。
この物体エッ○スの出来損ないは、スペックというかステータス数値の比較でなら正に最強だったのでしょう。
ですが今現在の奴は無敵ではない。今の奴はこの大地の上で生まれていないものに対してはちっとも無敵じゃありません。

そうです。奴が腹一杯食ったトログロダイトとその携行していた毒は、この大地の上で生まれたものではないのです。
「トログロダイトの攻撃は無効」とかの反逆対策や同士討ち対策はしてあったのでしょうが、毒瓶をより分けもせずに馬鹿食い
することは想定してなかったか。
そりゃそうですね。そこまで思慮深い奴なら、何事ももっと慎重に行動していたでしょう。


奴の敗因はたった一つ。
最後までトログロダイトであることを止められなかったことです。
何かたった一つの事を、たとえば共食いを止めていれば奴の方が勝っていたでしょうに。
宿業(さだめ)か。この苦しく緩慢な死に至る道が、あのトログロダイトのさだめだったのです。


奇跡が起きて生まれ変わった筈なのに、本質は何も変わっていなかった。
わたしもそうか。中身は転生前と何も変わってません。





 ☆58日め11、さだめは愛☆


バケモノの、ある意味で兄弟だった存在の死を見届けた直後に私は意識を失いました。
眠かったんですよ。本当に。
安心したら、緊張が解けたら身体が活動限界なのを思い出したのです。
そして目が覚めたとき、太陽は真上にまで来ていました。


今いる場所はあの石切場の、バケモノが岩石ビリヤードをやった場所から1㎞も離れていない別の石切場です。
ここにもあのねぐらに通じている穴があって、ウォスはここからねぐらまで走り抜けたそうです。
ドスの方は野外でコボルド族の呪文使いと合流して転送して貰ったとか。

いえね、聞いた話ですが昨夜というか明け方近くになって態勢を整えたコボルド+オークの連合軍は逃げたトログロダイトや
攫われた仲間を捜していたのですが、トログロダイトどもは「次元扉(ディメンジョンドアー)」を使った移動や臭油をまくな
どして足跡や臭いを追えなくしていたのです。
で、目撃証言などから近くにねぐらがあると踏んだ追撃者達が手分けして探していると、バケモノの絶叫と岩転がしとブレス
連打の大騒ぎが聞こえてきた訳で。

つまり、あのときのフォース・ブレッドは無駄じゃなかった。むしろ一打逆転に繋がる好打だったのです。
あれがなければ捜索隊の集結はもっと遅くまばらになっていて、ねぐらでの戦いはより厳しいものになっていたでしょう。
もしもあの一戦がなくてバケモノがオークやコボルドに対して無敵のままだったら、勝てなかったかもしれません。
私を殺すために、攻撃呪文を封じるために属性変更したままねぐらに入ってきたのがバケモノの命取りになった訳ですし。



後で聞いた話ですが留守番していた筈のギュー・グェスがここに来た理由は、コボルド集落から登っている煙です。
煙を上げて情報を伝える通信手段、つまり狼煙ですね。
あの夜、胸騒ぎがして目が覚めたグェスは星を見に外へ出て、明け近くの夜空に立ち上る狼煙を見たのです。
というか正確に言えば、狼煙が星を隠して見えなくしたのですが。

その煙は緊急事態を報せるコボルド族の狼煙で、今登っている煙とは色や本数が違います。
外で星を見ていたグェスは北の空に煙がかかって星が見えなくなったのを凶兆と見なして、留守をハラキズたちに任せて走って
きたのです。戦士の勘、恐るべし。

グェスの脚なら私を背負ってでも巣からここまで2時間半。荷物無しで全速出せば1時間ちょっとで到着します。
彼が狼煙の下に到着したときには、近くの集落からコボルド達が続々と集まっていました。狼煙を見たり、夜の襲撃から逃げ延
びたコボルド・シャーマンたちからの連絡で同族の危機を知って駆けつけてきたのです。
そしてコボルド達は、顔見知りであり身内が敵に攫われた同士でもあるオーク戦士を快く捜索隊にくわえました。

手分けしてトログロダイトのねぐらを探していたグェスは、棘ドラゴンの絶叫を聞いて石切り場に駆けつけましたが何発もファ
イアーブレスが吹きこまれた坑道は半ば溶岩化していて、グェスでも入れませんでした。
ドラゴンが入っていった穴を諦めて、別の穴から追おうと走っていたグェスは不意に近くの穴から熱気と共に私の匂いを含んだ
空気が吹き出てきたので、岩盤を叩き割って穴を拡げました。
そして露出した排気口を熱さを堪えながら降りてみると、私のものらしきボロ切れ化した下着を発見したのです。

あとは微かに聞こえる戦闘音を頼りに下へ下へと降りていって、広いところに出たと思ったら目の前の石舞台上で私が雑魚トロ
グロダイト共を追い散らしていた。‥‥ということらしいです。
いやその、追い散らしたのではなく投石攻撃で崩れたところに私がいただけなんですけど。まあいいか。



で、起きましたが今はグェスとドスの二人はここにはいません。コボルド達と一緒に残敵の掃討に行ってるそうです。
ウォスは私の護衛として残っています。なんだかんだで彼が一番体力を消耗してますし。
みんなの、一匹でも敵を見逃したくないという気持ちは分かります。
他の色のトログロダイトが、ごく稀にですが紫に変化することもあるそうですから。


どこからそんな情報を得たかって? ソース元は神様です。

今の私は侍僧(アコライト)なのです。司祭(プリースト)や司教(ビショップ)には到底及びませんが信仰系魔法と神官系特殊能力
一式が使えるのですよ。
具体的には1日につき1レベル級の僧侶呪文が4回使えます。あと、一回の戦闘につき一回だけ死人払い(ターン・アンデッド)
ができます。

そして電波状態さえ良ければ一日3回程度まで女神様の啓示(デビネーション)を受けられます。
つまり、私は回線の調子さえよければいつでも神様に質問できるのです。
地球の電子メールと同じで、必ず返事が来るという訳ではありませんが。


Q3、紫トログロダイトはもういませんよね?
A3、半径60㎞以内にはいません。ですが紫に進化する可能性のあるトログロダイトは何体かいます。

Q2、トログロダイトって色変わるんですか? 紫に色が変わると召喚能力使えるようになるんですか? 
   あと、この数字は何ですか?
A2、変わりますし変わると能力が変化します。人間の転職(クラスチェンジ)のようなものです。数字は残り啓示回数です。

Q1、‥‥その、やっぱり、グェスたちは私のこと好きなんですよね?
A1、分かり切っていることをわざわざ訊かないように。

Q1、私って、やっぱり人間じゃないんですよね?
A1、貴女が人間と判断するものが人間です。ただしそれが万人の同意を得られるとは限りません。

Q1、啓示の残り回数が減ってませんけど。
A1、これは「貴女が質問できる回数」ではなく「私が返答できる回数」ですから。

Q1、神様って、もしかして暇?
A1、割と。いまは特に質問がないなら中断しても構いませんよ。


こんな感じです。
後一回分の質問できるのですが、とりあえず今は訊くことがないので保留して貰ってます。

神様が実在している上に超フレンドリーで、加護も与えまくりとくれば信仰しない手はありませんよねー。
ファンタジー世界で宗教団体が強いのも当然です。
あと、アコライトなどの神官職に限らず信仰篤い者や強い加護を受けている者は、ときどき神々の声が聞こえるそうです。
ギュー・グェスが感じたという胸騒ぎも、そういったものに数えられるとか。


ん? 確かコボルドたちに結構な数の呪文使いたちがいましたよね。
ならアレが使えるはずです。前世でさんざん使ったあの手が。


「オオ、メザメタカ、オーク、ミコ」
「おかげさまで」

近くで警備に立っていたごつい顔のコボルドが寄ってきて、挨拶にきました。
「御助勢かたじけなし」とかなんとか、堅苦しい感じでお礼を言われましたが助けて貰ったのはお互い様なので、こちらもお
礼を言っておきましょう。

ついでに彼の傷を治療しておきますか。一回分だけ。
呪文は一日四回までですが、使いたい呪文をその場で選んで使うことができます。「地下牢と竜」よりは「狂王の練兵場」の
方に近い呪文システムですね。

当然ですが、あのときねぐらにいた数十名のコボルド達にもあの絶叫は聞こえていました。
なので私は「オークの巫女」として扱われています。
本当は侍僧(アコライト)であって巫女(シャーマン)ではないのですが、みんな気にしてません。

「キューン」

子供コボルドもいます。
おや、イケメンコボルドは何処に? 聞いてみると、彼はグェスたちと一緒に掃討に向かったそうで。
過去に何度もトログロダイトと戦っているコボルド族は、当然ながら敵の進化システムについても詳しいのです。なので一匹
でも逃がしてはいけないことを知っています。

結局、あのひょろ長い顔のコボルド戦士は助かりませんでした。トログロダイトと一緒に落ちて死んだのではありません。
彼は落ちてからも戦い続けていたのですが、物体○ックスもどきから逃げられなかったのです。



それにしても‥‥「オークの巫女にオークの投げた石は当たらない」って、何処の辻正信ですか。
知らない人のために軽く説明しますと、辻正信とは戦前戦中に活躍した日本陸軍の参謀将校です。
大日本帝国陸軍の参謀といえば「無謀、横暴、狂暴だからサンボウ」とか言われ、安全な後方でろくな地図も無しに立案した
机上の空論の塊のような作戦を現場に押し付け、成功すれば手柄を横取りし失敗すれば責任逃れをしようとする。そんなイメ
ージがあります。全員がそうではないにしろ、そういう参謀将校が目立っていたのは確かです。

しかし、辻正信という人物はそんな愚物どもとはちょっと違う参謀将校でした。
彼は常に現場を知りたがり、時には兵士達と行動を共にし、地図がないなら自ら偵察機に乗り込んでまでして情報を集め、
その結果として立案した机上の空論そのものな作戦を現場に押し付け、成功すれば手柄を喧伝し失敗すれば責任逃れに終始し、
何故かどんどん出世してしまう。そんな参謀将校だったのです。

某有名スペースオペラ戦記ものに登場するヒステリー参謀准将のモデルだと言えばわかりますかね? アレを悪い意味で熱血で
脳筋気味にした感じの人物です。人呼んで天災参謀。
実際、辻正信は関東大震災よりも深刻な被害を陸軍と国民に与えてますし。


つくづく、私は日本人ですよねえ。追いつめられると精神主義に走るあたり特に。
日本人の、多くの日本人の脳内には辻正信が住んでいるのですよ。辻正信的言動に賛同してしまう部分が潜んでいるのです。
そうでもなければ、辻正信が作戦の神様ともてはやされ、失敗続きにも関わらず出世していった理由が説明できません。



ウォスに頼んでこの石切場に置かれている捜索本部に連れて行ってもらいました。
で、さっき思いついた作戦をコボルド族の戦士長たちに説明します。

つまりですね、この世界では神々にお伺いを立てれば大概のことが分かる訳でして。
神官が祈れば、敵が一匹残らず死に絶えたかそうでないかぐらいは分かるのです。
そして死に絶えてないのであれば、数人の神官がいれば生き残りが何処にいるかを搾り込めます。

敵がどの方向にいるかは、「敵は北にいますか南にいますか?」と「東にいますか西にいますか?」の二回の質問で四分の一方
向に搾り込めます。あとはこれを「敵は10㎞以内にいますか?」といった具合に繰り返していけば詳しい場所も分かります。


「「「ソレ、ムリ」」」
「え?」

聞いてた全員にダメだしされました。ウォスにまで。首を振るなど、否定のサインを送らないのは子供コボルドだけです。
彼女は話自体を聞いてませんでしたけどね。あ、今更気付きましたがこの子は女の子ですよ。


否定する理由を聞いてみると、神様にそんなこと一々訊けないそうです。畏れおおくて。
そもそも啓示とは月に一度とかの頻度でやるものであって、しかも必ず答えが返ってくるとは限らないのだとか。
あれ? みんな嘘を言ってる訳ではありませんよね。冗談でもありません、大まじめです。
はあ、毎日神様にお伺い立てられるのは大母様かその側近達ぐらいなのですか。女神様に聞いた話と違うな。



Q1、毎日お話ができるのって、実は凄いことだったりします?
A1、加護としては特に珍しくありませんが、実際にこの加護を持つ生類(モータル)は少数派ですね。


うーむ、宝くじ一等に当たった人みたいなものですかね? 確かに実在するけど直接の知り合いにはまずいないあたりが。


Q1、ちなみに私が受けている加護ってどんな感じですか?
A1、こんなのです。

・先天 幸運レベル4 あなたはとてもとてもとても運が良い
・先天 新型レベル5 あなたの第六感は神懸かりだ
・先天 特殊暗記力  あなたは読み込んだ回数分書物の内容を思い出せる 

・特性 英雄の素質  あなたは望んだ方向へ成長できる(※※※※※)
・特性 モータル魅了 あなたはとてもとても愛らしい(※※※※※※※※)
・特性 ラグ・ナグ  あなたは老化しにくく、寿命が長い

・変異 触覚鋭敏   あなたの皮膚と粘膜はとても敏感だ(※※※)
・変異 暗順応    あなたの目は暗闇でも見えやすい(※)
・変異 美声レベル1 あなたの声はよく通る(※※)
・変異 日本人の胃腸 あなたのお腹はとても壊れやすい

・加護 電波受信器  あなたは神の声がよく聞こえる
・加護 酒神の保護  あなたは酒毒の影響を受けない
・加護 神技(彫刻)  あなたは彫刻の天才だ
・加護 子沢山    あなたは安産+多産体質だ(※※※※)

A0、今日はここまでとしましょう。良く過ごしなさい。


うぉ──い! 女神様ぁー!
なんなんですかこの加護は?!

駄目か、電波状態は良好だけど返事がない。
どうやら一日当たりの限度が来てしまったようです。

そりゃあ、ね。加護がないよりはある方が嬉しいし、有り難い加護ではありますよ前世からの飲み助としては。
産めないとか難産体質で産むたびに死にそうな目にあうとかよりは百万倍マシですとも。
でもこれだと、私はオークの巣で酒造りと子作りに耽って一生を送りそうなというか、そうしろと言わんばかりの加護じゃあ
りませんか。
いえ、それが悪い訳じゃありませんが。むしろ嬉しいですが。


そうかー この身体、ちゃんと妊娠できるのかー。

いつの間にやらエロモンスターのフェロモンか何かで染め上げられてしまった私は、神々の加護が有り難いというか嬉しく感
じてしまいます。グェスたちの子供を産むって、どんな気持ちなんでしょうか。やっぱり病みつきになるんでしょうか。

‥‥‥‥たち? 今なんか自然体で多夫一妻制の新婚生活を想像してましたよね、私。
オーク的というかこの島的価値観に染まり過ぎじゃありませんか、転生してからまだ二ヶ月たっていないのに。
ああ、理性は拙いと言ってるけど感情は駄目だ。素直に喜んでます。
私は精神的同性愛者で、しかも恋人や夫が一人では満足できない気質のようです。いや、逆ハーレム願望持ちなのかも?



そうじゃないかなー という懸念がなかった訳じゃありませんでしたが、私は厳密に言うと人間ではありませんでした。
生後58日ですし。
この肉体は生命の粘土から造られた特別製です。超高品位というかとっても贅沢にできているのです。
ただし戦闘にはとことん向いてません。チート存在だけど強くはないのです。
加護や特典が色々あるから戦えなくもないだけで。


どうも【加護】が神々の力による特殊能力というか、私の信仰心を原動力にしている特典なのですね。
【変異】は別名混沌神の加護と言って、混沌の力に触れると起きる変化です。
私の身体に起きた変異の75%は有利な変化なのですが残る一つが‥‥何これ?
 
いや確かに、オークたちならがぶ飲みして平気な生水でも私が一滴飲むとお腹壊しますけど。
この島は良い水場が多いですが、それでも何割かは私にとって危険なのです。昨日までは安全だった水場が野生動物の糞尿や
死骸で汚染されていることもありますので、油断は禁物です。

【特性】はその人物が努力して、もしくは何かのイベントの結果として身に付ける特典。
【先天】は生まれつき持っている特典のようですね。犬の鼻が鋭いとかと同じレベルで持っている力です。
喩えていえば「手で鉛筆が持てる」のが先天で、「文字が書ける」のが特性かなあ。



‥‥なんかもう「嫁になれ、お前に冒険者は無理だ」と言われてる気分ですね。
トログロダイトみたいに生殖本能が麻痺している連中や、爬虫人類やセルキーやコボルド族のようにそもそも血が交わらない
連中はともかく、オークやミノタウロスたちから見ると私はとてもとても魅力的みたいです。
美人と言うより可愛い系で保護欲をそそる方向性のようですが。

モータル魅了って、生殖本能が強い種族ほどよく効くようですので、人間には比較的効果がないようです。
それでも奴隷市で売られるときには、この特性のあるなしで売値が何割か変わるでしょう。



これは、もう開き直るべきじゃないでしょうか?
あのバケモノがトログロダイトの業に従って自滅していったように、私は人間の業に従って生きていくべきなのでは。
女神様の言葉をちょっと変えれば、私がさだめと断じるものこそが私の宿業(さだめ)な筈です。

そういうことにしてしまいましょう。
私は、この南の島でオークのお嫁さんになって生きていくことにします。望みのままに生きて、そしていつか死ぬでしょう。
巣のみんなと、そしてこれから私に続いて巣の一員になる者たちと幸せに暮らしていくんです。
夫達?はもちろん、下っ端達や子供達や新入りのお嫁さん達みんなが幸せに。
それが私の運命(さだめ)なのだと、思い定めて生きましょう。


いったいどこまで、この先生きのこれるかはまだ分かりませんけど。






[38600] 27
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/11/03 10:52



 ☆58日め12、否なれど似るもの☆


仏教には「親子は一世、夫婦は二世、師弟は三世」という言葉があります。
この場合の師弟とは信仰上の関係の事でして、つまり「誰の弟子となるか&誰を弟子にするかは前世も来世も決まっているよ」
という事です。

前世で知り合いだった坊さんは「坊主と死に別れても嘆くことはない、どうせ来世でも一緒なんだから」と笑ってましたねー。
あの方は絶対に極楽往生していませんね、賭けても良い。
早々と人間界に生まれ変わって、衆生と共に悩みや苦しみや喜びを分かちあって暮らしているでしょう。
今度も坊主になっているかどうかは分かりませんが。

まあ、仏教の開祖である立川のパンチ氏は輪廻転生とか、思いっきり否定していたそうですけどね。少なくとも生前は。
今なら肯定しているかも。この世界に転生が有るなら、地球に有っても不思議じゃありませんし。



こんにちは。転生者な新米侍僧(アコライト)、レイちゃんです。
私はいま、あの野外石切場にいます。ついさっきまでいた方ではなく、棘ドラゴンに攻撃呪文くらわせた場所の方。
なぜに移動したかと言えば、捜し物のためです。

ええ、思い出したんですよ。このドラゴン寝床で落とし物したことを。
誰かに拾われてない限り、【生命の粘土】がこの石切場の何処かに落ちている筈なのです。
私が朝に落とした生命の粘土は、何らかの変異を1~2回分起こせる程度の量しかありません。ですがもしもトログロダイト
や敵対的な生き物が手に入れてしまえば厄介なことになるでしょう。
不安の芽は摘んでおくにこしたことはありません。なので手分けして探してます。
コボルドたちに事情を説明したら、人手を貸して貰えましたし。


おっと危ない。
谷底から登ってくる風にめくれそうになる毛皮服の裾を掴んで押さえます。この服には鎖やコインを縫い込んでいないので捲
れやすいのです。
ここが私たちの巣穴なら、めくれても構わないというかむしろめくって欲しいぐらいですが此処では駄目です。
コボルド族はともかく、オーク族やミノヒッポスたちも周りにいますからね。


オークやコボルドなどこの島の主要勢力は、魔王軍と戦いそして生きのこった者たちの子孫です。
だからこそ、有事の際は同盟勢力が動員される訳です。同族のコボルドたちはもちろん、近隣のオークたちを始めとする友好
部族がこの巣の危機を知って援軍をよこしてきました。
本戦というかドラゴン退治に参加できた異種族はウチの巣の三人だけですけどね。私を入れても四人。
決戦に間に合わなかった援軍たちは、残敵の掃討や辺りの哨戒や物資の運搬などに就いていて、呪文使いや薬師などの特技持
ちは治療行為などで活躍しています。

つまり、この石切場やトログロダイトのねぐら近くには、元気と闘志を有り余らせた異種族の戦士達が大勢いる訳で。
そんなところで毛皮服の裾をひらひらさせる事はできません。なにせ今の私はノーパン状態ですし。


今回の事件で死ぬほど役だってくれたというか、無ければ何回死んでいるか分からなかった「貪り食う無限袋」ですが、この
袋は放置しておくと中に入れた物が消えてしまうのです。
袋に入れておいた殆どのアイテムは、大樽のように袋から出してあったので今朝方気絶するような勢いで寝てしまっても問題
なかったのです。

ええ、殆どは。

目が覚めたら消えちゃってた荷物が幾つかありましてね。
消えたのは青竹の鞘が二本と燃料兼消失対策用の松ぼっくりが一個、そして着替え一式の包みと予備の下着です。
狙い澄ましたかのように服が消えてしまいました。

通風口、いや縦穴で服を着ようとしていたときに手に持っていた下着は投げ捨ててしまいましたので、着る物がありません。
正確には服がないのです。裁断していない毛皮や布地が交易品の中にあるので、最悪でも布にくるまっていれば済むのですが。
ちなみに今着ているヒョウ柄の毛皮服は、ウォスの荷物に入っていた予備の服です。

ウォスのお気に入りで、巣で暮らしているときにも私に着させたがるこの服は、毛皮なめし名人が精魂込めてなめした上物
毛皮を使っているのですが‥‥軽くて薄くて、しかも丈が短いんですよ。
で、いま私の傍にいるレェ・ウォスの好みは、恥ずかしがりやの女の子が服の裾を乱さないように振る舞う姿な訳で。
恥じらっているけど好きな男に見て貰うのは嬉しくて、でも他の男には見せたくない‥‥という今の私の振るまいが、ウォス
にとって好みどストライクなのです。

オープンスケベ・エロモンスターめっ でもそこも好き。


こーゆーのも「あばたもえくぼ」というのでしょうか? 
雄の熱意がこもった視線で全身舐め回されるのが嬉しくて嬉しくて。大好きな人にされるなら、セクハラ行為だって愛情表現
なのですよ。

良いなー。やっぱりオークは良い。
なんていうか、健全です。生き物として正しい感じがします。比較対象がトログロダイトというのも失礼な話ですが。
この温かな欲望(エロス)に、ひたむきな愛(エロス)に浸る喜びを知ってしまったら、そりゃ墜ちますよ。 
今なら、オークに犯されてあっさり肉奴隷になってしまう姫騎士たちの気持ちが分かります。即堕ち2コマ劇場も納得です。

いやもう、グェスたちに末永く可愛がって貰えるのなら、喜んで雌奴隷になりますよ本当に。私、精神的には男だけど。
変態だけど紳士なウチの巣の幹部オークたちが、愛情以外の何かで私を縛りつけることなど有り得ないのですが。
あ、いや、腰紐は別か。あれは物理的に縛られます。



さて、トログロダイトなど敵対種族の襲撃は、珍しくはないものの日常的な出来事でもありません。
今回のように大きな被害が出ることはそう多くないのです。
正確な数はまだ出ていませんが、コボルド達の死者は100やそこらではきかないでしょう。
援軍に来て死んだ連中も数に入れたら、下手をすれば300名近くになるかもしれません。

あの棘ドラゴンと紫ボスがこの大被害の原因なのは間違いありません。襲ってきたのが普通のトログロダイトだけなら、
この巣のコボルド達だけで容易く‥‥ではないにしろ、遙かに少ない被害で撃退し、逆襲し、殲滅できていた筈です。
私があのバケモノどもを作った訳でもけしかけた訳でもありませんが、かといって全く責任がないとも言い難いですよねえ。

いや、こんな事になると想定できる訳ないし責任なんて取りようがありませんけど。
生まれたてで夢と現実の区別もついていなかった時に、自分が入っていた繭が超危険物質だなんて分かる訳ありません。

‥‥とりあえず黙っておきますか。私とあいつらの関係なんてそうそうばれるとも思えませんし。
ばれたらばれたときの事です。
正直な行為ではありませんが、正直が常に美徳とは限りません。
棘ドラゴンの襲撃はあくまでも突発的な事件なのです。そういうことにしておいた方が良い。
もしここで私が真相を暴露したら、絶対にその方が双方にとって面倒くさいことになります。



「ウォン!」

子供コボルドが呼んでますね。見つかったのかな?


ありました。
確かに【生命の粘土】です。透明な欠片が岩壁の隙間に填っていて、陽の光を浴びて輝いています。
鼻息でここまで飛んでましたか。

ざわざわと、私が透明物体に触れると周囲がざわめきました。特にコボルドたちが。
ああ、なるほど。
ねぐらでの決戦に参加した者たちから見れば、この粘土は「食べると物体エック○もどきになるナニか」ですからね。
コボルド達は、危険物体に素手で触る私を見て引きまくってます。

ええと、これ、私が貰っても良いのでしょうか?


「ワレラ、イラヌ」
「分かりました。では私が処分しましょう」

コボルド集落の幹部である老コボルドは、喜んで【生命の粘土】についての権利を放棄しました。
というか最初からノーサンキューモードですね。
もっと砕けて言うと えんがちょ 状態。なんか傷付くなー これは私の原材料なのに。


でも、どうしましょうか。捨てるにはもったいないし危険だし。
処理案1、貪り食う無限袋に入れて消えるのを待つ。
処理案2、何かに使うときまで取っておく。
処理案3、とっとと使ってしまう。
今思いつくのはこの三つですかねー。後で家族会議開いて相談してみますか。


この石切場には、他に落とし物はありませんね。
生命の粘土と同時に落としていた毒銛は、回収して竹鞘に入れてから無限袋にしまいます。このまま消えるのを待つも良し、
暇なときに焼くなり埋めるなりして処分するも良し。


そうだ、回収といえば次はアレを回収しないと。クックリ刀を。
たしか棘ドラゴンの目に突き刺さったままでしたよね。
‥‥駄目だ、あれから5時間ぐらい過ぎているはずなのに、坑道はパン焼きカマドみたいな熱さです。生身の生き物が通れ
る温度ではありません。何発ブレスを吹き込みやがったんですかあのバケモノ。
中に半時間も突っ込んでおけば、余熱でイモが美味しく蒸し上がってしまうでしょう。


「グヒ?」
「えっとですね、下の広間に行きたいな って」


ウォスは軽く頷くと私の腰に手を回して担ぎ、肩に乗せました。そのまま断崖へと歩きます。
はて?
そしてウォスは、私を肩に乗せたまま崖から飛び降りました。無造作に。

へ?

落ちてる。私、自由落下してます。
一瞬感じた無重力は、ウォスが岸壁を蹴り飛ばしたことで消し飛びました。
うん、分かる。彼の足から放たれた闘気が、鋼鉄の板バネのようにしなって運動ベクトルをねじ曲げてます。
壁を蹴った力が、岸壁すれすれを斜め上方向へ跳ぶ力に変えられている。落ちながら。
ウォスは壁を蹴り続けることで縦横に跳びながら、秒速数メートルという安定した速度で壁面を降りていっているのです。
いえ、これはもはや跳躍(ジャンプ)じゃなくて、飛んでいると表現すべきでしょう。

これが、闘気法の可能性、その一端ですか。
私のような、視覚関係にしか闘気法を使えない者が岩壁を蹴ると作用反作用は →← にしかなりませんが、闘気法の使い手
ならば →↑ や →↓ にする事もできるのです。もっと違う方向に変えてしまうことも。
ウォスなら昔の忍者映画のように、水面を歩くことさえできるかもしれません。
そうか、闘技場でのソーニャさんの異常な足裁きはこれが秘密だったのですね。秘訣はこれだけじゃないでしょうけど。

そして十数秒間の飛翔の後に、レェ・ウォスは岸壁に開いた穴の縁へと降り立ちました。


うん、凄いや。ちょっと眩暈がしますが、気分は悪くない。
もう一度体験してみたい動きでした。遊園地でなら充分銭が取れる芸(アトラクション)です。
レェ・ウォスが得意そうな顔つきなのも分かります。流石は「器用な者」、動きの軽やかさは一番ですね。

彼にとっては崖や斜面は障害物ではありません。多分堀や塀も。鉄条網なら突き破れるでしょう。
こんなのが一度に100人以上も攻めてきたら、そりゃ魔王軍も只では済みません。
ウォスとドスがほぼ同格で、実力的には島全体でも50位以内でしたっけ? グェスが席次一桁で。
確かに、私が偉いさんなら余程の理由がない限り敵に回したくないですね。こんなのがゴロゴロしてる島なんて。


ええと、確かこのあたりに‥‥あったあった。
無限袋を使って、大ワニの革を石材の下から回収します。取りだしてみると、やっぱり傷だらけになっていました。
せっかくの大物革が価値激減ですね。もう奉納品にするのは止めて、革細工の材料にでもしますか。傷が付いてない所を使え
ば小物を幾つか作れるでしょうし。

「足もと、大丈夫?」
「シンパイ、ナイ」

このあたりにはまだトログロダイトの毒矢が落ちていたりするのでちょっと心配してしまいましたが、考えてみればオーク達
はあの乱戦の最中も裸足でしたよね、思いっきり。
彼らの足裏は、なまくらな鏃を踏んだぐらいでは傷付かないのでしょう。


ねぐらの中では、未だに作業が続いていました。
コボルドや他の種族達が、遺体の回収や臭油の除臭などをしているのです。毒矢の回収を含む掃除も。
あのバケモノに食われなかった敵の死体も集めて処理しています。
具体的には、持ち運びできる祭壇を設置してその前でコボルド・シャーマンが祈り、敵の死体や肉片を捧げています。

トログロダイトの肉は供物として最低に近い評価しか受けませんが、鷹揚というかフレンドリーなこの世界の神々は分け隔て
せずに供物を受け取ってくれます。
捧げ物が気に入らないと祟ったり呪ったりする、地球の一部神格もこのへんを見習って欲しいものです。
捧げた供物に見合った加護も授けてくれますし。

え? そりゃ私は新米とはいえアコライトですから、神様が喜ぶ供物とそうでもない供物の違いぐらい分かりますよ。
地球にいた頃、見知らぬ外国の硬貨でも手にとって比べてみれば、材質や大きさや意匠の違いで価値の差がなんとなく見当つ
きました。あの感覚に似ています。
ああ、もちろん同じ通貨なら、の話ですよ? 為替レートで変動する価値まで分かる訳がありません。
実際の話、日本の現用硬貨を触らせて「価値順に並べろ」という問題を出せば、日本について何も知らない外国人でも大間違
いはしないでしょう。


肉類はなんでも捧げられますが、腐った肉や病気の動物の肉、それにアンデッドの肉は評価が低いですね。
トログロダイトのような召喚された生物、特に弱い生き物は腐った肉に次いで評価が低くなります。
基本的に強いモンスターや珍しい獲物の肉は評価が高くなる傾向にあるようです。


ひょいっ という感じで、ウォスは肩に担いだ私ごとプールの底から一段上に移りました。反則ものの身の軽さです。
ん? 昨夜の、棘ドラゴンが出てきた時点で私とあの子を大ワニの革で包んで、ウォスが担げばすり鉢の斜面を駆け上って逃
げられたかもしれませんよね。
まあ、あの時はそんな方法思いつかなかったし、相談している暇もありませんでしたが。


私が投げて割れて、アルコール爆発で砕けて飛び散った陶器の破片が転がる地面の上に、トログロダイトが崇める神像が降ろ
されています。
それにしても不気味な剥製?ですね。造りは粗いというかお粗末ですが、何かただならぬ執念を感じさせます。
制作者の技術はともかく、意気込みだけは評価できる。

その不気味な合成干物の頭部近くに、ゴォ・ドスがいました。
ここにいたのですか。残敵掃討は終わったのかな? グェスの姿はありませんが、単独行動中でしょうか。

どうやら神像の目にはめ込まれた宝玉を調べているようです。なるほど、魔法の品の目利きなら加護持ちで博識なドスは適任
でしょう。


はぁ。
格好良いなあ。
ちょっとまあ、私の好みからすると首から下というか肉体造型的にはもう一つなドスですが、何かに集中している時の横顔は
とっても素敵だと思います。
このオークを不細工扱いしている神殿の女達は目が腐ってます。美というものを理解していません。

「ドウダ、キョウダイ」
「ヨワイ、ワルイ、ノロイ。ナガク、サワル、ダメ」

ドスの見立てでは、大熊のものらしい干物の眼窩に填っている大粒の黄玉(トパーズ)は呪われています。
うん、確かに触るのも嫌なぐらい禍々しいものを感じますね。素人の私にも解る。
所有していると段々と運が悪くなっていく呪いだそうですが、上手く解呪できればこの宝石は良質の素材になるそうです。
うーん、今の私じゃ解呪は無理そうですね。無理せずもっと経験を積んだ神職に任せるべきかな。


この乾物、よく見ると尻尾の先がムカデの頭になっています。
つまり、この合成ミイラは熊っぽい頭に大蛇の胴体を取り付け、大蛇の腹に前後入れ違いで大ムカデの胴体を埋め込んだ構造
なのです。尻尾がムカデの頭になっているのですね。
ムカデの猛毒と狂暴、蛇の生命力、獣の狡猾を兼ね備えたこの姿はオーク語で「輝ける災厄」とか「燦然たる死」とか呼ばれ
る名高い?というか有名な悪神のものだとか。

まあ、オーク語から直訳しただけなので名前の意味は違うかもしれません。
地球で言うなら、不動明王だってその名は「揺るぎない守護者」とか「鉄壁」とかの意味合いであって、文字通り一箇所に固
まって動かない訳でも常時固定ポーズを取っている訳でもありません。


トログロダイトや一部の獣人族、そして人間やオークなどにもこの手の邪神を祭る部族がいます。
人間の文明圏には組織化された邪教団が幾らでもいて、潰しても潰しても復活します。
それらの組織が崇拝する邪神群のなかでも特に祀られる数が多く、頻繁に現れるのがこの神なのです。

英雄物語の定番とまではいかなくても、高い頻度で登場する悪役ですね。そういえばソーニャさんも邪教団と戦ったことがあ
るそうですが、ひょっとしたらその邪教団とやらはコイツを崇める連中だったのかもしれません。
この世界の神々は割と気軽に加護や恩恵を与えてくれるのですが、この干物のモデルなどの邪悪な神々は特に気安く御利益を
ばらまきます。もうホイホイと。

いや、後先考えずにばらまくだけばらまいて高見の見物しているからこそ悪神扱いされているのでしょうが。
地球でだって、スラム街に札束の詰まった鞄を放り込めば銃撃戦ぐらい起きますよ。
トログロダイトが、召喚能力を持っているがために憎まれ蔑まれ畏れられているように。

あれは恩恵(ギフト)じゃない。呪いです。悪意てんこ盛りの。
ええ、トログロダイト族に召喚能力を与えたのは、この合成ミイラのモデルなのです。
オークやコボルド達の間ではそう伝えられてます。



「グヒー」

と、奥からギュー・グェスがやってきました。片手にクックリ刀もどきを持っているので、物体○ックスもどきの死骸の方へ
行っていたのでしょう。


どっかん。

一目顔を見ただけで、頭に血が昇りました。
あ、あれ? 何でしょうこの感覚。

思わずウォスの肩から飛び降りて、そのまま背中いえ腰の後に隠れてしまいました。

何をやっているのでしょうか、私は。
気恥ずかしいというか落ち着かないというか、まともにグェスの顔が見れません。見られることすらできません。
でも、なんだかとっても幸せで、でも切なくて、胸の辺りが甘酸っぱいです。

いやその、本当にそう感じるんですよ。思春期前の人間には、人を好きになると甘酸っぱい物を食べたときのような感覚が胸
元から感じることがあるんです。本当です。
少なくとも前世の私は、年齢一桁の終わり頃にはこの感触を感じていました。


ああ、そうなんだ。
これは恋か。久方ぶりの。


恋は戦争だ という言葉がありますが、全面的に賛同はできません。この二つは結構違います。
でも確かに似ている所が、共通点がありますね。
恋も戦(いくさ)も、始まってしまえばそれがそうなのだと、自然に分かります。
たとえそれまで全く体験したことがなくても、意識したことがなくても理解できます。昨夜の私が、平和な日本で平穏な小市
民生活を送っていた私が誰に言われずとも戦争になったことを理解したように。

恋とはそういうものです。

では、恋と戦はどこがどう違うのか?
私見ですが、戦とは一度や二度の体験で語る資格を得られるようなものではなく、恋とはただ一度限りであってもその体験を
聞く価値のあるものではないかと思います。
私見ですけどね、ええ。





 ☆58日め13、竜は死して骸を残し☆


考えてみれば、今朝はグェスに抱えられた状態で気絶してた訳で。
というかそれ以前の問題として、ほぼ全裸で大立回りしてましたし。
見られてますよね、ええ。全身。
しかも気絶した後、全身の擦り傷やらなにやらを焼酎や薬草搾り汁などで治療してもらって、汚れも洗い落として貰って、
交易品の毛皮に包まれて寝ていたのです。三人の手で。

今更恥じらってどうするという突っ込みは正しい。でもこういうのは理屈じゃないんですよ。
あれですね、ほら、今までは色々と心理的ブレーキが掛かってましたけど、なくなりましたからねー。

この身体は借り物じゃなくて、私のためだけに作られた特別製。私が好きに使って構わない肉体なのです。
誰が作り上げたかは解りませんが、何のために存在するかは判ります。
オークが大好きで、逆ハーレム願望持ちで、特に調教もされてないのに夫達が他の女の子と同衾することに抵抗感がない、
オーク達からみれば都合の良い性癖している転生者が嫁入りするためです。そう決めました。


まあ、私にウチの巣の三人を独占できるとは思ってませんし、もし独占したら身体が持つ訳ありません。
私が主導権握っていられるなら、というか余程アレな女でなければ新参の人に主導権渡しちゃっても良いんでずけどね。
三人が余程の女を連れてくる訳もありませんけど。
人生は人生ゲームじゃありません。人生の勝敗は各人が自分で決めるのです。逆ハーレムただ一人の雌として、独占状態を維
持し続けることは私の勝利条件に含まれていないのです。


この一日足らずの時間で、私側にあった色々な恋やら愛やらの障害が消し飛んでしまいました。
そうなると、もう意識してしまってしょうがないのです。

ああ嬉しい。でも恥ずかしい。
中身が前世持ちなのに何を子供みたいなことしてるんだか。でも記憶以外のほぼ全てが11歳かそれ以下だし仕方ないよね!


そういうことで覚悟を決めてオーク戦士の広い背中から出てみると、周りの野次馬オークたちが静かに笑ってます。
なんかこう、にやにやというより によによ という感じですね。微笑ましいものを見て喜んでいる感触があります。
馬頭のミノヒッポスたちは、もげろといわんばかりですね。妬みがちょっと視線に入ってます。

肝心のグェスはいつも通りの仏頂面で、いつも通りに優しく頭を撫でてくれました。
あー 幸せだなぁ。生きているって素晴らしい。


「キューン」

コボルド達が追いかけてきました。回り込んできたにしては早いので、岸壁をどうにかして降りてきたようです。


死骸を放置しておくと虫やアンデッドが湧きますし、疫病の元になります。だからこそみんなで掃除しているのですが‥‥。
コボルド達の遺体。これはなるべく回収して、葬儀の後に埋葬されます。
トログロダイトの死骸は、祭壇経由で処分されます。
問題は、この物体エ○クスもどきの死骸なんですよ。

放置するにはでかすぎる。食って処分するのは生理的嫌悪感&物理的問題で無理。
素材にできる部分は回収して、残りは供物にして処理してしまうべきなのですが、その場合ちと厄介な問題が。

いえね、物体エック○はともかく、棘ドラゴンの方はまがりなりにもドラゴンですから。
地球でも「クジラ一頭七浦潤す」と申します。ファンタジー世界におけるドラゴンの経済的価値は、クジラの比ではないで
しょう。

その高価なドラゴンの死骸は、誰に所有権があるのでしょう?
普通に考えれば地元であるすり鉢鉱山のコボルド集落なのですが、ドラゴン討伐にうちの巣の面々が大きく貢献したことは
確かです。
実際の話、ドスの三又銛が一番あのバケモノに傷を負わせてます。だめ押しとというか勝負を決定づけたのはグェスの投剣
でしたけど。

「グヒ」
「でも、ほら、穴居みを一番多くやっつけたのはレェ・ウォスですよ」

ドラゴン相手に仕返しできなかったウォスはちょっと悔しそうです。でもあのとき、もし配置が逆でウォスがドラゴン止めて
ドスが私の救援に来ていたら、その方が私の死亡率高いですよねえ。
結果論ですが、あれはあれで良かったのでしょう。


「ええと、死骸の権利は放棄で良いですか?」
「「「マカセル」」」

短い家族会議の結果、ウチの巣は戦利品の分配を要求しないことに決めました。
元々トログロダイトはろくな財宝を持っていませんし、変身から二ヶ月経っていないドラゴンも蓄えなんかありません。
ドラゴンの死骸以外に価値がある物といえば、精々金属製の細槍ぐらいですかね? 
あれは青銅や真鍮でできているので、地金としての価値はあります。

つまり、ウチの巣が貰って嬉しいのはドラゴン素材だけなのです。具体的には皮と甲羅を少々。
しかし敵が勝手に自滅してしまったと感じているウチの三人は、分け前をあまり欲しがっていません。


コボルド側と協議の結果、分配の権利は放棄せず、配分されるべき素材を使って武具を作って貰うことになりました。
援軍に来て貰った上に獲物の分配まで放棄させては、コボルド達の不名誉になりますから。
なので、一番良い部位を使ってコボルド技術の粋を凝らした逸品に仕上げてくれるそうです。流石はコボルド、義理堅いです。

「ウォン」

義理堅いと言えば、この子もそうですね。敵から回収した魔法の棍棒を私に返そうとしています。
この島の流儀から言えば、「アロー&ラン」で走る前に渡した短剣はともかく【誉れあるナノレドの棒きれ】は既に私の物で
はありません。その所有権は昨夜の隠れ蛇戦後、トログロダイトに奪われた時点でなくなっています。
奪われた物は自分で取り返さない限り戻ってこないのですよこの島では。原始社会ですから。

つまり今現在の所有権は敵を射殺して奪ったこの子にある訳です。
で、彼女は命を救われた礼として戦利品を私に渡そうとしています。
命‥‥はて? ああそうか。最初の赤トログロダイトを私が殴り殺してなかったら、この子生きてませんよね確かに。
脱獄作戦については共同戦線ですから計算に入れないとしても、アレは貸しになるのかな? コボルド的には。

では素直に受け取っておきますか。
そして私の手に戻ってきた棍棒を、名前を知らない子供コボルドの腰に付けてやります。
コボルド族は子供がある程度まで大きくならないと名前を付けない、というか親子以外の誰にも真の名前は教えないのだそう
です。ある程度まで育てば通称で呼ばれ、成人すれば自分で決めた名を名乗ります。
両親がもういないこの子の真名は、今後誰にも明かされることはないでしょう。

「?」
「蛇から助けて貰ったお礼です」

怪訝そうな子供コボルドに、にっこりと笑いかけます。
今にして思えば、命を救われたのは私もですからね。

私が大蛇を殴っている間に、この子は逃げようと思えば逃げられたのですよ。むしろ逃げて当然でした。
コボルド族の耳は鋭いのです。私は囲まれるまで気付きませんでしたが、蛇との戦闘音を聞きつけてトログロダイトの一団が
接近してきているのをこの子は覚っていた筈。

蛇と戦っている私を見捨てて逃げれば、この子はトログロダイトどもに捕まらずに済んだのです。
あのとき抜け出してきた穴に戻っていれば、ね。
コボルドの巣はこの子の住処なのですから、一人で隠れるのなら安全な場所ぐらい知っているでしょう。
余程運が悪くない限り、生き延びる事だけなら一人ででもできた筈です。でもこの子はその場に留まり毒銛を使う方を選んだ。
一歩間違えば自分が蛇にやられていたし、うまくいっても揃ってトログロダイトに捕捉されてしまうのに、です。
仲間を見捨てられなかったのは、この子の方だったんですよ。実は。


【誉れあるナノレドの棒きれ】は、普通に手に入るアイテムの中では最高ランクの武器です。
これより更に一段上のものになれば、地球で言えば重要文化財や国宝あるいは機密兵器扱いになり、金銭で買えるものではな
くなります。
ウチの巣にある武器の中でも、威力や実用性はともかく付与されている魔力の格ならドス愛用の三又銛と同等でしょう。
この子にとって絶好の護身装備に、そして良い嫁入り道具になる筈です。
オークたちと違ってコボルド族は装備品の性能を追求する事への嫌悪感が低いですし。

これは偽善でも同情でもありません。正当な配分です。そもそも性根腐っている私にそんなものありませんから。

勇気が、「やると決めたことをやり遂げられる意思力」だとしたならば、この子こそが真に勇敢なる者でしょう。
臆病で非力な弱者が、無理矢理にでも絞り出した勇気こそが真に価値のある勇気の筈。少なくとも私は見習いたい。
戸惑った目で見上げているコボルドに、目線を合わせて言い聞かせます。

「胸を張りなさい。勇者には相応しい武器が必要です」

私以外の誰が何と言おうとこの子は勇者です。勇者として扱われるべき者です。だから私が持つ一番強い武器を渡すのです。
いやその、「武器の囁き」機能が思ったよりも鬱陶しかったのは事実ですけど、ナノレドの棒きれは良い武器ですよ?





 ☆58日め14、人は生きて幸せを掴む☆


もうそろそろ、太陽が傾きはじめる頃です。地球的に言えば午後二時すぎぐらい。
ここから旅立たなければいけない時間です。
今から行けば日没前後ぐらいに神殿に着く筈です。

明日には神殿で定期の試合、もとい決闘があります。
なので急がなくてはいけません。いいかげん顔を出さないとドスやウォスの評判が下がる一方です。

消臭・消毒用の焼酎や亀の子タワシは、神殿に収めるサンプル以外は全部放出しておきましょう。蜂蜜や黒砂糖や椰子油など
復興に少しでも役に立ちそうな交易品も渡しておきます。
毛皮や宝石は渡せません。そういった高価な物を代償も無しに渡すと「施した」ことになってしまい、コボルドたちへの侮辱
行為になります。部族社会は面倒くさいのですよ、色々と。
食料や虫取り粉などの消耗品やタワシなどの安価な日用雑貨なら、お見舞い扱いで済むのですが。

ん? 待てよ、対価さえあれば宝石を渡しても構わないのですよね。
ならばトログロダイトが使っていた魔法の焚き火を譲って貰いましょう。たくさんあったから一個や二個買い入れても問題な
いでしょうし、オーク的適正価格で買えば実質的に資金援助になります。
この集落には栄えていて貰わないと困るのです。知識チート実現を目論んでいる元地球人の転生者としては。

昨日注文した道具や雑貨などは引き継いだ職人達が作ってくれるそうですが、それも落ち着いてからですよねえ。
ええ、鍛冶師とか結構人的被害が出てましてね、流石に。
復興支援には、こまめに付加価値の高い製品を注文して交易を続けるのが一番ですかねえ。果樹園やナッツ園の拡張も予定し
ていますし、あとは貪り食わない無限袋さえ手に入れば食料の交易も楽になるのですが。


自分の馬鹿さ加減を告白するのも何ですが、交易しようと思えばできなくもないのですよ。経済的に原始時代なこの島でも。
特にこのコボルドの巣のような、そう遠くない集落となら。
何も月に一度の門前市にこだわる必要なかった。近くの巣や集落へは直接行って取り引きすれば良かったのです。

そうです。市場がいつも開いてないのなら訪問販売すれば良かったのですよ。
幹部オークに貪り食う無限袋ごと運んで貰えば、この集落となら既に何回か取り引きできていたかもしれません。日帰りでき
る距離なのですから。この観点がなかったのは我ながら間抜けすぎる。盲点と言うにはあまりにも大きいです。


ちなみにあの子は、ごつい顔のコボルド戦士の所へ養子に行くことに決まりました。彼は数年前に妻に先立たれ、再婚するか
養子を取れと周囲に言われ続けていたのでこの機に養子を貰うことにしたようです。
当人同士が納得しているようなので、私が関与する必要もないでしょう。
あのちょっとイケメンのコボルド戦士も、兄貴分として後見してくれるそうですし。

そうそう、脱獄の時に貸した短剣と工具類も返して貰いました。
包丁は折れてしまったので、近いうちに代わりのを一本打ってくれるそうです。


何はともあれ、出発します。私たち三人は神殿へ、グェスは巣へ。
早く帰らないと留守番の下っ端たちが心配しているでしょうからね。

慌ただしいけど、仕方有りません。もしかしたらウチの巣がここと同じように敵に狙われているかもしれません。
いまこの時に、私たちの巣で戦いが起きていないとは言い切れません。この島はとにかく物騒なのですから。
だからギュー・グェスは一刻も早く巣に帰らないといけないのです。

はあ。
理屈は解る。理解できますし納得もしています。でもそれに満足できるかどうかはまた別なのですね。
なるほど、「恋は理屈じゃない」とはこのことです。
女の子が癇癪起こす理由が男には理解できない訳です。そもそも理屈じゃないんだもの。
私は精神的に男のままですが、脳は既に色恋モードへ入ってます。いわゆる恋愛脳状態。
女の子がみんなそうだとは言いませんが、色恋で物事を考えてしまう人間に理屈は通じません。丁度今の私のように。
恋愛モードに入ってる人間に、そうでない人間の言葉が聞こえる訳がない。


納得はしているけど、我慢がならない。
こんなとき、私はいったいどうしたら良いのでしょうか女神様?


「分かり切っていることをわざわざ訊かないように」

あれ? なんか今聞こえましたよね? 神の声がこの上もなくはっきりと。
そうか。もう答えが出ていることを一々考えるからいけないのですよ。


「ギュー・グェス!」

コボルド集落へ続く洞窟の前で、私はグェスの背中に向かって叫びました。
そのまま駆け寄って、振り向く彼の胸へ飛び込みます。

言おう。今言わないときっと後悔する。この島では明日も生きのこれる保証なんてないのですから。

「大好きです、お嫁さんにしてください」
「グヒ?」

‥‥日本語で喋ってどうする日本語で。落ち着け私。
オーク語で言いましょう。あれから練習してきたのですがら、通じるはず。

「レイ、ナル、オーク、ヨメ。ギュー・グェス、コドモ、ウム」
「ワカッタ。ソノヒ、タノシミ」


あれ? なんかもう一つ通じてないような?
近所のおこちゃまに「おーきくなったらおよめさんになってあげるね」とか言われたお兄さんみたいな反応です。
あたま撫で撫でされてるし。

あー 幸せだなぁ。
何と言いますか、年齢が片手の指で数えられた頃に、保育園の保母さんとかに抱きついたときとかの幸福感や、憧れのヒーロ
ーに会えた小学生の幸福感に通じる嬉しさが、撫でられる箇所から広がっていきます。

こ、こんなもので騙されたりしませんからねっ。


「ルェイ」

え? グェスの顔が近寄ってきてますが。


唇が触れました。熱くて弾力のある柔らかさを持つオークの唇が、私の唇と。
貫かれたような幸福感とときめきが唇から脳の奥まで届きます。
口付けは、ほんの数秒で終わりました。グェスは、幸福感のあまり足腰から力が抜けてしまった私を抱きかかえて同じ目線ま
で持ち上げてから、言いました。

「ルェイ、オレノヨメ。オレノコ、ウム、タクサン」

良かった。ちゃんと通じていた。お子様のおままごとじゃなくて、正式に求婚を受け止めて貰えました。
私の返事は決まってます。

「はい。産ませてください、もう何人でも」

グェスが嬉しそうに頷きます。
これで、今日から私はグェスのお嫁さんです。

幸せいっぱいで、思わず夫の逞しい身体にすがりつく私の顎が優しく持ち上げられて、再びオークの口が迫ります。
二‥‥いや三度目の口付けは、接触している時間も面積もたっぷりでした。

あ、泣いてる。私、涙が止めもなくでています。もちろん嬉し泣きです。
もう昇天してしまいそうなくらい幸せです。「時よ留まれ」と言った錬金術師の気持ちが今なら解る。


これで良いのです。この身体に転生したのは、きっとこのためだったのですから。
私の身体はこの人(オーク)の愛を受け止めるために、私の命はこのオークの子供たちに最後の一欠片まで分け与えるためにあ
るのです。
私が決めた。今決めた。
文句がある奴は出てきなさい。聞き流してあげますから。





そんな訳で、極楽浄土のご両親様。そして愛犬と猫たちよ。
オーク巫女(偽)のレイちゃんこと、前世は猪養令治だった者は結婚しました。
孫の顔も近いうちに見せられると思います。

親子の縁は今世限りというのが本当なら、転生者の私は、極楽浄土のご両親様にとっては赤の他人なのかもしれません。
しかし私の意識が前世から続いている以上、私にとって親はこの命が尽きるまでお二人だけなのです。

あ、夫であるグェスの両親も入れなきゃいけないんだ。これからは。
やったねレイちゃん、家族がふえたよ! ‥‥いや、この場合親族かな? 巣が別だし。






[38600] 28
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/08/03 12:19

 

 ☆58日め15、ごめんください新婚さんです☆



こんばんは。オーク島の新オーク妻、レイちゃんです。
そうです、私は本日の昼過ぎ、今から数時間前に、遂にオークのお嫁さんになったのです。

衆人環視のなかでギュー・グェスに求婚して受け入れて貰えた私ですが‥‥。
その直後にゴォ・ドスとレェ・ウォスに求婚されたので、受け入れてしまいました。思わず。


いや、だって断れる訳ありませんよ。
もともと二人のこと大好きですし、二人にも近いうちにお嫁さんあてがわなきゃと思っていたし、私は思考回路的に男性です
ので恋愛観が「フォルダに名前を付けて保存」式ですし。
一度に何人も好きになれちゃうんですよ男って。
それに正夫のグェスも、兄弟二人が側夫になるのを歓迎というかそうなるものと信じて疑ってませんでしたし。

なによりも、一人前のオークに「オレノコ、ウメ」って言われて「はい」か「もちろんです」か「喜んで」以外の返事ができ
る女の子なんかいませんよ。
それができるのはオークのことを知らない、二ヶ月近く同じ屋根の下で暮らしていない女の子だけです。
前世が男で、今も精神的には男な私でさえ融かされてしまったのですから。


いえ、オークなら誰だって良い訳じゃありませんよ?
言ったのがドスとウォスだからお嫁さんになったのであって、相手が見ず知らずの余所のオークだったら、
「お断りします」か「帰れ」か「斬新な自殺方法ですね」のどれかで答えていたでしょう。

何なんでしょうか? この感覚。
うん、やっぱり無理です。

顔見知りも含めて、他の巣のオークに求婚されたとした状況を想定して考えてみましたが、どう考えてみても答えが「お断り
します」か「帰れ」か「斬新な自殺方法ですね」の三つしか思い浮かびません。
ふうむ、すると私はオークが好きと言うよりも、ウチの巣の連中が好きなのかな?

求婚者がもしハラキズたちなら、うん、「とりあえずお友達から始めましょう」と答えてしまいそうです。
一緒に強くなるというか、下っ端オークを一人前の戦士に育て上げてからお嫁さんにして貰うというのも悪くないですね。
もしも私が一端の冒険者で、出会ったのがグェスでなくハラキズだったなら、そんな展開も有り得たでしょう。


まさか極楽浄土に結婚の報告をした二分後に、二回分の追加結婚報告をする事になるとは思いませんでした。
うーん、重婚は別に戒律違反じゃありませんよね、浮気は違反だけど。
この島では重婚推奨ですからねー。
何人もの妻や夫を持つのはごく普通のことであって、邪淫戒(じゃいんかい)に触れるものではないのです。
ほら、仏教は融和主義で現地に溶けこむのが基本ですし。

首輪プレイとか露出プレイもこの島ではごく普通の行為なのです。
業に入りては業に従えといいますし、オーク妻になった以上は私も夫達の文化や習わしに従うのが道理でしょう。

まー もともと私はなんちゃって仏教徒ですからねー。自称というか家は浄土宗だけど思想的には浄土真宗や禅宗や真言宗や
初期仏教、更に神道とか他宗派まで入ってまぜこぜになってますし。

前世も今世も戒律破りまくりです。
今世だけに限っても普段から大酒飲んでるし、必要さえあれば嘘も盗みも躊躇無しです。当然殺生も。
今朝がたの1時間だけで何匹のトログロダイトを殺したことやら。‥‥直接だけだと40匹ぐらい? もっとかな?
五戒の中でも一番重い殺生戒をこれだけ破ったからには地獄行き決定ですね。
でも大丈夫、私の魂は阿弥陀如来さまかオールクゥス神のどちらかが救ってくれます。


とりあえず、夫達とは求婚された順番にキスしました。
逆に言うと口付け(キス)しかしてません。グェスともです。
キスだけでいっぱいいっぱいというか、限界でした。順番に、そして代わる代わる、ついには三人同時に口付けされ続けた私
は言葉もでないくらいに溶けちゃったのです。
もう脳が蜂蜜漬けにされてしまったような感覚でした。

降参するしか、白旗挙げるしかありませんでした。
なので私は本日をもって重婚主義者に宗旨替えです。逆ハーレム万歳。
後悔はありません。いずれはこうなると分かり切っているのに、私は三人と同棲生活を続けていたのですから。
恐いとか拙いとか口では言いながらも、心の底ではこうなることを望んでいたのですよ、きっと。

大好きな三人に可愛がって貰えるなら、雌犬(ピッチ)でも雌豚にでも「はい、もちろんです、喜んで」なりますとも。
彼らなら、羅刹道をよろめき歩いている私を救ってくれます。
すくい上げられた先は畜生道なのかもしれませんが、グェスたちやその子供達と一緒なら畜生道だって極楽に優ります。



それにしても、三人とも上手だったなー。
口中の感じてしまう所を嬉しくなっちゃう動きでじっくり攻めてくるドス、一緒に楽しむウォス、優しくリードしてくれる
グェスと違いはあるけど、オーク達はみんなキスが巧いのです。
種族揃ってエロモンスターだから当然ですけど、三人とも童貞じゃないしむしろ前世の私なんか足下にも及ばないぐらい慣れ
てますよねえ。女の子の可愛がりかたとか、もう絶妙としか。

ま、私としては夫達を信じて身をまかせるだけです。
彼らとは白兵戦と同じかそれ以上に実践経験の差がありますし、そもそも妻は夫達を立てるものであって張り合う必要なんて
ありませんし。



そんな訳で、私は1時間交代で二人の背中に乗って移動中です。
出るのは予定より遅くなってしまいましたが、移動速度は昨日の午前中よりもずっと速いのでこの分なら日暮れ前に到着でき
るでしょう。

「もういっぺん! もういっぺんやって!」
「グヒー」

岩場を走ったり跳んだりと、近道しまくりで走っているから速いのです。
荷物の揺れ耐性が前よりも強くなったので、オーク達が背中の私に気を使う度合いが減ったのですよ。
買い物袋に入っているのが食パンな時と生チーズケーキな時では、帰り道の選択や出し入れの気の使い方が違って当然です。

昨日までの旅がバス旅行なら、今はモトクロス競争ですね。
オークの背に乗って全力疾走して貰うのがこんなに楽しいとは想像もしていませんでした。

速度も運動性も、凡人ランナーとは桁違いです。芝刈り機と戦車ぐらい馬力が違います。
上級の幹部オークがデミとかレッサーが付いてるドラゴンを一対一で仕留めてしまうのも納得です。
反則(チート)能力を持ってないのなら、本物のドラゴンだって倒せないことはありませんからね、二人とも。まあ反則的存在
だからこそドラゴンなのですが。


微かに煙を上げている火山を逆時計まわりに迂回して、谷間にいる人面の獅子とか猛禽類の頭が付いた直立歩行熊とかの強そ
うなモンスターを避けて先を急ぎます。
突っ走ってくる幹部オークに道を譲って逃げていくのが弱いモンスター、縄張りを守ろうと臨戦態勢に入るのが強いモンスタ
ーと考えればまず間違いないでしょう。

あ、向こうの尾根で大怪鳥が、隠れ蛇の尻尾をくわえて振り回して岩場に叩き付けてます。
動物園の大型鳥類が蛇を食べるときの動きそっくりですね。びったんびったん叩き付けられている個体は隠れ蛇としては小さ
めのようですが、大蛇は大蛇なので大食いの大怪鳥でも食べ応えがありそうです。

尾根伝いに山を下りて、北北西に進みます。
辺りの風景は見覚えがあります、先月に往復したのと同じ道筋ですからね。
帰る途中で香辛料を集めた茂みも見えます。
最後の小山を超える辺りで植生が違っていることがよく分かりますねー。
高いところから見ると神殿を中心とした同心円状に果樹園や農地の痕跡が広がっているのがよく解ります。


そろそろ沈みかけな夕日の中で、下っ端オークたちが椰子の林から椰子の実やヤシガニを集めたり、バナナの群生地からバナ
ナの房や葉を取ったりしています。
足下でうろうろしている猪たちに果実や虫などを投げてやってますね。
猪の食べ残しや糞にフンコロガシや、フンコロガシに良く似ているけど糞を転がさない甲虫が集っています。

おー 水平線の太陽が大きいなー。
太陽の中に黒点発見。この星系の主星にも八咫烏が生息しているようです。



旧魔王城城門前に着きました。予定より一日遅れで、到着です。
あ、やっぱり掛けるんですね。腰縄。

ドスとウォスの二人が、同時に飾り紐を取り出しました。ドスのは金の輪と穴を開けた翡翠を、ウォスのは白金の輪と穴を開
けた瑠璃を交互に繋いで飾り立ててあります。
眼鏡の奥さんのように一夫多妻制なら、一人のオークが何本もの鎖や飾り紐を妻たちに一本ずつ付けるのですが、私のように
一妻多夫状態だと一人の妻に夫達がそれぞれ一本ずつ付けるのです。

え!? 紐を股に回してる?

先月ギュー・グェスに結んでもらったときは、ベルトのように腰に回しただけの結び方でしたが、いま二人は毛皮服の上から
股にかかるように飾り紐を回して結んでいます。
色違いの紐をお臍の下で結び目作ってから股間に通して腰の所で結び、もう一方の端をそれぞれが掴む。
この結び方の意味、知ってます。
私と二人の間に肉体関係がある仲だと示す、私のお腹がいずれ二人の子を宿すと約束してる事を示す結び方です。

そうですよね。私はもうオーク妻なんですから。
望めば直ぐにでも、夫達と子作り出来るのです。
この結び方は、他の雄に「これは俺達のだ、手出しするなら命懸けでな!」と宣言してるのです。

駄目だこりゃ。
こんなことが、縛って貰って所有権や使用権を主張されちゃう事がこんなに嬉しいなんて、完全にやられてます。
束縛されることが、独占欲を表現されることがたまらなく嬉しいんです。
私落ちてる。完全に撃墜されてます。
いまならご主人様にピアス穴を開けて貰いたがるどMさんの気持ちが解ります。オーク達はその手の装飾を好みませんけど。


身支度を整えた私は三又銛を担いだドスの左手一本で抱えられて、右腕に縛りつけた飾り紐を揺らしながら先導するウォスに
続いて城門をくぐりました。
ああ、見られるって気持ち良い。
オーク達はもちろん、他の異種族や女達の視線までもが心地よい。

どうです、この素敵なオーク達が私の旦那様なんですよ。




 ☆58日め16、わたしたち結婚しました☆


市場の露天が店仕舞いやその準備をしている中を抜けて、私たちは本殿の大広間に向かいました。
おや、船首像(フィギュア・ヘッド)が一体増えて18体になってます。新入りさんは防水加工した木製で、鎧を着た女戦士の
姿をしていますね。多分東方産で、きりっとしたなかなかの美人です。

広間のあちこち、そして祭壇の横に例の魔法の焚き火が入った鉄枠のかがり台が置かれています。夜間照明ですね。

おや、先客というか祭壇前には既に祈っている人達がいますね。幸い一組だけのようですし、順番が来るのを待ちますか。
む? オーク戦士一人に小柄な女二人という私たちと逆の組み合わせですが、なにやら見覚えがあるような後姿です。
女というか少女と幼女ですね。それぞれ私より二歳ぐらい上下な感じです。
上の方は妊婦さんのようですが、この島ではミドルティーンの妊婦は珍しくもありません。


しばらく待って、祭壇の前から離れた三人組は右目に傷跡があるオークと銀髪のやたら美少女な妊婦さん、そして金髪のもの
凄く綺麗な幼女でした。

「あ」

向こうも私を憶えていました。ほら、あのときの、神殿に着いた日に衝立の向こう側で騎乗プレイやってたあの娘ですよ。
オークの顔に跨って舐めて貰ってあひんあひん言っていた金髪ロリータちゃん。

おや? お姉さんらしきそっくりな顔立ちをした銀髪少女妊婦さんはもちろんですが、金髪ちゃんの腰に巻いた鎖も ー 
から π になっていますね。透明じゃない薄絹のワンピースの上から、股間に鎖が這わせてあります。

「私は結婚の報告ですが、貴女も?」
「うん。わたし、リシュ・オゥスのどれーづま、なった」


オーク同士も顔見知りだったので、しばらく男は男同士女は女同士で歓談と相成りました。
金髪ちゃんと銀髪のお姉さんは、向こうで話しているオーク戦士の奴隷妻だそうです。神殿での調教もとい訓練を受けていな
い戦利品扱いのお嫁さんですね。


二人の話では彼女達と旦那様は、島の北の方にある小島から来たそうです。離れ小島ではなく、大潮の日には浅瀬を歩いて本
島まで行けるような所だそうです。
1年半近く前、嵐で難破した彼女達の船がその島に漂着しました。
そして難破した船の人間は小島のオーク達に攻撃してしまい、戦となって、激戦の末に船主の長女だった銀髪お姉さんがオー
ク達に降伏して決着がつきました。
ちなみにそのとき破壊された船から外されたのが、回廊に並んでいる船首像の17番目だそうです。

そして船側の生き残りのうち女5人+1人が小島に残り、船との戦いで死んだ11人のオークと同じ人数の子供を産むまでと
いう条件でオーク達の奴隷となったのです。
で、つい先日メイド長が11人目の赤ちゃんオークを産みまして。
晴れて自由の身になった5人の女達と、若年なので奴隷ではあるけど子作りの対象から外されていた金髪ちゃんの合わせて6
人はその巣の奴隷妻として改めて嫁入りしたそうです。

まあ、オーク達と同じ所に暮らして1年半も経てば落ちますよねえ。たとえ親の仇同士でも。


「うんめいのめぐりあわせにかんしゃしています。これでいもうととはなれずにすみますから」

なんでも船が難破しなければ、金髪ちゃんは遠くの修道院に送られて一生そのままだったそうです。
姉妹の父親は、お家騒動の種になる末娘を世間から隔離というか廃棄しようとしていたのですね。
船側に圧倒的不利な状況になってから申し出た降伏を受け入れてくれただけでなく、降伏の条件だった生き残りの船員達を神
殿経由で解放して、女達には罪を償う機会をくれたうえに、罪を償ったら約束を守って自由の身にしてくれた主人達へ、
彼女達は深く感謝し愛と忠誠を誓い、改めて妻にして貰ったのです。

「おーく、どれいづま、なる、おんな、しあわせ」

そういって数日前に初夜を済ませたというロリータ奴隷妻は、主人の愛をたっぷり注いで貰った下腹部を嬉しげに撫でるので
した。


うーん、恩讐を超えた恋ですか。浪漫ですねえ。
いえ、やってることはエロゲそのままなんですけどね。
悪質な洗脳だって理性では分かるんですが、同じ状況になったら私も喜んで奴隷妻になってるでしょう。
まあ、私の父上は難破した船の修理もせずに、見つけたオークの巣に略奪に行って返り討ちにされるような方ではありません
から無意味な想定ですが。

父上ならまずは現状の確認と足場固めから始めますし、斥候も出さずに敵拠点へ突入なんて真似は致しません。
カエルの親はカエルでして、私は理由もなく軍事オタに育った訳ではないのです。


姉妹そろって一年前ぐらいにはもう「この方と添い遂げよう」と思いを決めていたそうです。
ですがせめて妹だけには、親に捨てられる筈だった妹にだけは親の罪の償いのためではなく、自分の意志で子供を産ませてあ
げたかった銀髪お姉さんは戦士リシュ・オゥスに頼んで金髪ちゃんと子作りしないでいて貰ったのです。
ここで律儀に約束守り通すのが変態紳士クオリティでして、金髪ちゃんがどんなに頼んでもリシュ・オゥスは一線を越えませ
んでした。
なので、先月会ったときの金髪ちゃんは腰の鎖が、肉体関係無しの巻き方になっていたのです。

ちなみに金髪ちゃんは10歳になったばかり。お姉さんはもうすぐ14歳になります。
貴族令嬢姉妹丼で双方からベタ惚れしかも姉妹関係も極めて良好仲良しこよし。
一時は恨んだりもした金髪ちゃんですが、その真心を覚ってからは前にも増してお姉さんを慕っているのです。
つい先日の結婚式は巣のみんなが見守る中で、誓いの言葉から口付けそして初夜までお姉さんに導いて貰ったとか。

初っ端から妊婦姉入れた三人プレイで、公開露出とはどこのブルボン王家ですかあんたら。いや、あっちが公開していたのは
出産の方か。
なんというエロパワー。リア充にも程がありますよこのオーク。



姉妹妻とその主人の三人と別れた私たちは、祭壇に供物を並べます。
テンやアライグマの毛皮、化けクジラのヒゲや干し肉、クルミ油入りのヒョウタンや出来の良い焼酎の瓶などを捧げ、私の右
にウォス左にドスの三人揃って祈ります。


お久しぶりですオールクゥス様、貴方の申し子を三人も夫に出来て幸せです。
これからも私たちを見守ってください。
‥‥えっと、宜しければ奥様方が私の彫った女神像をお気に召さなかったときは取りなしてくださいお願いします切実に。


む? 供物が消え去る瞬間に何か特殊効果のようなきらめきを感じましたよ。どうやら供物の焼酎が好評だったようです。
やはり美味しい酒は供物に向いているのですね。
古来宗教と酒は切っても切り離せない関係ですし、仏陀もムハンマドも「酔っぱらって人に迷惑かけんな」と言っているので
あって「酒を飲むな」とは言ってないのですよね。
と、以上は所詮酒飲みの戯言なので真に受けないでください。何せ飲めば天国から追放されると分かっていても飲んだくれて
しまうのが酒飲みの業ですので。


神前で報告した次は、大母様に会って結婚の報告をしました。

「ハナシ、キイタ。ドラゴン、シトメタ、ミゴト。ゴォ・ドス、レェ・ウォス、ホシ、ジュウ、ミトメル」

大母様は相変わらず、透明素材の薄布一枚という地球基準だと露出狂にしか見えない格好でした。
色は薄い赤で、布地に模様や刺繍はありませんが細かい縁取りと装飾がされていて、仕立てに趣味の良さが現れてます。
明らかにプロフェッショナルか、素人だとしても訓練された本職に匹敵できる才能を持った者がコーディネイトしてますね。
巫女さん達の中に元役者とか元高級侍女とか元高級娼婦とか元貴族夫人とか、その手の心得がある人がいるのでしょう。

いくらモデルさんが良くても、衣装や小道具がへっぽこだと台なしですからねー。
安手のヌード写真集だと「んなもん着せんな!」と叫びたくなるぐらい酷いセンスのショーツとかブラジャーとかネグリジェ
とかを着せているのがありますからね。あれならすっぽんぽんの方が遙かにマシです。
あれを見て喜べるのかなあ、あの国の男どもは。
まあ、青いケーキやバターの揚げ物や釣りの疑似餌並に固いグミを喜んで食っている連中ですし、それも有り得るか。


ただ、大母様のお腹、小さいというか平たくなってます。こちらもおめでたでしたか。

「えと、ご出産おめでとうございます」
「‥‥コドモ、ミタイカ」
「え、はい。見せていただけるなら」
「アトデ、ヨブ」

わーい、楽しみです。オークの赤ちゃんって生まれたても可愛いですけど、生後2~3週間経った今なら更に可愛くなってい
るでしょう。


ドラゴン討伐の顛末は、私たちがコボルド集落を出る前から伝令のオーク戦士が伝えています。そして今現在も神殿と現地で
数時間おきに伝令が出て報告が続いているのです。

直接退治したのではなく敵が自爆したのだとしても、そこまでドラゴンを追い込んだこと自体が凄い訳で。
ウチの巣の三人、特にドスとウォスはこれで一気に名が上がりました。星も増えて10になりましたし。

ええと、とりあえず大目標の一つは達成しましたね。では小目標の方も。
神殿の窓口に行って、タワシや蚊取り線香や石鹸、それに薬用と飲用の焼酎を納めます。
どれも人類文明圏には似た代物がありますので、用途と使い方は直ぐに理解して貰えました。
これで良し。使って貰えれば既存の物より高性能なことが分かる筈です。石鹸以外は。
石鹸は神殿でも作ってますからねー。私が作っているのとあまり変わらない品質のを。


「グヒー グヒッグヒッ」
「グヒッ」

いつの間にか、二人の周りに人垣が出来ていました。みんなドラゴン退治の話が聞きたいようです。
ふむ。では私はこのまま男子禁制区域に入りますか。

二人に飲む用焼酎とクジラ干し肉にクジラ肉の油漬けにクジラ脂身の燻製その他つまみ類を渡して酒宴に送り出します。
あきらかに面倒くさげですが、これも付き合いのうちです。いってらっしゃい。





 ☆58日め17、おもいおこせば☆


セクハラかと思っていた毛皮服の裾丈ですが、こうして股紐で括られてみるとこの長さで丁度良いのですね。
縛られているからこの長さでもめくれ上がったりしないし、用を足すときにも邪魔になりません。
ふう。
流石に二ヶ月近く女の子の身体を使っていると慣れてきましたね。
生理現象の類は半ば無意識で出来ますけど、意識してしまうと面倒になるのですよ。
ほら、呼吸だって一度意識してしまうと意識している限り自動ではできなくなってしまいますよね? あんな感じです。

神殿のトイレも水洗です。水はバケツに溜めてあるのを流す方式ですが、日本にあった水洗洋式のものに近い構造です。
近くの海が汚れていないけど栄養豊富ってことは、この流れていったものが分解されているってことですよね。
浄水用の魔法装置でもあるのでしょうか? 


うん、使える。新米侍僧(アコライト)ですが私にも「浄化」の呪文が使えます。自分で分かります。
えーと、生水なら風呂桶一杯分を清水に変えられて、生ゴミとかの汚物ならバケツ二杯かポリタンク一つ分ぐらいを土に変え
られるのですね。一日一回使えれば、砂漠でもない限り1パーティの飲料水には困らないでしょう。

新米侍僧が使える僧侶呪文は基本のものだけです。「意思疎通」「治療」「力弾」「浄化」が使えることは分かっていますが
他にもあるのでしょうか? 今度誰かに聞いてみますか。

信仰魔法は一日4回まで、というより一回眠るごとに4回まで使えるようですね。四時間以上の充実した睡眠で4回分、二時
間以上の睡眠で2回分回復します。
しかし神々の啓示は一日につき三回程度までのようです。夜明けと共に更新されます。
なので朝にならないと女神様へは質問できません。この差は使う主体がどちらにあるかの違いなようです。

つまり信仰魔法は私という携帯電話が電池を消耗しつつ電話したり写真撮ったりしているようなもので、啓示とは神様のホー
ムページを覗いているようなものです。
私は普通のアコライトが月一度しか書き込めない質問コーナーに毎日書き込めてしかもほぼ確実に解答して貰える訳です。
加護って凄い。


さて。
旧交の温め直しと人員募集は二人に任せるしかありません。
私は私で動きますか。

とりあえずソーニャさんに会いましょう。
近くの新米巫女さんに聞いてみると、彼女は地下の方にいるようです。
ええと、地下区域への階段はこっちか。

速攻で迷いました。どうも私には方向感覚の加護がなさそうです。やれやれ。


ん? 向こうから話し声が聞こえます。行ってみましょう。

行ってみると、そこはお風呂場でした。
しかもジャグジーっぽく、ご家庭用プールぐらいある浴槽の中央から泡が盛大に上がってます。
湯気と熱気からして風呂というか温水浴設備であるのは確かですね。入っている娘さんたちの肌も上気しているし。

壁の服掛けにある服から見て、新米巫女さんたちが入浴しているようです。
前世で言えば高校生から大学生ぐらいな年頃の巫女さんたちが5人、お湯に浸かったり洗いっこをしていたりします。
みんな肌きれいだなー 巫女さん達は健康そのものですし、楽しそうにしていることもあってとても魅力的です。

乙女十八番茶も出花と申しまして、この年頃の娘さんは只でさえ綺麗に見えるものですが、この島の女達は特にそうですね。
元々が各地から選りすぐられた美女と美少女達で、重税も戦も飢饉も疫病も家庭内暴力もない環境で充実した日々を過ごし
ているのだから当然ではありますが。
平均すれば裕福で穏やかな環境で暮らしている人々の方が、そうでない人々より美形率が高いのです。

想像してみてください。貴方が腐敗しきった政府と役人に重税搾り取られ、夏冬のオリンピック開催並の頻度で異民族の軍隊
が攻めてきて、しかも毎回負けて首都や大都市が占領され、国王が侵略者に土下座して賠償金と奴隷を渡して帰って貰う失敗
国家で暮らしている状況を。
年中行事みたいに飢饉と疫病の流行が起き、日々の娯楽どころか食事にもこと欠き、親から名前も与えられずに、理不尽な差
別と暴力に晒され続けている環境で暮らしている者が歪まない訳がありません。

その歪みは確実に表情に、顔に出るのです。
ほら、身持ちを崩して凶悪犯罪者になると顔つき変わっていくじゃありませんか。あれですよ。
人間らしい扱いを受けずに育った者が、他者を人間扱いしなくなるのは当然です。
逆に言えば人扱いすれば人でないものも人っぽく振る舞うようになるのですよ。犬だって飼い主に似るんですから。



「だれ?」
「温泉洞窟のレイちゃんです。ちょっと迷っちゃって」

ソーニャさんの居場所は、知りませんかそうですか。
巫女さん達は上手い下手はあるものの、全員共通語(コモン)が使えます。ちなみに私はかなり上手い方です。
ふむ、このお風呂は巫女さん専用なのですか。残念です。もっとも今は着替えもお風呂セットも持っていないのでどのみち入
れませんが。

ならせめて足湯だけでも‥‥駄目ですか。ちぇっ。


5人のうち二人は見憶えのある顔です。先月売られてきた元冒険者たちの、人間(ヒュー)族神官の二人組ですね。
栗毛のセミロングヘアーで珊瑚玉の髪飾りを付けた娘さんと、青みがかった銀髪ロングヘアーの娘さんです。
やはりふたりとも調停の神々の神官(プリーテス)でした。今はオールクゥス神の神官です。
同じ勢力の神族なので改宗した扱いにはならないのですが、学び直さないと行けないことが多いので二人とも見習いからやり
直しているのです。

残り三人の歳は16歳ぐらい。うち二人は双子だという黄色い髪の女の子たちです、確かに似ていますね。金髪ちゃん達ほど
じゃありませんが。最後の一人は黒というより濃い藍色の髪をした巫女さんです。
こちらの三人は元冒険者ではなく、修道院から売られてきた元孤児ですね。

南部アルブニアの大都市には、例外なく半ば娼婦養成所な修道院があり孤児や捨てられた子供達が掃き寄せられるようにして
集められています。
その中でも彼女達のいた修道院は経営がしっかりしていて、孤児達の中から選りすぐった健康で容姿に優れた女の子を十代半
ばまで育ててから裕福な商家に就職させています。
就職した女の子達の殆どは、長くて数ヶ月で辞めさせられてしまいます。ですが次の職場を紹介して貰える分、他の修道院よ
りまだマシです。
少なくとも彼女達自身は、故郷に帰るよりもオーク島で奴隷妻に永久就職する方を選ぶでしょう。



これまでどおり、何故かこの島で拾われるまでの記憶がないヒルデニア僻地出身の女の子だと自己紹介しておきました。
農家育ちの工房務めで趣味は酒造り。好きな動物は柴犬と三毛猫。好きなお菓子はわらび餅。

はあ、ウサミミさんはいま神殿に居るけど彼女達からは離れてしまったのですか。
女冒険者パーティの元チームリーダーは、満月の夜に開かれたお嫁さん品評会で若いオーガー戦士に見初められてそのまま嫁
入りしたそうです。
ずいぶんと速い嫁入りですが、ウサギ系獣人は異種婚の適性が高く、むしろ同族と子作りする方が少ないぐらいなのでこの速
さも珍しい訳ではありません。

獣人も色々でして、種族や部族ごとに男女比とかも違うのです。ウサギ族は女の比率が高く、他の種族の子種で子作りするこ
とが多いのですが、なぜか獣人や人間族の雄の子種だとウサギ族の子を孕み、オークやオーガーなどの子種だと父親と同じ種
族の子を孕みます。


元々彼女はこの島基準だと年増気味ですし、教育の必要が特にないぐらい出来上がっていたので手早く片づけられてしまいま
した。
嫁入り先は南の方の漁師村です。旦那様はオーガー村四天王の一人で、大タコの魔物を仕留めたことで有名だとか。
で、本日ウサミミさんは通訳と嫁さんのお披露目のために旦那様一行に混じって神殿へやってきているのですが、ついでに検
診受けたら懐妊していた、と。

手早いなあそのオーガー。一発必中ですか。
まだ受精卵が着定したばかりでしょうに、よく妊娠したと分かるものです。これもファンタジー世界だからかな?
あの触手くんならそのくらい分かっても当然かも。


一方ハーフエルフさんは剣闘士養成コースに入ったそうです。この二人とは今もよく会うとか。
同じ日にこの島に来た辺境貴族三姉妹の方は、まだ初期訓練中なので巫女専用区域から出られません。

この二人、妙に好意的だと思ったら先月の掛け金分配でウサミミさんが嫁入り道具を揃えられたからのようです。
ふんふん、せっかくオークの島に来たのにオーガーのお嫁さんになっちゃったウサミミさんに、二人が自分の分け前を渡して
嫁入り衣装やら何やらをそろえてあげたのですか。友情ですねえ。


「でも、貴女たちはそれで良いの?」

配ったものをどうしようと受け取った側の自由ですが、この人達は結婚願望とか大丈夫なのかな?
見るからにオーク大好きっぽいのですが、二人とも。

二人は顔を見合わせ、照れが混じった笑顔を浮かべています。

「ええ。わたしたち、もう、オールクゥスさまのつまですもの」

巫女=神の妻ですか。
地球にもそういう言い回しはありましたけど、だとすれば天界だけじゃなくて地上もオールクゥス神のハーレムだってことに
なりますよね。
流石はエロモンスターの祖にして守護神です。  



ジャグジー風呂で垢を落としている巫女さん達と話し込んでいると、不気味な物体が部屋に入り込んできました。
音もなく入ってきたのは、ローパーです。
暗い色合いの皮膚に目玉や牙の生えた口や鼻らしき呼吸穴が不規則に生えたり消えたりしている、触手の塊的不思議生物。


風呂場に入ってきた触手の先へ、カタツムリのそれのように出てきた大きな目玉が私を見つめます。

な、なんですかいったい。

極太の肉縄が絡み合ったようなこの魔物は、大母様の使い魔でしたよね。それにしても、目玉の構造は人間そっくりなんです
よねえこいつ。
む? その目玉に大母様の姿が映っています。本来ならCDを鏡代わりに使ったときのように、輪の形に私の姿が映る筈なの
ですが。
あとウリ坊の姿も映ってます。

えっと、他のものが映ってないから実際の映像ではなく投射されたものなのかな?
大母様とウリ坊‥‥そういえば子供を見せてくれると約束してましたっけ。


「付いていけば良いのですか?」

問いかけると使い魔は触手を上下に降って返事しました。正解のようです。
では、お風呂場の巫女さん達に挨拶してから出るとしますか。





 ☆58日め18、伝説の舞台☆



触手くんに誘導されて、地下へ地下へと進みます。
やはりこの触手の塊、知性がありますね。それも人間に近いのが。
動きを観察すれば分かります。
ほら、同じリモコン式の玩具でも人間が操っているのと人工無能が動かしているのとでは自ずと動きが違うでしょう? 
この触手、異形ですけど心は人に近いようです。
完全に同じではありませんが、犬よりは人に近くオークよりは遠い感じですね。私の直感ですが。

「まだ歩くのですか?」

もうすぐだ、とでも言いたげに触手を振って使い魔は通路を進みます。
すると本当にすぐ、一分もしないうちに大母様と合流しました。

地下通路の途中で、私が来るのを待っていたようです。

「キタカ、ルェイ」
「はい。‥‥赤ちゃんは?」
「コッチダ」

大母様が示す先は、通路の中央に開いた穴でした。
両開き式の扉がついた‥‥まるで落とし穴かダストシュートのような穴です。


ここが? 子供部屋の入り口にしては不便そうですけど。

無言の問いに大母様は軽く頷いて答え、触手の使い魔は私と主人の二人に絡みつき、そっと持ち運びます。
大母様が何か呟くと、その指先に蝋燭より少し明るい光が灯り、宙に浮かびました。
人魂というよりは光の精ですか? 飛んでいる様子は明滅しない蛍のようです。
あいにく私は本物の人魂というものを見たことがないので、地球のものとは比較できません。
前世で自称目撃者に聞いた話では、地球の人魂ってお盆の高速道路渋滞車輌列なみに五月蠅いそうです。


そして私たち二人と一匹は半ば開いたままの扉をくぐり、穴の中へと降りていきました。


扉の下は、広い空間でした。下手なドーム球場ぐらいあるかもしれませんが、暗いせいもあって、端が何処にあるのかも分か
らないので正確な広さは不明です。

‥‥臭いますね。獣臭い体臭と、焚き火の煙と、腐りかけた果物やその他の食べ物の臭いがします。あと糞尿の臭いも。
声が聞こえます。豚のものに似ている、下っ端オークの声とそして猪たちの鳴き声が。

降りて行くにつれて目が慣れてきたのと焚き火など地面の明かりで、近くの物が見えるようになりました。
古びたガラクタと残骸が所々に山を作っていて、その陰や隙間で下っ端オークたちと猪たちが暮らしているようです。
ちょっと昔の英国映画でよくあった描写を思い出しました。戦災孤児や浮浪者が瓦礫を利用した小屋や小屋未満の物陰で暮ら
している姿を。
V1ミサイルが昼夜の区別なく降っていた時期のロンドンで少年時代を過ごした監督の作品だけあって、戦時下の生活描写が
怖ろしくリアルでしたよねえ。あれはハ○ウッドには出せない味でした。



つまり、ここはあの場所ですか? オーク達の建国伝説で女神の化身が降臨したという、あの。

よく見るとここに積まれている残骸は金属や陶器や石など素材の違いはありますが、形はよく似ています。
車輪が幾つも付いた箱のようなもの、中身ががらんどうな人型のもの、細長い手足を生やした潜水球のようなもの‥‥。
素材や大きさや形などはそれぞれに違いますが、数系統に分類できる残骸が積み上げられています。

なるほど、やはりここは元ゴミ捨て場か。
「鉄の王」のゴミ捨て穴にいたオーク達は、ゴミ捨て場に放された生ゴミ処理用生物だったのです。
ネズミや蝿と違ってオークだけならゴミ穴の中で増えたりしませんし、下っ端オークは大概の物は食べてしまうのです。

現在のここは、猪小屋? そして下っ端たちの居住区ですか?
あちこちにある焚き火の周りに豚頭の人影が蠢いています。暗視の得意な彼らには私たちの姿がよく見えているでしょう。

地球でも貧農などが家畜と同じ所で寝起きすることは珍しくありませんでした。現代日本でも犬猫のたぐいと同衾している人
は大勢います。
ウチの巣の下っ端たちも猪親子と一緒に寝てましたし。
あれ、止めて欲しいんですけどね、見張りの詰め所で寝るのだけは。見張り当番の下っ端もつられて寝ちゃうから。




そして、元ゴミ捨て場の中央らしき、一番地面が低くなっている所に大母様は降り立ちました。
私はその斜め上方向、高度10メートルぐらいの位置にブランコに乗るような格好で留まっています。

「ブギ」

見れば、暗がりからよちよち歩きの幼児オークが出てきて、大母様に近寄ります。
大母様はとろけるような笑顔で、胸に飛び込んでくる幼児オークを抱きしめました。

あれ? あれは赤ちゃんではないような気が。人間で言えば二歳ぐらいかな?
ひょっとしてオークって赤ん坊の時期が凄く短いとか?
有り得ますね。一年で15歳程度まで育つからといって、三ヶ月で5歳とか半年で7.5歳とか均等に成長しなくてはならな
いと決まったものでもないでしょうし。
いや仮にそうだとしても一ヶ月で1.66歳ですよね。産まれたのが20日前だとしても一歳児程度に育っている可能性があ
ります。人間でも一歳過ぎなら歩ける筈。

そうか、オークって生後2~3週間で歩けるようになるのか。手間暇的な意味では、子育ての苦労は少なさそうですね。


暗がりの中で一つになった母と子の影を見下ろしながらぼんやり考えていると、周り中からオーク達が集まってきました。
ざっと十数名、殆どが下っ端オークですがちらほらと下っ端ハーフオークの姿も見えます。

座っている大母様と対面する方向へ、16人の下っ端達が集まっています。
外周というか、この穴の中にはもっと大勢のオークがいる気配がしますが、他のオークたちは近寄ってきません。

16人? うん、ぴったり16人いますね。何度数えても。暗いけど数えるのに苦労する明るさじゃありません。
15人でも17人でもなく、16人のオークが集まっています。
まるで「満員だ」とでも言われているかのように、他のオーク達は距離を取っていて、近寄りません。

でも離れた場所から母子と下っ端オークの集団を見つめています。


けぷっ とゲップにしては可愛らしい音を立てて、お腹いっぱいになった幼児オークが母の乳房から離れます。

そしてしばらく親子の語らいというかスキンシップ混じりのやり取りが続いてましたが、幼児オークは寝てしまいました。
動いてるときも可愛いですけど、寝顔の可愛さもまた格別ですねえ。
大人の夫達でさえ可愛く思えるときがあるのですから、可愛い盛りの幼児オークの可愛さと来たらもう反則ものです。
ああ、触りたい、抱きしめたい、すりすりしたいっ。ウリ坊も可愛かったけど更に数段上の可愛さです。

私は元男ですが、男だって可愛い猫とか縫いぐるみとか見たら触りたくなるのも当然じゃありませんか。
哺乳類は小さくて柔らかくて丸っこいものが好きなんですよ本能的に。そういうものを見ると可愛がりたくなるんです。
万人恐怖とまで呼ばれた足利義教公も、カルガモの雛が見たくて暗殺現場の赤松邸までホイホイ出かけちゃったんですから。


眠り込んでいる幼児を、使い魔の触手がそっと抱えて運んでいきました。
近くの暗がりに、オークと猪たちが雑魚寝している洞窟のような空間があります。壊れた人型ゴーレムの外板らしき屋根の下
に運ばれた幼児オークは、藁の上で寝ている猪たちに寄りかかって眠り続けています。

番犬ならぬ番猪でしょうか? 地球と違ってペットと乳幼児を一緒に寝かせていても大丈夫みたいですね。
よく見ると周り中で子供オークや赤ん坊オークが猪たちと一緒に寝ています。
大人オークの一部も一緒に寝ていますが殆どの大人達は起きていて、大母様及び対面している16人のオークたちを見つめて
います。


おや、大母様の様子が変わってますよ? 顔つきというか表情に変化があります。
神殿で見せていた大神官としての顔でもさっきまでの母親の顔でもない、頬を染め目を潤ませた、女の顔になってます。

そして大母様、いえ薄物一枚だけをまとったエルフ女は足を組み直して16人のオーク達へ向き直って正座して、ぴんと伸ば
した背筋を折り曲げ、土下座しました。
ジャパニーズスタイルですけど、元日本人の私ですら見たこともないくらい美しい動作の平伏です。

「お待たせいたしましたご主人様。今宵もこのはしたないエルフ雌に、お情けを掛けて下さいませ」


あ、大母様共通語(コモン)喋れるんだ。
そりゃそうですよね、大神官なら喋れない方がおかしい。発音とかソーニャさんより上手ですよ。

なるほど。誰が父親かと思ってましたが、答えはこれか。
あの幼児オークは、この乱交‥‥じゃなくて17人同時プレイと同じような経緯で孕んだのですね。


えっと、始まってしまいましたけど、私はこのまま見続けなきゃいけないんでしょうか? これをずっと?
それは勘弁して欲しいのですが。本気で。






[38600] 29
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/03/26 12:36


 ☆58日め19、そですりあうもたしょうのえん☆


こんばんは、オーク島に現在十数組か二十数組は居るはずのほやほや新婚さんの一人、レイちゃんです。
いま私は、神殿の廊下を小走りで移動中です。

ここは本殿の一般区域。つまり参拝者や交易商、警備の戦士たちがいる区域なので女の一人歩きは危険なのですが、やむを
得ません。
我慢できないのです。
生理現象ではありません。もっと精神的というか、情動的な欲求です。


オーク族と人間は、生き物として見れば殆ど同じものです。なので間取り的に宴会場に向いている場所で大勢が集まって
騒いでいるならそこが宴会場と見て間違いないでしょう。向こうからお酒と食べ物の匂いも漂ってきてますし。

やはりここが宴会場でしたか。100人‥‥はないにしても四捨五入すればそのくらいのオーク達がいますね。

「グヒッ」「「グヒィー!」」「グッグッ」

大理石の床に車座になったり、あるいは一対一の差し向かいで飲み食いしているオーク達が入り口方向へ振り向きますが、
私が探しているオークたちの顔はその中にはありません。

「レェ・ウォス!」

でも一人は直ぐに見つかりました。ウォスは無闇に高い宴会場の天井にいます。
天井の梁や天板部分に彫られた彫刻や装飾を手がかり(指がかり?)にして、公園のウンテイや吊り輪の遊具で遊んでいる子
供のように動き回っているのです。ゲーム画面中のイタリア系髭面配管工なみの速度とせわしなさで、ですが。

察するに、宴会芸の真っ最中ですか? 平均的なオークよりも更に丸っこい、むっちりとしたボディが手長猿も顔負けの軽
やかさで舞っています。まさに動けるデブ。
いえ、推定体脂肪率で言えば二割未満なんですけどね。三人の中で一番太めなウォスであっても。

「ドウシタ」

ひらり、と宙を飛んでウォスは目の前に降り立ちます。昼間よりも更に動きがよくなってきてますね、やはりあれはまだ病
み上がりというか昨夜の怪我が残っていたのですか。
幹部オークの頑丈さと生命力は人間の常識が通用しません。

「ゴォ・ドスは?」

ウォスが視線を向けた先、宴会場の奥ではオークの人垣ができていて何やら騒いでいます。ウォスの肩に担いで貰うと、
ドスがやたら大柄なオーガ戦士と殴り合っているところでした。
こっちは喧嘩ですか、まったくもう。
素手同士ですし、周りの様子からして本気じゃなくて宴会の余興っぽいから大丈夫かな?

体重で倍近くありそうな対戦相手でしたが、一定距離を保ちつつ連打されるドスの右順突きをどうしてもさばけず、殆ど一方
的に殴られ続けて倒れてしまいました。
うん、駄目だ。相手になってない。
スピードとパワーはともかく、技と術と感覚と洞察力と器用さと闘気法の精度とその他の色々なものが違いすぎます。

目を回して伸びている巨漢オーガが仲間に引きずられていって、次のオーガが出てきました。背は前のオーガよりも頭一つ分
低いですが、肩幅はむしろ広いですね。
見るからに強そうです。体格よりもその表情や仕草から、前のオーガとは格が違うのが分かります。
ただ、顔も身体も傷だらけなので防御は下手なのかもしれません。人間なら間違いなく致命傷の傷跡が10以上あります。
細かな傷は数えきれません。逆に言えば、それだけ怪我をしても生き延びてきたからにはとんでもなく打たれ強いのでしょう。


「ゴォ・ドス!」

真打ち登場に観衆は盛り上がってますが、私には関係ありません。
私を肩に乗せたウォスが歩いていくと、オークの垣が二つに割れました。

現場まで行ってみれば、宴会場の端で数人のオーガたちが身体のあちこちに拳痣を作って伸びています。
なるほど、勝ち逃げは許さないのですね。ドス、何があったか知りませんが貴男頑張りすぎですよ。

ウォスの肩から降りて、喧嘩現場に入ります。
見渡せば残るオーガは四名、一人は怪我人なのであと実質三人か。残る三人を殴り倒すか逆に倒されるかしないとドスは解放
されないでしょう。
冗談ではありません、そんなに待てるもんですか。

「オンナ、ノケ」

割り込んできた私に、傷だらけのオーガが凄んできましたよ。 


ああん? やんのかコラ やるなら本気で殺るぞ?
無限袋の中に手を突っ込んで睨むと、傷顔のオーガは下がっていきました。
本日分の呪文はあと三回残っているのです、彼が引き下がらなければ容赦なくフォースブレッドを放っていたでしょう。

もちろんオーガに硬式野球の球程度の威力をぶつけて効くわけありません。
だから無限袋から引き出した竹鞘の中身をフォースブレッドで撃って飛ばしてやるのです。何かに使えると思って拾っておいた、
折れたのを含めて毒銛三本と毒矢四本、この距離なら全弾命中させてやりますとも。

もし闘気法で毒飛礫を防げるのなら、ソーニャさんへの贈答用にとってある焼酎の瓶を出して打ち砕きます。
ちょうど向こうの壁に火の付いた松明が刺さっているので火種がいりません。
いくらか効果が弱まっているけどまだ使える毒銛が一本、別の鞘に入れたのを残していますから、火達磨状態に速攻を仕掛け
れば半分は仕留められます。残りのオーガを殺れるかどうかは運しだいですね。
あのバケモノのそれと比べればオーガたちの防護闘気は薄い。虚を突けば私でもかすり傷ぐらいは付けられます。


オーガ側のリーダーらしき若いオーガが出てきました。オーガとしては小柄ですがこちらも全身傷だらけで鍛えまくった身
体しています。顔つきが人間っぽくて表情読みやすいので、ハーフオーガなのかもしれません。
ん? 彼の向こうにいるのは見覚えのあるウサミミさんではありませんか。
前見たときより心なしか若返っていて、しかも明らかに美人になってますが本人です。間違いありません。
すると、こちらさんが噂の旦那様? 若リーダーを心配そうに見ていますし間違いないでしょう。

中止中止、毒弾も火付けも中止。やっと幸せを掴んだばかりのウサミミさんを、しかもお腹に子供ができたばかりの時期に寡
婦にする訳にはいきません。
元冒険仲間の巫女さんたちに聞きましたけど、結構重たい過去背負っているのですよ。彼女は。


若いオーガリーダーはそんな私の様子とドスの顔を交互に見ていましたが、やがて苦笑らしき表情を浮かべました。

「わるかっタ、おまえのよめ、いいよめダ」

訛った共通語(コモン)で言い、そしてぺこりと頭を下げます。
なんか「おれの嫁ほどじゃないけどな!」という副音声が聞こえてきそうな物腰ですが。

「ワカル、ヨシ」

ドスが謝罪を受け入れて一件落着です。
伸びているオーガたちは殴られ損ですが、気にしないことにしましょう。
嫁自慢がこじれただけなのに部外者が割り込むからこうなるんですよ。
そもそもの原因はそれですよね? のろけ合戦が変な方向に逸れて、それに喧嘩したくてたまらないのが便乗したと。


「「ルェイ、ドウシタ?」」
「えっとですね」

当然ですが人伝えで夫達を呼び出さずに、私が一人でここまで来た理由を訊かれました。
周り中が注目して、聞き耳立てている状態で言うのは恥ずかしいですが、女の方から言わないとこの変態紳士どもは何もして
くれません。だから言うしかないのです。

「ワタシ、ダンナサマ、ホシイ。フタリ、カワイガル、オネガイ」


しん とその場が静まりかえります。


「「グヒィー♪」」「ウォッフ!」「グヒッヒッヒッ♪」「「グヒー」」

たどたどしく微妙に間違っているオーク語のおねだりを聞いた周りが手を打って囃し立てます。

そして夫達は周り中の「もげろ」コールを浴びながらお姫様抱っこで私を抱えて、宴会場隣の小部屋に入っていくのでした。
運ばれるときにウサミミさんと目が合いましたが、彼女は笑顔で手を振って見送ってくれました。
その手首に填っていたのは、ソーニャさんが賭けた腕飾りです。あれは分配されてウサミミさんのものになったのですね。
うん、やっぱりお宝配っといて良かった。




 ☆58日め20、ひとのゆめ☆



これは夢です。電波と断片的な記憶と情報の塊を、私の脳が物語風に組み立て直した夢物語。


今からざっと145年ほど前、そしてその数十年前からもこの島は西方文明の植民地でした。
幾多の原住民達は殆どが殺され、僅かなコボルド族が火山近くの洞窟にひっそりと隠れ住み、オーク達は農園や鉱山で使い捨
ての労働家畜として働かされていたのです。

その日、この城の地下ゴミ処理場に一人の奴隷が落とされました。
戦地で捕虜にされてから数十年、調教を繰り返されて自我が危うくなってきたエルフ女が生ゴミとして落とされたのです。
流れ流れてのべ数十人の主人に玩ばれた結果、雌奴隷としても使い物にならなくなり、最後の主人にも不要品として捨てられ
た彼女はすぐに死ぬはずでした。
たまたま落ちた場所に柔らかいものが積もっていたとしても、手足を切り落とされ「人豚」にされていた彼女がごみための中
で生きていける訳もありません。

「人豚」について知りたい人は「呂大后」で調べてみてください。


ですが彼女は生き延びました。ごみための中に蠢くオークたちに飼われて。

伝説とはしばしば尾鰭がつくものです。
酒場で頓死した大酒のみのほら吹きが、その法螺話が語り継がれていくうちに一端の錬金術師になり、高名な魔術師になり、
ついには究学のあまり悪魔に魂を売った大賢者として戯曲の主人公になったりします。
でも伝説には必ず核となる部分が、真実の欠片があるのです。

この島の建国伝説にも、核があります。奇跡は本当に起きたのです。
20年の長きにわたって、自分自身が明日をもしれない身であるオークたちは奴隷女を守り続けたのですから。

自分達が長く生きられないからこそ、オーク達は目の前のエルフ女に生きていて欲しかったのかもしれません。
自らの代わりに、命を紡いで欲しいと願って彼らは身も心もぼろほろの雌奴隷を慈しみ続けたのです。
毎日投げ込まれるゴミの中から最良最上のものを選んで、足りなければ自らの血肉を削ってまで与え続けたのです。
廃棄され投げ込まれるオークの数が増えすぎてしまったときは、オーク達はクジを引き、あるいは自ら進んで「鉄の王」配下
が戯れに放つ矢玉の的になったのです。

牢獄の中で囚人が手枷足枷を付けたままできる運動を繰り返して身心を鍛え上げるように、20年の歳月の中でその雌奴隷
は自分を造り替えました。
長命種の彼女には長年の奴隷生活のなかで何重にも「呪い(カース)」や「強制(ギアス)」が掛けられていましたが、その隙
間をかいくぐって出来ることを一つ一つ増やしていったのです。

例えば、彼女は奴隷の心得としてゴミ穴に投げ込まれる遙か前から、オークに文字や知識を教える事を禁じられていました。
でもその強制(ギアス)は、「独力で知識を身に付けたオークを誉める」ことは禁じていなかったのです。
オーク達は可愛いエルフ雌が喜び、誉め、励ましてくれることを懸命に考え、行っていきました。
その努力は、経験と知識は着実に受け継がれていきました。
新入りから次の新入りへ、より強くより賢くより巧みに、オーク達は淘汰されていったのです。ごみための中で。

20年の年月の中で、オーク達は研ぎ澄まされていきます。
彼らには希望がありました。ゴミ同然の彼らにも神が、信仰の対象ができたのです。
オーク達は彼らの、彼らだけの女神を崇拝しました。残忍酷薄な主人に棄てられたエルフの雌をその化身に見立てて。

その献身はやがて実を結びます。オーク達に全てを委ね、全てを与えられ、心を通じ合わせたエルフ奴隷は信仰に目覚めます。
平たく言えばオールクゥス神の声が聞こえるようになったのです。
毎日の辛く苦しい生活の中で、オールクゥスの尼僧となったエルフ雌は少しずつ少しずつ力を蓄えていきました。
切り落とされた手足を、封じられた精霊術を、なによりも心を、縛り付けられていた心を取り戻したのです。

ゲーム的に言えばレベルが上がって強力な信仰呪文を使えるようになっていったのですね。その力で一つ一つ問題を解決して
いったのです。そしてゲームの中だと強制(ギアス)を始め呪い系の呪文は、レベルが上過ぎる相手には効きません。
この世界の魔法システムでも、例えば黄色トログロダイト呪術師の呪い(カース)はソーニャさんには絶対に効かないのです。

‥‥うーん、集団で同時に呪文唱えて威力を上げる技法とか、増強用のアイテムや技能を使うならちょっとは効くかも?
ソーニャさんならその手のものにも対抗手段用意しているでしょうけど。
過大評価じゃありませんよ? 一流冒険者しかも単独行動主体なんて、バケモノが逃げ出す級に強くて用心深くないとやってら
れません。


オークたちの命を吸って生き続けたエルフ女は、遂に呪いに打ち勝ちました。全ての強制(ギアス)は解除されたのです。
その日から、彼女のご主人様は西方文明の総督や魔術技師団ではなく、ごみための中のオークたちになりました。
それが今から125年前のことです。


私が、今は私の巣になった場所に居候することに決めた次の日。
半ば廃人状態だった人形を整え直し飾り立てたとき、グェスたち三人は涙を流して感動し、抱きまくら人形を女神像にしてしま
いました。
あれは、この事件の再現と受け取られたのです。不具となった女神が輝くような美しさを取り戻し、微笑む姿が。
ウチの巣の幹部三人は、当代の主力メンバーです。今戦争になったとしたら招集される戦士達のうち上位百名の中に必ず入って
ますから。
三人の夫達が伝説の真相というか、核部分について知っていてもおかしくありません。

地球の江戸時代でも、三河松平家の始祖が甲斐武田家の分家で清和源氏の流れ、というのが大嘘なのはちょっと学のある武士な
ら誰でも知ってました。
いや、自称新田家の分家でしたっけ? どうでも良いけど。
伝説と事実は違います。でもオーク達は違うと知っていますが敢えて区別しません。
彼らの精神世界は古代か原始のものですからね。伝説は伝説として尊ぶことができるのです。


こうしてオールクゥス神の大神官(ハイプリーテス)となった雌奴隷は、密かにゴミ捨て穴から脱出しました。
あとは伝説とほぼ同じです。それから更に20年あまりの時をかけて戦力を整えたオーク解放軍は、西方文明の艦隊がトカゲ帝
国海軍に大敗したことを好機と捉え決起したのです。



「それで、大母様は全てのオークの奴隷になったのですね」
「ええ、あれはそれが償いだと信じているのです」

目の前にはお馴染みの女神様がいます。だからこれは夢。私の見ている夢です。
現実世界の私は、夫達と一緒に川の字で寝ている筈。
夢の中で女神様と私は、触手くんではなく大きなブランコに乗って大母様と16人の一夜夫たちの絡みを見ているのです。


大母様と呼ばれるようになった奴隷エルフ女は、独立戦争後この島に宗教国家を組み上げ、大国の動向や都合次第であっさり
崩壊するかもしれない中を慎重に慎重を重ねて教団を育て上げてきました。
のべ数百人の命を捧げられて生き延び、それ以上の命を独立戦争に捧げさせたからこそ、止める訳にはいかないのです。

誰にも侵されず侮られることもない、オークと女奴隷達の楽園。
それが彼女の夢なのです。近づくことはできてもたどり着くことは決してできない理想の楽土。
オークの屍を積み上げることで楽土に近づくなら、せめてその死に甲斐を得て欲しいのですね。だから大母様は生き残り戦に
参加するオーク達に一月の間奴隷として仕え、その子を孕むのです。


「あのオークたちが、明日の生き残り戦に出るのですね」
「そうです。十五名の命が失われますが、六人の女が新たな命を宿します」

いつのまにか、下のエルフとオーク逢い引き肉団子の傍に五人の新入り巫女さんたちがいました。
実際には触手使い魔が一人ずつ上から降ろしていったのですが、夢なのでその場面は省略されてしまったようです。
ええ、五人はあのジャグジー風呂に入っていた巫女さん達です。

全裸の巫女さん達は、大股開きや、M字開脚や、四つん這いになってお尻を突きだした雌犬のポーズなど思い思いの姿勢で、
オーク達を「ご主人様」と呼んで誘惑します。
そしてオーク達はそんな巫女さん達にのし掛かって歓喜の声をあげさせ、思う存分蹂躙して嬉し涙を流させます。
巫女達へ主人として君臨し支配して屈服させ、やがて幸せそうな顔で失神する彼女達の腹に命を植え付けるのです。

オーク島の巫女はオールクゥス神の妻。そしてオークはオールクゥスの申し子であり現世の写し身。
つまり巫女にとって全てのオークが愛する夫でありお仕えするご主人様なのです(※ただし一人前に限る)。
逆に言うと全てのオークを夫として愛せる女でないと巫女には向いていないのですね(※ただし一人前以外は眼中になし)。


生き残り戦の前に、出場枠が複数有るならその枠一つにつき六人の巫女が出場するオーク達に嬲られ、子を宿します。
今回は大母様が孕んでないので巫女さん達は五人ですが、先月などのように大母様が既に孕んでいる場合は、追加の巫女さん
達が六人になる訳です。一人のオーク戦士が生まれるのと引き替えに最低六人は子供オークが仕込まれるのです。

つまり先月は生き残り戦二回分で計12人の巫女が孕んだことになりますね。
ええと、年間平均100人以上の巫女が出産している計算になりますが、それで良いのかな? 
妊娠から出産が半年程度だから、巫女が250人もいれば産みながらでもなんとか神殿を切り回せるでしょう。

いや、もっといる筈です。神殿では大母様以外に大きなお腹の巫女を見かけません。
まだ腹の膨らんでいない妊婦巫女の半分が普通に働いているとしても、残り半分の妊婦巫女は大きなお腹をしている筈。
となると動きづらくなった巫女さん達は、神殿奥の専用区域にいるのでしょう。
ですよねー。神殿の周りに広がっている元農地って異様に広いですから、千や二千の人口なら楽々と養えるでしょう。
単純に考えれば椰子類とイモの実の樹が合計で一万本有ればそれだけで足ります。
そのくらいは神殿周囲に余裕で生えてますし。


生き残り戦に出場する下っ端オーク達は、巫女さんたちの腹にいる子は自分の種だと信じて死地に向かうのです。
そういえば地球でも、出陣する前の兵隊さんをそっち系のお店に連れて行く習慣のある地域とかありましたよね。
その手の発想がいきすぎると、現代日本でならランドセル背負う前の年齢なのに処刑される理由を作るために強姦された
ローマ皇帝の娘たちみたいなことになりますけど。



「ねえ女神様、これをどうしろって言うんですか? どう変えろと?」
「何も変わらない。というのも変化の一つですよ」

そりゃまあ、現状維持だって少なからぬ労力が要ることぐらい分かりますけど。
オーク達に抱かれている大母様はとても幸せそうだけど、不幸だ。私の基準で言えば間違いなく。


「レイ。我々は何も望んでいません。期待しているだけです」
「え? なら神像の件についても?」
「この件に関しては、です」
「ですよねー」

期待されても、ねえ。私に何ができるのでしょう。
あー そうか、グェスたちが生き残り戦をなんとかしたいと思っているのは、このせいでもあるのか。
下っ端オーク達をどうにかしたいというのは、同時に大母様をどうにかしたいってことでもあるのですね。
気持ちは解ります。大好きなオーク達を死なせ続けることしかできない大母様と嬉々として死にに行くオーク達のどちらも、
見ていて楽しくなれる姿じゃありません。

大母様は良い統治者です。少なくともオークとその妻たちにとっては。
ぶれない、迷わない、へこたれないのは、統治者としてならその逆よりずっとずっと優れた要素です。
でも悩みがないのとは違うはず。彼女の抱えた悩みをどうにかしたいという気持ちはよく解ります。
私にとっても大母様はお姑さんのお姑さんみたいなものですからね、少なくとも数十代前にはそうなっていた筈です。
嫁としては姑と仲良くしたいですし、その悩みを解決できるものならば‥‥。


ふむ。どうにか、できるかもしれません。
私の知恵や力などたかがしれていますが、問題を問題と認識できる元異世界人の着眼点が期待されているのです。きっと。

自分が不幸だと気付いていない人を、気付かせないまま救う。
できなくはないと思います。
オーク達は100年以上前に奇跡を起こしました。不可能を可能にしてみせました。
私たちにも出来るはずです。





 ☆59日め、新しい朝が来た☆


ゆうべはおたのしみました。

地球には「結婚式は花嫁の一番幸せな日」という式場の宣伝文句がありましたが、今まであの言葉の意味を誤解してました。
式当日が幸せの絶頂で、あとは相対的に不幸になっていくだけ。ではなかったのですね。
花嫁さんは翌日から新妻という、もっと幸せな生き物にクラスチェンジするのですよ。

昨夜、大母様+巫女さん達とオーク16人の乱交嬌宴を見て聞いて嗅いで、すっかり当てられてしまった私は宴会場に乗り込ん
で夫達に「かわいがれ」とお強請りしてしまいました。
いやもう、あれだけ見せつけられるとは思いませんでしたよ。お陰でオーク肌が恋しくて堪らなくなっちゃって。
いまの私には、三人の夫達限定ですがオークと肌を重ねることへの躊躇いが全くありません。気恥ずかしいので自分からあまり
過激なおねだりはできませんが、夫達に望まれたら何でも許してしまうし、してあげたいと思います。上手下手は別として。


仕方ないですよね、私はもうオーク妻なんですから。エロモンスターの真心にとろかされてしまったのですから。
情熱と誠実以上のMC(マインドコントロール)要素なんて、この世にありはしないのです。

で、昨夜は二人がかりでじっくりたっぷり可愛がって貰いました。
ええ、昼間は口付けだけで降参してしまいましたが、夜は口付けしながら胸を弄ってもらったのです。

もう本当に二人とも上手くて巧くて。美味しかったです、オーク唾液も舌も唇も。
ほら、初恋の頃って好きな人の姿を見ただけで胸が高鳴って、幸せな気分になれるでしょう?
その愛しい人がふたりがかりで、優しく情熱的にキスしたり触ったりしながら「大好きだよ、一生離さないからね」とか
囁いてきたら、頭が沸騰しちゃっても仕方ないじゃないですか。

あー 恥ずかしいっ。宴会場まで聞こえていたでしょうねえ、この部屋の扉は床下に隙間あるし、防音なんて考えられてません。
外の音が私の耳に聞こえていたからには、オークの耳に私たちのやり取りは筒抜けだった筈です。
どんなことを口走っていたか、具体的には言いたくありません。聞くな、武士の情けで。

お前は武士じゃないだろうって? ごもっともです。
ではその一部を抽象的に言いますと、ドスに右乳首を吸って欲しいと赤ちゃん言葉でおねだりして、吸われながら、将来母乳
が出る身体になったら子供が満腹なかぎり、いつでもどこでも飲ませてあげることを約束してしまいました。 
もちろんその間、ウォスの口は私の左胸に吸い付いたままでした。どうもウォスはおっぱいの星の下に生まれたおっぱいエロ
モンスターのようです。

そんな感じで、ゆうべは何度も何度も可愛がって貰いました。
鳩尾から上だけを手加減して触って貰っただけなのにこれですからねー。
三人がかり全身くまなく手加減抜きでだと、いったいどうなってしまうのやら。




それにしても し あ わ せ だ な ー 。

今朝の私はドスとウォスの二人と一緒に寝ています。全裸で。
訂正。
火炎耐性付きの首飾りを装備しているので、全裸ではありませんでした。ほぼ全裸です。

いやもう、前からやってみたかったのですよ、裸になって同じく裸のオークに添い寝するの。
薄布の肌着姿で触れ合ってこんなに気持ちよいなら、素肌それも全身でならどんなに良いんだろうって。
だから試してみたのです。
昨夜は二人の夫オークと川の字になって、肉布団に挟まれて寝たのですよ。


感想ですか? 最高です。
オークの産毛の感触を素肌で感じつつ、オークの体温に包まれて、オークの鼓動を聞きながら寝る。
私はこのためにあの羅刹場を乗り切ったのだと断言します。これだけのためじゃないけど。
あとはグェスもいれば完璧なのですが。

ああ駄目だ。思考回路が万華鏡で分速90回転してます。
うん、私ぼけてる。色ボケ状態です。新婚なので仕方ありませんが。

ちなみに私たちが寝ているベッドはスポンジもどきを縛って形を整えたマットに麻布のシーツを被せたものです。
この部屋は冷暖房用の設備がないので、気温は外と大差有りません。
裸でも三人で寄り添っていれば毛布や毛皮はいらないのです。抱き合って寝ていると丁度良い温度ですね。


意識がはっきりしてきました。完全に目が覚めたようです。
オーク達はまだ微睡んでますね。疲れているのかもしれません。

昨日は結構なハードスケジュールでしたからねー。なによりも、あの激闘からまだ丸一日過ぎてません。
二人には今だけでもゆっくりしてもらいたい所です。


寝台の横に立ててある衣装掛けに、三人分の服というか毛皮が一つと腰ミノが二つ掛けられています。
もちろん私たちのものです。つまり私だけでなく、ウォスもドスも装身具以外は何も身に付けてない裸な訳で。

大人のオークが腰ミノを付けていない場合は二つだけ。死んで身包み剥がされたときと、お嫁さんと寝るときだけです。
お風呂? 入浴用腰ミノ付けて入ってますが何か。
二人‥‥いえ、ウチの巣の幹部三人のお嫁さんは私だけですから、グェスたちの腰ミノを外せるのは私だけなのです。
なので、それぞれの腰ミノの外しかたを教えて貰ってます。

オークの腰ミノは結び目が解りづらい構造になっているのですよ、この島にだって雄を好んで襲い精気を搾り取ろうとするエ
ロモンスターはいるので、その用心です。
まあ、そんなのと頻繁に出くわすことはないにしろ、巣に置いてきた「踊り子の腰ミノ」みたいに戦闘中突然外れてしまうと
厄介ですからね。そう簡単に結び目が解けてしまっても困ります。


ああ、幸せです。生きていて本当に良かった。
何回でも言います。幸せです。
多分ですが、私は三日後でも同じ事言ってると思います。生きていて良かった、お嫁さんになれて良かった、と。
ほんとうにくつろげるなー。
いつか襲われるとドキドキしながら一緒に寝るのも良かったけど、いまの安らぎには替えられません。
神殿に泊まっていてこれなら、我が家でならもっと安らげるのでしょうか。


ん。

ドスの手が動いてます。寝ぼけているのかな?
その、夢見心地な彼が左手で撫で回している場所は、私の腰というかお臍の下数センチを中心にしたあたりでして。
珠を愛でるように、とはこういうのを表現するのでしょうか、宝物を扱うように私のお腹を撫でてます。

こ、このエロモンスターめぇ♪ いいですよ、もっとやりなさい♪

ウォスに乳首を吸われたときもグェスと口付けしたときも思いましたけど、こいつら反則(チート)です。
何かズルしているとしか思えないぐらい、触られると嬉しくて幸せで気持ちよいのです。
もちろんそれだけではありません。
この世界の神々あるいは他の誰かが与えてくれた加護で、第六感が人間離れしている私には解ってしまうのです。
ドスが、どんなに私のことを好きで、大切に思っていてくれているのかが解ってしまうのです。

これが女の喜びというものなのでしょうか。
この人(オーク)の子供を産んであげたい。そう素直に思えます。私は男だけど。

いえね、女の子に転生したと思うからいけないのですよ。だから悩む羽目になると気付きまして。
私の自我は転生前から殆ど変わっていません。
そして今の私が精神的に男のまま、三人のオークを夫として‥‥その、好きなのは、前世から私は同性愛者であって、
たまたま前世ではそう気付く切っ掛けがなかっただけと考えるべきでしょう。
前世の私には、801系漫画やBL小説を「読め」と押し付けてくる腐った女友達や姉妹はいませんでしたからねー。
従妹はいたけどまだ幼稚園児でしたし。


つまり、私はこの世界に女の子として産まれたのではなく、好きな男の子供が産める超能力者に産まれたのだと考えれば問
題ないのです。
そう、私はリアル男の娘。
外見が女の子にしか見えない可愛い男の娘で、同性愛者で、好きな男の子供が産める特殊能力持ち。
そんなファンタジー生物なのです。

自分を「男心だけしか理解できない女の子」だと定義して女の子として暮らしていくよりも「男に惚れてしまった男の娘」
だと定義して男の娘として暮らしていく方が気楽なんですよ、私的には。




 ☆59日めの2、露骨な朝だ☆



凄かった。



何がって、ナニですよ。ほら、朝に起き上がるアレ。「神保さん stand up!」のあれ。
二人とも腰ミノ外していたからもう、モロ見えでした。

やっぱり私、同性愛者のようです。
あんなご立派なモノを見ても、敵愾心とか脅威とかを感じません。私にとってアレは敵や脅かすモノではなく、頼もしい存在
なのです。
そうかー オークのあれってあんなのなのかー。

は、恥ずかしがっちゃいけませんよね。夫婦になった訳ですし。
‥‥恥ずかしいわぁっ! 

あ、あんなものが、いえ前世の、つい二ヶ月前までは私にも類似品が付いてましたけど。
同性愛者の自覚がなかった前世では、それほど多くの類似品を見ていたわけではありません。でもそれらとオークのそれとが、
同じ範疇のモノであり似ているけど違うものであることぐらいは解ります。
具体的に言うと、アダルトショップで売っている電動だったり電動じゃなかったりするコケシ人形にちょっと似ているアレコレ
と比べると幾らか大人しい姿形をしています。
猫のアレみたいにトゲトゲだったり、豚のソレみたいにドリル状だったりはしませんでした。


あれを私は、あれしちゃうんですよねえ、近いうちに。

できるの?

前世の装備品が500ミリリットル入りだとしたら夫達のは2リッター入りサイズなのですが、ペットボトルで言えば。
直接触って調べた訳じゃありませんが、今の私の肘から先より長いし、握り拳よりも太いですよねえ。夫達の装備品は。
どうしましょう?


「で、何故それを私に相談しに来るの?」
「他に信頼できる人、知りませんし」

私の返答に、人気のない中庭でやっていた朝の稽古を終えて汗を拭っていたソーニャさんは呆れています。
いや、参拝やなにやらに来た嫁さんたちにも聞いてみたのですが皆さん「夫達に全てまかせなさい」としか言わないし。

「私だってそう言うわよ。たとえ致せなくても、旦那様たちはそれを承知の上で貴女を妻に迎えたのでしょう?」
「ええまあ、そうなんですけど」

物理的に色々無理があることは分かってました。体格自体、私とオーク達では幼児と相撲取りぐらい違いますから。
でも、金髪ちゃんとその旦那様は私たち以上に体格差がありましたよねえ?
なんとかなるのかな? なるかもしれません、彼らはエロモンスターですし。

エロスの力を侮ってはいけません。
これもコケの一念というのでしょうか、オーク達の変態紳士力こそが魔王に勝ったのですから。
もしもオーク達が下衆モンスターだったら、大母様は八つ当たりの的としてなぶり殺しにされ食べられていた筈です。

エロモンスターだからこそ可愛がって可愛がって、その心をとろかしてしまったのです。大母様が生涯を奴隷として捧げてし
まう程に。地球には「君主は国家第一の下僕なり」なんて言い切った苦難マゾヒズムの王様もいましたけど、彼女はオークの
奴隷であるために、奴隷の自分が安心してオーク達に仕えていられるために宗教国家を運営しているのです。

若い雄のエロパワーは時に想像を絶しますからねー、地球人類それも世界一淡泊だと統計結果が出ている日本人ですら。

私の夫達はオークで筋金入りどころか超合金級の変態紳士だし、心配要らないかな?
紳士だけど変態ですからねー三人とも。この島のオーク達は、オーク達の一部は女の子を女の子の側から惚れさせることに命
賭けちゃうんですよ。本気で。


あ、命がけで思い出しましたけど、まだソーニャさんへお礼言ってないや。

「先月はご指導ありがとうございました。お陰で命が繋がりました」
「それなんだけど、だいたいの所は聞いたけど詳しい話が聞きたいわ」

という訳で、一緒に水浴びしながらトログロダイト騒動について話しました。私の正体については省略して。

いえね、生命の粘土に触れてドラゴンの正体を知る → なぜか不意打ち失敗 → 精神面は負けてないので攻撃呪文が通じる
のではないかと思いつく → 紆余曲折の果てにドラゴン自滅。
という流れなので、私の素性について黙っていればバレる心配ないのですよ。
ソーニャさんの口が軽いとは思ってませんが、知る者の数を抑えることが秘密を守る秘訣です。完全に信用している訳でもあ
りませんし。


「それ、無理よ」
「え?」

話が石切場でトログロダイトの群に切り込む前のあたりに来た所で、突っ込みが入りました。
ソーニャさんの見立てでは、私は 死 ぬ と 蘇 生 で き な い そうです。レベル不足で。

一部のゲーム世界と同じで、この世界には復活魔法があります。いわゆる○オリクですね。
しかし、この手の魔法には色々と制限があります。
死体の損壊が酷かったり、死後時間が経っていたりすると復活の難度が上がりますし、そもそも対象に生命力や生きる気力がな
ければ復活できません。
そして、復活した者は衰弱します。ゲーム的に言えばレベルが下がります。
そうです。低レベルキャラクターである私は、復活時の衰弱に耐えられない可能性が高いのです。

「つまり私は、死んだらそれっきりですか?」
「可能性は半々ね、死んだままかアンデッドになるかのどちらかよ」

うわぁ。


あ、そうか。死んでも簡単に生き返れるのなら女神様が「最大の危機」だなんて言う訳ないですよね。
とびこえて はじめてわかる みぞのはば。レイちゃん心の一句。
現世への執着なら人一倍あると自負してましたが、確かに執着が強いと亡者(アンデッド)になる確率も上がりますよねえ。

するとこの髪は無駄切りしただけでしたか。せっかく伸ばしたのに。
ギュー・グェスの母上はヒルデニア出身で、長い直毛の黒髪なのだそうです。ええ、グェスは黒髪ロングヘア好きなのですよ。

まあ良いか。精々数ヶ月ずれこむだけだし。
夫オーク達が天寿を全うできるのなら、私の結婚生活はあと30年は続くのです。切るも伸ばすも、その時間の中で好きに出来
るでしょう。

なお水浴びの後で、ソーニャさんが左右の髪を切りそろえてくれました。これで見苦しくはなくなりましたね。




 ☆59日め3、死と再生☆


昼の決闘に出る準備に入ったソーニャさんと別れて、私はウォスとドスの二人と合流しました。
前と同じように軽く食事をしてから、闘技場へと向かいます。
ちなみに献立は市場で買った蒸し里芋もどきに、巣から持ってきたクジラ肉の燻製+蜂蜜。あと近所で採ってきた果物です。

開始まではまだしばらくありますが、既に結構な数の観客が入ってます。もっとも、入っているのは明るいところで大勢に見ら
れながらいちゃいちゃしている既婚者と、それを羨ましそうに見ている下っ端たちですが。
私たちは、最前列の升席に座ります。夫達二人は星10の戦士ですし、竜退治で名を上げてるので文句の出ようもありません。

あ、升席の端の壁際席にウサミミさんとその旦那様がいますね。二人だけで、父親と幼い娘のようにウサミミさんが旦那様の膝
の上に乗っています。
靴下脱いでるからウサミミさんの足の形がよく見えるのですが、綺麗な足してますねー。人間のとは違う形ですが、思わず触り
たくなるような造型です。

彼女達のように静かに甘々トークしている夫婦もいれば、激しく組んず解れつやっている所もあります。
私たちのすぐ後でお隣に来た金髪ちゃん達とか。

すぐ隣で見せつけるように、というか明らかに見せつけられてます。
具体的に言うと胡座をかいた旦那様の膝に金髪ちゃんが座っていて、お姉さんが妹の下腹部を触って、金髪ちゃんの皮膚と肉ご
しに旦那様のものを撫でさすっているのです。指で揉んだりもしていますね。
金髪ちゃんは旦那様とお姉さんに代わる代わる口付けして舌を絡め合っていたり、どちらとも口付けしていないときは切なげに
あるいは幸せいっぱいに喘いでいます。
旦那様は口と両手と三本目の足で二人の奴隷妻を可愛がっています。金8銀2ぐらいの割合で。

えーと、ほら、便秘のときに大腸のあたりを触ると固いものの手触りがあるでしょう?
あんな感じで、銀髪のお姉さんは妹の下腹とその中の固い物体に触っているのです。
自分の手で、可愛い妹と大好きな旦那様の二人を同時に悦ばせているお姉さんは、本当に嬉しそうです。
オーク相手には半端な、いえ余程の演技であっても通じません。彼らの鼻はアドレナリンなどの内分泌物の濃度すら嗅ぎ分ける
のですから。
旦那様が満足しているということは、銀髪さんは夫が妹に種付けしてることを本気で喜んでいるのです。


眼鏡の奥さんたちもでしたけど、仲良しさんですよねえ。
流石はファンタジー世界、ハーレムの有り様が地球とは大違いです。これはもう、旦那様がエロモンスターだからだけでは説明
しきれないかも? 元戦場捕虜の彼女達はトカゲ人や神殿に洗脳されてない筈ですし。

ちなみに眼鏡の奥さん達は、舞台を挟んだ反対側の升席にいます。彼女達の巣は新月の門前市へ早めに商隊を送って、早めに売
り尽くして店仕舞いする方針なのです。
今も升席で眼鏡の奥さんと「ずっこんばっこん」している旦那オークは星10の戦士で、席次は島全体でいうと40位以内へ確
実に入るぐらいでしょうか? なので升席に座る資格充分です。


私も彼女達のようになれたら良いと思います。グェス達が選んだ女の子なら、その子達が夫達の子を孕むことを我が事のように
嬉しく思い、共に喜ぶことが出来るでしょう。そうなれたら、それはとてもとても幸せな事の筈です。

ああ、そうか。そりゃ堕ちるわ。
人間は容易く堕落します。楽な方に楽な方にと進んでしまう生き物なのです。

金髪ちゃんやそのお姉さんや、二人に仕えていた侍女達が堕ちてしまうのは当然なのです。
魑魅魍魎が泣いて逃げ出す貴族社会で生まれ育った令嬢達が、貴族の体面やしがらみや妬みや諍いのない平穏で充実した暮らし
を一度味わえば逃げられる訳がない。

彼女達にとっては、人間として、女として扱われること自体産まれて初めての経験だった筈です。
私なんか平凡な小市民からお姫様扱いの落差で病みつきになってしまったのです。
道具ではない、人格を持つ存在として扱われた彼女達の衝撃はちょっと想像もできません。今も隣の席でいちゃいちゃしてます
けど、彼女達の旦那様もオーク島式の変態紳士ですからねー。紳士的かつ情熱的に捕虜達を可愛がってたことは確実です。

ええ、西方文明圏は地球の欧州に輪を掛けたような修羅の国々なのですよ。眼鏡の奥さんや神殿の女達の話から推察するに。
まして彼女達にはもう帰る場所なんてないのですから。
オークに負けて捕虜になった貴族の子女が居れる場所は西方文明圏にも東方文明圏にも、墓場の隅にさえありません。
今頃は乗組員と乗客まとめて難破して死んだことになっていて、領地も資産も親族や寄り親・寄り子が分配しているでしょう。


なるほど。
この島ではつくづく命が軽いのですね。容易く死に、容易く生まれ、容易く生き返り、容易く生まれ変わるのです。
女達が生まれ変わるからこそ、その主人となるオーク戦士も生まれ変わらなければならない。

私は今でも、いえ前よりも生き残り戦には反対します。効率の良さは認めますが、それ以外の取り得がないですから。
正確には、もっと効率が良くて感情やその他の点で納得のいく手段を見つけたいのです。
代わりの方法を見つける前に廃止しろとは言わないだけで。

生き残り戦には反対ですが、かといって今すぐ全てのオーク達にお嫁さんを行き渡らせる事はできませんし、やりません。
例えばウチの下っ端達が今すぐにお嫁さん貰ったとしても、寡婦が次々と増えるだけです。下手すれば、いえ確実にお嫁さんた
ちも次々と命を落とすでしょう。
ずっと洞窟の中に閉じこもっていて貰いでもしないと、お嫁さん達の命が幾つあっても足りません。


神殿がお嫁さん候補に武術や呪文などの戦闘手段を叩き込むのは、この島の生態系が危険すぎるからです。
かといってモンスターを完全に駆除してしまえば、トカゲ帝国などの列強が侵略してくるでしょう。
侵略されない為には国力が必要で、国力を上げるには人口が必要で、オークを増やすには人間(ヒュー)などの雌が必要。
嫁さんを安定供給するには外部との交易が必要で、嫁供給についてトカゲ帝国に依存しないためには大枚はたいて東方やヒルデ
ニアの海賊と取り引きするしかない。
一度に沢山の女奴隷を仕入れても受け入れる事ができないから、少人数の奴隷でも高い代金を払わないと海賊が儲からない。
だから質の良い奴隷に馬鹿げた高値を付けることで、数を制限しつつ交易路を保つ。
嫁候補の数を抑えることでオーク同士の競争意識を煽り、神殿の収益をあげ、溜めた財貨を交易に使う。
嫁を守り通せる強者でなければ嫁を貰えず、手っ取り早く強くなるには闘技場の生き残り銭に参加するのが一番早い。

社会構造の歪みって、指導部が有能で誠実でも、個々の現場が善意で動いていても発生するんですよねえ。
上から下まで腐りきった組織はあっという間に倒壊するから当然といえば当然ですが。
清朝チャイナやロマノフ朝ロシアの末期とか、笑えるぐらい壮絶ですよー。


フォンタジー世界でも、現実は手強いですね。
これを「どうにかできるもんならやってみろ」って言ってるんですよね、私に。大母様は。
だからこそ昨夜、しつこいぐらいご主人様たちとの絡みを見せ続けたのでしょうし。

オークや女達から聞いた話から察するに、この島のオークに変態紳士が多いのは大母様の影響でしょう。間違いなく。
彼女は息子や孫やその子孫達に「女はまず心を堕としてから抱きなさい(他に手がない緊急時は除く)」と教育しました。
その結果嫁さん達とらぶらぶちゅっちゅっな暮らしを体験したオーク達や、私の夫達のように産まれる前も後も母親に溺愛され
て育ったハーフオークたちは立派な変態紳士になっていったのです。

彼らはもう、殺伐とした生活には戻れません。一度コタツの魔力に捕らえられた人間が逃れられないように。
余所の、東方の僻地や西方の周辺区域で蛮族やっている同族達のように、エルフや人間(ヒュー)族と見れば襲い、殺し、奪い、
犯す‥‥そんな暮らしは出来ないのです。
だってそんなことしたら、特に理由もなく村や船を襲ったりしたら嫁達が悲しむじゃありませんか。

オーク達は人間と極めて近い、ほとんど同じと言ってよいぐらい似ている生き物です。
恐怖や苦痛にならともかく、快楽と安逸に耐えられる人間なんて居やしません。
だからこの島で生まれ育てば、オーク達は短気で単純な野蛮人ながらも優しく健やかな好漢に育つのです。
それがこの島で暮らす最適解なのですから。オークだって楽な方へ楽な方へ、楽しく嬉しい道に進んでいくものなのです。
人間やトログロダイトと同じように。

オーク島良いとこ一度はおいで。特に交易船と嫁入り志願者は大歓迎です。
ただし西方文明圏の船だけは別。そっちは警告抜きで襲撃します。文句があるならきちんと講和条約を結びましょう。
生憎とこの島は、未だ「鉄の王」の眷族と戦争中なのですよ。



生き残り戦が始まりました。鋼鉄製の武器を持った16人のオークがオールクゥス神の御名を唱えて舞台に上がり、全員揃った
ら最後の一人になるまで戦い続けます。

これで三回目。そしてこの一ヶ月で有った色々な体験があるので、今度こそ最初から最後まで見続けました。
死は嫌だ。殺すのも殺されるのも好きにはなれません。戦場的な意味で童貞を棄てた身ですが、やはり私には戦士の資質がない
ようです。

舞台で殴りあい切り付けあい刺し貫きあうオーク達の表情は妙に朗らかで、屈託を感じません。
そりゃあまあ、憧れの大母様や可愛い新入り巫女さんたちを何日も何週間も共同奴隷妻として可愛がって孕ませちゃったのです
から毒気も抜けているでしょう。
殺し殺される相手も気心の知れたハーレム仲間、同じ嫁さんを可愛がった共同夫同士。誰が生き残っても恨みっこ無しです。

なるほど、初めてこの儀式を見たときに、簡単に死んでいくと思ったのはこのせいですか。彼らなりの殺し合う理由が、その欠
片だけでも理解できた今はちょっとだけ印象が違って見えます。

たとえばこの生き残り戦にあまり関心をもっていない奥さん達ですが、それも道理なんです。
だって舞台の上の連中を、奥さん達が応援する訳にもいかないでしょう? 
夫でも巣の仲間でもない余所の雄、しかも神殿の一夜(期間限定)夫を応援する訳にはいきません。その権利があるのは大母様と
元ごみための下っ端オーク居住区で伸びている筈の巫女さん達だけです。
あと、その六つの腹にいる子供たちぐらいか。

今もまだ、オーク島の戦争は続いています。
戦争中だからこそ、この儀式が続いているのです。弱いオークを淘汰して強いオークを残すために。

この儀式に参加しない、したくない下っ端達は腰抜け呼ばわりされています。
ですが私はそのオーク達を、ウチの巣の下っ端連中を支持します。ハラキズ達は間違ってません。
自分の命の使い時ぐらい自分で選ぶのが真の戦士でしょう。命を惜しむのは臆病なんかじゃないのです。





[38600] 30
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/02/16 12:26



 ☆59日め4、やはり居るのですね☆


前回とは比較にならないぐらい冷静に観察できたので、生き残り戦の勝者は勝利が確定した瞬間にそれまでで負った傷が治って
いることに気付きました。
観客席から治療呪文が飛んでいるのではなく、儀式の締めとして祭壇からの魔力か何かが自動的に回復させているようです。

魔法装置の類ではなく、これも加護や奇跡のうちでしょう。臨時ボーナス報酬的な。
格の高いオーク戦士などは、信仰する神に祈ることで一時的に力が増したり怪我が治ったりします。それと同じ現象が起きてい
るのですよ。

地球でも、本来なら死ぬはずの怪我をした人が何故か助かることもあります。
三河武士とネギ汁の話とか壮絶ですよー。
前世紀の終わり頃でしたけど、日本でも乗っていた自動車ごと谷底に落ちた運転手が、片腕がもげた状態で崖をよじ登り数㎞先
の公衆電話まで歩いて救急車を呼んだ例もあるくらいです。
ファンタジー世界のモンスターがそのくらい出来ても不思議はありません。

ウチの巣の幹部オーク達もこの 瞬 間 回 復 とでも言うべき能力を持っています。
というか、もしなかったらウォスは棘ドラゴンに噛み殺されていたかもしれません。
噛んで振り回したり噛んだまま崖に叩き付けたりしてもなかなか死なないけど、充分に毒が回ったと判断したからこそ棘ドラゴ
ンは排水溝に逃げ込もうとしている私たちにくわえているオーク戦士をぶつけようとしたのですし。
噛みつかれて振り回されている兄弟を救おうとして、三又銛で突っつき続けていたドスが鬱陶しくなったからでもありますが。

放り出された時にはウォスは自己回復の加護を全部使い切っていたのですが、その数時間後に夜明けと共に一日分の加護が送ら
れて来て、その加護を使ってウォスは復活したのです。日の出と共に。
ええ、幹部級オークはHPが瀕死から満タンに回復するぐらいの加護を得ていて当然なのですよ。ゲーム的に表現すれば。
この能力は強力ですが、自分自身にしか使えないのが不便といえば不便ですねー。
他人にも使えたらドスが瀕死の兄弟を治療して脱出できたのに。

そういえば、オーク語でも日の出と旭日とかが希望や喜びや事態の好転を表現する言葉として使われてましたよ。
オーク語で「ココロ、ヒノデ」といえば「やる気と希望がむんむん湧いてきたぜ!」ぐらいの意味です。
あれはこういう事例が元になっていたのかー。

半夜行性のオーク族にとって夜明けがそんなに有り難いのかなー とか、ちょっと不思議だったのですが謎が解けましたよ。
オーク達の歴史でも個人的経験でも、夜明けと共に絶望的な状況から逆転勝利した例がいくらでもあったのでしょう。
水平線の向こうから昇る太陽はオーク達にとっても希望の象徴なのです。人間と違うのは日没が絶望や没落の象徴ではないこと
ですかね?


前回と同じように、仲間たちの死骸を祭壇に捧げた生き残りオークが花道を通って凱旋します。

「グヒッ?」
「だいじょうぶ、私は大丈夫だから」

口ではそういっても、汗などの匂いで分かっているでしょうね二人とも。気絶したり取り乱して泣いてしまったりした前回に比
べれば遙かにマシですが、やはりノーダメージとはいきません。
誰かが、敵でない、むしろ味方である筈の人(オーク)が死ぬのを見るのは嫌なものです。特に知っている顔だと。

昨夜はたっぷり見ちゃいましたからねー。顔だって憶えますよそりゃ。
いやもう、もしも私が夫達と出会わずに直接神殿に拾われていたら。もし運命がそうなっていた上であと一時間ぐらいあの様子
を見せつけられ続けていたら、私は触手くんのブランコから飛び降りてあの嬌演に参加してしまったかもしれません。


仕方ないんですよ。この身体はこの世界の女の子として作られているのですから。
彼らをを拒めるのは彼らの愛を知らない、オークに愛されたことがない女だけです。
オーク族って本当に魔物なんですよねー。正に魔(マーラ)の化身です。
どんな貞操堅固な淑女もオークと触れ合ったらほだされてしまって、その虜になってしまうのです。
まだ性欲に目覚めていない子供の身体をしている私ですら、すっかりとろかされてしまったのですから。

地球でも同じでしょう。尼僧院だろうがミッション系学院だろうが、閉鎖状態にしてからオークを一匹放り込めばどんなに遅く
とも半年後には全員妊娠しています。
ええ、育成条件が良ければオークは生後半年足らずで人間の10歳児程度まで成長し、精通を迎えるのですよ。
早ければ、立派な変態紳士で女のえり好みが激しくない大人オークが放り込まれた場合は一ヶ月‥‥いえ半月かかるかどうか。


舞台の掃除などで、次の決闘まで時間があるのは幸いです。それまで夫達に慰めて貰いましょう。
具体的にはちゅっちゅして貰ってます。


しばらく過ぎて、嫁取り戦が始まりました。
第一戦は挑戦者用の階段を登って来た中肉中背のオークと、花道を歩いてきた白銀の鎧姿の女騎士です。双方とも星6ですね。
ただ、オークが腰ミノと武器以外なにも身に付けていない軽装なのは分かるとしても‥‥。
あの騎士風の鎧、どう見ても素肌の上に直接着ているようにしか見えないのですが。
板金(プレート)鎧の下に着ているのも鎖帷子(チェインメイル)じゃなくて網タイツみたいなものですし。

更によく見れば、あの鎧金属製じゃありません。いや、この世界にはゴム板なみによく曲がる金属板があるのかも。
動きからすると見た目が金属質なだけで、厚手のウェットスーツに近い防具のようですね。籠手とかのパーツが素肌へ過剰に密
着しているので、あの鎧も魔法の品でしょう。
靴は丈夫そうですが布製。首を被っているのは愛奴の首輪ではなく鎧の一部である喉輪(ネックガード)ですね。兜はなし、橙色
のショートヘアが露出しています。目は‥‥焦げ茶? 流石にこの距離だとよく見えません。
武器は長剣と中型盾ですね。やや重戦士寄りの中戦士かな? ゲーム的に言えば。

ところがどっこい、実際に動き始めると軽装備の戦士なみに動いてます。
やっぱりあの鎧、服と大差ないぐらいの重さしかないみたいですね。
 
駄目だこりゃ。勝負になりません。
棍棒と腰ミノしか装備していない蛮人が、完全武装しかもマジックアイテムだらけの相手を怪我させないように取り押さえない
といけないのですよ? 余程の実力差がないと無理ですって。
別にオーク側を応援している訳じゃありませんが、これは取り組み決めた人の失態でしょう。もう少し盛り上がる組み合わせに
できなかったのでしょうか? 
まあ、ビン○・マク○マンJrみたいに「盛り上がりさえすれば良し!」という演出ばっかりなプロモーターもどうかとは思い
ますけどね。個人的には、ですが。


観客席の中にも同じ思いだったのがいたようで、勝負が決まりかけた頃に一人のオークが観客席から飛び出してきました。
闘技場の水堀を飛び越えて舞台に上がり、傷だらけの挑戦者オークを殴り倒して棍棒を奪い取ります。
おー これが噂に聞く乱入ですか。つまらない闘いに退屈していたのか、観客たちは大喜びですね。

と、更に乱入? かな? 花道から巫女さんが一人舞台に入りました。巫女さん‥‥ですよね? 
いえね、衣装は薄絹四枚重ねの巫女服なのですが、その、体格がどう見ても2メートル超えてるんですが。異様に逞しいし。
女‥‥ですよね、うん。後ろ姿の腰まで届く長い黒髪が風にたなびいてますし、骨盤が女の形してますし。
やたらと逞しげな巫女服の人が、女騎士と乱入者の間に割って入りました。


「お待ちなさい。疲れている女に連戦を挑もうとは、それが男のする事ですか。恥を知りなさい」

低くて野太い声ですが、口調は女のものですね。いわゆるオカマ声とかオネエ口調の喋り方ではありません。
多少の訛りはありますけど聞き取りやすい共通語(コモン)です。

「グゥ‥‥。ナラ、オレ、カツ、ゼンブ」
「言いましたわね。もう取り消せませんよ?」


どうやら乱入者が、物言いつけてきた巫女さんに勝てば乱入が認められ挑戦権が移るようです。
ですが、勝ち目あるの? あの乱入者に。

ありませんでした。

乱入する前よりも酷い一方的展開です。
あっという間に勝負が決まってしまいましたが、その仔細は良く見えていたのでちょっと脳内再生してみます。

まず、代理というか挑戦権獲得の決闘が成立した瞬間に、素手の大柄巫女さんが乱入者に歩み寄りました。
その動きがあまりにも自然で力みのない歩き方なので、警戒心がおきず反応が遅れた乱入者の無防備状態な顔面に、巫女さんの
拳がめり込みます。
そして一瞬怯んだ隙に、巫女さんはオーク族の殆どが身に付けている首飾りと全員が身に付けている腰ミノを手がかりにして、
乱入オークを仰向け状態で肩に担ぎ上げたのです。

ここまで開始から僅か数秒。
ええ、鍛えれば出来るのですね。人間がオークをアルゼンチンバックブリーカーで担ぎ上げることが。
流石はファンタジー世界です。いや、彼女本当に人間かなあ? ハーフジャイアントだと言われた方が納得行くのですが。

で、現在乱入者が怪力巫女さんの肩の上で、ぎりぎりと締め上げられてます。

「ヤメ、ヤ‥‥ コウサン、スル」
「おやぁ? 何か聞こえますが、空耳かなぁ?」

おお、惨いむごい。
結局血反吐はくまで搾られたあげく、岩の地面にボディスラムで叩き付けられ、足掴まれてジャイアントスイングでぶん回され
てから舞台隅の祭壇に投げつけられるという極悪コンボが炸裂しました。
止めの助走つけてからの飛び横蹴りが起き上がろうとした乱入者の顔面に直撃して、巫女さんの足と祭壇に頭挟まれたオークは
動かなくなります。
どれも人間なら10回死んでおつりが来る威力ですが、このくらいやらないと戦士オークは失神なんかしません。

そりゃ勝てませんよ。あの巨体巫女さん、グェスほどじゃありませんが相当な強さです。
見れば分かります。体格もだけど、足捌きも身のこなしも半端じゃありません。歩いているのに重心が全く揺らいでないのです。
ドスやウォスでも、負けはしないにしても手を抜いて戦うことはできないでしょう。
星で言えば9か10ぐらいかもしれません。精々星7かそこらの乱入者が敵う相手じゃありませんって。


そんな訳で嫁取り第一戦は没収戦になりました。女騎士の防衛成立となり、勝利と同じ扱いになります。
乱入がなければ普通に勝っていたでしょうし妥当なところですね。
その乱入者は気絶したまま、大女の巫女さんに引きずられて階段から下りてきました。
頭が石段とかに ご ん ご ん ぶつかってますけど、オークなのできっと大丈夫でしょう。うん。

妙に楽しそうにオークを引きずっていく巫女さんの横顔ですが、えっと、なんというか凄い男顔でした。
いえ、むしろ漢の顔でしたね。容貌魁偉とはこのことです。
不細工では‥‥ぎりぎり不細工かなあ? 
醜いとまでは言いませんけど、ゲームの中なら第一印象にマイナス修正が付くだろう容姿でした。
そうか、そりゃ居ますよね、この島にだって。美人じゃない女ぐらい。

流石にあれは規格外の存在だと思うけど。あんなのが何人もいたらこわい。




 ☆59日め5、場内アナウンスが欲しい所ですね☆


嫁取り第2戦めは、あの赤いヒラヒラドレスの長巻使いです。
相手は白い肌で赤紫のたてがみが生えているミノヒッポス。得物は刃物部分に革の鞘を付けた槍。
星7同士の対戦ですが、女側がやや不利かな?
長物武器使い同士ですが、両者の技量に圧倒的な差はないようです。となれば基礎体力の差が出てくるわけでして。

やはり長巻使いの方が押されています。長い武器同士だと、より長い方が間合いの調節的に有利ですからね。懐に入られたら長
い方が不利になるのですが、馬頭の槍使いはなかなか隙を見せません。石突きの方を使って赤ゴス少女に軽い打撃を当てる余裕
さえあります。
なぶるような攻撃で何ヶ所かひらひらのドレスを破かれてしまった少女は、なんとか有利な間合いに持ち込もうとしています。
‥‥あ、終わった。

槍の間合いから長巻の間合いに持ち込もうと一歩踏み込こんだ赤ゴスさんに合わせて、一歩踏み込んだ馬頭の戦士が槍から片手
を離して拳を繰り出したのです。
蛇のように、あるいは鞭のように、遠めの距離から対戦者の死角を通って打ち抜くパンチが少女の細い顎をかすめて、その一撃
で脳震盪起こしたらしい赤ゴスの長巻使いは足から崩れ落ちます。
少女の手から放れた長巻の柄が、岩の地面で跳ねて転がる高い音が一瞬で静まりかえった闘技場に響きわたりました。


うーむ、今のはひょっとしてフリッカーズ・ジャブというやつでしょうか? 実際に見るのは初めてです。
詳しくはないのですが、拳闘の世界にはそういった「届かない筈の距離から届く一撃」が存在すると聞いたことがあります。
近年の研究で、技術的には近代ボクシングとは完全に断絶しているギリシャ・ローマ時代のボクシングが、技術体系そのものは
近代ボクシングのものとほぼ同じ進化を遂げていることが解ってきました。
魚竜とイルカのように、古代と近代のボクシング技術は種が違うのに形態はそっくりなのです。

つまりアキレウスとかヘクトルとか古代ギリシャの英雄達も、現代日本のボクシングジムでやっているのと大差ない技術を身に
付けていた訳です。ダッキングとかスウェイバックとかそういうのを。
ただフットワークは多少(かなり?)違っていた可能性があります。古代と現代ではリングの大きさが違いますし、古代にはボク
シングリング用のロープやマットはありませんからね。ゴムもワイヤーもスプリングもないから当然ですが。

人間の身体が紀元前から変わっていない以上、似たようなルールで切磋琢磨を続ければ似たような技術が発展していくのです。
ならば頭部以外は人間と似ているミノヒッポスたちが、人間の格闘技と似たような技を身につけていてもおかしくありません。
この島に暮らす幾多の部族は世界観や価値観をある程度共有していますし、仁義なき泥試合を避ける知恵もあれば話が拗れた
ときの裁定者も居ます。
競争相手と公正公平な審判そして競い合うべき動機付けがあるなら、そりゃ格闘技も発展するでしょう。



それからしばらくして、長巻使いの赤い衣装に別の赤さが染み付きました。白いものも染みこんでるけど。
ぐったりしているお嫁さんを抱えて、ホクホク顔の白いミノヒッポスが花道を凱旋します。
下半身の一部で花嫁と繋がったまま、罵声混じりの「もげろ」コールを浴びながら去っていく白馬の旦那様ですが‥‥。
上手くいくのかな? あの二人。
この島の住人である以上、彼もエロモンスターでしょうから心配はいらないでしょうけど。

心配要らなさそうです。
いえね、花道を通り過ぎていった二人の後ろ姿が見えたのですよ。
赤ゴスさんの両手首はミノヒッポスのタテガミの上でひらひらドレスの残骸を使って縛り上げられて馬首に掛けられているので
すけど、こっちは縛られていない赤ゴスさんの両足首がしっかりと馬男の腰(尻の上)で絡まっていました。
もう離さないぞ♪ って感じで。
うーむ、あれは世に言う「だいしゅきホールド」。生(ライブ)で見るのは初めてです。



嫁取り第3戦は、斧使いの少女と重量級ミノタウロスです。双方共に星は8。
勝負は二合で決まりました。最初の一撃でミノタウロスの大斧がはじき飛ばされ、めげずに頭突きを試みた牛頭の角が少女の斧
で迎え撃たれ、角がへし折れたのです。
というか頭蓋骨割れてますよね、あれ。確実に。

この一撃でドクターストップが掛かって終了。斧使いの防衛成立です。
うーむ、あの細腕の何処にあんなパワーがあるんだか。斧が凄いのかな? 見るからに魔法の品(マジックアイテム)ですし。
第3戦の勝者は、露出度が高い鎧を着た栗毛ストレートロングヘアな女の子ですが、あの鎧も魔法がかかっているようですね。
いわゆるビキニアーマーほど極端じゃありませんが、太腿など露出している箇所が多すぎて板金で作っている意味がない鎧に見
えます。でも防御力は普通に高いと見た。

どうやら単純に装甲板の固さが防御力になっているのではなく、装着者の防御闘気を強化しているように見えます。
板金部分は強化した闘気を受け止める土台になっているようですね。あれも軽量で高防御力を誇る魔法の防具なのです。多分女
性専用の装備でしょう。
エルフにしか使えない弓とかオークにしか使えない兜とか、ゲームの中には制限の付いたアイテムが色々ありました。
それらの多くは制限がある分、価格や希少度(レアリティ)のわりに強力な装備でしたね。ファンタジーなこの世界ならそういっ
た装備も実在しているのです。ウチの宝物庫にも幾つか装備制限が付いたアイテムが有りましたし。


巫女さん達が治療しつつ運んでいくミノタウロスを心配そうに見ている様子からして、彼女はこの島のエロモンスターたちに堕
とされてはいないけど、憎しみも持っていないと見ました。
そういえば先月の決闘も、対戦相手を殺さないように気を配ってましたね彼女は。手抜きも一切してませんでしたが。
ちょっと目が大きすぎる点さえ除けば普通に美少女ですし、強いし、安産型の腰まわりしているし、結構良さそうなお嫁さん候
補じゃありませんか。

「ねえゴォ・ドス、彼女と闘ってみませんか?」
「ルェイ、オレノヨメ。ホカ、イラナイ」

話を振ってみましたが、ドスは気に入らないようです。おかしいな? 彼は活発系が好みの筈なのですが。
まあ、女のえり好みが激しくなければ、幹部オークがこの歳まで独り身だった訳もありません。


第4戦は、大柄な星球鎖(モーニングスター)使いのヴァイキング風女戦士と、やや年嵩の幹部オーク。これも星8同士。
善戦した女戦士でしたが、防戦に徹した幹部オークを攻めきれず持久戦に持ち込まれました。
そして息が上がったところを組み付かれ、そのまま取り押さえられてしまいます。
星球付きの鎖で両手両足をひとまとめに縛り上げられてしまった女戦士は、屈辱と羞恥に顔を染めたままお持ち帰りされました。

んー こっちはもう堕ちてますね。負けた事が悔しいけど、強い雄のモノになれたこと自体は嬉しいようです。
あ、いや、悔しいというより残念がっているのかな? 彼女は取り押さえられたその場で奪って欲しかったのですが、旦那様の
方は嫁さんとの情事を観客に見せびらかす気がないようです。
この島は露出趣味者が多くて、見せびらかす方が普通ですがやはり何処でも変わり者はいる訳で。
私の夫達も露出願望が低いほうなのは有り難いです。元現代日本人としては流石に、公開初夜というのはちょっと。
最大限妥協してウチの巣の連中限定ですねー見せるのは。


勝ったり負けたりの嫁取り戦が第8戦まで続きました。最後の防衛側はソーニャさんです。彼女の星は9ですが、より星の多い
剣闘士たちをさしおいてトリを務めることに誰も異存はありません。この島では強さこそが真であり善であり美なのですから。
しかしこの闘技場、出場者が何処の誰でどんな経歴の持ち主なのか解らないのが面倒ですね。
現に今の挑戦者も名前すら解りません。装備の質で現在のソーニャさんと同じ星数だということは解りますが、それ以外がさっ
ぱりです。

その対戦相手の星9オークは、見たところ得物も棍棒と丸い盾と至って普通ですし典型的なオーク戦士ですね。
ソーニャさんの装備は前と同じ。チアガールっぽい衣装にショートソードとスモールシールドです。
あの剣と盾ですが、両方とも【ナノレドの棒きれ】と同格ないしそれ以上の装備だと思います。
直接触って鑑定してないから断言はしませんが、まず間違いないでしょう。

ソーニャコールと共に現れた彼女の闘いっぷりは、相変わらずの見事なものです。
つかず離れずの位置を保って何合か打ち合い、頃合いを見計らっての一撃で対戦者の棍棒を断ち切り続いての一撃で盾も叩き切
りました。
そして、両手の得物を失ってたじろいでいるオークの前で、自分も剣と盾を投げ捨てます。

馬鹿にするなとばかりに掴みかかってくるオーク戦士を、ソーニャさんは受け流して、重心の移動だけで投げ飛ばしました。
いわゆる空気投げってやつですか!? 生の実戦では初めて見ましたよ。
転がったオーク戦士に、ソーニャさんが乗っかりました。体重5倍はある相手に取り付いて腕を取って押さえ込みに入ります。
なんということでしょう、巨体のオークが寝技で手玉に取られています。どうしても起きあがれません。

「アレ、マジナイツカイ、ワザ」
「知っているのですか、ゴォ・ドス?」

博識の夫が言うには、ヒルデニアや東方の一部には魔術を組み討ちに応用した戦闘術を使う呪い師たちの流派があるとか。
彼らは魔術師でありながら武器や鎧を身につけて戦う派閥であり、肉弾戦も出来る魔術師と言うよりむしろ肉弾戦に特化あるい
は適応した魔術を使う職業(クラス)なのだそうです。

あー なるほど。乗っかっているソーニャさんが、肉体的+魔術的な力と技で下のオークの感覚を狂わせているのかー。
力の向きだけでなく、意識そのものを誘導されていますね。あれ、やられている方は何が起きているのかも解ってませんよ。
そうか、組み合った相手のマナを感じ取り、誘導することで意のままに操っているんだ。
あれが噂に聞くウイザード合気ですか。この世界にも存在するのですね。


おや? 何かあったようですが?
動きが止まったかと思ったら、オークの右手が闘技場の床に突き刺さっていますよ。
なるほど、感覚器が狂わされていることに気付きましたか。これでオークは地面が何処にあるか完全に把握できる訳です。
それに支点になるものさえ有ればパワー勝負に持ち込めます。

これまでの戦法が通じなくなったことを一瞬で悟ったソーニャさんは即座に関節技を解いて跳び退き、オークから離れました。
宙返りしてから着地したソーニャさんと、右手を岩に突き刺してうずくまったままのオークが睨みあいます。

睨み合いから先に目を離したのはソーニャさんでした。
石材の床に転がっているショートソード目掛けて走るっ ‥‥と見せかけて、つられて同じ剣に飛びつこうとヘッドスライディン
グしているオーク戦士の頭部を蹴りつけます。ランニングボレーキックです。
強烈な蹴りがカウンターで頭部に入りましたが、よろけつつもオークは剣を取りました。
しかし片膝ついている彼がその切っ先を向けるよりも早く、相手は密着距離まで接近しています。

ソーニャさんの左手が、片膝ついたオークの額をそっと触れました。そして右の掌打が左手の上から激しく叩き付けられます。
今度は重ね当てですか! どこまで芸幅広いんだか。
日本や琉球の古武術にはソーニャさんが使ったのと似た技があるそうです。
相手を掴んだ状態から掴んでいる手の平越しに打撃を入れて、衝撃を内部に伝える技法ですね。

いい感じの打撃が二発入って朦朧としつつも、それでもまだ立ち上がろうとしたオークの頭に高々と振り上げられたソーニャさ
んの踵が落ちました。頭頂部狙いの変形回し蹴りです。

本来は奇襲か不意打ちか弱り切った相手への止めにしか使えない大技ですが、それだけに威力は絶大。
ついにオーク戦士は崩れ落ちました。床に突っ伏して動かなくなった対戦者の頭を、腰に手を当て晴れやかな笑顔で踏みつける
女剣闘士に観衆が総立ちで歓声をあげ、その名を称えます。

「「「「ゾーニャ! ゾーニャ! ゾーニャ! ゾーニャ!」」」」


上手いなあ。彼女、最初から打撃で決める気だったんだ。
でも星9の戦士相手だと綺麗に一撃目が入らないから、低い軌道にオークの頭が向こうからやって来る状況を作って、思い切り
蹴飛ばしたんですね。
最初に棍棒と盾を切り飛ばして武器の威力を見せつけ、組み討ちで技を見せつけ、力業にわざと屈して距離を取り、また武器に
頼ると見せかけて罠に誘導したのです。
全ては蹴飛ばしやすい位置に、思いっきり蹴飛ばせる姿勢に対戦相手の頭を持って来させる為に仕組んだ事だったのですよ。

揺れる乳やら翻る裾やらサービスシーンも大盛りですし、あくまでも自分の強さは先読みと誘導にあると見せかける演出も見事
です。これで観客も求婚者達もますます誤解するでしょう。罠を見切りさえすれば、ソーニャさんを攻略できると。

そんな訳ないんですけどね。彼女、素の状態で強いですから。もう江田○塾長なみに。
だってソーニャさんは、トカゲ人の戦艦を一人で制圧してまだ充分余力がある人なんですよ? 入り組んだ場所で軍隊相手に戦
うのに、闘技場の経験が役立つでしょうか?
ソーニャさんは試合巧者だから強いのではなく、強くて試合も巧いだけなんです。

それを解ってるのかな? 観客達は。解っていない方が多そうですね、やはり。 




 ☆59日め6、砂糖とミカンとうどんの三連コンボで☆


嫁取り戦のあとは新人の顔見せ戦があり、前と同じく巫女さんが一月後の開催を宣言してお開きになりました。
ああ、顔見せには元ウサミミさんパーティのハーフエルフさんも出てました。
戦闘スタイルはショートボウとカットラス使いで、弓矢で小型恐鳥を仕留めてましたよ。早ければ彼女は来月あたりに嫁取り戦
へ出場するようです。


で、いま現在の私は、夫達に協力して貰って関節技の研究をしています。神殿の小部屋で。
具体的には床に寝そべったウォスの上に乗って、ドスの指導を受けつつソーニャさんが使ってた技の再現をしているのです。
えっと、確か腕をこう持って‥‥右膝で首筋を押さえて、と。

無論のこと、私に同じ事ができる訳がありません。私とソーニャさんでは全ての要素が違いすぎるからです。
元々関節技(サブミッション)というものは、体格や体型が違いすぎると通じにくいものなのです。嘘だと思った人は手近な力士
か力士なみの肥満体にコブラツイストでも掛けてみてください。まず上手くいきませんから。

ふうむ。やるまでもなく解っていましたが、やはりあの技はオークの骨格や腱や筋肉の構造が解ってないと使えないのですね。
あれはあくまでも、人間が寝技でオークを取り押さえるための技なのです。しかも失敗前提の。
技としてはあまりに無理が有りすぎる。ソーニャさん級の達人が数枚格下の相手に使ってそれでも決めきれない、その程度の実
用性しかない技なのです。

この場合、注目すべきは 何故? ではなく どうやって? ですね。
どのようにして彼女は、あんな技を身につけたのか? あれはオークの肉体を知り尽くしていないと使えない技です。
オークの骨格神経血肉、その全てを知り尽くした者だけが使える技なのですよ。
つまりソーニャさんはオークのことをとても良く知っている。オーク達が人間のことを知っている以上に。

あの決闘は観客達へのサービスを入れてありますが、私へ伝えたいことが織り込まれていた筈。
弟子入りを断るの忘れていましたから、ソーニャさんにとって私は未だに弟子候補なのです。つまり先刻の闘いは師匠が弟子に
見せる模範であり教本である筈。
思えば身のこなしから駆け引きに至るまで、参考になることばかりでした。
しっかりと憶えておきましょう。あの動きを一部でも真似できれば、格段に強くなれる筈です。


オークは骨格よりもむしろ、筋肉の付き方が人間と違うのですね。二人と組んず解れつやっているうちにそれが実感できるよう
になってきました。その反面、関節の可動範囲は人間とあまり違いません。

私はいわゆるインテリジェント・デザイン説を支持していません。人類を含め、地球の生命が何者かに設計されているとは思え
ないからです。
だって、もし神様なり宇宙人なりが人間を設計したならば、こんな半端な仕様になんか作りませんって。
もしも誰かが設計した結果が現生人類の肉体であるのなら、その設計者は無能です。

そうでしょう? 私が設計者ならインシュリンの他にもう一つぐらいは飽食に対する備えを付けておきますよ。飢餓に対抗する
仕組みが三段重ねになってるのに、血糖値を下げる機能を膵臓だけに頼っているなんて危険すぎます。
おかげで鰹のタタキ県以外の某島国が糖尿患者だらけになってますし。

骨盤の構造一つとっても、人体の設計はやっつけ仕事過ぎるんです。もし設計者が本当にいたら訴えたくなるぐらいに。
たかだか一千万年かそこらで直立二足歩行に切り替えちゃったから無理もないのですが。
直立二足歩行って、とんでもない発明というか革新なのですよ生物の構造的に。
その証拠に、地球では人類以外やってのけた種はまだ発見されてません。恐竜? 鳥類? 連中は天秤式二足歩行ですから。
エリマキトカゲ? すっこんでなさい。


その点、オーク族の体構造は見事なものです。人類よりも百万年は軽く進歩しています。
二足歩行生物としての完成度がスバ○360とプリ○スぐらいは違います。戦車で喩えれば三式中戦車と90式ぐらいに。
彼らの腰回りは強靱な筋肉で支えられていて、この筋肉がバネのように伸縮して俊敏に動いているのです。
うん。ことオーク族の腰回りに関して言えば、誰かが設計したとしてもおかしくないですね。
前期モデル(人類)の短所をきっちり改良してあります。


ふむ。電波受診状態は‥‥携帯電話で言うとアンテナ三本立ってますね、よしよし。流石は信仰の総本山です。


Q3、やっぱりオーク族って誰かが創り上げた生き物なのですか?
A3、信徒レイ。貴女の信仰レベルではその質問への回答は得られません。

何故にパ○ノイア風?! しかしノーコメントってことは‥‥。

Q3、ということは誰かが創った生き物なのですね。人類を元に。
A3、だから答えられないと言ってるでしょう? 答えが欲しければもっと信仰心を上げなさい。

Q3、あるいは自力で謎を解け と?
A3、そういうことです。

ううむ。女神様は信用できるのですが、この世界の創造者はちょっと、ねえ。センス最悪ですし。

Q3、法と混沌のルーンを決めたのは誰ですか?
A3、原初の創造神たちです。

Q2、【原初の創造神たち】とは、どんな方々なのですか?
A2、信徒レイ。貴女の信仰レベルではその質問への回答は得られません。


なるほど。その原初の創造神たちとやらが諸悪の根源ですか。

A2、同時に諸善の根源でもあります。

うわぁ! 脳内の呟きに突っ込まないでくださいよもう。びっくりするじゃありませんか。 

A2、ごめんなさい。では他に質問もないようなので一旦切りますね。



あー びっくりした。神様なんだから交信中に信徒の心ぐらい読めますよね、そりゃ。なにしろ神様ですから。

文字通りの全知全能ではないにしろ、知恵と炎の女神エスティアは強力な神格です。北欧やギリシャの神話で言えばアテナとか
フレイヤなみには。主神級ですからね。
そこまで強力な神様なら、信徒が詰まらないこと考えていても一々気にしないのです。


あくまでも喩えですが、こう考えてみてください。
貴方が大規模ネット通信型RPGの古参プレイヤーだとします。そのゲーム中で自分のアバターを限界レベルにまで鍛え上げ自
宅なんか城を通り越して小国家の様相を呈しているような熟練(廃人?)プレイヤーだと仮定してみましょう。

そんな超絶強力プレイヤーが、昨日今日ゲームを始めたばかりの初心者が無知故の見当外れなことをぼやいていたからといって、
本気で怒ったりするでしょうか? 普通はしませんよね?
そこでむかっ腹が立って初心者狩りしてしまうのが祟り神。嬉々として初心者いびりや誤誘導を企むのが邪神です。

思うんですが、神罰とか祟りとか言われているものにも色々違いがあるのではないかと。
それこそ気にいらないから捻り潰されたりとかの理不尽なものから、強いプレイヤーの狩り場に迷い込んで獲物と一緒に吹き飛
ばされてしまったりとか、あるいは自動反撃持ちの高レベルプレイヤーをPKしようと攻撃して挽肉にされたりとか色々。

神様だっていつも必ず、好き好んで神罰与えている訳じゃないんですよ。きっと。
なかには当てたくなくても当ててしまうことだってある筈です。人間だって踏みたくなくても猫の尻尾を踏んでしまう事だって
あるじゃないですか。
もちろん例外もいて、あの獣蛇ムカデ三種混合邪神とかは何時でも何処でも誰にでも、好き好んで自分から祟っているのでしょ
うが。




 ☆59日め7、良い男もつらいのですね☆


汗をかいたので三人で水浴びして、その後は木陰で昼寝しました。
毛皮服で汗をかくと面倒ですね。今は薬用焼酎含ませたスポンジもどきで汗をふき取り、蒸発させています。
いつまでも下着無しでは辛いので、とりあえず布地を適当に切ってさらし布のようなものを作りそれを身体に巻き付けて下着代
わりにしています。
ノーパンノーブラ状態は最初のうちはともかく、長時間続けるのはしんどい。羞恥プレイは偶にやるから良いのです。

下着が発明されたのはそれだけの理由がある訳でして。実際、地球でも完全な裸族というものは存在しません。どんな未開地帯
の部族でも腰ミノぐらいは付けています。

即席の下着姿で、オークの夫達に挟まれて寝ていたのですが何やら五月蠅くて目が覚めてしまいました。
時刻はもうすぐ夕方です。この睡眠時間だとMPは半回復しかしませんが元から使ってないので満タン状態ですね。


で、何ごとですか?

木陰で起きてみると、私はドスに腕枕してもらって寝ていたようです。で、ウォスは少し離れた位置で巫女さんたちと話しあっ
ています。
はて? なにやら険悪とまではいかずとも、ウォスの機嫌がよろしくありませんよ?

まだ少し寝ぼけている頭で話を聞いてましたが、どうやら巫女さん達と夫達のやりとりは「奉仕しろ」「だが断る」と要約でき
そうです。

変ですね?
巣を出発する前の家族会議で、私たちの方針は神殿の用事(クエスト)をこなして星や評判を上げることに決まったのですが。
でもウォスは中堅ぐらいの巫女たち四人に対してそっけない態度をとっていて、ドスもそれを咎めようとしません。

隣にいるドスの憮然とした表情や、ウォスの苛立ち気味の対応。そして巫女さんたちの視線が私に対して粘っこい感じ。
しばらく話を聞いてるうちに事情が呑み込めました。
この巫女たちが個人的にウォスへ好意を持っていて、ウォスに奉仕をして貰いたがっていて、ウォスはそれが嫌なのです。
そして巫女達はウォスが嫌がっている理由を私のせいだと思い、妬んでいます。

あー そういえばウォスはオーク的には美男子でしたよねー。
それも地球の古代ギリシャでいえば、アポロン像のモデルになるぐらいの。でもウォスは顔に惹かれる女が嫌いなんですよ。
美形すぎるのも困りものですよね。特にオーク社会じゃ俳優も接客業もありませんから、容姿の活かし所が少ないのです。

歳も近くて仲良しの三兄弟が、そのうち一人だけ異様にもてるってキツイものがありますよねえ。
しかもそれが生まれつきの、本人の努力じゃどうにもならない素質によるものときた日には。
ウォスが神殿に行きたがらないのにはそれなりに理由があったのですね。
そっかー。ウォスが私を好きなのは、まず外見以外の所を見て貰えたからでもあるのかー。

しかし、巫女たちの態度が何かおかしい。妙に背後というか左斜め後ろを気にしています。
あ、柱の陰にソーニャさん発見。さり気なく私たちの様子を見守ってます。
なるほど、下手に弟子を虐めたら師匠が出てくるかもしれませんからね。直接的なちょっかいは出せませんか。


結局、交渉は物別れに終わりました。ウォスはドスと一緒の、外回りのクエストしかしないそうです。
あー これでまた評判が下がったな。仕方ないけど。
女達の敵意は私の方にも来てますから、彼個人への風当たりが幾らかでも緩くなると良いのですが。



そんな訳で、私たち三人は日の暮れた旧田園地区を歩いています。
外回りの任務(クエスト)なら受けると言っちゃいましたからねー。最近このあたりにモンスターが出るので神殿は夜間の見回り
を強化しているのです。昼間は出ないそうですが。
出てくるのは主に巨大サソリや巨大芋虫などの節足動物系、そして偶にアンデッドどもです。

夜回り中のウォスは、右手に魔法の斧そして左手に愛用の棍棒を装備しています。左手の棍棒が盾代わりで右手の斧が主力です。
ドスはいつもと同じ三又銛です。私はコボルドから返して貰った魔法の短剣(ダガー)と聖水の瓶。
私はアコライトですので、聖水が作れます。一日に一回だけですが数リットルまで作れるのですよ。
なので夕方作った聖水を瓶に詰めて持ち歩いているのです。その数全部で10本。これからは神殿で聖水買う必要ありません。
ちなみに聖水を作れる加護は啓示と同じく夜明けで更新されます。


「プギッ」

しかし遭遇するのはアンデッドではなく、猪たちばかり。
蛇や昆虫などの夜間に活動する獲物を狙って猪たちが出歩いているのです。この島の夜は温かいですからね、特に海際だと。

猪たちの中に、牧童のようにオーク戦士達が立って見張っています。神殿近くの生態系は猪たちが大きな役割を持っていて、
雑食で食欲旺盛な猪たちが余剰の作物やそれ以外のものを食べまくることで環境が維持されているのです。
猪たちが雑草を食べるからヤブ蚊が大発生しないし、虫や小動物を食べるからその他の害虫なども増えない。
そしてフンコロガシや朽ち葉蟹などの猪が食べない分解者たちがせっせと土地を肥やしているのです。

猪とオーク達が毎日動いて見回っているから、神殿の近くではアリやシロアリが蟻塚を作れません。なので有機物が蟻塚に貯蓄
されずに早い速度で循環しているのです。山羊と違って猪は草木を根こそぎ食べてしまいませんし、治水対策がしっかりしてい
るから表土の流失はおきていません。そして川や池に流れた栄養はやがて海の幸としてまたこの旧田園の土に帰ってくるのです。

流石です。エルフ族が仕切っているだけのことはあって、見事に生物資源が循環していますよ。なんという環境技術でしょう。
江戸時代の日本も顔負けな完成度ですね。エルフ凄い、伊達に長生きはしてません。


神殿に奉仕するオーク戦士や、神殿に住んでいる下っ端達の中でも腕自慢や上昇意欲のあるオーク達、あるいはただ単に猪の世
話が好きな連中がこの見回り任務についています。
私は見るもの聞くもの全てが新鮮で、退屈している暇もありません。夜に出歩くことなんて滅多にありませんから。
新月期の夜でこれですから、満月の夜だとどれだけ華やかなのでしょうか。夕顔のように夜に咲く花々が地球の何倍も明るい月
光の下で一斉に開花する様子とか、凄く見てみたい光景なのですが。

「グヒィー」
「うん。今度は満月の日に来ましょうね」

グェスが市場と決闘の開かれる日にしか行かないから固定観念ができてましたけど、別に満月の時でも半月の時でも神殿に行っ
て構わないのですよ。むしろ人出が少ない時期の方が、交易や交流が目的でないのならゆっくりできて良いかもしれません。

あ。そうか、ならソーニャさんへの弟子入りを断る必要もないや。
住み込みじゃなくて、時々やってきて修行する通い弟子になれば良いんだ。
二人でこの島を出て冒険者稼業は無理ですけど、ウチの巣のみんなと一緒に冒険商人家業ならできますし。

そうだ。なんとかしてソーニャさんを私の計画に引き込みましょう。ウチの巣の男どもで攻略するか、さもなくば彼女に本気を
出させてとっとと自由の身になって貰うか。どちらの方法でも私の目的に合います。
よーし、次の短期目標はソーニャさんの攻略作戦立案ですね。




 ☆59日め8、夜のおしごと☆


「ブギィィー!」「フゴッフゴッ」

見回り中に猪がパニック起こして走り回っていたので(ウォスが)取り押さえてみれば、鼻面をヤシガニが挟んでました。
ヤシガニを取って、治療呪文を掛けてやりますと落ち着きました。まったく人騒がせな。
まあヤシガニのハサミに挟まれると人間の指ぐらいなら折れたり千切れたりしますからねえ。

窮鼠猫を噛むと言うやつで、ヤシガニだっていつもいつもやられっぱなしじゃありません。マングースだって、野性では蛇に負
けることだってあります。観光地の対決ショウでは大概マングースが勝ちますけどあれは仕込みあっての事ですし。
でも結局ヤシガニは食べられてしまうんですけどね。私たちがちょっかい出したから。
ウォスがハサミを取ったヤシガニを怪我した猪に食べさせて、取ったハサミは自分でカリカリと食べてます。
蟹味噌が少ないのが難ですが、ヤシガニも美味しいんですよねー。今夜は焼きヤシガニで一杯いきますか♪
帰りに椰子林に寄って大きいのを捕まえましょう。


やはりというか予想通りでした。神殿の近くに暮らしている猪たちはオークの家畜と言うより共生生物で、原始社会の犬や中世
日本での鶏に近い立場であるようです。
つまり生きた警報機であり肉の的。

熊や狼や虎などの凶悪な捕食者が人家近くへ現れたとき、その獲物になることで人的被害を減らすことと、被害が出ることで外
敵の能力や脅威度を測る目安になることを期待されている訳ですね。
一見非情ではありますが、警報機代わりにされている生き物は人間のいない環境でもそれら捕食者に狙われています。
オーク島でもそれは同じです。なので同じことができるのです。

猪たちから見れば比較的安全なねぐらや豊富な食料があり、危険な外敵が来ればオーク達が排除してくれるのですから神殿周辺
は至れり尽くせりの環境です。双方に益がある訳ですね。
オーク達、というか神殿の女達がこの仕組みを作って回しているのでしょう。基本的に豚や猪を食べず、その革も毛皮も使わな
いこの島で神殿周辺の猪たちが暢気に繁殖してるのはこんな理由でしたか。

つまり、ウチの巣の連中が果樹園に馴染んでいたのも当然だったのですね。ハラキズとか下っ端オークたちは神殿育ちだし。
昔からやっていた事と作業自体はほぼ同じですからね。
彼らにとって目新しかったのは、自然林に少しずつ手を入れて望む環境を造り上げるという新理論と増やした果実そのものでは
なく果実を狙う鳥獣を獲物にするという新発想だったのです。
神殿周辺にある鳥獣避け結界が巣の近くにないことを逆手に取った、目からウロコの奇策‥‥に見えた訳ですね私以外には。
まさか今更「偶然です」とは言えないしなー。


この島の猪たちの習性は、地球のものと大差ありません。
地球の同類より賢いというか人(オーク)に慣れていて、半野生動物のわりに人なっこくて大人しく聞き分けが良い生き物です。
でも猪は猪なのでよく地面を掘って地中の根っ子や虫を食べています。
そんな穴があちこちにあって、比較的安全な昼間にそれを埋め戻すのも下っ端オークの仕事です。ついでに猪の糞とかボロの
スポンジもどきとかオガクズとか藁とか生ゴミとかを一緒に埋めることもしています。
ウチの果樹園と同じで、埋める端から虫や小動物が食べて分解しているから腐って堆肥になる生ゴミは少なさそうですね。


はて? この穴は猪が掘ったにしては大きすぎますね。大猪でも余程の特大じゃないとここまではいきません。
見回りを終えて、何匹かのヤシガニや食用の蟹類を捕まえてから神殿の近くまで帰ってきたのですが、帰り道の地面に大穴が開
いているのですよ。

これまで割と暢気だった夫達が一転して真剣な表情になっています。
ふむ、土の散らばり具合から見て、地中に埋まっていた何かが下から押し上げて出てきた感じですね。かなり大きいモノが。
残っている足跡からして蟹か昆虫か、とにかく多脚の節足動物で間違いなさそうです。脚は6本以上10本以下。
ムカデみたいに数えるのも面倒な程の脚を持つ生き物ではありません。

サイとかキリンさん級に大きな節足動物? どう考えてもモンスターじゃありませんか。追跡するしかありませんね。

いました! やたら大きな多脚生物が樹の根元近くに集まっている数頭の猪を狙っています。
何でしょうあれは? 地球でもこの島でも見たことのない生き物だけど、虫かなあやっぱり? 
拙い、猪たちはまだ気付いてない。闘気です。あの虫型モンスター、全身を闘気で覆って臭いが漏れないようにしてます!


強い。強いけど大ワニや大猪ほどじゃありません。星で言えば8か精々9。
ドスの銛が当たればこちらが有利になるはず。

「プギィィー!!」

ウォスが警告の叫び声をあげます。三又銛が飛ぶのと、その巨大虫が猪たちに襲いかかるのがほぼ同時でした。
あえて言うなら縦型の蟹と象虫を混ぜた生き物でしょうか。あるいは寸詰まりのカマキリを重装甲にして象虫の頭部を取り付け
たような巨大虫? とにかく頭が象虫で、六足ですがカマキリのように動き、甲羅は固そうな虫に銛が突き刺さります。

勝負は一瞬で決まりました。
ドスの投げた三又銛が背後から巨大虫の装甲を破って貫き、樹の幹に縫い止めます。
同時に私の放ったフォースブレッドが、巨大虫の前肢が捕らえようとしていた猪に命中して突き飛ばしました。
間一髪でヤシガニのそれを10倍以上に拡大したような凶器が猪をかすめました。手加減してるので攻撃呪文を当てた猪には大
した怪我はないはず。

そして、その一秒かそこら後で巨大虫の尻から飛び出してきた反撃の毒針付きの尻尾を、私を肩に乗せたままのウォスが軌道に
割り込み、斧で弾き返してから返す勢いで断ち切ります。
巨大虫の尻尾攻撃は怖ろしく鋭い一撃でした。ウォスが割り込まないと素手のドスに毒針が当たっていたかもしれません。

縫い止められたまま暴れている巨大虫の攻撃範囲から私たちと猪たちが避難すれば任務完了。
あとは距離を取って石でもぶつけていれば勝てます。
いやぶつけるまでもないかも。刃先の広い三又銛が貫通して縫い止められた虫は体液の流出が止まりませんから、放置しておい
ても長く持たないでしょう。
傷が大きすぎて、人間で言えば出血多量状態になっています。酸素不足で巨大虫の筋肉はもう普段どおりの力が出せません。
銛を引き抜いたり樹をへし折ったりして逃げることはできないのです。


ふうむ。初めて見る虫ですが、あえて言うなら蟹虫とかサソリモドキの類がカマキリのような生態系位置(ニッチ)に進化した生
き物でしょうか?
巨大サソリとは逆に、毒針付きの尻尾を普段は腹の下へ折り畳んでおいて、斜め上から獲物がいる斜め下方向へ突き出すのです。

後で聞きましたが、夫達三人は森林型迷宮(ダンジョン)でこの種の巨大虫と何度も戦っているのです。
あの毒尻尾攻撃は初見殺しなのですが、来るのが分かっていればウォスなら余裕で防げます。
うーん、私、レベルが上がったのかもしれません。なんか格段に強くなっています。石舞台でトログロダイトの群と切り結んで
いた時も強くなった実感がありましたが、今はあの時より更に強くなった感触があります。

一月前には解らなかった動きの意味が、オーク戦士の位置取りや間合い、呼吸の合わせ方が理解できます。
今の私なら、夫たちの誰かに背負われたまま戦闘になってもそれ程足手まといにならないかも。


「プギッ」「プギップギッ」

ん? 猪のうち一頭が苦しんでいます。怪我はないようですが?
フォースブレッドが当たった猪ではありません。巨大虫のハサミがかすめた背中に一文字ハゲができた猪は元気そのものです。
巨大虫の奇襲にびっくりして逃げ出した猪の一匹が苦しそうにしているのです。

「サンケ、ヅイタ」

さんけ‥‥お産ですか!? 確かに雌の猪だけど。
ど、どうしましょう? 産婆は何処だ?!



 ☆59日め9、エロゲじゃない☆


焦る必要はありませんでした。
新陳代謝の激しいオークの巣、特にドスとウォスが暮らしていたような大きな巣なら毎月毎週ときには連日連夜で出産が続くこ
ともあるのです。

地球の原始社会と違いオーク達は夫や息子達が妻や母の出産を手伝うのが一般的なので、一人前のオークなら何度も子供を取り
上げた経験があってもおかしくないのです。
騒ぎを聞きつけて集まった神殿の下っ端オーク達も、猪の出産介護ならお手の物です。
神殿近くの祠‥‥というか祭壇付きの東屋みたいな所に運び込み、母猪のお産が始まります。

みんな手慣れてますねー。産婆を頼む必要がないのは、将来的にも有り難いです。
日本でもちょっと昔の農家なら家畜のお産や簡単な手術ぐらい自分たちの手でやっていましたし、更に昔の農家は人間のお産や
なにやらを自分たちでやっていました。この島なら尚更です。

で、 すっぽん と産まれました。オークの子が。


‥‥見間違いじゃありませんよね。
うん、確かにオークの赤ちゃんだ。ウォスの竹筒製水筒のぬるま湯で洗われてますが間違いありません。
どう見ても猪の子じゃないから、最初は重度の奇形児かと思いましたがよく見たら普通のオーク赤子でした。

母体は元気そのもので、ウォスに返して貰った赤子オークを全身舐め回しています。そして地面に横たわって我が子に乳を与え
始めました。
夫達や周りのオークは、やれやれ一安心といった感じで見張りを残して解散していきました。ドスはひとっ走りして巨大虫の所に
行って止めを刺し、愛用の銛を回収しています。

「グヒッ」

三又銛を回収するまでの予備として渡していた刺突剣(エストック)を返して貰いました。念のために貪り食う無限袋から、交易
品やその他の荷物を入れた大袋を出してから、その中に予備の武器を仕舞って再び無限袋に入れます。
前に袋を出したのがお産の前だからまだ三十分も経ってませんが、念のためです。

ええ、今は大樽を使っていないのですよ。巣から持ってきたあの大樽は、赤トログロダイトが自爆した時に臭油が染みついてし
まって廃棄するしかありませんでした。もう臭くて臭くて。
中まで臭いが染み込まなくて助かりました。もしそうなってたら交易品もお土産も私のおやつも全滅してます。


ええと、何を考えていたのでしたっけ?

そうだオークだ。いのししがおーくをうんだんですよついさっき。


Q2、女神様。オークって猪の腹から産まれるのですか?
A2、貴女がオークと呼んでいた生き物は猪や豚の腹から産まれます。貴女がハーフオークと呼んでいた生き物は人間(ヒュー)
やエルフやその他の人型種族の腹から産まれます。

Q1、じゃあオークって何なのですか?
A1、貴女がオークだと判断するものがオークです。

Q1、つまり猪から産まれた猪っぽいオークがハラキズ達で、人間から産まれた人(ヒュー)族っぽいオークがグェスたちだと?
A1、その通りです。

Q1、ではオークという種族は、厳密に言えば存在しないのですか?
A1、純血種のオークという意味でなら存在します。神殿にも何人かいますよ。見分けが付けにくいでしょうけど。詳しくは高位の巫女達に尋ねなさい。

A0、今宵はここまでにしましょう。おやすみなさい。


おやすみなさい。

私は勘違いしていました。私がこれまでオークだと思い込んでいた、より豚さんっぽいオーク達は純正のオークではなく猪との
ハーフオークだったのです。
オークから見ればハラキズやタレミミたちはハーフ猪で、グェスたち三人はハーフ人間です。


ああそうか。なんで今まで気付かなかったんだろう。
「鉄の王」に支配されていたころ、この島には何千匹というオークが奴隷種族として飼われていました。
豚のように早く育ち、牛や馬よりも器用で力強く聞き分けのよい豚オークたちは理想的な奴隷だったでしょう。強い者には素直
に従いますからね彼らは。
オーク達の独立戦争は奴隷解放戦争でもあったのです。

その奴隷オーク達は、同じく「鉄の王」に飼われていた豚たちと交尾させられて繁殖していたんです。
この島のオーク達の先祖は、大母様を救ったオークたちは豚の腹から産まれたハーフ豚オークだったのです。
そりゃそうです。何千匹もいた奴隷オークの数を維持するにはどう考えても何百人もの母胎が必要だった筈。

独立戦争の伝説で「魔王軍に捕らえられていたオークや女達を解放した」という一節をウチの巣の連中から聞いていましたので、
てっきりオーク繁殖地みたいな施設があって人間の女とかがオークの子供を産まされていたのかと思っていましたが、産んでい
たのは雌豚たちだったのですね文字通りの。

おかしいと思うべきでした。
この神殿にいる下っ端オーク達、いままで私が「ハーフじゃない純正のオーク」だと思い込んでいた生き物たちは誰を母親とし
て産まれてきたのか。それを真面目に考えていませんでした。


たとえばグェスには、成人している同腹の兄弟がいません。もうすぐ7歳になるのに、です。
ウォスには兄さんが、ドスには弟がそれぞれ1人ずつ同腹でいます。でも成人済みのオークはそれだけで、あとはまだ成人の試
練へ挑戦してない年少の弟達がいるだけです。
この島では1人の女が10人ぐらい産んで、そのうち2~3人が生き残れば良い方なんですよ。あまりに物騒だから。

一人前オークの三倍はいる下っ端たちですが、死亡率から考えればもっと産まれていないと計算が合わない。
仮にウチの巣の幹部達が女に見境なくて、多めに計算して計6人の嫁さんがいるとします。
すると嫁一人一人が2年で3人のオークを産むとしても、一年あたりの人口増加数は僅か9人。

ウチの巣では、先月に三人の下っ端達が死にました。今月だって、ハラキズはもう少し傷が深かったら回復薬使う前に死んでま
したし、マルマルは危うく毒貝に刺されるところでした。他の連中も、見ていて冷汗が出たことは一度や二度じゃありません。
短い期間に三人も死んだ先月はともかく、平均すれば一年で10人以上死んでいるのですよウチの巣でも。

比較的危険度が低い地域にある、幹部達が「いのちだいじに」主義のウチの巣ですらこれです。
稼げる狩り場の多い、危険地帯の巣なら死亡率は更に数倍増しでしょう。

女達だけではいくら産んでも消耗に追い付きません。もっと多くの母胎がないと計算が合わないのです。


そうか。「猪は仲間」って文字通りの意味だったんだ。先祖に猪が入っていないオークなんてこの島にはいないのですから。
と、いうことは神殿育ちの孤児だというウチの巣の下っ端たちは、猪を母に産まれて、しかも母親を早くになくしたのですね。
この物騒な島でなら珍しくもない境遇なのでしょうけど。

ファンタジー世界に存在するこの島だけど、エロゲの世界とは微妙に設定が違うようです。
オーク達は豚や猪の腹を借りても繁殖できるのですから。ひょっとしたら犬とか大型猫類でもできるかもしれません。






[38600] 31
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/11/03 10:52



 ☆59日め9、まだ断定するには早いかな?☆


夜回りを終えて帰ってきました。
件の巨大虫は下っ端オーク達に引き渡しました。今頃は解体も終わって処分されているでしょう。
あの虫型モンスターは珍しくはないけど、そこそこ強いので神々への供物にするのです。

余程よい獲物でない限り、見回り中に仕留めたモンスターは手伝いの下っ端達にそのまま下げ渡されます。
供物にするだけでなく、死骸を食べるも良し素材にするも良し。
夜の見回りは下っ端達にとってかなり危険ですから、これくらいの役得はあるべきでしょう。

ちなみにあの巨大虫はサソリとかと同じで肉に毒はありませんが、サソリと違って美味しくないから食用に向いてません。
サソリも色々いますが、島の低地でよく見かける茶色で50~70センチ級のやつはぶつ切りにして焼くか揚げると割といけ
ます。
大怪鳥の好物ですし、美味しいのも当然ですね。あれで毒持ちでなければ養殖できるのだけど。


今は三人で下っ端達と猪の居住区に来ています。人員の新規募集の為に。ウチの巣に来たいオークは私たちが帰るまでに名乗
り出るよう伝えたのですが、行ったついでに居住区をざっと見ているのです。

というか私的にはこちらの用事が本命。空中からだけではなく地上からも元ゴミためを見分してみたかったのです。
結論から言えば、下っ端居住区で暮らしている雌猪の3割ぐらいが下っ端達のお相手でした。
下っ端オークたちの愛玩妻であり半ばペット的な愛獣であり、産まれてくる子供達の母なのです。
仲がよいとは思ってましたが猪たちがオークに懐いているというよりも、オーク達が母親やその同族に懐いていたのですね。

雌猪たちもオークを仲間とみなしていて、産んだオーク子供を猪の子と分け隔てなく可愛がって育てています。
犬だって室内飼いして人間同様に扱っていると、自分を人間の一種だと思うようになりますからねえ。αシンドロームとか起
こすこともありますし。
ある意味で犬以上に賢いとされる猪が、オークとの共生関係を維持できていても不思議はありません。


人間の腹から産まれたオーク達、例えばドスが人間だという理屈は解る。よく解る。エルフやヒュー族ではないだけで。
オーク族は知性と人格を有してますし、地球風に言えば人権を認められるべき生き物なのです。

では豚や猪の腹から産まれたオークは?
人間です。
直立二足歩行してる知性と社会性がある人型の生き物なのですから、人間扱いすべきです。

そりゃ確かにお馬鹿だし助平だし単純で粗野で脳筋で時々妙に頑固だけど、良い連中なのですよハーフ猪オークたちは。
もし私が人妻でさえなければ、お嫁さんになってあげても‥‥とか思うぐらいには。

ええ、ハラキズたちでも13人が力を合わせれば、2~3人ぐらいのお嫁さんならなんとか守りきれると思うのですよ。
私だってどんどん強くなっていますし。
ただ普段はなんとか凌げても、桁違いに厄介なモンスターが攻めて来ると詰んでしまいます。
大猪などはまだしも、来たのがトログロダイトなどの敵対種族だったら目も当てられません。

早いところ下っ端達を安全に効率よく強くする訓練方法を編み出さないといけませんね、でないとウチの下っ端どもは一生独
身決定です。
雌猪だって囲えません。とりあえず今は、ウチの下っ端達は雌猪を下半身で愛玩する気はなさそうですが。


今のウチの巣の防御力だと、お嫁さんどころか居候の猪親子すら守りきれるかどうか。あのウリ坊には無事に育ってほしいの
ですがどうなることやら。今月下っ端達に死人が出なかったのは単に運が良かっただけですし。
オークにとって猪は仲間です。子供を産んでくれる雌猪は家族です。家族ならば守り通さないといけません。
オークたちが今も「鉄の王」を怖れ憎んでいる理由がよく解る。
その支配下で奴隷となっていたオーク達は家族である雌豚たちを、自分を産んでくれた雌豚や自分の子供を産んでくれた雌豚
を取り上げられて殺され、時にはその肉や骨の残骸を餌として食わされてきたのですから。

オークが猪の肉を食べない訳ですよ。意識上で同族であり、しかも共食いがトラウマになっているのですから。
例外として大猪の肉だけは食べますが、あれはオーク達が死んだ仲間オークたちの肉を食べてその無念を受け継いでいった歴
史が影響しているのでしょう。
無惨に殺された弱者である同族の肉を食うことはオーク達にとって耐えようのない恥辱で、勇敢に戦って死んだ仲間や強敵の
肉を食うことはその勇気と強さを取り込みたいという賞賛なのです。
浜辺で大赤エイに刺されるとかで、事故みたいにあっさり死んでしまうと対象外なのですね。


この島のオーク達が変態紳士なのは、外道に落ちたくないという怖れもあるのかもしれません。
現に金髪ちゃんの旦那様は金髪ちゃんたちが乗っていた船が降伏した際に、圧倒的優位にありながら降伏を受け入れ、双方平
等に治療して、最後まできっちり約束を守り通しました。
生き残った船員たちを神殿まで送り届けた上に、彼らに故郷に帰るには充分な財貨を与えて釈放しています。

しっかり交わした約束を破ること、そして守りようのない約束を結ばせることや勝とうが負けようが意味のない勝負をさせる
ことは彼らにとって許し難い罪なのです。だからこそオーク達はトログロダイトの「アロー&ラン」のような詐欺行為を憎む。

なお、釈放されて島を出ていった元船員の幾人かはそのまま乗せて貰った海賊船の船員となり、その後も何度か元船主の娘達
と会っています。
彼らや他の船の船の船員などから故郷の話を聞いて、もうこの島にしか居場所がないと悟ったからこそ金髪ちゃんも覚悟を決
めた面がありますので、全く下心無しとも言えませんが不誠実な話ではないでしょう。

いえね、「同時期に公式な愛人が2人しかいない」ことが愛妻家だという評判の根拠となったり、「しても問題ない状況で町
を略奪しなかったことが一度ある」ことが君主の慈悲深さの根拠として伝説となり代々語り継がれ、歴史に残るのが西方文明
社会でして。

まあ、東方世界やヒルデニアの貴族社会だって負けず劣らずにえげつないんですけどね。
信義もなにもあったもんじゃありません。
地球でも近代史上「たとえ損をしてでも、一度書面で交わした約束は守る」という原則を貫き通した列強が一国しかない事を
考えたならば、貴族社会構成員の心労は察するに余りあります。


オーク達は、オーク基準でですが誠実で善良です。誠実で善良でありたいと思っています。
下っ端オークは、少なくともウチの巣の連中は良いやつらなのです。
だから「産まれる子供を守れるかどうか解らないけど、多分守れないけど孕ませちゃうぜ! 責任? 知らん!」なんて無責
任な奴などいないのです。少なくともウチの巣にはいません。
エロモンスターだけどきちんと責任は取るのがオーク流でして、やり捨てなんかにはしないのです。


変態紳士じゃないけど愚劣ではないのですよ、ウチの巣の下っ端どもは。考え無しに女の子を孕ませたりしません。
後はもう少し慎みというかセクハラを抑えてくれればなー。
以前に比べればかなりマシになりましたけど、下っ端達は機微というか繊細さってものに欠けているんです。
まあ、地球の男子校生徒より更にガサツな環境で育ったのだから無理もありませんが。

私が巣に来たばかりの頃、下っ端達はえらくはしゃいでましたが‥‥。
彼らにとってみれば、巣に来たばかりの私は「数カ月ぶりに見る人間の女の子」でしたから興奮するのも当然でしょう。
しかも生の至近距離で見て聞いて嗅げて、怯えられたり蔑まれたり憎まれたりせず、かといって洗脳などの不自然な操作をさ
れている訳でもない可愛い女の子がやって来たなんて、学徒動員兵部隊にパーフェクトジ○ングが配備されるぐらい有り得な
い展開ですからね。




観察と聞き取り調査の結果、猪は一度に1~4人ぐらいのハーフ猪オークを産むことが解りました。妊娠期間は人間と同じく
半年弱で授乳期間は約一月ですね。生後半年以内に親離れを済ませるようです。
ハラキズたち孤児オークは、この半年が来る前に両親を亡くしてしまい、その後は神殿の下っ端オーク達に面倒見て貰ってい
たのです。

で、生後半年ほどで自立して神殿の雑用をしたり神殿近くで貝掘りや芋掘りなどをしたりで食いつないでいき、「いつまでも
こうしてはいられないけど進んで命を投げ捨てるのもなあ」とか思い始めた頃に一風変わった流儀の巣があって新入りを募集
していたので、勧誘した幹部オークに付いてきたのがウチの巣の下っ端連中な訳で。


観察の結果小柄な雌猪ほど産む数が少なく、大柄な猪は一度にたくさん産む傾向があることが解りました。
いや、大きいのになると300㎏級とかもいるんですよ雌猪って。
私の巣の近くにいる野性猪たちはわりと小柄ですが、神殿の猪は大柄なのが多いですね。
雄猪で特に大きいのになると下手な牛より大きいです。大猪みたいに河馬やサイ並とまではいきませんが。
何故ウチの巣周辺には大きめな猪が少ないのでしょうか?
 

はっきりとした統計こそありませんが、この島には星6以上のオークが数百から千人弱、星4~5のオークが数百人いると思
われます。
合計で千五百としておきますかとりあえず。もう少し多いかも?
そして下っ端たちが三千から四千程度いると思われます。ウチの巣は余所の巣と比べると下っ端の比率が多い方でしょう。
というか星3ぐらいの中間層がいないのか。

この下っ端たちの半分以上が神殿で産まれ、残る四割強が各地の巣で産まれます。
参拝者や交易人を除いても神殿には100人近いオーク戦士たちが常駐しています。市場や嫁取り戦などの決闘が行われてい
ない時期でも奉納とか嫁さんの検診とかでオークや他種族の戦士達がひっきりなしに来ますので、単純にオーク戦士の歩兵戦
力だけを計算しても神殿の防御力は高い。

これに数百名の巫女さん達が加わります。その半分以上は妊婦さんや戦闘向けでない気質の人でしょうけど、駆け出し程度で
も呪文使い(スペルキャスター)がそれだけいれば支援能力は絶大です。

そして旧田園地区や果樹園の地形が擬似的に堀や塀の役割を果たしていますし、神殿とその周囲には何重にもモンスター除け
の結界が張られ警報用魔法装置が仕掛けられていて、更に数百人の下っ端オーク達がいます。彼らだって平均的な農兵とかよ
りは余程強いのですよ。ただし指揮官がまともなら、の話ですが。

それでも神殿の外周ではモンスターの襲撃が少なくない頻度で起きています。死人が出ることもあります。
時には、昨夜の巨大虫などのように危険なモンスターが神殿のすぐ傍まで接近することさえも。

もし私たちが帰り道でヤシガニを捕りにいかず、真っ直ぐ帰っていたらあの虫のせいで10やそこらの死者が出てもおかしく
ありませんでした。
ヤシガニに反撃された迂闊な猪がいたからこそ助かった命がある。運命とは奇妙なものです。


この島で最も守りが堅いはずの場所でも、死の危険が常にあります。それでも他に比べれば安全で余裕があるんですけどね。
確率論で言えばウチの巣よりもずっと死亡率低いですから。
居住区の大きさや防衛設備、そして何よりも住人の数が足りない普通の巣では雌猪はあまり囲えません。余程の激戦区でなけ
れば不可能ではないでしょうが、まとまった数の猪たちを世話できる巣は少ないのです。

なので、オーク達に囲われている雌猪の数は思ったより少なさそうです。
仮に下っ端オークの平均寿命が6年だとします。島の下っ端オーク(2~6歳)が4000人だとすれば、毎年800人生まれ
ていれば人口増減はありません。
囲われている雌猪一頭が年平均2.5人のハーフ猪オークを生むとすれば、島全体で320頭囲われていれば計算は合います。
とすれば平均寿命が3.5年だとしたら年あたりの出産数が1600人で雌猪が640頭。

うーん、平均寿命5年で毎年1000人生まれて雌猪400頭、あたりが近いかな。大外れではないでしょう。
神殿にいる雌猪のうち100頭ちょっとがその腹にオークの子を宿していて、20頭足らずが赤ん坊オークに授乳していて、
残る80頭ちょっとが乳離れした息子を育てていたり、人間で言えば10歳程度まで成長した息子を親離れさせていたりする
と計算が合いません。

あれ? オーク赤子に授乳中の猪が明らかに多かった気がするのですが?
少なくとも50頭ぐらいはいる筈です。この神殿周辺だけで。
だとしたら一年当たり600人のハーフ猪オークがこの神殿で生まれていて‥‥あれ? 計算合ってますよ? 
ハーフ猪オークが島全体で年間1000人ちょっと生まれていて、その過半数が神殿生まれだとすればちゃんと計算が合う。

ああそうか、ハーフ猪オークの赤子に乳をやっている雌猪たちが、何故か一頭につき一人ずつしか飲ませていないから母猪と
子供オークの数がごっちゃになっちゃったのか。私の勘違いでした。


夫達に聞いてみて解りましたが、猪から産まれたオークも人の腹から産まれたオークも、周りから貰い乳をして育つのが普通
なのです。
オークの子を産んでない母猪も、乳の出に余裕が有れば分けてあげているのです。
オーク社会には哺乳瓶や代用乳(地球で言えば粉ミルクとか)が普及していないせいもありますが、貰い乳で育つからこそ群の
結束が高まるという面もあります。
猪たちにとっても、乳を分けてあげた子供達がやがて自分や自分の血を引く猪たちを守り世話してくれるようになるのだから
悪い取り引きではありません。
なので不慮の事故などで母親の猪をなくした子供オークも乳には困らないのです。

このあたりの事情は幹部オークも同じで、原始的な社会保障制度なのですね。
たとえばレェ・ウォスも産みの母だけでなく、ハーレム仲間の六人やご近所さんの奥さん達から乳を分けて貰っていたのです。
赤ん坊の時から愛らしいと評判だった彼はおっぱいに不自由せず、乳離れするのが遅かったとか。
いえ、今でも私のおっぱいが大好きで一度口を付けたらなかなか離してくれませんけどね。


結局、どの腹から産まれてもオークはオークなのです。


宿舎で待っていたソーニャさんに滝壺焼酎とヤシガニの網焼きなどの手作りおつまみを勧めつつ聞き出したのですが、オーク
というのは非常に都合の良い肉体してる生き物でして‥‥。
人間(ヒュー)、エルフ、ドワーフ、ノーム、獣人、フェアリー、小人、オーガなどの雌に子供を産ませてしまうだけでなく、
豚や猪、狼や犬、虎や豹、牛馬ロバなど中型以上の哺乳類なら大抵孕ませてしまえるそうです。
ミノタウロスやその親類は孕みません。ミノ系種族は雄しかいませんからね。


しかし話を聞いた限りでは「指輪」やその流れを汲む作品に出てくる連中とは微妙に違う生き物が多いみたいですね。
まあ、ゲームの中ですら作品によって結構設定が違うんですが。
実際の評価はこの眼で見てからですね。
人間(ヒュー)、エルフ、獣人、オーガはもう見ましたけど、ドワーフ、ノーム、フェアリー、小人族などはまだです。
あと見たことあるのはコボルドとミノ系種族にセルキーか。


なんか嫌な予感がしてきたのですが。オーク族が人造の種である可能性は高まる一方です。そういや「指輪」のオークたちは
エルフ族を元に魔王が造り替えた種族でしたっけ。
そこらへんの動物の腹を借りて繁殖できるのなら、オーク族の戦略価値は恐るべきものになります。
人間とは戦力補充の難度と速度が違いすぎる。一人潜入に成功すれば、トログロダイトほどではないにしろ急激に仲間を増や
せるのですから。

「なんか、東方世界がオークに征服されていないのが不思議なぐらいなんですけど」
「不思議はないわ。考えてみて、オークは母親に似るのよ?」

確かにハラキズたちは人懐っこくて好奇心旺盛で食いしん坊で情が深いですよね。この島の猪たちに似ています。
え? そうじゃなくて?
ああそうか、基本的に猪や牛や馬の腹から産まれたオークたちは、文明を維持しないのですね。必要ないから。
オークは生物としての基本能力が高いから文明の力に頼らずに生きていけますし、大きな群も作らないのです。
だから人間もなんとか対抗できる。

オーク族は人間の女‥‥いえ、ヒュー族だけでなく人型知的種族の雌を好みます。人間などと接触する機会の多い部族は特に
好んで嫁にします。長持ちするエルフ族が最も珍重されますがドワーフや獣人や小人族だってばっちこいです。

人間の文明に対抗し凌駕できるのは、文明の力を取り入れることができる母親似のハーフオークだけだからです。
オーク達は自分たちの歴史を伝承として語り伝えますが、その中で英雄は必ずと言って良い程ヒュー族など人型種族から産ま
れています。
人間の女の腹から、偉大な勇者や英雄が産まれる。それは歴史や身近な事実としてオーク達に刷り込まれています。

よって、オーク達にかかる淘汰圧が高ければ高いほどエルフやヒューやドワーフなどの雌奴隷需要が高まる訳です。


「つまり人間やエルフの母親から産まれたオークでないと、オークの王様にはなれないと?」
「族長をまとめる大族長を更にまとめるような大王ともなると、余程の器量と目的意識がないとね」

ふむ。そういえば何処ぞの苦難マゾヒズムな王様は「君主に最も必要な資質は熱意である」とか言っていたような。
そのままでもそれなりに暮らしていけるオーク達をまとめ上げて人間の国家や文明に対抗させよう‥‥なんて考えるのは、
文明の力と構造を知っている者だけですよねえ、確かに。
相手の強大さがよく解っているからこそ、一部だけでも真似しようと思う訳ですし。

大母様や神殿の女達、そして各地の集落にいる嫁さん達が協力しているからこそこの島の文明は維持されています。
脳筋なオーク達だけではここまで上手く回ることはないでしょう。
神殿の統治‥‥というよりも統合する機構(システム)がこの島をまとめ上げていなければ、トカゲ帝国などの列強に蹂躙され
ていた筈です。


オークはどんな腹から産まれてきても、オークらしさの部分は変わりません。
豚っぽい顔つきとか、太ましいお腹とか、熱いハートとかは変わらないのです。
でもそれ以外の部分は割と変わります。
母方の血の影響で、肌艶が滑らかになったりとか手足が長くなったりとか顔がますます猪っぽくなったりとかする訳です。

つまり強い母親から産まれたオークは、そうでないオークよりも強くなる訳です。
オーク達は強く賢く気立ての良い女から、その能力を引き継いだ子供が産まれてくると信じています。
そしてそれは決して間違いではありません。統計をとればはっきりとした結果が出るでしょう。
だからオーク達は大概において上昇嗜好が強く、命がけで嫁取りする訳です。


なお、血統もですが環境の影響はより大きいものと思われます。
東洋医学では昔から「妊婦が気楽に過ごすと元気な赤ん坊が産まれる」ことを経験則として知っていました。
胎教の影響って意外と大きいのですよこれが。
幼児虐待が連鎖する事例があるように、育った環境が人生に与える影響の大きさは言うまでもありません。
そして赤ん坊の育つ環境の良し悪しは、その最大要因が家庭内で決まります。要は家内が安全かどうかですね。


例えば一流冒険者の母親が大好きな旦那様たちに可愛がられまくって孕んで、幸せいっぱいな生活の中で祝福を受けて産まれ、
母の愛情を溺れそうなぐらいに浴びて育ったオークが、そうでないオークよりも強く丈夫で賢く穏やかな気質体質に育つのは
当然ではないでしょうか?
そのうえ父親や親族や年上の兄弟達など巣の仲間たちは一騎当千の強者揃いで、幼少時からその強者たちやそれに近い実力を
持つ母親たちを手本と仰ぎ、直接手解きされて鍛え上げられたのですよグェスたちは。強いのも当然です。

強い雄(オーク)が強い妻を手に入れて、強い子供達を得る。
弱いオークたちにも這い上がる手段や道筋はありますが、生まれつきの格差が壁となって立ちはだかるのです。
この島の住人達は、その殆どがそれを受け入れています。運命には逆らえない、と。
数少ない例外が私の巣の住人達です。私を含めて。



この夜はソーニャさんを入れて四人で語らいつつ大いに飲みました。
宴の終わり頃には、緊張気味だったドスとウォスの態度もいくらか解れてましたね。
で、前々から気になっていたのですが‥‥ソーニャさんって、実はオーク好きなんじゃないでしょうか?
やたらオークの生態や社会に詳しいし闘技場では大怪我させないように闘ってるしで、少なくとも大嫌いではない。




 ☆60日め、旦那様が素敵だと困ることもあります☆


で、一昨夜と同じく昨夜も可愛がって貰いました♪
二人の夫と同時にキスして貰ったり、二人いっしょにおっぱいを吸って貰ったりと他の夫婦たちと比べるとおままごとのよう
なことしかしていませんが、何度も何度も意識が飛ぶぐらい気持ちよかったです。
今更ながら 愛 撫 という言葉の意味が解りました。
いまはまだされるがままだけど、近いうちに私からも色々してあげようと思います。

同じく、と言いましたとおりウォスとドスの二人は私の上半身にしか触りません。
お臍から下には指一本触れようとしないのです。これは一昨日の夜もそうでした。
エロモンスターの彼らに下半身を触られたら、特に両脚の付け根あたりを愛情たっぷりに撫でさすられたら、その中心線に並
んでいる敏感な箇所をどんな宝物よりも丁重にいたわり可愛がって貰ったら、私の理性は蒸発してしまいますからね。

現にいま、寝ぼけたウォスの手が裸のお尻をさわってるだけで、触れている箇所から快感と幸福感が広がっていくんです。
そうですね、喩えるなら「寒くて凍えきっているときに、腰へ熱い打たせ湯を浴びている」ような感覚でしょうか。
微かな痛みにも似た幸福な刺激が、でも湯と違って 生 き 返 る のではなく 生 ま れ 変 わ る ような快感が
まず下半身に、そして全身へと熱い血液と共に広がっていくのです。

もしここでウォスに「コヅクリ、シタイ」とか言われたら止まれないでしょう。もちろん相手がドスでも。二人同時でも。
下っ端居住区で巫女さん達がそうしていたように 「はい。レイの全てを征服してください」 と、夫たちの好きなポーズを
取って誘ってしまいます。
まあ二人は私にベタ惚れですから、どんな姿勢でおねだりしても喜んでくれますけどね。


でも、それは不誠実な行為です。私は「妻になるかならないか、誰の妻になるかは自分で決める」と約束したのですから。
オーク族は約束を重視します。だから強者が暴力で約束を破ることも、弱者が非力さを理由に言い逃れることも許しません。
私が夫達のうち誰の子を孕むかを自分で決めると約束したからには、グェスがいないこの状況で子作りを始めるわけにはいき
ません。だからウォスもドスも新妻のお臍から下には触らないのです。

嫁に約束破らせないために、優しく誠実な二人の夫は三人が揃うまではお臍より下を可愛がらないという変態紳士協定を遵守
しているのです。意識があるうちだけは。
寝ぼけているとついつい触ってしまいますが、三人ともそのことは全力でなかったことにしています。


はあ。何故に私は一人なのでしょうか。
こんなことになるなら、あのトログロダイトみたいに分裂しときゃ良かった。
そうすれば誰に 処 女 を 捧 げ る か で悩まずに済むし、胎盤の【生命の粘土】も減るから棘ドラゴンが生まれな
いか相当に弱くなって被害も激減していたでしょう。

夫達はエロモンスターですがユニコーンではないので、ヴァージンマニア(初物好き)じゃありません。
というか処女を抱いた経験がないそうです。
この島に初物女は神殿か外から来た船ぐらいにしかいませんから無理ないですけど。
助平なわりに妙に奥手だと思っていましたが、経験のない女の子の相手をした経験がないのですね三人には。
だから緊張するし慎重にもなる、と。

いま思うと、初めて一緒にお風呂入ったときとかみんな可愛かったですねー♪
大きな体をがっちがっちに緊張させて、嬉しいけど困り果てている夫達の姿を思い出すと自然に笑みが浮かんできます。
夫達が変態紳士で良かった。
もし本物の紳士だったら、私は夫達を利用するだけ利用してとっくの昔にこの島から去っているでしょうから。

そして今頃は場末の娼館かどこかで首括るか、首括りに失敗して薬漬けにでもされてます。
自分で言うのもなんですが、今の身体は可愛さだけはなかなかのものですから油断したら即座に攫われているでしょう。
いくら女神様や混沌神やその他何かの加護があっても、後ろ盾どころか現地社会の常識すらない小娘が中世風世界でやってい
ける訳がありません。原始や古代や近世や近代でもそれは同じ事ですが。

現代の地球だって、この姿の私が丸一日無事に過ごせる環境の方が少ないでしょう。
豊かで治安が良い文明地域というごく限られた場所で、ある程度以上の暇と生活の余裕があるお人好しというごく限られた
類の人間と最初に出会わない限り詰みます。
まして、この世界の住人達が最初に出会ったオーク達の半分程度でも誠実だろうと思い込んで行動なんかしたら、破滅するし
かない。

可愛い女の子と楽しく過ごしたい、できれば巣に残ってお嫁さんになって欲しい。
最初に出会った三人が、そんな下心がありありだけど暴走だけはしない変態紳士だったからこそ、私は生きる道を探すために
期限付きで巣に残ることにしたのです。


そして私の生きる道は見つかりました。人間の業に従う道です。
某四文字教というか四文字神はあまり好きではありませんが、その聖典にはなかなか良いことも書いてあります。
中でも「産めよ増やせよ地に満ちよ」とか好きですねー。生物の本能を肯定しています。
良いんですよ際限なく増えても。
全ての生命はエゴイズムの権化なのですから、無理に本能へ逆らうのは不自然であり不健康なのです。


で、精神的同性愛者の自覚も持ったし夫が三人もできたし好きな男と子供を作れる超能力も得たしで、たくさん子供を産むつ
もりですが物理的限界はもちろんある訳で。
ウチの巣を大きくするには、複数の女達と女子供を守り通せる戦力を集めなければなりません。

戦力の拡充を図るには、弱いものを強くするのが常道。平均点を上げるにはまず赤点科目をなくすことから始めなくては。
つまり足手まといを足手まといでなくす事が必要で、ウチの巣で最も足手まといな私がせめて星3ぐらいにまでなればかなり
楽になります。あと、その成果は下っ端達の強化にも応用できるでしょう。

なので、私はソーニャさんに弟子入りしてあの強さを一部だけでも身に付けたいのです。
できればソーニャさん自身も欲しいですけどね。護衛が要らないぐらい強い嫁さんがいれば、やりくりがぐっと楽になります。
たとえば夫達三人は三人一組でいてこそ最高の戦力となるのですが、現状では私がいる巣を守るために留守番を置かなくては
なりません。
となると外では一人か二人で行動する羽目になり、深い迷宮に潜ることなど本気を出さないといけない事がやりづらいのです。



さて、ソーニャさんの通い弟子になるとしても、問題はこちらから何を提供できるかなんですよねえ。
交易船を手に入れたら船に乗って貰いたいところですが、それは報酬ではなく労働条件ですし。
というか一流冒険者を雇える資金なんてありませんからねえ、今の私には。
財力以外の、例えば教団や君主と違って権威が保証する名誉とか権力が保証する大義名分とかも与えられません。

そういえば船の方は最悪何処かから分捕るという手もありますが、人件費はどうしましょう?
お嫁さん達は生活共同体(ゲマインシャフト)に組み込むから良いとしても、それ以外の人員も欲しいですし。
駄目で元々、何か稼げる手はないか考えてみますか。


朝のまどろみは幸せそのもの。ドスの肉布団に俯せで寝そべり、ウォスの手がタオルケット代わりに腰を温められていたおか
げで全身ぽかぽかですよ。
打たせ湯のようだった刺激は熱くなった血が全身に行き渡るにつれ、寒い日の床暖房と発熱毛布のような幸福感に変わってい
きました。
はあー 極楽極楽。

四文字神の手下と違って阿弥陀さまとそのお弟子さん達は寛容なので、極楽では酒が飲めるのです。他者に迷惑かけない限り。
酒が飲めるなら妻帯だってできる訳で、極楽では邪淫戒に反しない限りえっちもし放題です。
だから旦那様たちに愛撫されてとろけている今の気分を極楽に喩えるのは正しいのですよ。
私が決めたそう決めた。文句がある奴はここに来い。
というか酒も飲めず旦那様とのいちゃいちゃもできない場所なんて極楽とは認めません。


いつまでもこうしていたいのですが、そうもいきません。物理的に。
いくら特別製とはいえ、人間の肉体である以上は限界があります。例えば膀胱の容量とかに。

この部屋にはトイレや携帯便器の類がないので、用を足そうとすれば部屋を出るしかなく、部屋を出るなら夫達のせめてどち
らかに付いてきてもらわねばなりません。油断すると攫われちゃいますから。
ドラゴンスレイヤーたちの嫁に手出しする馬鹿はそうそういませんが、偶に考え無しのがいます。
全てのオークが変態紳士じゃありませんし、紳士でも我を忘れることがあります。酒が入ったときの村田蔵六みたいに。




 ☆60日めの2、イワシの頭もなんとやら☆


部屋の外に出たついでに、朝のお勤めもしておきましょう。
女神エスティアに朝の祈りを捧げるのです。

いえ、ついでで良いと言われましたもので、女神様ご自身に。ついさっき。
知恵と炎の女神エスティアは人間と結婚と家庭の守護神なので、夫婦が朝の一時を過ごす時間をお祈りに優先させることが許
されるのですよ。教義的にも、信仰にかまけて夫婦仲が冷えたりしたら本末転倒です。
ほら、地球の某宗教でも「毎日決まった時間に礼拝しようね」という戒律がありますが、あれは異民族との戦争とか災害現場
とかの急場や修羅場にはやらなくても良いことになってますし。気にする人は後でまとめてやるらしいですが。
何処の社会でも世界でも、まともな宗派なほど寛容なものなのです。


ふうむ、大広間の方は先客で一杯ですね。他に行きますか。
ええと確かこっちの方に‥‥あったあった。
神殿には至るところに祭壇や祠があり、六大神や他の神々の神像が飾られています。
その中にはエスティア神だけを祀っている所もある訳でして。ちょうど人もいないことですし、ここで朝のお祈りをすること
にしましょう。

微妙な違いがありますが、この女神像も大広間にある女神像と同じ造型をしています。同じ作者が同じ人物というかキャラク
ターとして彫ったものでしょう。
悪くはない。悪くはないのですが、やはりうちの女神像と比べると格段に落ちますね。まあ良いか、気は心ですし。

拝んで祈って、ついでに聖別もしますか。
聖別とは対象物を神の力で清め、特別なものにすることです。

水だけでなく、聖別することで他のものも聖水のように聖なる力が付与された状態にすることができます。
例えば油を聖別すれば聖油、パンを聖別すれば聖餅、薪を聖別すれば聖薪ですね。
とあるTRPGでは、吸血鬼などの一部モンスターは聖別された食べ物を口にできないことになっていましたが、怪しい人物
の妖怪判定に使えるだけでなく、聖別された食べ物は腐りにくく呪われにくく腹持ちが良くて栄養価も幾らか上がるそうです。

で、武器や防具にも聖別はできる訳でして。
試しに今朝は対アンデッド用の銀塊礫を聖別してみました。
この聖別された飛礫なら、普通の武器としてだけでなくアンデッドに対して聖水を一瓶ぶっかけたのと同等の追加ダメージを
与えられます。

‥‥‥‥ん?

私、一日あたり10本の聖水を作れるのですが。
なのになんで、総計すればその10%分の効果しかない聖別武器を作らなければならんのですか。
いえ、元々の武器の威力に上乗せされる訳ですし、聖水の瓶よりも投げ飛礫の方が飛距離も命中精度も上ですから全くの無意
味ではありませんけど、効率悪いなあ。


さて、朝のお祈りも済ませたから次は水浴びして、それからご飯にしますか。



トカゲ帝国の船が来る日は、闘技場はお休みです。試合も決闘もやってません。
闘技場では命や一生を賭けた決闘以外にも、オーク同士の殴り合いとかの余興や娯楽としての勝負もやりますが、それも今日
はお休みです。

それでも客席には結構な数の人(オーク)が入っていて、主に升席の夫婦達を見物しています。
下っ端達にとっては、闘技場の客席は巫女じゃない女達の本気の濡れ場を見物できる貴重な場所なのです。
単に日光浴がしたいのなら、市場の隅とか城壁の上とかで寝転がってれば良い訳ですし。
市場とかの公共性が高い場所ではあまり激しいプレイは拝めませんし、中庭の芝生や噴水などの場所は下っ端オーク的には敷
居が高過ぎて、近寄りがたいのです。

下っ端オークにとって闘技場は重要な娯楽施設であり、欲望願望を再燃焼させられる場所でもあります。
勝負が白熱しているときは升席より舞台の方に注意が向きますが、決闘の合間や詰まらなさすぎる勝負の時は升席を眺めてい
れば下っ端オークは退屈する暇もありません。
まさに「嫁が欲しけりゃ強くなれ!」と焚きつけられ続ける場所なのですね。


今更ですが、神殿の建物は海際の小山全体を被うように造られています。
朝の早い時間は、このミッシェル山の北側にあるこの闘技場はまだ涼しいのです。日影ですから。
なので広くて明るい場所の過ごしやすい時間帯で、お嫁さんとたっぷりいちゃいちゃしてから浜辺へ出て競りを見物するとい
う戦士たちが結構います。
逆に砂浜でナマモノ戦艦の揚陸を待っている連中は、新しい奴隷妻候補を少しでも早く見たい層なのですね。
後で良いやと思う下っ端たちは闘技場客席で人妻達の乱れる姿を見物してから浜辺へ向かいます。


何故に私が朝からここに、升席の端の方にすわっているかというと‥‥朝ご飯のためです。
より正確に言えば朝ご飯の様子を見せびらかすためです。

ほら、三人の旦那様の中で、グェスだけに口移しして貰ってるじゃないですか。つい最近まで忘れてたけど。
ウォスとドスの二人がそのことで焼き餅焼いていることに気付いたので、「ならグェスにはしていないことしてあげる」と二
人に私の方から口移ししてあげることにしたのですが、拡大解釈されてしまいまして。
確かに、一々口移しする食事風景を見せびらかすことはグェスとはやったことないですけど。

しょうがないなあ、もう。
どうせ近いうちに同じように噛み砕いた食べ物を、子供達へ離乳食として与えるようになるのです。
それを隠す気もありません。今から慣れておいて損はないでしょう。


「次は干し肉がいいの? ハチミツ付ける?」
「グヒッ」

もぐもぐもぐもぐ。噛んで噛んでかみまくります。
そうしてできたクジラ干し肉とハチミツの混ざった生暖かい唾液スープを、ウォスは美味しそうに飲み干してくれました。
分厚くて大きいのにとっても器用なオーク舌に口の中を隅々まで舐め回して貰うのも‥‥。

「ツギ、オレ」

ドスのちょっと長めな柔らかい舌で、お互いの口に含んださくらんぼを舐め転がしてしゃぶり上げて、交換したり口の中で茎
を結んでみたりするのも、とっても幸せです。
キスって良いものですねー。
なお、一昨日の時点で既に前世で交わしたキスの総回数を超えてます。前世は恋少なき人生でしたから。




 ☆60日め3、相変わらず☆


いちゃいちゃしていたらすっかり遅くなってしまいました。
もうトカゲ帝国のナマモノ戦艦が浜辺に来ています。人だかりの具合からいって競りが始まっていますねこれは。

闘技場から出た私たちは、柳などの枝を潰して作った歯ブラシとドス特製の薬湯で歯磨きをしてから浜辺に出ました。
もっともオーク達は歯ブラシとしてではなく、枝を薬湯と一緒に含んで口の中でバルブ状になるまで噛み砕いて、解した繊維
で口を濯ぐことで歯磨きのかわりにしてますね。
どうもこの柳も植物モンスターらしく、歯磨きだけでなく樹皮や葉には消毒や鎮痛や解熱などの薬効があり、この島でも一般
的な薬草として使われています。



さてと、今回の商品は全部で七人ですか。元冒険者らしき三人組と、西方とヒルデニアの下級貴族令嬢らしき娘さんが四人。
前回とは比率が逆の組み合わせですね。

貴族令嬢たちは、多少の年齢差はありますが地球で言えば女子高生かやや年下ぐらいの年頃ですね。
17か18歳ぐらいの豊満‥‥ではないにしろむっちりと肉が付いて、胸も腰回りも堂々とした亜麻色の髪の娘さんがリーダ
ー格です。


あかん。

彼女、この距離からでも解るくらい目つきがあっちの世界に逝っちゃってます。
もう堕ちてるとかそういうレベルじゃないよあれ。

残り三人の娘さんは比較的マシですが、こっちも洗脳済みですね。
他の三人より頭一つ分から半分くらい大柄で巨乳巨尻の金髪翠眼さんと、ヒルデニア人らしき残り二人はみな良家の子女らし
き気品の持ち主ですが、周り中のオーク達百人以上にじろじろ見つめられ無遠慮に値踏みされてるのに全く怯えていません。

少しばかり困惑していて、恥じらってもいますが三人の表情に憂いはないのです。
そして亜麻色の髪の娘さんは誇らしげに胸を張り、白い花の髪飾り意外何一つ身に付けていない裸身を雄達に見せつけてます。

頬を染め恥じらってはいますが、リーダーより1~2歳年下らしき三人の方も耳たぶより上以外には何も付けていない姿で浜
辺に立っています。
羞恥心はちゃんと残っているけどオーク達を楽しませるために、恥を忍んでいるのですね。


うーん、相変わらず解ってないなあトカゲ人たちは。
そういうのよりも、恥ずかしそうに手で布地を押さえて隠しているスカートとか、その下で陽光を浴びて輝く太腿とかの方が
オークたちは興奮するのに。

オーク達は露出趣味者が多いですけど、あれは恥ずかしがる嫁さんを「もう見られてたっていい」という所まで追いつめて乱
れさせるのが良いのであって、ただ単に脱げば良い訳じゃないんですよ。
周りが見えなくなるぐらい旦那様とのえっちに没頭している姿にぐっと来るのですね。
オークというか雄はなかなかそうもいきませんからねー。
いくら神殿が安全といっても、完全に没頭してしまえる程ではありません。油断すると嫁さん拉致されますし。

極端な話、いちゃいちゃに熱中していた戦士が突然観客席から襲いかかられて殴り倒され嫁さんが強奪されるようなことも、
ない訳ではありません。
現にドスが私といちゃいちゃしているときはウォスが、ウォスが私とちゅっちゅしているときはドスが警戒しています。
知り合いの奥さん達は、同じ巣の戦士や下っ端達や嫁さん達同士で互いを見守り、支援していますね。

‥‥あれ? だとするとウサミミさんの旦那様って警戒心0の間抜けでなければ、とんでもなく強い!? 
それとも奇襲を防ぐ加護持ちかな? 
オーガ村四天王であり若手オーガ最強とも言われるほどの戦士がただの自信過剰野郎だとは思えませんし。



冒険者三人組は元々同じパーティのようですね。しかも全員呪文使い(スペルキャスター)のようです。
三人とも魔法の品ではないもののそこそこ上質な装備に身を包んでいて、手枷足枷が付けられ首には丈夫そうな首輪が嵌めら
れています。
あの手枷と足枷それに首輪だけは魔法の品ですね。呪文封じとかの効果があると見た。

その三人組ですが‥‥。
栗毛の十代後半らしき美少女が聖騎士(パラディン)で、二十代半ばかそれ以上な黒髪の大柄年増さんが魔術師(ウィザード)な
のは察しがつくのですが、後一人は何でしょう?
銀髪ツインテールの幼い少女なのですが、アコライトの勘で僧侶系でないことは解ります。
しかし魔法使いの雰囲気もありません。

というか彼女、十代前半、いえ地球ならまだランドセル背負っている筈の年齢に見えますが、でも雰囲気は見習いとか駆け出
しにはとても思えません。
二つ名持ち(ネームレベル)とまではいいませんが、初心者なんてとても呼べない腕前の筈です。
全身の筋肉の付き方から見て戦士や斥候系ではなく後方職です、弓兵などの射撃系でもない。


「あれが小人族よ。彼女は精霊使い(シャーマン)ね」

あ、おはようございますソーニャさん。

本日初めて見ました小人族は、小人(こびと)と言うより小人(しょうじん)ですね。
アレ? 漢字で書くと一緒だ。
ええと、つまりぱっと見は人間の子供にしか見えません。

詳しく観察すると、手足が人間の子供より細くて長めだったり、頭が小ぶりだったり、控えめですけど胸が膨らんでいたり、
腰回りに減り張りがあったりしますが‥‥一つ一つの特徴は人間でも充分有り得る範囲のものです。
売られてきた小人族の元冒険者は、地球の通販雑誌に載っている少女ものの服やら何やらの小学生モデルさんだと言われたら、
そうとしか見えない姿形をしてます。

これが世に言う合法ロリってやつでしょうか? なるほど、東方世界には娼婦が小人族だけの人間向け娼館がある訳だ。
たとえ合法でも、地球に同じモノがあったとしても前世の私は行かなかったでしょうけど。




 ☆60日め4、大いなる魔法の世界☆


私はなんちゃって巫女(シャーマン)なので、精霊は見えませんし使えません。ソーニャさんにも精霊は見えません。
そもそも精霊って何なのか、もう一つ理解できないんですよね。
祖霊的な意味なのか、自然崇拝的な意味なのか、世界を構成する元素のことなのか、それさえも不明です。


Q2、という訳で、精霊って何ですか?
A2、貴女にとってみれば、世界の全てが精霊です。

Q2、この星自体が精霊なのですか?
A2、宇宙の果てまで精霊の塊です。


女神様から概念を伝達して頂いたのですが‥‥。
以下のことはあくまでもたとえ話です。

まず、ここが剣と魔法の世界ではなくSF調の世界だとします。そして私は巨大な恒星間植民船にいると考えてください。
いえ別にスペースコロニーの中とかダイソン天体の上とかでも構いませんが。

当然ですが、周りは機械だらけです。極論すれば見るもの全てが機械か、機械によって制御されています。
そして、その環境で暮らしている現地の人々の大部分が、機械文明を忘れてしまっているとしたら。
緑地公園に畑を作り家畜を飼って暮らしていたら。
拾い集めたコインを自販機に入れて炭酸水を手に入れていたら。
空調機の送ってくる風で風車を回しているとしたら。
巡回する警備ロボットを破壊者として怖れ、あるいは守護神として崇めていたら。

さあ、その世界を想像してみてください。
そしてその世界を、ファンタジーTRPG風世界に変換してみてください。
機械を自然物に、科学を魔法に、ロボットを魔獣や怪物に。

つまり精霊とは、この世界を構成する全てに存在というか作用している力のことです。
地球にいた頃の私が、壁のスイッチを押して灯りを付け、ラジオから通勤路の渋滞情報を知り、コンロの火で朝食を作り、
原動機付き自転車で職場に向かっていたように、
この世界の精霊使いたちは水の精霊に頼んで部屋まで水を汲み、窓などから入ってくる水の塊を洗面器に入れて顔を洗い、
炎の精霊に頼んで松明に火を付け、重さの精霊に頼んで体重を軽くして、風の精霊に頼んで空を飛ぶのです。

その一つ一つは、当人にとっては造作もないことです。地球の人間が料理を作ったり自転車に乗るのと同じで結構な訓練が必
要ですが、一度身に付けたらそう簡単にはなくさない技術です。
しかし機械や精霊の概念に馴染みがない者には理解不能。何故そうなるのかさっぱり解りません。



この世界を科学世界に喩えるなら、精霊とは世界全体だと言えますね。
現代日本人が科学の産物というか科学的思考で操ることのできるもの全てを科学的に認識するように、精霊使い達はこの世界
の全てに精霊を見出し、その力を僅かにですが使えるのです。

どうやら、精霊を使うには感覚が必要なようです。見えるだけでは駄目なのですね。
ほら、世の中には耳で聞いた音楽の楽譜が書ける人とかいるじゃありませんか。
喩えるなら、音痴ばかりの国で一部の素質有る人間だけがまともに歌えるようなものです。そして上手に歌えた者には精霊か
らの恩恵があるのですよ。

で、直接歌うのではなく楽器を作り曲を奏でて精霊を動かしているのが魔術師と呼ばれる人々で、貰ったり借りたりしたラジ
オや携帯電話から音楽流しているのが神官達なのです。
だとすれば錬金術師はオルゴール職人とかかな?

精霊術と演算魔術と信仰魔法の三つが、この世界の主な魔法のようですね。
呪文使い、それもそこそこの使い手が三人同時というのは珍しいらしく、周りから聞こえてくる下馬評では三人組には結構な
値段がつきそうです。






[38600] 32
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:f04a58de
Date: 2016/08/01 14:10




 ☆60日め5、奇跡も魔法もありまくり☆


そう言えばソーニャさんも呪文使い(スペルキャスター)でした。
彼女は魔法剣士なので、本職の魔法使い(ソーサラー)と比べると使える呪文が少ないそうですが。

魔法系呪文使いにも色々流儀や派閥があるのですが、どうも主流派が演算魔術師(ウイザード)と呼ばれていて、それに比べる
と傍流というか学問として日陰もの扱いなのが魔法使い(ソーサラー)と呼ばれる流派なのです。
魔法剣士は、ソーサリー系呪文が使える剣士なのですね。
重たい鎧を着ていると呪文が使えなくなりますが、前線職なみの白兵戦能力を持ちある程度の魔法使い系呪文が使えます。

ウイザード系が主流扱いされているのは、単純に人数が多いのと伸び代が高いからですね。
思想や形態が学問的で再現性が高く、組織力の大きさが活かしやすいのです。裾野の広さに比例して名人達人の数も多い。
一方ソーサラー系は芸術的というか使い手の感性に頼っている要素が強く、大規模にやっても余り意味がない流儀なのです。

例えば演算魔術は学校で、一人の教師が数十人の生徒へ一度に教えることができます。少なくとも最初歩の段階は。
しかし魔法使い達は決まった教本(テキスト)など使わず、師匠一人弟子一人の一対一で教えていくのです。
同時に複数の弟子を育てるソーサラーも普通にいますが、教えるときは一対一しかも重要なことは口伝で少しずつ教えます。


講道館柔道と、体系化される前の柔術の関係に似ていますね。
武道武術の関係とは逆で、演算魔術師の中から「君らさあ、なんで一々計算なんかして呪文使ってるの?」とか言い出して飛
び出したor追い出された連中が作ったのがソーサリー系の魔法体系なのですが。

もちろんそんな真似ができるのはごく一部の、特殊な才能を持った者だけです。
演算魔術にも暗記と暗算能力という素質が必要です。しかしソーサラー系ほど狭き門ではないので人材の分母が多く、その分
才能のある人が集まりやすく、より理詰めで学問的ということもあって研究成果の積み重ねも多くなっていく訳です。


一口に魔法といっても評価基準は色々ですが、ウイザード系とソーサラー系の違いはその使い勝手にあるようです。
信仰魔法の使い勝手が「狂王の練兵場」方式だとしたらウイザード魔術は「地下牢と竜」方式で、ソーサラー魔術が一般的な
MP消費式に近いですね。ド○クエとかの。

つまり、私の使う信仰魔法は「一日X回までの呪文を、使いたいだけ使える」のです。治療呪文四連発でも良いし、治療と攻
撃と浄化で一回ずつ使って、残り一回分を残しておけば使いたいときに好きなように使うことができます。

でもウイザード系魔術は「一日X回文の呪文を、あらかじめ用意した分しか使えない」のです。仮に一日に1レベルの呪文が
4回使えるとしても、何を何回分用意しておくか決めて術式を組みあげ、記憶に焼き付けてないと使えません。
「眠り」×2回と「魔法の矢」と「盾」の呪文を選んで憶えてしまえば、一度寝てから一時間以上かけて再度術式を組み直さ
ないことには違う呪文を使うことはできないのです。

前世で「地下牢と竜」を遊んでいたときには、よくリボルバー式拳銃の装填に喩えられましたね。
一度呪文という弾丸を装填してしまえば、弾倉を開いて最装填しないと他の呪文は使えないのです。
そして装填や詰め替えは一睡眠につき一回しかできません。


その点好きなときに好きな呪文を使えるソーサラー魔法の融通性はたいしたものなのですが、ソーサラー魔法の問題としては
魔力というかMPが一纏めで扱われるために、素質のない人間はろくなことができない事です。

例えば、仮に30MPを使用しないと使えない強力な呪文があるとします。その場合、才能豊かな者なら中堅ぐらいの腕にな
ればその呪文を使えるようになりますが、才能が乏しい者はどんなに努力しても使えないこともあります。
ゲーム的に言えば、そのキャラのMP成長限界が29だとしたら消費MP30の呪文は使いようがないのです。

ウイザード系魔術なら最低限の素質さえ有れば、初心者は初心者レベルの、熟練者は熟練者レベルの呪文を確実に使えるので
すがソーサラーはそうもいきません。
逆に言えば、化け物じみた素質を持つ者にとってはとても使い勝手の良い魔法体系なのです。
MPの最大容量が桁外れだったり、消費MPを節約できたりする天才達とかね。

あ、すると昨日の闘技場で見たのはウイザード合気じゃなくてソーサラー合気だったのか。正確に言えば。


かんわきゅーだい。


ソーニャさんはゲーム的に言えばアタッカー職です。
弓兵や軽騎兵や軽装歩兵などの、はやいつよいもろいの三拍子揃った職種です。某手強いシミュレーションゲームで言えば魔
法書も使えるソードファイター系かな?
それと遺跡荒らしかローグかスカウトを兼業してますね、ゲーム的に言えば。

だとすると夫達はバーバリアン・ファイターでタンクまたはディフェンダー職かなあ?
オーク戦士は装甲の硬さよりダメージ吸収と耐久性と回復力を優先した職種なのかもしれません。
呪文は使えませんが、人間型種族の女子供を魅了(チャーム)してしまう特殊能力を持ってます。いや、これは種族能力かも?



お、トカゲ人と神殿の商談が成立したようです。今回の交渉は早めにまとまりましたね。
予想通り呪文使い三人には結構な値段が付きました。
そこそこ以上の冒険者ですし、洗脳もされていないので値引き要素がありません。
逆に重度に洗脳されている令嬢四人、特にそのうち一人への評価は酷いことになっています。

結果は460万+130万で計590万ゴールドとなりました。
前回よりもかなり安いけど、ほぼ相場どおりの値段だそうです。


‥‥ハーフエルフって高いなあ。いえ、耐久年数で割れば安上がりなんですけどね。
人間の五倍は軽く生きるし、子沢山で老化も遅く若い時期が長いですから母胎としての価値は10倍近いものがあります。
当然ながらエルフはもっと高い値段が付きますが、滅多にやってきません。
まあ、雌奴隷エルフが大勢売られてくる場合は同族に不幸があったということになるので、もしそうなったら大母様的は複雑
な気分になるでしょうが。

前にソーニャさんから聞いた話では、東方地域の中心部にはエルフが住む大きな森があって、そこは年中行事みたいな頻度で
オーク族に攻め込まれているそうです。
殆どの場合オーク側は損害らしい損害を与えられないまま撃退されていますので、捕まってエロゲーみたいな目にあわされる
エルフがいない訳ではありませんが、そう多くはありません。この島にお零れや余剰商品が流れてくるほどではないのです。

エルフ雌奴隷は慢性的品薄状態なのですよ。
経年劣化を考えなくて良い奴隷というのは貴重な財産ですから、どこでも大人気です。
盲導犬や橇曳き犬の寿命が短いことを考えれば、健康で長生きできる奴隷の方が少数派でしょう。ストレスのかかる生活を強
いられているのですから。
ロシアで採れるフィギュアスケーターたちが20年かそこらで、全くの別物に成り果ててしまうことを考えれば何百年も老け
ない雌奴隷に人気が集まるのも当然です。

そんな人気商品が海を越えてやって来るからには、禁止薬物の末端価格のように果てしなく高騰してしまいます。
高騰するからこそ、一発大儲けを狙う業者が時々ですがこの島までエルフやハーフエルフ娘を持ち込んでくるのですが。




 ☆60日め6、やっぱり軽すぎますよ☆


さて、競りの後は交流決闘がありますが‥‥島側の代表は見覚えのある、オークとしては丸顔の戦士です。
弟のそれほどではないにしろ艶々しい頬の持ち主である彼とは、先月も会いましたね。ウォスの兄上です。
つまり私のお義兄さん。

二人の母上にとってお義兄さんが長男で、ウォスは三男に当たるようですね。次男と四男は早死にしています。五男がもうす
ぐ成人式で、六男がまだ授乳中、と。
おっと、今は私の義母でもあるのか。そのうち挨拶に‥‥行くと拙いんでしたよねそういえば。
いや、引っ越しじゃなくて交易で行く分には良いのかな?
巣に入らないで近くの交易所で待ち合わせる方式なら、お義母さんたちとも問題無く会えそうです。


トカゲ人側は、イグアナっぽいトカゲ人の魔法戦士ですね。双頭だけど。
キングギ○ラの首二本版みたいに、一つの胴体から二つの首が生えているのです。

普通のイグアナ系トカゲ人より肩幅が広く胸板も厚いですね。背骨がYの字になっているからでしょうか?
肉体につなぎ目とか違和感がないから生体移植とか後天的に生えてきたとかではないようです。
あれは産まれたときから双頭だったに違いない。造型も動作も自然すぎるので、彼は物心つくずっと前から双頭状態で生活し
てきたのでしょう。
トカゲ人が生命工学に長けているのは本当のようです。

トカゲ側代表選手の装備は革製の帯を金属の輪で繋いだ、一風変わった鎧に同じ素材の腰当て脛当て、それに籠手です。
武器は右手の片手持ち三日月刀(シミター)に、左手の短い魔法棒(ワンド)。

職種(クラス)は魔法戦士、いや魔術戦士か。
ソーニャさんと同じ白兵戦+魔法系ではありますがこちらは演算魔術の使い手ですね。私の直感では。
一目で魔術師(ウイザード)だと解る面構えしていますが、足捌きからして剣なども相当使えるようです。
鍛錬の度合いだけなら先月出てきたワニ人戦士より上かもしれません。

他の魔術に親しんでいる様子はなし。

系統が違う呪文体系は兼業というか、同時に身に付けて使うことができます。たとえば私はアコライトで(侍僧)で信仰魔法を
使えますが、学ぶことさえできれば演算魔術も使えるでしょう。
同時に、というか憶えてさえいれば信仰呪文とウイザード呪文を交互に使うこともできます。
でも系統が似ている場合、たとえばウイザード魔術を使う者がソーサラー魔法を身に付けたとしても、同時には使えません。
一人の使い手がウイザードとソーサラー系の両職種を兼業した場合、その呪文能力はどちらかを封じていないとどちらの呪文
も使えなくなってしまうのです。


違う。魔術戦士じゃない。
あの双頭のトカゲ人は二つある首の片方が戦士で、もう片方が演算魔術師です。兼業してません、両方とも専門職です。
右側の首が戦士で左が呪文使いですね。

本場である西方文明やそもそもの発祥の地である東方世界程じゃありませんが、トカゲ人のなかにも演算魔法使いがいます。
トカゲ帝国が得意とする儀式魔法や錬金術は演算魔法の一種ですし、そもそもトカゲ帝国最大の仮想敵は西方文明なのですか
ら敵に対して備えるために、演算魔術師を量産していてもおかしくありません。


考えてみれば、魔法を使った戦いをじっくり観察できるのは初めてですね。トログロダイトの呪術師と戦ったときはそんな暇
ありませんでしたし。
そういえば、黄色連中は何系統に当たるのかなあ? 信仰魔法じゃないことだけは確かなのですが。
雰囲気だけでも解りますが、呪文の長さが全く違うのですよ。

信仰系呪文は聖句の一言か気合い一つで足りますからね。
地球でも「Amen!」や「喝!」だけで大概の場合は事足りるでしょう?
緊急事態でも長々しい呪文を唱えていたことからして、演算魔法の可能性が高いかな?


お義兄さんの武器は鉄の大鉈ですね。屠殺人が使うような大ぶりの片刃武器です。
見たところ魔法の武器ではなさそうですが、非力な人間が使っても牛や馬を一撃で仕留められる代物を幹部オークの怪力で振
り回すのですから、その威力は恐るべきものです。
盾や鎧はなし。装身具は動物の牙や爪に紐を通して吊したオーク式の首飾りと腕輪。

戦闘機に喩えて言うと、ウォスの戦闘方式が隼ならお義兄さんは鍾馗ですかね? ドスが屠竜でグェスが疾風で。
お義兄さんはドスよりも身のこなしが軽快そうですが、ウォスほどじゃありません。


む、トカゲ人の方は味方の僧侶や魔術師に何やら呪文を掛けて貰ってますけど、あれは良いのかな?

「反則じゃないわよ、こちらも掛けようと思えば掛けて良いんだし」

ソーニャさんに聞くと、強化呪文をあらかじめ掛けておくのは反則ではないそうです。先月の交流決闘でグェスは何一つ強化
処置をしていませんでしたが、そのこと自体が痛烈な挑発だった訳ですね。
喩えるなら「遠慮せずに付けなよ、どうせあんたらはグローブとマウスピースがないと殴り合いできないんだろう?」と路上
でボクサー相手に言ったようなものです。そりゃートカゲ人でも怒るわ。


お義兄さんもグェスと同じく強化魔法なしで行くつもりのようですが、大丈夫かなあ? 実質二対一だし。

「シンパイ、ナイ。キョウダイ、ツヨイ」
「ヤツ、タタカウ、オレ、アブナイカモ」

と、夫達が太鼓判を押していますから、それを信じましょう。




あれ? 変ですよ? 
お義兄さんは砂地が踏み固められた決闘場に出ているのに、対戦相手の双頭トカゲ人は決闘場の端に立ったままです。
決闘が始まる直前だというのに、いえ始まったのに誰もそれを咎め立てたり指摘しようとしていませんし‥‥お義兄さんや他
のみんなは、まるでお義兄さんの目の前に対戦相手が立っているかのように誰もいない空間に注目しています。


まさか、幻術!?

どうやらそのようです。
お義兄さんは決闘場の中央近くで武器を構え、私には見えない対戦相手が目の前にいるかのように慎重に動いています。
もうパントマイムかシャドーボクシングでもやっているかのように。

観衆のオークたちは気付いてない。トカゲ人は、相変わらず表情読みにくい‥‥いや、意識して無表情というか反応しないよ
うにしてますねあれは。
巫女達の一部、高司祭(ハイプリーテス)たちは幻術に気付いているようです。階級が高くない巫女で気付いているのは昨日の
闘技場で乱入者を絞めていた、大柄でごつい顔の巫女さんだけか。

あとは私とソーニャさん。
ドスもウォスも幻術に引っかかっているらしく、私には見えないトカゲ側代表戦士を目で追っています。いや、耳や鼻でも。
オーク族は比較的魔法抵抗力が低い傾向にあると聞いていましたが、まさか幹部オークたちまで引っかかるとは。

どうしましょう? スイカ割りじゃあるまいし野次を飛ばす訳にはいきませんよね。
それでは実質的な助太刀になってしまいます。戦士じゃない私にも、それが最悪の侮辱だという事ぐらいは解ります。
客人で部外者だった数日前までならともかく、この島の一員となった今では決闘を汚すことなどできません。


足音一つ立てずに、お義兄さんの背後へ回り込んだトカゲ人が剣を突き出しました。
危ない! という言葉をなんとか咽で止めた私が見たものは‥‥いえ、その、正確には片方は見えなかったのですが、見えた
気がしたのですよ、ええ。

まず、付与魔法でより切れ味を増したトカゲ剣がお義兄さんの背後に迫ります。
いきなり身を翻したお兄さんが背後からの刺突を紙一重で避け、トカゲ人の首をすれ違いざまに切り捨てました。二つ同時に。
そして、また前方へ向き直って跳躍して大鉈の一撃で見えない何かを切り捨てました。
そのとき私にも見えた、いえ正確には網膜には移りませんでしたが感覚の目とでもいうべきものには、お義兄さんの最後の一
撃で真っ二つにされたトカゲ人魔法戦士の姿が見えたのです。


後で聞きましたが、お義兄さんの主観では一対一の戦いの最中に背後から殺気が来たので避けて切り倒して、その途端に対戦
相手が固まったのでそちらも切り倒したのだとか。
一対一の決闘の最中でも不意打ちに対応できるとは、流石は星11の戦士です。

一流戦士の直感、恐るべし。
対オーク特化呪文でしょうか、見事にオークたちの五感を騙しきった幻術ですがトカゲ人の方はそうもいきませんでしたね。

そうです。
あの双頭トカゲ人は見事に気配を消していました。お義兄さんは対戦相手の殺気を感じ取ったのではありません。
双頭魔法戦士の攻撃に期待した、トカゲ艦隊セコンド陣の殺気に反応したのです。
本当の意味での一対一の決闘だったなら、勝負は解りませんでした。
覚悟? 戦いの意識? そういったもので、闘士本人ではなく付き添いの質が違いすぎたことが勝負を決めたのです。

惜しい。何故あれほどの使い手が空しく死なねばならんのですか。身内でないとはいえ惜し過ぎる。


「勝負有り!」

審判の巫女達がトカゲ人魔法戦士の死亡を確認して、お義兄さんの勝利を宣言しました。
今は彼の無事と勝利を喜びましょう。真っ当な勝者を讃えないことは、敗者にとっても侮辱になりますし。





 ☆60日め7、統計的にいうとF・北○氏はレベル99になる前に老衰で(略)☆



しかしアレですね、これでトカゲ艦隊側は三連敗だそうですが、大丈夫なのかな? いくら毎回アウェイ戦ばかりだとはいえ
負け続けていたら責任問題になりそうなものですが。
個人的には、トカゲ人の官僚が左遷されてもヘビ人の研究者が降格されても何一つ構いません。
ですが、トカゲ帝国に「蛮族に舐められてたまるか」と本気出されても困るのです。
大国と意地の張り合いなんてするもんじゃありません。でも張らざるをえないんだろーなー。


さて、お義兄さんに勝利祝いと結婚の挨拶に行ったのですが、予想通り宴会することになりまして。
ただいま神殿から少し離れた海岸で、手分けして食材を調達中です。

神殿のまわりて積み込み作業をしてる下っ端達以外にも、貝掘りや椰子の実集めや猪の世話などの仕事をこなしている下っ端
達もいます。そして所々に見回り中の戦士達も。
仕事というより自主的な食い扶持稼ぎと身内の世話ですかね。人間社会で言えば、暇のある青年団員が近所の子供を引率した
り一人暮らししている老人の介護したりする感じの。


毎日毎日危険に満ちた日常を過ごしているのに、何故彼らは強くならないのでしょうか?
私が僅か数回の実戦でこれだけ腕を上げたのに、彼らは何年も掛けて星を一つ二つ上げるのが精一杯です。
幹部オークやミノタウロスたちが同じ年月で星5とか6になることを考えれば、その差は大きすぎる。

下っ端たち、なんであんなに弱いんでしょうか?
いえ、今でも私よりはずっと強いですけどね、白兵戦能力に限って言えば。

素質の差、生まれの差、育ちの差、そういって片づけることもできますが、それでは何の説明にもなっていません。
ソーニャさんみたいな規格外は別として、母体の身体能力だけで言えば大概の女剣闘士よりも雌猪の方が優る筈。
第一に、母親の強さが決定的要因なら眼鏡の奥さんやその後輩幼妻みたいに非戦闘系の嫁さんに人気が出る訳がない。
自慢にはなりませんが、今の私ならあの人達に二対一でも勝てますよ。妊婦であろうとなかろうと。

その辺がどうも気になるんですよね。
たとえばウォスのお母さんは、星でいうなら精々2か3ぐらいの腕前です。
でもその息子は星11で島の代表が務まる程の戦士にまで成長しました。3歳近く年下のウォスだって、お義兄さんぐらいの
歳まで生き延びていればそのくらいにはなっているでしょう。

強い母親から強いオークが産まれる。それは確かです。
ですがそれは、弱い母親からは強いオークが産まれないという事ではない。
もしそうだとしたら、肉体的には貧弱そのものな私や金髪ちゃんがオーク達に好まれる筈がないのです。


例によってたとえ話ですが‥‥。
砂漠で稲作はできません。当然です。
稲は砂漠向けの植物ではないからですが、それはつまり乾燥や昼夜の極端な寒暖差によって枯れてしまうからです。
たとえば温室などの設備でそれらの問題を解決してしまえば、砂漠でも稲作は可能です。採算は別の問題として。

何故下っ端達は弱いのか、尤もな理由がある筈です。理由さえ解れば、改善するなり諦めるなり何をすべきなのかが解る筈。
‥‥無駄だと想うけど念のために訊いておきますか。


Q1、そういう訳で、下っ端たちは何故弱いのでしょうか?
A1、強さとは一言で表せるようなものではありません。貴女の巣の下っ端達は紛れもない強者ですよ?


ほーら無駄だった。まあ、TRPG仲間のGMたちもそうでしたが、超越者とか世界管理者がそう簡単に答えやヒントをくれ
る訳がありません。
一から十まで、それこそ晩ご飯の献立から箸の上げ下ろしまで細かく指図され続けるより遙かにマシですけどね。
神様に訊けば必ず最適解が得られるのなら、個々人の創意工夫や試行錯誤に何の意味があるのか解らなくなってしまいます。
 

今の所解るのはウチの巣の下っ端達が、神殿で暮らしている時と余り変わっていないこと。
そして、そのままではなかなか強くなれず、強くなる前に大半が不慮の死を迎えてしまうことぐらいです。
効率だけを言えば、ウチの巣で暮らしながら鍛えるよりも神殿に残って雑用とかしながら鍛えた方が生き延びていける可能性
が高く、それよりもセルフ壺毒で戦士を即製した方が早い。
仮にこのまま16人の下っ端が最後の一人になるまで私の巣で暮らしても、その最後の一人は星6にはなれないでしょう。

やはり現実とゲーム世界は違います。
お城のまわりを毎日ぐるぐる歩き回って、出てくる最弱級のモンスターだけを狩りまくって限界レベルまで成長できるのはゲ
ームの中だけです。
この島だと最も安全な根拠地のすぐ傍まで、下手な飛竜(ワイバーン)や魔獣(キメラ)よりも強い魔物がやって来ることもある
ので、弱い敵だけを狙うこと自体がまず無理ですが。

弱すぎる敵は敵ではなくただの障害物でしかない。
人間の軍隊のように組織行動の精度がものをいう戦闘様式ならともかく、オークは脳筋万歳ですからねー。
弱い敵では経験値も溜まりませんが、弱くない相手でないと命が幾つ有って足りません。困った困った。





 ☆60日め8、レイちゃん三時間クッキング☆



この世界、この惑星の月はきっかり30日で満ち欠けします。そして一年はきっかり360日です。
つまりこの星では、潮の満ち引きと暦が全くズレません。
新月の昼間に干潮になる地域は、毎月同じ日の同じ時刻に必ず潮が大きく引くのです。
暦を作るのは簡単そうですが、それ故に占星術とかは発展しなさそうですね。素人にも分かり易すぎる。


トカゲ艦隊が来ると、神殿近くの海から大型魚が逃げます。近海マグロやシーバスなどにとってクビミジカ竜は天敵ですから。
逆に言うと、クビミジカ竜や大海蛇(シーサーペント)に狙われる心配がない小型魚や海底にへばりついている生物を捕るには
良い機会なのです。サメとかが逃げてますからね。
海岸には潮干狩りしたり、丸太に跨ったり素潜りしながらヤスや銛を片手に魚介類を捕っているオーク達がいます。ウォスも
その一人です。

ドスは釣りをしています。攻撃的な魚の大半が逃げてしまったので、白金貨のルアーではなく普通の餌釣りですね。
彼の真似をして紐に餌をくくりつけて、結果的にザリガニ釣りになっている下っ端達もいます。
餌を食い逃げされることが多いですが、砂浜を這う種類の甲殻類やそれを狙うタコなどが捕れることもあるのですよ。



私は料理を作っています。
コボルド族の巣で刺身用に買った料理包丁は脱獄するときに貸して折れてしまいましたが、浜鍋やナマスなら切れ味の鈍い刃
物でもなんとかなります。
浜辺の新鮮な食材に神殿で買ってきた色々なものを組み合わせて、普段は作れない料理を大いに作ろうではありませんか。

小麦粉とヨーグルトと重曹が手に入ったので、蒸しパンを作ってみますか。クマザサの葉で蒸しパンの生地を包めば腐りにく
くなります。本当は発酵パンを作りたいのですが手近にパンだねがありません。巣に帰ったら酒種が使えるのですが。
まーぜまぜこーねこね丸めて包んで、樽改造の蒸し器に突っ込みます。
ハチミツ入りやナッツ入りや干し果物入りの蒸しパンも作ってみますか。

水で溶いた小麦粉を根気よく炒めてルーを作ります。
できたルーに乳製品や香辛料を加えて肉や野菜を煮込めばホワイトシチューの出来上がり。
ついでだからもう一つの鍋で肉じゃがも作ってみますか。シチューと同じ材料を魚醤と甘酒を漉したもので煮込みます。
なんか微妙に違うものができましたがこれはこれで。

新鮮な卵の卵黄と酢と「浄化」の呪文ですっきり爽やかな味わいに精錬した椰子の実油でマヨネーズを作ります。コボルドの
巣で試作してもらった泡立て器を、火起こし弓の拡大版のような器具で回転させればマヨネーズも簡単に作れる。
実際にかき混ぜているのは下っ端オークですが。
暇そうな顔でこっちを見ていたので、ご飯一食分とお酒で雇いました。

できたマヨネーズですが、生食はサルモネラ菌が怖いので火を通すことにしましょう。
とりあえずヤシガニのマヨネーズ焼きに使ってみます。
ん? なんだ、こっちも「浄化」してしまえば良いのですよ。んーとんーと‥‥。

「病魔退散っ 喝!」

良し、イメージが通った。これでこのマヨネーズは生食できます。さっそくイモサラダに使ってみましょう。ハーブや魚醤と
合わせてカルパッチョのソースにしても良いですね。

黒砂糖を焚き火で溶かして、重層を入れて、上手く膨らめばカルメラ菓子の出来上がり!
小麦粉と黒砂糖を練って揚げて、椰子シロップをかければサーターアンタギーもどきになります。

小麦粉が手に入るからには、天ぷらはやらねばなりません。
しかしこの島は熱帯なみに熱いから、小麦粉を水で溶くとあっという間にグルテン格子が形成されて衣がパンみたいになって
しまいます。
えーと確かキウイフルーツやパイナップルの生果汁にはタンパク質を分解する酵素が含まれているから‥‥衣に混ぜればなん
とかなるかな?
タンポポの葉っぱやウドの親類っぽい野草や野性の豆類など、食べられるものを片っ端から揚げて試食してみます。 

イモサラダ用に蒸かして潰したイモがあるので、これを元にコロッケ作りましょうコロッケ。
神殿で固くなったライ麦入りパンを買ってきたので、削ってパン粉を作ります。
小麦粉、溶き卵、パン粉の順番で衣を付けて、と。

ついでだからメンチカツも作りましょう。
お手伝いオークに牛肉を刻ませて挽肉?を作り、香味野菜やパン粉を混ぜて衣を付けて揚げればメンチカツの出来上がり。

余った牛肉はパイナップル汁に漬け込んで柔らかくしてから、塩胡椒と魚醤とすり下ろし香味野菜で味付けして串焼きにして
みますか。
柔らかくせずに賽の目切りにしたのを串に刺して焼き、ネギ塩のタレで食べるのも良いですね。私だと一個で顎がくたびれて
しまいますが、オークの顎なら丁度良い歯ごたえです。


米が手に入ったのですからご飯を炊きましょう。白いご飯は正義!
海水混ぜて炊いた塩ご飯と、真水で炊いた純ごはんでそれぞれおにぎりつくって、と。
一つずつ試食してみます。

ああ、これですよコレ! 夢にまで見た白いご飯です。この喉越し、この仄かな甘味、まさに穀物の女王通り越して女神!



気を取り直して‥‥ 駄目だ、そろそろ時間切れです。これ以上献立を増やすと間に合わなくなります。
あとは定番の煮たり焼いたり蒸したりした食材でいきますか。

できあがった料理は、浜鍋、おにぎり数種類、各種蒸しパン、ホワイトシチュー、肉じゃが、ヤシガニのマヨネーズ焼き、
イモのサラダをレモン+塩+油味とマヨネーズ味の二種類、カツオのカルパッチョ、各種素材の天ぷら、メンチカツ、
牛肉の串焼きをタレと塩の二味×硬軟の計四種類、カルメラ焼き、サーターアンタギー。
これに定番の昆布素麺、ワカメとタコの酢の物、干しキノコのスープ、ゆで卵、焼き魚、蒸しバナナ、蒸かしイモ、焼き貝な
どのメニューをくわえます。
あと生野菜や生果実や生ウニなど。飲み物は酒と水と果汁類と、半ば酒になりかけている椰子樹液など。

良し、ではこれでご飯にしましょうか。





 ☆60日め9、気付いたのはついさっきですけどね☆



「「グヒッグヒッ」」 「グヒィー」

私たち三人にお義兄さん+お供の下っ端達、そしてアルバイト下っ端、夫達の知り合いのオーク戦士たち+そのお供の下っ端
たち‥‥と、総計15名にもなってしまいました。
これだけの大人数だと私一人でご飯を作りきれる訳もなく、並んでいる料理の大半はオーク達が作ったものです。
なんか幾つかの天ぷら鍋を囲んだ、揚げものフォンデみたいになってますね。竹串に刺した魚とか野菜とかを好みに揚げては
酒の肴にしています。

天ぷらや炒め物もいけますが、焼いた牡蠣にバターとレモン汁を落として食べるのがまた絶品でして。
泳ぎの得意な連中が取ってきてくれたやや沖合の牡蠣ですが、巣の近くで採れる牡蠣よりこっちの方が一枚上ですね。
悔しいけど、ここの牡蠣に比べると近所の岩場で採れる牡蠣は身が痩せ気味です。
上には上があると解っていましたが、うん、美味しい。

巣から持ってきたラムとブランデーはこれでお終いですね。明日からはお酒は買わないといけません。
いや、特に買う必要もないかな? 
星は上がったし、奉納もしたし、あとやらなければならないのは新人の募集だけです。


「と、いう訳でそこの君、ウチの巣に来ませんか?」
「プギッ!?」

マヨネーズ作りなどを手伝ってくれた下っ端くんを勧誘してみます。
言われた下っ端オークは、食べかけだったまだ熱い串焼き肉を咽に詰まらせるぐらい慌てていますが、無理もない。
この子、先月に私を攫おうとして袋叩きにあったあの誘拐未遂犯ですから。

「アツイ、ミズ、ス、カシラ、オレ、シッテル」

ああ、そりゃギュー・グェスも憶えてますよね、私を攫おうとしたやつの顔とか臭いとかぐらい。

「グヒ?」
「んー 流石に二度同じ事はしないと思うのですよ。先月のことも出来心だし」

確かに、ドスが言うとおり、わざわざ彼を仲間に引き入れる必要はありません。
いくら思慮に欠ける傾向がある下っ端オークだといっても、幹部オークがしっかり紐握っている女の子を何の考えも無しに攫
おうとして失敗するのは相当に問題あります。
少なくともハラキズたちなら絶対やりません。

でもね、その無謀さにも無謀ゆえの価値があると思うのですよ。
ハラキズたちが絶対にやらない行動だからこそ、誘う意味がある。いつもの直感ですが、この下っ端は私の巣が栄えるために
必要な‥‥とまでは言わなくても意味のある人材です。

それに、このまま神殿にいてもヌケサク扱いされ続けるだけです。
見たところそれなりに上昇意欲は有りそうなので、汚名返上のために夜回りの手伝いなど危険な事をやって死ぬか、生き残り
戦に参加するかのどちらかになるでしょう。

なら、私が誘っても良いじゃありませんか。
ある意味私が狂わせてしまった運命です、もっと狂わせたら一周回ってまともになるかもしれません。
どっちみち決めるのは彼ですし。



地球では、弱い人間を強くすることで人類は栄えていました。
なら、この世界で弱いオークを強くすることができない訳がない。
彼は弱い。弱いからこそ誘う意味があります。
私には戦士の素質がありません。私の中に「強さとはなにか」という明確な答えがないからです。

しかし弱さなら、強さよりもより理解しやすい。
弱さを知れば、強さも知れる筈です。
自己を客観的に見ることは不可能ですから、他人の弱さを知ることこそが他人の強さを知る手がかりになり、そして自己の弱
さと強さを探る手がかりになります。

なんにせよ、今までと同じ事をしていても同じ結果にしかなりません。
だとすれば、あえてこれまでとは違うことをしてみるのも良いじゃありませんか。


ふむ。なにかやってみますかね。予定外のこと。
とりあえず前回の神殿行きではやらなかったから、弾き語りでもやってみますか。
砂地の上に出しっぱなしの荷物から手製の竪琴を取り出しまして‥‥と。


「岩の戦(いくさ)が岩の街で始まる♪ 今ぞ哀しみの剣を抜け♪」

歌詞を直訳で文字にするとアレですが、曲のノリの良さは格別ですねこの歌は。
ええ、万が一にも著作権妖怪が出ると厄介ですからはっきりとは言いませんが、あの歌の空耳ソングを更に意訳した歌です。
ロックウォーズ、ロックシティー、サッドソード! 
いやだって、私に作詞作曲のセンスは欠片もありませんから。著作権違反や丸パクリを避けようとしたらこうでもするしかな
いのです。


著作権が切れている古い歌でも良いのですが、問題はそんな古い歌を私が知らないという事でして。
軍歌は幾つか知ってますが、日本の軍歌ってどいつもこいつも直訳すると反戦ソングにしか聞こえないんですよこれが。
ああ、軍艦行進曲とかの例外も一応あるのか。うん。


その夜は普段の弾き語りの数倍歌いました。
そういえば前世のTRPG仲間が言ってましたね。「歌で戦争を止める事は難しいが、煽るのは簡単だ」とかなんとか。
それってつまり逆に言うと「歌で戦争を起こすことは不可能に近いが、萎えさせるぐらいはできる」ということですよね?
気分や感情を訴えかけるのに、歌はとっても良い道具(ツール)なのですよ。

休憩を挟みつつ三時間近く歌った甲斐がありまして、その夜に移住希望の下っ端が計三人現れました。
まあ、歌だけで決めた訳じゃないでしょうけど、影響はあった筈です。





 ☆61日め、米さ!米酒だろ!餅は何処だ!?☆



本当かどうか知りませんが紀伊国屋文左衛門のミカン船伝説は間違いというか、後世勝手に作られたデマの類だという説があ
りました。
ただ、伝説の真偽はともかくとして江戸時代には一山当てようとした命知らずの若者が、ミカンを満載した千石船で嵐が迫る
海に漕ぎ出すことも実際にあったのでしょう。
当時の和船は沈みやすい構造だったので、命が幾つ有っても足りない危険な賭けですがそれだけに当たれば大きかった筈です。


いえね、江戸期や平安期の和船が次々と難破したから「和船は沈みやすい」と思っている人もいますが‥‥。
それは半分誤解です。
江戸期に難破する船が多かったのは、帆柱(マスト)が一本しかないという制限があったからですし、遣隋使や遣唐使の船が難
破率六割という異常な数字で沈んだり漂流したりしたのは台風銀座に当たったからです。

え? 米海軍機動部隊に下手な海戦よりも被害を与えたりした台風直撃コースに、なぜ遣唐使達は船を出したのかって?
商魂逞しくて他人の不幸が大好きなチャイナ商人と、賄賂と他人の不幸が大好きなチャイナ官僚が結託して遣唐使一行を接待
漬けにして引き止め続け、台風が来る季節になってから帰らせていたからです。

当時のチャイナは世界有数の文明地帯でして、特に日本人達は各種の書物を欲しがっていました。
つまり、遣唐使などの船がとにかく沈むから、危険性を考えて遣唐使達は書物を余分に買わないといけなかったのですよ。
買った分の六割は沈むのですから多めに買わないと本が届きません。
その分チャイナ商人は儲かり、役人は接待の機会と賄賂が増える訳です。

遣唐使の親族やら同僚やらが、関東や東北の蝦夷達を「なんであいつら毎回同じ手に引っかかるんだろう?」とか思いつつ騙
し討ちにしている頃、遣唐使達は隋や唐の役人やら商人やらヤクザ者やらに「あいつら馬鹿だからまだ気付いてないぜ」とか
言われながら接待漬けにされていた訳です。
まあ、21世紀になっても騙されっぱなしなんですけどね日本人は。


なにやら話がズレましたが、和船が難破しやすいというのは間違いではないにしろ正しくもない見方なのですよ。
考えてみてください。
当時の日本人たちは日本人なのですよ? 
舶来品や新技術が大好きで、合理的で機会主義者で利益に敏感な、生来の経済的動物である我々のご先祖様なのですよ?
もしも和船がそんな脆くて遅くて沈みやすい代物なら、とっくの昔に放り棄てている筈です。

蝦夷の蕨手刀を元に太刀や小太刀や薙刀を作ったように、唐の紙を元に和紙を作ったように、もし本当に和船が駄目駄目な代
物だったなら、当時の日本人達は既存の造船技術をあっさりと投げ捨てて新しい造船技術を受け入れていたでしょう。
幕末の日本人が西洋列強の造船技術に飛びついて見よう見まねで蒸気船まで作ってしまったことを考えれば、古代や中世や近
世の日本人達がチャイナやヨーロッパの帆船に飛びつかなかったのであれば、それらの船は当時の日本人達にとって魅力的で
はなかったという事です。
合理的で機会主義者で利益に敏感な、生来の経済的動物である日本人たちが19世紀まで頑固に和船を使い続けたということ
は和船にそれだけの合理性があった訳ですよ。


そんな訳で、はるばる数千キロの海路を超えてやってきた人間族の船が 思 い っ き り 和 船 であってもおかしく
などないのです。



朝起きて、いつもと同じように過ごして、夫達と「三人新人が集まったから、ここで打ちきるかもう少し集めるか」でプチ家
族会議などしていたのですが‥‥神殿の中が騒がしくなったので部屋から出てみると、人間族の船が来ていました。
ヒルデニアの海賊船だそうです。

この島から北東に海を渡って数千キロの位置に、ヒルデニア群島があります。そこは単一の人類文明圏であり、いわゆる日本
風の文化圏であり、この世界に四つ存在するという人類系大文明の中で一番オーク族への敵意が低い文明地域なのです。
もちろん異種族への当然の区別や不当な区別は存在しますが、異種族扱いで済んでいる分マシです。

なにしろ東方世界では、オークは駆逐すべき蛮族扱いですし。西方世界では駆除すべき害獣扱いですし。
この島とは直接的な接触がないのではっきりしませんが、南方世界では魔王の眷族として魔物扱いです。悪鬼羅刹の類。


詳しく観察してみると、ヒルデニア船はやはり箱形というか平底構造のようですね。浅い砂浜近くを苦にせず動いています。
動力は三本の帆柱に張られた主帆と、前後に張られた二枚の三角帆、そして両舷後部に並んだ艫ですか。
外艫ではなく内艫かな? 外洋船なら当然かも。

艫って和船の船尾のことだろうって?
ええまあそうなんですけど、猪牙船とか屋形船の船尾のところにある、櫓を漕ぐ場所があるじゃありませんか。
あの機構を艫と呼ぶのですよ、たとえ船の舷側にあったとしても。
私の個人的用語としては。

オール(櫂)部屋で良いだろうって? 櫓と櫂を一緒にするのは外輪船の水車と現代船のスクリューを一緒に扱うのと同じぐら
い乱暴な分類です。そんな分類が許されるならウミガメもラッコもペンギンも両生類で良いことになるじゃありませんか。
一々細かい? それがオタという生き物です。

で、話を戻すと艫の内外の違いは、早い話櫓を漕ぐ人が船内にいるか船外に露出しているかの違いです。
壇ノ浦海戦で源義経は敵艦隊の漕ぎ手を射殺し尽くして平家側の機動力を奪い勝利していますが、あれは当時の船が外艫が主
流だったからこそできた訳です。
まあ、そんなえぐい戦法使っていたから後でえらい目に遇うのですけどね九郎判官は。そりゃ西日本には逃げられんわな。


何が言いたいかと言えば、あのヒルデニア船は外洋航海用に設計された船だってことです。甲板もありますし。
平底構造の船は意外と遠距離航海向けなのですよ。現にほら、タンカーは平底構造じゃありませんか。

構造ではなく装飾や外装的に言うと、船食い虫対策なのか船全体に明るい灰色の塗料が塗られています。
はて? あの船、木造ですよねどう見ても?
なのに何故、舳先にも舷側にも船体に継ぎ目がないのでしょうか? あの灰色のは塗料ではなく強化用樹脂かな?

あと目立つ特徴は二本ある舳先の柱というか突起に蛇の装飾が施されていることですかね。
そう、蛇です。それも衿を拡げ攻撃態勢をとったコブラの彫像が、船首像のようにヒルデニア船の前方を睨んでます。
蛇かー この島に来てから爬虫類系にはあまり良い思い出がないのですが‥‥。


ヒルデニア船、しかもこの時期にこの浜辺へ来たと言うことは交易船ですよね。神殿の反応もそういう感じですし。
船の動きや様子からも敵意は感じません。

はっ ヒルデニア船とくれば米やら味噌やら麹やら、それにひょっとしたら海苔や寒天やコンニャクなども積んでいるかもし
れません。もしかしたら山葵‥‥無理か。
でも米酒は確実にある筈です。大吟醸なんて贅沢は言いませんから! 普通の澄酒で良いから!

餅米‥‥蕎麦‥‥鰹節‥‥大根おろし‥‥ ああっ涎がっ。
今回の積み荷になければ注文すれば良いのです。
人間一人当たりの必要積み荷容積が最低1トンだった筈。つまり100トン積みの船で安全に運べる人間の数は100人が限
界なのです。買い入れる側の限界もあるので、あの船に乗せている女奴隷の数は少ない筈。

ヒルデニアの船が少しでも儲けをだそうとするなら、オーク島の住人達が喜びそうな商品を空いている船倉に詰め込んで持っ
てきているでしょう。そうでなければおかしい。
なにせ彼らは、いわゆる日本的な文明地域から来ているのですから。

ヒルデニア人たちは合理的で機会主義者で利益に敏感な、生来の経済的動物である筈なのです。
逆に言うと自尊心激高なくせに外交センスが壊滅的で、恩は10倍恨みは100倍返しにする民族総ヤンデレで、一度殺すと
決めたら損益度外視で突っ込んでくる狂戦士揃いで、そのくせ5年もすればあっさり忘れちゃう既知外さんなのでしょう。


傍から見てると、本当にめんどくさいですねー 日本人って。
ヤンデレ気質の人と同じで、良識を保ってつきあえるのなら良い相手なのですがね。色々と。
前世の私が社会との折り合いをつけるのに苦労していたのは、私に良識というものが不足していた事も大きいのですよ。






[38600] 33
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/04/20 11:22



 ☆61日めの2、漢字で書くと五右衛門☆


てっきり砂浜にどし上げるものと思っていた和風の巨船ですが、巫女達に誘導されてミッシェル山の西側へと移動しています。
馴染みの船ではなく新顔の船と乗組員なので、神殿の海際にある港へ誘導するそうです。

これから潮が引いていく時間帯なのですが、喫水線が低いヒルデニア船は平気で遠浅の海を動いています。
ん? トカゲ人のナマモノ戦艦やヒルデニアの平底船は良いとして、東方世界のガレオンもどきやキャラックもどきの帆船はど
うやって浜辺や神殿に近づくのでしょうか? 

下手に陸へ近づくと座礁しますし、まさか沖合に泊めて上陸しない訳にもいきませんよねえ。
ボートで積み荷を運ぶのは効率悪いし、陸地に上がれないと船員のやる気が失せます。
船旅って長引くと神経にくるんですよ。


それにしても大きい。
目算で全幅15メートル弱、全長33メートル強、喫水2メートル前後といったところですか。 
‥‥推定排水量900トン以上!? 搭載量がその半分としても三千石船ですか! 
信長が石山本願寺攻めに使った鉄甲船が千五百石級だったとされていますから、相当な巨艦です。

いかにも異文明という感じだったトカゲ人帝国戦列艦に比べるとハッタリ具合では負けてますが、戦績で負けていない以上ヒル
デニアの船もファンタジー補正が効いた代物の筈。見た目通りの性能では無いでしょう。
ええ、ヒルデニアの海軍というか海賊達は精強なことで有名なのです。
地球でも、有史以前から日本の船乗り達はインド洋や南太平洋まで出かけていたのです。日本の相似形であるヒルデニアの海軍
戦力が弱い訳がない。

いやだって、有史以来まともな海上戦力を持たなかった国が、たかだか70年かそこらで世界有数の海軍を造り上げられる訳が
ないでしょう?
まともな海軍の創設には何百年も、下手すると千年ぐらいかかっちゃうんですから。ローマ帝国が地中海の制海権を握るまでど
んなに苦労したことやら。


19世紀後半になって突然海軍が生えてきたと考えるよりは、日本には遙か昔から水上戦力が存在していて、二世紀ちょっとの
大軍縮時代には表に出ていなかっただけだと考える方が自然でしょう。
江戸時代には大っぴらに表に出ていないだけで、水軍の根っこはしっかりと残っていたのだと私は主張します。

根絶やしにされた訳でもないのに、中世から近世にかけて栄華を誇った日本水上戦力の全てが失われる訳がない。
古代には白村江で惨敗しましたけど、そのときだって派遣軍が殲滅された訳ではなく生き残りがいましたし。

恩賞けちりたい鎌倉幕府の情報操作のせいで元寇での水上戦は軽視されてますけど‥‥実際には元の大艦隊は分散して行動し
たらあっというまに日本船に沈められてしまうので一丸となって行動するしかなかったのですよ。
山羊や羊の群が狼から身を守るようにね。

で、一塊りで居続けないといけないので戦略的自由度が制限されて、上陸作戦が上手くいかず陸に上がっては追い落とされ上
がって追い落とされを続けた結果、往くことも退くこともできずに立ち枯れていった訳ですし。
台風(神風)は止めです、止め。

日本には古代から延々と続く水軍(NAVY)の伝統があったのですよ。いや、まあ、伝統に拘るが故の弊害もありますけど。
「伝統墨守、傲岸不遜」でしたっけ? 海上自衛隊のキャッチフレーズは。 

へ? 江戸時代中期から幕末までの大軍縮期はともかく、それ以外は途中で途切れたりなんかしてませんよ?
白村江でボロ負けこいたのは言い訳の仕様もありませんが、それ以外では負けてませんし。 
亀甲船? 魔法が存在しない地球にそんなものが実在する訳ないでしょうが。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし。

実際、設計図どおりに復元したら進水式で沈没しちゃいましたからね、あの水葬兵器は。
李舜臣の奮戦は事実だけど、彼は地の利を活かした戦術眼で戦っていたのであって、「ぼくのかんがえたすごいせんかん」に
乗っていた訳じゃありません。
というか彼、海戦では負けてるし。同僚と比べれば善戦しているけど。
勘違いしている人が割といますけど、高麗御陣の豊臣水軍は戦闘そのものには勝ってますから。



近代以前の日本の船乗りって、結構積極的なんですよねー。近代以降も南極いったりしてますけど。
有史以前に南米まで行っていたという説もありましたが、私としては流石にその説には懐疑的ですね。
あれは当時、南米まで行っていた南太平洋の船乗り達と縄文人が交易していただけでしょう。

殆どの時代では、水上運輸能力=海軍力です。
20世紀に至るまで、航海技術と海上戦力は直結していましたからね。貴重品を満載して動く商隊や商船が非武装で動けた時期
や地域の方が稀なのです。
ましてあの船はモンスターと海賊まみれなファンタジー世界の海を何千キロも渡ってきた船なのです。
下手な軍隊より強くて当然。


神殿まで引き返してみると、広場はとんでもなく混雑していました。
今日は市場の最終日なので只でさえ混むのに、ヒルデニア船が積んできた奴隷娘を一目みたい群衆が浜辺から押し寄せてきて里
芋を洗っているタライのような状況になっています。

うーん、私と夫達だけなら城壁をよじ登って回り込めるのですが、移住希望者達が付いてきているのでそうもいきません。
新入りになる予定の下っ端達は三人。
先月私を攫おうとして袋叩きにされた太めのオークと、小柄で気の利きそうなオークと、無口で鈍そうなオークです。

ふむ。とりあえずあだ名を付けることにしましょうか。
太めのオークはゴエモン、小柄なオークはサダキチ、無口なオークはモッサリと名付けました。


いえその、歌舞伎の石川五右衛門に似てるなー と一度思ったらその印象が離れなくなっちゃって。
顔に隈取りしたらそのものですよ。
こーゆーのは第一印象でさっくり決めるのが良いのです。
一々考え込んでいては決まるものも決まりません。最低でもあと六人は決めなきゃいけませんし。

「グヒッ♪」「「グヒッグヒッ」」

適当に決めたあだ名ですが、三人とも喜んでいます。特にゴエモン。
意味を訊かれて、「五番目の、門(ゲート)の右を守る者」という直訳を教えたのですが、それが気に入ったようです。
間違ってませんよね? ~衛門系の名前って、~兵衛とか~介とかと同じで語源は宮中の役職な訳ですし。

ちなみにサダキチは、「決定されている良い知らせ」。モッサリは「慎重で浮つかない」と訳しました。
いやその、昔から射撃もっさりと言いまして、寡黙で一見すると鈍重そうな奴ほど狙撃とかには向いていたりするのですよ。

もっさりは誉め言葉です。ええ、どちらかと言えば。
ほら、淀川長○さんなんか変身前のスーパーマ○を「もっさりした男」と呼んでましたし。
個人的にもアイアンマ○やスパイダーマ○の変身前と比べれば、友人としても家族としても信用できる人物だと思うのですよ、
クラーク・ケント氏は。




 ☆61日め3、疑わしきは☆


急がば回れというやつで、私たち六人は広場から中庭、中庭から菜園脇を通って城壁の上にあがることにしました。
ここから奥に進めば壁の上から見物できる筈です。

はて? 人だかりというかオークやミノタウロスの輪ができていますが、その中心にいるのは女の子じゃありません。
輿の上に置かれた籐椅子らしきものと、そこに腰掛けている全裸の女性‥‥の下半身だけです。
ちょうど臍やや下あたりから足先までの下半身だけですが、生きている人間の下半身よりもリアルな、精緻を極めた美しい女
体の下半分が座っているのです。

「グヒィ‥‥」

うん。間違いない、あれはうちの女神像の同類です。
女神像(下半身のみ)の近くに立っている人間族の男が、かなり訛った共通語(コモン)で何度も何度も同じ事を喋っていますね。

「このゾーにつき、知るナラはおしられし、礼弾むのし」


どうやら、この像に似たものはないかと探しているようですね。
するとあれは商品じゃなくて、あの連中は買い取り希望なのかな?

ふむ? 
おかしい。 なにか変だ? でも何が?


詳しく観察してみると、輿を運んできたらしき男達が四人。
それとは別の男が二人、片方が通訳でもう片方は魔術師(ウイザード)ですね。六人とも黒髪の人間(ヒュー)族です。

何か変です。


そうか、あの六人‥‥ヒルデニア人じゃないんだ。
服装や顔つきはヒルデニア人に見えなくもないですが、動き方が違う。
たとえば歩き方にしても股関節を支点にして脚を動かし、踵に重心が乗る歩き方です。
あれは眼鏡の奥さんや金髪ちゃんたちと同じ文明圏の、西方風の足捌きなのです。

ヒルデニア出身者は膝関節が支点になる比率が、西方人よりも高いのですよ。
あと、立っているときに爪先側に重心が乗るのも特徴です。
西方人は基本的に平地で暮らし麦畑や牧草地を歩いているのに対し、ヒルデニア人は山地や丘陵で暮らす者の比率が高く野山
や水田で働いている者が多いため、自然とそうなるのでしょう。

立ち方、歩き方、汗のぬぐい方、全部ヒルデニア人のものじゃありません。共通語(コモン)ではありますが、口の中で呟く一
人言もヒルデニア語にはないというか、もろ西方な訛りが混じっています。
そりゃ確かに、ヒルデニア海賊船の行動域が広いのなら船員に西方人が含まれていてもおかしくありません。
海賊家業してりゃ国境線の意識は自然と低くなるでしょうしね。
しかし六人全員となると不自然すぎる。




「このゾーに片割れ、有るときくのし、知るナラはおしられし」

群衆がざわめいています。その呟きの中に「ギュー・グェス」とか「熱い泉の巣」とかが混じっているのは、気のせいではあ
りません。
ええ、夫達が宴会とかでさんざん言いふらしましたからね、私たちの巣に上半身だけの女神像があることを。
下半身だけでも「女神様のぶつ切り」だと言われたら信じてしまいそうな像を持ってこられたら、連想するのは当然です。

で、大概の異種族がそうであるように、オーク同士でなら人相の区別は容易な訳で。ただでさえ目立つ幹部級オークな上に、
ふくよかむっちり&やせマッチョで長い顔と、特徴ありまくりなウォスとドスのコンビはとても目立ちます。
オークの群衆からとんでもなく注目されてますね、うん。

下半身だけの女神像を持ってきた、ヒルデニア人の格好をした海賊達もこっちを見ています。
いや、そのなかの一人は凝視しています。
ん? あのウイザード‥‥いま、呪文を使った!?

何でしょう? 今のは。確かに魔法が発動した感触がありましたよね? 目標は私で。
でも演算魔術の呪文詠唱にしては短すぎたような?


Q3、なんだったのですか? 今のは。
A3、呪句の一種ですよ。あらかじめ唱えて置いた待機呪文に最後の一言を付けて呪文を完成させたのです。


女神様の天界直結通信講座によれば、一人前の魔術師になると呪文を待機状態にしておくこともできるのだとか。
つまり、普通に唱える呪文が弓の射撃だとしたら、石弓の射撃のように発動直前の状態で待機しておいて、そこへ一言呟いて
発動させる技法なのですね。
私の第六感が人並みだったら、そして呪文の対象が私自身でなかったのなら気付かなかったでしょう。


向こうは気付かれたくないからこそ、そんな使い方をしたのですよね。
そりゃそうだ。
演算魔術の長々とした呪文を唱えたりしたら、相手がトログロダイトでも魔法を使われたことに気付いてしまう。
使った呪文は私を対象にしたものですが‥‥そう高レベルの呪文ではない。あのウイザードの星は精々6かそこらで、待機さ
せておける呪文のレベルはもっと低い筈です。

低レベルの、何の呪文を使ったのでしょうか?
痛みや苦しみはもちろん、とりたてて嫌な感じがしなかったから呪詛系ではない。
もちろん物理攻撃呪文でもありません。魅了(チャーム)などの幻惑呪文でもない。
だとすれば‥‥探知魔法でしょうか? それも「敵意感知(センス・エネミー)」とかの受動的なものではなく、もっと積極的
な探知呪文ですよね、今のは。


正体を隠している西方人の海賊。女神像の情報を求めている。こっそりと低レベルの探知呪文を使った。

拙い。

拙いですよこれは。もしもこの世界にあの呪文があるとしたら、拙すぎる。

「? ドウシタ、レイ」

肩の上に座っている妻の様子がおかしいことに気付いたドスが、私を城壁上の通路に降ろしました。
酷く青ざめている新米アコライトを、五人のオーク達が心配そうに見つめています。


Q2、女神様女神様、彼ら‥‥偽ヒルデニア海賊には仲間が、別働隊がいませんか? 重武装の大型船が、ここからそう遠くない位置に、たとえば水平線の向こうあたりに居やしませんか?
A2、いますよ。現在神殿の南西50キロ程度の位置を遊弋中です。具体的にはこのあたり。


やっぱりか。
間違いない。さっきの呪文はESP(読心)です。「地下牢と竜」では比較的低レベルに属する探知呪文で、対象となった生物
一体の思考を読みとる効果があります。
私は頭の中を覗かれたのです。一瞬のことでしたがそれで充分です。
私の脳内から、あの魔術師が望む情報を引き出すにはそれで充分なのです。
女神像?の上半身がある場所と、その防衛力の情報さえ引き出してしまうには。

拙い。
このままだと巣が海賊、いや軍隊かもしれませんが奴らの別働隊に襲撃されてしまいます。
あの像にはそれだけの価値があります。他の場合はともかくセットとなる残りの二つ、下半身とコアパーツを揃えている状況
ならば、小規模なオークの巣を襲撃して奪う価値がある。


もちろんギュー・グェスは易々とやられないでしょうが、絶対とは言い切れません。
それに正面から戦わなくても、たとえば大猪や大ワニなどの危険なモンスターを私の巣にまで誘導してぶつけ、その隙に強奪
すれば良いのです。
そこそこ高レベルの呪文か、何か気の利いたアイテムがあればその程度のことはできます。

平均星5~6級の冒険者一行なら、運と作戦次第でドラゴンのねぐらからお宝を盗み出すことぐらいやってのけるのです。
罠らしい罠もなくグェス以外のボスモンスターもいないオークの巣を漁って、女神像を持ち出すことぐらい簡単でしょう。
そして、そうなれば確実に犠牲者が出る。
グェスなら敵の襲撃を切り抜けなんとか生き延びられるとしても、下っ端たちはそうもいきません。


‥‥というようなことを話したら、ウォスやゴエモンたちが海賊船へ殴り込みにいこうとしたので、ドスと一緒に止めました。

「グヒ?」「「「グヒ??」」」
「だから駄目ですって!」

証拠もなしに殴りかかったらこっちが悪者です。なんといっても、敵はまだ実際に攻撃を仕掛けていないのですから。


Q1、してませんよね?
A1、はい。貴女のおうちは平穏そのものですよ。オーク達も今の所は全員無事です。
Q1、いまのところ?
A1、未来のことには責任持てません。では、また明日。


とりあえずは大丈夫のようですね。
うーん、確か信仰呪文には使い切り型の使い魔を呼び出して使役する呪文がありましたよね。少なくとも「地下牢と竜」には
ありました。
ならばお布施か奉仕クエストと引き替えに、誰かに使い魔を神殿から巣まで送って貰いますか。

警戒警報を送れたらなら不意打ちだけは防げる筈です。




 ☆61日め4、やられる前にやれ☆


こりゃちょっと拙い? かな? 不利ではないけど面倒かも。

オーク族は昼間視力が弱いというか極端な近視なのですが、嗅覚や聴覚は鋭いのです。もう犬猫なみです。
脳筋ではありますが知能は高く、戦闘が始まる前の頭に血が昇ってない状態や状況でなら作戦や計略も理解します。
理解しているのと、それを好むかどうかと、使いたがるかどうかは別の話ですが。

で、聴覚に優れていて、好奇心が強くて、お馬鹿ではあるけど戦術的感覚は鋭い連中が、血相変えて城壁から降りてきた私た
ちと巫女さんの会話を漏れ聴いてしまったら、こうなってしまってもおかしくありません。



一触即発。

十人余りの海賊達が、その10倍近い殺気だったオークやコボルドなどに囲まれています。
どうしてこうなった。

広場の露店商は店を畳んで移動しはじめました。剣呑な雰囲気を感じ取ったのか浜辺や闘技場や中庭にいた連中がどんどん集
まってきています。
女達は集まってくるオーク達とは逆に動いて避難していますね。
嫁さん持ちの戦士たちの殆どは一緒に避難していますが、妻を巫女さん達に預けてこの場に残っている者もいます。

更に少数派ですが妻同伴で残っている戦士もいますね。ウサミミさんとその旦那様とか。
まあオーク島全体でも十本か二十本の指に入る戦士が二人もいるオーガ村ご一行様なら、ウサミミさんを守りきれるでしょう。
ええ、一昨日の晩にもし喧嘩を延長していたら、ドスが残り二戦を連勝できる可能性は低かったのですよ。
皆無というほど低くもないですが、どう考えても勝率は四割以下だったでしょう。


拙いなあ、これだけ味方がいるのは有り難い限りですが、ここにいる敵が全滅しても別働隊が無事では困ります。
最悪でも敵の通信役をとっ捕まえて、別働隊の作戦を中止させねばなりません。
こちらの部隊が失敗したことを知れば別働隊が強硬策に出るかもしれませんが、その場合はドスかウォスの片方だけでも帰還
(リターン)系呪文で巣に戻すことができれば、巣のみんなを避難させるぐらいはできます。
大母様か、幹部級の巫女さんならそのレベルの呪文が使える筈です。


女神像は惜しいですが、くれてやっても構いません。時間さえかければ取り返せますし。
あの超高級アイテムの特徴は頭に叩き込んであります。
特定物品探知(ロケートオブジェクト)の呪文を使えばこの惑星の反対側にあっても位置が解りますし、願い(ウィッシュ)系の
アイテムを使えばそこまで一瞬で移動できます。テレポートで。
もう一回分の願い(ウィッシュ)があれば、女神像を再強奪して逃げられます。

言うまでもありませんがその場合は、この島へ逃げ帰る前に実行犯と黒幕へ再々強奪など考えられなくなるだけの損害を与え
なければなりません。
戦争の勝敗は 気 概 が 決 め る のです。
単純で野蛮な既知外が、どれだけ狂気を維持できるかで勝負が決まるのです。
少なくとも複雑で優雅な常識人が、正気を保ってやるものではありません。

元日本人舐めんな偽者ども。こっちはなくして困るものといえば家族ぐらいしかないんですからね。
私から家族を奪う者に呪いあれ。復讐するは我にあり。



「何の騒ぎですかこれは!」

お世辞にも凛々しいとは言えませんが、聞く者の注意を否応なく引き付ける声が広場に轟きます。破鐘のようなというやつです。
例の逞しすぎる巫女さんが群衆を押しのけてやってきました。
そして急展開の事態にオロオロしていた巫女さん達から事情を聞いています。

ふむ。彼女なら高位の巫女さんとも繋ぎが取れるかな?
何故か、新米はもちろん中堅手前の巫女さんたちまでもが妙に取り乱していて「使い魔を呼べる高位の巫女は何処ですか」と
いう私の質問にも答えてくれないのです。


はて? 声を掛けようとして気付きましたが、この巫女さんの名前も知らないや。

「ええと、あの人の名前解りますか?」

と、ゴエモンに聞いたのですが、彼が口を開く前に当人から返答がありました。

「櫓志摩(ろしま)の安東藤子(あんどうふじこ)じゃぁ、憶えとけい!」


‥‥日本語? ですよね。激しく訛ってますけど。

「何じゃい、櫓志摩訛りがそげん珍しぃかぁ?」

「いえ、共通語(コモン)との落差にびっくりしただけです」


ふん と、鼻を鳴らした巨体の巫女さんは偽海賊の方に向き直って、半ば尋問じみたやり取りを始めました。
機嫌悪いなあ。事の発端というか騒ぎにしたのは私だから無理ないけど。
む? 実は神殿側も海賊が偽者だということには気付いていて、見ないふりをしていたとか?

それはない。
それだと襲撃を受けるオーク島側が不利になるだけです。見逃す理由がありません。




あれ?
なんかいま、共通語(コモン)でもオーク語でもない、やたら聞き覚えのある言語で喋ってましたよね、あの巫女さん。
あれがヒルデニア語だとしたら‥‥。 
この世界のヒルデニア語って、私の世界の日本語と大差ないのですか? ひょっとして?


「ねえ、ゴォ・ドスにレェ・ウォス。貴男たち、ひょっとして日本(ヒルデニア)語解るの?」
「グヒッ?」
「スコシ。ムズカシ、ワカル、ナイ」

‥‥質問の仕方、間違えました。
グェスの母上を始め、夫達の育った巣にはヒルデニア出身者がそれなりの人数でいます。なので夫達はヒルデニア語に馴染ん
でいて当然なのです。

「えーと「隣の客はよく牡蠣食う客だ」って、解る?」
「トナリ、キャクジン、カイ、ウマイ」
「キャクジン、イワカイ、スキ。タクサン、タベル」

OK。日本語でそのまま話しても、大体の意味は通じるようです。



つまり、あれですか。
妙に察しがよいとは思っていましたが、夫達をはじめとするウチの巣のオークたちは、私が身振り手振りと交えて話していた、
いえ口走っていた日本語を「えらく訛ったヒルデニア語」だと思って聞いていたんですね。
彼らは私をヒルデニア人の少女だと思い込んでいるのですから、母国語らしき言葉を喋っていても不思議には思いません。

オーク達はヒルデニア語は喋れませんが、何となく言いたいことが解ることもあるぐらいには馴染んでいたんです。
地球で国際結婚した夫婦の子供が、二カ国語は喋れなくても親の母国語の一部を理解できるように。
日常的にヒルデニア語を聞いていた幹部達はもちろん、下っ端達にもある程度は浸透していたのでしょう。神殿にもヒルデニ
ア出身者は大勢いますからね。

地球の日本とこの世界のヒルデニア。二つの地域の文化が似ているのなら、言語が似ていてもおかしくありません。
というか、西方諸国の言語は明らかに地球の欧州圏と似ています。ならばヒルデニア語が日本語に似ていてもおかしくは‥‥。
そういえばイタリア語とスペイン語の違いって、宝塚少女歌○語と吉本新喜○語の違いよりも小さいとかなんとか。


なぜ気付かなかったのやら。
単語レベルで英語の影響がある世界に、日本語の影響がまったくない訳がない。
只でさえこの世界の設定者は日本人の疑いがあるのに。
共通語(コモン)への日本語からの単語浸透が殆どなかったから油断していましたが、そのまま丸ごと移植済みだったのですね。


そうか、うちの巣の連中には、ある程度であるとしても日本語通じるのかー。

そうと解っていたら、オーク語の学習にあんな試行錯誤する必要なんてなかったのに。
なんという労力の無駄。いや無駄とも言い切れないけど。
もし二ヶ月前に気付いていれば、私のオーク語はもっと拙いままに違いない。日本語に頼ってしまいますからね。
そうだったなら、オーク語で求婚なんてとてもできなかったでしょう。


やっぱり殴ろう、助走してから石で思いっきり。この世界を設定した奴にもし会えたなら。




 ☆61日め5、急展開☆


うみはひろいですねー。

何故か今、海上にいます。みんな揃って。
私、ドス、ウォス、ゴエモン、サダキチ、モッサリの6人+お義兄さん&下っ端二人の3人+巫女頭、藤子さん、見習い巫女
2人の計4人に加えて、何故かソーニャさんも加わった神殿ご一行様。そしてオーガー村ご一行様も一緒にヒルデニア船に乗
り込んで航行中なのです。
乗っているのはあのヒルデニア風の船です。舳先に蛇の像が二つ付いている平底船。


「何故って、楽しそうじゃない」

と、ソーニャさんは明るく笑ってますが‥‥。
ああ、うん、隙さえあれば大国の軍艦相手に一暴れする気ですね、この人は。


「ムラ、カエル。フネ、ハヤイ」

オーガー村ご一行様の通訳となっているウサミミさんが言うには、強奪するにしても交渉するにしても、どうせこの船は私の
巣に行くのだから便乗して乗せて貰おうということらしいです。
私たちはオーガーの戦士7人+怪我人と元冒険者の嫁さんというそこそこ戦えるのが2人という同行者ができるので戦力が増
えますし、オーガーたちは帰り道を短縮できる。そして双方共にコネが増える訳です。
ちなみにウサミミさんはオーク語とオーガー語を、日常会話に問題ない水準で喋れるそうです。

まあ、この面子に喧嘩売る馬鹿はそうそういませんよねえ。下手なドラゴンなら仕留めかねない凄腕が8人もいるんですから。
大母様の名代としてやってくるぐらいですから、見た目は若くても一騎当千の強者なのですよ巫女頭のお姉さんも。
星でいえば10は固いですね。


神殿から派遣されたお目付役がハイプリーテスと藤子さんと助手たちの計4名、その護衛がソーニャさんとお義兄さんたち計
4名。合わせて8名。
これに私たち当事者組とオーガー村の便乗組が加わった計23人の大人数で、偽海賊の親玉の所に向かっているのです。
海賊船に乗って。


いえね、話がかなりややこしくなったのですよ。
まず、私たちが乗っているこのヒルデニア船は、正真正銘ヒルデニアの海賊船でした。
船長はソーニャさんや藤子さんが知っている有名人でしたし。
でも、あのウイザードや下半身像を持ってきた連中は西方人で、海賊ではありません。
あのときオーク島の戦士や下っ端達にとりかこまれていた偽海賊は、実は半分は本物だったのですよ。

つまり海賊じゃない連中が海賊船に便乗していて、なんらかの目的で情報収集していたら速攻でバレた訳です。
正体を隠していた理由は、西方世界の軍人・軍属がオーク島に近づいたら即戦争になるからでして。
いや実際、一歩間違えてたらこの船沈んでますけどね、神殿のドックに入ったままぶち壊されて。


「勘弁してくれ、この蛇王丸を沈められたら商売上がったりだ」

なぜ沈まなかったかと言えば、このヒルデニア海賊船の船長がとっとと手を上げたからです。


船長は無精ひげを生やした、海の男にしてはもう一つ肉が引き締まってない中年男でした。
貧弱とまでは言いませんが屈強とはお世辞にも呼べません。
歳は40ないしその数歳上でしょう。
ヒルデニア人‥‥というか日本人そのものです。和服っぽい格好で日本語喋ってるからそうとしか見えません。

船長の格好は忍者もどきというか、中世日本風作業着ですね。
あの作業着自体は古代からあるんでしたっけ?
これで目だしの頭巾被って手裏剣でも持てばまんま忍者姿です。作業着の下に鎖帷子来てるせいで余計そう見えます。

足まわりは地下足袋‥‥ではなくて黒地の足袋に麻糸製の草鞋ですか。
船の上で戦うならサンダルよりも良い装備かもしれません。革靴だと水虫で大変なことになるでしょうし。

船の上で操船作業に就いている水夫達は、単衣の上っ張りに真っ赤なフンドシ締めて裸足という海の男スタイルです。
武器兼作業具らしき片手鉈や小太刀を腰に巻いた縄に差していまして、弓矢や太刀といった大ぶりな武器は舷側や昇降口近く
にまとめて置いてありますが、中には背中に担ぎっぱなしの水夫もいます。
作業員と即応要員の違いでしょうね。


手下はまだしも、船長は私が想像する海賊とは‥‥なんか気配が違いますね。

「いやもう、あいつらはともかく俺らは敵対する気ねーからさ、解って貰えると思うけどそこまで馬鹿じゃねーから」

軽いと言うより、突き放した感じ?
人生なるようにしかならないと、悪い意味で悟っちゃった凡人の匂いがします。平たく言うと駄目なおっさんの気配。
でも悪党臭や外道臭はしませんし、妙な愛嬌のようなものを感じます。


うん。こいつ、日本人だ。骨の髄まで。
ただし乱世適応型の。
必要とあれば平気で人殺しができるけど、必要がなければ虫を踏むのも嫌がる奇妙な倫理観を持った小心者です。
船乗りは小心者の方が良いのです。少なくとも嵐に怯えず突っ込んじゃう鈍感な奴よりは。


「んで、暇ならちょっと良いか?」
「なんじゃい」
「いや、こいつらがあんたらの顔を見たがっていてな」


船長の後へ隠れて、私たち一行‥‥オーク島から来た監察隊の様子を見ていた女の子が出てきました。
濃い藍色のドレスを着て、同じ色のボンネット帽を被った幼げな少女です。私とほぼ同年代、11歳前後の。
腰まである長い金髪にやや暗めの碧眼ですが、服の意匠からして東方世界出身ですね。金髪ちゃん達姉妹と人種的には同じで
すが貴族ではなく、裕福な騎士か中堅以上の商家の次女ないし三女でしょう。

育ちは悪くないけど、権力と暴力を呼吸して育った人間特有の凄味がありません。金髪ちゃんやそのお姉さんとは精神的に別
種の生き物です。
美しさよりも可愛らしさを、見る者に保護欲を感じさせる顔立ちと雰囲気ですね。

その可愛らしい生き物が、甲板の上でスカートをめくり上げ始めました。自分から。


船長の仕込みではない。というか持て余している印象?

「あの‥‥ ど、どなたがわたしを飼ってくださる、ご主人様なのでしょうか?」

と、薔薇色の頬を染め目を潤ませたロリータさんが、下着を付けていない下半身をさらけ出して言いました。
うん、「嘘感知(センス・ライ)」の呪文を使うまでもなく解ります。この娘、本気だ。
まだ何も生えていない肉の丘が熱を帯び、その下の裂け目が雄を欲しがってよだれを垂らしているのです。

「はつものな事しかとりえのないお○んこですが、せいいっぱいご奉仕しますのでぜひいちどおためしください」


オークやオーガーの視線を浴びて足を震わせながらも、少女は嬉しそうに微笑みます。
あらやだ、見られて喜んでますよこの娘。
安堵と歓喜、この少女が感じているものは狼の群に追い回された子牛が厩舎と飼い主と牧羊犬を見つけたときの感情でしょう。
堕ちてますね、完全に。まだ貫通前だけど。


「おい、お主は人の売り買いはせんのと違ぅんかい」
「しねーよ。連れてきただけだ」

やたら逞しい巫女さん、ヒルデニアのロシマ港出身であるフジコさんは船長と知り合いだそうです。
ソーニャさんは前に一度顔を見たことがあるだけだとか。
この大蛇丸だったか綱手姫だったかという名の船は、ヒルデニア屈指の快速船でこの船長もそこそこの有名人なのです。
商船や都市への襲撃はしても、人身売買だけはやらないことも有名な理由の一つ。


「俺ぁよ、女が好きなんだよ。特に良い女な。男も好きだけど」

いえ、別にあなたの性癖はどうでも良いんですが。

「好きだから商売にしたくねーのよ。金銭(かね)が絡むとどうしても本気(マジ)になるじゃないか、そうするとさ、どんな良
い女見ても、こいつ幾らで売れるかなー とか こいつ幾らで買い叩けるかなー とか、そんな事を考えるようになっちゃう
んだよね。俺、それが嫌なんだよ」

と、キセルをとりだして一服しながら船長はのたまいます。

あー マグロの仲買人に、上物のマグロが美女に見える人が居ましたねそーいや。地球にも。
人身売買やってると、それと逆の現象が起きて人間が硬貨の塊にしか見えなくなってくる訳ですね。
そしてその状態を、船長は生き物としての本能に反する気がして嫌な訳だ。
理念とか信条の問題ではなく、感覚で嫌っているから人身売買をやりたくないのですね。なんとなく解る気がします。


「解る? 解るかー。そうか、やっぱりサトリかよ、おっかねえ」
「さとり?」
「お前ぇさんみたいな異能持ちのことをヒルデニアじゃそう呼ぶのよ」

あれ? 船長、私がなんちゃってヒルデニア人だと気付いている? 


「ええ葉っぱ吸うとるのう、儂にもよこさんかい」
「いいけどちっとは加減してくれよ? 高いんだぜこれ」

刻み煙草を分けてもらい、藤子さんもキセルを取りだして煙を立て始めました。
副流煙が怖いので、二人からちょっと距離を取りましょう。この世界にも煙草は存在していまして、人間社会ではちょっとし
た悪習の一つとして広まっているようです。
なお、オークやコボルドはニコチンで酩酊も覚醒もしないので煙草を吸いません。煙たいだけなのです。


オークやオーガーの独身者達に「見たい、見せて」せがまれてスカートの裾から離した手で胸元のボタンを外し始めている、
このもう堕ちきっちゃっている少女は東方世界の北アルブニア地方にあるボドガードという大きな港町の、そこそこな規模の
商家の娘さんだそうです。

二月前ぐらいまではごく普通に暮らしていたのですが、ある日馬車に乗って隣町へ行く途中でオークの遠征部隊と遭遇してし
まい、攫われてしまったのです。
数日後に、被害者の親族一同に雇われて遠征部隊を追跡していた冒険者一行によりオークは討伐され、攫われた女達は奪い返
されたのですが‥‥その時にはもう彼女はオークちん○に堕とされていた訳で。

肝心の「畑への鍬入れ」や「種まき」こそまだですが、それ以外のことは一通り仕込まれてしまったのです。
先程のエロゲテキスト風の口上などオークへの媚びの売り方や、それに手と口で雄を喜ばせる方法とかも。
膨らみかけの胸元を雄共の視線に晒しながらも、それ以上は見せないあたりがあざとい。
これ以上は別料金なのですね解ります。


ここまでくると彼女が人間社会へ復帰するのは不可能ですが、一生どこかに幽閉しておくべきかそれとも安楽死させるべきか
で親族の意見が分かれていたので、とりあえず街の牢獄に入れられていたこの少女は、たまたま同じ牢獄に捕らえられていた
海賊を救出にきた児雷也丸‥‥じゃなくて大蛇丸号の海賊達に救い出されたのでした。

余った食事(パン)をお隣の囚人にお裾分けしていたのが生死とその後一生の運命を分けたのですから、まさに情けは人のため
ならず。
性善説は万能ではありませんが、生存戦略として有効なのです。相手によっては全く通用しないのが困りものですが。


で、目当ての海賊のついでに連れ出された小娘二人は普通なら散々玩ばれた上で場末の娼館にでも売り飛ばされるのですが、
底抜けの女好きである船長はこれを機にオーク島への航海と商売を思いつき、実行に移したのです。
オーク島では年中無休24時間体勢で、夫オークに先立たれた後家さんな移住者を歓迎しております。

あ、さっき船長が言ったとおり、実は牢から連れ出した「堕ちている娘さん」はもう一人います。
今も物陰に隠れたままですが。

巫女さん達に呼ばれて、おずおずと寄ってきたのは8歳ぐらいの幼女ですね。こちらはもう一人よりも更に長い銀髪で水色の
瞳を持つ美幼女です。広いおでこと四角い縁の小さな眼鏡が特徴ですね。
この子も同じ港町の出身で、ボンネット帽の娘さんの家よりもかなり大きな商家のご隠居が作った隠し子だとか。

もちろんこっちの娘も同じ群のオーク達に誘拐+調教コンボをくらってまして、堕とされています。
同じ冒険者一行が同じ巣から同時に奪還してきた訳ですね。
ただ攫われた時期は違いまして、おでこちゃんの方が二ヶ月近く先輩です。
その二ヶ月間、毎日十数匹のエロモンスターに「種まき」されてしまった彼女はしっかりと孕んでしまいました。
ええ、現在妊娠四ヶ月の幼女のお腹は、女学生制服風の服の上からでも解るぐらい膨らんでいます。

「オークのこ、うめる、しまがあるときいて、つれてきてもらいました。せんちょう、ふねのみなさん、よいかたです」
「グヒッ」「グヒー!」

二人の女の子‥‥とくにおでこちゃんの方はオーク達に歓迎されています。もう熱烈に。
オーク族は種の本能レベルで、敵味方が解ります。
この銀髪幼女のお腹にいるのがオークで、オークを腹に宿しているこの子も味方だとオーク達には一目(一鼻?)で理解できる
のです。




 ☆61日め6、もともと「~アニマル」は誉め言葉のうちです☆


「夫達を奪われ、さぞや辛かったでしょう、悲しかったでしょう。もう何も心配いりませんからね。これからは私たち(巫女)
全てが貴女たちの姉妹であり、大母様と兄弟(オーク)達と一緒に貴女たちと子どもを守ります」
「はい、おねえさま」
「わ、わたしも新しいごしゅじんさまに見そめていただけるように、がんばります」

東方から海賊船が連れてきた二人は、新入り巫女候補とお嫁さん候補となることで話がまとまりました。
巫女頭のハイプリーテスが順番に頭を撫でて、祝福しています。
ファンタジーなこの世界では文字通り「心を開く」ことができる訳で、知識の通路を繋げばハイプリーテスがオークの肉奴隷
であることが海賊が連れてきた少女達にも理解できるのです。

だからお互いが同じ境遇にあることが、オークにとろかされてしまった身であることが理解でき、共感してるのです。
ほら、疎外され弾圧されている者同士は自然と結束が高まるものですから。非力で脆弱な少数派ならなおのこと。
そのかわり、一度関係がこじれるとややこしい事になることも多いのですが。

そーいや 肉 奴 隷 って、正確には 肉 棒 の 奴 隷 なんだそうです。語源的に。
いきり立って聳える逞しいオークち○こを見てしまっただけで腰がとろけて力が抜けちゃって、その場にへたりこんでしまう
まで調教された女のことなんですよ。

私もそうなっちゃうんですよね、近いうちに。
巣に帰ったら、夫達の誰かに「開通工事」されちゃうんですから。
変態だけど真摯で紳士な夫達なら、まだ早いと言いそうな気もしますが私の方が我慢できません。
工事そのものが無理なら、せめて測量と縄張りと地鎮祭だけでもして貰わなくては。
その後で、基礎工事からじっくりとしてもらいましょう。


船長始め海賊達は、これで仲間の借りが返せたのと壊れ物扱いの乗客がなくなったので一安心の様子です。
ついでにいうと、将来の顧客も手に入れた訳で。二人とその夫達と子供達は確実に。
ヒルデニア人は生来の経済的動物(エコノミック・アニマル)であり、商売上手なのです。意識しない行動の一つ一つが長期的
に見ると儲けに繋がる布石だったりします。

地球でも、大概のイタリア人が歌って踊れちゃうように大概の日本人には商才があります。それこそ幼稚園児の頃から経済活
動で鍛えられていますからね。
遠足の「おやつは○百円まで、バナナはおやつに入らない」とかでも立派に経済的行為なのですよ。あんなことでも計算と見
切りと妥協が必要ですからね。満足するためには知性と感性が必要なのです。



ふむ、おでこちゃんの着ている制服っぽい服ですが、色合いや意匠は違いますが首の所にあるネクタイ風の布飾りだけはソー
ニャさんが身に付けているものと同じですね。

「これ? 割とありふれた護符よ」

と、ソーニャさんが外して手渡してくれたネクタイもどきは、護符(アミュレット)が縫い込まれた絹布の首飾りでした。
いや、能動的な護符(タリスマン)としての効果もありますねこれは。
タリスマンとアミュレットの差は、喩えて言うと懐中電灯と反射板(リフレクター)の違いですかねえ?
懐中電灯と反射板は、どちらも夜中に散歩するときに交通事故に遇う確率を低減してくれる効果がありますが効果の現れ方が
違う訳です。
まあメタルとパンクの違いみたいなもので、気にしない人にとってはどっちも「護符」で片づけられちゃうのですが。


ちなみに護符の性能はこんな感じです。

【芳しき微風の首飾り】
・気品ある首飾りだ
・それは絹でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは首を守る防具として使える
・それは防御力を僅かに上げる
・それは電気への耐性を上げる(※)
・それは魅力を1上げる
・それは窒息を防ぐ(※※※※)
・それは首絞めの被害を抑える(※※)
※あなたは使用条件を満たしていない

ふーむ、これは風属性のアイテムですね。最大の利点は口や鼻で呼吸ができない時に、この首飾りから空気を咽に送り込み排
気を出すことができる点か。
毒物や埃などを通さない効果があるので、ガス系の攻撃や罠に対しても有効ですね。
ゲーム的に言えば抵抗判定が楽になります。
欠点はネクタイが似合う服装でないと装備できないこと。蛮人ルックの毛皮服姿では装備できないのですよ。
その点私の腰に夫達が巻いてくれた飾り紐は、蛮人系でも文明人系のファッションでも通用する優れものです。


ふむ、よく見ると二つの護符は描かれている文様が違います。
ソーニャさんのは 風 のルーンが描かれていますがおでこちゃんのは 水 のルーンですね。
性能も属性に応じて違うのでしょう。



話は変わりますが船長がとっとと降参したのは、降参しても損がないからです。
ヒルデニア海賊とこの島とは100年以上にわたって取り引きを続けていますので、手口というか気心が知れています。
文明人相手に、たとえ一部であっても非を認めたりしたらどんな言いがかりを付けられるか解ったものではありません。
ですがオーク島のような閉鎖的な蛮族社会では話の持っていき方一つでどうとでもなるのですよ。
 

地球で言うならニューギニア高地やグリーンランドの原住民とかもそうですが、他文明との軋轢が少なかった地域では性善説
で話が動きますからね。逆に言うと「性善説が通じない = 魔物・怪物扱い」になる訳ですが。
アイヌ族に筋子の干物を渡されて一気食いしたら殺されかけた、なんて例もありましたしねー。取りあえず怪しい動きをした
連中を拘束して監察隊を船に乗せることで、海賊達は島側の敵意(ヘイト)が爆発するのを防いだのです。

昔から 所変われば品変わる と申します。
文化や文明によって、して良いことと悪いこと、とって良い行動とそうでない行動には違いがあります。
たとえば、地球の話ですがタイのバンコクあたりで子供の頭を撫でたら、その場で殴り倒されても文句言えません。
本気のムエタイキックが来ないだけまだマシです。
タイの文化では、子供の頭とはそのくらい神聖なものなのです。

中東の田舎で、夫以外の男がご婦人のヴェールをめくろうとしたりした日には流血沙汰は免れません。
合衆国で警官に呼び止められた時に、断りもなく懐に手を突っ込んだら射殺されて当然です。たとえそれが老婆や幼稚園児で
あっても。
日本でもほんの半世紀ほど前までは、白一色の服装で何処かを訪れるのは「覚悟はできてる、さあ殺せ!」の意味だったそう
ですし。

で、魔法が実在するこの世界では、対象者に断りもなく呪文を使うことは地球でいえば銃を抜いて撃つのと変わらないか、
あるいはもっと明白な敵対行動な訳です。
「盾」とか「抵抗強化」とかの味方強化呪文や「嘘感知」「敵意感知」などの自分に掛ける探知呪文ならまだしも、目標が
私そのものでしたからねー。

もしこの島が開拓時代の西部なら、あの魔術師は今頃蜂の巣か縛り首かのどちらかでしょう。
幕末の日本なら脱藩浪人か島津藩士に斬り殺されてます。
ええ、大名行列の殿様お側衆を乗馬鞭でひっぱたくのとおなじくらい不当な行為なのですよ。
当人の許可を得ないどころか、まわりに隠してこっそりとオークの嫁に探知呪文を掛けるという行為は。


いや本当に、場所が神殿の中で良かった。
もし浜辺あたりで呪文を掛けられていたら私の頭の中から読みとられた情報を、島の外へ送信されていたかもしれません。
そういうことができるものもあるのですよ、魔法の品物(マジックアイテム)のなかには。
実際には送られてませんけどね。

神殿があるミッシェル山は元・魔王の城。今でも盗聴や潜入工作に対抗する仕組みがあるのですよ。
十重二十重の結界と魔法装置が内部と外部の魔術的繋がりを遮断しているのです。ファイアーウォールどころではありません。
虫やら鳥やらの侵入を許さないだけでなく、透視や念話の類も防いでしまうとは。
まあ、そのくらいの実力と用心深さがなければ列強に対して独立を保つことはできないのでしょう。


なので私の思考が読まれていたとしても意味がない。その情報は術者の脳内から出ていかないのですから。
現在のところ魔術師とその仲間計6人は拘束されていますし、全員に大母様が「強制(ギアス)」の呪文をかけて行動不能にし
ています。
呪文が解呪されない限り、彼らは明日の夜明けまで息をするとか水を飲むとかの消極的なことをしつつ座っていることしかで
きません。

あの魔術師個人の暴走ではなく、上役の意向を受けての事らしいのですが、どうも事態がはっきりしないのです。
なのでこれから黒幕の船に乗り込んで調べてみるのですよ。私たちが。
ま、こちらは天挑武○大会の予選程度なら一人で突破できそうな強者が何人もいますし、いざとなったら増援も来ますから大
丈夫でしょう。

「ええ。いざとなったら沈めるまでよ」
「できれば穏便に片づけたいんですがねー」
「それは相手次第じゃのう」

ごもっとも。
言うまでもありませんが先程の台詞は、ソーニャさん、私、藤子さんの順番です。
さて、水平線の彼方に見えてきましたよ西方文明の船が。
これが時代劇の中なら「鬼が出るか蛇が出るか」とでも言いそうな状況ですが私は既に蛇の船に乗っていて、夫達を含む鬼達
が魔王の眷族の船に乗り込むのです。

はたしてどうなりますことやら。



現在の、そしてごく近い未来の状況は 危険がない とはいえたものではありません。
でも全ての危険を避けて通れる訳がないのです。
現にほら、この前はコボルドの巣に一泊したら人生最大級の危機に陥りましたし。

なるようになりますとも。ええ。人生なんてそんなものです。
‥‥やっぱり私、オーク達に毒されてるのかな? 危険とか危機管理の概念が前世とずれてきたような気がします。
今回は女神様の事前通告がありませんし、棘ドラゴンの夜襲よりは危険度低いと思うのですが。




 ☆61日め7、当然ですが帆はありません☆


えーと、あれが、船ですか?

コボルド族の集落で買い求めた8倍ぐらいの望遠鏡、そのレンズ越しに見えてきた船影は私の常識からは懸け離れたものでした。
東方世界や西方世界の大部分で使われているのが、地球で言えばガレオンとかキャラックとかの帆船です。
ヒルデニアで使われているのが和風の箱形混合船ですね、帆と櫓で動きます。
この三地域には帆走船以外にも櫓や櫂を主動力にしているガレー船も運行していますが、遠洋航海には向いていないのでオー
ク島までくることはありません。

で、西方世界の軍艦は民間船とは大きく違うと聞いてましたが‥‥。
何あの 浮 か ぶ 茶 釜 。

こう、直径60メートルぐらいはある鉄の茶釜が海に浮いているんですよ。そして舷側にびっしりと砲門が並んでます。
しかも前後左右の正面にはひときわ大きな砲門があって、そこから巨大な大砲が突き出ています。
‥‥あれ、直径1メートルぐらいありそうなんですが。
今は扉が閉まっていますが、扉と間口の大きさから推定する限り小さい砲門だって30センチ近くあるでしょうし。


ファーストガ○ダム好きの人は、脚のないビグザ○を四面八臂の阿修羅像みたいにした姿を想像してみてください。
四方に巨大粒子砲の砲口が向いているやつを。
その姿が、私が見ているものにかなり近いです。それが海に浮いてます。
重装甲と大火力、そして射界の広さを追求した動く要塞ですね。全面鋼鉄の装甲板が張り巡らされています。
でもずらりと並んだ砲列の下側に茶釜の端みたいな水平の張り出しが付いていて、茶釜にしか見えません。

まさに狂気の産物。西方文明がトカゲ帝国と五分に渡り合える訳だ。
なんかもう「白兵戦したくないでござる! 死んでも切り込み戦なんかしないでござる!」という設計者の絶叫が聞こえてき
そうな姿です。

19世紀の、ロマノフ朝ロシアが元気だった頃建造された火葬兵器に、丁度あんなのがありましたね。
浮かぶ茶釜式の水上要塞が。
確か地球のは潮流や水流のない穏やかな海でないと直進すらままならないという航行性能の低さから一度も実戦に出されず、
長年港で倉庫扱いされたあげくに廃棄されたそうですが、ファンタジー補正の効くこの世界では似たような兵器が実用化され
ているのですね。


軍事的ファンタジー(妄想)を突き詰めた結果なのだろうけど、うん、絶対に頭おかしい。
だって望遠鏡越しに見ても分かるぐらい魔力垂れ流しなんですよ、あの船なんだか要塞なんだかは。
トカゲ帝国のナマモノ兵器が燃料電池動力の潜水艦だとしたら、あの鋼鉄製の丸い何かは原子力戦艦ですよ。
それも直噴射式B36爆撃機とかの、発電機じゃなくて原子炉を直接動力源にして動いている系。

1000トン戦車とかが可愛くみえるぐらいの既知外兵器ですよあれ。
動力炉が止まった瞬間に沈むって、絶対。
魔法装置か何かが無理矢理搾り出している斥力で浮力を確保して浮いているのでしょう。
ひょっとしたら、某天空城みたいに空も飛べるかもしれません。


おや? 西方軍艦(要塞?)が動き始めました。
蓋した茶釜を海に浮かべて全周囲に砲門付けたような構造している割には、軽快な動きです。
こちらに近寄ってきてますね。
はて? 大きさと速度の割りに波がえらく小さいですねあの茶釜。どうやら只の茶釜ではなさそうです。


「心配いらないわよ。船や大型モンスターに対してはべらぼうに強いけど、人間に対してはそれ程でもないから」

とソーニャさんは笑ってますが、船長はじめ海賊の皆さんや巫女さんたちはそこまで気楽になれないようです。
あの砲列が一斉に火を噴いたらこの船はひとたまりもないでしょうから、当然だけど。

「だから怖がることないってば。なんならちょっと行って沈めてきてもいいわよ?」

などと言いつつ、ソーニャさんは普段履いてる皮の長靴を脱いで、白い羽根飾りの付いた布靴に履き替えました。5秒で。
付け替えはやっ。
いや幾らなんでも速すぎる。これが一流冒険者の装備変更というものでしょうか。
あの布靴、かなり格の高いアイテムですよね。直感ですが。

「やめえ。主がいうと洒落にならんわ」
「本気だけど? 何か問題でもあるの?」

露骨に嫌そうな顔で止めに入った藤子さんに、ソーニャさんは素で返します。
やべえ、本気で沈める気だこの人。

「止めて欲しいなあ、あの船には俺らの仲間も乗ってるし」
「人質ですか?」
「担保だよ」

ああ、そうか。
ヒルデニア海賊達があの魔術師を含む6人をさくっと斬り殺して下半身像を奪って死体を海に放り込んで、そのまま持ち逃げ
してしまう可能性だってありますもんね。保険ぐらいはかけておくべきですよね。

あの「女神像ただし下半身のみ」は、西方人が持ち込んだものなのです。
船長たちヒルデニア海賊船は、溜まっていた借金を肩代わりして貰うかわりにあの像をオーク島へ持ち込んで、上半身が何処
にあるのかを探すよう頼まれたのです。

問題は、海賊達が神殿で聞き取り調査を始める前に像の見張りという理由で同行していた6人が、勝手に情報収集を始めた事
です。
しかも幻術(イリュージョン)の類まで使ってヒルデニア人たちを出し抜いて、ですからね。
ええ、あの魔術師は違う物体にそれを下半身像だと思い込ませる幻術を掛けてから、本物の方を無限袋に入れて神殿に持ち込
んだのです。

荷物の搬入がえらく遅れていることに不審を抱いた船長が船倉に入ってみれば、そこでは下っ端海賊達が高級な荷物だと思い
込まされている予備の錨を、なんとか運びだそうと苦労しているというシュールな光景が繰り広げられていた訳で。
一体何の真似だと6人がいるはずの船室に怒鳴り込みに行けば、そこにいるのもまた幻影で本物は神殿の市場で勝手に見せ物
をしていて、しかもこっそり呪文を使ったのがオーク側にバレて睨み合いになっていたのです。

そりゃー怒るわ、海賊じゃなくても。拘束して当然です。


「おい、信号旗はちゃんと出しているよな!」
「へい! 抜かりはありやせん!」

船長が、甲板長らしきちょっと偉めの海賊に確認しました。
確かにこの船の帆柱から、運動会の万国旗みたいに小さな旗がいっぱい付いた縄が伸びて風にはためいています。
信号の意味は解りませんが「トラブルあり、相談しよう」とかそんなところでしょう。

で、西方の戦艦がどう見ても平和的には見えない動きでこちらに接近しています。
ああ、感じます。戦場の匂いってやつを。オーク達も臨戦態勢に入ってますし。
このままだと一戦交えることになるかも。


これが狙いか。
あの魔術師は、拘束されたときから無表情で沈黙しています。今も黙ったまま甲板に座っています。でも解る。
あいつは最初からこうなる事を、自分の船とオーク島とが諍いを起こす事を目標として動いていたんです。
もし私が、あいつが呪文を唱えた事に気付かなかったら私の巣が襲撃されていた可能性が高いですし。

だとすれば、目的は何でしょう?
彼らが軍隊もしくはそれに近い軍事組織だとしたら、作戦の概要は「進め、退け、くじけるな」の三つに集約される筈。
つまりは、攻勢・守勢・現状維持です。

進め だとしたなら、西方諸国の何処かがオーク島海域への再侵攻を狙っている? いや、狙わせたいのか?
退け だとしたなら、逆にこの海域から手を引かせるために揉め事を起こそうとしている?
本国や列強間の情勢が変わって、進むにしろ退くにしろ西方文明海軍の出方が変わっていくとしたら、当然それに反抗する勢
力も出てくる筈。
だとしたら、この事件は西方文明の政治的地殻変動の揺り返しかもしれません。


帰りたい。
もうこんな揉め事とっとと片づけて、早く巣に帰りたい。
文明の抗争とか無視して、新婚さん生活営みたい気持ちでいっぱいです。

神殿や市場で買った服や小物を組み合わせたら、ウェディングドレス風の服が作れそうなんですよ。
外側だけとはいえ女の子になったんですから、結婚式にドレスぐらい着たって良いじゃありませんか。
早く帰ってドレス縫い上げたいし、蜜蜂の巣箱だって心配だし、養殖筏も新作したいんですよ私は。

よし、決めた。
無事に巣に帰ったら、帰って落ち着いたら巣のみんなの前でストリップしよう。

そこまでいかなくても、ブランコをこぐ以上のことをしましょう。
人生に悔いは少ない方が良いのです。
将来、命が危ない状態になってから「もうちょっと見せてあげればよかったなー」とか思う前に、見て貰いましょう。


というか見せたいんです。私が。
だからなんとかこの場を切り抜けないと。






[38600] 34
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/22 12:10



 ☆61日め8、それは水を得た魚のように☆


浮かぶ茶釜式戦艦の砲門が一つ開きました。
小型砲門の扉は一枚板の鋼鉄板で引き戸のように下側へ降りて開かれ、下からせり上がって閉められるようですね。
出っぱなしの大型砲は砲門ではなく、砲の尾栓の方を閉めて外部と遮断しているようです。

そして丸くて周囲360度に砲列を並べた異文明の艦は、一発だけ大砲を撃ってきました。


む、舷側の砲列が金属帯ごと動いてますよ。
ダイアル式錠前のシリンダーのように、並んだ金属扉が一斉に舷側まわりを回転しています。
ますますもって理解しがたい構造です。砲塔の概念がないとしても、普通は一つにまとめようとはしませんよねえ?

砲列部分を支えているレールやら何やらが壊れたらどうする気なのでしょうかあれは?
被弾したときのことを考えてない訳はないでしょうし。

しかしある程度の合理性はある。
あの動き、私も前世でやり込んだ戦車操縦シミュレーター系ゲームで同じ事やりましたよ。


横や後の方向にいる敵を自分が乗った戦車の砲で撃ちたいとき、普通に砲塔を旋回していたのでは敵が物や味方の陰に逃げ込
んだり、あるいは自分の方が先に撃たれたりしてしまうので間に合わないとします。
そんなときにやるのが、車体を回転させながら同時に砲塔を同じ方向へ回転させるという操縦方法です。

あの要塞風戦艦も同じ事をしています。
船体を回転させる速度に砲列を回転させる速度を足せば、水上にいる敵ならまず視界から逃さないでしょう。
地球の魚雷艇とかなら、振り切れるかどうかってところですね。時速で言えば60キロ程度では逃げ切れません。
70キロ近く出せるなら既に撃った砲の前に回り込み続けることができるかも。

まあ、敵のいる方向へ弾が撃てるのと撃った弾が当たるかどうかは別の問題なのですがね。


ええ、砲弾が遅いんですよ。しかも狙いがズレてるし。
人間の目にもしっかり見える程度の速度です。
口径と比べて砲身が短いですし、発射煙の色合いからして装薬は黒色火薬でしょうから砲弾の速度が遅くても不思議ではあり
ませんが。

でも、あんなのでも砲弾は砲弾です。
木造船が被弾すると破片が飛び散るから侮れません。

自動車の外板が鉄板やFRP製なのは、木製だと事故を起こしたときに被害が洒落にならないからでもあるのですよ。
実際、前世紀初頭の遅い乗用車ですら事故時に死傷者続出してましたし。
いえ、馬車の時代だって交通事故は悲惨でした。
運動エネルギーは何気ない雑貨や家具を凶器に変えてしまうのです。折れた木材なら尚更。


砲弾が海面に着弾しました。左舷の300メートルは離れた位置に水柱が立ち登ります。
威嚇射撃にしては遠すぎますが、はて?


「問答無用じゃのう」
「こうしょう、できない」

水柱を見た巫女さんたちが諦め顔で呟きました。
あ、そうか今のは威嚇射撃じゃなくて測定用の試射ですか。少なくとも神殿の監察チームはそう判断しました。
後で聞いたら、威嚇射撃なら遅くとも発砲直後には旗なり発光信号なりで警告が出るそうです。
会話を拒否して敵対行動をとっているからには、交渉する意思なしとみなされるのですよ。


「じゃ、沈まない程度に暴れ‥‥」
「だから止めろって、俺の身内が乗ってるんだからさ。それに‥‥」

羽根つき靴の効果でしょうか、甲板からふわりと浮き上がったソーニャさんの肩を船長が掴んで引き下ろします。

「海の上のことは、本職(かいぞく)に任しとけ」


おや? 船長のようすが‥‥。

「野郎ども、いつもの手でいくぞ!」
「「「合点でさぁ!」」」

今までの腑抜けた声と違う大音声が甲板、いえ海原に響き渡ります。
海賊にしては潮風に潰れていない、高めの声質だと思ってましたが「美声」の変異持ちでしたかこの船長。良く響く声です。

「面舵一杯、両舷起動! 非戦闘員は‥‥物陰にでも隠れてろ!」

あ、いま「船内に退避」って言おうとして取り消しましたよこの人。視線の向きで解ります。
でも訂正したのは‥‥連れてきた女の子達の管轄が、既に海賊船から神殿に移っているからですね。
立場上、オークやその連れには命令できないんですよ。


戦闘態勢に入ったヒルデニア船は全力で櫓を漕いで、要塞から1200メートル程度の距離をとって反時計回りに回り込もう
としています。対する要塞側は小型砲を散発的に撃ちかけながら接近を試みていますね。

特に相談した様子もないのに、オーク達は甲板の上で思い思いの場所に待機してます。
適当に決めたようにしか見えないのに、船員達の邪魔にならない位置に固まっているのは流石ですね。戦い慣れている。

後部艦橋前の待避所に女の子達が隠れ、お義兄さんと配下の下っ端たち計三人が直接護衛に立ち、巫女さん達がその横で呪文
を詠唱しています。
いや、正確に言えば呪文そのものではなく準備段階の聖句です。
呪文詠唱を短縮したり圧縮したりする技術があるからには、逆に長く伸ばす技術もある訳で、詠唱を長く伸ばすことで呪文の
威力や確実性を上げることができるのです。
ゲーム的に言えばダイス目の下限値を引き上げてファンブル(大失敗)の目を出なくしたり、ダイス目に修正を入れて期待値を
上げたり、威力決定判定時の上限枠を押し上げたりできるのですよ。


ウサミミさんはオーガーたちと一緒に待機中ですか。物陰に引っ込むつもりはなさそうです。
彼女は戦闘要員ですからね、区分するなら。妊婦だけど戦えない程育っている訳じゃないし。
私も引っ込むつもりはありません。これは私の戦いなのですから。

船倉から上がってきた海賊達が甲板のあちこちで待機しています。
手に手に武器を持っているところを見ると切り込み要員らしいですね。
かなりの人数ですが、操船の邪魔にならないのかな? などと思っていたら、風を受けて膨らんでいた帆がどんどん畳まれて
いって、帆を畳み終わった船員達は次々と武器や手盾や軽めの鎧兜を装備して切り込み要員の群に加わっています。

そして帆が殆ど畳まれてしまったのに、なぜか船の速度はむしろ増している。
いくら櫓が櫂(オール)より効率がよいとはいえ、人力で出せる速度じゃありませんよこれは。
待てよ? そもそも人が漕いでいたのかこの船は? 
直接、櫓を漕いでいる水夫を見たわけじゃありませんし、ファンタジー世界だから他に動力源があってもおかしくはない。


「いと猛き御方よ、勇気ある者にご加護を!」

ハイプリーテスの詠唱が終わりました。オールクゥス神に祈る声が唱和され、複数の呪文が同時発動します。
「士気高揚(ヒロイズム)」「祝福(ブレス)」「再生(リジェレネート)」「増装甲(アーマー)」「飛び道具への耐性(ミサイル・
プロテクション)」の重ねがけ、しかも範囲はこの船全体!?

もちろん私にも、上記全ての効果が現れます。呪文の効果範囲にいますし、術者たちから味方認定されてますからね。
味方強化呪文には掛けられた側には、その効果が伝わる機能がついているのですよ。
だからなんとなくですが、どんな呪文なのか理解できる。
ゲーム的に言えば「○○が上がった!」というテキストメッセージにあたるものですね。

‥‥なるほど、これが集団魔法。四人が呪文の容量を融通して連動させることで、詠唱を主導している人間の呪文強度や熟練
度で4人分の呪文を使えるのか。
つまり巫女さん4人の(呪文使いとしての)星が10・4・3・3だったとしても、この技法を使うことで星10級の使い手が
4人いるのと同じ扱いになるのです。


いやまて、今5種類の強化呪文が重ね掛けされましたよね?
4人が唱えて効果が5種類!?

これは凄い、時間をかけるだけの意味があるわ。
ある意味、見習い巫女2人は巫女頭の外付けMPタンクみたいなものか。

この世界でも「今のはメラゾー○ではない」ができます。
初心者の私ですら、目標に怪我させない程度に威力を押さえた攻撃魔法を放つぐらいはやれますからね。
個人単独の腕前だけで「魔王」とまで呼ばれるほどの使い手なら、初級呪文の威力や範囲を上級呪文なみに拡大して使うこと
ができるのです。

同じ1レベル呪文でも星1と10の使い手では戦力価値がまるで違う。この世界なら特に、集団魔法の意味は大きいのです。
宗教勢力って凄いや。
義教公はもっと凄いけど。
こんなのがうじゃうじゃいる所を焼き討ちしちゃったら、そりゃ「魔王」と呼ばれて当然ですよ。



測距儀の調整が終わったのでしょう、敵艦が本格的に撃ち始めました。
訂正します。これはモーターボートでも、速度で避けるのは無理です。
だって狙いが甘いってことは、どこに弾が行くか撃っている側だって解らないということなのですから。

「両舷全速! 死ぬ気でとばせ!」

船長は船員に檄を飛ばし、舵取りに指示して船を蛇行させて要塞へ突撃します。
もちろん直進ではなく適宜に舵を切って、ばかすか打ち込まれる弾幕を綺麗に避けながら。


あの茶釜もどき、他はともかく発射速度だけはたいしたものです。一門当たりの装填に30秒かそこらしかかかってません。
一々砲を引っ込めていないのに撃ってこれる所を見ると、後装式の砲ですね。
思ったより弾速が遅く命中精度が甘いですが、それでもこれだけ撃てるのはたいしたものです。

普通の帆船ならとっくの昔に木っ端微塵ですよ。
小型砲だけでも200門はあるから、一分間に四百発。機関銃よりはちょっと遅いぐらいですかね?
えっと、概算で全周200メートルとしても30秒で一周するには時速24キロ、うん、そのぐらいは出てます。
時速にして10キロちょっとの速度で要塞とその上のシリンダー式砲塔が旋回している。
こんな既知外兵器設計する奴も設計する奴だけど、計画通す奴も通す奴です。誰か止めろよ正気の人間いなかったのかよ。

まだ一発も当たっていないのは、船の性能と乗組員の腕と船長の采配がとんでもないからです。
ああ、うん、そういえばヒルデニアの水軍衆はナマモノ兵器や鋼鉄要塞と五分に渡り合えるんですよね。
そしてそこそこの有名人である以上、船長の腕が悪い訳がない。海賊は完全な実力社会ではないにしろ、実力がないとやって
いけない稼業なのですから。
コネも実力のうちと言えばそこまでなんですが。

日本の海賊衆が精強だったのは、古くから漁業や海上交通が盛んだったのと日本近海が難所揃いだったからですよね。
太平洋も日本海も玄界灘も荒海ですし、一見穏やかそうな瀬戸内海だって実は厄介な海なのですよ。
これに黒潮親潮タッグや台風銀座などが追い打ちかけてきますしねー。
ヒルデニア近海も難所だらけなのかな? 平底船が主流なところをみると浅瀬が多い海域なのは確実ですが。


小型砲だけでなく、大型砲も撃ってきました。
散弾銃のように小粒の砲弾が一斉に飛んできますが、当たりません。僅かな差で外れました。
林や木々の隙間を駆ける駿馬のように、海賊船は水柱の中を縫って走り抜けます。


偶然にも、海賊船が避けたその方向へ砲弾が三発ほど固まって寄ってきました。
弾に意思でも宿っているかのように迫ってきます。丸いのが。

「あれは当たるぞ!」

甲板長に保証されなくても解ります、どう見ても全部直撃コースに乗ってる弾です。

「大丈夫、はね返せるから! それより耳塞いでおいて!」

その身を盾にしてでも、と私の周りに集まる仲間たちを宥めます。
大丈夫。あの程度の弾なら、この船に張られた結界が弾いてくれるはずです。私の直感が正しければ。


よし、防げた。二発が防弾結界に当たって破裂しました。
残る一発の砲弾は芯まで鉄の丸玉だったようで、破裂せずに結界の上を滑っていきました。
船体船員共に深刻なダメージはなし。完全に無傷でもありませんが、今更帆桁の一本や二本折れたところで問題ありません。
この期に及んで徹甲弾を撃って来ないところを見ると、あの茶釜は炸裂弾と丸玉しか積んでないのでしょうか。

その後も何発も流れ弾の直撃や至近弾を浴びながら、とうとう海賊船は要塞まで肉薄しました。

もう目の前まで要塞が‥‥おや? 砲撃が止まった?
まずい、砲列の動きが加速してます! 砲撃が止まったらターレットの旋回速度が三倍速ぐらいになりました。
旋回速度が速すぎて逃げ切れない!? 公算射撃やめて零距離で直接照準射撃する気です。

でも何故に、小型砲の砲撃を止める必要がある? そりゃ確かに当たってもたいして効いてないけど。
まさか装填の手間というか動力を回転力に回したのか!? そこはちゃんと動力源を分離しとけよ文明人の作った兵器なら!
動力の分配とか調節とかややこしくなって故障の原因になるくせに今回はまともに動いてるじゃないですか馬鹿ぁー!

突撃する海賊船を迎え撃つように、ひときわ大きい砲がこちらに向いてます。照準がぴったり合ったままです。
拙い、今度は散弾じゃないでしょうし近距離で直接照準です。撃つと同時に避けたんじゃ絶対間に合わない。
防御結界で防げるかな。‥‥えーと、単純計算して砲口直径が約4倍ということは弾頭重量が4の3乗で64倍。
砲身の長さからくる加速度も計算すれば、小型砲の百倍は威力があるでしょう。
うん、無理だ。防ぎようがない。当たったらお終いです。


「全員なにかに掴まれぃ!」

だけど船長の声は勝利を確信していて、それは船員達も同じで。ソーニャさんなんか楽しそうに笑っていて。
何よりも夫達が、ドスとウォスの二人が動じていないのが心強くて。

もちろんその信頼が裏切られることなど、ありはしなかったのです。


間一髪。それこそほんの数メートルの差で、巨砲から放たれた砲弾は船底をかすめて飛んでいきました。
ええ、この船、飛んでいます。
雪橇やスキーが発射台から飛び立つように、丁度良い角度の波に「水上歩行(ウオーター・ウォーキング)」の呪文をかけて即
席の滑り台として飛び跳ねたのですよ。




 ☆61日め9、海賊のやりくち☆


勝った、のだと思います。少なくとも負けてない。

「これを勝ちと言わなんだら何が勝ちで何が負けになるんじゃぃ」

おや、独り言が出ていたかな? 迂闊でした。
うん、まあ藤子さんの言うとおり、敵が降参したからには勝利と言い張って良いのでしょう。きっと。
私個人としては、敵は寸刻みにしてから骨になるまで焼いて、骨を砕いてからもう一度焼いて灰にして、灰を集めて聖水で溶
かしてから小分けにして海に流さないと安心できないのですが。
そこまですれば、そう簡単には生き返らない筈です。たとえファンタジー世界であっても。
時々生き返るのもいますけどね、そこまでやっても。


えー 主砲発射の直前というか、海賊船が飛んだときからちょっと記憶が混乱しているのですが。まとめてみましょう。

まず、敵主砲を跳んで避けた海賊船は、そのまま要塞の上に飛び乗りました。
で、ですね。
この「蛇王丸(へびおうまる)」というヒルデニア船は、船底にアルキメディアン・スクリューが二基付いてるのですよ。ええ。
直径約2メートル、長さ20メートル以上、赤みを帯びた総金属製の凶悪なのが。

アルキメディアン・スクリューについては言うまでもありませんよね?
解らない人は、平底船の船底に半ば埋め込まれるように長いドリルが付いているのだと思ってください。

蛇王丸は特別製の魔法戦艦でして、ヒルデニア文明圏が主力にしている継承兵器です。
要は何千年も前の遙か昔から、伝えられてきた大型かつ強力なマジック・アイテムなのですよ。

その船体は嵐にも大波にも負けない強度を持ち、水の抵抗を受けずに素早く動ける効果があります。
レェ・ウォスが壁面に対してやっていた闘気法応用と同じように、反作用を斜め方向にずらして推力に変えているのです。
同じ技術を使った櫓は西方式の櫂(オール)に比べ7倍以上の推力を叩き出しますし、艦首にある一対の蛇像は様々な呪文を装
填して使いたいときに使える魔法兵器なのです。

船長はあらかじめ魔法の蛇像に「水上歩行」の呪文を仕込んであったのですね。
全速モードでアルキメディアンスクリューを回転させている状態のこの船は、突如として海の一部が陸地のように固くなって
も乗り越えられます。
けど、普通の船は同じ事をしたら固い水面に乗り上げてしまい良くて座礁、運が悪いと転覆しかねません。
構造の脆い船なら分解してしまうかも。

海賊船の乗組員達が「大内海一の船」と自慢するだけのことはあります。王と名が付いてるのは伊達じゃない。
ヒルデニアにはあと数隻、この蛇王丸の兄弟船が存在するそうです。
その昔の大戦ではこういった動力船が大暴れしていたそうですが、現在では大戦当時と同じ船をまとまった数で使えるのはヒ
ルデニアだけなのだとか。

西方文明の魔道戦艦に乗っている動力炉は、ヒルデニア船のものと比べると性能が低いのです。
ただ、古代文明の遺産をそのまま使っているヒルデニアにくらべれば、自力で新品を作れる西方世界の方が数と発展性では上
回っていますので、文明圏全体でなら評価もまた違ってくるのですが。


はい。海賊船はあのまま海上要塞の上に飛び乗って、左右のアルキメディアン・スクリューを逆回転させて旋回したのですよ。
もうぐるぐると、下にあるもの全てが滅茶苦茶になるまで延々と。
スクリューの刃が要塞天蓋の装甲板に食い込んで切り裂いて粉微塵に砕きながら回転しまくる姿は圧巻でした。超信地旋回し
ている船の上に乗っているだけで目が回りかけましたけど。

なんかもう、ミニ浮遊要塞の上部分は電動泡立て器で蹂躙されたモンブランケーキのような有り様です。
クリームも栗餡もぐっちゃぐっちゃに崩され消し飛んで、土台のスポンジが露出している状態ですね。
妊婦を載せてやるべき機動じゃありませんが、取りあえず大事に至らなくてなにより。
死傷者は敵方にしか出てません。私の巣一行の被害はサダキチが気分悪くなってもどしかけたぐらいです。

乗っかった方は目を回すぐらいですみましたが、乗られた方はそうもいかない訳で。
真上に乗っかった敵に大砲は使えず、かといって生身の白兵戦でオーク島+ヒルデニア海賊の連合軍に西方人が勝てる訳もあ
りません。迎撃用のゴーレムや動甲冑は出撃する暇もなく魔法合金製のスクリューで踏み砕かれました。
要塞の中には魔道エンジンを搭載した脱出艇もあったようですが、こちらも動かす前に轢き潰されています。

航空騎兵やドラゴンなどによる上方からの攻撃にも対応策を持っていた茶釜要塞ですが、まさか重量数百トンの代物が魔法
合金製のドリル状スクリューを先にして降ってくることは想定してない訳でして。


海賊船がまだ回っているうちから飛び出していったオークやオーガーたち、それにソーニャさんが要塞司令部へ殴り込んで、
恐慌状態の敵将兵を制圧して決着がつきました。
そして現在に至ります。
いやあ、ファンタジー世界の戦闘は手早いですね。海賊船が要塞に飛び乗ってからまだ10分も過ぎちゃいませんよ。


ちなみに船長が言う「いつもの手」とは、いわゆる「高度な柔軟性を維持して臨機応変に動く」ことです。 
いきあたりばったりで戦って毎回勝つって、どこのアレクサンドロス大王ですか。これだからファンタジー世界は!



所々に転がる切られたり殴り潰されたりした衛兵(海兵隊?)の死体が転がる階段や廊下を通って要塞内部に入り、先行してい
たソーニャさんたちと合流してみれば、ちょうど司令室の床にへたりこんでいる総大将らしき貴族将校の首にソーニャさんの
ショートソードの刃が当たっているところでした。
流石はソーニャさん、同性だけあって女相手でも容赦がありません。

ええ、指揮官は女です。

まだ若く‥‥はないのかな? 
二十代半ばから後半という年齢は、適齢期の早いこの世界では大年増扱いされても仕方ありません。
高級将校らしき軍服を着て、ゆるく波打った薄い黒髪(暗灰色)の髪を背中まで伸ばしてます。
ちょっとトウが立ってはいるけど貴族だけあってなかなかの美人さん‥‥の筈なのですが、敗北の衝撃のせいか表情が壊れて
ますね。
へたりこんだまま、中空を見つめて何ごとか呟き続けてます。

「‥‥ドガチェフ改が。‥‥最新型なのに、こんな野蛮人どもに。‥‥夢だ、これは悪い夢なんだ」

雰囲気から察するにこの司令官、文官よりの経歴で実戦経験少なさそうですね。修羅場に慣れてないと見た。
というかこの浮かぶ茶釜、遠洋で単独行動すべき兵器じゃありません。
装甲付き防御火点(トーチカ)って、複数の火点が互いを支援しあうから強いのであって単独で孤立していたら怖くもなんとも
ありませんよ。
死角から歩兵に忍び寄られて、手榴弾でも投げ込まれておしまいです。

この水上要塞の全周囲に張られた装甲板は、味方が流れ弾を気にしないで撃つためのものなのでしょう。
ソーニャさんや幹部オークたちみたいに素手や手持ち武器で装甲板くり貫く敵に取り付かれたら、味方に散弾で撃って貰うの
ですよ。あるいは自分で至近距離に炸裂弾を爆発させるか。

地球でも火炎瓶や地雷を持った敵歩兵に集られている味方戦車を救うために、集られている戦車ごと機関銃弾の弾幕でなぎ払
うことがあります。
機関銃の弾ぐらい平気ではね返せるのがまっとうな戦車というものです。


ええ、ソーニャさんの剣は某怪盗一味の斬鉄○のように分厚い鋼鉄板を切り刻めるのですよ。もうスパスパと。
地球でいえば日銀の地下大金庫の扉なみに分厚い鋼鉄板でも、深夜通販番組でゾーリンゲン産包丁に切り刻まれるカマボコ板
のような目にあわされてしまうのです。
実際、この要塞の内部隔壁なんか私がクックリ刀で障子の戸を破るよりも気軽に突破されてますし。


この茶釜は港湾とか海峡とかの重要な場所を、複数の同型兵器そして陸上や空中の味方と協力して守り通すための代物であり、
すばしっこい敵を追いかけ回すような戦いには向いていません。
先程の攻防は、戦車で喩えるならKV2にBT7の真似をさせたようなものです。
強力だけど、所詮は兵器。ドガチェフだかフルシチョフだか知りませんが、戦場の一要素であって支配者じゃありません。

せめてこの茶釜型要塞が三隻あって、互いが連携して砲撃していたら「蛇王丸」の乗っかり戦術は使えなかった筈です。
近寄ることもできません。
まあ、その場合は他の方法で沈めるだけですけどね。ソーニャさんをけしかけるとか。



戦争なんてものは、より野蛮な方が勝ちますからねー。
でもないかな? 地球には有史以来自力で勝った例がない野蛮人もいましたし。いや、他力本願でも勝った例が‥‥1つか2
つはあったんでしたっけ? 
まあ、文明国が野蛮人に必ず勝つならマケドニアの隆盛やローマの滅亡なんてありえませんよ。


他の将兵や乗組員たちも次々と降伏し、海賊達によって拘束されています。こっちに乗っていた海賊船の乗組員は全員無事で
した。
彼らは船長が心配していたとおり人質にされかけていたそうですが、自力で脱出しようとしている最中に要塞側が降伏してし
まったのです。


「あのー もし仲間が落下地点にいたらどうする気だったんですか?」
「そん時は運がなかったと諦めるしかねぇな」

鬼だこの人。
この死生観の割り切り具合、本当にヒルデニア人だなあ。

「はっ 外でドンパチ始まってるのに悠長に寝てるわきゃねーだろが」
「だねー」

当事者の海賊仲間は納得しているので、問題ないようです。

担保代わりに要塞に乗っていた仲間というのが、裾の長いチャイナドレスみたいな服装の女海賊と水兵服姿の銀髪少女でした。
他にも何人かいますけどこの二人が主力ですね。ウチの巣の幹部と下っ端ぐらい実力が違います。
二人ともただ者ではありませんが、藤子さんと比べるとやや落ちる程度の腕前ですかね?
この二人に率いられた海賊衆は、戦闘が激しくなった頃に軟禁されていた部屋から脱走してまして要塞内部で戦闘中だったの
です。自分たちの船に攻撃されましたから。


しかし、凄腕の女と女の子が五人揃って高露出というのも凄いですね。
この島では普通なのかな?
一番露出が低いソーニャさんの格好も武装外せば地球のチアリーダーみたいなものですし、藤子さんはボディビルド競技会の
出場選手みたいだし、巫女頭はベッドイン寸前の新妻みたいな半透明衣装だし。

ただ、女海賊はちょっとその‥‥船長よりやや若いぐらいの年齢で、そのスリットの深さはどうかと思うのですが。
いわゆる「見えてるぞ」「見せてんのよ」系の衣装ですが、こっちの世界では許される範囲なのかな? 
私以外は気にしている人いないし。
水兵服の小娘も、上着とスカートの丈が短くて細い生脚や形の良いお臍を露出してます。半袖だし。

ちなみにチャイナドレス風の女海賊の得物はカットラス二刀流、水兵服の少女海賊は片刃の戦斧で‥‥訂正、男の娘でした。
よく化けているけど、男だよこの娘。いわゆる 女 装 少 年 です。

具体的に言うとおへその位置とかが違います。まぎらわしいけどこの娘、内臓的には男の身体してますよ。
骨盤というか腰回りが女の子っぽかったのでしばらく騙されてました。後で確認したらスカート下の腰回りに上げ底パット付
き下着をつけているそうです。
そういえば船長、男もいけるとかなんとか言ってましたよね。
今も水兵服の男の娘をかいぐりかいぐりしていますが、やっぱりそういう関係なのかなあ?


そういう関係だそうです。
この二人が浮遊要塞に残っていた理由は一に担保として、二にいざというときは自力で何とかできる(可能性がある)から、
三に「オーク島に連れて行って妊娠させられたら困る」からだそうで。


「オークさんたちは近寄らないでねー、ボクのここは船長(キャプテン)専用だから」
「アタシは違うけど、オークに犯られて色ボケになるのは御免だねえ」

あー チャイナ服の女海賊(蛇王丸の副長だそうです)が私たちを見る目つき、あれはアレですね。
麻薬を扱っていないやくざ屋さんが末期の薬物中毒者を見る目です。
海賊稼業が長そうですし、いっぱい見てしまっているのでしょうねえ。オークち○こにド填りしてアヘ顔ダブルピース状態に
なっちゃった女達を。

水兵風の男の娘は船長のお気に入りなのですけど‥‥あれは愛人ですね。
日本語での漢字表記ではなくチャイナ圏での使い方的な意味で。アイジンではなくアイレンです。

サブカルチャーの世界には「目と目で解る変態同士の法則」というものがありまして。
世間様(マジョリティ)から変態と呼ばれ異常者扱いされる者たちは、所属する集団や派閥が非力で脆弱であればあるほど、
同類を見つけだす能力が高まります。
オタが同類を見つけだすように、SF者が同類を見つけだすように、変態さんは目を見ただけで同類かどうか解るのですよ。

この娘、私と同類だ。
精神的には男なのに男の人が好きになって、女の子としてその人に愛されたいと思ってしまい、そして受け入れられた。
ちょっとややこしい変態さんなのですよ。

副長と船長はそういう関係じゃないそうですが、そうでなくても副長に抜けられたら困るのは確かですよね。
商家で言うなら番頭さんが社会復帰できなくなるようなものですから、

 



 ☆61日め10、私もですけどね☆


戦争に狂気はつきものです。十字軍は疫病の死者を投石機で要塞都市に投げ込み、安史の乱では官軍賊軍ともに捕虜の人肉を
主食にして戦闘を続け、冷戦時代には50メガトン級の大物から歩兵の小銃で発射できる超小型まで核兵器が作られました。
私のご先祖様たちだって、人身御供の呪術で機動部隊に対抗しようとしていましたしねー。

そんな狂気を具現化したものが、目の前にあります。
直径5メートル、高さ7メートルほどの檻ですね。昔風の動物園で猛獣を閉じこめているのと、同じような構造です。
問題は三つ並んだ檻の中身なのです。
身長3メートルほどの異形の生き物が、檻の中でミイラになっている。

二本ずつの手足がありますが、巨人(ジャイアント)のように人間を拡大したような姿ではありません。
骨格・皮膚・そして各部位の構造まで何もかも違いすぎる。
あえて近い部分を探すとしたら手ですかね? 四本指でかぎ爪が生えているけど。
頭は牛と肉食恐竜を混ぜたような形ですし、コウモリや翼竜のような皮膜系の翼が背中から生えているし、先端が銛みたいに
なった細長い尻尾が生えているしで、これはどう見ても‥‥。


「デーモン(魔神)よ、それもかなり高位の」

ええ、ソーニャさんの言うとおり檻の中でミイラになっている怪物はどう見ても悪魔系です。
で、それが干からびている理由は絶食などではなく、拘束具でがんじがらめに縛り上げた上で無数の針や管を差し込まれて中
身を搾り取られているからなのです。

よく見ると檻の下に魔法陣(マジカルサークル)がありますね。それもチョークや塗料で描かれたものではなく、一枚板の床材
に魔法陣を彫り込んで、その線と文字一つ一つに溶かした金属を流し込んで固めた半永久的耐久品です。
流し込まれている金属は金銀錫鉛青銅などの融かしやすい金属だけでなく、融点の高そうな見慣れない金属も使われています。
どの場所にどの金属を使うかで魔法陣の品位や品質に違いが出るようですね。


この海上要塞ドガチェフ改シリーズと前級のドガチェフ級との最大の違いは、魔力炉の出力に頼っていた無印に対して改の方
は予備魔力源を搭載して、魔力を安定供給できるようにした所です。
元々ドガチェフシリーズに載せてある炉は魔力の安定供給が難しく、突然出力が上がったり下がったりすることがありました。
新型はその点を改良したのですよ。

具体的には召喚して魔法陣に閉じこめたデーモンに魔力吸収用の管やら何やらを突き刺して搾り取ってるのですよ。
炉の出力が下がったら ちゅー と吸い上げるのです。
魔力蓄積用の魔石も増設してあるので、戦闘中の魔力切れの可能性が少なくなりました。

捕らわれた魔神達は、ミイラになりかけですがまだ生きてます。神話的存在に対して死ぬの生きるのといった表現は変だけど。
悪魔の生き血を啜って動く兵器か、やっぱり頭おかしいですよこの要塞の設計者。予算通した奴はもっと。


「‥‥この悪魔たち、解放できませんかね?」

私の呟きに、周りがドン引きしています。夫たち五人のオークを除いた面々が物理的に距離を取りだしたぐらいに。
ソーニャさんは逆に寄ってきました。妙に嬉しそうと言うか口元が綻んでいます。

?  ‥‥あ! 

「違います! 自由にしてやるんじゃなくて地獄なり魔界なりに帰してやれないかってことです!」

妙な誤解をしていた人々は、大慌てで訂正した私の言葉に大きく息を吐き出しました。一名を除いて。

いや、する訳ないでしょうがそんな事。常識的に考えて。
海賊達はまだしも、巫女さんたちまで物理的に離れようとしたのは、その、正直言って傷付くなー。
そんなに信用なりませんかね、私は? どんな危険人物だと思われているのでしょうか。

「‥‥しないの?」
「しません!」

ショートソードの柄に手を掛けていたソーニャさんですが、とても残念そうです。
なんかもう「雨が止まないので今年の花火大会は中止です」と聞かされた小学校時代の同級生みたいな顔してます。
戦闘依存症かこの人は? 暴れたりない気持ちは解らなくもないですけど。

この檻の中に入っているのは、下級魔神の中ではかなり強い部類に入るようです。星で言えば12ぐらい。
デーモンにも種類がありまして、ソーニャさんは檻の中にいるのと同じ種類のデーモンと何年か前に戦ったことがあります。
その時は多対多で乱戦だったので今度は一対一で闘ってみたいのだとか。

「危険すぎます。第一どこで闘うつもりですか? 野外に出せば逃げられますよ」
「逃げないとしても、神殿の闘技場でだと観客席が流れ弾で大変なことになりそうですよねー」
「魔神(デーモン)を玩具にすな、こぉんの罰あたりが」

当然ながら巫女頭、私、藤子さんの三人に揃って駄目出しされました。


巫女頭のお姉さんは共通語(コモン)と西方語をかなり流暢に話せて、ヒルデニア語と東方語をある程度話せます。二人の助手
たちもそれぞれが共通語(コモン)と東方・西方の言語を読み書き会話できるのです。
これにヒルデニア人の藤子さんが加われば、大概の言語が通じます。巫女じゃないけどソーニャさんは東方出身ですし。
ちなみにウサミミさんたちオーガー村ご一行様は船でお留守番。制圧戦で戦っていたオーガーも上に戻っています。


西方語使える面々が捕虜たちに尋問した結果、床の魔法陣の外周だけを破壊すると安全装置が働いて中のデーモンを強制退去
させることが解りました。
ではさっそく、帰しちゃって構いませんよね?

反対意見はなさそうですので‥‥ あるの?

「待て、魔神を退去させるな!」

と、捕虜になっている要塞司令官が言い出しました。何か危険でもあるのでしょうか?


「そのマリノフ式魔法陣には一つあたり1803ゴールドの経費が掛かっている、減価償却も済んでいないのに壊されてたまるか!」

よし、壊そう。

「ま、待て! 武装解除なら魔神を破壊すれば良いだろう!? 退去させては素材が回収できんではないか!」
「ゴエモン、黙らせて」

静かになりました。下っ端とはいえオークの怪力で顔の下半分を掴まれては、非力な人間が喋れる訳がありません。


しかし、ドラゴンにも匹敵する神話的魔物が予算の都合でどうにでもされてしまうとは。
文明人って怖い。
いやまあ、地球だってそんなもんですけどね。資本主義社会では畏怖も尊厳も、経済的効率の前には塵も同然です。

私が只の転移者ならば、火星に行った元南軍大尉のように現代日本からそのままトリップしてきたのなら、この魔力供給シス
テムについて云々することはしなかったでしょう。
でも私は転生者です。
この島で産まれましたし、この島に骨を埋めても良いと覚悟しています。

オークの島でオーク的価値観に従って生きるオーク妻になると決めたからには、オーク的に振る舞っても良いでしょう。
私も夫達も下っ端達も、このモンスター虐待というか魔物に対する敬意の欠片もない代物を認める気にはなれません。

戦争の狂気。しかし正気と狂気に本質的な違いはありません。
あらゆる狂気のうち、社会生活が可能な水準に留まってるものを正気と呼んでいるだけです。
道義徳節は所詮、生存戦略を教本化したものにすぎません。
全ての判断基準は道具(ツール)なのですよ。他の全てと同じように。
手拭いとミンク毛皮の襟巻きのどちらが優れているかを問うても意味はないのです。使うべき状況が違うのですから。
 
だから、私はこの魔法陣を破壊します。自己満足のために。ただそれだけの理由で。



そんな訳で、デーモン達は故郷へと帰っていきました。他の部屋に捕らえられていたのも合わせて12体全部。
この魔法陣で捕らえた魔物から魔力を吸い尽くすと、デーモンのような実体を持たないモンスターは消滅します。
跡形も残りません。

ただし、枯死する寸前まで吸い上げてから攻撃して倒すと、デーモンは肉体の一部や装備品を落としていくことがあるのです。
ゲーム的に言うとドロップアイテムですね。
あの牛と恐竜を混ぜたような頭部を持つデーモンは、倒すと皮や翼や尻尾といった部位そして三又銛や長靴(ブーツ)などの装
備品が手に入るのですよ。
ソーニャさん情報だと運が良ければ複数、悪くても一つぐらいは拾えるとか。
12体全部を破壊すれば希少なアイテムが10個ぐらいは手に入る訳で、確かに一財産ではありますね。


確かにアイテムは欲しい。デーモンが落としていく装備品なら特に。
高度な魔法の掛かった装備品やアイテムは、使用者に合わせて大きさが変わる物があります。デーモンが落とすアイテムの殆
どは可変型なのですよ。

しかし檻の中で干からびている魔物を突き殺して得たアイテムを、戦利品と呼んで良いものでしょうか。
私が西方文明の一員ならば「是」と答えるでしょう。
魔神を召喚したのも捕らえたのも弱らせたのも文明の力なのですから、文明の恩恵を受け文明を支える者の一人として肯定し
ます。

でも私は「否」と答えます。オーク妻ですから。
自分が仕留めた訳でもない、他人の仕掛けた罠というか拷問台の上で死にかけているものを殺して解体する気にはなれません。
まして敵が捕らえたものなら、敵への嫌がらせのためだけに拷問台から解き放つのもありでしょう。

西方文明は私の敵です。
かつてこの島を侵略して苦しめただけでなく、今もまだ狙っているのですから。




 ☆61日め11、誰が得するんでしょうか?☆


さて。
この茶釜要塞はまだ魔力炉が動いているので今すぐ沈みはしませんが、これだけ破損した上に船員の半分以上が死傷したから
にはまともに動けません。沈まないようにそろそろと動かすので精一杯です。

なので私の巣の近くまで運んでから座礁させる事に決めました。私が。


「このまま沈めてしもた方がええと思うがのぅ」
「そんなもったいない! 鉄材だけでも3000トンはいく代物ですよ!?」

藤子さんは面倒くさがってますけど、これだけのデカブツなら船体がそのまま鉄鉱山になるでしょう。
この要塞は全部金属じゃなくて内装とかには木材も併用していますが、それでも総排水量の二割以上が良質の鉄や鋼で出来て
います。
鉱山代わりにすれば、ウチの巣だけなら百年掘っても埋蔵量的に大丈夫です。
火砲と弾薬は取り外して資源にするもよし、自分で使うもよし、売り捌くも良し。

巫女頭と交渉して、鹵獲した茶釜要塞に積んであるもののうち一割を私の巣が貰うことに決まりました。
私たちと、お義兄さんたちと、オーガーたちで一割ずつ。残りの七割は神殿が4海賊が3で分配します。お義兄さんたちは気
に入った戦利品だけを持ち帰って、残りは神殿に納めるつもりのようですけどね。


で、茶釜要塞の幹部を集めて尋問してみたのですが‥‥ややこしいですね。

まず、この茶釜要塞は西方諸国列強の一つである、オルロフ王国の海軍に所属する砲艦だそうです。
主な任務は港湾などの重要拠点防衛と、海辺の都市や村落を襲う海賊船や大型モンスターの撃退ですね。
このドガチェフ改308号艦も、この島から北西に1000キロ近く離れた前線基地の港を守っていたのです。

で、オルロフ王国辺境防衛艦隊の中で「ヒルデニアとの貿易を強化してもっと儲けよう」という声が出てきまして、それに基
地司令が乗って、その基地が間接貿易をすることになったのですよ。

つまり、オルロフ王国やその周辺で女奴隷を集めて辺境基地に送り、辺境基地に来たヒルデニア船が女奴隷を買ってオーク島
へ行き取り引きをして、ヒルデニア船はオーク島で手に入れた財貨で西方の製品を買って帰る訳です。
はっきり言えば奴隷の密輸です。関税がかからないのでそれだけでも死ぬほど儲かります。

ゆくゆくはヒルデニア海賊から引き抜いた人員を中核に偽海賊船を作り、直接オーク島と交易することも考えていたのです。
なのでオルロフ王国海軍の特殊営業業務に携わっている代理人(エージェント)たちは、ヒルデニアで腕は良いけど借金がかさ
んでいる海賊船を探していました。

その情報網に引っかかったのが「蛇王丸」の皆さん、という訳です。
船長は借金取りから解放されたい欲望より人身売買への嫌悪が優ってしまう人なので、この商談は流れる筈だったのですが、
エージェントたちは交渉の途中で「人身売買なしで良い」と言い始めました。

ちょうどその頃、ヒルデニアで情報収集をしていた特殊な営業マンたちが「オーク島にはあの像の上半身がある」という情報
を手に入れたのです。
数年前、とある偶然でオルロフ王国辺境防衛艦隊は希少品のアイテムを二個手に入れました。
女神のぶつ切りのような像ただし下半身のみと、その像を制御するコアパーツの水晶球(オーブ)です。

これは三種類、つまりあと一つ上半身部分を揃えて合体させることで真価を発揮する超高品位アイテムなのです。
ソーニャさんの剣やナノレドの棒きれが+3級だとしたら、パーツが三つ揃った像は+5か6に相当するアイテムです。
ちなみに+1で裕福な土豪(国人)とか土地持ち騎士の家宝、+2で騎士団長や小領主の家宝、+3で諸侯や大商家の家宝、
+4は大国王家の家宝や大寺院の祭器にあたります。
+5以上になると正に伝説級です。


あと一つはどこにあるんだ と彼らは探していたのですが、つい最近になってオーク島でオーク達が拝んでるという未確認情
報を得た辺境防衛艦隊はそれが事実かどうか確かめようとしたのです。
まあ、基地司令はハズレだったとしても「像が手元にないと確認しようがないだろうが」という理屈で辺境防衛艦隊の金庫か
ら像を運び出して辺境基地に持ち込むこと自体が目当てだったのではないかと思いますが。
なんとかして自分のものにしたかったのですね解ります。

オーク島に行き、調べて、もし本当だったらならなんとかして手に入れろという使命を受けてドガチェフ改308号がオーク
島近海まで来たわけですが‥‥何処のどんな団体にも派閥抗争はある訳でして。

辺境基地司令のように「王都で政争発生!? いまのうちに稼ぐぞ! 密輸じゃー! 荘園乗っ取りじゃー!」という経済観
念の発達した軍人さんたちもいれば「こんなド田舎に引き籠もっている場合じゃない! 王都に乗り込んで政権掌握せねば!」
という政治感覚の発達した副司令のような軍人さん達もいる訳でして。

後者の派閥が前者の派閥を妨害するために迂闊な行動を取るだろう人員を送り込んだのですが、思ったよりもオーク島側の反
応が敏感で戦争になったのですよ。

私の頭の中を覗こうとした魔術師は、ヒルデニア船があっさり負けるor降伏して交易がお流れになると考えていたようですね。
オークにバレて騒ぎになっても、ヒルデニア海賊は事をあらだてたくないから像を持ったまま相談のため帰ってくる。
そして要塞にいる、この魔術師の上司と同僚が要塞の指揮系統を攪乱してなしくずし的に海戦に持ち込む。
海賊が降伏したら要塞が下半身像を回収して、それから私の巣を襲撃して上半身も手に入れる訳です。交易が不可能になれば
あとは奪い取るしかありませんから。

元々彼はオーク島神殿を「間抜けなオークにとろかされた色ボケ女の集団」としてしか見ておらず、自分の「ESP(読心)」
が見破られるとは思っていなかったのですよ。
そして見破られて拘束されてからも、自軍の圧倒的勝利を疑いませんでした。
1レベルアコライトの私にあっさり見破られた後なのに、なおも敵を舐め続けていられる脳天気さはたいしたものです。


まあ、私が呪文を使われたことに気付いたのは下半身像ではなく、それを持ってきた者の方に注意が向いていたからですが。
手品と一緒です。
手品師は話芸や動作で観客の注意をどこかの一点に集めておいて、それと同時進行で別の所にタネを仕込んでいます。

彼は下半身像に注意を惹き付けておいてその隙に呪文を使っていたのですが、本職の手品師ではないので直ぐに調子に乗って
しまい、私に対しては対象の注意が本当に逸れているかを確認せずに呪文を使ってしまったのですよ。
だからバレたのです。

もしも調子に乗る前に、市場で見せ物を始めた直後に手品に隠れてESPの呪文を使われていたら、私も最後まで呪文を使わ
れたことに気付かなかったかもしれません。
いや、呪文に気付かなくても他の所が怪しすぎるから警戒したかな。

あの時点で騒ぎにならなくても、その数分後か十数分後には船長達がやってきて手品師の才能がない魔術師の胸ぐらを掴み上
げていたでしょうから、怪しさ大爆発です。
そもそも余計なことせずに、海賊達に混じって普通に聞き込みだけしていたら「西方出身の海賊なのかー」で終わっていたで
しょうし、そうなることを要塞司令は望んでいたのですがねえ。



ええ。当然ですが、要塞司令たち交易推進派は穏便な手を打つつもりでした。
あとに繋げるためにも、交易で上半身像を手に入れられるのならそうしたかったのですよ。
だからこそヒルデニア海賊達も協力していた訳で。
どうしても欲しいアイテムがあるから情報収集と買い入れ交渉をして欲しい、と船長達に頼んだのですよ要塞司令は。
たった一隻で島丸ごとと戦えるわけありませんし、奇襲強奪するにしても余程上手くやらないと被害が出ますからねー。

彼女の敗因は幾つかありますけど、大きいのは要塞内部の妨害勢力排除に失敗したことと、そしてそれ以上に妨害勢力の能力
や見識を高く評価し過ぎていたことでしょうね。
内部の敵が彼女の足をひっぱるにしても、妨害者に都合の良い時期を選んで状況を見極めてからやるだろう‥‥と過大評価し
た結果が御覧のありさまですよ。


「貴様らよくも‥‥ 妃殿下に受けたご恩を忘れたか!?」
「二言目には妃殿下妃殿下、もううんざりだ。生き返らせた所で既に政治的には死人だろうが」

呆然と座り込んだままの要塞司令のまわりで、将校達が罵りあっています。
どうやら、あの下半身像の使い道についても意見が分かれていたようですね。

交易をやるかやらないかで意見が分かれていて、賛成派が送り込んだ艦の中に反対派が紛れ込んでいて、アイテム入手を最優
先したい派閥の足をそうでもない派閥が引っ張ってて、手に入れたあとのことを考えていがみ合う。
清朝海軍もびっくりのグダグダっぷりです。これで勝てる訳がない。ホウレンソウどころかエノコログサすら生えてませんよ。


「ねー船長(キャプテン)、妃殿下って誰?」
「俺も詳しくは知らねぇけど、10年ぐらい前に死んだあの国の王妃様のことじゃねえかな」

女装少年に推測を語る船長によれば、前のオルロフ王妃は「海軍の母」と呼ばれるほどの傑物で、戦略政略経済に通じその手
腕は傾きはじめていた王国の経済を建て直した程だったとか。
しかしそれだけやれば多方面から恨みを買うのは当然でして、10年前に謎の死を遂げてしまったのです。
思いっきり不審な死を。

「そーいえば、あの像はパーツの組み合わせ次第で死者の蘇生は無理でも、特定故人のそっくりさんを作り出すことはできま
したよねえ」
「故人だけなの?」
「はい。このパーツでは生きている人の複製は、外見だけしかできません。影武者が務まるような演技は無理です。死者相手
なら魂を真似て封じ込めることでそっくりさんになるのですよ。記憶も性格もそっくりそのままになります。けど‥‥」
「そげんものを復活や蘇生とは言わんのぅ」

毎日あの像を手入れしていた私には、あの像がとんでもないレベルのアイテムだと解っています。
女神様が気に入るぐらいですからねー。
でも、人の魂をあの像に封じ込めることはできません。そういう事のために作られたアイテムじゃありませんし。
あれはあくまでも人形であって、人間ではないのです。

しかし、傑物で知られた王族のそっくりさん、しかも起動(復活?)させた者の言うことを聞いてくれる訳ですよねえ。
そのキャラクター(人格)に反さない限りで、ですが。
魅了(チャーム)の呪文にかかったようなもので、その人格が絶対にしたくないことを強制させることはできませんが、それで
もたいしたものです。

そっくりさんにとって嫌じゃないことなら何でも喋ってくれるし、やってくれるのですから。
これは凶悪極まりない政治的兵器ですよ。政治工作やり放題です。
もし自分が関ヶ原合戦直前の時期に大名や名のある部将だったとしたら、そしてそのとき羽柴秀長の記憶と能力をそのまま受
け継いでいて自分の言うこと聞いてくれるそっくりさんが手に入ったら、なにをしますか?

元々は古代の帝王が最愛の妻を模して作った抱き枕に政治や個人的な愚痴を聞かせ相談相手にしていたら抱き枕に魂が宿って
人間のように話すようになった、という伝説から作られたアイテムだとか。
ボルモフィラ朝王家でしたっけ? ソーニャさんから聞いた話ではそうでした。


縛られたり武器を突き付けられたりしたままの捕虜達が「反王妃派が再結集して袋叩きにされるだけだ、御輿にもならん」とか
「情報源としてだけでも利用価値がある」とか「王太子殿下に売り渡せば我らの安泰も」とか「この不忠者が、恥を知れ」とか
激しく罵り合ってます。
だめだこりゃ。
こいつら、呉越同舟なのに協力せずいがみ合って負けたくせに全然懲りてない。

特に左の端に座らされている捕虜士官が要塞司令の指示どおりに、帰ってきた海賊船に停船勧告の信号を出していれば、
そして「海賊船はこちらの停船勧告を無視」という虚偽報告をしなければ、戦いを避けられた可能性はまだあったのですよ。
いや、その場合は別の奴が勝手に不意打ちで発砲して血みどろの乱戦になっていたか。

そして、今は自分のやったことを棚に上げて要塞司令はじめ他の将校達を「敗北主義者」と罵っています。
西方人、特に貴族や軍人や役人が「自分の非を認めたら死んでしまう」というのは冗談じゃないのかもしれません。
地球にもいますからね、そういう精神構造の持ち主って。日本にだって連合赤軍とか強烈なのがいましたし。



ぐらり。

要塞司令室の床が大きく揺れ‥‥いや傾きました。
何ごとでしょう?

「ソト、サワギ」

ゴォ・ドスや耳の鋭いオーク達には何かが聞こえてるようです。レェ・ウォスはというと既に部屋を飛び出しています。
物理的に飛んでいるところを見ると、ろくな出番がなくて不満だったのは彼も同じだったのですね。

さて、私たちも様子を見に行くべきかそれともここで捕虜の見張りを続けるべきか。
などと考えていたらウォスが戻ってきました。
触手に絡みつかれた姿で。

ええ、ウォスとウォスの身体に絡みついた太さ1メートル近い吸盤の生えた触手が、司令室の扉を突き破って入ってきたのです。
オークに触手? なんて特殊すぎる組み合わせ。

「プギィ!?」

巻き付かれたまま棍棒で殴っていますが、全く効いた様子がない触手の丈夫さにウォスも焦り気味です。

「噴っ」

ソーニャさんが気合いと共に振り下ろしたショートソードが、ウォスを締め上げていたタコっぽい触手を断ち切りました。
攻撃の威力自体は、ウォスの棍棒より低いぐらいですよね今の斬撃は。
ということは、あの触手は幹部オーク以上の打撃耐性持ちですか。

みしみしと、司令室の壁が軋みます。
気が付けば扉や、壁に開いた穴の向こうに何本もの触手が蠢いていて、この部屋をしめあげてるのです。

切られてもしぶとく巻き付いている触手に噛みついたウォスが、顎と両腕の力で振りほどきました。
千切れているのにまだ絡みついてくる蛸足を司令室の壁に叩き付けます。でもまだ触手は動いている。

「ウォス!」

声を掛けて、貪り食う無限袋から出した斧の柄を差し出します。
元気に動き続けている触手を蹴飛ばして扉の向こう側へ送ったオーク戦士は、武器を持ち替えて私や下っ端達を守る位置に立
ちました。
最初から切断武器を装備しているドスとソーニャさんは、その切れ味鋭い武器で触手に応戦中です。

巫女頭たちは呪文詠唱中。藤子さんはその傍でヒルデニア風の小太刀を振り回して防戦に当たっています。
海賊達もなんとか自衛できているようですが‥‥。

「プギー!」

武器がない捕虜達は、逃げることも戦うこともできないわけでして。縛られたままだったりすると更に悲惨です。
ゴエモンの叫び声に振り向いてみれば、要塞司令にからみついて持ち去ろうとする触手とそれを防ごうとする下っ端たちが
力比べしているところでした。





[38600] 35
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/04/20 11:23



 ☆61日め12、いつのまにか☆


なんとか、触手を切り落としてひっぺがしました。下っ端三人と私の四人がかりで。
気絶したのかぐったりしている司令を守るように円陣を組んで、周囲を警戒します。非力な私でも見張りぐらいはできます。
タコなど軟体動物には鬼殺し貝の毒は効きません、だから毒銛は使えないのです。毒矢も刺してみましたが効いた様子があり
ません。

また来た! 

不意打ちのように天上の穴から入ってきた斜め上からの触手攻撃を、私の合図で体勢を整えた下っ端達が迎えうちます。
細めとはいえ40センチ級の触手を正面から迎撃したモッサリが、両手持ち刺突剣(エストック)を柄まで突き刺しました。
刺し止められた触手がうねって、モッサリを払いのけようとしますがなんとか堪えます。

その背中に迫る、触手の先端に付いた麻痺針をサダキチが掴んで止めて短剣で切り落としました。地球にもヒョウモンダコと
かの洒落にならない毒持ちがいるのですから、この世界に麻痺毒持ちのタコがいてもおかしくありません。
オークの中では非力な方に入るサダキチですが、地球基準で言えばその握力はオランウータンより上なのですよ。
ゴリラには及ばないけど。

そして二人が触手を止めている間に狙いを定めていたゴエモンが、渾身の力を込めて振り下ろしたクックリ刀はエストックが
刺さった箇所の手前に命中して触手を断ち切りました。
切り落とされた部分を残して、薄青い体液を撒き散らしながらタコっぽい触手が引っ込んでいきます。


「死は生類のさだめなり!」

巫女頭の唱えた呪句と共に、司令室の空中に幾つもの‥‥数十個の、光り輝くルーンが現れました。
法(ロウ)の印(ルーン)です。大きさは聖印の実物大で、私の拳にすっぽり収まるぐらい。
高レベルの信仰呪文によって呼び出された、そのルーンは籠から放たれたハトの群のように飛び交い、次々と司令室の内外で
触手にぶつかりきえていきます。


どさっどさっ

と、音を立てて、視界中の触手が一斉に崩れ落ちて動かなくなりました。死んだよーに横たわってます。
‥‥ように、じゃなくて本当に死んでますね。即死です。痙攣さえしてません。
一部例外もあります。さっきゴエモンが切り落とした触手など、本体と繋がってない部分はまだ動きまくっていますから。


終わった ‥‥のですよね、とりあえずは。
触手の本体が、巫女頭が唱えた「死の言葉(デス・ワード)」の呪文抵抗に失敗したということでしょう。


ふう、やれやれ。

「みんな、怪我はない?」
「「「「「グヒィー!」」」」」

私は疲れているだけで無傷。サダキチが軽傷、モッサリとゴエモンはかすり傷ですね。ドスとウォスも怪我らしい怪我はなし。
他の人達も似たようなものなようです。捕虜以外は。
とりあえずサダキチを呪文で治療しておきますか。

司令室にいた捕虜はほぼ全滅です。軍事用語じゃなくって、文字通りの意味で。
まだ気絶したままの司令以外は全員が触手に潰されるか攫われるかしてしまいました。

だって、助ける余裕なんてありませんでしたから。司令だって私の想定以上に下っ端三人が頑張ったから助かったのであって、
そうじゃなきゃ攫われています。
この三人、意外と強いですよね。チームワークも良いし、幹部や一人前の戦士達とは比較になりませんが下っ端としては悪く
ない戦いっぷりです。



「じゃ、ちょっと上行って来るね。捕虜の世話お願い」
「戦士ブア・レス、先導おねがいします」
「グヒッ」
「まったく、次から次へと‥‥」

相変わらず元気なソーニャさん、この事件の責任者である巫女たち、巫女の護衛なお義兄さんたち、最後に船が心配な海賊達
が続いて部屋を出ていきました。
あ、ブア・レスというのはお義兄さんの名前です。意味は「優れる者」、無理矢理現代日本風にしたら 優也 ですかね。


みんな動じてないなー。この世界では、何の脈絡も無しにモンスターに襲われることは珍しくないのでしょうけど。
私も早く慣れないといけませんね。でないと身が持ちません。

「グヒッ」
「武器はそのまま持っていてください、まだ終わっていないかもしれないし」

クックリ刀を返そうとするゴエモンですが、止めさせておきましょう。他の二人も。
しかし予備の武器をもっと持ってくれば良かったなー。次に新人勧誘するときは多めに用意しましょう。


上から戦闘音も聞こえてきませんし、私たちも上がりますかね。
では司令を起こして‥‥と思って近寄った所で気が付きました。

司令の 呼 吸 が 止 ま っ て ます。


え? 

そんな馬鹿な。触手を引き剥がしたときはちゃんと息してましたよね? ぐったりはしていたけど。
いや、そういえば、何本めかの触手を切り落とした時に、切り落とした触手が当たって「ぐえっ」とか呻いてましたが。
あれが、ひょっとして致命傷? まさか、スペラン○ー先生じゃあるまいし。

触ってみて解りました。
死んでる。少なくとも呼吸と脈拍は止まってます。


蘇生しようにも、電気ショックはないから‥‥人工呼吸しかないかな?

「サダキチは気道の確保! ゴエモンは今から私がやることを真似て息の吹き込み! モッサリは周囲の警戒を!」
「「「グヒー!」」」

馬鹿力のオーク、特に不器用な下っ端達に心臓マッサージなんかさせられません。
少なくとも最初にやるのは私でなくては。人間が人間に施療する場合でも肋骨が折れちゃうことだってあるぐらいですから。
夫達のような幹部オークなら力加減もできるし女体に触り慣れているでしょうが、ドスとウォスの二人には触手や他の脅威に
備えておいてもらわなくてはいけません。

えーと、モッサリがいるから幹部オークの見張りは一人にしておいて、もう一人に蘇生作業をさせるべきでは。などとも思い
ましたが‥‥まあその、緊急事態とはいえ、夫達に余所の女の胸を触らせたり唇を重ねさせるというのもアレですし。
嫉妬? これは嫉妬なの? 後でじっくり考えてみる必要がありそうです。


で、開始したは良いものの体力のない私は心臓マッサージすら最後まで続けることができず、ゴエモンに代わって貰いました。
幸いにも根気よく続けた人工呼吸とマッサージは成功しまして、患者は数分後に息を吹き返しました。
読んでて良かった医療漫画。


「‥‥ここは?」
「司令室ですよ。自分の名前、解ります? 年齢は?」
「コーネリア・ド・ソルボイリィ。ソルボ島産まれ、もうすぐ26歳‥‥」

自発呼吸が戻ってから更に十数分たちました。
まだ朦朧としているものの、酸素欠乏症とかの心配はなさそうです。記憶以外にも視覚聴覚、計算能力などを問答して簡単に
調べてみましたがとりあえず問題なし。あるとしても神殿のローパーが治療できるでしょう。
今度あの触手使い魔に会ったら謝っておきましょう。気持ち悪がってごめんなさい、と。

敵対的な触手モンスターに襲われてはじめて、ソーニャさんや神殿に来ていた妊婦たちが触手使い魔を怖がらない理由が解り
ましたよ。
そーいや地球にも毛皮恐怖症で、犬猫を見るのも嫌という人もいましたね。たいてい都市生活者で、物心つくまで周りに人間
以外の動物がいない環境で育った人々でしたが。

何ごとも慣れですね。
触手生物を見慣れて育つ私の子供は、きっと触手を不必要に怖がったりしないと思います。




さてと、いつまでもこうしてはいられません。上にあがるとしましょう。
おっとその前に、司令‥‥ミス・ソルボイリィを着替えさせなくては。

「着替え?」
「ええ。まさかその格好で降伏協定を結ぶのですか?」

そういわれてはじめて、自分が触手の粘液と体液まみれになっていることに気付いた司令は、ひどく赤面しました。
耳まで真っ赤ですね。
開襟型軍服の上着は触手と揉みあいの結果脱げてしまいましたし、ブラウスっぽい服は右袖が肩の所から取れてますし、その
胸元なんか大きく破れてしまっていて胸の谷間が見えてます。

これに加えて全身粘液まみれなのでブラウスの薄布が濡れ透けています。
ノーブラなので、大きくはないけど形の良い乳房やコルセットで きゅっ と締め上げられた胴まわりとかがはっきり見えて
いる訳で、「どこのエロゲ挿し絵だ」とでも言うしかない格好ですね。


「グヒー‥‥」

こらこら三人とも、女の子の生肌やびしょ濡れ姿を凝視するんじゃありません。
じっくり見たい気持ちは解りますけど、そこを我慢してチラ見にとどめるのが変態紳士というものですよ。





 ☆61日め13、降伏の儀式☆


再び太陽の下に出るには、思っていた以上に時間がかかりました。
その理由を一つ一つ挙げていくと、わりと長くなります。


まず要塞司令官の私室は運の悪いことに、死んでいる触手で埋まっていました。
死んでる触手を除けても、家具も調度品も何もかも粘液まみれで、生臭くてとても使えたものじゃありません。
しかし司令室近くの司令官専用仮眠室は無事だったので、そこに置いてあった予備の礼服を着ることで解決しました。
本人の服だから前のと同じような衣装なのですが、下半身だけは違います。
触手に襲われる前に穿いていたスラックス系のものではなく、タイトスカートのような服ですね。


その前に本人の汚れを取るのが大変でした。
というかどうしても綺麗にならなかったので「浄化」の呪文で粘液やらなにやらを水に変えちゃいました。
そして下着から全て着替えて軽くですが化粧までして身だしなみを整えたコーネリアを、要塞上に乗っかったままの海賊船近
くまで運んだのです。ゴエモンが。

いえね、コーネリア嬢は一人で立つのも難しいぐらい衰弱しているので、誰かが抱きかかえて運ぶ必要がありまして。
幹部オークはいざという時のために身軽でいたいですし、非力な私に小柄とはいえ人間一人を担ぐのは無理。
となれば下っ端三人が運ぶしかないのですが、三人の中ではゴエモンが色々な意味で適任だったのです。
もちろんゴエモンの汚れも「浄化」で綺麗にしました。中途半端はいけません、やると決めたからには徹底しないと。


前衛ウォス、中衛がドスとその肩に乗った私、その後にゴエモンとお姫様だっこされたコーネリア、コーネリアの私物を持っ
たサダキチ、最後尾がモッサリの順番で階段を登っていき、やっと外に出てきたところです。
戦闘の余波で壊れている箇所が多いうえに、死んだ触手がもう邪魔で邪魔で。何度も迂回する羽目になりました。
先行していったソーニャさんたちはどうやって越えていったんでしょうね、コレ?
全員が二階や三階の屋根まで飛び上がれる身軽さだとは思えないのですが。


出てみると、要塞に巨大なタコがしがみついていました。もう死んでいるけど。
やはりクラーケンでしたか、頭足類系の。ソーニャさん達が言っていたとおりです。
それにしても大きい。
要塞が普通サイズの飯茶釜だとしたら、死んでいるクラーケンは魚屋で売っているマダコサイズかやや大きいぐらいですね。
胴回りの直径が20メートル弱、一番長い触手は100メートル以上の長さがあるでしょう。

触手の数からして複数モンスターの同時襲撃かと思ってましたが、触手の数が多かっただけのようです。
タコの類は足(触手)が千切れても再生してしまうのですが、そのとき千切れ具合が中途半端だと触手が二股になってしまうの
ですよ。
年季を積んだタコだと足が20本近くになってしまうことさえあります。
僅か数年しか生きない地球の頭足類ですらそうなるのですから、ファンタジー世界の怪物タコなら触手が三桁あっても不思議
じゃありません。


「‥‥っ」

ふむ、コーネリアが息を呑みましたよ? 理由は海中に沈んでいるクラーケンの頭部を見たからですね。

「お知り合いですか?」
「‥‥10日ほど前、航行中この要塞を襲った奴だ。砲撃を浴びせて撃退したんだが」

なるほど、クラーケンぼでぃの所々に治ってはいるけど新しめの傷があるのはそのせいですか。
手負いにされた恨みを晴らすためにずっと要塞を尾行し続けていたのですね、このモンスターは。なんて執念深さだ。
地球の怪談とかでも、海の怪異は殺意が高いですからねー。ファンタジー世界ならなおさらか。
これじゃこの世界に大航海時代が到来するのは当分先のことですね。軍艦ですら隙を見せたらこの有り様では。


「‥‥私のせいだ。私があのとき追撃を命じていたら」
「解ってると思いますけど、それを貴女の部下達の前で言ったら駄目ですよ」

軍服の肩が震えてます。
全部が彼女のせいじゃありませんが、オーク島と戦争になった事もモンスターに襲われた事も、最終的な責任は彼女が取らな
くてはいけないのです。
それが司令官ですから。

そして敗軍の将であっても、いえ敗軍の将であるからこそ弱音を吐いてはならない。
そんなことをすれば、負けた側の兵達は誇りすら失ってしまいます。
武運拙く破れたとしても、精一杯戦ったのだと。この戦いには意味があったのだと信じることが難しくなってしまう。
司令官は責任をとらなくてはいけません。その責任の中には、降伏するときに毅然とした態度を貫くことも含まれるのです。

敵だからこそ、その名誉は守られねばなりません。勝者は敗者から名誉以外のあらゆるものを奪うのですから。
敵から名誉まで奪えば、戦い全体から名誉が失われます。
敵を貶めてはなりません。
名誉の欠片もない戦いなんて、トログロダイト相手だけでたくさんですよ。

少なくない数の部下達が消えていった海を見て、涙をこらえている捕虜将校をゴエモンは壊れ物を扱う手つきで抱えています。
人間の女との接点が少なかった彼にとって「目を離したら死にかけていた」という先程の顛末はトラウマ(心理的外傷)となっ
たようですね。

そうですとも。知識としては知っていたでしょうけど、貴男の想像以上に女の子はか弱いんですからね。普通は。
だからゴエモン、間違っても女の子を石畳に引き転がすような真似はしないように。痛かったんですから。
首の据わっていない赤ん坊を抱くように‥‥と言っても解らないか。人間の乳幼児に触れたことないだろうし。



「歩けますか?」
「ああ」

海賊船の甲板に集められている西方海軍の将兵たちから見える位置に入る前に、コーネリアをゴエモンの腕の中から降ろします。
彼女はまだ要塞司令なのですから、自力で歩くことも含めてそれらしい態度をとって貰わなくては。


それからほどなく、海賊船蛇王丸の甲板上で降伏協定が結ばれました。
オルロフ王国辺境防衛艦隊所属の浮遊要塞ドガチェフ改308号艦は降伏し、オーク島政府に要塞とその備蓄物資そして司令
官の身柄を引き渡しました。

司令官以外の生き残った将兵21名は捕虜となりました。
金髪ちゃんの乗っていた船の船員達と同じように、彼らは神殿に連行されます。そしてその生命と尊厳を守られたまま中立国
まで運ばれ、そこで解放されるのです。


こうして戦いは終わりました。とりあえず今日のところは。






 ☆61日め14、たたかいすんで ひがくれて☆


帰ってきました。でもまだ巣にはついてません。
近くの砂浜に来ています。

あの後、そろそろ茶釜の底が海底に擦れはじめる所まで航行してきた私たちの前に巨大イソギンチャクの群が立ちふさがったり、
私たちを迎え撃とうとしている、クラーケンと比べても見劣りしない巨大生物の群が私の巣と交易しているセルキーたちの呼び
出したものだと交戦寸前で判ったりと、結構危うい場面もあったのですがとりあえず怪我人はでてません。
まさか、一日に二度もオークの触手責めなんて特殊な光景を見ることになるとは思いもしませんでしたよ。


茶釜要塞は沖合の岩礁に乗り上げて止まっています。
セルキーたちに見て貰って、程よい場所に乗り上げさせたので潮の満ち引きや嵐程度ではひっくり返ったりしないでしょう。

停泊ではなく座礁、しかも動力炉を切ってしまったので二度と動きません。
魔力炉は再点火できないように壊しちゃいましたし、要塞のまわりにはセルキーたちが呼び集めた、大小様々な海のモンスタ
ーたちが群れているので盗賊や破壊工作犯の心配はいらないでしょう。

ええ、あれからが大変でしたよ。主にタコの足を要塞から引き抜くのが。
放置しておくと腐るし虫が湧くしで生物災害(バイオハザード)まったなしですからね。

「だからあのまま沈めてしもた方がええ言うたんじゃぃ」

ごもっとも。


とりあえず全部の触手を抜くのに夕方までかかりました。太陽が水平線近くにまで来ています。
触手モンスター以外も回収しました。細かい肉片はともかく死体も遺体も全部。

巨大タコの襲撃で海賊船の水夫に死者が4名出まして、要塞側はその10倍以上の人数がやられました。捕虜になっていた者
もまだ機関室など隔離された場所にいて要塞が降伏したことすら知らされていなかった者も無差別に。
タコがそんなもの区別する訳ありません。

船にオーガー村ご一行様を残しておいたのと、高位の治療呪文使いがいるかいないかの違いがこの損害率の差となったのです。
幸いにもオーク島神殿監察隊に死人はでてません。
オーガーたちのうち元々怪我人だった一人が臨死の重傷を負いましたが、巫女頭の治療呪文で現世に復帰しました。
花畑を覗いてきた彼以外の怪我人は軽傷ばかりです。


しかし干魃期の水場に集まった野性動物でもあるまいし、多種多様の捕食者が集まって仲良くタコ肉を食べているという光景
はなかなかぶっ飛んでますよねー。シュールだ。
いや、仲良くしてくれて助かってますけど。
実際の話セルキーたちが集めてくれたアルバイトモンスターたちがいなければ、要塞から資材を回収するのは程ほどの所で諦
めて、海底に沈めてしまうしかなかったでしょう。
セルキーたちがいないと変なところに座礁して要塞丸ごと転覆していた可能性もありますけどね、最悪の場合。


巨大イソギンチャクとかが引っ張ってくれたから、オーク達がぶつ切りにしたタコ足を要塞内部から取り除けたのです。
というか、直接見えもしない要塞内部に触手を突っ込んでいるのに、タコ足だけを選んで掴み、引っ張れるあたりあのイソギ
ンチャクただものじゃない。
手探りしている筈なのに、ついうっかりとかでタコ足除去作業中のオーク達に絡みついたりといった事が一度もありませんで
したからね。どこにタコ足が潜り込んでいるか解っていましたし。
ある意味クラーケンや化けクジラ以上の超絶性能モンスターです。

ちなみに直接戦闘力で言えば 化けクジラ > ドガチェフ級要塞 >> タコ型クラーケン ≧ 巨大イソギンチャク 
ぐらいなのだとか。
‥‥あのクジラジャーキーの元って、そんなに強かったんですね。

いや、その、確かに、碌に水もない浅瀬という私たちに超絶有利な環境にいる奴を縄で縛ってから、幹部3人下っ端13人、
合計16人のオークたちが刺す切る殴ると延々攻撃を続けて、それでもあと半歩の所で逃げられていたぐらいに手こずりまし
たけどね。
もしもあのときドスの三又銛が急所を外れていたら、化けクジラは逃げのびていたでしょう。

よく考えなくても、下手しなくても、あの化けクジラってドラゴン級の強力モンスターなのでは。
水中では無敵状態だったそうですし。
もし水中で戦っていたら、無敵モードありだけど「生命の粘土」を使い切ってしまっている状態の棘ドラゴンと同じぐらいに
手強かったかもしれません。

今にして思えば、あのクジラ漁で死人が出なかったのは只の偶然です。
運が悪ければ誰かが暴れるクジラに押しつぶされていたでしょうし、毒魚や毒貝を踏んづけていたかもしれません。
いや、たまたま嵐の翌日だったから毒貝の類が砂浜に戻っていなかっただけか。
これも神々の加護ゆえだとすれば、浜辺に鳥居建てても良いぐらいの幸運ですよ。



そんな訳で大まかな掃除は終わったのですが、問題は粘液や血液などです。
一応、隔壁を全開にしてから最後の動力で消火栓(スプリンクラーみたいなの)動かして水洗いしてみました。

消火栓が壊れている場所もありますし、壁にも床にも天井にも至るところで大穴が開いているしで洗い切れていない箇所も多
いのですが、隔壁開けっ放しにして排水と通気を良くしていますから大丈夫でしょう。
毎日暑いからすぐ乾きます。たぶん、きっと。
潮風を入れる分内部が早く錆びるでしょうけど、要塞として使う気はないので問題ありません。


あ、モンスターたちへの対価は払いましたよ? タコ肉で。海のモンスターや動物たちは今も宴会騒ぎを続けています。
私たちも食べますけどね。クラーケンの足とか。
個人的にはタコ肉よりも、セルキー達と協力して採取したタコ墨の方が気になりますが。

イカのものより量が少ないから一般的ではありませんけど、タコの墨だってインクの材料になるのですよ。
もちろん料理にも使えます。イカスミとは粘度が違うので完全に代用はできませんが。
山分けしても大樽からあふれそうなぐらいの量がありますから、当分のあいだ墨には不自由しません。


鉄屑と化した要塞は沖で座礁してますが、当然ながら海賊船はとっくの昔にその上から降りてます。
今は浜辺に乗り上げてますね。
船員達は捕虜の見張りをしつつ浜辺で一晩明かして、翌日に巫女さん達を乗せて神殿に戻る予定です。
神殿との交易はその後になります。

巫女さん達+護衛とオーガー村ご一行様は私の巣で一泊することになりました。
海賊達は船長(とお付きの何人か)だけが巣に来ます。あまり大勢だと入り切れませんし、船の番もしないといけませんし、
女の乗組員が半年後にオークの子を産む羽目になっても(海賊達が)困りますから殆どの海賊はお留守番なのです。
独身のセルキー族たちが相手をしていますから、海賊達も退屈はしないでしょう。酒とつまみも差し入れしたし。
この島ではオーク達が嫁不足に喘いでるように、セルキーたちも男日照りで慢性的に困っているのですよ。


さて。とうとう帰ってきましたよ愛しの我が家‥‥のすぐ傍まで!
一足先に再会したグェスから、留守は何ごともなかったし全員無事だと聞いています。下っ端たちも猪たちも。

久しぶりの旦那様は相変わらずの良い男で、浜辺へ出迎えにきた姿を見た途端に思わず飛びついちゃいました。
まわりに人(オーク)がいなかったら口付けだけでなく、その次やその更に次までしてしまったかもしれません。
だってもう丸三日以上会っていないんですよ!? この二ヶ月、こんなに長く離れていたのは初めてです。
身体がグェス分を欲しがってしまうのも当然ですよ。


あれ? よく考えたら出かけてからまだ5日しかたってませんよね? 正確には明日の朝で丸5日です。
それにしては、なんか異様に長かったような気が。
色々ありましたからねー。クラスチェンジしたり戦争したりお嫁さんになったり戦争したり。

ええ、オーク的世界観でいえば、私は既婚者なのですよ。
四日前の昼間にコボルド集落の前で嫁入りしました。あの口付けで結婚成立しています。
ギュー・グェスたち巣のオークは近いうちに私を嫁にするにしても、式は自分たちの巣穴でするつもりだったのです。
が、しかし嫁入り希望の女の子が「今じゃなきゃ嫌!」と駄々をこねたのでその場で式を挙げた訳で。

なので今夜はちょっと遅めの披露宴なのですよ。お客(ゲスト)も大勢いるし。
いえ、メインの催し物は違いますけどね。

なんて言うべきですかね? 開眼式が近いのかな? 仏像とか彫ったあとにするアレ。
戦利品の中からあの下半身像を、陸地に持ち込んで運んでいるのです。



ウォスの肩に乗っていつもの道を通って帰ってきました。
前衛のドス、私とウォス、コーネリアを抱えたゴエモン、荷物持ちのサダキチとモッサリ、神殿ご一行様、オーガーたちと続
きます。

「プギッ?」

さっそく猪親子が出迎えてくれました。でも二匹だけで出歩くのはちょっと不用心ですよ。
このあたりでも陸生ワニや黒クマは出るんですから。たとえ直ぐにオーク達が狩ってしまうにしても。

‥‥あれ? ウリ坊が、なんか小さくなってます。
カツブシじゃあるまいし、なんで前見たときより小さくなっているんですか?

あ、別猪か。
向こうから小道を通って、目の前のウリ坊より一回り大きい子猪がやってきました。ハラキズたちも一緒です。
あっちが本物というかスライムに食われかけていた方の子猪だとすると、こっちの子猪は新入りかな?


一度はもう見れないと覚悟したせいでしょうか、どの顔見ても懐かしい。そして嬉しい。
私は心からの笑顔で、出迎えてくれた仲間に言いました。

「ただいま、みんな」
「「「オカエリ」」」

そのまま、無事の帰還を喜ぶ仲間たちと一緒に小道を歩きます。
こうして私の旅は終わりました。うん、やっぱりおうちがいちばんですね。




 ☆61日め15、劇的変化☆


‥‥‥‥ここ、私のおうちですよね。うん。
一瞬道を間違えたのかと思いましたよ。

数日ぶりに帰った我が家は、えらく様子が変わっています。

まず、洞窟出入り口の所に大岩がいくつも立てたり積み上げられたりして壁が作られ、岩の小屋というか小部屋みたいなもの
ができています。
岩小屋の天井は並べた丸太で葺いて、粘土とオガクズと松ヤニを混ぜてつくるオーク式漆喰で固めてありますね。
扉はなし。以前の洞窟と同じぐらいの幅で出入り口が開いています。

そして岩小屋の前には竹の水樋と丸木船式の洗い場と泥落としマットがおいてあります。地面の簡易セメント舗装も拡張した
ようです。


出入り口から南に10メートルちょっと行った所に新しい燻製小屋。更に南に10メートルちょっと行った所に猪小屋。
どちらも岩陰を削って半洞窟にしてから、岩を組んで壁を作り、屋根を葺いています。
燻製小屋は煙突つきで、大きさは八畳間ぐらい。猪小屋が四畳間ぐらいですか。

イノシシ小屋には親子5匹が住んでいるそうです。なるほど、新入りイノシシは生き別れの家族でしたか。
家族だけの群がモンスターの襲撃から逃げているうちに離ればなれになってしまったのですね。そして私が旅に出ている間に
合流したと。ウリ坊たちの大きさが違うのはただ単に個体差です。


出入り口の北側すぐ隣りに材木置き場があります。ここは他の材木置き場で乾燥させた材木を置いておき、使いたいときに直
ぐ使うための置き場です。

燻製小屋と同じような岩を組んだ構造物が、出入り口の北側から斜面を登った岩山のところにあります。
ちょうど私が丸太転がしをやった場所ですね。
というか、岩小屋の脇に幾つも丸太や丸石がつっかい棒や太い縄で固定されてますけど。
‥‥そんなにやりたかったのですか、あの遊びの続き。

ああ、なるほど。岩山の壁に穴を開けて半洞窟型にしておけば、北側斜面で転がした丸太が暴投になっても燻製小屋やウリ坊
たちの住居にはまず当たりませんよね。もし当たったとしても簡単には壊れません。流石はグェス、賢い!


そして低い石垣のようなものが洞窟前の広場をぐるりと囲んでいます。
囲まれている面積はバスケットが3~4試合同時にできるぐらいかな。石垣の高さは1メートルもありませんが、岩を組み上
げた丈夫なもので、その一部には隙間に砂や粘土が詰め込まれ捕獲イバラの枝が挿されています。

そういや、オーク達は挿し木について知っていましたよね。時々火炎松の木の枝を荒れ地に挿しているし。
実際の話、この巣の近くに生えている果樹の何割かは彼らの先祖達が地面に突き刺した枝が根付いたものなのですよ。

温泉洞窟は温泉好きのオークたちが何年か住み着いては、飽きて引っ越すという微妙な立地でして。
夫達三人が産まれる前に、何度目かの居住者が引き払ってしまいそれ以来無人の洞窟になっていたのです。
住めなくはないけど、うま味が少ないのですよ。近くに稼げる迷宮がありませんし。



「グヒー!」「グヒッグヒッ」

洞窟の中から、そして岩山の上からも巣の仲間たちがぞろぞろと出てきました。
オーク達は どんなもんだい とでも言いたそうな顔つきで、すっかり変わってしまった洞窟前の様子を私に見せてます。
いや、素直に凄いとしか思えませんって。

「とても良くできてますよ、みんながんばりましたね!」

と、喜んで、誉めて、撫でてあげましょう。
たった数日でよくぞここまで改装したものです。


「イクサ、キイタ。ソナエル、ダイジ」

ケサガケが言うには、トログロダイト襲撃の顛末を聞いて彼らの危機意識が刺激されたのだとか。
留守番していたオークたちは、ぼちぼちとやるはずだった巣の改装工事を前倒し&大車輪で進めていたのですよ。
明日は我が身ですからね。
振り返ってみるとやたら長く感じる日々を送っていたのは、私だけではなかったようです。

忙しかったでしょうけど、幹部から名無しの下っ端まで留守番組は元気一杯で疲れた様子がありません。
オークたちも怠惰に埋もれているよりは、充実している方が良いのかな?

あ、名無しと言えば‥‥。


「よーし、あだ名ついてないオーク全員集合! 並んで並んで」

早速ですが、まだ名前つけてない6人に名付けましょう。今すぐ、ここで。


うーん、下っ端の中で一番大きいオークには「アンドレ」と名付けましょう。
体格だけでなく、体型や雰囲気的にもちょっと似てますし。

「グヒ?」
「私の故郷に来たことのある巨人族の名前です。とても良い力士(レスラー)だったのですよ」

ただデカいだけのレスラーは山ほどいましたし、デカくて本当に強いレスラーも大勢いました。
でも途方もなくデカくて、とんでもなく強くて、魅せるのが上手い巨人スターレスラーといえばまず彼のことです。

アンドレほどではありませんが大柄でその割には身軽で、ちょっと毛深いオークは「ブロディ」と。
同じく突進力に定評があるけど近視が酷いオークには「ハンセン」と名付けます。


巨漢組三人はこれで良いとして、オークとしては標準から小柄に属する残り三人は‥‥。

面倒見が良くて子供好きで、ちょっと足の長いオークには普通に「アシナガ」。
耳が小さくて先端が尖っている、下っ端最年長のオークには「トンガリ」。
下っ端達の中では一番闘気法の防御が上手いオークには「イシカワ」と名付けました。


「と、いう訳でこの全員が私の家族です」

族長のグェスからモッサリまで19人、ずらりと並んだオーク達と共にお客人達を出迎え、挨拶します。

「そ、そうですか。貴女の家族に神々の加護があらんことを」

あれ? 何やら巫女頭のおねーさんが引いてますけど? 助手の二人はもっと。
何かまずいことでもしちゃったかな?

お義兄さんやオーガーたちは、引くというよりは驚いている感じです。





 ☆61日め16、しるは楽しみなり☆


レイちゃんです。
巣に帰ってきた私たちは、交易などで手に入れたものを倉庫や宝物庫に仕舞ってからシャワーで旅の埃を落としました。
お風呂場の方は客人達に使っていて貰っています。
今はウサミミさんたちが入ってますね。

そして祭壇でエスティア様にご挨拶してから、宴の準備にとりかかります。
主に料理の。
新婦が自分の披露宴に自分が作った料理を出すというのも、 披 露 す る という目的には合っていると思いませんか?
料理は私の取り得ですからねー。
いえその、裁縫とかの腕がアレなもので。他の家事技能と比較すれば、の話です。


時間がないので凝ったものは出せませんが、それでもなんとかしなくては。
デコバチ、タレミミ、そして新人のサダキチに手伝って貰いながら料理に勤しみます。
何故か藤子さんも混じってますが。玄人はだしの腕で魚捌いてますが。

「わしゃ港育ちじゃけのぅ」

いやその、聞きたいのは何故刺身が作れるかではなくて‥‥まあ良いか。
藤子さんは昼間巨大タコの肉を切り刻んでいた小太刀で、刺身類を作ってます。うーん、私も良く切れる包丁欲しいなあ。

昼間や夕方にお義兄さんたちが捕まえた魚貝類は藤子さんに任せるとして、煮物を作りますか。
ホワイトシチューも肉じゃがもどきもこの前作って好評でしたが、今夜は作りません。
作るのはカレーです。

ええ、遂にカレー粉が完成していることに気付いたのですよ。ついさっき。
一月近く前に試作したカレー粉が、地球のカレー粉そっくりになっていたのです。
どうしても作れなかったカレー粉は、洞窟の隅に置いてあった壷の中でひっそりと完成しておりました。

そりゃーどんなに配合(レシピ)に気を配っても、日本式カレー粉にはなりませんよねー。熟成させてないんだもの。
日本式カレーに使うカレー粉は、調合と焙煎をしてからしばらく置いて馴染ませないとあの味にならないのですよ。
そのことをすっかり忘れていました。
やっぱり馬鹿だ、私。いつも肝心なことを忘れてる。解ってはいたけどちょっと凹みますね。


気を取り直してカレーを作りましょう。まずはタマネギを炒めなくては。
私見ですが、日本式カレーはタマネギが必須です。タマネギなくしてカレーを作るなかれ。
人参もイモもありますし、まずは定番の組み合わせで作りますか。捌いた鳥モドキもあるし。

ご飯はもうすぐ炊けそうです。流石はヒルデニア人だけあって米研ぎ一つとっても隙がありません。
見ただけで分かります。藤子さんは料理上手なのですよ、私よりもずっと。

ふっふっふっ 遂にカレーが食べられる。夢にまで見たカレーライスが!
福神漬けは有りませんが、ラッキョウの酢漬けはあります。
今回の旅では米糠も手に入れたから、近いうちにぬか漬けを作りますか。


カレー粉入りのルーを炒めながらふと思ったのですが、カレー粉と料理の関係って似ているかもしれません。
オークの遺伝と血統の関係に。

極端に言うと、肉と野菜を刻んで炒めてから水を加えて煮込み、具材に充分火が通った所でカレールー混ぜればカレーになる
のですよ。それでカレーだと言い張れるものが作れます。
ホワイトシチューとカレーの決定的差は、カレー粉の有無によるものと言って構わないでしょう。

ドライカレーとか、カレースープとか、カレーおじやとかを「カレー」の中に入れることもあります。
少なくともそれらは「カレー料理」ではあります。
とりあえず、「カレー味を基本にしている料理は全てカレー料理である」としましょう。
細かいこと言い始めたらきりがありませんので。

で、隠し味ではなくカレー味が主題ならばその料理がカレーと呼ばれるように、オークの要素が全面に出ている生き物がオー
クと呼ばれるのだとしたらグェスたちのようなヒューハーフオークも、大母様が産んだ子のようなエルフハーフオークも、
猪たちから産まれるイノシシハーフオークも一纏めに オーク と呼ばれる訳です。


ほら、豚汁でも石狩鍋でもミネストローネでも、仕上げにカレールーをぶちこめば「これはカレーだ」と言い張れるものにな
るでしょう? なりはてると言うべきかもしれませんが。
つまりオーク遺伝子とは、人間でいうならのY因子の中に含まれているものなのではないでしょうか?

仮にOY因子とでもしましょうか。
たとえば人間の男を構成する遺伝子が X + Y であるとしたら、グェスの遺伝子は X + OY なのではないでしょ
うか?
この式の、 O の部分こそが、オークをオークたらしめている要因だとしたら。

解りにくいからオーク遺伝子を O と、ヒューマン遺伝子を H と、エルフ遺伝子を E と、イノシシ遺伝子を I と
しましょうか。
獣人属のウサミミさんは‥‥ U で良いか。
オーガーたちは多分オーク達と構造が同じなので表記を統合します。こっちも O で良いでしょう。


そのように表記すると
私のような人間の女が HX + HX
船長は人間の男だから HX + HY
大母様はエルフなので EX + EX となります。
父親が人間のウサミミさんは UX + HX です。

で、グェスたちは父親がオークで母親が人間なので HX + OY
大母様が先月産んで、今月新たに孕んだ赤ん坊は  EX + OY
ハラキズやゴエモンのようにイノシシが母親だと  IX + OY
ウサミミさんが近いうちに産むハーフオーガーは  UX + OY です。

獣人族の腹からは人間(ヒュー)族は産まれないのですよ。
たとえ HX + OY のハーフオーガー夫と UX + HX のハーフウサミミ妻の間にも。


つまり、オークをオークたらしめている遺伝子は、Y染色体にしか含まれていないのです。少なくともグェスとハラキズの二
人の遺伝子には。
Y染色体に含まれる遺伝子のうち何%か、いえおそらく1%にも満たない差違が、オークであるか否かを決定するのです。
鍋一杯のカレー全体から比べればごく少量のカレー粉が、料理全体の味と香りと印象を決めてしまうように。

オーク因子が含まれる生き物がオークであり、全てのオークは相手が人間でもエルフでも獣人でも、構わず孕ませてしまえる
のですよ。
いやその、人間だって殆どの種族の雌と混血できるのですがね。ハーフエルフとかいるし。
流石にイノシシは無理だけど。無理だよね?

なんか不安になってきたので、近いうちに女神様へ質問しましょう。
ファンタジー世界に地球の常識は通用しませんからね、もしかしたらできるかもしれません。


人間と、いや人間の男とオークの遺伝子は殆ど変わらない筈です。
だって進化系統図というか遺伝子MAPで10億年分は離れている筈の人間とウニですら、その差は30%程度なのですよ?
地球に現存する生物で、人類と最も近縁とされるチンパンジー類との差が1500万年以上で3%だったか2%だったか、
そんなもんですよね?

私は科学者じゃないから直感でしか語れませんが、OX + OY の染色体を持つ原種のオークが、混じりっけなしの純血
種オークがいるとしても、この場にいるハーフオークたちと殆ど変わらないでしょう。
現生人類とジャワ原人ほどの差もない筈です。
というか外見で見分け付くのか? 女神様の話では神殿に何人かいるらしいですけど。

確か人類とネアンデルタール人との差が40~60万年分ぐらいでしたっけ? それでも両者は無理なく混血できました。
前世の私、猪養令治だってその遺伝子の何パーセントかはネアンデル系もしくはデニソワ系由来だった筈ですから。
ええ、現生人類は7万年ぐらい前に滅びかけて、滅びる寸前で持ちこたえたのですよ。ネアンデルタール人を始めとする兄弟
種や従兄弟種たちと混血することも生存戦略に入れて。

実際の話、イベリア半島だかどこかにはクロマニヨン人とネアンデルタール人が同じ洞窟で数千年にわたって同居していたら
しい痕跡のある遺跡が見つかってますからねー。
ええ、地球人類は近縁の種族を尽く滅ぼしてしまったのです。他種族と 婚 姻 し て 取 り 込 む ことによって。
純血(笑)妄想に取り付かれた欧州の学者たちは認めていませんけどね、血統主義者だから。

いやだって、普通に可愛いですからネアンデルタール人とか。特に若いうちは。
ファンタジー世界で出会った男前のオークに嫁入りしちゃう奴がここにいるんです。男前のネアンデルタール男に嫁入りした
り可憐なネアンデルタール娘を嫁にした奴が何万年も前にだっていた筈です。


ゲノム調査が正しいとすれば、少なくとも1%以上現生日本人にはネアンデルタール(かもしくはその近縁種)の血が流れてい
ます。
ミトコンドリア・イヴが正しいとするなら、現世人類の母方先祖は20万年前のアフリカにいた筈。

つまり現生人類、アフリカの何割かを除く地域の人類の先祖には、ネアンデルタール旦那とクロマニヨン女房の夫婦がいた筈
なのです。そうでないと理屈が合わない。
残念ながら、クロマニヨン旦那とネアンデルタール女房の夫婦が残した血統は現代まで残っていないようです。
もし生き残っているとしても、ちょっと調べて統計結果に反映されるほどの数はいない。

何万年も前から、いえおそらく何百万年も前から人類は近縁種を嫁にしたり婿にしたりしていたのです。
彼ら彼女らは私のご先祖様なのですから、私と同じようなことをしていてもおかしくありません。
強くて優しくて男前なガチムチマッチョの異種族の巣に嫁入りして、仲睦まじく暮らしてた女達がいたはずなのです。

仲良くしていたに決まっているじゃありませんか、その子孫が生き残っているんですから。
チームワークが良ければ生きのこれる訳じゃありませんが、チームワークの悪いチームが生きのこれた例はありません。
生き残った以上はネアンデルタール旦那とクロマニヨン女房の夫婦生活は上手くいってた筈であり、夫婦生活が良好で子沢山
なら仲も良かったでしょう。
原始社会は仲の悪い巣が生き残れる程、甘い環境ではないのですよ。


 
しかし、オーク因子が超絶優性遺伝するとしても、クォーターオークとかがいないのは変ですね。
ひょっとしたら、オークをオークにしている何かは遺伝子ではないのかもしれません。
オーク因子はカレーよりもむしろ、ちゃんこ鍋に近いのかも?
ちゃんこ鍋で料理すれば何でも ちゃんこ になりますからね。相撲部屋では。

うーむ、カレールー理論には「オークの血が薄まらないのは何故か」が説明できないという弱点がありましたか。
オーク遺伝子の謎が解明したと思ったのですが、気のせいだったようです。
対抗馬にちゃんこ鍋理論が出てきましたし、まだまだ研究の余地がありますね、観察と考察を続けるとしましょう。
オークと実際に子作りして子育てしてみれば、貴重な体験データが手に入る筈です。




 ☆61日め17、賓客万雷☆


「ささ、どうぞ一献」
「ありがと。‥‥神殿で飲んだのより美味しい気がするけど?」
「一番出来が良いお酒ですから」
「ああ、持ってくる途中でトログロダイトに御馳走しちゃったんだっけ」

そう笑いながら特製焼酎の水割りを飲み干したソーニャさんが突き出す杯に、お代わりを注ぎます。
巣の大広間にみんな集まって宴会を開いてますが、お酒を注いであげられる女の人はソーニャさんぐらいしかいません。
藤子さんは手酌でやる派ですし、ウサミミさんと巫女頭と助手の二人は妊婦さんですから。
おでこちゃんも妊婦だし、後輩ちゃんは蜂蜜酒を一杯飲んだだけで酔っぱらってしまいました。

巫女頭は先々月、助手達は先月の生き残り戦に出たオークたちの子を孕んでいるそうです。
生き残り戦に出るオーク達の相手は、なるべく若くて経験の少ない巫女達が優先されますが常に全員が若手ではありません。
というか、6人の巫女のうち1人が年嵩の高位巫女で残り5人が新人という組み合わせが多いのですよ。
あの儀式が伝説の再現であるからには当然ですが。

その昔も、深い迷宮(ダンジョン)の隅に大母様に率いられたオークの群が隠れ住んでいたころも、口減らしと淘汰のために殺
し合うオークたちに、大母様とその弟子達は身を任せて孕ませて貰っていたのですよ。
で、胎教のために巫女さん達はお酒を控えています。

うーむ、誰もが私みたいに酒飲み向けの加護を持っている訳じゃありませんからねえ。
酒だけ飲んで水分補給して何の問題もないってのも凄いですよね我ながら。
まあ、柿の葉茶とか飴湯もどきとかサトウキビと果実の絞り汁とかの飲み物もありますし、大イノシシに大ワニに化けクジラ
に巨大タコと、妊婦さんのおやつに喜ばれる高級素材で作ったおつまみが沢山ありますから当人達は満足して歓待されています。


ええ、ボス級モンスターの肉やその加工品は御馳走なのですよ。精が付きますし。
定番の鳥モドキ肉カレーの他にも、タコ足肉のシーフードカレーやシジミのカレー煮ニンニク風味とか、牡蠣の身と百合根入
り茶碗蒸しとか、ヤマネの唐揚げクルミソース掛けとか、山鳥のキノコと香草詰め蒸し焼きとか、タコ肉のタコ墨煮とか、
カツオの親類らしき魚の刺身とか、精のつきそうな料理が宴会場に並んでいます。

刺身は滋養食なのですよ。病気などで胃腸が弱っているときにはそうでもありませんが、そこそこ元気な身体をもっと元気に
したいときには有効です。生の魚肉はビタミンとタンパク質の塊ですからねー。
毎日のように刺身を食べていた日本の船乗り達には壊血病など無縁だったのですよ。

食べる物に困らない、とまでは言わずとも困りにくいのは日本の船乗り達の長所の一つですね。
ヴァイキングとかは頑固でして、死んでも目新しい食材を試そうとしなかったのですから。
いや、グリーンランドとかでは本当に死に絶えましたけどね。魚食わなかったから。


「うーん、でも生魚はちょっと‥‥」
「主に食えとは言うとらんわぃ」

ふむ。生魚が嫌なら蒸しましょうかね。こう、刺身と香草(ハーブ)をまとめてレモン汁をかけて、バナナの葉で包んで焚き火
の傍に置いて、と。

ちなみにこの焚き火の上では、鉄板に乗った生地が焼けています。
これは水で溶いた小麦粉に刻んだ葉野菜やすり下ろした根菜などを混ぜ、昆布粉や干し魚の粉で味を調えて焼く料理です。
生地にある程度火が通ったら生卵や細切り肉などを載せてひっくり返して焼き、魚醤や豆醤ベースのタレをかけて食べます。

ロシマ風のパンケーキだそうですが‥‥もろお好み焼きですがな。それも関西風の。
絶対に殴る。この世界設定した奴見つけたら棍棒で殴ります。フルスイングで。
広島風お好み焼きを食べられなくした奴には当然の報いです。
この世界にないなら自分で作れば良いだろうって? 素人が見よう見まねで広島風を作れるなら誰も苦労しませんよ!
私の腕では、にぎり寿司よりも酷い結果になるのは見えてます。



「ところで、レイ」
「なんですか?」
「女神像はまだ見れないの?」

おお、そういえばそろそろ繋がっているかもしれませんね。様子を見てみましょう。


実は既に、宝物庫から女神像と祭壇を移してあります。
とりあえず仮の安置所として大広間の北端に置いてあるのですが、祭壇と神像の間には衝立があって宴会場の客達から女神像
が見えなくなっているのです。

と、いうのもですね。西方人たちが持ち込んだ下半身とこの洞窟の上半身の相性が悪くて、なかなかくっつかないのですよ。
パソコンとかの電子部品でも、規格は合っていてもパーツの相性が悪いと機械が動かなくなったり性能が落ちたりします。
マジックアイテムにも同じことが起きます。
ほら、日本刀の世界でも「反りが合わない」って言うじゃありませんか。

何千キロも離れた場所でバラバラに発掘されたアイテムが、同じ作者による同じ作品の片割れ同士だった‥‥という展開はあ
りませんでした。普通に相性悪いです。
ただ最悪にも程遠いので、色々弄っているうちにくっつきはじめました。
なのでしばらく置いていたのですが、どうなったかな?

おお、くっついてる。
パーツ同士が物理的にくっついているだけで機能的には連動していないのですが、外見だけはまともに見えます。
あれですね、喩えていうなら故障してる二台の車を共食い整備でニコイチしようと思ったら、実は旧型ワーゲンビー○ルと新
型ワーゲンビー○ルだった。というような状況ですかね。
で、私は外見だけでもくっついて見えるように調整してみたのですよ。

本来の性能を発揮することはできませんけど、それでも自分でポーズを変えたりするぐらいはできるんですよ、コレ。
基本部品が揃ったことで、私の構造理解が進んだからですけどね。
それに前と違って、ちゃんと自律的に瞬きするようになりました。瞬きモードの切り替えができるようになったのです。
自力というか、何をするのかは前もって入力しておかないといけませんけどね。所詮は人形なので思考能力はありません。


もちろん、これだけ相性が悪い部品同士では故人のそっくりさんにはなりません。外見を似せることはできますけど。
気の毒なのはコーネリアです。
完全に無駄足だったと知った彼女はすっかり放心してしまっています。
無理もありません。
裏切り者と、その馬鹿な部下に足引っ張られて破滅したのならまだしも、そもそもの情報が間違いだったのですから。
ただでさえ、捕虜が三分の一に減っちゃったのは巨大タコにとどめ刺さなかったせいだと自分を責めてましたし。

彼女を含め王妃派残党は、なんとか御輿を立て直そうとしていました。しかし蘇生呪文は死者の死亡してからの時間が長かっ
たり遺体の損壊が酷かったりすると効果がありません。
たとえ死者側に蘇るに足る能力と意思があろうと。
その壁を突破するには超高位の信仰魔法か強力なアイテムが必要ですが、派閥として勢いをなくしてしまった王妃派にはそれ
を用意することはなかなか出来なかったのです。

そして数年前にやっとの想いで揃えた遺品と、強力な「願い(ウィッシュ)」系アイテムを使った蘇生は失敗に終わりました。
しかしその後手に入れた特殊な抱き枕を使えば、 王妃本人は無理でもそっくりさんは手に入るのでは? という希望が見え
てきたのです。

その希望は本日あっけなく粉砕されましたけど。

不確かな情報に飛びついたりせず慎重に調査を進めていれば、躓かずに済んだのにねえ。
こういうのを「貧すれば窮す」と言うのでしょうか。


ソルボイリィ家はソルボ島の土着名家でしたが、ソルボ島のグアノ鉱山が閉鎖してからは急激に没落しました。
没落貴族の末娘だったコーネリアは、幸福な幼女時代と悲惨極まりない少女時代を体験したのです。そしてそこから、海軍を
拡大していた王妃派に組み込まれ家運が急速回復、彼女自身は王妃に娘のように可愛がられ王太子の側近候補として教育され、
士官学校を卒業する寸前に王妃が不審死を遂げて派閥縮小、あとは冷や飯食いコース一直線‥‥ というジェットコースター
人生を送って来たのですよ。
捕虜になった士官や下士官兵たちから事情聴取した結果をまとめると、そんな感じになるようです。

彼女、前線指揮官としてはともかく後方参謀としての適性はあったらしく、「ちゃんと飯を食わせてくれる」という理由で下
士官兵達には人気がありました。あと「きちんと裁判をする」とかも。
中には「自分も残って司令のお供を」と言い出す者までいましたが、コーネリア自身が叱責と共に却下しました。
降伏の条件に反しますからねそれは。


あのときは凛々しかったのですが、相当無理していたのでしょう。
演技する必要もなくなった今ではゴエモンの膝の上で茫然自失を続けています。見張り兼護衛に付けたオークが杯をさし出せ
ば機械的に受け取って、中身のお湯割り果実酒を飲んだりしてますが味など解ってませんね。
杯の中身がすり潰した唐辛子でもそのまま飲んでしまうでしょう。

ゴエモンを世話係につけておいて正解だったかな? あの様子では脱走の心配はなくても風呂場で滑って溺死しかねません。
なお、彼女は明日海賊船に乗って神殿に送られるまで私の巣の賓客として扱われます。



では、宴会場にいる殆どは待ちかねてる様子なので、公開するとしますか。

ギュー・グェスがそっと衝立を取り除くと、全身揃った女神像の姿が現れました。
大きな切り株の腰掛けに半切りの虎毛皮を敷き、その上にこれ以上はちょっと想像できないぐらいの美女が、膝を揃えて優雅
に座っています。もちろん全裸で。

言葉にならないどよめきが上がります。あと、幾つかの杯や串焼き肉や焼き貝の殻が落ちる音も。
そりゃそうでしょう。
夢の中で女神様と交信した私が、あの麗しさを再現すべく必死こいて調整したのですから。
髪なんて夫オーク達が引くぐらいの気合いを込めて梳りましたよ。例の魔法ブラシで。

本物に比べれば0.7歩ぐらい劣りますが、その0.3歩を縮めることは一週間前の私には無理だったでしょうね。
神々は本当に彫像の才能を与えてくれたようです。

それにしても圧巻です、嫉妬もおきないこの姿。美は力なのです。
思わず食べかけの串焼きを取り落とすぐらい見とれてしまった夫を、ウサミミさんは責めようとしてません。
まあ、彼女は大人ですからね。苦労人だし。

「私は女と結婚と家庭の守護者ですよ。夫婦の不和の元になど、なる訳がありません」

「あー それもそうですね」


!!

いまの、幻聴じゃありませんでしたよ!? エスティア様の声だけど、確かに鼓膜と耳骨で聞こえた!

振り向くと、目が合いました。金髪碧眼の女神像と。そして女神像はにっこりと親しげな笑みを浮かべました。
こんな動きは入力してないのに。
まさか。

「良い夜ですね、レイ。そして婚儀の宴に集いし諸人達よ」

そこに座っているのは人形でも神像でもなく、女神様でした。
知恵と炎を司るエスティア神の顕現体が、目の前にいます。

間違いなく本物です。違っていたらアコライト辞めるしかない。
そりゃ確かにこの島は文明圏から遠く離れた辺境で、更にここはオークも碌に住んでいない僻地で、文化的には原始か精々古
代社会だけどさぁ。
昔の田舎には、結婚披露宴に飛び入り大物ゲストが来ちゃうことも珍しくありませんでしたよ、確かに。

だけどモノには限度があるでしょうが。
なんで一介の侍僧(アコライト)の披露宴に、主神級神格が降臨しちゃうんですか。


「私はいつでも貴女たちの傍にいます。今はそれを分かり易くしているに過ぎません」

あ、はい。


一瞬で反論とか文句を言う気力が消え失せました。神様って凄い。
綺麗事言ってるだけなのに何故か納得しちゃいます。

いや、綺麗じゃない現世の者が言うから聞いてて腹が立つのかな、綺麗事って。
同じ言葉でも言う人が違うと受ける印象が大違いになることってありますよね。わりと。






[38600] 36
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:8bf7f0f1
Date: 2016/07/24 11:57



 ☆61日め18、かみさまはざんこくだ☆


「面(おもて)をあげなさい」

気が付くと、私以外の全員が女神様に平伏していました。
ぴっしり姿勢を正してます。
オークたちは正座してからのジャパニーズ式土下座、これはヒルデニア人がこの島に広めた文化の一つですね。

船長達ヒルデニア海賊衆はあぐらをかいたまま頭を下げてますけど、船乗り的にはこれで正しいのです。
正座はヒルデニアでも公家や武家や農家の文化であって、漁師や樵や荒くれ者の文化ではありません。

オーガーたちはあぐらか片膝かの違いはありますが、頭を下げているのは同じです。
あ、例外もいました。コーネリアはまだゴエモンの膝の上で ぽー っとしています。


おーい。


ねえ、ちょっと、みんなー。


‥‥‥‥神様が「頭あげろ」って言ってるんだから上げなさいよアンタら。
エスティア神は江戸城の公方様じゃないんだから、「上げろ」と言われたら素直に上げるべきなんですよ。
この方は常に本音で喋っているんですから。質問をはぐらかすことはあっても嘘は言わないんですよ。

嘘も虚飾も必要ないんです。わざわざ取っつけなくても、素っ裸でも、 威 の 塊 なんですから神様って。
強者は嘘をつかない。それがこの島の流儀でしょうが。
だからとっとと顔を上げて、女神様を見てさしあげなさい ‥‥と念じていても届くわけもないか。私は感が鋭いだけでES
P能力はありませんからねー。意思を伝えたければ言葉か信仰呪文をを使わないと。

拙い、女神様の顔から笑みが消えてるっ えーとえーと‥‥。

「皆さん、エスティア様の御利益が欲しければ顔を上げましょう。今ならお姿を見ただけで怪我は治るわ元気になるわ獲物に
恵まれるわ嫁が来るわ子宝を授かるわで大盤振る舞いですよ!」

あ、船長が吹きだした。下向いたまんまで。
このままだと機嫌損ねてしまいそうだったのでつい言ってしまいましたが‥‥うん、大丈夫。女神様怒ってません。


私の口上に効果があったのか、大広間の人々は一人また一人と顔をあげて祭壇の向こうに座る女神様を見上げます。
私も夫達の所まで歩いて、その傍に座りました。
あの位置だとほら、女神様への視線の余波がきついですから。

全員が、いやコーネリア以外の全員が顔を上げ視線が合うと女神様が微笑みました。にっこりと。
そのとたんに 「あちっ」 「いたっ」 「痒っ」 とかの小さなうめき声があちこちであがり、一呼吸をおいてその何倍も
の満足げなため息が大広間に充満します。

今のは、治療呪文? いや逆か。
「治療」とか「祝福」とかの信仰呪文は、さっきの効果を一部分だけ切り取って再生したものなんだ。
楽隊など劇場の人員(スタッフ)たちが雷鳴の響きや火山の爆発音を効果音や音楽で表現しようとするように、信仰呪文とは神
様の起こす奇跡を真似たものなのですよ。


モッサリたち下っ端オークは細かい怪我がなくなった上に、疲労がとれて元気になっています。
広間の隅にいた、怪我が治りきっていなかった年嵩のオーガーが何ごとか叫びながら立ち上がりました。彼の潰れていた左目
はしっかりと開かれ、滝のような涙を流しています。おそらく数年ぶりの涙を。

ええ、さっきの「女神の微笑」は、大広間の人々を癒したのです。今日や数日前に負った怪我はもちろん、持病や古傷までも。



「グヒッグヒッ♪」

うんうん、折れていた歯が治りましたか。良かったですねマルマル。
バッドステータス解消を含む治療に加え、祝福(ブレス)や開運(ラック)の効果もあるようですね。正に奇跡です。


「しくじったな、手下をもうちょっと連れてくるんだった」

あとで聞くと、持病の水虫や痔や腰痛が全部治ったという船長は「そうしときゃ治療費用が浮いたのに」と笑って杯に口を付
けましたが‥‥。

「私はそのような吝嗇ではありません。貴男の船に残っている者にも漏れなく祝福を与えていますよ、祐衛門(すけえもん)」


あーあ、神様いるところで軽口なんか叩くから。
私の口からでまかせを本当にしちゃう所を見ているのに何故言っちゃうかなーこの人は。高○クリニックの社長もびっくりな
程に気前が良いのですよ神様って。財布が人類の想定外な大きさですからね。

普通の人間は、肌から抜けて地面に落ちた産毛を土中微生物が囓っていても気にしないでしょう? 
そのくらい経済観念というか収支の感覚が違うんです。 

船長は女神様にマジ突っ込みされて盛大に吹きだした後に、五体投地で平伏してます。
まあ、ケチつけていると受け取られても仕方ない発言でしたからねえ。

「‥‥妄言、お許しを」
「許しません。罰として貴男からしばらくの間片腕を、そして永遠に自由を取りあげましょう」

はて、物騒な事言ってますけど目は笑ってますよね。


「エスティア様、その心は?」
「たったいま、祐衛門に 愛おしく想う女を抱くと必ず孕ませてしまう呪い をかけました。無事にその子が産まれる呪いも」

剥奪されるのは独り者である自由ですか、洒落にならない呪いですね。祝福でもあるけど。
一名様、人生の墓場にご案内です。
でもそれが期間限定で片腕をとりあげる事になる‥‥? あ、そうか。

「やっぱり副長とできてたんですね」
「いや、俺らはそういう関係‥‥」

この期に及んで言い逃れようとした船長の軽口を、眼力で止めさせます。ツンデレするにもTPO弁えろこの野郎。

「‥‥だよ、うん。互いに専属って訳でもねぇが」

それでよし。主神級神格が立って歩けば触れる位置にいるのに軽口叩かれてたまるもんですか。
巻き込まれたらどうしてくれるんだ。話振っちゃったのは私だけど。
必死の意思が通じたようで何よりです。呪文無しでも、目は口ほどにものを言うのですよ。


さて、先程の奇跡はこの大広間と浜辺にいる者全員に効果があった訳でして。
下っ端オークの膝に乗っていた、元要塞司令の女将校も例外ではありません。

「神よ、お答えください! 私の望みは間違っていたのですか!?」

正気にかえったコーネリアは、ゴエモンの膝の上から転がるように降りてきて平伏してましたが、女神様と船長と私のやり取
りが終わった所で顔を上げ問いかけてきました。

「人の子よ、何を望むのです?」
「妃殿下にお戻りいただきたいのです」

いや、ほんとに正気なのか? かなり精神状態危なそうですよ彼女?

「それはできません。ロザリータの魂は既に輪廻を受け入れ、転生の準備に入っています」
「そんな‥‥」

這いつくばった姿でぷるぷる震えていた投降将校でしたが、また顔を上げました。

「ならばそのお姿の、それぞれの片割れの在処をお示しください」

王妃様本人の復活が無理なら、せめてそのそっくりさんを作り出すための情報だけでも、ヒントだけでも! とコーネリアは
食い下がりますが‥‥。
あ、これはダメだ。それ以上は言っちゃだめです。

「コーネリア、貴女の本「エスティア様!」」



完全に、大広間が静まりかえりました。まるで時が止まったかのように。


ど、どうしましょう。神の言葉を遮っちゃいましたよ、私。
おっ おちつけ慌てるな、怒ってない怒ってない女神様怒ってないから落ち着けおちつくんだ。

「なんですか、レイ」

大母様のそれもくらべものにならないカリスマが、存在力とでもいうべきものが私の心を圧倒します。
好意と善意しか感じないのに声が出せない。
格とか桁とか、そんなもので表せないぐらい違いすぎる。畏れおおいって、こういうことなんだ。


「やめてあげてください」

あれ? 言えちゃいました。
気がついたら、夫達が私の左右と背後に座っていました。まるで囲むように。
その大きくて温かい手が私の肩や背中や太腿に触れて、支えています。
うん、大丈夫。この三人と一緒なら神様の前だって怖くない。勇気無限大です。

「何故ですか?」
「その先を言ってしまうのはかわいそうです」

たのむからみんな、ざわざわしてよ。沈黙が耳に痛いよ。なんでこんなに大勢いて人の出す音が聞こえなくなるんですか。

「レイ。心の傷は、大きい方が治りやすいこともあるのです」
「それは、そうでしょうけど‥‥」

私と女神様の問答に、コーネリアが逆割り込みしてきました。

「神よ、続きをおきかせください」
「辛い目にあいますよ?」
「構いません!」

ああもう、こうなったら止めようがありません。
彼女だって本当は気付いている。でも無意識が気付かせまいとしていたのですよ今までは。

「コーネリア。貴女の本当の望みはロザリータの復活ではありません、過去を取り戻したいのです。
貴女はロザリータに従い、全ての判断の基準を委ねていた頃に、何の迷いも不安も持たずにすんだ頃に、ロザリータの信頼を
失うこと以外の心配をしなくてすんだ頃に戻りたいのです。
貴女の目的は娘時代のように安心して生きることであって、ロザリータを復活させる事は手段にすぎません。
コーネリア、そろそろロザリータを自由にしてやりなさい。
あれは国母として、貴女のような存在の母親代わりとして、死してからも重荷を背負い続けてきたのです。
ロザリータも、貴女も、もう楽になって良い頃でしょう。
時の砂を戻そうとするのではなく、貴女は貴女の幸せを探しなさい」


はっきり言い過ぎだぁ──!  容赦がなさすぎるぞっこの神様!

可哀想にコーネリアは大広間の床に突っ伏して動かなくなり、やがて嗚咽が漏れはじめました。
彼女の階級は地球で言えば佐官以上の筈。戦場向けではないにしろ無能には程遠く、聡明さという点ではわたしなんかより断
然上です。
だから言われただけで解ってしまう。理解したいと、知りたいと思ってしまったから。

自分が王妃様の、 飼 い 犬 に 過 ぎ な か っ た ことを。

犬に理想はありません。そこが犬の良いところなのですが。
彼女は飼い主が投げた棒きれを拾ってくる犬と同じで、飼い主と同じ目線を持っていたわけではないのですよ。
誰だって良かったのですよ。ご飯と寝床と生き甲斐を与えてくれる飼い主なら誰だって。
別に王妃様じゃなくても良かったのです。
犬の忠義とはそういうものです。それが犬の良いところなんですけどね。

でもコーネリアは泣いてます、彼女は人間だから。人間になってしまっていたのだから。
人になってしまったことを自覚した以上、もう犬の生き方はできません。




 ☆61日め19、もう一局続けましょう☆


泣きじゃくっていたコーネリアは、ゴエモンに抱きかかえられたまま眠ってしまいました。
ええ、泣いている彼女をゴエモンが抱き上げまして、膝の上に乗せてあやし始めたのですよ。母親が幼児を扱うように。
今も新入り下っ端オークは、捕虜にして賓客である西方娘の頭をなで続けています。
ふむ。下手に引き離さない方が良さそうですね。

「ゴエモン、引き続き貴男がコーネリアの見張りと世話係ですよ」
「グヒッ」

下っ端達、特にサダキチからの羨ましそうな視線を浴びつつゴエモンは頷きます。
要塞内部での立ち回りの位置がちょっと違ってたら、あそこでなでなでしてるのはサダキチだったかもしれませんよねえ。
蘇生行為の都合で、サダキチの位置が一番気道の確保に適していたからゴエモンが人工呼吸と心臓マッサージ役になった訳で。
タコ足から守ったのは同じですし、胸触って口付けして息を吹きこむという、疑いようもない「生きろ!」との想いを込めた
行為を延々やったのがサダキチだったなら、コーネリアはサダキチに懐いていたでしょう。

ええ、昼間の時点、着替えを探そうとしていた頃からコーネリアはゴエモンになら触られても大丈夫だったのです。
野生動物だって一度命を預けた獣医に対してなら、懐くとまではいわなくとも大人しくなることもあるのですよ。
ましてや人間なら。「窮鳥懐に入れば~」というところですかね。


ちょっとトウが立ってはいるけど、それ以外はサダキチ含めウチの巣の下っ端達の好みなんですよねコーネリアって。
聡明で健気でか弱くて、殺伐としてない女の子に保護欲を刺激されるのですよ、ウチの下っ端たちは。

あれ? ならば何故私にみんなが懐いてるのでしょうか?
私はお馬鹿で身勝手で貧弱で羅刹系なのに。彼らの好みに反する要素の方が多いのに。
下っ端達に好かれているのは間違いありませんよねえ、うん。性的な意味でも。



あれから3時間ほどで、宴会はとりあえずお開きになりました。
なお、女神様はコーネリアを泣かせてしまってから程なくお帰りになられました。

いやあ気疲れしましたよ本当に。
僅か数分間。光の国から来た巨人と大差ないぐらいの滞在時間だったのですがね。
その後も親睦会みたいな形で宴は続きましたが、終わってからも飲んでいる連中もいます。


船長達は船に帰ってます。ちょうど浜辺まで送っていったギュー・グェスが帰ってきたところです。
まだ懲りてない彼は「明日の朝になって俺らが消えてたらどうする気だ?」などと軽口を叩いていましたが、
巫女頭に「そうなったら、神々にお願いして貴男を呪って頂きます。レイが」とセメント対応されて黙りました。

この船長、船に乗って戦に出ているときはともかく、それ以外はちょっと‥‥蛇王丸の資金繰りが火の車な理由がよく解る。
ヒルデニアでも他の所でも、余計なこと言っては話をこじらせているんだろーなー。
腕が良いから生き残ってるけど、そうじゃなきゃとっくの昔に潰れてますよこの海賊一家。

まあ、やれますしやりますけどね裏切られたときは容赦なく。考えつく限りの性悪さで呪って貰います。
役に立つなら神でも使う。これはエジプト古王国の昔から続く真理なのですよ。


オーガーたちは庭というか洞窟前の広場にテントを建てて寝ています、ウサミミさんたち夫婦が。
チョウザメ肉の燻製とかのつまみと酒の壷を持って様子を見にいったら、ウサミミさんとその旦那様がテントの中でいちゃい
ちゃしていまして、その睦言を漏れ聞いちゃっただけで口の中が甘ったるくなりましたよ。

仲良きことはよきことかな。
獣人姐さん女房と末永く乳繰りあって山ほど子孫こしらえて天寿を全うした上で死んでしまえイケメンめ。
老衰以外の死因は認めませんので、老いさらばえて死ぬがよい。あと死ぬ直前にもげろ。

他のオーガーは地面でごろ寝していたり岩陰に入っていたり大広間でまだ飲んでいたり。
女神様の奇跡には結界の効果もありまして、この巣の周辺は明日の日暮れぐらいまでモンスターや危険な野生動物が侵入でき
なくなっています。
特にオークに対し悪意ある存在、アンデッドやトログロダイトや西方人の海兵隊などは入れません。

ゲーム的に言うと、無理矢理入るには魔法抵抗判定が必要で、しかも抵抗に失敗すればするほどダメージが来ます。
成功しても無傷では済みませんが。
雑魚モンスターならそれだけで昇天してしまいます。

そんな訳で、あと20時間ぐらいは洞窟周辺全部が安全地帯なのですよ。
‥‥よし、明日の昼間にブランコ乗ろう。野外に特大のを作って貰って、優雅に漕ぎましょう。

信仰呪文使い(スペルキャスター)としての腕が上がれば、私にも「結界」が使えるようになります。
そしたら色々できますね。見張りを置かずに、夫夫夫婦水入らずでお月見したりとか。
今は新月期なので月見には向いてません。


巫女さんたちは私の部屋に泊まって貰うことになりました。ちょっと狭いですけどこの洞窟では一番良い部屋ですから。
お義兄さんたちは下っ端居住区に泊まります。

で、寝床を明け渡した下っ端達は普段グェスとドスとウォスが寝起きしている幹部居住区に集まり、二次会やってます。
基本的に下っ端達は入れない場所なのですが、今夜は無礼講です。

宴には 芸 が付き物。
なので私は資材置き場の姿見に全身を映して、最後の身だしなみ確認中です。
こういうときには、むだ毛処理の要らないこの身体は有り難いですねー。

お手製下着の中から特に可愛いものを選んで身に付け、神殿で買った青い東方風の上着と同じ色合いの西方風スカート、
そして洞窟の宝箱に入っていたフリル付きエプロンと靴と靴下を身につけ、改造カチューシャをホワイトプリムの代わりに装
備すれば‥‥
メ イ ド 服 1 1 歳 美 少 女 完 成 !

自分で美少女言うな? 良いじゃありませんか可愛いんだから。
メイドさん風のスカートの裾を翻して、鏡の中でくるくる回る少女の姿は思わずお持ち帰りしたくなるぐらいです。
いやその、二ヶ月前にお持ち帰りして貰ってますけどね、既に。


「グッヒー?」

おっといけない、着替えに時間をとられすぎました。
待ちかねている観客達の前にメイド服姿の私が出てくると、下っ端達はいつもより7割り増しで騒ぎはじめました。
夫であるこの巣の幹部オークたちは‥‥なんか凄いドヤ顔です。口にしていないだけで、態度で自慢しまくってます。
その満足そうな顔を見て、もっともっと喜んで欲しいと、溺れるようにひたって欲しいと思ってしまうのだから、私も大概です。

愛の奴隷って、こういうことなんですね。
愛しい旦那様達のためなら、どんなことでもしたくなってしまうんですよ。
この幸せを知ってしまった女達がオークの巣から抜け出せなくなるのも解ります。

転生して以来、詰んでる詰んでると嘆いてましたが、王手(チェック・メイト)の結果が逆ハーレムの女王様なら言うことなし。
玉の輿なんかよりずっと良いですよ。いや、ある意味これも玉の輿かも。


「グヒッ」「グヒッグヒッ」

はいはい、慌てない慌てない。
もし転んでも大丈夫なように、スポンジマットを敷きまして‥‥と。

この夜私は19人の仲間たち+賓客一人の前で、メイド服姿で一曲だけ踊りました。

一曲だけです。次の曲はエプロンドレスを外して踊りますからね。
白いエプロンなしではメイド服とは言えません。

スカートの裾を蹴上げて、前世の私では絶対に無理だった高難度の振り付けを踊り続けます。
数日ぶりの巫女さん大サービスに下っ端達も大喜びです。
ごめんねみんな。
みんなのことは大好きだけど最後の一枚を外すのは旦那様たちの前だけだし、それから先のことも旦那様たちにしかしてあげ
られないのですよ。


それにしても画面のものにしろ生の舞踊にしろ目で見ていただけ、しかも曲目によっては最後に見たのが数ヶ月から十数ヶ月
前のことなのに、きちんと踊りかたを憶えているというのも不思議ですね。
これも加護のなかに入るのかな? 確か記憶力が特殊だとかなんとか。

思った通りに、動かしたいように身体が動く。なにやら数日前より更に動きが良くなった気がします。

スペインあたりでは愚かな行為という意味で「バレエ選手に喧嘩を売る」という言い回しがあるそうです。
一見して優男に見えたとしても、バレエの選手ともなれば運動神経も気迫も素人とは比べものになりませんし、毎日反吐ぶち
まけるぐらい身体動かして鍛え込んでいますから喧嘩が弱い訳ないのですよ。
某第六天魔王も舞踊をやりこんでいたそうですし、今後の鍛錬計画に取り入れても良いかもしれません。



こうして一曲踊るごとに一枚脱いでいくつもりだったのですが、手縫いのスリップを外したあたりで活動限界が来てしまいま
した。
そういえば、普段ならとっくの昔に寝ている時間帯です。

眠い。どうしても起きていられません、あと10秒かそこらで眠り込んでしまうでしょう。
馬鹿だ、馬鹿がここにいます。
睡眠なんて毎日のことなのに、なぜ活動限界を計算に入れずに動いてしまうのでしょうか。本当に進歩がありません。

なんとか最後の力を振り絞って、夫達の所に辿り着きました。踊り疲れて初夜で爆睡って、花嫁としては問題ですよねー。
でも、グェスはそんな私を抱きとめて優しくなでてくれるのでした。もちろんウォスとドスも。
あー 本当に良縁に恵まれたなー。拾われたのがこの巣で良かった。

おやすみなさい、私の旦那様たち。




 ☆62日め、予定調和なのかなあ☆


おはようございます。
オーク島の新妻兼アコライト、レイちゃんです。

文字通りの愛の巣に帰ってきたからには、三人の夫達に朝からたっぷりと可愛がって貰い‥‥たかったのですが。
なにしろ巣の住人と同数の客人が来てますからねえ、今は。昨夜のうちに船へ戻った船長達を除いても。
これでは新婚さんらしくいちゃいちゃしている暇もありません。
起きて直ぐの家族会議以外ろくな会話もないぐらいです。

夫達幹部オークは、客人達の対応をしてたり、下っ端達を指揮して宴会場の後かたづけをしたり、縄張りを巡回していたりと
朝から忙しいですし、私も暇ではありません。
朝のお勤めは私にしかできませんからね。

具体的に言うと祭壇の掃除と女神像の手入れと飾り付けそして聖水作りと朝のお祈り&瞑想なのですが、私以外に女神像に触
ることができる者がおりません。
気持ちは解りますけどね、本物の神格が憑依した代物ですし。オークたちが畏れ多く感じるのも無理はない。

しかし、つくづく人と神の間に溝が浅いというか敷居が低い世界ですよねえ、ここは。
このぶんだと他の神々もわりとホイホイ降臨してるのかも。
待てよ? 個人史ならともかく一国全体とか文明圏レベルでいえば地球でもわりとホイホイ降臨してますよねえ、神々。
一神教の天使や聖人たちは多神教なら立派に神格ですし、文明圏レベルでなら「何処其処に天使が現れて~」なんて騒ぎは文
献に残っているものですら、毎年のように何処かで起きていた訳ですし。

そうか、割としょっちゅう降りてきてるのか神々。
ということはあの細長い地下生物三種混合体の邪神も、ホイホイ出現してるってことですよね。
なるほど、潰しても潰しても邪教団が生えてくる訳です。
善意の塊だったエスティアさまですらあの迫力だったのです。邪神に脅されたり誘惑された日には逆らえる生き物(モータル)
は少ないでしょう。



昨夜の奇跡は、生き物にだけ起きたのではありませんでした。
オークが手作りした祭壇は、立派にマジックアイテム化してます。見た目はともかく信仰用アイテムとしての機能と格は、
神殿の本殿大広間六大神像の前に置いてある祭壇にも見劣りしません。

更にいうと、女神像のパーツすりあわせが数段階進んでいます。パーツの相性自体が良くなった訳じゃありませんが、悪いな
りに動かせるようになってます。
うん、女神像を見て触るだけでアイテム調整の参考になります。正に神業。
本日の女神像の衣装は‥‥なしで良いか。全裸で、だけど最低限の装飾品だけは身に付ける方向性でいきましょう。


まだ女神像を立って歩かせるのは難しいですが、座ってできる単純な動作ならたいていできるようになりました。
茶釜と急須で煎茶を入れるぐらいの動作は今すぐできます。
抹茶はちょっと入力が面倒すぎて、今の私には無理ですけどね。

できてもお茶くみ人形には使えません。そのお茶飲めるのは私ぐらいだし、自分が飲むなら自分で入れるし。
元は特殊な抱き枕でしたが、ここまで神力を帯びているともう聖遺物に近いですよ。触っただけで奇跡の一つや二つ起きても
不思議じゃありません。これ自体が信仰の対象になりえる代物です。

まあ、神様が降臨する前からこの巣では信仰の対象でしたけどね。その美しさで。
古代帝国ボルモフィラ朝の帝王が作ったという像そのものじゃなくて、模倣品らしいのですがそれでも大したものなのです。
地球でも「これが本物のロンギヌスの槍」と呼ばれた槍を集めると一個中隊編制してお釣りが来るそうですし、この世界でも
伝説にあやかったアイテムは珍しくありません。

知り合いのイタリア人が「ヴァチカンの地下武器庫には、数百本に及ぶロンギヌスの槍の中から選び抜かれた13本が秘蔵さ
れていて、一朝ことあれば異端懲罰に出撃する祓魔神父たちへ貸し与えられるんだ」と言ってましたが、本当かなあ。
そいつの友達のフィンランド人が言ってた「フィンランドの田舎では満月の夜になると、お腹を空かしたムー○ントロールが
野外を徘徊しているのでとても危険」の方は完全に嘘だと思いますけど。
ソーニャさんやウサミミさんなど冒険者やっていた人達の話では、トロルの被害はむしろ新月の夜に多いそうです。
地球のムーミ○トロールだって、闇夜の方が活発に動いているでしょう。


話を戻しますと、私が持っていた「ナノレドの棒きれ」だって模倣品というか吟遊道化師ナノレドが使ったという棍棒とは別
物ですし。
だって伝説(武勇伝?)の中で道化師が使った棍棒は、軒下に積まれていた薪から引っこ抜いた代物なのですから。
歴としたマジックアイテムだったあの棍棒が本物の訳がない。



で、エスティア様が憑依なされたお陰で下半身像を戦利品一覧から外して、温泉洞窟の神殿に奉納することになりました。
ええ、主神級神格の顕現体(アバター)が降臨したこの洞窟は、エスティア神を祀る新たな神殿となったのですよ。
神殿というかその代理人である巫女頭も認めています。認めない訳にはいきません。
私としても、下半身があれば女神像を飾り立てやすいですから大歓迎です。
これでますます他の神像を彫らない訳にはいかなくなったのが辛いですが。

そういえば夢の中で「近いうちに下半身をどうにかする」とかなんとかいわれたよーな気が。
これも神々の仕込みのうちでしょうか。
なんか露骨にプレッシャーかけられている気がします。「我が夫の像はまだですか?」という幻聴が聞こえそうです。

時系列的に言えばあの夢をみた頃には既に茶釜要塞はオーク島近海に来ていた筈ですけど、なにせ神様のやることですから。
地球の学説ですけど、宇宙規模で言えば人間のような「過去方向しか把握できない知性」の方が少数派なのだとか。
人間とは規格の違う知性は、過去と未来の両方向把握できるものがむしろ標準なのだとしたら。
それが本当だとしたら、神々にとって予言や過去に遡っての因果操作など人間が日記帳をめくる程の手間でもないでしょう。


「お祈りは終わった?」

暇なのか、ソーニャさんが朝風呂に誘いにきました。時間がないからシャワーなら良いですよ。

そんな訳で、一緒に朝シャワー浴びてます。


「この液鹸、強すぎるわよ」

ほへ?

シャワーコーナーでお湯を浴びていた私が振り向くと、定位置の丸い岩に置いた防水スポンジマットの上でソーニャさんが、
眉間に皺を寄せていました。
その手には、私が作ったカリウム石鹸の入った竹筒があります。

「妙に肌が荒れていると思ったら、これが原因ね」
「‥‥荒れてますか?」
「ええ。しばらくはこっち使いなさい」

そういって糠袋を手渡してくれたソーニャさんによれば、私のお肌は一月前に比べて張りや艶が落ちているそうです。
石鹸の使い過ぎで。

確かに数日前まで毎日4~5回ぐらい風呂入ってたし、日に一回は石鹸使ってましたよねえ。
泡まみれの姿であられもないポーズとって、オーク達を慌てさせたりするのが病みつきになっちゃいましたから。
洗って貰うの嬉しかったし、洗ってあげるのも楽しかったし。

そりゃ肌から油気も抜けますよね。
毎日一緒にいる夫達や下っ端達は気付きませんでしたが、一月ぶりに会ったソーニャさんにはそれが解ったのかー。
うーん、シャボン玉遊びとか泡風呂とか楽しいんですけどねー。これからは2~3日に一度に控えましょう。
糠袋プレイというのもそれはそれで楽しそうですし。
ソーニャさんとでも洗いっこが楽しいのですから、夫達とならもっと楽しいはず。



「グヒッ」
「どーぞー」

シャワーを浴びたあと二人交代で髪の梳かしっこなどをやっていると、コーネリアを抱えたゴエモンがやってきました。
もちろん私たちはもう服を着てますよ。ソーニャさんは洗濯まで終わってます。
ソーニャさんのステージ衣装は自動修復だけでなく自動洗浄の機能もありまして、綺麗な水に浸せば汚れが落ちるし干せばす
ぐに乾くのですよ。

下っ端のゴエモンは本来なら幹部用区域には入れないのですが、この場合は賓客の靴代わり扱いになるので一緒に入れます。
そして当然ながらお世話する賓客が水浴びするときにも、その傍を離れるわけにはいかないのです。

「ゴエモン、お世話係しっかりとね」
「ワカッタ」

なによりもお世話される方が、離れようとするゴエモンの腰ミノの端を摘んで引き止めていますからね。
目を潤ませながら 行っちゃヤダ と小さく首を振っています。

度重なる精神的衝撃で、彼女の心は大幅に退行しています。
今の彼女には強く優しく頼もしい保護者が、彼女の中からいなくなってしまった王妃様の代わりが必要なのです。

・大タコの触手から命がけで守ってくれた。
・死んだはずの自分に息と命を吹きこんでくれた。
・降伏を受け入れ生き残った部下達の命と誇りを守ってくれた。
・卑しい心根を暴かれ打ちのめされた自分を一晩中抱きかかえて慰めてくれた

それら彼女が受けた行為全てが、コーネリアにとってのオークの象徴にして代表であるゴエモンへの印象に影響しています。
で、下っ端とはいえゴエモンもエロモンスターな訳で。

海賊との戦いに自滅し、大タコの報復を招いたことで彼女の「文明人」「将校」としての自負や矜持は粉微塵になりました。
負けた上に、オーク族の紳士っぷりに触れてしまったのですから当然です。
そして女神様のセメント説教と心の支えだった王妃様からの自立。

コーネリアは、半日で全ての価値基準が崩壊してしまいました。
そこにオークのフェロモンとエロオーラを一晩中嗅がされて浴びせられながら、優しく慰められたのですよ。
その結果、美醜や好悪の感覚がオーク贔屓に傾いてしまました。
言ってしまえば、重度のファザコン‥‥エレクトラ・コンプレックスの持ち主が父親に感じているような執着がゴエモンに対
して発生しているのです。

つまり、堕ちた。
流石はエロモンスター。エロ抜きでも一晩でやってくれました。

コーネリアはもう、ゴエモンと一緒じゃない時間に耐えきれないでしょう。
水浴びの間だけでも、離れるのが嫌なのです。
愛される喜びを知ってしまった人間はそうなってしまうのですよ。たとえ相手が言葉もろくに通じない異種族であっても。




 ☆62日めの2、素手素肌の人間が怪物に勝てるわけも☆


後は若いものたちに任せて、私とソーニャさんはシャワーとトイレのある部屋から出ることにしました。
妙なもので、絶対に時が戻らない(王妃様が復活しない)と悟ったコーネリアは精神的に退行してしまいました。
ええ、その心は初心な小娘の時期に戻ってしまったのです。非情な軍務官僚から、恋に恋する少女に。
10年ぐらい時がすっとんじゃったんですよ。

前の知り合いにいましてね、そういう人が。あっちは20年だったけど。
40過ぎまで仕事一筋だったのに、ふとした切っ掛けで娘ぐらいの歳の女学生に惚れ込んじゃいまして。
色恋に免疫がない人でしたからもう大変でしたよ仲を取り持つのも。
植物のように静かに暮らしたい一心でまとめましたけど、あれよりは今回の方がマシですよね。親御さんの反対とかないし。

「レイが反対するわけはないものね」
「え?」
「え?」

私が反対?


‥‥あれ? いま、唐突に思い出しましたけど。
オーク族、たとえばギュー・グェスの名は成人の儀式で名付けられた名前なのです。成人するまでは、母親かその代わりの者
が適当に付けた幼名を名乗ります。
つまり、適当に付けた名前でも、名付けた者はその名付けられたオークの母親代わりになる訳です。


ああ、そりゃ巫女さんも引くわ。
前近代社会補正で適齢期に50パーセントの補正が付くとしたら、肉体年齢推定10~12歳の私は前世なら女子高生程度に
扱われる年齢です。
女子高生幼妻の披露宴に招待されて、行った家で幼げな新妻が「全部私の義息子です」とか言って16人も男の子紹介してき
たら流石に引きますよねー、たとえ猪養令治でも驚くでしょう。

下っ端達が懐いてる理由も、その一つは判明しました。
だって私、彼らの名付け親(ゴッドマザー)ですから。


いや、これで良し!
元々野球の公式試合ができるぐらい子供産むつもりでしたし、養子も混ぜてチーム作ればトーナメント方式で試合ができるで
しょう。
野球そのものはルールの共感的に難しいとしても、みんなで遊べるスポーツを普及させなくてはなりませんね。


「その、レイ。前から思っていたんだけど」
「なんですかソーニャさん」
「何かする前にわた‥‥夫達か私に相談しなさい。悪いことは言わないから」
「はあ」

それができたら苦労はありません。
そもそも何が問題で何を相談すべきかという常識が違うのだから相談しようがないのです。
人は一々呼吸するのに許可を求めますか? ここでは瞬きをして良いかどうか相談しますか?
文化や常識の違いとそこから発生する面倒事。これはもう転生者の宿命として受け入れるしかないのです。


大広間からシャワー滝のある部屋への入り口に、紐を渡して入り口と同じぐらいの幅がある布を引っかけます。
カーテン状になったこの布は「取り込み中、緊急時以外は入らないでね」という意味です。
オークの耳なら聞き耳立てるまでもなくゴエモンたちのいちゃいちゃは漏れ聞こえているでしょうが、こういうのは気分です。

それに人間族のように耳が鈍い生き物だと、甘酸っぱいやり取りに気付かず入っちゃって気まずい思いをするかもしれません
からね、コーネリアが。


「この洞窟、シャワーとトイレが隔てられてないのが問題ですね」 
「そうね、気にする人は気にするかしら」

ええ、私は気にする人なのですよ。元日本人的に。


時間がなかったから当然ですが、巣の中は外ほどには改装が進んでません。
新入り加入の人口増加を見越して、下っ端居住区が幾らか掘り拡げられているぐらいです。
暇が出来たら改装計画を練らないと。今の構造はお客さんが大勢くると不便なことが解りましたからね。


でもそれより、今は捕虜の帰属問題を考えなくては。
なんとかコーネリアをゴエモンのお嫁さんにする無難な方法はないかと考えつつ巫女頭のおねーさんの所に行くと、
先客が3人来ていて私を待っていました。


一人目は船長。一晩でえらく痩せましたね。ゆうべはお楽しみで尚かつ苦行だったんだろーなー。目の下に濃い隈ができてるし、
頬や首筋に女の歯形と爪痕とキスマークがついてます。間違いなく服の下にもいっぱいあるでしょう。


あとの二人はセルキー族です。陸上モードに入ってまして、下半身は人間の足になっていますね。
胸は貝殻の胸当てを貼り付けたもので隠し、腰は大きな昆布を巻きスカートのように巻き付けています。
余談ですがこの島の南方昆布は成長が早い分出汁成分が薄く、特に成長しきった昆布は旨味が殆どありません。

セルキーの片方は顔馴染みの緑髪で巨乳なおねえさんですが、もう一人は小柄で若い(人間なら14歳ぐらい?)黒髪の少女です。
慎ましい胸をしていますが、腰回りはお子様じゃありませんね。立派に子供を産める成熟度です。

ん? 船長の前には果実酒お湯わりが出されていますが、セルキーたちのうち片方にだけはジュースが出されています。
各種のナッツと果物、蟻蜜蜂蜜サトウキビなどの甘味、干し魚干し肉などおやつやおつまみは区分けなどしていません。

「おめでたですか?」
「‥‥はい」

頬を染め恥じらうセルキー少女によると、彼女達も昨夜の奇跡によって御利益を与えられたそうです。
海賊船の乗組員だけでなく、海賊にお酌をしていたセルキーも軟禁されていた捕虜の身にもあれが起きました。
で、船長不在のなかで宴会から自然発生的に起きた乱交騒ぎの中に捕虜も巻き込まれた訳です。
女神様の「嫁or婿が来る&子宝に恵まれる」祝福が、漏れなく与えられたのですよセルキーたちにも。

ほろ酔い気分で帰った船長こと祐衛門が見たものは、甲板上の嬌宴と目つきが座った副長&愛人の連係攻撃でした。
二対一の劣勢で、夜が明けるまでどころか日がかなり高いところに昇る頃まで続いたベッドの上の闘いに、なんとか勝利した
船長ですが、そのまま一睡もせずにこの洞窟まで来たわけです。

捕虜達のうち12人が誘惑に負けてセルキー達と致した上に「婿になる」ことを約束してしまったことについて、私たちへ連
絡と相談するために。
約束しちゃった捕虜たちですか? 甲板の日陰か船内の風通し良い所で寝てますよ、セルキー娘の胸に顔埋めて。
約束しなかった捕虜たちは船の中で扉に鍵を掛けて寝ています。

セルキーたちは当事者なので代表格の緑髪さんが付いてきました。陸上適性が一番高い黒髪セルキーが付き人で。
この娘さんも呪文使い(スペルキャスター)ですが、得意呪文などが陸地での行動で有利な構成になっているのです。
ほら、陸地でクラゲとか召喚しても意味ありませんし。


船長のお供で来た海賊達は洞窟の前で待たせています。そのうち一人は黒髪セルキーと致して、まず確実に孕ませちゃった責
任を取って婿入りするそうですが。
これは私たちに対する「信用してます」というサインであり、「だから穏便にね」という意味でもあります。
だって、捕虜に対する管理責任がありますからねえ、彼らには。無事連行するという契約を破ってしまった訳ですし。

不可抗力なんですけどね。
セルキーたちはエロモンスターなのですから、むしろ9人も誘惑に耐えきった奴がいる方が凄い。
ちなみに緑髪おねえさんは振られたそうです。


「‥‥食中毒とかと同じ処置でどうでしょうか」
「婿入りした連中を、護送中に死んだことにしちまうのかよ」
「のう。いっそのこと、昨日のタコに食われたことにせんか? その方が面倒ないぞ」

私の「死んだことにしましょう」案にするか藤子さんの「そんな捕虜がおったような気がしたが勘違いじゃったわい」案が出
てますが‥‥コーネリアの意見も聞きたいところですね。
だって彼女、捕虜達のことを気にしてましたからね。
捕虜を無事故郷に帰すと約束したのに、半分以上が返せなくなってしまいました。
不可抗力ですけど、それで済めば裁判所は要りません。

とりあえずは‥‥。

「ミス・ソルボイリィと相談してみます」

報告・連絡・相談ですね。情報を共有するとしましょう。


シャワールームに入ろうとしたら、中から言い争う声がします。人間の女とオークの声、間違いなくあの二人です。
でも西方語とオーク語のやりとりなので良く解りません。共通語(コモン)やヒルデニア語ならともかく、オーク語は明確な発
音でゆっくり喋ってくれないと私には聞き取れないし、西方語は殆ど知りませんから。

口調からして痴話喧嘩だと思って入ってみれば、やはりそうでした。
防水スポンジマットの上に仰向けになったゴエモンに、コーネリアが馬乗りになっています。

ええと、その、礼服姿の女軍人が、オークの手を掴んで自分のスカートの下へ引き入れようとしていますね。開襟軍服の前を
開いて胸元どころか生乳露出した姿で。
更に良く見ると彼女の右足首には脱ぎたてらしき下着が絡まっています。


「ほらほらっ 女が濡らして待ってるの解ってるくせになんだその態度はっ 私を好きにして良いんだぞっ」
「プギップギッ!」

‥‥捕虜の女軍人に騎乗位逆レイプされそうになって、メイド服の少女に助けを求めるオーク。
なにこの光景。
まあ、士官候補生の小娘とかならともかく、大人ですもんねえコーネリアは。

「お願いだから抱いてくれ、こんな気持ちになったのは初めてなんだ。私に、女に産まれて良かったと思わせてくれ」
「プギー!」

女にだって性欲はあるし、大人の女なら情にほだされてしまうこともあるわけで。
王妃のお気に入りで将来の海軍高官候補で王太子の「年上の学友」で側近候補だった彼女なら、ハニートラップ対策で男ぐら
い知っていて当然でしょう。
むしろ、王太子にそっち方面の経験積ませるお相手としても期待されていたのかも。

あ、コーネリアが馬乗り状態から降りた。ゴエモンの股間というか両腿の間に跪いて、腰ミノに手をかけました。

「今だけ、今だけで良いから。抱いてくれなきゃ犯す!」

と、共通語(コモン)で口走りながら、コーネリアはどうしても外れない腰ミノを外そうとしています。
バックブリーカーもどきの技とか、オーク式レスリングには腰ミノを基点(手がかり)にした制圧技があるくらいです。
オークが力一杯引っ張ってもなかなか千切れない腰ミノが、コーネリアの腕力でどうにかなる訳がありません。


彼女は自分がこの島から出られないことを理解しているのです。そして否応なしに、いえむしろ嬉々としてオークの子種を求
め孕みたがり、オークの子を産み育てることが無上の喜びになるよう調教されてしまうことを。
コーネリアは前線向けではないにしろ訓練された軍人ですから、敵地だったオーク島やオーク族についての基礎知識を持って
いて当然なのです。戦地の情報を集めない軍人なんか軍人とは呼びません。

理解しているからこそ、いくら捕虜となり雌奴隷にされてしまうにしても相手ぐらいは選びたいのです。選べるものなら。
ゴエモンになら、大好きになってしまった雄(オーク)になら犯されても良いと、いえ、一時の間だけで良いから慰み者にして
欲しいと、欲望のままに犯して欲しいと言っているのですよ。

彼女は 孕むなら好きな雄(オーク)の種で と思い詰めてます。
堕とされてしまったコーネリアはもう、ゴエモンのもの以外のち○こや子種は欲しくないのです。
だから今、ゴエモンを襲ってでもその子を孕もうとしているのですよ。


ちょっと目を離すとこれか、エロモンスターめ。
でも本人は嫌がって‥‥はないけどコーネリアを思いとどまらせようとしています。

ゴエモンだって本当は見たいし触りたいし、舐めてしゃぶって押し倒して突っ込んでしまいたいけど我慢しているのです。
コーネリアを好きだから。
出会ってからまだ丸一日も経っていませんが、それだけあればオークが人間の女に惚れ込んでしまうには充分な訳で。

はて? 押しとどめてるのが好意ゆえだというのは解りますが、好きなのに何故?
彼らオーク族は真性のエロモンスターで、おでこちゃんのような幼女ですら容赦なく孕ませてしまう生き物なのに?



話が進まないから、まずは痴話喧嘩の仲裁をしますか。

「ソーニャさん、お願いします」
「はいはい。師匠使いの荒い弟子だこと」


ええまあ、故あれば神様だって働かせる奴ですから、私は。
言い忘れてましたが、昨夜の宴会で私はソーニャさんの弟子になりました。正式にじゃなくて、不定期講習の外弟子ですけどね。






[38600] 37
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:8bf7f0f1
Date: 2014/12/18 13:28




 ☆62日め3、誰か踊れるテントウムシ呼んできてください☆


この島の政治形態は、部族社会連合の上に宗教組織が乗っかっている構造になっていて、各地の巣や集落は原始社会の論理で
動いています。
早い話が 合 議 制 です。何事も納得のいくまで話しあい、どうしても納得いかなければ殴り合いで決めます。

原始社会では族長の権限って、決して大きくはないのですよ。
ただそれでは緊急時に対応できないので、族長は緊急時対応の長(リーダー)を兼任していることが多いのです。
この巣でいえば、もし突然強いモンスターが現れたりした場合ギュー・グェスが指揮をとります。
迎撃するにしても避難するにしても、他のオーク達はその指揮に従うのです。グェスがこの巣の「戦いの長」ですから。


面白いのは、特定分野では緊急時対応の長(リーダー)が変わることがある点です。
モンスターや敵対種族の襲撃には荒事担当のリーダーが指揮をとりますが、外交的な緊急時には外交面のリーダーが指揮を取
る訳です。
もちろんその両者を兼任しているワンマン族長も多い訳ですが。

私がこの巣唯一の巫女ですので、信仰系の緊急時には私がリーダー扱いになるのですよ。
精霊が見えなくても巫女です。地球でも歌が歌えなくても世間が歌手と見なしている限りその芸人は歌手だし、芸が出来なく
ても世間が芸人と見なしている限り芸人じゃありませんか。
この巣のオーク達が巫女とみなしている限り私は巫女なのです。

なので、この巣の祭り関係は私が仕切ることになります。ええ、冠婚葬祭全部。
実際の話、神様がやってきたら応接できるの私だけですし。


何が言いたいかって? この巣で結婚式挙げるときは私が仕切らなきゃいけないんですよ、ここは昨夜からエスティア神殿に
なりましたから。他の諸々をすっとばせば、格だけで言うならミッシェル山の大神殿と同格なんです。
女神が降臨したという点では一緒なんですもの。

そして二つの神殿が組織として統合されていない以上、この神殿ただ一人の聖職者である私を差し置いて巫女頭のおねーさん
とかがこの巣の結婚式を仕切る訳にはいきません。理由があって私が出来ない場合には、代理を頼むこともできるでしょうが。

思い出せ。思い出すんだ私。前世では何度も結婚式に参列したんですから!
あれ? よく考えたら結婚式場に併設してある似非チャペルで挙げられていた、アルバイト神父の仕切るキリスト教式結婚式
の記憶しかないですよ?


それ以外の結婚式というと叔母さんの人前婚ぐらいしか記憶にありません。
役所の前に集まって「今から婚姻届出すけど、誰か文句ある人いる?」と新郎新婦が宣言するという、型破りなものでした。
参考にならねー。

これは困った。こんなことなら読んでおけば良かったブライダル業界漫画。
そういえば前世の少年期には何故か参列した記憶がありません。
二十歳頃からの記憶は耶蘇式ばかりだし、幼少期の記憶は流石に曖昧なのです。


‥‥‥‥ま、良いか。耶蘇教が結婚式の演出に関して優れているのは確かですし。
前世の記憶を元に演出するとしますか。

えーとえーと、ケーキはどうしましょう?
ミッシェル山神殿で手に入れた重曹がまだありますから、これでホットケーキ焼きますか。
時間と材料さえあればチーズケーキを試してみるのですが、今は巨大ジャム餡どら焼き蜂蜜風味ぐらいしか作れません。
どら焼きもどきでも二段に重ねて生クリームと果物で飾れば、ウェディングケーキと言い張れる代物になるでしょう。

生クリームがあるのが救いですねー。
少しずつシロップと混ぜつつ竹製の茶杓で泡立ててホイップクリームにしています。ハラキズが。

生クリームやミルクは巫女さん達に分けて貰いました。無限袋があれば冷蔵庫要らずなので、この世界でもある程度以上の立
場にある者は痛みやすい薬品や食材を持ち歩けるのですよ。
生でないと効果がない薬草とかも、無限袋に入れておけばいつでも使えます。

私も欲しいなあ、無限袋。貪り食わないやつが。
一々描写というか語ってないだけで、巣に帰り着くまでの旅路のあいだじゅう、一時間以内に袋から出して入れ直す行為を繰
り返していたのですよ。ずっと、船に乗っているときも要塞に乗り込んでからもタコ足除去作業中も延々と。
普通の無限袋がないから仕方がないけど、もううんざりです。


よし生地が焼けた。餡子挟んで冷やして、泡立てたクリームを塗って生やシロップ煮の果実を乗せれば完成です。
チョコレートがないのが悲しいけど、この島にはカカオ豆があるから将来的にはなんとかなるでしょう。
品質に高望みさえしなければ、板チョコだって作れる筈です。
ケーキができたら次は‥‥。

参列する下っ端達の身だしなみ、良し。
祭壇のお清め、良し。お香、良し。
大広間の掃除、良し。照明、良し。
女神像の飾り立て、良し。

しまった花が足りませんね、ソーニャさんちょっと適当に取ってきてください。オークたちに任せるとコーネリアの好みと食
い違う可能性がありますから。
‥‥え? どうせ花なんか見えてない? そうかもしれませんけど、こういうのは気持ちですよ気持ち、やる側の。


ちなみに今日の女神様は全裸ではありません。首に鉄の首輪が、そして手首足首に鉄の枷が付けられてます。
女神像の首に嵌められているのは私が宝物庫で蘇生したときと同じ首輪です。ごついです。
この島では女の首に首輪が填っているのはごく普通のことなので、オーク達からみれば違和感はありません。

でもコーネリアにとっては衝撃的な姿でした。すぐに納得してくれましたけどね。
彼女の目の前で訊ねてみたんですよ、女神様に直接。首輪系は装飾品として有りかどうかを。

Q3、あのー これで良いんですよね女神様?
A3、はい。私はオールクゥスの奴隷妻です。故にオールクゥスの子である全てのオークにとって隷母であり、奴隷妻であり、
娘奴隷なのです。奴隷妻はきちんと「愛の奴隷」として扱ってくださいね。さもないと拗ねちゃいますよ?
Q3、こわいからそういういいかたやめてください。あと、娘奴隷って?
A3、産まれる前からオークに愛され続けた女の子が、オーク以外の妻になると思いますか?

とまあ、ごもっともな答えが返ってきました。

ええ、例えば眼鏡の奥さんのお腹に入ったままこの島へやってきた娘さんも、そろそろ適齢期なのですよ。
その子や、その子程ではないにしても物心つく前の幼い頃からオークとその奴隷妻たちに囲まれて育った、オーク島育ちの
オーク妻もこの島には少数ですがいるのです。

そんな女達にとっては 男の人 = オーク = 恋愛対象 なのです。むしろ人間の男の方が異形に見えているでしょう。
実際、島で暮らしはじめて二ヶ月の私から見ても、海賊船や茶釜要塞の男衆は貧弱で頼りなさそうに見え‥‥。
オークと人間を比較しちゃいけませんよね、特に直接筋骨を。

眼鏡の奥さんの連れ子?のように、打ち負かされた捕虜や勝ち取られた奴隷妻ではない女は産まれた巣で育てられます。
成長して嫁入りすべき時期になれば育った巣や付き合いのある巣から求婚者を募り、その中から婿を選びます。
ただしある程度以上強い雄でないと応募できませんし、その娘本人だけでなく保護者たちを納得させないと嫁にはできません
けどね。


で、私と女神様のやりとりは「女神様に首輪!?」と驚愕&混乱していたコーネリアの脳内にも届きまして。
当然ながら彼女は「全ての女は、たとえ神であってもオークの愛奴である。その首に奴隷の証が嵌められるのは当然のこと」
という思想に染められてしまったのです。一瞬で。
その思想が現在の彼女にとって都合良いのですから、抵抗する気がありません。

この島では女神様だってオークの愛奴なのですよ。
この島の神話ではエスティア神はオールクゥス神の奴隷妻で、オールクゥス神はオークの神であり祖なのですから。
オールクゥス神だって、エスティア様たちの愛奴なんですけどね。愛の奴隷。


なんかまた女神様から圧力が掛かったような気がします。‥‥オールクゥス神像の制作を急ぐとしましょう。




さて、困った。耶蘇教の結婚式を参考にするとしても、オーク島ではあの「病めるときも健やかなるときも~」の語句が使え
ません。
あれは耶蘇教が、食うや食わずの生活が基本である文明崩壊したヒャッハー環境の地中海文明圏辺境で、流民や貧乏人が支持
した新興宗教だったからこそ出てくる言葉であって、この島では通用しないのです。
この島のオークたちって、 餓 え た こ と が な い のですよ基本的に。下っ端達ですら。
富めるときも貧しきときも、と言われてもオークには共感できません。

種族的に数日間の絶食が平気で、環境的に言ってもよほどの嵐でもない限り食べ物を探してこれますからねここは。
散歩のついでに集めただけで食べきれないぐらい手に入りますし。
下っ端達はモンスターや毒持ちの動植物や毒キノコなどの被害が怖いのであって、物理的な飢えを怖れたことなど一度もない
筈です。
精神的社会的あるいは肉欲的な渇望なら、いくらでもあるでしょうけど。

そもそもこの島では「大母様やその使い魔でもどうにもできない重病にかかる = 死」ですし。
死亡率高すぎる環境だから「死が二人を分かつまで~」とかも洒落になりません。



そろそろ二人が風呂からあがってくる時間です。何を喋るかぐらい決めておかないと。

「ルェイ、ドウシタ?」
「んー 式をどう進行したら良いのか解らなくなってきまして。なにしろ初めてですから」

悩んでいるとグェスが寄ってきました。せっかくだから相談に乗って貰いましょう。


「オレタチ、イッショ、ヨシ」

結婚式の手順で悩んでいる妻に、夫オークは自分たちと同じようにすれば良いと言っています。

‥‥ふむ。

すると式の順序は
1、女の方から求愛する
2、男が女に口付けする
3、男が女の求愛を受け入れたことと自分の子を産ませることを宣言
4、女が望まれる限り男の子どもを産むことを宣言
5、再度の口付け
6、結婚に異議があるものがいれば名乗り出る
7、異議は話し合いか殴り合いで決着させる
8、当事者が納得するなら重婚も可
ですかね?

「グヒッ」

え? 0、祭壇の前に並んで二人一緒に祈りを捧げる が抜けている?
そういえばそうかも。すると
-1、男が女を担いで祭壇の前まで来る も追加ですね。
-2、女から進んで同じ火で調理した物を食べ、同じ湯に浸かり、同じ寝床で寝る もか。

式の前段階、結納みたいなものです。
この巣では、女の方から望んで積極的に「寝るのも一緒、お風呂も一緒」して、愛情込めて作った手料理を分け合って食べな
いと求婚できないことにしてしまいましょう。うん。

女神様からも「飯、風呂、寝る」を望んで進んで嬉々として一緒にやっているなら、それはもう夫婦だろうと断言されてます。
なので、ゴエモンのところに嫁入りしたがっているコーネリアには一通りやって貰っています。
つまりコーネリアには、手料理作ってゴエモンに食べさせ、同じ寝床で添い寝させ、同じ風呂に入らせてます。
現在その第三段階です。

彼女、意外と料理ができます。私も一切れ分けて貰いましたけど美味しいオムレツでした。
これも妃殿下に仕込んで貰ったのだそうです。どうもコーネリアは、数人いた公私両面での側近候補だったようですね。
世が世なら、今頃王太子やその子どもたちの食生活管理をしているでしょう。
妃は無理でも愛妾にはなれたんですよ、彼女。飼い主を変えることさえできていたら。
王太子が欲しいのは「自分の忠犬」であって亡き母の忠犬ではありません。故にコーネリアは辺境で燻っていたのです。


しかし遅いですね二人とも。ちょっと様子を見てきますか。




 ☆62日め4、生木を裂く趣味はないのです☆


案の定、バカップルは時間も忘れていちゃつき倒してました。
具体的に言うと、風呂場の砂地にあぐらをかいて座ったゴエモンの前にコーネリアが膝立ちで跪き、両手と口を使って屹立し
たモノを慰めています。というか夢中ですね、犬がミルク皿を舐めるように音を立ててしゃぶり立ててます。
形も大きさも人間のそれとは全く違う肉のお宝を25歳の女軍人が、感謝の想いをこめてご奉仕愛撫しています。

「いつでも出してくだしゃいね、ゴエモンしゃまのち○ぽみるく、だいしゅきです‥‥」
「ネリーの口、気持ちいい、でも、次は腹に注ぎたい」

私の肘から先ぐらいはあるオークの生殖器に頬ずりして、甘え声でおねだりしていたコーネリアは黒のコルセットとガーター
とストッキング、あとは長い髪をまとめたリボンしか身に付けていません。

「はい! ゴエモンしゃまの初めての女になれて‥‥光栄です」
「違うし。ゴエモンそういう意味で言ってないし。というか式まで子作りは禁止って言いましたよね? 私は」

目を輝かせながら、夫となるオークを見上げるコーネリアの傍まで寄って、その肩を ぽん と叩きます。

「え? レイ?」
「ええ、レイちゃんですよ」 

膝立ちのまま私の顔を見上げているコーネリアの腕をとって、立たせます。
ゴエモンの母代わりということで、彼女と私は既にパーソナル・ネームで呼び合う仲だったりします。

「‥‥何か、あったの?」
「はいはい、挙式の時間だから服を着てね二人とも」

どうやら本気で時間や約束を忘れていて、肩を叩くまで私が傍にいることにも気づいてなかったようですこの女(ひと)。
エロモンスターといちゃいちゃするとこうなるのかー これは怖い。
この人、24時間前まではオーク族を良くて蛮族普通で害獣とみなしていた筈なのですが、いまでは人生丸ごと捧げてしまう
勢いで惚れ込んでいます。種族そのものよりゴエモン個人の方に比重が大きいですけど。


コーネリアと違って、ゴエモンは全裸ですが腰ミノを付けるだけなので着替えの手間は要りません。
なので二人で、まだ脳味噌がピンク色に染まったままのコーネリアを着替えさせます。

彼女が着ている下着類は、資材置き場の衣装箱に入っていたものの一つです。これは魔法の品(アイテム)であり、使用者に合わ
せてサイズが変わる他、自動修復や自動洗浄の能力を持っています。
あと、魅力を幾らか上げるのと虫の被害を防ぐ能力(アビリティ)付きですが、私は使用条件が合わないので使えません。
具体的に言うとこの黒い三点セットは使用者のBWHスリーサイズのうち、WがBとHの8割以内でないと使えないのです。

つまり仮にH80の人が使うとしたら、その人のWが64センチ以内に収まらないと使えません。
幸いコーネリアはかなり余裕があります。
何のための制限なのでしょうかこれは? 少なくとも妊婦さん好きや貧乳教徒ではないですね、これの制作者は。



さて。私は駆け出しですが、侍僧(アコライト)なので信仰呪文が使えます。
なので会話する意思のある知的生物となら「知識の通路」を繋いでやりとりができるのです。
やってみたら、他人と他人の間にも「知識の通路」を繋ぐことができました。

いやほら、互いにろくに言葉が通じない状態で痴話喧嘩されるともう、まどろっこしくて堪らないでしょう?
なので、呪文で二人の意思の疎通ができるよう繋いでみたのです。
ソーニャさんが引き剥がした二人に事情を聞こうとしたのですが、二人とも何言ってるのか解らないので呪文に頼りました。
痴話喧嘩なんて只でもややこしいのに、よく聞き取れもしない言語でまくし立てられては堪りません。


「ネリー、可愛い。急いでほしい、式、挙げる。俺、いますぐ、種付けしてしまいたい、堪らない」

そういう訳で現在のゴエモンは私とコーネリア限定ですが、そこそこ流暢に会話できるのです。
口に出しているのはオーク語なので、二人の会話を漏れ聞いているオーク達はゴエモンが何を言っているのかは解りますが、
コーネリアの喋っているオルロフ訛りの西方語は口調や雰囲気やゴエモンの反応などから内容を推察するしかありません。
巫女頭のように両方話せる人は全部解りますけどね。


「ゴエモンしゃまに抱いて貰えるなら、今すぐここででも」
「だめ、式、あげてから」

花嫁の衣装はウェディング・ドレスではなく、濃緑色で金モールや略式勲章の付いた軍服です。開襟式でタイトスカートの。
腰ミノ一つの花婿は、凛々しく軍服を着込み唇にだけ軽く紅をさした捕虜女将校をその腕でお姫様のようにだき抱えました。
西方風の化粧はゴエモンの好みではないからですが、その代わりにコーネリアの肌は温泉と巫女さん達が分けてくれた秘薬
と恋する女の神秘の相乗効果で、化粧したときより綺麗になっています。

抱えられたコーネリアは少女のような笑みを浮かべ、ゴエモンの太ましい首に両手を回しました。

「ゴエモンしゃま‥‥」
「‥‥ネリー」

今や完全に相思相愛となっている二人は、互いの顔を至近距離で熱っぽく見つめ合っています。

「はいはい、そういうのは後でね」

放っておくといつまでもやっているので、押し出すようにしてバカップルを風呂場から大広間へ向かわせます。
いいかげんうざったくなってきましたけど、私と夫達も他の人達から見たら同類なんでしょうねえ。

この二人に「挙式まで下半身と下半身の接触は禁止、それ以外はなにしても良いから」と納得させていたのですが、コーネリ
アはあっさり忘れていました。
彼女的にはそれで挙式前に孕んでしまっても良いのでしょうけど、彼女以外はそうもいかないのです。


なお、一番呼びやすいという理由でゴエモンはコーネリアを「ネリー」という愛称で呼んでいます。
地球の欧州圏もでしたが、異文化における愛称の法則とは解りづらいものです。ウィリアム → ビル とかね。
ウィリアム(William)の何処に B が入ってるのよ。もう訳わからない。
まあ、猪養令治を レジーノ・カイ にしてしまう連中ですし。気にしても仕方ありません。

一方コーネリアは「ゴエモン」がヒルデニア風の名前だと知って、ヒルデニア語の敬称である「様」付けで呼んでます。
西方語のなまりがあるので「しゃま」にしか聞こえませんけどね。


ああいう形の痴話喧嘩は珍しいですが、コーネリアがゴエモンに迫っていたのは割と良くあることです。オーク島的には。
軍人としての自負とか文明人の誇りとかを粉微塵に砕かれてしまった捕虜の女将校が、たった一つ残された拠り所として自分
の肉体的魅力に、容姿や若さや母胎としての能力にすがってしまいオークに媚びを売りはじめるというのは珍しくないのです。
ストックホルム症候群の一種ですね。
恐怖や不安からの逃避として、加害者(になり得る者)との肉体的・精神的な繋がりを得ようとするのです。

コーネリアとゴエモンの場合は逆です。庇護者・保護者となりうるというか、なった者との繋がりを求めていた訳です。
オーク族の持つ基本能力「人間の子供を懐かせ安心させる謎オーラ」をくらってしまったコーネリアは、愛情たっぷりに育っ
た幼児が父親を慕い信ずるようにゴエモンを信じ縋るようになってしまいました。
かなり精神的に退行してましたからねえ、昨夜の彼女は。

更にエロモンスター能力で、「オークに魅力を感じてしまう」身体にされた上に、媚薬的な効果を持つフェロモンで欲情させ
られてしまったから効果は三乗倍。コーネリアは大概の捕虜女将校よりも深いところまで、急速に堕ちてしまったのです。

弱くて愚かで、浅ましい下劣な生き物である自分が強く優しく誇り高いオークたちに望まれ、可愛がって貰える。
望めばいくらでもオークの子種を腹に注いで貰えてオークの子供を孕めるんだと考えただけで、エロモンスターの捕虜となり
何時間も何日もオークのフェロモンとオーラを浴び続けた女将校や女下士官兵の胸は高鳴り、目は潤んでしまうのですよ。
知識や経験のない小娘でもそうなりますが、成熟した大人の女だと特に効果が大きいのです。

余程の緊急時以外、この島のオークは捕虜の女将兵や女冒険者を強姦したりなんかしません。
短ければほんの数時間、長くても数日間、オークの膝にでも乗せて優しくしてあげれば、捕虜の方から服を脱ぎ股を開いて雄
を誘ってしまうのですから。
ときには捕虜が奥手のオークを襲ってしまうこともあります。

プラトニック路線のゴエモンとコーネリアでも一晩で堕ちるのですから、オーク側から率直に欲望を突き付けられ続けたら、
いつまでも抵抗できません。自分の欲望と快楽に勝てる人間なんて滅多にいませんからね。
そしてエロモンスターと粘膜の直接接触や体液の交換を一度やってしまえば、捕虜はもう逃げようとも思いません。
自ら望んで首輪や鎖を身に付け、オークたちに自分を飼ってくださいと哀願するようになるのです。

それがエロモンスターに捕らわれるということなのです。
素手素肌呪文なしの人間が虎や獅子に勝てない以上に、人間の女はオークには勝てません。
即堕ち二コマ劇場の実現もできますが、この島のオーク達はじっくりと攻略する方を好みます。薄い本でいえば40ページ分
はかけて。
その方が彼らとしては楽しいのですよ。


で、据え膳どころか料理の方から口の中に飛び込みたがっているような状況、しかもコーネリアにベタ惚れのゴエモンがなぜ
拒否していたか言えば、ゴエモン的に譲れないものがあった訳で。

教養豊かではありませんし、下っ端オークの平均と比べても判断力があるとか冷静だとかとはとても言えないゴエモンですが、
お馬鹿ではあっても素の馬鹿ではありません。
昨夜のコーネリアと女神様との問答も、本人なりに理解しておりました。

ゴエモンは、コーネリアが
・母を亡くしたこと
・その母を復活させようとして失敗したこと
・母そっくりの像を手に入れようとして失敗したこと
・女神様に「母ではなくその庇護が恋しいだけでしょ」と指摘されたこと
を理解していたのです。その哀しみも含めて。

彼も幼くして母親を亡くした身ですからね。幼少期に生母を、少女期に母と慕った主君を亡くしてしまったコーネリアに、
共感するものがあったのでしょう。
だからゴエモンは、自分が母親と死に別れた夜に巫女さんが一晩中抱きかかえ慰めてくれたことを思い出して、泣きじゃくっ
ているコーネリアを抱きかかえて慰めていたのです。過去の自分がそうされたように。

そしてゴエモンはゴエモンなりに考えたのです。女神様が言った「探すべきコーネリアの幸せ」とは何だろう? と。
出した結論は「コーネリアが母となり子を育てることで自分のなかに母の面影を見いだし、自己と面影を融合統一すること」
でした。もちろん、本人の頭の中ではここまで言葉として纏まったものではありませんでしたが。

母に会えないのなら自分自身が母になれば良い。
その結論ならコーネリアとの合体や何やらを拒否する必要はなさそうに聞こえます。
事実コーネリアに「貴男の子供が欲しい、他の男(オーク)じゃ嫌」と言われたゴエモンなのですが‥‥。

ゴエモンが言うには、コーネリアが産むべき子供は人間の女の子でないといけないのです。
本人と今は亡き母が人間(ヒュー)族であるからには、産まれる子供が人間の女の子でないとコーネリアとの同一視ができない。
当然ながら、亡き母の面影を自分のなかに見出すこともできない、と。

だからコーネリアは人間の子供を産むべきだとゴエモンは言うわけです。
問題はどうやって産むかなのですが、コーネリアがこの島を出て行き、好きになれる男を見つけてというのは難しすぎます。
彼女は白兵戦に向いていませんから、闘技場で勝ち進むのは無理でしょう。
茶釜要塞が健在ならまだしも、屑鉄となった今では交渉材料にもなりません。
ゴエモンなりに考えましたが、出た結論は「自分では思いつかない」でした。


で、頼られるのが私と。

‥‥あのねゴエモン。
他に頼れる相手がいないのは理解できますけど、1レベルアコライトの私に何ができると思っているんですか。
私は青いタヌキ型ロボットじゃないんですよ?
できますしやりますけどね、今回だけですが。


てけててーん、生命の粘土~♪

朝の家族会議で「生命の粘土」は私が好きに使うことになっています。
オーク達から見るとあれは超危険物質であって、専門家以外が触れて良いものではないのです。
実際の話、「生命の粘土」は使い道をはっきり決めずに使うとミュータントどころか物体エック○になりかねません。

逆に言うと使い道をはっきり決めてさえおけば、例えば人間の女がオークの子種を使って人間の赤ちゃんを産むことぐらい簡
単なのですよ。
これでゴエモンに抱かれたい、ゴエモンの子が欲しいコーネリアとコーネリアが母となることで母と再会することを望むゴエ
モンの双方が納得いく解決策になった訳です。
しかもこれでもまだ「生命の粘土」は半分残っているという、このお得感。神話級の希少度は伊達じゃありません。


そんな訳で、この二人は結婚します。式場はこの洞窟で、司祭役は私で。
二人の間に「知識の通路」を繋いでみたのですが、互いの心を覗いた結果、改めて惚れ直してしまったのですよ。双方が。
ここまで仲が進展してしまったからには、くっつけるしかありません。

だって、ただでさえ精神的衝撃で自我の殻がもろくなってる所に優しくされて愛着が湧いていたコーネリアが、知識の通路を
通して「幸せになってほしい、たとえその傍に立つのが自分ではないとしても」というオーク的真心をぶつけられたら、恋に
落ちても仕方ないじゃありませんか。

元からというかその時点でゴエモンに惚れ込んでいたコーネリアでしたが、これで完全に堕ちました。社会復帰不可能です。
この島のオーク嫁や、おでこちゃんたちと同じように人間世界への未練が綺麗さっぱりなくなっています。
彼女は改めて惚れ直しましたし、私もぐっときましたよ。
ゴエモン、この一日で随分と漢を上げましたね。
前世の知人に「男を変えるのは女と我が子だ」と言っていた人がいましたが、本当かもしれません。


幸いにも大義名分というか、こじつけられる理由もあることですし‥‥と考えていたのですが。


あっさり通りました。

というか巫女頭のおねーさんとかは、コーネリアはゴエモンに嫁入りするものと確信していました。
まあこの島というかミッシェル山の大神殿は宗教政府ですからね、神様の意向には逆らいません。特に巫女なら。

だってほら、女神様は昨夜降臨したときに 婚 儀 の 宴 に 集 い し って言っていましたよね。
更にコーネリアに対して直々に 幸 せ を 探 し な さ い とも。

オーク島の巫女としては、コーネリアが「オークに嫁入りして子供産みたい」と望むのは当然なのです。
それが彼女達にとって当然な、女が求めるべき幸せなのですから。

あのとき、祝福の笑みを受けたときに大広間にいた独身女性はコーネリアとソーニャさんだけですからねえ。
巫女さんたちは神の妻だし、おでこちゃんたちは後家さんであって夫達と離縁した訳ではないし。

船長に「船に残っている者 にも 漏れなく祝福を与えています」と女神様が言ったからには、船の方はおまけと考えるべき。
神が「嫁が来る」という祝福を授けた以上は、誰かに嫁が必ず絶対に来なくてはいけません。
というか何をやっても嫁が来ちゃうんですよ、私の巣に女神像の下半身が来ちゃったように。相手は神様ですから。

つまり二人の仲はエスティア様が認めている訳です。
そういう方向性でこじつけようと思っていたのですが、こじつけるまでもなく既に認められていました。
むしろコーネリアが「嫁にならない」とか言い出したら、その方が巫女さんたちは驚くでしょう。
誰がどう見てもラブラブのバカップルですからねえ、二人は。




 ☆62日め5、華と燭と☆


さて、時刻はそろそろお昼前です。式を始めるとしましょう。
さっき決めた式の段取りは二人にも「知識の通路」を使って伝えています。
この二人かれこれ3時間は思考的に繋がりっぱなしなのに、疲れたそぶりも見せません。愛の、というか色恋の力って凄い。

私がヘビ人と繋いだときは死ぬほど疲れたのですが、ただ話すだけでも相手が人肉食いの知能犯連続殺人鬼大学教授の場合と
熱愛中な恋人の場合では精神的負担が違って当然です。
まして私と爬虫人類との精神構造の差は、一般人と殺人鬼の差よりも大きいのですから。


風呂あがりでお肌つやつやの花嫁が、花婿にお姫様だっこで神像前に運ばれてくると参列者たちがどよめきます。
彼らの感覚、特に嗅覚はするどいですからね。
視力だって近視なだけなので数メートルの距離まで近づけば、はっきり目で解るのですよ。

コーネリアが本心からゴエモンを敬い崇めていることが、ゴエモンに忠誠を捧げ生涯尽くすと決意していることがわかるのです。
二人が愛と欲望で結ばれている限り、コーネリアはゴエモンの妻であり雌奴隷であり愛玩動物です。
オークたちは人間から見れば超感覚的な嗅覚や聴覚で、人間の心理状態や生理反応を把握できるのです。

特に女について理解が深い。
このあと直ぐに、花嫁のお腹に愛の結晶が宿ることが彼らには解るのですよ。
エロモンスターが発情した人間の雌を見逃す訳がなく、ここまで堕ちきった女の腹が膨らまない訳がない。


自分たちの婚儀や夫達のことを思い出しているのでしょうか、おでこちゃんたちが二人を見て泣いています。
助手格の巫女さん達がそれぞれ一人ずつ寄り添って「貴女は一人じゃない、私たちがいる」と慰めてますね。

独身男どもが「なんて良い嫁なんだ、羨ましすぎる」という意味のことを口々に言っています。そうでしょうそうでしょう、
私が男なら迷わず嫁にしてますよコーネリアは。
こんな良い女を放置しているところを見ると、王太子は同性愛者か幼児性愛者かそれとも慮外のマザコン?

当然、「奴にはもったいない」という嫉妬ややっかみがゴエモンへと向かう‥‥かと思いきやそうでもありません。
ゴエモンがコーネリアを落としたキメ台詞のくだりは、もうみんな知ってますからね。
オークの耳は鋭いですから、二人の痴話喧嘩とその後のいちゃいちゃっぷりは洞窟中に知れ渡っています。

例えばモッサリとかは「アレ、オレ、イエナイ。ミコ、タダシイ」と、ゴエモンをお世話係にした私の判断をちょっと恨んで
いたというか「俺だってできるのに」と不満に感じていたことをうち明けてくれました。 
彼は「自分は女の幸せを考えてやれなかった、嫁が来なくて当然だ」と落ち込んでいましたが、それは考え違いです。
なので「良縁はきっと来る、女神様を信じなさい」と励ましておきました。

いえ、気休めじゃなくて本当に加護が付いてるんですよモッサリにも。アコライトとして保証します。
一年か一年半以内に彼にもお嫁さんが来ます。しかもかなりの良縁が。
ただ、それまで生きのこれるかどうかが問題です。下っ端は死にやすいですから。
なんであのとき、ついでに「無病息災無事これ名馬」を願わなかったんでしょうかね、私は? 
毎度の事ながら考えが足りなさすぎる。

更に言うと、もしも人工呼吸したのがモッサリだったならお世話係になったのもモッサリだったでしょうし、そうなったのな
らモッサリはコーネリアを好きになっていたでしょう。
本当の意味で好きになってしまった女の子に、どこまでも優しくしてしまうのがオーク族なのです。
この島のオークはみんなそうです。この巣のオーク達は特にそうです。私はそう信じています。
だからモッサリも、コーネリアの幸せを願っただろうことは間違いありません。思い至る結論は違うかもしれませんけど。


さて、今回の参列者達ですが‥‥。
女神様お声掛かりの婚儀なので、巫女さんたちは全員出席しています。その護衛であるお義兄さんたちとソーニャさんも。
オーガー村ご一行様も出席しています。
でも海賊達はいません。セルキーたちも。
両者はただいま船に乗ってあるいは泳いで、セルキー族の村(巣?)に向かっています。もう着いた頃かもしれません。

協議の結果、婿入りした12名の捕虜は、婿入りしなかった捕虜達にとっては「戦闘中行方不明」扱いになりました。
セルキーたちにとっては「保護した漂流者」扱いで婿入り決定です。
ついでに茶釜戦艦を喪失した理由は「巨大タコに襲撃された衝撃で、魔法陣に捕らわれていた魔神が逃げて暴れだした」こと
になりました。コーネリアはその際に殉職したことになります。

‥‥‥‥腐ってるなー オルロフ海軍辺境艦隊。僻地に冷や飯食いが吹き溜まっているんだから無理もないけど。
コーネリアを慕っていた連中も、彼女が「この島の住人は私を買い上げるそうだ、私には使いようがないから貴様らにやろう」
と、袋いっぱいの財宝を渡すと納得してしまいました。

彼らにだって故郷や家族や生活があるんです。そして「良い上官」だったコーネリア本人から、後始末を頼まれては断る訳に
もいきません。
彼らの証言一つで、累はソルボイリィ家などコーネリアの身内にも及ぶのですから。

あの茶釜砲艦、人件費や維持費を計算に入れると一隻で1千万ゴールド近くになるんだそうです。
米軍で言えば駆逐艦が一隻沈んだようなものです。コーネリアの責任にされたら良くて軍法会議ものですよ。
なので、生き残りが口裏をあわせてしまうのが一番なのです。

流石に基地司令だけは共犯として引き込んでおかないと、と言うことでコーネリアの渡した財宝のうち殆どは基地司令の懐に
入ります。
その代わりに、帰還する捕虜達の身柄を守って貰うのです。コーネリアによれば基地司令は話の分かる人物らしいのでなんと
かなるでしょう。ならなかったらなんとかすれば良い訳ですし。

コーネリアの見立てでざっと250万ゴールドの財貨を手放しましたが、彼女の価値からいえばむしろお買い得です。
奴隷市の競りで倍額出してもコーネリアは、この心に曇り一つなく幸せいっぱい状態のコーネリアは手に入りませんからね。
金貨や宝石で彼女の心残りがなくなるのなら安いものです。


まあ、身も蓋もないこと言っちゃうと、人類文明圏に社会復帰する気がないコーネリア本人にとって元部下達や実家のことは
割とどうでも良くなってます。むしろ私の方が気にしていたり。
だって、コーネリアは信用度抜群の情報源でありコネ元ですよ? うまくいけば西方との交易だってできるかもしれません。
そのコネを生かしておくことは、決して無駄にならない筈です。

西方文明は私の敵ですが、敵と交易してはならないという法はありません。
特にオルロフ王国は西方では新興の非主流派、ただしそれでも西方文明圏で四本の指に入る海軍と二本の指に入る陸軍を持つ
大国です。主流派と噛み合わせるにはもってこいの勢力じゃありませんか。
トカゲ帝国と違って、西方文明圏は一枚岩ではありませんからね。


式は粛々と進んでいきます。
今は祭壇の前に二人並んで祈りを捧げているところですが、よく考えたらこの「二人並んで祈る」ということ自体が、恋人と
いうか交際宣言みたいなものですよねえオーク文化的には。
地球でも「年頃の男女が二人だけで初詣にいく」というのはデートと受け取られても仕方ありませんし。


「愛は焚き火のようなものです。身と心を温め、闇の中で希望の光となり、ときに武器となりときに山を焼き尽くし、薪を絶
やせば燃え尽き、近づき過ぎれば火傷をします。
焚き火の炎を侮ってはならないように、夫婦の愛を侮ってはなりません、怖れてはなりません。それは知恵と真心をもって‥‥」

適当極まりない、さっき1分で考えた説教ですが良いんですよこんなので。地球の結婚式と同じで、どうせ内容なんて誰も気に
しちゃいないのですから。


異議申し立てをする者もなく、式は速やかに進行してロザリータの娘コーネリアとオールクゥスの息子ゴエモンは結ばれました。
いまはゴエモンがコーネリアに首輪を嵌めています。
財産らしい財産もない下っ端オークが贈った首輪は、茶釜要塞からむしり取った防錆加工済みの棒状鋼材を曲げて作った‥‥
というか今作ってる最中ですね。ゴエモンがコーネリアの首にあてがった棒材を曲げてます。

程なくでき上がった首輪はつや消しメタルブラックの素朴なものですが、コーネリアにとってはこれが良いようです。
夫の手作りですし、彼女のために作られたこの世でたった一つの首輪ですからね。


さて、9の花婿から花嫁に首輪の贈呈が終われば、10のケーキ切り分けですね。
コーネリアの故郷ソルボ島では結婚式で新郎新婦が参列者にパンを切り分けるしきたりがあるので、違和感はないようです。
大きめに焼いた甲斐があって、ケーキは参列者全員に一口分ずつ行き渡りました。
ちなみに切り分けたのは例のクックリ刀です。夫婦で手を添えてサクサク切り分けていました。

さて、11いきますか。親か親代わりから新郎新婦への贈り物です。

祭壇に、半分に千切った「生命の粘土」をお供えしまして‥‥。
女神様にお願いします。


一瞬祭壇が光って、お供えの透明物体が消えたかと思うとまた現れました。
供物に捧げた生命の粘土を、恩寵のアイテムとして女神様から賜ったのですよ。

【生命の粘土・改】
・それはとても貴重な品だ
・それはとても強い神力を帯びている
・それは第一の物質(プレーン・マテリアル)でできている
・それはソルボのコーネリア専用だ
・それは膣奥に挿入されることで、定められた変異をひきおこす

ちなみに定められた変異とは 「奇跡 輪廻転生」「加護 産み分け」「加護 子沢山」がセットになってます。
人間やオークにとって使うのが難しいのなら、使いやすくして貰えば良いのですよ神様に。
女神様お声掛かりのカップルだけはあって、頼めば直ぐに調整と強化をしてくれました。さすがは女神様太っ腹。

もったいない? いやいや名付け親として、結婚する息子とその嫁に贈るなら充分な理由と価値がありますとも。
トログロダイト騒動で思い知りました。人間いつ死ぬか分かりません。
だからアイテムは死蔵するよりとっとと使っておくべきなのです。特にこの手の強化系アイテムは。
ゲーム世界と違ってリセットボタンは押せませんからね、窮地に陥ってからでは遅すぎる。


そんな訳で、凛々しい軍服姿の花嫁はタイトスカートの布地が裂けるまで股間を拡げたはしたない姿で貫かれました。
もちろん貫いたのはドリルのようなイノシシハーフのオークちん○で、その先端には「生命の粘土・改」がついています。

オークのアレって、豪快に変形するんですよ。形だけじゃなくて大きさも相当にそれも本人の意思で。
容積でいえば半分以下、闘気法を応用すれば更にその半分以下まで縮みます。
つまり幹部オークなら自分のち○こを人間のソレと大差ない大きさにできるわけで。なるほど、金髪ちゃんやおでこちゃんの
身体を壊さずに致せる筈です。

ゴエモンは下っ端なので、コーネリアにとっては大きすぎる気がしますがなんとかなりました。
痛いけどそれがまた幸せだそうです。

そして何の問題もなく、生命の粘土はコーネリアの下腹部に溶けて染み込みました。
これで彼女はオークの子種で人間の女の子を産めるようになったのです。

で、二人はそのまま子作りおっぱじめまして。
大広間で衆人環視のなか、螺旋で先が細くて肉イボだらけのイノシシ系オークち○こが花嫁の腰を突きまくってます。
うん、こーなることは読めてましたけどね。

この二人は遅くとも明日の正午には別れねばなりません。この島では、精々星2ぐらいの下っ端オークが人間の奴隷妻を持つ
ことはできないのです。
ゴエモンがコーネリアを妻として迎えるには、最低でも星4~5できれば6ぐらいまで強くならなくてはなりません。
女神様に許された夫婦だからこそ、この島の流儀に添って生きねばならないのです。

だからコーネリアは明日の昼、セルキー集落から帰ってきた海賊船に乗ってミッシェル山大神殿に向かいます。
だからゴエモンは、コーネリアが彼の子を産むまでの間に己を鍛え上げ、人間嫁を娶って誰からも文句かこなくなるようにし
なくてはなりません。
だから明日の昼までの丸一日、二人は愛を確かめあうのです。離れなくてはならないその直前まで。


それにしても二人ともすっごく気持ちよさそうというか、あれ、入った瞬間に達してましたよね。
なるほどなー こうして「大勢に見られながら交わる = 快感」と刷り込まれるのかー。露出趣味者が多いわけだ。
あ、そういやゴエモン童貞卒業おめでとう。
もう夢中で求めあっていますが、式であと残っているのは12番の 花束投げ だけですから問題ありません。

参列者のうち次に結婚すべき女(ひと)、独身者はソーニャさんだけです。つまりソーニャさんに花束が渡りさえすれば、それ
を既婚者の誰が渡したって構わないのです。
でもまだ渡しません。私も式(イベント)を挙げてからにしたいですし。



「ネリー! ネリー!」
「ゴエモンしゃまぁ‥‥」

大広間の床にだっこするような背面坐位で座り下半身つながったまま、口付けを繰り返している新婚さん。ああ羨ましい。
でも良いのです。私だってすぐああなるのですから。

すぐ、だと思うんですけど。遅くとも日が暮れるまでにはなんとか。


いえね、今回の「囚われの女将校逆レイプ~豚嫁志願孕み隊~」的な騒動で二つのことを思い知りまして。
まず一つ。オークのち○こって、戦略兵器です。
いえオークフェロモンとかオーク子種とか変態紳士精神とかと組み合わさって戦略兵器になるのですけど。

前に腰回りの構造が人類より100万年は進化しているといいましたけど、股間も間違いなくそのくらいは進化しています。
進化の度合いが、生殖器としての性能が違いすぎる。
物理的威力に変換して喩えるなら、人間のそれが割り箸とかホットドッグの棒だとしたらオークのは岩盤掘削用の電動ドリル。

どんな無垢な令嬢も清楚な聖女も貞淑な未亡人も、オークに抱かれたら一発で堕ちてしまいます。「岩のように堅固」な貞操
であっても、ドリルなみの破壊力にはかないません。時間の問題でしかないのです。
もうゴリゴリ削られちゃって、砕け散るしかないんですよ。
オーク達が変態紳士なのは、この圧倒的すぎるエロ力故です。威力が有りすぎてかえって使いづらいのです。

二つ目は、オーク達は悪い意味でも変態紳士なんです。
下っ端のなかでも粗忽というか軽はずみなゴエモンでも、その時になったら見事に変態紳士として振る舞いました。
と、いうことはですよ?
紛れもない変態紳士である私の夫達は、妻の方から、私の方からコーネリアなみかそれ以上の熱意で口説かないと何もしてく
れないってことではありませんか?

それこそ自分から大股開いて、割れ目を「くぱぁ」して、「旦那様のち○こねじ込んでください」っておねだりしない限りは。

だから、しました。

自分からメイド風スカートの裾をまくり上げて、そのまま手縫いぱんつ脱いで、大股びらきでエロゲ調の恥ずかしいおねだり
をしました。
「ギュー・グェス。レイのここを見て、触って、舐めて、ち○こを奥まで入れてかきまわして、種付けしてください。レイの
おなかにギュー・グェスの赤ちゃんを宿らさせてください」と。


で、まあ、結論から言うとこの日、私はグェスの子を孕みました。
いえ、卵子と精子が実際に結合したのはもう少し後のことですが。


予想通り、さんざん焦らされましたけどね。
普段はあんなに優しいのにベッドの上では意地悪するんですよグェスって。でも許す。
私はグェスの女なのですから。

彼の庇護を受ける娘であり彼と共に人生を歩む妻であり、同時に彼が再会する母なのですよ。
女の胸に吸い付いてる男は、みんなその女の子供なのです。母性を求めているのですから。
元男の私だからこそ、そう断言します。





極楽浄土のご両親さま。
相変わらずお馬鹿な私ですが、今日も元気に南の島で暮らしてます。多分明日も。

これからもどうか見守ってください。
ご両親様の次の転生が決まるまでの間だけで構いませんから。

たぶんその前に家族がまた増えていると思います。だから寂しくならないでしょう。
半年後にはギュー・グェスの子供が産まれますし、一年後には次の子を孕んでいる筈ですから。


まあ全てはこの楽園からも地獄からも程遠い、南の島でこの先生きのこれたらの話ですけどね。







 ~詰んでる転生記~  第一部完。



 南海魔王編に続く?
 






[38600] 構想ノートの切れ端 その2
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:8bf7f0f1
Date: 2014/04/18 14:43



構想ノートの切れ端 その2



作者はSS書きの端くれであり、SS書きの例に漏れず妄想を形にまとめ文章化し物語とすること自体に喜びを感じる存在です。
しかしネットの啓示場に投稿できた物語を妄想の沼から這いだして来れたカエルだとすれば、その数十倍数百倍に及ぶ物語の卵 
や幼生が沼地の水中でひっそりと消えていくものなのです。
以下はそんな生き物たちの中から、オタマジャクシ程度にまでは成長したものの沼の外には出られなかった連中を晒してみます。



【嗚呼、魔王様(仮題)】

・あらすじ
平凡な高校生、工藤真生(くどうまお)は、気がかりな夢から覚めてみると、自分が角と尻尾と翼の生えた異形の怪物となって
いて、石造りの玉座に座り、黒いローブ姿の小人幼女達に拝まれていることに気付いた。
そして足下にはミイラみたいな小人老婆の死体が転がっている。
魔女見習いである幼女たちの話では、真生は彼女達の師匠が召喚した魔王であり、魔族に栄光と繁栄をもたらしてくれる救済
者なのだそうだ。
とりあえず、真生は詳しい話を聞くために小人老婆の死骸に蘇生呪文をかけるが、老婆の生命力が低すぎて復活しない。
真生が魔王というのは本当らしく、真生は数多くの呪文を知っているし使えるのだ。
呪文のうち一つを使い老婆の霊と会話した真生は、アンデッド創造の呪文で老婆をリッチーとして復活させるのだった。
かくしてアンデッド老婆とその弟子達に魔王苦導(クドー)として認定された真生は、訳の分からぬまま魔王として生活し始め
るのだが‥‥。


・問題点
何話分か続きを妄想してみたが、話が全く動かない。主人公に強烈な個性というか、価値判断の明確な基準がないため対応者と
して場当たり的な行動を繰り返すしかなく、物語がちっとも盛り上がらないのでボツ。

・コメント
物語は何よりもキャラクターであり、キャラが立っていればあとは何とでもなるということを再確認したネタ。キャラが立って
りゃ飯食っているだけでも話が盛り上がるんですよSSなんてものは(きっぱり)。




【やる夫が異世界で冒険を始めるようです(仮題)】

・あらすじ
大卒フリーター入速出やる夫は、ガールフレンドの長門有希が作った体感型RPGのテストプレイを行うことになる。
規格外の暢気者である彼は深い考えもなく、着の身着のままに百枚の金貨が入った財布だけを持ち、冒険の舞台となるルミナリ
ア大陸に降り立った。
この世界自体は現実であり、この世界ではやる夫の方が造られた肉体に宿った顕現(アバター)なのだ。
やる夫がこの世界から離れるのはこの世界の中で死ぬか、リタイアを宣言したときのみ。そしてリタイアすれば再びこの世界に
降り立つ資格を失ってしまう。
特に考えもなく、観光気分でファンタジー風世界の辺境小都市を散策したやる夫は冒険者向けの宿に入り昼食を取ろうとする。
だがしかし、その街では一般的な昼食の値段が80~150ゴールドであると知り驚愕するのだった。
いきなりのハードモード発覚に動揺するやる夫だが、数分で気力を取り戻し石器や木槍で武装しようと野外に向かう。しかし
彼が市外へ移動する前に警報が響き渡る。やる夫視点では何の前触れもなく、モンスターの群が街を襲撃したのだ。
モンスターから逃げ惑う町人達、迎撃に出てあっさり返り討ちにされる新米冒険者。
訳も分からず逃げ回る最中に、親とはぐれ泣いている子供とその前に現れたバグベアーを見てしまったやる夫は‥‥。
カネなしコネなし技能なし、ないない尽くしのやる夫は異世界で何ができるのか?


・問題点
やる夫スレを見ていて自分もやりたくなり、試作してみたがAA改変・改造能力がないとまともなAA劇場は作れないことが分
かったのでボツ。

・コメント
AA劇場制作は断念したものの、TRPG風世界を舞台に生活系冒険ものを書いてみたいと改めて思うようになった。
しかしヒロイン不在に加えて全く潤いに欠けるパーティ編制(やる夫・ちゅるや・できる夫・でっていう)となるので、このまま
SS化することは多分ない。
ヒロイン不在の理由は、この話のやる夫は長門一筋だが設定上ゲーム世界には長門がいないから。




【ひみつのお仕事(仮題)】

・あらすじ
就職氷河期に贅沢は言えぬ、と見るからにブラックそうな企業の求人広告に応じた主人公、高梨優(たかなしゆう)。だが彼が面
接に向かった企業は想定を遙かに超えたブラックさだった。‥‥悪の秘密結社だったのだから。
悪の組織万魔殿(パンデモミニウム)の手により、有無を言わさず怪人グリフォン男にされてしまった優は泣く泣く悪の手先とし
て働き始めるのだが、日曜朝のテレビ番組と違い、怪人の仕事はとにかく世知辛いのだった。
銀行強盗は、経営破綻を免れたい銀行の帳簿改竄片棒担ぎで辻褄合わせのため。
バスジャックは、他の事件に注目されないための話題逸らし&ネタ作り。
水源地汚染は、環境技術会社の株価を操作するための布石。
もちろんヒーロー勢との抗争は組織の自作自演。
この世に正義はないのだろうか? だとしたら悪って何だ? 優の自問自答に終わりはない。


・問題点
妄想してみた結果「慎重」で「常識的」な悪の組織が、きちんと足場を固めてから活動する話がない理由がよく解った。
そんな組織があったら単独行動のヒーローなんかに負ける訳ない。話に山とかオチとか作れないのでボツ。

・コメント
やはり悪の秘密結社は「馬鹿で既知外」でないと面白くないですねー。もちろん正義のヒーローも。




【そりゃ確かに魔法使いになりたくないと言ったけどさ(仮題)】

・あらすじ
めでたく童貞のまま30歳の誕生日前日を迎えてしまった主人公、小谷耕作(おだにこうさく)はその当日に不慮の死を迎える。
死の間際に耕作は童貞のまま死にたくないと強く願い、意識を失う。
そして彼は生まれ変わった。異国の地に、異国人しかも17歳の少女として。
最悪なことに少女の身体は末期癌に侵されており、生まれ変わった筈の耕作はただ患者を生かしておくだけの延命処置を受け、
地獄の苦しみを味わう。死んだ方がマシな苦痛の中で、少女の記憶を覗き込んだ耕作は再びの死を迎え、気が付いたときはそ
の少女が死ぬ10年前に戻っていた。
二度とあんな目には遇いたくない! という一心で、7歳少女エカトリーナの姿のまま必死で健康に気を配って暮らす耕作は、
やがて時間が耕作の主観にして20年巻き戻っていることに気付く。
そう、現在の日本ではこの時空の耕作が小学生をやっているのだ。
故郷と家族を一目みたい一心で、耕作=エカトリーナは日本を訪れる。
そして偶然を装い過去の自分を見たそのとき、耕作=エカトリーナは思い出す。死の間際に童貞(処女)のまま死にたくないと
願ったことと、天使と名乗る何者かの声が「やり直す機会を与える」と言っていたことを。
日本から帰国して、耕作=エカトリーナは未来知識を使いスポーツ賭博から先物取引、そして伸びる新興企業の株買い占めなど
で巨万の富を稼ぐ。手段は金銭を稼ぐこと、目標は行動の自由と社会的な力を得ること、目的はこの世界の自分を自分の恋人に
して処女(童貞)を卒業すること。
その為に、耕作=エカトリーナは一手一手着実に布石を打っていくのだった。


・問題点
「究極の変態」である自己相姦ネタをどうやれば正当化できるかという思考実験の果てに生まれたネタ。当然ながらネタが先鋭
的というか誰得すぎるのでボツ。

・コメント
しかしこれ、攻略される側に自覚がないと本当の意味での「自己相姦」にはならないよね? まだまだ案の練りが甘いか。




【スタ○ドウォーズ!(仮題)】

平凡な地方都市、半田市(はんだし)の郊外にある木戸(きのと)家は日本農園(ひのもとのうえん)を経営する平凡な農家だ。
台風一過、農園の修復をしていた農園主の木戸ハジメと居候の大上マサヤは、壊れたお稲荷さんの祠近くで紙でも樹脂でも金属
でもない不思議な素材でできた二枚のタロットカードを拾う。それは触れた者にスタ○ド能力を与えるカードだった。
突如として超能力を得た二人のまわりで、次から次と奇怪な事件が起きる。スタ○ド使いは惹かれ会うのだ。
撃退したス○ンド使い達から二人は「全てのカードを集めたものは世界の王になれる」という話を聞き出すが、信じない。
しかし信じている他のスタ○ド使い達は執拗に他のカードを持つ者を狙いつづける。いつしか半田市のスタ○ド使い達はいくつ
かの派閥に別れ、抗争をくりかえすようになってしまう。
その抗争の中で農園が荒らされ、ブチ切れたハジメとマサヤは全てのカードを回収して封印するべく打って出るのだった。


・問題点
22人のキャラとスタ○ド考えてそれぞれに出番とか演出とか‥‥無理。描写しきれる訳がない。初期設定に無茶がありすぎる
のでボツ。

・コメント
いずれ練り直して書いてみたいネタ。オリジナルスタンドの設定とか原作読者なら妄想するよね!





[38600] 37.5
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:8bf7f0f1
Date: 2014/05/04 12:19





 ☆62日め6、よいこのせいきょういく☆


こんばんは、オーク島の幼な新妻で義母のレイちゃんです。ただいま 初 夜 の真っ最中です。
いえまだ全然最初の方なんですけどね。まだ非貫通だし。

「‥‥みんな見えますか? これが しょじょまく なんですよ」

私は今、股をいっぱいに広げて、おま○こを指で開いてその中を見せびらかしています。もちろん全裸で。
首輪すら付けてません。
見ているのはこの巣の下っ端オークたち。私が名付けた16人の義息子たちが食い入るように私の中を見つめています。
人間の女の子が大好きで、時々ちらりとのぞく太腿や肌着ですら決して見逃さない彼らは、本日特別大公開中な女の子の秘密
の場所を夢中になって見て匂いを嗅いで興奮しています。

ああ、ああ恥ずかしい。でも感じちゃう嬉しい!
見せてあげたいんです、私、変態ですから。露出狂(フラッシャー)系の。
夫達にじっくりしっかり穴があくほど見て貰って、指と舌で優しく弄ってもらった箇所を義息子たちにも見て欲しいのです。

髪の毛ひとすじまで「生命の粘土」から造られたこの身体は超高品位の特別製。
容姿にしても金髪ちゃんのような絶世の美少女じゃないけど、その代わりに支持基盤の裾野が広い姿形になっています。
オーク的に見て万人受けする「無難に可愛い」容姿なのですね。

つまりですね、仮にオークを無作為に百人集めて美少女品評会(競り市?)をしたとしたら、仮に10人の美少女達を並べて、
オークたちに投票で番付表作らせたらなら、私は一位票はそこそこしか貰えませんが二位や三位や四位の票はたくさん貰える
容姿なのですよ。一位10点、二位9点‥‥10位1点の合計点方式なら優勝だって狙えます。

その無難な可愛さは皮膚表面だけでなく肉の内側もでして‥‥我ながらきれいな処女膜だと思います。
膜中央に丸く開いた穴の輪郭もしっかりくっきりしていますし、膜の肉質も厚すぎず薄すぎず程良い柔軟性を持っていて、
そして膜近くにほどほどの血管が通っています。破れるときにはちょっとだけですが出血するでしょうね。

なぜ本人が知っているのかって? 聞くな。察しろ。


ええそうですよ。一人でゆっくりお風呂に入れるようになった12日めあたりで、じっくり確認したからですよ。
普通調べるでしょう? TS転生したら身体の隅々まで。鏡とか使って隅々まで。
自分がニュー○イプじみた感覚の持ち主だと解ってからも、改めて何度も隅々まで調べました。

早い話私のここは、レイちゃんま○こはロリータものエロ漫画のヒロインなみに愛らしく初々しいのですよ。
雄の欲望(リビドー)を受け入れ受け止め愛(エロス)の結晶を実らせるために存在する器官だから当然です。


ほら、見えるでしょう? みんな。見えにくいオークにはちゃんと場所を譲って見させてあげてね。

「膜の奥の、見えにくいけど見えちゃう場所がひくついているのがみえますよね。これは女の子がオークち○こを欲しがって
いる証拠なんですよ」


初めて見る肉の穴と、その中の肉壺を蓋している肉の薄膜を下っ端オーク達は鈴なりになって見つめています。
普段の視線が熱湯だとしたら、いま浴びているのはもう溶岩ですね。眼力だけで破けてしまいそうです。

破いて欲しい。
みんなの、ハラキズの、タレミミの、ケサガケの、コブハナの、デコパチの、ギョロメの、マルマルの、サダキチの、
モッサリの、アンドレの、ブロディの、ハンセンの、アシナガの、トンガリの、イシカワの童貞オークち○こを受け入れて、
女の子を‥‥人間の雌を征服する喜びを教えてあげたい。
そしてコーネリアさえよければ、ゴエモンにも。

「これは、神様が付けてくださった品質保証封印(シール)なんですよ。みんな、コボルド達の工房は知っていますよね?
人間(ヒュー)族の‥‥私の故郷の工房には、作ったばかりの工芸品を注文した人の所に送るときに、柔らかい布や紙で包みに
封をする所があるんです。
それは まだ誰もこれを使ったことがありませんよ という証拠なんです。
人間の女の子は、神様が貴男たちオークの所へ自信を持って送り届けてくださる賜物なの。だから新品の女の子にはこの封印
が付いてるんですよ」

おおー と、オークたちからどよめきが上がります。

さんざん見せびらかしておきながら、結局破かせるのはギュー・グェスにだけなんですから酷い話ですよね。
でも仕方ないのです。
ギリシャ神話のエキドナじゃあるまいし、この巣のオークたち全員のお嫁さんにはなってあげられません。
私は一度に一人のオークとしか子作りできないのです。

こればっかりは「生命の粘土」を使っても無理です。私の中にそれを成せる図(ヴィジョン)が思い当たりません。
無理にしようとすれば、シロアリの女王みたいな異形になりはててしまうでしょう。
それはそれで楽しそうな気もしますが、オークの肩に乗って散歩やお出かけができなくなるのは悲しいからやめておきます。


なぜこんなことを、下っ端オークたちに開通直前の肉穴を見せびらかしているかって?
この洞窟で初夜もとい貫通式を迎える以上、その様子は全員に筒抜けなのです。オークはみんな盗聴器いらずの地獄耳ですから。
筒抜けならいっそのこと公開しちゃえ、という発想に至るのも当然な訳で。だってみんな、この巣のオークたちは私とグェス
のカップルを応援してくれていますし。

私が下っ端達の母親代わりなら、その夫達は当然父親代わりになる訳です。特にギュー・グェスは第一夫ですし、族長ですし。
強く優しく太っ腹で、自分たちを大事にしてくれる族長をみんな尊敬しているのですよ。
なので「ギュー・グェスなら仕方ないよね」とみんな納得して、祝福してくれています。

ああ、いまなら巣の仲間たちに見守られながら初夜を迎えた金髪ちゃんの気持ちが解る。
仲間たちに祝福されながら夫と結ばれるなんて、オーク妻冥利に尽きます。

そしてオーク妻でありオーク義母である以上、息子達に性教育もしなくてはなりません。
これまでろくに女の子と触れ合っていない下っ端オークたち、特に女の子と話したことさえ殆どない新入りたちに女の子の扱
い方を教えるのも名付け親の務め。
だからいまギュー・グェスと一緒に 生 娘 の 抱 き 方 講 習 をしているのです。

「この膜がついてる女の子は、まだ一度も、誰とも交わったことがないんです。だから、膜付きの女の子は怖がりで恥ずかし
がりやさんなんです。みんなも膜つきの女の子を拾ったときは、特に優しくしてあげてくださいね。
見たがったりさわりたがったりすると女の子が怖がりますからね。
大丈夫ですよ。本人がまだ気づいていないだけで、女の子はみんなオークが大好きなんですから。
あせらずに真心を尽くしていれば、女の子は必ず自分から服を脱いで股を開いて みてください と言い出しますからね。
そうなったら今みたいにやさしく見てあげて、きれいだと思ったら誉めてあげてくださいね。
女の子は雄(オーク)に慣れたら、見て貰うことが大好きになるんですよ」

両手で無毛の肉割れ目を広げたままそう言って、私はグェスの頬に口付けしました。グェスもお返しに私の首筋を舐め上げ、
耳を甘噛みします。
ええ、いまの私は胡座をかいたグェスに両腿を持って抱えられているのですよ。
焼き餅焼きの夫オークが、自分の腕の中にいる状況ででもない限り妻にご開帳なんかさせませんよ当然じゃありませんか。

そして、子作り中なのでグェスも全裸です。腰ミノ外したのは私ですし。
夫オークのいきり立ったアレが、人間っぽいけどオーク的な特徴もある大きくて逞しいち○こが、私の股のすぐ下でひくつい
ています。

痛そうなくらい張り詰めたそれを、もうすぐねじ込んで貰える‥‥と思ってから既に1時間は経ってます。
焦らされてる? わたし焦らされてるの?

「ギュー・グェス‥‥はやくぅ」
「マダ、オワル、ナイ」

意地悪! そりゃ確かにみんなには性教育が必要で、処女の抱き方教習は今しかできませんけど。
仕方ありません、続けましょう。


「膜付きの女の子が 触ってください と言い出したら優しく触ってあげてくださいね。
でも、本当に触って貰いたがっている、発情している女の子にだけですよ?
人間の女の子は怖がりなんです。特にオークのことをよく知らない女の子は、雄(オーク)の誘いを断ったりしたら酷い目にあ
わされると思い込んでいる子も多いんです。
ほら、人間(ヒュー)の雄は、特に 鉄の王 の眷族は弱くて腰抜けでしょう?
鉄の王の眷族に限らず弱くて腰抜けの雄は、余裕がなくて自信もないから雌に酷いことをするんです。
人間(ヒュー)族の雄がみんなそうとは限りませんけど、求愛を断られた雄が断った雌に意地悪したり殴りつけたり攫ったり無
理矢理種付けしようとしたりすることは、人間族の国では珍しくないんです。
オークのことを知らない人間族の女の子が、オークも人間族の雄と同じなんだと思い込んでいるのは当然なんです」

下っ端オーク達が怒りの唸り声をあげています。彼らの倫理観では、同じ巣や集落の仲間である女達に無理強いしたり暴力を
振るうなど許されることではありません。賓客や保護中の女達に対してもです。

隙を見て余所の巣から強奪してきた女にだって、極力乱暴なんかしないのですよ。
攫おうとした女を転ばせちゃったゴエモンが、所属していた巣の仲間から殴る蹴るの制裁を受けるぐらいですからね。他の巣
のオークたちも一緒に制裁してましたけど。

たとえ敵であっても、向こうから襲ってきたのだとしても女は無傷で捕らえ、可愛がって可愛がってとろけさせ改心させてし
まうのがオーク的に推奨される「雄の中の雄」の行為なのですよ。
もしも名付ける前のゴエモンの誘拐が大成功しちゃって、私を攫ってどこかの洞窟にでも連れ込んでいたとしても‥‥彼はそ
れ以上の無体はできなかったでしょう。

この島のオークがみんなそうじゃありませんけど、ゴエモンは本気で嫌がっている女に無理矢理突っ込むなんてことはできな
いのです。変態紳士系オークは本気で嫌がられて泣きわめいてる女の匂いを嗅ぐと萎えますからね。
当時の、オークと結ばれる気がなかった私がとろかされてしまうには何十時間かはかかったでしょうし、それだけの時間があ
ればグェスか横取り狙いのオークにゴエモンの隠れ家が見つかっていたでしょう。

変態紳士的観点から見れば、求婚を断られた腹いせに嫌がらせなんてもっての他です。
まだ手込めにしてしまうのなら、許されはしませんが心情的にオークたちにも理解できる。しかし振られて嫌がらせに走ると
したら、それはその女への真心がなく、示していた好意はただの支配欲を偽装したものだったことになってしまいます。
つまりオーク的には「振った女に嫌がらせする = 鉄の王の眷族と同レベル」ということになる訳です。


「だから、膜付き膜なしに関わらず、女の子には優しくしてあげてくださいね。約束は必ず守ってあげてくださいね。
この世には強くて優しくて誠実な、本当に信じられる雄(オーク)がいることを、女の子達におしえてあげてください。
そうしたらどんな女の子でも、自分から服を脱いで股を開いてくれるようになりますからね。
もしもそうならない女の子がいたら、その娘はオークの子を孕む運命にないのです。
その子は、自分から股を開いて 可愛がってください と言い出さない女の子は、ここではない何処か別の場所いまではない
何時か別のときにオークの子を孕むか、あるいは人間(ヒュー)族の子を孕んで産む使命を持っているの。
だからみんなが海や山で拾った女の子が、自分から可愛がってくださいって言わなかったら人間の世界に帰してあげてね」

分かる。理解できる。みんなの、グェスも含めたオーク達のち○こがぱんぱんに張り詰めて興奮しているのが分かります。
みんなが私のなかに入りたがっているのがわかるんです。
ああ、嬉しい。こんなにも好きになって貰えるなら、女の子に転生して正解でした。
いや自分で性別決めた訳じゃありませんけど。

「シンパイ、ナイ」
「‥‥何がですか?」

ギュー・グェスが耳元で囁きます。甘い吐息に敏感な耳と首筋をくすぐられる、むず痒い快感。
脳を上空へ引っ張られるような高揚感いえ浮遊感が私を染め上げていきます。
逝きかけてる。
私、もうすぐ逝っちゃいます。初夜が始まってから何回も、十回目からは数えてもないぐらい逝ってます。

また逝っちゃうんだ、私。みんなに見て貰いながら、視姦されながら、旦那様に愛の言葉を囁かれながら逝っちゃうんです。
普段無口で口下手なグェスが囁く睦言は本当に甘くて官能的です、でも今の私が聞きたい睦言は「イレル」とか「ダスゾ」と
か「ハラメ」なんですよ。

「オレ、ルェイ、オトコ、ヨシ」
「?」
「ルェイ、オトコ、デモ、オレノヨメ」
「!」


知っていました。知られていました。
私が、彼の妻となったレイが、男だったことを。今も根本的には男の心をしていることも。
ギュー・グェスは知っていたのです。たぶん、私がこの洞窟に来た頃には既に。
今の私が、グェスのことを大好きになって嫁入りまでしたレイちゃんが、自分が元男であることを密かに気にしてる事まで。


「いいの? わたし、このままでいいの? 完全な女の子じゃない私で」
「ルェイ、オレノヨメ」

そう言って、顔を寄せてきた夫オークと唇を合わせ舌を絡め合わせます。
愛情と欲望のたっぷり詰まった口付けに、毎度ながら圧倒されてしまいます。素人童貞というか実の母親や母代わりの女達以
外とはろくに口もきいたことなくせしてこんなに上手いなんて‥‥これだからエロモンスターはっ。


どうも嫁が精神的に男でも良いみたいです。あー、グェスってひょっとして人間でいえばバイの人ですか?
人間と殆ど変わらないオーク族に、そっち系が全くいない訳もありませんよね。同性愛だって生存戦略上の正解手‥‥の一つ
ではありますからね、野生動物の世界でもあるぐらいですし。比率が高くなりすぎると逆効果だけど。

もし私が転生したのが男の子でも、グェスや仲間のオークたちは拾って居候として受け入れてくれたでしょう。
下っ端達にいまほどの人気はなかったでしょうけど、その分気楽に過ごせていたかもしれません。

で、この島というかこの世界はファンタジーな環境でして。
完全な性転換手段は割と普通にあるのです。霊薬(ポーション)とか呪文とかアイテムとかで。
あとで知りましたが、グェスたちの育った巣には元男のオーク妻も何人かいたそうです。大きな巣なら珍しくないとか。
夫を愛し家庭を守りきちんと子育てしてくれる良妻賢母なら、元男でも問題ないのがオーク流なのです。

二ヶ月前、この島に男の子として転生していたとしても結局私はグェスのお嫁さんになっているでしょう。
ことによったらかえって嫁入りが早くなってたかもしれません。
私が精神的同性愛者というか男に惚れてしまう心を持っている以上、グェスのお嫁さんになってしまうのは当然ですから。


そうか、バレバレだったんだ、私が元男なことは。グェスが知っているからにはドスやウォスにも。
彼らには下半身関係の隠し事はありませんからね。
共同妻である私への性教育(調教)にしても、グェスがま○こ、ドスがおしり、ウォスがお口と担当を決めているぐらいでして。

ええ、私は三つの穴の初めてを三人の夫達にそれぞれ捧げてしまうのです。
それが嬉しくて堪らないあたり、堕ちきっちゃってるなー。
でも幸せだから良いか。
どこで見せびらかしても(夫達は)恥ずかしくない愛の奴隷に、三人がかりで躾てくれるでしょう。


元男と知っていても、夫達は最初から私に好意を抱いてくれてました。「孕める男の娘」が実在する世界だから産まれたとき
の性別で差別する気はないのですね。
現在の性別がオークの子を産めるのなら、夫婦生活に支障ないのです。

性転換が実用段階というか割とありふれている社会では、その手の趣味にも走りやすいでしょうね。「同性愛はいかんぞ非生
産的な」という制限に対して「跡継ぎはこいつに産んで貰うから」という切り返しが‥‥。

あれ? だとするとこの世界、政略結婚とか凄いことになってる可能性が。
性転換手段は庶民はともかく王侯貴族なら割と手軽に手に入る筈ですから、この世界では戦後処理とか捕虜の処分とか腐った
ご婦人方が好む薄い本みたいな展開になり得る気がします。
負けた国の王子様が女の子に変えられて肉奴隷に堕ちるまで調教三昧とか、普通にありそうで怖い。


三人の夫達は、私が彼らの知っているヒルデニアとは違う別のヒルデニアに暮らしていた男で、ある日突然気づいたらこの島
にいてしかも少女になっていたのだと理解しています。
そしてこのままこの姿でこの巣に留まりたいのだと思っているのです。
もちろんそれは間違いです。

この巣はお気に入りだけど、私は別の所にも行って住んでみたいのです。
この姿はお気に入りだけど、私ははやく妊婦さんになってみたいのです。ボテ腹姿にして欲しいのです。

だって私は好きな男の子供を産める同性愛者で、初恋の人(オーク)に嫁入りした上に逆ハーレムまで手に入れてしまったので
すよ? 我慢も自重もできません。する必要もないし。
前世の初恋は初恋と認めません、だって今にして思えばあれは只の気の迷いだ。
夫達に感じている愛おしさがキラウェア火山噴火級なら、あれは蚊取り線香にも及ばない熱量でした。
アレは恋と呼ぶには無理がありすぎる。

実も蓋もないこと言うと、はやくえっちがしたい。赤ちゃんできちゃうことがしたい。

あの素晴らしい肉を、素手で触っただけで下腹が熱くなってしまうオークち○こを敏感すぎる肉溝に突き立てて欲しい。
泣こうが喚こうが一切構わずに貫きとおして、内臓の奥までいけるところまで押し進んで、そこで彼の精液を、赤ちゃんの素
をぶちまけて欲しい。

この地上に彼の血を引く生き物が、ギュー・グェスのDNAを引き継ぐ者がまだ一人もいないという不条理を、私がこの身体
を使って正すのです。彼の好みドストライクなこの身体で。


そして私は巣の仲間たちの前で、この日十何回めか何十回目かの絶頂を迎えたのでした。
でも、視線と言葉だけで達したのはこれが初めてです。




 ☆62日め7、おくちのこいびと☆


この巣には幾つかのルール(掟)があります。その一つが「遊具の上にいる女の子はガン見して良し、むしろ見ないと失礼」と
いうものです。
シーソーやブランコや空きタル以外のものも、たとえばスポンジもどきを樹脂で被ったマットも遊具の一種とみなされます。

なので、ただいまスポンジマットの上で正座してる私はオークたち+一名に熱烈視線で見つめられているのです。
全裸で。
ハンセンなんか最前列のかぶりつきで見ています、1メートルも離れてません。

正座した私の目の前に、レェ・ウォスのオークち○こが聳えています。ゴエモンたちイノシシハーフのそれと違って、基本は
人間のものに近い形ですが細部は違います。
あえて言えばシリコン製の張り型ですかね? 地球のアダルトショップで売っている、細部が細かいアレ。
前世では特に興味がなかったので詳しくはないのですが、外見はわりと似てます。

つまりまあ、松茸に喩えるなら傘の部分や軸の部分に丸っこい突起や膨らみが色々ついている姿なのです。
苦瓜のように細かい突起ではなく、大まかなのがまばらに付いている感じですね。

で、この突起が動くのですよ。
オーク族のち○こは人類よりも百万年分は進化している代物でして人間のものが水風船だとしたら‥‥駄目だ、最新式の張り
型しか喩える物を思いつかない。
オークち○この中心には軟骨らしき支柱があって、そのまわりを柔らかい素材で包んであります。そしてその謎素材のまわり
に海綿体があって、その海綿体は各箇所ごとに膨らんだり縮んだりするのですよ。本人の意思で。

はっきり言ってこれは凶器だ。人間の男性器と比べたら、生のキュウリと釘バット以上に戦力が違います。
熱くて柔らかくて、それでいて芯の部分は下手な棍棒より堅くて丈夫なんです。
芯を体内にひっこめて海綿体を縮めれば人間の雄と殆ど変わらない使い方もできますし、全部の機能を使えばどんな淫乱さん
も満足させられるでしょう。

現在フルサイズ状態の完全体である、女殺しの凶器にそっと口づけます。 ちゅっちゅっ と音を立てて先端に吸い付いては
離すと、ウォスのち○こが細かく震えて鈴口から液が滲み出てきました。
あー やっぱり私に発情してくれてるんですね。解っていたけど嬉しい。
何の制限もされていない、今は闘気法を含めてまったくサイズ縮小されていない特大肉きのこに口付けして、先端から滲み出
る液を舐め上げます。

オークから見れば人間の方がエロモンスターでして、特に私はエロモンスターのなかのエロモンスターなのですよ。
一人前の幹部オークが、共同夫で良いから逆ハーレムに入りたがるぐらいに。
ウォスの甲斐性と容姿なら幾らでも専用のお嫁さんが手にはいるのに、私の側夫になってしまいましたからね。
また神殿の女達に妬まれるだろうけど、仕方ありませんよね男女のことは。

見学している下っ端達によく見えるよう角度とか気を配りながら、私はウォスのち○こへご奉仕を続けます。
小さな口を開いて吸い付き舐めまわし、しゃぶりつきます。
美味しい♪ それに楽しい♪
フランスパンのバゲットぐらいある、巨大なグミキャンディーやゼリーに吸い付いたりくわえたりしてる気分です。 

それらの食感を楽しむ菓子と違うのは、いくらしゃぶっても小さくなんかならないし舐めれば舐めるほど美味しくなることで
すかね。
はあ。これがオークち○こ‥‥今から私がお口の初めてを捧げてしまうウォスの性器なんですね。

こんなに良いもの隠してるなんて、ちょっと狡くありませんか夫達は。
もっと早くしゃぶらせてくれたって良いじゃありませんか。
まあ良いか。
この二ヶ月間の色々も、いつ襲われるんだろうと本気で怯えていたころも、いつ襲ってくれるんだろうと内心待ち焦がれてい
たころも今となっては良い思い出です。

精一杯の愛情と敬意を込めて、ち○この先をくわえて唇でしごきあげ舌先で傘の裏部分を舐めくすぐります。
男性器をしゃぶりまわしてこんなに幸せになれるなんて、つい数日前までは思いも寄りませんでした。私が同性愛者なのは間
違いありません。

この手の経験は少ないのですが、それでも前世が男であるからには男が喜ぶツボは理解しています。いやその、前世はされる
というかして貰う側でしたから。
たとえば男性器に口でご奉仕するいわゆるおフェラ行為ですが、これを行うさいにはなるべく男の顔を見ない方が望ましい。
男の反応が気になるのは解りますし、自分の口でとろけている顔を見たい気持ちも解ります。
でもしゃぶられている最中にしょっちゅう上目遣いで見上げられるとそれが気になっちゃうんですよ男って。

誤解なんですけどね。
男の脳は同時並列作業に向いてませんから、くわえているち○こを気持ちよくさせながら男の表情を確認するなんて器用な真
似には向いてません。
だから女がそれをやると「こいつ集中してないな」と誤解しちゃうんですよ。

そんな訳で、私は一心不乱に陶酔しつつウォスのち○こをしゃぶりたおしているのです。今の私は見なくても夫の表情とか解
りますからね。
お腹を空かせたちいさな子供が、がきんちょが大好物の果実にかぶりいているような勢いで楽しんでます。
こんなに大きくて逞しい立派なものが、今まで何人もの女を悶えさせてきた快楽凶器が、私の小さな口と拙い愛撫に大喜びし
てるのです。

なんかこう、体重200キロ以上の猫とかに「撫でろ」と要求されているような感覚です。
並の獅子ぐらい素手で絞め殺せるウォスが、猫にも勝てない私のお口に好きなようにされてしまうんです。
可愛いなあ、もう。
おっぱい吸われているときもそうでしたけど、ウォスって甘え上手なんですよね。母性を引き出すのが得意なんです。

さて いよいよ、です。これからウォスのち○こを受け入れるんです。
私の手の中で、フランスパンみたいだったものがみるみる小さくなって、コッペパンよりやや細いサイズにまで縮みました。
地球でいう内気功のようなものでしょうか? 

種族的な可変機能だけでなく内外の闘気法まで使って細く小さくしてくれている彼のち○こを、それでも私の口には大きすぎ
るお宝を呑み込みます。

奥まで届きました。ち○こが咽の奥に当たってえずきそうになるのを堪えます。
ああもうなんと言えばいいのか、圧倒的すぎる。これがオーク肉なんですね。
私がはじめて、体の奥に受け入れた男なんです。
真っ赤に焼けた鉄棒を突き込まれた鉛管のように、私の肉というか神経の感覚がとろけていくのが解ります。
うん、墜ちる。これは堕ちちゃう。
この命の塊を毎日好きなだけ味わえるなら、奴隷妻になっても良いと言いたくなるのも当然です。

いや、まだです。これではまだウォスにお口の処女を捧げたことにはなりません。
このままくわえ続けて夫に気持ちよくなって貰って、口の中に射精してもらって、頂いた子種入り汁を飲み干して、尿道に残
っている分まで吸い尽くしてから旦那様に「濃くて美味しいのを出して貰えて、嬉しいです」とか言わないと捧げたことには
なりません。

もちろん言えませんでした。
この二ヶ月で溜め込むだけ溜め込んでいた夫は、私の拙い愛撫で早々と達してしまったのですが‥‥もう気持ち良くてきもち
よくて堪りませんでした。
苦痛のレベルで言うなら、口の中へ突っ込まれた特大の爆竹が爆発したような快感でした。
おフェラ最高。というか射精して貰うってこんなにいいのかー。

ちょっと乳首を舐められたり吸われたりしただけで、うっかり熱いフライパンに触ってしまったときのような、火傷にもにた
残留する快感を得てしまう私の身体が、ボスエロモンスターの最大級愛情表現を受けてしまえばひとたまりもありません。
口内射精だけでしばらく口も利けなくなるくらい気持ちいいなんて‥‥幸せです。

快感に痺れながらもなんとか口の中の精液を飲み干した私は、一回出したぐらいではちっとも勢いが衰えない素敵な旦那様の
逸物に頬ずりして、その偉大さを讃えるのでした。
ち○こすごい。
オールクゥス神の像をつくる前にオークち○この像を造ろう。かまなら様みたいなの。

こんなに気持ちよくしてくれる上に赤ちゃんまで授けてくれるんですから、豊穣の象徴として崇められるのも解ります。
精液まみれの顔に感激の涙を流しながら命の塊のような肉に、夫の男性器に口付けする私の顎がやさしく撫でられました。

「クチ、ヒラク」

言われるまま素直に、目を閉じて口を限界まで開ける私にウォスは腰を突きだしてきます。そしてこの優しくて助平なエロモ
ンスターは、たったいま処女を奪ったばかりの肉穴にち○こを突っ込んで動かし始めるのでした。

何でしょう、すごくいい。ちょっと息苦しいけどそれ以外は快感と幸福感しか感じません。
イラマチオ‥‥いえイマラチオでしたっけ? お口をオナホール代わりに使われているのに、なぜか幸せです。
違う。
違うよこれ。私のしっている性行為じゃない。

私、ウォスにご奉仕されてます。夫オークは私を気持ちよくさせて喜んで貰いたい一心で腰を使っているのです。
自分の快感は二の次で、限界までち○こを絞り上げて小さくして嫁に含ませて、その口を気持ちよくさせているのです。
愛されてる。わたしあいされている。
こんなのありですか? こんなことされちゃったら、こんなに愛されてしまったら墜ちてしまうしかありません。

そんなわけで、お口でなんども逝かされてしまった私は前にも増してレェ・ウォスのことが大好きになってしまいました。




 ☆62日め8、めしませびしょうじょ☆


まだマットの上にいるけど、今度はグェスのち○こをおしゃぶりしてます。
両手は夏ミカンより重たいオークきん○まを撫で回してますけどね。

何代も遡って母親が人間であるグェスのここは、人間とほぼ同じ構造をしています。
つまりこの丸いのが睾丸で、その横のぷにぷにが精子嚢ですね。ここに私の赤ちゃんの素が、その半分が入っているんです。

なのでグェスのは飲んであげられません。ドスのは飲みました。
ウォスと同じように舐めてしゃぶって口に含ませて貰ったち○こから直接、舌の上に出してくれました。
いかにもドスらしいというか、彼は出す量を抑えてくれたので殆どこぼさずに呑み込めたのですが、やはりお礼の言葉は言え
ませんでした。まともに口が利けるようになるまで何分もかかりましたから。

幹部オークはエロモンスターなので、出すものの量や濃度を調節できるのです。二ヶ月間溜め込んでいたのはドスも同じでし
たから量は少なくても、その分濃厚な子種汁を味わえました。
グェスがお○んこで、ウォスかお口で、ドスがお尻と開発担当が決まっています。でもドスはゆっくりじっくりと調教する主
義なので、うしろの初めてを捧げるのは当分あとになりそうです。

正直その、ちょっと怖いのですがドスはその感情も理解してくれていて、時間をかけて身も心も解してくれるようです。
まあファンタジー世界ですから、神様の加護や治療呪文があるからあまり心配はしていないのですが。オーク島では性病とか
の心配なさそうですし。



あ、もちろん正気に戻ってからはお礼言いましたよ「もう、こんなときまで優しくしなくてもいいのに‥‥でも、そんな貴男
が大好きです」、と正直に。
お口でドスのち○こを綺麗にして尿道の奥に残っていた精液まで吸い尽くしてから。

あのですね、オークの精液って美味しいんですよ。
ちょっと生臭いけどしょっぱくてとろとろで、ウニとか魚の生白子とかと似ています。新鮮なこれと水さえあれば何日か過ご
せるぐらい食べ応えがあります。

オークち○こ、そしてち○こミルクの味を知ってしまいましたけど、うん、確かにこれは病みつきになる。
私たちの様子を見ていたコーネリアはさっき岩陰にゴエモンを連れ込みました。そして私の耳にも届くくらいの音を立ててお
しゃぶりしています。甘々な閨言葉を挟みながら。


僅か数日とはいえ二人よりもグェスの方が付き合いが長いわけで、その分溜め込んだものも多いはずです。
飲めば美味しいでしょうけど、それはできません。彼の一番濃い子種は直接子宮へ注いでもらうのですから。


んー まだちょっと怖がっているかな? グェスは。
ギュー・グェスは時々異常に察しがよくなります。物体エッ○スから逃げようとしたときとかね。
しかし逆に表情を読むのは難しい。内心を表にだそうとしないのです。

貝は中身が柔らかいから殻が固い。
グェスの心は傷付きやすくて恥ずかしがり屋で臆病なのですよ、こと色恋に関しては。
いや、怖がりなのですね。臆病というよりも。

勇気とは「しなくてはならぬことをやり遂げる意思力」たとしたなら、グェスは勇者です。でもそれと「色恋に奥手で怖がり」
なことは矛盾しません。
彼は、私の第一夫は怖れているのです。私が変わってしまうことを。

えっとですね、今更いうのもなんですが‥‥私は、レイちゃんはギュー・グェスの理想そのもののような女の子でして。
ヒルデニア人の母に溺愛されて育ったマザコンで、ロリータ趣味があって、男の娘OKですから、彼は。
グェスは、ずっとずっと想い続けていたのです。心の奥底で願い続けていたのです。
普通のオークになりたいと。
持って産まれた醜い容姿に、凶悪な面構えに怯えられ怖がられ疎まれるのが嫌だったのです。

いつか必ず運命の女が現れる、この醜い顔を気にしない女の子が俺の前に現れる。そう信じるようになったグェスは独立して
温泉洞窟に引っ越しました。
そして一人で洞窟の改装を始めたのです。いつか自分の所にやってくる 嫁 の暮らしやすい快適な巣に。
ほどなく、異母弟二人と彼らを慕う下っ端達も引っ越してきました。

グェスと理由は違いますが、ドスもウォスも運命の恋人に恋焦がれていたのは同じでして。
そんな訳でこの洞窟で暮らし始め、第一期改装工事も終わって落ち着いたころにグェスが本当に女の子を拾ってきたのです。
オークを決して差別せず、平等に怖がり警戒し理解しようと努め、愛と献身に感謝してくれる女の子を。
グェスは嬉しかったのですよ。私が彼を普通のオークとして、只の異種族の雄として見ていたのが。

‥‥グェスって、美男だと思うんですけどねえ。異種族で異文化だから美醜の基準が違っても不思議じゃありませんが。
日本だって中世では坂田金時の若いころみたいのが美男子の定番だった訳ですし。


つまりですね、グェスはもっともっとラブコメ時空を楽しみたかったのですよ。
私に種付けして孕ませてしまいたいのはもちろんですが、それをして今の距離感が壊れるのが怖かったのです。
何を軟弱な と責めないであげてください。

オークち○こは必殺の凶器で、オーク子種汁は強力な媚薬なのです。これをくらったら大概の女はおしまいです。
普通のオークは普通の女と結ばれて、普通に肉欲で繋がった主従になります。
でもグェスは、普通に憧れていた彼はもう普通では満足し切れません。
まあ、うん、島一番どころか世界一の良い男扱いしてましたからね、私。
実際そうだし。グェス以上の男(オーク)は見つけようがありません。前世を計算に入れても。


そんな訳で、私はグェスの目の前で処女喪失してみたのです。お口の。
オークフェロモンに耐性のある私が、子種汁の媚薬効果に強い耐性があっても不思議じゃありません。
普通の女が酒を一舐めして潰れてしまう下戸だとしたら、私は酒豪なのです。影響は受けますけどそう簡単には潰れません。

Q2、私はフェロモンに耐性ありますよね?
A2、むしろ無いと考える方かどうかしてます。

ですよねー。おでこちゃんが僅か数日で妊婦になるぐらいですから、もしフェロモンに耐性がなければ風邪が抜けた7日目あ
たりで開通式を迎えていた筈です。
そうか、私変態さんなんだ。
オークのフェロモンに発情させられちゃったからではなく、私がオークち○こを欲しがっているから股が濡れているんです。

私のこの身体は、オークたちといちゃいちゃしたりドキドキしたりして恋愛を楽しむためにあったんです。
そして初夜のあとも、濃縮媚薬のような子種汁を注いでもらったあとでも、嬉し恥ずかしの新婚生活を送るために。
どうせ数年後には一年の半分くらいをボテ腹で過ごしていて、一年中母乳が出ていて、他のものを全部合わせたよりオークの
舌やち○こを口に入れている時間の方が長くなっているのでしょうけど。

でもそれが早いか遅いかは全然違います。
どうせ同じ結果になるなら過程が違っても同じことだと言う方は、今すぐ首でも括ってください。結果が同じなら遅くても速
くても同じなのでしょう? どうせ人はいつか死ぬのです。
人は必ず死にます。早いか遅いか、苦しくいか苦しくないか、悔いが多いか少ないかの違いしかありません。

だから赤ちゃん作りましょう。
私たちの命を受け継いでくれる子供を。私たちの親がそうしたように。





 ☆63日め、たべちゃうぞ☆


コーネリアは文明人です。西方魔法文明圏のエリート層出身ですから。
で、高度な大規模文明の維持には情報の保存と伝達手段が不可欠です。
つまり、文明にはその発展具合に比例して発達した情報の保存手段が存在するのです。

「いたいいたいいたたたたっ」
「やだ やめちゃやだぁ! さいごまでしてよぅ」
「‥‥おくまできたぁ! おぅんっ 凄いっ なにこれ  あ、おぅんっ」
「いいっ いたいのがいいのっ もっと動いて! レイのお腹ぷるぷるしてぇ♪」
「出して! だんなさまの子種でわたしをせいふくしてくださいっ」
「死ぬ もうしんじゃう」
「ころして! わたしを食い殺して!」

えー 我ながらどん引きでございます。
何を口走ってるんだ私は。これが一時的発狂というやつかもしれません。

とにかく痛くて気持ちよくて嬉しくて痛かったことしか憶えていない初夜の様子を、こうして第三者視点で見る羽目になると
は思いもしませんでしたよ。

めくるめく一夜が明けて、その翌朝。
コーネリアが記録用アイテムに保存していた私たちの初夜の様子を、巣の一同で見ています。水晶球からこう、映画のように
壁一面へリアルサイズの映像と音声が映し出されているのですよ。
ちゃんと画面から音が聞こえるあたり、ファンタジーですねえ。立体音響よりもリアルです。
で、スクリーン代わりの壁面では私の初夜の様子が繰り返し上映されている訳で。
一時停止機能がないとは、このアイテム開発者の怠慢は明らかです。ZAP! ZAP!


「このように、子作りやその準備をしているときの女の子は訳が分からないことを言ってしまうのです。
みんなも頭を打ったりしてもの凄く痛いときに、言うつもりのないことをいってしまいますよね?
あれと同じで、子作り中の女の子は心にもないことを叫んでしまうことがあるんです。
だから、女の子を抱くとき‥‥ コヅクリ するとき、とくに オークチンコ を突っ込んでいるときは、女の子が何言って
も本気にしちゃいけませんよ」

ハーレムでは「ベッドの上では、ベッドの上のこと以外のおねだりは禁止」というのが普通です。寝室のことに政治や人事が
絡むと面倒くさいですからね。
なので私の逆ハーレムでも、ベッドの上のおねだりは原則禁止というか聞く義務はありません。双方が拒否権を持っているの
です。
そう言えば某国の某州では「性交中の約束は履行しなくて良い」という法律があるとかなんとか。オレゴンだかアイダホだか
の話ですけどね。

だから画面の中で涙ながらに「ころして」とお願いする奴隷妻を、グェスは膣(なか)出しで逝かせてしまいます。
あー 噛んでますねおもいっきり。膣出しで逝きながら私、グェスの舌を噛んでる。幹部オークじゃなきゃ怪我してるよ。
口付けして舌を絡め合いながら膣出しで逝かされちゃうというエロ甘い状況の筈なのに、なんか殺伐としてますねー。

人間の男とは子作り無理ですねこれは、カマキリの雌みたく食い殺してしまいます。
いや、そもそもそんなことする必要ないし、人間の男に抱かれたとしても理性が吹っ飛ぶほど気持ちよくならないだろうから
問題はないのか、うん。


まあこんな具合に、昨夜から続いた性教育「女の子に種付けするとき気を付けること」は終わりました。
下っ端達は闘気法をそれなりに修めていないと女の子を怪我させちゃったり、逆に怪我させられちゃうことを学びました。
‥‥なんか違うような気がしますが、これで良しとしましょう。


いまさらですけど私はこの子たちの、16人の下っ端オークたちの母親代わりな訳で。
性教育を含む教育の責任があるのです。
つまり望みさえすれば、ハラキズたち15人の童貞食い放題。

おちつけ。落ち着け私。
初夜が明けたその朝に考えることじゃありませんよどんだけ淫乱なんですか。

でも、きっとしちゃうんだろうな。この島の流儀に倣って。
グェスたちの母がそうしたように、息子や息子同然に可愛がっていたオークたちへ実地で性教育して、その流れのなかで童貞ち
○こをくわえ込んじゃった彼女達のように。

あ、なんかむずむずしてきましたよ。
幸いすぐ隣りにグェスがいます。

「グヒ?」
「‥‥もういちど、してください」

このあとたっぷりと子作りえっちしました。
夫達三人は、まだ痛みが引かない新妻を優しく可愛がってくれました。もちろん巣の仲間たちの前で。





 とりあえず、おしまい。






[38600] 38
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/01/14 11:58





 ☆63日めの2、毎日が日曜大工☆


おはようございます。オーク島温泉洞窟の族長夫人でエスティア神殿神官(プリーテス)のレイちゃんです。
地球基準だとランドセル背負っているべき年格好ですけど、既婚者なのですよ私は。
そう人妻。
おまけに16人の子持ちという一般向けじゃなさそうな属性持ち転生者でもあったりします。

中身は至って平凡なのですがねー 色々チート的加護を貰っているけどそれらは後付だし。
ちなみに趣味は酵母菌の飼育。尊敬する偉人は足利義教公。好みの男性タイプはガチムチマッチョの変態紳士です。
普通のオーク妻とはちょっと違うとしたら、前世が男だった事かな。
いやその、この島というかオーク族の文化圏では現世で男から女に性転換しちゃってオークの奴隷妻になっちゃう人間族は珍
しくないのだそうで。
でも前世の記憶があるオーク妻は少数派で、私の知る限りこの島には一人だけです。


ファンタジーなこの世界でも軍隊とかは男が主軸です。それに比べると冒険者という稼業は女性比率が高いのですが平均すれ
ばやはり男性の比率が高いのだとか。
地域や時代にも依りますが冒険者全体の比率で言うと多くて2割半程度、しかし少ない場合でも数%は女だったりします。
世間の半分は女ですから、依頼者や護衛・調査対象など冒険に関わる人間の何割かは女な訳で。情報収集や人付き合いの面か
らも女冒険者には必ず需要があります。

それに、凄腕の女冒険者なら戦闘力の面でも男に負けませんからねー 特に呪文使い(スペルキャスター)は。
女だけの一団(パーティ)も決して珍しくはありませんし、女冒険者が主力な冒険者パーティはもっと多いのです。
まあ、そんな女冒険者達もその大半はのし上がっていく途中で脱落する訳で、当然ながら引退できた幸運な少数者以外には悲
惨な末路が訪れるのですが。


さて、このようにオークに負けて捕虜になる冒険者の半分近くは男なのです。
冒険者全体の比率でいえば女性は多くて3割以下ですが、生かしたまま捕虜にされる比率は圧倒的に女の方が上。
ですが女と比べると比率が低いだけで、捕虜として生け捕りにされてしまう男冒険者もいるのですよこれが。
ええ、比率が低いだけなのです。逆に言うと女でありさえすれば圧倒的不利になってから降伏しようとしても受け入れられる
可能性が少なからずある訳で。
地球と同じく、利用価値があると見なされれば敵対種族でも助命されるのですよ(※ただしオーストラリアは除く)。


その利用価値が「女にして犯したい孕ませたい産ませたい」という流れだと性転換させて調教開始。
逆に「今は未熟だが、歯応えのありそうな敵に育ちそう」なら着の身着のままで荒野に放したりする訳です。
部族連合とかで大規模な社会を作っているオーク勢力だと、将来の好敵手を作り出すために「豚の穴」とでもいうべき施設を
経営している所もあるとか。

ええ、鉱脈が枯れた鉱山とかに捕虜のうち「嫁にしたくない」男女を詰め込んで、劣悪な環境のなかで強制労働させるのです。
見所のある冒険者ならその程度の施設から脱出することもできますし、反乱だって起こせるでしょう。
命がとことん軽く、戦いこそが生き甲斐であり、その優れた基本能力故に文明力というか社会基盤の発展と安定を軽視できる
オーク族にとって捕虜収容所は楽しい遊園地か動物園みたいなものです。

ときどき動物が暴れたり逃げ出したりする突発事態も趣向のうちですか、嫌な動物園だなあ。
前世の感覚で言えば、海水浴場に美味しくて危険のない魚貝類を放してつかみ捕りするようなものかも?
実銃使って本気の狩猟ができるサファリパークの方が近いかな?


そっかー ゲーム世界で捕虜になった冒険者とかが放り込まれる「敵対的異種族が経営する妙に監視がゆるい奴隷鉱山」って
娯楽施設だったのかー。
道理で直ぐに脱出できる訳です。採掘現場で武器になる物が簡単に拾えたりしましたし、見張りがやる気無かったり底なしの
無能ばっかりだったりとかも故意だった訳ですね。わざと看守に無能を選んでいる、と。

少なくとも族長や幹部たちはそういう思惑で経営していたのでしょう。脱走した囚人と追い駆けっこしたり反乱を鎮圧したり
衆人の中に裏切り者を作って密告させたりとか、やりようによっては楽しめそうです。

待てよ? するとゲーム世界の住人とはいえ、私の分身だったプレイヤーキャラはみんなオーク視点から見て嫁になんかした
くない「えんがちょ女or男」だった訳ですよね。


‥‥気にしない気にしない。所詮はゲームなんだし、今の私とは関係ないし。
あ、そういえば「脱出シナリオ? ある訳無いでしょ現実的に考えて」というセメント対応のゲームマスターもいましたね。
私も何回かパーティ全滅エンドというか全員捕虜後消息不明エンドにしたことありましたし。
ああいった場合は奴隷妻にして貰えたのかもしれませんね、私やTRPG仲間の分身だった冒険者たちは。




人間文明圏の大半では愚鈍というか馬鹿で間抜けな蛮族扱いされているオーク族ですが、いや実際お馬鹿ではありますけど彼
らの知能は決して低くありません。文明の在り方が違うだけです。
というか、もしもオーク族がそんな愚劣な種族だったらとっくの昔に全滅してますって。人間などによって滅ぼされてます。
オークを馬鹿にするのは、そのオーク族に滅っ多めったにされている人間(ヒュー)族も馬鹿にしている訳で。

まあ、オーク蔑視を続けちゃうんでしょうねえこれからも、この世界の人類は。
地球の映像作品とかでだって○チスドイツ兵は馬鹿で間抜けな卑怯者が標準で、某番組に至ってはたった数人の米兵相手に何
倍もの人数で立ち向かって、戦車まで出したあげくあっさりやられてしまうのがお約束ですからねー。
‥‥あれは米陸軍がドイツ兵に、戦術レベルでの陸戦で負けまくっていた史実の反動なのかなあ? やっぱり。


しかし、あの「油虫退治用据え置き式除虫剤」と同じ題名のTVシリーズは米軍調理兵の立場が悪いというか蔑まれる対象な
んですよねー。理不尽なまでに。
腰抜けだの弱虫だの卑怯者だのと罵られるのは当たり前、酷いときには無理矢理前線に突き出されて弾除けにされたりとか。
あれですかね? 儒教圏で商売人が人間の屑扱いされるように英語圏では調理人は蔑まれる文化なのでしょうか?

待てよ? 調理兵を「軍隊仕様アメリカ料理なんてものを作って味方に食わせる奴」と定義したら?
うん、サ○ダース軍曹は正しい。こと米軍に限って言えば調理兵は弾除けにしてでも抹殺すべき存在です。
今いるのがいなくなればもっとマシな調理兵が補充で来るかもしれませんからね。




そうそう、私の職業(クラス)が変わってますけど、昨夜もとい今朝方の夢の中でクラスチェンジしたことを知らされました。
このたびアコライトからプリーテスに昇格しました。レベルは1のまんまですが。
一休さんでいえば最終回での、諸国行脚に出られる身分になった訳です。


ゲーム世界と同じく、上級の職業へ昇格(クラスチェンジ)すると全般的に呪文や法力が底上げされるんですよ。
冒険者的視点でいうと、侍僧(アコライト)と神官(プリーテス)の違いは信仰呪文の使用回数と威力と習得レベルだそうで。
早い話、アコライトは10レベルになっても5レベルのプリーテスと同じ程度にしか呪文を使えないのです。

具体的には、私が3レベルのアコライトになった場合2レベル呪文を4回と1レベル呪文6回しか使えません。
が、プリーテスの3レベルになれば3レベル呪文4回と2レベル呪文6回、そして1レベル呪文9回を使える訳です。
各呪文の価値を単純にレベル×回数の合計と考えると14対33。倍以上ですね。

あと昇格の結果、呪文などへの抵抗力も上がっています。たぶんHPも1~2割ぐらい上がった筈。
ただ上級職の方がレベル上げにくいんですよねー ゲームと同じく。
経験値の効率的な稼ぎ方も教えて貰ったから良いけど。


ゲーム的にいうとアコライトが下級職、プリーテスが中級職、ハイプリーテスが上級職に当たります。
大母様や巫女頭のおねえさんがハイプリーテスで、助手の二人がプリーテスですね。藤子さんがモンクで。

言うまでもなく昇格を教えてくれたのは女神様です。ついでに懐妊したことも教えてもらいました。

ええ、私は に ん っ し ん っ したのです♪
おめでとう、私。そしてようこそ可愛い我が子よ。
初夜で懐妊というのもオーク妻らしくて良いじゃありませんか。


そんなわけで朝一番に懐妊の報告をしたら、グェスはもちろん二人の側夫たちも大喜びでした。
その後なでたりさすったり舐めたりしゃぶったりと、三人がかりで下腹部とそのまわりを中心にかわいがれちゃいまして。
オーク妻なら、懐妊祝いの ご褒美えっち をおねだりしちゃうのも当然ですよね、ええ。

三人に身体中キスされながら頭なでなでされちゃって、何回も意識飛んでしまいました。
いやー ボス級エロモンスターと4Pなんかするもんじゃありませんよねー しますけどこれからも。

これでも夫達は手加減しまくりなのですが、ブルドーザー三台で砂のお城を崩しているようなものですからねー。
竜殺しの女騎士だろうと修道院の尼僧長だろうと、人間族の女はオークに突っ込まれたらお終いなのです。
まして夫達にベタ惚れの私ではひとたまりもありません。



ふふっ このお腹にグェスの子供がいるんですよね。不思議だなー。
なでなでしてみると、確かに昨日までとは何かが違います。中になにか入ってる感じがしますね。
半年後には私がお母さんですか。多少の不安もありますが案ずるより産むが易しといいますし、なんとでもなるでしょう。
超高品位の身体+神々の加護+オークは安産生物+ファンタジー医療+私は神官 という至れり尽くせり、無事な出産は女神
様の保証付きですし夫達は助産夫の経験ありですし、こと出産と子育ての環境としては文句無しの好条件です。



「グヒー」
「行っちゃったねー」

巣で二番目に背の高いドスの肩に座っている私の目にも、もう海賊船の帆は見えません。水平線に隠れてしまいました。
昨夜セルキー族の巣で一泊したヒルデニア船、蛇王丸は今日の昼間に帰ってきて砂浜へ再上陸して巫女さんたちやお義兄さん
たちを乗せ、大神殿へと向かいました。

しかし、浅瀬でも問題なく動けるだけじゃなく崖や急な斜面でない限りそのまま陸へよじ登れるって、あの船便利すぎる。
魔法装置を使えば短時間だけですが空まで飛べるから大概の地形は踏破してしまいます。もう地峡も海峡もすいすいと。
ジオ○水泳部のすっごく良いモビル○ーツなみの自由度ですよね、古代の遺産って凄い。


余談ですが、船長の愛人だという銀髪の男の娘が女の子になってました。
男の娘から正真正銘の女の子に性転換してました、外見だけでなく内臓レベルでも。
セーラー服とスカートが前よりも似合ってましたよ。

一昨日の夜、女神様の祝福を受けて「自分が望めば誰かの嫁or婿になれる」と確信した彼女(彼?)はとっときの「性別変化」
ポーションを飲み干し、副長と組んで船長を逆レイプしようとしたのです。
二人揃って返り討ちに遇って、別人のようにしおらしくなってましたけどね。特に副長。

うん、確かにアレでは海賊船長の片腕は務まらないや。副長殆ど別人状態でしたから。
男は知っていても色恋は知らなかったのですよ彼女は。そして女神様が保証する愛欲の一夜を過ごし、その腹に愛の結晶を宿
らせてしまった訳で。
人生観変わるでしょーねーそれは。今までの、知っていたつもりだった事はいったい何だったのかと。


船長は女神様の呪いを受けてますので「心から愛しく思う女を抱く」と必ず妊娠させてしまいます。
逆に言うと抱いた女が妊娠したら船長は必ず本気な訳で。しかも孕ませた女にもそれが実感できるという追加効果付き。
よく分かるな、とお思いでしょうがついさっきまでこの浜辺にはニュータ○プなみに感が鋭い私に、呪いを察知する加護持ち
のドス、ベテラン冒険者のソーニャさん、信仰魔法と奇跡の専門家である巫女さんたちと豪華な面子が揃ってましたから。
これだけ揃えば大概の呪いは理解できるのですよ。
私だって伊達にニュー○イプ擬きやってません。すぐ近くにいる人が「何」を感じ取ったのが、かなり詳しく察せるのです。

前にも言ったと思いますがこの大内海周辺では、性転換の手段は稀にですが確実に手にはいります。
熟練冒険者とか腕利き海賊とかやっていればそこそこの頻度で目にします。大概の冒険者はその前に挫折するけど。


で、遺跡系の迷宮(ダンジョン)を漁っていればオークたちも性転換系のアイテムを手に入れる訳です確率論的に間違いなく。
この島でもこの島以外でも、それら性転換アイテムで女になってしまった元男たちが薄い本みたいな目に遇うことは割とよく
ある事なのです。
ヒルデニアは比較的その手の事に文化的縛りが薄いようで、船長も嫁が元男でも気にしていませんでした。
なんか本人的には 男の娘 よりも 元男の女 の方が好みのようですし。

船長よりも更に縛りの緩いオークたちにとっては、嫁が元男でも全然構わないのです。
統計を取れば9割ぐらいのオークが「気にしない」か「むしろご褒美です」に○を付けるでしょう。



腕利き海賊の第二夫人になった彼女は、これからも第一夫人こと副長と組むようですね。船長、逃げられんなこれは。
副長達は二人とも返り討ちにされましたけど、嫁入りできたので実質的には勝った‥‥のかな?

なお、ウサミミさんとオーガーたちは昨日の午後に出発しました。コーネリアとゴエモンが合体した後しばらくしたあたりで。
何ごともなければ昨日の日没頃には漁師村へ帰り着いている筈です。
ご一行様全員が人間とは比較にならないぐらい鼻と夜目が利く体質ですから日が暮れても大丈夫でしょう、巫女さんたちが道
中の安全を祈って祝福してましたし。


で、今はもう水平線の向こうにいる海賊船には大神殿で花嫁修行することになっているコーネリアも乗っている訳でして。
夫のゴエモンはもちろん、女の子が増えて喜んでいたオークたちも寂しそうです。私もですが。



「ツギ、ドウスル?」

気を取り直して作業を進めましょう。彼女や彼女に続くお嫁さんたちのためにも、漁場の改善を進めなくては。
オークたちに太竹を取ってきて貰ったのですよ。あとなるべく腐蝕しにくい種類の蔦も。
太いものになるとバレーボールがすっぽり入るほどになるこの中空植物を使って、いっちょ貝の養殖などしてみようかと。

1 なるべく太い竹を切ってきて、枝を取り扱いやすい長さに揃えます。
2 竹の節を抜いて筒を作り、錐などを使って竹の外皮に細かい穴をたくさんあけます。
3 穴だらけの竹製筒ができあがります。
4 筒の上と下に蓋を付けます。今回は茶釜要塞から持ち出した鉄板や金網を加工して作りました。
5 砂浜を掘って、アサリやハマグリなどの稚貝を集めます。
6 稚貝を筒に入れ、蓋を閉めます。
7 同じ物を10本ほど用意して、蔦で筏状に縛ります。
8 筏に岩と蔦で作った錨(碇?)をとりつけ砂浜の、大潮の干潮時でも干上がらないあたりに設置します。
9 二枚貝の養殖装置完成!

地球のものを参考にしてみたのですか、どんなものでしょうかね? うまく育つと良いのですが。
普段なら採らずに放してやる小さな貝もこうすれば、何年か後には食いでのある大きさになるでしょう。
もちろん大きく育った貝のうち半分は放流します。ウナギの養殖と同じで、成体にまで育つ個体を増やしてやることが資源の
保存に繋がるのです。
育てたウナギを全部出荷しちゃうから枯渇するんです。全てのウナギ養殖場で、育ったウナギの1割で良いから放生すれば直
ぐに資源は回復するのに。


それはさておき。
この種の貝類は微生物が餌ですから、新鮮な海水が入ってくるのなら泥や砂に潜ってなくても育つはずなのです。
ヒトデ類などの天敵に襲われないならかえってよく育つかもしれません。

地球では丈夫な網などに稚貝を入れて養殖するのですが、この浜辺の生き物には生半可な網では食い破られそうな気がするの
で竹筒に入れています。
これで駄目なら茶釜要塞から鉄の筒をひっぺがえしててきて使うしかありません。魔法的に防錆加工している素材なら貝が育
つ間ぐらいなら持つ‥‥といいなあ。



念のため、牡蠣用や海草用の養殖筏や養殖杭も作って一塊りにしておきましょう。

この浜も海草の茂みが増えれば海水中の微生物も多くなる筈。
養殖杭は樹皮を剥いだ丸太を砂浜に突き立てただけのものですが、杭の先は元珊瑚礁の地盤に食い込んでいるので嵐が来ても
倒れないでしょう。

杭式や筏式だけでなく、魚礁を使った貝や海草の養殖も実験中です。
小石や砂利を詰め込んだ竹筒に、短い縄や蔦をたくさん巻き付け縛り付けて 縄のれんのバケモノ のようなものを作ります。
これを岩と蔦の錨で砂浜沖の深いところ固定すれば、海草が生い茂る筈。海草の林ができればサザエやアワビや他の生き物が
増えます。
この浜辺の生物資源が増えれば当然微生物も増えるから、稚魚や稚貝がすくすく育つのです。
ウニやアワビだって、主食は海草(藻類)ですからね。

自然石を使った魚礁も量産中です。
キャンプファイアーの薪の要領で、なるべく隙間を作って石材を組み上げるのです。時間が立てば貝やフジツボが付いて岩と
岩が固定されより魚礁としての完成度が増すでしょう。

余っている材料も再利用しますか。葉が付いたままの竹枝を蔦で纏めて、中に小石を詰め込んだ竹竿に縛りつけたものも砂浜
の深いところに沈めておきます。この周りを囲むように岩を置き、天井代わりに大きな岩を積めば出来上がり。
小エビなどの小さな生き物がここで増えればそれを狙って小魚が増え、小魚を狙う大物も増える筈。

魚礁の天蓋岩を棍棒でぶん殴って魚を気絶させるオーク式ガッチン伝統漁法では、魚が隠れやすいように岩を組んで魚礁を作
ることもあります。なので魚礁を組むこと自体の意義はオークたちも理解しています。
獲物が少ない河でやることを獲物が豊富な海でやる、しかもガッチン漁法のためではない という事で戸惑っていたオークた
ちでしたが、「釣りが楽しくなりますよ」と言うと前向きになりました。

彼らにも 入り組んだ磯には魚が多い という知識はありますからね。なかったのは 入り組んだ磯を自分で作る という発
想です。
なくて当然です。魚が少ないなら多いところへ行けば良いのですから。
人口密度の関係で、その方が効率良いのですよこの島では。私が魚礁を作っているのは遠くまで歩きたくないからです。

この島育ちではないから思いつくのですよ。あと前世が日本人だからでもありますね。
いかにして 山を越える かではなく、いかにして 山を越えなくてすむようにする かに知恵と労力を使うのが日本人の性
‥‥と言ったのは夏目漱石だったかな? 森鴎外?


冬がなく飢餓の心配もないこの島では、作業効率の向上や収穫の上限拡大には関心が低いのです。 
この島ではオークは勝者であり生態系の支配者です。その証拠にこの島には野外に獅子(ライオン)がいません。
言い換えると、「開けた土地で集団で狩りをする大型哺乳類」がオークやミノ系種族で占められているのですよ。
獅子や狼の群など哺乳類系の集団捕食者はオークたちと競合してしまうから駆逐されましたが、森林や密林地帯で単独または
家族で狩りをする虎(タイガー)や豹(パンサー)などは生きのこれたのですね。熊も基本的に群れない生き物ですし。

この島に狐や狸がいないのは、草原や森林や潅木地帯で小動物を狩る生物層が鳥類・爬虫類・昆虫類などにより占められてし
まって入り込む隙間(ニッチ)がなかったのでしょう。
イタチやアライグマの類はうまく適応できたようですから、ただ単に運が悪かっただけかも?


まあ、「勝者は決して進化しない」と言いますからね。
ある意味オーク族は完全生物であるからこそ、それ以上を目指そうとしないのです。そのまんまでも充分暮らせるのですから。
しかし私は人間なのです。
弱くて脆くて不完全な生き物だからこそ、克服するために知恵を搾るのですよ。

実際の肉体労働はオークたちにまかせてます。私、非力ですし怪我人ですし。
ええ、下腹部にちょっと粘膜の裂傷や筋肉の断裂がありましてね。
限界まで小型化してもまだ日本人男性の平均よりも大きなものを推定成熟度ティーン未満の身体で受け入れてしまったのだか
ら仕方ありませんけど。

いまでも痛いですし初夜を迎えたうちの片方だけ痛いという肉体的格差には不公平感もありますが‥‥でも幸せな痛みです。
なので痛いけど治療呪文は使ってません。
下手に治療呪文使うと「拡張工事」の意味がなくなりそうですし。


このまま大神殿の女達みたいに、私も陣痛を楽しめちゃうどMさんに調教されてしまうのでしょう。
それもまた奴隷妻の喜びです。
オーク‥‥というか変態紳士って変態さんにとっては最高のご主人様ですよね。

サディストってベッド上の相方(パートナー)には向いてませんからねー。自分勝手なので。
いえ、寝室の外に嗜虐趣味者が向いてる役割がある訳ではありませんが。
ヤクザ屋さんや拷問吏だって、サディストは向いてません。彼ら(彼女ら)は対象からお金や情報を搾り取るのが役割であって、
痛めつけること自体を目的としてはいけないのです。効率が落ちますから。
軍人や兵隊さんはもっと駄目です。上司の命令を聞かない軍人なんかいない方がまだマシです。




なぜ真っ先に貝の増産を試みているかと言うと、巣の人口が増えていくとまわりの貝類を食べ尽くしてしまう気がしまして。
貝類が育つには時間がかかるのです。ハマグリとかの殻に年輪みたいな皺があるじゃありませんか。
あれってそのまま貝の年齢を表しているのです。つまり我々が何気なく食べている二枚貝は、下手をしなくても食べている側
よりも高齢だったりするのですよ。

縄文人の貝塚も、時代が現代に近くなるほど貝殻の平均サイズが小さくなっていきますからね。
なので養殖に力を入れているのです。貝類の安定供給は子孫繁栄に必須ですから。
牡蠣とかシジミとか、貝類の強精効果って確かですからねー。夫達には海のミルクとまで呼ばれる高蛋白でミネラルたっぷり
の貝類を食べて貰って、たっぷりと濃厚ち○こミルクを出して貰うのですよ。


今朝方になって自覚したのですが私は淫乱さんらしいのです。もうオークの奴隷妻になるしかないぐらいの。
人間族の夫だと腎虚で死なせてしまいます。間違いなく。
以前、この身体には性欲がないと自己診断していましたが、あれは間違いでした。

あのときは目覚めていなかっただけで、一度自覚した今となっては止めようがありません。
前世の日本でなら、性欲持て余している青少年の群‥‥具体的に言うと合宿中酒盛りしている高校野球部の宿舎に乱入して、
全員から輪姦してもらってもまだ満足できない級のエロモンスターなんです。

いえ、現在の今はまだそこまで行ってませんけど、あと三年も成長すれば確実にそうなるでしょう。
転生してからずっと修道院で缶詰にされていてもです。
たとえオーク島に転生しなくても、人間の世界にいても逆ハーレム作っちゃうでしょう。作れるならもう嬉々として。

私は肉体的には女ですけど精神的には男なので、男並に積極的で女並に底なしという難儀な性欲の持ち主なのです。
しかもこの身体は百人産んでも大丈夫な特別製、産めば産むほど元気になれる奇跡の産物なのです。女神様の保証付きです。
健康な若者が好みど真ん中な性欲対象の中で暮らしていたら、淫乱さんになっても仕方ないじゃありませんか。


ど淫乱だけど、ビッチ(雌犬)じゃありませんよー 私は夫達にしか身を許しませんから。貞淑な人(オーク)妻なのです。
え? ビッチはみんなそう言うんだ って?
じゃあビッチで良いですよもう。どうせやることは変わりないですし。





 ☆63日め3、さくさくと大根のように☆


夕方近くまで浜辺の作業を続けました。
岩製・木製・竹製と様々な素材で魚礁を作っては沈め作っては沈めます。

うーん、今はこれで良いのですが思惑どおりこの浜辺に海中密林ができあがった場合、今のように竹竿で怪しい物体をつつい
て危険物かどうか確認する方法は使いにくくなりますよねえ。藻屑が多すぎて面倒になる。
生物の密度が上がると、安全が取り得だったこの浜辺も他の狩り場のような危険地帯になるかもしれません。
今度セルキーたちに相談してみましょう。彼女達なら何か対策を知っている筈です。



ついでに食べ物や肥料や燃料になりそうなものを集めてから洞窟まで帰ってきました。
拾った貝殻と食用に向いてない海草を足洗い場で濯いで塩分を落としてから陰干しして、乾いたら灰と一緒に山へ持っていき
散布するのです。海草には山の土壌で不足しがちな海の栄養(ミネラル)が豊富に含まれているのです。
塩害が怖いから脱塩処理をきちんとしておかないと。
この島は雨が多いし水はけも良いですからあまり気にする必要はないかもしれませんが、念のためです。


一風呂浴びたら晩ご飯の準備にかかりましょう。みんなよく働いてくれましたから栄養たっぷりのを作らないと。

「グヒッ」
「オカエリ」

洞窟前の広場に、既に採取から帰ってきたグェスと留守番していたウォスが出てきました。
二人とも私に成果を見せたいようですね。
ウォスの成果は薄切りの水晶板を平面パズルのように組み合わせて一枚にまとめ、隙間を樹脂で塞いでステンドグラス状にし
た水晶窓です。縦横2メートル近い大きさです。

「おー 頑張りましたねレェ・ウォス」
「グヒー♪」

ステンドグラスのように溶かした鉛で繋いでから、透明樹脂で固めたのですね。初めてにしては良い出来です。
素早く器用で怪我の心配がないウォスだからここまでできたのであって、私ではもっと出来の悪いものを何日もかけて作るの
が精一杯でしょう。

「グヒッ」
「ギュー・グェス、ご苦労様です」

ウォスに続いてグェスのあたまも撫で撫でします。彼はひとっ走り水晶の取れる谷間に行って、水晶の補充というか採取をし
ていたのですよ。
ええ、資材置き場の水晶塊が少なくなってしまいましたからね。大きいのはソーニャさんがスライスしちゃいましたから。

数十センチ厚の鋼鉄板を切り刻めるソーニャさんは、やろうと思えば水晶柱を簡単に切り刻めます。
で、私が透明な板材を欲しがっていたことを思い出した彼女は、資材置き場に溜め込まれていた水晶を切って板ガラスならぬ
板水晶を量産してくれたのです。

なので我が巣には厚さ3センチほどの水晶板が大小百枚近くある訳で。
これだけあれば燻製小屋ぐらいの大きさなら温室を作れるでしょう。
窓は小さくても魔法の焚き火や「持続光(コンティニュアル・ライト)」などの光源を足してやれば植物も育つ筈。

それに素材が水晶なら板ガラスと違って割れにくいので壊れても修理が楽です。
大きな原石だけでなく水晶球も何個か薄切りにして貰いましたので、レンズ作りが捗りそうです。

水晶板を量産して貰うついでに水晶球も薄切りにして貰おうとしたのですが、コーネリアから待ったがかかりました。
コーネリアによると水晶球にはただの飾りとしての球と魔法装置の部品である球があるそうで、魔法装置の球をレンズ素材に
使うのは止めた方が良いのだとか。

ええ、水晶球って西方文明では割と一般的な記録媒体なのですよ。
つまり記録媒体用の水晶球は、地球でいえば光学ディスクのようなものらしいです。
適当な水晶球を薄切りにして貰おうとしたらコーネリアに全力で引き止められました。「切ったら壊れる!」と。

ああ、うん、確かに地球でCDなどを本来の使い道理解せずに鏡や装飾品や占いの道具に使っている部族とかいたら、野蛮人
呼ばわりされちゃうかもしれません。
地球でも何処ぞの人食い人種が、腕時計を腕輪の一種だと思って両腕合わせて十個以上身に付けていたこともありましたねー。
で、ゼンマイが切れて動かなくなったら「壊れた」って捨てちゃうんですよ。


文明人の彼女にとっては、普通に使える記録媒体を部屋の置物やおまじないの道具に使って欲しくないのですね。
気持ちは解りますので薄切りにして貰ったのは、ただの水晶を削って作った球だけです。
一度教えて貰えば、普通の水晶球と記録媒体用の水晶球を見分けるのは簡単でした。内部に細かい模様というか屈折率の違う
部分が延々連なっているのが記録媒体用です。陽光を透かすと綺麗に光るんですよー。

何故にソーニャさんが水晶を薄切りしてくれたかというと、「生命の粘土」の代金です。
もちろんこれだけでは足りないので、頭金としてですね。

はい。残っていた生命の粘土の半分はソーニャさんにあげてしまいました。
で、流石に只ではあげられないのでその分働いて貰うのですよ。具体的には、彼女にこの巣の専属教導員になって貰うのです。

期間はこの巣の面々が合計で星32分昇格するまで。つまりソーニャさんの指導で下っ端達が平均2ずつ星を上げればその時
点で任務達成です。
何がソーニャさんの指導の成果なのかの見極めが難しいでしょうけど、実際に星が上がればそれは全部師範の功績として計算
することにしています。野球やサッカーの監督招聘の感覚でいきましょう。
今の平均が星1としても、それが3に上がればかなり楽になる筈。


え? 貴重品だからとっておいた方が良かったんじゃないのかって?
それも考えましたけど、早めに使っておかないといつまでも残している気がしてきたもので。使わず後悔するよりは使って後
悔することにしました。

やはりというか思った通りというか、ソーニャさんはオーク好きでした。
私やコーネリアの結婚式というか貫通式を見ていた様子からも察せましたけど、断言できるのは本人から聞いたからです。
藤子さんはそうでもないみたいですね。

藤子さんはオークフェロモンが効きにくい体質だというのもありますが、彼女の好みからすると変態紳士たちは柔弱に感じるよ
うです主に精神的に。
もっと強引で積極的な男性が好みのようですね。ただし下衆はお断りと。


で、その、昨日最後の女神様質問コーナーで訊いてみたのです。

Q1、ソーニャさんってもしかして不妊症ですか?
A1、一般的な意味ではそうではありませんが、ある条件を満たさない限りオークの子を孕むことはできません。

Q1、本人に産みたい意思はあるんですよね?
A1、わかりきっていることをわざわざ質問しないように。

Q1、生命の粘土を使えば、産めるようになりますか?
A1、もちろんです。今なら安産の加護も付けましょう。


余計なお世話かなー とも思いましたけど、ソーニャさん本人に喜んで貰えたので良しとしましょう。
オーク好きでオークち○こ大好きだからこそ、子供を産めない身でオークの巣穴に住み続ける訳にもいかなかったのですよ彼
女は。

本人的にも、いつまでもオーク島で奴隷剣闘士を続けるつもりはありませんでしたので生命の粘土を貰ったことが積極行動に
出る切っ掛けになったようです。
もちろん夫たちも下っ端達にも不満はありません。
文明人には解りにくいですが、オーク島的感覚でいうとこれは私がソーニャさんに呪術を掛けているのです。貴重なアイテム
を犠牲(サクリファイス)にしてこの巣に嫁入りさせようとしている、と。

そしてその呪術(ポトラッチ)はある程度成功しまして、ソーニャさんは大神殿闘技場での選手生活を大急ぎで終わらせてから、
この巣で専属指導してくれることになりました。
やったねみんな、女の子が増えるよ! とっとと口説き落とさないとそのうちいなくなるけど!


まあ、ミッシェル山の大神殿と違って避妊や性欲処理してくれる触手くんもいないし、若い男女がそれなりの期間一つ屋根の
下で同居することになるので、ひょっとしたらひょっとしますけどね。
うちの巣の下っ端たちは比較的ですが彼女の好みに近いようですし。様子を見た限りでは大外れではない筈。

幹部は駄目ですね。双方に、とくにソーニャさんにその気がありません。
うーん、夫達を寝取られる心配がないからこれはこれで? 悪くないのかな?
いつかは後輩嫁を受け入れなくてはいけませんが、それは新婚気分を楽しんでからにしたいですし。
でも巣の拡大と戦力強化は急務だし‥‥難しいですね。





 ☆63日め4、オリゼーは永遠なる和食の友☆


お客さん達、特にオーガーたちがクジラ肉の備蓄を減らしてくれたのは有り難いですね。代わりにタコ肉が増えたけど。
では硝子窓ならぬ水晶窓ができたことですし、干物小屋を建てますか。ちゃっちゃと組めば時間もいらないし。
タコ肉の大部分は改築した燻製小屋で処理して保存食にしましたけど、処理能力を上げておいて損はありません。

岩壁沿いに丸太と岩で組み上げて、隙間は粘土とオガクズを練ったもので埋めて、乾いたら松ヤニやセメントで固めましょう。
空気穴は茶釜要塞から持ってきた太い鉄パイプに金網を貼り付けて、と。
早いこと炭焼き小屋を整備して液燻用の木クレオソートを量産しないといけませんね。あれさえあれば燻製(もどき?)が量産
できますし正露丸も‥‥作っても使い所がないのか、そういえば。
オーク達の胃腸は魔法合金製だし、この世界には治療呪文もポーションもありますから。


極地の原住民は、石を組み上げて通気性はあるけど動物は入ってこない壁で囲った食料庫を作るそうですが私にそんな器用な
真似はできません。
というか、南国熱帯トロピカルなこの島でそんなもの作ったら虫の餌食になるだけです。空気穴は金網と乾燥虫除け草で塞い
でしまいましょう。


干物小屋の建設が終わったら後かたづけをみんなに任せて、私は晩ご飯(の一分)を作ります。
今日は大きめの赤エイが捕れたのですよ、エイ類は新鮮なうちに調理しないとね。
え? このエイの鮮度は捕れたて数分後ですよ、シメて血抜きが済んだ直後に貪り食う無限袋へ突っ込んでますから。

一時間事に出し入れしないといけないのが面倒くさいですけど、手元にクーラーボックスがない以上致し方ありません。
夫達三人と下っ端の何人かはかなり正確な体内時計を持っていまして、私が忘れそうになっていても出し入れの時間が来ると
教えてくれます。


エイの半分は生姜と木の芽を入れて醤油煮に、残り半分は竜田揚げにしてみますか。カマボコにしても美味しいですが今回は
量産は無理ですね、時間ないし。少しだけ作った塩練りすり身を竹串に付けて焚き火で炙り、焼きカマボコにします。
軟骨は素揚げにして骨せんべいにしましょうか。

養殖筒に入れなかった大きな二枚貝は汲んできた海水に浸けて泥を吐かせます。明日にでも食べましょう。
明日の朝食はアサリの味噌汁に焼き大ハマグリですよ♪ 今から楽しみです。
ちなみに中くらいの貝は放流しました。養殖するのは小さめの二枚貝だけです。

ふっふっふっ そう! ヒルデニア船から買い入れたのです、味噌と醤油と米麹を!!
ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!
諸君、我々は勝利した!


‥‥失礼。でもこの気持ち、二ヶ月間味噌と醤油がない食生活を続けた経験のある日本人なら理解してくれますよね?

商才の面ではちょっと残念な祐衛門(すけえもん)船長ですが、部下の船員達(の一部)は商売人としても水準以上でした。
オーク島との取り引きで一番よく売れる商品が扱えない以上は他のもので儲けを出すしかない訳で、蛇王丸の船倉にはオーク
島で売れそうな物品が満載されていたのです。

具体的にいうと米・味噌・醤油・酒・味醂・麹・干瓢・干し椎茸・貝柱・乾麺など。
特に南国ものじゃない出汁昆布やもみ海苔などの海草類は嬉しかったですねー。
板海苔はありませんでした。まだ開発されていないか、存在していても一般には知られていないようです。


以前にこの島には海苔が生えていないといないと言いましたが、正確には「食用に適した海苔が生えてない」のです。
海苔類はありふれた種類の海草なので、この島にも生えていることはいるのです。不味いのが。

地球と生態系が似てなくもないこの大内海地域の海には海苔系の海草が存在します。
ですが美味しく食べられる種類の海苔はこの島近辺には生えてません。
美味しい海苔系海草、たとえば浅草海苔と同種らしき海草はヒルデニア特産でして他の地域では手に入れにくいのです。

地球のアオサノリに似ている品種はこの巣の近くにも生えていますけど、あれを好き好んで食べる気にはなれません。
はっきりいって不味いです。佃煮とかにすればなんとか食用にはなるんですけど、もっと美味しい海草が幾らでもあるし。
硬くてモサモサして口当たりが悪い上に風味も悪いのですよ、アレは海苔と呼ぶにはちょっと。


テングサの類も、この島では取れません。こっちは海苔類とちがって他の海草と競合して負けてるんじゃないかと思います。
稀に見かけることもあるのですが、食用にできる量ではありません。
買えば良いだけですけどね、買えば。輸入品だから高いけど。

ヒルデニアではテングサは煮込み処理して直接食べる以外に羊羹の材料などとして使っていて、寒天そのものを菓子としては
食べてないみたいですね。そういう発想がないのでしょう。
今度蜜豆や餡蜜作って大神殿へ持っていきますか。藤子さんあたりなら理解してくれる筈。ヒルデニア人の食い物への拘りは
並じゃありませんから。


どうやらヒルデニアに、地球の日本からやってきた転生者がいる可能性は低いですね。
いるとしても私のように転生して間もないなどの理由で地位や財力が低く、社会への影響力が小さいのでしょう。
元日本人の転生者ならもみ海苔があって板海苔がない、羊羹があって蜜豆がないという現状を放置などしないはずです。
船長達に板海苔の概念を吹きこんでみましたけど、作らないだろーなー。彼ら海賊だし。

そうそう、海賊船からは食料品以外にも色々買い込みましたよ。紙とか布地とか、あと日用品や雑器も色々。
ヒルデニアには楮・三椏・雁皮などから作る和紙っぽい紙があるのです。
あと結婚祝いとして軽傷治療薬を一袋貰いました。なぜか蛇王丸は安いポーションに不自由していないそうです。


さて、山葵がないのは悔しいですが醤油が来た以上、刺身を作らねば。
コボルド印の包丁は折れてしまいましたが、代わりにソーニャさんが作ってくれた水晶包丁があります。
ブリもどきの刺身に醤油と柚子胡椒ならぬ柑橘山椒で一杯。生姜醤油で一杯。麦味噌で一杯。和辛子で一杯。
九州あたりだと割と一般的なんですよ、刺身に味噌って。醤油ほど万能じゃありませんが合う魚には良く合います。

山葵の存在はヒルデニア人達も知っていましたが、おろした山葵を刺身やナマスに付ける習慣はロシマ近辺にはないそうです。
あれですね、刺身は港や漁村じゃないと食べられないし山葵は水清らかな山中じゃないと手に入りませんから、まだ出会って
ないというか世間で一般的ではないのですね、刺身に山葵という組み合わせは。

ヒルデニアでは山葵の葉っぱをハーブとして、根はわさび漬けなどにして食べられているようです。
タル一杯分の生山葵を注文しておいたので、次に来るときは山葵も持ってくる筈です。そのときは約束どおりタル一杯分の財
宝と交換しましょう。

タル一杯分あれば、大神殿住まいと神殿滞在中のヒルデニア出身者全員に試食させてお釣りが来ます。
そうなれば山葵がこの島の輸入品目に加わるのは理の当然。
新商品開発で船長達が儲かればますます交易が盛んになるでしょう。
商売人としてはアレですが、彼らの船乗りとしての力量は大したものです。人脈を繋げておいて損はありません。



さて、みんな揃ったところで夕食にしますか。


アワビとキノコ入りの炊き込みご飯
クジラ干し肉とカボチャの煮物
エイの醤油煮と竜田揚げと焼きカマボコと軟骨センベイ
ブリもどきの刺身と塩焼き
叩きオクラと山芋のとろろに醤油ともみ海苔をかけたもの
大猪ベーコンと苦瓜とタマネギの炒めもの
挽き割り大豆のシロップ煮

が、私の作った料理。
オークたちは鳥モドキや大ウナギの串焼き・蒸しバナナ・イモの塩煮などの男料理や生のままの食材を食卓に並べています。
あと枝豆風の半熟豆塩茹でとかも。


「はい、あーんして」
「グヒッ」

ゆっくりと時間をかけて、夫達と一緒に食べます。
互いに食べさせて貰ったりとか、口移しとかしていちゃいちゃしながらなので時間がかかるのですよ。
新婚さんなのだから、このくらい普通ですよね?


ご飯の後は久しぶりの神経衰弱(毒物無しルール)で遊びました。
上位入賞者たちへのご褒美は巫女が炊きたてご飯をその場で握ったお握り、具と味付けの要求権付きです。
歌や踊りはちょっとね、まだ傷が痛いですし。







[38600] 39
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/15 12:13



 ☆63日め5、当然と言えば当然なのかなあ☆


それにしても、うちの宝物庫もだいぶ寂しくなりましたねー。
大神殿へのお布施とコーネリアの実質手切れ金だから仕方ありませんが、あれだけあった財宝の山がこんなに小さくなってし
まうとは‥‥。
ま、良いか。また貯めれば。
セルキーたちから結婚のお祝いに貰った真珠や珊瑚を宝物庫に入れましたし、減る一方ではありません。

交易のためにも明日からレイちゃん酒造と精油所を再稼働して‥‥ あれ? 
よく考えたら、いままで油椰子から油搾り取ったりサトウキビから黒砂糖の原液搾り取っていたりした場所はエスティア神殿
になっているのですが。

どうしましょう、これ? 醸すのはこれまで通り居住区の温かいところか風呂場の端で良いとしても、大広間でやる作業がや
り辛くなってきましたよ。狭いから。


是非もなし。

狭いなら拡げましょう。拡張工事あるのみです。
大広間の北東と北西方向には掘り進められる余裕がありますから掘り拡げましょう。あと南北の居住区も。
倉庫の拡充も必要ですね。より多くの物資を蓄えるためにもネズミ対策を進めないといけないか。


晩ご飯とその後の娯楽時間が終わり、いまは宝物庫と資材置き場のアイテム類、特に武器などの装備品を調べています。
ソーニャさんもちょっと手伝ってくれましたが何分にも数が多くて厄介です。
とりあえず、絶対安全と言い切れるアイテムだけを使うことにしてます。何かあると拙いですから。

確か日記帳では‥‥そうそう56日めでしたね危険なアイテムに気づいたのは。
あれ以来は、数日前に発見してからは厄介な呪いや根性悪い仕掛けが付いているアイテムは見つかってません。
しかし、未鑑定アイテムの中に危険物はもう無いと決めつける訳にもいきません。

うん、オーク族が魔法の武器をあまり有り難がらない気持ちも解ります。ゴォ・ドスのように好奇心と探求心が強くて呪いや
カラクリを見極められる人じゃないと怖くて使えませんよね。オーク族とくに下っ端は魔法に弱いし。
本来オーク族は要塞建築と武器制作に関してはドワーフ並かそれ以上の技術がある筈なのですが、この島では違うようです。
いや、「指輪」とかのオークが技術的にも優れているのは魔王の手下だからでしたっけ? 
こんなことならもっと読み込んでおくんでした。あの本とにかく長いからとばし読みしちゃうんですよねー。


焦っても意味はありません。しっかりと、地に足をつけて事を進めなくては。
というかほんの数日で巣の様子は大きく変わってますし、住人の意識はもっと変わっています。
なにせ、実際にコーネリアというお嫁さんが来ましたからね。
頑張れば、そして運と男気次第で可愛いお嫁さんが貰えると証明されてしまいましたから下っ端たちはやる気充分です。

だから焦っては駄目です。
私がこの温泉洞窟に来てから、まだたったの二ヶ月しか経っていません。
この二ヶ月間で私は居候から、族長夫人兼宗教指導者兼母親代わりになりました。

釣りとか治療とか演奏とか文化面や技術面でも成果を出してます。地球でなら農業チートしようとしても蕎麦や馬鈴薯ですら
収穫できない短時間で、ここまでできたのです。
これ以上の発展速度を望む方がどうかしている。焦りも高望みも禁物です。


できることを一つ一つ片づけていきましょう。
まずは今やっている作業を、巣にある未鑑定アイテムの中から使えるアイテムを選別して分類する作業を終わらせましょう。

‥‥ん? この真珠の首飾りは、たしか前は完全には鑑定できなかった代物でしたよね? 浄化機能つきのやつ。


【浄化の真珠飾り】
・大人の女のための装身具だ
・それは真珠でできている
・それは朽ちず錆びない
・それは首を守る防具として使える
・それは尻穴を調教する淫具として使える
・それは首に装備すると回避力を僅かに上げ、尻穴に装備すると回避力を僅かに下げる
・それは治癒力を上げる(※※)
・それは感覚を6上げる
・それは男の手によってしか着脱できない
・それは処女に対しては使えない
・それは異物の侵入を防ぐ
・それは淫具として使用した場合、使用された部位の開発を進めやすくする(※)
・それは汚物や汚水を浄化する
※あなたは使用条件を満たしている




首飾りじゃなくて調教用淫具かよ! それも後穴専用の! 


この首飾りとしても一応使える連結真珠には汚物や汚水を浄化する機能が付いています。
ハーレムの寵姫や高級娼婦などの愛玩用人間を、汚物愛好の趣味を持たないご主人様が開発&調教するための道具なのですね。

元々は淫具なのですが、冒険者などが使う意味もあります。
小はともかく、大便いわゆるウ○コの危険性は洒落になりませんから。
早い話同じように下腹部を槍で突き刺された場合でも、大腸の中身が空っぽな人と充満している人がいたら前者の方が生存率
が格段に高い訳です。

前世では、時々「中世の重甲冑は着脱に半時間かかるのが普通であり、部将は滞陣中に大小便を垂れ流しにしていた」とかの
珍説を述べる自称研究家がいましたけど、そんな馬鹿な真似している中世人はいません。
そりゃそういう鎧が存在しなかった訳じゃありませんが、そんなもの着て実戦に出る奴はいませんよ馬鹿馬鹿しい。
宇宙服着て喧嘩に行く宇宙飛行士がいないのと同じです。
実用品の鎧は着たまま大概のことができますし、着脱だって素早くできるものなのです。脱ごうと思えば一分もかかりません。
中世というか、「現代人以外はみんな馬鹿」だとでも思ってるんですかねああいうのは。思ってるんだろうなあ。


怪我の場合はもちろんですが、平穏なときでも排泄物の問題は大きい。
キャンプ先でテントを張るときは真っ先にトイレを作るように、人間の生活上切っても切り離せないのです。
一説によれば奈良の平城京が放棄された理由の一つは、人口が増えすぎて汚物処理が追い付かなくなったからだそうですし。

この浄化機能付きアナ○ビーズを装備していれば、匍匐前進で密林を突っ切って敵将を狙撃してまた匍匐前進で帰ってきた狙
撃兵も、ズボンを汚さずにすんだ筈です。
代わりに水で濡れまくるでしょうけど。

あー ファンタジーRPG世界でそっち方面の設定や言及が少ない理由が解りましたよ。
魔法やそれに類するものがある社会だとこんな風に問題解決されているから事件や案件にならないし、ならないからこそ一部
の特殊嗜好者からも無視されちゃう訳だ。
突き詰めて考えても、一部の設定マニアが精神的満足感を得るだけですからねー。
問題が起きないのなら最初からイベントが起きない事にした方が労力が節約できます。


この手のアイテム、淫具や霊薬はこの世界ではありふれたものなのでしょう。呪文とかも。
一般向けゲームでは省略されがちな部分ですけど、人間の生活からは切り離せませんからねー。
性衝動というか繁殖本能は人間、いや生き物の本質なのです。生殖行為から過度に目を逸らそうとする事は中学二年生がよく
罹患する精神病にすぎません。

いやほら、中学生の頃にいませんでした? その手のネタに過剰反応する人。
その手の話題にダボハゼのごとく食いつくのも、逆に不潔だ不潔だって忌避するのも、同じ事の裏表に過ぎないのです。


しかし、あのとき確認できなかった使用制限って「尻穴がヴァージンか否か」だったのかー。 
‥‥いえ、正確には「アナ○調教を受け入れる意思があるか否か」だったのです。
そりゃ、あのときの私には使えませんよ。

・それは処女に対しては使えない というよりも
・それは処女を守りたい者に対しては使えない の方がより正しいのです。前じゃなくて後方向のね。

当然ながらこの制限は後のヴァージンに関してだけでして、他の穴が貫通済みだったり非貫通だったり貫通して貰っても良い
と思ってたり思わなかったり等は、一切関係ありません。尻穴限定の開発用淫具なのです。



なるほど、冒険者の多くがパーティ内でくっつく訳だ。
生存率を少しでも上げるためにこの手のアイテムを活用する者は少なくないでしょうし、吊り橋効果で連帯感が高まる間柄で
調教プレイみたいなことやっていたら情も湧きますよ。湧かなきゃ別れるだろうし。

「レベルを上げて物理で殴る」戦法は、レベルが実在する世界では鉄板選択です。
具体的に言うと2レベルの騎士より5レベルの街娘の方が強いのですよ、この大内海周辺では。10レベルの傭兵よりも25
レベルの農夫の方が強い訳です。
農民は怖いんですよー 尾張の大うつけだって最後まで農民には喧嘩売らなかったのですから。
猿は売ったし買い占めたけど、アレは当人が農民の出で言わば同類対決だった訳ですし。



この世界では、才能の差は積み上げた経験の差でひっくり返せます。
そして経験を積み上げるには運と仲間の協力が必要な訳で。
向上心溢れる若者が冒険者になるのも解りますねー。危険ではあるけど手に入るものも大きいですから。
まあ「命あっての物種」という面もありますので、冒険者にならない人生航路というのも解りますが。
実際の話、ソーニャさんの同期というか同時期に冒険者になった若人達で今も現役なのは10人もいないそうです。

冒険者のうち栄達できる者は僅か数%、それ以外のうち7割半は志半ばで倒れ2割以上が途中で廃業するのです。
地球のサッカー選手やカンフースターや声優の卵に比べたらまだマシな生存率ですけど、存在が物理的に消えてしまう事を考
えるとファンタジー世界のワナビー生活は洒落になりません。

ちなみに冒険者の脱落原因は一番が初期の傷害や突然死、二番目が底辺よりはマシな職種への転職だそうです。
女の冒険者が廃業する理由の三番目か四番目ぐらいが嫁入りですね。ソーニャさんの顔見知りにも何人か、冒険中に見そめら
れて求婚されて、そのまま引退しちゃった人がいるとか。
相手は色々ですけどね、同種族だったり異種族だったり。

ソーニャさんは剣闘士も教官仕事も終えて自由の身になったら一度東方へ戻って、そこで子供を産むかどうか決めるそうです。

故郷か。帰る場所があるのは良いことです。彼女の帰る場所は東方文明圏バルキア地方のリガ港なのです。
私はこの島が産まれた場所なんですけどね。帰る場所も。





 ☆64日め、きょうもげんきだ☆


あの怒濤の数日間は、命がけの旅は夢だったのでしょうか?

そう思ってしまうぐらい平穏な朝です。
昨夜は寝物語を四人で語らい合って過ごしました。一人が子供の頃の思い出やらなにやらを喋って他の者がそれを聞いている
だけなのですが、いくら話しても話題は尽きません。

話題が多くて興味が惹かれるというのもありますけど、いちゃいちゃしていると会話が止まるせいでもあります。
口付けしながら会話はできませんからねー。
へっへっへっ そりゃもう新婚さんですからいちゃつきまくりですよ。しかも夫が三人もいるから休む暇もありません‥‥ 
というのは慣用句であって、実際にはちゃんと休ませて貰ってますよ。夫達は心優しい変態紳士ですから。


本番えっちというか、子供ができる行為は初夜だけしかしてません。
初夜のあとは、新妻の痛みがひくまで子作りを控えるのがこの島の流儀だそうです。調教中ならともかくね。
だから次の合体は明日か明後日の晩になるでしょう、早くて。

私はともかく、旦那様たちの方が嫌がるんですよ嫁さんが苦しむのを。
明日ぐらいには傷も塞がって痛みが我慢できるようになるから、本格的な調教はそれからですね。

私と夫達の関係は、地球でいうなら自由結婚している夫婦が一番近いのではないかと思われます。
互いの自由意思で婚姻関係を結んでいて、その気になれば離婚だってできるのです。
いえ、金髪ちゃん姉妹も同じなんですけどね、実は。
戦死者と同じ数のオークを産んで賠償責任を果たした以上、金髪ちゃんたち6人はオーク島に残る義務はないのです。
出なきゃならない理由もありませんが。

この島だと 奴隷 という言葉は 繋がれている者 ぐらいの意味でして。
戦争捕虜のように人権が大幅に制限されたモノホンの奴隷もいれば、私や金髪ちゃん達のように愛の奴隷もいるのです。
コーネリアは本来捕虜になる筈でしたが、女神様降臨のあおりで奴隷妻(ただし強制別居中)になりました。



えーと、式を挙げてから解ったのですが、オーク族の流儀では一妻多夫婚の夫婦関係にある男女というか男男男女が同衾する
場合は基本の一組に任意の男が添い寝する事になります。
つまり私とグェスが一緒に寝て、そこにドスとウォスが添い寝する訳ですね。

このとき誰と寝て誰を添い寝させるかの決定権は女側にあります。
とりあえず昨夜はグェスと一緒に寝て、ウォス・グェスと私・ドスの順番で並んで寝ました。
独身時代というか結婚前の同棲中に、添い寝する位置でオークたちは揉めていましたがあれはオーク側から触れないから不公
平感があったのです。
上の並び方だとウォスが私と直接触れあえませんからね。

でも今は、結婚してからは夫の方から触れる訳で。
そんな訳で、今朝はほぼ全裸の夫婦四人で一塊りになってます。
早くて半月、遅くても一月かそこらでグェスの調教も終わります。そうしたら私は夫達三人と好きなだけ「ずっこんばっこん」
できちゃう訳で。

私たちのような正式な夫婦関係にある組み合わせは、えっちの選択権は女側にあります。
たとえば私は夫達に「コヅクリ、シタイ」と望まれても嫌なら断れるのです。
特に私のような立場だと女側から離縁できますからね。する気はないけど。

逆に、夫達は私の方から「旦那様が欲しいです」と求められた場合は、緊急事態ででもない限りは応えないといけません。
万年嫁不足のオーク島では、嫁に寂しい思いをさせてしまう雄に夫の資格はないのです。
嫁でなくとも、たとえ調教中の捕虜であっても、ち○こを突っ込む気になれない女など持っていてはいけません。
子作りしたくならない女ならとっとと神殿にでも引き渡すのが道理なのです。



全身が筋肉の塊である幹部オークたちは人間と比較にならない丈夫さを誇ります。
寝そべっている夫達の腹や胸の上で、私が飛び跳ねたぐらいではびくともしません。筋力の差がシロクマと幼稚園児ぐらい違
いますからねー。コーナーポスト上からフライングニードロップ仕掛けてもくすぐったいだけでしょう。
だからギュー・グェスを肉の敷き布団にして寝ても、されている方は毛布並の軽さとしか感じないのです。

肉布団と肉タオルケットと肉抱き枕の三点セットのお陰で、今日も安眠快眠です。
幸せだなー。
なんかここ最近ずっと同じ事言ってる気がしますが、実際幸せなんだから仕方ありません。
ありのままの自分を受け入れて貰えるって、良いですよねー。


狂暴で身勝手で淫乱な私でも幸せが掴めるのですから、コーネリアやソーニャさんは当然掴める筈。
そして彼女達のあとでこの洞窟へやってくる女達も幸せになれる筈です。
求めるならまずは与えるべし。自分が幸せになりたいならまず他者を幸せにしましょう。誰かに幸せになって欲しければまず
自分が幸せになりましょう。
この真理はこの世界でも有効なのです。

だから私は自分の巣を、この温泉洞窟を改築します。もっともっと住み心地の良い場所にするために。
言葉が通じなくても好意や歓迎の意思は通じます。
この洞窟を地下の小楽園に変えること、これが現在の目標ですね。



地下に拘る必要はないかな?
確か鉄筋コンクリートの強度は鋼鉄の50%から25%ですから、竹筋と粗製セメント製でもメートル級の厚みがあれば岩盤
と大して変わらない耐久性が期待できる訳で。

‥‥やはり巣のまわりを何重にも防壁で被うべきですね。河川や断崖など地形を利用し、足りない部分を空堀や石垣や土累で
継ぎ足して防衛線を構築しましょう。
ドラゴン級の強敵が攻めてきたら一発で破壊されるでしょうけど、作らないよりはマシです。

防衛施設を作らないと巣を守れないし、かといって防御力を優先すると暮らしにくくなってしまいます。
富国強兵って、言うは易し行うは難しの典型ですよねえ。

ま、一つ一つ片づけて行くとしましょう。私には女神様の加護と可愛い息子達と頼もしい旦那様たちがついてます。
何を怖れる必要がある。


昔からいうじゃありませんか、母は強し と。
実と義理合わせて18人も子供がいる私は最強なのですよ。ええ。

今更ですけど、男女バランスが偏りすぎですよねーこの巣は。
偏りを是正するために、コーネリアには頑張って孫娘を産んで貰わないといけませんね。たくさん。
今からお金貯めて若返りの霊薬を買いましょう。若返らないと野球チーム一つ分ぐらいしか産んで貰えませんからねー。

あれ? そういえば私は女の子産めるのかな?


Q3、あのー コーネリアと違って、産み分けできませんよね? 私には産み分けの加護がないし。
A3、加護による産み分けはできませんが呪文でならできますよ。

信仰魔法には、これから妊娠する子供の性別や種族や気質などを決められる呪文があるそうです。プリーテスなら3レベルで
使える呪文ですね。

Q3、あれ? となると人間がオークと子作りするときに「産み分け」の呪文で人間の男の子を産むように設定すれば、事実
上の避妊呪文になるのでは?
A3、理論上はできますけどやる人はいませんね。1レベル呪文に「避妊」がありますから。


女神様との直接交信授業で、新たに1レベル呪文「避妊or適妊」と2レベル呪文「豊乳」、そして3レベル呪文「産み分け」
を教えて貰いました。2レベル以降の呪文はまだ使えませんけど。
「避妊or適妊」は妊娠する確率を大幅に上げ下げする呪文で、「豊乳」は母乳が出るようにする呪文です。
他にも色々とあるようですが、今朝教えて貰ったのはこの3つだけです。一度に憶えると疲れるんですよ、新米神官ですから。

「避妊」と「適妊」は同じ呪文の裏返し、「地下牢と竜」世界で言うところの逆呪文ですね。





 ☆64日めの2、よくあること☆


今日はレェ・ウォスと一緒に薪集めに出ました。ついでにキノコとかの採取もしますけど。
もちろん縄張りの巡回も兼ねてます。
薪集めの面子はウォスと私、コブハナ、デコバチ、イシカワ、ゴエモン、サダキチ、モッサリの8人。

新入り三人には、この辺りの環境に慣れて貰わないといけませんからね。
大神殿周辺の平地に慣れた彼らは、起伏が激しく視界が狭い地形に不慣れなのです。
まあハラキズたちもすぐに慣れたので、ゴエモンたちも適応できるでしょう。

縄張りの見回り+採取がオークたちの目的ですが、私はそれに加えて肥料散布もやります。
まくのは焚き火の灰や貝殻の粉や食べられない海草などですが、毎日続ければそれなりに効く筈です。
この島は雨が多いから糞化石(グアノ)が溜まらないんですよねー。シロアリが多いから腐葉土も溜まりにくいし。
コーネリアの故郷、ソルボ島は平たい地形で雨が少なかったようです。


ソルボ島の悲劇も、決して他人事ではありません。

糞化石を掘るために海鳥の繁殖地を潰す → 島から海に流れ込む養分が減る → 糞化石を掘り尽くしてしまい、島から鉱
山労働者がいなくなる → 更に島から海に流れ込む養分が減る → 海のプランクトンが激減する → 海から魚がいなく
なる → 島から海鳥と漁師がいなくなる → 更に更に島から海に流れ込む養分が減る‥‥  
という典型的な負の連鎖無限螺旋急下降状態ですから。

典型的ということは何処にでもあり得るということなのです。


日本でも昔は赤潮の被害が酷かったそうですからねー。生態系の維持って大変なんですよ。
この島はエルフやセルキーたちが仕切っているからそう簡単には破壊されないでしょうけど。

私も生物資源枠の拡大に励まねば。具体的には樹を植えるのです。
幾つかの小規模な松林をハシゴして薪や松の実や松ヤニを集め、ついでに松の枝を切り取って荒れ地に植えて挿し木にします。
上手く根付くと良いのですが。

火炎松は痩せた土地の方が良く育ちます。なので松林を維持するには薪拾いが欠かせません。
広葉樹よりも針葉樹の方が腐葉土ができやすいのですよ、この島では。
食物連鎖の回転が激しい南国では、広葉樹の葉っぱが腐る暇もないのです。美味しいですからね、虫とかにとっても。

その点針葉樹は葉切りアリが葉っぱを切り取りませんし、シロアリの類も火炎松は脂分が多すぎるようで好まないのです。
松は生態系の拡大に向いた植物です。禿げ山でも育ちますからね。
そしてやがて松林は自らが作った腐葉土によって消えていき、その後釜に座った広葉樹たちによって元禿げ山は緑に変わるの
です。

だからどんどん植えますよー。


貪り食う無限袋を使えば一度に数百キロの物資が運べます。オーク達が運ぶ分も入れれば更に数百キロを確実に。
良質の薪は交易品になりますので、備蓄の回復を急がなくては。
セルキーたちとのコネを維持しておけば何かと便利ですからね。

キノコなど軽いものは最後に集めます。少しでも鮮度の高い方が良いですし。
では、帰りますか。



はて? こころなしか、下っ端達の動きが良くなった気がします。
動作そのものも前よりキビキビしていますし、ウォスが一々指示しなくても行動しているし、辺りの警戒や互いの連携もそう
悪くありません。
先月の新人研修が幼稚園の遠足だとしたら、今の下っ端達は小学生のクラブ活動程度には統率とれてます。
うーん、何が効果を発揮したかはともかく悪い変化ではありませんよね、ええ。


一度洞窟に帰って薪倉庫に薪を積んで、と。
まだ昼には時間がありますから、今度は油椰子やサトウキビの採取に向かいますか。ついでに椰子の実も植えましょう。
椰子林が増えればヤシガニも増えますからね。連中、椰子の実だけを食べてる訳じゃありませんが。





さて、と。
今更ですが私はお馬鹿です。下手をすると下っ端オークたちよりも粗忽です。

ちょっと考えれば分かりますよねー。女神様の結界があるからと特大のブランコを作って貰っても、乗れる訳ありません。
その日の朝は大忙しで、昼はコーネリアの結婚式で、午後から翌朝までは下っ端達への性教育やら私の貫通式やら何やらで、
ブランコに乗る暇なんてありませんでした。
そして時間切れで結界の効果が切れて、洞窟前の広場は元通りの準危険地帯に戻ったのです。



どーしましょうかね、この大型遊具。
巣の人数が増えたことと、広場に石垣や猪小屋など様々な施設ができたことなどから安全性は高まっていますがそれでも野外
が危険なことは変わらない訳で。

いえ、前より安全になっているんですよ? 
二ヶ月前は出入り口の前をミカン箱より大きい甲虫や巻き貝が闊歩してましたけど、今はいませんからね。
まあ、虫だって岩や丸太がごろごろ崖から転がってくる場所には近寄りたくないでしょう。
丸太転がしは人気のある遊技ですからねー そしてときおり外れて外野まで転がっていく丸石や丸太もあるわけで。
巻き込まれたくない生き物が広場周辺から逃げるのも分かります。

副作用として、巣の近くの木々や草が減ったのでヤブ蚊も減りました。
元々このあたりは蚊が多くはないんですけどね。虫取り草の茂みが多いから。

何故にこの近辺に虫取り草が多いかといえば、オークたちが増やしているから。
その方法は極めて簡単。焼き畑農業です。
適当に焚き火をした後で、土が冷えたら焚き火跡を掘り返して耕して、その中に虫取り草の根を埋めておくだけです。
虫取り草以外の植物、たとえばバナナとかサトウキビとかもこの要領で増やしているのですよ。

私はこれに塩抜きして乾かしてから砕いた貝殻や海草の粉を混ぜる方式を試しています。
更に竹製のザルというかフルイで小石をより分ける方式も。
つまり 伝統的焼き畑 と 焼き畑+肥料 と 焼き畑+肥料+小石除去 の3方法をやってそれぞれの効果を確認している
訳です。
もちろん私の脳味噌ではどの焼き畑がどの方式だったか一々憶えてられませんので、焼き畑の傍に竹竿を突き刺して目印にし
ています。
竹竿に付けた刻み目の数で方式の区別をつけるのです。

より分けた小石は建材や石つぶての弾として巣の入り口近くへ備蓄します。
柄杓型投石器や大砲で撃ち出せば小石も立派に面制圧兵器ですからね。
いやその、実は茶釜要塞の倉庫から予備の大砲と弾薬を運び出してあるのですよ。この巣に。
取りあえず一門を訓練用として、改築が落ち着いてから使うつもりです。

一門は既に、防衛用トラップとして配備済みです。
旧詰め所の小部屋壁際に岩を組んで砲台を作り、火薬と散弾を詰めた砲口を入り口の穴に向けて固定してあります。
偽装を入念にしてありますので、本職の盗賊や遺跡荒らしでないと一発で見破るのは無理でしょう。

敵が出入り口から侵入してきたら大広間から紐を引っぱって引き金を引き、砲撃する訳です。
ケチな海賊程度の敵ならこの一撃で一個分隊ぐらいは挽肉にできる筈。
念のために火薬と砲弾は松ヤニで被って防湿処理していますし、うっかり誤射しないように引き金は重くしてあります。
下っ端オークでは渾身の力を込めないと引けないでしょう。 

‥‥そういや、まだ試し撃ちしてませんでしたね。お昼になってドスたちが帰ってきたら撃ってみますか。
オークたちの中には、物語の中でしか大砲を知らない子もいます。オークたちに「大砲とはどんなものか」を熟知して欲しい
ですからねー。
いつ何が起きるか解りませんし、大砲に慣れておいて損はありません。

大砲はあと三門ほど資材置き場に積んでありますが、問題は火薬なんですよねー。
黒色火薬だから引火したら爆発するんですよ。洞窟内だと爆風が拡散しないから、たとえ一樽分でも爆発すれば確実に大惨事。
通風口に籠もった主人公がテロリスト集団相手に孤軍奮闘できるのは映画だからであって、普通は手榴弾一発でお陀仏です。



今は火薬用のタルにいれたまま保管してますから小火ぐらいなら大丈夫ですけど、練習や本格配備するとなればオークたちが
取り扱えないと戦力価値が激減します。

しかしネズミ取り罠を踏んづけるのと同じ感覚でついうっかりと 火薬樽に引火 なんかされたらたまりません。
少なくとも私は死ぬと思う。幹部達はともかく下っ端は全滅しかねませんしウリ坊たちは挽肉でしょう。
やはり当分は私か幹部達だけが使うようにした方が良さそうです。



話を戻して、このブランコどうしましょう?
高さ6メートルの丸太製で、丈夫なのは分かるのですが‥‥。
見張りがいないと乗るには不安ですし、乗るなら全員に見て欲しいですし。難しいですね。

そうだ、ブランコを支える横棒と横棒を載せている支柱は太さに余裕がありますから、こう刻み目を付けてですね?

「グヒ?」

オークたちに、斧を使って丸太に刻み目を付けて貰います。
ほら、公園の遊具とかにあるじゃないですか、斜めにした丸太の一部を削って作る階段が。子供か身の軽い人じゃないと登れ
ないあれですよ。

これで登りやすくして、ブランコてっぺんの横棒の所に板を載せて釘で打てば‥‥展望台の完成です!
板から落ちないように手すり作って網を張っておけば転落事故も防げるでしょう。子供ができたら遊具に使えますし。
このブランコはすごく丈夫につくってあるのでオークたちでも登れます。適度に登りにくいので木登りや崖登りの訓練にもな
りますし、オーク族はこの程度の高さなら落ちても大した怪我にならないので安心です。


「グヒッ」

え? 私は登っちゃ駄目?
いや、落ちませんよこんなもの。

「「「ノボル、ダメ」」」

駄目ですかそうですか。


私以外の巣の住人全員が「登るな」と言ってます。薬草摘みから帰ってきたドスたちまで。
妊婦が高いところに上がるなという理屈は解りますが、心配し過ぎですよ。

仕方ありません、ここは一つ大人しくしておきますか。
登らないと死んでしまう訳でもないし。





 ☆65日め、昔の映画みたいに☆


レイちゃんです。今日も新婚生活満喫中です。

「いっくよー!」
「「「グヒー!」」」」

私がかけ声に続いて放り投げた卵に、下っ端オークたちが飛びつきます。キャッチボールならぬキャッチエッグです。
割らず落とさず、無事に受け止めたオークにはその卵を使って好みの卵料理を作ってあげることにしています。
掴んだは良いけど勢い余って割ってしまったオークは、割れた生卵しか食べられません。
なお、地面に落ちた生卵はイノシシたちが食べてくれますので心配ありません。


知り合いのプロレスマニアに、「史上最強のレスラーは若い頃のジャイアント馬○だ」という持論の人がいました。
私個人としては違う見解なのですが、でも確かに若い頃の馬○さんは強かったと推定できるのです。

だって、彼は肩を壊す前はプロ野球選手だったんですよ。それも一軍選手。
数千、いや数万人のスポーツマンの中から選び抜かれた人間しか入れない狭き門。体育系エリートなんですよプロリーグの野
球選手とは。
あの巨体で運動神経抜群で努力家なら、そりゃ何をやっても強いでしょうよプロレスじゃなくても。



各国‥‥少なくとも日米の影響が強い国の軍隊では野球を推奨しているように、球技は戦闘訓練効果があるのです。
ほら、球技をしていると自然と回避や弾道計算やチームワークが身に付くじゃありませんか。
なのでキャッチ卵やキャッチ果物を訓練に取り入れてみました。
打つ・走る・捕る・投げるが野球の基本ですが、やはり捕る(キャッチ)こそが基礎の基礎でしょう。

洞窟前の広場がちょっとだけ安全になったおかげで、ちょっとしたお遊戯なら危険なくできるようになったのですよ。
浜辺にまで行かなくてもね。

石垣と生け垣の効果って凄い。野生動物の侵入率が以前とは大違いです。
加えて空堀も少しずつ掘り進めていますので、うまくいけば縄文時代の環形集落ぐらいは作れるかな?
柵や竹槍の鹿垣も作らないといけませんね。確か猫類などはトゲトゲした防壁が苦手な筈。

建材さえ安定して手にはいるなら竪穴式住居というのも‥‥湿度が高すぎるから無理か。
茶釜要塞から金属製容器をたくさん仕入れたので高倉式倉庫を建てる必要はなさそうなんですよね。しばらくは洞窟式倉庫の
拡張だけでなんとかなりそうです。


義息子たちだけ構っていると夫達が拗ねるので、下っ端達との軽い運動とおやつ作り&試食が終わったら今度は幹部たちと訓
練をします。


「よいせっ と」

ペダルにサンダル履きの足を引っかけて、気合いと共に背筋力測定の要領で弦を引き上げます。
何の弦かといえばクロスボウ(石弓)です。狩猟用の手引き型じゃなくて戦闘用の。これでも倉庫の中の戦闘用クロスボウでは
軽い方なんですけどね。
ハンドル回して滑車と歯車で弦を引く方式の重たいクロスボウは、私の腕力では持ち上げることすらできません。

つまり幹部の訓練の一環として石弓で射るのですよ。夫達を。
物騒ではありますが、これもオーク族の流儀なのです。オーク妻となったからには夫達の文化を受け入れなければ。
流石に矢(クォレル)は本物じゃありません。柳の木の枝を削って作った模擬矢です。
本物より柔らかいし軽いので、夫達なら直撃してもかすり傷が付くかどうかですね。



坂の上から転がした丸太を受け止めるとか、墓石並の岩を投げつけ合うとかの過激な訓練をしている幹部オークたちですが、
前回の旅から帰ってきてからは弓矢や火炎瓶などの飛び道具、そして攻撃呪文への訓練も始めました。
今後出てくる敵が大猪や大ワニなどのような接近戦型ばかりとは限りませんからね。
まあ、攻撃呪文といっても私のフォース・ブレッドなのですが。

「はぁっ!」

女神様の夢見通信教育で憶えた技術で、限界まで威力を上げた無属性エネルギー弾でしたがあっさり受け止められました。
こう ばしっ という感じで。
ドスの手の平に、人間が野球の硬球を革グラブをはめた手で受けるより気軽く止められています。


うーむ、無属性の物理攻撃だし弾速自体は石弓の矢より遅いぐらいなので受け止められても仕方ないですけど、渾身の一撃が
全く通じないというのも悲しいですね。人間の女の子って本当に非力だ。
一応ね、私でもクックリ刀を使えば緑や黒のトログロダイトくらいなら仕留められるんですよ。相手が群れていれば。

バラでいると避けるからなかなか当たらないんです。
石舞台の上でそれなりに戦えていたのは、向こうが後からどんどん押されて自分から私の振り回す武器へ当たりに来てくれて
いた面もあるのですよ。
もしもあのとき敵が10匹だけだったら‥‥3~4匹を毒銛で倒した時点でトログロダイトが士気崩壊して逃げ出すか、私の
方が力尽きて動けなくなるかのどちらかでしょうね。


あ、言うまでもありませんがこのちょっと前に訓練で射た石弓の矢は全部受け止められました。至近距離で撃ち込まれるライ
トクロスボウの矢程度なら、避けるなり受け止めるなり跳ね返すなりできないと一人前の戦士ではないそうです。
ふむ。となると石弓で射られて平気になればゴエモンも嫁と一緒に暮らせますね。

「ワカッタ、ガンバル」

そう言って、くどめの顔をした新入りオークは逆立ち腕立て伏せを続けています。
昔のカンフー映画を参考に色々と筋肉トレーニングをやらせてみてるのですが、あまり効果はなさそうです。
オーク族は人間と筋肉の量と質が違いますので、ちょっとやそっとの負担では筋力強化に繋がりません。
亀の甲羅背負ったりとか手足に鉛の輪を付けるとかでは負担にならないのです。

なので試行錯誤を重ねて訓練方式をオーク式に改変するしかない訳で。
とりあえず今は逆立ち腕立て伏せをやらせて筋持久力とバランス感覚を磨かせてます。
逆立ち腕たて伏せに慣れたら片腕でやらせたり、足で椰子の実や丸太や岩を挟んでさせましょう。



このとき私は想像もしていませんでした。
まさか数日後には、巣の下っ端オークたち全員が一斉に広場で逆さ腕立て伏せをすることになるなんて。





 ☆65日めの2、洞窟と腰ミノと私☆


心配性の夫達と義息子達から「危ないことするの禁止」令が出ていますが、保護者同伴ならその限りではない訳で。
幹部三人集のだれかに抱きかかえられたり肩に乗った状態なら、私も崖や物見台に上がれるのです。

で、高いところに上がって見てみると、沖の茶釜要塞に海賊船(蛇王丸)が接舷して荷物を積み込んでいるところでした。
大神殿には大型船がありませんから、茶釜要塞から物資を運び出すなら海賊船を雇うのが早道なのです。

「‥‥ミエナイ。ニオイ、ワカル」

という夫達もコボルド印の望遠鏡を覗くと船の姿が分かったようです。
しかし、この距離で船の特定ができるとは‥‥野生動物並の嗅覚と考えれば当然かな? 直線距離ならたかが数キロですし。


海賊船から見ても大砲や弾薬、食料や燃料、消費財や備品などは金銭(かね)になります。略奪というか拿捕して換金する価
値があります。そしてどんな商品も運ばないことには売り捌けません。
金庫の中身とかはコーネリア資金と一緒に基地司令の懐に送って買収工作に利用するそうですが、上手く行くかなあ?

まあ良いか。そのへんは大母様たちに任せましょう。
私たちの欲しい物は既にあらかた運び込んでいますので、後は残り物で構いませんし。

え? 運び込んだものですか?
新品の小型大砲が計5門、砲弾と弾薬を200発分ほど、硝石をタルで3つ、司令室や将校居住区の家具や調度品などです。
あと倉庫の中にあった面白そうな物をいくつかと、コーネリア自身とコーネリアの私物全部ですね。
コーネリアの私物の一部は手荷物として花嫁修業に持っていきましたが、大部分はこの巣の宝物庫に仕舞ってあります。
オルロフ印の望遠鏡とかも欲しかったのですが、戦闘の余波で壊れたり海に落ちてしまったりと無事な望遠鏡が少なかったの
で諦めました。

面白そうな物の一つが、この水兵服。
水兵服のなかでも少年兵用と思しき一番小さなこれを、こうしてああして切ったり縫ったりすると‥‥。
完成、セーラー服!

セーラー服はあなどれない衣装なのですよ。
動きやすくて丈夫で汚れにも強く、通気性があって適度な露出度。伊達に軍服として長年使われてません。
この島の密林では毛皮服に使い勝手で一歩劣りますが洞窟の中で部屋着として使うには充分です。

そして地球人類の過半数の過半数から熱く支持され続けているこの可愛らしさ。
偶然とはいえこんなものが発明できてしまったのだから英国は侮れません。
そういやレオタードって何処の発明品だったかな? スクール水着は日本ですけど。


うーむ、メイド服(もどき)とセーラー服を開発したからには体操服も欲しいところですが、ゴムがないと作れませんよねえ。
いや待てよ? 確か極細のバネ材を買い入れましたよねコボルド集落で。
あれをゴム紐の代わりにすればそれっぽいものが作れるかもしれません。

そんな訳で、お昼ご飯の支度をオークたちに任せて針仕事に没頭します。
針と糸は人類の発明品の中でもかなり上位にある代物です。これがなければ私のご先祖様の血統はネアンデルタール人に吸収
され消滅していたかもしれないのですから。

大神殿で手に入れたビロード織りの藍色布地を縫ってブルマーもどきを、白色布地を縫って体操服もどきを作ります。
なにやら東京オリンピック直後ぐらいの意匠になってしまいましたがこれはこれで。


さっそく着替えて、大広間でお披露目してみます。

「グヒッ♪」「「グヒッグヒッ」」「ルェイ、カワイイ」

個人的には完成度が低いですがオークたちに受けているからひとまず良しとしましょう。
メイド服もセーラー服も体操着も、それぞれ違った魅力があると認めてくれたようです。


さて、次は何を着ましょうか?
浴衣っぽいヒルデニア風の寝間着や女学生風の東方服など、色々と衣装を買い込みましたからね。
私用の子供服だけでなく大人用の服も買い込んでます。主に女神様用に揃えたのですが、コーネリアや他のお嫁さん達も着て
くれるでしょう。
女の子は綺麗な服が好きですし、オーク妻は夫達に悦んで貰うことが大好きですから。


衣食住というぐらいでして、着る物は人間にとって必須の存在なのです。
嘘だと思った人は真冬のスカンジナビア半島へ行って全裸で吹雪の中へ突撃してみてください。
二日後元気に帰ってこれたら貴方はフィンランド人です。


寒さ方面の異能生存体民族はおいといて、古代から衣服と布地は富の指標です。
「産業とはつまるところ繊維業である」と言ったのはマックス・ウェーバーでしたっけ?
平民が着替えを持っているか、晴れ着を持っているかがその地域や時代の豊かさを表すのですよ人間社会では。
オーク社会でも、強くて偉いオークほど立派な腰ミノを付けていますからねー。

地球で言うなら、オークの腰ミノは背広やYシャツみたいなものですかね? 首飾りがネクタイみたいなもので。


愛する夫達のため、洞窟も腰ミノも毎日磨いていたいものです。もちろん私も女神像も。
あ、女神像の傍に置くべき神像も鋭意制作中ですよ。まだ完成には程遠いですけどね。






[38600] 40
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2016/07/22 12:11




 ☆70日め、どこまで堕とされちゃうんでしょうか☆


こんにちは、新婚生活満喫中のレイちゃんです。
そーいや新婚旅行していない事に気づきましたが、婚前旅行が不必要なまでに濃かったのでそれで良しとしましょう。
トラベル(旅行)の語源はトラブル(難儀)と同じだという説があるぐらい、原始っぽい社会では面倒なのですよ、旅は。

でも蜂蜜酒(ミード)作りはやってます。蜂蜜さえあれば簡単に作れて、美味しくて栄養満点でそして滋養強壮強精効果あり。
逞しくそびえ立つオークち○こが大好きなオーク妻としては、食前酒として朝昼晩に夫達へ飲ませたくなるしろものです。
いえ、もちろん私も飲んでますけどね蜂蜜酒。
新婚夫婦が蜂蜜酒や蜂蜜そのものを一ヶ月間毎日摂って子作りに励むから蜜月(ハニームーン)なのです。

ひょっとしたら、ここ数日間に咽を通した蜂蜜酒は水や湯冷ましより多いかもしれません。
いや、仕方がないんですよ健康上の問題で。


朝食にお粥を食べることが多い京都の住民は、他地区の平均より食道ガンにかかりやすいという説があります。
煙草と肺ガン、激辛料理と痔の関係などのように、刺激物を常時摂取していると健康に悪いのは当然。
で、精液というのも間違いなく刺激物な訳で。アルカリ性だし精子動きまくりだし。
ええ、一日当たり水分摂取量の2割以上が夫達の体液だなんて生活していたら、流石に健康に悪いのですよ。


いくら美味しいからって ち ○ こ ばっかりしゃぶってちゃいけませんよねー。
実際の話、他の全部を合わせたよりも夫達のち○こを口に入れている時間の方が長いのですよ、ここ数日の私は。
仕方ありませんけどね、新婚だし。それに夫達は溜めに溜め込んでいたんですからこの二ヶ月間ずっと。

なので妻の咽や食道にこびりついた精液を洗い流させるために、新婚オーク夫は薬湯と蜂蜜酒の水割りを携帯している訳で。
いくら飲んでも私の咽は酒荒れしませんし、アルコール入りだと水分吸収が早くて栄養補給にもなるので一石二鳥。
加護のおかげで私は妊娠中に飲んでも大丈夫なので、相も変わらず酒浸りの毎日です。


酒と一緒に摂った水分は熱い湯気の充満する風呂場やシャワー滝でいちゃつけば、汗になって出ていくのです。
今現在もドスと一緒にシャワーを浴びつつ、いちゃついてたりします。
他の二人と同じく情熱的な旦那様なんですけど、ドスはそれに加えて究理的な面がありまして。
とにかく愛撫が粘っこいのですよ。

抱き合っていると「なんでもしてあげたくなっちゃう」グェスや、「どんなことでもさせてあげたくなる」ウォスと違って、
ドスが相手だと「いったいどうなっちゃうんだろう」という不安と期待感があるですよねー。
三人の中ではドスが一番向いているでしょうね、娼婦や雌奴隷(一般的な意味)の調教人に。

まあ、大母様みたく百年以上とはいかなくても半世紀ぐらいは現役オーク妻を続けたいですし、いくら老化が遅い体質でもい
つかは若さを武器にできなくなる時期が来る訳で。
その日のため、という口実で夫達の調教&開発をうけている新妻な私なのでした。



シャワーといえば、手作りカリウム石鹸の使いすぎを指摘されて以来、使用を控えてみたのですが効果絶大でして。
今はお肌つやつやです。正に玉の肌。というかこれまでが被害甚大なだけ?
たぶんこの洞窟に来た頃よりも綺麗になっています。

当然か。あの頃よりも健康状態良いですからねー 肉体的にも精神的にも。
それにほら、女の子は恋すると綺麗になるものですし。
肌艶だけでなく、腰の辺りとかも二ヶ月前よりまろみが増したというか色気づいたというか。

胸も心なしか膨らんだような気がします。AAカップがAカップに変わった程度ですけど。
これでもう、ピッチャーマウンドと自嘲する事もない。自慢にもならないけど。
オーク島では「巨乳は垂れるだけ」という負け惜しみができませんからねー。

あの触手系使い魔は垂れたり萎んだりした乳房の復元や補修もやってまして、おかげでこの島の母親達はみんな美乳だったり
健乳だったりします。なので二回の大神殿行きで垂れ乳な女を見たことありません。一度もです。


身長は変化無し。伸びているとしてもミリ単位でしょーねー。
まあ良いですけどね、夫達も義息子たちもみんなロリ好きだし。ちっこくても気にしないし。
少なくとも、正真正銘ロリ体型の私を性欲の対象にしていることは間違いありません。

ロリどころかペド体型のおでこちゃんを孕ませているように、オークにとってはロリ年齢であっても性欲対象です。
だって問題なく妊娠しますから。一桁でも。
地球基準で言えばランドセルを背負い始めた年頃でも、人間(ヒュー)族の雌である限りオークに捕まったら速攻で妊婦さんに
なるのです。
性知識のない個体だと4~5日もすれば喜んでオークに撫でられるようになりますし、幼いと適応力が高いですからいとも容
易く懐いてしまいます。

オークに触られると気持ちよいですからねー。流石はエロモンスター。
ほっぺすりすり とかの肌と肌の接触も気持ちよいのですが、ほっぺにちゅっ とかの粘膜と肌の触れあいは更に気持ち良い。
実際、オークち○こ相手だと素肌に触るだけで、それこそ○イズリでも逝けます。女の方が、ですよ。


胸の中心に、心臓と数センチしか離れてないところにオークのち○こが触れてる密着してる状態って、破戒力とんでもないで
すよ。オークの群に襲われた修道院の尼僧たちが宗旨替えしちゃっても仕方ありません。
中世風エロ話(ファブリオー)の「私以外の尼僧は全員孕まされてしまいました」「なんと罰当たりな! しかし何故貴女だけ
は無事だったのでしょう?」「私は拒みましたから」というネタが笑えなくなった今日この頃です。


挟むほどの盛り上がりがない私の胸ですが夫達三人の、棍棒みたいに堅くて頼もしいち○こで乳首まわりを弄り回されて何度
も逝かされてしまいました。
まあ、夫達も何度も‥‥いえ計三回逝きましたけどね。
それぞれの射精をお口と左右の脇の下で受け止めましたけど、三人同時に出して貰えるって素敵ですよー。

ええ、67日目の夜に、夫達三人で順繰りに出して貰ったのです。つまり合計九発分。
休み無しだったので上半身どろどろになっちゃいましたけど、髪に付いた精液は魔法のブラシで直ぐにとれました。
私のお口はそれ以来、三人の夫達に共有されています。


なでなで。うん、確かに入ってる。

このお腹がはっきり膨らみだす頃には、全身余すところなく共有されちゃうんでしょうねー。
具体的に言うと日記帳の180日めを書く日ぐらいには間違いなく。
その日が来ることを楽しみに待つ、淫乱幼妻の私なのでした。






 ☆70日めの2、はじめての☆


「いってらっしゃい、みんな気をつけてね」
「グヒッ」
「ルスバン、マカセタ」
「ミヤゲ、マテ、ヨシ」

旅支度を調えた夫達と唇を重ねつつ、しばしの別れを惜しみます。
今日は久しぶりの、私がこの巣に来て以来の夫達が「三人揃っておでかけ」の日なのです。

いえね、ここ最近の散財で宝物庫が寂しくなってきましたので。
家族会議の結果久しぶりに幹部オーク三人で迷宮深部へと潜ってみることになりました。
ダンジョン攻略はファンタジーRPGの基本でありましてオーク島でも財宝の過半数は迷宮から得られます。
特に古代文明の遺産でもある遺跡こそが最高の稼ぎ場なのですよ。危険も大きいですけどね。

遺跡にも色々ありますが難度の高い大きな遺跡は内部の新陳代謝が激しい傾向にあります。
つまり倒しても倒してもモンスターが補充され、漁っても漁ってもアイテムが湧いてくる訳です。
程ほどに漁っていれば恒久的に食肉や資源や消費物資を得られるのですから、この世界の鉱山が効率よく採掘と精錬ができる
特殊技術持ち集団に専有されている希少物質の鉱床物か、低技術で何も考えずに掘っても採算が合う露天掘り鉱床かに大別さ
れてしまうのも無理ありません。

普通の鉱脈を普通に掘っても採算が合わないのですよ。精錬や冶金や鋳造なんやかんやの手間も考えたら、金属資源を迷宮に
頼るのは当然です。100㎏の鋼鉄を作るにはその数倍の鉄鉱石と10倍以上の木材が必要ですが、迷宮に潜れば割と直ぐに
手に入りますからね鋼鉄の100㎏ぐらい。
そこそこの甲冑と武器類を4~5人分拾えば100㎏いきますから。


ちなみにヒルデニアの硫黄や北部アルブニアの鉄は露天掘りだそうです。ただ地面を掘れば資源が手に入るって、明治政府の
官僚たちが聞いたら血の涙流して羨むでしょうねえ。

そんなわけで今日はお留守番なのですが。
私が来る前までは、わりとしょっちゅう留守番の日かあったそうなので下っ端達のなかでも古参連中は落ち着いてますねー。
実は一番落ち着いてないのが私だったりします。
平常心、平常心を心がけましょう。なにも夫達が留守にした途端に外敵が攻めてくると決まったものでもありません。
巣の防衛力だって日々上がっているのです。
留守の二日や三日間、無事守り通してみせますとも!



さて、下っ端オークの死因といえば毒魚や毒虫や毒貝や毒蛇や毒カモノハシなど有毒生物による不意打ちが第1位で、虎や灰
色熊や陸生ワニなどの強力な捕食者との遭遇がそれに続きます。僅差で食中毒や大型モンスターの襲撃なども有りますが。
一位と二位の複合というか重複している死因もあります、巨大毒クモなどですね。

しかし、こと網状の巣を作る巨大毒蜘蛛に限って言えばもはや脅威ではありません。私というか私の巣は巨大毒クモの無害化
に成功したのです。


1 適当な長い棒・針金・網を組み合わせて大きめの捕虫網を作ります。
2 捕虫網で蝶やトンボなどの羽虫を捕まえます。獲物はなるべく大きい方が宜しい。
3 捕まえた巨大昆虫の羽根を千切ってから、巨大クモの巣へ投げつけます。
4 当然ながら網に引っかかった巨大昆虫は巨大クモに食べられてしまいます。
5 何匹も巨大昆虫を巣に投げ込めば、いくら巨大クモでも満腹になります。
6 更に何匹も羽虫を放り込めば、巨大クモは余った獲物を麻痺毒で痺れさせてから糸で縛って保存食にします。
7 毎日続けたら、その巣の巨大クモは満腹状態が普通になります。


これで私とか下っ端オークとか単独行動の粗忽者がクモの巣に引っかかっても、一日ぐらいは生きていられる訳です。
巨大クモから獲物を横取りするモンスターや巨大クモを得物にするモンスターが出てこないなら、の話ですけどね。
クモは本能で古い保存食から順番に食べていくので、毎日餌を与えておきさえすれば捕まったとしても暫くは食われません。
二ヶ月前にこれを思いついていたら、少なくとも死人が一人減ったのですが。

問題は網を張らない、走行性の巨大クモ類対策なのですがこちらはどうしたら良いものやら。
とりあえず三人一組(スリーマンセル)制度の徹底でしのいでますが、他にも何か方法があるはずです。


という訳で今日もせっせと虫を捕り、巨大蜘蛛に食べさせています。巡回コースに巣を張った場合は焼いてますけどね。
鋼鉄以上の強度を誇っていても所詮は蛋白質、蜘蛛の糸は松明で炙ればあっさり焼き切れるのですよ。
網を張るクモは、網に捕まった獲物しか襲いません。離れた距離から竹竿の先にくくりつけた松明で巣を焼き切るオークへは
攻撃してきません。
踏みわけ道に巣を張られると、オークはともかく私の移動が面倒ですからねー。密林の籔とか人間の柔肌にはきつすぎる。
なお蜘蛛の巣を撤去するときは、なるべく蜘蛛の糸を回収することにしています。軽くて丈夫ですから色々と役立つのです。


クモの餌やりのついでに巣の周りを軽く回ることにしました。
道々で果物や山菜やキノコを集め、小川で魚捕り罠の‥‥壊されてる。壊されてますよせっかく仕掛けた罠が。
足跡などから察するに黒熊のしわざですね。竹細工の残骸と川魚の食い残しが辺りに散らばっています。
むう。幸い子連れではないようですし、いくら下っ端でもオークが6人もいれば向こうから襲ってはこないでしょうが‥‥。
熊が巣の近くにいるのなら、暫くのあいだウリ坊たちを外に出さない方が良いかもしれません。

いっそのこと夫達が帰るのを待たずに留守番組みだけで討伐隊を出すか、熊用の罠でも仕掛けた方が良いかもしれません。
悩ましいですね。万が一の誤射が怖いから毒矢系は止めておいて、檻系ですかね。罠を仕掛けるのなら。
ウリ坊たちは好奇心が強いから、罠に近寄ってしまうかも。

魚が捕れなかったので虫を捕ることにします。食用昆虫も色々ありますが、最近の狙い目は巨大セミですね。
多種多様の巨大セミたちですが殆どの種が食用に適していて、美味しい上にすぐ料理できるのです。
セミは樹液しか食べないから泥とかを吐かせる手間が要りません。

ただ問題もありまして、投げ槍とかで突き刺した場合に急所を外すと鳴き声が盛大に五月蠅いのですよ。雄のセミは。
大型犬ぐらいに重たい巨大セミは、排気マフラーが外れた原付自転車よりも凄い騒音を撒き散らします。
まあ、断末魔が五月蠅いなら近寄って止めを刺すか逆に距離を取れば良いのだけど。
オークには天然の耳栓がありますし、傷を負った巨大昆虫の断末魔が長い間続くほどこの島は穏やかな生態系していません。
最初から雌を狙え? 駄目ですよ、そんなことしたら卵が減るじゃありませんか。天然資源は保存しないと。


無事回収した巨大セミを捌いて、セミ肉にします。あとは貪り食う無限袋につめて、と。
味はなんというか、剥きエビに近いですかね。煮て良し焼いて良し炒めて良し。
甲殻類と比べると昆虫系は食べられる場所や肉量が少ないですが、個体数が多く数が取れるので無問題です。陸地にいるから
捕まえやすいですし。

飛んで逃げるのと五月蠅いのを除けば巨大セミは良い獲物なのですよ。
陸生蟹類と比べると寄生虫の心配が少ないですし、ヤシガニとかと比べれば遙かに安全な獲物ですからねー。
巨大セミは子供や腕に自信のない下っ端オークが狩る獲物なのです。

安全な獲物=女子供が狩るもの、戦士が手を出すものじゃない という風潮がオーク族にはありますが、まずは安全な狩りが
できるようになってからでないと危険な獲物には挑ませません。
反撃もしてこない巨大セミを取り逃がすうちは、巨大カマキリに手を出させたりしませんよ私は義理の母として。

え? 下っ端達しかいないときに危険な生き物が攻めてきたときはどうするのか って?
敵が弱ければ数と連携で仕留めます。地球のチンパンジーだって投石と棍棒を使って群総出で豹を撃退する(こともある)ので
すから、筋力と器用さと使える武器の質で遙かに優位にある下っ端オークたちなら恐鳥や黒熊ぐらい簡単に追い払えます。
まあ、相手が狂乱状態になった大怪鳥とかだと厄介ですが。大猪や巨大ワニ相手なら巣に籠城すればなんとかなるでしょう。

肉を剥ぎ取った巨大昆虫の殻は籔の中に放り投げておくと、すぐに分解されてしまいます。
この島の緑地にはアリ類や巨大シデムシや朽ち葉カニなどの悪食な分解者がいくらでもいますから。


見回り兼散歩を終えて巣に帰ってみると、留守番のイシカワたちが武器を持って出入り口近くに集まっていました。

「ダレカ、クル」
「誰か?」

私の耳にはさっぱりですが、オーク達によれば北の方角から、山の尾根伝いに接近している何かがいるようです。
音の動きかたから察するにモンスターではなく少人数の知的種族だそうですが、よく分かりますねそんなの。

ああ、なるほど。
みんなと一緒に丸太転がしの斜面を上がって、尾根に出てみると私にも分かりました。
北側から誰かが歩いてやって来てるんです。

まず、尾根の北で小鳥やら羽虫やらが黙ったり逃げたりしているので、何かが近づいて来ていることが分かります。
下っ端達は接近する誰かの音そのものではなく、接近によって変化する動物や虫たちの音を感じ取っていた訳ですね。

その速度からして大猪などではありませんし、籔や茂みを一々迂回しているから野生動物でもない。
あれは人間の‥‥ヒューマノイド系生物の動きですね。
というか見えるし、ここからなら。私のマサイ族なみの視力で、歩いている小柄な姿が見えます。


やって来たのは、コボルド族の三人連れでした。
うち一人には見覚えがあります。鉱山集落で知り合った、ごつい顔つきの戦士です。あとの二人は知らない顔ですね。
コボルドにしては丸顔で肥満気味なコボルドと、顔も身体も古傷だらけなコボルドの二人。

ごつい顔のコボルドやイケメン系コボルドには及びませんが、二人ともかなりの腕でしょう。
たった三人で交易の旅に出ているのですから弱い訳がありません。
年齢は、ごつい顔のコボルドが一番年長であとの二人はそれぞれが数歳ずつ若い感じです。


彼らがやってきた理由は、交易というか配達ですね。
前に注文していた刺身用包丁・金属製の滑車・細いバネ・調理用毛抜き・金属製洗濯ばさみ・たこ焼き用鋳物プレートなどを
持ってきてくれたのです。
挽肉製造器などの完成が遅れているものは、また日を改めて持ってくるそうです。
いやその、そんなに急がなくても良いんですけどね。納期とか押している訳でもないし。


「わざわざありがとうございます」
「温泉洞窟の方々には日頃から世話になっております故、当然にござる」

実は披露宴から今日までに、夫達はコボルド集落へ何回か物資を運んでいます。塩や油や蜜それに干物なとの保存食を中心に。
私は同伴していませんから「貪り食う無限袋」は使えません。
だから輸送量は大したものではないのですが、1回あたり100㎏程度としても復興中の被災地にとって支援物資は有り難い
ものでして。

まあ、実を言うと化けクジラ肉の燻製や巨大タコ肉の干物を処分したいから送っていただけなのですが。
巨大タコの肉が余っていたので新型燻製室の試運転をしたのは良いけど、作りすぎちゃいましてねー。
まだクジラジャーキーの始末も終わってないのに、食料庫がパンパンですよ。
せっかく作ったのに捨てるのはもったいないし、かといって毎日タコ肉だと流石に飽きます。なので神殿やご近所にお裾分け
しているのです。

あ、ちなみに茶釜戦艦から金属製や硝子製の容器を大量に手に入れたのでネズミの被害は激減しました。
ネズミホイホイなどの各種罠も前より進化しましたし、この調子なら近いうちに巣周辺から有害齧歯類を駆逐できるかもしれ
ません。



良し良し、これでブルマーが復活できます。観賞用にしか使えないでしょうけど。
前に作ったブルマーもどきは一晩で壊れたのです。金属疲労でバネが折れまして。

やはりゴムじゃないと横ずらしプレイは無理でしたよ。伸縮材の強度的な意味で。
挿入はまだしも前後運動に耐えられないんですよ、私の想定よりも遙かにグェスのが大きくて力強くて。
現代文明の再現って難しいですねー。ゴム系素材が手にはいるまでブルマー着用プレイはお預けです。

コーネリアの話では西方文明圏で使われている防水樹脂のなかにゴムと似たものがあるそうなので、交易で手にはいるかもし
れません。あくまでも似ているのであって違うかもしれないのですが。
腕の良い錬金術師がいれば漆や何かからゴムっぽいものを合成できる筈なんですけどね。女神様質問コーナーで確かめたから
間違いありません。配合表に頼らず調合ができる腕の錬金術師ならヒントさえあればできます。

というか、下着とかに凝る富裕層はまず魔法そのものや魔法系の素材に頼るので、西方人達にはゴムのような便利素材を探す
という発想がないもしくは少ないのですね。
下着で言えば ぱんつがずりおちて困る → ならぱんつにずりおちないよう持続する力場系の魔法効果を付けよう という
発想が主流な訳で。
技術が進むとかえって発想の幅が狭くなることもあるんですよねー。異世界であっても、人間なんてそんなものです。



錬金術師かー。
元冒険者のなかには心得のある人もいるのでしょうけど、たとえ教えて貰えるとしても習得まで何年かかるのやら。
私が身に付けるより、心得のあるお嫁さんに来て貰う方が早い気がします。

習得と言えばコーネリアはたしなみ程度とはいえウイザード魔法が使えるそうなので、夫との同居が認められれば貴重な戦力
になります。1レベルウイザードだっているといないでは大違いですからね。
信仰魔法は私がレベルを上げていけば良いとして、精霊使いはどうやって手に入れようかしらん?
まあ、縁があればいずれ新しい呪文使いも私の巣へやって来るでしょう。


「さて、御夫君の得物は未だ素材の吟味中でござるが‥‥」

何やら、ごつい顔つきのコボルドが改まった調子で、白木の細長い箱を無限袋から出してきました。恭しい‥‥とまではいか
なくても決して粗略には扱えない物品を扱う動作です。
なお、彼と私は信仰呪文の「知識の通路」で意識を繋いでありますので話が通じています。

「これは?」
「お確かめ下され」

開けてみると、中に入っていたのは一本のクックリ刀でした。私が既に持っているのと同じ系統の意匠です。
あれよりはやや刀身が短いかな? 似てはいますが細部の作りが色々違いますね。それに真新しい。
研ぎ澄まされた、金気の匂いがしそうな刃物が絹もどき(たぶん巨大じゃないクモの糸製布地)の詰め物の上に載ってます。


「今朝方打ち上がったばかりのものにございまする。どうか手にとってくだされ」
「‥‥はあ」


細かく入り組んだ縞目模様の地金は、地球でいうネオ・ダマスカス鋼に近い製法によるものでしょう。
くの字に折れ曲がった刀身の上半分に彫り込まれた微かな窪みは軽量化のためですが、刃に毒を塗る場合は毒を溜め込む場所
になります。
ここに粘りけのある毒液を塗りつけておけば、普通の平たい刀身に毒を塗ったときより倍は効果が続くでしょう。
刃の根元近くにある半円形の切り込みは、月と水と女性器を表す呪術の印であり同時に刀の柄が刀身から滴り落ちる血で濡れ
ないようにする工夫でもある。

うーむ、前に手に入れたものも業物でしたが、これは更に上をいってますね。それに手に吸い付くような出来の良さ。
これぞ刃物のなかの刃物。でも私にはもったいないかというとそんなことはない。
むしろこれは私専用、私の身体や技量に合わせて打ちあげられた一振りなのです。正に特注品。

「これを、私に?」
「ご笑納くだされば、鍛冶師が喜びましょう」

うーん、ここで「代金はおいくら?」とか言ったら喧嘩売ってるとみなされるでしょうねえ、この島の文化だと。
これだけのものを只で貰うというのも気が引けますが、仕方ないか。お礼の品っぽいし。

「とても気に入ったと、伝えてください」
「必ずや」


この答えで正解だったようで、やや緊張気味だったコボルド達は揃ってにこやかに笑いました。
慣れると犬人間の顔でも表情が解るのですよ、ええ。






コボルド達は配達を済ませると直ぐに巣を出ていきました。
巣に来て、大広間に通されて、女神像に礼拝して、荷物を渡して、せめてものお土産に渡した干し肉や砂糖菓子を持って来た
道を逆戻りしていった彼らがいなくなるまで30分もかかってません。
慌ただしい人達ですねえ。

夫達の留守を預かってから初めてのお客さんでしたが、ろくな歓待ができませんでした。
いやまあ、彼らの仕事(任務?)を遅らせてしまう訳にもいきませんし。
うーん、コボルド的には桑の葉茶と茶請けの軽食で充分だったようですからこれで良いのかなあ?
異文化地域に嫁ぐと色々大変です。


‥‥ところでごつい顔のコボルドはともかく、残り二人が逃げるような勢いで去っていったのが気になるのですが。
何か不躾な振る舞いをしてしまった訳でもなさそうでしたが、何なのでしょうね?


で、貰ったばかりのクックリ刀で赤○鈴乃介ごっこをやってみたら、紐で吊した棒きれを一発で両断してしまいました。
思っていた以上の業物です。というか、コレ、魔剣じゃありませんか?

うーむ、魔法の品(アイテム)であることは確かなのですが、いつもの性能表示がでてきません。
マニュアル機能が付いていないのかな? 後でミッシェル山へ持っていって鑑定してもらうことにしましょう。
業物なことは調べなくても判りますけど、



今日はもう見回りや採集に出ずに、彫刻制作を進めることにしました。
女神様から最優先でオールクゥス神の像を作れと言われてますのでオーク像を作ってますけど、いきなり本命を作ると失敗し
そうで怖いので少女の像も作っています。

彫りやすい凝灰岩でオールクゥス像、そして木彫りで少女像の制作を交互にすすめていますが女神様からは「作るのは良いけ
ど一緒に並べないように」というお達しが来てます。
この洞窟がエスティア神殿である以上、新規の神像奉納は一体ずつが宗教的に見て正しい手順なのですね。

‥‥まあ、あれだ、建てたばかりの新居に婿さん迎え入れようとしたら女連れで来やがった、というのは人間社会でも拙いで
すよねー。修羅場になりかねない。
他の女神像だから問題なので、エスティア神像が二つあるぶんには構わないみたいですが。そういえば上半身と下半身の片割
れがもう一組、大内海のどこかにある筈なんですよね。


少女の像を木彫りにしたのは、オーク達の好みに合わせたから。
下っ端オークたちは、よく森の中で二股になった樹を拝んだり撫でたりしているんですよ。人間の‥‥女の下半身みたいな形
になった木の股を見つけては喜んでいるのです。
地球でも同じ物を豊穣の象徴として祀っている文化圏がありましたねー。なので木像をつくってみることにしました。

そういうわけで、材木置き場の中から二股ではあるけど形がいまいちで信仰や鑑賞対象にならないために切り倒されたと思わ
れる樹を見つけました。まずはこれを素材として採用。
像にしない部分は普通に木材として乾燥室(扱いの岩陰)に入れて、この逆人型木材を削って彫り込んで練習台木像を作ってい
ます。腕や頭は別パーツで作って後で合体させましょう。

今彫っている少女像は、体型のモデルが私です。大元であって丸写しじゃありませんけどね。
六大神のうち一柱、泉源神ミャトリカの像はローティーンかそれ未満の少女として作られることが多いのですよ。
大神殿に飾られているミャトリカ像も殆どがロリータ系でしたし。まだ彫ってないけど顔は誰を元にしようかな?


二つの神像と平行してち○こ像も作っています。実物大のを。
かまなら様みたいなデカいのも作りたいのですが、それはある程度自信をつけてからですね。
実を言うとこっちの方が制作進んでいたりします。

1 柿の木や枇杷の木などの堅い木材を適当な大きさに切って、ノミと木槌で彫り込みます。
2 大雑把に彫ったら今度は魔法の短剣と棒ヤスリで細部を削り込みます。
3 屑宝石を砕いた研磨剤と布で磨いて表面をなめらかにして、漆を塗りつけます。
4 漆が乾いたら更に漆を塗りつけます。
5 塗り込めた漆が充分な厚さになったら布で磨いて光沢をだします。

予定している工程のうち、今は3の途中といったところですね。そろそろ漆の出番かな。
色は‥‥とりあえず一号は赤漆で良いか。二号以降は色々な漆を使ってそれぞれの特色を掴みましょう。
いえね、第一期のち○こ像は四個同時に制作中なのですよ。

人ハーフオークと猪ハーフオークではち○この形が大きく違います。なので女神様に「どちらが好みですか?」と訊いてみた
のですが、そうしたら「どちらかなんて選べません」というアレな解答が来ました。
猟銃としてライフルと散弾銃のどちらが優れているかという問いみたいなもので、一言で結論を出せる問題ではなさそうです。


なので試作一号と二号は人ハーフオークの、平たく言うと夫達のそれを足して混ぜて割った形をしています。
一号と二号で少しずつ表現したいものが違うので形も違う訳です。
オークのち○こは豪快に変形しますからねー、何種類も像を作らないとかえってリアリティに欠けるのですよ。

そして試作三号と四号は猪ハーフオークのものを象っています。ドリル状です。
夫達のものは初夜以降触りまくったおかげですっかり形を憶えてしまいました。私は記憶力がちょっと特殊でして、憶えたい
ものごとを確実に憶えることができるのですよ。
頭の中に記憶素子付きの日記帳があるようなものです。
ただし一回記憶したことは一回思い出すと固定できなくなってしまうので、忘れたくないことはまた憶えないといけませんが。

もちろん私に、夫達以外のち○こをまじまじと見つめた記憶などありません。
なので今みつめています。モデルになっている下っ端オークのを。


いや、ほら、これは浮気とかじゃありませんから。
芸術もとい宗教的行為ですから。モデルになって貰っているだけですから。
たまたま今日は留守にしているだけで、亭主がいるときも同じ事やってますから。
母親と同じぐらい尊敬している名付け親の前で、巫女本人に発情して屹立させちゃっていることを恥ずかしがっているハラキ
ズがとっても可愛いですけど浮気じゃないんです。

まあちょっと、暇な人は今の状況を脳内変換してみてください。
落雷にあって死んだ筈の男が、なぜか異世界に転生していて、女しかいないエルフ村で世話になって、紆余曲折を経て村長と
その妹たち三姉妹と結婚したという状況で、女神像を作るための参考という名目で自分を父のように兄のように懐いて慕って
くれているエルフ村の小娘を裸にして全身弄り回している情景に。

しかもその年端もいかない筈の小娘は性の意識に目覚めていて、望まれたなら今すぐでもその男に処女を捧げても良いという
か捧げたいと願っているという同人エロゲ状態ですよ。
エルフ趣味の男なら一度なってみたくなりはしませんか?
前世の私はどちらかというとケモミミスキーでしたけど。エロフさんも嫌いじゃありませんでしたけど。

この世界でもエルフ族は受け専エロモンスターというか、殆どの人型種族の雄から求められちゃうのだそうで。
特にオークなど短命系の種族から魅力的に見えるそうです。
で、どうもエルフなど長命系の種族は短命系種族と相性が良いらしいのです。「ずっこんばっこん」の相性が。

早い話エルフ女は同族のち○こを受け入れてかき回されるよりも、人間族やオーク族のち○こを突っ込まれた方が気持ちよく
なれる訳です。
あくまでも基本的な相性の話ですので、他の要素が違えば話も違ってきます。
しかし逆に言うと他の条件が同じなら、より相性の良い種族の方が有利なのです。
その相性の良さは、エルフから見れば人間(ヒュー)よりオークの方が上のようですね。

式にすると  相性悪い 同族<<(越えられない壁)<<人間族≦オーク族 相性良い  ぐらいてすかねえ。

大母様のように両方知っているエルフからすると、どちらも良いけど比べればやはりオークの方に軍配が上がるのだとか。
実際、元冒険者の話などからも人間の妻や妾や恋人だったエルフ女がオークに寝取られることはあってもその逆はないので、
オークの方が人間よりエロモンスターとしての格が上のようです。


話を戻します。
ち○こ大好きな精神的同性愛者でガチムチマッチョが好みの異種姦スキーで逆ハーレム願望持ちの私にとっては、この温泉洞
窟は秘密の花園。
いえ、ヴィクトリア朝児童文学の方じゃなくてアサッシンの語源になった方の。ハッサン・サバーハ経営の方の。
山の上ならぬ臨海の楽園ですね。一歩外に出ると砂漠ならぬ緑の地獄ですが。


「ルェイ、モウ、ヒル」
「おや、もうそんな時間ですか」

繰り返しますが今日は夫達三人は揃って遠出をしておりまして、巣にはいません。
なので巣にいるのは私と下っ端たちだけです。あとイノシシたち。ネズミは全滅しました。巣の中にはもういない筈です。


ハラキズに促されて、彫刻作業を切り上げます。
ハタキでオガクズを落とし箒とちり取りであつめて、細かい粉は粘着材つきバナナの葉でぺたぺたととって、と。
掃除はこまめにしておきましょう。オガクズを放置しておくとシロアリが湧きますからねー。

木を切ったり削ったりした時に出たオガクズや木っ端を森や果樹園に直接撒くと、含まれている成分が土壌に与える影響が馬
鹿にならないので腐葉土にしてから土に返します。
少量を薄く散布するか、不毛の岩肌にまとめて投棄するなら‥‥駄目か、雨が降れば下流の土や水が影響を受けます。
植物の樹液などには抗菌・防虫効果のある物質が色々入ってますからね。全ての薬は毒なのですよ。

丈夫な容器と重しと一日一回かき混ぜる労力さえあれば簡単に作れるのが腐葉土の良いところです。きっかり毎日でなくても
良いですけど混ぜて空気を入れ換えないと腐っちゃうんですよオガクズが。
この島は年中熱いので腐敗も発酵も進行早いのです。
ミミズ飼っているわけじゃありませんので、一日何回混ぜても多い分には問題ない筈。意味もないけど。
なので暇があるオークたちに腐葉土のかき混ぜを頼んでいます。これで留守の日も安心。

腐葉土にするオガクズの中に、納豆作るときに使った藁束や藁苞を刻んで入れているのでよく醸せるはずです。
バチルス・ナットウは枯草菌の仲間ですからねー。植物性物質を土に帰すのが本業なのです。


モデルのハラキズと一緒に、こもっていた木工小屋から出ます。
言うまでもありませんが洞窟って人間には暮らしにくい環境なんですよ。暗いし湿度高いしその割に涼しすぎるし。
もし洞窟が人間にとって暮らしやすい環境なら、地球でもこの世界でも金持ちは洞窟住まいしているのが基本の筈です。
洞窟で暮らしているセレブ()がいないということは、それだけ住み難い環境だってことでしょう。

私にしても、暗視適性があるといってもそれは常人と比べればの話でオーク達とは比較になりません。
暗いから大広間や私の部屋は彫刻作業に向いていないのですよ。
なので広場の隅に作った小屋で作っています。

ここは天井にオーク式ステンドグラスが填め込まれているので明るいのです。日射しが強くて明るすぎるときは適当な日除け
を被せて調節します。
巣近くの環境が変わったのでモンスターや危険な生き物に不意打ちされる危険性は格段に下がってます。イノシシ一家や広場
にいる下っ端達が見張ってくれていますし。


で、ハラキズ以外の留守番オークたちは広場で作業していたり広場の端で石垣を組んでいたり広場の外で焚き火をしていたり
更にその外で果実を集めたりしています。
洞窟内で作業しているオークはいません。何かあったら即座に動いて私を守るためです。
過保護な気もしますが、大勢が広場周辺にいることで結果的にですが巣周辺の安全度が高まっているので悪いとは限りません。

え? かわりに巣の隠蔽度が落ちてるんじゃないかって? 何を今更。
オーガー村やコボルド集落どころか海賊船からも客人を迎え入れたのですから、この巣の位置や入り方は知れ渡っているもの
として計算せねばなりません。ならば秘匿は諦めて開き直った方が良いでしょう。

秘匿といえば、コボルド達は旧詰め所に仕込んだ大砲の偽装を見破ったようですが。嗅ぎ破ったのかな?
ふむ。秘密は漏れるものですから遠くないうちに私がオルロフ製火砲の運用を試みていることが全島に知れ渡りますね。
女神降臨なんてファンタジー世界でもそうそうは起きない希少イベントです、我が温泉洞窟の知名度は急上昇している筈。
棘ドラゴン騒動で夫達の勇名も更に上がってますからねー。
大砲の運用方法を考え直すべきかなあ。


で、オーク達のしている作業は縄作りと丸木船式の桶作りなど。
下っ端達は下っ端達なりにグェスたち幹部層を尊敬してますし、この巣に帰属意識があります。
なので縄などの消耗品を余分に作って復興中の友好集落に贈り「強くて気前の良いやつら」という評判を得るべしという方針
に協力しているのです。

巣の評判が上がれば下っ端達も鼻が高いですし、新しい仲間や嫁さんが来やすくなると言う実利もあります。
なので下っ端達は今日も労働に勤しんでいます。働く必要とその因果を納得させてくれるまともな上司があれば、オークたち
は良い労働者なのです。
オークは決して怠惰な生き物ではありません。怠惰にする必要があれば幾らでも怠惰に振る舞いますけどね。


蔦や草から繊維を取りだしてロープ状に捩っていく作業は今までどおりですが、桶の方はちょっと違います。
今までは丸太を半分に割ってから、その断面に火を付けていました。
これまでの桶作りが、アナログ式時計で言えば文字盤の3時から9時を結ぶ水平線で割っていたのに対し今日は2時から10
時を結ぶ水平線で切ってから焼いているのです。

ええ、中心からズレていると上手く割れませんから切ったんですよノコギリでギコギコと。何度もやり直したせいで切断面が
歪になってしまいましたが、ノミとカンナで削って修正しました。
コボルド印の大工道具は切れ味が違いますね。遺跡からの発掘品と違ってオーク用に調節しているので使い心地も抜群です。


何のために作り方をちょっと変えたかと言えば、一個当たりの収納容積を稼ぐことと蓋を軽くすることが目的です。
ほら、開口部が小さくなればその分蓋も小さくできますし。あと置き場所の節約とネズミ対策も兼ねて。

オーク的には意味がないというか需要のない容器ですが、人間の私にはある訳で。重すぎるのですよ現行の蓋は。
備蓄に必要なのですよ、便利な容器が。
これから巣の人口がどんどん増えていくのですから、倉庫の質的拡充つまり効率化を進めておかねばなりません。

茶釜要塞から麻のロープやタルや缶などの生活用品を大量に手に入れているので当面は大丈夫なのですが、自給能力は育てて
おきたいのです。
桶の容積が足りなければもう一個作れば良いし、桶を置く場所がないなら倉庫を拡張すれば良いというのがオーク流です。
確かにその通りなのですが、それで満足しているからこの島の文明水準はいつまでも古代な訳で。
それで事足りているから良いと言われても、そうはいかないのが文明人の性。

早い話、私はもう一度といわず何回でもコスプレえっちがしたいのです。

そういう訳でブルマーやスクール水着や学生服が、メイド服やシスター風の僧衣が、文明の産物が要るのです。
なので技術力を上げなくてはならないのです。たとえカタツムリのように遅くとも進み続けなくては。

できれば農家娘風やお姫様風の衣装も。とりあえずセーラー服と女学生ブレザー擬きとチアガール擬きの衣装は入手済み。
次は異世界に漂着したおませな女子小学生が、拾ってくれたオークたちにほだされちゃって無理矢理迫ってしまう逆レイププ
レイとかしてみたいですねー。

む、そうなるとランドセルも開発しなくては。‥‥象牙製だけどそれっぽい縦笛も宝物庫にありましたよね。今度ミッシェル
山に行ったら算盤買わなきゃ。ヒルデニア出身の巫女さんが使っていたから予備ぐらいある筈。

保守的過ぎる社会では技術はなかなか進歩しません。意識的そして無意識的にも足止めされますからね。
なので私は新たな思いつきや、これまでとは違う方式の取り組みが気軽に試せる雰囲気作りを目指しているのです。
わざわざ目指さなくても夫たちも義息子たちも私のやることを(危険行為でない限り)邪魔なんかしませんが、私としてはオー
クたちにも取り組んで欲しいのです。

自分の見ているものを一緒に見て欲しい、それはごく当然のことでしょう。
新しい道も平坦ではありません。失敗や挫折もあるでしょう。でも、みんなと一緒なら進み続けられる筈です。
新発明には無駄と失敗がつきもの。一見して思いつきさえすれば直ぐに作れそうなあんパンや苺大福だって、無数の試作品の
中から産まれてきたのですから。

かく言う私もオークたちの世界観を理解したいと思ってはいますが、文化の違いを乗り越えるのは大変です。というかまだ壁
の向こう側が見えていないかもしれません。



うーん、新型の丸木船容器を作ってみたは良いけど、この方式だと肝心の作業効率が悪すぎますね。
ノコギリ使わずに最初から斧で削った方が早かったかもしれません。せっかく作ったからには使いますけど。
オークたちは気にしてません。「効率が悪い=悪」、という概念が根付いてませんからね彼らは。
 


採集班が集めている果実は主に酒造用です。レイちゃん酒造は酒蔵を増やして事業拡大中ですので。
こちらも茶釜要塞から蒸留酒の樽を幾つも持ち込んだので備蓄量的には充分なのですが、オルロフ風焼酎はオーク達には淡泊
すぎてウケが悪いですね。
彼らにとっては風味豊かな、加糖して作った濃厚果物ワインや蜂蜜酒・蒸留酒ならブランデーやラムなどの方が好ましいよう
です。そうそう、最近はサボテン酒の醸造も始めました。現在サボテンを搾った汁から試作中です。


焚き火は焼き畑と、アリの巣潰しです。アリにも色々いまして、あそこで巣を作り始めたのはちょっと厄介な種類なのですよ。
小さいけど狂暴で猛毒を持つ種類なので、こんな近くに巣を作られると困ります。
なので巣穴に硝石を溶かした椰子油を流し込んで焼いている訳で。
じっくり焼いた後は冷えるのを待ち、焼いた地面を掘り返して虫取り草の根を埋めておきます。改装工事の影響で近くにあっ
た虫取り草が枯れたりしましたし。枯れた草は備蓄庫に入れましたけど。
枯草からとった種を巣の周りや道端にまいておいたから、枯れてしまった虫取り草の生涯は無駄にならなかった筈。
種の一部は鉢植えで栽培実験中ですし。


暢気なようで下っ端達も割と容赦ない生き物なのです。女子供を守るためならね。
あのアリに刺されると私やウリ坊たちは命に関わります。一匹や二匹ならともかく、十匹ぐらい刺されるとオークでも音をあ
げる代物です。




 
繰り返しますが、今日の巣穴には夫オークたちがいません。私と下っ端達だけです。

で、オーク社会では身分というか分際の差が大きくて、下っ端達と幹部では住んでいる世界が違います。
差別といえば差別ですが、根拠と道理があるいわば「謂れある差別」なので無理もありません。
銃も国民兵も戦略爆撃もないオーク社会では、万民の公平なんて元々有り得ないのですから。
いわゆる「弱い雄」である下っ端達には、幹部たちの持つ権利がありません。

具体的にいうと、この洞窟の風呂場やシャワーには下っ端は入れないのです。基本的には。
なので、今日は下っ端たち用のお風呂に入ってます。
誰が‥‥って私に決まってますよ。私ことレイちゃんが下っ端居住区のお風呂で湯船に浸かっているのです。


巣の改修工事の一環として、下っ端達の居住区にも風呂場を作ったのですよ。つい先日に。
コーネリアや彼女に続くお嫁さん達が巣で暮らすようになれば下っ端たちが入れる風呂場も要るだろう、ということで源泉の
方から竹筒でお湯を引き、岩壁をくり貫いて水道を通して下っ端居住区の端に風呂場を作りました。
とりあえずで作った小さなお風呂なので一度に嫁さんが3~4人しか入れませんが、当座はこれでなんとかなります。

巣の人数が増えたときに備えて、お風呂場の大改装を含めた改修計画を練っているのですがその完成は当分先のこと。
今の所は下っ端達にお風呂というか温水浴槽の良さを知って貰うという用途に使えさえすれば良いのです。

そうです。何故に巫女で族長夫人の私が下っ端居住区で風呂に入っているかといえば、みんなに風呂の良さを知って貰うため。
オーク族にとっての風呂の良さ。それは人間嫁の機嫌と健康が良くなることです。
いえね、オークって血行が異様に良いというか血液の流れをかなりの部分まで無意識に制御できるのですよ。
ファンタジー世界の住人なだけのことはあって、豚と人の良い所どりしている種族なのです。

豚ってねー ある意味究極生物なんですよ。赤道直下でもシベリアでも平気で暮らせますから。
オーク族は豚やイノシシと同じく、皮下の血行を制御できます。なので炎天下でも吹雪の中でも腰ミノ一つで過ごせるのです。体温調節の機能が他の哺乳類とは段違いなのですよ。
オークが体重の割には汗をかかず、人間よりも水や塩の摂取量が少なくてすむ理由もこの辺にあるようです。

人間や馬のように、暑すぎて大汗をかいてしかも汗のせいで身体を冷やしすぎて風邪を引く‥‥なんて不便な身体ではないの
ですよオークたちは。
体重や運動量の割に食料が少なくてすむのも同じ理由でしょう。体温維持の効率が良いのでお腹がすきにくいのです。


つまりオーク族は、本人の健康維持のためだけならあえて風呂に入る必要性は薄い。
清潔さの維持なら水風呂で充分なのです。
しかし私は彼らにもお風呂の楽しさを知って貰いたい。

だって、ほら、私がオークというか夫達を好きになった理由の一割ぐらいは、お風呂場でのアレコレな訳でして。
全身舐め回すように見られたり、逆に特定箇所を穴が開きそうなぐらい見つめられたり、優しく撫で回すように洗って貰った
り、お湯の中で抱えられて胸板にもたれたり‥‥と、裸の触れあいもよいものでした。
楽しくなきゃ日に何度もお風呂入りませんよ。

スキンシップって大事ですよー 人間でもね。


下っ端たちもオークですから「嫁さん欲しいなー」とか「嫁といちゃいちゃするのって楽しいんだろーなー」とか思ってます。
しかし耳で音声だけ聞いてるのと、目の前の風呂桶で身体洗ったり髪の毛梳ってたり鼻歌歌ったりしている姿を直接見るのと
では訴えかける威力が違う訳で。

なんかの本で「人間と他の動物の違いは楽観するか否かである」という説を読んだことがあります。
動物は常に現実を直視していますが、人間はそうなる可能性が低い薔薇色の未来を夢見てしまう事が違うのだと。
そういう意味でも、オークは人間と同じです。人間がオーク的なのかもしれませんけど。
オーク族も、「生きてりゃ何か良いことがあるさ」という特に根拠もない思いに支えられて生きているのですよ。

そして、私やコーネリアのようなオーク嫁はその「良いこと」の具現なのです。
山道や海で拾いましたからね。偶然っぽく。
彼らの「俺も嫁さん欲しいなあ」という思いは、女神降臨の余波で「近いうちに嫁が来る」という確信に変わっています。

下っ端達も「いずれ来る嫁さんのために準備しよう」と思っています。なのでその準備の一環として私は風呂場の設営を推し
ているのです。
ただ薦めるだけでなく、お風呂を作れば毎日こんなことやらあんなことやらができるんですよ、と実例も示しています。

そう、今日ここで、下っ端達の居住区で私が公開入浴して「風呂っていいよね!」という風潮を作ることで、この巣の改築計
画に弾みをつけ、より快適さを求めた住まい作りを推進しているのですよ。
なに? 何だかんだ言って、本当はオークたちに裸を見せたいだけだろこの露出狂め! ですと?
失敬な。性教育だってやりますよ。


うーむ、魔法のブラシを使っても髪が短いのはどうにもなりませんねえ。ある程度の長さがないと絵的に決まりません。
ま、良いか。当分のあいだ長い髪で女の魅力を誇示する役目はコーネリアに任せましょう。
私やソーニャさんのような短髪組は違う路線でいくってことで。


16人の義息子たちにガン見されながらお風呂入るのがこんなに楽しいんだから、つくづく変態ですねえ私も。
美人は得だ。
露出狂で、周り中から好意を持たれていて、好意を持っているのが変態紳士揃いだと特に。


お風呂とはこういう具合につかうものなんだよ、という実演のあとは実体験です。
ええ、みんなにお風呂に入って貰うのですよ。

衝立の裏でささっと浴衣に着替えます。もとい湯着か。
ふふっ みんな興奮してますねー。資材置き場の衣装箱から選び出したエロ服ですから。

絹に似ているけど水に強く、かといって吸湿性もあるという不思議繊維で織られたこの透明布地の衣装は夫達もお気に入りの
ものと同じく魔法の品(アイテム)ですが、寝室用に使っているのとは違う衣装です。色も形も。
これは下っ端居住区お風呂場用の衣装なのですよ。

あー うん 女の子が箪笥から溢れるぐらい服を貯めてしまう気持ちがちょっとだけ解りますね。
時と場所と相手に合わせた衣装じゃないと、気分が出ません。
気持ちって服一つで大きく変わりますからねー。今度ミッシェル山神殿に行ったら服と布地を買い込まなきゃ。

どうせ下っ端たちは水着だろうがイチジクの葉っぱだろうが、女の子の露出度高い姿が見られればそれで良いのでしょうけど。
いや、意識下にある情報のうち8割を視覚が占めている元異世界人な人間妻の私と違って、オーク達は嗅覚や聴覚や触覚など
が脳の情報処理能力に占める割合が多いはず。つまり見せるだけではあまり喜ばせてあげられないのです。

なので、声と臭いと皮膚感覚にも訴えかけることにします。
具体的にはスポンジもどきや竹べらや馬の毛ブラシや軽石や素手を使って、オーク達の身体を洗ってあげるのです。
石鹸はあくまでも薬用ということで使用は最小限にとどめ、糠袋やムクロジの粉や根コンブの絞り汁を主に使って。

コンブの親類らしき海草の根っこ(岩などに固定する部分)を砕いて水で溶き布で漉せばとろっとろの透明な液体ができます。
この海草ローションには美肌効果がありまして、石鹸の使いすぎで荒れた肌を癒してくれました。
で、広くもない洗い場でぬるぬる液を使って身体を洗ったり按摩の真似事をしていればよろけたり滑ったりして身体が密着し
たりする訳ですよ。腰ミノ一つのオークと半透明エロ衣装の幼女で。

襲われそうと言うか地球でロリ好きども相手にやったら間違いなく押し倒される行為ですが、下っ端達は健気に耐えてます。
ここまでくると紳士じゃなくて、何か別のものですよね。
察するに、この島のオーク族が強姦を忌避するのは信仰的というか、守護神からの加護に直結しているのてはないかと。
神様の声がホイホイ聞こえる世界ですから、「嫁さん大事にしないと後が怖いよ」という警句は地球とは比べものにならない
威力があるでしょう。

実際、嫁を大事にしない奴がろくな目に遇わないのがこの島ですし。
明日をも知れない彼らが後先を考えるかというと、血迷わない限り考えます。冥府の支配者であるオールクゥス神から逃れら
れる生き物(モータル)などいませんから。血迷うと成功の可能性がない誘拐を試みて袋叩きにされたりしますが。


あと、うちの下っ端たちが理性と分別を投げ捨てて襲いかかってこないのは、私を好いてくれているからでもあります。
義息子たちは強くなって星を上げてから、誰もが認める一人前の戦士になってから名付け親であり想い人である私に童貞を捧
げてくれるつもりなのです。
弱く情けない自分の成長を信じて待っている義母を裏切るわけにはいかないのですね。

幼稚園の保母さんが園児に「ぼく、おおきくなったらせんせーとけっこんするー」とか言われているのと同じで、いずれほか
の人に目移りされちゃうんですが、これを素直に喜べるのがオークに洗脳されちゃった身の嬉しさです。
逆ハーレム状態はいずれ終わるけど、いえ終わらせるためにもこの子たちを無事育て上げねば。なんとしてでも。


ぶちり


おや? 最後の一人を洗い場に招こうとしたら、ちょっとした偶発事件が。
くじ引きの結果、順番が最後になっていた一番大柄なオークの腰ミノが外れてしまいました。
ええ、元気すぎる息子の力に耐えかねて腰ミノの紐が千切れたのです。

いうまでもなくこれは不作法の極みな訳で、当のアンドレは突っ立ったまま硬直しています。
腰ミノが外れるということはオークにとって赤ん坊や死体に等しい無防備状態。故に彼らの腰ミノはオークが引っぱってもそ
う易々とは千切れないよう丈夫につくってあります。

腰ミノが落ちるということは手入れを怠っている証拠ですからねえ。
喩えるならパンクロッカーがステージ衣装の革服をカビまみれにしてしまったようなものですか。
騎士の鎧が錆びまみれの方が近いかな?







[38600] 41
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:98863f1a
Date: 2014/10/14 12:00



 ☆70日め3、はじめてなのですからね?☆


「ほら、こんなところに残ってますよ」

新米尼僧にして新米オーク母のレイちゃんです。ただいま風呂場でオークを洗っています。
より正確に言えばオークのち○こ洗ってます。

えっと、まあ、仕方がないじゃありませんか。
あのままだとアンドレが恥ずか死にしそうでしたし。

不摂生や不精のせいで腰ミノが落ちたのではなく、巫女に洗って貰うのが楽しみすぎて紐を千切ってしまったのだという解釈
で押し切りました。「そんなにおちんちん洗って欲しいの?」って。
オーク社会では幹部が白いといえばカラスは白いのです。私は幹部じゃないけどそれに次ぐ指揮権がある訳で。
私が「可」といえば不作法も不作法ではなくなります。というか、風呂場での礼儀作法は私が決めるものですから。

権力乱用する馬鹿君主の気持ちが解るなー、うん。これは癖になる。



んー 綺麗にしようとしているのは解りますが、不徹底ですねこの子。
ときどきしている性教育で「ち○こが汚れていると女の子に嫌われるぞ♪」と教えているのですが、やはり実際に洗ってあげ
ないと解らないか。溝の部分に垢が残ってます。

お互いが腹違いの兄弟同士な夫達のそれと比べて、下っ端達のち○こは同じドリル型でも違いが大きいようでそれぞれに色や
形や大きさは様々ですね。
で、アンドレは下っ端たちのなかで、いえオーク島全体でも滅多にいない巨漢でしてその分ち○こもご立派なのですよ。

これだけ大きいとかえって不便な気もしますが、女神様の睡眠中講座によればイノシシハーフのち○こは全体的に柔らかめで
収縮率が高く、しかも先っちょが尖ってますので、人間ハーフのよりもむしろ女に怪我をさせてしまう事故は少ないのだとか。
夫達のような人間ハーフオークが念入りに性教育を施されるのは、「処女と童貞による初体験にありがちな事故」がオークの
怪力で起きると洒落にならないからという理由もあるのでしょう。


まあ、いくら大きいと言ってもオークや人間の赤ちゃんと比べればそうでもないわけで。
オークち○この実寸は容積にして1~3リットル程度でしょうが、アンドレのはやや長細い形でドリルの溝が深く、先端が前
世のもので喩えるとアイスのコーンぐらいの長さでコルク抜き状になっています。
缶切りとかに付いてますよね、コルク栓にねじ込むやつが。アレみたいな形です。

これを突っ込まれると、膣(なか)でねじれたり伸び縮みしたり回転したりで、人間の雄では絶対味わえない快楽が得られるの
だとか。ヒューハーフオークのものと比べても見劣りしないらしいですけど、技術(テクニック)的には完全に幹部オークに負
けてる筈なのに快楽的には負けてないって‥‥下っ端達が技を憶えたらどうなるんでしょうか?
それとも半ば素人だから強かった格闘家が技術を身に付けたばかりに二流選手になってしまうように、元々の持ち味を殺して
しまう結果になるのかな? 


ソーニャさんは初体験がイノシシ系オーク複数とだったそうで、夫達のようなヒューハーフよりも下っ端達の方が雄としては
好みだそうです。一番の選り好み所は人柄なのですが。
彼女が殺伐&波乱のファンタジー世界で重ねた男性遍歴から得た結論は、「口付けして無事に済む相手かどうかが肝心」。

物理的精神的社会的に、命や何やらを全部預けて大丈夫な相手であることが何よりも大事なのだそうです。
「人間性とは口付けできない」なんて寝言が言える世界じゃありませんから。美女やイケメンだからと油断したら食い殺され
るか死ぬよりも酷い目にあうのが冒険者です。モンスターは何処にでも潜んでいますし、ファンタジー世界で一番怖いのはモ
ンスターじみた人間なのですよ。

人面獣心なんて言葉もありますけど、社会基盤が小さい東方文明圏しかも冒険者なんてヤクザな稼業してると狼やジャッカル
の群の方がまだマシなんじゃないかってぐらい詐欺や裏切りや襲撃が日常茶飯事ですからねー。
覇王も救世主もいないリアル世紀末なのですよこの大内海世界は。南斗もいないし。でも偽医者や犬判官はいるかも。




アンドレの逸物は白味の強いピンク色でぷにぷにのすべすべで、ご立派なんだけと可愛らしくも感じてしまいますがそれは禁
句です。
前世の記憶からいっても男のアレに対して使ってはならぬ形容詞ですからね。落ち込まれると困るし。

薬用石鹸で隅々まできれいに洗って、汚れと泡を手桶のお湯で洗い流します。
さて、一人洗ってしまったからには全員洗うしかありませんよね、ち○こも。
というわけで全員腰ミノを脱ぐように。


モデル選出のときにも下っ端達全員のち○こを見ましたけど、15本ものオークち○こがそびえ立っている姿は圧巻です。
15? 一人足りない?
おーいゴエモン、貴男は脱がないのですか? 何? コーネリアに洗い方教えて貰ったから大丈夫?

では証拠を見せて貰いましょうか。綺麗にしているのなら見せても大丈夫ですよね? とっとと脱げやこの野郎。


‥‥本当に綺麗にしていました。さっきお嫁さんにしゃぶって貰ったばかりのようです。
うーむ、これは合格と言わざるをえない。ちえっ。

別居中の妻を愛し抜いているゴエモンですが、可愛い女を見ればおったててしまうのが雄のサガ。
私の手の中で新婚ドリルがひくついてます。
辛いでしょうねえ。なまじ女を知ってしまってから禁欲生活というのも。


ちゅっ

「「「「グヒッッ??」」」」
「‥‥きれいにしていたご褒美ですよ」

などと、思わずしてしまった行動を取り繕ったために私はこれからも数日おきに義息子たちのち○こを検査して、きれいにし
ていたらご褒美と称して舐めたりさすったりすることになるのでした。
というか次回以降のお留守番では、16本のドリルを舐め回すことになっちゃうんですけどね。

浮気じゃありません。これは性教育ですから。
あくまでもきょういくなのです。まあ、その、夫達からも留守中にどうしても我慢できなくなったら下っ端達のち○こで性欲
処理するように言われてますけどね。

オークが孕んだ妻に留守番させるというのはそういうことです。
もし万が一に夫達が帰ってこなかったら、未亡人になった私はこの子たちの共同妻になっても良いのです。
嫁と下っ端だけで留守番させるというのは、そのくらいの信頼がないとできません。


で、この日から木像ドリルち○この種類が増えました。4タイプほど。

タケノコのような、先が急に細くなったドリル状のもの
イッカク(オヒョウ)の牙みたいな細長いドリル状のもの
ドリルが二重になっているもの
アルキメディアン・スクリューみたいな、太めの本体から螺旋に肉が張り出して深い溝があるもの
コルク抜きのような突起があるもの
コルク抜きのような突起が長いもの

製作しないことにしていた4種類も合わせて、合計6種類作ることにしました。
いやだって、それぞれにそれぞれの魅力というか良さがありますから。どれかだけを選ぶなんてできませんよ、女神様が。
この木像ドリル群はあくまでも女神様用ですから、顧客というか使用者(ユーザー)の声を取り入れない訳にはいきません。

日替わりで違うち○こが楽しみたいのかー 流石は豚嫁たちの守護者、ど淫乱ですね。

「別に一度に複数でもかまいませんよ?」

‥‥あの、それって浮気になりませんか? 相手複数だと。いや全部オールクゥス神なら良いのかな。
インド神話にも「あー 嫁さんに二本差しとか三穴同時責めとかしてみてー でも俺以外の男になんか触らせたくねー」とい
う神様が何体にも分身して17Pぐらいしたとかなんとかそんな話がありましたし。

「すべてのオークはオールクゥスの化身なのです。オークと解る像なら何体でも浮気にはなりません」

えっと、そういえばエスティア様の化身とみなせる女体像なら何体でもオールクゥス神像に絡ませても良いのでしょうか?

「信仰は形ではなく心ですから」

エスティア様だけでなく、他の女神像も複数絡ませて良いみたいですね。順番さえ守れば。
このことを含めて、余程のことがない限り祭祀や儀式やお祭り騒ぎの有り様に神々がいちゃもん付けてくる事はないようです。
オリンポスの連中にも少しは見習って欲しい寛大さですね相変わらず。野放しなだけかもしれないけど。





 ☆70日め4、気は心なのですよ☆



さて、洞窟は湿度が高いという点はともかく、気温が低いのは割と有り難い。
一日通して温度がほぼ一定で、人が暮らしている影響を考えても20度を超えることはまずありません。温泉が湧いている風
呂場や外気が流れ込んでくる場所はともかく、それ以外のところはまあまあ涼しいのです。

そんな洞窟の中に、外気温より10度低くなる魔法の戸棚を設置すると冷蔵庫代わりになります。
重曹こと炭酸水素ナトリウムはこの島の特産品でして、大神殿に交易用物資として備蓄されていまして、そのまま飲める炭酸
泉もわりとあるそうですが、この巣からは近くないので重曹を仕入れて作る方が早いのですよ。

という訳で、手作りサイダー(炭酸水+サトウキビ汁+レモン汁)を飲んでます。

ぷはーっ 風呂あがりの炭酸水は良いですねー 健康にはあんまり良くないけど。
ま、文明の産物なんてそんなものです。

「グヒッ♪」「グヒー‥‥」

下っ端たちの感想は様々ですね。地球にも炭酸飲料が苦手な人がいましたから当然ですが。
炭酸水の果汁割りを喜んで飲む者もいれば一口で止めてしまう者もいます。

実録戦記ものでの「ちょっとした御馳走」といえば巻き寿司と炭酸水。海軍の飛行機乗りたちの間ではそうでした。
前世が軍事オタの身としては、交易で干瓢や田麩が手に入ったからには巻き寿司を作らなくてはと考えまして。
で、板海苔がなければ昆布で巻けば良かろうという結論に至りました。
干し昆布を表と裏両方からカンナで削って、半透明の薄い紙状にしましてこれで酢飯とネタを巻いて冷蔵戸棚で寝かせます。

防腐と香り付けに笹の葉に包んだので巻き寿司と言うより笹寿司っぽい外見になりましたが、美味しいからこれで良し。
卵焼きや酢漬けの魚や煮貝や野菜の塩漬けなどの比較的な安全な材料の寿司が主ですが、生魚の刺身などを使った寿司も少し
だけ出してます。
胃腸の丈夫なオークたちはともかく、私は食中毒起こしやすいですからねー。大量の作り置きは危険です。

炭酸水は賛否両論ですが寿司の方は前に作ったときと同じく好評ですね。
半分腐ったものでも平気で食べられるオーク達は、酸っぱい味は美味な方に入るようです。


今日のお昼ごはんはこの寿司のように、あらかじめ作っておいたのが主になってます。

朝の焚き火の灰に埋めておいた蒸し鳥モドキも程良く蒸し上がりました。
下ごしらえして蓮の葉で包んだ鳥モドキ肉を粘土で包み、熱い灰の中に埋めておいたものです。今日のは火力調節が上手く行
きました。
この前に作ったときは追加の薪が足りず生っぽかったので串刺しして炙り焼きに変更する羽目になりましたからねー。

仏跳湯でしたっけ? 乾物の壷蒸しスープ料理も良い具合です。
魔法の焚き火って、火力が安定しているから弱火で長時間煮炊きする系の料理にもってこいですねー。

みんなで火を囲んでお昼ご飯を食べています。
思えばこの二ヶ月あまりで色々変わりましたね。下っ端達も随分と落ち着きましたし。
安心感とでも言うべきかな? 私が巣にいることが当然な雰囲気ができてます。
私がこの巣に来たばかりの頃は、みんな舞い上がっていたのですよ。そういえばあの頃は下っ端たちが怖かったなあ。


さて。
私は「神々の声がよく聞こえる」という加護があります。ときどき夢の中に女神様も来ますし。
で、夢の中で講義(解説?)してもらったのですが、この世界にも経験値システムがあります。
ゲーム世界とは経験値を得られる基準がちょっと違いますけどね。

この世界の経験値は、何かをしたときに精霊達がその行為を認めてその個体を強くしてくれるという現象を数値的に言い換え
たものです。
地球にもスーフィズムという思想がありましたが、精霊達にとって物質はいくらでも変異するものであり変えられるのです。
普段は変える必要がないからそのままにしているだけで。

つまり精霊達の認める行為を行えばどんどん強くなれる訳ですが、その判定基準は「目的に合っているか」が重要でして。
「暇つぶし」にアリの行列を木槌でぺちぺち叩いて潰していっても経験値にはなりませんが、同じアリの巣を「女子供が刺さ
れないように」焼き尽くせば僅かながらも経験値になります。

同じ焼き魚でも「しっかり食べて強い体を作ろう、そして早く妻を迎えにいくんだ」という意識を持って食べれば経験値にな
るのですよ。それとは別に「これが巫女の好みの焼き加減なのか、憶えておこう」という意識で食べるとそれもまた経験値に
なります。
ただ漫然と「メシ時だから食うか」と食べていたのではろくな経験値が入りません。

地球でも目的意識のあるなしで学習効率が大違いでしたが、この世界は更に極端です。
村のごろつきや無為徒食の読書人が食い詰めた結果駆けだし冒険者になって、一年かそこらで竜殺しの勇者になってしまうこ
ともあるのがファンタジー世界。
つまり、可能性としていうなら私が一年後に星10級の使い手になっていることだって有り得るのですよ。
三日遇わざれば~と言いますが、神々や精霊の加護を受けた只の人が勇者英雄に成り上がることは珍しくありません。

極端なことをいえば、下っ端と幹部の違いって意識の差なんですよ。
幹部オーク達は強い父親や親族、強い母親やご近所さんたちに囲まれて育ちます。ちょっと年上の兄弟や幼馴染みが成長と共
にどんどん強くなっていく姿を見て育ちます。
鍛錬は必ず実ると、毎日毎日岩や丸太を殴って殴って殴りまくればいつか一撃で叩き割れるようになれると信じる根拠がある。
それがグェスたち幹部オークの日常であり常識であり基礎意識なのです。

対して神殿育ちの下っ端たちは「どうせ俺達はこんなもの」という諦めがあるのですね。
他の要素も大きいですが、なによりも大きいのは意識の差です。
根拠は私の直感ですが、女神様にその辺を具体的に質問したらはぐらかされたのでまず間違いありません。


その昔「精神は肉体を超越する」と主張した哲学者や、逆に「精神は肉体の玩具に過ぎない」と主張した哲学者がいたそうで
すが、仏教者の端くれに入れて良いのかどうか悩ましい立場から言わせて貰えば肉体と精神は同じものです。
分けて考えるからおかしな結論になるのですよ。

二つが同じものであるからこそ、心が励まされれば身体が健やかになり身体に力満ちれば気力が満たされるのです。
精神論という言葉は誤用されてます。頭の悪い体育教師がいう「気合いが足りん、もっと気合いを出せ!」とかの戯れ言は本
来の精神論とは対極にあるものです。

だってそうでしょう? 件の体育教師などが精神論者を名乗るのは、赤貧に喘いでいる水呑み百姓へ「金銭が足りんからだ、
もっと金銭を持て!」と怒鳴りつける輩が経済学者を名乗っているようなものです。
馬鹿が怒鳴って気力や金銭が湧いてくるならこの世に面倒事なんてありえません。精神力があれば竹槍で爆撃機を撃墜できる
と主張した皇道派残党じゃあるまいし。

物資が有限であるように精神力もまた有限です。
私は精神主義者としての一面も持っていますが、精神力万能主義ではない訳で。
健全な国家運営にはある程度の軍備が必要だという思想と、強い軍隊さえあればなんとでもなるという思想は違うでしょう?
「健康維持には適度な運動が必要」だという考えと、「ジョギングしてれば万事解決」の健康教教義とが違うように。
精神主義と精神力万能主義の違いはそういうものです。


物質と情報が同じものである以上、精神と肉体は同じものであり、精神論とは即ち肉体論なのです。霊肉は一元なのですよ。
だから気の持ちよう一つで風邪が命取りになることもあれば、ガンがあっさり消えてしまうこともあります。
子犬をヒグマと思いこんで腰を抜かす粗忽者もいれば、ヒグマを子犬と間違えて撃退する飼い猫もいる訳で。

下っ端オークたちに上昇意欲を持たせたければ、「やる気を出せ!」と怒鳴るのではなく気力体力が満ちるようにし向けるこ
とが必要なのです。
ではどうすれば気力が満ちるのか? 私は先人の知恵に学びました。

明確な脅威(敵)・一心となれる連帯感・信仰を集める偶像・良い待遇・合理的な組織・行き届いた訓練・厳しい規律。
強い戦士を作るにはこれらのものがあれば良いのです。地球ではそうでした。
この巣というか、うちの下っ端たちに足りないのは「良い待遇」と「行き届いた訓練」です。

待遇が良ければ気合いが出るとは限りませんが、悪けりゃ出しようがありません。
人(オーク)は己を認めてくれる者のために立ち、戦い、死ぬのですよ。この世界でも。




 ☆70日め5、でも千葉真一版の戦国自衛隊は許す☆


意識改革と言葉でいうのは易しいですが実行は難しい。難しいですが解決策がない訳でもありません。
この笹昆布寿司もその一つです。
意識の持ちよう一つで同じ食事から得られる経験値が違うのですが、作る側の意識も関係しています。

俗に「料理は愛情」と言いますが、あれは「料理を美味しくするには愛と理解が必要だ」という意味であって、愛があればた
だそれだけで美味しくなるという意味じゃありません。
味噌を作るには塩がないといけませんが、塩があれば美味しい味噌が作れるかというとそうではない。
というかですね、あれは「飯が不味いのは愛情が無い証拠」というメシマズを糾弾する言葉なのでして。

で、正しく愛と理解をもって作り上げたご飯は、食べた者がその愛情を受け取れば只の食事に数倍する効果を発揮するのです。
魔法や奇跡が(少なくとも前世の私が観測した範囲内では)存在しない地球ですら、三食コンビニ弁当で過ごすことを強制され
たなら三日目あたりには暴動が起きかねません。というか私は起こす。
米軍では「もうレーションは嫌だ暴動」とか「アイスクリームをよこせ暴動」がしょっちゅう起きているそうですし。

魔法が実在し神々との距離が近いこの世界では「巫女の手料理で元気になる」ことを疑うオークなんていないのです。
私が調理作業を通じて吹きこんだ「経験値の元」とでもいうものがオークたちの「美味しいものを食べて強くなる」という原
始の信仰と合わさり、相乗効果を発揮して効率よく血となり骨となりレベルを上げるのです。

義息子達が私になついてくれているのも、これが大きな理由なのでしょう。
彼らの生き方を肯定して、応援してくれる女の子は私だけだったのですから。私の手料理やお菓子がご褒美になる訳だ。
オークたちからみれば巫女手作りの昆布寿司や乞食鳥モドキやバナナシェイクは、万余の応援団が歌う応援歌のようなもの。
食べるごとに勇気が湧き精が付き力が増していく特別食なのです。


そんな訳で、私は毎日の料理に励んでいます。下っ端たちだけでなく、夫達も美味しい料理が好きですからね。
男のハートが胃袋と直結しているのは、この大内海世界でも一緒なのです。
うーん、こんなことなら藤子さんからヒルデニア料理をもっと学んでおくのでした。
レシピの充実も今後の課題としましょう。料理は互いに教えっこすれば良いから財布に優しいですし。




午後は大広間を中心に改装工事を進めます。
たとえば大広間の天井近く、外への出口となる岩穴の上にオークが入れるくらいの窪みを作ったりしています。

あくまでも戦術案の一つですが、敵が攻めてきて外で防ぎきれない場合は洞窟に逃げ込みます。
追いかけてきたら設置した大砲の葡萄弾で歓迎してやりますが、不発だったりそれでも突入してきた場合はこの大広間で迎え
撃ちます。
大広間に散らばったオークたちは侵入者が岩穴から出てくれば一斉に石つぶてや投げ槍を投げつける訳ですが、その程度では
倒せないでしょう。倒せる相手なら巣に逃げ込む必要ありません、外で殲滅できます。

で、この窪みは伏兵を置く場所なのですよ。
冒険者の基本戦術から言って、敵は防御力の高い戦士職の者が壁になり呪文使いや弓兵がその陰から攻撃するでしょう。
その上方向に伏兵を置いておけば、盾役の真上から奇襲できます。運が良ければ中衛や後衛にも奇襲できるかもしれません。
中世城郭でいうところの「武者隠し」ですね。

ふむ。奇襲役のために武者隠しには武器を常備しておきますか。取りあえず棍棒とボーラを用意しましょう。
火炎松の樹液から作る発火油や高濃度焼酎の瓶、胡椒粉を入れた目潰し弾なども良いかもしれませんね。迂闊に使うと自爆し
てしまいそうですが。幹部オークなら使えるでしょうけど、使いたがらないでしょうねえ。

ん? 待てよ?

敵を嵌めるためじゃなくって、傷つけずに捕虜にするためなら罠や搦め手でいけるんじゃないでしょうか。
つまり捕獲網やトリモチや目潰しを使って女達を無傷で捕らえるのなら、夫達も嫌がらない筈です。
よし、三人が帰ってきたらこの線で説得しましょう。



日が暮れる前に改装作業を切り上げ、大広間の掃除をします。
今夜はしっかり戸締まりしてしまうので、イノシシたちも大広間に泊めることにしています。普段とちがって夜中に出入りで
きません。なので今夜は居候イノシシたちを大広間や下っ端居住区に泊めるのですよ。
詰め所だけは駄目です。癖になりますから。つられて見張りも一緒に寝てしまいますから。

スポンジや粘着剤つきバナナの葉っぱを使って床をきれいにします。
寝床が石粉まみれだと落ち着いて寝られませんからね、オークもイノシシも。
睡眠中講座で「浄化」は空気にも使えることが解りましたので、粉っぽい空気は洞窟内から一掃されてます。

この呪文の効果も今ひとつ解りにくかったのですが、最近はなんとなく解ってきました。
術者の指定する物体を 「術者の望ましい状態や性質にある同じ系統の素材でできた物体に入れ替える」 呪文なのですよ。
だから水が欲しい術者が海水にかければ海水が清水に変わり、きれいな塩水が欲しい術者が海水にかければ海水が塩を溶かし
た清水に変わるのです。

食用油を美味しい食用油に変えることができましたが、物質を複雑化するよりも単純化することに向いた呪文のようですね。
混合物の濃度を増やすよりも減らすことに向いた呪文です。
つまり海水(塩分濃度約2.7%)から生理食塩水(塩分濃度約0.9%)を作るのは楽ですが、清水(塩分濃度ほぼ0%)から生
理食塩水を作るのは無理という訳です。引き算の呪文であって足し算ではありません。



さてと、予定よりかなり遅くなりましたが晩ご飯を作りますか。
そろそろ良い具合にセミ肉に下味が染み込んでいる筈です。


長ウリとクジラベーコンの煮込み汁
ワニ肉のカレー煮込み(冷蔵庫で寝かせたものを温めました)
セミ肉の竜田揚げ、ハーブ塩とポン酢付き
茄子のセミ肉挟み揚げ
セミ肉の炭火焼き
セミ肉と香草の練り団子串焼き
野菜の炒め物アケビの皮詰め蒸し焼き
茹でヤムイモの味噌和え木の芽添え
ハマグリとキノコと昆布入りの炊き込みご飯
茹でで刻んだオクラと納豆の和え物トビコ乗せ
ココナッツの刺身
空豆擬きの塩茹
棘桃果汁のサトウキビ汁割り(微妙に発酵しかけ)

これが今晩の献立(私が作ったもののみ記述)です。ちょっと手抜き気味かな? 手間の掛からない料理が多いし。
でもこれ以上お腹を空かせた義息子たちを待たせるわけにもいきません。
私の手伝いをしていたタレミミたちももう限界でしたし。
他のオーク達も自分で料理やその手伝いをしていまして、そちらの準備はもう終わってますからね。

エスティア様にも人間換算で一人前お備えしてから、みんなで合掌していただきます。
毎日作っている甲斐はありまして、みんな料理の腕が上がってきましたね。特に量的な意味で。
私にしてもちょっと前まではそれぞれ一口分ずつぐらいしか行き渡らなかった手料理が、今では数口分になっています。

腕の進歩だけじゃありませんね。
調理技術や手際が良くなったのもありますが、茶釜戦艦から持ち込んだ調理器具やソーニャさんに作って貰った水晶包丁、
それに今日届いたコボルド印の調理道具のお陰でもあります。うん。使い慣れた道具があると調理が捗りますね。



さて、と。
ゆっくり時間をかけて晩ご飯を食べ、後かたづけも済ませたあとは娯楽の時間ですが‥‥。

「グヒッ」「「グヒー?」」「オドリ、チガウ?」

踊りますよ。踊りますけど、今日はみんなに演奏をして貰います。
コーネリアに使い方教えて貰った録音録画機能付きの水晶球を使って、録音した私のハープ演奏を繰り返し流します。
その演奏に合わせて手拍子を打って貰うのですよ。

私の手拍子に合わせて打つことを数回繰り返し、手拍子の感覚を掴んで貰ってから踊り始めます。
うん、やっぱり音楽があった方が踊りやすいです。ただ見せるだけじゃなくて、みんなと一緒になにかをするというのは良い
ものです。伴奏に慣れたら太鼓とか竹マラカスの打楽器を任せることにしましょう。管弦楽器はその次ですね。


セーラー服で汗だくになるまで踊ってから、シャワーを浴びて毛皮服に着替えまして今度は弾き語りします。
ブランコに乗って。
いえね、物語が聞きたいという声とブランコ姿が見たいという声がありまして。なら同時にやってみようと。


「やーいやーい、悔しかったら陸(おか)に上がってみろー そう白毛ウサギが笑うと、鮫セルキー族は そうか と呟いて陸地
に上がって白毛ウサギを取り囲みました。ただの鮫でも砂浜に這い上がって獲物をさらっていくこともあります。
ましてセルキーたちにとってみれば海岸端の陸地に上がることぐらい簡単でした。油断していた白毛ウサギは逃げる暇もなく
捕まってしまい袋叩きにされました」

そんな訳で、ただいまゆるゆると揺られつつ「因幡の白ウサギ」を昔話風にして弾き語っています。
話を解りやすくするために大国主命はオーク族の戦士で族長の息子の一人、複数いる姫系ヒロインを一人に統一、白ウサギは
ウサミミ獣人でヒロインの侍女という設定にしています。

物語は魔法王スサの娘であるヒロインの侍女が、仕事先の小島から本島へ帰るときにスサ軍団の水軍衆を騙してからかったた
めに半殺しにされてしまう所から始まります。
ウサギ族の侍女は、全身怪我だらけで泣いていたところに通りかかった意地悪なオークたちに嘘の治療法を教えられかえって
傷が悪化してしまいますが、その後でやってきた優しいオーク戦士に正しい手当をして貰って元気になって‥‥と続いていき、
最後には主人公は魔法王の所からヒロインごとアイテムを持ち逃げし、ヒロインやその侍女たちでハーレム作って新しい族長
になる所で終わります。

「‥‥こうして優しいオークのオーナ・モゥチはたくさんの子孫を作り、一族は末永く繁栄しました。一方意地悪なオークた
ちは嫁が来ないので子孫を残せないまま死に絶えてしまいました。
だからヒルデニアに今いるオーク族はみんな優しいのです。おしまい」

聴衆の好みにあわせて白ウサギも嫁にするルートにしてみましたが、正解だったようです。
やや年増の人妻とはいえ、開眼式に来たウサミミさんの可愛らしさと甲斐甲斐しさは下っ端オーク達にもある種の感銘を与え
てまして、「獣人娘も良いかも」という空気ができてるのです。

物語的にも、姫とアイテム持ち逃げした主人公が連れて行かなかったら残された白ウサギの立場が相当に悪くなることはオー
ク達にも解る訳でして。オーク的世界観からすれば嫁さんの侍女も嫁にして面倒見るのが王道なのです。
フラ○ダースのネ○とパト○ッシュが昇天しないハリウッド改変に比べればこの程度は許されるでしょう。物語の本質は歪め
てませんから。




 ☆71日め、私に畜産業の素質はなさそうです☆



独り寝の寂しさに耐えられなくなっている身なので、昨夜は大広間中央あたりでイノシシ親子と一緒に寝ました。
下っ端達の誰かだと無意識にセクハラしそうで怖かったもので。もちろん私がする側です。
半野性のイノシシたちですが、毎日下っ端達と一緒に水浴びしてますし寝床の藁には乾かした虫取り草の茎や葉を混ぜてます。
さらに毎日私や下っ端達がノミ取りもしているので清潔そのものですよ。

前世で飼っていた猫たちも、私がノミ取り櫛を手に取ると寄ってきてました。
犬猫にだってノミがいない生活の快適さが解るのです、それ以上の知能を持つという説もあるイノシシたちがノミ取り粉や櫛
の価値を理解していても不思議はありません。

そんな訳で、バリケードを撤去したばかりの入り口近くで朝日を浴びながらイノシシたちの毛を梳いています。
‥‥ふと思いつきで魔法のブラシを使ってみたのですが、イノシシたちにも効果ありました。もう毛並みが艶々です。
ノミやシラミに対しても効果ありですか、魔法文明社会で科学が発展しない訳だ。

イノシシでこれならビーバーとかミンクだと凄いことになりそうですが、仮にブラッシングが可能だとしても毎日毛皮を梳い
て可愛がった動物を毛皮にするというのもなんか、気が進みませんねえ。
致し方ありません、飼育による毛皮製品の品質向上は諦めましょう。犬や猫やイノシシの毛を梳いてペット?自慢することに
します。猫やフェレットや狐を飼い慣らせたらネズミ対策にもなりますし。

などと皮算用しつつ、ウリ坊たちの毛を梳きます。しかし成長早いですねこの子たちも。どんどん重たくなってます。
豚の類は一年で大人になるからこんなものなのかな? 栄養状態も良いでしょうし。この島のイノシシたちの中でも特に恵ま
れた立場な彼らは本能に従って好きな物をお腹いっぱい食べているのですよ。

イノシシたちが巣近くの草を食べてくれるので、下っ端達が毒へビや毒虫に噛まれたり刺されたりする回数も減りました。
籔や茂みの密度が下がりましたからね。
粟よりも細かい実を付ける雑草がイノシシたちの好みですが、この草の実は不味いので私の食用にはなりません。
澱粉を取ることはできますが、イモ類とかのもっと効率の良い植物がいくらでもありますし。

この巣に居候イノシシたちがいなかったのは、イノシシが苦手なお嫁さんが来るかもしれないからという理由のようです。
嫁さんが来たから居候を追い出すというのも酷な話ですし、それなら最初から飼わなきゃいい と。

夫達「大きな巣」育ちの幹部オークにとって居候イノシシが必須の存在でないことが最大の理由でしょうけど。
生まれ育った環境の差ですね。大神殿育ちのオークにとっては必須なのですが。
前世の私にも「各家庭に一匹は猫がいて当然」という思いこみが小学校に入るまでありましたし。
農村に猫は必須アイテムなのですよ。特に私の故郷では農機具の一つみたいなものでしたから。


最後の一頭を梳き終わる頃には下っ端達の自主朝錬も終わりました。
逆立ち腕立て伏せ → 水入り樽を足で挟んで逆立ち腕立て伏せ → 水入り樽を足で挟んで片手逆立ち腕立て伏せ の順で
難易度調節をしていますが、「この次はどうしよう?」とゴエモンたちは悩んでいるようですね。
私も何か考えておきますか、幸いネタはまだ残ってますし。観てて良かったカンフー映画。

私に続いて、二人一組で見張りと鍛錬をしていたオークたちは巣の前で水浴びしてから巣穴に入ります。
今朝は豆腐を作りますので、みんな楽しみにしているのですよ。

この前の大神殿行きで豆腐作りの秘訣を聞き出し、材料や石臼などの機材も買いそろえました。
なので今では木綿豆腐が作れます。美味しいのが。
いやしかし、知らないとは怖ろしい。豆の種類から始まってにがり(凝固剤)の種類や使った機材の選別まで、これだけ間違い
倒していたらそりゃ失敗しますよ。読んどきゃ良かった豆腐屋漫画。


考えてみれば素人製塩のついでに手に入れた天然にがりで豆腐作ろうとしていたのですから、無謀にも程があります。
天然にがりで豆腐作るのは玄人でも難しいですからねー。しかも消泡剤なしときた日には。

ま、今は美味しく作れるようになったから良しとしましょう。今の所大失敗はしてませんし。
大勢で大量に作って大勢が食べる。豆腐作りは下っ端達にとっても楽しいイベントです。

まずは醤油・各種香草類・削りプレカツブシで出来たてをたべます。というか塩だけでも良し。そのまんまでも良し。
見張り役の下っ端達を除いた全員で作った豆腐を、巣の全員で分け合って食べます。
イノシシたちはむしろオカラの方が気に入っているようですが。

これまでは一部希望者にだけ料理を仕込んでましたけど、今朝のように全員参加型の料理イベントをこれからも時折やるつも
りです。全員が料理人になる必要はありませんが、料理がどういうものなのかぐらいは解っている方が良い。
仲間のやることについて少しでも知識や体験があれば、その分連携が取りやすく結束も高まるのですよ。

食卓を囲むことは結束を高める基本ですからね。キャンプとかで、大勢が簡単な料理を作るのはそのためですし。
酒の仕込みや燻製作りは普段からやってますから、パン焼きとか餅つきとか蕎麦打ち‥‥粉物ばかりですな。

なにか別系統の食べ物系共同作業をやりたいのですが、何をしましょうかねえ?
チーズ作りとか手間がかかるから良さそうなのですけど、この島では酪農は殆どやってないですし。
‥‥味噌、かな。元日本人的に考えて。


豆腐づくしの朝食を済ませた後は、見回りを兼ねて竹藪に行きます。お供はハラキズ以下9人、残る7人はお留守番。
タケノコを掘るにはちと陽が高すぎる時刻ですが、今日は埋めに来たので問題なし。
埋めるのは壷に詰めた塩漬けタケノコです。そうです、メンマの試作品です。ついでに青竹や笹の葉も取りますけどね。

いやその、洞窟内と竹林の土中のどちらが乳酸発酵に向いているのか実験してみようかと。
乳酸発酵しさえすれば埋めなくても良いのかもしれませんが、本場の製法にはそれなりに利点がある筈。
この島の気候は台湾と似てないこともありませんから、メンマ作りに向いているかもしれません。

ヒルデニアにはメンマに当たる漬け物がない(か、あるいは知られていない)らしく大神殿で聞き込んでも解りませんでした。
ちなみにグェスの母上は梅干し派だったようで、夫達は糠漬けにはあまり思い入れがないようです。
あと粕漬け派でもあるようですが。

まあ、カレーに付ける福神漬けの開発は完了しましたし、あちゃら漬けや浅漬けも開発しましたからご飯のお供は充分足りて
ますけどね。別にメンマ食べないと死ぬ訳でもないし。
でも大根漬けは食べたいのです。この島の土は大根に合いませんが。
脱塩処理した海砂と腐葉土混ぜて作った土なら美味しい大根が作れるそうなので、腐葉土を作っています。

だってこれだけ海の幸に恵まれた島で大根おろしが手に入らないなんて、殺生じゃありませんか。
焼き鳥に酒が付くように、ソーセージに辛子が付くように、ナポリタンに粉チーズが付くように焼き魚には大根おろしがない
と締まりません。タマネギだけでは辛すぎる。

なので巣に戻って竹を倉庫に入れ、浜辺に行く前に腐葉土をかき混ぜます。下っ端達が手伝ってくれるので楽ですね。
ここでお供と留守番の面子を入れ替えます。頻繁に入れ替えないと不満が溜まりますから。
今日は昼近くまで浜辺で濃縮塩水作りや海草干しをして、ついでに釣りやスイカ割りもする予定です。



お昼は麻婆豆腐や揚げだし豆腐や焼き豆腐田楽と釣ったばかりの魚で頂きますか。釣れたら、ですけど。
では出発!





 ☆71日めの2、羅刹系ですので☆


浜辺について真っ先にやる事は安全確保。指さし確認や声かけ、石ころの投擲や10メートル竹竿での突っつきなどで確認し
ていきます。
いやその、11フィート(約330㎝)棒だと距離が足りないのですよ、鬼殺し貝の毒銛を防ぐには。
一応、竿持ちには竹を縛った小型イカダみたいな盾を持たせて鎧も着せていますが、重装備していれば怪我しない訳ではあり
ません。

この鎧は遺跡からの発掘品でもなく、コボルド族や島の外から買い込んだものでもありません。自家製です。
適当な鉄塊を金槌と金床でぶっ叩いて作った冷鍛造鋼板を、鋼蔦繊維を編んで油で煮込んだ胴着や籠手や脛当てに縫いつけた
ものです。素材的に火攻めに弱いですがこの浜辺に火炎放射してくる敵はいないので無問題。

オーク的には装備に頼ることに抵抗感があったようですが、巫女権限で押し切りました。一人前の戦士みたいな事は一人前の
戦士になってからやれば良いのです。
下っ端達は「あの巣の連中は鎧を着ないと採集もできないんだぜw」といった噂が広まると温泉洞窟全体が、そして夫達と私
が笑いものにされるのではないかと心配しましたが、「私が泣くのと、この巣の住人以外に笑われるのとどっちが良いの?」
と言うと納得しました。

‥‥そこで納得しちゃうからこの巣に流れ着いちゃうんですよねえみんなして。
まあ、彼らのそんなところが好きだから義母になったのですけどね。「~人間は腰抜けこそよかれ」ってやつで。
無能な凡人としては、気弱で穏やかな凡人の方が一緒に暮らしやすいのです。
自分の命を惜しまない奴が他人の命を尊重する訳がありません。
英雄なんて身近にいて欲しい存在じゃありませんよ、アレは物語だから良いのです。

評判や名声が大事な原始社会でそれは拙いのでは、ですか?
言いたい奴には言わせておけばよろしい。もしこのことで私や家族を嘲笑うものがいたら呪ってあげます。本気で。
巣の住人を一人も死なせたくないからしていることを嘲笑うのならば、そいつは私の家族が死ぬことを望んでいるも同然。

私から家族を奪うものに禍あれ。家族の安全を追求しようとする私を邪魔するものに災いあれ。
呪いには呪いを、厄には厄を。人を呪わば穴二つ、私と家族を呪わば地獄見せちゃります。
精神攻撃には精神反撃あるのみ。威嚇射撃ではなく初弾必中全力斉射、過剰殺戮(オーバーキル)上等です。


危険生物を発見&排除して安全を確保したら、海水濃縮装置に海水を入れますか。
これは洞窟内に作っていた製塩装置の拡大改良品でして、流下式製塩装置の一種です。丸木船式水槽に海水を貯め、焼いた石
を入れて煮沸消毒し、沸き上がった海水をアルキメディアン・スクリューで上部の水槽に汲み上げ、冷やしつつ竹の枝に少量
ずつ垂れ流して水分を飛ばす装置です。

前のものよりは効率が良く、また装置自体が大型なので生産力が上がってます。需要を満たすには足りないのでセルキー達か
ら塩を買うことには変わりませんが。
この濃縮装置は濃い塩水を作る装置でして、塩にするのは洞窟前の干物小屋です。濃い塩水をお盆のような平たい容器に入れ
て棚に並べ、長時間放置すれば乾いて結晶塩になります。乾かさない状態でも燻製作りなどに使いますけどね。

ふむ。封は緩んでいないし、虫や砂が混入した様子も無し。蓋をしておいて正解ですね。
では海水を持ってきた鉄鍋に入れて、浜辺で拾った流木や持ってきた薪で火を起こして、と。竈に置いた鍋で海水を湧かし、
湧いた海水を丸木船式水槽に入れ、竈の中で焼いた石を水槽に入れて水槽の温度を保つ。
濃縮作業にも慣れてきましたねー。
費用的には食塩を購入する方が良いのかもしれませんが、ある程度の自給率は保つべきでしょう。


潮が引いているうちにタコツボを沈めますか。考えてみればこのタコツボも魚礁のうちなのかな? 沈めっぱなしにしておい
てもタコの数は増えないでしょうけど。連中は上位捕食者ですし。
ザリガニ釣りの仕掛けも幾つか作っておきます。


では、交代で火の番をしつつ遊び(修行し)ますか。

二人またはそれ以上のプレイヤーが足場の上に立って岩や椰子の実をぶつけ合い落ちた方が負け、というドッジロック。
砂浜の端まで走りそこに置いてある何本かの丸太から好きなのを一本選び担いで帰ってくる、丸太運び競争。
輪切り丸太などの上に乗ったまま巫女が投げ込む椰子の実を受け止められた数が多い方が勝ち、という玉乗り球取り。

などなど、思いつく限りの遊技(特訓方法)を試しては、面白かったものを採用しています。
しかし、玉乗り球取りのルールは納得するのに相撲の押し出しには納得しないのですよねえオークたちは。

ふむ。目に見える損害や不具合があれば納得できるのかな? 明日にでも対戦型スイカ割りをやらせてみましょう。
今日はもう時間がないので、ザリガニ釣り漁法の仕掛けを回収したら帰ることにします。
南国昆布やサザエっぽい巻き貝や、牡蠣とは違うけど美味しい付着型の二枚貝などを採って‥‥濃縮塩水もタルにいれて、と。

本当に生態系が豊かですよねえこの島は。
この島では1時間もかければ、その日と次の日の食い扶持ぐらい手にはいるのですよ。自分が誰かの食い扶持にされない限り。
強ければ楽園、弱ければあの世行き。
だからどうにかして強くならないといけません。

毎日少しずつ進歩はしているのですが、まだまだ道は遠いですね。
とりあえずお昼ご飯の麻婆豆腐に注力しましょう、料理の腕が上がれば食事による経験値も上がりますから。


困難に挑戦すること、試練を乗り越え何かを得ることがオーク的に経験値が入りやすい行為です。そして本人が行為と成果に
満足していないと経験値が入りません。
従って強敵と戦って勝つことが最高の手段と結果なのですが、それをやると下っ端達の命が幾つあっても足りません。
困ったものです。




[38600] 42
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:a179561b
Date: 2014/12/18 13:28




 ☆73日め、レイちゃん出張鋳造所☆


「コレ、オワリ、モウ、ナイ」
「ごくろうさまです。そっちに積んで置いてください」

私の言葉に頷いたグェスが、背負子に乗せていた大袋を下ろしました。
袋のなかみは各種の硬貨(コイン)や金属製品が雑多に詰まってまして、同じような袋が小山を作っています。

山と積まれた硬貨は、ドスが焚き火オブジェを熱源に鍋で炙っています。黙々と一人で。
わざわざ火で炙らなくても「謎の鋳造機」に入れれば、表面に塗られていたり内部に含まれている毒は取り除けるのですが、

「フッ」

一筋の煙と共に鍋から飛び出てきた小さなモンスターが、座ったままのドスが繰り出した三又銛に貫かれました。

「シュギュッ!?」

断末魔の悲鳴をあげつつ、コウモリ翼と二股の尻尾とかぎ爪付き手足を持つ猿のような魔物は朽ち果てていきます。
生身の生物ではなく悪魔とか邪鬼系のモンスターで、茶釜要塞で見たデーモンにちょっと似てますね。
銛に貫かれたまま朽ちて空気に溶けていく様子は、忘れ去られたモズのハヤニエが風化していく姿のようです。
速度は全く違いますけど。
昔の公共放送でよくやっていた生物系教養番組でよくやってましたよねー。風化していく野生動物の死骸を、一日あたり一秒
ぐらいに短縮したコマ落とし映像とか。


このように、偶にコインに見せかけたゴーレム系モンスターやデーモン系モンスターがいるので用心として炙っています。
ちなみにこれで三匹目です。さっき仕留めたのと合わせてインプが二匹とコインから変身した金属兵士型簡易ゴーレムが一体
出てきては突き殺されました。
まだ出てきてはいませんが、アンデッド系では財宝に取り憑く死霊などの魔物もいるそうなので油断は禁物です。

この手の罠モンスターは油断した獲物が近くにいるか、何らかのダメージを与えられると正体を現すことが多いのです。
正体現したらすかさず仕留めるわけです。なのでドスは右手に愛用の銛を握り、左手の竹箸で鍋の中身をかき混ぜてます。
「魔法発見」の加護を持っている彼ですが、全ての偽装や擬態を完全に見破れるわけではありません。
見ただけでは、ときに見逃すこともありえます。

1レベル神官(プリーテス)でしかない私には、最下級のモンスターでも脅威です。近づけさせるわけにはいきません。
早期発見にはコインにダメージを与えるのが手っ取り早いので、それなりの量のコインに均等かつ短時間にそれなりのダメー
ジを与えるには火にかけて乾煎りするのが良いのですよ。
一度に何体も出てこられると面倒です、小分けにして調べる方が無難です。

火加減間違えて少々溶けても混ざっても、鋳造機に入れれば金属製品は分離も混合も自由に出来ますから問題ありません。
宝冠とか腕輪とか、宝石つきだったり精緻な彫刻が施されていたりしていて鋳造すると価値が減ってしまいそうな代物は鍋で
炙らずに、一個一個丁寧に鑑定しています。より高価な、魔力を帯びた品物(マジックアイテム)も。



こんにちは、転生かつ転性者でオーク嫁のレイちゃんです。
今日は夫達といっしょに火山の麓にある、中規模迷宮(ダンジョン)の入り口近くに来ています。下っ端の付き添いなしで。
下っ端達を連れてきてないのは主に移動速度の問題ですが、夫達の焼き餅もあるかもしれません。義母と義息子たちが仲良く
留守番しているのは良いことなのですが、理屈で収まらないのが嫉妬でして。
昨日は帰ってきたばかりの夫達に、全身余すところなく舐められちゃいました。

ここは前々回の、グェスと一緒の旅行で通った往路の道筋から近い場所にある遺跡でして、辺りに野生生物やモンスターや人
通りが少なくて入り口周辺が比較的安全な場所なのです。
地図的に言うと火山を挟んでちょうどトログロダイトのねぐらと反対の場所ですね。
比較的安全で、私たちの巣とミッシェル山のほぼ中間位置にあり、そして浅い階層に銅貨や銀貨が溜まっているという私が求
めている条件にぴったりの好物件なのです。実験に余計な労力使いたくありませんからね。


「オタカラ、デタ。エモノ、イッパイ」
「おおっ 大猟ですね♪」

グェスとは違う階層へ行っていたウォスは、新しく湧いていたという豹(パンサー)の死骸を担いでいます。二頭も。
獲物はこれとしてお宝は‥‥加工済みの虫入り琥珀ですか。
よくできた洋酒のような透き通る金褐色のなかにカナブン系甲虫が閉じこめられたまま石化しています。
小柄なオークの握り拳ほどもある大きさで虫の形も良く、色合いも磨きもなかなかですね、地球に持っていけば標本として博
物館の良い位置に飾れそうです。


ふむ、全員そろった所ですし鋳造は止めておやつにしましょうか。

早速幹部三人で獲物を捌き、毛皮を剥いで血と内臓を「貪り食う無限袋」に入れ、肉と骨はおやつがわりに食べてしまいます。
猫科動物の肉はおしなべて不味いのですが、猛獣補正が付くので経験値的には悪くないのです。
己が現実世界の住人であることを疑ったことなどないオークたちに「経験値」という概念がある訳もありませんが、生活の知
恵的な感覚で「強くなれる食べ物」について知識を積み重ねています。

私は食べません。ヒルデニア人は哺乳類の生き血は飲まないし、生の肉食獣肉も食べないのです。
個人の嗜好として、前世でも生獣肉は好みじゃありませんでしたからね。
生レバーなんぞ自殺志願者の食い物です、特に肉食哺乳類のは。シロクマレバーとかトラフグの肝より危険ですからねー。

獲物の肉を食べることもオーク族が経験値を得る方法の一つなので、旅路を急いでいるときか獲物の毒抜きが面倒くさいとき
とかの例外はありますけど、獲物の肉はなるべく食べて供養するのがオーク文化です。
供養したくない、獲物と認めたくない肉は食べません。
気は心ですからね。成長や発育や学習にはその時その場合の気分が大きく関係するのですよ。
経験値稼ぎの概念はなくても、オーク達は「戦士の心」が震える戦いこそが己を強くすることを知っています。


さて。
私の夫達、ギュー・グェスとゴォ・ドスとレェ・ウォスの三兄弟は原始的共同体というか氏族の絆で結ばれていまして、獲物
も戦利品も共有しています。
コボルド集落からお礼のドラゴン素材装備が贈られてきても、三人は氏族全体の財産として共有するでしょう。

まー、妻も共有してますしねー。
実は昨日、遺跡潜りから帰ってきた三人と4Pしていたら、その、お口だけじゃなくて下の方も共有されちゃいましてね。
突っ込まれる側としては、いつでもどうぞというか「いつになったら共有してくれるのかなー」なんて待っていたぐらいなの
で一向に構わないむしろばっち来い状態でして‥‥。

えへへへっ そりゃもう、最高の昼下がりでしたよ。やっぱりお腹で子種を受け止めてあげないと妻とは言えませんよね。
これで名実共に三人の共同妻、逆ハーレム完成です。
でも三人全員の子を産めるのは早くて一年以上先のことになるのがちょっと残念。

いえね、女神様質問コーナーによれば「産み分け」の呪文を使えば、同時に複数の父親の子種で孕めるそうなので。
次の出産では三人の子を三つ子で産もうと思います。
夫達は寿命の都合であと30年ぐらいしか生きられませんから、一度に1人ずつ産んでいたらどんなに頑張っても夫1人につ
き15人ぐらいしか子供を産めません。なのでなるべく双子以上の出産を心がけようと思います。


丸二日離れていただけですけど、久しぶりの迷宮制覇でたかぶっていたのか夫達のオークち○こはもう熱烈に情熱的で堪りま
せんでした。
愛しい旦那様で、とびっきりのイケメンなエロモンスターたちに輪姦して貰えるなら女の身体も良いものです。
しかしこのままでは持たない。早くお仲間増やして分担しないと壊れちゃいますが、夫達は女の選り好みが激しいですし、
私は意外と焼き餅焼きなので選定が難しいですねー。

‥‥ええ、思っていた以上に嫉妬深いのですよ、我ながら。コーネリアのことは大好きですけどゴエモン取られちゃったこと
が少し残念なぐらいには。
だってあいつ、私のストリップ見ながら嫁さん思い出してましたし。
ロリ誘拐未遂犯は、すっかり年増スキーになりはてやがりました。
家庭内平和というか夫婦円満のためにはそれで良いのですけどね、ええ。



豹の生皮にまんべんなく荒塩を振って丸めて紐で縛り、「無限袋」にしまい込みます。
そうです「貪り食う無限袋」ではなく、貪り食わない「無限袋」の中にです。
遂に私は冒険者垂涎の的、お便利アイテムのなかでも特に需要が高いこの一品を手に入れたのです。ついでに貪り食う袋も一
個追加で。
つまり私は無限袋三個分の運送能力を得たのです。実際に運用すると出し入れが面倒くさいですけどね。

久しぶりの三人がかり遺跡潜りは大成功でして、夫達は幾つかのアイテムと財宝を見つけてきました。
この「無限袋」もその一つ。そして追加の「貪り食う無限袋」も。


で、性教育という建前で大広間の北側、エスティア様の祭壇手前にスポンジもどきマットを敷いてやっちゃった
 公 開 輪 姦 膣 ( な か ) 出 し 三 連 シ ョ ウ の後、宝物庫で戦利品の見分しながら迷宮での冒険に
ついて聞いていたら、閃きまして。
閃いたというか、この世界のダンジョン構造について一つの仮説を思いついたのです。
その仮説を確かめるために、今日はこの迷宮までやってきました。


‥‥関係ないですけど、和姦であっても輪姦なんですよね。男が複数で一人の女に対して順ぐりに性交すれば。
で、男二人が女一人を前後から挟んでなぶりものにするから 嬲る な訳で。私のように4Pで肉団子になっている状態は、
どういう字になるんでしょうね?



前にも言いましたがこの島には幾つも古代遺跡な迷宮(ダンジョン)があります。
もしもこの島が人類文明圏内にあったら群がる冒険者で町ができる程の密度と質です。実際の話、迷宮から掘り出した年あた
り数千万ゴールド分の財貨が島から外へ流れ出ている訳ですし。
いや、実際にはもっと少ないのかも。鉱山や川で取れる宝石や砂金や、野山や海で獲れる毛皮や牙や甲羅もありますから。

元々が暇人向けの遊技場や狩猟マニア向けの狩り場や小規模戦闘の訓練施設として使われていたらしい古代遺跡には、モンス
ターやアイテムの補充機能がありますので、これらの遺跡は半永久的に稼働する供給施設となります。
ただし利用は命がけですが。

しかし迷宮が作られた当初はともかく、現在潜っているのはオークなのです。ミノ系種族やオーガやコボルドもいますが彼ら
もやってることはオークと大差有りません。
人間ならともかく、オークにとっては金貨や銀貨はそれほどの価値がないのです。
同じ宝物なら、より小さくて軽い宝石類や換金価値の高い魔法の品(アイテム)の方が有り難い。
あとは鉄火場で使える霊薬(ポーション)や嫁さんが喜びそうな反物や装飾品の方が嬉しい訳です。

幹部オークだって、一度に運べる金貨は精々5千枚かそこら。なら一個で金貨数百枚分の価値がある宝石や一個で数千枚分の
価値がある高級装飾品、一個で数万枚分の価値がある魔法の品の方を優先するのは当然です。
例えばですが、女神像からウリ坊まで毛並みツヤツヤにしてしまうあの魔法ブラシはソーニャさん見立てで最低二万五千ゴー
ルド分の価値があります。
ぼったくる商店やケチな客が多いですから実際に適正価格で売れるかどうかはともかくとして、東方文明圏の大都市に持って
いけば殆どの故買屋がそのくらいの値をつける訳です。内心で、ですけどね。

‥‥ね? 金貨を優先して運ぶオークがいない理由が解りますよね。
これが人間の文明圏なら、重たいわりに価値の低い財宝は熟練冒険者が雇った下請けや、お零れ狙いの下積み冒険者が回収し
てしまうのですがこの島ではそうもいかない訳で。

弱いオークでは行き帰りの道筋だけで全滅しかねませんし、星を積み上げた一人前の戦士は他人の余り物なんて漁りません。
結果として迷宮の浅い階層にはコインが貯まっていきます。
「あーもう、重たい金貨なんか運んでられるか! こんなものより美味しいキノコの方がいいよね!」と深い階層で拾った金
袋を投げ捨てて、帰り道の浅い階層で見つけた軽い戦利品を持って帰るオークが結構いるのですよ。

で、迷宮の宝箱などに入っている硬貨は迷宮設計者にとって「おたから」です。試練を突破した者への報酬なのです。
だからとある迷宮のとある階層に硬貨が山となって充満していると、迷宮を管理している人工精霊とかのAIだかプログラム
だか何かは「おたからは既に充分ある、補充の必要なし」と、判断してしまうのです。
必要ないなら補充のお宝は出てきません。
全ての遺跡が訓練施設や娯楽施設として作られた訳ではありませんが、そうとしか解釈できない遺跡が多いのですよ。


かくして  お宝が減らない → 補充もされない → お宝を守るモンスターも補充されない → 潜る意味がない 
という負の連鎖が完成し、この迷宮型遺跡のように「硬貨が散らばっているだけの空き部屋が並んだ、すっからかんの階層」
を持つダンジョンが出来上がる訳です。

私発案の実験は単純です。それらの部屋からコインや価値の低い財宝やゴミを回収するだけなのですが‥‥しぱらくすれば新
しい財宝が配置され、財宝を守るモンスターや財宝とは無関係に徘徊するモンスターが迷宮内に出現する訳です。
ウォスが「棍棒ジャストミート飛距離8メートル」と「後ろ足掴んで振り回しおもいっきり床びたーん」で倒したパンサー兄
弟も再配置された徘徊(ワンダリング)モンスターの一例なのです。


うーむ、当てずっぽうの理屈付けでしたがまさか当たるとは。やってて良かったTRPG。
夫達から聞いた遺跡潜り体験の話と、設定マニアなRPG仲間とやった夜なべ考察議論の結論が妙に一致したので駄目もとで
確かめてみたら正解でした。

発想の盲点ですよね。
というか、迷宮を運営する側じゃないとなかなか湧いてこない思考だと思います。私が異世界人でなければ思いつかなかった
でしょうし、たとえ自力で思いつくだけの知識や知力がある人物でも考えている暇がないでしょう。
この島の教養人と言えば学者系の元冒険者とかでしょうが、オーク的良妻賢母としてらぶらぶいちゃいちゃしている彼女達に
はじっくり考察している余裕がなかなかとれません。


いや、それにしても大神殿の巫女達が百年以上たっても気づいてないというのは不自然か。
もしかして、わざと放置していたのかな? 弱いオークでも挑戦できそうな迷宮が多いとかえって下っ端達の死亡率が上がり
そうですし。
だとしたら私のやっていることは大神殿と大母様の意向に反しているのかもしれません。

反していてもやりますけどね。少なくとも「やるな」と言われてないうちから自粛する気なんかありゃしません。
真の停滞を生み出すのは上からの弾圧ではなく、下からの自発的な自粛なのです。
だからこそ余裕のない国家経営している政府は愚民教育するのです。馬が元気すぎると下手くそな御者では馬車を操り切れま
せんから。停滞している方が無能な独裁政権にとっては都合がよいのです。

私は夫達の志に共鳴して、オーク島の改革に協力することにしました。だから不必要な自粛などしないのです。
できることをまずやってみることから全ては始まるのですよ。昔から「隗より始めよ」と言いますし。


そんな訳で第四階層辺りまでグェスが、取りこぼしがないか巡回してきたのです。
仕事がきめ細かい人なので取りこぼしは有っても少ない筈。中層近くまで枯れ気味だったこの迷宮もこれで生き返ります。
狩り場が復活すればオークたちが喜びますし、このコイン数万枚分の金属資源が寄進されればミッシェル神殿の備蓄も少しは
楽になる筈です。蓄えは多い方が良いですからね。

天然の鉱脈はいずれ枯れますが、遺跡は手入れ次第で何千年でも持つはず。東方やヒルデニアでは大規模遺跡が有史以来一万
年以上動いているのですから。
オーク島が今と同じように嫁を買い入れ続けたいのならば、遺跡から得られる財貨を更に重視すべきです。


ええ、集めた硬貨は綺麗なものはそのまま、錆びたり汚れたりしているのは鋳造して延べ棒に変え大神殿に運びます。
多いことは多いですが、私を担いだグェスなら半日で運べる量です。
無限袋が三個と鋳造機で、一回当たり三万五千コイン運べますからね。事情を話せば追加で無限袋を借りられるでしょうし。
もし巫女さんが貸してくれないのならソーニャさんに頼めば良し。

他の戦士が捨てていった財貨を、一人前の戦士が拾い集めて着服することはオーク的に不名誉な行いです。
しかし他の戦士が重すぎて投げ出してしまった財貨を拾って、代わりに神殿へ奉納してあげることは善行に入ります。
ただ働きではありません。夫達は迷宮が本当に復活したのか確かめてみる必要があります、つまり軽く遺跡潜りする訳です。

夫達の迷宮潜りの利益に加え、私は放棄されたガラクタの中から目当てのアイテムを手に入れる事ができました。
温泉洞窟のオーク妻が他の巣の者が捨てた財貨を着服するのは拙いですが、エスティア神殿の巫女が奉納品を自分から受け取
りに来るのは構わないのです。

この巻物と書物の小山は奉納品です。本日私が決めました。
僧侶呪文の巻物(スクロール)が2本、ウィザード呪文の巻物が6本、ソーサラー呪文の巻物が1本、共通語(コモン)の読み書
きさえできれば誰でも使える汎用巻物が3本、そして各種呪文吹き込み巻物の素材となる白紙の巻物がなんと20本! 
更に1レベル呪文が4種類記されたウィザード用呪文書(スペルブック)が1冊、なんだかよく解らない羊皮紙の書物が3冊。

考えてみれば当然ですが、信仰魔法の巻物なら使えるのですよ私は。プリーテスですから。
気づいたのは昨日で、夫達が持ち帰った戦利品の中に「鑑定(アナライズ)」の信仰呪文巻物があったからですけどね。
で、早速巻物を使って怪しげな皮袋のアイテムを鑑定してみると大当たりだった訳です。

大内海の文化文明が古典的ファンタジーRPG風であるからには、迷宮で巻物が手にはいるのは当然のこと。
しかし毛皮猟師で宝石掘りな夫達にとっては、巻物は優先度の低い戦利品だったのです。
グェスとウォスは共通語(コモン)の読み書きができません。元日本人的価値観からすれば、自分の名前や幾つかの単語が書け
る程度では「読み書きできる」うちに入りません。
オーク族は暗記力が優れているのでメモ帳が要りませんし、狭い島で住民の殆どが顔見知りなので証文の必要も薄いのです。

地球では文字は備忘録用として発明され、証文用として発達しました。
文化的に統一された、どの村の住民も世界観や価値観が一緒な社会では見解の相違ってやつが発生しにくい。当然ながら訴訟
沙汰の内容は単純で件数も少なく、面倒も少ないのです。というか訴訟の前に決闘になることの方が多いですし。
だから一般的なオーク戦士は半文盲なのです。まして下っ端においておや。

ドスは共通語(コモン)と東西の文字をある程度読み書きできますが、正確な発音は無理です。
つまりスクロールはオーク族には使えないアイテムなのです。書けないし読み上げられませんから。
学のある嫁さんや巫女達は使えますから全くの無価値じゃありませんけどね。
そういえばトカゲ帝国への輸出品のなかに巻物は入ってませんでしたねー。魔法の道具とか武器はあったけど。
だとするとトカゲ人も人間用の巻物(スクロール)を使えないのか、それとも島内部で使い切っているのでしょうか?


まあ、そんな訳で。
コーネリアはウィザード巻物が、ソーニャさんはソーサラー巻物が使えますし新しく来るお嫁さんのことも考えたらポーショ
ンだけでなくスクロールの備蓄もやっておいて損はありません。
これだけ手に入れば投資した時間と労力に見合います。

しかし、白紙の巻物がこんなにあるということは誰か錬金術入門セットでも拾ったのかな? そしてより価値のあるお宝と入
れ替えるために捨てたのかも。
どこかのメタボ気味武器商人と違ってこの島の住人はほぼ全員、錬金術の心得がありません。拾った素材にすらすらと呪文を
書いて、実用できる巻物を作れたりはしないのです。

当然ながら私にも白紙巻物は使えませんが、何かの役には立つでしょう。最悪でも保存用書類として。




 ☆73日めの2、さきはながい☆


藤子さんが無限袋を二つ貸してくれましたので、ミッシェル山への往復は二回で済みました。
一回目で三万五千、二回目で五万五千の合計九万枚分の硬貨と延べ棒を運び込みます。
無限袋の中には毒銛や着替えの服なども入っているので一万枚分の容量が全て使えているわけではありませんが、その程度の
重量分はグェスが追加で運んでくれます。

謎の鋳造機は自重が硬貨五千枚分ですが、中に一万枚分の硬貨が入るので満杯にして無限袋に入れるとその無限袋に五千枚分
の物資を詰めて運べます。
無限袋は無限袋を入れることはできませんが、無限袋でない収納系アイテムなら入るのですよ。
あと、実験してみて分かりましたけど例外として、中身が空っぽの無限袋なら無限袋の中に入るようです。


一方「貪り食う無限袋」ですが最近使い方が解りまして、中に入れた物体が消える速度を最短にする調節方法を見つけました。
どうやっても消えるまで1時間かかりますが、これは事故防止策ですね。
そりゃそうだ。入れたものが瞬時に消え去るゴミ箱なんて、怖くて使えませんよ日常生活では。
うっかり だ い じ な も の を捨ててしまう粗忽者が続出するに決まってます。

故にゴミ箱に入れた物体が1時間は消えないという設計は有り難い。消える時間設定をもっと長くして固定できればもっと有
り難かったのですが、保管や運搬労力軽減の役割は貪り食わない「無限袋」や他の収納系アイテムに任せているのでしょう。
「貪り食う無限袋」を運搬に使っている現状は、言ってみれば尿瓶を水桶代わりにしているようなものですし。

そーいえば、某手強いシミュレーションの第一作ではクリアに絶対必要な重要アイテムを「そこらに捨ててしまえる」という
素敵な仕様だったとか。もちろん一度捨てたアイテムは回収不可能です。
おかげで以後の作品は「それをすてるなんてとんでもない!」機能がついたそうですが、いくらゲームっぽくても私にとって
は現実であるこの世界でそんなシステムメッセージがある訳もなく。

「信仰を深めればできますよ?」

‥‥‥‥女神様の唐突で一方的なご託宣によれば、ある程度以上の信仰者は「良心回路」というか「行状ストッパー」とでも
いうべき機能を脳内(心の中?)に持てるのです。今知りました。
あらかじめ設定しておけば、特定の語句を口にしなくしたり特定の行動を起こさないようにできるのです。
あれですね。ファンタジー世界だと「法力=徳」なんですよね。優れた神官であれば「行状ストッパー」の性能が上がり、
暴走やうっかりやハニートラップに引っかかることが減るのですから。

まさに力こそパワー。修行のし甲斐がありすぎる。

レベルもとい信仰心を上げて加護を得たら、その回路に「○○を捨てるな」とかの注意事項を書き込んでおけば大丈夫。
「歯磨きは歯ブラシを使え」と設定しておけば、二日酔いで寝ぼけた粗忽者が片刃の剃刀に歯磨き粉つけて口に突っ込むなど
という惨劇も防げます。
粗忽者を舐めてはいけません。世の中には本当にいるんですからそういうことをやらかしちゃうのが。
私じゃありませんよ、私じゃ。同じような水準の失敗を前世でも今でも繰り返してますけど。


しかし額面的にはこれでも二万ゴールドちょっとなんですよねー。
重量の半分近くを占める銅貨は、額面では金貨の1パーセントにしかなりませんので。
銅のインゴットだと考えたらまだ地球よりも倍以上高価なんですけどね。ただ経済規模から考えれば、大内海世界は金属製品
が非常に安くて豊富なのですよ。

ソーニャさんの話では、そこらへんにいるゴロツキの兄貴分や働き者の自作農が一年か二年貯金に励んだだけで総板金鎧(プレ
ートメイル)一式が買えますからね。板金鎧一式は中産階級一家庭の月収なみかやや高い程度の値打ちなのだそうで。
地球の中世だと中産階級の年収が数年分吹っ飛ぶ代物だったことを考えると、この世界では鋼の価値も金と同じく地球の数十
分の一なのでしょう。
‥‥ファンタジー世界って、金(ゴールド)の有難味が低いですねー。
黄金の有難味がさして高くない分、白金や宝石や魔法のアイテムが高額通貨になっているのでしょうけど。

うーん、ほかの巣のみんなはどうやって硬貨の山を動かしているのでしょうか? まさか貯金箱系のアイテムが溢れかえって
いるとも思えませんし。夫達の生まれ育った所では戦士オークがこつこつ運ぶか呪文使いが一気に運ぶかしていたそうですが、
少人数の巣はどうしているのでしょう?
無限袋を返すついでにミッシェル山で訊いておけば良かった。もう遅いけど。


「グヒッグヒッ」
「オカエリ」

既に巣の前まで帰ってきちゃいましたからねー。
出迎えてくれた下っ端やイノシシたちにお土産の果実などを渡して、留守中のことを訊ねると

「ウミノタミ、キタ。カエッタ」
「クマ、デタ。カリバ、アラシタ。ニゲタ」

セルキー族が訪ねてきたけど共通語(コモン)が解る者がいなかったので出直させてしまったことと、例の黒クマがまた現れた
という二つの事件があったようです。


セルキー達は夜にまた来るそうなので後に回しましょう。
重要な用件なら待っているか、書き置きぐらい残しているでしょうし。学があるセルキーなら共通語(コモン)の読み書きがで
きますからね。

熊の方はドスが1人で狩りに出かけていって、1時間ちょっとで帰ってきました。
近くの、といっても数キロメートル離れた岩穴に隠れていたのを探り当てて仕留めてきたのです。
隠れ場所自体は追い払ったイシカワたちも大体の見当が付いていましたが、手負いの獣にあえて接近するまでないと放置して
いたのです。

彼がかついできた熊の串刺しは下っ端達の石斧や石槍や石弓の矢で傷だらけになっていたので、毛皮は自家消費用に回すこと
になりました。新品のクックリ刀には鞘がありませんから、誰かに作って貰うのも良いかもしれません。
黒クマ肉や骨は味噌鍋の具として夕ご飯にしますか。

ヒルデニア人を含む母親たちに育てられた三人は味噌味に慣れています。
ただ、味噌がないと寂しいとかは感じないようですね。オーク的には塩やハーブがあれば調味料不足は耐えられるのです。
別に夫達に悪気はないのです。ヒルデニア人が米や味噌や醤油を切らすと禁断症状が出ること自体、彼らは知ってはいても魂
で理解していないのです。

解っています。結局は私が悪いのですよ。
米や味噌が食べたいのなら、夫達に頼めばよかったのです。当時は同居人だったけど、私にベタ惚れだったグェスたちなら大
神殿や大きな集落にひとっ走りして米やら何やらを手に入れていたでしょう。
ひとえに私の視野が狭くて了見がみみっちかったから、米を食い尽くして禁断症状起こしていた訳です。

なくなったら買いに行って貰うという発想がなぜ出なかったのか。あまりにも馬鹿すぎる。
‥‥過去の愚かさが判るようになったからといって、今が賢いとは限らないわけで。
多分私はあのときと変わらず愚かなままで、何か大事なことを見逃しているのでしょう。
ま、仕方ありませんよね。凡愚とはそんなものです。


元から悟りには程遠い身です。諦めて今日を楽しみましょう。もちろん今夜も。
今日の夜は茶釜要塞へイカ釣りに行くのです。下っ端達も連れて。
何か用事があるらしいセルキーたちも、その頃には浜辺に来ているでしょう。


とかなんとか言っているうちに来ましたね。浜辺から歌が聞こえてきました。
さてと、日も暮れかけてきましたし、イカ釣りの道具持って浜辺に行きますか。
セルキー達の用事がすぐに終わっても、浜辺で遊んでいればイカが釣れる時刻まで退屈することも無いでしょうし。





 ☆74日め、これで10万近く稼げた筈☆


セルキーたちの用件は、茶釜要塞が座礁している派所の沖に巨大イソギンチャクを常駐させて欲しい‥‥というものでした。
なんでも、要塞を置いたことで水流が変わりあの辺りは漁場として価値が上がったのだそうで。
腔腸動物のモンスターである巨大イソギンチャクは燃費の良い生き物なのですが、あれだけの巨体を維持するにはそれなりに
食い物が要るのです。

家族会議の結果
・イソギンチャクは茶釜要塞から東には来ないこと
・イソギンチャクはオークやオークが乗った船を襲わないこと
・イソギンチャクはオークの釣りなどを邪魔しないこと
・オークは茶釜要塞付近で取った獲物をイソギンチャクにお裾分けすること
という条件でイソギンチャクの常駐を認めることにしました。

という訳で、昨夜から浜辺の沖には巨大イソギンチャクが潜んでいます。

元々海は海洋種族の縄張りですからねー。守り通せない場所を領海と主張しても空しいだけですし。
力こそ掟なこの島で、彼女達が海をどう使おうと勝手の筈ですがお隣さんに配慮してくれるのは有り難い。
夫達は大型鮫などの危険な生物が浜辺にやってくる危険が減りそうなのでむしろ歓迎しています。
いくら巨大とはいえ、イソギンチャク一匹が沖に居座っただけで浜が干上がるわけもありません。

ええ、変態紳士のオークたちは、水着姿の新妻と波打ち際できゃっきゃうふふに戯れるのが大好きなのですよ。
なので浜辺が安全なのは良いことなのです。大鮫とかと戦いたければ適当な海岸へ行って熊の生首などを餌にしておびき寄せ
れば済むのですし。


という訳で昨夜は浜辺で熊味噌鍋と磯鍋で精を付けた後、茶釜要塞でイカを釣りました。
釣ったイカの二割ぐらいをお裾分けしましたけど、分けた分の数倍自力で捕っていたのでイソギンチャクがやせ細る心配はな
さそうです。
タコクラーケンの死骸はまだ一部残っていまして、茶釜要塞近くは海洋微生物と小動物が大繁殖しているのですよ。
要塞の浸水部分はそのまま魚礁になってますし。


火炎松の松ぼっくりを鉄籠に入れて燃やす漁り火でイカを集めて捕ったのですが、形は小さいけど新鮮なだけに美味しいイカ
でした。イカ刺しにイカ塩辛にイカ焼きにイカ煮にイカフライにイカスミパエリアとイカ尽くしにして少しも飽きません。
今日のお昼(の主食)はイカめしです。おかずはイカの沖漬けその他。

ちなみに我が家のイカめしは、前世の頃からタレをつけて焼いたイカの胴筒にイカ炊き込みご飯を詰めて更に炭火で軽く焼い
たものです。
その、それが好きなんだという人には悪いですけど、「正統派のイカめし」って苦手なんですよ。
特に物産展とかで売っている、中のおこわがぼそぼそのやつは。
正直いうとチマキとかも美味しいとはとても‥‥軟弱な現代人には強飯より姫飯の方が良いのですよ味と食感的に。



ここ数日お出かけが続いていたので、今日はお休みの日です。夫達も近場の見回りぐらいしかしてません。
もっとも出かけなくてもエスティア神殿の維持と拡張、鉢植えの世話、洞窟の改築、訓練計画の練り直しなどいくらでもやる
ことがあるのですが。

午後からは新規アイテムの分別と整理をしています。
ちなみに共通語(コモン)のスクロールは「光(ライト)」「死者からの保護(プロテクション・フロム・デッド)」「防柵(バリケ
ード)」でした。
「防柵」の呪文は、6メートルまでの幅に高さ3メートルまでの柵を立てる効果があります。
蚊やノミは防げませんがスズメバチ程度以上の生き物を防ぎます。耐久力は下っ端オークが斧で三回も殴れば壊れてしまうの
であまり頼りになりません。

信仰呪文の巻物は「祝福(ブレス)」「会話(スピーク)」です。

女神様に夢の中で講義してもらったのですが、「会話」の呪文は知識の回廊をつなぐ「意思疎通」とは似て非なるもののよう
ですね。「意思疎通」は限定的なテレパシーですけど、「会話」は翻訳者に これこれこういう事を喋って と頼んでいる感
じの効果があります。

解りやすい違いは、「会話」は双方が意欲や興味を持ってなくても話ができる点ですか。話しあう気がない相手へも一方的に
宣告できます。もちろん直接の接触がありませんので、精神汚染の心配もありません。


魔法使い系の巻物は読めないので宝物庫の文庫に仕舞っておきましょう。前々からあったけどコインに埋もれていたこの小さ
な本棚も冷蔵戸棚と同じく魔法の家具系アイテムでして、書物や巻物を収納できるのです。
文庫に本が入るのは当然だろう‥‥という意見は正しい。
このアイテムがマジックアイテムなのは「本や書類しか入らない」点にあるのですよ。虫やカビなどが入らないのです。
耐火耐冷加工もされてますので証書類の保管にも使えます。
というかお座敷用家具の文庫って、地球では元々が書類保管用だったような?

軽傷治療薬が1瓶。戦意高揚用の霊薬が2瓶。
ただし後者には攻撃力を上げると同時に防御力を下げる副作用もあるようです。

鳴らすと徘徊する魔物(ワンダリング・モンスター)との遭遇率が上がる片手鐘(ハンドベル)。
これは狩猟に持ってこい‥‥かと思いましたが期待はずれでした。
私が迂闊に鳴らすと命の危機になりかねない問題はまあ、想定範囲内です。モンスターの種類によってはオーク達の反応が間
に合わないこともありえます。

問題はオークが鳴らすと、オークにとってのモンスターと設定された敵しか呼ばないことです。
敵を召喚する訳ではなく、ハンドベルの制作者に「鳴らした者の敵」であると認定されているモンスターの注意を惹き敵意を
煽り立てる音波を出す道具なのですよこれは。

この島にはオークに敵対的な人間族なんて野外にも迷宮にもいませんので、鳴らしても無駄なのです。
ためしに洞窟からやや離れた位置でウォスに鳴らして貰いましたけど、出てきたのはウリ坊たちだけでした。
イノシシたちにしても普通に音に惹かれてイノシシ小屋から顔を出しただけだし。

うーん、綺麗な音色の鐘なんですけどね。売るにはもったいないぐらいに。
いやまて、洞窟内で楽器として使う分には良いのか。
これは私が強くなったら獲物寄せに使いましょう。それまでは楽器ということで。

そして魔力を帯びた武器が二つ。ショートボウ(短弓)とバスタードソード(あいのこ剣)。
弓矢の方はごく普通の、ちょっと性能が良くて魔物にも効く武器ですね。中級以上のアンデッドや狼男にはこの手の武器がな
いとまず勝てませんから、予備の魔法武器が増えるのは良いことです。

剣は基本的な魔剣としての能力以外に、ジャグリング機能が付いてました。


【剛腕なるガァンの剣】
・長い両刃の剣だ
・それは鋼でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちない
・それは武器として使える
・それは片手でも両手でも使える
・それは命中力を大幅に増し、威力を上げる
・それは使用者が身軽であれば回避力を上げ、重ければ受け払い(パリィ)の効果を高める
・それは追加攻撃の機会を増やす(※※※※※)
・それは武器落としを無効化する
・それは投擲後、自動で帰還する
・それは呪いへの耐性を弱化する(※※※)
・それは体力を4上げる
・それは器用を5上げる
・それは運を3下げる
・それは話術を巧みにするが、上達しにくくなる(※)
※あなたは使用条件を満たしていない

この剣、落としそうになると勝手に手の中へ戻るんですよ。おまけに投げても戻ってきます。投げて刺すのは難しいですが。
銘有りアイテムですけど等級的には【誉れあるナノレドの棒きれ】よりやや落ちるようです。
「地下牢と竜」なら+2級かな? 呪いに弱くなるのが難点ですが相手を選べば狩りにも使えるでしょう。


ええと、一昨日手に入れたアイテムは魔剣に魔弓に片手鐘、皮袋が二種類にポーション3瓶、既に使った巻物1本。
あとは各種硬貨が少しに、魔力を帯びてない武具や日用品が幾つか。装飾品や宝飾品はかなり多めですね。
家具は大きめの金属鏡が一枚。この鏡は資材置き場の姿見と同じく、薄い銅板に銀箔を張って焼き鏝で熱着してなじませ磨い
てから透明樹脂を塗ったもののようです。
ふむ。この世界には昔から透明樹脂があるから、板ガラスに銀を蒸着して作る鏡が発明されていないのかもしれません。
高品質な鏡が欲しけりゃ魔法で加工すれば良い訳ですし。

本日手に入れたアイテムは‥‥巻物が、プリ2ウィ6ソー1コモ3無印20で合計32本。呪文書1、書物3。
貴金属や宝石やその加工品が15ほど。ヒルデニアや東方の海賊達なら全部で3~4万ゴールドの価値を付けるでしょう。
豹の毛皮や丸穴甲虫の殻などの素材系戦利品が幾つか。そこそこの品質な一般武器防具に工具が10個ほど。
マジックアイテムは、女でも着られる軽い鎖帷子が一着。命中と威力が魔法で嵩ましされた石弓の矢が3本。太陽石が一個。

あとはコインが二日合計で千枚ほど。プラチナ硬貨が多かったので額面的には四千ゴールド以上あります。



ふむ。魔剣は柄をいじれば幹部達の予備武器に使えそうですね。代わりに魔法の斧を下っ端用装備に回しますか。
弓は嫁の誰かが使うだろうから資材倉庫行きですね。私では筋力が足りないから弦が引けませんし、オーク達には小さ過ぎて
使いにくい。

そろそろ武器庫の設置も検討しなくては。
もしも巣に狼男(ワーウルフ)とかの「普通の武器では倒せない」敵が攻めてきたときに、下っ端達の誰でも「魔力を帯びた武
器」を手に取れるなら少しは安心できます。

今ある魔法の武器は、ドスの三又銛を除けば短剣と斧と刺突剣と槍と戦鎚と六尺棒に星球鎖とあいのこ剣で8個。
他にも剣やら長柄武器やら色々ありますけどもう一つ信用しきれないのですよねえ。鑑定しきれてなかったり性能に不安要素
があったりで。
多分大丈夫だとは思うのですが、 多 分 に命を預ける気はない訳でして。
だって、威力大幅増なのに命中率は下がってしかも器用度を下げる付加効果のある大鎌とかって、危なっかしいでしょう?

銀の鏃や投げ飛礫も量産しておきますか。大型の巻き上げ式石弓で発射すれば、狼男ぐらいなら倒せる筈です。


現状では一部の下っ端オークに魔法の刺突剣や斧を貸しているだけですからねー。
なお星球鎖(モーニングスター・フレイル)の魔法武器は、先日宝物庫の底から発見したものです。
鑑定してみると素性の良さそうな武器だったのですが、試しにハラキズに使わせたら自分の頭に星球をぶつけちゃいまして。

幸い大した怪我ではありませんでしたが、訓練していない者にこのモーニングスターは使わせないことにしました。
腕利きの人間族女戦士たちにみっちり教育されている夫達は大概の武器を使いこなせるのですが、下っ端達は簡単な武器しか
使えません。
まあ、元々オークは単純で頑丈な武器を好むのです。槍とか棍棒とか。
特にギュー・グェスは「使い捨てに出来る」安価な武器を好みます。
投げ棍棒が得意ですからね彼は。最近は私が作った小型ブーメランで鳥モドキ捕ってますし。

50メートル以内ならオーク族の投擲武器は狩猟に使えますし、人間やその他種族の観測手がいれば100メートル以上離れ
た敵に対しても有効です。オーク達が観測手の言うことを聞いてくれるなら、ですが。
あれですよ、オーク族が魔王軍の主力部隊になるのも当然ですよ。
オーク部隊は石ころとかそこらの適当なものを拾ってぶん投げれば、並の弓兵部隊なら押し勝てるのです。ショートボウの有
効射程は精々60メートルとかそんなものですからね。敵が大人数なら狙わなくても当たるし。

ロングボウ? そんなもの主力にできるのはエルフ族ぐらいですよ。長弓は射手の養成と維持に死ぬほど手間が要るんです。
地球のイングランドだって、もしドーバー海峡が無くて欧州と陸続きだったら弓兵部隊を持つ余裕なんてなかった筈だし。


オーク族は無補給無休憩で数日間歩けます。しかも高速で。
足が遅い下っ端達だって、ミッシェル山から温泉洞窟までの100㎞以上を十数時間で歩き通したのです。
今やればもっと早いはずです。ハラキズたちも多少は腕が上がりましたし、それ以上に私のお荷物度が下がってますから。

つまり魔王と呼ばれておかしくない級の指導者を得たオーク部隊は、僅か一昼夜のうちに数百㎞の距離を歩き通して敵領土内
に侵入し、首都や大都市や港湾や穀倉地帯といった要所を急襲できるのですよ。
実際に行うには指導力だけでなく優れた情報網と軍師が必要ですけどね。
このファンタジー版電撃(浸透?)作戦に対抗するには、広い領土と充分な戦力と強力な指導体制がないと無理です。
領地が狭いと対処する暇もなくやられちゃいますし、戦力がないと戦えないし、戦争指導体制がぐちゃぐちゃだと内輪もめし
ているうちに手遅れになってしまいます。

あとは先手をとってオーク側を攻撃し続けて、大規模侵攻作戦をやらせないことですかね? 人間側の対処としては。
孫子も「謀を討つが上策」と言ってますし。
鉄砲玉(冒険者)を絶え間なくオーク領土に送り込んで、オーク大王になり得る存在が出現しないようにできたらもっと良い。
なるほど、ファンタジー世界の辺境経営がやたら殺伐とした、食うか食われるかの空気に染められるのも道理ですね。

オークって、 兵 隊 と し て は 本当に優秀なんですよねえ。
指揮官や参謀や治世者としても優秀だったらこの世界の人類は絶滅しているでしょうけど。
あるいは家畜として生き残るのかな?



そんな訳で改装後の間取りや仕掛けについて頭を捻る毎日なのです。
というのも、下っ端たちが手に取りやすいということは侵入者にとっても手に取りやすいという事になるのですよ。
現在では大広間こそが絶対防衛圏です。大広間を敵が自由に動けるのならこの洞窟は破られたと判断するしかない。

もしそうなったら風呂場や下っ端居住区の東側にある非常口から脱出します。
逃亡しやすくするために発煙弾や罠も用意していますが、設置はまだです。使いやすさと威力と安全性を全て高い水準で満た
すのは難しいのです。しかしやらねばなりません。

逃げるときには女神像を置き去りにします。
いかに高価で希少といえど所詮、像は像にすぎません。巣の仲間と引き替えにはできません。
神像捨てて死人が減るならすっぱり捨てます。それが私なりの信仰ですから。
像なんて後で取り返せば良いんですよ後で。エスティア神官として断言します。


で、後で取り返すには戦力の充実が欠かせませんので、訓練用具を縫っています。
裁縫箱の中にあった「魔法の指ぬき」を使ってちくちくと。
この実用指輪は針仕事の速度を上げてくれる効果がありまして、発見して以来裁縫のときには必ず使ってます。生憎と裁縫の
技術(スキル)を上げたりはしてくれないのですが。

丈夫な帆布を縫って、布の手甲や脚絆や胴着を作ります。
それらの布製品には小さなポケットがいっぱい付いていまして、ポケットの大きさは極力同じにしてあります。
で、これを下っ端に着せて、ポケットの中にインゴットを差し込めばパワー○○の出来上がり。

‥‥知らない?

えーと、昔の雑誌裏表紙とかにありませんでしたか? パワーリス○とかパワーアン○ルとかの通販広告が。
要は亀○流の甲羅ですよ。普段から重たいものを装備させて日常生活で鍛えさせるのです。
通販商品の効果というか実用性はともかくとして、鍛錬方法としてはありふれた発想です。
中国武術にも脛に鉛板を縛り付けて走り込み、脚力を鍛える修行法がありましたし。

オークの筋力だと鉛でもまだ軽いので、私が作った訓練着は白金貨を鋳造機で白金塊にしたものを差し込みます。
この洞窟にある金属素材で一番比重が高い一般素材は白金ですからねー。白金より重たいアダマンタイトは貴重すぎますし。
白金は硬度もあるので防具としても使えると言えば使えます。

まあ、実を言うと稽古着に筋力を鍛える効果そのものはさほど期待してませんので比重に拘る必要性は低いのです。
鉄や銅や銀は汗で錆びて稽古着を汚しますし鉛や金は軟らかいですから、錆びないうえにいざというときに鎧としても投げ飛
礫としても使える白金塊を重りにしたのです。
ちなみに肩や胸のポケットは横方向に短い棒型インゴットを差し込む形です。北アメリカ原住民の木製鎧を参考にして設計し
てみました。

筋力でないのなら何を鍛えるための訓練用具かと言えば、荷重感覚の切り替えです。
ほら、日常生活でもあるじゃないですか。階段を一段踏み間違えてたたらを踏んだり、中身が入っていると思って持ち上げた
ら缶が空で仰け反ったりとか。
常に万全の状態で戦えるとは限りません。
ときには手足に鎖が絡みついたり、全身にコールタールを被ってしまったり、脱力魔法をかけられたり、足手まといを担いだ
まま戦わなくてはいけないこともあるでしょう。

そんなときに、この重さを身に付けて動き回った経験が生きてきます。
地球の運動選手がグラム単位で軽い服や靴に拘るように、僅かな重みでも運動能力に影響が出ます。
この訓練着は重みによる影響そのものを減らすことよりむしろ、影響を受けた状況でどう動くかを身に付けさせるためのもの
です。
重荷を担いだりそれを捨てたりしたときの感覚の変化と、その状態変化に左右されない身体運用を身に付けさせるために稽古
着を開発しているのです。

効果は、一応あるはずです。競技化されまくっている近代剣道でも、前世で囓ってなければ私は生きてません。コボルド集落
で赤トログロダイトの爆死に巻き込まれている筈です。
どんな経験でもないよりはずっと良い。訓練を無駄にするか否かは意識の持ちよう一つなのです。
‥‥と、言ってしまうからやはり私は精神主義者なのでしょう。精神力絶対主義ではないだけで。


よし、一着完成。急げば午後の巡回までにもう一着作れそうです。
下っ端達のうち、強い順から5人ぐらいはこの訓練着を着せても良いでしょう。
他のオークはともかく、アンドレは特注で稽古着作らないと駄目でしょうね。いくらフリーサイズ設計でも限界はあります。





[38600] 43
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:a179561b
Date: 2014/12/18 13:29




 ☆74日めの2、あるある‥‥ありますよね?☆


夕食後は鏡を量産しています。鏡というよりはレフ板かな?

ほら、野外の撮影現場だと助手の人が大きな銀色の反射板を掲げてモデルさんを照らしているじゃありませんか。
あれがレフ板です。画板や段ボール板にアルミホイルを張って、ラップで巻けば即席の反射板が作れます。
それをファンタジー世界の素材で作っているのです。
材木倉庫から板材を用意して、白金箔をはりつけて焼き鏝で圧着してから布で磨き、透明樹脂を塗りたくります。
即乾樹脂が何種類もあるって素敵ですよねー、ファンタジー世界って凄い。
地球のエスロン素材ほどではないにしろ、紫外線にも強いですし。

えー、相変わらずの間抜けっぷりを晒してしまいますが、つい数時間前に気づきまして。
例の鋳造機ですが、金貨を金塊に変えるときに大きさと形を指定できるのです。
つまり使用者が望めばインゴットだけじゃなくて棒材や金属線や金属箔がいくらでも作れるんですよ。
一回当たり一万コイン分の容量制限以内でなら資材と使用者の気力が続く限りいくらでも。

そんな訳で、今日から銅線も金箔も作り放題です。試してみたらミスリルの欠片から縫い針や釣り針が作れましたし、一個づ
つなら複雑な形の物も作れそうです。
正直「今までの苦労は何だったんだ」と思わなくもありませんが、良しとしましょう。
進歩と発展に足踏みと遠回りはつきものです。釣り針だって石器時代に作られはじめた頃は返しが付いてなかったのですし。


こうして作った反射板を温泉洞窟の上、尾根の岩肌に置いて反射光を水晶柱に当ててみようと思うのですよ。
銅の薄板を作って鏡にしようかとも考えたのですが、どうせ嵐が来たら取り込まなくてはいけないのは同じだという事に気づ
いたのでより軽量なレフ板にしました。
これなら非力な私でも怪我の心配なしに運べます。


温泉洞窟の天井には所々に明かり取りの穴が開いてまして、その穴には窓硝子の代わりに大きな水晶柱が突き刺さってます。
洞窟の上にあがれば尾根の地面から水晶の柱が生えてます。
なのでこの簡単反射板で柱に日光を集めれば窓を増やさずに洞窟内が明るくなるわけです。日射しの角度に合わせた調節はで
きませんので、数で補います。朝・昼・夕すべての時間で使える反射板が無理なら、朝にだけ・昼にだけ・夕方にだけ有効な
角度の反射板をそれぞれ作れば良いのです。
どうせ尾根の上は殆ど使ってませんし、邪魔にはならないでしょう。
反射光が必ず地面に当たる角度にしておけば、船や飛行モンスターの注意を特に引き付けない筈。

オークたちは昼間でも動き回っているように、明るい環境でも平気です。暗くても不便に感じないから洞窟内が暗いだけで。
人間のお嫁さんを住まわせる以上、せめて大広間は明るくないといけませんが天窓を増やし過ぎるのも危険です。
漆喰や溶かした青銅などで固めていますが、窓に栓をしている水晶柱は下っ端オークでも引き抜けますからね。
小柄な敵なら引き抜いた穴から侵入できますし、入ってこなくても油流し込まれて火攻めとか、スズメバチの巣を落とし込ま
れて虫攻めとか洒落になりません。
なので窓を増やさずに明かるくする方法を考えてみたのですよ。


まあ、今日はもう日が暮れてしまいましたから設置は明日ですね。
‥‥まてよ? 今宵は満月だった。

良し、予定変更。今作っている反射板ができたら尾根に設置しにいきましょう。
この惑星の月は地球のよりも格段に明るいですから、月明かりで集光装置の実験ができる筈。
早速設置開始です。みんなでやれば半時間もかかりません。


はて? 置いたは良いがさして効果がない? そんな馬鹿な。
月明かりとはいえ普段の10倍以上の明かりを集めているんですから窓の明るさも2倍3倍にはなる筈なのですが。
反射光の角度が悪いのかな?

計20人の住人と5匹の居候が「ああでもないこうでもない」と、鏡の位置や角度を調節したり尾根と大広間を往復したり、
見張りのついでに巨大カゲロウを捕まえたりしているうちに、理由が解りました。
温泉洞窟の大広間は他の部屋に比べて暗いのです。単位面積当たりで窓の数が変わらないはずの風呂場や私の部屋に比べて明
らかに暗すぎる。

そりゃそーです。グェス達が放棄されていたここを修繕して住み着いてから2年あまりの間、窓拭きしてないんですから。
煤や煙の油が付いて汚れきってます。
昔のファミリー四コマ漫画で、「TVの画面がぼやけてきたから修理屋呼んだら、画面が汚れていただけだった」というネタ
がありましたけど‥‥。
あの家族を笑えないや。いや、同レベルだからこそ笑えるのかな。

そういやアフリカ某所の太陽光発電所で、日本製太陽電池の発電効率が悪すぎて問題になっていたことがありましたねー。
整備の手引き書が日本語から直訳したものだったので、発電板表面が土埃で埋まることを想定してなかったというオチです。
定期的に掃除するよう手引き書を書き直したら問題無く動くようになったそうですが。

つまり、夫達がここに住み始めた頃はもっと明るかったのですよこの洞窟は。特に大広間。
日々の暮らしで水晶窓が曇っていくのに気づかなかったのです。
毎日少しずつの変化ですからねー。補充でやってきた下っ端達から見れば、普通の洞窟よりは格段に明るい訳ですし。


夜中までかかりましたけど、採光窓の掃除もとい改修はこの夜のうちに片づきました。水晶柱を全部交換したのです。
ついでに明かり取り穴の内壁へ、薄い白金板を貼り付けたので照明効果が更に上がりました。
白熱電球の傘内側が白いのと同じ理屈です。あとは定期的に拭き掃除なり部品交換なりしていれば明るさを保てる筈。
厚めの白金箔みたいな薄板を、明かり取り穴の内壁に押し付けて固定しましたので、落ちやしないでしょう。

いやもう、改修後の大広間はまさに昼間のような明るさですよ。集光装置で集めた月明かりで針仕事ができる。
何のための針仕事かというと、竹材と帆布で扇のようなものを作ったのですよ。紙の代わりに帆布を張ったのです。
この扇もどきの要に開けた穴へ茶釜要塞から持ってきた犬釘を通して、天井に打ち込めば即席シャッター完成!

帆布張りだからむしろカーテンとか緞帳かな? 
これを棒や竿でつついて動かせば明かりを調節できますし、竹製だから万一落ちてきても大怪我にはなりません。
昼寝したいときなどに「眩しすぎて困る」なんてことはない筈です。


窓掃除が終わり、レフ版とカーテン設置のあと、ついでに大広間をみんなで清めて、人間も水浴びなどして身綺麗にします。
せっかく明るくなったのですからエスティア様の像も気合い入れて飾り立てますか。
祭壇に月見団子と甘酒をお供えして、と。
そして、その後は大広間で宴会になりました。窓越しとはいえ、やはり月見酒は良いものです。


で、調子に乗って余興にストリップしながら踊っていたら、辛抱たまらなくなった夫達が三人とも腰ミノ外しちゃいまして。
いつもにも増して元気に屹立したオークち○この逞しさに、仁王立ちな夫達の腰にすがりついてしまいました。思わず。
身長差とち○こ大きさのせいで、跪くとち○この根本か玉にしか口が届かないのですよ。

もちろんご奉仕の後、たっぷり可愛がって貰いました。
月明かりの中で公開4Pとか、まさに異種姦エロゲのエンディング後ですけど、それが堪らなく嬉しい。

逆ハーレム状態を楽しめるのは今だけですし、もう暫くのあいだは新婚気分にひたっていようと思います。





 ☆75日め、別荘には良いかもしれません☆


今日は朝からドスと一緒に茶釜要塞へ来ています。お供の下っ端はケサガケとデコバチとアシナガの3名。
グェスはミッシェル山大神殿へ行って奉納と奉仕、ウォスは近くの山へ日帰りで水晶採りにいきました。
水晶柱の在庫もわりと減りましたからねー。
ウォスはゴエモンとブロディを連れていますがグェスは一人旅です。ハラキズたち11人は洞窟とその近くでお留守番。

一応この割り振りにも意味がありまして、下っ端の中では健脚なゴエモン&ブロディに水晶柱が手に入る場所を教えることや
リーダー適性があるらしいハラキズに指揮役の経験を積ませるという目的があります。
私たちと同行している三人は泳ぎが達者で軽率さが薄く、狭いところでの作業になれている面子を選んだ結果ですね。
万が一筏が転覆したりした場合は泳いで帰らないといけませんが沖合に流されると面倒ですから。
セルキー達がいつも近海にいるとは限りませんし。

茶釜要塞に来た理由は魚礁作りのためです。
あの鋳造機は、単一素材で一度に一個の縛りが有るとはいえ複雑な形の物体も作れます。
つまり金属製の壷や缶はもちろん檻や金網も作れる訳です。もちろんスチールウールや鉄条網も。

で、陸地からイカダとして持ち込んだ木材やその上に乗せて持ち込んだ生木の枝などを、鋳造機で作った金網や檻の中に詰め
込みまして海に沈めたら即席魚礁の出来上がり。
生木の束はそのまま稚魚などが住み着けますし、鉄の構造物は海草や牡蠣やフジツボなどが貼り付くまで時間がかかりますが
そのぶん長持ちする魚礁になります。材木は微生物の栄養源に。

金網の材料は茶釜要塞の廃材を使えば問題なし。良質鉄材だけで数千トンありますからねー。内装の木材もあるし。
‥‥軍艦の内装が木材って、安全性に問題ありまくりですよね。そりゃ居住性は良いでしょうけど。

都合の良いことに今日は近くにセルキーたちが居ましたので、魚礁を沈めるのに向いた場所を教えて貰えます。
ふむふむ、海底の海流がこうなってるから‥‥こっちにこう線状に耐久型の魚礁を沈めたら上昇水流が起きる筈。
これから少しずつ沈めていくことにしましょう。水流の変化は魚礁よりも即効性が高いですし。


こんな具合に、将来の人口増加に備えて今日も狩り場の改善に励んでいます。
明日は川や湖の方にも魚礁を沈めにいきますかね。
松林や竹林や椰子の木などの植樹もやっていますけど効果が出るには何年も掛かります。魚礁の方がまだ手っ取り早いです。

まあ、この島の場合は食糧事情が悪くなったら引っ越せば良いだけなんですけど。
沖縄本島よりかなり大きな島に精々一万人かそこらしか住んでいないのですから、空き地だらけなんですよ。
大概の空き地には強いモンスターが居座っていますけど、それはこの島なら何処でも同じです。どちらかと言えば辺鄙な温泉
洞窟周辺にだって週間か隔週で大型モンスターが攻めてきますし。

大神殿の壁画にあった地図が正しければこの島の面積はざっと1万平方キロほどでしょう。前世の土地感覚で言えば大きめの
県一個分から小さめの県数個分の広さですね。
そして植生と生物の密度は日本よりも上ですから、少々人口が増えても問題ないのです。

火山島なので温泉は色々なところに湧いています。なのでいざとなれば引っ越しも有りですが、なるべくしたくありません。
根っこが定住民なのですよ私は。流浪の旅とか漂泊生活に浪漫や憧れを感じない気質なのです。
広い世界を見て回りたいという欲求はありますけど、一割近い確率でグリフォンやワイバーンが襲ってくる旅路は勘弁です。 
この世界は安全な場所の方が少ないのです。いえ、地球でもそうでしたけどね日本が例外なだけで。


ん? あるじゃありませんか安全な青空が。ここに。

今唐突に気づきましたけど、この要塞跡って相当に安全な場所ですよ考えてみれば。
近くに森や薮がないから虫や鳥が来ませんし、破損部分を鉄版で塞いで柵や金網を張り巡らしてしまえば大概のモンスターを
防げます。巨大フナムシとかが上がってこないよう戸締まりに用心する必要はありますけど。

大概でない脅威、たとえば海賊船や大型海洋性モンスターは巨大イソギンチャクがいますからある程度防げますし、幹部オー
クがいればどこでも大差ありません。
いえ、タコ型クラーケンは無理としても大怪鳥ぐらいなら幹部オーク不在でも防げるかも。
○ゴブロックの要領で、凹凸を付けた太さ10センチぐらいの鋼材を組み合わせてボルト止めすればかなり丈夫になるはず。
労力的には丸太小屋作るのと大差ないでしょうから、大きささえ抑えれば直ぐに鋼材の檻が作れます。
作ったら後は使い心地を確認して、設計の見直し等しつつ拡張していけば良いのですし。

「ミズ、タリナイ」

あっそうか、ドスに言われるまで忘れてましたが茶釜要塞の水道は止まっているのでした。少人数ならともかく巣の全員がこ
こにいると水の補給が面倒になりますよね。飲み水だけなら無限袋で運び込んだり「浄化」の呪文で海水を変化させたりでき
ますが、生活用水も考えるとそれでは足りません。

うーん、なまじ綺麗で豊富な水場がある所で暮らしているから、オークたちは文字通り「湯水のように」水を使ってしまうの
ですよねー。ある意味日本人よりも気軽く。なにせほら、水道代が要りませんし。

生活用水なら雨水を蓄える水槽をつくれば‥‥水が腐るか。ならば浄水装置も作りましょう。
椰子の実繊維と椰子殻活性炭もどきで濾過すれば虫の死骸やなにやらとそれに付いている雑菌を取り除けるはず。中空にした
鉄パイプで水槽を囲んで魔法瓶構造にしてしまえば太陽熱も防げます。
逆に黒塗りの鉄パイプを作って太陽光に晒して水を通せば風呂にも入れますし、悪くない案だと思うのですが。


むう。早速鋳造機で試作してみましたが断熱パイプの地金が薄すぎたのか気圧で潰れてしまいました。
そういえば、球体や円柱って中からの圧力に強くて外からの圧力に弱い構造なんですよね。
では失敗作を鋳造機械に放り込んで、最適な寸法を探しますか。少しずつ厚くしていけばそのうち潰れなくなるでしょう。

しかし「こんなのにしたいなー」と考えて使えば中身が真空の密閉容器が作れるのだから、魔法のアイテムは便利すぎる。
お陰で現代チートの出番がさっぱりありません。特に拘りもありませんけど。


とりあえず、雨樋の一部を加工して雨水を溜める仕組みを作り貯水槽を置きました。もちろん断熱処置済みです。
流石に手持ちの材料で浄水装置は作れないので、金網で椰子の実繊維の塊を挟み込んだ濾過蓋だけ作って填め込みました。
これで水槽に水鳥が迷い込んで死んでしまい、水が腐ることだけはありません。読んでて良かった漂流船漫画。


さて、そろそろお昼ですし帰ってご飯作らなきゃ。相撲部屋じゃないけど食べないと強くなれませんからね。
試しに作ってみた牡蠣採り道具を片手に岩場へ行ってみますか。
これは片手サイズのピッケルというかツルハシ状の器具でして、岩から殻ごと剥ぎ取るのに向いていない牡蠣を採るための道
具です。岩の陰とかに填り込んだ牡蠣もこうツルハシで殻蓋の端に穴を開けて、穴からツルハシを差し込んでテコの要領でこ
じ開けられます。これで取りにくい牡蠣から牡蠣の身が‥‥。 

駄目だこりゃ。こんなことやってるから資源が枯渇するんですよ地球は。ファンタジー世界でまで乱獲してどうするんだ。
こんなものをオークたちが手に入れたら、私の子孫達が牡蠣を食べられなくなってしまいます。
捨てよっと。

えいっ と、作ったばかりの牡蠣採り道具を海に放り投げます。これで良いのですよこれで。文明の利器が常に幸せをもたら
す訳ではありません。この島のか弱い女は夫や息子達に牡蠣の殻を外して貰えば良いのですから。
いや、捨てたのですから取りに潜らないでくださいよ。戻ってきてください、ドス。

「グヒッ」

戻る途中で大物を見つけたようで、ドスは三又銛を持ったまま潜って泳いでいきました。


せっかくですから剥き身は釣りの餌にしますか。
ミスリルの欠片を鋳造機で加工した新品釣り針に牡蠣の身を付けまして、岩場に釣り糸を垂らします。
俗に言うちんちん釣りですね。素手で糸を直接持つ流儀ですが小物なら釣れます。
釣り竿は一本しか持ってきてないのでアシナガに任せています。彼は特に釣り好きですから。

牡蠣の身が尽きるまで下っ端達三人に囲まれて釣り糸や釣り竿を垂らし、尽きたら採集に移ります。大ぶりな殻付きの牡蠣や
食用ウニなどを採っていたらドスが鯛の一種らしき大型魚を捕って戻ってきました。
10㎏はありそうですね。これなら巣のみんなも食べる分があるでしょう。

「ルェイ、テツ、ツブテ、ホシイ」

帰り支度をし始めた頃、ドスが鉄球を作ってくれと言い出しました。鋳造機の中には茶釜要塞で拾った屑鉄が詰め込んであり
ますからそりゃすぐに作れますけど。
注文どおりに作った鉄の丸飛礫は、ゴルフボールより一回り小さい程度の大きさです。
何に使うのかと思っていたら、鳥もどきの狩猟用でした。

ドスの鉄飛礫投擲はウォスの投擲と違い、動きが小さく素早いですね。その分射程や威力も低いですが。
ウォスの飛礫が 足→→→膝→→→腰→→→肩→→→肘→→→手首 へと運動エネルギーを伝えていくのに対し
ドスの鉄飛礫は 足→→膝→→腰→→→肩→肘→手首 という具合に運動エネルギーを伝えるのです。

うーん、動作の絞り込みというか畳み込み具合がソーニャさんの重ね当てとちょっと似てますねえ。
同じ系列の技術なのかもしれません。この島には三つの大文明圏から元騎士や元軍人や元冒険者が流れ込んできてますので、
各種の武術武道が入り交じった闇鍋状態なのですよ幹部オークの技術体系は。
原始から古代の社会構造ですので流派ごとの理論化や集団化の必要がなく、個人の中で技が混じっていくのでしょう。


ドスは岩場や浜辺を動き回って次々と鉄の弾を投げ、食用に向いた鳥モドキを仕留めていきます。
毎度ながらこの島の羽毛持ちどもは警戒心薄い生き物ですね。

「アス、オレ、デル。クンセイ、ホシイ」

明日はウォスが留守番でドスはオーガー村へ交易に行くのですが、そのときに鳥モドキ燻製をもっていきたいそうです。
披露宴のときにオーガー村の皆さんに出した鳥系薫製が評判良かったのです。
漬け汁のレシピをウサミミさんに教えましたが、どうも肝心の素材が漁師村近辺では獲れないらしくて。


巣に帰ってからは燻製の下ごしらえをして、海の獲物と果物や山菜など留守番組が集めていた材料でお昼ご飯にします。
と、いっても私が作ったものはいつもより少ないのですが。

・すり下ろし山芋に乾燥キノコの粉を練り込んだ生地に刻んだ蒸しオクラと練り納豆を乗せた前菜。
・ウニとアボカドの冷菜
・海鳥の半熟ゆで卵
・巨大セミ肉の塩焼き
・炙ったタコ肉干物
・瓜とクジラベーコンと豆腐の炒め物
・枇杷とパインと野イチゴとドラゴンフルーツの親類らしきもののフルーツパンチ

時間がないとはいえ手抜きな献立ですが、仕方ないのです。
肌が弱い私では、川海老と菜の花の天麩羅などの油料理を裸エプロンで作るのは難しいのですよ油がはねるから。
なので揚げ物はサダキチに作って貰いました。天麩羅だけでなく鯛の身をすり潰して団子揚げにしてますね。
この鯛はやや大味なので刺身にはもう一つ向いてません。
骨は潮汁、頭は兜焼きにしています。内臓はゴミ捨て穴から出して川魚の餌となりました。

はい。本日昼の料理は裸エプロン姿で作ったのです。
正確には半透明布地の腰巻き(というかパレオかな?)と同じく半透明のエプロンだけ身につけて。
いやもう、難しい料理は作れませんよ気が散っちゃって。手伝いしていた下っ端達の殆ども上の空でしたし。
一度仕事を始めたら集中力が途切れないのがサダキチの凄いところですね。上手く育てれば優秀な人材になるでしょう。

え? 昼間っから裸エプロンとは如何なものか ですか?
オーク族は半分夜行性だから夜昼関係ないのですよ。むしろ明るいうちの方がよく見えて良いのです。
満月の夜には必ず裸踊りしてしまいそうな自分が怖い今日この頃。


いや、だって、ほら、頼まれたら断れませんからねオーク妻は。夫や義息子たちにえっちなお願いをされたら、どんなに恥ず
かしくても従っちゃうんです嬉々として。
オークとのえっちは嬉しいですからねー。この喜びを分かちあいたいからオーク妻たちは多妻制に抵抗がないのかも。

女の子に転生して良かったと、つくづく思います。
もし男の子になっていたとしても、嫁入りすることも嫁入り先も変わらない気がしますけどね。


食後はドスと一緒に針仕事。窓の明かりだけでなく他の明かりも増やして手元を明るくしてます。
一緒といっても同じ場所で作業しているのであって、一つのものを二人で縫っているわけじゃありません。ドスはクジラ革を
縫ってランドセルを作り、私はミスリル片を糸にして水兵服や女学生服に縫い込んでいます。

ランドセルは茶釜要塞倉庫にあった軍用背嚢を参考に、前世の記憶にそって試作中です。奉納のついでに古着を買ってきまし
たので東方産の女学生服が何着もあるのですよ。特に可愛いのを選んで買い集めました。
名門女子校付属小学校の制服擬きな服装で、試作一号のランドセル背負った姿を姿見で見たときは感激でしたよ。
こう、いかにも小学生妻って感じで。

今作って貰っている試作二号が一号と違うところは、縦笛や算盤が装備できることと色合いです。
二号の方がより赤い。やはり女子用ランドセルは赤が王道でしょうロリ趣味は関係なく。

ミスリル糸は服の強度と防御力を上げるために縫い込んでいます。水兵(セーラー)服など布の服は毛皮服に比べると防具とし
て頼りになりませんから。
用途が違うのだから当然ですが、そこを工夫でなんとかしたくなるのが文明人の業でして。

改造服はあんまり丈夫にすると茨とかに引っかかったときに危険なので、スリットを入れてボタン止めにして、すぐ脱げるよ
うにしています。脱ぎやすすぎると修羅場の中で勝手に脱げてしまうこともありますので加減が難しい。

服系の鎧は魔法の品でないと頼りになりませんし、頼りになる服系防具は人気があるので手に入れにくい。
性能的には幾つか、巣の資材置き場や宝物庫に入っているアイテムのなかに合格品があるのです。防具に使える魔法の服が。
しかしそれらの服はサイズが合わなかったり、露出度が高すぎたりで外出着にはちょっとね。

私はみせたがりの変態ですけど、不特定多数の男に肌を見せて嬉ぶ趣味はありません。




 ☆78日め、豚嫁な日々☆


今朝方、ミッシェル山の大神殿から帰ってきたグェスがソーニャさんからの伝言を預かっていました。
なんでも次の新月に引退試合をするそうです。嫁取り戦だから負けたらお持ち帰りされてしまいますけど、彼女ならまあ大丈
夫でしょう。
となれば日記帳でいえば93日めぐらいに引っ越してくる感じですかね。

つまり、洞窟の改装を急がないと間に合わない訳です。
自由を得た女剣闘士が島から出ていかず、かといって改めて嫁入りもしないという事態は珍しい。珍しい客人を迎えておいて
ろくな歓待もできないようでは巣の恥になります。

こんな理由があるので、私の巣は改装工事を急いでいます。おかげで食料備蓄が順調に減っていて何より。
一時はタコ肉燻製の廃棄も考えましたからねー。
狩りの時間は減らしましたけど縄張りの見張りは今までと変わりなく夫達がやっています。

下っ端居住区は単純に部屋を増やして設備や家具を増やせば良いのですが、幹部居住区の間取りがまだ決められません。
まあ、とりあえずソーニャさんは私が居候していた部屋を客室に改装したのでそこに入って貰いましょう。
私の部屋は、幹部居住区の奥に新しく小部屋を掘り抜いてそこに引っ越しました。
もっとも新婚中なので、寝床は夫達と一緒のことが多く、自分のベッドは偶に昼寝するときぐらいしか使いませんけど。

この前作ったレフ版ですが、今は少しずつ仕舞っています。専用の小屋に収納中。
考えてみれば撮影小道具と違って持ち運ばないのですから、軽い素材で作らなくても良いんですよ。
なので石材に白金薄板を貼り付けたレフ岩が一個完成するたびにレフ看板を片づけています。大雨の日に、軟らかい凝灰岩を
素手や工具で殴りまくって形を整えたものに貼り付けると良い感じですね。
レフ板は、何かに使えるかもしれませんのでそのままおいておきます。

工事や模様替えだけやっているわけじゃありません。
農業というか趣味の園芸ですが、焼き畑農業で肥料を混ぜてみる試みは上手く行っているようです。育てたい作物の生存率と
成長具合が良くなってます。
ただし小石を取り除いた焼き畑は全滅です。豪雨で土が流されてえぐられ、水たまりになってしまいまして。
石よりも砂利を除いてしまったのが拙かったようですね。土に隙間がなくなって水はけが悪くなったのです。

雨が多すぎなんですよこの島は。重しや被い代わりになる石や網代わりになる植物の根がないと、軽い土は雨水に流されてし
まうのです。仕方がありません。前世のやり方は植木鉢でやりましょう。鉄板と軽石でマルチ農法できますし。
この島の農法はオーク式でやった方が良さそうです。新しい手法は様子を見ながら少しずつ試していきましょう。
とりあえず、水たまりには砕いた軽石でも入れて埋め立てますか。このままだとボウフラが湧きますからね。

なお、巣の近くに作っていたブルーベリーの茂みはイノシシ親子が食べ尽くしました。
次は柵か塀を建ててから育てようと思います。

果樹園管理は順調です。巣の人口が4~5倍に増えてもイモの木の実や果実には不自由しないでしょう。
あと、付近の密林に斧を入れて太めの木々を伐採した結果、密林の生物密度が更に上がるという妙な現象が起きてます。
偶然ですが、丸木船式容器を量産するために木を切り出したことが、適度に間引きしたのと同じ効果になったようです。

まあ、良いか。森が枯れたりしなければ。
野山に生ゴミやカマドの灰や砂浜で集めた海草や貝殻の粉などを撒き続けた効果がでているのかもしれません。


レイちゃん酒造は酒蔵を離れた場所に作って、品質の安定化を目指しています。
いえね、生活の場である温泉洞窟は雑菌が多過ぎるのですよ。特に納豆菌が。腐造を減らすには隔離しかありません。
酒蔵に入るときは濃縮焼酎を使って消毒してますけど、気休め程度の効果しかないでしょうね。

あ、霧吹き器も量産に成功しました。鋳造機で部品作って組み立てましたが、なんと贅沢にも総白金製ですよ。
貴金属が手に入りやすいファンタジー世界ならではですねー。いえ、夫達が稼いでくれるから巣の宝物庫に白金貨が万単位で
蓄えられているのですけど。

金属管を量産できるようになったので、蒸留酒の生産が楽になりました。蒸留装置もオールプラチナ製を新調しましたし。
錆びないし熱に強いし金気の味や匂いもつかないし、白金って良い素材ですよね。重たいのが難だけど。
使用材料はパイプ部分も入れて白金貨300枚分ほど。私の腕力ではちょっと重すぎですが無限袋を使えば運べます。

酒造よりもむしろ精油事業が拡大しましたね。搾り機とタンクが改良できましたから。
椿の親類から搾った椿油やゴマっぽいのなど、油も色々試作していますが量的な主力は相変わらず油椰子です。


この数日、燻製小屋に火は入ってません。今作っているのは煙で燻す伝統のやり方ではなく、炭焼の副産物から作った燻製液
を使う液燻方式の燻製だからです。本物に比べると風味はもう一つですが、保存食を素早く大量に作るには向いてます。
材料を液に漬けて陰干しにするだけですからねー。火の管理が要りませんから人手も要りません。

小規模ですが炭焼を始めました。素材は色々試していますけど、資源回復力を考えて燃料は主に竹です。
煙が少ないという炭の利点は、料理用燃料としてオークたちに受け入れられる理由になりました。火炎松の匂いは決して悪い
風味じゃありませんけど、全部に付いてると飽きますからね流石に。

炭は家庭用燃料だけでなく吸湿や浄水、園芸や製鉄など色々な使い道があります。質が良くなればコボルド集落に売れるかも
しれません。今度見本を持っていきましょう。
周りに森がない土地柄ゆえコボルド集落はどうしても燃料不足になるから、鍛冶に使うには品質が悪くても日用品としてなら
需要があるかもしれません。


現在投射兵器を充実しようと取り組んでいるのですが、進捗は微妙です。
とりあえず巣には元からある小型クロスボウが2つ、中型のテコ式が1つ、大型の巻き上げ式が1つの合計4に加えてコボル
ド印の滑車つき新型が大小1つずつあります。
あと矢ではなく小石や鉛球を飛ばす、文字通りの石弓が小2大1で合計3。このうち大型のは手動引きなので幹部オークでな
いと使えません。その分威力も大きく、試射したら鉄アレイの先みたいな弾が200メートル先の蟻塚にめり込みました。

鋳造機で矢が作れるようになったのは嬉しいですね。品質は並でも矢弾がいっぱいあるのは良いことです。
しかしオークが使える射撃兵器が4つしかないのは物足りない。
雑魚敵なら投石で充分だけど大猪とかには‥‥大型石弓でもたいして効かないか。やはり大砲を戦力化するしかないかな?

とりあえず火薬を使った武器に慣れる訓練や火薬を使った戦法の研究も進めています。
オルロフ王国の技術は黒色火薬の融解と粒状加工の段階まできているようですが、褐色火薬は開発していないのでしょうか。
今度コーネリアに聞いてみましょう。

板バネが作れるようになったので巨大な石弓(パリスタ)や投石機械(カタパルト)を試作してみたのですが、この洞窟周辺で使
うには向いていないという結論になりました。素早い敵には当たりませんから。
アルキメデス式の光学兵器も試作しましたけど、こちらも実用性はなさそうです。オークが石投げたら届く近海に敵の船が停
泊していれば使えますけどね。昼間限定で。


一方、獣道に仕掛けた鉄柵や鉄杭の防壁は効果がありまして、陸生ワニの通り道が巣から離れました。動物も通りやすい所を
通りたがりますからね。
代わりに恐鳥類とか網を張る巨大クモなどの身軽なモンスターが巣の周りに増えました。あと巨大な羽虫とかも。
うーん、前よりは安全になっているのかなあ? もう少し様子をみることにしましょう。


やるべきことがいっぱいあります。暇を持て余していた居候の頃と違って、毎日忙しいですけどそれもまた良し。
今日の楽しみと明日の幸せのために頑張りますか。重労働はオーク頼みだけど。

私は私にしかできない仕事をします。神像造りとかね。
で、予想よりかなり遅れましたが、本日中にオールクゥス神像初号機が完成しそうです。
ちなみに木彫りの零号機は廃棄しました。制作中に手元が狂って修正不可能な傷がついちゃいまして。


もう少しで完成するオークの祖にして守護者の神像は、
1 木製の芯に粘土を盛って乾かし
2 顔料入り石膏を分厚く塗って乾かし
3 石膏を彫刻して細かい部分を造型
4 水晶球などで表面を磨いて光沢を出し
5 透明塗料を塗って防水加工
6 布で磨いた後、腰ミノなど付属品を付けてできあがり。
‥‥と、いう製造工程になる筈です。

ただ、付属品のうち最後の一つが決まらないのですよコレが。
今の所11本作ってある 実 物 大 ち ○ こ 像 のうち、どれを装着すれば良いのでしょうか。
いえね、漆を塗って乾かしたものを見たら、同じ系統の形で色違いのものも欲しくなっちゃいまして。
だから新作ち○こを次々と作っているのです。
魅力ではモデルになった本物には及びませんが、どれも良くできていると自負しています。


Q3、というわけでエスティア様、どれが良いですか?
A3、全部お古じゃありませんか。

‥‥え? そりゃ確かにどのち○こ像も使用済みというか味見しちゃいましたけど。
いや、だって、本物と比較しなきゃ意味ないでしょう? それにほら、さきっちょだけですから、さきっちょだけ!
本番というか膣への挿入なしなのですから童貞ですって、生身の生き物はそういう扱いなんだし。


A3、こういうのは気持ちの問題です。

どうも、ち○こ像の感触を確かめるために舐めたりしゃぶったりしたことが女神様のお気に召さなかったようです。
うーん、確かに性別逆転して考えると、嫁さんとしてやってきた女神像が使用済みだともやもやするかもしれません。
解りました。ではこれから新作するち○こ像は味見しないことにします。初使用は元抱き枕の神像にってことで。


A3、では試作15号でお願いします。

了解です。完成は更に何日か遅れますねこれは。15号はまだ漆が乾いてませんし。
ふむ。北の集落へアンデッド退治の増援に行ったウォスとドスの二人は、明後日には帰ってくる筈。
オールクゥス像の開眼式はその後になるから問題ないか。ソーニャさんの引っ越しには間に合います。

なんでも北にある迷宮(ダンジョン)に大規模な亡者の軍勢が現れたそうで、亡者どもは一階層丸ごと占拠してしまい、しかも
夜な夜な外に出てきては練兵や行軍を行っているのだとか。
オークたちも見過ごすつもりはなく腕自慢の戦士達が亡霊退治に集結中なのですが、そのなかに二人も参加しているのです。

日々鍛錬を続ける下っ端達に刺激されたのか、最近は夫達の修行にも熱が入っています。これまでが半分隠居みたいな生活で
したから押しかけで援軍に行くのも悪くないでしょう。原始社会でもおつき合いは大事です。


一部以外は完成している手作り神像は、突貫品のわりには良い出来かと。
身体の造型は固太りマッチョの幹部オークっぽいですが、頭部は幹部オークと下っ端とイノシシを混ぜたような姿形になって
います。
私にとってはこの姿形がオールクゥス神を表しているのですよ。人とイノシシの中間ぐらいで精悍な感じが。
下っ端達の顔も味わいがありますが、守護神像の基にするには威厳がたりません。
この暢気さが良いんじゃないの、という意見は認めます。神様みたいなオークを旦那様にしたら気疲れれしそうだし。



極楽浄土のご両親さま。あと犬猫猫の3匹よ。
たぶんそっちにはいけない私ですがもし行けたら今のここと、極楽のどっちが楽しいのか比べてみたいですね。

ん? こっちの方が楽しいだろうと感じられるからこそ、畜生道にいるのかな? 私は。
みんなと一緒にいられるなら、畜生で一向に構いませんけどね。







[38600] 43.5
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2015/07/15 15:30




 ☆84日め、審判(ジャッジ)は絶対です☆



みなさんこんにちは、オーク島の新妻神官レイちゃん(妊娠中)です。


考えてみれば、3ヶ月前までは 男 で 異世界人 だったんですよねえ、私は。
今ではすっかり人(オーク)妻ですけど。
人妻で、妊婦で、16人の子持ち。人生なにが起きるか解らないものです。

ただ、生物的にはともかく社会的な意味で言う 人間 なのかどうか怪しいんですよね。いまの私。
人間社会の常識とか道徳とか脳内からすっ飛んでます。この世界のそれは元から無いだろうと言われたらそこまでですが。


つまりは帰属意識の問題でして。
オークの子を宿したオーク妻は、オーク社会の道徳や社会常識に従わなくてはなりません。
故にこれは浮気じゃありません。夫公認ですし。

三人の夫達、ギュー・グェス、ゴォ・ドス、レェ・ウォスは洞窟前の庭先で鍛錬中です。
さっき見たときは兄弟揃って一本指逆立ち腕立て伏せしていました。
幹部オークのなかでも上位に入る夫達は、闘気法を使えばなまくらな剣ぐらい素手でへし折れますし甲冑を引きちぎれます。
特にグェス、並のオーガーでは束になっても敵わない怪力を誇る彼の指はトン単位の負荷にも全く平気なのです。
ドスとウォスも、束になってかかって来られなければ負けませんけどね。

ま、そのくらいできないと棍棒でドラゴンぶち殺すのは無理ですよねー。
実はグェスはドラゴンスレイヤーでして、一年余り前に父親の敵である蛇型(大海蛇型?)のドラゴンを仕留めています。
前に聞いたときはオーク語の理解が浅くて勘違いしてましたけど。仇はもうとってたんですよ。
ゴエモン達新人に、古参の下っ端が語っていたドラゴン退治の話が「妙に聞き覚えある内容だなー」と思っていたら夫が主
人公だったのです。

ウォスが棍棒一つで棘ドラゴンに殴りかかっていったときは目を疑いましたが、オーク的思考ではそれほど無茶な判断では
なかったのですね。結果的に無理だっただけで。
あのときでも「生命の粘土」の反則的効果がなければ勝ち目あった訳ですし。


え? それはいいから 人間社会の常識だと浮気に分類されそうなこと とは何ぞや? ですか?
それはですね、いまちょうどハラキズのおちん○んをしゃぶってあげているところなんです。


カーマ・スートラでしたっけ? 印度には様々な性技を解説した教典がありますけど、そのなかには男性器を口や舌で愛撫す
るものがありまして‥‥そのなかの一つに「マンゴーしゃぶり」というのがあるのです。
要はち○こを、マンゴーの種をしゃぶるように扱う技なのです。

「ウッ‥‥ッッ」

手近に良く熟した美味しいマンゴーがあるかたは、一日ぐらい絶食(水と塩は摂ってよし)してからマンゴーの実から種を取り
だして、しゃぶりついてみてください。オークち○こ奉仕しちゃう気持ちが少し解りますから。
実際には食感や匂いや温度もあるので同じではありませんけどね。

「ジ、ジカン、キタッ」

歯を食いしばって耐えていたハラキズが、叫ぶようにして知らせます。
確かに横目で見てみれば、丸岩の上に置いた砂時計は砂が全部落ちていました。
砂時計といっても、管の細い金属製漏斗に砂を山盛りにして三本足の置き台に乗せただけの代物です。幾つかありますけど今
使っているのは3分強で落ちきるやつです。

わざと大きな音を立てながら、咥えていたハラキズのドリルち○こを解放して私はにんまりと微笑みました。

「これで2つですね」


うーむ、この義息子のご子息の元気なこと! 今朝の牡蠣味噌汁が効いているのかもしれません。
いや、昨夜の大怪鳥オムレツかも。

ひくひくしちゃって可愛いのなんの。
根本近くはちょっとくすんだピンク色な肉幹ですが、先にいくほど色が薄くなって先端では綺麗な桜色になっています。
色からして初々しいこのイボだらけ肉ドリルは初物です。私しか女を知らない童貞くんなのです。

実寸で30センチ以上、私の肘から伸ばした指先よりも長い螺旋ち○こが目の前にそびえ立っています。
唾液で濡れひかる先端が、必死で堪えているハラキズの身じろぎを増幅して震えている。
射精の直前と最中はもっと激しく震えるんですよ、これ。

豚ハーフ系オークのち○こしゃぶりって、生きてる茹でソーセージの躍り食いみたいな感じですね。射精前後を喩えるなら。
しかもブラック○レーどころじゃない中毒性もありますからねー。
酒や大麻とは比べものにならないくらい健康被害はひくいので、中毒者が元気に長生きする分商品として優秀かも。
もしも私が転生した場所がオーク島でなかったとしても、転生先に「客にオークち○こをしゃぶらせる風俗店」があったら店
に住み着く勢いで通い詰めてしまうでしょうね。

ソーニャさんの話だと、人類文明圏にはそういった特殊な風俗店もあるそうです。
オークやオーガーといった異種族の味を知ってしまったけど、人間としての暮らしを捨てられない女達はそこで身体の火照り
を鎮めたり派手に炎上しちゃったりします。
で、壁一枚を隔てたその隣りでは異種族マニアの男が達磨エルフに種付けしてハーフエルフを孕ませたりしている訳で。
なんて世紀末な世界でしょう。平和な地域に転生できて良かったですよ本当に。


さて、仁王立ちのまま息を整えているハラキズの前で、膝立ちだった私はスポンジもどきマットに腰を降ろします。
正座から足を崩した女の子座りに変えてハラキズからやや距離をとり、観衆に見えやすくしてから汗まみれな水兵服の裾を掴
んでまくりあげて脱ぎすてます。

ふう。涼しい。

周りの下っ端オークたちがどよめき、より良い位置で見物しようと押し合いへし合いを始めました。
椰子の木陰とはいえ常夏の島の真っ昼間に運動すればそりゃ汗も出ますよ。
そうです。私はいま現在、義息子たちへの性教育の一環として俎板ショウをしているのです。相手役はハラキズで。
見ているだけのストリップとは食い付きが違いますねー。興奮した最前列から鼻息が届いてますよ比喩でなく。
実際、最前列から伸ばせば手が届く距離ですし。

オークはただ強いだけでは駄目です。女の子の扱いも知らなければ一人前のオーク戦士ではありません。
オーク族というかこの島の文化では、母か母親に近い立場の者から性教育を受けるのです。
ですが16人も義息子がいると普通の方法は使えません。グェスたち兄弟が受けてきた一対一が基本の性教育は参考にしかな
らないのです。


で、前世の記憶を頼りに一つ集団性教育計画をでっちあげてみました。

まず、数日おきに(さすがに毎日は無理です)義息子たちがち○こをきれいにしているかどうかを抜き打ち検査します。
一列に並んだ童貞オークたちの腰ミノを一つ一つ外していくのって、楽しいですよ。色も形も大きさもまちまちなオークち○
こがずらりと並んで、期待にひくついている姿は感動ものです。
もう気分は実地で保健体育の授業をしている、エロ本の中の小○校教師ですね。

抜き打ち検査でち○こに汚れが見つかったり、元気がなかったりするとそこで失格になります。


次に、ち○この手入れができているかを確かめてから第一次試験に入ります。一人ずつ、漏斗に盛った砂が落ちきるまでの時
間耐えきれば良いのです。
油や蜂蜜まみれの手でじっくり優しく容赦なく触りたてる巫女の攻撃に、若さと欲望ではちきれそうなち○こを無防備に晒し
て3分あまり射精しなければ合格です。

最初の試練は手指だけ。そして第二の試練は口と舌。
でも殆どの下っ端たちは手で触るだけで漏らしてしまいます。
これでも長持ちするようになったんですよ、最初のときはゴエモンですら咥ただけで出しちゃいましたし。

試練を一つ終えるごとに、教育係は一枚ずつ脱ぎます。私の場合その一から二に移るときにおパンツを、その二からその三に
移るときに上着を、その三から四ではスカートを、まだやったことありませんけど五に移るときは首飾りを外します。
ちなみに靴やサンダルはマットに上がるときに脱いでたり。

最初に下着を脱ぐ理由? 下着が濡れちゃうと気持ち悪いじゃありませんか。
豚ち○こが大好きなオーク義母は、可愛い義息子たちのち○こを弄りまわしていると自然に下腹が疼いてきて股が濡れてくる
のですよ。だからあらかじめ脱いでおくのです。


第三の試練は、スカートの下以外の全部を使います。上半身脱ぐのもその一つ。
人間(ヒュー)族の男ほどではありませんが、オークも視覚効果で興奮しますからね。ロリータ好きな私の息子たちは小さな胸
でも楽しめるのです。
本当は乳房で挟んであげたいのですけど、何年かしないと物理的に無理ですから。
でも擦り付けたり、脇の下で挟んであげたりはできるのですよ。あと、お口と手の同時攻撃とかできますし。

そんな訳で、私は初めての義息子の細い先端を舌先で玩びながら、睾丸を撫でさすっています。
夏ミカンなみに大きな丸いものと、その横のバナナぐらいなふにふにしたものの感触が楽しい。このなかに子種が入っている
のですよ。それも人間の50倍は優に。

む? 今日は妙に弄られ弱いですねこの子。
新たに山盛りにした砂が半分も落ちていないのにハラキズの睾丸がせり上がってち○こが痙攣しはじめました。
射精の前兆ですが、今からじゃあ呑み込むのは間に合いませんね。胸で受け止めますか。


女にして貰ってから1ヶ月も経っていませんが、胸がちょっぴり大きくなりました。腰回りと尻もそれぞれ半周りずつぐらい
細く&ふくよかになってます。
地球でも、年齢一桁の幼女が毎日膣(なか)出し性交されているうちに排卵して妊娠してしまう事例がありました。
性的な刺激により強制的に成熟させられてしまった訳です。
朝昼晩でオークの媚薬体液をこれでもかと浴びせられている推定12歳児の身体が、雌として熟していくのも当然でしょう。

ああ、温かい。
薄目のホットカルピスのような白い液をかけてもらうのもまた良し! 顔にかかると面倒なのでもっぱら首から下限定ですが。
お口はまだ無理ですね。
前はこれを全部飲み干そうとしてえらい目に遇いました。夫達と違って下っ端オークたちは出す量の加減ができませんので、
飲みきれない分を溢れさすわ鼻に入るわで。

握りしめた両手と押し付けた右乳の間で暴れていたハラキズの先端から、撒き散らしていた液の勢いが弱まってきました。
確かこれで四回目の ぶ っ か け でしたね、ハラキズのは。
前世の記憶にあるものとはかなり違う、濃厚だけど優しい香りのする液体が脈打ちながら吹き出ている豚似のち○こを咥えて
ゆっくりと呑み込んでいきます。
この液体、精子を含んではいますけど前世でお馴染みの精液とは少し違うものなんですよね。
人間でいえばむしろカウパー線液が近い。


息を止めて、そのまま根本近くまで呑み込みました。今の私は膝立ちでハラキズの腰にしがみついた姿勢になってます。
あー いい。やっぱりこれ、病みつきになる。
咽の奥の更に奥、食道の半ばまでハラキズが入ってます。細長くて軟らかい系のオークち○こじゃないとこうはいきません。
狭い咽を中から圧迫される苦しめの感覚とオークち○こが体内にある快楽がせめぎ合って、他では得られない感触です。
咽の奥を犯されている感触に、涙がでるぐらい感激してしまいます。

来た。いよいよ本番、オーク子種がたっぷり入った本物の精液が出始めました。
咽の奥の奥で、あつあつでふるふるなものが、お湯の蛇口みたいに迸り出ています。

子供を依怙贔屓するようでアレですが、やはり義息子たちのなかで一番お気に入りなのはハラキズな訳でして。
初めての名付子ですから仕方ないですよね。
処女はギュー・グェスに、お口の初めてはレェ・ウォスに、お尻の方はゴォ・ドスに捧げちゃいましたけど‥‥咽の初めては
ハラキズにあげちゃったんですよねえ。
夫達のは呑み込むには逞しすぎますので、四番目の初めてを貰ってくれるのは下っ端達の誰かになります。


いやー 女神様が「選べない」って仰るのも無理ありません。人ハーフでも猪ハーフでも、オークち○こはそれぞれに良さが
ありますね。
口の中で出して貰って気持ちよいというか幸福感があるのは夫達のとろとろ精液ですけど、ごくごく飲める下っ端たちのお汁
も捨てがたい。本命のゼリー状精液も食べ応えがあって嬉しいですし。

下っ端オーク‥‥というか猪ハーフ系オークの精液は前座な液状のものと本命の濃厚なものの二つがありまして。
いまハラキズが精子嚢から絞り出してくれているものは、プリンや煮凝りよりも濃い塊な子種なのです。

長い長い、実時間で一分以上に及ぶ本命の射精が終わりました。
私は呑み込んだときよりもゆっくりと、まだ大きいままのオークち○こを吐き出します。

ふう。やはり息が苦しい。
ソーニャさんが首に付けていた「風の護符」って、今から思えばこのためだったのかも。
窒息する心配なしに食道プレイができるアイテムなら、私だって欲しいですよ。体格の割には肺活量がある方ですが、私では
3分も息を止めていたら失神します。失神というかそのままあの世行き。

呼吸を整えてから再度咥え、ち○この根本からしごきあげて尿道に残っているゼリー精液を吸い上げます。
この溶けかけのゼリー菓子じみた独特の食感が、また絶品でして。
口一杯に頬張るのも良いですけど、今は舌の上で転がすように味わいたい気分なのです。

出したばかりで敏感になっている箇所を責められてハラキズは涙目ですが容赦せず、尿道に一滴も残さず吸い上げます。
咽出しされて逝かされているのは私も同じですし、この程度で音を上げられては鍛錬になりません。


ええまあその、一応は性教育でやっていることですからね。
ゴエモンへの聞き取り調査で裏付け取っているのですが、オーク族にとって女の胎に射精して孕ませることはただ単に射精す
ることとは次元の違う快感と満足感(達成感?)を得られる行為なのです。
で、それには及びませんが胎以外の場所に出して女を逝かせるという行為も、孕ませには及ばないものの雄としての自信を深
める訳でして。

あれですよ。うちの巣の下っ端たちに足りないのは成功体験ですよ。
今までずっと負け組的人生送ってきたのだから仕方ありませんけど。

単に「将来嫁さん貰ったときに不手際晒すとみっともないから」だけで性教育している訳じゃありません。
私は義息子たちに、自分がオークであることを自覚し誇りを抱いて欲しいのです。
男と女は表裏一体。オーク(雄)と人間雌も表裏一体なのです。

死が近くにあるから命を実感する。困窮を知るからこそ富の価値が解る。
ならば義息子たちが己の雄を自覚するには、身近に雌がいなくてはなりません。
それも見たり聞いたり嗅いだりだけでなく触ったり舐めたり触られたりしゃぶられたりする、可愛い雌が。

まずは女の子の良さを実感して貰うことから始めている訳です。熊だってご褒美の角砂糖目当てに芸を憶えるんです、お馬鹿
だけど賢いオークたちが意欲に満ちない訳もなし。

「ごちそうさまでした」
「オゾマズザマ、デジタ」

マットの上で、義母巫女と義息子が正座で向き合ってお辞儀をします。
お腹にオークの子供がいる女がオークから精液を飲ませて貰うのは、すなわちオーク成分の補給行為。
妊婦な母に息子がち○こをしゃぶらせるのは、まだ産まれる前の弟へ栄養補給しているのです。
性教育でもありますが、胎教のためでもあるのですよ。そういう建前なのです。



えー 性教育がひとまず終わったので体液まみれになった身体とマットを「浄化」で綺麗にして、砂時計を仕舞おうとしたの
ですが‥‥ちょっと拙いというか問題発生。
漏斗の管に小石が詰まってました。当然ながら砂が落ちにくくなってます。それも普通の3倍ぐらい。

道理で今日はみんな成績が振るわなかった筈です。というか気づかない私もアレですが文句一つ言わない義息子たちも‥‥
あ、彼らからすれば普段の3倍触って貰えるならそれはそれで良いのか。

うん、次からは上級に上がれば上がるほど時間を長くしましょう。それ自体がご褒美になりそうですし。


勝てば官軍、強けりゃ正義。
上位者が白といえばカラスは白いのがオーク社会でして、試験のルールなんぞ審判役が好き勝手に変えて良いのです。
世の中何が理不尽と言ったってルール無用の実戦(リアルファイト)ほど理不尽なものはないのですから、それに備えた鍛錬が
理不尽なのは当然の事。

そういう訳で第四の試練は挿入なしで性器を擦り合わせる、いわゆる素股なのですが第五の試練からは攻守が逆転することに
しましょう。今決めました。
具体的には第五の試練はオーク側から挿入して、一晩ぐらいかけて巫女を満足させたなら合格です。
そして第六の試練は、第五と同じ事を複数の女にして全員を満足させること。

いない女は試験官役になれませんので、当分は第六段階に挑める下っ端がおらず義母巫女が童貞ち○こどもを独占できます。
正直言うと 女 の 魅 力 というやつに自信がないのですよ。特にソーニャさんが相手だとねー。

ま、いつまでも独り占めなんてできませんけどね。
早く息子達が第六の試練に挑めるように、新しいオーク嫁を探さないといけません。
女神様の加護(呪い?)があるから私が探さなくても向こうから来そうな気もしますけど。



追記。
この後、焼き餅やきな夫達に三人がかりで可愛がられてしまいました。腰が抜けるまで。
やっぱり非童貞なオークち○こにはかなわないよ‥‥3対1なら尚更です。





[38600] 44
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2015/07/17 16:25



 ☆87日め、リスクとリターン☆


「時間は残り少ないので手早く決めますよー」

「グヒッ」「グヒー」

大広間に集まった16人の義息子達を前に、腕を組んで考えます。分単位で決めることができて、皆が納得する選別方法を。
ふむ。ここは一つ先人の知恵に学びますか。

「では、今すぐ出かける身支度を済ませなさい。早い順に三名まで連れて行きますからね」

下っ端オーク達は一斉に走り出しました。南側の居住区に駆け込んで武器や道具や保存食などをかき集めたり、転んで抱えた
荷物をぶちまけたりしています。
足を踏んだとか肩を押したとかでつかみ合いになってもめているのもいますね。

ま、こんなものでしょう。団体行動能力で言えばせいぜい小学生低学年級ですからね彼らは。
現代日本人の感覚で見ちゃいけません。私の前世だって何年もかけて行進とか前ならえとか仕込まれた訳ですし。
装備点検と手早い身支度は教練の基本です。読んでて良かった軍隊もの漫画。


ん? 貴男は行かないのですかゴエモン。

「シタク、デキテル」

そう言って、ただひとり大広間に残っている下っ端オークは胸を張りました。
彼の身支度は、大広間の共用武器掛けから銀の穂先の槍(スピア)を取ってきただけです。なるほど、遠距離の敵には投石と投
げ槍を使い分けて対処して、接近戦は槍と作業用鉄鉈を使い分けるのが彼の装備選択ですか。

行住坐臥全て実戦、身支度は常にできている。というのも立派な答えです。
スライム避けの塩や火打ち石などは腰ミノにくくりつけて持ち歩いているようですし、これはこれで正解でしょう。
食料とかは私から貰えますし、いざとなれば数日間絶食したまま動けますからねオーク族は。

彼ほど旅慣れてない、または落ち着いてなかった下っ端達は手間取っていましたがそれぞれ支度を済ませて戻ってきました。
宣言どおり、先着順で三名までをお供に選びます。ゴエモン、ケサガケ、ハラキズですね。

ハラキズは旅用の道具類をあらかじめ用意してまして、縄で縛ったものをひっ掴んできただけだから早かったのです。
ケサガケが更に速かったのは同じ準備をしていたのと、寝床の位置が広間に近くて有利だったからですね。
二人のように「いつでも旅立てる」用意をしていなかった下っ端たちや、していたけど運や要領が悪くて押しくら饅頭する羽
目になったオークたちは遅れてしまったのです。

ちなみに二人の武装はケサガケがクロスボウ(弦に滑車つきで手動引き)と片手斧に銀のナイフ。
ハラキズは自家製の鋼鉄ブーメランに、オーク族伝統のアイアン・ウッド棍棒。戦闘用ボーラと銀の投げ飛礫。
ケサガケの武器は全部、私が鋳造機と木工細工で作ったものです。ハラキズの武器も半分は私が作りました。
鞘とかの革細工は夫達が担当です。

下っ端達も自分なりの戦闘流儀(スタイル)を模索していまして、今の所ゴエモンはゴォ・ドスの、そしてハラキズはギュー・
グェスの戦い方をお手本にしているようです。
考えてみればこの二人が、大神殿から温泉洞窟への旅路で一緒だった幹部の戦い方から影響を受けるのは当然かも。

なお、ケサガケがお手本というか参考にしているのは私の方法論だったりします。
飛び道具優先で、接近戦になってしまったときは主力と伏兵の武器を左右の手で一本ずつ使う流儀ですね。


元々近いうちにミッシェル山の大神殿へ奉納しにいくつもりだったので、私の準備はできています。交易品の入ったドラム缶
もどきを貪り食う無限袋に入れたら、後は武器の選択だけ。
旅行に持っていく魔法武器は短剣と大斧、それに昨日鑑定に成功した鎚矛(メイス)にしますか。
槍や刺突剣は巣の防衛用として残しておきましょう。私の武器は新品のクックリ刀がありますし。

いや、前回の教訓を生かして更に幾つか予備を持っていくとするか。
上記の武器に加えてあいのこ剣と短弓を持っていくことにしましょう。
問題は私の腕力と技術だとまともに矢が飛ばないことですが、いざとなれば私が照準して誰かに射て貰う手もあります。
最悪弓で直接ぶん殴ればアッシュ(灰)ぐらいは倒せますし。

先日、模様替えの一環として大広間の東壁、水飲み場の横に武器掛けを設置しました。時代劇だと剣術道場の壁に木刀や木槍
などが掛けられていますよね。あんなかんじのものを作ったのです。
こんな目立つところに武器を置いておくと、敵の潜入を許してしまえば武器が奪われて私たちに向けられるかもしれません。
でも、普通の武器が通じない敵が攻めてきたときに下っ端たちが何もできないままやられてしまう可能性を考えて、大広間に
武器掛けを設置しました。
今までは洞窟の奥に魔力を帯びた武器を置いてましたので、もし敵に奇襲されて幹部居住区への通り道を塞がれたら下っ端た
ちは取りに行けませんでしたからね。


再び集まったオーク達の一人一人に目を配り声をかけ身体に触って、しばしの別れを惜しみます。
僅か数日ですが離れてしまいますからね。


「では、いきますか」
「グヒッ」

私を肩に載せたグェスと下っ端三人で小道を歩き、浜辺を目指します。その後を見物のオーク達が数人とウリ坊たちが付いて
きてます。
なんかイノシシたちが日々刻々とペット化している気が‥‥。悪い事ではありませんが。

浜辺には一隻の大型船が待っていました。箱形の平底船体に蛇頭の飾りがついた二本の舳先を持つヒルデニア船、蛇王丸です。
ええ、今朝方つい一時間ほど前に現れたのですよ。セルキーたちと一緒に。
彼らはこれからミッシェル山に向かうそうなので、便乗させて貰うことにしました。ちょうど今日はグェスと一緒に大神殿に
行く予定だったのです。
帰りは徒歩になりますけど、訓練も兼ねて下っ端達を何人か連れて行きましょう。


オーク島からヒルデニアまで、15日ぐらいの日程です。もちろん蛇王丸のような超高速船が寄り道せずならですが。
普通の船はもっと遅いのです。帆船は風を待つ必要がありますし。
で、日程から考えて当然ですが蛇王丸はヒルデニアに一度帰ってまた来たわけではありません。
オルロフ王国方面へ行って帰って来たのです。
ここから辺境艦隊根拠地までは6日ぐらいで行けますからね。更にその先まで行ったみたいですが。

なにやら面倒くさい事になっているようですが、とりあえずコーネリア関係は順調そうなので良しとしましょう。
船長の話では捕虜の引き渡しと口止め工作は上手くいったようです。


「逆に言うとその二つしか上手くいかなくてなぁ」

と祐衛門(すけえもん)船長がぼやいてます。
なんでも彼らがオルロフ軍の基地についてみればオルロフ王都の政変は軍服組の勝利に終わっていたそうで、背広組に荷担し
ていた基地副司令は失脚していました。

では密貿易やり放題かといえば、勝った軍服組が綱紀粛正を口実に軍組織の再構築を始めまして。要塞司令としては迂闊な行
動ができなくなったのです。
本人の地位は安泰でも、各地の基地人員が移動してしまうと密輸の下準備をやり直さなくてはいけません。

そんな訳でオーク島と西方の貿易はしばらく様子見ですね。計画再開には一年やそこらはかかるでしょう。
今やるとすれば司令個人レベルかせいぜい根拠地レベルで、かな? 

「で、あちらの人達は?」
「あれか、あれはまた別口でな」

船長が心底うんざりした表情で見ている方向、甲板の一郭には三畳間ぐらいの空間が布の衝立で囲まれています。
前世でいえば保健室の衝立に近いですね。細い枠に薄布が張ってあります。そしてその中では数人の男女‥‥平たく言えば三
人の女と一人のオークが絡み合っています。布に映る人影と隙間からちらちら見え隠れするものから察する限り。

「幸せです‥‥いつまでもこうしていたいぐらい」とか「お姉様、次は私の番でしょう? はやく退いてくださいませ」とか
「姉妹喧嘩などしてはなりません、ここは私が」とかのミニ修羅場を演じてますね。
白い肌と金髪? あと黒髪もいますね。典型的な親子丼のようですが、何なのですかあの人達。


船長によれば、件の政変のあおりを受けて取りつぶされた貴族のご婦人と令嬢姉妹だそうです。
甲板で致している理由は、船室で同じ事をされると部屋にオークフェロモンが染みついて面倒だからです。
船長の嫁さん達や女の船員はセルキー島に置いてきたそうですが、船がフェロモンで汚染されると残り香を嗅いだ女海賊達が
発情してしまうのですよ。

まあ、蛇王丸の女海賊は全員懐妊しているので避妊とかは考えなくて良いのですけどね。
副長から見習いまで全部おめでたです。
さらに孕んだ女たちの夢枕にもれなくエスティア様が出てきて祝福したそうで。受胎告知は私だけじゃなかったのか。

今はともかく帰ってからが面倒だ、と船長は憂鬱なようです。新規募集すれば船員の数は揃いますが質の低下は否めません。
個人の技量もですが、連携が上手くいかなくなるのですよ。
更にいうと、女衆を孕ませたことで自分の気持ちに気づいてしまった男どももいて少なからず動揺しています。
実質上の嫁と子供ができちゃったら、荒くれた生活続ける気がなくなっても不思議はありません。借金も消えましたし。

蛇王丸がヒルデニアから運んできた二人の未亡人(おでこちゃんとその後輩)はミッシェル山に引き取られましたが、その際に
莫大な礼金が渡されたのです。莫大といっても嫁さん通常買い取り相場の倍程度ですけど、約450万ゴールドという金額は
海賊の護送費相場としても悪くない訳で。

これに捕虜送還の手間賃や蛇王丸への口止め料、茶釜要塞からの略奪品に島との交易を加えればゆうに700万ゴールドを越
える収支となったはずです。いや、オルロフ基地との交易も入れればもっとか。
オルロフ辺境艦隊に立て替えて貰った借金を清算できる儲けですので、蛇王丸はとっとと返済しました。
家族ができて負債が消えれば、蛮勇に走る気持ちが薄れる者もそりゃ出るでしょうよ。


まあ、そんなわけで。
西方文明の大国と本気の激突なんかしたくない大神殿が口止め料として基地司令個人に送った、数百万ゴールド相当の財貨を
下ろして身軽になった分、新しい積み荷が欲しくなった蛇王丸は更に西へ向かったのです。
基地との交易はそこそこの規模で抑えてます。
オーク島で仕入れた交易品を辺境艦隊の基地に売っても利益幅が低いのですよ。艦隊が利益を出すには仕方ありませんけど。

女奴隷などの訳あり商品と交換するのなら手間賃込みでお値引き価格もできますが、普通の取り引きでは直接大陸の港にまで
行って売り捌く方が儲かります。今回は売らずに略奪してきましたが。
ここ数ヶ月トカゲ船しかオーク島に来ていませんからねー。大神殿の倉庫には香辛料などトカゲ帝国が欲しがらない交易品が
だぶついていたのですよ。蛇王丸にとってはお買い得価格だったのです。



話を戻すと、甲板の上は掃除がしやすいので船でオークが「いちいちゃ」や「ずっこんばっこん」をするとしたら一番マシな
場所なのです。船側の苦労的な意味で。
オークち○この味を知ってしまった女に我慢しろと言っても無駄ですからね。


何故に西方の貴婦人がオークと致しているかといえば、これまた長い話になるのですが‥‥。

ある所に、高貴で高慢で生意気な女を嫁に迎えるしかなかった貴族がおりました。夫婦仲はよろしくありませんでしたが貴族社会は面倒くさいし嫁の実家が怖いので返品はできません。なのでその貴族は一計を案じました。
冒険者が捕まえてきたオークの子供をこっそり買い取り、育てて飼い慣らし、夫人と床を共にする夜は寝室真下の地下に居させたのです。

空気穴で繋がった地下から立ちのぼるオークフェロモンに当てられどうしようもなく欲情してしまう妻をもてあそぶことで、
貴族は普段の鬱憤を晴らしていました。

しかしそのうちに「なぜあの寝室でだけ乱れてしまうのか」と疑問を持った妻は、地下になにかがいることに気づきました。
調べ始めるとあっさり秘密は暴かれ、飼育係を買収した妻は好きなときに好きなだけオークフェロモンを嗅げるようになった
のです。

そうなれば飼いオークと妻が密通するのも、やがて妻が地下室の雄こそ我が真実の夫と悟るのも時間の問題。
なにせ社交界向け夫と違って、彼は妻を心底愛しているのですから。

あとはどうやって仮初めの夫と離縁するかを思案していたところで政変がおきたので、貴婦人は夫と共に逃げたのです。三人
の娘もつれて。

仮初めの夫は、王太子の乳兄弟でもある軍服組首領を暗殺しようとして捕まった面々のひとりだったので、彼女達は王国に居
場所がないのですよ。実家も陰謀に荷担していたので一族纏めて反逆者扱いです。
捕まれば良くて死罪。普通に考えれば身一つで辺境に流罪となって、死んだ方がマシな目に遇うでしょう。権力と財力をなく
した元貴人がのうのうと生きていられるほど、西方文明圏は優しい社会構造をしていませんので。

僻地の交易港まで逃げてきたものの路銀を使い果たし、なんとかして船に乗れたとしても適当な亡命先などなく。途方に暮れ
ていたら、夫のコネ?で海賊船に拾ってもらえたというのが事情だそうです。


女達を抱えて波止場を走るオークを見ただけで、「面白そうだ!」と拾っていけるのだから船長相変わらず狂ってますねー。

「なぁに、入れない港がまた増えただけさ」

指名手配者らしき女たちを担いで逃げ込んだオークを「俺の船に乗ったからには俺のもの」と主張して引き渡さなかっただけ
でなく、拿捕するぞと脅した官憲を蹴散らし追い立て、逃げ込んだ役所ごと踏み潰してついでに役所と警備隊の金庫おまけに
港の倉庫まで略奪して逃げてきたので蛇王丸と祐衛門船長は立派なお尋ね者です。元から海賊だけど。

大暴れの結果、真珠や珊瑚や胡椒などヒルデニアよりも西方で人気の高い品々を売りさばくことができませんでしたが、元々
オルロフ勢力圏は彼らの交易範囲に入ってないので特に痛手だと感じていないようです。
まあ、蛇王丸なら交易でも襲撃でも冒険でも充分やっていけますからねー。船長に算盤を握らせていなければ、ですが。
母港と所属組合およびその契約対象以外は何でも襲う、略奪専門の海賊としても充分やっていけるのですよ彼らは。

ええ、やっちゃったそうですよ例の乗り上げ蹂躙攻撃。ちゃちな港の警備隊が、移動要塞より強い魔法戦艦に喧嘩売れば酷い
目に遇うしかないのですが、まさか船が陸地に乗り上げてくるとは思わなかったでしょうねえ。
名前持ち(ネームレベル)級魔法使いなみの砲撃戦能力まで持ってますし、蛇王丸を敵に回すと厄介です。


「で、俺としちゃあ 取らぬ竜のお宝 を当てにしてるんだが、どう思う?」
「んー 前ほどじゃありませんけど、礼金は出るんじゃないかと」

陥落済みな母と姉達は移住者の妻扱いになるから礼金は少なめでしょうけど、三姉妹の末娘には高値が付くはず。
私の巣なら100万は出せますね。そのくらい可愛らしい子です。

8~9歳ぐらいでしょうか、柱の陰にいる金髪の幼女がこちらをちらちらと伺っています。
オークたちと視線が合うと顔を赤らめて隠れてしまうあたり、嫁としての素質はありそうですね。
おでこちゃんと違ってフェロモンが効きにくい体質らしく発情してはいませんけど、オークを異性として意識しています。

小学生の低~中学年の女の子が、近所の格好良いおにいさんに憧れているのに近い感触ですね。
既に新しい「お父様」を受け入れている幼女ですが、お婿さんにするならうちの巣のオークたちの方が良いようです。
是非ともお近づきになりたいけど、紹介してくれる人がいないので困っています。殿方に自分から声をかけるなんてはしたな
いことはできないのですよ。

うーん、こちらから声をかけようにも西方の礼儀作法なんか知らないしなー。
下手に接触して話が拗れると厄介です。向こうが好意的でいるうちは現状維持で構わないでしょう。
どうせすぐに大神殿へ着きますし。




 ☆87日めの2、ローパーが種族名でセラピが愛称だそうです☆


すぐに着きました。前回と同じように浜辺から神殿西の港に向かいます。
セルキー族の伝令が先に行っているので、接近から入港まで極めて順調です。連絡って大事ですね。


船長達はこれから亡命者の引き渡しと積み荷(略奪品)の売買交渉に忙しくなるので、ここで別れます。温泉洞窟からの船賃は
化けクジラのなめし革畳三枚分で支払い済みなので問題なし。
なかなかの良質素材ですからねあの革は。ヒルデニアに持ち帰れば千ゴールドぐらいにはなるでしょう。

港で、前回同行した巫女頭のおねえさんと出会ったのでしばらく話し込んでしまいました。
そのあとは本殿でお祈りと奉納を済ませ、市場で毛皮や塩などを物々交換します。買ったのは温泉洞窟近くではとれない薬草
や香辛料、顔料の素材などが主ですね。

喜捨品・交易品・贈答品で一杯になっていた貪り食う無限袋を空っぽにしたら、いよいよ再会です。
コーネリアは元気にやっている筈なのですが、今はどこにいるのやら。
なお藤子さんは揉め事の仲裁というか決闘の立会人として遠出していまして、しばらく帰って来れないそうです。

うーむ、ソーニャさんは朝から闘技場で余興やっているという話なのでコーネリアの居所は知らないでしょうし。
知り合いが頼れないなら地道に探しますか、ゴエモンがそろそろ限界っぽいけど。

「コッチ、イル」

ん? 分かるのですかギュー・グエス?

「ネリー、ニオイ、スル」

前よりそわそわしてきたゴエモンはもちろんハラキズたちも分かっているようで、どうやら南の中庭の奥に居るようですね。
匂いが風に乗っているのだとか。犬並に鋭いオーク族の鼻は、人間から見れば超能力じみてます。
奥の方は男子禁制区域ですね。ではオーク達にはここで待っていて貰いましょうか。


奥の方へ歩くと、帆布服を着たコーネリアを見つけました。後ろ姿ですけど間違いありません。
毛皮服と同じ形に分厚い麻布を切り抜いた服にサンダル履きと、すっかり神殿暮らしに馴染んでいるようです。
中くらいの鍋のようなものを持って歩いていますね。カレーでいえば12皿分は入りそうな大きさの鍋です。

妙に早足だけど、一体何を急いでいるのでしょうか。追いかけると小走りになる速度です。
しかし綺麗な歩き方してますねー。
この速さと重心の安定具合は軍人さんならでは。少女時代に嫌と言うほど歩いたのでしょう。

更に奥へ進むコーネリアを追って歩くと、あれ? 見失った?
あ、いたいた。未分別で未塗装の彫像が置かれている部屋の一つに入っていきましたよ。
なんとなく気になったので足音を忍ばせて近寄ってみます。

そっと覗くと、コーネリアが鍋の中から蒸しタオルのようなを出したところでした。とある彫像の前に跪いて、おしぼりのよ
うな蒸し布で彫像の腰辺りを拭っています。
腰というかち○こですね。オークとしてはやや小さめの像ですが、股間で屹立しているものは本物よりかなり大きめです。
いわゆるショタ巨根ですかね? 

その石造りち○こに熱々のおしぼりを被せて、待つことしばし。
程良く温められたオークち○こに、濃灰色の髪の美女が頬ずりして溜息をつきます。

「ゴエモンしゃま‥‥」

ああ、うん、そういうことか。

夫への愛を切々と訴えつつ、彫像のち○こをしゃぶり倒している新妻の近くから離れます。よく見ればあの像、ゴエモンに似
ているといえば似てますね。


どう考えても同性に見られたい姿ではないでしょうから、おしゃぶりに夢中なコーネリアから離れます。抜き足差し足忍び足。

さて、どうしたもんですかねこれは。


中庭の近くまで戻ってしまいましたが、これといって良案は思いつきません。
考え事をしていたら、触手くんの端っこを踏んづけてしまいました。痛くはなさそうでしたけど飛び退いて謝ります。 

うーむ、しかし今の感触、夫達のち○こを足でアレコレしたときとそっくりでしたよ。流石はエロモンスターのなかのエロモ
ンスター、感触も完全再現ですか。
その触手使い魔ですが、豹柄毛皮服の上から私のお腹を観察しています。触手の先や半ばに、握り拳より大きい目玉を幾つも
生やしてますし耳や鼻の穴らしきものもできてますね。

「えっと、触診もします?」

返事に触手を上下運動させる使い魔に、改めて診察して貰います。
これは医療行為これは医療行為‥‥え? 触診はお腹を撫でるだけですか?
いえ、それで解るのならそれで構いませんけど。
どうやら私の胎教や胎児の発育具合は完璧なので、中まで入って触診する必要がないようです。母子ともに健康そのもの。
逆にコーネリアは手間がかかっているのだとか。

面倒だけど危険ではない? なるほど、欲求不満とエンドルフィン枯渇ですか。
そりゃ胎教に悪い‥‥子宮周りが反則アイテムで超強化されているから大丈夫なのか、そういえば。
夫が恋しくて枕を濡らしているけど、貞操堅固すぎて触手くんの手当ても受け入れられないのですね。
コーネリア的には触手くんに発散させてもらうのは浮気に入るようです。挿入とか快楽とかの有無は関係なく。

触手モンスターと「意思疎通」で知識の回廊繋げたのは初めてですが、話しやすいですねー。ある意味人間より楽かも。
知性というか精神構造の違いはありますけど、向こうの慣れ具合が半端じゃない。伊達に百年以上現役相談員やってないか。


ふむ。コーネリアと触手くんの間にある程度以上の信頼関係があるなら、ちょうど良いか。
呼び出して貰いましょう。エロモンスターになら、彫像相手の自慰行為を見られても恥ずか死にしないでしょうし。



で、誰か呼んでいるらしいので中庭にやって来たコーネリアに不意打ちで抱きつきと口付けしてしまったゴエモンですが‥‥。
嫁さんの方は肌が触れあった瞬間に夫だと気づいたみたいですね。抱きかかえられた途端、高圧電流へ触れたみたいに痙攣し
てました。
今は中庭の東屋で「ずっこんばっこん」の最中です。二人っきりですが触手くんの一本に見張って貰っているので誘拐とかは
されないでしょう。する奴がいるならいたで地獄見せてやりますけど。

触手くんの他の部分は中庭の木陰で、妊婦や産後の女やこれから孕む予定の女たちを触診しています。
十数人の患者を一度に診察と治療できるのだから高性能ですよねえ。流石は大母様の使い魔。
患者の付き添いである夫達にも医療行為と割り切れないのが多いらしく、あちこちの木陰や噴水脇で治療を終えたばかりの妻
たちがオークやオーガーやミノタウロスに喘がされてます。
いま中庭にいる女達の何割かは、この場で孕まされちゃうのでしょうね。使い魔もそう調整している筈です。


え? 私ですか?
もちろん私も喘いじゃってますよ♪ 全裸に首飾りとサンダルだけの姿でグェスと繋がってます。
更にハラキズとケサガケは両手とお口で慰めてあげてます。
見ているだけじゃ生殺しもよいとこですからね。

夫達の肉バイブち○こも義息子たちのドリルち○こもそれぞれに味わいと魅力ががあって、こりゃ確かに選べません。
いえ選んでますよ、私は。いまのところ、下のお口で咥え込んでいるのは夫達だけですし。

義息子たちの星が増えたら、童貞と引き替えに女を教えてあげますけどね。
私じゃなくてコーネリアとか他の女が教えることになるかもしれませんが、それはそれで良し。





 ☆88日め、たしかこんなの☆


レイちゃんです。
夜中に目が覚めたので、夜風に当たりながら一人酒しています。

グェス・ハラキズ・ケサガケ・ゴエモンの男衆は全員酒盛りに行ってしまいましたし、コーネリアは熟眠中。
昼前から日暮れまでオークと寝技の応酬してればそりゃ疲れるでしょう。ゴエモンは元気ですけどね。
哺乳類の性交渉は雄の方が疲れる筈ですし運動量も圧倒的だった筈なのですが、オーク族の体力は底なしです。

巫女や参拝客の女達も寝ているか忙しい時間帯なので話し相手がいません。ソーニャさんは忙しい組ですね。
引っ越しの準備とか色々あるようです。手伝おうにも場所が一般参拝者出入り禁止区域ではどうにもなりません。

ま、元々私は社交的な方じゃありませんし。夜中に新規の話し相手を探す気はありません。
手製の酒も良いものですが、年代物の蒸留酒をちびちびやりつつ夜の海を眺めるのもまた良し。
蛇王丸が略奪してきたものの中には西方の高級酒や珍味の類もありまして、それをいくらか分けて貰ったのですよ。
うーむ、スジコの親戚らしきこの干物は蒸留酒よりヒルデニア産澄み酒の方が合うかも。


新月直前の月を見ているうちに思い出しましたけど、この世界の月は人造品というか神造品のようです。
地球人で古典RPGゲーマーらしい設計者が、地球的環境を再現しようとすれば大型衛星が必要ですからね。
月があれば隕石衝突の可能性が減りますし潮汐力で海水の攪拌もできるので都合が良いのです。

オークや人間族が伝えている神話によれば、この世界は二柱とも四柱ともいわれる「原初の創造神」なる存在に作られたとか。
妙に科学的というか、地球の天文学でいう太陽系や惑星の発生仮説と似通った部分のある過程を経て創造されてます。
そして創造神たちは作り上げた大地に生き物を放ち、自らが作り出した矮小な神々と共に世界を整えていきました。
人間が箱庭を作るように、理想の生命球(スフィア)を作り上げようとしたのです。

しかし、作り上げられようとしていた楽園は完成しませんでした。創造神達の邪魔をする「邪な神々」が現れたのです。
彼らは創造神たちと同格の存在であり同じように偉大な力を持っていましたが、生き物(モータル)をいたぶることを楽しみと
する不快な輩でした。
その性癖ゆえに創造神達から仲間はずれにされていた邪な神々は、完成寸前の楽園に攻め入りました。
ほら、積み木のお城は完成寸前に崩されるのが一番悔しいでしょう?

邪な神々の力により大気は凍り付き地は灼けただれ、川と海に毒が溢れ、楽園の全てを魔物が蹂躙し、死者が亡者となって蘇
りました。
この暴挙に怒り狂った創造神とその下僕たちは邪な神々と戦い、散々にうち破って封じ込めます。しかし戦いが終わったとき、
美しかった楽園は見るも無惨な有様となっていました。

もう一度同じような戦いが起きれば楽園が粉々に壊れてしまうと危ぶんだ創造神達は楽園を見えない檻で囲い、二度と入らな
いことを誓いました。創造神達が入れない檻は、同格の神々もまた入れないのです。

創造神達が離れた楽園の管理運営は、小さな神々に任されました。楽園を立て直すために、小さな神々は様々な巨人族や妖精
たちを繰り出し再建を手伝わせました。今もいるジャイアントやエルフやドワーフはその末裔なのです。

小さな神々と眷族たちは、ゆっくりと楽園を再建していきました。海と大地に溜まった毒を浄化し、荒れ地に木々と草花の種
を撒き、生き物を少しずつ放していきました。
この時期に、月の表側中心近くに神々の宮殿が造られました。まだ再建途中の地上へ悪影響が出ないように小さな神々は月面
や衛星軌道上に拠点を造って活動していたのです。

階層総計一万と言い伝えられる世界最頂の迷宮、「天に至る階段」もこの時期に造られたそうです。

えっとですね、東方世界のバルキア地方南部にはそういう古代遺跡があるのですよ。やたら高い塔というか軌道階段が。
エレベーター(昇降機)ではなくて階段なのが味噌でして、挑戦者は推定数百㎞の高さまで延々登らないと踏破できないという
鬼畜仕様な迷宮です。
ソーニャさんも以前挑戦したものの、400階あたりで飽きて降りたそうです。
最上階まで上がれば神々の宮殿まで通じる入り口があって、望めばそのままイモータル(無限寿命者)になれるそうですが考え
るだけで面倒くさそうですね。


で、現在の地上が楽園でないからには当然ですが、小さな神々による再建は失敗に終わりました。
原因はよく解っていません。神々の戦いで敗れ封印されていた小邪神たちが復活したせいだとか、混沌の神々がちょっかいを
出したからだとか、小さな神々同士で諍いを起こしたからだとか、楽園が完成したときには用済みになると思いこんだ魔獣や
魔人たちが反乱を起こしたからだとか色々な説があるようです。

なにが原因かはともかく、結果としてまたもや世界は破壊されました。
神々の戦いのときと比べれば被害は少なかったのですが、それでも再建が危ぶまれる程の被害でした。
創造神達は小さな神々から管理権を取りあげ、新たに作り上げた神々に与えました。六柱とも十二柱とも二十四柱ともいわれ
る六属性の神々は、その穏やかな気質から調停の神々と呼ばれました。


調停の神々に宮殿を明け渡した小さな神々は、改めて宮殿へ行き後輩達の部下となって世界の修復に勤しむか、受肉してモー
タルとなることを受け入れました。
ただし一部にはどちらも拒否して、永遠の命と神の力を持ったまま地底や虚空に住処を造り立て籠もる小さな神々もいました。
彼らはデーモンと呼ばれる者たちの祖となったと伝えられています。


ふむ。魔神(デーモン)たちは零落というか都落ちした神々のなれの果てという解釈なのですね。
地上世界は生き物(モータル)のものという世界法則があるから、魔神たちは召喚されないとやって来れないのか。

さて、このとき受肉を受け入れた神々が転生した生物(モータル)が人間(ヒュー)族なのだという説もありまして。
ですがこの説は「人間を基に巨人族や妖精族や獣人族が造られた」という説と矛盾するので、人間の学者達からも疑問視され
ています。

このあたりは古すぎて現代人からは解らないことだらけのようですね。
まあ、研究課題が尽きないのは良いことでしょう。


その後の話は、神話から段々と伝説にそして歴史へと移り変わっていくのですが長いので纏めるのはまた今度にしましょう。
文献や伝承ごとに違っている部分もあって、よく解らないことも多いですしね。
程良く眠気もやってきましたし、寝床に戻りますか。




 ☆88日めの2、新婚さんですから☆


女神様からさんざん「信仰心さえあれば神像の出来映えはどうでも宜しい」といわれましたけど‥‥。
要は私が神聖だと思えるなら、石ころだって御神体になるのですよ。本当に。

ほら、吸血鬼ものの映画では「信仰心を持たない人間が十字架を持っていても吸血鬼は怯まない」じゃありませんか。
あれとおなじで、信仰心さえ沸き上がるならどんなものでも祭器になるしどんな場所でも祭壇になるのです。
それが本物の神官(プリーテス)というものです。
どこぞの料理人も「白いご飯と生卵と醤油だけからフランス料理を作れるのが本物のシェフだ」と言ってましたし。

もっとも、私の場合はその域には達していません。そのへんに転がっている木石を神像として拝むことはできないのです。
でも礼拝の対象は増えました。神像や祭壇がなくても朝のおつとめはできます。

正確に言うと、オークのち○こを神像の代わりにできるようになったのです。
ほら、この島の信仰ではオークはオールクゥス神の化身ですから。
オールクゥス神の奴隷妻であるエスティア神のプリーテスな私は、オークの身体を御神体にできるのですよ。

具体的にいうとオークち○こをおしゃぶりすると聖水が作れます。
聖水というか聖液ですね。オークち○こしゃぶりながら他のこと考える余裕なんてありませんので、何を聖別するかの選択肢
は非常に限られてしまうのです。

ただの果物でも聖別すると三割は美味しくなるのですから、聖別された子種汁の美味さときたらもう堪りませんよ♪
ジャムやヨーグルトっぽい食感の、夫たちの子種汁が最高ですけど義息子たちのもこれがなかなか。


で、ただいまその祝福されたものをコーネリアはしゃぶってます。三本纏めて。
大神殿の中庭で、芝生の上へ女の子座りした軍服姿の美女がゴエモンとハラキズとケサガケのち○こを同時に舐めて吸い付い
ているのです。
なお、感覚を口に集中させるという理由でコーネリアは目隠しされたうえに両手を後ろ手に縛られてたりします。

なにやらSMショウっぽくなりましたがこれもまた花嫁修業。彼女と夫との絆を確かめる為なのですよ。名目上は。
そろそろ頃合いかな?

「決まりましたか?」

私の声にコーネリアは小さく頷いて、先端を咥えていた三本のち○こをはなしそのうちの一本をあらためて咥えこみました。
他の二本より太めで捻りがゆるい、逞しい印象のあるドリルち○こです。

「ファイナルアンサー?」

もう一度尋ねて、再び頷くコーネリアの目隠しを取りますと彼女がくわえ込んでいる肉は当然ながら愛しい夫のものでして。

「グヒー♪」

この結果は分かりきっていたにしても嬉しそうなゴエモンに頭を撫で撫でされながら、調教中の捕虜女将校風な新妻は夫に奉
仕を続けるのでした。


この「ち○こ当てクイズ」は最近はまっているパーティゲームでして、毎晩というか殆どの夜はやっています。
夫たちがいるときは夫婦四人で。夫達が全員でかけて帰ってこない日は、昼間限定で義息子たちのち○こをしゃぶってます。
いやその、別に夜にしゃぶったって構わないんですけどね。自粛しているだけですし。
ただそうするとそのまま一線を越えてしまいそうな気がしまして。

夫たちからは「我慢できなくなったら好きにして良い」というような事を言われていますし、この島の文化的には留守番中の
新妻が自分を想いつつ一人で自慰しているよりも下っ端に跨って腰を振っている方が望ましいそうですし。
留守中の妻を任せられるというか、寂しい思いを慰めさせられる下っ端を持てるのも幹部オークの甲斐性らしいです。

実際の話、夫達も父親が留守のときは母親達を慰めていたそうですからね。実も義理も関係なく。
触手くん情報によると、胎教のためには数日おきぐらいにオークち○こ挿入と膣内射精をして貰うべきなのだとか。

ひょっとしたら妊娠期間中に夫婦の性交渉を頻繁かつ濃密に行うためなのかもしれません。
義息子たちのち○こを弄ったりしゃぶったりして股を濡らした妊婦新妻を、私の夫達はこれでもかと可愛がってくれました。
孕んだりしない、遊びみたいな関係であっても嫉妬が燃え上がるのが男心。
共同妻とか母子間の性教育とかの因習は、オークなりの合理性があるのでしょう。
触手くんの経験論的に見て、妊娠期間中の性交渉の頻度×密度が産まれてくる子供の素質に影響することは確かな訳ですし。

妊婦を可愛がれば可愛がるほど丈夫な子供が産まれる。オークって本当にエロモンスターですね。


薄化粧した頬を窪ませてゴエモンのものに吸い付いたり唇でしごいたりしているコーネリアの、縛り上げられた手を解きます。
うーん、解かれたことにも気付かないくらい集中してますね。これは一度飲ましてあげないと駄目かな。

コーネリアにち○こ汁飲ませるということはゴエモンが一回出すという事になります。
次の審査に公平を期すためには条件を揃えないといけません。つまりハラキズとケサガケにも射精して貰うのです。
ほら、溜まっているち○こと一発抜いたち○こだと、張りとか感度とか勢いとか違うじゃありませんか。

そんな訳で大神殿の中庭の東屋では、オルロフ王国の女将校と幼女水兵が仲良く並んで正座して、開けたお口にオークたちの
ち○こを突っ込まれ注がれる精液を飲み干すのでした。




えっと、ですね。
個人的な趣味もありますけどというかそっちが主ですけど、一応建設的(前向き)な意味もあるのですよ。これは。

海軍将校の服装はコーネリアに「弱くて愚かな、惨めな自分」を再認識させる効果があります。
で、その格好で彼女の夫であるゴエモンや仲間たちのオークち○こと戯れることで、夫の愛情と愛される幸福を再確認させる
効果があるわけです。


開き直ってエロモンスターたちの愛玩妻としての人生を楽しむことに決めた身ですが、問題が一つありまして。
夫達とだと、コスプレえっちができないのです。気持ちよすぎて演技とか機微とか全部ふっとんでしまいます。

たとえばお風呂でグェスを相手に「泡姫ごっこ」とかやってみたのですが‥‥。

一仕事終えて汗を流しているグェスの前に、手縫いの透明生地製湯帷子姿で進み出て、三つ指ついて平伏したまでは良かった
のですよ。「おかえりなさいませご主人様。お背中を流させていただきます」とメイド喫茶ならぬメイド風呂みたいな台詞も
噛まずに言えましたし。

でも、顔を上げて立ち上がろうとしたところでグェスの姿を見ただけで腰が抜けてしまいまして。
全裸な旦那様の股間からそそり立つご立派さまにあてられて、立ち上がることができませんでした。
あんなもの見せつけられてしまえば、文化の香りとか機微とかどうでも良くなってしまいます。
雌として、生き物としての欲求を満たす方を優先してしまうのです。

なので私はへたりこんだまま股を開いて湯帷子の裾をまくりあげ、夫にち○ことオーク汁をおねだりしてしまったのです。


他の夫達、ドスやウォスとでも同じようなことになってしまいます。
というかこの身体誘惑に弱すぎです。お尻を軽くなで上げられるだけで逝ってしまうこともあるぐらいに。

オークとの性交を体験すると、こういった快楽過敏症になってしまうこともありますがそう長くは続きません。
子供を産むと治まるというか、快楽への耐性ができて簡単には気絶したりしなくなるのです。
快楽を知ることで快楽への抵抗力がつくようですね。赤ん坊オークを産むことは最上級の快感ですし。

そういえば私も、初夜の頃と比べると最近は随分と余裕ができて、交尾を楽しめてる気がします。


そうです。ただいまギュー・グェスと本番えっちの真っ最中です。四つん這いの姿勢でおま○こにねじこまれてます。

大神殿から突発的に与えられた使命を大急ぎで果たして帰ってきた夫は、女二人のチームで対三人の下っ端オークとえっちな
パーティゲームをしていた私を担ぎ上げて東屋のすぐ前に下ろし、スカートをめくって下着を脱がせました。
ギュー・グェスはいつでも私の気持ちを解ってくれます。
本気のえっちがしたい。夫の逞しいもので貫かれて喘がされたいという欲望を解って、望みを叶えてくれるのです。


ああ、私って本当にオーク妻なんだ。ギュー・グェスの肉奴隷なんだ。
だって真っ昼間の中庭で、芝生の上で十何倍も重たいケダモノに犯されて大喜びしてる。
良い。すごく良い。露出えっち最高です!

私の中にグェスがいます。毛も生えていない子供ま○このなかに、はちきれんばかりの生命力に満ちた雄が入ってる。
入って、動いて、震えて、ひくついて、ひっかいて。愛情と欲望を叩き付けてくれています。

もしグェスがちょっとだけ力をこめたら、いいえ気を抜いてち○この大きさを戻してしまっただけで私の身体は裂けて潰れて
しまうでしょう。
でも心配ありません。グェスがそんなへまをする筈はない。
親猫にくわえられ運ばれる子猫が噛み殺される心配などしないように、オークに抱かれる女はその手の心配をしないのです。
本能で理解できてしまう。いえさせられてしまう。

圧倒的、いえ絶対的な強者に全てを委ねて包まれる安堵感。
ファザコンこじらせて父親の寝床へ忍び込んで襲ったり襲わせたりするエロ漫画ヒロインの気持ちが少しだけ解りますね。
夫達は若くて元気だから父子相姦ものよりむしろ隣のお姉さん新妻ものかも。
強くてやさしくてえっちで一途で経験豊富な年下の恋人に、好きなようにされてしまうのも良いものです。


私は女神エスティアの神官(プリーテス)ですが、女神様のお言葉には疑問もあります。
イノシシハーフオークのドリル型やコルク抜き型のち○こも良いですけど、ヒューハーフオークのバイブ型ち○この方が断然
上ですよ舐めたりしゃぶったりする分にはともかく、突っ込まれる身としては。
いえその、まだおま○こで味見はしてませんから断言するには早いかもしれませんけど。でもそうとしか思えません。

この奥までどすんと来る圧迫感と充実感がもう溜まらない。
いつものように優しく抱いて貰うのも最高ですが、こんな風に強引に犯してくれるグェスも素敵です。
もう絶対に勝てない。身も心もオークち○こに征服されてしまってます。嫁入りしてから百回以上おなかに注がれたグェスの
子種入り体液が私を作り替えてしまいました。

あ 来るっ。最高の中の最高が、新婚オーク妻が味わえる一番のご褒美が来ます。

「グヒッグヒッ」
「膣(なか)! なかがいいっ 膣(なか)出ししてぇぇっ」


いつもどおりのやり取りの後に下腹のなかで爆発する、命を注がれる快感と充実感。
解る。お腹のなかの子供に、まだ魚みたいな姿をしている筈の赤ちゃんに父親の命が充填されていくのが解ります。
私とグェスの赤ちゃんが、母親ごと可愛がられてるんです。


こうしてこの日の昼は、グェスと1時間19分38秒にわたって露天えっちを楽しみました。
なぜそんな細かい時間がわかるのか、ですか?
コーネリアに頼んで、私とグェスの絡みを記録用水晶球に保存して貰ったていたからです。
今日の記録、後背位のまま膣出しされて逝ってしまう新妻プリーテスも巣のみんなの教材として役だってくれるでしょう。





[38600] 45
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/01/25 12:41





 ☆88日め3、見取り稽古は大事です☆



午後はソーニャさんの指導を受けつつ縫い物をしています。

いえね、夫達と迷宮(ダンジョン)へ入った話をしたら、鎧も着ずに冒険するのは無謀だと窘められまして。
というか叱られた。不用心すぎると。

捕虜になって装備を剥がされたならともかく、そうでない段階から紙装甲なのは問題だそうです。
で、素人が着るなら服系の防具が良いだろうということで、防具制作に挑戦しています。手作りの。

こういうことも冒険者の嗜みなのだそうで、弟子としては師匠に従うのみです。
今は茶釜要塞から持ち出した水兵服に蜘蛛の糸を縫い込んで強化したものを着ていますが、これの上位互換的なアイテムを作
ろうとしているのですよ。


まず、ミスリル塊や魔法合金の板などを鋳造機で加工して金属繊維の布地を作ります。
夫達が迷宮から拾ってきたものの一部を、旅の間も持ち歩いているのです。投げ槍とか釣り針とかその場で作る必要があるか
もしれませんからね。

隠すようなことでもありませんのでソーニャさんには鋳造機のことを話してあります。
というか現物がここにあるし稼働するところ見せてるし。
鋳造機を持ち運べば硬貨五千枚分の荷物が余計に動かせるのです。少しでも多くのお布施や付け届けを大神殿へ運びたい私と
しては持ってこない理由がありません。

さて、布地といってもこれは裁断や縫製の必要がない、最初から水兵服の部品として出来上がっているものです。
魔法の鋳造機はもう一つ融通が利かない代物でして、一度に一個の物体しか作れません。
和包丁のような鋼と軟鉄が噛み合ったものは 一つ のアイテムとして作れますが、刀身と目釘を同時には作れないのです。
鍔でも同様。なので矢は鏃と軸と羽根をいっぺんに一続きの総金属製物品として作っています。

水兵服の襟などは違う素材で複数の部品を作って縫い合わせることで、模様や線を出すことにしました。
金属繊維で縞ぱんつ作るには、無地のぱんつに色つき糸で刺繍するか色つきの生地を貼り付ける必要がある訳で。
いや待てよ? 臈纈(ろうけつ)染めの要領でいけば部分染めできるかもしれません。あとで試してみましょう。
樹脂と蜜蝋と染料でなんとかなるかな?


各々の布地パーツができました。ミスリルの白、ブルーメタルの青、アダマンタイトの黒で彩りもまずまず。
これを耐火処理した巨大蜘蛛の糸を使って縫い合わせます。
毎日ごはんをあげている馴染みの巨大蜘蛛はどんどん大きくなってきてまして、最近では私が近づくと向こうから粘らない糸
を出してくれるようになりました。下っ端達だけだと無視されるし、巣に引っかかったら容赦なく巻かれるけど。

巨大蜘蛛の糸にも品種や個体によってバラツキがありまして、この糸はかなり高品質なので交易品として人気が出ています。

で、縫い合わせて出来あがった特殊素材水兵服の裏地にミッシェル山神殿で売っている護符を縫いつけ、さらに魔法の鎖かた
びらを縫いつけます。この前に夫達が迷宮から拾ってきた軽めのやつです。
この鎖かたびらはゲーム風に言えばハイスチール製のライト・チェインメイルですね。基本の耐久性向上効果に加え、防御力
強化と低威力のダメージ無効化そして軽量化の魔法効果がついています。

今縫っているハンドメイド防具には残念ながら着る者の体格・体型に合わせてくれる調節機能はありません。
まあ、この島を含む大内海世界では自動調節機能付きの武器や防具は少数派のようですが。
以前使っていた魔法の棍棒「ナノレドの棒きれ」も女子供またはコボルド向けの大きさでしたし。

軽いといってもそれは金属鎧としてはの話なので、縫い込む前に鎖かたびらはソーニャさん提供の魔法棒(ワンド)を使い更に
軽量化しています。何度も軽量化を重ね掛けしたので、地球の仮装行列で騎士役が着ている銀メッキした毛糸のセーター並に
軽くなりました。
「軽量化」の魔法は重ね掛けすることでより対象が軽くなりますが、同時に防御力も落ちてしまいます。
なので余りにも軽くし過ぎると防具としての意味が薄れてしまうのですが、今回は軽さ優先なので致し方ありません。

これに酸や温度への処置を加え、ソーニャさんお古の刺し子布鎧(これも魔法の品)と一緒にエスティア神の祭壇にお供えして
聖別してから重ね着すれば強化型ライト・チェインメイル完成です。



【レイの鎖かたびら(レイズ・ライトチェインメイル)】
・水兵服を重ねた鎖鎧だ
・それは鋼でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは胴体を守る防具として使える
・それは回避力を上げ、防御力を上げる
・それは魔法回避力を上げ、魔法防御力を上げる
・それは稀に負うはずの傷を無効化する
・それは亡者からの被害を低減する(※※)
・それは照明効果を上げる(※)
・それは感覚を3上げる
・それは魅力を2上げる
※あなたは使用条件を満たしている

さっそく鑑定してみるとこんな感じでした。

防御力は金属鎧の最低水準ですが重さは布鎧なみ、音も殆ど立ちません。二重構造で外皮が肌に密着してませんので盗賊向け
ではありませんが、中衛の僧侶とか前衛の剣士が使うには良さそうです。
うむ、一作目としては充分でしょう。素材と教官と制作道具が良かったからで実力じゃないけど。



ソーニャさんに習っているこれは、裁縫によるアイテム合成技法です。
酒の醸造や蒸留はできなくても、水割りやカクテルを作れる人がいるように錬金術そのものは使えなくても錬金術的な加工は
できる場合があります。

迷宮などて切羽詰まった状況に陥った冒険者のなかには、治療用霊薬を薄めたり混ぜたり割ったりして飲む人もいるそうです。
もちろん大概ろくなことになりません。
ソーニャさんも昔それで酷い目にあった事が‥‥いえ結果的には大成功だった訳ですが。


駆けだし冒険者が、古着に丈夫な紐や鎖や小札を縫い込んで鎧代わりにするのは良くあることでして。
一端の冒険者が魔法の鎖かたびらの上に普通の板金胸当てなどを付けて、魔法の板金鎧に仕立てることも珍しくありません。
熟練の冒険者なら、更にその上に魔法的効果を持つ護符や装身具を付け加えてアイテムを強化することもあるのです。

とまあそんなわけで、細工や裁縫や大工仕事などでもアイテムの改造や合成ができることはできるのです。盗賊じゃなくても
忍び足や壁登りや鍵開けを一応試みることができるように。
本職に任せた方が早いし確実だし仕事の質も高いですけどね。才能がないとアイテムを無駄にしてしまうだけですし。

でも単独行動することが多かったソーニャさんにとっては必須技能です。
人類の文明圏から長時間離れることも珍しくありませんでしたからね彼女は。
本職には到底及ばないにしても、魔法の品を改造できるアイテム加工技術は役に立つ希少技能。是非とも身に付けたいです。

布だけでなく薬や武器類も調合の応用で、ある程度までいじれるようになるそうです。
裁縫から学んでいるのは危険度が比較的低いからですね。合成時の針目が一つずれていたせいで、おぱんつ大爆発とかまずあ
りえませんし。


A2、やってやれないことはありませんよ?
Q2、ほほう? 参考までに一つご教授お願いします。

エスティア様の解説によると、薬の調合や冶金に比べればまだマシなだけで服や小物系のアイテムを作る際に失敗すると予期
せぬ効果が出ることもあるそうです。

その予想外の現象を理解し意図的に発現できるようになれば、錬金術師の誕生となる訳で。
なんか、作れそうな気がしてきましたよ。普段はなんともないけど条件が揃うと自動で縫い目が弾け飛ぶおぱんつとか。
いずれ暇なときに研究してみましょう。



上着ができたので、次はスカートを作りたいのですが少々問題が。
鎖かたびらの鎖やリングメイルみたいな金属環を縫い込むと、スカートのひらひら感がなくなってしまうじゃないですか。
丈夫で軽くて軟らかい素材なら幾つもありますがその上で刃物を通さず衝撃を吸収するとなると‥‥。

致し方なし。第一作ですから無理に完璧を狙わず妥協します。ここは複合装甲で決めよう。

表層は魔法合金繊維で良いとして、中に何を挟みましょうか。
軽くて火炎耐性の付く天布かそれとも丈夫で魔法耐性の付く魔布か‥‥魔布にしますか。

天使系や悪魔系などの聖または魔の属性が強いモンスターを倒すと、稀に特別な布地が手に入ります。
大母様が着ている透明寝間着風な衣装もソーニャさんの剣闘士衣装もこれらの特殊布製でして、高く売れる上に素材としても
重宝する希少アイテムな魔布ですが、教材として渡されたので遠慮なく使ってます。


「できたわよ」

二重になる魔法合金繊維の奥側へ魔法陣を刺繍していたソーニャさんが、針と糸をしまって青い布地を拡げました。
布地に刺繍された魔法陣には対刃対衝撃用の防御力場発生装置が組み込まれていて、戦いや事故などで危機が迫ったとき着用
者の闘気に反応して防壁を展開します。なので不意打ちに弱いのですが万能の防具などないので致し方なし。

この魔法陣はソーニャさんの集めた図案集のなかから適当に選ばれたものです。
もちろん い い か げ ん って意味の適当ではなく、良い塩梅の意味な適当ですよ。

魔法使い(ソーサレス)でもあるソーニャさんは呪法や結界作成にも詳しく、簡単な魔法陣(魔法装置)なら作れてしまうのです。
ユーピックの立方体の助けを借りれば、ですが。

【ユーピックの立方体】は、その名の通り一辺が10センチ弱の立方体をしてまして、各面が細かく区切られてそのマス一つ
一つに文字や記号が彫り込まれています。
ぶっちゃけると各面の色が同じで回転しないルーピッ○・キューブにパソコンキーボードを混ぜたような感じの代物ですね。
表示画面は使用者の脳内ですが。

演算魔術師(ウイザード)が一人前になるころにはまず持っておくべきとされるアイテムで、電卓やワープロや図表制作ソフト
のように使うアイテムです。ソーサラーやプリーストでも使えますけどね。
ソーニャさんはこの立方体に記憶させておいた図案を元に、魔法陣を刺繍した訳です。
この他にも彼女は私が持っているのより高性能な「魔法の指ぬき」などの裁縫系アイテムを揃えています。流石は熟練者。

【ユーピックの立方体】の希少度を地球で喩えると高度成長期前の農業トラクターとかかな? 
上手く使いこなせば仕事や作業の効率が大きく上がるアイテムです。
グェスも、子供の頃に巣にいた魔術師な奥さんが同じものを使っているところを見たことがあるとか。


あ、グェスと下っ端たちは浜辺で鍛錬しています。日が暮れる頃にはお土産持って帰ってくるでしょう。
コーネリアは神殿の雑用に駆り出されました。



夕方近くまでかけて、上着(胴鎧)とスカート(腰当て)制作だけでなく首飾り(喉輪)も作りました。
改造の方が正しいかな?
以前から身に付けていた耐火能力付きの首飾りに、ソーニャさんが貯蔵していた装備品のなかから選んだ複数の護符(タリス
マン)を組み合わせたのです。

組み込んだ機能は落下・転倒時の被害極減、罠と飛び道具の回避向上、窒息状態の無効化。

「これで息継ぎの心配なしに色々できるわね」

剣の方と同じくらい経験値に差がある師匠には、何のために選んだ合成素材なのか丸解りでして。
ええそうです。噎せたり窒息したりする心配なしにオークとえっちなことするための改造なのです。だって、人間は咽の構造
上飲み食いしながら呼吸できませんからね。

これで下だけじゃなくて上のお口も、みんなに輪姦(まわ)して貰えます。7Pとか8Pとか、どんな感じなのでしょうか。
我ながらどんどんオークの流儀に慣らされてるなー。一月前には貞操とかなんとか言ってたこの口が、今では夫や義息子たち
に共用されるのを心待ちにしています。
まあ、それをいうと三月前は逃げる気満々だった訳ですが。


一対一でも楽しいですけど、一対多や多対多のえっちの方が更に楽しいのがオーク妻というか肉奴隷です。
いやこれが、実際に触れ合ってみるとえらく嬉しいのですよ。
男女混合というかオークと人間雌がそれぞれ複数な乱交プレイって。元からコーネリアには好意を抱いてましたけど、一緒に
同じち○こを舐め回した仲となるとなんかこう、実の姉妹でもなかなかこうはいかないぐらい仲良くなれました。
何なのでしょうね、コレ? 間接的なレズビアンとも違うようですし。




 ☆88日め4、これも見取り稽古に入るのかな?☆



夜になりました。

「へへっ 上と違ってこっちの口はずいぶん素直でねぇか、指がふやけそうだべ」
「止めなさいっ こ、これ以上の無礼は‥‥あぁっ」

今いる場所は神殿奥の地上区域。
普通は巫女と巫女見習いと調教中の女達しか入れない場所なのですが、今夜は特例として映写助手扱いで入ってます。
映写手はコーネリアです。彼女は西方系の記録&再生アイテムの扱いに慣れていますので。

「三人も産んだくせにええ締まりしとる、貴族の雌もいろいろこましてみたが奥様はかくべつだべや」
「わ、私はエマイゼル侯爵家の三女で‥‥お、お前ごときが触れてよ‥‥いぃ!」
「嫌なら股閉じればええでねえか。毎日毎日こんな豚くせえ所まで来て、オラの指でよがってるくせに何言うとる」

音声付きで壁一面に再生されている動画は、昨日島にやってきた貴婦人とその夫の馴れ初めを記録したものですね。まだ前振
り段階ですが。

「へへっ 奥様、正直にいうだよ。オラのいちもつ触ってどう思うだ?」
「‥‥っう」
「いわねえともう触らせてやらねえぞ」
「すごく、大きい‥‥わ」
「口の利き方がなってねえだな」
「ぁあっ とても逞しくて立派です! だからもっと触らせて! 雄を感じさせて!」

画面では30歳前後の貴婦人が、下賤のオーラをぷんぷんと放っている飼育係(40代後半?)に玩ばれています。
撮影現場は地下室っぽい密室ですね。

この映像は飼育係が脅迫材料として水晶球に記録したものでして。
買収したはずの飼育係につけあがられて、奥様は金銭だけでなく身体も要求されている訳です。

オークフェロモンを嗅いで欲情した奥様が一人寝室で自慰に耽っている姿では、撮っても脅迫できません。
脅迫するためには具体的で直接的な不祥事でないと。

貴婦人が下賤な使用人の腰に両脚を絡めて填め込んだ姿勢で、膣(なか)出しをおねだりしている現場とかね。「繋がっている
間だけは貴男の妻です」とか「また女を産みますから孕ませてくださいませ」とか、嘘でもプレイ中の演技として台詞として
言わせてしまえば想う壷。「愛しているのは貴男だけです、今までもこれからも貴男の子だけを孕みます」とかまで言わせれ
ば嘘だと解っていても他のどんな証拠があっても離縁幽閉ものの醜聞沙汰‥‥その火種になりかねません。

奥様が大貴族の嗜みとして肌身離さない護符や指輪は、ちゃちな媚薬など通用させない対毒性能を発揮します。
しかしオークフェロモンの効果は絶大にして強烈。
雨傘をさして滝の下へ入るようなもので、貴婦人だろうと花売り娘だろうと下穿きを濡らさずに済む訳がないのです。


狭い通気口越しではなく、檻漉しでオークフェロモンを直噴射されて理性はとろけきってしまいました。
下衆であっても飼育係は人間の雄。雌の本能に支配されてしまった貴婦人はその手をふりほどけないのです。

そのままでいけば彼女は貞操を汚され玩ばれて、その後もずるずると関係を続けていたでしょう。
オルロフ王国におけるクーデターの結果次第では、この飼育係の子を夫の子として産んでしまう9人目の人妻になっていたか
もしれません。


なぜならなかったかといえば邪魔が入ったからです。挿入直前に檻の中から囓りかけの骨をぶつけられたのですよ。

「この豚野郎がっ おめぇのかわりなんぞ幾らでもおること忘れたかぁ!?」

飼育係が、口から泡を吹きつつオークを鞭打ってます。家畜を躾なおすために短い革鞭で打ちまくりです。
しかし打たれている側は怯んでいません。鞭を受けて顔や肩などの皮膚が敗れ出血していますが、堂々と立って飼育係を睨み
つけています。
元々打撃力が低い、威嚇用の鞭なこともあって鉄格子の隙間から殴りつけてもたいした威力にはならないのですよ。


編集前に聞いたオーク本人の話では、食べ残しのおやつを投げつける直前までそんなことをする気はなかったそうです。
家畜としての生き方と地下室以外の世界を知りませんでしたし、身体が成長して飼育係では扱いづらくなれば屠殺されること
すら「そういうものだ」と受け入れていたのですから。

ではなぜ反抗したかといえば、目があってしまったから。
そのとき既に彼に恋し焦がれ雄としてその愛を注いで欲しがっていた貴婦人‥‥人間雌の言葉でない訴えを、助けを求める心
の声を聴いてしまったからです。

飼育係には慢心がありました。彼は飼いオークをもっと早く、せめて一月前に処分しておくべきだったのです。
代わりとなる次のオークがいるのなら特に。
産まれてから一年以上過ぎ、大人の体格になったオークにちゃちな鞭は効きません。殴られるたびに死にかけていた乳幼児
の頃とは違うのです。
今は殴られるごとに疑問が湧いてきます。なぜ自分は、こんな弱く臆病な生き物を恐れ従っていたのだろう、と。

鞭や棒ではなく槍や石弓が要ると気付いて踵を返した飼育係の襟首を、オークの手が掴んで引き戻しました。
大人のオークを閉じこめておくには細すぎる鉄格子をへし曲げて、檻を破った手がつい数分前までの飼い主を捻り殺します。
戦闘職でないヒュー族の首を素手で引き抜くぐらい、大人になったオークには容易いことです。


しかしそれからが童貞の悲しさ。目の前にいる、良い匂いがする生き物(人間雌)が味方であり、救いを求めていることは本能
で解りますが何をすれば良いのかが解りません。
血塗れのまま困惑する全裸オークを、貴婦人は優しく抱き寄せました。生まれて初めて雌に触れた童貞オークは、豊かな双丘
に顔を埋めその柔らかさに陶酔してしまいます。


ここまでが導入でこれからが本番。
以後は貴婦人が童貞オークを手取り足取り導いて、女の扱い方を教えていきます。

諸肌脱いでさらけだした乳房を持ち上げ、その先端を自分で吸ってみせてから唾液まみれの乳首をオークの口に含ませて吸わせたりとか、ね。
彼女が仮初めの夫に仕込まれた閨の技は、経験豊富な巫女達や知識だけはある私から見れば拙い。
ですがそれだけに講習生達には受け入れやすいようです。彼女達にとって突飛すぎないからでしょう。


壁に映写されている動画を食い入るようにして見ているのは、十代後半から二十歳ぐらいまでの三人娘。
この三人は二ヶ月前に洗脳されていない状態でやってきたあの貴族令嬢たち。西方列強の一つパッハリア帝国の植民地からさ
らわれてきた三姉妹です。

ほら、初めての旅のとき浜辺で一人あたり80万ゴールドで買い取られたあの人達ですよ。

本人達の希望もあって剣闘士育成過程に入っていた三姉妹でしたが、訓練中に揃ってオークフェロモンへの耐性が弱い体質だ
と判明しまして。
ええ、うっかり訓練施設へ迷い込んで接触してしまった生後半年の子供オークを取り囲んで「お医者さんごっこ」をしてしま
うぐらい弱かったのですよ。

訓練教官の巫女が見つけたときには、涙目状態の子供オークは腰ミノを脱がされ三人がかりの同時攻撃で強制猥褻行為を強い
られていたのです。
で、その場で剣闘士候補失格となった三姉妹は奴隷妻候補に転向し、半月ほどの集中教育ですっかり異種雄好きになりました。
あと何ヶ月かの調教の後に三人セットで満月の夜に開かれる品評会(競り市)へ出されるとか。


金髪縦ロールロングと黒髪ストレートロングの妹たちは髪が長いまま、長女の銀髪娘は後で丸く結い上げてます。
服装は細かいフリルの付いた半透明生地で、長女が紫、次女が赤、三女が黒と色違いですが意匠は揃いのビスチェ風胴着。
こちらも半透明な色違い長靴下をやや色の薄い半透明のガーターで吊っています。

布の下の中身がまた良いものでして。
胸一つ取っても、見苦しくない程度に巨乳で形も良し。はち切れそうな丸みがたまりません。
小さめな乳輪は可憐な桜色。そこから上向きに突き出た乳首が半透明の生地を押し上げて存在感を主張しています。


うわーやべー色っぺー。三人とも女の魅力が溢れかえってる。
半透明布地だからきれいに刈り込まれた陰毛とかまで透けて見えちゃってまあ、無いはずの自前ち○こが着席してくれない気
分です。

あの種類の色気は出せませんねー私じゃあ。

それにしても良い仕事してますね大神殿。二ヶ月前とは見違えてしまうほどに可愛くなってる。女の私でも孕ませたくなるぐ
らいです。
この三姉妹、温泉洞窟で買い取りできませんかねえ。後でグェスと相談しましょう。


雌奴隷候補達は、頬を染め目を潤ませて動画に見入っています。

初めて本物の雄に触れ、奉仕し、身を委ねる幸せに涙する貴婦人に感情移入しているのですね。
トカゲ人の捕虜にならなければ彼女達も「オークに触れたことがない」という意味で同じ立場になっていた訳ですし。



画面の中では、二回の暴発を含むあれやこれやを乗り越えて二匹の獣はめでたく結ばれました。
元はドレスだったボロ布を脱ぎすて全裸になった貴婦人は、雌犬のような後背位で童貞オークを受け入れて濃厚子種を胎内に
直接注がれています。
挿入から数往復で射精が始まり、それから5分以上のあいだ気絶すら許されずに達し続けていた貴婦人はこの一度ですっかり
オークに填り込んでしまうのです。

幸せいっぱいなアヘ顔の貴婦人を、オークは今度は膝の上に抱きかかえて対面坐位に持ち込みました。下半身で繋がったまま
二人が貪るように唇を合わせ舌を絡めあう所で、西方語の字幕が入って動画は終了します。


もちろん実際にはこの後も延長戦が繰り広げられるのですが、長くなるのでここで切っています。
というか私の判断で切りました。
続編というか後日談的な動画、昼下がりの豚小屋で本物の雌豚たちが入っている柵の隣で乗馬服の袴と下着をずりおろした姿
の令嬢姉妹が柵の横棒にしがみつき、尻をつきあげて「おとうさま」にち○こをおねだりする場面とかも水晶球に入っていま
すが、編集作業がおいつきませんので作品化はまだです。


「素敵な教材を見せて頂きまして、ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」

興奮と感動の余韻を残しつつ感謝の言葉を述る三姉妹に、私もお辞儀で返します。

「お粗末様でした。おつき合いいただき感謝します」


でもコーネリアは三姉妹に聞こえないよう小声で愚痴ってますね。

「本来の用途と違うんだけどな、こういうのは」

奴隷候補や巫女達には好評だったこの動画ですが、映写技師のコーネリアはやや不満な様子。私の編集方針は細部を省略しす
ぎていて資料や教材に使うには適していないのだとか。
私としては気分を盛り上げるものとして、娯楽性を追求してみたのですがね。より実践的な教習には別の動画を作ればよいわ
けですし。

西方世界には映像資料はあっても娯楽映画はないようです。その方面の需要は演劇とか旅芸人とかが満たしていて、人々を楽
しませているのでしょう。


いえね、大母様に会ったとき話の流れで性教育に映像媒体を使っていることを話したら、昨日の亡命者たちが持ち込んだ水晶
球の使い方が難しくて困っていると聞きまして。
機器の扱いに慣れているコーネリアと映像編集の経験がある私がオルロフ仕様の水晶球を弄っているうちにできあがったのが
さっき終わったエロ動画なのです。



「さあ皆さん、私たちも素晴らしいご主人様と出会えるよう、明日のご主人様となる方々を慈しみましょう」
「「「「「「はい、お姉さま!」」」」」

巫女の音頭に、三人娘と二人の巫女見習いが笑顔で答えます。朗らかな、そして僅かに媚びを含んだ満面の笑顔で。

「主よ、遠からず貴方の息子の妻となる者が、一時のあいだ貴方の息子の母代わりとなる力をお授けください」

自分を含めた六人の若い女に、巫女は範囲化した「豊乳(ミルクタンク)」の魔法をかけました。
これは2レベルのプリーテス呪文でして数時間から二十数時間、哺乳類に母乳を分泌させるのです。
つまりおっぱいが出るようになる訳で。既に出る体質の者には量が追加されるようになり、栄養的にも万全になります。



それから六人は下っ端達の居住区に行きまして、母乳が足りてない赤ん坊オークやまだまだおっぱいが恋しい子供オークや巫
女乳の味が忘れられない少年オークたちに乳房を吸わせ母乳を与えています。
三姉妹&巫女&巫女見習いたちの幸せそうな様子と、乳幼児オークの可愛らしさには見学に付いていった私とコーネリアも思
わず溜息が出てしまいました。

良いなー羨ましいなー 授乳できるようになる日が今から楽しみです。

呪文の効果範囲を拡大してますが威力増大系の強化はしてないですし、巫女の技量からみて出る母乳の分量は女達一人につき
人間の赤ん坊換算で10人ちょっとぐらいかな? 飲める少年オークはほんの僅かでしょう。
こういうときに同族の赤ん坊を優先するのがオーク族ですし。

なるほど。
ここで要領よく振る舞いおっぱいにありつけた為にどうしても嫁さんが欲しくなってセルフ壺毒な生き残り戦に出る下っ端オ
ークもいれば、引っ込み思案な恥ずかしがり屋さんなので遠くから覗くのが精いっぱいで女の肌の感触も知らなかったうちの
下っ端たちみたいなのもいるのか。


効果時間中でも出る限界まで吸われちゃうとそれ以上は出ないのですよこの呪文は。私の場合は出なくなればまたかけ直せば
すむ話ですが。

ええ、遅くとも出産する前にはプリーテスレベル2に上がれそうなので、この呪文が使えるようになったら夫達や義息子たち
に母乳を飲ませてあげようと思ってます。もう好きなだけ。
いっぱいいっぱいお乳を出すために、またエスティア様に夢の中で鍛えてもらいましょう。


母・妻・娘が女の三相であるなら、男の三相は父・夫・息子の筈。
優しい父のように包んでくれるグェスも頼もしい夫として寄り添うグェスも素敵ですが、愛しい息子として抱きしめるグェス
も‥‥想像しただけでにやけてきます。
出るおっぱいを我が子に吸わせながら、次の子を授けて貰うために夫の上で腰を振るのがオーク妻にとって何よりの楽しみだ
という意見もありましたねー眼鏡の奥さんとか。

オークに拒否感がある人間やエルフの雌に、この呪文を使って「子供に乳をあげるだけ、他は何もしなくて良いから」と乳母
役をやらせ続けて快楽と母性愛に目覚めさせてしまうのがオーク島式調教の定番だそうで。
実際の話、1ヶ月毎日オークにおっぱい吸われ続けて堕ちない女はそうそういませんからね。乳が出ようが出まいが。

私なんかウォスにちょっと吸われただけで陥落しそうになりましたし。もしあれが羅刹場のことでなければ、たとえば巣でお
留守番中に二人きりで添い寝して寝ぼけたウォスに吸われていたのだったら、今頃彼の子がお腹にいるはずです。
絶対我慢できない。逆レイプする勢いで迫っていたでしょう。


あ、そういや母乳が出るようになったら一番にウォスに飲ませてあげると約束したような記憶があるようなないような。
この呪文があれば妊娠初期でも臨月でもしていなくても問題なく授乳できますからね。授乳期間なら自前のも出るし。

きゅん と残る夫達の顔を思い出しただけで胸が高鳴って切なくなってきました。
なんだか孕む前より今の方が夫達を好きになっている気がします。
触れ合うたびに、孕んで産むたびに夫が愛しくなるのがオーク妻なのですね。知ってたけど理解してませんでした。





 ☆89日め、夫婦もいろいろ☆



前世の記憶ですが、「健全な夫婦関係には適度な緊張関係が必要だ」という話を聞いたことがあります。
妻だ夫だと肩書きや立場に居座ると堕落しますからねー。
そういう観点でみれば、奴隷妻ごっこができる女王様状態な今の生活はそう悪くない結婚生活なのかも。
いえ、まだ蜜月が終わるかどうかの時期に関係が冷めてきたりしたら大問題ですけど。
新婚さんな私たちの夫婦関係は良好です。だと思うんですが。


今もグェスは夜が明けたばかりの市場で、冷やかしというか見せびらかしをしています。
見せびらかされているのは私。
列車の吊り輪というか乗馬用の鐙みたいな金属輪がグェスの腰ミノからつり下げられておりまして、私の両脚はその輪っかに
通して踏ん張れるようにしてあります。
そして両腕には鎖付きの腕輪がはめられ、鎖はグェスの首の上にかけられています。その姿で繋がったまま歩いてます。

ええ、今の私はグェスの身体につり下げられた状態で貫かれているのです。
駅弁スタイルというか あ た ま が フ ッ ト ー し そ う な体位を、女の子が表裏逆にした姿ですね。

これは東方世界のオーク族が、略奪戦争の凱旋パレードで一番の捕虜を見せびらかすためにする姿なのだそうで。
パレードが始まる頃にはくっ殺状態な姫騎士も、終わる頃には従順な愛奴になり果てるそうですが無理もありません。
和姦だから屈辱や無力感とは無縁な私でもおかしくなりそうなのですから、狭く独善的な世界観に凝り固まっていた人間雌が
オークとそのち○この素晴らしさを知ってしまえば元には戻れないでしょう。

恥ずかしい。気持ちいい。幸せ。
鎖で吊されると同時に肉杭で串刺しにされ、磔刑のように晒し者になるのは最高の気分です。お気に入りの虎毛皮服の横や裾
から手を差し入れられて、ささやかな膨らみとその先端を優しく愛撫されると意識が飛んでしまいます。市場に出る直前に特
製の医療用管(カテーテル)で膀胱を空にしておかなければ派手に漏らしてますよ。

強く優しい、心から愛してくれている生き物に全てを委ね捧げたものだけに与えられるこの感覚!
私の弱さや狡さ醜さすべてを受け止め、許してくれる夫にあらためて愛と忠誠を誓わずにはいられません。
そうか、大母様はこれを20年受けて癒されたのかー。そりゃはまるわ。

神殿の女達がオークを神の化身と崇める気持ちがよく解ります。誰だって、実際に話せて触れて御奉仕できて助けて貰える神
様が本当にいたら、信仰せずにはいられないでしょう。
夫たちや義息子たちの愛がなければ一日だって、いいえ呼吸を止めていられる僅かな時間ですら生きていられない私には、巣の
オークたちは神の化身より尊い生き物なのです。


「ルェイ、ゴアイサツ」
「ひゃい」

グェスに優しく頭を撫でられながら、たどたどしい口調で市場の人々に自己紹介します。

途中で「ギュー・グェスの妻」ではなく「ギュー・グェス、レェ・ウォス、ゴォ・ドス兄弟の共同妻」だと夫に訂正を求めら
れたり、口調がたどたどしかったり、喋っている言葉がオーク語に共通語(コモン)やヒルデニア語が滅茶苦茶に混じったもの
だったりで酷いことになりましたけど、とりあえず夫婦仲の良さだけは伝わった筈。

挨拶の途中でやってきた巫女達に「そういうことを往来のど真ん中でやるんじゃない」と叱られてしまい、仲の良さだけしか
伝えられなかったのは残念でしたが致し方なし。



見せびらかしの後でお腹の子に障らないよう、ねっとりと市場の木陰で夫婦の営みをしていたら遅刻してしまいました。
生き残り戦はもうオークたちの入場が始まっています。
‥‥あれ? 藤子さんに頼んで予約しておいた隅の升席に、うちの下っ端たちがいません。
いるのは一昨日あげた女教師風衣装を着たコーネリアと水兵服姿の藤子さんだけです。


思った以上に似合ってますね特に藤子さん。昭和の学園もの漫画に出てくる留年しまくった武闘派不良女学生みたいで。
キセルを吹かす姿が堂に入り過ぎてます。

「えらい早いのぅ」
「すみません、おかわり我慢できなくて」

お腹の赤ちゃんが欲しがるんですよ。父さまの生命力というかそういうのを。孕み女、特に妊娠初期の奴隷妻には欲しがるだ
け子種汁をくれてやるのがオークの流儀でして。
統計をとっているのは大神殿でだけですが、経験則として妊婦に寂しい思いをさせた場合とさせなかった場合では子供の育ち
具合や健やかさが断然違うことをオーク達は知っています。

これはオーク島だけでなく東方世界でも同じようです。たぶん西方やヒルデニアでも知られているでしょう。


ソーニャさんの旅した東方辺境では、捕虜にした人間雌の妊婦(もちろんお腹の子供も人間)を無事出産させるために、オーク
たちが輪姦することもあるのだとか。
オークの子はまず例外なく安産となりますが、産まれる子がオークでなくともオークと交わって逝きまくってしまった人間
(ヒュー)族の雌は胎教が良くなるのです。

オークと交わった妊婦は流産・死産の確率が減りますし、産まれてくる赤ん坊が健康になる上に母体の肥立ちや乳の出も良く
なるのです。
加えて再妊娠できるようになるまでの期間も短くなり、受胎確率も上がり、以前よりも安産体質になります。


魔法的というかファンタジー世界の力もあるのでしょうが、これには心理的な要素もあると思います。
捕虜がストックホルム症候群を起こしてオークに依存することは当然この世界でもあるわけで、そうなれば只でさえ気持ちよ
い異種性交が病みつきになり、捕虜の方から股をひらいてオークち○こをおねだりするようになります。

で、根が子供好きなオーク達は捕虜妊婦を逝かせて逝かせて可愛がっているうちに、その腹にいる赤ん坊が可愛くて仕方がな
くなるのです。オーク側が胎児を気に掛け優しく振る舞い母胎共々健やかに暮らせるように気をくばるようになれば、依存し
たくてたまらない妊婦は「お腹の子を可愛がっている、誕生を望まれている」ことに希望を抱き安心して、ますます胎教が良
くなるのですよ。

気は心ですからね。戦いでもまずは心を攻めるところから策略は始まるのです。



妊娠七ヶ月ぐらいでとあるオーク部族の捕虜となり、出産するまで毎日ぼて腹ま○こを可愛がられて服従してしまった少女騎
士が、人間族の子を孕めとオークたちに命令されて、彼女に最初の子を孕ませた仇の老人(こちらも捕虜)を逆強姦していた。
そんな事例すらソーニャさんの旅路ではあったとか。

オークに捕らえられ肘と膝で両手両脚を切りとられ咽を潰された元成り上がり領主の老人が、
かつて彼自身が捕らえて犯し孕ませ玩んだ末に、オークに奪われ寝取られてしまった少女騎士に跨られ‥‥
オークのご主人様のためにまた娘を孕みたい少女騎士は、咥えこんだ老人のものから子種を搾り取ろうと懸命に腰を振り、
その可憐な半球形おっぱいを揺らして、母乳を飛び散らせていたのです。



ええ、東方のオーク族のなかには奴隷を飼育繁殖している部族もいるのです。野性の人間雌を捕まえてくるだけでは需要を満
たせませんからね。
蛮族指向なオーク部族が人間族の妊婦を喜んでさらっていくのは、妊婦の方が繁殖奴隷にし易いからでもあります。

ほら、戦争や襲撃で気が立っているとどうしても捕虜を手込めにしてしまいますし、オークに犯されれば大概孕みますし。


一度オークの子を産む快楽を知った人間雌は次もオークの子を産みたがりますが、オークの子を産んでくれる雌奴隷を安定供
給するにはオークの子でない赤ん坊を産んでくれる繁殖奴隷が必要です。
つまり人間の雄とどんどん交わって、人間の雌を次々と産んでくれる人間雌の奴隷をオーク達が調達し管理しないと需要に追
い付けないのですよ。



というのも、荒くれてはいてもひねくれてはいないのが蛮族系オーク達でして。

彼らは自分や同じ巣の兄弟達の子を産んで、産む前より一層従順になった人間雌たちの願いを無碍にできません。
可愛い人間雌たちから「ご主人様の赤ちゃんが欲しいです‥‥」と切なげに求められると、後先考えずにオークの子種を注い
で孕ませてしまうのですよ。


故にそのとある部族では人間雌の妊婦を優先して捕まえ、従順になるまで犯してから出産させることにしていました。
妊婦状態で捕まえた人間雌を肉奴隷に調教して、人間の子を産ませた後に同じく捕まえて奴隷化した人間雄と子作りさせて孕
ませて、また人間の子を産ませるという方法を採用したのです。
オークの子を産む快楽を直接に知らなければ、奴隷はご主人様の子を産んでみたいという誘惑に耐えやすいですからね。

念入りな調教を受けて繁殖奴隷となった人間雌たちは、オーク達のために喜んで女の子を産み続けるようになります。
自分や奴隷仲間が産んだ子供達の世話をしながら、進んで人間雄の種馬奴隷と交わってその子供を孕んでいくのです。

子種を提供する種馬奴隷が、血の繋がった父や息子や兄弟でも、最下層生まれの逃亡奴隷でも、不具の醜い老人でも、家族の
仇であったとしてもご主人様たちのためなら喜んで股を開き、ち○こを受け入れ、子種を搾り取って孕むのが繁殖奴隷の務め。

その結果産まれた娘を一人前の奴隷に育て上げ、ご主人様たちに献上するのが人間雌繁殖奴隷の名誉であり幸せなのです。
そうでなければ生きていく価値も資格もない哀れな生き物が、人間(ヒュー)族なのですから。


オーク達が人間雌繁殖奴隷に産ませたい赤ん坊は人間族の女の子なのですが、男の子が産まれることもあります。
「産み分け」の呪文や儀式、それに近い効果を持つ霊薬(エリクサー)等を使って女の子だけを産ませることもできると言えば
できますが、それは仕込む段階から関われる二人目以降ならばの事。
仕込む段階から関われない最初の子は、約半分の確率で男の子が産まれてしまいます。


幸いにしてそのとある部族は超頼りになる実質的指導者のお陰で、奴隷達を餓えさせる心配がないほどに豊かでした。
更に縄張りの中には、侵入者を性転換させる罠が仕掛けられた遺跡が含まれています。
なのでそのとある部族では「口減らしに間引きすっか」だの「晩飯の主菜は人間の赤子、姿焼きでゲス」だのといった展開に
はならなかったのです。

まあ、その実質的指導者はオークの子供と同じぐらい人間の子供が大好きでして。
奴隷としての旨味が少ない男の子であっても、惨い仕打ちにでたりはしませんけどね。

そのとある部族では男の子が産まれればある程度まで育てて、それから性転換するか種馬奴隷にするか決めます。
遺跡の罠は一度引っかかった者には二度と発動しないので、資質を確かめられる程度まで育ててからより種馬奴隷に向いた男
の子を残した方が部族にとって都合がよい訳で。





話の全体像を話すと、わりと長くなるのですが‥‥‥‥


東方世界のバルキア地方北部は、人間の勢力圏とオークやオーガやトロールなどの亜人勢力圏の衝突する地域です。
年中行事のようにどこかで村や街が襲われ焼かれ略奪され、野盗や冒険者などから成り上がった新興領主の類が就任しては敗
れの栄枯盛衰を繰り返しています。

北バルキアはソーニャさんが久しぶりに故郷のリガへ帰っていた頃、一人の老人に統一されようとしていました。
この過去話には他に爺さんキャラがでてこないので、その人物を「老人」とだけ呼ぶことにします。


さて、当時は既に見る影もありませんでしたが、その老人の若い頃は美男子でした。
幼い頃は美幼児~美少年でして、どん底の下層階級に産まれながらもなんとか幼少期を生きのこれた理由は、彼が美しかった
からです。
美貌故に人攫いにさらわれ売り飛ばされ、放蕩貴族の玩具として飼われ玩ばれ犯されて調教されたりもしましたけどね。


並はずれた美貌と才能を持ちながらも出自が悪く、素人男娼や強盗や傭兵などろくな人生を歩いてこなかった彼は齢70を過
ぎた頃になって、幼少期の自分を飼っていた貴族の放蕩息子がだれであったかを知りました。
ついでにそいつが頓死する直前に、跡取り息子の妻を寝取って娘を産ませていたことも。

それを知った理由は、そこそこの規模の傭兵隊長となっていた彼がかねてから計画していた作戦を実行して成功したからです。
モンスターの被害や他領との諍いで弱っていた辺境の貴族領を乗っ取ったのですよ。
貴族の放蕩仲間の一人が残した日記を読んでしまったことをきっかけに過去の清算を誓った老人は、以後も巧みな謀略と戦術
で勢力を伸ばしていきました。
決起から10年もかけずに北バルキア地域は、老人の手でほぼ制圧されるに至ったのです。


彼とその軍団に潰された貴族の一つにして幼少時のトラウマ発生源である伯爵家は、国外の騎士団に騎士見習いとして留学し
ていて無事だった、たった1人の生き残り嫡出子オードリー嬢を旗印としてお家再興を目指します。
先代ではなく先々代が息子の妻に産ませた不義の子であっても、バレなきゃどうでも良いんですよ。
バレても「よくある話だな」で済みますけどね。

が、再興計画がバレてしまってはいけません。

ある意味、オードリーの存在を知ったことが老人にとってトラウマ大爆発のきっかけであった訳で、その存在を隠し通せる筈
もないのです。最初から注目状態でしたから。

オードリー個人はそこから年齢に似合わぬ粘りをみせ奮戦しましたが、所詮は15になったばかりの小娘。
なにをしても老人とは年季が違います。

奸計にはまり捕らえられた少女騎士を、老人はかつての自分と同じように犯して玩んで調教しました。


間違っても自害などされぬように、入念な対策をされた専用の牢獄に閉じこめられたオードリーへの調教は順調に進み、
少女騎士は「家臣の命を救うためだ」「領民を守るためだ」「いまは生き延びねば」と自分を騙しながら仇である成り上がり
者の老人に開発されていきます。

3ヶ月ほどがすぎて、自分を種なしだと思いこんでいた老人にとって異変が起こります。
オードリーが妊娠したのです。
なぜそれまで出来なかった子供ができてしまったかについては私なりに仮説が有るのですが、詳細はいずれまたの機会に。


仇の子を孕んでしまった と悔し涙を浮かべながらも、老人の指が太腿をを這えば股間が熱く潤み、濡れそぼった秘裂に老人
の逸物をねじ込まれれば甘い悲鳴をあげてしがみついてしまうまで調教された少女騎士は、毎晩のように犯し尽くされて仇の
腕の中で失神するのでした。

日に日に膨らんでいく少女の腹を撫でながら、老人は我が子という初めて遭遇するものとの距離を掴みかねていました。
なお老人の部下達は、大将が調教部屋に入り浸っているおかげで増えた仕事にぼやきながらも、跡継ぎ問題がなんとかなりそ
うだと喜んでいます。
名門伯爵家の継承権を持つ、まだ産まれていない老人の子は北バルキアの実行支配にこの上ない生きた大義名分ですからね。


しかし、彼らの甘い未来構想は数ヶ月で崩れ去ります。

急成長する彼らの軍団を危険視した近隣勢力が、強力な刺客を送り込んで老人と少女騎士を拉致し、ついでに部下達の主力層
を皆殺しにして去ったからです。

その後の北バルキアは衰退した貴族の残党や宗教勢力、老人の軍団残党から分裂した野盗団、この期に領土拡大を狙う新興貴
族家、隙をみては略奪に来る亜人種族などが入り乱れる混乱期に突入しましたが私やオーク島とは関係ないので省略します。




そんな訳で、オーク族の刺客によりさらわれた少女騎士オードリーですが‥‥。

人間族の城の調教部屋からオーク族の巣の調教部屋に引っ越すという、訳の分からないことになりました。
そして屈強なオークたちによる輪姦調教を受け、オーク達に狂信的な忠誠を誓う繁殖奴隷に生まれ変わったのです。

オークたちに輪姦調教され体質改良されて無事出産しましたが、破水する直前まで可愛がられていた彼女は出産時の激痛を同
じ水準の快感として感じてしまうどMの妊娠出産マニアになってしまったのでした。

ま、オークのそれに比べれば人間のエロ洗脳なんてたかがしれてますからね。
しかもこの部族が使っている洗脳技術は本場仕込み。オーク島のものがおままごとに見えてくる凶悪なものですし。



こうして繁殖奴隷になったオードリーが、彼女の家族を殺し、彼女を犯し玩んで孕ませた仇敵の子をまた孕むようオークたち
に命じられたのは、繁殖奴隷としての忠誠心を試すためであり人間社会での過去や拘りを捨てさせるためでもあります。

ですが同時に、強い憎しみが、殺しても飽き足らない程の恨みこそがより深い愛情に変わることがあるとオークたちが知って
いたからですね。

たぶん。

親兄弟の仇と子作りするのは東方世界のオーク的に日常茶飯事だからかもしれませんけど。



ええ。最初のうちこそ子種欲しさに嫌々跨って搾っていたオードリーですが、再度老人の子供を孕み、産んで育てていくうち
に心境は少しずつ変わっていきました。
日々の中で女として母として奴隷としての幸せに満たされていった少女騎士は、やがて老人との性交そのものを楽しむ様にな
ります。

孕ませてくれることを、繁殖奴隷の役目を果たさせてくれることを感謝するのはもちろんですが、肌をあわせ抱き合うこと、
口付けして舌を絡めあうこと、老人のものを咥え込んでその迸りを受け止めること自体に幸せを感じるようになったのです。

脳の奥まで洗われちゃったオードリーにとってご主人様の意向は絶対です。ご主人様が望んでいるからには彼女が仇の老人と
交わることは正しく喜ばしいことである訳で、オークの忠実な下僕であるオードリーは無理矢理にでも老人との性交から喜び
を見つけださねばなりませんでした。

仇だった老人のち○こで逝き狂える淫乱人間雌になれたらご主人様は喜んでくださる筈と、二人目の子を産んだ後も種搾りに
励んでいたオードリーでしたが、オークフェロモンを浴び続けた身体は自然と成熟し立派な雌奴隷に育っていきました。
老人の愛撫を受けて快楽に浸り、自分を少しでも気持ちよくさせようとする腰使いを素直に受け止め、身も心もまかせるよう
になっていったのです。


そして老人の愛によって生かされていたからこそご主人様の繁殖奴隷になれたのだと悟り、前非を悔いるようになった少女騎
士は3人目の娘が入った腹が目立ってきた頃には、老人に甲斐甲斐しく尽くすようになりました。

朝は優しく揺り起こしてから毎日欠かさず風呂に入れ全身舐めるようにして綺麗にして、昼も夜も言葉と手指と舌を使って慰
め慈しみ、眠るときには皺だらけの身体を抱きしめて共にあるだけで幸せだと伝えていたのです。
その頃には老人の身体で少女に舐められてない場所などありませんでしたし、粘膜で被われている部位のうち特定箇所は毎日
舐められたりしゃぶられたり咥えられたりしていました。

老人もオークたちに種馬奴隷として調教されていたのですが、不具なうえに醜く年老いた彼の子種を欲しがるのはオードリー
ただ一人だけ。
自分の子種を求めてくれる、自分の子を産んでくれる、種馬としてし繁殖奴隷の役目をはたさせてくれるただ一人の女を、
前にも増して愛しくなった老人は全てを与えます。彼が持つ技術や知識や経験を全部。

自分には足りないものがいっぱいあると自覚していたオードリーは、老人から色々なものを吸収しつつ奴隷としての性能を上
げていきました。


その結果は‥‥
二人目を孕もうとしていたときは「とっとと出しなさいこの遅漏爺っ また焼き鏝が欲しいの?!」 という感じでしたが
三人目を孕もうとしているときには「ご主人様達のために今日も子作り頑張りましょうね」 となり
三人目を孕んだ後では 「あっ あと少し すこしだけ我慢しぇてくださいっ ああっ 逝くっ いくっ いっしょっ
あなたといっしょにいきたいのっ いぐっ いぐぅっ ドリーいっぢゃうぅっ!」 と、まあこんな感じでして。



元少女騎士が4人目の娘を孕んで身も心も女となった頃には、二人は実質夫婦化していて夫は孫ほど年が離れた妻の母乳が第
二の栄養源になっておりました。
第一の栄養源は手ずからまたは口移しで食べさせて貰う妻の手料理です。

その仲睦まじさは他の繁殖雌奴隷たちや、老人の子種を注いで貰いに来るようになった人間雌が羨むほどだったとか。
年齢差もあって末永く添い遂げることはできませんでしたが、二人の間には双子二組を含む12人の娘が産まれたのです。


時間さえかければ、親兄弟の仇とすら愛しあえるようにさせるんだからオークち○こって凄い。
いや、人間が業深いのか。


全ての者が、ではありませんが、わりとあっさり順応しちゃうんですよ人間って。どんな環境にも。
強者が善、弱者が悪。勝者が善、敗者が悪。
そんなオーク的殺伐世界観に染められてしまったオードリーは、知恵でも暴力でも負けたくせに玩具として生かして頂けたこ
とを逆恨みしていた過去の自分はなんと愚かだったのか ‥‥と思うようになってしまったのです。

オーク部族の繁殖奴隷になれたのは、この方の子を孕んでいたから。
この方の精を受け止めて孕んで産む可愛い女の子をご主人様達に献上するために、私の全てはあったんだ。
四人目の子を孕んだときにそう結論づけたオードリーは、老人を夫として愛し、支えて生きることを誓ったのです。



かくして勇敢で公正な少女騎士だった元伯爵家総領娘は、悪堕ちしたというか人間雌の繁殖奴隷騎士に転職しました。
オークのご主人様たちと一緒に略奪行にでかけ、偵察・陽動・潜入工作・人質の振りなど様々な手段でオーク勢に貢献し、
人間の村や商隊を襲撃し略奪する際にも剣を振るって、若いオークや同輩の奴隷たちと手柄を競うようになったのです。


一組目の双子、五人目と六人目の娘を孕んでいた頃のオードリーがどんな様子だったのかというと、こんな感じです。


時刻は宵の口。

略奪行から帰ってきたオードリーは、彼女が捕まえた捕虜の一人でありオーク達から与えられた褒美でもある村娘を素っ裸に
ひんむいて縛り上げ、部族秘伝の媚薬をその股間の割れ目にすり込みます。

これはオークの生唾液に、蒸留したオーク尿、丸三日湯煎してから真綿で濾したオーク精液、各種薬草などの生薬十数種類を
配合したしろものです。
薬効はオーク精液と似ていますが、催淫や快感増大や暗示に掛かりやすくなるといった効き目は段違いに弱まっています。

もちろん全てが劣化している訳ではありません。
わざわざ手間かけて作るだけの価値はありまして、この媚薬はオーク精液と違って投与された人間雌がオークでない生き物、
たとえば人間雄の子種を注がれたら孕むのです。
生のままのオーク子種を割れ目にすり込まれたらば幼女でも発情しますけど、その状態で種付けしても人間の子は宿りません。
オークの生精液には、他の生き物の精子を殺す効果がありますから。

一方妊娠し易くさせる効果はオーク精液に比べれば幾らか見劣しますが、この媚薬を投与された人間雌はたとえお赤飯前の小
娘でも腹に子種を注がれて逝きまくればそのうち孕みます。



未熟な果実のように固く味気なかった小娘の肉溝は、媚薬の効果でたちまち濡れてきました。
老人の指導を受け磨かれた愛撫の技で股間をほぐされ、トロトロにとろかされてしまった小娘は夫婦の暮らす牢までお持ち帰
りされます。
そして雄が欲しくてたまらなくなった小娘が縛られたままもがいている牢の隅で、オードリーは夫といちいちゃするのです。


三つ指ついてのご挨拶こそありませんが「ごはんになさいます? お風呂になさいます? それとも わ た し ?」とか
のやりとりはある訳で。
抱きしめあい口付けを交わしながら、二人は互いが会えなかった間に有ったことを話しあいます。

夫婦の間に隠し事はなしですから、略奪に同行した妻が道中に何回どのご主人様の性欲処理にどう使っていただいたかや、
留守の間に夫がどの繁殖奴隷に何回種付けしたかも、包み隠さず報告します。


え? 爺さんは人豚状態で咽潰されているのによく話通じるね? ですか? 
そこはそれ、夫婦ですから以心伝心。アイコンタクトやスキンシップでなんとかするのですよ。
慣れれば唇も読めるようになりますし。


一々読まなくても「‥‥私からはこれで終わりです。あなたは何人に種付けなさいました? (ちゅっちゅっちゅっちゅっ) 
アッシュ? (ちゅっ) クリス? ダリア? (ちゅっ) オルガ? (ちゅっ) サラ? ウィンリィ? (ちゅっちゅっ)  
孕んだのはあの小娘だけですか、たしか二度目でしたよねあの騎士娘。何回注いであげたのですか? (ちゅっちゅっちゅっ
ちゅっちゅっちゅっ) まあ、そんなに? 妬いてしまいそう‥‥ 何がそんなに気に入られたのか教えてくださいませ」
と、こんな感じで唇一つでも結構伝えられるものです。

で、去年の略奪行でさらってきた元騎士娘の繁殖奴隷相手にえらく盛ってしまった理由が、「昔の自分に面影を重ねてしまい
会えない寂しさをぶつけてしまった」からだと知った妻は感極まって夫を抱きしめます。

貪るように唇を求めあう、祖父と孫ほども歳の離れた夫婦。
その住処である牢の端では、縛られたまま放置されているお土産が痙攣していたりします。


お土産のことをを思い出した雌騎士奴隷オードリーは、近々帰ってくる妻のため夢精する直前まで溜め込んでくれている夫の
ものの根元を紐で縛り、手と口で触って扱いて舐めてしゃぶって、おっぱいで挟んだりして、老いてますます盛んなその姿を
散々見せつけてからお土産ちゃんの縄を解いてけしかけます。

老人にのしかかった村娘は、まだ毛も生えてない半熟お股にち○こをくわえ込もうとして必死ですが、うまくいきません。
おぼろげな性知識しかないので、うまく繋がれないのです。

オードリーは涙ぐんでいる村娘の腰を優しく支えて、挿入できるよう導きます。そして、村娘自身の意志と決断と行動で腰を
降ろさせ貫通させるのです。


略奪してきた繁殖奴隷であっても、この牢では人間雌本人の意思で破瓜と種付け交配が行われます。
オーク島の変態紳士たちと違い、オードリー個人の身勝手ゆえに。

夫への愛をこじらせたオードリーは、かつて老人に処女をむりやり奪われ孕ませられたことに感謝するだけでなく、誇りと優
越感を抱くまでに歪んでしまいました。
この巣に、夫に強姦して貰って純潔を捧げ孕まされる女はいらない。過去にだって私一人で充分。そう決め込んだ彼女はそれ
からも生娘好きな夫のために新たな繁殖奴隷候補を捕まえてきては、捕虜に自ら処女を捧げさせ続けたのです。

そして老人は妻の期待に応えます。
彼に処女を捧げた人間雌たちを、オークフェロモンや媚薬の力を借りてとはいえ種付け交尾の虜に変え繁殖奴隷に引き込み、
百発百中とはいきませんが他の若い種馬と比べても高い確率で孕ませ、巣に新たな奴隷を供給し続けたのでした。


孕ませるには子種が必要なので、破瓜の激痛と快感に身を震わせ感激している村娘の一番奥まで入ったところで、妻は夫のも
のの根元を縛った紐を外します。
たまらず吹き上がる老人の子種に、媚薬で火照った膣と子宮を埋め尽くされて村娘は絶頂を遂げ失神してしまいました。

オークの媚薬は精液と反応して、塗り込められた箇所とくに粘膜とその付近へとんでもない快楽を与えるのです。
あ、オークは素で体液が媚薬なので基本オーク島では媚薬を使いません。「欲情はさせたいけど今は孕ませたくない」という
需要があるから東方のオーク部族では媚薬の製法が伝えられている訳で。

どんどん孕ませるべき嫁と、そうでないそれ以外の女の区別がはっきりしているオーク島では媚薬の需要はありません。


痛みではなく歓喜に失神した村娘を夫の上からどかして寝床の隅に寝かせたオードリーは服を脱ぎ全裸になって、牢の床に敷
きつめた藁の上で仰向けに寝ころびます。

妊娠五ヶ月をむかえて膨らみかけている腹をさらけ出した雌奴隷騎士は、解剖台の蛙のような格好で夫を誘いました。
股を開いて、濡れそぼった淫唇を指で広げ「種付けお疲れさまでした、あなた。どうか私にもお情けをかけてくださいませ」
と微笑む若妻に老人は犬のように駆け寄ってむしゃぶりつき、その肉を貪るのでした。


さっきから妙に詳しいな? という意見はごもっとも。
じつはその現場にソーニャさんいたのですよ。というか略奪行の実質的指揮者は本日のメインエベンターでして。


いろいろあってオーク大好きになった女冒険者ソーニャさんは、島基準で星10ぐらいまで腕を上げた頃にオークの孤児を拾
いました。
全くの偶然で拾った子ですが、これもまた運命と愉しんで養子兼弟子とし、一人前の戦士になるまで鍛え上げたのです。
そして一人前になったオークを夫にして、一緒に非人類文明圏を冒険しながら達人にまで鍛え上げました。

冒険の結果、新しい部族を立ち上げて初代族長となりハーレムも子供も作った愛弟子兼息子兼夫と別れたソーニャさんは、
再び放浪の旅に出ます。

さらに十数年が過ぎて故郷のリガ市へ帰ってきたソーニャさんは、直線距離ならリガから500㎞ぐらいしか離れていない、
二回目の結婚相手と一緒に作った部族の縄張りへ様子見にいってみました。


別れた養子兼弟子にして元夫がもうこの世にいないだろうことは想定していましたが、その子孫が代替わりに失敗して部族が
分裂状態な事には思わず頭を抱えてしまいます。
彼女にとって義理の曾孫や玄孫にあたる氏族長たちと各々の弟子達が互いに足を引っ張り合い続けた結果、縄張りは荒れ果て
他部族や人間文明圏に浸食されて崩壊寸前の有様でした。

たまらず介入したソーニャさんは持ち前の戦闘力、二度の族長夫人経験で培った統率力、娼館で磨いた寝床技と交渉力、文明
人として育つ過程で身に付けた知識教養などを使いNAISEIもの主人公なみに大活躍。
数年の時間をかけて部族を纏めあげ周辺地域を再統一したのです。


その後ソーニャさんは統一作戦中にひき続いてオーク部族と人間社会を往復しながら、オーク社会での名目上は部族を構成す
る各氏族長の共有奴隷妻として氏族長会議をまとめる立場に就いて、部族を陰から指導しました。
蛮族社会でも体裁は守らないといけませんからね。


薄々というかかなり確信に近い予感がありましたけど、ソーニャさんって明らかにこっち側に‥‥人間側じゃないほうに所属
している人ですよね。オーク妻の私と同じ陣営に。

人間(ヒュー)族で人類文明圏の出身だけど、ソーニャさんは意識面でほぼ間違いなくオーク側です。
彼女は人間勢力圏でも活動してますし、人間勢力から依頼を受けてオークを討伐したこともありますが、それは彼女にとって
より近しく親しいオーク達のために討伐したのです。
曾孫弟子の率いる氏族と和平不可能な勢いで争っている巣とか、邪神に取り憑かれた巣とかをね。

必要とあれば、たとえば滞在している巣に人間雌が足りないとかの理由があれば略奪でもなんでもするのが我がお師匠さま。
よくも正体ばれせずにこれまでやってこれたものです。


まあ、とにかく当時のソーニャさんはオーク部族の戦いや経営や子孫繁栄のために頑張っていたのですよ。
主に現場で、新たな弟子たちや気に入ったツバメオークをつまみ食いしながらね。


夫婦の営みを三回戦の途中まで見ていたソーニャさんは余りに仲睦まじい二人の雰囲気にあてられて、思わずその場で脱いで
しまいました。服も下着も全部。
あとはそのまま3Pに突入です。

四つん這いの繁殖奴隷騎士が背中に覆い被さった種馬奴隷の夫に抜き差しされて「しゅきっ! だいしゅきっ! このおち○
ぽがいちばんしゅきでしゅっっ どりーをいちばんしあわせにしてくれるおち○ぽでしゅもの!」と喘いでいて、
その横では同じく四つん這いの雌奴隷剣闘士が「ソーニャにも、ソーニャにもおなさけをくださいっ お願いですっ! 
なんでもします!」と泣きわめいていたのです。

かつて老人に全てを奪われ、牢に繋がれて処女を奪われ孕まされボテ腹にち○こ突っ込まれてひいひい啼かされていた女と、
かつて老人の全てを奪い、牢に繋いで処女に捧げさせ孕まさせボテ腹にち○こ突っ込まさせてひいひい啼かさせている女が、
同じ老人ち○こにしゃぶりつき
同じ口にかわるがわる乳房を含ませ
身体を重ねて股を拡げ、縦に並んだ雌穴それぞれの締まりや襞の深さを自慢して雄を誘惑する。

そして交互に突き入れられ続けた雌穴のうち、より具合の良かった方の奥に子種が注がれます。

絶頂の余韻から醒めた女は感謝をこめて老人のち○こをしゃぶって舐め清め、注がれなかった女は羨望に悶えつつ老人の子種
が零れ出るおま○こに口付け、舐めてしゃぶって飲み込むのでした。


やがて目を覚ました村娘を加え、奴隷四人はそれから一昼夜にわたって乱交を繰り広げました。


いやほら、村娘はともかくオードリーとその夫はそれぞれが星6と星7ぐらいの強さを持っておりまして、その肉体は半端な
い性能を持っているのですよ。耐久力でもね。
特にオードリーはソーニャさんが暇を見ては稽古をつけていますので、適当な棒きれ一本で熊でも虎でも殴り殺せます。


延べ人数でいえばオークが一番多いソーニャさんの男性経験ですが、人間の雄も決して嫌いではないのだとか。平均して物足
りないというか淡泊すぎるので好きでもないそうですけど。

この老人は例外的に気に入ったので、その後も何回か妻とともに寝床に呼びつけて夜伽をさせたそうです。
治療の予後検診だとか子守の練習だとか理由を付けては妻の留守中に繁殖牢に入り浸り、途中で面倒になって押し倒して交わ
り精を搾り取ってしまうこともわりとありました。

もちろん一番多かったのは妻在宅中の牢に押し掛けて、夫婦の営みに混ぜて貰うことでして。
色々お世話になっている大恩人+えらい人ですから、とても無碍にはできない夫婦は精一杯におもてなし致しまして、
ソーニャさんは毎回満腹するまで楽しませて貰ったそうです。

弱者は悪。敗者は悪。この世界観に生きている繁殖奴隷夫婦にとっては、新たな人生とその伴侶を与えてくれたソーニャさん
は恩人なのですよ。これよりえらいのは神様ぐらいしかいない級の。
まあ、繁殖奴隷にとっての神はご主人様(オーク)なんですけどね。


話を戻します。

老人に「中に注いでくれたら何でもする」と約束しちゃったソーニャさんは、夫婦の固辞を押しのけるようにして望みを叶え
ました。
好意による贈り物強制授与です。

夫の分は、彼の両腕を再生させること。
妻の分は、夫の咽を治療すること。ええ、妻と夫の両方にした約束でしたからね。


腕が生えてきて、本人も妻も子供たちも繁殖奴隷達も大いに喜びました。

できることが一気に増えて、種馬としてだけでなく調教師としても大活躍するようになった老人の牢には雌奴隷としての性能
向上(スキルアップ)を望む人間雌達が列を作って順番待ちする有様です。
ソーニャさんも例外でなく暇を見つけては牢に押し掛け、老人に指の動作回復訓練と称しておっぱい揉ませたりおま○こ弄ら
せたりしていたのです。

そこまでこの老人を気に入ったのは、自分が思っていたより無知であったことを教えてくれたからでもあります。
ソーニャさんはオークとの男複数女一人の多人数プレイ、逆ハーレム状態の楽しさはよく知っていました。
しかしたった一夜の体験で、女複数男一人のハーレムプレイで女はもっともっと楽しめることを思い知らされたのです。

早い話、女男女 の状態ではもう一人の女と男を取り合う敵対プレイしかやっていなかったから、三人で仲良く真剣に高めあ
う協力プレイを体験して衝撃を受けた訳で。


治療から半年ほど過ぎて妻は5人目と6人目の娘を産み、夫は長い間使えず錆び付いていた色々が回復してきました。

時に一人で時に大勢で、繁殖奴隷の牢に集う女達はたった一人の老人に散々に啼かされ喘がされ玩ばれます。
そして快楽を与え受け取る理論と技術とついでに子種を与えてくれたことに感謝する一方で、老人に溺愛されるその妻を羨む
のでした。

実際、四分の三世紀近くかけて磨かれた老人の性技はたいしたものでありまして、ソーニャさんの寝床技は娼婦生活よりむし
ろこの繁殖牢での講習で身に付けたものの方が多いのだとか。


いくら洗脳で価値観が変わったとはいえ、不倶戴天の仇だった小娘を一年半かそこらで誑かしてしまいましたからねえ。
並の色事師にはできません。
相手が生殺与奪の権を握っている圧倒的不利のなか言葉も手も使えない状態で、ですよ。普通は無理でしょ。
オードリーがちょっと世話を怠けたら死んでいたんですから彼は。

少女騎士を毎日毎晩逝かせまくって、ご褒美の筈のオークち○こを咥えこむことさえ忘れさせるぐらい子作りに夢中にさせた
からこそ種馬としてだけでなく雄として夫として認められた訳で。
まあ、オークの調教と二度の出産でオードリーの身体が老人の超絶性技を受け止められるまで熟したからでもありますが。

それでも老人が下手だったり、逆強姦してくる少女騎士を愉しませようとしなかったとしたら結果もまた違っていたでしょう。
どんなに邪険にされても腐さず諦めずで頑張ったからこそ、老人は奴隷騎士の性技教官となれた訳ですし。
初めて自分の子を産んでくれた少女に、彼なりに何かしてあげたかったのです。


‥‥そういう方向にソーニャさんが誘導したからなんですけどね。

だってほら、せっかくの優良種馬だから余すとこなく活用しないと。ただでさえ対応年数切れが近いわけだし。

ご主人様たちをもっと愉しませる良い奴隷になるために、寝床技教習を受けるつもりで交わり続けた少女は、やがて仇だった
老人との間に師弟としての絆を感じるようになりました。
そして同時に快楽を貪りあう雌と雄として、なによりもご主人様にお仕えする繁殖奴隷仲間として絆を深めていったのです。



ともかく、不完全ではありますがオークに寝取られた女を妻にしてある意味で寝取り返したのだからたいしたものですよ。
ある意味で、なのはオードリーにとって夫とご主人様は全く別の存在だからです。


いや、本人的にも寝取る寝取られるなんて意識は全くなかったでしょうけど。

なにせこの老人、目の前でボテ腹状態の妻がオークに犯されて 「ごひゅじんさまのおち○ぽ‥‥さいこうでしゅ!」 とか
喘いでるのを見せられても、「手塩にかけて性技を仕込んだ妻を性欲処理に使って頂けて、しかも可愛い逝き顔を間近で見せ
ていただけるとは、自分はなんと果報者なんだ!」と喜ぶぐらいにぶっ壊れてまして。

事後に、さっきまでさんざん妻を逝かしまくっていたオークち○こを舐めしゃぶってきれいにしながら、そのオークに夫のも
のと比べた感想を求められた妻が「ご主人様のおち○ぽとは比べものになりません。夫のは貧弱ですし張りや角度も悪いです
し形もものたりませんし‥‥」などと言うのを聞かされても人間雄がオークとは比べものにならない劣等種であることは当然
なので全く気になりません。

再度オークに突き入れられボテ腹こねくり回されて歓喜に喘ぐ妻が、俺の子が欲しいかと問われ「欲しいです! ご主人様の
赤ちゃん産ませてください!」と即答すれば、予定より早く雌奴隷となる妻を「良かったね。これからはなお一層身体を労っ
て、健やかな子供を産むんだよ」と心から祝福しますし、その後より一層の感謝をこめて、たったいま妻に膣出ししたばかり
のオークち○こに御奉仕するのが種馬奴隷です。

奴隷の職種に貴賤はないと信仰している彼ですが、妻がご主人様の子を孕んで産む雌奴隷に転職させていただけるのなら、
それはもう光栄の極みなのですよ。


土台、ち○こ比べなんかでどうこうなるような仲じゃないんですよこの夫婦。
なにせその夜、「今日はご主人様にいっぱいおま○こ御奉仕できたけど、お口では一度も御奉仕させて頂けなかった」 と
自分を不甲斐なく感じた妻が、夫に頼み込んでち○こしゃぶりの特別講習を受けていたのですから。


で、まあその数ヶ月後には無事出産を済ませたものの「次も人間雌を孕めよ」と件のオークに言われて落ち込む妻を「今度こ
そご主人様の子を孕ませて頂けるよう頑張ろう」と夫が励まし慰める羽目になったのですが。

しかし手取り口取り舌を絡めあって夫からち○こ舐めの技を教えて貰らい、オークち○こを模した張り型を使って「あなたの
ようにご主人様からイラマチオして頂けるようになりたいの」と自習に励んだ甲斐はありました。
更にお口の御奉仕技術を磨き上げたオードリーは、次の略奪行でお口御奉仕が上手くなったことを誉められ、巣に帰還するま
で毎日同行したご主人様達全員に御奉仕を命じられるという栄誉を得たのです。

念願だった連続イラマチオで口と咽を輪姦して貰えたオードリーは、帰宅後夫に仔細を伝えます。
抱きしめあって喜びを分かちあう夫婦でしたが、略奪行中の御奉仕報告を分析してまだまだ至らぬ点ばかりだったと反省し、
より完璧な奴隷を目指すことを誓うのでした。

‥‥それはそれとしてやっぱりその夜もさらってきた、夫好みの捕虜が牢の隅に縛って転がされているのですが。
並の男どころか騎士でも敵わないほどの剣術を身に付けた、生意気な貴族娘の処女です。

その夜、完全復活した話術などで精神的に追い込まれていったその貴族娘は、今までの繁殖奴隷候補達と同じように自分から
老人に処女を捧げてしまいます。
そして更に10ヶ月後には、婚約者を斬り殺した女に手を握って励まして貰いながら初めての子を出産するのです。

ボテ腹輪姦調教ですっかりオークの虜となった元準男爵家令嬢は、出産後はまだ首の据わっていない我が娘に乳を吸わせなが
ら次の種付けが許される日を、そしてその数ヶ月後のボテ腹ま○こをご主人様の性欲処理に使って貰えるようになる日を指折
り数えて待つようになります。



話を戻すと、二人の仲睦まじさをある意味認めていたからこそ件のオークはちょっかいかけてくる訳でして。

妻を、夫を、ときに目の前でときに一緒に性欲や鬱憤の発散に使われていた奴隷夫婦ですが、そのことを悦びと感じるまで染
まってしまっているので、何かあった夜など特に燃え上がってしまうのでした。

ち○こしゃぶりの練習に励む妻に手本を見せてやれと、夫が目の前で延々とオークに奉仕させられたときなど焼き餅が酷くて
大変だったとか。
もちろんオードリーが夫に妬いているのですよ。あんなに御奉仕できて羨ましい妬ましい、と。
おかげで老人はおフェラやパイズリなどの臨時教習を夜明けまで妻と励む羽目になりました。

老人に同性愛趣味はありませんが、オークち○こを舐めるのもしゃぶるのも子種汁を飲み干すのも大好きです。
彼にとってのオークは、70年ほど前に舐めさせられていた腐れち○こや屑ま○この持ち主と違い真の強者だからです。
弱者が強者に従い奉仕することは、蛮族オーク的価値観から見れば当然のこと。


洗脳ってねー、なまじ頭が良いと抜けられないんですよ、自分で自分を騙すようになるから。



歳の割りに元気だったとはいえ、人には寿命があります。
父親である老人は10年ほど前に死んでしまいましてもういませんが、その娘達のうち7人は今も元気で母親とともにオーク
の巣で雌奴隷をしている筈‥‥というかしていたとソーニャさんは言ってます。

彼女が三度目の部族運営から離れて約10年。
今度は代替わりしても揺らがないように組織をきっちり固め、直接指導こそしていませんが1~2年おきには顔を出して睨み
を効かせていますので、彼女が再編した部族は巣に忠実な奴隷を優遇する方針を堅守しているのですよ。

きっちり運営できている限り、奴隷を「働けぇー! 働けぇー! モタモタするなぁっ」とか「生きていられるだけありがた
いと思えムシケラども!」とかいって鞭打っている巣よりも、「困ったことがあったら何でも言いなさい、あなたたちは大事
な財産なんだから」と労っている巣の方が強いですからね、効率良いから。

逆にいうと破綻したときの損害も洒落になりませんが。



で、三女から九女までの娘達は、亡き夫以外の人間ち○こを受け入れる気がない母と一緒に親子丼で孕んでいきます。
順繰りに、つまり四女の処女を捧げたばかりのち○こを填め込まれて、母は四女が孕んだ子の腹違い兄弟にあたるオークを孕
ませて貰うのです。


残る4人の娘達のうち最年少の双子は繁殖奴隷になる予定です。
双子が産む最初の子は10人目に産まれた同腹の兄が父親になるでしょう。優秀な奴隷の血統として人気がありますからね。

時期的にはもうそろそろなる筈です。オードリーが男の子を産んでから10年以上経ってるので。

その巣では雌を10人以上産んだ人間やエルフの繁殖奴隷にはご褒美として、それ以降は誰の子でも自由に産める特権があた
えられるのですがそこであえて12人目の父親に選んだあたり、オードリーは本当に夫を愛していたのでしょう。



夫婦の子供達のうち年長の2名、長女と次女も妊娠できる年頃となると繁殖奴隷になりました。
繁殖の相手は何人か候補がいましたが、娘二人は老人が種馬として現役である限りその子種を受け取り続け、父親が他界した
ときには既にその子供を何人も産んでいました。

巣に充満するオークフェロモンを胎児の頃から吸って育った彼女達は血統書付きの繁殖奴隷。偉大なご主人様たちのために可
愛い女の子を産みまくる人生に何の不満もありません。
まして種付け交尾の相手は大好きな父上様ですから。

父に処女を捧げその子を宿した姉妹は姉弟子の後押しもあって、望みどおり老人の二番目と三番目の妻となったのです。


繁殖牢に通い詰めた十年近い歳月で、夫婦の子供たちとくに子守や性教育でともに牢生活を過ごしときに並んで喘がされたり
した年長の娘達とソーニャさんは意気投合しておりました。
少々の無理は通してあげれますし、通してあげたいのですよ。元から法(ロウ)よりも混沌(カオス)よりの性格してますし。




ソーニャさんがまた放浪の旅に出る頃には姉妹そろって第四子をめでたく妊娠していまして、姉妹はあと7人産めば奴隷のま
まですが自由に相手を選んで孕めるようになります。

計算は合ってます。
妹でもある第一子の出産後、老人の寿命が長くないと悟った姉妹は父のために男の子を産んであげたいと思いつめてソーニャ
さんに頼み込みました。

で、あと9人の女の子を絶対に産むという約束で姉妹は「産み分け薬(男)」を飲んで父と交わり、それぞれが腹違いの弟でも
ある第二子を産んだのです。
その半年後にはオードリーが姉妹と同腹の弟を産み、半ば諦めつつも内心望んでいた息子を三人も腕に抱けて父親は大喜びし
ていたので、姉妹の決断は無駄でなかったでしょう。

念願の息子を得た感動で寿命が延びたのか、老人は娘達の予想よりは長生きしました。
オードリーにとって10人目と11人目になる子を双子姉妹で産ませ、実の娘である長女と次女には彼にとって5人目と6人
目の孫となる女の子を産ませたうえで、更にオードリーへ12人目(女の子としては11人目)の子を孕ませ同時に7人目と8
人目の孫娘でもある女の子たちを長女と次女それぞれに孕ませたのち、冥府に旅立ったのです。





長い過去話でしたが、これで終わりです。



しかし、ソーニャさんっていったい何歳なんだ?

ちょっと前までは推定40前と見ていましたけど、今まで聴いた彼女の冒険譚が全部本当なら更に10歳は追加しないといけ
ません。

だってそうでしょ?

十代半ばで冒険者になって、それから一年以内に運命の出会いがあってオーク達に処女を捧げてその共同奴隷妻となり、
数ヶ月後に最初の夫達と死に別れ、復讐とその準備に数年を費やし、その後の放浪の旅が数年、自由剣闘士になって闘技場に
通い詰め頂点に登るまで数年、一回目の引退後に孤児の赤ん坊オークを拾って僻地に籠もり一人前に育てるまで数年、育て上
げた義息子を相棒にして辺境を冒険して新たな部族を作るまで数年、義息子と別れてアルブニアへ流れて邪教団と戦いさらに
奥地に入って邪教団残党を殲滅するのに数年、北アルブニアの更に北へ流れて東方最大の遺跡「百万迷宮」に挑むも攻略途中
で出会ったオーク族の勇者に打ち負かされて嫁入りするまで一年ちょっと‥‥これで推定30過ぎぐらいですかね?

この後の方が長いんですよ彼女の冒険。
部族経営やら戦争やら一家離散やら娼館勤めやらヒルデニア行きやら帰郷やらの後のことですからね、世界最頂迷宮「天に昇
る階段」へ挑むのは。
前述の年の差夫婦と出会ったのはその直前のことです。‥‥いやその当時は種馬と世話係だった訳で、夫婦になったのはソー
ニャさんが軌道階段遺跡の攻略諦めた頃ですが。

あ、違う。
ソーニャさんが軌道階段遺跡を登っていたのは、部族の建て直しと強化に資金や物資が要るからだったんだ。
特にアイテム回収。東方社会では持っている魔法の品(マジックアイテム)の数と質が、個人や集団の格付けになりますからね。

稼ぐために登っていた迷宮だから、部族の運営が軌道に乗って稼ぐ必要なくなると登る気が一気に失せたんですね。
それよりも略奪旅行のついでにショタオークの童貞奪ったり、お爺ちゃん調教師に開発して貰うほうが楽しかったのでしょう。




今月の生き残り戦は一回だけですが、嫁取り戦は普段よりやや多めで12回あります。
年齢詐欺疑惑な剣闘士の出番はかなり後ですね。ソーニャさんの引退試合は注目の一戦だけあって観客席は大入りです。
新人の顔見せもありますが、ソーニャさんの出番は更に後です。


普段は何割か空いている升席も、今日は数えるほどしか隙間がありません。
お、向こう側の升席に顔見知り夫婦が何組かいますね。眼鏡の奥さんとか。
戦士リシュ・オゥスと金銀姉妹の席にはやや年増な栗毛メイドもいるけど、あれが噂のメイド長かな?
オーガ村の面々とウサ耳さんもいます。相変わらず仲が良さそうでなにより。




 ☆89日めの2、つわものたち☆



本日は、久しぶりに闘技場で自由を得る女がでるでしょう。
普通に勝ちますよね、ソーニャさんが。
闘技場ではグェスでも勝ち目がない師匠が、星10程度の挑戦者に後れをとるとは思えません。

「いや、最終戦は上限なしじゃあ」

引退戦はソーニャさん本人の希望で特別ルールが適応されていて、格や番付や予約と関係なく誰が挑戦しても良いことになっ
ているそうです。
というかソーニャさん、今月は既に数回の決闘を行い全てに完勝していまして、現在の評価は星12だとか。


今回の特別ルールでは男側が自分より星が少ない女へも挑戦できます。
ですが二番目以降の挑戦者は自分と同じか上の星を持つ者を、挑戦者の登録順番と同じ回数倒してでないと挑戦できません。

たとえば、一人目で挑んだ星10の戦士がソーニャさんに負けたとします。この場合次の挑戦者は自分と同等以上の競争相手
を二人抜きしてからでないとソーニャさんに挑めないのです。
女側の疲労を考慮してのルールですね。オークの持久力は底なしですし+1人の人数差も妥当でしょう。


‥‥ん? このルールだと層の薄い上位者であればあるほど先んじて動かないといけないのでは?
確かいまのオーク島に、星13の戦士は4人ぐらいしか居なかった気が。彼らがソーニャさんを嫁にするには、どんなに遅く
とも三番手で挑戦しないといけません。

「三人しかおらんぞ。オーガ村の爺ぃは一昨日引退したけのぅ」

藤子さんが出かけていた決闘沙汰というのがオーガ村の親子喧嘩でして、結局は族長とその息子が殴り合いで決着付けました。
負けた族長もとい元族長は現役を退き、勝った若リーダーがオーガ村四天王から族長に昇格したのです。
そっかウサミミさんは族長夫人になったのかー。これはお祝いになにか贈らないと。

今朝がたオーガ村一行と会ったときは、えっちに夢中でまともに会話もできませんでしたからねー。私が。


最新情報によれば大神殿が認めた最高位、星13の戦士は全島で三名のみ。
もし一番目に星13の戦士がでて負けたら、次は残る最高位者同士で決着つけないと彼ら最高位者がソーニャさんを嫁にでき
る可能性はなくなります。

こりゃ荒れそうですよ本日の最終戦は。どうでしょう解説の藤子さん。

「この島であの女(あま)に正面から当たって勝てる男は五人とおるまいのう。オーガの新族長は嫁にぞっこんじゃけぇ」


なるほど。ウサミミさんが好みどストライクならソーニャさんには触手が動きませんかあの兄ちゃん。‥‥もとい食指。
しかしオーガ村にはまだまだ強者がいます。

そのうちの一人、オーガ村四天王であり新族長のお兄さんだという強面で背の高いオーガが最前列に座ってます。
元族長への挑戦権を賭けた決闘で弟に負けてしまいましたがその内容は全くの五分だったとか。
星は12ですが挑戦する資格充分です。


ミノタウロスたちが固まっている区域でひときわ目立っているのが「青い虐殺者」の異名をとる、ミノタウロス族一の勇士
ムン・グァガ。
ミノタウロスには珍しいがっちりむちむちな固太り体型を、総ブルーメタル製の板金鎧(プレートアーマー)に包んでいます。

熊のような大男とは言いますが、本当に熊並の太ましさですね。
まさか、あの牛頭かぶりものじゃあるまいな? 中身本当に熊だったりして。

挑戦者に星の制限がないので完全武装な彼でも最終戦に挑めますが、藤子さんの評価ではあの青い牛男は大概の敵を圧倒でき
るけど苦手な相手には意外と脆いので、ソーニャさんへ挑むのは無謀だとか。
私の知っている範囲だと、ゴォ・ドス相手にはかなり有利に戦えますがレェ・ウォスだと相当不利だそうです。

ミノタウロス族内部ではムン・グァガが最強とされていますが、他の部族からは長老のルゥマ・アロッジの方が強いという
評価もあります。
しかし歳が歳なので、あの体毛が白髪だらけな老体ミノタウロスが嫁取りに出るとは思えな‥‥ いや80過ぎてからだけで、
のべ100人以上孕ませた人間(ヒュー)族がいるのだから無理でもないか。


ご老体といえば、ミノタウロス達の隣にいるサテュロス族にも一人強そうなお爺さんがいますよ。
人呼んで「秒殺」のササーン。異名の通り短期決戦を得意とする伝説的拳士です。
ミノタウロスやミノヒッポスたちと違い、下半身が獣的な体型をしていて上半身は人間っぽいのがサテュロス族です。
長い白髪と長い白髭と山羊じみた二本の角を生やしたご老体は、小さく細い体つきで見た目の迫力に欠けますが、一分も隙が
ありません。

通じるかどうかはともかくとして、あの青い装甲熊牛には私でも一撃入れることはできるでしょう。
でもあの爺さんは無理です。
当たる当たらないの問題じゃなくて‥‥ おっと、目が合っちゃいましたよ勘が鋭すぎるぞあの山羊。

達人だアレは。
サテュロス族には珍しく一穴主義でここ20年近く嫁取り戦へは参加していませんでしたが、今月で亡き妻の喪が明けたので
後妻を貰いに来たそうです。

しかし良く知っていますねコーネリア、情報収集は士官の嗜みだと言われりゃそこまでですが。
今までと違って、選手もとい出場者候補の名前や立場や経歴がよく解ります。


数的に一番多いから当然ですが、オーク族のなかにも強そうなのがゴロゴロいますね。お義兄さんの隣にいる中年のオーク戦
士もグェスたちの親族でしょうか、顎の輪郭とかがそっくりです。

コボルドたちは嫁取りに来たのではないから升席にはいませんが、割と良い見物席に強そうなのが並んでいます。
お、すり鉢鉱山集落のごつい&イケ面な剣士コンビも来ていますね。


とかなんとか話しているうちに生き残り戦が終わりました。何度見ても慣れないなーこれは。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
毎月みてると胎教にも悪そうだから早いとこ解決策を見いだしたいものですが。


今の計画案にはソーニャさんの協力が必要で、なので今日師匠が負けてしまうと困る。
ですが私には声援ぐらいしかできません。



舞台の掃除が終われば次は嫁取り戦です。

箒やブラシで舞台を洗い終えて、専用の待機席にもどる巫女や見習い巫女たちの衣装はいつもより露出度高めですね。
超ミニスカート、いやワンピース裾下の太腿が眩しすぎる。地球のものでたとえるとYシャツぐらいしか丈がない。当然なが
ら大股で歩いたり突然身を翻したりすれば裾がめくれて下着が丸見えになる筈ですが、時折風にめくられることはあっても身
のこなしの失敗で見えてしまうことはありません。

精鋭、ですね間違いなく。

なんらかの武術それも初段どころではない高みまで達した若い娘をあの人数そろえられるとは、さすがミッシェル山大神殿は
人材の厚みが違う。


藤子さんの話では、彼女達10人+巫女頭2人が来月の生き残り戦出場者の共同妻となるのだそうで。
ということは来月は二回あるのか生き残り戦が。

今夜生き残り戦の参加者募集が締め切られ、あの巫女達は一月の間下っ端オークたちに毎晩毎晩3P4P当たり前で可愛がら
れて孕んじゃうのですよ。
だから観客席にいる下っ端達に、出場登録すればこんな凛々しい巫女達を組み敷いてあひんあひん言わせて、孕ませることが
できるんだよと誘っているのです。今なら先着32名様まで。

なお孕んだ巫女達は神殿奥の領域で産んで、子供は一歳半か二歳ぐらいまで母親や他の巫女達に育てられ、その後修行の旅に
出るのが普通です。
多くの若者が志半ばで倒れますが、生き延びたものたちはより強く逞しくなって帰ってきます。



最初の花嫁候補がやってきました。若草色に染め上げられた半長靴にタイツ、若草色の半ズボン、タンクトップじみた茶色い
肌着に若草色の短上着、首に板金入りの革製ネックガード、手には肌着と同じ色合いの指ぬき手袋。
武装はショートボウに矢筒、そして腰の剣帯に片刃の刀を下げてます。
先月の紹介戦で見たカットラスじゃなくて今日のは脇差しかな。

ウサミミさんの元冒険仲間な、ハーフエルフさんは満場の喝采を浴びて花道を進みます。

一見して細身の身体ですが、素早さ軽快さ精密さ安定感などをそこそこの高さで調和して鍛えられてますね。
筋肉の質と量と配分に問題はないのに不思議と引き締まっている印象がないのは、一部に贅肉が付いてるせいでしょうか?
観客席の下っ端達は新人剣闘士の揺れるDカップおっぱいに「モミテー!」とかの正直すぎる歓声を飛ばしてます。


そんなにおっぱいが好きかおまえら。私も大好きです。
せめてBぐらいは、自前で欲しいぐらいに。






 ☆89日め3、選手入場☆



む? なかなか挑戦者が上がってこないなと思っていたら、花道を通ってまた一人女の子がやってきました。
観衆の声援から察するにあの子も嫁候補で今日がデビュー戦のようですが。

歳は二十過ぎぐらいで、引き締まった細身の身体。見ていて体脂肪率が心配になってくるぐらい皮下脂肪がすくないですね。
黒ずくめのぴったりした衣装(タイツとレオタードみたいなもの)を着て、同じく黒い革のぴったりした半ズボンを穿き、黒革
の胴着(ゲームでいうところのソフトレザーアーマー)を身に付けています。胸も控えめ。

武器らしきものは、同じく真っ黒な籠手しか身に付けていませんね。手甲の拳の所に棘が生えてるのですよ。
でもあの籠手、明らかに魔法の品(マジックアイテム)だ。
兜は被ってませんが仮面を付けています。埴輪とかコケシ人形系の無表情さっぱり顔の仮面ですね。髪はベリーショートの黒。


更に少しの時間が過ぎて観衆が落ち着きかけたころに、また一人女剣闘士が花道を歩いてきました。
猫耳系の獣人で、年齢はたぶん十代後半。黄色と橙の中間ぐらいの波打った髪?を肩あたりで切りそろえてます。
コボルドが犬9人1の比率だとしたら、猫耳獣人は猫1人9ぐらいの割合ですね。どことなく猫っぽい顔立ちですが、産毛と
髪の毛の区切りがないことや耳と目が猫系なことを除けば充分人間(ヒュー)族に見える顔立ちです。
でも瞳は縦長で虹彩は琥珀色なので、あの猫耳は精巧な付け耳などではなく本物の獣人族なのでしょう。

服は髪と似た色のブラウスっぽい上着にミニスカートそしてリボン付きの長靴下に踵の低い靴、と前世的に言うと魔法少女コ
スプレイヤーのような格好ですね。
得物は服に付いているのと同じリボンで飾られた魔法棒(ワンド)を持っています。

雰囲気からして演算魔術師でも直感魔法使いでも精霊使いでもなさそうです。でも呪文使い(スペルキャスター)の気配もする。
あえて言うなら信仰系っぽいですが、私や巫女さんたちとも微妙に違うような? この選手は注目すべきですね。



やや時間をおいて、花道から四人目の剣闘士がやってきました。
どうやら今日は選手紹介を先にまとめてやって、それから一人ずつ闘う方式のようです。

「コーネリアさんの発案なのですよ。花嫁候補達の姿を少しでも長く観客の方々へ見せてあげられないかと、巫女衆で知恵を
搾ってみました」

‥‥と、いうことらしいです。
相変わらず共通語(コモン)と櫓志摩なまりヒルデニア語の落差が凄いや。



冷たい印象のある巫女達ですが、それは下っ端たちを奮起させるために心を鬼にしているだけであって本意ではありません。
だと思うんですけどね、大部分の巫女は。
巫女たちがオークを、いいえ大神殿に集まる雄達を大好きなのは確かです。

大母様なんて、できることならば全島のオーク達に身体を与えたいぐらいでしょう。
澄まし顔の巫女達も大母様の弟子ですし、そうやってしまって構わないのならば今この観客席で着てるもの脱ぎ捨てて、むき
出しの尻を突きだし「「「どうかご自由にお使いくださいませ、ご主人様」」」と唱和しているでしょう。


少なくとも闘技場周辺にいる巫女達の三割ぐらいは、そんな妄想を実行してみたいと思っている筈。
何も考えずただ肉欲に浸りたい女達も入れれば更に一割追加です。
下手な超能力より鋭い私の直感は、下っ端オークたちへの媚びを隠した視線を見逃しません。

ほら、特にあの栗毛ショートで水色の目をした清掃係の見習い巫女。童顔で胸ぺったんこの。

冷静沈着に箒を使うふりしていましたけど、あれは人気のない廊下とかで下っ端オークとすれ違うときに「この雄がボクの手
首を掴んで、柱の陰にでも引っ張り込んでくれないかなあ?」とか期待しちゃっている顔ですよ。
濡れ衣じゃありませんって。
いや、確かにあの巫女の下着は濡れていないでしょうけど。今はまだ。



まあそんな性的白昼夢(ファンタジー)は置いておくとして、巫女達はオークをはじめこの島の信徒達全ての幸福を願うだけで
はなく、実現しようとしているのです。どうしても下っ端たちの扱いが一番悪くなるだけの話で。

現実は世知辛いです。
ですが少しずつでも変えていける事はあるはずで、下っ端達の憧れを煽るというか焚きつけるために色々と試しているのです。

たとえばこれから暫くの期間、星が4や5の女剣闘士も嫁取り戦に出すそうです。
嫁取り戦の難度をいくらかでも下げ、挑戦者を増やすために。
ただ、星が6未満の挑戦者が勝ったとしても星が6になるまでは嫁は引き取れません。子作りとかはできますが。


つまり星4の見習い戦士オークが星4の女剣闘士に勝ったとして、特にものいいとか付かなかったのならその場で犯しても中
庭へつれていって芝生の上で膝に乗せていちゃいちゃしても一向に構いません。
ですが嫁を連れて大神殿の外へ出ることは許されない。
浜辺や果樹園はともかくとして、神殿警護の戦士たちが巡回している区域の外へは出られないのです。当然ながら自分の巣へ
お持ち帰りは無理です。


巣に連れて帰って一緒に暮らすには星が上がって見習いでなくなるか、嫁さんを守りきれることを証明せねばなりません。
いつぞやのソーニャさんが特別戦で6対1をやってましたけど、もしあれが星5オーク6人だったとしても勝ってさえいれば
オーク達はソーニャさんを共同妻にできていた筈なのです。
嫁さん自身が自分を守れますから、星の一や二つは誤差として認められるのです。


となると、通い夫方式ですねこれは。

この方法だと星が低くても嫁を貰えますが、星6になるまで夫は大神殿に通わないと嫁さんに会えません。
修行を積んで星を上げれば、預けていた嫁さんをひきとって一緒に暮らせます。
もし修行中に夫が死んでしまえば後家さんができてしまうのが難点ですが。


「まあ私にも責任があるといえばあるし、な」

先日海賊船蛇王丸が乗せてきた亡命者オークとその妻たちですが、既に三人ともオークの子を孕んでいます。
その子の父親を夫として認めていて、これからの人生をオークの奴隷妻として歩む覚悟を決めている母と娘達はまだ良い。
ですが旦那様オークの立場が微妙です。

覚悟はともかく実力がまったく足りてません。
彼の強さは星2かよくて3程度。これでは物騒すぎるこの島で生きていくのは難しい。コネもありませんし。
一人でも大変なのに、妻たち三人と娘一人を守って暮らすのは到底無理でしょう。

しかし大母様たち巫女衆に愛し合う夫婦婦婦を引き剥がす気などありませんので、この制度の出番という訳です。
夫が修行に出るあいだ、妻たちと娘は大神殿に預けられてオーク島の作法や常識を身に付けます。
そして夫オークが充分に腕と星を上げて帰ってきたら、家族は神殿から離れてまた一緒に暮らせるようになるのです。


つまりゴエモン&コーネリアの関係と、ほぼ同じ立場になる訳で。

海賊船蛇王丸が西方の港に行かなければ亡命者達がこの島に来ることはありませんでした。オルロフ海軍辺境艦隊が密輸事業
を企てなければ蛇王丸が西方まで脚を伸ばすこともなかったでしょう。
元、が付くとはいえ現場責任者なコーネリアは後始末の知恵を出すぐらいには責任がある訳です。本人的に。

そして義息子の嫁が関わるのであれば、義母とその夫が事に関わるのは当然。
これも縁だということで亡命者オークの修業先が温泉洞窟に決まりました。族長と族長夫人の権限で即決です。
決定権は私にあるのですよ。
温泉洞窟小神殿の祭事について、とくにミッシェル山大神殿との交渉は神官(プリーテス)の管轄ですから。

今は仮決定で全員一致の最終決は帰ってからになりますが、弱いオークの指導育成が目的なゴォ・ドスとレェ・ウォスの二人
が反対する訳もありません。
将来的には仲間と女っ気が(人妻と幼女とはいえ)増えるので、下っ端たちも喜ぶでしょう。


良し、今月は新人勧誘の手間が省けましたよ!



お、話し込んでいるうちに全員揃ったようですね。
最後の一人、12人目のソーニャさんが花道から舞台に渡るところです。
お師匠様の装備は、チアガールと女学生夏服を混ぜたような青と白を基調にしたステージ衣装、右手に短めの片手剣、左手に
丸い小型盾。あとは白い長手袋に薄い灰色のタイツそして無地の革長靴に頭の飾り物と、お馴染みの姿です。
いや、取り合わせは同じですがなにやらいつもより気合い入ってますね。化粧とかではないようですが? 


12人も綺麗所が並ぶと壮観です。

弓使いのハーフエルフ
黒革鎧の仮面闘士
猫耳獣人魔法少女
武器が山ほど入った籠を担いだ、ヒルデニア風女戦士
赤毛をお下げにした、軽装の闘士(シーフまたはスカウト系か?)
銀色魔法鎧の女騎士
鎖かたびらを着た女剣士
鳥系獣人族のアマゾネス風女戦士(武器は槍)
栗毛の大斧使い
竜鱗鎧の細身剣使い
(後述)
チアガールっぽい衣装の本職剣闘士

うん、12人中11名は問題なし。人間世界の闘技場にも居そうな面子です。ただ11人目が普通じゃない。
背丈より長い魔法杖(スタッフ)を持った呪文使い(スペルキャスター)なのですが‥‥。

まず年齢。どう見ても10歳未満、小学校低学年いや下手すると幼稚園児かもしれません。
小人族ではなく、人間(ヒュー)族の幼女です間違いなく。昨日買ったばかりの、この柏材製高級算盤を賭けても良い。

しかも妊婦。 ボ テ 腹 です。

白地に金と桃色で蔓草模様が入った、レオタード風のぴったりした胴着はお腹の部分がはっきりと膨らんでいる。
推定妊娠七ヶ月前後。
どこからどうみても妊婦です。おでこちゃんと同年代ですが別人、あっちは太腿ぐらいまで届く長い銀髪に水色の眼でしたが
こちらはショートヘアの金髪で藍色ですし。

というか観客席横の雛壇におでこちゃんいるし。見習い巫女枠に。
おでこちゃんのお腹は現在五ヶ月過ぎですが、人間でいえば妊娠八ヶ月あたりの大きさになっています。
中身がオークじゃなければ出産事故間違いなしの危うさ痛々しさですが心配要りません。
何の問題もなく、あと一月もしないうちにおでこちゃんは元気で可愛い赤ちゃんを産むでしょう。

ええそうです。比較対象のおでこちゃんは無事でも、舞台にいる方の幼女妊婦はそうではありません。
彼女のお腹に入っている中身がオークではないから。

流石にコレは無茶すぎませんかねえ? 慣れたつもりでしたが、未だにこの島の流儀には驚かされます。






[38600] 46
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/24 11:57



 ☆89日め4、さすがに幼稚園児の歳ではありませんでした☆



勝てば正義。強者は善。
それがオーク社会の掟なのです。つまり勝っているかぎりは、強者でいさえすれば我が侭を押し通せます。

闘技場に出る女剣闘士は、年齢一桁の幼女だろうが、その故郷がトカゲ帝国に滅ぼされていようが、お腹が落城前夜に仕込ま
れた子供で膨らんでいようが、ともに売られてきた実母が既に奴隷妻としてミノヒッポスの牧場で愛玩飼育されていようが、
嫁取り戦に勝ち続けているのなら自由の身になれる望みがあるのですよ。


彼女‥‥11人目の剣闘士である幼女妊婦は幸か不幸かエロモンスターのフェロモンが効きにくい体質でして、しかも魔法使
いとして天賦の才があるのです。一桁年齢でありながらトカゲ帝国相手の籠城戦では実母でもある師匠と共に主力扱いされて
いたぐらいに。

今現在では師匠や姉弟子達より上でしょうね、大神殿で更に研鑽と実戦を積んでますから。
ただそれでも、魔法使い(ソーサレス)としての評価だけを言ってもソーニャさんの方が上だったりします。
魔力量(MP)はほぼ互角ですが、6レベル呪文が使えるソーニャさんに対して向こうは5レベル呪文までしか使えません。

位階(レベル)的に倍近い差があるので当然ではありますが、それでも一桁年齢なのに達人中の達人であるお師匠様と比較が出
来る力量なのだからとんでもない。歴代10位の購入金額は伊達じゃありませんねあの子も。
小国とはいえ高位貴族出身で、曾祖父母の代から先祖が勇者英雄しかいないというサラブレッドもびっくりなエリート種です。

つまり4人ずついる曾爺ちゃん&曾婆ちゃんが全員異名持ち(ネームレベル)級なのですよあの幼女。
たぶんその先祖をたどっても、全員がでないにしろバケモノ揃いでしょう。
ゲーム的にはハイヒューマン扱いになるのかも? 「地下牢と竜」ならヒットダイス(レベルみたいなもの)に+4とか+5と
かの修正値付いてますねきっと。私がデータ作れるならそう処理します。


しかし、虎いや竜の子とはいえ未だ幼くしかも身重。実際にはそんなことをしようなどと考えもしませんがハラキズあたりが
本気で殴れば(そして当たれば)一撃で倒せ‥‥はしないかもしれませんが大変なことになります。
母体も胎児も無事には済みません。

只でさえ魔法抵抗力が低い傾向にあるエロモンスターたちが、つついただけで壊れてしまいそうな幼女妊婦魔法使いを無傷で
負かすのは難しいでしょう。妊婦にとことん甘いですからこの島の男どもは。
そんな訳で幼女ソーサレスは実力と有利な条件が重なって連戦連勝。その評価は星11にまで達し、あと2回勝てば剣闘士を
やめて島を出ていける身分になれるのです。しかも孫の代まで食うに困らないぐらいの財貨を持って。


剣闘士達は決闘に出たり勝ったりするごとに報奨金がでて、その金額総計が最初に設定した額を超えると自由になれる訳です
が‥‥実は報奨金って、大神殿に支払わなくて良いのですよ。貯める必要もない。
だから正確に言えば自分を勝ち取っているのであって 買 い 戻 し て る の と は 違 う のです。



剣闘士が得た報奨金の総額が登録時に決まった額を超えると目標達成で解放されます。
力こそ正義、勝利こそ真理のこの島では自由を手にする理由はあくまでも本人の強さ。金銭の額じゃありません。
報奨金の額は「あとどれだけで自由になれるのか」を分かりやすくする意味が強いのです。


島で手に入れた報奨金+その他の財貨をどう使おうと個人の自由です。この島では勝者こそが正しいのですから。
大神殿では挑戦者候補やただの支持者が、敬意と崇拝をこめて剣闘士へ贈り物をするのはごく普通のことでして。

たとえばソーニャさんは、下っ端オークたちから取れたて果物とかきれいな石とかの貢ぎ物を毎日山ほど贈られています。
その殆どは大神殿に納められ、大部分が下っ端達へ再分配されるのですがソーニャさんは根が剣闘士気質なので観客からの贈
り物が多いと嬉しくなる人でして。
ファンサービス精神溢れる我が師匠は観客へ魅せる闘いを心がけていますし、花道に群がる下っ端達を当人達の望みどおり優
しく踏みつけてますし、闘技場に上がってきた挑戦者オークにはなるべく怪我させないように闘っています。

まあ、それが逆に「あの女を本気にさせたい」とか「舞台の上でひん剥いて突っ込んでひぃひぃいわせたい」とかいう層を
滾らせている訳ですが。



話がズレますけど爬虫人類って、人間(ヒュー)族を 舐 め き っ て ますよねえ。ええ。

あの幼女妊婦ソーサレスはもちろん、この島の女達は三分の一ぐらいがトカゲ帝国と悪しき因縁があるのです。
自由の身になろうと嫁入りしようと、トカゲ帝国への恨みは消えるどころか濃縮される一方。愛し尊敬する母や義母や師匠や
巫女さんたちを苦しめていた爬虫人類に対しこの島の雄たちが敵愾心を抱くのは当然でしょう。
更に嫁さんもトカゲと因縁が有れば厄満状態。

トカゲ連中のやり口って半端なんですよ。
どうせやるなら東方世界辺境のオークたちのように、「故郷の町がご主人(オーク)様に略奪して貰えるように頑張る」ように
なるまで洗脳してしまえば後腐れがないのに。

自分で自分の敵を作っているのだから世話はありません。
このあたりの杜撰さも、トカゲ帝国が近年伸び悩んでいる理由の一つでしょう。


コーネリアというかオルロフ王国辺境艦隊の分析によれば、神聖有鱗帝国は 拡 大 というよりも 拡 散 の傾向がある
のだそうで。
つまりオーク島のように統治しにくい地域は直接押さえず、統治しやすく見返りの大きい地域へ人的資源を投入し優先的に押
さえて帝国を運営しているのです。
某戦略シミュレーションゲームで言うなら「屑領地は投げ捨てるもの(キリッ)」理論ですね。


話を戻しますと、お腹の子を労ってというよりも妊婦の闘い方を習得するためにしばらく休場していた幼女妊婦ソーサレスは、
子供を産む前にあと2回の勝利とその結果としての自由を求めて復帰した訳です。
無茶だとは思いますが、強者である本人がそう望んでいるからには是非もありません。少なくとも弱者の立場に甘んじている
私に云々する資格はないのです。





 ☆89日め5、うわぁようじょつよい☆



「で、ハラキズとケサガケとゴエモンはいまどこでなにをしているのですか?」
「えっとその、上手く行けばなにもかも美味く行く筈、なんだ」

ゴエモンがいないと欠乏症を起こすコーネリアが取り乱していないからには、当然その行方を知っている訳で。
問い詰めてみると答えましたが、三人は嫁取り戦に挑戦するそうです。狙いはソーニャさんで。

これが他の剣闘士なら止めることもあるでしょうが‥‥オーク大好きで特に若くて弱くて気持ちの真っ直ぐな下っ端が好みな
ソーニャさんが相手なら怪我の心配もありません。
胸を借りるつもりで思い切りぶつかって欲しいぐらいです。

というか、嫁の入れ知恵とはいえ下っ端三人でアレに挑もうとは見直しましたよ。結果がどうなろうと帰ってきたら誉めてあ
げなきゃ。

三人が挑戦できる可能性はそれなりにあるのです。嫁取り戦では挑戦者のなかでもより星が低い方が優先して挑戦権を得られ
る傾向にありますからね。なるほど、だから乱入有りなのか。

「良いの? うまく行かなかった場合は要らない恥をかくことになるけど」
「挑んでの恥は恥にあらず、ですよ」

薩魔人的にすぎる思考かもしれませんが、危険を恐れているだけではなにもできません。
最悪でも死ななければ良し、怪我なら治せます。コーネリアたちの策とやらを見せてもらいましょう。



舞台の上では既に第一戦が始まっていまして、ハーフエルフさんが弓矢を打ちまくっています。
って、流れ矢が向こう側の観客席まで飛んでいってますよ危ねえなおい! 

ローマの闘技場と違って闘技場と観客席との段差がないから升席やその後側は本気で危険地帯です。
中世欧州の短弓(ショートボウ)でもその有効射程は約60メートル。ファンタジー的な素材や技術で強化されているあの弓な
ら更にその威力は数割増し。
舞台どころか私たちのいる升席から射ても、向こう側の升席にいるオーガ村ご一行様まで届いて刺さるでしょう。


そんな矢を近距離で受ければ分厚い木の大盾でも防ぎ切れません。挑戦者のオーク戦士(星5つ)は盾ごと貫通されまくりで裁
縫箱の針刺しみたいな格好になっています。射撃の隙が無さ過ぎて接近もままなりません。
怖っ! エルフ弓術怖い! 森に立て籠もっているエルフやハーフエルフに喧嘩売る奴は馬鹿ですわコレは。
機関銃とまではいきませんけど、イサカの散弾銃なみには早いですよエルフ短弓の連射って。


矢筒の中身が半分以上残った状態で挑戦者は倒れました。昏倒失神が確認されハーフエルフさんのTKO勝ちです。

はて? さっき流れ矢がオーガ村ご一行様の席へ飛んでいったのですが、堀の上で弾かれて落ちましたよね。
若リーダーもとい新族長が何かしたみたいですが? 嫁さんの髪に鼻面突っ込んで く ん か く ん か していただけ
にしか見えませんでしたが、何をしたのでしょう?
他のオーガや隣の席のオーク戦士は素手で掴み取ったり囓っていた骨付き肉で受け止めたりして矢を防いでいましたけど。
 

続いての第二戦。挑戦者は特大の砂鉄入り革棍棒(ブラックジャック)で武装したオーク戦士です。
ぶんぶんと物騒な革袋を振り回して対戦者を追い込んでいきます。

舞台の隅まで追い込みましたが、追い込んでから一撃はどうしても甘くなります。
勢い余って殴り殺しては、嫁にできませんからね。その一瞬の隙で逆転には充分でした。

勢いの鈍った革棍棒を紙一重で避け、オークの内懐に入り込んだ剣闘士の籠手から剣が生えました。
長さ40センチほどの両刃剣が二本、腕に固定された状態でオーク戦士の首筋に突き刺さります。そして捻切られる。
噴水のように血飛沫が上がり、オークの首が切り落とされました。首のない死体が倒れます。

切り落としたばかりの生首を掲げ、仮面をずらしてそのしたたり落ちる血を口に受け止めつつ、血塗れの姿で花道を去ってい
く新人剣闘士ですがその背には歓声これあれど罵声は一切向けられません。

勝者こそ正義。強者こそが善。それがこの島の掟なのです。


長巻使いのアマンダとかもそうでしたが、こういった残虐な闘い方を好む層も結構います。剣闘士にも婿候補にも観客にも。
好まない層ももちろん居る訳ですが、そういった優しげな女が好みな者は闘技場へは寄り付かないのです。
ただし不幸なことに、巣の幹部とかは付き合いや体面の都合で毎月顔を出さないといけません。
出さないと色々と支障が起きます。
眼鏡の奥さんの旦那オークとか、ギュー・グェスのように嫌々来ている層もいるのですよ。
オーク島の社会構造的に、世間話で闘技場の話題が占める割合は一般的大阪市民の生活における甲子園の比ではないのです。


またひとり死人が出てしまいました。
ああもったいない、星6の戦士が一人いればどれだけこの島の未来に貢献できることか。
なにも殺すことはないでしょうに。



その後も嫁取り戦が続きます。


01 ハーフエルフ射手○ ●オーク戦士(大盾と棍棒)  弓矢連打により戦闘不能
02 黒革鎧の仮面闘士○ ●オーク戦士(砂入り革棍棒) 斬首により死亡
03 猫耳獣人魔法少女○ ●ミノタウロス戦士(両手斧) ゴーレム正拳突きにより失神
04 ヒルデニア女戦士● ○オーク魔法戦士(杖と短剣) 短剣による寸止め総計12回により戦意喪失、降伏
05 赤毛軽装の拳闘士● ○ミノライノス戦士(棍棒)  抱きしめ+ディープキス+縛り上げ+強制挿入+膣出しで失神
06 銀色魔法鎧女騎士● ○オーガ村の喧嘩屋(素手)  素手による関節技+殴打で失神
07 鎖かたびら女剣士○ ●流れ者の丘巨人(双剣)   切り傷多数からの出血により戦闘不能
08 鳥系獣人族女戦士○ ●ミノヒッポス戦士(槍)   空中からの槍投擲により重体、戦闘不能
09 栗毛の大斧使い ○ ●オーク戦士(六尺棒)    右腕切断、判定負け
10 竜鱗鎧細身剣使い○ ●オーク戦士(戦闘用殻竿)  堀へ転落し場外負け


うーむ、元々嫁取り戦は女側が有利なのですが、今回は酷いですね。10回やってオークの勝ちが一つだけとは。
やはり最終戦に向けて出し惜しみというか出惜しみしているのでしょうか?


十一戦めの出場剣闘士ですが、わりと重武装です。
赤い宝玉が埋め込まれた魔法杖(スタッフ)は相当な業物ですし、レオタードっぽい胴着も色々と魔法効果があるとみた。
白い長手袋や長靴はもちろん首元のチョーカーや耳のイヤリングや髪に結ばれたリボンのどれも普通の装備品じゃありません。

対する挑戦者は星11のオーク戦士ですが、得物が革鞭です。
それも曲馬団の猛獣使いが使うような長くて重たいもの。当たれば人間族の幼女など即死しかねない凶悪な代物を両手に一つ
ずつ計二本持っています。


先手を取ったのは幼女ソーサレス。短い詠唱と共に、杖の先から赤い光弾が飛び出して対戦相手に向かい飛んでいきます。
速度は推定で時速300㎞弱、大型の石弓よりやや早い程度ですかね。

対する鞭オークはこの攻撃を読んでいまして、右手の鞭で光弾を叩き落としました。
接触式信管だったようで光弾は爆発し両者の中間位置で炎と爆風を撒き散らします。
そして一拍遅れて振られた左手の鞭が幼女ソーサレスの杖に絡みつきました。いや本人に絡みつく筈だった鞭へ幼女が杖を投
げつけて防いだのです。

勝負はこの瞬間に決まりました。
右手の鞭は先端付近が消し飛びただの革紐状態、左手の鞭は杖に絡まっていて使用不能な挑戦者に対して幼女ソーサレスは攻
撃呪文を容赦なく叩き込みます。

幼女の手前1メートル程の所に、サクランボ大の光点が4個出現しました。直後に光点から一本ずつサーチライト状の熱線が
放たれ鞭使いのオーク戦士を照らし焼きます。

「グワァ────ッ!」

避ける暇もなく、強烈な熱線を四本同時に浴びたオーク戦士は生きながら燃え上がりました。
火達磨になりましたが、自分から堀に飛び込んで鎮火します。
ええと、堀の中で動いてるし命に別状はなさそうですね。星二桁の戦士なら即死しなけりゃなんとかなります。

横から見ていた私でも手加減していることが解ります。手加減された本人にはもっとよく解っているでしょう。幼女が本気で
焼けば彼の命はありませんでした。

幼女の勝利にやんややんやの拍手喝采が送られます。観衆達にとって勝利こそが真実であり善であり美ですから。




 ☆89日め6、鎧袖一触☆


さて、いよいよ嫁取り最終戦‥‥の前に新人の顔見せ戦ですね。
今日は対モンスター戦ではなく、剣闘士候補たちどうしで模擬戦をやるようです。
女子供は前線に出さないのがオーク島の流儀ですが戦えるに越したことはありませんので、動物系や昆虫系だけでなく人間型
(ヒューマノイド)の敵とも戦えることを誇示しておくと嫁候補としての評価が高まる訳です。

金髪ちゃん姉妹の船がそうだったように、この島でも難破したり襲撃してきたりで人間族と戦いになることは有り得ます。
そんなときに我が身だけでなく子供や巣の仲間を守り、余裕があれば夫や息子達のために敵の人間雌を捕まえてしまえる頼も
しい嫁に需要があるのは当然でして。


三人一組のチーム5つが同時に闘う模擬戦は、順当に呪文使い(スペルキャスター)三人組が勝ち残りました。
聖騎士(パラディン)と演算魔術師と精霊使いの三人組、先月のトカゲ艦隊が持ってきたあの三人です。
つい三ヶ月ほど前まで現役冒険者だっただけのことはあり、実力も連携も他チームとは段違い。
島に来てから一ヶ月足らずですが女冒険者三人組は剣闘士候補になっていまして来月には嫁取り戦に出場するそうです。
最低限の知識と作法を来月までに叩き込んで、後の細かい部分は旦那様が仕込むわけですね。


ふむ。黒髪のウィザードいやウィッチかな? 彼女は二~三回戦(星7ぐらい?)で堕ちますね。内心まんざらでもないという
かエロモンスターたちに絆されかけている。
元リーダーの聖騎士(パラディン)は心が折れなければ四ないし五回戦あたりで実力負け、心が折れればもっと早く自滅するで
しょう。
合法ロリの精霊使いは初戦敗退確定です。フェロモンへの耐性が弱いから、下っ端ならまだしも戦士級には勝てません。

「そうかな? 一回戦を勝てる可能性はあると思うが」

ふむ。コーネリアはそう見ましたか。私の直感と彼女の推論のどちらが正しいか、来月のデビュー戦を待つとしましょう。


模擬戦の後はしばらく時間をおきます。
オークはともかく人間には休憩が必要なのです。映画だって長いと上映途中で中断しますし。
映画と違って見逃した場面をもう一度見直すことはできませんので、観客たちはポップコーンを片手にではありませんが。

おっと、せっかくですからソーニャさんの闘いを記録しておかなきゃ‥‥と言うまでもなくコーネリアは準備してました。
しかも二個。地球のカメラと違って空間全体の情報を記録できる水晶球には死角がありません。なので二方向から同時に撮影
する意味はないのです。もう一台(一球?)は念のための保存用ですね。
水晶球の記録媒体は耐久性に優れていますが、なにをしても壊れないわけじゃありません。




で、階段から最初の挑戦者たちが上がってきました。うちの巣の下っ端オーク、ゴエモンとハラキズとケサガケの三人です。
はて? 義息子たちは顔や身体に生傷ができていますが、予選代わりに他の下っ端たちと喧嘩でもしたのかな。
得物は、ハラキズが長くて太い竹筒を一本。ゴエモンが担いでいるのは丸めた毛布でしょうか。ケサガケは素手。
盾や鎧のたぐいは身に付けていません、三人とも腰ミノと装身具だけです。

対するソーニャさんはと言えば、いつもの数倍気合い入ってますね。
服と剣と盾は普段と同じものですがその他の装備品が明らかに格上のものになっていますし、何重にも強化魔法を掛けてる。
先月の海戦時と比較して倍かそれ以上の、十種類以上の魔法的強化手段がお師匠様の身体を包んでいます。
これが6レベル呪文の使い手、その本気か。


10メートルほどの距離で向かい合う一人と三人。
まずはゴエモンが動きました。担いでいた毛布のような物を降ろして拡げ、舞台の石畳に敷きます。
ただの毛布ではなく厚手の物を二枚重ねにしてスポンジもどきを挟み込んだ、布団に近いもののようですが。はて?

あ、ソーニャさんにはこの行為の意味が通じたようです。ちょっと不機嫌というか怒ってる感じ。
小声で呟いた呪文と共に、ソーニャさんの剣を持った指先から熱線が放射されました。幼女ソーサレスが使っていたのと同じ
呪文ですね。数は一本だけですが。

「アチッ! アチッ! アチッ!」

一瞬で燃え上がる毛布とゴエモンの右爪先。足指を焼かれた下っ端オークは堀までけんけん状態で跳ねて、飛び降りました。
で、彼がまだ舞台の上で跳ねているときには既に、ハラキズは宙を舞っていたわけで。
何をどうやったのかは解りませんが、近寄って触れて投げたのは確かなようです。盾を持ったままの腕がかすっただけにしか
見えなかった動きで、200㎏近い下っ端オークが垂直方向地上6メートルまで飛び上がり猛烈に回転しています。

ゴエモンが舞台の端から飛び降りるのとほぼ同時に墜落着地したハラキズは、回転の勢いが残ったままだったのでゴエモンと
は反対方向つまりこっちへ向かってごろごろ転がってきました。
自力で止まれる訳もなくそのまま堀へと転がり落ちます。

熱線攻撃からここまで、およそ10秒。普段よりはゆっくりですが一方的展開であることに変わりはありません。


うーん、なんか展開に違和感ありますがそんなことよりハラキズを救助しなきゃ。このままだと溺れてしまいます。

落ちた時点で気絶していたのが幸いして水を飲まなかったハラキズは、堀の反対側から歩いてきたゴエモンに担ぎ上げられ、
私が降ろした輪っか縄とグェスの怪力で引き上げられました。
まだ気絶したままですが呼吸も脈拍もしっかりしていますから問題ないでしょう。


「グヒッ」

こっちは自力で這い上がってきたゴエモンは、コーネリアと足の火傷の治療という口実でいちゃいちゃしてます。
で、舞台の上にいるケサガケとソーニャさんは、その、えっとですね‥‥。


まず、堀の水で消火したゴエモンが一息ついてハラキズが沈んだところで、ソーニャさんが剣を鞘に戻して延々呪文を唱えは
じめまして。ケサガケは額に汗を滲ませつつ腕組みしたまま仁王立ち、していましたけどあれは動けなかっただけでしょう。

で、いつまでも続く呪文詠唱と効果発動に場内がざわめき始めた頃、私たち温泉洞窟一行は沈んだままのハラキズを救助しよ
うとしていました。
いえ、効果発動といっても目立つものではないのですが。数十回の詠唱に同じものが何回か繰り返されていたことや、呪文に
妨害系及び待機状態にした攻撃系が含まれているだろうことは解りましたけど、それだけです。

魔法剣士(ソードソーサレス)は本職魔法使い(ソーサレス)に比べて使える呪文が少ないと聞いていますが、だとしたら本職の
異名(ネーム)持ち魔法使いってどんだけバケモノなんですか。


「マホウ、コワイ。アナドル、ダメ」

師匠の本気と大人げなさに引いてる妻を、ギュー・グェスは膝に乗せて宥めています。
夫は全く心配していません。彼の見立てではケサガケの勝利が確定しているのです。

むう。確かに殺意は欠片も感じませんが‥‥いえ、戦いに関してグェスの感覚に疑いなどありません。夫が勝つというなら、
ケサガケが勝つのでしょう。




 ☆89日め7、用意周到 って言うのかなコレは☆



最後の呪文詠唱が終わりました。いつものソーニャさんと違う、張り詰めた気配を纏った女魔法剣士が立っています。
もしも噴火寸前の火口縁に立っていたらこんな感覚なのかもしれません。
傍から見ているだけでも怖すぎる、棘ドラゴンの三倍は怖い。

その前にいるケサガケはもっと怖いのでしょう。詠唱中からこちらを、私たちのいる升席方向をちらちらと見ています。
いわゆる目が泳いでいるというやつです。
仲間の視線に応えて、升席端に座っているゴエモンは右手を突き上げ、拳を握ってから親指を立てました。
激励? いえ、むしろ「問題ない続けろ」の方が近そうです。

まだ不安そうなケサガケに、私も親指を立てた拳を突き上げます。なんだか知りませんがやるだけやりなさい!


グェスとコーネリアも加わり、まだ気絶したままのハラキズ以外全員から「作戦続行」の指示を受けて腹が据わったらしい
ケサガケはソーニャさんへ向き直り、組んでいた腕を解きました。

「ジュンビ、オワリ?」

無言で頷く対戦相手の前で、それまでと違う落ち着き払った雰囲気になった義息子は腰ミノを外して投げ降ろします。
ぽいっと。


脱ぎましたね。

首飾りなどの装身具は身に付けてますが、オーク的には全裸です。人間社会でいえば靴下とネクタイのみ着用の紳士待機状態。
そしてケサガケのアレは、他の義息子たちと比べて赤みの強いドリルち○こは元気良くそびえ立っています。
‥‥ちょっとちょっと、なにやら普段より大きい気がするのですが? そんなに金髪美乳美尻のお姉さんが良いのか、あんた
エスティア様よりミャトリカ様の方が好みだったんじゃないのか。

わ、私に童貞捧げてくれるって言った癖に他の女でっ!

落ち着け。クールダウンくーるだうん。私は冷静だ。
一方ソーニャさんは冷静とはとても言えない状況です。生まれて初めてエロ本を見てしまった思春期年齢者のように顔を赤ら
めてケサガケの股間を凝視しています。

頬は染まり目は潤み、腰が引けて内股気味になって、切なげに身を捩らせています。
この島では良く見る光景ですね。オークフェロモンに脳神経とろかされた人間雌がち○こ欠乏症の発作を起こした姿です。
ああなると治療法は一つ。雌穴の奥までオークち○こを突っ込まれて、熱々の子種汁を注いで貰うことだけです。


禁断症状起こしているアル中患者の前に生ビールジョッキを出せば飛びつくのは当然。
オークち○こが欲しくてたまらない女剣士が目の前のち○こを求めてオークにむゃぶりつくのも当然です。
ソーニャさんは盾を投げ出してケサガケの前に跪き、大きく口を開けて咥えこみました。両手はオークの陰嚢と睾丸をまさぐ
り撫で回して感触を愉しんでいます。

猫が水を飲んでいるような、舌と唇がたてる音が聞こえるぐらい静まりかえっていた闘技場に爆音が響き渡りました。
観客席から跳躍し舞台に飛び込もうとした白い山羊老人が空中で燃えながら吹き飛ばされている。

黒こげになって観客席の方へ飛んでいくサテュロスに、舞台の床から次々と光弾が打ち込まれまれていきます。

「遅延爆破火球(デュレイドブラスト・ファイアボール)か!?」
「まさか、その呪文は第七位階のはず!?」

コーネリアと藤子さんの解説(実況?)を余所に、光弾は全て命中。
最初のも入れれば5発分の連続爆発で吹き飛ばされた老山羊男は観客席の壁を超えて、向こう側に消えてしまいました。


あの長い長い詠唱時間に、ソーニャさんは乱入者が出たら発射されると条件付けした「火球(ファイアボール)」の呪文を何発
も唱えていたのです。
茂みに隠れた針金を引っかけた迂闊な兵隊が、罠(ブービートラップ)の爆弾にやられるようにサテュロスは吹き飛びました。

正直にいいます。私、天狗になってました。トカゲ人魔術師の幻術とか見破ったし、直感の鋭さなら並のニュー○イプより上
だと思い上がっていました。
上級魔法恐るべし。異名(ネーム)持ち魔法使いが本気で隠蔽すれば、私程度の直感では気付くこともできません。
私が聴いていた、聴いたと思わされた呪文は氷山の一角でしかない。
実際にはその数倍の呪文やアイテムなどが使われれていたのです。そうでなければ計算が合わない。

いかに優れた戦士でも本気の異名持ち級魔法使いと戦ったことがない者が、魔法戦を想定していない者が罠に引っかかるのは
当然なのです。


「なるほど。策とはこれでしたか」
「まあ、その、これなら後腐れが少ないと思って」
「ネリー、カシコイ、コレ、イイ、カンガエ」

義母からじと目で睨まれたコーネリアは八百長を認めました。あとゴエモンは黙ってなさい。
ケサガケは勝ちに行ったのではありません。勝ってから舞台に上がったのです。
仲間があっという間にやられてしまったときはかなり動揺していましたが、なんとか持ちこたえました。

ソーニャさんは、うちの下っ端たちになら負けても利益こそあれ実害がない。だから事前に示し合わせてわざと負けることに
したのです。
つまりですね、わざと負けない限り闘技場でソーニャさんに勝てる雄はいない訳です。過去や未来は知りませんが現在のこの
島にはいません。
逆に言えば、野外で、集団に、殺す気でルール無用の戦いを仕掛けられたら負けることも有り得ます。可能性はある。


問題は今日の引退戦で勝った後なんですよ。
今日の引退戦が無事終わり自由の身になったらソーニャさんは温泉洞窟で住み込み教官をする訳で。
そうなれば静かだった我が家に、諦めきれない求婚者や腕試ししたい若人や略奪婚狙いの馬鹿が押し寄せてくるのは確実です。
そのなかに温泉洞窟を滅ぼす勢いで攻めてくるまで本末転倒しちゃった奴がいないとは限らない。

なので少しでも要らない来訪者を減らすべく、ソーニャさん大暴れの筋書きを書いたのですよコーネリアは。
今の内から危険人物を見極めるついでに、賛同者や便乗者が出にくくなるようにと。
根っこが蛮族の夫たち義息子たちは攻められたならば望むところだとばかりに迎え討つでしょうけど、そんなことで怪我人出
したくない程度には文明人の残滓がある訳です、彼女は。

自分を女として愛してくれる雄(オーク)の子を孕んで嫁入りしたいソーニャさん。
英雄級魔法剣士にめでたく懐妊して貰いこの島の住人になって欲しい大母様+大神殿。
憧れの剣闘士が専任教官&共有妻として巣に来てくれる下っ端たち。
襲撃者予備軍の排除は、三者全得です。

うちの下っ端たち特にケサガケはソーニャさんの好みに弩ストライクだったこともあって、昨夜遅くの作戦会議でこの作戦が
決まりました。
作戦ったって、舞台の上でソーニャさんと下っ端たちが俎板ショウやって挑戦者候補達を挑発し、罠(トラップゾーン)に引き
込んで殲滅し実力差を思い知らせる。ただそれだけですけどね。


見え見えの罠でも、必ず引っかかります。

命がけの決闘で嫁取りしようとしていた女が、雑魚の下っ端に雌として白旗あげて勝手に負け逃げしようとしてるんですよ?
高嶺の花と半ば諦めていた成人したばかりの幹部オークも、以前挑んでけちょんけちょんに負かされたミノヒッポスも、強い
嫁を得るために少しでも有利な取り組み順番を考えていた上位陣も、こんなことをやられては堪りません。
脳筋気質なエロモンスターたちが後先も上下左右も気にせず舞台めがけて突っ込むのは当然です。


で、一斉に飛び込んで一斉にやられてます。

若いオーク戦士達が花道から橋を渡って乗り込むと、石畳に仕掛けられた「クモの巣(マジカル・ウェブ)」の呪文が発動して
地面とそこから数メートル上まで立体式クモの巣みたいなものが張り巡らされまして、粘り着く糸に絡め取られました。
そして動けないまま「魔法の矢(マジック・ミサイル)」で延々射られていますが彼らはまだ良いほうです。

ええ、現在闘技場上空には待機状態の魔法弾数百発が滞空しておりまして、随時適宜に乱入者めがけて打ち込まれています。
闘技場には、一定条件を満たすと発動する攻撃魔法が何種類も待機しているのですよ。直接間接色々と。

黄色い革鎧を着込んだミノタウロスの魔法戦士は、地雷のように仕掛けてあった「他者浮遊(レピテート・アザー)」の呪文に
引っ掛かり浮き上がっていきました。さっきまでは両手の魔法棒(ワンド)から出していた火炎放射の明かりが見えていたので
すが雲の奥に入ると流石に見えません。

その義兄弟の赤い甲冑を着たミノタウロスは、舞台の真ん中で床からせり上がった石壁に囲まれました。次の瞬間天井含めて
侵入方向以外の周囲5方向を囲まれた中で爆発が起こり、赤い鎧のミノタウロスは舞台隅まで吹っ飛ばされます。
酷いのはここからでして、吹っ飛ばされた堀際に新たな石壁がせり上がってそこに赤鎧ミノタウロスがぶちあたりました。
受け身をとってダメージを最小限に留めたミノタウロスですが、逃げる暇もなく周囲4方向へまた新たな石壁ができあがり爆
発が起きて吹っ飛ばされました。そして飛ばされた先にはまた新たな石壁が‥‥。

「ナ‥メルナァ!」

今度は覚悟が出来ていたぶん反応が早く、赤鎧のミノタウロスは大斧を石壁に叩き込みました。見事真っ二つに割れた石壁と
共に堀へ落ちていきます。
あー ギュー・グエスなら空中で割れた石壁を蹴って舞台に戻れたのでしょうが、空間把握能力が足りませんね。
咄嗟に蹴ったは良いけど反動で跳んだ先が堀の石壁でして、それでも根性で壁に貼り付いていた赤い甲冑のミノタウロスは空
中からの灼熱光線を浴び、燃えて落ちました。


他にも小型竜巻に吸い上げられ海まで吹っ飛ばされる者、氷漬けになって固まっている者、石像になって固まっている者、
石畳が溶けてできた泥沼にはまって動けなくなる者、観客席の端まで瞬間移動してしまう者、突如出現した炎の塊のような怪
物と戦っている者、空気のように透明な敵と激しく切り結んでいる者、突如空中から吹きだしてきた毒々しい色の煙を吸い込
んでしまい咳き込んでいる者、同じ所で延々と足踏みを続けている者、挑戦者同士で殴りあう者、更には乳繰りあっているケ
サガケとソーニャさんの手前で車座になって宴会開いている連中までいて、舞台の上は混沌(カオス)が渦巻いています。

どうやらお師匠様が延々唱えていた呪文の中には魔物を助太刀に呼び出すものや、幻覚や混乱系の効果を発揮するものがあっ
たようです。

あるオークは幻の中で嫁候補と闘い、あるオーガは本人にしか見えず触れない気絶させた嫁を抱えて舞台から離脱を図り、
同じく幻の嫁を取り合い奪いあうミノタウロスとミノヒッポスが殴り合っているのですが、それらの幻に捕らえられている連
中を本物の敵である透明な召喚獣が横合いから殴りつけて打ちのめしてます。

宴会中のオーク達は雰囲気から察するに幻惑系魔法にひっかかり、ケサガケとソーニャさんを巣の仲間で公開初夜中の若夫婦
だと思いこんでいるのでしょう。
‥‥ってよく見たらあの酒とつまみは温泉洞窟産じゃありませんか。コーネリアに差し入れたやつです。
レイちゃん酒造の滝壺ブランデーを杯に注ぎ携帯焚き火で炙った巨大タコや大ワニ肉の干物を囓りつつ、島でも屈指の強者オ
ークたちが挿入に手間取っている新郎に野次を飛ばしたり嗾けたりしています。
つまみにはカツオの刺身らしきものまでありますが、そうか藤子さんも一枚噛んでいましたか。

「儂は知らん、関係ない。魚捌いただけじゃい」


童貞オークといちゃつきながらソーニャさんは追加の呪文を唱え、巻物を読み上げ、小瓶の水薬(ポーション)を飲み干し、杖
やら指輪やらのアイテムを使い、石飛礫や手裏剣や呪物の布札らしきものを投げつけて舞台上の狂騒を維持しています。
乱入者たちが引っかかるごとに新しい罠を置き、召喚した魔物が倒されるごとに追加しています。

楽しそうですね。

見える。ありありと想像できる。
この日のためにソーニャさんが毎日毎夜呪文を唱えアイテムを吟味して、この体感型ピタゴ○スイッチを嬉しそうに設計して
いる姿が目に浮かびます。何ヶ月かけたんですかこれの準備にお師匠様、暇人にも程がある。


ずっと前から計画していたんですよあの人は。コーネリアの提案を入れて範囲拡大しただけで。
お師匠様はどSですからね。対魔法戦の心得もない(も同然の)癖に戦士だ勇士だと自称して威張っているこの島のエロモンス
ターどもをおちょくり倒したい衝動に今まで耐えていたのです。

本気の英雄級魔法剣士がどれだけできるのか、人間族の熟練冒険者が如何に厄介な存在なのか教育したくて堪らなかったので
しょうね。お師匠様は見込みというか素質のある人の心をへし折るのが大好きですから。
もしケサガケと出会わず「生命の粘土」を手に入れてなかったとしても、最終戦では雲霞の如く押し寄せる求婚者どもを魔法
の罠空間に引き込んで殲滅しているでしょう。
これがやりたいから出ようと思えばすぐに出られたオーク島で、週に1~2回とかの緩い頻度で決闘やっていたのですよ。


そのソーニャさんは、酒盛りしている連中からほど近い石の祭壇に腰掛けていまして、M字開脚で股を開き両手で淫唇を拡げ
て 「はやく、はやくぅ」 とおねだり中です。焦りのせいか違う穴の方をつついていたケサガケの肉ドリルでしたがやがて
目標位置を確認して‥‥

ぶんっっ と後も見ずに投げつけた丸盾が青い鎧のミノタウロスにぶち当たりました。
満身創痍な青鎧の顔面に、ソーニャさん愛用の盾がめりこんで打ちのめします。祭壇に立てかけてあった魔法の盾をケサガケ
が掴んで投げつけたのですよ。
十重二十重の魔法罠をくぐり抜け、錯乱して襲いかかる競争相手や目に見えない魔物を叩きのめして祭壇前まで迫ったムン・
グァガでしたがこの一撃が止めになりました。倒れたままぴくりとも動きません。

「「グヒィー♪」」「イイゾ、ワカイノ!」

過程はどうあれ、ミノタウロス族最強ともいわれる勇士を仕留めた若人を酒盛りオークたちは手を打って褒め称え、はやした
てます。
時々飛んでくる流れ弾とかをしっかり捌いてますし、周囲の様子は見えているのですよねあのオークたち。
だけど見るもの聞くもの全てがソーニャさんとケサガケにとって都合のよいよう解釈されている。となると只の幻惑呪文では
なさそうです。

しかし、なんかこの一戦でずいぶん強くなった気がしますね。少なくとも昨日の朝までのケサガケにはあんなことできません
でした。


ケサガケとの前戯でステージ衣装を引きちぎられほぼ裸になったソーニャさんは、祭壇の上で数百名の観衆が見守るなかで
下っ端オークに犯されました。
片方にショーツが絡んだ足首を太ましい腰の上で絡めて、おっぱい揉み吸われながら膣出しされてよがっています。
良いなー脚が長くて。私の体型ではあれは真似できません。

舞台の上は死屍累々。いえ死んじゃいませんけど気絶したり動けなくなった連中ばかりです。宴会やっていたオーク上位陣は
新婚夫婦の初々しい交わり見てて辛抱堪らなくなりまして升席に戻り、嫁さんたちを可愛がってます。
一部では夫婦交換や乱交状態になっているようですが、気にしないことにしましょう。

あ、祭壇上でバカップルがもう一戦始めました。今度は後背位か。
嬉しそうに盛ってますねお師匠様は。幹部オークより下っ端たちの方が好みなことは前々から察していましたが、ここまでケ
サガケに填り込むとは思いませんでした。
温泉洞窟で一つ屋根の下暮らししているところにラッキースケベを仕込んで徐々に意識させるつもりでしたが、もっと単純に
考えるべきでしたか。

引退決闘そのものは、ケサガケ以外の挑戦(できる)者がいなくなった時点でソーニャさんの防衛成立とみなされています。
ケサガケ始め下っ端三人は八百長行為と判定され、失格扱いですが。
なのでケサガケは失格者が勝者に捕まえられて逆強姦されている扱いになります。法律的には。



後で聞いたというか聞き出した話ですが、お師匠様は一度でいいからやってみたかったのだとか。
彼女にとって夢の状況設定なのですよ。 「闘技場で、戦闘力では遙かに格下のオークに雌として求められ、ち○こ欲しさに
唯々諾々と従って玩ばれまくった末に犯される」 というのが。
八百長になるからリガ市などの人間社会はもちろん、オークの勢力圏でもできませんでしたけどね。

しかし自分自身以外に賭けるものがないオーク島の闘技場でなら、女側の八百長は問題になりません。好みの雄にわざと負け
ることもまた、露骨すぎない限り許されるのですよ。

今日の最終戦みたいに、全ての抗議や物言いをねじ伏せられる実力さえあればこの上なく露骨でも構いません。
オーク島社会が認めようが認めまいが、ソーニャさんは温泉洞窟で下っ端オークの子を産むという我が侭を押し通してしまう
のです。

勝者が正しい。それがこの野蛮な島の掟ですから。





[38600] 47
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/01/15 12:11





 ☆90日め、そして夜があけた☆



なんやかんやで色々ありましたが、ソーニャさんは自由の身になりました。
いやほんともう、死人が出なかったのが不思議なくらいです。

「ちゃんと手加減したじゃない」

ええ、してなきゃ闘技場にいた観客と職員が三割は死んでいたでしょうね。それでも石化したままのがまだ何人かいますけど。


変態紳士の多いオーク島ですが、全員が紳士ではありませんし紳士であってもときに我を忘れることがあります。
舞台から落ちたものは失格という嫁取り戦の規則を忘れたり無視したりして、一度落ちてから混沌の渦へと舞い戻った連中は
 不作法である と判定され巫女さん達に制裁されました。

信仰呪文や鎚矛(メイス)でぶん殴られた上に、星が減るわしばらくの期間出場資格を取りあげられるわ石化解除を後回しにさ
れるわと、反則者とはいえ同情したくなるぐらい散々です。
星が減るといえば、うちの下っ端三人も星2つに降格のうえ一ヶ月出場禁止になりましたけどね。
八百長の処分としては軽いですが、大母様に次ぐ強者を島に引き込んだ手柄と相殺しているのでしょう。


それにしてもつやつやしてますねーソーニャさんのお肌。ろくに寝ていない筈なんですが。
触手くんで日々性欲を紛らわしてはいても、九ヶ月近く処女を続けていた身体が一度や二度の膣出しで満たされる訳もなく、
ソーニャさんはあれからケサガケと繋がりっぱなしでした。

今が朝とは言いにくい時間帯ですから、18‥‥移動と休憩とかを引くと16時間ぐらい抱き合っていちゃいちゃしたり粘膜
擦りあわせたりしてたのです。
搾る方も搾る方ですが、搾られた方の頑張りも認めてあげねば。
雄としての自分を熱烈に求めてくれている極上の美女とはいえ、首から上をメデューサに変化させて悪質乱入者十数名を一睨
みで石化させちゃうようなの相手に起ち向かえるだけでも大したものです。ベッドの上の闘いとはいえ最後には勝ってますし。

昼から明け方まで搾り取られ続け文字通り性力使い果たしたケサガケですが、仮眠後の朝食で嫁の手料理であるフカヒレ粥や
牡蠣おぼろ汁やオクラ納豆などなどを何杯もおかわりしていたので大丈夫でしょう。蜂蜜酒も飲んでますし。
でも今日は労働力に数えません、腎虚になったら嫌なのでこのまま寝かせておきます。


常人のコーネリアが搾れる量などたかがしれていますので、ゴエモンは至って元気です。
初夜に新婚夫婦とハラキズも混ざって5Pとかもしていたのですが、やはり主役はケサガケとお師匠様のつがいでして他は賑
やかしみたいなものでしたから。

寝てしまった第一夫を膝枕して頭なでなでしているソーニャさんですが、彼女も温泉洞窟の流儀に倣って私やコーネリアと一
緒に裸エプロン姿です。
ハラキズとゴエモンは半熟卵とかマタタビの実とかの強精食を、上記の朝ご飯と一緒に食べてます。
コーネリアは食べさせて貰う側ですね、口移しで。


ギュー・グェスはいません。今朝方緊急で討伐任務が入ってしまいました。
わりと近場の仕事なので明日か明後日には帰ってくるでしょう。

寂しくありません。ここには彼と私の子が6人もいますからね。お腹の中に一人と外に五人。
それに昨夜というか日の出ごろまで、グェスとは繋がりっぱなしでしたし。夫婦水入らずで。

エロ漫画の中からでてきたようなエロモンスターであるオーク族は文字通り一晩中起っていられる訳でして。オーク族伝統の
調教方法には屹立したち○こを捕虜に突き刺したまま長時間過ごし、食事睡眠排泄水浴びなども含めて一日中密着したまま過
ごして人間雌にそれまで抱いていた常識を捨てさせるというものがあります。

そこまではいきませんけど、何回も膣出しで逝かされて失神してそのまま眠ってしまい、10時間以上も眠ったまま夫のモノ
を股に咥えこんでいた状態で目覚めるという体験は 病 み つ き になりそうなくらい幸せでした。
今もお腹の中にギュー・グェスの愛情が満ち満ちているのが解ります。一晩中一睡もせず、私と赤ちゃんに生命力を渡してく
れていたのですよ夫は。

これまで子を成したことがなかっただけで、実母&義母たちからそれなり以上に性技を仕込まれていたグェスは房中術の心得
があるのです。なので性行為の相手を直接元気にする事ができます。
いえ、この島のオークは大概ができますけどね上手い下手の差はあっても。サモア人が泳げたりイタリア人が歌えたりするの
と同じで身に染みついた技術です。



ソーニャさんも、義息子のケサガケと結ばれたからには私の義娘。即ちグェスの子でもある。
公的にはオーク島の名誉島民かつ温泉洞窟の客員講師であり、ケサガケと出産&育児の契約を交わした期間限定妻扱いです。
最低でも産んだ子が一人前になるまでは、ソーニャさんは温泉洞窟の巣に属してくれます。

で、オークの子を産めば解放とかの条件で留まった人間雌がオークの巣から離れられた例はまずない訳でして。
子供が成人するまでとか嫁が来るまでとかずるずる延長するに決まっています。
それを愉しみたいのですよソーニャさんは。もう離れられるけど夫や息子が愛しくて離れられず深みにはまっていく生活を。
産まず女だったこれまではできなかった事ですからね。


生命の粘土で改造されているから当然ですが、ソーニャさんは妊娠しました。もちろんケサガケの子を。
もう既に卵子がケサガケの遺伝子受け入れて細胞分裂始めてますし、触手くんの診断でも着床確実です。

元々 多産=幸福 という価値観が強いのがファンタジー世界です。子供が少ないと家族や部族どころか種族そのものが絶滅
しかねませんからね。
死と隣り合わせの生活を送っているオーク社会では特にこの傾向が強い。
産めない女に対する圧力は、地球の21世紀で日本人の男しかも独身者やっていた私などには想像もできないものでしょう。
妊婦になれたソーニャさんは幸せいっぱいです。何十年間の悲願が叶いましたからねー。


そんな彼女の引っ越しですが一月前から決まっていたので準備は一つを除いて整っています。引退戦の準備だって引っ越し準
備の一部でしたし。
冒険者だけあって腰が軽いお師匠様の荷物は本人が持ち運べるものだけでして、それらはもう無限袋や類似の収納アイテムに
入れて携帯済みです。
東方やヒルデニアの銀行(もしくはそれに近い団体)に預金がありますし、あちこちに財宝を隠してあるので全財産を持ち歩い
ている訳じゃありませんが。

というか既にソーニャさんは部屋を引き払ってますし、溜め込んでいた財貨のうち硬貨や置物など重たいものは剣闘士たちに
分配して貰うことにしています。


自由を求めている剣闘士たちが一番欲しいのは報奨金と一緒に溜まる勝者ポイントです。
つまり一万ゴールドの報奨金が出た場合、現金とは別に剣闘士の功績に報奨金分勝者ポイントが累計されていくのです。
3回決闘を行い三度とも勝利して、1万、5万、15万出たとしたら累積して21万ゴールド分の功績が残ります。
報酬として得た財貨を買い物などで使っても、功績の方はへらずに累積していきます。

剣闘士は一日外出自由とかの特典を、累積した功績から削ることで得ることができるのですが、そこまでして気ままに動いて
いるのはソーニャさんぐらいなものです。
他の剣闘士たち、本気で勝ち残りを目指している女たちは割高になっても現金や財貨を使って買い物とかしていますけどお師
匠様は功績をバンバン稼いでバンバン使ってるのですよ。

そりゃー他の剣闘士から敵意(ヘイト)溜まるわ。
共和制ローマの戦車レース競技に一組だけ陸自の10戦車が混じってて好き放題しているようなものですからね。気にくわな
いからと嫌がらせなんかしたら挽肉(ミンチ)よりひどい目にあわされるし。

ソーニャさんは鬼だ。他者に憎まれても気に病まない生き物なのです。



そういう訳で、現金や財貨は剣闘士にとってそれなりに意味があります。
功績ポイントを減らすことに比べれば割高になるとはいえ、剣闘士が使う装備品や消耗品は現金で買えますからね。
現に幼女妊婦ソーサレスの装備品は半分近くが報奨金で大神殿から買い取ったものです。あとの半分はファンというか挑んで
負けた奴とこれから挑むやつからの贈り物ですが。

財貨や花や食材等に加え、武器や装備品や消耗品(アイテム)が観客や挑戦者候補から嫁候補へ贈られることは珍しくない。
実は今月デビューしたハーフエルフさんが使っていた弓も、一目惚れしたとある戦士が秘蔵の品を贈ったものでして。

闘技場でない実戦では、万全の状態だったり大勢だったりすることもある女たちを打ち倒さなければ嫁にできない訳で。
あのときアレが有ればとかアレを使っていたらとかの未練が嫁の心に残らない、完璧な勝利こそ変態紳士エロモンスターたち
は求めているのです。
とすると、自分を倒せる武器を勇者が捜し出せる所に安置しておく魔王って、誘い受けの殺し愛希望者なのかな?


それはさておき、より条件の良い嫁入りを目指す剣闘士にも、あくまでも自由を目指す剣闘士にも金銭は等しく価値がある。
だから金銀財宝を渡すことに意味があるのですが、お師匠様が直接持っていくと絶対に角が立ちます。
ソーニャさんの引退とは直接関係ないご祝儀としてばらまいた方が無難なのです。

分配を頼まれた巫女さんは「お主ら師弟はほんに人使い荒いのぅ」とぼやいていましたが、ぼやかない人には頼めない事なの
で致し方ありません。
公平公正に分配しようとするから藤子さんは面倒くささにぼやくのでして、着服目当ての人なら喜んで引き受けるでしょう。
あるいは何も考えず機械的にばらまく人なら特に文句も言わずに。




 ☆90日めの2、大は小を兼ね多は少を圧し☆



そんなわけでソーニャさんの引っ越し準備は終わってますが、私たちの用事を済ませてからでないと温泉洞窟へは帰れません。
とっとと片づけて帰ることにしましょう。

さっきも言ったとおり、ギュー・グェスはお出かけ中。
私たち温泉洞窟一行が宿舎にしている部屋では、現在藤子さんと手伝いのコーネリアが財貨の分配案を練っています。同じ部
屋でケサガケが熟睡中。
ハラキズは私そしてソーニャさんと一緒に、奴隷の競りを見物しに浜辺へ向かいます。ゴエモンは留守番に残りたがっていま
したが彼がいるとコーネリアの気が散ってしまうので浜辺に同行させました。

遅れましたがこの時刻ならまだ競りに間にあう筈。新入りの情報は少しでも早く詳しく知りたいのです。ひょっとしたら近い
うちに同じ巣で暮らすことになるかもしれませんからね。
情報収集と交流は神官にとっても族長夫人にとっても大事な仕事です、手を抜くわけにはいきません。

しかし義息子の妻なら義娘だけど、夫達の新たな妻になったら私との関係は何になるのかな? 姉妹扱いでしょうか?



ナマモノ戦艦が乗り上げている浜辺に行くと競りの真っ最中でした。二組めの交渉がそろそろ終わりそうです。
前回や前々回よりも浜辺が賑わっているのは、今月のトカゲ艦隊が持ち込んだ商品が総勢30人と久しぶりの大人数だから。
分母が大きければ好みの女奴隷が含まれている割合も多いわけで、全裸や半裸や着飾った女達の艶めかしさや初々しさに幹部
級から下っ端まで興奮しています。


さて、その競り中な二組めですが‥‥怯え8割期待2割の表情で交渉の様子を窺っているのは、東方から売られてきたという
三人組です。揃いの女学生じみた服を着た、歳のころ13~14ぐらいな女の子達。
裕福な地主騎士か大きめの商家の子女らしき、育ちの良さげな顔立ちですね。「何不自由なく~」という慣用句がそのまま使
えそうなぐらい飢えや貧困や憎悪とは無関係に育ってきたことが解る可憐で健やかな容姿に、とくに柔らかそうな頬とかに野
次馬どもは保護欲をそそられています。

夫達で言えばグェスが一番好みそうな三人ですが、同意見のエロモンスターどもは多いらしく値切ろうとする巫女さんの横へ
財宝や金貨の入った袋を積み上げて妨害しています。
買う金銭が足りないならこれ使えよ早く話纏めろよ日陰で休ませてあげないと可哀想じゃないか俺の嫁が暑気あたりになった
らどうしてくれるんだ、という周りからの圧力に負けて程なく値段交渉が終わりました。
戦闘能力皆無な三人ですが、健康状態が良いのと一切洗脳していない点が好評でしてわりと良い値になってますね。


後で聞いた話ですが、彼女達は本当に女学生でして東方の全寮制学院で平穏に学んでいたところを海賊に襲われ、教師含め一
教室丸ごとがさらわれてしまったのです。
で、さらわれたもののこの三人は取れる身代金より手間賃(リスク)の方がかかると判断されてしまい、トカゲ人奴隷商に一山
幾らで売られました。

面倒くさい解放交渉しても儲けが出ると判断された同級生たちは海賊に捕まったままです。
今頃はその親族たちによる交渉か奪還作戦の最中でしょう。
海賊から買ってオーク島に持ち込むだけで数十倍になるのですから、ぼろい商売やってますねトカゲ帝国は。


怯えは当然ですが期待というのは、彼女達はもう既に数十分に渡って媚薬そのものな濃厚フェロモンを浴びせられている上に
香りの製造元であるエロモンスターどもから赤外線トーチみたいな熱視線で視姦され視愛撫を受けている訳でして。

最低限の性知識があれば、浜辺に集まっている群衆のなかで半裸の女や少女たちがエロモンスターと仲睦まじく寄り添ったり
いちゃついたりしている姿から自分の運命が解るのです。
一年もすれば、浜辺にいる同年輩の少女たちと同じように薄物の衣装を纏い、金銀宝玉の装身具で己を飾り立て、主人と慕う
異種族の雄に大きくなったお腹を撫でられて微笑んでいるだろうことを女学生たちは理解しているのですよ。

既にフェロモンの影響を受けつつある女学生たちには、エロモンスターどもがお伽話の王子様そこのけに輝いて見えているで
しょう。
喩えていうなら「鄙びた温泉宿で夜中に混浴の露天風呂に入っていたら、幼馴染みやそのお姉さんなど知り合いの美女と美少
女たちが入ってきて取り囲まれてしまった」ぐらいの状況ですかね、青少年向けエロ漫画だと。怖いけど嬉しい的な。




続いて三組めは、元冒険者の獣人娘二人組です。ウサミミと猫耳ですがウサミミの方はオーガ村の新村長夫人と違って頭身高
めですね。
セミロングの髪もウサミミも黒いし、手足も長いです。体型的にも幼児ではなく少女っぽいですけど個体差なのかな? 
二人とも軽装物理系ですが猫耳さんの方が戦士寄りで兎耳さんの方が盗賊寄りのようです。ちなみに猫耳の獣人娘はメリハリ
利いた体型で、胸とかも程良い大きさで良い形しています。髪はオレンジと茶が混じった感じのショート。

力量的には星1~2ぐらいかな。ウサミミさん(オーガ妻の方)たちと比べると二段ぐらい格下ですね。
うちの下っ端でも三人がかりなら問題なく勝てるでしょう。同数なら怪我をさせてしまうかもしれません。実戦というか殺す
気で来られたなら下っ端一人で二人とも捕獲できます。確実に怪我するしさせてしまうでしょうけど。

つまりまあ駆け出しも良いとこです。この二人は冒険中に巨大寄生蜂に襲われ麻痺させられて巣に運ばれましたが苗床にされ
る寸前で、巣に潜入してきたトカゲ人の採集部隊に拾われてそのままオーク島へ売られてきたのだとか。
虫に食われるよりはマシだろうと、諦め5期待3不安2ぐらいの割合で奴隷となった運命を受け入れているようです。

生娘ではありませんが若くて健康な獣人娘たちは、そこそこの値段になりそうですね。洗脳もされてませんし。



浜辺に立てられた大きな日傘の下で休んでいる女学生達の横には天幕が張られていまして、一組目の奴隷達が水や椰子の実果
汁を飲んでくつろいでます。
一人一人の値段では二組目に負けてますが、総計14人の大所帯なので合計金額では優ってますね。半分は胎児だけど。

ええ、私たちが来たときには既に買い取られていた一組目の7人は全員が妊婦でして、十代半ばから三十過ぎまでの女達7名
のお腹は臨月かその手前ぐらいの大きさに膨らんでいます。
今すぐこの場で出産しても問題なく育てられるぐらいなのだから胎児であっても商品として計算に入れろ、とトカゲ連中は主
張しまして島側はそれを認めたのです。
なので妊婦奴隷7名ではなく、奴隷母娘7組として買い取られた訳で。

なお、7人の胎児は全て女の子だそうです。

母子ともに肉体的には健康そのものですが、母親たちは軽度の洗脳を受けてますね。優しくしてくれるご主人様ならオークで
もミノタウロスでも良いと本気で思っているぐらいには染まっています。
ちなみに、奴隷女が産んだ娘を売らずに母娘一緒で一生養ってくれる主人は四つ葉のクローバーよりも比率が低いとか。
ほんに西方世界は修羅の国よのう。



四組めも西方文明圏からですね。列強一辺鄙なリオラントのさらに辺境地域から来た尼僧と尼僧見習いたち計6人。
一般の神殿務めではなく、俗世間から離れた修行施設であり研究所であり農園兼工場でもある僻地の尼僧院で暮らしていた彼
女達でしたが、男子禁制のその僧院は某侯爵家私兵の乱暴狼藉から逃れた巡礼女たちを匿ったため攻め落とされました。
運悪く地元貴族が遠征に出ていて、提携していた腕の立つ冒険者が迷宮に籠もっている隙をつかれて各個撃破されてしまった
のです。

僧院の金庫や備蓄倉庫は略奪され、書庫は燃やされ、工房は壊され、救援や救出に来た傭兵団や冒険者達は返り討ちにされ、
逃げ込んでいた巡礼女たちも尼僧たちも侯爵家の騎士や兵に捕らえられ慰み者にされ孕まされてしまいました。
一部の尼僧兵など、孕むまで慰み者になることを拒否した女たちはなぶり殺しにされました。もちろん慰み者になっても孕む
前(というか孕んだことが分かる前)になぶり殺された女たちも多かったのですが。

この6人は命は助かったものの、略奪婚で手に入る相続権や身代金が取れる裕福な実家がなく、手元に置いて愉しむには女と
しての評価が低かったので侯爵軍の追軍商人へ叩き売られました。
流石に尼僧妊婦を近場の奴隷市で売りさばくとお得意さまの悪評が広がり過ぎるので、追軍商人はトカゲ人の奴隷商に転売し
た訳です。

もちろん6人全員が非処女で妊娠済み、妊娠三ヶ月の黒髪ロングな僧兵見習いだけは男の子を孕んでいますが、残り5名は女
の子を孕んでます。
年嵩(といっても16歳かそこらですが)の尼僧見習い2人は僧衣の上からも解るぐらいお腹が膨らんでますね。
他の4人はそれほどではありません。


世を儚んで自害する気質の尼僧はとっくの昔に淘汰されてしまいましたので、ここにいる6人は望んで孕んだのではない子で
も産んで育てる覚悟を決めています。たとえ獣に縋り付いてでも、です。

悲惨だなあ。流石はファンタジー世界。いえ21世紀の地球でも特に珍しくありませんでしたけど。
彼女達が無事にいま孕んでいる子供達を産めることを、その子達が健やかに幸せに育つことを、そして次に孕む子が望まれた
命であることを、彼女達の産む娘達が望まれた子を孕めるようになる事をただ願うばかりです。

「その願い、聞きとどけましょう」

ぶはっ!!    い、いまの声ってまさか!?


A3、わたしです。


やっぱりエスティア様だったぁー! 気安すぎんぞこの女神ぃっ!


A3、信徒の願いを聞きとどけて文句を言われる神格がいるらしい。解せぬ。
Q3、そういう言い方やめてくださいお願いします。


「どうしたの、レイ?」
「「グヒ? グヒッ」」

お師匠様と義息子達が、突然吹きだして辺りを見渡し天を仰いで頭を抱えるという奇行をおっぱじめた連れの顔を心配そうに
覗き込みます。女神様の声は私にしか聞こえていないようですね。


A3、聞こえるようにしましょうか?
Q3、やめておねがいやめて。


あははははっ もうどうにでもなぁ~れ! こーなりゃヤケです。


「ねえ二人とも、貴男たちそして巣の義兄弟たちはお腹にもう子供がいるニンゲンメスを愛せますか?」

もうすっかり共通語(コモン)の聞き取りに慣れたハラキズとゴエモンは、一部だけオーク語まじりの質問を間違えることなく
受け取って答えました。

「「モチロン」」

「お腹の子がオークじゃなくて人間(ヒュー)族でも、男の子であっても、私をそうしてくれたように受け入れてくれますか?
育ったその子が望めばお嫁さんにしてあげて、貴男たちの子を孕ませてあげますか?」

そりゃ当然、と義息子たちは頷きます。夜な夜な語られるオーク族の伝承のなかには、オークに恋してしまった人間(ヒュー)
族の男の子が冒険の末に見つけた転性の泉で水浴びして女になって嫁入りし末永く幸せに暮らしたという物語も実名と地名と
時系列つきで語られているものも結構ある訳でして。
この二人そしてウチの巣の下っ端たちは転性(TS)者が相手でも可愛ければ起つ派なのです。
似非巫女やってる義母が元男だと解っていながら、喜んでその性教育を受けている訳ですし。


「次の獲物、決まったのね?」
「はい」

ソーニャさんの戦力と指導力があれば、嫁と嫁候補が増えても大丈夫な態勢が数ヶ月で作れる筈です。12人も人間雌がいれ
ば巣の需要をかなりのところまで満たせるでしょう。
女神様の加護があるのです。嫁取りも積極的に励むとしますか。





 ☆90日め3、理の当然☆



五組めは南方の島国から来た蛮族(バーバリアン)の女戦士三人組です。黒髪と金髪と赤毛で全員長髪、顔立ちはまずまず美人
ですけど、その、正直言って体格良すぎ&筋肉付きすぎですね。歳は二十歳ぐらいかやや下かな?
でもそれは文明人の感覚でして、島の脳筋派エロモンスターたちには概ね好評です。
蛇王丸の船員たちの誰よりも凄い筋密度ですけど、モンスター基準では女学生たちと大差ない手弱女なわけですし。

一応黒髪の女戦士が若手最強で部族の代表戦士を務めていたそうですが、この島の基準だと星5ぐらいかなあ。
ちなみに金髪の女戦士は黒髪さんの幼馴染みな好敵手で、技や力では一歩劣りますが精霊の加護持ち。赤毛の子は二人の妹分
で弓の名手だとか。
なにぶんにも小さな部族だったので、トカゲ帝国の軍隊にはあっさり負けてしまいましたけどね。少人数の偵察部隊を撃退し
て勝ったつもりでいたら部族総勢の十倍以上の軍団に包囲され、戦いらしい戦いをする暇もなく村は焼かれ男と老人は殺され
まして女子供だけが捕らえられ奴隷として売られたのです。


完全に怯えてますね三人とも。他の商品と違って後ろ手に鉄枷を付けられていますし足の鉄枷には鉄球つきですけど、そんな
もので拘束しなくても逃げ出したりしないぐらいに心が折れている。これまでの常識(世界観)が粉砕されているのです。
哺乳類の心情に疎い爬虫人類たちは理解してませんし理解する気もありませんが。

こちらは三人とも生娘ですが主に精神面で不健康なので査定は厳しそうです。



最後の六組目は元冒険者二人組。
一人目は黒目黒髪な精霊剣士です、歳は14~15ぐらいでしょうか。
白地に水色の巫女服‥‥ミッシェル山の半透明ワンピースじゃなくて本物というか神道風の和服系衣装に身を包んだヒルデニ
ア娘です。袴と鉢巻きも水色。
いかにもヒルデニア人な童顔ですが、芯の強そうな表情が子供じゃないと主張してますね。
十人並な容姿で、美人に育ちそうでもないけど好感が持てる顔立ちです。

この娘の出身はヒルデニアでも辺境地域でして、魔物や野盗匪賊に苦しめられながらも戦ってきた親や身内の姿を見て育ち、
善を勧め悪を懲するいわゆる勇者のタマゴ的な冒険者となって活躍していたのですが某遺跡を探索中に鉢合わせたトカゲ人の
調査団に敗れて捕らえられたのです。

同時に捕らえられた冒険仲間が隣にいる西方出身の女騎士でして、190センチはある長身ですが筋肉塊体型ではなく伸びや
かな肢体の持ち主です。
アレですね、バレーボールの選手みたいな感じです。隣りに比較対象物になる一般的体格な女の子がいなければ普通に見える
感じの。いると見ているこっちの遠近感が狂ったんじゃないかと不安になりますけど。
こっちは普通に美人ですね。髪は波打った銀灰色で、目は薄い緑。


蛮族娘たちと同じく頑丈な手枷と足枷を付けられていますが、この二人には必要な措置でしょう。二人ともかなりの手練れで
すし瞳には強い意志が宿っている。
少しでも隙を見せれば何かするに決まってます。それもただ逃げるとか暴れるとかじゃなくて、逃げ切るため殺し尽くすため
に必要な準備となる何かを。


「‥‥ふふっ」

サドっ気を刺激されたらしく、ソーニャさんは舌なめずりしています。お師匠様の脳内ではこの数秒間で何十通りもの闘いが
仮想(シミュレート)され、それを元に魅せる殺陣が組まれ続けているのです。
本質は被虐(マゾ)趣味らしいんですけど、好みな女というか自分と同じ資質を持った者を見ると目覚めさせてあげたくなると
いう難儀な趣味がありましてねこの人は。

才能のある後輩剣闘士を闘技場で虐めて玩んでおちょくりまくって心をへし折るのが大好きなのですよ。折った後で治療して
鍛え直して以前とは比べものにならないぐらい強くするので興行主とかには黙認されていたようですが。
業界から追放したい連中に対しては、最小限の手間と時間で選手生命断ちにいく人なのでおちょくられる方が安全ですけどね。

あ、私はもうどちらとも目覚めているので弄る必要ないそうです。
遠回しに変態だと言われている気がしますが、まあ良いか。



ふむ。今回は今までと商品の傾向が違いますね。洗脳の比率と強度が下がっていますし、妊婦が多すぎる。
あと上陸しているトカゲ人の数が多いのは商品が多いから当然としても、その面構えというか雰囲気が違うような?

どうやらトカゲ艦隊で人事異動があったようです。前回までとは別の研究室が来ているとみた。
部署も研究者も違えば、当然ながら交流戦に出す実験体もこれまでとは違う方向性になるでしょう。


「GURRR‥‥ GOAH! GOAH! GOAH! GOAH!」

カラスの鳴き声みたいなだみ声で唸ったり吠えたりしているアレが、今回のトカゲ艦隊側代表戦士ですか。
身長はハラキズと同じぐらいですが身体の厚みが倍近くあります。アレに比べればオークの胴体はまだ棒状に近い。

トカゲ人(爬虫人類)ではありません、尻尾は生えてますが恐竜じみたTの字バランスではなくむしろ人間に近い立ち方です。
インファイトボクサーのような前傾気味の直立歩行態勢で吠えているのはドラゴンと人間を混ぜたような異形の生き物。

「ドラゴニュートかな?」
「違うわ。あれはドラゴノイド。ドラゴニュートでもドラゴンキンでもない」

ドラゴン系列であることは確かでも、ソーニャさん的に譲れない差があるようですね。後で詳しく聞いてみますか。



ドラゴンじみた生き物は鎧などは身につけていませんが、両手に武器を持っています。柊の葉っぱを金属で作ったようなトゲ
トゲギザギザな剣らしきものです。

うーむ。使用者の全身が厚く丈夫な鱗で被われているのなら、あの武器は見た目以上に有効かもしれません。
ついうっかりで自分を刺す心配がないのなら、虚仮威しではなく本気で振り回せるでしょう。

対する島側の代表戦士ですが今回はオークじゃありません。コボルド族の剣士です。
しかも顔見知り。すり鉢鉱山集落のイケメン系コボルドです。兄貴分のごついコボルドが介添えしている。


「ご武運を祈ります」

思わず駆け寄って激励してしまいました。イケメンくんは無言で一礼して、決闘場へ向かいます。相変わらず無口だなー。
歩いている後ろ姿が、一歩ごとに冷静になっていきますね。先程までは平静さを保とうとしていましたけど、今は本当に静か
になっていってます。凪いでいく海のようにどんどん心が平らになっていく。明鏡止水とはこのことか。
いやほんと、海の水が一面真っ平らになるんですよ瀬戸内の凪ぎは。


ううむ、死地に入れば心が鎮まるのは戦士として当然としてもあそこまで見事だと‥‥なんか、一月前より格段に強くなって
ますねあのイケメン。星でいうなら二つ分は軽く上がっています。
仲間の後ろ姿を見守るコボルド剣士たちは、みんなして爽やかな笑みを、いや、爽やかというには含みのある表情のもいます
ね何故か私を見て。
悪意や敵意は感じません。むしろ好意に近い感情をむけられていますが、はて?



前回前々回に引き続いて強化呪文等の援護なしで決闘に臨む島側代表戦士に対し、艦隊側は数種類の呪文と薬物で使役獣を強
化しています。
あれもこれもと載せまくらず、ある程度で抑えているのは強化し過ぎると観測や検証がしにくくなるからでしょう。

ケダモノだよあのドラゴン系ヒューマノイド。瞳に知性の輝きがない。
二足歩行してりゃ人間ってもんじゃないように、ドラゴノイドは戦士じゃありません。アレには意思がない。
電撃棒や薬物などによる条件付けで動かされているだけであって、ワニ人の傭兵やトカゲ人の魔術戦士のように闘いを望んで
自分から来たのではないのです。


踏み固められた砂地を、棘剣を振り回してドラゴンもどきが疾走します。
対するコボルド剣士は左腰に差したクックリ刀を抜きつつ歩み寄る。

両者は真正面から激突しました。いえその直前に狂獣の右剣をクックリ刀が切り飛ばしそのまま左肘にめりこんでいます。
激突もしていません。ぶつかったのはトカゲ人が操る戦闘用家畜だけです。
コボルド剣士に体当たりした筈のドラゴノイドは、コボルドの左足付近から斜め前に生えている岩のタケノコ‥‥鍾乳洞にあ
る逆さつららのようなものへ自分から突き刺さっているのです。

精霊術か! 地面から槍襖を生やす魔法だと考えたらゲームでもお馴染みな代物ですが、予備動作も呪文詠唱もなしに出せる
とは驚きです。


「オミゴト!」
「オミゴトデゴザル!」

巫女さんの勝利判定を受け、モズのハヤニエじみた串刺しになって即死したドラゴノイドから離れる同胞にコボルド達は喝采
を送ってますがオークやその他のエロモンスターたちは憮然または呆然の表情で黙り込んでいます。
無理もない。魔法剣士のソーニャさんに散々な目に遭わされた翌日ですからねえ。トラウマ直撃です。


浜辺の下っ端オークのなかには何が起きたのか理解できず辺りを見渡しているのもいますけど、理解しているハラキズは私の
傍で全身から冷や汗を流して震えています。
魔法って接近戦でも怖いんですよ。使う者が一流の戦士で、武器や体術と同時に組み合わせて使いこなせる場合は特に。




 ☆90日め4、もう手遅れっぽいけど☆


一晩で信仰呪文を使えるようになった奴がここにいる訳でして、ある日突然精霊が見えて触れるようになったコボルドがいて
もおかしくありません。

コボルドたちから聞いたのですが‥‥。
棘ドラゴン騒動からしばらくして、その日も鍛冶場で一心不乱に鋼を叩いていたイケメンくんは突如として鋼が語りかけてい
ることに気付いたのです。
翌朝までかけて、導かれるままに叩き続けた彼が打ち上げた刀はまさに会心の出来映えでした。
これまでに積み上げた経験と修行が、棘ドラゴンとの戦いを切っ掛けに実り組み上がったのです。

その朝、一目見た彼に免許皆伝を与えた師匠から「ゆけ」と命じられ、精霊剣士となったイケメンコボルドは今月の代表決闘
へ出て勝利しました。
脳筋勢からはもう一つウケませんけど、同族たちには好評でしたね。地下生活者のコボルド達にとって地属性の精霊術は恩寵
そのものです。


「確かに、良くできてるわねコレは」

と、ソーニャさんは「鑑定(アナライズ)」の呪文を使ったクックリ刀を翳したりひっくり返したりして調べています。
私が愛用している クックリ刀+1(仮) は業物ですが取説機能が付いてません。

「機能説明どころか防錆処置もしてないわよ」

教育実習を兼ねて、ソーニャさんから貰った「塗装(コーティング)」の巻物を使ってクックリ刀へ応急処置をします。
普通の魔剣なら初期状態で「・それは錆びない」という効果が組み込み済みなのですがこの刀にはありません。
あるのは命中と威力への効果だけです。早い話、このクックリ刀は「よく切れる」ことしか取り得がない。
ただし切れ味だけは絶品です。

「レイが使うことだけを考えたら、これよりも上かもしれないわ」

参考までにと触らせて貰った、お師匠様愛用の剣は


【守りの剣】
・やや短めの両刃剣だ
・それは対になる装備が存在する
・それは鋼でできている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは武器として使える
・それは片手でも使いやすい
・それは命中力を増し、威力を上げる
・それは回避力を上げ、防御力を大幅に上げる
・それは魔法剣の威力を上げる(※※※※)
・それは落としにくい(※※※)
・それは投げると手元に戻る
・それは負う傷を軽くする(※※)
・それは稀に負うはずの傷を無効化する(※※)
・それは稀に負った傷を敵に与える(※)
・それは電気への耐性を授ける(※※※※)
・それは器用を3上げる
・それは受け払いの威力を上げる(※※※※)
・それは麻痺を防ぐ(※)
※あなたは使用条件を満たしている


「あげないわよ」

なにこれ欲し ‥‥っ!   読まれた!?

いや、それにしても良い武器です。短所らしい短所もないし。魔王討伐に持って行くにはもの足りないけど、傭兵王だの邪教
団大司教だのといった中ボス連中と渡り合うには充分でしょう。
格(ランク)的にはドス愛用の三又槍よりやや上かな? でもこれ軽装の魔法剣士じゃないと使いこなせない武器ですよね。

斥候や前線職の軽戦士が使うなら対魔法防御や火炎・吹雪系への耐性が有る方が嬉しい。
この剣が自力で防御魔法が使えるソーニャさん向けであるように、愛用のクックリ刀は私向けの武器だそうです。

存分に見分して、素振りとか試し切りとかもやってから互いの武器を返します。



競りと交流決闘を見物してからは、コボルドたちと一緒にお食事会を済ませてついでに交易と贈答品の応酬もやりました。
もちろん近況報告を含めた情報交換も。
温泉洞窟近海に巨大イソギンチャクが常駐して浜辺の漁獲量と危険生物が少し減ったとか、火山の北から来る野良モンスター
が増えたとか、その原因はワイバーンが減ったからじゃないかとか、安全面の話題が多くなりますね。

なお棘ドラゴンの素材で作る武器は大体の目処がついたそうです。早ければ来月頃に完成する見込みだとか。


それから市場で買い物して大神殿へ帰って、分配品の仕分けをしていた三人を手伝いました。
準備が終わると藤子さんは実際に配り歩き始めまして、私たちは宿舎で分配品の山を見張りながら修行中でしたが修行の合間
に武器談義になりまして、師弟で武器の見せっこしていた訳です。

ケサガケは部屋の隅で寝直してますが、ハラキズとゴエモンは私たちの前で伸びてます。コーネリアもへたばっていますけど。

下っ端オークたちは、学習できることであればその呑み込む速度は速い。少なくとも前世の幼稚園児よりウチの下っ端たちの
方が速やかに集合や整列や前ならえとかを身に付けています。
三ヶ月にも満たない訓練で、小学生低学年の遠足ぐらいには集団行動できているのですからたいしたものです。

上手に整列できた子だけに特製おやつをあげたり、号令の聞き分けが一番上手かった子にだけお風呂で背中流しさせてあげた
りとかで釣った結果ですが、成果は出ているのだから良し。
晩ご飯の後に巫女と神経衰弱で遊ぶ権利の為に、本気で競いあえば同じ事をしていても違いは出てきます。

そしてハラキズとゴエモンは、下っ端たちの中でとくに物覚えが良い方です。
育成の素人な私や夫たちにも分かるくらいに成長速度が違う。成長速度が違うということは、同じ事をしていてもそこから得
られるもの(ゲーム的にいう経験値?)が違う訳で。

指導の本職、少なくともそっちで何年も飯食っていた経験のあるお師匠様は教え上手でして、ハラキズとゴエモンが理解でき
る水準にまで落とした技術や心法を叩き込んだのですよ、この短時間でかなりの量を。
当然ながら、二人とも詰め込みすぎでぶっ倒れました。ご飯を詰め込みすぎて動けなくなるのと同じです。
夫に付き合って対魔術師戦の仮想敵役をしていたコーネリアも巻き添えくらって伸びてます。

しかし吐いたり腹を下したりしない程度に抑えているあたりが熟練者でして、傍目には朦朧としているだけの下っ端二人です
がその脳内では飲み込んだ情報と経験が消化吸収されているのです。
それはやがて血となり肉となって、一人前のオーク戦士を作り上げるでしょう。

というか見ていて本当に参考になりました。私もこの数時間で一割以上強くなった実感があります。
少なくとも魔法使い(ソーサラー)へ接近戦を挑んだ場合の生存率は割単位で上がってる。



藤子さんの配給作業が終わり財貨の山が消え去る頃には夕方近くになっていました。

回復したコーネリアと一緒に受けていた座学も切りがよいところまで来たので中断しまして、復活した下っ端三人を教材に実
技に入ることになりました。
お題は「お口だけを使った御奉仕によるご主人様への敬意の表し方」です。
平たくいえばこれから新妻三人で、夫(ご主人様)オークのち○こをしゃぶり倒そうと、そういう事です。

「二人は良いでしょうけど、私にどうしろと?」

と、夫が留守中の身として抗議したのですがソーニャさんは

「近いうちにそうなるんだから、今から練習しておくべきじゃなくて?」

と、あの良い笑顔でのたまいました。


ううっ そりゃハラキズのことは大好きですよ。星6になってくれたら四人目の夫に迎えて赤ちゃん産みたいぐらいに。
会ってからたった二ヶ月で元男を堕としてしまうのだから、下っ端とはいえエロモンスターはエロモンスターです。
でも、もう私のお腹は年単位で予約済みなのです。ちかいうちにハラキズをお婿さんにしたとしても、その子供を産んであげ
られるのは何時のことになるのやら。


だから「孕んでやれないけど童貞はよこせ」などという浅ましいこれまでの方針は撤回しようとしていたのですが。

「オレ、マテル。ヨメ、モラウ。ツヨイ、ナル」

鍛えて自力でお嫁さん貰えるようになるから、気にせず好きな雄の子を産んでくれとハラキズは言っています。
この子、本当に私のこと好きなんですよねえ。悪い女に引っかかるタイプだ。




 ☆90日め5、いえ神様に見られるのは構いませんけど☆



正真正銘の下衆だから、可愛い義息子に「何人も嫁さん貰ってハーレム作ってるけど一番は義母さんなんだよ!」と膣出しし
てもらった精液で妊娠してしまいたい‥‥とか思っちゃうんですよこの私は。
良いじゃないですか、そんな妄想(ファンタジー)抱いてたって。
どうせハラキズだって、運命の相手が現れたらその娘に夢中になってしまうのですし。

「オ、オレ、ルェイ、スキ。イチバン、ズット」

初めて会ったときから好きだった、一目惚れだった。と、うわごとのように言いつつ耐えているハラキズのドリルち○こを優
しく咥え、しゃぶり、吸い上げ、舐め回します。
ああ、ハラキズは可愛いなあ。特にち○こ。
全身余すところなく可愛いこの下っ端オークですが、そのなかでも童貞ち○この愛らしさ初々しさは格別です。

中庭の壁に沈んでいく夕日を浴びて、唾液と腺液まみれなドリルち○こが雄々しく健気にそびえ立っています。
思わずハラキズの腰に手を回し、股間に縋り付いて頬ずりしてしまうぐらい愛おしい。

前世で喩えるのならロリータ趣味者の男が十代前半の少女を裸にして、その恥毛が生えかけな丘と渓谷を見たり触ったりして
いるのと似た感動があります。
いや現世か。前世じゃ妄想の中でしかしたことないですし、ロリータ弄りなんて。


大神殿は女とエロモンスターが殆どですから、見ようと思えばわりと見れるのですよ。エロゲ挿し絵的な光景が。
私より数日だけ妊婦として先輩な金髪ちゃんの、愛らしいスジま○こに旦那様の凶悪なのが入ってくるところなんか、傍で見
ているだけで濡れてしまいました。

そのちょっと前まで御奉仕実技として下っ端たちのち○こしゃぶっていて、三人にそれぞれ一回ずつ咽を犯して貰って何回も
逝った後なのに我慢できなくなるくらい興奮してしまったのです。

で、耐えられなくなった温泉洞窟の新妻人間雌は三人とも、それぞれの肉穴にオークのドリルち○こを咥えこみました。
東屋で服を脱いだ雄と雌6人は最初のうちは一塊りで絡み合っていましたが、すぐに3対3の構図になりまして今はゴエモン
に膣出しされてコーネリアが鳴きながら逝ってまして、その横ではソーニャさんが子種入り白汁を股間から零しながらケサガ
ケのち○こをしゃぶってます。

昨日からずっと羨ましくて堪らなかったけど、良いんです。これから私もするんですから。
これから、この後すぐにしちゃうんですよ本気のえっちを。
くれるというのですから遠慮なく、ハラキズの童貞貰っちゃうことにしたのです。
義息子オークに夫公認の愛人として、胎教のためにという大義名分をつけて義母のおなかへ膣出しして貰うのです。


大の字ならぬ土の字で、芝生の上に組み伏せられた小娘に太ましいオークがのし掛かり貫いていきます。
大内海世界全体に何千万か何億か知りませんが大勢いるだろう人間族の内で、いまこの瞬間にオークち○こを受け入れている
のは何人いるのでしょうか? この島だけでも何十いえ百人以上いる筈です。
東方にも南方にも何千人も何万人もいるのでしょう。でも、私とハラキズほど幸せな組み合わせはちょっとない筈です。

入ってきたとたんに肉槍の先端から熱いものが迸り出てきました。周り中から締め付けてくる肉壁を容赦なく抉りぬきながら
ドリルち○こが奥まで届きます。
入れたと同時に出ちゃうなんて、可愛いなあ。うん、童貞はこうじゃなくっちゃ♪

そ、それに‥‥してもっっ  す、すごくイイですよコレ!? 大人の玩具みたいに、くっきりした肉溝の縁に粒々突起がちりばめられた肉棒が、大きなミミズみたいにお腹のなかで大暴れしています。

消防車の放水ホースが消防士の手から放れると、四方八方に水をふりまきながらのたうちまわりますよね? あんな感じに、
狭くてきつきつの幼女雌穴を肉ドリルが媚薬そのものなオーク子種汁を撒き散らながら抉っているのです。

「‥‥ひぁっ やめっ もう‥‥やめてぇっ ひぬぅっ ひんじゃうぅっ」

あまりの快感にのたうちまわる義母巫女を押さえつけ、ハラキズは腰の動きを早めます。
元からオークの前でぱんつ脱いで股を開いているからには女側の覚悟は決まっている訳で、寝床のなか特に突っ込んでからの
女の言う「駄目」は「もっと!」、「止めて」は「続けて!」、「嫌」は「良い!」、「死ぬ」は「失神させて!」の意味だ
と教え込みましたからねー私自身が。
性教育の効果は上々で、我が義息子は嬌声と悲鳴を聞けば聞くほど励まされ熱烈に攻め立て続けてくれてます。

いやほんと、良い感じです。
夫たちとの行為が、おま○こに大砲突っ込まれて発射爆砕されちゃう感じだとしたらハラキズのそれは針金タワシを突っ込ま
れてかき回されている感じです。
もう死ぬ! いや死んだ! という感じではなく いっそ死んだ方がマシだよう! な感じですね、苦痛に喩えると。


何が起きているのか解るぶん、楽しめるという点ではドリルち○この方が上かもしれません。高層ビルの展望台より民家の三
階屋根から下見たときの方が怖い理論で。

拙いんですよ技としては。でもそれがいかにも思春期の性少年らしくて胸がときめきます。夢中で腰を振る様が愛しくて愛し
くて堪りません。
技術のぎの字もない単純な往復運動ですが、手首を翻しただけの動きが鞭の先端では音速近くになるように、ハラキズのドリ
ルちんこは複雑で無作為な動きになって私の中をかき回している。
夫たちにも触って貰ったことのない窪みに、膣奥の更に奥の隙間に熱い体液を直接浴びせられてもう、何回逝ったのか憶えて
ません。


A1、挿入からは大小あわせて27回ですね。
Q1、うるさいだまれ。


「ルェイ! ルェイ!」

私の名を呼びながら小刻みに動かしていた腰が止まりました。あ、来るっきてるっいまきたぁっ!
本命の精液が、女を孕ませるために百万年分は進化した子種ゼリー液が雌穴奥で噴出しました。火傷するんじゃないかと思う
ぐらいの熱量と圧力が膣奥で満ち満ちて、ハラキズのドリルち○この溝を通って流れ出ていきます。

こ、これはまたっ‥‥  良い! 堪りませんっ 
膣口と膣前庭と小淫唇まわりの敏感な肉が媚薬の塊と肉凶器で削られてっ きゅうきゅうに締まったロリま○ことドリルち○
この隙間から、水鉄砲で心太作ってるみたいに粘塊が吹き出てるっ!
ドリルち○こと半固体精液の組み合わせじゃないと味わえませんよこれは!

雌穴の奥も半ばも入口も、快楽の凶器と幸せの粘塊で蹂躙され続けています。こ、これが1分以上も続くんですか!?
これは確かに止められない、ヒューハーフオークの夫たちに開発中の私はまだしも、それまでオークもエロモンスターも知ら
なかった女がこの感覚を知って元に戻れる訳がない。
って、まだでてるっっ? いつもより多いですよね!? さ、さっきから逝きっぱなしで流石にきついんですけど‥‥。


長くても終わりはあるものでして、意識を失わない程度に逝かされ続けていた私の中から肉ドリルが引き抜かれました。
腰から全身に広がる甘い痺れに浸りながら、口元に迫るハラキズのち○こに口付けして舐め回し先端を咥え込んで含みます。
すごい匂い。発情したオークと人間雌の性臭、生々しい匂い。ですが好ましい臭さです。
生きている証の匂いですからね。畜生道万歳! 

脈打ちながら出てくる最後の粘塊を受け取って、感謝とともに飲み込みます。咽を子種の塊が唾液と絡まって、へばりつきな
がら降りてくる。
ありがとうハラキズ、私の男になってくれてありがとう。生きていてくれてありがとう。産まれてくれてありがとう。
貴男と出会えたことが女神様の計らいなら、新たに鳥居立てても良いぐらい幸せです。


咽に絡みついていたものは、その後の口付けで少しずつ洗い流して飲み込みました。オーク族は唾液の量も多いのです。 
膣出しえっちのあとでお姫様だっこされながらディープキス。うん、恋人らしくて良し!

なかにゼリー塊子種が詰まったままのお腹を撫で撫でされるのがまた、幸せでして。
新鮮さを抜きにしても、気持ち良い感覚です。正直いってこの感覚だけはイノシシハーフオークの方が完全に良いかも。
人間ハーフオークとの膣出しえっちだと、管からお湯が少しずつ抜けていく湯たんぽを抱いているように少しずつ冷めていく
のですがイノシシハーフオークだと懐炉をお腹に入れているように熱がずっと残っている感じです。

でも速やかに胎児へ生命力(経験値かも)が吸収されているとしたら、胎教には夫たちの精液の方が良いのかな?





 ☆91日め、善哉善哉☆


正直舐めていました。
いえ物理的にはこの一月、ハラキズのこと思う存分舐め回してましたけどね。特にち○こ。

まさかこんなに想って貰えているとは、知っていたけど改めて思い知らされました。毎日が命がけな下っ端オークたちは恋慕
も愛欲も真剣ですけど、ハラキズの場合は命を惜しんだ上での必死さ真剣さで毎日を生き延び続けているのです。
それはいうまでもなく私のため。
もとい、私と共に生き私の期待に応えるためです。強くなることもそのために必要だからです。
期待されていることの中には、義母の寂しい寝床を慰めることや義弟妹の(胎児のころからの)保育や義母に孫を孕ませること
も含まれていますが、オーク社会的にはごく普通‥‥珍しくないことです。


エロスは愛。いやもとから仏教思想では 愛=エロス ですけど。
心が繋がっているほど、好きどうしなら好きなほどえっちは気持ちよい。
ベタ惚れ夫婦と仮面夫婦、お気に入り風俗嬢とどうでもよい風俗嬢、二次元嫁とモブキャラ、物理的にすることは同じでも相
手が違えば気持ちよさは段どころか天文学単位で違います。

やっぱりハラキズが一番好きだなー 夫たちには及びませんが僅差で4位。5位以下とはかなり差があります。
仕方がないんですよ、どうしても順位はできてしまいます。いま、私の膣(なか)で気持ちよく射精しているゴエモンだって、
大本命のコーネリアと2位は周回遅れで違うのですから。


ええ、その、ハラキズの童貞貰っただけでなくその思いの丈を二度三度と続けてぶちまけられていたのですが‥‥
4回めに入ろうとしたところでケサガケとゴエモンが「初恋で一目惚れだったのは俺も同じだ」と言い出しまして。

そういえば風邪引き状態で温泉洞窟に来たあの日、洞くつの前に迎え出ていた下っ端たちの一人はケサガケでした。たしかタ
レミミも一緒にいたはずです。
ゴエモンはもう、一目見てから一分後に誘拐企てやがりましたし。

心が猫の額より狭い私ですが、ハラキズの頼みだからという口実で二人を受け入れました。
いまは婚約しているだけの愛人でも、将来の夫に「4Pしてみたい」とかいわれたら股を拡げるしかないじゃありませんか、
オーク妻としては。

それにまあ元々強くなかった二人を咎める気も、薄れてますし。
コーネリアもソーニャさんも本当に良い女ですからねー 私では、女として若さ(ロリさ)以外で勝っている要素がない。
こんな女たちに抱きつかれて誘惑されたら陥落しますよ若い雄なら誰だって。

周りが開けた場所だと落ち着かないので、中庭から宿舎に移って義息子たちと睦み合っていたのですが、代わる代わる順番に
そして三人同時に犯されて逝きまくった私は疲れ切って、ハラキズの肉布団で眠ってしまいました。
ケサガケとゴエモンはやや欲求不満だったようですが、私が寝ているあいだに嫁たちが受け止めてくれたようです。

今朝はお祈りと朝風呂と朝食を済ませたあとに6人で乱交しています。ちなみに部屋は呪文やアイテムを使って綺麗にしまし
た。どうせすぐに汚れるというかもう既に汚れ始めているのですが。

イノシシハーフオークの精液というかち○こ汁は、透明な液と白濁液と白い粘液塊の三段階に別れて出てきます。
で、練乳みたいに濃い本命子種汁は、膣と子宮の内に出されるとそのまま粘り着いて残るのです。
ハラキズに出して貰った昨夜最後の一発も、今朝一番にねじこまれるまでしっかり残っていました。竹筒に充填した水羊羹へ
指を突き刺すように、ぷるっぷるの子種ゼリーをドリルち○こがかき分けて入ってくるのがまた気持ちよくて♪

起きて直ぐに本番えっちというのもアレですが、女神様の言いつけですから仕方ありません。
実は、夢の中でエスティア様に謝り倒したのですよ昨夜は。いくらなんでも言い過ぎでした。
信徒たちと同じく、オークち○こ突っ込まれている最中の女が何言おうと本気にしたりしない女神様は気にしてませんでした
けど、ねえ、いかんでしょ仮にも神官(プリーテス)が仕える神に対して「うるさいだまれ」は。

贖罪というか仲直り的な意味でエスティア様が要求なされたのですよ、朝一番の本気えっちを。
調停の神々は生類(モータル)が大好きです。生類の繁殖も大好きです。なので信徒が交尾したり出産したり育児したりするの
が大好きです。
なのでエスティア神の祭壇前や祭壇上で、本気えっちをすることは最高の供物なのですよ。


話を戻しますと膣出しされた女の中には子種粘液が入りっぱなしなのですが、この粘液はオークのち○こ汁で溶けるのですよ
透明なのと白濁なのと両方で。
だから練乳羊羹でみっちみちな肉穴に肉ドリルがねじ込まれると、そのうちにドリル先端からにじみ出る透明液で子種粘液が
溶けて混ざっていきます。
でも穴の奥以外は粘っこいのが詰まったままですからどんどん膣奥に熱くて幸せな感覚が膨らんでいくのです。

抱えられ貫かれて抱き合うだけで、しみじみと嬉しく気持ちよい。伊達に100万年分進化してませんねこのち○こは。
コーネリアの初夜の時「よく飽きないなー」とか思ってましたけど、確かにコレは実際に味見しないと解りませんよ。

やがて白濁液の噴出が始まって、子種粘液はどんどん溶かされ洗い流されていくのですがそうなれば床や布団はびしょ濡れに
なる訳でして。
オークたちがこまめに寝藁やスポンジを換える筈です。


相手がロリ義母巫女に憧れの女剣闘士に恋女房とくればもうゴエモンが張り切るのは当然でして、部屋の床なんか濡れてない
面積の方が少ないぐらいです。

「グヒッグヒッ」

膣出しの余韻にひたる間もなく、待ちかねていたケサガケが交代して私を抱きかかえました。背面坐位で入ろうとする肉ドリ
ルの先端を私は指先でつまんで擦って焦らしてから、ゴエモンのもので詰まった雌穴に誘い込みます。

「ね、良いでしょ? 大人ま○こ良いでしょ?」
「‥‥スゴイ、イイ」

隣ではソーニャさんが、仰向けの太鼓腹に乗って腰振ってます。騎乗位で豚ロデオ気分です。
その下でされるがままに喘がされているハラキズですが、お師匠様に延々責められて「ルェイ、ヨリ、イイ」と言わされてし
まった事はもう吹っ切れているようですね。
オーク専用の押し掛け無料娼婦までやっていた人ですから、若い雄が抵抗できる訳もありません。なので私は「頑張って気持
ちよい大人ま○こになりますから、これからも手伝ってくださいね」と彼を励ましたのです。
健気な義息子は、義母の開発に役立つであろう技や知識を盗もうとソーニャさんに食らいついてというか咥えこませてます。

ゴエモンは、温水入りの革製抱き枕にもたれてぐったりしていたコーネリアの横に片膝立てて座り、その口元についさっきま
で私の中に入れていたち○こを近寄せます。

「ん‥‥ ゴエモンしゃまぁ‥‥」

気配を察してコーネリアは目を閉じたまま口を開け肉ドリルを受け入れてしゃぶりあげ、持ち主の名を言い当てます。
乱交の結果、夫以外のでも愉しめるようになった彼女ですがやはり一番はぶっちぎりでゴエモンのようです。
嬉しそうに夫の逸物を咥えて、頭を撫でられ微笑みを浮かべています。


田舎育ちの貴族生まれで真面目系職業軍人だったコーネリアの貞操観念はなかなかに堅固でしたが、やればそれを壊してしま
うのがエロモンスターでして。「夫の望みで、夫の子を孕んだ雌穴で、夫の義兄弟に癒して貰う。それは浮気じゃない」とい
う新たな常識がすり込まれてしまいました。

オーク文化的には、嫁を寡婦にしてしまった時のことを考えると一穴主義ならぬ一本主義はあまり宜しくない。赤ん坊の健康
を損なうぐらいだったら妻の胎教を良くするために他の男をあてがうのがオーク族です。
が、やはり嫉妬心はある訳で。
あくまでも自分がいないとき、いなくなってしまった時に備えての保険であり、いざというとき以外は嫁を他の雄に触らせた
くないゴエモンは独占欲強い部類ですね。ま、人(オーク)それぞれですから。


いまさらですけど私は股が緩いというか尻が軽いというか、淫乱さんですね。
たとえば、今はもうケサガケに感じていた理不尽な憤りや嫉妬はありません。ソーニャさんへの蟠りは妻妾同衾ならぬ嫁姑一
緒の性教育で解消してしまいました。
親の仇同士でも円満夫婦にしてしまうのがエロモンスターですから、師弟間のちょっとしたいざこざなど裸の付き合い一晩で
解決するのです。


結局その後何時間も、昼過ぎになるまで私たちは繋がったままでした。
どのドリルち○こもそれぞれ違った良さがあるけど、やっぱり私はハラキズのが一番お気に入りです。





[38600] 48
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/05/01 12:59



 ☆91日めの2、薬用椰子の樹の下で☆



猿のように盛ってしまいました。反省。
いくら夫公認とはいえこれはやりすぎでしょう。

6人がかりでドロドロにしてしまった宿舎は私の「浄化」の呪文で真水浸しに変えてから、コーネリアが「脱水」の巻物で湿
気と一緒に吸い取って掃除しました。匂いはソーニャさんの「消臭」呪文と窓を開けての換気で解決します。
呪文使い(スペルキャスター)が三人もいれば大概のことはなんとかなります。特に仲間に熟練冒険者がいて、充分な数の消耗
品を溜め込んでいる場合は。
ソーニャさんのような熟練冒険者でも信仰系職(クラス)でないからには信仰呪文の巻物とかは使えませんので、その手のアイ
テムは棚の隅に積んでおくしかないのです。


部屋に籠もっていたらまたえっち三昧になりそうなので、午後は果樹園に出て遅めの昼ご飯にしています。ここは大神殿の果
樹園でもやや外れにあたり、ミッシェル山の敷地内や浜辺と違ってモンスターが入り込むこともそう珍しくない場所です。
修羅場や鉄火場では下半身に抑制が利くのがこの島のエロモンスターたちでして、義息子たちも温泉洞窟前の広場と同じぐら
いには警戒心を持って握り飯をぱくついてます。

意外と握るの上手ですね、コーネリア。

「妃殿下がヒルデニア料理をお好みでな。夜食によく作ったものだ」
「‥‥なるほど、こうね」

次は焼き干物マヨネーズ和えが良いとか梅干し+炒りゴマまぶしが良いとかの、男どもからの注文を聞きつつコーネリアはご
飯を握っています。
ソーニャさんはその横で、割と本気の目でトビコ入りの握り飯を握ってます。


「グヒッグヒッ」

私はといえば、ハラキズの作ってくれたおこげの塩にぎりを食べさせて貰ってます。たまにはおこげのご飯も良いよね。
失敗しても良いようにと、おこげご飯で握り飯を作っていたハラキズの完成品一号をはんぶんこしているのですよ。


割の良いアルバイトというものが少なかったその昔、お金のない若者たちが安ホテルに電気釜と米を持ち込んで自炊しつつ、
二泊三日の間 やる→ねる→たべる→ふろ→やる→ねる→たべる→ふろ‥‥ を繰り返したという話を思い出しまして。
白いご飯をがっつり食べたいなー と思っただけです、はい。

栄養面も考えて緑黄色野菜のたっぷり入った大猪汁(味噌味)とぬか漬けもありますよ、これで握り飯も一汁一菜+おかず色々
扱いになります。
市場で買った茹で腸詰めとヒルデニア風オムレツも、無限袋に入れておいたからまだ熱々のまま。
足りない分のビタミンBはおやつの糠入りクッキーで補いましょう。


昼ご飯の後は、匂いにつられてやってきたイノシシたちに残りものやその辺の樹からとった果物をあげて、食後の散歩にでか
けました。
散歩の道すがら、温泉洞窟の近くでは見かけない香草や果実などがあれば採取して無限袋にしまい込みます。

節度を守っての利用なら好きに取ってよいのです。元々大神殿まわりは収穫過剰気味で、特にこの辺りは世話しきれず果樹な
どの手入れが雑になっています。熟れすぎて木に成ったまま腐りかけているものが多いぐらいでして。

大型の鳥や四足獣は結界に阻まれて侵入しにくくなってますが、それでも入ってくるやつはいます。
しかし長生きはできません。食後の散歩中に見かけた大ウサギや透明スライムはケサガケのクロスボウとソーニャさんの火炎
弾(ファイヤーボルト)であっさり仕留められました。ウサギ肉も食糧備蓄に追加しますか。


ケサガケがウサギの解体している間、ハラキズとゴエモンは昔を思い出したのか肩車して果実を集め、イノシシが食べやすい
よう積み上げてますね。
ついでに枝に絡みついた蔓草や余分な葉や育ちそうにない未熟な果実を千切り取って埋めているのは、私の影響でしょう。
大神殿の下っ端たちも蔓取りぐらいはしていますが、作業は大雑把です。



柄を継ぎ足した片手鎌や高枝きり鋏や先端が二股の棒などで高い梢の果物を取り、地面に積む作業を繰り返して進んでいると
前方から話し声と作業音が聞こえてきました。


近寄ってみると、巫女さん数人に率いられた下っ端オークたちが裸の女たちを‥‥ もとい、肌も髪も本物そっくりに塗り上
げられた半裸や全裸の女神像を担いで歩いてました。
大神殿には彩色前や塗りかけの石像が山ほど入ってる空き部屋がありましたけど、運ばれている石像はあそこにあったもので
すね。いくつかの像に見覚えがある。

お寺の参道とかにずらりとお地蔵さんが並んでたりしますよね。あんな感じで果樹園の境界線や東屋の柱の横などに次々と女
神像が安置され、固定されていきます。

なるほど。100年以上こうやって一つ一つ置いていったから大神殿まわりは裸の女の石像だらけなのか。
実際の話、ミッシェル山って生身の女よりもリアル彩色石像の方が多いですよね。
大神殿の祭壇に飾られているものよりは、いま置かれているものの方がやや出来が落ちるかな?
女神だけど五大神ではなく、従属神の像ですし。

半裸全裸関係なく、設置した女神像には兜や胸当てなどの防具が付けられていきます。
石像として最初から剣や盾や弓矢などを持っている女神像もありますが、それ以外の像に本物の武器を装備させているのです。
鎧を着ずに、杖や棒を持っている女神像は呪文使いの設定なのかもしれません。

像にとりつけられている鎧は、外せば剣闘士や元剣闘士たちがそのまま使えそうな実用向けの物もありますが、胸と腰を申し
訳程度に被うだけのお飾り鎧もあります。
魔法の鎧のなかには水着よりも被う面積が狭いのに高い防御力を持つ代物もありますが、あれはそうじゃない。魔力の欠片も
ない代物です。

オーク島版傘地蔵かな? 
物騒なこの島では「近くに守ってくれる雄がいない = 自力で身を守らなければならない」という図式になりますので、
大神殿の中やごく近くならともかく外周あたりだと女神像にも武装させないと。

あるいは武器庫代わりかとも思いましたが、違うかな。
果樹園のあちこちに武器があれば巡回中のオーク達がとっさの時に使えるでしょうけど、女神像に後付けされた武器類の大半
はしっかり固定されていて、急場に気軽く取り外せるようにはなってません。


風水的なものでしょうか、女神像の並べ方には規則があるようですね。置いている途中で順番を間違えていたことに気付いて
巫女さん達が作業をやり直させてます。

ソーニャさんの話では、武装した女神像は大神殿外周から災いが入ってこないように監視する、いわば鬼瓦的な役割を持って
いるそうです。
内側に置いてある非武装の女神像は、無病息災とか家内安全とか火の用心とかが担当ですね。

いわゆるビキニアーマーの起源が「大規模ハーレムの警備にあたる女戦士たちが、職務中であることを示す制服的な物」とい
う説が正しいとしたら、女神像に装備される水着鎧はセクハラ避けの貞操帯なのかもしれません。


そういう訳で作業員オークが、設置の順番待ちで暇だからといって女神像の乳房を撫で回し乳首をつまみ上げているのはあま
り良いことではありません。
地球でいえば、派出所にいる婦人警官のところへその恋人がやってきて、待機室で胸を揉んでいるようなものですし。

列の後ろ側で一人の下っ端オークが女神像の胸に触っていましたが、近くにいた栗毛ショートの巫女に気付かれ睨まれて止め
ました。
4~5人いる巫女たちの中で一番若くて下役らしいその娘は、悪戯していたオークに歩み寄りその手を取って自分の胸へ押し
付けました。
ささやかな膨らみの感触にオークは目を見張り、やがてぎこちない動きで薄布の上から幼げな巫女の胸を揉みはじめます。

うーむ。巨漢の力士が小柄な女子中学生の胸揉んでいるような体格差が、うん、萌える。
美少女と野獣的な組み合わせは大好物でして、これだけでご飯四杯はいけます。


最初は数揉みさせるだけのつもりだった巫女ですが、拙くしかし優しく揉まれる快感に止めさせることができません。
揉んでいるオークは巫女を抱き寄せ服の胸元を開けて直接乳房を触ろうとしましたが、列の前で配置図を見ながら相談中の巫
女たちが気配を察して振り向いたので、また動きが止まりました。
二人の周りに集まって自分も触ろうと巫女の尻や太腿に手を伸ばしていた他の下っ端も、同時に止まります。

ちょっとだけ機嫌を悪くした先輩や同僚たちに「そういうことは帰ってから」と窘められた巫女とオーク達は素直に謝り、
作業は再開されました。


あの子たち、次の生き残り戦参加者ですね。
雰囲気が同衾者だ。ごく最近に初めて身体を重ねて、それから同じ寝床で抱き合って寝ている関係ですよあれは。
昼間、いや外にいるときは巫女と下っ端でねぐらに帰れば雌奴隷とご主人様。そりゃ燃えるでしょうよ乱交も種付けも。

次の新月には、あの下っ端たちは一人しか残らない。
きついなあ。血には慣れてきたけど、笑顔には慣れられそうにありません。なんであんなに屈託無く笑えるんですか。


「笑いなさい、レイ。こんなときは笑って見守るのが良い女(オーク・ラヴァー)ってものよ」
「はい。お師匠様」


笑おう。今は上辺だけでも。いつか腹の底から笑える日を作るために。





 ☆91日め3、豚は誉め言葉☆



イノシシのご飯集めする雰囲気じゃなくなってしまいましたね。
静かにその場を離れて、ゆるゆると帰ります。

今更ですが「オークの肉鞘」とか「豚と寝る女」とかもですけど「オークの恋人」と‥‥いや語感的には「豚情婦」かな?
人間社会では最大限の罵倒になるオーク・ラヴァーの呼び名が、この島だと誉め言葉になるのですよね。
個人的には「オーク妻(ワイフ)」の方が良い響きだと思いますけど。

「オークの手先のおフェラ豚、かぁ。素敵な言い回しだわ」
「グヒッグヒッ」
「はい。‥‥ネリーの口は上も下もゴエモンしゃまのおち○こをしゃぶるためにあります」
「そうですね。コーネリアはもう立派な オークの手先のおフェラ豚 ですよ」
「グヒッ♪」

敬愛する王妃の転生した姿である実の娘を、ゴエモンかゴエモンの息子の嫁にする気満々ですからねコーネリアは。
ご主人様のために人里から生娘さらってくる元姫騎士級の、オークの手先ですよね気持ち的には。おしゃぶり大好きだし。
そう旦那様と義母と大先輩に誉められ認められて、コーネリアは恥じらいつつ喜んでます。


いえね。雰囲気を変えようとして、「豚野郎」という人間世界での罵倒がオーク島だと「イノシシの様に賢く素早く逞しい」
という誉め言葉になることについて話しあっていたら、海兵隊的罵倒語のアレも誉め言葉になると気付きまして。
文化が違うと同じ言葉でも受け取られ方が違ってくるものですね。
地球でも「童顔」とか「小顔」とかが地域や文化によって誉め言葉にも貶し言葉にもなる訳ですし。

同じ論調でいくと「雌豚」という言葉も「まるで雌のオークだ = オーク妻の鑑」と解釈できます。
比喩表現において「豚=オーク」であるからには「雌のオーク=オークとつがいになるために産まれてきたような人間雌」と
いう表現になって当然です。


そんな言葉遊びをしながら歩いているうちに、ヒルデニアの一部では恋人への真心を誓った言葉などを女の肌に書き入れる習
わしがあるという半分本当の与太話を口走ってしまいまして。
是非にというソーニャさんの左肩から二の腕へ「オークの手先」右肩から二の腕に「おフェラ豚女」とオーク文字で書き込ん
でみました。

意味的には「略奪に同行して分け隔てない心からの口腔奉仕で戦士たちの滾りを鎮め、人里に紛れ込んで情報収集・意識誘導・破壊工作などを行い戦いを陰から手助けするオークの共有妻」となります。

コーネリアには右肩に「愛奴」左肩に「雌奴」と漢字二文字ずつで書いてみました。
私はお腹に漢字仮名交じりの日本語で「赤ちゃんが入ってます」ですが、振り仮名代わりに共通語(コモン)で同じ内容の文章
を並列に書いて貰ってます。あと両方の最後に朱墨でハートマークも。

三人共通で、胸の谷間を挟むように漢字で「豚」「嫁」と書いて完成。‥‥まあ、谷といえる程に窪んでませんけど私のは。


書きはしましたが、露出趣味のないコーネリアのボディペイントは水兵服の下に隠れてます。書いた淫語を隠しているだけで
興奮できるのですよこの夫婦は。
私も不特定多数に肌を見せる気はありませんので、お臍や胸元が見える服に着替えたりはしません。
見られるのが大好きなソーニャさんは、文字が書いてあることが分かる程度に襟が深くて袖の短い服へ着替えました。

書くのに使ったのは魔法の品物である墨壷です。これには簡易魔法陣や呪文入り巻物の作成に使う魔法インクが入ってまして、
水でも油でも滲みませんし皮膚に塗ると専用の溶剤をつかうか垢になった皮膚と一緒に剥がれるまで色落ちもしません。



歩くうちに武装した女神像が減ってきて、非武装の女神像が増えてきました。
あ、この木は先月の夜回りで巨大節足動物を縫い止めたやつだ。三又槍の刺さった跡が残っています。


「うーん。私は造園には疎いほうなのだが、なんというか‥‥」
「もの足りない気がしますよねえ?」

コーネリアと芸術的観点からみた大神殿まわりの構図について議論してみたのですが、像の種類が偏っているから違和感を覚
えるのではないかという結論に達しました。

裸婦像ばっかりで男の石像がないのはまあ、しかたありません。この島の住人にとって人間族の男とくに西方人は魔王の手下
で敵そのものなのですから。悪役以外の出番はない。
しかし子供や妊婦や熟女の像がないというのは如何なものか。女子校にだって歳くった女教師や食堂のおばちゃんぐらいいる
というのに、十代前半から三十代半ばの女しかも立像ばかりというのは多様性に欠けすぎています。
大神殿の彫刻師に会えたら猛省を促したいですね。

「彫刻師? いないわよそんなの」
「知っているのですか?」



直接見た方が早いということで、私たちは大神殿まで引き返しました。ハラキズたちを地上で待たせて、男子禁制区域の奥
へ進みます。
途中で会った巫女さんに何ごとか尋ねたソーニャさんは答えられたとおりの場所に、地下一階の廊下にやってきました。


「ここね。時間もちょうどいいわ」

何の変哲もない地下の廊下です。あえて違うところをいえば、ソーニャさんが見ている場所の床には直径1メートル弱の魔法
陣が彫り込まれてることですが、同じような魔法陣(丸い系統の)はこの廊下だけで何ヶ所もありますし。

ぶわんっっ という感じの、あの空間が歪む感触が三人の見つめていた魔法陣付近で起こりました。
見るとそこには、さっきまでは存在しなかった筈の石像が立っています。右手で剣を掲げ左手に巻物を持つ上半身裸な若い女
の像で顔立ちなどに西方人の特徴があります。


「自動生成装置か、随分と古めかしい術式じゃないか」
「200年は前の設計だもの、そりゃ今の流行とは違うわよ」

二人の解説によればこの魔法陣は、特定の条件を満たすと指定した種類のアイテムを製造する魔法装置の一部なのです。
この場合は「一定以上の時間魔法陣の上に何も置いていないと、裸婦像を無作為に作り出す」と設定されています。

鉄の王時代の遺産(分捕り品扱い?)である魔法装置が造る石像のなかから、女神像を選んでいたのか。
なるほど、種類が偏る訳だ。
大神殿敷地内にはこういった設備が何ヶ所もあり、作られるもののうち出来の良いものが神殿で使われたり飾られたりして、
出来の悪いものは砕石や薪にされてしまうのです。


容易く生み出され容易く死に、選りすぐられたものだけが生き残る。
それがこの島の摂理か。気に入りませんね、正しいことを正しいという理由だけで全て受け入れられるなら人間じゃない。


「レイ?」

とりあえず貪り食う無限袋に出てきたばかりの石像を入れまして、そしてまた見えるようになった魔法陣を詳しく観察する。
うん。できる、使える。多分ですけど。


Q3、できますよね?
A3、信徒レイ。貴方が次の次の階梯に達したとき「彫像(スタチュー)」の呪文を授けましょう。


適当な石材から望みの石像を作り出す呪文を、私がプリーテス3レベルになれば使えるようになります。それで何が変わると
いうものでもありませんが、温泉洞窟まわりを本格的な神殿に作り替えるときには役立つでしょう。
自分が立てる建物ぐらい、自分の趣味で飾り立てたいですから。


ふむ。今までの見分ではこの島に肖像権があるという証拠はありませんが、揉め事を避けるためには本人やその旦那様の許可
をとっておくべきでしょうね。
私が知っている限りで、一番の美幼女は北の島集落の金髪ちゃんでして。幼女像を作るなら是非ともモデルに使いたい。
上の倉庫に石像を運んだあとで探してみましょう。確かまだ大神殿にいた筈です。




 ☆91日め4、おみとおし☆


倉庫へ寄ってから下っ端三人を待たせていた小さな中庭へ戻ると、そこでは奇妙な光景が繰り広げられておりました。

「ほら、おおきいおっぱいも気持ちいいでしょ?」
「お願い。先っちょだけ、先っちょだけで良いから‥‥」
「プギップギッ」

半透明の巫女装束を乱したというか諸肌脱いでたり、ぱんつを膝までずり降ろしたりしている三人の巫女たちがハラキズたち
を掴まえて迫っています。巨乳の谷間に顔を埋めさせたりとか腰ミノの隙間から飛び出たドリルち○こ頬ずりしたりとか。

明るい栗色の直毛ロングな小柄‥‥いえ幼い巫女(せいぜい13歳ぐらい?)な巫女と、まばゆい金髪の綿菓子頭で中身も綿菓
子っぽい豊満、と呼ぶには腰や足首が締まりすぎている巫女。そして黒髪を後で縛ってポニーテールにしたヒルデニア人らし
き巫女の三人ですが、無理矢理迫られて下っ端たちが困惑しています。
やんわりと断りたいハラキズたちですが巫女側はしつこく迫っていまして、逆強姦開始20秒前って感じですね。


間違いなく、意地悪そうに笑っているお師匠様の仕業です。だってほら「人のち○こに手出ししないでくれる?」と咎めつつ
騒ぎの中に入って、巫女さんたちを引き剥がしてますけど隠す気もないぐらい口調がわざとらしい。
精々星3つ程度の巫女たちがソーニャさんに敵うわけもなく、芝生の上に転がされてしまいました。抵抗もままならず手込め
にされかけていた下っ端たちは、剥ぎ取られていたあるいは外れかけていた腰ミノを付けなおします。



地球の中世欧州で書かれた魔術書のなかには「人妻が呪物を埋めた戸口を通ると、次の真夜中に、寝室だろうと公衆の面前だ
ろううと人妻が自分から服を脱いで下着姿になる」という、いろんな意味でトホホな呪文が記されているものもあるとか。

個人の素質と嗜好と執念でどこまでも改造できるのがソーサリー系呪文の特徴でして、異名持ち級魔法使いに匹敵するお師匠
様にとっては「呪文の対象である雄に、非友好的な者が接触すると、その雄と接触した者の一部耐性を激減させる」という効
果の呪文を使うことなど造作もないのです。

‥‥なるほど。比較的安全な果樹園ですら警戒を解かなかったソーニャさんが、何もせずケサガケたちを中庭に待たせておい
た理由はこれか。

「解った?」
「ええ」

普段のお師匠様なら藤子さんか他の顔見知りな巫女へ下っ端たちを気に掛けてくれるように、下っ端たちに内緒で頼んでいた
筈なのです。強すぎる嫁がいなくなれば、今が好機と寄ってくるのがいるでしょうから。
つまりこれも計算通り。
挑発などで目標を誘導し、罠(トラップゾーン)へ突っ込ませて嵌め殺す。それがソーニャさんの必勝形なのです。

「で、ダボハゼなみの勢いで勢いで食いついたのがこの三人というわけか」
「ちがうの‥‥私たちはただ、あの‥‥」

ソーニャさんに反感を抱いていたこの三人は、あのいけ好かない女を雌にしてしまった下っ端のち○ことはどんなのか と興
味を持ってケサガケにちょっかいかけてきたのですよ。
貧弱な坊やだったら笑ってやろうという悪意が下っ端たちに敵と受け取られ、敵の接近で呪文が発動。ごく普通に呪文抵抗に
失敗した三人の巫女はフェロモンへの耐性がマイナスになってしまったのです。
ゲーム的にいえば一時的に媚薬が致命的弱点化した状態で、媚薬が充満している場所にいる状況ですね。


「おち○ち○欲しいの‥‥お願いしますっ せめて触るだけ! いえ匂い嗅がせてくれるだけでもっ」
「ケサガケしゃまに頼め。これは私のだ」

冷え切った目つきのまま、コーネリアはち○こ欲しさにゴエモンへ縋り付こうとする巫女を足蹴にしています。なんでもこの
三人は大神殿の巫女たちのなかでコーネリアの知る限り、最もゴエモンをへたれの能なしと蔑んでいたそうで。

「ゆるして! ゆるしてくださいっ ‥‥だって、だって嫌われ役もいなくちゃいけないんです」
「役目はそうでも、あなたがそれを愉しんでいたことには違いないじゃない」

ソーニャさんもセメント通り越して複合装甲対応です。120ミリ戦車砲でも貫けそうにありません。下っ端(雑魚)オークが
みせる命の輝きを何よりも愛していますからね彼女は。
喩えるならば、超子供好きな保母さんが職務にかこつけて幼児虐めて愉しんでいた女教師に容赦するかという事ですよ。

一流冒険者が弟子候補を誘拐しようとしたお馬鹿の事を調べておくのは当然でして、弟子候補の誘拐未遂から一月後にその義
息子となったお馬鹿が誰にどんな扱いをされていたかぐらいソーニャさんは知っているのです。


「「「お願いします! なんでもします! どうかお慈悲を!」」」

中庭の石畳に跪き、手を組んで巫女たちは許しを請います。
ぽろぽろ涙こぼして泣いてますが本気で反省してる訳じゃありません。今この瞬間の彼女達はいわば重度の麻薬中毒患者で、
薬物欲しさに何でもする状態なのです。

大神殿で仕込まれた巫女教育の成果が、オークの子種汁を求める方法として選ばさせているだけであってハラキズたちを見て
いる訳じゃありません。誰だって良いのですよち○こさえあれば。
極端にいえば果樹園から雄イノシシ連れてきて突っ込ませたら、この巫女たちは雄イノシシのち○こで逝き狂い精を注がれて
失神するでしょう。そして巫女たちとの異種姦を雄イノシシの方がを気に入って、翌日あたりに再戦を望んで寄ってきたら喜
んで四つん這いになり尻を上げてイノシシち○こを受け入れるのです。

「その場合だと、自分からイノシシ探し出して添い寝始めるわよ。そして隙があれば襲うわ」

そこまでか! いやオーク汁を熱加工して作った、本物より格段に効果の落ちる媚薬でも普通の女ならとろっとろになってし
まうのならば、致命的弱点化しているこの巫女たちがそうなってもおかしく‥‥おかしいって。おかしいよね?



さて、魔法生物学的興味は尽きませんがどうしましょうかねこの状況。

そうだ! この三人に自慰させて誰が一番遠くまで潮を噴けるか競わせるなんてどうでしょう?
一等賞だけ浜辺まで運んであげれば、近くの暇なオークたちの心が広ければ孕むまで輪姦(まわ)してくれますよ。二位以下は
放置しときゃ良いや。




 ☆91日め5、エロモンスターの真価?☆


迂闊でした。この島では冗談が通じにくいのでしたそう言えば。

蛮族思考の義息子たちも禁断症状起こしている巫女たちも先の言葉を本気にしてしまいまして、ストリップ小屋の演目じみた
ものが中庭で繰り広げられています。出演者は本気で逝きまくってますけどね。

「い、逝きますっ アニーが潮ふいていっちゃうところ‥‥ みてっ くださっ‥‥ぃっ」
「あんっ あんっ だい好きぃ もっとポーリンのことみてぇ‥‥」

今のところポーリンって綿菓子娘が一番かな。モモという地味めの娘は液が漏れるだけで飛んでません。


ひくわー お前がいうなと言われそうだけどこれはないわー。本物の中毒者みてると萎えますね。


「グヒー‥‥」

ハラキズに脇腹つつかれて振り向けば、見上げた義息子の顔も困っています。他の二人も。

「許しますか?」

こくこくと義息子たちは頷きまして、ソーニャさんは「解呪(リムーブ・カース)」の呪文を唱えました。
必死の形相で自慰しつつ、奴隷になります何人でも赤ちゃん産みますと懇願する巫女たちに「それ、あなたたちが得すること
でしょ」と惨いことを言っていたソーニャさんですが、流石にこれ以上は望んでないようです。


呪いが解けて耐性が戻ると、横一列に並び腰を前へ突きだしてよがっていた巫女たちはその場に崩れ落ちました。
しばらく折れ重なって喘いでましたけど、少しずつ正気を取り戻していってます。
女たち、いえ私とソーニャさんへ向ける目が刺々しいですけど、ハラキズたちが視線に割って入ると上気した顔をますます赤
くして目を逸らしました。

ふむ? 酩酊は醒めても刷り込んだ感情は残ってるのかな? さっきまで媚薬による発情を恋慕による発情なのだと積極的に
錯覚していた訳ですし。


意見を聞こうとソーニャさんの方を見てみれば、ちょうどケサガケに腰ミノを外させている所でした。
元気良く起ち上がってくる肉ドリルを見て、巫女たちが切なげに溜息を漏らします。

なるほど。発情も残ってるのか。耐性が戻ってフェロモンが効きにくくなったということは、薪小屋に火炎瓶投げ込み続けて
いたやつがいなくなっただけであって、火そのものはまだ燃え盛っているのです。
そりゃそうだ。毒の耐性がなくなる呪われた装備を付けた状態で飲んだ毒が、呪いの装備を外しただけで消える訳がない。
脳内では既に色恋や情欲を起こさせる物質の分泌が止まっているけど、既に分泌しちゃった分は残ったままなのです。


「これ、まだ欲しい?」

ドリルの先端を一舐めして尋ねるソーニャさんに、巫女たちは何度も何度も頷きます。

最初は錯覚でも、一度恋慕が始まってしまえば僅かな刺激で燃料再注入してしまうのが人体です。薪小屋に入れてあった灯油
缶が火事の熱で破裂した感じで炎上している。
ケサガケの許可を貰ってその股間へ顔を寄せた巫女たちは、下っ端オークの性器を神器や聖遺物のように恭しくそして愛しげ
に撫でさすり口付けしています。

そこにハラキズとゴエモンのドリルち○こも投入されると、巫女たちは手を取り合って歓声を上げました。雌奴隷の分際でご
主人様の品定めをしようとした不心得者に、贖罪の機会が与えられたのです。



三人の巫女たちはハラキズたちのいうがまま、石畳に仰向けで寝そべり股を開きました。
指で雌穴を割り広げて「狭くて気持ちいいですよ」とか「襞の深いのが自慢なんです。味見してくださいな」とか口々に雄を
誘っています。

巫女たちの胎内で燃えている情欲を鎮火するには水ではなく子種汁、できれば発情させたフェロモンと製造元が同じなのが必
要なのです。
泡消火液でなくマヨネーズでも天ぷら鍋の火事を消せる(こともある)ように、子種入りでありさえすれば犬の精液でも鎮火は
できます。人間雄などの元から孕める子種入りなら妊娠することだってありえます。

でも彼女達が求めているのはハラキズたち三人なのです。正気を失っていたさっきはともかく、今は誰でも良くはない。
より強く美しく頼もしい雄の子種で孕むことを夢見ていた巫女たちですが、もしここにレェ・ウォスがいて腰ミノを外し四本
目のち○こを並べて誘惑してきたとしても、ハラキズたちを選ぶかもしれません。


あれ? どこかで見た顔だと思ったら、金髪綿菓子頭の娘は先月レェ・ウォスに奉仕を求めて断られていた面々の最後尾にい
た巫女さんじゃありませんか。

「‥‥今頃気付くか? それを」
「まあ、レイはこういう子だから」

人の顔と名前憶えるの苦手なんですよ。教師の資質が欠片もないことぐらい自覚しています。



では、気を取り直しまして。

「さあ、みんな。どれでも好きな穴にはめこみなさい」
「ドレデモ、イイ?」
「ええ。どの穴でも好きにしちゃって構いませんよ」

と、言ったらハラキズが抱きついてきました。巫女たちに向かおうとしていたケサガケとゴエモンは、数秒遅れで事態を飲み
込み「その手があったか!」とソーニャさんとコーネリアを抱き寄せます。

あはは。気付かれちゃいましたね。


好きにして良いと言われたハラキズは本当に好きに振る舞いまして、膝に乗せた私の股に手を入れて虎毛皮見せぱんつの上か
ら延々とスジを撫でています。
夫たちに開発されて一ヶ月たちますが、まだまだ幼女らしさの残る割れ目ま○こを服の上から撫でさするのが彼のお気に入り
なのです。私も嫌いじゃありませんけど、そろそろ脱がして直に触って欲しいですね。

そんなわけで、三人の巫女たちは温泉洞窟の女たちがいちゃいちゃした上で膣出しされるところを見せつけられました。
特にハラキズはグェスの影響なのか「焦らして焦らして女の方から恥ずかしいおねだりさせてから本番に入る」のが正しい寝
屋の作法だと思いこんでまして。
ちょっとだけMの気があるエロ義母としては、普段は優しくて素直なハラキズに虐められちゃうのがまた良くて‥‥。



さんざん「お預け」されてとろけてしまった巫女たちは、私たちの中に出された子種入りゼリーなら舐めて良いという許可を
ハラキズたちに貰うと生肉を与えられた犬みたいな勢いで飛びついてきました。
けどソーニャさんに蹴り倒され、オークたちに首根っこ掴まれて引き剥がされ「敬意がたりない」と説教されてます。

不作法をジャパニーズ・スタイルの土下座で謝ってから、ご主人様からの頂き物をお裾分けして貰えることに感謝しつつ巫女
たちは私たちの股間に口付け舐め回して精を啜っています。

中庭の長椅子に座った私の腿に頭を挟まれて、股にしゃぶりついている娘はアニーという最年少の巫女です。
栗毛のロリっ娘ですが、ちょっと鼻が高すぎるのか動くたびに鼻先がクリトリス付近に触れて‥‥なにか新しい扉を開いてし
まいそうな気がするので頭を撫でて動きを導きつつ、膣肉でち○こを締め付ける要領で子種入り粘液塊を絞り出します。

それが間違いというか失敗でした。

お目当ての子種汁を舐められれば大人しくなるかと思ったのですが、私の協力行為に感激したロリ巫女は今度は意識して舌と
唇と鼻を使い始めました。明らかに私を楽しませようとしています。


いやあの、私は女の子大好きですけど、子種の詰まった肉穴を舌でほじられるの気持ち良いですけど、同性愛‥‥者でしたね
そういえば。うん、女の子に舐めて貰うの好きかも。
左隣でポーリンという緩めの娘に舐められて喘いでいるコーネリアも、右隣でモモという地味めの娘に舐め方の指導をしてい
るソーニャさんもみんな優しい気持ちになっています。

私たち9人は繋がっているのです。肉体的には3人ずつ三組で、ですが心は9人全員が一つになっている。
肉穴に詰め込まれた子種をほじられ舐められて喘ぐ私たちと、肉穴にねじ込まれたドリルち○こで頭真っ白になるまで気持ち
良くされながら奉仕する巫女たち、そして一突きごとに雄の自信を深め夫らしさ主人らしさを増していく義息子たち。

たとえそれが一時だけだとしても、心を重ね幸せを分かち合えるとはなんと良いものなのでしょう。
ああ、恨みや妬みや怒りが溶けて解れていく。
これが金髪ちゃんたちが体験した、そして十数年前のソーニャさんが開眼した感覚なのかー。

多人数えっちって女が多くても気持ち良いのですね。
早く夫たちに第二夫人を娶って貰おう。
夫たちが妻に選ぶ女(ひと)なら夫たちと同じように愛せると、今は確信しています。


今の私に近い感覚を夫たち‥‥グェスとドスとウォスは感じていたのでしょうか? 夫夫夫婦の4Pで。




 ☆91日め6、都合良すぎる気が☆



夜中にグェスが帰ってきました。
大神殿から火山の麓を越えて島の東側海岸あたりまで、亡者の騎士団を追いかけて全滅させたそうです。
二月前に温泉洞窟手前で遭遇した骸骨騎士のようなアンデッドモンスターが幾つも群を作って徘徊していたのですが、ギュー
・グェスを含む精鋭部隊により全て捕捉粉砕されました。

今回とこれまでの功績・戦績を鑑みてグェスは星12に昇格しています。
無事に帰ってきてくれただけで満足ですが、夫が認められたことは嬉しいですね。というか若手最強、島全体でも屈指の実力
者で、ソーニャさんですら「実戦では負けもあり得る」と言う程の戦士がなんで星11だったんですか今までは。

訊けば答えは奉仕活動の種類を選り好みし過ぎるから、らしいです。あと嫁を取らなかったから、もあります。
そのへん頑固ですからねえグェスも。ドスやウォスに至っては意地になってるかも。


「おかえりなさいませ、あなた。お風呂にします? 水浴にします?」 
「フロ」

鋳造機製の即席風呂桶にソーニャさんから借りた無限水桶で水を張って、焼け石入れた竹籠を沈めて湧かします。
ふいご付きの炉で真っ赤になるまで焼いた石つぶてを無限袋に入れておけば、火種に良し暖房に良し湯沸かしに良し。狩りや
自衛戦闘にも使えるでしょう。
排水は貪り食う無限袋で処理すりゃ良いか。

で、お風呂で背中洗いながら、任務中留守中にあったことを包み隠さず‥‥伝えなきゃいけませんよね。
ええ、留守中義息子たちに計26回も膣出しされちゃったもといさせたことも。
オークの夫婦に隠し事はないのですから。特に下半身に関しては。


「ルェイ、オレノヨメ。オレノコ、ウム、タクサン」

一部始終を聴いたギュー・グェスは、安心したとでも言いたげに私の頭や腰を撫でて喜んでいます。
安堵といえるのかな、これは?

蛮族的世界観の中で生きているオーク族にとって、オーク嫁の最も大事な役目は丈夫な子を産んで育てることです。
ギュー・グェスもそれは同じで、いまの私に最も期待していることはお腹の子を無事産むこと。
オーク妻が強く健やかな子を産むためには、股へたくさんの子種を受け入れる必要があるのです。

ああ、なんとなくですが解る気がします。
旦那様と一緒じゃないと眠れなかったり、旦那様と一緒にじゃないと食べ物が咽を通らない新妻とかいたらそりゃ怖いわ。
そんな嫁さん残して出張に出て、帰ってきたらちゃんと一人で寝てご飯食べられるようになっていたら安心もするでしょう。

飼い主から貰った餌以外は食べない犬が餓死してしまうように、夫以外の子種汁を拒否して健康を害してしまう女がいること
をグェスは知っています。実例も見たことがある。
夫が三人いる私はまだしも、ゴエモン一筋だったコーネリアについては本気で心配していたようですね。


ギュー・グェスは私を信じています。疑ったことすらないでしょう。
いえ、信頼とか疑惑とかそんな段階じゃない。
汗の匂いからアドレナリン分泌量まで分かるオーク族にとっては、人間族の女が嘘をついているかどうか、本当に喜んでいる
のかどうか、お腹に宿る子が誰の子なのかは一目瞭然です。一鼻瞭然?
人間世界でままあるような、夫以外の子を勝手に孕んでおきながら夫の子だと騙すことはできません。

思考停止した盲信じゃなくて、疑いようがないと最初から納得しています。筒抜けなんですよ私の感情なんて。
ギュー・グェスのことが大好きで、お腹にいる彼の第一子を産みたがっている私の気持ちは明々白々。
妻の思考や感情がだだ漏れだからこそ、妻が夫以外の雄に惚れ込んでしまいその子を孕みたくなったとしたら夫が不甲斐ない
ことになるオーク島の文化ができあがったのでしょう。


というかですね。
私がグェスとその守護神オールクゥスそして女神エスティアに誓ったのは「ギュー・グェスの子を沢山産む」ことであって、
「ギュー・グェスの子以外は産まない」ことではないのです。

だからこそ、グェスは私が近いうちにドスとウォスの子を産むことを認め、いえ勧めているのです。
いくら強くても一人の戦士にできることには限界がある。女を守る理由として「自分の子が胎にいる」以上のものはない。
温泉洞窟の三兄弟が一人の女を守り抜くには、三人の子を孕むことが最も有効な動機付けになります。

生存効率を上げるためならなんでもするのがオーク流なのです。
以前、オーク族は一夫多妻制だと言いましたけどアレは間違いでした。
実際には共有妻という一妻多夫または多妻多夫制度もありますし、一見して一夫多妻制にみえても夫の留守中には息子や義息
子たちが胎教のために母親たちへち○こ突っ込んであひんあひん言わせている訳ですし、夫がいるときでも性教育として母親
たちは息子たちのち○こを咥えこんでひいひい言っているのです。


とことん女に甘いというか、本当はオークの方が人間雌やエルフ雌の奴隷なんじゃなかろうかこの島は。
制度的には女側が有利だけど、数と腕力とフェロモンを含めた寝床の力関係が違いすぎるのでオーク島はオークが主権者でい
られるのでしょう。
エロモンスターの巣にいる女たちは夫にベタ惚れで息子たちが大好きなので、主導権を取ったとしてもやることは変わりませ
んけどね。

温泉洞窟の場合は巫女がお馬鹿なので、主導権取ると拙いです。



お風呂を上がってからは、グェスの肉布団に乗っかってじっくりねっちょり可愛がって貰いました。たった二回、お口と膣に
一回ずつ出されただけで伸びてしまうこの身体が恨めしい。
はやく大人の身体になりたいなあ。子供の身体は不便すぎます。




 ☆92日め、末永く爆発しろ☆



むかしむかし、その昔。
具体的には二万年ぐらい前かな?

「オーク族、いえオークの先祖にあたる種族は豊かな森の中で幸せに暮らしていました。狩りや戦いで肉を手に入れ、森の木
を切って植えて住処や畑を作り、女子供たちを養っていたのです。
そのころはオーク族の先祖たちは巣に女たちも産まれて育ち、男たちと交わり子供らを産んで乳を与えていました。

ですがその頃、災いはすでに芽吹いていました。その頃のオークの先祖達は一夫多妻のハーレムを作っていましたが、そのな
かで争いが続いていたのです。
愚かにも先祖オークたちは女たちを公平に可愛がろうとせず、依怙贔屓をして一部の女たちを捨て置いていました。

見捨てられた女たちは、ある者は森の奥へある者は洞窟の奥へある者は草原の奥へと隠れていきました。森の中で他の女だけ
が先祖オークに可愛がられている姿を見ながら暮らすことに耐えられなかったのです。

そして、邪なものたちはこの隙を見逃しませんでした。邪神や悪魔の手下は守る者のない女たちを襲い手込めにして、オーク
の女(オーク・ラヴァー)であったことを忘れるまで女たちを苛んだのです。
自分たちは悪魔の妻だと思いこんでしまった女たちは、悪魔の子を産み育てました。悪魔は産ませた子供たちを手下に育て上
げ軍勢を作りました。そしてついにある日、悪魔の軍勢は森へ攻め込んだのです。

戦いは激しく、そして長く続きました。でもだんだんと先祖オーク達が有利になっていきました。
先祖オークの戦士たちは悪魔の首領を次々と討ち取りました。悪魔の妻になっていた女たちは先祖オークに抱きしめられると
自分がオークの女だと思い出しました。悪魔との間に産まれた子供たちも、先祖オークたちに抱きしめられて生きる喜びと幸
せを知り、悪魔の軍を抜けて戦線に加わりました。

追いつめられた悪魔は邪神に祈り、自分たちを含めた全ての知恵ある生類を諸共に滅ぼしてくれと願いました。口実を得た邪
神は世界をすっぽりと被うほどの大きな瓶に毒を詰め、神々の通れぬ檻の隙間から注ぎ込もうと掲げ上げました。

邪神の手下以外全ての生類が救いを求めて祈りました。そして祈りに応えてオールクゥス神が現れたのです。
瓶を持ち上げるのに全力だった邪神はオールクゥス神の拳を受け、只の一撃で打ち砕かれ星々の彼方に飛び散りました。

ですがそのとき瓶から零れた呪いの毒がオールクゥス神に降りかかりました。二本脚の生き物を四本足に変えてしまう呪いは
神にすら効いたのです。
毒が少なかったためオールクゥス神は完全な獣ではなく、獣めいた二本脚の姿になってしまいました。
このときから、二本脚の生類つまりオールクゥスの血を引く者は獣めいた姿で産まれるようになったのです。
ある部族はウサギの耳が生え、またある部族は猫の耳が生えました。最も数の多い部族は猿の頭を持つようになりました。

最も勇敢に戦ったために、オールクゥス神の加護が一番強かった部族はイノシシに似た姿で産まれるようになりました。
引き受けた呪いも一番強かったので男の子しか産まれないという呪いまで受けてしまいました。
これを憐れんだオールクゥス神は、それでもこの部族が滅びぬよう祝福を与えました。だから今でもイノシシ頭の二本脚はど
の二本脚とも四本脚とも子を成せるのです。
オールクゥス神の加護を受けたイノシシ頭の部族は、それからはオールクゥス直系の子という意味でオーク族とよばれるよう
になりました。

邪神は滅びましたが、その手下はまだ世界のあちこちで生き延びています。「鉄の王」もその一人でした。邪神の手下は敗走
したときに連れ去った女たちを犯して子供を産ませ悪魔の巣を作り、いまもオーク達の隙を狙っています。

だから子供らよ、強くなるのです。そして邪神の手下にさらわれた妻を、母を、兄弟姉妹を救い出すのです。
たとえ悪魔の血を引く子であっても、邪神に魂を売り払っていなければ救えるのです。
今日この日にも一人の兄弟が、オールクゥスの子の正式な妻として生まれ変わります」


伝説と説法が混ざった長い昔話が終わりました。話し終えた巫女頭は、その横で「愛さえあれば人間雄でも回心できる」実例
としていちゃいちゃしている所を見せびらかしていたカップルに無言で促します。

さっきから舌絡ませながら、ち○こしごかれたり尻穴に刺さった淫具を抜き差しされたりして喘がされ続けていた褐色の美少
年(もちろん人間族)でしたが、旦那様オークの首にしがみついて逝ってしまいました。
青いシシトウぐらいの包茎ち○こから、地球ならランドセル背負っている歳ごろにしては勢い良く子種が飛んでます。


白い長靴下に長手袋、白いガーター、白金無地の首輪、花嫁用の白絹ヴェールだけを身に付けた褐色美少年は弾んだ息で

「僕のさいごのしゃせいをみていただき、ありがとうございました」

と、満場の人々に笑顔を向けます。そして隣の巫女が差しだす霊薬(エリクサー)の瓶に、旦那様に抱えられたまま口をつけ飲
み干しました。

待つこと数秒。美少年の身体がみるみるうちに丸みを帯びていきまして、女の子になってしまいました。
高速度撮影というかCG映像的な変化ですね。
真っ平らだった胸がささやかに膨らんでますし、臍の位置とかが変わってるし、股の所もスジになっているのに太腿にかかっ
た滴はそのまま精液なのがとってもファンタジー。魔法薬って偉大すぎる。


「こ、こんどは僕のはじめてのタネ付け、みてください」

真っ赤になりながら褐色の美少女はスジま○こを割り拡げて、本人ですら触ったことのない肉穴入り口に旦那様を誘います。
程なく逞しいドリルち○こは品質保証シールを突き破り、ゆっくり容赦なくねじ込まれて奥まで達しました。

元男の花嫁も、一年以上かけて捕虜の海賊見習いを自分好みに調教した花婿も幸せそうですねー。
まあ大神殿の大広間に大入り状態で公開破瓜とか、露出癖持ちにとっては堪らない結婚式でしょうけど。


今日は朝から結婚式というか披露宴というか、そういうものに出席しています。夫婦で。
後の方に義息子たちも嫁同伴でいますけどね。
最初は顔見知り夫婦との付き合いで来たのですが、花嫁の事情を聞いてこれは最前列いかなきゃと思いまして。


数分後に、痛がりながらも逝かされまくっていた褐色少女の中にクリームチーズじみた粘塊が詰め込まれました。
濃いなー。どんだけ溜め込んでいたんだあのオーク。



こうしてお披露目は終わりました。
漏れ出た子種汁の匂いを嗅いでそわそわもじもじし始めた女たちが、夫のオークやミノタウロスたちに抱えられたり自分から
手を引いて小部屋や中庭の方に向かいます。
コーネリアを連れてゴエモンたちが‥‥柱の陰に隠れてするなよあんたら。気持ちは解るけど。あーあソーニャさんまで。

私とグェスは無限袋から出した滝壺酒の瓶を開け、金貨を潰して作ったたくさんの杯へ注ぎまして、大広間にまだ残っている
面々に配ります。
一緒につまみも配ってまして、化けクジラ肉の脂漬けや巨大タコの干物はもちろんですがチョウザメ肉の燻製が予想より好評
でみるみるうちになくなっていきます。

向こうでパイの類らしき果物の砂糖煮入り焼き菓子を配っているのは、同じく出席者のサイ頭異種族戦士とその新妻です。
この二人は甘味のある薬草茶も一緒に配ってまして、こちらの甘味は糖分ではなく薬草そのものにある味ですねこれは。
地球の甘茶とはまた違う甘味です。
結ばれてから僅か数日の新婚さんですが、相性は悪くないようで初々しい新妻ぶりを見せています。旦那はこれで二人目の妻
だそうですが‥‥第一夫人も元男の子とは業が深いなこのサイ野郎。


酒と軽食を配っている理由はポトラッチの一種でして、財産の誇示です。示威行為というか見栄張りと宣伝ですね。
美味しい酒とつまみがあるのが温泉洞窟の自慢の一つですから。金の杯もそのまま使って良し潰しても良し。
知り合いの結婚式で色々配れば温泉洞窟集落の知名度が上がり、下っ端の移住希望者も増えるでしょう多分。

私、褐色元美少年、赤毛の拳闘士と転性(TS)者新妻の集いみたいになっていますが、列席の全員がそうではありません。
オーガ村の新族長は小玉スイカのように片手で抱えたウサミミ妻に、頬を抓られたり軽く口付けたりといちゃいちゃしてます。


ええい一々絵になるじゃないかイケメンめ。
美少女ぶり&男前ぶりでは私とグェスも負けてない筈なのですが、何故か見た目で勝てる気がしません。





[38600] 49
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/01/20 14:16



 ☆92日めの2、よく考えたら初デートにはもう一つ向いてない場所ですね☆



巫女が語っていた神話ですが、ひとかけらの事実が含まれているようです。オークとエルフと人間族がほぼ同族と言えるぐら
い近縁なのは確かですし。
かなりの部分は胡散臭いですけど、歴史なんてそんなものです。近世までのチャイナ史が、直接的かつ写実的で事実との乖離
が少ないと言われているぐらいですし。ヨーロッパ史に比べれば、の話ですが。

テディベアの起源とかみれば、美談なんていくらでも捏造できることが分かります。欧州人に恥なんて概念ありませんし。
いや日本の歴史も大概ですけど。


邪神の侵攻なのか、下級神たちの内輪もめなのか、はたまた別の理由なのかは分かりませんが有史以前に大破壊が起きたこと
は間違いありません。少なくとも三回起きています。
最後の大破壊後は、各地で生き延びたものたちが住居を作り、集落を作り、小国家から大国家へ成長し、中小の文明が統一さ
れてできあがった大文明が栄耀栄華を誇った末に破綻する。そんなことが何度も繰り返されました。

最後の魔法帝国と呼ばれるボルモフィラ朝が潰れてから三千年だか四千年だか経ったんでしたっけ?
どうもボルモフィラ朝首脳部というか支配層は人間族だったっぽいですが、過去に存在した魔法帝国(大文明)のうち少なくと
も一つはエルフ族が中心だったことが伺えます。
で、件の神話はエルフ文明が滅亡する時期の争乱をオーク側から見たものなんじゃないかと。


歴史の真実は不明ですが、現在はこれまでの歴史が繰り返されるのなら文明の統一過程にある時代のようです。
大崩壊 → 復興開始 → 文明乱立 → 文明争覇 → 統一繁栄 → 大崩壊 の循環図のうち4番目に当たります。
女神様の話によれば生類(モータル)の数は古代より現代の方が増えているし、下界から昇神する者も少しずつ増えているので
調停の神々視点では順調に世界は再生しているのだとか。


神様視点の話はさて置いて‥‥。

現在闘技場に使っている場所は、流れ弾対策が一切していないことからも分かる通り元々は闘技場じゃありません。
露天の劇場だった場所を改造して使っているのです。

では本来の闘技場は? といえば、ミッシェル山の南東側にため池がありまして、この池が元闘技場なのです。
池と言うかプールか。貯めた水を飲料水はもちろん洗濯とかにも使ってませんから。
ローマの円形闘技場でも、普段剣闘士たちがちゃんちゃんばらばらやっている場所に水を引き入れて船を浮かべたら水上戦の
雰囲気が楽しめたそうです。技術水準そのものは古代ローマより上の「鉄の王」軍がもっと上を行けるのは当然です。


結婚式に出て、それぞれの巣に帰る顔見知りたちと別れの挨拶を済ませた後、温泉洞窟一行で池に来てみました。
かつてはここで殺し合いが見せ物になっていたのですが、オーク達が奪い返すと水遊びの場所に改造されたのです。
オークや大母様たちは、戦士の誇りを解さぬ外道どもの遊び場だったここで決闘をする気になれなかったのでしょう。


あ、ウサミミさんには別れ際に特製水兵服を渡しました。もちろんお祝いの品として。
ミスリルと赤い魔法合金から作った金属繊維を贅沢に使い、おめでたい紅白柄にした力作です。真っ赤なスカート&スカーフ
そしてアダマンタイト繊維から作った長靴下にガーターにブラジャーとショーツも付けました。

袖丈がやや余り気味な可愛らしい長袖赤セーラー服の下に大人っぽい黒下着と、旦那オーガも惚れ直すこと間違いなしな組み
合わせですが今にして思えばウサミミさんにはブレザー系の方が似合ったかもしれません。
次回の制作にこの反省を生かすとしましょう。



話を戻すと、プールに改造されたこの場所は見ての通り娯楽施設でして、一番下の元競技場池での水泳だけでなくあちこちに
作られた小さめの池や水槽などで様々な事が楽しめます。

たとえばすり鉢状の観客席上段をぐるりと囲む、丸い通路型の池。
これは流れの速い流水プールとなっていまして、上から流されて楽しんだり、流れに逆らって上流まで登りきったりしていま
すが事故防止のため、時間ごとに一方通行になるようです。

観客席通路上段から下の大型池まで、雨樋のような構造で水の流れる滑り台もありまして、そのうち二つでは子供や妊娠して
いない女たちが悲鳴や歓声をあげながら滑り降りています。
三つある滑り台のうちの一つでは主に少年層が、下から駆け上って遊んでいますね。つるつるな大理石斜面に足裏以外を触れ
ず一気に駆け上がることができれば、闘気法修行での初心者卒業だとか。

あちこちにある噴水は普通に水を噴き上げているものもあれば、勢いや方向が極端に変わるものもあります。中には地球の洗
車場みたいに四方八方から勢い良く吹き付けてくる間欠泉型のもありますね。

身体を温める温水プールや、むしろ浴場的な設備もありまして五右衛門風呂風の釜もあれば氷が浮かんだ氷風呂もあり。
岩盤浴や砂風呂もありますが、あれの熱源は何でしょうか?

「ゴエモンしゃまが?」
「グヒッ?」

ゴエモンという有名な冒険者が名前の由来だと説明したら入りたがったので、コーネリアと一緒に釜風呂に入ってます。
微妙に不吉な気もしますが油風呂じゃないから大丈夫でしょう。


私たちのような参拝者もいますが、剣闘士候補が水泳の修行していたり非番の巫女さんが日光浴していたりと現闘技場より女
性率が高いですねここは。
いや、闘技場と違ってお供じゃない下っ端が入れないから男の比率が低くなっているだけか。

水に浸かったり激しく動いたりする以上、女たちの恰好は簡素なものになります。つまり露出度が高い。
布地が少なくぴったり貼り付きしかも濡れると透けたりするわけで、プール周辺は裸か裸同然な姿の女で一杯です。


お腹を空かせた連中のために軽食や飲み物の屋台もありますし、なかなか良い娯楽施設じゃありませんか。
公衆トイレが外から丸見えというか、隠している壁と扉が小さすぎる上に保護者同伴が利用の基本なあたりが困るけど。
仕方ないか、誘拐は「される方が悪い」のがオーク島なのです。
治安と隠蔽性は直結しています。どこぞのニーハオトイレなんか仕切り壁そのものがありませんでしたし。


グェスはプールにあまり良い思い出がないようです。元々人付き合いに消極的ですからねえ彼は。特に女。
私も特に好きな訳じゃありませんけどね、人付き合いは。可愛い女の子を見るのは大好きですが。

ん? 屋台の飲食物に値段がない。値札どころか店番すらいません、いるのは補充係や掃除係ぐらいです。
無人商店で値札なしか。どこまでも強者の財布に厳しい社会ですねこの島は。
見れば周りの購入者は、屋台の間に置いてある壷へコインを入れたり代わりの食料などを置いていったりしています。

生の山羊肉一頭丸まま、とかの水浴客に受けなさそうな食材は補充係の見習い巫女が引き取っていきました。串焼きとか煮込
みとかになって帰ってくるのでしょう。




 ☆92日め3、5対9だとちょっと比率的にきつい☆



楽しいはずのプールサイドですが、主にお師匠様のお陰で雰囲気が微妙だったので早々に立ち去りました。

魔法版ピタゴラ○イッチでおちょくられた連中や、その身内がソーニャさんとその嫁入り先の温泉洞窟一行を歓迎する訳もな
く‥‥ というか本気で怯えている幼妻とかいて気まずくなりまして。
当人は至って気楽な様子で、今も美味しそうにピーマンに炊き込みご飯詰めて蒸し焼きにした料理を食べてますが。

「食べる?」

炒めタマネギや野牛肉の煮込みを入れて炊いた旨味たっぷりなご飯に、ピーマンの甘味と苦みが加わりそこにトマト主体のソ
ースと香辛料が絶妙の‥‥うん、良い腕してますねコレ作った料理人。

そんな訳で屋台の募金壷に溢れるぐらい金貨ぶちこんで、代わりに料理を一通り持ってきました。
プールで合流した7人と一緒に浜辺へ行き、浜辺で更に1人+2人を加えて、椰子の木陰に毛氈敷いてみんなでお昼ご飯にし
ています。


「ノメ」

近くの果樹園で集めた果実を搾り、酒種を入れて宿舎の隅に置いておくと常夏の島ではそれだけで酒になります。
ハラキズはそうして作った手製のにごり酒を椰子の実殻の杯に注ぎ、イワノフに手渡しました。
イワノフは有り難く受け取り、一息で飲み干します。
続いてグェスが温泉洞窟で作った蜂蜜酒を同じ杯に注いで渡しますと、こちらも一息で飲み干しました。

良い飲みっぷりですね。私も何か作りますか。
酒を飲みつけていない若人にあまりきついものはどうかと思うのでカクテル風にします。椰子殻杯の縁をレモン果汁で濡らし
てから塩を踏ませ、椰子シロップ焼酎を搾りたてのグレープフルーツ果汁で割って軽く振り混ぜたものを注ぐと手抜きカクテ
ル「塩漬け犬モドキ」完成!


三杯目も一息で飲み干したこの新入りオークは、例の亡命者です。海賊船が西方の港で拾って連れ帰った彼。
イワノフという名前はついさっき私が命名しました。
それまでは「我が君」とか「お父様」とかしか呼ばれてませんでしたが、ウチに来るなら名前がいるだろうということで。

なんとなく顔つきに露西亜の空気を感じたのでイワノフ。漢字で書くと巖乃夫。
意味は「巌のように揺るぎなく頼もしい、既婚者であるべき雄」としておきますか。
日本語的におかしい? 前世からヒルデニア語喋っている者が正しいと言ってるんだからこれで良いのです。


私、グェス、ソーニャさん、ケサガケ、コーネリア、ゴエモン、知らない下っ端A、同じくB、イワノフ、貴婦人、長女、
次女、三女、巫女頭、祐衛門船長、藤子さん、ハラキズと17人が毛氈に車座で座って飲み食いしています。
私の右隣がハラキズでその右隣が藤子さん。

いえね、明日の朝には帰る予定なのですよ私たちは。移住希望者が一人だけでも。
明日の朝には、単身赴任する亡命オークは家族を大神殿に預けて旅立たねばならない。
亡命者たちに今夜を家族水入らずで過ごして貰うには、親睦会を昼間にやった方が良いのです。
なので浜辺に防風結界を張って宴会しています。
巫女頭と藤子さんは抑止力とお目付役ですね。万が一とち狂ったのが襲撃してきてもこの二人なら亡命者一家を守り通せるで
しょう。


そんな訳で、毛氈の上に並べられた料理のうち幾つかはイワノフの妻たちが作ったものです。淑女の嗜みで簡単な料理やお菓
子なら作れるのですよ彼女達は、上手い下手はありますけどね。

オルロフ王国は西方列強のうち一番の美食文化を誇っていまして、料理の進歩にも貢献が大きいのです。飯と酒のことに関し
てはオルロフ人とヒルデニア人は話が合うのだとか。
あと女の話もですね。他の西方列強よりは好みが合うようです。イワノフの妻たちは祐衛門船長から見て充分美人な訳で。

料理の三割ほどは屋台から、そして二割近くは大神殿からの差し入れですが二割半ほどはソーニャさんの手作りです。
残りの二割少々が私と温泉洞窟料理班。それ以外のいくつかは現在焚き火などで調理中。

この一月というものソーニャさんは暇を見てはというか無理矢理見いだしては宴会用料理を作り、試食して、出来の良いもの
を食料収納用のアイテムに溜め込むという行為を繰り返していたのです。
お師匠様の動向は元ウサミミさん徒党(パーティメンバー)経由で夫たちから私へ伝わってまして、温泉洞窟でも同じように宴
会料理の試作と貯蔵をやってました。

引退戦のあとはなし崩しで夜のレスリング耐久組み手になってしまいましたし、翌日の食事は三食共に滋養や消化吸収の良さ
を優先した献立ばかりでしたので、今日の昼ご飯が引退戦の打ち上げも兼ねています。

宴席に並べられた料理は多種多様です。
大怪鳥の骨付き腿肉を、両端の部分だけ切り取って作った マ ン ガ 肉 の炙り焼き。
無毒フグの肝と卵巣の酒蒸し。および天ぷら。ヒレ酒。フグ鍋。
2メートル半級チョウザメもどきの活け作り(藤子さん作)。
上記のような珍しい食材を使ったものだけでなく、取れたてタケノコの丸かじりサラダ、松露の金箔蒸し、半日かけて慎重に
掘り出した傷一つない大物の山芋、この一ヶ月で一番出来の良かった豆腐など、タレミミやデコバチたち料理班心づくしのオ
ーク料理(?)もありますよ。


しかし、貪り食わない無限袋が4つもあると運送力が違いますねー。
いま現在、私は貪り食う無限袋を2つと普通の無限袋を2つ持っています。そして大神殿に参拝するときは喜捨品の輸送に使
うという条件で、普通の無限袋を2つ大神殿から借りてます。

ちなみに自前の無限袋のうち一つは、81日めあたりに採掘した水晶塊を奉納しに行ったグェスへソーニャさんがくれたもの
です。ええ、妻が宴会料理を色々作っていると夫が話したら、その師匠が ぽん と渡したのですよ。
さすがソーニャさん太っ腹っ! うちに来て義息子とフ○ックして良いですよ♪

それでも、海賊船蛇王丸が出発当日に来るという予定外の好都合がなければ銅貨や椰子油のタルは来来週あたりまで持ち込み
を遅らせていたでしょうけどね。
今回は船で運べましたけど重いものは運びにくいのですよ。徒歩だと黒砂糖や酒といった軽めの喜捨品を優先せざるを得ない。


船長がいる理由は、彼らも明日の朝出発するので最後の商談に来たからです。ちょうど良いところでしたので掴まえて無理矢
理宴会に出席させました。
それでも男が足りない気がしたので、近くにいた下っ端オークたちも座らせています。
下っ端たちは何故自分たちが宴会に招かれたのか解らず困惑していますが、人数あわせ以外の意味などありません。
前世で聞いたことのある「合コンの当て馬」とはこんな感じでしょうか? 行ったことないから分かりませんが。


商談そのものは即決で纏まりました。祐衛門船長の言い値で軽傷治療薬を30本買い取ります。
西方への行き帰りで特に激しい戦いがなかったので、現在の蛇王丸は治療薬の備蓄に余裕があります。もちろんヒルデニアで
も治療の霊薬は確実に売れる商品ですが、より相場が高く次回以降の商売に繋がりそうな所に売るのは当然の選択。

少々高くても買いますよー。命に比べれば安い安い。




 ☆92日め4、GBといえばゲームブック☆


宴の余興に物語を頼まれましたが、弱ったな。
義息子たちは「聖杯探求行」の続きを望んでいますが却下します。確かにあれは勇者一行が黒狼将軍を倒し魔王「死の太陽」
の城に乗り込むところで止まってますから続きが気になるでしょうけど、初対面の聴衆に続きから聴かせてどうする。


冒険ものが聴きたいという声が多いので、続き物でも各話が独立している話にしましょう。

「‥‥斯くして勇者は第三の冒険に旅立ちました。竜の革をなめした胴着を纏い、乾麺包と乾酪を詰めた袋を背負い、クモ嫌
いの喋る魔剣を腰に下げ、手の平と指に火の玉と稲妻の魔法を封じ込め、何処かにある魔界へ続く門を探す旅は始まります」

闇の公子を名乗る謎の黒騎士が開いてしまった門を閉じなければ、遠からぬうちに地上は地獄と化す。そう師匠の大魔法使い
に告げられた勇者は旅立ち、荒野を流離いながら探索を続けます。
魔界から吹き付ける災いの風は地上の生き物には分かりませんが、災いの風が引き起こす凶事を目印に探し続けた勇者は遂に
未踏破の大迷宮へ辿り着きました。

と、こういうとシリアスですが中身はドタバタ喜劇でして。部屋に入ってきた者に数学の難問を出して解答を迫る狂人学者や
ら訳のわからぬ詩(ポエム)を朗読していて迂闊な返答をするとへそを曲げて消えてしまう魔神(デーモン)やらの変な怪物と交
渉したり戦ったり、大掛かりで悪辣だけど殺意はそれほどでもない罠をかいくぐったりしながら冒険は続きます。

そして最下層の玉座の間で黒騎士と対決するわけですが、これが温存していた「火球(ファイアボール)」の呪文一発で瀕死に
なった自称「闇の公子(プリンス・オブ・ダークネス)」を、主人公が堆肥の山から拾った魔法の指輪で呼び出した「指輪の精
(ジン)」がタコ殴りにして圧勝するという酷い展開でして。

だってしょうがないじゃないですか! 私が初プレイしたときはそうなったんですから! 文句は原作者に言って下さい。


幸いにも、ついこの前に大魔法使いが本気で撃った「火球(ファイアボール)」の恐ろしさを見てしまった聴衆たちはこのオチ
を「まあそうなるよな」と納得しています。
オーク島の上位戦士たちが為す術もなく吹っ飛ばされてましたからねー。それも手加減した状態で。
異名持ち級の魔法使いが本気で放つ攻撃魔法が直撃すれば、幼竜やちゃちな自称魔王なんぞ瞬殺です。


まあとにかく悪は倒れ、魔界に続く門は閉じられました。勇者は黒騎士が使っていた脱出用裏口を通って地上へ帰還します。
めでたしめでたし。


ふむ。ウケはまずまずか。港まで修羅場を切り抜けてきたイワノフたちには下手にリアルな物語よりも明るく馬鹿馬鹿しい話
の方が良いと思ったのですが、大外れではなかったようですね。


物語の後は姉妹が楽器を演奏したり、ソーニャさんが棒に付けた長いリボンを地面に触れさせずに踊る新体操みたいなのを披
露したりと結構盛り上がりました。

イワノフの妻たちですが、母がエレナ、姉がセアラ、妹がアリアという名です。妻ではない末っ子はカティ。
歳は31歳と15歳と13歳と8歳。次女だけが黒髪であとは金髪、末っ子だけがトルコ石のような水色ですがあとの三人は
エメラルドっぽい緑色の目をしています。

家名はメルリーク子爵、ではなく離縁したからスティルウェアの伯爵ツァスタヴァ家か。フルネームはもっと長い訳ですが。
コーネリアだって確か本名はコーネリア・プリム・リンド・なんとか・かんとか・ド・ソルボイリィでしたし。

「嫁の方が爵位高くて領地も広けりゃ旦那も歪みますよねー」
「息子がいれば両方とも相続させられるが、娘だけだと婿に乗っ取られるしなあ」

妻の方からおねだりさせるという点は個人の趣味だとして、子作りに励んでいた理由は相続問題もあったのでしょう。
クーデターに失敗した以上、本人や元妻が生きていようが死んでいようが全ては失われた訳ですが。

失ったといえば文字通りの裸一貫なのですよね、亡命者たちは。着の身着のままです。
大丈夫なのでしょうか、元から文無しのイワノフはともかく女たちは新しい暮らしに馴染めるかなあ。
明治の頃、華族のお姫様を嫁に貰った資産家が増えた生活費だけで家計が凄いことになったという話を聞いたことが‥‥。

「馴染まんかったらこの島では生きていけんわい」

どんな貴婦人でも令嬢でも蛮族暮らしに適応させてしまうのが大神殿の花嫁修業でして、イワノフの妻たちと義娘には巫女頭
が教育係としてついて念入りに仕込むそうです。


仕込むといえば、今日は鍛錬してませんね。腹ごなしに何かしましょうか、広い砂浜があることだし。




 ☆92日め5、転生したからにはチートの一つや二つは☆



遊び混じりの楽しい鍛錬は、杭上綱引きとかオーク島的スイカ割りを経ていまは鬼ごっこ(オーク&メイデン)になってます。

人間文明圏の一部にあるこの遊技は、一定の空間内で娘(メイデン)役の子供が鬼(オーク)役の子供から逃げ回る遊びです。
オーク役に捕まるか触られるかすればオークの勝ちで、触られた娘役はその場でオーク役の一員となります。

逃げ回る娘役は遊技場のどこかに置かれているスリコギ程度の棒きれを拾って、自分の咽に当てれば勝ちです。この状態であ
る限りオーク役は手出しできません。
そして棒を咽に当てている娘役は場の外まで出ることができ、出たら棒きれを場の中ならどこでも好きな所に投げ込めます。

娘役が全員勝つかオークになってしまい、場からいなくなれば遊技終了。最初にいた娘役のうちオークになった人数と勝った
人数を比べ数の多い方が勝ちです。娘5オーク2で始めたなら、3人を掴まえるとオーク役側が勝ったことになります。


これって、「オークに捕まってオークを産まされるぐらいなら自害しろ」って事ですよね。殺伐とした遊びだこと。
ただこのルールは人間文明圏の一部に伝わるものでして、オーク島では違う方向に解釈されています。

今コーネリアとハラキズがやっているのは、「短剣を持って逃げる女を、怪我せずさせずに脱がす」競技です。
日本式果物ナイフのように先端が丸く、刃の部分も潰してあるナマクラとはいえ鋼でできた本物の短剣なので当たれば女の肌
ぐらい切れてしまいます。

なので逃げるコーネリアの前方へ回り込んだハラキズですが、迂闊に手出しできずフェイントの応酬になってますね。
何度かの掛け合いから隙をついたコーネリアがハラキズの脇をくぐり抜けて逃げ出そうとしますが、すれ違いざまに水着へ指
を引っかけられてしまいました。

「きゃっ」

布地を数本の細い絹糸で縫いつけただけのパレオ風腰布ですので、指がひっかかればすぐに外れてしまいます。
その僅かな衝撃でも女の脚が鈍るには充分でして、下半身丸裸になったコーネリアは数歩もいかないうちにハラキズに捕まっ
てしまいました。短剣も簡単にもぎ取られます。

後から抱きすくめられ、持ち上げられた女将校ですがその臍下には漢字とオーク文字の並列で「隷属」と書かれてまして、
臍の上側には漢字と共通語(コモン)の並列で「次世代愛奴育成中(ハートマーク)」なんて書いてあります。
これに胸元の「豚嫁」と両肩の「愛奴」「雌奴」が加わるわけでして、視覚効果が高い。

えっとまあ、昨夜の報告会でボディペイントというかボディカリグラフというか、身体にえっちな言葉を落書きすることにつ
いて話してましたら、夫や恋人が呪術的な意味で書くこともある行為だとグェスに受け取られまして。
なので朝方グェスの好きなように、私の肌へ書いて貰ったら鳩尾やや上あたりに法のルーンを、そして股間に混沌のルーンを
書かれてしまいました。

混沌のルーンが、私にとって卑猥な意味を持っていることをグェスは知っています。言うまでもなく。
その印をこの場所に、卑猥な落書き絵でいえば上下に通る線を幼女ま○このスジで賄っている形で記されてしまいました。
久しぶりのセクハラに、腹が立つのではなく胸がときめいて股が潤ってくるのだからオーク妻は救いがたい。


同じ部屋で族長夫婦が朝からいちゃいちゃからずっこんばっこんやっていれば、残る女たちも追加のエロワードを書いて貰い
たがる訳でして。私たち三人とも、嬉し恥ずかしい語句や模様を色々と書き込まれてしまいました。


部外者というか、一人で杯を干している藤子さんの目つきが怖いので はらり や ぽろり は有ってもお触り展開にはなり
ません。精々勝者に敗者をお姫様だっこで場の外まで運ぶ権利が与えられる程度です。
まあ、オーク島の遊技文化的にあまり露骨なことは、ちょっとね。
景品が豪華なのは良いのですよ。
ただし注ぎ込んだ労力や冒した危険と釣り合わない報酬は、遊技の意味を損ないます。

それにしても、独り身が嫌なら早く男作れば良いのに。この場の女で独り者は亡命幼女のカティと藤子さんだけだし。


巫女頭はお腹に子供がいます。父親は3ヶ月前に闘技場で死んだけど、その子供は順調に育ってお腹が膨らみはじめてます。
再来月の今頃には元気な男の子が産まれているでしょう。触手くんの保証付きです。


子供といえば、ハラキズたちと致した巫女たちは孕まなかったようですね。こちらも触手くん情報ですけど。
孕む予定のない巫女には「避妊」の呪文が施されているので、そう簡単にはできないのです。
だからこそ大神殿で雑役している下っ端や守護者として奉仕&修行している若手戦士を誘惑して、柱の陰とかで咥えこんでい
るいけない巫女さんとかが稀によくいる訳でして。


さて、コーネリアが負けたからには私の出番か。
ソーニャさんは名前も知らない下っ端AとBにおっぱい揉み倒されてます。目隠しと耳栓して両手を後ろ手に縛りあげ足枷つ
けた上で呪文は使わないという超絶舐めプレイでAB二人を翻弄していたお師匠様でしたが、遊んでる最中に水着のブラジャ
ーが外れ落ちるという偶発事故がありまして。

そういえば、渡した水着の紐が和(ヒルデニア)紙を圧縮して捩ったものだということをソーニャさんに言うの忘れてました。 
水がかかると溶けるor脆くなる服って、エロコメ展開のお約束ですけどさっきまで仕込んだ本人が忘れてましたし。
だから「後でおぼえてなさい」とか言われても困るのですよ。
ABに「もしも脱がせることができたら、逝くまで触らせてあげる」とか約束したのお師匠様じゃありませんか。

私だってグェスに胸だけで逝くまで弄って欲しいのに、ソーニャさんがあまりに色っぽい声で喘ぐから独身者の眉がつり上が
るわ野次馬が集まってくるわで、とてもできるような雰囲気じゃありません。これ以上の刺激は不味い。
しょーがないなー 真面目にするか。やってみたい実験もあるし。


鬼ごっこ以外の少年遊技、たとえば「ダルマさんが転んだ」に近いものも存在はしますが、私とグェスでは遊べません。
私が振り向く速度は、グェスからみればカタツムリの全力疾走でしかないのです。遅すぎてゲームにならない。準備動作では
なく行動そのものの起こりを見てから反応しても余裕で間に合います。

なので今度は少年遊技の基本、キャッチボールでいきましょう。私が使うのは60ミリ歩兵砲ですけど。
これは鋳造機で造った先込め式小型カノン砲を木ソリに載せた代物でして、原型は茶釜砲艦の搭載兵器ですが前世知識で色々
と弄ってあります。具体的には「砲身延長」と「内部旋状溝」と「椎の実弾」と「褐色火薬」。
もはやボール(球)じゃない? 言われてみればその通りですね。

「クル、ヨシ」

小型大砲を亭主にぶっ放す女房という、人間社会の常識だと鬼嫁そのものな幼女にギュー・グェスは胸を張り、いつでも撃ち
かけてこいと待ち構えます。
旦那様は喜んでいる。これが彼にとって、オーク島の戦士にとって愛情表現ですから。

こんな小型大砲なんぞで怪我なんかしないのですよグェスは。
夫の強さ誠実さを信じ頼ることこそオーク妻の基本でして、無用の心配をすることは夫への侮辱なのです。

戦に行く訳でもないのに夫がもう帰ってこないんじゃないかと命の心配をしたり、留守中に夫公認の愛人を咥え込んでいたか
ら淫乱だと嫌われるんじゃないかと心配する妻は、夫を全然信頼していない訳です。
いえ、弱っちくて尻の穴が小さいやつだと侮辱しているのです。
その怯えっぷりが「新妻らしくて良し!」という業の深い層もいますけどね。私の夫たちとか。




 ☆93日め、寄り道☆


何種類か造った歩兵砲とその砲弾ですが、実験の結果興味深いデータが取れました。

結論から言います。ライフルは有効だけどあまり頼れません。
銃砲の砲身内部に螺旋状の溝を彫ると、銃弾が回転することで弾道が安定します。回っている独楽が倒れない理論ですね。

だから砲身に溝を彫ると射程が伸びるし当てやすくもなります。問題は当てても効かない敵が多いことです。
この世界では、ある程度以上強いモンスターは闘気を操ります。
で、この闘気による防壁は速い物体より遅い物体の方が、尖った物体より平たい物体の方がより苦手なのです。
だからライフル銃による長距離からの狙撃はあまり意味がない。

極端に言えば、時速900㎞で飛んでくる1㎏の砲弾よりも時速300㎞で飛んでくる3㎏の砲弾の方がグェスにとっては厄
介なのですよ威力的に。
大口径ライフル銃による狙撃よりも投石機(カタパルト)で河原の石を投げ込まれる方が、一人前のオーク戦士やそれに匹敵す
るモンスターにとっては痛い訳です。

「オルロフの砲が最適解じゃないかしら。射程・威力・精度・費用・整備性の全てで高水準を保ってるわ」

強いモンスターをどつき倒すには、目に見えるぐらいの速度で大重量の丸玉をぶつけるのが一番効率が良い。しかし闘気を使
えない雑魚や普通の商船相手には高速弾の方が長射程でも当てやすく便利です。
冶金と工作における技術水準の高さだけでなく、このあたりの使い分けと割り振りについてもオルロフの火砲は優秀でして西
方列強全体でもオルロフ製品が最も優れているのだとか。二番手はパッハリアです。

これらの大国から輸入または譲渡された大砲で武装した要塞を正面から力圧しで攻め落とすのは、被害が出過ぎるので嫌な気
分だったとソーニャさんは述懐しています。
周りがオークとオーク妻だけになったら、いよいよもって発言がオーク・ラヴァーになってきましたよこの人は。

聴いている下っ端たちも東方世界の同胞たちの行状、そのえげつなさに引いてます。変態紳士じゃないにしてもその素質はあ
りますからね彼らは。甘っちょろいと言えばそこまでですが、そういうところは嫌いじゃありません。というか好き。


えー 本日は晴天なり。

弾の種類や火薬の量を変えて撃ちまくる小型大砲の的となり、飛んでくる弾丸を全て受け止めるか上空へ弾き逸らすという本
気の鍛錬に度肝を抜かれたのか、無理矢理座らされた宴席の酒と料理が気に入ったのか、専属訓練士の胸‥‥いやおっぱいの
感触が忘れられなかったのか、とにかく下っ端AとBは移住希望者となりました。

僅かな荷物を担ぎ大神殿の門前で待っていた彼らを加え、総勢9人となった温泉洞窟一行は帰路に就いたのです。
なお、出発直前に新人たちにも命名しています。
細身で美少年っぽい雰囲気のAはアドニス。丸っこい太目でお人好しそうなBはブルボン。相変わらず直感だけで決めました。


見送りに巫女頭と例の巫女三人が来てまして、孕まなかったこの三人はハラキズたちへ嫁入りしない。しないがオーク戦士が
大神殿の巫女に求婚することは自由であるとかなんとか、そんな事を巫女頭から言われました。
お師匠様によると「こいつら嫁にやっても良いけどせめて星を4以上に上げてから口説いてね」という意味だそうです。
あと、「早ければ再来月あたりには生き残り戦出場者の一月妻になるかもしれない」とのこと。

微妙ですよね。ハラキズたちにとっては、情が湧かない訳でもないけど何が何でもという程の執着もない。
女側にも、義息子たちへそれなりの好意があるようですが夢中になっている感触はありません。流石に醒めたか。



朝早く出発しましたが、昼近くになった今でもミッシェル山が見える位置にいます。現在地は火山の北西側中腹ですね。
ここには比較的小規模な迷宮がありまして、夫とお師匠様が交代で潜っているのですよ。
本当なら互いの戦術や気質を知るために組んで潜るべきなのですが、留守番が私と下っ端だけでは強いモンスターが出たら全
滅してしまいます。なので一人ずつ交代で迷宮を攻めてます。

留守番の私は下っ端たちと一緒に周囲を警戒しつつ、グェスやソーニャさんと話したりお宝のより分けをしたりしています。


「グヒー」

あ、グェスが帰ってきました。肩に大きな宝箱を担ぎ、左手に土佐犬ぐらいある真っ赤なウサギをぶらさげてます。

「おかえりなさい、あなた」
「人食いウサギか。懐かしいわねー」


せっかくだからと持ち帰った宝箱を教材に、開封作業の授業が始まりました。
迷宮入り口から少し離れたところに宝箱を置いて、ソーニャさんは一つ一つ作業の意味を解説しつつ教授しています。

1 宝箱を縦置きにして立て、遠くから漬け物石大の石を投げてぶつけ、倒します。
2 倒したら長い丸太や即席ゴーレム、捕虜などを使って宝箱を何回か転がします。
3 何ごともなければ即席ゴーレムなどにノミと金槌を使わせて、宝箱の底を破らせます。
4 破ったら宝箱の中身をタライなどに移させます。折り畳み式スコップがあると便利です。
5 タライから離れた位置から「魔力感知(ディティクト・マジック)」の呪文などを使い魔法的に調べます。
6 接近してタライの中身に毒や機械的な罠などがないか、鏡や盾や薬を使って調べます。

3から最後の接近調査にかけては、万が一強力なアイテムが有った場合危険なので捕虜にはさせない方が良いですね。
説明機能つきの「聖なる手榴弾」とかが入っていた日には全滅しかねません。少なくとも私は死にます。


幸い今回の宝箱は爆発も毒ガス噴出もありませんでした。罠は鍵まわりだけに仕掛けられていたようです。
中身は金貨が200枚ほど、カット済みの宝石が8個、魔法の品ではない銀食器が一組、割れた硝子細工の置物(白鳥)が一つ、
なんだか良く解らない書物が一冊。
まあ、こんなものでしょう。低難度の迷宮ですし。

赤いウサギの方はグェスが解体して生肉と生皮になりました。
昼ご飯はウサギ鍋にしますか。それと宴会の残りもので。

人食いウサギは、ソーニャさんの玄孫弟子たちが部族運営している地域では珍しくないモンスターです。気が荒く、動くもの
には何にでも食いつく狂暴な連中ですが、何故か人間族の男を優先して襲いかかる習性があります。

東方世界では後先考えない勇猛さの象徴でして、人食いウサギを旗印にした女だけの騎士団が数年前まで存在していたとか。
ええ、今は活動停止しています。
ソーニャさんがぶっ潰したんですよ、女騎士や飼われていた人食いウサギを撫で切りにして。


お昼過ぎにもう一度、ソーニャさんが潜って今回の迷宮攻め(ダンジョン・アタック)は終わりにしました。
ゴミアイテムやコインを粗方拾っておいたので、この迷宮もしばらくの間は稼働しそうです。

それからモンスターを避けたり撃退したりしつつ数時間歩いて、火山の裾の南側にあるコボルド集落に着きました。
温泉洞窟への道程はあと4割ほど残ってますが、今夜はこの集落に泊めてもらうのですよ。
ここはすり鉢集落と違い、鉱山ではありません。住人たちの殆どを占めるコボルド族は主に加工と漁業で暮らしています。


棘ドラゴン騒動や先日の亡者軍団討伐で上がったグェスの評判故か、昼間漁った迷宮で集めた銅貨の山を進呈した気前の良さ
が受けたのか、コボルド達は温泉洞窟一行を歓迎してくれました。

養殖池で育てたマスやウナギを使ったコボルド料理も悪くないですが、人間には薄味すぎるかなあ。香辛料が控えめだし。
オーク達には素材の味が出る料理の方が好評ですね。例外はもちろんありますが。
しかしまさかコボルド集落でマスのイクラ(マスキャビア?)の醤油漬けが出てくるとは思いませんでした。
ヒルデニア産の上物醤油はコボルドたちの間でも高級品扱いだそうです。

そんなわけで挨拶や贈答や商談を済ませた後、夜の養殖池を眺めつつ宴会しています。私とソーニャさんの妊婦組はお酒を控
えてますけど。
お 腹 の 子 の た め に酒を控える。これがお師匠様にとって夢の状況(シチュエーション)でして。


Q1、実際には飲んでも問題ありませんよね? 生命の粘土で改造してるし。
A1、はい。でもこういうことは気持ちの問題でしょう。


ま、良いか。そう遠くないうちに酒が胎教に響く体質の女たちも温泉洞窟で暮らす訳ですし。
今のうちから「妊婦は酒を控えるもの」という習慣を定着させておくのも悪くない。


え? 夜の養殖池なんて眺めて楽しいのかって?

この辺りは蛍のように発光する羽虫の群生地でして、夜中に「持続光(コンティニュアル・ライト)」のかけられた棒きれなど
を光源として池に立てておけば光る羽虫が寄ってきます。
数え切れないほどの光点が、明滅しながら飛び交う姿は本当に美しい。水面に落ちて魚に食われる所までも。
儚い命が滅び行くさまはどうしてこんなに美しいのでしょうか。
神々が生類(モータル)の戦争を止めない理由が、むしろ煽ってしまう気持ちがよく解ります。


「レイ、あなた神への尊崇が足りないのじゃなくって?」
「敬ってますよ? 全てを肯定してはないだけです」

それで良く信仰呪文が使えるなと言われても‥‥エスティア様はケチのしみったれではありませんからねー。
信じる者には惜しみなく手助けを下さるかたなのですよ、私の上司は。
大母様は先達で尊敬してますけど、私の上司じゃありません。こと信仰に限れば私の上にいるのは神々とその化身だけです。

このあたりの感覚は信徒でない人には分からないようですね。私も精霊が見えないし聞こえませんけど。




 ☆94日め、いいぞベイビー(中略)オーク島は修羅場だぜ☆


密かに心配していた外部からの襲撃などはなく、無事次の日を迎えました。
朝早くにコボルド集落を出て、野生動物やモンスターを避けたり仕留めたりしつつ家路を急ぎます。

「仰角そのまま、左3度寄せ」
「「グヒー!」」

大砲撃ちかけて逃げるのが野生動物、突っ込んでくるのがモンスターです。
強めのモンスターは闘気の防壁が厚いから大砲でも必殺とはいきませんが、効かないわけでもない。

「総員音響防御! てっ!」

かけ声と共に引いた紐に連動した発火装置が尾栓の中心で作動し、温泉洞窟鋳造所製のオルロフ式大砲が発射されました。
轟音と共に飛び出した鉛の丸玉がこちらへ突進中の人面獅子(マンティコア)へ直撃します。

「盾起こせ!」

間髪入れずに発せられたソーニャさんの号令に、ゴエモンとアドニスとブルボンの盾持ち担当が鋼鉄の大盾(タワーシールド)
を地面から引き立て、前に出て砲撃担当たちを庇いました。
急造チームのわりに連携が上手くいっているのは、信仰呪文「意思の疎通」でみんなの思考を繋いでいるからです。

顔面に鉛球を受けて転倒した人面獅子の幼体は、サソリ似の尻尾を振り回してその先端から闘気の針を撃ちだしてきました。
電動式空気銃のような軽い連続音とともに、五寸釘大の見えない針が連射され盾に当たって砕け散ります。
尻尾の針は直接当たればヒグマでも即死の猛毒付きですが、飛び道具の方は強めの弓矢並の威力しかありません。
もっとも私はその一撃が致命傷になりかねませんが。

「次弾装填!」

撃ったばかりの砲に触れて貪り食う無限袋に収納。してから即座に出して砲身から煤や火薬滓を取りのぞき再設置、同時に無
限袋から絹袋入りの火薬包みと次の砲弾を取りだします。
火薬と白い弾を受け取ったケサガケが砲口に突っ込んで拳で押し込みすぐさま退いて、ハラキズが繰り棒で奥まで火薬の包み
と金属球を押し込み軽く突き固めました。

手早い。訓練のときより手際が良くなってますね二人とも。これなら間に合う。
人面獅子のほうは、効果がない針の乱射を止めて起き上がりました。

「第二射 てっ!」

先程の射撃から、防御に徹すれば充分防げると見たのでしょう。親よりは小さめな魔獣は前面に闘気を集め防御の構えを取り
ます。
その顔面に命中した白金の丸玉は、前回の倍近い威力で人面獅子の脳髄を揺さぶりました。衝撃で猫科動物そっくりの肉球つ
きあんよがふらつき、挫けます。

飛んでくる敵弾が常に一定の威力だなんて、誰も決めてません。火薬の量を二割ほど増やしていますし、鉛より硬く重たい白
金弾の威力は当然鉛球以上。
直前の攻撃と同じ威力に決まっていると思いこんだ時点で、奴の勝機は無くなっていたのです。

「次砲用意」

そして、発射速度が一定だと思いこんだ時点で人面獅子の負けが確定しました。
大砲が一門だけなんて誰がいいましたか? 
無限袋から取りだしたもう一門の装填済み大砲で、尻餅ついたままのマンティコアを狙います。まだ朦朧としたままの四足魔
獣は闘気の針を飛ばすことはできません。あれにはそれなりに集中力が要る。
闘気の乱れは攻撃だけでなく、防御にも影響を与えています。奴の防壁はあとしばらくの間弱ったままでしょう。


発射寸前に、半分顔の潰れた人面獅子と目が合いました。こんにちはそしてさようなら。
三発目の零距離射撃を受けて倒れる直前まで、奴は私を見つめていました。何を考えていたのかは分かりませんし分かりたく
もありません。ろくなことじゃないことだけは確かです。


白金丸玉で頭骨を砕かれて倒れた魔獣は、大盾を置いて近寄ったゴエモンが槍を突き刺して止めを刺しました。
魔獣死すべし慈悲はない。人食いは仕留めておかないと際限なく被害が出ますからね、三毛別のヒグマは推定十数人で済みま
したがアフリカ某所の人食いライオンは500とも1000以上ともいわれる犠牲者を出しましたし。
地球の伝承と同じく、大内海世界の人面獅子(マンティコア)も人型生物を好んで捕食するのです。当然オークも。
親二体の方はグェスが仕留めています。翼持ちとの空中戦は面倒だったようですが、勝負そのものは圧勝でした。

「おっと危ない」
「グヒッ!?」

いつの間にか前に出ていたソーニャさんが、断末魔の人面獅子が跳ね上げたサソリっぽい尻尾を切り落としました。
危ない危ない、割って入ってくれなかったらゴエモンが刺されていたかもしれません。
なるほど、まずは刺叉などで毒尻尾を抑えてからあるいは斧などで切り落としてから止めを刺すべきでしたか。

「助かりました」
「油断は禁物よ」

残心怠るべからず、基本中の基本です。砲撃が予想以上に上手くいったから気が緩んでましたね。
いやその、砲撃が上手く行った最大の理由はお師匠様がすぐ後で見ていてくれたからです。盾起こしの指示を出すの忘れてい
たのも助けてくれましたし。
背中に無敵の守護者がいる状況でなければ、襲ってくる魔獣の前で次弾装填とかできませんよ私には。


巣からあまり遠くない岩山で、親二匹幼体一匹の群をなした人面獅子(マンティコア)に待ち伏せされましたが特に問題なく倒
せました。エースが二枚あればそうそう酷い目にはあわないものです。

人面獅子の死骸を改めて観察します。大きさは動物園の虎やライオン並ですが、背中のコウモリっぽい羽根とサソリのような
尻尾が威圧感を増していて実像より大きく見えます。親の方は北極熊なみで実際でかい。
士気の低い軍隊は人面獅子の咆哮一つで崩れて逃げ散ると聞きますが、本当かもしれません。
頭部は人間っぽいですが、口がでかくて歯がサメみたいに何重にもなっていてまるで妖怪漫画のクリーチャーみたいです。
年歳を重ねた人面獅子は呪文を使ってくることもあるそうなので、まさしく妖怪ですわこいつ。


人面獅子一家が隠れていた洞窟は、どうやら新しくできた迷宮入り口のようです。強い魔力を浴び続けた生き物や器物や自然
現象が魔物となるように、自然の洞窟に魔力が溜まりすぎて迷宮(ダンジョン)化したのでしょう。
軽く偵察してみたグェスによれば、入り口近くに他の魔物の気配はないとのこと。
魔物一家は最近やってきて入り口近くに住み着き、今日はたまたま狩りに出てきたのでしょうか?

迷宮攻略は次の機会にということで、解体した人面獅子の肉や毛皮などを無限袋に詰め込んで南に進みます。


その後は大したモンスターとの遭遇もなく、昼過ぎには我が家に帰り着きました。
おや? なにやら美味しそうな匂いがしますね。燻製小屋が燻煙を上げていますし、洞窟前の広場では巨大亀の甲羅製大鍋で
これまた巨大な甲殻類のハサミらしきものが煮られています。

五右衛門風呂よりでかい骨鍋にオークの身長よりもでかいハサミや足が突っ込まれてまして、くつくつ煮えてます。
料理人は夫たちです。
とっくの昔にこちらに気付いていたのでしょう、二人の幹部オークは手を振ってます。
洞窟の中や尾根や燻製小屋のあたりにいた下っ端たちやイノシシたちが夫たちの声を聞いて集まってきました。


ひのふの、うん、15人+6匹全員います。留守中に何があったのか知りませんが人死には出なかった模様。
成獣イノシシが一匹増えてますが、減ってるよりは良い。


ただいまとおかえりの挨拶のあと、新たな仲間にして家族を紹介してから宴会に突入しました。
主菜は鍋をはじめとする、今朝獲れたばかりの巨大蟹料理と人面獅子料理。
温泉洞窟三人目の人間嫁が来て、幹部も下っ端もイノシシもご満悦です。もちろん女神様も。





[38600] 50
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/05/01 12:59




 ☆97日め、決着がついただけマシだと思いましょう☆



住人が増えたこともあって、洞窟を拡張しました。南北の居住区をそれぞれ掘り進んで拡げただけでなく、大広間の倉庫区画
を二階構造にしてみたのです。

つまり今までは

岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩
岩岩岩岩岩岩岩        
岩岩岩岩岩岩         
岩岩岩岩岩          
岩               
岩 倉庫   私
岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩


こんな感じだったのを


岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩
岩    岩         
岩 倉庫              
岩岩岩岩岩             
岩              
岩 倉庫   私
岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩


こんな感じに掘り拡げたのですよ。

ソーサレス呪文には石柱を地面から生やしたり岩盤に隧道(トンネル)を開けたりする土木系呪文が数多くあります。
オーク族は洞窟や地下遺跡などに好んで住み着く生き物でして、延べにして二十年近くオークの巣でオーク達と仲良く暮らし
ていたソーニャさんがその手の呪文に精通してるのは当然のこと。
なので僅か数日で第一期工事が完了してしまいました。


倉庫を拡張しただけでなく、大広間の北西方向を掘り拡げて来客用の部屋も作りましたし巣穴全体の通風口を再整備して隅々
まで掃除しました。
細かい隙間も樹脂やコンクリートや粘土で埋め、空気穴には金網を張ってネズミ対策は万全です。
箪笥の裏とかにあったネズミの巣を残らず潰したから、もう大丈夫。あれ以来一匹も出てきません。

‥‥ネズミの卵が壁一面にへばりついている夢、今朝も見ちゃいましたけどね。
この島のネズミというかネズミ的な生態系位置にある小害獣は、齧歯類だけではなくカモノハシのように卵で増える哺乳類亜
種もいるのです。これまで知らなかったし知りとうなかったそんな事。

洞窟生活が長い熟練魔法使いがいると、作業が捗る捗る。コーネリア用の寝室も完成しましたし。
工事や衛生対策だけでなく居住性の追求や防衛設備の配置など今まで手探りで進めてきた事がどんどん解決していきます。
たとえば風呂場の通気を改善したり下っ端居住区の水回りを整えたりした結果、温泉洞窟内の湿度が下がって過ごしやすくな
りました。

基本湿度が下がれば、湿気解消の焚き火が小さくて済むわけで洞窟の煙たさも下がります。燃やす薪が減れば、その分余所へ
の交易に出せる薪が増える訳です。
岩山や珊瑚礁にある集落には火炎松の薪が輸出できます。しかも永く確実に需要がある。


で、今日はその交易相手のセルキーたちが来ています。
護衛のシャチがいつもより多めですが、最近の彼女達は人魚(マーマン)系の部族と揉めているそうです。
セルキーたちさえ良ければ協力したいですけど、相手が海の中だと私では何もできません。とりあえず銛の穂先や鍋釜などの
金属製品を注文通りに作って渡しました。材料はもちろん茶釜要塞。

シャチが引っぱってきたロープ付きのドラム缶もどきから交易品を取り出し、こちらの物産品を詰め込んで返します。
ついでに茶釜要塞の沖までシャチに乗せて連れて行ってもらい、巨大イソギンチャクに治療呪文をかけることにしました。
信仰呪文は毎日ただで充填されるのですから、使い切った方が良い。なのでここ数日は毎日一回分だけイソギンチャクを治療
しています。今日はセルキーたちがいるからボートを漕がずに済むから楽だ。

天敵の巨大蟹に食われかけたところを温泉洞窟の留守番組に助けられた巨大イソギンチャクですが、縄張りを守っての怪我で
すから隣人としては治療の一つもするのが義理というもの。
戦闘では、助太刀にいったドスとウォスをしっかり援護してくれたようですし。

ファンタジー世界の住人らしくこの巨大生物にもある程度の知能がありまして、私が近寄ると千切れている触手の先端を伸ば
して治療を求めるようになりました。
そういえば高レベルの呪文に「動物との会話」があったような。でも使えるようになるのは当分先でしょうね。


うーむ、1レベル呪文一回分の使用では触手3本分が限界ですね。期待値の倍程度癒せてはいますけど、これを実戦のなかで
使いこなせるかというとまだ不安がある。
ソーニャさんは癒しの杖を使って触手を2本ほど治療しています。美女に群がりさわってさわってとおねだりする触手という
のも‥‥ごめん、やはり無しで。リアルで見ると触手責めって食われる恐怖しか湧いて来ないや。


シャチに乗って浜辺近くまで戻ってから、泳いで帰ります。魔法金属製の水兵服はこういうときに便利。




さて、この世界には癒しの杖というアイテムがあります。
魔法効果が充填されている「治療の杖」とは違いましてこれは神官以外でも使えますし、使い減りしません。
同じ相手には一日一回しか使えないという制限はありますが、一日に何百人でも何千人でも快復させられるのてす。

その効果は最弱の信仰呪文使いが唱える「治療」の呪文一回分。たいしたことがないように見えても、文字通り命を救える威
力を持っています。
ゲームの「地下牢と竜」でならHPにして僅か4~5点分とはいえ、相手が人間で非戦闘職のど素人なら瀕死の重傷者を無傷
の健康体に変えてしまう程ですからねー。


使う側が交代しつつ怪我人に触りまくるとすれば、30秒に一人と換算しても一日で3000人近く癒せる訳です。
つまり一個中隊200人につき一本あれば、実戦でも充分使えます。領主一家に一本、騎士団に一本、これがあるかないかで
合戦や災害時の死傷者数が違ってくる訳です。
建て売り住宅に風呂とか車庫とか庭があるかないかで価格に影響するように、癒しの杖があるかないかでその集団への評価は
そりゃ違ってくるでしょう。

魔法の武器。無限袋。そして癒しの杖を持っているかどうかが、冒険者徒党(パーティ)が一端か未熟者かの基準になるぐらい
重要なアイテムなのですよ、東方世界では。
超一流冒険者であるお師匠様が癒しの杖を何本も持っているのは当然です。

「超一流ならトカゲ人に身売りなんかしないわよ」

ご本人から訂正希望が来ました。まあ目的の魔獣退治が楽勝で終わったからといって帰り道に、以前挑んだ迷宮に再挑戦して
ボッコボッコにやられて逃亡するも船は沈むわ呪われて呪文やアイテムが使えなくなるわで無人島に漂着したのは大失態です
よねー。

前回潜ったときが割と好調で収穫も多かったから油断していたのと、入られた側は10年以上前のことを執念深く憶えてて対
策を練っていたことが相乗効果になりまして、えらい目に遭わされたのですよソーニャさんは。
知恵のある亡者(アンデッド)って怖い。用心しなきゃ。
連中、何十年何百年あるいは何千何万年も飽きることなく生き物(モータル)殺す事のみ研究して実践して研究して実践してを
繰り返してますからねー。


で、せっかく蓄えたアイテムも本人が呪われていては無限袋や異次元倉庫から出すこともできず、手持ちの装備品や消耗品は
盗まれたり壊されたりでほぼ全損。
打つ手の無くなったソーニャさんたちは通りがかったトカゲ人の船に拾われるまで雨水や生魚の絞り汁を啜って生き延びてい
たのだとか。

衣食住の面倒を見させるかわりに適当な奴隷商に売って良い、という条件(契約)で拾われたのですが、トカゲ人の出した水を
持ってきた奴に飲ませたら変な症状が出まして。

で、まともな水と食い物をよこせと食料庫に突入 → お腹いっぱいになったので包囲していた鎮圧部隊を蹴散らして艦内の
研究施設に突入 → 呪い解除のアイテムを見つけて完全復活 → 戦艦が沈むまで大暴れ → 隣の戦艦に乗り込んで仲間
や捕虜を解放 → 逃げる味方を援護するという理由を付けてまた大暴れ → 戦艦がまた一隻(匹)沈む → 最後の戦艦か
ら和平の使者が来て技術主任の首が届けられる → かまわず大暴れ → 沈み(死に)かけの戦艦をトカゲ帝国の基地に突っ
込ませてから「おう、この落とし前どうつけてくれるんじゃい」と交渉‥‥。

やりたい放題ですね。TRPG的世界で最強のモンスターは熟練冒険者だってことがよく解ります。

「お師匠様、あなたは鬼です」
「嬉しいわ」

誉めてますよ。ここまでくると誉めるしかない。
そしてトカゲ海軍基地からお詫びのアイテム等を巻き上げた後、噂に聞いたオーク島へと案内させたのですよ。
一度は行ってみたくなるおちん○んランドですからねーオーク好きにとっては。エルフマニアがエルフの里に行ってみたいの
と同じ事です。

「まさかあれほどのバケモノがいるとはねー 世界は広いわ」

久しぶりに出会った強者が、方法論に多少の違いはあれど同志(オーク・ラヴァー)だったことはソーニャさんにとっても大母
様にとっても幸運な出来事でした。
互いの立場や人生に共感と利害の一致をみた二人は善後策を相談しまして、どMのお師匠様はトカゲ艦隊から売られてきた雌
奴隷としてオーク島に入り剣闘士になったのです。
世間には面子とか外聞とかありますからねー。表向きだけでもトカゲ帝国が勝ったことにしないと拙い。
鬼に騙し討ち仕掛けて失敗してボロ負けした、なんてことを認められるほどの柔軟さがトカゲ帝国にあれば今頃は大内海世界
の半分ぐらいは連中が支配しているでしょう。


飛車角抜きでやっていた将棋盤に竜王がきたようなもので、結果的にですがソーニャさんがオーク島の住人になったのですか
ら大母様大勝利です。金銀や宝石でソーニャさんが買えるなら買いますよ私だって。
強くて万能で信用できる。扇谷上杉家の支柱さんとか土佐一条家の全てさんなみに頼れる人材ですからねー。

「レイのそういうところ、好きよ」
「ソーニャさんのそういうところも好きですよ」

師弟で顔をあわせて、にっこりと微笑みます。あー 隠し事する必要のない人間関係って良いなー。
相性の良いニュー○イプ同士ってこんな感じなのかもしれません。心が安らぐ。

女(?)どうし、人間どうし、同じ巣に属するオーク妻どうし、さらに夫婦交換じみた乱交で竿姉妹となったこともあって彼女
と私の仲は一気に進展しています。互いの秘密うち明けているし。
ええ、ソーニャさんには私が全身『生命の粘土』製なことを明かしました。この秘密を打ち明けたのは彼女だけです。
あと、自分が別世界または別次元の住人から転生した存在であることも話しています。

たぶん、生命の粘土についてはグェスたち三人は気付いているでしょうけどね。あと、イケメン君はともかくごつい顔のコボ
ルド戦士は何か気付いている筈です。黙っているだけで。



私が夫たち義息子たちに感じているのと同じ安心を感じる女の子が、お師匠様にとっての私なのです。
阿吽の呼吸で話が伝わる、話さなくても理解されるって楽ですよねー。
いえ、こんな安心感に首まで浸かっちゃうからソーニャさんは社交面がスカタンになっているのでしょうけど。

「何故かしら、言葉の意味は解らないのにすっごく馬鹿にされている気がするわ」
「頼むからお師匠様は自分の残念さを自覚してください」

半ば社会生活不適格者の私より酷いですからねー、この人は。鬼に社交性求める方が間違っているのかもしれないけど。
でも他人からは同類にしか見えないのでしょうねえ、私たちは。




 ☆97日めの2、ごろごろと☆


浜辺から洞窟まで、アシナガの肩に乗って帰ってきました。お師匠様は徒歩です。
後続は順調に遅れているようですね。

広場周辺で竹筒の節を抜いて魚礁の部品を作っていたタレミミたちでしたが、そっちの作業は一時中断してお師匠様の手伝い
をすることになりました。
私はアシナガの肩に乗ったまま、広場から続く斜面を登りそこから下方向を見渡します。


実は昨日からグェスとウォスは出かけていまして。
南の方でトログロダイトの紫が出たそうで、温泉洞窟から掃討戦に幹部2名を派遣しました。
くじ引きで負けたドスが留守番してますが、鬱憤を晴らすためか朝から何度も周辺の見回りに出ています。

この見回りは新入りたちの案内だけでなく、古参下っ端たちの修行も兼ねているので結構厳しめの内容ですがあくまでもそれ
はオーク島基準でのこと。お師匠様から見ればまだ手ぬるいようです。
きつくて辛いというか、凝縮した効率の良い訓練を好みますからねソーニャさんは。元が冒険者で剣闘士ですから促成栽培で
一発成功的な方法論を採りたがる傾向があります。

私はその濃縮した集中講義のおかげで命を拾った身ですし、僅か数回の特訓でケサガケたちの動きが格段に良くなったことも
事実です。なので約束通り下っ端たちの訓練計画をソーニャさんに一任してます。
もちろんソーニャさんにも最初から飛ばしていく気はないので、修行はこれから少しずつ辛さを増していくのでしょうが。


「プギッ プギッ」
「プギィッ」

丸太転がしの斜面からは、互いを励ましながら丸岩を転がしている下っ端たちの姿がよく見えます。
ケサガケ、ブロディ、ゴエモン、ハンセン、アンドレの五人がそれぞれ一個ずつ球体の岩を転がしながら、浜辺から続く踏み
わけ道を登ってきているのです。
転がしている丸岩の大きさはわりとバラツキがありまして、最大のものと最小のものとでは4割近い重量差があるはず。
追い抜きありの修行ですが、岩の軽さで順位が決まっている所をみると下っ端上位陣の腕力に大きな差はないようです。

彼らの前には前衛役のタレミミとコブハナが、後には籠を背負ったハラキズがイワノフ、アドニス、ブルボンの新人三人を引
き連れて歩いています。
新人たちの背負った籠には浜辺やその近くで集めた食べ物やスポンジもどきなどが入っておりまして、物資の運搬をしながら
前で岩を転がしている仲間を見守り、危険があれば即座に警告や排除を行うというハラキズの役目を真似よう手伝おうとと頑
張ってます。

最後尾にいるのは留守番幹部オークのゴォ・ドスですが、こちらは下っ端たちがひいひい言いながら押しているものより遙か
に大きな丸岩を担いで歩いています。もちろん片腕だけで支えて。右手には愛用の三又銛が握られていますからね。


それぞれが選んだ己の腕力に見合った岩を、低いながらも危険のある場所を転がして歩くことで単純な腕力だけでなく集中力
や警戒能力も鍛えられるこの鍛錬法はオークたちの好みに合ったようです。
押している5人は先を争って新しい訓練に志願したのですが流石に辛そう。
腕力自慢とはいえ下っ端たちの中では、ですからねー。
しかし幹部オークは一番大きい丸岩でも物足りなさそうなので、お師匠様は新しい丸岩を切り出しています。


火山性のこの島には、至るところに大岩が転がっています。当然ながら温泉洞窟の近くにもごろごろしています。
そんな岩の一つをソーニャさんは魔法の両手持ち剣(自前)でさくさくと切り崩して丸岩を作っているのです。
幹部オーク達も拳で似たようなことをやって石材を作りますけど、速度と精度が数段上ですね。みるみるうちに岩が削られて
いきまして丸くなりました。

程なくできあがった丸岩に、ソーニャさんが「荷重(ウェイト)」の呪文をかけてより重たくして完成です。流石に人力で動か
すのは無理な重さなので「浮遊円盤(フローティング・ディスク)」の呪文を唱え、丸岩を載せて洞窟前まで運びます。
「巨人力の腰帯(ジャイアントストレングス・ガードル)」などのアイテムを使えばソーニャさんでも私でも運べるのですが、
やろうとしたらオーク達に「妊婦がやることじゃない」と総掛かりで止められるでしょう。
力仕事はオークに任せる、オークの巣ではそれが家庭円満の基本です。夫に華を持たせるのがヒルデニア的良妻ですし。

切り出したときに出た大小の岩屑は建材とかに使えるので、サダキチやイシカワたちが拾い集めています。あまりに小さな破
片や石の粉はギョロメやマルマルたちが竹箒やとりもちモドキやバケツの水で掃除します。
ミネラル豊富なので捕獲イバラの茂みや竹林に捨てると良い肥料になるのですよ、石屑も。

見張り当番のモッサリとトンガリは狙撃スコープ付きの特製クロスボウを持って広場周辺を警戒しています。どこらあたりが
特製なのか解説すると長くなるのでそれはまたの機会に。


「「グヒィー‥‥」」
「お疲れさま」

次々と岩を固定用の窪みに入れ、広場に座り込む下っ端たちに清水入りの竹筒を渡していきます。最後に上がってきた夫にも
渡して、飲み干すのを待ってから固く絞った濡れ手拭いも渡します。

見回りと新入りへの近場案内と鍛錬をいっぺんにやっている訳ですが、それができるぐらい下っ端たちの士気と練度が上がっ
ているのです。三ヶ月前に同じ事をさせたなら死傷者続出していたでしょうが、いまの義息子たちは無傷が当然なくらい気合
い入っていてしかも冷静沈着に動いています。

うーむ。部族社会の戦士団で10年以上参謀や実質的指揮官やっていたのだから当然ではありますが、指導力が違いすぎる。
私はもちろん夫たちですら、足元にも及ばない教官っぷりですよお師匠様は。


「下地ができているからよ。土が肥えているから耕しただけで畑になるの」

お師匠様にとっても、下っ端たちの適性は想定以上だったようです。


荷物を倉庫などに入れてから、みんなで魚礁の元を作りまして数が揃ったら設置に向かいます。
場所は巣の北側にある小さな湖。人員はドスと私とお師匠様+新人三人+タレミミたち作業組。修行組は交代しつつ休憩と巣
の防衛に就きます。

湖に着いたら、運んできた節を抜いた竹筒と細長い石材を無限袋から出した軟鉄の棒材で縛りあげて魚礁を作ります。
これをよさげな場所に沈めたら昨日仕掛けた罠を見回って藻蟹や大ウナギなどの獲物を回収。新入りたちと一緒に釣りや追い
込み網漁などを一通りやって狩り場を案内します。

湖のほとりを案内中に喧嘩売ってきた大型ワニ(クロコダイル)をドスが仕留めましたので、ギョロメやサダキチたち器用自慢
の下っ端たちが手早く捌きます。マルマルのようなどちらかといえば不器用なオークは見張りや盾持ち荷物持ちを担当。
魔物化したばかりらしいワニの解体が終わったら、巣に戻ります。
荷物が増えたので第二果樹園への案内は明日にしましょう。




 ☆97日め3、わたしのレベルは2でした☆


一般的にお肉は、素早くしかも残さず血抜きすると美味しくなります。血抜きしないと食えたもんじゃありません。
前世で食べた、落とし穴に填って死んでから丸二日は経っていたいたイノシシの肉はもう硬くて臭くて閉口しました。
真空ポンプなどないこのオーク島でいかに完璧な血抜きを行うか、については簡単な解決法があります。

「浄化~」

このとおり、信仰呪文一発で解決です。
300㎏ほどの新鮮ワニ肉の、内部に入っている血液を水に変えたのですよ。あとは遠心分離器に入れてぶん回して水分を取
ればOK。
ワニ肉の半分は焼き肉や竜田揚げにして今日の晩ご飯に、残り半分はしばらく塩水に漬けてから燻製にしましょう。

何回か実験してみたのですが、生肉の中の血を水に変えることはできても生き物の体内にある液は無理ですね。
たとえば半分に千切れてしまった巨大昆虫に「浄化」の呪文を使った場合、あふれ出た体液は水に変えられますが傷口に付い
ている体液はそのままなのです。死ねば体内の液を浄化できますけどね。

しかし千切れてしまったのが巨大昆虫の足などの場合は、本体(胴体)は無理ですが千切れた方の足は内部まで体液を浄化でき
るんですよね。
致命傷を負っていても、胴体や頭部が千切れている場合は浄化できない。でも足や鎌などなら千切れた方を中まで水に変えら
れる。それが今の所の実験結果です。

ふむ。再生能力持ちモンスター、たとえばトロルなどの腕を切り落としてそれに「浄化」をかけた場合どちらになるのかな?
切り離されているから死体扱いなのか、直ぐにくっついて治るから生体扱いなのか。いずれ実験してみたいものです。


「実験といえば、ちょっと試してみたいのだけど」
「何でしょうお師匠様」

ソーニャさんが持ってきたのは射撃の基礎訓練で標的にしている切り株です。その切断面には同心円模様が描かれていて、
レイちゃん鋳造所製石弓の矢が3本突き刺さっています。

精度を気にすると矢を作るのって本当に面倒です。オーク族が「石投げで良いじゃん」と割り切るのも無理はない。
50メートル程度なら弓矢で撃つより石ころを投げる方が、威力も命中精度も連射能力も上ですからね彼らにとっては。
なので、温泉洞窟では鋳造機で全金属製の矢を製造しています。矢羽根まで一繋がりの一体形成です。これなら地球の工場製
に比べても劣りません。
切り株に刺さっているのは茶釜要塞の鋼材から作ったやつですね。


「こういう状態の矢って、どうやって回収してるのかしら」
「えっと、一人で抜くときは無限袋使ってますけど」

近くにオーク達がいないときは、的に突き刺さった矢を無限袋で回収して再鋳造しています。少しでも歪んでいると命中率が
落ちますからね。
言われるままに無限袋を使って矢だけを収納してみせましたけど。これがどうかしたのでしょうか?

「じゃ、今度はこれ入れてみて」

ソーニャさんは大きめの南京錠を出してきました。鍵が刺さったままのそれを、回して開けてからまた閉めて鍵穴に鍵を入れ
たまま手渡されました。
指示通り無限袋に南京錠をいれまして「鍵だけ出して」とか「錠だけ出して」とか「2ついっぺんに、バラバラで出して」と
か言われるままに出し入れします。

「なるほど」

腕を組んでなにやら納得しているお師匠様に伺ってみたところ、私はアイテムマスターとしての能力が発現しているのだとか。
アイテムマスターというのは一種の特殊クラス(職業)でして、アイテム類を普通よりも有効に活用できるのです。
たとえばアイテムマスターが使えば只のヨモギ(薬草)絞り汁がHPを回復させられる傷薬になったり、火炎瓶の発火率や熱量
が上がったりします。

普通の、というかアイテムマスターでない人には錠に刺して入れた鍵だけを取り出すなんてことはできないそうで。
墨壷に筆を突っ込んでから無限袋に入れて筆だけを出すことや、毒壷に鏃を突っ込んでから無限袋に入れて毒矢だけ出すこと
も普通はできません。私はやってみたらできましたけど。


あー そういえば心当たりが。
前世ではろくに楽器演奏とかしていなかった私ですが、転生してからはハープの弾き語りとかしてますもんねえ。
料理の腕も凄い勢いで伸びていますけど、多分コレも職業能力の恩恵込みだったのでしょう。

ただ、ちょっと不思議というか納得できない点が。
この○○マスターと呼ばれる特殊職業は、基本職業の半分までしか成長しません。
ゲーム的に言うと、10レベルのサムライがいたらウェポンマスターになったとしてもその限界は5レベルなのです。

で、私はプリーテス1レベルでして。アイテムマスターが1レベルだとしても限界超えてしまいます。
つまり、温泉洞窟の似非オーク巫女レイちゃんの基本職業は神官(プリーテス)じゃなかったということになる訳です。


Q2、私の基本職って何なのですか?
A2、メイドさんです。レベルで言えば2ですね。


‥‥おおう。メード(家政婦)じゃなくて メ イ ド さ ん ですかい。

「グヒ?」
「どこが違うの?」

表情から神託の内容が気になっているらしい夫とお師匠様に、私の基本職がメイドさんであることとMAIDとMEIDOS
ANの違いを説明します。
メイドさんとはヒルデニアの一部に存在する特殊な従者職であり、特定の一族(クラン)や一家(ファミリー)もしくは個人と契
約を交わして仕えます。その役目は広く、炊事洗濯などの家事手伝いから金庫番として財務をこなしたり、使者・名代として
外回りにも関わったりして一家の運営を助けます。

必要とあれば主人の盾となり剣となって戦うこともありますし、主たち一家の育児や教育に関わることはもちろんですが必要
とあれば主の子を産んで家族計画を助けることもあります。
メイドさんは主を支え、癒し、ときに叱り励まします。そして主はメイドさんを信じ使いこなし慈しみ、ときに自らを危険に
晒してでも守り抜きます。そうでないならメイドさんなど続けるべきでなく、主の資格はありません。
そして双方があるいはどちらかが「主(従者)に相応しくない」と見限れば契約は破棄され、他人となるのです。


「ワカッタ。メイドサン、オーク、ヨメ」

えーと、うん、それで良いですけどね解釈として。
日本的家政婦と武家系高級侍女と良妻賢母を足して割れば、二次元世界のメイドさんに近いものができる筈ですし。




 ☆97日め4、そういわれても☆



拡張した下っ端居住区の西側に、ソーニャさんの錬金部屋があります。錬金術を実践する場所ではありますが本職の工房ほど
には設備が整っていないのであくまでも部屋です。
そして本日たったいま、この部屋の隅に私専用の錬金机ができました。机の上には見習い用の錬金術アイテムが色々と並べら
れていて、壁際には材料や製品を入れる棚と黒板が立てられています。

呪文の使えない錬金術師はいても錬金術の知識がない魔法使い(ソーサレス)はいないのが東方世界。
本職の能力が料亭の板前だとしたら、私のやっていることはレトルトパックを温めている程度ですがそれでも錬金効果はある。

まずは、一番取り扱いが簡単な「熟成」の錬金壷を使ってみますか。
これは口が広い素焼きの壷で、地面に埋めるか地下室に置いておくと大地から少しずつ魔力(マナ)を吸い取って中身に注入し
て熟成させてくれる錬金術師御用達のアイテムです。
欠点は熟成しない物品には意味がないことですかね。とりあえず自家製ラム酒と大神殿で金髪ちゃんにもらった燻製でも入れ
ておきましょう。

続いて「錬成」の壷。同じく大地の力で中身の質を上げてくれるアイテムです。ただし上がった品質に比例して量が減ってし
まうのが難点ですが。
ふむ。これには虫取り草の実を入れておきますか。蚊取り線香の改良に使えるでしょう。

最後に「抽出」の壷。これは素材の中から限定された要素を引き出して新しいアイテムに変える能力を持っています。
早い話、椰子の実を入れておくと椰子の実ジュースができるのです。

「合成」の壷? そんな高度なアイテムを触らせて貰える訳ありませんよ。素人ですから。
こっちはレベル0ですよ錬金術師としては。料理でいえば林間学校でカレー作ろうとしている小学生より初心者です。


ソーニャさんの見立てでは、私には錬金術の素質があるそうです。既にアイテムマスターなので今更ですが。
利き茶ができる人全員が茶の湯をできる訳じゃないけど、できない人よりは茶人の適性があると言えるかもしれません。

オークたちには全くそちらの才能がありません。幹部も下っ端も、呪文使いや錬金術師としては芽が出る望みもないのです。
しょーがないなあ。次世代に期待しますか。
幸い温泉洞窟の嫁は三人とも呪文使いです。産まれてくる子供たちの中には魔法方面の素質を持った者もいるでしょう。




「という訳で、次の満月あたりにルーナを負かして嫁にするべきだと思うんだけど」
「うーん、流石に難しくありませんか」
「ヨメ、タリテル」

晩ご飯の後でプチ家族会議中です。下っ端たちは酒盛りしたりシーソー上綱引きしたりして遊んでます。
議題は次に迎えるべき嫁の候補絞り込み。
魔法使いとして天才中の天才である幼女妊婦とその腹にいる子供を纏めて手に入れたいのは山々ですが、うちの幹部たちはも
う一つやる気が出ないようです。

彼女の星11という評価はやや履かされた下駄が高すぎますが、下っ端たちの技量では勝ち目がない。
そして夫たちは勝てる実力はあれど意欲がない。ロリコンだけど選り好みが激しいのです。
かといってソーニャさんが挑戦するには星が低すぎるんですよね。嫁取り戦で全勝&圧勝してしまったお師匠様は星13扱い
ですので、余程のことがないと「夫や息子たちのためによさげな娘さんを強奪」なんてことはできません。

百年以上続いてるだけあって強者が嫁を独占し過ぎないようにできてますね、大神殿の仕組みは。


私としてはルーナ嬢(姫?)はむしろ勝ち残らせて自由の身にして、それから口説いた方が良いと思う。
そっちの方が最終的により仲良くなれそうな気がします。勘ですけどね。


「そっちとは別口で、修道女の6人組も狙っているのよね?」
「はい」
「ハナシ、キイタ。タカラ、カセグ」

私のお薦めである6人組妊婦たちは、剣闘士ではなく花嫁修業コースに行くようです。つまり向こうの合意さえ取り付ければ
金銭で移籍できます。元々ウチの幹部たちが共有妻を一人しか持っていないことがオーク文化的には変なのですから。
色々と前例を漁ってみた結果、6人纏めてエスティア神殿の司祭である私に弟子入りさせて尼僧とする案が浮上してきました。
移籍したあとは神殿の奉仕者(夫と義息子)たちと自由恋愛なりお見合いなりして嫁入りすれば良い訳で。
巣の防衛力と支払うお布施さえあれば、再来月あたりに大母様と交渉できる筈です。

問題は温泉洞窟の宝物庫は未だに寂しいままだということですが。

「稼げば良いのね」
「グヒッグヒッ」

久しぶりに全力の遺跡荒らしができそうなのでお師匠様は上機嫌です。うーむ、夫共々頼もしい。


Q1、私にもできる金策ってありませんかね?
A1、焦ることはありません。地道にやるのがいちばんですよ。

Q1、そこをなんとか。
A1、向き不向きってあると思います。


ええい、神頼みでなんとかしようという考えが間違いだった。自分でなんとかしましょう。
自力でできる金策かー 砂金のより分け作業なら無限袋を使えばできるかな?




 ☆98日め、そういわれると☆



朝っぱらからお風呂に入ってます。ソーニャさんと一緒に糠袋で背中の洗いっことかしてます。
昨夜はお楽しみまくったので全身いろいろ付いて粘ついてまして、朝風呂は当然の選択ですし元男で同性愛者の自覚持ちとし
ては美女から入浴のお誘いとあればご一緒するしかありません。

はぁ~ 綺麗だなあソーニャさんの身体は。

「何考えているの?」
「どうして私にはち○こがないのかという命題について」


真顔で答えると、とびきりの美女は私を抱き寄せました。肢体を絡ませ密着して、重ねた手の平を下腹部にまで導きます。

「分かるでしょう? ここに三人の子がいるの」

無言で頷きます。この肉の奥にある器官は生命の粘土が染み込んで改造されておりまして、全身が生命の粘土製な私の身体と
は通じ合うものがあります。だから魔法や直感よりも率直に理解できる。このお腹には三人のオークが入っています。
そしてあと半年もしないうちに産まれてくるでしょう。ケサガケとハラキズとゴエモンの子です。

なにせ特別製の子宮ですからね、多少の時間差で受け入れた子種から種違いの三つ子を孕むことなど造作もありません。

「今更だけどね、私は知ったつもりでいてその実なにも知らなかったのよ」
「はあ」

抱きしめられて聞かされた話では、ソーニャさんは引っ越してからの数日で新婚さん気分や新妻気分だけでなく日々改めて母
親になった実感と雌奴隷として完成に近づいていく幸せに圧倒されているのだそうです。
うーん、女の子生活二ヶ月ちょっとで完堕ちして処女捧げたその夜に妊娠しちゃった私には理解できない感覚ですね。
今のソーニャさんは未体験の幸福に不安を感じているのかもしれません。砂漠のネズミが大草原に投げ出されたような種類の。

「だからね、この子たちを産んで空きができてからならレイの赤ちゃん孕んであげても良いわよ」

強力なアイテムや高位階の呪文があれば性転換も容易にできるのがファンタジー世界でして、特にこのオーク島ではやろうと
思えば直ぐにでも性転換できるのです。
大神殿には10レベル以上の呪文が使える巫女頭(ハイプリーテス)たちが何人もいますからね。

で、初出産や子育てを済ませた一年後ぐらいに、性転換して男の子になった私の子種を受け入れて妊娠して、可愛い人間の赤
ちゃんを産んでみたいとソーニャさんは言ってます。五つ子ぐらいで。

「どうせ理想の雌奴隷に育てたいとか、そういうことでしょう?」
「そうだけど、それじゃいけないの? 貴女そっくりの女の子を産んで育てて、この巣のオークたちのお嫁さんにさせてあげ
たいのよ」
「大賛成です。あ、でもソーニャさんそっくりの子供も欲しいですね」


ご主人様のためにご主人様でない雄の子を孕んで、産んだ娘をご主人様に献上するというその昔さんざんやらせたというかさ
せてあげたことを今度は自分でやろうとしているのですよこの人は。
まあ親なんて勝手なものですし、オーク妻の産んだ人間雌がたどる運命なんて元から決まっている訳で。既に堕ちるところま
で堕ちちゃってる身としては是非ともお願いしたい案(プラン)です。

もちろん夫たちに許されれば、の話ですけどね。私の全身がもう夫たちのものであるからには、クリ○リスはもちろんそれが
変化して出来るはずのち○こも夫たちのもの。
浮気をする気はありませんので、勝手に使ったりしないのです。



それはそうとして、観客もとい生徒たちをいつまでも拘束していられませんから何かしましょうか。

「ふふっ。正直すぎるけど、そんな娘も嫌いじゃないわ」

本質的には同性愛者じゃないソーニャさんですが、私を弄くりまわすのは気に入っています。で、前世も現世も同性愛者な私
はこの前の お 仕 置 き で逝かされまくってからますますソーニャさんのことが好きになってしまいました。
義娘なのだけど、ベッドやマットの上では お ね え さ ま と呼んでたりします。いやまあ、修行や緊急時やそれ以外
の時も気分次第でお師匠様と呼んでいるから今更ですが。


下っ端居住区の狭い風呂で、義息子たちに視姦ならぬ視愛撫されながらのレズビアンプレイというのも悪くありません。
その後の、師弟揃っての公開尻穴調教の方が燃えましたけどね。魔法のアナルビーズを使って散々に啼かされてしまいました。

ええ、結構開発が進んでましてね。近いうちに後の穴も性教育の教材に使って貰えるでしょう。
それまではドス始め夫たちの専用です。あとお姉さまの。





[38600] 51
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/04/22 16:45




 ☆98日めの2、いやはや達人だ☆



竹という素材は鉄なみの硬度と柔軟さを持っています。竹槍の威力は決して馬鹿に出来たものじゃありません。
落ち武者は鎧着たサムライな訳で、それをお百姓さんが殺せる武器ですからね。

そんな竹槍をソーニャさんのような達人が握れば未熟者の持つ刀なんかより断然強い。
元々長物三倍段というぐらい槍は刀剣に対して有利なのです。
なので、私では魔剣を使ってもソーニャさんの竹槍に押されまくって当然なのです。


「そらそらそらそらそらっ 足元がお留守になってるわよ」

竹槍の尖っていない方で脛や足首あたりを連続で狙われていますが、タップダンスのように動いてなんとか避けてます。
向こうも手加減した連続突きが避けられるのは解ってるのでこれが私の意識を足元に向けさせるための布石とすれば‥‥!

突然ソーニャさんの攻撃が切り替わりました。突いた動作から連続しての突きではなく薙ぎ払いになって青竹が私の腰骨に迫
りますが、先読みしていたのでなんとか間に合いました。
崩れ落ちるようにして倒れ込みながら青竹をやりすごし、同時にクックリ刀を投げつけます。

「投っ」

気合いと共に投げた刃は、もし竹槍で受け止めたなら持ち主ごと両断する勢いで飛んでいきます。
武道や武術のかけ声は適当に言っているのではありません。
エイ とか ヤッ とかのかけ声は「映 = 敵の動きを反映する」とか「八 = 八方に力を放つ」とかそれぞれに意味が
あり動作と関係しているのです。読んでて良かった武術漫画。

かけ声一つにも言霊は宿るのです。
ヒルデニアの武術にも似たような概念があり、ソーニャさんはその技法を身に付けています。弟子の私も修行中。


しかし肝心の狙いがやや甘く、刃の軌跡が上過ぎだったようでして側転一発で軽々と避けられてしまいました。
対してこちらはうずくまった姿勢のまま。回避能力では相手にもなりません。今からでは立ち上がるだけで移動能力を使い果
たしてしまい、避ける事もできない状態でソーニャさんの追撃が来るでしょう。

ならばこちらの長所を生かすのみ、毛皮服のポケットに仕込んだ貪り食う無限袋から同時に二つの飛び道具を引き出します。

アイテムマスター(道具使い)の能力を持つ私は、一呼吸の動作で無限袋から二つの武器を同時に取りだして使えるのですよ。
使用アイテムの補充速度、正確に言えば補充作業の効率だけならお師匠様に優るのです。
取りだした武器は四本の鉄管を束ねた拳銃というか弓のない小型弩のような武器。

これはバネ銃です。金属を充ちると書いて銃。
鋳造機で作った強力なバネと魔法合金製の小さな矢を鉄管に仕込んでまして、引き金を引けば矢が発射されます。
早い話がスペツナズナイフを4本纏めたような武器です。

前に野外で使ったときはお師匠様が蹴り飛ばしてきた小石に人中(鼻の下にある急所)打たれて悶絶してしまいましたけど、
今日は念入りにお掃除したから洞窟内は塵一つ落ちてません。
このレイちゃんはお馬鹿ですが、同じ失敗は時々しか繰り返さないのです。

近距離ならヘビークロスボウなみの威力を八連続、闘気も魔法も使わずに防げるかー!?


防がれちゃいました。

お師匠様が竹槍の切っ先をこちらにむけて一揺すりすると、竹槍がしなって穂先が揺れまして私の撃った矢は全部その中に吸
い込まれていったのです。矢はすべて竹槍の中を通り抜けて向こう側の岩肌に突き刺さりました。
あらら。節が抜いてあることには気付いてましたけど、こういう意図でしたか。つくづく掌の上で踊らされているなあ。


「‥‥まいりました」

これにて模擬戦は終了。飛車角どころか桂馬と香車まで抜いての対戦でしたがやっぱり負けました。
喉元に竹槍の穂先を突き付けられて降参した弟子に、ソーニャさんはにこやかに笑いかけます。

「矢はともかく剣投げは良かったわよ。あれなら星4ぐらいの相手にも手傷を負わせられるわ」

お師匠様の言うには、私の剣技は信じがたい速度で伸びているそうですがなにぶん比較対象が悪すぎて自覚はありません。
達人とすごい達人と初心者しかいませんからねここには。

実力的にはハラキズたちが私の練習相手に相応しいのですが、愛しい巫女義母に殴りかかるなんてエノコログサの穂を使って
ですらできないのが義息子達でして。
この石頭ぶりが、融通の効かない不器用さがたまらなく愛しく感じてしまうのだから親馬鹿ですね私も。


「オレ、テカゲン、ヘタ」

自分から言っている理由で、ゴォ・ドスも練習相手にはなってくれますが避けや受け止めに徹していて反撃はしません。
この巣で一番力加減が得意な彼ですが、それはあくまでも幹部オークどうしの稽古が基準。嫁相手にはできません。
訓練中に嫁が転びかけると駆け寄って支えたり抱き上げたりする始末です。過保護なんです夫達は。

無理もない。幹部オークと比べると脆すぎますからね人間族の2レベルキャラクターは。
実際、アイテムで対策してあるとはいえ転ぶと危険がないわけじゃありません。心配しすぎだとは思うけど。
岩の地面を布団みたいに軟らかくする魔法とかもあるのですが、それで訓練しても実戦では役に立たない。


妊婦が剣術の修行なぞするなという意見もあるでしょう。しかし‥‥

「敵は女子供でも容赦しないわよー」

というのがお師匠様の方針でして、できるうちは各種の修行をすることになってます。
異存はありません。ナム戦映画の端役みたく「動きが鈍いから簡単だぜ!」とヒャッハーな連中に蜂の巣やナマス切りにされ
るのも嫌だし。

一番効果があるのは見取り稽古というかソーニャさんの真似っこですね。行住坐臥所作挙動、立って座って寝て歩く姿の一つ
一つがお手本になります。
お師匠様が良いからこそ、左右の手を同時並列で使い分けるなんてことがこの短期間で出来るようになった訳ですし。

精神的には男性よりの私ですが、女の子の身体なので同時並行作業が前世よりも得意になっています。空間把握能力の方が比
較にならないぐらい強化されていますから、脳力測定したら男性脳と判定されるでしょうけど。

ソーニャさんの即席射手養成講座を10時間ほど講習して最低限の基礎技術を身に付けました結果、今の私は固定目標ならほ
ぼ百発百中です。100メートル先の姫リンゴもどきに必ず当たりますが、万が一を考えると練習でも標的に出来るのは夫た
ちとお師匠様だけですね。
ハラキズたちが頭に乗せた状態ではスイカでも撃つのが怖い。目とか刺さったらどうするんだ。

で、義息子たちは巫女が安心して射撃訓練の手伝いさせてくれるようになろうと自主訓練に励んでます。


健気ですよねえみんな。

大広間の中央ではソーニャさんがケサガケへ手取り足取り稽古をつけています。
武芸百般なんでもできるのがウェポンマスターでして、当然ながらオーク風の棍棒や木槍なども使えるのですよお師匠様は。
周りの下っ端たちも講義に集中してますね。性教育の時より熱心かもしれません。

私はそれを見ながら岩肌に突き刺さったクックリ刀と、クロスボウならぬパイプボウの矢を回収します。
むう。今度から飛び道具使う稽古のときは壁際に丸太でも並べておくべきかもしれません。何度もこれをやっていたら壁が穴
だらけになってしまう。

「あとで修繕しておくから気にしないで~」

‥‥あ、そうか。岩を泥に変える呪文で軟らかくしてから塗り上げれば簡単に修理できるんだ。
便利すぎるぞ魔法使い。一人でもソーサレスやウィッチがいれば巣の格が上がるのも当然ですね。


そーいえば、ソーサラー(直感魔法使い)の女性版がソーサレスでウイザード(演算魔術師)の女性版がウィッチですが、巫女
(シャーマン)は性別関係なくシャーマンなんですよね。あとウォーカン(呪術師)やウォーロック(妖術師)も。

黄色トログロダイトとかの使う呪術はソーサリーの劣化版ですね。威力・効率・自由度など多くの点で直感魔法に劣っていま
すが、頭が悪くても使えるから完全な下位互換ではありません。

妖術師(ウォーロック)は辺境で根強い人気を誇る魔法職で、ソーサラーよりも肉体的というか身体に染みつかせる系統の技術
ではないかと思われます。
呪文を使わずに、壁へ貼り付いたりとか人相を変えたりとか素手で敵を切り裂いたりとか触れただけで食べ物に毒を混ぜたり
できるとか。あと火を吹いたり、空中に浮いたりも。
あえていうならニンジャ的な何か? お師匠様も詳しくは知らないそうです。

信仰系は、調停の神々・小神・魔神(デーモン)・混沌神・精霊・祖霊・邪神など信仰対象で色々違ってきますが、魔法や魔術
ほどには区分がややこしくありません。



貪り食う無限袋から回収した、微妙に潰れたり歪んだりしている矢玉を鋳造機に入れて再加工しつつお師匠様と下っ端たちの
稽古を見学します。
って、竹槍をペン回しのペンみたいにお臍あたりでぶん回してますよあの人。

うーむ、これも闘気法の応用かな?
腰の動きだけで棒状物体がフラフープみたいにぐるぐる回転してます。
まるで強力な電磁石に五寸釘くっつけて電流切り替えてるみたいですね。
文字通りのフリーハンド状態。回っている竹槍の勢いは、当たれば鎧武者を殺傷できる威力でしょう。

いや本当に、その気になりさえすれば竹槍でレッサードラゴンの一匹や二匹仕留めちゃいますけどねお師匠様は。
ギュー・グェスも棍棒一本でできます。多分素手でも。


そういえばフラフープは開発してませんでしたね。
後で試作してみますか、玉乗りや綱渡りには難色を示す巣の男どもも平地での腰振り運動なら文句ないでしょうし。

夫たちが遺跡で見つけてきたお宝の中に、乾燥状態では普通だけど濡れるとほぼ透明になって肌に貼り付く布地がありました。
あれで運動着作って、汗びっしょりになるまで輪っか回してやりますとも。
そしてそれを見ておっ起てたち○このなかで一番元気なのを咥えこんであげるのです。




 ☆98日め3、弘法なおもて筆を選ぶまして凡人においておや☆



温泉洞窟では、日々の糧を得るためだけなら一時間も動けば充分です。余るぐらいです。
現在はひ弱なオーク妻を守るため、周辺の見回りや防壁の設置など安全面の作業を入れて三時間というところでしょうか。
季節は夏ですが、南の島なので昼間つまり私が野外で動ける時間は一日の半分程度。絶対必要な三時間の労働と休憩など生活
に支障をきたさないための時間を除いても一日あたり五時間はフル出力で動けます。

逆にいうと最大でも一日五時間程度しか下っ端たちの労働力を当てにできない訳です。現状ではその半分も使ってませんが。
何をするにしても仲間の力を借りないとろくな結果が出せません。横井軍曹とかみたいに才能と必然性が合致しているならと
もかく普通の人間一人でできる事なんてたかが知れています。
というか一人でやる必要なんかないし。


そんな訳で、ただいま実験中です。

1 万能鋳造機を使って振り子式重量計を新たに作ります。大型で高精度のものを、です。
2 実験用の鋼鉄製重り(重量1トン)を幾つも作ります。
3 万能鋳造機で次々作った特殊鋼や合金の針金で1トン鉄塊を吊し、強度や耐久性を確かめます。

なにも某国国営放送の喜劇番組にでてきそうな鉄塊など作らずとも、という意見はごもっとも。
確かに、鋼線の断面積を10分の1にして重りを100㎏にしても実験結果は変わりません。ですが訓練効果は変わります。

目に見える効果として、自分一人では持ち上げられなかった鉄塊の重みにこの針金は耐えているという事実が下っ端オークた
ちに素材の強度を実感させます。
その実感が同じ素材で作られた武具への信頼となり力を引き出すのです。

同じ設計同じ寸法同じ重量の大盾でも、素材の違いで性能が違う。強い武器や防具が使用者に安心感を与えます。
安心感は余裕であり自信を引き出します。
自信は不安を押し流し、普段以上の能力を発揮させるのです。

ダ・ヴィンチもミケランジェロも筆には拘ったのです、戦士が武器に拘って何が悪いのでしょうか。 
最終的に頼れるのは己の五体のみであるのなら、最終局面の手前までなら道具を活用してよいのです。


‥‥と、まあこんな理屈で押し切りました。従来どおりの、素手やあり合わせの武器を使った戦闘訓練もこれまでと同じく続
けていますけどね。
武器に縋らないということは即ち素手にも拘らないということ。偏ることがいけないのですよ。



今日もまだ見ぬ超合金を探すべく、合金系の成分表を作っては色々試しています。
たとえば 鉄85ニッケル12モリブデン3 の比率で特殊鋼を作るとしても、三種類を同時に混ぜた場合と鉄にニッケルを
混ぜてニッケル鋼にしてからモリブデンを加えたものとでは生産物に色々と違いが出てくるのですよ。


素材の開発もやっていますが、今作れるものを量産しないと意味がない。必要なのは今なのですから。
なので研究と平行して、投げ斧や投げ槍や星球鎖など伝統的または一般的な素材と設計の武器類も量産しています。
石弓類の量産もしたいのですが、下っ端オーク達には少し仕組みが複雑すぎて扱いづらいのでより単純なバネ銃を開発してみ
ました。
ただこちらは構造上矢が小さくて矢羽根が付けにくいので遠距離まで飛ばないという欠点が。

うーむ。バネがヘタり易いというバネ銃ならではの欠点はバネを量産してこまめに交換することでなんとかなりましたが、
飛距離の問題解決は難しいなあ。もう普通に弓兵を育成した方が楽かもしれません。
でも半端な弓兵より投石部隊の方が強いのですよねえオークたちは。

とりあえず自分用クロスボウの改良と新規試作を続けますか。
小さめの鳥モドキや巨大昆虫なら一人ででも狩れるようになりましたし。
恐鳥類や大蛇や黒熊は怖いですね、急所を外したら反撃されるかもしれないから。


そんな訳で午後は素材開発と平行して、借り物の『ユーピックの立方体』を使い図面を引き、鋳造機を使って部品を作り組み
立ててはばらして試射とかしています。助手はケサガケ、モッサリ、トンガリのクロスボウ使い組。
ミスリルワイヤーに超硬鋼製の滑車に複合板バネに‥‥と。これだけなら以前までと同じですが、今作っている試作品は矢の
方に新たな工夫があります。

矢を一体成形で12連結したものにしてみたのですよ。早い話がホッ○キス社の紙綴じ器みたいに連射式クロスボウ用の矢を
一繋がりで作って弾倉に入れる方式にした訳です。
クロスボウに付けたハンドルを回すとギアが回りまして、連動するワイヤーが引っぱられてクロスボウの弦を引き絞ります。
そして一定のところまで引かれると留め金が外れて弦が解放され、弾倉からはみ出ている一番上の矢に運動エネルギーを与え
つつ前方目掛けて移動します。
構造的にはまんまオープンボルト式の近代銃器ですね。正確にはその装弾機構を真似しています。

ふうむ。これなら文房具としてのホ○チキスも作れそうですね。オーク島には需要がありませんけど。
個人的には紙の需要も一緒にありますので、作る意味はあるか。紙はミッシェル山で買えば良いし。


さっそく試射してみましたが、集弾率がスカタン過ぎました。
ストックホルダーなしで連射したモーゼルM712並に弾道が振れている。

標的の切り株とは10メートルも離れていないのに、的に当たった矢の方が少ないぐらいです。あと刺さり具合も浅い。
威力の方は後で板バネをより強い物に交換してみるとして、ここまで弾(矢)が散ると実用には厳しいか。
クロスボウ自体が軽すぎるのかな? 次の試作品はもっと重くしてみましょう。


今から再設計を始めると晩ご飯の準備に差し障るので止めておきます。代わりに熊殺し球を量産しておきますか。

これは鋼鉄製のウニじみた、針がたくさん生えている鋼鉄球でして針の一本一本には釣り針のように返しが付いています。
餌の近くなどに置いて罠として使うのが主ですが、投げて使うこともあります。
ウニの口にあたる所へ棒を突っ込んだり、鉄製の柄杓みたいなものを使ったりして熊などに投げつけると、熊は掌で払いのけ
ようとして棘球が突き刺さってしまうのですよ。

棘には返しがあるから一度刺されば簡単には取れません。もう片方の手(前足)や口を使って取ろうとするとそこもまた棘針が
突き刺さって熊は酷い目に遭います。
鋼の毬栗が口や手足に刺さったまま外れなくなって身動きできなくなってしまった熊が、そのまま餓死してしまうこともある
とトルストイだかプーシキンだかの著作にありましたが‥‥ドエドエフスキーだったっけ?
 
まあとにかく昔のロシア人猟師が使っていたという狩猟具なのです。
棘針が刺さらなくても、オークが投げればその質量だけで大概の獲物に効くでしょう。


ついでに交易用の釣り針や銛の穂先を一山作ってから、ご飯の支度に取りかかります。ホッチ○スの弾倉を思い出してからは
釘などの小物が量産できるようになりました。
一度に一個の物品しか作れないのなら、一度に一個作ってそれを分解すれば良いのですよ。オ○ファのカッターナイフとか、
ブロック式チョコレートのようにすぐ折れるようにしておく訳です。プ○モデルのランナーでも可。

目刺しの干しイワシを串から千切るように、必要な分だけ千切って使うのです。交易用製品にはバリが気になる人のために、
各種ヤスリも一緒に付けてあります。
もちろんこちらもプラ○デル風に数十個まとめて一体形成してから折り取ります。

棒ヤスリもノコギリも一発形成で量産できるから便利ですね、魔法の鋳造機は。もうこれがない生活には戻れません。
待てよ? このノコギリや棒ヤスリってヒルデニアあたりに売れないかな? 
ミスリルの糸鋸とかアダマンタイトのヤスリとかって、盗賊の七つ道具に需要がありそうなのですが。



「ただいまー」

そうこうしているうちに、下っ端たちを引き連れて近所の見回りに出ていたソーニャさんが帰ってきました。
今回は果樹園その三と小川と北側の椰子林に行っていたようです。

魔法使い(ソーサレス)って 存 在 自 体 が 反 則 です。
だってだって、地面に穴掘って椰子の実を埋めて呪文をごにょごにょっと唱えたら椰子の成木ができちゃうんですよ。
クルミを埋めたらクルミの樹が、マンゴーを埋めたらマンゴーの樹が、埋めた果実や種子の数だけにょきにょき伸びてきて花
を咲かせ実を付けるのです。しかも何本も同時に、埋めた分だけ。

ファンタジーにも程がある。

これは第四位階の直感系呪文でして、ソーニャさんは50メートルプール一枚ぶんぐらいの面積で植物を急成長させることが
できます。ただし埋めた種が土地に適合するなら、ですが。
荒野に松林を作ることは出来ても、凍土に椰子の木を生やすことは出来ません。モミの木やコケモモならできます。

急成長というよりは召喚系の方が近いのかも。
埋めた植物の成長した姿と、その植物が無理なく生きていける小環境を呼び寄せているのでしょう。
いや、だって、できたばかりのクルミ林にヤマネがいましたし。
あれは林が出来たから近所からやってきたのではなく、林の完成と同時に出たのです。ニュータ○プ擬きとして断言します。


なるほど、この世界で人(ヒュー)族がしぶとく生き延びている訳だ。
万人に一人、十万人に一人であってもバケモノ級の英雄が現れて頑張っていればエロモンスターや蛮族に負けないでしょう。
英雄の出現頻度や資質や指向などで人類文明の興廃が決まるから、個人主義英雄主義が蔓延しているのが東方世界なのか。


はて? 人間族よりオーク族の方が平等というか開明的な気がしてきましたよ?
故郷の都市では英雄、オークの巣では雌奴隷。それがお師匠様の立場な訳で、両方の立場で成功し幸せに暮らしています。
でもオーク社会の英雄が人間社会で奴隷として幸せに暮らせるかというと、ちょっと無理でしょう。

人間の都市で奴隷だった者がオークの巣で幸せに暮らすのは、有り得ることです。
女はもちろんですが男でも本人の能力次第で出世というか玉の輿に乗れるわけですし。
オードリーの夫がもし若い頃に捕らえられていたのなら、男の子or男の娘好きのオークたちに可愛がられて調教されてます。
そして種馬や略奪行のお供や参謀として活躍した後に、ご褒美として転性させて貰ってオークの子を産んだでしょう。

オークの巣では人間の子もオークの子も、どちらでも好きに産める。
夫たちも義息子たちも、私が産んだ子がオークであっても人間であっても可愛がってくれるでしょう。
人間の村や都市では、人間の子は産めるけどオークの子は産めない。産んだら母子まとめて抹殺されかねない。
これは酷い差別なのでは?


「ハラ、ヘッタ」

あ、はいはい。今晩はどういう献立にしましょうかね。
とりあえずヤシガニのうち一番大きいのはマヨネーズ焼きにしますか。大味そうだし。




 ☆98日め4、私誅はしたそうです☆



オークの巣穴というものは、大事なものほど奥にある。ゲームの中でもこの世界でも大抵そういう構造になってます。
温泉洞窟でも宝物庫は幹部居住区のさらに奥にありますし、下っ端居住区の一番奥にはコーネリアとゴエモンの部屋が用意し
てあります。
12畳敷きぐらいの小部屋に、茶釜要塞から運び込んだ将官用調度品を詰め込んで衝立などで仕切っておりましてコーネリア
がこの洞窟に帰ってきたらここで暮らすのですよ。


‥‥少し部屋が狭いというか寝台が大きすぎるかな? 拡張工事を検討してみましょう。

調度品はオルロフ風の天蓋付き寝台、同じくオルロフ風の衣装箪笥、ベルタニア風の収納戸棚、ヒルデニア産の絹布張り衝立
(屏風)、漆塗りの文箱などコーネリアの実家に持っていっても恥ずかしくない豪華さです。

姿見はプラチナの一枚板に浮き彫り入りの黄金細工枠を填め込んだ温泉洞窟製。
ちなみに浮き彫りの図案はソーニャさんが担当しました。お師匠様がユーピックの立方体に書き込んで記憶させたものを、
私が読みとって鋳造したのです。



最低でも地方貴族の嫁入り道具になる水準の家具でないと、将官用貴賓室には使えません。
ほら、他国の将軍とか王侯とか捕虜にしたときに軟禁しておく部屋が貧相だと舐められちゃいますから。戦争と外交は表裏一
体です。

あと、天井から吊られているシャンデリアは私とソーニャさんが自作しました。要塞のはもう一つ気に入らなかったもので。
細やかな彫刻を施したかのように鋳造機で金銀(正確には黄金と白金)を一発形成して鋼鉄管の骨組みを被い、ソーニャさんが
切りそろえて穴を開けた色とりどりの水晶を吊してます。

内面をぴかぴかに磨き上げたワイン杯のような青銅製品の内側に「持続光(コンティニュアル・ライト)」の呪文をかければ、
曾孫の代まで使える小型サーチライトまたは魔法式強盗提灯の出来上がり。蓋も付けておきましょう。
これで天井のシャンデリアや壁の女神像を照らせば間接照明としても使えます。

もちろんこの部屋にある像はもはやエスティア様の御神体と化した、特殊な抱き枕ではありません。
女神像というか女房像かな? コーネリアの像ですから。


地球の日本に伝わる昔話に、天女を嫁にした男が新婚生活中に嫁と離れて野良仕事するのが辛すぎるので嫁の姿絵を仕事場へ
持っていったものの、その絵姿が風で飛ばされてしまい云々‥‥というのがありました。
コーネリアもゴエモン似の石像を使っていましたし、愛妻の姿をした像がある部屋にゴエモンも嬉しそうです。

抱き枕には使えない、こともないけど向いてません。軟鉄製で地金むき出しですから。
まあ、抱き枕やオナホ○ルにはもっと性能の良いのがありますからね。体温や喘ぎ声つきの代用妻(ダッチワイフ)が。
留守の間、コーネリア用ち○こに苔が生えたりしないよう手入れしてあげるのが竿姉妹ってものです。


コーネリアから公認というか頼まれてますからね。旦那のロリ好きが治らないよう性教育してくれと。

彼女はお腹にいる娘をゴエモンの嫁にするのが夢です。
一度や二度でなく何回も、母娘揃っての妊娠出産を繰り返したいと願っています。なのでゴエモンに、オークの子を無理なく
産める一桁終わりごろの年齢で娘を孕ませて欲しいのです。
その幸せな日を迎えるために夫にはロリっ娘の窮屈な穴が、無毛の未熟な股ぐらが大好きなままでいて欲しいのですよコーネ
リアは。



体力や白兵戦技術だけでなく性教育の方も、この数日で一気に充実してきました。講師と教材が倍に増えましたからねー。
女の人数が倍になりましたけど、ち○この抜き打ち検査や耐久試験の頻度を倍に増やしてもまだ余裕があります。
あれですかね、「一人で五人前のご飯作るより二人で十人前のご飯を作る方が楽」理論ですかねこれは?


まあ、そんな訳でこの小部屋にはコーネリアに似せて作った像が4体ほど置いてあります。毛皮服着て敷物の上で四つん這い
になり夫を誘っているのとか、半透明下着姿でクッションに座って髪を梳っているのとか、金モールと階級章付けた軍服姿だ
けど胸元とかちょっとはだけていて首に無骨な鉄製手作り首輪が嵌められてるのとか、色々と。
これらは本人が温泉洞窟に帰ってきたら用済みなので、下っ端居住区の守り神として飾る予定です。

あ、4体目は素っ裸です。そしてただいま彩色中。

ソーサレス呪文の初歩に「彩色(ペイント)」というのがありまして、大きめの看板ぐらいの物体を自在に色塗りできます。
信仰呪文にもほぼ同じものがありまして、これらの呪文を使ってミッシェル山大神殿では神像を塗ったり壁画を描いたりして
います。
‥‥私は絵心がありませんけどね。

ソーニャさんの絵心はかなりマシで似顔絵を描けば誰のか解るぐらいですが、やはり大神殿の職人技には遠く及びません。
北米原住民族出身の特殊部隊員より第六感が鋭い筈の私でも、ときどき生身と間違えそうになりますからね大神殿のは。
はて? なんか塗れば塗るほど違和感が増してきましたね。なまじ像の作り込みが細かい分違和感仕事しすぎ。
これならいっそのこと肌色単色にしといた方が良かったかも。


「うーん、何か方法があったような気がするんだけど」

駆けだし冒険者の頃に、依頼で石像にリアルな彩色をする方法を探したことがあるとお師匠様が言っています。
もっとも具体的な方法は忘れてしまったのですが。
依頼人が気持ち悪かったことの印象が強すぎて、そっちの方だけ憶えてしまったのですね。

その依頼人というのが孤児を集めて可愛らしい子供だけを選りすぐって手元に遺し大事に育てて、程良く育ったら「石化」の
呪文で石像に変えて収集しておき陳列して同好の士と共に楽しむという変態さんでして。
人権というか倫理的に拙い点を除くと犯罪じゃないので、実質的に殺人よりえぐい所業であるにも関わらず邪魔も断罪もされ
ないのですよ。


結局、4体目への彩色は諦めました。女神様通信によればアイテムマスターのレベルを上げれば水晶球に保存した映像から複
写してリアルな彩色ができるそうです。
結局ここでもレベル上げか。強さ=正義なのがこの世界なのですね本当に。





 ☆99日め、ベリーダンスもフラダンスも元々は夜伽の(略)☆



いま現在の温泉洞窟住人は24人。人間雌2幹部3下っ端19。
下っ端のうち近い時期に中堅層へ昇格できそうなのが3~4名ぐらい。

三ヶ月前が居候入れて16人でしたから、人口が約66%増えてます。拡張工事はしていますが床面積でいえば5割も増えて
ないのにイノシシたちが6匹も来たらそりゃ狭くなった気もするでしょうよ。
風邪引いた私が運び込まれた頃よりも家具や遊具や調度品が増えてますし、倉庫の備蓄も増えてますから余計にね。

そこで下っ端居住区拡張のために、二階を作ることにしました。
先日は大広間の倉庫に二階部分を作りましたけど、今度は下っ端居住区に作るのです。
地下というか、今よりも低い階層は掘りたくありません。水脈が近いので数メートルも下方向に掘ると確実に水が出ます。

工事そのものは今朝方ソーニャさんが呪文で二階部分を掘り抜いてますので、階段と壁を付ければできあがり。
ここは将来の子供部屋にします。子供達が寝たり遊んだりして、女達がそれを見守り世話しつつ裁縫とかする区域ですね。

広さからすると精々10名程度のお嫁さんしか暮らせませんが、下っ端のまま妻を迎えるオークは少ない筈なので無問題。
ゴエモンにしても星4以上の見習い戦士になって下っ端をやめたら、コーネリアと一緒に準幹部エリアに引っ越しますし。

準幹部居住区域は、大広間の北西方向に建築を予定しています。今はまだ食料庫と祭壇の間の壁に、薪の燃えさしで開ける予
定の穴を書いているだけですけどね。



そんなわけで今日の作業は下っ端居住区二階の内装工事と調度品作りです。
お湯は源泉から防錆処置済み鉄パイプを通しますが‥‥排水は一階に回さず二階から直接川の方に流しますか。鉄パイプで。

バス、トイレ、洗面所、キッチン、床暖房、乾燥室はこれでなんとかなるとして問題は日光か。魔法の明かりでは日光浴の快
感と効能は得られません。

食糧事情が良いのでビタミンD不足の心配はありませんから急ぐ必要もないか。コボルド族に発注している大型水晶板が届い
てから改装することにしましょう。
茶釜要塞の内部にもあるんですけどね、オルロフ製の大型ガラス板が。ただいくら強化処置済みといっても只の板ガラスだと
強度的に不安でして。恐竜サイズのモンスターが攻めてきたらひとたまりもありません。

杞憂? 茶釜要塞のすぐそばに超巨体の腔腸動物がいてしかもそいつこの前同じぐらい巨大な甲殻生物に食われかかっている
のですが。

まだ燻製肉が食料庫に残っている化けクジラはそいつら二匹を同時に相手にして余裕で勝てる訳で、もしもあいつと互角でし
かも生活圏が我々と被っているモンスターが現れたら‥‥実際にいますからね、大型のワイバーンとか。


やはり私は人間族なのですね。モンスターが、私の子供達への脅威がおうちのそばを闊歩していることに耐えられない。
なるほど、地球では野生の猛獣が駆逐された訳だ。
紀元前には割とホイホイいたんですよ猛獣が、人間の生活圏のすぐ近所に。ローマの獅子とか黄河のワニとかね。


自分らはなんでもかんでも殺して食っているくせに自分らが殺されて食われるのは嫌。
これが人間の業ですね。
天敵を持たない生き物だからしかたありません。善悪ではなくそう生まれついてしまっただけのこと。


業深い生き物なのですよ人間は。特に私は前世の分まで追加で業を抱えてますので人一倍。

具体的に言うと、強くて優しい旦那様の絶品ち○こだけじゃ満足できないど淫乱の浮気者なんです。
実はその、三人の旦那様と四人の義息子達以外の男(オーク)にも心惹かれてまして。

しょうがないんですよ精神構造が男のまんまで、精神的同性愛者なんですから。しかもオークマニアの。
考えてもみてください。
エルフ愛好者の若い男が異世界へ転移してしまったら、そしてエルフ女しかいない村で暮らしたうえで族長三姉妹を孕ませて
婿に迎えられたとしたら、更にその状況で他の村娘たちから「私も赤ちゃん欲しいです」と迫られたら‥‥ ねえ。


いや、その場合の方が今の私よりマシか。
エロゲ主人公並の能力があれば、エルフ村の種馬は村娘全員を満足させることができるかもしれません。
でも私には温泉洞窟のオーク達全員を満足どころかおざなりにすら相手してあげられる能力がないのですから。

物理的限界で一度に2~3人、一年あたりの平均で4~5人しか産めませんからね。
10年後ぐらいには一年で野球チームが作れるくらい産める身体になっているかもしれませんが、そうなったとしても今いる
義息子たち全員の子を産めるかどうか。

子作りだけが愛情表現じゃありませんけど赤ん坊が「愛の結晶」と呼ばれるだけのことはありまして、お腹にグェスの子がい
るだけでもう毎日が幸せです。
おま○こにオークち○こを受け入れてしまった女の殆どが数時間で と ろ っ と ろ にされてしまうのですから、おま
○この奥のさらに奥へオークを宿して一月以上経つ私が完全に堕ちちゃっても当然なのです。

うん。きっと、いえ絶対にこの子に一目惚れしちゃいます。産まれてきたら。
元々ナルシスの気がありますからねー 大好きな旦那様と私の息子ですもの、胎児の今から愛おしくてたまりません。
産まれる前から母親をとろかせているのだから、この子も立派なエロモンスターに育つのでしょう。


オーク妻となった人間雌は快楽と幸福に脳味噌溶けているので、近い将来おそらく1年以上2年以内に来る筈のそのときを、
実の息子に筆おろししてあげる日を心待ちにしてしまうのです。

あ、話は飛びますが昨夜イワノフと本番えっちしました。もちろん膣出しありで。

妻帯者だけあって我慢強いち○こしてまして、おしゃぶり責めに漏斗の砂が落ちきるまで耐えきった彼が性教育第五の試練一
番乗りを果たしたのです。
夫たちには遠く及びませんけど、下っ端オークとしては孕み女の扱いになれているイワノフに抱かれるのもこれはこれで。

ハラキズのように私のことが好きで好きで堪らないオークの精を受け止めるのも良いけど、イワノフのように本命も対抗も他
にいるオークに、情欲のはけ口にされちゃうのも良いものです。
マゾの気もあるのかな? 私。まあ、オーク妻としては度を超さない限り悪くない属性ですけどね、被虐嗜好は。


マゾな人がそうなのかは知りませんが、私は巨根好きの傾向があります。ちょっと大きすぎるぐらいのち○こをねじ込まれて
肉穴をぐりぐりえぐられるのが大好きなのです。
ですので義息子たちのなかで一番ご立派なアンドレの逸物を見たり触ったり舐め回したりするたびに、これをおま○こで咥え
こんでみたいなー なんてことを考えていました。

仏教徒的には邪淫戒にひっかかる願望ですけどオーク島では名付け母が義息子の童貞を貰っちゃうのも、女の扱い方を実地で
教えるのもごく普通のこと。
なので今日あたりというかもうすぐ、早ければ数分後にはアンドレと合体しちゃうでしょう。


いや、ほら、あんまり焦らすと可哀想ですし。
ソーニャさんはケサガケ・ゴエモン・ハラキズ・イワノフの非童貞四人以外への誘惑をしばらくのあいだしないと約束してく
れましたけど、彼女はオーク大好きですからねえ。
下っ端たちに押し倒されたりしたら嬉々として受け入れてしまいそうです。

大母様もでしたけど、どんなに強い女でも寝床の中では‥‥いえ、オークに求められたらそれだけで降参してしまうのですよ、
調教済みの雌ですから。

違う、逆だ。
ソーニャさんは一人ででも生きていける強い雌だからこそ、雄に暴力面の頼りがいを求めていないのです。
小遣い銭で国が買える大富豪な女が、財産ねらいで小金持ちな男と結婚したがるか? ということですよ。
もしいたらそいつは強欲のバケモノだ。


話を戻すと、焦っているのは私なのです。女の魅力で勝てませんからねソーニャさんには。
夫たち幹部層はソーニャさんの好みから外れ気味ですし、ロリ好きの黒髪好きなのでさほど心配してませんが我慢させ続けて
いる下っ端たちは暴発しそうです。

私、彼らが大好きなのです。
巫女への尊崇や義母への思慕だけでなく、雌への欲望も受け止めてあげたい。いつか彼らが組み敷いて、貫いて、喘がせて、
逝かせまくった末に孕ませてしまう女達の練習台にして欲しいのです。


そういう訳で、今朝の性教育はアンドレを教材にしてます。いまは素股しているところ。
仰向けに寝そべらせた素っ裸の下っ端オークに跨ってます。
疑似騎乗位の私も、首飾りと指輪以外は何も身に付けてません。

いま右手の薬指に付けている魔法の指輪はソーニャさんから貰ったもので、回避力や防御力そしてほぼ全ての耐性を僅かに上
げる効果と、落下や転倒のダメージを大幅に軽減し僅かに吸収する効果があります。
ゲーム的に言うと 

・落下及び転倒による被害を自動的に半減し、その上で僅かに吸収する。

ぐらいの能力ですね。これがないとブランコにも乗せて貰えません。



鬼の持っている金砕棒みたいな夫達の逸物と違ってアンドレのは軟らかい系ですけど、若竹のような弾性もありまして‥‥
あえていうなら丈夫なスプリング鋼材をマシュマロめいた素材で被った張り型みたいな感触です。
いえ、前世も含めてそういったものに触れた経験はありませんけど。

まあとにかく、ふよふよすべすべの温かい肉ドリルをロリータのスジま○こで挟んで押さえつけて擦っているわけです。
金属製フラフープを使っての腰振り運動を見て貰うのも悪くないけど、肉溝で雄の先端咥えこんで腰を振るエロスの踊りを披
露する嬉びには及びません。
夫たち義息子たちの熱い視線に溶かされてもう股間がとろっとろです。


で、やってみてから気付きましたけど、この行為には大きな問題がありまして。

「‥‥モゥ‥‥ダメ」
「あっ まって まだ、まだですよ?!」

これまでの、義息子の股間に顔を寄せての手指唇舌を使った接触と違いまして素股じゃ漏らしそうになっても押さえられない。
射精しそうになったら指先でち○この根元近くのとある場所を押さえたら暴発を止められるのですが、騎乗位状態だとそれが
できません。
漏斗に盛られた砂は七割方残っています。全部落ちきるまであと2分はかかりますが、その半分だって持たないでしょう。


うーん、そろそろアンドレの童貞貰ってあげたかったんだけどなー。
ま、いいか。多分つぎの機会には挿入まで持ち込めそうだし。このまま出させてしまいましょう。






[38600] 52
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/04/22 16:46




 ☆104日め、はしらのきずは先々月の☆



最近睡眠時間が減ってきました。まだ一日あたり10時間近く寝ていますけど。
あと多少は睡魔にも抵抗できるようになりました。これまでは電源切られたロボットみたいに意識途絶えていたけど、今なら
倒れるまで1分近く足掻けます。

毎日少しずつの変化なので分かりにくいですけど、着実に成長しているのですよこの身体は。
今朝ためしに計ってみたら、身長も2センチほど伸びてましたし。
実は体重が転生当初よりも3キロ近く増えてまして、現在の推定体重は29キロ弱だったりします。
太ったのではありません、腰回りはかえって細くなってます。尻や胸あたりの脂肪層は若干厚くなってますけど。

増えた体重の大部分は筋肉なのです。
半月前ぐらいから兆候はありました。丸太転がしの坂を上るのが苦にならなかったりとかね。
足腰、とくに骨盤周りの内部筋(インナーマッスル)が増えて運動能力が上がっているのです。

考えてみればここ一月以上毎日踊ってましたからねえ、特に夫たちの上で。
夜な夜な、いえ昼間にも腰が立たなくなるぐらい動いたり動かれたりしてましたからその運動量は馬鹿になりません。
ふむ。オークと交わった女の締まりが良くなるのって、単純に膣まわりの筋肉が鍛えられるからだったのか。
それが全てではありませんが安産になる理由の一つではありそうです。実際、挿入されると下半身の血行良くなりますし。



今回のお出かけは徒歩です。途中までですが自分で歩きます。
足の装備品がソーニャさんに貰った魔法の長靴(ブーツ)なので、完全に自力で移動しているわけじゃありませんがそれを言い
出したら裸族になるしかない。

魔法の靴と言っても色々ありまして、いま履いているのは各種属性攻撃や毒や病気への耐性を与え転倒や落下の確率を下げる
だけでなく野外での移動能力を大幅に上げてくれる優れものです。
まだ普通の靴との比較実験をしていないので体感情報しかありませんが、歩く速度が二倍以上になっています。
推定移動速度毎時9㎞、しかも山道をですからね。

温泉洞窟から人面獅子の洞窟まで直線距離で30㎞程度、休憩を入れて四時間弱の道程を歩いて特に疲労していない。
我ながら見違えるほど体力が付きました。そういえば最近は夜のお勤めというか夫たちとの本番えっちでも長持ちするように
なった気がします。一月前はお湯を注いだカップ麺がまだ固いぐらいの時間でへたばってましたけど、いまは麺がのびてしま
うぐらいの時間は気絶したりせずに夫たちを楽しませてあげられます。



さて、ここからは見えませんが外では太陽が中天に差し掛かる頃合い。
現在地は人面獅子の出てきた洞窟、その入り口に近い小部屋。隣の大部屋が人面獅子親子のねぐらだった場所です。

この洞窟と、洞窟とつながっていた迷宮は既に攻略されています。
96日目の朝~昼と98日目の夜の二回、ソーニャさん+幹部オーク三人で根こそぎ浚ってしまいました。
奥の迷宮は数百年前、鉄の王より更に前の時代に使われていた研究施設の跡地でして、何らかの理由により放棄されたものの
ようですね。
戦利品などは現在じっくりと鑑定中。とりあえず錬金術用の器具や霊薬用の保存瓶は温泉洞窟の錬金工房に入れてあります。


あの魔獣一家は研究所の実験体だったらしく、危険生物用の檻に数百年間仮死状態で封じ込められていたのですが研究施設跡
地にマナが溜まりすぎて迷宮と化した際に目覚めたのです。
そして周囲に溜まったマナを吸って強くなり、檻を破って外に出た。
ただ彼らにとって不運なことに、できたばかりの開口部から這い出した直後に温泉洞窟ご一行様と鉢合わせしてしまいまして。

全滅したのは自業自得ですけどね、向こうから喧嘩を売ってこなけりゃ逃げられたのに。


ボスモンスターの撃破や全ての部屋の制圧など、何らかの条件を満たしてしまうと迷宮は「枯れて」しまうことがあります。
完全攻略して枯れてしまった迷宮はただの廃墟に過ぎません。

またマナが溜まって再稼働を始めるまでは安全なのです。徘徊する(ワンダリング)怪物も湧きません。普通の洞窟や廃墟のよ
うに外からやって来た生き物やモンスターのねぐらになることはありますけど。

なのでオークたちが大岩で入り口に蓋をして、ソーニャさんが結界を張れば安全な休憩所になります。
ええ、素っ裸のオーク妻が気絶するまで夫たちに可愛がって貰えるぐらい安全なのです。


凄かったなー 対面坐位でウォスと繋がったまま、ドスの手で「浄化の首飾り」を一つ一つ尻穴に埋め込まれて‥‥ 
馴染んだところでクリ○リスの根元あたりを指で扱かれて、同時に尻穴開発用の淫具をゆっくり引き抜かれてもうそれだけで
逝ってしまいました。

ウォスは両手で両の乳首を責めてくるしディープキスしてくるしドスとぴったりの呼吸でち○こ抜き差ししてくるしで、もう
本当に気持ち良い3Pでした。
元から大好きな夫たちですが、身体を重ねるたびに好きになっていく実感があります。


もし、もしも嫌いだったとしてもやはり肉が交わるごとに好きになってしまうのでしょうか? 私も?
殺しても飽き足りないほど憎んでいても、オーク島以外の土地で犯されている女たちの大半がそうであるように、仇の強姦魔
に膣出しをお強請りして逝かせて貰ううちに情が移ってしまうのでしょうか?


ま、良いか。気にしてもしょうがない。
私もコーネリアもソーニャさんもイワノフの妻たち(エレナ、セアラ、アリア)もオークとは和姦しかしてませんしこれからも
和姦しかしませんし。


「えーと、うん、そうね」

なにやら歯切れの悪いお師匠様を問い詰めてみると、彼女は逆強姦と強姦誘導(いわゆる誘い受け)の常習者だったそうで。


縄張り争いで負けてオークの勢力圏から押し出されて人里近くまでやってきた弱小の群が暮らすねぐらに忍び寄って、見張り
の癖に居眠りなんかしちゃっている下っ端オークの腰布をまくり上げていたのですよ。
人間の雌なんて触れたこともない未使用ち○こを触ってしゃぶってそそり立たせてから、眠ったまま跨って逆強姦したりして
いたのです。

「眠り」や「困惑」の呪文を使えば十数匹の群全員を睡姦してしまうことも難しくはなかったとか。

あー 気持ちは解る。寝ているオークに悪戯するのって楽しいですからね。
軟らかいオークち○こをそっとくわえ込んで、ゆっくりじっくりしゃぶって起たせてあげるのってオーク妻というかオークと
同衾している者じゃないと味わえない嬉びですよねー。


そうか、逆強姦なら私でもできる‥‥のかな? してどうするという問題はあるけど。
今度ハラキズが寝ているときにでもひとつセクハラを試してみますか、起こさずに夢精まで導けるかとかを。





 ☆104日めの2、幹部三名とお師匠様は当然知ってましたよ☆



今回の小旅行参加者は、私、ウォス、ドス、ハラキズ、アンドレ、イシカワ、ソーニャさんの7名です。
行き先はお馴染みミッシェル山大神殿。目的は満月の夜に開かれる美人コンテストなんだか奴隷市なんだか判別しにくい催し
物に行き、よさげな女の子がいれば引き取ることです。とりあえず上限は3人程度まで。


温泉洞窟の拡張工事はまだ途中ですが、移住予約済みも入れて10人ぐらいなら無理なく女たちが暮らせる筈です。
つまり私とコーネリアとお師匠様とイワノフの妻たちと義娘を除けば3人程度まで引き取れる。
購入資金(お布施)は夫たちとソーニャさんが日々の空き時間に集めてくれました。


そのあいだ私と下っ端たちはお留守番してました。
夫たちと師匠が迷宮潜ってるあいだ、性教育を口実に愛人とその候補たちと裸の付き合いやら露出ショウやらやって夜も昼も
お腹に義息子たちのち○こか子種汁が入っているという爛れた生活していました。

帰ってきた旦那様たちに、留守の間だれに何回抱かれて何度膣出しや口内発射されたか報告するのって、すっごく楽しい。
良心というか、これはどうなのかなあ? と心が咎めないこともないけど気持ち良くてついついやってしまう行為を、心から
信じ頼り尊敬している夫たちに赦され認められ誉めて貰える。
しかも夫たちから、留守の間に抱かれた回数よりも多く濃厚に可愛がって貰えるのです。


これは駄目になる。堕落してしまう。
毎晩のように路上強盗やっては教会の懺悔室に飛び込むストリートギャングの気持ちがちょっとだけ分かります。

家族公認というか親族推奨で戸籍弄ってまでして子作り近親姦している兄妹夫婦とか、こんな感じなのかな?
いえ、前世の知り合いにそういうカップルがいましてね。同じ腹から産まれて一つ屋根の下で育った兄妹だけど戸籍は従兄妹
になってて結婚して子供作っていたのが。
元気かなあ、あの人ら。そういえば前世で落雷する前に、ドイツだったか何処だったかで兄妹姉弟婚が合法化するかもしれな
いとかなんとか、そんな与太話がありましたけどまさか‥‥?



話を戻すと、留守番暮らしのうちに性教育も進みまして100日目にアンドレとブロディとイシカワの三人がめでたく童貞卒
業しました。
もちろん捨て先は私です。どの子も可愛くて可愛くて、最高のひとときでした。


いやー 童貞喰いって良いものですね。ソーニャさんが遠慮してくれるわけです。これで半年は寿命延びたわ。
人間は肉体的精神的な負荷や抑圧が溜まると衰弱します。ストレスは寿命を縮めるのです。
逆に言うと気持ち良くて楽しくて愉快だと寿命が延びます。
初夏の鰹や真夏のウナギは栄養面よりもむしろ「この季節はこれ食わなきゃなー」という満足感の効果が高いわけで。

更に言うと昨夜にタレミミとデコバチの童貞も頂きました。こっちも負けず劣らず美味しかったです。
マザコンこじらせてる息子の童貞を優しくもらってあげるのがオーク母のたしなみ。
立派に育った我が子を受け入れる喜びを邪魔しちゃいけませんよね。なのでソーニャさんがいま孕んでいる三つ子の童貞は彼
女のものです。売約済み。いやまあ、向こうがどうしてもというなら考えないこともないですけど。


長期的な家族計画についていうと、どうもソーニャさんと夫たち三人は相性良くないですね。
私の想定以上に、互いにコヅクリしたいという欲求が湧きにくいようなのです。

ショタ趣味のツバメ食いだけど実は老人もいける口なソーニャさんは、つまり庇護欲や保護欲をそそる雄が好みでして。
これが「自分の強さ」に溺れている脇の甘い若造とかならまだ良いのですが、人格的に落ち着いているオークは好みじゃない
のですよお師匠様は。
良くこの養母兼師匠兼奴隷妻から自立できたよなあ二番目の旦那さんは。

で、下半身に関しては妙に奥手というかヘタレというか選り好み激しい夫たちは、お師匠様を孕ませる気がない。
私からは「ソーニャさんなら許しちゃいますよ」と言ってますし一緒に御奉仕プレイとかもしてみましたけどね。
結果? 乗り気になれないってことだけは解りましたよ。薦めれば薦める程、話が纏まらなくなる気がする。


困ったものです。私のロリボディでは一度に3~4人しか産めません。
人間の女の子も産んでみたいですけど、オーク妻としてはオークの男の子産むのが王道ですからねー。

温泉洞窟の族長夫人ですがお嫁さん大募集中。平たく言えば幹部オーク三人の子を産んでくれる雌が欲しい。

何と言いますか、本能が命じるんですよ。仲間を増やせって。
衣食住が満たされ、身も心も愛情で潤されるとオーク妻はハーレム仲間というか幸せを分かちあう存在が欲しくなるのです。
あと10年もすれば実の娘たちと一緒に母娘丼御奉仕とかできますけど、ただ待つには十年という時間は長すぎる。



ちなみに今回も同行者選びは身支度の速さで決めました。
前回との違いは、出発予定を一日繰り上げたことです。前もって「満月の日の朝に出るよー」といっておきながら「やっぱり
今日にするわー」と突然言ってみたのです。

実戦なら奇襲不意打ちはあって当然。この程度のことで混乱するような未熟者はとても連れて歩けません。
なお、ゴエモンとイワノフは数日前に大神殿に行って嫁(たち)といちゃいちゃし倒してきたばかりなので同行を辞退。
ケサガケは前夜(正確には当日明け方まで)ソーニャさんに搾られていたため熟睡してしまい失格しました。
タレミミとデコバチは童貞卒業の祝い酒が残っていて二日酔い気味だったので間に合わず、ブロディはアンドレに僅差で敗れ
ています。

気のせいじゃありませんよね。卒業組と童貞組で明らかに差がある。
同行者はもちろん競り合って負けた連中も全員卒業済みです。
元々下っ端の中では強い部類だったケサガケや嫁のおかげで士気が天元突破しているゴエモンはともかく、これまでほぼ互角
だったハンセンとブロディに有為な差ができています。
私の知る限り二人の違いは性教育の差ぐらいしかないのですが、やはりオーク族は童貞卒業すると強くなるのかな?

オークに抱かれた人間雌が足腰強くなって動きが良くなるのですから、人間雌を抱いたオークの動きが良くなってもおかしく
はない‥‥筈?


ただ、ここまで効果があるなら既に大母様が採用している筈なのですよねー。

壺毒じみた同士討ち儀式の参加者だけでなく、普段から当然のように下っ端オーク達に抱かれているでしょう。
大神殿の下っ端オーク達は数百名。温泉洞窟と同じ程度の濃度でやるとしても性教育の講師兼教材は百名も要りません。

つまり、ただ単に女を抱いただけで著しい結果が出る訳じゃない。
何が違うのでしょうか? 更なる研究が必要です。

ふむ。今回の旅行から帰ったら実験してみますか。
ブルボンとアドニスのどちらかをソーニャさんに抱いて貰って、明かな差違が出ればいま立てている仮説の補強になる筈。





さて、休憩所や避難所として使えるこの遺跡ですがもっと重要な価値があります。
転移魔法の基点として使えるのです。


各種の魔法系統には遠距離空間転移系の呪文があります。だいたいにおいて5~6位階の呪文でして、このくらいの呪文が使
えるようになれば「二つ名持ち(ネームド)」として勇者とか英雄とか呼ばれるべき実力となります。
大型の飛竜(ワイバーン)や弱めの巨人なら正面から叩きつぶせる強さですからね、そこまでいくと。

しかしそれらの、達人の端くれに引っかかっている程度の実力では「遠距離転移(テレポート)」などの呪文を使いこなすのは
難しい。
ちょっと座標軸を間違えて「いしのなかにいる!」状態、という悲劇はわりと起きているのですよ。新米水兵が戦艦内部で迷
子になって帰ってこなくなる事案と同じぐらいには。

まあ、「狂王の練兵場」と違って埋まっちゃった粗忽者は助けることもできます。死骸を土砂や岩盤の中から掘り出して蘇生
させればなんとかなる。
ソーニャさんも生き埋め状態から救出されたりしたりの経験があるそうですし。


かように危険な転移魔法ですが、事故を避けるというか起きにくくする方法は色々とありましてそのうちの一つが魔術的な目
標物を利用することです。
前世的に言うならランドマークとかレイラインとかパワースポットとか、そんな感じですね。

要は地形や目標物を頼りにする訳で。
この遺跡は長距離転移する際の目標になりえる場所なのです。お師匠様はオーク島全体で既に4箇所ほど同じような基点を見
つけていまして、呪文やアイテムを使えばそれらの場所を瞬間移動できるのです。安全に。

実際にソーニャさんは、グェスやゴエモンたちと一緒に転移していますからねー98日目の探索のときに。
近所の迷宮とかで集めたコインなども一緒に、人面獅子のねぐらから集めた財貨をミッシェル山まで持っていきましてついで
に下っ端二人に女房と面会させていたのです。

あ、奉納と面会は朝一番でだから正確には99日目にか。
その後もお師匠様は一回あたり数時間ですが一人またはオークたちを連れて転移しまくってます。そのうち三回ほどは東方文
明圏まで行って帰って来ました。ご両親のお墓参りや知人への挨拶回りと、隠し財産の一部を回収するのが目的です。


ミッシェル山は転移魔法の目標になるけど温泉洞窟は無理なのは、信仰的なものではなく魔法的な要因でして。
正確に言うと、転移魔法が安心して使える場所だからミッシェル山は古代文明の時代から空港(転移港?)的に使われ続けてま
して、「鉄の王」もそう言った面で便利だから本拠地にしていたのです。

今は壊れてますけど、植民地時代には西方文明へ直接転移できる魔法装置とかもあった訳ですし。
消費魔力が高くて採算合わないから、稼働していた当時もあくまで緊急用だったのでしょうけど。




では、休憩後の入浴と昼ご飯と身だしなみも終えましたし行くとしますか。
風呂桶も風呂椅子も仕舞いましたね。忘れ物がないか再度確認してから7人が一塊りになりまして、ソーニャさんの呪文詠唱
を待ちます。
そういえば数十㎞を一気に動く長距離転移は初めてですねー温泉洞窟の近くで短距離の転移は何度かしましたが。

「次元扉(ディメンジョンドアー)」の呪文とは感じがまた違いましてね。
転移魔法の感覚って前世のエレベーターとちょっと似てます。多分移動した瞬間に重力とか遠心力がずれるからでしょう。
こう、自由落下するコースターのような重力消失感が一瞬だけ‥‥?!


あれ? 無重力感が、かつてない強さですよ?


それに、なぜか視界が赤いのですが。
空が赤く染まってます。太陽が沈みかけている。

なぜか猛烈に風切り音がして、寒い。身体がどんどん冷えていく。周りを突風が吹いている。
目を開けるにも苦労するほどの暴風です。いや暴れてはない、方向性は固定されてます。

重力の喪失感が消えない。自由落下が続いている? 

 
落ちてる。落ちているんですよ私は! 
地面が、頭上に広がる岩山と森と荒野がどんどん近く大きくなっています。
違う。オーク島じゃない、この島にあんな広い平地はない。森にしても岩肌にしても南国のものじゃない、色彩が暗い。


落ちる。落ちていく。


「プギー!!!」

声の方を見れば、一匹の下っ端オークがじたばたと暴れながら落ちているところでした。
お腹の傷跡を見るまでもなくハラキズです。より上空から私の傍を追い抜いていく。
あの子の方が落下速度が大きい‥‥? 空気抵抗か!

前世の記憶を頼りに、手足をすぼめ身体の向きと傾きを調節して落ちていくハラキズを追いかけます。
読んでて良かった空挺部隊漫画、空気に素潜りする気でいくとなんとかなる。
空気抵抗を利用すれば落下中でも多少は動けるのですよ。空中遊泳と言うぐらいですからね。


パニック起こしている義息子に空中でしがみつき、呪文二種を同時発動。「制心(サニティ)」と「意思の疎通」で沈静化。
大の字に姿勢を変えさせ減速させます。

確か空気抵抗を最大限に活かせば落下傘なしでも時速200㎞程度まで落下速度を落とせる筈。
もちろんその速度で地面に激突すれば 死 あるのみ。受け身が取れることもある交通事故でさえ、時速40㎞以上の速度で
ぶつかれば人体は確実に破損します。
時速200㎞で激突すればその25倍もの運動エネルギーです。挽肉ですめば幸運でしょう。

なんとか他の手で更に減速しなくてはなりません。
現在の高度が1000メートル未満、降下速度が時速240㎞としてあと15秒かそこらは使える。


どうする。落下傘代わりの物を作っている暇はありません。

巻物(スクロール)は却下、この状況で読める訳がない。
霊薬(エリクサー)も駄目です、口の中に瓶突っ込めば飲めなくもないでしょうが「気体化」薬は一瓶しかありません。それで
は私とハラキズのどちらかしか助からない。

ならこれしかないか。
着地まであと十秒弱。


「掴まりなさい!」

叫びつつ腰の無限袋から飛行用箒を引き出して、ハラキズにしがみつかせます。そして私はハラキズに箒ごと抱えられたまま
箒の飛行機能を使って急制動をかけました。
ええ、これはお伽話の魔女が跨るあの箒です。自転車並の速度が出せますが高度を上げると不安定になるのが難点。

安定して飛べるのは、私の腕だと二階建ての屋根を越えるのがやっとです。しかし浮力そのものは大きい。
頑丈が取り得のオーク族、そして転倒及び落下対策アイテムフル装備の私なら箒をへし折る覚悟で減速すればあるいは!?


無理でした。

元々人間族の大人二人が限界の飛行用箒は、落下速度をかなりのところまで落としてくれましたが地上40メートル程の高度
で折れてしまいました。速度は落ちたものの、未だに空いている高速道路を走る車輌ぐらいは出てる。

ああ、死んだなこれは。もう走馬燈が回る暇もありません。





 ☆105日め、何故?の嵐☆



月の満ち欠けと星座の位置から察するに、私は丸一日以上気絶していたようです。つまり今は夜。
夜空には満月が輝いています。

ええ、生きていますよ何故かは解りませんが。
特に怪我らしい怪我もありません、風邪引きそうですけど。

お腹の子も無事です。
ただ、助かったのは良いけどここは何処なのでしょう? あと、一緒に落ちた筈のハラキズが見当たりません。


見上げる月はいつもと同じだけど星座の位置が違う。夜空が全体的に南方向にずれていて、北の空には見慣れない星もある。
多分‥‥オーク島からみて北に1000㎞以上ずれた座標ですね。
落ちたときに夕方だったから、東方向に瞬間移動したとすれば時差は5~6時間ぐらい? この星が地球とほぼ同じ大きさな
らここは大内海の反対側かな?

それにしても寒い。夏とはいえ温帯域の山中で夜中に裸なのだから当然ですが。
耐性防具で冷気は防げますが、普通に寒いのは防げません。保護系機能の付いた魔法の指輪は、明らかに低い温度なら受ける
筈の被害を大幅に軽減し幾らかを吸収してくれますけど、体感で15度ぐらいだと作動しないのですよ。
おかげで歩いているのに少しも温かくなりません。
歯の根も合わぬってほどではないけど、このまま夜を明かしたら確実に風邪を引くでしょう。


「へくちっ」

思わずくしゃみが出てしまいまして、先導していた狼が振り向きました。

「なんでもないです、気にしないで」

ひらひらと手を振ると、狼は地面の匂いを嗅ぎつつまた歩き始めました。
その後からなるべく音を立てないように付いていきます。
長靴が残っていて良かった、素足で未舗装路というか獣道は辛すぎる。


しばらく歩くと、大きな木の根元にぼろぼろになった豹毛皮が落ちていました。間違いなく私が着ていたものです。
周囲を探すとクックリ刀に愛用のナイフ、そして無限袋が二つ見つかりました。
中身を確認すると、旅行道具一式を入れていた無限袋です。

やれやれ、取りあえずこれで餓死も凍死もせずにすみそうです。
さっそく無限袋から衣服の類を出して身に付けます。予備の毛皮服と毛皮の見せパンツに毛皮のマント、長タイツ&長靴と
取り合わせに少々難がありますが致し方ありません。まずは寒さを防がねば。


宴席用の酒壷葡萄酒を無限袋から取りだし咽を潤します。ふう、生き返る。
ええと、何か狼が食べそうなものは、と。


「血抜きして皮を剥いで内臓を取ったカピバラ肉と大トカゲ肉がありますけど、どっちにします?」

どちらも食べたそうなので両方あげることにしました。
狼は、地面に置いた二つの肉塊を貪り食ってます。
特にお腹が空いている風でもありませんでしたけど、大型肉食獣には合わせて30㎏程度の肉など軽食に過ぎないようです。


それにしても大きいなー。下手な獅子や虎より大きいかもしれません。体重で言えば200㎏以上あるでしょう。
流石に前世で見たホルスタイン牛に比べれば小さいけど、ロバよりは大きいですね。


ついさっき、30分も経ってないでしょう。私はこの狼‥‥狼だよね? やたら大きいけど。
狼に頬を舐められて気が付いたのです。
いえ、舐められたのは頬以外もですけどね。ただ単に頬以外の場所では目覚めなかっただけで。


何故か落ちたのに生きていた私は、何故か襲わなかった大型狼に舐められて意識を取り戻し、何故か素っ裸になっていて、
何故か指輪とか首飾りとかの装身具だけは傍にありました。あと靴と靴下も。

で、駄目元で試してみた「意思の疎通」が狼にも効きまして、私は狼がたどる匂いを頼りにここまで、墜落現場らしき地点ま
でやって来たのです。
狼に案内と護衛を頼んで無事に荷物が見つかるあたり、本当にファンタジーだなあこの世界は。

しかし、何故に私は墜落現場から700メートル以上離れた場所まで動いていたのでしょうか?


狼の鼻が正しければ、近くにハラキズはいないようです。
生きているオークはもちろん死体もありません。ただ、地面にスライムか何かが這い回った跡がある。粘液跡が少ないし食い
残しがないのでハラキズが食べられてしまった可能性はまず有り得ません。



最後の、記憶が途絶える寸前は何が起きたんでしたっけ? 森の木々へ激突する寸前までは憶えています。
いやその前に、何故ハラキズと私だけが数千㎞離れているであろう場所の上空に放り出されたのでしょうか。
二人だけですよね? 少なくとも落下中に見えたのはハラキズだけでした。

転移事故かそれとも事件か? なんにせよ出現した高度が高くて良かった。もしも地上100メートルとかだったら箒を出す
暇もなく墜死していたでしょう。

魔法の箒は壊れてしまいましたけどね。お師匠様に貰った希少アイテムだったのに、全損してしまいました。
残骸を一応回収しておきますか、錬金素材になるかもしれません。


Q3、女神様、ハラキズは無事でしょうか?
A3、‥‥‥‥‥‥。

応答無し。アンテナは三本立っている感じなのですが。
ふむ。これは事故でない可能性が高いですね、偶然じゃないことは確かです。
女神様通信が途絶えているということは、何者かの妨害か何かのイベント(催し物)扱いなのか?


とりあえず腹ごしらえしますか。お握りと漬け物と笹カマボコもどきで。






 ☆106日め、違う空の下☆



結局、ハラキズは見つかりませんでした。
コインと宝石の入ったお財布など金目のものが触られた形跡がないので、物取りに連れ去られた訳ではなさそうです。
野生動物が攫っていったなら私の直感と狼の感覚で手がかりの一つや二つは掴める筈。
まさか、ハラキズはここには落ちなかったのかな?

狼は岩の上で寝ている私を見つけたから起こしただけのようです。彼の鼻では周囲1㎞以内にオークやその痕跡はない。

狼‥‥ですよねえ。そのわりにフレンドリーですけど。
犬と狼の分岐点って人に懐くか懐かないかで、進化の結果家猫と西表山猫ほどじゃないにしてもかなり違う模倣子(ミーム)に
なっているはずなのですが。野生化した狼犬(ウルフドッグ)なのかもしれません。

荷物を探してくれたお礼に毛皮を梳いてあげると、ノミやダニがいなくなって気持ち良くなった狼は朝寝してしまいました。
いや、夜行性だから朝から寝ていて正しいのか。
魔法のブラシがあって良かった。普通の櫛と虫取り草の粉だけでもノミ取りはできますけどあれは面倒くさい。


狼の協力で墜落現場付近から更に無限袋を4つ、貪り食う無限袋を1つ見つけています。野生動物の嗅覚って凄い。
これで落下時に私が持っていた無限袋の全てを回収できました。ちなみに全部自前です。
人面獅子の遺跡で見つかった無限袋の殆どを貰いましたからねー。正確には巣の共有財産を預かっているのですが。
大神殿から借りている無限袋二つは奉納品を詰め込んで夫たちに預けてます。

無限袋が幾つもあると咄嗟のときに「アレはどの袋に入れたっけ?」となりかねませんので、旅の最中は腰の左右に付けた無
限袋その一とその二を使うことにしてまして、残りの無限袋は懐に仕舞っているのです。


無限袋1の中身は鋳造機(金貨一万枚入り)+武器+冒険用道具類一式+旅支度。
無限袋2の中身は武器と防具に大砲二門と弾薬。
無限袋3の中身は服や日用品そして家具類+交易品と奉納品の一部。あと装備品。
無限袋4の中身は新作の武器や発明品の見本+交易品。
無限袋5の中身は食料品と食品系奉納品そしてコーネリアへのお土産など。
無限袋6の中身は予備の矢玉&弾薬と奉納品の銀貨。
‥‥と、こんな感じになっています。貪り食う無限袋は基本空っぽですね。


とりあえず生き残るには充分な物資がある。袋の中の食料だけで半月ぐらいは持ちます。
水は近くに川があるし酒の壷が空になったら汲んでおきますか。竹筒の水筒は割れたから。
川の水質は良くありませんが呪文やアイテムで浄化できる。

問題は防衛力か。キビ団子的アイテムがないから狼は雇えません。
どうも暇だったから私に付き合ってくれただけみたいなのですよねこの犬科動物。石器時代に人里近くで暮らしていた狼たち
のうち人なつこい連中が同居し始めたのが飼い犬の先祖だとすれば、この大型狼はその人なつこい個体に当たるのでしょう。
つまり彼(オスでした)が飽きたらお別れなのです。

護衛がいないと危険です。なんとかしなくては。
ふむ。手持ちの鋼材(小型大砲二門)を潰せば個人用シェルターじみたものが作れるかな?
手作りカプセルホテルに入って救援が来るまで隠れているべきか、それとも積極的に動くべきか。


考えるまでもない。動くべきですね。

このファンタジーな世界でなら行方不明者が止まっていても動いていても、探す側の苦労は変わらない筈です。
丸一日以上経っているのに救助がこないということは、巣のみんなしてそれどころじゃない状態に陥っているのでしょう。
もしかしたら私よりも酷い状態で助けを待っているかもしれません。
ここはひとつ、自力で帰還してみんなを助けに行くぐらいの気概でいかねば。

とりあえずハラキズ探しましょう。
私より丈夫だから生きているでしょうけど、早く見つけてあげないと寂しくて泣いちゃうかもしれませんし。


「?」

すっくと立ち上がり拳を握りしめると、うたた寝していた狼が起きました。
うーん、犬が飴玉やリンゴを食べるなら狼も食べるかな?

「蜂の巣あげるから、人里近くまで乗せていってくれませんか」
「わふっ」

おお、二つ返事。何でも言ってみるものです。これで私もウルフライダー。

さっそく搭乗‥‥してみましたけど鞍も手綱もないから乗りにくいなー。歩いた方が早いし。
毛皮に掴まって乗っているから、狼が早足で歩くと落ちそうになるんですよ。
でも楽しいから良いか。視点が高くなって周囲の警戒も楽ですし野生動物は狼を恐れて逃げていくので面倒がありません。


狼に乗って森の中を数時間動くと平地に出ました。遠くに石造りの城壁、いえその残骸が見えますね。
岩だらけの荒野は所々に茂みが生えている程度で、植生が薄そうです。街の近くは農園らしき緑地帯あり。
ふむ。古代都市の城壁を利用して街を造っているのか。街道を馬車や徒歩の旅人らしき影が行き来していますし市街から何本
も煙が立っていますので廃墟ではなさそうです。
規模からして街の人口は数千人ぐらいかな?


お礼の食べ物をあげて、ついでに毛を念入りに掻いてあげて狼と別れました。
心細いですが野生動物に無理強いはできません。街には近寄りたくない様子でしたし。

これだけの都市ならそこそこの腕前な魔法使いがいる筈です。なんとしてでも「物品捜索(ロケート・オブジェクト)」の呪文
をかけて貰わねば。
ハラキズに預けている魔法の短剣(ダガー)を探知呪文で探れば大雑把な位置が掴める筈。


慎重に歩くこと半時間あまり。街の近くまでやってきました。

では、いってみますか。人間の街は初めてなので不安ですけど。
都市の表門を避けたのは万が一に備えてです。もしも検問所に入城者がモンスターかどうかを探る機能や人員がいて、お腹の
子がオークだとばれたら拙いことになる。
人通りが多い表門には衛兵も大勢いるはず、囲まれると逃げ切れないかもしれません。

考え過ぎかな。でも用心するに越したことはない。
まずは裏門の様子を探ってみますか。
誰か暇そうな人物を見つけたら話しかけてみようかな。共通語(コモン)が通じると良いのですが。



「ふざけた餓鬼が‥‥手前ぇ自分の立場ってものがわかってんのか!?」

通じるよ。無駄に流暢な共通語(コモン)で罵倒しているよ誰だか知らないけど。





 ☆106日めの2、どこもいっしょか☆



この街は廃墟となった大都市の一部分を利用して造ったようですね。
外壁の半分は本来のものだけど、残り半分は石造りの建物の隙間に石材を積み上げて簡易城壁にしたものです。
四角い城塞都市の隅を、四区画ぶんほど区切って外辺の路地や隙間を塞いで壁にしたとみた。

で、そうして造った新市街外壁の外にはその数倍の土地が廃墟となって広がっているのです。
いま私はその廃墟側で物陰に潜んで様子を窺っています。

十数メートル先で繰り広げられているのは特に珍しくもない光景でして、二人組のごろつきが子供を虐めているのです。


画に描いたよーな搾取の図だ。
聞こえてくる話から察するに、薬草の入った小籠を取りあげられ蹴倒されている幼女は薬草つみ(採集人)で薬師ギルドの下請
け労働者なのです。
スカート姿だしリボンらしきもので長めの髪を纏めているしで、女の子でしょう。

で、黒ずくめなのと上半身半裸なのとのチンピラ二人組は地元のヤクザ者でして、この廃墟区画が縄張りだといってますけど
それは嘘のようです。指摘した幼女は足蹴にされてますけど。

察するに、管理の緩い組織の下っ端が勝手に小遣い稼ぎをしている現場なのでしょう。
ろくに見回りもしていない採集区域を勝手に徴収圏にして、場所代を二重取りしているのです。そして統制ガバガバな地元ヤ
クザは下っ端の勝手働きを見逃している。内輪もめでもしていてそれどころではないのかもしれません。

薬師ギルドへ定額の上納金さえ払えば良いと、建前を素直に信じてしまった子供が馬鹿を見ているのです。
いや、痛い目もか。
まあ当然ではあります。自衛する力も守ってくれる後ろ盾もない者が暢気に生きていける環境ではないのですよこの世界も。


若い男それも筋骨隆々なのが二人がかりで幼女に因縁付けているとは不景気な街だこと。
もっと他にましな悪事はないのかよ。


さてと、どうしましょうかね。
選択肢としては

1 この場から立ち去る。
2 様子を窺う。
3 介入する。

ぐらいかな?


立ち去るのは止めておきましょう。せっかくの第一村人(町人?)です。上手く行けば貴重な情報源になる。
古代ギリシャの哲人も言っています「良い奴隷が欲しいなら恩を売れ」と。
恩義というものを全く理解しないヒトモドキもいますけど、それでも世間の殆どは多少なりとも恩を感じる生き物で構成され
ているのです。犬や猫だって餌やれば懐くんですから。

問題は、チンピラが立ち去った後で現れて幼女を慰める(選択肢2)かそれともまだいる時点で現れてチンピラ共を成敗する
(選択肢3)か、どちらを選ぶべきか。


2番かなあ。

弱そうなチンピラどもですから私一人で倒せるでしょうし、ぶち殺す大義名分を得るのも簡単です。
このレイちゃんは美少女ですからね。チンピラが一目見たら拐かそう売り飛ばそうその前に味見しようとか考えてちょっかい
かけて来るのは当然。あとは「人攫い死すべし慈悲はない」で切ればするりと片づきます。

しかし、あの幼女が脳内お花畑の住人もとい飛び抜けて善良な気質の持ち主だとしたら目の前で殺すと引かれてしまうかもし
れません。たとえチンピラでも。
かといって怪我させずに追い払うほどの腕はないし、半端に痛めつけて生かしておくと後が面倒です。
仲間や兄貴分がクリーピング○インみたいに次々わいて出てきたら厄介だ。


やっぱり3番でいきます。
小銭欲しさに子供の顔を蹴る輩を見逃すなんてストレスが溜まる。ストレスが溜まると胎教に悪いですからね。


「待ちなさい!」

万が一にも逃がしてはならない。しかし向こうから手を出させるには本気で挑発しないと‥‥と、物陰から出たところで、
チンピラAの側頭部に真桑瓜なみの石が命中しました。

「ぐわっ」


うえっ 当たった箇所が思い切り凹んでる。致命傷ですねこれは。
わざと大きな音を立てて物陰から出てきた美少女尼僧兵に注意を惹き付けられていたので不意打ちになったようです。
チンピラAは棒きれのように倒れました。

「ぎゃっ」

チンピラBの方はタンクトップじみた肌着でしか被うものがない胸板を、一拍遅れて飛んできた錆び槍で貫かれました。
こっちは即死か。


死体ともうすぐ死体になる二人のチンピラの間でへたりこみ、震えている幼女の傍に駆け寄ります。
思わず抱きつきそうになるのを押さえて、幼女は四つん這いで私の後に回り込み膝立ちになりました。
恐慌(パニック)を抑えた? 意外と修羅場慣れしていますねこの子、精いっぱい足手まといにならないよう動いている。


さて、と。これからどうこの場を捌こうかな。
実を言うと肉体的な危険はありません。なにせほら、相手がオークですから。

そうです。私が出るのとほぼ同じ頃合いでチンピラ二人を攻撃したのはオーク族なのです。

数は四人、全員下っ端。それもかなり弱い部類ですね、一人だけが星1で残りは0というところかな。
オーク島の住人たちとは民族が違うのか装身具のたぐいは身に付けておらず、錆びまみれの粗末な武器と木材や毛皮をつなぎ
合わせた盾と鎧らしきものを身に付けています。腰ミノではなく、ぼろぼろの布きれを腰に巻いてますね。


オーク達は怯える薬草つみの幼女と、それを庇う位置に立つ完全武装の少女尼僧を前にして戸惑っている。

ええ、とりあえずヒルデニア出身の冒険者という立場で街に入るつもりだったのでいかにも旅の途中といった感じで装備を固
めているのですよ今の私は。

ライト・チェインメイルを縫い込んだ水兵服を着て、腰は天布のショーツ+ガーター+ハイソックスの三点セットと魔法合金
繊維のスカート、足元は魔法の俊足ブーツ、腕には「オーガ腕力の籠手」を付けています。
更に装飾品として護符付き首飾り、各種耐性・状態異常避け・ダメージ軽減能力つきの指輪×2、「巨人力の腰帯」を装備。
武器は魔法の片刃ショートソード(クックリ)と銀の短剣。あと作業用ナイフ。

水兵帽はごく普通のものですが、付けてあるエスティア様の聖印(ホーリーシンボル)は調停の神々の一柱直々に神力を注いで
頂いた特別品です。
ゲーム的に言うとこれを身に付けていればターン・アンデッド(死人払い)の効果と聖水作りの効果が二倍になります。
エスティア様の敬虔な信徒でなければ使えませんけどね。

つまりこんな感じ。

E:★コボルド族の剣
E:水兵の帽子
E:★レイの鎖かたびら
E:☆魔法のスカート
E:☆人食い鬼腕力の籠手
E:☆巨人力の腰帯
E:☆七里長靴
E:☆護身の指輪
E:☆保身の指輪
E:翡翠の首飾り
E:★智炎神の聖印

幼女が藁にも縋る気分になるぐらいには強そうなのですよ見た目的に。



オーク達が戸惑っている理由は、強い弱いじゃなくて態度と匂いが食い違っているからですけどね。
ひょっとしたらあの妙に人懐こい大型狼よりも嗅覚の鋭いかもしれない彼らには、目の前の美少女プリーテスが敵意や害意を
持ってないことが丸わかりですが、その割に態度がキツイので戸惑っています。


ええと、毎度お馴染みの「意思の疎通」で良いか。
オーク達の反応はやや警戒しつつも友好的。どうやら匂いで、目の前の人間雌がオークの子を喜んで宿しているオーク・ラヴ
ァーだと気付いたようです。


テレパシーじみた無言の会話で、相互に手早く自己紹介して状況認識をすり合わせてみたのですが‥‥。

まず、ここはオークたちがバレンと呼んでいる廃都市だそうです。
このオーク達は廃墟の地下でひっそり暮らしている現地民。大ネズミ狩りの途中で騒ぎを聞きつけ現れた、と。

チンピラを襲ったのは隙だらけで簡単に殺せそうだったからです。あとむかついたから。
薬草つみの幼女は可愛いので、できればお持ち帰りしたいけどそうすると巣の近くに住み着いているオーガーに食べられてし
まうので連れ去るつもりはないそうです。

ありゃ。私の出る幕ではありませんでしたか。しかしいまさら逃げるわけにもいきません。
逃げると不自然すぎるし幼女に恩が売れない。
とりあえず私はオーク妻で、冒険者に艤装して人間社会に潜入任務中とオークたちに説明しました。

さてと、どんなお芝居でこの場をごまかそうかな。


お? 幼女のようすが‥‥?

随分と落ち着いてきましたね。
涙も震えも止まってますし、顔色も良くなって頬に赤みがさしてきて、冬でもないのに吐息の熱さがはっきり分かる。
って、これフェロモン酔いだー!!

あー 弱いけど出てますねオークフェロモン。この子は極端に効きやすい体質だったか。
蒼い瞳がなにやら潤ってきて、オークたちを見つめています。

まあ良いか。これなら話が早い。


では、背中に担いだクックリ刀を鞘ごと外しまして、地面に置きます。短剣や他の武器も。
一拍置いてオーク達も次々と武器を投げ降ろしました。

もちろん双方合意の上でやってます。とにかくこうすれば幼女が安心するからと押し切りました。いや押し切るも何も嬉々と
して従ってますけどね地元オークたち。


あ、拙い。お腹が疼いてきた。私は体質的にフェロモンへの耐性が有るけど誘惑には弱いのですよ。
四人いるオークのリーダー格らしき色黒なオークが、正直に言うと彼の股間が気になって仕方ありません。

だって見えているんですよ。真っ黒で太ましい仮性包茎ち○こが。腰布の隙間から。
ヒューハーフオークですね彼。母親が人間の。
だから夫たちと同じく亀さんヘッドなのです、アレが。

見たところイボとかが少ないけどキノコの傘部分が大ぶりで形も良くとっても美味しそう。
あれを突っ込んで擦ってもらったら気持ち良いんだろーなー ‥‥ってちょっと待て。


何を考えている何を。浮気はいかんでしょ浮気は。
いくら50時間近く処女を続けて餓えているからといって‥‥餓え?

そうか、赤ちゃんが膣出しして貰いたがっているんだ。
はやく、はやくオークち○こを受け入れないと。オークの生命力を注いで貰わないと赤ちゃんがお腹空かせてしまいます!


スカートの中に手を入れて紐ショーツの紐を解きます。染みができるまで濡れた布きれを投げ捨ててスカートをまくり上げ、
立ったままオーク達に股間をさらけ出すと色黒のオークリーダーも腰布をまくり上げました。
やや後に並ぶオーク達も腰布をまくりあげて逸物をさらけだしています。

‥‥うん、武器を捨てる前に、動作を真似しろってテレパシーもどきで言っちゃいましたからね。そうしたら幼女が安心する
からって。

ああ、起っていく。太ましい黒ち○こが私のロリま○こを見て、匂いを嗅いで、胸の高鳴りを聴いて大きくなっていく。
この子たち、無毛のスジま○こへ突っ込みたくなるロリペド野郎なんだ。
幼女の顔は真っ赤になっていまして、その視線はそそり立つものに釘付けです。オークの体臭が媚薬的な効果を発揮している。


うーむ、もう恐怖や警戒心が溶けているようですし、このまま流れに任せてしまえば青空貫通式に持ち込めそうですね。
未通(おぼこ)娘の幼女でも、オーク四匹に輪姦(まわ)してもらえば一晩でオーク妻に生まれ変わります。
いや、見るからに童貞くさい若年オークたちですから、まずは私がお手本見せてあげないと。


待った。いくらなんでも出会って直ぐの男に股開くほどの淫乱さんじゃなかった筈なんですが私は!?
何故かは分かりませんが脳味噌の桃色度が上がってますね不自然に。
とにかく流れに身をまかせすぎるのは良くない。オーク達は嫁を貰っても養えそうにないし。


ここは使い時かな、うん。奇跡の。


Q、というわけでいっちょレストア(本復)お願いしまーす。
A、‥‥‥‥。


相変わらず返事はありませんが、信仰の加護は切れていないので効果発動しました。
太陽の下でも分かる程度に私の全身が輝き、全ての傷と状態異常が回復します。
信仰心篤い教徒は信仰魔法とは別に小さな奇跡を願えるのですよ。啓示(デビネーション)や死人払い(ターン・アンデッド)も
そうですが、このレストア(本復)は治療魔法的な効果をもったものです。

コーネリアの結婚式に降臨されたエスティア様が使っていた全範囲治療効果がありましたよね。
要はあれの劣化版でして、信仰呪文でも9レベル前後で使えるようになります。
1レベルプリーテスの分際でこれを使えるのはひとえにエスティア様の(えこ贔屓の)おかげ。
一応神殿長ですからねーこれでも。弟子いないから「教団ひとり」状態だけど。

まさか加護の初使用が浮気防止になるとは思いませんでしたよ。
うーん、もう一度レストア(本復)を使えるようになるまで何日かかかりそうですね。お供物を弾めば少し早くなるかも。



良し、状態異常「発情」が治った。もう脱水症状時の渇きにも似た感覚はありません。
黒檀製の淫具のようにそそり立つち○こを見ても、うん、大丈夫ちゃんと目を逸らせます。相変わらず魅力的だけど。

あのままだったら拙かった。
なにが拙いって足元には大の男の死体が二つも転がっているのですよ。ホカホカのが。
そしてここは野外、オークが狩り場にする程度には物騒な危険区域なのです。

血の匂いに惹かれたらしいモンスターが近づいてきてる気配がする。
大半は腐肉狙いの大ネズミや小型巨大昆虫など危険度の低い連中ですけど、そんな雑魚でもえっちの真っ最中に襲われたら命
取りになりかねません。
ファンタジー世界での青姦って危険行為なのですよ。


とかなんとか言ってたら大きいのが来ましたよ、敵が。雑魚を追い散らしての登場です。

べきべきばきばき と芋虫が立てているとは思えない轟音と共に緑色の虫系モンスターが現れました。
全長約三メートル半、太さ70センチ以上。
角や触手は生えてませんがスカベンジャー(掃除屋)系の生態系位置にいるのは間違いない。


逃げるとしましょう。虫系は面倒だ。

撤退撤退、え? 死体が惜しいの? しょうがないなあ。
では‥‥ 

「爆裂玉~♪」

無限袋から、丸くて黒くて導火線に火が付いている爆弾を取り出します。猫とネズミが仲良く喧嘩している大昔のアニメに出
てくるようなアレです。そして地面に転がす。
元ネタと同じくこれも大砲の炸裂弾を改造したものでして、擲弾兵の語源になったやつです。

チンピラ二人の死体を貪り食う無限袋に仕舞って後退すると、生きている獲物でも良いらしい巨大芋虫はこちらに突っ込んで
きました。
そしてちょうど導火線が燃え尽きる頃合いの爆裂玉にのし掛かります。


それっ全員物陰に隠れろー。念のため幼女の耳を塞いであげときます。





 ☆106日め3、害虫が多い日も安心☆



あー まだ耳が痛い、耳鳴りがする。「治療」で癒るかなこれ。


火薬の量を間違えていたのでしょうか、巨大芋虫は爆発で千切れて真っ二つになりました。
物陰に隠れてなければ危なかった。隠れていても破片で怪我人でましたけど。

「ケガ、ナオス。ウゴク、ダメ」
「グヒッ?」

爆発の破片で怪我したオークたちを「癒しの杖」で治療します。ついでに幼女の、チンピラに殴る蹴るされてできた傷も。

怪我が治った幼女は‥‥うん、充分に可愛らしい。歳は10か11ぐらい、このくらいの子供はたいてい愛らしいものですけ
ど平均より確実に上です。
ソーニャさんと同じ民族ですね、服装も東方風だし。と、するとやはりここは東方文明圏か。

黄褐色の髪を赤いリボンでポニーテールに纏めてますが、只の布きれではなく刺繍を施した髪纏め専用の織物だ。生活に余裕
がある風体じゃありませんから精一杯のおしゃれでしょう。


「ココ、アブナイ」
「ワカッタ。イッショ、クル、ヨシ」

オーク達に連れられて、数十メートル離れた廃墟の中庭に移りました。
彼らがさっきまで大ネズミを狩っていた場所なのでしばらくは徘徊性のモンスターが出る確率が下がっていますが、念のため
に「保護円(サークル・オブ・プロテクション)」の呪文を使って安全地帯を確保します。

この呪文は小さな部屋ぐらいの面積に円形、正確には球体状の結界を張り中のものを外からの脅威から護ります。
と、いってもその効果は限定的で精々「モンスターが入れなくなる」程度なのですが。
これで防げるのは下級の魔法生物や亡者そして知能の低い野生動物ぐらい。
オークのような知恵を持つ生き物には通用しません。石とか投げれば素通りして当たりますからね。

でも害虫害獣の類には有効です。小は蚊から大は陸生ワニぐらいまで防げます。
だから安心してスカートをめくれるのですよ、か弱い幼女でも。


「‥‥ショーシャのマリア、です。ゴジュジンズマ、カワイガイ、クダサリ」

オークフェロモンで酔っぱらっている幼女、ショーシャ地方の富農の娘だったマリア嬢は言われるままにオーク達の前でスカ
ートをたくしあげ、むき出しの下腹部とそれから下の部位を見せつけています。
そして意味も解らないまま丸暗記した「オークと仲良くなれる呪文」を唱えている。

幼女の目尻に涙が浮かんでいますが、それは羞恥だけでなくそれ以上の悦びがあればこそ。
オーク族が、二人のヤクザ者をあっというまに殺してしまった強くて残酷な生き物たちが自分の裸身を美の顕現と崇め讃え、
もっとよく見たい一心で地面に跪く姿に背筋が震えてしまうのです。

幼女の細い腿を、透明な分泌液が滴り落ちます。完全に発情して、目元やお口以上に幼い秘裂は濡れそぼっている。
これなら突っ込んでも大丈夫ですね。痛いでしょうけどそれ以上に気持ち良い筈。
異種姦ものエロ漫画みたいに最初から逝きまくりの初夜になるでしょう。初体験のあとは竿役が四人もいますから休む間もな
く責め立てられます。日が沈んで本当に夜になる頃にはオーク嫁のできあがり。

「ソレ、ダメ」
「オレ、ニンゲンメス、ヤシナウ、デキナイ」

しかし、紳士とまではいきませんが女の子が大好きなエロモンスターどもにその気はありません。
幼女がスカートも脱いで毛布の上で仰向けに寝ころび、両手で顔を覆って胸を高鳴らせている状態でそれを言い出すあたりが
似非紳士ですらない証拠です。
この小僧ども、そういうことはもっと早く言えはやく。‥‥え? もう言った? そうでしたっけ?


彼らも幼女に突っ込んで征服してしまいたいのは山々ですが、征服した後無事に統治できないので自重しているのです。
人間雌の腹から産まれ母親から乳と愛情を惜しみなく与えられて育った彼らは可愛い人間雌が大好きですが、寝取られるなら
まだしも嫁が死んでしまったら立つ瀬がない。
ならば人間族の巣に留めておく方が良いわけです。オーク族は底抜けの馬鹿じゃないので、雨が降っているときに外へ出れば
ずぶぬれになることぐらいは解ります。


しょうがないので、本日は本番無しでいくことになりました。男娼たち四人には指と舌だけで各々が最低一回ずつお嬢様を逝
かしてあげるように指示して、私は下着の洗濯をすることにします。
紐ぱんつを巨大芋虫襲来のときに地面へ落として泥が付いてしまいましたからね。マリアは漏らしてたし。


ふふふ、冒険ものの定番ですよねこういうの。
女の子が服濡らしちゃって、半裸で焚き火にあたって乾かしたりとか。
香料入りの手作り石鹸があるからあれで洗いますか。錬金壷で熟成したから、作って10日程度とは思えない出来映えです。
泡立ちが滑らかでお肌に優しいのですよ熟成させると。錬金術って凄い。


「や、やだぁ‥‥ もう やめて へんに、へんになっちゃ‥‥ょぅ」

技術は拙いものの情熱と思いやりで補ってまして、リーダーオークの愛撫でマリア嬢は陥落寸前です。口ではヤダ嫌だと言い
つつも細い手足で豚頭を挟み込み股間に押しつけようとしている。

共通語(コモン)がある程度わかるリーダーオークが言われるままに愛撫の手と唇と舌を止めると、幼女は「止めちゃやだ」と
泣きじゃくる訳で、彼の困惑は「人間雌のイヤはもっとの意味」と妊娠済みオーク妻から教わるまで続いたのでした。
彼の記憶にある人間雌の愛奴たちは素直すぎるぐらい素直になってしまった後でして、言葉と気持ちが食い違ったりしなかっ
たのです。


おー 逝ってる逝ってる。人生初の絶頂がオークに舐められてじゃあ、人間の雄ではものたりなくなるかもしれませんね。
そうそうその調子ですよ、余韻が治まるまでは優しく添い寝したまま‥‥マリアは頭を撫でて貰うの好きそうですね、うん、
そんな感じでなでなでしてあげてください。



お風呂湧かしますか。このままだと上半身の服も洗う必要ありそうです。
あの子、逝くときに汗が出る体質みたいですから。
 
あ、マリアの方から服を脱ぎはじめた。しかも脱いだら自分からオーク達に口付けしてる。
キスの味も知らなかった童貞共が幼女に次々と唇を奪われて狼狽えてます。

ううっ我慢我慢、今は我慢だ。
お風呂の準備が終わるまでは乱入禁止。
テレパシーもどきでオーク達に「幼い人間雌の可愛がりかた」を指導しつつ作業を急ぎます。


洗った下着もほぼ乾いたし鋳造機で作った風呂桶出して水張って、釜に水溜めて魔法の焚き火を下に入れて点火、と。
では乱入といきますか。
そこのエロガキども、私も混ぜておねがいっ! 何でも‥‥はしないけどえっちなこと色々してあげるからさぁ。




 ☆106日め3、なにごとにも報いがある☆



レイちゃんです。
服と装備品を脱ぎすてて、幼女と童貞どものからみあう肉布団へ飛び込んでしまいました。ほぼ初対面なのに。

無理だわー 私には貞淑な人妻はできませんわー。
いえ、流石に本番はしてませんよ。挿入も膣出しもしてません。

口とか手とか胸は使いましたけどねー。
もちろん自力で挟めるほどの質量はないので、マリアと二人でオリーブ油まぶしたまな板に挟んでこすってあげたのです。
あと、性教育という名目でマリアとレズビアンショウを少々。


教育を受けたのは主にオーク達です。
乳児のころ以外は女に触れたこともない男どもと違って、マリアには中世風文明圏の農村で育った娘さんに相応しい性知識が
ありました。ほら、農家に家畜はつきものですし哺乳類を飼育してりゃ発情期に嫌でも現場見ちゃいますし。
農村の子供はその手の知識を得やすいのです。

ふむ。するとキャベツ畑説が都市部向けでコウノトリ説が農村向けなのかな? どうでも良いけど。


マリアの性知識は主に姉や兄や年上の幼馴染みから得たものですね、実技の経験はともかく。
数えで11歳の彼女ですが、兄たちや近所の幼馴染みたちと中世農村的な性体験を積んでおりまして特に年嵩の少年たちへ、
頻繁に性欲処理してあげていたのです。悪く言えば本番なしの安上がりな娼婦扱い。
実態は「小遣い銭で兄(貴分)の溜め込んだものを抜いてあげるえっちな妹(分)」なエロ漫画ヒロインの方が近いようです。
 

何ごともなければ今頃は村の誰かに開通されていたかもしれないマリア嬢ですが、村はモンスターに襲われ壊滅してしまいま
した。
モンスターの襲撃から生き残れた村人たちも近くの街までの避難中に野盗団に狙われ散り散りになり、街道沿いの祠で雨宿り
していたマリアたちは通りがかった旅人にご飯を貰って餓死を免れたのですが‥‥。

街で暮らし始めてすぐに、一緒に避難していた小母さんが病気になってしまいました。
互いに家族を亡くしてしまったマリアと小母さんは避難中に家族のような絆をというか村人は元からみんな家族みたいなもの
ですが、とにかく小母さんの治療のためにマリアは薬草摘みになったのです。
ギルド関係者以外が勝手に薬草取ると良くて簀巻ですからね。手足縛って川に放り込まれます。

いくらか薬草の知識があったマリアは他の子供よりも稼ぎが多く、しかし保護者が寝込んでいるのでチンピラどもにカモだと
目を付けられてしまった訳です。副業と合わせれば自分と小母さんが餓死しない程度の日銭が入ってましたから。


洗ってもなかなか落ちない汚れも、魔法のブラシならあっというまです。ムクロジ洗剤などで洗っていたマリアの肌や髪は不
潔とまではいきませんがお世辞にも手入れが行き届いているとは言えない状態でした。
しかし今は違います。見違えるぐらい綺麗に可愛らしくなっている。猫っ毛な髪もふんわりしていながらツヤツヤです。
これは上玉ですよ。磨けば磨くほど輝く原石です。


ふむ。乗りかかった船ということで小母さんの診察してみますか。最悪「病気治療薬」を使えば治療できるでしょうし。

「でも、わたしはお布施が払えません」
「んー 辻治療(ヒール)だと思えば良いのでは?」

とりあえず布教活動の一環として診察と治療を行い、マリアは小母さんが治ったらエスティア様に帰依するということで話が
まとまりました。
では、いっちょやってみますかね。うまくいけば信者と今宵の寝床が手に入ります。


マリアが即席カーテンの向こうで着替えている隙に、魔法のお財布から一掴みのコインを取り出してリーダーに渡しました。
金銀銅白金の各種コインが数枚ずつ、合計で60ゴールドはあるでしょう。

「グヒッ?」
「良いから良いから、とっときなさい」

少し揉めましたが、結局は渡したコインとチンピラたちの持ち物を交換することで合意しました。
オーク達だって貨幣は使いますし、童貞ち○こを四本もつまみ食いした代価ならこの金額じゃ安すぎ‥‥もう少し金貨を払っ
ておきますか、うん。



「あ、あの、これは多すぎるんじゃ‥‥」

まさか追加分まで右から左に、マリアに渡しちゃうとは思いませんでしたよ。
着替えて出てきた幼女に、オーク達は全財産をあげてしまったのです。
それで良いのかと訊いてみたら、コインを持っていても件のオーガーに脅し取られてしまうのだとか。


「ど、どうしましょう?」
「たまたま気前の良いお客に遇ったと思って、受け取れば良いと思いますよ」

元々路地裏で人夫や無宿人たちのち○こを咥え、吸ったりしゃぶったりで愉しませて子種汁と小銭を貰う副業をしているだけ
あってマリアは性的接待の報酬を貰うことに異存はありません。
相手が蛮族なのと金額が大きいのが気になるだけです。

男をしゃぶることも出して貰うことも嫌いじゃない彼女ですが、娼婦の適性は高くなさそうです。
不特定の、好きでもない男に触れることに抵抗感がある。
どちらかというと愛人向けかな? この子は好きな人にだけ、好いてくれる人にだけ触れていたいのです。 


しかし、本当に中世風世界の農村育ちとは思えない程に礼儀正しくて教養のある娘さんですね。
学校に通っている訳でもないのに、この歳できちんと敬語使えているのが凄い。
村長の娘ではないようですけど庄屋とか名主とか、あるいは郷士階級の出かな。薬草の知識や初歩の算術が使えるようですし、
村ではお嬢さん扱いだったのかも。



何度も逝って、今は一見落ち着いていますがマリアはまだフェロモン酔いが続いていまして暗示にかかりやすい状態です。
なので「貰ってあげるのがオーク達の幸せなのだ」という私の説明に納得してコインを受け取りました。

重そうですね。体積としては小さいけど徳用コーラ四本分ぐらいの重量ですもんねえ。
遺跡産のコインは重たいのですよ、地球のコインより数倍は。


念のため確かめてみましたが、チンピラたちの財布に入っていたコインもオーク島の迷宮で拾ったコインも全く同じ意匠で同
じ寸法と重量でした。
ただチンピラたちが持っていたコインの中には半分切りや四つ切りにされたものもありまして。
まあ、通貨が全世界共通なのにわざわざ独自通貨なんか作っても面倒くさいだけですからねえ。それよりは切り分けた方が早
いのか。通貨の価値=地金の価値な訳ですし。

重たい貨幣を壊れた薬草籠に入れるのは無理でしょうから肩掛けの買い物袋を貸してあげましょう。丈夫な布で風呂敷包みに
してから肩掛け袋に入れればスリや引ったくりが出ても大丈夫。
大丈夫じゃないかもしれませんがそのときはそのとき。返り討ちにするなり逃げるなりするとしましょう。



身支度を整え、結界を解除して、貪り食う無限袋から出したチンピラ二人の死体を担いで立ち去ろうとしているオークたちへ
手を振ったところに、突然そいつはやってきました。廃墟の石垣を飛び越えて降り立ちます。

身長2メートルあまりの、あまりにも広い肩幅を持つ人型モンスター。ボディビルダーを戯画化したような、極端に皮下脂肪
の少ない筋骨隆々すぎる巨体。ぼろぼろの衣服、手には棍棒、左右の上腕と脛に鉄板を巻き付けている。
長いタテガミは血糊と脂で固められ、凶悪な人相が口からのぞく牙で更に物騒さを増してます。

オーガーだ。島で見た連中とは微妙いやかなり違いますけどオーガー(人食い鬼)です。
解る。こいつは人を、二足歩行の知的種族を常食にしている生き物だ。
なるほど、カツアゲ対象の帰りが遅いから向こうからやってきましたか。空腹に耐えられなくなったようです。

この距離に近づかれるまで気付けないとは、不覚。集中力が持続できなかったか。


チンピラの死体を差しだそうとするオーク達を押しのけ突き飛ばして、人食い鬼はこちらに向かってきます。
口元の涎と腰布の盛り上がり+シミの様子からして、食欲と性欲を同時に満たす気ですねこれは。


チンピラの死体に注意を惹き付けているうちに女たち、つまり私とマリアを逃がそうとしていたオーク達でしたが作戦の失敗
を悟りました。
何ごとか喚きながら四人がかりでオーガーに飛びかかりましたが、数秒のうちに全員叩きのめされます。
あるものは棍棒で殴られて血反吐を吐き、あるものは廃墟の石壁が崩れる勢いで叩き付けられて倒れ伏してる。

まだ意識のあるオークは「逃げろ」と私たちに言っているようですが、ここで逃げたら食われるのはあんたらですよ。
それが解っててなお言うのがオークという生き物で、だからこそ私は彼らを嫌いになれないのです。


「下がってなさい」

と、マリアに指示して私はオーガーに対峙します。五分前ならいざしらず今この時点なら負ける気がしません。
恐喝が主な収入源なだけあって、オーガーにしてはえらく弱っちい個体です。
推定で星3程度。つまり弱めの黒熊ぐらい。


美味しいおやつが慌てず騒がず取りだしたクロスボウを見て、人食い鬼は鼻で笑いました。
そりゃそうでしょう。貧弱な小娘が扱える、手回しハンドルもついていない小型のクロスボウはキジやウサギを狙うべきもの
であって戦闘に使うものじゃない。
歯車と滑車付きの大型弩ならともかく、ライトクロスボウはオーガーが警戒するようなものではないのです。

なので人食い鬼は余裕たっぷりの動作で、飛んでくる矢を鉄板を巻き付けた左腕で弾き返そうとして頬骨まで貫かれました。
元は板金鎧らしい鉄板が腕の筋骨ごと突き通され、勢い余って飛び抜けた鏃が人食い鬼の顔面に刺さったのです。


地球人類なめんなこの野郎。こっちは万年単位で飛び道具の研鑽やっているんですよ。
幹部オークですら直撃は避ける改良型複合機械弩の威力、たっぷり味あわせてやるから遠慮すんな。






[38600] 53
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/05/01 13:00




 ☆106日め4、一応浄土宗ですし☆



ふむ。目を狙ったのですが腕の所為でズレたか。では次弾装填。
まだ事態を把握していないオーガーの胸板に二本目の矢が突き刺さります。


あれ? 矢羽根近くまで突き刺さったのに平気‥‥ではないにしろあまり効いてない気が。
まさか大胸筋の奥行きが有りすぎて心臓まで鏃が届いてないとか?

我に返って棍棒を投げつけようとするオーガーに、慌てず急いで装填した三本目の矢を放ちます。よし命中。


「グァッッ!?」

そりゃ驚くでしょう、振りかぶった手を棍棒の柄ごと射抜かれたら。
オーガーの右手は矢に貫かれて棍棒が固定されてしまいました。もちろん当てたのは私です。
一流講師の指導とニュータ○プじみた直感のお陰ですが、今の私は100メートル先の姫リンゴに初弾必中できるのです。
この距離ならサクランボの軸に狙って当てられますとも。


競技用の現代弓で張力は60~70㎏程度、中世の戦場で使われていた弓は100~120㎏ぐらい。
勇者豪傑と讃えられた強者が使っていた、三人張りとか五人張りとか呼ばれる代物で200㎏強。

私が使っているこの地球文明+古代技術+錬金術+コボルド匠の業を集結した特製クロスボウの張力は600㎏以上! 
放たれる矢には下手な銃弾に匹敵する運動エネルギーが宿っているのです。
この張力を下っ端オークが気軽く引けるまでに軽減できるのだから多重滑車って凄い。


至近距離だから空気抵抗による減衰は無視できる程度に収まります。
つまり600㎏の鉄塊を乗せた超合金の鏃が降ってきたようなもの。いくらオーガーの肉と皮が厚くても防ぎきれない。
グェスたち上位の幹部オークですら防御に専念しないと無傷ではいられません。
鏃の先端をわざと尖らせずに、1ミリ程度の平面にするなど闘気法対策も色々施してますからね。読んでて良かった○研のひ
みつシリーズ。

四本目はどこにしようかな? 人間なら急所な股の大動脈は狙いません、筋肉が厚すぎて効きそうにない。
かといって竿や玉を狙うのも前世の性別的に、なんか嫌だ。
転生して男根崇拝に目覚めたこともありまして、敵のものとはいえち○こを粗末に扱いたくないのです。

定番どおり関節部を狙うとして、やはり膝かな? 脛部分の金属板は腕に付けているものより厚そうですし。
命中‥‥したけど弾かれました。
なにこの強度、橋梁の鉄骨なみですよ。ムエタイ選手みたく毎日岩とか蹴って鍛えているのでしょうかこのオーガー。


文字通りの矢継ぎ早に撃ち込んでますけど一向に倒れる気配がない。体力ゲージが少しずつしか減ってない感じです。

うーむ、防護闘気を貫通して刺さるのは良いけど一撃で仕留めるマンストッピング・パワーに欠けてますね。
小型化し過ぎたかな。次に設計するやつはもそっと長くて重たい矢を発射するものにしてみましょう。
人は刃が10センチめり込めば死にますけど、オーガーは20センチめり込んでも死ぬとは限らない。肉の厚みが違う。


射手が第五射の装填中に飛びかかり噛みつき攻撃に移ろうとしたオーガーですが、倒れていたオークたちのうち二人が両足へ
しがみついて引き倒しました。そして倒れた背中に五本目が命中します。
しかし矢はやはり分厚い背筋に食い止められて致命傷にはならず、精々星1かそれ未満のオークたちでは種族の標準より弱い
方とはいえ本気で暴れるオーガーを押さえ込めません。

顔に刺さった矢をへし折り、オーク達を跳ね飛ばして、今度こそと四つん這いで駆け寄り噛みついてきたオーガーの下顎が、
カウンターで打ち込んだ私の右ストレートで砕かれました。へし折れた牙が飛び散ります。
そしてオーガーの身体全体が浮いたところに左フックを叩き込み、廃墟の壁に叩き付ける。

オークの一人がまだ貼り付いている石壁のちょうど反対側に、地響きを立てて人食い鬼が貼り付きました。そしてずるずると
ずり落ちる。こっちの壁は頑丈だったようで、埃は立ったけど小揺るぎもしません。

生憎と、今の私はスピードでもパワーでも半端な人食い鬼より断然上なのですよ。もちろん装甲の厚さや動作の正確さも。

オーガーが飛びかかってくる寸前で頭上へ放り投げていたクロスボウを、籠手を付けた手で受け止める。
構造が複雑すぎて耐久性に問題がありますからねこの機械弓は。地面に放り投げると故障の原因になります。
このあたりも改善したいところです。
取りあえずは地球の兵装を参考にして、紐かベルトを付けて肩から吊すことにしますか。


いま装備している「人食い鬼腕力の籠手」は、平均的な人食い鬼(オーガー)と同等の筋力を与えてくれる重宝なアイテム。
同じく装備中の「巨人力の腰帯」は下級巨人並の力を与え‥‥正確にはダメージスケールを上げてくれる貴重なアイテムです。

籠手の方は
・それは筋力を50に固定する
腰帯は
・それは与える被害を極めて増し、受ける被害を極めて減らす。
という効果がある訳ですね。もちろん力仕事もオーガーなみ下級巨人なみに出来るようになります。
二つを同時使用すると下級巨人の限界に近い筋力が出せる。

無限袋と癒しの杖と魔法の武器が中級冒険者一行(パーティ)必携の品だとしたら、この人食い鬼腕力の籠手は上級冒険者ご一
行様なら一つや二つは持っているべき水準のアイテムです。
当然ながらソーニャさんも何個か所有していまして、うち一つを弟子に貸与中。

お師匠様が普段使ってない理由ですか? この籠手を装備すると筋力の上限が50になってしまうので、他の装備品や強化魔
法の筋力増強効果が無駄になってしまうからです。
グェスたちや藤子さんは素の筋力が50以上だから装備しても意味がありません。

そこまでの筋力がなくとも、技巧派の剣士のなかには拘束具になってしまうから付けない人もいますけどね。
籠手を付けていると指先の微妙な動きとかは、どうしても制限されるので盗賊系にはお薦めできない装備です。
ゲーム的に言うと器用の上限が35ぐらいに制限されてしまう感じ。
アイテムマスターである私は、器用などに受ける制限が普通の人より緩くなります。これぞ特殊上級職の特権。


つい先程、フル装備状態のいまならこの程度のオーガーになんか負ける気がしないと言いました。
あれはつまりこういうことです。
装備品の力も入れれば星5近い強さになっているのですよ、私は。単純な筋力だけなら星6の戦士オークに匹敵します。
灰色熊(グリズリー)はちょっと怖いですが、普通の黒熊なら自家製の鉄槍一本で狩れます。逃げられなければ、ですが。

勝てば良いのですよ勝てば。
自力で勝負しないと意味がないと言う人は、自分の体細胞内からミトコンドリアを全部取り外してから口を開きなさい。
他力本願大いに結構、人間が自力だけで悟れる訳がない。ましてアイテムマスターが道具に頼らなくてどうする。


組み討ちに持ち込まれても圧勝できる自信があるから落ち着いて撃ち続けられた訳でして。
嘘じゃありませんよー この装備状態でならゴエモンとアンドレ二人がかりより力が強いんですから。
ウォスには負けるしドスやグェスとは勝負にならない水準の筋力ですけどね。 



「まっ まて たすけて! たからっ たからやるっ いのちたけは!」
「もんどーむよー」

拳2発で矢5本分より大きい被害を受けたオーガーは倒れたまま手を上げて降伏を申し出ますが、聞き入れてやる理由はあり
ません。野良オーガーごときの蓄えが私の宝物を、お腹の中にいる赤ちゃんを狙った罪の引き替えになるもんか。

ふむ。
なるほど、道理で効きにくいと思った。こいつ飛び道具への耐性持ちですね、白兵戦のダメージは減らせないみたいだけど。
間近で闘気を観察すると、幹部オークたちが使っている技法と良く似たものを無意識に使っているようです。
特定条件でのダメージ軽減! こういうのもあるのか。

「やぁだぁっ! し、しにたくなぁぃっ しにた」
「なむあみだぶつ」

泣きわめくオーガーの頭を踏みつけて、一息に砕き潰します。
女子供狙ったくせに不利を悟ったぐらいで投降しようとするんじゃない。外道なら外道を貫け‥‥ああ、そういやトログロダ
イトもあっさり降参してましたね。相手にされてなかったけど。

喜びなさい、念仏聴いて逝ったんだから極楽往生できますよ。
できなかったらできなかったで以後私とは何の因縁もなくなるわけで、それはそれで良し。


あーあ、ブーツが汚れちゃいましたよ。洗えば落ちるけど気分が悪い。
とりあえず、怪我したオークたちの治療しますか。「癒しの杖」はもう使ったから呪文と霊薬で。
いや「治療の杖」の方が良いかな、あっちの方が備蓄に余裕あるし。
使い減りしない回復アイテムもありますけど、あれは戦闘中じゃないと使えません。




 ☆106日め5、そりゃそうだ☆



そんな訳で、オークたちとは治療の後に別れました。
滝壺酒を壷で渡しておきましたから今頃は「嫌な奴がいなくなった記念」の宴会でも開いているでしょう。
名残惜しくはありましたが、ついていくのはやめました。

行けば宴会に参加する羽目になっていたでしょうから、やめて正解だったと思います。
彼ら、オーガーが死んだのにチンピラどもの死体を持ち帰ってましたからね。オーガーの首から下も一緒に。

彼らが腐肉食いの巨大芋虫から逃げるときに死体を持って行きたがったのは、オーガーに献上するためでした。
オーガーの腹が空きすぎるとオーク達の誰かが食われてしまいますからね。
もう献上する必要がないけどオーク達は三つの死体を持ち帰ったのです。

敵の墓なんか建ててやる義理もない彼らの死体処分方法がどんなものか想像するに難くない。
しかも今日は宴会とくれば、ねえ。

流石に人肉食い(カリバニズム)はちょっと。オーク島では一般的でない食材でしたから。
でも東方世界では人肉食いの部族は少なくないのです。そして宴会に出ておいて主菜に手を付けない訳にはいきません。


なによりも、大金持った幼女を一人で帰らせる訳にはいきませんでしたからね。
オーク島の感覚だと端金でも、見習い薬草摘みにとっては半年分以上の収入になります。
何かの拍子に食い詰め者が知れば凶行に走るに充分すぎる金額だ。

おまけにまだフェロモン酔いが治まってません。
今の彼女は幼児性愛趣味の変態に捕まえられたら強姦が成立しないかもしれません。オークフェロモンで発情しているマリア
は気持ち良くして貰えるなら野良犬にだって身も心も捧げてしまうでしょう。

現に私に懐いてしまってます。
いやまあ、刷り込み効果に期待したからオークたちの前でロリと絡んでいた訳ですが。
前世の知識とソーニャさんたちに仕込んでもらった同性愛技術で、何度も何度も逝かせてあげました。


マリアはフェロモンの効果が抜けるのも早い体質だと思われますので、一晩経てば正気に返る筈。
それはそれとして、マリアから見て意外と紳士的で献身的なオークたちへの好感度は高いようです。彼女にとって少なくとも
あの四人はモンスターではなくなっている。
人間ってね、誰かに優しくされたら自分も優しくしたくなる生き物なのですよ、本能的に。そこがヒトモドキとの違いです。


そんな訳で、冒険旅途中でこのあたりの事情に詳しくないエスティア神官にマリアは色々と話してくれました。
やはりここは東方文明圏でした。
地名でいうと東バルキアの山岳地帯中心部、ビィーヤ盆地の南にあるヴァダの街だそうです。

あー あのへんかー。確か元魔王城が、盆地の北西あたりにあるんでしたっけ?

「はい。レイさまも『死の都ガモン』へ潜られるのですか?」
「特に予定は立ててないんですよねー」


ソーニャさんがNAISEIもの要素ありエロゲみたいなことやっていた北バルキア北部が青森の恐山あたりだとしたら、
ここは長野の諏訪湖あたりですかねえ距離的には。
もっと近いかな? 歩いて移動できることは間違いありません。

死の都はとある魔王が陣取っていた要塞跡の地下に広がる大規模迷宮でして、内部には無数の墓所と廃墟と神殿が小規模迷宮
として存在しておりその大半が踏破されていないという、東方世界でも名の知れた場所です。
ソーニャさんも何度か潜った経験があるとか。

地下要塞都市遺跡ガモンは大規模な迷宮ですが、危険度のわりに実入りがよくないので潜りにくる冒険者で村ができるほど賑
わっている訳ではありません。
ですが出てくるモンスターと宝物の種類が偏っているので、偏ったアイテムや知識や特定モンスターとの戦闘を求める人々が
絶えることなく出入りしている場所なのです。入る人数より出る人数が明らかに少ないですけどね。



さて、幼女と世間話しつつ様子を窺っていましたが‥‥ 今なら良さそうですね。
マリアと一緒に裏門へ向かいます。

「止まりなさい」

門番詰め所に騎士が一名、従者一名、そして兵卒が二名。裏門上の見張り台に兵が二名。交代要員なし?
たった6人て、本気で守る気があるのかな? これだとあのオーガーでも単独で突破できそうなんですけど。
騎士と従者の強さはせいぜい星2ぐらい、兵卒は1あるかどうかってところです。

「何者か」
「旅の神官です」

中年手前の、実直そうな騎士です。業務に慣れているけど腐敗役人特有の 慣 れ す ぎ て い る 気配はなし。
武人としてはたいしたことはありませんが、門番としては手強いかもしれません。
役人として隙がない。誤魔化し辛い相手だ。

「名と生地は」
「レイズィ・イノーカィ。ヒルデニア出身」

お供の騎士見習いがいませんね、お使いにでも出ているのでしょうか。
いや、元からいない可能性もある。騎士団に所属していないなら後輩育成の義務はないのかも。
家紋に騎士団所属の飾りがついてないからには家督持ちの当主か一代騎士でしょう。跡取り候補がまだ幼いとみた。
家庭持ちなのは気配で解ります。子供が男女一人ずつ、妻との仲はまずまず良好、深い仲の愛人はいない。

「旅の目的は何か」
「人を捜しております」

人通りが途切れた時期を狙いましたので、裏門付近には私たちと門番たちしかいません。
騎士はやや警戒気味ですね。一人旅の尼僧兵にしては荷物が少ないし武装が重すぎるからでしょう。
まあ、「これから山賊の拠点に殴り込むところです」と言った方が説得力ある装備ですからね。クロスボウ持ってるし。

「捜し人の名は?」
「ソーニャ。リガのソーニャ・ブルーム」

ブルームとはソーニャさんの家名でなくお父上の名前です。町人の出ですからお師匠様は。
大きな港町の、そこそこ名のある仕立屋さんの末娘だったソーニャちゃんは針やハサミよりも釣り竿や投石紐の方に親しんで
いた腕白娘でして、毎日闘技場のタダ見に知恵をしぼる幼少期を過ごしていたとか。
元剣闘士の警備員と追い駆けっこしているうちに素質を見いだされ基礎を仕込まれたお師匠様は、東方世界の元気を持て余し
た若人の多くがそうするように冒険者となりました。そして波瀾万丈の冒険人生を送るようになったのです。


「剣姫ソーニャならこの街にはいないぞ。‥‥噂だと南の海で魔獣狩りに出てそれっきり音沙汰なしだそうだが」
「この前帰ってきましたよ。リガの港ではご両親のお墓参りと闘技場で模範演舞をされたとか」

本当です。
99日目あたりから数回に分けて、ソーニャさんは遠距離転移呪文を使ってリガ市近くと北バルキア北部へ移動しておりまし
て帰郷や視察を済ませています。かなり慌ただしい日程でしたが最低限の義理は果たした模様。


「捜しているのではなかったのか?」
「ここ暫く行動を共にしていましたが、はぐれてしまいまして。彼女の帰郷の際は、私が多忙だったこともあって同行を遠慮
しておりました」

そういえば、リガからここまで直線で1000㎞は離れているんでしたよね。噂の伝達速度が二次大戦前の日本本土並な時速
2㎞だとしたら20日近くかかる距離です。東方文明圏はファンタジーRPG定番風に、遠距離との通信手段はあっても一般
的ではない世界ですし。
ファンタジー補正で噂話が平均時速10㎞で伝播するとしても、早くても一昨日あたりに第一報が入ったぐらいでしょう。
ならば門番が知らなくても不思議はない。


「あー うん、通行証はあるかね」
「ここに」

そういって手渡した麻袋の重みに門番騎士の眉が吊り上がりました。中身を確認してから私の顔を見て、更に袋の中の金貨を
見直しています。

「おい、これは何の」
「通行証が足りませんでしたか、これは失礼を」

何か言おうとする騎士に、有無を言わせず同じ大きさの麻袋2個を押し付けます。中身も同じなのでこれで金貨600枚。
前世の世界とは物価の基準が違いますが金貨一枚で数千円から数万円ぐらいにはなる筈。つまり彼は数百万から一千万以上の
金額を渡された訳で。

さて、明らかに過大な付け届けを貰った小役人はどうするかな?


「‥‥言うまでもない事だが、冒険者といえど市内での犯罪行為は見逃されないからな。誤解を招かないよう気を付けたまえ」
「ありがとうございます」

ちらりと後の方を見て、頷く従者に頷きかえした騎士は麻袋を詰め所の壁に掛けてあった革袋に入れました。そして隣の革袋
から何かを取りだして私に手渡します。
どうやら見逃すor泳がす方向で行くようですね。

「新しい通行証だ。大事にするように」
「はい。こちらの古い通行証はいかが致しましょう」
「渡してくれるなら私が処分しておこう」

と、いう訳で通行証を手に入れました。‥‥ふむ、裏門限定の通行および荷物の運搬許可証ですね。
たいしたものではありませんが有ると無いとでは大違いです。


古い通行証こと追加の麻袋の中身を確認した騎士が中身と私の顔を何度も見直してます。むう、奮発しすぎたかな?
白金貨200枚だから、金貨と合わせると2600ゴールドで時代劇の千両箱半分ぐらいの価値か。
物価的に、金貨一枚が一分金一枚相当なんじゃないかと思うのですよ。もっと安いかもしれません。


十騎長あたりの家格だとして、時代劇換算だと50石取りとか80石取りとかそのくらいですよねえ。
反応からして、門番騎士の俸給は月当たり100ゴールド程度と見た。

安月給半年分の賄賂とか貰ったら便宜の一つも図りたくなるでしょう。略奪でもしないと戦争ができないぐらい、騎士も武士
も貧乏なのが中世世界の基本ですからねー。
確か足利は絹の名産地で、足利一族が板東武者の中でも抜きんでた活躍ができたのは資金力と経済感覚そして帳簿付けに優れ
ていたからだという説がありましたが本当かもしれません。



幸いにも門番の騎士は理性的かつ長期的な視野を持った人物でして、旅人の財布を狙って切り付けてくるような短絡的な真似
はしてきませんでした。
身寄りもしがらみもない異国人で神官の冒険者を俗界の法で縛れるなんて考えるほどの馬鹿でもなさそうなので、搦め手で罠
にかけてくる事もないでしょう。

表門に比べれば暇だとはいえ、何年も大過なく勤め上げているからには慎重で有能な人物と見た。
門番は役得の多い仕事ですからねー。もう一口もう一口と際限なく欲張る人には務まりません。
将来はともかく、今日明日にどうこうされる心配は低い。



裏門からマリアたちが寝泊まりしている所に向かおうとしたところで、黒いローブを着た老婆たちに呼び止められました。
敵ではない。マリアの筋肉は暴力を警戒してません。
老婆は三人。全員非武装の素人、もしくは星二桁級の達人。私の眼力を誤魔化せるならその程度の力量はある筈です。


「マリア、今日の納品は無しかい?」

マリアが壊れた籠、私が無限袋から出したオーガーの潰れ生首を見せて「モンスターが出たので薬草は採れなかった」と
説明すると老婆たちは悲鳴をあげ数歩下がりました。

「そういう訳で、薬草の代わりにこれあげるから折檻とかは勘弁してあげてください」
「ひ、人聞きの悪いことをお言いでないよっ それじゃあたしらが子供の上前はねているみたいじゃないか」
「いらないから仕舞っておくれ!」

むう。モンスターの死骸は換金できる筈なのに受け取り拒否とは。半ば挽肉と化しているのが問題かな?
それもそうか、私でもこんな目玉ぶらぶら脳漿ぼたぼたな肉塊貰うの嫌だ。
せめて皿か盆にでも載せて渡さなきゃ、手が汚れちゃいます。


東方世界では冒険者ギルドは一般的な存在でなく、迷宮潜りが主要産業となっている一部の地域にしかありません。
なので冒険者たちは自前の伝手を使って直接に店舗や個人と取り引きするか、冒険者の宿と呼ばれる口入れ屋のような所で
モンスターの死骸や拾った素材・財宝・アイテムなどを換金します。

無限袋に入れておけば腐りませんし、オーガーとしては弱っちいこの首では大した賞金はかかっていない筈。
いまは端金よりマリアの改宗を優先しましょう。


マリアに案内されて市街を進んでいきます。
うーむ、やたらごちゃついた街ですねえ。大通りですら馬車がすれ違えるかどうか不安になってくる狭さです。
露店なんだかアーケードなんだか掘っ建て小屋なんだかよく分からないものを次から次に増設して、どこが敷地でどこが街路
なのかさっぱり分からなくなってる。

いかん、浮いてますよ私。
廃墟のほうが雨風防げるぶんまだマシなんじゃないかってぐらい小汚くって貧乏くさい区域だと特に。

廃材やガラクタで出来た掘っ建て小屋がひしめき合っていて、人々は瓦礫と小屋の隙間を通ってます。
住民は半分が乞食か乞食並に落ちぶれた姿をしてまして、残り半分は貧民そのものですね。


よくこんな所で暮らしていけるな、と感心してしまいます。いえ、住人たちがではなくマリアが、ですよ。

所々継ぎが当たってますが、穴や汚れの見当たらない木綿服を着ていて髪をリボンで纏めているマリアの姿はここだと掃き溜
めにペルシャ猫がいるぐらいには違和感あるのですが。
よく今まで人攫いや辻強盗に遭わずにすんだもんだ。
ここの住人の半分は、隙さえあれば引ったくりや闇討ちしかけてきそうな連中です。もう半分は特に隙とかなくても襲ってく
る手合いですが。


「ここの顔役が、小母さんの顔見知りなんです」

はあ。スラムの王様ですか。‥‥ん? あのチンピラども、まさか知らないでやっていたのか?
知っててカツアゲやっているなら、スラムの顔役が相当に舐められていることになりますよね。
よく分かりませんが、気にすることもないか。


「ここです。小母さん、いま戻りましたよ」

なにはともあれ病人を診察しましょう。ここの権力事情なんかスラムから出てしまえば関係ありません。




 ☆106日め6、目と目でわかる変態同士の法則☆



小母さんという呼び方から予想していたよりも若い患者でした。大柄で豊満で長い黒髪の、美人と言うにはやや顎が大きいか
なー というぐらいの容姿の人ですね。部品は悪くないけど配置と均整にやや難あり。
病気で弱っているわりに気丈な人でして、治療費は自分が払うといって聞きませんでした。

マリアからみれば実の叔母と同年代ですから小母さん呼ばわりで正しいのです。
実年齢でならコーネリアより年下ですけど、中世世界補正で+50%とすれば24歳でも36歳扱いになりますから。

コーネリアでも大丈夫なうちの下っ端どもなら充分射程範囲内です。マリアだけじゃなくてこの人も嫁入り狙ってみるべきか
もしれませんね。
まだ未出産なのが不思議なぐらい良い腰つきしてますし、健康体になればオークの子を30人かそこらは産めそうです。


治療はわりと簡単というか、想定内の難度で終わりました。

詳しく診察するまでもなく呪われているのが丸解りだったので、まずは特製聖水(温泉洞窟エスティア神殿謹製)をぶっかけて
解呪します。
聖水で粗方の呪いは消えましたが、一部の呪いはしつこく残っていまして取るのに苦労しました。地属性の呪いだと気付いた
のでコボルド族の魔剣で触れてみると消えましたけどね。

この剣は大地の精霊に祝福されているというか、祝福の塊です。
半端な呪いというものは飛び抜けて強力な存在に触れると消えてしまうのですよ。

病気はごく普通の膿瘍でしたので、試作軍医セットの注射針と膿盆を使って体内の膿と雑菌の元らしき棘を吸い出しました。
ゴムがないから不便ですけど、使い捨て(使い回収?)前提で作ればなんとか使い物になる注射器も作れるのです。


妖精に襲われたという話でしたし、この棘が患者に慢性的な痺れと痛みを与え雑菌を繁殖させていたのは間違いない。
体内に溜まっていた膿を出しきってから癒しの杖で傷を塞ぎ、熱冷ましや利尿や抗菌効果のある薬草を蜂蜜と一緒に飲ませて
清潔な寝台に寝かせればひとまず終わり。あとは自然治癒力に任せれば治ります。

ある種の薬草には抗菌作用がありまして、膿瘍の悪化を抑える効果があるのです。
薬草に関するマリアの知識はなかなかのもので、膿瘍を抑える効果のある薬湯や湿布を使いこなしてました。
全くの素人なら小母さんはとっくの昔に死んでいたでしょう。



治療がひとまず終わり、痛み苦しみから解放された患者は眠っています。
麻酔薬代わりのレイちゃん酒造謹製の滝壺ブランデー錬金壷熟成版を飲ませすぎた所為かもしれませんが、傷はもう塞いであ
るので悪影響は小さい筈。

魔法的な治療技術が発達している分、麻酔や痛み止めの技術は遅れているんですよねえこの世界は。
外科手術を受けられる余裕のある層は治療魔法やアイテムも受けられるから、縫合後すぐに傷が塞がっちゃうんですよ完全に。



浄化の呪文で綺麗にした掘っ建て小屋で、空き樽に腰掛けてご飯にします。
地面や空気から再汚染されるので部屋の殺菌効果は長続きしませんが、明日の朝までなら充分持つでしょう。
‥‥テーブルがないと食べにくいから用意するか。
瓦礫を積んで雑巾で拭いて、帆布をテーブルクロス代わりに敷いて、と。これで良し。


晩餐は

・白ウリと鳥もどき肉の煮物
・ベビーコーンもどき(多分稲科植物)のスープ
・ネギっぽい野菜と未熟な絹さや豆っぽいものの炒め物ピリ辛風味
・蒸した芋類と茹で山菜の和え物
・石焼き甘栗(ただし私の握り拳より大きい)
・スズキ(シーバス)肉の燻製
・海鳥のゆで卵
・よく熟れたサクランボの実

と、マリアが食べ慣れていないであろう海草や貝類それに昆虫類などを外した献立にしてみました。

これらはコーネリアたちミッシェル山大神殿にいる女衆に食べて貰うために、料理班をはじめ下っ端オークたちが作ったもの
の一部です。料理がやや苦手なゴエモンとかは狩りや採集で頑張りました。
サクランボだって、温泉洞窟近くでこの時期に手に入るものでは一番美味しい樹のものを選りすぐってますからね。

そのへん申し訳ない気が欠片もない訳でもありませんが、新しい嫁候補の空腹を満たすためなら義息子たちも納得してくれる
でしょう。
マリアは上記の料理をぱくぱく食べています。この数ヶ月粗食が続いていたので身体が栄養素を求めているのです。

昼間もオーク達の子種汁を美味しそうに飲み干してましたけど、あれはフェロモン酔いだけでなく亜鉛やらなにやらのミネラ
ル分を身体が欲しがっていたからかもしれません。
いえ、実際にオーク精液にはカロリーや栄養分がありますけどね。ナッツ類程度には腹の足しになります。



マリアの話は前後が飛び飛びになったり入れ替わったりするので分かりにくいのですが、彼女の村が全滅したのは間違いない
ようです。
村人の殆どが死ぬか行方しれずとなり、村の畑や設備も投げ売り価格で競売に掛けられているけど買い手が見つからない状態
だとか。

まー 廃村どころか昼間から魔物や亡者がのし歩いている、迷宮化した村落の権利なんかそうそう売れませんよねー。
スラム暮らししていることから分かるようにマリアも小母さんも身寄りは無し。
正確には、マリアにはいたけど縁を切りました。小母さんがいなかったら今頃マリアは良くて場末の娼館で使い捨て肉便器に
なっていたでしょう。

質の悪い親族はいない方がマシですよね。マリアを人買いに売り飛ばそうとした連中に災いが下るよう、祈っておきます。

売られて運が悪いとどうなるかって? ご飯が不味くなるから描写するの嫌です。
使い捨て肉便器よりも悲惨な状況も有り得るんですよー 最底辺の娼婦でも日に何枚かの銅貨は手に入りますし、痛くしない
ように気遣ってくれる優しいお客さんが買ってくれる日もありますからねー ご飯も一応貰えるし。

実例があげる悲鳴や嘆き声がスラムのあちこちから聞こえてきます。耳が良いのも考え物ですね。

 



「えっと、お見合いするのはいいんですけど‥‥」

オーガーから守ったのは私も襲われていたから計算外として、小母さんの治療代が気になるらしいマリアには「私の義息子た
ちとお見合いして欲しい」と要求しました。できれば小母さんと一緒に。
小母さんは自分の治療代だから自分だけでというでしょうが、私としては両方欲しいのです。

タダより高いものはない、と分かっているあたり中世の農民としては高い教養と分別がある娘ですねマリアは。ますます義息
子の嫁に欲しくなってきましたよ。
もし夫たちさえ良ければ第二族長夫人として迎えても良いぐらいです。
うん、大丈夫。マリアが夫たちに抱かれている図を想像しても全然腹が立たない、むしろ混ざりたい気分になる。


つまり旅の神官、レイちゃんは小さな寺院の院長ただしワンマン運営中で、信徒の地主たちや小作人たちにお嫁さんをあてが
いたいのだと二人に説明したのです。

猟師と漁師の元締めで果樹園を経営している地主が私の夫で、地主一家と小作人たち全員が信徒。最近小作人たちの一部が嫁
さんを貰っていまして、まだ独身の信徒たちはお嫁さん募集中ですが辺鄙な土地なのでなかなか良い縁談が来ない。
なので無理にとはいわないが会って話すぐらいはしてくれないだろうか、小作人でも地主兄弟でも男女双方の合意さえあれば
嫁入りできるし嫌なら遠慮なく断って欲しい‥‥という方向で説明と勧誘をしてみました。

うん、嘘は言ってない嘘は。いくつか隠していることがあるだけで。


ちょっと早めですが中世の11歳なら縁談が出てきてもおかしくない年齢でして、マリアも自分が嫁取りの対象になることが
有り得ると理解しています。ただ、彼女的に嫁入りには多少の問題がありまして。

「わたしは、身体を売って食べているんです。男の人には、そういうのを気にする方がいると聞いてます」
「それは大丈夫です。この前に小作人の嫁になった人は何年も娼館務めやってましたけど、暇さえあれば旦那さまといちゃい
ちゃしてますよ。もうお腹には旦那様の子供いますし」

中古大歓迎なのが普通のオーク族ですからねえ。特に妊婦は子供ごと可愛がれるのでお得です。
お腹にいるのが男の子でも、二万五千ゴールド程度のお布施+奉仕で性転換処理してくれますからねミッシェル山でなら。
温泉洞窟だと性転換アイテムの蓄えがあるから一々大神殿を頼らなくても良いですし、コーネリアのお腹にいる娘が婿取りす
るぐらいの時期になれば私も星二桁のハイプリーテスになっている筈。というかなる。なってみせる。


「まだ顔も見ていない、私の夫や義息子たちを信じろとは言いません。ですが私を信じてください、悪いようにはしません。
私の夫も義息子も、貴女の全てを受け入れてくれます」
「すべて、ですか」

もしも引き取り手がいないなら私が妊娠させちゃいますよ、この娘を。願い(ウィッシュ)の指輪とか魔法の豚足とか、幼女妊
婦のままでも女を孕ませる手段は色々ありますからねファンタジー世界だから。

ふむ。


「好きな人が、いるのですね」

俯いたまま顔を赤らめていた幼女は、問いかけに小さく頷きました。

「ひょっとして色黒で太目な逞しい人ですか、私も知っている?」
「はい。それにとても優しい方です」

そう言って、ますます赤みが増していく顔を上げたマリアと見つめあいます。
「意思の疎通」を使うまでもない。互いの瞳に映る姿を見れば分かる。
そこにいたのは完全に堕ちきった人間雌、オークの手先のおフェラ豚女(オーク・ラヴァー)でした。






[38600] 54
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/24 11:58




 ☆106日め7、ハック&スラッシュ☆



こんばんは。
今の状況が悪い夢だったらいいなあ、なんてことを密かに考えていたりするオーク妻のレイちゃんです。
蜂蜜まみれな新婚生活から一転して、言葉が通じる事だけが救いな異文明のほぼ無法地帯でサバイバル状態。
もしこれが誰かの陰謀や悪戯だった日には目にもの見せちゃりますよ、絶対に。


あたりに人影がないことを確認してから行動開始。
無限袋の中から出した旅支度一式の一つ、鈎付き縄を取り出しましてぶん回し城壁へ向けて投げつけます。

運良く一回で引っかかったので、縄をたぐってするするとよじ登ります。
元々身軽なこの身体ですが、2種類のアイテムで強化された腕力はゴリラ並かそれ以上。
装備入れても35㎏以下の身体が、ゴリラ以上の怪力で動いているのですから身軽なのも‥‥あ、縄いらないや。

うん、やっぱり要りません。ロープとかピッケルとかなくても自由自在に壁を上り下りできます。
登りには鈎付き縄を使いましたけど、城壁から市外へ降りるときは籠手をはめた両手だけで這い降りました。
巨大クモのように楽々と、壁面の凹凸や隙間を手がかりにして動けるんですよ。
落下対策もしてありますし安心して動けます。


そうか、これが一人前の戦士の視点なのか。この段階に達した者にはちゃちな柵や壁は障害物にならないんだ。
重量出力比だけなら今の私はレェ・ウォスより上ですからね。単純な速度と身軽さで野生動物と渡り合えるのです。
具体的には棘ドラゴンの攻撃を20秒程度まで避け続けられる。
それ以上避け続けると焦れた敵がファイアーブレスを使ってくるでしょう。

極論すれば、筋力さえあればなんとかなるんですよ戦士職は。筋力があれば大概の状況で生きのこれるし、技術は場数を踏め
ば後からついてきます。



何故に夜中に城壁越えして廃墟に入り忍び歩きしているかと言えば、晩餐の後で嫌なことに気付いてしまったからです。
いえね、昼間に仕留めたオーガーですけど、あいつ現金や宝物を持ち歩いていませんでした。
つまりオーガーのねぐらには溜め込まれたお宝がそっくりそのまま残ってる可能性が高い。

マリアが聞いたという噂話では、裏門近くで薬草摘みや少人数の旅人が消えてしまう事件が時折おきていたそうで人攫いか何
かがいるのではと囁かれていたとか。
オークたちの話だと件のオーガーは、ねぐらの近くでは狩りを控えていたらしいですが「控える」のと「絶対にしない」のは
違うのでして。
数ヶ月に一度の頻度でも、人間という生き物は行方不明者が出たことを憶えているものなのです。

複数のオーガーが裏門付近にねぐらを持っていたら、いくらなんでも誰かが気付く。
なので今現在、小銭や光り物が溜め込まれている筈のオーガーのねぐらは無人の可能性が高いのです。少なくともオーガーは
もういない筈。

楽観論者で冒険主義な食い詰め者のなかには、そう考える輩が必ずいる。


拙いことに、私は本日裏門とその近くで オ ー ガ ー を 仕 留 め た と言ってしまったのです。
しかも証拠を公道上である程度以上の人数に見せてしまっている。噂は確実に拡散中でしょう。

門番たちから詳しい話を聞けば、私がオーガーのねぐらを探していないし見つけていないことが分かります。
耳聡く野心ある冒険者なら、オーガーのねぐらにあるかもしれないお宝を回収しに行こうと動くことは当然。
気の早い連中ならもう既に廃墟の地下へ侵入しているかもしれません。

取り越し苦労なら良いのですがね。

上記の可能性に気付いてしまったので、患者の世話をマリアに任せて探索に出た訳です。
満月の夜だから明かりの心配はありませんが誰かに城壁越えを目撃されてしまったかも‥‥まあいいか。
夜なので門は表も裏も全部閉まっていますからね。
急がねばなりませんでした。開門の交渉とか買収とかしている暇はない。


見つけてしまいました。数人の人間が廃墟のなかを移動した痕跡を。
まだ新しい足跡や折れ枝ですね、できてから2時間と過ぎてない。潰れた草などの匂いで解る。
人数は5名、重装が3軽装が1杖を持った軽装が1。

呪文使い(スペルキャスター)がいる、それもソーサラーかウイザードが最低一名。もしかするとお師匠様のような兼業型や、
信仰系の使い手もいるかもしれません。
同行している戦士職や斥候職と同程度の腕なら、それほどの脅威でもなさそうですが油断は禁物です。
夫たちと私のように一人一人の強さが極端に違う面子で構成された一団(パーティ)など、珍しくもない。


冒険者の痕跡をたどって、廃墟の地下室から地下迷宮に入りました。

ここは廃墟となる前は地下商店街のような場所だったようですね。9メートル幅の十字路が幾つも交差していて、大通りには
幾つもの小部屋が面しておりそれぞれの小部屋の奥には細い通路と大部屋が繋がっている。
複雑ではありますが、梅田や新宿駅とは比較にならないくらい分かりやすい地形です。発光キノコや光苔の明かりもあります
し所々の天井に穴やひび割れがあって月明かりが差していますので動くには問題ない。


落とし穴や鳴子などの罠を避けて奥に進みます。
先行している連中の足跡などが参考になるので罠に引っかかることはまずありえません。
野外も地下道も、冒険者が通った直後だからか徘徊型モンスターが少なくて避けて通るのが楽ですね。
巨大なミミズの死骸を貪り食う、こちらも負けずに巨大な発光甲虫の群の傍を忍び足で通り過ぎて先を急ぎます。



血の臭いがする。

ああ、やはり。間に合いませんでした。
冒険者の足跡が続く、細い通路の角にオークの死体が横たわっています。知っている顔だ。
私とマリアの二人がかりで胸ズリさせてもらった若いオークです。口の中でいっぱい射精されて飲みきれず、むせてしまった
マリアの背中をなで続けていた優しい子でした。


死因は斬撃による急性多量出血。最弱級とはいえオークを一太刀で仕留めているとは、素人ではないですね。

仰向けに倒れているオークの顔に触れ、見開いた目を閉じさせます。
安らかに眠れ。力及ばず倒れたとしても、真っ正面から戦った貴男は必ずオールクゥス神の御許に招かれるでしょう。


急ごう。あとの三人は、まだ助けられるかもしれません。


血の臭いがどんどん強くなってきました。煙と肉の焼ける匂いも。
人の気配がする区域へ近づいて足音を忍ばせて進み、通路の隅から覗いてみるとそこは血の海でした。

中央に噴水のある広場めいた空間ですが、私がやってきた一箇所以外の通路は瓦礫を積み上げて防がれています。
噴水の勢いは弱々しく、噴き出すと言うより垂れ流すといった感じですね。水音を殆ど立てずに滴り落ちている。

広場に面した小部屋の一つに数名の人影があり、その入り口近くに鎖かたびら姿の戦士風とローブ姿で杖をついた二人の男が
立ってます。やる気が無いというか油断しきってますが見張りのつもりなのでしょう。

噴水からやや離れた位置で焚き火があり、丸太の杭で串刺しにされた大きな肉塊が炙られている。
そして広場の床には10名近いオークの死体が転がっています。半分以上が子供、まだ一歳にもなっていない年頃です。
どの死体もほぼ一撃で、急所を貫かれて死んでいる。
察するに「眠りの雲(スリープ・クラウド)」を受けて眠った所を刺されたのでしょう。


魔法使い風の男の頭が爆発しました。血と脳漿と骨片が、それ以外のものから変えられた挽肉と共に撒き散らされる。
数秒遅れて、警告の叫び声をあげようとした隣の戦士も胴体に大穴が開いて後方に吹っ飛びます。私が投げた2発目の瓦礫が
直撃したからです。

作戦とか一々考えていられませんし考えるまでもありません、普通に投げて殴れば敵は死ぬのですから。
なるほど、オーク達が脳筋になる訳だ。

普通の人が素手で石ころを投げつけて当たれば多少のダメージを与えられる。
怪力の人や投石の上手い人が投げればダメージが大きくなります。
さて、人食い鬼の腕力と巨人のダメージ判定を持つ今の私が拳大の石くれを投げつければ、一体どうなるでしょうか。

答え。屈強な甲冑武者が一撃で挽肉になります。
私が投げる小石の殺傷力は、充分に訓練された兵隊が大上段に振りかぶって叩き付ける両手持ち戦鎚の直撃に優るのです。


小部屋の中にいた5人のうち、板金鎧を着た戦士2人と革鎧の盗賊らしき男が武器を抜いてこちらに向かってきました。
奥にいる2人はオークです。二人がかりで大きな宝箱を抱えているところをみると捕虜としてお宝の在処を吐かされたうえに
運ばされていたところだったのでしょう。

対する私は歩いて広場へ入り床に転がっていた大ぶりな棍棒を拾い上げて、こちらに突っ込んできた板金鎧の片方へ投げつけ
ました。
飛んでくる棍棒を咄嗟に大型の丸盾で受け止めた戦士らしき男は、見えない破城鎚に迎撃されたかのようにもんどり打って
吹っ飛ばされました。そのままごろごろと10メートル以上転がって壁に激突する、もちろん即死です。
自分の盾に腕と肋骨をへし折られて、折れた肋骨で肺や心臓がメッタ刺しになってそれでもなお生きている奴がいたらそれは
トロルか何かだ。

同じく床から拾った手斧を投げつけられて、走り寄りつつ短剣を投げようとしていた盗賊風の男は真っ二つ。
倒れた死体は小腸でしか上半身と下半身が繋がってません。違う、一見してそう見えただけで腸も千切れてました。

普通の投げ斧なら避けられたでしょうが、この速度で飛んでくる投げ斧は無理でしょう。
普通のピッチングマシーンだと思ってバッターボックスに入ったらボールが時速300㎞で飛んできたようなものです。
初見でどうにかできるのは漫画の中の、それも名前と役持ちな人ぐらいですよ。モブキャラには無理。
私のような小娘が投げてくる訳がない勢いですからね。反射的に動けるように訓練を重ねているからこそ避けられない。


仲間がやられている間に接近した最後の一人は、剣で突き込んできたところを焚き火の上で炙られていた肉塊で殴り倒す。
巨人級の腕力がありソーニャさんから剣術の手解きを受けている私の白兵戦能力は、当てたり受け止めたりする部分でなら星
4か5の戦士見習いに匹敵します。

長物を持てば更に有利になるので、焚き火でこんがり丸焼きにされてしまったオーガー肉が刺さったままの丸太でぶん殴れば
多少の技量差はひっくり返るのです。
狙いとか間合いとか小賢しい要素は無視して、子供が普通サイズのカマキリをスリッパで叩き潰す要領で殴りつけました。

脳震盪と内臓破裂おこして倒れたまま動けない最後の一人を蹴って止めを刺す。
たった一蹴りで首の骨がへし折れまして、これでキルスコアは5。
倒した冒険者が息を吹き返す様子はなく、近くには同業者の気配もない。騒ぎを聞きつけて近寄ってくる気配もしません。

終わった、かな?


「プギッ!」

小部屋の中から、生き残っていたオーク達が駆け寄ってきました。私に助太刀するつもりだったようで手に手に棒きれや漬け
物石みたいな小岩を持っています。
二人のうち右側のオークは昼間に会っていますので、乱入者が味方だと直ぐに判ったのですよ彼らも。


勝った。勝ったけど被害が大きすぎる。
せめて1時間早く動いていたら、10人も死なせずに済んだのに。半時間早ければ9人は助かっていたのに。
これじゃマリアに会わせる顔がない。

もっと慎重に振る舞っていれば、門番たちに襲ってきたモンスターが巨大芋虫だったと言っておけばこんな事にはならなかっ
たでしょう。私の迂闊な振る舞いが、一つの群を壊滅させてしまったのです。


「ニンゲンメス、ナク、ダメ」
「ワラウ、ヨシ。ハラ、コドモ、ゲンキ」

生き残りたちは、涙目のオーク妻を慰めたいけど方法が判らず狼狽えています。
この子たち、私とお腹の赤ちゃんを心配しているのですよ。九死に一生を得た次の瞬間に、ですよ。

「コレ、アゲル。ゼンブ」
「あれがとう。貰うわ」

彼らが大慌てで集めて差しだしてきた財布やらガラス玉やら蜜蜂の巣やらのなかから、串焼きの肉を選んでかぶりつきました。
チンピラAの上腕部だったことが分かる焼き肉は、正直言って不気味で不味いですが無理矢理微笑みます。


もしも私が人肉好きのカニバリストだったなら、オーク達の酒宴に後から合流すると約束して待ち合わせていたら、病人の治
療後に大急ぎでここに来て人肉料理を作っていたなら、誰も死なずに済んでいたのです。
この程度の冒険者なら10人でも15人でも怖くない。襲撃時に私がここにいたならば遺跡荒らしどもは皆殺しです。

頭脳の間抜けさは今更どうにもなりませんが、食べ物の嗜好はなんとかなります。オーク島でも、稀なだけで人肉が食卓に上
ることが有り得ない訳じゃないので、今のうちに慣れておくべきでしょう。
オークは狩りで仕留めた大猪を食べるのです、オーク妻が返り討ちにした人間を食べても何もおかしくない。

もぐもぐ。

あー 完全に人間やめちゃってるな、私。不味いから嫌なだけで共食いへの禁忌で嫌なわけじゃない。
人間(ヒュー)族を直接殺したのは初めてですが、何の感慨も湧きません。トログロダイトのときと変わらない。
この手に掛けてなかっただけの話で、茶釜要塞のときに人殺しを済ませてましたよねそういえば。

あのとき既に私はグェスたち三人の妻で温泉洞窟の一員なのですから、立派な人殺しです。要塞内部に突入するドスとウォス
へ声援を送っていましたから、少なくとも彼らが殺した水兵たちは私が殺したのと同じだ。


もう一口囓ります。やっぱり不味い。
臭いし固いし妙に塩がきつくて脂っぽい。ひねくれた味です。猿の類はおしなべて不味いと聞いてますが本当ですね。
まあ、牛や羊だって品種や餌によっては不味いですけどね。山羊は更に不味いし。
というか豚が美味しすぎるんですよ豚が。
何の品種改良もしていない野性のイノシシがそこそこ食べられるぐらいには美味しいのですから、食用として優秀すぎる。

ちなみに肉食獣が不味いというのは偏見です。
あれは犬猫の類が不味いだけでして、アナグマとかクジラとかは美味しいんです。



「食べる?」
「グヒィ」

何口か囓った串焼き肉を渡すと、生き残りのオークたちは取り合うようにして食べはじめました。


さて。多少気分が落ち着いてきたので何かするとしますか。
オーク達をこのままにはしておけませんし、早く移動しないと次の冒険者が来るかもしれません。

まずは死者の弔いと戦利品の回収、その後に荷物を纏めて引っ越しといきますか。
うーん。彼らを捨て置く気はありませんし、弱っちいけど可愛げのある連中だから温泉洞窟に勧誘しても良いのですが問題は
私が単独行動するときです。
たとえば街に入っている間、この二人には何処で何をしていて貰うのか。
星0の下っ端二人だけで廃墟に隠れさせていると巨大芋虫とかにやられかねませんが、一度どこかの群に入ってしまうと再度
引き抜くのが面倒になりそうな気がします。


ん? 昼間会った連中のリーダー格だった、色黒なオークの姿が見当たりませんよ?
降伏していた2人はもちろん、死体となった計10人のなかに彼の目立つ姿がない。


「「プギッ!?」」 「プギー!」

あ、生きてた。入り口方向から騒がしく3人のオーク達がやってきました。うち一人が聞き覚えのある声をしています。
程なくやってきたオーク達のリーダーは色黒で太目の、オーク的な好男子でした。


後で聞いた話ですが、色黒オークは薬草摘みの人間雌たちが見つけると喜ぶ希少な草花やキノコを、同じく気の利いた贈り物
をしたがったオークたちと一緒に採集していたのです。真夜中にしか採れないものを狙って、ね。




 ☆106日め8、オークは極端な長寿ってあまり嬉しくないみたいなんですよね☆



生き残った五人のオーク達と一緒に葬儀を行います。

といっても、地下遺跡の穴に遺体を投棄するだけです。
数層下まで空いている吹き抜けの天井から放り込むと、床まで届いたらしい音がしました。


迷宮で生き迷宮で死んだ者は迷宮の生態系に還るが定め。
数層下の闇の中で虫や獣や亡者に食われたオークの血と肉と骨は、巡りめぐってまたオーク達のところに還ってきます。

これが彼らなりの弔いなら私がとやかく言うようなことでもないし、そもそも代案がありません。
魔物うごめくこの土地で土葬なんかしたらアンデッドに食われるか取り憑かれるだけです。遺体に聖水をかけたりして悪霊避
けの儀式をすればいくらかマシになりますが、絶対ではない。
火葬するには燃料が足りないし、足りたとしても10人も燃やせば煙が目立ちすぎる。
近くの川は人間の縄張りだから水葬も無理。

ならば葬儀が風葬や鳥葬じみたものになるのも当然です。どうせ食わせるなら屍食鬼(グール)よりは巨大ネズミや巨大昆虫の
方が良い。アンデッドは食えませんから。

オーク達だけでなく、チンピラ2人と冒険者5人の死体も穴に入れました。
捨てる前に装備品を身包み剥いで、食いでのある部位をオーク達に切り取らせてから放り込みます。


葬儀のあとで、オーガーの蓄えていたお宝とガラクタそして返り討ちにした冒険者たちの財産を分配します。
オークたちは分配を辞退しようとしましたが、彼らを荷物持ちとして使う報酬の前渡しとして押し付けました。
問答している時間はありませんので、強者の権利でごり押しします。東方世界のオークたちも強い者には素直に従うのです。

まあ気持ちは解る。
大金を持っていても守れないし使い切れないから意味がないのですね。分不相応のお宝は災いを呼ぶだけだと。
現にオーガーが溜め込んだものを肴に酒盛りしていたら横取り狙いが襲ってきましたし。

オーク達も基本的に光り物が好きですし宝物を集めるのも好きです。ただし彼らはただ溜め込んで死蔵しておくよりぱっと使
う方が好きでして、オーク的な納得のいく使い方とは「強者に貢いで保護して貰うor便宜を図って貰う」なのです。
オーガーや遺跡荒らしを瞬殺する少女神官にお宝を献上するのは当然の流れなのですよ。


なので、めぼしい財貨と装備品類は私が引き取りました。
潰れた板金鎧など金属製の装備品は万能鋳造機に突っ込んでインゴットに変えておきます。鉄や鋼や真鍮なので何かに使える
でしょう。

オーク達の取り分は銅貨を主に各種コインをそれなり、屑宝石や安めの光り物を一山、大粒の宝石を幾つか、毛布やロープや
ランタンなどの雑貨をほぼ全部、それに保存食と生肉です。

冒険者たちが一つだけ持っていた無限袋のなかには、割れた壷とか切り株とか案山子とか干涸らびた魚とか色々なガラクタが
入っていました。あとなぜか新品の馬用大型ブラシが何本も。
流石に全部がガラクタではなく、150食分ほどの堅パンと干し肉や炒り豆や干し果物などオーク達の喜ぶモノも入ってます。

無限袋の中には、塩や砂糖の入った調味料小瓶が幾つも入ってましたけど食い物に拘っているようには見えないんですよねあ
の襲撃者ども。
美味い物を食いたいやつは堅パン(ハード・タック)なんか持ち歩きません。


それはさておきオーク達には使えない無限袋を私がもらうのは良いとして、問題はこの長剣(ロングソード)ですよねえ。
普通のものより丈夫で錆びず、切れ味が鋭く、人狼など普通の武器が効かない魔物を切ることが出来る。
ただそれだけの代物ですが値打ちものには変わりない。ヴァダの街の故買屋に持っていけば1000ゴールドや2000ゴー
ルドにはなります。つまり厄介ごとの元。

オーク達は魔剣が凄いものだとは分かっていますが欲しがってません。
この剣は人間用なのでオーク達には使いにくいですし、仲間を何人も切った武器を不吉に思うのも当然です。更に言うとオー
ク達の言い伝えで、こういった武器を欲しがるとろくな事にならないと聞き及んでます。

私も賛成です。

前世の知識とソーニャさんから聞いた冒険者の心得から、この魔剣をオーク達に持たせるのは拙いと分かる。
なので温泉洞窟の倉庫に眠っていた魔法の片手半鎚矛(メイス)をオーク向けに改造したものを渡しまして、この魔剣は私がも
らうことにしました。

温泉洞窟の族長が迷宮で見つけ、巫女が柄などを改造して、ソーニャさんの鑑定を受けて合格し、エスティア様の祝福を受け
て強化された魔法の武器を手に入れてダイコクは嬉しそうです。
威力も信頼性もこっちの凡庸魔剣とは段違いですから当然か。


毎度のことですが、生き残ったオーク達に名前を付けました。リーダー格の逞しい色黒オークがダイコク、笑顔が素敵な男前
なエッビス、太目で力持ちのホッテイ、棒術の腕前が自慢のシャモン、逃げ足が素早いイダテン。
襲撃の生き残り組がエッビスとホッテイ、外でキノコ集めていて無事だったのがダイコクとシャモンとイダテン。

オーク族には雌や人間雌に変装できる男の娘がいないので、義息子にベンテンという名を付ける機会はなさそうです。
名付けた以上は息子も同然。彼らも私を名付け親として認め受け入れています。



私に所有権が移った財宝や装備品のうち、魔剣をはじめ謂われや曰くのありげなものを遺体を放り込んだ穴に投棄します。
死者には無用の代物ですが、生者には意味がある。
オーク達の死骸と共に眠るそれら財貨は彼らの生きた証となります。そして志半ばに倒れた冒険者の遺品を狙う掃除屋たちの
注意を惹き付けてくれる囮にも。

平凡な魔剣でも一財産になる。
21世紀日本のヤクザ屋さんにとっての高級外車ぐらいの価値が、冒険組織(クラン)や在郷騎士一家にとってはある訳で。
家族親戚友人知己好敵手仇敵などが、行方不明になった使い手の遺品を回収しようとするでしょう。

この世界には、知っている物品の在処を突き止める呪文やアイテムが存在します。戦利品の収集は、よほど上手くやらないと
命取りになりかねません。
武蔵坊の刀狩りって、実際にやったことでしたら怨嗟の的だったでしょうねえ。はずみで斬り殺しちゃった人数も10や20
じゃきかないでしょうから。

‥‥もう少し、コインや安物宝石を投棄しておきますか。遺品あさりの標的になってくれる連中の供養に。
銀の短剣は取っておきましょう。鋳物を研いだ大量生産品らしき代物で目立つ傷もなく、名前とかも掘ってないですから。



大急ぎで荷物をまとめて引っ越しします。
目指すは彼らが先月あたりまで暮らしていたという廃墟の一郭。

地下街と直線距離的には1000メートルも離れていませんが、間に幾つも廃墟や洞窟を挟んでいます。
途中で他のオークの群と接触しましたが、オーガーの姿焼きとコインをいくらか渡して無事に通してもらいました。
うん、セルキーたちもそうでしたが誰かと仲良くなるには共通の敵をぶっ殺すに限る。嫌われ者であればあるほど良し。


そうして廃墟の、大きなお屋敷だった基礎の部分にやってきたのですが何故に彼らがここから出て人間族が出没する危険な地
域に引っ越したかといえば、アンデッドが出たからでして。

実際、今でもワイトとゾンビが数体ずついましたよ。全部退治しましたけど。
ワイト(塚守)はゾンビの強化型みたいなモンスターでして、ゾンビよりも素早くて手強いだけでなく触っただけで生き物の生
命力を吸い取って殺してしまいます。
しかも殺した生き物を自分と同じワイトに変えてしまう上に、普通の武器では傷付かないと言う厄介さです。更に言うと生き
ていたときの半分ぐらいは知恵が残っている。

ですがこっちには神官(プリーテス)がいます。
ニュータ○プじみた直感で不意打ちが防げるからには、ちょっとやそっとの亡者なんか怖くありません。
ワイトもゾンビも銀の投げ飛礫と聖水の集団投擲であっさり全滅。戦いと言うより作業感覚で片づきました。


一応あさってみましたけど、元冒険者らしき亡者どもの遺品は大したものではありませんでした。
ごく普通の武具と冒険道具そして合計して100ゴールドにも満たないコインだけです。


聖水をまいて周りを聖別しまして、出入り口に瓦礫を積んでモンスターや冒険者が入ってこないように塞ぎます。
害虫の影響は虫取り草の粉とお香で防げますが、うーん、ネズミとかはどうしましょう。
アイテム惜しんで危機を招くのは馬鹿馬鹿しい、巻物(スクロール)を使いますか。備蓄に余裕もあることですし。ソーニャさ
んにもらった「保護円(サークル・オブ・プロテクション)」の巻物を範囲拡大して消費、部屋全体を結界で被います。

これで安心して眠れる。
地球基準でなら日付が変わるどころか新聞配達人が動き始めている時刻です。流石に睡魔がきつい。 

寝ます。


首飾り以外の装備を全部外して全裸になり、毛布にくるまって抱き枕を‥‥ホッテイで良いか。


眠さのあまり全てが面倒くさくなった私は、まだ少年と言って良い年頃のオークを寝床に引っ張り込んで添い寝させ眠りにつ
きました。
大きな狼のふさふさもこもこ具合も悪くなかったですけど、やっぱり添い寝には人(オーク)肌が一番です。






 ☆107日め、連戦の結果☆



朝になりました。睡眠時間は短いはずですが目覚めは快調です。
私の周りに固まって雑魚寝状態のオーク達を起こしてから、朝一番で水場へ出かけました。

人間一人が生存に必要とする水が一日あたり約2リットル、最低限水準の生活に必要とする水がその二倍。
幾つかの無限袋に入れてある水は合計して100リットル足らずなので、女の子とオークが6人も快適な生活を送ろうとすれ
ば直ぐに尽きてしまいます。

早い話、お風呂に入れません。風呂桶や熱源はあるんですけど水が足りない。
なので水を求めて近くの水場まで来たのですが‥‥。

「ヨコセ」
「ウセロ」

廃墟地下の池というか水溜まりには先客のオークたちがいまして、彼らは「水を汲ませろ」と要求したダイコクたちに「連れ
ている女を渡して消えろ」と言ってきました。
一人一人の強さはドングリの背比べ状態ですが、向こうは11人いますからね。強気にもなるでしょう。

しかし指揮官である強者が後にいれば士気が天元突破するのがオーク族の特性でして、こっちの5人は全く怯んでません。
向こうのリーダー格は、ダイコクたちの態度に疑問を持ちつつも今更引っ込むわけにもいかず「なんとかなるだろ」という
いかにもオーク的な見切り発車で喧嘩を始めました。

たちまちのうちに敵味方入り乱れての殴り合いが繰り広げられますが、一文の得にもならないので止めることにします。
やり方は夫たちの真似で良いか。
つまり鉄拳制裁です。
乱戦の中に踏み込んで棍棒を奪い取ってぶん殴り、腰布を掴んでぶん投げ‥‥あ、破れちゃった。

びりっ とあっけなく、オーク島住人の腰ミノと違ってボロ布を巻き付けただけの衣服は千切れてしまいました。
温泉洞窟の下っ端たちより体力的には数段貧弱な雑魚オークたちですが、不釣り合いなほどご立派な人間族似のち○こを持っ
ていましてそれがさらけ出されます。


「プギッ!?」

驚きのあまり固まってしまったそのオークをやんわりと、地下室の壁際へ蹴り飛ばしました。
蹴るというか足で押しのけた感じですね。放物線描かずに飛んで壁にぶち当たってますが。

ええい、次だ次。とりあえず全員無力化しないと。


一分かからずして、11人のオークは降参しました。
巨人並の馬鹿力でぶん殴られてひん剥かれれば士気が砕けて当然です。
双方とも特に重い怪我人はなし。

異種族間の殲滅戦ではなく同種族同民族しかも顔見知り同士の小競り合いですので積極的に命を取る気はありませんが、勝負
は勝負なのでケジメはつけないとね。
なので降参した全員が武器を捨て、壁際に一列に並び、正座して両腕を頭の上で組んでいます。全裸で。

彼らはダイコクたちと同じく、大きな群から独立したというか追い出されたばかりの若人たちですね。
若いオークの例に漏れず、モンスターや冒険者と殺し殺されの生活を送っているようです。


では、彼らに罰を与えるとしますか。朝風呂に入ろうとしたのを邪魔してくれた報いを。


こうして11人の名も知らぬオーク達は壁際で正座したまま、可愛い人間雌が風呂桶に浸かってくつろいだり石鹸の泡まみれ
になって身体を洗ったりする姿を見せつけられました。
更に、顔見知りの、自分たちと大して変わらないはずの雑魚いオーク達が人間雌と楽しそうに洗いっこしたりとか、一人一人
順番に気持ちよさそうなことをしたりしてもらったりしているところも。

この区域は廃墟の中でもかなり安全な場所でして、特に人間族の侵入者は一気に近づけない構造になっています。
街からでは、他の迷宮化した区域を通らないと辿り着けない場所なのでよほどの腕利きでないと騒ぎを起こさずに侵入するこ
とが難しく、ここまでモンスターをやり過ごして静かに動ける腕利きの遺跡荒らしが狙うほどのお宝がない。
そんな場所なのです。

なお、人間雌が口内発射された子種汁を美味しそうに、咽を鳴らして飲み干す姿に辛抱堪らなくなって立ち上がったオークは
飛んできた岩塊が頭に当たって伸びてしまいました。

ちょっと勢いを付けすぎたかな? まあ、死にはしないでしょう丈夫が取り得の生き物だし。




お風呂のあとも結界の効果時間が残っていましたので、ご飯を作ることにします。
ええ、負け組な11人のオーク達は、空きっ腹で私たちの調理と食事風景まで見せつけられ匂いを嗅がされてしまうのです。


無限袋に入れておいた食材を取りだし、呪文を使って血抜きします。
これは食材。食材なんです。グロいけど。

人間のものだと解る生肉は気持ち悪いなー 慣れの問題なんでしょうけど不気味でしょうがない。
我慢です我慢。これだって立派に肉で栄養源なんですから。
プリオンや寄生虫や病原菌なども「浄化」の呪文で解決していますから、安全性も問題ありません。


唐突ですが神官(プリーテス)のレベルが上がりました。
第2階梯の信仰呪文が使えるようになりましたので間違いありません。
どうやら夜中寝ている間にレベルアップしたようです。
レベルが上がったので1レベルの信仰呪文を6回、2レベルの信仰呪文を4回使えるようになりまして聖水の生産量とかも増
えてます。呪文の威力や融通の利き具合もぐっと上がってます。

「士気高揚(ヒロイズム)」「祝福(ブレス)」「固着(ホールド)」「沈黙(ミュート)」など、2レベル呪文は戦闘で使えるもの
が多いですけど、私にとっては「解毒(ニュートラルポイズン)」を使えるようになった点が嬉しいですね。
いくら今は毒耐性装備や霊薬があるといっても、手札が増えることは生存率向上に直結していますので。


人肉は皮を剥いでただの肉や骨付き肉にするとグロさがだいぶマシになりました。
とりあえず肋骨肉へ調味料すり込んで炙り焼きに、太腿肉を刻んですりつぶして香草と混ぜて肉団子汁にします。


こうして私は、昨日会ったばかりのオーク達に名前を付け寝床を共にし同じ湯に浸かり同じ火で調理したものを食べ同じ神像
に祈ることで家族になりました。
また義息子が増えてしまいましたけど、その嫁になってくれそうな娘さんもいるし良しとしましょう。


なお、ついさっき万能鋳造機で作ったエスティア様の像ですが温泉洞窟の元抱き枕は造型が高度すぎて真似出来ませんでした
のでソーニャさんを元にしています。
ただし像の身長は150センチ。

いえね、像は金塊を使って中空構造で作ったのですよ、全裸のを。
オーク的には「服を着た姿の像」よりも「全裸像に服を着せた姿」の方がウケが良いですし。
で、予備の水兵服(コスプレえっち用)を着せたのですが、私の身体に合わせた水兵服だからこれ以上神像を大きくすると水兵
服が着せられない。

今ですら ぱ っ つ ん ぱ っ つ ん ですからね。この像。
ミニスカート状態で太腿むき出しだし、お臍は丸見えだし、胸なんか屹立した乳首の位置がはっきり分かる有様です。

身長を150センチに縮めて、でも胸や腰の減り張りとかの比率はそのまんまなソーニャさんがセーラー服にミニスカート姿
ではにかみながらスカートの端を両手で摘んでめくり上げ、幼女のようなスジま○こを見せつけている姿をしたこの像をエス
ティア様だと言い張って良いのかどうか気になりますが‥‥。

まあ、拙ければお叱りの託宣なり神罰なりが来るでしょう。



えっとですね、神像のものほどではないにしろソーニャさんのあそこってわりと初々しい姿形しているんですよ。
出産や流産・堕胎の経験はないけど延べで5桁の回数男を受け入れて注がれちゃっているのにあの姿ですからねえ。
若返り薬が凄いのかローパーがトンデモ存在なのか、多分両方だと思います。






[38600] 55
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/08/01 14:11



 ☆107日めの2、信仰のかたち☆



レイちゃんです。不本意ながら遠くまで来てしまいました。
早く南の島に帰りたい気持ちでいっぱいです。

とりあえず、異郷でもやっていることは普段とあまり違いません。
起きたあとは軽く運動して、朝風呂に入り、朝ご飯を作って食べ、朝のお勤めをします。

具体的に言うと身の程知らずにも脅迫してきた雑魚いオークどもをぶん殴って、石鹸の泡まみれになって新入りの義息子オー
クたちといちゃいちゃして、人肉料理を二品作って朝ご飯の献立に加え、食べてから女神像造って水兵服着せてみんなで礼拝
したのです。

一汗かいてから風呂入ってオークち○こで楽しんで朝食にしてエスティア様の像を拝む。
うん、一緒だ。やってること自体は温泉洞窟と変わらない。



女神エスティアの前で全てのオークは平等なのです。みな同様に価値がある。
なので瓦礫だらけの床に正座させたまま、ではありますが敗者どもにもソーニャさん似の女神像を拝む権利をあげよう。

拝んでいる間は両手を好きに使って良いし、投石を受けて伸びていた負けオークに手当てして目覚めさせてますし、近視な彼
らにも見やすいように女神像を目の前に持ってきてますし、もう至れり尽くせりですよ。


壁際へ一列に並ばせると端にいるオークからはよく見えなくなるので、正座させているオークたちには円陣作らせてます。
車座になっているオーク達の中心に女神像と回転する台座を置き、ぐるりと回転させるとミニ状態になってしまっているスカ
ートの裾が翻って、観衆から溜息のような声が上がりました。

金属製とはいえ超絶リアルに作った像ですからね。容姿もお師匠様の一卵性双生児ぐらいに似せてます。
私の中にあった「女性美の結晶」という概念が纏められた姿でもある。
猪養令治というよりは温泉洞窟のレイちゃんにとっての理想の美女、女性への幻想が結実された形の一つなのです。

ソーニャさん似の姿は幾つもある美の結晶のなかの一つでして、女神像にしたい美女像の案はいっぱいあるんですけどね。
見たこともない美女や美少女の像を造ろうとするからいけないのですよ。
見たことのある姿を元にすれば、私にも女神像は造れるのです。


オークたちはソーニャさん似の像へ伏拝してます。涙ぐんでいるものまでいる。
美しい像というものは布教効果が大きいのです。地中海世界で耶蘇教が流行った理由の半分以上がマリア信仰ですからねー。
だって磔台に打ち付けられた血塗れの中年ヒゲ男より、嬰児を抱いた可憐な幼母の方がウケが良いでしょう? 普通は。

「マイア? ソレ、マイア?」
「いえ、この方は智炎神エスティア様です」

もっと生活に余裕がありさえすれば迷わず嫁にしているぐらい惚れ込んでいる薬草摘みの幼女と同じ名前を聞いて、ダイコク
が食いついてきました。彼の発音は リ と イ が区別しづらいのですよ。
彼らには「マリア」とは地母神マグナサラの別名で、生類(モータル)の乙女として地上界に降臨し「神の子」を産むときにそ
の名を使うのだ、と説明します。

奇跡も魔法も存在しない前世の地球に、子種を受け入れずに孕む女がいるわきゃありません。
ですが古代に嫁が処女かどうか確かめる方法なんて、膜が破れてるか破れてないかぐらいです。
つまり処女懐胎を「膜が残ってるけど孕んでいる」状態だと定義するなら現実的に充分有り得る。

まあ残ってるかどうかは私にはどうでも良いですけどね。
紀元前の死海近辺で処女だったからには、後の世で聖母と呼ばれたマリアは大工に嫁いで孕んだ時点で幼女だった筈。
それも相当に幼かった筈です。記録というか教団の伝承に残るレベルで珍しい出来事だったのですから。

珍しい例としてではありますが、ひ弱な現代人でも一桁年齢の幼女が無事出産した記録がある。
ならば紀元前に隣人たちから「あんな歳の子を孕ませるなんて引くわー」とか言われちゃった大工がいてもおかしくない。


つまり聖母マリアは幼女なのです。
聖母=幼女。幼女妊婦は聖母なのです。オーク島の教義ではそうなります。
薬草つみのマリアは地母神の化身にあやかって名付けられた、聖母となるべき人間雌なのです。


と、いうわけでオーク島にいる金髪幼女を元にした幼女妊婦の像を作りました。北の方の漁村で姉や元メイド達と暮らしてい
るあの娘です。こちらは泉源神ミャトリカの像だと言い張ることにしましょう。
東方世界の婦女子は4割ぐらいが金髪か金髪に近い色合いなので、女神像が両方金髪でもおかしくない。
マグナサラ様は栗毛か亜麻色でいこうと思います。

ミャトリカ神像の服装は娼婦風に透明布地下着と毛皮のマントにしてみますか。
私の透明ブラとパンツとスリップを改造して、と。体操服とブルマーも似合いますけどアレは耐久性に欠けますからね。
なお、ミャトリカ様の像は妊婦だと一目で分かる姿にしてみました。
人間の胎児でいえば妊娠六ヶ月ぐらいに、いたいけな幼女のお腹が膨らんでます。

え? 女神像の衣装に耐久性が必要な理由ですか? そりゃ触られまくるからですよ。
出来の良い裸像には触れてみたくなるのが当然の理、オークに拝ませる女神像は触られることを前提に造るべきです。
現に二体の女神像は、衣装も含めてオーク達に触られまくってる。


「ここを、こうしてですね‥‥」

お手本を見せてから、女神像に紐ぱんつやらドロワースやらを穿かせては脱がせる訓練をオーク達にさせます。
千切ったり破いたりしないよう優しく脱がせて、汚れないよう大事に仕舞って、事が終わったらまた穿かせてあげる。
服は財産なので、布に傷をつけることは肌に傷を付ける事に次ぐ不作法です。
逆に言うと乱暴に引き剥がされたいと思ってしまう被虐趣味の人間雌もいることはいるのですが、まずは基本からですね。



犬が腹を見せるように、熱く火照った股を見せてくる人間雌はオークに降伏を申し出ているのです。
オールクゥスの子に内臓の奥まで征服されてしまいたいのです。

敗者を良く統治できるのならオークは降伏を受け入れて、オークのために子供を産むという人間雌にとって最高の幸福を与え
てあげましょう。できないのならできる日が来るまで雌奴隷志願者を人間の世界に預けておきましょう。

「この廃都周辺だけで数百数千の人間雌が、まだ見ぬご主人様に征服して頂ける日を待ち焦がれています。みなもその時に備
えて強く立派なご主人様になるために励むのですよ」
「グヒッ♪」「「グヒー♪」」「ガンバル!」


お仕置きの時間が終わりまして、一纏めに固まって私の説法を受けていた5人の義息子たちと11人の新たな信徒たちは感動
しています。
自民族優越主義は人間社会につきもの。つまりオーク族にもありふれた概念ですが、ここまで理路整然と語られたのは初めて
だったのですよ。

テレパシーじみた呪文の効果で、実例を解説付きで語られたのですから説得力は抜群。

数少ない例外を除く大多数の人間雌は、一昼夜オークに抱きしめられていたら自分からち○こしゃぶりつくぐらいそのオーク
を好きになってしまいます。
ほぼ例外なく、たとえ無理矢理にでもオークと子作り行為を続けてしまった人間雌は数日以内にオークに抱かれないと生きて
いけなくなってしまいます。身体も心もです。

これがオーク族の優越性、その証拠でなくてなんでしょうか。
少なくともベッドパートナーとしてオーク族は優れている。オークに寝取られる人間妻は幾らでもいますが、人間に寝取られ
るオーク妻は全く‥‥ではないにしろ殆どいないのですから。



オーク族と一口にいっても色々ありまして、部族や民族ごとに文化が違います。当然ながら巣ごとに掟が違う。
たとえば温泉洞窟には「遊具の上にいる女は妻でなくとも凝視してよし、むしろすべし」という掟(ルール)がありますし。

本日、なし崩し的ではありますが二つのオーク集団は統一されました。16人のリーダーはダイコクが務めます。
この小集団は「武器を捨て肌を晒して慈悲を乞う人間雌は嫁または嫁候補として扱う」という掟を持つようになりました。
「嫁にして養うことができない人間雌と子作りしてはならない」とか「嫁候補の人間雌と別れるときは財貨を分け与える」と
いった掟も同時に定められています。





 ☆107日め3、理屈は解るけど☆



昼過ぎに行くと市場の露店は殆どが店仕舞いしていました。文字通りの売れ残り商品しかありません。
やはり遅すぎたか。朝のお勤めに時間をかけすぎたかな?
仕方なく、売れ残りのなかから鮮度や状態が比較的良い野菜や果物などを買い込みます。あと黒パンや腸詰めとかの比較的保
存が利く食品類と酢や穀醤などの調味料を幾らか。
相場調査の一環として、一部の食料品はオーク島産香辛料との物々交換で購入してみました。


オーク達とは一旦別れまして、今は市街に戻ってます。門番が昨日と同じ人だったのでいつのまにか外へ出ていた事について
見逃して貰いました。古い通行証って便利ですね。

手に入れにくいものが安値で買えるし廃墟と違って徘徊モンスターが大人しいので、昼間の市街は気が楽です。
スリや引ったくり狙いの子供や浮浪者と何回か遭遇しましたが、睨みつけたり小銭を投げたりしてやりすごしました。
それらの雑魚とは違う、より手強そうな連中はさり気なくですがまだ私の観察を続けています。


これは、宿に泊まるなら余程高級な所にしないと危険ですね。
信用や外聞を容易く切り売りできない高級宿なら、迂闊に仕掛けてはこないでしょう。
治安の悪い地域だと良くあることですからねー 宿の従業員が宿泊客を襲ってくる事例は。


一見さんの冒険者とも商売している店を何軒か巡り、物資を購入します。焼き物屋でとっくりじみたの陶製容器を買えるだけ、
油屋で発火油とオリーブ油を合計100リッターほど、古着屋でマリアと小母さん向けの服を何揃いか。
雑巾とかに使えそうな洗濯済みの古布も買いました。櫛とかブローチとかの小物は‥‥男どもから贈らせた方が良いか。


大通りに面した商店の従業員とか買い物客などを観察してみましたが、オーク島ほどじゃないにしても妊婦率高いなー。
15歳程度から30歳過ぎぐらいまでの女人のうち、4人に1人は妊婦さんです。
孕んだばかりでぱっと見て分からない人や産後で授乳中の人も入れれば、半分近くが子作り中または妊娠中または授乳中。

ふむ。子供の比率も多いですし、産まれてくる数そのものは多いのか。
この地域が人口増で困っているという話は聞かないので、死亡率が高いのですね。
人間族の集団にも栄枯盛衰がありまして、モンスターや野生動物を駆逐して人間の領域を拡げている所もあればマリア達の村
のように逃げ出す羽目になった所もある。



つい好奇心で、屋台の菓子パンやパイの類を買ってみましたが、うん、不味い。
試食しときゃ良かった。
特にナマズの塩漬け肉パイが酷い。これで銭取るとはいい度胸だ。
正直いうと、今から引き返して屋台に火を付けたくなる程の不味さです。


どうしましょう、これ?

一応健康体のマリアはともかく、病人に食べさせたら容態が悪化しそうなぐらい不味いんですが。
生臭いし苦いし塩気がきついし泥臭い。この街の住人はこんなもの食ってるから肉が臭くなるのかもしれません。

捨てるのもなんだから、路地から眺めている浮浪児の群に渡そう‥‥と近寄ろうとしたら逃げられました。
潮が引いていくようにさがっていきますね。怯えられているのかな?


動物的にみれば不思議でもないか、相対的弱者が相対的強者を恐れるのは当然です。
夫たちの真心を受け取るのに二ヶ月もかけた屑に、見ず知らずの旅の尼僧を警戒する浮浪児たちをとやかく言う資格はない。

私はあの子たち全員を殺せますからね、一人遺さず。やらないだけで。
温泉洞窟のオーク達はやれないけど、私ならやるべき理由さえあればやれます。能力はともかく意思において私の方が竜殺
しのオーク勇者よりあの子たちにとって危険だ。


んー 可愛いというか磨けば光りそうな子もいますけど、マリアほどじゃないなー。
まあ良いか。数年後に向けた投資だと思えば安い安い。

「投げますよー」

そう言ってから、不味い菓子パンのようなものが入った籠を投げつけます。あ、転んだ。
受け取ろうとしたリーダー格らしい浮浪児でしたが、見た目より重たい籠だったので抱えたまま後に転がりました。
他の浮浪児たちが支えようとして一緒に転んでますので、怪我はしてません。

ふむ。百枚程度の銅貨とはいえ一枚一枚が重いですからねえ。次に投げるときは銀貨も混ぜておきましょう。
こうして餌付けしておけば彼らが新たな情報源になってくれるかもしれませんし、少ない金額とはいえこの投資で浮浪児たち
が生き残る確率は僅かながら上がる。

浮浪児たちが生き残れば冒険者や木こりや採掘人や薬草つみになる人数も増えて、人数が増えると一人あたりの儲けが減る。
すると近場ではなく街から離れた区域にまで人が出向くようになりオーク達にとって敵や嫁と出会える機会が増える訳です。
だから籠の中に小銭を入れた訳でして。
野良猫に餌をやると際限なく増えるって? 増やすために餌をやっているんですよ、こっちは。


確かビィーヤ盆地のどこかに、水浴びすると女の子になってしまう泉がある筈なのですがどこの迷宮だったかな?
肝心の場所が思い出せません。
一ヶ月あたり数人しか転性できない泉ですが、なあに残りは男の子のままオークの虜にしてしまえば良いのです。
私の知る限りでも、シャモンやイダテンら数名のオーク達は「可愛ければ男の子でも良し」派なので需要がある。
根も幹も枝葉も優しい義息子達なら、女の子になれる日を心待ちにして生きる男の娘奴隷たちを可愛がれるでしょう。


重たすぎる籠の中身を見て、みんなで山分けだと喜んでいる浮浪児たちに背を向け私はスラムの端を目指します。
買い物も済んだことですし、マリアたちの様子を見に行かねば。
おや、こちらの通りは行き止まりでしたか。引き返すのも面倒だから壁を乗り越えましょう。

石材の凹凸や継ぎ目に指をかけて、するすると行き止まりの壁をよじ登って越えて、反対側によじ降ります。
一気に飛び越えても良いのですが、一応妊婦なので強い衝撃は避けたい。
飛んだり跳ねたりする癖が付いてしまうと落下耐性装備を外しているときに つい、うっかり で高いところから飛び降りて
しまうかもしれません。
地球でいえば妊娠八週目あたりが一番流産の危険が高い時期ですからね。異世界で繁殖超人の肉体をしていてお腹にいるのが
オークの子であっても、妊婦は用心しなくては。



えっと、確かこのあたりにあった筈ですが‥‥あったあった。
ふむ。とりあえず無事に夜を明かせたようですね。二人が暮らしている、掘っ建て小屋より数段マシな住居は健在です。
住人の二人も生きている。


「おかえりなさい」
「はい。ただいま」

特に何ごともなかったようです。本日は薬草摘みを休んで小母さんの看病をしていたマリアに食料などを渡し、小屋の水瓶に
無限袋から水を継ぎ足して小屋ごと「浄化」します。
伊達に神官としてレベルが上がっていませんでして、「浄化」の効果範囲を更に広げて使えるようになったのですよ。
床や水瓶や病人が横たわっているベッドのシーツはもちろん、あとで捨てに行く予定だった便壷の中身まで浄化されてます。


小母さん、名前をサラというのですが朝には立とうとしていたそうです。今は寝てますけど。
寝息も安定してますし、半月いや10日もあればほぼ完治するでしょう。
念のために「安眠」の呪文を使っておきますか。幾らかでも治りが早くなる筈。

彼女を本当にオーク島までお持ち帰りできるかどうかは、まだ解りませんけどね。
マリアの方はもう取り返しがつかない身体にしてしまいましたので、責任とらせてあげさせないと。


「それで、どうなりましたか。あの方々は」

オークに心を奪われてしまっても常識は残っていますし元々賢い子なので、マリアは声を潜め尋ねてきました。
彼女に、昨日の優しくて気前の良いお客さんのうち二人が死に二人が生き残ったこと、そして残った二人が彼女を妻に迎えた
いと熱望していること、彼ら二人が私の義息子になったことを伝えます。


「そう、ですか」

ダイコクが一番好きだけど、オーク達さえ良ければ四人全員の共同妻になっても良いぐらいに他の三人も好きになっていた
マリアは死んだ二人のために涙を流し、祈りを捧げています。
一言も責めませんね。誰かを責める気がなくなるぐらい、死を見慣れてしまったからでしょうけど。

生死の分け目ほど理不尽なものはありません。
空が暗くなる程の矢玉を土砂降りに浴びて平然と生き残る奴もいれば、家で寝ていたのに梁の上から落ちてきた金槌で頭割ら
れて死ぬ奴だっているのですよ。
この子はこの歳で幾つの死に様を見てしまったのか。


理屈では解っていたけど実感するときついなー。
野生生物とモンスターで溢れかえっているオーク島よりも東方世界の辺境の方が、死と暴力と理不尽に充ちている。
だからこそオーク島の女たちはあんなに嬉しそう異種族の夫へ跨って腰を振り、幸せそうに我が子へ乳を与えているのです。





 ☆107日め4、消しゴムと保護者の価値は(略)☆



マリアといちゃいちゃしていたら夕方になってしまいました。

いえね、改めて彼女にお見合いして欲しい私の夫と義息子たちは全員オークなのだとうち明けまして。
すっかりオーク好きになってしまったマリアはダイコクの妻になることを承知したのです。二つ返事で。

ただ、小母さんの容態がもう少し良くなってからでないと別れる訳にもいきませんし、オーク側にも都合ってものがある。
なので暫くの間は結婚を前提にしたおつき合いを続けるという事になりました。
第一回目の逢い引きは明日の朝やや遅い頃に、私と一緒に裏門を出る予定です。なので朝にはオーク達と合流しないと。


で、別れ際に「あの方にこれを」と気持ちの籠もった言付けの口付けを頼まれまして。
愛らしい幼女とディープキスしてしまって、その、つい、「そういえばダイコクからも言付けを頼まれてましたっけ」と
気持ちの高ぶるままに ち ゅ っ ち ゅ っ してしまったのです。

いくらおませさんとはいえ、田舎育ちで未貫通の幼女が前世持ちオーク妻に敵うわけもなくマリアはとろとろに溶かされて、
もとい溶ろかしました。私が。
大丈夫です、小母さんは熟睡していましたし小屋の再浄化もしたし聞き耳立てられていた気配もありませんでしたから精々、
同性愛者で幼児趣味の神官が治療費がわりに患者の身内を玩んでいるぐらいの噂にしかならない筈です。



そんな訳で、市場の露天だけでなく一般の店舗も店仕舞いを始めた時刻に故買屋を探して歩いている訳です。
質屋とかは割と遅くまで開いているものです。賭け事(ギャンブル)は夜にやることが多いですし、賭博で金銭がなくなったり
金目のものを手に入れたりした連中は質屋や故買屋に行くのが基本ですからね。


ある程度名が売れている冒険者なら金貸しが財宝の買い取りとかしてくれますが、駆け出しやチンピラは門前払いです。
自然と、ごろつき紛いの無名冒険者は怪しげな故買屋に出入りするのです。

この場合、私が旅の神官(と言い張れる姿)であることは悪い事じゃありません。
普通の神官なら所属する派閥の寺院で換金できますし、そうするのが普通です。逆に言うと一見して地元民に見える神官が
地元の寺院に頼らないということは不自然であり怪しまれる要因になる。

一見してヒルデニア人と解りますし、地元民とは違う教団に属しているであろうことが察せられるのですよ私の外見は。
バルキアというか東方世界の神官職は魔剣やクロスボウを担いで旅なんかしないのです、基本的に。

鎚矛(メイス)や戦鎚(ハンマー)と比べると剣(ソード)は高価ですからね、しかも人切り以外に使い道がない。
平和と清貧を旨とする者が持ち歩く代物じゃありません。
地球の21世紀初頭の日本で、きんきらきんの袈裟着てフェ○ガモの革靴履いててフェ○ーリ乗り回して純金作りのローレッ
○ス付けてる坊主がいたら普通のお坊さんとは世間からの視線が違って当然でしょう。



弱ったな、そろそろ日が暮れそうなのにろくな故買屋が見つからない。

一軒目の、「石宿檻」なる店は外から見ただけで解る危険度だったので除外。
もしも私が霊能者だったら、まとわりつく怨霊が山になっているのが見えたであろう程の禍々しさでした。
いる。何かいる、絶対。ニュー○イプもどきの直感が 近 寄 る な と喚いてます。

二軒目の「鮫鍋」は雰囲気こそ一軒目に比べればマシなのですが、やはり剣呑な気配がある。
しかも店の近くにぶらついている振りをしたチンピラが何人も待機している。間違いなく、入ると面倒くさいことになります。
ここも除外。

三軒目の看板すらない故買屋はスラムにありまして、こちらは比較的安全な代わりにボッタクリです。
表通りの店に行けない訳ありの客から搾り取る系の営業方針ですね。保留しておくか。


四軒目以降は宿屋と酒場兼業の、いわゆる「冒険者の宿」です。
冒険者といっても山師、傭兵、掃除人、狩人、遺跡荒らし、密偵、用心棒、人捜し、調達屋、短期労働者、配達人、芸人、
伝道師、物見遊山その他諸々いますが、それらの荒くれ者はみ出し者に衣食住はじめ様々な物資・情報・労力などを提供する
施設です。

つまり、冒険者が欲しがるものは大概が「冒険者の宿」で手に入るのですよ。
服の繕いや洗濯、代金に応じた寝床に飲食、娯楽から装備品まで。
高度な商品は専門の業者にいかないと買えませんがね。
銀の短剣や銀の鏃は宿でも手に入りますが、本物の魔剣は腕の良い魔法使いや冒険者向けの故買屋とコネがないと買えないの
です。

買い取りの方も同じでして、あまりにも高度だったり特殊だったりするアイテムは「冒険者の宿」では換金できなかったり
評価金額が下がったりします。
たとえ鑑定書付きの本物でも、いえ本物だからこそ国宝級の逸品を持ってこられると街の質屋は困るのと同じですね。


まあそれは良い。たいした問題じゃありません。
私が欲しいのは情報なのです。
官憲や裏稼業への伝手がないならば、民間の事情通つまり「冒険者の宿」の親爺から情報を買うという手が常道です。

しかし、私には東方社会の常識がない。地理や情勢の知識も殆どない。ついでに言うと交渉系技能(スキル)がない。
あるのは前世から持ち越した、現代日本人的な商習慣という中世欧州風ファンタジー世界の交渉ではマイナスにしかならない
スキル(?)のみ。
文明人って文明から離れると無力なんですよ。


‥‥しょーがないですよね。覚悟を決めてぼったくられるとしましょう。
私には凡百の日本人観光客にはない要素、ニュータ○プもどきの直感とオーガー以上の暴力がある。よほど酷い失敗をしない
限り生きるの死ぬのといった騒ぎにはならない筈です。

正直言うとごく普通の日本人観光客が持っている後ろ盾が、日の丸と菊の御紋が欲しいですけどね。
オークたちとミッシェル山大神殿とお師匠様の後ろ盾がなくなるとここまで心細くなるとは。
エスティア様とも交信できないし。



冒険者と取り引きしている店舗から聞きだした話では、この宿が比較的安全で良心的という話でした。
名を「酒の滝壺亭」、看板の左右には数代前の常連客が巨人族の酒蔵から分捕ってきたという謂われがある巨大な酒樽と酒壷
そして平たいのや細長いのなど数種類の、これまた大きな酒器が飾られています。

外から見る分には、血臭や禍々しい気配はありません。
日没直後の時間帯とあって、大勢がいて飲み食いしている喧騒が伝わってきます。


では、いきますか。





 ☆107日め5、世間はせまい☆



2階建ての宿屋は、想像していたよりも穏やかな場所でした。
客と店員は冒険者ないし元冒険者であろう物騒な面々ですが、西部劇の酒場のような殺伐とした空気はありません。
女の一人旅とみて絡んでくるごろつきとかもいませんでしたし。

「もう一杯おかわり良いかい?」
「どうぞどうぞ、遠慮なく」
「じゃ、俺も。串焼き肉追加な!」

絡まれずに済んでいるのは、目の前で飲んだくれている二人組のお陰かもしれません。割と強そうですからね。


書き入れ時なので店内は混んでいまして、相席となったのです。で、新顔冒険者のお約束としてお邪魔する卓にいた先客二人
に色々と傲ってみました。
気前よく振る舞う方が友好的に応じられやすいのはオーク島も東方世界も変わりません。

世間話という形で、只酒只飯に釣り合う程度の現地情報を渡すだけなら二人組の冒険者たちも損しませんし、私について興味
を持っている者たち、情報を欲しがっている連中は聞き耳を立てていれば普通に望みのものが手に入る。
そいつが何を知りたがっているのか、というのも時や場合や相手によっては価値のある情報になるのですよ。

繁盛している店だけに客の水準も高く、お馬鹿なチンピラをけしかけて威力偵察などという下策は使わないのです。
あと、社交辞令で言ったわけじゃありませんが本当に遠慮せずに飲み食いしまくっている二人組は、お楽しみの邪魔をしてく
る輩にも遠慮しないでしょう。


そんな訳で、戦士にしてはやや皮下脂肪が厚すぎな男と盗賊にしては筋肉が付きすぎている男の二人組冒険者と飲み食いしつ
つ情報収集しているのです。

「剣姫ソーニャの弟子なんだって? 言いふらさない方が良いと思うぜ、本当なら特に」
「そうそう。相棒みたいに一度組んだことがあるだけで自慢してる奴もいるぐらいだからな」

活動域だけあってお師匠様の名はこの街でも知られていて、名高い強者であるからには偽物や自称関係者も大勢います。
地球にだって時々いるじゃありませんか、飲み屋で「俺は○○組の××さんのダチなんだぞ」とか法螺吹いてたら偶然そこに
いた○○組関係者に聞こえてしまい、酷い目にあわされちゃう奴とか。

英雄級冒険者ともなれば敵が多くて当然でして、自称でもソーニャさんの弟子に勝てば箔が付くと考える奴もいる訳です。
弟子が本物っぽいなら尚更に。
とにかく敵が多いお師匠様ですし、本人にならまだしも、偽者に恨みを抱いている奴にその弟子だと思われて狙われる‥‥
なんて馬鹿げたことも有り得る訳で。


まあ、この店内でいきなり仕掛けてくる命知らずはいないでしょう。

常連客だという太目の戦士の話では、「酒の滝壺亭」の亭主はいまカウンター奥でフライパン振っているハーフエルフ。
女だから女将か? 元は料理人でしたが冒険の旅から帰ってこない先代亭主の後を継いだのだとか。
年齢は不明ですが既に成人した息子さん(こちらもハーフエルフ)がいるからには30歳以上確定。
ちなみに息子さんはここから見て東方にある学究都市ムゥ・ケイルに留学中だそうです。

女手で冒険者の宿を切り回しているのですから、そこらのごろつきでは束になっても敵わない凄腕です。
ハーフエルフで器量よしとくれば人買いにとって金無垢の実物大像よりも美味しい獲物、余程の実力か強力な庇護者がなけれ
ば即座に捕らえられて売り飛ばされてしまうのですよ。

同じ大きさの白金塊よりも高価ですからね、エルフやハーフエルフの雌奴隷は。
ええと、仮に比重が人体の20倍として大母様の実物大白金むく像を作ると約900㎏か。
白金貨2万枚で‥‥20万ゴールド? たったの?
安っ! 白金の塊、安過ぎです。これだからファンタジーは。
この宿の女将がオーク島に売られてきたら400万ゴールドはいくでしょうねえ。オーガー村のウサミミ奥さんと一緒に買い
取られたハーフエルフの評価が270万でしたっけ? 300万はいってない筈です。


それはそれとして、もし奴隷市を見つける事ができて、もしエルフが売られていたら買い占めなきゃ。
東方世界にエルフがそこそこの頻度でいるからには、奴隷市にもエルフが出回っている筈です。
まあ、その前に自分が売られる立場にならないようにしないと‥‥いや、私が奴隷市に商品として並べられる可能性はかなり
低いですけどね。オーク向け奴隷市になら並ぶこともあるかもしれないけど。
人間の顧客に、オークの子を孕んでいる女の需要が多いとは思えません。


宿の亭主自身が主犯とかならともかく、亭主が物理的に強い宿だと客を狙っての拉致や強盗などは起きにくい。
しかし、差し向かいの席で只飯只酒を喜んでいる盗賊職にしては妙に筋肉付き過ぎな冒険者が、5年前の春先に泊まっていた
田舎宿みたいに亭主が弱っちい所だと危険です。
白昼堂々と乗り込んできた野盗どもに、乱暴狼藉というか店内で強盗殺人された上に公開強姦までされかけてしまう。

で、昼飯を邪魔されて怒った女剣士に「五月蠅い」と野盗どもが切り捨てられる、という展開になりまして。
盗賊にしては筋肉質な常連客には抜く手も見えなかったという早業、店を襲った野盗どもの本拠地へ間髪入れず潜入した速攻、
人質を無事確保してから野盗どもを大広間に誘導して一挙に殲滅する手口、どう考えても本物のソーニャさんです。

というか聞いたことがあるぞこの話、大神殿のお泊まり会で。


「あー 貴男がゴタ市のレクスさんですかひょっとして?」
「確かに俺はレクスだが、師匠から何か聞いているのか」
「ええと確か緑スライムに集られて危うく死にかけて以来、火の入ってない暖炉が苦手に‥‥」
「その話はやめろくれたのむ」

ソーニャさんから聞いた幾つかの冒険譚、その一つにスポット参加した人のようですね彼は。
嘘を言っている気配はない。ということはこんなところにお師匠様の知人が。

お師匠様と一緒に野盗団の根城に忍び込んで人質を解放した勇敢な冒険者の一人であるレクス氏ですが、地下のゴミ処理場に
なっていた部屋で不覚をとり危うくスライムに溶かされてしまうところでした。
壊れた暖炉の中を覗こうとしゃがみ込んだら緑スライムが出てきたのですよ。
連中の不意打ちは洒落になりませんからねー。私なんか数段格下の透明スライムにやられてしまいましたし。




二人組から、このヴァダの街は春あたりから行方不明者が急増しているという話を聞きました。
なんでも夜中に街中を一人歩きしていた者が次々と消える事件が頻発していて、失踪現場の殆どに争った跡や血痕ときには犠
牲者の遺体の一部までもが残されているのだとか。
当然ながら何者かの仕業であり、犯罪行為なのは明かですが何故か目撃者が現れず捜査は難航しています。

「それは怖いですねー」
「そうなんだよ。俺らも見回りとかしてみたんだが一向に減らなくてな」


二人からは他にも「西の岩山からドレイク(デミ・ドラゴンの一種)が飛んできて麓の村々を襲っている」とか「街の北にある
小さな荘園が丘巨人(ヒル・ジャイアント)の群に占拠された」といった噂話を聞き出しました。

オークの居場所も聞いてみましたが、オークはそこら中に巣やねぐらがあって探すまでもない状態のようです。
ハラキズらしきオークの噂や、オーク族をまとめる大族長が現れたとかの情報は手に入りませんでした。



ふむ。どこにいるんでしょうねあの子。
この近辺にいるオーク族は組織化されておらず、小規模な群が各々好き勝手に動いているようです。当然ながら横の繋がりも
殆どないので人捜しは難航しそうですねこれは。。


今更ですが、勘違いしていたことに気付きまして。
ソーサラー呪文の「物品探知(ロケート・オブジェクト)」とかは使用者が知っている物品じゃないと探せないのです。
ソーニャさんが使っていた呪文は他人にかけることができましたが、あれは同系統の上級呪文だったのでしょう。


つまりこの街で見つかる普通の魔法使いには、ハラキズが持っているアイテムを探して貰うことはできません。
知らない物品は探せませんからね。

さあ弱った。どうやって迷子を捜したら良いのでしょうか。



「人捜しかい? 懐に余裕があるなら賞金かけてみるってのはどうかな」
「賞金ですか」

要は「WANTED!」とか「DEAD OR ALIVE」とかを書いて似顔絵と一緒に張り出すアレです。西部劇でお馴
染みの。
うーん、考えとしては悪くありませんが人間の街で「オークを無傷で捕まえろ」という内容はちょっと難しいですよねえ。
賞金稼ぎが「ごめん殺っちゃった。半金ぐらいは出るかな?」とか言いつつハラキズの生首持ってくる図しか想像できません。


参考になるかと思って壁に貼り付けられた賞金首どもの手配書を眺めてみましたが、多いなあ。
賞金100だの50だのといった木っ端悪党から万単位の大物まで、百人近く並べて貼り付けられてます。
新しい手配書が重なりに重なって、何枚もめくらないと一番下の手配書が読めない有様ですが、これ処理できるのかな。


えーと、モグリの奴隷商『二目と見られぬ』モアキン、普段は覆面で顔を隠しており素顔を見た者は必ず殺している。
賞金は3800ゴールド、生死を問わず。

魔術師クワン・リー、罪状は初級冒険者への連続強盗殺人。賞金2000ゴールド。死体だと三割減額。

毒殺魔リスン。毒物をばらまく愉快犯。賞金1700ゴールド、生死を問わず。

公金横領犯、ポエティエ。賞金1500ゴールド。死体だと半減。

盗掘者グェッヘナー、鉱山爆破事件の容疑者、賞金6300ゴールド。生存時のみ支払い。

連続殺人強盗、グジリエ。若い男、特に腕に自信のある者を狙う単独犯。賞金1600ゴールド、生死を問わず。

野盗の頭目、リンボッツ。好んで弱者を狙う凶悪犯。賞金4500ゴールド、生死を問わず。

邪教の神官、ゾブダック。高位の死人使い。賞金11000ゴールド、生死を問わず。

邪教団教主、ブウージザック。邪神の分霊を召喚し一万を越える被災者を出した。賞金60000ゴールド、生死を問わず。

他にも色々います。



人間だけでなくモンスターの賞金首もありますね。
村人を10人以上食い殺したはぐれトロルに700ゴールド、街道沿いを荒らしている片目のワイバーンに850ゴールド、
沼地に出没している7本首のヒドラに900ゴールド。こちらは基本的に殺害前提です。

指名?手配した特定個体だけでなく、指定した種類のモンスターを狩れば手に入る懸賞金もあり、か。今の所一番高いのが
巨大アリ(ジャイアント・アント)で一匹あたり110ゴールド。‥‥命を懸けるには安い金額ですねー。

念のため確認してみましたが、この巨大アリは東方世界で一般的な種類でしてオーガー以上に厄介なモンスターです。
平たく言うとオーガーよりかなり素早く、やや頑丈で、やや攻撃力が高く、数が数倍から十数倍多く、常に集団で行動し、
一度襲ってきたらどちらかが全滅するまで戦い続けます。絶対に、逃げたり怯んだりしません。一度見つけた獲物は何処まで
も追い続けてきます。

まともにぶつかれば中級冒険者の一行ですら全滅するのが巨大アリですからねー。下手するとレッサードラゴンを一匹退治す
る方が巨大アリの巣を潰すより楽だったりします。
巨大兵隊アリは丘巨人やワイバーンを捕まえて肉団子にしてしまいますが、大規模な巣にはその巨大兵隊アリが10体ぐらい
いたりすることもあるんですよこれが。
ああ、ソーニャさんから嫌というほど聞かされた目撃談を思い出しちゃった。巨大アリ怖い。


素材買い取りもやってます。
グリフォンの羽が1枚あたり3ゴールド、巨大蜜蜂の蜜が1リッターあたり10ゴールド、巨大蛍の発光腺が一つ30ゴール
ドただし新鮮な物のみ、バジリスクの目玉が一つ1000ゴールド、ユニコーンの角が一本500ゴールド。


げ、この辺はユニコーンが出るのか。

「うん。半年前ぐらいから討伐対象になってる」
「退治されてないんですか?」
「仕留めるより増える方が多いんだよ」


わーお、群れでいるのかよ。
既に何十人も旅人や野外労働者が殺されてまして、ユニコーンの出る地域は近隣領主の軍勢も近寄れないとか。
人妻で良かった、もしも独身時代に転移していたら馬外道に犯されてから殺されていたかもしれません。
今ならユニコーンの群れが相手でも逃げることぐらいはできます。

オーク島の女たちから聞いてましたが、被害地域の住人から直接聞かされるユニコーンの害獣っぷりは洒落になりません。
処女専の強姦魔で二十歳以上は婆扱い、しかも自分が犯したから非処女になった女の子を容赦なく突き殺す腐れ外道。
それも犯したというか射精して余韻が収まった直後に、ですからね。
レクス氏が直接知っている件だけでも3人の娘さんが強姦殺人されてます。

強姦対象でない人間は遭遇したら即座に殺されます。19歳までの穢れなき乙女以外は全て殺戮対象です。
処女以外がユニコーンと出くわしたら死亡フラグ。処女もユニコーンに発見されると死亡フラグ。
出現頻度が低いからまだマシですけど、もしユニコーンがシカやイノシシ並に頻繁に出てくるモンスターだったら人類は滅亡
しているかもしれません。
こんなのが街の近くに居座ってりゃ景気も治安も悪くなって当然ですよ。新入りの薬草つみ見習いが、モンスターの出る区域
で採集する羽目になってる原因はこれか?



賞金首や懸賞の他に討伐依頼や尋ね人の張り紙も山ほどあります。

無事に連れ戻したら報酬が払われる訳ですが、徘徊癖持ちのご隠居とかの報酬安めな捜索願いの中に紛れて飛び抜けて高額な
のも貼ってある。
ご学友(取り巻きともいう)もろともオークの群に攫われてしまった子爵令嬢、歳は生きていれば14歳か。
ついでにメードと護衛の女騎士も一緒に浚われてる。令嬢1+家臣の娘5+護衛4+下女3で合計13名も浚われたらこの賞
金額になって当然ですね。

へえ、やるじゃありませんかこの辺りのオークも。
令嬢の似顔絵も、やや顔の骨格が細すぎる点を除けば別嬪さんですし。
取り巻きの皆さんは、その、うん、顔で引き立て役を選んだんだなって分かります。不細工では‥‥いや、何も言うまい。

令嬢が攫われてから半年以上過ぎていますので、今頃は臨月ボテ腹えっちか授乳プレイの真っ最中でしょう。
しかし令嬢本人だけで20万ゴールド、全員奪還で更に7万。腕利き冒険者が狙ってもおかしくない金額です。令嬢たちが
無事に幸せ雌奴隷生活を続けられると良いのですが。



ふむ。冒険者か。

偽装とはいえ冒険者らしく依頼の一つも受けてみるべきでしょうか?
逃げた猫の捜索や農園を荒らす害獣退治などの安めな依頼から、遺跡探索の護衛や希少品の入手などの高めな依頼まで色々と
ありますし、難度の低そうなのから試してみても良いかも。
とりあえず依頼抜きで、ユニコーンは狩っておかないとマリアが安心して薬草摘みにいけません。馬外道滅すべし。


「実は俺ら、元倉庫の大掃除を請け負ったんだが」
「生憎ですが明日は護衛をする約束なので」

二人組は大ネズミ退治の仕事に誘ってきましたが、マリアとの先約があるので断りました。
悪い話ではないのですが仕方がない。身内を優先します。
せめて明日の夕方、いや昼過ぎならなんとかなるのですが夜明け過ぎに集合では時間が合いません。
 




 ☆107日め6、君子危うきに近寄らずまして女子で小人においておや☆



さーて、今宵の寝床はどうしましょうかね。
二晩続けて城壁越えするのも難ですが、あのまま「酒の滝壺亭」に泊まるのは危険すぎました。
なので夜の街をぶらついてます。

なんせ亭主がハーフエルフ女ですからねー。 
私のお腹にいる子がオークだと気付かれる可能性が、少しでもあるからには迂闊に泊まれません。
半分でもエルフで、町から出て数時間も歩けばオークの巣が点在する環境なのに閉じこもり生活していないからにはオーク対
策の手段を持っている筈です。それがオークやオーク妻を発見する手段でないと、言い切れる確証がない。
宿屋の一階の、扉一枚破れば外に逃げられる場所で飲み食いするぐらいならできますけど宿の奥に入るのは拙い。入ったとこ
ろを襲われたら面倒なことになります。寝ている所に来られたら命取りだ。


かといってマリアたちの小屋に行くには、今付いている尾行をなんとかしてからでないと。

思っていたよりもスラムの統制が緩いらしいですし、後の連中をなんとかしないと夜中に襲撃くらいそうな気がします。
尾行している気配の数は6、いや7。凄腕ではありませんがど素人でもない。


足音などから察するに金属鎧が4、革鎧が3、市街地でこの重武装ってことは冒険者か。人数を用意できる地元の連中なら、
軽装の包囲用人員が戦闘要員の倍はいる筈だから、こいつらは余所からの流れ者か?
もしくは組織だって動いていない抜け駆け狙いかも。どちらにしても容赦する必要はない。

ええと、ソーニャさん直伝の戦闘要諦は‥‥
1 戦いを選択させること
2 勝てると判断させること
3 攻勢を決心させること
4 死地に引き込むこと
5 死兵にさせること
6 勝利または生存の可能性を見いださせること
7 可能性を充分に見させた上で、叩き潰すこと
8 士気崩壊したら囲んで叩くか敗走させて後から叩くかして、根切りにすること
でしたね。

つまり背後の連中は 3 の段階にある訳だ。
となれば私が取るべき次の手は‥‥ 歩きつつこっそり出した霊薬を飲んでから袋小路に入って、曲がり角で追跡者の死角に
入った瞬間に壁を駆け上る!

あとは壁の上を逆に歩き、獲物を見失って慌てている連中の後側に回り込みます。そして月明かりで僧侶用巻物(スクロール)
を読み上げ、薬瓶の霊薬を飲み干してから壁を伝い降りて追跡者に声を掛ける。


「こんばんは、皆さん」
「‥‥後だ!」
「いつのまに!?」

やはりど素人ではありません。ただの素人ですねこいつら。


「それで、先程から後を付いてこられたようですが何の御用ですか」
「へへっ お嬢ちゃん、あの糞アマの弟子なんだってぇ?」

リーダー格らしい禿頭の戦士風冒険者が前に出てきました。同時に後の革鎧が何かアイテムを使ったっぽいです。
薬瓶を開けたのか? 酸や火炎瓶や霊薬(ポーション)ではないようですが何でしょう?

「その糞アマとやらがリガの剣姫のことなら、あなた方には失言を死ぬほど後悔して貰いますが」
「面白え、できるもんならやって貰おうじゃねえか」


7人のゴロツキ風冒険者は3-2-2の陣形でじりじりと近寄ってきます。前列の中央にハゲ(獲物は斧)、その左右に板金鎧
の剣+盾装備が二人、中列が鎖かたびらに鎚矛持ちのおそらく神官とショートソード持ちの盗賊、後列の二人はショートボウ
とクロスボウをそれぞれが構えている。

おや? ショートソードの盗賊が左手に隠している小瓶から流れているこの匂いはまさか?


ゴロツキどもは近寄るのを止めて様子を窺っています。
さあて、当てが外れたことにいつ気付くのかな彼らは?


まだかな?


まだかな?


まだかなー?



おい、そろそろ気付よ。



「‥‥効いておらぬようだが。お主、偽物を掴まされたのではなかろな」
「まさか。「石宿檻」の婆から買ったんだぜ」

と、破戒僧と隣の盗賊が小声で話してます。ようやく気付いたというか認めましたね。


「残念でした。色々対策してますからね、安物の媚薬なんか通じません」


たじろぐゴロツキどもによく見えるよう、喉元の窒息よけ護符を指さしてにんまりと笑います。まあ、護符や指輪を装備して
いなくても私には効きませんけどね、この媚薬はオーク系ですから。
匂いで解ります。これはオークの子種汁を加工して作った媚薬ですよ。

実際には安物と馬鹿にできた代物ではありません。「石宿檻」か、入らなくて正解でした。
私も同じような手作り媚薬を持っていますが、十数秒間嗅がせただけで人間族の女は約4割が立てなくなり約3割が歩くのに
も苦労するようになる程の効果を持っています。女相手に使えば殆どの場合無傷で勝てます。
ですが私は1割未満の「殆ど効かない」層に属してまして。あえていえば少しだけむらっとくる感じ。
ちなみに残りの2割少々は目に見えて動きが悪くなります。


「固‥‥」
「沈黙(ミュート)!」

呪文を唱えようとした破戒僧に、音が出せなくなる呪文を掛けました。同時に突っ込んでくる前列三人へ目掛けて足元の石畳
を蹴り起こしてぶつけます。
ニュー○イプもどきの観察力で、ここの石畳が簡単に引き起こせることは分かっていましたからね。

厚さ数センチとはいえ縦横1メートル以上ある石材を巨人族なみの怪力でぶつけたのでハゲなリーダーと中列の合わせて3人
が吹っ飛びます。あ、後列も巻き込んだ。
玉がストライクしたボウリングのピン列みたいにゴロツキどもが小道を舞っている。

残る2人の切り付けを必要最小限の、一見緩やかに見えるけど実は素早い動きで ぬ る り と避けます。
これぞリガ派剣闘士に伝わる絶招歩法の一つ、スネーク・ステップ。
切り付けた2人にとっては剣が私の身体をすり抜けたように錯覚したことでしょう。
数ある絶招歩法のうち私が使いこなせているただ一つの技であるこれは、文字通り蛇の這うが如き玄妙な動きなのです。


飛び退いてではなくその場で避けたのは、もちろん即座の反撃につなげる為。
空振りしたゴロツキどもの右腕をそれぞれ掴みまして、力任せに振り回す。
ここにいるのは身長138センチの巨人(ジャイアント)です。掴み合いになればゴロツキなんぞに負ける訳がない。

「そおぃっ!」

レェ・ウォス直伝の「ふりまわしてびたーん」攻撃で両名とも石畳に叩き付け、甲冑ごと挽肉に変えます。
前言撤回。死ぬほど後悔させるのではなく、後悔する暇もなく死なせてしまいました。まあ、敵への嘘は妄語戒の違反にはな
らないと蜷川新衛門さんも言ってたような気がしますし問題ありません。
 

勝って兜のなんとやら、油断せず潰れちゃったゴロツキどもが落とした斧や剣を拾っては投げ拾っては投げて、まだ息のある
神官と盗賊っぽいのに止めを刺します。続いて弓兵も。
ハゲ? 即死してますよ。巨人族の蹴りをまともに受けたも同然ですから、星3未満程度の実力では助かりようがない。


止めのついでに戦利品を漁るか‥‥しけてんなー、7人合計で財布に200ゴールドもないとは。


まあ、金銭に困っているゴロツキだから路上強盗めいたことやっていたんでしょうけど。
女冒険者の九割以上が、媚薬を嗅がせたら簡単に始末できる。
こいつらは羽振りの良い獲物を身包み剥いでからち○こ狂いになるまで玩んで場末娼館に売り飛ばす必勝戦法を繰り返して稼
いでいたのでしょうが、今夜遂に「人食い鬼より強くて媚薬が効かない女」という天敵と遭遇してしまったのです。


お、ハゲはコインだけでなく大粒の宝石を何個か隠し持ってましたよ。
それと破戒僧(プリースト)は「解毒」と「再生(リジェレネート)」の巻物(スクロール)を懐に入れていました。これで幾らか
は補填できたかな?
飛び道具を警戒して消費した「矢返し(ミサイル・リフレクション)」の巻物は無駄になりましたけど、致し方なし。

一方飲んだ「加速(ヘイスト)」のポーションは期待通りに役だってくれました。やはり戦いは神速を尊ぶのですね。
速度の圧倒的優位があったからこそ敵の呪文を防げたのです。

薬と言えば、媚薬の瓶が割れて辺りにオークフェロモンが充満してしまったので解毒の霊薬を撒いて中和します。


念のために斧でゴロツキどもの首を刎ねておきましょう。
おっと、思い出しましたよ、このハゲたリーダー賞金首だ。さっき見た張り紙に似顔絵がありました。
確か300か400ゴールドか、その程度でしたけど。ふむ、後で換金するために生首だけは貪り食わない方の無限袋に入れ
ておきますか。正直賞金はどうでも良いけど、賞金稼ぎとして名前が売れれば動きやすくなるかもしれません。

ハゲ以外にも賞金が掛かっていそうな破戒僧の生首は取っておいて、雑魚の生首は貪り食う無限袋に入れましょう。
1時間で消滅しますので、敵の死体の部品が減ればその分蘇生される可能性が減る。
‥‥面倒くさい、雑魚は生首以外も全部入れちゃえ。ハゲと破戒僧の首から下も貪り食う無限袋に詰め込みます。
死体そのものがなくなれば下級の蘇生呪文では復活できなくなるので、貪り食う無限袋は再生怪人対策に有効なのです。


あれ? 微妙に容量が足りない? ゴロツキの死体が入りきりません。一人だけ余ってる。
装備が嵩張っているのかな。
ゴロツキどもの死骸を貪り食う無限袋から一度出してから、鎧や靴をぶっちぶっちとひき剥がします。
そして身包み剥いだ死体をもう一度入れ直す。

良し、これで全部入りました。
布や革や屑鉄など剥がしたものは資源ゴミとして、その辺にまとめて捨てておけば欲しい人が回収するでしょう。
斧や剣などの原型を保ったままの武器は‥‥一緒に捨てておくか。インゴットにして回収する程の価値もない品質ですし。



しかし、こんな戦いが続くと勘違いしてしまいそうですよ。自分が強いんじゃないかって。






[38600] 56
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/26 12:00



 ☆107日め7、あとから考えてみるとこのあたりがまだまだ半端者なんだなあ☆



夜も段々と更けてきまして、地球風に言えば九時半ぐらいですかね今は。
結局、宿屋に泊まるのは止めました。

寝ているときはどうしても無防備になります。特に私は眠りが深い体質なので熟睡中に襲われたらひとたまりもない。
先程全滅させたごろつきども程度の敵にも、あっさりと仕留められてしまうでしょう。
安宿は侵入者や従業員に襲われる危険性が高い。しかし高級宿は私がオーク妻だとばれる可能性がある。

私のお腹にいる子がオークだと発覚したら、殺されてしまうでしょうねえ母子まとめて。
それも即死なんて慈悲はまず与えられない。磔台に縛り付けられて生きたまま腹かっ捌かれて胎児引きずり出され、そのまま
死ぬまで三日ぐらい晒し者にされ続けちゃうかもしれません。
臍の緒でオークの我が子と繋がったままだから言い逃れもできないでしょう。

人間ってねー 意外と長持ちしてしまう事もあるんですよ死にかけの状態で。詳しく知りたい人は自己責任でヴラド三世の所
業について調べてみてください。まあ、彼は中世東欧の大貴族としては慈悲深い部類なんですけど。


ヴァダの街にオーク・ラヴァー御用達の宿泊施設って有ったかな? ゴタ市やザウム市にはあると聞いてますが。
とにかく安心して眠れる場所が欲しい。
んー いっそのこと今夜も城壁越えて廃墟に行って、オーク達と一緒に寝ようかな。
透明化(インビジビリティ)の霊薬など隠密系アイテムの備蓄に余裕がありますので、それを使って朝にでも城壁越えて街に入
れば問題にならない筈。


「ウォン! ウォン! ウォン!」

などと考えつつ歩いていると犬に吠えられました。中型の雑種っぽい野良か半野良犬ですが病気もちではなく健康体です。
狂犬病などでないということは私自身の要因で嫌われて、あるいは警戒されているのか。
犬の尻尾は後ろ足の間で丸まってます。本能が急所を隠そうとしているのです。

「うるさい」

軽く蹴飛ばすと、きゃいんと鳴いて逃げていきました。
酷いと思うかもしれませんが、犬にとってはこっちの方がストレスにならないんですよ。私に吠え掛かってしまっても小突か
れる程度で済むと学習できましたから次に会うときは無闇に吠えなくなっているかもしれません。

靴とかに付いた血は洗ったのですが、その程度で犬の鼻は誤魔化せないようです。
焙煎したコーヒー豆の粉が少しありましたよね、あれをふりかけておきますか。靴底にもまぶして石畳で擦り、すり込みます。
麻薬犬の鼻が誤魔化せるのですからコーヒー粉はファンタジー世界でも通用するかもしれません。


さて、今夜の寝床はどこにしましょうか。
どこか適当な宿屋に泊まるという当初の目論見は外れてしまいましたから、プランBやCを検討してみましょう。


B案。スラムなどのどこか適当な軒下に結界を張って野宿する。
‥‥これは却下。もし今も私に尾行者がついていて、それに気付いていない状態だとすると死亡フラグ過ぎる。
ただし「昨夜はどこに泊まったか」について嘘を言うとしたら悪くないかもしれません。


C案。壁越えして廃墟に入り、ダイコクたちと合流する。
これは悪くないけど、いまオーク達と同衾すると襲っちゃいそうな気がするんですよねー、もちろん私の方が。

保留しときますか。
処女と童貞でぎこちない初夜というのも甘酸っぱくて良いですけど、夫に何もかも委ねての初夜や妻が先導する初夜というの
もまた良いものですし。自分やコーネリアの実例から分かります。
私がダイコクたちを逆強姦しちゃっても我慢できても、悪いようにはなりません。


D案。マリアたちの所に泊めてもらう。
こちらは盗賊やゴロツキに襲撃される、しかもマリアたちが巻き込まれる可能性が少なからずあります。
止めておいた方が良いかなあ。というか、現時点で無事なんでしょうか彼女達は?


気になるので確認してみます。



で、スラムの端まで来てみたのですが‥‥なにかおかしい。マリアたちの家の様子が変です。
近寄るのを止めて、しばらく外から観察してみると違和感の理由に気付きました。
扉と壁の隙間、あるいは壁と屋根の隙間などから漏れる明かりが強すぎるのです。

あんなに明るい光源がマリアたちの家に有りましたっけ? 仮にあるとしても節約生活が染み込んでいる彼女達がこんな時刻
まで明かりを付けているでしょうか。看病の必要も殆どなくなったのに。
回復期に入っている小母さんと、年齢的に睡眠時間が長いマリアの二人は寝ているべき時刻です。

忍び歩きでマリアたちの住処へ近寄り、無限袋から取りだした普通のガラス杯を壁に押し当てて耳を付けます。
盗賊の訓練はしてませんので聞き耳技能を持っていませんが、素の能力値(ステータス)が高いからそれなりに聞き取れる筈。


中にいるのはマリアたちではありません。男だ。まだ若い。数は2。

断片的に聞こえてくる話し声から察するに、マリアたちが急に引っ越したのではなさそうです。
内容が一々物騒すぎる。「隠し財産」「50万ゴールド」「ボスがお冠」「人買いに転売」「雌餓鬼」「殺し間で」とか色々
くっちゃべってます。

うわあ。もっとよく聞こえる位置に移ってみたらなんかえぐい自慢話始めましたよコイツら。
片方は「気位の高い騎士娘を手込めにして、孕みたくないと泣き叫ばせながら膣出しするのが最高だ」と言っていますけど、
もう片方は「4~5歳ぐらいのメスガキに膣出しして、腹が内側から破れたときの締め付けが堪らない」とか言ってます。

冗談ではなく、こいつら本気です。本当にやったことを思い出して自慢して楽しんでいるんです。
トログロダイト以下の腐れ外道、二本脚のユニコーンどもだ。
こんなやつらに、マリアは攫われてしまったんだ。


夏だというのに鳥肌が立ってしまいましたが、とにかく落ち着こう。
落ち着かなくてはいけません。
気が付いたらクックリ刀を抜いていて、刃に血脂が付いていて、目の前の石壁に横一文字の切れ目ができていて、その隙間か
らおびただしい血臭が漏れだしているのだから落ち着かなくては。

深呼吸しましょう。すーはーすーはーひっひっふー。


壁の隙間から覗いてみると中は血の海でした。ゴロツキ風の死体が2人分、半ばバラバラ状態で転がってます。
ゴロツキどもの腕が四本とも切り落とされている。
全く憶えてませんが、壁際に並んで座っていたところを背後から壁ごと、乳首ぐらいの高さでぶった切ったようです。


表に回ってカンヌキのかかった扉をクックリ刀で切り開けて入り、中の様子を見分します。
ゴロツキの死体は2人分だけ、部屋の中は特に荒らされた痕跡がない。
食器や食材や消毒用に置いておいた焼酎の瓶は残っていましたが、着替えなどマリアたちの私物はだいたい消えている。


ふむ。やはりスラムの顔役とやらが拉致したようですね。
保護する程度には顔見知りなのに医者の世話どころか見舞いにも来ない辺り何かあると思ってましたけど、顔役は小母さんが
弱りきるまで待ってから交渉というか脅迫に移る算段だったのでしょう。
だから標的の同居人である薬草摘み見習いを、チンピラ使って痛めつけてまでして治療の妨害していた。

ところがそこに想定外の因子が現れ、小母さんの病気を治してしまいました。
このままでは二人とも何処か辺境の寺院に嫁入りしてしまう。
そうなれば小母さんか小母さんが持つ何かを利用したい顔役の損になる。だからマリアと小母さんを連れ去った。
この外道ヤクザどもは明日の朝にはやってくるだろう私を待ち伏せていた‥‥というよりは書き置きの脅迫状代わりか。


良し分かった。死ね。
もとい、潰そう。跡形もなく。




 ☆107日め8、実際のところかなり危うかった☆



そんな訳で、スラムの路地裏から近所にある適当な小屋に乱入します。
扉には鉄製の棒がカンヌキとして掛かってましたが、コボルド印の魔剣の前ではトウモロコシの軸ほどにも抵抗できません。
一刀両断です。

「ぱぱっ ぱぱっ あみとんじゃうよぅ‥‥」
「大丈夫だよ、パパが抱いていてあげるから好きなだけ飛んじゃいなさい」

あ、お取り込み中でしたかこれは失礼。


粗末な寝台の上で対面坐位に繋がっている男女は二十台半ばと十歳過ぎ、マリア程じゃないけどそこそこ可愛らしいお嫁さん
‥‥って実の娘と本気えっちですか。まあ良いけど。
亜麻色の髪に薄緑の瞳で父親と同じ色合いですが、全くの色違いだったとしても一目で分かるぐらい良く似た親子です。
鼻の形とかそっくりです。女の子が父親に似るという俗説は、この二人に限れば本当らしい。

責める気はありません。
昔話のグレーテルやら白雪姫やら千枚皮で分かるとおり中世風世界で近親姦は日常茶飯事ですし、近い将来に今はまだお腹に
いる実の息子と近親相姦してしまうであろう私にドーターコンプレックスこじらせて実の娘と毎晩ラブラブえっちを繰り返し
ている彼を責める資格なんてない。

殊更に推奨はしませんけど、近親姦や同性愛や乱交や獣姦だって生存戦略の一環としては有りだと思ってますし。
というか可愛い義息子のハラキズは獣姦の結果産まれてきた訳で、獣姦を否定することはつまりハラキズとその両親を否定す
ることになりますからね。

愛し合う関係で、産まれてくる子供を含めて責任を取れるなら獣姦でも近親姦でも全て良し! 
同性愛はできることなら子孫を残して欲しいですが無理なら養子を普通の夫婦の倍ぐらい取って育てて貰えれば帳尻は合う。
え? 死姦‥‥ですか? 当事者の了解があって子孫が作れるなら良いと思いますよ。つまり吸血鬼(ヴァンパイア)との婚姻
も子作りも無問題です。
人様というかぶっちゃけると私の身内にさえ迷惑掛けないならアンデッドが隣人でも構いませんからね、ええ。
そんなアンデッドは少数派なだけの話で。 


生木を裂くような真似は好みじゃありません。
父親に縋り付く娘の肌艶や表情、娘を庇おうとしている父の様子から見て夫婦仲は良好そのものです。
性欲のはけ口である面もあるでしょうが、それは普通の夫婦でも同じ事。
そもそも好きあって結ばれる夫婦なんて少数派ですし、女が妻として母として幸せになれるなら夫が実子だろうと実父だろう
と問題ないのがオーク島的信仰です。

明るい未来が見えないどん底生活の中で信じあい支え合って生きている父娘が身体でも繋がり結ばれる。
実に結構なことではありませんか。
流石にハ○ス○ルグ家みたいに繰り返し濃縮されると困るけど。あれは健康に悪い。



ん?

血刀ぶら下げて乱入してきた少女尼僧兵に怯えている父娘夫婦に近寄り、よく観察します。

「「ひいっ」」
「貴女、妊娠してますよ」

生命の危機を感じとってか、ますます固く大きくなっている父親の逸物が填り込んだままの下腹を撫で回します。
淡い亜麻色の柔毛が一本だけ生えている可愛らしい割れ目に、人間族のものにしてはご立派なち○こがめり込んでいる。

気持ちよさそうだなー 
二人が身じろぎする度にいやらしい音がしてる。エロ漫画なら画面にハートマークが乱舞しているでしょう。 
‥‥あ、逝った。かるーく弄ってあげただけでお嫁さんが達してしまいました。
10歳過ぎたぐらいの幼女がこの有様とは、何回娘のなかに突っ込んでほじくり返したんですかこの畜生親父め♪


うん、母子ともに概ね健康。妊娠三ヶ月かそのぐらいですね。双子‥‥二卵性双生児で男女一人ずつの姉弟とみた。
もうすぐ悪阻が始まるでしょうが、本人に懐妊の自覚がないということは初排卵が大当たりしちゃったのか。


「聞きなさい、父の娘として生まれながら愛と欲望によりその妻となり自らの妹と弟を身に宿した女よ」

恐怖と困惑のなかで父親に抱きついたまま絶頂の余韻にひたっている妊婦へ、大母様や高位巫女たちの真似をして出した厳か
な声を掛けます。

「私は知恵と炎を司る御方、女と結婚と家庭を守護する女神エスティア様の使いです。今宵はあなた達が人倫に反して結ばれ
たことの是非を告げるためにやってきました」


分かる。多分いまの私、オーラ纏ってるというか後光が差している筈。エスティア様と繋がっているから。
というかエスティア様の意思が感じ取れる。
普段が、オーク島の日常がアンテナ三本立っている状態だとしたら今は背中に中華鍋型アンテナが付いていて直接電波受信し
ている感じ。


「裁定を下します。 無 罪 ! 」


Q3、これで良いんですよね女神様?
A3、この二人は最初から和姦でしたし繁殖効率も悪くありませんからね。なんなら祝福を授けましょうか?

是非に、とお願いすると右手に神力が伝わってくる感触が。
神の力だから神力。神通力が「神に通じる力」ですから、それよりももっと直接的な奇跡が私の右手に集まっているのです。


「人の法はいざしらず、神の法においてあなた方を祝福します。これからもこれまでと変わらず親子として男女として夫婦と
して愛を育み、愛の結晶を実らせ続けなさい」

祝福の言葉と共に、父親のものをくわえ込んだままの下腹部に触れ子宮やら卵巣やら膣やらそして中の竿や続いている玉にも
エスティア様の神力を注ぎ込みます。
悲鳴のような歓喜の声をあげて父と娘は同時に達しました。狭い膣奥に特濃の子種汁が注がれていく。

神力を加減して、胎児たちには両親の倍ぐらいの加護を注ぎます。そーれ健康体になーれ。
この子たちには、相愛の呪いをかけないでおきましょう。
仲良くなれるよう姉弟としての相性を最高最適にしておきますが、なにもこの子たちまで近親愛に浸らせることはない。
好きあわない呪い(祝福)もかけませんから、同じような環境で育つ普通の姉弟と同じぐらいの確率で相思相愛の関係になって
しまうかもしれませんが、それは私の所為じゃありません。


祝福と呪いは本質的に同じものでして、父娘夫婦には互いを愛しく思う気持ちが長続きする呪いが授けられたのです。
父はどんな美女よりも娘に欲情し子供を産ませたいと思ってしまうし、娘は父の欲望全てを受け止めることが幸せとなる。
これまでもそうでしたけど、より拍車がかかるようになりました。
そして二人の身体はその心に、愛情に、繁殖のための本能に適したものに造り替えられたのです。

つまり以前にも増してえっちの相性良くなったうえに絶倫&名器化した訳で。
娼婦や男娼になったら売れっ子間違いなしですが、もちろんそうはなりません。
ドタコンとファザコンこじらせて末期状態ですからね二人とも。

この父娘はこれから女神様が望むとおり、子を産み育てるために生きそして死ぬでしょう。
多産とか安産とか健康とか幸運とか、思い付く限りの加護を授けたので何十年か後のことになるでしょうが。



Q3、なんか妙に大盤振る舞いでしたね、全部使い切るのに苦労しました。
A3、貴女が闇に堕ちるのを防ぐ切っ掛けになりましたからね、山盛りにしておきましたよ。


エスティア様の圧縮通信によれば、先程の私はおかしくなりかけていたそうです。
確かに、直前に意識が飛んでたりしましたし普通じゃなかったかもしれません。

さっきまでの私は、準備ができしだい顔役の所に殴り込んでヤクザどもを皆殺しにする気でした。
あかん。ニュー○イプもどき能力を使うまでもなく予測できます。
大暴れしている最中にマリアを人質に取られて、奪い返そうとして巻き添えになって死なせてしまう未来が見える。そうなれ
ばエロスの暗黒面を覗いてしまい、居る訳もないマリアの代わりを探して更なる破壊と殺戮を繰り返してしまうでしょう。

あとは闇堕ち一直線、冥府魔道をひた走ってしまう。
少なくとも躊躇いがなくなります。
え? 今だってあるようには見えない? 何ごとにも程度ってものはあるんです。



そうか。数日前からの災難続きで疲れていた心が、腐れ外道どもに触れておかしくなっていたところにこの親子の愛に触れて
持ち直して、それを切っ掛けにして信仰心が立ち直り結果として女神様回線が復旧したのか。
信仰心アンテナが直った気がします。
歪んではいても本物の愛情でしたからねー、殺人鬼もどきの尼僧兵に乗り込まれたときの反応とかで分かります。

「アミっ パパはもう我慢‥‥できないよっ」
「だしてパパっ アミをママにしてくれたきもちいいおしる、いっぱいだしてぇっ♪」

その二人はといえば、第2ラウンドの最高潮ですね。じきに3回目になりそうです。
女神様に夫婦として認められた喜びを父娘で確かめあっている。
大内海世界の主神級神格による祝福と加護を受け、そしてそのことを強制的に理解させられちゃった二人はひと擦りごとに天
へ昇るような至福と快楽を貪っています。

あ、達した。性教育というか夫婦生活の映像教材に使えそうなぐらい息のあった同時絶頂でした。
二人の手は固く握りしめあっていて、娘の両脚は父の腰をしっかりと挟み込んでます。
アミちゃんでしたっけ? 娘の方なんか気絶もできないぐらい逝きまくってますよ。


良いなー良いなー羨ましいなー。私も旦那様の、ギュー・グェスの逞しいち○こで串刺しにして欲しいです。
そしてたっぷりじっくり可愛がって貰って、彼の赤ちゃんのすぐ傍で情熱的に子種汁をぶちまけられたい。

うわっ濡れてる。かつてないぐらいに下着が湿ってます。漏らしたみたいにびちゃびちゃですよ。
これは、一度抜く‥‥いや逝かないと治まらないかな?


Q3、えっと 使っちゃって構いませんか?
A3、好きなようになさい。


では、無限袋から赤漆塗りの張り型を取り出しまして、と。
これは見ての通り人間ハーフのオークち○こを模した淫具兼祭器でして、温泉洞窟の御神体が咥えていたこともある代物です。
洞窟の祭壇にお供えしている他のものと違って、まだ私は味見していないんですよね。
我ながら会心の出来映えでしたので、ミッシェル山大神殿に集う奥様達のお茶会で品評して貰おうと荷物に入れたのですが、
太くて張りが深いち○こを模していて、手前味噌ですが本物と比べさえしなければ逞しさに溢れた逸品です。

本物。


ほんものが欲しいなあ。温かくて軟らかくてぱんぱんに腫れ上がってる欲望の塊がほしい。
あ、あれ? まずい、また発情の発作が。
股の奥が、子宮口の手前あたりが熱く疼いてる。前のときより激しいですよこれは、耐えられそうにありません。


Q3、女神様、またレストア(本復)お願いします。
A3、好きなようになさい。


あ、あれ? 「発情」が治まらないんですが?

Q3、あのー 早くしていただけませんか正直辛いんですけど。
A3、好きなようになさい。


見抜かれてる。神様だから当然だけど。
昨日の昼間は普通に望めました。状態異常をなんとかして欲しいと。そして治って、正気に戻った。

あのとき、私は安堵していましたしその選択を肯定していました。モンスターや野生動物がわんさかいる場所で盛るわけには
いきませんでしたから。
でも同時に、惜しいとも思ってしまった。この色情に狂った状態で童貞オーク達に身を任せてとことん楽しみたいとも。

欲しいんです。あの貧弱な人間雄のち○こが。実の娘を愛奴に調教しちゃった畜生ち○この味見がしてみたい。
正気に戻りたくない。狂ってみたいのです。



A3、好きなようになさい。


します。


では、まず切っちゃった鉄のカンヌキを修理しますか。切断した部分を指で潰して平たくして、重ねてから更に折り畳み丸め
て伸ばします。うん、とりあえず防犯に使えれば良し。

次に手早く服と装備品を外して、首飾りだけのほぼ素っ裸になります。


3回目の準備にと、娘妻が顔を埋めて奉仕している股間へ手を伸ばして「実の娘を征服し幸腹に導いた男よ、貴男に 娘 達
を愛でる技法を授けましょう」と囁く女神の使いに、父親は一も二もなく頷きました。

半分は恐怖からでしたけど。





 ☆107日め9、魂で理解した☆



大内海世界では夜明けから一日が始まる扱いなので、まだ日が昇ってないからには寝て起きても一日経ってません。

おはようございます。見ず知らずの貧民夫婦の寝床に乱入して乱交してしまいましたレイちゃんです。
これって浮気になるのかなー なるよなーこれは。
楽しんじゃいましたからねえ、夫婦交換ならぬ夫のお裾分けを。

致し方有りません、夫たちと再会の暁には包み隠さず正直に話すことにしましょう。
中に五回も出されちゃった事、もとい 出 せ とお強請りしちゃったことや出されて気持ち良かったことも全部。


はー 気持ち良かったなー 久しぶりの本番えっちは。

エスティア様の加護で絶倫状態とはいえ、基本性能が貧弱な人間雄のち○こで満足できるのかと危ぶんでましたが意外と悪く
ありませんでした。

奥まで生ち○こに貫かれてから膣出しとか、膣口近くで抜き差しされつつ乳首とク○トリスを責めとかで何度も逝ってしまい
ましたよ。
‥‥なんというか、味覚に喩えると大して美味しくはないけど後を引く感じですかね。
気が付いたら籠に山盛りあったミカンが消え失せていたような、目新しくないけど悪くない感触でした。

人間雌のおま○こと人間雄のち○こが相性悪くないのも当然ではありますね。私はオークの方が好きだけど。
せめて子種汁の濃さと量がもう少しあればと思ってしまうのですが、種族特性なので仕方ありません。
少ない精でもお腹の赤ちゃんはそれなりに満足してくれましたし。


短くも凝縮した授業で男一人女複数の床業(ベッドテクニック)、その基本を一通り伝授した実質夫婦な父娘は幸せそうに抱き
合って寝ています。
牧草の干し藁を固めて麻の帆布を敷いただけの寝床ですが、愛し合う二人にとっては天上人の寝台にも優る寝心地でしょう。

見ていて羨ましくなるぐらいの溺愛&ベタ惚れっぷりです。コーネリアがお腹にいる娘をファザコンに育ててこじらせたがる
気持ちがちょっとだけ理解できる。こういう愛情も有りといえば有りかな? 歪んでるけど。



僅か3時間程度ですが眠って元気になりました。欲求不満もそこそこ解消できましたし。
夢の中のエスティア様道場で解説されたのですが、どうも私は落下した際に一度死んだようなのです。

死というよりは臨死体験、死にかけて三途の川を半ば以上あっちへ行きかけたのですがそのとき何者かが治療してくれた‥‥
らしいです。
女神様は謎の治療者について知っているのですが、いつもと同じく教えてくれませんでした。


迅速だったのは良いのですがその反面雑な治療でして、ときおり「状態異常:発情」が起きるのは治療の副作用だそうです。
そりゃどんな治療だ、とぼやいたら「性魔術の一種です」と真顔で返されました。


快復呪文の類では発作が起きる時期を遅らせることしかできないので、次の発作が起きたときもできることなら適当な雄を捕
まえて膣出しして貰うのが一番だそうですが‥‥
更なる副作用というか媚薬的な効果として「私を好きな雄に膣出しされると、その好意に比例して気持ち良くなり私も好意を
抱いてしまう」のです。

つまり、今の私は誰かに凶悪効果の媚薬を盛られたも同然です。解毒も解呪もできないから媚薬より厄介ですが。


Q3、もしもあのときダイコクたちと乱交していたらどうなりましたか?
A3、断言はできません。ですが貴女の夫が四人ほど増えていた可能性があります。


なるほど、こいつは悪質だ。これだけ重たい症状なら情緒不安定になってて当然です。
命が助かったこと、特に赤ちゃんが無事なことには感謝してもしきれませんがなんだこれは。ハラキズがいたら速効で慰めて
貰えたのですが。


Q3、ハラキズがお相手なら、たいして変わりませんよね?
A3、彼への好意が多少上がるぐらいですね。

元から「子供を産んであげたい」ぐらいに大好きな義息子に抱かれて逝かされまくってもますます好きになる程度ですが、
もし発情の発作が起きた状態でダイコクに抱かれたら彼への好意が数段とばしで無理矢理に上がってしまうのです。

媚薬怖い。

オーク達エロモンスターが人間と共存できないわけだ、一晩抱いたら親の仇を雌奴隷にしてしまう生き物なんて悪魔の化身と
して恐れるか神の眷族として崇めるかしかありません。
今更ながら、夫たちが嫁取りに慎重な理由が解った気がします。
赤ん坊の腕を捻って勝ち誇る大人がいないように、一人前のオークが女にがっつくなんて有ってはならないのですよ。

強者だからこそ自重しなくてはならない。
すれば口付け一つで堕としてしまえるからこそ、夫たちは居候幼女を壊れ物のように扱っていたのです。
生き物としてはともかく、「女から告白されるまで手を出さない」という彼らの恋愛観は人間(オーク)として正しい。




これは一刻でも早くハラキズと合流しないといけません。私の貞節のためにも。


さて、と。一宿の代金は‥‥通行証を新旧一袋ずつで良いか。あとオーク島産の宝石を一掴み。
丈夫な袋に入れたコインと宝石を枕元に置いて、良く寝ている父親(名はロゥラスというらしい)の額に右手の平を当てます。


「女神エスティアの信奉者にして加護を得た者よ、貴男に啓示を授けます。貴男は夜明けと共に目覚め、使徒が残した財貨と
身の回りの物を持ち、娘にして妻である女を連れて旅に出なさい。その際は東区の外れで投げ売りされているラバと幌馬車を
値切らずに買い、表門に一番近い橋の下に一人で居る長い黒髪の娘を拾いなさい。そして街を出たら街道を北に急ぎ、昼過ぎ
に出会う人買いの商隊で一番安い綿毛の金髪娘を半値まで値切って買うのです。この二人の女は貴男に忠実な妻として仕え、
愛らしい娘達を産んでくれるでしょう。四人でゴタ市まで旅を続け、辿り着いたなら使徒が置いていった宝石を元手に商売を
始めなさい。暴利を避け堅実に稼ぐのですよ」

2レベル信仰呪文「祝福」と1レベル信仰呪文「意思の疎通」の合わせ技で、夢の中で女神様から託された言葉を伝えます。
同じように娘にも手を当てて

「女神エスティアの信奉者にして加護を得た者よ、貴女に啓示を授けます。貴女は夜明けの前に目覚め、父にして夫である男
の逸物に奉仕をして目覚めさせ、その精を口で受けとめ飲み干しなさい。太陽が昇りきるまでの間これを続け、その間父にし
て夫である男の身体から出るもの以外の何一つ口にしてはいけません。その後は使徒の残した薬瓶を持ち、陽が落ちきるまで
全てを父にして夫である男に任せ、従いなさい。陽が落ちてからは長い黒髪の娘と綿毛の金髪娘に一匙分ずつ使徒の残した薬
を与え、二人を新たな妻として夫婦の寝所に迎えなさい。旅の間に二人が孕むまで、まず二人が抱かれてから貴女が夫に抱か
れるのですよ」

と、夢のお告げっぽく今後の推奨行動を伝えます。
これで良し。このとおりに動けば城門で賄賂も要求されず野盗にも遭わず旅を続けられます。拾った&買った小娘二人は優し
い旦那様と奥様へ忠実に仕えてくれるし商売は繁盛するしで順風満帆ですよ。


いやほら、エスティア様に依怙贔屓されてるじゃありませんか私って。
それだけ気に掛けてる使徒が暗黒面に落ちかかっていたところを救う切っ掛けになった二人へ、女神様が依怙贔屓のお裾分け
として幸運を授けてくださいまして。
で、幸運を最大限利用できるようアドベンチャーゲームの最適行動じみた動きを女神様のお告げとして伝えているのです。

おっと、忘れないうちにソーニャ印のオーク系媚薬を一瓶、娘の枕元に置いておかないと。
この子には感謝しているのですよ。東方世界の人間族も捨てたもんじゃない、腐れ外道もいますけど愛溢れる畜生道を生きて
いる人々もいると身をもって示してくれましたからね。
それにほら、嫌な顔一つせずに欲求不満な乱入者へ旦那様を貸してくれましたし。
アミが心の中でさえ同衾を喜んでいたからこそ、私は彼女自慢の畜生親父ち○こを貪ってしまったのです。夢中で。



む、なんか霊感が働いてきました。芸術神ミューズの囁きが聞こえてくる感じです。

金貨を10枚ほど潰しまして、万能鋳造機を使い小さな置物を造ります。
神像ではなく夫婦円満の象徴になるような、夫婦ダルマ的な男女交合像を。

良しできた。二人の半年後ぐらいを想像した、臨月の大きなお腹をした11歳幼妻が後背座位で父夫と繋がっている姿を写実
的に捉えた黄金像です。
膝の上に抱きかかえているような体勢で愛娘を貫き、大きなお腹を撫でている父夫のとろけた笑顔と、勝ち誇るように晴れや
かな笑顔で前にいる誰かを見ている娘妻の様子が良い感じにエロいと思います。


うーむ、一体だけだともの足りませんね。他にも造ろう。
女神様情報でこの親子の馴れ初め‥‥ていうのも変だな、まあとにかく調教の過程を大まかに知っているので過去の姿を像と
して造れるのですよ。


3歳ぐらいの娘をまだ10代の父親が抱きかかえて、舌を絡め合う濃厚な口付けを仕込んでいる像。
父親と同じく素っ裸な娘は、お肌と粘膜の触れあいを楽しみ喜んでいます。

仁王立ちでご立派な逸物を屹立させている20歳ぐらいの父親と、そのいきり立ったものの先端を立ったまま咥えている5歳
ぐらいの娘の像。
この時点で既に、大好きな父を気持ち良くしてあげる悦楽に目覚めている幼女の頭を父は愛しげに撫でています。

添い寝している7歳ぐらいの娘の、小さな乳首を舌先で転がしつつ右手の指でスジま○こを可愛がって逝かせている像。

9歳ぐらいの娘の腰を押さえつけ容赦なく処女を奪おうとしている父親と、健気にも全てを受け入れようと歯を食いしばって
耐えている娘の像。

10歳ぐらいの娘と20代半ばの父親が、犬の交尾のような四つん這いで繋がって同時に達している受胎した時の像。

同じく10歳ぐらいと20代半ばだけど、晴れて本物の夫婦となった二人が対面坐位で繋がっている像。
あ、いや、これは造り直しましょう。姿勢や表情は同じですが、娘妻が花嫁風のヴェールを被っていてその左手の薬指に宝石
付きの指輪がはまっている姿に再鋳造します。

その次に、最初に造った臨月幼妻背面坐位の像を起きまして、と。

最後に数年後の想像というか予知した姿を、仰臥している30歳ぐらいの父夫に跨って腰を使っている10代半ばの娘妻とそ
の傍らで互いの股間を興味津々に観察しあっている4歳ぐらいの姉弟の家族像を造ります。
この像は娘妻の乳や腰回りからして長男長女の他にも何人か子供を産んでいると、分かる人にはすぐ分かる造型にしてますよ。



ふう、これで完成。創作意欲が刺激されたので思わずやってしまった。
合計8体、趣味人には受けそうですがモデルの事情を知られたら宗派によっては異端審問されそうな像ができました。
しかしこれを 和 姦 と言い張るあたりエスティア様の尺度は本当に ゆ る っ ゆ る ですね。

まあ媚薬を使った結果でも、結合する際に嫌がってさえなければ和姦扱いなのはオーク島も同じですから矛盾はしてません。
生類(モータル)が子孫繁栄しさえすればあとの細かい事はどうでも良いんでしょう、神様視点だと。


前世基準だとどう考えても幼児虐待で、マインドコントロールで、性的な意味も含めて人生丸ごと搾取する所業なのですが
スラム、いやこの街全体でも上位に入る部類で幸せなのですよねアミは。
少なくともスラムに彼女よりも愛(エロス)に満たされている女はいません。

なんといっても夫の誠実さが違います。男が生涯変わらぬ愛情を注げるのは娘に対してだけ、という説は割と正しい。
只の恋人や情婦や妻と違い、まず第一に娘である彼女は冷めることもすり減ることも飽きられることもない愛情をこれからも
ずっと父親から受け取り続けるのです。



像は金貨の袋に入れることにしますか、文字通りの金目の物だし。
あ、一緒に入れてある宝石類はヤマネの毛皮などで包んでから財布みたいな小物入れに入れてありますよ念のために。
宝石同士が擦れると傷が付いてしまい値打ちが下がりますからねー。

出来映えの良い像ですから「ユーピックの立方体」に記憶させておきます。
これで何時でも何処でも材料と鋳造機と立方体さえあれば量産できるし、拡大版や改造版も簡単に作れます。



せっかくだから花嫁のヴェールと指輪も入れちゃえ。像にあってモデルが持ってないというのは片手落ちってものです。
ヴェールは私と頭のサイズがほぼ一緒だからコスプレえっち用に作った不思議繊維製のがそのまま使えるとして、宝石付きの
指輪はダイヤとルビーとエメラルドで作りますか、ちょうど良い具合に大きさの揃った石がありますし。

鋳造機で白金貨を何枚か潰して指輪を作り、爪が開いた状態の指輪に宝石を填め込んでから直接触れないように爪を曲げて固
定すれば完成。
三個の指輪は内側にエスティア様の聖印と「夫婦円満」「家内安全」「無病息災」の漢字十二文字を聖句代わりに刻んであり
ます。「子孫繁栄」とか「妻妾同衾」とかも入れてみたかったのですがスペースが足りなさすぎる。


ついでに余った白金で結婚指輪を4個作りまして、と。飾り気のない、日常生活の邪魔にならないやつです。
まだ余ってるからウサギ型のお守りでも作るか、あれは多産の象徴ですし。犬も作っておこう、こちらは安産の象徴です。


Q3、祝福お願いできますか?
A3、喜んで。

並べた黄金像8体と白金像2体、そして指輪7個が祝福されました。
やりすぎじゃありませんか、なんか神々しく光ってるんですけど特に黄金像が。

資金に困ったら売り飛ばして貰うつもりで造った像ですが、これは売りにくいだろーなー。
神々しすぎて、触っただけで病気とか治りそうです。
仕方ない、宝石を何個か増やしておきましょう。なお、毛皮製の包みには追加の分も含めて、万が一のことを考えてこちらで
手に入れた宝石ではなくオーク島で採れた宝石だけを入れてあります。



では、行くとしますか。寝ている二人を起こさないよう静かに身支度してから、まだ暗い路地に出ます。
時刻はちょうど夜明け前、襲撃に最適の頃合いです。
しまった、外からではカンヌキが掛けられない。
‥‥「施錠(ロック)」の巻物を使おう、内側からなら開けられるように設定しておけば問題ありません。







 ☆108日め、えんじょい&えきさいてぃんぐ☆



私はアイテムマスター(物品使い)の能力を持っています。
同じアイテムを使っていても、普通の人が普通に使うよりも高い効果や変わった効果を出せます。

なのでたとえば「透明化(インビジビリティ)」の巻物を読み、その効果を待機状態にしておいて任意に発動するなんて、標準
的な2レベル冒険者にはできないこともできるのです。
昨夜ロゥラス&アミの家に乱入したのも、もしかしたらいるかもしれない監視の目を誤魔化してアイテムや呪文を使い、敵に
できるだけ情報を与えずに殴りこみの準備を整えるためでした。

二人がラブラブえっち中でなければ、そしてアミが幼女妊婦でなければ小銭渡してから親子纏めて外に放り出して準備を整え、
整え終わったら出撃していたでしょう。そして今頃はスラムが火の海になっていた筈です。


いやもう、羅刹モード全開状態でしたからね数時間前は。普段がどうかはさておいて、はっきりいって正気じゃなかった。
今はそれなりに落ち着いてますよ、今は。

血に酔っていたのかなあ? 


あっちの世界に転がり落ちかけていたのですが、二人の親子愛と男女の情が矛盾しつつ混ざり合った様子とその結晶が宿った
お腹を見て 祝 福 し な き ゃ ! という感慨というか衝動を感じまして。
オーク・ラヴァーとファザーファッカーだから私とあの子には共通点という程のものは無いはずなのですが、論理で無意識が
納得すれば世間に面倒ごとなど殆ど無いのです。

良いんですよ錯覚と勘違いでも、結果として私は畜生道に踏み留まれたし信仰がより深まったし父娘は新しい人生を進み始め
たのですから。
アミと相性ばっちりの義妹というか義母というか、愛奴仲間になる女の子二人を拾えるように告げたのも感謝の表れです。

のたれ死に&虐待死する筈が救われて、裕福な商人のお妾さんとして末永く可愛がって貰えるのですから拾われる娘達にもこ
れで良かった筈。
しかし、女神様情報で分かった範囲だけでもこの街には惨めな末路が待っている女達が、それも些細な切っ掛けで救われる者
が沢山いるのですね。

そのうち何人かは私の手で救えそうですが、残りは無理でしょう。
致し方ありません。私は私の救える女達にだけ救いを、オーク妻になって幸せに生きる運命を与えることにします。
残りは僅かになら手助けできますので、自分でなんとかして貰うしかない。



では、このあたりで「透明化(インビジビリティ)」を発動。もし見ている者がいたら路地の暗がりで私の姿がかき消えたよう
に見えた筈です。
外に出る前に「消臭」の霊薬を飲んでいるので半日近くは臭いがしない身体になってます。
あとは音にさえ気を付けていれば犬も猫も怖くない、腕利き魔法使いの縄張りででもない限り隠密行動できる。


なので、顔役の屋敷へはあっさりと侵入できました。
野生動物並の怪力と運動能力 + 透明 + 無臭 + 消音 + 暗視 + ニュータ○プもどき能力 + 前世知識。
これらを活かせばケチなヤクザの本拠地なんぞちょろいもんです。

ええと、確かスラムの顔役こと「骸骨のゲィリー」でしたっけ? 元冒険者で裏稼業では新顔ですが豊富な資金力とやり口の
粗暴さで組織を急拡大させたと酒場の噂話で聞きましたが。
元冒険仲間の数名が組織の幹部扱いで、一味の総勢は推定で60名前後ってところですか。傘下を総計すれば200人近くい
くらしいですがこの手の組織は中核さえ潰せば末端は勝手に離反していきますからね。


ふむ。屋敷の規模、厩の様子、厨房の人手と活気からいって100人はいないと見た。
多めに見積もって95、いや92人ぐらい? 戦力になるのはその6~7割と計算しておこうか。


窓が一つもないうえに扉の前に二人も見張りがいる、いかにもな倉庫を発見しました。しかも見張りは二人とも甲冑着込んで
腰に剣を吊ってます。

強いな、あの二人。実力も高いけど何か隠し球を持ってる気配がする。
二人が着ている板金鎧は白銀に輝く実用性重視のものと、黄金っぽい色合いと質感で細やかな装飾が施されているもの。
どちらも魔法の品にまず間違いありませんが、剣は違うかもしれない。



怪しいけど、多分ここは違う。少なくともマリアは中にいない。
欲求不満が大幅軽減したからでしょうか、今朝はかつてない水準で直感が鋭くなっている。だから分かります。

裏側から聞き耳を立ててみましたが、倉庫の中には7~8人の女が囚われているようです。
人身売買しているのなら商品かな?
中の雰囲気は暗そうだしすすり泣く声も聞こえるし、多分そうだ。

それにしても男が一人もいないというのも変ですね。大人の男が商品に含まれていないのは農業や鉱山労働などの重労働向け
奴隷を扱っていないだけだとしても、娼館に売るなら少年の商品が一人や二人は居て当然です。
ということはつまり、何か理由がある。
しかし事の詮索は後回しです。マリアを捜すのが先決だ。
ここにいないとすれば、屋敷の地下牢でしょうか。



顔役の屋敷は、スラムがスラムになる前からあった豪邸跡地を乗っ取ったものですね。
こういった屋敷には地下牢があると決まってます。そして地下牢のある区画へ外から入る道も。


ふふん。地下施設を設計すること数百回な前世を持つ転生者にこんな隠し扉が通用するもんですか。では、侵入侵入。
罠が仕掛けてあるらしき隠し錠前は避け、蝶番の方をクックリ刀で偽装壁ごと貫いて壊します。
そして入ってからまた隠し扉を閉めて、と。

入った場所は倉庫でした。値打ちのありそうな物からなさそうな物まで雑多な品々が積み上げられています。
血糊が付いたままの古着や干涸らびた指に填ったままの安物指輪など、やり口の荒っぽさが見て取れる商品が多いですね。

‥‥うえっ カツラかと思ったら髪の毛付き頭の皮かこれは。行き倒れ死体から引き剥がしたのですね。
確かに、カツラにするなら切り取った髪の毛よりも一本一本丁寧に手で抜いた髪の毛の方が品質良いけどさあ、抜く暇が惜し
いから頭の皮ごとひっ剥がして集めておくってのは殺伐とし過ぎじゃありませかねえ。


辛気くさい盗品倉庫から出て、マリアたちを捜します。
向こう側、入り口に近い方向から人の気配がする。左に一つ、右に二つ。



くんくん。マリアの匂いは左か。
オーク達のように実際に鼻で嗅げる訳じゃありませんが、嗅覚的というしかない感覚で位置が分かります。
根拠は説明できませんが正解だったみたいですね。

いました、地下牢の扉にある鉄格子の窓からあの子の気配がする。


「マリア、無事でしたか」
「レイ姉さま!」

直訳すると何か変ですが シスター○○ とかに近い呼び方ですね。とにかく元気そうで良かった。
ソーニャさんに貰った高品質鍵開け道具で地下牢の扉を開けます。簡単な構造の鍵なので素人でもなんとかなる。
手に負えないぐらい難しい鍵だったら壊しますけど、それでは鍵開けの経験値が入りません。


よし、開いた。

「サラさんは?」
「連れてこられたときに離されて、それきりです」


小母さんは尋問中かな? やはりあちらが本命で、マリアの価値はせいぜい人質ってところですかね。

「サラさんも助けて脱出しますよ。その為に貴女はこれを飲んでください。ああ、まずはしゃがんで、それから一気に」

根が素直でしかも私を深く信じているマリアは言われるままにしゃがみこんでから「石化(ストーンド)」の霊薬を飲み、
あっというまに石像と化しました。
毒薬や麻痺薬がある世界ですから、当然ながら石化する薬もあります。

毛布を幼女の石像に巻き付けて縄で縛り、無限袋にしまい込む。マリアの荷物も一緒に入れます。
これなら余程のことがない限り巻き添えの心配はない。
仲間が猛毒や病気などの状態異常に陥ってしまったのに、手元に治療法がない場合この手で冷凍睡眠ならぬ石化永眠状態にし
て時間を稼ぐ。前世(のゲーム中)で時折使った裏技ですが、ここでも有効です。


足手まといを連れては戦えませんし、預かってくれる人や施設の当てはない。
官憲? 市役所? 寺院? ははっご冗談を、連中こそ腐敗と不正の源じゃありませんか。
ここは中世欧州風ファンタジー世界、21世紀の日本とは違うのですよ。

ダイコクたちは信用できるけど実力的に不安があるし、今から預けにいくには居場所が遠すぎる。
なあに、石化を回復するアイテムの備蓄は充分に有りますので事が片づいてから生身に戻せば良いのです。

それに、これならばマリアに残酷なものを見せずに済みます。
当確済み嫁候補の保護という最低限の目的は達成しましたが、ここで引く気はない。
私は臆病者でして、逃げ切れる確信もないのに敵を放置しておく度胸なんかありません。


敵は叩かねば。追って追って追いつめて叩いて潰して根切りにして、焼いて骨にしてから砕いて油まいて灰になるまで更に焼
いて川に流さねば。
甲斐虎も三河狸も 「人は壁、人は塹壕、人は弾。情けは無用、仇は逃すな」 と言ってます。



あちこちで聞き耳した結果、小母さんと顔役は屋敷の中心部にいることが分かりました。
流石に見つからず中心部まで忍び込むのは無理か。目の前で扉が開いたのを誤魔化せるような幻術の心得はありません。

ならば忍び込まず正面から押し通るのみ。
ロゥラスとアミの二人も、お告げに従ったのならスラムから離れている筈の時刻です。派手に動いても大丈夫でしょう。




再び透明化の巻物を使いましたので、だれきっている見張りを出し抜いて中庭に出るのは簡単なことでした。
中庭や前庭に細工してから塀を飛び越え屋根づたいに動いて屋敷の外へ出るのはもっと簡単です。
こちらは透明化する必要さえありません。
ニュータ○プもどき能力で、何処に誰がいて今はどちらを向いているかなどが解りますからね。


では、顔役屋敷に近いスラムの袋小路で準備を整えますか。
今の所は監視者の視界から隠れていると女神様も言ってますので、手早く動かねば。
装備品と霊薬と巻物そして杖やその他諸々のアイテムを使い、各種の魔法効果を発動します。

「魔法感知(ディティクト・マジック)」 魔力を帯びた空間や物体が分かる。
「呪い感知(ディティクト・カース)」 呪われた空間や物体が分かる。
「罪業看破(センス・カルマ)」 注視した者の罪深さが分かる。
「魔法地図(マジックマップ)」 周辺の地形や構造物の様子などが大雑把に分かる。隠し扉なども発見しやすくなる。
「力素察知(センス・エレメンタル)」 六大精霊(地水火風光闇)への感覚が鋭くなる。近くに強い精霊がいると分かる。
「聖なる覆い(ホーリー・ヴェール)」 呪われにくくなる。また弱体化呪文などがやや効きにくくなる。
「吸収(アブソーブ)」 受けるダメージが僅かに減る。掠り傷の場合はダメージを受けなくなる。
「羽身(フェザー)」 身軽になり回避が少し上がる。あと落とし穴などに落ちにくくなる。
「盾(シールド)」 魔力で出来た透明盾のようなものが身体の近くに浮かび、付いて動く。
「覚醒(ウェイク)」 眠りから覚める。また効果時間中は眠りにくくなり眠らなくても平気になる。
「即行(クイック)」 動作の一つ一つが少しだけ素早くなる。
「増装甲(アーマー)」 鎧または素肌が丈夫になり防御力が上がる。
「士気高揚(ヒロイズム)」 気合いが入り打たれ強くなる。あと怯みにくくなり、混乱しにくくもなる。
「打撃(ストライキング)」 特定した武器一つの威力がそれなりに上がる。
「祝福(ブレス)」 走・攻・守全ての能力が少しずつ上がる。あと運がそこそこ上がる。
「飛び道具への耐性(ミサイル・プロテクション)」 矢玉が当たりにくくなり、当たったときのダメージが幾らか減る。
「矢返し(ミサイル・リフレクション)」 命中する筈の矢玉が射手へ正確に反射する。跳ね返せない飛び道具もある。
「再生(リジェレネート)」 傷が少しずつ回復する。指や耳ぐらいなら切り落とされても生えてくることがある。
「加速(ヘイスト)」 基本の二倍速で動けるようになる。
「耐性(レジスト)」 全ての耐性を僅かずつ、または幾つかの耐性をそれなりに上げる。

とりあえずこんなものですかね。「打撃」の効果はクックリ刀に付けてます。
お師匠様が嫁入り決闘のときにしていた事前準備と比べると少ないですが、これは私が未熟なので一度に使える強化要素の限
界が低いためです。

あと、「明瞭(クリアリィ)」や「剛力(マイト)」や「看破(ファインド)」や「第六感(シックスセンス)」や「嘘看破(センス・
ライ)」や「開運(ラック)」などは使っても意味がないので候補から外してます。
自前の能力や既に装備している受動(パッシブ)型のアイテム効果と重複してしまいますからね、それらは。
意味がないとまではいわないけど、「聡明(インテリジェンス)」などの呪文効果も今回は不採用。ソーサレスになってからで
すかねえ修羅場や羅刹場へ向かうときに「聡明」を使うとしたら。


実用上無理のない範囲の上限まで強化してみました。これが現時点でのパフ載せ限界ですね。
技術とか戦術眼とか勝負勘とか覚悟とかを除いた、単純な性能だけなら星7ぐらいの強さになっている筈です。


準備が済んだので屋敷の正面へ参ります。まずは再度透明化して物陰に時限発火式の煙幕発生装置を仕掛けまして、と。
茶釜要塞の煙幕弾を改造したこれは、平たく言えば特大の発煙筒。
続いて一旦離れてから透明化を解除して正門あたりに罠を仕掛けます。巻物を追加で一本消費。

そして、徒歩で屋敷の前に乗り込みます。
たのもー。


「ごめんください旅の僧侶レイちゃんですウチの小作人のお見合い相手返してください」

と、平和的に切り出してみたのですが、返ってきたのは嘲笑でした。

「はあ? なんだこのガキは」
「イカレてんじゃねーのか?」

まー そうなりますよね。ここはスラムですから、暴力の持ち合わせがない(ように見える)者は相手にされません。
地球のニューヨークとかで一流店に浮浪者が入り込もうとしたら摘み出されるのと一緒です。


生兵法という奴でして半端に暴力を身に付けてしまったからこそ、門番役のチンピラは素人や子供やオークが気付いた私の戦
闘力に気付けない。
装備している魔法の品を見ても、世間知らずのお子様が玩具を手に突っ張っていると決めつけているので本物とは思わない。
仮に本物だとしても、簡単に奪い取れると疑ってません。

その方が都合が良いからです。地球の日本にも、最高学府である筈の大学に在籍する学生の中にすら信じがたい程の愚物が幾
らでもいました。「世の中を暮らしやすくする為」と称して機動隊員に火炎瓶投げつける輩とかね。
楽観論と全能感で満ち満ちているのですよこのチンピラは。
自分だけは大丈夫、何もかも思うとおりに事が進む。と、根拠のない自信に浸りきっているのです。


野生動物舐めくさった行為をやりたおしている「自称自然保護活動家」と同じで、この手の輩は手遅れになるまで絶対に気付
きません。
野性の灰色熊に抱きついてモフモフやらかして食い殺された奴とか、道をふさいでいる野性のアフリカ象親子連れに警笛鳴ら
して乗ってた車ごと踏み潰された奴とかのように、気付いたときには遅過ぎるのですよ。

まあ気付かない奴に気付かせる気がなくて、むしろ油断と慢心を利用するつもりの私にはその方が都合がよいのですが。


「返してくれないのなら無理矢理にでも取り返しますがそれで宜しいのですね」
「いるんだよな時々、てめーみてえな勘違いしたガキがよう」
「あにき、オレ二番っ オレ二番目なっ」

コミカメあたりを差した指をくるくる回して嘲り笑いを浮かべているチンピラは、自称冒険者の雌ガキを身包み剥がして手込
めにしてたっぷり楽しんでから売り飛ばそうとか、獲らぬなんとかの皮算用を弾いていたのですがベルトを掴まれて斜め後ろ
方向に放り投げられました。

もちろん掴んだのも投げたのも私です。 えいやっ と放り投げました。 
大の男が猫の縫いぐるみ並に気軽く飛んでいきます。


おや? ずれちゃいましたね。的どころか銅板の瓦にすら触れない大外れです。空中から地面に直行してしまいました。
考えてみれば生きている人間を放り投げるのは初めてですから、初弾命中なんて無理に決まってるか。

平均的なオーガーにとってみれば、幕内力士もヘビー級総合格闘技王者も幼児みたいなものです。
推定ですが握力300㎏とか背筋力700㎏とか、うちの下っ端連中でもそのくらい簡単に出ますからね。
オーガーの最低水準筋力は義息子たちの上位陣よりもいくらか上ですので、トンで計算できる筈です。

そのオーガーが縦横奥行き全て2倍サイズの巨人になったに等しい腕力を持つ現在の私は、握力も背筋力も10トン単位級の
超怪力状態。
闘牛の突撃を正面から受け止めて納屋の上まで放り投げるぐらいのことは簡単にできます。
チンピラ一人なら五重塔の屋根より高く飛ばしてやれますとも。


「‥‥あ」

よいしょっ と。何か言いかけていたもう一人の見張りも掴んで、同じように放り投げます。
今度はかなりマシな弾道ですね。兄貴分と違ってちゃんと的の端に、最上階の屋根の縁に当たって跳ね返りました。

「へ?」

下品という形容の見本みたいな表情でこちらに近寄ってきていた三人めのチンピラが、口を半開きにして立ち止まる。
飛んでいった仲間を目で追いかけ、投げた私に視線を戻し、屋根の方を見直している。
ファンタジー世界の住人にしては反応が鈍いですね。今見ているのが夢か現実か悩んでいるようです。

という訳で三人目も空を飛びます。
お、これなら‥‥命中! 落ちてきたチンピラ三号は見事に屋敷の尖塔の、四階建て屋根の一番上にある避雷針みたいな鉄柱
に突き刺さりました。
尻から口まで鉄柱が突き抜けていて、大怪鳥向けサイズのハヤニエみたいになっている。

良し良し、また腐れ外道が一匹現世から減りました。
「罪業看破」の効果で解る限り、放り投げた奴らは全て積極的に始末すべき外道どもです。
外道の死体でも肉は肉、ハトやカラスやハゲタカたちに食べて貰えば幾らかでも功徳になるでしょう。
一人目と二人目は鳥だけでなくネズミや地虫にも食べて貰えるでしょうから、もっと功徳を積めるかもしれません。



「て てっ 敵襲ぅ──っ!」
「殴り込みだぁ! 出ろっ 出ろっ!」


本職のヤクザ者だけあって、一度動き出してからは話が早い。
瞬く間に三人がやられたのを見て殴り込みと判断したのでしょう、警告のわめき声が上がり屋敷のあちこちからチンピラや
ゴロツキどもが出てきました。


こ、これは酷い。あんまりだ。

朝から酒かっくらって赤ら顔しかもフンドシ一丁で剣だけ持って出てきたのとか、目つきと顔色から一目で薬物中毒だと分か
る骨皮筋衛門とか、ぼろくさいですけど革鎧を着込んでいて武器もまともなのを装備しているのに何故か股間だけ丸出しで粗
末なものをおっ立ててる表情が無いのとか、切り取った指やら耳やら鼻やら乳首やらを何十個も紐に通して何重にも首から掛
け吊してナイフの刃を舐め回しているのとか、絵に描きたくもない屑のなかの屑ばっかりです。

どいつを見てもカルマの数値が基準を割ってマイナスに突っ込んでいる。
元から無かった容赦する気が、完全になくなりました。
こんな連中の巣窟に攫われて、よくマリアは無事だったもんだ。



さて、何故に潜入してからの暗殺連続ではなく正面からの突破を選んだかというと、小母さんを巻き込まない為です。
屋敷の中に忍び込みこっそりとそして片端から殺して回るという、昨夜の脳味噌が沸騰している状態で選ぼうとしていた戦法
では間違いなく途中で侵入が発覚します。そしてヤクザどもが恐慌を起こしてマリア達を傷つける可能性が高かった。

なので、まずは最初の段階で集められる限りの敵戦力を屋敷の前庭に集めて一網打尽にすることにしました。
カンネーのハンニバルにすら出来なかった完全殲滅が、この私にできるなんて考えてません。絶対に取りこぼしが出ます。
だから敵が人質を取るなどして戦いを続ける気力をなくす程の、決定的な勝利が必要なのです。

幸運にも生き残ったゴロツキどもが、何もかも捨てて逃げ出す程度には恐怖と衝撃を与えなくてはなりません。
絶対に敵わない、関わったら命はない、近くにいれば死あるのみと確信させなくては。



都合の良いことに、ここには即席の罠になるものが元からありまして。
この 石 の 柱 です。
ええ、ギリシャの神殿跡みたいに彫刻を施した飾り柱が何十本も、前庭を一周する形で立てられているのですよ。
上に屋根とかが乗ってないので純粋に室外調度品(エクステリア)の類でしょう。日本庭園で言えば石灯籠みたいな感じの。

東方世界は殆ど地震が起きませんから、これでも問題とならないのかな。
あれ? 確か地球のギリシャ・ローマ文明の中心地域って割と地震が多かったような。火山とかも時々爆発してますし。
なんで古代人達は石の柱を立てて喜んでいたんでしょう? 防災意識が低かった? そんな馬鹿な。


とかなんとか考えていたら、巻き上げハンドル付きの大型クロスボウで撃たれました。
四角錐の鏃を持つ石弓の矢が二本飛んできて、どちらも命中しました。ゴロツキにしては悪くない腕ですね。
30メートル未満の距離しかありませんから、鉄の大盾ごと重甲冑を貫いて騎士に致命傷を与えられる威力です。

でも、今の私には「矢返し(ミサイル・リフレクション)」の効果がある。
当然ながら当たった矢が正確に反射して、バリケードや肉盾のゴロツキごと貫かれた射手は二人とも即死しました。
跳ね返せない特殊な矢だったとしても、念入りに守りを固めてますのでかすり傷で済みましたけどね。


これで死亡6。内訳は墜落死2、串刺し1、射殺2、射殺の巻き添え1。
チンピラやゴロツキどもの集まりが悪くなってきましたね、直ぐに出てこれる連中はこれで全部かな?

「じゅ、呪文使いだぁっ」
「用心棒の先生方を呼んでこい!」


人妻になって人(オーク)の子を孕んだけど、私は相変わらず畜生道と羅刹道の狭間をよろめき歩いてます。
だからこそ、衝動的な憎悪や盲目的な怒りにまかせて殺生してはいけないのです。

冷静に、的確に、毒草のみをより分けて引き抜くように外道どもを始末せねば。
戦いを楽しむのは良い。命を奪う刺激は野蛮で狂暴な裸猿にとって極上の快感ですから。


異世界に生まれ変わっても結局のところ私は、サバンナを彷徨う死肉あさりの末裔でしかない。
条件さえ揃えば際限なく平和に浸ってしまえるオーク達とは違うのです。
社会的な意味で人間を止めていても、種としての人間の業は拭えない。
人肉食いして人の業が越えられるなら孔丘やモンテズマはとっとと解脱してますよ。

快楽だからこそ溺れきってはいけません。浮かび上がれなくなってしまう。
酒は飲んでも呑まれるな。危険な野外で青空えっちは禁物です。
節度を保って殺戮に興じましょう。でも相手は外道ヤクザだから手加減しません。容赦もしません。



前もって仕込んでいた煙玉花火が火を吹きました。前庭が見る見るうちに白煙で覆い尽くされていく。
煙に視界を塞がれ咳き込んでいるヤクザどもへ、クックリ刀を抜いて突っ込みます。

アイテムと加護の相乗効果で、催涙弾未満の毒煙がたちこめていても平気で動けて目を瞑ったままでもボタン付け程度の針仕
事なら余裕でできる私を相手に、ゴロツキどもやヤクザの用心棒がどこまでやれるかな?


もう一度言いますけど、今の私は並の巨人族よりも固くて素早くて馬鹿力ですからね。
いっちょ ぶわぁーっ とやってみますか。






[38600] 57
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/26 12:01




 ☆108日めの2、血風&血闘☆



駆け出すと同時に待機してあった呪文効果、「茨の壁」を発動します。
これは地面から9メートル×9メートル×9メートルの立方体サイズに収まる魔法植物の塊を生やす呪文でして、睡眠毒の棘
を持った茨の茂みが地面からにょきにょきと生えてきて壁や床や柱になるのです。

この呪文はむき出しの地面、いえ少なくとも草が生える環境の場所でないと使えない制限があります。
茂みの形は自由に決めて生やせるけど生やした後では変えられません。
あと、普通の茨より遙かに頑丈ですが植物は植物なので根気よく挑めば素人にも刈ったり燃やしたり枯らしたりできます。
うっかり触って棘が刺さると寝てしまいますが。


屋敷の正面を「茨の壁」で塞いだのは、もちろんゴロツキどもを逃がさないため。
こんなことに3レベルの信仰呪文巻物を使うのは正直もったいない。しかし他に適当な手段がなかった。

他の物理的遮蔽系呪文、たとえば「炎の壁」や「氷の壁」だと昨夜に尾行してきた連中ぐらいのゴロツキにさえ突破されてし
まう可能性が高いのです。それらは突破させないことが目的ではなく、あえて突破させてその引き替えに多少の損害を与える
ことが目的の呪文ですからね。

流石に「石の壁」とか「鉄の壁」とかのより強力な呪文を込めた巻物は高級過ぎて使う気になれません。
だって「鉄の壁」の巻物なんか価格の最低基準が1800ゴールドですよ! それ以上安い値段で売ると魔術師ギルドに睨ま
れちゃうんですよ! 買うと大抵の場合はそれより高くなるんですよ!
温泉洞窟というか夫たちは確かにお大尽ですが、ヤクザ相手に6レベル呪文巻物は無駄遣い過ぎます。



同じように前庭と中庭の境に仕掛けた「茨の壁」とその奥の罠を起動すると、緑の壁がもこもこと膨れあがっていって前と後
の出入り口が塞がれました。

「いだぞっ ごごだぁっ」
「このガキゃぁ!」

しかし煙に巻かれているゴロツキどもにそれは見えない訳で。
近くにいるゴロツキの何人かが、私に気付いて斬りかかってきました。
あー 体格が全然違いますからねえ一人だけ。そりゃ煙幕の中で涙目状態でも近くにいれば敵味方が判るか。ゴロツキの同士
討ちが起きる確率は、思っていたより低いかもしれません。



右に動くように見せかけて左に動き、右に動くと見て対応した敵に無駄足を踏ませる。
フェイントの基本はこれです。
原理は単純ですが才能ある人々が、寝ても覚めても効率よく人を切る方法を考えに考え続けている危ない連中が何十年何百年
何千年と研究を続けて洗練された技芸(アート)は、えげつない効果を発揮します。

本職手品師のトリックや本職詐欺師の投資話みたいなもので、知識のない素人にはまず見破れない。
21世紀の平均的日本人がネズミ講とかの詐欺手法に耐性があるのは教育や学習の結果でして、経済的素養がない人々は易々
と引っかかってしまいます。
先進国の一般人は途上国の本職に匹敵するのですよ、少なくとも教養面ではね。


昔の時代劇で、主人公の剣豪が雑魚悪党をばったばったと切り捨てていく剣劇シーンがありますよね。
隙だらけに見える主人公の背中に切り付けられない、むしろ自分から切られに行っているとしか思えない悪党どものあの動き
は現実(リアル)ではないけど、全くの嘘でもありません。

ほら、お師匠様がよくやっているでしょ約束組み手みたいに対戦相手を思うがまま操って動かしているアレ。
あれこそがフェイント系技術の行き着く先な訳です。
時代劇の剣豪は大勢に囲まれているのではなく、わざと囲ませているのですよ。その方が逃げる敵を追いかけ回して切るより
疲れませんからね。


つまりまあ、私程度の腕でもゴロツキ二人ぐらいなら歩法とフェイントで翻弄できます。
対戦者の感覚を狂わせて挟み打ちや包囲をできなくさせたり、攻撃を空振りさせたりできるのです。
あとは体勢を崩したところを さくっ さくっ と切り付ければ簡単に斬り殺せる。
坂井三郎は1対19で囲まれても逃げ切っているのです。遙かに有利な状況にある私ならこの程度のことは容易い。

おっと、仲間の怒号と悲鳴を聞きつけてゴロツキどもが近寄ってくる気配が。
では、寄ってくる連中めがけて柱を倒しますか。


よっ こいっ せっ と。
勢い良く石の柱を押し倒し、人影の動く方向へ突き飛ばします。


あーっはっはっはっ 避けないとぺっしゃんこですよー♪ 避けても別の柱が転がってくるけどね。

動き回りつつ柱を次々と押し倒し、転がし、蹴飛ばす。砕けた石材や落ちている武器類、ときにはゴロツキどもをまだ生きて
るか既に死んでいるかの区別もせずにぶん投げてぶつけ、次々と仕留めていく。
舞い上がる土埃で更に視界が効かなくなって、ますますもって有利になりました。私は護符つき首飾りのお陰で口や鼻で呼吸
する必要がありませんが、そうもいかないゴロツキどもは酷く咳き込んでいます。


煙と土埃で見えませんしそもそも私は目を瞑ったままですが、前庭のあちこちに赤い染みができてます。
えーと、これで16かな? 同士討ちを入れると更に数体戦果表に追加。
最初にいたのが40弱だったから、もう半分ぐらいを片づけたのか。


彼らには彼らの人生があります。外道に堕ちたのも止むに止まれぬ事情が有ってのことなのでしょう。もしかしたら後に回心
して正道に戻れる可能性もあったのかもしれません。
でも手加減しません。容赦も情けもありません。
畜生にそんなものはない。どーぶつはいつでも必死で無慈悲に真剣勝負なんです。猫がネズミを玩んでいるように見えても、
あれは狩猟の鍛錬ですからねー。

チンビラゴロツキといえど人は人。敵は獣でもモンスターでもなく、人としての知恵と記憶力と意思を持っている。
だから油断はしません。人間の恐ろしさを、人間族の私は良く解かっているのですから。



ゴロツキどもの動きが鈍くなってきました。
見つけて近寄って攻撃すれば勝てる、という敵ではないと今更ながら気付いたようです。士気崩壊も間近ですね。

ならばこちらは飛び道具に切り替えるか。この状況で近寄ろうとする=敵だと解られてしまう。
奪ったクロスボウで撃ち殺します♪ 巻き上げハンドルが鬱陶しいから千切り取っちゃえ。
石弓の弦なんて手で引けば良いのですよ手で。その方が速いですし、魔法の籠手を装備しているから怪我の心配もない。

はっはっはっ 向こうは煙幕と土埃で目の前もろくに見えませんが、こちらは何処で誰が何をしているのか丸分かりですよ。
以前にも増してニュータ○プもどき能力が冴え渡っている。
目を瞑ったまま、壁の向こう側にへばりついて隠れたつもりになっているチンピラどもを壁抜きで射殺せます。煉瓦壁ごと貫
いてますよ。
壁が厚すぎる場合は、適当な岩や石柱を蹴り飛ばしてぶつけ壁ごと潰します。


数秒に一発の速度で次々と大型クロスボウに装填して、矢を放つ。
茨の壁に触ってしまい眠りこけているゴロツキも容赦なく撃ち殺します。
縄を使ったり仲間の肩に乗ったりして、壁をよじ登ろうとしている身軽な連中も撃ち殺します。逃がしゃしません。

「だずげでえ゛ おねがいだがらぁっ なんでもずるがらぁっ」

四つん這いで這い回り、涙と鼻水を垂れ流して泣きわめいている奴も撃ち殺します。女だろうが若かろうが容赦しません。

かつては可憐な村娘で、妹たちに白爪草の花冠を作ってあげていたのだとしても。
かつては凍えそうな雪の日に、親から捨てるよう言いつけられた子猫を抱えて街を彷徨っていた子供だったとしても。
そのまま惨めに死ぬがよい。今現在がヤクザの手下なら、かける情けはありません。
マリアとサラさんを奪おうとした時点で、こいつらは私の敵だ。


文字通りの矢継ぎ早に、片っ端から撃ち殺す。
精密そのものな自家製コンパウンドクロスボウと違って使い捨てにできる点が鹵獲品の長所ですね。普段使っているやつでは
こんな乱暴にはとてもじゃないけど扱えません。

ああ、やはりカラシニコフは正しかった。
羅刹場で使うなら命中精度よりも安さと頑丈さと信頼性を優先すべきです。反省。


石弓二丁の矢玉が尽きるまで撃ちまくると、敵の生き残りは数名だけになりました。
何人かは生かしておくか。この事件については、ヤクザ側の生き証人も要るでしょうし。

最後に、倒れた柱の影に伏せて死んだふりしているゴロツキのうち最も罪業が深い奴を選んで石弓をぶつけます。
良し、致命傷。
せめてもの慈悲に、まだ死にきれてない連中のなかで比較的罪業の浅い連中に石柱をぶん投げて挽肉に変えてやるか。
死んだふりしている奴も巻き込んでるけど気にしない。


壁をよじ登り中庭へ移ります。



うをっと、煙幕の外に出てみて気付きましたが‥‥あべかわ餅みたいに全身粉まみれですよ。
じゃりじゃりします。
迂闊に目を開くと睫毛に付いた土埃が目に入りそうだったので、閉じたまま「浄化」の呪文を唱えて綺麗にしよう。
泥水が真水に変わるのですから、泥と埃にまみれた身体を真水に濡れた状態にすることだってできます。
次からは煙幕戦法は慎重に使うとしましょう。


ふむ、気のせいじゃないな。誰かが私を見ている。見られている気配がします。
これだけ派手に動けば注目されても仕方ないか。
数は複数、練度はバラバラ。多分陣営もバラバラでしょう。深刻な敵意がこもった視線は一つか二つだけです。
敵意ある監視者も直接仕掛けてくることはなさそうですので、放置しときましょう。


中庭に仕掛けて置いた罠、「石槍畑」の呪文に2体ほどチンピラが引っかかってました。コボルド族のイケメン剣士が使って
いた地面から槍を生やす精霊魔法に似た効果の呪文を、誰かが踏み込んだら発動するように条件付けした魔法の罠です。
あと、茨の睡眠棘に触って寝ているチンピラが1。念のため止め刺しておくか。

しかし良く切れますねえコボルド族の剣は。人骨も革鎧も板金鎧も無いのと一緒ですよ。


残る戦闘要員はあと25ってところか。油断無く行きましょう。
この中庭は殺し間(キルゾーン)になっていて、前庭から入ってきた敵へ四方八方から飛び道具を撃ち込める構造です。
ですが壁に穿たれた隙間、日本式城塞でいう矢狭間の向こうには誰もいません。茨の壁でゴロツキどもの大半を撤退できなく
しましたから当然ですが。

いやまあ、マリア達の家にいた外道どもの会話から殺し間があると察してましたし、実際にこの目で構造を確認して配置する
人手をなくせば無力化できると判断して、実際にその手を使ったのですが。
念のために呪文などでも、飛び道具への対策をしています。


屋敷の本館部分に集まっていた気配がこちらに近寄ってきました。足音と武具の軋む音も。
残りの戦力は纏めてぶつけにきたか、ということは私の飛び道具対策にも気付いていると見るべきかな。

屋敷の両開き扉が開いて、ゴロツキではあるけどさっきの連中より明らかに格上なのがぞろぞろと出てきました。
武装がまともだし士気も高そうだ。平均技量もかなり上です。


計17名。内訳は戦士風10、盗賊風5、魔術師(ウイザード)1。
そして左手が鎌と鉈の中間みたいな武器の生えた義手になっている中年男が1。
魔法の品らしき鎖かたびらを身につけてますし、こいつが髑髏だか骸骨だかの陳腐な通り名の顔役でしょう。
東方人の標準より更に濃い顔に無精ひげを生やし、黒くて波打っているいわゆるワカメ髪を獅子のタテガミのような髪型にし
ています。


ん? よく見るとあの魔術師、左右に一体ずつ半透明で薄い色合いの立体映像が浮いてますよ。
日光の下だと、目を凝らさないと見えないような薄い映像ですが幻術かな。
姿は鏡に映したように本人そっくりで、本人と同調してまったく同じ動きをしてますけど何なのでしょうあれは。



「手前ぇ、何処の誰に頼まれて来やがった!?」

顔役が啖呵きってきました。なるほど、ここで私が何か言うと「そうか、○○の差し金だな!」と同業他社の刺客と決めつけ
てこの後の抗争の理由付けにするのか。
そっかー こいつまだ後があると考えているのかー おめでたいなあ。


私は問いには直接答えずに、無限袋から昨夜つけ回してきたハゲの生首を取りだして顔役の前に投げ捨てました。


「生憎ですがこの程度の雑魚にやられる程、弱くありませんよ私は。売られた喧嘩、言い値で買い占めさせて頂きます」

お、手下共々僅かながらに動揺しましたよ。やはりゴロツキ冒険者7人組は顔役と関係があったのか。
実際はどうだったのか知りませんけど、あの7人組は顔役の指示で邪魔者の少女尼僧を始末しにきたのだという事にしてしま
いましょう。そして返り討ちにされ顔役の差し金だと自白したけど命乞いに失敗した、という事にも。

つまりこれは報復行為。私は命を狙われた上に患者を攫われたから殴り込みに来た訳です。
そういうことにしました。かなり赤い嘘だけど問題ない、死は大概の問題を解決するとアカの大元帥も言ってます。



「やっちまえ!」

顔役の号令にあわせて手下どもが突っ込み、魔術師は呪文を唱えます。この詠唱は‥‥駄目だ分からん。
まあ、爆弾をどうにかできる呪文ではなさそうなのでどうでも良いか。

無限袋から取りだしていた爆裂弾を後退しながら、3個纏めてゴロツキどものなかに放り込む。
巨大芋虫を真っ二つにしたあれです。
ただしこちらの擲弾は導火線を短めにしてありまして、出してから5秒ほどで爆発します。

手榴弾や対人罠として使うために導火線を短くしていますが、炸薬が黒色火薬そのままだから信頼性がもう一つ。
各種耐性と防御力を上げに上げてある今のような状態じゃないと使う気になれません。自爆したくないですからねー。


魔術師の手前あたりに落ちた三発の擲弾が爆発して、背後からの衝撃に吹っ飛んだり体勢を崩したりしているゴロツキどもを
次々と魔法のブーツを履いた足で蹴り殺し、左手のクックリ刀で切り殺し、右手に掴んだ適当なものを投げて仕留めていく。
速度差と腕力にものを言わせる力押しです。
石だろうが剣の鞘だろうが切り飛ばされたゴロツキの手足だろうが、掴んで投げて当たれば致命傷になる。
魔法のブーツや籠手を使った殴る蹴るの直接的暴行は、水風船のように人体が破裂して吹き飛び周囲に二次被害を与えます。

ゴロツキどもは必死で反撃しますが、どれも当たりません。
星3や4程度の攻撃など、囲まれさえしなければ今の私には当たらないのです。
歩法はまだスネーク・ステップしか使えないけどそれで充分避けられる。

当たったとしても大して効かない筈ですが、強力な毒や呪いを帯びた攻撃だったりすると少々厄介です。
もしかしたら装備が与えている耐性を抜いて毒などが効くかもしれない。だから一々避けてます。
盗賊っぽい連中だけでなくヤクザ者の殆どが武器に毒を塗ってますし、それに服に傷が付くのも嫌ですから。



「囲め! 囲んで同時に‥‥ ぇ?」
「一人では囲みようがないと思いますけど」

爆風や飛び散る破片にめげず指揮をとっていた顔役でしたが、いつのまにか一人きりになってしまい言葉も出ない様子です。
軍事用語的にではなく文字通りの全滅ですからね。
前庭の雑魚どもより手応えがある手下でしたので、余裕ぶらずに手早く始末しました。
ヤクザ者なりに筋の通った連中で、最後まで逃げも怯みもせずに戦い続けたから二倍速でも15秒ほどかかりましたよ。
この顔役、ポンコツかと思いきや人望はあったのかもしれません。


ゲーム(地下牢と竜)的に言うと、普通のチンピラが普通の剣(ショートソード)で切り付けたときのダメージ期待値は3~4ぐ
らいです。
しかしコボルド魔剣に魔法の籠手と「打撃」の効果を加え魔法の帯で強化した状態の私が切り付けたときには、その期待値は
脅 威 の 5 6 !  5~6じゃありませんよ56ですよ。

これ、完全武装のオーガーやミノタウロス(星5ぐらいの)が一撃で即死しかねない威力です。大怪鳥だって致命傷。
もちろんゲームと現実は違いますが、トログロダイトと斬り合っていたときと比べて私の白兵戦における一撃の威力が20倍
ぐらい上がっているのは確かです。

コボルド剣と怪力装備の相性が良すぎる。
更に「打撃(ストライキング)」の呪文効果で威力上乗せしてあるから酷いことになってます。

一撃あたりの威力だけなら幹部オーク(の最弱層)に匹敵しますからね、もう鎧ごと甲冑武者が数人まとめてすぱすぱ切れる。
重ねて押し切る江戸時代の試し切り方式なら4人を鎧ごと8分割は軽いでしょう。
盾や鎧が何の役にも立ってない。鋼鉄製だろうと魔法の品だろうと重たくて動きが鈍る分、着ない方がマシなぐらいです。

ちなみに魔術師は爆弾の直撃で即死しました。何がしたかったんだこいつは。


「そんな‥‥馬鹿な、リガの剣鬼は金髪の筈だ」
「馬鹿ですね、私なんかじゃお師匠様の相手は百人掛かりでも無理ですよ」

実力差もありますけど、それ以上に戦法や戦術の全てがソーニャさんに筒抜けですからねえ。
弟子が師匠に勝てるようになるのは守・破・離の離かせめて破の段階に達してからです。守の取っ掛かりにいる私じゃ無理の
無理無理。 

というか、同じ冒険者でも「地下牢と竜」で言えば赤箱級の私と緑箱級のソーニャさんを間違えるって節穴すぎでしょ。
お師匠様が歴代最強の呼び名も高い大横綱だとしたら、私はそこそこ強い中学相撲部の中堅選手ぐらいです。


「剣姫の弟子、偽りではなかったか」

!? いつの間に出てきた、このサムライ。


いかにも用心棒といった雰囲気のヒルデニア人剣士が、両開き扉の前に立っていました。
顔つきも訛りも服装も、何処から見てもヒルデニア人だ。一言でいえば和装っぽい。


「遅ぇぞ先生! やってくれ!」

空気を読まずに叫ぶ顔役の胸板に右手の裏拳を入れて転がし、黙らせます。
殺してはいませんが骨は折れる程度に強く殴りました。しばらくの間、邪魔されたくない。
こいつでも下手に動かれると厄介だ。不確定要素を残したまま戦うには強すぎる相手ですよこの用心棒。
切り殺しはしません、たとえ一瞬でもこの敵に向けた刃を外すのは危険すぎる。


無言で、無表情な日本人顔の剣士と向き合います。ええい、時代劇の決闘シーンじゃあるまいし。

拙い、こいつ最初の印象より更に強い。直感が警報の鈴だか鐘だかを連打してる。
星7、いや8にまで達しているのか? めいっぱい強化している今の私でも、敵わないかもしれません。

歳は30手前、男、獲物は打刀っぽい片刃武器、長いザンバラ髪は実力の証しか。
これまで全ての戦いで、髪を掴まれる前に決着つけてきたんですよこの男は。

向こうの構えは自然体か? 刀の柄を掴んで立っているとしか見えないのに何処にも隙がない。私は下段に構えてます。


勝てる図式が、戦術論が出てこない。どうすれば‥‥


一瞬。瞬きする間もなく、いえ知覚することもできない疾さでサムライ風用心棒は踏み込んで切り付けてきました。
心の隙間を突かれてしまったのです。
文字通りに 間 を読みとられてしまった。

反応が、間にあわな


日本刀にしか見えない刃が、水兵帽に付けた聖印に当たって弾き返されました。痛い、でも生きてる。
クックリ刀と打ち合った用心棒の刀がその部分で切り落とされて、惰性で飛んで私の頭に当たったのです。

間一髪で間に合いました。
咄嗟に受けに構えたコボルド魔剣がサムライの刀を受け止め、いえ止めずに切り落としたのです。


「!?」
「?!」


双方が想定外の出来事から、ほぼ同時に立ち直ります。

勝負は次の一瞬で決まりました。
サムライの胸板に押し当てるような位置にあったクックリ刀を、私はそのまま振り下ろしたのです。良く研いだ包丁でチクワ
を切るときほどの手応えもなく、用心棒は左肩からやや斜めに切られ右の腿あたりで両断されました。
同時に繰り出されていた向こうの攻撃は、私の太腿を守る魔法合金繊維製のスカートで防がれる。
頭と同じく、腿は痛いけど掠り傷で済んでいます。


ま、負けてた。咄嗟に左手が動かなければ、そして左手に持っていたのがコボルド印の魔剣でなければ、切れ味のみを何処ま
でも追求したこの刃でなければ私の方が真っ二つにされてました。
勝てたのはただただ武器の優位があったから、それだけです。
いつ抜いたのか見えもしない、編集済み動画じみた動きでした。あれが、本物の剣士の切り付けか。


仰向けに倒れて絶命している用心棒の顔に触れ、瞼と顎を閉じさせます。
敵ながら天晴れな使い手でした。オーク島の住人だったなら嫁取り決闘に出られたでしょう。
名前聞いておけば良かったかな。

彼が柄を握りしめたままの得物は魔剣として最下級のものです。クックリ刀に切り落とされて壊れてしまい、今じゃ元魔剣に
なってしまってます。既に刃が帯びていた魔力もその効果も消え失せている。
武器に縋っては駄目だけど、良い武器はやはり頼りになります。折れてなお武器として使える高級な魔剣だったら、私の両腿
はスカートごと切り落とされていたでしょう。そうしたらまず今頃は生きていない。


血脂と大小便その他の匂いが付いてしまったクックリ刀を素振りして液を飛ばし、残りを懐紙でふき取って鞘に収めます。
懐紙はその場に捨てます。
本当は呪文で綺麗にしたいけど節約しないとね。弾は命(たま)、弾切れは命の危機を招きかねません。


呆然とヒルデニア人同士の決闘を見ていた顔役でしたが、近寄ろうとすると起き上がって逃げ出しました。
でも逃げ切れない。野ウサギを走って追いかけて掴み獲りできる、今の私から逃げられる動きじゃない。





 ☆108日め3、金銭は重い☆



逃げだそうとした顔役ですが、追い付いてから足首掴んで引き戻し片手ジャイアントスイングで数回振り回すと大人しくなり
ました。いやその、ちょうど掴みやすい位置に踵があったもので。
実力で言えば星4から5ぐらいなので私と戦っても勝ち目が僅かにあるのですが、手下の全滅と用心棒の惨殺に心が折れてし
まったようです。

念のために武器とかアイテムとか隠し持っている物を剥ぎ取っておきますか。
義手に付いている刃物とカラクリも壊してもいで、と。魔法の鎖かたびらも一応回収して、と。

お、魔法の財布見っけ。
これは無限袋の通貨限定版みたいなアイテムでして、各種のコインと宝石それに砂金や貴金属のインゴットなどの通貨として
扱われる物のみを入れておけるのです。
限界が重量ではなく評価金額なのが長所でもあり短所でもある。これには10万ゴールド分ぐらい入るようです。
今持っているのも10万ゴールド入るやつですので、これで20万ゴールドを無荷重で運べるようになりました。


ふむ? 屋敷ではなくその奥の方向、見張り付き倉庫の辺りで戦いの音が起きてます。
喧嘩や小競り合いではありません。10人以上で入り乱れての、激しい戦いです。
方向的には、さっき顔役が逃げようとしたあたりかな?


行ってみるか。

顔役の足首を掴んで乱闘現場に急ぎます。引きずり回されてるのが何か喚いてますが無視無視‥‥いや無聴?



倉庫前に着いてみると、丁度最後のゴロツキが宙を舞っているところでした。放物線を描いて二階の窓あたりまで上昇してか
ら重力に従って落ちて地面に叩き付けられます。

ゴロツキが飛んだ原因は、まだ片足立ちの姿勢をとっている甲冑姿の男です。見張りに就いていた二人組のうち白銀鎧の方。
どうやらゴロツキの髪を掴んだ状態で顔面に右膝蹴りを叩き込み、その蹴り一発で即死させたようです。
さっき宙を舞っていたのは既に死体だったのか。
大の男をあの勢いで蹴り飛ばすとはオーガー並の怪力ですね、バランス感覚も一級品だ。


甲冑男たちの片割れ、黄金鎧の方は倉庫の錠前を弄ってましたが私と顔役の接近を察して振り向きました。


やはり強い。一人一人はあのサムライ風剣士ほどじゃありませんが、二人一度にだとより厄介かも。
板金鎧を着ているのに素早そうですし、柔軟性も良さそうです。
中世欧州の板金鎧も、実戦で使っていた物を現代人のスポーツ選手が着込んでみた実験では飛んだり跳ねたりどころか宙返り
までできたそうですからね。ファンタジー世界で魔法のアイテムならもっと身軽に動けてもおかしくない。

まだ「魔法感知(ディティクト・マジック)」の効果が持続しているので分かりますが、二人の鎧も兜も魔法の品です。
特に片方の、錠前弄っていた奴が被っている仮面付きフルフェイス・メットから強い魔力を感じる。
でも剣はやはり普通のアイテムだ。魔力を帯びてません。
というか二人とも剣を鞘に入れっぱなしなんですが。見せ剣ってやつでしょうかね。


少なくとも一人は魔法戦士かな? 
倉庫周辺に転がるゴロツキやチンピラそれに魔法使い風の死体のうち幾つかは黒こげになってますし、幾つかは全身に回転鋸
の丸い刃みたいなギザギザの武器が突き刺さっている。鋭さは違うけど大きさは回転鋸の刃ぐらいですね。

二人は私から背後の女を護るように立ち、警戒していますけど敵意という程のものは感じません。


「やっぱりアンタだったかい」

そして倉庫の前に立つ三人目の人物、マリアの小母さんことサラは返り血の付いた寝間着姿で不敵に笑いかけてきました。
なるほど、ただの村人にしては肝が座りすぎていると思ってましたがこっちが素顔か。
右手にぶらさげた血刀が似合いすぎです。傷から見て転がっているチンピラのうち何人かは彼女が切ったのでしょう。
一番多い死因は撲殺、いや扼殺か。いわゆる捻り殺されるというやつです。


サラ小母さんは元冒険者、それも荒事系ですね。小規模傭兵団のまとめ役だったのかも。
後で聞きましたが顔役とは引退する前に何回か組んだことがあり、多少の貸し借りがある関係だったとか。
その顔役は用心棒たちの様子から、彼らも頼りにならないと悟りまして喚いてます。

「て、手前ぇら裏切りやがったな!?」
「済まないが雇い主面するなら先々週の給金払ってからにしてくれないか。その前の週の分も」
「うむ。遅配の方が多いのに文句も言わずに働いてる時点で、疑うべきだったな」
「先週は払ったぞ!」


ああ、そりゃいますよねファンタジー世界にも「働かさせてやってるんだから金銭払え」とか言い出す暗黒企業経営者は。
この顔役はそこまで行き着いてませんでしたが、用心棒への給金遅配(後で支払われる訳ではない)は日常茶飯事でした。
傭兵とかへの報酬ってまともに支払われることの方が少ないぐらいなんですよ、これが。
現代の地球ですらそうだったのですから、中世風世界なら尚更です。

近世欧州のなんとか公爵なる人物が試しに傭兵へ遅配も減額もなくきちんと給金支払うようにしてみたら、あっというまに精
鋭部隊が誕生して連戦連勝を続け大国の王様にまで成り上がれたという実話もあるぐらいですからねー。


冒険者だって「ご苦労、もうお前に用はない」という目に遭うことは珍しくありません。
オーク島でエロモンスターのお嫁さんやっている元冒険者のなかにも、任務達成後の宴会で依頼人に一服盛られて捕らえられ
人買いに売られたという人が結構いましたし。

焼き土下座の人は21世紀の日本だからこそ言動が問題になるのであって、世界標準で言えば聖人認定級の清廉潔白さですか
らねえ。いや、形はどうあれ顎の尖った主人公のような弱者との約束を律儀に守ってるあたり、あのグループは漫画の中にし
か存在しない綺麗な裏稼業な訳ですが。



話を戻しますと、度重なる遅配(実質ただ働き)にむかっ腹を立てていたこの二人は機を見て出来る限り損害を与える形で裏切
りかますことにしたのです。

こいつら妖精さん気質だ。
何か腹の立つことがあったら、一々抗議とかせずいきなり実力行使に出る行動様式なのです。
時代劇で喩えるなら悪代官の不正を、直訴とかじゃなくて不幸な事故で片づけちゃうヤバイ農民みたいな感じで。

そういや、某大学ではオカルトサークルが妖精さんを呼び出して契約して使役していてたのですが、ある日うっかりチーズの
代わりに高野豆腐お供えしてしまい、怒り狂った妖精さんが報復に出て、結局は消防車が出動する羽目になったとかなんとか
知人のフィンランド人が吹いてましたけど、あいつ元気かなあ。
いえね、美味しい普通の高野豆腐じゃなくてアンモニア抜きしていない高野豆腐をお供えしちゃったそうで‥‥
そりゃ私でも暴れるわ。妖精さんは無罪です。


全身鎧姿の用心棒コンビは、契約違反に厳しいのですよ。
この二人にとって、命を懸けた仕事の報酬を払う気がないということは即ち雇い主の裏切り行為なのです。
裏切りを許す傭兵なんている訳がない。
ヒルデニア人なら即座に見限って出ていくけど、執念深く報復の好機を待てるのが東方人の怖いところです。
 

元冒険者のサラ小母さんですが、軟禁状態で迎えた朝に「水兵服着たキ印が殴り込んできた」と騒ぎになったので隙を見て脱
走したは良いものの、一部のゴロツキどもは顔役から聞いた「50万ゴールドに及ぶ埋蔵金の在処をサラさんが知っている」
という与太話を信じ込んでしまい、顔役の招集を無視してサラ小母さんの誘拐を企てました。
殴り込みで混乱しているうちに小母さんを攫って、拷問してでも財宝の在処を吐かせるつもりだったのでしょう。

で、奪い取った剣を片手に倉庫前まで逃げてきたサラさんは騒ぎに呼応することにした鎧二人組と組んで戦っていたのです。


「50万! そりゃ本当か?」
「出鱈目だよ。考えてもみな、そんな財宝の在処を知ってたら情報だけでも売って大儲けしてるさ」


分け前が1割でも5万ゴールドですからねえ。
それだけの財宝の在処を本当に知っていれば、昔のコネを使って誰か気の利いた冒険者に情報を渡して回収して貰い、分け前
を得て満足しているでしょう。ハイリスクハイリターンを狙わないから適当なところで引退したんですし。


子供にも解るこの理屈をなぜスラムの顔役が解らないのかと言えば、人は自分を判断基準にするものだからです。

この外道、自分がそうだからサラさんもお宝の独り占めを狙っているとしか考えられなかったのですよ。
直属の手下の半分以上が、殴り込みに乗じて横取りを図ったあたり似たもの親分子分ですねコイツら。

思いこみとは厄介なものでして。
引退して農村暮らしをしているサラ小母さんが、時折村を出ては幾らかの金銭を持ち帰るのは隠しているお宝の一部を取りに
行っているから。
村の若者に冒険者の心得を教え剣術などの基礎を手解きしているのは、近い将来に財宝を回収するときに手伝わせる為。
全ての行動が、有りもしない財宝の存在を確信させる材料になってしまっていたのです。

人は夢を作り出す材料のようなもの、と言った詩人だか戯作家だかもいましたけどね。
埋蔵金なんかをあてにして動くとこうなるのか。誰もがシュリーマンになれるわけじゃありませんからねえ。
何時、何処でにサラさんが50万ゴールドのお宝を見つけて、何故回収せずに隠していると思いこんでいたのかは分かりませ
んが、迷惑な奴もいたものです。夢を追いかけるのは良いけど他人を巻き込むなよ。


「ではさようなら。地獄にいけると良いですね」
「ぐわ────!!」

人質と無事合流できた事ですし、特に生かしておく理由もないので顔役は切り捨てました。組織の隠し財産があってその在処
を教えるから命だけは、とかなんとか言ってましたが聞き流しました。
本当にあるのか怪しいですし、有ったとしてもどうせ端金だ。
50万ゴールドに目の色変えていた奴の隠し財産ですよ? 10万ゴールドあるかどうか。

死体は身包み剥いでから貪り食う無限袋に突っ込みます。
汚れた古着だってその辺に捨てていけば、誰かが拾って雑巾にでもしてくれるでしょう。リサイクルリサイクル。


鎧コンビやサラ小母さんの情報によると、このヤクザ組織にはまだ別行動中の幹部と精鋭部隊がいるっぽいんですよね。
そいつらは顔役に信服していた訳ではなさそうですし、日本のヤクザと違って跡目がどうの組の看板がどうのといった組織文
化が東方世界にないので仇討ちに来る可能性は低いのですが、用心はしておきましょう。

こっちから狩りに行くのも有りですかね、賞金首だし。
顔役も賞金首なのですが、この街の上層部と繋がりがあるかもしれないので生首の換金はしません。
有力者の黒幕とかいて、蘇生でもされると面倒です。



それから屋敷の中を捜索して更に数名のチンピラとゴロツキを始末しました。
ちなみに出くわした途端に向こうから切り付けてきたので返り討ちにしたのが1名、どさくさに紛れて下女(メード)を手込め
にしていたので不意打ちで撲殺したのが2名、組織の金庫を開けようして錠と格闘してた所に踏み込んでしまったので降伏勧
告したら拒否されて襲ってきたけど瞬殺されたのが2名です。

最後の2人がちょっと理解不能でしたね。

何故に用心棒やっていた鎧コンビに、チンピラどもだけで真っ正面から切り付けて勝てると思ったのでしょうか。
チンピラ側は数に優っているわけでもないのに、ろくな鎧も着ていない軽装なのに、武器は安物のショートソードなのに、
腕前だってこのヤクザ組織構成員の中で下から数えた方が早いぐらいのお粗末さなのに。

自棄になっていたとか自殺願望持ちならまだ解るけど、勝つ気満々でしたよねえあいつら。見た目が小娘の私や病み上がり女
のサラさんを舐めてかかるのはともかく、用心棒が弱いとでも思ったのでしょうか。
最初のチンピラは目が覚めたら組織が壊滅していて、恐慌状態でうろつきまわっていたあげくに我々と遭遇したようです。


悩んでいるとサラ小母さんと白銀鎧が解説してくれました。

「そりゃ、底抜けの馬鹿だからチンピラなんかやってんだよ」
「敵の強さが把握できないと冒険者はやってられないからな」

そして最低限の社会意識がないと堅気のおしごとはできない、と。

なるほど、ヤクザ者のなかから悪い意味で選りに選りすぐったキングオブ屑なのかさっきの奴らは。草鞋脱いだ組が殴り込み
されてるときに始めることが金庫破りですから、絶望的に知恵が足りてない。
静かになってもまだ続けているあたりが特に。
全てのチンピラが底抜けの馬鹿ではないけど、チンピラにしかなれなかった奴の中には想像を絶する馬鹿もいるのですね。



それにしても、思っていたよりも大人数の組織でしたねここは。正直、計算違いでした。
私のスコアがこれで55ぐらいかな? 鎧コンビとサラ小母さんの合計が20ちょっとなので80人近い戦闘要員を討ち取り
ましたが皆殺しにはできてません。

顔役の愛人とか太鼓持ち役のヤクザ者など目敏い連中はひっ掴んでいけるだけの財貨を抱えてとっとと逃げ出してましたが、
それ以外にも合計すると10人前後が逃亡済みのようです。
逃げ下手なチンピラゴロツキ以外で残っていたのは、迂闊に動くとヤクザの仲間だと思われるかもしれないと判断できた層か
あるいは事態そのものを理解していない層でした。

手込めにされていたメードに治療と避妊処置をして色々と宥めてから協力して貰いまして、拘束したその他の非戦闘員十数人
に一応の面通しして解放することにしました。
堅気かヤクザか外道かぐらいは直感で区別できますが、万全を期すためにサラさんや他の人たちにも見て貰います。

もちろん堅気の皆さんをどうこうするつもりはありません。ヤクザ組織の一員ではなく、買われたり攫われたり脅されたりし
て働かされていた身である彼ら彼女らを責めるつもりはないのです。

ヤクザの仲間だった非戦闘員で逃げそびれたのが堅気の皆さんとは別に8人ほどいましたが、鎧コンビやメードなどの証言で
改めて堅気の衆でないことを確認しました。


被戦闘員なヤクザどもですが、私がロープを出して「裁判にかけさせるから」というと割と素直に縛られまして。
で、8人とも縛って逃げられなくした上で切り捨てることにしました。


「えーと、念のために聞いておくけど、こいつら殺してかまいませんよね?」
「「「「「どうぞどうぞ」」」」」

誰一人、ヤクザ以外から命乞いの取りなしが無いのが凄い。どんだけ非道を積み上げてきたんだこいつら。


「さ、裁判にかけさせるって言ったのに‥‥」
「ええ。安心なさい、調停の神々はどんな罪人でも公平に裁いてくれますよ」

何か勘違いしていたようですが、地元の役人に裁かせるなんて一言も言ってません。
ヤクザ連中の悲鳴や罵詈雑言を無視して、さくさくと切り捨てます。
こっちは急いでるんですよ、少々の遅刻は笑って許すのが逢い引き(デート)の作法ではありますが、待たせすぎてダイコクた
ちがワンダリングモンスターと遭遇戦になったらどうしてくれるんですか。

だから、縛ったヤクザ者の仲間を堅気の衆に引き渡して袋叩きに~とかの、時間があればやったかもしれない事を省略してい
るのです。
一人ぐらいならやっても良かったかな? 婆さんだし、そう長い時間はかからなかったかも。

いえね、丸茄子みたいな形に髪を結い上げて茄子っぽい色合いに染めていた婆さんが特に憎まれていまして。
イエズス会士並に悪辣な人買いの元締め、しかもモグリなのだから当然といえば当然ですよね。
人買いといっても免状持ちはまだ幾らかはマシなのですよ、免状取るのに使った金銭を回収する間ぐらいは後先考えて商売し
ますから。


婆さんと幹部っぽい連中の死体も貪り食う無限袋に入れておきますか。爆死した魔術師の死体も一応入れておこう。
おっと、ハゲの生首も忘れずに回収しておかないと。
前回の反省をふまえて、身包み剥いでから貪り食う無限袋に詰め込みます。

はっ! しまった、最初から身包み剥いでから斬り殺せば服とかの価値が下がらなかったのでは?
布地がばっさり切れているし血や汚物で汚れてるし、生ゴミを増やしてしまっただけなのではなかろうか。
うーん、でも因業婆さんの裸とか見たくもないしなあ。

チンピラや雑魚っぽいヤクザの死体は‥‥蘇生されることもないだろうし放置します。
用心棒の遺体は触らないでおきましょう。彼の残した全ては誰かの助けになり、それが彼の功徳になる。だから貪り食う無限
袋に突っ込んで、虚空に消してしまう訳にはいきません。


ふむ。証言とか情報提供してくれた堅気の皆さんをこのまま放免、はいさようならというのも不人情すぎますかねえ?
せっかくですから見舞金ぐらい出しておきましょう。
大型金庫を巨人並パワーでひっくり返して、底板をクックリ刀で切り裂いて破ります。受けてて良かった宝箱開封講座。

中身は‥‥ 白金貨465枚、金貨4886枚、銀貨8101枚。銅貨565枚。
宝石が5個(それぞれ3000、2400、2000、400、100ゴールドの価値)。
装飾品が2個(それぞれ800、400ゴールドの価値)。


これだけ? こんな大きな金庫なのに? しけまくってるなー貧乏ヤクザめ。
豊富な資金をウリにしてる組織が、内情は火の車で自転車操業なんてのは珍しくありませんけど此処もそうだったのか。


なるほど、埋蔵金に夢中になる訳だ。
顔役の寝室にあった筈の手持ち宝石箱とかは愛人か誰かが持ち逃げしてますね。残ってるのは小銭を貯めた壷ぐらいです。
そういや前世で押入の隅に置いていた貯金箱はどうなったのでしょう? 銀行口座とかは姪が相続したと思うのですが。


うーん、ヤクザから巻き上げた金銭から私の分け前は要求できませんねこれは。鎧コンビの分が少なくなりすぎる。



致し方ありません。
帰るあてと帰れる手段がある人々、この街に帰りを待つ身内がいる人たちとかには私の懐から見舞金を出しましょう。

顔役の魔法財布の中身が2000ゴールド近くありましたからこれに400ほど足して1人当たり200‥‥ 
いかんいかん、これはオーク妻らしくない算盤勘定でした。
ケチ臭いこといわず1人あたり1000ゴールド、12人で12000ゴールドを配ります。
足りない分はお布施用から切り崩せば良し。これは無駄遣いではなくポトラッチ(呪術的散財)なのです。

これで当座の生活には困らない筈。あと、家具や鍋釜の類や食料品や燃料や古着なども持てるだけ持って行かせます。
そしてそれらの荷物を載せる荷車と引かせる馬やロバも。


倉庫から解放された8人の奴隷娘たちを含む、行く当てがないもしくは自力で帰ることができない11人の女達はサラさんや
鎧コンビとの相談の結果、リガ市を目指すことになりました。
いえね、奴隷のうち一人がリガ市出身で結構有名な老舗菓子屋の娘さんだと解りましてね。女神様に訊いてみたら誘拐されて
転売されてきたので菓子屋一家の皆さんは失踪してしまった家族の生存を信じて探し続けている。ということなので、鎧コン
ビに送り届けて貰うことにしたのです。

しかしリガ市は遠い。ヴァダからは陸路で1000㎞以上動かないといけません。
流石に2人だけでは長い道中、女達全員を護りきれそうにないので信頼できる知り合いの冒険者を雇って旅をする訳です。
旅の準備をする数日間なら、この二人だけでもなんとかなるでしょう。


で、サラさんが分け前を辞退したので金庫の中身や屋敷の財宝のうち価値の高そうなものが鎧コンビの分け前になりました。
女達11人の護送料も込みなので、まあこんなものでしょう。
コレも何かの縁ということで、10人の女達がリガで暮らすことを選ぶなら菓子屋の伝手でなんとかなりそうです。
普通に嫁入りするなら充分な額の持参金を持たせますし、悪いことにはならない筈。


「それでは君の取り分がなくなってしまうが、良いのかね」
「元々攫われたお見合い参加候補者を取り返しに来ただけですから」

幾つかの戦利品がありますから、丸損ではありません。ゴロツキが持っていた銀の短剣とか魔術師が持っていた呪文書とか。
財貨よりも「鑑定(アナライズ)」の呪文が充填してある魔法棒(ワンド)などの方がよほど魅力的です。
私では使えないけどコーネリアへのお土産になる。

合計してたかが4万ゴールド程度の端金に拘る気はありません。サラさんへの助太刀料だと思えば安いものです。
いや、本気で安すぎる。
うーん、女達に追加で軽傷治療薬を何瓶かとオーク島の宝石をこっそりと渡しておきましょう。
どうせ後で持参金になって、鎧コンビの財産になるのですから。


どういうことかって? 先程、手込めにされていたメードに不妊処置をしたと言いましたよね。
具体的には、チンピラどもの体液で汚されてしまったメードのおま○こに指を突っ込んでから「浄化」の呪文を発動して膣奥
まで綺麗にして、更に不妊薬を注入したのです。

この不妊薬は、温泉洞窟の下っ端オーク達のち○こから搾り取った透明な汁を加工して作ったものでコレをぬるま湯で薄め、
金属製の水差しみたいな容器に入れて細い管を綺麗にしたばかりのおま○こに差し込み、流し込みました。

もちろん処置した時点でもメードは妊娠してませんでしたし、そもそも排卵してませんでしたし、浄化の呪文で注ぎ込まれた
精子を残らず取り去ってますから、不妊薬を使う理由はチンピラの子を妊娠させないためではありません。
メードに鎧コンビの子を孕ませるためです。


この不妊薬、媚薬でもあるから原材料に比べれば弱まっているけど発情効果があります。
それを使い方だけ教えて、媚薬でもあることは教えずに一瓶丸ごとあげましたのでメードは妊娠しないようにこれから数時間
おきに数回、自分で注入するでしょう。

当然ながらそのうち媚薬の効果が出て発情してしまい、男が欲しくなります。
で、そのとき彼女の一番近くにいる男は鎧コンビな訳で。


メードは鎧コンビに対して、特に悪い感情を持ってないようです。彼らが強くて頼りになるのも確かです。
善人ではないが悪辣とまではいかない男たちに、発情してしまったメードが抱かれてしまうのはごく自然な流れ。
そしてその様子を近くで見聞きしてついでに匂いも嗅いでしまう他の女達が、いつまで耐えられるものでしょうか。

発情しても理性が完全に飛んでしまう訳ではないので、メードは男に抱かれる前に不妊薬を使ってしまいます。
そしてその香りと薬効は周囲に漏れていく。
媚薬の成分が近くにいる他の女達にも届きますし、頼れるなにものもない女達は鎧コンビの近くから離れる事ができない。

身体の奥底から、雌の本能が燃え盛ってしまっているところに隣から気持ちよさそうな本気えっちでよがり狂っている喘ぎ声
を聞かされ続けるのですよ。これで媚薬に弱い体質だったりしたら、理性も貞節も長くは持ちません。


辛抱堪らなくなった女達が、私も私もと夜這ってきたら人並みに常識と良識のあるメードは不妊薬を使うよう女達に薦めるで
しょう。
オーク系媚薬は女を発情させるだけでなく女同士を仲良くさせる効果が有りますからね。
不自然なまでに、女が女に優しくなれるのですよオーク系媚薬で酔っぱらっていると。

厳密にいうと女じゃない私でも、義息子へ意地悪していた巫女達に優しくできましたからねえ。
これはハーレムや逆ハーレムや乱婚など、どんな婚姻制度のなかでも仲良く子孫繁栄するためにオーク族が獲得した能力なの
でしょう。下半身に関しては、人間族より100万年分は優に進化しているのがオーク族なのです。


つまり早ければ明日の夜ぐらいに11人の女達は女の幸せを知ってしまう訳で。
見たところ11人の誰もまだ知らないらしいのですよ、雌の嬉びも含めて。
スラムのファザーファッカー娘ですら知っていた、男の腕の中で眠る幸せすら知らないのです。

一行がリガ港に辿り着く2ヶ月後か3ヶ月後には、女達全員がめでたく孕んでいるでしょう。一瓶しかない不妊薬を11人で
使っていれば直ぐになくなってしまいますし、なくなる頃には2対11の変則ハーレムが出来上がっている筈。
というか不妊薬がなくなる頃には避妊する必要を感じなくなるでしょうし。



鎧コンビには人生の墓場へ入って貰わないといけません。
彼らのことは嫌いじゃありませんけど、野放しにできない。だから即席で策を練ったのです。

だってあいつら、「一応は雇い主だったのを裏切ると評判落ちて困るんじゃないか」って訊いたら「活動拠点を変えてから、
地道に野盗やオークを殴り続けていれば悪い噂も消えるさ」って言い切りやがりまして。

ええ、それで正しいんですよ彼らは人間社会に属しているんですから。
でもどんな理由があるにしろオーク妻としては「これからもオークを殺し続ける」と言われて良い気分にはなれません。
ですからこいつらを家庭に縛り付けようとしているのですよ、気軽くオーク狩りになど行けなくなるぐらいにね。


二人とも普通に女好きですし、情が浅くもなさそうなのでこれだけ女がいれば一人や二人は重しになってくれるかも。
普通だと仲間割れが怖いところですが、なんかこの二人は妻や妾までも仲良く共用しそうな気がするんですよね。
いわゆる腐女子が恋愛感情と曲解するであろう、財産や色恋を越えた絆があるのです。

冒険者は家族が出来たからといって自重するとは限りませんし、成功して守りに入るかどうかも分かりません。
しかし試してみる価値はある。
それに重しにならなくて冒険者を続けるとしても人類の繁殖促進にはなるので、信仰的に見れば失敗ではない。
東方世界のオーク族のために、女たちには元気な子供をいっぱい産んで貰わないとね。


おっと、リガ市のお菓子屋さんに行方不明だった娘さんが婿さん連れて帰ってくることを報せなきゃ。
でも手紙を送ろうにもこの辺りに郵便局や飛脚制度とかはありませんよねえ、流石に。
馬借の類はあるけど彼らもリガまで直接繋がる伝手は持ってないでしょうし。


Q2、手紙を渡して悪用されない程度に信用できる、リガに向かう冒険者ってこの街にいますか?
A2、いません。なので私が菓子屋夫妻の夢枕に立ちましょう。


あっという間に解決しました。

過保護なんだか放置されてるんだか分からなくなってきましたけど、神様の感覚をモータルが理解できる訳もない。
素直に感謝の祈りと供物を捧げて、ついでに智炎神信仰を女達に広めておきますか。

女たちの身心の傷を癒すのです。具体的には奴隷の焼き印や入れ墨を、皮膚ごと切り取ってから再生治療して文字通りの綺麗
な身体に戻してあげることから始めましょう。
これぞまさしく、女と結婚と家庭の守り神の使徒が行うに相応しい治療と処置です。


そういえば、2レベル信仰呪文の「修復(リペア)」って生身にも効きましたよね。外科手術に応用できるぐらいですから。
希望者には膜を再生してあげますか。
いや、上手く相乗効果を引き出せるなら呪文を使わず重傷治療薬とアイテムマスター能力だけで修復できるかも。

この場合修復が障子紙の穴へ色和紙の切り抜きを貼ってふさぐようなもので、再生は障子紙全部の貼り替えに当たります。
もちろん男どもには秘密でこっそりと、ですよ。どうせすぐに破られちゃうでしょうけど、直すことには意味がある。




 ☆108日め4、また会えた☆



治療やお宝の回収も終わりまして、財貨と旅に使えそうな物と女達を乗せた二台の大型荷馬車を引き連れて中庭を出ます。
前庭との間を塞いでいた槍畑と茨の壁を解除すると、前庭の様子が一目で見渡せました。
視界は明瞭です。立ちこめていた煙幕は風に飛ばされ消え去り、舞っていた土埃も鎮まっている。

で、あちこちに斬殺されたり撲殺されたり轢殺されたり射殺されたりしているチンピラとゴロツキの死体が散乱する中を浮浪
児達が動き回ってます。
茨の壁が消えてそこから突然現れた私たちを見て、浮浪児達は驚き竦み上がってますね。


見れば前庭の壁にボロ布を結んで作った縄梯子のようなものが何本も掛けられてます。
アレを使って大立ち回りの現場に侵入し、火事場泥棒ならぬ羅刹場泥棒を働いていたのですねこの子たち。
逞しいというか頼もしいというか。うん、そういうのって嫌いじゃないぞ。

面倒くさいから見逃した記憶があるチンピラの一人が、廃材に包丁をくくりつけた槍で背中を刺されて死んでます。
どうやらこいつ私がいなくなった後で、死んだ(私が殺した)仲間たちの財布や貴重品を漁っていたようですね。
他の生き残りのように一目散に逃げていたら死なずに済んだのですが、死人の財布とか指輪とか耳飾りとかを集めるのに熱中
していた所を、忍び寄った浮浪児達に襲われてしまったのです。


現場の足跡や金目のものを剥ぎ取られたゴロツキの死体などから大凡の事情を察したところで、浮浪児達のリーダー格が叫び
ました。

「やべぇ にげろっ!」

撤退開始の号令から僅か10秒ほどのうちに壁際まで下がり、縄梯子を登って逃げていきます。
リーダー格が最後尾に立ち殿軍(しんがり)を務めていますし、板金鎧の部品などそれなりに価値があるけど重たい獲物を躊躇
いなく捨てていくあたり、やりますね。


「‥‥ヤクザよりあいつらの方が動き良くないかい?」
「ですね」

呆れ顔なサラさんの呟きに思わず頷いてしまいます。練度と真剣味がまるで違う。ハイエナ(掃除屋兼狩人)と獅子(恐喝者)と
いう生活手段の差でしょうか。

ふむ。投資先の選定は正解でしたね、只の偶然でしょうけど。

ええ、昨日食べ残しの屋台パンを渡した一団でしたよさっきの浮浪児どもは。
話しかける間もなく逃げられてしまいましたが、まあ良い。餌付けや引き込みの機会はまだあるでしょうし、この街の情報な
らある程度はサラさんや鎧コンビに頼れます。


表門を封鎖していた茨の壁を解除して、ひとまず鎧コンビ+女達と別れようとしたのですが‥‥


「レイ!」

聞き慣れた声に振り向くと、水兵(セーラー)服にスカートを穿き水兵帽を被った20歳前後に見えるお姉さんが駆け寄ってく
るところでした。
短めの金髪で碧眼、美女が溢れているこの大内海世界でも滅多にいない別嬪さんですが、スラムの通りにいる人々は近寄るど
ころか直視することさえ避け、進路にいる者たちは飛び退くように動いて道を譲っています。

でも意識はしている。怖いけど完全に目を離すのは嫌なのですね、更に怖くなるかもしれないから。


「お師匠様!」
「探したわよ。怪我は‥‥ないようね」

注目の的状態で、水兵服姿の女剣士二人が抱き合います。
間違いなく本物のソーニャさんだ。傍若無人に観衆へ注目を訴える、この独特な空気はお師匠様にしか出せません。
武器がいつものショートソード&スモールシールドの組み合わせでなく、背中に担いだ片手半剣(バスタードソード)なのが
気になりますけど、服に合わせたのかな。

ソーニャさんが着ている服は、ミスリルと魔法合金とアダマンタイトの金属繊維を巨大クモの糸で縫い合わせたものに護符を
縫いつけた特製水兵服。色も形も私のとお揃いです。
抱きしめた感覚からすると水兵服の下は、ドラゴン革のレオタードもどきに魔法のキルティング鎧か。
私の鎖かたびらよりも軽量で隠密性や柔軟性に優れていますが、上級者向けの組み合わせでして素人にはお勧めできません。



「あれが本物か?」
「だと良いな。偽者ならあれを上回るバケモノが他にいることになる」

鎧コンビが、抱き合っている私たちを見てひそひそ話しをしています。
サラ小母さんは、微妙に動揺している感じかな?


ソーニャさんは ぱっ と身を離して、屠殺場のような有様の前庭にいる面々に向き直りました。
自分の方から名乗ります。

「リガのソーニャ、少しは名の通った冒険者よ。レイには色々教えてるわ」
「ルッニネツのサラ、レイ神官の患者だよ」
「俺はゲスラー、こっちはワルダー、流れの傭兵だ。後の女達は護衛対象」



なんか鎧コンビの名前が偶然にしては出来すぎてるのですが‥‥黄金仮面の発音が悪いだけかも。
ギィースラーとウォルダーなら欧州風世界にいそうな名前ですし。 
というか、地球にだって海老原少尉とか中村巡査とか磯部勝夫くんとかメガチンポ保険衛生相とかいった名前があるからには、
日本語的に奇妙な名前がファンタジー世界にあるのは当然ですね、うん。



なにはともあれソーニャさんと合流できました。これで一安心、だと良いなあ。





[38600] 58
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/24 12:17



 ☆108日め5、ひとはわかりあえることもある☆



現在残してある信仰呪文は1レベルが3回分と2レベルが1回分。
潤沢とまではいきませんがソーニャさんへ「意思の疎通」を使うぐらいの余裕はある。
私たちはオーク妻でして、人類文明の敵に属しているからには町中での会話にも不自由します。
秘密にできる意思伝達手段は必須ですね。


「ソーニャさん、みんなは?」
「ハラキズがまだ見つかってないわ。あとは全員無事よ、怪我人は幾らか出たけど」

あの日、転移してみたら私とハラキズがいなくなっていたので大騒ぎになったそうです。
探知系の呪文やアイテムを使っても何故か位置がはっきりせず、大母様が受けた神託で大まかな方向と距離そして生存してい
る事だけは解ったのが翌日になってから。

夫たちや巣のみんなが順繰りにオーク島と東方世界を転移しては地を駆け、転移しては空を飛び、転移しては水に潜って懸命
に探し続けてくれているときに私は浮気して人間ち○こ咥えこんでひいひい言っていた訳で。
駄目嫁にも程がある。


「ソーニャさん、私‥‥」
「何はともあれレイが無事で良かった。「願いの指輪(ウイッシュリング)」を2つ潰した甲斐があったわね」

いくらソーニャさんでもオーク達を連れて東方世界の隠れ家まで転移してから休まず移動と情報収集を行い、オーク島と電報
の送りあいみたいな通信を続け、新たに見つけたり改めて記憶した転移基準点に着いたらオーク島へ再転移してミッシェル山
大神殿が集めてコーネリアが分析した神託情報を検討して候補地を絞り込み、また東方世界へ転移して捜索を再開するも探知
系呪文に引っかかったハラキズの所持品を探し回ってようやく見つけたと思ったら、河に流されて滝壺に沈んでいた腰ミノに
差し込まれたままの魔法の短剣だった‥‥なんてことをやっていればMPが尽きて当然です。

超高級アイテムを、素早く効果の大きいMP快復手段として使い潰しながら探してくれていたのですよお師匠様は。
私とハラキズが消えてから、全くと言って良いぐらいソーニャさんは寝てないでしょう。
だから睡眠という普通の方法で回復できなかったのです。


あ、そうか。

思い出しました。願いの指輪(ウイッシュリング)ですよ、指輪のお陰で助かったのです。
落ちたときの衝撃かなにかで今まで忘れていましたが、私は墜落する寸前に願いの指輪を使ってました。

ソーニャさんが諸々のアイテムと一緒に渡してくれた願いの指輪を、ぎりぎりで出して使ったのです。
慌てていたので肝心の願いが「私たちの命が助かりますように」という簡潔なものだったので、指輪の精霊だかAIだかは
ハラキズと私とお腹の子の三人の命 だ け を助けて、消滅したのです。

ええ、墜落から命が救われることだけしか願いませんでしたからね。
一緒のところに落ちるとか、落ちて怪我しないとか、装備品がそのままだとか、気絶しないとか、落ちたところに野生動物や
モンスターが寄ってこないとかの要望は言ってませんでしたからね。

猿の手みたいな形で曲解されなかっただけマシだと思おう、うん。



「貰った指輪や色々なもので生き延びられました。ソーニャさんのお陰です」
「そう、よかった」

歳の離れた女学生のように、実際の見た目的には中高一貫校の新入生と最上級生より年齢差があるのですが‥‥手を繋いで通
りを歩きます。「意思の疎通」は視線や肌を合わせていた方が接続効率が良いのです。
もちろん普通に声を出しても会話していますが、大事なことはテレパシー的秘密回線で伝えあってます。レェ・ウォスと3人
の義息子たち(アンドレ、ブロディ、トンガリ)がヴァダの街から遠くない所に待機しているとか、ギュー・グェスとタレミミ
とコブハナの3人がビィーヤ盆地の北方面でハラキズの捜索を続けているとか、そんな事を。

うっかり町中でオーク語を喋ってしまい、オーク・ラヴァーだとバレてしまったら大事ですからねー。
ヒルデニア語が元になっている義息子たちの名前はともかく、夫たちの名を聞けば解る者にはそれがオーク語だと解ってしま
います。それだけで即、裏切り者との確信を抱く者は多くないでしょうが疑われる可能性が出てくる。


別れてからの事情を手早く説明します。

情報収集のために人里を目指した。
地元のオークたちと、そのお嫁さん候補になりそうな薬草つみの幼女と幼女の保護者をみつけた。
ヤクザ組織が嫁候補二人を攫ったので、潰して奪還した。‥‥三行で終わりましたね。

「よくやったわ」

ソーニャさんは、弟子がほぼ独力でヤクザを壊滅させたことを喜んでいます。
面倒ごと(トラブル)は冒険者の飯の種、ヤクザの生き残りや黒幕や同盟者が報復に来るとしてもお師匠様にとっては金銭と経
験値が向こうからやって来るだけなのです。

なるほどなー。

物理的にも心情的にもオーク勢力圏が本拠地で、人間社会は狩り場というか出張先みたいなものだからソーニャさんは面倒事
を厭わない。人類勢力圏での抗争などの面倒ごとに巻き込んだ結果、壊れて困るものがないのです。
実家とは冒険者になった時点で勘当の身ですし、堅気時代の友人知己も殆どが死ぬか孫や曾孫に代替わりしている。
人間社会にも大事なものはありますけど、傷つけられて本当に困るのは時々とって育てている弟子ぐらいです。

後援者とかお得意先とか信頼できる同業者とかは、まずは自分で自分を護ることができますしそうすべきなのです。
自分で自分を守れないなら冒険者などやってられません、商家や貴族でもそれは同じです。
東方世界は自主と自立と自尊を旨とする自力救済の世界観ですからね。おお、末法の世よ。 

ソーニャさんのこの無頓着ぶりが、彼女の本質を知らない人からみれば英雄らしい剛胆さ天衣無縫さに見えたり、または冷淡
で無慈悲な身勝手の権化に見えたりする訳ですね。
弟子から「一人でヤクザ者を60人ぐらい切り捨てました」と聞いて「えらいえらい」と頭を撫でかねない勢いで誉めている
のですから、人によってはドン引きでしょうねえ。

正義を為せば世間の半分が敵に回るとは言いますが、悪を為したとて世間の1割ぐらいは味方に付くものです。
現にスラムの住人でも、仁義をわきまえない新興ヤクザのやり口にうんざりしていた層はお師匠様に感謝や賛嘆や憧れの目を
向けています。なかには拝んでいるのもいたりするし。
実際、この後しばらくはスラムの空気も少しだけマシになるでしょう。リガの剣姫とその弟子の姿が、ビィーヤ盆地周辺から
消えてしばらく経つまでは。



私とお師匠様とサラ小母さんの三人で、裏門から市外へ出て廃墟に入ります。
マリアを無事保護した事と二人の家が血の海になっていることは既に話していますが、文句の一つも言わずに危険地帯へ付い
てくるあたり、ソーニャさんの見立てが正しいのかな?

いくら元冒険者で腕に憶えがあるとはいえ、寝間着の上にケープを羽織っただけで足元は上靴のまま得物はヤクザから巻き上
げた安物のロングソード一本のみ、という姿でモンスターが出没する廃墟へ連れ込まれてるにしては落ち着きすぎている。
あ、もちろん返り血を浴びた寝間着は着替えてますよ、今着ているのは小母さんの自前です。ケープと上靴は戦利品。


この近辺のオーク族、ダイコクたちとの逢瀬を過ごした場所の手前で無限袋から石像化したマリアを出して、石化解除の霊薬
を振りかけて元に戻す。
復活したマリアへ手短にお師匠様の紹介と状況説明をして、身支度の確認を済ませてからオーク達の狩り場へ向かいます。


「大丈夫だよマリア、心配ないから」

言われるままに薬を飲んだら、いきなり場所が変わっていて時間が飛んでいる上に知らない人がいて、どう考えても拙い場所
に保護者と一緒に向かっている‥‥という状況に戸惑っていた幼女でしたがサラさんに声を掛けられて、手を握られるといく
らか安心したようです。

手を握って瓦礫の隙間を歩く二人を、お師匠様と二人で護衛して進みます。
マリアには身支度の一つとして、ハラキズが落とした魔法の短剣を持たせてあります。
肩から紐で鞘ごと吊り下げてますが、戦闘力に全く期待していない彼女に武装させた理由は儀式のためです。


「グヒッ」
「グヒーッ」

狩り場の隅で待っていた二人のオーク族、色黒で比較的大柄なダイコクと明らかに小柄で素早そうなイダテンは、見知らぬ人
間雌二人にやや警戒していましたが私に続いてマリアが、そしてサラさんとソーニャさんも次々と武器を降ろしスカートと寝
間着の裾をまくり上げると落ち着きました。

下着の紐を解いて、エロスの期待に肉の内側から火照ってきた下腹部を見せつける四人の女達。
そしてオーク達も武器を置き、腰布をめくって股間をさらけ出します。

二人のち○こが、雌の匂いに反応してそそり立っていく。
片思いの男の前に立った小娘のように頬を染めているサラさんの腿を、潤んだ淫唇から漏れ出た愛液が伝い降りてます。
オーク達の無遠慮な視線を浴びた雌の穴が、久しぶりの雄を味わいたくてウズウズしている。


「ソーニャさんのいうとおりでしたね」
「前に言ったでしょ、レイ。オークの手先のおフェラ豚女は珍しくないの」

そういって、一目見たときからサラさんがオーク・ラヴァーだと解っていたお師匠様は優しく微笑みました。




オーク族と一口に言っても実態は様々でして、人里に近い地域の迷宮などで狩猟採集生活を営み偶に縄張りが接触した人間族
と互いに攻めたり攻められたりしているダイコクたちみたいな連中もいれば、ソーニャさんの弟子達のように人間の勢力圏か
ら少し離れた地域で部族社会を運営していて時折人里や交易路を襲って奴隷や財宝を奪っていく連中もいます。
人里から完全に離れた場所で狩猟採集や農耕を行い、偶に来る交易者から女の子や男の娘を買い入れて大事にしているオーク
島住人のような連中もいます。

ビィーヤ盆地から見て更に東にあった山岳地帯の小村、ルッニネツではオークは村人の家族として扱われていました。
オークたちは昼は眠って夜中に畑を耕し、樹を伐採し、水車を回して水を汲み上げ、村とその周辺を見張り、獣や余所者など
の外敵が攻めてきたら戦い、女達を寝屋で可愛がって孕ませるという働きをしていました。
つまり、普通の村でいう男衆の役割を果たしていたのです。

ルッニネツにも少人数ですが人間族の男がいまして、それらの男達は幼少期はオーク達のお稚児さんとして可愛がられ、成長
してからは男娼ならぬ男妾として両党使いのオーク達と仲睦まじく暮らしていたのです。
あれだ、エロゲで時々いる「ハーレム入りしてる男の娘」枠ですね。
外からの来訪者を誤魔化す偽装夫として、そして女達に人間の子を産ませるための種雄としても活躍していましたが。

前世でいえば両性愛者の男女複数ずつで家庭を作り、互いを共同の夫婦として暮らしているようなものかもしれません。
人間とオークの間にそんな関係が存在できるのかと言えば、ありえる場合もあります。
たとえば一定以上の実力を持つ人間の母が産んだオークとなら。


ルッニネツ村は、戦に敗れ離散したオーク族の巣から逃げ延びた人間妻ルッニが開きました。
文武両道に優れかつて人間社会で暮らしていた頃は、10年に一人の天才とか英雄候補とか謳われ讃えられていた彼女ですが
家庭環境故のいざこざから逃れるため、実戦で更に腕を磨くと理由を付けて冒険者になりました。
しかし候補の字が取れてからしばらく経った頃、オークの毒牙に掛かってしまったのです。

普通のオーク族長だと思って力圧しで挑んだ相手が、人間雌奴隷オーク妻だけど元は勇者な母親に鍛え上げられたオーク版勇
者であり、しかも混沌神の寵愛を受けて唾液の媚薬効果が通常の数十倍になっているという反則生物でして。
なので油断していたところで唇を奪われ、大人の口付けだけで抵抗できなくなるまでとろかされてしまいました。

色もいらぬ恋もいらぬ、私は只の女とは違うんだ‥‥と突っ張っていたのにファーストキスで逝かされまくり。
1時間足らずの間に、唇だけの接触で百回近く逝かされたらそりゃ壊れるわな。
ギュー・グェスと出会ったばかりの時に同じ目にあっていたら、私は温泉洞窟に着く前に妊娠していたでしょう。
それはそれで楽しそうですけど、その場合2ヶ月間に及ぶラブコメ漫画みたいな生活はなかったと思うのでやはりあの展開で
良かったのです。うん。


かくしてオーク妻となったルッニは、従軍娼婦として遠征するオーク達と同行して性欲処理に従事したり、人間社会に密偵と
して潜り込み襲撃先の選定や偵察をしたり、雌奴隷兵として矢面に立ち人間族を含む敵と戦ったり、捕まえた新入りオーク妻
の面倒を見たりと充実した生活を送りつつ2人の息子を産み、育てました。
しかしお腹の中の3人目が大きくなって略奪行に同行しづらくなった頃に、ルッニの巣と夫のオーク版勇者は人間族の大攻勢
を受けて敗れたのです。

一日にして夫と二人の息子を、愛する家族たちを失ったルッニは唯一人で逃げ延び、たどり着いた洞窟で暮らし始めました。
既に英雄級の実力を持つ聖騎士(パラディン)だった彼女は、一人きりで暮らすことができました。
ある程度の信仰魔法が使えると生活が楽になりますし、オーク族は人間よりずっと育て易いですから一人でオークの子を産み
父親にも負けない戦士に育て上げることもできたのです。

類い希な強さを持つこの母子の周りには自然とオークや女達が集まってきますが、ルッニはただのオークの巣では人間族の軍
隊や勇者に狙われてしまうと考えました。
故に彼女はオークの虜になっていながらも、オーク妻達とオークの虜になった少数の男達で村の運営を切り回す体制を作り上
げたのです。
オスマン朝トルコとか、奴隷階級が実権を握っている社会は地球にもありましたからねえ。


外から見れば男が少なめの山里で、内側から見ればオークの隠れ里。
ルッニの指導のもと、村人達は産まれたときからあるいは幼少時に引き取られたときからオーク・ラヴァーとして育てられ、
奴隷としてですが、密かに静かにそして辺境の村としては有り得ないほどに豊かで安楽に暮らしていました。
その繁栄は東バルキアの桃源郷として、異種婚制度の成功例として女神様の記憶または記録に残った程です。
ええ、先程から妙に情報が詳しいのは女神様補正です。


が、しかし、開祖ルッニの死後はオーク達の統制が乱れ、掟は次第次第に骨抜きになり教訓は忘れ去られ、村人達はただの奴
隷妻となっていきました。
そしてタガが外れた生活を続けるうちに、何処からどう見てもオーク族に占領された村にしか見えなくなってしまったルッニ
ネツは通りがかった勇者一行と相打ちになる形で滅んだのです。

正確に言えばルッニネツを滅ぼしたのと引き替えに半壊した勇者一行の生き残りは、帰還中にソーニャさんの知り合いの手で
口封じされてしまったのですがそれはごく限られた者しか知りません。
今ですら知っているのは、始末した異種姦推進派な冒険者本人とソーニャさんと私だけですから。地上にはそれだけです。



で、サラさんは「ごく僅かな商人が名前ぐらいは知っている廃村」であるルッニネツ出身の冒険者として東バルキア地域を放
浪していた訳ですが‥‥ 育ちの関係上、彼女はオーク族が悪者とは思いづらかったのです。

確かにオークには質の悪いのもいますけど、それは人間でも同じ事でして。
そこらに溢れている人間族のヤクザや山賊や領主や坊主どもに比べて、オークたちが殊更に悪だとはどうしても思えないサラ
さんはオークたちに半ば協力する形で冒険者稼業を続けていました。

あるときはオーク族の欲しがるものを提供し財貨を受け取る行商人として、あるときはオーク達の欲望のはけ口となって金銭
や物資を得る流しの娼婦として、あるときは街の様子や討伐隊の動向を知らせる密偵として、あるときは考えなしに動く巣を
人間族の力を使って粛正する始末屋として。

もちろんそれらの行動が全てではなく、普通の冒険者として活動することの方が多かったのですが。



ルッニネツ村の生き残り達の殆どがそうしたようにオークの巣に嫁入りしなかったのは、サラさんは何故かオークの子を孕め
なかったからです。
オークたちはいわゆる産まず女であるサラさんを追い出したりなどせず、むしろ引き止めていたのですが他の女達がどんどん
子を産んで育てて幸せそのものに暮らす中で、自分はそうできない寂しさと惨めさにサラさんは耐えられませんでした。

まさに身につまされる思いというやつで、話を聞いていたソーニャさんが「私もそうだった」とサラさんの手を取って涙ぐん
でいます。
普通の幸せを普通に手にできない悲しさ悔しさは、普通じゃない幸せを浴びるように受けても埋められないのだと。


やがて慎ましやかに暮らすなら一生困らないだけの技術と蓄えを得たサラさんは、現役引退してショーシャの森に近い村で暮
らしていたのですが‥‥ 時に身体の疼きを抑えられなくなって街に出かけることがありました。
弱めのモンスター討伐や賞金首狩りなどで小金を稼いで、その金銭でオークを買っていたのです。

といってもこの近辺には念入りに調教したオークの男娼を抱えた、会員制の秘密娼館などありませんのでもっぱら近隣の迷宮
で浅いところに出没するオークたちと交渉して抱かれていたそうですが。
ダイコクたち地元オークが人間雌に甘いというか、無条件で敵扱いしていないのはサラさんのような「オークに股を開く女」
が珍しくないからでもあるのでしょう。

ええ、サラさんのようにオークと交渉を持つ人間族は、割といます。
捕らえられたり睨みあっていたり取り引きしていたりしているうちに、オークフェロモンやオークオーラにやられてしまった
りとかしちゃうのです。
捕虜にしたオークを尋問したり道案内させたりしているうちに堪らなくなってしまった女だけの冒険者たちが、捕虜に悪戯し
たり逆強姦したりしてオークち○この虜になるなんてことも稀によくあります。

年季の入った冒険者のなかに「オークは殺せ、すぐ殺せ」と言い張る者がいるのは当然なのですよ。
恋人な冒険仲間が、縛り上げている捕虜オークに跨って「膣出ししてくれないと殺しちゃうぞ♪」とオークち○こを股に填め
込んで媚びっ媚びの喘ぎ声あげながら腰を振っているところを見たら、そりゃそうなるわな。

元々淫乱の気があって、最近は欲求不満で、オークフェロモンに弱い体質の女が何時間も密閉空間で捕虜オークと二人っきり
でいたら気分が出てしまっても仕方ありません。ビールひと舐めで酔っぱらう奴を醸造倉に入れといて酔っぱらうなと言うよ
うなものです。

尋問するという口実で、一度ちょっかい出してしまったらもう止められない。
何か有益な情報を一つ吐くごとに 胸 元 を 見 せ て や る とか 踏 ま な い で や る とかのご褒美を
与えているうちにどんどん填り込んでいきます。
仲がよい冒険者一行なら見張り役が行方不明になる(捕虜と駆け落ちする)ぐらいで済みますが、不満や不和が貯まっている一
行だとそれが切っ掛けで全滅しかねません。

東方世界にも夾竹桃だのトリカブトだの、猛毒植物が野山に生えてます。そしてそれら自然の毒物はオーク族の基礎知識。 
捕虜オークとの幸せいっぱいえっちを切っ掛けに、身近な人間関係を清算する気になってしまった冒険者が仲間に一服盛って
自分以外全滅したことにして一人で帰還する、なんてことも有り得るのですよ。
余程のことがない限り、冒険中の事故と故意は判別できませんからねえ。


表沙汰にならないだけで、冒険者の中には異種姦や異種恋愛や異種婚にはまり込んでしまっている人は結構います。
オークち○こに填り込んでしまったオーク・ラヴァーに限っても、その事情は様々ですがね。

密偵や工作員としてあえて人間領域に残る者もいれば、ただ単に引き離されてしまったり死に別れてしまったりした者もいる。
たとえば出会ったその日のうちに恋に堕ちたけど相手のオークが死んでしまった‥‥とか、オークの巣で仲睦まじく暮らして
いたけど斥候や買い出しなどで街にでていたら巣が壊滅してしまった‥‥とかいった場合、あるいはオークに犯されて完全に
屈伏させられたけど、嫁にする価値はないと置き去りにされてしまう事もあります。

オークだってやり捨て上等のろくでなしはいます。誰もが変態紳士ではありません。


そんなわけで女達の中には、人間の領域で暮らしながらオークち○こを咥えこむ生活を送っている者もいます。
いわば隠れオーク・ラヴァーですね。

サラさんのように迷宮などの人目に付かないところで野性のオークを誘惑していた女もいれば、ソーニャさんのように辺境地
域などの人が立ち寄れないところにオークを囲って(放し飼いして)いた女もいます。
巣では首輪つけて飼われていたお師匠様ですが、実力だけで言えば飼われているのはオークたちの方でして。
他にも屋敷の地下室にこっそりとオークを囲って(監禁して)いる女とか、研究施設の実験動物として堂々と飼育して繁殖させ
ている女とかもいるそうですが。
イワノフとその妻たちはこっそり囲っていた(囲われていた)部類ですね。


「言っちゃなんだけど、アンタら一昨日からオーク臭くってバレバレだったよ」

数ヶ月や数日しかオークと過ごしていない後輩達と違い、年季の入ったオーク・ラヴァーであるサラさんにはマリアの様子は
隠しているうちに入りませんでした。
オークと合体寸前までいって、とろっとろにされてしまっているのは明白なのです。

マリアの様子からみる限り相手のオークは考えなしや乱暴者ではなさそうですが、幼女がオークの巣に嫁入りする危険性や私
の意図がもう一つ掴めなかったことから、サラさんは早ければ今日の未明にもマリアを連れて逃げ出すつもりでした。
元々スラムに長居する気はなく、身体が動くのならとっくの昔に逃げている筈でしたからね。
幸い合体がまだなので、引き離してしまえばマリアの初恋もそのうち鎮まると見ていたのです。

しかし想定以上に早く埋蔵金狂いが動き、昨夜のうちに二人とも連れ去られてしまった。


まあ、組織の財政があそこまで‥‥人間に喩えたら酸素吸入器が外せない級の酷さに危機状態だとは普通考えませんよねえ。
外部からだと内情は解りにくいですし。





 ☆108日め6、どうしてこうなった☆



で、サラさんですが今は子供が産める身体になっています。女神様の太鼓判付きです。
何故かといえば呪いが解けたからでして。
ええ、あの妙にしつこかったやつですよ。まさか十数年に渡って続いていた代物だったとは。

どうもルッニネツ村が壊滅したときに掛けられた呪いだったようで、正確には「子供が産めなくなる」呪いではなく、
「好きであればあるほどその相手では孕めなくなる」呪いだったのです。
反対に大嫌いな、殺しても飽き足りないほど憎んでいる男に種付けされたら一発で孕んでしまう訳でして、呪った奴は当時小
娘だったサラさんを取り逃がさなかったら、犯して孕ませてから場末娼館にでも売り飛ばすつもりだったのでしょう。

幸運にして幸福なことに、呪われてからのサラさんは呪われるまでと同じく、冒険者になる前も冒険者生活中も引退してから
も気に入った相手とだけ、抱きたい男や抱かれたい雄だけと躰を重ねていたのです。でなければとうの昔に孕んでいる。


その呪いが解けたことを、例によってエスティア様の神託により強制的に理解させられてしまったサラさんは‥‥

「アタシも年貢の納めどきだねえ~ こんな年増を貰ってくれるってんなら、喜んで嫁に行くよ♪」

と、歌いだしそうなぐらいに上機嫌です。

まあ、東方世界の冒険者にしてみればソーニャさんはメジャー三冠王どころじゃない成功者かつ英雄な訳で。
そんな生ける伝説が実はお仲間(オーク・ラヴァー)だった上に今日から後ろ盾になってくれて、その弟子が前から持ってきて
いた嫁入り話はリガの剣姫だけでなく女神様の保証付き良縁ときたら、浮かれるなという方が無理か。


狩り場に巻物を使って結界を張りまして、大きな丸石に腰掛けたサラさんは寝間着の胸元を大きく開けて乳房をさらけ出して
います。
そしてイダテンはその胸に顔を埋めたり、揉んだり、吸い付いたりして感触と反応を楽しんでいる。
おっぱいは良い。出るおっぱいは神聖な存在ですが出ないおっぱいは至尊の存在です。
男にとってただただ有り難いものなのです。

母親に溺愛されて育ったイダテンはマザコンの気がありまして、おっぱいが大好きなのです。
ダイコクもマザコンですが優れた癒し手であるというダイコクの母は今も健在でして、幼い時期しかも実時間で僅か数ヶ月前
に死に別れているイダテンに比べれば母性(おっぱい)への執着は薄い。


「今のうちに楽しんでおくんだよ、アンタの弟や妹ができたら空いてるときにしか弄らせてあげられないんだから」
「ウン。ママ、ウム、オレノコ」
「良いともさ。アタシはいつだって構わないからね」

オークとしては小柄なイダテンよりも、人間雌としては大柄なサラ小母さん方が背丈が高かったりします。
なので疑似母子プレイをしてると、中学生ぐらいのマザコン息子を甘やかしている駄目母に見えなくもない。

これまでは幼いと言った方が良いぐらいの若者オークたちに、「ママ」とか「カアサン」とか呼ばせて性欲と慕情のはけ口に
なる形で抱かれることが多かった彼女ですが、これからは本当に母になれる訳でして。
なんかもう「息子のち○こを拒む母親なんていないさ、アタシの股は触ってくれさえすればいつでも開くからね」とかいった
脳味噌とろけてるとしか思えない台詞をイダテンの耳元で、甘っ甘っな口調で囁いてます。


ううむ、物心つくあたりから約20年オーク・ラヴァーやってるとこうなるのか。
行き着くところまで逝っちゃってますね。


その横でマリアを膝の上に座らせていちゃいちゃしているダイコクは‥‥小学生と淫行している力士にしか見えません。
体格差がありすぎて前世なら完全に犯罪だ。
最大の懸念だった保護者の問題が片づいてしまったので、安心したマリアは全力で婚約者な交際相手といちゃついてます。

「メイア、オレノヨメ。コドモ、タクサン、ウム」
「はい。すえながくお願いします」

こっちもかっ飛ばしてるなあ。いっとくけど貴方ら、式挙げるまで合体禁止ですからね。

「「グヒッ♪」」


女たちの返事がないけど気にしないことにします。野郎どもさえ抑えておけば良し、実害はない筈です。



色ボケしてる女(オーク・ラヴァー)達とエロモンスターどもは幸せそのものでなによりですが、こっちは問題が山積みですよ。


まず、ハラキズの行方は相変わらず分かりません。
女神様情報では「命に別状はない」そうですが、神様の尺度は緩すぎですので安心できない。
 生 き て る だ け な状況だったりしたら嫌すぎます。
とりあえず東バルキアの何処かにいるらしいのですが、早く見つけてあげないと。


次に、オーク島でも次々と異変が起きているようです。
私とハラキズの転移失敗も、島の異変と関係しているのかも。


ダイコクたちにしても、大人数なオークの群と接触したけどその群の長が女神像を気に入ってしまい奪われてしまうという
問題が起きています。
当人達は、強い族長が女神像を管理してくれるならまあ良いかぐらいにしか感じてないみたいですが。

ただ、奪い取った側は女神像を独り占めしようというのではなく、かつてオーク族が神々を祀っていた場所に安置して神殿を
再興しようという動きなので私としても緊急性が低い問題だと見ています。
暇ができたら話をつけに行きますけどね、絶対に。


ええ、いまはもっと優先すべき問題がありまして。
街の近くまで来ているウォスたちの一行が、なにやら騒動に巻き込まれたようなのです。


ぶわぁぁぁあん という感じで輪っか状の次元扉(ディメンジョンドアー)が狩り場へ現れました。
扉の向こうからソーニャさんが顔を出して、こちらを覗きます。

「レイ、オーク用の重石弓は持ってるかしら。あと矢も」
「この前試作したのが一つあります。矢は鋼の鏃のだけですが30本」
「貸して。準備でき次第、戦闘態勢でこっちに来てね」
「はい」


言われるままに、オーク向けに作った大型機械式クロスボウとその矢筒を渡します。
魔法合金を使った複合機械式石弓で狙撃スコープと滑車2個付きですが、ハンドルを回すのではなく足踏み式または二人掛か
りで弦を引く構造で、ドスみたいに剛力で腕が長い体型なら一人でも腕の力だけで引けます。

受け取って次元扉に引っ込んだお師匠様から新鮮な血の匂いがしました。向こうでは荒事系の騒動が起きているのか。


「はいはい急いで急いで慌てないでね」

色ボケしてるバカップルどもに身支度するよう指示して、私は装備品と武装を再点検します。
良し。これなら今朝方の強化手段山盛り状態には及びませんが、並のゴロツキ4~5人ぐらいまで対処できる。
6人以上が至近距離に来たら、全員仕留める前にマリア達へ攻撃されてしまうかもしれません。
サラさんとオーク達はある程度戦えますが、ゴロツキが相手でも必ず勝てるほどには強くない。一人は病み上がりだし。

雑魚い下っ端であっても緊急時には大真面目になれるのがオーク族の長所でして、ダイコクとイダテンは手早く自分の身支度
を済ませたのちに交代で女達の着衣を正してやり、手荷物を持たせました。
片方が女達の世話をしている間、もう片方は見張りと待機をしています。

ふむ、系統だった訓練は受けてないがそれなりに経験積んでいますね。
大神殿で暮らしている下っ端オークたちの平均よりも、ダイコク達の方が潜った修羅場の数だけなら上のようです。
当然か。この地にはオークの天敵が山のように居るのだから。



準備ができたので5人で次元扉に入り移動します。

出た場所は籔の中でした。細いけど深めの河と寂れた街道が交差する平地に、籔というか茂みのような、森と言うには小さす
ぎる緑地が点在してまして次元扉はその籔の一つの中に立てられているのです。

で、お師匠様は無限袋の中から投げ槍(スピア)を何本も出しては籔の地面に突き立てている。
見たところ何の変哲もない歩兵用の短い槍ですね。穂先は一応鋼鉄ですけど安物だ。


薄暗い籔の木々と蔓草の向こうに街道と、その真ん中に立つオークの姿が見える。
南の島風の腰ミノ、手強かった獲物の牙や爪を集めた首飾り、腰に吊した愛用の棍棒。
この距離でも一目で分かる、むっちりとした肉付きは間違いなくレェ・ウォスです。

たった4日ほど会わなかっただけなのに、涙がでるぐらい懐かしく愛おしい。
思わず駆け寄りそうになりましたが、衝動を押さえ込みます。いまはそんなことしたいけどしてる場合じゃない。

しかし、ウォスは妙な武装をしてますね。盾というよりは雨戸を外してきて取っ手をつけただけのような大板を持ってます。
右手に掴んでいるのは、太くて丈夫そうな鉄鎖かな? 鎖は戸板じみたものの角に繋がってますね。



地形と街の位置からみて、ここは来たときに通った道の隣か。あっちの森がでかい狼と別れた場所です。

ウォスが立っているあたりには夥しい血の跡があり、道や草地の所々に人体の一部らしき肉片が転がっている。
やや離れたところには人や馬の死骸も幾つか倒れています。
それだけでも戦いがあったと分かりますがウォスの後方、約50メートルの地点に10人ほどの女子供が固まってまして、
女子供を守るように3人の下っ端オークが並び、鋼鉄製の大盾と武器を手にしています。

やたらでかいアンドレ、でかくて毛深いプロディ、二人に比べると小柄でやや耳が尖ってるのがトンガリ。
みんな元気そうでなにより。後に女子供がいるせいか士気も高そうです。
ええ、泣きそうなのをこらえてる子供とか抱き合って恐怖に耐えている母子とかいますけど、その恐怖の対象はオーク達では
ありません。オーク達へは、頼っているとまではいかずとも縋り付いているぐらいの信頼感が漂う状態ですね。

女子供の更に後には、草地に十数人の老若男女が横たわって並べられていました。もちろん全員死んでいる。
死因は刺殺と斬殺そして撲殺。
ここからではよく見えませんが、オークに殺されたにしては傷が綺麗すぎる気がします。
あれはもっと非力な者に攻撃されて付いた傷だ。



遠くから地響きのような音が聞こえてきました。荷重状態の大型馬の群が立てる馬蹄の響きが近づいてきている。
甲冑武者の総重量は100㎏前後、馬具や予備の武器や馬用の鎧も合わせればその倍以上。
自重700㎏を越える軍馬にとってさえ軽くはありません。
街道を走ってくるのは、巨大な軍馬に跨り煌びやかな板金鎧を身に纏った重装備の甲冑武者たち。
どこかの騎士団でしょうか、後の方にいる騎馬武者が絹地に樹木を描いた旗を掲げています。

「ありゃポルトニクス家の騎士だよ」

地元民のサラさんには何処の誰か分かりました。

言ったときの表情や名前を聞いたマリアの反応からして評判の宜しくない領主のようですね。
其処のお抱え騎士ですか、ぴかぴかに磨かれた鎧着ていますから臨時傭いじゃないでしょう。
高潔とか誠実とか寛容なんて言葉とは無縁の連中とみた。まあ中世世界の騎士なんてそんなものですよね。


どんどんと騎馬隊が迫ってきてます。

騎馬武者の突撃は怖ろしいものです。
元々は臆病で繊細な奇蹄類と非力で軟弱な裸猿でしかありませんでしたが、数万年の品種改良と装備開発と戦術研究により戦
闘生物として作り変えられた二種の哺乳類は、組み合わされ訓練され実戦をくぐり抜けた結果として野生動物やモンスターに
匹敵する強さを持っています。

良く訓練された騎馬武者は大型猛獣並に強い。
ですが、ですがしかし、彼ら騎馬武者たちが立ち向かおうとしているレェ・ウォスはオーク版の勇者。
野性の猛獣を狩って糧とし、魔物を見つけては恰好の鍛錬相手として挑みかかる日々を送る真の強者なのです。

勇者でない甲冑武者など束になってかかって来ようとも、徒歩勇者の敵ではない。
王座防衛戦のファイトマネーだけで食っていけるヘビー級世界王者に、プロ免許がどうにかこうにか取れたばかりの新人ボク
サーが喧嘩を売っているようなものですよ。

ですから私もソーニャさんもウォスの心配はしてません。しているのはウォスと直接戦わない連中に逃げられる心配です。


「私たちは後の2騎を狙うわよ、貴男たちは布服の人間を優先しなさい。レイは鎖かたびらのを」
「はい」「「グヒッ」」

街道の向こうから突撃してきた騎馬は全部で13、うち11はウォスに向かいました。残る2騎は速度を緩めます。
別れる前に何かの呪文を唱えていましたし、この二人は呪文使いであり支援要員でしょう。
つまり集団戦では真っ先に潰さなくてはいけない目標です。

両手に一本ずつ持ったソーニャさんと、普通に一本ずつ持った私とダイコクとイダテンが籔の中から槍を投げつけました。
槍が空中を飛んでいるうちに、地面から次に投げるべき槍を引き抜きます。

私の投げた槍は僧兵らしき騎馬武者に当たりました。鎖かたびらを貫いて太腿そして鞍越しに馬体まで刺さってます。
ダイコクのは大外れ、投げた途端に籔の木に当たって軌道がそれてしまい目標までの半分も飛びませんでした。
イダテンのは見事土手っ腹へ命中し、魔術師らしき標的は展開していた「盾(シールド)」ごと串刺しになっています。

ソーニャさんの投げた槍は二本とも当たりました。一本は魔術師の頭に当たって顎から上が消し飛び、一本は僧兵の右脇の下
に当たって穂先が左肺あたりにまで達しています。
心臓だけは外れていたので僧兵はその後数十秒間生きていましたが、致命傷状態なのに馬体に縫い止められているので落馬も
できず暴れ回る馬の上で揺さぶられ続けている。
拷問ですねあれは。並の人間なら即死しているけど、半端にレベルが上がっているので死ぬに死にきれない。回復呪文を唱え
ようとしましたが失敗してます。口から出る吐息より吐血の方が多い。


お師匠様だけで良かった気がするけどそれは今更か。上手く仕留めたんだから良しとしましょう。



ウォスの方はといえば、飛んでいます。
突撃してくる騎馬武者の群に向かって疾走していた彼は、激突の寸前に飛び上がり宙を舞って騎馬武者が突き出す馬上槍を避
けその柄を踏んで前へ前へ跳躍しています。

重装騎兵の頭や肩を踏み台にした彼が飛び抜けると同時に、その両手に握られていた鎖が繋がっていた戸板は馬上槍や大斧な
どの武器で砕かれました。
そして砕かれた戸板の中に仕込まれていた、死神が担いでいるような大鎌の刃が現れます。

温泉洞窟の武器庫にあった、性能的にもう一つ信用できなかったので下っ端たちに貸し出すのを止めたあの大鎌の刃です。
そういやソーニャさんに鑑定して貰ったときに、改造して良いかって訊かれたから「どうぞ」って言ったような記憶が。


死神の大鎌の刃の、根元と鎌先の近くに鎖を付けてそれぞれの先端をウォスが持っている状態です。
つまり縄部分がピアノ線でできているというか縄の中心あたりに鎌の刃を仕込んである縄跳びの縄を、騎馬武者達の首辺りに
引っかけるような形ですれ違った訳で。

コボルド魔剣ほどじゃありませんが切れ味重視で必殺(クリティカル)率上昇効果付きの魔法武器が避ける余地のない状態で、
しかもカウンター気味に入りましたので‥‥

いやあ、兜首(だけとは限らない)が次々に飛ぶと壮観ですね。馬の首も半数以上が飛んでます。
思わず「たぁ~がやぁ~!」と歓声をあげそうになりましたよ。

首や胴が切断されずに済んだ運の強い連中も2~3名いますが、手足を失った状態で全力疾走中の馬から落ちたり馬もろとも
転倒したりで無事ではなく、動きが鈍っています。あれではウォスの鉄拳や棍棒の前にはひとたまりもないでしょう。




ただ一騎、咄嗟に首を引っ込めたのか乗り手も馬も首が飛ばずに済んだ騎馬武者はそのまま突っ走ります。
彼は自分の状況が分かっていたのかどうか。
なんせ次の瞬間にウォスの投げつけた馬上槍の穂先で延髄貫かれて落馬しましたので。

投擲名人のウォスにとっては鎌改造罠に切り飛ばされた穂先を空中で拾って投げつけることなど容易いもの。
左手に持っていた鎖は口でくわえて固定してます。
本人の戦士系特技とソーニャさんの支援呪文の相乗効果で、彼の動きは通常時の2倍半ぐらい素早くなっている。


乗り手は落ちたけど首が飛ばずに済んだ馬たちのうち、一頭だけが突進を止めずアンドレたちの防衛線に突っ込みましたが、
トンガリが撃った矢を受けて怯んだところをブロディのサスマタで食い止められ、アンドレの両手持ち大棍棒で頭蓋骨を打ち
砕かれて倒れます。

狼どころか豹や黒熊でも蹴り殺してしまう狂暴な軍馬ですが、三人掛かりでいけば怖くない。
うん、数日前より格段に動きが良くなってますね。これが三日遇わざればってやつですか。


ん? 勝ったのに女子供達が悲鳴を上げていますが‥‥

あれ? あの最後の甲冑武者、立ち上がってる!? 
馬鹿な、兜の後頭部から刺さった穂先が面当て(バイザー)の覗き穴から飛び出してるのに。
アレで生きてりゃ人間じゃない、甲冑の中身がトロルだったとしても少しは痛がる筈です。


敵が立ち上がったので、アンドレたちは咄嗟にそしてバラバラに攻撃しました。
下っ端オーク達が放った矢が板金鎧の胸板を貫き、投石が兜を凹ませ、鎖分銅が足に絡みつく。
しかしそれでも甲冑武者は、いや甲冑武者だった何かは立っている。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ っ」

立っていると言うより生えている? 奇怪な、哺乳類のものとはとても思えない太すぎる叫び声を立てて、どんどん伸びてい
きます。両の足は地面に突き刺さり、振り上げられた腕が細く長くなりながら斜め上に伸びていく。
背が僅かに、そして首が凄まじい勢いで妖怪ろくろ首のように上へ上へ伸びていく。

似ている。この感触、石切場遺跡の奥で棘ドラゴンが物体エッ○スもどきになり果てたときにそっくりです。


変化していく何かの衣服と鎧兜が内側から弾け飛びました。肌色の樹木のような裸身がどんどんと伸びていく。
引き延ばされた皮膚の下で、巨大なウジ虫が這い回っているかのように中の物が動いている。
腕と首はますます勢いを増して伸び続け、既にそれぞれの長さが20、いや30メートルを越えています。


元甲冑武者に近寄ろうとしたウォスが飛び跳ねました。地面から触手のように樹の根‥‥いや触手と化したヒトの足指が飛び
出して幹部オークを襲います。
逃げるウォスに負けない速度で指触手が伸び続け、絡め取ろうとしている。

あ、暴れ馬とその馬体に縫い止められている死にかけ僧兵騎士が指触手に捕まってしまいました。
素手に力一杯握りしめられた完熟トマトみたいに潰されてます。

触手の先っちょが人間の指先そのもので、平爪や指紋が残ったままなのが不気味過ぎて鳥肌が立ちそうです。
サラさんはマリアを抱きしめてバケモノを見せないようにしてますが、それが正しいでしょう。
うっかり見ちゃったダイコクは泡噴いて立ったまま失神してますし、イダテンは尿を漏らしながら震えている。
私だって二度目じゃなけりゃ腰を抜かしていたかもしれません。


檻のようにウォスを囲もうとした触手に小さな光弾が飛んでいき、触れて爆炎が巻き起こりました。
ソーニャさんが打ち込んだ「火球(ファイアボール)」の爆風を利用して、ウォスは触手の攻撃範囲から逃げ切ります。


「魔法が効かないわね」

ソーニャさんは次々と「火球(ファイアボール)」だけでなく「吹雪(ブリザード)」や「魔法の矢(マジック・ミサイル)」や
「分解(ディスインティグレート)」などの攻撃呪文をバケモノに打ち込みましたが効いている様子がありません。

幸いなのか分かりませんが、バケモノは反撃してきません。向こうの攻撃らしい行動は足の指が変化したらしい触手が近寄る
ものへ絡みつこうとするものだけです。
変異が苦しすぎて攻撃どころじゃないっぽいですね、あいつは。触手の動きは反射運動なのかな。


「レイ、「招雷(コール・ライトニング)」の巻物を使ってみて。急がなくて良いわ」
「はい!」

指示に従い、無限袋から出した信仰呪文の巻物を読み上げます。これもソーニャさんからの貰い物です。
読み間違いや言い間違いがないようゆっくりと、通常時の倍の時間をかけて読み上げ確実に発動させる。
アイテムマスターとしての能力は、今の私では1種類しか使えません。ここは威力最大限でいきましょう。


「あれは下界に有ってはならぬモノです、私も力を貸しましょう」

エスティア様の声が聞こえます。ああ、やはりあの樹木めいたものは三種混合キメラと同じ陣営か。
ならば、この呪文は効くかもしれません。
電撃系はまだ試してませんし、ソーサリー系は効かなくても信仰系の呪文なら効くかもしれない。
おまけに神様直々の増幅付きですからね。



詠唱が終わり、雲一つない快晴の空に雷鳴が轟きます。
空中に発生した電子の偏りが地中の電子と引き合い一気に流れ落ちたのです。

威力最大化、威力上限突破、達成値上昇(極大)、範囲拡大(中)、対邪神特効(大)‥‥ゲーム的に言えばそんな効果が付与され
た電光は、裁きの雷として仮称樹木ニンゲンを焼き尽くしました。
大樹のようだった巨体が空中で燃え尽き、灰と炭の欠片になって砕け散り風に飛ばされていきます。



あー 私もオーク達の、自分で栓ができる便利な耳が欲しかった。そしたら聴かずに済んだのに。
あのバケモノ、燃え尽きる寸前に言いましたよね。ヒトの形が残った口で確かに言った。
聞こえちゃいましたよ 「 兄 者 助 け て 」 って悲鳴が。

いや、「兄弟」とか「同胞よ」とかの意味だったのかもしれませんけど。


いるんだろうなあ、ポルトニクス家とやらの家中にはアレの兄弟分が。
評判の悪い、野盗の親玉めいた土着貴族領主一家が邪教団の隠れ蓑。実にありそうな話です。


はい、揉め事一覧に「地方領主+邪教団と抗争開始」追加で~す。




どうしてこうなったかは解りませんが、私が何をしたいのかは分かります。
安楽妊婦生活に戻りたい、ただそれだけです。

とりあえず邪教団を潰す方向性で、夫たちやお師匠様と協議してみますか。放置していて良いことは何もなさそうですし。


 




[38600] 59
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/07/28 12:37



 ☆108日め7、馬子にも衣装とはいいますが☆



さて、何故ゆえにレェ・ウォス率いる捜索隊B班(A班はギュー・グェスが率いてます)が現地人の女子供を護って重騎兵隊と
戦っていたかといえば‥‥オーク島では女子供は超貴重品だからです。
島のオーク達、特に下っ端にとってみれば月に一度の競り市で眺めるのがやっとの激レア生物ですからね、野性の人間雌は。



今から3時間ちょっと前、私がヤクザの金庫を破っていた頃の事です。
東方世界の僻地を「人間の住んでいる島って大きいんだなー」とか「何処に行っても人間がいっぱいいるなー」とかの感慨に
浸りながら歩き回っていた夫と義息子たちは、彼らの価値観からは到底許せない冒涜的な出来事を見てしまいました。


詳しく話しても、そう長い話ではありません。
街道近くの籔から籔へ茂みから茂みへと隠れながら、ソーニャさんが向かった都市へと進んでいたウォスたちでしたがそこに
数十人の旅人たちが通りがかりまして。
揉め事を避けたいウォスたちは、やりすごそうとして籔の中で息を潜めていたのです。

そうしたら、その旅人たちが籔に近い木陰で休憩を取りましてね。
河が近いだけでなく、河の水が組みやすい地形だったので元から休憩地点になっている場所だったのですよ其処は。
程なくしてソーニャさんからの緊急通信が入り、レイちゃん無事発見の報が届いたのですが今動くわけにもいかない捜索隊B
班は籔の中に隠れ続けていました。

隠れていたオーク達には、目の毒な光景でして。

だってすぐ目の前、10メートルちょっとしか離れていない位置に人間雌が20人近くもいるのですよ。
ビィーヤ盆地一帯は中世社会だから、人口における老人率は低い。つまり旅人の女たちはその殆どがオーク的には適齢期。
現地の基準だとちょっと若すぎるのやトウが立ちすぎたのもいますけど、それが良いというオークもいます。

ウォスにしてもロリ好きですけど、母親似のむっちりとした年増女は大好きですからねー。
もっとも、保護してた女子供のなかにいる年増で太めな尼僧はウチの巣の連中には好みじゃないらしい。
確かにあの尼僧は、美人とは言いがたいですし年増に過ぎるかもしれません。
え? たとえ若くて美人であってもアレは要らない? そうですか。


外れはいるにしても、調教されて雌堕ちしていない人間の女の子が、異種族の領域に売られて怯えきってない初心そのものな
女たちが、街道の木陰で涼みながら首筋の汗を手拭いとかで拭いてたりしてるのですよ。
河の水で足を冷やしたり、濡らして木陰で風に当てて冷やした水袋からワインの水割りとかを飲んでたりするのですよ。
猫好きが散歩中に人気のない公園で猫集会と出会っただけでも興奮するのです。人間雌大好きな下っ端オーク達が野性の女の
子たちを前にして声一つ出せないというのは拷問そのもの。


やがて休憩を終えた旅人たちは街へと向かい歩き出しましたが、そこに十数騎の騎兵隊が襲ってきました。


オーク達にも、ここが人間の通り道で水場が近い土地であるからには絶好の狩り場であり、獲物を待ち伏せる狩猟者が近くに
いるであろうことや実際にいたことは理解できます。
強い者が弱い者から奪うことにも納得します。強者が生き弱者が死ぬ、それがオーク島の掟です。
しかしオーク島の価値観からすれば、特に意味もなく女子供を殺すことは許されない。

ええ、旅人たちを襲った騎馬盗賊団は「目撃者は残さない」方針でやっている連中だったのです。
逃げ惑う商人妻の背中へ槍を突き立て、地に膝をついて慈悲を乞う巡礼女を馬蹄で踏みにじる。
もちろん男も子供も、抗う者も逃げ出す者も区別なく切り捨て殴り殺しています。
そんな殺戮者たちの暴挙を、黙って見ていられるようなオークは温泉洞窟にはいないのです。だから乱入しました。


前世の話ですが、何処ぞの大規模遊園地では「園内に食品持ち込み禁止」という規則になっておりました。
ですがある日、とある小学生が園内に弁当を持ち込んでお昼に食べていたのです。
で、直ぐに見つかってしまいまして遊園地の職員は小学生の食べていた弁当箱を取りあげてゴミ箱に放り込みました。
小学生の母親が、心を込めて作ったお弁当箱を、です。
結果、暴動が起きました。そりゃそうです、そんな暴挙を見逃せる奴は日本人じゃない。
私だってその現場にいたら暴動に加わっていたでしょう。職員に石と罵声を投げつけるぐらいはしますよ。

赤ん坊が飲んでも平気な清水を、道にまき捨てる光景に眉をひそめるアラブ人の気持ち。
炊きあがったばかりのご飯を炊飯器ごと取りあげられ、ドブにぶちまけられた時の日本人の気持ち。
与太者じみた恰好をした楽団が、舞台の上で聖母像に豚の血をぶっかけるのを見た耶蘇教徒の気持ち。
それらの憤りと本質的に同じで、遙かに強烈な怒りに突き動かされたオーク達は籔を飛び出して殺戮強盗団に挑みかかりその
殆どを討ち取りました。が、数騎に逃げられてしまったのです。


短く激しい乱戦の結果、旅人たちのうち生き残れたのは僅か10人の女子供だけでした。
まあ、その、オーク達には男連中を積極的に助ける義理がありませんからねえ。どうしても扱いが悪くなります。
むしろ女子供を 1 0 人 も 護れたのだと思いたい。


怯える女子供たちをなだめ、ポーションなどで怪我人の治療をしていたウォスたちと連絡を取ったお師匠様は賊の正体が近隣
領主の軍勢であり、表向きは街道警備として巡回しながら裏では急ぎ働き専門の殺人強盗団として活動していたのだろうと当
たりをつけました。

そこで近隣の領主館や城塞に使い魔を飛ばしてみればその一つに数騎の騎兵が逃げ込み、要塞が大騒ぎとなって出撃の準備を
整えだしていることが確認できまして。
被害者であり生き証人でもある女子供たちの前で、オーク達は外道領主の主力部隊を迎撃することにしたのです。


お師匠様なりの慰撫工作というか宣伝作戦なのですよ、ええ。オーク戦士の強さと高潔さだけでなく、オーク族が人間族の女
子供に甘いことを現地民に解りやすく示しているのです。
こうやって地道な宣伝を繰り返していくことで、オークと出くわしてしまった現地人特に女子供が恐慌(パニック)に陥って危
険なことを始める可能性を下げようとしているのですね。

早い話「オークに捕まったら頭から囓られて死ぬ」という共通認識が人間社会にある場合と、「オークに捕まった女は犯され
るが殺されはしない」という共通認識だった場合とでは、女たちの死亡率が違う訳です。
オークに媚びを売ってでも生き残りたい女はもちろんですが、オークに身を汚されるぐらいなら舌を噛み切って死んでやると
思い詰めている女でも、逃げ逃れられる可能性が高ければそう簡単には死を選ばなくなりますからね。


助かる望みがあれば生きようとするのが人間ですし、剣を構えてオークと睨みあっていたりすればどうしても媚薬効果のある
フェロモンを吸ってしまう。
追いつめた女たちに死に物狂いで暴れられるよりは、なんとかして逃げ延びよう味方が来るまで時間を稼ごうと粘られる方が
オークたちには都合がよいのです。

嫁にしたいのに、死なれてしまっては元も子もありません。
オークたちから見れば、無傷で手に入らないならその人間雌を逃がした方が良い。

ここはオーク島ではなく、逃げた人間雌が無事に人間たちの集落まで辿り着ける可能性はそこそこ有る。無理をして怪我でも
されるぐらいなら見逃がして、次の機会を待つべきという意見に賛同できるのですよ温泉洞窟のオークたちは。



示威と宣伝を兼ねた野盗退治は上手くいき、想定外の出来事もありましたが襲ってきた野盗騎士の全員を討ち取りました。
殺された旅人たちの慰めになるかどうかは分かりませんが、近辺の治安が少しだけ良くなりましたね。
あと味方の経験値も増えました。


ウォスたちが助けた女子供のうち殆どはその場に残して、騒ぎを聞きつけて集まった冒険者たちで保護させました。
駆けつけた冒険者の中には私とマリアとサラさんとソーニャさんも混じってますので、女子供がゴロツキまがいの連中に捕ら
えられて場末娼館へ売り飛ばされる、などというような事にはなりません。

ええ、バケモノが燃え尽きたあとでこっそりと籔から離れまして、最初から女4人だけで動いていたように装いました。
都合の良いことに、病み上がりな上にしばらく冒険から離れていた人がいましたからね。
サラさんに新しい装備品を渡して、身体に馴染ませるためにウサギとかを狩っていたことにしたのです。
辻褄合わせに使える、狩ったばかりのウサギをソーニャさんが無限袋に入れてましたのでこれまた好都合。
私とマリアは料理要員+治療者として同行していたことにしました。


ダイコクとイダテンは、オークが好みそうな派手めの宝石付き装身具を付けさせたり、魔法の杖を持たせたり山羊の頭蓋骨と
かを被らせたりして、いかにもオーク族の呪術師風に飾り立ててからウォスたちに合流させました。
その場に置き去りにして、地元冒険者に保護させる予定の女子供たちに見えるように、です。

この偽装が上手くいくのかどうかは解りませんが、私が「さっき雷を落としたの私ですよー オーク族に身も心も許しちゃっ
たオーク・ラヴァーですよー お腹にはオークの子がいるんですよー」とか言いつつ出張るよりかはマシです。


それにしても小物臭いオーク呪術師どもでしたねあの二人は。演技指導する暇がない以前に、役者側に演技とか偽装の概念が
有るのかさえ怪しいという事情があったから仕方ありませんが。

呪術師ってオーク社会では結構偉いんですよ、だからレェ・ウォスの前で二人が杖とか放り出して平伏されると困るのですよ
種族文化考証的に。
強さ = 偉さ が身に染みついてますからねえ、オーク族は。伝説のオーク勇者にしか見えないウォスを前にしてダイコク
たちが、思わずひれ伏しちゃったのも無理はない。


‥‥今更ですがオーク側の呪文使いを、替え玉で誤魔化そうとしない方が良かったかもしれません。
強いオークの群れに謎の呪文使いがいるらしい、で通したほうがマシだったかなあ。



ま、良いか。致命的失敗ではない。多分ない。


街道の近くに潜んで獲物を待ち伏せていたオークの群が、実は邪教団だった盗賊騎士どもに獲物を横取りされて、怒って乱入
して盗賊騎士団を打ち倒した。そして生き残った女子供のうち気に入った半数を連れて何処かへ消えてしまった。
おそらくは、騒ぎを聞きつけて集まってきた冒険者たちを恐れたのでしょう。

襲われた旅人たちのうち助かったのは8名。僻地の尼僧院からヴァダの街の神殿に連絡使としてやってきた年増の尼僧と、
旅商人一家の生き残りである2歳ぐらいの子供と、移住する農民たちの生き残りな12歳前後の少年少女たち3名、そして旅
の楽師三姉妹です。
残りの2名、巡礼の母娘はオーク達に気に入られ連れ去られてしまいました。


子供たちはウチの巣に余裕があれば引き取ったのですが、一度に何人も保護対象を増やすときつい。
人手不足の現状では守りきれないかもしれません。というか正直言ってマリア一人でも不安です。
幸いにも子供たち3人と幼児はレクス氏の伝手で、かなり良心的な地元の孤児院に入ることになりました。
私からそれなりの金額を、孤児院へ寄付してくれと預けておきましたので今日明日のご飯に困ることは無いでしょう。

少ないけどレクス氏本人へ護送のお駄賃を出しておきましたし、寄付金の中抜きとか子供らを人買いに売ってその金銭で安い
子供を買って孤児院に送り、差額を着服とかのケチな真似はしないと思います。
私が彼の立場なら絶対にしない。ソーニャさんが怖すぎる。


上記のような筋書きでいく事になりました。噂話はそういう風に伝えるでしょう。
攫われた母娘は身寄りも後ろ盾もない只の巡礼だったので、奪回の依頼や捜索願いの似顔絵が出回ることはありえません。


え? 年増尼僧の伝手は使えないのかって? 
子供を安心して託せる素性と人格の持ち主だったら、本人がオーク達にお持ち帰りされてますよ。信仰魔法の使い手はそれだ
けで価値があるんですから。
私のような羅刹系で畜生道歩いている転生者が依怙贔屓されちゃう世界なんですよ、ここは。
地球基準なら鉄格子付きの病院に入るべき人物でも神官になれるし信仰系呪文も使えます。
色々な意味でオーク受けが悪かったのですよ、年増の尼僧は。





 ☆108日め8、増えましたねえ☆



「んじゃ、いってくるわね」
「戦果を期待します」

酒の滝壺亭にいた二人組などの地元冒険者たちと組んで、ポルトニクス家に火事場泥‥‥もとい正義の鉄槌を下しに行くこと
になったソーニャさんは、自分で出した「次元扉」をくぐって出撃していきました。

付いていきたいのはやまやまですが「足手まといになる」と断られてしまいまして。
うーむ、やはりお師匠様も疲れていますね。普段ならもそっと柔らかいもの言いで断るでしょうから。


とにかく、無事の帰還を祈るばかりです。
え? だったら見送りの台詞は「御武運を祈ります」とかじゃないのかって?
お師匠様は多少の運変動でどうにかなるタマじゃありませんよ。というか私が祈ると洒落になりません。


「もっと頼ってくれても良いのですよ?」

‥‥だって、女神様見てるし。声聞こえるし。
迂闊なことを言ったら誰かが呪われたり祝福されたりしてしまいそうです。
そしてソーニャさんは神頼みを許容しているけど、好きじゃない。

昨夜まで断線していた反動かもしれませんが、エスティア様の注目具合が披露宴に乱入もとい降臨なされたときよりも激しい
気がします。
有り難いけど気が休まりません。
いや神力のおかげで強制的に休まってるけど、ストレス源がそのまんまだから訳の分からない疲労感が。


「制心(サニティ)」

あ──効くわー自分にも自分の呪文が効くわー。
効果は劣化版でもストレス源がやってるんじゃないってだけで効果絶大です。


A1、これが反抗期というものなのですねわかります。
Q1、猫に構い過ぎて嫌がられてるだけではないでしょうか。


苦しいときの神頼みと言いますけど、苦しくないときに四六時中一緒にいられて平気でいられる程気安くはないのですよ。
産まれたときから動物園で飼われてる生き物のなかには長期休園で客がこない日々が続くと体調を崩すのもいるそうですが、
私はそこまで順応できていません。


やはり耶蘇教の聖職者は大嘘つきですねー。もし本当に四文字神が毎日信徒たちを見守っているのなら、当然神父やシスター
も見ているはずです。それも24時間営業年中無休で。
神に直接見られていてあの有様なのですから、耶蘇教の聖職者なる連中は信仰心が欠片もない大嘘つき揃いなのでしょう。
神父の数倍お稚児さんがいて更にその数倍の情婦がいるって、義教公が焼く前の比叡山かヴァチ○ンは。

それとも四文字神は信徒のことなど興味がなくいつも寝ているのか、起きているし見ているけど何もしないで文句だけは付け
るという腐れ外道なのか、それとも四文字神なんて最初から存在しないのか。
答えがどれでも耶蘇教の聖職者は大嘘つきだ。

え? 仏教はどうなのかって? 仏陀が罰なんか当てる訳ないでしょうが、外道は因果応報で自滅するんですから。



ふー いかんいかん。落ち着かねば。 

どうも気分がささくれ立ってます。あのバケモノを見てしまった後遺症でしょうか。
確実に悪影響は受けていますね、ダイコクとかなるべく樹木を見ないように見ないようにと行動してますし。
幸い他のオーク達にそこまでの被害はないようです。女子供はバケモノの姿をはっきりと見てないので影響は少ない模様。

思い出したくもない程に不吉で禍々しい存在でした。
アレが邪神の眷族、神と呼べる存在と血を交わらせた生き物かあ。
今回のはその分類の中で最底辺あたりの位置にいたようですが、それでも危険な存在でした。見ただけで正気度が減る。


「ルェイ、カミナリ、オトス。ワルイ、カミ、モエタ」

おおー とウォスの話を聞いていた義息子達がどよめきます。
オーク達は巫女や幹部たちの武勇伝を聴いて喜んでいます。なにしろリアルタイム進行の参加型英雄物語ですからねー。

「いえ、あれはエスティア様の御力なのですよ」

と、注釈を入れますがそんなことは聴衆も充分承知している訳でして。

「グヒッグヒッ」
「ニンゲンメス、カミ、エライ、ツヨイ、ウツクシ」

オーク島には天女信仰みたいなものがありまして、良いオークのところに美しく愛らしい女が天から降ってきたり海から流れ
着いたり地中から掘り出されたり道端に落ちていたりして、やってくる物語が伝えられています。
で、それらの女たちは拾ったオークたちが優しく誠実に振る舞うとやがて心も股も開いてくれて、オークたちやその子供たち
に末永く尽くしてくれる訳です。

エスティア神はそんな女たちの出荷元であり守り神、女神エスティアを拝めば嫁が来る。
グェスたち三兄弟はもとからエスティア様を信仰していましたが、夢で神託を受けて温泉洞窟に引っ越し、迷宮から女神像を
見つけだしたところに嫁候補のロリが来るわ女神像が復活するわ女が増えるわで信仰は深まる一方です。


一方、巣に嫁や嫁候補がどんどん増えているのは良いけど、なぜか 新 入 り の 嫁 と し て であるという事例が
続いているので、古参の下っ端連中は不満とまではいわずとも納得しがたい空気が漂ってました。
私が来る前から巣にいる下っ端で、嫁が来たのは今のところケサガケだけですからね。

これまでは既婚者であるイワノフとケサガケとゴエモン、婚約者持ちのハラキズが下っ端たちの中では強者であり甲斐性があ
る部類だったから特に不満が出ませんでした。
しかし何処からどう見ても貧弱な坊やのダイコクとイダテンが嫁候補持ちなのは納得いかない、奴らと俺たちで何が違うんだ
‥‥と、そんな空気があったのですが消し飛びました。


私が「這いつくばって女の裾下を覗こうとする奴がモテないのは当然です」と言い切っちゃいましたからね。


ええもう、風邪が治りきってない幼女遭難者相手にアンタらがやらかしてくれたこと、一生忘れませんから。
特に最前列の常連だったタレミミとコブハナ、今は笑い話にできますけどあの時は本当に怖かったんですからね。
がっつく男がモテないのは当然なのです。オークたちよ、変態紳士たれ!




しかし、29人もいると流石に狭く感じますねこの狩り場も。
オークが23人(夫たち幹部3、下っ端18、新入り下っ端2)に女が6人(私、コーネリア、マリア、サラさん、新入りとい
うか捕虜が2)。
うん、29人いますね。イノシシたちも8匹ちゃんといます‥‥って、また増えてる!?


ソーニャさんとハラキズが帰ってきて、別居中なイワノフの妻と妻と妻と娘が合流すれば35人か。
巣として大きくなりましたねえ。今の時点で新人の勧誘止めたとしても数ヶ月後には40人越えちゃいますし、新拠点の整備
を急がなくてはなりません。

いえね、巣の全員がこっち(東方世界)に来ている理由の一つが、温泉洞窟の異変でして。


私とハラキズが消えてしまった日の夜、オーク島で小規模な地震が起きました。
揺れや噴火や津波による被害はないも同然だったのですが、温泉洞窟の温泉は何故か湯量と温度が急上昇してしまい風呂場も
トイレも蒸籠みたいな状態になってしまったのです。

大騒ぎとなりましたが、オークたちは岩と泥を積んで風呂場の入り口を塞ぎ急場を凌ぎました。
幸いにもソーニャさんが運搬用アイテムを色々と持っていましたし、それらを使いこなせるコーネリアの一時休暇というか巣
帰りが認められましたので無事に引っ越しできました。幹部も下っ端もイノシシたちも全員無事です。
洞窟内で熟成させていた蒸留酒の大半が駄目になってしまったのは惜しいですが、致し方ありません。量的には屋外で滝に打
たせている酒壷の方が主ですから交易に支障はない。支障はないけど惜しいなあ。



「ついでにタコ肉の燻製とかは大神殿に奉納しちゃったけど」
「ぐっじょぶですよコーネリア」

取りあえずの引っ越し先は人面獅子の洞窟です。
余っていたというか正直作りすぎて持て余していた干しタコ肉などを処分して倉庫の中身を整頓しましたが、それでも人面獅
子迷宮は狭いので詰め込みが大変だったそうです。

床面積自体は温泉洞窟と大差ないのですが間取りが悪すぎる。元々生活に向いている構造じゃありませんし。
水道(湧き水)どころか水瓶すらなく、採光窓もなく、換気装置は壊れてましたからねあそこは。
地下なのでそこそこ涼しいことと地下なのに湿度が低いことは悪くありませんが、生活空間としての取り得はそれくらいです。
転移呪文の基点に向いているという一点だけで、行方不明者の捜索本部として使うには充分でしたけどね。



まあ良いか。人面獅子迷宮が新居になるかどうかは未定ですし。
今はこの空き地が臨時のエスティア神殿なのですよ。祭壇と御神体と巫女と信徒が揃っていて、女神様と交信ができているの
だから青空寺院でも問題なし。
とりあえず新入りのオークたちは特殊抱き枕だった女神像と、その像と絡んでいるオールクゥス神像に礼拝しています。

実物大のリアル路線男女交合像ですからね、オーク受けする神像でしょう。
今日の女神像はオーク島風の毛皮服姿で、胡座をかいて座る夫神に跪いて股間へ顔を埋めています。
ダイコクとイダテンは祭壇の向こう側からはみ出すように突き上げられた女神様の尻に向かって拝んでいる訳で。
誰だよこんな脳味噌ピンク色の構図に配置して飾り立てたの。恥ずかしくないのかよ私だよ思い出したよノリノリだったよ。



えー 新入りの女たちのうちオーク・ラヴァーの自覚がある2名はともかく、そうでない2名は心中複雑なようです。

邪神の下僕に殺されるところだったのを救われた事は理解してますし感謝もしていますが、連れ去られたことや無理矢理お嫁
さんにされてしまいそうなことには納得しきれてないのです。
実際の話、治療のためとはいえ当人たちの承諾を得ずに連れ去ったから、やっていることは拉致監禁です。


元々異邦人の私や人間社会へ復帰する気がないマリアとサラさんはともかく、ソーニャさんがオークの手先だと知られたから
には解放でき‥‥るんですよねえ、これが。
ええ、お師匠様は「リガの剣姫がオークの手先のおフェラ豚女だ」という噂が流れても平気なのです。
既にその手の噂や、もっと酷い噂がいくらでも流されてますからね。

ソーニャさんは結構派手に動いてるのに「何故にオーク側の存在だとバレていないのだろう」と不思議でしたが、実はとっく
の昔にバレていた訳です。悪評を善行というか違う噂で塗りつぶしているだけで。
本人は「東バルキアだけで何人の自称ソーニャがいると思ってんのよ」と気にしてません。

それどころか、オークのお嫁さん志願者でないこの母娘に対毒装備持たせた上で「解毒」の霊薬飲ませちゃいましたからねえ
ソーニャさんは。
オークフェロモンも毒といえば毒なので、霊薬や装備品などで効果を低減できます。
装備品と薬の相乗効果で完全無効化だって出来なくもない。

装備した者がトラフグの肝をすりつぶしたものを、どんぶり一杯一気飲みして平気になれる性能を持つ対毒耐性装備を3つ付
けてから「解毒」の霊薬を飲めば、普通の体質ならまず効かなくなります。
装備品の性能表示で言えば ※ が26個つけばオークフェロモンは理論上効きません。呼吸している限りは、ですが。 

装備と薬の効果とはいえフェロモンで酔っぱらっていない巡礼の母娘は、即堕ち2コマ劇場してしまわないのです。
ここまで強力な薬を使って副作用が出ないのですから、魔法って本当に魔法じみてますね。ファンタジーって凄い。


オークに惚れ込んでない女たちが惚れ込まないまま人間の街に帰っても良いと、帰って自分のことを喋られても良いとお師匠
様は考えています。
なので病気が完治していない巡礼母娘を、すぐにでも解放できると言えばできますが私としてはやりたくありません。
オーク島的思考からいえば、本日お持ち帰りした母娘は捕虜ではなく保護しただけですからね。
いま解放しても野垂れ死にするだけだし。



お師匠様ぐらい名が売れていると、騙りがいるのは当然です。恨まれているのも当然です。
なにせ、その手で直接潰した野盗団や邪教の支部は数知れず。制裁した外道冒険者も大勢います。
戦場や闘技場で名のある騎士や武芸者を百名単位で討ち負かしてますし、間接的に傾かせたり破産させたりした諸侯や商会の
数も一々気にしてられないくらいです。
幼馴染みのリガ市民を攫って農奴にしていた地主一家を、救出ついでに壊滅させたりしてますからね若い頃のお師匠様は。

善意の第三者だと言い張っていれば良いものを、自分が拉致と強制労働の主犯だと認めたうえにソーニャさんまで捕まえて奴
隷調教しようとした地主の家長が元凶だと思うんですが、そんな理屈が特権階級に通じる訳もなく。
その頃には既に身も心も「オークの手先のおフェラ豚女」だったのですよお師匠様は。誰かの奴隷であることに満足している
奴隷を、主人に相応しくない者が横取りしようとすれば、そうなりますよねえ。

人攫いを副業にしていたその地主は、東方世界の地主階級の殆どがそうであるように野盗兼業の傭兵団や匪賊領主や悪辣坊主
どもとずぶずぶの関係でして、お師匠様は芋蔓式に出てくるそれらの悪党どもを相手に延々と戦うはめになったのです。
結果は言うまでもなくお師匠様の勝利に終わりました。
オーク島と東方世界では、衆寡敵せずとは弱者の泣き言に過ぎません。強ければ勝てるのですよ、ファンタジー世界は。


そういう事を繰り返してますので、お師匠様を八つ裂きにしても火炙りにしても足りないほどに憎んでいる者は大勢います。
しかし実力ではとても敵わない。
刺客を選りすぐっても軍隊をけしかけても、返り討ちにあい送り主が報復されるだけです。
ドラゴンを容易く仕留める者は、その気になればドラゴンより凶悪な存在となりますからね。

野戦での主戦力撃破が難しいなら、敵の外交を遮断して孤立化を狙うのは兵法の常道。
お師匠様の悪評を立てるために「リガのソーニャ」を名乗る外道冒険者が各地で暴れ回ることになります。
もちろん偽物が実害を振りまくのと同時に、敵対者が根も葉もない噂話を流しまくるのです。

ソーニャさんの名を騙る悪党がオークを率いて女子供を攫っていき、その際に目撃者を治療までして生き残らせておいたり、
攫われた女子供が何故か逃げ出せて自力で人里に戻れてしまったりする事件は、東方世界では日常茶飯事とまではいきません
が特に珍しい事でもないのです。
ゴタ出身の冒険者レクス氏によれば、つい先月に下級デーモンの群を率いて村々や小都市を焼いて回っていた自称ソーニャが
熟練冒険者の手で討ち取られるという事件があったばかりだとか。


つまり巡礼の母娘をこのまま、あるいはしばらく時間をおいてから解放してもソーニャさんの評判は大して変わりません。
自称ソーニャな女冒険者が旅人を攫ったとか、その際にオークを引き連れていたとか、何故か捕らえていた捕虜の一部を意味
もなく解放したとかいう話を聞かされても、大多数の人々にとっては い つ も の こ と ですからね。



巡礼の二人は、持病持ちの母も虚弱気味な娘も放置しておくと死んでしまいそうなので連れ去りました。
とりあえず「病気治療(キュア・ディジィーズ)」の巻物で、ファンタジー世界版の結核じみた持病を癒しましたがまだ油断は
できません。できればオーク島へ連れて帰り触手くんの集中治療を受けさせたいものです。

この母娘は逃げだそうとかはしないのが有り難いですね。諦めているというか、むしろ雌としての期待に応えられなかったと
きのことを心配しているようです。
薄幸そうな雰囲気さえ取り払えば、わりと愛らしい容姿している母娘だと思うのですよ。
青みを帯びた長い黒髪といい均整のとれた骨格といい、磨けば光る素材です。オーク達の受けも悪くない。

問題があるとしたら年齢かなあ。20代前半と6~7歳という、悪くはないけど嫁にするにはちと中途半端な感じが。


なんてこった、よくよく考えてみたらウチの巣って年増とロリしかいないじゃないか!

巡礼母娘は年増とロリ、マリアとサラさんはロリと年増ですし、イワノフの妻一人目と義娘が年増とロリ、ソーニャさんとコ
ーネリアは年増で私はロリ。
適齢期と言えそうな女は別居中なイワノフの妻たちのうち二人しかいません。


「‥‥レイ。10年もすれば貴女も年増の仲間入りだから、ね?」
「えっと、声に出てました?」

言わなくても分かるそうです。
そういえばコーネリアは本物の女でしたね、産まれたときからの。つまり色恋に関しては天然ニ○ータイプ能力者。
いや、男の勘が相対的に鈍すぎるだけなのか? 
なんにせよ「私は10年後だってぴっちぴちですよ」とか口走らなくて良かった。本当なだけに洒落にならない。







 ☆109日め、まだ帰れない☆



レイちゃんです。ウリ坊たちの縞模様も薄くなってきた今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか。


特に何ごともなく、一夜が明けました。
夫たちに浮気のことを仔細漏らさず告白して、三人掛かりでお仕置きなんだかご褒美なんだか解らない可愛がられかたをして
しまいましたが予想の範囲内なので問題なし。

やっぱり、えっちは好きな人とするのが一番ですねー。
前と後と上のお口にそれぞれち○こをねじ込まれたうえで両胸とお豆を責められて三発同時の一斉射と同時に逝かされてしま
うなんて行為は、逆ハーレムの女王様なら体験できる女もいるでしょう。
でも三人の夫たちから、心から愛されるこの嬉びはオーク妻にしか味わえません。



夜明け前頃に、ソーニャさんたち急造パーティの邪教団拠点襲撃作戦は成功したと通信がありました。
ボルトニクス城の地下深くに隠されていた邪教の神殿と神像は破壊され、数多くの邪教徒が討ち取られ、教祖が変身した巨大
な黒スライムも無事退治されたとか。
教祖以外にも何体か、例のバケモノの兄弟分がいましたが信仰系魔法と聖水や聖別武器の集中使用で乗り切ったそうです。
それは何よりです。聖水を量産した甲斐がありました。


小身とはいえ領地持ちの貴族を郎党もろとも皆殺しにしてしまいましたが、東方世界ではよくあることです。
じきに近隣の領主や寺院や野盗団が、無主の地となった旧ポルトニクス領の切り取り合いを始めるでしょう。
どれが勝ち残っても大差はありません。
強い野盗団が、血縁を基に定住化したのが領主勢力であり信仰を基に定住化したのが寺院勢力です。
ちなみにヴァダ市に領主はおりません。市は寡頭政治で統治されていまして、有力者の会議と談合で運営されています。
市長が会議の議長ですね。

お師匠様は朝にヴァダの街へ入りまして、今は宿で寝ています。



私たちは、昨日の夕方に廃墟地下へ入りまして串焼きオーガーをあげたオークたちと接触しました。
彼らから近場にある適当な地下遺跡の一つ、昆虫型モンスターに占拠されている場所を教えてもらいまして、そこに巣くって
いた巨大甲虫の群を倒し一帯を制圧して作った仮拠点に泊ったのです。

流石に、人間の都市から歩いて数分の狩り場で一夜を明かす気にはなれません。
ダイコクたちのねぐらがあった場所でも近すぎますし、アンデッドを倒して得た場所は別のオーク族に乗っ取られてます。


本当はオーク島に帰りたい。今すぐ帰りたい。


Q3、やはり転移は無理でしょうか。
A3、できなくはありませんが無謀です。望んだ場所へ行ける保証はありません。


何処の誰かがやった事なのかそれとも自然の摂理なのかは、まだ分かりませんし誰も教えてくれませんが転移系呪文やアイテ
ムでオーク島へ帰るのは難しいのです。
いえ、コーネリアやゴエモンたちは「転移門(テレポートゲート)」の巻物を使って島へ帰りましたし、他の面々も行き来して
ますけどね。
長距離の転移を行うと、意図したのとは違う場所へ飛んでしまうのは私だけなのです。
グェスたちは、朝から人面獅子迷宮とこの臨時拠点を往復して改修工事などに励んでますよ。

何度かの実験で、私は数㎞以上の距離を転移しようとすると行き先がズレる事が分かっています。おそらく、転移しようとし
た距離に指数的に比例してズレるのでしょう。
つまり、もしヴァダの街からリガあたりまで転移しようとしたら、月にまで跳んでしまう可能性があります。



さて、オーク島はエルフで大神官な大母様が、100年以上かけてオーク達に都合の良い生態系に造り替えています。
島全体が果樹園で菜園で狩り場であり、東方世界の住人から見れば餓えとも寒さとも無縁の楽園なのです。

「グヒッグヒッ」
「うん、美味しいね」

温泉洞窟周辺よりは採れる食材が偏っていますが、人面獅子迷宮のあたりも食料に不自由しません。
朝一番で下っ端オークたちが獲ってきたヤシガニや鳥モドキ、椰子の実などの果実に野菜や芋類をサラさんたちが料理して、
みんなで分け合って食べている。
ダイコクなんてマリアに「あーんして」で蒸し芋とか食べさせて貰ってたりしてもう、にやけ放題。周りの下っ端たちから
もげろコールを雨霰と浴びてます。


島には危険な野生生物とモンスターが多いですが、そんなものは強ければどうにでもなる。
せいぜい星1程度のダイコクとイダテンから見れば、星3になったばかりのアンドレあたりでも圧倒的強者です。
実際の話、アンドレやブロディなら廃墟で襲ってきたあのオーガーと渡り合えますからね。
確実に勝つならば二人掛かりでいく必要がありますが、一対一でも勝ち目があります。負けるかもしれないけど。


幹部と女たち以外で、一人であのオーガーと戦って不安がないのは今の所ゴエモンぐらいかな?
つい先日、私の日記で言えば104日目の夜に大神殿の闘技場で大型ワニ2匹を倒して星4の戦士見習いと認められたゴエモ
ンを下っ端扱いのままか戦士扱いするかで少々揉めたようですが、コーネリアとの同居が正式に認められるまでは下っ端扱い
でいきたいというゴエモン本人の意見が通りました。


本当に強くなりましたよねえ、ゴエモンは。

彼だけでなく自分たちがどんどん強くなっていることが、実感として温泉洞窟の下っ端たちに感じ取れている。
当然ながら、強くなった実感は新入りオークたちにも伝わります。だからダイコクとイダテンも自分たちが同じように強くな
れることを疑わない。
うん、良い傾向ですよこれは。


ちなみに、そのゴエモンにコーネリアは不意打ちさえされなければ確定勝利できたりします。
2レベル呪文が使える演算魔術師が、一流冒険者から仲間貸し出し用の高級装備品を受け取って身に付けてますからね。
私が貸して貰っているもの程には気合いが入ってませんが、それでも星5ぐらいには匹敵する強化具合です。
元々コーネリアは列強国の軍隊でエリート教育を受けた軍人なので、意外と‥‥と言っては失礼ですが強いのですよ。
もしゴエモンとの結婚式あたりの時期に模擬戦をやっていたら、私では二人掛かりでも勝てなかったでしょう。

もちろんこれは数値の上での話で、実際にはゴエモンとコーネリアが戦うことなどありえません。
時々夫婦喧嘩らしきものが起きるのですが、直ぐに解決してしまいます。


ふむ。もしもコーネリアが一人でビィーヤ盆地へ転移していたとしたら‥‥ヤクザに嫁候補を攫われる訳もないか。

彼女なら、サラさんを治療したら即座にスラムから移動させていたでしょう。
コーネリアのお腹にいるのは人間の女の子だから探知魔法も怖くないし、対人交渉能力が高いから普通に街暮らしができる。
有力者へ接触し利益誘導して、捜索隊が来るまで自分たちを保護させる事も容易い筈です。

と、いうか、マリアがダイコクたちに め ろ っ め ろ にされちゃったからには、温泉洞窟のオーク達に嫁入りする可
能性はかなり低い訳で‥‥。
それならもういっそのこと、マリアとサラさんはまとめてダイコクたちの嫁にしてしまうべきだったのです。
私がヤクザにマリアたちの拉致を許してしまったのは、サラさんだけでも温泉洞窟で待っている古参の下っ端たちに嫁入りさ
せようなどと馬鹿なことを考えていたからでして。

つまり、最善手は一昨日の夕方にサラ小母さんを石像化するなりなんなりして、マリア共々ダイコクたちの所に行くことだっ
た訳です。そうしていたらマリアたちを危険に晒さずに済んだ。

マリアがウス異本状態にならずに済んで良かった。本当に良かった。
幼女異種姦えろらぶちゅっちゅっ路線もウス異本的ですけど、残酷猟奇路線は嫌だ。現実で見たくない。

‥‥ヤクザ相手の血塗れ剣劇は当事者でも平気なんですけどねー。




薬草つみ見習いのマリアと元冒険者のサラの2人は、今日か明日にでも嫁入りで良いとして。
巡礼の母娘、ルウとメイアは治療を続けて完治して、なおかつ今後の生活に見通しがついてから嫁入りするか出ていくかを決
めさせることにします。
私のときと違って、時間制限は付けません。

この母娘を今すぐ開放すると、病気が再発したり別の病気に罹ってしまうかもしれません。
というか女だけで巡礼なんか続けていたら遅かれ早かれ野垂れ死にの運命が待っていますし、母娘が慎ましく暮らせるだけの
財貨を持たせようなものならあっという間に野盗やらヤクザやら坊主やらに巻き上げられてしまいます。
もちろん奪われるのは金銭だけでなく、二人とも死ぬか死ぬより酷い目に遇うでしょう。

故に、解放するなら解放するでこの母娘には自活できる能力を身に付けさせねばなりません。でないと何のために助けたのか
解らない。
野生動物を拾ったら、最後まで面倒見るか野性に帰れるまで支援しないといけないのです。
取りあえず、健康体になったら筋トレでもやらせてみますか。母親の方は元農婦で、体力がありそうですし。


気質的に、冒険者には向いてない気がするのですよねこの母娘は。
酌婦や娼婦といったサービス業向けでもなさそうですし、やはり無難に農婦か主婦かな。

農業? こっちが教わりたいぐらいなんですが。
なら何を教えれば良いんだ。

いけませんね、教師として役立たずじゃありませんか私は。
読み書き算盤のたぐいはコーネリアの方が教えるの上手ですし、母娘は旅人だから炊事洗濯裁縫なども一通りできる。
護身術の類はソーニャさんか、サラさんが教えれば良い。経験豊富ですからね。


「プギッ プギッ」
「あー はいはい、何の騒ぎですか?」

もう母娘にエスティア信仰を布教してアコライトにするしかないか? などと考えていたら、見張りの下っ端たちが敵対的な
何かが近づいて来ると言ってきました。
ふむ。言われてみれば物騒な気配が迫ってきているような。


「オレ、デル」

気配を察したゴォ・ドスが瞑想を止め、愛用の三又銛を手にとって立ち上がりました。
レェ・ウォスも立ち上がり、下っ端たちに指示を出します。

私を先頭に女子供を祭壇の前に集め、ウォスとタレミミたちが護衛に立ちます。下っ端たちは盾班と射撃班そして遊撃班に分
かれて展開。ドスは見張り番のコブハナたちの所まで動き、接近する何かを待ち受ける。

ううむ、僅か数日でここまで練度が上がるとは。小学生の遠足で言えば何年か進級しています。
オーク島の戦術教義(ドクトリン)が、経験主義で実戦訓練万歳になるのも無理はないのかもしれません。


迎撃の準備を色々としつつ、待つこと暫し。
来ました。向こうから暴力の気配が、自らを強者と信じ欠片も疑わない者の意思がやってくる。

人型生物。大きい。数は十数体。全般的に軽武装。騎乗または使役している生物はなし。



「おめが、おらの、なわばさ、あらす、ふとどきもんだべか!」

えらく訛っているけど聞き取れることは聞き取れる共通語(コモン)で話しかけ、もとい怒鳴りつけてきたのは遠近感が狂った
と錯覚してしまいそうな程に大柄な丘巨人(ヒル・ジャイアント)でした。
その後にも何体か同族の巨人がいますが、大人と子供ぐらい体格が違います。

後の連中は、オーク島で時々見かける丘巨人たちと同じような風体で同じぐらいの体格です。
身長は約3メートル半、体重は推定で500~600㎏程度でしょう。
しかし巨人どもの頭目らしい個体は身長5メートル弱、体重は2トン以上あるのではないでしょうか。

ぼろぼろの毛皮を纏い、雑多な品々を腰に巻いた紐にくくりつけ、両手持ちの巨大な棍棒を握っているのは頭目も他の巨人も
変わりませんが、頭目はこれまた巨大な大蛇を上半身に巻き付けています。
動物園によっては大人し目の大蛇を肩に載せてくれる事がありますけど、丁度あんな感じです。
大きいけどニシキヘビでもアナコンダでもないですね、鱗と皮がどす黒い。蛇の全長は12メートル以上ある。
巨人と大蛇の組み合わせか、神話の世界なら敵役の定番ですね。


向こうの戦力は、丘巨人リーダー1、大蛇1、並の丘巨人5、そしてトロルが9。合計16。

こちらの戦力は、オーク勇者のドスとウォス、下っ端オークのコブハナ、ギョロメ、アドニス(以上3名が見張り当番)、
タレミミ、アンドレ、ハンセン、イシカワ、デコバチ(以上5名が女子供の直接護衛)、トンガリ、モッサリ、ブルボン(以上
3名が射撃担当)、サダキチ、マルマル、ダイコク、イダテン(以上4名が遊撃担当)、そして私の合計18。

いや、サラさんもいましたね。彼女もアイテムてんこ盛りで強化してますから充分戦力になる、これで19か。
グェスとコーネリアとゴエモン、ケサガケ、イワノフ、アシナガ、ブロディの7人は人面獅子迷宮にいます。



「オマエ、アタマ、タカイ。フセル、イノチ、タスケル」

先手を取って、ドスの方から喧嘩売りました。いや買ったのか。
言われた丘巨人の頭目はしばらく考え込んでいましたが、やがてドスのオーク語の意味を理解して怒り出しました。
凄いや、本当に頭から湯気が出てる。
人間の体温でも、濡れたジーンズとか穿いていると湯気が立つことはありますが‥‥。


「おくのくせに、なまいきな。もう、ようしゃ、しねぇぞ」

いきり立った丘巨人頭目が前に出てきまして、ドスと睨みあいます。


元から平和的交渉など有り得ない訪問でしたし、戦闘になるのは仕方がないですね。
見た目上の戦力で巨人側に劣ってますからね、オーク側が。
そしてこっちには美味しそうな人間の女子供が5人もいる。これで手を出さないモンスターは少数派でしょう。


オーク島って平和だったのですねえ。
三ヶ月以上暮らしたけど温泉洞窟への直接攻撃は一度もありませんでした。

オーク島ではオーガーや丘巨人たちからも宗教的聖獣のような、古代エジプトのお猫さまやインドのお牛様みたいな扱いを受
けている人間雌ですが東方世界では手頃なおやつ兼オナホールに過ぎません。
しかし私の仲間たちにとっては、何処に行こうと女たちは保護対象で宝物、女神様の化身なのです。
故に、半ば腐りかけた人間雌の死体を弁当代わりに腰に付けている丘巨人リーダーへの敵意は最初から上限突き抜けてます。


逃げるには状況が悪すぎる。降伏すれば女子供は食われる。肉体言語以外での脅しが効くほど、相手の頭はよろしくない。
ならばやるだけです。
弱肉強食の世界で食われたくなければ自分が食う側に立つしかない。




まあ、そんな訳で。
私は仲間たちと一緒に、まだ東方世界の僻地にいます。





[38600] 60
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2017/06/03 11:21




 ☆109日めの2、まさに鴨ネギ状態☆



双方の戦力差からみて、私が更に何かしなくても勝つと思うのですが勝負は水物。慢心は怪我の元です。
ええ、勝つのは当然としても無傷では済まないかもしれません。
今まで何回も無傷で狩った相手だから、と「青いリボン」の番人たちを舐めてかかり手痛い被害を受けた前世の教訓を忘れて
はいけない。
相手はまがりなりにも巨人、腕力だけはあるのです。下手をすると味方に死人が出かねません。

なので、攻撃呪文スクロールの練習も兼ねて支援砲撃でもやってみましょう。
無駄弾だったらそれに越したことはない、投入戦力の増大こそ勝利への近道です。
巨人6体と大蛇はドス&ウォスのオーク勇者コンビで対処して、トロルどもの前列に射撃部隊と投擲部隊の照準が向いている
ようなので、私が狙うのはトロルどもの最後尾あたりです。


高レベル信仰呪文を封じ込めた巻物を取りだし、読み上げようとしたところで異様な感覚が襲ってきました。

身体が、重たい。

巻物を持つ手のあたりの空気が松ヤニの塊になったかのように、粘ついて動きを阻んでいます。
違う、錯覚だ。粘ついて固まりかけているのは空気ではなく、私の身体そのもの。
手指の末端部から感覚がなくなっていく。


麻痺? いや、石化か!

でかい丘巨人の首周りに巻き付いている蛇が、こっちを睨んでいます。
解る。これはあいつの仕業だ。敵意と殺気が消防車の放水みたいに、こちらへ向けて浴びせられている。
不覚、ただのでかい爬虫類かと思っていたけど「石化の視線」の特殊能力持ちでしたか。

抵抗(レジスト)‥‥できない! このままだと石像になってしまいます。


石化はしませんでした。
ウォスの投げつけた魔法の大鎌の刃が、石化大蛇の鎌首を切り落としましたからです。
助かった。大蛇の首が飛んだ途端に、身体の痺れが弱まり重さが消えていく。

うひょう、勢い余って飛んでいって後にいた普通の丘巨人に当たりましたよ、鎌の刀身が。
死神の鎌みたいなのが不運な丘巨人の喉仏から頭頂部までを切り裂いて突き抜け、更に後の石壁に刺さってます。
即死ですねあれは、首から上が真っ二つ。噴水みたいに血を噴き上げつつ丘巨人は倒れました。


「このっ」

ドスに近寄って棍棒を振りかぶった丘巨人の頭目でしたが、振り上げたところで右膝を三又銛で抉られました。
丘巨人の身体は人間とほぼ同じ構造です。つまり膝の皿が取れちゃったならその脚は使い物にならない。
たまらずよろけるところに銛の穂先が素早く的確に動いて頭目の右手から親指以外の指四本が切り落とされ、続いて右の脇腹
が抉られます。
おまけに頭がなくなった大蛇の胴体が、反射運動で丘巨人頭目の首や胸に巻き付いて締め上げている。あれでは脚が無傷でも
動きにくいでしょう。

それでも左足だけで体勢を整え直して、左腕に握った棍棒でドスを殴りつけようとした丘巨人の頭目でしたが、その棍棒は彼
の左横をすり抜けようとした手下の丘巨人に当たってしまい、後頭部を痛打された手下丘巨人は転倒しました。
倒れるというか回転しながら地面に叩き付けられる感じですね。体格的に言って中学生が巨漢レスラーの凶器攻撃に巻き込ま
れるより酷いダメージになってる筈です。

ドスはその隙に銛を一振りして、右側から回り込んできた丘巨人手下二人のうち片方の目を薙ぎ切って潰し、もう片方の首を
叩き落とします。彼は一つの動作で2体の丘巨人を無力化したのですよ。

「なんで‥‥こうなるだ?」

世界の何処かには自分より強い者がいて、いつかそいつと出会ってしまう。その事を解ってはいても、それが今ここでだとは
全く考えていなかった丘巨人の頭目は、為す術もなくそのまま三又銛で突き殺されてしまいました。


えげつないなー 技巧派が残虐ファイトに徹すると手に負えませんわ。ドスは頭目が仲間を殴り倒すように誘導して、誘導さ
れたことに気付かせて、驚愕のあまり動けなくさせてから急所に突き込んだのです。

武術とは本来、小が大を、弱が強を、巧が拙を殺すために磨き上げられたもの。
でかくて力任せな素人そのものである丘巨人の頭目は、ドスにとって恰好の獲物だったのです。


ドスはついでのように、目を潰され痛みと盲目状態に恐慌を起こしている丘巨人と、同士討ちで倒れたままの丘巨人の急所を
次々と突き刺して仕留めました。
丘巨人の最後の一人は、ウォスが投げつけた両刃の戦斧を受けて近寄ることもできず既にやられています。オーク勇者が本気
で投げたオーク向けサイズ鋼鉄製戦斧を、並オークの投げる並の戦斧と同じように受けたらそりゃ即死しますよ巨人でも。
半ばまで斧の刃がめり込んだ棍棒が、巨人の胸板を砕いて突き刺さりめり込んでいる。



倒れた丘巨人に止めが刺されたところに、後列のトロルどもがやってきました。
ボスとペットと取り巻きが全滅してしまい、仲間のトロルも既に2体が飛び道具で行動不能になっていますが何故か連中は意
気軒昂、士気が衰えていません。まだ状況を把握できてないだけかな?

ウォスの投擲攻撃はこちらに迫るトロルへ切り替わりまして、モッサリたちの矢を浴びながら突っ込んできた先頭のトロルは
銀の飛礫を受けて頭が爆散しました。これで残り6体。



良し、指が動く。
石化しかけていた身体が元に戻ってきたのです。読みかけだった巻物を読み上げて効果発動。


「二重詠唱、火柱(ファイアポール)!」

轟音と共に、高さ9メートル太さ1メートルの炎の柱が2本、トロルどもの背後に立ち上がる。
信仰魔法の第4レベル攻撃呪文、「火柱」の呪文です。
魔法使い系の攻撃呪文である「火球(ファイアボール)」や「炎の嵐(ファイアストーム)」と比べると効果範囲と瞬間火力で劣
りますが、この「火柱」の呪文は効果時間が長いという長所があります。

ゲーム的に言うと「火球」は着弾点のマスとその周囲4マス内に瞬間的な大ダメージを与える呪文ですが、「火柱」は発生し
たマスに中ダメージを与え同時に周囲1マスに弱ダメージを与えつつ、数ラウンド間存在し続けしかも術者の思い通りに1ラ
ウンドあたり1マスずつ移動させることができるのです。擬似的な召喚獣のように使えるわけですね。

倒れている2体のトロルに火柱を近寄らせて、互いの効果範囲が重なる位置に置きます。
トロルはバラバラにしても傷が再生してそのうち復活しますからねー よく焼いておかなくちゃ。
ちなみに火柱が2本同時に出たのは、同じ呪文が2回使える巻物だったからです。アイテムマスター能力を使うと、こういう
こともできるのですよ。もちろん本職のソーサレスも一定以上に腕が上がれば出来ます。



6体のトロルは確かに侮れない戦力です。人間族が相手なら大きめの村でも全滅するでしょう。小さめの都市だと撃退はでき
るでしょうが、その後の運営が難しくなるほどの被害を受けかねません。
ですが今の状況でオーク勇者二人を出し抜いて後列に攻撃できたとしても、下っ端とはいえ完全武装した上で防御に徹したオ
ーク達を一呼吸で殺し尽くせるでしょうか? 

それはかなり難しい。
幹部の指揮下であり後に女子供がいることで、下っ端オーク達の士気は天元突破しています。最後の一人が死ぬまでトロルど
もの前に立ちふさがり続るのです。
どんなに巧く立ち回ってもトロル側は女子供を人質に取る暇もなく、背後から追撃を受けて挽肉にされるのがオチです。

かといって足を止めてオーク勇者たちと殴り合えば、トロル側が集中砲火と攻撃魔法の援護を受けたオーク勇者たちに削り殺
されるのは目に見えている。
というか移動中で更に2体が集中攻撃→挽肉→火炎瓶投擲→炙り焼きの連携技で始末されています。残り4体。

ただでさえ丈夫な幹部級オークに「飛び道具への耐性(ミサイル・プロテクション)」をかけてますので、下っ端たちの飛び道
具は全くと言って良いぐらい夫たちには通じません。誤射と同士討ちを恐れる必要がないのです。



「待て! もう止めだ、投降する。命だけは勘弁してくれ!」

今更ながら突撃が無謀すぎた選択だったと気付いたトロルどもは、オーク勇者たちと接敵する寸前で降参しました。
ドスとウォスは手を振って、下っ端たちの射撃や投擲を止めさせようとしますがそう簡単には止まりません。
結局、降伏を宣言してから更に3体ほどトロルが挽肉になりました。残り1体。
ですがそいつら3体にはまだ火や酸を使って止めを刺してないので、直に復活するでしょう。

ウォスの投げ飛礫で頭が吹き飛んだトロルなんか、床に飛び散った自分の肉片を探して這い回ってますし。
私も火柱の接近を止めて向こう側へ移動させます。これ以上こちらへ接近させると、投擲した油で濡れている挽肉状態のトロ
ルに引火しかねません。
燃えても別に構わないけど、夫たちが降伏を受け入れたからにはこれ以上燃やさない方針でいきましょう。
降参したのに挽肉にされて焼かれてしまったなんて噂が、オーク島の社交界に流れたら大恥です。


この場にお師匠様がいなくて良かった、のかな? もしいたらトロルどもは皆殺しにされてるから。
誰でも数日ぶりの熟眠を邪魔されたら機嫌が悪くなりますし、ソーニャさんは元からトロルが嫌いですからねー。
情報源なら、丘巨人を何人か生かして捕らえれば良いだけですし。


ふむ。せっかく用意した伏兵でしたが結局使わず仕舞いか。
まあ良い、次の機会で使おう。


やはり、戦力的には私が何もしなくても勝てました。ただし運が悪ければ怪我人が出たかもしれません。
炎の攻撃呪文にトロル連中の士気を挫く効果があったのは確かです。





 ☆109日め3、金銭は天下を回すもの☆



生き残った4人のトロル族は、非常に素直に尋問に答えてくれました。
見え見えの嘘で誤魔化そうとした同族が、ウォスの棍棒で爆散してしまい肉片に油まかれて火を付けられて「ウソ、キライ」
と呟かれたからだと思いますが、話がサクサク進むのは良いことです。

この丘巨人たちは、東の山奥からビィーヤ盆地へ降りてきた流れ者なのだとか。
盆地の森や荒野で暮らしていたトロルやオーガーの群を傘下におさめヴァダの街の北で荘園を襲い制圧したのですが、荘園に
備蓄してあった食糧を食い尽くしたので廃都の地下遺跡まで引っ越してきたのです。

自分たちこそが新参者なのに他者を無条件で縄張り荒らし呼ばわりしていた訳ですが、暴力こそ法のモンスター業界ではそれ
で正しい。勝っている限り天上天下唯我独尊で一向に構わないのですよ、末法の世では。
一回負けちゃったら全財産を根こそぎ持って行かれますけどね。

ええ、今は生き残りトロルに案内させて丘巨人一党のねぐらに来ているのです。
レェ・ウォス+私+サラさん+下っ端7名で丘巨人の財宝を回収するために。
勝者が全てを手に入れる。それが前世も現世も、地球も異世界も変わらぬ掟なのです。おお、人間道の殺伐なることよ。
巨人族も人間扱いで良いでしょう、一応は知的生物だし。


とりあえず、巨人族やトロルやオーガーの保存食を供養しますか。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。

「プギィ‥‥」

下っ端オーク達は勝利の喜びから一転して落ち込んでます。もうテンションだだ下がり。
女子供が大好きな彼らは、丘巨人の根城に積み上げられていた人間族の干物や燻製に女子供を加工したものが多かったことで
衝撃を受けているのです。

猫好きの観光客が、上海あたりの市場で捌かれた食用猫肉の山を見てしまったときに感じる衝撃‥‥よりもきついでしょう。
あー、焼き肉屋の「笑顔で手(前足?)をふる擬人化された牛さん豚さん」の動く看板を見てしまったインド人の気持ちが、
少しだけ解った気がする。
現地のトロル族から見れば、焼き肉屋でネギタン塩を食べたことを理由にインド人の暴徒に囲まれているかのような文化的理
不尽を感じているようですが、とにかく一度した約束は守らねばなりません。
命だけは助けると言ったからには命だけは助けないとねー。


例によって埋葬先や葬儀の方法に問題があるので、見た目は完全にグロいけど匂いだけは美味しそうなのが腹が立つ燻製や干
物は祭壇経由でエスティア様の所に送ることにしました。
下手に埋葬して、人間ジャーキーのゾンビとかになって徘徊されたら嫌すぎる。想像もしたくないです。
祭壇に捧げてしまえば消え失せますので、あとは天界の方々に任せます。霊的な意味でも悪いようにはならないでしょう。
同じ釜で燻されたであろう牛馬などの燻製肉も、オーク達は食べる気になれないのでこちらも捧げます。

オーガーの死体も、供物扱いで捧げてしまいますか。
いえね、丘巨人のねぐらには留守番のオーガーが4体いましてね。この連中が「俺らはオークなんぞにへいこらしねえぞ」と
喧嘩を売ってきたのですよ、ウォスに。


結果は言わずともお分かりでしょうが、まずは一対一の決闘でウォスが圧勝しました。
凄かったですよー 張り手一発でオーガーの首が四回転半ぐらいしちゃいましたから。蛮刀(フォールチョン)で滅多矢鱈に切
り付けてくるのを、ひょいひょい避けてから無造作に出した素手の一撃で仕留めてしまいました。

その現場を見せつけられた残りのオーガーは、何故か三人掛かりで一斉にウォスへ襲いかかり一斉にやられました。
何故か3対1で不意を突けば勝てる実力差だと見ていたようです。
節穴アイとミニマム脳味噌は脳筋種族の基本装備ですが、これは酷い。

オーク島の同族と違い東方世界のオーガーは自信過剰な身の程知らずで、勇気と無謀の区別が付いてない連中ばかりです。
大神殿の闘技場や浜辺での交流決闘って凄いですよねー。
あれを見続けることで、下っ端オークでさえある程度は自他の実力差が解るようになるんですから。

オーク島には「命が惜しけりゃ有り金全部と女を置いて失せろ」とウォスに言っちゃう程の節穴アイはいません。
一応は仲間のトロルに「なんでオークなんぞにへいこらしてるんだ」と尋ねもしないミニマム脳味噌もいません。
つくづく、大母様は偉大なんだなあ。教育とは継続なのですね、うん。
トロルのように、喧嘩を売るにしても言葉を選べばオーガー連中も命ぐらいは助かったかもしれないのに。



仕掛けたのはオーガー側からでしたが、先に当てたのはウォスの方でした。
1 順手順足の上段突きで、大上段から切り付けようとしていた中央のオーガーが顎と首の骨を砕かれ行動不能、致命傷。
2 挟み打ちをしかける残り2体の攻撃を、それぞれの腕と刀身に触れて受け流し互いを切り付けさせ同士討ちさせる。
3 片方に膝折りと肘打ちの連携技を入れて止めを刺すと同時に、もう片方に刺さった蛮刀の柄を掴んで圧し切り真っ二つ。

描写すると長いですけど、この動作が約2秒で済んでます。
しかも、ウォスはわざとゆっくり解りやすくやってくれたのです。
彼なりのサービス心なのか? 確かに参考になる動きでした。ただ倒すだけなら 2 の段階で同時カウンター入れれば、
それで済みます。受け流しや他の技術を見せたいからやったのでしょう。


ただ単に強いのではなく、強くて巧いのですよね一人前以上のオーク戦士は。
ウォスはモンスターであると同時に達人なのですよ。半端な腕力と無謀さしか取り得のないオーガーでは相手にならない。

巨人並の腕力と人間ならではの狂暴さと姑息な戦法が取り得の私でも、ウォスが相手だと全く勝負になりません。
可能な限り強化しても、です。仮にヤクザの所に殴り込んだ時点の私と、用心棒のヒルデニア剣士と、鎧コンビの四人がかり
で立ち向かったとして10秒‥‥いや5秒だって無理ですね、うん。

星が3違えばまず勝ち目は無い。
オーク島に着たばかりの頃の私が、黒熊に襲われたら助かりません。たとえそれが親と別れたばかりの若い個体でも。
星4かそれ以下の軟弱者オーガーでは、10や20で束になってかかってもウォス一人に蹴散らされてしまうのです。




さて、丘巨人の根城には財宝が蓄えられていたのですが‥‥意外に多いですね。
金貨と銀貨だけで10万ゴールド以上ありそうです、白金貨も入れれば20万ゴールド近くいくでしょう。
銅貨は少なめで、5万枚(500ゴールド)程度です。

袋入りの砂金や切り分けられたコイン、屑宝石や色々な物から剥ぎ取ったと思しき金箔や貴金属の破片がおよそ2000ゴ
ールド分。宝石や装飾品がおよそ16万ゴールド分に加え魔法の品も幾つかある。
家具や置物の類も入れて、金銀財宝が合計45±2万ゴールドって所かな? 

トロルの生き残りが言うには、とにかく吝嗇で強欲なボスだったそうですが、よくもまあこれだけ蓄えたものです。
今更言うまでもありませんが、アイテムマスターは触ったお宝の適正価格がなんとなく解るのです。

ちなみに魔法の品は、巻物がソーサラー向け1レベル呪文が1本、2レベルが2本。霊薬が2瓶。魔法棒(ワンド)が1本。
更に変わった形をした魔剣が1振りと収納系の中型家具(宝箱)が1個ですね。あとでゆっくり鑑定しよう。



む? これとは別にオーガーやトロルから巻き上げた財宝がざっと7万ゴールド(換金しやすいもののみ計算)あった筈。
丘巨人の集めた財宝と一つに纏めれば。


「50万ゴールドのお宝か、ある所にはあるんだねえ」
「どこかに隠しておいたら伝説になるかもしれませんね」


戯れ言はさておき、午後は財宝の処理で潰れそうです。
呪いの品や魔法のアイテムの扱いだけでも面倒ですが、コインが何十万枚となるとトン単位の重量になります。
アフリカ象換算でいうと3匹分ぐらい? そして宝物の半分以上は同じ価値のコインよりも重たい。

腕力だけはあるとはいえ、良くこんなの運べましたよねえ丘巨人どもは。
いえね、丘巨人のねぐらにあった魔法の宝箱は無限袋の親戚でして、沢山のお宝が入るのですが重さは変わらないのです。
これを御輿みたいに大勢で担いで動いていたのですよあいつら。


50万ゴールド。金貨一枚が五千円とすれば25億円。
一財産ではあるけれど、オーク島では一人分の嫁取り資金にもならないんですよねえ。

特産品なんてそんなものか。オーク島でなら一山幾らの香辛料がビィーヤ盆地ではそれなりのお値段になりますし。





 ☆109日め4、やればできることもある☆



約束どおり生き残ったトロルたちを解放しました。ヴァダの街近くで見かけたら殺すと脅しておいたので、今度会ったら始末
するとしましょう。

巨体の割に素早くて器用で、知性も意外に高く有能なのですが信頼性は0どころかマイナスなので仲間にはできません。
オーガーはあれで同族というか血族には甘かったりするのですが、トロルは内ゲバ大好きですからねえ。
種族特性として「根性悪」とか「仲間割れ」とかを持っているんじゃないかってぐらい性格悪い連中です。

巨人族としては異常に高い繁殖力を持っているのに東方世界ですら少数種族だったり、鉄の王滅亡以来100年以上経ってい
るのにオーク島に群れや村を作って定住しているトロル族がいないあたり、そのえげつなさが解ろうというもの。
大母様とソーニャさんの気が合った理由の一つかもしれませんね、トロルへの評価は。
どんな種族にも長所と欠点があるのでしょうが‥‥ ん? 待てよ、トログロダイトにあったっけ、召喚以外の長所が?

まあとにかく、我々の巣に迎え入れるなら赤ん坊の世話を頼んで何の心配も要らない程度には信用できないとねー。

なので東方世界の豚やイノシシはペットや居候にしないようにとソーニャさんから厳命されています。言うまでもなく、増え
ている居候イノシシたちは全員オーク島産まれです。
西方やヒルデニアの親類と比べても、更に東方の豚やイノシシは気が荒い。
それこそ油断したら家屋に侵入されて揺りかごの赤ん坊が食われてしまう程です。

トロルは野生動物よりも信用なりません。虎はお腹が減っていなければ獲物を見逃すことがありますけど、トロルが弱い者虐
めの機会を見逃すことなんてありませんからね。
つついただけで泣きわめく、人間の幼子なんかはトロルにとって恰好の玩具。近寄らせてはいけません。

報復や処罰を受けるのが分かり切っているのに仲間や親玉の子供へちょっかいかけるのか? って?
そこを知恵の限りを尽くして、事故や偶然に見せかけてでもやらかすのがトロル族なのですよ。種族全員がサイコパスの猟奇
殺人鬼みたいなものですからね、連中は。



丘巨人たちが集めた財宝を担いで帰ってみれば、仮拠点ではドスが石化大蛇の皮を剥いでいる所でした。助手にサダキチが付
いてます。外見は只の大蛇でしたけど、実は魔獣の類だったらしく良い革になりそうだとドスは言ってます。

色々ありまして、最近は革の加工作業にも下っ端の一部が加わっているのです。いわば弟子候補ですね。
夫たちが言うには、私とソーニャさんの修行を見ていて刺激を受けたとかなんとか。

悪くない傾向ですよね。人材育成的に考えて、稼ぎ手が増えそうですし。


別居中の女子供を入れて35人の巣に、幹部級戦士が4名+呪文使いが3名(兼業含む)というのはオーク族的には充分に充実
した戦力なのですが、私的にはまるで足りてません。
3つもある拠点を守りつつ迷子を捜して嫁さん募集するには少なすぎる。
下っ端たち、特にゴエモンが急成長している点は明るい材料ですが、できればもっと即戦力が欲しい。


「あれ? エレナさんが確か魔術師だったような?」
「たしなみ程度には使えるが、戦力には数えない方が良いだろうな」

人面獅子迷宮と仮拠点をひっきりなしに、そして人面獅子迷宮とミッシェル山大神殿を行ったり来たりしているコーネリアに
よれば、イワノフの第一夫人であるエレアノーラ・なんとか(中略)かんとか・ド・スティルウェアさんは初歩の演算魔法が使
えるそうです。
ただし本当にたしなみ程度でしかもペーパードライバー状態なので、実戦投入は無理だろうとのこと。
大神殿で娘達と一緒に訓練を受けていますが、星0扱いになるには数ヶ月が必要でしょう。

とりあえず魔術師用の棒(ワンド)や杖(スタッフ)や巻物(スクロール)を使える人が増えるだけでも有り難い。
前線に出せなくても後方で輸送や工事などをしてくれれば助かります。


‥‥ふむ。
確か、ゲームによっては盗賊(シーフ)とか野伏(レンジャー)とか吟遊詩人(バード)とか商人(トレーダー)とかが巻物を読める
ルールになっているものもあったような?
どこぞの太目な武器商人も、不思議な迷宮で杖や巻物や色々なものを使ってましたし。

マリアに巻物が使えるかどうか試してみましょう。駄目で元々です。
薬草つみは魔女の下積み修行の一つですから、マリアに魔法使いの資質があっても不思議じゃありません。



計測用のアイテムなども使って色々試してみましたが、マリアには呪文使いとしての素質がありませんでした。
一番向いているのが戦士系ですね。天才でも秀才でもないけど、凡庸という程でもありません。
100点満点でいえば53点ぐらい。

低くなんかありませんよー 並の戦士系冒険者の素質が25点とかですからね。
10点ぐらいの素質が有ればその分野で食べていけるぐらいにはなれるんです。
ちなみに魔法使いとしての素質が100点満点中の100点なのが、オーク島で嫁取り決闘してる幼女妊婦ソーサレスです。
掛け値なしの天才なのですよ、ルーナ姫は。


マリアは今から鍛え込めば、10年以内に弱めのオーガーぐらい簡単に倒せるようになります。
もちろん呪文の援護やアイテムによる強化なしで。
引退した時点のサラさんがそのくらいの強さですかね。星でいえば4ぐらい。


意外なことに、サラさんの方が魔法使い(ソーサレス)としての素質がありました。
それもソーニャさんに比べればやや落ちる程度の、充分に優秀と呼べる水準で。
もしサラさんが少女時代に良い師匠と出会ってさえいれば、今頃は一人前のソーサレスになっているでしょう。

今から修行を始めても決して遅くない。凡庸な師と普通の環境で学ぶ1年は愚昧な師と劣悪な環境で学ぶ10年に優り、優秀
な師と恵まれた環境で学ぶ1年は凡庸な師と普通の環境で学ぶ10年に優るのです。
運良く生き延び続けられるなら、将来的に異名持ち(ネームド)級魔法使いだって夢じゃありません。


「即戦力に、なるかもよ」

ソーニャさんは頭の中で訓練計画の見直しと整理をしているようです。
見たことありませんけど、「山の中でたまたま水汲みに来た小川の底に宝石の鉱脈が露出していることに気付いた山師」って
こんな顔をしているんでしょうね、きっと。


「魔法の矢(マジックミサイル)!」

サラさんの詠唱と共に光弾が飛んでいきまして、空中で標的の大ホタテ貝の殻が砕け散ります。
この二枚貝はオーク島の近海で捕れる回遊型軟体動物でして、タライよりも大きくなることもある。
食べて美味しく貝殻は色々と役立つ素敵生物です。いま砕けた殻はシチュー皿よりやや大きい程度のものですね。

「グヒー!」

標的を投げたのも見守っていたのもみんなして、下っ端たちは歓声を上げて喜んでいます。
大神殿の巫女さんたちや剣闘士たちそして人妻たちを眺めて育った彼らには、女が呪文使いであることは良いことなのです。
競り市での評価も、呪文が使えるかどうかで割り増し倍増しが当たり前ですからね。

オークにとって魔法は恐ろしいものなので、魔法を使う恐ろしい人間雌が平伏し身も心も委ねてしまう強い雄をますます尊敬
し憧れるのです。
可憐な女の子が大好きな下っ端オーク達ですが、強くて頼りがいのあるおっ母さん系も大いに需要がある。


素質があって、師匠が良くて、修行に励む動機があって、環境に恵まれていると技能は凄まじい勢いで伸びていきます。
現に教え始めてから3時間かそこらで、サラさんは直感魔法の巻物を使いこなしているのですから。
彼女は、この短時間でソーサレス0レベルになったのですよ。
何ヶ月か、あるいはもっと短い時間で呪文も使えるようになります。


実を言うと神官としての素質は更に高そうなんですよね。ええ。
私の直感と、女神様の見立てでは78点ぐらいの神官向け素質があります。シスター服も似合いそうだし。
何という才能の持ち腐れ。いや、この才能があったからこそ今まで無事にやってこれたのかな?

後で聞いた話ですが、ルウ‥‥巡礼母娘の親の方にもソーサレスとしての適性があるそうです。
それもサラさんのそれに迫る水準で。流石に娘の方は素質とかどうとか言える年齢じゃありません。


Q3、まさかこれも仕込みですか?
A3、仕込みかもしれないことは否定しませんが、我々のでないことは確かです。


むう。今にも死にそうだったから保護(拉致)してしまった巡礼親子でしたが、お師匠様はルウの素質を見抜いていたのかな?


とりあえず、マリアとサラさんへは本格的に再武装させますか。幸い余っている魔法の武器や防具もありますし。
魔法の布鎧や「保護の指輪」などなら、素人の幼女でも今すぐに使える筈です。
ついでに私の装備品も組み直してみます。今の装備選択はわりとやっつけ仕事ですからね。
ソーニャさんからはお下がりや仲間用そして弟子用の取り置き装備品を山ほど渡されてますし、装備選択も修行の内。

うーむ、幾つかある「人食い鬼腕力の籠手」のなかで私の戦闘流儀に一番合うのは青い魔法合金製のやつなのですが‥‥
マイナス効果のある装備品って好みじゃないんですよねー。
マーフィーの法則を体現している粗忽者としては、失敗する要素のある装備品は極力避けたいのです。

赤い魔法合金製のやつにするとしましょう。これには今装備している標準型よりもやや装甲が薄いという短所がありますが、
青いやつの ・それは技量が低いと接近戦の命中と受け払いを下げる よりはマシです。

青い人食い鬼腕力の籠手は中級者以上向け装備品でして、嫁取り戦に出られるぐらいの腕なら問題ありませんが私程度の腕で
は使いこなせません。戦闘中に手に握った武器がすっぽ抜けて飛んでいきかねない。
高確率で麻痺攻撃と致命的攻撃が発動するのと、「魔法の矢(マジックミサイル)」の呪文に似た効果が一日3発充填されるの
は悪くないのですが、私は基本的に盾(シールド)を使いませんからねえ。盾技能が上がる機能があっても嬉しくない。

赤い籠手は青いのに比べればまだ初心者向けで、中級者や上級者でも工夫次第で使いこなせます。
付与された機能が初心者向けなのは黒い籠手ですが、ごつくて重たい重戦士向け装備なので私の流儀には向いてません。





 ☆110日め、噂と真相☆



人間族の女は服が好きな生き物です。特に質が良くてお洒落なのが。
なので、異邦人の神官である私がヴァダの街で古着や反物を買い漁っても何もおかしくないのです。
古着といってもボロじゃありませんよー 古着屋では安物も扱ってますが私が買うのは新しくて出来の良い品だけです。
近いうちに最低2名は嫁入りしますから、花嫁衣装と嫁入り道具も最低2人分できれば4人分用意しないと。

あと、景気対策の一環でもあります。
しばらくはヴァダの街を基点にする予定ですので、街の存続する確率を下げないためにも現金を使おうかと。


えっとですね、この街の人口は1万人いないのですよ。スラムなどの住人を含めても。
そして私は、ここ数日で街の人口の1%程度をぶった切りました。
ヤクザが60以上+ゴロツキ冒険者が7+巡り合わせが悪かった冒険者が5で合計80人近く仕留めています。
しかもその殆どが働き盛りか年寄りだけど働いている層でして。
ろくでなしのゴロツキでも、一度にそれだけ死ぬと経済に悪影響が出るのです。

おかげで街の住人からの視線がキツイのなんの、針の筵というより腫れ物扱いですけどね。 
お師匠様がいなければ、街の有力者たちに睨まれて抗争になっていたでしょう。
そしておそらくは負けていた。運が良ければ逃げ延びられたかもしれません。

先日の殴り込みでは、腕利きとはいえ用心棒一人に危うく殺される所でした。
スラムの顔役があんなのを雇えるのですから、街の表側で有力者やっている連中はもっと強いのを手駒にしている筈です。
生き残ったトロルの供述では先日の丘巨人軍団は近いうちにヴァダの街を襲うつもりだったそうですが、無謀すぎる。
異名持ち(ネームド)級は片手で数えられる程度でしょうが、辺境の都市だからこそ強者は必ずいます。いないと滅びるし。


ヴァダの街の防衛戦力は私や巨人野盗団になら勝てますが、相手がソーニャさんでは相手になりません。勝てないしそれ以前
に逃げるでしょう。権力者だって命や金銭や権力基盤は惜しいのです。
数日前はあんなにいた監視の目や尾行者がめっきり減りました。
ソーニャさんが自分に付いたのと合わせて怪しいのを5人ぐらい切ったから、本物かどうか確かめに来ていたのは逃げ去った
のではないかと思われます。

なので大量殺人者でありながら私は裏も表も城門を自由に通れますし、巡回の警備兵が向こうから道を譲ってくれます。
街なかで切ったのはヤクザかヤクザと組んでいる悪質冒険者だけで、堅気は一人も切ってませんから個人的に良心の咎めとか
全く感じてませんけど、それで良いのかこの街の治安機構は。

で、前世の習慣から道を譲ろうとした私と、警備兵が大通りで反復横飛びみたいに左右に動くはめになったりする訳で。
‥‥疲れるなー東方世界は。


あ、今日もちゃんと裏門の門番隊に通行証を支払ってますよ。一回通る度に200ゴールドずつ。
こまめに欠かさず、が付け届けの基本です。
鎧コンビと女たちの馬車が出発するときにも、彼らには便宜を図ってもらわないといけませんからねー。

念のために確認してみましたが、獲物は無事に人生の墓穴に填り込んだっぽいですね。鎧コンビと11人の女達は、良い宿で
10人以上泊まれる大部屋を借りて朝から晩まで「ぎしぎしあんあん」しているようです。

良し、計画通り。



話を戻しますと、ゴロツキとはいえ経済を動かしていた層が、逃げたのや鎧コンビが仕留めたのも入れると100人以上消え
てしまったので市場が混乱気味なのです。人口の1%以上ですからねー。
まだ生きている筈のヤクザ別働隊も、ソーニャさんがいるかぎりこの街には近寄らないでしょうから更に需要が減ってます。

物騒なこの地域では特に珍しくもない事態ですので、いずれ治まりますが幾らかでも混乱を静めようと思いまして。
衣服や反物、食料と燃料、雑貨に家具などを購入しているわけです。
そんなに買って使い切れるのかって? 余ったらミッシェル山大神殿に奉納すれば良いのですよ。


物資が取り引きされる場所には人が集まります。人が集まれば情報も集まります。異郷からの外来者である私が情報収集に熱
心なのは当然でして、買い物に「噂話」や「世間の評判」が入っているのも当然です。


北の荘園を占拠していた丘巨人の一党がいつの間にかいなくなっていて討伐隊が手ぶらで引き返してきた、とか。
南の街道で黒ずくめの騎士が勝手に通行料を取り立てていて市議会が賞金を掛けた、とか。
夜中になると町はずれの共同墓地に鬼火(ウィスプ)が出てうろつき回っている、とか。
ケルドン商会なる新興交易商の大規模商隊が野盗団に襲われて全滅した、とか。
ヴァダの街に近い閉鎖された宝石鉱山に怖ろしい怪物がでて大勢の密掘者が石に変えられた、とか。
裏門近くにねぐらをもっていたオーガーの宝を取りに行った冒険者一行が全滅した、とか。
街近くで新種の毒キノコが大繁殖して少なくない中毒患者が出た、とか。
僻地の村に吸血鬼が現れ退治されるまでに村人の半分近くが犠牲になった、とか。
巨大蜜蜂の蜜が品薄で値上がりが続いていてこのままだと回復薬の相場が上がり続けそうだ、とか。
ビィーヤ盆地のあちこちでオーガーを中心にしたモンスターの小部隊が焼き討ちや略奪を行っている、とか。
近隣領主の数家と複数の神殿勢力がお互いを邪教団であると疑いをかけたり断定したりして宣戦布告した、とか。
近場の村を脅しているミノタウロスの巣へ向かった討伐隊が超精鋭のドリームチーム状態だ、とか。
背任容疑をかけられて逃亡中だった前々(中略)々市長一家が隣町近くの廃屋で惨殺死体となって発見された、とか。
僻地に隠遁していた高名な錬金術師の館が火事になり一晩で燃え尽きたが焼け跡から焼死体や骨が出なかった、とか。
死都ガモンの入り口近くに強いモンスターが陣取ってしまい中に入れなくなった、とか。
郊外にある何十年も前に閉鎖した孤児院跡地に大量の亡者(アンデッド)が湧いてしまい近寄れなくなった、とか。
南バルキア地域で邪教団連盟の盟主をやっていた暗黒大司教が盟主の座を放り投げて一介の田舎坊主に戻ったらしい、とか。
ヴァダ市近辺の胡椒相場が暴落して山を外した香辛料商人が何人か首を吊ったり夜逃げする羽目になった、とか。
宝石相場も混乱気味で小金持ちの間では貯蓄の流行は美術品や白金貨に移っている、とか。
南西の山裾でこれまで伝説上の存在だと言われていた「月の塔」なる迷宮が発見され攻略が始まった、とか。
隣り街にとびっきりの上玉ばかり集めた娼館ができて連日大繁盛している、とか。
ビィーヤ湖に巣くっていた湖賊の隠れ家が何者かに襲われ皆殺しにされたのに何一つ財貨が奪われていなかった、とか。
辺境地帯を荒らし回っている野猿(バブーン)の群を討伐に向かった領主連合軍がボロ負けした、とか。
西の砦跡地を根城にしていた大規模野盗団が腕利きの冒険者一行に討伐された、とか。
東の森に巣くっているゴブリンの大集団が活発に動き出した、とか。


冒険者関係の話題に偏り気味ですが、ばらまいたコインに見合うだけの情報が色々と入ってきました。
所詮は噂話なので信憑性はもう一つですが幾つかの噂は、私の知る事実に近い。全くの出鱈目な噂もあるでしょうけど参考に
はなります。
なお、先日の殴り込み事件は「リガの剣姫が弟子にしようとして保護者と交渉中だった少女を、攫って身代金を取ろうとした
馬鹿なヤクザ組織が皆殺しにされた」という噂になってますね。

世間の噂なんて、流れていくごとに解りやすくて面白い方向へどんどん変わっていくものです。
水兵服姿の女剣士がヤクザを切ったこと自体は本当なのですから、最近は水兵服姿で動いている英雄冒険者本人が切ったこと
にした方が聴き手に受けが良い。
私とお師匠様も、その方が色々と都合がよいので放置しています。



本日はソーニャさんとマリアと私の3人でヴァダの街に行きまして、マリアがソーニャさんの保護下に入ったことを薬師ギル
ドや冒険者の宿などを巡り歩いて周知しました。コインと一緒に噂もばらまいてます。

マリアは仕事を辞めるので3人組の老婆やお得意さまに挨拶回りしたのですが、薬師ギルドは薬草摘み見習いの登録を消さな
いでおいてくれるそうなので、これからも安めの上納金さえ払えばマリアはヴァダ近郊で薬草つみを続けられます。
お得意さまも小母さんの快癒とマリアの幸運を我が事のように喜んで餞別まで包んでくれましたし、マリアって本当に対人能
力高いというか人を見る目があるというか。正直羨ましい。

不特定多数から満遍なく好かれる才能ではなく、特定の好きになれる人物を見つけて尽くすことが出来る才能を持っているの
ですよ。そして好きになってくれる、好いて貰えると得になる人物を見抜く能力も持っている。
やはり彼女は娼婦よりも愛人や愛妾や愛妻に向いています。



その後は別行動となりました。マリアは疲れてしまいましたので仮拠点に帰ってお留守番です。
私は前述のように買い出しと噂の収集、あと市街の地形把握。

お師匠様はあちこちに出かけては細かい討伐依頼をこなしています。
挨拶回りに行く前には既に、小規模盗賊団がねぐらにしている地下倉庫に殴り込んで潰してますし。
挨拶回りを済ませてからスラムの隅に潜んでいた賞金首と決闘して首を取り賞金に替えましたし、昼飯前にはヴァダ市近くの
河に出たヒドラを狩り、晩飯前に郊外の農園で異常発生している巨大カタツムリの群を駆除する予定です。
時間に余裕があれば他の討伐もするかもしれません。

で、その合間に仮拠点へ顔を出してオークや女たちとご飯食べたり風呂に入ったり「いちゃいちゃ」したりするのですよ。
晩ご飯の後は仮拠点や人面獅子迷宮の工事をしたり、巣の仲間たちと遊んだりして過ごす予定です。



なんかね、もうヴァダの街周辺が危ないというか、熱烈すぎるのですよ冒険者的に。
冒険者の需要がありすぎて、お師匠様が暢気に骨休めやりにくいぐらい依頼が来るのです。
賞金首の張り紙が掲示板埋め尽くしている有様から解るように、この街は冒険者の仕事が溢れています。
東方の辺境なんてこんなものかと思ってましたが、流石にこの状態は珍しいとか。


どんな社会も上から腐っていくものでして、ファンタジー世界でも例外はありません。
今更ですけど、ヴァダの街は腐敗しているのです。政治的な意味で。

元から街の財政が上手くいっていなかったのに、役所が冒険者報酬への補助金を引き下げると同時に冒険者向けの商売をして
いる商店からの徴収を強めたため更に景気が悪化して冒険者が減り、治安が悪化してもっと景気が悪くなるという悪循環。

割の良い正規の仕事が減ったから腕が良くて長期的視野を持つ冒険者たちが街から姿を消し、裏稼業向けのえげつない仕事が
増えたためにその手の仕事に適性のあるゴロツキめいた冒険者がのさばりだす。
もともと冒険者なんて体裁の良いゴロツキみたいなものでして、よりマシな冒険者を優遇し育てていくための仕組みが「冒険
者の宿」による依頼選別と報酬の割り増しなのです。
施肥や間引きをしなくなった畑が荒れ果てるように、ヴァダの冒険者たちは悪貨が良貨を駆逐している。

冒険者に含まれるゴロツキやチンピラの比率が増えると、それらを纏める新興ヤクザ組織が幾つも現れては互いに潰し会う。

ヤクザかヤクザ未満の社会性しか持っていない層が主流になれば、堅気からの依頼が堅気寄りの冒険者へ集中するのは当然。
しかし補助金が削られているので報酬が相場より低く、成功しても赤字になりかねない依頼が増えるので危険度の低い確実な
依頼から優先的に請け負われてしまう。
結果として冒険者の宿では、引き受けられる当てのない危険で報酬の低い依頼が溜まっていきます。

背に腹は変えられないので、重要な任務には当事者や有志層から追加報酬が積まれて討伐隊が組まれます。
ですがそれが繰り返されるようになると、公共心を持っている(と宣伝したい)資産家ばかり損をして「街の危機なんだろ? 
頑張って始末しろよ。俺は一銭だって出さないけどな(本音)」という連中ばかりが得をするわけです。


で、一応は英雄であり善性の気質だと評判のソーニャさんは細かくせせこましい依頼でも、そう無碍にはできません。
実際の話、悪い人じゃないんですよお師匠様は。正体がオークの雌奴隷なので人間社会側に属していないだけで。



今年に入ってから既に市長が11回変わってますが市議会はその度にグダグタ具合を増している有様です。
まあ、数年おきか十数年おきにこうなるので市民は慣れっこですけどね。
近いうちにこの仁義なき抗争劇が行き着くところまで行って、市議会の面子が一新されるでしょう。その前に近隣領主や有力
寺院の間で生存競争が起きますけど。

というか既に何ヶ所かで小競り合いが起きています。
ボルトニクス家の壊滅は、何時起きてもおかしくなかった近隣諸勢力の争いをいまこの時点で引き起こしてしまったのです。



さーて弱った、これだけ盤面が動くと迷子を捜すのが更に難しくなってきましたよ。
なんにせよいきあたりばったりで動くと危険ですし効率が悪いので、街での情報収集はまだ続けないといけません。


ちなみに本日はレェ・ウォスが温泉洞窟の様子を確認、ついでに縄張りの巡回と狩猟採集。
ギュー・グェスがビィーヤ盆地をうろついてハラキズ捜索の続き。
ゴォ・ドスが仮拠点と人面獅子迷宮の防衛を担当しています。

正直いってドスの負担が大きすぎですが他に手がない。
体調が回復して装備品を変更したサラさんの実力は星5以上ですので、彼女とゴエモンとコーネリアが組めば戦士オーク1人
分ぐらいにはなる筈です。留守番組に配した3人がドスの助けになると信じましょう。

人手不足は深刻です。どっかにいないかなー 性格良くて頼りになるひも付きでないオークが。
せめてハラキズがいてくれたらねー。何処で何しているのでしょうか、あの子は。






 ☆110日めの2、ネズミの巣は消毒だ☆



「ていやっ」
「ぢゅ──っ!?」

顔面めがけて飛びついてきた大ネズミを、クックリ刀で迎え打ちぶった切りました。


「そっちいったぞ!」
「あいてでででっ 噛まれた噛まれた」

背中やら腿やら数カ所に食いつかれた、やや肥満気味の戦士が悲鳴を上げてます。

「同時詠唱、対象分散、威力最大化、力弾(フォース・ブレッド)!」

敵意を集めすぎて大ネズミに集られている前衛に、無属性攻撃魔法をぶつけてモンスターだけを叩き落としました。
一度に4体仕留めたから幾らかは楽になる筈。
仮初めの仲間二人が剣や盾で残りの大ネズミを相手しているうちに、腰の小物入れから取りだした「癒しの石」を掲げて全員
の傷を治療します。

うーむ、まだ足りないかな? 「治療」の呪文も使って戦士の怪我を快復するとしましょう。
この「癒しの石」は戦闘中なら何度でも使えてしかも減らないという有り難い治療アイテムですが、回復力が低いのが難点で
すねー。範囲内の味方だけを回復するけど効果は割り算になるのです。
これだけに頼ると削り殺される危険がある。補助に使うべきもので主力にしてはいけません。



どーも、人間の街に潜入中のオーク妻、レイちゃんです。
ただいま廃棄された倉庫で大ネズミ退治をしています。

なぜに私が初心者向け罠ダンジョンの定番みたいな冒険をしているかといえば‥‥成り行きかな?


まず、情報収集のため冒険者向けの宿屋「酒の滝壺亭」に行きまして。
そこで昼間から飲んでいた顔見知りの冒険者と話し込んでいたのですよ。そうしたら、彼らが一昨日の朝に出かけた大ネズミ
退治の最中に大ネズミに噛まれたことが話題になりまして。

念のために診察してみたら、二人とも「ネズミ病」に罹患してました。まだ潜伏期でしたが発病すると数割の確率で死に至る
怖ろしい病です。初級冒険者の主な死因の一つでもある。
これはいかんと治療しようとしたら、信者でも冒険仲間でもない者に治療を行うのは拙いと止められまして。

彼らだって病気にかかっている可能性が高いことは理解してますし、治療を受けたいのが本音です。
しかし流れの神官が顔見知りの冒険者へ勝手に治療をすれば、「ちょっと其処の貴女、誰に断って商売しているのですか」と
地元の神殿が因縁つけてくるわけです。

どこまで腐ってるんでしょうかね、この街は。
ならば、とその場で即席冒険チームを結成して病人を治療しまして、辻褄合わせに中断していた彼らの大ネズミ退治に中途参
加したのです。


他人だから適正(ぼったくり?)な報酬なしに治療してはいけない訳でして、身内や運命共同体である冒険仲間になら一々報酬
など取ったり渡したりしなくて良いのです。
だって、冒険の最中に仲間へ一々「金銭を払わないと治療しないよ」とか言い出す奴は‥‥いるかもしれませんね、うん。

まあとにかく患者が冒険へ協力すること、その結果としての癒者が生存することが冒険仲間どうしでの正統な報酬なのです。
生き残るための必要経費ですから、冒険中の治療呪文の行使に一々謝礼は必要ありません。
サラさんへの治療が「身内候補への施療」として許されるのなら、二人組への治療も一緒に冒険さえすれば許されます。

それでも許さないと言い張る奴が出てきたらどうするかって? ヤクザどもより酷い目に遭わせてやりますよ。
二人組への治療を認めないということは、即ちサラさんへの治療も認めないということ。
私から仲間を、家族を奪おうとする輩に容赦も妥協もありません。殲滅あるのみです。



そんな訳で、倉庫の地下室で大ネズミを駆除しているのですが‥‥まさか本当に初心者殺しMAPだったとは。
なんでこんなにネズミが多いんですかこの倉庫跡地は。米国製TRPG基本セットの付録シナリオじゃあるまいし。


「これ、依頼放棄しても許されるよな?」

戦闘とその後の治療を終えて、椅子代わりの空き小樽に座り込んでいる肥満気味戦士が疲れ切った声と表情で呟きます。
壁にもたれかかっている相棒の盗賊風冒険者は、答える気力もないらしく僅かに頷くだけでした。


まあ、ねえ。事前に聴いていた情報と違いすぎますからねえ。
依頼では30匹程度の大ネズミを全て倒し、地下室の壁に空いた大穴を塞ぐことが達成条件でした。
でもネズミ穴を塞いだこの時点で既に、70匹ぐらい倒しているんですけど。ボスっぽい超巨大ネズミも含めて。

この上で、地下室の何処かや地上部分に隠れている20匹前後の残党を捜し出して駆除とか、考えるのも嫌です。
ああ、まだ倉庫内に敵がいることが分かってしまうニュー○イプもどき能力が恨めしい。
こんなの初心者にやらせる仕事じゃないよ、私が普通の2レベル神官だったら死んでますよ絶対。

でも、依頼の期限は今日の夕刻までだし、ここまで労力を注ぎ込んだからには易々と諦めるわけにも‥‥。
損切りができないあたり、つくづく日本人だなあ私は。


ん? 待てよ、確かこんなときに使えそうなアイテムがあったような。


ごそごそと無限袋の中を探してみると、あったあった。魔法の片手鐘(ハンドベル)がありました。


「なんだいそりゃ」

怪訝そうな仮初めの仲間たち、盗賊?のレクス氏とその相棒の戦士?ディラン氏に、アイテムの効果とそれを活かした作戦案
を伝えます。
要は隠れている相手を捜すから逃げられたり襲われたりする訳で、ならば敵にこちらが罠を仕掛けた場所まで出てきて貰えば
良い。そうなれば一網打尽です。


まずは「保護円」の呪文で防壁を張り、その周りに空間を開けて「クモの巣(ウェブ)」の呪文で粘着網の防壁を張ります。
高さは地下室の床から天井まで、厚みは3メートルもあれば良いか。どうせ敵は大ネズミだし。

あとは敵を集める魔法の鐘を鳴らして、寄ってきた大ネズミが魔法のクモの巣に引っかかって動けなくなったところを駆除し
ていけば良い。
万が一にもクモの巣防壁を突破されたら「保護円」の中に入って、その中から範囲攻撃呪文の巻物か何かで一掃します。

たかがネズミ退治に高レベル呪文の巻物を使うのはもったいない気がしますが、今のうちに慣れておかないと実戦で使いこな
せないかもしれません。
ソーニャさんから貰った神官(プリーテス)向けアイテムは腐るほどあるのです、どんどん使って経験を積むとしましょう。
将棋やスポーツはヘボと10回やるよりも強豪と1回やるほうが良い経験になりますが、実戦は強敵と1回やるよりもカモと
10回やる方がより強くなれたりするのですよ、これが。死んだら元も子もありません。


片手鐘を鳴らすと、いつも通りの済んだ音色が響きます。しばらく鳴らし続けると‥‥来た来た。
って、多すぎやしませんか? 大ネズミなのに地響きが起きる程の数と勢いです。

立体格子状に張り巡らされた粘着糸に遮られてよく見えませんが、周り中からやってきた大ネズミが十数匹そして普通のネズ
ミが数十匹、魔法のクモの巣に突っ込んでもがいています。
そして後から後から次々と大小のネズミがやってきてます。もう絡まっている大ネズミだけで25‥‥いえ30越えました。

む? 大ネズミとは違う気配も迫ってきています。大ネズミよりも体格が大きい。数は30、いや40以上。
しかもこちらのモンスターも次々と増援が押し寄せて来ている。


「く、臭ぇ! なんだこりゃあ」

確かに臭いです。大ネズミのそれが可愛く感じてしまうほどの悪臭が漂ってきました。
腐肉と糞尿とその他様々な嫌な臭いが混じっている。
それに周りから「あ゛ー」とか「ぐおー」とかの特徴的な唸り声が聞こえてきてるのですが。
割と最近、聞いたことがある唸り声です。この前退治したときにもさんざん聞いた。


Q2、これはゾンビですか?
A2、はい。それは食いつきます。


ですよねー。気配がもろにアンデッド(亡者)です。
クモの巣の向こうに見える敵は、動く死体とネズミの混成軍。

「拙い、囲まれてるぞ! えらい数だ」
「ああ。それにスプリンターもいやがる‥‥走って逃げるのは無理か」


そっかー 魔法の片手鐘って、アンデッドにも効くのかー。
確かに、ネズミの類とアンデッドは私の敵だ。相容れようがない。
迂闊でした、このアイテムは効果範囲が予想よりもかなり広いようです。
一応は市街地なのに活動中のゾンビがわんさかいるとは、なんて暮らしにくい世界なんだ。


四方八方を取り囲む大ネズミとゾンビの群れが、粘着糸を食い破りながらこちらへ寄ってきます。
クモの巣の防壁は、あと3分も持たずに破られてしまうでしょう。
破られてもとりあえず結界に逃げ込めば接近されませんが、そうなると動けなくなります。
一度こちらから攻撃すると「保護円」の効果は消えてしまいますからね。

だから今のうちになんとかせねば。

ふむ。全周囲をいっぺんに攻撃できて、全てのゾンビを完全破壊できる攻撃手段もあるといえばありますがそれは最後の手段
にしておきましょう。仮初めとはいえ冒険仲間を、敵もろとも吹き飛ばすのはちょっと気が引けます。
最初の依頼で死人を出すと冒険者としての評判落ちますし。


なに、この程度のことトログロダイト騒動と比べれば危機でもなんでもありませんって。どうにでもなります。





 ☆110日め3、とにかく消毒だ☆



敵から逃げられないなら、殲滅すれば宜しい。
数で負けていてしかも包囲されているなら、場所を変えれば宜しい。
全周囲を塞がれているなら、こじ開けてでも道を切り開けば宜しい。

私は圧倒的優位にあり、それができるのです。


そういうわけで、行動開始です。

0 必要と思われる強化手段で、本人と仮初めの仲間たちを強化します。
1 鈎付きのロープを取りだして、地下室の天井に渡してある梁に引っかけます。
2 ロープをよじ登って梁の上にあがり、仮初めの仲間ふたりを梁の上に引き上げます。
3 梁の上を四つん這いで這って、クモの糸を引きちぎりながら進みます。
4 粘着糸の防壁を越えたら、梁の上からまだ糸に絡まっていないアンデッドや大ネズミを攻撃します。


ね、簡単でしょ。

そーれ、死人払い(ターン・アンデッド)をくらえー。
逃げる亡者には銀の投げ飛礫だー 逃げない亡者には聖水ぶっかけだー 襲ってくる亡者には攻撃呪文だー。
ネズミどもには対鼠用毒薬の広域散布だー。小さいのも大きいのも好きなだけ浴びなさい。


粘着糸に絡まった亡者の上を別の亡者がよじ登り、また粘着糸に絡まって動けなくなった上を別の亡者が‥‥と続いて梁の上
までよじ登ろうとしていますね。沼地を戦車で埋め立てて進む式の戦法、ではなくて只の偶然か。

「うりゃっ」

貪り食う無限袋に入れておいた適当な物を取りだし、よじ登る亡者の最前列にぶつけます。続いて絡まっている二列目三列目
とそれ以降にも。
朽ちた木材などでも巨人力でぶつけたので、亡者どもは半ば砕けつつ粘着糸の奥側へめりこみました。

敵が沼地に板材を浮かべてその上を歩こうとしているのなら、板を沈めてしまえば良い。
底なし沼に浮かべた板へ廃材をぶつけてめりこませた状態ですから、後続の亡者が粘着糸の固まりにとりついてよじ登ろう
として、次々と粘着糸に引っかかってます。

新手の亡者が引っかかれば、粘着糸の網が破れなくてもがいているうちにまた何かぶつけて、めり込ませてやるだけのこと。
空中に吊して踏ん張りが効かないようにしてしまえば、いくらゾンビが怪力でも魔法の粘着網はそう容易くは破れません。
結界の中での籠城策を捨てて、上方向に逃げたのはこれが狙いです。
これなら万一魔法のクモの巣が破られても、ゾンビどもが下へ落ちるだけですからね。
戦いは多くの場合、高い位置を取った側が有利になります。「猫は塀の上に、軍勢は丘の上に登りたがる」とも言いますし。


む、殺気!

「ふんっっ!」
「ぢゅっ!?」

梁の下でうごめいている亡者の陰に隠れていた大ネズミが、やたら良い動きで跳びはねて襲いかかってきましたが「人食い鬼
腕力の籠手」でぶん殴って叩き落としました。
お? まともに拳が入って石畳の床に叩き付けたのに、まだ生きてますよあの大ネズミ。
まさか甲冑武者より頑丈な巨大ネズミ(ジャイアント・ラット)がいようとは。
いえ、レッサードラゴンぐらいなら素手で絞めて捌いちゃうお姉さんの弟子やってますけどね私は。

突然変異なのか大ネズミに化けた別のモンスターなのか知りませんが、私が装備しているアイテムの効果を越えるにはレベル
が足りませんでしたね。再度跳びかかってきたところをクックリ刀で迎え打ち、頭から真っ二つに切り裂きます。
ふむ、流石に両断されてなお動きはしないか。ただ単にやたら強くて丈夫な巨大ネズミだったようです。
半分ずつになってしまった大ネズミの死骸はそのまま落ちていきました。死骸は亡者どもに踏み潰されている。


こちとらあれから何回もソーニャさんと夫たち3人に順繰りで「切り付け」を寸止めでして貰ってるのですよ。
素早い攻撃にも、不意打ちにも、間合いを盗む技にも幾らかの耐性が付いてます。
あの用心棒の一撃だって、今なら反応できます。武器が互角だったらやはり負けるけど。


「ていっ ていっ」
「糞っ こっち来んな!」

レクス氏とディラン氏も、梁の上から聖水を投げたり剣で大ネズミを叩き落としたりと頑張ってくれてます。
アンデッドのなかにはワイト(塚守)やグール(屍食鬼)やゴースト(亡霊)など、やや格上のが混じってましたが銀の飛礫と聖水
で問題なく倒せました。冒険者の定番戦術だけあって、中級までの亡者ならこれでごり押しできます。

むしろ、稀にいる動きの早いゾンビの方が厄介かもしれません。
連中、壁を駆け上がって掴みかかってきたりしますからねー。不意を打たれたら迎撃するまもなく後列が襲われてしまう。
死人のくせに活きが良すぎでしょう、黒タイツを着せたら特撮なしで戦隊ものの悪役が務まりますよあれは。 
まあ、「亡者感知」の呪文と鋭い直感で不意打ちされにくい上に、アイテムの力で最大4倍速で動ける私には素早いだけのゾ
ンビが数体では届きませんけどね。



気を取り直して駆除を続けます。
粘着網に引っかかっている連中は後回しにしても良い。後でまとめて、残さず仕留めるのですから。


5 あらかた潰したら下に降りて、取りこぼしがないよう念入りに始末します。


ええと、まだレクス氏とディラン氏に掛けた「耐性(レジスト)」の呪文(巻物)効果は有効か。
ならば念のため、もう一度毒薬を散布します。
ネズミは数が多すぎて、毒薬を使うしかありませんでした。大ネズミは毒で死ぬか、弱ったところを仕留めています。



ふう。これで動くものは全て片づきましたね。念のためにネズミとかの死体にも聖水かけておこう、別の悪霊とかが取り憑い
てアンデッド化したら困る。

毒を中和して、罠やモンスターなどの危険がないことを確認してから、投げた飛礫を回収しておきますか。
ゴミ拾いで煙草の吸い殻を拾う要領で火鋏みたいなものを使って銀の固まりを拾い集め、貪り食う無限袋に突っ込んでから
 銀 塊 の み を取り出します。こうすれば一々洗う手間が要りません。袋の中に残った汚物は1時間で消え失せる。

そのままにしておくと、この依頼を出した薄ら馬鹿が確認に来たときに銀塊を見つけて拾ってしまうかもしれない。
こっちは予算的に足が出ているのに、依頼者を更に儲けさせてやる理由はないのです。

というか呪われろ。
これから一生、楽しみにしていたおやつが必ずネズミに囓られる運命になれば良いんだこんな依頼を出した奴は。




一時はどうなることかと思いましたが、なんとかなりました。
雑魚主体とはいえ数が数ですので、レベルが上がる程じゃありませんけどそれなりの経験値になった筈です。
ひのふの‥‥これで大ネズミが約160体、うち特殊個体2。普通ネズミが450前後? 
ゾンビが51体、うち特殊型が7。スケルトンが27体。その他のアンデッドが9体。

あと正体不明の異形モンスターが1体。
なんでしょうね、コレは? 襲ってきたので斬りましたが。

襲ってきたときはまだ腐ってない新鮮なゾンビかと思いましたが、切ったときの手応えが生き物や元生き物じゃありません。
死骸?は溶けて崩れてしまいましたが、残骸の匂いからして鉱物油の集合体だったようです。
ゴーレム? いや、生きた彫像(リビングスタチュー)の方が近いのか?
動いてるときの外見は歪んだ人間で、動きや耐久性はそこそこ鍛えた人間程度、特殊攻撃などの目立つ能力はないようです。

まあ良いか。精々星2程度と弱いし、次にまた同類が襲ってきても怖くありません。


地上に出て調べてみると、あのゾンビどもは下水道から旧倉庫の廃棄トイレを壊して出てきたことが分かりました。
どおりで臭かった訳だ。連中は地下から這い出てきて、また地下まで降りて私を襲いに来たのです。
魔法の片手鐘ですが、今度からもそっと慎重に使うとしましょう。まさか石壁の向こう側にいる亡者の敵意までかきたてると
は思いませんでしたよ。

調べるついでに、下水道から這い上がれないでうごめいている動きの鈍いゾンビを駆除します。そーれ、聖水をくらえー。
うーむ、今回は簡単に倒せたけど、飛び道具などで遠距離攻撃できるゾンビがいたら厄介ですね。普通のゾンビと同じように
対処しようとして大損害を負う光景しか想像できない。今のうちに対策を練っておくか。


ゾンビやスライム類を駆除した後で、瓦礫のなかから適当な石材を選んでトイレに蓋をします。石材どうしが噛み合うように
填め込んだので、少数のゾンビ程度では持ち上げられない筈。
念のために、石材の隙間に薪や石炭の燃えかすを砕いて水で練ったものを詰め込んでおけばスライム避けになるでしょう。
なお、充填剤の材料は近隣の民家から調達しました。もともとゴミだし、用途がモンスター対策なので頼んだら皆さんこころ
よく提供してくれましたよ。


取りあえずはこれで任務達成、と。
三人まとめて「浄化」を掛けて身綺麗にして、ついでに病気の治療と予防の処置もしてから冒険者の宿に向かいます。
あとは結果報告をして報酬を受け取り、解散するだけだ。



動く亡者どもは金目の物を何一つ持っていませんでした。大ネズミの巣にあったものもガラクタばかり。
なので、戦利品はなし。依頼の報酬だけしか手に入りませんでした。
レクス氏とディラン氏は先日の掃除中に古びた武器の詰まった樽を見つけたそうですが、既に売り払って酒代に化けているの
で私には分配しようがない。

成功報酬を三等分して、134ゴールドかー。
運の良いことに、ゾンビ騒ぎを聞きつけた依頼主が「酒の滝壺亭」の受付まで来てましてね。賃上げ交渉の結果、報酬が3倍
近くまで上がって金貨400枚になりました。
で、それを分け合ったのですけど余りの一枚を固辞されまして結局は私が引き取りました。
やっぱり、悪い奴らじゃありませんよねあの二人。

増えても相場的に考えると難度と釣り合ってない報酬ですが、3ヶ月やそこらは遊んで暮らせる金額だと思えば大したものな
のかな?
副業で冒険者やっている層なら、月に一度か二度この手の仕事(冒険?)をやれば食うには困らないでしょう。
運か要領が悪いと、ころっと死ぬけどねー。たかが大ネズミ退治だからと事前調査を怠ってえらい目に遭いました。
装備の力にも限度があります。次からはもっと慎重に振る舞わねば。


物量作戦のために聖水を入れる瓶を買い足しておきますか。徳利ぐらいの大きさの、素焼きの瓶を店の在庫が空になる勢いで
買い占めます。安っぽいというか安かろう悪かろうの品物ですが、どうせ中身はゾンビに飲ませるんです。割れや罅や水漏れ
がなければそれで良し。
値引き交渉などやってられませんので、相場の数倍高い値段をつけて断られたら別の店に行くという方針で買い漁ります。

えーと、消耗品の瓶は充分買った。耐久品の食器や雑器は自作できるからこれ以上買う必要なし。
発火油も買ったし、酒も塩も食料も薪もロープも売るほど備蓄がある。ミルクとチーズをもう少し買い足しておきますか。
古着と布地は結構な量を買いました。蝋燭は品薄なのでこれ以上高騰すると拙い。

あと買えそうなものは何があったかな。特定の商品を買いすぎて品不足になってしまうのも難ですし。
そうだ染料があった。オーク島では出回っていない種類のもありますし、高そうなのから順に少しずつ買いましょう。




ん? なにやら周囲からの視線に変化がありましたね、それもあまり良くない種類の感触です。


温泉洞窟でアイドル気分だった頃の、とにかく 注 目 を 浴 び る 生活も決して無駄ではありませんでして、お師匠
様には遠く及びませんが私にも周囲の人々(観客や野次馬)の気配が動く様子が分かるのです。
染料屋さんから出てきた私に注目している人々が、同時に通りの向こうからこちらへ歩いてくる連中にも注目していて、その
多くは一定以上の距離を取ろうとしています。

でも逃げだそうとはしていない。ということは好奇心か野次馬根性か。
近づいてきたのは冒険者らしき4人連れですね。20歳前後の女剣士風な猫耳獣人と、軽甲冑姿の戦士風の男が2人、そして
革鎧を着た斥候職らしき中年男。


何でしょね? こいつら。





[38600] 61
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2017/06/03 11:22



 ☆110日め4、新たな‥‥どこかで見たような敵☆



先頭は猫耳獣人にしては丸顔で豊満な女、歳は19±1、美人ではないが水準以上、極めて健康体、お馬鹿っぽい。
推定技量星3~4。

右斜め後ろに革鎧の中年男。おそらく盗賊、小悪党だが刃傷沙汰は好まない。財布の紐握っているのはこいつか。
推定技量星2。

左斜め後ろに軽甲冑(ライトプレート)の若い‥‥もとい少年。歳は15前後、得物は剣と丸盾、実戦経験はそれなり。
推定技量星1~2。

真後ろに軽甲冑(ライトプレート)の男。歳は‥‥ なんだこいつ??


他の面子は解ります。
剣術自慢の女冒険者に、その舎弟の駆けだし冒険者に、半ばタカリな年季の入った(熟練しているわけではない)冒険者。
どこにでもいる普通の冒険者一行だ。

でも真後ろの奴は違う。
すごく変です。

まず、容姿が変。異様です。
醜いという以前に、とにかく変。いや、不気味と言った方が良いか。

一見すると普通なのですが、良く見ればそれが錯覚だと分かる。
異常なのですよ。人間じゃないものが人間の振りをしている感触。
なんというか、一人だけゴムの覆面を被っているというか人間の着ぐるみを着ているというか‥‥

腕に比べて脚が異様に長いし、頭身が多すぎる。10頭身以上あるよアレは。
髪が発光素材みたいに照り輝いてて、常人の倍はある眼孔に填っている目玉には殆ど白目の部分がない。
肌も不自然に白い。白粉を壁のように塗りたくってもここまではいきません。
顔の彫りは異様に深く、鼻や顎はリンゴとか放って当たったら突き刺さりそうなぐらいに鋭角的です。

恰好も普通じゃない。身に付けている装備品は、一級品なんてものじゃない代物ばかり。
鎧も槍も魔法の品しかも相当な業物ですし、帯(ベルト)や靴や指輪も強い魔力を帯びている。
他の三人とは装備の質が違いすぎるのですよ。


なんだか解りませんが、ただ者じゃありません。
大昔の少女漫画に出てくる王子様キャラを幻覚剤で酔っぱらった職人がラテックス素材の着ぐるみにして、中に数人の小人さ
んか何かが入って動かしているような、そんな怪物じみた存在が近づいて来ます。

思わず後に下がり、背中に担いだクックリ刀の柄を掴んでしまいました。
初めてトログロダイトを見たときよりきっついですわこれは。
邪神の落とし子よりはマシだけど、吐き気を催す程度には不気味です。


「な、なんだよ。やる気か!?」


話しかけようとした相手が臨戦態勢になったので、猫耳の女剣士も足を止め腰の剣に手を伸ばしてます。
斜め後ろの二人は左右に散って、女剣士と連携が取りやすい位置につこうと動いてますがバケモノだけは真後ろにいるままで
動こうとしません。

物騒な気配を感じて周りから人々が離れていきます。でも野次馬は増えた。
通りの向かい側にある反物屋が店の前に並べていた商品を大慌てでしまい込んでます。
飛び散った血とかが付くと大変ですからね。近くにいた屋台や露天商は既に店を畳んで避難済みですか、流石だ。

これだけの人がいて注目の的になっているのに、誰一人としてバケモノに騒いでない。
幻術でごまかしているのか、それとも東方世界ではあれが普通の存在なのか。
常識がないってのはつくづく不便だ。一人で来たのは失敗だったかな?


とりあえずクックリ刀の柄から手を離し、背を伸ばした姿勢で猫耳女剣士に話しかけます。

「私はヒルデニア人のレイ。あなた方は?」
「ジャンハ族一の剣士、カーニス様とはアタイのことさ」

鼻を鳴らし、ふんぞり返るように猫耳剣士が胸を張りました。嫌味かっ。
Dカップぐらいの形の良い乳房が、特上品の柔革鎧の下で揺れている。正直羨ましいです。
あのくらいの大きさが一番実用的なのですよね、奴隷妻的に考えて。挟んだりできますし。

「‥‥後の方の名を伺っても宜しいですか」
「ん? どうでも」

良いだろそんなこと、と言いかけて黙り込んだ猫耳女剣士は怪訝そうに振り返りまして。


「そういや、オマエ誰だっけ?」

と、真後ろにいる板金鎧姿の何かに尋ねました。
戦士風の舎弟がそれを聞いて、「やだな姐さん、兄貴はオレが入る前から‥‥」と突っ込み入れましたが、こちらも何かに気
付いたらしい盗賊風の中年男は腰の短刀を抜いてバケモノに投げつけ、叫びます。

「離れろっ そいつは敵だ!」

バケモノは短刀を槍の穂先で弾き飛ばし、幻惑か魅了の効果が切れたらしい中年盗賊を突き刺しました。避けようとした盗賊
でしたが槍で肩のあたりを抉られてふっ飛びまして、反物屋の店先に突っ込みます。
直撃してないのに大の男が5メートルは飛んだぞ今の!? なんて腕力‥‥違う、槍の特殊効果か!


猫耳剣士は飛び退いて剣を抜きました。まだ事態を理解していない若造の襟首を掴んで下がらせます。
本当に部族一かどうかは知りませんが悪くない動きですね。反応の早さ、視界の広さ、判断の精度もたいしたものです。
推定技量を星一つぶん上げておきましょう。

バケモノは、私目掛けて突き込んできます。
鋭い一撃ですがドスの突きとは比べものにならない。ですのでクックリ刀で払いのけられました。重たいけどなんとかなる。
しかし踏み込んで反撃に切り付けられる程の隙はない。槍と刀では間合いが違うのですよ。

勝てる かな? 接近戦の能力だけなら私に分がありそうです。速さはアイテムで補えるし、腕力は圧倒的に優っている。
バケモノもそれを察したのでしょう。身を翻して逃げ出しました。染料屋の看板に跳び上がって、看板を足場に更に跳んで屋
根へ上がろうとしています。

よし、追撃だ! 投げ斧(トマホーク)をくらえっ 


あれ? 当たったのに平気で動いてる?
無限袋から取りだした鋼鉄の斧が背中に直撃したのに、バケモノは斧が刺さったままバッタみたいに屋根から屋根へ跳んで逃
げていきました。
塚守(ワイト)のように普通の武器が効かないのではなく、素のHPで耐えきったようです。
ということはあいつ、並のトロルよりも頑丈なのか。外見だけでなく本当にバケモノだ。


なんだったんでしょうね、アレは? 
追跡はできますが止めておきましょう。市街で立ち回ると彼奴の方が有利、というより土地勘がない私に不利過ぎる。



追いかけて飛び上がった染料屋の屋根から、壁を伝ってよじ降ります。落下対策はしてますから気分の問題ですが、衝撃は胎
教に悪いですからね。避けるに越したことはない。
胎教といえば‥‥それより怪我人が先か。

反物屋の店先に叩き付けられた盗賊ですが、重傷です。
打撲の方は上手く受け身を取ったのですが左腕が肩からもげかけている。今すぐ名医の処置か治療呪文を受ければ命は助かる
でしょう。

「はい、退いて退いて」

右手に重傷治療薬、左手に「治療」の魔法棒(ワンド)、そして唱える第一階梯信仰呪文。
レベルは低くとも主神級神格の直接指導を受けた神殿長の私が、アイテムマスター技能を使ってそれぞれ威力最大化した回復
系効果アイテムと合わせて同時三重使用! おまけに薬も棒もエスティア神の祭壇で祝福済み!
その威力はHP回復量にして致命傷治療薬を確実に越える!
という訳で千切れかけの腕がくっつきました。流れ出た分の血も足しておきましたので怪我する前より元気なぐらいです。


「凄ぇ、こんなの見たことねえ」
「これがエスティア様のお力です。信仰して損はありせんよ、安産や子育てにも御利益ありますし」

舎弟君が呆れたように呟き、野次馬の中からもエスティア神の御名を讃えたり聖句を唱えたりの声が聞こえます。
うむ、なんか今5人ぐらい智炎神の信徒が増えた気がする。


とりあえず河岸を変えることになりました。

初対面での私の態度はバケモノを警戒しての事と猫耳一行が納得してくれましたし、怪しげな術を使って仲間に紛れ込む輩が
敵でない訳もない。
つまり私と彼女達は共通の敵を持つもの同士なので、一つ情報交換でもしてみよう‥‥とまあそんな感じです。

なお、反物屋に迷惑料払おうとしたら断られました。
反物屋の主なお客は中流以上のご婦人方でしょう? つまりはエスティア信徒が多いわけで、反物屋も自然とエスティア信徒
になるのです。
この程度のことで神官様に迷惑はかけられないというのですよ。
そういう事で、今度落ち着いたときに買い物する約束をして店から離れました。


で、猫耳一行お薦めな近所の冒険者向け宿屋で個室を借りて事情を聞いたのですが、詳しいことは分かりません。
猫耳剣士カーニスの一行は3人組の冒険者でしたが、ついさっき見知らぬ男が現れて何故か3人ともそいつが仲間だと思いこ
んでしまい疑いもしなかったのです。

「アイツがアンタの剣は獣人族の秘宝だって言うんで、確かめに来たんだ」

要はけしかけられたのか。私とカーニスたちに諍いを起こさせて、漁夫の利を狙うつもりだったのでしょう。
実際の話、あのバケモノの擬態が私にも効いていたら危なかったかもしれません。



うーん、コボルドって妖精族だから獣人じゃありませんよねえ。
そういう訳で、いくら物欲しそうにされても譲れませんよその刀は。返しなさい。

「あぁん」

魅入られたみたいに熱心に刃を眺めていた猫耳剣士の手から、クックリ刀をもぎ取ります。
ふてくされた彼女が焼酎を注いだ杯に手を置くと、睨むように見上げてきました。

「なにさ」
「それ以上はお腹の子に障りますよ」

ほんと、妊婦の多い街ですよねえここは。良い嫁になりそうな娘は大概妊婦だったり人妻だったり。



自分が妊婦だと気付いていなかったし認めようとしなかったカーニスですが、受胎告知の呪文を受けて胎児の存在を自覚しま
した。ついでにここ数ヶ月、月のモノが来てないことに気付きまして。

「そんな、馬鹿な。獣人と人間だと子供はできない筈だよ」
「間違いですよそれ。同種属どうしよりはできにくいだけです」

ウサ耳系や犬耳系の獣人族は幾らでも孕みますけど、猫耳系獣人族は人間雄の子種で孕みにくいのです。
とくにカーニスのような、体格的に人間と変わらないサイズの猫耳獣人娘は孕みにくい。
相性的なものもありますが、ジャンハの里の猫耳娘達が人間雄の子を孕まない理由は多分性教育の成果ではないかと。

里の娘達と余所者の接触を禁じていて、里の外に出る女達は成熟した大人だけ。
つまり生娘というか男に慣れていない女、はっきり言うと猫耳獣人雄の棘ち○こで調教されてしまったどM女の猫耳獣人雌だ
けを人間雄に抱かせていたわけです。


大神殿で仕入れた知識ですが、獣人属の雌は性交時の苦痛で排卵するのだとか。
つまり獣人が孕んだということは、凄く痛かったか凄く気持ち良かったかのどちらかな訳で。
快感と痛みは同じモノですからね。
オーガー漁村の族長夫人は一発で妊娠しましたから、あのイケメン新族長はエロモンスターとしても優秀なのでしょう。

何年も前に家出同然に里を出てきたカーニスは、実地の性教育を受けていませんでした。
正確には外の世界に憧れるあまりに、性教育をしてくれる筈の、初夜の相手を蹴飛ばして逃げ出したのです。
ジャンハの里では、子供を産まないと一人前の女とは扱われません。そして一人前でない女は交易にも出られない。
そんな里が嫌で飛び出したカーニスですが、冒険者として成功して里の評判を上げたいぐらいには愛郷心もあるのだとか。


彼女も胎児の成長具合から察して初体験で孕んだようです。

「どっちだと思います?」
「痛みじゃねえかな。いたいいたいって大騒ぎだったし」

3ヶ月ほど前、エロじゃない青年漫画雑誌のカップルじみた初々しくもじれったい交際の末に、舎弟のち○こでめでたく処女
を卒業したカーニスでしたが最初は痛がって泣きわめくぐらいだったとか。
傍で聞いてて心配になるぐらいの痛がりようでしたが、それでも次の夜になるとカーニスの方から舎弟くんの寝床に潜り込ん
でいたと中年盗賊は証言しています。

「あー それは大変でしたねー」
「そうなの。おいちゃん当てられちゃってさー」

当の二人は「姐さん、オレの嫁になってくれ」とか「や、やだよ。アタイの一族は自分より強い奴しか旦那にできないんだ」
とか言いつつ、いちゃついてますね。
あ、舎弟君が「このわからずやっ」とか叫んで猫耳剣士を抱きかかえましたよ。そのまま部屋の中央にある大型寝台にまで運
ばれてしまったカーニスですが「あ、慌てんな、いま脱ぐから」と嬉しそうに革鎧の紐を解いてたり。
‥‥いや、仲間どころか私までいるのに目の前でおっ始めんなよ。露出趣味者かアンタら。


「気苦労、お察しします」
「うん。知らない街の宿だと娼婦を呼び込む訳にもいかないしさ」

若いバカップルと一緒に冒険か、しんどいでしょうねえ。リーダーの強さに頼ってる一行だから強く咎められないし。
泊まった宿とかに二人だけにして、盛っているところを襲撃でもされたら大変です。つまりバカップルが盛っている物音が聞
こえる位置に待機しておかないといけない訳で。想像するだけでげんなりします。

唐突ですが、私の性的嗜好が少し分かった気がする。
男に限れば、容姿の良し悪しよりも雄っぽさの濃淡の方が気になるのです。
こと人間族に限れば、年上というか中年以上で子持ちないし父性があって弱みとか情けない部分があるけど本質的には善性な
男が好みなんです。
オークなら若い童貞も良いけど、人間雄なら頑張っている寂しげな親父さんとかが良いですね。人が良すぎて童貞が発酵しか
けてる「魔法使い」とかも悪くないかも。

女の子に対しては前世とあまり違わないのですがね。できるものならソーニャさんやマリアを妊娠させたいですし。

具体的にはゴタのレクス氏やロシマの祐衛門船長より、破産した商人のロゥラスやこの中年盗賊の方が きゅん ときます。
もし夫たちと再会していなくて、火照る身体を持て余していたのなら一夜を共にしていたかもしれないぐらいには好みだ。
ふむ。となるとロゥラスの方がより好みなのか。あっちは かも じゃなくて実際に致してしまいましたし。


おおっと、寝床の中ではどMな雌奴隷猫耳獣人娘を夢中にさせてしまっただけのことはありますね。舎弟くんのち○こは現地
オークたちのそれに匹敵するご立派なものでした。
人間雄だってエロモンスターでして、時と場合と相性次第では、オーク妻に むらっ とさせるぐらいは出来るのです。


いかんなー 淫乱なのはともかく不貞はいけません。心の中でだけでも浮気は浮気だと立川のロン毛も言ってます。
ちょっとね、父娘丼の3Pを思い出しちゃいましてね。
これ以上の情報は手に入らないでしょうし、とっとと帰りますか。

とりあえず、今度あの種のバケモノを見たら問答無用で撃ち殺して良いことが解っただけでも収穫です。





 ☆110日め5、外道滅すべし☆



地元の冒険者が動きにくくなっている理由の一つは、前世の生活に喩えていうと「昔は隣町の八百屋に自転車で行って特売の
キャベツを買っていた」のに「今では狂犬病に罹った野良の犬猫や敵機に怯えながら、地雷原の中の踏みわけ道を恐る恐る歩
いて進み、隣町の手前で待ち構えている山賊と一戦交えるか法外な通行料を払わないと取引所へ行けない」状態な訳です。

治安が悪くなると何をするにしても効率が落ちますからねー。
そして効率が落ちた社会はますます不安定になって更に治安が悪くなるのですよ。
もう、出るわでるわ。生態系が崩壊した里山みたいに城壁の外はモンスターで一杯です。


「そいやっ」
「ぎゃぁー!」

ヴァダ市近郊で一番多いモンスターというか敵(エネミー)は野盗や山賊の類でして、ただいま仮拠点の近くに根城のある無法
者どもを襲撃している所です。

「な、なんだ手前ぇらっ」
「見れば解るだろ、賞金稼ぎさ」

この根城の位置は、城壁から1㎞ちょっとの至近距離。たまたま通りがかる第三者がいないとも限りませんので、オーク達は
一緒じゃありません。私とサラさんだけで殴り込んでます。
もちろん過保護な夫たちと義息子たちがそれで納得する訳がありませんので、数十メートル離れた廃屋の中で遠見の水晶球を
睨んでます。ゴォ・ドスたちが何時でも乱入できる態勢で見守ってくれているのですよ。

なお、ギュー・グェスは捜索続行中。レェ・ウォスは仮拠点で留守番しています。


まあ、待機組の出番はありませんけどね。こいつらが只の野盗なのは地元オークからの情報で解ってますし、念のために探知
系の魔法などで下調べもしています。
人数は僅か13人、質的には星2が3人程度で残りは星1かそれ以下、スラムのヤクザ者にも負けそうな連中です。
サラさん一人でも無傷で倒してお釣りが来るのですが、私との連携訓練も兼ねた襲撃ですので肩を並べ‥‥というには身長差
がありすぎますがまあ、一緒に戦っています。

ドラゴン革の胴着や魔法合金製の胸当て、人食い鬼腕力の籠手に俊敏の長靴など一流冒険者並の装備品で身を固め業物の魔剣
を持ったサラさんの戦力は星6前後。最下級の戦士オークに匹敵する強さなのですよ。
ほぼ健康体に戻った彼女は、寝間着姿に剣を持っただけの状態でもオーガーや巨大アリと互角以上に渡り合えます。
その上で魔法の装備品と支援魔法で強化されているのですから、野盗業界の最底辺にへばりついているような奴らなど相手に
なりません。

なお、サラさんも鎧の上に魔法金属繊維製の水兵服を着ています。
腿が見えるのは恥ずかしいと言うので、スカートの丈は脛までありますけどね。



サラさんの本領はやはり対人戦にあるようです。一緒に動いていて凄く戦いやすい。
二人の連携で切り伏せて、野盗の全員を仕留めました。
降伏を申し出る暇さえ与えません。してきても聞く耳ありません。隠れている敵も逃げ出せた敵もなし。
家財道具の類から見て13人だけですね、別働隊はいないようです。

ふむ、非常口や脱出口、それに侵入者向けの罠がありませんね、この根城は。
申し訳程度の鳴子などはありますが、鳴子の紐と根城が近すぎてドアベル程度の役にしか立ってません。
不用心過ぎじゃありませんかね? 人の味を憶えた灰色熊(グリズリー)とか、お腹を空かせたはぐれトロルとかが殴り込んで
きたらどうする気だったんでしょうか、こいつら。

いくら確率が低いからといって、何の備えもしないというのも変でしょう。


「そこまで知恵が回る連中なら、同じ野盗でも少しはマシな悪事を働いてるさ。‥‥こいつが頭目かい?」
「はい。指名手配中の賞金首ですね。金額は100ゴールドですけど」

冒険者の宿で書き写したメモ帳を確認して、賞金のかかっている首だけを回収します。
道に迷った旅人や少人数の巡礼などの弱い獲物だけを狙う、みみっちい悪党ですがそれだけに見逃すわけにはいきません。
これからは、今にも死にそうな弱った旅人‥‥特に女子供は私たちの獲物になるからです。

たとえばですね、ソーニャさんの伝手がある北バルキア地域では慢性的に人手不足というか人間雌の腹が不足してます。
オーク島の女日照り具合はそれ以上です。
ならば東バルキア地域で余り気味の人間雌を捕まえて、怪我や病気があるなら治療して、良いお嫁さんになれそうな人間雌を
選りすぐって嫁不足の地域に運び込む事業を思いつくのは当然でしょう。

身寄りも無ければ財産もなく明日を生きる当てもない、ないない尽くしの女子供が狙い目です。
優しい旦那様のところに嫁入りできて女たちは幸せ。嫁さんを貰えてオーク達も幸せ。生類(モータル)が増えて神々も満足。
嫁良し、夫良し、神様良しの三方良し。
人口密度が下がる東バルキアの景気は悪くなるかもしれませんが、気にしないことにします。


そういう訳で。我々がまだ品定めも終えていない女子供を勝手に捕まえて売り飛ばしてしまうどころか、僅かな金品を奪うた
めに女子供を殺してしまう輩を野放しにはできないのですよ、オークやオーク妻としては。
女子供を楽しみのために殺してしまうユニコーンじみた連中は絶対に逃せません。
幸い、ヴァダの町周辺ではその手の外道どもが減りました。私が何十体か切りましたし、お師匠様も暇を見ては切ってます。



「レイ、サラ、そっちは終わった?」
「「はい、お師匠様」」

ばっさばっさと羽音を立てて、ソーニャさんの使い魔が飛んできました。大きめなカラスの姿をしたこの使い魔は本物のカラ
ス並に賢くて本物以上に速く飛び、ソーニャさんの目や耳や口となることができます。
喋るんですよこれ、お師匠様の声を伝える電話機代わりに。

ついでに言うと12体まで分身して増える不思議存在です。使わないときはお師匠様の身体に入り込んでますし、カラスに見
えるだけで生き物ではないのでしょう。
忘れがちですけど、ソーニャさんは達人級の魔法使いでもあるのです。その気になれば何時でも塔(タワー)立てて大魔法使い
(ソーサレス)として暮らせるのですよ。使い魔が魔物で何の不思議もありません。


ソーニャさんが言うには、ヒドラ退治が思ったよりも速く終わったので昼ご飯前に巨大カタツムリ退治を終わらせまして。
そして今は予定を前倒してユニコーン退治をしているので手伝ってくれとのこと。
お師匠様に逆らう気なんてありませんし、害獣駆除には賛成ですので手早く後始末して撤収します。

野盗の蓄えはそれぞれの財布と、共用らしき宝石の詰まった手持ち宝箱だけを持ち帰るとしますか。
石材の隙間に入ったコインとかまで一々拾う暇がない。残した財貨や雑多な品々は近くにいる友好的なオークたちが回収する
筈です。金額は精々300から400程度ゴールドですが情報料には充分でしょう。



使い魔に案内されて、太陽が傾いてきた頃に現場へ到着したのですが其処は戦場でした。
半ば要塞化された大規模農場のあちこちで柵が破られ石垣が崩され、幾つもの小屋や家屋が潰れてひしゃげています。
中には火が付いて盛大に燃え上がっている住居もある。

畑や牧草地は踏みにじられ、所々に血が飛び散り肉塊が転がり衣服の切れ端が風に吹かれて揺らいでいる。
あっちもこっちも家畜や人間の死骸が転がってたり撒き散らされてたり。こりゃ酷いや。


「だ、誰か──!!」

民家の裏にある大きなクルミの樹に、よじ登っている9~10歳ぐらいの女の子が助けを求めて泣き叫んでいます。
クルミの樹の根元には3匹の白い四足獣がいまして、重機なみの勢いで樹の根を掘り返したり幹に体当たりして子供を枝から
落とそうとしている。
このままなら分単位の時間で樹は倒されるし、子供の腕力ではその前に落ちてしまうでしょう。

おい、幼女には甘いんじゃなかったのかお前ら。

近代ファンタジーのユニコーンと古来の伝承のユニコーンとでは、テディベアとグリズリー以上に違う訳でして。
大内海世界のユニコーンは後者に近いのです。
ええ、幼女の匂いに惹かれて仲間同士で喧嘩しつつ土木工事に勤しんでいるのは一角獣(ユニコーン)です。
大きさは小型の馬ぐらい。推定体重150㎏強、角の長さは60センチ強から1メートル弱。当然ながら全部オス。

3匹か。

隣のサラさんと顔を見合わせ、頷きあいます。やりましょう。
巻き上げハンドルを省略し、滑車の数を減らすと同時に大型化する方向で再設計した機械式複合クロスボウを構える。
オーガーなみの腕力がないと使えなくなりましたが、威力と発射速度そして信頼性と耐久度は前より大幅に増してます。
うまくいけばこれで2体を無力化できる筈。

発射。‥‥よし手応えあり!
放ったアダマンタイト製の矢が白い淫獣の頭を貫いてクルミの樹に縫い止めました。
両の眼窩から目玉が飛び出して血と脳漿が勢い良く吹き出ている。即死ですねあれは。

サラさんの放った矢は外れました。避けられたのではなく、当たる寸前に標的が消え失せたのです。
矢はそのまま飛んで民家の壁に突き刺さります。矢羽根のあたりまでめり込んでいる。
テレポート(瞬間転移)だ! ユニコーンのこの能力についてもちろん知っている私たちは‥‥駄目だ、向こうの方が早い。

情報としては分かっていても、対処しきれない。
至近距離まで瞬間移動してきた野生動物が接敵する前に、迎撃することはできません。
回避、いやここは積極防御だ! サラさんの左側に飛び出し、抱えたままの大型クロスボウを盾にして受け止めます。

「どっ せいっ!」

突進を一歩も引かず受け止める。
角攻撃が魔法合金製の機械部分を貫通して胸に当たりましたが、かすり傷‥‥いえ軽傷で済んでます。
呪文と護符と鎧と装飾品の相乗効果で、今の私は大統領専用車両並に硬いのですよ。
近距離から数丁の短機関銃に、弾切れするまで撃ちまくられても「ちょっと痛い」で済んでしまうのです。

こちらへ突進してくる3匹目はサラさんに任せて、私は突進を食い止められ狼狽えているユニコーンの角を右手で掴みます。
左手は鼻面を掴んで、そして両方を捻り上げる。ここかここかここが弱いんかおうおうおう。
暴れる馬型魔物の骨と軟骨が軋み筋組織が千切れる感触が伝わってきます。

「噴っ!」

振りまくったシャンペン瓶からコルクの栓を吹き飛ばして中身が迸る心象(イメージ)を脳裏に描きつつ、瞬発的な腕力で角を
根元からへし折ります。そして角をユニコーンの目玉から突き刺して脳を抉り、ぐりぐりかき混ぜる。

良し、いっちょ上がり。鳥モドキの首を捻るより簡単です。

断末魔の痙攣を起こし泡を噴く馬外道を遠くまで蹴飛ばして、振り返るとサラさんが石弓を捨てて剣を抜くところでした。
抜いた得物は【剛腕なるガァンの剣】、まずまずの業物な片手半剣です。
射撃武器で狙うには敵が近すぎるか。私も接近戦でいきましょう。


腰から外して投げつけた戦闘用ボーラが、避けられた?! なんだあの回避能力は。
避けながら剣を叩き付けてユニコーンの突進をなんとか防いだサラさんでしたが、角に剣を弾き飛ばされそうになってます。
手にした魔剣に ・それは武器落としを無効化する の効果がなければ間違いなく取り落としていたでしょう。

急停止して踵を返し再びサラさんに向かおうとする馬外道の尻に、クックリ刀の一撃を打ち込みますが避けられました。
それどころか反撃の、後ろ足蹄蹴りを顔面にくらって転んでしまう始末。
ダメージは微々たるものですが、ええい、手強いなコイツ!

ああっ 起き上がっているうちにサラさんが角で引っかけられてしまいました。装備も入れれば90㎏近くある筈なのに軽々
と上空へ飛ばされています。
拙い。あの外道、サラさんが落ちてくるところを角で突き上げる気だ! 

間に ‥‥合う!
魔法の籠手に仕込まれた加速機能を同時使用。数秒間だけですが4倍速で動き、切り付ける!
赤い魔法合金製の【人食い鬼腕力の籠手】は左右それぞれが一日に一回だけ、数秒間だけ「加速(ヘイスト)」の能力を着用者
のみに対して使えるのです。


コイツらの謎回避性能、その秘密を見破りました。
ユニコーンは0.3馬身とか0.1馬身とかの短距離を瞬間移動して避けたり当てたりしているのです。
ですがもう私には通じません。
この切り付けを短距離転移で避ければサラさんを突き刺せない、突き刺すことを優先すれば切り付けが当たる。

竿立ちになっているユニコーンの左後ろ足に、渾身の力を込めた一撃が炸裂します。
堅ぇなこの野郎! 普段何食えばここまで頑丈になるんだ?!


馬肉へめり込んで止まったクックリ刀の柄を握りしめ、腰を落としながら更に切り込む。力任せに押し込む。
いくら魔物でも馬は馬、脚がなくなれば立ってはいられまい!

死にさらせ!

アイアン・ウッドの大木よりも硬くて堅い馬型魔物の脚を、巨人級腕力とコボルド魔剣の鋭さで無理矢理に断ち切ります。
ユニコーンが血を噴出して倒れました。落ちてくるサラさんと当たらないように軽く蹴り転がします。

転倒したユニコーンへ二度三度と切り付けますが、殆ど傷が付かない。
魔法の甲冑より皮が丈夫とは、流石は魔獣だ。

流石に足が一本なくなって倒れている状態ではユニコーンもそれ以上暴れることはできません。もがくので精いっぱいです。
蹄や顎の反撃を避けつつ更に切り付けます。‥‥って、切り付ける端から傷がどんどん回復していくんですけどコイツ。
トロルよりも豪快に治‥‥いや直っていく。まるで見えない誰かが重傷治療薬をぶっかけ続けているようです。

ずるずると謎の吸引力で地面を這い寄ってきた馬の脚が、魔法の長靴を履いた足に蹴飛ばされました。
上手く受け身を取って落ちたサラさんが起き上がって、加勢に来てくれたのです。


トロルと違ってユニコーンの再生能力は傷口を火や酸で焼いても損なわれないようです。試してみましたが無駄でした。
ならば物理で殴るのみ。二人で延々殴り続けると、やがてユニコーンは動かなくなりました。

つ、疲れた。他の2頭の3倍は強かったです。同じモンスターでもこうまで違うものなんですね。
息を荒げているサラさんと目が合いまして、思わず二人とも苦笑してしまいました。

「みっともない所を見せちまったね。ちと調子に乗りすぎたよ」
「私も油断してました。初見の敵を舐めるのは禁物ですね」

今更ですが、こんなことなら最初から「加速(ヘイスト)」の巻物と霊薬の同時使用で4倍速にしておけば良かった。
そうしていれば単純計算で普段の4倍の攻撃力ですから、ここまで苦戦しなかった筈です。


霊薬と「治療」の魔法棒を使って二人の怪我を治してから、今度は本気で強化手段を使います。

その次は樹の上でべそかいてる幼女を保護しますか。
向こうの牧草倉庫っぽい建物の上に十数人が避難しているようですので、あそこで預かって貰いましょう。





 ☆110日め6、こうなることも覚悟の上で☆



普通のロープで投げ縄のようなものを作り、保護した幼女の脇の下に掛けます。抜け落ちないように軽く絞めた上でロープの
端を屋根の上へ投げて、上の大人たちに引っ張り上げて貰います。
何か要るものはないかと訊いたら「咽が乾いてる」と言われたので水やワインの入った水袋を幾つか放り上げて、と。


使い魔越しにお師匠様が言うには、自分は森の近くでユニコーンの群を相手にしているので私たちには農場をうろついている
連中を始末して欲しいとの事。


うーむ。とにかく動いて、悲鳴と破壊音が聞こえた方向に行けば良いか。

「ああ、アタシはいつでも良いよ」

サラさんと二人で遊撃を続けます。おっと、早速向こうの納屋から悲鳴が!


駆けつけてみると納屋の扉は打ち壊されて戸板が外れ、扉の近くには藁束用の大熊手を握った老人が倒れていました。
死因は腹部への刺突と、壁に叩き付けられての打撲。頭部へ蹄の跡がありますがこれは文字通りの死体蹴りでしょう。

「やぁぁぁぁっ おにいちゃぁぁん!」

悲鳴を上げて藁の山から這い降りようとしたした7歳前後の幼女の足首を、白い馬型魔物が噛みついて引きずってます。
動けなくしてから強姦するつもりですね。
藁山の裾には幼女の兄らしき少年が、頭を割られて転がっている。虫の息ですがこっちはまだ生きてます。


「えい」

ぶっすりと、鬼殺し貝の毒銛を馬外道の肛門からその奥まで突き刺します。ええ、巨人力全開で、柄どころか石突きのあたり
まで深々と。油断しきっているので簡単に後が取れました。

「ぎゃぁあああああっ」

全然馬っぽくない悲鳴を挙げて悶絶する馬外道を藁山の上まで蹴飛ばす。
重さで言えばオーガーより断然軽いですからねこいつらは。幼女の襟首掴んで立ち上がらせ、脚を治療してから納屋の隅まで
運んで、安置します。
サラさんは瀕死の少年、12歳ぐらいかな? に何本も軽傷治療薬をかけて治療中。

ユニコーンに毒が効かないというのは本当らしく、熊でも大蛇でも即死する鬼殺し貝の銛が刺さったのにまだ生きている。
でも内臓の奥深くまで刺さったので、軽傷ではない。
もがいているところに鋼鉄の槍を投げて、ユニコーンを納屋の壁に縫い止めました。巨人力で投擲したので納屋全体が揺れ、
軋んでいます。

やはり先程の3体めは突然変異か何かだったのでしょう。こいつも見た目より堅いけど、茶釜要塞の良質鋼材から作った槍が
普通に首の皮と肉を抜けて後の壁にまで突き刺さってる。
まだまだ槍の備蓄はありますよー。さ~て、何本目で死ぬかなぁ?


むう。

まさか6本刺してもピンピンしてるというか死にきれずにジタバタしているとは思いませんでした。しぶといなこいつも。
そういえば今まで仕留めたユニコーンは全部、脳を完全に破壊して止めを刺したような。
脳幹以外の急所を破壊しても何分かは動き続けることができて、動くことさえできれば数秒か十数秒で傷が完治するのか?

即死しない限り実質不死身じゃありませんか。流石は「傲慢」「憤怒」「好色」「大食」の四要素を象徴する魔獣だ。
テシアスが「それはまさに獣であり、誰にも従わず誰にも止められない」と記しただけのことはある。

つまり尽きることない連撃で挽肉にするか、一撃で脳を破壊すれば良い。止めはサラさんに刺して貰いましょう。
泣きじゃくる半裸の幼女に「制心(サニティ)」の呪文を唱えつつ、相方に巻物を渡して使わせる。
ついでに7本目の槍を投擲して、馬外道が逃げないようにします。
槍で納屋の柱や壁に縫い止めておけば瞬間移動でも逃げられませんからね。

巻物にも色々ありまして、いま渡したのは制作者と同等の威力が出る呪文が封じてあるやつです。
星7ぐらいの魔法使いが作った巻物なので、並の巻物とは威力が違う。
呪文を唱えながら行動案のやり取りができるのだから「意思の疎通」の呪文って便利だなあ。


これで救出者3名。この兄妹も屋根の上に届けますか。




あっちを見てもこっちに行っても、破壊と殺戮の跡ばかり。
鶏小屋が壊されて鶏たちが踏み潰されてるけど、どう見てもあれって逃げ惑う鶏たちを追いかけて踏んで回ってますよね。

「いつもの事さ。ヒルデニアは違うのかい?」

そういえば地球のユーラシアでも、同種族の生首で山を作り、流れ出る血が河になるなんて事は日常茶飯事でしたよね。
20世紀後半のカンボジアでは国家総人口が半分以下になるまで殺し合ったし、その殺戮を煽ってそそのかしていた黒幕は自
国民を割単位で餓死させながら酒池肉林に耽っていた。
それに比べたら魔物が生き物を嬲り殺すことの何処に不思議があるでしょう。

「落ち着いたかい」
「ええ」

彼女なりに気遣ってくれたようです。しっかりせねば。
気を取り直して、先に進みます。



その後は夕暮れまでかかって5人の怪我人や迷子を救出しました。仕留めたユニコーンは3頭。
合計で救助者8、討伐29(うちユニコーン7、火事場泥棒に来た野盗とゴロツキその他22)。捕虜12名。

お師匠様は救出18名。ユニコーンを14匹、熊などその他の害獣を6匹、オーガー4体とトロル1体を討伐。
更に野盗山賊の類を20人討ち取ってます。捕虜は11人。



日が沈んだ農園はまだあちこちで焼け落ちた建物から煙が燻ってまして、その間を松明や魔法の明かりを灯した農夫や冒険者
たちが歩き回り、瓦礫を掘り返したり潰れた小屋の屋根を剥がしたりして救助活動を行っています。
ヴァダの街や近くの農場から少なくない人々が救援に来ているのですよ。
東方世界は末法の世そのものですが、地獄のような環境だからこそ心ある人々の助け合いもあり得るのですね。

私はサラさんと組んで人間重機として瓦礫の撤去を手伝ったり、火事場泥棒を働く馬鹿を見つけては捕まえたりしています。

大きな農場だから割と値打ち物もあるのです。
無事だった家畜とか、鋼鉄製の農具とか、壷に入れて埋めてあったへそくりとか、まだ隠れている女子供とかね。


ですが、一番金銭的価値があるのはユニコーンの死骸でしょうね。角一本でも安くて数百、上物なら二千ゴールドを越えます
し目玉や舌や睾丸だって一つあたり100や200にはなる。
煮て良し焼いて良し、乾物にすれば保存も利くし、魔法薬などの素材としても使えます。
ユニコーンの竿と玉から作った魔法の精力剤がありまして、男(雄)にしか効きませんがそれを飲んだ男は5歳の幼児でも95
歳の爺でも絶倫状態。しかも相手が生娘なら必ず孕ませるのだとか。

なるほど、騎士や貴族の娘が貞操を守るように教育される訳だ。ユニコーン印の精力剤が普及している地域では、実態はどう
であれ初夜に生娘だと判定されれば、孕んだのは 法 律 上 の 夫 の 子 だと主張できるのですから。


そんな訳で、私たちが仕留めたユニコーンを回収しているとそのうち一頭が無断で解体されてまして。
知らない連中が堂々と、納屋で仕留めた槍だらけユニコーンの解体作業をしています。


「おい、誰に断って人の獲物に触ってんだい」
「ああん? 横取りしようってのか!?」

ちょっと驚きましたよ。私たちに向かって「しっ しっ」と犬でも追い払うような仕草をしている者までいる。
厚顔なんてもんじゃありません。自殺願望でもあるのかこいつら。


なんだなんだ、と騒ぎを聞きつけた農園関係者や助っ人たちが集まってきました。
そりゃあ、彼ら彼女らの前でユニコーンや火事場泥棒どもを仕留めてますからね私らは。お師匠様は敵主力を相手に無双して
ましたし、善良な目撃者にとって水兵服の女剣士たちは紛れもなく英雄扱い。注目が集まるのは当然です。


地元の衆が言うには、この図々しい集団はヴァダにいる 組 織 的 な 肉 屋 の一団だそうです。
鳥獣解体業者の組合(ギルド)員なのですね。

呼ばれもしないのに義勇兵(ボランティア)面してやってきて、ろくに討伐も救助もせず勝手に値打ちのあるものを漁っていた
鳥獣解体業者の一団でしたが、運良く値打ちものなモンスターの死骸を見つけたので「自分らで仕留めた」事にして捌いてい
たのです。
最初に仕留めた三頭とかは、目撃者がいたから横取りできなかったのですよ。なので納屋の中で死んでいるユニコーンを勝手
に解体していた訳で。

私たちの方を横取り狙い呼ばわりしてきた解体業者は、サラさんが「氷の矢」の巻物で仕留めたユニコーンの腹の中に手製毒
銛が刺さっていると私が指摘したら、笑い飛ばしやがりました。

「リガの剣鬼の弟子だあ? 笑わせんなよ、おばはん。その細腕じゃ大ネズミ一匹バラせねえぞ」
「餓鬼が、ひん剥かれて尻穴に殻竿(フレイル)ぶちこまれてぇのか」
「お前ぇがぶちこみたいのは前の穴だろ」
「本物の剣鬼に見つかったら真っ二つにされっぞお前ぇら。命が惜しけりゃ全部脱いで股を開きな、具合が良けりゃ騙ったこ
とは本物に告げ口せずにおいてやるからよ」


周囲からの「ああ、こいつら死んだな」という視線にも気付かず馬鹿笑いしていた解体業者でしたが、作業を続けるうちに解
体中のユニコーンの腹から毒銛が出てきまして。
そして回りにいる目撃者から、私たちがユニコーン殺しでしかも同時複数討伐達成だと聞かされた解体屋どもは‥‥

「ふっ ふざけんな!」
「舐めやがって、ぶっ殺す!」

と、逆上して襲いかかってきました。まあ、確かに、狩り場での面倒事を解決するには暴力が一番手っ取り早い。

都合の良い妄想の中で生きていて、妄想と現実が食い違えば現実の方が間違っていると憤り暴力に訴える。
文明化が進んだ21世紀地球の、暢気さに定評のある日本にすらこの手の輩は少なからず居りました。
ここビィーヤ盆地はファンタジーな大内海世界のなかでも特に野蛮な東方地域の僻地。掃いて捨てたいほどに居るのですよ、
この手のヒトモドキが。


剣を振りかざして私に突っ込んでくるヒゲ面の肉屋に、納屋にあった古い樽を投げつけます。避けられるわけもなく直撃した
樽は砕けながら、髭面もろとも後方に吹っ飛び後続を巻き込みました。

視界の関係かその様子が見えていない歯抜け面の解体屋が鉈で切り付けてきましたが、遅すぎる。
打ち込んでくる鉈の柄を掴んだ手を、人食い鬼腕力の籠手を付けた手で柄ごと掴んで止めました。
そして ひょいっ と鉈をもぎ取ります。解体屋の右手も一緒にもげたけど気にしない。

「ぎゃあぁぁぁぁっ お、俺の手がぁぁぁぁっ!」

樽の破片と仲間の死体になぎ倒された連中の中で、比較的軽傷の奴から順に鉈で切りたおします。
そーれ、さくさくっと。こんな奴らに魔剣を抜くまでもない。

「レイ、全部は殺っちゃ駄目だよ」
「了解。何人かは残します」

サラさんの方は余裕で立ち回ってますね。既に2名を斬殺して1名に行動不能の重傷を負わせた上で、二人の解体屋を相手に
圧倒的優位で切り結んでいる。おっと、見ているうちに一人減った。

「いでぇ いでえよぉぉぉ~」
「五月蠅い黙れ」

膝をつき、千切れた右手首を掴んで泣きわめいている解体屋の頭頂部へ空いてる方の手で手刀を入れ、黙らせます。
なんとか聖拳の達人が切り裂いたかのように人間の頭が真っ二つになりましたが、これは人食い鬼腕力の籠手はそのまま武器
として使えるからでもあります。
全くの素人娘に、普通の長剣だけを持たせた場合と人食い鬼腕力の籠手だけを持たせた場合なら、籠手だけを持たせた方が殺
傷力が高いのですよ。オーガー(人食い鬼)がそうしているように、牛や馬でも手作業で真っ二つにできます。

数秒のうちに半分以上が殺されると、残りの解体屋は降参しました。
やはりこいつらトログロダイトの同類か。あっさり手を上げるなら最初から襲ってくるなよ。



「二度と顔見せないでくださいね。次も会ったら容赦しませんから」

無法な剥ぎ取り屋の処分は、お師匠様と相談の上で 身 包 み 剥 い で 放 逐 刑 としました。
武器防具衣服に財布に商売道具その他、あらゆるアイテム類を全部没収して農場から蹴りだしたのです。
持っているのは彼らの身一つと、背負った仲間の死体だけ。もちろん大事な大事な仲間の死体ですから、落としたりしないよ
うに魔法の接着剤(ソーニャさんが膠の瓶に呪文を掛けて作ったの)を使ってくっつけてあげています。


まあ、街まで精々2~3㎞です。今は夏だし時刻は宵の口、フンドシ一つない真っ裸の姿でもよほど運が悪くない限り‥‥ 

あ。


運がありませんでしたねー彼ら。狼か何かの群と遭遇してしまったようです。
悲鳴が聞こえたけど、しばらくしたら静かになりました。

南無阿弥陀仏。施餓鬼ならぬ施狼となってしまったか、人の味を憶えられちゃったら困るなあ。

食肉ギルドは厄介な相手です。三国志の縁戚大将軍は元々が食肉ギルドの大物でして、彼が権力闘争に強かったのは自前の軍
勢を持っていた事が大きい。つまり肉屋は軍隊を養える程の力を持つこともあるのです。

ですがこの件で四の五の言ってくるようなら、誰であろうと思い知らせてやるだけです。
ああ、中世の近畿地域で大寺社が世紀末救世教団やってた理由が良く分かる。暴力しか頼れるものがない社会で穏和に暮らす
のは難しすぎますよ。



解体業者から剥ぎ取った諸々は農園の生き残りたちに渡すことにします。
本来なら全部私たちのものになるのですが、見舞金がわりということであげてしまおう。
お師匠様が受けた依頼の契約では「明記した報酬以外に、農場の敷地内で討伐した獲物を持ち帰って良い」ことになってます
が別に持ち帰らなくても良い訳です。

ユニコーンに捨てる所なしと言われるぐらい、素材として重宝する獲物ですが流石に21匹も解体して保存したりするのは面
倒くさい。なのでお師匠様は死体の処理賃としてこの農場にユニコーンを半分渡すことにしました。
つまり農場側は責任持って21体のユニコーンを解体処分して、お師匠様は10.5体分の肉の代金や素材を受け取る訳です。
ユニコーンのボスらしき個体の角だけは例外で、既に回収済み。ボスは角以外の部分を解体して、利益が等分されます。

その他の獲物は、魔物や動物は私たちが総取りにして、野盗などの人間系は農場側に全譲渡しました。
蹴りだした解体屋以外の捕虜も全て、です。賞金首として突き出すなり、一山幾らで売り飛ばすなりお好きにどうぞ。



やれやれ。これでしばらくは、ユニコーンに怯えず薬草が摘めますね。
森の奥に逃げ込んだユニコーンもグェスとドスと下っ端たちが全て仕留めたと報告がきましたし。

「レイ」

おや、どうしましたソーニャさん。

「イシカワが死んだわ」


え?





 ☆111日め、それで良いのか☆



イシカワは温泉洞窟の下っ端たちの中では最古参の一人で、実年齢でもトンガリと並んで最年長でした。
確か5歳過ぎだった筈です。
下っ端オークの基準で言えば寡黙で慎重で冷静な、むっつりスケベでした。


昨日の彼は、ギュー・グェスのお供としてヴァダの街北東付近を歩き回っていました。
そのあたりに「腹に大きな傷跡のあるはぐれオーク」が現れた、という地元オーク族間の噂を聞きつけたからです。
まあ、探し出したそのオークは他人のそら似で全くの別オークだったのですが。

小規模部族の頭をやっているその別オークとギュー・グェスが意気投合して、少なくない地元オーク達がハラキズの捜索に協
力してくれるようになったので無駄足ではありません。

そして仮拠点に帰ってからユニコーン退治に参加しまして、お師匠様やドスが取りこぼしたユニコーンを追って森の奥に進ん
だのです。
ええ、森に逃げたユニコーンはドスたちが粗方狩ったのですが何匹か逃げ切りましてね。


やがて日が暮れて、森の奥に逃げ込んだ手負いのユニコーンどもは腹いせに森の中のお屋敷を襲いました。
騎士本人と数名の家族、僅かな家臣と従者たち。十名程度の戦闘要員しかいない荘園を5頭ものユニコーンが襲ったのですか
らひとたまりもありません。

男衆が早々と殺され、中庭に追い立てられた人々の周りを血塗れの獣がゆっくりと回ります。
そしてユニコーンどもは固まっている荘園住人を年寄りから順番に一人ずつ選んで引きずり出し、その角や蹄で一寸刻みに刻
んで潰して嬲り殺していくのです。

一人また一人、順番に殺されていく。一角獣どもに慈悲はありません。彼らにとって人間は穢れそのものであり、存在自体が
許されない害悪なのですから。

恐怖に錯乱して逃げ出そうとしたり、敵わずともせめて一太刀と暴れ出す者もいますが5匹のユニコーンの前ではどうにもな
りません。灰色熊よりも強く、人間並みに知恵が回り、歴戦の傭兵よりも連携が巧みで、毒が一切効かず、傷が直ぐに再生し、
瞬間移動など幾つかの魔法的能力まで使える怪物が5匹ですよ?
小さな荘園とお屋敷の住人が敵う相手ではないのです。

オムツの端に噛みつかれて少女の腕の中から無理矢理奪い取られた幼子が、空中に放り投げられます。人間の子供を投げ上げ
て角で突き刺すこの行動は、ユニコーンが好んで行う仲間との遊戯です。
大人相手にもやる攻撃方法ですが、目標が小さければ小さいほど当てにくいからその分娯楽性が高くなる。

で、そんなものを見せられて黙っていられるオークたちではありません。東方世界の標準(スタンダード)はどうだか知りませ
んが、ユニコーンどもを追跡していた温泉洞窟のオーク達は追い付くと同時に殴り込みました。



「見事な最後だったわ」
「ええ。自慢の義息子です」

昨日の戦いで、イシカワは死にました。ユニコーンの突撃から見ず知らずの、いえ1分足らず前に知り合った娘を庇って。
彼は下っ端オークの中では防御に定評があったのですが、実力差が星3以上あれば小手先の技術や装備の品質ではどうにもな
りません。訓練所を出たばかりの衛兵がオーガーに殴られれば、受けた盾ごと叩き潰されてしまうのです。

ほぼ即死した彼以外にもブロディが瀕死の、アシナガとモッサリが一時意識不明の重体。デコバチとイワノフが重傷を負って
います。追跡班に無傷で済んだ者はいません。グェスですら軽傷を負っている。

特にブロディはサダキチが咄嗟に投げた治療薬の瓶が当たったから助かりましたが、外したりあるいは投げずに駆け寄って
使っていたら危なかった。秒単位で投与が遅れたら死人がもう一名増えていたでしょう。
とりあえずサダキチは判断を誉めて、頭なでなでしておきました。


あれから一夜明けた朝、仮拠点の祭壇前にイシカワの遺体が安置してあります。
その横には彼に庇われて助かった娘が座り、イシカワの手を握っている。
15歳か16歳ぐらいで、腰どころか腿のあたりまで伸ばした蜂蜜色の見事な巻き毛と、青紫の瞳が印象的な美少女です。
荘園領主の娘でしょうね。

‥‥彼女の横に半透明のイシカワが立っていて、ときおり彼女の頭を撫でているのが気になりますが置いときます。


土地持ち騎士、クリンウッド家とその荘園の住人たちで助かったのは彼女と他4名。
うち1名は生後1年前後の赤ん坊でして、残る3名はユニコーン的に見て穢れの少ない存在。つまり幼いまたは若い乙女。
彼女達よりも穢れていると判断されたのだから当然ですが、赤ん坊は男の子です。


17歳かそこらの、眼鏡をかけた文系らしき雰囲気の娘さん。お抱え魔法使い兼家庭教師だったそうです。
ソバカスが浮いた顔はまあ、とりたてて美しくはないけど三つ編みにした金髪は長くて輝きも素晴らしい。
カツラ屋に持っていけば本物の黄金の何倍も高値で扱われるでしょう。
背はやや高めで痩せ形だけど、黒い法衣(ローブ)に隠れている胸や腰は立派に熟しています。

11歳ぐらいの、麦藁みたいな色と質感の髪を頭巾で包んでいる幼女。この娘は馬屋番の孫でした。
年齢以上に振るまいが幼げで無邪気で、まるで子犬のようです。オーク達にも早々と馴染んでいる。
蟻蜜や果実などの食べ物や、牡蠣真珠や翡翠玉などの光り物、虫取り草を編んだ座布団や竹製の小物入れなどの雑貨などを貢
いでくる下っ端オーク達に囲まれて、戸惑い気味ながらも喜んでいる。

13歳ぐらいの、金髪をツインテールにしている少女。こちらは執事の娘です。
利発というかしっかりものというか、学校に通っていたなら自然と副委員長の役が回ってきそうな娘さんですね。
小柄で一見儚げな骨格ですが、骨盤あたりは豊かな成長性を感じさせます。


乱入した時点ではあと2人ほど生き残っていたのですが、暴れたユニコーンに突き殺されてしまいました。


私は途中で活動限界になって寝てしまいましたが、オーク達は昨夜一晩かけて荘園の後始末をしています。
人間たちや家畜たちの遺体は森に深い穴を掘って埋葬され、生きていた馬や豚は街道近くに放しました。

で、この五人の身の振り先なのですが‥‥。


1 我々で面倒を見る。
これはお嫁さんが一気に増えますが、守りきれるかどうか不安があります。

2 大母様に押し付ける。
我々にとって一番損や危険がありませんが、利益もない。

3 ソーニャさんの伝手で東方世界の何処かに引っ越させる。
彼女達の安全と将来の両立を考えたらこれかなあ。2に比べたら危険が高いけど。

4 放り出す。以後、一切関わらない。
これは無しですね。そんなことするぐらいなら今この場で物理的に首を刎ねる方がまだ慈悲深い。


当主も家臣も領民もみんな死んでしまったので、荘園の運営は不可能です。乗っ取られることを承知の上で親族の助けを求め
るぐらいしかありませんが、現在この近辺の土地持ち貴族は闘争中なんですよねえ。
昨日あっちの草原で集団決闘(フェーデ)が起きたかと思えば、今日はこっちの城塞が襲撃されるという有様です。
とてもではありませんが、森の中の小荘園に構っている余裕はない。

有力者が互いに争っているから、混乱に乗じてモンスターや野盗匪賊の類が暴れ出す。困ったもんだ。


つまり下手をすれば、いえかなり高い確率でこの状態で親族を頼るとこの5人は暗殺もしくは幽閉されてしまうのです。
窮地の親族を助けて恩を売るよりは、闇から闇へ始末して丸ごと乗っ取る方が美味しい。
動乱の最中ですから土地持ち騎士の一家がどうなろうと、誰も憶えてはいられないでしょう。





イシカワの通夜と葬儀はつつがなく終わりました。相変わらずオーク族の葬儀は簡潔です。
その後の家族会議の結果 1 の選択肢でいくことになりました。


騎士の娘、アリアドーネは弟の保護と養育を保証してくれるなら雌奴隷でもなんでもなると言ってます。
執事の娘、エーリカはアンドレに一目惚れというかフェロモン酔いの結果懐いてしまいまして。
馬丁の孫、スィールクはアシナガに懐きすぎというか目を離すと誘惑してたりしますし。
家庭教師、エイボリンはソーニャさんに弟子入り希望です。

ええ、女側から「嫁になっても良い」とか「なりたい」とか言われて断れるオークなんてそうはいませんからね。
特に魔法使いの娘はオークへの嫁入りに乗り気でしたし。
ソーニャさんはこれまで何人も、本人には及ばないけど充分以上に優秀な弟子を育ててまして。魔法使いとして大成できるな
ら家族や友人の魂まで悪魔に売ってしまえる業の深い奴が、弟子入りのために何を誓っても不思議はないのです。
偶々この娘‥‥エイボリンは業が深い系統だっただけで、裏の事情とかはありません。女神様もそう言ってます。


そんな訳で集団お見舞いもといお見合いしてみることになりました。うちの巣のオークと未婚女たちを全員集めて。


ソーニャさんを侍らしているというか侍られているケサガケ、コーネリアを膝の上に乗せて今も「いちゃいちゃ」しているゴ
エモン、嫁たちが大神殿にいるイワノフ、行方不明中のハラキズ、そして私の傍にいるギュー・グェス、ゴォ・ドス、レェ・
ウォスは見合いを辞退しまして不参加です。

つまりオークの参加者はタレミミ、コブハナ、デコパチ、ギョロメ、マルマル、サダキチ、モッサリ、アンドレ、ブロディ、
ハンセン、アシナガ、トンガリ、アドニス、ブルボン、ダイコク、イダテン、シャモン、ホッテイ、エッビスの19名。

本日、夜明け頃にダイコクたちの仲間残り3人がやってきたので新入りとして迎え入れました。
あとの11人はソーニャさんもどきの像を奪った群に残ったそうです。離脱されるとは、捕虜を虐待し過ぎちゃったかな?


参加する女たちは、元薬草摘みのマリア、現役復帰した冒険者のサラ、騎士の娘アリアドーネ、執事‥‥いえメイドさん見習
いのエーリカ、馬丁の娘改め豚嫁志願者のスィールク、魔道に魂売ってる系魔法使いなエイボリンの6名。

結果は予定どおりマリアがダイコクと、サラさんがイダテンと結ばれました。ただしこの2人はシャモン、ホッテイ、エッビ
スを加えた5名の共同妻となるようですね。最終的には7人で寝床を共にするのです。


エーリカはアンドレに、スィールクはアシナガに嫁入りすることになりました。
良いんですよ、ここはオーク島じゃないのですから。誰と結婚するかは互いの意思で決めるのです。


そしてアリアドーネとエイボリンが選んだのはマルマルでして。

「イシカワさまが推薦されていますので」
「この人(オーク)と作る子が一番魔法使い向けになるって、占術で出たから」

何故にマルマルを夫に選んだのか訊いてみたら、こんな答えが返ってきました。


「えーと、見えてますか? ここのへんにいる半透明のイシカワが」
「いいえ。この辺りにおられるイシカワ様なら見えておりますが」

うわあ、本当に見えているのかこの娘。念のためにカマかけてみたけど14歳病の類ではないようです。

思わず半透明のイシカワを見つめると彼の霊魂らしきものは私を見て頷きまして、アリアドーネに近寄るとその下腹部‥‥
平たくいえば股の間に顔を突っ込んでそのまま奥に、少女の腹の中に入り込んで消えてしまいました。
本物の幽霊ないし残留思念だったのかな、これは。


Q3、つまりマルマルとアリアドーネの子はイシカワの生まれ変わりになるのですか?
A3、はい。コーネリアの腹にいる子がロザリータの生まれ変わりであるのと同じぐらいにはそうなります。


ううむ、そういえばイシカワとマルマルはかなり仲が良かった気が‥‥。
オーク族が仲間に「俺が死んだら嫁を頼む」と言い残すことは珍しくありません。


Q2、ところでマルマルに魔法使いの素質ってありましたっけ?
A2、欠片もありません。しかしエイボリンとマルマルの子には魔法の才能が宿るでしょう。


そうですか、嫁の勘違いじゃないなら良いや。本人の望みどおりオーク・ソーサラーになる子をばんばん産んで貰おう。
まだ1レベルの呪文しか使えないしMPもそう高くありませんが、伸び代は悪くない筈なんですよねエイボリンは。
ソーニャさんに出された弟子入り条件の「オークの子を10人産んで育てる」を二つ返事で了承した彼女ですが、どうせ育て
るなら弟子にできる才能を持つ子を産みたいと言っています。

本人に惚れ込んで嫁に来たわけではありませんが、それでも年頃な別嬪さん2人の腰に手をまわして抱き寄せたマルマルは嬉
しそうです。
普段から引き締まってない顔がもう緩みまくりです。正直言って見てらんない。

嫁さんたちがいまの時点で何を言おうと考えていようと問題ありません。
どうせ彼女達の腹が膨らむ前に完堕ちしちゃうのですから。エロモンスターと寝起きしてりゃそうなりますって。


「問題ない。あの娘たちの映像と音声は仔細漏らさず記録してある」
「ぐっじょぶですよコーネリア♪」


近い将来、しおらしい雌奴隷になったエイボリンにこのときの録画を見せたら恥ずかしがるだろーなー と、一生弄れるネタ
ができたことに喜ぶ私とコーネリアなのでした。


 



[38600] 62
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/08/01 14:12




 ☆111日めの2、淫肉の嬌宴☆



色々と慌ただしい中ではありますが、そろそろマリアとサラさんが限界っぽいので結婚式を行うことにします。
人間族のそれと違い、温泉洞窟のオークが嫁を取る場合は式の直前まで新郎と新婦が裸でいちゃいちゃするのが習わし。
夫となるオークと裸もしくは裸同然の姿で寝食を共にし、同じ湯に浸かり、全てを委ね抱きかかえられ運ばれる女だけが嫁入
りできるのです。

なので風呂を沸かして花嫁2人と野郎どもに入らせました。
一応周りに紐を渡してから帆布をかけて風呂場を隠せるようにしたのですが、オーク達と年増とロリ娘は簡易カーテン全開で
見せびらかすように「洗いっこ」とか「舐めっこ」とかしています。

いや、マリアが今やっているのは浮気の報告か。
幼女は詰まり詰まりの告白をしつつ、浮気相手である人夫のソレに見立てたイダテンのち○こをしゃぶり倒しています。
性能はともかく大きさがちょうど同じぐらいなので、イダテンのち○こを使って浮気行為を再現しているのです。



マリアは、色情狂(性行為依存症)でこそありませんがえっち好きというか男が好きです。
スラムで私娼まがいの暮らしをしていましたが、男に触れることや奉仕すること自体は彼女にとって辛くないどころか楽しめ
る行為でした。

彼女を買っていたお客さんにしてみれば、相場どおりの金額で咥えてくれる可愛いロリっ娘が拙いながらも自分を愉しませよ
うと懸命に御奉仕してくれて、たまらず出した子種汁を美味しそうに飲み干されて、尿道に残っていたのまで一滴残さず吸い
尽くされた上で、「ご利用、ありがとうございます」とか本気で感謝されていることが分かる、気持のこもったお礼の言葉な
んか聴かされた日にはもう一枚銅貨を出して第2ラウンドをお願いして当然です。

時間に余裕さえあれば追加料金なしでも、もう一度咥えてくれるのがマリアなのですがね。
村にいた頃から、彼女は「射精させる」ために村人ち○こを咥えていたのではなく「男の欲望を鎮める」ために兄や従兄弟や
大人達のち○こへご奉仕していたわけでして。
なのでお客のものが起つかぎりは、マリアはご奉仕を続けるのです。
病人を待たせているので、時間が押しているときは途中で切り上げますけど、そのお詫びに途中のお客さんには次回無料で咥
ると約束するのがこの淫乱幼女。

その状態でいきり立って襲いかかり強姦しようとしたりなんかしない穏やかな気質の男だけを、後日約束どおり客が満足する
までご奉仕して代金を受け取ろうとしない幼女に「お小遣い」としてコインを握らせる太っ腹のお客様だけを、選んでおしゃ
ぶりしていたのですよ、マリアは。
サラさんや村の女達から教わり、村の若者達相手に磨いたとはいえこの歳でここまで媚びが売れるとは、愛玩されるために産
まれてきたような人間雌ですよ。初なオークが夢中になる訳だ。


マリアとサラさんが私と出会うまで生き延びられた理由の一つが、そんな「イエス! ロリータ! ソフトタッチ!」な変態
さんたちの存在でして。
そのあたりの感謝と、もう会えないことのお詫びも含んだ挨拶に行ったのですよマリアは。
昨日の朝、おしゃぶりのお得意さまにね。

オーク・ラヴァーが人間雄に寝取られることは無いといっても良いのですが、オーク妻の全てが人間雄に対して常に全く魅力
を感じない訳ではありません。
私やマリアのように多情で淫乱なタイプは、好みの人間雄にときめいてしまうことがあります。
ソーニャさんも長い雌奴隷生活の中で1人だけとはいえ、人間の子種で孕んでみたいと思った事がある訳ですし。

あ、いや、今は私の子も欲しがってるから累計で2人か。ファンタジーなこの世界では、呪文やアイテムを使えば性転換でき
ますし女同士のままでも子供が作れます。
私自身も、もし夫たち以外の子を産むとしたらソーニャさんに種付けして欲しい。
なにせ彼女が次に産む4人目の子は、私が種付けしてあげることになってますからね。既に夫たちとハラキズの承諾も取って
ありますし、私の方も予定が空き次第ソーニャさんの子を孕みたいのです。

堕ちるところまで堕ちちゃったなー。自然体で、自分が産む娘を夫たちに献上しようとしている。
でも身も心もドMの雌奴隷になってしまった私は、幼い娘達の前で実地で性教育をしている図を想像しただけで嬉しくて堪ら
なくなるのでした。

何年も十何年も手塩に掛けて育てた愛娘たちの前で夫たちや息子たちにご奉仕の手本をやってみせて、手取り足取り教えて、
まずは好きなようにさせてみて、娘達が父や兄弟を‥‥ご主人様たちを愉しませることができたら誉め倒してあげるんです。
出会ったばかりで、もう性教育済みだったマリアを手解きしただけであんなに楽しかったのだから、愛娘であり愛弟子な我が
子ならもっと楽しい筈。



そんな訳でマリアは別れの挨拶をしにいったのですが、会話の途中からなんだか淫らな雰囲気になっちゃいましてね。
このまま別れると、マリアにとって心残りになりかねないと判断した私とお師匠様は人夫のおじさん(お兄さん?)を路地裏に
引っ張り込みました。

それからは発情してしまったマリアが「最後にもう一回だけご奉仕させてください、おかねは要りません」と頼み込めば、
人夫のおじさんは「前からしたかったんだ」と口付けを強請ってきまして。
今イダテンとしているような、互いの手を手を握りあって雰囲気出しまくった口付けを、親子ほども歳の離れた人夫とロリっ
娘が交わしている姿は犯罪そのものでしたよ。


もしもダイコクたちと出会わなければマリアは‥‥ いや、違う。

もし私と出会わなければマリアはあの日、虐められている人間雌を放ってはおけないけど囲う気や甲斐性はないオーク達から
逃げ延びて、門番たちに「チンピラがオークに殺された」ことを告げていたでしょう。
そしてその日の食い扶持と壊された籠の修繕費用を稼ぐために副業に出て、あの人夫に買われて、怪我の原因を問い詰めたこ
とを切っ掛けにあれやこれやしてマリアは人夫の妻になっていたかもしれません。
そのくらい相性が良かったですからね、二人は。
マリアの村が今も平穏で、そこに人夫のおじさんが婿入りしてきたなら良い夫婦になった筈です。

ただ私と出会わなかったり、村が平穏だったりした場合でも、いずれサラさんはヤクザに攫われてお宝の在処を吐けと尋問さ
れる事になります。
あのヒルデニア人の用心棒には、今のフル装備状態なサラさんでも多分勝てない。
引退生活の頃や病気状態なら逃げることすら無理でしょう。
尋問されようが拷問されようが知らないものは喋りようがないから、次はマリアが攫われてサラさんの口を割らさせる為に拷
問を受けることも確実。夫も家族も村人も、巻き込まれたらお終いです。


つまり私があそこで踏み込んだから3人とも生き延びたのですよ。代わりにヤクザが百人以上死んだけど。

スラムで幅を利かせていたヤクザ者、ゲイリー某の元手下どもは逃げ延びた連中の半分ぐらいが賞金稼ぎやお師匠様に切られ
たりとっ捕まったりして破滅しています。
奴らの根絶やしは難しいでしょうが、奴らが組織として再起するのはもっと難しいですね。
たった1人の尼僧剣士に殴り込まれて、親玉を見捨てて逃げたことが裏稼業の世界に知れ渡ってしまいましたから、生き延び
たヤクザ者は「元ゲイリー一家です」なんて、とてもじゃないけど名乗れたもんじゃありません。恥ずかしすぎる。



人夫のおじさんは人間雄にしておくのが惜しいほどの好漢でしたが変態さんなので、口付けだけでは満足できないマリアに再
びお願いされると内心嬉々としてベルトを緩めました。

で、しゃぶらせるわ、飲ませるわ、抱きしめるわ、まな板おっぱいを揉みしだくわ、幼女の下着脱がせて大股開きにして覗き
込んで「‥‥い、弄らないでください。それは、旦那様に、破いてもらうんです」と哀願されちゃうぐらい玩んじゃうわと、
やりたい放題してくれました。

そこまでやったのにそれ以上は進まず、マリアのお願いどおりに膜も破らなかったのはある意味感心しましたけどね。
後にいる、ヤクザを数十人切ったという噂の女剣士から「嫁入り前なんだから程ほどにね」と釘を差されていたからだとして
もあの状況で思いとどまれるのだから、凡人ではありませんよ。


おっと、そろそろ止めに入らないと初夜の前にマリアが開通してしまいますね。盛り上がりすぎだ。
回りに列を作って正座している見物人オークたちの隙間を縫って、風呂桶横の簀の子に近寄ります。

回想しているうちにマリアの告白は村で暮らしていた頃にまで遡っていまして。
で、幸福な家庭では珍しくありませんがマリアの初恋(と言って良いのか?)は実の父でした。
お口の処女は近所の悪ガキどもに捧げてしまったマリアは、おま○この初めてを一番好きな男である父に捧げようとしたので
すが畜生道への崖っぷちになんとか留まったマリアの父親は「そこは旦那様に破って貰いなさい」と優しく諭して思いとどま
らせたのです。

もちろん娘を嫌っている訳ではありませんから、父親はマリアの求めるままに本番以外の性行為に及んでしまいました。
マリアの初絶頂は父親の指と舌でもたらされたのです。
中世の農村なんてモラル ゆ る っ ゆ る ですからねー。性的な意味でも。

マリアの父親にしても一線を越えてしまうと娘のためにならないから思いとどまったのであって、じゃれあい程度なら村の倫
理観にもひっかかりません。おおっぴらにするのは流石に宜しくないですが。
なのでマリアは野良仕事に出ている父にお弁当を届けにいって、ご飯の後で農夫が木陰で昼寝するその前に寝やすいよう一発
抜いてあげたりしていたのです。

焼き餅焼きのダイコクがそんな告白に興奮してまして、オークの本能が刺激されたのか寝取りモードに入っている。
いかんいかん、それはいけません若人よ。オーク族は紳士でなければ。せめてもう一段階とろかせてから突っ込みなさい。




しかし‥‥前から変だ変だとは思っていましたが、もう疑惑を越えて確信の域に達してきました。
ショーシャの森のクルゥリー村でしたっけ? そこに行けば手がかりがある筈です。

知らなくても問題ありません。多分ですが私や仲間たちに益はあっても害はない。
だけど気になる。マリアには絶対に秘密がある。普通の村娘じゃない。
村自体も秘密があるのかも。
ソーニャさんもショーシャには行ったことがないそうですが、一度行ってみるべきかなあ。
サラさんのへそくりその他を回収するという偵察行の口実もありますし、戻る気はないにしても村からモンスターを駆逐すれ
ばマリア達の気も幾らかは晴れるでしょう。




肝心の花嫁衣装ですが、これは私とコーネリアとソーニャさんの三人で縫い上げました。
魔法というものはとにかく便利なものでして、お師匠様が隠れ家の宝箱から引っ張り出したマジックアイテムの裁縫道具を使
えば並の職人の31倍速ぐらいで仕立てられるのです。
仕立屋さんの娘だけあって、それなり以上の腕で服を作れるのですよソーニャさんは。
真っ先に布鎧の合成方法を弟子に教えるあたり、針仕事が嫌いなわけではないのでしょう。

ただそのウェディングドレスの意匠が、設計者の正気を疑うような代物でして。
我々は無実です。注文どおりに作っただけなんです。


頭は、東方風の半透明ヴェール。
腕は、二の腕まである白絹の長手袋。
脚は、同じく太腿まである白絹の長靴下をガーターで吊ってます。
腰は、ガーターの両脇へ薄絹の布地を台形に裁断してフリルを付けたものを、底辺の短い方を上にして取り付けてます。

つまり、このドレス?のスカートは左右に分離してて前から見れば下腹部から股間そして太腿の内側が丸見えなのです。
後ろから見れば尻丸出しですね。前後ともにVの字型というか逆三角形に露出している。

もちろん胸も丸出しです。
白絹のビスチェ風胴着を付けてますがこれがノーブラというか、臍の上から乳房の下あたりまでしか覆っておらずしかも胸を
寄せて上げる構造になっていて、ロリと年増なのにマリアとサラさんの乳房は美味しそうに盛り上がってます。


場末娼館の年季だけは積んでいる年増娼婦だって嫌がりそうなこの花嫁衣装ですが、サラさんは誇らしげに着こなしてます。
彼女を盲目的に信頼しているマリアも同様に着飾って、恥ずかしがりながらこちらは腰布一つの花婿にお姫様だっこで式場ま
で運ばれてきました。もちろんサラさんもだっこされてます。
下っ端で小柄とはいえイダテンもオークですので、同じ体重の幕内力士よりも腕力があります。なので大柄な花嫁を抱きかか
えたまま、式の最後までふらついたりしませんでした。

ええ、式は滞り無く進みましてマリアとサラさんは予行練習のとおりに夫と共に祈りを捧げ、求愛や宣言や口付けを行って、
女神様と仲間たちの祝福を浴びながら結ばれました。

ダイコクのものはマリアには大きすぎて入れるのにわりと苦労しましたが、一度マリアの口に射精してから半萎えの状態で挿
入しまして、今はしっかりと填りこんでいます。
予想通り逝きまくってますねー。幼いながら、男に突っ込んで貰うためにあるような名器に下っ端とはいえ人間ハーフオーク
のち○こが突っ込まれているのですから相性も抜群です。

人間同士の夫婦でも愛情と相性次第で何ヶ月も填り込んでしまうのですから、産まれながらの雌奴隷がオークとの交尾に飽き
る訳がない。
私もそうでしたけど、未熟な股ぐらをオークち○こでほじくり返されて開発される幸せは処女をオークに捧げた小娘にしか味
わえない至福なのです。
生娘の固さがほぐれて具合が良くなった頃にはもう孕んでて、お腹に子供がいることを実感しながら少しずつ腹が膨らんでい
く幸せを噛みしめる日々が続きます。


うん、やっぱり処女は手足が伸びきらない年頃に大人の人間ハーフオークに捧げちゃうのが良いですね。
もう一度ロストバージンできるとしたら、前よりも痛くして欲しいぐらいです。
私のときは、なるべく痛くないようにしてくれましたからねギュー・グェスは。
ダイコクも頑張ってますが童貞君と、念入りに実地性教育された幹部オークとでは技術と経験が違いすぎる。

しかし本能で加減ができるので、オークは強姦する場合でも性行為の結果で人間雌を殺してしまうことはまずありません。
痛みや快楽や疲労や絶望で、犯されている女の心臓が止まってしまったりはしないのです。
殺すと決めたら殺しますけど、可愛がると決めたら可愛がるのがオーク流。
下半身に関しては本当に優れた生き物なのですよ彼らは。だからひいひい泣きわめいているマリアも命や健康には何も支障は
ありません。血は出たけどもう止まってます。


マリアの処女喪失を見てると、ギュー・グェスとの初夜を思い出してしまいました。
絶対的な強者に全てを委ねて、発狂ものの快楽と苦痛の嵐に玩ばれるあの感覚。逆らう事なんて思いもできない逞しすぎる生
き物に優しく可愛がられる安堵感と一体感。
初めての膣内射精の熱さ、内臓の隅々まで征服されちゃう幸福感と充実感。思い出しただけで逝ってしまいそう。

愛のあるえっちって良いものですね。
処女と童貞が好きあって夫婦になって、初夜から本気の子作りえっち。見ているだけでお肌がツヤツヤしてきます。
寿命が延びますわー。
オークのち○こに純潔を捧げることができる幸せな乙女を一人でも増やすために、これからも頑張ることにします。

サラさんとイダテンは、いわゆる駅弁スタイルで繋がってますね。どちらかというと年下趣味な新婦は新郎の童貞と子種を貰
えて嬉しそうです。




オークに救われ、オークのねぐらで一晩を過ごした現地娘たちは、オークたちに慣れてきています。
数時間とはいえ肩を抱かれたり頭を撫でられたりして、かなりマルマルに懐いていたアリアドーネでしたが、あの花嫁衣装に
は盛大に引いてますね。
下っ端オークの中でも特に優しい気質のマルマルはそんな婚約者を抱き寄せて「お前が好きな服を着なさい」と身振り手振り
も交えながら伝えてなだめているのですが、オークフェロモンにだいぶやられてきたアリアドーネはマルマルの気遣いに
「‥‥はい」と控えめに喜びながらも、同時に (この方が喜んでくださるのなら、どんな恰好にでもなるのが妻というもの
ではないでしょうか) などと考えてたり。

この娘もある意味不思議生物だなあ。良く躾られた騎士階級の娘がオーク妻として人気なのも解る。

アリアドーネは夫が彼女の夫に相応しい存在である限り、愛と忠誠を捧げるように洗脳(教育)されきってます。
で、今はオーラと、フェロモンと、馬外道になにもかも奪われてしまった衝撃で心がひび割れていて、その隙間をオーク達か
らの好意と欲望で埋めようとしている。
本来は眼中にない蛮族の下っ端でも、その圧倒的な暴力だけで「強い=夫の資格あり」と肯定されてしまうのですよ。


彼女は必死で生きようとしているのです。弟を生き延びさせようと懸命なのです。
その努力自体は、はっきり言って空回りなのですがオーク達の保護欲をそそる効果がありますね。変態紳士力が漲ります。
でもマルマルは変態紳士というにはがっつきすぎてるからなー。
我慢できないでしょうねえ。いや、焦らされもしないからアリアドーネにとってはその方が良いのかな?

いえね、居候時代のラブコメ調いちゃいちゃ生活も楽しかったし良い思い出ですが、あそこでもっと強引に迫ってくれてたら
なー と思い出しては、夫たちを不甲斐なく思う事もありまして。
毎日毎日、いつ襲われても良いように念入りにお口やおま○こや尻穴を綺麗にしていたのに、我慢できなくなってオーク達に
襲われることを想像しながら自慰してしまったこともあるのに、自分からは何もしませんでしたからね変態紳士どもは。

‥‥前言撤回。やはり大事にして貰って良かったです。
あの頃を思い出しただけで胸が甘酸っぱくなって下腹部が疼いてきました。もし巣に来た早々に犯されていたら、夫たちのこ
とをここまで好きにはならなかったかもしれません。

マルマルには自重するよう、よっく言い聞かせておきましょう。



一方、エイボリンは悲壮感の欠片もありません。できるだけえっちな衣装を作って貰おうと思案中なぐらいですね。
この娘は元々性的にも好奇心が強く、何年も前から処女を捨てたいと願ってましたが選り好みとか後腐れを考慮とかして踏み
切れずにいて、前世でいうクリスマスケーキ状態になっていたのです。

中世風世界の18歳って、年増寸止めですからね。5割引でもなかなか買い手がつきません。
20歳越えれば中世では立派な年増、26歳で初産を迎えるコーネリアは前世で言う高年齢出産扱いです。
実際には個人差がありますし、貴族階層の年増女に実年齢の5割り増し判定は必ずしも当て嵌まらない気がしますけどね。
苦労していると老けるのが早く、貧民層は若い時間が短い。つまり物理的にも乙女の命は短いのです。


魔法使いの何割かは常識と倫理観念が外宇宙まですっ飛んでいる輩です。
それを行って魔法使いとしての研鑽が進むのであれば、異種姦だろうと蛮族への嫁入りだろうと躊躇わないエイボリンでした
が初めて触れるオークち○こに夢中になってます。
先程からマルマルのち○こにしゃぶりついてなめ回して、咽の奥まで咥えこんでは感触を愉しんでいるのです。
最初は恐る恐るという感じだったのでしょうが、短い時間ですっかり気に入ってしまってます。

コツを掴むというか開眼する必要がありますけど、えっちをしても経験点的なものは入るのですよ。
音痴がいくら歌の練習しても歌手になれないように、できない人はいくらやってもできませんができる人は割と簡単にできる
ようになります。私は無意識にやっているので他者に教える事ができませんが、ソーニャさんなら伝授できる。

一月ちょっとで神官のレベルが上がった私のように、オークとえっちをしまくるとレベルが上がりやすくなるのです。
別にオークに限定しなくても上がりますけど、好きな相手と楽しみながら、楽しませながらでないと効率悪いですし。
オーク達は新しい女に目を奪われることはあっても、古女房に飽きるということがありませんからねえ。
惚れ込んだら一途で誠実なのですよ。最後まで責任もって愛してくれます。

あと実も蓋もありませんが初心者から中級者のうちは、オークを100人見つけだして殺すよりも、見つけたオークに30回
犯して貰うほうが簡単だし、経験値でも実入りが大きい。
素質や相性や双方の関係にもよりますが、たとえ得られる経験値?の殆どが自動で分配されてしまうとしても、初級冒険者が

低難易度の迷宮をうろつき回るよりは、友好的なオークを見つけて犯して貰う方が効率的です。
気持ち良いし、楽しいし、経験値だけでなくお小遣いや貢ぎ物まで貰えるし、馴染んだ人間雌なら迷宮と外部との送迎や護衛
までしてくれることもありますからね。

可愛かったり色っぽかったりする女だけの初級冒険者一団が、頻繁に低難度迷宮に潜っていて妙に羽振りが良いのなら‥‥
その一団は、数日おきに迷宮のヤリ部屋でオークち○こに貫かれてひいひい言っているのかもしれません。
ソーニャさんやサラさんの見立てでは、ヴァダ市でも2~3の冒険者一団(パーティ)がエロモンスター向け娼婦を兼業してい
る模様です。
薬草つみの中にも何人かオーク臭い女達がいたとの事。

現役時代のサラさんは気に入った若いオークたちを使って、悪質冒険者を狩っていたぐらいです。
疲れて帰って初心者を迷宮の入り口付近で待ち伏せする悪党どもを、オークの仕業にみせかけて抹殺していたのですよ。
直接的には弱くても、迷宮の住人が協力してくれれば所詮は余所者の悪党どもなど簡単に始末できます。そもそも初心者狩り
なんて腕利きや切れ者のやる悪事じゃありませんし。


そんなわけで完全に填って雌奴隷になってしまう危険にさえ目を瞑れば、若く未熟なソーサレスがオークの巣で寝起きして用
心棒兼業の娼婦として経験値を稼ぐのも有りなのです。
結果的にではありますが、十代半ばのソーニャさんはそれでレベルを上げて初心者にありがちな突発死を避けた訳ですし。

人間陣営の討伐隊や他のモンスターに負けてしまう危険もありますが、そちらは人間勢力圏から離れた巣を選んだり、巣の
防衛に協力したり、最悪でも逃げ時を間違えさえしなければなんとかなります。


性魔術のちょっとした応用で、オークといちゃいちゃするとゲームで言う経験点のようなものが入ることを実感したエイボリ
ンは書物と耳学問で集めた知識を駆使して、近い将来の夫を楽しませようと頑張ってる。
口の中で射精されるのってどんな感じなのだろう、手で受け止めるよりも気持ち良いのかな? などと期待に股を濡らしなが
ら処女魔法使いはご奉仕を続けています。
コーネリアに見せられた水晶球の性教育映像を夢中で見ていましたし、エイボリンは元々オークを性の対象にしていたので
異種姦への抵抗が少なかったのですが、もうすっかり填ってますね。
ええまあ、Mっ気のある東方娘にはそれ程珍しくないオカズらしいですよ、オークに攫われて云々という妄想は。


年長の2人が半堕ちと完堕ちなのですから、幼いスィールクとエーリカが無事な訳がない。
披露宴の席の隅で、アシナガの膝の上に乗ったスィールクは口づけと股間への軽い愛撫で何度も逝かされて、ぐったりとして
います。マリアよりやや幼い年頃ですが、馬丁の孫だけあって性知識がありまして男女の営みも理解していました。
というか爺さんに偏った性教育‥‥いや調教されていた臭いんですけど、この子。中世だと普通のことですけどね。

一方執事の娘エーリカは箱入り寄りの教育をされていたようで、性知識はかなり薄い。
夢見がちな所がありまして、馬外道どもの襲撃から救ってくれたオーク達、特にアンドレをお伽話の勇者様だと、自分はその
妻になるのだと思いこんでます。
そんな彼女にはマリアとダイコクの、血と悲鳴の流れる初夜は刺激的すぎたようで泣き出してしまいました。

アンドレも変態紳士を目指してますし、オークは女子供に甘いので泣いているエーリカを慰めていたのですが。
話術とか何にも知らず、ゲームで言えば知力判定で大きくマイナス修正が付いてしまう彼は何時のまにやら「エーリカとの結
婚式では一切痛くないように貫通する」ことを約束させられてしまいまして。
それは一向に構わないのですが、花嫁衣装をアンドレの好みのものにすると言われてしまって困惑しています。

まー 野郎がいきなり花嫁衣装の話をされても困りますよねー。今度相談に乗ってあげましょう。




さて。

新婚さんたちに当てられて本気えっちがしたくなったので、夫たち三人に順繰りで犯して貰ったのですが‥‥2周目が終わる
と同時に失神してしまいました。
それは良いんです。膣出し一回で伸びていた頃に比べれば雌奴隷として進歩しているわけですし。

ただ、しばらく寝てから起きると披露宴が乱交会場の様相を呈しておりまして。


「モウ、デルッ」
「ああ、いつでも出して良いぞっ」

オルロフ風のドレスに身を包んだコーネリアがイワノフに騎乗位で跨り、小刻みに腰を振っています。
浮気ではなく妻たちと別居中のイワノフを慰めるためという口実で、ゴエモンがコーネリアを抱かせているのです。
ゴエモンは二人のすぐ傍にいて、コーネリアの尻に手を当てていて腰の動きを監督している。
ドレスのスカートをまくり上げられてピンで襟首に縫い止められてますけど、コーネリアは下穿き以外は全て身に付けたまま
の完全武装ですね。ピンを抜きさえすれば王宮の舞踏会にも出られる恰好で青少年オークに跨ってます。

ほどなくコーネリアの膣奥に、イワノフの溜め込まれた精液が迸りました。それと同時にゴエモンはコーネリアの尻穴に埋め
込んでいた「浄化の首飾り」をゆっくりと引き抜いていきます。

「~!?」

膣に注がれ肛門から引き出される、分単位で続く快楽の同時攻撃にコーネリアは逝きっぱなし状態です。
声も出せずに悶え続けている。

数分間の絶頂とその余韻のあと、何回出しても治まらない別居中オークち○こを填め込んだままコーネリアはゴエモンと舌を
絡め合い、夫の胸にすがりついてまた詰め込まれるアナ○ビーズもどきを受け入れてます。

ゴエモンは左手で連結した珠を妻の尻穴に一個一個送り込みながら、右手で淫核まわりを弄って悦ばせてます。
ほほう、彼は直接クリト○スを触るのではなく、その根元の部分を扱くようにして可愛がる技術を身に付けましたか。
実地込みの性教育をした甲斐がありました。読んでて良かった夫婦生活指南漫画。
自分の体を使って技を身につけたオークが、他の女をその技で悦ばせているのを見て幸せを感じてしまう。
師弟愛みたいなものでしょうか。満足感と誇らしさの入った感情が胸に満ちているのが解ります。

イワノフはコーネリアと繋がったままドレスの上から胸を揉みしだいていましたが、揉みすぎて乳房がこぼれ出ると優しく丁
寧にドレスの乱れを直してやって、それからまた揉みはじめました。

ほんとにもう、年増の貴族女とそのおっぱいが大好きですねイワノフは。
彼の第二夫人と第三夫人が見たら喜ぶでしょうから、後で録画を大神殿へ届けてあげよう。
この光景を見て、「自分たちが年増になった10年後も20年後も変わらず可愛がって貰えるんだ」と、嬉しくなってしまう
のが奴隷妻なのです。



向こうではスリップとドロワースだけの姿になったエーリカがアンドレ、ブロディ、ハンセンの巨漢組に囲まれて、3本の肉
ドリルを撫でたり扱いたり ちゅっ と口づけたりして遊んでいます。もうすっかりち○こに慣れ親しんでますね。
既に何度か射精しているらしく、淫らな笑顔を浮かべた少女の口回りや肌着は粘液でドロドロです。少女の股間も、子種汁で
はない粘液で湿り、肌に貼り付いて可憐な肉溝が浮かび上がってます。

スィールクは上半身にぶかぶかの少年兵用水兵服を着て、下半身素っ裸でスポンジもどきの上に仰向けになり、四つん這いに
なって覗き込むアシナガとトンガリの前で股を開いて秘裂を指で割り拡げている。
彼女は視姦される嬉びに目覚めたようです。
頬を染め目を潤ませて雄達の望むままに指を使っているスィールクは、今にも達してしまいそうに喘いでいる。
雌は雄に屈伏してこそ幸せを得られると教育されてきたマゾ幼女は、祖父の教えが正しかったことを実感しています。


アリアドーネは上半身だけを脱いでいて、やや大ぶりながら形の良い乳房にコブハナとデコバチを吸い付かせています。
こちらはえっち目的ではなく母性を求めている雰囲気でして、オーク達に出ないおっぱいを与えている少女の表情はとても穏
やかで満ち足りている。

うん、堕ちたなあれは。

エイボリンはというと、素っ裸で四つん這いになってマルマルに尻を突き上げていて、性器と尻穴まわりの無駄毛を処理して
貰ってますね。横にソーニャさんが付いていて、何ごとか囁くたびにエイボリンが呻いたりひくついたりしていますが‥‥
なんだ言葉責めか。マゾっ気のある娘を愉しませるの大好きですからねお師匠様は。

あ、ケサガケが更に横で干涸らびている。嫁さんに搾られすぎたか。


マリアたち7人は乱交というか、サラさんが合意の上で輪姦されています。
休む暇もなく、童貞を卒業したばかりの若オーク達に突っ込まれては膣出しされている。
流石にマリアはダイコクの相手だけで疲れてしまった模様ですが、それでも膣出しを終えて引き抜かれた共同夫たちのち○こ
を舐めしゃぶって綺麗にして、再びそそり立たせてます。
おっと、逞しくそびえ立ったダイコクのものにまた吸い付きましたよあの娘。サラさんばかり可愛がっちゃ嫌だと駄々を捏ね
てます。

その後挿入なしで、五人の夫たちに代わる代わるち○この先端を雌穴に押し当てられてから射精されたマリアは、涙を流して
失神してしまいました。
スポンジもどきマットに寝そべってその様子を眺めるサラさんは、満足そうな笑みを浮かべています。

二人とも花嫁衣装のヴェールとスカートは外れてしまいましたが、他の衣装は付けたままなのがエロいですね。二人の花嫁の
首には、青銅の棒材を捩って作った手製の首輪が填っています。
もちろん首輪は温泉洞窟の流儀どおり、奴隷妻の手でいつでも外せる構造になっています。奴隷であることを強制されないと
いう点では、奴隷にとって厳しい場所なのですよ私の所属する巣は。



風呂場では不思議繊維製の貫頭衣みたいなのを着た女がオークと湯浴みをしてました。
青みをおびた長い黒髪の‥‥ああ、誰かと思ったらルウですか。
なんか雰囲気かわってるけど、巡礼母娘の母親の方です。
だいぶ肌艶が良くなりましたね。相変わらずあばら骨が出るほどに痩せてますけど、病気は完全に治ったようです。

湯女の恰好をした彼女はその恰好通りの行為、つまり風呂場での性的な意味も含むご奉仕をしています。
聞けば2年ほど前に死んだ夫は風呂屋通いが好きで、偶に家で蒸し風呂などをするときなど嫁さんに湯女の真似事をさせてい
たのだとか。
前世で言えば中学生ぐらいの若妻に、特殊浴場で仕入れたプレイをさせつつ娘を仕込んだのか。業が深いなあその前夫も。


ちなみにいま、仕込まれた技でご奉仕している相手はタレミミです。ロリが大好きだけど母性を感じさせる年増女もいける彼
はとろけそうな笑顔でルウといちゃついてます。
娘を含め前夫との一切合切丸ごと受け入れてその上で愛してくれるのだから、オークであるという一点を除けば良い再婚相手
なのです。お金持ちではないけど食うに困る身ではないし。


元巡礼の二人ですが、娘のメイアには「教育に悪いから」と結婚式は見せないことにしています。
そろそろ縞模様が消えかかっているウリ坊たちと一緒に、早々と寝かしつけました。
子供を寝かすには思う存分遊ばせてからお腹いっぱい食べさせて退屈な昔話でしてやれば一発です。
でも大人のルウには「見るな」とは言ってません。「見ろ」とも「出ろ」とも言いませんでしたけど。


ああ、やっぱり。対毒装備を外してるよこの女。

当然ですが、矢が頭に刺さってから兜を被っても矢は刺さったままです。
毒を防ぐ装備を外しているときに毒蛇に噛まれたら毒状態になりますし、それから防毒装備を身に付けても身体に入った毒は
消えません。
装備品と霊薬の力でオークフェロモンを防いでいても、一度装備品を外せばその時点でおしまいです。

上記の理屈は、冒険者ですら勘違いしている者がいます。駆け出しだと耐性装備に触れる機会が少ないですから。
その手の装備品は
1 付ければ毒を受けにくくなる ものと
2 付けていれば毒状態への状態変化が起きなくなる ものと
3 付けると体内の毒が消える ものがあるのです。

1の効果は毒の被害を受けにくくなりますが、強い毒だと防ぎきるのは難しい。
2の効果は状態の変化は防げるけれど毒の被害そのものは受ける。
3の効果は、毒が完全に効かなくなります。あらゆる毒物が完全に、です。 

ルウとメイアに装備させたのは 1 の効果を持つアイテムです。
2 の効果は毒ではあるけど「状態:毒」にするわけではないオークフェロモンにはあまり意味がありませんし、 3 だと
薬の殆ども効かなくなりますからね。
とにかく、 3 の効果を持たないアイテムは毒状態になってから装備しても意味がありません。


怖いもの見たさで式や披露宴やその後の乱交パーティ会場化を見ていたルウは、好奇心から指輪を外してしまったのです。
いえ、好奇心というより「オークに縋ってでも安楽に生きたい」「娘にこれ以上の苦労をさせたくない」という思いが、踏ん
切りを付けさせるために外したのかも。

動機や切っ掛けがなんであるにせよ、ルウはオークに嫁入りすると決めてしまいまして。
なので暇そうで優しそうで子供好きらしくて年増も好きだと思われるタレミミを誘惑して、お試しえっちなどしてみたのです。
彼女の読みは当たってまして、タレミミはルウを気に入っています。

「タレミミ様、どうか私を妻にしてくださいませ」
「ワカッタ。ルウ、オレノヨメ」

えらくあっさり決まってしまいましたが、まあ良いか。お見合いの敗者復活戦だったと思おう。
って、こらっ! この場で合体しようとするんじゃありませんっ 式を挙げてからにしなさいっ。


近いうちにまた式を挙げねばなりませんね。今度は花嫁が5人か。
大丈夫なんでしょかね、こんなに嫁が増えて。






 ☆112日め、いざ進め☆



「大丈夫なわけがないでしょ」

ごもっとも。


お師匠様に聞くまでもなく、非戦闘員が一気に3人も増えてしまえば防衛計画が練り直しになって当然です。
幸いにも非戦闘員のうち赤ん坊のリカード君は離乳食が食べられるまで成長していますし、メイドさん見習いのエーリカと
馬丁の孫だったスィールクは赤ん坊を世話した経験がありました。

私も一応、赤ん坊の世話した事があるけど あ る だけですからねえ。
常識家のコーネリアには子守の知識や体験がそれなりにありまして、多分この巣の女衆で私が一番子守下手です。
巡礼の旅やその前の村暮らしでメイアにも子守の体験がありますし、母親であるルウなら乳母役に申し分ない。


新入り人間雌+赤ん坊の5名が仲間になりましたが、完全な非戦闘員はそのうち3人。
たしなみ程度に武術の心得があるアリアドーネはオーク島基準で星0ぐらい。魔法使いであるエイボリン(エヴォリンの方が
発音的に正しいかも?)は星1ぐらいの評価ですが、一応は戦えます。非戦闘員じゃない。


非戦闘員じゃなければアイテムで強化できるんですよ。ティーン未満の少年でも70近い婆さんでもAK47が撃てさえすれ
ば戦力になるんです。AKが撃てるならRPGだって撃てますからね。


とりあえず、アリアドーネには俊敏長靴と魔法のグリフォン革鎧、耐性防御機能や状態異常阻止能力の付いた腰帯、不意打ち
されにくくなる髪飾り、防護の指輪、無印人食い鬼腕力の籠手などが貸与されました。
武器はごく普通の魔法の短剣と、銘入りな両手持ちの戦斧です。

この斧は【地獄の始末屋】なんて名前が付いているだけあってかなりの業物でして、装備者の体力と耐久をかなり上げてくれ
る上にHPも上がる優れもの。もちろん武器としても優れています。
たしなみ程度の腕しかないアリアドーネが、試し切りで重甲冑を両断できましたからね。もう易々と。
基本性能と白兵戦能力だけを追求した、ある意味「漢の浪漫」装備ですけど適切に運用すれば頼りになります。

欠点は装備していると魔力やMPや詠唱技能が下がるので、呪文が使いにくくなる事。だからソーニャさんは鎧櫃の奥にしま
い込んでいた訳で。
今までは使う人がいなかったのですよ。お師匠様も私もコーネリアも呪文使いだし、サラさんは斧より剣の方が得意なうえに
これからは魔法剣士として再教育を受ける身ですから。
斧が得意な人間雌などが仲間になったら渡すために仕舞っておいた代物でして、オーク達が使うにはもう一つ向いてません。


エイボリンには矢避けの魔法帽子、魔力を高める黒真珠の首飾り、山羊悪魔の法衣(ローブ)、魅惑の下着、エルフの長靴、
大魔法使いの指輪などを貸与します。
‥‥なんか、さらっと超絶希少品が渡されてますね。国宝級のとそれ以上のが入ってますけど。

「そりゃ、まがりなりにも弟子だもの」

私とサラさんとエイボリンは弟子なので、弟子でないアリアドーネとは貸与品の希少度が違うのは当然だそうで。
ちなみにエイボリンに貸し出された装備のうち最も希少度が高いであろう「大魔法使いの指輪(リング・オブ・ソーサリー)」
は装備した魔法使いの、魔法使いとして評価される能力を全て数割り増しに強化する指輪です。

ゲーム的に言えば、かしこさとか魔力とか最大MPとかMP回復力とかが全部3割り増しになるのです。
怖ろしいことに、これは装備する者の実力に比例して強化されます。
つまりオーク島の幼女妊婦な天才ソーサレスがこいつを装備したら、100点満点中の130点な魔王が誕生します。

何故にこれを弟子に貸し出すのかって? 既に同じ効果を持つアイテムを装備済みだからですよお師匠様は。
ソーニャさんが微妙職扱いされることが多いソードソーサレスでありながら、豊富なMPを誇っている理由の一つですね。

武器は‥‥あのー お師匠様?

「なあに?」
「その杖、火球(ファイアボール)が連射できるやつですよね、確か」


支給品の杖(スタッフ)を確認すると、やはり24発の第3階梯攻撃呪文が充填されておりました。
使い方次第ですが、一本でヴァダの街を半壊させられますよこれ。地方領主の城なら3つか4つぐらい落とせるでしょう。

「誤射が怖いからやめてください」
「そう? じゃ、こっちにしましょう」

代わりに渡された杖は「魔法の矢」が充填されていました。残弾57発。
一度に一本しか撃てず威力は並の弓矢程度ですが撃てば確実に当たるので初心者にもってこい。
新入り二人には自分たちの護身と非戦闘員の防衛補助ぐらいしか期待していませんから、火力よりも安全性を優先して欲しい
ものです。
アドニスやブルボンは火球の杖に充填された呪文が直撃したら死にかねません。非戦闘員組の女子供は確実に即死します。

妹弟子は「誤射なんてしないのに」と不満げですが誤射は し て し ま う ものであって、しようとして撃つもので
はないのです。
良いからまずは1レベルの攻撃呪文が入った杖を完璧に使いこなしてみせろ、話はそれからだ。
目の前の透明な壁に気付かず、その向こうにいる敵に「火球(ファイアボール)」撃ち込もうとして仲間諸共爆死した魔法使い
なんてTRPGじゃ珍しくもありません。



ユニコーン退治の時は落下対策を忘れていて危ない目に遭いましたので、今日のサラさんの装備は前回の反省をふまえて組み
合わせてます。
更に、武器を変更しました。
これまで使っていた【剛腕なるガァンの剣】を改造してアンドレに持たせ、サラさんは新しい魔剣を使うことにしたのです。

複数の経路で、丘巨人の宝箱に入っていた風変わりな魔剣の由来を調べていたのですが、近場には所有権を主張しそうな因縁
を持つ有力者はいませんでした。
多分新品なんじゃないかな? 銘が入っていませんし。

名のある匠か魔術師の作品でしょうが、何らかの理由で名付けられる前に封じられてしまったのでしょう。
ならばこの私が名付けようではありませんか。


【レィザー・ブレード(カミソリ剣)】
・幅広の長剣だ
・それは魔法合金でできている
・それはとても良い仕事をしている
・それは燃えず凍らない
・それは朽ちず錆びない
・それは武器として使える
・それは片手でも両手でも使える
・それは命中力をかなり増し、威力を凄まじく上げる
・それは致命的攻撃の発生する確率を上げる
・それは軟らかい敵に対し、通常より割り増しの損害を与える
・それは血を流す敵に対し、通常より割り増しの損害を与える
・それは付けた傷の再生を妨害する
・それは追加攻撃の機会を増やす
・それは疲労の蓄積を軽減する
・それは敵の士気を下げる(※※※)
・それは速度を5上げる
・それは器用を9上げる
・それは魅力を6下げる
-それは手に馴染みにくい
※あなたは使用条件を満たしている


いえね。この剣は両刃のカミソリに似ているのですよ。薄手で幅広の刀身、色は黒いけど刃の部分は白く輝いてます。
刀身の真ん中、普通の剣なら血抜き溝が彫ってあるあたりに細長く穴があいているようにみえますが、実はその部分は穴が空
いているのではなく素材が透明なのです。透明部分に継ぎ目はなく刃と完全に繋がっている。

そう言えば、ルビーなどのコランダム系宝石はアルミなどの化合物でしたよね、確か。
ジュラルミンの遠縁に透明素材が存在するのなら、魔法合金のなかに透明なものがあってもおかしくない。

どちらかというとスピード派なサラさんには、ガァンの剣よりこっちの方が向いているでしょう。
武器としての基本性能も【レィザー・ブレード】の方が確実に上ですし。
手に馴染みにくく使い込むのが面倒だという短所がありますが、逆に言うといきなり使う分には他の武器と何も違いません。
扱いが難しい武器ですが、より巧みに使いこなすのに労力が要るのであって慣れるまで能力が下がるわけではないのです。


「‥‥名前といえば、イダテンたちの名もヒルデニア語なのかい?」
「ええ、そうですよ」

ハラキズからブルボンまでには名前の意味や由来を話していますが、ダイコクたちの名前については言ってませんでしたね。
サラさんだけでなく、本人たちも古参の下っ端たちも聞きたがってるから話しておきましょう。

ダイコク は「立派で頼もしく熟練した者」漢字だと大黒。
イダテン は「素晴らしく駆ける者」漢字だと偉駄転。
シャモン は「困難に挑む者」漢字だと沙門。
ホッテイ は「度量や器量の大きい者」漢字だと包帝。
エッビス は「雌に悦びを与える者」漢字だと悦媚主。

玄人や黒帯など、ヒルデニア文化では暗い色合いにも肯定的な意味があるとか、悦媚(えっび)とはオークに出会って発情して
いる人間雌またはそのおま○このことで、エッビスとは悦媚たちを征服して屈伏させ子宝を授ける福の神の名前なのだとか、
虚実をまじえて講釈しました。

昨日まで童貞だったエッビスですが、その顔つきも体つきもち○この具合も、滅多にない水準のオーク的好男子でして。
肉バイブというか人間雌向け男娼としての素質、女を可愛がる適性ならば幹部オーク達に次ぐ能力を持っています。
まあ、私にとってはハラキズの方が魅力的ですけどね。
確かにエッビスは男前だしそのち○こを股に咥えこんだら気持ち良いでしょうけど、彼の子供を産みたいとは思いません。


「つまり降伏とは降福であり幸伏なのです。人間雌は股を開いてオークに慈悲を乞うことで、オークの子種を腹に受け入れて
孕むことで、オークの子を産むことで、その腹にまたオークを迎え入れることで幸腹となり真の幸福を得るのです」

エッビスの名前から悦媚つまり人間雌の在り方に話が移りまして、成り行きのままにオークたちの、オークの雌奴隷にとって
都合の良い世界観を語る羽目になりました。これも説法といえば説法か。

エスティア様、電波全開ですね。一々考えなくても洗脳効果有りの台詞がぽんぽん出てきます。



神官の説法技能は低いですけど御神体の威厳と神殿長補正とフェロモンの相乗効果で、年増1、適齢期越え気味2、適齢期1、
やや早過ぎやしないか1、の嫁候補たち5人はオーク妻になる決意を新たにしています。

女たちは頭の悪いエロゲテキストから引っぱってきたような私の説法を、熱心に聞き入っている。
人間って肯定されることが、認められ誉められることが大好きですからね。
女はオークの前で股を開いて当然、それが神の摂理なのだと言って欲しかったのですよ、みんな。

既に彼女達5人は、オークの前で股を開く愉しみに目覚めてます。今この場で押し倒されても喜んで受け入れてしまうぐらい
とろかされている。
エロモンスターと一晩過ごして、本番以外のえっちをやり倒してしまえばそうなるでしょう。 
それで良いのだと、そうなることが望ましいのだと女神様と神官に祝福されて女たちは随喜の涙を流しています。



説法のあとで非戦闘員にも軽傷治療薬や聖水を持たせ、盾や鎧や指輪や護符などを装備させました。
兜一つ、上着一枚でもむき出しに比べれば遙かにマシです。嘘だと思ったら上半身だけで良いから裸になって、盆過ぎの海辺
で浴いでみてください。

女たちにもオーク達にも、その殆どに魔法の武器や盾を持たせています。
オーク島のオーク達は胴鎧や籠手や脛当てを好まないのですが、何故か手持ちの武器や首飾りなどはあまり嫌がりません。
あとはマントなどの肩装備と、兜など頭装備が比較的使われているかな。
逆かもしれません。武器や首飾りや腰ミノなどはオーク的に嫌じゃないからオーク島でも身に付けているのかも。

激戦をくぐり抜けた下っ端たちは武器が強くなったこともあり、戦力が増しています。
グェスやウォスの持っているアイアンウッド棍棒も祭壇で聖別と祝福を受けていますから、普通の武器ではない。
この陣容なら人狼の群れに襲われてもなんとかなるでしょう。

いや、油断は禁物です。敵を侮ってはならない。
たとえ魔法の鎧を着ていたとしてもイシカワは助からなかったでしょう。ここはファンタジー世界で、強者はいくらでもいる
のです。それを忘れたらお終いだ。




防衛計画を見直した結果、温泉洞窟は暫くのあいだ放棄することになりました。守り切れません。
人面獅子迷宮も出入り口を内側から塞いで、転移基点としてだけ使います。
温泉洞窟の様子を見に行くときぐらいですかね、人面獅子迷宮の出入り口が開かれるのは。

温泉洞窟は封印して、ときどき様子を確認する。
人面獅子迷宮は人員を常駐させるけど、扉を封じてなるべく出入りしない。
そういうことになりました。


オーク島との連絡は、人面獅子迷宮からミッシェル山近くの祠まで転移することで維持します。
いざとなれば東方世界から祠へ直接転移しますが、事故率を下げるためにも本当にいざというときだけにしたい。

この仮拠点も近いうちに放棄します。守りきるには地勢が悪すぎるし街からもまだ近すぎる。
次の拠点はヴァダ‥‥もとい廃都バレンの地下神殿跡地。これから、地元オーク達の再建工事が止まってしまった場所に乗り
込むのですよ。

せっかくだから、群れ全体で動くことにしました。イノシシたちも一緒です。
メイアは親イノシシに魔法の鞍を付けて、その上に跨って喜んでますね。
ワイバーンでもこれを付けられたらロバより大人しくなりますし、落馬防止機能もついてますので安心です。
非戦闘員を人面獅子迷宮とかに残す案もあったのですが、分散するよりも集中した方が守りやすいという戦闘要員側の意見と
こうなれば生きるも死ぬも一緒だという非戦闘員側の要望を受けてこうなりました。


エスティア神像の元抱き枕と、オールクゥス神像と、そのほかの女神達の像を輿の中央に載せます。
赤ん坊を含む非戦闘員を輿に乗せ、その傍にコーネリアとエイボリンの後衛職、その外側に私とサラさんとアリアドーネの前
衛職を配置。イノシシたちはメイアと一緒に、輿とコーネリアの間にいます。
ちなみに輿は「浮遊」の呪文で浮いているので、オーク達が手を離しても落ちたりひっくり返ったりはしません。

更に外側と前後を下っ端オークたちが固め、幹部オーク3名とお師匠様が斥候・前衛・遊撃・後衛を交代でこなしている。
下っ端たちは数人ずつに別れて幹部に付いたり、独立分隊を作って輿の直衛や遊撃に就いています。
うむ、戦力が素晴らしく充実してますね。


では、出発!






[38600] 63
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2016/08/03 12:20



 ☆112日めの2、見た目は重要です☆



心象(イメージ)は戦略戦術と切っても切り離せない関係にあります。
春秋戦国七雄の一つ秦は兵卒に揃いの黒い軍装をさせて精鋭ぶりを誇示したと聞きますが、戦場では目立つことや強そうに見
えることや敵味方の区別がつきやすいことが大事なのです。

早い話がこの水兵服ですよ。
流石に後衛たち&戦力外扱いのアリアドーネにまでは行き渡りませんでしたが、希少金属製のセーラー服を同じ色合いと同じ
構造で作りまして私とソーニャさんとサラさん3名で着ています。
4着目以降も素材は揃っているのですが、仕立てる暇がありません。


つまりソーニャさんとその弟子は、水兵服を鎧の上に陣羽織みたいに着ている訳で。
ヴァダの近辺では水兵服が剣姫ソーニャ一党の目印になっています。

茶釜要塞からの戦利品と私の手作りのを合わせて数十着、只の布製水兵服を街の古着屋などに売りましたので物好きが買った
り複製したりするのは当然の流れ。
英雄級冒険者のお気に入り服が新たな流行となるのもまた当然。
これまた当然ながらソーニャさんの名を騙る輩も水兵服風の恰好をし始めています。

お師匠様本人が用意したのまで入れると、今現在のビィーヤ盆地には12人の自称ソーニャが活動中だとか。
ソーニャさんが把握していない木っ端騙りまで含めると30人以上いるかもしれません。
そういえば江戸時代初期に宮本武蔵を名乗っていた武芸者が、文献に残るだけで10人以上いたという説が有った気が。
ロシア動乱のドミトリィ皇子は4人ぐらいでしたっけ? あっちは同時ではなくて順繰りだけど。

本物と活動域が離れすぎていると偽者疑惑が出やすくなりますし、かといって近すぎると何かの拍子に本物とご対面してしま
う可能性が上がる。
本物を直接知っている冒険者に見咎められたり偽者同士で潰し合いになったりで、騙りもそれほど楽ではありません。


ここまでやれば、水兵服みたいなのを着た女剣士たちがオークの群れを率いている所を目撃されても「それは偽者です」と
後々言い張りやすくなります。私の偽者向けに、少年兵向けの小さい水兵服を20着ぐらい売りましたからね。
元々が20世紀初頭ころで欧州だか米州だかにあった流行りですからね、女の子に水兵服着せるのは。
目新しくて可愛いなら余裕のある層が着てみるのは当然でしょう。
殺伐とはしていても、地球の中世欧州と違い暗黒時代じゃありませんからね東方世界は。中流以上の市民なら流行を追いかけ
る余裕があります。

オーク達は単純に「水兵服=女戦士が着ることもある服」と捉えているようで、全般的に裾の短い方がウケが良いですが、
ロングスカートやスラックス風やショートパンツも「これはこれで」と人気です。
まあ、私も短パンの裾からねじ込まれたドリルち○こに貫かれての本気えっちが最近のお気に入りなのですが。

確かに夫たちの逞しすぎる巨根じゃ、これはできませんよねえ。毎日朝昼晩夜夫たちに可愛がられていても、義息子達の摘み
食いは止められません。
タレミミやデコバチのドリルち○こも初々しくて良いですけど、やはりハラキズが恋しいなあ。
なまじ肉欲が満たされてしまったから、足りないハラキズ成分を欲しがっているのです。

うん、やはり四人目の夫はあの子しかいないや。離れてるのにますます好きになっていくのが解ります。
早く見つけてあげないとね。
あの子が 旦 那 様 と呼べる立派な戦士オークになる過程を見たいのです。



ホッテイたち3名から聞き取った道程を進み始めた温泉洞窟一行でしたが、程なく止まりました。前方に何かいます。
見てみれば地下廃墟の広間に数十人の地元オークたちが集まって、その全員が頭を地面に擦り付けるようにして跪いてる。

「グヒッ」「グヒッグヒッ」

オーク族どうしだと仔細に解る鳴き声じみた呼びかけは「偉大なる三王の征服行にどうか我らもお供の端に云々」と言ってい
るようです。
なんか見覚えのある連中だと思ったら、いつぞやのオーガー丸焼きをあげた群の長が他の二つの群の長を口説いて一緒に頭を
下げに来たのか。
幹部どころかゴエモン一人に蹴散らされそうな連中ですからねえ。来るのが遅すぎるぐらいです。

強者ゆえの鷹揚さで、3名の族長とその配下の同行を許した夫たちは進軍を再開しました。
一行は3倍近くに増えてしまいましたが、気にせず進みます。


道案内を申し出てきた地元オークたちから話を聞いてみたのですが、ホッテイたちから聞いた話と殆ど同じでした。

黄金の女神像を分捕って地下神殿跡地に持っていった何処ぞのオーク族長は、人望や人心掌握技能が足りなかったらしく離反
者や妨害者が続出して神殿再建は頓挫してしまったのです。
正確には「なんでお前が仕切ってるの? そんな資格あるの?」と他の族長たちに囲まれて袋叩きにされました。

彼に四対一で圧勝できるだけの実力(オーク島でいえば星5ぐらい?)があれば事は丸く収まったのですがねえ。
ゴエモンだときついかな。勝てるだろうけど無傷ではいられないでしょうから。

当然ながらその後は袋叩きにした連中の間で、ソーニャさん似の像や幼女似の像を巡って争いになりまして。
四人の族長が「殴りあい地下」しているところに獲物の臭いを嗅ぎつけたスライムの大群が押し寄せてきて、オークたちは散
り散りバラバラに逃げ出しました。

まー、簡単に取り返せるなら誰かがとっくの昔にやってますよね、神殿再建。


ええ、挨拶に来た現地族長の一人はその争っていた連中の一人なのですよ。
彼と拳を交わしていた族長たちのうち、少なくとも一人は逃げ遅れてスライムに食われたそうです。


「蛮族ぅ‥‥」
「ん? いきなり刃物を出してこないあたり、辺境艦隊の水夫どもよりはマシだと思うんだが」
「オーク島のオークたちってお行儀良いわよね」

現地オークたちのグダグダっぷりに辟易する私に、コーネリアとソーニャさんは容赦なく現実で追撃入れてくれました。
考えてみれば(前世の)私のご先祖様だって「隣家が上手く田植えできてるのがむかつく」とかの訳が分からない理由で刃傷沙
汰に及んでいた訳で。
うん、根っこが平和なのがオーク族の美点ですよね。短所や欠点も山ほどあるけど目を瞑ろう。

ちなみに「神官様の群れに合流しよう」というホッテイたちの誘いを断った元捕虜組の11人はうち1名が死体で発見され、
残り10名は「遠くに行く」と言ってどこかに消えてしまったとか。元気でやってりゃ良いのですが。



サラさんがその辺の岩を魔剣で切り刻んで彫り上げた石像に、ソーニャさんが呪文をかけて簡易ゴーレムを作りました。
お師匠様が操る魔法版極限作業用ロボットで黄金像を回収してから、攻撃魔法を呪文と杖と巻物でしつこく撃ち込んで神殿跡
地に居座るスライムの群れを退治します。呪文やアイテムを使える面子で、練習を兼ねて使いまくります。


「こ、こんなに使って良いのかな?」
「ええ、おかわりも有るわよ」

店で買えば(必ず買える保証はない)一枚あたり700ゴールドはするという第2階梯攻撃呪文の巻物が、籠に山盛りになって
いてそれを「全部使え直ぐ使え。でないと破門」と命令されてしまったエイボリンは涙目で読み上げています。
分や秒の時間で金貨の山が吹っ飛んでいくようなものですからねえ。
でも正しい。数は力であり戦いは数なのです、妹弟子よ。

傍にいる二人、大盾を持ち巻物の入った籠を背負ったマルマルと魔法の戦斧を持ったアリアドーネに励まされてるのでなんと
かなるでしょう。
私や他の女達も呪文やアイテムを使いまして、オーク達は壁役を務めます。
一時間あまりで神殿跡地のスライムは全滅しました。逃げた連中が戻ってこないように、ひとまず結界を張りましょう。


ついでにスライムじゃない、近場にいるモンスターも纏めて駆逐します。その後は焼け跡を隅々まで回って階段や通路を塞い
で隙間に目張りして‥‥と再建工事を始めましたが。

ええい、細かいところは省略だ! 
私が気兼ねなくお祈りできればそこが神殿なんですよ、文句がある奴は出てこい。
工事は最低限のことだけやって、残りの作業は後回しにします。
明日で構わないことは明日に回して、自分以外ができることは出来る誰かにやって貰いましょう。
私は私にしかできないことに労力を使わねば。


そんな訳で、私は廃都地下神殿の神殿長になりました。
その日のうちに更に数名のオーク族長が配下を引き連れてやってきまして夫たちに従うことを誓い、神殿で参拝しています。
鎌倉武士団的統治方式ですが、夫たちは100人以上のオークを従える身になったのです。

まあ、なるようになります。
とりあえず、近々このあたりで起きるだろう戦乱をどうにかしましょう。
上手いこといけば、義息子たちに新しい嫁が来る筈です。







 ☆113日め、予定は未定ですけどね☆



言い忘れてましたが、アリアドーネたちのお屋敷と荘園は根こそぎ略奪を受けています。
馬外道どもは破壊と殺戮と強姦しかやりませんので、当然ながら我々温泉洞窟一行がやりました。
宝物庫の財貨や倉庫に備蓄した食糧はもちろん、価値の有りそうなものはことごとく持ち去ったのです。


ユニコーンの死骸も無限袋などの収納系アイテムに詰め込んで回収しています。でもまだ解体はしていない。
ドス達が仕留めた7頭とグェス達が仕留めた5頭で合計12頭。早めに処理して収納系アイテムの空きを確保するべきなので
すがなかなか暇がとれません。

荘園の住人たち、クリンウッド家の人々とその領民の遺体は丁重に埋葬しました。森の中に作った墓地は神様パワーでこれで
もかとばかりに浄化しましたので、亡者は湧かないし寄ってもこない筈です。
お嫁さんたちのために物資や財貨を回収したのですから、彼女達が悲しむようなことはやりません。

人間族が快適に暮らすには人間族の作った諸々の物資が要ります。お屋敷などから持ち去った消耗品は日々の生活に使われる
のですが、現金や換金価値の高い宝物類それに由緒ある家具などは封印して保管されています。
財宝や骨董品はクリンウッド家が再興するときの資金と再興してからの箔付けに使うのです。
何百年も前から大切に使い続けられている値打ち物の家具とかがあると、貴族的に有利なのですよ見栄を張れるし。


なお、屋敷は放置しておくと野生動物や野盗やモンスターのねぐらになってしまうので、思い切らせるためにも火を掛けさせ
ました。管理するのが無理なら廃棄した方がまだマシです。
躊躇っていたアリアドーネでしたが、「このまま放置していたらユニコーンどもの新手がやってきて餌場にするかも」と充分
有り得る予想を聞かされて踏ん切りがつきました。

馬外道どもは人間が大嫌いなくせに畑の作物は好むのですよねえ。農村や荘園を襲ったらまず畑を荒らして、お腹いっぱいに
なってから人間を襲うのが普通ですし。


15年もすればリカード君も立派な大人になりますから、適当な貴族娘に種付けして子孫を作ればお家再興できます。
極論すると貴族なんてものは血統と暴力さえあればなんとかなる。
金銭? 奪えば宜しい。
伝手? 殴れば宜しい。
この東方世界には京都もなければローマもない。公家もいなけりゃ枢機卿もいない。
破門宣告も朝敵認定もない乱世で暴力以外に恐れるものなんかあるもんか。
 
アリアドーネの才能だって40点ぐらいはあるのですから、鍛え込めばトロルだって殺せるようになります。
下級貴族としては暴力方面の素質が低めですが、母体としての評価は悪くないのでいざとなればアリアドーネの子に継がせて
も良いのです。
姉弟の保護と養育とついでにお家再興は約束しましたけど、どちらに再興させるかは決めてませんし言ってません。


再興してからもクリンウッド家の姉弟が雌奴隷&種馬奴隷なことには変わりありません。
二人はこれからずっとオーク達と暮らして、特にアリアドーネは一年の殆ど腹にオークを入れて過ごすのです。身体の一部か
全部か、あるいは両方を。
リカード君も同様。お稚児さんとして男の子のまま可愛がられるも良し、女の子に性転換して寵愛されるも良し。
オークの巣穴で養われる人間、しかも幼児どころか嬰児からなら適応しきってしまいます。

子供の順応性は高いのです。困ったことに、ね。
直接の接触を避けていた元巡礼ロリ‥‥いや年齢的に言うとペドっ子? のメイアですら数日で堕ちてしまいました。
今は母娘一緒にタレミミのち○こへしゃぶりついてます。

見慣れない生き物に最初は怯えていた幼女でしたが、仲睦まじく暮らすオークと女たちの様子に次第と警戒心が薄れていきま
して。
フェロモンにとろかされた母に「新しいお父さまよ」とタレミミを紹介されるとあっさり懐いてしまいました。
えっちが好きな訳ではなく、至って無邪気にドリルち○こを玩具にしています。

メイアにはフェロモンが効きにくいですからね。先走り汁の催淫効果も僅かにしか影響してません。
母親の分まで対毒装備を付けていますし、それらの装備品は外れないように処置してあります。
用心のために、メイアには避妊魔法を最大出力で掛けてます。流石に妊娠には早過ぎるし、雌奴隷が本人の意思と選択で孕む
のがウチの巣の伝統ですから、性教育が一通り終わらないと子作りはさせません。。

ただ、対毒装備てんこ盛りで解毒の霊薬を飲んでいても、子宮に精液注がれると堕ちちゃうかもしれないんですよねえ。
英雄級の人間ハーフオークが、メイアに本気で孕ませようと膣出しすれば絶対に妊娠します。
私と夫たちでは格が違いすぎる。女神様の援護で限界まで出力を上げた避妊魔法でも、防ぎ切れません。
下っ端オークの子種でも、絶対に孕まないとは言い切れない。
子種汁自体は毒物じゃありませんから、対毒装備に避妊効果はないのです。
で、人間族の女がオークの子を妊娠して絆されなかった事例は、今のところ報告がない。


ならば避妊魔法に意味はあるのか、といえば充分にあります。
逆に言えば膣奥で射精されて逝きまくって「このひとのあかちゃんほしい」と思わなければ、まず孕まないのですから。
避妊魔法は掛けられた本人が「孕みたくない」と思ってないと効きが悪いのです。
どんな魔法にも呪文にも、この傾向があります。同じ人物に同じ防護魔法を掛けても、掛けられた本人が集中している場合と
弛緩している場合では同じ攻撃を受けても効果がまるで違う。
士気や気合いで勝てるとは限りませんが、心が折れていては自滅するだけです。

オークに捉えられていた女を奪回した人間族が、その女を殺したり幽閉したりする事にも道理はある。
一度エロモンスターに屈伏してしまった者は、まだ屈伏したままかもしれないのです。
本人が気付いてないだけで、オークなどとの戦闘中に「雌奴隷に戻りたい」と自覚してしまい寝返ってしまう女冒険者は後を
絶ちません。
一度オークに犯された女は殺すしかないと思い詰める輩が出るのも解ります。
いやまあ、だったら女を矢面に出すなと言いたいですけどね。後方で大事にしてりゃ良かろうに。


つまりは、メイアに避妊呪文を掛けているのは事故で妊娠させないためです。逆に言えば「いちゃいちゃ」の最中に子種汁が
幼女の股に掛かっちゃったとか、幼女が子種汁まみれの手でお○にーしちゃったとかでは受精しなくなるのですから。

オークの子なら今すぐにでも孕めちゃうし産めちゃうのが問題ですよねえ。女神様の加護があるから母体も子供も無事なのが
保証されています。
私としては、せめて一桁年齢のころまでは子供には子供らしく暮らして欲しいのですよ。

えっちも子作りも胸が膨らみかけてからで遅くありません。
幸いオーク達も、メイアが成長するまで子供として可愛がる方針に賛成してくれています。


オーク族は待ち伏せ猟が得意です。何日でも執念深く獲物を待ち続けることができます。
日々の糧ですら待つことが出来るなら、嫁候補の成長を何年か待てない理由がどこにあるでしょう。



さて、待つ必要がない四人の娘さんたちは近々式を挙げるのですが、その花嫁衣装が問題でして。
ルッニネツ村の伝統的花嫁衣装で奴隷妻になることが夢だったサラさんと、奴隷妻適性が高すぎるマリアはあの独特な花嫁衣
装を着て式を挙げました。

花も恥じらう乙女があんなもの着れるか、という意見はごもっとも。
なのでエーリカは、彼女の母親が嫁入りしてきたときに持参したドレスを仕立て直したものを。
スィールクは、アリアドーネが数年前に着た社交界お披露目用のドレスを仕立て直したものを。
相談の結果、それぞれの花嫁衣装にすることになりました。

エイボリンは、「踊り子風の衣装」と「下着居酒屋な風俗嬢的衣装」と「毛皮の水着みたいな衣装」を並べて唸ってます。
あ、悩みながらも踊り子風の衣装を選択肢から外しました。踊りが下手な自分には合わないと判断したか。


アリアドーネはというと‥‥ 

「無理でしょうか?」
「できますよ」

なにやらややこしいことを頼まれてしまいましたが、作れます。
オーク族との寿命差から考えてアリアドーネはこれからも何度か着ることになるでしょうが、初めての結婚式で着る花嫁衣装
には特別な思い入れがあって当然です。腕によりをかけて作りますとも。




「レイ、ちょっと力を貸しなさい」

万能鋳造機と裁縫道具と金槌その他の工具類を使っての花嫁衣装作成中に帰ってきたお師匠様に連れられ、一本の箒に二人乗
りして郊外の地下遺跡に向かいます。
着いてみればその遺跡では下っ端たちが掃除と片づけをしていました。
サダキチやトンガリたちが野盗の死体を運んだり汚物を集めて捨てたりしています。

私の仕事はお師匠様と下っ端たちが制圧した野盗団の根城にできている卑金属の山を、どうにかすることです。

まずはオーク達が集めた一山いくらの武器防具とその残骸を貪り食う無限袋に突っ込み、ゴミや埃や血糊を取ります。
染み込んだり食い込んだりしているものは取れませんが、取れるものだけでも取って綺麗にします。
次に残骸の中から単一素材でできたものを集めて鋳造機で潰し、針金や棒状またはリボン状の鋼材や青銅材などにします。

お師匠様は私の横で、綺麗にした武器防具のうちオークが使いやすそうなものを選んではそれらに各種素材を組み合わせて
改造しています。

蛮族的大雑把さで人間族から分捕った武器をそのまま使ってみて、使いにくいので「やっぱ武器は手作りだよなー」と伝統的
な棍棒に持ち替えるのがオーク島の日常です。
リシュ・オゥスでしたっけ? 金髪ちゃん姉妹の旦那様もそういう結論に達したと聞いてます。

オーク島では「それで良し」とする向きが主流ですが、年中無休で人間族と向き合っているビィーヤ盆地のオーク達は人間族
の武器を改造したものを進んで使っています。

まあ、東方世界にはアイアンウッドが生えてないからでしょうねえ。あれで棍棒作ると下手な魔法の鎚矛(メイス)より強くて
頑丈になりますから。オークが握るならライトメイス+1よりアイアンウッド棍棒の方が断然殺傷力高いです。


改造しにくそうな武器と防具はそのまま無限袋に入れて、あとで街の故買屋か鍛冶屋へ売りにいきます。
ふむ。武器が防具に比べて少ない気がするので、鋳造機で作って混ぜておきましょう。
長剣小剣片手槍に戦斧などなどを作ります。

なにやら創作意欲が湧いてきたので、作った幾つかの品物には細やかな彫刻など施してみました。
ただの飾りや模様なので性能が下がることはあっても上がることはありませんが、こういうのは気分の問題です。

装飾として一つルーンでも刻んでみようかなどと考えつきまして。
しかし、やろうとしたところで思い出したのが前世で見た 間 抜 け 外 国 語 の数々。
筋肉むきむきの大男が肩に「聞く耳持ちません」という漢字仮名交じりの文字を彫り物(タトゥー)しているの見て脱力してし
まったこと、貴方はありませんか? 私はあります。
多分あれは「御意見無用」と間違えて彫ったんじゃないかなー。


なので母国語で彫り込むことにします。なあにこれだって異文化でならルーンと言い張れますって。
「破邪顕正」とか「鬼神泣哭」とか「万夫不当」とか「現世駆逐」とか、それっぽい漢字をそれっぽくあしらいました。

むう、こうなれば定番のあの四字熟語も入れなくては。
最上質の鋼鉄からスコップじみた武器を作ります。工兵用ナイフと園芸用シャベルを混ぜて割ってから、塹壕掘りに使えるま
でに拡大したような武器です。
切って良し、刺して良し、叩いて良し、殴って良し。剣としても斧としても槍としても棍棒としても使えて、どんな状況でも
それなりに強くて、とんでもなく丈夫。もちろん穴も掘れます。


「それ、どういう意味なの?」

と、完成した戦闘用スコップに彫り込んだ四字熟語の意味を訊いてきたお師匠様に

「焼かれた肉は食われるが定め、です」

と答えます。意味としては、焼いた肉が生肉に戻らないように世の中には取り返しのつかない事がある。焼いちゃった肉はき
ちんと食べてあげることがせめてもの真心というものですよ、とかなんとかそんな感じです。

うん、そういうことにしよう。焼肉定食とは「やったことには責任を持とう」という意味だと言い張ることにします。




本日のソーニャさんは賞金首を狩っています。ついでに野性動物やはぐれのモンスターも狩ってます。
街道沿いの籔などに潜んでいるゴロツキの集団を見つけては切り捨てor捕縛。尋問すれば野盗の仲間や競争相手などの情報が
得られるので支援用の冒険者一行を複数引き連れて順繰りに潰して回る訳です。
野盗の死体処理、捕虜の捕縛と見張り、人質や馬匹の世話、お宝の回収と運搬。さほど強くなくてもしっかり仕事の出来る冒
険者たちなら充分役立ちます。


野盗のなかにも危機感覚の鋭いのがいて、同業者が片端から狩られていくのを察知して逃げ出したりしているのですが‥‥
ソーニャさんは追い付けそうにない獲物については、使い魔を飛ばして知り合いの冒険者や傭兵にその情報を渡してます。
で、お宝を抱えて裏街道や獣道をひた走る野盗団は各地で封鎖や待ち伏せや追撃を受けて潰されていくのです。

百戦錬磨どころか、文字通り5万と人や人型生物を切ってますからねソーニャさんは。
更に職業軍人で大国の軍学校上位卒業者なコーネリアが加わって指揮してますから、ケチな野盗団では逃げ切れません。
バラバラになって森に逃げ込んだ連中もいましたが、森の中で待ち構えていたレェ・ウォス隊と地元オーク達に捕捉され始末
されてしまいました。
ケチな野盗が考えつく程度の策など、お師匠様にはお見通しなのですよ。

たった半日で、合計9つの野盗団が壊滅しました。この前、私とサラさんで潰したのも入れると10。
この拠点は荷物が重くなりすぎた支援要員と別れたのちにお師匠様が潰した、最後のひとつです。



武器防具の山が終わったら次は銅貨の山です。大きな漏斗とそれを支える三脚を作りまして、口を開けた貪り食う無限袋の上
に置いて焼肉定食スコップで銅貨を掬っては流し込む。
小石とか指とか色々なゴミが混じってますが気にせず流し込みます。

溢れるまで入れたら中身を整理しつつ取り出します。銅貨と、半切りや四つ切り八つ切りになった銅貨と、錆びたり潰れたり
で銅貨とは判定されなくなった銅材をよりわけて、と。
その他の諸々は、価値がありそうなものは取りだしておくか。

しかし、コインって採れた遺跡によって模様とか違うんですねえ。でも産地による違いはないから、たとえばオーク島にある
私たちが掃除してまた動き出すようになったあの迷宮から出たコインと同じ模様同じ文字が刻まれたコインが、ビィーヤ盆地
でも流通しています。
遺跡の製造元が同じなのかもしれません。

「レイ、その銅貨だけど」
「なんでしょう」

ソーニャさんは私から渡された銅貨をそっと地面に置きました。

「確か貴女、手を触れずにコインを拾えたわよね」
「ええ。自分の、というか巣の財産ならですけど」

やって見せてくれと言われたので、地面の銅貨を直接触れずに無限袋に入れて、取りだして見せました。
手を使わずに、ですが手が届くぐらいの位置にあるコインを拾えるのですよ私は。
これもアイテムマスター能力の1つです。
ただし出来るのは一度手に入れたコインだけで、オンラインゲームの主人公のように敵が落としたコインや財宝をホイホイ拾
えるわけではありません。





 ☆113日めの2、器と中身と☆

 

ヴァダの街に来ています。そろそろ日が暮れる頃合いですね。
先程の拠点は金目の物を回収したあとで、油をまいて火を付け焼き払いました。盛大に燃えてましたので、並の野盗団ではも
う再利用できない筈です。


街の様子ですが、ちょっと見ただけで変化が解ります。治安が凄まじい勢いで良くなってる。
今日狩ったのは数人から多くても20数人の小さな組織ばかりですが、手口の凶悪さを基準にして潰しています。
なので新興ヤクザやユニコーン退治のときの火事場泥棒どもと合わせれば、300名以上のゴロツキがいなくなったのです。

標的になる前に逃げ出した連中も入れればその倍は腐れ外道の悪党どもが消えているので、ヴァダ市の外道と言うほどでもな
い悪党や小悪党どもは喜び安らいでます。善人ではないにしろ悪党ではない住人たちはもっと。

街道を荒らしていた片目のワイバーンは数日前にギュー・グェスたちが倒していますし、夫たちはアンデッドなどに占拠され
た区域を制圧して指揮下の現地オークたちに与え、縄張りの調整をしてオークの巣を人里の近くから離しています。
野盗やモンスターが減ったので、温泉洞窟傘下の現地オーク達は随分と暮らしやすくなったようです。
下賜品として渡した塩や砂糖や酒に南国果物と南国野菜などなど、そして強力なモンスターの燻製肉などのお陰で狩り場を変
えた混乱で獲物が一時的に減っても餓えずに済みましたし。

故にこの数日で、都市と街道沿いの安全性が格段に良くなっているのですよ。オークと人間の遭遇戦も減りました。
これまでの状況が、回遊型水族館なみに捕食者の密度が高まっていた不自然なものでしたからね。
社会のダニが一気に減った結果、安全負担と流通効率が一気に改善しています。

ただ、いない方がマシな連中でも人口の5~10%ぐらいが死亡または逃亡してしまいましたので、影響は大きい。
景気の梃子入れは必須です。


「これが本当の 焼いた肉は食うべし ね」

お師匠様は明るく笑いながら銅貨の入った大樽へ「浮遊」の呪文をかけて浮かび上がらせ、その縁に腰掛けてスラムの大通り
上空を漂ってます。

私はその傍らで魔法の箒に横座りして、樽と同じ速度で動いている。
無限袋から取りだした神官向けの錫杖(スタッフ)をかざして、充填された呪文を発動します。
かざすたびに「明かり(ライト)」の呪文効果が現れ、薄暗くなってきた通りの上空に次々と魔法的な明かりが灯りました。
通りに面した場所は、昼間のようとまではいかずとも宵時のスラムとは思えないほどに明るくなってきました。


当然ですが、ものすごく目立ちます。
空中に浮いた美女と美少女が、通りに明かりを付けているのですから。


ふよふよと浮かびながら、なんだなんだと集まってきて自分を見上げる群衆にお師匠様は叫びました。

「銭まくぞ! 銭まくぞ!」

叫びながら、大樽の銅貨を手で掬って通りへ、屋根へ、貧民そのものな顔を覗かせている窓へまき散らします。

「銭まくぞ! 銭まくぞ! 拾え拾え!」

ゆっくりと漂いながら、今度は柄杓を使って掬い取った銅貨をばらまいていく。

「拾え拾え! 遠慮無用! リガのソーニャが銭まくぞ!」


幼児が歩くよりなお遅い速度で漂いながら、ソーニャさんはスラムの通り上空から銅貨をまき続けています。
む、大樽の中身が減ってきましたね。補充しましょう。
大樽に箒を近づけて、魔法の財布から銅貨を注ぎ込みます。入れすぎて少し溢れちゃったけど気にしない。

突如として天から降ってきたコインに、スラムの住人は呆然としていましたがやがて我先に通りへ飛び出し拾い始めました。
降ってくるのが銅貨だけでなく銀貨や金貨も混じり始めると、何処にこれだけの人がいたのかと呆れるほどの人数が出てきま
して、まるで祭りのような騒ぎです。


枚数に関係なく、10万ゴールド入るということは銅貨なら1000万枚入るということ。
では何故に、魔法の財布を持った練達の冒険者が銅貨や銀貨の山を迷宮に残して先に進むかと言えば、ただただ時間が惜しい
からです。漏斗とかを使って流し込むように入れても、10万枚のコインを財布の口へ詰め込むのは一苦労です。

二時間とか一時間半とかかけて、財布に10万枚の銅貨を注いで1000ゴールドを得るぐらいならその時間を使って探索を
進め、ミノタウロスの4~5匹も狩った方が儲かりますからねえ。
普段どおり野盗の根城で山になっている銅貨を見たお師匠様は置いていこうとしたのですが、ふとした拍子にアイテムマスタ
ー能力の実証実験をしてみようと思いつきまして。
で、私が呼び出された訳です。


1 迷宮の地面にコインが山を作って落ちていて、それを見つけたとします。
  魔法の財布にも無限袋にも、見つけたコインは一々拾って入れなくてはいけません。

2 迷宮に宝箱が落ちていて、中に山のようなコインが入っていて、それを見つけたとします。
  宝箱の中にあるコインは、触れさえすれば魔法の財布や無限袋に一山纏めて詰め込むことができます。

3 宝箱や樽に入れて持ち歩いているコインを、どこかその辺の地面にぶちまけます。
  地面や床に山を作っているコインは、山の何処かに触れれば魔法の財布や無限袋に詰め込むことができます。

3の事例を検証してみると、泥沼にコインをばらまいた場合は全部一瞬で回収できました。
しかし流れの速い川などにばらまくと何枚かが回収できませんでした。
視界外にではなく 山 の 一 部 で な い と認識してしまう所まで流れてしまうと拾えなくなるようです。

この違いって、つまるところは コインの山をアイテムであると捉えられているかいないか なのではないかとソーニャさん
は推論した訳です。
色々と実験してみましたが、落ちているコインの山でも安全を確認した上で所有権を実感できた場合なら、一瞬で無限袋に回
収できる事が分かりました。

つまり一度に一万枚ずつまでですが、私はコインの山を一瞬で回収できるのです。
ただし 自 分 の 物 であると認識できているコインでないと無理なので、袋に詰め込む手間が極限まで少なくなるだけ
です。
コインの山があるとして「本当にそこに有るのか?」とか「本当にコインなのか?」とか「本当に安全なのか?」とかを確認
してからでないと一気に回収することはできません。

ゲームの主人公ほど便利じゃありませんが、冒険者やオーク妻にとっては有効な能力です。
無限袋から魔法の財布への転送も一瞬で出来ますから、余程時間が押していない限り私は銅貨の山を諦める必要がなくなりま
した。
いやその、無理して銅貨を集める必要自体が以前と同じく全くもってありませんけどね。とにかく金勘定が素早くできるのは
悪くない。



アイテムマスター能力の検証がまた一つ進みましたし、せっかく詰め込んだのですからこの銅貨の山を有効に使い切ろうとい
うことで銭まきをしています。
オーク島でもやっていましたが東方世界でもやはりやっていたのですね、ばらまき行為。

銅貨を10万枚まいても1000ゴールドですからねえ。銀貨を1万枚混ぜて2000ゴールド。金貨を1000枚混ぜて
3000ゴールド。
お師匠様は身内には優しいけど、それ以外には残酷な人です。
ソーニャさんは銭をばらまきながら言外で言っているのですよ。「機会をくれてやるから拾え、拾って役立てられる者だけが
生き延びろ」と。


小額であっても銭は銭、拾えば何かの役に立ちます。
ソーニャさんがまいた銭で今日を生き延びられる者がいるかもしれません。明日の希望を掴める者がいるかもしれません。
逆に、小銭を拾ってしまったために不幸になる者や破滅する者がいるかもしれません。
いえ、何人かは解りませんが確実にいます。

「どうしたの?」
「なんでもありません」

ソーニャさんは構わず銭をまきます。この人は本当に 英 雄 なんだなあ。
他人の幸不幸や生き死にを一々気にしていたら、したいことなんて何も出来ません。
したいことをしたいようにして大きな成果を上げられるから、ソーニャさんは英雄なのです。「英雄とは、平和な時代におい
ては墓か檻の中にしか居場所のない者のことである」と言ったのは誰だったかな?


「疲れちゃった。代わって」
「はい」

お師匠様から柄杓を受け取って、樽から掬った銭をまきます。
妬み。憧れ。畏れ。憎しみ。哀しみ。怒り。喜び。恐怖。感謝。
様々な感情が歓声と共に集中砲火で、空中の私たちに叩き付けられる。

ソーニャさんにとっては数百数千の群衆から浴びせられる感情の渦は、河馬が浴びる如雨露の水のように無害です。
いや、有益なのか。
理解もできる。利用もできる。でも決して溺れず流されずふやける事もない。
河馬というより水辺の龍かな? 

いや、やはり鬼だ。彼女は人の心が解った上で捕らわれないのですから。龍に人の心は解るまい。

ソーニャさんが属しているのは温泉洞窟の仲間たちであって、人間社会ではない。
初めてあったときも、この人は放浪の未亡人剣闘士であって大神殿の一員ではありませんでした。



「「「「ソーニャ! ソーニャ! ソーニャ! ソーニャ!」」」」

熱狂して自分の名を叫ぶ群衆へ、大樽に腰掛けたお師匠様は手を振って応えます。
私はせっせと柄杓でコインを掬って撒きます。
掬っては撒き、救っては撒き、足りなくなったら魔法の財布や無限袋から大樽に補充する。

ふむ、一心不乱にコインを拾う連中にも色々いますね。私たちへ殺意を抱いている奴は野盗の身内かな。
掘っ建て小屋の屋根でボロ毛布を拡げている浮浪児達を見つけたので、金貨が混じったコインの雨を降らしてやりましょう。
あの連中なら、思わぬ大金を得てもうまく立ち回れる筈です。


おや? 物陰で重石弓構えて私たちを狙っていた流しの傭兵風男女が、群衆に見つかって袋叩きにされてますよ。
飛び道具対策をしているからあんなものでは傷一つ付きませんので放置というか見物していたのですが、たとえ巻き込まれた
くない一心であっても襲撃未遂に終わらせてくれたことは事実。
男女の賞金稼ぎを取り押さえた群衆のところにコインの雨を降らせましょう。

浮遊している大樽が、取り押さえられた男女の方に向かいました。

「誰かと思ったらリーザじゃない。貴女まだ私を狙っていたのね」
「お知り合いですか?」

3年近く前にお師匠様へ喧嘩を売ってきて返り討ちにされた賞金稼ぎだそうですが、正気か?
彼女、どうみても星3かそれ以下の腕しかないのですが。平均的な東方産オーガーにも、一対一で負けるかもしれません。
いやまあ、凄腕ならこの状況で仕掛けようとはしないでしょうけど。結局失敗して群衆からタコ殴りにされているし。


「そう悪い子でもないのよ。できれば殺さないであげて」
「男の方はどうでも良いんですね」

うん、と答えたお師匠様は取り押さえている連中に、じゃらじゃらと金貨の雨を降らせて頼み込みました。
更に私へ賞金稼ぎを治療してやるように指示したので、射程延長した回復呪文で怪我を治してやります。


「へっへっへ、剣姫さまのお達しだ。殺しゃしねえから安心しな」
「や、やめろぉぉっ さわんなぁ!」

おお、顔立ちは残念ですけど凄くエロい身体してますねあの女賞金稼ぎ。
裸にひん向かれ、手足に縄を掛けられて引っぱられ 土の字 に開いた姿で空き樽に縛り付けられ、「1回1鉛貨」とか囃し
立てられています。早くもその前には小銭を握りしめた男どもが列を作りはじめている。


後で聞いた話ですが、これは東方世界の下層階級がよく行う私刑(リンチ)の一つでして、捕らえた女に不特定多数へ強制売春
させる屈辱刑だとか。
最下級の私娼より安い値段で群衆に輪姦させて、売り上げ自体は一銭も誤魔化さずに解放した女へ渡すという精神攻撃も兼ね
ています。
身も心もボロボロになった女(男のこともあります)が、無理矢理犯されたのに淫売と扱われ、投げ渡された小銭の詰まった袋
を生きるために拾うことで私刑が完成するのです。

強姦されるというのは相当な苦痛と負担を与えますので、この私刑で殺してしまいたければ放置しておけば良い。


「解ってると思うけど、わざとリーザを殺したり春代誤魔化したりしたら酷いからね?」

お師匠様が釘を刺してますので、哀れな賞金稼ぎは死なないけど死んだ方がマシな目に遭わされてしまう模様です。
男どもの一人がどっかで見たような薬瓶をだしてリーザの股間へ塗り込めると、途端に女賞金稼ぎが静かになりました。
肌が上気して目が潤み、乳房を弄られると罵声ではなく甘い悲鳴が上がります。

ああ、オーク汁系媚薬か。故買屋「石宿檻」だったかな、あの媚薬を扱っているのは。
‥‥はて? 何か気になるのですがそれが何なのかが解らない。それにしても 石の宿の檻 って意味深な名前だなあ。 

ちなみに、鉛貨は正式な通貨ではありません。迷宮の罠でときどき出てくる、錆びた銀貨に見せかけた鉛の偽コインがスラム
の住人達に補助通貨として使われているのです。その価値は相場によりますが銅貨の数分の一から十数分の一。
罠コインには黒錆び加工した鉄の偽銀貨もあるのですが、そちらは屑鉄扱いでして補助通貨には使われていません。


酷いお仕置きでしたが、殺伐とした東方世界で殺伐に暮らしているスラムの住人達には納得のいくものだったようです。
ソーニャさんへの歓声はますます大きくなっている。
カーリー神とかの例もあるように、時と所によっては残酷であることが魅力となるのです。
東方世界は餓鬼と修羅と外道がうごめく末法の土地ですわやはり。
いやまあ、羅刹と畜生の要素が入ってて神に依怙贔屓されている人間などというエグイ存在の私にどうこういう資格はありま
せんけどね。




あー 盛り上がってますねえみんな。公開私刑(リンチ)会場なんか何時のまにやら乱交始まってるし。
老若美醜とわず女達が服をはだけ、誘われた男どもが飛びついたり品定めしたりしています。
スラムじゃ酒と博打と淫行そして暴力ぐらいしか楽しみがありませんからねえ、盛り上がったらそりゃそうなるか。
喧嘩もあちこちで起きてますし、酒売りは銭を拾わずに商売に励んでいます。


つくづく、私には剣闘士(グラディエーター)の才能が無いんだなあ。
人の心が解らないんですよ。より正確にいえば解りたくもない。
人の心を理解して、その上で好きなように振る舞えるソーニャさんとは根本的に違うのです。


これを、この怒濤のような思いと感情の渦を受けとめたり受け流したりして利用できる者だけが本物の剣闘士になれる。
そしてお師匠様のように、観衆の思いを自由自在に操れる者だけが大成できるのでしょう。
ご飯を美味しく感じない奴が良い料理人になれないように、私は剣闘士にはなれません。英雄にもなれません。
人の心を理解した上で踏み台に利用して、華麗さを演出して拍手喝采を受けられる能力なんて有りゃしませんからね。



私は小物で、無能で、羅刹系。
仕方ないのです。なりたくて何かになれるなら誰も苦労しません。
それで良いのです。なれるとしても英雄なんて真っ平御免です。
  





[38600] 64
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2017/06/03 11:20




 ☆113日め3、結果がコレ☆



コインを撒く理由は、オーク島でと同じく人気取りの為です。
単純な下っ端オークたちと違い、ヴァダ市の人々からお師匠様へ寄せられる感情は肯定的なものだけではありませんがとにか
く撒いた金額に見合うだけの名は売れました。

大衆は飽きっぽいのですよ。こまめに名を売り続けないと忘れられてしまいます。
お師匠様が本物だという証明にもなります。ケチな騙りは銭まきなんかしませんからね。
いや、悪質な成りすましなら小銭を撒くぐらいやるかもしれません。なので銭まき以外にも色々散財しないと。


景気対策でもあります。
スラムの通りだけで数千ゴールド、一般市街に撒いた分も入れれば一万ゴールド以上のコインがばらまかれたのですから、
明日もとい今夜から街の消費が伸びる筈。

スラムの住人たちは貯蓄も難しい。誰かに奪われる前に使い切ってしまう方が安全ですからね。
硬貨から物品に変えてしまえば幾らかは奪われにくくなる。不用心な隣人を殴り倒したとして、懐の金銭を奪うよりも衣服を
剥ぎ取る方が面倒ですし、腹かっ捌いて飲み食いしたものを引っ張り出すぐらいなら捌いて焼いて食う方がまだ楽でしょう。
ヴァダ市の治安は良くありません。
人肉が食肉市場に占める割合で治安を計るなら、産業革命期のロンドンよりまだマシですけどね。


行商人や小売店はあぶく銭を手にした人々に商品を売り捌き、大店や問屋は在庫を一掃した倉庫の空いた場所に新たなものを
詰め込むために、儲けた金銭で発注を掛けます。
明日からはこれまで以上に街道を商隊や旅人たちが動きまわり、モンスターや野盗が激減して歩きやすくなった郊外では農業
や林業も大いに捗るでしょう。

狼がいなくなれば山羊が増える。自明の理です。
冒険者とは牧羊犬であるべきであって、狼に転職しちゃ駄目ですよね。
短期的にはその方が儲かるとしても、原則を忘れると何れは流しの勇者様がやってきて成敗されてしまう。

ソーニャさんは牧羊犬の振りをして山羊やら羊やらを安心させているのですよ。正体は狼じゃなくて雌豚ですけど。



狼滅すべしとまでは言いませんが、家畜より狼の方が多くなると畜産が崩壊しますので誰かが締めなくてはなりません。
本来ならヴァダの議会など地元有力者がやるべきことですが、腐敗は統治機構の宿命です。
他浄装置というか社会の制裁者や裁定者としての働きも、上位冒険者は持っている訳で。

え? 政治は綺麗事じゃ進まない? 口八丁手八丁で脳筋勇者の正義感を丸め込んでこそ政治家でしょうが。
圧力団体を手懐けることさえできない議員に何ができるんです?





スラムの方は凄い騒ぎになってますね。
無論のこと、ほぼ全てお師匠様の仕込みです。


ほら、オークフェロモンそのものやそれを利用したオーク系の媚薬って「効いた女が効いてる同士の女に優しくなる」効果が
あるでしょう?
女賞金稼ぎをとろっとろにしてしまおうと、とっておきの強力媚薬を使った名もないゴロツキは 偶 然 に も 手を滑ら
せてしまい、媚薬の瓶を落として割ってしまったのです。

偶然ですよー。
熟練級のソーサレスなら使い魔越しに呪文が使えますし、お師匠様の使い魔はカラス型で、現場近くでカラスが餌を漁ってま
したが何もおかしくありません。スラムにカラスが居るのは当然ですし、カラスは夜でも目が見えるから夜に餌を漁ることも
あるのです。
凄腕の魔法使いなら呪文を使ったと気付かれないようにできますけど、ゴロツキが手を滑らせたのは偶然です。

いやー偶然って怖いですねー。

なにせ凄い人出ですから、路面にこぼれた媚薬はあっという間に群衆の足に踏まれ躙られてしまい回収不可能。
で、嗅いだ女の大半がおかしくなる代物が狭いスラムの通りに広がりまして‥‥今やスラムの4分の1近くが乱交会場化して
おります。通りに近い家屋や路地や空き地で裸や半裸のケダモノどもが絡みあってます。


あーあ、盛って盛って、収拾つくのか、これ?


老若男女の区別なく盛り上がってます。
さてはソーニャさん、男が発情する媚薬‥‥いや、男の頭がゆるくなる霊薬を一緒に撒きましたね?
あっちもこっちも大変な騒ぎですよ。


老婆と言っても良いぐらいの年寄り女が、まだ毛も生えそろってないだろう年頃の浮浪児に抱きついているかと思えば、痩せ
こけた乞食の少女たちが荒くれ男の腰にすがりつき帯を解いて下穿きを脱がせようとしている。

もちろん事の真っ最中や、事後の余韻にひたってるのや、余韻もへったくれもなしにおかわりしている連中も大勢います。
酒場の看板娘が両手を縛られて酒場の看板に吊され輪姦されて逝き狂ってるし、その横の軒下では新人同士のもぐり娼婦達が
互いの乳房や股間へ手を伸ばして乳繰りあっている。

運か要領が悪いらしく、相手してくれる男も女も見当たらないスリ師と思しき十代後半の女が雄の野良犬の前で四つん這いに
なり、素っ裸の尻をつきだしておねだりしていたりします。
その横では、同じくお相手が見つからないらしい、太めな年増尼僧が仰向けで股を開き腰を浮かせながら淫唇を指で割り開い
て雄犬を誘惑している。

むう。後背位よりも正常位の方が犬との獣姦の際にはより安全だと知っているあたりあの尼僧、犬を誘惑するのは初めてでは
ないと見た。
犬の方も慣れている女の方が安心するのか、スリ師ではなく尼僧の方にのしかかりました。

貫かれた尼僧は獣の腰使いに歓喜の声を挙げてよがり狂い、あぶれたスリ師はしばらく指を咥えて異種姦に耽る犬と尼僧を眺
めていましたが、やがて立ち上がりお相手を求めて通りを彷徨い始めます。



スラムにも少ないながら飼われている豚とかいまして、豚小屋のなかで雄豚たちに悪戯している少女たちとかいますね。
豚ち○こを刺激して起たせて、その強烈な臭いにあてられて自慰始めちゃったりとかしている。
藁山に寝そべってリアル豚ち○こで貫かれ、嬌声をあげている12歳前後の娘さんもいます。
突っ込んでいる方もやけに慣れていますし、普段から豚で愉しんでいるのかなあの娘。


前世の日本など比較にならないぐらい家畜が多く、人間の生活空間にいる動物が多いのがファンタジーなこの世界。
獣姦趣味者は女だけではなく、本物の雌犬と楽しんでいる男や雄鳥で楽しんでいる男もちらほらと見かけます。
同性愛者はそれ以上に多く、男だけまたは女だけで絡んでいるのも多い。

まあ、同性愛は性別を持つ生き物になら必ずある事例ですし。
半陰陽とか性一致障害とかありますけど、性別の境界線ってわりと曖昧なんですよ。
極論しちゃうと、男性の遺伝子は半分女性ですから。

この世に完全な男性というものは存在しないとすれば、殆どの女に効く媚薬が一部の男に効いても不思議はない。
もちろん使っている側にまで効くと面倒なので、オーク汁系に限らず調教用媚薬は対象性別以外には効きにくいように調整さ
れるのですが、どうもそのあたりの処置が不十分な薬だったようですね。つまり不良品。
そこにお師匠様がまいた薬の効果が重なって、もうえらいことになっている。ヴィクトリア朝時期のエロ小説終盤の最高潮み
たいな肌色乱舞状態です。




で、あの賞金稼ぎはどうなったのか、ともうしますと。

先程からずっと使い魔カラスの視界を覗かせて貰っているのですが、大樽に縛り付けられた賞金稼ぎの横では同じように縛り
付けられた女達や縛られていない女達が服を脱いだりはだけたりして男どもを誘っています。
賞金稼ぎを縛った女と縛られた女賞金稼ぎが、並んで貫かれてひいひい鳴いているのです。

オーク汁系媚薬の凄いところは、並べられて行きずりの男達に犯されている女達が幸福な一体感に包まれていることですね。
前世で聞いた学説に「女性は同性愛者と両性愛者しかおらず全ての女性は同性が性衝動の対象となり得る」とかなんとか、
そんなのがありましたけど、あれは出鱈目ではなかったのかな?


女賞金稼ぎリーザは、つい1時間ほど前には「殺すリスト」一枚目上位に入れていただろう女傭兵の、汁まみれの顔を舐めて
綺麗にしてあげてますからね。熱愛中の恋人同士でもここまで仲睦まじくはないでしょう。
重ね餅ならぬくっつけ餅状態で同時に膣出しされ同時に逝く快感に涙を流す女二人は、舌を絡め合う本気の口付けを交わして
これから 一 緒 に 娼 婦 や ろ う と誓いを立てています。

「へへっ 仲が良いじゃねえかお前ぇら」

と、下衆そのものなチンピラに弄られてますが

「うんっ シェルビィのおかげで淫売になれたんだもんっ 大好きっ♪」
「私もリーゼ大好きよ! 二人で父なし子産んで、頑張って育てようねっ」

無邪気に喜んでいます。


狂ってるけど、壊れてはいないようですね。あの二人は。
喩えるなら、ブレーキが壊れたのではなく運転手にブレーキを踏む気がなくなったダンプカー状態。
孕んで産んで、生まれた子供達を立派に育てあげて一緒に淫売として働く未来を夢見ている。
もう脳内麻薬でとろっとろになってますね、あれは。


あ、見える。最近更に鋭くなった「ニュータ○プもどき能力」と「エスティア様が見てる」の相乗効果で未来が予知ならぬ預
知できちゃいます。


スラムで朝まで嬲られ続けたあの二人は、ち○こと子種汁と雄に屈伏する事が大好きな淫乱さんに生まれ変わります。
そして意気投合した他の女達と一緒に、武装娼婦の一団を立ち上げて旅に出るのです。要は女用心棒の役を回り持ちでやる旅
の娼婦達ですね。
ち○こがついていれば誰でも大歓迎な二人とその仲間たちには、この世の全ての雄がご主人様です。だから特定の雄に拘らず
金銭を払ってくれるなら誰にでも股を開く淫売になって旅を続けるのです。

え? ご主人様から金銭を受け取るのは当然でしょう? 養ってくれるからご主人様なのですし。
奴隷がいないと食べていけないならそいつは主人じゃなくて寄生者だ。
直接金銭を入れてはくれませんが、旅路の斥候役や野宿の見張りをしてくれる元野良犬はヒモ代わりですね。
用心棒というには少し頼りないけど、寒い夜には暖めてくれるし寂しい夜には慰めてくれるし、見せ物(ショウ)の相方も務め
てくれます。

短い、多分半年もしない時間で放浪は終わります。とある小都市に滞在するのですが、そのあまりの住み心地の良さに定住し
てしまうのです。そして娼婦と冒険者を育てる孤児院と娼館が混ざったような私塾を開く。
リーザたちはその街で娼婦兼冒険者兼領主の愛人として暮らし、私塾は地元領主贔屓の娼婦ギルドとして生き残るのです。
私が見た未来ではそうなってます。そしてかなり高い確率でそうなるでしょう。


うーむ、とりあえずお師匠様へ仕返しする気が無くなったようですしリーザとその周りの女達は幸せそうだから放置しておき
ますか。この運命線で不幸になる私の身内や知り合いも見当たりません。
身内でも知り合いでもない層にはもちろん居ますよ、不幸になるのが。雄犬を寝取られちゃう太目の年増尼僧とかね。



これでビィーヤ地方の人口が増えるならそれも良し。人が増えないとオークのお嫁さんも増えません。
増えた口が食べていけるように、産業振興でもやってみますかね。お師匠様なら腹案も経験もあるでしょう。






 ☆113日め4、一見しただけで☆



「ここが、サラさんのお薦めですか?」
「ああ。アタシが知る限りヴァダでいちばん女の扱いが良い娼館だよ」

銭まきの後、「酒の滝壺亭」から帰ってきたサラさんと合流しまして、彼女お薦めの娼館へ行くことにしました。
娼館でやることは決まってます。娼婦の品定めです。いずれ買い取るために、今のうちから唾付けておくのですよ。

いわゆる身請けですね。
借金などで拘束されている娼婦を大枚はたいて、一切合切含めて身柄を引き取る訳です。

時代劇の定番展開と違って、私たちの狙い目は安い娼婦のなかの優良物件。一般的な娼婦としての価値ではなくオーク嫁とし
て適性が高い娼婦を勧誘したいのです。
娼婦としての価値が低い新人や見習いの娘さんだけでなく、病気になって働けない娼婦でも余程の難病か手遅れでない限り治
療できますので喜んで引き取りますよ。年増歓迎。
他の巣はどうだか知りませんがソーニャさんの伝手や物資が使える温泉洞窟では、少々トウが立っている人間雌でも問題なく
嫁に出来るのです。


店としては、主力や将来有望な娼婦またはその候補を引き抜かれるのはともかく不良在庫が減るのは嬉しい。

もちろん治療してから見合いに応じてくれるかどうか訊くのですよ。お師匠様は気に入った娼婦には甘いですから。
断られたら路銀の小銭を渡してさようなら、小作人の嫁になってくれるのなら持参金付きで僻地の寺院へご案内。
辻褄合わせのために、ついでで引き取ったオーク嫁としての素質が低い娼婦たちはオーク達との見合いを試みることなく、
ソーニャさんの伝手がある領主などの土地を紹介され、見合いを断った娼婦達と共にそこへ移ることになります。

お師匠様は剣闘士としても雌奴隷としても徹底した素質論者でして、適性の低い女をオークの嫁にしても不幸になるだけだと
割り切ってます。むしろ見切っている?




七色の飾りガラス(水晶かも)が「持続光」で照らされ輝いている看板に、書かれている娼館の名は「麗鹿館」。
日本語にしたら「麗しの鹿園」の方が近いかも?
門の両脇に大きなシカの像があり、雄雌一対のシカ像は鼻先が触れそうで触れない位置に立って向かい合ってます。

鹿の館かー そいうや日本にも鹿鳴館ってありましたね。


‥‥考えてみると鹿鳴館ってエロい名前の建物だなー。明治の元勲達のセンスって凄いや。
だって 鹿 が 鳴 く んですよシカが。
ああいやらしい。
いや、猫スーツやバニー服や犬耳&犬尻尾のようなものが鹿には無い点を考えれば、鹿=エロという印象は世間一般ではさほ
ど強くないのかな? 


みたところ豪勢な旅籠風の造りで、酒場兼業のようですね。門前に用心棒らしき姿勢と体格の良い男が二人立っている。
用心棒たちは、私たちを見て明らかにたじろいでいます。
脅威や畏怖ではない。激しく嫌われているようにも見えませんが、はて? 戸惑っているのかな。


「サラじゃねえか、あんたルッニネツのサラだろう?」
「ゴッカンのコージャック! 生きてたのかい!」

用心棒の片方が、サラさんの顔を見て声を掛けてきました。サラさんの方も明るい声で応え、両手を拡げて歩み寄ります。
そのまま二人はばんばんと肩を叩き合い、抱きしめあいました。
後で聞きましたが、この用心棒とは元仕事仲間でして親しい関係だったそうです。
といっても男女の情はなく、師弟いや先輩と後輩に近い関係ですが。


つくづく世間は狭いなあ。地元民同士だから当然かも? 

「サラの顔が広いという解釈も有りじゃない?」

おお、なるほど。人望厚いですからねー彼女は。



「モグラ横町の決闘以来だねえ。今はここで用心棒やってんのかい」
「あはは、店で飲み過ぎちまってな。‥‥あんたは引退したと聞いていたが」

数日前にヴァダへやってきて、手頃な迷宮に潜る前に思い切り羽を伸ばそうとして伸ばしすぎ、一文無しどころか借金が出来
てしまったのでしばらく娼館で働く羽目になった冒険者コージャック氏は、当然ながらここ最近のサラさんの事情など全く知
りませんでした。
リガのソーニャとその一党がヤクザを皆殺しにして奪還した弟子候補が、サラさんの事だと知って驚いています。
嘘じゃありませんよー。お師匠様はサラさんを 魔 法 剣 士 と し て 鍛えてますからね。


「え? って、ことはこっちが本物なのか?」
「こっち?」


お師匠様の美貌に見惚れているコージャック氏とその相棒によれば、つい先程「リガのソーニャとその弟子」を名乗る三人組
の女が娼館へ入ったのだそうです。ほんの数分前に。
噂どおり金髪の美人と黒髪の年増女とヒルデニア人の小娘でしたし、三人とも水兵服着てて、えらく強そうだったので本物だ
と思って通してしまったのだとか。

ソーニャさんが娼婦に甘いというか好意的なのは割と知られてます。働けなくなった娼婦を治療して再就職先を世話する慈善
行為も時折やってますし。
運営方針などが気に入らない娼館は容赦なく締めますけど、気に入った所は庇護したり優先的に依頼を受けたりしています。
有名人だからその手の情報を用心棒達も当然知っている。
逆に言うと対応間違えて怒らせたりしたら、娼婦や娼館は無事でも用心棒の腕ぐらい比喩でなく捻られかねない。

この娼館は文無しと厄介ごと以外は誰でも歓迎する方針です。もめ事を起こさず金銭を払ってくれるなら、女でも娼婦や男娼
と遊べます。
それ自体は良いのですが、騙りを騙りと見抜けなかったのはちと拙い。
騙りに甘い英雄ってまず居ませんし、お師匠様が嗜虐趣味なのは結構知られてますし、目の前にいる本物に「偽者と見分けが
つきませんでした」と言ってるも同然の状況は、さぞや用心棒達の心臓に悪いでしょう。
というか弟子でさえ平気ではいられません。


「お師匠様、その、えっと、できれば、手心というか。ほら、女の子たちに引かれると難ですし、ね?」

駄目だ、なだめようにも全くもって言葉に説得力が乗らない。
本物がいる街の、銭まいたその夜に堂々と出てくるとは肝の太い騙りもいたもんだ。



なにはともかく情報だ。情報を集めよう。だから潜入だ、潜入しよう。



用心棒の手引きで裏口からこっそり店内に入ってみると、一階の玄関広間では娼館主人の婆さんと、水兵服着た三人の女冒険
者たちが睨みあっておりました。

「帰りな。今なら酔っぱらいの戯言だって聞き流してあげるよ」
「ずいぶんと良い度胸しているじゃねえか、この婆ぁ」

三人組の最年長、長い黒髪の中年女が婆さんを脅そうとしてますがまるで効いてません。
貫禄があるのは当然としても、やたらと大女ですねここの店主。藤子さんより大きいですよ。


「確かにあんたらは腕が立ちそうだ、ウチの若い衆じゃ抑えきれないかもしれないねぇ。でもね、今この街には本物がいるん
だよ? こっちの全員がやられるのが早いか、誰か一人でも本物のところまで辿り着くのが早いか、試してみるかい? 
どっちにしてもあんたらはお終いさ。この場にいる全員の口を塞げない限り、ケーロック一家より酷い目に遭わされちまうよ。
悪いことは言わないから、とっととこの街から逃げな。余所の街なら引っかかる間抜けもまだいるだろうさ」
「‥‥あたしらが騙りだってのかい!?」

中年女が凄んでみせますが、やたらとでかい婆さんは笑いとばします。

「他の二人は知らないけど、そっちの小さいのは真っ赤な偽者じゃないか」


婆さんが言うには、6日前の朝にスラムの顔役屋敷で起きた斬り合いを見ていたそうです。
肉眼というか客から宿代のカタに取りあげた遠眼鏡で、水兵服姿の少女剣士がヤクザどもを切り捨てる一部始終を。

あー あのときやたら素人臭い監視者が混じってると思いましたが、本当に素人だったのか。
朝っぱらから茨の壁を立てたり、煙幕焚いたり、石柱ぶん投げたり、何十ものヤクザ者をぶち殺したりしてたら、そりゃ目立
ちますよねえ。
騒ぎの元を観察しようとする暇人が出て当然です。


「ろくでなしのヤクザどもを縄で縛ってから、泣き言に耳を貸さず一人一人ぶった切っていくところなんか最高だったよ。
ゲイリーの糞餓鬼を、倉庫前じゃなくて中庭で切ってくれれば言うこと無しだったんだけどねえ」

この婆さん、目障りだった顔役やその手下が本当に死んだのかどうか、本当なら死に様はどうだったのかを鎧コンビや捕らえ
られていた堅気の衆から聞き出したのですよ。
検屍しようにも幹部の死体はこの世から消えちゃいましたからね。

ええ、ヤクザの報復を恐れていたメードに顔役や主だった手下の生首を見せたのですよ、あのときに。
ヤクザどもの生首を見て報復される心配がほぼ無くなったと知ったメードや堅気の衆や奴隷娘達は、その後は随分と協力的に
なってくれました。


「切ったときの台詞がまた決めてるじゃないか。 「さらばだ、二度と会うことはあるまい。汝は地獄へすら行けぬ故にな」
 だなんて、生で聞きたかったねえ」

そんなこと言ってねぇ──!! いや、意味はだいたい合ってるけど表現が違うだろ! 
話盛りまくりやがったな、あの鎧野郎どもめ。今度会ったら嫁さんたちにだけ精力剤渡してやる。


そんなわけでこの娼館にいるヒルデニア人のロリ娼婦に水兵服を着せ、とりあえず柄と鞘は私のものに良く似せてあるクック
リ刀みたいなものを背負わせて客を取らせるぐらい私のことを気に入ってる訳ですよこのでかい老婆は。
彼女には目の前の自称「剣姫ソーニャの弟子」が偽者だと一目で分かるのです。


まあ、本物を知っていればねえ。

私の偽者はヒルデニア人ですらなくて、小人族だし。しかも男だ。可愛い男の娘だけど私の目は誤魔化せません。
容姿はまあ、良しとしましょう。異種族や異民族からはヒルデニア人と黒髪の小人族は見分けが付きにくいですし、とりあえ
ず髪だけでなく目と肌の色も同じだ。
普通の日本人にロシア人とイタリア人の区別はつきにくいのです。ルワンダ人とナイジェリア人も。
ヒルデニア人を騙る小人族に引っかかる東方人を責める気はありません。

でも装備品が違いすぎる。偽者が背中に担いでる刀はクックリもどきじゃなくてヒルデニア風の刀で、水兵服っぽい陣羽織の
下に着込んでいるのは革と鋼材を組み合わせたライト・スプリントメイルです。
それにあの男の娘、私と違って人食い鬼腕力の籠手を付けてない。足元はサンダルだし、見た目の印象は全然違います。

成り済ますなら、下調べぐらいちゃんとやれよ。
いえ、お師匠様役はよく似てますよ。そっくりさん審査会に出れば上位入賞できます。私の偽者も、50メートルぐらい離れ
てから見れば間違える人も出るかもしれません。

しかし最後の一人が酷すぎる。


サラさんの我慢が限界に近いようなので、私とお師匠様は彼女の背を押して玄関広場に進ませました。
この状況に置かれれば誰だってそうします。サラさんには私やお師匠様よりも怒る権利がある。


「おい。そりゃひょっとしてアタシのふりしてんのかい」

だって、「ルッネニツのサラ」を自称する中年女剣士は、長い黒髪以外の特徴がまるで重なってませんから。
冗談抜きで、影絵にしたらサラさんよりもまだ雌ゴリラに剣を持たせた方が似てるって。
歳も本物より10は上だし、背が高めではあるけど横幅が違いすぎる。

「ああん? 誰だい藪から棒に」
「アタシはルッニネツのサラ。アタシの産まれた村は初代村長がルッニ・フロストだから ル ッ ニ ネ ツ なんだよ。
騙りなら騙りらしく、少しは似せる努力をしな!」

偽者のくせに男の娘だし名前を間違えてるし、肝が太いのではなくて何も考えてないだけかもしれませんねこいつら。
あー なるほど。私とかを騙り呼ばわりする輩がいるのはこのせいか。
研ぎ師のいう「幽霊と(本物の)正宗は見たことがない」ってやつですね。
偽ブランド商品しかない市場に本物持ち込んでる状態。





 ☆113日め5、ちなみに一昨々日に放逐刑に処した解体業者がケーロック一家です☆



騙り三人組ですが、あっさり制圧されました。


サラさんの偽者、筋肉の固まりみたいな大年増女は剣を抜く暇もなく鉄拳制裁4連発をくらって伸びています。
ソーニャさんの無詠唱支援呪文と私の「加速(ヘイスト)」の霊薬ふりかけで速度が四倍になっていますし、人食い鬼腕力の籠
手に「打撃(ストライキング)」を掛けておきましたから酷いことになってます。

片手用メイスで4回殴られた方がまだマシですよ。
今のサラさんは星7以上の戦闘力になってますから、星5程度の偽者では不意打ちされなくても耐えきれません。
一応手加減してるけど、放っておくと死んでしまいそうな気がします。あとで治療してやるか。


ソーニャさんの偽者は仲間が殴り倒されたのを見て剣を抜いたのですが、抜いてみたら刀身が柄から3センチほどしか残って
いませんでした。
偽者が自分の剣の柄に触れる寸前に、ソーニャさんがその剣の刀身を鞘ごと切り落としていたからです。
そして抜いたものの軽さに驚く暇もなく、一瞬のうちに継ぎ目を切断された甲冑と水兵服が、偽者の身体から次々と剥がれ落
ちていきます。昔の漫画で、居合いの達人に切り付けられたキャラクターがパンツ一丁の姿にされてしまうように武装解除さ
れてしまいました。

漫画と違いお師匠様はパンツすら残してませんけどね。綺麗に剥き身にされてます。
もう靴と髪飾りしか装備品が残ってません。おっと、右手に握ったままの剣の柄もあったか。
ふむ。下の毛も金か、やはりここはファンタジー世界なのですね。

一呼吸の間に十回以上切りつけているのでしょうが、抜いた瞬間も切っているところも全く見えませんでした。
もちろん偽者の肌には傷一つ付いてません。
実力差が解る程度の技量はあったようで、戦意喪失したソーニャさんの偽者は降参しました。


私の偽者はというと、睨みつけただけで戦意喪失どころか気絶しました。
倒れて痙攣しながら尿を漏らしています。泡も吹いてる。
はて? この偽者も実力的には他の偽者と大差ない筈なのですが?



「師匠。やはり一回ぐらい言っておいた方が良かぁしないかねえ」
「そうねえ」

呆れ顔の二人から諭されましたが、私はかなり怖いのだそうです。
それこそヤクザの抗争現場で死体を漁る糞度胸の浮浪児たちが、一目見ただけで逃げだすぐらいに。

言われてみれば、今の装備状態なら普通の丘巨人に一対一で勝てますからね私は。
お師匠様とか藤子さんとかオーク島の女剣闘士たちとかを基準にすると弱く感じるけど、充分恐いわ部外者から見れば。

トロルなら2~3体、オーガーなら6~7体ぐらいまで蹴散らせます。
もちろん東方世界の平均的なオーガーにならの話で、オーク島で嫁取り戦に出てくる連中だと最弱層となんとか渡り合える程
度です。例えば相手が、長巻使いの赤ロリ女を負かして嫁にした白馬のミノヒッポスだったら勝ち目がありません。余程状況
が悪くない限り仲間たちのところまで逃げ切る自信がありますが倒すのは無理でしょう。

装備だって実力のうちですよ。幼児や老人が持っていても刃物は刃物で、銃は銃です。
自分の力だけで戦えないと意味がない、と言う人は今すぐ素っ裸になって南極の無人地帯へ行ってください。
そこで一冬、一切の道具を使わず自分の力だけで生き抜けるかどうか試して貰おうじゃありませんか。
まずは自分がやってみせてくださいよ。タロとジロができたことですし、物理的に不可能じゃないでしょう。

‥‥‥‥戦士オークなら本当にできてしまうから厄介なんだよなー、極地で単独越冬サバイバル支給品なしを。



つまり、戦士オークの試練に使われることもあるオーク島産の大猪に迫る強さなのですよ今の私は。
うん、漏らす。怒り狂った大猪がいきなり目の前に出てきたら腹が据わってない小僧は大概漏らして痙攣するわ。

勘が悪くない者、叩き上げの冒険者とかは私の危険性を察してくれます。
勘の良い者なら、私の戦闘力そのものよりむしろ殺意なしに人が切れることに気付いて更に警戒するのですが、感覚が鈍くて
分別に欠ける輩、大概のチンピラとかは「殺意がない=弱者のなかの弱者」と捉えてしまうのです。

ほら、猫耳剣士のカーニスは私の警戒態勢に反応していましたよね。
一方ゲイリーの手下は無警戒でした。冒険者の最も重要な素質って警戒心じゃないかと思う今日この頃です。
あのゴロツキどもが迷宮に入ったら一時間も持たずに全滅しかねない。
危険に対して鈍すぎますからねー。なるほど、だからゴロツキは冒険者になれないのか。



幸か不幸か、この偽者は感覚が鋭敏すぎたようです。
ええまあ、本気で殺す気でしたからね。推定技量星5の敵は手加減するには強すぎる。
百戦錬磨のサラさんや、今まで食べたご飯とおやつの数より切った人間の方が多いソーニャさんのような余裕は持てません。


「いや、そりゃ流石に言い過ぎじゃ‥‥ないのかい?」
「直接切ったんじゃない分も入れれば、そのくらい殺っちゃってるわねー」

一日あたり4~5人を毎日休まず30年ほど切っていれば五万人。
そしてソーニャさんは少なくとも数万の人型生物を切っている訳で、計算は間違ってない筈です。


三人で話しあっているうちに、広間付近の掃除が終わりました。
お小水やちょっとした流血程度の汚れは娼館なら良くあることですし、掃除も簡単です。



偽者どもですが英雄級冒険者の大魔法使いが直々に尋問した結果、只の強請り集りの類だと判明いたしました。
本当に、何も考えていなかった木っ端騙りなのですよこいつら。


お師匠様は良くも悪くも注目の的ですので、冒険者として英雄としての騙り(偽者)が出るのと同時に娼館などに紛い者が出て
きます。
騙りと違うのは、それら紛いは騙される側が最初から本物じゃないと解ってること。
つまりまあ、コスチュームプレイとかイメージ倶楽部とかメイド喫茶とかの類です。

バルキア地域では、二十歳ぐらいのちょっと美人で金髪碧眼なお姉さんに剣闘士の衣装を着せて、お酌させたりお触りしたり
その他色々なことをして愉しもうという客商売を、いかがわしい酒場や娼館がお師匠様の人気にあやかって始めるのもよくあ
る事です。もちろんお師匠様以外の有名人も同じような目にあっています。

娼婦がどんな恰好しようと自由ですし、まさか有名人と同じ名前を源氏名にしちゃいけないとは言えません。
小話にもありますけど「伯爵夫人を豚と呼んではならないが、豚を伯爵夫人と呼ぶのは構わない」わけです。
芸人や娼婦や冒険者には、○○王だの○○姫だの○○将軍だのといった渾名や異名がついたのが幾らでもいます。お師匠様は
町人の出ですけど異名に 姫 が入ってるし。
それらを一々規制するなんて国王にだって‥‥ボナの字ぐらいの名声と権勢があれば話は別ですけど普通は出来ません。

確か今でもフランスでは豚にナポレオンと名付けるのは違法だった筈。
ふむ。ブルボンという名のオークが既にいるのですから、ナポリオという名前のオークがいても良いかもしれません。
いつかそれっぽい息子か義息子ができたら名付けましょう。


無理が通れば道理が引っ込むのが中世的世界。強者が白と言えばカラスは白いのです。
なので本物ないし本物に良く似た騙りが、その手の商売をしている娼館などに乗り込んで「誠意を見せろ」と凄んで金品をま
きあげようとするのは割とよくある事例です。「誰に断って姐さんの名を名乗っとんじゃあ」と、ね。


「許す許す。というか、そんなこと言ってたら子供にソーニャって名前付ける親がいなくなっちゃうじゃないの」
「えー そういう訳でして、こすぷれ風俗の類に文句付ける剣姫は偽者です。皆さん周知をお願いします」

売春宿の女将だけでなく、殆どの娼婦達も偽者だと解っていたようです。業界に流れる噂と違いすぎましたからね。


大多数の娼婦にとって、ソーニャさんに恩はあっても恨みはありません。
今回の事例も、お師匠様はイメージプレイでなら「女剣闘士調教ごっこで」もなんでも好きにやれば良いと許してますし、
そのことを娼婦たちに公言しています。
当然ながら、娼婦の味方をしてくれる英雄の名を騙るだけでなく、本人とは全く逆の主張で恐喝を試みた偽者への視線はより
厳しいものになるわけで。

普通なら恐喝未遂犯は身包み剥いでから簀巻きにして河にでも放り込みます。
質が悪い奴だと手足を折ったり指と舌を切り取ったりしてから簀巻きにするのですが‥‥
相手はオーガーどころかトロルにすら、数が同等なら勝ってしまいそうな凄腕ですからねえ。
万が一にでも蘇生されて仕返しに来られたら娼館が潰れかねません。

真面目にやっていればそれだけでちやほやされる実力があるのに、何でまた騙りなんぞ始めたのやら。



さて弱った。殺すにはやや罪状が軽く、かといって生かしておくと報復されるかもしれません。
私たちへ向かってくるだけなら、今度は生かして返さなければ良いだけですがこの娼館や余所の誰かに八つ当たりされると面
倒くさい。

え? そりゃ本音を言えばとっととぶった切って死体を貪り食う無限袋に放り込みたいですよ、もちろん。
ですが芸のない処分ではソーニャさんの名に傷が付きます。
ただ殺してしまうだけならその辺の野盗にだってできるのですから。






 ☆114日め、さあつぎはあなたたちがしあわせになる番ですよ☆



一言で星5級の強さと言いますが、これってかなり凄いんです。
ナマクラじゃない包丁が一本あれば虎とか獅子に勝てるんですから。まともな盾と鎧を付ければ無傷で圧勝できます。

強い冒険者って人間凶器で喋る猛獣なんですよ。
地球基準だと、只の虎や獅子でも拳銃や警棒しか持ってない警官では束になっても取り押さえられないのにどうやって治安を
維持しているんでしょうね、この街とか。

「治安? 良くはなかったけど維持はしてたろ? 大通りにはスリやかっぱらいぐらいしか出なかったじゃないか」
「えっとね、レイのいう 治 安 が よ い は世間一般と違うから」

現地人から見れば、現状で充分維持できている扱いのようです。
確かに、数日前の時期でも路上強盗団は夜にならないと出てこなかったし、そいつらにしても襲おうとしたのは人通りのない
袋小路でだったけどさぁ‥‥。

元異世界人の基準を、ある程度理解しているソーニャさんは苦笑していますね。
短い期間ですがお師匠様はヒルデニアへ滞在したことがありまして、カムラ港などヒルデニア基準で「治安がよい」都市に住
んでいたこともあります。その拡大拡張版として21世紀初期の日本を捉えているようです。
ちなみに蛇王丸の母港であるロシマ市はヒルデニアで2~3を争う危険な港だとか。


実際の話、ヴァダの治安はまだマシな部類なのですよ。少なくともスラム以外の大通りでなら、真っ昼間から刃傷沙汰はそう
そう起きないのですから。
猫耳の女剣士と水兵服ロリ尼僧の睨み合いで野次馬が集まったのは、それだけ大通りでの斬り合いが珍しいからです。
21世紀の地球と比べても精々ヨハネ○ブルグ級で、キ○シャサやソマ○アほどの世紀末じゃありません。

なんでも「屈強な元兵隊の観光客が集団で出かけて、しばらくしてボコボコにされ身包みはがされて帰ってくるのがヨ○ネス
ブルグ」で「屈強な元兵隊の観光客が集団で出かけて、翌日あたりに身包みはがされて殺された死体が見つかるのが○ンシャ
サ」で「出かける前にホテルが爆弾で吹っ飛ばされる」のがソマリ○だとかなんとか。
21世紀の地球もあれで結構、末法の世だったんだなあ。

うん、町中を 人 を 襲 う か も し れ な い 人型猛獣が多数うろついてることを除けば、ヴァダ市の治安は維
持できてますよね。普段はヤクザの抗争も起きてませんし。


まあとにかく、冒険者は強くなるごとに人間やめていくのですよ。
当然ながらいろんな意味で普通の扱いができなくなっていきます。

並の兵隊よりは強い程度の掛けだしの女冒険者は解る。
トカゲ帝国に家族や家臣を人質に取られたお姫様ソーサレスも解る。
では奴隷市場などで時折売られていて、オーク島にも何に何回かやってくる東方の海賊船に乗せられてる「強い冒険者」の
雌奴隷はどうやって捕らえているかと言えば、媚薬を使って調教するのです。

装備品の組み合わせ次第で評価の星が数個分増えるなら、呪いの装備品を組み合わせたら強者を弱くすることもできる。
虎なみを猫なみに、巨人なみを普通の女なみにまで弱体化すれば、一般人の調教師にも扱える訳です。

で、オーク汁系か、あるいはもっと効果の緩い媚薬を使いまして女を発情させ、焦らして焦らしてから何かの命令をして、
それが出来たならご褒美に逝かせてやる。
そんな調教を続けて、逝かせて貰うためならなんでもする人間雌に仕立てあげるのです。
堕ちきったら調教用弱体化装備を外して、次の調教対象に付けるわけで。

実際にはそこまで単純ではありません。調教の神髄は心をへし折ることですからねー。
媚薬や快楽は崩しに使うものであって、本当に堕とす手がかりを掴むのが肝要です。
その辺の機微は、オーク向け人間雌奴隷専門の調教師でもあるソーニャさんは良く解っています。


まあ、オーク族はそんな小賢しいアレコレを考えなくても女の方から股を開くのですがね。
ドラゴンが空を飛ぶのと一緒で、できて当然なのです。

東方世界の一般オーク達は、はっきり言って非力で軟弱です。ミッシェル山大神殿では最弱級のアドニスですら、現地オーク
の小集団を率いていたダイコクより断然強かったのですから。
分泌するフェロモンもオーク島の住人達に比べると東方産のオークは薄い傾向にあります。

しかし、現地オークでも群れを束ねる頭目格、言わばオークロードになると少しは違います。
ハンセンやタレミミなど下っ端の上の下から中の上ぐらいの面子には敵いませんが、ギョロメやサダキチなど中堅層になら、
なんとか闘える(必ず勝てるわけではない)水準の力を持っている。オーク島基準でなら星2ぐらいですね。


その族長オークが、三人で殴り合っています。祭壇前で。



はい。バレン地下神殿(仮運営中)に帰ってきています。
面倒くさくなったから、偽者どもは「剣姫ソーニャの強化合宿」に入れるということにして引き取ったのですよ。
一応娼館の娼婦と男娼たちに検診と治療もしておきましたけど、身請けはしてません。
お師匠様の感覚に触れる獲物がいなかったのですよ。オーク妻適性の高さという意味で。

淫売を食い物にしたりしない真っ当な冒険者に更生させる、と言って引き取った偽者どもですが人がそう簡単に心を入れ替え
られたら苦労はない。
この忙しいのに要らない苦労なんかしたくないので、偽者どもは雌奴隷として生まれ変わって貰うことになりました。


そういう訳で、偽者三名に色々と処置してから傘下のオーク族に下げ渡すことになりました。いわゆる下賜品ですね。
流石にこの連中を可愛い義息子たちの嫁にする気はありません。

サラさんの偽者には
・飲むと十数年若返るけど寿命がその倍ぐらい縮む薬
・飲むと魅力が上がるけど他の能力値が倍ぐらい下がる薬

私の偽者には
・浴びると可愛い女の子になる水
などを与えて、オーク受けする身体に造り替えています。

ちなみにソーニャさんの偽者には
・飲むと知力が上がる薬(ただし常人より少し悪い程度までしか上がらない)
を与えてます。

それにしても貴重なアイテムばかりですね。
見たり触ったり使ったりしているだけで、アイテムマスター職の経験値が溜まりそうです。


ええ、ちょっと、その、お師匠様の偽者は自分が騙りをやらされていたことにも気付いてないぐらい頭の緩い娘でして。
彼女は「姐さんは分け前を誤魔化さなかった初めての人なんです」と中年女をかばい立てしてました。
小悪党ながら仲間への筋は一応通していたのですよ、騙りの首謀者は。
東方世界では、仲間に帳簿を公開しているだけで冒険者のリーダーとして希有の善人扱いです。

小人族の男の娘は、ネカマならぬ偽娘としてせこい悪事を続けていた流れ盗賊でしたが運悪く捕まってしまい、街道沿いの檻
に閉じこめられて晒し者にされ干物になりかけていた所を二人に救って貰ったのだとか。

恩知らずといわれることの多い小人族ですが、それは風評被害であり些細なことや裏のある押し付けに冷淡なだけでして殆ど
の小人族は恩義の概念を理解してます。平均すれば人間族よりよほど義理堅いでしょう。
オーク島の嫁さんたちにも小人族がいましたから、温泉洞窟の面々は小人族の実態もそれなりに解っています。
なかには真性の恩知らずもいますがそれは他の種族でも同じことですし。


で、仲良し詐欺師たちは三人揃って雌奴隷になれると喜んでまして。
幹部級のも含めて数十人のオークから立ちのぼるフェロモンを嗅がされ、間近で人間雌とオーク達とのらぶらぶえっちを見た
り聞いたりしたら大概の女はそうなります。

地下神殿近隣に住んでいるオーク族長たちは、野イチゴの類とか甘い蜜が吸える花とか狩りたての赤マムシとかを奉納しに来
たのですが、偉大なるオーク王に黄金の籠に載った人間雌たちを見せられ「これをやろう。好きにするといい」と言われてし
まいました。
予想外の出来事に狼狽えた彼らの脳裏で、短絡的思考と攻撃衝動とオーク的世界観が組合わさりましてギュー・グェスの言葉
は「勝てば全てを得られるぞ」と変換されたのです。

そして始まる 殴 り 合 い 地 下 。はいはい蛮族蛮族。


フェロモンで酔っぱらった改造済み騙り三人組は、逞しい雄達が自分をめぐって相争っていることに胸をときめかせて、黄色
い悲鳴をあげながらそれぞれが推している族長オークを応援しています。
誰が勝っても嫁入りが無事に終わりそうなので良しとしましょう。


温泉洞窟の下っ端たちは、新しい嫁候補を渡された新参の外様たちを羨んでいますが、彼らにはもっと良い娘さん達をあてが
いたいのでここは我慢して貰いましょう。
大天使ガブリエルでさえ「一人の男が面倒見れる女は4人ぐらいまででしょ」と言ってますからねー。
ミカエルだったっけ? どうでも良いか。

偽者達は可愛い義息子達の嫁に相応しくありません。だから外様に押し付けるのです。
世間向けには、本物に説教されて地道に稼ごうとした元騙り三人組が行方不明になったことにしましょう。
そこそこ以上の冒険者がオークの群れに捕まってしまうのは稀によくある事例です。



お師匠様と大母様という、年数と行動範囲でちょっと他の追随を許さない経験豊富なオーク奴隷妻達が同意見なので本当だと
思うのですが‥‥どうも、お手軽に堕としてしまった雌からは強いオークが産まれにくい傾向があるのです。
正確に言うと、母体の元の人格が大きく損なわれると産まれてくる子供の限界能力が低くなる。

洗脳(ブレインウオッシュ)って、人間の精神を住居に喩えたら「重機でぶち壊してから、廃材で掘っ建て小屋を作る」ような
ものですからね。よほど上手くやらないと住み心地や収納人数や仕事場としての効率は落ちる。

肉体と精神はおなじものです。霊肉が同一であるからには、心の歪みは確実に身体へ影響します。
不健康な母体から健康な子が産まれにくいのは当然のこと。
オーク島の変態紳士教育は、強い戦士を産み出すための経験則が固まったものなのですよ。



そうこうしているうちに決着がつきました。串肉をあげた巣の頭目が他の二人に勝ったのです。
同時に、彼を推していた金髪の元騙りが第一夫人に決まりました。仲間二人は側室です。

では、ほぼ全裸に薄絹と装身具だけを身に付けた人間雌たちを勝者に贈呈するとしますか。
三人が身に付けている装飾品は、その殆どが万能鋳造機で作ったものです。三人同時に嫁入りするからには意匠や図案に統一
感が欲しかったですし、鋳造機の運用実験もしてみたかったので。



自分より遙かに強い人間雌たちが這いつくばって媚びを売り、足元に縋り付いて口付けする許しを求める姿に戸惑っていた族
長でしたが、可愛い雌奴隷達に誘われて嫌なわけがなく、さっそく4Pでおっぱじめました。

まあ、素手素肌のサラさんでも彼より余程強いわけで、周りではその強い女達がオーク達の言うがままに嬲られているのです。
ソーニャさんなんてケサガケとゴエモンに二本差しされて 男女男 状態ですからね。文字通りに嬲られてる。
それを見ればそういうものだと納得するしかないでしょう。



さてと。

新婚?さんたちが初夜?しているうちに、花嫁衣装制作の続きでもしましょうか。
コーネリアは大神殿で巫女さんたちと業務連絡してまして、しばらく帰ってきそうにない。
ソーニャさんは先程言ったように欲求不満解消中でして、難しい話も簡単な話もできません。
ウォスはこの遺跡都市バレンの地下を探索中ですし、ドスは下っ端たちとその嫁候補を連れて狩猟採集に出ています。

なのでグェスは留守番で当直状態でして、私とえっちな事をする訳にはいかないのです。
つながって「あひんあひん」しているときに敵襲されたりすると洒落になりません。



万能鋳造機を使い、ミスリル製だけど魔法効果は付与されていない武具を幾つか潰します。
材料となったものはお師匠様が溜め込んでいた死蔵品ですので、潰しても惜しくない。

手に入れたミスリルを使って、アリアドーネの身体に合わせた甲冑を作ります。と言っても部品を一つ一つ、それも金属部分
だけですけどね。

鎧のうちインナーとパッドは既存の魔法鎧から流用するとして、問題はチェーンメイルか。
欧州風の鎖かたびら(チェーンメイル)って、個人的にあまり感心しない装備なんですよ。
重たくて疲労しやすい割に防御力がもう一つで、性能のわりに値段が高く、音がうるさく、手入れや修理が面倒です。

いえ、中世当時ではやむを得ない選択だと理解してますよ。
暗黒時代の欧州人達が手に入れられる鎧の中では、最高のものですから。
でも板金鎧や小札鎧が手に入るファンタジー世界でわざわざ作ろうとは‥‥うん、やっぱりやめておこう。
隙間や関節部分には、ドラゴン革やグリフォン鱗を使えば良い。実際の加工は夫たちに頼みましょう。

そういえば、近いうちに夫たちが倒した石化蛇やワイバーンやユニコーンの素材を大神殿へ奉納しないといけませんね。
良い素材を分け与えるのも強者の務めですから、巣の評判も上がりますし。
革になめしてからの方が良いかな?

上ものの魔物革‥‥ 奉納品‥‥ 傷物‥‥ ううっ頭が痛い。


はっ!? 今更ですが、トログロダイト騒動で傷だらけになった大ワニの革って、「修復(リペア)」の呪文で直るんじゃない
でしょうか?
折れた車軸や破れた服が直るならなめし革だって直るかも。試してみましょう。


駄目でした。穴は塞がったのですが傷あとというか革に歪みやひきつれが残ってしまいます。
微妙に、ではありますが強度や柔軟性も落ちている。
革鎧などの素材にはなるかもしれませんが奉納品にはできません。

うーん、所詮は2レベルプリーテスの呪文。完全修復は無理か。
お肌の古傷や痣を消す美容整形的治療ならほぼ完璧に、治療の痕跡が解らないまでに綺麗にできるのですが何故に革の修復は
できないのでしょうか? 研究の余地がありますね。






[38600] 65
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2017/06/03 11:20




 ☆114日めの2、小林○子だって普段から電飾まみれなわけじゃないし☆



特注の花嫁衣装がほぼ出来上がったところで、その花嫁本人が帰ってきました。
あとで試着して貰いましょう。

アリアドーネだけでなく他の4名も一緒です。
ソーニャさんから貸与中の魔法の鎧を着たまま、マルマルの肩に座って運ばれているアリアドーネはかなり恥ずかしそうです
が仕方ありません。
彼女が歩くよりも、彼女を担いだマルマルが歩く方が速いですからねえ。
野外で昼間の急ぎ旅だと、アリアドーネには盾役よりも視覚による索敵役をして貰う方がオークたちにとって有り難い。
人間族の昼間視力はオークから見れば超能力じみた範囲と正確さでして、同行しているなら活用すべきです。


マルマルのもう一人の嫁候補というか婚約者のエイボリンはというと、箒に跨って浮いています。
空飛ぶ箒はそれなりに希少ではありますが、初級の魔女でも使いこなせます。
普及率が低いのは操作性以外の問題です。

流石にこちらはオーク達の強行軍にも余裕で付いて行けている。
彼女の箒の機動性は、地球で言えばマウンテンバイク以上モトクロッサー以下といったところでしょうか。
本人と同重量ぐらいの荷物を載せて、山道を良馬並に動けます。倒木や岩も平気で乗り越えられる点を考えれば野外競技用自
動二輪より上かも。

実際に動くのはオーク島の野外なので、確認もせずに障害物の上を飛び越えたりしませんけどね。
倒木の裏にモンスター化した大トカゲが潜んでいたりしたら命取りになりかねません。
いくら装備品で強化していても、HPでいえば彼女は星1級。しかも装甲が薄い後列職の初級冒険者でしかないのです。
飛行用箒が普及しない理由の中でも 「馬で良くない?」 というのがわりと大きいでしょうね。
訓練した軍馬の方が魔法の箒より安いですし直接の戦力になりますから。


エイボリン以外の、ソーサレスの素質が無く箒に乗れない女達はそれぞれの婚約者に担がれたり背負われたりしています。
エーリカはアンドレに、スィールクはアシナガに、そしてメイアはタレミミに。
恋人の人間雌を担いで、近所をうろついたり遠出したりするのが憧れなのですよ、温泉洞窟のオーク達には。

正式にはメイアとタレミミはまだ婚約してないし近いうちに式を挙げる訳じゃないけど‥‥まあ良いでしょう。
どうせ何年かしたらそうなるんですし。
いえね、既にメイアは義父のタレミミに め ろ っ め ろ になってまして。
婚約首輪代わりにタレミミから真珠の手作り首飾りを貰ってご満悦です。今も身に付けてます。

真珠は食用の牡蠣やアコヤ貝などから採れますし特に切削や研磨の必要がないから、下っ端オークでも割と簡単に手に入れら
れる宝物なのですよ。
簡単でもないか。オーク島では貝採りだって命がけですし、質の良い真珠を手に入れるには運と根気が要る。

ピンハネや横取りが起きないホワイト環境なので、温泉洞窟は世紀末濃度の低い連中にとって住み良い場所です。


もう手遅れですねー母娘そろって。
エロモンスターの虜になってしまった元巡礼の母親は、娘と一緒に雌奴隷になれることを喜んでいます。

‥‥式の進行で忙しかったからソーニャさんにメイアの性教育を頼んだのがいけなかったのかなあ。
いや、その、母親の結婚式に娘が出ないわけにもいきませんし。
オーク族流儀の結婚式だと18禁仕様にしかなりませんので、参列者に最低限の性知識がないと拙いと思いまして。
問題は 最 低 限 の基準が私とお師匠様とでは違っていたことなのですが、まあ良いか巣の繁栄的に考えて。
当事者同士が納得しているなら実の親子でも認めちゃうのがエスティア様なので、信徒がゆるっゆるになるのは当然です。



時間の問題ではあったのですよ、元から。
オークフェロモンを嗅ぎ続けていればノータッチでもとろけてしまうのが人間雌でして、幼女でもオークと四六時中一緒に過
ごしてて、お風呂や寝床のなかで本番一歩手前な「お医者さんごっこ」してりゃそりゃ堕ちるわ。
堕ちるところまで堕ちた母娘はそろってオークに飼われる未来に満足しきってます。

まー 仕方ありません。特にルウのほうは年単位でご無沙汰していたところにオークち○こ突っ込まれて10回以上膣出しさ
れて逝きまくったらもうどうでも良くなっちゃいますよねえ。
巡礼や農村暮らしより、今の暮らしの方が遙かに安全快適で将来に希望が持てるのは事実だ。

衣食住に何の不自由もありませんし、暴力や病気に脅かされることもなく、素敵な旦那様にいくらでも可愛がって貰える。
雌奴隷の立場に甘んじてしまえるなら、オーク妻ほど気楽な生き方もありません(ただしオーク島産の変態紳士が旦那様な場
合に限る)。

タレミミ含め義息子達は東方世界の一般的な農夫や人夫や職人と違って、酒飲んで女房を殴ったりしませんからねー。
博打で借金こしらえて帰ってきたり、商売女から病気を貰ってきたり、浮気して隠し子作ってたりもしません。
余所の巣はどうなのか知りませんが、至って酒癖の良い連中なのですよ私の夫たちと義息子達は。


親が丸め込まれてしまえばメイアぐらいの子供では異論も出ない。幼児期から自我が完成していて独自の判断と決心と行動が
できるのは転生者ぐらいですよ。
かくいう私はリアル転生者ですが、脳が子供のせいか子供っぽいというか精神年齢が低くなってる気がします。
前世の記憶持ちですらない只の幼児に大人並の主体性を求める方が間違っている。

そして幼児期からエロモンスターと肌や粘膜で触れあい、少女時代の大半をエロモンスターと臍の緒でつながる生活を続けて
成長すれば雌奴隷から抜け出したいとも思わなくなってしまうでしょう。



予定は未定であり決定に非ず。
という訳で人面獅子迷宮を拠点として、温泉洞窟周辺や往復路にある狩り場で狩猟と採集を行っています。

数日前に決めた短期方針のうち
2 人面獅子迷宮は人員を常駐させるけど、扉を封じてなるべく出入りしない。
を一部変更したのです。

理由は主に二つ。自軍戦力に幾らかの余裕ができたことと食料が足りなくなったこと。
飢えはもちろん 食 糧 不 足 を実感したことすらないオーク島のオークたちにとり東方世界の貧しさは衝撃的でした。
弱々しすぎて直ぐに死んでしまいそうな東方産オークたちを島へ誘うことはしませんが、食料を余分に取ってきて分け与える
甲斐性はあるのですよ温泉洞窟の面々は。
オーク島では強者が弱者へ、富める者が貧しい者に分け与えるのは当然ですからね。




‥‥ん? 採集部隊の無限袋から出てきた収穫物のなかに、椰子の実繊維で蓋をした青竹の筒があるのですが。
確認してみましたが、やはり中身は鬼殺し貝の毒銛か。

「ちょっとマルマル、こっち来なさい」
「グヒッ?」

のこのこと歩いてこっちへ来た太目オークですが、私の手招きに従って身を屈めたところで鼻面を掴まれ悲鳴をあげました。

「プギップギッ」
「一人で毒貝の銛を採るな って言ったでしょうがっ」
「ヒトリ、ナイ。アドニス、ブルボン、イッショ」

なお悪いわ。嫁や新人に良い格好見せたかったのでしょうが、一歩間違ったら死んでましたよ。
マルマルの着ている、訓練用の白金インゴット入りパワーベストに穴が開いてます。
幸運にも肉には刺さらなかったのか‥‥と思いきやどう見ても貫通してますよこの刺し跡から見た刺さり具合だと!


「イヴ、マジナイ、カケタ」
「あ、悪ぃ、言ってなかったっけ。私の呪文で対毒処置したから大丈夫だよ」

現在の温泉洞窟では、オーク族が装備可能なアイテム類を全員に渡りきる量で貸し出してます。
主に、粗忽な下っ端オークが突然死する確率を下げるためですね。現にマルマルも魔法の片手斧を装備してますし。
これは人間族用の片手半戦斧を改造したもので、魔力を帯びた武器としては正直いって凡庸な代物ですが高い対毒性能を持ち
しかも伐採などの木材に対する作業効率が上がる特殊効果があります。木製の扉やバリケードへの破壊効率が高いのです。

斧だけでなく彼が装備している首飾りと腕輪には毒や麻痺などに耐性を与える効果を持つ護符や指輪が組み込まれてます。
エイボリンが掛けた「耐性(レジスト)」の呪文効果と合わせれば鬼殺し貝の毒ですら ち ょ っ と 痛 い ぐらいで済
むのです。オーク族は素の対毒耐性が人間族より高いですから。

ゲーム的に言うと、鬼殺し貝の毒って割合毒なのではないかと思われます。毒を受けたキャラへHPの何割かのダメージを与
えるのでしょう。対毒判定に失敗したらHPの30割ダメージ、成功したらその半分とかそんな感じで。
それだと判定に成功しても即死するだろう ‥‥って?
しますよ。
熊でも豹でも大蛇でもかすっただけでお陀仏です。人面獅子は試したこと無いから、ひょっとしたら死なないかも。



ああ、そうか。

一ヶ月前はいざしらず、今現在の私は巣の下っ端が毒蛇や毒虫や毒貝や毒魚や毒鳥にやられて即死する心配なんかしなくて良
いのでしたそういえば。
毒対策は冒険者の基本。そしてお師匠様は英雄級の更に上、伝説級の冒険者です。故に身内への毒対策も完璧です。

素のHPが低すぎなマリアたちや殆どの装備品が付けられないイノシシたちはともかく一応の戦力扱いできる連中、義息子た
ちやエイボリンたちは大概の毒では死にゃしません。
かなり強い毒でも、死ぬ前に解毒剤を飲ませることができるぐらいの余裕があるのです。

仮にマルマルのHPが30点で、鬼殺し貝の毒をくらったとすると通常なら90ものダメージを受けるとします。
しかし彼が「対毒判定を自動成功し、毒の効果を更に半減させる」アイテムを装備していれば一気に23点まで受けるダメー
ジが減る訳でして。
このように気の利いたアイテムが一個有るか無いかで、生存率は激変します。複数あればなお良し。



もちろん強いモンスターとの遭遇戦など毒以外の死因に対しても対策してあります。
本職教官による訓練と命がけの実戦を乗り越えた義息子たちは、本当に強くなりました。今ならマルマルは一人で黒クマぐら
い仕留められるでしょう。灰色熊だと仕留めるのはまず無理ですが、逃げ切るまたは追い払える可能性は一応ある。

陸生ワニや恐鳥類の大型が相手だと分が悪いし、大怪鳥なら逃げるしかないのでマルマルなどが一人でオーク島を歩くのは難
しいですね。
アイテムによる強化には限度があります。星6級戦力になっている筈の私でもサムライに殺されかけましたし、変異体ユニコ
ーンには負けかねないぐらい手こずりました。サラさんがいないと多分負けてましたね。

限度はあれど、中身が強くなるまでの補助輪としてなら大いに使えます。
あと一月もすれば、下っ端たちだけで人面獅子迷宮からミッシェル山大神殿へ行って帰ってくるお使い任務ができるようにな
るかもしれません。
そうなればその時点で下っ端卒業です。


「ごめんね。でも毒が効かなくても銛が刺さるような採取は駄目よ、ちゃんと盾を使いなさい」
「グヒッ」

捻りあげてしまったマルマルの鼻というか上唇あたりをさすさすと撫で回します。怪我はしてませんね。

怪我していたかもしれないのですよ。
籠手を付けたままだと刺身は作れませんし縫い物もできません。私の器用値と技量でやれば魚肉や縫い目が崩れてしまう。
一度便利な生活に慣れてしまうと元には戻れないので、普段の暮らしでは人食い鬼腕力の籠手を外していますが代わりに筋力
値が上がる腕覆い(アームレスト)を付けて過ごしています。

本気の装備と比べると、遊園地の腕相撲マシンで言えば横綱と十両ぐらい効果が違いますがそれでも並の人足よりも力が強く
なるわけでして。
巨人力の帯は付けたままですから、現在でも私は下っ端オークの誰よりも怪力なのです。

筋力あるといろいろと便利なんですよ。階段や梯子を使わずどこからでも屋根や二階三階へ上り下りできますし、部屋の模様
替えや飾り立てとかも楽ちんです。
漬け物石一つ運ぶのに一々人手を借りていては不効率に過ぎる。
オーク達に指図するときも一々口で説明するより、実地で動かして説明しながらの方が指示し易いですし。


夜というか寝床の中でも使えますからねこの手の装備は。
早い話、怪力装備一式があればマリアのような素人の幼女でもオークを逆強姦できちゃいます。
そこまでいかずとも、四つん這いで後背位につながる雌豚気分を味わうには必須ですよ。素の筋力だと支え切れませんから。
ほら、売れっ子風俗嬢はある程度の筋力も要りますから。
腕立て伏せができる筋肉がないと後背位で長時間なんて無理ですからねー。

か弱いロリっ娘として愛でられるのも良いですが、ケダモノとして激しく雄を貪っちゃうのもまた良し!

前にも言いましたが、世の中にはエロモンスターとのえっちが楽しみで冒険者やっている業の深い連中もいるわけでして。
群れの危機を救った報酬代わりに、ハーピィだかセイレーンだかの群れ全員を孕ませたエロ勇者とか。
稀によくあることらしいですよ、「巣のみんなでエロご奉仕」ぐらいしか出せる報酬のないエロモンスターたちが異種族の勇
者に身体で支払うのは。
もうちょっと性悪で殺伐とした冒険者のなかには、地下迷宮で遭遇したミノタロウス一行を手込めにしたりオーガーの兄弟を
監禁したりしているのもいるとか。




話を戻すと、元巡礼母娘と元荘園暮らしの新入り女6人のうちルウだけは、赤ん坊の世話をする人が要りますので外に出ず地
下神殿に残っていました。
他の5人は男衆と一緒にオーク島へ出かけていたのです。

私以外の人員は転移魔法でオーク島と東方世界を行き来できるのですよ。

現状だと女達の誰か一人は、地下神殿に残って赤ん坊の面倒をみなければなりません。
下っ端オーク達には子守をする意欲はあっても能力的に不安ですからねー ケサガケなんか哺乳瓶握りつぶしちゃったし。
幼女妊婦を、お腹の子を気遣いながら抱いて膣出し性交で逝かせることができるのですからうっかり赤ん坊を握り潰したりは
しないと思うけど、下っ端オークだけに育児を任せるのは不安すぎる。
夫たちは元いた巣で人間の赤ん坊を世話した経験がありまして、赤ん坊のあやしかた一つとっても堂に入ったものですが巣の
防衛と子守を同時にやるのは危険すぎます。



そんな訳で現在リカード君が飲んでいるお乳は主にルウのです。
信仰魔法の中には授乳期でない女から乳がでるようにする呪文もありまして、それを巣の女達に使っています。
上位の信仰魔法には蜜(シロップ)の流れる河を作り出すものさえあります。
低位の呪文でも、幼女や老婆や妊婦の乳房から乳が出るようにするぐらいはできます。効果は多少落ちますが男でも出る。

一回だけですけど私もリカード君へ授乳させてもらいました。そのときの話はいずれそのうちに。
なんで一回だけかって? 夫たちと義息子達に飲ませたらなくなっちゃうからですよ。乳が。
おっぱい成人ばかりなのですよウチの巣の男どもは。
 

幸い? リカード君は出なくなったロリおっぱいでも吸い付いてくれます。もちろん出るおっぱいの方が好きですけど。
離乳食も食べているので実際に飲んでいる分量は少ないですが、赤ん坊にとっておっぱいとお乳は絶好の精神安定剤。
森の中の荘園から地下神殿へ引っ越ししたから環境激変してますもんねー 赤ん坊でもストレス感じますよそりゃ。

あ、念のためですが赤ん坊含め巣の人間族は一日あたり30分以上の日光浴を義務づけてますよ。
オーク達は一生地下生活でも平気です。でも人間族はそうもいきません。干しキノコとか食べてるからビタミン不足にはなら
ないでしょうけど、体内時計の調整のためにも毎日日光を浴びた方が健康に良い。

闇の種族などと呼ばれることもあるオーク族は日光を浴びなくても生きていけます。でも太陽は嫌いじゃありません。
というか日光浴好きですし、日光浴する人間雌を見るのはもっと好きです。
半裸や全裸の人間雌達がクローバー畑などで輪を作り、談笑しつつ花冠作ったり四つ葉探している姿はオーク島住人にとって  幸 せ の具現化した構図だったりします。
女達の輪の中に赤ん坊のエロモンスターが座っていたりするとなお良し。その子の傍に人間雌の幼女がいてお姉さんきどりで
世話焼いていたりすると言うことなし。


そんなわけでルウはじめ留守番している女たちのうち最低一人は母乳が出るようにしています。
リカード君が飲み残した母乳は下っ端達が美味しく頂いてます。タレミミとかは出なくなっても吸い付いてます。
ルウだけでなくソーニャさんとサラさんの授乳体験のある雌奴隷たちは、乳母も乳牛プレイも大歓迎ですが‥‥いかんせん
「豊乳」の呪文は2レベル信仰呪文でして、今の私では最大でも1日4回しか使えません。
いまは1日あたり「豊乳」の呪文を2回使ってますけど、危機管理的にこれ以上は割り振れないのです。
巻物などもありますけど、今のうちから巣の拡大や贈答品需要増加に備えておきたい。

女神様の話では、そのあたりをどうにかする裏技があるそうなので近いうちに夜の通信授業で教えて貰いましょう。



あれ? そういやまだ言ってなかったような?

言い忘れていたかもしれませんので報告します。
ルウとタレミミですが昨日の夜に結婚しました。もちろん公開初夜で。
そろそろお腹で卵子と精子が結合している筈。


準備が調い次第式を挙げるのが温泉洞窟の流儀です。逆に言うと準備が出来てないとやりません。
花嫁衣装の細部調整と試着、性能試験がありますのでアリアドーネの嫁入りにはまだ少し時間がかかります。
花婿側にも準備が要りますがそちらはわりと順調なので、荘園組の4人はいっぺんに挙式ですね。

何故に同時挙式かといえば、エーリカとスィールクは当主代行の「お嬢様」を立てないといけませんから。
彼女達の中ではクリンウッド家は滅んでない訳でして、年下の家臣や使用人がお嬢様より先に結婚してしまうと拙いのです。
なので花嫁衣装の完成を本人よりも待ちわびてます。
ドレスなら彼女達も仕立てを手伝えますけど、甲冑しかも魔法の品だと何も出来ませんからねえ。

いや、大急ぎで作っているんですよ嫁入り甲冑。式の前に子供ができちゃってもオーク的には一向に構いませんけど、乙女心
的にはそうもいきませんからね。東方世界にもヴァージンロードの概念あるみたいですし。
普通は職人が何ヶ月もかけて作るものですからね、特注の全身鎧って。


で、アリアドーネたちがドスの狩猟と採集に同行したのはオーク島の案内と婚前観光小旅行を兼ねてますが、物資運搬という
意味もあります。
たとえば幼女のメイアは戦闘力皆無ですが、それでも無限袋などの収納系アイテムを使えます。
地球の幼稚園児が家電機器を使えるようにファンタジー世界の巡礼娘は魔法の品を使うことが出来るのです。
魔法の品と言っても色々でして、魔女の箒などそれなりの技能や資質を必要とするものもありますがそうでないアイテムも多
いのですよ。無限袋とか。

なのでアイテムを使うことに慣れて貰うために、彼女達を運搬作業に投入しました。
同行する下っ端たちには、運搬要員を守ることで経験値を稼ぐことも期待してます。エイボリンとアリアドーネには護衛と運
送の両方で経験値を獲得してもらいたい。ドスは引率責任者であり万が一に備えての保険です。


「でねっ こーんなにおっきな木がいっぱいあってねっ いろんなくだものがなっててねっ きにおっきなザリガニがねっ」
「うんうん」

メイアは島の密林や海岸などで見たものごとを興奮した様子で母親に話しています。
現地で収納した南国果実などを次々と出して見せようとしている辺り、アイテム使用者としてはもう充分ですね。
次は「癒しの杖」あたりを使わせて、回復要員としての適性も見てみるか。

ドスたちは果実や野菜だけでなく、肉や魚や薪なども集めています。ついでに採掘もしてる。
オーク達が物資を集める間に周囲の見張りと非戦闘員の護衛ぐらいならアリアドーネにもできるし経験になります。
竹など無限袋に収めにくいものはハンセンたち荷物持ちが担いでます。
5人の女達がそれぞれ一つずつ無限袋を使えば2トン以上の運搬力になります。オーク達の分も入れれば3トン近い。
軽トラック数台分の荷物を運べるのですからその輸送力は侮れません。

武器や薬などはオークにも仕えますが、器具系アイテムのなかにはオークには使えないものが多いのです。
とくに収納系のアイテムは殆どが使えません。

なのでオークの商隊に人間族などの奴隷か雌奴隷が付いていくと効率や生存率が跳ね上がります。
当然ながら調教の行き届いていない、裏切る機会を虎視眈々と狙っている奴隷を連れた一団よりも心からオーク達に従う忠実
な奴隷を同行させている一団の方が生存率が高くなります。

そして、ち○このことばかり考えている色惚け雌奴隷を連れた一団よりも、巣の繁栄を念頭に動ける賢い雌奴隷を連れた一団
の方がより生存率が高い。
きちんと躾られた健康で気立ての良いミッシェル山ブランドの雌奴隷を、オークたちが宝を山と積み上げて求めるのは当然の
ことなのです。嫁の良し悪しで巣の将来が変わるのですから。



人間雌を堕とすのは良い。ですが壊してはいけません。それ故の変態紳士教育です。
毎朝の日光浴と、太陽の下でのストリップや公開自慰や婚約者への公開ご奉仕が病みつきになってしまったアリアドーネとか
かなり危ない気がしないでもないのですが、知性や理性はさほど損なわれていない様子なので良しとしましょう。

騎士階級の娘にとって 純 潔 は重要でして、初夜まで守り通した処女を夫に捧げることは女の義務であり誉れとアリアド
ーネは教育(洗脳)されています。
彼女ほどではありませんがクリンウッド家の関係者は、似たような教育というか価値観を植え付けられています。エロ幼女奴
隷として調教されているスィールクだって処女膜とファーストキスは守り通して(取っておかれて?)ましたからね。

いや、彼女のファーストキスは数日前にアシナガへ捧げてましたよ、そういえば。
毎朝毎晩ときどき昼間にも祖父のち○こを咥え込まされ飲まされて、それがちっとも嫌じゃないまで躾られてしまったスィー
ルクですが、口付けとおフェラは別物のようです。

どうもスィールク的にはおフェラは前世でいえば肩もみというか介護や治療的な意味があるようでして。まあ、東方世界では
性欲持て余している若人や親爺や元気な老人を親しい女人がお口で慰めてあげるのはさほど珍しくもないのだとか。
女中さんや乳母や家庭教師が、初体験の相手なお坊ちゃんとかが結構いるわけです。

地域や各家庭ごとに違いますから一概には言えませんけどね。
ソーニャさんの実家やそのご近所さんでは年端もいかぬ実の娘へ、ティッシュペーパーなみに精液吸い取らせたりなんかして
ないわけですし。もしやってたらお師匠様は冒険者にならなかったかもしれません。


血の繋がった娘が父の、母が息子の、姉妹が兄弟のものを静めてあげることもあるのですから地元の尼僧たちが信仰上の兄弟
達にあんなことやらこんなことやらをしてしまうのも当然といえば当然。
俗人たちが家族や隣人に尽くすように、聖職者たちは信徒たちに尽くす‥‥のが建前です。
中世的社会では尼僧が娼婦を兼ねているというか、両者の境目はかなり曖昧なのです。
日本の戦国にも歩き巫女とかいましたし。もちろん男の子もいますよ、お稚児さんに当たるのが。
東方世界では同性愛への風当たりはそれほどきつくありません。精々古代ローマくらい?

それはそうと、ヴァダ市内の噂では私も娼婦兼業の冒険者だと思われてるみたいですねー。まあ、仲間のサラさんとマリアは
もぐりの娼婦みたいなものでしたし、お師匠様も娼婦やってた時期があることは隠してませんからねー。


「いや、その恰好だと娼婦扱いされても仕方ないっていうか、娼婦でも嫌がるよ」
「そうですか?」


サラさんはじめ東方世界住人の常識的には、ミニスカ水兵服も毛皮服もありえないエロさだとか。素っ裸の方がマシなぐらい
扇情的だそうです。
ブルマや短パンも同様。東方世界で年頃の娘さんが太腿やふくらはぎを見せるのは、前世で言えば上半身裸になるよりもはし
たない行為のようです。

あー そういえばおでこちゃんの着ていた女学生制服もどきも露出は控えめだったような。
いや、でもミニスカートだった気もしますし? あれは夫たちの趣味に合わせて改造済みだったのかな?


ソーニャさんに訊いてみると、彼女が愛用するあのステージ衣装はあくまでもステージ用なのだとか。
一般人が街の通りなどを着て歩くものではないそうです。
確かに、前世でも競泳の水着姿や新体操のレオタード姿で商店街に出て買い物とかしてたら通報されかねませんよねえ。
せめてガウンぐらいは羽織らないと。



さて、爛れてるけどそれ故に処女の価値も高い現地文化にオークフェロモンの効果と私の超てきとーなでっちあげ説法が加え
られ混ざった結果、四人の現地娘達はオーク達の前で大股ひろげて雌穴を開き、処女膜を見せびらかしながら自分で弄ったり
婚約者に弄って貰うことが大好きになってしまいまして‥‥やはり教材として見せた動画が拙かったかな。

私の初夜の前にやった、下っ端オーク向け性教育自体に問題があったのかも。
あれで義息子達に「処女の嫁は初夜の前に膜つきの雌穴を見せびらかすもの」という思いこみが出来ちゃったんでしょう。


まあ良いか。どうせ私の巣に嫁入りする女はみんな、旦那様に頼まれたら喜んで御開帳してしまう淫乱さんになるのだし。
そうならなければ嫁入りなんかさせませんからね。






 ☆114日め3、こういうこともあります☆



「レイ、急患よ」

ドス達が採ってきた巨大タンポポの茎から汁を搾っていると、お師匠様に呼び出されました。

錬金工房から本殿に出てみれば、ちょうど軽傷1重傷1瀕死1のミノタウロス3人と2人の人間雌が即席担架に乗せられ運ば
れてくるところでして。
正確には担架に乗っているのがミノタウロス×2で残り3名は徒歩で付き添ってます。
担架を運んでいるのは義息子たち。

丈夫な棒が二本と大きくて丈夫な布が一枚あれば簡易担架が作れるのです。読んでて良かった戦記漫画。
いろんな意味で記憶力が良い義息子たちは、私が指導したり実演したりした知識や技術を着実に身に付けて実践してます。

全般的にオーク族は、察しが良くないけどもの忘れはしない生き物なのですよ。
コブハナとか、私が巣にやってきてからの服装を全部憶えてやがりましたからねー。
何日に何のぱんつ穿いていて何時どこで脱いだとか、見せちゃったもの全部憶えてて諳んじてみせましたよ。

なおギュー・グェスは時々異常に察しが良くなりますが、彼は例外的存在です。

まあ、あれだ、この記憶力と嫁への興味関心があれば結婚記念日とかを忘れられる心配もない訳で、オーク夫と人間嫁の家庭
が円満であることが多い理由なのかもしれません。
何年も連れ添ってたくさん子供産んで育てた古女房でも、夫が馴れ初めやらなにやらを憶えてくれているのは嬉しいはず。
釣った魚にこそ餌をあげるのがオーク流です。あげないと魚が死んじゃいます。



患者ミノタウロスたちは推定技量星4ないし5、ただし負傷と疲労で現在の戦闘力は激減状態。
全員成人したばかりの若い個体ですね。僅かな装身具と手作りらしき粗末な武器以外何も持っていません。

女達は姉妹で、二十歳前と十代半ばぐらい? 
人間族製の手入れの悪い武器を持ち粗末な衣服と靴を身に付けています。粗末と言うか、ボロとかゴミの方がより実態に近い。
中身の方は、亜麻色の長い髪といい傷らしい傷もない肌の艶といい良家のお嬢さん風ですが、ふむ。

瞳はワインのような赤紫。骨格や肉付きもそうだけど、本当に地球にはいない人種なんだなあ。
遺伝子的に言えばホモ・サピエンスですらないかもしれません。ほぼ日本人のヒルデニア人と混血出来るのだから染色体の数
は同じでしょうが‥‥いや、ヒルデニア人だってただ単に見た目が地球の日本人に近いだけな可能性もあるか。
文化的な近さは、私のような転生者の影響かもしれません。

オーク島にもヴァダ市にもちらほらと、黒い肌の人間族がいますけど地球のネグロイド系人種とは違うんです。
いや、ヒルデニア人にしても日本人と同じ外見とは言い難いですよね。前世では藤子さんみたいな日本人女性は見たこともあ
りませんし。


姉妹の推定技量は星3ないし4。姉がプリーテス‥‥じゃないなクレリックで、妹がウイッチか。
この世界のクレリックはハイプリーテスと同格の上級職です。詳しくは何れそのうち。
二人ともに妊婦でお腹の子はミノタウロスですが、同行者たちはお腹の子と直接の血縁はない? でも肉体関係はあり?
そのへんはよくわかりません。胎児の成長は至って順調ですね、妊娠1ヶ月半から二ヶ月弱かな。



「くもつ、ない。ここ、にんげんめす、かみ、いえ。にんげんめす、かくまう、よし」 

たどたどしいオーク語で、「お布施は出せないけど人間雌の神殿なら人間雌だけでも保護してくれ」と言ってきたミノタウロ
スたちを

「黙れ。とにかく傷を見せなさい話はそれからだ」

と、診察します。


「サダキチ、3番から8番の癒しの杖を持ってきて。聖水の大瓶も」
「グヒッ」

地下神殿を復活してからまだ数日ですが、参拝者は次第に増えてまして義息子達も異文化交流の経験を積んでます。
なので下っ端たちもミノタウロスたちが喧嘩を売っているわけではないと解っていますが、理屈と感情は違うわけでして。
話を聞いた義息子達は少なからず機嫌を損ねていますが、さすがに怪我人や妊婦に当たりはしません。
まだ変態紳士と呼べるほどではありませんが、気持ちの優しい良い子達なのですよ彼らは。


お布施が足りないと重病人でも神殿から蹴り出される東方世界と、散財と施しが強者の特権であるオーク島では文化が違う。
オーク島的には「できるのは感謝だけ」である弱者に縋られることは、宗教施設にとっては少しも迷惑じゃありません。
弱者にまとわりつかれるのが嫌なら神殿なんか運営しなきゃ良い、というのがオーク島の文化です。

まあ、本当は余裕があるのに窮乏を装う恥知らずや、自分と似たり寄ったりの弱者に集ろうとする間抜けには相応の報いがあ
りますけどね。具体的にはムラハチならぬシマハチが。
大威張りで施しを強請る頭の高い乞食はその場で滅殺します。大母様はともかく私はする。ヤクザと宗教団体は舐められたら
おしまいなのです。


ふーむ、やはり死にかけの原因はこの毒矢の鏃か。矢を抜こうとして折れた‥‥いえ、最初から刺さったら鏃が外れるように
矢を作ってありますね。根性悪いなー。

では、本物かつ無加工の「ユニコーンの角」を使って傷口周りの毒を消去しまして、それから傷を開いて鏃を摘出します。
こちらも本物のユニコーン角製注射針というか膿吸い器を、ストロー状に加工した馬外道の角に単純な減圧吸引装置を付けた
ブリキの油差しみたいな治療器具を傷口へ突き刺して毒を消しつつ膿や腐った体液などを吸い取る。
癒しの杖などを使って毒矢のだけでなく全身の傷をふさぎ、体内に回った毒は「毒消し」の霊薬を飲ませて、と。

一人目はこんなもんで良いか。


次に右腕が肘の先あたりでなくなっている重傷患者。ありゃりゃ、腕の肉が腐りかけてますよ。
縫合の腕はなかなかですが、消毒が足りてませんね。傷口からいろんな菌が入ってる。
破傷風にもなっています。幸いにもまだ菌やその毒素が腕の中だけに留まってますので、まだ処置が楽です。

こっちは肩のところをロープで縛ってから切り落として、それから腕を再生しますか。
癒しの杖だと万が一が怖いな。聖杯と重傷治療薬と治療呪文の三重同時使用でいきましょう。

そうそう、ブロディとハンセンは患者の手足抑えててくださいね。切断手術は‥‥私がやると麻酔の問題があるからお師匠様
に切り落として貰いましょう。痛みを感じさせないように切って貰えば手間が要りません。
では、いちにのさん、で ざしゅっ と。


よし治った。無事に腕が生えましたから、ロープを解いて良いですよ。
院内感染が怖いから切断した患部は、治療に使った布やスポンジと一緒に貪り食う無限袋に入れてしまいましょう。


最後の一人は疲労が酷いだけで怪我はかすり傷ですね。薬草入り焼酎でも吹き付けておきますか。

「グヒッ」

衛生兵役のサダキチから受け取った自作の霧吹き器(香水の空き瓶を参考に製造)で消毒します。
脱出時の傷は既に塞がっていますので、いま手当てしているのは地下神殿に逃げ込むときに負ったものですね。
ミノタウロスの皮膚は石ころや茨の棘なんかでは傷付きませんが、例外はあります。瀕死の仲間を背負って運んでいたら怪我
の一つもするでしょう。


念のために女達も診察します。足の靴擦れや潰れたマメも治せるのが癒しの杖。
怪我は治しましたし病気らしい病気はありませんが、疲労が酷いですね。
姉妹揃ってアルコール耐性が強い体質みたいだし少しなら飲ませても大丈夫でしょう。


急患とその連れに蜂蜜入り葡萄酒のお湯割りや鳥モドキ肉の汁物を飲ませ、落ち着いたら湯浴みをさせます。
一番重症なミノタウロスはスポンジもどきや蒸した木綿布で身体を拭わせて、と。
湯浴みったって銅製のでかいタライに水を張り、暖炉で焼いた石を入れた金網箱を入れて暖めただけの代物で行水させるだけ
ですけどね。

うーむ、地下神殿にも温泉欲しいなあ。
高価なアイテムを使えば直ぐにでも温泉が作れるけど、無いと死ぬというほど切実な問題でもないし‥‥。
いやその、近いうちに廃棄するかもしれない拠点に7レベル呪文のスクロールとかを使うのはもったいないかなー と。
前の仮拠点ほどじゃありませんけど、ここも討伐隊が来る可能性があるといえば有る訳で。


女神像の置かれている本殿から少し離れた所に参拝者用の部屋が幾つかありまして、その一つに治療したミノタウロスたちを
泊めることにしました。
一番重症だった患者が死にかけから病人程度まで回復しましたし、明後日あたり退院できるでしょう。
病院食はタレミミ達にでも用意させますか。ミノタウロスって人間と同じもので大丈夫でしたよね、確か。
豚やイノシシなどは生のニンニクを食べたら倒れますが、人型モンスターは平気です。タマネギやチョコレートも美味しく食
べられる。


あとは衣服か。とりあえず女達用に貫頭衣と肌着を出しておいて、後で古着の山から適当に選ばせるか。


ふむ? ウイッチ一人だけが丸腰?いうのは拙いかも。
ええと、ヤクザ一味の魔術師から剥ぎ取った呪文書がありましたよね。あれを渡しておきましょう。
あと杖と短剣も。
その他の装備品類は退院までに見繕っておきますか。嫁さん達にだけだと角が立つかもしれないから、ミノタウロス達にも銀
の両手用鎚矛ぐらいは渡しましょうかね。
万能鋳造機を使い10秒かそこらで作った手抜き武器でも、念入りに祝福しておけば塚守(ワイト)ぐらいには通用します。



「あ、あの、こんなに良くしていただいても、私どもにはお返しできる当てがないのですが」

亜麻色姉妹の姉がおずおずと言い出してきましたが、元からこっちには返して貰う気がない。
むしろ半端に遠慮されて退院直後に野垂れ死になんかされたら困るのです。エスティア神殿の評判が落ちてしまう。

「ここは女神エスティアの家、全ての女達が安らげる場所。女神への感謝と祈り以外何一つ貴女がたに求めていません」

前世の猪養令治が言えば「嘘だ!」と叫ばれそうな御為ごかしですが、エスティア神官のレイちゃんが言えば圧倒的説得力で
納得させられます。
本気で言ってますからね、だって女神様がリアルタイムで「こう言え」と台詞の指導までなさってくださいますし。
この状況で嘘や軽口が出るほど私の口舌は丈夫じゃない。

いや本当に、女神様の前でも減らず口がぽんぽん出る祐衛門船長って凄いや。痺れるけど憧れないし真似できません。





彼ら+彼女ら5名は、ヴァダから南東に30㎞(地元の単位だと12旅程)ほど離れた地下遺跡に陣取っていた、ミノタウロス
の巣の敗残者だそうです。

亜麻色姉妹はとある没落しつつある地方貴族一家の長女と八女で、冒険者の真似事をして領地の治安を守りつつ日銭を稼いで
家計の足しにしていたのですが、最近急拡大していたミノタウロス軍団と冒険中に遭遇して捕らえられてしまいました。
それが二ヶ月半ぐらい前のことですね。
で、姉妹は巣のボスであるロード・ミノタウロスから同人エロゲ的な調教を受けて雌奴隷になったのです。

ええ、この人間雌たちはもう身も心もミノタウロスの虜でして。

バレン地下神殿へやってきた時点でミノタウロスたちは 死にかけ と 戦闘不能 と 過労消耗 だったんですよ。
女達は逃げようと思えば逃げられたでしょうし、殺そうとしたなら確実に殺せていたでしょう。

姉妹からすれば巣の主の子を孕んでから、ご飯やシモの世話はもちろん毎日首輪と鎖付けての散歩までして可愛がってくれた
若手ミノタウロスたちへは感謝しか感じていません。
昼も夜も、先輩雌奴隷達と差別することなく若手ミノタウロスたちは肉バイブとして姉妹を慰めてくれましたからね。
エロモンスターと毎日昼夜関係なく、延べで200回近くも本番えっちしていれば情が移りますよ。もうこれ以外なんにも要
らないっ‥‥と思い込めてしまえる快楽と幸福感が200回ですからねえ、壊れてしまうのも無理はない。

なんでもその巣では主や幹部層に種付けの権利があって、若いミノタウロスたちは孕んだばかりの新入り人間雌をお世話する
係だったとか。
狼とかの肉食獣に近い社会制度なのでしょう。
と、いうことはボス(主)が耄碌したら二番手が下剋上するのか理屈から言えば。



姉妹がミノたちに懐いているのは、巣を襲撃した冒険者の中にやり口のエグい連中がいたことも大きいですね。
捕虜にした臨月の雌奴隷妊婦の腹を割いて胎児を引きずり出し、立ち上がろうとする臍の緒が付いたままの胎児ミノタウロス
を狂乱する母親の目の前で小突き回して寸刻みになぶり殺して馬鹿笑いとか、そりゃ仲間割れも起きるわ。

圧倒的戦力で攻め込んだ討伐隊でしたが、一部参加者のあまりにエグい仕打ちに反発した連中が揉め事を起こしまして。
諍いは口論から斬り合いに発展し、この5人はその騒ぎに乗じて逃げることができたのです。


「いつもの手だよ。胸糞の悪い」

地元冒険者のサラさんによれば、その手口のエグい連中は「禍いの九」と呼ばれる冒険者一団でして猟奇殺人鬼の群れみたい
な連中だそうです。
無意味なまでに残忍に振るまうことで他を威圧し挑発し、義憤に駆られて敵対した者たちを返り討ちにして悪名を高めていた
のだそうで。
幹部は9名だけですが、その全員が凄腕揃いなので好き放題していますけど誰にも止められなかったのです。

いわゆる勇者様パーティというやつですね、解ります。


亜麻色姉妹がほぼ無傷で済んだのは囮になった仲間ミノタウロスたちと、ここにいる盾になって庇った3名のお陰。
死地からなんとか逃げ延びた5名はそれから丸二日間、夜露で咽を潤し野草で飢えを凌ぎつつ助け合って逃避行を続けていた
訳でして。
吊り橋効果そのものですが、命がけの逃避行で更に絆が深まったのですね。

逃げる途中で出会ったゴブリンの一団から聞いた「バレンのエスティア神殿が復活した。人間雌は只で治療してくれる」とい
う噂を頼りにここまで辿り着いたのですが、ミノタウロスたちと女達は互いが信じあい助けあったからこそバレン遺跡までた
どり着けたのです。


ストックホルム症候群を発症した彼女達には、仲間であり夫であり飼い主であるミノタロウス達を見捨てようとか害しようと
かそんな発想は湧いてきません。
姉は甲斐甲斐しく入院患者達の世話を焼き、その合間に湯浴みと仮眠で元気を取り戻したミノタウロスといちゃついてます。
妹の方も世話を焼いてまして、治療を終えて腕の生えたミノタウロスへ抱きついて口付けをお強請りしてる。

命の危機を感じると子孫を残したくなるのは生き物の本能です。コーネリアだって臨死状態とその後の体験があったからゴエ
モンへ嫁入りしたようなものですし。あれがなければあそこまでの速さでは嫁入りしなかったでしょう。

討伐隊襲撃前の時点でミノタウロスの子を産む覚悟を決めていた亜麻色姉妹でしたが、この逃避行で完全に人間社会から縁を
切ることになりました。
やり口の穏便な勇者パーティなら、捕獲したミノタウロス妻が子供を産める場所を紹介する連中もいたりしますが彼女達が出
会ってしまったのはエグい方の代表格でして。
もう完全に、人間社会と勇者様を敵に回して生きるしかないと思いつめてます。





 ☆114日め4、鍛えよう☆



急患来訪から数時間が過ぎました。

過剰なまでに戦力を投入したミノタウロス討伐について、色々な方向から情報が集まってきています。
街の噂や冒険者向け情報屋から、アイテムや呪文の効果から、人間以外の知的生物による情報網から、そして襲った側と襲わ
れた側の当事者から。

巣の戦力は
ロード・ミノタウロス1 (星9相当?)
ミノタウロス・バトラー9
ミノタウロス・ファイター4
ミノタウロス・シャーマン4
ミノタウロス・ウォーカン3
ミノタウロス21 (患者どもはこれ)

ミノタウロスが40人以上って例の丘巨人軍団を遙かに上回る戦力ですが、相手が悪かった。

討伐隊は
「禍いの九」 (ネームド級2、準ネームド7、下っ端6)
「世界探求会」 (準ネームド3)
「ふかふか団」 (準ネームド1、腕利き4、下っ端3)
「七本剣」 (準ネームド1、腕利き7)
「増し屋」 (ネームド級1、準ネームド1、腕利き2)

有名どころの冒険者一行だけでこれです。下っ端しかいない駆けだし冒険者の一団が幾つか、合計16名が補助戦力として同
行していまして、その上で更にネームド(異名持ち)級3、準ネームド級2、腕利き4の単独冒険者9名が加わっている。

輸送隊とかの、現場へ出ない支援要員も入れたら下手な軍隊並の人数です。戦力は軍隊以上。
敵に回せば地方諸侯の連合軍だって壊滅しかねない。統率さえ問題なければヴァダの街ぐらい簡単に落とせます。
現に討伐途中で仲間割れして本気の殺し合いになってさえ、その余力だけでロード・ミノタウロスはじめ巣のほぼ全員が討ち
取られました。


ちなみにフル装備状態の私が準ネームド級の最低ランクで、フル装備状態のサラさんが腕利き級の最高ランクです。
藤子さんがネームド級の標準か標準よりやや上ぐらいですかね。
夫たちなら並のネームド(異名持ち)が束になってかかってきても蹴散らせます。ああ、もちろん一人で、ですよ。

流石に討伐隊全員を敵に回すと一人では無理ですが、三人揃えば討伐隊を痛打してから離脱できるでしょう。
ドスとウォスの星がグェスより二つも低いのは素行が悪いからでして、実力の評価とはズレがあります。
隔月かせめて隔々月で大神殿へ顔を出していれば、もう一つ分ぐらいは星が上がるのですがねえ二人とも。

逆に言うと、離脱できなかった場合はグエスですら圧殺される危険がある。
冒険者は手強いのです。
もしも「温泉洞窟のオーク達だけで」「討伐隊と真っ正面からどちらかが全滅するまで戦い」「どちらの陣営にも離脱や裏切
りや仲間割れが起きない」としたら双方とも壊滅的打撃を受けます。
実際には女達や配下の部族もいますから地下神殿へミノタウロス討伐隊がそのままやってきたとしても勝利は間違いないので
すけど、少なくない被害が出るでしょう。




ソーニャさんの使い魔が集めてきた最新情報では、「禍の九」と敵対した冒険者たちは無事逃げ延びたとか。
一方「禍の九」は追撃中に4名が死亡、4名が重傷のうえ捕縛、1名は行方不明で壊滅状態。

捕虜を連れて逃げる冒険者たちを包囲しているつもりだった外道冒険者達でしたが他の討伐参加者から逆包囲されたのです。
首領格は討ち取れなかった模様ですが、再起は難しいでしょう。腐敗と無法の渦巻く東バルキアで、一度転けた悪党に容赦す
る者はいませんからね。
叩けば埃の一つや二つは出るのが冒険者です、「禍い」なんて異名を持つからには煙幕のような勢いで出るでしょう。
出てきた証拠によっては、司法取引が成立しないかもしれません。


逃亡していた者も含め、保護されていた捕虜たちは全員が実家などそれぞれの縁者へ引き取られる模様。
死ななかった捕虜の全てが、です。

全て、です。保護されたミノタウロスの虜囚は全員が生き延びたのです。


つまりですね、件の9人組はまだ調教されてもいない、普通の討伐隊なら無事保護して奪還任務達成となる筈の女達や、
ミノタウロス達が身代金目的で捕らえていた老若男女をも皆殺しにしようとしていたのですよ。

「良いミノタウロスは死んだミノタウロスのみ!」「ミノタウロスの子を孕んだ女は裏切り者なので死罪!」「ミノタウロス
に捕らえられていた女は孕んでいるかもしれないので死罪!」「女でなくとも捕虜になったならミノタウロスどもに寝返った
も同然、逃げられないなら死ぬまで戦え! 故に死罪!」 ‥‥などという理屈で解放した捕虜を皆殺しされそうになったら
そりゃ止めに入るでしょうよ、禍の九とやらを恐れていないならば。

半世紀ぐらい前の某国某地域では、良家の子女が5分以上有色人種の男と密室で一緒にいたら「血を汚した」と判断されて男
共々撃ち殺されるのが普通だったそうですが、より物騒な東バルキア地方にはより過激な連中もいる訳です。
禍の九なる一団は、明らかに自分の楽しみのために無理矢理こじつけてまでやってるので嫌がられてましたけどね。

普段からの行いが今回の制裁というか袋叩きに繋がった訳でして、まあ世紀末モヒカンみたいなやりたい放題を実際にやれば
何れはこうなるしかありません。
遅かれ速かれ、バルキア地方で冒険者やっていればソーニャさんと遭遇しますからねー。


「あの坊やが今や二つ名持ちか、伸びるとは思ってたけど大したもんだねえ」
「亡き父も、「湖畔の騎士」フェドロ卿を当代の英雄と讃えておりました」

「湖畔の騎士」ことフェドロ・グッセスはまだ二十歳前の若さながらビィーヤ地域でも屈指の勇者で、寛大で信義に篤い高徳
の騎士として知られています。
まあその、英雄物語というものは盛りに盛られて語られるものではありますが‥‥現役時代に本人と何度か会ったことがある
というサラさんが言うには、湖畔の騎士に関する世間の噂は多少の誇張はあれど大嘘ではないのだとか。

少なくとも無駄な殺しを愉しむ性癖は持ってませんし、旅人や付近の農民が逃げ込んだ山小屋を一晩中ドレイクの群れから護
り通したという物語は実際にあった出来事が元になっているのです。
今回、ミノタウロス退治を口実に殺戮絵巻を繰り広げたかった連中を成敗したのは本人なりの義侠心なのでしょう。

なお、ソーニャさん情報だとこの正統派勇者様は、 隠 れ 異 種 姦 派 の可能性があるとかないとか。
湖畔の騎士という異名も、ビィーヤ湖で人魚(マーメイド)族と魚人(オアンネス)族の争いを仲裁したという伝説から来ている
そうなので信憑性がありますね。

ちなみにドレイクというのは亜竜(デミ・ドラゴン)の一種で、オーク島で言えばワイバーンより弱くて大怪鳥より強い程度の
モンスターですが時折群れを作って人里を襲うことがあります。
鎧を着た剣歯虎が空を飛んでついでに火を吹くようなモンスターなので、数が多いと並の英雄では手が付けられません。
星8ぐらいのモンスターを一晩で16匹倒せば吟遊詩人が謡うのも当然か。



何が言いたいかというと、この辺りにも割と強者がいるのです。もちろん人間社会以外にもいます。
オークやオーガーの平均がオーク島のそれよりも大幅に低いですが、現地に強者がいない訳じゃありません。

東バルキア地域では、ソーニャさんに匹敵する現役冒険者は2組ほどしかいませんので衝突する可能性は低い。
低いけど皆無ではありません。東方世界全体でなら10組近くいるのです。
それに世の中には、無名の強豪や引退した勇者や絶賛成長中のバケモノじみた若手もいますしねー。

私の巣も質と量の両面で、更なる戦力の拡充が必要です。






[38600] 66
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2018/06/01 11:56





 ☆137日め、まけましておめでとう☆



おはようございます。温泉洞窟もとい地下神殿の幼妊婦オーク愛奴妻尼僧、レイちゃんです。
あれから色々ありまして、プリーテスのレベルが3に達しました。
もはや廃都バレン付近にうろつく野良オーガーごとき敵じゃありません。
素手素足、いえ素っ裸状態でも叩きのめせます。


嘘じゃありませんよー なんせファイター(戦士)としてもレベル4になりましたので。
全然関係ないけど女ならファイトレスとかにならないのでしょか? 英語的には。 
女教師がミストレスで女賞金稼ぎがハントレスだから言いそうなものですが。
言語や語源系の書物をもっと読んでおけば良かったなー。


ゲームの中と違い、この世界では取りたい技能(スキル)や伸ばしたい職業(クラス)だけを選ぶことはできません。
出来る人もいますけど私には無理です。
私はまだマシというか比較的効率よく成長してる方で、ソーニャさんなんか習得クラスが重複しまくりですよ。
ゲーム的に表現するとソードソーサレス20、ファイター18、グラディエーター17、ダンサー17、スレイブ(トレーナ
ー兼)16、アサシン15、ローグ14、レンジャー12、コマンダー11、セージ10、ウェポンマスター9、その他諸々
という具合です。

もう少し経験値を溜めたらソードソーサレス20レベルからマスターソードソーサレス19レベルへ転職する予定だとか。
上級職へ変換するとレベルが下がる事もあります。
私の場合はアコライトを2に上げる代わりにプリーテス1へ変換した形なので下がりませんでしたけどね。

師匠がこれですから弟子がスレイブ7、雌慰奴さん5、ファイター4、プリーテス3、アイテムマスター3、ソーサレス2、
コマンダー1、ダンサー1、シンガー1というキメラっぷりでも仕方がないのです。
なお、料理能力はメイドさんに含まれているのでコック(料理人)ではありません。



うん、2レベル以上に伸びた全クラスの職能が微妙に重なってる。これはソーニャさんの直弟子ですわ。
経験値の獲得密度を高めて、多少の非効率を気にせずレベルを積み上げていくのがお師匠様の流儀なのです。

なっちゃったものは仕方がないんですよ、奴隷(オークスレイブ)に。
私はオークたちの愛奴なのです。奴隷妻であり母麗奴であり娘奴隷。自ら進んで愛の鎖に隷属してしまいました。

行住坐臥全ての日常生活から経験値を稼ぐのが真の達人でして、ソーニャさんぐらいになると炊事や洗濯や掃除をするだけで
も強くなれます。性欲処理の方が更に稼げるだけで。
お師匠様が見出した私の素質って、この要素が一番大きかったのかもしれません。


前にも言いましたけどオーク妻である私はおはようからおやすみまでの生活全て、いえ夫たちや義息子たちに添い寝して眠る
だけでも経験点が入ってくるのです。
スレイブが成長しやすいクラスなのは確かですが、まさかこの短時間でここまで伸びるとは。
加護って凄い。改めてそう思います。


いやその、オークち○こ突っ込まれてあひんあひんいってる状態の奴隷妻が現在進行形で獲得し続けている経験値を何に割り
振る気になるかはご想像の通りでして。
奴隷の自覚ができてからは稼ぐ端から経験値を奴隷レベル上げに注ぎ込んだのです。

良いじゃありませんか奴隷としての成長につかっても。奴隷やって得た経験値なんだし。
レベルの高さは七難を退けます。1レベルの聖騎士(パラディン)よりも10レベルの奴隷の方が強いんですこの世界だと。

愛奴としてレベルが上がったお陰で以前より濡れやすくなり感度も良くなりましたが、同時に逝くのを我慢できる上限も上が
りまして失神しにくくなりました。
臨月かその前ぐらいには愛奴としてのレベルが二桁になっているでしょうし、そうなれば前後と上の三穴同時出しで逝きなが
ら飲み干せるようになれるでしょう。
ソーニャさんがそのくらいのレベルで出来るようになったのですから、私もそのくらいになればできる筈。
今は無理でもいつかは、膣出しを最後の一滴まで受け止めてから失神できる一人前の愛玩奴隷になりたいものです。


奴隷というと聞こえが悪いですが 奴 という文字は本来、奉仕・接待・応接・礼拝などを行う 生産系以外の軽労働者 
という意味でして、つまり女給さんも尼僧も子守りもみんな字義的には 奴 なのですよ。
サービス業者は 奴 です。
そして 隷 は戦争捕虜という意味ですから私は奴隷なのです。色恋沙汰は惚れた側の負けですからねー。




先程色々あったと言いました。実際色々ありまして、その度に温泉洞窟のオークたちのことを好きになっていったのです。
特にもう、ギュー・グェスが愛おしくて愛おしくて。
お腹の赤ちゃんが大きくなる度に感謝と歓喜の念で溢れかえってしまいます。



へっへっへっ そうです! 遂に、遂にお腹が膨らみはじめたのですよっっ ギュー・グェスの赤ちゃんで!!


初夜から約二ヶ月半、地球風に数えるなら妊娠13週目に入った私の下腹部は近くに寄れば目に見えるぐらいに大きくなって
きたのです。
あと一月もすれば近寄らなくても解るほど、普通の服では隠せないほどに膨らんだ孕み腹になるでしょう。
加護などにより私の身体は妊娠出産の期間が常人よりやや短く、つまりその分孕める回数も多いのです。
最低でも50年は現役でいるつもりですから200人ぐらいは産めますね。


もう踊っちゃうぐらい幸せです。
というか嬉しさのあまり踊り出しては「もっと大人しい踊りを」オーク達に叱られる毎日を繰り返してる。

喩えるなら、雪の降る朝に庭へ駆け出す子犬のような気持ち。
夏祭りの夜市で屋台の列へ向かう幼子のような気持ち。
初恋の人と手を繋いで映画館へ入る小学生の気持ち。
そういった種類の幸福感と高揚感が、膨らみかけたお腹の中から沸き上がってくるのです。

幸せだなあ。

うん。これはもう豚嫁になるしかない。
たぶんきっと、いえ間違いなく初対面で強姦され孕まされたとしても許してしまうでしょう。
このこみ上げてくる喜びの前に屈伏しないでいられる程、私の心は強くない。

一度孕んでしまえばオーク狂いの妊娠マニアとなり孕みまくってしまうのです。人は幸せに逆らえません。
ミッシェル山大神殿の女たちが露出狂みたいな恰好をしている理由が今なら解ります。
愛しい旦那様に膨らませて貰ったお腹を見せびらかしたくならないオーク妻は極少数派でしょう。


出産まで約三ヶ月、いえ日数ではあと80日ほど。日記帳の220日目ぐらいまでボテ腹生活を愉しめるのです。
そしてその後にはもっと楽しい子育て生活が待っている。
オークの子を産んだ女は口を揃えて言うのですよ。「産んだ後の方が楽しい」って。



「うーん、これなんかどうかな」
「ハラ、ヒヤス、ダメ」


現在は姿見の前で踏み台の上に乗り、朝の儀式に着る服を選ぼうと透け透け水兵服とか紐毛皮ビキニとかをとっかえひっかえ
しているところなのですが背後のブルボンはどれも気に入らないようです。
無論のこと私には安産の加護がありますし、耐寒装備もあるので並の吹雪に吹きさらされたぐらいではびくともしません。
ですが見ている側にしてみれば理屈は解っても納得いかないのでしょう。

無害だと知識上で解っていても、腹痛を訴える白人幼児にアイスクリームを与えようとする親を見たら日本人は動揺します。
いや本当に無害なんですよ。連中はほら、人間版のシロクマみたいなものですから。
吹雪の最中に全裸で野宿できる生き物だから、多少の腹痛は氷を囓ることで治せるのです。


ブルボンにしてみれば義母麗奴と義弟の健康に関わることですからね。お腹を冷やしそうな衣装は却下されてしまいます。
心配性はオークの特性でして、いまも彼の両手は万が一の転倒を防ぐために私の腰に添えられている。

「ママ、ハダカ、スキ」

ブルボンのお薦めは犬帯ならぬオーク式の妊婦用腹巻き+首輪+透明布地の袖無し外套というものです。
これって昨夜着てあげた寝間着じゃありませんか。
本当にこの子はもう、盛って盛って‥‥思春期でしたねそういや。
一晩中女の肌に触れていても飽きない年頃なんです。


ママのお尻ばかり追いかけてないでもっと他の雌に興味を持って欲しいのですが、義息子が熱烈に慕ってくれるのは嬉しい。
多人数プレイも良いけど、えっちの基本にして王道は独占プレイですよねえ。
サラさんじゃないけど、精通から間もない若オークを抱きしめておっぱいミルク飲ませながら膣奥へち○こみるく注いで貰う
プレイって病みつきになります。

小柄なオークにも大柄なオークにも、それぞれの良さがある。
他の種族はともかくオークち○こに貴賤は‥‥あるけどそれはそれでまた良し。王子だろうと乞食だろうとち○こはち○こで
すからね。



「じゃあ、ママを逝かせて頂戴。ブルボンが膣出しした回数よりも多くママを失神させてくれたら、コレを着てあげる」
「ワカッタ。ガンバル」

そう言って腹の上に当てていた赤い布地を衣装籠に戻すと、義息子はゆっくりと腰を動かしはじめました。
姿見には、全裸で台の上に立つ幼巫女妊婦の股にオークのドリルち○こが突き刺さっているのがはっきりと映っています。
ええ、先程からブルボンと朝えっちをしながら衣装選びをしていたのです。


「‥‥じょ、上手よ。とっても」

ゆるゆるとした腰使いは、オークの味を知ってしまった人間雌の被虐心と被征服欲を引き出すためのもの。
焦らしている。わざとやってるんですよこの子。こういうことは呑み込みが良いですね。

「あぅっ」

ほ、本当に巧くなっている。自然と吐息が湿って甘い声が出てしまいます。
鏡に映る義息子の顔が蕩けてる、蕩けきってます。オークとしては色白で興奮すると直ぐに顔が赤くなるのですよこの子。
母に甘えきった、エロ餓鬼の顔です。

どや顔ならぬ、ほへ顔の甘えん坊に突っ込まれて逝きそうになってる馬鹿義母が私。
可愛い。いくら甘えられても許してしまうぐらい可愛い。
存在しないはずの母性に目覚めてしまった私には、産んだ息子オークと致しちゃう母の気持ちが良く解ります。

でもこれじゃ駄目なんです。ブルボンにはもっともっと成長して貰わないと。
この子には何十人何百人という人間雌を征服する使命があります。初潮も来てないロリっ娘から涸れる寸前の大年増まで分け
隔てなくち○こ突っ込んでひいひい啼かせて、膣出ししてオークの子を孕ませてあげる義務がある。
私一人で満足されては困ります。


オーク妻生活で染みついた動きで自然と、私の両手は背面立位で繋がった義息子の首当たりに伸びました。オーク島のオーク
達が身に付けている首飾りは、女たちが掴まったり手首を絡めて縋ったりする用途もあるのです。

鋼蔦から取りだした繊維の束とそれに括り付けられた革の輪に手首を通して絡めると、簡単手枷に早変わり。
引っぱったりもがいたりして拘束が完全なことを確かめる義母奴隷の顎へブルボンが手を伸ばし、触れて上を向かせます。
そして私はまだ若い、人間なら中学生になったばかりぐらいのオークが望むままに口付けを交わしました。
軟らかくて敏感な、まだ子供な舌の感触が堪りません。

穏和な顔をしていても寝床では暴君なこの義息子はそれから約5分後に膣出しを始め、10分近くかけた射精の最後に合わせ
て両乳首を抓りあげて逝かせてくれました。



この一ヶ月ぐらい、起きてる時間の半分はえっちなことをしてます。
種付け行為を延々やっている訳じゃありません。場末娼館の踊り子みたいな恰好でエロネタまみれの説法をしたりとか、首輪
だけの姿にした新入り人間雌を祭壇の上に座らせて自慰の作法を公開講習したりとか、新婚さんな巨漢義息子と少女妻にモデ
ルになって貰っての彫像制作など、誰かと肌を合わせていない時間の方が多いですね。

えっちしていない時間の3割ぐらいは授乳しています。
レベルアップして第二階梯呪文の使用回数が増えましたし、効果範囲拡大もできるようになりました。
毎日「豊乳」の呪文を使って、夫たち義息子たちに母乳を与えています。


母とは書いて字の如く お っ ぱ い の 出 る 女 なのです。貫頭衣の前を搾って胸をさらけ出している女を象形し
た文字なのですね。
つまり 母 性 = お っ ぱ い = 母 乳 です。精神的には殆ど男な転性者でも毎日毎晩乳房揉まれて乳首吸われ
て授乳を続けていれば自然と母性に目覚めます。

遺伝子的に言えばどんなに屈強な男性でも半分は女ですからねー。XY染色体。
まして身体が女そのものなら心が引っぱられるのは当然です。

というか人間の心なんて肉体の影みたいなものですし。
物理次元において精神とは障子に映る影絵の如きものでしかありません。錯覚なんですよ知性なんて。
錯覚だから虚無であり無価値なのかといえばそうでもない‥‥いや、これ以上は哲学になるから止めておきましょう。





ええまあ、色々とあったのですよ。

たとえば温泉洞窟のオークたちは全員童貞卒業しました。その殆どを私が頂きました。
どの子も可愛かったですよー♪ まだ嫁や婚約者がいないコブハナ・ギョロメ・モッサリ・トンガリ・ブルボン。そして婚約
者持ちでしたけどマルマルとハンセンの童貞も貰っちゃいました。

残りの3名のうちサダキチはコーネリアに、アドニスはソーニャさんに、そしてアシナガはスィールクに童貞を捧げました。
これは本人の希望を優先した結果ですが、実験データ収集としての意味もあります。
いえね、サダキチはコーネリアに未練がありましてね。茶釜要塞の件で一目惚れしたのはゴエモンと同様、しかしコーネリア
の心はゴエモンに奪われてしまいました。
自分が腕力や気構えでゴエモンに及んでいなかったことは本人が一番よく分かっておりまして、下っ端オークとしては変態紳
士に最も近い部類な彼は結婚式のころにはコーネリアの幸せを願い祝福できるようになっておりました。

でも恋心が消えて無くなった訳じゃない。
間が悪いのか良いのか最近はコーネリアが欲求不満気味です。

ハラキズが行方不明になってしまい、三人掛かりでも持て余し気味だったソーニャさんのお相手をケサガケとゴエモンだけで
しなくてはなりません。
となればコーネリアへの割り当てというか注いで貰える子種汁が減る訳です。
コーネリアは理知を重んずる人なので、膣出しの回数や量が減ったからといって夫の愛情を疑いはしません。ですが新婚生活
に水を差されていることは確かです。

妻(奴隷)の欲求不満をなんとかしておげたくなるのが良いオーク(主人)。
温泉洞窟の重要戦力であるソーニャさんを慰めるために夫を差しだしているコーネリアをなぐさめるために単身赴任中のイワ
ノフを慰めるためという口実でコーネリアはイワノフに抱かれていた訳です。
そうこうしているうちに特訓の成果が出てイワノフが急成長し、下っ端を卒業して見習い戦士(星4以上)になりました。

奴隷がいるからこその主人なわけでして、義母を愛奴として弄び可愛がるうちに義息子たちは自分が主人である自覚に目覚め
ていきました。
つまりコーネリアを始めとする、妻たち以外の女を屈伏させることでイワノフはヒュー・マスターとかウィメンズ・マスター
とでも呼ぶべき方向へ成長し始めたのです。



当然ながら、闘技場で試練を突破したイワノフは三人の妻と連れ子をミッシェル山から引き取りました。
日記帳でいうと119日目の出来事(イベント)ですね。
色欲への貪欲さでは西方文明圏でも一二を争うと評判のオルロフ女を3人も嫁にしているイワノフは、これまた当然ですが自
前のハーレムが復活するとコーネリアを慰めてあげる余裕がなくなってしまいました。

そういう事情がありまして、サダキチは大好きな女が寂しそうにしている姿を見ては悩んでいたのです。
そこに「膣出し本気えっちを毎日やって君も強くなれる!」という雑誌裏表紙の広告じみた実験なんだか修行なんだかをやっ
ている義母巫女から実験参加の要請が来まして。
私だけじゃ実験になりませんからねー。サンプルを増やさないと統計も取れません。

かくしてサダキチはコーネリアの閨友というか肉バイブ役となりました。
正装の軍服姿で跪いて、舐めたり咥えたり、更に胸で挟んで扱きあげつつ吸い上げて、口の中に出させて飲み干す。と、コー
ネリアのご奉仕は旦那様へのものと同じぐらい熱烈でしたけど、浮気じゃなくて修行のお手伝いですから誤解なきよう。



イワノフの妻たち三人も、この実験と修行に協力してくれました。夫が使っていないときなら何時でも雌穴を巣の男衆に貸し
出すと宣言しまして、実際に望まれればその場でドレスの裾をたくし上げています。

妊婦三人の胎教を整えるには、イワノフだけじゃ難しいですからねえ。
オルロフ王国の貴族社会だと 孕 ま な け れ ば 浮 気 じ ゃ な い という観念が強いですし。
羽振りの良い家の貴婦人なら既婚者も未亡人も嫁入り前も愛人持ちは当然で、少数派な「操を守りたい妻」のために夫が愛玩
犬を買ってあげるのが美談になる爛れっぷりなのです。

ええ、西方では無塩バターが大好きな犬が人気なのですよ。一部の貴婦人方に。

本当にワンコや他の動物を性欲処理に使う貴婦人もいますが「愛玩動物」のなかで一番多いのは人間だったりします。
人権を持たない人間やら獣人やらをペットにして可愛がったり可愛がられたりする文化がオルロフにはありまして。
逆に人間の女それも貴族階級の淑女を愛人にするのがオルロフ男の甲斐性です。犬やメードに発情する紳士は変態扱い。


まあ孕んでしまって不倫になったとしても即離婚とかにはなりません。なるような社会なら爛れきってるなんていわない。
極端な例ではありますが「夫の種だけでしか子を産んだことがない女に恋愛を語る資格はない」と豪語した貴婦人もオルロフ
にはいるそうでして。他にも「女は七人の男を知って一人前」とか色々謎言を残しています。

不倫そのものへの感覚が緩いですから不倫の結果として産まれる不義の子への処置処分も割と緩いのですが‥‥流石にオーク
の子を産んでしまったことが暴露されると社会的に死んでしまいます。
無理もない。エロモンスターの精神汚染は洒落になりませんからね。
イワノフの妻たちにしても、オークち○こにど填りしてなきゃツァスタヴァ家は政変で巧いこと立ち回って辺境へ加増と引き
替えに左遷して貰うことだって出来たでしょうに、えっちに夢中で機を逸してしまいました。

西方文明の僻地で領地経営しつつ奴隷妻として暮らすよりも、オーク社会で貴婦人奴隷妻として暮らす方が当人たちには幸せ
みたいだからこれで良いのか。うん。



 
そんな訳で、私とソーニャさんとコーネリア、エレナさん、セアラ、アリア、それにサラさんとマリアの8名は夫以外のオー
クにも股を開く毎日を過ごしています。

と、言っても何時でも何処でも誰とでもではありません。私以外の女は相手を選んでます。
当然ですが選択権は女側にあります。
いやその、私だって選んでますよ時と場合を。相手が全員夫と義息子だから選ぶ必要がないだけで。
奴隷妻が夫に身を捧げるのは当然ですし、膣出しさせてあげられない子を義息子にする趣味はありません。

例えばお師匠様はち○こなら何でも良いわけではなく、イノシシハーフの方が好きだけど人間ハーフも嫌いじゃなくて、あま
り毛深くない雄がソーニャさんの好みですね。
閨の中では積極的で被支配感を与えてくれる、情熱的なえっちが良いそうです。
嫌いというか苦手なのが、確定勝利できないけど敗北確実でもない中途半端な強さの雄。つまりグェスたち幹部です。
暴力において圧倒的に上か下のオークじゃないとそそられないのですね。


サラさんはおっぱいに縋り付いてくるような、マザコン気質の甘えん坊が好みです。
そーいやこの人、母親代わりになって育てた同腹の弟オークに処女捧げたんでしたよね。ルッニネツ村が今も無事なら呪われ
ることもなく赤ん坊産みまくりだったんでしょう。

なおマリアは色黒で逞しい、粗野(であるけど卑しくない風)な優しい男が好みだそうです。
具体的には隣家のゴンザロ小父さんやお得意さまことヴァダの人夫達そしてダイコクですね。いわば馬鈴薯系。

イワノフの妻たちは幹部以外のオーク達を一人ずつ味見しています。愛を捧げるのは夫のみと割り切っている彼女達にはイワ
ノフ以外のち○こなど肉玩具に過ぎないのです。
うーむ、オルロフ的淫乱さとオーク島式の雌奴隷思想が融合してえらいことになってますねこれは。

コーネリアもオルロフ貴族ですから隠れ淫蕩女ですけど、彼女にとってゴエモンは半ば神ですからねー。
信仰心の殆どが妃殿下とゴエモンで占められてるから信徒としての才能が無いんじゃないかと。




さて。

夫たち義息子たちと繰り返した実験えっちの結果、私がえっちで効率よく経験値を稼げることだけでなく私とえっちをしたオ
ークはえっちで経験値を稼ぐ技能か何かを身に付けるらしいことが解ってきました。
理論はさっぱりですが、私とえっちを続けるうちに開眼するようです。
このスキルだかなんだかを持つオークは、私とするより幾らか効率が落ちますが人間雌と「いちゃいちゃ」や「ずっこんばっ
こん」すると経験値が得られます。


これはまあ、驚くようなことではありません。
私の身体は全部「生命の粘土」で出来てますから。

ウナギの蒲焼きの匂いだけでもご飯が食べられる人がいます。西王母の仙桃は香りを嗅ぐだけで寿命が延びます。
ならば奇跡の固まりであるこの身体を貪った生き物(モータル)に変化があるのは当然なのです。
聖者に触れただけで奇跡が起きるのなら、私のこの身体を舐めたりしゃぶったり粘膜擦り合わせたり体液を交換したりとかし
ていれば奇跡の一つや二つは起きるでしょう。



残る8名の女たちのうち、母娘そろってタレミミの子を孕んだルウとメイア。
マルマルの子を孕んだアリアドーネとエイボリン。
アンドレの子を孕んだエーリカ。
そしてアシナガの子を孕んだスィールクの6名も、巣の男衆のために協力してくれることになっています。

今はまだ雌奴隷としての調教が終わっていませんから参加していませんが、あと半月か一月後には彼女達も仲間たちのために
雌穴を捧げてくれるのです。
壮観でしょうねえ、14名もの女たちが首輪だけの姿でずらりと並び股を拡げて「ご自由にお使いください」しちゃうと。


6名ともみんな、オーク達に救って貰わねば死んでますからね。それも惨たらしく。
アリアドーネなんか長年受け続けた貞操教育がなければ、巣の雄全員に出産ご奉仕したいぐらい感謝しています。
まあその、天然型淫乱というか生まれつき股が緩い気質みたいなんですよねこのお嬢。
人間相手でも娼婦になったら大成していたかもしれません。


最後の2名のうち、イワノフの義娘にあたる金髪幼女カティちゃんの参加は当分ありません。
調教どころかまだ開通工事も終わってませんし。
既に妊娠してますけどね、レェ・ウォスの子を。膜は残っているけど受精卵は子宮に着床済みです。


ええ、色々あったのですよ。色々。
義父に連れられて合流したその夜にカティちゃんはレェ・ウォスに求婚しまして、二つ返事で快諾されたのです。

華奢でひ弱でお淑やか、ロリというかペド、えっちに興味津々、でも恥ずかしがり屋さん‥‥とウォスの好み直撃してますか
らねこの子。
エレナさんと大母様の教育もあってオーク基準でも(都合の)良い子ですし、私にも懐いてくれてます。
正直言うと私は嫉妬深い方なのですけど、カティちゃんとなら仲良くやれそうですね。

いえ、ルーナとも仲良くやってますよ? 2Pから6Pまでひととおり済ませましたし。
お師匠様に仕込んで貰ったレズビアン技巧で散々に啼かせて、信仰魔法で母乳が出るようにしてあげての授乳体験では快楽と
幸福感だけでなく安心と未来の希望で泣かせてしまいました。文字通り随喜の涙です。


本当に色々ありまして、前回の新月(日記帳でいうと119日目)に開かれた嫁取り戦に乱入したゴォ・ドスは競争相手二名と
幼女剣闘士を倒したのです。
東方地域での戦いやソーニャさんとの訓練で対魔法使い戦術に開眼した彼は、相手に傷一つ付けることなく無力化を果たしル
ーナに負けを認めさせました。
天才魔法使い幼女妊婦お姫様であるルーナをして「あそこで間違えなければ」とか「運が悪かったから」とかの迷いを感じさ
せない完璧な決着だったのです。


敗北のなかの安堵感に包まれていたルーナですが、その出産予定日の近いお腹に入っている子供は男女の双子でして。
闘技場で正々堂々の勝負の末、負けたからにはオークの雌奴隷になることに納得していた彼女ですがまもなく産まれる子供の
運命を案じずにはいられませんでした。
娘はほら、たとえ少々器量に問題あったとしても可愛がられて育つことが確定してますけど、男の子はねえ。

オーク島の洗脳技術は侮れません。というか恐い。
いつのまにやらルーナ姫は、オークに嫁入りして一生を肉便器兼孕み袋として過ごすことに疑問を抱かないようになっていた
のです。負けたからには仕方ない、と。望まれて妻になれるだけ幸せだ、と。


そんなルーナにしてみれば、今のところ温泉洞窟唯一の人間雄であるリカードくんがオーク達に猫っ可愛がりされている姿は
それだけで感動ものだったのです。
実際、巣のみんなから可愛がられてますからねリカードくんは。
温泉洞窟の女たち16名全員の乳の味を知っている雄は彼だけです。

ドスがお持ち帰りしてから半月ほど、式を挙げてからまだ12日の新婚さんですが調教は順調でしてルーナは毎日毎夜の公開
えっちを心待ちにしています。
ドスが巣にいる日はもちろん旦那様に、いない日は私やソーニャさんに調教されるのです。
いかに天才とはいえ、いえむしろ高ランク品種の人間雌であるからこそオークち○こに逆らえない。
高い繁殖力と強靱な母胎を持つルーナは、一般人より遙かに愛の奴隷として適性があります。
愛される嬉びを知ってしまうともう抜け出せません。子供に快楽を教えると填ってしまうのです。



あー 価値観がどんどんずれていってるのが分かる。
幼女がボテ腹してるのが普通いや当然で推奨されるべき姿なのだと、そう感じてしまうのです。腹ボテ幼女万歳。
最近はヴァダ市街にでて住人たち特に若い娘さんを見ると「この娘たちの大半はオークち○この味を知ることなく老いて死ん
でしまうのか」と考えて、憐れみと優越感の入り交じった幸せを感じてしまうのです。我ながら器が狭いなあ。


それにしても16人か。増えましたねえ。
なお、男衆の募集は現在中止しておりまして先月の人員増は女だけです。

なので巣の男女比は26(うち失踪中1)対16。一つの雌穴で1.625本のち○こを慰めれば良い計算になりますね。
精通していないリカード君は計算に入れてません。

レイ(自称12)。夫はギュー・グェス、レェ・ウォス、ゴォ・ドス。婚約者はハラキズ。愛人は義息子全員。

コーネリア(26)。夫はゴエモン。ハラキズ、ケサガケ、イワノフ、サダキチ、エッビスが愛人。

ソーニャ(肉体的には20?)。夫はケサガケ、ハラキズ、ゴエモン。愛人は幹部以外のオーク全員。

サラ(24)。夫はイダテン、ダイコク、ホッテイ、エッビス、シャモン。愛人はアドニス、トンガリ、マルマル。

マリア(11)。夫はダイコク、エッビス、シャモン、ホッテイ、イダテン。愛人はモッサリ、ギョロメ。

エレナ(31)。夫はイワノフ。使用者は巣のオーク全員。

セアラ(15)。夫はイワノフ。使用者は巣のオーク全員。

アリア(13)。夫はイワノフ。使用者は巣のオーク全員。

カティ(8)。夫はレェ・ウォス。

ルウ(23)。夫はタレミミ。愛人はコブハナ、デコバチ。

メイア(7)。夫と義父はタレミミ。義兄はコブハナ、デコバチ。

アリアドーネ(16)。夫はマルマル、ソーニャ。愛人はアンドレ、ハンセン、ブロディ、アシナガ、ギョロメ、トンガリ。

エイボリン(17)。夫はマルマル、レイ。愛人はギュー・グェス、レェ・ウォス、ゴォ・ドス。

エーリカ(13)。夫はアンドレ、ブロディ、ハンセン。愛人はアシナガ、トンガリ、ギョロメ、ブロディ、マルマル。

スィールク(11)。夫はアシナガ、トンガリ、ギョロメ。愛人はマルマル、アンドレ、ハンセン、ブロディ、デコバチ、
タレミミ、コブハナ、アドニス、ブルボン、イワノフ、モッサリ、サダキチ、エッビス、シャモン、ホッテイ。

ルーナ(9)。夫はゴォ・ドス。

ロリ6・適齢期5・年増5か。年齢的にだいぶ平均化されました。まだ適齢期層が薄いかな?

種付けして貰うのが夫、抱いて貰うのが愛人(恋人)、使っていただけるのが使用者。そういう区分になっています。

男衆からみれば「貴男の子供を産ませてください」と頼まれるのが妻、「雌穴が寂しいのを癒してください」と頼まれるのが
愛人なのです。
対して使用者は「溜まったらいつでも使ってください」と言われる立場。
根っからの女好きなオーク達は、大好きな人間雌たちに大いなる悦びを与えるために日夜励んでいます。




ソーニャさんとアリアドーネが三つ子でルーナとエイボリンが双子だから産まれてくる赤子は最低で22人。
ベビーブーム到来ですね。カティちゃんが産むころには何人かがまた孕んでボテ腹になっているでしょうからブーム(流行)で
はなくて定着しているかも。

ルーナの出産が十日から十数日の後。その次はエレナさんで、二ヶ月後ぐらいにイワノフの第一子が産まれます。
セアラとアリアが私と同じかやや早いぐらい。その後は東方組が順々に産んでいきますがコーネリアの子は正真正銘の人間だ
からカティちゃんより更に後になるでしょう。

いやその、エイボリンとアリアドーネの孕んでいる娘たちも人間ですけどね。両親ともに女であることと、オークと同じ速度
で育って産まれてくることの二つさえ別にすれば。


色々あったのですよ、色々。

ファンタジーな色々を使えば女同士で子供が作れるのだからついでに、ということで新妻2人に私とお師匠様で子供を孕ませ
ました。
半年以内に、アリアドーネの腹からお師匠様とアリアドーネが混じった感じの女の子が双子で。そしてエイボリンの腹からは
私とエイボリンが混ざった感じの女の子が一人で、マルマルそっくりのオークの赤ん坊に続いて産まれてくる筈です。

エスティア神殿の霊験はあらたかですからねー オークと人間の子が同じ腹で同時に育つことぐらい何でもないのですよ。
地球でも一ヶ月ぐらい出産が前後することは割とありました。
ファンタジーなこの世界ならもっと豪快にズレてもなんとかなります。

全くの無問題ではなく、同じ赤ん坊とはいえオークと同じ羊水に浸かってオークと同じ胎盤から栄養などを貰って育つ人間の
胎児は強い影響を受けてしまいます。
もちろんエロス的な意味で。
赤子は産まれる前からのオーク・ラヴァーとなってしまいますが、それはまあ致し方なし。子宮口ごしに大人オークに可愛が
られるだけか、直接胎児オークに可愛がられつつ子宮口ごしに大人オークに可愛がられるかの違いは大きいですけど私たちに
は羨ましいだけですし。


「つぎも双子が欲しいです。ゴォ・ドスさまの子とレイさまの子を、一人ずつ」

オークの子を孕んでいないルーナですら、肉奴隷としての奉仕と献身に明け暮れる生涯に何一つ疑問を抱いてません。
彼女を含む温泉洞窟の女たちは全員、産まれる前から愛の奴隷である三人の胎児たちの幸運を喜び、同時に憧れるのでした。






 ☆137日めの2、色々とせいちょうしました☆



鉄製の奴隷首輪。夫たちが人面獅子の革から作ったサンダル。透明布地の袖無し外套。オーク島風の腹帯。
更にその上からヒルデニア風の腹掛け。本日の朝のお勤めはこのような衣装で行っています。あとは指輪や足輪ぐらいか。
腹掛けは日本の伝統衣装のアレに似てます。足柄在住の坂田金時さんが幼少時に着ていたやつ。
完全に同じでないのは布地の形でしてこちらの腹掛けは菱形というよりも涙滴型に近く、着ると乳房が両方とも晒されてしま
います。いわゆるナショナルジオグラフィクスな授乳用衣装ですね。

ノーパンノーブラでお腹だけ隠してますから完全に露出狂の恰好ですが、オーク島の文化では偉い巫女ほど薄着になるのでこ
れで良いのです。
一応神殿長ですからねこれでも。教主が教団本部で説法しているときに防弾服着ているのは統率の悪いカルト教団だ。


あー みんなの視線が心地よい。
嫁が順調に増えていることや幹部から下っ端までそれぞれが腕を上げていることなどもあって、信徒たちの支持と信仰は高ま
る一方です。
嫁たちもどんどん強くなってますからねー。エイボリンは第二階梯の呪文が使えるようになりましたし、アリアドーネやルウ
は信仰呪文が第一階梯だけですが使えるようになりました。

この短時間でアコライト1レベルになっただけでもたいしたものなんですよ。
地球で言えば入門一月で帯に色が付いた級に強くなっているのですから。

サラさんは既に信仰呪文を第二、直感魔法を第一階梯で使えますけどここまでの才能は滅多にいません。
普通に「才能がある」と呼ばれる魔法使いの10倍ぐらい経験値獲得効率が高い訳でして、お師匠さまが素質主義に傾倒する
のも道理ですわ。
独り立ちしてから数ヶ月で魔王を討ち取れるようになることも有り得るのが冒険者ですからねー。

戦士としても順当に伸びています。相手がトロルなら楽勝、丘巨人は無理‥‥いや、一対一なら倒せなくもありませんね今の
サラさんだと。実際には妊婦に巨人と殴り合いなんかさせません。見ている方の胃に悪い。




相変わらずのお馬鹿で粗忽で器の小さい私ですが、肉体は急成長しています。身長も少しだけ伸びましたし。
初夜のころは唐饅頭ぐらいの厚みしかなかった乳房も今ではお彼岸饅頭に近い膨みになってます。

ささやかだけどちゃんと動くと揺れる、女のおっぱいなのです。揉めます。
うん、妊娠って素晴らしい。
他のどんな事実よりも明確に女の身体になったことを思い知らせてくれます。
出産するころにはBカップ‥‥は無理でもA+ぐらいにはなれるでしょう。

望めばもっと大きく育つこともできますが、全体の均整ってものがありますからねー。
巨乳は私のろりーたぼでぃに似合いません。
たわわな巨乳を揉みしだいて貰うプレイは手足が伸びきる6~7年後まで楽しみにとっておきましょう。


朝のお勤めは今までと特に変わりなし。祭壇と神像を清めてお供えして祈りを捧げ、大聖堂の扉を開けて営業開始です。
治療やら嫁の斡旋やらを続けた結果、バレン地下神殿は順調に参拝者が増えています。
結界の拡張と強化を繰り返して神殿を拡げて、無銭宿のような施設も作りました。
食事所や公衆浴場も欲しいのですが、流石に人手が足りません。

超絶強いのがギュー・グェス、ゴォ・ドス、レェ・ウォス、そしてソーニャさん。
充分強いのがルーナ。
そこそこ強いのが私とサラさん。
まあまあなのがゴエモン、ケサガケ、イワノフ、あとアンドレぐらいかな?
普通なのがタレミミやアシナガたち。コーネリアはこのあたり。
弱めなのがアドニス、ブルボン、ホッテイたち。アリアドーネもこの辺ですね。エイボリンは装備も入れれば一つ上かも。

仕様書性能で言えばコーネリアはゴエモンたちと同格なのですが、いかんせん性格が荒事に向いてない。
言うまでありませんがマリアなど他の女衆は戦力外です。
アコライト(侍僧)になったルウや演算魔術の使えるエレナさんは後方でなら使えます。前線には出せません。




これはいけません。爆発的勢いで戦力強化されている筈なのに未だ余裕が感じられない。
拠点である地下神殿の防衛と運営、ハラキズの捜索、ヴァダ市周辺での冒険と後始末にマンパワーが吸い取られている。
お師匠様の使い魔と下僕(従者?)たちがいるからまだマシですが、そうでなければ大変なことになってます。


まあ、良いか。当面の危険は去ったし。
ヴァダ市とその付近で陰謀を張りめぐらせていた連中は殆ど始末されるか逃げ散るかで消えましたからね。
私がお留守番と神殿の運営しているうちに夫たちとソーニャさんが片づけてしまいました。
市議会をぐっだぐだにしていた黒幕のうち一番やっかいそうなのに逃げられたのが気がかりですが、当分の間再起できないで
あろう被害を与えましたので多分大丈夫でしょう。

ちなみに今日の拠点防衛はドスとルーナそして私が主力です。アリアドーネもいるけど。
ウォスとゴエモン&コーネリアたちがオーク島で巡回と採取を行いつつ修行。
グェスは健脚な義息子たちを率いて地元の有力部族へ挨拶に行きました。
お師匠さまとエイボリンはヴァダ市に滞在中。近場で細かい依頼や探索をこなしています。


ハラキズが見つかれば他の問題はさて置けるのですが、何故かあの子の行方は水晶球でも探せません。

鎧コンビや父娘夫婦やバカップル冒険者、従属部族の族長と彼に嫁入りした偽者たちといった面々は魔法の水晶球で様子を見
ることができます。
数日前に彼ら彼女らの様子を見てみましたが全員無事でした。仲良く乳繰りあってましたよ。

遠征中のグェスや市街地の宿に泊まっているお師匠様たちは水晶球では映せません。妨害処置がしてありますので汎用品の情
報機器である水晶球では通用しないのです。
つまり、ハラキズは魔法的な探知妨害処理を受けているまたは探知できない場所に捕らえられている可能性が高い。

一番ありそうなのは何処かの迷宮(ダンジョン)の中、ですかねえ。
迷宮内部の構造が水晶球とかで簡単に把握されてしまっては訓練施設として使い物になりませんから、ある程度以上高度な遺
跡系迷宮などは探知妨害処理がしてあるのが普通なのです。



ふむ。念のため再確認してみましたが三組とも旅路は順調のようですね。
西のリガ市を目指す鎧コンビと女たち、東に向かった商人と三人の幼妻、南へ旅立った実質駆け落ち状態のバカップル。
みんな元気でやってます。
直接には二度と会うこともないでしょうし、私としては無事を祈るぐらいしかしてあげれません。

いやその、鎧コンビが寝返らなかったらサラさんが死んでいた可能性もあるのですよ。
カーニスが可愛い獣人の子を沢山産んでくれたら私の子供たちが良いお嫁さんを貰える確率が上がります。
だから暇なとき、ついでに祈るぐらい良いでしょう。
ロゥラスとアミについては本気で祈ってますよ。ある意味恩人ですから。


あの二人への感謝を忘れないようにと、銅像のモデルの一例にしています。
流石に顔立ちとかは別人に差し替えてますけど、あの父娘夫婦の体験を元にして等身大の銅像を作りましてそれを地下神殿の
あちこちに配置しているのです。
人間雄もエスティアさまの子ですからねー。種付け奴隷としてなら、オークの巣でも人間雄を生かしておけますし。
不必要に憎悪を深めないように、人間雄の像も作っています。
じっくり調教すれば良いご奉仕奴隷や戦闘奴隷にもなるのですよ。お師匠さまが運営していた部族では、幼いころから念入り
に躾た人間雄は長年の合資の褒美に転性して貰って、孕み奴隷になってました。



参拝者への祝福や外来患者への治療などを行った後、エロス銅像の制作を再開します。
俗に48手などと言いまして、性行為は様々な体位がありまして。
で、それら様々な行為や動作を銅像にして解りやすく表現したものを作り続けているのです。

例えば、まだ十代の父親が膝の上に座らせた3歳ぐらいの娘の股と太腿にいきり起ったものを挟ませた「素股」の像。
例えば、5歳ぐらいに成長した娘が父のものに横から口付けしつつ扱き立てている「横笛」の像。
例えば、7歳ぐらいの娘を組み敷いた父が少しずつ腰を進めて貫こうとしている「破瓜」の像。

人間雄と人間雌の組み合わせよりも、オークやオーガーやミノタウロスなどと人間やエルフや小人やドワーフなどの雌が絡ん
でいる像の方が多かったりしますが参拝者の数的に仕方ありません。需要が多いものを優先するのは当然です。


像の制作に一区切り付いたら料理班と一緒に、午前の聖餐の準備をします。
バナナを使った南国パイやサトウキビの汁を入れたレモン果汁などが参拝者たちに喜ばれています。
レモンの蜂蜜漬けとか地球でも喜ばれる栄養食ですからねえ。妊婦へのお土産にももってこいですね。
東方世界では蜂蜜はそれなりに貴重品なのです。特に高品質なのは。
只でさえ薬効のある高級蜂蜜を祝福してますので、下手な霊薬並に効果があります。

オークやミノタウロスの男衆に喜ばれているのがワイバーンやヒドラやユニコーンの干し肉です。
肉などの天日干しがし易い点は良いですよね、東方世界って。
オーク島では限られた場所を使う贅沢な行為だった日光浴が気楽に出来ますし。


偽者三人組だけでなく、参拝者のなかには女の姿がちらほらと見受けられます。
地元のオークたちに体を売って食いつないでいた冒険者や薬草摘み、野宿していたところを襲われた私娼たち、最近の戦乱で
故郷を失った棄民難民。そういった女たちがオーク妻やミノタウロス妻になって地下神殿近くで暮らしているのです。
というか地下神殿周辺の勢力が安定化したので、人間の嫁を貰える巣が増えた訳で。

近場だけではなく遠くからも来てますけどね、参拝者は。
地下神殿復活の報せはビィーヤ盆地のほぼ全域に広まりまして、オークの足で数日かかる距離からも来客があるのです。
うち何割かは招かざる客、たとえば略奪目当ての襲撃者だったりしましたがそれらは返り討ちにしました。主に夫たちが。







[38600] 67
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2018/06/01 11:56




 ☆138日め、人類みな蛮族☆



母は強し。されど妊婦さんは弱し。
胎児がオークだと流産の危険性低いけど、ボテ腹かかえての大立ち回りは無理があります。
素手が武器持ちに比べて弱いように、素肌が甲冑装備に比べて弱いように、ハイヒール履きが運動靴履きに比べて弱いように
妊婦さんは弱いのです。

世間にはハイヒール履きのビキニアーマー姿で大暴れしちゃう女戦士もいるにはいますけど、それはあくまでも例外。
ファンタジー世界でも普通のハイヒールでは活劇なんか無理なように、殆どの妊婦さんは動きにくくなるのです。
魔法の品ではないビキニアーマーの防御力なんか皆無ですし。

空荷状態でも付与魔法のないハイヒールなんぞ履いてたら、歩くだけで苦労しますからね。
正直言って現代日本におけるハイヒールは19世紀英国女性のコルセットの同類だと思います。
市販されてる拷問道具という意味で。

まあ、ハイヒール履きの女戦士はそれ自体がファンタジー(妄想)の産物ってことですね。
女戦士に限った話でもないけど。
巨乳エルフは悪い文化! Fカップのおっぱい付いてたら弓なんか引けませんよ。



かくいう私も自由に動き回るのは限界が見えてきました。動作よりも見た目の意味で。
近いうちに人間文明圏というか、顔見知りが増えたヴァダ市などでは迂闊に動けなくなるでしょう。
これからはお腹が急激に大きくなっていきますので、半端な幻術では誤魔化せません。

人間の赤ん坊とは妊娠期間と成長率が違いすぎて、「実は懐妊してました」作戦は通じないのです。
一度膨らんでしまったお腹を人間社会の面々に見せてしまえば、出産前後の数ヶ月を人里から離れて過ごさねば‥‥ 
いや、どのみちお腹が大きくなったら人里へは出ませんけどね。あまりにも危険だ。
人間の妊婦さんが迷宮に潜るよりも危ないでしょう。

妊婦さんは大変なのですよ、膀胱が圧迫されるからお小水の問題もありますし。
オーク島の女にノーパン派が多いのはそういう意味もあるのです。


では、世の異種姦主義オーク嫁派でありながら人里で暮らしている豚嫁さん達はどうやってボテ腹を誤魔化しているのか?
その答えの一つが影武者(替え玉)です。一人二役ならぬ多人数一役ですね。
具体的にいうとソーニャさんはドッペルゲンガーを主に使っています。 

本人は不妊症であったとしても行動を共にしている弟子や同志たちは孕む訳で、人間文明圏でオーク嫁たちが長時間暮らすに
は妊娠出産を誤魔化す方策が必要になります。
能力的にできないのならともかく、できるのに孕まないなんてことを長続きできるオーク嫁はそういません。

ソーニャさんの弟子になるということはオーク嫁になることなのです。
特に四度目の結婚‥‥というか、弟子入り? の後からは。
自分が捕らえて奴隷にした老人に、奴隷として調教してもらうことで雌奴隷としてのソーニャさんは大きく成長しました。
それ以降は、手塩に掛けて育てた愛弟子たちの全員と臥所を共にして絆を強めていたのです。

早い話、剣姫ソーニャに弟子入りした才能豊かな女戦士たちはみんなお師匠様と寝るのも一緒お風呂も一緒。
師弟で同じオークち○こをしゃぶり倒し、尻を並べて犯されて結束を高めていたのです。
自他共に認める羅刹系なこの私ですらカティとルーナとウォスとドスで5Pを楽しめましたからねー。
突っ込んだが最期、親の仇でも屈伏させちゃうのがオークち○こなのです。

同じ釜の飯を分け合って絆が深まるのが人間ならば、元から好感を抱いている幼女たちと同じち○こで愉しんで絆を深めても
おかしくない‥‥のかな? 
奇妙ですが、何故か納得がいくのですよ。オークのハーレムが平和な理由は解りませんが結果は受け入れられます。


このへんを話すというか聞かされていると終わらないので、話を替え玉に戻しましょう。


替え玉たちは怪奇現象としてのドッペルゲンガーではなく、モンスターとしてのドッペルゲンガーですよ勿論。
人間型生物の姿をそっくり真似して変身できるモンスターも色々といますが、ソーニャさんの手下やっている皆さんは魔力を
蓄えて半ば異形と化した人間型種族ですね。シェイプシフターの上位種です。

シェイプシフターというのがはんぺんみたいに全身真っ白の人型生物でして、普段は人里離れた洞窟とかに隠れ済んでいます
が偶に修行のために外に出ることがあります。
並のシェイプシフターが経験値を積み上げて上級のシェイプシフターになるのは大変に苦労します。

化けないと変身能力が伸びませんが、相手の承諾なしに化けると絶対面倒事になりますし承諾があっても面倒事が起きやすい。
人間でもオークでも嫌がりますからね、シェイプシフターとの同居は。
変身能力持ちだと凡人相手になら、詐欺も騙し討ちもやりたい放題ですから当然です。
大概の都市や集落ではシェイプシフターお断りですし、潜入してばれたら抹殺されます。
誰かの保護下にないシェイプシフターを、見つけ次第仕留めることは人間社会でもオーク社会でも善行であり美徳ですから。



シェイプシフターが経験を積むには変身しまくらなくてはなりません。
若くて思慮の浅いシェイプシフターには実戦経験を積むと称し、荒野や迷宮で旅人や墓泥棒を狙い変身して、潜入と入れ替わ
りからの殺害強盗を目論む者もいます。
当然ながらそういう短絡的な修行に励むシェイプシフターたちは早死にします。

人型種族、とくに人間(ヒュー)族の悪知恵を甘く見てはいけません。
変身能力は便利であっても無敵じゃない。
多数の人間相手にたった1人で挑めば、挑み続けたならいつか必ず致命的な失敗する。

彼らが死体の山を築かずに成長するには強くて頼れる首領や後ろ盾が要るわけで、お師匠様の庇護とか指導を受けて成長した
シェイプシフターたちは本人達と身内の更なる強化発展のために忠義を尽くすのです。
忠義というかご恩と奉公、ギブ&テイクを理解しない輩もいますがそういった連中はお師匠様の下では大成しません。しない
理由は言うまでもないでしょう。



そんな訳で、現在ではお師匠様が呼び寄せた変身能力持ちの連中が地下神殿やその周辺で暮らしております。
街の酒場で変身能力持ちたちが依頼を受けて、受けた仕事を本物と影武者の合同チームで処理しています。
より本物らしい仕草立ち振る舞いを真似るためにも、本物と同行することは影武者たちにとって良い経験になりますので。

姿形は真似られても技術(スキル)や能力値(ステータス)は真似られないのが下級のドッペルゲンガー。
自分以下の水準なら技術や能力値もそっくりになれるのが中級。
そしてアイテムや準備状態にある呪文までそっくりに化けられるのが上級者なのですね。
更に上級になると記憶や人格も丸ごと複写できるのですが、そこまで育ったのはソーニャさんの手下にはいません。


6レベルのシェイプシフターならば、私に化けて3レベルプリーテスとして振る舞うことが出来る。
でも私に化けていても、7レベルの奴隷妻としては振る舞えない。
上級職は自分のレベルの半分まで、基本職なら同じレベルまで複写できるのですよ彼ら(彼女ら?)は。
つまり20レベルまで成長したシェイプシフターがお師匠様に変身すれば同等の魔法剣士として動けます。


怖っ! 滅茶苦茶こわい!

彼らが迫害される訳だ。高レベルのシェイプシフターの数が揃えば無敵の小隊が作れますよ。
もちろん敵の弱点を突ける情報力と指揮能力が有れば、の話ですけど‥‥お師匠様は持ってるんですよねえ両方とも。
シェイプシフター部隊が東方世界に溢れかえってないのは、地球に精鋭特殊部隊が溢れかえっていないのと同じ理由かなあ?
育てる手間を考えると眩暈が起きそうです。



おっと、その新参の仲間たち‥‥いや、向こうの方が兄?姉?弟子にあたるのか? とにかく何か見つけたようです。
影武者のアリアドーネと同じく影武者のエイボリンが野盗団の宝箱から大ぶりな宝石の付いた指輪を見つけました。

「間違いないのですね?」
「ああ。これがケルドン商会の継承印だぜ」

この指輪を奪還するのが今回受けた依頼なのです。

地元の大商家にケルドン商会という所がありましてね。
ついこの前主力商隊が壊滅して破産してしまいましたが、その全財産が消え失せたのではありません。
商会の倉庫には証文や現金や商品や財貨が残っています。差し押さえられて所有権が借金元に移ってしまっただけのこと。
そして財産の処理には商会長が持っていた筈の指輪が要る。
特定の指輪がないと開かない金庫とか決済できない呪いのかかった文書などが幾つも有るのです。


今日の目標は指輪の奪還。手段は大規模野盗団の討伐。目標は野盗団拠点である廃屋というか廃墟。
拠点には60人以上の賊がいましたが 着いた、殴り込んだ、片づけた の三拍子で終わりました。

だってウチの巣には塔建てて暮らせる級の達人ソーサレスが2人いますからねー。
変身能力持ちも動員すれば更に数名増えます。
ソーニャさんとルーナが探知系魔法を使えば、3レベル呪文までしか使えない野盗魔術師の施した対魔法防壁なんか役に立ち
ません。

それなりに気合いを入れて要塞化した本拠地でしたが、内部構造も配置人員も筒抜けでは防御のしようがない。
極端な話「透明化(インビジビリティ)」を自分に掛けて入り込んだソーニャさんが潜入して、野盗どもへ「集団誘眠(マス・
スリープ)」を使えばそれだけで制圧できる訳ですし。



実際の殴り込み段階にはお師匠様もルーナも来てませんよ、過剰戦力ですから。
殴り込みの面子は私とサラさん+アリアドーネ&エイボリン+四人に化けたシェイプシフターたち+義息子たちです。
私とエイボリンの偽物本物合計4名の混合チームが、呪文等で事前調査してから「次元扉(ディメンジョン・ドアー)」の巻
物を使い乗り込みまして、後は主に前線向け面子が切ったり叩いた縛ったり眠らせたり麻痺させたりで取り押さえました。

変身した連中が宝箱漁っているあいだ本物の騎士娘とその幼馴染み家庭教師は何をしていたかというとナニです。
宝物庫の隅で旦那様といちゃいちゃしてました。

怠けてるわけではありません。遊んでいるかもしれませんが。
彼女達とその夫の前には縛られたまま座らされている捕虜どもがいまして、見せつけてるのですよあれは。
悪党どもの口封じは完璧に終わりますからね。



割と節操のない男(オーク)好きなアリアドーネですが、夫を立てる気はあるのでいちゃいちゃの相手はマルマルです。
彼女にも一応貞操観念はあるのです、ふわっふわのが。
エイボリンの方は「強い子を産ませてくれるなら誰でも良い」とか口では言ってますけど、実際にはベタ惚れですね。
もちろん妻たちの心情はマルマルに筒抜けです。主に匂いと心音で。

いわゆるツンデレが通用しない、直解されてしまうという点一つとってみてもオーク族が演劇文化を解しないのは当然なので
しょう。
色恋の綾は誤解とすれ違いで出来てますけど、オーク族には嘘や駆け引きが通じませんからねえ。
手札フルオープンでポーカーやっているようなものです。


今にして思えば温泉洞窟で居候していた頃の私の内心も、オーク達には筒抜けだったのでしょう。
いつ押し倒されても良いように毎日肌を磨いてましたからね、ええ。
日記の40日目あたりからは粘膜の方も欠かさず磨くというか身綺麗にしていた訳でして。
知らなかったんですよ。いえ舐めていたんです、オーク族の聴覚と嗅覚の鋭さを。

オークたちというかグェスが変態紳士を貫いてくれた理由がちょっと解ってきました。
デレてきたというか嫁候補が懐いてきたのが丸分かりだったからですね。
おかげでますますグェスのことが好きになってしまいました。

だってありえないでしょ。一つ屋根の下で暮らしているもろ好みの女の子が、自分をオカズにおなにーしているの知っててな
お変態紳士であり続けたんですよ。
ええまあ、あれは自慰行為だったと今なら分かります。快楽を求めてやってましたし。

思えばあの頃には既に堕ちていたんですね、オーク嫁の雌豚に。
グェスを恋愛対象として見るようになったのは闘技場で泣きついた頃かそれとも大神殿からの帰り道で‥‥ あっ。
そうか、温泉洞窟に 帰 る と考えるようになったときにもう、オーク妻として生きる気になっていたのか当時の私は。
あー そりゃ下っ端たちの態度が変わる訳だ。
言葉や態度で、私は温泉洞窟の一員だと、いつかそのうちオークの子を産む人間雌なんだと主張していた訳で。




さて。縛り上げた捕虜の女盗賊はこのまま半日ぐらい天然媚薬漬けにして焦らして焦らして脳味噌とろっとろにしてから、
現地オークの群れに放り込んで百人組み脚でもしてもらうとして‥‥
いやほら、オークに膣内射精してもらった女って思わずしがみついてしまうでしょう? 世に言うだいしゅきホールド。
脚が絡み合うから組み手ならぬ組み脚。百回の種付けに耐えられたら無罪放免です。

百回も種付けされた人間雌は呪われてでもない限り孕んじゃうし十回膣出しされて堕ちない女は極少数派。
東方世界のオーク達は野蛮ですが慈悲深くもあります。
悪逆非道を為してきた悪党女どもでも、若くて健康なら孕み袋として生まれ変われるのですからね。
これからは愛と喜びに満ちた人生を歩めるのだから運の良い連中ですよ、まったく。

いや、むしろこれまでが不幸すぎただけかも。
悪人正機の思想からすればこの連中こそが救われるべき存在になります。
千人殺せば極楽往生間違いなし。人間五十年換算でいくと半月に一人殺せば千人いけるか。
ならば百万のオークを愉しませたなら畜生道に転生できますね。これも教義に入れよっと♪

おま○こだけで百万本のオークち○こを慰めるのは難しいですから、お口や指やおっぱいでも可。
膣出しで子種を受け止めるのも、おっぱい含ませて吸わせるのも、歌と踊りで楽しませるのも全て良し。
功徳という点では同じなのです。
めでたく畜生道に転生した人間雌は、来世でも必ずオーク嫁になれます。



しかし、ドッペルゲンガーを手下に使って冒険と邪教団運営の二足の草鞋か、ゲームの中なら悪役そのものですね。
人間側視点に立つとバレン地下神殿はもろ邪教本部ですが、邪教から見れば他の宗派は全部邪教ですので気にしません。
誰だって自分を基準にしますからね。
自国以外はみな仮想敵国が国際外交の基本にして真理ならば、自宗派以外はみな邪教で当然なのです。

いやもう、調停の神々は判断基準 ゆ る っ ゆ る ですので、ファンタジー世界は異端邪宗に事欠きません。
混沌神は更にゆるいというか無法地帯に野放し状態です。

16世紀日本で人身売買・麻薬汚染・破壊工作などやりたい放題してくれやがったイエズス会ですら、当時の耶蘇教徒のな
かではまだマシな連中だった訳でして。
そして耶蘇教普遍(カトリック)派も欧州にひしめいていた淫祠邪宗のなかではマシな連中なんですよ、アレでも。
欧州は魔境です。
何ごとも下を見ればキリがありません。人間の愚かさに限りはないのですね。



速攻で根拠地を制圧しましたが、やることは小規模な野盗団を潰すときと変わりません。
刃向かう野盗は既に根切りにしましたし、身代金目当てに盗賊が人質にしていた人々などは保護して街に送り届けました。
もちろん普通? 普通って何だか解りませんけど我々をあまり怪しくない冒険者のように見せかけてます。
具体的には真贋揃って人質の前に出ないようにしたりしてますし、オーク達も出してません。

拠点の下調べを念入りにしないと、同じ顔の冒険者が何人もいるところを人質に見られてしまう事があります。
だから高度な偵察系呪文まで使って下調べしたのです。
襲撃中は全員が覆面被っておくという力業も考えましたが、顔を隠すのは冒険者らしくないので却下されました。


制圧または降伏した悪党どものうち孕み袋として使えそうなのは媚薬漬けにしてから傘下オークの巣へ放り込み、抗戦して
死んだ幹部や手強かった悪党どもの死体は貪り食う無限袋に入れて処分します。
大物の悪党だと賞金首として出した首を裏で回収して蘇生されるかもしれません。
蘇生魔法があるとこの辺が面倒くさいですね。

生き返る心配の要らない雑魚の死体は森や洞窟に放り込んで処理します。
まだ生きてる雑魚も死体にします。野盗なんて生かしておくだけで良民が苦しみますからね。
蘇生や復活の魔法が効くには現世にしがみつく「力」というか命根性の汚さが必要でして、そこまで逝き汚い悪党は雑魚で
はない。
よって、雑魚野盗が蘇生される可能性は極めて低いのです。
悪霊に取り憑かれて亡者(アンデッド)化する確率の方が高いぐらいでして。
悪党の死体はよく刻んでからばらまくことにしましょう。細切れにしておけばゾンビやスケルトンにはならない筈。


拠点に溜め込まれた物資や財貨は、元の持ち主が解るものは返還します。
と、いっても我々は運ぶだけで実際の手続きとかは依頼を受けた宿の亭主にしてもらうのですが。
どこそこの宿にこれこれの品物が預けられている、という噂を聞きつけた元の持ち主が礼金を渡して品物を引き取り、その礼
金は店と我々で折半する訳です。

それ自体が通貨として使える硬貨や宝石はともかく、押収した盗品を業者に叩き売っても大した値段にはなりません。
買う側からすれば需要以上の商品を抱えても不良在庫になって倉庫の容積を圧迫するだけですので。
ならば積極的に元の持ち主へ返してあげて、有形無形の謝礼を受けるという選択肢も有りな訳です。

いやまあ、返してあげても感謝しないどころか「足りん」とか「全部よこせ」とか因縁つけてくる連中もいますよ、ええ。
そういう輩から喧嘩を買い占めて経験値に変換するのがお師匠様流ですので、むしろ望むところだったりします。


え? 伝説級冒険者(及びその身内)に喧嘩を売る命知らずがいるのかって?
割といるんですよ、これが。
現にたったいま、新手の命知らずどもがやってきたところです。





 ☆138日めの2、そういうことにしました☆



「ふむ」

手に持った汎用水晶球には、野盗団の拠点近くに待機させていた輸送隊(流れの新人冒険者に偽装したシェイプシフターたち)
を追い散らして馬車と荷物を奪い拠点内部まで侵入してきた連中の姿が映し出されているのですが‥‥

「海の蛮族だねえ。デインかデールかは解らないけど」

ははあ、見たまんまヴァイキングの類ですか。
でかい、ごつい、髭もじゃ、溢れかえらんばかりの蛮族臭さ。頭目らしき戦士は角付きの兜まで装備しています。

どっからどう見てもヴァイキングですがこんな山の中まで来るとはご苦労なことです。
サラさんやアリアドーネたち現地組の話では、北方の沿岸地方に住んでいる蛮族達が東バルキアにまで遠征に来ることは決し
て珍しくないのだとか。
地球の同類と同じく商人や傭兵や盗賊として動き回るのでとにかく迷惑な連中でして、時には遺跡荒らしなど冒険者の領分に
まで割り込んでくることもあります。

今回は女ばかりな冒険者一行の獲物を横取りすることと、女冒険者達を捕らえて手込めにすることが目的ですね。
剣奴あがりの半娼婦どもをひん剥いてから並べて啼かせてやると息巻いています。
ふむ。最初から私たちを狙ってきたのかこいつら。流石はヴァイキングもどき、蛮勇にだけは不足なし。

解放した人質たちなど価値の高い戦利品を一足先にヴァダの街へ送っておいて正解でした。
馬車や保存食などは失ってもさほど痛くないから、見張り部隊はこういった場合だと逃げるよう打ち合わせてあります。
匪賊や蛮族のなかには馬の価値を解しない連中もいますので馬は極力連れて逃げる方針ですけどね。
とりあえず輸送隊は馬たちも含めて無事逃げ延びられた模様。



うーむ、強いなこいつら。
なかでも頭目らしきひときわ大柄な蛮人(角兜被ってるの)と、その妻もしくは愛人らしき女戦士は別格です。
星でいえば7、いや8以上かも。二桁はいかないでしょう。
頭目が装備している兜や両刃斧そして女戦士の水着風鎧はそれなり以上の魔力を帯びています。

案内人らしき現地民風の男も弱くない、こっちは星6ぐらいか?
十数人いる平の蛮族は星3から5ぐらいまでで、ヴィーヤ盆地でならそれなりに精鋭でしょう。大規模領主の正規軍には及
びませんが二線級部隊になら優位に戦える筈。総勢としてあの丘巨人の一党とでも優位に渡り合えるかもしれません。
最後の一人は呪術師かな? 雰囲気が精霊使いっぽい。


おや? 
でっぷりと太った身体のあちこちに入れ墨を施している呪術師と視線が合いました。まさか、向こうから見えている?

どうやらそのようです。
赤子の頭蓋骨やら得体の知れない生き物のミイラなど、何やら禍々しい飾りを山ほど付けた槍(スピア)を振りかざしてこち
らの魔力に干渉しようとしてる。
水晶球を壊されても困るので接続を切ることにしましょう。


ふむ、主戦力がいない状態で迎え撃つにはきつい相手ですな。ここは退くか。

人質や財宝など貴重品は既に搬送してますし、食料や家具など幾らかでも価値の有りそうなものも粗方集めてあります。
残りはゴミやゴミ同然のガラクタのみ。あと価値があるものといえば、野盗の捕虜ぐらいかな。
外に待たせている馬車は戦利品よりむしろ野盗どもを運ぶために用意したので、荷台は空っぽです。
コインの類は専用の収納用アイテムが充実していますので問題なし。


流石にソーニャさんも野盗の死体や捕虜を全員突っ込める程の「貪り食う無限袋」はもっていません。
死体を放置しておくと面倒事の種になります。野良トロルや野犬の群に居着かれると厄介だ。

ん? 捕虜は基本的に抹殺してますよ? いわゆる根切りです。
そのために討伐隊を全員身内で固めている訳ですし。
毎度お馴染み「い、命だけは助けてやるって‥‥」「ああ、あれは嘘だ」展開です。
野盗相手に交わした約束なぞ守る必要ありません。何処かに一度でも約束守ったことある野盗いないかなー。
いても殺すけどね。命乞いされるような事している時点で排除不可避。


RPGのシナリオなどで、オークが捕虜をとって牢などに監禁していることがありますがあれにはちゃんと理由があります。
人間社会と接点のある部族なら身代金要求しますし、交渉が面倒なら人買いに売ってしまえは良い。
人間が攻めてきたときに人質や囮や肉壁に使えます。
女の捕虜で良さげなのは孕み奴隷にしますし、それ以外の捕虜でも孕み奴隷候補の身内や知り合いなら儀式に使えます。

北部バルキアあたりのオーク集落では珍しくない風習なのですよ。孕み奴隷になった人間雌に、家族など人間側だった頃の
身内を殺させて参入儀礼(イニシエーション)とするのは。

ほら、ゲームとかでオーク族の巣に攻め込むと牢屋に閉じこめられて放置されている捕虜がいるじゃありませんか。
ああいった、身代金目当てとは思えないのに何故か生かされている男の捕虜は儀式に使うためだったりします。

捕らえられて手込めにされてから毎日毎日何ヶ月も膣出し種付けされて、お腹がオークの子で膨らんだ元妻や娘が細腕で持
ち上げる斧で刻まれるために生かされているのですよ、そういった捕虜は。
粗末な断頭台に縛り付けられて泣き喚く元身内へ、斧を振り下ろすことで奴隷人間雌は忠誠の証とするのです。

オーク島ではやってない‥‥おおっぴらにはやってない習慣です。そもそも大母様は強姦非推奨派ですし。


参入儀式の場では あなたごめんなさい とか おとうさんいままでありがとう とか泣きじゃくりながら斧や剣を振り上
げる女もいれば こいつころしたらどれいにしてくれるんだねっ と嬉々として婚約者の喉笛かっ捌くのもいます。
そこで なんでもしますからどうか○○のいのちだけは と言える女こそがオーク島で求められている人材な訳で。

当然ながら奴隷にした人間雌にかつての身内を屠殺させる儀式は、温泉洞窟じゃやりません。
傘下の部族にも止めさせてます。隠れてやってるかもしれないけど。


いやその、東方世界のオーク達を責めてる訳じゃありませんよ?

ローマに入りてはローマ人の如く、オークになりてはオークらしく。
暢気なオーク島と違い、東方世界は修羅の庭です。
生き残るためには全てが正当化されるのです。孕み奴隷が気持ちを切り替えるために前の夫を斬り殺すことも。

望んでオークの子を孕んだオーク妻である身で、余所のとはいえオーク文化に干渉するというのはどうかとも思いましたけ
ど夫たち義息子たちが「そういうの好みじゃない」と嫌がりましたので、干渉することにしました。
生まれついての畜生な彼らは、嫁にかつての身内を始末させる事は外道に堕ちる行為と受け取っているのです。


で、いっそのこと責任もって傘下部族へ文化汚染することにしました。
オーク島の流儀を東方世界全土へ拡げるのは無理なので、転移関係の面倒事が解決したら傘下の部族達をオーク島へ引っ越
しさせようと思ってます。
千や二千のオークが引っ越しても生態系の容量的には問題ない筈なのですよ。引っ越し組のうち雑魚いオーク達の損耗率が
酷いことになるでしょうがそこはまあ、東方から連れてきた奴隷妻たちが産んで産んで産みまくって増員してくれる筈。

被害を少しでも減らすために、現地オークたちにも集団行動の初歩の初歩のそのまた初歩から教育を始めました。
ケサガケたちが訓練教官ですね。とりあえず集合整列前ならえ気を付け休めなどから仕込んでいます。

決して嫌いじゃないんですよ、傘下のオークたちも。
もしオーク島じゃなくて東方世界に転生していたら、私のお腹にいるのは彼らの子だったかもしれませんし。
ダイコクの子の可能性が一番高いかな。





そんな訳で、ゴミみたいな一部の戦利品を諦めればこの場から即時撤退できます。
できるからしましょう。来たのとは逆に転移呪文で逃げ去りましょう。

ただ逃げるだけというのも悔しいから土産を置いておくか。
茶釜要塞の火薬樽を万能鋳造機で作った鋼鉄の筒に入れて隙間に散弾詰めた爆発物、を無限袋から取り出しまして、と。
四個あれば充分か。死との語呂合わせになるし。




では導火線に点火しまして、退避~。


連中が爆弾付近へやってくる直前ぐらいに爆発するよう調整しましたが‥‥だいたいそのぐらいだった模様。
吹き飛びました。野盗どもの拠点が。
元は豪華なお屋敷の本館だった建物が土台や骨組みの一部を残して粉微塵になったのです。

ここまで1㎞以上離れてますから破片程度しか飛んで来ないでしょうけど、一応全員に防壁呪文掛けておくか。
範囲拡大。高速詠唱。
よし、間に合った。爆発音と破片が届く前に発動しました。

「プギッ! プギッ!」

義息子たちが手を叩いて喜んでいます。男の子は爆発が好きですからねー。


それにしてもおっかしーなー?
精々地下から屋根までが吹き飛んで残った外壁が内か外へ倒れるぐらいの想定だったのですが。

たかが黒色火薬50㎏×4ですよ? TNT換算でいえば一発当たり精々10㎏から20㎏程度です。
オルロフ産の艦砲用火薬は黒色火薬の頂点に立つ優良品質で、仕掛けたのが石造りの地下室だから爆風の密閉効果で威力が上
がったとしても此処まではいかない筈。

まさか爆薬かそれに近い物質が拠点内にあったとか? たしか糞化石などの堆肥のなかには火薬並に爆発するものも‥‥


あっ 違う。

近代兵器の○○㎏爆弾って爆弾の総重量であって、火薬の量そのものを表している訳じゃないんですよね。
つまりさっき仕掛けた爆弾は黒色火薬爆弾100㎏×4とでも換算すべきだったのか。


やらかしてしまいました。まあ良いか、こっちには被害も出なかったし。

野盗団も海の蛮族も粉微塵ですから後始末の手間がいりません。
馬車は多分巻き添えで壊れているでしょうけど修理すれば良い、全損していたら買い直しましょう。

次からは気を付けないと。間抜けなテロ屋みたいに、自分が仕掛けた爆薬で吹き飛ぶのは御免です。



ヴァイキングもどきどもが持っていた金銭やアイテム類は回収しないことにします。
放っておけば地元の冒険者か乞食が瓦礫の中から拾い集める事でしょう。

輸送隊は何匹か馬が怪我しただけで済みました。
この世界のお馬さんたちは地球の同類たちより遙かに頑丈でしぶといのです。
爆音への耐性一つとっても、戦国時代の軍馬たちより上でしょうね。
品種改良に弛まぬ努力を続けた結果と、何万年も前から魔術師が攻撃呪文ぶっ放して戦争しているからかなあ?





 ☆138日め3、指輪物語にもそう書いてある☆



野盗どもから押収した物品の処理を替え玉役のシェイプシフターたちに任せ、私たち本物組は別行動を取ります。
サラさんやエイボリンたちはまだ腹が膨らみはじめてないので本物に交渉とかやらせても良いのですが、面倒くさいので。
人里には犬猫の類がいますからねー。獣人族の中には犬猫並に鼻の利く連中もいますし。

匂うんですよ。いや、この場合は臭うのか?

オークに抱かれて、胃や膣の中が子種汁まみれになった女は臭うのです。もうぷんぷんとオーク臭さが。
感覚が鋭く、知識や経験がある者なら人間でも独特の匂いに気付くかもしれません。
訓練された番犬なら気付かない方がおかしい。
香料や脱臭効果の霊薬を使えば犬の鼻を誤魔化せますが、その手間が面倒です。



野盗団およびその協力者だった女どもですが、計8名全員を地下神殿の公衆便所に突っ込んでおきました。
神社仏閣に参拝者向けの便所があるのは当然です。
なのでバレン地下神殿にも来客向けの便所があり、大小の便器が設えてありましたが本日そこに肉便器が加わりました。


オーク島のオークたちは木工細工に親しんでいます。木材の取り扱いに関して、下っ端たちでもそこそこの理解がある。
人間雌たちが快適に暮らすには良い家具が要りますし、良い家具を見つけるにも自作するにも木工技能は欠かせません。
と、いう訳で手先の器用な義息子たちは暇を見つけては色々作っています。
働きだすと割と勤勉なのですよ彼らは。まあ、その、支持待ち気質が強いですけどね。

そんなオーク達が真心込めて作りました分娩台もどきを、神殿の便所の続き部屋に設置して悪党女共を縛り付けました。
そう、バレン地下神殿の参拝客は誰でも公衆便所を利用でき、好きな便器を使ってすっきりできるのです。
将来的には使用料取ろうかとも思っていますが、とりあえず今回は無料で使えます。

無事孕んだら孕ませた奴に引き取って貰うのも良いですが、引き取れない事情があるならそのまま神殿で孕み肉便器とし
て使っても良いでしょう。
衣食住完備で、利用者の好み次第ですけどえっちなことし放題、客はみんな優しいし金銭払いも良くて、怪我や病気にな
れば治療を受けられるし、出産や子育てそして子供の教育にも手厚い支援が。
更にいえば生涯現役でお勤めできるのですから、並の娼館よりずっと良い労働条件ですね。

初日は体力の限界がくるまで便器として使って貰うようにしてますけど、明日からは順番とか決めないと。
うーん、時間制よりも回数制の方が良いかな?
性欲処理百回または失神絶頂二十回で一区切り、その後は丸一日休養とかが妥当かなあ。

罪人であっても過酷に扱う気はないのです。
親の罪は子の罪に非ず。悪党女どものなかには既に孕んでいるのもいまして、親の償いのためお腹の子に負担を掛ける訳
にはいきません。


「信徒レイ。もっと男女平等を心がけるべきではありませんか?」


はっ なんか聞き覚えありまくりな声の幻聴が!?

これは女子便所にも肉便器を設えよという啓示でしょうか?
ううむ、なんか洋式便器とビデの横に並べられた寝椅子の上で、仰向けに縛り付けられたハラキズに跨って腰を使ってい
るエスティア様という光景が脳裏に浮かんできたのですが。


‥‥‥‥良いかも。

ずらりと並んだ女子便所の個室の一つにアンドレが座っていて、便所の看板に「いつも綺麗に使っていただきありがとうござ
います」なんて書いてあって、くいくいと指を曲げて招かれちゃったりしたら走って飛びついちゃう自信があります。

公衆便器ならぬ公衆便鬼か。オークは分類上鬼です。
うーん、正直心惹かれるものがありますが可愛い義息子たちを不特定多数の女に触らせたくない。夫たちはなおのこと。
かといって会員制とかにしたら公衆施設ではなくなってしまいます。


ん? 会員制?  男女平等?  ‥‥ギルド化は、有りかも。


1 女冒険者(男でも多分可能)のうち口の堅いのを選んで会員制の秘密倶楽部を作ります。
2 倶楽部に所属する会員たちが地下神殿へ気軽く来れるようにします。
3 会員たちは地下神殿の尼僧たちから不妊魔法を掛けて貰います。
4 会員たちは地下神殿の娼館かそれに類する施設でオークなどのエロモンスターを買ったり買われたりします。
5 つまり会員たちがエロモンスターと好きなだけ快楽を貪った上で、お金も貰えるし経験値も手に入る仕組みです。
6 更に本人が望めば好きな雄の赤ちゃんを孕んで産んで育てることもできます。
7 エロモンスター側は稼ぐだけで安全に女を抱ける。気に入ったら口説いて嫁にすれば良い。
8 巣で守りきれない女子供を神殿に預けて、養育費を納める通い夫になる手も有ります。
9 神殿を交易所とすれば、街とモンスター側とで商売が出来ます。


あー なんか妄想が止めもなく湧いてきました。
ヴァダ市街で手に入れたアレコレを神殿の市場で売り捌いて、小金を稼いだ新米冒険者が尼僧に不妊魔法を掛けて貰う。
そして神殿に屯している男衆のなかから、好みなミノタウロスの若者とかを誘って一夜妻にして貰う。
たっぷり可愛がられた新米冒険者はミノタウロスから財貨や薬草などを貰って別れ、湯浴みして匂いを落としてから街へ。
手に入れたものを街で換金して、神殿で売れそうなものを買い付ける。
そんな情景が脳裏に浮かんでは消えていきます。


神殿と娼館と冒険者ギルドの合体‥‥ ってこれリアル中世欧州の教会だぁ──!!
あとは銀行と合体すりゃ聖堂騎士団そのものですがな。農園と工場と学校も加えるべきか?!

いわゆるMMORPGに出てくる冒険者ギルドに一番近い、実在した組織は教会騎士団な訳でして。
日本でいえば比叡山延暦寺。
封建領主であり宗教結社であり娼館等を含む商業施設であり高度技術を秘匿した大工場であり大金融業者。
それが中世の大寺院。宗教色を表に出してない教会騎士団があるとすれば、それはほぼ冒険者ギルドなのです。


比叡山だよ! いつのまにやらプチ比叡山作ってたよ私!

なんてこったい。ということは誰に焼かれるんだこの神殿は。
せめて第六天魔王であってほしい。万人恐怖や人身邪神はノータイム過ぎて対処できません。








 ☆139日め、住めば都というけれど☆



昨日は見苦しい姿を晒してしまいました。反省。




うーむ。キャンプファイヤーされるのは嫌だなあ。とっととオーク島に帰りたい。
穏やかな南国でのんびり暮らし‥‥いや、オーク島はオーク島で殺伐としているんでしたよ、うん。

マリアたち非戦闘員組にとっては東方世界の方がまだ暮らしやすいでしょう。
廃都周辺でなら女たちだけで近所の散歩とかできますからね。
オーク島じゃ女子供が裏山へ薬草摘みに出ただけで死人が出ます。確実に出ます。
洞窟から一歩出たその辺に陸生ワニとかがのし歩いているのがオーク島ですから。
下手をすると寝床に毒蛇が入り込んでいたり、風呂場にスライムが湧いたりします。

義息子たちにとっても、廃都暮らしの方が気楽かもしれません。
オーク島だと気軽にナンパなんて出来ませんからねー。


「コ、コレ ヤル」
「ひぃっ」

コブハナたちがキノコの塊をさしだして女の子たちに渡そうとしてますが、怯えられてますね。
無理もない。
廃墟の中の採集地点にやってきた薬草摘みたちにしてみれば、いきなり薮の中から出てきたオーク達に囲まれてしまったの
ですから生きた心地もしないでしょう。
そんな心理状態では義息子たちの声はオーク語訛りの共通語(コモン)じゃなくて、共通語(コモン)訛りのオーク語にしか聞
こえません。

囲まれているのは12歳ぐらいの麦藁色の髪を三つ編みにした可愛らしい娘さん。
そして16歳ぐらいの黒髪をこちらも三つ編みにした娘さんですね。こっちの顔立ちはやや地味目かな。
幼い方はつるぺたロリだと服着てても分かる幼児体型ですが、もう一人の方はしっかり成熟した大人の身体です。
平たくいうと実に立派な胸回りをしてらっしゃる。Dプラス、いやEカップですねあれは。

ふむ、やはりブラジャーの普及を急がねば。このままだとあの乳は10年もしないうちに垂れてしまう運命にあります。
治療呪文を応用すれば垂れてしまった乳の修復もできますけど、治療よりも予防が大事です。



廃墟の石壁際に追いつめられ、相撲取り並のオークどもに鼻息も荒く迫られて薬草摘みたちは涙目状態。
迫っていたオーク達も本気で嫌がられていることが分かったようで、その場にキノコを置いて後じさり始めました。
オークたちが籔の中に消えていくと、ロリっ娘の薬草摘みは腰を抜かしたのかへたりこんでしまいます。
年嵩の方は素早くキノコを拾い集めてエプロンで包んで縛り、もう片方の手で相方の襟首を掴んで立ち上がらせました。

うーむ、逞しいなあ。
よろめきながらも帰り道を急ぐ薬草摘みたちは当分の間、採集地点であるこの空き地へ来ないでしょう。
コブハナたちが置いていったキノコの小山は希少価値のある超高級キノコですから。
量もかなりありますから、ギルドに納品すれば薬草摘み二人の収入1ヶ月分以上になる。まさに食べる宝石ですね。


薬草摘みは若い女の仕事です。少なくともヴァダ近辺ではそういう慣例になっている。
十歳前後から精々40前ぐらいまでの、健康な女性がやるものなのです。
何故かは色々と理由がありますがその内の一つは、オークなどに貢いで貰えるからでしょうね。

ヴァダ市と廃都バレンのように人間の都市とオークの集落がほど近い位置にあって、しかも滅多に衝突しない関係にあると、
このような状況がありえるのです。
若く健康な女なら、オーク族の縄張りに入って無事出てくることができる。
見逃して貰えるというか、送り狼ならぬ送りイノシシ状態で陰からこっそりと見守って貰えるのです。

前世の私も木に実った果物を一部残したり新鮮な米糠を撒いたりして庭に小鳥を呼んでました。
この廃都のオーク達にも、可愛い人間雌達を縄張りの中に招くため、薬草が良く採れる場所を整備する文化があったのです。
足腰の弱い女達が歩きやすいように瓦礫を除けて道を作り籔を伐採して広場を造り、人間の役に立つ草やキノコなどが生え
る環境を維持しておく。
あとは女達の方が圧倒的に生還率が高い状況を維持しておけば、薬草つみが女所帯となっていくわけです。

そんな訳で、ヴァダの街には薬草摘みたちとオーク族の微妙な関係が今でも残ってます。
ときには薬草摘みがオークと直接接触して薬草や狩りの獲物や財貨の類を渡されることもあるくらいです。
19世紀半ば頃の北米中西部における、一般的な白人入植者の婦女子と原住民部族との関係よりは東バルキア地域の一般的
な人間雌たちとオーク族の関係の方が友好的ですね。
理由はたぶん、北米よりもバルキアの方が両勢力の実力差が小さいからでしょう。



この関係に慣れてきて、もっと良いお土産が欲しくなった薬草摘みたちがオーク達の欲しがるものを積極的に売るようにな
るのは時間の問題。
身一つで出来るから水商売なわけで、娼婦を兼業する薬草摘みが出るのも当然なのですよ。


オーク族から見れば、人間族と取り引きすること自体に意味があります。
情報源としてだけでも絶大な価値がある。
人間の街からきた討伐隊を上手いこと敵対部族などの縄張りを脅かす勢力に誘導できるなら、収穫物や戦利品の一部を裂いても充分元が取れます。

孫子も「スパイに払う金銭を惜しむ国は滅びる」と言っています。
なのでオーク達は、自分たちの縄張りにやってきて服を脱ぎ股を開く人間雌たちに大盤振る舞いします。
ケチった奴は滅びます。


女達にしてみれば、ホストが貢いでくれる店状態のですから通い詰めるのは当然です。
誰でも選べて何でも出来て、通って遊んでるだけでお小遣いとお土産が貰える風俗店なんかがあったらそりゃ填る。
慣れるまではともかく、一度填ってしまえばオーク達は女達にとって最高の肉玩具ですし。

この関係の良いところは裏切られる不安がほぼ無いところですね。
オークち○こを咥え込んで逝かされまくってる人間雌が嘘をつける訳がないので、信頼関係は万全です。
この状態になれば、薬草摘みたちにとって財貨よりもオーク達との関係そのものの方が報酬になっている。
子を孕んだりすれば更に信頼性と友好度が上がります。今の関係を維持するためならなんでもするでしょう。


人間の都市が滅んでも、オークの部族が駆逐されても取り引きが出来なくなります。
つまりこの関係を維持したければ互いの協力が欠かせません。
オーク達の利益は安全保障。人間以外は皆殺しにしないと気が済まない危険人物の冒険者などを回避する為です。
人間たちはオーク達との関係を続けるために、思慮分別に欠けた部族や人間を餌としか思っていないモンスターへ勇者様を
誘導してぶつけて潰させる。

まさしく共犯関係。共に犯し犯されるオークとオーク専用娼婦たちの桃源郷が、バレン地下神殿だった。
ダイコクたちは地下神殿が栄華を誇っていた頃を理想卿として語り継いでいた一族なのですよ。

かつての地下神殿を運営していたのは、この関係を管理というか監督する組織だった訳です。
オーク達が薬草摘みたちをみんな孕ませてしまっては関係を隠せなくなる。それは宜しくない。
だからバレン地下神殿に属していた神殿娼婦たちは避妊魔法を掛けて貰って、オークに抱かれていたのです。

あれですね、オーク島の大神殿が販売店だとしたらかつてのバレン地下神殿はレンタル店ですかね。
店内に視聴用の小部屋があるレンタルDVD店みたいに、好みのオークを選んで小部屋に連れ込んでお楽しみ♪
こりゃたまりません。人妻で子沢山でなきゃ私も填り込んでしまうでしょう。
良妻献母を目指す身なので、夫たちへのご奉仕と義息子たちへの教育で忙しいのですよ私は。



楽園は失われるが定め。
十数年前、凶悪な破壊者たちの襲撃によりバレン地下神殿は破壊され教団幹部は残らず討ち死にしてしまいました。
僅かに生き残った嬌声派信徒たちは、隠れ潜みながら再起を夢見ていたのです。

ええ、共生派の誤字じゃなくて嬌声派です。より正しくは「歓喜を紡ぐ博愛派」とかそんな感じ。

地下神殿の奥で見つかった壁画に描かれているのが聖母子交合図だったりするあたり、業の深い宗派だったようです。
ボテ腹の妊婦さんが実の息子であるらしき若いオークと駅弁スタイルで交わりながら、左右のおっぱいにオークと人間の赤ん
坊を吸い付かせて乳を吸わせている、超写実的な絵です。地球で言えばミケランジェロみたいな画風ですね。


さて、手持ちの水晶球で確認しましたが件の薬草摘みたちは無事に街までたどり着いたようです。
コブハナとデコバチとギョロメの三名は固まって何が敗因なのか反省会やってますね。
頑張れよー。慣れれば突破口も見つかるでしょうし。





 ☆139日めの2、しない理由がありますか?☆


実際の話、そろそろ真面目に将来のことを考えるべきかも。
いえね、このまま東方世界に居続けるとオーク島へ帰れなくなる気がしてきまして。
だってそうでしょう? 

巣から徒歩10分で可愛い人間雌たちと逢える環境に適応しちゃった義息子たちが、オーク島へ帰ったときどうなるかも
心配といえば心配ですけどそっちはまだなんとかなります。
極論しちゃえば義息子たち全員が、星ランクで言えば6以上の強さになるまで鍛え込んだ上で温泉洞窟の設備を強化しま
くれば良いのです。
そうなれば女子供を守り通せますから、西方で集めた女達を連れて引っ越せば気楽にハーレム生活が送れます。

規模ではミッシェル山大神殿に及ばすとも防御力と住みやすさでならかなり良いところまで迫れる筈です。
異名持ち級の魔法使いが二人もいる上にどちらも毎日順調に経験値稼いでますから。
特にルーナの成長速度は目を疑う程で、この調子だと出産前に魔法使いのレベルが上がっちゃうかもしれません。

愛奴幼妻としてのレベルは上がりまくりでスレイブとかホアーとか色々な職業(クラス)が伸びてます。
あとロイヤル・プリンセスも伸びました。出産間近となって本人が王家の血を繋ぐことを自覚した為でしょう。
魔法使いとしてだけでなく娼婦としても豊かな才能を持つルーナが羨ましいぐらいですが、一生を愛奴妻として夫たちの
下で暮らす私には要らない素質でもあります。特にプリンセスはいらないかな。


実をいうとちょっとだけ、娼婦として生きることへの憧れとかあったりします。
あくまでも個人的な、エロ妄想としてですけど。

巡礼娼婦として辺境を巡り歩いて各地のオーク集落を訪れては宿賃代わりに一夜妻となる生活とか、良いかなーって思うこ
ともありますが、妄想は妄想だから楽しいのでして。

背負い袋一つ担いでの貧乏旅行は夏休みにやるから楽しいのです。
当てもない流浪の旅を延々続けるのはきっつい。
当てがあったとしても、財布が軽くて菊の御紋付きパスポートの後ろ盾がない身で異郷を放浪なんてやってられません。

というかですね、妄想の中でさえも夫たち義息子たち以外に抱かれるなんて身の毛がよだちます。
娼婦になって云々という妄想を弄んでいても、その妄想の中でのお客さんは巣の仲間たちなのでして。
夫や義息子たちと泡姫ごっこ遊びで楽しむことはありますが、見ず知らずの相手とは御免です。


まあそんなわけで私はご家庭用肉便器であって公衆肉便器としては使い物になりません。
仮に転生したのがオーク島でなくてヴァダの街だったら、たぶん娼館に売られて三日以内に焼け死んでいるでしょう。
内部から放火して逃げるのってわりと難しいのですよ。火を付けたのがお馬鹿で粗忽だと特に。
運が良ければ廃墟に逃げ込んで、ダイコク達に拾われていたかもしれませんがね。


ルーナは公衆肉便姫もとい肉便器としての適性がありまして娼婦になったら大成する可能性が高い。
スィールクとアリアドーネも娼婦の素質があり、この三人ならどの界隈でも売れっ子になれるとお師匠様は見立ててます。
サラさんとマリアそれにエーリカは私娼、いわゆる夜鷹や立ちんぼには向いていますが娼館務めには不向き。
コーネリアとルウそしてメイアは逆に娼館向けで自営娼には不向き。
エレナさんとその娘達はどちらもできるけど経営者の方がより向いているとかなんとか。

ちなみに一番淫売に向いていないのはエイボリンでして、彼女は夫以外の雄は要らないのです。
孕み胎に子種汁を注いでくれるのがマルマルだけだと胎教に悪いのでグェスたちにも抱かれてますけど、エイボリンが夫
として認めているのはマルマルと私だけです。

ということはつまりエイボリンは私の妻、ということになるのか?
うーん、やっぱり彼女とも式を挙げるべきかなあ。
その辺について夫たちやソーニャさんも加えて話しあってみますか。

お師匠様は私の家族ですからね。家族会議に入って貰わねば。
師弟といえば親子も同然、義理の娘でもありますし近いうちに互いの子を産もうと誓った仲でもあります。



話を戻しますと、このままではオーク島に帰れなくなるという危惧は内部の問題ではないのです。
外部です。ぶっちゃけると襲われます。略奪されます。

東方世界の人間は約半数が女です。少なくとも産まれる数は同率です。
有り余ってはないにしろ希少ではない。
幹部から下っ端までウチの巣の男どもはマメというか女達に誠実ですので、近いうちに嫁が大勢来るでしょう。

現在は三人の嫁がいるイワノフと二人の嫁がいるマルマルぐらいですが、将来的にはウチの巣のオークたちは複数の嫁が
いるのが普通になる筈です。
今もサラさんの伝手で現役冒険者を一名、マリアの伝手で薬草つみを二名勧誘中。アリアドーネたち荘園組も新しい嫁さ
んを捜しています。娼館からの買い取りは保留中。
男衆の自力婚活ともども、上手く行けば良いのですが。



では、何が不安の元なのか。

内部に原因がないのであれば当然外部にあるわけで、仮に今日あたりハラキズがひょっこり見つかったとします。
見つかったならもうこの土地に用はありませんので、とっとと帰ります。
船を仕立てれば長くとも三ヶ月の航海でオーク島へ着くのですが、帰ってからが面倒なんですよ。

万年女不足のオーク島で、嫁全員を護りきれるでしょうか。

男衆がこれ以降増えないとしても計26名、今いるのも合わせて一人あたり3~4人嫁が来るとして+90名以上。
大人だけで120名近くになります。
どんどん増えるであろう赤ん坊や連れ子の数も入れると一年以内に200名を超えるでしょう。

これでもかなり低く見積もった数字なのですよ。
現時点で男衆と嫁と連れ子で43名いて、数日後にはルーナが出産するので更に+2名されます。
三ヶ月ちょっと前は13名しかいなかった巣が、今ではその4倍近くいます。
更に三ヶ月後に100名超えないという根拠は何処にもありません。
日記の360日目あたりには何人にふえているやら。

イノシシたちも保護対象に加えると、無理だとは言いませんがかなり難しい。



仮想敵の数を検証してみます。
オーク島の住人のうち、余所の巣まで出かけて嫁さん調達しようと試せる実力がある連中は推定で千五百かそこら。
いきなり仕掛ける短気者がその3%として45名。
拉致を阻止するには最低でも警備側に10倍は人手が欲しい所です。

ちょっと前までは温泉洞窟にいる女の数が限られてましたけど、今は16人もいますからねえ。
加えて赤ん坊が一人に神像が一つ。どれも島のオーク達にとっては眩いお宝です。
ころしてでもうばいとりたくなっても無理はない。

初対面の時のゴエモンみたいに血迷う奴は絶対に出る。
勢いだけで動いてもまず成功しないでしょうけど、拉致そのものに失敗しても犠牲者が出る可能性があります。
聖徳太子の嫁みたいに拉致犯に無理心中は‥‥されないと思うけど事故はありえる。
近いうちに赤ん坊が増えることを考えると警備の難度は天井知らずに上昇します。

冗談じゃない。
毒蛇毒虫毒魚毒貝野獣にスライムだけでも頭が痛いのに、余所の集落と揉め事なんてやってられません。




「と、いう訳なんですがどうしたら良いでしょうか」
「生姜湯でも飲んで寝てろ」

地下神殿の奥の部屋に設えた円卓に、コーネリアは頬杖をついています。
上記の懸念について相談しているのですが、やる気のない声で返されてしまいました。

「いやあの、真面目に考えてくださいよ」
「その不安はどこから突っ込めばいいのか迷うぐらい突っ込みどころだらけの妄想だ。いいから寝てろ」

元から口が悪い女(ひと)でしたけど今日はひときわ遠慮がないですね。


「妄想とはなんですか失礼な」

コーネリアは右手を挙げて、人差し指を立てて言いました。

「いいか、第一にオーク島の連中はそこまで暇じゃない。自分の修行や縄張りの巡回や女房子供可愛がるのに忙しいんだ」

まあ、遠くの巣まで遠征して嫁泥棒する奴は極少数派ですよねえ。余程手際よくやらないと横取りされるでしょうし。
だからこそ大神殿での拉致強奪が絶えず、絶えないからこそオーク戦士達は毎月ごとの集会に連れて行く嫁達を飾り立てる
わけですし。

「第二にオーク島の連中は間抜けだが馬鹿じゃない。
手加減しているソーニャ相手に星二桁級の連中が数十人掛かりで挑んで、おちょくり倒されたことも忘れていない。
余程の能無しでないかぎりソーニャのいる巣には近寄りもせんし、能無しが近寄れば痛い目を見るだけだ。
そもそも全島のオーク集落が一致団結して鋼の規律の下完璧に統率されてやって来るという前提が逝かれている。
巨大アリの群だってそこまで意思統一されておらん。
あの島の住人にその百分の一でも纏まりがあれば大神殿の連中は苦労していない。
いいから寝ろ、その不安は妄想だ。全世界が敵に回る強迫観念は不慣れな権力者が掛かる病気だ」

びょ、病気とな!? 

いや違いますよ。被害妄想かもしれないけど、だとしても楽観論よりマシです。
コーネリアは自分の価値が、オークの子種で人間の女の子を孕める母体が慢性女日照りのオーク島でどれほど貴重なのか
分かってない。

あとコーネリアは知恵や理性を信じすぎてます。
他人も自分と同じように、後先を考えて行動すると思っている。頭の良い人の犯しがちな過ちです。
オーク達に纏まりがないことぐらい私にも分かってますよ。
鮫の群にチームワークなどありませんが、鮫の群に襲われたら大概の海水浴客は食われるしかない。
統率も連携も皆無な暴徒が数と勢いだけでヴェルサイユ宮を陥とした実例を忘れてはなりません。 

え? お前はルイ16世と違って衛兵に全面斉射命じるだろ‥‥ですって?

当然ですよ。
私が宮城の警備責任者なら暴徒が大挙して押し込んで来る前に一斉射撃します。
事前警告ぐらいは、する余裕があればするかもしれません。



「‥‥もしや妊娠時の気鬱(マタニティブルー)か?」
「元からこういう子だし、素でしょ」

コーネリアの耳打ちにソーニャさんが小声で返してますが聞こえてますよ二人とも。わざとでしょうけど。

「何の話をしてんだい?」

あ、サラさん。聞いてくださいよ。



「それは杞憂ってやつじゃないかねえ」
「えー でも天が落ちてくることは実際ありますよ」

そう、ツングースカみたいに! ツングースカみたいに!

オーク島帰還後に元通りの生活ができなくなるという懸念を語ったのですが、サラさんも反応が鈍いです。
彼女は島へ数回訪れた事があるだけですから、島暮らしの将来云々に実感が湧かないのでしょう。

「不安なら帰らなきゃ良いじゃないか」
「え?」

サラさんは、温泉洞窟の拡張や大神殿に庇護を求める事に無理があるならずっと東方世界で暮らせば良いと言い出しました。
この廃墟都市で都合が悪ければもっと良い場所に引っ越せば良い、とも。

「で、でもオーク島のオーク達や大母様を見捨てる訳には」
「あんた何時からそんなに偉くなったんだい? そりゃあんたに才能があるのは認めるし色々ものが見えているだろうさ。
だけどあんたが案じなきゃいけないのはまずお腹の子で、次に旦那様達と巣の仲間だろ?」

いやあの、この子を護るためにオーク島の環境をなんとかしたいんですが。
ぶっちゃけるとオーク島の連中には肉壁になって貰いたいのです。
肉壁として利用しつつ抗争や揉め事を避けたいだけなんです。

前世で言うなら、日本国民の皆さんには私と同じく税金やら年金やら健康保険やらを払って制度を維持して貰いたいけど
煩わしいご近所付き合いはやりたくないという我が侭を押し通したいだけなんです。
だって嫌ですよ「先祖代々受け継いだ自家の畑と隣接しているからこの土地は俺の家のもの」って真顔で言ってくる隣人
なんか!



‥‥前世の話は止めましょう。意味がない。


オーク島の連中は近くに居て欲しくない隣人だけど、遠くない所にいないと困る。
正面から会話と取り引きができるだけでも、彼らは人間族より付き合いやすい。
お腹にオークの子がいる女にとって、野性の人間族は危険すぎる。
少なくとも私にとっては、オーク島の方が東方世界より安全なのです。

今の我々、バレン地下神殿を根城とする宗教結社には人手(マンパワー)が足りてません。
人口は力なのです。数がないと生き残れません。
そしてオーク島自体にも人口が足りなさすぎる。

大母様やオーク達を見捨てたくないのは、それ以外に当てにできる味方がいないからです。
もっと味方を増やさなければなりません。
西方列強やトカゲ帝国の勢力が一度本気になれば、オーク島はあっという間に蹂躙されてしまいます。 
オーク島の戦力すら当てにできない今の我々には、地元冒険者の討伐隊ですら脅威です。

たった数名の敵に全滅させられたダイコクたちの群れの悲劇を忘れてはならない。
バレン地下神殿の防御力はまだ心許ない、もし落ち武者ミノタウロスたちの巣を襲った討伐隊と同規模の敵が攻めてきた
ら拠点を放棄して逃げるしかないでしょう。
ノーモア比叡山! どうせ造るなら石山本願寺! あっちなら魔王と10年戦えます。



と、主張してみたのですが聴衆の受けはさっぱりです。

「‥‥重症だねえ。治療の霊薬で治りゃ良いんだけど」
「対処療法ならあるわよ。する?」
「頼む。正直、鬱陶しくなってきた」

円卓に突っ伏したコーネリアから私へ視線を移し、ソーニャさんはにんまりと笑いました。




で、およそ30分後。ギュー・グェスが帰ってきました。
ソーニャさんが使い魔と転移呪文を使って、外回りの仕事に出ていた男衆を地下神殿まで連れてきたのです。
つくづく魔法って便利だ。

「グヒ?」
「レイが寂しがってるから慰めてあげて」

朝からギュー・グェスと離れていて、慰めて欲しいというよりは慰み者にして欲しい気持ちでいっぱいな私は夫にして
ご主人様なオークの足元に三つ指ついて跪きました。

「お帰りなさいませ旦那様。お風呂になさいますか? ご飯になさいますか?」

そう尋ねる奴隷妻をギュー・グェスは優しく抱え上げ風呂にすると答えて、そのまま風呂場に持ち込みまして。
この日の午後は泡姫ごっこで潰れました。
旦那様に求められちゃったら、応えるのは当然ですからね。




[38600] 68
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2018/08/01 12:52


 ☆139日め3、あたまがわるいの☆


「ご指名ありがとうございます。誠心誠意、ご奉仕させていただきます」
「グヒッ」

スポンジマットの上で三つ指ついて平伏する、にわか泡姫の頭へギュー・グエスは手を伸ばし撫で回します。
そして顎の下へ手をさし入れ、顔を上向かせました。

「‥‥あっ」

初手からの熱烈な口付けに、全面降伏するしかありません。そのまま夫の膝の上に抱え上げられてしまいました。

「キョウ、オレ」

我が夫にしてご主人様はご奉仕されるよりも、したい気分だそうです。
忠誠を誓った愛奴としては逆らうなんて思いつきもしませんので、されるがままに身を任せます。

「マタ、ヒラケ」

察しの良い夫から命令という形の許可を貰い、丸太のような‥‥いえ本当に並の丸太より太いグェスの左腿に腰掛
けた姿勢で私は両の腿を開きました。
見られてる。
何十という目が私のあそこを、殆ど閉じたままなのに、お漏らししたみたいに濡れてる肉の割れ目を見つめてる。
初夜以来、延べで500回は男の迸りを受け止めてきたけど、まだ初々しい見かけを保っているのです。
外から一見しての形だけは、開通前と殆ど変わってません。

ギュー・グェスの指に優しく撫でられると、スジ状の割れ目がますます濡れそぼりながら開いていきます。
私の見た目は北方系日本人の幼女に似ていて、肌の色素が薄く特に腿は抜けるように白いのですが‥‥腿の付け根
のあたり、普段はショーツの布地が二重になっている部分で隠しているところだけは濃いめの桜色に染まってます。
この色はもうお子ちゃまじゃない証拠、発情した人間雌の色です。

そのなかで蕾が綻ぶように軟らかい肉がほぐれていく。
肉の花弁が、ご主人様の精を受け入れるために自ら開いていくのです。


この二ヶ月余り、毎日欠かさず雄と接し続け、愛と情けを注がれた幼女おま○こは立派に性徴しました。
まだ一度も子を産んでない不完全品ではありますが、肉玩具としてならそこそこ使い物になります。
顧客満足度も再利用率も高いですよ! 人気の半分は身内贔屓だけど。

一掠二盗三妓四妾五妻でしたっけ? 違ったかな?

人間族とは逆に、オーク夫は妻へ最もそそられるのです。そしてオーク息子はマザコン拗らせてるのばっかりだ。
いや、夫たちはともかく義息子たちの殆どは私がトドメ刺したのか? 性癖的な意味で。
えっちの最中、膣出しのときなんか特に良いんですよ、「かあさま」とか「ママ」とか呼ばれるの。
思わず母性が目覚めちゃいます。


え? 日記の105日めと106日めの日は男っ気なしだったろう‥‥って?
良いんですよ。そのときもお腹には立派な雄が、グェスと私の息子が入っていたんですから。

未だ見ぬ我が子は、授かった日から毎日絶えることなく母のお腹を満たしてくれています。
私がいないとこの子は生きていけないけど、私はこの子がいないと生きている意味がない。
馬鹿で屑な、羅刹系下衆の外道でも生きていて良いんです。この子が毎日それを教えてくれる。



今日の出し物は公開泡姫ごっこの筈でしたが、泡を立てる前に絡みが始まっちゃったので別物になってます。
全裸に奴隷首輪だけの姿で、同じく全裸に首飾りだけのギュー・グェスに弄り回されて、その姿を留守番
してる義息子たちに見つめられてる。

幸せだなあ。

わたし、こうしているときが一番幸せなんです。
人間雌は畜生ですから。畜生は愛玩動物(ペット)として暮らせるならそれが一番。

ペット生活は最高ですよ~ もう脳が蕩けそう。
毎日毎日、食べ放題の寝放題で遊び放題。
妻として夫に、妾として旦那様に、娼婦としてお客様に抱かれ放題。抱き放題。

実は私、とっくの昔に娼婦だったのです。温泉洞窟に居候し始めた頃から。

だって 娼 という字は元々 謡い女 の意味ですから。唄を歌って男を喜ばせる女のことですから。
男に抱かれた商売女は、良い声で啼いて喜びを表現します。
つまり淫売女はみんな唄を歌うし、歌う女はみんな淫売なのです。

余所はともかくバレンの新地下神殿ではそうなのです。
誰にも触れない偶像(アイドル)に意味なんぞあるもんか。

鼻歌から楽器を携えての歌唱、そして一人風呂での戯れ歌まで温泉洞窟のオーク達は私の歌を愉しんでいて、
私も気の向くまま彼らの求めるままに歌って楽しんでいました。
今も声で楽しませてます。彼らと触れ合っているときもそうでないときも。


結婚と売春が本質的に同じだとすれば、巫女と娼婦も本来同じものの筈。
妻とは旦那様専用の淫売のうち最上位にある‥‥違うか。
対等な人格と認められた生涯の相方(パートナー)が、夫専用の淫売と孕み袋を兼業してるのが 妻 なのです。

そして 婦 というのは本来 祭壇を清める女 の意味。神殿であるいは家庭で祭儀を仕切る女のこと。
女がヨ(手)で市(掃除道具)を握っている姿を表しています。 
祭儀を仕切る = 家庭を仕切る = 女達を仕切る = 女達の中で一番偉い = 家長の配偶者 と、いう
訳ですね。いや、古代においてはむしろ 婦人 が家長だったのかな?

一番強くて甲斐性のある男でないと、祭儀を仕切る女を独占できなかったのかもしれません。
つまり古代社会において、祭壇を清めることは「私がこの家(巣)の女を纏めます」という宣言になる。
祭壇は部族(トライブ)や一団(バンド)の精神的中枢で、祭壇の管理者って身内のなかの身内がするものですから。


今更ですが。
ミッシェル山の広場で、他の巣の連中へ誉め殺しみたいな勢いで惚気られた(日記28日め)理由が解りましたよ。


原始社会の風俗を残すオーク島で、保護した幼女が拙い手つきで料理して家主達にご飯食べさせようとしたり、
恥ずかしがりながら素っ裸で一緒にお風呂入って背中流したり、祭壇と神像を完璧に手入れしたりした日には‥‥
どう見ても嫁入り志願者の花嫁修業姿です。
オーク島では物語の中でも滅多に出てきませんって、こんな野郎の妄想を煮詰めたようなナマモノ。

いつ押し倒されても良いように、ロリっ娘が毎朝毎晩おま○この手入れしてて、しかも時々我慢しきれず家主たち
をオカズにおな○ーじみた事しているのですよ。

なにこれ、頭の悪い同人エロゲのヒロイン?


当時のギュー・グェスが弟たちにやっかまれていた訳だ。
彼が突出して多かったですからね、私が名前を呼ぶ比率が。

いやその、あの頃はオーク族の五感を舐めてたというか想像の枠外でしたので。
焚き火の反対側にいる女の心音を普通に聞き取れますからね、彼らは。
人が犬の尻尾を見るよりも、オークが人の鼓動を聞き取る方が容易い。そして匂いは音よりも遙かに雄弁だ。

幼女が、身だしなみというには出しちゃう声がえっちすぎる作業の最中に、思わず口に出してしまう名前を聞いて
どういう意味か解らないエロモンスターなどいやしません。
実際、居候時代にときおり見てしまう淫夢でもグェスの出番が一番多かったし。

淫夢といっても当時の私にとっての、ですからそう過激な路線ではありません。
今の蜜月延長戦と比べたら離婚間近な倦怠期夫婦の日常みたいな内容でして、グェスと私の結婚披露宴前に二人きり
でお風呂でやったアレコレや、その直後四人でやった事や、婚前旅行でミッシェル山に泊まったときドスとウォスに
可愛がって貰った事の方がずっと刺激的でした。

オーク族の嗅覚は犬並です。視覚で喩えれば、人間族の感覚は彼らと比べれば盲目に等しい。
ミミズだって日向と日陰ぐらいわかります。私の嗅覚は彼らと比べればその程度でしかない。
当時の私が、隠れてやっていたつもりの色々を、誘い受けの焦らしプレイというか 性 的 な 挑 発 だと
下っ端たちは受け取っていた訳で。

いやその、挑発というかガス抜きのつもりで意識的にやっていた事も色々ありますけど。スリップチラとか。



他はまだしも祭壇は‥‥ねえ。言い訳できない。
居候が、厄介になっているその家の仏壇を手入れなんて、普通はしませんよ。前世の日本でも。
心理的距離感が完全に狂ってる。当時の私がいかに危なかったかという証拠です。

オークに首輪付けられて飼われているドM牝畜、という設定の女神様の像を毎日嬉しそうに磨きあげ髪を梳り、
日替わりで趣向を懲らしたえっちな衣装を着せて、淫らであっても下品にならないよう考え抜いてポーズ取らせて、
飾り立てていたのです。
本人もオークの首輪を欲しがっているようにしか見えませんって、そりゃ。

地球でいえばミニスカートのような意味を持つ、ぎりぎりな丈の毛皮服を与えられたら割と、いえかなり気に入って
着こなして、それの送り主とお出かけするときに着て、送り主の肩に乗って見回りとかしてましたからねえ。

ラッキースケベ的な接触があっても、恥ずかしがったり困ったり拗ねたり叱ったりするだけで本気で嫌がらない。
あげくの果てに遊具にのって、満面の笑顔で下着を、それも半透明素材で中身が透けて見えちゃうのをモロに
見せびらかし‥‥。

客観的に見て、なんてエロっ娘だ。
態度がこれだと、「いまは無理だけど、いつか必ずご恩を返します」という発言は「おとなになるまで待って」に
しか聞こえません。
実際、問題なく孕める身体だと知った次の日にはグェスに求婚しましたし。重婚にも即、了承しましたし。


エロ大好きな色狂い幼女だったのは確かです。
見られるの大好きでしたし、毎日一緒にお風呂入ってましたし、一緒に寝る夜もあったし。
準備が整う前に初潮が来てしまったら、島から出ることを諦めてお嫁さんになろうと思ってました。


東方へ転移してからますます淫乱に磨きがかかって、前世で中学生男子やっていた頃より更に脳内エロまみれです。
私の所為じゃありません。誰かに治療してもらったときの副作用で直ぐにえっちがしたくなっちゃうんです。




みんなが見ている。
腹の膨らみかけた雌奴隷が、腹に子を宿してくれたご主人様に、膝の上で可愛がられてしまう姿を。
ご主人様の太ましい指で割り開かれ露出した桃色の粘膜を、見つめられてます。
はやく雄を受け入れたくて、精を搾り取りたくて涎を垂らしている雌穴を視姦されちゃってます。

貴男たちにも、もう何回も何十回も見せましたよね。触らせたりしゃぶらせたりもしたじゃありませんか。
処女膜の破れ残りがまだ付いてる雌穴にち○こ生ハメさせてあげたし、子種だって膣出しで何度も何度も、
最後の一滴まで受け止めたのにまだ見たがるなんて。
貴男たち、本当にロリータま○こが大好きなんですね。
言い逃れは赦しませんよ、みんなしてカティちゃんの未開通おま○こにも釘付けでしたもん。
ロリっ娘ならなんでも良いのかこの節操無しども。

「ひゃんっ!」

指で膣口を撫で回され、危うく逝かされそうになりました。
意表を突いた指の動きに、観客の義息子たちへ逸れていた意識が引き戻されます。

「ルェイ」

あ、ちょっとだけど嫉妬してる。グェスが妬いてくれてます。
嬉しい。新婚の癖にオーク式計算法でも片手の指じゃ数え切れない本数のち○こ咥え込んだ淫乱人間雌を、
今だけでも妻として束縛して独占したいんですよ、ギュー・グェスは。耳元の囁き一つで解ります。

顔を見上げて唇を突きだし、ずうずうしくお強請りする幼奴隷にご主人様は優しく唇を与えるのでした。


最愛の夫と口付けを交わしながらおま○ことおっぱい弄りまわされて、その姿を巣の仲間たちに視姦されちゃう。
ペット冥利に尽きます。
本当に幸せです。グェスの感じている幸せが、私の中で響いて共鳴している。
お腹に我が子を宿らせた可愛い妻を、可愛がるところを可愛がっている下っ端たちに見せてグェスは幸せを感じて
ます。私と出会ったあの夕方から、こうすることを彼はずっとずっと夢見ていたのですよ。




私は駄目な奴隷妻です。こんなに素晴らしい夫の所有物にして貰えたのに、まだ他のオークが欲しいのですから。
ご主人様が一人だけなんて耐えられない。三人‥‥ハラキズもいれて四人でも我慢できない。
浮気者なんです。
夫たちと婚約者だけでなく、ケサガケからエッビスまでの義息子たち全員の子を産んでみたいのですから。
一日一夜ごとに、みんなのことが大好きになっていくのです。


「ウメ。ゼンブ。ダレ、コ、デモ」

旦那様は耳元でそう言ってくれてますけど、そうもいきません。
だって次もグェスの子を孕みたいですし、最低でも夫一人につき4~5人は男の子を産まないとオーク妻失格です。
義息子たち全員との間に、義孫でもある息子オークをそれぞれ数人ずつ産むとすれば、それだけで100人近くに
なっちゃいます。
今現在立てている家族計画だと、100人産むには30年近くかかります。
そんなに待たせたら、オーク達の寿命が尽きてしまう。


それにオークだけを、男の子だけを産む訳にはいきません。
お腹を痛めて産んだ実の息子たちには、同じ腹から産まれた姉妹たちを奴隷妻候補としてプレゼントしたい。
生まれが特殊すぎる身としては、血を分けた親子兄弟姉妹で仲良くして欲しいのです。
母と娘が一緒に雌奴隷になって母娘丼というのがオーク婚の定番ですし。ルウとメイアみたいにね。

女の子も産みたいんです。
オークの妻になる喜びもオークの母になる楽しみも得たけど、オークの娘に産まれる幸せだけは一生味わえない。
だからせめて娘達には私の代わりにギュー・グェスの子として、彼以外との娘にもオークの子として産まれて欲しい。

生まれる前から、受精卵になった瞬間からの愛奴として産まれて、父親始めとするオーク達の愛を浴びて育って
欲しいのです。

父の子種で出来た娘が、父の子種で自分の妹か弟を作る。
いいなー うらやましいなー 神造生物の初代である私には絶対無理な幸せです。

私もなれるものならギュー・グェスの娘や母になりたい。
母や娘は息子や父の恋人にも妻にもなれるのに、恋人は妻にはなれても母にも娘にもなれない。
義理の関係か、なりきりのごっこ遊びをするしかないのです。

オーク的には本気ですけどね。特に人間族の文化に疎い下っ端たちにとっては。
ち○こ突っ込んでいる間は、義母だろうと神殿長だろうと奴隷で、下僕で、玩具で、愛玩動物。
そう教育してあるので、えっちの時にどんな関係だったとしても何も問題ありません。



睦言と口付けを交わしながらのおま○こ弄りで何度も逝かされたあと、尻穴調教の実演が始まります。
今度は四つん這いになってからお尻を突き出して股を開き、菊門を晒されてるのです。
二ヶ月余り丹念に手入れして貰ったお陰で、年齢相応かそれ以上に熟してきたのですがそれでも腰回りは貧弱でして。
股を開いた四つん這いだと、尻たぶを割らなくても全部見えてしまいます。

「シリ、チカラ、ヌク」
「‥‥むり、です。ごめんなさい」

こっちの穴を弄りまわされる姿は、さっきの絡みよりも恥ずかしい。
でもちゃんと見せてあげないと、尻穴を使った調教法を義息子たちに教えてあげないと。
見せるだけ聞かせるだけ嗅がせるだけでなく、いつか近いうちに実際にさせてあげる必要もあります。
尻穴を可愛がることも愛撫のうちですから、そっちの修行もしないと一人前のオークにはなれません。

まあ、その、アナ○ビーズ風の淫具で責められるのも悪くないと言うか、楽しくはあるんです。
夫の手で一粒ずつ愛を込めて挿入されるのも、おま○この絶頂に合わせて引き抜かれるのも堪らなく気持ち良い。
義息子たちとでも愉しめる筈です。
経験が足りないから技は拙いでしょうし、気も利かないでしょうけどそれもまた良し。

ああ、どんどん色惚けしている。エロモンスターに染め上げられてお馬鹿さんになっていく。
馬鹿で良いや。既に身も心も豚嫁なんですから、頭が馬でも鹿でも問題なし。






浄化の力を込められた数珠状の淫具を詰め込んでは引きずり出す、単純な責めでも淫乱なこの身体は容易く燃え
上がってしまいます。
女神様も太鼓判を押す美声で、女の喜びを歌い上げてしまうのです。


もう我慢できない。本物のえっちがしたい。旦那様の素晴らしいお宝でロリータま○こを再征服して欲しい。
生の膣出しこそえっちの本道。孕まSEXこそえっちの王道。
人間雌の腹に子種を注ぐのは、雄オークの最高の愛情表現です。
まだ孕めない幼女も、もう孕めない老婆も、孕むには痩せすぎな乞食女も、孕んじゃいけない女騎士も一発で
堕ちちゃいますもんね。

対空ミサイルが直撃した飛行機が普通は落ちるように、オークが渾身の愛を込めた精を受けた人間雌は堕ちる。
よほど普通じゃない女以外は陥落します。


己の命を削って与える。これ以上の愛があるでしょうか。
生まれついてのエロモンスターである彼らは房中術を体得しています。
挿入と膣出しで生命力を女の胎に注ぎ込むのです。

オーク島の女達がお肌つやつやな訳です。彼女達は夫や愛人が命を注いでくれているから健康で、だからこそ
彼女達は夫たちに従うのです。


神々しささえ感じる、愛しいち○こに縋り付いてしまう。
何十本と咥え込んできたけど、やっぱりグェスのが一番ですね。これで女にして貰ったのだと思うと感謝と尊敬の
思いが溢れかえってきます。

屹立する夫のものへ、敬意を込めて口付けます。
美しい。オークの性器ってなんでこんなに素敵なんでしょうか。

生命力の塊。勝利と征服と支配の具現。繁栄と豊穣の象徴。
すべての人間雌に、いえ人間雄にもオークち○こは快楽と幸福と安寧を与えてくれるのです。
もちろんエルフや獣人や、その他の生き物にも。


「クアー」

さあ、いよいよというところで、ソーニャさんの使い魔が壁際から跳ねてきました。ぴょんぴょんと。
見れば嘴に霊薬(エリクサー)の小瓶を挟んでいます。

そういえばグェスが戻ってくる前に、渡されてましたね。服を脱いだときに置いてそのまま忘れてました。
飲めばえっちの新たな地平が望めるとかなんとか言ってたけど、バ○アグラの類ではなさそうです。
まあいいか、お師匠様が体に悪いものを寄越す訳もない。
悪戯アイテムだとしても、それはそれで楽しめるでしょう。

ごっくん。味は普通。


お、おおっ なんだこれは。
グェスのち○こが小さくなっていく!?

ちがう、私の方が大きくなっているんだ。どんどん伸びて‥‥広がっていく。
僅か数秒の後に、私はグェスよりもアンドレよりも大きくなっていました。
身長の話ですよ? 体重はグェスの方が、巨大化してもまだ重いです。


ソーニャさんから貰った霊薬(エリクサー)は、「巨大化(グロース)」の効果があるものでした。
「巨大化」の霊薬は飲んだ者の肉体を縦・横・奥行きの三次元全て二倍サイズにします。
身長が140㎝だとしたら280㎝に、そして体積は8倍になる。人間を一時的に巨人化する効果ですね。

巨人化するので力が上がり、身体も強靱になります。
ただし魔法効果によるなんちゃって巨人なので、本物の巨人族ほどの力はありません。
精々半分かそれ以下でしょう。ゲーム的に言えばダメージスケールを×2にしてくれます。

強化手段としての上位互換である「巨人力の腰帯」があれば、戦闘に関しては使いどころが限られます。
腰帯は身体の大きさは変わりませんが、ダメージスケールを×4にしますからね。
フル装備状態の私が「巨大化」の効果を戦闘で使うと、的がでかくなる分だけ不利になる。
巨大化と腰帯の力が合わさって×8になったりはしません。

なお、本物の巨人族が「巨人力の腰帯」を身に付けても何も起きません。
ダメージスケールの低い半端な巨人以外には、只の飾り帯でしかないのです。
本物の巨人族が「巨大化」の霊薬を飲んだらどうなるのかな? 
試した人がいないなら、いつか実験してみたい。


私が実戦で使うにはもう一つな霊薬ですが、布団やスポンジマットの上で組み合うなら話は別。

「ちょ、ちょっと待ってててくださいね!」
「アワテル、ナイ」

無限袋から「巨人力の腰帯」「持ち運びの腕輪」「怪力の指輪」を取りだして装備します。
いまの状況にはこの組み合わせが最適なのです。
人食い鬼腕力の籠手を付けてのえっちとか、上級者向け過ぎる。

これで
筋力的な意味でも運搬能力的な意味でも、平均的な丘巨人の12歳(相当)少女以上になった筈。


つまり、今の私ならグェスを抱っこできる!! 
あたま撫で撫でだって、上からできる!

とりゃっ 抱きつき! ぎゅーっと抱きしめ!

はー ちっこいグェスって可愛い。
比率的に、彼が小学校低学年なみに小さくなったも同然ってことですからね!
入学式で良く見る、新入学生と年長児童の組み合わせみたいになってます。彼の方が首一つ半ぐらい背が低い。

腕の力を緩め、ギュー・グェスと見つめ合います。
サイズが小さくなっても、眼力はそのままですね。強くて優しいご主人様の目だ。

見上げられるってなんか新鮮。
ショタっ子が旦那様な若妻は、こんな感覚なのでしょうか。

く、口も、小さくなってますよね。容積八分の一ですから。
この可愛らしくなっちゃったお口と口付けしたら、どんな感じになるのかな。
舌も小さくなってるし、普段とは全然違う筈です。


い、いや、その前に、深かったり浅かったりする粘膜接触より前に、アレをしなきゃ。


握手を!  し ぇ ー く は ん ど をしなくては!



だって私、一度もまともな握手したことないんですよ夫婦なのに。
恋人繋ぎも手四つも出来なかったんですサイズが違いすぎるから! 
ダンスといえば私が踊るだけでしたし。
踊りを見て貰うの大好きですけど、一緒に踊りたいときだってあるんです。

はっ そうか、今なら普通に腕を組んで恋人歩きできる! 腕枕も膝枕も余裕です!




で、では、いきますよ。

差しだされるグェスの右手を両手で包むように、握ります。
ただそれだけで、感触の甘美さに思わずへたりこんでしまいました。

見て良し触って良し。触られても良し。
グェスの手って、本当に良い手なんですよ。もうそれだけで彫像に出来ます。

太ましい胸板や立派な太鼓腹も格好良くて大好きですけど、特に手が好きです。グェスの身体。
男前な顔とかも好きですけど、本人は口が大きすぎるのを気にしてるんですよね。
まあ、容姿の感覚は人それぞれです。
誰かにとっての絶世の美女が、別の誰かにとっては人三化七の醜女だったりしますし。


押し頂いた手に頬ずりする、この幸せ。
飼い主に頬をすりすりする子犬の気持ちが解ります。

触り心地を楽しんだあとは、味も見てみましょう。
口付けして、舐めて、甘噛みして、口に含む。

うーん、元々人族よりもオークの方が手が大きいので、巨人化してもグェスの手と私の手と殆ど同じ大きさ。
拳を丸呑み、は到底無理です。
でも指ならおしゃぶりできます。
普段はフランクフルト・ソーセージ大のご主人様の指が、シャウ○ッセンぐらいの大きさになっている。

美味しい。舌がとろけそうです。
これは止められない。「大きいだけが取り得じゃない」とサラさんが言ってましたけど、本当だ。


はっ いつまでもこうしていたいけど、そうもいきません。
巨大化の霊薬は7時間しか効果が続かないのです。つまりあと六時間ちょっとしかない。

次の行動は、えーとえーと‥‥





 ☆139日め4、小物は所詮小物☆


無理です。入りません。
呆然とする私の頭を撫でつつ、グェスは首を振ります。

「デキル、ナイ、スル、ダメ」


彼の言うとおり不可能です。
手加減一切なしの、フルパワー状態なグェスのち○こを受け入れる事はできません。
巨大化しているのに、どの肉穴でも入り切りません。


結局は八分の一比率になっただけですからねえ。
元が小さいから、巨大化してもたかが知れているのです。

前世日本の小学六年生平均と比べても小さいですからね、この身体。
容積2リットルが250ミリリットルになっても、やっぱり無理。

体重30㎏未満ということは、体積的に今の私は人間の大人の約半分かそれ以下。
つまり10歳児にとっての250ミリリットル缶は、20歳の500ミリリットル缶に匹敵する。
皆さんも年齢一桁の頃は、袋菓子一つでお腹が一杯になったりしませんでしたか?

暇な人は手近にある500ミリリットル入りの飲料水缶かペットボトルが、自分の身体に入るかどうか
試してみてください。貴方は口を大きく開けて、一本のペットボトルを丸々呑み込めますか?
普通は無理ですよね。
しかもコーラ缶とかと違って、人ハーフオークのものは先端部分の方が太い。
キノコで言えばマツタケ系の形してるんです。




巨人族の女でも、経産婦じゃないと入りきらないって‥‥性能過剰にも程がある。
並の丘巨人のものより立派なんですよ、夫たちのは。

いや待てよ? 大型の豚は体重でいえば巨大化した私よりも更に重たいですよね。
雌でも300㎏以上いくわけですし。
大柄な雌豚やそれに匹敵する体格の雌巨人を孕ませるための大きさなのだとすれば、理屈は合います。
体重20㎏の幼女から体重400㎏の巨人女まで、全て征服できるち○こなのですよギュー・グェスのは。


両の掌をつかって優しく包み込むように、屹立するものを握ります。

近い将来、あと半年以内にこの全力全開ち○こを受け入れられる、筈。
今だって無理すれば入らなくはないのですから。たぶん無理したら裂けちゃうでしょうけど。
手加減抜きのち○こで再生服して貰うのは、子供を産んでからにしましょう。

グェスもそう望んでます。愛妻に決して無理させない、過保護で頑固者の旦那様が大好きです。
無事第一子出産の暁にはご褒美に、前より広がるのに締まりが良くなった雌穴に突っ込んで貰わなきゃ。

なるに決まってます。実例がオーク島へ行けば幾らでもあります。
もし出産で が ば が ば の ゆ る ゆ る になったとしても、触手くんが直してくれますよ。


ん? 確率論で言えば確実にいますよね? グェスと同等かそれ以上に立派な武装をしたオークが。
オーク島の女達はどういう方法でそれに耐えているのでしょうか。

いえ、物理面ではなく精神的な意味で。
あれだけ仲睦まじくしているからには、本気モードのち○こを受け入れたいと思うのは当然。
眼鏡の奥さんとかの良妻たちは、夫に窮屈な思いをさせていることを心苦しく感じている筈。

何回も赤ん坊オークを産んで収縮力上がっているとはいえ、生身の人間しかも特にレベルが高い訳でもない
奴隷妻たちの身体が、オークの感覚で巨根な逸物に物理的に耐えられるとは思えない。
しかし精神的な意味で耐えられないであろうことも、また事実。
愛しい旦那様の情欲を受け止める、 激 し い 交 尾 をしてみたいという欲求をどうやって抑えている
のでしょうか。

それとも、精神的には耐えも抑えもしてなくて、彼女達は戦士オーク基準の激しい腰使い大して物理的に対抗
できているのでしょうか?


はて? 明らかに無理な大きさのものが割と素直に入っていくのを見たような記憶が、あるようなないような?
ロリ嫁と巨漢旦那の本気えっちは大神殿の中庭とかでなら、ありふれた光景だった気がします。

むう。細部の記憶があやふやですね。
向こうからわざわざ見せびらかしてるんだから、余所の夫婦性活をもっと詳しく熱心に観察しておくんでした。
無理か。闘技場では舞台の上に集中してましたし、中庭とかでは自分たちのえっちに夢中でしたよ。
一回目のミッシェル山参拝では、恥ずかしくて絡みを注視とかできませんでしたし。


まあいいか、後で調べよう。





 ☆140日め、意味はあるはず☆


おはようございます。バレン地下神殿の教主にして、廃都を統べるオーク王の愛奴妻、レイちゃんです。
昨日は思う存分グェスといちゃつき倒しました。
途中で数えるのやめたけど30回は意識飛ぶくらい逝かされちゃいましたし、10回近く射精して貰いましたよ。


半日潰したわりに回数が少なめなのは、えっち以外のスキンシップもやり倒してたからです。
ちなみにアームレスリングなど力比べ系は全敗です。赤子の手を捻るようにやんわりと負かされました。
あの薬は長くても7時間程度しか効果が続かないのが難点です。


巨大化、良いですね。
信仰魔法の第五位階呪文に、今回使った霊薬と同じ効果を発揮する「巨大化」がありますので、修行に励む
理由がまた一つ増えました。
出産する頃にはプリーテス5レベルになってると思うんですが、予定は未定にして決定に非ず。


巨大化プレイ。これは確かに性生活の新たな地平です。
普段と同じ事しても全然違うし、普段はできないことが出来てしまう。
巨大化しても出来なかったことも多いけど、そのうちの幾つかは時が解決してくれます。。





なんか、吹っ切れた感じがします。アレコレ先のことを思い悩むのは止めました。
大事なのは心配する事じゃなくて、心配なことに備える事ですからね。


昨日の心配が何かと言えば、私たちの巣の戦力には限界があり、しかも信頼できる味方はオーク島の住人達だけと
いう現状な訳で。
仮想敵の一位が西方列強で二位がトカゲ帝国である事を考えると、正直絶望的な戦力差です。

向こうは世界有数の大帝国でこっちは小島の蛮族ですからねー。 
カメハメハ王朝全盛期のハワイ諸島VS大英帝国よりはまだマシな戦力差だったりしますが、島嶼のみ支配して
いる勢力側に勝ち目がない点では同じだ。


まあ今すぐ攻めてくると決まってる訳じゃありませんので、少しずつでも自軍戦力を積み重ねていきましょう。
キノコは一夜で生えてきますけど、その準備のために菌糸は何年もかけて伸びていくのです。

オーク島なのですから、手っ取り早く戦力強化するならオーク戦士を増産しなきゃ。
子供を産んでくれる女をたくさん用意して、どんどん孕ませなくてはなりません。

信頼できるオークの数さえ揃えば、なんとでもなります。
教育改革の成果がでてきましたからねー。まだ仮説の部分が多いけど運用上の問題はありません。
現にウチの巣では、弱いはずの下っ端オーク達が、僅か数ヶ月で嫁取り戦出場を狙えるところまで来ている。

現状大して強くないオークと、はっきり言って弱い人間雌との間に産まれた子でも確実に強くしてみせます。
3年以内に、マリアの腹にいる子がミッシェル山大神殿から嫁を勝ち取って来るようにしたい。

‥‥エーリカやスィールクたちの子の方が例として解りやすいかな? 
マリアも断じて凡人ではありませんから。


大口(ビッグマウス)叩いている気はありませんよ。
ゴエモンたちは近日中に嫁取り戦に出られる実力になりますし、コブハナたちを下っ端と呼べなくなる日も直ぐに
来るでしょう。現在はアドニスとブルボンがオーク島生まれでは最弱で、星3未満ぐらいかな?
ゴエモン達も星2ぐらいには上がってきました。やはり嫁持ちの方が成長効率が良い。
現状でもこの調子なのです。年単位でデータ蓄積が進めば更に良い結果が出せるはず。


問題は、妊娠出産子育ての間どうやって女子供を守り抜くか、ですね。
夫たち義息子たち、そして実の息子たちも懸命に戦うでしょうがそれでは犠牲が出過ぎます。
現にイシカワは死んでしまった。

男達の負担を減らすために必要なのは即戦力の参入、そして今いる女達の速やかな戦力向上。
足手まといが減れば戦力が増えたのと同じ事、です。
なので女達にも体育の授業的なことを始めてます。押さない走らない喋らないを徹底させるだけでも、緊急時の
安全性は大きく違う。


何をどうしても、一年で赤ん坊が大人になるオーク達ほどには、人間は急成長しません。
人間の子が戦力になるのは産まれてから10年以上かかります。
実年齢一桁で大魔法使いになったルーナは例外中の例外です。ソーニャさんだってその歳の頃は只の腕白さんでした。



少しでも戦力を上げようと、巣のみんなで色々努力しているのですよ。

「これは、なんか違う気がするけどねえ」

と、眉をひそめながらもサラさんは鎧の試着をしています。
大柄で筋肉質だけど、過度に引き締まってなくておっぱいとおしりが豊満で腰はくびれている。
サラさんの身体って本当にえっちだなー。20年以上オーク汁を浴び続けるとこんな肢体に育つのかな?
色々な要素が積み重なって健康増進したことと、毎日魔法のブラシで手入れした甲斐あってサラさんの長い黒髪は
いろ・つや・こし・量感どれをとっても完璧な状態です。


魔法の品であり介添えに私とアリアドーネが付いてますので、肌着姿から完全武装まで3分と掛かりません。
外見は西洋式甲冑(ライトプレートアーマー)ですけど、戦国日本の当世具足や現代地球の防弾服の影響が強い構造
なこの鎧は、本日朝に完成したばかり。

一見するとごく普通の女性用軽量板金鎧ですが、ここをこうすると‥‥

「グヒ?」 「グヒー!」

周りの野次馬がどよめきましたように、胸当て(ブレストプレート)の一部が外れる構造になってます。
板金とドラゴン革で出来てる胸当てが観音開きで外れると、乳房が丸見えになります。
コルセットで胴を絞ってるのにブラジャーは付けてないから、サラさんの立派な胸がさらけ出されるのです。

これは従軍乳母用の甲冑なのですよ。

年増だから張りは若い子に及びませんが、雄どもの玩具になって長いサラさんの乳房は色気たっぷり。
母乳がでるようになる呪文を使えるようになってからは、毎日自分に掛けて地下神殿で母乳支給してます。
おっぱいが足りなくて困っている信徒達へ、余っている母乳を分け与えているのですよ。

ここは女達の駆け込み神殿ですから、乳に困っている母親や赤ん坊のためにミルクを常備しておくのは当然。
サラさんやルウ、ときどきは私も母乳を与えています。
哺乳瓶も50個分は確保しましたし、搾った母乳を無限袋に詰め込んで備蓄してあります。
地下神殿の女達は勿論、オーク達にも哺乳瓶の使い方やおしめの替え方の講習しています。


神殿長の私が3レベルプリーテス(アコライト6レベル相当)。
元傭兵系冒険者にして生まれながらのオーク・ラヴァーなサラさんが4レベルアコライト。
元巡礼の農婦系愛奴妻、ルウと元貴族令嬢の義娘妻、アリアちゃんは1レベルアコライト。ただし二人とも
近いうちに昇格するでしょう。

私がいないときでもサラさんや他の見習い尼僧たちがなんとかしてくれるのは有り難い。1レベルのアコライ
トでも僧侶呪文の入った魔法具を使うことができますので、簡単な処置や治療なら任せておけます。


従軍乳母とは何かと申しますと、オーク族の旅や軍事行動に同行して、旅先や戦地で拾った赤ん坊や幼児に
母乳を与える役目に就いた雌奴隷のことです。
かつてのソーニャさんも参謀や斥候や従軍娼婦と兼業してやってました。
当然ながら、似たような設計思想の服や鎧を身につけていたこともあります。


オーク族はたとえ人間(ヒュー)族であっても赤ん坊が好きですし、幼子に罪がないことも知っている。
幼い頃から愛情込めて育てれば、人間族の男の子も健気で一途な愛奴。

だから普通の‥‥とまではいかずとも少なくない比率のオーク部族は、長い旅には従軍乳母を連れて行きます。
従軍乳母は巣で養う子供達には巣に帰るまで、そして事情が許すなら帰ってからも乳を与えます。
養えない子供達には、その子達の身の振り先が決まるまで乳を与えます。
自分たちで育てることが無理だとしても保護した迷子や捨て子を安全な場所へ、より良い引き取り手の所にまで
送り届けることはオーク的に推奨行動なのです。

幼い子供、特に乳幼児を世話するための乳母役を、同行する「戦える女」に任せる訳ですね。
その結果生き延びた子供らに恨まれてもそれはそれで良し。怨みの念で強くなった勇士と闘えるなら戦士として
本望というもの。
こっちが好き勝手にしたことで恨まれるのは、当然といえば当然な事ですから。



さて。この鎧の問題点は、装備できる女が少ないことです。
サイズ修正機能付きの鎧なので余程の体格差がなければ‥‥流石に私は無理か。着込めません。
常識外の巨体や幼児のサイズには対応してません。ということはメイアも無理。
ゲーム的に言うと人間やエルフなら装備できるけど、オーガーやコボルドだと装備できないのです。

ぶっちゃけウチの巣で、これを装備するであろう女はサラさん以外にはアリアドーネぐらい。
コーネリアは一応使えるけど鎧着て前線に出ないし、エイボリンは甲冑着るとまともに歩けなくなる。
ソーニャさんは問題なく使えるけど、彼女は軽装備の方が強いですからね。授乳するのにも、いつもの
チアガール風衣装の方が便利だから使う意味がない。


で、アリアドーネに同じく従軍乳母用魔法甲冑の試作品二号を着せてみました。

「相変わらずぶっ壊れた感覚(センス)してんなぁ」

エイボリンが呆れているのは、設計した私へなのかそれとも着せられて喜んでいる幼馴染みへなのか。
騎士娘が来ている甲冑はサラさんのと違って胸当てが完全に分離する構造です。そして腰当ての全面部分も。
つまりガッチガチに固めた完全武装から、胸回りと股間だけが露出した逆ビキニアーマー状態に早変わり。

「リアのおっぱい、きもちいいですかご主人様?」
「‥‥イイ」

胸と股間とあとは顔面だけを露出した雌奴隷騎士が、マルマルの前に膝立ちでパイズリご奉仕しています。
本職娼婦も顔負けな巧みさで隠語を使い、旦那様を言葉攻めしている。
ついこの間まで生娘で、ち○こなんてろくに見たこともなかった筈なのに、なんでここまでご奉仕姿が板に付いて
いるのでしょうかこの娘は。マリアとは違う意味でオーク嫁適性高いなあ。



延び延びに延びていたアリアドーネ達の結婚式ですが、本日執り行われます。
これでウチの巣の女共も名実ともに全員人妻ですね。
前に言ったと思いますが、ルーナはゴォ・ドスに、カティちゃんはレェ・ウォスへ既に嫁入り済みです。

年齢一桁の幼女から三十路すぎの年増まで、全員が妊婦ですけどオークの巣なら良くある事だったり。
結婚式で処女を散らす初もの花嫁も良いけど、腹ボテ花嫁もまた格別。


今のうちに式を挙げさせないと、この後はルーナの双子出産が待っていますからね。
忙しくなる前にみんなの花嫁姿をゆっくりじっくり見たい。

ルーナの出産予定日は日記で言う145日めあたり。
エレナさんの出産が180日めぐらい、セアラとアリアの金髪黒髪姉妹が200日めぐらいかな?
私の子供が、早くて220日めぐらい。お師匠様の子が250日めから260日め。
サラさんとマリア、ルウとメイア、エーリカとスィールクの東方組が280日め前後に固まってて、カティ
ちゃんが290日めぐらい。
アリアドーネとエイボリンは人間の女の子を同時に孕んでいる関係で300日めぐらいまでずれ込む可能性
があり、コーネリアの子が一番遅くて340日めぐらいか。


むう。改めて進行表にしてみると、意外とばらけている気がします。
逆に固まり過ぎているよりは、ばらけ気味の方が良いか。
あと、ひょっとしたらルーナはコーネリアが初産迎える前に二回目の出産しているかも。
そこまではいかずとも、私を含めて何人かの女はコーネリアの出産前に次の子を孕んでいるでしょう。


いつも誰かのお腹が膨らんでいるのが、オークの巣の有るべき姿。
なので試作甲冑三号は、胸から腹そして下腹部とその下の腰当てまでを全部外して付け替えられるようにして
あります。
こっちは外すと、逆ビキニならぬ逆金太郎腹掛け状態になる訳です。

従軍えっちにも便利ですが、本来の目的はお腹の膨らみ具合に応じて部品交換して鎧を使い回す事でして。
交換用の部分鎧も、既に6種類ほど腹の膨らみ具合に応じて用意しましたよ。

これは一騎当千の女武者が 「妊娠後期になっても前線で戦う」 ための装備ではありません。
たいして強くもない女武者が 「やむを得ず戦に出るときに念のため」 に装備するものなのです。
敵の矢玉や潜入してきた刺客の刃を防ぐために作ったのですよ。

なので転倒対策や冷え対策は万全です。
鎧と一体化した装飾品(アクセサリ)系アイテムの効果で、真冬の雪山で野宿できます。
崖から落ちてもふんわり軟着陸しますし吹雪の中でも青姦ならぬ‥‥あ、無理か。
男の方も対策しておかないと、そっちが窒息する。 
ひどい吹雪だと呼吸もままなりませんからねえ、オークでも鼻の穴に雪が詰まってしまうのです。



胸と腹の膨らみを強調した造型なのは、この鎧は 孕 み 女 が 戦 う ことをオーク達に示す為。
まさに最終防衛ライン。
ここを抜かれたら、この鎧を着た者が倒されたときは戦えない女子供が蹂躙されるとき。


できれば使う羽目になりたくないですけどね。ボテ腹用甲冑は。
腕を組んで感慨に耽っている私へ、エイボリンが突っ込み入れてきました。

「なあ、最初から可変機能付きの魔法鎧使えば良いだけな気がするんだが」
「え?」

‥‥えっと、その。

「それだと授乳やご奉仕がしにくいでしょう?」

そうそう、それですよ。アリアドーネの言うとおりです。元々は従軍乳母用の鎧なんですし。


「ああそうか、元々お嬢が式で着る用だったっけ」

と、エイボリンは溜息をつきました。反対する気はないけど辟易しています。
彼女のファッションセンスに合わないようですね、この鎧は。



結局、アリアドーネは試作三号を花嫁衣装として式に臨むことになりました。
もちろん入城から退出まで、胸当てから腰当てまでの前部パーツは外したままで式を行います。

「結局それでいくのかい?」
「はい」

ルッニネツ風の花嫁衣装にドン引きされたことを、わりと根に持っていたサラさんの冷ややかな眼差しを浴び
てもアリアドーネは一向に気にしてません。
確かに、ドン引きしていたのは主に執事の娘と馬丁の娘で騎士の娘はそれ程じゃありませんでしたが‥‥

サラさんは、あの時既に自分も同じ発想の衣装で式を挙げる気だったのなら、主筋として家臣の娘達の態度を
窘めるなりなんなりしろと突っ込みたい気持ちで一杯のようです。

うん、御免。この系統の鎧を花嫁衣装にしたいと相談されたときに、私からアリアドーネへそれとなく言って
おくべきでした。
アリアドーネに頼まれたときにやっておけば、何の問題も無かったのです。
それを今になって気付くあたりが空気読めないというか、対人能力低いよなあ、私は。
爆発するまで地雷に気付けないのでは、爆弾屋はやってられない。


オークの遠征軍に従軍する雌奴隷の概念を知った直後に、この鎧を思いつくのだからアリアドーネって‥‥
うん、ひたすらエロい女の子の需要もある訳だし、これはこれで。

いろんな属性の女がいる方が、巣が賑やかで良いじゃありませんか。
ギャルゲーは幕の内弁当というかバイキング形式というか、品揃えが豊富じゃないとね。
揚げ物だらけで緑のものが枝豆とパセリしかない、安いオードブルセットみたいな巣は嫌だ。
かといって 生野菜のぶつ切り盛り合わせ をコース料理の一品として出す店は論外。


サラさんは大人なので言いたいことを飲み込んでますけど、アリアドーネは暢気に鼻歌を歌ってる。
逆の意味で凄いな。これが鈍感力か。
修羅の庭な東方世界で、騎士の娘やっていくにはああいう鋼の無神経が必要なのかも。

「アレを東方人の標準にしないでくれよ‥‥」

本気で同列扱いされるのが嫌そうな顔をしているエイボリンの選んだ花嫁衣装は、黒い魔女帽子に黒い外套、
その下は薄い黒の透明下着(ショーツとストッキングにガーターベルトそしてスリップ)セットです。
ブラジャーはなし。
帽子と外套を取れば、夫を寝所へ誘う新妻そのものな恰好ですね。
ショーツを穴あきのものにするか普通のものにするかで相当悩んだ末に、形は普通のものにしてそのかわり
色が更に薄い、ほぼ透明なものにしたようです。

態度としては愛想悪くても、気持ちは一途なエイボリンは夫たちを楽しませようと知恵を絞ったのですよ。
確かにマルマルも私も好むであろう花嫁衣装です。

ええ。今夜の結婚式は私も当事者です。エイボリンの新郎ですから。
私、お嫁さん貰うことにしました。マルマルと共有で。
グェス達の許可も得ています。オーク島的価値観だと、オーク妻が重婚というか副婚して女の子を産んだり
産ませたりすることは浮気でなく、夫や息子たちへ愛と忠誠を示す献身的行為なのです。

結局は新しい雌奴隷を献上することになる訳ですからね。女同士だと女の子しか産まれませんので。
オークの巣で産まれ、オーク達を父や兄や弟や幼馴染みとして育てば自然と雌奴隷になるのです。

元々同性愛嗜好があったエイボリンは、女の妻になることに抵抗がない。彼女はネコ派なのです。
ソーサレスには、女同士で同居して実質婚状態になるのも珍しくありません。
昔から「おんなやもめに華が咲く」と言いますからね。
お伽話に出てくる、森の奥の一軒家とかに住んでいる魔法お婆の群れはそういう同性愛者達だったのかも?


女の妻になるのはよくても夫になるのは嫌なので、エイボリンは私やソーニャさんやその他の女に孕まされ
るのは有りでも孕ませるのは無しにしたいのです。
男には一筋なのに女には股緩いよな、エイボリンって。

「レイのこと大好きだしお師匠様を尊敬しているけど、こればっかりは勘弁して欲しいぜ」

既に私の子を腹に宿したエイボリンは、これからも何度でも腹に空きがある限り私の子を産むつもりです。
私も一人か二人ぐらいは彼女の子を産みたいのですが、本人が嫌がっているのに勝手に孕むのもなあ。

なお同性愛者としてのエイボリンの好みは、黒目黒髪のヒルデニア娘がど真ん中。
ぺったんロリよりも同年代からやや年下あたりの娘さんが好みなので、数年後に女として成熟した私に抱かれて
孕む日を楽しみに待つ気なのですよ、この魔女っ娘。


男の方の需要はマルマルだけで満たしきっているエイボリンですが、女の子に抱かれたい需要にはまだ空きがあ
るので、ソーニャさんは自分やルーナとの子も産ませようとしています。
孕まされる予定の側は割と乗り気でして、女相手だと乱婚や雑婚も抵抗感ないのですよ。
金髪娘も好きだし、ロングよりショートヘアの方が良いそうです。

エイボリンは次の次あたりに四つ子を産むかもしれません。オーク1人と人間の娘3人の組み合わせで、ね。


才能的に言えばサラさんとエイボリンの間に産まれるだろう子も有望なのですが‥‥

「あたしもお断りだよ。女は孕んでこそ、さ」

このとおり、断られてしまいました。性的保守派の説得は難しそうですね。
というか正真正銘の女なのに、女へ自分の子を孕ませることに抵抗感がないルーナの方が変なのかな?

私は脳構造が男のままですので、男の気分でいれば問題なし。
お師匠様は過去のトラウマと奴隷人生で 繁殖=大正義 になってる人ですので、むしろ積極的です。
もし十年ぐらい前に今と同じく女を孕ませることができる身体になっていたら、オードリーたちを孕ませまくって
いたでしょうねえ。


繁殖というか、生存と継承こそ正義であり真理という価値観を持っている点ではルーナも一緒か。
ルーナは自分に確定勝利できる雄または雌の子供だけを孕む気です。暴力の信奉者ですから。

この巣でいえばドスとその兄弟達+お師匠様の四人。
ルーナはソーニャさんの子なら喜んで孕みますけど、私の子は違います。
彼女がドスに降参したのは、体調万全な状態で闘っても勝ち目が全くないことを思い知らされたからです。

本物の王女様ですからね、ルーナは。血統を守ることが何より大事だと教育(洗脳)されて育ってます。
命根性の汚さは余人の及ぶところではありません。





 ☆140日めの2、しあわせのおうじさま☆


誰が悪かったのでしょうか?

トカゲ人の侵略から、神聖有鱗帝国の軍勢から祖国を守れなかった将兵でしょうか。
それともその侵攻に備えることができなかった王と政府でしょうか。
そんな王を上に頂いていた諸侯や騎士たちでしょうか。
弱者は食われるだけという現実が、異種族の帝国との間にもあることを忘れていた民草でしょうか。

ルーナは自分の所為だと思っています。
自分が弱かったから、ラゴニア王国は滅びたのだと。


‥‥これが全くの間違い、と言い切れないあたりがファンタジーな世界の嫌なところでして。
もしラゴニアにルーナ姫と同等の戦力があと数人いれば、勝てたかもしれないんですよね。
トカゲ人の侵攻軍にも戦力的限界はありますから。
ソーニャさんがその戦場にいれば一人で戦況ひっくり返していたでしょう。

某武闘大会に赴く某女子禁制の私塾代表選手団(定員16人)なみの戦力があるんですよねえ、ウチの巣は。
下手な小国の全軍より強いのです。
ドッペルゲンガーたちも入れれば、星二桁以上の戦力が10人以上いる訳ですから。

うん、コーネリアが正しい。というか昨日の私はどうかしてました。
ト○ガ王国あたりの王様か首相が「我が国は米国に勝てない! 第七艦隊が攻めて来たら一溜まりもない!」と
騒ぎ出したら、そりゃ秘書や家族から「いいから寝てろ」としか言われませんわ。
流石にトン○と米国よりは、オーク島とトカゲ帝国の戦力差は小さい訳ですし。

あ、言うまでもないと思いますが○ンガにも米国にも含むところはありませんので、誤解無きよう。
え? なら伏せ字はやめろ って? ごもっとも。



時の流れは戻りません。
東方文明圏から見て西南方向、ヴィーヤ盆地から直線距離で2000㎞ぐらい離れた地域にあったラゴニア王国
は滅びたのです。
人間同士の戦争と違い、トカゲ人に根こそぎ破壊されたルーナの故郷が復興することは有り得ないでしょう。

オークに攻め込まれたなら、男の大半が殺され女の殆どが犯される程度で済みます。
西方列強国に攻め込まれたなら、上記に加えて文化が破壊され尊厳が踏みにじられます。
オーク贔屓で言ってるんじゃありませんよ。
オークが文明的だなんて言いません。慈悲深いとも言いません。西方人のやり口はえげつないってだけで。

東方地域のオーク族は概ね野蛮ですけど、ペットの巨大狼がお腹空かせているからといって、その辺の人間族が
抱きかかえている赤ん坊を取りあげて、狼に食べさせるような真似はしません。普通はしません。


「プギィ‥‥」 「シナイ」 「サセナイ」

横で聞いていたダイコクたち地元出身のオークが、口々に同意します。
なんて酷いことを、といきり立っているのもいます。
前世の日本でいえば、炎天下の駐車場に停めた車内に乳幼児を置いたまま買い物に行く保護者よりも顰蹙を買う
行為です。
目の前でやられたら、ダイコク達なら勝機の有る無しに関係なく殴りつけて止めさせるかもしれません。


修羅の園な東方でも、ダイコク達を食い物にしていた野盗オーガーのような、情を通じた人間雌を食い殺す輩は
嫌われます。普通の、分別ある人食い鬼は、自分の種が女の胎に宿ってないことを確認してから食べます。

共食い、しかも自分の子を好んで食べちゃうのは、東方世界のオーガーにとってさえも悪癖。
トロルの場合は、そもそもトロルの子を孕んだ女自体が滅多にいませんからまた話が違ってくる。


あの外道が全方位から嫌われていたのは当然なのです。トロル紛いですからね。
ヴァダ市近辺のオーク達で、あの野盗オーガーを知っていた連中みんなして私たちに友好的でした。
よくぞ鼻つまみ者を始末してくれた、と。

死んだと聞いて誰もが手を打って喜ぶ輩というのは居るものです。
森武蔵や金髪の野獣にだってその死を悼む者は‥‥ええと、身内には居たはず。多分、きっと。
あのオーガーにはいませんから。

そういや丘巨人の頭目も、その死が全く惜しまれてなかったよなあ。人望とは普段の行いが大事なのです。



西方だとそんなことは日常茶飯事なのですよ。
妊婦の腹を割くというのは東方だと 「謀反を起こされる暴君の基本技」 です。
対して西方では 「娯楽の少ない地方貴族の暇つぶし」 ですから。
昭和の悪ガキが爆竹でカエルを木っ端微塵にするよりも気軽なノリで、妊婦かっ捌きますからね、連中。

見たんですよ。正確には見ちゃった。
遠隔視の水晶球越しですが、コーネリア関係で情報収集しているときに何気なくバッハリアとウルスの国境に近い
寒村を見物していたら偶然にも、ね。

地球の中世欧州より更に殺伐としているのですよ、西方文明圏は。
ええもう、地球の平均的欧州貴族がまだマシに見えるぐらい酷いのです。
某世紀末漫画のモヒカンどもがこっちの西方に転移して来たら、騎士の鑑扱いな精鋭部隊です。
だって彼ら、拳○さまには逆らいませんでしたから。

エリザベータ・バートリが善良な名君に見えるぐらい、西方世界の平均的貴族は暴虐です。
地球の欧州よりも更に、貴族と農奴の差が大きいからでしょう。特に暴力的な意味で。

というかですね、エリザベータ・バートリって、中世の欧州貴族でも やや素行が悪い 程度でしかないんです。
親族やご近所さんに本物の名君がいるから悪目立ちしただけの話で、領地の村娘さらって生き血搾って血の風呂
に入ることは、中世貴族的には悪事でも何でもありません。善行でもないけど。
現代日本の一般人女性が生卵で洗髪する方が、まだ非難を受けるでしょう。

エリザベータ・バートリの悪名が後世に残ったのは、 相 続 人 決 め ず に 死 ぬ という、貴族に
あるまじき無責任さ故です。

名君偏差値で言えば、地球の中世欧州貴族は平均でこの世界の西方貴族より15点は高い。
平均点以下の血塗れ貴婦人も、異世界へ来れば名君の仲間入りです。
年に20人や30人の下民を特に意味もなく血祭りに上げる程度なら、西方では領主として至って慈悲深い部類
ですから。


生き馬の目を抜く中世で、死ぬまで大した揉め事もなく領主やってこれたからには、エリザベータ・バートリは
ごく普通に領地を統治していた訳です。野盗が暴れたら追い払い、村々で小競り合いが起きれば仲裁する程度は
やっていた筈。常にでも熱心にでもなかったかもしれませんが、放置はしていなかったでしょう。

生き血の風呂にまで入る美容マニアなことと、相続手続きガン無視していたことさえ除けば普通か普通よりやや
悪い程度の領主だった訳です。日常業務は普通にしていたのですよ。
そうでなきゃ近隣の領主たちに目を付けられ袋叩きにされ、領地を奪われてますって。



指揮官としては駄目だったコーネリアが、兵から人気あったわけだ。
漁村的あるいは船乗り的一体感が思考の根本にある彼女は、平均的西方貴族と比べれば慈愛の女神様ですよ。
板子一枚下は地獄、死なば諸共一蓮托生、船長も水夫もみな家族! ですからね船乗りってのは。

ああ、大英帝国の皆さんは除きますよ。連中は人間じゃなくてブリカスですから。
舌が何枚もある生き物は人間じゃありません。外道です。


そうか、愚図愚図の愚駄愚駄だったオルロフ辺境艦隊って、人柄(素行)でいえばまだマシな連中だったのか。



話を戻すと、ラゴニア攻略に時間と資源を使いすぎたトカゲ帝国は根こそぎの収奪で帳尻を合わせました。
元の住人で逃げのびられた者は百に一人もいないでしょう。
王族からして生き残ったのはルーナだけ、しかもオークの奴隷としてです。
ルーナの実母である王妃様は今も元気にオーク島で異種姦してますけど、彼女は国外から嫁に来た人ですので。




さて、物思いに耽るのはこのあたりにしておいて、作業を続けましょう。

万能鋳造機でアルミやクロム系素材を使い、人造宝石の塊を作ります。
これらの人造宝石を数種類混ぜて組み合わして、作ってみたのがこの義眼。目玉そっくりな細工物です。

我ながら良くできてます。ルーナの本物と比べても見劣り‥‥してますね、確実に。
離れていたらまだしも、並べてみると違いが解る。
まだまだ研究の余地だらけか。

せっかく作った義眼ですが天然物には勝てません。でも当座の役には充分立つ。
ひと揃いの義眼を両眼へはめ込んで、金糸細工のカツラを被せて接着すれば、彫像として完成です。

「どうです、似てますか?」
「‥‥うん」

彫像を見たルーナの返答は涙と嗚咽を堪えながらの、短い言葉。
良かった良かった、上野の犬連れた人のみたいに身内から「ぜんぜん似てない」と言われたらどうしようかと。
水晶球で見た姿だけから造ったので、ちょっと不安だったのです。

「グヒッ♪」 「ルゥナ、アニ、イイ」

オーク達からも賞賛の声が挙がるこの像は、ルーナの兄上のものです。
性別と髪が強い癖毛なことを除けば妹そっくりな美少年‥‥美幼児像ですよ。

オーク達は程度の差はあれど子供好きで、なかには男の子を性的に好むのもいます。
美幼児像の股間でかっちかちに膨れた包茎ちん○や、今にも白いものを漏らしそうに吊り上がった玉々を見て
お稚児さん好きも喜んでいます。

全裸な王子像の姿勢はW字座り、別名女の子座りの座像。正座を崩して尻を地に付けた姿勢ですね。
男の子でもこのくらいの年頃なら、この座り方も苦痛ではありません。元男が保証します。

王子様像は座った姿勢で背筋を伸ばし、大きく口を開けてやや斜め上を見上げ、幸せな笑みを浮かべています。
その右手は隣の座像、彼の妹であるルーナ姫の像の左手と 恋 人 繋 ぎ で握りあっていたり。
ルーナの像も同じ姿勢で口を開けていますが、良く見れば二人の像はそれぞれのやや斜め上の空間へ集中して
いるけれども、僅かに互いを思いやり意識しあっていることが見て取れます。

うん、我ながら良くできている。今までで最高傑作かもしれません。

超絶リアルに造り、宝石細工の義眼を嵌め、ミッシェル山大神殿の職人に大枚叩いて彩色して貰ったこの彫像は
生きている人間そのものに見える‥‥と言いたいところですが口の中だけは違いまして、あえて非リアルな、
簡素な構造にしています。
一応、歯とか舌とか作ってありますけどリアルな口と咽ではなく、管や筒に近い。
 

「じゃ、次は設置ね」
「マカセロ」

双子兄妹の像を、ドスが抱えて歩き出します。原寸大なので座布団大の台座を入れても重量は300㎏未満。
ドスなら軽々と運べます。前世で言えば精々スーパーで売っている米袋程度の負担でしかありません。
万一落としても壊れませんよ。防水や防カビの処理と併せて耐久力強化の処置をしてます。


それにしてもソーニャさんはノリノリですねー。楽しそう。
ルーナは本人が発案したので同じく超乗り気。彫像の出来から解るとおり私も乗り気です。
西方組、もといオーク島式洗脳を受けているコーネリアとツァスタバ家の四人は割と普通に受け入れてる。
東方組はドン引き1、やや引き6、うっとりしているのが1。

「わ、私もそういうこと‥‥」
「サセナイ。オマエ、オレノ、ダケ、ベンジョ」

ふむ。引いていたのは主に「他の男なんか要らない」という想い故ですか。熱烈だなあエイボリンは。
式の後でお便女プレイとかしちゃうんでしょうねえ。
まだ解放前の精液用公衆便所を、今夜はこの二人だけの貸し切りにしてあげようかな?


おっと、設置の瞬間に立ち会わねば。
これも宗教行事ですからね。神殿の総責任者がいないと儀式になりません。


そしてその後つつがなく、双子像は神殿内部の部外者立入禁止区域にあるトイレに設置されました。

位置は男子便所の壁際で、便所の床より一段低くなっている窪みです。
兄妹像の手がちょうど小便器と小便器の間にある仕切りの下で繋がってます。

そうです。ルーナ姫とその兄君ロイ王子の像は、この便所に増設された小便器なのです。
オーク達の、そして遠くないうちに人間雄たちの尿を喜んで受け入れ飲み干す奴隷の像です。

さて、最後の仕上げに恋人繋ぎしている像の手に「浄化の首飾り」を巻き付けまして、と。
良し。効果発動!
これでこの兄妹像に浄水効果が付与されました。以後この像とその周囲に触れた汚物汚水は全て清水
に変わり、穴から下水管へと流されます。


「聞きなさい。雄神オールクゥスと女神エスティアの子らよ」

なんか天上から指令電波が来たので、適当に説法することにします。
もうこうなったらノリだけで勝負だ。

「罪はあがなわれます。
この姿をした者、ラゴニアの王子ロイ・ジョッケル・バブレス・ド・ラゴニアは、オークにひれ伏すべき
人間雄として産まれながら、その使命を知ることなく息絶えるという罪を犯しました。
この像は、その罪を僅かなりともあがなうために造られたのです。

人間の雄に産まれたとしても、正しき行いによってその罪は許されます。
即ち人(ヒュー)族の主であるオークに跪き、全てを捧げ、奉仕することでのみ人間雄は救われるのです。
女達よ。貴女がこれまで産んだ男の子もこれから産む男の子も、全て救われます。
何も難しくありません。貴女たちと同じように、全てをご主人様へ捧げ愛と忠誠を尽くすだけで良いのです。

既に貴女たちが知っているように、それは大いなる喜び。至福の幸せです。
人間雄であっても、ご主人様達の愛を知ることができるのです。
なんの取り得もない只の人間雄でも、ご主人様のおちん○を慰める肉穴になれます。
努力次第で、どんな女の口よりも気持ちの良いち○こそうじ道具になることもできます。
ご主人様に気に入って頂けたなら、牝に生まれ変わって孕み袋になることもできます。

何も恐れることはありません。全てを捧げましょう。全てを捧げさせましょう。
それが救われるただ一つの道です。


オークたちよ。
赦すことは強者の特権です。
全てを赦せとは言いません。いつでも赦せとは言いません。何度でも赦せとは言いません。
ですが一度ぐらいは、赦しても問題ないときぐらいは、ち○こそうじ道具に相応しい可憐な男の子ぐらいは、
赦される機会を与えてあげなさい。
全ての人間雌と同じく、彼らもまた貴男たちの奴隷として、玩具となるために産まれた生き物なのです。

嘘ではありません。人間雌と同じく、オークが愛をもって抱き真心を込めて精を注いだ人間雄は必ずオークに
ひれ伏します。
ですので、玩具にしたくなった人間雄は抱いてあげましょう。気に入ったなら肉便器として愛用しましょう。

オークたちよ。
貴男がたは偉大な生き物です。
貴男の逞しいち○こは全ての人間(ヒュー)を、エルフを、獣人を、小人族を、巨人族であっても征服します。
誰でも、何時でも、何処でも支配できるのです。

王侯貴族でも、名だたる勇士でも、人族は貴男たちに屈伏する日を、支配される時を心待ちにしています。
その日その時がきたならば、躊躇わずねじ伏せてあげなさい。
ねじ伏せ支配したならば、肉の玩具として肉の便器として使ってあげなさい。

オークたちよ。
救うことは強者の特権です。
救いたいときに救いたい者を救いたいだけ救いなさい。好きなように」





 ☆140日め3、ありませんよ☆


ルーナに飲尿趣味はありません。もちろん私にも。

ただルーナはドMなので「ご主人様のおしっこ浴びたい」とか「精液用肉便姫になってみたい」とかの
願望はあります。
兄のロイ王子とつがいの奴隷になりたかったという望みも、生きてさえいてくれればという願いも。

いや本当、廃人化していても生きていたら、ウチの巣で保護して治療してルーナと一緒に暮らせるよう
にしてあげれたのだけど。
死んじゃってますからねえ、ルーナとその母君以外は。
エスティア様に訊いたら「もう転生してます」とのご託宣がありました。なので蘇生もできません。


この逆小便小僧な像はロイ王子の冥福を祈るものではありません。供養しなくても既に成仏しています。
死者のためではなく生者の、これから肉奴隷になる男の子たちの為に作りました。
ルーナの産む息子を始めとする、この巣にやってくる可愛い人間雄奴隷たちが「生きていて良い」ことを
表現するための像なのですよ、これは。

この地下神殿では、どんな罪深い者でもその罪をあがなう機会が与えられるのです。
少なくとも建前だけはそうでありたい。

王族を名乗りオーク達に逆らう者どもを率いていた人間雄でも、誠心誠意ご主人様達へお仕えすることで
その罪を幾らかでも償えるのです。
ご主人様にひれ伏さない奴隷は、それだけで罪を犯しています。
自分が奴隷である自覚を抱いてない人間族は、自分が罪を重ねていることすら知りません。

全ての人間族はオークの奴隷なのです。
人は奴隷になることを心の底で、或いは表層近くで望んでいる。
この世にオーク達より優れた主人はいません。彼らほど人間を愛してくれる生き物は他にない。


ご主人様のためなら喜んで便器になるのが真の奴隷です。
私だって、オーク向け娼婦の次の次の次ぐらいにはオーク用便器になってみたい願望があります。

来世でもオーク妻になりたいけどもし無理なら、畜生になれないのならせめて便器になりたい。
オーク達の子種を受け入れる孕み袋になれないなら、せめてちん○の方から寄ってくる便器になりたい。
老若とわず誰のちん○からでも迸るものを受け入れ、用済みになったら廃棄される便器になりたい。

オーク達をすっきりさせてあげるためなら、道具として奉仕する生涯も悪くない‥‥と心底思うから
ソーニャさんは放浪生活を続けていたのですよ。
私もそう思います。命ある限り彼らの真心に応えたい、と。


やぱり私の像も欲しいなあ。
娼婦にも肉便器にもなれない、ごっこ遊びはできても愛奴隷妻以外にはなれないのです。
せめてそっくりな女神像ぐらいには、誰のちん○でも大歓迎な公衆便所の住人をさせてあげたい。

神像は願望のぶつけ先なんです。ならば私の個人的妄想を具象化しても罰は当たらない筈。

巣の女達の誰かに造ってもらいましょう。今のところアリアちゃんが有望かな? 
誰でも良いから彫像が造れるようになったら、私の姿をした小便器も作って貰います。
自分で自分の像を作るのは難しいですからね、なんせモデル兼作り手に邪念しかないもので。
今の私が自分の像を造れば、絶対に酷い代物になります。


地球の寺院仏閣には、水を掛けると御利益のある仏像があったりしました。
ならば廃都の地下神殿に、お小水を掛けると御利益のある雌神像があってもおかしくない。

来世で便器になるのなら、今の姿そっくりの女神像型の便器になりたいですね。
どんなに偉そうにしていても、どれ程有り難い説法を語っていても、ご主人様に小便水を掛けられて
歓んでしまう淫らな人間雌でしかなかったことを後々まで残したい。

狙ったところに上手く、像のスジま○こや乳首や口の中にだけ掛け続けることができたら、その雄に
はご褒美に可愛い雌奴隷と巡り逢える加護を与えてあげたいのです。
大母様ぐらいレベルが上がれば、そういうことも出来るようになります。



繰り返します。私に飲尿の趣味はありません、健康に悪いし。
でもオークち○こから出る体液を飲むのも浴びるのも大好きです。子種汁も先走り汁も。

おち○こシャワー、浴びてみたいなあ。
浄化してしまえば尿じゃなくなります。ち○こから迸る生暖かい清水を受け止めてみたい。
子種汁のような強い刺激がない分、注がれる愛と慈悲を心ゆくまで感じ取れるでしょう。

これから毎日絶えることなく、バレン地下神殿が続く限り永遠に便器として使っていただけるルーナ達
の像が羨ましい。
永遠の命に憧れる気持ちが、少しだけ解ります。便器としてだって彼らと一緒にいられるのなら‥‥
そうか、素でこういうことを考えちゃうから私は外道なのか。
まさに羅刹の浅ましさ、解脱とは真逆の思想です。


来世はともかく暇と格の問題さえなければ、いますぐこの場で私自身が便器になって、夫たち義息子たち
から浴びせて欲しい。やりませんけどね。

なまじ偉くなると自分を安売りできなくなっちゃうんですよ。
神殿長ともなると、頭なでなでだけでもご褒美になってしまう‥‥前と変わってないじゃん、それ。
まあとにかく、偉くなってもしたいことをやりたい放題できる訳ではないのです。

でも期限を決めずに延期しただけで、ご家庭用肉便器になる夢はまだ諦めてません。




「レイ。私の像は造れるのよね?」
「あ、はい」

黄金像ですけど前にソーニャさんを基にした女神像作りましたし。
地元オークたちに特に人気のあるやつを、本殿の前に飾ってますでしょ。あれです。

「造って。ルーナのより出来が良いのを」
「喜んで!」

なぜか悲鳴のような勢いで変事をしてしまいました。
怖い。逆らってはいけない気がする。逆らう気なんかないけど。

女の意地? いや雌奴隷の矜持が傷つけられた?


幼児相手に大人げないなあ、お師匠様は。
いや、大人げあったら闘技場の王者なんか成れないか。
優れた冒険者とは何時になってもコドモな部分を残している生き物なのですね。悪い意味でも。





[38600] 69
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2018/08/01 12:52


 ☆140日め4、誰にだって逆鱗はある☆


身内用便所にエロ可愛い過ぎる兄妹像を設えたあとで、従軍乳母向け鎧の研究を続けます。
具体的には、主な使用者となる筈のサラさんとアリアドーネに試用して貰うのです。
実際に使った側からの意見を制作側が受け取らないと、進歩も改良もできません。


「えいっ」
「ふっ」

アリアドーネが戦斧を振り下ろして丸太を叩き割る横で、サラさんが鎧姿のまま股裂き座りでしゃがみ込んでから
立ち上がる動作を繰り返している。

二人には鎧を着たまま素振りや据え物切り、走り込みや縄登りなどを繰り返して性能を確かめて貰ってます。
ちょっとやそっとの試験では鎧の真価は分かりません。
汗みずくになるまで動かないと、疲労時の使い心地が普通の板金鎧と、どう違うのかなどが確かめられない。

つまり、十代後半の女騎士と二十代半ばの女戦士が全身汗みどろになるまで運動を続ける訳で。

姐さん萌えや、地球でいうスポーツ選手萌え属性に近い嗜好を持つオーク達が人垣作って見物しています。
人垣というより人段かな? 卒業写真みたいに段差付けた顔が並んで、ガン見状態ですね。


それにしてもサラさんの進歩は著しいものがありますね。
使い勝手の良くない筈のカミソリ魔剣を自由自在に振り回してます。
植え替えが上手くいった鉢植えみたいに、本人が「伸び悩んでいたこれまでは何だったんだ」と言い出す程の勢いで
伸びている。実力的にそろそろ星6近いかもしれません。

今の彼女なら素手素肌に棒きれ一本持った状態で、最下級のオーク戦士と渡りあえるでしょう。
もちろん呪文などは使わずに。
戦士としてだけでなく剣闘士としても腕を上げていますが、魔法使い(ソーサレス)としても侍僧(アコライト)としても
急成長しています。


時間当たりの獲得経験点なら私の方が多いのだけど、サラさんと比べて使い道が散漫というか混乱していますからね。
あれもこれもと伸ばしているから一つ一つが高みに至らない。
しかし長い目で見れば、キメラ的な成長流儀の方が伸び代がある分強くなるのだと、お師匠様は言ってます。

ソーニャさん曰く、サラさんの欠点は才能の豊かさに比して大局観が無く視野が狭い事。
あと上昇意欲が薄い事。逆に私はいらん事を気にしすぎだとか。
正反対だけど、独学では伸びないタイプなことは一緒ですね。つまり優秀な教官がいれば化けます。



戦闘時の性能確認が終わったら、次は授乳時の使い心地を確認しないと。
汗を拭い、呼吸を落ち着つかせ、経口補水液もどきで咽を潤した女剣士達が、無骨な板金鎧の胸当てを外します。
上気した肌と豊かな乳房が外気とオーク達の視線に晒され、男どもから感嘆と賞賛のどよめきと溜息の混ざったものが
沸き起こりました。

おっぱいなら何でも良く‥‥はないけど、ストライクゾーンが広いのですよオークたちは。
なお、魔法鎧の吸湿効果により鎧の下では二人の肌はやや汗ばんでいる程度。蒸れ対策は万全です。

童顔に似合わない目立ち具合だけど下品にはならないぐらいの大きさで、肌に張りがあって、弾力に満ちたアリアドーネ
のおっぱいはなかなかの逸品。
仰向けに寝そべっても形の崩れない、男どもの玩具になる為にあるような乳房です。

一方、サラさんのおっぱいは如何にも年増女という風情で若々しさはありません。
しかし小娘には出せない安心感を感じさせます。マザコンを誘蛾灯のように引き寄せる胸ですよ、あれは。
胸が膨らみ始める前から十数年かけてオークの劣情を受け止めてきた女だから出せる、大人の色気に満ちたおっぱいだ。

12年後の私も、こういうおっぱいが欲しいなー。
24年後ぐらいになるかな? 私は老化が遅いはずなので。

魅力と迫力溢れる年増おっぱいに吸い付いて、イダテンとダイコクが母乳を飲んでいます。もう夢中で。
その後には残る3人の夫たちが待っていますけど、あの飲みっぷりだと足りないような気が。
慈母と淫婦の混ざった表情で、乳を貪るオーク達の頭を撫でているサラさんへ目線で問いかけると、両手の指で
合図を送ってきました。

右手が人差し指を、左手が人差し指から小指までの4本を立てたハンドサインですが、ふむ。
残りの呪文回数かな? 第二位階呪文を1回、第一位階呪文を4回分残してあると言いたいのでしょう。
いま効果発動中のと合計で第二位階×2第一位階×4。
残り全部を母乳が出る信仰呪文に使うとすれば、第二位階呪文「宝乳」を3回分相当か。

様々な要素を換算して、サラさんが今日出せるおっぱいミルクは25リットルかそれ以上?
それだけあれば流石に足りるかな。
まあ足りなさそうだったら、私の呪文で追加してあげれば良いだけです。

アリアドーネの方は、まずは赤ん坊に飲ませないとね。
マルマルはあくまでも味見役です。飲み過ぎは不作法というもの。

大人オークへの授乳に問題がないことが解ったので次はいよいよ本番、人間の赤ん坊に飲ませましょう。
誰かリカード君をここに‥‥ え? 寝ちゃった?




「レイ、急患だ。かなり危ないぞ」

そうこうしていると、神殿の表口を任せていたコーネリアが入って来ました。
その後に担架を担いだゴエモンとアシナガが続きます。
表口の応接役はエレナさんとイワノフに引き継いだようですね。

「ドク、ヒソ」「ビン、ツカッタ」

鋭い感覚と乏しい知識を総動員したのでしょう、ゴエモンの見立ては正しい。

鉱物毒入りのなにかを食べた中毒症状、とくれば解毒系アイテムの出番ですね‥‥ユニコーン散薬で良いか。
3レベルプリーテスの解毒呪文より、こっちの方が確実だ。
投与~ よっしゃ、即完治!
いやぁ効きますねえ、馬外道の角粉末は。一つまみ振りかけただけで、急患の乳幼児が一瞬で治りましたよ。
これから毎日ユニコーン狩りたくなります。


「良くやりました。えらい」

アシナガの機転を誉めて頭を撫でつつ、ボロ布のおむつをつけた赤子の診察をします。
彼が咄嗟の判断で治療薬を使わなければ、患者は神殿へ着いた直後に死んでいました。
ふむ。軽い感染症にも掛かっていたようですね。そっちも散薬の効果で治ったけど、体力は消耗したままか。
危険と言うほどではないので、快適な環境で介護もとい保育を受けつつ、安静にしていれば良くなるでしょう。

「この子に湯浴みとミルクを」
「はーい」

後の世話はスィールクたちに任せるとして、問題はこっちか。

「プギィ‥‥」

赤子と一緒の担架で運ばれてきた、その母親は助けようがない。
地球の野戦病院でなら黒い布きれを巻かれてます。もう既に事切れていて、蘇生のしようがありません。
スラムにも入れなかった難民のなれの果てである乞食女は、完全に魂が離れてしまっている。
レベルが低すぎて復活も無理です。

死因は、赤子が口にしたのと同じ毒。同じパンを食べての中毒ですから。

辛いことばかりの人生だったでしょうに、その最後が砒素入りの白パンを口にしての悶死とはね。
しかもうっかり欠片を与えてしまい、苦しむ我が子を案じながら倒れたのです。その無念は察するに余りある。

このパンの大きさだと鼠や虫ではなく、明らかに人を狙った毒餌ですよね。
急患と一緒に運ばれてきた毒入りパンを改めて検分します。
キメの細かい小麦粉を使ってる。
色が白いし、砂や小石が入っていないところを見ると、風力や水力を使う粉ひき小屋で引いた粉じゃなくて、屋内で
上物の臼を使って引いた粉なのかな?


「グゥ」

担架の後についてきた7人ほどの地元オークたちが、赤ん坊だけでも助かったことに安堵しています。
同時にその母親が死んでしまったことを悲しんでいる。
ゴエモン達の親族に当たる彼らは、かつてこの地に栄えた嬌声派の影響が強い。
変態紳士とまでいきませんが、変態良民ぐらいには人間雌に対して親切で融和的です。




バレン地下神殿を牛耳る我々には、彼らを含め百名以上の傘下オークたちがいます。

その傘下たちのうち一隊が地上をこっそりと彷徨いていると、廃墟に近い道端の祠で、お供え物を拝借していた親子
の乞食が苦しみはじめたところに出くわしました。
だから急いで癒し手のところに運んできたのですよ。
王と神殿に、考えなしの襲撃や拉致を禁じられた地元オークたちですが、救護活動は禁じられてませんからね。


乞食女の歯形がついた白パンは、ふわっふわに柔らかい。混ぜ物の入ってない小麦百%使用です。
ただし食パンなら一切れ分で、人間が死にかねない量の砒素が練り込んである。基礎体力のない乞食でしかも女子供
ならもっと少ない量で死ぬでしょう。
砒素は無味無臭だけど、食べて胃にはいると直ぐに苦しくなるから毒だと解ります。


これは冒涜だ。
食べ物に対する冒涜です。普通に食べて美味しい物になぜわざわざ毒を仕込んだ。

信仰に対する冒涜です。食えば死ぬようなものを、富の再分配を目的とする祠のお供えにしやがった。
異常だ。
時代劇風に言えば、人を殺すことを目論んで毒入りの握り飯をお地蔵さんへお供えしたようなものです。

寄りによってエスティア様の祠に! 女と家庭の守護神を愚弄しやがった!

だれだ、誰の仕業だ。 死ね! お前が死ね! いや殺す!


「畏み、畏み奉り申し上げまする!
天地照らす叡智の炎、女と結婚と家庭の幸福を見守る御方、我らの守護者よ! 
畏み、畏み奉り申し上げまする!」

口から自然と言葉が溢れ出します。怒ると胎教に悪いと解ってるのに、腹が立って仕方がありません。
この廃都はバレン地下神殿の縄張り(シマ)なのです。ウチのシマで巫山戯た真似されて黙ってられるか。

「冒涜者に裁きを! 毒殺者に報いを! 血には血を、骨には骨を、死には死を!」 

手に持った毒入りパンを宙に翳すと、空気に溶けたかのように消えていきました。
今の私は立って歩いて喋る祭壇。神力の穂先なのです。来て見て触れただけで奇跡を起こして当然。

「畏み、畏み奉り申し上げまする!」

御幣代わりに抜いた魔剣、いや地の精霊剣を振って九字を切ります。
九字を切り終えてから、頭上に掲げたまま精霊剣を鞘に収めて、呪詛の祈祷は完了。


呪術の儀式としては根拠も縁起もない只の思いつきですが、効果はあります。
出鱈目な足運びでも崩れた姿勢(フォーム)でも、筋骨隆々の巨漢が振り回せば只の棒きれは立派な凶器。
神力まみれの私が本気で呪えば、ただそれだけで第五位階の信仰魔法「呪詛(カース)」を超える威力となります。
誰が毒を置いたか知りませんが、そいつには相応の報いがあるでしょう。





 ☆140日め5、かぞくけいかく☆


中毒死した母乞食の魂が先程の応報で少しでも慰められることを祈りつつ、遺骸を祭壇へ捧げました。
死者が神々の元へ直接送られる奇跡に、群衆のオークやミノ系種族達が一斉に跪き頭を垂れます。もちろん人間も。

死ねばみな仏。

浄土宗では、救われたいと切に願うものは必ず救われるのです。
この世界でも、とりあえずこのバレン地下神殿でだけはエスティア様が死者の魂を救ってくださいます。
手当てが間に合いさえすれば命だって、私が救ってみせましょう。


さて、先程治療した子の様子は、と。

アリアドーネがお乳あげてますね。風呂にも入れたようです。
早速、従軍乳母用の鎧が役に立ち‥‥はしてないな、うん。鎧のあるなし関係ない状況だし。
邪魔にもなってないからこれで良いのか?

実用試験はできましたけど、不幸があったことに変わりはなく。
保護した子供が母親との別れを把握していないらしいのが唯一の救いですね。
いや、これもまた不幸かもしれません。親の顔を知らない子供がまた一人増えてしまった。

この子の母親も、彫像のモデルにしておこうかな?
ユーピックの立方体に容姿などを記憶しておきましょう。


さて、急患を連れてきたオーク達にどう報いるか、ですが。困ったな。
紛れもなく善行であり功績です。言葉だけでなく物理的にも賞しなければなりません。
気前よく漏れのない報奨が人心掌握の基本と、呉子も言ってます。

明日の命をも知れない彼らに「また今度」と後払いはあまりに惨い。
しかし彼らが一番欲しいものを今渡すのは少々拙い。

金銀財宝より女の子の方が良いのは、オーク島も廃都も同じです。

保護した子は女の子でして、オーク達は引き取って育てたがっていますがそれは危険すぎる。
彼らが拾わなければ死んでますけど、だからといって引き渡すには幼すぎだし、彼らの甲斐性も怪しい。
女の子の代わりになるぐらいの価値があって、しかも直ぐに渡せるものか。難しいなあ。



「ニンゲンメス、ヤル。ニヒキ、エラベ」

グェスとコーネリアと私で協議した結果、地下神殿の公衆便女のうちどれでも2名持っていかせる事にしました。
先日の野盗団を始め、近隣で捕まえた悪党女ども10人ほどを調教してありますからね。

悪党女共のなかでも順応早いのは、一日ちょっとの調教で肉便器に生まれ変わりました。
今では神殿の公衆便所の備品として、元気にやっています。
分娩台みたいな拘束具は新入りに譲って、自分たちは便所の壁際に並び利用客達の望みのままになっています。

根っからの悪党なんてそうはいませんからねえ。野盗が野盗を作り、強い野盗が領主になり、領主が新たな野盗を
作る負の循環から解き放たれた肉便器達は幸せそうにあひんあひん言ってます。

本来なら死罪となる筈の悪党を改心させ、世のため人のために役立てる。
うん、実に宗教団体らしい活動です。


玉座に座るギュー・グェスから赤子を救った報奨を与えられた地元オーク達は平伏して答えました。

「アリガダギ、シアワゼ」

どれでも好きなのをと並べられた調教済み精液用肉便器のうち、孕み女しかも双子が腹にいる2人だけを選んで
連れ帰るあたり、しっかり者ですねあいつら。

それなりに護身ができる健康な人間雌の性欲処理ペット。腹に子供がいて、将来は孕み袋として使えるのを2人、
それも良いのから好きに選べる。

良すぎるぐらい気前の良い王の下賜品に、地元オークたちは大喜びです。
好評ですし、これからも公衆便女を補充することにしますか。

今居る東バルキア地方の推定人口が300万から400万ぐらいですかね?
ビィーヤ盆地とその周辺で人口百万以上とすると、0.5%が更生の余地のない悪党と仮定して、5千。
そのうち公衆便女に適した素材は‥‥裏方要員まで入れれば3割以上は女ですので少なめに見積もって1500。
人格や年齢や容姿や健康などで、更にその3割まで絞っても450人。

なんだ。一日一人使い潰しても余裕のある数じゃありませんか。
供給に問題なさそうです。
月に何回かなら、肉便器を下取りに出して良いかもしれませんね。
無計画にばらまくと死人が出まくるでしょうから、判断は慎重にしましょう。うん。資源は大事にしなきゃ。


今回身請けされた肉便器たちが、いま孕んでいる子を出産するのは半年以上後になります。
その頃にはまた情勢が変わっているでしょう。
私にできることと言えば、身請けされた妊婦たちの胎の子に「変身(ポリモルーフ)」の巻物を使って女の子に
変えてあげることぐらいです。

いえその、偶然にも、下賜品の胎にいる胎児4人全てが男の子でして。
女の子に変えてあげた方が本人も親も将来の旦那様も、幸せになる気がするので変えることにします。

ファンタジー世界ですからねー。性転換の方法は色々とあるのですよ。
この種の呪文は簡単な部類に入る手段です。


地球のお伽話には、魔女を怒らせてしまって驢馬やウサギに変えられる事例がわりとありふれてました。
その手の呪文は大内海世界でも有名です。大魔法使いと呼ばれるソーサレスなら使えて当然。
人間を驢馬やウサギに変える呪文があるのですから、男の子を女の子に変える呪文があって当然なのです。
呪文があれば、それを初級の魔法使いでも使えるようにした巻物(スクロール)や杖(スタッフ)も当然あります。

強力な解呪(ディスペル)呪文を受けると元に戻ってしまうことや、物心ついた後で使うと精神障害の原因に
なったりする事が「変身(ポリモルーフ)」の難点なのですが、今回はまだ危険度が低い事例の筈。
対象が胎児だから性別が変わったことを認識せず、記憶と現実の差に悩まないで済みます。


やはり私と、私の巣の女達が孕む子供は受精の段階で産み分けないといけませんね。
結局それが一番面倒がない。


女の子、たくさん産まなきゃ。男の子(オーク)とおなじぐらい産まなきゃ。
私の巣では嫁不足も女日照りも起こさせません。
お腹の息子が嫁取りする頃には、むしろ女が余るぐらいにしてあげたい。

そうなると息子や孫や曾孫たちの処理役として、欲望のはけ口にして貰うという夢(妄想)は果たせませんが
娘や孫娘たちと子種の取り合いする未来も悪くない。


お腹にいる息子の子供も産んでみたいけど、産んでしまうでしょうけど、そう何人もは産めません。
お兄ちゃんだけ特別扱いできませんからね。この子の弟たちとも子作りしてみたいし。
私の代わりに息子たちの子を、沢山産んでくれる女を沢山用意しなきゃ。
自腹で足りるわけがないから、外からも沢山引き入れますよ。孕み袋な愛奴雌を。


いやその、私が何かしなくても自力で相手を見つけてきそうな気もしますけどね。
一人の例外もなく、種族と性別に関係なく、産まれてくる子はみんなエロモンスターだろうし。





 ☆140日め6、輪姦もしてますねそういえば☆


鎧兜を作るのならバランス的に考えて武器も作らねばなりません。
着たまま授乳やご奉仕ができる鎧の開発改良と平行して、弩(クロスボウ)の改良と普及も続けています。

そう、普及。
どんな高性能なクロスボウでも、私だけが使っていては無駄も良いとこです。
弩や鉄砲の利点は、装填役と射手の分業ができること。そして未熟な装填役と射手でも戦力になる事。
那須与一みたいな達人はそういません。弓を引く腕力と的を狙う照準能力を併せ持つことは難しい。

でも弩(クロスボウ)なら、剛力などなくても弦を引けるし、最低限の素質と訓練で狙いが付けられる。
弩とはよくいったものです。
クロスボウはまさに奴隷の弓! 日々の忙しさに戦闘訓練もままならない雌奴隷でも使える武器です。

そして! 武芸百般全てに秀でてこそ真の武士!
真の勇士はどんな武器でも使いこなすのです!

女の武器だから使えないなんて寝言は赦しません。
クロスボウを使えない戦士など、おかーさんは一人前とは認めませんよ。

というような理論武装の上で義息子たち全員に、クロスボウの扱い方を叩き込んであります。
視力の問題で射手として使える者は少ないですが、装填役なら全員が務まりますとも。
大砲の訓練と平行して、パリスタ(攻城大型弩)の訓練も進めています。

レイちゃん工房は、設計能力はともかく素材品質と工作精度なら、21世紀日本の更に上をいきますからね。
万能鋳造機を保存系の魔法効果と組み合わせて使えば、真球だって量産できます。
量産は見送りましたが、ボールベアリング式の軸受けだって開発済みなのです。

これに一流魔法使いの付与魔法も加わるのだから、レイちゃん工房の最新型パリスタが下手な‥‥
訂正、上手な近世兵器以上の性能を誇るのも当然。
人数五倍程度ならナポレオンの軍勢だって蹴散らしてみせますよ。

あ、いや、ボナの字やハゲが敵の指揮官だと統率と知略の差で負けるかも。

私はお馬鹿だし、ソーニャさんは大軍の将帥に向いてない。
コーネリアは前線苦手だし、サラさんも指揮官として特に優秀ではない。
ルーナはどうでしょう? 資質は悪くなさそうです。

ギュー・グェスたちはオーク部族の小隊指揮官として完璧ですが、それは気心の知れた巣の仲間を率いてこそ。
現地オークやミノタウロスの混成部隊を率いたら、陣頭指揮で士気を保つぐらいしかできません。

ミニ比叡山と化しているバレン地下神殿は、一声掛ければ千近い兵力を動員できます。
ただし動員できるだけ。数だけの案山子軍勢です。
統率も何もあったものじゃない。不利になったら瞬時に崩れ散ることを保証しましょう。



話を戻しまして。

バレン地下神殿では、女の信者たちに弩を貸し出しています。格安でね。
只で配ると売り払って新しいのを貰いに来る奴が出るので、お布施と交換で貸与しているのです。

女の信者ということはエロモンスターの妻だったり、恋人だったり、虜だったり、娼婦だったりします。
まあ全部奴隷なんですけどね。

女の又と書いて 奴 です。
エロモンスターに股を開く女はみんな奴隷なのです。

π


↑が股の字の原型(に近い形)ですからね。股の字の月は肉の略だし。
つまり「台の上の裸女が両腿を開いている姿」が 股 で、主の前で股を開いて隷属の証とする女が 奴 です。

何時でも股を開いてご主人様をお慰めする端女が 奴 です。
そしてまるで端女のように主へ仕えさせられる捕虜が 奴隷 なのです。本来の字義として。

なお 妻 は手で飾り物を身に付ける女の姿を元にしています。
つまり愛奴妻は「夫への愛しさのあまり、端女として仕えることを決意して、自ら首輪を身に付ける女」の意味。



地球の漢字研究者が聞いたら怒るかもしれませんが、ウチではそうなのです。
確かめようがないなら、言った者勝ちです。‥‥妄語戒に引っかかるかな? この思想は。


と、いうことでクロスボウは地下神殿の象徴的武器です。
石山本願寺の鉄砲ほどじゃありませんが、信徒全員が持てばそれなりの戦力になる。

クロスボウの類は直射しか出来ず、塹壕などの遮蔽物内に入った敵を狙えないという弱点があります。
普通の弓矢なら射る角度を調節して、隠れている敵を山なりの弾道で上から攻撃できます。
しかしクロスボウではそれがやり辛い。
なので曲射用にPIAT擬きのバネ式榴弾発射機を開発しました。
小型爆弾や火炎瓶あるいは石飛礫などをバネ仕掛けで飛ばす訳です。これである程度補える。

ある程度なのは着発信管の信頼性がもう一つだからで、この点をどうにかできないと砲弾の量産は無理ですね。
いざというときはオルロフ式の炸裂弾を使います。信頼性に比例して調達費用も高くなるのが困りものですが
命には代えられません。




戦力向上の一環として、神殿の設備投資を行っています。
公衆便所の設置もその一つ。次は公衆浴場もなんとかしたいですが、人手がなあ。
現状ではミノタウロスたちが番人やってくれているから、公衆便所も管理できている訳でして。

先日、噂を聞きつけた落ち武者のミノタウロス1名とその奴隷妻2名が合流しまして、現在バレン地下神殿には
計4人のミノタウロスと4人の妊婦たちがいます。

新参女達の胎にいる子もロード・ミノタウロスの種でして、母体達は女騎士とその従者。
19歳の金髪ロング長身豊満と13歳の銀髪ちっぱいで、どちらも腹は膨らみかけ。
捕らえられる前は某騎士団の一員で、同性愛関係にあったそうですが今では二人とも異種姦ミノタウロス派に
改宗しています。
女達の実力は星5と星1って所ですかね。ミノタウロスは星4から5ぐらい?

彼ら彼女らには神殿の奉仕者として門番や接客や外回りの掃除などを手伝って貰ってます。



巣のオークたちは神殿の防衛に廃都や周辺地域の探索、オーク島での見回りや食料調達、冒険者組の手伝い、家事、
大工仕事に石工仕事、座学、寝学、武術の稽古に軍事教練、妻や恋人達との逢瀬と毎日大忙しです。
オーク島の食って寝て遊んでの自堕落生活が懐かしい、のは私だけみたいなんですよね。どうやら。


夫たちが忙しいのは前と大して変わりません。
義息子たちは、林間学校を愉しむ男子中学生みたいなノリで賑やかにやってます。

東方へ来てから退屈する暇なんてありませんからねえ。
毎日女達の手料理をお腹いっぱい食べられるし、毎日女達と添い寝できるし、毎日女達とえっちな遊びもできるしで、
義息子たちには今の方が楽しいのかもしれません。
女の胎に精を出すだけなら便女を好きなだけ使えますし。

命が危ないのは温泉洞窟の暮らしも同じでしたよ、そういえば。


林間学校というより廃墟学校? 遺跡学校? 何か夏期合宿っぽいことやってみようかな。
魚釣り大会とか共同炊爨とかは、もうやっちゃったなあ。
アスレチック大会みたいのもやってますし‥‥ あ、なんか駄目な電波が。

頭の悪いエロ漫画みたいな、えっちな運動会とか開いてみたい。
砂時計の砂が落ちきるまでに、複数の男が一人の女に何回膣出しできるかを競う 種 入 れ 合 戦 とか。
アメリカンクラッカーみたいな物の球をそれぞれ下の口に咥えこんだ女同士が引き合う 球 引 き とか。
騎乗位で何回腰を振れるか競うのも楽しそうです。 

「準備次第ですね」

ええ。可能不可能で言えば、できます。でも今は無理。
満足できる規模でやるには年単位の時間と莫大な投資が要ります。

運動会は大規模にやりたいですからねえ。女だけで200人ぐらいは欲しい。
最低でも数百人規模の参加者と、参加者全員を一定の規則と良識の中に置いておける統御力がなければ流血沙汰
どころか爆発炎上間違いなしです。崩落倒壊するかもしれません。

本当に、21世紀日本って凄いや。
よくもあそこまで安定していたものです。
毀誉褒貶ある人ですけど、超音速風見鶏の功績は大きいですよねえ。伊達に大勲位受けてない。

いえその、日本が本当に平和になったのって1985年以降ですから。
マクフライ家の末っ子が行って帰ってきた頃ですから。
それより前は毎月どこかの交番が吹き飛び、毎週どこかの駅前で薬物中毒患者が暴れ、毎日どこかの学校で
夜中に忍び込んだ馬鹿が窓硝子割ってましたから。
父上母上に聞かされてその当時のことはよく知っております。はい。

日本が平和になった時期って、日本が豊かになった時期とほぼ同時なんですよね。
具体的に言うと「小学校の給食費が払えない一家の家長が首括るとニュースになる」ようになった時代。
衣食足りて礼節を知る。
なんだかんだで経済眼は確かだったのですな、あのスダレ頭の風見鶏。伊達に大勲位受けてない。


まあ、それでも同時期のメリケンとかと比べれば1965年ぐらいの日本は平和そのものだった訳ですが。
その時期の日本旅行記やら滞在記には日本の平和さがくどいほど繰り返し記されています。
同時期のメリケンと比べれば1945年末の日本は平和そのものだった訳ですが。
某元帥はパルチザン無限湧きを覚悟して乗り込んだのに、本国よりも統治が楽で驚いたそうですよ。

闇市時代の日本より物騒って、どんだけ魔境なんだメリケンの日常は。







 ☆140日め7、工房夫手を選ばず☆


正式な用語でないと思いますが、発明家と言われる人々の間ではその方針について二つの分類があるとか。

一つはエジソン式。
これは思いつくまま、できることは全て虱潰しに実験していくローラー作戦的手法。またの名を銅鉄主義。

一つはテスラ式。
何をどう開発したいか、理論を組み計算し筋道を立て当たりを付けてから実験していく推理的手法。

人狼ゲームで言うと、自称占い師たちの発言を吟味して真贋を絞り込んでいく攻略法と占い師を名乗る者の発言に
一切耳を貸さず全員吊るしていく攻略法の違いですかね? ベーグル戦術だったかな?

個人的にはどちらも長短あると思います。
エジソン式は無駄が多いですし、テスラ式はまさかの盲点が存在するかもしれません。


そんな訳で、レイちゃん工房では両方をてきとーに混ぜてやってます。
これはこれで両方の欠点を兼ね備えてしまうという問題がありますが、両方の長所もまた備えている‥‥と良いなあ。



方法論の考察はさておき、研究の成果がまた一つ実りました。
見よ! このゴム球とゴム板とゴム紐を! あと様々なゴム製品を!

そうです。遂にゴムの実用化に成功しました。
ゴムの木の樹液じゃなくて巨大タンポポなどの汁が原料なので、ゲロ吐きそうなぐらい効率悪いですが致し方なし。
オーク達が毎日せっせとタンポポを集めてくれるので、実用上は大きな問題になってません。

参拝客に只で振る舞っている、ゴム作りの副産物であるタンポポ茶が地下神殿の名物になりつつあります。
枇杷の葉茶や桑の葉茶に飴湯もありますよー。

ゴムがあれば家具や調理器具そして医療用具に衣料にその他様々な物が新規に作れるようになったり、既存の品物も
性能上がったりします。
錬金術の応用でゴムの性質を変えられるので、本当にいろんな事に使えます。これで注射器がまともに使える。


例えば風船玉。これに水を入れて、溶かした白砂糖に漬けて引き上げ冷やして引き剥がすと、ほーら半球ドーム状の
透明キャンディができました。お菓子の歴史が数文字分進みましたよ。
ゴム風船の形を工夫すれば、より複雑な形の飴細工も作れます。


「造物(クリエイト)系の呪文で、同じ事出来るぜ?」
「貴女はできても、スィールクにはできないでしょう?」

エーリカにもトンガリにも、手順さえ守れば門番ミノタウロスたちにも作れるところにこの技法の真価がある!
誰がやっても同じ結果が出るからこそ科学なのです。
猿でも馬でも犬にでも使えるのが真の道具、讃えよカラシニコフを! 誉めそやせよスーパーカブを!

‥‥と力説したのですが、エイボリンは納得いかないようです。
ゴムの精製にも成型にも錬金術の技法を使ってますからね。手間に見合う程の価値があるとは思えないのでしょう。
体験してもない工業の力を理解させるのは無理か。


一方コーネリアは錬金術製品としての価値を理解したらしく、壁にチョークで数字と記号を書き殴って計算中。

試作したゴムタイヤ付き車輪の効果に、目の玉飛び出しそうになってましたからね彼女。
自転車のタイヤから空気をちょっと抜いてから走ると解りますが、空気を抜いたタイヤの性能は大きく落ちます。
鉄製の車輪の荷車と、車輪を空気式ゴムタイヤに替えただけの荷車で走行実験してみたら、一日当たりの走行距離が
倍以上違ったという例もあるぐらいです。

ゴムタイヤというのは凄い発明なのですよ。
極端に言えば、ヴァダの街を走る馬車の車輪を現在のものからゴムタイヤに換装しただけで、運送能力が倍に上がる
んです。実用上はもっと落ちるでしょうけど、それでも割単位で効率が上がる筈。

なお、試作品タイヤは一応空気式ですが地球の物程には洗練されていません。
ただし製造しやすく破損しにくく修理も簡単な構造にしてあります。技術レベルが低くてもなんとかなります。

単純に言えば、丈夫なゴム管を何本も用意し圧縮空気を詰めまして、それをゴムタイヤの外皮の中に詰め込み、
万能鋳造機で作った鋼鉄製車輪の溝にはめ込みました。

地球でも、自転車のゴムチューブが手に入らない時期や地域だと似たようなものが使われていました。
ゴムチューブの代わりに弾力性のあるものを、タイヤの中に詰め込むのです。
蔦葛(ツタ)を乾かしてから叩いて柔らかくしたものを、祖父や曾祖父たちの世代は使っていたそうです。
乾燥ツタ入りのタイヤは、正規品に比べるとやや重たくなるし弾力でも劣るのですが無いよりは余程マシです。
釘などを踏んでもパンクしない長所もありますし、レイちゃん工房では発泡樹脂などを使った空気式でないタイヤの
開発も進めています。


いわゆる魔法の馬車というのが、この世界にはある。
魔法の剣が普通の剣よりも、鋭くて丈夫で魔物によく効くように普通の馬車よりも優れた性能を発揮する馬車や
その部品が存在するのです。付け変えると馬車の速度が上がる車輪とかね。

増加試作中のゴムタイヤは、同様の効果を持つ魔法の車輪に比べると調達価格で40分の1、維持費用を入れても
4分の1以下で済みます。魔法のアイテムなみに走行性能が上がるのですよ、ゴムタイヤは。
改良が進めば更に性能が数割上がり、費用は数分の1に下がるでしょう。


ゴムタイヤは実に偉大な発明なのです。
問題は、オーク島だと車輪の出番自体か少ないことですかねー。
コボルドの鉱山ではトロッコ使っているしなー。



次いってみよう、次。


ゴムの手袋にゴムの長靴、ゴムサンダル。ゴムの前掛けにゴム合羽。輪ゴムに消しゴム、ゴムの指サック。
本当に便利なものですね、ゴムって。
次々と試作品を設計しては作ってますけど、もっと量が欲しいなあ。

沢山あれば、ゴムの人形も作れます。着ぐるみも。ラテックスもゴムといえばゴムですから。
将来的にはオリエ○ト工業的な抱き枕も作りたい。

虎だって毛皮を残せるんです。人が姿形を残して何が悪い。
子を亡くした母、母を亡くした子は幾らでもいます。
成長した我が子と抱きしめあう喜びを、本人が無理ならせめて人形にだけでも味わって欲しい。

近い将来に、大母様そっくりのゴム人形とかも作れると思うのですよ。技術的には、ね。
どう使うかは置いておくとして、作れると思うのですよ。魔法や錬金術もありますから。
触り心地も抱き心地も本物そっくりな人形を作ってあげたい。

リアルドールは21世紀で既に、一見しただけでは人形とわからない域に達していると愛好者から聞きました。
最高級品は体温がありますし、触り心地もかなり人間に近いのだとか。
脈拍や呼吸の機能も近いうちに付くでしょうし、人工知能の発展次第でダッチワイフ的にも進化できるでしょう。
タンゴ? レゲエ? なんかそんな感じの名前が付いた自動掃除機も年々賢くなってましたからねー。

ん? そういやゴム吸盤の掃除道具作ってないですね、作りましょう。水洗トイレにはあれがないと。




ゴム製品といえば、アレを忘れてはなりません。
避妊具の需要は薄いですけど作っておきましょう。簡易水筒や銃口覆いなど他の用途にも使えるし。

人間ハーフのち○こはまだしも、イノシシハーフのち○こだと指サックみたいな形では合わないんですよねえ。
ふむ、ソーセージの皮みたいにすれば何とかなるかな?

「アンドレ、ちょっと来て」
「グヒ」

薄くて丈夫で伸縮性の高いゴム管を用意しまして、適度な長さに切り、端からめくり上げていきます。
靴下を丸めながら脱いでいくあの要領です。
そして出来上がった、穴の小さすぎるドーナツみたいなものの中心を、腰ミノを外した義息子のものの先端に当て
転がすように被せていきます。
コルク抜き状の男性器先端に、ゴム管を被せればイノシシハーフち○こ用ゴムサック完成。
あとは螺旋にそってゆっくり転がしていくだけ。

コンド○ムというと、どうしても避妊具や衛生用品の印象がありますからね。
避妊や感染予防のために付ける訳ではないので、これをコン○ームとは呼ばないことにします。
たったいまアンドレに付けたものは只のゴム管なので、避妊などには使えません。管ですから汁が駄々漏れです。
何のために付けたかと言えば、えっち用の保護具として。

一番敏感な部分をゴムで覆えば、早漏気味なオークでも長持ちします。
同時に女側は、気持ちよさが落ちるけど代わりにじっくり愉しめる。
いわゆるポリネシア式のような、ゆったりとした交尾が味わえるのですよ。
実地で使ってみないことには解りませんけどね。

と、いう事で性的拘束具装備のアンドレに、エーリカ相手に試して貰うことになりました。
本番は今夜なので軽く、ですよ。お手手やお口のご奉仕でも実験には充分です。


巣一番の巨体を誇るアンドレと、私やマリアと大差ない体格なエーリカの組み合わせば、うん、巨人と小人だ。
四捨五入すれば3メートルと1メートルですからねえ、新郎新婦の背丈が。
同じ13歳で、誕生日も七ヶ月ほどしか違わないのに何故にアリアちゃんはあそこまで発育良いのでしょうか。
まあ前世の知人にも中学生にしか見えない30過ぎとか居ましたし、個人差なのでしょう、きっと。


ただいま実用試験中。
金髪翠眼つるぺたのロリっ娘が、コルク抜き状のモノへゴム膜越しにご奉仕してる。
まだまだ拙い手つきですけど、されてる側はでれっでれに蕩けてますね。
試験者達や見物人の受けは悪くない。これならゴムサックも受け入れられそうです。

棍棒に布やスポンジを巻いて、嫁取り戦に出るオークは結構います。
武器に鞘やカバーやクッションを付けて女と勝負することは、オーク的作法に則った行為です。
その理論でいけば夫が己のち○こにゴム管を被せて、性交時に妻が感じすぎるのを抑える事もまた愛。

愛とは思いやりなのです。
女殺し的な意味でドリルち○この性能が良すぎて、アンドレはゴムの拘束具を付けない限りエーリカとポリネシア
式の交合が出来ません。普通に生はめだと気持ち良すぎて突っ込んでいる間は、女が何も考えられなくなる。
繋がったまま甘々な睦言交わしつつ、いちゃいちゃしたいのですよアンドレもエーリカも。他のカップルも。




と、まあ、これでゴムの有用さは巣のオーク達も理解した筈。

利用例1 ゴムを使えば圧力鍋の製造費用(手間)が6割は減ります。
利用例2 ゴムを使うとえっちな衣装がたくさん作れます。
オーク達の採集意欲が上がるのは後者ですよねえ、どう考えても。

旦那様や恋人から可愛いぱんつ贈られて嬉しくなり、その夜はそれを穿いて寝所に入っちゃうのが雌奴隷。
万年ハネムーンの新妻状態が普通ですからね、オーク嫁は。
オーク社会では、親しい間柄なら男が女へ服を贈るのは当然です。
オークと人間雌の組み合わせだと、嫁や実質嫁状態ならセクハラ行為がご褒美になってしまいますからね。

私もえっちな衣装を贈られると嬉しくなります。えっちじゃない衣装を贈られるのも嬉しいけど。
レェ・ウォスに新しい豹毛皮の服を貰っちゃった日は、それを着てじっくりたっぷり、いちゃつきましたよ。


オーク島の文化では、女が服を受け取り、捨ても売りも譲りも死蔵もせずに着こなすのは余程親しい関係にあるか、
親しい関係になることを望んでいるという事。
つまり、居候始めた時期にレェ・ウォスの色々ぎりぎりな豹毛皮服を好んで着ていた私は‥‥。



まあアレです。過ぎ去った事はさておくとして。


ノーパン派の多いオーク島住人へ、私は色々と服飾的な新刺激を与えておりまして。
あのパンモロショーで「下着鑑賞」という新たな性癖に目覚めてしまった義息子たちもいます。
性教育の過程で「着衣えっち」に目覚めた義母もここにいますけどね。

当然ながらブルマも復活しました。これまでのような観賞用ではなく実用完全版です。
日々の作業にも運動にも、えっちなことにも使えます。


と、いう訳で。
優勝したら体操服姿の女を一晩玩具に出来る権利を与える、という条件で岩転がし競争を開催しました。
幸いなことに今日は巣の仲間たちの殆どが地下神殿に集まっています。
ほら、今夜は荘園組4人の結婚式なので。余興ですよ余興。



開始の合図と共に一斉に走り出した参加者は、神殿前の広場中央に積まれた石材の山へと向かいます。
きゃあきゃあと、その背に黄色い歓声と声援が降り注ぐ。

オーク達は様々な大きさ、形、材質の岩から、選び出した石材を素手や工具で殴って叩いて削っていきます。
割って削って、球と言い張れる程度にまで丸くしたら転がして運びます。
岩を転がしてコースを巡り、平均台や迷路状の部屋や砂地や階段や天秤量りなど様々な難所を全て踏破して
ゴールへ向かいます。
地下神殿周りを一周して正門前に一番早く着いた者が優勝。


なのですが、あっという間に結果が出ました。
ギュー・グェスが一位。かなり遅れてレェ・ウォスが二位、僅差でゴォ・ドスが三位。

大人げないなー。本気で勝負してますよ三人とも。
オークの文化的にはこれで正しい。舐めプ厳禁。
正直言うと嬉しいですけどね。賞品の価値を夫たちに認められてるのは。



うーん、待てよ。拙いかもしれない。
これは「愛情確認の押し付け」になる危険性があるかもしれません。注意せねば。
愛されていることを確認したくなるのは解りますが、迷惑を掛けることで確認するのは邪悪にして蒙昧な行いです。
そういうことは遅くとも中学生の頃に済ませておかないと。

狂言自殺やる趣味はありませんし、オーク相手にやっても通じませんけどね。

なんにせよ自分を賞品にする催しはもうしない事にします。私の精神に危険すぎる。
環境的に「私と仕事どっちが大切なの」とか言い出しはしないでしょうけど、心の病に罹ることは有り得ます。 



あ、なるほど。
立川のロンゲが言っていた「主を試してはならない」って、こういう意味か。
そりゃそうですよね。
阿弥陀仏ならともかく砂漠のケチな祟り神では、信者に「夜中に学校の窓ガラス割って云々」されたら対処しきれ
ませんものねえ。過労死しかねない。


「ご主人様」とか「旦那様」とか呼ぶ相手を試そうなんて、奴隷にあるまじき増長です。
来世は地獄行き間違いなし。




まだ続行中の岩転がし競争ですが、混戦になってますね。お、意外なことにブルボンが善戦している。
運の要素が大きい競技ですけど、それだけでもないですよあの頑張り具合は。
ハンセンも健闘してます。
ゴエモンは流石の安定性、アンドレは迷路の狭い箇所で岩が引っかかって立ち往生、ケサガケは砂地にはまってます。

結局四位はブルボンとなりました。
以下サダキチ ハンセン ゴエモン ブロディ タレミミ デコパチ マルマル ダイコク ギョロメと続きます。
最下位は平均台から落ちまくって時間を浪費したエッビスで、岩を担いで砂地を渡ったケサガケがブービーです。

アンドレとトンガリは失格。
一人は引っかかったまま無理矢理動かそうとした岩が砕け、一人は岩が軽すぎて天秤を突破できませんでした。
大きすぎと小さすぎの違いはあれ、密度が低く削りやすい岩を選んだのが裏目に出ましたね、二人とも。
エッビスのように堅くて重たい、密度の高い材質の岩を選んだ連中もだいたい下位にいます。
やはり中庸が大事なのですね。


なおイワノフはただ一人の不参加者として、岩の計量係を務めました。
巣の男衆で一番私への執着が薄いですからね、彼は。
あと、人間社会育ちのせいなのかゲームや競技への理解があり、この巣で将棋ができるオークは彼だけです。


優勝者と上位入賞者に、体操服一式を授与します。
十一位以下と失格者には何もなし。勝負の世界は厳しいのです。


一位から三位までのグェスとウォスとドスは、神殿長のレイちゃんを。
四位のブルボンはアリアちゃんを選びました。この黒髪スキーめ。
サダキチはコーネリア、ハンセンはエーリカ、ゴエモンはソーニャさん、ブロディはスィールク、タレミミはメイア、
デコパチはルウ、マルマルはアリアドーネとエイボリン。

そういや、一人しか選べないとは言いませんでしたよねえ。
仕方ないか、荘園組みに一人だけ仲間はずれを作るわけにもいきません。
全員の分を既に作ってあることだし、渡してしまいましょう。

という訳で、合計9人の女達へ総計11着の体操服セットが男衆から贈られました。右から左に直行です。






そんなこんなで、その夜に無事式も挙げられました。
ウチの巣で独り者は、もはや乳幼児2人のみ。


そーいえば、この子にはまだ名前がありません。親も名づけてなかったのです。
中世世界の極貧民層とくれば生存率低いですからねえ、子供に一々名前を付ける方が珍しい。
しかし巣の一員になったからには名前がないと不便なので‥‥ 弱ったな、思いつきません。

オークなら直ぐ名前が出てくるのに、人間の子だと上手くいかない。不思議です。
ならば、奥義 丸 投 げ !  

「ルーナに決めて貰いましょう」
「わたしが?」

しばらく考えていたルーナでしたが、「ノワ」という名を提案しました。クルミの類を指す名だそうです。
意味するところは「堅実」「豊かな実り」「貞節」「必要とされる人生」ってところですか。
悪くないネーミングセンスだ。


「では、この子の名を ノ ワ とします」

ギュー・グェスが恐る恐る抱える赤ん坊へ、名付けの儀式を行いました。
これでこの子は私の子であり、ギュー・グェスの子であり、神殿の子です。
つまり義息子たちにとって妹。

「イモウト?」「グヒッ?」「キク、アル」「オレ、シラナイ」「シッテル。ウマイ」

ミッシェル山の穴蔵育ちな下っ端にしてみれば、妹というのは戦士達の会話に時折出てくる謎の存在。
実際、現代日本人がUFO目撃するより下っ端オークたちが妹という存在を目にする可能性の方が低い訳で。
父親オークの後妻や追加妻が嫁入り前に女の子を孕んでいた場合ぐらいしか、オーク島ではオークの妹という
ものは存在しません。

ヒルデニア人の嫁は夫の兄を「義兄」と呼びますけど、家族の文化が違うオーク島ではあくまで「弟の嫁」とし
て扱われます。私にしてもお義兄さんからの扱いは「義妹」ではなく「レェ・ウォスの嫁」ですし。

あ、なんか義息子たちの一部が揉めてる。
共通語(コモン)に訳せば「妹は食い物じゃねえよ馬鹿」VS「食い物じゃないけど妹は美味いんだよ馬鹿」となる
罵りあいが始まってる。

罵りあいは直ぐに掴み合いに発展しました。
そしてドスがコブハナとデコパチをぶん殴って喧嘩を終わらせます。


確かに食べ物じゃないけど、美味しいそうですね妹って。
昔から「従姉妹(いとこ)又従姉妹(はとこ)は鴨の味、姉妹叔母姪鶴の味」と言いますし。
種類と季節にもよるけど、鶴は美味しい鳥です。
「愛娘(むすめ)の味を知ったら止められぬ」なんて業の深い続きもあるとかないとか。


むしろ美味しく食べられてしまうのはアンタらですけどね。
しっかり生き延びてくださいよ、二人とも。
5~6年経ってノワがおしゃぶり奴隷の修行始めるころになったら、貴男たちにも練習台になって貰いますから。
素敵なお兄さまになれるか駄目兄貴になり果てるかは、貴男たち次第ですよ。






[38600] 構想ノートの切れ端 その3
Name: 峯田太郎◆cbba1d43 ID:59e4fefc
Date: 2021/06/14 12:07



構想ノートの切れ端 その3



作者はSS書きの端くれであり、妄想を形にまとめ文章化し物語とすること自体に喜びを感じる存在です。
しかしネットの啓示場に投稿できた物語を妄想の沼から這いだして来れたカエルだとすれば、這い出したは良いものの成長
できず尻尾が消え去る前に干涸らびてしまった哀れな個体もいるわけで。
以下はそんな生き物たちを晒してみます。そうだよ黒歴史だよ、消したくはないけど。



【新世紀エヴァンゲリオン パワーアップキット(通称PK)】

・あらすじ
全人類を強制的に融合合体させて涅槃に至る「人類保管計画」。それは幾多の次元界で試みられ、ことごとく失敗した。
無数の失敗例のなかには、強制融合時に贄とされた個人が残ってしまいしかも超越者としての力を得てしまう事例も
多数存在していた。
それらにわか超越者(俗称スパシン)の多くは時間遡航や次元移動を行い、歴史への干渉と改変を試みる。
かくして無数の素人時空犯罪者が無数の次元界で好き放題する、悪夢の如き次元界群が発生したのだった。

とある平行世界間通商組織、『G』はそんなにわか超越者の一柱に目を付けられ強制的に時空犯罪へ協力させられる。
だが超越者でありながら精神構造が人間と大差ない依頼者は、保護した過去の自分自身である幼児の『碇シンジ』により
「世界を救うと言いつつ前世と同じく使徒戦争を起こさせる矛盾」を指摘され、精神に異常をきたす。

超越者の力があればセカンドインパクト自体を発生させないことが容易であることを自覚し、自己の企てた時空犯罪の無意
味さを悟った依頼者は何処とも知れぬ次元の果てに逃亡した。事情を知った他の超越者たち、依頼者の元同盟者である同類
たちは裸の王に真実を告げた幼児と、告げるようにし向けた『G』を疎み、憎む。
だが同時にこの両者を保護しようとする超越者達も現れる。

より悪質な超越者たちからの保護と引き替えに、よりマシな超越者たちから時空犯罪事業からの撤退を禁じられた『G』と
『碇シンジ』は勝ち筋の見えない使徒との戦いとサードインパクト問題の解決に挑む。
『G』と『碇シンジ』が生き残るには、他に方法も手段もない。
果たして彼らに希望はあるのか。そして掴めるのか。


・問題点
とにかく盛りすぎた。登場人物の無意味な多さと勢力図の無意味な複雑さは「ブリーダー」にも残ってしまうのだが、PK
シリーズの盛り込み具合は闇鍋なんてものではなく、何度かの鍋移し替え(改訂)を行っても結局は処理しきれず溢れさせて
しまった。

一例を挙げるとこれは主人公碇シンジの愛憎の物語でもある。
自分へ惨すぎる宿命を背負わせた実母にも、自分を利用するために育てた養母にも愛情を向けられない主人公は、
ヒロイン綾波レイの持つ女神の神性に恋い焦がれるのだが、当然ながらその求愛行為は空回りする。
違和感を感じたレイに避けられる主人公シンジと、そんなシンジを父とも兄とも慕う、彼の疑似家族たちの嫉妬やら
なにやらをふくめてこれだけでお腹いっぱいなのに、物語としては他の要素の方が多いのだから話がまとまる訳がない。

とにかく物語の骨子は単純にすべしという個人的教訓は残った。


・コメント
「介入を試みた超越者が(超越者に相応しい知能と精神力を持ってないという意味で)無能で無責任」
「主人公を養育している組織と主人公の間に埋めがたい溝があり、当事者たちには愛着も理解もあるが溝は埋めようがない」
「主人公は訓練を受けた14歳としては強いが所詮は人間。超人や天才ではない」
「主人公が持っているハーレムは、実は疑似家族でありメンバーの殆どは主人公と共に、あるいは主人公の前で死ぬことが目的」
「そしてハーレムチームは、初の総力戦となった第五使徒迎撃戦で面子の半数以上が死亡または再起不能の大損害を受け壊滅する」
「支援組織は資金と物資をほぼ無限に供給できる。作中のネルフに予算不足は発生しない」
「ゲンドウと冬月が他次元からの逆行転生者でありATF使いで、主人公と支援組織に協力的」
「葛城ミサトが指揮官ではなくチルドレンのマネージャー役。護衛としても主婦として超有能」
「親波レイの生活環境はミサト他の大人たちによって快適そのものに保持。既に初恋も済ませている(失恋済み)」

などなど、その当時流行っていたエヴァ系SSの定番をことごとく裏返していたあたり、作者のへそ曲がり具合は昔から
のようだ。

しかし今読み直すと色々拙いなあ。
なお、ネーミングセンスの欠片もない題名は、当時とある戦国ものシミュレーションゲームに填っていたからである。

いやその、その前に付けていた仮タイトルが、検索したら数えるのも面倒なぐらいありふれた題名だったもので‥‥。
他の作品と違う、一目で区別できるタイトルにしたかったのでしょうね、当時の自分は。

奇をてらえば良いというものではない。反省。




【新世紀エヴァンゲリオン 返品不可! ~猫印郵便小包(通称猫耳)】

・あらすじ
伯父一家の離れで一人静かな居候生活を送る少年、碇シンジ。
ある夜、突然に彼の勉強机の引き出しから、猫耳と猫尻尾が生えていて、猫毛皮のレオタードじみた衣装を着込み、
肉球と爪つきの猫グローブとブーツを身に付けた美少女が飛び出してきた。

赤木トラミと名乗る少女が言うには、彼女は数百年後の未来からやってきた猫耳さん型ロボットでありシンジの未来を
守るために送り込まれたのだそうだ。
最初は夢か法螺だと思っていたシンジだったが、トラミの人間には有り得ない力やお腹のポケットから取り出す奇妙な
カラクリなどを見たり触ったりしているうちに現実であると受け入れ始める。

やがてトラミの予言どおり、父親からの呼び出しを受けたシンジは自称猫耳ロボットと共に箱根を目指す。
彼らの元へ次々と押し寄せる陰謀と工作、事故と障害。そして使徒とその他諸々。
少年と自称猫耳型ロボットは無事に第七ケイジまで辿り着けるのか!?


・問題点
途中まではまずまずだったが、ふとした弾みで怪獣王を出してしまったのが拙かった。
怪獣王対農協の闘いとかまではノリノリで書いていたものの、いざエヴァンゲリオンと対決させる段になって筆が急停止。

だって、どう考えても弐号機じゃ怪獣王に勝てない。400%初号機だって無理。
何をどうやっても、黒こげor挽肉にされたエヴァンゲリオンを残して怪獣王が悠々と去っていく姿しか思い浮かばない。
エヴァ系二次創作ではなくてゴジラ二次創作になってしまったので物語として破綻してしまった。


・コメント
物語は最初に決めた着地点を目指さないと大変なことになると思い知った作品。
でも今更書き直せないしなー。

青狸じゃなくて猫耳美少女が引き出しから出てくる系の二次創作は昔からあるので、その変形として書いた。
ヒロインキャラクターとしての原型(スターシステムでいうところの役者)が増えたのは収穫だったと思う。
もっとも試し読みして貰った人々からは「可愛いけど欠片も萌えない」と評されたけど。

‥‥うん、今になって読み直したらこいつで萌えるのは無理。書いた本人でも無理。
こいつを猫耳ロボットから生身の女子高生に変換したのが「ブリーダー」の九条虎美です。





【現代・魔術・エロ】 ブリーダー 【近親・MC・ハーレム】

えー このシリーズについては未だ分析中なのでご勘弁を。
どうも、作者は舞台とか背景とかの設定作るのが下手らしいことは確かなんですが。
「探偵と警察のジレンマ」に首まで浸かってます。


それはそうと。
友人と話して改めて納得しましたけど、大輔って「面倒くさい女」じゃないと惚れないというか、その‥‥
実は此奴ハーレムの主じゃなくて「駄目女達の世話係」なんじゃないかなー と。
なんせ「ちょっと目を離したら死にそうな病弱さんの従姉」が初恋の君? で
「目を離したら何するか分からなくて怖い」妹を溺愛してて
「夫の死で病んじゃった近親愛至上主義者な残念奥様」な実母に
「文武両道だけど対人能力が壊滅してて他者から怖がられがちな動物好きのっぽさん」な幼馴染みと重婚状態という
そして「半端に商才がある所為で放っておくと必ず破滅する浪速商人系」同級生も毒牙に掛けちゃいました。


こいつ(大輔)、メロービー・ゴーント(お辞儀様の実母)と出会ったら絶対一目惚れしちゃうよなー と。
最近そう思う作者であります。
魔法が使えないから家族にいびられてる、没落した名家の令嬢。って大輔の好みど真ん中球速166㎞ですがな。
逆にハーマイオニーには欠片も惹かれない。

黒木智子嬢(わたモテ)にも、出会えば確実に一目惚れしますけど、結局は身を退くんじゃないかなー。


結論、虎美はヒロイン脱落します。
放置しても大丈夫な女には惚れんわ、この主人公。




【総評】


近頃になってやっと、少しだけ、何故に自分の書く物語が詰まらないのかが解ってきました。

要は「書かなきゃいけない」部分を省略して「書かなくてよい」部分を書いてるからなんですね。
気付くのに長いことかかっちゃったよ。

解ったからといって、実際にできるかどうかは別な訳で。

まあとにかく、今後の作品はその辺に気を配って書くことにします。




【追記】

詰んでるシリーズはエター宣言しようか検討中です。
70話を書いては消し書いては消ししている状態でして。

えー オチだけ書いちゃうと、レイちゃんは日記の210日めあたりでギュー・グェスの子を無事出産します。
で、子供を産むと転移阻害のバットステータスがなくなりまして、オーク島へ自由に帰れるようになります。
しかし産んだ子供(勿論オーク)は転移できない。
実は、お腹の子供に掛けられた呪いの所為で転移事故が起きたのだと判明するわけです。

誰が何のために掛けた呪いなのか、を追求する三部へと話は繋がっていくわけですけど‥‥
どうもね、そこまで書けそうにない。
作者が「探偵と警察のジレンマ」を解決できないのですよ。

こまったものです。

あ、ハラキズは250日目あたりにひょっこり帰ってきます。星8ぐらいの大戦士に成長して。
東方世界の勇者候補な高レベル女冒険者達を6名、しかも孕ませて臨月腹ボテの、ハラキズにベタ惚れ状態な
雌奴隷妻たちを引き連れて帰ってきます。

彼がレイと一緒に転移事故に遭ったのは、レイの胎にいた子と同じ理由です。

義息子が無事帰ってきたことも、義娘が増えたことも、義孫が沢山産まれるのも嬉しいことだけど、
こっちが心配して探し回ってるときに此奴は女取っ替え引っ替えしとったんかい、とレイがへそを曲げ、
いろいろ悶着があって、結局はめでたしめでたしで第二部は終わります。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
3.6626601219177