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[27351] キスから始まる鬼畜なストーリー【ゼロ魔・鬼畜】
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/04/22 15:47
【注意事項】

 本作品は鬼畜です。才人くんがルイズたんとラヴラヴとか期待しないでください。
 才人くん最強です。ちょっとしたボタンの掛け違いからダークサイドに墜ちています。
 テンプレ再構成となります。どこかで見たような展開が散見されるかもしれませんが、ちょっとだけオリジナリティがあります。
 独自の設定となっております。矛盾があるとか気にしないでください。
 ご都合主義があります。なんでそうなるとかいじめないでください。
 最後にもう一度。才人君は鬼畜です。ダークサイドに墜ちております。
 強姦・拷問・催眠・露出・スカ・などが予想されます。それらに嫌悪感を感じる方は気分が悪くなる可能性が高いので、読むのをお控えください。

 上記について納得頂ける方のみ、暇つぶしにでも読んで頂くようお願い致します。




[27351] 異世界召喚
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/10 19:53
 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
 神の右手はヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
 神の頭脳はミュズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人……記すことさえはばかれる……。







 ―――ふざけてる。俺の心境を表すならこの一言で事足りるだろう。

 パソコンが壊れてしまい、ようやく修理が終えた帰り道。いきなり現れた銀色の鏡みたいなモンに興味を持ってしまったのが運の尽きだった。
 遠巻きに眺めてその不自然さに驚き、真横から見ると厚さがないのに驚いて、小石を投げ込むと戻ってこない。
 鍵を取り出し入れてみる。引き抜いてみると何もない。それでついつい表面を撫でてしまい、気が付けば見覚えの無いところに俺はいた。

 桃色がかったブロンドの髪と透き通るような白い肌を舞台に、くりくりと鳶色の目が踊っている女があきれたような顔をして「あんた誰?」とのたまいやがる。顔は合格。身体のほうは……まあ、今後の成長に期待したいかわいそうな女だった。

 さて俺の方こそ「あんた誰?」と言いたかった。ただ驚きの方が大きすぎて言葉なんか出てこやしない。口をあんぐりとさせているとその女(ルイズと言うらしい)が俺から目線を外し、ハゲたコスプレしたおっさん(コルベールというらしい)と言い争いを始める始末だ。どう考えてもこのありえない状況の元凶はあのルイズとかいう女だろう。少なくとも関わり合いはあるはず。説明責任を果たせと言いたい。

 女とハゲが言い争いを続けてる。それで少し驚きが落ちついてきたので周りの状況を確認してみた。

 抜けるような青い空、石畳みの床、豊かな草原、石造りの大きな城、それと――ニヤニヤ笑って俺を馬鹿にしきっている目線の数々。気に入らないと素直に思う。

「っでも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!」

「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない」

 ハゲと女が変わらず言い争いを続けていた。……誓って言うが俺はその会話なんて聞いちゃいなかった。聞いていれば漏れ聞こえる単語の端々に、ヤバさで抵抗くらいはしたはず。だから身体の正面にくるまでルイズに気づけず、不意打ちでキスされてしまう。

「何だ? あの平民生意気だぞ!」

「しょうがないわよ、ゼロが呼び出したんだから平民もゼロなんでしょ!」

 何故なら色々言いたい放題に言ってやがる馬鹿共を睨み付けるに気をとられていたのだから。言い争いなんて右の耳から左の耳にそのまま抜けていたのだ。

「あんた、感謝しなさよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」

 ルイズに気が付き抵抗しようとした時には既に手遅れ。混乱していて何も考えられなかったし、後ずさろうにも尻餅をついたまま。それでいきなり両頬を抑えられ、邪険に振り払うのをためらった結果、そのままキスされてしまう。
 それでも終わったあとに「いきなりキスなんて何しやがるっ!」と抗議しようとしたんだが

「!ぐあ!っがぁああぁあぁあああああっ……!」

 左胸にとんでもない痛み。試した事もやられたいとも思わないが、心臓を刃物で刺されたらこんな痛みなのかもしれないと頭の片隅で思った。

 胸を抑えて苦しんでる俺にルイズは「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ」と放言するし、ハゲは俺に歩み寄って断りもせずにパーカーの下のシャツを捲り上げ、「……ふむ、珍しいルーンだな」とメモしていく。

「はぁ……はぁ……、っこいつらふざけやがっ……」

 こんな扱いされれば普通キレてもおかしくないだろう。治まってきたがとにかく痛かったし、人を無視して勝手に話を進めるなと言いたい。
 だが熱さも、痛みも、何をしやがったという怒りもあまりの衝撃に忘れさられた。

「……飛んでる?」

「そりゃ飛ぶわよ、メイジが飛ばなくてどうすんの」

 声の方に振り向いてみると不思議そうな顔をするルイズがいたが、俺は視線を戻して茫然と空を飛ぶ人影を見送るしかできなかった。
 今の自分もありえないのだが、実際に人が飛んでいるのを見せつけられるとリアルが違う。「それじゃあいくわよ」と促すルイズに、俺は「あ、ああ……」と生返事をするしかなかった。



「……するってーと何か? つまり俺はオマエの使い魔とやらで、拒否権はないと?」

「そうよ。わたしがあんたのご主人様。貴族の、それも由緒正しい大貴族であるヴァリエールの使い魔になれるんだから名誉に思いなさい」

 ルイズの部屋に案内された才人は怒りを抑えて確認した。案内された部屋は石造りに西洋風で日本とは思えなかったがそれはそれ。とりあえず疑問は棚上げしておく。そして広場から部屋まで歩いてきたことで少し平静となり、とにかく現状把握しなければと行動したのだ。

「……っふざけんな! パソコンとか携帯とか証拠を見せただろ! 信じがたいが異世界だってのは認めてやるからさっさと俺を家に帰せよっ!」

「わたしだって平民なんて嫌よ。もっとかっこいいのが良かったわよ。ドラゴンとかグリフォンとか。せめてワシとかフクロウとかならマシなんだけど伝統なんだから仕方ないじゃないっ。それとね、平民が貴族に対してそんな口利いていいと思ってるの?」

「っだからふざけんな! 召喚したんなら送り返すこともできるだろ!?」 

 はぁと溜息をついたルイズは続ける。

「サモンサーヴァントはあっても送還の呪文はないわ。だから無理」

「どうしてだよ!? そのサモンサーヴァントだったか? それ、もう一度唱えてみろよ。 そうすりゃ戻れるかもしれないだろ!?」

 結果は才人にとって信じがたく、最悪なものだった。

――ここは日本ではなく、ハルキゲニアという世界である。ぱっと見た感じは城といい、調度品といい、中世ヨーロッパと言う感じ。何しろ石造りで家電品が見当たらない。
――女の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。長い名前だ。公爵家の三女であるらしい。公爵といえば王に繋がり、中世の貴族としてなら最高位だろう。つまり相当に地位が高い。
――俺が召喚されたわけは春の使い魔召喚の儀式のため。二年生進級時の試験であるらしい。試験なのに神聖な儀式とか理解に苦しむが、とにかく伝統行事らしい。
――空を飛んでいたのはフライの魔法。魔法使いのことをメイジと言って、貴族とは魔法使いのことらしい。杖を使って魔法を使うのだ、と話された。

 魔法とやらは実際に見たがそれでも信じられない。何かのトリックや夢だとでも思った方がしっくりくる。あるいはドッキリで小野ヤスシあたりが出てくればまだ納得できる。今ならタカさんかノリさんあたりか? あるいはロンブーあたりかもしれないが。

「だから仕方ないでしょ? 私も諦めるからあんたも諦めなさいよ。はぁ、なんでわたしの使い魔こんな冴えない生き物なのかしら……もっとカッコイイのが良かったのに……」

――使い魔が見たものは、主人も見ることができる。そんなことが出来るわけがない。
――使い魔とは主人が望むものを見つけてくる。例えば秘薬とか言われても、知らないのに見つけてこれるわけがない。
――使い魔は主人を守る存在である。単なる学生にボディガードの真似事など期待するなって話だ。

 ぐちぐちとルイズは呟く。才人は素直に何もできないと答えた。そもそもやる気が全く起きないのだから、仮にやれても出来ないと答えただろう。それにだ、カラスより弱そうなんて言われれば、馬鹿馬鹿しすぎてまともに答える気になれない。

「だから、あんたにはできそうなことをやらせてあげる。洗濯。掃除。その他雑用」

「っだからふざけんな! 俺は使い魔なんかじゃないって言ってるだろ! 何でそんなことやんなきゃいけないんだよ!」

「はいはい。あんたもいいかげん往生際が悪いわね。それともいっぺん死んでみる?」

「ど、どういうことだよ……」

 にやりと邪悪気に笑ったルイズは才人に宣告した。

「サモンサーヴァントはね、使い魔が死ねばまた唱えることができるの。どう? いっぺん死んでみる? わたしもそうなってくれるとありがたいんだけど?」

「ぐっ……」

 つまり纏めるとだ、ここはハルキゲニアという世界のトリステイン王国。ルイズによれば高名らしいトリステインの魔法学院。この時点で既に頭が痛い。だが人が空を飛ぶのを見てしまったし、気が付けば見知らぬ場所にいた自分だ。魔法と言われて、もしかしたらそうなのかもしれない。それにふと見上げた月はやけに大きく二つあった。こんなことは地球上のどの場所でもありえない。
 そして使い魔という身分は確定であり、辞めるには死ぬしかないと言う。生きるためにはいけ好かないルイズをご主人様として敬い、掃除や洗濯、その他雑用をしなければならないのだ。そうしないと殺されるという。

「ふふん、理解した? さて、しゃべったら眠くなっちゃったわ」

 憎たらしい笑みを浮かべたルイズはあくびをし、ごそごそとベッドへと潜り込んでいく。
 話を途中で止められてむかついたが、才人もいい加減疲れていた。ここは仕方が無い。続きは明日にすることにした。「……俺はどこで寝れば良いんだよ」と不承不承に問い質す。ルイズは床を指差した。

「っ……床に寝ろって言うのか?」

「しかたないでしょ。ベッドは一つしかないんだから」

「……そうかよ……」

 怒りを押し殺した声で確認する才人になんと諦めが悪いとあきれながらも、それでもルイズは毛布を一つ投げ渡し、

「いい? 誰があんたを養うと思ってるの? 誰があんたのご飯を用意すると思ってるの? ここは誰の部屋?」

「…………」

「ふふん、そういうことよ。じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」

 悔しげに睨み付ける才人にルイズは勝利の笑みを浮かべ、ばさっ、ばさっと、レースのついたキャミソールに、白い精巧で緻密なつくりをしたパンティを頭に投げてくる。

「……おい、恥ずかしくないのかよ。俺は男なのに平気なのか?」

「男? 誰が? 使い魔に見られたって何とも思わないわ」

 言葉のとおりに平然と、大きめのネグリジェに着替えたルイズは指を鳴らすことでランプを消した。そしてそのままお休みも言わず寝入ってしまう。どうやら本当に恥ずかしくないようだ。着替えを見届けた才人だったがしばらくするとすうすうと寝息が聞こえてくる。

「……ふん、本当に男扱いしてないんだな。それに恥ずかしくないってのも本当らしい」

 毛布に包まった才人はそんな無防備なルイズに対して壁に背中を預けて座り込み、そのまま睨み付けながら無言で考え込み始めた。これからどうすべきかを。



 まず第一にここは異世界であると認めなくてはならないだろう。そもそもの始まりである鏡らしきモノ、ルイズはゲートと言っていたが奥行きがないのに存在して、小石を投げ込んでも戻ってこなかった。自然現象と考えたのが間違いで、胡散臭いと無視すれば良かった。
 気が付けば見知らぬ場所にいて、だだっぴろい草原に城。ヨーロッパのどこかに観光地としてならありえるかもしれないが、才人はパスポートもビザも持っていなかった。それにもしそうならこれだけ大掛かりだと費用は洒落にならないし、一般人に仕掛けてはそもそも意味がない。よってドッキリの線はナシ。止めに二つの月ときたものだ。認めざるをえないだろう。
 夢を見ているってのは捨てたくないが、床や壁を触れば感触があるし、頬を軽く叩いてみたがしっかりと痛みがある。よって夢の線もナシ。

 第二に魔法が存在する世界だと認めなくてはならない。
 サモンサーヴァントと言っていたが、実際に才人はハルキゲニアとやらに呼び出されている。ルイズは魔法魔法とうるさいし、液晶画面をみて驚いていた。科学と言われてピンときていない顔をしていたし、あれが演技ならアカデミー賞モノだ。
人が飛ぶところを見てしまったし、今にして思えばあのいけ好かない学生たちは見慣れない生き物を連れていた。あんな生き物、才人は知らない。
 それに言葉にしたってそうだ。日本ではありえないのに流暢な日本語を話す外国人らしき風貌。異世界どころか外国なら言葉が通じなくて当たり前なのだ。これも魔法としか考えられない。主人と使い魔は意思疎通ができるという話だからなのだろうか? それに公爵と言われて普通に公爵と理解できたが、よくよく考えるとこれもおかしい。日本語なら発音が同じなのだし、侯爵と勘違いしてもおかしくない。これも魔法のせいなのか?

 さて、それを踏まえて。今後どうするべきかと才人は考えた。ルイズの話では使い魔として仕えなくてはならないという。だが異世界、つまり日本からハルキゲニアに召喚魔法とやらで拉致されたのに、仕えろなんて冗談ではないと思う。

 ふざけろ! 仮に百歩譲って召喚されたのが仕方が無いとしてもだ、理由を話されて納得できれば話は別だけどよ、そうじゃなければあり得ねえよ!

 それに今までの待遇を見るに使い魔とは奴隷と同じ、いやそれ以下の扱いらしい。ちっとも話を聞いちゃくれなくて無理やりルーンとかいう刺青を入れられるし、苦しんでいるのを見てルイズはあきれていた。コルベールというハゲは教師らしいがお構いなしにシャツをめくり、メモをするだけして去って行った。謝罪どころか気遣いの言葉一つ掛けずに。それが使い魔に対しての扱いなのだろう。教師でこれなら学生連中もそうなのだろう。

「……っちくしょう。ふざけてやがる……」

 そして今は石の床で寝ろときている。やはりというかひどい扱いである。毛布一つ投げて寄越し、いかにも慈悲深い主人で感謝しなさいという態度だった。

「いい? 誰があんたを養うと思ってるの? 誰があんたのご飯を用意すると思ってるの? ここは誰の部屋?」

 ルイズの言葉がリフレインする。アレは勝ち誇った憎たらしい笑みだった。両腕を組んで見下し、「これだから平民は度し難い、貴族であるわたしに仕えることができる名誉がわかっていないんだから」と目で語っていた。

「くっ……!」

 衣・食・住で、住の待遇が石の床に、慈悲である毛布一枚で寝ろ、だ。着るもの、食べるものだって大方予想できる。奴隷に新しい服など用意しないだろうし、食事なぞ残飯か犬の餌程度しか用意しないだろう。それでいてコキ使い、抗議しようものなら死ねと言うだろう。何故なら才人に対して不満たらたらであり、冴えない生き物、ドラゴンやグリフォンは知らないがワシやフクロウ以下だと言ってくれたのだから。

「サモンサーヴァントはね、使い魔が死ねばまた唱えることができるの。どう? いっぺん死んでみる? わたしもそうなってくれるとありがたいんだけど?」

 考え込めば考え込むほど憎たらしい言葉の数々か蘇ってくる。その勝ち誇った態度と共に。

「ちくしょう……使い魔なんて冗談じゃねえよ……」

 頭をあげてルイズを見ればすうすうと穏やかな寝息を立てている。それが堪らなく憎たらしい。

「…………くっ……!」

 結論は決まっている。逃げるしかない。だがしかしだ。

「結局は同じことなんだよな……」

 もし使い魔なぞ冗談ではないと逃げたとして、そうしたらどうにかなるだろうか? 身寄りも何もない。サバイバルのスキルがあるわけではない。野垂れ死にが関の山であろう。
 それにもしかしたらだ、ルイズは嬉々として殺しに来るかもしれない。ルイズの言う平民が、貴族が、それがどのようなものかは知らないが、ある程度は想像できる。何しろ教師であるコルベールからして才人に対して傲慢極まりなかったし、周りの学生連中もニタニタと才人を見下していた。
 名誉だの誇りだのうるさかったし、奴隷に逃げられるなぞ不名誉だとして刺客を差し向けられても不思議ではない。そうなったら空を飛ぶような奴らだ、逃げ切れるわけがない。殺せば新たな使い魔を得られるらしいし実利もある。可能性は高いだろう。

 つまり、どうあがいても死ぬ運命しかない。それが嫌なら憎たらしくて堪らないルイズに使い魔として仕え、様々な理不尽に耐え、ビクビクしながら顔色を窺って愛想笑いをし、常に死の恐怖に怯えなくてはならないということだ。

「……そんなの、冗談じゃねえよ……っなら、いっそ……」

 両膝を抱えながらぶつぶつと呟く。奴隷として生き、いつかは理不尽に殺されるか。それとも逃げて刺客に怯えて暮らし、殺されるか野垂れ死ぬかの二択しかないというなら、それ以外の選択肢を探すしかないのでは?

 顔をあげればすうすうと寝息を立てているルイズが見える。 

 ユラリと幽鬼のように立ち上がった才人は第三の選択肢にすることにした。同じ死ぬなら自分の意志を尊重したい。殺されるにしても理不尽でないだけの理由があればいい。

「くくく……ご主人様? 愚かしい使い魔としてはこれくらいかお役に立てません。全く残念ですよ」

 そう、使い魔だろうが何だろうが、見知らぬ男と同じ部屋にいて無防備に寝ている方が悪い。魔法使いらしいが魔法を使うには杖が必要で、しかも呪文を唱える必要があるらしい。そしてその杖はサイドボードの上に無造作に置いてある。それなら床にでも落として手の届かないところに離してしまえばいいのでは?

「ご主人様? お嬢様? くくく……どっちでもいい。最後のご奉公として、人生の教訓を教えて差し上げますからね?」

 そうなればルイズは無力な小娘にすぎない。もし杖が無く、呪文だけで魔法が使えるというなら、手の中にあるキャミソールとショーツを使えばいい。それ以外で魔法が使えるなら……残念ながらそれまでだ。だがそうであっても構わない。ちょっぴりだけ残念ではあるが、死ぬのが数時間だけ早くなるだけの話である。才人は覚悟を決めることにした。

 これから朝までの数時間、長くて様子を見に来るルイズの友人なり教師なりが来るまでの半日か一日かで、才人は死ぬことになるだろう。公爵令嬢という身分の女を犯すのだから、ギロチンか縛り首かは知らないが間違いなく殺されるだろう。だがそれで一向に構わないのだ。これで殺されるなら納得がいく。

 理不尽にも拉致されて居場所を奪われ、家族や友人と引き離され、生活のアテなどあろうはずもなく、生きるためには憎くて憎くて堪らないルイズの慈悲にすがり、常に死の恐怖を味あわなければならない。帰る方法など存在しないというのなら、とっとと死んだ方がはるかにマシというものではないか?

 ならばと、どうせ死ぬならそれまでは欲望のままに狂ってやろうと、才人は覚悟を決めたのだ。

 才人は目標を見定める。すやすやと幸せそうに眠っている。なまじ可愛らしい顔つきだけに憎たらしい。ちょっと吊り上った勝気そうな目つきに眉、小さな桜色の唇。正直タイプの顔つきである。もしも東京にいて、それで街角で見かけたりしたら目で追ってしまったかもしれない。

 だが今の才人にそんなことは関係がなかった。

 何しろ命がけどころか、ルイズを犯せば間違いなく死ぬ。殺される。勿論才人だって好き好んで死にたいわけではない。ただ何の身寄りも伝手もないところで、奴隷として一生を送るくらいなら死んだ方がマシと腹をくくったのだ。これをすれば後がなくなる。つまり踏ん切りをつけたかった。

 目で追ってしまうのはつまるところ、ああ、あの娘可愛いな、あわよくば仲良くなりたいなと思うからである。日常を愛するからこそ容易に声を掛けたりはできない。振られるのは怖いし、そうでなくとも、何コイツ、下心あって声を掛けてきたの? などと思われるかもしれないと、よほどの切っ掛けがないと声を掛けるのは憚られる。

 ルイズは単なる獲物に過ぎない。

 人間に見えるが人間ではない。女の姿をしているが女じゃない。捕食される哀れな動物、女ではなくメスなのだと才人は思った。期待するのは仲良くなって笑いかけてくる姿ではなく、恐怖に怯えた絶望の表情だ。それでこそ捕食される哀れな動物、女ではなくメスに相応しいのではないだろうか。

 すうすうと幸せそうな息をたて、ルイズは深い眠りについている。

 左手には二つの布の塊。すべすべしていて感触が心地よい。このままルイズを犯してしまえば、自分は死ぬ。これからしようとしていることは間違っても恋人同士の営みではない。レイプである。そしてルイズは哀れなメスに過ぎないが、同時に間違いなく身分の高い女である。してしまえば取り返しはつかない。自分は死ぬ。

 音を立てないように気を付けてパーカーを脱ぐ。一つ一つシャツのボタンを外していく。ルイズは気付かない。幸せそうに寝息を立てたままである。月明かりに高級そうな布団がわずかに上下しているのが見える。

 才人は自分が興奮しきっているのを自覚した。鼻息は荒く、痛いくらいに勃起しきっている。これから嫌がる女をレイプしようというのに。
 これはどうしたことだとふと思う。自分はそんな人間だっただろうか? 

 ルイズはすうすうと寝息を立てて眠っている。

 ……関係はない。むしろこれから犯すのだから、興奮して勃っていないと困る。嫌がる素振りで萎えてしまうようだと困る。自分は女の、いやメスが恐怖に怯えて、苦痛に悲鳴を上げるのを好む鬼畜だったのだろう。女の嫌がることを強要し、羞恥に顔をあげられないのを見てほくそ笑む類に過ぎなかったのだろう。
 そう考えるとなんだか酷くスッキリとした気分になれた。死を明確に意識したことで、自分の本質が現れたのだと才人は考えた。

「ん……」

 もぞもぞと身体を動かし、ルイズは寝返りを打った。その声に思わず息をのんだ才人だったが、しばらく注視しているとすやすやと寝息を立てて眠り始める。

 物音を立ててしまった? 例えば意識せずに鼻息を荒くしてしまった? それとも単なる偶然だろうか? 理由はわからないが愚図愚図すべきではないと考えた。意識していなかったが、心のどこかで逡巡していたのかもしれない。

 情けないと思った才人は改めて覚悟し直した。犯罪もくそも、これから自分は死ぬ身ではないか。こんな状況に追い込んでくれたルイズに対して、少しばかりの意趣返しをして何が悪いというのか。
 ゆっくり、大きく深呼吸する。そして獲物へと視線を向け、生唾をゴクリと飲み下す。その音がやけに大きく響いたように感じられる。

 そして――才人はその右足をゆっくりと動かし、ルイズの眠るベッドへと向け、最初の一歩を踏み出した。

 眼下にはすうすうと幸せそうな寝息を立てているルイズがいる。
 貴族? それも公爵家の三女? 何不自由なく、わがまま一杯に育ったに違いないと才人は思う。そうでなければあのような生意気に、礼儀知らずに、常識知らずには育つまい。それとも貴族というのは皆ルイズのように育っているのか? 興味深いがもはやどうでもいい。どうせ遠からず死ぬ身の上である。知る機会も、それを生かす機会もないのだから。
 ただしルイズだけはちょっぴり違う。これから手痛い教訓を、その報いを受け取ることになる。

 月明かりにルイズの寝顔がはっきりと目に映っている。

 手際よく進めなくてはならない。石造りだからかなりの防音効果はあるだろうが限界はある。大きな声で悲鳴などあげられようものなら、隣に聞こえても不思議はない。
 何より喋られては呪文を唱えられる。そうなれば俺は意趣返し一つ出来なくて死ぬことになる。
 死ぬことは覚悟しているし、もはや恐れても仕方が無いがそれは避けたい。出来ることなら人生最初にして最後のセックス、カラになるまで思う存分やりつくしたい。最悪でも一発中出ししてからでないと死ぬに死にきれないだろう。

 サイドボードの上にある杖を見る。ルイズから手を伸ばせばすぐに手が届く位置にある。これさえなんとかすれば――最悪の最悪、入れるくらいはしてくれる!
 鼻息で気付かれない様に息を止め、才人はソロリソロリと枕元に近づいていく。

 才人はルイズの顔色を窺いながらサイドボードへと手を伸ばす。万が一起きてしまった場合に備え直ぐに対処できるように。ソロソロと手を伸ばして――あと20センチ……10……5…………よしっ! 取った! 
 目的のものを手に取った才人は安堵で思わず、ほう、と溜息を洩らし、慌ててルイズの方に振り向いた。大丈夫、幸せそうに寝息を立てているだけ。

 くくくっ……可愛い顔してるが性格のほうももうちょっと可愛ければな? そうすりゃもしかしたらこんな目に合わなかっただろうによ? これからその生意気な顔、絶望と屈辱にゆがませてやんよ!

 さて、手に取った杖をどうするべきか? しばし考えた才人だったが折るのはマズいと思った。音で気付かれるかもしれない。壁の方へ転がすのも不可、折るよりマシだろうがカラカラと音がするかもしれない。ならば――ベッドの下にでも放り込んでおこう。そうすればルイズから見えなくなるし、この場所から動かなくても済むだろう。
 才人はゆっくりゆっくり屈みこんでいき、それをそっと押し込んでいく。大丈夫、音はしなかった。
 立ち上がり、しばし天井を見上げ、軽く、ほう、と溜息を洩らし、それから視線を下にずらす。獲物はのんきに眠りこけたままであった。

 にやりと才人は口の端を釣り上げる。

 くくっ……ご主人様、俺はもう直ぐいなくなるけどよ、新しい使い魔は従順だといいよな? まっ、これを教訓に少しは考えを改めるこった。それとももう使い魔はこりごりだって思うようになるか? どうなろうと構わんが、少なくとも俺は奴隷なんて御免こうむるんだよ……。

 さて、ここからは本当に手際が全て。スピードの勝負になるだろう。
 猿轡をかまし、手早く縛り上げなくてはならない。抵抗するようなら殴りつけ、可能な限り犯しつくす。人生最後の娯楽になるんだから徹底的にやる。手の中の布きれを右手に持ち替えて舌なめずり一つ、ルイズへと襲い掛かることにした。



[27351] 反逆への道
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/04/23 10:43
 もぞもぞと無意識に両手を動かしたルイズだが意識は覚醒しておらず、体は布団を取り戻そうとした。風を感じたのだ。寝ぼけて布団を蹴ってしまったのかなと、頭の片隅でなんとなく思った。
 そして直後、お腹に大きな圧迫を感じ、苦しさから一気に目を覚ましてしまう。何が起こったか理解できなかった。慌てて顔をあげ、自分に何が起こっているのか確認しようと視線を異常の方向―お腹の方へと向ける。
 そこにはニヤニヤ嗤っている自分の使い魔があった。布団を剥ぎ取られ、馬乗りにされていた。

 寝起き直後でルイズは上手く頭が働かない。使い魔に無礼を働かれて怒りを感じるより、一体何が起こっているのかという疑問の方が強かった。そして二秒、三秒、時間が経つにつれだんだんと意識がはっきりし、猛烈な怒りの感情が湧き上がってくる。

 あろうことか眼前の平民は貴族である自分の貞操を奪おうとしている!

 かつてこれほどの怒りを感じたことはルイズにはなかった。これに比べればツェルプストーとの諍いさえささやかなことだ。感情の高ぶりのままに罵声を浴びせる。

「っこの平民! 使い魔の分際で貴族であるわたしによくも大それたことを!」

 そうルイズは罵声を浴びせる。浴びせるはずだった。

「……え?」

 だがそれは出来なかった。才人はルイズの形の良い細い顎を掴み、右手を大きく振りかぶる。それから二度、三度、四度、五度……。口の中を切ってしまい、ルイズが血の味を感じるようになっても才人は手を休めない。七度、八度、九度、十度……。
 バシッ、ビシッ、と鈍い音が室内に響き、その度えぐっ、おぐっ、と言葉にならない苦痛の喘ぎをルイズは洩らす。

「いいぜ? 喋りたいならいくらでも喋りな」

 平然として暴力をふるい、嗤いながら「声をあげたければどうぞ? ただしその前、その度に何度でも殴る」と言外にいう才人にルイズの心は折れた。これまでこんな暴力を受けたことなどなかったのだ。あえて言うなら幼いころ、母親にお尻を叩かれたくらいで比較にもならない。怯える目で黙り込んだルイズに満足した才人は次に進む。

「……OK、状況は理解したみたいだな? 理解したんならうなずけ。そうでないなら首を横に振れ」

 恐怖に目を一杯に見開き、それでもルイズはコクコクと首を大きく縦に振る。

「くっくっく……まあそう言うこった。オマエの言葉じゃないが諦めろ。色々考えたんだが俺はオマエの使い魔なんて真っ平ゴメンでね」

「っ…………」

「でまあ、辞めることにした。ただ無理やりでも使い魔にさせられたんだ。一つ最後のご奉公として教えてやろうと思ってな。使い魔だろうが、平民だろうが、男と同じ部屋で寝ようとしたらどうなるかってな」

「…………」

「くくっ……でもまあ俺の勘違いかもしれんから間違ってたら言ってくれ。男の前で平然と着替えして、ショーツまで脱ぎ捨てたんだ。羞恥心の無い単なるヤリマンなのかもしれん。もしそうならこれからやることは同意の上ってことにして欲しいんだが……。で、ご主人様よ、あんたはヤリマンなのか? これからすることは同意の上にしてくれるか? イエスならうなずけ。違うなら首を横に振ってくれ」

 ルイズにとっては答えるまでもない質問だった。ヤリマンどころか男と付き合ったことがなく、ファーストキスさえも眼前の才人なのだ。しかし、明らかに才人の要求している答えはイエスである。どうしたものかと考え

「!っ…………」

 ちらりと横目でサイドボードを見る。そこには杖はなかった。たとえ爆発しか起こらなくても自分は貴族であり、メイジであり、頼りとするのは魔法なのだ。何とか隙をみて逃げ出すには杖が必要なのに、その杖がなかったのだ。絶望感がルイズを襲う。

 それを才人は別の意味に受け取った。キスされたときの照れていた様子からして、ヤリマンどころかおそらく処女であろう。だがそんなことは関係がない。わずかに傾けた首が問題なのだ。故にルイズを殴りつける。
必要とする答えはイエスであり、その口実があれば問題がない。再びビシッ、バシッと鈍い音が部屋中に響き、ルイズはうぐっ、あぐっ、とくぐもった悲鳴をあげた。

「わるいわるい。信じられなくてついカッとなっちまった。イエスだと思ってたからさ。……で、答えはどっちなんだ? イエスかノーか、もう一度答えてくれ」

 おー痛い痛いと痺れる手のひらをひらひらさせながらも、もう片手ではしっかりと顎先を掴んだまま。にやにや嗤いながら答えを強要する。屈服したルイズは涙でボロボロになり、それでも小さくうなずいた。自分はヤリマンであり、これから行うことは同意の上であると認めた。

「そーかそーか、そいつは嬉しいね! じゃあ今から行うことはプレイだ。口を大きく限界まで開けろ」

 引きつった笑みを浮かべながら口を大きく開いていく。血の味が苦く、惨めだった。そこに才人は丸めたショーツを押し込む。傷に触り、沁みたルイズは苦痛のうめきをあげた。それを才人は髪を掴むことで身を起させる。キャミソールを使って猿轡を噛ませる。

「今更言うまでもないんだけどな、騒いだら殺す」

 笑顔で言い切る才人にイヤイヤとルイズは首を振る。とても冗談だとは思えなかった。

「……ああ…違ったな、ヤリマンのルイズさんだと喘がれたら困るだった。騒いだら殺すは一緒だけど。……わかるよな? ご主人様?」

 ブンブンと、ルイズは大きく首を振った。殺されるのは嫌だった。暴力を振るわれるのは嫌だったから必死だった。その態度にニヤリと笑った才人は次の命令を下す。

「ふふん……少しは素直になってきたってか? じゃあ次だ。手をあげてバンザイしてみろ」

 逡巡するルイズだが才人の目を見、ゆがむ口元を見、許されないと悟る。愚図愚図していたら、また容赦なくビンタされるだろう。どうしてもちらちらと右手をみてしまう。おずおずと両手をあげていくが恐怖から上手く体が動かない。

 それでもどうにかバンザイしたルイズから才人はネグリジェを抜き取って、それでもって後ろ手に縛り上げた。ルイズは糸一筋纏わない全裸の姿とされてしまう。
「よし、それじゃ入れてやることにするか」と才人は言い、それを聞いたルイズはやはりショックだった。今から何をされるのか理解していたし、今更のことではあるがやはりショックだった。身体全体に力を入れ、特に太ももには力を入れてびっちりと閉ざしてしまう。

「ん? くく……入れられたくはないってか? プレイの一環としては悪くないが……」

 苦笑する才人だったが突然顔つきを恐ろしいものへと変える。

「残念だがな、時間がないんだよっ。それとも何か? まだ自分の立場がわかってないってか? いいからさっさと足の力を抜け! 足をガバっとヤリマンらしくと開くんだよ! それが出来ないなら思い知らせてやるだけなんだよ! ああん? それとも何か? 殺されたいってか!」

 低い声で怒鳴られることで自然とルイズは力が抜けてしまった。

「……ん? うわっ! コイツ洩らしやがった!」

 そしてそれに伴いルイズは失禁してしまう。恐怖で必要以上に力を抜いてしまったのだ。それを才人はゲラゲラ笑い、「ちょっとまってろ。このベッドは俺も使うんだからな。放っておいたら移っちまう」とクローゼットに向かう。
 情けなくて、悔しくて、恥ずかしくて、ルイズは身動きの取れないままにただ涙を流すことしかできなかった。

 才人は才人で嬉々としてクローゼットの中身を調べる。こんなことは初めての経験だ。宝探しのようで興奮する。
 様々な私服類、下着類。その中で才人は私服を無造作に掴んで戻ってきた。それが都合良かったからだ。「足の力を抜け」と改めて命じ、嫌がり、苦痛のうめきをあげるルイズの股を強引に手で割り広げ、股間にブラウスを突っ込んで手荒に拭き取り、水分を吸収させるとそれを床に投げ捨てる。

「ロープがないかと探してみたんだが流石になかったな? 代わりに興味深いものがあったけど、何に使うつもりだったんだか……」

 くっくっくっと、可笑しくて堪らないという風に才人は笑う。自分の服を脱ぎ、全裸となった。振り向いて嗤う。ルイズは目を見開いて驚いた。才人の肉棒はこれ以上なく勃起して反り返っていたからだ。これまで肉棒など見たことさえなかったのに、反り返ってびくびくと蠢いていたからだ。くぐもった声で拒否の意をルイズはあげる。

「まあ、それについてはあとだ。ベッドに縛り付けるのにロープがあればと思ったんだが流石にな。代わりになるものがあってよかったよ」

 更に縛られるとルイズは嫌がる。だが才人がわざとらしく右手の肩を回し始めるとがっくりと肩を落とし、ただただ嗚咽するしかなかった。

 ニヤリと邪悪に嗤い、「それでいい」と声を掛ける。力を抜いたルイズの身体を「よっこらしょ」とひっくり返し、改めて縛り上げる。今度は前小手。見つけたニーソックスを使ってベッドに括り付ける。お尻を大きく突き出す格好を取らせ、気に沿わないとひっぱたいて体位を直させる。

 大きく足を開いた後背位の体勢。両手を縛られ振り向くことも出来なく、自らの使用済みショーツを噛ませた猿轡。レイプに相応しいと才人は満足した。

 さあいよいよだぜ? くくっ……俺の性癖がこんなんだと思わんかったぜ。人生の最後に知るってのも皮肉だが、まあ仕方がない。こんな状況にならなきゃ知ることもなかったろうしな。最後の宴だ、存分に楽しんでやるとするさ。

 瑞々しいお尻をしっかりと掴み、嫌がる素振りを見せたり必要以上にうめくようなら容赦なくスパンキングを施す。指を突き入れ、秘肉を愛撫して濡らしていく。おそらくは処女、その肉は固い。ルイズが痛がるなど知ったことではないが、濡れていないと自分まで痛い。そんなのは御免こうむる。

 ん?そろそろ頃合いか?

 小さい乳房を揉みしだき、乳首をつまんで捏ねてみる。恥丘全体を揉みしだき、指を突き入れて掻き混ぜ、猛りきった肉棒を素股の要領でこすりあげる。れろぉぉと背骨沿いに舐めあげてやると、そのおぞましさから一際嫌がるのが面白い。しばらく続けて感触が変わってくるのがわかった。
 いかにルイズが嫌がろうとも性行為をしていると認識し、実際に刺激を受け続ければその肉は濡れる。

 身を乗り出して髪の毛を引っ張る。顔を覗いてみると叩かれ続けたことで赤く腫れ上がった頬――だがそれ以外にも紅潮しているのが才人にはわかった。鼻息は荒くなっている気がするし、苦痛とは別に何かに耐えるような表情をしているのがわかる。

「よ~し、そろそろ頃合いだな。身体の力を抜け。下手に力を入れると筋が切れてしまうかもしれんぜ?」

 するとルイズはピクリと身体の動きを止め、呼吸を平静に整え始めた。

「くっくっ、それでいい。それじゃ今から入れてやる。用意が出来たらケツを大きく左右に振るんだ」

 ぴしゃりと合図替わりにスパンキング。逡巡して動かなかったルイズだが、さらに強くスパンキングすると背筋をびくっとさせることでその苦痛に耐え、やがてゆっくりと、大きく、左右にそのお尻を揺らし始める。
 やめろと命じないのでいつまでもルイズはお尻を振り続ける。やめようとする素振りをするのだが、くぐもった嗤いが止まらないので、仕方なくまたお尻を振り始めるのだ。それがなんとも滑稽で面白い。

「よ~し、準備ができたみたいだな? くくっ、そんな男を誘うように尻を振るなんざ流石はヤリマンのルイズさんだ。お待ちかねのチンポを今から入れてやるよ……」

 びくっと身体を震わせたルイズはお尻の動きを止める。恐怖と苦痛に耐えられるようにと下半身に力を入れた。

「……ふんっ、力を抜かないと切れるぞって言ってやったんだがな。それでもいいってんなら好きにするがいいさ」

 才人はルイズがどうなろうと構わない。せっかくのアドバイスを無視するというのならそれもいいだろう。報いを受けるのはルイズである。合図としてスパンキングを一つ。体位が崩れ、お尻が下がってきたのが気に食わない。
 かなりの力で叩かれたルイズはその痛みにより身体を硬直させ、じっとして苦痛に耐える。それを無視して才人はお尻を掴んで引き寄せた。しゅっ、しゅっ、しゅっと腰を振り、肉棒によって股間をこすりあげる。
 いよいよ始まると嫌がり、逃げようとするルイズ。だががっちりと固定されてはそれも叶わない。才人は気分が最高潮に達するのを自覚した。猛りきった肉棒はびくびくと蠢き、先走りのカウパーが出ている。これで準備は整った。

 さあ、始めよう。

 邪悪に嗤う才人はルイズの膣口を両手を使って割り広げる。ミチミチと音を立てて開いていくその痛みに耐えかね、不自由な身体でルイズは暴れる。だが才人はそれを許さない。スパンピングしてそれを黙らせる。二度、三度、四度……。バシーン、パシーンと音が響き渡る。手触りといい、感触といい、その響きと言い、それが何とも心地いい。抵抗を諦めたルイズは身体を丸めることでじっとその苦痛に耐えるしかない。
 それに満足した才人はお尻を限界まで割り広げて秘口を露わにし、そして肉棒を当てがっていく。再びミチミチと音を立てる膣口だったが、逃げようにも逃げられない。ルイズはただじっと息を止めて堪えるしかない。

 っやっぱり狭いっ! ~~コイツは絶対処女だな。狭いのもそうだがチンポの先に違和感がある。これが処女膜か?

 処女の肉、それも濡れきっていないのに挿入してしまった才人だったので快感より苦痛を感じてしまう。
 そしてルイズはといえば苦痛、それも比喩するのもおこがましいくらいの激痛しか感じることが出来なかった。

 っ……くぅっ!……っくくっ、だがしかしだ、コイツは堪んねえぜ!

 才人はルイズの腰を掴み直すとずっ、ずっ、と少しずつ肉棒を埋め込んでいく。それを嫌がり身体を暴れさせるルイズ。強引に引き戻し、またもやずっ、ずっ、と肉棒を埋め込んでいく。

 諦めが悪いぜルイズ? もうどうしようもないってわかってんだろ?

 お尻を振ってルイズは嫌がる。パシーンと叩き、身体を硬直させた時を見計らって肉棒をずっ、と埋め込む。それでようやく亀頭の先が肉襞全体に覆われた感じとなった。

 っっいくぜルイズ!

 そして勢いをつける為に軽く腰を引き、そこからは一気だ。ズンと深く肉棒を埋め込んだ。するとルイズは身体を一瞬硬直させたかと思うと、苦痛のあまりに今までになく身を捩って逃げようとする。それを腰を引き寄せることで黙らせた才人はストロークを開始させる。
 ぬちゃ、ぬちゃ、にちゃ、とくぐもった水音がする。それはルイズが征服されている証の水音だった。

っ堪んねえぜ! 気を抜くと直ぐに出しちまいそうだ! ~~この征服感! 解放感! 堪んねえっ!

 抵抗しようとするルイズだが縛られているために動けない。それでもわずかに動く身体で前に、前にと逃げようとするが、それを腰を掴むことで強引に引き戻す。そして時には諦めの悪い獲物の尻を叩くことで自分の立場を思い出させる。

「おらっ! 諦めが悪いんだよっ! よがってないでちゃんとケツをこっちに向けろってんだよ!」

 真っ赤に腫れ上がったお尻は服従させている証である。そしてルイズはと言えば、少しでも苦痛から逃れようと不自由な身体を踊らせるだけである。

 だがそれは才人の目にはそう映らない。

 身体を捩るのはお尻を振って男を誘っているようにしか思えないし、息を止めて耐えるルイズは苦しくなると鼻息を荒くする。それは苦痛ではなく、とんでもない快感に耐えているとしか思えない。
 血と愛液により、そしてストロークによって少しばかり滑りが良くなっているルイズの膣。才人の快感は高まっていく。ぬちゃ、にちゃ、と水音が大きくなっていき、その間隔も少しずつ短くなっていく。それはルイズの激痛の間隔が短くなっていくのと同じ意味を持っている。それを回避することは不可能。ただ身体を固くし、時に不自由な身体を暴れさせることで耐えるよりない。

 月明かりに絡まったシルエット。一つはお尻を高く掲げ、一つは欲望のままに腰を振り続ける。

「っ~~おらっ! 出してやんぜ! ありがたく思えっ!」

 淫猥な水音と苦痛のうめき、荒い鼻息と時折響く打擲音。ただそれだけが室内の全て。ずっ、ずっ、ずっと才人は腰を振る。固すぎる肉、だがそれがいい。限界に達した才人はどぴゅるるるるるっと獣欲を子宮の奥まで解放させる。ルイズはそれを黙って受け入れた。

「ふ~~、良かったぜルイズ。ありがとな?」

 ニヤリと笑った才人はそこでようやく腰から手を放す。解放されたルイズはそのまま崩れ落ち、鼻息も荒く呼吸を整えようとした。肉棒を抜くとごぽっと音。ソレは血と愛液、そして精液によって月明かりに濡れ光っている。

 やはり処女だったかと、才人は征服感を刺激されて満足した。

 ふ~……とりあえず最低限の目標は達成だな。嫌がるルイズに思いっきし中出ししてやった。これで少しは思い知るだろーぜ。あんまし人を馬鹿にするもんじゃないってな。

「っと、ルイズ」

 そこでふとルイズの状況に興味を持った。一体今どんな顔をしているのか? 声を掛けるとピクリと反応する。しかし今のルイズはベッドに身を伏せ両手を縛られた状態。振り向くことはできない。ベッドの正面まで回り、もう一度「ルイズ」と声を掛ける。

「!……っくぁはははっ! くく……良かったみたいだな? 嬉しくて涙が止まらないってか?」

 ルイズは涙と鼻水により顔をぐしゃぐしゃにしていた。鳶色の瞳はぼやけ、勝気そうだった眉は釣り下がっている。桜色の唇は自らのショーツによって塞がり、キャミソールによる猿轡。鼻は鼻水だらけだし、呼吸するため息も荒い。布きれからはみ出た頬は叩かれたことで真っ赤に腫れ上がっている。今までの面影などなく、惨めなことこの上ない。
 
 こんなルイズに俺がしたんだと誇らしく、才人は愉快で堪らない。

「ん? 良くはなかったのか? 嬉しいんじゃなかったのか? どっちか答えてくれよ。なあ、元ご主人様よ?」

 才人が馬鹿に仕切った言葉を投げかける。すると流石に怒りを露わにしたルイズはぼやける視界で睨みつける。

 だが

 何かを思い出したように顔を伏せ、意を決して再びその顔をあげる。そして愛想笑いで取り繕った。それを才人はにやにや嗤いながら一連の流れを見届ける。

 くくっ、そうだよな? 今の立場を思い知れば俺の機嫌を損ないたくはないよな? いつ殴られるかってびくびくしてんだよな? 

 ルイズの態度に満足した才人は「良く出来ました」と頭を撫でてやり、再びルイズの背後へと回る。
 
 そうだよ! そんな顔を見たかったんだよルイズ! 絶望と屈辱に塗れながらも愛想笑いをする! そんな立場に俺を置きたかったんだろ? ソイツを思う存分味あわせてやんよ! 使い魔って名目の奴隷の扱いをな!

 抑えきれない嗤いを才人は洩らす。そんな才人にルイズは恐怖も露わに身体を震わせ、それでも少しでも興味を引かないようにと息を殺している。
 
 才人は自分の肉棒を確認する。するとあきれたことに射精したばかりの肉棒は回復しきっていた。

 おぅ! こりゃ凄ぇ! 出したばっかなのにびんびんだぜ!

 こんなことは才人にとって初めてだった。ルイズの膣に思いきり射精し、その量は今考えるととんでもない量だった気がする。それだけでも異常なのに、いくらも時間を掛けないでこの回復ぶり。射精のあとは何の刺激もしていないというのに、期待感だけでびくびくと蠢いている。

 理由はわからない。だがそれはあまりにも好都合だった。

 才人にとっても初めてのセックス。それも獣欲をあますところなく発揮できる、縛り上げてのレイプ。多少精液の量が多いくらいむしろ当たり前。期待感が大きいのだから直ぐに回復するのも当たり前なのだ。間違っていても一向に構わない。何しろ己の命は遠からず尽きるのだから、今が何より優先されるだろう。

「さっ、ルイズ。第二回戦だぜ? どうすれば良いかわかるか?」

 だから才人は気にしない。合図としてルイズにスパンキングを一つくれる。しばしの静寂のあとで、ルイズはのろのろと身体を起してお尻を突き出してきた。ニヤリと笑った才人は満足気にうなずくとその腰を引き寄せ、秘口へと肉棒を添える。

 さて、何回戦までいけますかね? くくっ……壊れるのは構わんが今夜一杯は持ってくれるとありがたいね。

 「今から入れるぜ?」と声を掛ける必要などはない。あるとすれば姿勢が悪いと殴るか、はたくか。
勢いをつける為に少し腰を引いた才人はそのまま突き出し、思うままに注送を繰り返す。そしてそれを、ルイズはただひたすらに耐え、才人が満足して飽きてくれるのを願う。

 地獄の宴はまだ始まったばかりだった。




[27351] 新しい関係
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/23 19:29
 ベッドの上で大きく伸びを一つ。眩いばかりの光が差し込んできて、なんともすがすがしい朝であった。声の聞こえる方へと視線を向ける。そこには縛られたままのルイズが床の上に寝転がり、苦痛のうめき声をあげている。
 当然全裸のままであった。身に着けているのは猿轡に、手首と足首のブラウスで縛り上げた枷のみ。うつ伏せに寝転がって唸っていた。

「ほう……こうしてみるとまた違って見えるモンだ。なかなかにシュールだね、朝起きたら裸で寝転がる女ねぇ……」

 昨夜は月明かりのみで何分暗かったし、目的は徹底的に犯しぬいて中出しすることだった。鑑賞することではない。故にじっくりと見るというのはなかった。だがこうしてみると月明かりに幻想的なルイズも悪くなかったが、太陽光の下のルイズもまた悪くないと才人は思う。

「くくっ……何とも無様だよなあルイズ。股間からトロトロと精液流しまくってよ。床に沁みになってるぜ?」

 揶揄されてもルイズは答えない。答えられない。猿轡の苦しさに唸り声をあげるのみである。

「どうだ? 自分の立場がよくわかったろ? オマエはご主人様なんかじゃない。俺がご主人様で、オマエが使い魔。絶対服従して逆らえないんだ。ちっとは身の程をわきまえろってこった」

 うめき声をあげるのみのルイズ。才人は満足であった。口の端を釣り上げて昨夜の凌辱を思い起こす。

「……しっかしどういうことだったんだろな……」

 狂宴の一夜が過ぎて冷静になってみると、昨夜の自分は異常だったと理解できる。何の不都合もなく、興奮していたから疑問に思わないようにしていたがおかしかった。
 とにかく何度でも射精出来たし、その量も異常だったのだ。

 一度目の射精は理解できる。そのあとすぐに回復したのも理解できる。だが――

 二回目になりゃ、精液ってがくんと量が少なくなるよな? タンクなんて決まった量しかないし。それどころか三回目も四回目も、そりゃ少しずつ減ってはいったがあれは一体何なんだ?

 才人は疑問に思う。何度射精した? 五回や六回の話ではなかったと思う。正確な数は覚えていないが多分十回近くは射精したはず。最初に射精したあとは流石のルイズも諦めたのか抵抗しなくなり、それをいいことに散々弄んだのだ。
 おかげで精液が溢れて困り、拭き続けたブラウスはボロボロ。今は投げ捨てられて転がっている。

――ははっ! ようやく立場がわかったようだなっ! オマエが俺のご主人様なんてありえないね、俺がルイズのご主人様なんだよ!
――使い魔ってのは奴隷なんだろ? っならそれに相応しい扱いをしなくちゃあな!
――うるせえ! 黙れ! 俺の許可なく動こうとすんな! それともはたかれないとわからないってか? ならっ、望み通りにしてやんよっ!

 様々に罵声を浴びせ、奴隷なんだから主人の言う事を聞いて意に添うように行動しろと、無理難題を言い続けた。咎がないとしても、気の向くままにスパンピングを施した。
 そしてまだ出来そうな雰囲気はあったが疲れても来ており、おそらくは最後の一夜、眠ってスッキリとして迎えたいと寝ることにした。
 だから寝ている間にルイズが助けを求めるような行動をしたら困ると足首を縛り直し、そのままベッドから蹴り落とし、自分だけベッドを占領した。故に今のルイズは石の床の上で唸っているわけだが。

 まあいいかと才人は考えるのを止めることにした。もう直ぐ死ぬのに考えても意味はない。それよりも重要なことがある。これから誰かが不振に思い、部屋の様子を見に来るまでルイズを犯しぬかなければならないだろう。早ければもうすぐにでも、友人辺りが挨拶に来るかもしれない。幸い昨日で打ち止めになっているわけではなく、布団にこすれたのか、それとも生理現象なのか、肉棒はぎんぎんに猛っている。

「そうだな、この際だから口とケツ穴も貰っとくか……」

 呟いた才人はベッドから降りた。そのまま寝転がるルイズのところまで歩いていく。
 びくっと身体を震わせたルイズは逃げようとするが――手足を拘束されていて動けない。くくっと薄く嗤った才人はそんなルイズを無様だなと思いながらも、あえてゆっくり目に歩いて近づいていった。

 これから捕まるまでルイズを嬲り続けようと思ったのだ。例えば友人あたりが「おはよう、ルイズ!」とでも来た時、犯されている最中だったなら? もうプライドなどボロボロだろう。それに対して才人は「よお、ルイズの友達か? もう直ぐで出すから少し待ってくれ!」と挨拶しながら腰を振るのだ。考えただけでにやけてくる。

「おはよう、ルイズ。いい朝だぜ……はぁぁぁ??」

 そんな妄想をしながら、おらよっと、蹴り上げて、うつ伏せのルイズをひっくり返す。そして――才人はそこで意外すぎるものを見たのだった。

「……くっ、くくくくく……。っお、おいルイズ。そ、そいつは一体なんだぁ?」

 恐怖に怯える顔―それは良い。成長していない乳房―わかっていたことだ。蹴り上げたショックでまたごぼっと溢れてきた精液―まあ大量に流し込んだのだから、一晩では吸収しきれなかったのだろう。それも良い。だがその上、恥丘の部分がおかしかったのだ。

「おいおい、そんなモン、あったっけか? くくっ、いい趣味してるぜルイズさんよぉ」

 ゲラゲラとルイズは笑われる。だがルイズには何を笑われているのかわからなかった。それで指差されている部分を見ようとし、

「!っぶっ…ぼぐぅぅぅうぅ……!っっぶぐぅぐぅぅぅ……っ!」

 慌てて身を起そうとしたので無理な体勢となり、苦痛にのたうち回ることになった。それを見た才人はニヤニヤ笑いながら背後にまわる。それから「無理すんなって」と声を掛けながら背中をゆっくりと押して手助けをする。

 ルイズはあり得ないものを見て目を見開くことになった。

「っ…………!!?」

 そこで目にしたのは桃色の印し。五センチ四方はあろうかという、少しひしゃげた感じのピンクのハートマーク。うすいうすい、殆ど生えていない陰毛のある場所に、はっきりとピンクが刻印されていた。

「っぐっ、っつル、ルイズさんよぉっ……ぁ、あんまり笑わせてくれるなよなっ」

 笑い転げる才人だが、ルイズにとってはそれどころではない。今だけは全身の苦痛を忘れ、あり得ない光景に目を見開いて茫然としてしまう。

 何故? 何故? 何故? 何でこんなマークがわたしの股間に刻まれている?

 もちろんルイズはこんなマークに見覚えはない。ゲラゲラ笑っている様子からして才人の仕業でもないだろう。でもそれならば何故? 混乱しきったルイズはただ黙り込んだままに茫然とするしかない。そこにようやく笑いをおさめた才人が後ろに回る。猿轡を解いていった。
 何時間振りだろう? 呼吸が楽になって安堵し、そして改めて自分の股間を凝視する。

「くくっ……その様子だと心当たりはないようだけどな? 一応念のために聞いておく。その股間のハートマークに見覚えはあるか?」

「っな、ないわよ……っな、なんでこんなマークがわたしの股間にあるの?」

 本当のことを言っていると才人は感じた。でもそれならば何故? ……もしかしてだが、昨夜の異常な回復ぶりと何か関係があるのか? わからないがこうなっては口やアナルを犯すよりもこっちの方が重要だ。興味を満たすべく質問を続けようと思う。

「じゃあ何でそんなマークがついてるんだよ? 言っとくけど俺に心当たりはないぜ?」

「そ、そんなこと言ってもわたしもわからない。わからないもの……」

「わからないじゃないだろ? 魔法なんてファンタジーの世界だ。なんか魔法的なもんじゃないのか?」

 重ねて問われたルイズはもう一度考えてみる。だが本当に心当たりなんてない。刻印というかルーンならコントラクトサーヴァントだが契約なんてした覚えはないし、ハートマークに塗りつぶされたルーン文字なんて聞いたこともない。だからやはり才人の仕業だとルイズは思った。

「っね、ねぇ? 本当にご主人様の仕業じゃな……い、の……」

「……ご主人様?」

 言ってみて、その途中で異常に気づいた。なんで才人のことを「ご主人様」と呼ぶ? 何の違和感も感じず、ごく自然に言葉が出た。
 夜通しレイプされ、ビンタやスパンキングを貰い続けてその苦痛にもだえ、ベッドから蹴り落とされてからはずっと、あの平民、あの平民、あの平民! 絶対に思い知らせてやるっ! と恨み、復讐を誓っていたというのに、何でごく自然に「ご主人様」などと呼んでしまったのだろう?

 だが今は悔しい。そして憎い相手を「ご主人様」と呼んでしまったことが気まずくて恥ずかしく、悔しくてならない。

「……おい、何で俺のことをご主人様なんて呼ぶ? 昨日まではあんた呼ばわりだっただろ? 何でそんな風に呼ぶんだ?」

 問われたルイズはハッと顔をあげると質問に答えた。

「そ、それはご主人様がご主人様と呼べって言ったから……」

「…………」

 答えたルイズは気まずげに顔を背ける。

 なんだ? 俺はルイズのことをいつご主人様と呼べと言った? ……確かに昨日言いはした。「俺のことはご主人様と呼べ」だの「もうお前は主人じゃない」だの言っていた気はする。……だからなのか? だから俺のことをご主人様と呼ぶ? そんな馬鹿な話があるわけ……。

 思い当たる節は確かにある。確かにそれらしいことは言ったはず。残念ながらその場の勢いで言ったので詳しくは覚えていないが。だがそれ以外に何を言った? 才人は懸命に思い起こし

「……なあ、ルイズ。オマエの名前を言ってみろ」

「っル、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

 ルイズは悔しげに振り向いて小さな声で名前を言うと、また悔しげに顔を背ける。それは答えるつもりなどなかったのに、つい言葉を出してしまったという感じで。優先すべきはまず質問であると身体が反応しているという感じであり、

 才人は何となくわかった気がした。

「っくくっ、じゃあルイズの身分を言ってみろ。昨日は貴族で公爵令嬢だと言っていたよな? 今の身分はなんだ?」

「っこ、公爵令嬢で間違いないわ。でも、ご主人様の使い魔で、奴隷でもあるわ」

 言ってしまってからルイズはハッと口を抑えようとする。縛られたままだったのを身を持って思い出し、そのまま悔しげにうつむいてしまう。自分でも何でか考え込む様子だった。

 確定だな――才人はニヤリとほくそ笑む。理由はわからないが、どうやら今のルイズは昨日言われたことに逆らえないらしい。それどころか覚えていないことさえも、その頭の中にはしっかりと刷り込まれていて、意図しないでしゃべってしまうらしい。悔しげな表情がその証拠だ。

 くくっ……こいつはなんとも予想外の状況だな? もしかしたらだ、俺は生き残れるかもしれん。そうなると死ぬってのは予定変更か? 

 くっくっくっと、薄く嗤った才人は行動に移す。まだ確認しなければいけないことがあるのだ。それは昨日に限らずに、今命令したことでもルイズは従うのか? それと、言葉では従ったようだが身体の方はどうなのかと言う事だ。

 ……ふむ、こうなるとだ、ルイズが悲鳴をあげたり、杖を探そうとしないってのも、無駄な抵抗で殴られたくないって事じゃないかもしれん。俺が昨日何か言ったか、あとでじっくりと思い出す必要があるな。

 そう思考しながら才人は動く。確かめる必要があるのだ。

「いいか? 今から拘束を解くけど無駄な抵抗をして逃げようとするなよ?」と念を押しながら、両手、両足の戒めを解く。それでやっと、ようやくでルイズは身体の自由を取り戻す。
 安堵の吐息をルイズは洩らした。身体の苦痛は相変わらずである。だが、それでも身体が自由になるのはやはり嬉しい。

 そうやって安堵し、いくばくか余裕が出来たルイズは全裸であることにハッと気付いた。悔しげに乳房と股間を隠して睨みつける。だがそれを才人は気にしない。当たり前の反応だろう。ニヤニヤ笑ったままに正面へと回り込んだ。確認しなければならないのだ。

「さてとだ、ルイズ、命令する。そのまま立ち上がれ。そして、そうだな……“両足をガバっと広げて、腰を大きく限界まで前に出してみろ。それから「ああん、ご主人様、わたしのおまんこにズボズボしてぇ」って言ってみろ”

 その命令にルイズは目を剥いた。とても正気とは思えない。それでは最低の淫売ではないか。それを貴族であるわたしにやれと言うのか? このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに? 冗談ではないと思う。そんなことをやるはずがないではないか。

 だが身体の方はルイズの意志を裏切ってしまう。ふらふらと立ち上がり、足を大きく開いていく。

 それを見た才人はニヤリと嗤い、「ああ、情感たっぷりにお願いするぜ? それと言い終わったらまんこに指を突っ込んで実際にズボズボしてみろ」と、命令を追加した。
 ルイズは信じられないという顔をしたあとに悔しげに顔を歪め、恨めしく才人を睨む。

 ……決まりだな。命令の追加もOK。嫌がっていても身体は逆らえないっと。

「ぁ、ああんんぅぅん、ご主人様ぁぁあぁ……わ、わたしのおまんこズボズボしてぇぇぇっ……!」

 命令通りにガニ股に大きく足を開き、腰を突き出したルイズはおねだりの言葉を発し、人差し指を膣口に差し入れるとそのまま掻き混ぜ始める。ただその顔は泣きそうであり、屈辱と羞恥に酷く歪んでいた。

 これは面白いと才人はいろいろと試してみる。

 するとルイズは笑顔でオナれと言えば笑顔で自慰をするし、指の数を増やせと言えば指の数を増やす。俺がどんな表情を望んでいるかわかるか? と問えば、しばし考えると満面の笑顔をつくったままに自慰を始める。
 お~~、こりゃ凄えと才人は驚いた。中止命令を出さないのでルイズは自慰をただひたすら続けるのみである。調子に乗った才人は腕を入れてみろと言ってみた。

 さて? 入るはずないんだがどうなる?

 するとどうだろう。ルイズは激痛に顔を歪ませながらも笑顔を保とうと努力をし、入るはずもない腕を入れようとしてきた。チラチラと才人の反応を窺いながらも片腕を膣口にあてがい、もう片手でそのサポートをする。ミチミチと音を立てて裂け、血が出ても笑顔を保とうとし、あがっ、っかはあっ、とうめき声をあげながらもその割り広げようとする手を止めなかった。
 
 流石に慌てた才人は“っとと、おい、わかったから止めろ”と中止命令を出した。

 ……いや、こりゃ正直想像以上だわ。ここから飛び降りろとか、包丁とかで自分を刺せとか、まんま死ねって言っても、こりゃ笑顔のままでやりそうだ。他にも衆人環視で裸踊りしろとか、犬とやれとか、そんなんでもこりゃ普通にやるな。……いや~~ファンタジーで魔法がある国って凄いね、舐めてたわ。

 中止命令を出されたルイズはそのまま床に崩れ落ち、股間に手を当てたままうずくまる。じっとしたまま動こうとせず、どうやら酷い痛みで立つ余裕さえないようだ。
 さて、これからどうしたものかと、苦笑した才人は頭をぽりぽりと掻いた。

 ん~~、これからどうすっかって言われてもなぁ、死ぬことしか考えてなかったからなんも考えてねぇ。んでもこうなってみるとルイズは思い通りに出来そうだし、生き残れる目が出てきた。そうなるとどうしたもんかね……。

 考える時間はおそらくそれほどない。いつルイズの友人とかが現れてもおかしくない。

 ん~~、こりゃ直ぐにいい考えなんてうかばねぇ。

 そう、とにかく今は時間がないのだ。考えることを放棄した才人はとりあえずその場を取り繕うことにした。この部屋の状態で人が来るのはマズい。一目でルイズを強姦したとバレてしまう。となるとだ。

「ルイズ、これを着てベッドの中に入れ。んで風邪で臥せっているようなフリをしているんだ。……いいか? もし人が来たとしたら自然に見えるように工夫するようにするんだぞ? ご主人様に迷惑をかけるなんてオマエには許されないんだからな」

 クローゼットを覗きこんだ才人は予備であろうネグリジェをひっつかみ、ショーツも投げて寄越す。振り向いたルイズは力なくコクリとうなずき、のろのろと着替える。

「くくっ、それからな、気付いてないようだが酷い顔になってるぜ?」

 クローゼットの引き出しからショーツを塊にして掴み、それもそらっと投げつける。ニヤニヤ笑いながら鏡を差出し、覗いてみるよう顎をしゃくって才人は促す。 慌てて覗きこんだルイズだったが、言われた通りその顔は酷いものだった。

「!………ぅ…くふぅぅぅ……っ!」

 透き通るほどの白い肌だったのに、今では両頬が赤く腫れ上がっている。ここまでは我慢できる。だがくりくりとしていた両目は腫れぼったく、涙、鼻水、涎、それらが乾いた跡がこびりついていた。並ぶものがない美少女であると自惚れていたのに、これではあんまりではないか。あまりに情けなく、涙が止めどなく溢れてくる。

「っぐうっ……ふっぐっ…ぁっ……うわああぁぁあぁんん……っ」

 もうルイズのプライドはボロボロだった。なにもかも無くしてしまったと思った。
 使い魔に反逆されて処女を奪われ、それもレイプで数えきれないくらい中出しをされた。考えないようにしていた、妊娠してしまったかもしれないとの恐怖が蘇ってくる。

 ゼロだゼロだと蔑まれながらいつかは立派な魔法が使えるようにと必死の努力をし、今は爆発しかしないが、その魔法に必要な杖は見当たらない。目の前の男に奪われてしまったのだろう。
 自慢である美貌は見る影もない有様で、最後のよりどころである門地でさえも、今の自分は布きれ一つ纏わない全裸に手足の拘束。それだけしか許されていなかった。ベッドから縛られたまま蹴り落とされ、そのまま朝まで放置されていたのだ。
 とどめに全てを奪ってくれた男に心ならずも「ご主人様」としか呼ぶことが何故か出来ず、恥ずかしい芸を強要されても身体は勝手に動いてしまう。これでは本当に何もない“ゼロ”そのままではないか。

「うるせえっ! 泣き止めって言ってるんだよ!」

 だが、それも才人が怒鳴るまでだった。ぴたりと自然に声が出なくなり、「っ……う…っ…ぁ……ふっ、ふぐぅぅう……ふっ」と、堪えきれない嗚咽しか出せなくなる。

 ……こりゃ凄え。泣き止めって言ったらホントに泣き止みやがったぜ……。

 ほう、と感嘆の呟きを洩らした才人はニヤリと笑う。

「くくっ、悲しんでるトコ悪いんだが時間が無くてな? ソイツで顔を拭いたらさっさとベッドに行け。それとだ、スマイリー、スマイリー。やっと休めるんだから笑顔になれって」  

 一塊になっているショーツを指さしながら才人は笑う。ルイズに逆らえるはずもなく、引きつった愛想笑いを浮かべながらごしごしとショーツで顔を拭うことしかできない。
 泣き濡れた顔を拭ったルイズは少しはマシな顔を取り戻す。股間が痛く、力が入らないのでベッドへと這い進んでいった。

 そうして残った力を振り絞り、布団に潜り込むとそのまま意識を失ってしまう。それを見届けた才人はふぅと安堵の溜息をついた。才人の緊張も同時に解けたのだ。

 ……やれやれ。掃除、洗濯、その他雑用。そんな使い魔の生活が嫌で反抗したってのに、これはなんの皮肉なんですかねぇ……。

 残されたのは各所に散らばったボロボロの衣服と、散らかしてしまったクローゼットなど。これを整理しないといけないわけだと苦笑する。

 頭を振り、思考を切り替えた才人はまずはボロボロの衣服から片付けていくことにした。

 さて、それじゃ俺も服を着ましょうかね……

 全裸で寝たのは初めてだったが、なかなか悪くないと才人は思う。ニヤリと笑い、脱ぎ捨てた自分の服に向かい、才人はその足を一歩踏み出した。



 こもっているかもしれない臭気を考え窓を開ける。そうして換気をすると、小鳥のさえずりが聞こえ、草木の匂いがして心地よかった。ルイズは眠ったままである。全身の痛みも、ショックも、今は忘れることでできているようでその表情はおだやかだ。
 時折苦しそうにするが、それはわずかに身体を動かしてしまうことで傷がうずいてしまうのだろう。まあ、見た目、風邪か疲労かで寝込んでいるように見える。

 視線を転じると散らかされた部屋である。乱雑に開けられたクローゼットや引き出しから衣類が覗いている。そして床にはボロボロに引き裂かれたブラウスや精液交じりになったショーツやブラウス。まずは目立ってしまう床の衣類から片付ける。
 クローゼットの奥にそれらを押し込み、それから畳むと時間がかかるので整理は簡単に。最後に入口から全体を俯瞰して、おかしいところがないかチェックする。

 ……まあこんなもんか。調べられたら一発でバレちまうだろうけど、表面的には問題ないよな?

 ここまでの所要時間はおおよそだが30分ほど。片付けに満足した才人は毛布のある壁際まで戻る。そうしてそれからの時間は思考のために費やすことにした。

 ……さてどうなる? ルイズは学生って話だし授業があるよな? そうなると無断欠席ってことになる。するとだ、友達連中が心配してやってくるだろう。それに教師もやってくるかもしれんな。それにはどう対応したらいい? それに食事もだ。俺もそうだがルイズも朝食を抜いている。これも不振に思われるよな? コイツもどうすりゃいい?

 とはいえ出来ることは限られる。下手に動いてもどこになにがあるかわからないし、誰に何を言えばいいかもわからない。部屋を出て、その間に誰かが来たらアウトである。

 ……まあなるようにしかならねえよな。ルイズが思い通りになるにしても今は寝ているし、起して対処させるにも今はマズい。何で不振がられるかもわからんしな。だからと言って俺はここを離れるわけにいかねえんだから。

 一度は腹を括った身の上である。なるようしかならないし、失敗したとしても、それはそれでそれまでのことだ。誰かが来るのを待って、せいぜい丁寧に対応して時間を稼ぐしかないだろう。

 聞き分けのいい奴がくればいいな――それくらいしか考えず、ボケっとしたまま来客を待つことにした。


 シエスタの場合

 そうしてぼんやりとしていた才人だったが、その来客は考え込み始めて直ぐに来た。
 コンコンコンとノックが音がし、「あの、ミス・ヴァリエール? シエスタです。この扉を開けてもよろしいですか?」と、ドア越しに声を掛けられたのだ。

 っはえーな、おいっ。まだ何にも考えが纏まってねえぞ!

 いくら腹を括った身の上だとしても、光明が見えてきた今となってはやはり死にたくない。この世界は一体なんなんだろうな? 魔法ってどんなことが出来るんだ? それに己の異常にルイズの異常、これって一体どういうことだ? 本当に帰ることはできないのか? ぼんやりとしてこれまでのことを考えつつ、頭の片隅ではこれからどう対応すべきか考えてはいたのだ。それなのに、予期はしていてもこの早期の来客。ムカついた才人だったが、これは仕方が無い。愛想よく対応するしかないだろう。

 そこにまたトントントンとノックの音。「ミス・ヴァリエール? シエスタです。……入りますね?」と断りの言葉が入る。ガチャッと音をさせ、一人の少女が顔を出した。

「……あの、あなた、もしかしたらミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう方ですか?」

 それはメイドの格好をした素朴な感じの少女だった。カチューシャで纏めた黒髪とそばかすが可愛らしい。

「えと、知ってるの?」

「ええ、なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ」

 屈託のない笑顔で笑う少女。ようやくまともな人間に出会えたと思った。これまでは教師も学生連中も、そしてもちろんルイズも酷いものだったから尚更だった。だがこれだけは尋ねておいておかねばならない。

「……君は貴族? 魔法使いなのか?」

 見た目はメイドである。しかし学生でルイズの友人である可能性がある。もしそうなら心配して近づいてくるかもしれない。レイプしたなどと知れば、豹変して魔法を使ってくるだろう。

「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているんです」

 その言葉で才人は安心した。これなら主導権がとれそうだ。

「そっか……。あ、ちょっといいかな」

 ちょいちょいと手招きして注意をひき、くいくいと親指でルイズを指し示す。指差す先を才人の肩越しにひょいと見させる。それで少女は状況を理解し、無言でうなずくと部屋から出る。それに才人は続いた。

「っと、悪いね。俺は平賀才人、よろしく」

「変わったお名前ですね……。私はシエスタっていいます」

 極力音を立てないようにしてドアを閉め、ほっと一息ついた才人は挨拶をした。部屋の中で長居すれば何で勘ぐられるかわかったものではないのだ。そんな様子にクスリと笑ったシエスタは「お優しいんですね」と笑顔を向けてくる。才人にしてみれば勘違いも甚だしいが、ハルキゲニアに来て初めて向けられた純粋な好意である。照れてしまい、嬉しくて笑顔になれた。

「そっかな、そんなことないよ。……ところでシエスタはどうしてここに?」

「あっはい。ミス・ヴァリエールがお食事にいらっしゃいませんでした。それでどうなさったのかと心配になったんです」

 どうやらシエスタは見た目通り心優しい少女のようだと思った。これなら円満に追い返すことが出来ると思う。安心した才人は会話を続ける。

「いや、シエスタこそ優しいよ。そんなことくらいで態々来てくれるなんてさ。っと、そんな話をしにきたんじゃないよね。実はさ、ルイズのやつ気分が優れないらしくってさ、それで寝てるんだよ。そうなると俺もどこにいけばいいかわからなくて、仕方ないから部屋にいたんだよね」

 シエスタは才人が「ルイズ」と呼び捨てたことに驚き、「勇気がありますわね……」と感心する。それを才人は手をひらひらさせながら「いいの、いいの」と受け流した。実際名前で呼ぶなど上等すぎる。「淫売」とか「ブス」とか、そう呼ばれても、今のルイズなら笑顔で受け答えするだろう。苦笑するが、シエスタはそんな才人に唖然としている。

「そうですか……でもそうなると困りましたね。もうお食事は片付けてしまいましたし、シーツなんかも替えたかったんですけど……」

 うんうん唸って考え込むシエスタ。可愛いなと才人は思う。そうやってしばらく考え込んでいたシエスタだったが、軽くうなずくと控えめに口を開いた。

「……あの……、シーツの交換はミス・ヴァリーエールがお休みですから仕方ありません。それとですね、私たちの賄い食でしたらご用意できると思うんです。サイトさんもお食事はまだなんですよね? よろしければ持ってきますけど……」

 いかがです? とシエスタは才人の目を覗きこんできた。

「いいの?」

「もちろんです。あ、それと看病なさるんならお水とかタオルとか必要ですよね? そちらも持ってきましょうか?」

 ニコリと微笑んでくるシエスタ。答えなんて決まっている。思いがけず食事までもらえることになった。シエスタから言われなけばこちらからお願いしたかもしれないが、向こうから自主的に言ってもらえるとまで思いもしなかったのだ。

 いや~、ルイズとは大違いだよな! 最初に会ったのがシエスタだったら、俺もこうまで落ち込まなかったかもしれないぜ。ったく、ホント、ルイズと比べると大違いだ!

 異世界に来て最初に触れた純粋な好意。陰惨だった気分が一気に晴れる。シエスタは言葉通りに大きな銀のトレイを抱えて再度部屋を訪れ、洗面器に一杯の水。アツアツのシチュー、一つは大盛り。それに才人が「ルイズが起きたら俺が替えるよ」と言ったのでシーツを片手にやってきた。
 そして厨房の場所を教えると「よろしければいつでもいらしてくださいね。賄い食ならご用意できますから」と去って行った。


 ミセス・シュヴルーズの場合

 水が手に入ったのでルイズの顔を拭いてみる。落とし切れていなかった涙の跡は消せるものなら消しておかなければならなかった。まだ頬に赤みがあるようだが、これでだいたい見た目上は元に戻ったルイズの完成である。

 よし。これで覗きこまれても大丈夫。シエスタは上手くいったけど、友人連中なら近くでまじまじ観察する可能性があるからな。これで一安心だ。

 安心した才人はアツアツのシチューを頬張る。旨い。考えてみれば半日振りの食事である。旨くないわけがなかった。最後に水差しからグラスに水を一杯。それで人心地ついた才人は再度今後のことを考えながらもぼおっと過ごす。カーテンがひらひらと揺れているのが目につく。窓を閉め、床に座り直す。
 そうやって過ごすうち、トントントンとノックの音。どうやら二人目の来客のようだった。

「ミス・ヴァリエール。一体どうして授業に出席しなかったのです」

 現れたのは中年の女の人だった。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。
 ルイズが寝込んでいるのを見て声を潜めたミス・シュヴリーズは才人へと視線を転じ、「これはどうしたことですか?」と目で問うてきた。どうやらハゲよりまともだと才人は判断する。

 しいっ、と人差し指を一本立て、そのまま部屋の外へと移動。上手くいったとほくそ笑んだ。

「それで? これは一体どういうことです?」

 才人は説明した。自己紹介すると「おやおや、ミス・ヴァリエールも変わった使い魔を召喚したものですね」と言ってくれたが、じっと我慢して笑顔を取り繕う。何しろ魔法使いという連中は傲慢極まりないようなのだ。下手な対応をすれば「この平民!」と豹変するかもしれないし、ルイズに事情を問いただそうとするかもしれない。ここは我慢のしどころであろう。

「ええ、何でか知りませんけどルイズに召喚されちまったみたいで……」

 ルイズと呼び捨てたことで眉をひそめたミセス・シュヴィーズだがここはスルー。いくらなんでもルイズをミス・ヴァリエールとは才人的に譲れないのだ。訂正されないのを幸いに話を進める。そして

――疲れたのか風邪を引いたのか、とにかく体調が悪いと寝込んでいる。
――仕方が無いので看病している。
――授業を欠席するときには届出をさせる。

 そうしたことを話すとミセス・シュヴリーズは納得する。「では、お大事に」と帰って行ったのだった。


 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アルハンツ・ツェルプストーの場合

 午後になり現れたのがキュルケだった。お昼になると優しいシエスタは何も言わないのに食事を持ってきてくれて才人は感動した。押しつけがましいところが何もないし、視線を向けるとニコニコと笑いかけてくれる。食器を返すと「あ、食べてくれたんですね」とまで言ってくれる。素直に嬉しかった。

 あまりにおいしいシチューだったのでルイズの分まで手を付けてしまったことを話してしまうと「いけませんよ、そんなこと」と、目を丸くして驚いた後にクスクスと笑う。でも最後には「ミス・ヴァリエールが起きていらっしゃらなかったんだからしょうがないですよね。サイトさんが食べてくれたんならそれで良かったです」と笑ってくれ、才人はもう惚れてしまいそうだった。

 しっかしルイズもそうだったけど長い名前だった。貴族ってみんなそうなのか? そりゃそんだけ長けりゃ“微熱”とか二つ名つけて苗字で呼ばないのがよくわかるわ。もうそういうもんだと思うことにしよう。

 そうして腹も膨らみ、まったりとしていた時現れたのがキュルケだったのだ。

 コンコンコンとノックの音。ん? 誰か来たなと才人が思い、出迎えようと立ち上がる。すると部屋の扉がいきなり開いたのだった。

「ルイズ! ゼロのルイズ! 病気になったって本当!」

 バタンと勢いよく扉を開け、興奮した面持ちで入ってくる。マズいと才人は瞬間的に思った。これは人のことを無視するタイプだ。任せたままにしておくとボロが出ると思った。

「あっはっはっ! ほんとに人間を召喚したのね! すごいじゃない!」

 あらわれたのは燃えるような赤い髪をした女の子だった。ルイズより背が高く、才人と同じくらいの身長。なかなかの色気を放っている。

 っち……拙いかこりゃ? なんかルイズと仲が良さそうだぞコイツ。違和感に気付いちまうか? それに……ルイズの奴本当に演技してくれるか? してくれるとして騙せるのか? 

 タラリと才人は冷や汗を流した。

 改めて観察し直すと彫りが深い顔に、突き出たバスト。なかなかの大きさである。
 一番上と二番目のブラウスのボタンを外し、胸元を覗かせている。褐色の肌が健康そうで、野性的な魅力を振りまいている。
 身長、肌の色、雰囲気、バストサイズ、全部がルイズと対照的である。

「おはよう、ルイズ」

 当たり前というか、これだけ騒がれれば疲れ切っていたルイズだって目を覚ます。ぼんやりとした様子で身体を起した。

「っ……おはよう……キュルケ……」

 身体の何処かが痛んだのであろう。起き抜けのルイズは挨拶を返しながらもわずかに顔を歪める。
 
 っく……マズいなこりゃ、演技してくれるにしても、寝ぼけてたら何を言うかわかったもんじゃねぇぞ……。

 とにかく時間を稼がなければと、話題は思いつかないがないが話し掛けようとする。その時であった。

「っ……うわあぁあっぁ……!」

 のっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。大きさはトラほどもあり、尻尾が燃え盛る炎でできていた。チロチロと口から火炎を吐き出している。これには才人も驚き、後じさってしまう。

「おっほっほっ! もしかして、あなた、この火トカゲを見るのは初めて?」

「鎖につないどけよ! 危ないじゃないか! っていうか何これ!」

「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないから。臆病ちゃんね」

 っいや、普通は驚くだろう!? こんなデカいトカゲで火を吐いてんだぞ?

 くだんのトカゲはきゅるきゅると鳴き声をあげ、ものすごい熱を放っている。キュルケは驚いている才人におーほっほっほと手を顎に添え、色っぽく首をかしげてみせた。

「そばにいて、熱くないの?」

「あたしにとっては、涼しいくらいね」

 ふふんと自慢げにキュルケは胸を張る。たぷたぷ揺れて美味しそうだ。基本的に才人はおっぱい星人なのである。
 話している相手に興味をもったキュルケは名前を尋ねてきた。

「あなた、お名前は?」

「平賀才人」

「そう、ヘンな名前ね。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・アウハンツ・フォン・ツェルプストー。キュルケでいいわ」

「はあ……」

 フレンドリーにファーストネームを許すあたり気のいい女性に見えるが、失礼な奴だと思う。初対面の相手にいきなり変な名前はないだろう。生返事を返しながらも、ぐっと怒りを堪えた。態度と言い、着ている制服といい、どうやらシエスタと違って貴族のようである。怒らせるのはマズい。生返事に興味を失ったのか、キュルケはルイズへと視線を移した。

「ルイズ、あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」

「……そうね」

「どうせ、召喚するならこんな人間じゃなくて、あたしみたいに強い幻獣がいいわよね? ねぇ、フレイム~」

「……そうね」

「見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダ―よ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」

 ルイズは苦々しげにサラマンダ―を見つめ、視線を転じて自慢するキュルケを憎々しげに睨み返す。それにキュルケは驚いた様子を見せた。

「何よ、健康だけが取り柄のヴァリエールが休んだから何事かと思ったけど、思ったより元気そうじゃないの」

「うっ、うるさいわね! ほっといてよ!」

 耐えきれなくなったルイズは泣きそうな顔をし、これにはキュルケも慌ててしまった。
 どうやら使い魔召喚に賭けていたルイズだけに、ふて寝しているか、あるいは平民を召喚してしまったショックで寝込むほど落ち込んでいたと思っていたのだ。
 大部分の好奇心にちょっぴりの老婆心。からかう事で元気づけようとしたのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。気まずく沈黙したキュルケだったが「そっ、元気そうで安心したわ。それじゃ、ルイズ、お大事にね」と退散することにした。

 っ……ふぅぅ……終わったか。ったく、焦っちまったぜ……。

「いくわよ、フレイム」と声を掛け、火トカゲを引きつれて部屋を出ていく。コツコツコツと足音がし、ややあってバタンと扉のしまる音。扉に耳を押し当ててそれを聞いた才人は安堵の溜息を洩らし、ニヤリとルイズに対して嗤って見せることにした。

「よくやったぜ、ルイズ、褒めてやる」

「……ありがとう、ご主人様」

 ニヤニヤと笑いながら才人はルイズに近づいて行く。

「さ、これからの事で色々聞きたい事とか打ち合わせするとかしたいんだが……ルイズ、協力してくれるか?」

「っも、もちろんです、ご主人様」

 ぐっとルイズの肩を掴みながら、才人はにこやかに微笑んでみせる。ぴくりと身体を震わせたルイズだったが否応もなく、引きつった笑顔をみせるのだった。



「……ほほう、そう言う事ね。まあわからないことはおいおい聞いていくとしてだ、大体は理解した」

「っお、お役に立てて光栄です、ご主人様」

 ベッドに腰掛けた才人に、その足元に正座するルイズ。ルイズとしては受け入れたくはないが、命じられればそうせざるをえなかった。理由はわからないが逆らえないのだ。
 この位置関係と態度。まさしく主人と奴隷を表していると言えるだろう。屈辱と情けなさにどうしても表情が歪み、顔を伏せがちにしてしまう。それでもルイズは才人の質問に答えていかなければならなかった。

――シエスタの事。

 面識はあまりない。名前と顔くらいは知っているが、平民のメイドとしかわからない。学院に勤めているメイドである。個人的に用事を頼んだことはないが、シーツの交換に訪れてくる。午前中に交換しにくるらしく顔を合わせることはない。

――ミセス・シュヴリーズの事。

 土属性のトライアングルメイジ。二つ名は赤土。使い魔を召喚しての最初の授業だったので、無断欠席を叱責に訪れてきたのではないかと思う。

――キュルケの事。

 火属性のトライアングルメイジ。二つ名は微熱。友達と言うわけではなく、むしろ仇敵である。廊下などで鉢合わせするとからかってくる。部屋の中まで入ってくるのは稀であり、過去に数回ほどしかないと思う。隣の部屋の住人でゲルマニアと言う国からの留学生。
 ルイズの実家であるラ・ヴァリエールと、フォン・ツェルプストーの領地は隣り合っており、戦争のたびに争っているのだとか。そしてヴァリエールは恋人や妻までも寝取られているので許せない。故にルイズはゲルマニアが大嫌いである。
色ボケした女であり、学院の幾多の男どもを誘惑しまくっているので許せない。

――ミスタ・コルベールの事。

 火属性のトライアングルメイジ。二つ名は炎蛇。優秀なメイジではあるが、変り者としても知られている。使い魔召喚の儀式には稀に危険な動物が呼び出される可能性があり、それに備えて戦闘能力に長けたメイジが監督するのだという。二つ名の由来を含め、その他詳しいことはわからない。

――学生寮について。

 ルイズの部屋は三階にあるが、これは身分が高いからである。伯爵以上の女子しかこの階にはおらず、よって公爵令嬢として一番奥にあるルイズの部屋まで来るものはほとんどいない。隣がキュルケの部屋である。

――ゼロの由来。

 ルイズの魔法はどうしたことか爆発しかしない。これはコモンマジックを含め、あらゆる呪文で同じ結果である。故にルイズは飛ぶことが出来ない。ゼロとは成功確率ゼロからつけられた不名誉なあだ名である。

――ハルキゲニアという世界。

 トリステイン王国。アルビオン王国。ガリア王国。ロマリア連合皇国。帝政ゲルマニア。ここまでが主要な国家。
 トリステインは水の国とも言われ、ブリミルの血を引く由緒ある王国。王が逝去したので王位は現在空位であり、事実上の宰相としてマザリーニが国事を代行している。妻であったマリアンヌ大公は陛下と呼ばれてはいるが喪に服しており、実際には即位していない。姫君であるアンリエッタが次の王になると思われている。今は疎遠だが幼いころに遊び相手を務め、幼馴染であった。
 アルビオンは白の国と言われている。これは浮遊大陸に立地していて、下から見上げると霧によって白く見える為。トリステインとは血縁が強く、ブリミルの血を引く由緒のある国。現在の王はジェームス一世。
 ガリアは魔法大国とも呼ばれる。言葉のとおり魔法技術が発達しており、現在の王はジョゼフ一世。プリミルの血を引く国である。
 ロマリアは都市国家の集まりで光の国とも呼ばれる。これはハルキゲニアに絶大な影響力を誇る教皇が治める国だからである。現在の教皇は聖エイジス三十二世。プリミルの弟子が開いた国である。
 帝政ゲルマニアはルイズに言わせると野蛮な国。これは魔法でなく機械も重視するからであり、金さえあればメイジでない平民でも貴族にするからである。また主要国で唯一ブリミルに縁がないため畏敬の念も薄い。他国の王が陛下と呼称されるのに対して閣下と呼称されるなど主要国の中で地位が低い。皇帝を名乗り、アルブレヒト三世が国を治める。
 このほかにサハラと呼ばれる土地があり恐ろしいエルフが住んでいる。エルフは先住魔法と言って杖なしで強力な魔法を使うので恐れられている。
その他雑多な小国群があって、クンデンホルフ大公国がトリステインに属している。

――ブリミルとブリミル教。

 ブリミルとは6000年前にハルキゲニア社会に魔法をもたらした偉人である。強大な虚無の魔法を使い、四人の使い魔を従えていたという。オーク鬼やオグル鬼などの亜人に苦しんでいたハルキゲニアに革命をもたらした。故に始祖と呼ばれ、生活も豊かになったので、ブリミルを讃えるブリミル教は絶大な支持を受けている。

――魔法。

 魔法には杖と呪文が必要である。今は失われた伝説の系統虚無と、四系統の魔法がある。
 四系統の魔法とは地、水、火、風の四つを差す。土の魔法として代表的なものをあげるなら錬金の魔法。これは単なる土を金属に変えたりする。
 水の魔法として代表的なものをあげるならば治癒。火の魔法であるならばファイアボール。風ならばエアハンマーなど。この他に系統を足すことにより、例えば水と風を掛け合わせたウィンディアイシクルなど使える魔法の幅が広がり、また強力になってくる。

――メイジ。

 貴族であればメイジであるが、メイジであれば貴族というわけではない。これは没落した貴族がいたり、二男や三男などの家を継げない貴族が身を堕とし、傭兵などになって魔法を使うからである。メイジの力量を表すのにドット、ライン、トライアングル、スクゥエアというものがあり、これは組み合わせることが出来る数を表している。
 一番得意な系統をもって例えば水のドットメイジなどと表現するが、ルイズについては全ての魔法が爆発という結果になるので属性は不明。アンロックなどのコモンマジックでも何故か爆発してしまう。
 ちなみにサモンサーヴァントもコモンマジックであり、才人を召喚できたのが唯一の成功例。召喚された動物によって自分の属性がわかるかもしれないと期待しており、また失敗すれば退学になるかもしれないと、春の使い魔召喚の儀式に賭けていたのだという。

――マジックアイテム。

 学院には様々な宝物が収められている。例として秘宝である眠りの鐘があげられる。今は失われた技術で作られたスキルニルのようなマジックアイテムもある。

 ……なんていうか価値観としては絶体王政の中世って感じか? それでいて魔法を使えるのが貴族だからこのルイズみたいに傲慢になるって感じなのか? しっかし6000年の歴史があって石造りの城みたいに文化レベルは低いし、大昔からほとんど停滞して変わってるって感じがしない。便利すぎる魔法もそうだけどそっちも信じられないね。 

 なるほどねと才人は納得した。

「じゃあ次だ。これからどうするかを話していこう」

「っはい、ご主人様」

 さて、これからどうするべきだろう? 考えていたことを話していく。理由はわからないがルイズを支配できているなんてバレるわけにはいかないのだ。そうなったらルイズ以外の手によって殺されてしまうのだろう。

「ルイズ、これから俺のことは才人と呼ぶんだ。」

「はい、ご主人様。これからご主人様をサイトと呼びます」

 ニヤリと笑って才人は続ける。

「そうだ。ご主人様じゃない。才人だ。もちろんルイズ、オマエが俺の使い魔で、奴隷であることに変わりはないんだけどな……」

「っ………」

 悔しそうに睨み付けてくるルイズに才人は説明した。もし「ご主人様」と呼ばれているのを聞かれでもしたら、間違いなく不審に思われてしまうだろう。また口調にしてもそうだ。それに切り替えが上手くいかなかったり、何かの間違いで覗き聞かれる可能性がある。

「だからだ、対外的には俺はオマエの使い魔ってことにしといてやる。態度や口調もそれらしいのに直せ。もちろん俺の合図一つですぐさまオマエは奴隷に逆戻りするわけだけどな?」

「…………」

「くくっ……そういうわけだ。これからメシまでその練習だ。んで、メシが終わって帰ってきたら、ルイズには奴隷の務めをやってもらうことにする」

「…………」

 黙り込むルイズ。それに才人は「返事は?」と促した。

「っわ、わかり…!ひっ…っあうぅうっ……!」

 じっと考え込んでいたルイズだったが、「わかったわ、サイト。こう話せばいいのね?」と返そうとした。それを才人は許さない。わずかに逡巡し、「わかりました」と返そうとしたからだ。無言で立ち上がり、殴りつける。間違いは正さなくてはならないだろう。

 堪らず吹き飛び、石の床に叩きつけられる。げほっ、かはぁっ、と咳を吐き出し、怯える視線で仰ぎ見る。予期していないいきなりの暴力、ルイズは怖くて堪らなかった。

「いいか? そんな風に言いよどんでちゃ困るんだよ。それからここは「なにすんのよ、才人」とか、「ごめんなさい、才人、言い間違えたわ」とか、抗議したり謝ったりする場面だと思うぜ?」

 ニヤニヤ嗤う才人にルイズは答えられない。そして改めて今の立場を思い知った。悪夢は昨夜で終わったわけではなく、むしろこれから始まるのだと。

「どうした? 俺の言葉が聞こえなかったか? ここはどうするべきだと思う?」

見下ろしたまま才人が問う。

「っわ、わかりましたっ! っい、いえ、わかったわサイト! 気を付けるから許して!」

 慌ててルイズは許しを請うた。一刻も早く謝り、理不尽な暴力から逃れたい。思うことはそれだけである。むしろ「お許しください、ご主人様」と、土下座してすがりつきたい衝動を抑えるのに必死だった。そんなルイズに才人は薄く嗤ったまま見下ろす。

「くくっ……まあそんな感じだ。上手く意識を切り替えろ。こんなもんは慣れだ慣れ。上手く出来るように訓練するぜ?」

「っわ、わかったわ」

 どうしても目を伏せてしまいそうになる。だがそれは許されないだろう。いや、日常の一部ということで許されるかもしれないが、間違っていたら力をもって矯正させられるかもしれない。目線を外すという選択肢はなかった。じっと、真剣な表情で顔を向ける。

「それとだ、今夜に向けて一つアドバイスをしといてやる。実行するかどうかはルイズの自由だけどな?」

 才人の言葉にルイズはうなずく。失敗すれば才人は破滅であろうが、同時に自分も破滅であろう。おそらくは殺される。しかしそれでも、この憎むべき男に一矢報いる事が出来るならと。それならば破滅を受け入れたほうが良いのではないかと思ってしまうが、そもそも身体も心も逆らえない。受け入れるしか選択肢はないのだ。

 ……ああ、お父様、お母様、このような下種な男に従ってしまうルイズをお許しください。そして始祖ブリミルよ。どうかこの哀れなわたくしを。どうか、どうか、この地獄からお救い下さい……。

 許しを得るは厳格ながらも頼れる父、母。信ずるは偉大なる魔法使いブリミル。だが、今はその声も届かない。

 食事までの間、ルイズはただひたすら恐怖に怯えながら訓練に励むことになった。



[27351] 最初の一夜
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/03 20:52
 石造りの大きな部屋。クローゼットにサイドテーブル。読書するためのテーブルに椅子。立派なベッドには豪華な布団。窓は観音開きの洋窓で、職人の手による一品もののカーテンまである。まさに貴族が通う名門、由緒正しきトリステイン魔法学院の一室に相応しい格式ある部屋と言える。
 この部屋の主人の名前をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと言い、公爵家の三女であった。時刻は深夜。淡いランプが幻想的な雰囲気を醸し出している。

「ルイズ、使い魔の仕事で一番大切なのは主人の身を守ることだって言ってたよな?」

「……言ったわ。使い魔は主人を守る存在よ。その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目よ」

 ベッドに腰掛けて見下ろす。正座となってそれを見上げる。それが二人の力関係を表している。名目上はともかく、ルイズは才人の気分一つで奴隷の存在に墜ちなければならない。

「くっ、だがな、能力って言ってもルイズはゼロなんだろ? 魔法で役に立つとは思えないんだよな。だから身分の方で俺を守ってくれ。そんくらいなら出来んだろ?」

「……そうね、わたしはゼロだからそれくらいしかできないわ。それでも良ければわたしを使い魔にしてくれるかしら?」

 ルイズは才人が望むであろう答えを必死に探す。探すしかない。

 ……使い魔召喚は神聖な儀式ね。そんで無理やり呼び出された使い魔はメイジに絶対服従しなくちゃなんなくて、逆らったら死刑ってか? ったくふざけてやがる。そんなことしようとするからこんなことになるんだぜ?

 ベッドから立ち上がった。それをルイズは平伏することで応える。「じゃあ、始めてくれ」とニヤリと笑う。心底情けなさそうな、悔しそうな、笑顔を取り繕うような、複雑な表情でルイズは応える。

 そして儀式は始まった。

 立ち上がったルイズは制服を脱いでいく。マント、ブラウス、プリーツスカート……。最後にショーツを脱ぎ捨てると、今度は才人の服を脱がしていく。パーカー、シャツ、ズボン……。
 服を脱ぐときの衣擦れの音、ジジジ……とファスナーを下ろす音、かちゃかちゃとベルトを外す音。ルイズの耳には静まり返った部屋で嫌に響くように感じられた。

 おーおー、手が震えてるし顔を真っ赤にしてまぁ……、くくっ、そりゃそうだ。今からすること考えりゃな。恥ずかしいだろうし、ルイズに取っちゃ冒涜の極みだろうからな……。

 服を脱がせたルイズは動く。やるべきことは既に伝えられており、やれと命じられている以上はどうしようもないのだ。自分の本心でやっているわけではない。それだけが唯一心のよりどころである。
 いつかは解放されると信じ、目の前の男に目に物を見せて復讐してやると誓い、ただ今は耐えるのみなのである。

 ルイズはゴクリと生唾を飲み込む。覚悟はしていたがいよいよだ。
 正面に見えるは猛った肉棒。それをルイズはじっと凝視したのち契約のキスを施す。

「っ、わ、我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンダゴン。このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽのことだけ考える。っわ、我はおちんぽの使い魔となった……」

 鼻先で異様な臭気。びくびくと蠢いている。その肉棒、亀頭の中心、鈴口に向けて長く長くキス。契約は深くなければならなかった。

 それから才人の指示に従い両手で優しく肉棒を支え、キスの雨を降らせる。玉袋をやわやわと揉みしだき、同時に裏筋かられろぉっと舐めあげる。尿道口からカウパーを吸い、片手でしごきながら玉袋を口に含む。

 ああ、このまま食いちぎってやりたいとルイズは思う。しかしそれは身体が許さない。熱心に、丹念に、情熱を込めて舐めあげる。

「っくぅっ……っ」

 テクニックとしては稚拙であろう。だが、生意気なルイズを屈服させていると考えれば、その隙間など容易に埋まる。
 何しろルイズの顔は悔しさと屈辱感に歪んでおり、それでいて愛撫はあくまでも情熱的。これで燃えなければ嘘だろう。ぴちゃぴちゃ水音を立ててルイズは肉棒を刺激する。

「!?っぶっ…ふっぶふぅぅ……ふっ……!!」

 そしてほどなく訪れた限界にルイズは目を見開く。それはいきなりの射精だった。

「っ……ごほっ!……げぇほっっ、っ……げほっ、…かっはっ……」

 ぺろぺろと舐めあげていたのにいきなり肉棒を押し込まれ、目を白黒させているとそのまま喉の奥にまで突きこまれたのだ。そのまま頭を押さえつけられて乱暴に口中を犯され、予告もなく射精される。
 喉の奥に張り付く不快な感触。鼻先にツンとくるその臭い。あまりの量、あまりの生臭さに飲み込めきれない。

「っけほっ……っけほっ……ぅ…」

 こみ上げてくる猛烈な嘔吐感。それをルイズは必死に耐える。

「ルイズ、味の方はどうだった? 旨かったろ?」

 えずき、苦しんでいるのを見て才人が嗤う。鼻水のように精液を垂らし、口元からもタラリと垂れて糸を引いているルイズの顔は惨めで、悔しげで、その泣きたいのを堪えている表情は見ているだけでゾクゾクする。

「っお、美味しかったです、ご主人様。ルイズはおちんぽが大好きで、だからおちんぽから出る精液も大好きですから……」

 表情を取り繕って泣きそうな顔で笑う。問いの意味を考えれば、ここでは笑うべきだ。悔しさを表すべきではない。

 くっくっくっ……楽しいよなルイズ。一体今はどんな気持ちなんだ? くくっ、聞きゃあ簡単なんだが、それじゃあ面白くないよなぁ?

 ぐしぐしと顔にこびりついた精液を拭い、じっとルイズは考える。おそるおそる才人の顔色を窺い、嗤われて絶望の表情となった。おずおずと小さな舌先を手のひらに伸ばし、ぴちゃぴちゃと残滓を舐め清める。嗤われているのだ。やれと言う事である。

「ん、そんなもんだ。後始末しろ」

 そして、それが終われば肉棒そのものの後始末をしなければならなかった。

 考えないように、少しでも先送りするようにとしていたルイズだったが、命じられれば行動に移さなければならない。
 無理やり飲まされるのと、自分から行動して舐め清める事。それは全く意味合いが違う。もしかしたら気まぐれを起した才人が「やらなくていい」と命じてくれる可能性もあったのだが、命じられたらそれまでだった。

「はい、ご主人様。今すぐおちんぽを綺麗にいたします……」

 にじり寄ったルイズが肉棒に手を伸ばし、先端にちろちろと舌先を絡める。れろっ、れろっと、竿の部分を舐めあげる。そして大部分の汚れを清めたルイズは一瞬だけ逡巡し、口をんあっと大きく開けると肉棒を咥えるのだった。

 んっ…んっ…んっ…とリズミカルな水音が響き渡る。

 この後のことを考えれば完全に勃起しきった状態に戻さなくてはならない。裏筋を舐め、肉棒をこすり、また咥えて、再度んっ…んっ…んっ…と唇を使った。

 ルイズの頬に一筋の涙が伝う。
 
 その後始末とも、準備ともつかないルイズのフェラチオは、才人が「よし、そこまでだ」と満足するまで続けられた。



 部屋の中央で行われた使い魔忠誠の儀式。それはつつがなく執り行われた。強要されたフェラチオを終わらせたルイズだったが、それはもちろん終わりを意味はしなかった。

「さ、準備してきたんだろ? くくっ……まあしてきてなかったなら、それはそれで構わないんだけどな。……で、どっちだ。ちゃんとしてきたか?」

「う、うん。ちゃんと準備してきた。大丈夫よ」

「そっか、そっか、風呂はどうしたんだ? 見つかったりしなかったか?」

「っだ、大丈夫。見つかったりしなかったわ。タオルで隠すようにしたし、なるべく人がいない時間を見計らって入るようにしたから」

 ニヤニヤ嗤いながら、才人は先を聞いていく。

「そうか、ちゃんと気をつけるようにするんだぜ? 見つかったら多分変態扱いされるだけだろうしな?」

「っ…そうね、何とか消す方法が見つかればいいんだけど……」

「見つかったら恍けろよ? それとちゃんと報告するようにするんだぜ?」

「わ、わかってる。ちゃんと報告するようにするわ」

 場所は移って今はベッドの上。才人は大の字に寝転がり、ルイズはその足元で肉棒に刺激を送り続けている。とはいえ射精させては意味がないので、極々軽くさする程度に留めてはいる。勃起状態は維持しなくてはならなかった。

「くく……まあそりゃそうだよな。日常会話の訓練中、ずっとケツ穴を弄ってたんだ。トイレにだってそりゃ行くわ」

「っう、うん。切れたりしたら大変だって言ってくれたでしょ? 柔らかくしとかないと大変だって。おトイレにも行ってきたし、お風呂でもちゃんと指を入れて洗ってきたから……」

 にこやかに話そうと努力するが、どうしても顔が歪みそうになる。情けなさ過ぎて、今にも泣いてしまいそうだとルイズは思う。
 会話しながも横目で肉棒の状態を確認し、しごいては時に息を吹きかけ、刺激を与え続けているのだ。情けないにもほどがある。

 ああ、そんな表情が見たかった。

 そんなルイズに才人は嗜虐心をくすぐられる。もっともっと屈辱を与え、恥辱を味あわせ、絶望の表情をさせたいと思う。ニヤリと嗤いながら会話をする。

「じゃ、始めようぜ? 俺を満足させないと終わらないんだから頑張ってくれよな?」

「わ、わかってるわ。頑張って満足させてあげるわね」

 ルイズは才人の上に跨る。そして猛った肉棒を掴み直して深呼吸する。絶望感と恐怖、ちらりと下を見て、本当に入るのかと不安で不安で堪らない。

 膣ではあんなに痛かったのだ。いや、痛いなんてものじゃなかった。
 痛さのあまり何度も何度も気が遠くなり、それでも構わず挿入され続けられたので気絶すら許されなかった。いや、もしかしたら気絶していたのかもしれないが、意識のある間中は地獄かと思われる苦痛を受け続けた。

 それを今度は肛門で味わわなければならない。それも才人の上で自ら腰を振り、自ら苦痛を味わおうと努力をし、満足させて射精へと導かなければならないのだ。

 ……くく……、さあて、どういうことになりますやら? まあ、痛いだけだよな? ルイズは苦痛に弱いタイプだと見たがどこまで頑張れる?

 ルイズにとって肛門とは排泄の器官であり、決してセックスに使うものではない。そんなことをされるなんて、考えたこともない。それを今は、自ら行わなくてはならない。
 ニヤニヤ嗤っている才人が心底憎い。それを笑って行わなくてはならない自分が辛い。
 屈辱による怒りが湧き起こり、次の瞬間にはとてつもない恐怖に襲われる。

「っ……そ、それじゃあいくわね?」

「おう! 始めてくれ!」

 それでもやらなければならない。一つ大きく深呼吸したルイズは覚悟を決め、肉棒をアナルにあてがうとその腰を沈めていく。

「!?……っあ……っがああっ……っ…があっ!っ~くはああっ……!」

 ミチミチと音を立て、少しずつ肉棒が埋もれていく。とてもではないが呼吸する余裕がない。息を止め、とてつもない圧迫感に耐える。

 痛い! 痛い! 痛い! こんなのがお尻に入る訳がない! 絶対無理! 

 確実に裂けているとルイズは思った。処女喪失の時と比べても何ら遜色がなかった。悔しくて、恥ずかしくて、こんなことをさせるなんて殺してやると思いながら、肛門に指を入れて掻き回していた。ニヤニヤ嗤う才人に引きつった笑みを浮かべながら、日常訓練と称した辱めを受け、アナルオナニーをし続けながら会話した。
 もしもアドバイスを受け入れていなかったら、裂けるどころか引き裂かれて使い物にならなくなっていたかもしれないと思ったが、この痛みを前にしては感謝など起きようはずもなかった。

 それでも身体はルイズの意志を裏切ってしまう。止めたい、止めたいと思っても、身体は常に体重を掛けつづけた。

 どうして? どうして? と、身体の異常が恨めしい。せめて少しは休み、もう少しゆっくりと挿入していきたいのに、身体はそれを許さない。
 ギチギチと音を立て、声にならない悲鳴をあげ、ルイズは少しずつ、でも確実に肉棒を身体の中に埋め込んでいく。

「っ~~~っがあっっ…はっ、は、がああぁぁあぁっっ……!」

 苦痛に顔が歪み、目を見開いたまま閉じることが出来ない。痛くて痛くて堪らないのに、肉棒は少しずつ埋もれていく。ルイズの意志を裏切り、肉棒は徐々に徐々に埋まっていく。

「っぐうううぅぅぅう……!っふっ、ふっ、かはあっ、がががあああっぁぁあっっ……!!」

 そしてどれだけ時間がたったのだろう? 気が付けば股間に確かな肉のぬくもり。ルイズはようやく根元まで挿入することが出来たのだった。

 おおうっ! こりゃ面白ぇっ! ルイズのやつ顔が真っ赤っ赤だぜ! こりゃきばってんね! こんなもんが入るなんて一体いつも何を食ってるんだ?

 もの凄い締め付けであった。何しろ碌に拡張などされておらず、潤滑油と呼べるのはほとんどないのだ。

 くぅっ…でもこれじゃあ痛いだけだぜ……ったく、しょうがねぇな……。

 楽しむつもりだった才人だが予定を変更することにする。ルイズが苦しむのは本望だが、これではあまりに狭すぎる。

「っく、仕方ねぇ……おい、ルイズ! しょうがねぇから一度出してやる。んで、その精液を潤滑油にするんだ。腰を振るのはそのあとでいい。っ出来るか?」

「があああっっ……つぁ…わ、わがっだからぁぁっ! っお、お願いよサイトぉ!っ~~っは、はやく出してぇぇっっ!!」

 口をパクパクさせるだけで、ルイズは動くことが出来なかった。動こうと決意したその瞬間に脊髄から脳天まで電気が走ったようだった。お尻から太い杭を打ち込まれたようで、固定されてしまったと思った。

「よしっ、んじゃあいくぜっ」

 細い腰を掴み、そのままの姿勢で突き上げていく。がっ、ががぁあっと、喉から声を絞り出すルイズだがこればかりは仕方がない。快感を得るのにルイズが動けないというなら、才人が動くしかないではないか。

「っ……っぉおおおぉおぉぅぅ……!」

「ぎぎゃあああっ……が、があぁぁああっっぅ……!」

 気合を入れて腰を振る。ルイズは自らの太ももを掴み、出来うる限り内股になろうと肛門を閉め、それが才人の肉棒をより締め付ける結果となる。

 おらおらおらっ! もうちょっとなんだよルイズ! そのまま締め付け続けろっ!

 悲鳴をBGMとしてずんずんと容赦なく肉棒を突き上げ続けた才人に限界が訪れる。最後に一際大きく突き上げ、ぐぅぉぉぉぉっ……と、気合を入れ、突き上げたその絶頂で力を抜く。
 どっぴゅぅぅぅぅぅっと、二回目とは思えないほどの射精を、才人はルイズの腸奥にまで注ぎ込んだ。

 そしてその瞬間、背筋をのけ反らせたルイズは身体を痙攣させた。ビクビクと小刻みに身体を揺らし、白目を剥くとそのまま才人の胸に身体を預けてくる。

 ……くくっ…気持ち良すぎてイっちまったか? 流石はヤリマンのルイズだ。ケツでもお構いなしに感じるってか?

 ルイズは口の端から涎を垂らして失神している。壊れてしまうとの恐怖、不浄の穴を犯されているとの罪悪感。例えようのない苦痛にルイズは耐えられなかった。 精液の熱い滾りを感じ取った瞬間、これでやっと終わったと安堵し、それでそのまま気を失ってしまったのだった。
 目を剥いたままだらしなく口を開け、涎と共に舌先も覗いている。鼻だけ荒い呼吸を繰り返し、身体はぴくぴく痙攣している。それがルイズの生きている証拠だった。

 しばらく余韻に浸っていた才人。だが、これで終わったわけではない。

「……おらっ、ルイズ、起きろ」

 頬をべしべしと叩き、起きなければだんだんと強くしていく。ゆっくりと覚醒していくルイズは「……ぅ…ぁ……ご、…ごしゅ…じん…さ……ま……」と呟いた。

「……才人だ。今はいいがちゃんと切り替えられるようにしろよ?」

 目を覚ましたルイズから肉棒を引き抜く。ごぼっと音がし、トロトロと精液が流れ出してくる。それは赤く染まっていた。おそらく何処かが切れたのであろう。

「くく……おはよう、ルイズ? 気持ち良かったか?」

「……う、ううん……づ…い、痛かった…だけ……」

 その答えに才人は噴き出した。それはそうであろう。ろくに広げようともせず、初めてで気持ち良いわけがない。

「そうか! そいつはわるかった! そりゃあそうだよな? 普通は痛いって!」

 ゲラゲラ笑う才人にルイズは何も答えなかった。ただ泣きそうな表情で苦痛と羞恥に顔を歪めるのみである。

「でもよ、慣れなくっちゃな? これから何度でも使うことになる穴だ。早いトコ慣れて、気持ちよくなるようにしないとだ、これから大変だと思うぜ?」

「っ……そ、そうね。っは、早く、慣れないと、いけないわね……」

 お尻をおさえながら答える。意識がハッキリしてきたルイズだったが、情けなくて情けなくて、一人になれば直ぐに泣けそうだった。
 でもそれはルイズには許されない。わんわん泣いてしまいたいのに、身体はそれを許してくれないのだ。

「さっ、今日は初めてだしな。あと一回頑張ってくれればそれでいい。休憩も許してやる。休まるまでの間、俺のチンポでもしゃぶってろ」

 それでも泣きそうな顔なら許される。ニヤニヤ嗤う才人の表情は「その顔をもっと見せろ」と言っている。
 悔しくて悲しくて、自分でも今のこの感情をなんと表せば良いかわからない。それでもこの表情ならば許される。

 そう、才人はこんなルイズが見たかった。もっともっと苦痛を与え、もっともっと恥辱を与えて、この表情をこそ見たくて堪らなかった。
 もう才人は自分の性癖を受け入れていたのだ。追い込まれ、そのせいで気付いてしまったのだ。それを元凶たるルイズにぶつけて何が悪いというのか?

「尻は閉めて精液を洩らさないようにしろよ? ソイツは大事な潤滑油だ。んで後始末し続けて、準備が出来たら出来たってちゃんと言うんだ」

「……わかった。そうする……」

 今まで自分のお尻に入っていたものを舐め清めなくてはならない。屈辱と嫌悪感に、どうしても表情が歪んでしまう。そんなルイズを、才人はただにやにやしたまま見つめている。

「っ……ぁ……あんむぅ……ふっ……ぺろっ……」

 やれと言われればやらなくてはいけない。股間の痛みが治まる時間を稼がなくてはならない。

 ……っこんなっ! こ、こんなことしなくちゃならないなんてっ! っき、貴族であるこのわたしが平民にこんなことをしているなんてぇっ!

 ルイズは肉棒へと顔を近づけ、そのツンと不快な臭いを嗅ぎながら、小さな唇を被せていく。猛烈な嘔吐感と嫌悪感を堪えながらぺろぺろと舐め清め、才人の反応を確かめる。痛みを堪える為にお尻に手を当て、指示されるままに舌を動かす。

 そうして才人召喚二日目。ルイズが奴隷に墜とされた最初の夜は過ぎて行く。

 ……ふ~、ケツの穴ってのも悪くねぇな。妊娠の恐怖とあり得ないところを使われる嫌悪感ってのは、どっちがルイズにとって嫌なんだ? くく…ルイズに聞いたらどっちも嫌ってか?

 ちらりと窺えばルイズがぺちゃぺちゃと音を立てながらフェラチオに集中している。命令されているのもあるが半ば集中することで現実逃避をし、お尻の痛みから免れようとしているのだろうか? 
 静まり返った部屋に淫靡な音だけが響いている。

「……そこはこー舐めるだけじゃなくてだな、舐めながらでも常に俺の反応を気にするんだ。フェラってのはこれはこれで奥が深いからな、ちゃんと考えてするようにするんだぜ?」

「っぷあはっ……はぁ…はぁ…っわ、わかったわ。……あんむうぅ…べろ…ちゅう……っ」

 ニヤニヤ嗤いながら注文を出す。言われた通りにルイズは動く。射精され、才人から「旨かったか? もしそうならまた飲ませてやる」と問われれば、「っうん、美味しかったわ。また飲ませて頂戴」と答える。

「そ、それじゃあ、いくわ。次こそ満足させてあげるから……」

「おう! よろしく頼むぜ? まあ、駄目だったら駄目だったで気にすんな。それだったらそれだったらで、勝手に使わせてもらうだけだしな?」

「っい、いくわ……」
 
 ルイズが才人の上に再び跨った時、その時にはゆうに一時間を超えていた。



[27351] とある一日の風景
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/04/29 14:12
「それで、ミスタ・コルベール。あの東方から来たという少年について何かわかったのかね?」

「はい、オールド・オスマン。フェニアのライブラリーで全ての古書でルーンについて調べましたが、残念ながらどの古書にものっておりませんでした。王立図書館やアカデミーで調べてもらうわけにはいきませんか?」

 本塔の最上階。学院長室である。オスマンはコルベールからの報告を受けていた。

「ふ~む、ミス・ヴァリエールは無能なメイジなんじゃろ? それにコントラクトサーヴァントには成功したわけじゃろ? たまたま平民が召喚されただけの話じゃて」

「はあ……確かにそうかもしれませんが……」

「ごくろうじゃった。気になるのはわかるが君の仕事はそれだけではあるまい。忘れることじゃ。なに、わかったらその時動いても問題あるまい」

「……わかりました。確かにそうですな。忘れることにしましょう」

 平民が召喚されるありえないイレギュラー。何よりも見慣れない珍しいルーンが気になったコルベールは夜を徹して文献を調べた。しかしそれでも何も出てこない。思い余ってオスマンに相談したが、興味がないのでもう一度調査するように命じられたのだった。

 オスマンとしては一人の平民のことなどどうでも良かったし、それよりもいかにして学費を徴収するか、うまい手を考えるのに忙しかった。コルベールの提案にのってしまったら王室に借りを作ってしまうのでそれは拙い。
 単なる一平民の詳細を知るよりも美人の秘書にするセクハラのほうが重要であるし、さっさとこの話題から離れたかったのである。

 オスマンにも、コルベールにもわからなかった才人の正体。それは別の場所で明らかになる。



 ルイズの一日は才人を起こすことから始まる。

 才人に頼んで馬のエサである藁を貰ってきてもらい、それを部屋の隅に敷き詰め、毛布にくるまって寝ていた。それを才人はニワトリの巣と呼んでいる。対外的には才人の寝床となっているからであり、朝一番の才人の仕事はルイズを起こすことになっているので、なるほど、雄鶏のようでそうかもしれない。皮肉極まる状況ではあるが相応しい名前であるとルイズは思わざるをえない。
 
 ルイズは才人を起こすのにフェラチオをして起こす。「ちんぽの使い魔には相応しいだろ?」「大好きなちんぽを朝から咥えさせてやるなんて俺っていい主人だと思わないか?」と、説明するとき才人は言ったものである。悲しくて悔しいが従わなくてはならない。粘つく特濃の精液を毎朝一番に大量に飲み干す。

 昨夜の凌辱の痕跡を掃除する。その全裸での掃除姿をニヤニヤ見つめられる。朝っぱらから奴隷の身分を思い起こされ、ルイズのプライドはボロボロになる。それが終わって、やっと制服を着るのを許されるのである。

 リードのついた首輪を「ありがとうございます、ご主人様」と外してもらい、それを引き出しにしまう。管理はルイズの仕事である。そうしてから黒いマントと白のブラウス。グレーのブリーツスカートの制服を着る。着替えれば顔を洗い、歯を磨く。
 涙の跡が、精液の跡がこびり付いていないかと鏡をチェックする。ルイズはそのたび情けなくて泣きそうになった。

「さっ、いくわよサイト」

「お嬢様。本日はいちだんとお美しいことで」

「っ……あんた、何企んでるの?」

 精液がどこかにこびりついている? それとも何か新しい責めを思いついてしまった?

 朝、授業の時間まで才人はルイズにフェラチオをさせて時間を潰させる。当然その時は射精させるまで解放されることはありえず、時間に追われたルイズは必死の思いで肉棒を愛撫しなければならなかった。
 以前それが原因で遅刻してしまい、ダイエットを理由に食事を抜くことを強要されたり、「学生として遅刻はいけませんよ、お嬢様? 不出来な使い魔の仕事として教育して差し上げます」と、鞭で散々に叩かれてしまったりしたのだ。
 この時ほど、しつけに使おうと鞭や首輪を用意していたことを悔やんだことはなかった。

「いえいえ、今日は虚無の曜日。街まで買い物に行くんですよね? それが楽しくて顔に出てしまっただけです。はい、お嬢様。ただそれだけのことです」

「……そう。でもそんな風ににやけるのは止めなさい。あんたは貴族である、それも王家に連なる由緒正しい大貴族であるラ・ヴァリエールの使い魔なんだからね。それに誇りをもって相応しい行動を心掛けなさい」

「失礼しました。お嬢様。どうかお許しください」

 腰に手を当て、挑発的にルイズは叱責し、それを才人は頭をぺこりと下げて取り繕う。しかしくぐもった低い嗤いは止まっておらず、慇懃無礼に馬鹿に仕切っているのがよくわかる。

 こんな時、自分ならどうするか? 更に叱責するか受け流すか。どちらでもおかしくないが、藪蛇は怖い。瞬時の判断で受け流すことにした。ふんっと顔を背けて「馬鹿なことしてないで早くいくわよ」と扉に向かう。

「了解しました、お嬢様」

 ニヤリと笑って才人は続く。今日は虚無の日、すなわち授業はお休み。街の見物をしたいと言い出した才人に断ることが出来ず、私服や面白いものがあればと買い物に行くことになっていた。

「ヴァリエールの使い魔ならば着た切りスズメは拙いのでは?」と言われてはルイズも納得するしかない。もっとも納得できなくても買い物にはいくことになったであろうが。

 こうして二人はトリステインの城下町へと出かけたのである。



 才人が召喚されて一週間が経っていた。学院で才人はルイズの使い魔として紹介されている。学生から侮蔑されても下手に振る舞い、なるべく騒ぎを起こさないように心掛けた。
 もっともミスタとか、ミスと敬称を付ける事だけはどうしても嫌で、ファーストネームで呼んだりしたが。たとえ貴族でも教師や年上なら“さん”付けくらいは許せようが、同年輩の学生相手に敬称は必要以上にへりくだるようで耐えられなかったのだ。

 それでも安全には替えられない。指摘されるなら我慢しなければと覚悟していた才人だったが、意外にも「この無礼な平民め!」とならなかった。
 ルイズに聞いてみると大貴族の使い魔だからそれなりに地位は高いのだという。単なる平民よりも、むしろその地位は高い。身分保障をされているからだ。しかも使い魔を馬鹿にすればヴァリエール公爵家を敵に回すことを覚悟しなくてはならず、我慢しているのだろうという。
 それに元々ファーストネームで呼ばれ慣れているので、それほど気にしないものも多いだろうと言い、才人的に嬉しい誤算であった。

 そうして使い魔としての生活を一通り経験した才人は満足し、それからはほとんど仲良くなったマルト―親父のいる厨房に入り浸るようになったのである。

 コック長であるマルトー親父は大の貴族嫌いであり、才人が使い魔の不遇や貴族の横暴を訴えると大いに共感してくれた。才人のことを仲間たちに「我らの息子」と紹介し、何かと世話を焼いてくれるのである。
 それに厨房には優しいシエスタがいる。いけ好かない貴族に比べてどちらが良いか、答えは考えるまでもない。マキ拾いを手伝ったり、日本の料理を参考にアドバイスをして感謝されたり、それなりに楽しい毎日を過ごすようになっていた。

 才人はルイズが自分をどういう風に扱うつもりであったかを聞き取り、それを参考にルイズの境遇を決めた。そのおかげでルイズは同衾していたベッドから一夜にして叩き出されて藁に毛布を寝床とされることになり、食事をたびたび抜かれ、室内に戻れば首輪をはめることとされ、鞭でしつけをされることになった。
 才人に言わせれば「俺をどう扱おうとしていたかを参考にしただけだ。それに毎日たらふく精液を飲んでるんだし腹も空かないだろ?」である。ルイズは屈辱に顔が歪みそうになるが、にっこり笑って「そうね、その通りね」と納得するしかなかった。

 服については聞かれるまで考えもしなかったという。これには才人もやはりというか唖然としたものだが、後々報いを受けることになるであろう。今は部屋でのみ全裸とさせているが果たして将来は?

 ニヤリと笑った才人は考える。ルイズと過ごす生活環境には正直無理があろう。遠からず瓦解することも十分にありえる。ならばそれまでとことんまで恥辱を与えたいが、そうするとバレてしまう可能性も高まってしまうだろう。ここは思案のしどころであった。

「……ルイズ、狭い道だよな?」

「これでも大通りなんだけど? ここはブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」

「宮殿ねぇ……」

 トリステインの街である。馬で三時間は辛かったと才人は思う。ここ一週間、別のことで腰を使っていたから尚更だ。

 それでも才人は楽しんでいた。先のことは先として、今は異世界の雰囲気を満喫したい。トリステインの城下町に行くことは楽しみにしていたのだ。
「馬に乗ったこともないなんて」とか、「これだから平民」は、などと罵倒してくれた時には笑った。びくびくしながら目線で「これでいいよのね?」と問いかけてきたからだ。鷹揚にうなずき、「それでいいんだ」と伝える。ほっとした表情をしたあと苦々しげな顔に戻ったルイズは「じゃ、じゃあいくわよ! ついてらっしゃいっ!」と歩き出したのだ。成長したものだとほくそ笑んだ。

 白い石造りの街はまるで中世の街を再現したテーマパークのようだと思った。
 老若男女取り混ぜて歩いており、活気に満ちていて面白かった。

「それで? 一体何を買うつもりなの? ありったけ持ってきたんだからスリに会わないように気をつけなさいよね?」

「こんなに重いのにスルやつなんていないだろ?」

「馬鹿ね、魔法を使われたら一発なんだから注意しなさいよ。ありったけ持ってきたんだから、これがなくなると次の仕送りまで無一文になっちゃうんだから気を付けてよね!」

「へーへー、わかりましたよ、お嬢様。気を付けますって」

 ずっしりと重すぎる懐に手を入れる。確かに無一文は才人も嫌だ。食事の心配はいらないとはいえ、金はあったほうがいい。何よりこの街での買い物が出来なくなる。気を付けようと思った。

「で? 何を買うつもりなの?」

「そうだな……」

 着替えの衣類は確定である。特に下着類と替えのシャツ。その他にもタオルやバスタオル、石鹸や歯ブラシなど。マルトー親父に頼めば用意してくるかもしれないが、できうるなら自分で用意したい。紙やペンなんかの筆記具も欲しい。それからモンスターや夜盗が普通にいるファンタジーな世界。護身用として短剣の類もあれば尚よいだろう。それらのことをルイズに説明してみる。

「……そうね、そういうことならまずは衣類から片付けましょう。それならこの通りにあるし、剣なんかは裏通りになるからあとにしましょ」

「ほう、なるほどね。確かに主目的は替えの下着が欲しかったからだしな。そうすることにしよう。んでメシ食って、看板なんか見て聞くからさ、面白いのがあれば覗いてみることにしようぜ?」

 ニヤリと悪戯っぽく才人が笑い、それを聞いてルイズも笑った。何か企んでいると思っていたのだが、どうやらまっとうな買い物がしたかっただけらしい。

「それじゃ、いくわよ」

「おう! 案内してくれ!」

 そうして二人は様々な店を巡って買い物することにしたのだった。



「いや~、ルイズ、一杯買ったよな」

「そうね、人のお金だと思って。よくもまあ遠慮なく使ってくれたものだわ」

「そう言うなよ、全部必要なものばっかなんだしさ。それにルイズだって買ってただろ?」

「そ、そうね、必要なものばっかりだし、しょうがないわよね」

 はっはっはっと才人は笑う。ルイズの金だと思うと散財するのも気持ち良かった。替えのシャツに下着類。タオルや歯ブラシなどの小物類。シエスタへのお土産にアクセサリーも才人は買った。

「まあ、これで最後だしさ、そんなに怒るなって」

「っ怒りたくもなるわよ! 1000エキューも持ってきたのに残りが500エキューを切っているってどういうこと? 秘薬やマジックアイテムでもないのにこんな散財するなんてありえないんだからっ!」

 そう、ルイズの心は怒りで一杯だった。こめかみがぴくぴくしているのがわかる。

 着替えは確かに必要であろう。ここまではいい。しかしだ。ルイズ的に才人が誰と付き合おうと知った事ではないが、他の女への土産まで買わせるのはどうなのか?
 それに「ルイズだって下着類は必要だろ? 一杯駄目にしちまったしさ」と。ニヤニヤ笑う才人に指摘され、裏通りの怪しげな衣料店で散々に買い物をさせられたのだ。

 嫌がる才人を引き連れた好奇心満々の貴族といった風に演技させられ、合図によって買うものを決めさせられ、羞恥によって死にそうだった。そしてそれがまたえらく高くついてしまったのだ。腹立たしいことこの上なかった。

「悪かったからそんな怒るなって。これで最後なんだしさ。ほら、スマイル、スマイル」

「っ…………」

 ちっとも反省しているとは思えない才人だが、これ以上は怒れない。もしも機嫌を損なってしまったらと思うと、これ以上は怒れない。諦めたルイズは「ふんっ、馬鹿なこと言ってないでいくわよっ」と背を向ける。実はこの対応で良いのか、帰ったらこれを口実に新しく責められるのではないかとびくびくものだった。

 背後の才人は何も言わないが、それがまた嫌な想像を誘ってしまう。報告は義務であり、嘘は許されない。それを口実に殴られ、しつけられることは度々あるのだから。

 剣の形をした銅の看板の下がっている店。武器屋である。これが悔しい買い物の最後となろう。石段を上り、羽扉を開け、ルイズと才人は店の中へと入って行った。



 店に入ると出迎えたのは50がらみの親父であった。店内は昼間だと言うのに薄暗く、ランプの灯りがともっていた。壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑も飾ってあった。

 親父は胡散臭げにルイズを観察し、それから何かに気付いたような表情を見せると愛想よく話し掛けてくる。

「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

「客よ」

 腕を組んだルイズは簡潔に言う。才人には逆らえないが、単なる平民には下手に出る必要はない。高圧的に、侮蔑的な視線を送る。気にした風もなく親父は続けた。

「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」

「どうして?」

「いえ、若奥様。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーから手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」

 茶目っ気たっぷりに親父は話す。まあ、商売人としてはわからないでもないが、ハルキゲニアにはこんなのばっかりなのか? いくつか回った店のことを思い起こし、才人は呆れながら一連のやりとりと眺めていた。

「この方が剣をお使いになられるんで?」

 おっ、と才人は意識を切り替える。ここまで買い物してきてわかったのだがルイズは買い物が下手だった。「金はあるから好きなのを見繕いなさい」、商品を買ってから「値段は?」では鴨にさせるだけである。目線でルイズを制した才人は店主との交渉に乗り出していくことにした。

「ああ、俺が使いたいんだ。護身用として使いたい。素人だけどどんなものがいいんだ?」

 じろじろと才人を眺めた店主は「……そうですな」と考え込んだあと倉庫へと消え、一振りの剣を手に戻ってくる。片手で扱うものらしく、短めの柄にハンドガードがついている。ずいぶんと華奢な剣だと才人は思った。

「これ、なんていう剣?」

「レイピアでさあ。昨今は物騒ですから宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアなんでさあ」

 才人はじろじろと観察する。きらびやかな模様がついていて綺麗である。なるほど、プライドの高い貴族が好みそうだと思った。

「ふ~ん。まあ綺麗だとは思うけどさ、俺が欲しいのはこんなんじゃない。小振りなのはいいんだけどさ、もっと頑丈で、出来れば片刃の剣ってのはないのか? イザって時は両手で使えるのがいい。俺は素人だしさ、もっと扱いやすくて頑丈なのがいいんだよ」

 だがこれを欲しいとは思わない。才人にとって剣とは日本刀であってレイピアではない。慣れればそうでもないのだろうが、このような突くのが主体の剣をとっさに扱える自信はない。日本刀は無理でもせめて小剣の類が良かった。

「……ではこれなんかはいかがで?」

「……いや、もしかして、おっさん、俺の事馬鹿にしてる?」

 次に店主が持ってきたのは立派な大剣であった。宝石が散りばめられた、拵えも立派な業物である。

「くくく……、ゲルマニアの高名な錬金魔術師シュペー卿の鍛えた魔法のかかった一品でさあ。こいつなら両手で使えるし、素人が振るっても頑丈ですから壊れませんぜ?」

 にやにや笑いながら店主は才人に勧めてくる。どうやら才人がどう切り返してくるか試している雰囲気である。

 ったくどうしたもんかね? このおっさん悪乗りしてやがる。まあ乗ってやるのも面白いけど、対外的に貴族を放っておいて雑談する使い魔ってのもなぁ?

 でもそれもいいかと才人は思った。このようなやり取りは大好きなのである。

「んで? この剣っていくら?」

「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」

「ほほう? ふっけたなおっさん。で、いくらにまかる?」

「旦那、名剣は城に匹敵するんですぜ? 1950」

「いやいや、買うとは言ってないだろ? まあ200くらいにまかるんなら買ってもいいか?」

「いやいや、冗談を言っちゃいけませんや。何しろシュペー卿の一品ですぜ? 1900でどうです?」

 背後で蒼い顔をしたルイズがいるが無視である。チラリと視線が合わせるとブンブンと首を大きく振っている。横目に見えた親父もニヤリと笑っている。親父としても自らの力量をわきまえたうえで希望を言い、それでいて目利きを任してくれるような客は好きなのだ。
 武器は高いので正直あまり売れない。よって客も修理が主体で新品を買うような客は少ない。どうやら買ってくれそうな雰囲気であるし、このくらいのやり取りは軽いお遊びとして楽しみたかったのである。

「わっはっはっ! ご機嫌じゃねえか親父! 珍しいぜ!」

 突然、店内に馬鹿笑いが響き渡った。店主はそれを聞いて頭を抱える。

「こら! デル公! せっかく遊…交渉してんのに邪魔すんじゃねえ!」

「……なあ、おっさん。今の声誰?」

 声の方に振り向くが誰もいない。つかつかと店主の目線の方に歩いて行ったが誰もいない。

「おめえの目は節穴か!」

「っ剣がしゃべってる!」

 才人は驚いた。なんと剣がしゃべっているのである。流石はファンタジーの世界、なんでもありだと思った。

「……なあ、おっさん。これって何? 何で剣がしゃべってるの?」

「へえ、意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。…やい、デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」

 まじまじと見詰め、そして手に取って確かめてみる。刀身が細い薄手の長剣である。ただ、表面には錆が浮き、お世辞にも見栄えがいいとは言えない。

「……インテリジェンスソードねぇ……でもさ、剣がしゃべって何の意味があるんだ?」

 言いつつも才人は興味深々であった。必要とする剣とは違うが何しろしゃべる剣である。どうせルイズの金であるし、予算が折り合えば入手するのも悪くない。

「まったくでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねぇ、剣をしゃべらせるなんて……。とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してるんでさ……。やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」

「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」
 
「やってやらあ!」

 興奮した主人が歩き出す。それを才人は遮った。

「親父さん、溶かすなんてもったいないって。それなら5エキューでどう?」

 それで主人も冷静になる。溶かしてもらうのにいくらかかる? 鋼材に戻したらいくらの価値になる?

「……旦那、5じゃ足が出ちまう。元々これくらいの長剣なら200くらいからが相場ですぜ? 鋼材に戻して、打ち直すとして、50……いや60は貰わないと割にあわねぇ」

 嘘じゃないと才人は思った。多少吹っかけているかもしれないが、この状況でとっさに弾き出した値段である。多少錆びてはいるが、新品で200なら60は悪くない。とはいえ興味はあるが、それを表に出したら失敗だろう。

「でもさ、閉口してるって言ってたじゃない。溶かして打ち直すのも手間でしょ? 厄介払いと思って5エキューでどう?」

「……旦那、確かに頭に血が上って溶かしちまうって言いましたがね、打ち直すのも武器屋の仕事でさぁ。まあ厄介払いしたいってのも確かなんですがね。……なら45でどうです? これ以上はまかりませんや」

「45ねぇ……」

 才人は考え込む。さびさびの剣に45エキューの価値はあるのか? いや、そもそもだ。

「一つ疑問なんだけどさ、打ち直すのも仕事ならどうして研いだりしないんだ? そうすりゃ少しはマシになるだろ? いくら口が悪くても見栄えが良けりゃ珍しいって買う客だっているんじゃないか?」

「へぇ、確かにその通りなんですがね、どうしたことか研いでも錆が取れないんでさ」

 苦笑いしながら店主が答える。それでますます興味をもった。
どうせルイズの金である。手に入るなら45どころか60でも惜しくはない。しかし主人の言い値で買うのも何か悔しい。

「……てめ、使い手かと思ったらリーヴスラシルじゃねえか……」

 その時であった。ぼそっとデル公と呼ばれた剣が呟く。

「……リーヴスラシル?」

 初めて聞く名前であった。店主の方を見、ルイズの方を見る。どちらも知らないと首を振る。

「……親父さん、この剣買うよ。45でいい」

「へい、毎度」

 才人はとにかくこの剣が欲しくなった。
 自分のことをリーヴスラシルと呼ぶ剣。もしかしたら自分やルイズの異常を知る手がかりになると思った。
 ぼそりと呟いたあと、剣は何にもしゃべろうとしない。何かありそうである。

「この剣、デル公って名前なのか?」

「へえ、デルフリンガーと本人は名乗ってますぜ」

「そっか、よろしくな、デルフリンガー。長いからデルフって呼ぶぜ?」

 デルフリンガーは黙りこくったままである。

「ねえ、サイト。そんな汚い剣にするの?」

 主人と才人のやり取りを黙ってみたままだったルイズがここで口を挟む。公式的には才人はルイズの使い魔である。汚い剣を使っていると、それはヴァリエールの恥となるかもしれない。そう思ったのだ。

「おう。しゃべる剣なんて面白いじゃんか。心配すんなって、普通の剣も買って、持ち歩くのはそっちにするからさ」

「……そう」

「今は静かにしてますがね。どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」

 パチンと音を立てて、店主は鞘にデルフリンガーを収める。それを才人は受け取った。

「よし、じゃあ続きだ。ネタはもういいからまともな剣を見せてくれ。それと小振りなナイフみたいなのはないか? ナイフについては切れ味の良いのが欲しい」

 ニヤリと笑って店主が答える。

「へへっ、旦那、わかってらっしゃる。護身用だとしたら最後に頼りになるのがナイフでさ。一本あるとこんなに便利なのはねえですぜ!」

 調子の良い主人にニヤリと笑う。こうして才人はデルフリンガーを手に入れ、いい買い物ができたと満足したのである。



 才人は魔法学院へと帰ってきた。対外的には才人の立場はルイズの使い魔である。つまり重い荷物はすべて才人が運ばなければならなかった。とにかく重かったと、ベッドに腰掛け休んでいた。

 へへっ……でもシエスタも喜んでくれたし良かったよな?

 食事をし、プレゼントを渡した才人は部屋へと戻ってきていた。喜んでいたシエスタに才人の気持ちはあったかくなった。大した金額でもなかった露店で買ったペンダントではあったが、涙を流して喜んでくれたのだ。首に掛けたときはぼうっとした顔で幸せそうであった。

「ま、喜んでくれたならそれでいいさ。どうせ俺には縁がないんだ。良くしてくれた分の感謝の気持ちってだけだしな」

 そう、シエスタには縁がないだろう。才人は自分が欲望に溺れているのを自覚している。
 清い付き合いで収めているうちは何とか我慢できるが、仮に本当に付き合うとなれば欲望をぶつける形でしか愛せないと理解していた。辱め、苦痛を与え、あまりの羞恥に身もだえさせ、それを見ながらほくそ笑む。そんな歪んだ愛情である。
 微笑んでくるシエスタと話していると、ふとした時にシエスタを絶望の表情へと追い込むことを想像してしまう。どうしてもそうしたくなってしまう。だがそんな愛情の形を、シエスタは受け取りはしないであろう。だから、縁がないと諦めているのだ。

「……さっ、シエスタのことを考えるのはこれまでだ。それよりも今はコイツだよな」

 鞘に収まったデルフリンガーを手に取る。今頃ルイズは情けない思いをしながら風呂に入っているだろう。浴槽の中でお尻に指を入れて、悔しい思いをしながら揉みほぐしてでもいるのだろう。それまでにデルフリンガーに話を聞いておきたかったのだ。

「コイツ、何を知ってるんだ? あれだけじゃべってたのに何でいきなり黙り込んだんだ?」

 疑問を解消すべく、才人はデルフリンガーを鞘から抜きはなった。



[27351] 第四の使い魔
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/02 19:47
 重い足取りでルイズは部屋へと戻っていく。今日もまた散々に弄ばれると思えば、足取りだって重くもなろうというものだ。

 ああ、今日はどれだけ奉仕すれば許されるのか。どのような屈辱を、どのような苦痛を甘受しなければならないのだろうか。

 顎が痺れてしゃべれなくなるまで? それとも足腰が立たなくなるくらい突きまくられるまで? あるいは才人の上で踊り疲れて許しを請うまで? 鞭で散々に嬲られるかもしれない。
 寮塔にたどり着き、石階段を上っていき、三階へとたどり着く。一番奥がルイズの居室である。通り過ぎる時、ちらりとキュルケの部屋に視線を走らせる。

 とにかく鞭は嫌だった。大声を出せない様にと猿轡まで噛まされたからだった。
 今まで穿いていたショーツでされる猿轡は惨めだったし、声を出せない状況でひゅんひゅんと鞭を見せつけられるのは本当に怖いのだ。
 でも――キュルケは本当に気付いていないのだろうか。

 廊下や教室で会った時に不自然なところはなかった。バレてはいないと思う。だがバレれば解放されたかもしれないのだ。
 
 運よく殺されなかったとしても、不名誉の極みになるであろうから学院は退学せざるをえまい。実家にも多大な迷惑をかけてしまうことになろう。それでもだ。いつかは解放されるとあてのない希望を信じるより、この地獄のような生活を抜け出せるならバレた方が良いのではないか?

 学院の壁には強固な防音処理をされているのは知っている。
 命令された状態なので、犯されている時息を殺してはいる。

 それでもあれだけ悲鳴をあげ、喘いでしまい、才人の怒鳴り声や打擲音が響いているというのに、隣のキュルケは本当に気付いていないのだろうか?

 ルイズにはどうなれば良いかわからなかった。どちらにしても悪い結果しかありえないし、自分の意志では選べないので深くは考えないようにしているからだ。

 溜息を一つついて思考を放棄する。情けなさで歪みそうになる表情を取り繕って笑顔になる。ここは、ああ食事が美味しかったな、お風呂は気持ちよかったなと、笑顔になるべきなのだ。部屋の外で不審に思われてしまうような表情を浮かべるのは絶体のタブーなのである。禁止され、深く思考回路にすり込まれている。

 今日もまた、ルイズは恥辱と屈辱、苦痛を与えてもらうため、重い気持ちで部屋の扉に手を掛ける。

「……帰ってる? サイト、お風呂に入ってきたわ」

 部屋にいるのはルイズにとっての悪魔そのまま。初めてをすべて奪い去ってくれた男、平賀才人であった。



 部屋に入ったルイズが見たのはベッドの上で上機嫌の才人だった。それでルイズの気分は暗くなる。いつもはハルキゲニアの文字を覚えようと本を読んでいたり、ベッドの上で寝転がったりしていたり、部屋に入ってくるルイズを出迎えることなどなかったのだ。

 無視をされたままに全裸となり、首輪をはめ、「準備ができたわサイト、今日もお願い」と声を掛け、それが凌辱の始まりとなるというに、今日に限って入った瞬間からじっと凝視されて嗤われている。嫌な予感しかしなかった。

「……どうしたのサイト、上機嫌じゃない。何かいいことでもあったの?」

 それを聞いた才人は更に口の端を釣り上げて嗤う。くっくっくっとくぐもった嗤いにルイズは逃げたくなる気持ちを必死に抑える。いや、ここは「気持ちの悪い笑いをしているんじゃないわよっ」と怒鳴るべき場面だったのだろうか? 間違えてしまったかと、ルイズは冷や汗を流した。

「いや、上機嫌は上機嫌だけどな。確かにいいことがあった。それにな、ルイズ。多分ルイズにとっても悪い話じゃないと思うぜ?」

「……わたしにとってもいい話? 何よそれ、言ってみなさいよ」

 くくっと嗤っていた才人だったが、ここで嗤うのをぴたっと止めた。そしてふぅぅぅと溜息をつく。二度、三度頭を振り、考えを纏めると満面の笑みを浮かべてみせた。

「おめでとう、ルイズ。オマエの魔法属性がわかった。――虚無だってさ」

「…………え?」

 ルイズには才人の言葉の意味がわからなかった。キョム…きょむ…虚無?

「っど、どういうこと? 何でわたしが虚無だなんていうの? 虚無は失われた伝説の系統よ? っそんなわけあるわけないじゃないの!」

 落ちこぼれである自分が伝説の虚無? そんなわけがないとルイズは思う。もしもそうならこんなにも魔法に苦労するはずがないではないか。落ちこぼれと蔑まれることなどありえるはずがないではないか。

 それにだ。もしもそうならその魔法の力でこんな目にあっているはずがないではないか!
 
 ルイズは明確な怒りを込めてサイトを睨む。いい加減なことをいうのは許さないとその目で語る。

「おいおい、疑り深いぜ? デルフが教えてくれたんだよ」

「……デルフ?」

 うろんな顔つきのルイズに苦笑しながら、才人はデルフリンガーを鞘から静かに抜く。

「よお、娘っ子。相棒の言うとおりだぜ! お前さんは虚無さ、おれ様が言うんだから間違えねえよ!」

 ルイズは驚いた。さびさびだった刀身は、今はキラキラ輝いて光っていたのだ。茫然としてルイズはデルフリンガーを見つめ、それから視線を才人へと移す。詳しい話を聞く気になったのである。そんなルイズにニヤリと笑って才人が続けた。

「実はさ、デルフが急にしゃべらなくなったろ? それが何でか知りたかったから聞いてみたんだよ。そしたら最初は何にもしゃべらなくて、それでも話し掛け続けたら煩いだの溶かせだの騒いでさ」

「…………」

「使い手ってなんだ? リーヴスラシルってなんだ? って聞き続けててさ。明らかに何か知ってる風だったってルイズは思わなかったか?」

「……うん、わたしも実は何か引っかかってた。今、こんな変な風になってるし、もしかしてサイトの異常とわたしの異常って何か関係があるのかなって思ってたわ。そんな時にサイトのことをリーヴスラシルって呼ぶ剣なんだから何か知ってるのかなって」

「ああ、俺もそう思った。だから諦めないで話し続けた。そのために45エキュー払ったようなもんだしな。黙ってないで教えてくれって言い続けたんだよ。そしたらだ」

くっくっくっと才人は笑う。

「急に苦しみ始めたと思ったらそのまま唸り続けて、終いにはまた黙りこくったままになってさ。元に戻ったと思ったからまた頼み続けたんだよ。「どうしたんだよデルフ、何か知ってるなら教えてくれよ、俺はデルフの持ち主なんだぜ」って語り続けてさ。そしたらルイズ、どうなったと思う?」

「……さびさびが取れてその姿になったって言うの? それでわたしが虚無だって言い始めたっていうわけ?」

 どうなったかはわかる。デルフリンガーの姿がそうだし、才人がルイズのことを虚無というのはデルフリンガーが言ったという事なのだろう。だがそれはルイズが虚無であることの証拠でもなんでもないのだろうか?

「まっ、概ねそう言うこった。ただ正確にはそうじゃなくてな、黙り込んだままだったデルフが急に「思い出したー」って叫んだんだよ。んで、刀身が輝きだして今の姿になってだな、俺の事を相棒と呼んで事情を話し始めたんだよ。で、教えてくれた内容なんだけどな?」

「……うん、どんなことを話し始めたって言うのよ。教えて頂戴……」

 嫌な予感に怯えながらもルイズは才人の話を聞いていく。時にデルフリンガーも補足して説明していく。そして――次第に顔色が青褪めていくことになったのである。

 ルイズが虚無と言う事ではない。才人の正体が明らかになってしまい、己の運命も悟ってしまったのだ。


 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
 神の右手はヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
 神の頭脳はミュズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人……記すことさえはばかれる……。

 才人の正体は始祖プリミルの使い魔なのだという。それも最後の使い魔、記すことさえはばかれる。その伝説はまさしく記すことがはばかれるものであった。

 その第四の使い魔の正体はリーヴスラシル。神の心臓である。力をあらわすのは生命だという。精神を操り、その支配はいかなる生命もあらがう事は許されない。

 ブリミルは自己の身体能力を限界以上に発揮させ、呪文詠唱の際に盾となりうる存在を欲してガンダールヴを創った。
 ブリミルは動物を支配する存在を欲し、あらゆる場所に移動できる手段としてヴィンタールヴを創った。
 ブリミルは新しい知識を欲した。その知識を持って魔法技術を使って戦おうと思い、あらゆる道具を使いこなすミュズニトニルンを創った。

 そしてブリミルは最後の使い魔に敵を操る能力を欲したのだ。

 最後の使い魔リーヴスラシルはあらゆる意味で成功であり、あらゆる意味で失敗であった。ブリミルはヴィンタールヴのように動物を支配するのではなく、知性ある存在をこそ支配したいと狙ったのであるが、その能力が強力すぎたのである。
 しかもある意味リーヴスラシルはブリミル以上の天才であり、最悪な事に性格が破綻していた。リーヴスラシルはルーンを改変する事に成功し、秘密裡に己の都合の良いルーンへ変えてしまった。

 その結果がどうなってしまったか? 

 リーヴスラシルはブリミルへと反逆し、それを支配することに成功してしまい、晩年のブリミルは傀儡として存在していたのだと言うのだ。

 リーヴスラシルの寿命が尽きた時はブリミルも力を使い果たしており、ルーンを再度改変する力は残っていなかった。失意のままにそのまま死亡してしまう。残された後継者たちは始祖が傀儡とされていたなど公表することは出来なかった。
 使い魔が四人と言う事までは隠しきれなかったのだが、その存在は秘匿としてなかったこととされた。痕跡を消し、文献にも残さないことにしたのだ。
 幸いというべきか、リーヴスラシルは自身の能力の事を秘密としていた。表に出ることはなく、能力の事を知っているのは極一部に限られていた。故にリーヴスラシルは記すことさえはばかれる、なのである。

――ルイズの股間に現れたハートのマーク。これは生命を表すルーンで、リーヴスラシルの反逆が成功した証である。このルーンがある限り、本来の主たる虚無の使い手は使い魔の使い魔へと墜ちてしまう。決して逆らう事が出来なくなってしまい、その主人を守ろうとするようになる。
――リーヴスラシルの能力は精神支配。目を合わせて念を送る事で他人を支配する事が出来る。そればかりかその命令を耳にするだけでも拘束力があり、一時的にであれ支配されてしまう。
――支配の力は強力極まりなく、支配の力を残したままに何があったかを忘れさせることが出来る。また支配の完了した存在は念を送るだけで思いのままに出来てしまう。
――生命力の塊といえる精液を身体の中に注ぎ込まれてしまうと、リーヴスラシルの命ある限り永遠に支配され、反逆する事が不可能となってしまう。

 ルイズは説明を聞くうちに身体の震えが止まらなくなっていた。その内容が本当だとしたら、ルイズは虚無の使い手であると同時に才人の使い魔へと正真正銘契約しており、生涯逃れることが不可能なのである。

 そう、支配されるのは自分だけが例外ではなかった。むしろ自分はその手先にすぎなかった。才人は誰でも自由に支配する事が可能だったのだ。
 その事実に思い当たってルイズは恐怖で身が震えてしまった。

「くくっ……リーヴスラシルってのはホントに性格破綻者だったらしい。デルフはリーヴスラシルが作ったんだとよ。ガンダールヴの武器としてブリミルに献上しておいてな、イザという時のために埋伏の毒にしていたんだってさ。反逆の際にガンダールヴの体を乗っ取らせたんだそうだ」

「……そう」

 最悪な話であった。ルイズは悪魔と言える使い魔を呼び出してしまい、その手先に墜ちていたのだ。

「しかも最高だよな? 無限の精力を実現させて、奴隷がどんな責めにも耐えられるように強靭にして、精液を注ぎこめばいかなる傷も癒すんだと。おかしいと思ってたんだよ。裂けたはずなのに傷の治りが早かったしな。
くく……良かったなルイズ? これからは鞭の跡とか気にする必要はないぜ? 直ぐに治してやれそうだ」

「っそ、そうね。これからは安心して責めてもらう事が出来そうね……」

 本当に最悪な話であった。リーヴスラシルは悪趣味な事に処女膜を再生させて何度も破瓜の痛みと絶望を味あわせたり、狂ったりしないようにした上で蟲や蛇の群れの中に投げ込んだり、果ては拷問の末に歯をすべて抜き、再生するまで抜歯フェラをさせたりして喜んでいたのだという。鞭などは日常茶飯事で、皮が裂けても嬉々として振るっていたと言うのだ。いくら治ると言われても、そんなのは御免こうむりたいだろう。

「くくっっ……痛みを増幅させたり、羞恥心を極限まで高めたり、逆に快感には敏感にさせておいて最後の一線だけは決して許さなかったりと自由自在なんだとさ。……ルイズ、オマエはまだマンズリとまんこでしかイけてないよな? そう言う事らしいから今日はケツで最後までイかせてやろうか? 
 しかも使えば使うほど立派になっていくってホントいい趣味してるぜ。なんか大きくなったような気はしてたんだが、そう言う事だったのかって納得だよな」

「っそうね。わたしも納得だわ。大きくなってる気はしてたのよね……」

 青褪めた顔でルイズは答える。本当に本当に最悪な話であった。考えれば考えるほど最悪であった。記すことさえはばかれるという第四の使い魔、その存在はブリミルを超えているというのだ。奈落の底に墜ちていく絶望感をルイズは感じた。

 真っ青な顔をしているルイズにニヤニヤ笑いながら才人は続けた。

「で、そんなわけだから今日の予定は変更するぜ?」

「ど、どうするつもりなの?」

 リーヴスラシルの力で精神を完全に支配される? そう、ブリミルのように。
 それとも精神を変えられてしまう? 拷問のような責めを好んだというリーヴスラシルに相応しいように、その性癖を変えられてしまうのだろうか?

 ルイズは怖気が止まらないのを感じた。視界が回り、鳥肌が立ち、足が震え、へたり込んでしまうのを堪えるのに必死である。

「ああ、デルフによると虚無だって自覚さえすれば、コモンマジックなら使えるようになるんだってさ」

「そうだぜ、娘っ子! 相棒の言うとーりだ! 早いとこ自覚して相棒の役に立てるようになりな!」

 才人はニヤニヤ嗤いながらルイズに魔法が使えると教え、デルフリンガーはそれを後押しする。

「……わかったわ。……それで? わたしはどうすれば良いの?」

 ルイズに選択肢の余地はなかった。虚無だと認め、コモンマジックを使えるようになり、才人の役にたつ存在へとならなければならない。
 こんなことになるのなら、元のゼロのほうがよっぽど良かった。ルイズとしてはそう思わざるをえない。

 厳格ながらも頼りになる父母。「おちび」と呼びながら頬をくじりに掛かるが、根は優しい上の姉。身体が弱くて自由に動けないが、いつも優しく励ましてくれた下の姉。

 ゼロである自分でも、家族は自分を庇ってくれていた。
 ルイズは家族との繋がりが断ち切られたように感じられた。

「ん、ルイズ。自分が虚無だって自覚できた?」

「いまいち信じられない部分もあるけど……もしコモンマジックが使えるようになれば、わたしは虚無ってことになるんでしょうね」

 頬をぴくぴくさせながらルイズは答える。そう、使えるようになってしまえば認めざるをえなくなる。
 自らが虚無の使い手であり、才人がリーヴスラシルであり、もう完全に支配されて取り返しのつかない状況へと、既に追い込まれてしまった後だと認めざるをえなくなるだろう。

「よし、それじゃあルイズ。頑張っていこうぜ? 心配するな、虚無の使い手はリーヴスラシルの精液を取り込むことで精神力が補充されるんだと。どんだけ魔法を使っても、これからはガス切れの心配はなくなるって話らしいぜ?」

 引きつった笑みでルイズは「そう」と答える。それが本当なら魔法を使って疲れたならば才人に犯してもらい、あるいは奉仕してその精液を飲まなければならないということだ。
 精液で精神力を補充してもらう魔法使い。なんと情けない魔法使いであろうか。

「じゃあ始めるぜ? 言っとくが使えるようになっても俺の許可が無い限り魔法を使うのは禁止だ。まだバレるわけにはいかないしな? それと是非とも覚えて欲しいのが『サイレント』だ。コイツはなんとしても覚えて欲しい」

「わかったわ。サイレントね? 最初に覚えるのはそれにするわ」

「そうだ、サイレントだ。何としてもサイレントだ。くくっ……これを覚えりゃ遠慮なく喘ぐことが出来るぜ? 嬉しいだろルイズ?」

「う、うん。嬉しい。出来るだけ早く覚えるようにするから……」

 ああ、ああ、と、受け答えしながらルイズは思う。もうこれからはブリミルに祈ることは出来なくなるかもしれない。ブリミルに祈るということは、その主人となってしまったリーヴスラシルを祈ることになるかもしれない。それはこの悪魔のような男に祈るという、そういう意味になるかもしれないのだ。

「じゃ、そう言う事だから外にいくぞ? でないと爆発で部屋がめちゃくちゃになるかもしれないしな」

「そうね。それじゃ早速外に行きましょ? わたしも早く魔法が使えるようになりたいから、丁度いいわ」

 それを聞いた才人が薄く嗤う。

「そうだな、早くいこう。精神力の補充は任せてくれ。口でも、まんこでも、ケツでも、好きなところに補充してやるからさ」

「!っそ、そう。それじゃお願いするわ。早く行きましょ?」

 才人に促されて部屋を出る。行きたくはないが足は自然に動いてしまう。

 っわ、わたしはこれからどうすればいいの? これから一生サイトの奴隷として生きなければならないの? どんなことにも従って、それなのに死ぬことさえ出来ないっていうの?

 二人は寮塔から出て、中庭へと足を向けた。



[27351] 頼れる相棒
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/03 19:44
「……なあデルフ。ルイズの覚えが悪いんだがどうしたらいいと思う?」

「そりゃ相棒、仕方がねーよ。虚無だって自覚してまだ間もねーんだ。使えるようになるまで時間も掛かるってもんだ」

「…………」

 ルイズの部屋であった。才人とデルフリンガーが相談をしていた。

「でもよー、それじゃあいつまで掛かるかわかったもんじゃねえぞ? デルフは早くルイズを泣き叫ばせたいとは思わないか? 隣を気にしないで責めて、んで喘がせてやりたいって思わないか?」

「くかかっ! 相棒も気の短いこったぜ。まだ一日しか経ってないじゃねーか。焦ることはねーって!」

「…………」

 才人は不満だった。直ぐに使えるようになると思っていたルイズのコモンマジックがいまだ成功しないのである。せめて片鱗くらいはと思っていたのだが、爆発、爆発、爆発……。ルイズによれば以前と比べて格段に威力が上がったとの事なので、虚無であることは間違いなさそうであったが、コモンマジックが使えなくては意味がないのだ。

「んな事言ってもよー、我慢なんてできないぜ。……っとなるとだ、デルフ。解決する方法は一つしかないと思わないか?」

「違いね。方法は一つしかないだろうよ」

「…………」

 ベッドの上で相談をする二人。その足元ではルイズが黙って奉仕の真っ最中である。リードを握られているルイズはじゅるじゅると水音を立てながら玉袋をすすり、ぷにぷにとした亀頭を擦っている最中であった。

 ……方法ってなんなの? どう考えても悪い予感しかしないんだけど……。

 予想が外れていてくれればと思いながらも、指先は肉棒へ刺激を与えるべく止まらない。手を変え、品を変えて、ルイズは奉仕へと熱中する。くっくっくと嗤う才人に、かっかっかっと高笑いするデルフリンガー。その度に肩がぴくっと震えそうになる。

「ってわけだ。ルイズ、聞いてたよな? 出してやるからとりあえず飲め。それが終わったら今夜は打ち合わせするぞ? キュルケと、あとモンモランシーを堕とす。順番に誘い出して支配する。その為のうまい手を考えるんだ」

「っぱはっ…はぁ、はぁ……っわ、わかったわ。とりあえず飲んでしまうわ。っそ、それから誘い出すうまい手を考えるわ。…っあむっ、…ちゅぱっ…ちゅぱっ…ちゅぱっ…れろれろれぉっ……」

 やはりそうであったかと絶望した。ルイズに使えないのなら、使える人材を引き込めばいいのである。それに同じ階にいる二人を引き込んでしまえば、何らかの理由でバレてしまう確率も低くなり、才人としては願ったり叶ったりの展開となろう。

「かかかっ! 相棒も悪い奴だーね! そんだけの理由で二人も堕としちまうってか? しばらくすりゃ、娘っ子もコモンマジックを使えるようになるんじゃねーのか?」

「なんだよ? デルフは反対するのか? これが一番いい手だと思うぜ?」

 一人の奴隷を存分に嬲るだけの手段として、更に奴隷を二人増やそうと言うのである。そんなことをしなくてもあと何日か、何週間かすれば、おそらくは必要がなくなるというのにだ。怖気が走るのを止めることは出来なかった。

「っんっ…んっ…んっ…んっ…ぱはっ…はぁ…はぁ…ぺろぺろぺろっっ……じゅっ、じゅるるるっ……!」

 まさしく鬼畜の所業と言えるであろう。ルイズはその片棒を担がされるのである。
 いくら仇敵たるキュルケでも、悪魔に売り渡すのに手を貸してしまう自分が情けない。巻き込んでしまうモンモランシーに申し訳がない。

「かかっ! 反対なんてする訳がねーって。おれ様が相棒に反対なんてする訳がねー。リーヴスラシルは遠慮なんてしなかったんだぜ? どんどんやれってもんさね!」

「おおっ! やっぱデルフは頼りになるぜ! そうだ! もっとリーヴスラシルのこと聞かせてくれっ!」

「かかっ! 任せろ相棒。いろいろ聞かせてやるから安心しな!」

「……じゅるるるるっ…ぬっぽぬっぽぬっぽぬっぽぬっぽ…べろべろっ……!」

 それでもルイズにあらがう事は出来なかった。考える事こそ許されるが、実際に行動に移すとなると不可能なのである。おそらく遠からずキュルケに、そしてモンモランシーへとにこやかに話し掛け、罠に落とすべく動いてしまうことになるだろう。
 今出来ることは辛い現実を忘れ、ただ肉棒への奉仕に熱中し、射精に導いて満足してもらう事だけだった。

「!?」

 じゅっぷっ、じゅっぷ、じゅっぷと頭を振る。熱い吐息を吐きかけながら手コキによって刺激を与える。その時であった。びくっと肉棒が震え、才人がルイズの顔へと射精する。

「っあ、ああん……す、凄いわサイト。こんなに一杯出してくれるなんて、嬉しくてわたしのおまんこ、びちょびちょになっちゃうぅ~~っ」

 本当に洒落にならないくらい凄かった。その精液の量はただでさえとんでもなかったというのに、リーヴスラシルを自覚した結果、前にもまして才人の射精は凄くなっていた。
 例えるならコップの水をぶちまかれる感じであろうか? 顔射などされようものなら顔全体が精液まみれになって、飛沫が髪にこびりついてしまうくらい凄くなっていた。

「じゅあ後始末するわね? ん~~っちゅっ!っべろっ…ぺろぺろぺろっ……!」

 それをルイズは後始末していく。才人が何を望んでいるかを瞬時に計算をする。 だから追従の言葉を発し、媚を売り、笑顔でルイズは後始末を始める。

 視界を確保するために顔を拭い、手のひらに集めた精液を舐めとる。これは手早くやらなければならない。でなければあまりの量にすぐさま床へと零れ落ちてしまうのだ。
 そうなればルイズは床を舐めて精液を集めなくてはならなくなる。粗相をしたとしつけられるだろう。
 より酷い屈辱を、苦痛を味わいたくなければ、逡巡など出来ようはずもなかった。

「…べろっ。ぺろぺろぺろっ…っんっ…んっ…んっ…んっ……」

 奥から拾うようにして先端に精液を集め、それを唇に被せることで体内へと取り込んでいく。奴隷の務めとして、ちんぽの使い魔に墜ちた身として、出されたものを飲まないと言う選択肢はなかった。

「っご、ごちそうさま。美味しかったわサイト。もっと舐めて、おちんぽのおしゃぶり続けたいんだけど……」

「くく……。ああ、残念ながら今日は打ち合わせだ。まんこもケツ穴も今日はお休みだな。……まあうまい手を考え付いたら褒美に入れてやってもいい。どっちの穴に入れて欲しいか今から考えておくんだな?」

「嬉しいわサイト、それじゃあ頑張って考えて、ご褒美貰えるようにしなくっちゃ!」

 ああ、ああ、と絶望しながら、ルイズは笑顔を振りまいていく。考えろと言われればうまい手を考えなくてはならない。ご褒美を楽しみにと言われれば、挿入してもらうのをどちらにするか考えておかなければならない。

 たとえ主人が悪企みをしていたとしても、ちんぽの使い魔とはその肉棒のためには何でもしなければならない。どんな事でも笑顔で協力しなければならないのである。

「よ~し、それじゃあ考えてくぜ? まずはキュルケからだな。性格とか、交友関係とか、利用出来そうなイベントとか、とにかく知ってることを出来る限り詳しく話してみろ」

「わ、わかったわ。ツェルプストーからね? それじゃあツェルプストーなんだけど……」

 にやにやと満足気な才人に、かかかかっとデルフリンガーの高笑いが響くルイズの部屋。そのルイズといえば顔面が精液まみれに微笑むしかない。これは才人が今まで穿いていたショーツやブラウスで拭え、あるいは必要に応じてタオルや水で洗えと言うまでそのままである、もしかしたら今日はこのまま眠ることになるのだろう。

 何故ならこの後の予定は打ち合わせあり、あるとしてもルイズを一回使うか使わないか。それくらいなら後ろからでも入れて腰を使えば済むことであり、ルイズの方から「入れてください」とディープキスでせがむ必要はないのだ。

 ……考えなかったわけじゃないわ。サイトはキュルケの胸に興味深々だったし、わたしだけじゃなくて、他の人も支配出来るってわかったんだから試してみたくなるに決まってるもの。……っで、でも考えたくなかった! もし本当に自在に人を操れて、しかも精液を取り込ませたら、っい、一生奴隷になっちゃうなんて考えたくもなかったわよぉぉ……!

 それでもルイズに否という選択肢は存在しない。犯罪だろうがなんだろうが言われるままに動き、しかも不審に思われないよう演技しながら行動しなければない。それが反逆の使い魔、リーヴスラシルの使い魔に墜ちてしまった虚無の使い手の運命なのである。

 引きつく頬を意識しながら、ルイズは情報を提供していくことにした。



 ルイズにとってキュルケとは仇敵である。野蛮なゲルマニア人であるというだけで気に食わないのに、実家のラ・ヴァリエールとフォン・ツェルプストーは隣り合っているので代々戦争の際には先鋒となって激しく争ってきた。
 恋人や妻までもが次々と寝取られ、自身は火のトライアングルと優秀であり、それでいて自分のことをゼロだのプライドだけのトリステイン人だの馬鹿にしてくる。
 負けているとはこれっぽっちも思っていないが中々の美貌を誇り、バストサイズに至っては比べるべくもない。性格のせいか友達らしい友達がいない自分と違って、女生徒にこそ忌み嫌われるているが、周囲には男どもをはべらしている。全く持って気に食わなかった。

 つまりである。何が言いたいかと言うと部屋が隣り合っているので無視をするわけにもいかず、だからと言って親交を結ぶ気にもなれず、故にこれまで顔を合わせれば憎まれ口ついでに挨拶を交わす程度の仲であったのだ。キュルケの事をよくは知らないのである。情報提供といっても大した知識はルイズにはなかった。

「ふん……まあそれは以前聞いたよな? 必要なのは不自然な状況じゃなくて一対一で会う事だけだ。んで飲ませてやるか、出来れば中に出してやりゃあ話は済むんだ。そのためには一時間ほどあればいい。呼び出して、そんでそのまま入れるくらい簡単にいくと思わないか?」

「……難かしいかもしれないわ。残念だけどツェルプストーはトライアングルだし、不審さに気付いて逃げたり反撃してきちゃうかもしれない。それに夜でもよく出かけるみたいだし、以前約束をすっぽかしたせいで、窓から直接部屋まで男子学生が訪ねてきたことがあったらしいの。確実に時間を作って、それでいて他の人が来ない保証っていわれると難しいと思うの……」

 ルイズの言葉に考える。

「……ふむ……確かにそうだな。そうすっとどうしたもんかね……」

 リスクがあるのは承知の上である。ルイズを犯した時などがそうだった。あの時などは半ばバレる覚悟だったのだ。目的さえ果たせればいいと、中出しに何度か成功したあとは相当な大声で怒鳴ったり、部屋中に響くような大きさでスパンキングした。

 だがそれも後がないからこそ出来たのだ。今となってはルイズを完全に服従させることに成功している。リーヴスラシルの能力を知り、上手くやりさえすればどんな女でも堕とせると知ってしまった今、なればこそ安全に事を運びたい。
 偶然か、必然か、幸いにもルイズでは上手くいってバレる事はなかった。だからこそもうそんな幸運をあてにして動くのは上手くないだろう。

 ……結局のところどんくらいの力があるかわからないのが問題なんだよな……。デルフを疑ってるわけじゃないけど実際に確認したわけじゃないし。と、なると……

「……なあ、デルフ」

「なんだ? 相棒」

「リーヴスラシルについて教えてくれ。実際にどんな事をしてたんだ? それとだ。デルフを疑ってるわけじゃないが確証が欲しい。安全、確実に確かめるにはどうしたらいいと思う?」

 迂遠に思えるがまずは能力の確認をすればいいだろう。急がば回れなのである。

「ん? くかかっ! やけに慎重じゃねーか! 相棒はおれ様の言う事が信じられないってのか? 心配ねーよ、こうなればいいって思いながら命令すればいーんだ。そうすりゃなんでも思い通りになるぜ!」

「いやいや、俺がデルフを疑うわけないだろ? ただ使い方がよくわからないしさ、まずは慣れるまでいろいろ試してみたいんだよ」

 苦笑しながら才人は説明する。今回のことは切っ掛けに過ぎない。元々才人はこのハルキゲニアという世界が気に食わないのだ。貴族はプライドばかり高くて傲慢だし、実際にルイズは才人を奴隷として扱おうとしていた。身の危険があるからこれまで我慢してきたが、リーヴスラシルという力を理解した今となっては話は違う

「だからさ、デルフ。協力してくれないか? 貴族のやつらに恥を掻かせて復讐したいんだよ。それには手駒がルイズだけじゃ足りない。少なくともそれなりの安全が確保されるまでバレるわけにはいかないし、それまでは慎重に動きたいんだ。協力してくれないか?」。

 才人としてはいけ好かない貴族に恥をかかせたいのだ。例えば手駒にして支配して、ルイズのように感情だけはそのままにしておいたらどうなるか? その貴族は屈辱であろう。侮蔑する平民に自ら奴隷として扱ってほしいと告白させるだとか面白い。

「なあデルフ。これはその最初の一歩になるんだよ。万が一にも失敗なんてしたくない。どうしてもリーヴスラシルの能力を確認したい。そんで手駒を増やして、周りの危険をなくして、そうなったら惨めな思いを貴族にさせてやりたいんだ」

 あるいは意識させないで性格を変えてしまったらどうなるか? 精液を大好きにさせたり、自慰の中毒にさせたりだ。そして才人はそれを見て、無様に堕ちたとほくそ笑むわけだ。何ともわくわくするシチュエーションではないだろうか?

「……相棒。おめ、貴族に復讐したいって言うんだな? やりすぎると殺されちまうかもしれねーぞ? それでもいいーってのか? おれ様としては相棒には死んでほしくはねーんだが、どこまでやるつもりだ?」

「……わかんね。自分の命も大事だけどさ。一度はルイズに思い知らすことさえ出来れば死んでもいいと思ったんだ。傲慢な貴族に一矢報いる事さえ出来たならってさ。でもよ、今は欲が出てきちまった。生き残るだけなら何とでもなりそうだけど、今はいろんなメスを奴隷にしたくなっちまった。
 苦痛に泣き叫ばせて、恥ずかしくて死ぬような目にあわせたいと思ってる。どこまで我慢できるかなんてわかんねーよ」

 それは才人の本音であった。やりすぎると死ぬかもしれない。いくらリーヴスラシルでも、例えば軍隊の相手は出来ないであろう。やりすぎるとバレてしまい、死ぬことになってしまうだろう。それがわかっていて尚、才人は貴族に思い知らせたい。奴隷にして惨めな目に合わせて嗤いたいのだ。

 ……笑っちまうよな。俺もどうしたいのかよくわからねーんだ。貴族への復讐と身の安全と、一体どっちを重視すりゃいいんだろな……。

 才人は自嘲する。こんな風に自分の考えも纏まっていないようではデルフリンガーに笑われるであろう。最悪は愛想を尽かされるかもしれない。

「っくっ、くくくく………くぁっかっかっかっかっ……!」

 ああやはりと才人は思った。デルフリンガーが笑っている。才人は呆れられて当然だと思った。自分でもおかしいのだから、デルフリンガーだって笑うにきまっている。

「っくくく……っ相棒、おもしれーじゃねーか! てーしたもんだ!」

「……デルフ?」

 デルフリンガーが笑う。だがどうにも様子がおかしい。これは才人がおかしいというより、むしろ自分がおかしくて笑っているという感じである。

「くっ、くかかかかっ! 相棒、わかってるじゃねーか、おでれーたぜ! いいか? 欲望に忠実なのがリーヴスラシルだ。命をチップに好きなようにするのがリーヴスラシルなんだ。何でも思うとおりにやりゃーいーんだよ!」

「…………」

「相棒! そんだけ考えてるなら問題はねー。どんだけでも協力してやるってもんだ。それにだ、何のためにおれ様がいると思ってるんだ? 相棒が死なねーようにサポートするためにおれ様がいるってもんだ! 相棒はただ好きなよーにやりゃいーんだよ。大丈夫だぜ! 上手くいくって信じるんだ! そうやって強く信じることがリーヴスラシルの力の源なんだ! 大丈夫だって強く信じるんだ! そうすりゃ何もかも上手くいくぜ? 相棒!」

「……くっ……デルフ……」

「おう! どうした? 相棒!」

 才人は不覚にも目頭が熱くなって感情を抑えきれなくなった。なんと素晴らしい相棒だろうか? 剣の形をしているがこれ以上ない相棒だと思う。デルフリンガーを信じていれば何もかも上手くいく。才人は強く、強く、そう思った。

「っく……あ、あれ? 変だな? 目から汗が出て来やがるっ……!」

「くかかかかっ! おもしれ。相棒は目から汗を流すんだな!」

 才人とデルフリンガーはひっしと抱き合う。なかなかの男の友情であった。

「…………」

 だがルイズとしては堪ったものではなかった。悪魔と悪魔が手を取り合って、固い固い絆で結ばれてしまったのだ。その内容は恐ろしいものだったので蒼い顔をして茫然とするしかなかったのだ。

 ……じょ、冗談じゃないわよ……こんな三文芝居見せつけられるわたしって一体なんなんなのよ……。

 そうして恐怖に身を震わせていたのに、いきなり始まったこの芝居。なんか、もう、雰囲気が台無しである。それなのにルイズとしては邪魔をするわけにはいかなかった。何故ならルイズは全裸に首輪、顔にはまだ精液の残滓がこびり付いている状態なのだ。もしも話に加わったなら、シュール極まりないことになったであろう。黙っているしか選択肢はなかった。
 いや、ルイズとしても雰囲気を大切にしたいわけでは決して、決してなかったが、黙っているよりなかった。もし話し掛けられでもしたら、一体どう対応すればいいと言うのか! 目立たないよう黙っているより他に方法がないではないか!

「……さっ、デルフ。どこまで話してたっけ?」

「うん? かかかっ……わすれた!」

 剣を抱きかかえていた才人がデルフリンガーに問い質す。当然のように「忘れた」と答えるデルフリンガー。ルイズはまだ芝居が続いているのかと一瞬だけ思ってしまった。

「……ルイズ。どこまで話してたっけ?」

「っは、はいっ!っ……えっと、ツェルプストーが完全に一人になる確証を得るのは難しいし、トライアングルだから異常に気が付くかもしれないって」

 訂正である。天然で続いているようであった。

「……そうだったな。じゃあ慎重に進めていくことにして、例えば今すぐ呼ぶとかはなしだ。何日かいろいろ試して、そんで結果を見て動く。その間は俺も学院に出るようにするから、そん時キュルケとモンモランシー……面倒だな、モンモンでいいか。キュルケとモンモンに近づくことにする。異存あるか?」

「……ないわ。それでいいと思う」

 才人がニヤリと嗤い、それでようやく雰囲気が元に戻る。これでいいのかと、ふとそんなことをルイズは思った。

「よし、それじゃあ詳細を詰めていく。ルイズ、今度はモンモンの情報を報告するんだ」

「わ、わかったわ。モンモランシーなんだけど……」

 こうして夜は更けていく。様々な可能性を打ち合わせ、三人は一応の結論を見るのであった。



 戦いの鉄則の一つにまずは弱敵から排除すべきというものがある。これはランチェスターの法則からも明らかであろう。連合されると格段に攻略が難しくなり、また弱敵が成長する前に叩いてしまえば効率的だという事だ。
強者が成長するのは微々たるものであるが、弱者の場合は成長の余地があり、対策の時間を与えるのは面倒な結果になる場合が多いのだ。

「ルイズ、もう間もなくでモンモランシーがくる。今夜、モンモランシーを堕とす。キュルケは出かけるらしいし丁度いい。ただ何が起こるかはやってみないとわからん。それはわかってるな?」

「……わかってるわ。もしそうなったら杖を取り上げて、わたしのときみたいにやるんでしょ? そしてそのお手伝いをすればいいのよね?」

 更にである。弱敵から相手をすれば戦訓を得られるし、新たな戦力として吸収できる。故に弱敵から排除すべし、なのである。今回のケースにおいてはこれが大きい。だからこそ才人は手強そうなキュルケを後回しにし、まずはモンモランシーから奴隷にする事にした。今はそのために最終ブリーフィング中であった。 

「かかかっ! 相棒も慎重だーね。ここまでしなくても簡単だっただろうによ!」

「黙れよデルフ。ったく、肝心なときになると忘れたばっかり言いやがって。そんなんだから不安になって、こんな手間をかける羽目になったんじゃねーか」

「そりゃ、しかたねーってもんよ。何しろ6000年前だ。少しくらい忘れちまっても勘弁しな」

 才人がキュルケとモンモランシーを堕とそうと決意してから三日の時が経っていた。
 リーヴスラシルの能力として耳に命令を伝えれば一時的にであれ支配できるというものがある。才人は並行してその能力を確認し、実験を繰り返してきた。これによって様々なことをさせ、そしてそれを忘れさせ、不自然に思うようにならないか、周りの反応はどうなるかと確認してきた。交友関係を調べ上げ、予定を調べ上げ、性格や行動パターンを再分析してきた。

「ルイズ。上手くいきゃあ褒美をくれてやる。モンモランシ―を堕とせりゃ、サイレントが使える。思う存分イきまくることが出来るぜ?」

「嬉しいわ。それなら頑張ってやらなくっちゃあね」

「くく……ああ、褒美をやる。だから頑張れ。まったくリーヴスラシルってのは便利なもんだぜ……」

「そうよね。凄かったわ。まさかお尻があんなに気持ちいいなんて思わなかったもの」

 また能力の一つとして支配に成功してしまえば、その相手の感情や感覚を自在に操れるというのがある。ルイズはそれを身を持って味わっていた。

「ああ、おケツだのケツ穴いいだのうるさくて勘弁しろってんだ。焦っちまったじゃねーか」

「ご、ごめんなさい、サイト。気を付けるようにするし、サイレントを早く覚えるから……」

 そうやって入念に準備をしてきたのだ。例えばモンモランシーのことをモンモンと呼び、慌てて「すみません、失礼な呼び方をしてしまって。“忘れてください”」と謝ってみる。次に会ったときに同じ事を繰り返して反応を見てみた。そうすれば本当に忘却させることができるのかわかる。
 あるいは目線を合わせて、こうなればいい、こうしろと思いながら念を送り、服装や行動などを指定し、命令通りにしてくるか? 周りの様子はどうか? 覚えている様子はあるか? そういったことを繰り返した。そうなれば念を送る際の具体性や、持続時間などで問題点が浮き上がってくるだろう。様々に検証してきたのだ。

「……モンモランシーをあの恥ずかしい馬鹿は好きなんだよな? んで、ふざけた馬鹿は自業自得の二股をシエスタに八つ当たりしようとしやがった! 丸く収めようと謝ってやったのに、『それが謝っているのかね? 平民は貴族に対して謝るとき立ったままするのかね?』だと? あげくの果てに『本当にやるとは思わなかったよ。平民とはプライドがないのかね? まあ貴族として平民に寛大なところをみせようじゃないか! なあ諸君!』だと? くく…ふざけやがって。モンモランシーとやってるトコでも見せつけてやるか?」

「……うまくいけばだけどね。でも、あんまりやりすぎると目の敵にされるわよ? それともギーシュも支配するの?」

「……それなんだよな……そうなるとあの馬鹿に飲ませるか、ケツを掘るかの二択だぜ? ……勘弁してくれよ。俺にはそんな趣味はないってーの!」

 だから今の才人には自信がある。余裕でいられる。やることはやってきたし、ルイズには一人でいる時を見計らって、秘密裡に訪ねてくるよう言わせている。だから今晩、モンモランシーは来るはずなのである。

「しかし遅いな? もうそろそろ来ても良さそうなもんだが……」

「……サイトがそうしたんじゃない。皆が寝静まる時間に来いって言わせたんでしょ? デルフが呆れてるのに、いや、念には念を入れて慎重にコトを運ぶべきだって」

「かかかかっ! 言われちまったな相棒。娘っ子の言うとおりだぜ!」 

 まあありえないほど確率は低いだろうが、空振りになったとしてもかまわないだろう。その時はその時として対策を考えれば済む話だ。そしてモンモランシーが来たなら、途中経過がどうあろうと杖さえ押さえてしまえばどうとでもなる。目線を意識させて命令しさえしてしまえばいい。そうなればモンモランシーが思い通りになるのは確認済である。その間に杖を取り、縛り上げてしまえばいい。

「相棒は内気だーね! リーヴスラシルはどっちもいけたぜ? 相棒もすればいいじゃねーか。ブリミルにもよくしゃぶらせてたぜ?」

「だから勘弁しろって……。そんなモンに目覚めたくねーっての……」

 才人は心底うんざりとした顔で溜息をつく。それをデルフリンガーはかかかっと高笑いし、ルイズは神妙な顔つきでうつむく。

 そっか……わたしだけじゃなくてブリミルもそんな目にあってたのね……。でも、それとこれとは関係がないわ。これをしてしまえば、わたしはもう言い訳は利かないもの。始祖でも抵抗できなかったんなら仕方がないって、モンモランシーが許してくれるとも思えないわ。……わたし、一体どうしたらいいんだろう……。

 今更のことではある。だがいよいよとなれば、やはりルイズとしては考えてしまった。本当にこれでいいのか? 回避する方法はなかったのか? これからでも回避はできないのか? 
 どうしても罪悪感はぬぐえない。ブリミルでも敵わなかったなど、言い訳になるはずがないのだ。

 苦悩するルイズに気付いた才人が笑う。「悩んでたって仕方ないだろ? どうせやらなきゃならねーんだから、どんな褒美がいいか考えとけ」と言い放つ。

「っ、わ、わかった。そうするわ」

 その才人の声にルイズは意識を切り替えることにした。もうサイは投げられたのだ。引き返せないところまで来てしまっている。どうしたって逆らえないのだから、考えても仕方がない。それなら意識を切り替えてうまくいくよう集中すべきであろう。

 ……く、悔しいけど凄かったわ。あんなに痛かったお尻なのに……。い、嫌だけど、悔しいけどっ、またアレが味わえるならって思ってしまうくらい凄かったわ……。

 うまく才人の役に立てば天国にいるかのような快感。役に立たなかったと思われれば地獄のような苦痛。それは比べるまでもない選択である。同じように責められても全く違った結果になるのだ。悪魔の選択とはわかっているが、誰だって辛いより楽な方がいい。

 ……さて、どうなりますかね? まあ正直デルフの言うとおりほんのちょっとのリスクに目をつぶればチャンスはいくらでもあったんだよな。ただ飲ませたり中出しするだけくらいなら10分もあれば充分だし、それくらいなら一人で来るよう呼び出して、ルイズに見張らせておくとかすりゃ何とでもなったんだ。コトが済んだらすぐに早退でもさせて、んで夜に念入りに慣れさせるとかすりゃ良かった。

 でも、と才人は思う。

 それじゃあ面白くないよな? やっぱこういうのって手順を踏むから面白いって言うか、むしろ堕としたあとにどう扱うかを考える方が重要だったしな?……くく…モンモランシーは一体どうなっちゃうんでしょうねぇ……。

 くっくっくと才人は嗤う。扉がノックされるのを今か今かと待ちわびる。

 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。二つ名が香水の水メイジ。細身にスラリとした体形をした金髪縦ロールの伯爵家令嬢。後頭部の赤いリボンが良く似合う勝気そうな外見は、まず美少女と言えるであろう。この少女がこれからどう変わっていくか? それはこれから明らかになる。



[27351] 最初の仕事
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/04 22:09
“ねぇ、モンモランシー。あなたの腕を見込んでお願いがあるの。惚れ薬を作ろうと思って水の精霊の涙を手に入れたんだけど、モンモランシーなら詳しいから手伝ってもらおうと思って……”

 ルイズから話を持ちかけられてモンモランシーの心は動いていた。なんと惚れ薬である。前々から興味があったポーションであったが、残念ながら諦めていた。
 惚れ薬に必要な水の精霊の涙は希少だから手に入りにくいし、なにより高価なのである。それでもいずれ近いうちにと思っていたのだが、この機会に試せるというのなら願ってもない。一も二もなくうなずいた。

「……ルイズ、来たわよ。……ルイズ? 開けるわね?」

 コンコンコンとノックをし、それからやや時間をおいて扉を開ける。ご禁制の薬だから秘密裡に訪ねてきてというのはわかる。あまり親しくなかったルイズだが、これを機会に仲良くなるのも悪くないかな? そう思いながら、モンモランシーはルイズの部屋へと入っていく。

 部屋へと入ったモンモランシーは少し眉をひそめた。才人がいたからだ。なるほど、使い魔として召喚され、一緒の部屋で生活していることは知っていた。だが、実際に目の当りにしてみると印象が違う。使い魔――つまり使用人とはいえ男である。それと同居しているのはいかがなものかとふと思った。
 才人とは何日か前に初めて話し、よくは知らないと言うのもある。また、夜中に訪ねてきたので同衾というのを意識してしまったのもある。そのせいで一層印象が悪くなってしまったのだ。

 ……まあちゃんと身の程をわきまえているようだし…

 しかしモンモランシーは直ぐに意識を切り替えた。ちらりと壁際の藁を見る。当たり前のことだがベッドは別にし、藁の上で寝させるなどルイズもしっかりとしつけをしている。
 ならば使用人の事など気にしても仕方がない。今大事なのは惚れ薬だ。

「モンモランシー、よく来てくれたわね。ありがとう、お礼を言うわ」

「別に気にしないで。惚れ薬には興味があったから。……それよりルイズ! よく水の精霊の涙なんて手に入ったわね? 私も欲しかったんだけどアレって高いでしょ? どうやって手に入れたの? いえ、それよりルイズ、何で惚れ薬に興味なんて持ったのよ! 誰か気になる人でも出来たの?」

 テーブルへと案内されるなりモンモランシーは興奮した面持ちでしゃべりだす。それに苦笑したルイズはまあまあ落ち着いてと手振りで示し、「サイト、わたしとモンモランシーにお茶を用意しなさい」と命令した。

「わかった。ルイズ。お茶だな?」

 にやりと笑い、了解した才人はお茶の用意をし始める。アルコールランプを使ってお湯を沸かし直し、用意しておいたスコーンを皿に盛りつけるのだ。

「さてっと、知ってのとおり惚れ薬はご禁制のポーションよ? まずは誰に聞かれるかもわからないから、念のためにサイレントを掛けてくれない? 話はそれからよ、モンモランシー」

「え? ええ、そうね、その通りだわ。それじゃ、ちょっと待ってもらえるかしら?」

 悪戯っぽく笑うルイズにきょとんとしたモンモンランシ―だが、言われてみればもっともな話だ。立ち上がると杖を振り、サイレントを掛けると座り直す。

「掛けたわよ、ルイズ。っそれで? 一体どう言う事よ? 全部話しちゃいなさいな!」

 モンモランシーは興奮したままである。恋の話をするのは楽しいのだ。それが気位の高く、キツイ性格もあって噂などまったくなかったルイズに関係するかもしれないと思えば、それはもう、三度の食事と引き換えにしたって惜しくはない。
 それをルイズは苦笑しながら受け流し、焦らすようにモンモランシーこそどうなのよ? と返していく。

 ……いいぜ、ルイズ。その調子だ。そうやって警戒心を解いていけ。それでこそ俺が話し掛けたって上機嫌ならのってくれる。そしてだ。いきなりの事態に面食らうことになって、俺に命令されて逆らえない事を知って、それでこそ絶望も深くなるってもんだ……。

 背を向けて顔を隠しながら才人は嗤う。

「もう! わたしのことなんてどうでもよろしいでしょ! それよりもルイズが話しなさいよっ!」

「ふふっ……だから言ってるじゃない、モンモランシー。ギーシュと付き合ってるんでしょ? どこまでいっているの? 教えてくれたらわたしの事を話すかもしれないわよ?」

 照れているモンモランシーに悪戯っぽくルイズはからかう。

「もうっ、二股するようなギーシュと付き合うなんてありえませんわっ!」

「へぇ…そう言うってことは、今まではやっぱり付き合っていたのよね? キスくらいまでならいっているの?」

 モンモランシーは顔を真っ赤にし、ルイズは墓穴を掘ったのを笑っている。膨れて拗ねてしまうモンモランシーだが、その目元はやはり笑っていた。
 からかわれていても、やっぱり恋の話は楽しいのだ。

 そんな最中であった。ごぽごぽと泡を立ててお湯が沸いてしまう。

 ……くく……もう少し聞いていたかった気もするが時間切れだな。そろそろ始めるとしますかね……。

 楽しく騒ぐ会話を耳に、生贄の道化ぶりを楽しんでいた才人だが、お湯が沸いてしまった以上お茶の用意をしないといけない。カップを手に取り温め、お湯を捨てると沸かしたお茶を注いでいく。スコーンを皿に盛りつけ、銀のトレイへとのせる。

 ……さっ、始めるとするか……。

 一度表情を消し、にこやかな顔へと作り直す。

「ルイズ。お茶の用意ができたぜ? せっかくだから俺もご相伴に預かっていいいか?」

「……仕方ないわね。モンモランシーに失礼なことするんじゃないわよ?」

「もちろんだって。それじゃ、モンモランシー。お茶を飲み終えるまでの間、少しだけ失礼するぜ?」

 さて、モンモランシーはどんな反応を返すかと才人は期待した。普通は主人と客が会話している最中に使用人が同席を求めるなど、あり得ないくらいの失礼のはず。ならば怒ってルイズに抗議してもおかしくはない。

「……ええ、サイト、かまわないけど……」

 果たしてモンモランシーは少しだけ不機嫌な顔つきとなった。ちらりとルイズの表情を確認する。そのルイズはといえば「仕方ないでしょ、礼儀のわかってない平民だから諦めて」と頭を振った。それで苦笑いを浮かべたモンモランシーも才人の同席を許可すべく、にっこりと笑ってみせる。ホストが認めた以上、過度に抗議するのもまた失礼なのだ。

 テーブルへとティーセットを並べた才人。ニヤリと笑いながらルイズの隣へと座った。



 眼前にいるはルイズに続く二人目の獲物。これをどう料理すべきであるか? モンモランシーは変わらずおしゃべりへと熱中し、才人のことなど眼中にない。当たり前である。
モンモランシーはルイズにこそ用事があって訪れてきたのだ。イレギュラーに加わってきた使用人のことなど気にするはずがない。

 ……ふむ、スレンダーで肉感だと物足りないって感じだな。それでもルイズと比べりゃ雲泥の差だ。それにもしかしたら意外と脱いだら凄いんですってタイプかもしれん。剥いてみるまでわからんな。
髪型はどうかと思うが…まあ、セットに苦労するのは俺じゃないしな。なかなかの美形だし、ギーシュなんぞにはもったいないっと。……くく、どんな奴隷にしてどう楽しもうかね?

 才人は改めてモンモランシーを批評する。最初はキュルケのついでのように思っていたモンモランシーだが、途中の予期せぬイベントのせいで優先順位は高くなった。今では先にして正解だと思っている。

 ……くく……まずは馬鹿をどう思ってるか、本心を聞かなくっちゃあな。それによってどう扱うか考えることにするか……。

 座っているので上半身しか鑑賞出来ないのが残念である。しかし、ならば命令し、改めてじっくりと観察すれば済む事だ。注意をひくようソーサーへと乱暴目にカップを置く。いよいよ才人は始めることにした。

「えっと、モンモランシー。少し聞きたいことがあるんだけど構わないか?」

「え? ……ええ、何かしら?」

 ガチャっと陶器のかすれる音にモンモランシーは眉をひそめた。おしゃべりに夢中になっていたのだ。邪魔をされたと不愉快になる。

「え~とさ、さっきから聞いてたんだけど、疑問に思ってさ。答えてもらい事があるんだよ」

 それどころか質問までしてくる始末である。なんと不躾であろう? 確かに同席は認めたが、会話にまで加わってくるのは明らかに行き過ぎである。その程度のこともわからないのであろうか? ますますモンモランシーは不機嫌となってしまう。
 とはいえ才人はルイズの使い魔、そのしつけはルイズの役目であろう。ここはぐっと我慢をし、貴族として寛容さを示すところだ。ここで直接叱ってはルイズの顔を潰すことになろうし、あとで二人きりにでもなった時に抗議するとしよう。
 ちらりとルイズの方を窺うと神妙な面持ちだったのが気になったが、それは無礼を働いた才人に対して怒りを堪えているのだろう。務めて笑顔を心掛けたモンモランシー、内心をおさえて才人の質問に答えることにした。

「……何かしら? 言ってみなさいな」

 ニヤリと才人は笑う。これで仕上げである。ここまで時間を与えたのに気付かない方が悪いのだ。

「“モンモランシー。黙ってそのまま聞いてくれないか? それから話が終わるまで決して席を立たないで欲しいんだ”」

 才人は視線を合わせて問いかける。それに対してモンモランシーはコクリとうなずいた。

 ……くくく…これで詰みだ。まだ気付いてないか? まっ、念のためだ。打ち合わせ通りやるとしますかね?

 視線をルイズへと向けてみる。そして口の端を釣り上げ嗤って見せる。生唾を飲み込んだルイズはコクリとうなずき、そのまま入口のほうへとパタパタと駆けていく。

「……ねぇ、モンモランシー。今何か物音がしなかった? 誰かいるのかしら? ちょっとこっちに来てくれる?」

 そうして扉を開けたルイズはひょいと首だけだして辺りを見回し、おいでおいでとモンモランシーを手招きする。これにはモンモランシーも慌てた。

 何しろご禁制のポーションである。まだ作ったわけではないが、噂になるだけでも問題だ。
 流石に退学だとか致命的な処分は下るまいが、謹慎や教室の掃除などで処分されることは充分にありえる話だ。
「っ本当なの? 今行くわ、ルイズ!」と駆けだすべく立ち上がろうとし――モンモランシーの身体はピクリとも動かなかった。
 まるで椅子とお尻とが吸い付いたようにくっつき、離れようとしなかった。

 っよし! 完璧だ! 喋らないし動かない! 何が起こってるか全く気付いてねえ!

 モンモランシーは異常事態に慌てている。椅子からお尻が離れようとせず、得体の知れなさに「何よコレ? ルイズ、助けて!」と悲鳴をあげようとしたのだが、その声を上げることが出来ないのだ。

「どうしたんだ? 何でそんなに慌ててる? ルイズが呼んでるぜ?」

 その声にモンモランシーは振り向いた。すると才人の顔を見てしまったモンモランシーは「ひぃっ!」と悲鳴をあげようとする。それは才人がニヤニヤ嗤っていたからだ。その表情は一見笑ってはいるよう見えるのだが、目は全く笑っていないのに気付いてしまったからだ。

 モンモランシーはそれで瞬間的に理解した。理解してしまった。この異常事態は眼前の才人の仕業だ。この嗤いで才人の仕業で間違いないと判断出来てしまった。慌ててポケットを探り、愛用の杖を取り出す。
 放っておいたら何をされるかわからないのだ。その前に呪文を唱えなければならない。
 唱える呪文は“ウォーターハンマー”。空気中から水蒸気を集め、それを水流としてぶつける水属性の数少ない攻撃呪文の一つである。杖を才人へと向け、ルーンを唱える。
 その様子を才人はカップを傾けながらニヤリとし、モンモランシーの好きなようにさせる。

 ……くく…必死だねぇ…口をパクパクさせるばかりじゃ何言ってるかわからないぜ? モンモランシー……。

 モンモランシーの心は恐怖で一杯だった。メイジに杖を向けられて平気な平民などいるはずがないのだ。そんな平民など見たことも聞いたこともない。そして、何より、全く声が出ないのである。
 いくら杖を振ろうとも、呪文を唱えなければ意味がない。ルーンの一言さえ口に出せない。まるで空気を求める金魚のように口をパクパクさせるだけで、一言だって声を出せない。平然として座り続ける才人にモンモランシーの全身に怖気が走る。

「……ふ~~っ、わかっちゃあいたがやっぱり最初は怖かったな。……ルイズ、終わりだ。一応聞いておくけど誰もいなかったよな?」

 背もたれに体重を預けながら、才人は安堵の溜息をついた。それからニヤニヤしながらモンモランシーを頭の先からじっくりと眺め、入口に立ったままだったルイズへと声を掛ける。それでモンモランシーもハッと気付く。ルイズはどうなったのであろうか?

「……いなかったわ。もう大丈夫なの?」

 振り返って目にしたルイズは心配そうな、悔やんでいるような、申し訳なさそうな、そんな目つきでモンモランシーを見つめていた。うなずきながら才人へと返事をし、そのあとはまたじっとモンモランシーを見つめてくる。

「ああ、上手くいった。大丈夫だとは思ってたけどドキドキもんだったぜ! あとは念のための仕上げだな」

 ルイズは「……わかった」とうなずき、モンモランシーへと近づいてくる。心配げな面持ちのルイズだがモンモランシーにはそれが怖い。「ひぃぃっ」と悲鳴をあげて杖を振る。
 だが――確かに杖は振れる。何度だって振れる。なのにお尻はぴったりと椅子に張り付いていて動けないし、どうしたって声が出ないのである。

 口をパクパクさせながら恐怖のあまり引きつった顔。何とか状況を打開しようと、唯一動かせる腕で杖を何度も振り、精一杯の抵抗をするモンモランシー。それを悲しそうな顔をしたルイズが近づき、「ごめんね、モンモランシー」と謝りながら、希望である杖をもぎ取っていく。

「……さ、モンモランシー。説明してやるから聞く気はあるか? まあ聞きたくなくても聞いてもらうんだけどな? 驚いてるだろうし少しだけ待ってやる。準備ができたらうなずいてくれ」

 ニヤニヤしながら才人が問い掛ける。そのいやらしい嗤いにモンモランシーは目を見開きながらコクコクと首を振った。それには才人も苦笑して「早いな……」と呟き、それでも首を振ったのだからと説明していくことにした。
「ルイズ」と声を掛け、顎をしゃくって合図を送る。

 うなずいたルイズはクローゼットへと走っていった。



「くく……話ってのは他でもない。ギーシュのことをどう思ってるのかを聞きたいんだよ。それからモンモランシーにやって欲しいことがあってさ、それについても同意を得られたらって思ってるんだけどな?」

 クローゼットへとたどり着いたルイズは引き出しを開ける。そして――鞭と首輪を探し出すとそれを手に取って戻ってくる。それを見たモンモランシーはひいっと悲鳴をあげようとするが、残念ながらしゃべることは出来ない。テーブルに投げ出された二品から目を背けようとするばかりだった。

「ま、大丈夫だと思うけど時間切れも怖いしな。始めることにするか」

 そう笑いかけてくる才人。それでモンモランシーは気付いた。そう、お茶に何かを盛られてしまったのだ! ……でも、そうするとルイズの態度はどうなのだろう? 疑問は残るが何か怪しげな薬でも盛られたに違いないとモンモランシーは判断した。

 異常事態の疑問が解け、それでモンモランシーは余裕を取り戻す。そうなると眼前の男が俄然憎くなってくる。なんと卑怯な男だろうと精一杯の憎しみを込め、モンモランシーは才人を睨み付ける。そしておそらくルイズは何か弱みを握られているのだと思い当たり、視線で殺さんとばかりに睨み付けた。

 おおぅ! 迫力あるねぇ! おいちゃん怖くて怖くてちびりそうだ!

 こうでなければいけないと思った。これを絶望の表情へと変えることこそが才人の望みである。
くっくっくっと嗤いそうになった。楽しくて楽しくて、ついつい時間を気にせず遊びたくなってしまう。

「ルイズ! 始めるからモンモランシーの服を脱がせろ! “それからモンモランシー! 立ちあがってルイズに抵抗するな! 協力するんだ! 全部脱いだら背筋を伸ばしてバンザイしろ! 足を肩幅まで広げてじっとしてろ! そうなったらしゃべることを許す!”」

 それももう終わりにすることした。しゃべらないモンモランシーを相手にしていてもつまらない。どうせ相手をするのなら全裸に剥いて、屈辱と羞恥の表情をさせていた方がいい。

 怒鳴られたモンモランシー。流石に表情が蒼くなる。最悪の予想として考えないでもなかったが、それはありえないと思っていたからだ。何故なら貴族に対して平民が全裸になれ、などと命令したとなれば、殺されたって文句は言えない。
 開拓事業の失敗から資金繰りに困り、没落の危機にあるモンモランシ家ではあるが、なんといっても伯爵家である。殺されたって文句は言えないのだ。

 だが

 命令された瞬間、モンモランシーは雷に打たれたかのように背筋を伸ばして立ち上がっていた。「わかったわ、サイト」とうなずいたルイズがモンモランシーへと近づいてくる。

「……ごめんね、モンモランシー。ご主人様のご命令には逆らえないの……」

 申し訳なさそうな顔をしたルイズはモンモランシーの背後に回る。
 マントを外し、ブラウスを脱がし、プリーツスカートを脱がしていく。

「ごめんね、モンモランシー。ショーツを取るから足を上げてもらえる?」

 モンモランシーは足を上げる。言われた通りに足を上げる。それをルイズは申し訳ないと、悲しそうな顔をしながらもショーツを脱がす。
 モンモランシーは身体が勝手に動いたのに驚愕したあと茫然とする。そしてそのあとは怒りによって才人を睨み付け、ブラウスを脱がされた辺りからは羞恥によって身もだえ、全裸にされてしまうと下を向いてうつむくしかなかった。

 っう、嘘でしょ? な、なんで? どうして?

 モンモランシーはうつむくことで羞恥に耐える。何故なら身体は自然にぴんと背筋を伸ばした。バンザイするように天井へと手を伸ばした。足は肩幅へと自然と開いていった。

「くくっ……そこじゃあ全部見ることは出来ん。“部屋の中央へと移動してもらおうか?”」

 力ない足取りでモンモランシーは部屋の中央へと向かう。そうして再度足を開き、おずおずと両手をバンザイさせていく。才人は乗馬鞭片手にモンモランシーの前へと回り込んだ。

「ほう……なかなかのもんだ。胸こそ小さ目だがバランスがいい。まあルイズとは比べもんにならないってか? くく……それから腰回りはくびれも充分っと。ケツは……まあ小さいな。でも子供体形ってわけじゃないし、バランス的にはいい。これはこれでアリだな」

 周りを回りながら、才人はモンモランシーの身体を舐めるように観察する。じっとうつむき目を瞑り、歯を食いしばったままに耐えるしかなかった。

「!っひひぃいぃぃッ……!」

 股の間にくいっと鞭を差しこまれる。堪らずモンモランシーが悲鳴をあげた。ひんやりとした革の感触がおぞましかった。

「ふむ……陰毛は薄目で髪とおんなじプロンドか。当たり前だな。それから腋毛もナシっと。くく…乙女の嗜みってやつで剃ってるのか? クリトリスにも異常ナシ。皮を被ってるからよくわからんが小さくもなく、大きくもなくって感じか? ……あとは見たところ黒子だとかも見当たらず、か。……くく…合格だな、モンモランシー。これなら充分だ」

 満足した才人は正面へと戻った。モンモランシーはあまりの羞恥に顔をあげることが出来ない。

「さ、モンモランシー。頼みたいことがある。もうしゃべる事が出来るよな? “正直に答えて欲しい。ギーシュの事をどう思ってる?”」

 問われたモンモランシーはハッと気付いた。先ほどの屈辱の批評の際、鞭を股間に差し込まれて悲鳴をあげることが出来ていた。

 っこの平民! よくもわたしにこんな恥ずかしい真似をっ……!

 どうしてかはわからないがこれはチャンスだ。才人には言いたい事が山ほどある。どうしたって思いつく限りに罵声を浴びせてやりたい。そう、どうしたってだ。

 無礼者! 恥知らず! 卑怯者! 貴族にこんなことをしたあんたは明日にだって縛り首よ! いい気になってるんじゃないわよ! 明日になればあんたは終わりなのよ! それが嫌ならさっさっとわたしを解放なさい! そうすれば100に一回くらいなら終身刑で終わらせてあげるかもしれないわっ! だからこの平民! さっさとわたしを解放しなさい!
 
 羞恥と屈辱に顔を歪めながらも、勇気を振り絞ってモンモランシーは口を開く。

「ギーシュは友達よ! キスしたけどあんな浮気も……の…」

「……ん? 浮気者か? くく……続きは?」

「っ…ぁ…う、浮気者だから、別れたわ。…そ、それでも付きまとってくるけど…、悪くない気分だわ……」

「……それから? 悪くない気分でどうしたって?」

 モンモランシーは信じられないと言う表情をした。罵声を浴びせるはずだったのに、口にしたのは問われたギーシュへの感情だったのだ。それをルイズは悲しそうな目で見つめ、才人はニヤニヤしながら続きをうながす。

「わ、悪くない気分だし、反省するならヨリを戻してもいいかなって。簡単に許す気はないけど、反省するなら悪くないかなって……」

「ほう、なるほどね。キスしたって言ってたけど本当か? 何回した? それはもちろん口でって事か? それからそれはいつの事なんだ?」

「キスしたのは一回。もちろん口よ。付き合い始めて半年くらいして、湖へと遠乗りした時したわ」

 更にである。驚愕が治まってくると口の回りも良くなってくる。問われた事に何ら違和感なく喋ってしまう。恥ずかしくて今まで誰にも喋った事がないと言うの に。
 茫然としながら、モンモランシーは才人の質問に答えていく。

「ふんっ、ギーシュなんぞとホントにキスしやがったってか? そいつは大幅なマイナスポイントだな。それから……そうだ、ギーシュのいいところと悪いところを言ってみろ。どんなところに惚れた? どんなところが我慢ならん? そいつを言ってみろ」

「ギーシュ、わたしを女神さまだとか、僕の太陽だとか褒めてくれたし、我慢できないのはセンスが悪いところ。文句を言ったら照れているんだねって、本気にしないのが我慢できないわ」

「くっ、そりゃそうだ! あれで恰好いいとか思ってるんだから馬鹿なんだよ! バラを口に咥えて気持ち悪いっつーの! しっかしいくら褒められたからってそんなセリフでふつー惚れるか? モンモランシー、馬鹿なことしたとか後悔してないか?」

「そ、それは…。でも大げさだけど褒めてくれたのは嬉しかったし、付き合えば僕の良さがわかるって言うから、それなら試してみようかなって思ったから」

 話をしながらモンモランシーは途方もない恐怖に襲われていた。どうして話をしてしまう? 滑らかに、ためらう事なくしゃべってしまう。
 どうして? どうして? と、思いながらもその口は止まらない。

 ニヤニヤ笑いながら質問をした。そして才人は答えを聞いて満足した。試したとはいえ流石にここまで込み入ったことまで試していなかったし、裸に剥いてなどいなかった。
 それにだ。そう、何より重要なのはリーヴスラシルの能力を本番で試し、結果が満足出来るものだったからだ。
 これなら、精液を体内に取り込ませれば、一生逆らえなくなると言うのも本当だろう。
 素晴らしい。全く持って最高である。

「くく……大変参考になりましたよ、モンモランシー」

 くっくっくっと才人は嗤う。答えてしまったモンモランシー、そんな才人を恐怖も露わに、信じられないと茫然として見つめるだけだった。

「さ、質問はコイツで取りあえずはお終いだ。あとでまたじっくりとすることにして、頼み事のほうを説明していくぜ?」

 ニヤリと笑って才人は進める。ギーシュとの関係を確認するのは、今後のための参考資料にすぎない。目的とは違うのだ。

「くく……信じられないって顔してるな? ま、もっともな話だが今は関係がない。モンモランシーには頼みがある。素直にうなずいてくれると嬉しいんだけどな?」

 目的はモンモランシーを支配することである。支配して、奴隷の一人に加えることである。

「“モンモランシー、オマエには俺の奴隷となってもらう。ルイズ同様、ちんぽの使い魔となってもらう。俺のちんぽに忠誠のキスでもしてもらおうか”」

 そうやって、モンモランシーへと説明する。何故、ルイズの部屋へと招き入れたか、説明と同時に運命を突き付ける。

 おおぅ! ルイズの時とはまた違った反応だぜ! 同じ睨まれるでもずいぶんと違うもんだ! 悔しさと恥ずかしさが混じり合ってるって感じだな! くく……さあ、始まりだぜ? これからその表情をどう変えてくれるんだ? モンモランシー?

 嗤いながらルイズへと視線を向けた。青褪めながら一連のやり取りを見届け、申し訳なさげな視線をモンモランシーへと送っていたルイズだったが、合図を貰うと生唾を飲み込んでコクリとうなずく。そしてその手をブラウスのボタンへと伸ばしていく。

「さて、それじゃあ最初の頼みだ。“モンモランシー、俺の服をその手で脱がしてくれ。丁寧に頼むぜ? んで、脱がしたら元の位置に戻って、それから直立不動に指示を待ってくれるとありがたいかな?”」

 あまりの内容にモンモランシーは信じられない。最初は裸を鑑賞されるくらいだと思っていたが、雲行きの怪しさから貞操を奪われるのではないかと覚悟した。ところがだ、とてもではないがそれどころの話ではなかったのだ。

 っこ、この平民……わたしに奴隷になれですって? そ、そして、お、おちんぽの使い魔になって! あげくは、キ、キスをしなさいですってぇっ!?

 とてつもない怒りに羞恥も忘れて睨み付けた。そんなモンモランシーに才人はニヤリと笑い、ルイズへと顎をしゃくって合図を送る。ハッとルイズへと視線を向けるモンモランシー。そこには制服のボタンへと、躊躇いなく手を掛けているルイズがいた。

 ル、ルイズ! っあ、あなた、この平民の奴隷になってるって言うの? ご主人様ってどういうことなの? お、おちんぽの使い魔になってるっておっしゃるの!?

 ルイズの行動に驚愕する。だが、一番信じられないのはそれではない。ふらふらと、一歩一歩、確実に才人へと近づいていく、その自分の両足こそが、モンモランシーには理解できなかった。

「“止まれ”。くくっ、モンモランシー、脱がすときに何か一言ないのか? 今から脱がせますわ、とか何か一言あってしかるべきじゃないか? 貴族ってのはその程度の気遣いも出来ないってか?」

 くっくっくと才人が嗤う。

「っ……こ、この平民! い、一体どんな薬を飲ませたのよっ! っこの卑怯ものっ!」

 このモンモランシーの言葉に才人は驚いた。まじまじとモンモランシーを見つめてしまう。

 なるほど、言われてみればその通りだ。リーヴスラシルなんて知らないのだし、お茶か、あるいはスコーンかに何か仕込まれたと勘違いして当たり前だった。ファンタジーなこのハルキゲニアの世界、もしかしたらそんな薬もあるかもしれない。
 自然な流れにまかせ、警戒心を解いてから会話に参加する。その小道具として用意したお茶でしかなかったので、モンモランシーの指摘は意外であり、また同時に納得できた。

「っ……くくっ……モンモランシー、何を勘違いしてるのか知らないけどさ、俺はお茶に何の細工もしてないぜ?」

「!っ…う、嘘おっしゃい! それなら何でわたしの身体が勝手に動くのよ? ルイズにだって何かしたんでしょう? それで何か弱みを握って脅迫しているんでしょう? っこの恥知らずな平民! 覚えてらっしゃい! わたしはそんな脅しになんて絶対に屈しないわ!」

 なるほど、なるほどと、才人は感心する。そんな風に勘違いしていれば、この強気ぶりは良く理解できる。怯えよりも、屈辱よりも、羞恥よりも、怒りと復讐心が勝っているのだろう。
 ルイズを生かしているのだから朝になれば解放されると信じているのだろうし、そうなればその足で才人の告発にでも動こうと思っているのだろう。

「まあ、予想とは違ったが一言は貰ったしな。“続きを始めてくれ”」

「っくううっ……!っお、覚えてらっしゃい! 薬さえ切れれば絶対に思い知らせてやるわ! だから覚えていらっしゃいっ!」

 だから才人はその勘違いを利用することにした。

「ああ、覚えておくからさ、丁寧に頼むぜ? で、明日になったらなんとでもしてくれ。まあ、出来るもんならだけどな?」

「っくぅ……!っお、覚えておきなさいっ、卑怯者!」

 思いつく限りの罵声を浴びせ続け、同時に才人の服をモンモランシーは脱がせていく。言葉とは違ってその手つきは気配りが届いている。それが忌々しく、悔しくて悔しくて堪らない。

 っこの平民絶対に殺してやるわ! 明日を覚えていらっしゃいよ!

 精一杯の憎しみを込めながら才人を睨み付ける。それを才人はニヤニヤと受け流し、モンモランシーのさせるがままに状況を楽しんだ。

 くく……最後のネタばらしでモンモランシーはどんな表情を見せてくれる? 今から楽しみで楽しみで、ますますおっ勃ちそうだせ……。

 モンモランシーは怒りもあらわにパーカーを脱がせ、シャツを脱がす。その罵声は相変わらずで、それが才人には心地いい。
 怒鳴ったりするなと一言命じれば、モンモランシーは黙らざるを得なくなる。だがそんな野暮な真似がどうして出来る?

「っぐぅぅっ……! ひっ、ひいぃいぃぃい……っ!」

 そうして罵声を浴びせながらモンモランシーは服を脱がせていく。だがズボンへと手を伸ばした時、あまりのおぞましさと恐怖から悲鳴をあげることになった。

「ん? どうしたんだモンモランシー。まだ途中だぜ?」

 ルイズに比べればモンモランシ―とて男というものを知っている。耳年増にいろいろと知識があって、勃起している肉棒がどういうものか聞き及んではいた。

「っふ、ふんっ……ちゃんと脱がしてるでしょ! これで満足なんでしょ! ただちょっと驚いただけじゃないのよ! っこの平民!」

「そいつは失礼、悪かったな。構わず続けてくれ」

「っ…………」

 だがやはり見ると聞くとでは大違いであった。ジッパーを下ろしてパンツが剥きだしとなった時から、その盛り上がりに嫌悪感から身が震えたというのに、ズボンを下ろし、さあいよいよとパンツに手を掛けた。
 そうしたらだ。ボロンと反り返った肉棒が眼前に現れたのだから、モンモランシーとしては堪ったものではなかった。

 っ……こ、コココレにキスしろって言うの? 冗談じゃないわよっ! そんな事するわけないでしょっ!

 才人の服をすべて脱がせたモンモランシーは部屋の中央へと戻っていく。直立不動の体勢へと身体が動いてしまう。視線で殺せるものなら殺してやりたいと言わんばかりに、精一杯の憎しみを込めて才人を睨み付ける。

 ほう……まだ心が折れてないって感じだな。くく…大変結構。やっぱ金髪縦ロールのお嬢様ってのはこうでなくっちゃいけないよなぁ。くく…この調子をいつまで保てる? モンモランシーさんよ?

 ニヤニヤと才人は嗤う。モンモランシーは憎々しげに睨み付けてくる。それが楽しくて楽しくて、期待感だけで射精してしまいそうである。ルイズに続く第二の獲物。それをいよいよ奴隷にすべく、才人は始める。「ルイズ」と声を掛け、顎をしゃくって見せた。

 その合図によってルイズは動いた。モンモランシーのもとへと歩いていく。
 
「さ、モンモランシー。“ルイズの指示に従ってくれ”いろいろ奴隷としての作法を教えてもらうんだな」

 コクリとうなずいたルイズは「ごめんね、モンモランシー。ご主人様のご命令には逆らえないの……」と申し訳なさげに声を掛けた。本当に申し訳なく思っているのだ。
 逆らえないのは本当だが、そんなことが言い訳になるはずがない。これからすること、これからさせることを考えると、モンモランシーはルイズを恨むようになるだろう。

 それでもルイズに道はない。命令通りに動くしかない。

「……いい? 今からモンモランシーはご主人様のおちんぽにキスするの。精液とお小水が出る穴があるのがわかるでしょ? その先端にモンモランシーはキスするの。深い忠誠の証として息の続く限りキスするの」

 悲しみを堪えてルイズは話す。すると才人を睨み付けるのに集中していたモンモランシーだが、身体はアドバイスを聞こうと自然に動く。それが忌々しく、ルイズに何を言わせているんだと、深い同情と才人に対しての怒りが湧き上がってくるのを感じる。

「!……ル、ルイズ、それは、一体どういうことなの?」

 だがそれは驚愕へと塗り替えられることになった。

 ルイズは全裸であった。それはいい。予想出来ていたことだ。背後に衣擦れの音が聞こえていたから全裸であろうと思っていた。
 何しろ自分自身が全裸に剥かれ、才人も服を脱いでいるのだから、ルイズもそうであろうと思っていた。

「……答えて、ルイズ。股間のその印しは一体何? そんなものまでこの平民につけられてしまったの?」

 首輪もいい。見せつけられ、ルイズが手に持っていったのだから予想出来た。だが、股間にある服従のルーンは予想出来るはずもなかった。こんなことまでされていたんだと、モンモランシーの心に改めて怒りが湧き上がる。
 ルイズは何も答えず、ただ悲しそうに顔を伏せるのみだった。

 ……ごめんね、モンモランシー……

 何故なら答えようとした瞬間、ニヤニヤと嗤いながら首を振るのが視界に入ってしまったからである。その意図は明らかだった。才人は「予定変更だ、ネタばらしは最後にするぞ」と言っているのがルイズにはわかった。
 だから黙って顔を伏せるよりなかったのだ。

「っルイズ! 答えなさいよ! っ……この男にやられたんでしょ? 他に何をされたの? ねっ、ねぇ、答えてよ。答えて頂戴よルイズ! 答えてよ!」

 ……くく…まっ裸に直立して首だけ傾けててもなぁ、説得力なんてないと思うぜ? せめて服を着て肩を揺さぶるくらいしないとな、マヌケなだけだと俺は思うね。

 モンモランシーは必死だった。激高して問いただしたのだが、話すうちに自分もそうなってしまうかもと、そう思い当たってしまったのだ。もしそうなってしまえば、憎むべき才人を死刑台に送ったところで気が晴れるはずもない。取り返しのつかないことになってしまう。

 処女を失うならまだしも、股間に恥ずかしいマークなど入れられては生涯他人の前で裸になれなくなる。そうなると結婚も不可能になってしまうだろう。
もし、もしもだ。自分がそんな目にあってしまったらどうなってしまう?

「答えなさいルイズ! どうしてそんなことになってるの! いっ、いつやられたのよ! ね、ねぇっ! 答えて頂戴よ! ねえったら、ルイズ!」

 モンモランシ家は取り潰しとなってしまうかもしれない。何故ならモンモランシーは一人娘であり、よって総領娘なのだ。どうしたって婿を取らないといけないのに、股間に恥ずかしいマークなどあれば結婚など不可能になってしまう。だからモンモランシーは必死になる。泣きそうな顔になってルイズに問い質すのだ。

 ……拙いな。心が折れちまうか? 

 そんなモンモランシーに才人は予定を変更することにした。まだ心が折れてもらっては困る。

 そう、せめて儀式までは強い心でいてもらいたい。だから「モンモランシー、答えたくないってのを無理に聞き出そうとするのは良くないと思うぜ? それとだ、多分だがモンモランシーはルイズみたいにはならんと思うから安心しろ」と笑って見せた。

 その挑発にモンモランシーは憎悪の対象に目をむける。憎々しげに睨み付け、そんな態度に安心した才人は「ルイズ」と声を掛ける。そのまま進めるように促した。まだまだ始まったばかりなのだ。

「!っ……いい? モンモランシー。それが終わったらおちんぽをしゃぶらせて貰って、出された精液を頂くの。いい? 一滴残らず頂くようにするのよ? それがあたし達みたいな奴隷の務めなの」

 あまりの内容に茫然としてしまう。それをやれというのか? 貴族であるのに平民にフェラチオをし、その精液を一滴残らず飲み干せと? それが奴隷であることの務めであると?

 聞いていくうちにモンモランシーはルイズにも怒りを抱くようになってきた。脅迫されて言わされているのだろうがあんまりな内容だった。苦々しくルイズを睨み付けるより、感情を抑える術がないと、モンモランシーは思わざるをえなくなっていた。

 ルイズは続ける。説明はまだ半ばなのだ。

「それが終わったらおまんこに入れて頂いて、満足して貰って、そのまま出して頂くわ。そして……それが終わったらお尻にも入れて頂くの。満足して貰って、そのまま出して頂く。そうすればお終い。……モンモランシーは眠る事が許されるから……」

「っルイズ。っあ、あなた、何を言ってるかわかってるの? それを今からわたしにやれって言ってるの? っあ、あなた、正気で言ってるの?」

 モンモランシーは声が震えるのがわかった。考えたこともない屈辱である。処女を失うばかりか中出しも許し、あまつさえアナルも犯されると言っているのだ。いくら脅迫されて逆らえないとはいえ、そこまでするのに協力するとは一体何を考えているのか!
 もうこうなってはルイズとて憎しみの対象である。憐れみを覚えていたのだが、もうこうなっては関係がないと、震える声でルイズを問い詰める。だが、更にルイズは続けた。

「それから……モンモランシーは初めてよね? 準備を手伝うように言われているから協力して欲しいの……」

「っ、ル、ルイズ……。きょ、協力って、何のこと、かしら?」

 思い至る節はある。嫌な予感はある。だがそこまではすまいと、一縷の望みを賭けてモンモランシーは問いただした。辛そうな表情をしながらもルイズは質問に答える。

「……初めては痛いわ、モンモランシー。ご主人様から言われてるの。……おまんことお尻を揉みほぐして、舐めて濡らすようにって。モンモランシーには愛撫しやすいように協力して欲しいの」

「っっル、ルイズッ!!」

 もうモンモランシーは限界だった。まさかと思ったが本当にそうであるとは信じられなかった。もうルイズは身も心も奴隷になってしまっている。もうこうなってはルイズは同情すべき存在ではない。もう憎むべき才人と同類の人間のクズだと思った。

「……ルイズ、正面に来て顔を見せてもらえる? わ、わたしは動けないし、ルイズに来て、貰うしかないから……」

 怒りを抑えた低い声でモンモランシーは話す。ルイズは黙ったままに正面へと回り、「これでいいかしら? モンモランシー」と顔をあげた。どうなるかは予想がついたが、甘んじて受けなければならない。そう思ったのだ。

 モンモランシーは涙を浮かべながら睨み付ける。そして――「っこの裏切り者っ!」と叫び、そのままルイズの顔へと唾を吐きかけた。

「…………」

 つつっ……とルイズの頬から唾液が垂れる。ルイズは黙ったままに受け入れた。悲しいが仕方がないと思う。悔しいと思わないのも当然だと思う。ただただ、黙って受け入れるしかないではないか。
 惚れ薬を作りたいからと騙して部屋に招き、才人の言うとおりに行動しているのだ。悲しいが受け入れなくてはならない。ルイズはそう思ってモンモランシーからの侮蔑を受け入れた。

「くく……ルイズ、まだ説明は済んでなかったぜ? フェラの指導も任せたはずだ。ソイツも説明しとかなくっちゃあな。それとだ、儀式の文句も説明しとかないとな?」

 その言葉にモンモランシーはキッと才人を睨み付ける。元凶はこの男なのだ。何としても復讐してやると、モンモランシーは固く、固く、心に誓う。

 殺してやる! 殺してやる! 絶対にこの平民を殺してやるっ!

 才人はニヤニヤと嗤うばかりだ。こうした展開こそを期待していたのだ! 下半身に熱が集まり、肉棒がぴくぴく蠢いているのを才人は意識した。

「さ、ルイズ、教えてやれ。どうやればいいか教えてやるんだ」

「!っ……モンモランシー。今から言う事を覚えて。……いい? “我が名はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。五つの力を司るペンダゴン。このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽのことだけ考える。我はおちんぽの使い魔となる”」

「っ…………」

「……言ってみて。それで言ったあとにおちんぽにキスするの。モンモランシー、言ってみて」

 そんな恥知らずな真似が出来るわけがない。ぼやける瞳でモンモランシーはルイズを睨んだ。だが

「っ…ぅ…わ、我が名はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシー。いっ、五つの力を司るペンダゴン。ぅ…このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽのことだけ考える。わ、我はおちんぽの使い魔となる……」

 どうしてかはわからない。舌を噛み切ってでも言いたくないのに、モンモランシーは屈辱の誓いを口にする。ほっと安心したルイズは「ご主人様」と才人を見上げた。モンモランシーはそんな二人を憎々しげに睨み付けるしかない。
 もう、罵倒するのに口を広げようとすれば、悔しさのあまりぼろぼろと涙が止まらないとわかってしまったのだ。それがモンモランシーに残った最後のプライドだった。

 それが才人には心地よい。

 もう頃合いだろうと考えた。ルイズに向かって「じゃあ始めるか」と呟く。この屈辱と憎悪がピークになった、今この時こそが儀式を始めるに相応しい。これ以上の時間を置くと、何かの拍子でモンモランシーの心が折れてしまうかもしれないのだ。

「じゃ、モンモランシー。始めるぞ? いいか、“まずはちんぽに対して土下座しろ。んで身を乗り出して誓いながら口だけ使ってキス。それが終わったらルイズの指示に従ってフェラだ。”満足出来たら出してやるし、そうなればモンモランシーは晴れてちんぽの使い魔になれるって寸法だ。是非とも頑張ってくれ!」

 ルイズも通った道ではある。だが、そんなことは知らないし、知っていたとしても慰められることなどないだろう。才人を睨み付けるモンモランシーはふらふらとした足取りで足元へとたどり着き、正座となって、その状態で再度、憎むべき敵を睨み付ける。
 鷹揚に才人がうなずいたのを合図として平伏した。

「わ、我が名はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。五つの力を司るペンダゴン。こ、このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽのことだけ考える。っ我はおちんぽの使い魔となる……」

 膝立ちでにじり寄るモンモランシーは身を乗り出し、屈辱の誓いを口にし、肉棒へと長い長いキスを施す。 

 っうっぅうぅぅ……くうっ……! っく、くさいっ! き、気持ち悪いっ! っっ悔しいっ! 何で言いなりになっちゃうのよ! そんな薬なんて聞いたこともないのにっ! どこでこの平民は見つけてきたのよぉ!

 頭をあげると石の床にはわずかな沁みがあった。堪えきれない涙、それがこぼれてしまったのだろう。だがこれで終わったわけではない。これは屈辱の始まりに過ぎないのだ。

「ルイズ」

「わかってるわ、サイト。……モンモランシー、おしゃぶりも初めてよね? わたしが指示するから、その通りにやって頂戴」

 傷心であろうモンモランシーを少しでも慰めようと、その両肩を優しく抱きしめる。そんなルイズがモンモランシーには憎くて憎くて堪らない。
 悪魔の手先となっているのに、優しい振りをするなどなんという偽善者だろうか。それならば自分がどうなろうとも、才人を告発すればいいではないか。いや、今すぐにも、そのまま他の部屋へと駆けこんで助けを求めればいいのだ。
 そうすれば自分は救われると言うのに、どんな弱みを握られているか知らないが、何を躊躇っていると言うのか。

「じゃあね、まずはおちんぽを優しく握って擦ってみて。カウパーを手に取って、それで手のひらをぬるぬるにするの。そうやってしこしこして、馴染んだと思ったら竿に舌を這わせる。頑張って、モンモランシー」

 そんなモンモランシーの内心にルイズは気付けない。いや、気付かない振りをする。自分だってそうだったのだから、その屈辱や嫌悪、羞恥に悲哀。そんなことはよくわかっている。
 それでも――ルイズとしては選択肢がないのだ。恨まれているのは理解しているが、偽善だとはよくわかっているが、どうしたって慰めたいのだ。

 モンモランシーは才人の肉棒を手に取って舌を這わせる。

「……そう、その調子よ、モンモランシー。次はね、おちんぽの根本に細かく何度もキスしていくの。……そう、そんな感じ。…そしたらその周辺を舐めまわして……そう、そのまま下に降りていくの。そしたら玉袋を口に入れて転がしてみて。優しく、優しくよ。絶対に噛んだりしないように口を大きく開けて、唇で閉じるような感じ……そう、上手だわ、モンモランシー。そのまま舌を使って転がしてみて……」

 口の中が柔らかい皮で一杯となった。嫌悪感と生臭い臭いに吐き気を堪えるのに必死だった。

「上手よ、モンモランシー。一度口から離して、舌先だけで竿を舐めて。何回も往復させるの。……そう、そんな感じ。凄いわモンモランシー。じゃあそろそろおちんぽを咥えてみて。鼻でしか呼吸できなくなるから気を付けてね」

 モンモランシーは肉棒を咥える。鼻でしか呼吸が出来ず、息苦しさには不快極まりない悪臭が付きまとう。

 っうっうげぇえぇぇえぇ……きもぢわるいぃぃぃ……! っぐ、ぐさいしねちゃねちゃしてるのぉおぉほぉぉ……! こんあのもういあよぉおぉ……!

 ルイズの指示に従うモンモランシー。例えようのない不快感と嫌悪感にもう限界だった。それでも身体は自分の意志を裏切ってしまう。どうしても肉棒から離れたいと思っているのに、逆に舌先で追いかけてしまう。顎が痛くて閉じようとしたいのに、それどころか肉棒を奥に奥にと咥えようとしていく。

 モンモランシーは望まないフェラチオに熱中させられる。ぐっぽぐっぽと唇を往復させ、丸めた舌先を尿道口へとほじくり入れる。エラの裏から恥垢を絡め取り、それをそのまま咀嚼して味わう。息継ぎに休む時でも、手コキによって肉棒を刺激しなければならなかった。

「……サイト、初めてだしこのくらいで許してあげない? このままだと吐いちゃうかもしれないし……」

 限界と見たルイズが才人に提案した。今の才人は自由自在なのだ。まだまだ耐えることが出来るだろう。でも、それだとモンモランシーの限界が先に来る。まだ先は長いのだし、そろそろ許してあげたいと思ったのだ。

「……まあそうかもしれんな。それならどうするか……」

 才人はモンモランシーの口からぐぽっと肉棒を抜いた。確かに先は長い。ここで吐かせてしまえばモンモランシーの心が折れてしまうかもしれない。

「ふむ……よし、じゃあ手加減してやるとするか。“モンモランシー、呼吸が整ったら口を大きく開いて俺の目を見ろ。んで、そのまま出されるのを待って飲めるだけ全部飲め”」

 だから才人は手加減する事にした。確かにイマラチオで出したりしたら、おそらくは堪えきれずに吐いてしまうだろう。それならばと、モンモランシーの口を便器に見立てて射精しようと思い立つ。口中で咥え、舌先だけのテクニックで追い込む。それだけの技量がモンモランシーにはないのだからこれしかない。

「っ……げええっほっっ……はぁ、はぁ………っじょ、冗談は止めなさいよっ! 何考えてるのよあなたっ!っはぁ、はぁ……っ」

 怒りをあらわに抗議する。だが才人はにやにやしながら笑うだけ。ルイズは悲しそうな顔をするだけだった。

「っう、うそ……」

 呼吸が平静となってきたモンモランシーの口が開いていく。ぺたんと尻餅をついたままに大きく口を広げ、背筋を伸ばし、才人の顔を仰ぎ見る体勢となる。ニヤリと嗤った才人は肉棒を一擦り、二擦り……

「よーし、そのままだ。そのまま待ってろ」

 狙いを定めて肉棒をこする。どぴゅるるるるるるるっっ! とモンモランシーの口を目がけて射精した。

 おう! 飲んでるぜ? 飲んでるぜ、モンモランシー! そんなに慌てると…あらら、案の定だったな。くくっ…お疲れさん、モンモランシー。これでちんぽの使い魔確定、だな……。
 
 才人の目にもはっきりと映る。モンモランシーの喉が鳴る。ごくりごくりと喉が鳴る。モンモランシーは才人の精液を、確かに体内へと取り込んでいく。
 そして――結局は生臭さと不快感に耐えきれず、モンモランシーは鼻から精液を吹き出す羽目となった。

「ぐぇほほほおおっっ…げほっ、げほっ…かはっっ…ぅけほっ…っ!」

 えずき、飲みきれなかった精液を吐き散らす。苦しみで涙を湛えるモンモランシー。けほっ、けほっと喉に張り付く不快な塊を吐きだそうとする。ルイズはモンモランシーの背中を何度も何度もさすってあげる。その表情は申し訳なさと情けなさに歪んでいる。

「ルイズ」

「……わかってるわ、サイト」

 そう、まだ終わっていないのだ。これは単なる儀式にすぎない。本番はこれからなのである。合図を送られたルイズがクローゼットへと駆けだす。

「くく……おめでとう、モンモランシー。これでオマエも俺の奴隷になれた。立派なちんぽの使い魔だよ……」

 床に手を突き苦しんでいるモンモランシーを見おろす。ようやく呼吸が落ち着いたモンモランシーはそんな才人をキッと睨み付けてくる。憎悪に溢れた顔である。だが、そんな顔をされて怖いわけがない。

 くっくっくっ……まあ手加減してやるって言ったしな、舐めとらせるのは勘弁してやる。せっかく強気な態度を取ってくれてるんだしな、心が折れても困るってもんだ……。
 
 何故ならモンモランシーの顔は口の回りを中心に精液でドロドロ。鼻から精液を垂らし、口元からも糸が引いているのだ。怖いわけがないであろう。

「……サイト、モンモランシーの顔を拭いてもいい?」

「ん? ああ、かまわん。拭いてやれ。それからモンモランシー。“ルイズの指示に従え。逆らおうとするな。ベッドに大の字になって指示を待つんだ”」

「大丈夫? モンモランシー」と気遣いながら、ルイズは顔を拭いていく。涙を拭かれ、精液を拭かれ、気遣われているのは痛いほどわかったモンモランシーだが、感謝したいとは全く思わない。

 っルイズ! あなただって同罪なんだからね! 明日になって解放された時を見てなさい! 絶対に復讐してやるわ! っっ覚えておきなさい!

 ルイズの肩を借りながら歩く。ベッドへと歩いていく。ベッドまでいくと、身体を投げ出して大の字となる。どうせ身体が思い通りにならないのはわかっているのだ。せめてもの意地として、モンモランシーは自らの意志で大の字となる。
 目を伏せるルイズ、街で購入してきたロープで括り付けていった。



[27351] 強い心
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/06 10:27
 柔らかい布団の上、モンモランシーは寝転がっていた。糸一筋纏わない全裸。その状態で大の字となり、手首と足首には全部で四本のロープ。それぞれをベッドの先へと括り付けられている。

 っ殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!

 耳には才人が指示しているのが聞こえる。視界の隅にはいちいちうなずくルイズが見える。
 恐怖を押し殺し、羞恥を誤魔化して正気を保つため、ただひたすら“殺してやる”と、モンモランシーは呟くしかなかった。

“殺してやる”。その対象は二人。卑劣なる悪魔である平賀才人と、その手下であるルイズだ。

「……モンモランシー」

 呟いたルイズが近寄ってくる。とうとうこの時が来たかと、モンモランシーは身体を固くし、悪魔の手下を睨み付けた。

 これから自分がどうなってしまうのか? これまでの事で身体が自由にならないのは理解しているし、そもそも縛られてしまった身の上である。間違いなく才人によって犯され、中出しまでされ、あげくアナルも犯されてしまう事だろう。
 そしてその前準備として自分はルイズによって辱められてしまうのだろう。

 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 絶対に殺してやる!

 だが、だからこそ、モンモランシーは強く自分を持ちたいと思った。逃れられない運命だとしても、最後の最後まで心だけは負けたくないと思った。貴族として、平民などに屈するわけにはいかないと思った。
 その為には、挫けそうな心を奮い立たせるには、ただ一心に殺してやると呟くのが一番だと思った。そうしないと恐怖で心が押しつぶされると思った。

 申し訳なさげな表情のルイズ。ゆっくりとした足取りでベッドへと上がる。

「モンモランシー、今から始めるわ。わたしも初めてだから下手だとは思うけど、一生懸命やるから……」

「っこの変態! よくもこんな下種な男の奴隷になんてなったものだわ! あんたには貴族の誇りってものがないのかしら? ああ、ゼロなんだから誇りなんてあるわけないわよね? っこの裏切り者!」

「……よくほぐしておかないと裂けちゃうわ。それに濡れていないともの凄く痛いの。わたしがそうだったからわかるのよ。だからモンモランシー、嫌だろうけどおとなしくしていてね?」

「っ変態! 恥知らず! 明日になったら見てなさいよ! 絶対に殺してやるわ! っこの最低の淫売! 絶対に訴えてやるわ! そうなればもうトリステインにあんたの居場所なんてないんだからね!」

 モンモランシーは叫ぶ。思いつく限りの罵倒を繰り返す。

 くっくっく……なんとまあ諦めの悪い。ルイズはそんなことなかったぜ? くく…まあ、猿轡でしゃべらなかったんだけどな。

 自由になるのは口だけなのだ。悲しそうに顔を伏せるルイズ、モンモランシーは精一杯の抵抗とばかり、「この卑劣極まる平民が!」と才人を睨み付ける。
 身震いするほどの睨みだが才人は堪えない。堪えるわけがない。ニヤニヤ嗤いながら込められた憎悪を受け流し、代わりにルイズの背中に鞭をくれる。

「!っづっかはぁあぁあぁあああっ……!」

「そらっ、モンモランシーが準備万端、お待ちかねだ。ルイズ、さっさと始めろ」

 再度ピシィィィッッと鋭い音。ルイズは細い悲鳴をあげた。身体を丸めて痛みが治まるのを待ち、のろのろと身体を動かしてくる。
 合図をもらったのだ。ルイズに選択の余地などないのだから当たり前だった。
 
 っこ、この平民、なんの躊躇いもしないで……。

 モンモランシーに怖気が走った。貴族に対してなんの遠慮もしないとわかったからだ。そして鞭で打たれたルイズなのに、何の抗議もしようとしない。完全に奴隷に墜ちきっていると、これ以上ない形で見せつけられた。
 たったそれだけのやり取りである。だがそれだけで、モンモランシーの心は挫けそうになる。

「っひっ、ひぃぃぃいぃぃぃっ! や、やめなさいルイズ! や、やめなさいよっ!」
 
 同性に性器を舐められ、いたずらをされ、卑劣なる男を受け入れられるようにと準備をされる。
 その嫌悪感と羞恥、屈辱に情けなさ。泣き言など絶対に言ってやるものかと、固く、固く、心に誓っていたと言うのに、もうモンモランシーの心は折れてしまいそうになる。

「っっや、やめなさいルイズ。や、やめなさいよ……」

 ルイズはぴちゃぴちゃと音を立てて舌を使う。

 モンモランシーの太ももを優しく抱える。性器を舐めることから愛撫を始める。いきなり指を使うと、濡れていない秘肉には痛みを伴ってしまう。
 自身の体験だけに、ルイズにはそれが良くわかる。ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、音を立てながら舌を使う。

「!っぁ…ああん……や、やめてよルイズ……やめなさいよ……」

 哀願されてもルイズには止めるわけにはいかなかった。充分にほぐし、濡らし、少しでもモンモランシーが痛くないようしなければならなかった。
 そして何より、才人がやめろと言わない限り、ルイズは愛撫をやめるわけにはいかなかった。

「!ひいんっ!~~っ、ぁはんぅ……や、やめなさいよ……やめて…ちょうだいよ……」

 秘肉の周辺をほぐしたルイズは舌先を中にまで入れる。濡れてきたので味が変わってきたのだ。その酸味とも苦味ともつかない味はルイズが知る味わいによく似たものだった。
 ツンツンと刺激し、丸めた舌先を入れる。奥の奥まで濡らさないといけないのだ。

「!はぁああぁああんんぅっ……っ…やめてよルイズぅ…も、もうやめてよ……」

 モンモランシーはもぞもぞとお尻をくねらす。じっとりとした愛液が充分に分泌されてきたのがわかる。でも、この段階でもルイズとしてはやめるわけにはいかなかった。

 ……ごめんね、モンモランシー……やめるわけにはいかないのよ……。

 ルイズはこの段階で挿入された。才人としては挿入に不都合がない程度に濡れてさえいればよく、ルイズが痛がるなど知ったことではなかったからだ。
 だが、それでは挿入される方としては堪ったものではない。充分に中の中まで揉み解しておかないといけないのだ。

「!っひっぎゃああああああああっああぁぁあぁつぁ……ッ!」

「ルイズ、ケツも一緒に責めてやれ。中の中まで存分に舐めてやれ。くく…手慣れたもんだろ?」

「っかはっ、~~~ッ、はぁ…はぁ…わ、わかったわ、サイト。っそ、それじゃあ、モンモランシー、今からロープを外すわ。あ、愛撫しやすいように身体を起こして……」

 ルイズのお尻に鞭を入れる。あまりの痛さに悲鳴をあげたルイズ。くっくっくっと、嗤う才人が次の段階へと移行するように合図したのだ。しゅるしゅるとロープが外されていく。
 そうやって自由になったモンモランシーの両足を折り曲げ、おしめを替える赤ん坊のような体勢へと変化させる。

「っ……はむっ…ぺろぺろぴちゃ……じゅるるるッ…ぴちゃ…んっ…んっ…んっ……」

「ひっ! い、いやぁあぁあぁぁぁ……! ル、ルイズっ! そ、そんなところ舐めないでぇっ……!」

 肛門周辺を舐め清める。唾液を集め、丸めた舌先を腸の奥深くに送り込む。そして頭の前後運動。んっんっんっと、疑似ペニスとした舌でストロークする。
 腸液など容易に分泌されるものではない。まずは唾液によって濡らさないといけないのだ。そうやってんっんっんっと舌を使ったルイズ。本格的にほぐすべく指を入れて掻き混ぜる。
 最初は一本。その次は二本。少しずつ、少しずつ、モンモランシーの肛門をほじくり、休まずクリトリス周辺を中心に舐めていく。

「っはぁ…んんんんぅぅんぅン…っ…はっはぁぁぁあんんっンンッ……あん…い、いやぁあぁぁぁ……」

 皮を被ったクリトリスを舌先で弾き、露出させ、貯まっている恥垢を掻きだしていく。片手で太ももを支え、もう片手の指を肛門に入れて愛撫。顔全体はモンモランシーの股間へと押しつける。
 クリトリス、大陰唇、小陰唇と舐めて濡らし、丸めた舌先を膣内へと挿入させる。

「!っぎぎいゃぁあぁぁっ……っ!……はぁ…はぁ…っぴちゃ…れろ…ぴちゃぴちゃ……」

 ルイズはお尻に鞭打たれた。手ぬるいと見られたのだ。だがルイズはそう考えなかった。鞭をもらってしまった理由を必死に考え、才人がもっとお尻を振りながらしろと言っているのだと思った。 

 ……ほほぅ…そうきたか……まっ、それならそれでいい。くく…勘弁してやる。

 鞭は振るわれない。これで良かったんだとルイズは安心した。お尻を意識しながら、それでも愛撫へと集中していく。

「っはぁ…はぁ…んっ、…ど、どう? モンモランシー、気持ちよくなってきた? 濡らさないと痛いの。っどう? 気持ちよくなってきた? モンモランシー」

「っはぁ…はぁ…ぅぅ…も、もうやめて…、お、お願いだから、もうやめて…っも、もう許してルイズ…っぁ…お願い、もう、やめて……」

 そしてモンモランシー、あまりの羞恥、あまりのおぞましさ。だというのに確かな快楽。責められ続けて限界だった。

 おぞましいのだ。悔しいのだ。恥ずかしく、こんなことで追い込まれるなんてと情けないのだ。
 それなのにこのまま責め続けられれば、遠からず絶頂へと追い込まれてしまうだろう。そんなことはモンモランシーには耐えられなかった。

「……いいの? 充分に濡れてないともの凄く痛いのよ? もう大丈夫なの?」

「っ大丈夫…大丈夫だからぁ……だ、だから、もう許してよ、ルイズぅ……」

 ルイズはモンモランシーの顔を覗きこみながら問うた。とんでもない激痛、それにもしかしたら裂けてしまうかもしれない。ルイズとしてはもう少し愛撫したいところである。
 これから胸全体を愛撫し、乳首をつねり、わき腹や首筋などを舐めていこうと思っていたのだが……。

 そんなモンモランシーはあまりの羞恥、あまりの情けなさに泣き濡れた顔となっている。
 何故なら今この時もルイズの手は休むことを知らず、問い掛けながらもくちゃくちゃと股間をまさぐっているのだ。
 これ以上はもう嫌だった。勘弁してほしいと力なく首を振ってくる。

 ルイズはちらりと背後を確認する。

「くくっ…もういやだってんだ。止めてやれ」

 すると才人は薄く嗤って泣き事を認めた。諦めたルイズはベッドから降り、才人のもとへと駆け寄る。

「よくやった、ルイズ。褒めてやるぜ?」

「!っはっはぁあぁぁあぁんぅン……!」

 膣の中に指を入れる。ルイズは嬌声をあげる。そこはしっとりと濡れていた。
 どうやら雰囲気に当てられて興奮してしまったのだと、ルイズの成長ぶりを喜んだ。

「さっ、こっからは俺の仕事だ」

「はぁっ…わかったわサイト、わたしはどうすればいいの?」

 縋り付いたままにルイズは問うた。胸元に指を這わせ、甘えるような姿勢である。くっくっくっと才人は嗤う。

「ルイズ、これが終わったら褒美をやる。だからだ、その間はマンズリでもして気分を盛り上げてろ」

「!…わかった。どっちにするか考えておくわ……」

 その場でぺたんと座り込む。

 ……やっぱり濡れてるわ……、もうわたし、こんなことで興奮するようにされちゃたんだ……。

 指示された通りにルイズは動く。自慰をしろと言われたならば自慰しなくてないけないのだ。
 薄い胸をまさぐりながら乳首をつねり、もう片手で秘肉を手のひらに包み込む。

「くく……そんなに褒美が気に入ったのか? ルイズ、オマエはどの穴が好きなんだ?」

「っぁああんぅんッ…そ、それはぁ…ど、どの穴も大好きぃ……! ぁはぁんン…お、おまんこも、お尻もぉ…はぁぅうんぅ……お口もぉぉ…全部好きぃいぃぃ……!」

 もう濡れているのだから最初から全開だった。罪深さを忘れる為に集中したかった。
 だから奥深くまで突き入れ、鍵型にした二本の指で膣壁をひっかいていく。
 そう、“褒美”とは凄いのだ。期待感だけでもう、ルイズはとんでもなく興奮してしまう。

 リーブスラシルの能力である感覚支配。それは痛みも快感も自由自在というものだ。
 そうなれば“褒美”として与えられる快感となれば、もう比喩するものなんてありえなかった。
 精液は甘く、香しく、まるで天上の美酒のごとくであり、膣だってアナルだって、一突きごとに絶頂へと追い込まれる。
 そしてそのあとの余韻とくればもう、幸せな気持ちに包まれて身震いするほどなのだ。

「さ、サイトぉ…、あたしイっちゃうぅ…っイっちゃうのぉ……っいいっ! す、凄くいいわっ! ああんぅン…イっちゃううぅぅ……みてぇっ、みてぇっ! わたしイっちゃうのぉぉ……!」

「くく…その調子だ、頑張れ。まあ残念ながら今はモンモランシーだ。見てやることは出来んから勝手にイきまくれ。いつも通りイく時はちゃんと報告するようにするんだぜ?」

「っわかってるわっ! ちゃんとするっ! あっんんんんぅうんぅンン……っい、いいわっ! 凄くいいわっ!」

 ぐちょぐちょと両手を使ってルイズは肉穴をほじくる。モンモランシーはそんなルイズの嬌態をありえないと凝視した。

 っル、ルイズ……あなた、一体この男に何をされたって言うの? へ、平民の奴隷にされてるのに悔しくないの? っど、どうしてそんな恥ずかしいこと、喜んで、や、やっているって言うのよっ!

 ここにきてモンモランシーは悟ってしまう。もしかして自分はとんでもない勘違いをしていたのでは? 
 そう思った瞬間、モンモランシーの全身に怖気が走る。

 あのプライドの高かったルイズ。それがこの男を使い魔にして10日かそこら。それだけで自慰をしろと命じられれば、躊躇う事なく人前で自慰をするほどまでに堕とされてしまった。

 それが意味することは何だろう? そう、自分は例外ではないと言う事だ。
 薬だろうが何だろうが、この身体が勝手に動いてしまうという異常。そして自信ありげな才人の態度。実際に堕ちてしまっているルイズという存在。
 これらのピースが合わさり、モンモランシーは自分の行く末を理解してしまった。

 このまま犯されてしまえば、自分もルイズ同様に堕とされてしまう。

「っひっひいぃぃぃいいぃぃぃぃっッ! こ、来ないで! 来ないでよ! っわ、わかったからっ! っだ、黙ってるっ、黙ってるからッ! だから許してっ! 許してよッ! っぜ、絶対黙ってるから来ないでッ!!」

 理解してしまうともう駄目だった。絶対に屈しないと誓っていたと言うのに、「もう許してください」と哀願するしか選択肢はなかった。
 才人はそんなモンモランシーに、ほぅ、と感心したあとにニヤリと嗤う。

「!っひっひひぃひッぃぃぃぃッ……! ゆ、許してっ! お願いだから許してッ! 絶対に黙ってるっ! 絶対に言いふらしたりなんかしないからッ! だ、だから許して! お願いだから許してッ!」

 朝になれば解放されるのではなかったのだ。いや、解放されるかもしれないが、その時にはもう、手遅れとなってしまうのだろう。狭いベッドの上でモンモランシーは後ずさる。
 ロープで縛られた手首なんて関係がなかった。ただただ、モンモランシーは後ずさる。

 やっとその顔になってくれた。そう、そんな表情を期待していた。

 怯えと恐怖に顔は引きつり、それでもモンモランシーは必死になって許しを請う。
 口の端からは涎を垂らし、そんなことにも気づいていない。
 一歩、また一歩と才人が近づくたびに、ひいっと短い悲鳴をあげる。

 ニヤリと才人は口の端を釣り上げる。

「“黙って聞け”くくく……、何を怯えてるか知らんが…こうなるのを覚悟してたんじゃないのか? 今更嫌って言われてもなぁ、納まりがつかんってもんだ。諦めてくれ」

 悲鳴をあげようとするモンモランシー。だが、そこで声が出なくなる異常に気付いてしまう。ぶんぶんと首を大きく振って、拒否の意を示すしかない。

「ん? そうか! まだ十分に濡れてないから痛いのは嫌だってんだな? くく…そうかそうか、そいつはもっともな話だよなぁ、モンモランシー」

 モンモランシーはぶんぶんと首を振る。才人はベッドの上へとあがる。ぎしっとベッドは軋んでしまう。

「くくく……そういや言ってたよな? ギーシュが付き合ってみれば僕の良さがわかる、だったか? くく…それと同じこった。このちんぽを味わってしまえば、その良さがわかるようになるかもしれん。試してみようと思わないか? なぁ、モンモランシー?」

 才人はモンモランシーの上へと覆い被さっていく。

 っそ、そこはっ! いやっ、いやよっ! や、やめてやめてやめてやめてぇぇぇっ……!

 そして、肉棒の先を、モンモランシーの肛門へと狙いをつける。

「くく……例えばだ、ルイズだって最初は嫌がった。ケツの穴なんて痛がるだけだった。それが今じゃあ、入れてくれってねだる有様になっちまってる。モンモランシーも気に入ってくれるって確信してるんだがな?」

 不自由な身体を必死に動かす。耳に聞こえるはルイズの嬌声。そして――恐怖に見開いた目に映るは口の端を釣り上げた男の顔。

「食わず嫌いかもしれんぜ? 試してみりゃあその良さがわかるようになる。なぁ、モンモランシーはそう思わないか?」

 怯えきったモンモランシーに、才人はニヤリと笑って見せる。必死になって身体を捩ろうとする。その反応こそが心地よいと肉棒をあてがう。
 挿入しやすいようにモンモランシーの身体を深く折り曲げ、身を乗り出す。

 くぅっくっくっ! 初めてがケツ穴って女は一体どれだけいるんだろうなぁ、処女が大事な貴族ならけっこういるかもしれんぜ? 

 そうするとどうなってしまう? そう、吐き出す息が直接掛かるくらいに顔を近づくことになるだろう。
 才人は怯えきったモンモランシーにもう一度にいっと嗤い直してみせる。

「くくく……、もうしゃべってもいいぜ? むしろ大声を出してくれ。そのほうが楽しいと、モンモランシーはそう思わないか?」

 モンモランシーはしゃべる事を許された。だが、そんなモンモランシーは、ひぃぃっと短い悲鳴をあげるばかり。
 とてもではないが才人に答えることなど出来なかった。いやいやと首を大きく振る。

「ん? まだしゃべる気になれんってか? まっ、その気になったら好きにしてくれ」

 才人は体勢をもとに戻す。ずれてしまった肉棒を添え直した。そして――ずぶりずぶりと埋め込んでいく。

「!っぎゃっ、ぎゃあぁああああああああああああああああああああああっッ……!!」

 言葉にならない絶叫。それは確かに部屋中へと響いた。 



[27351] 微熱の誘惑
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/07 20:31
 モンモランシーが目覚めたとき、ルイズが嬌声をあげていた。才人の首にしがみつき、ときには背を仰け反らせ、焦点の合わない瞳で喘いでいる。

「っあああんんうんぅン……もっとぉぉ、もっと突いてぇぇっ……っ! ああぁンっ、も、もっとケツ穴ずぼずぼしてえぇぇぇっ……!」

 ベッドの上であった。どうやら気絶してしまったらしい。才人とルイズがセックスしているんだな、モンモランシーはそう思った。

「ん? 起きたか、モンモランシー。もうちょっと待ってろ。今ルイズに出してやることにするからさ」
 
 気配に気付いたのであろう。振り向いた才人がニヤリと笑い、モンモランシーに話し掛けてくる。立ったままにルイズを抱きかかえ、ゆっさゆっさとルイズの腰を持ち上げていた。いわゆる駅弁スタイルである。
 ルイズはあたりをはばかる事のない大声で夢中になり、周りの事など目に入っていない様子だった。

「…………」

 ぼうっとした瞳でそんな様子を見つめながら、モンモランシーは股間へと手を添える。その酷い違和感と痛みの元はぬるぬるとしていた。前と後ろで二か所、すなわちヴァギナとアナルである。手に取ってみると、紅く染まったドロドロの液体だった。
 モンモランシーはそれで、ああ、やっぱり自分に起きたことは現実なんだ。初めてをレイプによって奪われてしまったんだ。アナルまで犯されてしまったんだと納得できた。
 あまりに酷い体験だったので現実味に乏しく、夢だったんだろうと思っていたのだ。

「っあっぁあぁあああぁあああああっっ………! い、いぐぅぅううううう……!」

 一際大きな嬌声をあげたルイズが才人の胸へとしがみつく。そうやって荒い呼吸でしがみついたままだったルイズだが、才人から「終わりだ、ルイズ」と声を掛けられてしまい、仕方なさげに離れていく。
 ごぼりと音を立てて肉棒が抜かれ、それをルイズは躊躇う事なく口に含む。ぺろぺろと竿を舐め、ちゅううっと先端から精液の残滓を吸い取り、それが終わると大きく口を開けて咥えていく。

「さっ、モンモランシー。これからのことを説明していくぜ? 話を円滑に進めたいからあんまり大声は出して欲しくないかな? ……ん~、とりあえずだ、そこから降りてくれ。んで、ここに正座して座ってもらえるか? それが奴隷の聞くべき態度だと思うしな?」

 ニヤリと笑いながら才人は床を指差し、モンモランシーのもとへと歩いていく。入れ替わりにモンモランシーの足はふらふらと動き、ベッドから降りて正座した。目を伏せて才人が声を掛けるのを待つ。

「…じゅぶ…ぺろぺろぺろ…ぱはっ…くぽくぽっぬぽっ…ぺろぺろ……」

 ベッドにどっかりと腰を下ろした才人の股の間に、追いかけたルイズがぺたりと座り込んだ。そんなルイズによしよしと頭を撫でてやり、それから才人はモンモランシーへと視線を向ける。ニヤリと笑い、口を開いた。

「くく……モンモランシー。今日はご苦労だったよな? これからのことだが、まあ特にない。説明してもいいんだが…モンモランシーも疲れてるだろ? 今日はこのまま帰っていい」

「…………」

 モンモランシーはじっと才人を見上げてみた。その口元は愉快だと笑っている。
 本当にこのまま帰ることを許される? 確かルイズも終われば眠ることを許されると言っていたが本当に? 目を合わせるのが怖く、石の床を眺めてみる。
 すると自らの下腹部が目に入った。大丈夫、ルイズのようにはなっていない。

「ただしだ」

 ああやっぱりとモンモランシーは思った。この卑劣な男がただで帰すわけがないのだ。一体今から何をされる? やっぱりルイズのように恥ずかしいピンクのハートを入れられ、口封じをされてしまう? 
 あまりの情けなさ、モンモランシーは涙が溢れてくるのを感じた。

「明日の予定を言っておく」

 え? とモンモランシーは思った。本当にこのまま帰してくれる? 今はとてもではないがそんな気力はないが、落ち着いて来れば復讐しようと、王政府なり、学院なりに訴えるかもしれないのだ。この平民はそれが怖くないのだろうか? 
 意外に思ったモンモランシーは恐る恐る表情を確かめようとする。才人はニヤニヤ笑っていた。

「くく……何が不思議なのかは知らないけどな、今日は終わりだ。その代わりに明日の予定を言っておく。そうだな……朝食の席ででも気分が悪いって言って、ルイズに付き添ってもらってだな、早退するようにしろ。んで、そのあとに説明を受けてくれ。薬を盛られたとか言ってただろ? どんな薬を使ったか説明してくれるはずだ」

「…………」

「それから……そうだ、明日はルイズと登校するようにしてくれ。だから朝一番にここに来てくれ。それと明日、ルイズの指示を俺の命令だと思って聞いてくれ。……そんなとこか? モンモランシー、何か聞きたい事とかあるか?」

「……別にないわ。もう、帰ってもいいの? っ服を着てもいいの? っほ、本当にこのまま帰ってもいいのね?」

「ああ、構わねえって。くく…それとも何か? あんまり良かったからもう一回お願いしますってか? それならそれで構わないぜ?」

「!っそ、そんなことないわ! あ、ありがとう! それじゃわたしはこれで失礼するからっ!」

 くくくっと苦笑する才人が怪物のように思え、モンモランシーには途方もなく怖かった。そして帰ってもいいのか? と念を押したのを後悔した。帰れと言っているのだから、そのままとっとと帰ってしまえば良かった。それで才人の気が変わってしまったら大変なのだ。

 っ、い、犬にでも噛まれたと思って忘れることにするわ! と、とにかく明日ルイズから説明を受けたら、もう金輪際近づかないようにするのっ! そ、それで今回のことはもうお終いよ! っわ、わたしは忘れるのっ! 絶対忘れて、もう金輪際近づかない様にするのよ!!

 ルイズは後始末へと熱中している。モンモランシーはその淫猥な水音を聞き、せめて視界に入らない様にと慌てて制服を回収する。身体が痛むがそんなことは関係がない。床に散らばっていた制服を可能な限りの速さで身に着けていく。
 一刻も早くこの場を離れたくて仕方がなかったのだ。

「そ、それじゃ、わたしは帰るからっ」

 手早く着替えたモンモランシー。返事も聞かずに扉を閉める。バタンと音をさせて廊下に出る。それでようやくほっと一息つく事が出来た。そうなると俄然悔しくなってくる。

 っわ、忘れるのよ! 忘れるの、忘れるの、忘れるのっ!

 だがそんな感情も振り払う事にした。そう、もし訴えるなどしたらだ。罪を確定させて絞首台に送る前、一体どのような報復をされるかわかったものではない。関わり合いにならないのが一番なのだ。
 悔しくて悔しくて堪らないが、平民に屈服してしまうのはとてもではないが耐えられないが、それでも泣き寝入りをして、関わり合いにならないのが一番なのだ。

 忘れるの、忘れるの、忘れるのよ、モンモランシー。い、犬にでも噛まれたと思って忘れるのよ……。

 部屋に戻ったモンモランシーは着替える。一刻も早く服を脱ぎ捨て、股間の汚れを拭き取りたい。傷に触って酷く沁みるのが辛かったが、何枚もタオルを用意して拭き取っていく。完全に拭い取らないと妊娠するかもしれないのだ。痛くたって手を抜くわけにはいかないだろう。

 っふぅうぅううう……、っ殺す! 殺してやるッ! こ、この血の量、この痛み、ぜ、絶対に裂けてるじゃないのよっ! っも、元に戻らなかったらどうすんのよぉ……!

 ヴァギナも、アナルも、何度拭ってもタオルは赤く染まる。あまりの惨状にモンモランシーは涙が止まらないのを感じた。復讐したいとの感情が抑えきれない。

 くぅうぅぅっっ……! わ、忘れるのよ、忘れるの、忘れるのよ……。

 だが、そんな感情を必死になって抑え込む。もう関わらないと決めたのだ。

 ……忘れるの。っ忘れるの、忘れるの、忘れるの……

 恥ずかしくて仕方がないがハンカチを用意してそれを股間に当て、その上からショーツを穿く。自身が水メイジであることに感謝しながら痛み止めと治癒の魔法を掛ける。それで幾分かモンモランシーは楽になる。
 秘薬も使わないので完全に癒されているはずもないが、大分と痛みが少なくなる。これならなんとか眠る事が出来るだろう。本格的な治療は明日にする。

 っくっふぅぅううぅぅ……わ、忘れるの、忘れるの、忘れるの……。

 ネグリジェを着込んでランプを消す。金輪際関わり合いにならないためには、明日一日我慢をして、それでルイズに付き合って説明を聞かなくてはならない。その為には明日は早く起きなくてはならない。朝一番にルイズの部屋に行かなくてはならない。

 っあ、明日一日の我慢よ! それでわたしは忘れるの! 絶対に忘れるのよっ!

 モンモランシーは「忘れるの、忘れるの」と呟きながら横になる。いつしか緊張が解け、疲労のあまりに自然と気が遠くなっていった。



 そして―――次の日の朝、日課となっているルイズの惨状を目の当たりにし、モンモランシーは茫然とした。動揺を隠しきれないままに食事の席へと向かう。予定通りに気分が悪いと部屋へと戻り、そこでルイズから説明を受けた。あまりの内容にとてもではなく、信じたくもなかった。
 そんなモンモランシーにルイズは「証拠があるから……」と自分の部屋へと移動させる。そこにはニヤニヤ嗤っている才人がいた。そうしてデルリンガーを証拠として示され、更にはルイズの指示でも勝手に身体が動いてしまい、とどめにリーヴスラシルの能力で犯されるに及んで納得するしかなかった。

 もう既に悪魔の手の中に墜ちていた。取り返しのつかない状況へと、既に追い込まれた後だった。モンモランシーはこれからが本当の悪夢だと、そう知ってしまったのだった。



 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アルハンツ・ツェルプストーは嫌われ者である。そしてそれにはそれなりの訳があった。

 キュルケは自由奔放な性格をしていた。美貌とグラマラスな肢体を誇り、他人の恋人にまで手を出してくる。
 これは入学してきた時から変わらず、現在も片手では足りない数の男子生徒を手玉に取って楽しんでいる。
 入学当初、そんなキュルケに憤慨した女生徒の有志が抗議に行った時などは「わたくし、本当に大事なものなら手を出しませんことよ」と放言までした。
 つまり男子生徒がキュルケに熱をあげるのは、その男子生徒が恋人に対して本気ではない。あるいは恋人に魅力がないから男子生徒が浮気をするのだと皮肉ってみせたのだ。
 この時をもって、キュルケが女生徒から忌み嫌われる存在になったと言えるであろう。
 確かに正論であり、自由恋愛とはそうしたものではあるが、そんな事を言って悪びれないとなれば、それはもう、嫌われたって仕方がない。

 憤慨した女生徒達は復讐を決意した。あまり褒められたことではないが学院から追放、最悪は死んでも構わないとばかりに罠に掛けようとした。そしてそれはあえなく失敗してしまう。
 メイジとしての格の違いを見せつけられ、返り討ちにあって恥を晒すことになり、それ以来下手に手を出せないことになってしまったのだ。
 そして現在、熱し易く飽き易い性格は相変わらずであり、男子生徒に手を出し続け、まるで女王のごとく振る舞っている。
 貴族の礼儀としてあからさまな無視をするわけにもいかず、報復も怖いので挨拶されれば答えないわけにもいかない。
 トリステイン人が野蛮と蔑むゲルマニア出身らしく、平民の従業員にまで媚を売るような態度を見せると言うのだ。まったくもって嫌われ者に相応しいと言えた。

「……なーるほどね。つまりだ。恋多き女というか、そんな移り気な性格だから、目に留まってしまえば絶対にちょっかいを掛けてくる。
俺が態々手を出さなくとも、何か目立つことをしさえすれば、例え平民だろうと向こうからちょっかいを掛けてくるって、モンモランシーはそう思うわけだ」

「……そうですわ。わたしはそれほどでもありませんけど、キュルケが皆さんから嫌われている理由の一つが平民にも色目を使うからですわ。そんなことになれば平民に手を出す女に負けたって面目丸つぶれですもの。
 ですからわたしかルイズと付き合ってるって、そんな素振りをキュルケの前で見せれば、必ずや興味を持ってちょっかいを掛けてくると思いますわ……」 

 ルイズの部屋である。奴隷へと堕とされたモンモランシーだったが、どうしても諦めきれないので教師なり友人なりに訴えようと試みた。ところがである。
 訴えるどころか不自然な態度も取れない。思っていることとは違う事しか言葉が出せない始末だった。

「くく……なるほどね。どうせ堕とすなら、向こうから手を出させる方が面白いか。モンモランシーで試して、リーヴスラシルがどれほどのものか大体理解できたしな。
 別に杖があろうとなかろうと、瞬間的にでも目を意識させて声を掛けりゃあ、大概は大丈夫だってわかったしな」

「……そうですわね」

 ルイズは辛そうな表情で忠告していた。

「……ねぇモンモランシー、わたしもそうだったから良くわかるの。でも、何をしようとしたかは報告させられるし、嘘を言う事はできないわ。そうしたらそれを名目にしつけをされるからやめたほうがいいと思うの」

 それでモンモランシーは完全に諦めた。確かに今のルイズの境遇がそうなのだ。

「となりゃあ、後は単純だ。そうなるように仕向けて、窓の外にオマエかルイズかを待機させて置けばいい。そうすりゃ馬鹿共もフライで飛んでくるとかで窓から来ることも出来ないよな? 
 朝、気付いてみりゃ奴隷に堕ちてるって寸法だ。…よし! その線でいこう! ……くく…モンモンや、そちも悪よのぅ。そのようなこと、この才人もまったく気が付かなかったぞ?」

「……そうですわね」

 藁に毛布一枚を寝床とし、全裸に首輪で生活させられ、たびたび食事を抜かれ、しつけと称して鞭を振るわれる。そんな扱いをされるのはモンモランシーは嫌だった。
 気紛れな才人であるから、自分もそんな境遇へと堕とされる事は充分に考えられる。だが、自分から進んでそのような境遇へとは進みたくはなかった。

「じゃあ詳細を詰めていくぜ? ルイズもそれで構わないな?」

「うん、それでいいと思うわ」

 考えることこそ許されるが、そうしてしまうとしつけの対象とされてしまう。どうしたって逆らえないのは身に染みて理解させられた。ならば素直に才人に従っていた方がいいのではないか? 
 理不尽な仕打ちは少しでも少ない方がありがたいのは当然ではないだろうか?

 こうしてモンモランシーは奴隷の境遇を受け入れた。そして今、キュルケを才人の奴隷の一人に堕とすべく、むしろ積極的に悪巧みに参加する羽目となっていた。



 ギーシュとの一件で才人は穏便に収めようとした。シエスタのためにと、悔しさを押し殺して頭を下げた。屈辱ではあったが言われるままに土下座した。
 それをシエスタは「マルトーさん!」と注進に及んだ。
 泣いているシエスタから苦労しながら一部始終を聞いたマルトー親父。より一層貴族が大嫌いになり、激怒のあまり職を辞してでも抗議に赴こうとした。

「これくらいなんでもありませんって。シエスタのためと思えば、この程度の屈辱鼻で笑ってやりますって。誇りに思いこそすれ、もう気にしてませんから」

 才人は怒りに冷静さを無くしているマルトーを止めた。後任がどのような人物なるかわからないし、せっかく良くしてくれるマルトーがいなくなるのは嫌だったのだ。

 そして止められたマルト―親父。微笑む才人に目を白黒させて驚き、それで幾分か冷静さが戻り、その配慮に感謝した。
 貴族に抗議などすれば解雇されるかもしれない。自分はそれでいい。しかしだ。そうなると部下たちを守る人間がいなくなってしまうと気付いたのだ。
 マルトー親父は「真の勇気とはこのような勇気」だと深く感動し、部下たちに見習えと言わせるほどに才人に感謝した。部下たちも感動した。

 そうして以前にもまして、才人はマルトーやシエスタ、厨房のメンバーと仲良くなっていた。


 そんな訳があったので、今日の才人はにこにこ微笑むシエスタにワインを勧められ、ちょっと気分がよくなっている。今は部屋へと戻る最中である。
 寮塔に向かい、階段をあがる。その時であった。がちゃっと音をさせて扉が開く。出てきたのはサラマンダ―のフレイムだった。

 ……掛かったな。くく…苦労させやがって……。

 窓からフレイムが厨房を覗いているのに才人は気付いていた。
 昼間には直接現れ、微笑んでいるキュルケに戻っていくのに出来わした。
 それでおそらくは今晩仕掛けてくるのでは? そうあたりをつけていた。目論見どおりの展開である。

 さっ、メイジは使い魔の視線を通して見ているんだっけか? 気を付けないとな……

 きゅるきゅると声をあげながら近づいてくる一匹の火トカゲ。内心を押し隠した才人は不審げな視線を向ける。

「ん? なんだよ、フレイム。何か用か?」

 これまでこのようなことはなかったし、キュルケとだって数えるくらいしか話したことはない。こうした態度が自然であろう。
 サラマンダ―はそう考えている才人の上着の袖をくわえると、ついてこいというふうに首を振った。

「な、なんだよ、用件を言えっつーの。服が燃えちまうだろ?」

 サラマンダ―はぐいぐいと強い力で、才人を引っ張る。キュルケの部屋のドアは開けっ放し。どうやらそこへと案内する様子である。

 ……デルフによると動物を支配するのがヴィンタールヴで、知性ある存在を支配するのがリーヴスラシルって話だよな?
 例えばカエルやネズミ程度の知性なら無理だろうけど、このフレイム位の知性があったらどうなるんだろ? 
 う~ん、興味深いな。キュルケを堕としたら試してみるか……。

 学院をルイズと一緒に歩いた。からかい、拗ねたような表情をさせた。
 そんな様子をキュルケの前でアピールした。更には何気ない風に服装の事を相談させた。モンモランシーからはギーシュとの一件を噂として流し、キュルケの耳に届くように仕向けた。
 そうしてようやく、やっとのことで獲物が掛かった。あとは釣りあげるだけだと、ニヤリと才人はほくそ笑む。

 くく……キュルケはどうやら経験豊富らしい。嫌がる女をいたぶるのも面白いが…淫乱を徹底的にイかせまくるのも面白い。

 どのようにして誘惑してくるのか? 才人は期待感を胸に、キュルケの部屋のドアをくぐった。



 キュルケの部屋は真っ暗だった。サラマンダ―の回りだけ、ぼんやりと明るく光っている。暗がりから、「扉を閉めて?」と声がした。才人は言われたとおりにする。

「ようこそ。こちらにいらっしゃい」

「えっと、真っ暗だけど、何?」

 質問には答えず、キュルケは指を弾く。すると、部屋の中に立てられたロウソクが、一つずつ灯っていく。
 才人の近くに置かれたロウソクから順に火は灯り、キュルケのそばのロウソクがゴールだった。道のりを照らす街灯のように、ロウソクの灯りが浮かんでいる。

 ……ほほう…こりゃなかなかの演出だ。このあとどう出てくる?

 ぼんやりと、淡い幻想的な光の中であった。ベビードールのみを身に着けた悩ましい姿のキュルケはベッドに腰掛け「そんなことろに突っ立ってないで、いらっしゃいな」と、色っぽい声で微笑んでくる。 

 おおぅ! やっぱコイツは凄ぇ! モンモンがリンゴなら、こいつはメロンってとこだな。くく…やっぱこれくらいなくっちゃな、これならパイズリもいけそうだぜ……。

 才人はまずその豊かなバストに目を奪われた。それはそうであろう。基本的にはおっぱい星人なのである。ロウソクの淡い灯りはシルエットをくっきりと浮かび上がらせ、ただでさえ豊満な肢体を強調していた。
 これを今から好きなように扱えると思えば、期待感はいやでも高まってこよう。

「あなたは、わたしをはしたない女だと思うでしょうね」

「……いや、そんなことは思わないけど……」

「思われても、しかたがないの。わかる? あたしの二つ名は『微熱』」

「……ああ、それは知ってる。それで?」

「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」

「まあ、そうだな。いけないことかも知れん。…それで?」

 キュルケは悩ましげな表情に潤んだ瞳で迫ってくる。噛みあっているようで、なんとなく噛みあっていない会話。気にした様子も見せない。
 どうやら自分の世界に没頭していて、それどころではないのだと才人は思った。

「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」

「うん、まあ、許すって言えば許すけどな」

 まるで自信の塊のようだと才人は思った。断られるとはまったく思ってもみないのだろう。実際、以前の才人なら困惑しつつも、その野性的な魅力にはあらがえなかったに違いない。

 ……くく、なんだかなぁ。安っぽいB級シネマみたいだぜ。そうすっとこの後の展開は間男を引き込んだ女に、その彼氏が現れてご和算になるって寸法か? 
 で、マヌケな俺は女に裏切られて、強引に襲われたとかで制裁されるってか?

 しかしである。今はそんなことは思わない。綿密な計画な元に、キュルケを堕とそうとしにきている。だから焦る事などありえない。芝居を楽しんでいるのであり、ニヤニヤ嗤いそうになって抑えるのに大変だった。

 どうすっかね? いつまでこの芝居に付き合えばいいんだ? 気を抜くとついつい吹き出しそうになっちまうんだよなぁ。

 キュルケは、すっと才人の手を握ってくる。その手は温かく、それから一本一本、才人の指を確かめるように、なぞり始める。

「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」

「まあ突然だな。いや、それはいいんだけどな」

 流し目を送ってくるキュルケ。さあ、これで仕上げだと張り切っている。

「あなたが、ギーシュに手をついて謝ったって聞いて。あたし、失望してしまったの。なんて情けない男なんでしょうって。所詮は平民、誇りなんてないんだって思ったわ」

「…………」

 その言葉で才人はすっと目を細める。キュルケはそんな才人にニコリと微笑んで続けた。

「でも、それは間違いだったわ! 間違いに気付いてしまったの! 他の人の名誉のために! その為ならと喜んで頭を下げるなんて出来ないもの! あたしね、気付いた瞬間に痺れたのよ。信じられる! 痺れたのよ! 情熱! あああ、情熱だわ!」

「…………」

「二つ名の『微熱』はつまり情熱なのよ! その日から、あたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。マドリガル。恋歌よ。あなたの所為なのよ。サイト。あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせたり……。ほんとに、あたしってば、みっともない女だわ。そう思うでしょう? でも、全部あなたの所為なのよ」

「……俺の所為ねぇ……」

 嘘つけと才人は思った。

 フレイムが厨房に現れたのなんて昨日の話じゃねーか。それなのに何で毎晩って話になるんだ? 恋歌を綴ったってんならソレを見せてみろってんだ。

 才人は苦笑いしてしまう。無粋なのはわかってはいるが、ツッコミどころがありすぎるであろう。
 そんな笑いをイエスと受け取ったのかキュルケはゆっくりと目をつむり、唇を近づけてくる。

「……えっと、キュルケって他の人と付き合ってるって聞いたんだけど……」

 しかし才人はキュルケの肩を押し戻した。何を言ってるの? とキュルケは目を丸くする。この流れで断られるとは考えもしていなかったのである。

「いやね、嬉しいのは嬉しいんだけどさ、他に好きな人がいるならこういうのって拙いんじゃないか?」

 ニヤリと悪戯っぽく笑いながら話し掛ける。さて、キュルケはどう返してくる? こんなやり取りは大好きそうな雰囲気ではあるが果たして?

 キュルケは驚きから覚め、顔を赤らめた。

「そうね……。確かに恋人はいたわ。でも、それはもうお友達よ。今はサイトただひとり。恋は突然のものよ。今、あたしの体を炎のように燃やしているのはサイトだわ。一番恋してるのはあなたよ。サイト」

 またしても嘘つけと才人は思った。この調子なら一秒後にでも前言を翻すだろう。

 ……こりゃ過去の男どもに同情するわ。この調子じゃちょっかい掛けちゃあ、直ぐに捨てるを繰り返してたに違いないな。
 大体だ、この期に及んで“一番”ってのはなんなんだ? “一番”ってのは? …くく、その火遊びの報いを受け取る方向で奴隷にするか?

 もう我慢出来ないとばかりにキュルケは身を乗り出してくる。両目をつむり、「とくかく! 愛してる!」と呟いた。才人の顔を両手に挟み、真っ直ぐに唇を奪ったのだった。



[27351] 微熱から情熱へと
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/08 19:39
 石造りの部屋である。キュルケの部屋は基本的にはルイズの部屋と同じである。本棚の蔵書や化粧台の種類など、わずかな調度品の違いの他にはこれと言った違いはない。
 これは私物を持ち込んでいるからなのだろう。才人はそのキュルケの部屋で、情熱的なキスを受けていた。

 ……流石はキュルケだ。いきなり舌まで入れてくるとは思わんかったぜ。

 さて、才人は二人の奴隷を抱える身とはなっている。だがキスの経験と言えばそれほどでもない。
 経験したのはルイズとモンモランシーのみであるし、モンモランシーに至ってはほんの数えるくらいしかない。
 内容で言えばディープ極まりないのではあるが、回数で言えばそれほどでもない。

 ……ほぅ…こいつは悪くない。流石のテクニックって言ったところか……うん、いいな。

 しかもである。ルイズにしても、モンモランシーにしても、愛撫など殆どしてこなかった。むしろ責めと言った方がしっくりくる。
 濡れさせる準備は自前でやらせてきたし、自身の準備は奴隷たちに肉棒を咥えさせることでしてきた。
 つまり何が言いたいかと言うと、経験の絶対量が足りないのである。

 才人はキュルケの腰に手を回した。

 これはいけないと才人は思った。このままでは主導権を取られてしまう。キュルケを奴隷にしようと目論んでいるのに、されるがままではいかにも拙い。どうやらキスのテクニックでは及ばないと、才人としては認めざるをえない。

 くく…キュルケ、確かにキスでは及ばんかもしれん。だがメスを扱うテクニックなら、それなりに自信がある。勝負はこれからだぜ……。

 ならばと思った。キュルケも経験豊富だろうが、セックスに関してなら才人も負けていない。なんと言っても密度が違う。
 キュルケはそこらのひ弱な貴族の学生を相手にしてきただろう。対して才人は人数こそ二人ではある。しかし、遠慮のない甚振りによって女の弱点と言うのを知悉することが出来たのだ。
 ルイズにしても、モンモランシーにしても、嘘偽りない感想を答えてくれる。本当の弱みと言うのを晒してくれる。この違いは大きいだろう。

 くく……それにだ。キュルケ。過去の男と比べてどうなんだろうな?

 更にである。規格外に成長してきているその肉棒。もはや女殺しと言えるものになっている。太さ、長さ、エラの張ったその形。その硬さは鉄の棒のようであり、耐えるも出すも自由自在なその耐久力。
 呆れるほどの精力に、出して直ぐ勃つ回復力。これに耐えられる女がそうそういるはずがないのだ。

 さあ、勝負だキュルケ! 精神支配の力なんぞ使わなくとも逝きまくらせてやんよ!

 そうと決まればもはや実践あるのみである。愛撫など殆どしたことはないが、むしろキュルケのように経験豊富ならば、その荒々しさこそを求めているだろう。
 つまりどっちに転んでも構わない。才人はキュルケの身体を責めていく。

「ぁああ……や…はあんぅ……ぁ……」

 腰に回した手からは温かみを感じることが出来る。ベビードールしか着ていないのだ。布越しで愛撫されると、その感触は確かに伝わる。
 さわさわ、さわさわ、と撫でていき、首筋が弱いと踏んだ才人は軽くキスしながら下に降りていく。

「っ…あ…はぁ…ぁ………ん……」

 降りていくのは唇だけではない。自然な動きで身体も降りる。複雑な動きの左手はその標的をお尻へと変えていく。きゅっと力を込めながらお尻の肉を掴む。キュルケはぴくっと身体が震える。
 さあ、ここが肝心であろう。抗議の言葉を抑えるべく、「キュルケ……」と呟きながらキスによって黙らせる。

「ぁ…んんンン…………っ…ぁ……」

 ここでがっつくようではいけない。まだまだキュルケは愛撫を欲しがっている。
 もしここでベビードールを脱がせたり、自身の服を脱ぐような素振りを見せようものなら、キュルケは興ざめだと呆れてしまうだろう。
 そう、このような時には下着な中に手を入れればいい。そうやって直接素肌に触り、抗議できないよう、またもやキスによって黙らせる。

「っはあああっ……っ…ぁン…ああんぅン……」

 布越しのキュルケを存分に味わってから次に進む。視線を合わせてもう一度了解を取り、ベビードールを剥ぎ取っていく。そう、協力させることによって、キュルケの意志で脱がさせる。そうすれば主導権を握り続けられるだろう。
 才人もこの時に上半身のシャツを脱ぐ。

「っああん……て、手慣れてるのね…サイト……す、凄く上手だわ……」

「ああ、キュルケが綺麗だからな。大切しようとしたら自然とそうなっちまったのさ……」

 小さな布きれ一枚とされてしまったキュルケにニヤリと笑い、ぎゅと抱きしめてみせる。
 少々強めに抱いてやるのも効果的である。そうすることで女は安心し、これ以上を許しても良い気持ちになれる。
 露出させた乳房にキス。触れるか触れないかの絶妙な位置関係を保ち、乳首だけは直接口に含んでみせる。

「っはぁぁあああぁんんぅンンッ……!」

 くりくりと乳首を舌先で転がし、ちょっと強めに甘噛みしてみせる。甘い悲鳴をあげるキュルケ。注意をそれたその隙間を狙って右手をショーツの正面へとずらしていく。

「あんっ! ……っほ、ほんとに手慣れてるわ。……ね、ねぇ、どれだけの女を啼かせてきたの?」

「うん? ああ、そんな当たり前の事聞くなよ。キュルケが初めてに決まってるって」

 ニヤリとしながら嘘ばっかりと膨れるキュルケにキスをして宥め、ショーツの上から愛撫する。
 少なくともしっとりと濡れるまで、ショーツの中には手を入れてはいけないだろう。
 それまでは愛撫しながら各所にキスをして弱点を探し、羞恥に抗議する様子を見たなら唇にキスすることで黙らせる。

 ……くく…んなこと言ってもなぁ、そう言わせるために言ったんだろが! 俺だってこんな恥ずかしいこと言いたくないって―の!

 キュルケは快感によって悶え、吐息も荒い。羞恥のあまりに紅潮させた顔を背けている。
 流石に男心をわきまえていらっしゃると、内心苦笑した才人だが頃合いだなと思った。
 ここで自身も全裸となり、才人自身も高めてもらうことにした。その許可を得るべく「いいかい? キュルケ?」と囁いていく。


「っぁ…はぁン……はぁぁ…………ん…っいいわ、サイトならいい……わたしの初めてをサイトにあげるわ……」

「…………へ?」

 だが返ってきた答えは意外なものだった。才人の顎がかくんと落ちる。

 ……初めて? 初めてっつーと、その、初めて?

 経験豊富なキュルケ故にフェラチオしてもらおうかと思っていたのだが、“初めて”とはどういう意味なのだろう? まさかこの流れで初めてがアナルだとの意味でもあるまい。
 そうなると答えは一つなのだが本当に?

「……あの~、キュルケさん。つかぬ事をお尋ねしますがね、“初めて”とはいかなる意味でしょう?」

「っば、馬鹿っ! は、初めては初めてよっ! あたしの処女をサイトにならあげてもいいって言ったのよ!」

 才人は頭を抱えた。

 おいおいおいおいっ! 予定外ってもんじゃねーぞ! 次の日に気付いたら奴隷にされてたってのが目的だったんだぞ? だからフェラで飲ませるしかなかったんだぞ?
 流石に中出しは許さんだろうからそれしかなかったのに、初めてだとフェラしたことあるのか? してくれるとして飲んでくれるのか? 一体どうしたらいいんだよ!

 ちらりとキュルケを確認してみる。キュルケはむう、と膨れて拗ねていた。

「……あのさ、てっきり経験豊富だとばかり思ってたんだけど? ほら、男子学生とよくデートしてたし、今日だってこんな風に誘ってくるしさ。……初めてってどゆこと?」

「失礼ね。あたしだって貴族よ。処女の重要性はわかってるし、学院の男子だってそれは同じよ? 付き合っていてもキスか、身体を触らせるまでしか許さないわ」

 キュルケは膨れながら抗議してくる。才人は頭が痛かった。

「……そうしたらさ、キュルケさん。何で初めてをあげていいって言った訳? そーゆーことなら途中で断れば良かったのでわ?」

「何よ! 不満だって言うわけ? そりゃあたしだって処女の重要性は知ってるわ。でもね。あたしは家督を継ぐ身でもないし、いい男がいればって思ってたわけ。
 それなのに他の男どもは怖気づいたり、がっつきすぎてたりで、今までその気になれなかったのよ!」

 キュルケは怒りも露わに「どうするの? サイトも怖気づいちゃうわけ?」と睨んでくる。
 才人は「ははは……」と乾いた笑いを浮かべた。もうなるようにしかならないと諦めた。

 こりゃ予定変更だな。とにかくフェラだけはさせる。んで強引でも飲ませて、入れてから腹かケツにでも出すことにしよう。嫌がるようだったら仕方ない。リーヴスラシルで命令するしかないか……。

 理想は気付いたら奴隷だったが、この場で命令することも視野に入れておかなければならないだろう。ままならないものだと苦笑した。

「いや、そんな事ないって。別の事で悩んでたんだよ」

「……どういうこと?」

 苦笑いしながら説明する。こうなるとは思ってもみなかったが、躊躇した理由として恰好なものがあるのだ。才人は「いや、実はね」と言ってズボンを脱ぎ、パンツも脱ぐ。するとキュルケは目を見開いた。

「こーゆーことだからさ。処女だとちょっとばかりキツイかなって思ったんだよ。キュルケこそどうする? コレ見て怖気づいちゃう?」

 現れたのは才人自慢の一品である。へそまで届くほどである。赤黒い色をし、各所に血管が浮き上がり、びくびくと蠢いている。

「で? どうする。続きをやるか? 俺としては続きをやりたいんだけど」

 もうこうなっては流れに任せるしかない、そう才人は開き直った。躊躇して嫌がるようなら命令にするしかないだろう。苦笑いしながらキュルケの反応を待つことにした。

「……ねえ、触ってもいい?」

「どうぞ」

 ぺたぺたとキュルケは触ってくる。こわごわとした手つきではあるが、特に嫌悪感はないようだと、そんな風に才人は見定めた。
 優しく握って硬さを確かめ、カウパーに触れてにちゃにゃとした粘度を確かめてくる。

「……初めてって言う割には手慣れてるよな? その、怖いとかって思ったりしないわけ?」

「え? あ、うん。言ったでしょ? 触らせるくらいならさせた事があるって。だからあたしだって男のモノくらい何度も見てるわ。何人かは舐めてあげたこともあるしね」

 微笑みながらキュルケは返してくる。言われてみれば納得だった。才人も「そりゃ、そうか」と苦笑するしかない。

「まあね、これほど立派なのは初めてだけど…近いのはいくつか見たことがあるわ」

 肉棒をこすりながらニコリと微笑んでみせる。またしても才人は納得した。

 確かに女殺しと言って過言ではない肉棒ではあるが、それは才人の目で見ての話である。
 ここハルキゲニアは顔立ちといい、金髪や赤毛などといい、西洋風な人種である。
 日本人である才人と違い、遺憾ではあるが元々の基準が違うのだろう。

 なんだか、とっても、才人は悔しかった。それでも納得するしかなかった。

「……で、キュルケさん。ってことは続きをするってことでいいんだよな?」

「ええ、構わないわ。あたしの初めて、才人にあげるわ」

 にっこりと笑ったキュルケは才人の胸へと飛び込んでくる。才人はベッドへと押し倒された。



 ……こうなるとまんこに入れるのはOKだよな? でも、流石に中出しは駄目だって言うよな? 恍けて出しちまえばそれで済むんだが、それじゃあ面白くない。……さてさて、一体どうしましょうかね。 

 キュルケはなんと処女であった。大胆な恰好をして女王然として振る舞い、あれだけ男どもを手玉に取り、才人を誘惑してきたと言うのに処女だったのである。予想外にもほどがあろう。

 ま、なるようにしかならねえか。とにかく今はフェラさせて飲ませる。これしかない。

 キュルケはその豊満な胸をむにゅっと押し付けてくる。そして才人の唇に夢中になってキスしてくる。これはこれで大変よろしいのだが、このままではいけない。
 何故なら才人はキュルケを奴隷として扱うつもりなのだ。上位にあるのは自分でなくてはいけない。
 気分を切り替えた才人は主導権を取り返すことを決意した。

「キュルケ、俺のも舐めてくれないか?」 

 夢中になっていたのにその顔を押し退けられたキュルケは不満げな表情となった。
 キスしてあげているのだ。処女をあげるといっているのだ。それなのにそれを遮るなんて、なんと無粋でデリカシーがないのだろうと思った。

 くく……んな顔されてもなぁ。こっちだって都合があるんだよ。

 そう、才人にも都合がある。キュルケはキスしながらそのショーツのスリットを解いていた。全裸となると、その股間を押しつけるようにして刺激している。

 これはこれで大変よろしい。

 だが、それでは才人は困るのだ。キュルケはこのまま最高潮に気分を高め、そしてそのまま騎乗位で挿入してくるつもりなのだろう。
 おそらく無意識ではあるが男の下位にあるのを嫌がり、後背位や正常位は避けるつもりなのだろう。それは才人にとって避けたいのだ。
 何故なら普通はそれで何の不都合もない。股間を押し付けられることで肉棒は猛ったままであるし、カウパーだって出ている。あとはキュルケが完全に高まり、覚悟さえ決めればそれでいい。

 繰り返すがこれはこれで大変よろしい。だが、それでは才人は困るのだ。

「いやな、キュルケは他の奴を舐めたことがあるっていうし、俺もキュルケほどのおっぱいは初めてだしさ。パイズリでフェラなんぞして欲しくなったんだよ」

 今の才人の目的は処女を奪うよりもフェラチオをさせる事なのだ。
 まあ、後始末として舐めさせてもいいが、処女ならばそれは嫌がるであろう。
 自身の愛液と混じってしまうし、何より破瓜の血がついてしまう。普通の女はそれを嫌がる。それはキュルケも例外ではないだろう。
 そうなると結局は視線を合わせ、一時的に支配してから命令となってしまう。ここまで来たら目的を果たしたい。フェラチオをさせ、精液を飲ませるチャンスは今しかないのだ。

「どうだ? やってくれないか? それからそんな風に自分でやらなくてもさ、俺がやってやるよ」

「……いいわ。それじゃ、あたしの魅力で満足させてあげるわ」

 ニヤリと笑いながら提案した。しばし考えたキュルケだったが、納得すると微笑んで見せた。そして顔を赤らめさせると背けて見せる。
「自分でやらなくても」との才人の言葉に恥ずかしくなったのだ。
 夢中だったので気にならなかったのだが、改めて指摘されると流石に恥ずかしくなってくる。

「そ、それじゃ、サイト、あたしの正面に来てもらえるかしら?」

「おう、そんじゃ、よろしくな」

 キュルケはその豊満な乳房に才人の肉棒を包んでみせる。

 正面へと移動した才人は目線を合わせ、ニヤリとすることで合図とした。それを受けてキュルケはコクリとうなずき、むにゅ、むにゅ、むにゅっと乳房を持ち上げこすりつける。

 っおうっ! こいつはいいぜ! 刺激っつー点じゃイマイチだが、満足感はピカイチだな。っ……そうそう、そうやってパイズリしながらちろちろ舐められっと、っくぅぅ……! こいつはいいぜ!

 むにゅ、むにゅ、むにゅ、っと、キュルケは胸を持ち上げる。

 その豊満な乳房は才人の肉棒を隠すに充分だった。キュルケは谷間に埋もれた肉棒を挟んで、きゅっ、きゅっ、きゅっと刺激し、どうしても露出してしまう先端部をちろちろと舐め、これでいいのかと上目使いに確認してきた。

「そうそう。うん、そんでそのまま刺激して、しばらくしたら咥えてくれないか?」

「っん…わかったわ、サイト。見てなさいよ? 直ぐに出させてみせるわ! そうならないように頑張りなさいっ!」

 声を掛けられたキュルケは挑発的に笑って見せる。

「…っん……んっ……んっ……ちろちろちろっ……!」

 パイズリとは結構辛い。立ったままですると尚更である。キュルケとしても早く追い込んで射精に追い込みたい。
 乳房だけではなく乳首でくりくりっと肉棒を刺激し、ちろちろと尿道口を刺激しながら才人の反応を窺う。
 ニヤリと笑う才人にキュルケも挑発的な視線を送り返し、それから唇をすぼめてんっんっんっと、頭を振る。

 大したもんだぜキュルケ。くく…本当に処女か? これならあとはタイミングを計るだけだな。

 んっんっんっと、キュルケは頭を振る。ちらちらと才人に視線を送り、ゆっさゆっさと胸を揺らす。そしてまた唇をすぼめると才人へと視線を送り、両手で挟むとゆっさゆっさと揺らしてくる。

 っ合格! まだ先はあるんだし出してやる! しっかりと飲むんだぜ、キュルケ!

 満足した才人は射精することにした。「キュルケ」と小さく呟いてから視線を合わせ、コクリとうなずいたのを合図として射精する。

「!? っぶふっ……っ…ごきゅ…ごく…ごくごく……ごきゅ……」

 どぴゅるるるるるるるっと出された精液。それをキュルケは飲み干していく。ごくりごくりと喉が動くのが才人からも見えた。

 っくぅっ!……くく…おめでとう、キュルケ。これでオマエも俺の奴隷に仲間入りだな……。

 才人はキュルケを見下ろして満足だった。固定するために添えていた両手を離し、その髪を梳いてやる。

 っな、なんなのこの量! こんなの飲みきれるわけないわよ!

 そしてキュルケは目を白黒しながら驚いていた。何しろ規格外の精液量である。実はキュルケ、舐めるならまだしも精飲は初めての経験だった。

 確かに肉棒を咥えたことはある。だが、それは本当に咥えただけだったのだ。
 ちろちろっと刺激してあげ、手コキによって射精に導いたことこそあったが、本格的なフェラチオとなると、今回が初めてだった。

 そ、それに臭いも凄いっ! 精液ってこんなに凄いものだったの!?

 だから精液というものは知っているし、射精というものも知っていた。そのつもりだった。精液の量など高が知れていると見くびっていたのだが、キュルケはとんでもなかったと後悔した。
 今回は覚悟してのバージンブレイク。処女を捧げる大切な相手になるのだからと、少しばかり躊躇ったが我慢することにしたのだが、それは間違いであったと思った。

「っ~~ッ、ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ……っ」

 だが、もう、こうなるとキュルケにしたって意地がある。どの程度かは言わなかったがフェラチオの経験があると告白してしまったし、それなのに今更「もう無理よ」と吐き出すわけにはいかない。
 喉に張り付く不快感、鼻へと抜けていくその異臭、それらを堪えて飲み込んでいく。口の端から零れるくらいは勘弁して欲しいと思う。

「~~~~ッ! ぱああはっっ! ッ~~っんんッ、…はぁ……はぁ……はぁ……っ、す、凄いわね、サイト。っあ、あたし、こんな量なんて初めてだわ。…いつもこんなに凄いの?」

 キュルケは動揺を抑えようと才人へと問いかけた。ごしごしと口元を拭いてみる。苦笑しているのに気付いてキッと睨み付ける。

「くっ、そりゃキュルケ。君があんまり魅力的だから興奮してたんだって。おかげで見てみろよ?」

 そういって肉棒へと視線を向けさせた。

「!……凄いわね。今すぐだって大丈夫そうじゃないの……」

「だろ? それにルイズと一緒に生活してりゃあ自分で出来ないしな。そんだけのことさ」

 じっと思案していたキュルケはそれで納得する。確かにその通りだ。でも、そうなるとキュルケはおかしくなってきた。

「ん? どうしたんだ?」

「いえ、別に、なんでもないわよ?」

 これほどのテクニックで、これだけの肉棒。故郷である東方では女を随分と啼かせてきたに違いない。それなのに今はルイズと同居している所為で、自慰さえ満足にすることが出来ないのだ。
 お子様なルイズではセックスなど考えもしないだろうし、それにもしその気になったとしても、この才人のサイズでは受け入れられないだろう。そう思いあたったキュルケはなんだかやけにおかしくなった。

 くすくすとキュルケは笑い続ける。

 ……ふむ、せっかくだから今日はバレたくないんだが……このままだと二回目の射精で不審に思われるかもしれん。となると……そうだな、この点だけは不審に思わんようにしとこう。
 くく……それと褒美だ。今日だけは幸せな気持ちになれるよう、痛みも抑えてやるとしよう。
 んで、明日になって、ケツのほうで身分を思い知ってもらうようにするか。

 才人もキュルケにニヤリと笑い返した。

「キュルケ、とりあえず顔を洗って来いよ。次は俺がやってやるからさ。くく…なにしろこの通りだ。充分ほぐさないと痛いだろうしな?」

「っもう! いじわるね。あなた。待ってて、直ぐに用意してくるから!」

 ベッドから降りたキュルケは杖を用意し、錬水によって水を作った。

 ……ホント、魔法って便利だわ。これじゃ水道なんて作ろうって気にならんわな。

 ぷりぷりとしたお尻を見ながら改めて呆れた才人だったが、ふと考えたことで思い出した。
 窓にまで歩いてカーテンを開ける。光が漏れ、下にいた人物が見上げてくるのが見えた。
 それはルイズだった。

「どうしたの? 窓なんか開けて。誰かに見られちゃうかもしれないわよ?」

「……いや、ちょっと外の空気を吸いたくなっただけ。直ぐに閉めるって」

 目線を送って嗤ってみせる。上手くいったという合図だ。うなずいたルイズがパタパタと中庭から寮へと戻る。これで廊下を見張っていたモンモランシーへも伝わるだろう。

「さ、キュルケ。直ぐにも出来そうだけどさ、それはがっつくみたいで面白くない。一休みしようぜ? それと俺にもタオルか何か持ってきてくれ。くく……そしたらキュルケをいじめてやるよ」

「もう! 本当に意地悪ね。あなた。……でも、その通りよね。ん、待ってて、タオルと…それから今お茶を用意するから一休みしましょ?」

 悪戯っぽく語り掛ける才人にキュルケは膨れてしまう。そしてそのあとは幸せそうに笑い、クローゼットへと歩いていく。

 ……くく…そう、虐めてやる。明日っからは本格的に虐めてやる。今日だけはキュルケ、夢を見させてやるさ。

 キュルケはお茶の準備を進めている。錬水で作った水を作り出した炎で温めている。
 そして何かを感じたのか、ふとキュルケは振り返ってしまった。目に映ったのはお尻を見ながらニヤニヤ嗤っている才人である。

「もう! えっちね、サイト! 嫌らしい目をしないで! もうすぐなんだから我慢しなさいよ!」

「勘弁してくれって。くく…そんくらい良いじゃねーか」

 膨れて抗議しているというのに、才人も抗議することで応えた。その態度にキュルケは腹立たしく思う。なんといじわるなのだろう? 
 初めては誰だってあると言うのに、自分は経験豊富だからと、余裕を見せられるのはなんと悔しいのだろう?

 だが、キュルケは自然と笑顔に戻れた。笑っている才人に、何だか馬鹿らしくなったのだ。
 考え方を変えてみよう。相手が経験豊富で、自分が初めてなのは恥ずかしい。でも、そんな彼に初めてを捧げるのも悪くない。リードされるのも悪くないではないか。

「ふんっ、見てなさいよ? 絶対満足させて見せるんだからね?」

「ん? くく…期待させてもらいましょう。こっちこそ満足させてやるさ」

 ニヤニヤ笑う才人がとてつもなく憎たらしい。でも、それがとてつもなく好ましい。キュルケは「さあ、お茶が入ったわ。一休みしましょ?」とウインクしてみせる。
 このあとどうやってこの不利な状況を覆すか? 考えているのがとても楽しかった。



 カーテン越しのほのかな灯り、ランプによる燐光。それが闇に落ちた部屋を照らしている。
 柔らかく見事な胸。情熱を表す紅い髪。弾力のある張りのある褐色の肌に、メリハリの利いたそのくびれ。シルエットに浮き上がるキュルケの肢体、それはまさに一級品と言えた。

「さ、お嬢さん、覚悟は出来ましたか?」

「……ええ、覚悟は出来てるわ。あたしの初めて、才人にならあげるわ」

 キュルケは才人の問い掛けにうなずいた。悪戯っぽいその表情が、何よりもキュルケを安心させてくれる。この人となら――ここにきて全ての不安は除かれた。

 痛みはあるだろう。でも、もう覚悟は決めたのだ。才人になら耐えられる。視線を合わせ、微笑んでみせることで合図を送る。才人もまた微笑んでみせ、それからゆっくりと、その身体を被せてきた。

「!? っかっはっ…~~~ッ、はぁ……はぁ……はぁ…ッく…っぁ…っ……」

「落ち着くんだ、キュルケ。ゆっくりと息を吐いて、身体の力を抜いて」

 覚悟はした。充分な愛撫も受けた。それでも、やっぱり、これまで経験したことのない痛みである。
 一体どこが弱点なのか? それを探るために全身にキスをされ、あまりの恥ずかしさに抗議した。でも、その口はキスによって塞がれた。耳たぶ、首筋、乳房、わき腹、秘口と降りてきて、同時に両手を使って愛撫を受けた。

「!あっああ……!っい、痛いわサイト! す、凄く辛いの! ッ~~、も、もうちょっとゆっくりして!」

「大丈夫。このまま息を整えて。……いいか、キュルケ? 躊躇っていても痛いだけだ。このまま一気に奥まで入れていく。…いいか? このまま息を整えて、俺の首にしがみついて耐えて。…それで覚悟が固まったら、俺の目を見て合図するんだ」

 大きく足を広げさせられ、入念なクンニリングスを受け、キュルケの方から「もう大丈夫だから」と顔を赤らめても、「まだだよ、キュルケ。充分に濡らさないと痛いんだ」と、笑いながら諭された。

「っ~~~~ッ…はぁ…はぁ……ッん…はぁ………っわ、わかったわ。も、もうちょっと待って。っ今、息を整えるから……」

「いい子だ。頑張れ、キュルケ」

「~~~っ…はぁ…はぁ…ほ、ほんとう、いじわるね、あなた。っ…こんなにあたしが苦しんでるのに、っわ、笑うなんて……」

「ん? そりゃあ仕方がない。やることは全てやったし、あとはキュルケの覚悟次第だ。それともやっぱり、諦めますか、お嬢さん?」

 初めてなのに指を二本も入れられ、奥の奥まで愛撫された。粘ついた水音に恥ずかしくなって目を閉じてしまった。すると才人は「キュルケ、愛してるよ……」とキスしてくる始末である。

――愛してる。

 驚きで目を見開いてしまった。考えて見なくても初めてだ。才人は今まで綺麗だとは言ってくれた。でも、まだ好きとさえ言ってくれていなかったはず。

 本当に? 本当に? 本当に? 才人が“愛してる”と言ってくれた!?

「っそ、そんなわけないでしょう? ……はぁ…はぁ………ん、大丈夫。いつでもいいわ」

「ああ、痛いのは一瞬だけだ。そのあとは俺の首にしがみついて耐えていればいい。そのあとはゆっくり、出来るだけのことをすればいい。出来るか? キュルケ」

 その時、本当に覚悟した。どれだけ痛かろうとも受け入れてみせる。どれだけ辛かろうとも耐えてみせる。
 だって、しょうがないではないか。そんなことを言われて愛しいと思わない女がいるわけがない。そんなことを言われて堕ちない女なんているわけがない。

 それはキュルケにしたって例外であるはずがないではないか。

「っはぁ…はぁ…っっ大丈夫、もう大丈夫よ、サイト!」

「よし、それじゃあいくぞ? 大丈夫、痛いのは一瞬だけだ」

 キュルケはぎゅっと目を瞑ってその瞬間に待つ。言われた通りに才人の身体にしがみつく。あたたかい温もりを感じ、何だかとても安心できる。そうやって訪れる瞬間を待ち受ける。

 っ来て! サイト! あたしがサイトのものだって証明してっ!

 才人が軽く腰を引いたのがわかった。来るっとキュルケは覚悟する。そして――才人は腰を一気に突き入れた。

「!ぎいいっっ~~~~ッッ、~~くぅぅぅ……! っぁ~~~~っ!」

 肉を裂かれるというのがこんなに辛いと、キュルケは思っていなかった。お腹の中に圧倒的な存在感があって、お尻の方からは例えようのない痛みが来る。
 軍人としての教育を受けた経験があるキュルケだ。大概の痛みなら受けてきた経験がある。だが、これはそれとは別種の痛みだ。
 そう、それでも例えると言うなら…満足できる痛み? それとも納得したい痛み?

「大丈夫か? しばらくしたら動かす。…耐えられそうか?」

「~~っ…はぁ……ん、大丈夫よ…。もう大丈夫だから。もう少ししたら始めてちょうだい……」

 キュルケは微笑んでみせる。確かに痛かった。とんでもなく痛かった。今だって、当然まだ痛い。
 それでも――これを耐えることが出来なくて、どうしてツェルプストーの女と名乗ることができる?
 それに嬉しいのだ。満足しているのだ。苦痛に見合うだけの価値が、今この瞬間にはある。
 だからキュルケは微笑んで見せた。これなら、このあとだって、いくらでも耐えられる。だから、キュルケは微笑んで見せることが出来る。

 そんなキュルケにニヤっと笑い、才人は腰を動かし始める。

 ずっ…ずっ…ずっ…と、ゆっくりと動かし、キュルケの反応を確かめ、いけると判断したなら、少しずつストロークのスピードを上げていく。

「っあ…ぁああんんぅ……はっ…ぁ…ああン……っ…ぁ…」

 痛い。本当に痛い。でも――この痛みならもっと味わっていたい。

「っ~~っ…はぁあぁぁぁぁぁ……、っ…い、…いい……っああン…ぅ……はぁぁぁ……」

 それに痛いだけではない。こなれてきた膣、それは確かな快感を与えてくれる。 才人は腰を使うだけではない。折を見て探し当てたキュルケの弱点をキスすることで愛撫してくる。

「っあぁああンぁあぁぁあぁぁ……す、すごいわ…っぃ、いいわ、サイト。…っあたし、感じてわ……っあ、あたし、今、感じているの……」

 そして何よりも重要なこと。才人の身体に抱きつくと安心できた。キスで宥められる嬉しかった。もう、これだけで充分だ。それだけで嬉しくなって、苦痛を忘れて快楽に身を委ねることができた。

「そっか……よし、それじゃあ本格的に動くぞ? だから腕を離してくれ。我慢できなくなったら、そのまま外にだすからさ」

「っぁ…わ、わかった。そうするわ……」

 才人の身体から手を離す。不安感が襲ってくる。でも、それなら才人を感じるには方法は一つしかない。繋がっている唯一の箇所に意識を集中すればいい。
 そしてキュルケは膣へと意識を向け――

「!っぁああぁぁああぁぁああああッ……! な、なにコレっ! す、凄いぃっ! な、なんなのコレぇぇ……!」

 ストロークが開始され、今まで味わったことのない快感に襲われた。

「っはぁああンンぅぅ……! い、いいぃいっ! なにコレ! い、いいぃぃいいっ! 凄いぃいぃ……! な、なにコレぇぇ……っ、あ、あたし、イっちっゃうッ! あンぁあああぁぁぁっ……! い、イっちゃうぅうううぅぅうッ……!!」

 痛みはある。確かにある。でも、その苦痛が気持ち良い。愛液が溢れ出し、才人はずっずっずっと、リズミカルに注送を繰り返す。

「っはぁぁンぅ……! っあんっ…、ねぇっ! サイト、なにコレぇぇっ……! あ、あたしこんなの初めてぇぇっ……!」

 一突きごとに快感は高まっていく。こんなことはありえない。

「おう! そのままだ! そのまま感じてイってしまえ! せっかくだ、俺が出したらそのままイけっ!」

「!はぁんぅぅ……ま、まだ? も、もう無理よ! っあ、あたしイくっ! もうイくっ! ぃい、イっちゃうぅぅぅぅうぅ……ッ!」

 でも、それで何の不都合がある? キュルケには何の不都合もない。ただただこの快感を味わい、そして才人に合わせて逝ってしまえばそれでいいのでは?

「っくうぅぅ……!」

 才人はキュルケから肉棒を抜き、その狙いを肉穴から胸へと変化させ、どっぴゅるるるるるるるっと、解放させる。そしてキュルケ。温かい液体の感触をその豊満な乳房からお腹へと感じた。

「!っいいっイぐううぅぅうぅうぅうううっッ……!」

 認識した瞬間だった。その瞬間にキュルケは激しく絶頂へと追いやられた。いや、絶頂へと達する許可を、才人からもらったのだと感じた。
 谷間によってようやく遮られた大量の精液。それはキュルケがぴくぴく震えることでつつっ…と、お腹から零れてくる。

 !…ありゃあ、やりすぎちまった。派手に潮を吹いちまうほど気持ち良かったってか?

 そして絶頂へと追いやられたキュルケ。激しすぎる快感によって潮を吹いてしまい、それで才人のお腹をべっとり濡らしてしまっていた。

「……ふぅ…よくやったな、キュルケ。お疲れさん。…どうだ? 痛くなかったか?」

「っ……はぁ……はぁ……はぁぁんっ…っ…はぁ…はぁ……っす、凄かったわ……。っあ、あたしね、こんなに凄いなんて、お、思わなかったわ……」

 放心状態だったキュルケ。荒い息で呼吸を整えようとしていた。問い掛けられ、ようやくのことで才人へと視線を向ける。その顔は驚きで目が見開かれていた。

「くく…いやいや、お嬢さん。痛くなかったかって聞いたんだけどな? 良すぎてそれどころじゃなかったのか?」

 くくく……と、才人は苦笑を洩らす。それでキュルケは自分が何をしてしまったのか思い出す。

 っあ、あたしったら潮吹いてイっちゃったの? っやだ、あたしったらなんてこと!

 恥ずかしくて、恥ずかしくて、でも気持ち良くて、悔しくて。自分でもこの感情をなんと表せばいいかわからない。でも、今すべきはそうじゃないと思った。

「っもう! 本当にいじわるね、あなた。一体どれだけの女を啼かせてきたの?」

「ん? 言ったろ? キュルケが初めてだって。信用してくれって!」

 今すべきは才人に膨れて拗ねる事だと思った。嬉しくて、満足で、それだけわかっていればそれでいいではないか。

「さて、キュルケもそうだが俺もちっとばかし濡れちまった。タオルか何かもってきてくれないか?」

「!も、もう! 本当にいじわるだわ。あなた!」

 ニヤニヤ笑う才人が本当に憎たらしい。それなのについつい笑いそうになってしまう自分が本当に悔しい。

「くっ、そんな怒んなって。ほら、スマイル、スマイル。怒ってたら美人が台無しになっちまう。笑ってくれって、キュルケ」

「も、もう! しょうがないわね。……ん、それじゃあタオル持ってくるから待ってて。それで一休みしましょ?」

「ん? 一休みってもう一回したいって事か? 初めてのあとにもう一回とはキュルケもやるねぇ」

「っもう! 一休みしてお話でもしましょうってこと! えっちなんだから、もう!」

 拗ねてみせるのが楽しい。からかわれるのが楽しい。キュルケは今この時が楽しい。こんな時間が続けばなんと嬉しいことだろう? 才人と笑いながら過ごす毎日。それが明日からは叶うのである。なんと素晴らしいことだとキュルケは思う。

 ……あたしの初めてはサイトに捧げるためにあったんだわ……。

 その日、才人はキュルケの部屋で過ごすことになる。キュルケは才人の胸に、寄り添うようにして眠った。




[27351] 情熱の行方
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/14 13:46
「っこのっ! 裏切り者ッ!!」

 パシィイッと大きな音が響く。キュルケは憎々しげにルイズを睨みつけ、その右手を大きく振りぬいた。

「っあんたも同罪よッ! っこの裏切り者ッ!!」

 再度パシィィッと大きな音が響いた。涙を湛えたキュルケはモンモランシーを睨みつけ、その右手を大きく振りぬく。

 吹き飛ばされ、石の床に叩きつけられ、叩かれたその頬はじんじんと痺れている。だが叩きつけられた身体の痛みも、口中に感じる血の味も、ルイズも、モンモランシーも、その心は罪悪感で一杯だったので気にならなかった。


 その日の朝、キュルケは幸せだった。光が眩しくて目を覚ますと、隣には布団とは違う温もりを感じる事が出来たからだ。
 それで昨日の夜何があったか思い出したキュルケは「おはよう、サイト」と、自然に零れる笑顔で才人を起こした。
 唇にキスされた才人はしばらくぼうっとした様子だった。ごしごしと目元をこすり、状況を理解すると「おはよう、キュルケ」と、満面の笑みで返してくる。嬉しくなったので「おはよう、サイト。いい朝よ」ともう一度キスをした。
 微笑んだ才人は髪を梳いてくる。もっと嬉しくなったキュルケはもう我慢できなくなった。その胸に飛び込んでいき、「おはよう!」と笑った。

 キュルケは幸せだった。こんないい朝は生まれて初めてだと思った。股間にある違和感と痛みさえも、誇らしくて嬉しかった。

「くくっ…キュルケ、そこまでだ。これから儀式を始めるんだからな、あんまり痛めつけないでくれ。二人にはキュルケの準備に手伝ってもらいたいんだよ」

「っぐ、も、申し訳ありません、ご主人様。お許しください」

 一日中幸せだった。授業を休んで才人と一緒に過ごし、楽しい話を一杯した。才人が異世界出身と聞いて驚いた。ルイズが才人をどのように扱っているか聞き及んで憤慨した。  
 もう才人は恋人なのだから抗議しようとしたら「キュルケは優しいんだな」と宥められて嬉しくなった。

「ああ、許してやる。それより儀式を始めるぞ? それが終わればケツの処女を貰ってやる。嬉しいだろ? キュルケ」

「もちろんですわ、ご主人様。っあ、あたしのケツの処女をご主人様に捧げられるなんて、こんな光栄なことってありませんわ」
 
 そして夜になるとルイズが神妙な顔つきで現れた。才人のことで話があると言う。
 望むところだと部屋へと乗り込み、何故かそこにはモンモランシーがいて、そこで真実を告げられ、幸せは絶望へと変化してしまう。自分は道化に過ぎなかった――

「よし、じゃあ制服を脱いでいけ。脱いだら部屋の中央に直立しろ。手はバンザイ、足は肩幅になってみろ」

「っわかりました、ご主人様」

 遊ばれていた理由は単純だった。ルイズの隣の部屋にいたから、役に立つ駒だと思われたから、その方が面白いと思ったから。ただそれだけが理由だった。

「くく……昨日は尋ねなかったが…やっぱコレって剃ってんだよな? コレも乙女の嗜みってやつなのか?」

「ぁ…そ、そうです、ご主人様。乙女の嗜みですわ」

 隣の部屋にいた役に立つであろう駒。そんな理由で奴隷に堕とされるなど、到底納得出来ることではない。だが、それよりも許せないのは第三の理由だ。
“その方が面白いと思ったから”。
 こんな屈辱があるとはキュルケは思ってもみなかった。

「ふむ…こうやって並べると一目瞭然だな。モンモランシー、オマエはどう思う?」

「……比較にもなりませんわ。わたしはどちらかというと小さいほうかと思いますし……」

 辛そうな表情のルイズに説明された。それが本当なら…いや、この状況なら本当のことなのだろう。それならば手間など掛けなくとも、もっと簡単に奴隷へと堕とすことが出来たはず。
 それなのにだ。“その方が面白そうだったから”というふざけた理由で乙女の純情を踏み躙り、微笑んでいる表情のその裏で嘲笑ってくれていたのだ!
 幸せそうなキュルケを見て、これは面白いと嗤っていたというのだ! 
 これほどの屈辱。これほどに惨めなことはなかった。

「さ、キュルケ、始めてくれ。こいつをしないとちんぽの使い魔とは認められんぜ?」

「っわ、わかってますわ、ご主人様。で、では始めます」

 悔しくて悔しくて堪らなかった。「この卑劣漢!」と叫んで、激情の炎で焼き尽くしてやりたかった。それなのにだ。

 杖を向ける事がかなわなかった! それならばと殴りつけようとしたら身体が動かなかった! せめて「よくも騙してくれたわね、この裏切り者!」と叫んで唾を吐き掛けてやりたいと願ったのに、それさえも叶わなかった!

 ……っほ、本当に愛してしまったのに…う、嘘だって信じていたのに……

「……我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アルハンツ・ツェルプストー。五つの力を司るペンダゴン。このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽのことだけ考える。我はおちんぽの使い魔となる……」

 平伏したキュルケは屈辱の誓いを口にする。恋人関係から決別し、奴隷へと転落するためのキスをした。



 顔をあげた時、キュルケは視界がぼやけているのがわかった。でも、才人が笑っているはわかる。
 そして、どうやら自分は微笑んでいるようだと思った。それなのに涙を浮かべている。
 なんて滑稽なことだろうと、キュルケは頭の片隅で思った。

「くっくっくっ…、これでオマエもちんぽの使い魔だ。ちんぽのために何だってやってもらうぜ?」

「もちろんですわ。このおちんぽのためなら何だってやりますわ」

 口が勝手に動いてしまう。それが悔しく、でも、それよりも悲しかった。
 惨めで、情けなくて、恋人だと思っていた男は自分を奴隷の一人としか考えていなかった。
 そんなことが悲しくて、胸にぽっかりと穴が開いてしまったようだと思った。

「さ、ルイズ。オマエはキュルケのケツ。モンモランシー。オマエは上半身を責めてやれ。…くく…キュルケはキスが好きみたいだしな、濃厚なのをしてやりゃ喜ぶと思うぜ?」

「わかったわ、サイト」

「わかりましたわ。頑張ってやってみますわ」

 今から愛撫をされる。昨日はあんなに嬉しかったのに。恥ずかしかったけど、満たされて温かかったのに、恋人だった男はもうしてくれないのだろうか?
 騙されていたとわかったのに、そんな期待をしてしまった自分が辛い。

「くく…どうだ? 大したもんだったろ? キュルケも練習して上手くならなくっちゃあな」

「っはぁ……はぁ……っ…す、凄かったですわ……で、でも、今はおちんぽを…っけ、ケツに入れて欲しいですわ……」

 全身を愛撫されてしまった。同性とキスをして、お尻の中まで舌を入れられてしまった。快感で喘いでしまったのが悔しかった。何度も絶頂に追い込まれてしまったのが情けなかった。

「それじゃあ、ご主人様。今からあたしのケツの処女を捧げますわ。どうかお受け取りください」

「おう。始めてくれ。俺が満足するまで腰を振り続けろ。くく…そうしないといつまで経っても終わらないぜ? 是非とも頑張ってくれ!」

 これからは自分もやらなくてはならないのだという。鞭を入れられ、何が悪かったのか自分で考え、そんな中で屈辱の奉仕をしなければならないのだという。

 ……うふふふ……奴隷かぁ……せめてサイトの奴隷があたしだけだったらなって、そう思うのはおかしいかしら? 
 たとえ奴隷でも独り占め出来たらなって思うのはおかしいのかな? うふ…うふふふふ……

 余計な事だった。今すべき事はお尻の処女を捧げる事だった。
 キュルケは才人に跨る。昨日はリードされていたが、今日は違う。
 自分が主体となってアナルへと肉棒を導き、腰を振り、射精へと導いていかなくてはならない。そのことだけ考えていればいいと思った。

「で、では、ご主人様、参りますわ」

「くく…わかったから早くしろって……」

 肉棒を手に取り、肛門へと添える。目を閉じて、一つ深呼吸。そうしてキュルケは肉棒を掴み直し、体重を掛け、ずぶりずぶりと埋め込んでいく。

「っっぐっぐうううううっ……ッぐっあああっ…っ…がっはっ……!」

 痛い。とんでもなく痛い。キュルケは裂けているのではないかと思った。
 昨日の処女喪失と比べて快感がない分、その痛みは比較にもならないと思った。

「ッっ~~ッ~~っ! い、いきますわっ! ご主人様ッ!!」

「おう! やってくれ!」

 キュルケは腰を振る。才人の胸に手を置き、腰を浮かせ、何度も何度もお尻を振る。

「ッぎっひいいいぃいぃ……ぐぅ…っが、がぁあぁあぁぁぁぁぁ……!」

 例え痛かろうとも、例え裂けてしまおうとも、例え壊れて使い物にならなくなろうとも、キュルケは才人の為に腰を振り続ける。
 今すぐ肉棒を抜きたいのに、身体は深く深く肉棒を求める。才人の求めに応じようと、肉は肉棒を締め付ける。

「ッッずぅあぁあぁぁあ……っご、ご主人様ッ! ど、どうですか! ッっキュルケのケツっ! っど、どうですかぁぁっ……!」

「おう! 悪くねえぜ! だが今日は時間の許す限りケツを振れ! とりあえず出してやるから、ソイツをローションにして頑張るんだぜ!」 

 キュルケは理解した。意志の力ではどうにもならない事がある。

 っルイズ! モンモランシー! ごめんね、仕方なかったんだよね。あたしにもやっとわかったわ! 叩いたりしてごめんね!

 苦痛に耐える為に歯を食いしばり、才人の問いに答える為に目を見開く。すると視界の隅には申し訳なさそうな顔をしたルイズとモンモランシー。
 彼女達だってやりたくてやったわけでない。それがキュルケにもようやく納得できたのだ。

「!ぎっひぃいいいぃぃいいぃぃぃぃぃ……!」

 キュルケは直腸内に熱い迸りを感じた。才人が射精をしたのだ。だが、肉棒は抜かれない。ムクムクと当然のように回復したソレは、容赦なくキュルケを責め続ける。

「おらっ! まだ始まったばっかだぜ? どんどんいけ! キュルケ、俺が良しと言うまで踊り続けろ!」

「ッッがあっはっっ! ぎぐぅうッ! ~~っわ、わかりましたわっ、ご主人様ッ!」

 一休みすら許されない。それが奴隷なんだと理解した。キュルケは命令通りにお尻を振る。締め付けるように意識し、これでいいのかと才人の顔を覗きこむ。
 何度でも、何度でもお尻を振る。肉棒を咥えて溢れてきた精液を始末し、お腹を舐めて精液と汗を始末する。つかの間の休息を許されたあとは才人に跨り、またお尻を振る。

 ルイズとモンモランシーがじっと見つめるなか、キュルケはお尻を振り続ける。

 っあっあはははははははははははっ! あ、あたしは奴隷! ちんぽの使い魔っ! だからこれが当たり前なのっ! ご、ご主人様にお仕えして! ご、ご命令のとおりにすればそれでいいのよっ!

 ただひたすらに、キュルケはお尻を振り続けた。才人がやれといったのだ。キュルケにとって当たり前になった。

「おらっ! コイツで何発目だ? くく…暇そうだな、オマエら。お互いにマンズリしあってろ! 上手くやったんだ。褒美をくれてやるから準備してろ!」

「!わ、わかったわ」

「っわかりましたわ! い、今すぐマンズリいたしますわ!」

 命じられた二人はいきなりの指示に驚いたものの、直ぐに行動に移す。藁の上に寝転がり、キスを交わし、お互いの性器を舐め始める。

 くぅっくっくっ! 大分仕上がったがまだまだだよな! 言われなくてもやるようになんないと一人前の奴隷とは言えないぜ!
 
 次第に大きくなり始める嬌声。踊り続けるキュルケ。才人は満足であった。

 っあ、あたしはご主人様の奴隷っ! あ、あたしはちんぽの使い魔なのッ! だ、だからこれでいいのッ! こ、これでいいのよッ!!
 
 この日、キュルケは才人の奴隷として認められる。そしてキュルケは才人をご主人様として認めたのだった。



 トライアングルの実力をもつキュルケを奴隷としたので、ある程度の安全を確保することが出来た。これから護衛として役に立ってくれるだろう。
 モンモランシーに続いてキュルケでも試し、その力をいくらかでも理解出来た。このことも後々大きな意味をもつことだろう。

 くく……中出しじゃなくても大丈夫だって確認出来たのは大きい。飲ますだけで大丈夫ってことはだ、もっと手軽に奴隷を増やせるってこった。まっ、条件が必要かもしれんからいろいろ試す必要はあるけどな……

 もう才人に躊躇う理由はなかった。より万全の体制になるのを待っていたら、それこそ時間だけが過ぎていく。何かの拍子にバレ、破滅してしまうことは充分考えられる。
 動いても、動かなくても、どちらにしても破滅してしまう可能性があると言うのなら、状況を動かした方が遥かにマシと言うものであろう。失敗したとしても、それならば納得がいく。
 今の自分にはその力があるし、目指すべきは貴族に恥を掻かせて嗤うことである。
 リーヴスラシルとは欲望に忠実なのだ。いつまでも愚図愚図していては、その名が泣こうというものだろう。

 ……まずはだ、あの恥ずかしい馬鹿だな。っふざけたこと言いやがって!
 っ……どう思い知らせてやれば満足できる?

 モンモランシーという手駒は既に確保してある。これを利用すれば効果的な作戦が組める。ギーシュの末路を思い浮かべ、才人はにやにやするのを抑えきれない。

 くっくっくっ……、とはいえ大恥を掻かせて、直ぐに退場させるんじゃあもったいないよな? 是非とも学院に残って、嗤われ続ける存在となってもらいたい。そのへんのさじ加減をどうするかが問題だな……。

 ベッドに腰掛けて思考していた才人は視線を下へとずらす。足元には忠実な奴隷が三人。その立場に相応しい恰好で正座している。

 表だって魔法は使えないが虚無の使い手であり、トリステインでは一番の影響力を持つヴァリエール公爵家の三女ルイズ。
 開拓事業の失敗から苦境にあるとはいえ伯爵家令嬢であり、女子学生に影響力を持つモンモランシー。
 ゲルマニアからの留学生ではあるが富裕で知られる侯爵家の家柄であり、火のトライアングルと学生の中ではトップクラスの実力を誇るキュルケ。

 いずれも手駒としては申し分ないと言えるだろう。才人は己の所有する奴隷達の立ち位置を決める。

 まずはルイズ。公式的には才人の主人である。よって連れだって行動していても当たり前となろう。才人が貴族の学生連中に対して横暴を働かないよう抑止力となってもらう。 
 つまり、才人に手を出すと言う事はヴァリエール公爵家に喧嘩を売るつもりなの? と、睨みを聞かせてもらうわけだ。基本的にはこれまでと変わらない。
 そしてキュルケ。才人に惚れてしまったということにする。キュルケの熱し易く飽き易い性格、平民にも色目を使っていたことは周知のことである。才人に付きまとっていても不思議ではない。ボディーガードとして働いてもらおう。
 最後にモンモランシー。正直才人と連れ立っていては不自然である。よってとある理由からルイズ、およびキュルケと仲良くなったことにする。そうすれば才人が一緒でも違和感はなくなる。
 理由については個人的なことだからと、秘密にしておけばいい。噂を仕入れたり、流させたり、情報操作なんかで役立ってもらうとしよう。

「くく……よ~し、そんじゃあ始めるぜ? あの馬鹿に報いをくれてやる。うまい考えを思いついたら褒美だ。忌憚ない意見を言ってくれ!」

 才人は嗤う。いよいよ本格的に動くことを決意した。



 ギーシュ・ド・グラモンをとはどのような人物であるか? 黙っていればそれなりの美男子であり、何よりも四男とはいえ、武門の名門として知られるグラモン家の男である。
 貴族社会の中でという括りはあるだろうが、普通はモテる。しかも当主である父親は元帥の称号を持っているのだ。普通はモテる。
 だが、彼に人気があるとはあまり言えない。高慢の塊のようなトリステイン貴族の女生徒だけに、ギーシュの歯の浮くようなお世辞に気分が良くなりはする。
 だからそれなりに話はするが、付き合うか? とまで言われたら誰もが二の足を踏む。モンモランシーやケティは例外中の例外と言えるだろう。

 彼は世間知らずであり、自惚れ屋であり、目立ちたがり屋であり、自尊心が高かった。これらの欠点は少なからず誰でも持っているものではあるが、度が過ぎれば目も当てられないことなる。

 父親からの「名をこそ惜しめ」との言葉をはき違えて理解し、貴族とは平民よりも高貴な存在なのだからと、平民に対して高慢で侮蔑的な態度を取る。見下すのが貴族であると思っている。
 家名にひっついた取り巻きの持ち上げから自身の実力を勘違いしている。実力が上の人間はそんな彼を馬鹿にして半ば無視しているのだが、自惚れから気付けない。イザとなれば実力などいくらでも上がろうし、ドットでいるのはむしろ余裕の表れだと思っている。
 戦場の華やかな部分だけを耳にし、自分もそんな存在になりたいと憧れた。見栄を張りたがるグラモンの気風もあって自己主張の強い衣服を、端的に言えばセンスの悪い服装を好んでいる。
 今は学生の身分であるから同級生にそれほど強い態度も取れない。結果、都合が悪くなると責任転嫁して誤魔化そうとする。

 ギーシュは学院の従業員から嫌われているのにも気付かず、取り巻きから持ち上げられて笑い、ナルシストそのものの振る舞いをして多数の女生徒から気持ち悪がれ、同輩から時に馬鹿にされて顔を赤くして怒り、それでも今日も今日とて学生生活を楽しんでいた。


「ねぇ、ギーシュ。あんたってモンモランシーに振られたんですって? それでケティっていう一年生にも振られたんですってね?」

「っな…、ル、ルイズ。き、きみは一体なにを言っているのかね? そんなわけないじゃないか!」

 アルヴィーズの食堂である。練りに練った計画を才人は実行に移す。ポイントはギーシュがモンモランシーに未練タラタラなこと。いや、下手をすれば振られたとは考えていないこと。

「へぇ……そうなの? でも、モンモランシーに聞いたわよ、あんな浮気者なんて知らないって。それにサイトからも聞いたわよ? 何日か前にここで何があったかって。違うの? ギーシュ」

「あ、あたりまえじゃないか! っモ、モンモランシーは誤解してるんだ。ケティだってそうだ。レディたちは恥ずかしいんだよ」

 そして、責任転嫁する悪癖があること。特に友人連中の前では虚勢を張るであろうこと。これを利用しようと考えた。
 才人は因縁の始まりとなったこの食堂でギーシュを叩きのめす。

「……誤解ねぇ……それに恥ずかしいって何が恥ずかしいの? うふふ……二股するようなギーシュと付き合っていたって過去のこと?」

「っ、き、きき君は何を言ってるんだね? ぼ、僕を侮辱するつもりなのかねっ!」

 ルイズは回りの友人たちと歓談していたギーシュの前に立ち、冷笑を浮かべながら続ける。今は食事も終わったデザートタイム。
 大方の学生は去ったが、まだ人はいる。取り巻きたちは黙っているが、周りの友人たちと言えば……

「何言ってるんだ、ギーシュ! モンモランシーに頭からワインを掛けられていたじゃないか!」

「そうだぞ、ギーシュ! 一年生にもひっぱたかれてたじゃないか! どこが誤解だって言うんだ?」

 こういう時に普段の行いのツケがくる。真っ赤な顔をして怒るギーシュにゲラゲラ笑ってみせるのだ。真実を改めて暴露されたギーシュは真っ青な顔になり、屈辱を押し殺して黙り込むしかなくなった。
 下手にルイズに反論しようものなら、友人連中も敵にしなくてはならないのだ。
 
「……ギーシュ」

 そこにモンモランシーが現れた。眉をひそめ、冷たい視線でギーシュを見る。

「!っモ、モンモランシー! い、いやっ、これは違うんだモンモランシー。っそ、そうだ! 僕のモンモランシー、ルイズに言ってやってくれないかね? 誤解だって言ってほしいんだよ! きみは恥ずかしいだけなんだ。そうだろ? 言ってやってくれないか! 僕のモンモランシー!」

 ギーシュには自信があった。いや、すがりたかった。これまで何度となく他の女性に色目をつかってしまい、その度にモンモランシーから「もうあんたみたいな浮気者なんて知らないわ」と別れを告げられていた。だが、必死になって持ち上げ、褒めつくすことで許されてきたのだ。
 高慢で自尊心の塊のようなモンモランシーではあるが、だから根は優しいのは知っている。ならばこれほどの苦境、必ずや助けてくれると、いや、助けに現れてくれたのだと思った。

「……ギーシュ」

「ああ! 判ってくれるんだね? 嬉しいよ! 僕のモンモランシー! さあ、ルイズに言ってくれたまえ! 僕が愛してるのはモンモランシー、君だけさ! ルイズには冗談を言っただけと言ってくれたまえ!」

 何故なら今のモンモランシーは悲しそうな顔をしている。何か決意を持っているような雰囲気である。ちらりとルイズを確認し、目配せを交わしてからギーシュの顔を見てくれた。

 ……嬉しいよ、モンモランシー。僕は幸せ者だ。……ルイズに嘘を言うのが辛いんだね。大丈夫、本当のことにすればいい。そうなればルイズの顔も立つんだ。さあ、僕のモンモランシー、早く冗談を言ってしまったんだって言ってくれたまえ!

 ギーシュはモンモランシーに微笑んでみせる。何か一言でもいい。ギーシュを弁護する一言さえもらえれば、周りの友人連中はしらけてしまうはず。
 そうなればギーシュは苦境を乗り越えられるのだ。

「……あのね、ギーシュ」

「なんだい? 僕のモンモランシー」

 ニコリと微笑んだモンモランシーに、ギーシュもまた微笑み返す。万が一との不安が消えた。微笑むモンモランシーはギーシュへと語り掛ける。

「ギーシュ、あなたって恥知らずよね」

「……え?」

 モンモランシーは汚物を見るような目でギーシュを見た。

「聞いたのよ。ギーシュ。あなたってわたしに振られたあとにメイドに八つ当たりしたんですって? 親切を受けたのにメイドの所為だって責任を押し付けようとしたんですってね」

「え? あ、いや、そ、それはだね、モンモランシー、違うんだよ!」

 てっきり弁護してくれると思い込んでいたギーシュは慌てた。八つ当たりしたのは事実である。だが平民に対してであるから問題ないと思っていたし、気が晴れたので気にしていなかったのだ。

「何が違うっていうのかしら? 振られたのは二股をしていたあなたの自業自得でしょう? 親切に落し物を拾ってもらったのに、感謝するどころか機転が利かないって怒鳴りつけたんですって? ギーシュ、八つ当たりでなくて何だっていうのかしら?」

「な、何を言ってるんだい、モンモランシー。だ、だってメイドだよ? 平民じゃないかね! そ、それにだ。機転が利かないのを注意して何が悪いって言うんだ。当たり前のことじゃないかね!」

 何やら怪しげな雰囲気になってきたのに学生たちは黙り込む。モンモランシーの怒気とギーシュの慌てぶりに、これは面白い見世物だとニヤニヤしながら見物に回ったのだ。

「……当たり前ね。メイドは自分の仕事をしたに過ぎないわ。だってそうでしょう? ビンが転がったままだと踏みつけて、それで割ってしまうかもしれないわ。そうしたらギーシュ、あなたはどうするつもりだったの? 
それにね、ギーシュ。この落し物はあなたのものですかって聞いて何がいけないのかしら? 違うと言われて、それで聞き返してしまうことの何処がおかしいのかしら? ポケットから落ちるところを見たって言うんでしょう?」

「そうだぞ、ギーシュ! モンモランシーの言うとおりだ!」

「頑張れ、ギーシュ! 何か言い返してみろ!」

 ギーシュは真っ青となって立ち尽くすばかりとなった。ギーシュにしても自業自得というのはわかっていたが、それよりも自分の体面の方が大事だったのだ。周りの声援に力を得たモンモランシーは続ける。

「しかもよ、事情を聞いたサイトが泣いているメイドの代わりに謝るからって、頭を下げたって話よね? そしたらギーシュ、あなたってば土下座して謝れって言ったんですってね。
 無関係なのにギーシュの顔を立ててあげようとしたサイトに土下座しろって言ったんですって?」

「っそ、それはだね、モンモランシー。平民が貴族に謝るのに立ったままって法はないじゃないかね! 僕はあのメイドが気を利かさなかったおかげで恥を掻いてしまったんだ!
 間違いを正してやるのは貴族である僕らの務めってもんじゃないかね!」

 それには目についたメイドは丁度良かった。ニタニタ嗤う友人たちの矛先を逸らすにはメイドに当たるしかなかった。平民なのだからそれくらいはいいではないか。

「……呆れた。まだそんなこと言ってるの? いい、ギーシュ。あなただって自業自得って、わかってたんでしょう? 感謝こそすれ、間違いを正すなんて、どうしたらそういうことになるのか、わたしには理解できませんわ」

 やれやれとモンモランシーは頭を振る。頭に血が上ったギーシュは反論した。

「だ、だってそうだろう? 無関係なのに勝手に出てきたんだ! 謝るって言ったんだ! なら、貴族に謝るんだ。手を付いて謝るのが当たり前じゃないか! っだ、だってサイトは平民なんだぞ? それは当然のことじゃないかね!」

 ギーシュは必死だった。間違いを認めるわけにはいかないのだ。何故なら食堂に残っていた全員がこのやり取りを眺めている。それは学生だけではない。あまりの騒ぎに、今では従業員である平民も注目している。
 もしここで間違いを認めてしまったなら、平民に対しても恥を晒してしまうことになる。恥の上塗りとなってしまう。そんなことはギーシュには耐えられることではなかった。

「……そう、そんな風に思ってるの。たとえ平民だろうと顔を立てようとしてくれたんなら、わたしは感謝したほうが良いと思うけどね……」

「モ、モンモランシー! 僕のモンモランシー! 馬鹿なことをいってはいけないよ! 僕たちは貴族なんだぞ? 平民に対して感謝なんてする必要あるわけがない! そんなことをしたら平民たちは勘違いするじゃないか! 平民は僕たち貴族に奉仕するためにいるんだ! 感謝なんてする必要はないんだよ!」

 もはやモンモランシーは憐れみの視線となっている。周りの学生たちと言えば「その通りだ」とうなずくもの。ニヤニヤとギーシュの狂態を嗤って楽しむもの。激しい言い争いに戸惑うものといったところであろうか?
 だが、女子学生を中心に一部の学生は違った。たとえ平民だろうとか弱いメイドに辛く当たって泣かせ、まるで悪びれない態度に嫌悪感を抱いていた。平民である従業員たちに至っては激怒して顔を赤くし、軽蔑の視線で睨みつけている。

 っくっ、何故だ? どうしてこんなことになってるんだ? これじゃあ僕が悪いみたいじゃないか! 平民の間違いを正して何処が悪いって言うんだ!

 当然ギーシュも周りの雰囲気が変わっているのに気付く。居心地の悪さにイラついてしまう。何故こうなってしまったのか、そんなことはわかりたくもない。

「……ギーシュ、“僕の”なんて言って欲しくないわね。もう完全に愛想が尽きたわ。顔も見たくないわね。反省も出来ないなら、そうやっていつまでも其処にいればいいわ」

 見限られたギーシュは顔面蒼白となった。慌てて「待ってくれ、モンモランシー! 話を聞いてくれ!」と追いかけようとするが、モンモランシーはそんなギーシュを無視をした。「いきましょ、ルイズ」と食堂から出ていこうとする。

 ギーシュは焦る。ケティなど他の女生徒に目をやってしまうギーシュだが、本命はモンモランシーなのだ。ここは何としても話を聞いてもらい、誤解を解いて許しを得なくてはならない。

「だ、だから待ってくれ、モンモランシー! 話を聞いてくれ! そうすれば誤解だってことがわかるんだよ! だから、モンモランシー! 僕のモンモランシー! 話を聞いてくれないかね!」

「っ気持ち悪いのよ! それと“僕の”なんて言わないでちょうだい!」

 ギーシュは必死に伸ばした手を乱暴に振り払われてしまう。モンモランシーは「行きましょう、ルイズ。ギーシュなんて見てたら気分が悪くなってしまいますわ」と、食堂から出ていく。
 周りの人間がくすくすと嗤うなか、ギーシュは茫然として見送るしかなくなった。
 その時である。ギーシュはわずかに口の端を釣り上げたサイトを見てしまった。

 っっあの平民ッ! 全部アイツの所為だ! よくも貴族である僕を嗤ってくれたなッ!!

 食堂から出ていくモンモランシーとルイズ。サイトは入口に控えて見物していた。
 だからルイズが「いくわよ、サイト」と声を掛ければ、どうしたって目に入った。

「待ちたまえっ! そこの平民っ!」

 モンモランシーとルイズ。その声に反応してぴたっと足を止める。遅れて才人も足を止める。

「……えっと、なんだ、ギーシュ。平民って、もしかして俺になんか用か?」

「そうだ! サイト、君は今僕の事を笑ったね? 平民の分際で僕の事を笑ったね? 一体どう言う事か説明してもらおうじゃないかね!」

 もう今のギーシュは感情の抑えが利かない状態だった。
 モンモランシーに完膚なきまで振られ、周りの学生から憐れみと侮蔑の視線を向けられ、平民たちにまで情けない姿を晒してしまった。
 こうなってしまった元を辿れば、それは余計なことをしてくれた才人のせいなのだ。
 その才人が今の自分を見て嗤ってくれた。到底我慢できるはずもない。

「……ギーシュ、また八つ当たりしようっての? あんたって本当に救いようがないわね。……相手にする必要はないわ。サイト、いくわよ」

「だから待ちたまえ! その平民は僕のことを嗤ったんだ。説明してもらいたんもんだね。一体何がおかしかったのか、それを聞くまでは帰らせるわけにはいかない!」

 腰に両手を当てたルイズがいかにも呆れたと言う風に首を振る。

「サイト、行くわよ。こんなバカに付き合ってるとバカが移っちゃうわ」

「そうね、行きましょう、サイト。ギーシュなんかに付き合う必要はないですわ」

 ルイズは冷笑を浮かべて挑発的に告げ、モンモランシーは嫌悪感も露わに引き上げようとする。そしてギーシュは見てしまった。モンモランシーが才人に微笑んで見せたのを。
 ギーシュに声を掛けようとする才人の腕を抱え込んでみせ、「早く行きましょう?」と微笑んでみせたのを目にしてしまった。

「サイト! 今すぐモンモランシーから離れたまえッ!」

 その言葉に才人は振り向いた。両脇から「相手にすることはないわ」と手を引かれ、ギーシュからは「待て」と声を掛けられ、どうすればいいか困惑する。その様子がまた、ギーシュの怒りに油を注ぐことになってしまう。

 自分はモンモランシーに完膚なきまで振られてしまった。それなのに才人はそのモンモランシーに微笑まれている。今までギーシュはそんな風に手を引かれるなどなかった。何時間もご機嫌を取り、それでようやく手を握らせてもらうのが常だった。それなのに困惑しているだと?
 周りの人間はくすくす、ニヤニヤ、自分を嗤っている。こうなってしまった理由はなんだ? 元はといえば才人のせいではないか! 情けなく土下座して謝ったと言うのに、もう忘れてしまったとでも言うのであろうか?
 ふざけるなと思った。もう我慢の限界を超えていた。叩きのめしてやらねば気が済まないと思った。

「サイト! 決闘を申し込むッ!!」

 ギーシュにはもう、これしか方法が思い浮かばなかったのである。




[27351] 決闘
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/15 21:05
 その広場は中庭にあった。西側にあるので塔の影となってしまっていた。なので日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所と言えるだろう。それがヴェストリの広場である。

「諸君! 決闘だ!」

 ギーシュが広場の中央に立つ。薔薇の造花を掲げて吠える。うおーッ! と歓声が巻き起こった。腕を振って歓声に応える。噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れ返っていた。
 大した注目振りである。ギーシュにはこの声援を受け、観客の期待に応える義務がある。
 そう、ただ勝つだけでは駄目なのだ。娯楽にうるさい観客たちである。華麗に、派手に、勝つ必要があるだろう。

「ふん……とりあえずだ、平民。逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」

 視線を戻したギーシュは冷静になろうと、務めて平静な口調で話す。

「逃げるわけにはいかないだろ? 何しろルイズの命令だ。しがない使い魔としては断る訳にもいかないだろ?」

 軽口をたたく才人である。ギーシュは明確な殺意をもって睨み付ける。

「ふふ…ダーリンがあんたなんかに負けるわけないでしょ?」

「サイトさんっ! お願いですからやめてください! 貴族に逆らったら殺されちゃいます!!」

 何故なら才人は四人もの女性から声援を受けていた。自身は振られたばかりなのに、決闘相手はその自分を振ったモンモランシーを含め、四人もの女性から声援を受けている。女好きのギーシュとしてこれはキツイ。

 キュルケはその豊満な胸を才人に押しつけ、挑発的な視線を送ってきている。
 シエスタは必死になって袖口を引っ張っている。才人は泣いているシエスタに「心配すんなって、大丈夫だから」と慰めている。 
 モンモランシーは「やめた方がいいわ」と気遣っている。ギーシュには侮蔑の視線を送っているというのに。
 ルイズはギーシュを冷やかな目つきで睨んでいる。あのゼロが話し掛けなければこんなことにならなかった。

 っこの平民めっ! モンモランシーに加えて更に三人もだと? ……くっ、レディを泣かせるのは趣味じゃないが、殺してやるッ!

 レディたちに微笑まれ、心配され、期待されて決闘に臨む。ギーシュの憧れがそこにあった。振りかえてってみれば今の自分はどうだ? 
 怒りを感じているのは確かである。だが、本当は才人に嫉妬しているのを誤魔化し、無礼な平民に教育を施すとの名目で決闘に臨んでいるのだ。

「さてと、では始めるから来たまえ」

 ギーシュだってわかっている。モンモランシーに振られてしまったのは、二股を掛けた自分の自業自得ではある。だが、だからと言ってだ。
 ここまで手酷く振られる羽目になることはないではないか! 
 平民たちにまで軽蔑の視線を受ける謂れはないではないか!

 生意気な平民に制裁を与えるべく、ギーシュは才人に、舞台へと上がるように促した。
 体面を保つためには才人を一方的に打ちのめし、平民に貴族の実力を示すしかないのだから。



 ……ったく、ここまで予定通りだと呆れるね。信じられんアホだ。この分だとこの後も予定通りにいくってか?

 さて、決闘を受けた才人だが呆れていた。ここまで簡単にギーシュが踊るとは思ってなかったのである。計画が上手くいかなかった場合に備え、モンモランシーには少しずつ露骨にアプローチさせようと思っていた。 
 だが、まさか微笑ませたくらいで本当に激高するとは、むしろ想定外であろう。

 おっと、馬鹿が睨んでやがる。くく…このあとも上手くいくといいねぇ……。

 苦笑いした才人は広場の中心へと歩いていく。ギーシュまで10メートルほどのところで止まる。そこで両者は対峙することとなった。

「……あのさ、決闘はいいんだけどさ、少し確認したいことがあるんだけどいいか?」

「……言ってみたまえ」

 さあ、どうなることかと期待した。ギーシュは冷静さを装っているが、その睨みつける視線といい、しきりに撫でている薔薇の造花といい、興奮しているのが一目で見て取れる。
 早く始め、才人を倒したくてうずうずしているのだろう。

「これさ、決闘って言ってるけど喧嘩なんだよな? まさか命のやり取りをするってわけじゃないんだろ?」

「……ふん、怖気づいたのかい? まったく平民らしい。命が惜しくなったのなら、そこに手を付いて謝りたまえ」

「いやいや、質問に答えてくれないか? これは命のやり取りなのか、それとも単なる喧嘩なのか、ギーシュ、答えてくれ」

「……安心したまえ。これは決闘ではあるが、命のやり取りではない。もっとも事故というものがある。だから命の保証はできん。怖くなったのなら、そこに手を付いて謝りたまえ」

「いやいや、決闘か、喧嘩かを聞いたんだけどな? つまりは決闘で、んで命の危険があるって事か? 喧嘩にする気はないのか?」

「っふざけるんじゃない! 決闘だ! 怖気づいたのならさっさとごめんなさいと謝りたまえ! そうなれば観客の諸君は知らんが僕は許してやろう。死ぬのが怖いのならさっさと手を付きたまえ!」

「ふ~ん、なるほどね。そっかそっか、決闘ねぇ……」

「っ君は僕を馬鹿にしているのかね? やる気がないのなら謝れと、先程から言ってるじゃないかね!」

 直ぐにも才人を叩きのめしたいギーシュ、焦らされることでイラついてしまう。 その有様をニヤリと笑いながら才人は続けた。頭に血を上らせて置いたほうが都合がいいのだ。

 ったく、正直理解できんね。決闘っていうのは、ふつーどっちかが死ぬか、致命的な傷を負うまでじゃないのか? そうじゃないなら喧嘩だと思うけどね。そんなのを決闘と言い切る神経が理解出来ん。
 しかも本当なら杖を落させるのがスマートな勝ち方だってか? それじゃあ喧嘩というよりスポーツじゃないのかねぇ……。

「っいい加減にしたまえ! その気がないのなら早く謝りたまえ! そうでないならこっちから仕掛けるからそう思え!」

「や、ちょっと待ってくれ。聞きたい事があるんだって。それが済んでからからにしてくれ」

 冷静さが完全に失われたと見た才人は始めることにした。こうなってしまえば相手は見下している平民だ。どんな提案でも脊髄反射で応えてくれるだろう。
 ただ勝つだけならいくらでも方法はある。例えば視線を合わせて「これを食らいやがれ」とでも叫び、そのまま殴りかかればいいだろう。身体が硬直したギーシュは吹き飛ばされるはず。
 だがギーシュを挑発し、完全勝利を掴んでこそ意味がある。才人はこの勝負をそう捉えていた。

「いいか? 決闘って言われてここまできたけどな。どうやれば勝ちになるとか聞いてないんだよ。それにだギーシュ、貴族と平民か? それだと決闘にはならないから処分されないとか言ってくれたけどな、俺はどうなるんだよ。
 もし勝負を受けて俺が勝ったら処分されるとか、そんなことになるなら馬鹿らしい。そんなんなら勝負なんて受けれないね」

「き、きみは何を言ってるんだねっ! まさか貴族である僕に勝つつもりなのか? 情けなく土下座したのをもう忘れたって言うのかねッ!」

 さあ掛かったと才人は思った。「ちょっと待てよ、ギーシュ。今の言葉は聞き捨てならないな」と問い詰めていく。

「ギーシュ、決闘ってことはどちらにも勝ち目があるから決闘なんじゃないのか? まさか魔法を使って一方的に嬲ろうって腹積りだったのか?」

「っ僕はメイジだ! 魔法を使って何が悪いって言うんだ!」

 これで詰みか? そう思いながら続ける。

「ん? だから言っただろ? 喧嘩だと思ってたからさ、武器も何にも用意してきてないんだよ。ギーシュ、オマエのこったから下手に怪我させようもんなら逆恨みするんじゃないかと思ってさ。
 ここは一つ素手の勝負ってことにしない? そうすりゃお互い致命的な怪我をしないだろ?」

「っ……僕に怪我をさせると心配しているっていうのかね? ……いいだろう。素手での勝負にしようじゃないか。それに僕を傷つけてもかまわない。っその代わりだ。どんな怪我をすることになっても恨んだりするなよッ!」

 憤怒で真っ赤な顔をしているギーシュ。これで詰んだと才人は思った。

 くく……馬鹿な奴だぜ。有利さを自ら捨てるとはねぇ……。

 ギーシュは気付いていないが、これで勝ちは揺るがなくなった。ルイズたちの情報からギーシュの魔法がワルキューレと言う名の青銅製のゴーレムだとわかっている。
 中身のないゴーレムだと言うが表面は金属で、人間なみの動きすると言う。それが七体。しかも武器を持っているというのだから、魔法を使われては勝ち目はない。

「くく…そう? じゃ、そういうことにしよう。決闘を受けたのは俺だから勝利条件は俺が決めさせてもらうぜ?」

「かまわん! 言いたまえ!」

「おー怖い怖い。んじゃ言うぜ? どっちかが参ったと言うまでだ。それまではどれだけ怪我をしても自己責任ってことでいいか? それから貴族を殴ったとかで因縁をつけてくれるな。それを誓ってくれるなら決闘を受けてやる。それで構わないか?」

 もう我慢の限界に来ていたギーシュ。「それで構わん!」と吠え、そのまま殴りかかってきた。



 言うが早いか、ギーシュは駆けだした。才人は魔法を使わないとわかったとたん、あからさまにほっとした顔をしたのだ。
 それからはニヤニヤ嗤いながら挑発的な言動を繰り返してくる。

 怪我をしても自己責任? 殴ったからと因縁をつけるな?

 思い上がった平民がっ! 情けなく土下座したのをもう忘れてるのか! 貴族に平民は勝てないって思い出させてやる!

 才人の言動はもう勝負に勝っているかのような物言いである。あの思い上がりの鼻っ柱を叩き折る! 平民は貴族には勝てないのだと教育してくれる! 感情の高ぶりのままに、ギーシュは渾身の力で殴りつける。

 ……あー、ホント、アホ丸出し。

 才人はそんなギーシュを余裕の笑みで見つめると、ひょいとその身を縮めてみせた。

「……え?」

 やったことは単純である。ただ屈んでみせ、そのまま足を引っかけただけ。何しろ顔面を殴ると丸わかりのテレフォンパンチ。それも渾身の力を込め、足元の注意はお留守。
 空振れば当然身体は流れるのだから、足を引っかけるくらい簡単だった。散々焦らし、挑発した甲斐があったというものである。

「ぐ、ぐおぉぉおぉ……!」

 ずっしゃあああ……と派手にすっ転んだ。真っ赤な顔になったギーシュ。観客から一斉に笑い声が沸き起こった。
 痛みと屈辱に顔が歪みそうになるのをじっとして耐え、それでもなんとか起き上がろうとする。これからこの屈辱を与えたくれた平民に制裁を加えなくてはならないのだ。

 ったく、怒りを堪えるよりも今はやるべきことがあるだろうによっ!

 それを才人は胸に刺してあった、地面に落ちた造花を拾おうとしていた腕を蹴り、そのままギーシュにマウントポジションを取ったのだった。

「き、きさま……」

「はい、ご苦労さん。降参するか?」

「っだ、誰が平民などに……」

 その言葉を待っていた。

 何しろプライドの高い貴族。一発も殴られないで負けを認めるわけがない。マウントポジションの不利を充分に理解しているとも思えない。
 だが、これだけは聞いておかなくてはならなかった。降参を勧めたという事実がなくてはならない。これから行う事には正当性がなくてはならないのだ。

「ぶふっ!」

 あとは単純である。ただひたすら殴りつけるだけ。マウントを取ったのだから、キザなそのツラをボコボコにすればいい。

 ……くく、どこまで耐えられる? 今の俺の相手をするのは辛いぜ? 殴り疲れるなんてありえないんだからよ!

 殴る。殴る。殴る。才人はルーンの効果で強化されている。何故なら奴隷を責めるにはそれなりの力と体力がいる。
 ガンダールヴには及びもつかない。だがリーヴスラシルには熟練の戦士くらいの身体能力は備わっているのだ。

 殴る。殴る。殴る。ギーシュが降参しないのだから仕方がない。タップの合図などないのだから仕方がない。うめき声をあげそうになったらひたすら殴る。
 この程度で済ますわけにはいかないのだ。万が一にも「参った」と言わせないため、その憎むべき顔を殴りつける。

 あまりの一方的な展開に周囲がざわめき出す。貴族が平民を、ならば問題がなかったであろうが、才人は平民、ギーシュは貴族なのだ。予想外の展開に戸惑っているのである。

 くっくっくっ! そういやレフェリーがいないんだったな! 確かにこいつは決闘だぜ! 前言を取り消してやるよ、ギーシュ!

 それが才人には心地良い。顔面を殴りつけ、抵抗しようと伸ばしてくる腕をスゥェーし、肩口を殴りつけてから、再度顔面を殴りにかかる。血に酔った才人はひたすら殴る。その時であった。

「サ、サイトさん! もうやめてください!」

 心優しいシエスタが止めに入った。それで才人は殴るのをやめた。

「……ギーシュ、降参するか?」

 ギーシュは答えない。顔全体が腫れ上がり、鼻も折れて鼻血が吹き出し、血まみれの顔になっている。
 だがその表情には怯えが見え、才人がニヤリと嗤いながらゆっくりと腕をあげていくと、ようやく「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげた。

「くく…随分と男前になったな、ギーシュ。続けるか? しゃべれないなら態度で示せ」

 ギーシュは力なく首を振る。完全に戦意を喪失していた。

「ギーシュ。シエスタの優しさに感謝しろよ? 貴族だって威張ったところで、オマエ程度なら楽勝なんだよ」

 ギーシュはうなずく。心が折れ、逆らう気がまったくおきない。

「さっ、シエスタ。仇は取ってやったぜ?」

「もうっ! サイトさん、やりすぎです!」

 才人はニヤリとシエスタに笑い掛けた。その悪戯っぽい笑みにシエスタは顔を赤らめる。
 ギーシュはこれでやっと終わったんだと重い疲労感が体を襲う。意識が急に遠くなって気絶した。

 ……馬鹿が。くく…シエスタももうちょっと待ってくれりゃあなぁ、…殴り足りないぜ。ったく。

 ギーシュの顛末を見届けた才人はニヤリと笑う。これでいくらかスッキリ出来た。あとは仕上げである。
 ルイズとモンモランシーに後始末を任せ、正々堂々とした決闘であったことをアピールさせなければいけないだろう。
 そして平民が貴族を打ちのめしたなど、事実を認められない馬鹿に備える必要がある。

「すごいわ! サイト! 勝つとは思ってたけどあんなに一方的になるなんて!」

「んなもんギーシュくらい楽勝だって。食堂で謝ったのは丸く収めようとしただけ。流石に二回も勘違いさせるとギーシュのためにも良くないしな」

 そのためにはキュルケを張り付かせておけばいいだろう。トライアングルのキュルケに突っかかる馬鹿はそうそういまい。いたとしても奇襲さえ防げればそれでいい。
 衆人環視でなければ力は使い放題なのだから、忘れさせてしまえばいい。

「さっ、腹が減ったし厨房にいこう。勝利を祝って乾杯でもするか?」

「そうね、そうしましょ、ダーリン!」

 厨房へと戻った才人はマルトー親父に「よくやってくれた! 我らの拳!」と感謝され、シエスタに微笑まれて気分が良かった。
 そしてギーシュである。無様に負けてしまい、周囲から憐れみと侮蔑の視線を受け、失意のままに医務室へと運ばれたのだった。



「はああぅンぁぁあぁあああぁああっッ……! す、すごいぃぃ……凄すぎですうぅぁぁ……!」

「おう! くく…ちゃんと働きゃあ、褒美をやる。だから頑張るんだぜ?」

 石造りの部屋である。淡いランプの光が室内を支配している。ベッドにサイドボード。本棚に机。一つ特徴をあげるならビンやフラスコの類が目立つことであろう。その部屋では才人が一人の女を後ろから責めていた。

 ぱんぱんぱんと腰を振り、その度に女は嬌声をあげる。

 女が才人に抱かれるのは初めてではない。だが、とても回数をこなしているとは言えないだろう。膣もアナルも含めて、これでようやく両手の指にかかったと言ったところである。
 だが、女の身体は才人を求めてやまないようにされていた。

 ……ったく、なんでギーシュなんぞに惚れたのかねぇ……俺にはわからんぜ。

 女の名前はケティ・ド・ラ・ロッタ。トリステイン魔法学院の一年生。蓑火の二つ名を持ち、お菓子作りが趣味な火メイジである。栗色の髪をした、ちょっと内気な可愛い少女だった。

「おうらっ、出してやんぜ! 中が良いか、飲んでみたいか言ってみろ!」

「!っな、中です! 中にたっぷりくださいっ! わ、わたしそれがいいのぉおぉぉ……!」

 それなのに今は中出しをせがむ女になってしまっている。それは何故か? 答えは簡単であった。才人にはその方が都合良かったのである。

「!はぁああぁんンン……っ、い、イぐぅうぅぅうぅうふぅぅ……!」

 膣内に大量の射精。同時に本日一番の快楽で絶頂へと追い込まれる。
 中出しが何よりも大好きなケティ。膣奥に迸りを感じたならば、イってしまうのは当たり前だった。

「ふぅ……さ、褒美は終いだ。後始末を始めろ」

「っはあぁあぁぁんぅぅ……、わ、わかりまひたぁ…ら、ららいまやりましゅぅぅう………ああんむ…うふっ、お、おいひいのぉおぉ…ちゅる…ちゅぱちゅぱぁ…んふふふふ……ちゅばああっ……」

 今のケティは中出しマニアの精液中毒。もちろん才人限定である。試してはいないが、もしも他人のならば嫌悪感を示すであろう。
 そして才人はケティの忠誠心を最高に、そう、神に仕える狂信者のようにしたいと願った。

「ぅうふふ…じゅろるる…お、おいひいぃい…おいひいのぉぉ…ぴちゃぴちゃ…じゅる…ぱはぁつ…んふふふン……ぺろっ…」

 それは何故か? ケティがリーヴスラシルの能力確認に丁度良かったからだ。

 別塔の一年生。つまり終始構っている訳にはいかない。そうなると何処でボロが出るかわからない。
 まだ完璧に能力を把握しているとは言い切れないし、不自然な点を見張らせるには、今の手駒は全て二年生なので不適当である。
 実験の丁度良い時期に手に入れた奴隷であるし、どうせ精神をいじくるならばと、才人のことを至上にするようにと考えた。その方がボロが出にくいと思ったのだ。
 これからケティは才人のためならと、どんなことでもするようになるだろう。

 ……くく…まあ、一番の理由は面白そうだったからなんだけどな……。

 淫蕩な笑みを浮かべ、ケティは肉棒の後始末へと熱中している。

「うふ…ぬふふふっ…あ~んっ、…ぬっぽぐっぽ…うふ…くふふふ……ちろちろっ…」

「…………」

 そしてそれを辛そうな表情で見つめる金髪の少女。

「モンモランシーもお手柄だったな。終わったし褒美をやる。…くく…それとだ。ケティは嫌がるかも知れんが、まんこの中身を吸い取ってやれ」

「…わかったわ。ケティ、お尻を向けてちょうだい」

「!っあぁんんんぅぅ…嫌ですぅぅう……このせーしもわたしのなんですぅぅ……うふ…あぁン…ほ、ほいしいのぉぉおぉ……! ぬぷぷっ…じゅじゅるるるっつ…ぱはぁン……ちゅううっ…」

 肉棒を咥え、お尻を振りながら逃げる。ケティにとっては数少ないチャンスなのだ。思う存分味わいたいと思うのは仕方がない。いずれ才人は「もうお終いだ」と言うだろう。そうなったらケティとしては中身を掻きだし、ゆっくりと味わいたかったのだ。

「そんなこと言わないで。ねっ、ケティ。サイトが言ってるの。わたしにも精液ちょうだい」

「んふふ……サイトさまがおっしゃるならぁ、しかたないですぅ……もったいないけどぉ、せーしあげますぅぅ……」

「……ありがとう、ケティ。…………はむ…じゅ…じゅるるるるっ…ぴちゃ、ぴちゃ…ずずず……ちゅるっ」

 ケティのお尻を割り広げる。トロトロと流れている白濁液。お尻へと顔を埋めたモンモランシーは口に含み、味わうように舐め、啜り取っていく。

 …ふふっ…これでわたしもキュルケと合わせて二人目、か。偽善だとわかっていても慰めたくもなってくるわよね……。

 モンモランシーは己の罪深さにケティの顔を見るのが辛い。ほんの数日前まではケティはこんな淫乱ではなかった。内気な可愛い少女だった。こうなったのは自分のせいなのだ。
 
 ……今ならルイズの気持ちが良くわかるわ。どうしたって逆らえないもの。それでも可哀想で、経験から気持ちがわかって、せめてわたしもあなたと一緒よって。
 そう言うには態度で示すしかないんですもの……。

 上級生の立場を利用し、話があるとケティを招いた。
 びくびく警戒しているので「アドバイスしたいと思っただけですわ。…ケティ、これからギーシュと付き合うことになるんでしょう?」と微笑んで見せた。
 自分がルイズにやられたように、ケティにこれからの運命を説明し、準備の手伝いをさせられた。
 絶望しているケティの身体を押さえつけ、「サイト、ケティの準備が出来たわ」と、自らの手で生贄を差し出した。

 ……ケティ、わたしも一緒。引き返せないのはわたしも一緒よ。いずれはわたしもケティと同じになるかもしれない。…だからケティ、それまで待っていてちょうだいね……。

 中出しをされた時、ケティは泣き狂っていた。それなのに――才人が言い聞かせていくうちに段々とおとなしくなり、肉棒の後始末を命じた時には嬉しさに顔を輝かせるほどに変えられた。

 その一部始終を真っ青になりながらモンモランシーは見守った。精神を変える力が本当であると知ってしまったのだ。
 その時だろう。折れていた心は粉々に砕け散ってしまう。

 ……ごめんね、ケティ。あなたの大好きな精液を奪ってしまって。その代わり一生懸命やるから許してちょうだい……。

 何でこうなってしまったのか? それが才人の計画だったからである。

 あれだけ無様に叩きのめされたギーシュだ。ならもう学院に立場がないと、自主退学を選んでしまうかもしれない。体面を重視するトリステイン貴族なら尚更だ。

 くく…希望があれば、残りたいって思わないか?

 ルイズやモンモランシーに言わせれば退学は実家に面目が立たない。だからそうそう選択は出来ないだろうと言う。だが、才人としてはもっと確実性が欲しかったのだ。

「ケティ。わかってるな? ギーシュの行動を逐一一年生に流せ。そうすれば気持ち悪いって近づくやつはいなくなる。どこか適当なところで別れさせてやるからそれまで耐えるんだぜ?」

「はーい、わかってますわぁ…うふふんぅぅ…ちゅぱ…それまではぁ、んふっ頑張りますぅ……れろえろっ…ちゅぅうぅッ……」

 故にケティを手駒にしようと思った。モンモランシーにギーシュの件で話があると部屋に呼び出させ、その場で犯した。そんな理由でケティは中出しマニアの精液中毒に堕とされたのだ。
 これからケティにはギーシュの慰め役を務めてもらい、一年生の情報収集をさせる。そして落ち着いたところで、ギーシュを捨ててもらう。

 そうなればどうなる?

 ギーシュは今後、友人たちから平民に負けたと嗤われ続けるだろう。従業員たちにも表面はともかく内心で嗤われ、一層嫌われたままに過ごすことになろう。
 そんな中、ケティだけが唯一ギーシュに優しく接する。そうなれば必ずや食いついてくる。そしてその思慕がピークになった時、摘み取ってやる。
 ギーシュはさぞや落胆するに違いないのだ。

 馬鹿が! せいぜい希望を持って生きろ! そして立ち直ったらまた絶望に落ちろ!

 足元に目を向ければ嬉しそうに肉棒を頬張るケティ。
 その背後にはぴちゃぴちゃとそのケティの秘所から精液の残滓を舐め取っているモンモランシー。

 ギーシュが執着していた二人の女。それを奴隷とすることが出来、才人は満足だった。



[27351] 決闘の結末
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/17 19:13
 決闘してから三日が経った。

 決闘の結果、ギーシュは女子学生を中心に嫌われるようになった。シエスタにした仕打ちに悪びれる事がなく、反省もなかったからだ。
 それから決闘に惨敗したので友人たちに馬鹿にされることが増えた。学院での地位は著しく低下したと言える。
 だが、意外なことにギーシュは平気な風を装ってみせた。勝負とは時の運だし、レディたちの誤解は近いうちに解いてみせる、と言う事だそうだ。
 それにケティが「おかわいそうなギーシュさま」と、慰めに回っていることも大きいだろう。
 こりないやつだ、そして馬鹿なやつだと、才人は呆れたものである。

 もっともギーシュは今の境遇に追い込んでくれた才人を深く恨んでいるようだが、もちろん才人は気にしていない。
 目につくようならもう一度思い知らせてやればいいし、近いうちにケティを使って絶望に追い込むつもりなのである。終わった人間を気にしていてもしかたがない。

「油断してしまっただけじゃないかね。魔法を使っていれば、僕の勝利は揺るがなかったんだよ? 平民らしい卑怯な手ではあったが、まあ決闘は決闘だ。貴族の寛容さをみせてやることにしたのさ。一体何の問題があるのかね?」

 今のギーシュはそう言って強がり、友人達からしらけた目線を向けられ、才人が現れれば用事ができたと逃げる有様となった。魔法さえ使えればと思うギーシュだが、そんなことをすれば恥の上乗りになるし、才人はキュルケと一緒にいる。
 流石のギーシュもトライアングルのキュルケに勝てるとは思わないし、下手な事をしたら報復されるだろう。魔法抜きでの力の差を思い知らされ、ギーシュとしては逃げるしかなくなったのである。


 その日、才人はいつものように厨房で食事を取っていた。すると学院長の秘書と名乗る人物が現れた。心当たりはあるが、一体何ごとなのであろう? とはいえ、応対しないわけにもいかない。せいぜい愛想よく対処するしかないだろう。

「学院長は今回のことは不問に付すとおっしゃっています。原因はミスタ・グラモンにありますし、怪我をしたのもお互いに了解してのことですから」

「はあ……ギーシュのやつ、なんて言ってました?」

 やはりその件かと思った。あれだけの騒ぎになったのだからバレないわけがない。決闘、あるいは喧嘩の体裁を取ってはいたが、暴行事件は暴行事件である。
 それに貴族に手をあげる平民、という形にはなっているので、何かしらの処分があるのでは? そう警戒していたのだ。

「ミスタ・グラモンは納得しておりますから問題ありません。口に出しては『許してやることにした』と言っておりました。
 ですが虚勢であることは間違いありませんでしたし、今後同じ問題を起こしたら退学もありえると注意しておきました。ですからあなたやシエスタに報復に動くことはないと思います」

 その人物はロングビルと名乗り、観衆に遮られて決闘騒ぎを止められなかったと説明した。
 ギーシュも完治とは言えないが回復したので、学院としての処分を通達に訪れたのである。

「ですが、あなたにしても少しやりすぎです。今後注意するようにとのことです」

「わかりました。気を付けるようにします」

 その通達に才人は安堵した。致命的な処分、例えば追放とか言われれば、何がしらの手を打てばいい。だがギーシュの報復には危惧していたのだ。
 自分は対処する自信があるし、護衛だってつけている。だがシエスタを始めとして才人と親しい厨房の従業員が問題だったのだ。その心配がないというのはありがたかった。

 ……ふぅ、これで一安心だな。マルトーさんは簡単にやられるタマじゃないけど、シエスタや他の奴らは違うからな。

 厨房のメンバーも喜んでいる。安心した才人は去っていく秘書の後ろ姿を眺めた。

 ……ほほう……いいケツしてるねぇ……。キュルケとは違う大人の魅力って感じだな。 ……う~ん、22、3ってところか? 学生と社会人の中間ってところだな。

 タイトのスカートが素晴らしい。きゅっと上を向いたお尻の形が良くわかる。それに何と言っても眼鏡であろう。スッキリとした顔立ちに似合っていて、フェチでなくとも目を引かれる。
 しかもである。それでいて優しげな風貌なのである。秘書というより、新任の学校教師というより、家庭教師のお姉さんと言った感じ。キツメの細いタイプではないのが心憎い。
 そんな女が水準以上の武器を誇り、きゅっと締まったお尻とくれば、これはもう、才人には真ん中高めのストレートであろう。

 うん、決めた! 学院長の秘書なら、手駒にしたら何かと都合がいいだろ。顔もスタイルも合格点をやれるしな。…くく…次の奴隷はあんただぜ!

 才人はロングビルを奴隷とすべく、動くことを決意した。
 
 ミス・ロングヒル。学院長の有能な秘書。理知的な面差し、緑がかった髪が特徴的である。これから彼女がどうなっていくのか? それはこれから明らかになる。
 


 才人はロングビルについて調べた。モンモランシーを中心に情報収集をさせ、キュルケを中心に監視をさせたのである。その結果、幾つかの情報を得ることが出来た。

――秘書となって日が浅く、二か月前までの経歴は不明である。
――どの程度かは不明だが、学院長のセクハラを受けている。
――実力は不明だがメイジである。
――コルベールなど何人かの教師や従業員からアプローチを受けている。
――学院長の命令で秘宝の目録作りをしている。
 
「……正直大した情報でもないんだよな。あんまりあからさまにやると怪しまれるし。…ルイズ、どう動けばいいと思う?」

 問われたルイズだが、うまい手が思いつかなかった。才人も言っているが、大胆な行動は躊躇われたのである。しいて言えばいい結果が出なかったのだから、これからはリスクを恐れずもっと大胆に動くべきではないかと思った。

「ふむ、モンモランシーはどうだ?」

 モンモランシーの感触ではコルベールがロングビル攻略の鍵であるように思われた。一緒に食事をしているのを目撃した女生徒がおり、ロングビルも満更ではない雰囲気だったと言うのである。
 これ以上の情報を知りたいならば、リスクを承知でコルベールからだろう。

「あのハゲか? くく…そういやアイツも報いをくれてやらんといかんかったな。…まあ、それはそれとしてだ。キュルケの方はどうだった?」

 キュルケはロングビルを怪しく思った。何か隠しごとがあるのでは? 考えてみれば二か月前のロングビルが何をしていたか、知っている生徒は誰もいないはず。
 そして学院長の命令ならば堂々としていればいいのに、宝物庫に向かうときにあたりを警戒する仕草を見せたことがある。
 考えすぎかも知れないが、何か引っかかるものを感じた。

「……ふむ。なるほどね。そうすっとどうしたもんかね……」

 才人は考える。モンモランシーやキュルケを堕とした時のようなわけにはいかないだろう。何故なら相手は学院長の秘書である。接触できる機会が極端に少ないし、その時回りに誰かいる可能性がある。
 一人でいるのを期待する、そんな僥倖を計画の段階で入れるべきではないだろう。

 ……まあリスクを恐れないで強引にやろうと思えば何とでもなるんだけどな。それじゃあスマートじゃないし、何より面白みに欠ける。
 せっかくだから楽しみたいし、奴隷にしたときの立ち位置を決める必要もある。となると……

 考えた才人は決めた。

「キュルケ。ロングヒルの行動をもう少し踏み込んで調べてみよう。特に夜だ。何か隠してるんなら、動くのは夜だろ? ハゲはそのあとだ。監視して不審な点が見つからなかったら、その時はハゲに聞いてみることにしよう」

 キュルケの意見を採用することにした。もっとロングビル個人のことを知らなければならないだろう。
 出来る事ならコルベールの顔など見たくもない。召喚されたときの傲慢さと仕打ちは忘れていない。
 才人の意志など無視してルイズに使い魔であることを納得させ、苦しむ才人など知ったことかと、そんな態度でルーンのスケッチをしていったコルベール。絶対に許すわけにはいかないのだ。

 くく…まっ、おかげで今は奴隷を四匹飼うなんてレアなことをさせてもらってるが…ソレはソレ、コレはコレだかんな。いずれきっちり落とし前はつけなきゃあな。

 今となってはハルキゲニアの世界をそれなりに楽しんでいる。帰りたいか? と問われれば答えは微妙だろう。せっかく手に入れた奴隷を失うのは面白くない。
 だが、ネットもなければゲームもないし、鼻に付く貴族の相手をさせられイライラしてもいる。
 破滅の危険が去ったわけではないし、そもそも家族や友人から引き離された事実は覆らない。
 もしコルベールがルイズを止めていれば、才人はこんな目に合わずに済んだのである。

「そんじゃそんなわけだからさ、協力してロングビルを見張るようにしてくれ。何日かして動きがなかったら、ハゲに聞くようにする。そんでも駄目だったら仕方がない。適当な理由をつけて呼び出すようにするさ」

 才人はニヤリと笑ってみせる。それなりに妥当な判断であろう。こうなると奴隷の身の上としては反対する理由はない。ルイズたちは昼間は学生たちから情報収集。夜はロングビルの監視に動くことになった。



 さあ、考えてみよう。

 ミス・ロングビルは教員用の寮塔に居室を持っている。つまり学院の教師と同じ待遇を受けていると言う事である。それなのに食事は一般の従業員と同じ場所で取っている。これは何故なのだろう?
 仕事は学院長の秘書であるミス・ロングヒル。当然職場は学院長室となる。スケジュールの管理をし、書類を作成し、教師や従業員への連絡を受け持っている。
 注目すべきは連絡を受け持つので頻繁に外出することだろう。これは問題ない。だが、こっそりと音を立てない様に扉を閉め、宝物庫までいくと何か考え事をしていた事があったと言う。これは何故なのだろう?
 メイジであるのは間違いがない。杖を持ち、コモンマジックを使ったのを見たものがいるのだから、間違いない。
 だが、マントを付けていないし、杖にしたって普段は伸縮する小さな杖をポケットに入れていると言う。これは何故なのだろう? まるでメイジであることを隠しているようではないか?

「……なんかさ、目録作りすんなら普通は宝物庫の中に入ってやらないか? 昨日、今日と宝物庫までいったのにさ、考え事するだけで引き返してきたって話だよな? 本当に学院長の命令で目録作りしてんのか?」

 情報を纏めてみた才人は疑問に思った。キュルケがコルベールに話し掛けた結果得た情報である“学院長の命令による目録作り”。これは本当の事なのだろうか? 

「そうよ、ダーリン。コルベール先生に聞いたわ。
 宝物庫の壁が強固な固定化で頑丈なのに驚いていたミス・ロングビルにね、物理的な力なら破れるかもしれないって教えたら、博識ですのねって褒められたって、照れて喜んでいたもの。
 その時になんで宝物庫に興味を持つのか聞いたら、学院長の命令で目録作りをする事になったから、警備が気になったんだって答えたそうよ」
 
 にっこり微笑みながらキュルケは答えた。ご主人様のお役に立ててると嬉しいのである。

「……なぁ、モンモランシー。二か月前のロングビルが何をしてたとか、休日に何をしてるとか、誰も知らないって話なんだよな? ぶっちゃけロングビルって怪しくないか? なんか目録作りってより、下調べしてる感じじゃないか? 

「……そうですわね。従業員の方がアプローチするときに聞いたら、優しい微笑みをして、とてもそれ以上は聞けなかったってお話ですわ。ミス・ロングビルのプライベートを知っている方は殆どいらっしゃらないのではないかと……」

 モンモランシーは答える。纏めると確かに変だった。

 教員待遇だし、仕事に必要だからメイジであるのに間違いはない。図書館で蔵書を探すのにライトやレビテーションは必要だし、ディティクトマジックで不審者を調べたりする必要があるだろう。
 それなのにどんな系統の魔法が得意なのかわからないし、マントや杖を身に着けないで平民のように振る舞っている。
 確かにこれはおかしい。まるで目立たないように気を付けているようであると、モンモランシーは思う。

「ルイズ。かなり突拍子のない話なんだがな。街で買い物した時、“土くれのフーケ”って泥棒が話題になってたよな? でっかいゴーレムを使うメイジだって話だ。
 ぶっちゃけた話、ロングビルってそのフーケじゃないか? 宝物庫のお宝をどうやって失敬するか考えてたんじゃないか?」

「……それは流石にどうかと思うけど…でも、そう考えると疑問が解けるのも確かよね? もしミス・ロングビルがフーケだとしたら、土属性のメイジだって知られたら疑われるかもしれないし……」

 本当にロングビルがフーケ? いくらなんでもそれはないんじゃなかろうか? でもそう考えると確かにつじつまは合ってしまう。
 ロングビルは人当りがいいにも関わらず、これと言って親しい人物がいないのである。なんで親しい友人を作ろうとしないんだろう?

 学院の秘書ならけっこうな高給取りのはずよね? それなのに泥棒? そんなことってないと思うんだけど……

 二か月しか経っていないのだからとも考えられるが、アプローチを受けても表面的な付き合いに留めている感がある。そうして休日になると外出していなくなるという。
 例えば家族や友人に会いに行っている? でも、それと目立たない様に振る舞っているのは別問題だろう。指摘され、改めて考えてみると確かに怪しく思えてくる。

「なあ、もしもそうだとしてだ。ロングビルがフーケだとして、学院のお宝を狙っているとして、どうやったら確かめる事ができる? 何を狙ってるとかわかるか?」

 才人の問い掛けに奴隷たちは考え込んだ。

 一番簡単なのは何とかして一人になるのを待ち、その際に支配して質問することだろう。
 そうして答えを得たら、そのあと忘れさせてしまえばいい。

 ……でも、そんな答えをダーリンは望んでいないわよね? そんな機会を作れるなら、そもそもフーケかどうか確認する必要がないんだもの。
 それに第一それじゃあ面白くないって言うに決まってるわ。楽しい確かめ方を考えなくっちゃいけないわよね?

 キュルケは思う。なんとかうまい手を考えなくてはならない。そして褒めてもらって、出来うるなら褒美を受け取りたいのだ。だからキュルケは考える。必死になって考える。

 ……流石に何を狙ってるかはわかりませんわ。学院の宝物で知っていると言えば真実の鏡ですとか、眠りの鐘とかですけど、他にもいろいろ宝物はあるでしょうし……。

 モンモランシーも考える。キュルケに続いてケティを奴隷にするのに協力してしまった。もう引き返すことはできないのである。
 役に立てばご褒美。そうでなければケティのように精神を弄られるかもしれない。
 だからモンモランシーは必死になる。今のままでも役に立つと、そうアピールしなくてはならない。

 ……要はミス・ロングビルが宝物を盗むか、盗もうとすれば、それがフーケだって証明になるのよね? ……だったらずっと監視してればいいんだけど、それじゃあいつまで掛かるかわからないわ。となると……

 ルイズだって考える。罰を与えられるのは嫌だし、ご褒美は欲しい。どうせ逆らえないのだから一生懸命考え、ご褒美をもらったほうがいい。
 うまい手を考えればご褒美、そうでないなら罰となれば、これは真剣に考えざるをえないだろう。

「どうだ? うまい手は考え付かないか?」

 才人は奴隷たちに返事を促す。奴隷たちは銘々考えたことを答えていく。皆、それぞれの理由で真剣なのだ。
 そして三人寄ればと言うが、その格言通りにうまい手と思われる作戦が生み出された。

「ふむ、なーるほどね。そうかもしんねーよな」

 大まかな方針が決まれば、次は具体的な方法に昇華させる必要があるだろう。奴隷たちは再度必死になって考え、そのうち骨組みには肉がついていく。

「よ~し、じゃあソイツでいこう」

 満足した才人は計画にGOサインを出したのだった。



 犯行現場の壁に『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』とサインを残す。マジックアイテムの類を好んで盗む。錬金によって壁や扉を土くれに変え、巨大なゴーレムで屋敷を壊す。
 時に繊細に盗み、時に大胆な行動。それが巷で噂の大怪盗、土くれのフーケである。

 才人たちは考えた。もしロングビルがフーケだとして、何で学院の秘書などやっているのか? 間違いなく学院所有の秘宝を狙っているからだろう。
 普通の屋敷と比べれば、学院の宝物庫は各段に警備が強固なのだ。下準備に潜入する必要があると考えたに違いない。
 そして何を狙っているかだが、残念ながらわからない。秘宝の種類が多すぎ、絞りきるのは不可能なのだ。
 
 ではどうやって盗むつもりなのだろう。繊細に忍び込むのは不可能である。何故なら宝物庫の壁は強固すぎる。錬金で土に戻すことは出来ないはず。となると、ゴーレムで強引に破壊するつもりなのでは? 
 秘書となって二か月。それなのに何故宝物を盗もうとしないのか。第一に下調べをしている最中である。第二にすぐさま疑われないよう溶け込む準備期間中である。第三に決行に最適な日を選んでいる。
 そして第四にゴーレムで壁を壊し切れるか、確信が持てなく躊躇っているのでは?

 才人たちはそう考えてロングビルを罠にはめようと考えた。そして現在だが

「……あっさり引っかかったな」

「……そうね、やっぱり焦ってたのかしらね」

 ルイズに向かって才人が呟いていた。

 才人の打った手は単純と言えば単純なものである。モンモランシーとケティを使ってフーケの恐怖をあおり、学院長の腹心であるコルベールに警備の強化を訴えたのだ。

 コルベールは学院長に学生の要望として伝える。もちろん進言を受けてもオスマンは取り合わないだろう。
 学生の要望にいちいち応える理由はないし、費用だって掛かってしまう。適当な理由をつけて却下するか、受け入れた振りをして時間を稼ぎ、うやむやにしようとするに違いない。

 だが、秘書として同席し、それを聞いていたロングビルはどう考えるか?
 愚図愚図してたら手が出せなくなるかもしれない。そうなってしまうとオスマンのセクハラに耐えていた意味がなくなるかもしれない。

「おースゲェな、こりゃ。手加減なしってやつだ。一点集中で破壊しようってんだな」

「……壊れるのかしら? いえ、それよりあんまり手を掛けると先生達が起きてくるわよ。そろそろ壊れないとマズイんじゃない?」

 ただでさえ二か月もの期間を費やしているのだ。例え警備の強化がなされなくても、宿直の教師の意識が変わってしまったら面倒なことになるかもしれない。ロングビル、いやフーケはそう考え、今夜行動に移すだろうと期待したのだ。

「……せっかくいろいろ考えたんだけどな。ロングビルにフーケの事を聞いて反応を窺うとか、直接ジジイに談判するとか、あとルイズやモンモランシーの実家経由で警備強化の圧力をかけるのを匂わすとかさ。
 上手くいったのはいいんだが…なんか納得いかん。全部無駄になったじゃねーか……」

「……上手くいったんだからいいじゃない。それより成功したみたいよ? おっきな岩をぶつけたらヒビが入ったみたいだわ。表面を鉄かなんかに錬金したのかな?」

 果たしてロングビルは罠に食いついた。なるほど、噂になることはある。その巨大なゴーレムは見事学院の壁を壊し切ったのである。
 それを見ていた才人はやれやれと頭を振り、ルイズもちょっと呆れた風に犯行現場を見ていた。

「おっ、出てきたぜ、ルイズ。何のお宝かわかるか?」

「……遠いし、暗いし、よくわかんないわ。でも、見たことないと思う。一体何の宝物なのかしらね?」

 才人とルイズは窓から見物し、キュルケとモンモランシーは寮の入口と窓を見張っていた。今は偶然の目撃者として監視を続けているはずである。

「くく…まっそりゃそうだ。何のお宝だろうと意味はないしな。あとはロングビルが帰ってくるのを待つだけだ。
 いきなり消えたんじゃ犯人ですって自白するようなもんだしな。ほとぼりが冷めるまでは秘書を続けるはず。……大丈夫だよな? このまま消えるってないよな?」

「うん、それは大丈夫だと思うわ。フーケが捕まらなかったのは正体が不明だったからだもん。似顔絵つきの手配書とかバラまかれたら逃げ切れないし、例え逃げ切れても次の盗みがやりにくくなるもの。帰ってくると思うわ」

 ゴーレムが学院の壁を跨いで消えていく。それを見届けた才人は「いくぞ?」とルイズに促した。
 何といっても大不祥事である。オスマン始め学院の教師たちは、目撃者であるキュルケとモンモランシーに事情を聞くに違いない。才人はそれに合流しておく必要がある。
 何故ならこの後の展開に関わるためには目撃者の一人になっておく必要があるし、今後の予定を打ち合わせする必要もある。そして、才人はのこのこ戻ってきて、話に加わるだろうロングヒルを嗤う必要があるのだ。

 くく…ホントにフーケだったとはねぇ。自分で言っておいて何だが、それはないだろうと思ってたんだけどな。一体どんな演技をしてくれるのやら。くく…笑わない様気をつけなくっちゃあな。

 ロングビルはフーケであった。つまり犯罪者で魔法使いであるとわかった今、もう手加減する必要などないだろう。奴隷として、手駒の一つに加えるのに何ら遠慮を覚えない。

 さて、フーケだってわかったんだから、それを利用する形で奴隷にするのがいいよな?
 黙っていて欲しけりゃやらせろだとか、逆に突き出す前に制裁だとか言ってやるとかさ。どんな方法にしましょうかね?

 くっくっくっと、抑えきれない嗤いを洩らす。才人はルイズを伴い、中庭へと降りていった。




[27351] 捜索隊結成
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/17 19:33
 翌朝、トリステイン魔法学院では、昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
 何しろ巨大なゴーレムが壁を破壊するといった大胆な方法で秘宝が盗まれ、壁に『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と刻まれたのである。教師たちはあまりの屈辱に憤慨していた。

 ……呆れるね、ホント。貴族ってのは救いようがないわ……

 それを才人は一歩下がり、冷めた目つきで観察していた。

 何故なら自分たちも普段は当直をさぼってたくせに、教師たちはたまたま当直だったミセス・シェヴルーズを責めた。
 運が悪かったとはいえ、当直教師として責任を持たなければならないミセス・シェヴルーズは家のローンがあるだの、セクハラで済むのならいくらでもお尻を撫でてくれだの、大仰な演技で誤魔化そうとした。
 学院長のオスマンは「我ら全員の責任」であると、責任の所在をあやふやにしようとした。

 ……老害の典型だな。責任回避だけうまいって、多分意識してねーんだろうな。

 特にオスマンが酷いと思った。何故なら学院長とは最終的に全ての責任を負わなくてはならないはず。それに警備強化を進言されたのに、結果として何ら手を打てていなかった。
 これは職務怠慢どころの話ではないのではなかろうか?

 才人としては呆れるほかに方法がないであろう。皆が皆、自分が悪いと、反省しているようには見えなかったである。

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 ここでロングビルが現れた。主演女優の登場である。興奮した面持ちのコルベールににこりと微笑んでみせる。速足ではあるが堂々とした態度で近づき、有能な秘書としての体裁を保っていた。

 ……くく…さあ、どう出てくる? ジジイは朝になってようやく来た。でも他の教師どもは違う。騒ぎになって直ぐに来た。
 秘書ならジジイに報告しなきゃなんねーんだ。夜のうちに来てないとおかしいはず。どう言い訳してくるつもりなんだ?

 そう思って才人はロングビルの釈明に期待したのだが……

 っおいおいおいおいっ! いくらなんでもそりゃねーだろ!

 その内容は酷いものだったのである。何で誰もツッコもうとしないのだろう? 才人は心底呆れてしまう。
 自分はロングビルがフーケと知っていたから、矛盾点に気付いてしまった? いや、そんな事はないと才人は思う。これはそんなレベルではないはずだ。 

 ますロングビルは黒ずくめのローブの男をフーケのように推察している。だが、黒ずくめの男だとフーケになるのか? それにフーケは性別も不詳だったのでは? あからさまな意識の誘導であると言わざるをえない。
 それからフーケの隠れ家を見つけたと言うが、その場所は馬で四時間、徒歩で半日の場所にあるというのだ。
 すると徒歩の場合は往復で一日かかる計算だ。多分夜の暗いうちに起きたのだろうが、そうなるとよくもまあ真っ暗の中で調査をし、フーケの拠点を見つけ出すのに成功し、それでいて朝の時間に帰ってこれたものだ。

 このハルキゲニアはファンタジーの世界である。ロングビルは転移の魔法でも使ったのであろうか?

 っくううぅぅっつ……! っ、つ、ツッコミてえっ! っだが我慢だ、我慢! ロングビルの正体をここでバラすわけにはいかねーんだ! ってか、ここじゃなくてもバラせねーんだ!

 才人はあとで奴隷たちの意見を聞こうと思った。もしかしたら自分の疑問はおかしいのでは? そんな言い知れない不安感に包まれたのだ。
 でも、奴隷たちがツッコミどころに気付いていなかったら? その時はどうすればいいのだろう。そんなことを才人は思った。

「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」

 そんな感じで才人が悶えていると、いつの間にか話は進んでいた。

「……なあ、ルイズ。なんで捜索隊って話になってんだ?」

「え? あ、うん。学院の問題だから、学院で解決するって。フーケを捕まえる為に捜索隊を募るって、オールド・オスマンは言ってるのよ」

 思考に没頭していた才人である。有志を募るオスマンの怒鳴り声を聞いちゃいなかったのである。ルイズは呆れたが、答えないわけにもいかなかった。

 っこれは…チャンス、か?

 ところがである。ここで予想外の事が起こった。オスマンの募りに誰も手をあげなかったのだ。
 当然我こそはと希望者が殺到すると思われたのに、誰も手をあげなかったのである。

 才人はキュルケのお尻をさわさわと撫でてみた。

「!っ…ぁ…あ……はぁぁぁンぅ……っ」

 驚いて振り返ったキュルケにニヤリと笑って見せ、そのあとは素知らぬ振りをする。オスマン始め教師たちはいきなりの喘ぎ声にじっとキュルケに注目し――礼儀正しく見なかったことにした。

 わかるだろ? これはチャンスなんだよ。

 キュルケはその意味ありげな視線に、才人の意図を理解した。確かにこれはチャンスである。理解すれば自然と笑みが零れてきた。
 振り返り、オスマンに挑発的に微笑んで見せ、それからすっと杖を顔の前に掲げてみせる。

「ツェルプストー! 君は生徒じゃないか!」

「誰も杖を掲げようとしないからですわ。それならあたしが参りたいと思ったまでです」

 キュルケは不敵な笑みを浮かべながら言い放った。胸を張り、唇の端を僅かにあげ、爛々とした目をしたキュルケは自信に溢れ、美しかった。

「何をしているのです! あなたたちは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」

 ルイズとモンモランシーも理解した。すっと杖を掲げてみせる。

「だってしょうがないじゃない。キュルケなんかに負けるわけにはいかないわ」

「その通りですわ。キュルケが行くのに、わたしが行かないわけには参りません。それにわたしたちはフーケを見ているのです。行かないわけには参りませんわ」

 ミセス・シェヴリーズが反対しているが関係ない。才人が行くと言っているのである。選択の余地はない。
 どうやら才人は何か考えがあるようであった。予定を変更することにしたのであろう。それならば奴隷として、後押しをする義務があるのである。

 くく…頼むぜジジイ。今だけは頼んでやるからOKしてくれって……

 オスマンはむぅと唸って考え込む。

 ……ミス・ツェルプストーは火のトライアングル。実力があるから良いんじゃが…ミス・ヴァリエールとミス・モンモランシはいかん。一人は無能じゃし、一人は水メイジじゃ。
 ヴァリエールは公爵家じゃし、モンモランシは伯爵家じゃ。何かあったらマズイんじゃがのぅ……。

 オスマンはチラリと教師たちをうかがってみる。しかしである。誰もが視線を合わせようとしない。
 仕方がないので唯一オロオロしていたミセス・シュヴリーズ。オスマンを見ていたので声を掛けてみた。

「……ミセス・シュヴリーズ。君は行くかね?」

「い、いえ……、わたしは体調がすぐれませんので……」

 それでオスマンは諦めた。溜息を一つ付いてみる。情けないとは思うが、捜索隊は出さないわけにはいかないのである。

「……よかろう。魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する。ただしじゃ、危険なことはせぬように。無理だと思ったら引き返すのじゃ。秘宝よりも諸君らの安全の方が大切じゃからの」

 キュルケ、ルイズ、モンモランシーは、真顔になって直立すると「杖にかけて」と同時に唱和した。それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。才人もペコリと礼をした。

 ……惜しいのぉ、破壊の杖。くっ、じゃがまぁしょうがあるまいて。

 オスマンはそんな彼女たちに鷹揚にうなずく。内心ではもはや諦めており、杖を失うことで、心は悲しみで一杯である。
 だが、こうなってしまった以上は捜索隊を出さなければ怠慢と謗られようし、だからと言って大貴族の子女の命を失う事にでもなれば、流石に責任の追及をされてしまう。
 学院長の椅子を失う事には変えられないのだ。危険がないよう、念を押しておく必要があった。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。 ミス・ロングビル!」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

 微笑んだミス・ロングビルは「もとよりそのつもりですわ」と頭を下げる。

 っくぅっくっくっ! 上手くいったぜ! これでロングビルは俺の奴隷になるっ! 何でフーケの情報を出したのかは知んねーが、そんなことは関係ない。奴隷にしてからじっくり聞きゃあいい。
 くく…そんじゃあ馬車の旅としゃれ込もうか!

 四人はミス・ロングビルを案内役に、早速出発することになった。



 ぽっくり、ぽっくり、道を行く。街道とはとても言えない草原である。だが轍はあるし、草も生えていないから、道だとわかる。
 才人は馬車に乗って道を行く。ただし馬車と言っても、屋根ナシの荷車のような馬車である。フーケが襲ってくるかも知れないので、それを警戒しなければならなかった。

「おー、いい天気だぜ。キュルケもそう思わないか?」

「そうよね、ダーリン! ねっ、このまま街まで遊びにいかない? オールド・オスマンも捜索隊を出したって事実があればいいみたいだったし…ねっ、そうしない? 美味しいもの食べて、お買いものするの! ね、ダーリン、そうしましょう?」

 とはいえ、緊張感などどこにもなかった。ロングビルは手綱を握りながら苦々しい顔をし、ルイズだって苦り顔。モンモランシーだって苦笑だが、才人とキュルケの所為で、緊迫感など吹き飛んでしまっていた。

「……ミス・ヴァリエール。…その、いつもこうなのでしょうか? フーケが来るかもしれませんので、もう少し真面目にやっていただきたいのですが……」

「しょうがないでしょ。サイトったらキュルケと付き合うなんて趣味悪いんだから。ツェルプストーだけはやめときなさいって言っても聞かないんですもの」

 呆れた声のルイズである。それでロングビルはぐっと、我慢した。今の自分は没落した貴族で、平民であると言ってしまっている。立場上、抗議するわけにはいかないだろう。

「!っ…………」

 だが、ふと振り返ってしまい、一層表情が険しくなってしまう。

「ミ、ミス・ヴァリエール! さ、流石にこれはいかがかと思うのですが?」

「……だから言ってるでしょ。諦めなさいって。森にある廃屋がフーケの隠れ家なんでしょ? そこまでいけば少しは真面目になるでしょ」

 怒りに震えるロングビル。ルイズは処置なしだと言う風に頭を振り、モンモランシーは顔を赤らめてそっぽを向く。

「くく…あんまりがっつくなって。帰ったらいくらでもしてやるからさ」

「ああンぅ……だってぇ……どうしても…我慢…出来なくなっちゃったんだもん……」

 ロングビルが目にしたのはキュルケと才人のキスシーンであった。それもディープでねちっこいのである。甘い吐息とくちゅくちゅ水音がしたので、まさかと思ったのだが、案の定だったのだ。

 っく、こ、殺す! あたしを舐めるのもいい加減にしろって言うんだい! 杖の使い方を聞き出したら殺してやる!

 いくらなんでもこれはないと思った。土くれのフーケと言えばトライアングルに相応しく、30メートルものゴーレムを操るメイジである。
 フーケがゴーレム操作に特化しているのもあるが、間違いなく土系統のエキスパート。もしかしたらスクウェアとも噂されるメイジなのである。
 それと今から対決しようと言うのに、この緊張感のなさ、余裕の見せつけぶり。舐めているとしか思えない。もう、殺意を抑えるのに必死だった。

「っい、急ぎますわ。そうしないとフーケが隠れ家を引き払ってしまうかもしれません。よろしいですわね? ミス・ヴァリエールっ」

「……そうね、そうしてくれるかしら。わたしもいい加減疲れてきたし……」

 もう我慢の限界だった。ロングビルは馬に向かって鞭を一つ。廃屋へと急ぐことにする。

 ……くっくっくっ…、いい感じで茹ってきてるね。フーケは貴族をおちょくるのが大好きってか? 全く同感だが、自分だと耐えられないってか? くく…カルシウムが足りてねえんじゃねえか?

 そして才人はそんなロングビルの後ろ姿を見ながら楽しんでいたのである。

 服の上からキュルケをまさぐり、豊満な胸をむにむにと揉みしだく。太ももを撫でてみたり、手を入れて乳首をつねって見たり。そうやってちらりちらりと前を窺ってやるのだ。キュルケの喘ぎは段々と大きく、遠慮がなくなっていく。

 まあまあ、これくらいでイライラしなさんなって。くく……あんたもこれからこうなるんだからさ……。

 今や制服は完全にはだけ、乳房どころか乳首も、そして肉襞さえも、ちらりちらりと露出する有様となっている。そんな状態でキュルケは才人の胸に寄り添っていた。
 挿入こそしていないようだが、そんなことは何の慰めにもならないだろう。

 っっっあんのくそガキッ! あたしの目を見て嗤いやがったッ!!

 そしてロングビルである。どうしても、どうしても我慢できなくなったのだ。だから嫌味ついでに睨み付けよう。そう思って振り返ってしまった。
 あまりの光景に絶句して茫然とし、破廉恥な二人を睨み付けたあと、ロングビルは前を見るだけとなってしまった。

「っひぃンッ……!っ……いやぁ……も、もぅ…えっちなんだから……」

「おいおい…声が大きいぞ? 我慢できないって言うからやってやってんじゃねーか。それともやめた方がいいってか?」

「!だめぇ…ダ、ダーリン、ぃやめちゃいやぁ……」

「ん、だったらもっと声を抑えろって……」

 これはご褒美であった。ロングビルが怪しいと最初に気付き、捜索隊になろうとの意図を掴み、一対一の状況を作り出した。その最大の貢献者であるキュルケへのご褒美なのである。

 くく…もう意地でも振り返ってやらないってか?

 だがしかしである。ロングビルにとっては堪ったものではない。御者台と荷台。つまりロングビルと才人たちとは1メートルほどしか離れていない。
 そんな中でぴちゃぴちゃと唾液を交換する水音が聞こえ、ぬちゃぬちゃぬちゃぬちゃっと激しい水音まで聞こえる。そうしてあはんあはんと喘ぎ声が絶えないのだ。振り返らなくたって、何をしているかは予想がつこうというものである。

 絶対に殺すっ! エロ貴族! 馬鹿にすんのもいい加減におしっ!!

 それにだ。ルイズは真っ赤な顔をし、悔しそうな顔をしているのだ。後ろのモンモランシーも似たようなものだと、ロングビルは思う。それなのに何で抗議したりしない? その事実も怒りに油を注ぐのだ。

「いい加減にしろ!」の一言が何故言えない?

 っっコイツら全員同罪だよ! 平民だって馬鹿にしてんのかい? ちくしょう! ふざけんのも大概におしよっ!

 牧歌的な風景である。見渡す限りの草原に、ぽつんぽつんと集落と畑がある。天気はこれ以上ないくらいに快晴で、空にはピーヒョロロロ……と、トンビでも飛んでいそうだった。

「っ…あ……はぁぁン……は…ぁ……ぅン…い、…いい……ぁ……ん……」

 そんな中でキュルケは喘いでいた。いくら抑えようとも、どうしたって聞こえてしまう。
 むしろ小さく喘いでいるからこそタチが悪いのだ。

 ~~~~ッ! ちくしょう! 早く着いとくれよ! もっと近くに隠しときゃ良かったじゃないか!

 何故なら大声だったなら怒りを保つことができる。だが、こうなってしまうと怒りよりも羞恥が勝ってくるのだ。

 ……くっくっくっ、思ったより頑張るねぇ。怒り狂っていつ仕掛けるかって思ってたんだが…どうやらどうしたって隠れ家まで案内したいらしい。何をするつもりなんだ?

 才人は「キュルケ、愛してるぜ……」と囁き、その耳を甘噛みしてみる。

「!っはンぁああぁあぁぁぁあぁああぁぁんんぅ……!」

 するとロングビル。ぴくっと背筋を伸ばしてしまった。そのあとは肩をぷるぷると震わせ、どうやら必死に怒りを堪えているのだと、そんな風に才人は感じた。

 ……ふ~む、これならもう意地でも振り返らないか? まあ振り返ってもそれはそれで面白いんだが…くく…、どうなるんでしょね?

 才人は調子に乗ってみる事にした。キュルケは派手にイってしまってしばらくは動けないだろう。だから別の方法で遊ぶより仕方がないのである。

 しいっと人差し指を立ててみせ、モンモランシーのスカートへと手を入れていく。コクリとうなずいたモンモランシーだった。
 手が伸びてくれば、今から何をされるのかはわかる。息を殺し、喘がないようにしなければならないだろう。

 っ……ぁぁン……ひ、酷いですわ……ミス・ロングビルが振り返ったら、どうするつもりですのよ……

 下着越しに触れたモンモランシーの秘所。そこはしっとりと濡れていた。
 才人はほぅと感心し、ニヤリと笑って悪戯を続ける。

 そしてロングビルである。どうにも喘ぎ声が二種類あるように思えて仕方がなかった。
 もしかしてと、そう思わないでもないが、当てられてしまっただけだろう。そして息を飲んでいるのが、それらしく聞こえるだけに違いない。

 っ~~~~ふ、振り返らないよ! あたしは絶体振り返らないんだからねッ! 振り返ってなんか、やるもんかいッ!!

 決して、決してと、固く固く誓ったのだ。
 
 そう、モンモランシーが一人エッチをしているとか、あるいはくそガキが二人の女を責めているとか、そんなことが絶対にあるわけがない。だから振り返って確かめる必要はないのである。

 っっは、早く着いとくれよっ。こんなの我慢できないよっ。隣のガキまで始めたら、あたしは一体どうすればいいんだよ……。

 ちらりと横目でルイズを見る。こうなってくると、ルイズもなんだか怪しく思えてきた。
 今までスカートの上に手を添えていただろうか? 時々ぴくぴく動かそうとしているような気がするが、本当に気のせい?

 ロングビルは手綱を緩めるとピシッと馬に鞭をくれる。そうすると馬は抗議のいななきをした。これまでだって頑張ってきたのだ。無茶を言うなと言いたいのだろう。
 だがそんな抗議など黙殺である。今思う事はただ一つ、一刻も早く隠れ家までたどり着きたい。それだけである。

 くくく……なんか焦ってきた感じがしてきたぞ。もしかしてこの反応は処女か? それとも経験豊富か? キュルケの件もあるからわからんが…まっ、もうすぐわかるんだし、楽しみにしときますかね?

 ロングヒルは再度強めに鞭を入れる。それで馬は諦めた。ブルルルルッとそれでも抗議をし、それからその歩みを速めた。



 着いた先は深い森であった。鬱蒼とした森は昼間だというのに薄暗く、気味が悪い。

「っ、ここから先は、徒歩で行きましょう」

 ミス・ロングビルがそう言うので、全員が馬車から降りた。森を通る道から、小道が続いている。

「ダーリン、あたし暗くて怖いわ……」

 キュルケが才人の腕に手をまわしてくる。

「くく…あんまりくっつくなって。帰ったら存分に可愛がってやるからさ」

「ああん! 嬉しいわ、ダーリン! 怖さなんて吹き飛んじゃったわ!」

 キュルケはすごく甘えきった調子で言った。

 おーおー、こいつはおもしれえ。しゃべるのに振り返ろうともしねえってか? そんな怒んなくたっていいじゃねーか。ほら、スマイル、スマイルって、くく…顔を見せてくんなきゃわかんないよな?

 先頭を歩くロングビルを観察する。何故だろうか? 才人にはあまりの怒気に頭から蒸気が噴き出しているように見えた。

 っくそガキくそガキくそガキくそガキくそガキくそガキっ……! 

 ロングヒルは黙々と森の小道を歩いて行く。もう間もなくで我慢は終わるのである。それだけを希望に、ロングヒルは歩いていく。


 さて、そうして30分ばかり歩いた一行は開けた場所に出た。森の中の空き地と言った風情である。およそ、魔法学院の中庭くらいの広さだ。真ん中に、確かに廃屋があった。
 元は木こり小屋だったのだろうか? 朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。

 ……ほほう…、なるほどね。こんだけの広さがあって、地面が土で、んで周りが木に隠れてりゃもってこいってわけか。

 才人は納得した。ここまで連れてきたわけはゴーレムを使うためだったのだ。人目を気にせず、それなりの広さがある場所。単なる草原ではいつ人が来るかわからず、まずかったのであろう。

 ……で、問題のお宝だ。キュルケは見たことあるって言ってたっけ。何でも見たこともない材質で、変わった形の杖だってか? まあ、それはそれとして、あとは何をしようとロングヒルがここまで連れてきたかだよな……。

 残る疑問はあと一つである。だが、それはいずれわかる話であろう。才人は取りあえず疑問を棚上げすることにする。

「わたしが聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

 ロングビルが廃屋を指差して言った。彼女はプロなのだ。仕事に掛かれば意識を切り替える。まして今は有能な秘書の仮面を被っている。例え憤怒の極みであろうとも、それを顔には出さないのだ。
 握り拳を作り、指差す手がぷるぷる震えているように見えるが、気にしてはいけない。

 ……さーて、どうしましょうかね?

 忘れそうになるが目的は秘宝である『破壊の杖』を取り戻し、出来れば怪盗フーケを捕まえることである。
 秘宝を取り戻そうとし、フーケの手がかりを得るにはどうしたらいいのか? 才人は奴隷たちを集めて相談することにした。

「で、どうする? あれがフーケの隠れ家なんだよな? もしかしたらあん中にフーケがいるかもしれん。秘宝や、これまで盗んだものもあるかもしれん。これからどうしたら良いと思う?」

 その言葉で奴隷たちは考える。才人はどんな風にロングビルの正体を暴き、どんな風に奴隷にしようとしているのだろう? これは罰とご褒美に直結しているのである。どうしたってうまい手を考え付かなくてはならないのだ。

「……とにかくあの小屋を調べる必要があるわよね? でも、フーケがいるかもしれないし危険だわ。……ねぇ、サイト。取りあえず偵察に誰かいかない? それで様子を窺って、話はそれからだと思うんだけど……」

 才人はどう考えている? それからロングビルがここまで連れてきたわけは何? まずはそれを知らなくてはならない。だが、監視するための人員は、どうしたって残しておかなければならない。ルイズはそう考えた。

「……そうですわね。ではわたしが行ってまいりましょうか? 中の様子を探って、フーケがいるかどうか見てまいりますわ」

 その言葉にモンモランシーは同意する。そうなるとトライアングルだろうロングビルを抑えられるのは、同じくトライアングルのキュルケになる。ルイズは表向き魔法が使えないし、ご主人様である才人を危険に晒すのは論外なのである。

「う~ん、そうね、それはそれでいいんだけど、偵察にはあたしがいくわ。それで…ねぇ、ダーリン、あたし怖いの! でも、一緒に来てくれたらあたしは怖くなんかないわ! ねっ、だからダーリン! あたしと一緒に行きましょう!」

 そしてキュルケは思った。才人が何を考えているかわからない以上、才人が小屋に行くと言う選択肢も入れておく必要がある。
 とまあ、そんな建前はともかくとして、一番の理由は何より一緒にいたいのだ。

「……なるほど、そうすっとどうしたもんか……」

 奴隷達の提案は受けた。この流れならば才人がどんな提案をしても、それは自然な提案となるだろう。つまり採用されても不自然でなくなる。しばらく考え込んだ才人はその口を開いたのだった。




[27351] 森の広場
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/19 20:22
 眼前にはフーケの隠れ家とされる廃屋があった。おおよそ50メートルほど先にある。
 暗い森の中にぽつんとあり、いかにも泥棒の隠れ家として相応しく見えた。

 ……問題はここまで連れてきた訳だよな? いないとは思うが…もしかして協力者とかでもいるのか?

 さて、フーケの正体はわかっている。ロングビルである。彼女は一体何を考えているのだろう? ゴーレムを使うつもりであるのはわかったのだが、何故そうするつもりなのかはわからない。
 単純に考えれば才人たち四人を踏みつぶすでもしようと、そう言うことになる。だが、今のところはその気配はない。一体いつ使うつもりなのだろう?

「よし、じゃあモンモランシー。小屋の偵察に行ってきてくれるか?」

「わかりましたわ。行ってまいります」

 命令を受けたモンモランシーがにっこりと微笑む。

 それともう一つの疑問である。何故才人たちをここまで案内してきたのだろう? フーケの隠れ家を捜索させ、手掛かりがないことを示し、捜査を打ち切らせたいのだろうか? だが、そうなると矛盾が出てくる。
 もしもそうなら、そもそもフーケの隠れ家を見つけたと報告する必要がない。調査に赴いて、残念ながら手がかりはなかったとすれば良かったはず。
 学院まで戻ってくるのに時間が掛かったので、そのアリバイの為にでっち上げた? それなら一応筋は通る。だがどこかしっくりとこない。
 意識を誘導させるためについた嘘は詳しすぎた。矛盾点をつかれ、ボロが出た可能性は高かったのだ。

 ……う~ん、あんな小屋じゃあ、隠れてても一発でわかるし……

 他にどんな可能性があるだろうか? それからゴーレムを使うのは正体がバレた時の保険なのか、それとも他に理由があるのか? 

「……ロングビルさん。フーケは何でこんな隠れ家に来たんでしょうね? 中にいると思います?」

わからない才人は直接本人に問い質してみることにした。疑問点を解消するには、これが一番確実であろう。

「……そうですね。わかりませんが、中で一休みしているのか、あるいはもう引き払っているのか……」

 するとロングビルは自信なさげに答えてくる。才人はふむ、と考え込んだ。まあ素直に白状するとは思わなかったが、一体どんなつもりなのだろう? 
 何か目的があるはずなのだが、どうしても思いつかないのである。

「サイト、小屋を見てきたけど誰もいないみたいでしたわ。これからどうしますか?」

 モンモランシーが戻ってくる。小屋の中は一部屋しかなかったという。それから埃の積もったテーブルに椅子。乱雑に散らかっていて、人が使っている形跡はない。
 ただ暖炉の脇に薪が積んであり、その隣にあったチェストが目を引いたというのだという。木でできた、大きな箱である。

「どうします? 誰もいないようだし行ってみます?」

 果てしてロングビルはどう反応するのか? 才人はこれによってその意図がわかってくると思った。聞いた限りではしばらくは誰も使用していなかった廃屋である。
 そうなるとフーケも使用していなかったことになるだろう。ここに怪しい点が出てくるのだ。

 ……箱の中身ってなんだ? それを見せる為にここまで案内したってか?

 そんな中であからさまに怪しく思えるチェストが一つ。おそらくロングビルの目的はそれだろう。だが何のためかがわからない。
 箱が空ならアリバイ作りに利用されたということだろう。でも、それだとフーケの情報を詳しく伝えた意味がない。
 例えば爆弾の類だとすると、それも意味がわからない。噂を聞いた限り、フーケは怪我人こそ出しているようであるが、死者を出したとは聞いていない。
 となると、第三の理由となる。盗んだ品を見せる為であろう。そしてこの流れだとどうやら『破壊の杖』を見せる為になるのだが……

「そうですわね。ではわたしはフーケが来るかも知れませんから辺りを見てきますわ」

 ロングビルが偵察に行くことを志願した。それで才人はピンと来たような気がした。

 っこいつ、今からゴーレムを使うつもりだな? 『破壊の杖』っつーくらいだから、なんか武器の類だ。そうすると俺たちに使わせて性能を見たいってか?

「そうですね、じゃあそうしましょう。俺はモンモランシーと中を見てくる。ルイズは小屋の外で見張っててくれ」

 ルイズとモンモランシーは「わかったわ」とうなずく。ニコリと微笑んだロングヒルは森の中に消えようとし、

 っくく…さあ、ロングビル、どう出てくる?

「それからキュルケ。ロングビルさんの護衛についてやってくれないか?」

 ピタリと足を止めることになった。落ち着きのない様子は明らかに狼狽が見て取れる。よほど予想外だったのだろう。

「あ、いや、中にフーケはいないようですし、一番危険なのは見回ってくれるロングビルさんでしょ? キュルケならトライアングルだし、守ってくれると思いますよ?」

「……しかし…その、見回るだけならそんな危険はないと思いますが?」

 才人は笑いを堪えるのに必死である。

「何言ってるんですか。森の中を見回るなんて、一番危険だと思いますよ? 不意打ちさられたらどうするんです?」

「っしかしですね、ちょっと見てくるだけなんです。それなら一人でも充分です」

 ロングビルは不機嫌そうである。だが、才人としてはここが勝負どころなのだ。追及の手を休めるわけにはいかないだろう。

「だから何言ってるんです? 俺としてもそうしてくれないと困るんですよ。万が一ロングビルさんがフーケの不意打ちを食らったら、皆が危険になるんです。護衛は必要でしょう?」

「っいえ、念のためですから危険はないと思います。一人でも充分ですわっ」

 このやり取り見た奴隷たちは理解した。今こそ才人はロングビルの正体を暴くつもりなのだ。
 その表情を確認してみる。すると抑えきれない嗤いが見えだしてきていた。
 そうすると奴隷たちもおかしくなってくる。自然と口の端が釣り上がってくるのを感じた。

 っおいおい、オマエら。少しは我慢しろって。くっ、吹き出しそうになるじゃねーかよ!

 それでも平行線の話でしばらく抵抗していたロングビルだったが……ついに諦め、疑われていることを認めざるをえなくなった。さっと距離を取り、眼鏡を外すと笑って見せる。
 その優しそうだった目は吊り上り、まるで獲物を狙う猛禽類のようになった。

「……いつ気付いたんだい?」

「くっくっくっ…いつって言われてもなぁ、最初からとしか言えないぜ」

 もうこうなっては隠す必要はないであろう。

「まっ、こうなっちまったんだ。無駄な抵抗は止めて欲しいな。“ゴーレムで俺たちを潰そうとするなんざもっての外だ。逃げようとしないでくれ”」

 これで詰みである。気が付いていないロングビルは「はんっ、冗談じゃないね!」と叫び、ポケットから杖を出してみせた。

「おー、やっぱスゲェな。噂になるだけのことはあるぜ」

 現れたのは30メートルもの高さを誇るゴーレムである。いきなり10階建てのビルに匹敵する高さが現れたのだ。一度見たことのある才人としても、至近だとやはり吃驚した。

 ……どんな理屈なんだろな? 考えても仕方ないんだが…やっぱ不思議だよなぁ……。

 ぼけっとゴーレムを見つめ、そのあとはニヤニヤしてくる才人にロングビルはイラつく。

 っこの期に及んで余裕かい? っ舐めたことした報いさ、受け取りな!

 もう勝負はついているというのに、焦る様子も見せない才人である。なにやら得体の知れない恐怖はあるが、それよりも自信がある。例えスクウェアのメイジであろうと、こうなっては恐れる必要はない。

「いきなっ!」

 だってそうではないか。もう呪文は完成している。相手は杖を構えようともしないし、こうやって一言呟くだけで終わる。勝ちはどうしたって揺るぐはずがないのだから。

 だが

「ん? どうした? 何がくるんだ?」

 ゴーレムは全く動こうともしない。その巨体を鎮座させたままである。

 異常事態にロングビルは焦る。「いきなっ! いきなっ!」と何度叫んでもゴーレムは全く動こうともしない。杖を振り、ルーンを唱え直してもゴーレムはピクリとも動かない。

「くくく…何を焦ってるんだ? 早く動かしゃあいいじゃねえか」

「っく……動きな! あたしのゴーレム! あいつらを叩き潰すんだよ!」

 ニタニタと嗤っている才人に恐怖を感じてしまう。だが諦めるわけにはいかないのだ。感情を押し殺してロングビルは叫び続ける。

 ほぅ…いやいや、流石は怪盗フーケってか? モンモランシーはこの段階で心が折れかけてたんだが……

 才人としては感心せざるをえないだろう。この胆力なら、手駒として充分役に立つに違いない。一歩、また一歩と、才人はロングビルへと歩いていく。

「っく……い、一体何をしたんだいっ! 何であたしのゴーレムが動かないのさっ!」

 才人は答えない。その代わりに手を伸ばせば触れるほどに近づき、「そのままじっとして俺の質問に答えろ」と命令した。

「くく…不思議だろうが、そんなことは問題じゃない。いくつか質問に答えてもらいたいんだが…構わないか?」

「っか、かまわない。何が知りたいんだい?」

 するとどうなってしまうか? ロングビルの口が、質問に答えようと自然に開いてしまうのである。信じられない出来事だった。

 っな、なんで勝手に答えちまうんだいっ! あ、あたしはそんな事思っちゃいないのにっ!

 そして気が付けば才人だけではなかった。ルイズも、モンモランシーも、そしてキュルケも、近づいて来ていた。
 微笑んでいるのだが、それが怖い。ロングビルは悪寒を感じて震えてしまいそうなる。

「ルイズ!」

「わかってるわ。こんなチャンスはそうそうないし試してみるわね」

 振り返りもせず、才人は指示をした。人目に付かない場所で、トライアングルのゴーレム。こんなチャンスはそうそうないのだ。
 才人がゴーレムを動かすよう命令し、ロングビルはゴーレムを動かす。

 っく、っどうして? 何で今だけゴーレムが動くのさっ!

 事態がわからず、とてつもない恐怖を感じてしまう。そしてルイズはズシンズシンと去っていくゴーレムを見ながら呪文を詠唱する。
 唱えるは「ファイアボール」の呪文。何だって構わないのだが、イメージとしては一番適当であろうと選んだ呪文だった。

 っっい、一体何を試すっていうんだい!

 さて、ルイズの呪文は全て爆発してしまう。これは属性が虚無であるからであり、行き場を無くした魔力が暴走してしまうからであるが……

 さぁ、どうなる? たぶん行けると思うんだが、どうなる?

 だが才人は思ったのである。爆発だろうとありえない結果は魔法と同じなのだ。しかもルイズは虚無を自覚した結果、その威力は以前と比べものにならなくなっている。
 学院の中庭で試していては目立ってしまうほどであり、それで尚、全力には程遠かったという。
 普通の呪文と違い、任意の場所で発動させられる“爆発”の呪文。それをゴーレムの内側で破裂させるイメージで使ったならどうなる? 全力で唱えたらどうなるか?

 そして、ルイズの呪文はゴーレムへと襲い掛かった。

 まるで強力な地雷がそこにあったかのように爆発する。才人は思わずほぅと感心した。
 土砂が崩れるかのかのような激しい爆音がし、ゴーレムの上半身がばらばらにとびちったのである。

 ……流石は伝説の虚無ってか? 大した威力だ。想像以上だったぜ。……しっかし、それにしても脆くねえか? 中身がスカスカだとこんなもんなのかね……。

 とはいえ、才人としては予想以上の結果である。手駒の能力が想像以上だったのだから、これは嬉しい。
 ロングビルはありえないと茫然とし、話を聞いていたキュルケも、モンモランシーも、
 そして予想以上だったのだろう。ルイズもまた、驚きで目を見開く結果である。

 土の塊が雨のように辺りに降り注ぎ、ゴーレムの下半身だけが立っている。
 そして、滝のように腰の部分から崩れ落ち、ただの土の塊へと還っていく。あとには土の小山が残された。

 さあ、ここからである。

 ……だというのに、あれほど強気を保っていたロングビル。裏返せば己のゴーレムに絶大な自信を持っていたのであろう。ゴーレムの末路を見届けるともう駄目だった。がっくりと地面に崩れ落ちたのである。

 ……ありゃあ…拍子抜けっていうか、こんなんで役に立つのか? 

 才人としては苦笑するしかなかった。まあ仮面を被るのは上手いようだし、自信を回復すれば使えるようになると思いたい。
 学院の情報を入手し、学院へと働き掛ける。またフーケとして活動していた時の伝手や情報収集能力。
 マチルダは手駒としてどうしても必要なのだ。

「……キュルケ!」

 才人は奴隷の一人に声を掛ける。キュルケは嬉しそうに「何かしら、ダーリン」と返した。
 何故ならこれは今回の作戦で一番役に立ったとの証明なのだ。嬉しくないはずがないだろう。

「念のためだ。杖を取り上げて縛りあげろ。ルイズもモンモランシーもそれを手伝え」

 今回の作戦で一番役にたったのはルイズとキュルケであろう。才人としてはどちらにしようか迷ったのだが、こうなると趣味が優先される。
 いつでもどこでもおっぱいは正義なのである。

「くっ…そんなむくれるなって。わかった、わかった。ルイズ、オマエの意見も聞いてやるからそれで勘弁しろって」

 こうしてフーケことロングビルは捕まってしまった。ルイズは不満そうだったが、才人の言葉で機嫌を直したようである。それをキュルケはふふんと挑発的に笑い、その光景にモンモランシーは苦笑した。
 ロングビルはされるがままに、おとなしくなっている。ショックが大きすぎ、気力が尽きてしまったのだ。

 さっ、尋問タイムのスタートだ。くく…素直に白状してくれるといいねぇ……

 こうしてロングビルは縛り上げられた。ようやく本当の目的が果たされる時が来たのである。

 後ろ手に縛りあげられ、地面へと直に正座で座らされ、勲功一位と認められたキュルケがその縄尻を握る。才人はその状態で尋問をすることにした。

 さあ、何を答えてくれる?

 楽しい楽しい時間の始まりであった。



「……まあ偽名だとは思っていたけどな、まさか元伯爵令嬢だとは思ってなかったな」

「……そうだよ。あたしの本名はマチルダ・オブ・サウスゴーダさ。これで満足かい?」

 ロングビル。いや、マチルダは疲れ切っていた。

「くくく……どうだ? ちんぽの使い魔になった気分は? 正直に今の気分を答えて見ろ?」

「最悪だね。これ以上ないってくらい最悪さね」

 そして絶望していた。フーケとして散々盗みを働いていた自分である。最悪は縛り首も覚悟していた。だが絶対服従の奴隷にされ、その上で生かされるとは思ってもいなかった。

 例の儀式である。

「……我が名はマチルダ・オブ・サウスコーダ・五つの力を司るペンダゴン。このおちんぽのために生き、おちんぽのためなら何でもし、おちんぽの事だけ考える。我はおちんぽの使い魔となった……」

 そう誓わされ、屈辱のキスをさせられ、イマラチオによって、その精液を飲まされてしまったのである。
 そしてそのあと冷笑を浮かべるルイズから、軽蔑の視線のモンモランシーから、最後に嬉しそうな様子のキュルケから説明されたのである。

 もう逃れられない。オマエの運命は生涯奴隷として確定された。その証拠はわたし達である、と。

 マチルダは絶望せずにはいられなかった。

「そうか? そいつは残念。まあこいつらも最初はそうだった。慣れりゃあ、気に入るようになるって」

「そうかい。そんなことはないと思うけどね」

 マチルダは白状させられていた。口が勝手に動いてしまうのだ。破壊の杖の使い方がわからなかった、だから誘い出したと話した。
 潜入していたのだから本名は違うのではないかと問い掛けられた。だから本名であるマチルダを名乗った。
 問われれば問われるだけ、知っている限りをしゃべらされてしまったのである。

 伏せていた顔をあげてみる。

 っこ、こんなもんの使い魔ってのかい! っちくしょう! ふざけやがって! 

 そして今のマチルダ。儀式が終わると縄を解かれていた。それなのに黙って正座をし、聞きたくもない話を聞いている。
 才人が「そのまま聞け。俺が何を望んでいるか考えてそのまま動け」と命令した結果、お尻がどうしても地面から離れなくなっていたのである。

 すっと視線をずらしてみた。

 そこには才人の奴隷たちが控えている。当たり前のように全裸であり、恥ずかしいとは思っていないようであった。

 っくぅうぅぅ……ま、まさかとは思ったけど、こいつら全員このガキの奴隷だったなんてね。
 あたしもヤキが回ったもんさ。ここに来る時からずっと嗤われて、試されてたとはねっ。
 ッそれで、あたしも、こいつらのようにされちまうってのかいっ!

 晴天の屋外である。森の中の広場である。そうそう人が来るはずないとは理解できるだろうが、それにしたって屋外である。普通は恥ずかしくて堪らないはずであろう。
 それなのに才人が「脱げ」と一言呟いただけで、ルイズも、モンモランシーも、そしてキュルケも。まるで躊躇いなく全裸となっていった。
 そして「脱がせろ」と呟けば丁重に衣類を脱がせていったのである。
 この時マチルダは己が今からどうされるか理解した。才人たちは『破壊の杖』などどうでも良かったのだ。マチルダを捕まえ、犯すことのみ目的だったのである。

 っちくしょう! ちくしょう! っっなんでこんな目に合わなくちゃなんないんだよ! あたしが一体何をしたってのさ!

 どうやら相談が纏まったようであった。才人たちはふざけたことに普通に犯すのではなく、その方法を話し合っていたのである。
 漏れ聞こえる言葉の数々は屈辱の限り、信じたくもない話の数々。

「くく…待たせたな。やっぱせっかくの屋外だ。それに相応しいやり方でまんことケツを貰いたくってな。時間も押してるしそろそろ始めようぜ?」

「っぐ…そ、そうさね。あたしのまんことケツ。早いところ貰っとくれよ」

 どれだけ抵抗しても無駄であった。身体は勝手に動くし、口は勝手に回ってしまう。何か別の事を考えていれば? そう考えて試してみた。
 なのに頭の片隅では別の事を考えつづけ、気が付けば才人の意図はどこにあるか? どうすれば命令を遂行できるか? ただただそれだけを考えてしまうのだ。

「よ~し、そんじゃあ始めますか」

 説明を突き付けた才人はニヤリと笑い、開始を宣言する。
 これからどうなってしまうのか? どうしても信じたくはなかった。



 開始を宣言した才人に控えていたルイズが一本の鞭を差し出す。何の荷物をもっているのだろう? 大した大きさの鞄でもなかったので気にしていなかったマチルダだが、今になって理解した。
 鞭や縄。そういったものを隠すために用意していたのだ。

 才人がニヤニヤ笑いながら「始めろ」と、マチルダに向かって合図する。

「っじゃ、じゃあご主人様。始めるよ。あたしの脱ぎっぷり、見てておくれ」

 ゆっくりと立ち上がる。そうしてからニッコリと微笑んでみせる。猛禽類の目つきから優しげな表情へと変えたマチルダはその手をスーツの上着へと掛けていく。

 っちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…なんでなんだよ……

 上着を脱げばそのあとはスカーフであろう。しゅるしゅると解き、ブラウスを露出させる。
 直ぐには脱いでいかない。才人にアピールし、これでいいのかを確認しなくてはならない。

「あ~ん、見てぇ、見てえンっ、あたしのおっぱい見てえン……っ!」

 場末のストリッパーマチルダは観客にアピールしてから脱いでいく。

 それから表情だって気を付けないといけないだろう。流し目を送り、ウインクなどしてみる。才人がニヤリとしたのを見て、次に進む。
 焦らすようにしてブラウスのボタンを外し、それをぽいっと投げ捨てるのだ。
 ひらひらと舞い落ちていくブラウス。それは才人とマチルダの中間へと落ちた。そしてその才人であるが……

「じゅむぶっ…はむ…ちゅるぢゆ…ぺろれろ…ちゅゅうっ…はんむ…れろ……」

 ルイズへと肉棒の奉仕をさせている最中である。そしてそれだけではなくモンモランシーの背中にどっかりと座り込み、キュルケの乳房を背もたれとしていた。

 な、なんて悪趣味なんだいっ! ……っちくしょうっ…あ、あたしもああなっちまうって、いうのかい?

 キュルケは嬉しそうにゆさゆさと揺らし、むにむにと押し付けているが、モンモランシーは四つん這いに、苦痛に顔を歪めている。だが、才人の奴隷なら当然のことだ。
 椅子もベッドも、腰掛けるものがないから仕方がないし、それに奴隷がいくら苦しかろうが、そんなことは才人には知ったことではないのだ。
 
「くっくっく…焦らすなよ、マチルダ。そろそろ御開帳といってくれ」

「あっは~~んんぅ…、も、もう! ご主人様のいじわる~~っ!」

 常に表情はあくまでも明るく、お尻をぷりぷり揺らしくいく。おっぱいを揉み、乳首をどうにか舐めようとし、小鳥のさえずりを音楽としてタイトなスカートを脱いでいたマチルダ。
 才人の要望である。御開帳のためにショーツへと手を掛ける。恥じらいを見せるマチルダはスリットの結び目を解き、そしてもう片方のスリットも解く。

 うっうううっぅうぅぐぅぅうぅ……ち、ちくしょう! こ、こんなのさっさと脱いだ方がよっぽどマシってもんじゃないか……。

 ショーツを抑えたままM字になってしゃがみ、お尻を地面へとつけ、乳房を抱え込むようにして隠す。

 っくっふぅうううう……は、恥ずかしいじゃないかい……ち、ちくしょう……

 さあ、いよいよである。マチルダが御開帳をする。

 M字の体勢から身体を寝かし、背中を地面へとつけた。あとは次第次第に足首をあげていき、股をゆっくりゆっくり広げていく。

 っっやけくそだよ! ちくしょう! 見たいってんなら見ればいいさ! 

 満面の笑みを作って見せる。場末のストリッパーとはそうしたものなのである。
 その見事なV字はまさに御開帳。じゃまになったショーツをぽいっと投げ捨て、両手を使って秘唇をくつろげて見せる。
 奥の奥まで見えるようにと力を込め、才人の目を見てニッコリ微笑むのだ。

「どう? ご主人様? あたしのおまんこ、使ってもらえるかい?」

 どうしても屈辱と羞恥が出そうになってしまう。だが、今のマチルダには許されないだろう。何とか表情を作り、才人へと微笑んで見せる。

「くく…ああ、使ってやる。それとケツ穴のほうもよろしく頼むぜ?」

「わかってる。これでどぉ~お?」

 太ももを抱えてみせる。そしてもう片手で二本の指を送り込み、ぐいっと広げてみせる。
 マチルダの顔が紅潮しているのは怒りのせいだけではない。羞恥で死にそうだったからである。
 
 木々から吹く風が膣とアナルを凪いでいく。すーすーと情けないのが実感できる。それを見ている才人なのにニヤニヤしていて何も言わない。
 批評されるのも辛いが、それには怒りを伴うだろう。でも、こうやって放置されているのも辛いのだ。
 何しろ冷静になれるし、そうすると羞恥しか感じられないのである。

 っは、早くしとくれよ! 早く終わらせておくれよっ!

 引きつり気味だった満面の笑顔が変わっていく。情けなさと恥ずかしさで、愛想笑いに変わろうとしていく。

「くく…よし、次にいけ」

 その言葉にマチルダは心底ほっとした。このあと更に酷い屈辱へと追い込まれるだろう。
 でも、今はそんなことより、屈辱の御開帳をなんとかしたい。それだけしか頭には残っていなかった。

「っっい、いくよ、ご主人様。あたしのマンズリ、見ておくれ……」

 そして現実とは辛いものであった。マチルダはこれから「よし」と言われるまで自慰に励まなくてはならない。

「っはぁあぁんんぅ……はぁ…はぁ……っはんっ、っぁぁン~~はぁ……はぁ……」

 このあともまだまだ予定がある。だから手を抜くわけにはいかない。何故なら才人は宣告していたのだ。

「くく…やらないのならそれもいいだろう。だがな、多分その報いは受け取ることになると思うぜ?」

 そう言われてはマチルダとしては手を抜くわけにはいかない。例え恥ずかしかろうと、悔しかろうと、手を抜くわけにはいかない。

 っごめんよ、テファ。あたしね、あんたのことしゃべっちまったんだよ……

 そして情けなかろうと、惨めであろうと、手を抜くわけにはいかなかったのだ。
 才人の言う“報い”が何であろうかはわからない。もしかしたら充分にほぐさないと裂けてしまう。そういう意味だけだったかもしれない。

「っはぁはぁああぁんんぅ……あっ、いくよ、イっちぅよぉ……! はぁはぁ…んん~~っイくっ、イぐうぅうぅう……っ! っ……はぁ……はぁ……っんんぅ…あんっ…あぁぁあんぅぅ……」

 だが、マチルダとしては匂わされるだけで充分だった。この悪魔のような男だけに意味がないかもしれない。
 でも、少しでも可能性があるなら、どうしたって手を抜くわけにはいかないのだ。

「おい。ケツだって使うんだ。思いっきしやって見ろ。それから四つん這いでもサカってみろ。くく…見せつけるようにするんだぜ?」

 嗤う才人がマチルダに促す。

「!っ~~わかったよ、ご主人様! っっあ、くがぁぁんんッ……っはぁ……はぁ……っくっ……っ」

 命令は絶対である。否との選択肢はない。体勢を入れ替えてお尻を突き出す。見せつけるようにと言われたのだ。高く掲げ、ふりふりしながらしなければならないだろう。
 マチルダはそうやって指を入れ、ぬぷぬぷとアナルオナニーへと熱中していく。

 はぁぁンっ……ち、ちくしょうっ! ちくしょうッ! っはぁ…んんんっ……はぁ…はぁ……

 薄暗い森の中ではある。だが、廃屋の周辺だけは広場となっている。太陽の光のもとマチルダは全裸となった。
 そして今、屈辱に備える為に自慰へと熱中させられていた。




[27351] 奴隷が嗤うとき
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/05/21 15:50
 暖かな午後の昼下がり、森の中の広場。中央にはポツンと一件の廃屋。小鳥のさえずりと草木のざわめき。
 そんな中で時折笑い声が響く。マチルダの境遇を決める必要がある。

「ねえ、ダーリン。この女ってばあたしたちをゴーレムで踏みつぶすつもりだったって言うのよ? そんなのって、あたしは許すことはできないわ。だってダーリンを殺そうとしていたって言うのよ?」

 キュルケは言う。殺そうとしたのだから、殺されたって文句は言えないはず。とはいえ奴隷の一人とするのだから、そんなわけにはいかない。

「それにね、あたしはダーリンの奴隷で幸せだわ。でも、この女ってばどうなのかしら? 奴隷になる価値があるの? だってまんこどころかケツ穴だって初めてじゃないって言うのよ?」

 更にキュルケは言った。本来ならマチルダには奴隷にする価値などない。何故ならレイプされた経験があり、身体を自由にされていた時期があると言うのだ。初めてを捧げてこそ、才人の奴隷に相応しいのでは?

「だからね、奴隷は奴隷でも、この女はあたしたちよりも一段下の奴隷にするのがいいと思うわ。あたしはこの女に“キュルケ”とか“ミス・ツェルプストー”なんて呼ばれたくないの。ルイズはどう思うかしら?」

 正座させられているマチルダであった。顔を伏せ、屈辱を押し殺し、黙ったままにじっと己の境遇が決まるのを聞いている。

「……確かにその通りよね。殺そうとしたんだから、殺されても仕方がない気はするわ。あたしだってそうだったんだから、相応しい扱いってあるわよね。…ねぇ、モンモランシーはどう思う?」

「……そうですわね。でも、どうすればいいのかしら? だって、わたしたちだってどんな命令でも従わなくちゃいけないわ。それなのにその一段下って言うと、どんな扱いが相応しいのかしらね?」

 白昼でされているやり取りである。話し合っている女たちは隠すところのない全裸。ルイズに至っては首輪を嵌め、服従の恥ずかしいルーンが刻まれているのである。

 ……っちくしょう……こいつらイカれてるよ。こ、こんな話笑いながらするんじゃないよ……。

 そんな女たちが、全裸で正座している自分の境遇を決めようとしているのだ。
 屈辱はある。確かにある。でもそんな事より、マチルダとしてはこれから一体どうなってしまうのか? その方が気になってしまい、不安で不安で堪らなかった。

「ふむ……まあ、確かにその通りだよな。ロングビル…じゃない、マチルダだよな。俺もどんな位置づけにするか考えてたんだが、いまいち決めかねてたんだよな。
 ……よし、丁度良い。オマエらに決めさせてやる。どんな奴隷にしたいか言ってみろ」

 そして、そんな才人はマチルダの処遇を奴隷たちに丸投げした。
 恐ろしい話を微笑みながら話していた三人に決められてしまう? マチルダの背筋に悪寒が走ってしまう。

「っ…………」

 しかし、マチルダには発言権がないのは明らかである。出来る事は歯を食いしばり、握り拳を作り、黙ったままに決定に従うしかないのだ。

 っこ、こんなことになるなんてっ。っ~~これだから貴族は嫌いなんだよっ……!

 許可をもらった奴隷たちは嬉しそうに話し合う。そして、才人といえば、顔を伏せるマチルダをニヤニヤと嗤いながら、漏れ聞こえる会話を楽しんでいた。



 和やかな雰囲気で談合がなされる。そしてその結果、先輩格の三人に対して敬意を払う必要があるだろうとなった。

「そうね…そんなところかしらね。じゃあこれでこの女はあたし達の奴隷になるんだから、あたし達がご主人様にやったみたいに誓ってもらいましょうよ」

「キュルケ、それっておちんぽにキスしたときのアレよね? でもわたしたちにはおちんぽはありませんわ。どうするつもりですの?」

「まあね。方法に関してはこれから考えるけど…とりあえず誓ってもらいましょうよ。ルイズはどう思う?」

「うん。それはいいと思うわ。そうすれば身に染みてわかると思う。口に出すのって悔しいからいいと思うわ」

 何とも楽しげに話す三人である。そんな会話を耳にしながら才人はくっくっと笑う。

 ……くく…こいつらノリノリじゃねえか。まったく女ってのは怖いねぇ……

 一体どこまでが自分の意志で、どこまでが迎合した意見なのか? そして、その線引きを本人は意識しているのか? 
 出来るなら聞きたいところだ。才人としてはそう思わざるをえない。

「ふふん、そういうわけだからさ、あたし達にも儀式をしてもらうから。文句なんかないわよね?」

「……ないよ。好きにすればいいさ……」

 にんまりと笑ったのがキュルケである。マチルダは三人の中で、キュルケが一番怖いと思うようになっていた。
 何故ならなんとも嬉しそうなのだ。才人に対して、一番忠誠心をもっているように思われるのである。

「じゃあいろいろ教えてあげるからその通りにしなさい。儀式のときは口調なんかも直しなさい。わかってるわよね?」

「……そうだね、直すから教えてくれってもんさ……」

 背後ではルイズとモンモランシーがくすくす笑っている。マチルダとしては言い返す気力もなかった。
 何しろ疲労困憊だった。自慰を強制されている途中、急にとてつもない快感に襲われてしまったのだ。どういう理屈か知らない。いや予想はつこうと言うものだが、問題はそこではない。

 ……リーヴスラシルだっけ? ……あんなことになりゃ、信じざるをえないってもんさ……

 アナルオナニーだと言うのにとんでもなく気持ちが良かった。我慢できなくなって、むさぼるように自慰をしつくした。
 そして大声を上げながらイきまくり、周りのことなど気にならなくなってしまったのである。
 気が付けばニタニタと嗤われた状態で回りを囲まれ、「どうだ? 凄かったろ?」と、声を掛けられる始末。しかも足には湿った土の感触があった。失禁し、あるいは潮を吹いてしまったのだろう。
 とてつもない羞恥だった。そしてそれが治まると情けなさと惨めさの極致。完全に弱みを握られてしまったと思った。

 奴隷の奴隷の身分とはいかなるものか。その時それを完全に理解させられたのだ。

「……さっ、そういうことですわ。そろそろ始めてくださいな」

 マチルダの前に裸体が三体並ぶ。時間が来たと言う事だろう。この運命はもう避けられない。
 もちろんこんなことは嫌だ。避けれるものなら死を選んででも避けてみせたい。

 っちくしょう……これが年貢の納め時ってやつかい? っくぅっうううっ……っふざけんじゃないよ、ちくしょうッ!

 だがどうしたって無理なのだ。

 最初の反抗はイマラチオをされた時。食いちぎってやろうとして顎が動かない。その次は縄を解かれた時。逃げようとして足が動かない。その次が質問をされた時。
 そして本名を答えてしまい、最後にテファと村の皆の事だけはと誓った。それなのにだ。
 ……この時、心にぽっかりと穴が開いた。抵抗が無駄であると理解してしまった。

 マチルダは平伏する。そして屈辱の誓いを始める。

「っも、申し訳ありませんでした、ご主人様! お姉様方も申し訳ありませんでした!」

 今後、マチルダは三人を“ルイズお姉様”“モンモランシーお姉様”“キュルケお姉様”と呼ぶことになる。先輩には敬意を尽くせと言うわけだ。
 ご主人様だと才人に被るし、普通に“様”付けだと、才人がマチルダにどう呼ばせるつもりかわからない。
 その点“お姉様”なら都合がいい。仮に才人がマチルダに“サイト”と呼ばせるとしても、“お姉様”ならそんなに不敬でもないだろう。

「そ、それから殺そうとしたのに寛大にも許して頂けるなんて、思っても見ませんでした! 取り成して頂いてありがとうございます! この感謝はご主人様、それからお姉様方の奴隷として、一生仕えることで返していきたいと思います!」

 平伏したマチルダが誓う。そして誓いとは、覚悟を示すために大きな声でしなければならないだろう。
 マチルダは才人だけでなく、ルイズ、モンモランシー、キュルケの奴隷としても、生涯の忠誠を誓うと、大きな声で誓約する。

「っで、では、僭越ながらお姉様方も奴隷です! っですから、奴隷の奴隷として立場を弁えます! これからは許可を頂けない限り、どこでも四つ足で生活することに致します!」

 奴隷達は満足そうに見下ろす。才人はそんな様子を嗤いながら見守る。
 キュルケは当然の処遇だと思っているし、ルイズにしても、モンモランシーにしても、自分より下があると思えば、嬉しいのが当然なのだ。
 自分達を殺そうとしたマチルダである。ならばどんな風に扱おうと、遠慮などいらないのでは? 彼女達はそう思った。
 
 っくぅうううううううッッ……! ちくしょう! ふざけてるよっ! なんであたしはこんなことを言わなくちゃいけないんだいッ!

 学生相手に教員待遇である自分が“お姉様”と呼ばなければならない。このような屈辱を思いつくのは同性だからこそだろう。
 そんな屈辱を考え付き、取り成すどころか嬉々として奴隷の奴隷に堕としてくれたのに、その相手に感謝の言葉を述べなくてはいけない。
 奴隷である自分よりもあんたは下なのだからと、そんな証明のためだけに、言葉一つで立ち歩く自由さえ奪われてしまった。

「っ最後です! 名前がいくつもあると紛らわしいと思います! 今後わたしは“便女マチルダ”と名乗ります! お姉様方にはお好きなようにお呼びください!」

 屈辱の限りである。とどめに名前さえも奪われたのだ。キュルケが「ダーリン以外に身体を許して来たなんて、そんな淫乱は精液の便所よね」と呟いた一言。
 そのせいでマチルダは“便女マチルダ”と名乗ることになったのである。

「くく…まっ、そんなところか。そんなわけだからさ、今後はこの三人の命令も俺の命令だと思ってくれ。せいぜい機嫌を損ねない様に注意するこった」

 平伏しているマチルダに才人が近づく。すべてはこの男のせいなのだ。睨み付けようとするのを抑えきれない。

「!っあうううっっ……っ!

 だがそんなことを許される立場ではなかった。怒気を発したキュルケが「便女のくせに生意気な顔してんじゃないわよ!」と、ひっぱたく。

「ふんっ、何よ? 便女が文句を言おうっての? 生意気な顔するなって、っっ言ってるでしょっ!」

「ッあっぐぐふうううっっっ……!」

 殴られるっ! と、思わず腕を上げた。だが、その腕はピクリとも動かなかった。手加減なしでひっぱたかれ、草むらに吹き飛ばされながら、ああ、悔しいなと、マチルダはそんなことを思った。
 驚きはなかった。散々思い知っていたのだ。腕が動かなくて、え? と驚くよりも、わかりきったことに思い至らなかったのが悲しく、そして悔しかったのだ。

 キュルケは腕を腰に当て、ふんっと倒れているマチルダを睨み付け、それからご主人様である才人を恐る恐る窺って見る。

「っだ、ダーリン。ダーリンの奴隷をしつけようと思ったんだけど、これでいいのよね?」

「ん? ああ、それでいい。マチルダはオマエらの奴隷でもあるんだからな。しつけくらい好きにやればいいさ」

 許されたキュルケは安堵した。確かにマチルダはキュルケの奴隷とされたが、そのキュルケは才人の奴隷である。つまり、マチルダの本当の所有者は才人なのだ。
 その持ち物が不遜にも睨み付けようとした。これは我慢などできようはずがない。憤怒のあまり殴りつけてしまったのである。
 でも、殴りつけて気が晴れると冷静になれた。もしかしたら怒られてしまう? そう思い当たったキュルケは才人が怖くなったのだ。

「ありがとう! ダーリン! それじゃああたし達の奴隷に相応しいようにしつけなくっちゃね!」

 なんと優しい主人だろう? ほら、今なんて頭を撫でてくれている! キュルケは改めて才人への忠誠を誓い直す。

 ……あーあ、まさかこんなことになるなんてね……うふふっ…おかしいじゃないか……うふ…うふふふふ……

 痛む身体を堪え、マチルダは平伏し直した。だってしょうがないではないか。考えるより先に身体が動いてしまうのだ。才人が“何を望んでいるか考えて行動するようにしろ”と命令したせいだろう。
 原因に思い当たっても何の慰めにもならないのが辛い。そして、これからやらねばならないことを思えばもっと辛い。
 
「じゃあ、そろそろ始めましょうか。時間も押してますし。皆さんもそろそろ準備はよろしいですわよね」

 ぱんと一つ手を打ってみる。注意を引くためにモンモランシーがしたのだ。ルイズも、キュルケも、異存がなく、黙ってうなずいてみせる。

「そうね、それで順番だけどどうする?」

「まっ、今回はしょうがないわ。ルイズ、奴隷にしてもらった順番でいきましょう。それが一番公平だと思うしね」

 キュルケの提案にルイズはうなずく。そして、ちらりと才人の様子を窺って見る。大丈夫、ニヤリと笑ってうなずいてくれた。

「うふふ…頑張んないと終わらないわよ?」

「っわ、わかってます。ルイズお姉様」

 ああ、とうとうこの時がきたと、そんな風にマチルダは思った。才人にした使い魔のキス、あれはあれで辛かった。
 悔しくて、情けなくて、こんなことをさせるなんて許せないと、肉棒を噛み千切ってやると覚悟したほどに怒りを感じた。
 でも、今回は違う。悔しさ、情けなさ、怒り、全ての感情は当然ある。だがそれらの感情の中で、今回の一番は惨めさだろう。それでもマチルダには否はない。言われた通りにやるしかないのだ。

「っでは、ルイズお姉様。頑張りますのでお願いいたします。満足されましたら便女マチルダを奴隷として認めてください」

 改めて平伏し直す。頭をあげると、肩幅に足を開いたルイズの股間があった。

「…ん…ちゅ……ぺろっ…れろ…れろ…ちゅ……えろ……んん…ぅ…」

 秘唇に向けてキスをする。舐めやすいように正座から四つん這いになり、ルイズはマチルダの頭に手をやる。その状態で繰り返しキスをし、ぺろぺろと舐めていく。

「うふふ…うまいじゃない。その調子よ、便女。…っぁン…っ…ふふ…頑張ってよね。あと二人いるんだから……」

「…くちゅ…ぺろ…ぺろぺろっ…じゅじゆ…えろぺろ…ん……」

 存分に味わえるようにと、ルイズが腰を突き出し、その頭を引き寄せてくる。それをマチルダはされるがままにされる。むしろ秘唇と口の距離が近くなったのだ。奉仕しやすくなったと、喜ばなくてはならないだろう。
 ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃと、マチルダは奉仕に熱中していく。

 ……こんな味なんて、知りたくもなかったよ…ちくしょう……

 悔しい。そして惨めだ。だって手は使わない、使ってはいけないと命じられた。マチルダは四つ足となってお尻を振る。才人の目を楽しませながら、口と舌先だけで、ルイズを満足させなくてはいけない。

「っ~~くはぁんんっ…いいわ…いいわよ…そう、そうやって舐めなさい。クリちゃんをほじって舐めまわすのよ、便女……」

「…ぺろぺろぺろ…じゅぢゅっ…ぺろぺろ…ん…はぁ…ん……」

 息継ぎが辛い。それでもマチルダには抗議さえ許されない。終わらせるための方法はただ一つ。ルイズを満足させ、奴隷として認めて貰うしかないのである。
 そのためには苦しくても続けるしかない。熱心な愛撫で満足してもらうしかない。

「はぁぁあぁぁ……い、いいわ、…んンぅ…いいわ、便女…これなら、わたしの奴隷にしてあげてもいいわ……んふ…ぁ…ああん…ぅ…ぁぁ…」

「ぺろぺろぺろぺろっ……じゅずずッ…ん…えろえろ…んっんっ…じぢゅ…」

 やっとだった。ルイズはようやく満足しそうな雰囲気となった。一体どれだけ続けただろう? でもようやく「奴隷にしてあげてもいい」と言ってくれた。あと少し努力すれば報われる。
 ニタニタと嗤う才人。微笑むモンモランシー、嬉しそうなキュルケ。そんな表情を視界の隅に入れながら、マチルダは奉仕に熱中することにする。

 ……ちくしょう…こんだけ頑張って、その報酬が、奴隷の奴隷ってかい? ッ……ちくしょう…っちくしょうっ……

 鼻先には服従のルーンが見える。こんなふざけた印をつけた女の奴隷に、自分はならなくてはならない。そのために愛液を啜り、舌先を肉の中に埋め、割れ目に沿ってなぞっていく。
 もう舌の感覚が怪しくなってきた気がするのに、これが終わっても二人に奉仕しなくてはならないと思うと、それだけで心がくじけそうになってくる。
 でも、例えくじけたところで、身体は勝手に動くんだろうなと、そう思い当たったマチルダだった。涙が止めどなく溢れてくるのを感じた。

「っくぅんんンぅううぅぅ~~ッ、い、いいわっ! 便女マチルダッ! 奴隷にしてあげるッ! っだ、だから飲みなさいッ!!」

 味が変わったかと思った瞬間だった。

 ルイズは下半身の力を抜いた。ぷっしゃあぁぁ……っと勢いよく小水が放たれた。慌てて尿道口を探したマチルダであったが、あと一歩及ばなかった。ルイズはマチルダの頭を固定したまま、更にそれを押し付けたのである。

「っっぷぅはっっ…がほっ…ぶあッ~~ごく……げええっッ~~~っごきゅ~~っげえはっ…ごきゅぅうぅぅ……」

 まったくふざけた準備をしてくれた。錬水で水を作り、水分を補給したルイズの小水は大量であった。溺れてしまったマチルダである。苦しみから逃れるため、小水を飲み込み続けるしかなかった。
 塩気のある液体、それをマチルダはごくりごくりと飲み込んでいく。

「……ふうぁン…~~気持ちいいわぁ……ねぇ、最高よねぇ……くふふ…ご主人様の気持ちが少しわかったかもしれないわね。…ふぁあぁぅぅぅ……た、確かにこれは気持ちいいわ……」

「ッッ~~~~ごきゅッ~~~~ごきゅッ~~~~ごきゅッ~~~~ッッ」

 顔中が小水塗れとなっている。それでも、飲めるだけは飲まなくてはならない。勢いに陰りがみえたのを幸いに、飲み込めるだけ飲み込んでいく。

「っ……っはぁぁぁぁ……っ、ス、スッキリしたわ! それじゃあ便女、後始末よろしくね?」

「っがはっ…かはっ……はぁ……はぁ……っわ、わかりました、ルイズお姉様。った、ただ今っ……はぁ……はぁ………っぺろっっ…ぺろぺろぺろ……じゅづゅじゆ…じゅるぢゅるじゅ……ぺろぺろぺろッ……」

 放尿したルイズはマチルダの頭から手を放す。ツーンとアンモニアの刺激臭が鼻から抜けてくる。情けなさに視界がぼやけてしまう。でも、これは本当に涙なのだろうか? 
 ぺちゃぺちゃと水音を立てながら後始末する。愛液と小水を啜り、「これでお終い」とルイズが言うまで、やめることは許されないのだ。

 しかし、これはほんの始まりに過ぎない。

「ふふ…もういいわよ、便女。次はモンモランシーね。頑張ってね、便女」

 そう、ルイズが終わっても次はモンモランシー。そしてそれが終わってもキュルケが残っている。わかっていたことではあるが、マチルダとしては絶望を感じざるをえなかった。

 ……ふふ…便女、便女って、本当に便女だよねぇ……っくっふぅうぅうううう……ッ、こ、これから、毎日こんな日が続くっていうのかい? あ、あたし、もう死んでしまいたいよッ!

「さっ、次はわたしですわ、便女。そんなところで泣いてないで、早くしなさいな、便女」

 モンモランシーが声を掛けてくる。そうしてくいっと軽く腰を突き出したのが、ぼやける視界に映っていた。

 ……いやはや、女ってのは怖いぜ。明らかに便女、便女って繰り返してやがる。
 そりゃあ、プライドなんてボロボロになるよなぁ、くく…便女。

 よたよたと進む。声を掛けられたのだから、行かなくてはならないだろう。マチルダはモンモランシーへと、よたよたと這いながら進んでいった。



 牧歌的な風景である。チチチと小鳥のさえずりが聞こえ、さわさわと草木がざわめくのが聞こえる。そんな中でマチルダはルイズ、モンモランシー、キュルケの奴隷として認められた。

「はあぁぁぁぁぁぁ……いいわぁ…立ったままするって、こういう事ですのね…………んんぅ……さ、後始末なさいな、便女」

 モンモランシーにも奉仕をし……

「ぁっああんッ! うふふ…もう慣れてきたみたい。あたし達はこんな早くなじめなかったわ……っぁン……ふふ…ねぇ便女、経験豊富って本当よね? うふふふふ……」

 キュルケにも認められ、「ありがとうございます、お姉様」と感謝した。三人に対して奴隷であると認められたのである。
 今は四つん這いに才人を見上げていた。奴隷の奴隷として、許可なく立つ自由を奪われているせいだ。
 やはりというか、立とうとしても前足が動かなかったのである。諦めて、見上げるしかない。

「くっくっくっ…おめでとう、マチルダ」

「っあ、ありがとうございます。ご主人様。これで便女のマチルダは、っお、お姉様方の奴隷にもなれました。
 っルイズお姉様、モンモランシーお姉様、キュルケお姉様に、ぃ、一生仕えてまいります」

 愛想笑いを浮かべて見せる。

 散々に小水を掛けられ、濡れそぼった顔になっている。しゃべってしまい、顎先から水滴が流れ落ちてしまう。髪にも飛沫は掛かり、胸元はびっしょりと濡れている。

 ……くく…そうそう、そうやって笑ってるのが似合ってるぜ? キツイ目つきじゃあ、奴隷の奴隷には相応しくないってもんだ。

 才人は満足していた。今のマチルダは心が折れかけている。戯れに認めた奴隷の奴隷であるが、ルイズたちはいい仕事をしてくれている。これならこれからの管理を任せるのも悪くないのでは?

 ……ふむ、そうなるとだ。もうちっと遊ばせるのも悪くない。この機会にとことん身分を自覚してもらうことにするか?

 マチルダの様子を見た才人は予定を変更することにした。当初の予定では順番に中出しし、それで凱旋の予定だったのだが、それではいつも通りで面白くない。
 それにせっかくの野外なのだ。青姦もいいが、もっと楽しめる方法はないだろうか?

「モンモランシー、オマエは椅子になれ。それからルイズ。オマエはマチルダを責めてやれ。少し時間が経っちまったからな。あとキュルケ……」

 そこまで言い掛けて才人は止まった。キュルケには何をさせよう? 思考する間のフェラチオでもさせようと思ったのだが、ふと閃いてしまったのだ。思わずほくそ笑んでしまう。

「キュルケ、ちょっとこっちにこい」

 だからちょいちょいと手招きし、嬉しそうに「何かしら、ダーリン」と近づいてくると、その耳に囁いてみせたのである。

 くく…面白いと思わないか?

 提案を聞いたキュルケもにっこりと笑って見せた。

 そうして指示を受けた奴隷は一斉に動きだす。モンモランシーは椅子になるために才人の前で四つん這いとなった。
 ルイズはマチルダを責める為に「便女、サイトの命令だわ。ケツを高く掲げなさい」と、嫌そうな顔をしながら言い放つ。
 そして最後にキュルケである。才人の命令に「行ってくるわ、ダーリン」と消えていった。

 っく…い、一体何をしようってんだい?

 言い知れぬ不安である。何をされるか、心は恐怖で一杯である。だが、マチルダには、お尻を高く掲げていくより、出来る事はなかった



[27351] 土くれのフーケ
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/11 20:00
 森の中の広場に才人は手頃な一本の木を見つけ出した。やはり青姦といえば、木に手を付かせ、それをバックから責める事だろう。

「ルイズ、そこまででいい。それからオマエの首輪を貸してやれ。んで、あの木までマチルダを連れていけ」

 その指示でルイズは埋めていたお尻から顔をあげる。ぴちゃぴちゃと舐めていた舌を抜き、アナルを掻き混ぜていた指も抜いていく。

「っぱあっはっ…はぁ……んっ…わかったわ。あの木ね?」

 マチルダは真っ赤な顔になって耐えていた。それはそうであろう。同性に愛撫され、しかも膣どころかお尻の中まで舌を入れられたのだ。
 激しい自慰の残り火はくすぶっていたし、一度ならず絶頂へと追い込まれてしまったのだ。
 そしてその有様をニヤニヤしながら見物に回っていた才人である。堪えきれない喘ぎを洩らし、達するならば報告しろと言われていた。
 だからマチルダは突然のように「イきますっ! ご主人様! 便女マチルダ、イっちゃいますぅぅ……!」と、何度も叫んでしまっていた。羞恥で才人の嗤い顔をみたくなく、顔をあげたくはなかった。

 だが、それは許されることではないのである。

「このっ! よがってないで顔をあげてなさい! っこの便女!」

「ッッあううううぅぅぅ……ッ! ~~っくっふぅぅぅうぅ……!」

 顔を下げれば容赦なく罰が下る。才人はニヤニヤ嗤うだけで何も言わない。だが、ルイズにとっては違う。相応しくしつけないと、今度は自分自身がしつけられる。
 マチルダは奴隷の奴隷なのだ。表情を隠すなどは許されることではない。

「この便女! あたしにしてもらってるからって、いい気になってんじゃないわ! あんたはわたしの奴隷なの! サイトにそのよがり顔、っずっと見せ続けてなさいッ!」

「っひっぎぃいいいぃいいいぃぃぃ……ッ!」

 だからルイズはしつけを行う。そのお尻を容赦なくひっぱたく。そうしないと、自分がしつけられてしまうだろう。マチルダはそうやって、何度となく身分を思い知らされてきた。

「さあ、便女。わたしの首輪を貸してあげるわ。首を差し出しなさい」

「ッ~~~~、っはぁ…はぁ…わ、わかりましたルイズお姉様。っど、どうぞ……」

 おずおずと首を差し出して来る。ニンマリ笑ったルイズだった。鼻歌まじりに首輪を巻き、リードを取り付けると「ほらっ、いくわよ、便女!」と、目的の場所へと引き連れていく。

 ぐいっと力強く引かれ、マチルダには為す術もない。よたよたと這っていくより、仕方がなかった。



 ルイズから「ほらっ、その木よ、便女」と指示されたマチルダ。息を殺し、その瞬間を待ち受ける。

 ……くくく…やっぱ青姦ってのはコレだよなぁ。木に手をついて、ケツを差し出すってヤツだ。

 才人はそのお尻を掴む。そしてぐいいっと割り開いてみせる。しかしマチルダは抵抗しようとはしない。当たり前であろう。覚悟してお尻を突き出し、木へその手をとついているのである。
 ぴくっと身体を震わせたあとは息を殺し、その瞬間を待ち受けるしかない。

「さ、マチルダ。今から入れてやる。今どんな気持ちか言ってみろ」

「っ……早く入れて欲しいです。それだけですわ、ご主人様」

 ほほぅと才人は感心した。まだ完全に心は折れていないようだと思った。だが、それでいいのである。むしろその方が楽しいと思う。
 これからどう変わっていくのか、その方が興味深い。くっくっくっと、才人は嗤う。

「そうか、んじゃ時間も押してるしな。望み通り入れてやる。経験豊富だって話しだし、充分ほぐしてもやった」

「その通りです、ご主人様。べ、便女マチルダのおまんこ、どうかおちんぽを入れてくださいっ」

 そこまで聞けば充分だった。これ以上待たせては、覚悟済みのマチルダに失礼というものだろう。邪悪に嗤う才人が狙いをつける。

「!っっくはっ~~ッ~っあ~~~んン~~ぐっ~~はぁ……はぁ……っ~~~っ」

 これだけの手間を掛けたのだ。マチルダは濡れきっているし、才人の肉棒も猛りきっている。だから才人はソレをずぶずぶと埋め込んでいく。マチルダはそれを飲み込んでいく。

「ほほう、なるほどね。あっさり飲み込んじまった。経験豊富ってのは伊達じゃあないな」

「っつあっ~~っはぁ…はぁ…は、はいっ、べ、便女は経験豊富ですっ」

「よ~し、そんじゃあ動いてやる。ただ時間も押してるし、さっさと出すぜ? 残念だろうが、その代わり帰ってからじっくりと甚振ってやる。それで我慢してくれな? くく…便女のマチルダ」

「っお、お願いしますっ、ご主人様っ」

 背後から責める。だからマチルダの表情を確認することはできない。だが、それが面白い。
 おそらくは屈辱に酷く歪んでいる事だろう。そしてそれを想像しながら犯すのもまた、レイプの醍醐味というものではないだろうか?

 くぅっくっくっ! さっさと逃げれば良かったのによ! そうすりゃもしかしたら逃げ切れたかもしれんぜ? どんなお宝だったのか知らんが、奴隷と引き換えにするほどのもんじゃなかろーぜ! 

 散々に自慰をさせ、ルイズにも愛撫をさせてきた。もう既に準備はできている。才人はずっずっと恥丘を撫で、これから入れるぞ? と認識をさせ、そうしてから腰を深く突き入れていく。
 ずぶずぶと埋まっていく肉棒、そうするとマチルダは肉を締めあげてきた。なるほど、大したものだと感心する。テクニックを感じる事が出来る。経験豊富は伊達ではなかった。これなら手加減の必要などある訳がない。

 才人はニヤリとほくそ笑む。最初から全力でのストロークで肉穴をえぐっていく。

「!ぃぃいいっ~~がっ…っはんっ、くっふっ~~っ……ぁ…ああっ……!」

 肉と肉がぶつかり、ぱんぱんぱんと、激しい音。ぬっちゃ、ぬっちゃと鈍い水音。才人はただ自分のためだけに腰を動かす。

 っっちくしょうっ! い、痛いに決まってるじゃないか! いったい、いつの話だと思ってるんだいッ!

 才人がぱんぱんぱんと腰を振る。マチルダはそれを木の幹を掴み、身体を支えることで、必死に耐える。

「くっくっくっ…きゅうきゅう締め付けてきやがるぜ。流石に経験豊富なことはある。男の味を思い出してきたんじゃないか?」

「ッあぁああああっ……! そ、そうですご主人様ッ! あんっ、ぁぁあぁっっ……っ、べ、便女は思い出してきましたぁぁぁ……!」

 再度ぱんぱんぱんと腰が振られる。揶揄されながらのレイプ。マチルダの心は激しい怒り、屈辱。そしてなんでこうなってしまったのかという後悔で一杯だった。

 学院に手を出し、『破壊の杖』になど興味を持たなければこうならなかった。
 傲慢な学生たちだ。コイツらなら殺してもいいだろう。そんな考えを持たなければ、自分はこんな羽目にはならずに済んだのだのでは?

「おらおらおらっ! もっとケツを振れっ! 締め付けるだけじゃ駄目なんだよっ! 目でも俺を、っ楽しませるんだよッ!!」

「!ぴっぎいいいいいぃぃぎぃぃぃぃっッ……!」

 才人はお尻を叩く。何度でも叩く。ルイズでさえいい仕事をして見せた。なら、主人としては負けるわけにはいかないだろう。

「くくく……ぴぎいだと? おもしれえ、もっと鳴いてみせろっ!」

「ッッひっ、ぴぎいいいいいぃぃぃぃいぃぃッッ……!」

 それに何と言っても面白い。マチルダは同輩の年齢ではなく年上である。しかも怪盗として恐れられていた存在だ。
 そんな女が叩けば叩くほどに膣肉をきうゅぅぅっと締めしけてくる。叩けば叩くほどに違う声で啼く。征服感を刺激され、なんとも気分がいいのである。
 
 くうっくっくっ! コイツは当たりだったぜ! 手駒としても奴隷としても充分だ! 

 反応が楽しく、才人はお尻を叩く。真っ赤に腫れ上がり、もう叩くところなどない有様となる。
 パシィインン……! と響かせる。そうすればマチルダはお尻を締め、そして絶叫しながら啼いてくれた。
 だから才人は手を休めない。何度でも叩き、パシィインッ、バシィイィンッ! と響かせる。

 っっひ、ひぃぃ……っ! く、くるッ! 叩かれるッ! ま、また叩かれるッ!

 それでもマチルダはお尻を振る。終わらせるには才人に満足して貰うしかないのだ。
 サボる素振りを見せようものなら、ただ苦痛の時間が長引くだけ。それは痛いほどに理解させられてきた。

 逃げたい気持ちを抑えこみ、責めやすいようお尻を差し出す。
 苦痛を終わらせる為に苦痛を甘受する存在。それが才人の奴隷なのだ。

 っくくく…おもしれえッ! 時間が押してるってのが残念だぜ! くく…おらっ、出してやるから安心しな!

 才人はマチルダのお尻を両手で持ち直した。そしてパンパンパンッと、一際激しく動かしていく。

「おいっ! 喘ぐだけじゃあ駄目だ! 今の気持ちを言ってみろっ!」

「!ひいいっ! き、気持ちいいですっ! 気持ちいいですぅっ! ご主人様ぁッ!」

「くく…それだけか? 何がどう気持ちいいのか、っっ言ってみろッ!」

「!ひっぎいいいいいぃぃぃいぃぃいっッ……! ま、まんこですぅッ! まんこ最高なんですッ! ご、ご主人様ッ!!」

 バッシィイイィンンッ……! と一際高く響く打擲音。精一杯に背筋をのけ反らせらたマチルダだった。身体のしびれが治まると同時、あらんかぎりの声で森に向かって叫んでしまう。

 ひっ、ひいぃぃいぃぃいいいっッ……! った、叩かれるッ! 叩かれる叩かれる叩かれるっッ!!

 とにかくお尻を振る。目標を定められないよう、お尻を振る。そしてがっちりと腰を掴まれたら、とにかく締め付ける。才人を射精に追い込めるよう、肉棒を締める。 
 マチルダの頭は今、それだけしか考えられなくなっている。

 くうっくっくっ! 本当に惜しいぜ! このままもっともっと楽しみたいのによぉっ!

 残念である。本当に残念であった。あんまり時間を掛けると、日が暮れてしまうのである。マチルダの反応は本当に楽しい。もっともっと楽しみたい。もっともっと虐めてやりたい。

「っおうらっ、とりあえずまんこでの一発目だっ!」

 才人は青空のもとマチルダに射精する。ずんと腰を深く突きこみ、どぴゅるるるるるッっと放たれた精液。それは膣奥まで確かに届く。
 全く残念だった。続きは帰ってからの楽しみとして、今はこの程度で我慢しなくてならないとは。本当に残念な話であった。

「!ぃ、ひぃいぃぃいぃぃいいいいぃぃいいぃぃ……っ!」

 そしてマチルダは悲鳴をあげた。中出しをされてしまう! わかっていたことだが、そのおぞましさにマチルダは悲鳴をあげた。
 信じられないほどの熱い滾り。それが膣の奥の奥まで届いたのである。二回目とは、とてもではないが信じられない。でも、それは確かに届いてしまったのだ。

 っはっ……くふ…ぅぅ……ひ、酷いじゃないか……

 絶望感がマチルダを襲う。やはり妊娠するかもしれないと思えば、その絶望感は深い。
 奴隷として逃れられないとわかってはいた。だが、これで正真正銘、才人の奴隷にされてしまったと、マチルダはそんな風に思った。

 ぐぼっと肉棒が抜かれ、太ももにとろとろと垂れているのがわかる。そうなると崩れ落ちそうになる身体だった。それを才人は腰を引き寄せることで保たせている。

「くく…キュルケ」

「わかってるわ、ダーリン。いいのを見つけてきたから」

 そう、終わったわけではなかった。まだアナルが残っている。背後の会話で、それをマチルダは思い知った。どこか他人事のように聞こえてしまうが、確かに自分のことだと、マチルダは理解する。
 だが、はぁはぁはぁと、荒い呼吸のマチルダには背後が見えない。痛むお尻を抑えたいのを堪え、その代わりに木の幹を掴んで崩れ落ちそうになる身体を支え、ただひたすら呼吸が平静になるように努力する。

 ……っち、ちく…しょう……な、何するつも…… 

 一体何を企んでいるのか? 見たくない。でも、見たい。そうやって逡巡し……

「!~~~ッが、がぁぁあぁぁあぁぁぁッ……!」

 そうこうするうち、才人はマチルダの腰を掴んだ。そして、もう回復した肉棒をアナルへと入れてきたのだった。

「ふむ……コッチはそんな経験がないみたいだな? まんこに比べりゃ格段に狭いぜ? くっく…でもまあ、こんだけなじんでりゃ充分だ」

「っっがあぁぁぁっっ……! ッ~~く、ぐむ、ぐううぅうううぅう……」

 膣とは違うお腹への圧迫感。狭いのを無理やりに、ずぶりずぶりと埋められた肉棒。酷い苦痛がマチルダを襲う。

 これからこの痛みを更にえぐられる?
 
 奴隷たちが通ってきた道だが、そんなことをマチルダは知らない。知っていても意味はない。おぞましさと恐怖に心が満たされる。
 
「!ふんぎぎゃやぁあぁぁぁぁぁあぁぁっっッ……!

 そして再びのスパンキングだった。

 今まで受けていた右のお尻ではない。バランスを考えれば、その左のお尻も叩かなくてはならないのでは? それは才人がそう考えたに過ぎない。

「おうらっ! 締めろ締めろっ! ケツを振れ! 真っ赤になったら出してやんよっ!」

「っひっ、ひぐっ、ひぎゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁつッ……!」

 後ろを振り向かなくても、叩かれる雰囲気はわかる。挿入され、密着しているのだから、その瞬間はわかる。
 だが、だからこそ怖いのだ。どうしたって避ける事はできない。避けるどころか、その瞬間にはお尻を差し出さなくてはならない。

 ひぃいいぃぃいっ! っく、くるよっ、またくるよッ、ま、また叩かれちゃうよッ!

 痛みが身に染みているのだ。その痛みにまた重ねられるのだ。それなのに身体は苦痛を味わおうと、そのお尻を差し出していくのだ。

「っそらっ、どうした? くく…ケツの振りが鈍くなってきたんじゃないか?」

「! ひっ、ひぃいいぃいいぃいぃぃぃ……! っった、ただ今振りますッ、ご主人様ッ!」

 マチルダはお尻を振る。ふるふると振り、それが才人の目を楽しませ、肉棒へと絶妙な刺激を与えることになる。
 だから才人はお尻を叩く。痛かろうが、腫れ上がろうが、そんなことは才人の知ったことではないないのである。

 っっも、もう勘弁しておくれよぉ……っい、痛いんだよぉ……。

 悲鳴をあげながらも、お尻を持ち上げていく。森の広場は悲鳴と打擲音が支配している。才人はそうしてマチルダを弄び、気の向くままにスパンキングを施していく。

「くっくっ…どうした? 振りが鈍いって言ったはずだぜ? それとも叩いて欲しくてわざとなのか?」

「!っ~~っっただ今振りますッ! ご主人様ッ! べ、便女はケツを振りますっ!!」

 圧迫感から呼吸が止まる。最奥に突きこまれたときのその衝撃。耐えるには息を止めるしか方法がないのだ。

 くくく……! まんことは別の反応だよなぁ? 本当に惜しいぜ、ったくよぉッ!

 残念である。楽しい時間を切り上げなくてはならない。時間が押しているのが本当に残念だった。
 才人はラストスパートに入っていく。残念ではあるが、それもまたいい。まだまだ機会はいくらでもある。次の機会で存分に楽しめばいい。
 そう気分を切替えた才人はラストスパートに入っていく。より一層の力を込め、マチルダのお尻を嬲っていく。
 
 するとどうなってしまうのか?

「くうっくっく! そらそらそらっ! どうしたどうしたどうしたッ! 振って振ってっ! それから締めて、締めるんだよッ!」

「!ひっ、ぎいひひいぃひぃっッ……!~~~~ッま、まだですかぁ! ~~ぐっごぉぁああああっ……! ッ~~~っ、べ、便女のケツッ! っまだ真っ赤じゃ、~~~っな、ないですかッ!?」

 じっとして痛みを堪えていると、容赦なくアナルをえぐりにこられ。しびれが納まるころ、再びのスパンキングとなる。
 痛みの上に痛みを重ねられ、段々とそれに耐えられなくなるのだ。
 マチルダにはもう、早く終わらせて欲しいと、お尻の状態を確認するしかなくなるのである。

「おうらっ、やっと猿になったぜ、マチルダ! 出してやるから感謝しろっ!」

「! っひぎ、いいぃつっ……ッあ、ありがとうございますうっ、ご、ご主人様ッ! ~~っっべ、便女に出してくださいッ!!」

 そうして均等に腫れ上がってしまったマチルダのお尻。満足した才人が射精する。どっぴゅるるるるるっと、三度目でも変わらない射精を、腸の奥まで届けてやるのである。

「!っひひいいいっぃぃいぃぃぃぃ……!」

 腸の奥に熱い迸りを感じる。相変わらずの精液量だった。それでマチルダは身体の力が抜けてしまった。やっと終わったのである。アナルへと射精してくれたのだ、

 ……はぁ…はぁ…はぁ…くぅぅ~~~~~ッ! っ……はぁ…はぁ…や、やっと終わった……

 だが、崩れ落ちることは出来なかった。才人はまだ腰を支えていた。
 でも、これも遠からず抜いてくれるはず。やっと終わったんだと、マチルダは安堵した。力が抜けて、それが当たり前なのだ。

 ……くっくっくっ……何か忘れてないか?

 肩で息をし、呼吸を整えているマチルダ。才人は後ろを振り返り、ニヤリと合図を送る。そして――

「!? っい、いやっ! ぃ、いやああぁぁああぁぁあぁぁぁぁああぁぁっッ……!」

 そのままマチルダの腸の中に放尿してみせた。嫌がるマチルダに腰を掴んで離さず、ジョボジョボジョボ……と腸の中に小水を送る。身体を捩って暴れ、「許して! 許してください!」と哀願するマチルダに小水を送り続けるのである。
 そして、最後の一滴まで送り込み、そうしてからようやく肉棒を抜く。するとぴゅっと、しぶきが漏れてしまった。

「キュルケ!」

「わかってるわ、ダーリン」

 これを防ぐ必要がある。一歩前に進み出たキュルケは用意していた道具を構え、それをマチルダの肛門へと埋め込んでいく。

「!ひっ、ひぃぎぎぃいぃいぎっぎぎぃいぃぃぃいぃッ……!!」 

 森の中である。どこにでも転がっている。才人が用意させた道具は単なる小枝にすぎない。ただそれは少しばかり滑らかで、少しばかり太めであるに過ぎない。
 才人はそれを栓として用意するよう、キュルケに命じたに過ぎないのである。

「くっくっくっ……適当なところで出させてやるから、それまで耐えろ。それから言うまでもないが、命令するまで抜こうとするな」

 ずぶずぶとこねるようにして埋め込み、固定させ、そうしてキュルケが手を放す。やっと崩れ落ちることができたマチルダだった。
 ただ、その姿はお尻から枝を生やした、なんとも滑稽なものである。才人は口の端が吊り上ってくるのを自覚した。

「さっ、これで撤収だ。モンモランシー、破壊の杖とやらを回収してこい。それからキュルケ、俺の後始末しろ。それからルイズ」

 才人はニヤリと笑って見せる。

「流石は虚無だ。予想以上だったぜ? マチルダのリードは最初にオマエに引かせてやる。みんなの服を集めてこい」

「うん! ありがとうサイト! それじゃあ行ってくるわ!」

 奴隷たちは動き出した。モンモランシーは杖の回収に、キュルケは後始末のフェラチオに、ルイズは服を集めに駆け出していく。

 ……ふ…惨めだね……ふふ……奴隷の、奴隷、か……

 漏れ聞こえる会話を耳に、マチルダはつかの間の休息を味わう。

 遠からず腹痛に襲われることだろう。お尻は腫れ上がって立てないほどだし、オブジェとなっている小枝は屈辱の限りである。
 だが、それでも今は責められていない。これ以上の責めをされる可能性はなくなったのである。

 ならばこれは休息ではないだろうか? 
 たとえこれから恥辱と屈辱の散歩に連れ出されようとも、今だけは休んでもいいのではないだろうか?

 そんな風にマチルダは考えた。だから蛙のように這いつくばり、じんじんと熱を持ってしまったお尻を突き出すように持ち上げたのである。

 牧歌的な風景だった。草木がざわめき、小鳥がさえずり、若い男女が笑い合っていた。
 そんな中、マチルダはつかの間の休息を味わうことにした。



「さあ出発よ、便女。森の出口まで案内なさい」

 マチルダに人生の転機が訪れたのは主君であるモード大公が投獄された時だった。今から四年前のことである。大公がエルフを妾とし、そのことが露見してしまった時のことだった。

 大公から厚い信頼を受けていたマチルダの父親は件のエルフと、その娘を屋敷にかくまっていた。
 法によってエルフを妾とするのが禁止されていたわけではなかったが、なにしろエルフである。そんなことをいちいち法で禁止するまでもない。何故ならエルフは忌み嫌われる存在だからだ。

「あら、便女ったら恥ずかしいわ。こんなところで本当におしっこするなんて……。ふふっ…でも、全部出しちゃ駄目よ? キュルケと変わるから、その時に残りをなさいな」

 過去も現在も聖地を巡って争い、杖なしでも魔法を使えるエルフ。ブリミル教の敵としても、メイジより強力な魔法が使えることも、敵とするに充分な理由となりうる。だからエルフは忌み嫌われていた。

「ねぇ、ダーリン、便女ったらもう我慢できないみたい。なんかしきりにこっちを見てくるようになったわ」

 そのエルフを主君である大公が妾としている。途方もないスキャンダルと言えた。これはアルビオンの王家がエルフと繋がっている。そう疑われても仕方がないスキャンダルだ。
 だからサウスゴーダ伯爵家は改易とされたのである。

「くくく……まだまだ。歩けないなら歩かせればいい。こいつを使えばいいさ」

 マチルダの苦難はここから始まった。

 っがっ~~~~ッッち、ちくしょう~~~っまだかい? ま、まだ駄目なのかい? くっぐむぅ~~~ッッさ、さっきからゴロゴロ聞こえてるじゃないかいッッ!!

 アルビオン王は関係者すべてを消すことを企み、兵隊を差し向けてきた。だから彼女は逃げることにした。生きるためにはそれしかなかった。そしてマチルダにテファを見捨てると言う選択肢はなかったのである。
 特徴的な耳から人前に出られなかったテファ。だから屋敷でずっと一緒に過ごすことになっていた。彼女が心優しく、危険な存在でないことを知っていた。
 何より主君の娘であるが、妹のように思っていたのだ。見捨てるなんて、そんな選択肢はなかった。

「あら、ダーリン。こんなの使うの? 目立っちゃうんじゃない?」

「大丈夫だって。ジジイへの報告の時には服を着せるんだ。それにな、たっぷりと出してやったばかりだ。しばらくすりゃ、キレイに治るって」

 逃げに逃げ、たどり着いたのがウエストウッド村だった。シティ・オブ・サウスゴーダからほど近い村で危険だったが、何しろテファの耳は目立ってしまう。長い旅は無理だった。
 それにテファには“忘却”という不思議な力があったから、追手が来ても大丈夫だと思うことにした。

 っや、やめ、やめろやめろやめろやめろっ! 歩くっ、歩くからっ、だ、だから鞭なんてやめてッ!

 乗馬鞭を持った才人が近づく。何をされるか理解したマチルダだった。だから苦痛を無視して動く。必死になって這い、その射程から逃れようとする。

「ほら、動いたろ? まだまだ限界じゃないって」

「あら、ほんとね。限界じゃなかったんだわ」

 森の小道をいく。当然ながら全裸に首輪。四つん這いに真っ赤に腫れ上がったお尻。そこから小枝を生やした情けない姿である。
 リードを繋がれ、後ろからくすくすとした笑い声があがっている。

「くっくっくっ…じゃあコイツは預けといてやる。好きなように使え」

「ありがとう、ダーリン! さっ、いきなさい。便女は鞭が嫌なんでしょう?」

 だが、生活には直ぐに行き詰まることになる。ウエストウッド村は孤児院の村だったのだ。
 幸い追手はテファの能力で撒くことができた。だが、働けるものが誰もいない。なんとか働けそうな年齢だったのは、マチルダとテファのみ。そうなると働けるのはマチルダのみ。
 身に着けていた金品を売り払ってしまえば、働くしかなかった。

 っ~~~~まだかいッ? ~~~~っも、もう許しとくれよぉ……

 そうして働きに出たマチルダ。アルビオンは危険だったので、トリステインの街で働こうと思った。
 何件かの店を当たり、給仕としての職を得たのであるが、そこでとある貴族に声を掛けられてしまったのである。

「さっ、便女。そこでしちゃいなさい。大きく足をあげて、その木におしっこをするの」

 マチルダは良くも悪くも箱入りだったし、世間のことをよく知らなかった。その貴族から「わしの屋敷で働かないか? 今よりいい金を出してもいい」と提案され、テファだけでなく孤児達のことを考えてしまった。

 もっと子供たちにも楽をさせてあげたい。そのためにはもっと稼ぐ必要がある。
 何となく薄気味悪いものを感じたが、悪い人ばかりのはずがないと思い、その屋敷に向かい……そのまま監禁されてしまったのである。

 ッ~~っぐぐぅうぅぅぅっ…ち、ちくしょう……

 あとは言うまでもないだろう。家政婦としてコキ使われ、夜は性奴としての辛い日々。逃げられないよう魔法の掛かった首輪と足枷をつけられ、その貴族、時にはその貴族の友人連中に犯される毎日。
 寝床として与えられた地下牢でマチルダは死にたいと思った。でも、テファ達のことを思えば言う事を聞くしかない。なんとか隙を見て逃げるしかない。

「くっくっくっ……頑張ったな。マチルダ、お待ちかねだ。盛大にやってくれて構わんぜ?」

 そしてやっと訪れたチャンス。従順に振る舞って見せ、その貴族の警戒心が薄れた。風呂で奉仕をしろと言われた。
 全身を使って身体を洗え。だから枷や鎖がついていたら邪魔なので外せという。ようやく訪れたチャンスだった。
 だから浴槽にその貴族を沈めた。当然の権利として金品と、コレクションの魔法具を回収した。
 二か月も自由を奪ってくれたのだ。村へと送金しなくてはいけないのだ。当たり前だと思った。

 ぅくぐむむむぅうぅぅうぅうう……っ! あ、あの時は上手くいったけどさっ~~~~ッこいつはもうっ~~む、無理なんだろうねッッ!!

 マチルダは復讐を誓う。それが、土くれのフーケとしての始まり。
 効率よく稼ぐには貴族に対して盗みを行うのがいい。貴重な魔法具を盗んでやれば、その貴族はさぞかし頭にくるだろう。
 復讐と金策、どちらもできる。貴族専門の盗賊。土くれのフーケが誕生した。

 ~~~~っっお願いだよっ! ~~ッも、もう限界なんだよッ!

 キュルケが一歩、前に進む。そうして小枝を掴み、ズボッとアナルから抜いてしまった。

「くく…そうだ。まだ出すんじゃないぜ? ガバッと股を開いて、俺の目を見ながらやってみるんだ」

 全身が脂汗に塗れている。追い立てられ、背中とお尻には幾条もの赤い線。そんなマチルダが中腰となり、両膝を掴んだ。あともう少しだけの我慢だと、マチルダは歯を食いしばる。

「よ~し! 盛大にひり出してみろ! 出すときには大きな声で叫んでみろ!」

 だから逡巡などない。ようやく許可を出されたのである。散々に恥を晒してきた。どうやっても逆らえないと理解させられてきた。
 今、頭にあるのはただ一つ。出してしまって、楽になりたい。今はそれだけしか考えられない。

「っぎぎぎぃいぃぃいいいいッッ! っだ、出しますっ、ご主人様ッ! ぐぎいいぃいぃ~~ッッ便女ッ、ひり出しますッッ!!」

 そして――決壊。

 森の中に絶叫と恥ずかしい音が響き、それから異臭が漂う結果となる。
 マチルダはその場にへたり込んでしまった。力が抜け、もう身体を支えることができなかった。

 ……ぁ……ぁはは……何コレ……き、きもちいいわ……なに……コレ……

 その有様を見た才人。思わずニヤリと嗤ってしまう。

 くっくっくっ……サービスだ。気持ち良かったろ? 限界まで我慢したあとだ。さぞかし気持ち良かっただろ? 
 コイツを好きにさせて、ねだるようにさせるのも、くく…面白いかもしれんな……。

 そう、脱糞の最中であった。とてつもない快感が襲ってきた。そして、排泄が終わるとすさまじいばかりの幸福感に包まれた。
 身体がポカポカと温かく、あれほど痛かった傷が、気にならない。むしろ苦しんだ分、それがそのまま幸せとなって戻ってきたようだった。

 ……あ、あははは……すごいわ……すごく、きもちいい……あ、あははははは……あたし、イっちゃってる。…あはは……あ、あたし、うんちして、イっちゃった……

 破滅は当たり前だったのかもしれない。

 趣味と実益を兼ねると言えば聞こえは良いが、どうしても中途半端になる。目立ってしまえば、追求だって厳しくなってしまう。
 遠からず追い詰められ、捕まってしまうのは当たり前だったかもしれない。
 ただ、フーケを捕えるのが貴族ではなかっただけ。もっと悪質な才人に囚われてしまっただけの話。

「くくく……便女のマチルダさんは、くそをしたら気持ちがいいそうだ。モンモランシー、水をぶっかけて天国から引き戻してやれ。
 それからキュルケ。もう直ぐ森の出口だ。偵察に行ってきてくれ」

 マチルダを示し、嗤いながら才人が指示をする。リーヴスラシルの能力を目の当たりにし、流石に三人は驚いた。

 わかってはいた。支配されてしまうと、快感も苦痛も自由自在のその能力。例えば自慰やセックスにおいて、快感を増幅された経験はある。ご褒美というのがそれだ。
 痛みを無くし、すさまじい快楽と、余韻としての圧倒的な幸福感。奴隷たちはそれを味わい、だからこそご褒美を欲するようになった。

「わ、わかりましたわ、サイト。今すぐ錬水で水を作ります」

「い、いってくるわね、ダーリン」

 だが、このようなことが可能であると見せつけられ、その心に恐怖が湧き起こる。
 あれほど苦しそうだったマチルダなのに、今は排泄物の上に座り込んでいる。そしてだらしなく口を開け、よだれを垂らし、焦点の合わない瞳で微笑んでいるのだ。
 才人には逆らえない、逆らうべきではないと、改めて奴隷たちは思い知った。

「ね、ねぇサイト! わ、わたしは何をすればいいの?」

「ん? そうだな。特にない。そのままリードを握ってろ」

「わ、わかったわ。そうしておくわ」

 こうして土くれのフーケは死んだ。捕えられ、囚われてしまったのである。

 っあ、あははははははははは……、何コレ? すんごく幸せ! すんごく気持ちいいわっ! あ、あはははははははは……すんごい幸せだわっ!

 笑い続けるマチルダ。奴隷であることを、そして奴隷として生きることを、受け入れた。



[27351] 新しい一日の風景
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/03 20:16
 才人達一行は学院へと帰ってきた。怪盗フーケを討伐し、秘宝を取り返しての凱旋である。ミス・ロングビルの正体を暴き、奴隷の一人として、手駒の一人として、加える事に成功したのである。
 まさに完全勝利と言っていい。才人としてはこれ以上ない結果と言えよう。

 そしてその帰り道の事であった。森の出口が見えたので、才人はマチルダの散歩を終わらせた。
 裸の女を犬のように引き連れているのを目撃されたら面倒なことになるかもしれない。だから奴隷たちにマチルダを洗わせ、出口の手前で服を許した。
 タイトなスカートに上着を着せ、スカーフを巻いて眼鏡を掛け直せば、鞭とスパンキングの痕は服の下に隠れてしまう。そうすれば有能な秘書ロングビルが完成するのだ。
 まあすこしばかりがに股にへっぴり腰なのはしょうがない。学院に着くまで時間はあるし、その間にモンモランシーに治癒を掛けさせればいい。
 そしてそれでも駄目ならしょうがない。能力で一時的に痛みを無くしてやればいいだけの話である。

「くっくっく、いい旅だったな。なぁ、ロングビルさんはそう思わないか?」

「っは、はい、サイトさん。いい旅だったと思います」

 手綱を握るマチルダへと声を掛ける。馬車の響きが辛いらしく、時折顔を歪めているが、才人には関係の無い話である。そんなことより、全く持っていい旅だったのだ。
 そして時折びくっと震えるのだがそれはおそらく恐怖の表れだろう。往路のようにセクハラで暇を潰しているのだが、これからは自分もそのように扱われると悟ってしまい、己の運命を悲観しているのだ。

「しかし『破壊の杖』ねぇ。返す前に拝んでおいても罰は当たらないよな? ……キュルケは見たことあるんだっけか?」

「っああんっ……ぁぁはあぁぁん…はぁぁ……っそ、そうよ、ダーリン。み、見たことあるわ……」

 いい仕事をしてくれたキュルケを労ってやる。むにゅむにゅとたわわな肉の弾力を味わっていたのだが、ふと才人は破壊の杖のことを思い出した。
 戦利品として馬車の隅に置いてあるケースであるが、その正体はなんであろう?

 この旅の目的はあくまでもマチルダだった。だからこれまで気にも留めなかった。
 そしてそれが手に入ったのだから、才人は寛大な気持ちになれた。秘宝をオスマンへと返却してもいいと思っていた。
 だが口に出してしまうと、どうにも好奇心が沸いてくる。いかにも重厚なケースに入っている破壊の杖。これは一体なんであろう? 

 ケースの大きさは50センチほど。緩衝剤でも入っているかもしれないからそれよりは小さいだろうが、どんな杖なのだろう?
 まあ拝んでおいても罰は当たるまい。好奇心の赴くままに。そう思った才人はケースの蓋を開けた。

「……キュルケ、これが本当に『破壊の杖』なのか?」

「ぁあんっ…ン…そうよ、ダーリン。あたし、見たことあるもん。ぁ…か、変わった形だし、んんぅぅ…み、見たことない材質でしょう?」

 秘宝である『破壊の杖』を確認する。

「っはぁぁぁぁっ……ん……、ぁ…ふぅぅ……。ねぇダーリン、こんなに精巧な円筒にどうやって作ったのかしらね? 
 っぁん……そ、それにね、透明でキレイだし、厚みも一定だわ。だから、凄く有名な錬金魔術師が作ったと思うの。
 ん……多分ね、この取っ手を引き出して使うと思うんだけど…どうやって使うのかしら?」

「…………」

 その秘宝は透明で、円筒形であった。才人はその材質を強化ガラスか、あるいはプラスチックか、そのあたりだろうと思った。

 ……これってどう考えてもアレだよな? ……まあ、破壊っちゃー破壊になるのか?

 そしてピストンがあり、目盛が刻まれている。まるで超大型の注射器のような形状だと才人は思う。
 そう、それはどう考えても浣腸器であった。まごうことなく浣腸器であった。

「……まぁ確かに破壊だな。使いようによっちゃあ、凶悪な威力を発揮してくれると思う」

 何でこれが秘宝なのか? オスマンに小一時間ほど問い詰めたくなった才人だが、これはこれで使える。もったいないので、返却しないことにする。
 ただこの秘宝。オスマンは用途を知っていたのだろうか? それなら、考慮の余地なく没収だと思った。

「本当? 凄いわダーリン! 使い方がわかるのね? 一体どうやって使うの?」

 ようやく落ち着いたキュルケは尊敬の眼差しだった。才人としては苦笑するしかなかったが、まあ教えておいてもいいだろう。日本においてとある目的に使う器具だと説明してやる。

 くっくっくっ…そりゃあそうだ。どんなモンか知りゃあそうなるだろうぜ。

 そうするとであった。正体と使い道を聞いたマチルダは深く落ち込むことになったのである。
 頬を引くつかせながら「あのジジイ……」とぶつぶつ呟いてしまったが、それはどうでも良い話であろう。

 学院にたどり着いた一行はマチルダからオスマンに“フーケは隠れ家を引き払ったあとであり、秘宝も見当たらず、周辺を捜索したが、手掛かりは見つからなかった”と、そういう風に報告させた。
 才人は今オスマンに会ってしまうと、どうしたってツッコミたくてしょうがなく、その危険を避けたかったのである。

 そしてそのオスマンであるが「そういうことなら仕方があるまい」と納得した。教師たちには異論があるものもいたようだが、突ついてしまうには学生に任せたとの弱みがある。しぶしぶとだが、納得せざるをえなかった。
 学生たちはどうか? そもそも詳しい事情は周知されていなかったし、土くれのフーケと言えばトリステインを騒がす大怪盗である。
 討伐に向かったとの事実だけでそれなりの尊敬を勝ち得たし、隠れ家に向かうも引き払ったあとだったと説明されれば、結局は捕まえられなかったと騒ぐ一部の傲慢な学生も納得せざるを得なかった。

 つまり、結果として教師たちの評価は変わらず、学生の中でちょっぴりと地位が上がった。それがルイズ、モンモランシー、キュルケの結果である。
 才人自身といえば「危ないことしないでください」と、シエスタから泣かれてしまう結果となった。
 そして公式的にはルイズの使い魔である才人の評価は、その主人に帰結する。だから貴族の中での評価はあまり変わらず、ただシエスタを除く平民の従業員には勇気があると、少しばかり株が上がった。

 再度盗みに入られたり、噂が大きくなりでもすれば、また違う展開にもなろう。だが今後土くれのフーケが活動することは無かろうし、そうなれば自然と人々から忘れられていくことになるだろう。

 こうして怪盗フーケの一件は落着を見せたのである。



 ルイズの一日は才人を起こすことから始まる。寝床である藁の上から起き上がり、そして寝ている才人へとフェラチオし、ルイズの一日が始まる。

 ベッドへと上がり、布団の中に潜り込む。黙ったままに、しかしぴちゃぴちゃと水音は隠しようがない。
 優しく起こすのが目的なのであくまでもソフト目に舐めていき、起きれば指と唇を駆使しての本格的なフェラチオへと移行させる。
 予告なく射精される粘つく特濃の精液。これは予兆を読み取っておく必要がある。えずきや吐き出すなどの粗相をしないように注意しなければならないだろう。
 そして相変わらずの量に飲み干してから「サイト、朝よ。美味しかったわ」と挨拶をしなければならない。

 どうやれば才人が満足できるんだろう? 無理なく、そしてキレイに飲み込むコツはなんだろう? 

 ルイズはもう慣れっこになってしまっていた。だからフェラチオや精液自体にはもうそんなに抵抗はない。いろいろと試し、研究を行ってきたのだ。当然今だって練習と実践はかかせない。
 悔しさや恥ずかしさはもちろんあるが、それよりも当たり前の事と受け入れた。何故ならルイズは才人の使い魔。それも恥ずかしいちんぽの使い魔。当たり前と受け入れなければならない。

 罰はもらいたくないし、どうせならご褒美が欲しい。そしてそのご褒美は確かにその肉棒から生み出される。ならばそれを愛し、奉仕することになんの躊躇いがいると言うのか?  
 どうせなら一生懸命やってご褒美につなげるべき。ルイズはそう割り切ることにしたのだった。

「おはよう、ルイズ。今日も熱心ですわね」

「じゅぶっ、ちゅるるっ……えろんっ…ぱはっ…ちろちろ…お、おはよう、モンモランシー。…っあんむぅぅぅ…じゅぶぢゅぶぶっ……」

 起き抜けのモンモランシーが挨拶をしてきた。ルイズとしても同じ奴隷仲間である彼女なら、肉棒を口一杯に頬張る姿を見られるにしても恥ずかしくはない。何故ならお互い様であるからだ。
 ルイズはもう才人の奴隷であることを受け入れている。それはモンモランシーにしても同様であろう。
 お互いに知恵を出し合い、テクニックの向上に努める仲になれたのである。

「!? ……ごくっ、ごくっ、ごくっ……んン、じゅるるるっっ……ちゅゅぅぅうぅぅ……、ちろれれろっ…べろんっ……。
 っお、おはよう、サイト。今日もありがとう! れろ……れろ……、ぁ…っあんむぁっ…じゅぶ…じゅぶ…ちゅぶっ……ぢゅるっちゅぅ……」

 才人が本日一番をルイズに飲ませる。そして「美味かったか?」と頭を撫でてやり、そのまま後始末を楽しむ。
 ルイズはそれに「えへへ」とニッコリと微笑み、それからもっと満足して貰えるよう、肉棒へと意識を集中させる。

 起き抜けのフェラチオ奉仕のあとは部屋の掃除になるだろう。昨夜の凌辱の痕跡は掃除をしておかなければならない。そしてそれを終わらせ、首輪を外してもらうのだ。
 遠慮のない喘ぎ声と、同じく責める声を聴きながら顔を洗い、歯を磨き、制服へと着替えれば準備完了。ルイズは朝食へと出かける。

「よし。んじゃあ行って来い。モンモランシーは少し遅刻だ。何かあったら適当に言い訳しといてくれな?」

「ん、わかったわ。それじゃあ行ってくるわね?」

 ぺたんと床に座り込み、ぐっぽぐっぽと熱心に頭を振るモンモランシー。それを見ながらルイズは思う。明日の朝は誰なんだろう? 
 才人はその日の気分によって、どの奴隷を使うか決めるのだ。

「あんっ、もう! あたしだったらもっと上手にご奉仕できるのに!」

「……まあ、ツェルプストーはおしゃぶり好きだもんね。いつも嬉しそうにおちんぽ咥えてるし……」

「当然よ! 情熱を表すにはね、一生懸命おちんぽをしゃぶるに勝るものはないわ! まあ、ヴァリエールにはわからないかも知れないけどね」

 腕を組み、挑発的に笑って言い返してくるキュルケだった。朝から一体何を言っているのか? ルイズはいかにも呆れ、やれやれと頭を振る。だが、遺憾ながらほんのちょっぴりキュルケの気持ちがわかってしまった。
 確かに貪欲さというか、情熱を表しているような気がするのである。

「ったく、馬鹿なこと言ってないでいくわよ?」

「それじゃあ、ダーリン! 行ってくるわ!」

 そんな彼女たちに才人は「おう、行って来い」とニヤニヤしながら言い放ち、そしてモンモランシーといえば、いまだ口唇奉仕の真っ最中である。

 口をすぼめてんっんっんっと頭を振る。それから根元から舌を這わせながら見上げてみたり、玉袋をやわやわと揉みしだき、そしてちろちろと舌先で亀頭や幹を刺激したりと忙しい。

 近頃の朝はいつもこんな感じであった。才人は添い寝をさせる奴隷を選ぶ。そして登校の時間まで、指名した奴隷に奉仕をさせる。今日はたまたまモンモランシーだったと言うわけだ。

 ……でもね。羨ましいってわけじゃないけどね。

 扉を開け、部屋の外へとルイズは出た。隣のキュルケは早くいきましょうと、その腕を引っ張っている。お腹が空いているのだろう。その気持ちはよくわかる。
 何しろ近頃は運動量が増えたので、お腹が空いてしまうのだ。

「ふん、まったくゲルマニアの女ははしたないわ。少しくらいは我慢出来なのかしらね」

「あら? 言ってくれるじゃない。そういえばヴァリエールはダイエットしてるんじゃなかったかしら? それなら別に無理にとは誘わないわよ?」

 憎まれ口を叩くルイズだった。すっかり仲良くなった二人だが、やはりキュルケとはこんな関係が楽しいと思う。
 だが痛いところを突かれ、これには苦笑するしかなかった。キュルケはルイズが食事を抜かれた経緯を知ってしまったのである。
 
「わかったわよ、わたしの負け」と降参するしかないだろう。確かに食事をして、昨夜消費してしまったカロリーを回復させておかないと拙い。
 今夜もまた散々に責められるか、あるいは責め合うかして、体力を使う事になる。一食だって大事にしないといけない。

 だからルイズは口喧嘩を早々に切り上げ、食堂への道のりを歩く。そしてそんなルイズだったが、実は心中に一つの決意を持っていた。

 ……やっぱり拙いと思うわ。なんとかしないといけないわよね? っそ、そう、羨ましいわけじゃないんだからねっ!

 ではルイズの決意とはなんであろうか? それは才人がマチルダを奴隷としたことが切っ掛けだった。

 フーケの討伐へと赴いた才人一行であるが、表向きはフーケが逃げたあとだと、そう学院に説明した。
 もちろん真実は違う。逃げたことにした方が都合が良かったから、そう報告させたに過ぎない。
 真実はロングビルことマチルダの正体を暴き、奴隷として手駒の一つに加えたのである。

 そしてその夜の事であった。才人はマチルダを犯しぬいた。それは中途半端だった責めの続きをやりぬき、本当のご主人様が誰であるかを、その身体に叩きこむためだ。
 そんな目的だったから才人はマチルダの身体を乱暴に扱い、泣こうが喚こうが中出しを繰り返す。能力を使って苦痛と快楽を交互に送り続け、天国と地獄を交互に味あわせた。

 マチルダには何度止めてほしいと懇願したか、絶頂へと送り込まれたのかわからなかった。もっとも数えても意味のない話だっただろう。
 確かなことは幾度となく失神にまで追い込まれ、その度ごとにルイズたちの愛撫とスパンキングで現実へと引き戻されたことである。
 改めて身分を思い知らされたマチルダはすっかり従順となり、才人を“ご主人様”。ルイズたちを“お姉様”と呼ぶのに何ら抵抗感はなくなっていた。

 そして、ルイズにとっての問題はここからだった。深夜遅く、日付が変わってから解放されたマチルダだったが、才人はそのままベッドで休むことを許したのである。

 それは単なる気紛れだったのかもしれないが、ルイズにとっては納得できなかった。だが不平があったにしても、奴隷の身分としては抗議するのは躊躇われる。
 結果として次の朝にどうなったかであるが……

「っあ、あの。おはようございます。ルイズお姉様」

 才人の隣で寝ていたマチルダは淫靡な水音で目を覚まし、そして奉仕の真っ最中のルイズを視界に認め、申し訳なさげに挨拶をしてきたのである。

「……おはよう、便女。っぁ、はんむふぅう……っ…ぢゅるるっるッ…ぴちゃ、ぴちゃ、…ずっじゅぢゅるるっっ…れろれおっ……れろれろっ……」

 態度に表さないよう気を付けたが、どうにも語尾が荒くなっていた気がする。当然の義務を実行中のルイズはマチルダと顔を合わす結果となったのである。
 
 でもね。便女はあたしの奴隷なのよ? それがベッドで、あたしが床っておかしくない?

 モンモランシーやキュルケなら仕方がない。現在の境遇は自業自得から始まったのだから、諦めるしかないと思った。
 しかし、マチルダは話が別だと思う。奴隷の奴隷のくせして、ベッドで眠る? それがどうにも、ルイズには我慢できなかった。
 
 本来なら這っているしかない便女なのよ? それなのにベッドで、主人であるわたしが床の上って、やっぱりおかしいわよね?

 ルイズだってわかっている。全ての法は才人が決めるのだから、文句を言っても変わらない。むしろ過度に抗議しようものなら奴隷の立場さえ奪われ、奴隷の奴隷であるマチルダの下にさせられるかもしれない。
 
 便女のくせに! 便女のくせに! 便女のくせにっ!

 だがしかしである。それでもやっぱり頭にきた。少なくとも今のマチルダはルイズの奴隷でもある。その主人が床の上に寝ていたのに、奴隷の身分で安穏としてベッドを使っていたら、それはやっぱり頭にくるのだ。

 ……ふぅぅぅ…、やっぱり納得がいかないわ。どうしても納得がいかないわよ。

 モンモランシーやキュルケなら我慢出来た。同じ部屋にいて片方はベッド、片方は床でも我慢出来た。それなのにマチルダはベッドで寝た。ルイズが床の上に寝ているにも関わらずである。

 ……やっぱりおかしいわよね? 便女はあたしの奴隷でもあるんだし……

 せめてマチルダがいる時くらいはベッドを使わせてもらえないだろうか?
 ルイズはそう考えた時閃いた。頭にきたのは当然として、これは転機になるのではないか?
 そう、マチルダでさえベッドを使っているのだからと、自分も使えるように頼んでみるのだ。

 ……とはいえ、いきなり同じベッドで寝たいなんて言えないわ。そんなことしても、サイトがうんと言うとも思えない。となると……

 何か大きな手柄を立てる必要があるだろう。下手な願い方をすれば、藪蛇になりかねない。そう、どうしたって大きな手柄が必要となるだろう。
 そして才人から褒美は何がいいと聞かれたなら「同じベッドで寝させてほしい」と頼んでみれば、案外すんなりと、うんと言ってくれるかもしれない。

 うふふ……便女が勘違いするといけないわ。だから早いとこそうなるようにしないとね?

 ベッドを使えるようになれば、マチルダに対して主人として恥を晒さないで済む。そしてそうなれば嬉しいから、感謝の気持ちでご奉仕だって楽しくできるというものだ。 

 うん! これはいい考えよね? 何か事件でも起きてくれないかな? それともやっぱり、次の奴隷を誰にするかよね? そこで手柄を立てて、そしてサイトに一緒に寝てってお願いするの!

 ルイズはにやけるのを抑えきれない。だから足取りも軽くなり、ちょっと浮かれて食堂へと歩いていった。



 日が翳り、二つの月がうっすらと姿を見せてきた。ヴェストリの広場である。この広場はあまり人が来なく、夜ともなればまず近寄るものはいなかった。

「おー、やっぱこれだよな。いい湯だぜ、こりゃ」

 タオルを頭にのせ、鼻歌を歌う。

 才人は気分が良かった。何故なら風呂へと入っているからであった。

 トリステイン魔法学院に風呂は、もちろんある。ただし湯を張るタイプの風呂は貴族専用であり、平民用の風呂は掘っ立て小屋のようなサウナ風呂だった。これには才人は我慢ならなかった。
 何故なら日本人にとって風呂とは浴槽に浸かって温まるもの。サウナでは物足りなかったのである。

「いい気分だぜ、まったく」

 仕方がないので自作することにしたのが、今浸かっている風呂である。マルトー親父に頼んで古い大釡をもらい、それを五右衛門風呂のように使っている。
 ただこれは非常に手間が掛かった。大量の薪と水を用意しなければいけない。だから毎日ではなく、我慢できなくなったときにこの風呂を使うのである。
 そして苦労に見合う価値があったのだ。そうなれば鼻歌の一つも出ようというものだろう。

 ……くっくっくっ…それにしてもだ。マチルダを手に入れたのは大きい。こんな苦労もあと少しでオサラバだな。

 才人は本当に気分が良かった。土系統のスペシャリストを手に入れ、立派な風呂を作れる目処が立ったのである。
 錬金によって石造りの土台を作り、湯炊き用の窯を作る。工具についても同様だし、これで小屋や風呂桶を作れるだろう。
 燃料だって土くれを石炭にでも錬金させられるし、台車を作れば水だって運びやすい。そしてそうなった暁には

 そうなりゃアイツらにも使わせてやれる。もう一人寂しく風呂なんてこりごりだぜ。

 そう、ソーププレイが楽しめる。実行するにはまだまだハードルが高いが、とにかく風呂がないと話にならない。
 それにそれをさておいても、こんな五右衛門風呂ではなく立派な風呂が出来れば、それはやっぱり嬉しいのだ。

 そして風呂からあがれば調教の時間となろう。今日はどのようにして奴隷を嬲ってやろうか? そんなこと考えながら鼻歌を歌い、汗を流す。
 奴隷たちもかなりこなれてきたし、テクニックにしても同様だ。
 まだ拡張しきってないので痛みは残っているようだが、それを差し引いても充分と言える。もうアナルでだって快感を感じるほどに、奴隷たちはこなれてきている。

 くく…もう普通に入れてやるのがご褒美になりかけてるしな。そろそろ次のステップに進もうかね?

 才人は思う。いくら貴族だと威張ったところで、所詮はメスに過ぎなかった。貪欲に快楽を求めるメスであった。
 ならこの調子で奴隷をしつけ、もっともっと楽しめばいい。そのためにはどうするのがいいだろう? 

 ったく、楽しいねぇ。とことんまで堕としてやる。アイツら、どこまでやってくれんだろうね? くっくっくっ…楽しい、楽しいっと。

 淫乱となり掛けている奴隷だが、まだまだ足りない。ケティのように能力を使うのではなく、自主的に心からの忠誠を誓うようにならなければならないといけない。
 そう、例えば才人がリーブスラシルの能力を失ったとしても、そのまま奴隷として仕えるくらいまでに堕とさなければならない。
 その肉棒のためになんでもする、正真正銘、ちんぽの使い魔にしなければならないのだ。
 能力がなくなったとたんに反逆するような奴隷では、飼い続ける価値がないというものではないか?
 だからより一層のしつけと調教を進める必要がある。そんなことを考えながら、才人は自作の風呂を楽しんでいた。

 ……そうだな、全部同じタイプに堕としても面白くないよな? ケティみたいに中出しが好きとか、あるいは塗りたくるのが好きとか、そんな風にしていくべきか?

 にやにやと笑い、とりあえずは今日をどうやって楽しむべきか? そう思いながら鼻歌を歌う。

 その時であった。月に照らされて、人影があらわれた。才人は「誰?」と誰何し、そして表情を取り繕う。これまでこんなことはなかったので緊張してしまう。
 もしかしたら表情を見られたかもしれない。これからはもっと注意を払うべきだろうと反省した。

 っく、やっぱ見張りが必要だよな。でも…そうなるとデルフか? しかしアイツ重いし、目立っちまうしな。

 誰何された人影はびくっ! として、持っていた何かを取り落とした。がちゃーん! と月夜に陶器の何かが割れる音が響き渡る。

「わわわ、やっちゃった……。また、怒られちゃう……くすん」

「シエスタ!?」

 その声で、才人は暗がりからあらわれた人物に気づいた。月明かりに照らされて姿を見せたのは、アルヴィーズの食堂で働く、メイドのシエスタだった。
 いつものメイド服だったが、頭のカチューシャをはずしていた。肩の上で切りそろえられた黒髪が、艶やかに光っていた。しゃがみこんで落っこちた何かを一生懸命に拾っている。

 ふぅ……驚かすなって。誰かと思ったじゃねーか。

 どうやら不審な何かに気付いた様子はなかったようである。だが、そうなると疑問に思った。これまでこんなことはなかったのだ。
 何でシエスタは人気のない、夜のヴェストリの広場になんて来たんだろう?

「シエスタ、なにやってるんだ?」

「あ! あのっ! その! あれです! とても珍しい品が手に入ったので、サイトさんにご馳走しようと思って! 今日、厨房で飲ませてあげようと思ったんですけどおいでにならないから! わあ!」

 なるほどと才人は得心した。確かに今日は厨房に行っていない。風呂の設計をして、その指示をマチルダにしていて忙しかったのだ。
 そして落してしまったのはどうやら何かの飲み物らしい。見ればシエスタの隣にはお盆がある。驚いた拍子にカップを一個、落して割ってしまったらしい。

「そっか、悪いね。驚かすつもりじゃなかったんだけど」

 なんとも微笑ましく、そしていじらしいと思った。あわあわと弁解する様には好感が持てる。
 珍しい品を手に入れたと言うので、わざわざ持ってきてくれたのだ。

 っ虐めてやりてえっ! 泣かして、喘がせてやりてえっ!

 これはあれだろう。ここまでしてくれるくらいだから、シエスタは好意を持ってくれている。そうすると才人としては、ムクムクと肉棒に血が滾ってくるのを抑えることができなかった。
 何故なら性癖を自覚し、リーヴスラシルを理解するにつれ、才人の欲望は素直になってきている。実際に女を奴隷に堕とし、毎日好きなようにいたぶっている。
 そしてシエスタだ。ハルキゲニアに来て最初に親切にしてくれた女であるし、顔もスタイルも合格点をやれる。ならば自分の女にしたいとの欲望は当たり前だった。

 っくううっっ! いかんいかん。シエスタはそんなんじゃねえっ! 俺には縁のない女だっつーの!

 だが、その欲望を必死に抑える。シエスタは駄目なのだ。才人が望むような関係を受け入れるとは思えない。奴隷の扱いをするわけにはいかない。
 何故なら純粋な好意なのだ。落ち込んでいた時に救いとなってくれた女なのだ。それを裏切るわけにはいかないと、欲望を必死の思いで抑え込む。

「っい、いえ! わたしが勝手に驚いたんですから、サイトさんは悪くありません! 気にしないでください。はい!」

 ちょっと恥ずかしげに目をそらしたシエスタだった。才人が素っ裸なことに気付いたのだろう。
 才人は微笑ましいと思い、そしてやっぱり裏切れないなと、その決意を新たにする。

「そ、それでですね。東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品とか。『お茶』っていうんです」

「お茶?」

 シエスタはニコリと微笑み、ティーポットから、割れなかったカップに注ぐと「どうぞ」と才人に差し出した。「ありがとう」と受け取り、それを口に含む。……なるほど、お茶だった。
 いい香りが鼻腔をくすぐるし、日本の緑茶とさほど変わらない味だった。

 っく…シエスタ……!

 なんといい娘であろう。シエスタが珍しいというなら本当に珍しいのだ。それをわざわざ持ってきてくれて、振る舞ってくれたのである。
 こんないい娘と縁がない? 大釡の風呂の中で、思わず目頭をぬぐった。

「ど、どうなさいました! だいじょうぶですか!」と、シエスタが身を乗り出してくる。才人は曖昧に笑って見せ、「いや、ちょっと嬉しくなっただけ」と返した。

 本当の理由は話せないので、代わりに再びカップを口に運ぶ。心配げなシエスタには本当に悲しくなる。
 こんないい娘と、縁がない。それは才人の涙を誘うに充分だったのである。

「いや、でも、良く俺がここにいるのがわかったよな」

 誤魔化すために話題を変える。するとシエスタは顔を赤らめてきた。一体どう言う事だろう? 自然と怪訝な顔になると、「実は……」と、シエスタは理由を話してきた。

「え、えと、その。たまにここで、こうやってお湯につかっているのを見てたもんですから……」

 これは拙いと思った。悪巧みを企んでいた顔や、その呟きを聞かれていたかもしれない。

「……覗いてたのか?」

「っいえ、その、そういうわけじゃ!」

 だがシエスタは慌てて首を振ってくる。ほぅと、才人は安堵した。シエスタは嘘をつくような娘ではない。
 不都合なことはバレていないようである。ニコリと微笑み返し、今後は注意しようと思う。

 と、その時であった。釡の回りはこぼれたお湯でぬかるんでいたので、慌てた拍子にシエスタは足を滑らせてしまう。

「きゃあああああッ!」

 そして前のめりに釡の中に滑り落ち、どぼーんと釡の中に飛び込んできたのである。

「あいたた……わーん、びしょびしょだぁ……」

 するとであった。びしょぬれのシエスタがお湯から頭を出した。これはいい。メイド服が濡れて、悲惨なことになっている。服が透けて色っぽいので大変よろしい。

 っおいおいおいっ! っシ、シエスタまずいって!

 問題は次だった。釡から立ち上がろうとした拍子に手頃だったモノを掴んでしまい、それからそのモノが何か確かめようと、ぎゅっと握って、それからこすこすと擦ってきたのである。

「そ、その、シエスタ。その握ってるモノなんだけど……」

「い、いえ、その、すいませんっ!」

 謝りつつも、シエスタは風呂から出ようとはしない。それからその握っているモノからも手を放そうとはしない。

「うふふ」

 メイド服のまま、大釡に浸かってシエスタは笑った。笑う状況じゃないのだが、笑った。シエスタは一体何を考えているのか?
 才人は質問するのも、やめてくれと言うのも躊躇われた。なんだか拙いことになりそうな気がしたのである。

「えへへ、気持ちいいですよね。これがサイトさんの国のお風呂なんですか?」

 一体何が気持ちいいのか? なんとなく別の意味に聞こえてしまったが、お風呂というのだからお風呂のことに違いない。
 だが才人は焦っていたのだろう。ついつい「ま、まあそうだな。普通は服を着ながら入ったりはしないけど」と答えてしまう。

「あら? そうなんですか? でも、考えてみればそうですよね。じゃあ、脱ぎます」

 しまったと思った時はもう遅かった。才人が見守る中、シエスタはお湯から出ると服を脱ぎ始める。なんとも気持ちのいい脱ぎっぷりで、ぽんぽんとブラウスのボタンやスカートのホックを外していく。
 才人が「まずい」だの「やめろ」だの諭しても、シエスタは「キチンと入りたい」だの「乾かさないといけない」だのと、脱いでいくその手を休めないのである。そして――

「えへへ……、サイトさん、気持ちいいですよね?」

「っあ、ああ。まあ、そうだな。気持ちいい風呂だよな」

 シエスタは脱いだメイド服や下着を、薪を使って火のそばに干した。それから風呂へと入り、当たり前のようにそっとモノを優しく握り、すっすっすっと擦ってくる。

 っシ、シエスタさん? あなた一体何を考えてらっしゃいます?

 考えるまでもないだろう。シエスタは誘惑してきているのである。

 っ、だからまずいって! 我慢できなくなっちゃうじゃねーかよ!

 だが、これを認めるわけにはいかない。シエスタを奴隷には出来ないのだ。

 何故なら奴隷とすれば、今所有している奴隷を紹介しなくてはいけなくなる。そうなればシエスタはショックを受け、才人を嫌うようになるであろう。
 だから誘惑にのるわけにはいかない。欲望を発散するには今の奴隷たちは必要だし、これからも思うままに奴隷を増やしたいのだ。

「うわあ、本当、気持ちいいですよね? サイトさん、お風呂って気持ちいいですよね?」

「うむ、まあ、気持ちいいよな」

 白くて健康そうな足であった。着やせするタイプらしく、才人が満足できるだけのボリュームがあった。日本人であるからには艶やかな黒髪もいいし、低めの鼻も愛嬌がある。
 そう、シエスタの魅力を例えるなら野に咲く可憐な花であろう。美人というよりは可愛い。大きな黒い瞳は親しみを持ちやすいのである。

 おぅっ! だんだんと力を込めてきやがるっ! って、くいくい引っ張るんじゃないってーの!

 なかなかのテクニックである。とてもではないが、片手でしているとは思えなかった。それになんというか、愛情を感じるのである。

 っくぅうぅうぅっ……惜しい! 惜しすぎるっ!

 だが、それでも才人はシエスタの誘惑に乗るわけにはいかないのである。

 これだけのテクニックに規格外の肉棒を恐れない豪胆さ。おそらくは経験済だろうが、そんなことは関係がない。奴隷としてしまえば、これまでの良好な関係がご和算となってしまう。
 血の涙を流す思いの才人だったが、必死になって誘惑に抗うのだ。

「っもう! サイトさん! わたしの話を聞いてました?」

「あ、ああ、聞いてる。聞いてるって。続きを話してくれ」

 なんだかうわの空で、何を質問されても「ああ、そうだな」としか答えていなかった気がした。
 他にはそう、日本の話をしたかもしれない。ただそれどころじゃなかっただけ。

 っくううぅぅぅ……! 一回くらい構わないんじゃないか? いや、まてまて、それをしたら奴隷にしちゃうことになるんだって! シエスタを奴隷には出来ないんだって!

 顔を伏せがちに、そして頬を染めて、はにかみながら話し掛けてくるシエスタだった。それが何とも色っぽく。才人は虐めてやりたくて仕方がない。 
 だが、それをしてはいけない。してしまえば取り返しがつかなくなる。だから才人は必死の努力で自制するしかなかったのだ。

「……だめ、なんですか、サイトさん」

「……シエスタ?」

 そして、そんな様子を見せられ続けたシエスタにとって、才人の態度は落胆に値したのであった。
 勇気を振り絞って行為をしていたのだが、諦めたのであろう。沈み込んだ口調でぼそりと呟いたのである。

「……そうですよね。わたしなんて単なる村娘だし、ミス・ヴァリエールやミス・ツェルプストーにはかないっこありませんから……」

「シ、シエスタ!?」

 深く落ち込んだ様子だった。「違う! そうじゃないんだ!」と叫びたい。シエスタはシエスタで充分に魅力的なのだ。
 ルイズやキュルケに劣っているとは、才人は考えてもいないのだ。

 掛ける言葉が見つからない。だから沈黙が続いてしまう。受け入れたいのだが、受け入れるとシエスタを奴隷にしなければならない。
 まさか「そういうことなら仕方ない。奴隷としてなら受け入れてやる」とは言えないだろう。傷つくのは小さい方がいいと、才人は何も言えなかった。

 っはぁぁ……本当、惜しいよなぁ……。でも、これがシエスタのためなんだからわかってくれよな。ほんっとうに惜しいんだけどな……。

 シエスタは胸を押さえて立ち上がった。罪悪感が残る才人は見るわけにはいかない。だから慌ててその目をそらす。
 乾いた服を身に着けたシエスタは、才人にぺこりと礼をした。

「ありがとうございます。とても楽しかったです。このお風呂も素敵だし、サイトさんの話も素敵でしたわ」

 なんとも寂しそうなシエスタだった。

「また…聞かせてくれますか?」

 才人は一瞬だが逡巡した。だが、やがてゆっくりと頷いてみせる。今後シエスタとの関係がどうなるのか、それは才人にはわからない。
 手酷く振ったようなものだから、本当はいいえと首を振るのが正解だったかもしれない。

 でもな、あんな寂しそうな顔をされて、それでだめなんて、俺にはできないぜ……

 だから未練かもしれないが、やっぱりシエスタとは付合い続けたい。そうしてシエスタが吹っ切れたなら、これまでのように笑い掛けてやりたいのだ。
 関係を断ち切ってしまうような振り方までは、したくなかった。

「……サイトさん」

「……うん。なに、シエスタ」

 シエスタはうつむいたままだったが、やがてその顔をあげてくる。そしてじっと才人を見つめてからぽつりと呟く。才人は何を言われるのかと思ったが、答えなければいけないだろうと思った。

「あの、ですね……」

「うん」

 シエスタはそれから頬を染め、胸の前で手を組み、微笑みながら言った。

「えっとですね。お話も、お風呂も素敵でしたけど……」

「…………」

「やっぱり諦めきれません。何とかして振り向かせてみせますから」

「な、なんですとッ!?」

 シエスタは小走りに駆けていった。

 っおいおいおいおいっ! そんなこと言われちゃ、我慢出来なくなるじゃねーかよ! っシエスタ! オマエはそんなに奴隷になりたいってゆーのかよッ!

 才人はシエスタの好意が本当に嬉しかった。でも、必死の自制を台無しにしてくれるようなその好意が本当に面倒だった。
 長湯のせいもあってのぼせてしまい、大釡にぐったりと寄り添ったのである。



 湯からあがってルイズの部屋に戻ると、そこには裸の女が三人いた。特に用事がない場合、キュルケもモンモランシーも、食事と入浴が終わればルイズの部屋へと集まってくるのだ。

「あ、おかえりなさい、サイト。今日はどうするの?」

 自慰にふけっていたルイズが声を掛けてくる。いや、自慰と言うよりは拡張訓練であった。身体が小さい分ルイズは膣もアナルも細く、まだまだ痛みが強かった。
 だから才人は課題として、暇さえあれば自慰にふけるように命令していたのである。

「おかえりなさいですわ。サイト、指示を頂けますか?」

 そしてモンモランシーである。彼女はとある作業に没頭していた。土のスペシャリストであるマチルダを手に入れたことで道具造りが容易になったのである。
 それでまあ、そのスキルでぶっちゃけディルドーを作らせたのだが、そのままではフィットしない。
 水の魔法で滑らかに仕上げ、肉になじむ様に手を加える必要があるのだ。


「っぱはっ…はぁ…はぁ…ン…っおかえりなさい、ダーリン! 今日はあたしを調教してくれるのよね?」

 最後にキュルケだった。彼女はモンモランシーにアドバイスをし、使い心地を実際に咥えることで確認していたのである。フェラチオが好きな彼女に似合いの役割と言えるだろう。
 もちろん膣にだって、アナルにだって実際に使ってみせ、こうすればいい、ああして欲しいと、そんな要望を伝えるのだ。

「くっくくく……そうだよな。俺はそういう男なんだよな」

 才人は自嘲するしかなかった。シエスタと触れ合ったことで、何かを勘違いしてしまっていたと、そう気付いてしまったのだ。
 帰ってくるまでシエスタへの対応をこれからどうしたものかと考えていたが、奴隷を集めて裸で出迎えさせるのが平賀才人という男なのだ。

 ルイズたちはいきなり苦笑しだした才人に戸惑い、顔を見合わせている。

「いや、ちょっと考え事してて、それがおかしくなっただけの話だって。それより今日は……」

 才人はニヤリと嗤ってみせる。

 それで奴隷たちは安堵の表情をみせた。こんな態度こそがいつもの才人だからだ。

 くっくっくっ…本当、何を勘違いしてたんでしょうね? 今更いい人ぶったところでしょうがないってのによ。

 才人は顎をしゃくり、床の上を示してみせる。すると忠実な奴隷たちはそこに並び、平伏することで命令を待つ。

「今日は誰ってのはないな。全員纏めて使ってやる。だからモンモランシー、お前はケティを連れてこい。それからルイズ。オマエはマチルダを連れてこい。んでキュルケ。オマエはそれまでちんぽでもしゃぶってろ」

 それで奴隷たちは動き出す。ルイズとモンモランシーは手早く着替えに走り、キュルケは膝立ちのままに才人へと這い寄ってくるのだ。

 才人はキュルケの頭を撫でてやった。

「くく…がっつくなって。ベッドに寝るからそこでやってくれ」

「うん! わかったわ! あたし、一生懸命やるからっ!」

 才人もまた、シエスタのように吹っ切れたのかもしれない。そう、奴隷たちのように、才人こそが後戻りできない立場にある。部屋へと戻り、そのことを思い出したのである。

 ……そうさ。俺はこんな奴だったんだ。欲望を躊躇わないリーヴスラシルが平賀才人だよな。元々の予定じゃねーか、なら躊躇ってどうするんだ?

 才人は改めて覚悟し直した。このままの自分でないと、堕としてしまった奴隷にこそ申し訳が立たないのである。
 だから当初の誓い通りに貴族に復讐し、奴隷に堕とし、そして嗤ってやる。邪魔をするようなら、誰であろうと容赦はしない。

 くく…やっぱ縁がなかったんだ。シエスタは諦める。それしかねー。

 だが、だからこそだ。シエスタだけは奴隷にしないと、才人は誓う。これは外道の道を行くと覚悟し直した平賀才人の、最後の良心だと思った。

「うふふふっ……、どうぉ? だいぶ上手くなったでしょ?」

「ん? くく…なに言ってんだ。まだまだだな。もっと奴隷らしく下品にすすってみろ。それから咥えるだけでびしょ濡れになって、最終的にはそれだけでイけるよーになんねーとな」

 ベッドへと寝転がり、その豊満な胸でパイズリフェラを楽しむ。足元のキュルケはにっこり笑って「その通りよね、もっと頑張らなくっちゃ!」と水音を大きくし、ぐっぽぐっぽと頭の振りを大きくしていく。

 くく…そうだな。キュルケはこのまま奉仕を大好きにするよう仕向けよう。そんでそうだな…他にも特徴を作りたい。
 なら女への奉仕も好きにさせるか? それとも精液だけじゃなく小便も好きにさせるか? くく…どんな奴隷にしていくか、だな。

 ほどなくマチルダとケティもやってくるであろう。とにかく今夜は徹底的にいたぶり尽くす。全員の足腰を立たなくなるまで犯し尽くしてやる。
 才人はそれまで奴隷たちをどう変えていくか考え、そしてキュルケの奉仕を楽しむことにしたのだった。



[27351] トリスタニアの休日
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/03 20:38
 それはフーケの事件が落着した最初の虚無の曜日の事だった。

「ねぇ、ダーリン。街まで買い物にいかない?」

「ん? 買い物? …まあ、それは良いが何を買いに行くんだ?」

 才人はキュルケにトリスタニアの街まで行こうと誘われた。取り立ててやることはないし、街まで足を運ぶのはやぶさかではない。

「えへへ~~、実はねぇ……」

 キュルケは抱きつき、その胸を押し付けながら囁いてくる。それを聞いた才人は可愛い奴だと思い、提案に乗って買い物に行く気になった。

「ん~、ただなぁ、街まで馬で三時間だろ? それならもっと早く言やあいいのによ……」

 だが今の時刻はもう直ぐお昼と言う時間だったのである。昼食を取って街に行くとなれば、帰ってくるのは夜遅くとなってしまうであろう。どうせならもっと早く言えばいいのにと、その点が才人には不満だった。
 するとキュルケは自信満々に胸を張り、「大丈夫よ、ダーリン」と言ってくる。
 実はこの時間になったのはモンモランシーとマチルダにも話を通し、スケジュールの調整に時間が掛かってしまったからだと言う。そして遅れた分を取り戻す腹案はあると言うのだ。

「……なに企んでるんだ?」

「それはお楽しみよ。中庭に降りてきて貰える?」

 悪戯っぽく笑ってくるキュルケに、才人も苦笑するしかない。言われるままに中庭へと降りていく。そして――

 ……う~ん、ちっこい。本当に同級生か? とてもじゃないがそうとは到底思えんな。

 蒼い髪に大きな杖。眼鏡を掛けた無表情な少女。才人はキュルケからタバサを紹介されたのである。

「その、よろしく。俺、平賀才人」

「……タバサ」

 なんでもタバサはキュルケの親友なのだと言う。風のトライアングルで雪風の二つ名を持ち、風竜というレアな使い魔を使役している。これに乗せて貰えば、トリスタニアの街まで一っ飛びなのだ。

 ……うむ、何というか無口だよな。ぼそっと挨拶したきり、そのあとは本を読んでこっちを振り返ろうともしねぇ……

 才人は思った。これはちょっとばかり失礼ではないだろうか? まあ友達の友達という位置づけであるし、乗せてもらう身の上ではある。
 だが、それにしたって、こちらを見ようとともしないのはあんまりではないだろうか?
 何とも失礼な奴である。奴隷にしてやるべきではないだろうか?

 ……う~ん、でもなぁ…なんていうか食指が動かないんだよな……。まあ、可愛いっていやあ可愛い。けどなぁ、多分だけどルイズよりつるぺたって有り得ないだろう? 剥いて調べようとも思わんし……
 とりあえずパスだな、パス。必要になった時に手駒にすりゃあいいか。

 しかしそんな考えは振り払った。基本的に才人はおっぱい星人なのである。つるぺたには用はない。

 キュルケの親友だと言うし、実力はあるそうだから、何かあった時は力になってくれるだろう。でも、逆に言えば取り立てて今すぐ奴隷にするべき理由もないのである。
 乗せてもらう身の上なのだ。この程度の無礼は笑って見逃してやるべきだろう。

 まっ5,6年…いやいや、年を考えれば2,3年後に期待だな。

 ロリ巨乳ででもあったならば、また話は違ったかもしれない。それなら才人は動いたかもしれない。

「それじゃ、タバサ、大人数で悪いけどさ、トリスタニアまでよろしく」

「わかった」

 だが、生憎と平原であった。そんな失礼な理由でタバサは危うく難を逃れることが出来た。この判断が後々どう影響してくるのか? それは現時点では誰にもわからないだろう。



 さて、トリスタニアの街へと出かける一行である。奴隷のうちケティは一年生で、同行するのに不自然なので却下。ルイズももう買い物を済ませているので却下。風竜の背はそんなに大きくないのである。

 一行はタバサの使い魔であるシルフィードに乗った。風竜は器用に上昇気流を掴み、200メートルほどの高さまで一気に駆け上る。そしてそのままスピードに乗って、街の入口まで運んでしまう。
 なるほど、これは凄いと思った。スピードが馬とは段違いだし、直線で来れるので、本当にあっと言う間だった。

「タバサ、ありがとうね。助かったわ」

「かまわない。日が落ちたらまた来る」

 ばっさばっさと羽ばたきをする風竜。挨拶もそこそこ、タバサは学院へと帰っていく。

「……さーて、メシはどうする? ロングビルさん、お勧めの店ってないのか?」

 タバサが消えたのを見計らった才人はニヤリと笑った。これで邪魔者がいなくなったのだ。目的を果たし、好きな買い物ができるであろう。
 だが、まずは食事である。トリスタニアの街に一番詳しいマチルダへと、お勧めの店を聞く。
 すると少し考え込んだマチルダは「そうですわね、では少し変わった店ですが」と、ある居酒屋を紹介した。
 何でも一見ただの居酒屋だが、かわいい女の子がきわどい恰好で飲み物を運んでくれるので人気のお店があるらしい。

「その…サイトさんはかわいい女の子が好きかと思いまして……」

「くく…まあ否定はしないけどな。んじゃ、そこでメシ食って、そこで作戦会議といこう」

 何とも失礼な言いぐさだが、事実であるだけに反論しづらい。かわいい女の子は大好きなのだ。
 もっとも奴隷の分際で酷い言い分である。帰ってからこの事をネタに責めてやるべきであろう。
 そんなことを思いながら、才人は裏通りへと入っていく。そして魅惑の妖精亭と言う居酒屋へと案内された。


 魅惑の妖精亭。店の雰囲気を確認した才人は思った。なるほど、かわいい女の子。きわどい恰好。ちょっと変わった店。全ての条件を満たしていた。だが

 最後の条件は必要ねーだろ! ここは二丁目じゃねーんだよ!

 才人は怒りを抑えるのに必死だった。帰ったら絶対にマチルダを責めてやろうと思った。何故なら店長が問題なのである。

 才人だってそんな店があるのは知っているし、怖いもの見たさで見てみようと思わないではない。
 しかしである。かわいい女の子の店であれはないと思った。全てが台無しになっているのである。
 考えてみて欲しい。例えば制服が人気のファミレスにでも入ったとしよう。その店長が店の真ん中で「トレビアーン」とか回ってポージングしていたらどう思う?

 その店長の名前はスカロン。黒髪をオイルで撫でつけ、ぴかぴかに輝かせ、大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツに、もじゃもじゃした胸毛をのぞかせているのである。
 鼻の下と見事に割れた顎に、小粋なひげをはやし、香水の香りが凄い、ガタイのいいマッチョなおかま。

 酔客の対策に男手の必要があるなら、黒服でもおいておけばいいではないか! 

 あんな生き物を見ながら、かわいい女の子と楽しくお話しが出来るわけがないと思う。はっきり言えば、メシと酒がまずくなる。客は文句を言わないのであろうか?
 ハルキゲニアの風俗は一体何を考えているのだろう。それでも店は繁盛していた。

「……まあ入っちまったもんは仕方がない。キュルケ、あの生き物が近づいて来たら燃やせ。俺が許す」

「わ、わかったわ、ダーリン」

 一気に不機嫌となった才人だが、入ってしまった以上は諦めるしかない。それにいつまでも不機嫌を引きずっていても、また仕方がないだろう。さっさと食事をして出ていくしかない。
 店にいる女の子も、なるほど、かわいいとは思う。だが、所有している奴隷に比べて勝っているとも思わない。
 今更まっとうな手段でかわいい女の子を手に入れたいとも思わないし、それにきわどい恰好なら、もっときわどい恰好を、奴隷達にやらせる事が可能なのだ。

 くっ、それでもあの生き物さえいなけりゃ楽しーんだよ! あんなことさせたい、こんなことしてやるって、楽しめるんだよ! 剥く前には剥く前の良さがあるんだよ! 
 ったく、なーにがミ・マドモワゼルだ。いいから視界から消えてくれってーの!

 何もしゃべらずに食事を進める才人だった。時折おっほほほと声がするし、女の子を鑑賞しようとすると、思い出したようにスカロンが視界に入ってくる。食事に集中するよりしょうがないのである。
 静かな怒気に当てられ、マチルダは後悔していた。普通の店に案内すれば良かったのだ。

 っでもでもっ! ご主人様ってば女の子好きじゃないのよ! 普通の店に案内して、それで代わり映えしないなとか言われたら、あたし、どーすれば良かったのよっ!

 黙々と食事を進める。早くしないと、スカロンが近づいてくるかもしれない。特にキュルケとしては冗談だとは思うが、才人が本気ならスカロンを燃やさなくてはいけない。
 喧噪のなか、ちょっとした緊張感であった。

「……ごちそーさん。いくぞ」

 最後にぐいっとワインをあおる。長居は無用と、才人はとっとと魅惑の妖精亭をあとにすることにした。



 食事をしながら作戦会議をしたかった才人だったが、それはスカロンの存在で脆くも崩れ去った。実は才人には買い物の他に大きな目的があったのだ。それは一行に加わったマチルダの存在である。
 彼女ならアンダーグラウンドに詳しいし、食事をしながら作戦会議に丁度いいと思っていたのだが、スカロンの存在で台無しになった。不機嫌にもなろうと言うものだ。
 魅惑の妖精亭を出て、裏通りを歩く。才人は黙りこくったままである。

「……マチルダ」

「!はいっ、ご主人様っ!」

 思わず「ご主人様」と呼んでしまった。才人は薄く嗤って見せる。それで、マチルダは間違えに気付いてしまった。

 ……もう、駄目だわ。……どんなお仕置きされるのかしら……

 沈み込んだ表情を見せてしまう。だが、それを気にせず才人は続けた。

「えーと、ロングビルさん。店であんまり話せなかったしさ、ここで良いから教えてくれ。
 持ち金を増やしたいんだが、大きめの勝負を受けてくれそうな賭場って知らないか? それでいて噂になりにくいのがいい。そんな賭場って知らないか?」

 何故ならここで怒鳴るわけにはいかない。ここはトリスタニアの街の中。怒鳴ったりすれば目立ってしまう。
 ならば仕方がないであろう。帰ってから、じっくりと思い知らせばいい。ニヤリと合図を送ることでそれを知らせ、今は用事が先決なのだ。

 くく…さあて、どんな罰にしましょうかね?

 一体何をされるのだろう? 絶望したマチルダだが、それを顔に出すわけにはいかない。
 少しでも失点を回復し、怒りが収まるのを待つしかない。にっこりと表情を作り直し、才人の質問に答えていく。

「……そうですわね。いくらくらいお持ちですか? それからどのくらい増やそうと思ってます?」

「えーと、キュルケ。いくらくらい用意出来る?」

 才人に問い掛けられたキュルケは答える。

「そうね、両替商にいけば3000エキューくらいなら小切手をきれるわ」

 そう、才人の目的はズバリ賭博にあった。必要がないから文無しのままでいた才人だが、この機会にある程度の金を稼いでおきたかったのである。

「ふむ…じゃあ目標は3000エキューかな。けっこうな金額だけど、受けてくれそうなところってあるか? 勝てたとして、すんなり払って、それでいて噂にならないところってあるか?」

 奴隷の金は才人の金である。だがいちいち貰うのも面倒くさい。リーヴスラシルの能力を使えば、賭博に勝つ自信があるのだ。

「……そうですね。それだけの金額ですと、受けてくれるところは限られてきますわね……」

 少し考え込んだマチルダが質問していく。才人はどんな賭博をやりたいのか? そしてどんな方法で勝つつもりでいるのか?
 それを知らないことには賭博場へは連れていけないだろう。
 だが質問され、ここで才人はハタと気付いた。地球の賭博とハルキゲニアの賭博は一緒なのであろうか?

 っくっ、だから作戦会議したかったんだよ!

「……その前に教えてくれ。ハルキゲニアではどんな賭博が出来るんだ?」

 機嫌が悪くなった才人はマチルダを睨む。マチルダは諦めた。今夜か、明日か、とにかく近いうち、お仕置きを受けるのが確定されたのだ。
 絶望しながらも、表情には出さない様に気を付ける。賭博の種類と、ルールから説明していくことにした。

「……ふむ、何というか意外っちゅうか、名前こそ違うのもあるが、俺の知ってるのと同じなんだな……」

 そうするとである。幸いなことに知っている賭博がいくつかあった。さて、そうなるとゲームを選ぶ必要がある。候補としてあげられるのはルーレット、ブラックジャック、ポーカー、クラップス。

「よし、そんじゃポーカーだな。どこに賭場がたってる?」

 そしてその中ではポーカーが望ましいと思った。次点がブラックジャックであろう。
 何故ならダイスを使うクラップスは運が全てであるし、ルーレットもそうだ。ディーラーとサシの勝負が出来、心理を操れるゲームがいい。
 何故ならポーカーならハッタリと思いこますことでレイズさせ、自滅に追い込むことができる。あるいは弱気にさせることで降りさせることができる。
 ブラックジャックもそうだが、万一数字が21になってしまう場合があるだろう。紛れを嫌い、才人はポーカーがいいことを説明した。

 ……なるほど……リーヴスラシルって便利よね。それなら万が一にも負けはないわ。

 マチルダは説明を聞いて納得した。なるほど、心配するのは勝ち負けじゃない。
 素直に負け金を払ってくれるか、あるいは今後を考えて噂にならないよう気を付けるだけである。

「では恰好の場所がありますわ。大手の賭場で、大口だと観客なしで勝負を受けてくれるところを知っています」

「よし、そんじゃそこにしよう。キュルケもそういう事だけどかまわないな?」

「もちろんよ、ダーリン。それじゃあ早くしましょ? ショッピングの時間がなくなっちゃうわ」 

 方針が決まれば行動に移すだけだった。一行は早速両替商で資金を手に入れると賭博場へと向かう。

 まっ、当たり前の結果だな。今後もこうやって資金を稼がせてもらうぜ!

 そして当たり前のように大勝したのだった。

 ここぞと言うときにレイズをし、視線を合わせて念を送った。すると相手は気付かないうちに弱気になって降りてしまうし、あるいは強気になって更にプッシュをしてくるのである。勝つことは簡単だったのだ。

 いや、ホント、便利だね。一番初めに癖をつけるように仕向けて、んでそれを忘れさせておきゃよかった。くく…勝つ金額を調整するだけの勝負なんて初めてだぜ!

 こうして才人は最悪なイカサマをし、必要な資金を調達したのである。



 首尾よく資金を調達した才人はホクホク顔だった。これでもう一つの目的も上手くいく。買い物で資金不足は辛いのである。

“ねぇ、ダーリン。ルイズには一杯下着なんかを買わせたんでしょう? あたしもダーリンの好みの下着が欲しいわ。
それとね、あたしもダーリンのものだって証が欲しいの。ルイズみたいに首輪をもらえるかしら?”

 キュルケはそう言って才人に買い物をせがんだのだった。

 モンモランシーには異論があったが、こうなってはどうしようもない。おそらくは恥ずかしい下着と、なんとも情けなくなる首輪であるが、キュルケがそうしてしまえば、もうどうしようもない。

 何故ならそうなってしまえば、才人は遠からずモンモランシーにも強要してくるだろう。その時、モンモランシーに断ると言う選択肢はないのである。
 ならば、せめて自主的に恥ずかしい下着を購入し、首輪を巻くことにし、忠誠心を表しておいたほうがマシと言うものだ。
 そうすればご褒美の対象となろうし、そうでなければもっと酷い境遇へと追い込まれるかもしれない。ケティやマチルダという前例があるのだ。決して杞憂とは思ってはいけない。
 そう思えば選択肢はなく、諦めるしかなかった。

 ……はぁ…本当、キュルケにも困ったものですわ……。いくら言っても聞かないんですもの……

 モンモランシーは恥ずかしかったが、どうしようもない。ならばと、当然の選択として己の奴隷も同じ境遇にしようと考えるしかなかった。
 キュルケも元よりそのつもりだったし、こうしてマチルダとケティも巻き込まれることになったのである。

「おっ、ここだここだ。新商品が入ってるといいな」

 才人は怪しげな店へと入っていく。そこは以前、ルイズと一緒に買い物した店であった。
 ハルキゲニアでショーツと言えば貴族御用達である。だが、流石に大通りに構えていれば、顧客である貴族は入店しづらい。そして顧客にはもう一種類の職業の人がいる。

 いや~、ハルキゲニアを舐めてたね。ブラがないってんだから大した品揃えじゃないだろって、そう高を括ってたんだが、なかなかどうして。くく…結構な品ぞろえで良かったぜ。

 そう、娼婦や、踊りを披露する類の女性。魅惑の妖精亭の妖精たちもそうかもしれないが、とにかくそんな彼女たちも顧客なのだ。
 そうなると裏通りに店を構えるに相応しいラインナップになる。それは必然だったかもしれない。
 才人が満足するレベルにまで、ハルキゲニアの下着は発達していた。

「さっ、モンモランシーにロングビルさん。そんなとこに突っ立ってないで早く入ろうぜ? ほら、キュルケなんて興味深々なんだからさ」

「そうよ、早く入りましょ? あたし、こんな店があるなんて知らなかったわ」

 マチルダはこの店がどんな店か知っている。以前変装と情報収集とで必要に迫られたことがある。それだけに気後れしてしまい、入るのを躊躇ってしまう。
 そしてモンモランシー。どんな店かは知らない。ただ顔を真っ赤に染めたマチルダの様子から想像は出来る。だから、入るのに気後れしてしまう。

 その店は路地裏の一角にあった。立派な店構えなのだが、それだけに怪しい。裏通りでポツンと一つだけ立派なのである。怪しいと、モンモランシーは思う。

「っ、そうですわね。わたしもこんな店があるなんて知りませんでしたわ」

「っわかりました。今、参ります」

 だが、この為にトリスタニアの街まで来た。そしてご主人様である才人が早くしろと促している。ならば奴隷に選択の余地は、ない。
 才人の腕に絡みつくキュルケと違い、とぼとぼとした足取りの二人。店の中へと入っていった。



 店に入ると出迎えたのは女性であった。年齢は30から35くらいであろうか?化粧が上手いので、判断するのは難しい。
 そんな見た目は20代で通じる女主人。にこにこと微笑みながら「いらっしゃいませ」と挨拶してくる。室内は清潔さを保ち、商品は綺麗に並べられて陳列されていた。
 だが窓を閉め切り、各所にランプを灯し、それが幻想的で怪しげな雰囲気を保つのに一役買っている。

「さっ、キュルケ。どんなのがいいんだ?」

「そうね~、ダーリンはどんなのがいいの? あたし、ダーリンのためならどんなのだって着けてみせちゃうわ!」

 店主に向かってニヤリと笑って見せる。すると店主はニコリと微笑み返すだけ。いかにも初対面ですよというその対応。才人は大いに満足できた。

 ……ほほう…大したもんだ。印象的な客だったから覚えているはずなんだけどな。おくびにも出しやらがねえ。
 やっぱ客商売ってのはこうじゃなきゃいけねえよな。

 もしかしたら長い付き合いになるかもしれない。ひいきにしてやろうと思った。

 女主人が「お客様、どのようなものがご入り用でしょう?」と聞いてくる。才人はどうしたものかと考え「そうだな。お勧めを持ってきてくれ」と、ウインクしながら合図を送ってみた。

「わかりました。ではお勧めを持ってまいります」

 女主人も心得ている。その合図にニコリと微笑むことで応え、どのような関係かはわからないが、一行の中で一番の権力者が誰であるかを掴んだ。
 そしてその才人は以前にもう一人と買い物をしてくれた。ならばである。

 ……うふふ……おもしろいわ。この人って貴族じゃないみたいだけど、どう考えてもこの中で一番発言力があるわよね? そうなると選んでくるのは……

 主人は倉庫へと向かい、いくつかの商品を手に取ってくる。そして「こんなのはいかがでしょう?」と、テーブルの上一杯に広げ、満面の笑顔で説明していく。

「ほっほぅ、こりゃあいい。キュルケ、どうだ? こんなのを勧めてきてくれてるぜ?」

「え? そうね。い、いいんじゃないかしら?」

「モンモランシー。それからロングビルさん。こんなのがお勧めだってさ」

「っい、いいんじゃないかしら? わたし、気に入りましたわ」

「そ、そうですね。わたしも気にいりました」

 才人は店主のセンスにうなずいた。やはり見込んだ通り、女主人は使える人物だったのである。

 ……あらあら…うふふ……やっぱり正解だったみたいね。そういうことなら遠慮なんてする必要ないわよね? うふふ…恥ずかしいの、一杯売りつけなくっちゃ!

 調子にのった女主人。心の中でガッツポーズだった。フラストレーションが貯まっていたのである。

 購買力のある貴族は恥ずかしがって無難なものしか選ばない。それどころか下手に勧めると、目をつけられる恐れさえあった。なんで貴族はこの良さがわからないんだろう?
 夜の商売の女性は自分の勧めた商品を身に着けてくれる。だが下着は衣装であり、財産であるから大事に大事に使うのである。本当にありがたい話だが、それでは商売にならない。
 だからエッチな下着が大好きな女主人。いつかこうやって思う存分に売りまくりたかったのだ。

 さあ、張り切って売っちゃうわよぉ! こんな機会、なかなかないんですもの!

 上客と見た女主人はクローズドの看板を掛け、才人たちへと集中することにした。こんな楽しいひと時を邪魔されたくない。
 もし他の客が来て、それでしらけた才人が買い物を切り上げたらどうする?
 女主人には耐えられることではない。それならこうやって集中したほうがよっぽどいい。

「ほう…こいつなんかいいな。スケスケじゃねーか。これじゃあ丸見えになっちまうんじゃねーか?」

「あらお客様。それがいいんですわ。こんなのを穿いて迫っていけば、もう男性なんてイチコロですもの!」

「くっくっく、なるほどね。じゃあコイツなんていいよな? やっぱ色は黒に限るってか?」

「いえいえ、お客様。赤でも、紫でも、様々な種類をご用意していますわ。でも、清楚な白や黄色も、これはこれでよろしいんですのよ?」

 うふふふ……、くくくく……と、才人と女主人は話し合う。すっかり二人は意気投合してしまう。

「なぁ、在庫をありったけ持ってきてくれないか? んで選んでもらっててだな、その間出来るかどうか聞きたい事があるんだよ」

「あら? どういったご注文でしょう?」

 奴隷たちは頬を引くつかせ、冷や汗を流しながらその会話を聞く。だが、それでも口に出しては興味深々と選んでいく。

「あら、これなんかいいわね」とモンモランシー。
「やだ、こんな恥ずかしいの? でもダーリンのためなら着けちゃうわ」とキュルケ。
「こんなのもありますのね……少し冒険してみようかしら?」とマチルダ。

 とにかく恥ずかしかった。それはキュルケにしても例外ではなかった。ルイズにもっと詳しく話を聞いておけばと、少し後悔してしまっていた。
 ベビードールならともかくショーツで丸見えになるまでスケスケにさせたり、あるいはその部分が開けるようになって、意図が丸わかりになる。そんなのまでは予想していなかったのである。
 もっとも両脇の二人はそれどころではなく、真っ赤な顔に恨めしげな視線となっていたが、こうなっては仕方がない。それでも、なるべくエロいの選ぶしかないのが、才人の奴隷なのだ。

「いやな、東方の文化にブラジャーってのがあるんだよ。それからレースはいいんだけどな、こういったアイデアがあってだな……」

 そんな奴隷たちにニヤリとしながらも、才人は説明を続けていく。もう、すっかりこの店が気にいっていた。
 だからブラジャーの良さを力説し、新しいアイデアを提供していく。

「あら、それってエッチですわね。踊り子の衣装なら似たモノはありますけど、それならもっとエッチになると思いますわ。
 大変そうですけど、やる価値はありそうですわね」

「だろ? そう思うよな? くく…金を出すからやってみる気はないか? んで上手くいったら儲けは折半ってことでどうだ?」

 そしてブラジャーだけでは当然ない。話は当然ショーツにも及ぶ。

 ハルキゲニアに緻密なレースを作る技術はある。ならばバタフライショーツを作れるのでは? 花や動物を刺繍で作り、それを布きれとして紐だけで結ぶアレである。
 それから紐だけで下着を作る発想もなかったらしい。何故だ? ビスチェやコルセットのように持ち上げてるのがあるではないか。ならばもう一歩進めて枠組みだけでも充分だと何故わからない?
 どうやら下着とは下着としての機能がなくてはならない、そんな常識を捨てきれなかったようだ。
 あとはサスペンダーのアイデアもいいだろう。意味のない紐のブラジャーと一体化した、肩から引っ掛けるショーツである。
 身体を動かすたびに、きゅぅっと食い込む。才人としてはそれがなんとも、ぐっと心に響いてくるのだ。これも是非とも作ってみたい。

 そう、童貞だった才人でさえそれくらいは知っていた。紙でも映像でも、それくらいは当たり前に溢れていた。

 日本がハルキゲニアに、エロの文化で負けるわけにはいかないのである。

 へぇ~、凄いわね、東方って。……うん、わたしも負けるわけにはいかないわ。もっといろいろ教えてもらわないといけないわね!

 そして女主人もまた、才人のことを気に入ってしまった。

「いいか? レースで下着を飾るんじゃなくてだな、レースで肉体を飾る下着にするんだ。同じようだが全然違うだろ? それを念頭におきゃあ、まだまだ下着はエロくなる」

「あら。言われてみればそうかもしれませんわ。まだまだその意識が足りなかったかもしれませんわ」

「ああ、そこんところが大事なんだよな。身に着けたときこそ映えるようにならなくちゃいかん!」
 
「うふふ……ではお客様、こういったアイデアはどう思いますか? いっそのことスカートに縫い付けちゃうんです。それなら今すぐにでもできますわ」

「おおっ! それはアリかもしれん! 下着のようで、実は下着じゃありませんってやつだな? スリットで結ぶんだし、案外簡単にできるかもしんねーよな!」

 背後でなんとも楽しげにされている会話だった。だが聞く方としては冷や汗を流すしかない。何しろこれから自分がどんな下着を使うことになるか、その自分の運命を決めているのである。
 そして羞恥に身悶え、それでも楽しげに選んでいく奴隷たち。とにかく恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。
 だが、どこか楽しかった奴隷たち。ルイズもこんな気持ちだったのだろうか? 
 そう思い、身に着けたところを想像し、きゃあきゃあ笑いながら恥ずかしい下着を選んでいく。

「いや~、また寄らせてもらうからさ。そん時また話をしようぜ」

「もちろんです。是非ともまたお寄りください」

 最後に才人は女主人とがっちりと握手を交わした。同好の士として認めあったのである。
 それにキュルケ、モンモランシー、マチルダに加え、ルイズとケティへのお土産を合わせて5人分ものビックビジネス。
 大量に購入してもらい、しかも楽しい話でいくつものアイデアを提供してもらった。

「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」との挨拶。それは心からのものであった。



 怪しげな衣料店。いや、ランジェリーショップでいいだろう。そこから出てきた時、三人は羞恥で真っ赤な顔となっていた。無理もないと言えるだろう。
 何故なら興味深々ということは色違いを求めたり、違うデザインがないかと聞いたりしないといけなかった。
 すると調子にのっている女主人である。でしたら……と勧めてくるのはもっと恥ずかしいシロモノだったのだ。
 そしてそれを「あら、いいわね」と答えていかなくてはならなかったのだ。恥ずかしいったりゃありゃしない。

 才人はそんな三人を眺めて満足していた。

 彼女たちはランジェリーショップの買い物で羞恥に顔を紅潮させていた。これはこれで楽しい。だがこのまま羞恥心を忘れないようになるか、それとも平気なようになるか。その行く末が楽しみになったのだ。
 一体どんな風に堕としていく? 例えば羞恥心の麻痺した奴隷にするか、それとも普段は清楚な仮面をかぶらせるか。いずれにしても同じパターンで仕上げては面白くないのである。

 くっくっくっ、適性を見極めて、相応しい方向へ導いてやらなくっちゃあな。 

 肉棒のためなら何でもする。それは当たり前のことであるが、その奴隷たちには変化をつけたいところだ。
 シエスタとの一件があって、その思いは強くなった。どんなことでもこなせるのは当たり前として、能力によらないご褒美を作りたい。
 例えばケティなら中出しじゃなくて外出しにするとか、キュルケをフェラチオ中毒に仕上げてから、後始末を他の奴隷にやらせるとかだ。
 そうなれば次こそはと、奴隷は一層働いてくれるだろう。

「さっ、次は首輪だな。んと、ロングビルさん。ペットショップってどこだ?」

「あ、はい。それはブルドンネ街にあります。ただ……」

 マチルダは辺りを見回し、人気がないのを確認した。一気に噂になって広がってしまい、不測の事態が起こりかねない。

「ご主人様。ペットショップで便女に首輪を巻いてみろとか言われますか? キュルケお姉様やモンモランシーお姉様にもそう言われますか?
 もしもそうならマントを外したほうがいいと思うんです」

 考えすぎかもしれないが、聞いておかなければならないと思った。いや、勝手に口から出てしまった。
 マチルダとしてはふと拙いかもしれないと思い当たっただけなのだが、気が付けば自然に進言していたのである。

 何故なら普通に買い物するつもりならそれでいい。だが、もしもその場で着けてみろと言われたら、一体どうすればいいのだろう?
 自分はいい。マントをつけていないから貴族でないとわかる。だが、キュルケとモンモランシーは拙い。
 貴族が平民と買い物し、そして貴族の方が首輪を巻こうとする。それは例えそれが冗談だったにしろ問題になる。だからそれは拙いのである。

 忠告を受けた才人はむぅと考え込んだ。

 ……なるほど…言われてみりゃそうだ。考えなしに着けてみろって言ってたかもしれん。って言うか、言われてみりゃそうさせたくなってきちまったよな?

 だが、結論は直ぐに出た。街で調子に乗りすぎてはいけないのだ。

「心配すんな。お披露目は帰ってからにするさ。いちいちマントを外させるのも面倒くさいからな」

 そして何食わぬ顔をしながら会話を楽しみ、ほくそ笑んでいればいいだけの話である。つまりこれまでと同じに振る舞うしかないということだ。
 才人としてもそれはそれで楽しいから、それくらいは我慢できるのである。

「さ、そういうわけだから早く行こう。愚図愚図してたらタバサがきちまう。それまでに買い物しとかないといけないしな」

 才人はニコリと微笑む。

「あとマチルダ。いいアドバイスだった。あとで褒美をやるから一緒に買いに行くぞ?」

「あ、はい。ありがとうございます、ご主人様!」

 その言葉にマチルダは喜んだ。どうやら才人は楽しい買い物で機嫌が直ったみたいなのだ。これなら、もしかしたらお仕置きを受けずに済むのでは?
 何しろ褒美だと言って何かを買ってくれるほどだ。これだけ機嫌が直ったのなら、お仕置きだってなくなるのに違いない。

 報われたと、そんな風に思ったマチルダである。その表情がパッと明るくなった。

「……ねぇ、ダーリン。あたしにはご褒美はないの?」

「そうですわ。わたしにご褒美はありませんの?」

 だがそうなると納まらないのがキュルケとモンモランシーだった。何といってもマチルダはこの二人の奴隷でもある。
 その奴隷にご褒美が行くのに、自分には何もないとなれば、それは当然納得がいかない。特にキュルケにとってはそうだった。
 何故ならこの買い物を提案したのは自分なのだ。ご褒美を貰えて当たり前だと思った。

 そんな不満を表す二人に才人は苦笑する。だが説明してやらないと納得しないだろう。

「まあそう言うなって。今回一番のお手柄はマチルダだろ? 3000エキューも稼げたのは良い賭場を紹介してくれたマチルダのお蔭だしな」

 二人はじっと聞き入っているので、才人は続けた。

「それからキュルケにはタバサとの待ち合わせ場所で待機して欲しいんだよ。大丈夫だとは思うけど、わざわざ迎えに来てくれるんだ。待たせるのも失礼だしな。
 それとモンモランシー。オマエは今回、特に何もなかっただろ? 褒美がなくて当たり前だっつーの!」
 
 そんな風に苦笑しながら言われれば、二人としても納得するしかないだろう。確かにその通りではある。

「っでもダーリン。賭場のお金を出したのはあたしよ? ねぇ、ダーリン。やっぱりあたしにも何か買ってもらえないの? モンモランシーには悪いけど、出迎えは一人いればいいと思うんだけど……」

 だが、それでもキュルケは食い下がった。何しろ形に残るご褒美なのだ。諦めようとして、やっぱり諦めきれなかったのである。
 なんとか翻意してもらえないかと、じいっと、上目使いにねだってみる。

「くく…そんな目をしても駄目だって。いずれはキュルケにもプレゼントしてやるからさ。今回は諦めろ」

 だが、才人は笑いながらその要望を却下する。こうなると奴隷の身の上であった。これ以上のおねだりは許されないだろう。

 っなんで便女がもらえて、あたしがもらえないのよっ!

 悔しさは残る。ついついマチルダを睨んでしまう。

 っそ、そんな目をされても……わたしにはどうにもなりませんわ。キュルケお姉様……。

 マチルダは居心地が悪かった。だが、どうしようもないのである。くれると言っているのを、断ると言う選択肢はない。困った顔をして、身をすくめるしかない。
 才人に「いりませんわ」とでも言ったら、せっかくの好意を無駄にするのかと思われてしまう。そうなると下手をしたら、怒られてしまうでは済まないだろう。

「さ、そういうわけだ。けっこう時間を食っちまったしな。愚図愚図してたら本当に待たせちまう」

 才人はそんな争いを纏める。こんなところで争っている場合ではないのである。何故ならカジノに行き、ランジェリーショップで時間を使ってしまった。
 そしてこれからペットショップに行き、それからマチルダへの褒美を買いに行くとなれば、本当に余裕はない。

「さあ、行くぞ?」と才人が言い、歩き出した。それでしぶしぶとだが、キュルケも矛を収めることにする。ご主人様が行くのに、遅れるわけにはいかないのだ。

 ……ふぅ……しょうがないわよね。何か大きな手柄を立てて、それでその時にお願いするしかないわよね……。

 こうして一行はペットショップに向かい、買い物をすることになった。雌犬を飼うのだと店員に説明し、各々気に入った首輪を選ぶ。ケティの分は才人が選んだのである。

「じゃあそういうことだからさ、行ってくる。遅くなるかもしれないけど待っててくれな」

「もう! ダーリンを置いて帰るわけないじゃないの! でも、早く帰ってきてね?」

「くく…ああ、わかってるって。じゃあロングビルさん、キュルケをこれ以上怒らせないよう早くいくとしようぜ?」

「あ、はい。ではミス・ツェルプストーにミス・モンモランシ。すいません、行ってきますので……」

 そして買い物が終わり、才人は約束通りに褒美を買うことにしたのである。その為マチルダを引き連れ、一件の宝石店へと赴いたのであった。

 っく、くやしいっ……! っ便女のくせに! 便女のくせに! 便女のくせにっ!

 そして帰ってきたマチルダを見て、キュルケは嫉妬で狂いそうになった。
 申し訳なさげながらも、どこか誇らしげなマチルダの表情。それはキュルケの嫉妬を買うには充分だった。

 ……似合ってますわね。あれなら注目を浴びて、気分が良くなると思いますわ……。

 何故ならマチルダの耳には高価そうなイヤリングが輝いていたのである。



「んんっっ……! はぁ…はぁ…っああン…ぁ……~~ぁぁああンぁっ……!」

 さて、そうして才人が休日を楽しんでいる時、ルイズはどうしていたのであろうか?

「~~~ッッっあっ~くっ~ぁふぅぅうぅぅ……っくっ…ぁん…く…ああン……」

 そう、正解は自慰に熱中していたのだった。ようやく使えるようになってきたコモンマジックで部屋にロックを掛け、サイレントを使い、全裸となって自慰をしていた。

「かかかかっ、娘っ子は置いてきぼりか。相棒も酷いやつだーね。放ったらかしにして、娘っ子は一人でやってろだとさ」

「っ~~っはぁぁぁあンっ……はぁ……はぁ……ン…っ黙りなさいよ、デルフ。だってしょうがないじゃない。あたしはもう一杯買ってもらったんだしさ」

 中庭から一度戻ってきた才人は言ったのだった。

“風竜の搭乗数と買ってくる荷物を考えれば余裕がない。だから今回は留守番をしてろ。それとまだまだ狭いし、締め付けも足りないからいつも通り訓練をしとけ”

 そのせいでルイズは居室にこもっていた。マチルダが作り、モンモランシーが仕上げたディルドーで、一人寂しく自慰をする羽目となっていたのである。

「だ、大体ね、放ったらかしなのはデルフ、あんただって一緒でしょ? わたしのことを笑ってるんじゃないわよ!」

「そりゃあ、しょうがねってもんよ。俺様を持ち歩いたら目立ってしょうがねぇ。それに相棒は買い物に行ったんだろ? 荷物になる俺様を持って行っても仕方がねーてもんだ」

「だからそんなこと言ってんじゃないわよ! デルフの扱いが普段から悪いって言ってるの!
 サイトったら、あんたを相棒って言ってるのに、普段から持ち歩こうとしないじゃない。わたしを笑える立場じゃないでしょ!」

「くかかかっ! だから仕方ねぇじゃねえか。護衛はいるんだし、それにやってる最中だと、煩いって相棒は嫌がるしな。
 それとも、何だ。娘っ子は相棒に放っておかれて寂しいってーのか? くかかっ、素直じゃねーよな」

「!な、なななんてこと言うのよ! そんなわけないじゃないのよ! サイトがいなけりゃね、わたしはこんな恥ずかしいことしなくても済んでるのよっ! じょーだん言うのはやめてよねっ!」

 全くなんてことを言うのだろう? 6000年も生きているのだ。デルフは頭が錆びてしまっているに違いない。ルイズとしてはそう思わざるをえない。

「くかかっ、じゃあそういうことにしといてやらーね。相棒はお土産を買ってくるって話だったしな。それまで精々マンズリに精を出すこったぜ」

「っくむううっっ……ふ、ふんだっ! い、言われなくてもそうするわよっ! ……っ…ぁあん……はぁ…~~~っっあぁああぁンぅ……はぁ…んんぅ……っ」

 自分の部屋なのだ。才人はいないのである。それなのに全裸は当たり前で、ベッドを使う事も許されない。藁の上に寝転がり、ズボズボ、ぬぽぬぽ、ディルドーを使っているのである。
 そうして一人、才人が帰ってくるまで、延々と自慰をしているよう命令されているのだ。
 放っておかれて、寂しいなどある訳がない。ただ悔しいだけに決まっているではないか。

 ったく、デルフはなんてこというのよ! そ、そりゃ寂しいとは思うけどさ、それは昼間からこうして一人で部屋にいれば当たり前でしょうに……。く、悔しいだけに決まってるでしょっ!

 全く当たり前の話である。休日なのに窓を閉め、一人で部屋にこもっていれば、それは寂しいと思って当たり前の話ではないだろうか?

「~~~ッ、い、いいわ……はあンぅ……い、ぃい……ッくうん……はぁ……はぁ……」

 膣、あるいはアナルへとディルドーを埋め込み、きゅううっと締めることで鍛え、そして空いている方の穴を別のディルドーでほじくって拡張するのである。

「っ……はぁ…はぁ…んんっ……ふぅ……まだまだサイトのサイズは痛いのよね……。まだおっきくなってるみたいだし……もっともっと頑張らないといけないわよね……」

「かかかっ、んなこと言-ながら、結構楽しんでるじゃねーか? 今日は何回イくつもりなんだ?」

「お、お黙り、デルフ。仕方ないでしょっ! き、気持ちいいんだから……」

「かかかっ! 娘っ子も複雑だーね。そりゃ相棒のはデカいし、オナれば気持ちいいのは仕方ねーしな!」

 そうしてデルフに対して憎まれ口を叩きつつ、恥ずかしい自慰をお昼から夕方まで。ルイズは本当に才人が帰ってくるまで続けたのである。



[27351] 重大な決意
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/05 22:50
 トリスタニアの街で賭博をした。そして首尾よく3000エキューもの勝ちを得た。だから才人はマチルダにご褒美を渡すことにした。
 何故なら彼女が賭博場を紹介し、胴主と交渉して円滑な支払いをさせたのである。ならば褒美を与えるのは当然のこと。才人は決して吝嗇ではない。

 マチルダは嬉しかった。自分ひとりだけというのは罪悪感があったが、どこか優越感を感じることができたし、それに何と言っても装飾品など久しぶりだった。
 これまで稼いだ金の大半は村へと送金する必要があったし、目立たないようにする必要もあった。だから装飾品など、そんな余裕はなかったのである
 だが、やはり女としては自分を美しくしたい。アクセサリーを身に着け、おしゃれをして楽しみたい。
 一体どんなものが贈られるのだろう? 才人がプレゼントを選ぶのを見ていて、マチルダは本当に嬉しかった。

 さて、優しげな風貌、スッキリとした面差しのマチルダである。彼女にはどんなアクセサリーが似合うであろう? 考えた才人はマチルダの耳を少し大きめな金で飾ることにした。   
 直径二センチほどのイヤリング。黄金を材質として、デザインはシンプルな輪のイヤリング。才人はそれを褒美とする。
 するとそれは意外なアクセントとなり、オスマン始め教師達や従業員達にも好評を博した。キュルケなどは羨ましさに嫉妬で地団駄を踏み、次こそはと、大きな手柄を立てることを誓ったほどだ。
 才人は正解だったなと、自身のセンスに満足したのである。

「よし、まずは右からいくぜ? 頭の後ろで手を組んで、んで胸を張っていろ」

「お、お願いします、ご主人様」

 だがしかしである。それでは面白くないであろう。何しろマチルダは奴隷の奴隷の身分なのである。普通に飾るよりも相応しい装飾方法があるのでは?
 一皮剥けば卑しい身分が丸わかりになる。そんな装飾こそが相応しいのではないだろうか?
 だから才人は真実を伝えた。そのイヤリングは乳房を飾るものに過ぎない。お披露目はもう充分であろう。耳ではなくピアスとして乳首に通し、奴隷としての装飾に直せ、と。

「おーし、キレイに空いたし、キレイに通った。次は左だ、同じようにしていろ」

「~~~っ…はぁ…はぁ…っ、ど、どうぞ、ご主人様。ひ、左にもお願いします……」

 するとマチルダは嘘でしょう? と驚愕し、そのあと愛想笑いを浮かべて見せた。名残惜しげにイヤリングを外し、それを両手の上にのせ、どうぞと差し出してきた。
 才人はそれをニヤニヤしながら受け取り、そして鋭いピックを自分の手で用意させたのである。魔法とはなんと便利なのであろう? 
 土のエキスパートマチルダに不可能はないのがまた、嗤えた。

「くくく…似合ってるぜ? 嬉しいだろ? マチルダ」

「っ~~~~、っも、もちろんですわ、ご主人様。べ、便女にはもったいないほどですわ」

 ゆらゆらと揺れている二つのリング。シンプルな輪に留め具としての二つのボール。才人はそれをちゃりちゃりとまさぐり、くいっと引っ張ってみる。
 するとマチルダは息を殺して苦痛に耐え、苦悶の表情を浮かべてみせるのだ。

 なんと嗜虐心を刺激してくれる光景であろう? 才人は気分が良く、奴隷の装飾に満足した。
 そして、その光景をじっと見つめる奴隷たち。全裸であり、首輪をはめているのが共通している。三人はじっと真剣な表情で見守り、一人はうらやましそうに見つめていた。

「マチルダ、しばらくは隠しとけ。風呂は一人、上から上着でも羽織って見せないように気をつけろ」

「っは、はい。…そ、そのように致します……」

 終了の合図に、その肩をポンと叩いてみせる。マチルダはその場で胸を抑えてうずくまった。乳首から鮮血がつうっと垂れているが、気にする必要はないであろう。
 治癒ならモンモランシーにさせればいいし、そうでもなくとも奉仕でもさせれば直ぐに治るのである。だから才人は気にしない。奴隷が痛がろうとも、そんなことは才人の知ったことではない。

「さてと、キュルケ」

「っな、何かしら? ダーリン」

 振り返り、才人はニヤリと嗤ってみせる。

「マチルダみたいに褒美が欲しいって話だったよな?」

「っええ、その通りよ。ご褒美が欲しかったわ」

「安心しろって。近いうちにプレゼントしてやるさ。だからどんなのがいいか、今のうちから考えておけよ」

「本当? お願いよ、ダーリン!」

 キュルケは微笑んで見せた。だが、どこか引きつり気味だったように思え、それが才人の笑いを誘う。

 ……くく…まあピアスに直せとは予想してなかったってか? でもな、ケティを見習えよ。ご主人様からの褒美なんだ。どんなもんでも心から喜んでくれなくっちゃな。

 キュルケへのプレゼントが何時になるか? そしてそのプレゼントが何になるか? それは才人にもまだ、わからない。
 ただキュルケに向かって「わかってるって」と微笑み、他の奴隷たちへも笑ってみせただけである。どう判断するかは、各奴隷の自由というものだ。

「さて、こうやってマチルダが仲間になってくれたわけだ。これで学院の情報も手に入るし、ジジイにだって面会しやすい状況を作れた。だからそろそろだと思うんだが…オマエらもそう思うよな?」

 足元にはルイズがいる。モンモランシーがいる。キュルケがいる。ケティがいる。そしてのろのろと所定の位置に這ってくるマチルダがいる。これだけの手駒が揃っている。

 そう、才人は学院を支配する意思をいよいよ固めたのだった。マチルダを手駒とするのに加え、『破壊の杖』が手に入った。
 これでネックだった男にフェラチオをさせる。あるいはおカマを掘る。そう言った手段を取らなくても良い目星がついた。

「ジジイを支配しちまうぞ。だからうまい手を考えろ。そうすれば褒美をやる。忌憚のない意見を言ってくれ!」

 ならばもう、躊躇う理由は才人にはなかった。オスマンを支配し、奴隷たちの行動を擁護させる。そうすればもっともっと楽しめる。もっともっと嗤えるだろう。その為の準備がようやく整ったのである。



 学院の支配者になることを目論む。もっとも表だって支配者になろうと言うのではなく、あくまでもオスマンを傀儡とし、裏面の支配者になる。それが才人の目的である。
 何故ならこれからは少しばかり派手な行動を取ろうと思っていた。
 例えばマチルダへしたように己の奴隷を飾ってみたり、あるいはせっかく購入してきた下着だ。それを披露させるのもいいだろう。
 だが、そうするといかにも目立ってしまう。いや、目立つのはかなわない。半ばはそれが目的なのだから、目立つのはかまわない。しかしである。才人の奴隷とはマチルダを例外として皆貴族なのだ。

 平民が貴族を奴隷としている。それは拙い。もしも逆に貴族が平民をならば悪趣味で済む問題かもしれないが、才人の場合は死に直結する問題となる。
 だからそれを容認し、フォローしてくれる人材がどうしたって必要になる。
 そして表に立てばいろいろと面倒になるだろう。例えば王宮との折衝などできないし、できたしても事務仕事などは御免こうむる。
 裏面からの支配にして、問題が起こればオスマンに責任を取らせる。これが一番の方法だと考えた。
 だから才人は学院の支配者になろうと思った。それも表ではなく、裏から学院を支配しようと思ったのだ。

 それで、その方法だが……ズバリ、オスマンへと浣腸をする。何とかして一対一の状況を作り出し、破壊の杖を使うのだ。肛門から直接生命力の塊を注ぎこむのである。

 だが、ここで問題があった。射精した精液を破壊の杖へと詰め込み、それをオスマンへと浣腸したとする。多分大丈夫だとは思うが、本当に有効なのだろうか?
 杖の準備をしてから有効時間はどれくらいで、一体どれだけ注入すればいいのだろうか?
 これはやはり、オスマンの前に実験するしかないであろう。万が一にも失敗するわけにいかない。そうなるとであった。

 ……くっくっくっ、恰好のおもちゃがあるしな。ソイツで試して、んでそれからジジイだな。

 結論は一つであった。

「ケティ。ギーシュの仕上がり具合はどうだ? そろそろいけそうか?」

「はい、サイトさま。ケティは頑張っておりますわ」

 そう、そろそろ頃合いであった。自信過剰で自惚れ屋なギーシュである。ケティから微笑まれ、手を握られて有頂天となり、決闘から幾日も経っていないのにもう立ち直っていた。
 周囲の白い眼も、女生徒から避けられているも、そんなことは何処吹く風。流石はギーシュ、その不屈の心はある意味賞賛されて、しかるべき。
 才人への苦手意識こそ残っているようだが露骨に逃げるようなこともなくなり、もうすっかり以前の状態へと戻っていたのである。

「そうかそうか。今どんな感じなんだ?」

「はい。わたしのことを僕の太陽ですとか、女神さまですとか、まったく怖気が走りますわ。
 それから近頃は遠乗りいこうですとか、街まで買い物にいこうですとか、やけに二人きりになりたがって……本当に、もう、うっとおしい限りですわ」

 苦々しげにこき下ろす。命令だから優しくしているに過ぎないのだ。
 才人を神のごとく絶対視するケティである。そうでなければギーシュなぞ、近寄りたくもないに決まっていた。

 ああ、ああっ、サイトさま! ケティは頑張ってますわ! どうか褒めてやってくださいまし!

 満面の笑みへと変わる。才人と話していると、どうしたって心が温かくなってくる。期待感だけで、蜜が止めどなく溢れてくる。
 そんなケティを認め、ニヤリとした才人は話を続けた。

「よ~し、決まりだな。ケティ、仕上げをするぞ? そこまでいってりゃあとちょっとだ。もうちょっと持ち上げて、んでとどめを刺すとしよう」

「はい、サイトさま。ケティは頑張りますわ」

 方針は決まった。ギーシュのケティへの思慕をピークへと持っていく。そしてネタばらしをして絶望へと追い込み、その状況で浣腸をしてやる。これこそ一石二鳥というものであろう。

「くぅっくっくっ! あの馬鹿、どんな顔すんのかね? 考えただけで笑えると思わないか?」

「うふふ…そうよね、ダーリン! 考えただけでおかしくなってくるわ!」

 真っ先に賛同するキュルケ。だって面白そうなのだからしょうがない。
 それに実力もなくていたずらに虚勢を張るし、明らかな格上が護衛につくと見苦しい言い訳で逃げに回ったギーシュ。嫌いなトリステイン貴族の典型なのだ。

 ……仕方ないわよね? だって自業自得ですし…ギーシュ、諦めてちょうだい。

 そしてモンモランシーだが、一時期恋人だっただけに複雑だった。だが食堂での一件は軽蔑に値したし、そもそも才人には逆らえない。
 マチルダのように罰を受けたくないし、どうせやるならご褒美が欲しい。諦めるより方法はないだろう。
 
 ま、こんなことになると思ってたしね。うふふ…それにキュルケじゃないけど面白そうだし、ね。

 最後にルイズ。ニンマリ笑って見放した。
 だってセンスが悪く、自己陶酔して気持ち悪いくせに、そのくせゼロだゼロだと馬鹿にしてくれていたのだ。

 うふふ…どうやればいいのかな? サイトはどんな位置づけにするつもりなんだろ? やだ、考えてたら本当に面白くなってきたわ!

 ならば実験に手を貸すのに何の躊躇いがあろうか? 主人に協力するのが使い魔の役目と言うものなのだ。
 それにこの作戦で手柄を立てれば、もしかしたらベッドが使えるようになるかもしれない。ルイズとしては気合が入ってくると言うものだった。

 キュルケは満面の笑みで大賛成。ルイズはにんまりと笑っているし、モンモランシーさえ首を一度二度振ってからは微笑み、何の異論もない様子である。
 マチルダは疲れた顔をしながらも、わずかに口の端が吊り上っているのがわかるし、ケティに至っては才人のやることに反対するはずがない。ニコニコと笑い、次の指示を待っていた。

 ……ホント、女って怖いねェ。ギーシュも哀れな奴だぜ。

 才人としては苦笑するしかない状況であろう。決闘の時はこれほど露骨ではなかったのだ。
 やはりマチルダを彼女たちの奴隷としてことで、意識の変革があったのだろう。それに決闘に敗北したあとの振る舞いもまずかったのである。
 同情の余地はなく、忠誠心を示して褒美を受け取る絶好の機会。ギーシュはそんな存在になっていた。

「よし、じゃあどうするか考えていくぜ?」

 さあ、そうするとであった。ギーシュを有頂天にするにはどうすればいいのだろう? 
 簡単な話だが、大切なのは楽しめるようにしなければならないこと。あっさり過ぎても、手間を掛けすぎても駄目であろう。
 それからどのようなシチュエーションでネタばらしをし、どのような位置づけの奴隷にする? 
 ただ奴隷と言っても、才人はギーシュを使うつもりはまったくない。そうなると有効な使い道と嗤い方とは何になるのが適当だろうか?
 ポイントとなるのはやはりケティ。それからモンモランシーだろう。

「いいか? モンモランシーとケティに惚れていたこと。見栄っ張りなこと。女好きな性格なこと。それから…そうだ、あとセンスが悪いとか、平民に嫌われてるとか、そんな感じだな。
 上手く組み合わせて、作戦を決めていくぞ?」

 ギーシュにどの様なネタばらしをする? それからどんな位置づけの奴隷、そして手駒とすれば嗤うことができる? 

 これは才人にとって、ギーシュを手駒にするより大事なことであった。奴隷たちもそれは重々承知している。慎重に、大胆に、作戦を組み上げる必要があるであろう。
 ギーシュをどのように嵌め、どのように扱うべきか。彼女たちはそれを、夜遅くまで検討したのである。



 ケティ・ド・ラ・ロッタ。燠火の二つ名を持つ魔法学院の一年生。その二つ名に相応しくちょっと内気な栗色の髪を持った少女。彼女は学院の一年生から一目置かれていた。
 何故なら学院の従業員に優しく接していたからだ。
 高慢で有名なトリステイン貴族だが、何事にも例外はある。彼女は領地で平民との距離が近く、貴族が貴族であるためには平民の献身がないと不可能だと、そのことを本能で理解した。
 だからケティには従業員に高慢に振る舞うのは躊躇われた。そしてたった一言だった。「美味しかったですわ」と感謝の言葉を述べる事で、彼女は従業員から愛されることになった。
 そして、それは一部の女生徒からの尊敬をも勝ち取ったのである。

 何故ならそう、貴族といえど高慢なものだけではない。そのプライドが邪魔をして、感謝の言葉が言えないのも、女生徒にはいた。
 だからケティは一目置かれた。いつしか彼女は温和な女生徒たちの中でリーダー格の存在となっていた。
 だが、その立ち位置は近頃変わり始めようとしていた。それは一重にギーシュの存在に理由があったといえる。

 ギーシュは八つ当たりにメイドを泣かせたにも関わらずに悪びれなかった。正論を吐いて窘めようとしたモンモランシーにも間違いを認めず、そのせいで見限られた。
 更に理不尽な決闘を持ちかけ、貴族であるにも関わらず平民の才人に完敗してしまい、そのあとも見苦しい言い訳で強がってみせた。その結果がどうなってしまったかであるが……

 友人連中はギーシュをこき下ろすことが増え、女生徒は白い目で距離を置こうとした。
 ギーシュとしては友人連中には下手に出て、女生徒は褒めつくすことで許してもらおうとするしかなかったが、そうするとどうしたってストレスが貯まってくる。
 だから鬱憤を晴らし、貴族の体面を保とうと、平民に対して以前より高慢となっていた。言いがかりをつけ、そうすると平民の従業員は理不尽であろうと謝るしかない。
 屈辱を押し殺しているのを気持ちよく思い、無礼な平民を寛大にも許す貴族なのだと、自己陶酔をした。それなのにである。
 ケティはそんなギーシュに近づいた。なんでも可哀想で放っておけないと言う。女生徒たちは気にする必要はない。自業自得なんだから放っておけばいいと忠告した。
 だが、それでもケティは意見を変えなかった。以前にもましてナルシストぶりを発揮し、気持ち悪くなったギーシュに近づくのである。

 ケティといると、ギーシュがくる。それを恐れた彼女たちは、少しずつケティから距離を取り始めていた。


「ギーシュさま。今日も作ってまいりましたわ。どうか食べて頂けませんか?」

「ありがとう。ケティ。ああ、なんて美味しいんだ。食べてみなくたって、それがよくわかるよ。
 だってケティ。僕への愛に溢れているのがわかるんだよ。ああ、ケティ、僕のケティ。僕にはもったいなくて食べるなんてことは出来ないよ!」

 両手を広げて嘆くギーシュ。そうすると「食べて頂けないんですか? ギーシュさま……」と、ケティは寂しく微笑み、目を伏せる。

「何を言ってるんだ! 食べる。食べるよ、僕のケティ! 食べるに決まってるじゃあないかね! ああっ、でもケティ、僕のケティ! もったいなくて食べられない! 僕は一体どうしたらいいんだね!」

 アルヴィーズの食堂である。今は食事の終わったデザートタイム。周りの学生たちは馬鹿馬鹿し過ぎて去っており、ケティの友人たちはその様子を遠巻きに眺めていた。

「美味しいよ、ケティ。なんて美味しいんだ! これは一体どうやって作ったんだい? こんな美味しいお菓子、僕は初めてだよ! …その、そう! 愛情がたっぷり詰まってるからさ! だからケティ、僕のケティ。このお菓子はこんなに美味しいんだ!」

「まあ、大げさですわ、ギーシュさま。でも、愛情は一杯なのは本当ですわ!」

 気持ち悪いギーシュに近づきたくない。でも、ケティを何とかしたい。その狭間に揺れている女生徒たちには、こうやって遠巻きから眺めるしか出来なかった。

 嬉しそうに微笑むケティに、ギーシュは更に褒めつくす。何故ならこうやって持ち上げ続けないと、何とも寂しい顔になってしまう。そして逆に持ち上げていると、まるで花開くような笑みをみせてくれるのである。
 いずれレディたちの誤解を解く自信はあるが、今現在こうやって好意を示してくれるのはケティだけ。だからギーシュは褒める。褒めつくす。

「ありがとう、ケティ、僕のケティ。またこうやって、僕を幸せな気持ちにさせてくれるかい?」

「もちろんですわ、ギーシュさま。ケティは何度でも愛情を作ってきますわ!」

 それに、ギーシュも満更ではなかった。女好きのギーシュにとって成果を得られているのだから、この程度の努力は苦労でも何でもない。
 高慢なトリステイン貴族の淑女たち。ケティは大げさに褒められるのが大好きなのだ。

 ……ふぅ…やれやれ、レディのご機嫌を取るのも大変だ。でも…ああっ、ケティ! なんて素晴らしいんだ! そうやって微笑んでくれるなら、僕は一日中だって褒めてみせるさ!

 ケティの手を握って幸せそうなギーシュ。そしてにこにこと微笑むケティ。だが、それを冷めた目で見ている、女生徒とは違う人物がいた。

「……本当にアイツは馬鹿だよな。周りの奴らが引いてるのに気にしてねえんだからよ」

 それは才人であった。ギーシュの仕上がり具合を自らの目で確かめようと、入口から様子を窺っていた。

「どうだ? モンモランシーはどう思う?」

「……そうですわね。酷いと思いますわ。ギーシュったら本当に周りの事が目に入ってませんわね。皆がケティを憐れみの目で見ているのに気が付いてませんわ。
 もしかして以前のわたしはあんな目で見られてたのでしょうか……」

 そしてモンモランシーであった。

 ケティは内気な少女だった。さりげなく褒める程度なら喜んだだろうが、他人が引くほどに褒めあげられたら、それは止めて欲しいと訴えたはず。
 そう、本当にケティを見てたら、衆人環視で褒めあげるなんて出来るわけがない。
 ギーシュに惚れてはいただろうが、友人だって大切だった。心配げに距離を置かれたら、心苦しくて耐えられなかったはずなのだ。

「くく…やっぱそう思うよな? まっ、安心しろ。以前はあれほど酷くなかったし、流石に衆人環視であそこまでやられたら、モンモランシーだってやめてくれって言ったはずだろ?
 ギーシュと付き合うなんざ趣味が悪いって、そう思われてはいただろうけどな、憐れみの視線を受けるほどじゃあ無かったと思う」

「……そうですわね。そうだと思いたいですわ……」

 才人は「いいか? とにかくナルシスト振りをアピールさせろ。引き摺り出して、存在感をアピールさせろ」と命令していた。ケティはその指示によって動いていたのである。

 ……うふふ…馬鹿は簡単よね。微笑んだだけでその気になるし、悲しむ素振りだけで落ち込むんですもの。 ああっ、サイトさま! ケティは頑張っておりますわ! どうか褒めてやってくださいまし!

 観察し、周りの反応を窺ったケティは考えた。どうやればギーシュが自分に依存するようになり、そして孤立していくようになっていくか?
 それは才人の言うとおりだったのである。引き摺り出し、衆人の前で大げさに自分を褒めるように仕向ければ良かった。
 だからお菓子作りの特技を生かし、積極的にアピールした。そうして時には笑い、時には拗ねて、大げさな感情表現をするように仕向けていった。

 効果的なタイミングを見計らって「嬉しいですわ、ギーシュさま」と手を握り、耳元に囁いてみた。
 他の女に目をやろうものなら「ギーシュさま、ケティは悲しいですわ」と、腕に寄り添い拗ねてみせた。

っああっ! 流石はサイトさまですわ! ケティは頑張っております。どうか褒めてやってくださいまし!

 そして「仕上げをするぞ」の命令である。「嬉しいですわ」とギーシュの腕に絡みつき、露骨さを増してアタックを開始した。そして示唆した一つの事柄。
 ギーシュは周りが目に入らないほど、ケティへ夢中にさせられたのである。

「さ、いくぜ。今夜の主役はオマエとケティなんだ。それに最後なんだしよ、精々いい夢をみせてやろうぜ?」

「……そうですわね。最後ですものね。ギーシュにはいい夢を見てもらいたいですわ」

 視線をずらし、食堂の中央へと向けてみる。そこには大振りな表現でケティを讃えているギーシュがいた。
 目を輝かせ、口元を僅かに微笑ませ、精一杯の嬉しさを表現している。

 ……さようなら、ギーシュ。

 これから最終の打ち合わせをしなくてはならない。間違えのないよう、準備をしなくてはならないのである。
 ならばこれ以上ギーシュを見ていても仕方がないというものだろう。モンモランシーは視線を外す。

「いきましょう、サイト。皆が待ってますわ」

 遠くなっていく上機嫌な笑い声。それはもう、彼女には関係のないことだった。



 石造りの部屋。ベッドにクローゼット。重厚なカーテンにサイドテーブル。ランプの灯りが、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出す。
 そしてテーブルに椅子。本棚には蔵書類。特徴をあげるなら鍋や計量カップなど、調理器具が目立つであろう。

「ん…っ……はぁぁぁぁぁぁつ……ぁ…ギーシュさま。……ケティの初めて、もらって…いただけますか?」

「……ありがとう、ケティ。嬉しいよ、僕のケティ。優しくするから安心するがいい」

 そこはケティの部屋であった。二人はキスを交わし、そっと優しく抱き合っている。見つめ合い、微笑を交わしあう。

「……なんて可愛いんだ。こんなに震えて、まるで生まれたての雛のようじゃないかね。
 キスだけでこんなに震えてるのに…ケティ、僕のケティ。それでも僕に初めてを捧げてくれるっていうんだね?」

 するとどうだろう? ケティはギーシュの胸に顔をうずめることで表情を隠してくる。それはもう言葉はいらない。今だけは態度で示してほしい。そして不安を押し隠すには、こうやって温もりを感じるだけでいい。
 
 っ……ごめんよ、ケティ。そうだ、今は言葉じゃない。態度で示すべきなんだ。僕が間違っていたよ、ケティ。こうやるだけでいいんだ……。

 優しく抱えていた腕の力を強めた。ケティはぴくっと身体を震わせ、そのあとは同じように抱きしめてくる。やはりそうだったんだと安心した。
 内気な少女が見せた精一杯。それにギーシュは応えることができたのだ。

 ……ありがとうケティ。本当にありがとう。精一杯努力するさ、なるべく痛くない様にする。だからケティ、僕のケティ。安心して、僕にすべてを任せるんだ。

 震えが治まるよう、ぎゅっと抱きしめ続ける。怖いのが当たり前なのだ。男と違い、女の初めてには痛みを伴う。
 それは想像もつかない。だが、肉が裂けるというのだから、おぼろげには理解できる。自分には耐えきれないくらい、痛いに決まっている。

「……ケティ、もう大丈夫かい? 怖くなんか、ないかね?」

 それなのに初めてを捧げると、ケティは言ってくれた。こんなにも震え、頬を真っ赤に染めていると言うのに、初めてを捧げると言ってくれた。
 ギーシュは今、ケティのことが途方もなく愛しいと思った。

 っ上手くやってみせるさ! 絶対に失敗なんかするものか!

 ケティの覚悟は固まっている。ギーシュは絶対に成功させてみせると誓う。何故ならギーシュにしても初めてだ。友人たちには簡単な事だと強がっていたが、初めての経験だった。 
 だが、女がこれだけの決意を持ってくれている。ならば経験がないなど、言い訳に出来ようはずがないではないか。
 一生懸命やって、それでなんとか経験不足のカバーをして、ケティが痛がらないよう努力をするしかないのである。

「……ギーシュさま」

「大丈夫なんだね? 大丈夫。僕にすべてを任せておけばいい」

 潤んだ瞳のケティだった。ようやく震えが治まり、ギーシュの顔を覗きこんできたのだ。
 ああ、覚悟が出来たんだね? そんな風にギーシュは思う。だから言葉は簡潔に、代わり微笑むことで返してやる。
 ここは賛美も。必要以上の気遣いも。それは言葉では表すべきではない。そんなことはベッドに移り、それから態度と共に示していけばいいのである。
 今すべきは抱きしめて不安をなくし、ただただケティに微笑んでやるだけであろう。

「っあ、あのっ……ギ、ギーシュさまは緊張していらっしゃいますか?」

 するとであった。ケティは赤らんだ顔に視線を背け、「っじ、実はわたし、き、緊張してましてっ!」と、矢継ぎ早にしゃべってくる。

「え? あ、いや、そうだね。……僕も少し緊張しているかな?」

 やられたっ! とギーシュは思った。そしてそのあとは慌てるケティが微笑ましく、自分に余裕がないのが見抜かれていたかと思い、苦笑するしかなかった。

「ご、ごめんなさい。ギーシュさま」

「いや、構わないさ。慌てることはない。ゆっくりと待とうじゃあないかね」

 もしかしたら、次の機会に持ち越しになるのだろうか? 

 っそ、それはないよ、ケティ。くっ、なんとかして、ケティをその気に戻さないと……。

 不安になってしまうが、ギーシュはにこやかに笑ってみせる。何故ならケティは覚悟を宿した目で言ってくれたのである。

「もし浮気をしないと誓って下さるなら」

「もう他の人に目を向けないと誓って下さるなら」

 だからギーシュは逸る気持ちをぐっと抑える。もし強引に襲い掛かるような真似をしたら、一回だけで終わってしまうかもしれない。それはあまりにも惜しい。惜しすぎる。
 相思相愛の関係であるのに、最初の一歩を間違えたばかりに振られてしまう。それはあまりにももったいないと言えるのではないか?

「ギーシュさま。せっかくの夜です。その…緊張をほぐすのにお酒はいかがですか?」

 そんな風に煩悶としていたのであるが、ケティは微笑みながら提案してくる。

「そう! それがいいよ、ケティ! せっかくの夜だ、乾杯しようじゃあないかね!」

 これは渡りに船というものではないか? ギーシュはすぐさま飛びついた。ここでまずいのは次の機会にと、部屋を追い出されることであろう。

 っついてるじゃあないかね! これならまだまだチャンスはあるっ!

 だが酒気を帯びれば緊張もほぐれようし、そうなればまた、自然な感じで迫れるだろう。そして持ち上げようとして失敗し、雰囲気が台無しなる恐れもない。

 始祖ブリミルよっ、感謝します! っこのチャンス、絶対にモノにしてみせるッ!

 ギーシュは己の強運を神に感謝した。いや、神ではなくケティに感謝だ。こんなこともあろうかと、酒まで用意をしてくれていたのだ。
 ケティは感動しているギーシュにニコリと微笑んでみせ、それから棚に用意してあったワインを持ち出し、トレイに乗せて運んでくる。

「ギーシュさま、では乾杯いたしましょう」

「そう。そうだね。……ではケティ。僕のケティ。二人の夜のために、乾杯といこうじゃあないかね」

 どことなく照れてしまい、でも自然と笑みがこぼれてくる。それはそうであろう。これから意中の女性の初めてを貰うことができる。
 いや、正確にはそうでないが、上手くいけばそうできる。そしてケティはそんなギーシュを嬉しそうな目で見つめるばかりなのだ。

 ……なんて綺麗なんだ。そんな風に微笑んでくれるなんて。……僕は幸せ者だな。そう、僕も嬉しいんだよ。愛しい愛しい僕のケティ……。
 
「乾杯」とグラスを交わす。気が付いてみれば喉がカラカラだった。やっぱり緊張してたんだなと思い、苦笑するしかない。ギーシュは乾きと緊張を潤そうと、ぐっと一気に飲み干してしまう。

「……ふぅ、これはいい。一体どこのワインなんだい?」

「……うふふ、ギーシュさま。アルビオンの古いのですわ。最後ですから、豪華にいこうという話になったんですわ」

 最後? 最後とは一体なんだ? 何だかこの場にそぐわない言葉の気がする。
 それから“いこうと思った”ではなく、“いこうという話になった”。ケティは誰かに相談でもしていたのだろうか?

 疑問に思ったギーシュは「ケティ、最後とは一体なんだね?」と、嬉しそうにしているケティに問い掛けようとし――できなかった。

 っあ…あれ? ……なんだか急に……ね、眠いじゃあ…ない…かね……

 意識が急速に遠くなり、視界がぼやけて見えなくなる。足元にも力が入らなくなり、そしてそのまま机へと突っ伏してしまう。

 倒れ込んだ拍子に床へとグラスが落ち、がちゃーん! と音をさせて割ってしまった。そしてかすかな寝息以外、ギーシュはピクリとも動かなくなる。
 念のためにとつんつんと小突いてみるが、それでもギーシュは動かない。ケティはそれを見てにんまりと嗤った。

 ……うふふ……流石はモンモランシーさまです。効果はバッチリですわ。

 薬剤調合における知識とセンス。香水の二つ名は伊達ではなかった。起こすまで、ギーシュはこのまま眠りこけたままであろう。

「さあ、サイトさまをお呼びにいかなくては……。っああっ、サイトさま! ケティは上手くやりましたわ! どうかどうか褒めてやってくださいまし!」

 眠りこけたギーシュを汚物を見る目で一瞥し、それから浮き浮きした気持ちで部屋をでる。何故なら一刻も早く報告して「よくやったな」と、才人からねぎらいの言葉が欲しい。
 そしてニヤリと嗤う、あの蕩けそうに魅力的な笑みである。ケティそれを、早く見たくて見たくて堪らなかった。

「うふふ…サイトさま。今からケティはまいりますわ!」

 ケティは寮塔の階段を下りていく。足取りは軽く、気持ちは浮き浮きとして楽しかった。これから才人に褒めてもらえるのである。



[27351] 卑劣なる男
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/09 23:54
 才人はケティの部屋へと踏み込んだ。ギーシュは眠りこけたままにテーブルへと突っ伏し、のんきな寝顔をみせている。
 どんな夢を見ているのであろう? おそらくは幸せな夢に違いない。何故なら口元が僅かにあがっているし、寝息だって穏やかなものだ。
 ケティの緊張を何とかほぐし、そしてその初めてを貰い受ける。多分そのあたりの夢であろうと才人は思う。ギーシュは幸せそうに眠っていた。

「よし、上手くいったみたいだな。ロックとサイレントを掛けて、んで縛り上げておけ」

 さて、部屋へと踏み込んだのは才人だけではなかった。ケティとモンモランシーも一緒である。ならば他の奴隷は何をしているのか?
 マチルダはオスマンへの抑えとして。キュルケは他の教師たちの抑えとして。そしてルイズは万が一に備えて廊下を警戒し、そして才人は空いている椅子へと腕と足を組み、どっかと体重を預けていた。

 モンモランシーが割れてしまったグラスを手際よく片付け、ケティはテーブルを脇へとどかし、中央のスペースを空けていく。雑用は奴隷の仕事なのだ。ご主人様がやる必要はない。
 もっとも目的を考えればこれからすることは蛇足もいいところである。何故なら手間を掛ければその分リスクはあがってしまうからだ。
 ギーシュを手駒にするだけなら、縛り上げるまでもない。才人はギーシュを使うつもりは更々ないのだから、一時的に支配して、さっさと破壊の杖を使えばいい。

 だが、それでは面白くないのである。ネタばらしをして、ギーシュを絶望なり怒りの頂点なりにもっていかないと面白くない。だから例えリスクがあがろうとも、手間を掛ける必要がある。何故なら欲望には素直で思うままにふるまう。それがリーヴスラシルというものだからだ。
 つまり平賀才人はギーシュをとことん嗤いたいのである。だからこの手間はどうしても必要な手順だった。

 ……さあて、どんな顔を見せてくれんのかね? 許してくれって謝るか? それとも絶望して素直に受け入れるか? さてさて、どっちになるんでしょうね?

 奴隷たちはギーシュを椅子から床の上へと下ろし、それから後ろ手に縛りあげる。マントは邪魔なので外し、杖だけは取り上げておく。
 ううっとうめき声をあげるギーシュだが、薬が効いているので目を覚ますことはない。

「サイト、準備が出来ましたわ」

「よし、んじゃギーシュを起こせ」

 モンモランシーはうなずく。準備を終えたケティは取り上げた杖を才人に捧げると、その背後へと控えた。
 そしてそれを見たモンモランシーはスカートのポケットから小瓶を取り出し、それをギーシュの鼻先へと近づける。
 いよいよであった。全ての準備を終えたモンモランシーがギーシュの頬を叩いていく。覚醒を促そうというのである。

 くくく……さあ、もう直ぐだぜ? オラわくわくしてきちゃったぞ!

 だんだんと強く叩いていく。するとギーシュはうめき声をあげながらぼんやりと目を開けていき、朦朧とした意識で「ケティ? 僕はいったい…」と、モンモランシーへと疑問を投げかけたのである。

「!? モ、モンモランシー? っっあっぐぅぅ…っ、こ、これはいったい、っど、どういうことだねッ!?」

 そして、ギーシュは直ぐに異変に気付いた。何故なら眼前にいるのはケティではなく、モンモランシーだった。慌てて身体を動かそうとしたが、腕が前へとまわらなかった。
 おそらく手首は何かで縛られているのだとギーシュは思う。どれだけ力を入れても手は前に回らず、痛いだけであった。
 モンモランシーはギーシュの背後へと回る。その有様をじっと観察し、頃合いと判断したからだ。すると隠されていた才人が姿をみせることになる。

「よお、おはよう、ギーシュ。よく眠れたか?」

 一体誰が声を掛けてきた? ギーシュはその声が才人だと思い当たる前にその姿を見、そして驚きで目を見開く結果となった。
 口をあんぐりと開け、声を発しようとして、その言葉が出てこない。

「ん? どうしたんだ、ギーシュ。よく眠れたかって聞いてるんだ。答えてくれないとわからないぜ?」

「っっ……ぁ…っサ、サイトっ。っ……あ、いや、ケティだ。そ、それはいったい、どういうことだね……」

 にやにやと嗤う才人は椅子へと深く腰掛け、足を組み、取り上げた造花を手元でくるくるともてあそんでいた。
 そしてケティである。にこにこと微笑み、従者のように一歩控えて立っている。ただ彼女は制服を着ておらず、全裸に首輪の姿だったのである。



 ギーシュを手駒へと堕とす作戦会議。そこでは色々な案が出た。例えばセックスの最中やピロートークの時に踏み込む。あるいはフェラチオをさせて起こし、ネタばらしの上でセックスをさせる。
 それともキュルケやマチルダあたりにアタックさせて、二股に追い込んだところでのネタばらしをするか? モンモランシーにヨリを戻したいと訴えさせ、豹変させるのもいいだろう。
 だが所詮はギーシュなのだ。そんなにいい思いをさせることもないと、才人たちはそう結論付けた。

 くうっくっくっ! 迷ったんだがな、やっぱこっちだろーぜ! 見ろよ、わけわかんなくてあたふたしてやがんぜ!

 だからベタを狙うことにしたのである。豹変するのではなく、最初から悪役らしく振舞った上でのネタばらし。これがギーシュには一番であろう。
 こういうのはあまり奇をてらってもいけない。ある程度は意識を誘導させておいた方が、ベタはベタとして楽しめるのだ。

「ケ、ケティ。僕のケティ! こ、これはいったいどう言う事なんだ? お、教えてくれないかねッ!」

 果たしてなんとか状況を確認したギーシュであった。そしていろいろあるが、とにかく彼には眼前の光景が信じられなかった。
 何でケティは自分ではなく、才人の傍に控えているのだろう? いや、それより何で全裸となり、首輪まで嵌めているのであろうか? 
 それから何で才人がいて、モンモランシーがいて、自分は縛り上げられている必要があるのだろうか?
 わからないことばかりだが、とにかくケティだった。この状況で縋れそうな人物はケティしかいない。
 とにかく混乱していて、「冗談ですわ」とか「夢ですわ」とか、何でもいい。否定の言葉が欲しかった。そうすれば冷静になれるし、それを取っ掛かりに質問をぶつけていけるのである。

「くく…聞かれてるぜ? どういうことだってよ」

 才人は視線を横へと向ける。合図としてウインクを一つ。嬉しくなったケティはギーシュにもそのおこぼれを与えてやる気になり、満面の笑顔になった。

「うふふ……。見てわかりませんか? ケティはサイトさまに奴隷としてお仕えさせていただいてるんです。そんなこともわからないんですか?」

 その言葉にギーシュは絶句してしまう。

 確かに状況からは才人のへ奴隷をして仕え、忠誠を誓っているようにみえる。だが、そうすると今夜の行動は一体なんだ?
 ケティはキスを許し、身体に触れることを許し、そして初めてをくれると言ってくれた。実際にもうあとちょっとだったのだ。それなのに才人の奴隷とはおかしいのでないのか?

 くすくすと口元に手を当て、ケティは言葉を続ける。

「うふふ……お可哀想なギーシュさま。まだおわかりになれませんか? ケティはサイトさまのご命令なら何でもやるんです。
 例えギーシュさまであろうと、それがサイトさまのご命令なら、ケティは裸だろうと、キスだろうと、それどころかおまんこだって、ケツの穴だって喜んで差し出します。
 ただそれだけのことなんですわ、ギーシュさま」

 信じられないと、ギーシュは目を見開いてケティを注視するしかなかった。その態度に才人は大いに満足する。
 何故なら女好きのギーシュはケティを食い入るように注視している。だが、その裸を鑑賞するためではあるまい。そう、その視線の先は胸でも股間でもなく、その表情であったからだ。
 そしてそう、ギーシュは何か口に出そうとするのだが、ショックが大きすぎて言葉にならなかったのである。

 くっくっくっ……ギーシュ、現実は認めたほうがいいと思うぜ? この状況で言ってるんだ。嘘の訳がねーだろーによ。
 それにだ、なんか忘れてないか? それともケティの裸に夢中でそれどころじゃねーってか?

 才人はパチンと指を鳴らす。ニヤニヤ嗤いながら、その視線はギーシュの背後に。

「っモ、モンモランシー! な、何をやっているんだねッ! や、やめろっ! やめるんだモンモランシー! お願いだ、モンモランシー! お願いだからやめてくれないかねッ!」

 ギーシュは衣擦れの音に気付いた。まさかと思い、不自由な身体を捩ってみる。するとそこで見てしまったものは絶望だった。
 あれほど見たいと願っていた肢体だが、今のモンモランシーはその姿になろうとしていた。躊躇いなどまるでなくマントを取り、制服のボタンへと手を掛けている。

「っ……モ、モンモランシー。き、きみもサイトの奴隷だと、言うのかね? サ、サイトの…へ、平民の奴隷になっていると、まさか言うんじゃあないだろうね?」

 怒りを抑え、だがどこか縋るような口調。それは信じられないというより、信じたくはない表れであろう。
 そう、驚愕がだんだんと納まるにつれ、ギーシュは状況が理解出来てきた。そうすると騙されたんだとわかってくる。詳しい事情などわからないが、とにかく騙されたとわかってきた。
 そして、もしここで自分の言葉を無視するようなら、それはモンモランシーもまた、ケティ同様に奴隷である、そんな何よりも確かな証拠と言えるのではないか?

「!っモ、モンモランシーッ!!」

 声を掛けられ、モンモランシーはギーシュを一瞥はした。だが、その程度で才人が心を動かすわけがない。命令の変更がないモンモランシーはブラウスのボタンをすべて外すと、脱ぎ捨てる。
 そしてその次はスカートとなるだろう。ホックを外してそのまま床へと落とし、ショーツにも手を掛ける。

「っモンモランシー! っやめるんだ、モンモランシー! そんなことをしちゃいけないんだよっ! 今すぐその手をやめるんだッ! っモ、モンモランシーッ! やめるんだよッ!!」

 だが、ギーシュの願いはむなしかった。スリットは解かれ、その秘所が露わになってしまう。モンモランシーは脱ぎ捨てた制服を纏め、更には鞄から首輪を取り出して、それも巻く。
 ギーシュはがっくりと肩を落とした。そして小さくモンモランシー、モンモランシーと繰り返すばかりとなったのである。

 ……おーおー、ケティもかわいそうになぁ。さっきからモンモランシー、モンモランシーって、ケティが恋人じゃなかったのか? 

 これは才人にとって予想外だった。てっきりケティへと乗り換え吹っ切ったものと思い込んでいたが、どうやらギーシュはまだ未練タラタラだったのである。
 初めから全裸だったケティと、証明するように全裸となったモンモランシーの違いかもしれないが、未練があるのは確かであろう。これは使える、と才人は思った。

 ……予定変更だな。ケティに任せるつもりだったが…モンモランシーにやらせるとしよう。どうやらその方が面白そうだ。

 くっくっくっと、才人は嗤う。こんなハプニングなら大歓迎だった。

「どうしたんだ、ギーシュ。オマエの女神さまと太陽が脱いだんだぜ? せっかくだからじっくり拝んでおけばいいじゃねーか。こんな機会はもうないかもしれんぜ?」

 さあ、ここからである。これまでの事はほんの準備運動にすぎない。

 実は惚れていた女は他人の奴隷でした。そして命令一つで裸になる女でした。この程度が絶望のピークのわけがない。
 他にどんなことができるか実際に示し、己の運命を叩きつけ、その上で破壊の杖で手駒に堕とす。今からそのことをじっくりと説明しなければならないのだ。

「どうしたんだよ、ギーシュ。見たくないってのか? くく…つれないねぇ、俺の奴隷だってわかったらもう興味がなくなったったってか? 
 ギーシュさえよければケティでもモンモランシーでも、味見させてやってもいい。まんこどころかケツだってバッチシなんだぜ?」

 その為にはやる気を取り戻してくれないといけないだろう。だから才人は挑発を繰り返す。

 さあ、ギーシュ。そのまま落ち込んだままってのはやめてくれよ? 

 それとも「お願いします」と、まかり間違ってもいい。その時はその時でその変わり身の早さに敬服し、実際に味見をさせてもいい。どうせ最後なのだ。その程度なら褒美としてもいい。
 それにそうなればだ。実際にどこまで堕としているかを証明できる。ディープキスや正常位どころではなく、全身舐めやアナルセックスもOKに仕上がっていると、そう示せるだろう。だが無反応では面白くないのである。

 っっサイトッ! この平民めがッ! 二人に一体何をしたんだッ! 

 ギーシュはとてつもない怒りに震えていた。今にして思えば睡眠薬でも飲まされてしまったに違いない。最後に飲んだワインがそれであり、勧めたのはケティなのだ。
 どうやら惚れていた女が才人の奴隷とされていたと、そのことを認めざるをえないだろう。
 そして止めが、全裸となってしまった女たち。その合図だけで、行動をする女たち。才人が主導し、女たちは協力し、自分は騙されてしまったのだ。

 っ見たくないっ! 見たくないんだよっ! お願いだ、もうそんなことはやめてくれないかねッ!

 だが、ギーシュには才人を罵倒することも、睨むことさえもできはしない。

 何故ならあまりの怒りに、一度は怒鳴ろうと睨みつけた。どう考えても元凶は才人だからだ。だが、そうすると、ケティもモンモランシーも視界に入ってしまうのだ。
 才人は二人を抱きかかえ、所有権をアピールしている。目が合うとニヤリと嗤い掛け、見せつけるようにキスをさせたり、胸を揉んだり、股間を掴んで膣穴周辺を遠慮なくまさぐっている。

 っく、どうしてそんな顔をしてるんだね? きみたちはそんな女じゃなかったはずなのに……。

 そして二人の女は嫌がっていなかったのである。それどころかうっとりとした顔つきで身を任せたままにし、喘いでしまい、ギーシュと目が合うと嘲笑の視線を送ってくる。
 とてもではないが辛くて見ることが敵わなかった。睨み付けもしないで怒鳴るなんて、惨めすぎてできないだろう。
 だからギーシュは才人に対しての怒りに身を震わせ、惚れた女への悲しみに視線を背けることしかできなかったのである。

 ……あーあ、やっぱその程度か。この程度で戦意喪失とはね。モンモランシーはこれくらいじゃへこたれなかったんだけどな……。

 言い返してこないギーシュに才人は失望する。ケティを例外として、どの女もこれくらいじゃ戦意を喪失しなかったのだ。まあ怒りの感情は残っているようだが、言い返してこないのでは同じであろう。
 がっかりした才人だが、これはもう仕方がないと諦めるしかない。ふぅと溜息をつき、やれやれと頭を振って、意識を切り替えることにする。なに、次で戦意を回復してもらえばいいのだ。
 
「せっかくやらせてやるって言ったんだけどな。後悔しないといいけどね」

「っ……僕はレディにそんなことをしない。サイト、きみとは違うんだよ。見損なわないでくれたまえ……」

 ギーシュは一瞬だけ才人を睨んだ。だが直ぐに顔を伏せ、呟くように侮蔑の言葉を送る。
 相変わらず女たちは才人に甘えるように寄り添っていて、ギーシュにはそれ以上の正視は耐えられない。

 ほっほう……いいねいいね。まだ気力は充分残ってるって感じだな。

 だが、才人はそれに別の受け取り方をした。これは切っ掛けがあれば化ける。何故ならその視線は憎しみに溢れていた。言い返してこないから戦意喪失は短慮であったのだ。
 どうやらギーシュを見損なっていたようだと思う。これならあと一押しで何らかのリアクションを返してくれるであろう。ならばであった。

「よし、ギーシュ。まんこもケツもいいってんならフェラはどうだ? ケティにやらせるつもりだったんだが、ここは大盤振る舞いだ。
 モンモランシーでもいいし、二人一緒でもいい。どっちがいいか選ばせてやる」

 挑発の続きをするべきだろう。果たしてギーシュはどう応えてくれる? 

「!っサ、サイト! き、きききみは何を言ってるんだね? そんなことできるわけがないじゃないかねッ!」

 才人は顎をしゃくる事で合図を送り、二人をギーシュの元に向かわせた。するとギーシュは慌てて伏せていた顔をあげてくる。気配で近づいてくるのがわかったのである。

「ん? して欲しいとは思わないのか?」

「そ、それは…っいや、そんなこと言ってるんじゃないっ! あ、いや、とにかくそんなことができるわけないじゃないかねっ!」 

 にやにや嗤いながらの指摘に思わずえ? としてしまったギーシュだが、慌ててその考えを打ち消す。それはするわけにはいかないのだ。
 何故ならそれは平民である才人に屈服し、モンモランシーとケティが奴隷であると、そう認める行為に他ならない。騙されていたのに、それを許すことになってしまう。

 っく、そ、そりゃして欲しいに決まってるじゃあないかねッ!

 もちろん興味深々だった。なにしろプライドの塊のようなモンモランシーに内気な少女だったケティだ。仮にセックスまで持ち込めたとしても、そんなことはしてくれなかったであろう。
 もしも強要しようものなら激高して振られるか、羞恥のあまりに泣きだされたに違いない。それなのにそれを試せるというのだから、興味があって当たり前だった。

 っううぅ……っこ、来ないでくれっ! い、いや来て欲しいんだが、来ないでくれっ!

 モンモランシーが歩いてくる。もちろんケティだって歩いてくる。ギーシュはとにかく複雑な心中だった。来てほしくないのだが、それでもやっぱり来てほしい。
 憧れだった女は才人の奴隷だった。受け入れてしまえば、才人に屈服してしまうことになる。だが、惚れていた女だったからこそ、フェラチオをしてもらいたい。

「……ギーシュ。どうするの? わたしとケティ、どっちにするんですの? それとも二人でしゃぶればいいのかしら?」

「!っ……く、や、やめないかね。そんなことはする必要はないんだ……」

 モンモランシーが問い掛ける。ぺたんと足元に座り、その手はカチャカチャとベルトを外している。

「うふふ…ギーシュさま。サイトさまのご命令ですわ。どちらをお選びになりますか? どうかケティにちんぽをしゃぶらせてくださいまし」

「っ…ぁああっ……! や、やめるんだケティ。や、やめてくれないかね……」

 ケティもまた問い掛けた。背後に回ってシャツを脱がせに掛かり、首筋に吐息とキスを与えていく。
 ギーシュは上半身をはだけさせられ、下半身はパンツ一枚にされてしまった。そしてその状態で、二人はパンツの表面を撫で、背中には乳房を押し付け、ギーシュに最終判断を仰いでいく。

「どうするんですの? これは最後のチャンスになるんですのよ?」

「そうですわ、ギーシュさま。モンモランシーさまの仰る通りです。このチャンスを逃してはなりませんわ」 

 顔を歪め、泣きだしそうなギーシュだった。さあ、どんな答えを返してくれる? 才人は思わず椅子から身を乗り出した。どうしたって興味津々で、その瞬間を待ち受ける。
 やはりモンモランシーだろうか? それとも意表をついてケティだろうか? 欲望には素直にダブルフェラを望んでくるのか?

 さあ! 決断の時だぜギーシュ! オマエは一体何を選ぶ!?

 股間をまさぐってくるモンモランシー。すりすりと棹の形に沿ってまさぐり、時には袋を柔らかく揉みしだいていく。
 そして肌と密着したケティの乳房は柔らかく、なんとも女の子のいい香りがし、僅かな異物感は乳首の突起に違いない。
 モンモランシーはじっと瞳を見つめながら肉棒の形にパンツをさすり、ケティはその耳元に囁き、吐息を吹きかけ、ギーシュにその決断を迫っていくのだ。
 
 くううぅぅぅぅぅっ……! き、決めれるわけがないじゃないかねっ!

 いや、心は決まっていると言ってもよかった。事ここに至ってはフェラチオを味わいたい。それもどうせならダブルフェラを味わいたい。茹ってしまった頭では、もうそれしか考えられない。
 惚れていた女に二人掛かりで誘惑され、二人一緒に奉仕をしてくれると言うのだ。女好きのギーシュである。どうしたってそっちがいいに決まっていた。

 っああ、ああっ! モンモランシー! それにケティ! 僕は一体どうしたら良いんだねッ!

 だがそれは才人に屈服する決断なのだ。女が奴隷であると認める決断でもあるのだ。それに「せっかくだからダブルでお願いします」はあまりにもみっともない。情けなさすぎる決断であろう。
 才人が友人で、女が見知らぬ女であったなら、ギーシュは一も二もなく「お願いします」と言ったであろう。だが、生憎と才人は仇敵といえる存在なのだ。だから貴族として、その決断だけはしてはいけないのである。

 くうっくっくっ! 素直になれって! して、欲しくて欲しくて堪んねえんじゃねーかよ!

 そう、男とは悲しい生き物であった。裸の女に二人掛かりで迫られ、そしてそれが惚れている女となれば、それはもう、勃起しないわけがなかった。才人の目にはぎんぎんに猛り、パンツを押し上げているのがハッキリと映っている。
 そして情けなくもきょろきょろと辺りを見回す仕草とくれば、ギーシュが何を望んでいるかなど丸わかりだった。

 だから才人はギーシュの希望を叶えてやることにする。

「おいっ! パンツも取ってやれ! んで直接さすってやれ! そうすりゃギーシュも踏ん切りがつくだろーぜ!」

「!っよ、よせっ! っやめろ! やめてくれっ! 頼むからやめてくれえぇっ!」

 そしてギーシュ。才人の言葉にハッとして、あわてて邪な考えを打ち消す。何故ならそんなことになれば、興奮していた証を示してしまう。バレバレであろうが、それを直接示すのと、隠されているのは大違いなのだ。
 見られてしまうのも恥ずかしいが、それよりも卑劣な誘惑に興奮してましたなど、ギーシュには耐えられない。

「うふふ…サイトさまのご命令ですわ」

「ふふっ…そうね。ギーシュ、諦めてちょうだい」

 だが奴隷にはご主人様の意志が全てに優先される。ギーシュが何を言おうとも、そんなことは関係がないのだ。
 だから「やめろっ、やめてくれっ!」と嫌がり、必死に後ずさるギーシュから強引にパンツを抜き取る。
 いくら嫌がろうとも、縛られている身の上に二人掛かりだ。どうしたって敵わない。哀れなギーシュは最後の一枚を抜かれてしまい……

「ほほぅ…くく…結構立派じゃねーか。それなら恥ずかしがる必要もないと思うぜ?」

「っ…………」

 現れたのは天を突かんばかりに猛りきった肉棒であった。ハルキゲニアの基準であろうか? 勃起しているのもあるだろうが、才人の目にはなかなかのサイズに見えた。
 そう、少なくとも以前の才人よりは大きく見える。皮も剥けていたし、大したものだと才人は思う。

「で、どうだ? ソレを見る限りはフェラして欲しいってことでいいのか?」

 くっくっくっと、才人は嗤う。

 でも、それはもう過去の話だった。今の才人の肉棒はまさに女殺し。見かけで勝っている上に、内容は圧倒的。しかもまだ成長している最中である。
 むしろだった。ギーシュが立派であればあるほど、今後を考えれば笑えてくる。だから才人は嗤うのだ。これからの説明でギーシュがどう反応するか、それがおかしくておかしくて堪らないのである。

「ギーシュ、決めかねてるんなら、二人一緒はどうだ? モンモランシーもケティも、毎日咥えるか練習してるし中々のモンだと思うぜ? 答えられないんなら、そういう事にするがかまわないか?」

 さて、このような挑発交じりである。「好きにしたまえ」も、プライドの表し方として充分にありえるだろう。だが、初志貫徹して拒否の可能性も高い。

 っくぅっくっくっ! 選べ選べ! 一生懸命考えて答えてみろ!

 屈服するか、あるいはやせ我慢をするか、ギーシュは一体どちらを選ぶ? 才人はわくわくしながら返答を待つ。
 その間もモンモランシーは肉棒を優しく擦り、ケティはケティで乳房を押し付け、甘い吐息を首筋へと吐きかけているのだ。おそらくは耐えきれないと、才人はそう踏んでいたのだが……

「……っ見縊るんじゃないッ! やめてくれと言ったんだ。僕はフェラチオなんてして欲しくないッ!」

 だが、果たしてギーシュの選択は否であったのである。

 ほほぅと、才人は少しだけ感心する。ギーシュは貴族としての体面を重視したのだ。
 チラチラと二人の裸を見てしまうその態度から苦渋の選択ではあっただろう。だが、ギーシュは見事に誘惑に耐えきったのである。

「くく…いいのか? もうこんな機会はないと思うぜ?」

「くどいっ、用件が済んだのなら早く僕を解放したまえッ!」

 にやにや笑い掛けてくる才人が堪らなく憎い。なんと嫌味な男であろう? 乗るわけにいかない誘惑を仕掛け、それを見ながら楽しんでいる。そしてその仕掛けにギーシュの惚れている女を使う卑劣さ。生理現象だから仕方がないのに、そのことを嘲笑う性格の悪さだ。
 そう、ギーシュは才人の目的を奴隷を見せびらかすことにあったと判断したのだった。

 どうやったのかは知らない。だが才人はモンモランシーとケティを奴隷としてしまった。それもおそらくは自分が惚れている女だからこそ、奴隷の立場に堕としてくれたに違いないと思った。
 多分食堂の一件で土下座させたことを根に持っているのだろう。だから意趣返しとして、このような行動をしているに違いない。

 っこの平民ッ! 絶対に殺すッ! 貴族を舐めたことを後悔するがいいッ!!

 しかしである。たったそれだけのことでここまでするものであろうか? 
 あえて惚れていた女をターゲットにし、罠に嵌めてまでわざわざ見せびらかす。それも最悪の奴隷とした状態で、だ。

 っっ絶対に殺すッ! そして二人を救い出してみせるッ! 僕は貴族として、それをやらなくちゃいけないッ!

 ギーシュは考えた。才人だけは許すわけにはいかない。平民の毒牙に掛かってしまったモンモランシーとケティを救わなくてはならない。それが貴族というものであり、グラモンの男というものだろう。
 そしてその為の方法は簡単なのだ。学院長のオスマンに報告すればいいのである。

 オスマンは必ずや動いてくれるだろう。なにしろ学院の大スキャンダルだ。地位を守るためにも、貴族としての体面からも秘密裡に処置をしてくれるに違いない。
 才人はチェルノボーグの監獄に送られるか、もっと簡単に事故死にでも処理すればいい。
 モンモランシーもケティも何かの弱みを握られているのだろうが、才人が死ねばすべて解決する。そして、そうしたら二人は救われる。そう、すべての問題は解決することになるだろう。

 くっ! 卑怯な平民めっ! 地獄に落ちて煉獄に焼かれるがいいっ!

 そしてそうなったら正気に戻った二人はギーシュに深く感謝するに違いない。そして奴隷とされていた過去を慰めたなら……惚れ直してくれるに決まっている?
 ギーシュは邪な考えを抱いてもしまった。才人を殺して二人を解放したいのは本当であるが……もしそうなれば圧倒的に上の立場で二人の女を手に入れられるかもしれない?

 ぐふっ、くくくく……、モンモランシー! それにケティ! 安心したまえッ! きみたちの傷心は、この僕が慰めてあげようじゃあないかねッ!!

 考えを進めるうち、ギーシュは思わずにやけてきてしまう。圧倒的に上の立場で、しかも才人が開発したと言うのは業腹であるが、膣どころか口やアナルまで自由にできる女が手に入るかもしれないのだ。
 そう、憎むべき才人を殺す。そのことが女を手にいれることに繋がる。それはなんとも明るい未来だった。
 だからうつむいて表情が隠れているのが好都合だった。こんな表情を才人にも二人には見られるわけにはいかないだろう。

 ……くっくっくっ…それでいい。そうこなくっちゃあ、いけないってモンだ。

 吐き捨て、そのあとは黙り込んでしまったギーシュ。その態度に才人はニヤリとして満足する。なにやら心境に大きな変化があったようだ。
 おそらくは重大な決意をしたのであろう。これまでの落ち着きのない様子から一転し、急に黙り込んでしまったのだ。
 例えば復讐して才人を殺すとか、騎士道精神にのっとってレディを救って見せるとかそのあたりであろうと、才人は思う。
 勘違いも甚だしいが、大事なのは決意の内容ではない。何かしらの決意をしたということが大事なのである。

「ふ~ん。あっ、そう。じゃあ最終確認するぜ? ギーシュはモンモランシーにも、ケティにもフェラして欲しくないってんだな? んでまんこもケツも必要ナシっと。
 せっかくの好意のつもりだったんだが、断るってことでいいんだな? これが本当に最後の確認になるんだぜ?」

「っ…そ、そうだ! そんなことはして欲しくない! 断ると、そう何度も言っているじゃないかねッ!」

 ギーシュは少しだけ言いよどんでしまった。確かにこの場ではして欲しくない。だが解放され、二人を救い出した暁にはその限りではなかったからだ。
 しかしこの場の答えでは拒否するしかないだろう。才人に復讐し、それから改めて頼めばいいと、ギーシュは瞬時に判断を下す。

「くく…そんなデカくさせたたままで言っても説得力はないけどな。わかった。じゃあそういうことにしとこう」

 くっくっくっと、忍び嗤いながらギーシュを揶揄する。相変わらず勃起させたままであるし、カウパーまで溢れさせているのだ。さぞや苦渋の決断であったのだろう。
 そして揶揄されてギーシュであるが、だからと言って反論するわけにはいかない。確かにその通りなのだ。 

 っくっ……き、貴族を舐めたらどうなるか思い知らせてやるッ! っっだ、だが仕方ないじゃないかねっ! 

 思わず顔をあげ、ギーシュは才人を睨み付けてしまった。だがすぐさま顔を伏せ、ひたすらに復讐のことだけ考え、才人をいたぶり殺すことだけを想像する。

「それともう一つ。用件が済んだら解放しろって話だったってか? ギーシュの要望はそう言う事でいいか?」

「!っ……そ、そうだ。用件は済んだんだろう? だから早く僕を解放したまえ」

 ハッとして顔をあげたギーシュはやはりそうだったかと思った。才人の目的は懸想していた女を奴隷としたことを知らしめ、そして自慢する事だったのだ。だが、ここで激高したなら解放されるのが遅れるであろう。
 平静に、平静にと、怒りを抑えてギーシュは答える。この借りは解放されてから思い知らせればいいのである。声を荒げて非難すれば、面白がった才人は解放を遅らせるに違いない。

 ……なにを勘違いしてるんでしょうね? 用件はこれからだってのに、まだ解放なんてするわけないだろ?

 才人はニヤリと嗤って見せる。そして二人を手招きし、その耳に作戦の修正を伝えた。

 くうっくっくっ! ギーシュ、まだ前フリでしかないんだよ! どんな奴隷に仕上がってきてるかはオマエが嫌がったんだ! ならせめてこれからオマエがどうなるか、じっくりと説明しなくちゃなんねーんだよ!

 忠実な奴隷はうなずいた。ギーシュは怪訝な表情を作って、そのやり取りを眺めている。もう終わったはずなのに、何を耳打ちする必要があるというのか?

 っ……サイト、貴様一体何を考えてる? くっ、もう終わったんじゃあ、ないのかね?

 もう機は熟したであろう。これ以上引き延ばしたら間延びするだけだと才人は判断した。このまま黙ったままに不安感を煽るのもいいが、そうすると冷静にもなってこよう。それは困る。
 せっかく勘違いしてくれているのだから、是非ともこのまま進めたいというものではないか。

「くく…安心しろって。ちゃんと解放してやるさ。ただその前にギーシュ。いくつかやっておきたいことがあってな。それが終わるまでは待ってくれないか?」

「っ……言ってみたまえ」

 だから才人は条件を伝えることにした。そしてそれでギーシュは思っていた。今日か、明日か、とにかく早いうちに才人の運命は決まる。だが、今の段階でそれを知らせる必要もない。ここは屈辱を押し殺して素直に聞くべきだろう。
 解放されるのが遅れるのは困るし、やけになった才人が何をするかもわからない。

 ……ふん。今のうちだけいい気になっておくがいい。どうせ貴様は死ぬんだ。それまでの短い間、せいぜいいい気になっているがいいさ。

 睨み付けてくるギーシだが今だけは裸の女も目に入らないようだ。才人はその態度に満足した。そうなると自然と笑みがこぼれてきてしまうというものだろう。そう、才人はいよいよ説明を始めることにしたのである。



[27351] 決断の時
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/15 20:12
 どっかと椅子に腰を下ろし、両脇に奴隷を抱え、才人はにやにやと楽しげに笑っていた。そして一方のギーシュだが部屋の中央で後ろ手に縛り上げられている。
 下半身を丸出しにされ、シャツを手首まで下ろされ、半裸の情けない状態である。それでも何とか身を起こしていた。憎むべき才人を睨み付ける事で、屈辱に耐えようというのである。

 ……さあて、始めるとしますかね? くく…そんな睨み付けてくれるなって。おいちゃん、怖くて怖くてちびっちまうだからよぉ……。

 才人はギーシュへの説明をしていくことにした。忠実な奴隷を見せつけ、これからの運命を突き付けてやらなければいけないのだ。
 いったいギーシュはどんな反応を示すのであろうか? なんとも心躍ってくる才人であった。

「くっくっく…そんなに睨むなって。これはさ、ギーシュ。オマエのためを思ってやったんだぜ? つまり純粋な好意ってやつだ。そんな怒る事はねーじゃねーか」

「!っき、きききみはふざけてるのかねッ!? これが僕のためだと? っいったい何処が僕のためだと言うんだねッ!!」

 酷い言われようだと思った。これからのことはともかく、今までしてきたことは才人にとっては本当に純粋な好意なのだ。

「ん? だってそーじゃねーかよ。そんなおっ勃ててよ。嬉しかったってことじゃねーのか? それによ、この二人の裸を見たくはなかったってのか? それを見せてやったんだ。好意じゃなくて何だっていうんだ?」

 ギーシュはその指摘にぐっと言葉に詰まってしまう。一面を取り上げれば、確かにその通りだった。だが

「っっふざけるのもいい加減にしたまえッ! それなら何でわざわざ縛り上げるのが僕のためになるんだねッ! どうしてケティを使ってまで僕を騙す必要があるんだねッ!」

 それは酷い詭弁と言うものであろう。都合の悪い一面だけしか取り上げていないのだ。だから態勢を整えたギーシュは才人を非難していく。
 素直に聞いてやろうと思っていたのだが、あまりの身勝手な言い分に我慢ならなくなったのである。

「サイトッ! きみは恥ずかしくないのかねッ? レディをそのように扱って恥ずかしいとは思わないのかねッ! 貴族である僕に対してこんなことをして、ただで済むと思ってるのかねッ!」

 だって当たり前ではないか。惚れていた女に二人掛かりで誘惑され、片方は乳房を押し付けてくるし、片方は肉棒を擦ってきたのである。勃起してしまって何が悪いと言うのか。 
 反応してしまうのが健全な男と言うものであろう。

「それにだッ! まさかとは思うがモンモランシーもケティもだっ! 彼女たちをそんな風に扱っているのは、僕に対して逆恨みしたっていうんじゃないだろうねッ?
 っもしもそうならサイトッ! きみはクズだ! 必ずや殺してやるからそう思いたまえッ!」

 それなのにそんな都合の悪い一面だけ取り上げ、それをギーシュのため、純粋な好意と言い切る。そしていやらしく嗤って悪びれない態度とくれば、それはギーシュの冷静さを奪うのに充分だった。
 だから憤怒のあまりに真っ赤な顔になってしまう。後先を考えないで激高してしまったのだ。

 ……くっくっくっ…相変わらず沸点が低いと言うか、単純な奴だぜ。

 冷静さを装ったギーシュの仮面。それはほんのちょっとの指摘で脆くも剥がれてしまった。なんとも気の短い奴だと、才人としては呆れざるをえないであろう。
 何故ならだ。縛り上げておかないとギーシュは話を聞きはしなかったであろうし、そして杖を取り上げておかないと、魔法で抵抗しようとしたであろう。
 奴隷の仕上がり具合と、運命を説明しなくてはならなかったのだから、これは仕方がないと言うものではないか。
 だが、これは才人にとって好都合な展開と言えた。怒気の感情が強ければ強いほど、耐えきれなくなったときの絶望は深いのである。

「ほっほう…なるほどねぇ。そんな風に思ってたわけだ。ならその誤解を解かなくちゃならないよなぁ?」

「っ…………!」

 ギーシュは恐ろしい形相で睨み付けてくる。才人がカエルの面に小便とばかりに何も堪えていないのだから、それは当然の反応であった。
 そしてそれどころかにやにやと嫌らしく嗤い掛けてくるのだから、ギーシュは怒りのメーターを振り切ってしまった。糾弾するのさえおっくうになり、ただただ真っ赤になって才人を睨み付ける。

 っこの平民っ! 杖を奪っているからっていい気になっているんじゃあないッ! この場は良くても、僕を解放するときには返さざるを得ないんだッ!
 そうしたらだ、サイトッ! 絶対に殺してやるッ! 決闘で負けてしまったのは油断してしまっただけだと、そう証明してやろうじゃあないかねッ!

 さあ、正真正銘ここからだった。才人もまたニヤリと笑い返し、殺気を隠さないギーシュを受け流す。今は相手にする必要がないのである。
 これからギーシュに運命を突き付けなければならないだろう。そして奴隷を見せつけることによって、その証明をしていかなければならないのである。

「くくく…モンモランシー、説明してやれ」

 だから才人はモンモランシーに声を掛ける。自身では説明しないことにしていたのだ。そして当初の予定ではケティに説明させようと考えていたのだが、才人はその役目をモンモランシーにさせることにしたのだ。
 何故なら……だってその方が面白そうではないか? より執着している女から説明させた方が、ギーシュの屈辱と絶望は大きいのではないだろうか? そうした方がもっともっと楽しいというものではないだろうか?

「……はぁぁ…ン…はぁ…はぁ…んんぅ……、ギーシュ。ご主人様のご命令ですわ。っふぅぅ……答えてあげるから、質問してきなさいな……」

 ご主人様の命令であった。モンモランシーは才人の身体から名残惜しげに離れていく。散々に悪戯されてしまい、それなのに肉壁を引っ掻いたり、クリトリスを摘ままれたりといった決定的な愛撫はなされず、その身体は欲求不満でうずいている。
 だからモンモランシーはいらだっていた。中途半端に責められたまま、これから説明をしなければならない。モンモランシーにとって、これはすべてギーシュの所為というものだったのだ。

「っ……モ、モンモランシー……き、きみは、サイトのことをご、ご主人様と呼ぶのかね?」

「……そうですわ。普段はサイトと呼ばせて頂いてます。ですがこのような時にはけじめをつけなくてはなりませんわ。…サイトはご主人様。何の問題もありませんわ」

 なんと下らない質問をしてくるのだろう? まだ現実が認められないのであろうか?
 モンモランシーのいらいらはつのる。だからギーシュのことを嫌そうに、そして軽蔑の視線で見るのである。

 っふぅぅ……ん…、命令なのですから仕方ありませんわね。わかりやすく説明しなくてはなりませんわ……。

 モンモランシーは正面へと回り、腰に手を当て、足元のギーシュを見下すように立った。
 そうするとどうなるであろうか? 座り込んでいるギーシュなので、その目線と股間の高さが同じくなるであろう。じっとりと濡れ、ランプの灯りでテラテラ光ってしまう秘唇である。だがモンモランシーは隠そうとは思わなかった。

 ギーシュなんていりませんわ。でもこれから主人となるのですから、しっかりとしつけなくてはなりませんわね……。

 そう、何故なら才人はギーシュの管理をモンモランシーとケティに丸投げすることに決めていた。使うつもりがないのだから当たり前であろう。
 だからモンモランシーとしては主人になるのだから奴隷に対して気後れしてもしょうがない。裸を見られたくらいで恥ずかしがる主人など、そんなことはありえないのだ。

 っく……見たくない。見たくないよ、モンモランシー。僕はそんなきみを見たくはなかった。っ……ちくしょう! 全部サイトの所為だ! いったいどうやって、二人をここまで変えてしまったんだッ!

 だがギーシュにとっては違った。かつてとのあまりの違いに耐えきれなかった。才人をご主人様と呼ぶことにまったく躊躇いを覚えず、そして堂々と全裸に首輪の姿で恥ずかしがっていないのである。
 だから辛くて辛くて、それでどうしても正視できなくなった。顔を伏せ、がっくりと肩を落としてしまう。とてもではないが質問を続けていく気力などもう無くなってしまった。だが

「!っギーシュ! 答えてあげるから質問しなさいって言ったでしょう! 顔を伏せるなんて何を考えてるのよッ!」

 これはモンモランシーにとって我慢できなかった。何故ならギーシュはこれから自分の奴隷となる。更には自らの主人である才人が、やり取り興味深そうに見ているのだ。
 だからモンモランシーはギーシュの顎を掴むことで強引に顔をあげさせた。そしてそのまま手加減なしに引っ叩いた。

「!っモ、モン…ぐぁあぁあぁぁぁぁぁっ……!」

 縛られ、受け身の取れないギーシュ。バッシィィンとそのまま床へと叩きつけられる。全身を強く打って呼吸が止まる。そしてそのあとは内部からの激痛。だが、それよりもモンモランシーの行動が信じられず、茫然として仰ぎ見る。

「このッ! 早く立ちなさい! 寝た振りなんてしてるんじゃありませんわッ!」

 モンモランシーはギーシュの髪を引っ掴んで身を起こさせる。そう、この程度でモンモランシーは許すわけにはいかなかったのである。

「っごあはぁっっ! っが、がはッ! っ~~モ、モンモランシー! 一体なにを……っ!」

 何故なら面倒な説明をさせているギーシュなのに、ありがたみが全く感じられない。その所為で自分は悶々とした状態で才人から引き離されてしまった。
 だから膝立ちまでにしたギーシュに対し、モンモランシー往復ビンタをかましていく。するとギーシュはえぐっ! ごほっ! と叩かれるたびにくぐもった悲鳴をあげる。

「!づっ~~がああぁぁっ……! や、やめてくれっ! い、痛いんだよっ、モンモランシー!」

 モンモランシーは手を休めない。この機会に徹底的に身分を叩きこまなくてはならないだろう。だから彼女は顔の形が変わるまで殴り続ける。この程度の試練はどの奴隷だって受けてきたのだ。

 っっ男のくせになんてだらしない! なんてみっともないのかしらっ!

 モンモランシーは口元を切って、それで血しぶきが飛ぶようになっても手を休めない。「やめてくれ」とか細い声で哀願されてもそれを無視した。
 恰好ばかりつけてイザとなったら泣き事ばかりのギーシュにいらついてしまった。そして――

「!ひいいっっ、ぎっ、ぎぎゃがぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁッッ……!」

 最後には乱暴に床の上へと叩きつけ、股間の上へと足を乗せる。恐怖によって縮まってしまった肉棒ごと、全体重を掛けて踏みつけたのである。

 っふんっ! いい気味ですわ! 奴隷は奴隷らしくしてなさいなっ!

 モンモランシーはそのままぐりぐりと踏みつけ続ける。こりっこりっと棹が転がり、その度にギーシュは「ぎぎゃあああっっ」と悲鳴をあげる。

「……うるさいですわ」

「!げぇぇがっ、ぎよぇぇぇぇぇえええぇぇっっ……!」

 足の目標を変える。それは棹ではなく、その根元の袋へと標的を変える。そしてそのまま踏みつけた。ギーシュはあまりの苦痛から失禁し、七転八倒で辺りを転がりまわる。
 部屋のそこらに小便をまき散らしてしまうが、モンモランシーは気にしない。ぐりぐりと踏みつけてその行き先を調整し、才人の方へといかないように気を付けるだけだ。
 そしてギーシュ。生憎と縛られている身の上であった。いくら転がり回ろうとも限界があった。モンモランシーがひょいと足先を動かすだけで、その身体は押さえられてしまうのだ。だから――

「……うるさいって言ってるんですわ。まだわからないのかしら?」

 失禁の勢いが弱くなると腹の上に足を乗せ換え、ぐりぐりと体重を掛けながらモンモランシーは言い放つ。つまりこれ以上騒ぐようなら今度は胃の中身を吐かせてやると、ギーシュにそう示唆してみせたのである。

 っがっ、っがああっッ…~~~~ッモ、モンモランシー! っぐつ、ぐぉぉお~~き、きみはいったい……!

 ギーシュは何がなんだかわからなかった。だが、悲鳴をあげるのが拙いことだけはわかった。いきなり豹変したモンモランシーに戸惑い、そして怖くて怖くて堪らなかった。
 それでも、とにかく悲鳴をあげるのは拙いのはわかった。モンモランシーはうるさがっているのだ。なれば声をあげれば容赦なく踏みつけられるであろう。
 ギーシュは歯を食いしばって堪えきれないうめきを抑え、そしてぶんぶんと頷くことで「わかった」とアピールする。今はとにかく、それしか方法がないと思った。

「……ギーシュ。あんたに任せてたら下らない質問ばかりしそうですわ。それはそれでご主人様は楽しまれるかもしれませんが、それでは手間が掛かりすぎますの。ですからわたしの方から必要な事を説明していくことにしますわ」

 ギーシュはぶんぶんと首を振った。何といってもモンモランシーはまだ足を乗せたままなのである。それ以外に方法はなかった。

 ……いやいや、一瞬俺まで縮みあがっちまったぜ。…ホント、女ってのは怖いねェ……。

 ちらりと振り向いたモンモランシーが同意を確認してくる。才人に異存はなく、ケティの身体をまさぐりながら、鷹揚にうなずいてみせる。
 なんでかわからないが、モンモランシーは機嫌が悪いようだ。任せておいたままで、必ずやいい仕事してくれると思う。

 っさ、どうなる? この流れだと…もしかして心が折れちまって、唯々諾々と奴隷の立場を受け入れちまうか? それともやっぱり、最後には無駄な抵抗で罵りでもしてくるか? くっくっく…いったいどっちなんでしょうね?

 才人の興味は尽きない。一体どんな決着になるんだろう? わくわくしながら続きを見る。果たしてギーシュは最後まで心が持つであろうか? なんとも興味深いと、そう才人は思うのである。

 モンモランシーは汚れてしまった足でギーシュの腹を踏みつけ、なすりつけ、それからその足をすっとずらして解放させる。このあとを考えればこうしておく必要があった。何故なら恐怖で強制させて答えさせるのではなく、できるなら自主的に答えてもらいたいのだ。

「ふふふ……じゃあギーシュ。これからのあなたの立場を説明していくわ」
 
 モンモランシーはにっこりと微笑んだ。足を退かしてもギーシュはおとなしいままで、それが彼女の機嫌をよくさせたのである。
 それに何と言っても勝手に進めたのに、才人は咎めるどころかニヤリと笑ってうなずいてくれた。これならもしかしたらご褒美の対象となるかもしれない。

 ああ…ご褒美よ、ご褒美。頑張ってしつけなくちゃいけないわ……。

 あの圧倒的な快楽に余韻としてのありえない幸福感。もう、一度味わってしまうと病み付きになってしまう。それはもう、想像するだけで痺れてしまうほどだ。
 身体がこなれていくに従い、モンモランシーはご褒美の甘さを味わえるようになってきている。
 だからもしかしてと思ってしまい、そうなるともう我慢ができなくなってしまった。そしてそれは今回のミッションをやり遂げれば味わえるかもしれない。そうなればだ。

 更に気分が良くなったモンモランシーはにんまりと嗤う。

 っっぐううっ……モ、モンモランシー……。た、立場って一体なんなんだ? っそ、それにだ。ぐむっ~~~っっ、ど、どうしてそんなに嬉しそうなんだ……。

 ギーシュはとにかく訳が分からなかった。才人の目的は奴隷を見せびらかして自慢する事ではなかったのか? 惚れた女を奴隷にしたと、土下座させた意趣返しをしたいだけではなかったのか?
 それなのにいきなりモンモランシーは豹変し、自身の立場を説明するという。
 平手打ちばかりか容赦なく己のシンボルを踏みつけ、あまりの苦痛にのたうちまわることになり、失禁までさせられたというのにそれを気にする素振りさえ見せず、これから自身の立場を説明していくのというのである。

 っっな、なにを言うつもりなんだ? づっぐぉぉぉっっ……っ、はぁ…はぁ…た、立場ってなんなんだい? っづ…っく、な、何を言うつもりなんだい、モンモランシー……。

 とてつもなく嫌な予感しかしない。なにやらとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。ギーシュの疑心は膨らんでいく。
 そう、なにかとんでもない勘違いをしていたのかもしれないと、ようやくにしてこの時ギーシュは気が付いたのだ。

「ではギーシュ。よく聞きなさい」

 モンモランシーが嗤っている。だが、ギーシュにはおとなしく聞くより術がない。痛みを堪える為に、その場所を押さえることすら、今のギーシュにはできないのである。
 歯を食いしばり、鼻で呼吸することによってうめきを抑える。これから何を言われるのかまったく予想がつかず、閉じようとしてしまう目蓋を堪えて見上げるしかなかった。
 そしてモンモランシーはそんなギーシュに満足した。今後の説明を始めることができると、そう判断をした。だから当たり前のことを突き付けたのである。

「うふふ……あんたはね。これから一生、わたしとケティの奴隷として生きていくのよ」

 瞬間、ギーシュはモンモランシーが冗談を言っているのだと思った。だってそうではないか。想像もしてなかったことを、嗤いながら言ってくれたのだ。

「だからね、ギーシュ。これからそのちんぽの管理は私たちがやるわ。もう女に使う事はないと思いなさいな」

 ギーシュはこの時、痛みを忘れてしまう。なにやらじんじんと熱のある場所があるように思えるが、関係がない。あまりの言葉に呆けてしまい、まじまじとモンモランシーの表情を確認してしまう。

 モンモランシーは口の端をニンマリと釣り上げていた。

「当然のことよね、ギーシュ。奴隷なんだから当たり前よ。まったく、だから何度も聞いてあげたんじゃない。これが最後のチャンスなんだって。
 ああ、もう、せっかくのご主人様のご好意だったのにね。一回くらいは使わせてあげようって。……ギーシュ、もうあんたはちんぽを使う必要がないわ」

 やれやれと頭を振るモンモランシーだった。だが、ギーシュはそんな彼女を見ているようで、見ていなかった。
 ショックが大きすぎてどこか他人事のように聞こえ、考えが纏まらなくて聞き違えてしまったと思い込んだ。

 ……は…はははは……、僕が奴隷って冗談を言うもんじゃあないよ。……お、おかげでモンモランシー、何を言ってるのか聞こえなかったじゃあないかね……。

 だからモンモランシーがもう一度言ってくれないかと期待して、それでまじまじと見詰めるより方法がなかったのである。



 ギーシュは己の耳を疑った。どう考えても冗談か空耳だとしか思えなかったからだ。だがモンモランシーはやれやれと頭を振った後はニンマリと嗤い、そうしてそのあとは一転して厳しい視線で睨んでくる。
 きょろきょろと辺りを窺ってみた。すると才人は興味津々で覗き込んできているし、ケティは才人の胸に身体を預けながら、幸せそうに微笑んでいた。
 状況の示すのは“本気”だった。モンモランシーは自分を自身とケティの奴隷とし、今後は肉棒の管理をすると言っている。

 ……じょ、冗談じゃあ、な、ないのかね? そ、空耳でもないっていうのかね?

 仕方のないギーシュはモンモランシーが本気であることを認めた。認めざるをえなかった。何故なら自分を除いて驚愕の表情を浮かべているのはいなかったのである。

「っっふざけるなっ! そんな馬鹿なことが認められるわけがないじゃないかねッ!」

 ギーシュは思った。モンモランシーもケティも、洗脳されるか薬でも飲まされるかして狂ってしまったのだ。これはもう、弱みを握られて言わされているとかのレベルではない。
 才人によって狂わされ、正気を保っていないのだと、そう判断せざるをえなかった。

「っモンモランシー! きみは狂ってしまったのか! そんなことが認められるわけがないじゃないかッ! 馬鹿も休み休み言いたまえッ!」

 そしてだ。いくら狂わされたのだとしても、これはもう限度を超えているだろう。例え被害者であろうとも、怒りをぶつけるのになんらの躊躇も覚えない。
 だって酷過ぎるではないか。一生奴隷となって生きろと言われ、肉棒の管理をするなど、これはもう我慢の限度を超えている。
 冷静に考えれば才人に怒りをぶつけるのが正しいのかもしれない。だがギーシュの沸騰した頭では、直接言った相手に怒りをぶつけるよりしょうがなかったのだ。

「……ギーシュ。うるさいって言ったのがまだわからないのかしら? それからわたしはあんたの主人になるって言ったはずよ? ……どうやら、まだ、身分がわかってないみたいね……」

「!っ来るな! 来るんじゃないッ! モンモランシー、きみは狂ってしまったんだ! 狂わされてしまったんだよ! だ、だから僕はきみを恨んだりはしないッ! っだからモンモランシー、来ないでくれっ!」

 冷たい視線で睨んでくるモンモランシーが怖い。とてつもなく怖い。だが、奴隷などとてもではないが認められない。もしこのまま話が進んでしまえばそうなってしまうかもしれない。
 そしてギーシュには思い付かなかった。取りあえず頷いておいて、解放されてから約束を反故にするというのも、恐慌に陥った頭には思い付かなかった。
 だからギーシュは縛られた不自由な身体で必死に後ずさり、そして股間の痛みを堪えて足を出した。それでもって精一杯の抵抗をし、モンモランシーを近づけたくなかったのである。だが

「……仕方ないわね。ケティ、手伝ってもらえるかしら?」

「あ、はい。モンモランシーさま」

 モンモランシーはケティを手伝いに駆り出すことで解決しようとする。下手に取り押さえようとすれば手間が掛かり、最悪は転んでしまうかもしれないと思ったのだが、二人掛かりならわけはない。
 協力して取り押さえ、そのあとケティに片方の足を持たせ続ければ、後ろ手に縛られているギーシュにはどうしようもなくなってしまうのだ。
 ニヤニヤ嗤う才人から「いってこい」と送り出されたケティ。ご主人様のお役に立てるし、それにモンモランシーは尊敬すべき先輩である。手伝えるのは嬉しく、躊躇いなどあるはずもない。

「っひっ、っぁあぁぁあぁぁ……、や、やめてくれ、モンモランシー。お、お願いだ……」

 そうして、ギーシュは取り押さえられてしまったのである。

「モンモランシーさま。ギーシュさまをどうなさるおつもりですか?」

 とんでもない不手際を才人に晒してしまったと、モンモランシーは怒りに震える。一体ギーシュをどう扱うべきだろう?
 取りあえずだ。ギーシュなぞを自分の仲間が“さま”付けで呼ぶなど我慢できるであろうか? それは否、断じて否である。

「……ケティ。まだ説明の途中だけど、もう“さま”はいらないわ。呼び捨てにしなさい」

 だから片足を抱えるケティに命じた。ケティは素直に「はい、モンモランシーさま」と応える。チラリと確認した才人が嗤っていたのだから当たり前なのである。
 ギーシュはもうそんなやり取りだけで歯の根が合わない。がちがちと震え、怯える視線で見上げるしかない。

 っはぁあぁっ、っぁあああああああああっ……! ぼ、僕はこれから、どうなってしまうんだ……。

 モンモランシーが怒っているのがわかる。オーラが立ち上っているかのように、途方もなく怒っているのがわかるのである。
 つい先ほどは視線をずらしてしまったくらいで顔の形が変わるほどに殴られ、肉棒を容赦なく踏みつけられてしまった。ならば今回はどうなってしまう? 
 口ごたえをし、狂っているとまで言ってしまったのだ。想像するだに恐ろしい目に合わされるに決まっていた。

 ……くっくっくっ…こいつは面白え。モンモランシーはどうするつもりなんだ?

 才人はモンモランシーの怒りぶりに興味深々である。何故これほどまでに怒っているのであろう? それはわからないが、予想以上の展開だった。これならもしかして、本当に唯々諾々として奴隷の身分を受け入れるかもしれない。

「……ギーシュ。黙ってわたしの話を聞きなさい。答えなくてもいいわ。ただ黙ってわたしの話を聞きなさい」

 ギーシュはぶんぶんと頭を振る。選択肢など他になかった。今のモンモランシーは危険である。ちょっとでも逆らおうものなら、容赦なく踏みつけてくるに違いない。
 ようやく治まってきた股間の痛みだがまだまだ酷いし、この上から重ねられようものなら気が狂ってしまうだろう。ごくりと生唾を飲み込み、逆鱗に触れない様に注意しなければならないと思ったのだ。

 っっよくも恥を掻かせてくれたわねッ! ギーシュ、覚えてらっしゃいッ!

 そしてモンモランシーだが、表面上の冷めた視線とは裏腹に怒り狂っている。何故なら奴隷をしつけられていないのを才人に見られてしまったのだ。せっかく任してくれたというのに、これでは台無しではないか。
 だが、ここで思い知らすわけにはいかない。でないと話が進まない。ぐっと怒りを堪え、モンモランシーは淡々とギーシュの境遇を説明していく。なに、あとでたっぷりと思い知らせばいいのだ。ここはぐっと怒りを抑え、ギーシュへの説明を優先すべき。

 っ……モ、モンモランシー……。ほ、本当に正気なのか? っ、やっぱり怪しげな薬でも飲まされて、狂わされてしまったのじゃあないのかい?

 そしてモンモランシーは説明を終える。全ての説明にいちいちうなずいていたギーシュだったが、その顔色は真っ青になってしまった。それでもいちいちうなずくしかなかった。

 っだ、だってだよ、きみ。し、信じられるわけないじゃないかね……

 そう、モンモランシーは本気だった。鋭い視線でギーシュを睨み、返答にうなずくのが遅れる素振りを見せようものなら、それはもう明らかにイラついていた。
 素直に、黙って、モンモランシーの話を聞くよりしょうがなかったのだ。

「さあわかったかしら? わかったんなら教えられた通りにやりなさい」

 モンモランシーはぐいっと股間を突き出していく。それを見たケティはギーシュの足を解放し、「ギーシュ、モンモランシーさまのご命令ですわ」と、正座へとなるようにうながしたのである。

 だがあまりの内容だった。ギーシュは躊躇い、逡巡してしまう。

「ッ早くしなさい! ご主人様がお待ちなのよッ!」

 するといらだっているモンモランシーはギーシュの髪を掴む。顔を上げさせ、そして往復でビンタを食らわしていく。既に口中を切っているギーシュは辺りに血をまき散らしてしまうが、モンモランシーは気にしない。何故ならご主人様が見ているのである。

 モンモランシーはこれ以上待たせるわけにはいかなかった。これ以上の不手際を見せるわけにはいかなかった。だからついつい力が入り、それは全く容赦のない張り手となってしまった。
 バジィイイイン……! と頬が鳴るたびにギーシュは明後日の方向を向き、むんずと髪の毛を掴み直すとパラパラと髪の毛が落ちる。五回、六回…。そして八回、九回…。
 涎と血しぶきがその度に飛び、憤怒のモンモランシーは手の感覚がなくなるまでギーシュを殴った。

「ッげええっ、か、かがあぁっッ……ぅぐ…モ、モンモランジーざま! どうがぼぐを奴隷どじで認めてぐだざい! な、何でもやりまふっ! で、でふからどうがっ、ぼぐはモンモランジーざまの奴隷とひて認めでぐだはいッ!」

「……そう。それでいいんですわ。やっと素直になりましたわね。認めてあげるから忠誠のキスをなさいな」

 ああ、やっとギーシュが納得したと、穏やかな声になったモンモランシーが先を促す。文字通り血を吐く思いで屈辱の言葉を口にしたギーシュだが、やっぱり狂ってしまったんだと思った。
 元凶である才人をついつい睨みたく思ってしまうが、慌ててその考えを打ち消す。バレてしまったらモンモランシーが何をするかわからない。

 っ……い、今だけだ! とにかく今を乗り切らないと……!
 
 とにかく今日に限っては完敗を認めるしかないと思った。才人の罠にまんまとかかってしまったのだ。しかしである。明日を覚えていろと、ギーシュは復讐を誓う。
 どうやったかは知らないが、二人もの貴族を狂わしてくれた才人は危険であった。貴族の一員として、ギーシュには平民の反逆の芽を潰す義務がある。そのためには従順に振る舞って屈辱を堪えるしかない。そうして解放されたなら、その足で学院長室に行かなければならないと思ったのだ。

「っ……モンモランジーざま。ギージュはじょうがひのじゅうへいをじがひますふ……」

 目の前にはすっかりと潤んでしまっている恥丘がある。そしてモンモランシーが髪を掴んだ。逡巡してしまったなら、またもや殴られてしまうだろう。
 選択の余地はなく、ギーシュはあこがれていたモンモランシーの秘口へとキスをした。酸味としょっぱさが傷口へと沁みる。
 直ぐにも口を離したいが、モンモランシーは頭を押さえつけたままだった。仕方のないギーシュは口づけたままに時間を数える。モンモランシーが「よし」というまでキスし続けなければならないのである。

「……うふふふ……さ、飲みなさいな……」

「!っっげへっ…が、がはっ……はぁ…はぁ……っ、ど、どうほ、モンモランジーざま……」

 説明では「ギーシュ、忠誠のキスのあとはわたしのおしっこを飲むの。うふふ…これからのあんたの仕事よ」と言われた。選択の余地がなかったギーシュは青褪めた顔でうなずいていた。
 そして主人となるモンモランシーとケティの顔を見上げ、口を限界まで開け、すべて飲み干すようにと言われていたのである。

「!っ……が、がばばっ……! ぐっ、がぁ~~ッ、っげっ…げばばばばっ……!」

 しゃぁぁぁぁぁっと顔全体へと飛沫が降りかかってくる。口元を中心に血が洗い流され、代わりに傷口へと塩が刷り込まれたようなものだった。とにかく沁みる。もう勘弁してほしいと訴えたい。

「っっご、はンぐぅぅ~~ごっ、ごくっ…~~ご、ごくごくっ……!」

 だが、それでもギーシュにそんな選択はできなかった。説明された通りに小水を飲み続けるしかない。
 何故なら相変わらず髪を掴まれたままだで顔を離せなかった。そしてもし拒否をして口を閉じようものなら何をされるかわからないのだ。
 そしてだ、そもそも飲み続けないと溺れてしまう。だからギーシュはどうしたって飲み続けるしかなかった。屈辱だろうと、傷口にいくら沁みようと、ギーシュには選択の余地はなかったのである。

 ……くくく…いいねいいね。ギーシュの奴屈服しやがった。自分から奴隷だって認めやがったぜ……。

 何を考えているのかはわからない。だが、ギーシュはモンモランシーへと自らの言葉で「奴隷にしてください」と訴えた。これは心が折れているのだろうか?
 五分五分だろうと才人は判断する。従順に振る舞っているが、縛られている上に実際に暴力を振るわれているのだ。才人が相手なら心に秘めているものがあるだろうが、モンモランシーだ。
 惚れていたレディだから自己陶酔して奴隷を受け入れた可能性も、ないではない。

「……さ、次はケティに誓いなさい。ギーシュ、あんたは以前言ってたわよね? 永久の奉仕者だの、僕は君のためなら何でもするだの。
 うふふ……だからね、ギーシュ。これから一生を賭けてそれを証明していくのよ」

 モンモランシーが離れていく。目へと小水が入ってしまい、痛くて開けられなかったギーシュにはそれを見ることが敵わない。だが髪を離されたのだから、おそらくモンモランシーは離れていったのであろう。
 このチャンスにとごほごほとえずいて呼吸を楽にしようとし、首を振ってしぶきを取ろうとする。モンモランシーにしぶきを掛けてしまったら、どんな目に合うかわからないのだ。

「っ~が、ががはぁぁッ…はぁ…はぁ…かっ、…けぼっ、ごっ~~ッ、はぁ…はぁ…はぁ……」

 そうしてギーシュがやっとのことで目を開けると、ぼんやりと見えたのはケティの股間だったのである。

「さ、ギーシュ。わたしにも忠誠を誓って下さいな」

「っ……ゲ、ゲティざま。ば、ばんでもはりまふがら、ぼ、ぼぐを奴隷どしで認めでぐださい……」

 断ると言う選択肢はなかった。だからギーシュは首を差し出していく。するとケティはその髪を引っ掴み、秘裂へのキスを強要する。ケティの股間もまたねっとりと濡れていて、それがまたギーシュの絶望を深くした。

 本当は今日自分こそがケティを濡らし、その初めてを貰うはずだったのに、なんで今はこんなことになっているのか。
 情けなくて情けなくて、そしてあまりにも絶望が深くて、涙が溢れてくるのをギーシュは感じる。

 本当に、何で、今自分はこんなことをやっているんだろう?

 っああ、ああっ、ケティはしっかりとしつけてみせますわ! そうしたらサイトさまっ! どうかケティを褒めてやってくださいまし!

 そして長い長いキスを施し、それが終わると再びの放尿。

 二度目であるからだろうか? それとも諦めが入ってしまって従順になってしまったからなのか? ギーシュは格段に上手に、しゃあぁぁぁぁっと放たれた小水をごくごくと飲み込んでいく。
 そして飲み終われば後始末をしなければならないだろう。ぺちゃぺちゃと水音が部屋中へと響き、かすかな嗚咽もまた、漏れている。

 ……いやいや、ホント、女は怖いねぇ。見捨てたとなったらまったく容赦しねえんだからな。くくく…さ、ギーシュはどっちを選ぶんでしょうね?

 そんな中、才人はくっくっくと薄く嗤っていた。

 そう、まだギーシュへのネタばらしはしていないのである。これまでの奴隷は支配してからネタばらしをしてきたのだが、今回は違う。ヒントを与え、そして決断をさせる。
 支配してからのネタばらしは同じだが、その前に運命をこれでもかと匂わせるのである。これが今回の計画の肝だった。

 その時、ギーシュはどんな反応を示してくれる?

 絶望し、しつけが怖いばかりに唯々諾々と受け入れるか。あるいは最後の抵抗を試み、そしてしつけを受けたあげくに手駒に堕とされることになるか。

「よし、始めろ。奴隷とはどんなものか、その一端を体験させてやれ」

 最後の準備が始まろうとしていた。これから奴隷の身分とはいかなるものか、その身体に叩きこもうと言うのだ。
 だからギーシュの身体は引き起こされた。後ろ手に縛られ、髪を引き掴まれていては、もうどうしようもない。ギーシュは才人の正面になるよう、身体の向きを調整されてしまう。

「っザ、ザイトざまっ! ゆ、ゆるじでぐだざい! ぼ、ぼう、ざからいまぜんがら、ゆるじでくだざいっ!」 

 引き立てられたギーシュが許しを請うた。これからしなければならないことを考えると、とにかく謝るしかないと思った。何を謝ると言うのではない。とにかく謝るしかないと思った。この状況を止められるのは才人だけなのだ。
 この窮地を救ってくれるのならば誰であろうと、例え悪魔であろうと助けを求めるしかないではないか。

「っ往生際が悪いわッ! さっさとケツをあげなさいって、っっ言ってるのよッ!」

「!ぎぇ、ぎょべぇぇぇええぇぇぇえええぇっぇぇぇえぇぇっっ……!」

 だが、ギーシュの後ろにはモンモランシーが立っていた。己の奴隷の不始末が許せない。
 だから手にしていた乗馬鞭を振り上げ、そしてその背中に叩きつけたのである。

「っこのクズ! のろま! 早くケツをあげなさい! ご主人様をお待たせするんじゃないわよッ!」

 ギーシュの背後でひゅんと風を切る音がする。モンモランシーが振り落とした鞭を再度構えたのであろう。

「!っ~~がっ~~~~ッ、っっ~~だ、だだいまっ! モンモランジ―ざまぁっ!」

 打ち身によって身体中が痛む。腫れ上がった口では上手くしゃベることが適わない。今受けてしまった鞭によって痺れ、身体の力が抜けてしまった。ギーシュのやるべきことは一つだったのである。

「……さ、始めなさい。サボったり、ケツが少しでも落ちるようなら鞭ですわ。それが嫌なら早くなさいな」

 希望であった才人はニヤニヤと嗤うだけで取り成してくれなかった。ならば、もう諦めるしかなくなった。ギーシュは水たまりの中へと頭を入れ、舌先だけでそれを懸命に舐めていく。

「っじゅ…ずずっ…ぺちゃ…ずずずっ…じゅるるっ…ぺちゃ…ずず……」

 ギーシュは始末しなければならなかった。失禁してしまった己の小水と、飲みきれなかった二人分の小水である。己の不始末は己で片付けるのは当たり前の話であろう。
 そして奴隷なのだから、手を使うなんて上等なことが許されるはずもないのである。

 ……くっくっくっ…惨めだよなぁ、ギーシュ。でもな、便女なマチルダより下にするって満場一致だったんだ。多分モンモランシーの扱いはこんなもんじゃあ終わらないと思うぜ?
 
 ぺちゃぺちゃと水音の末、ようやく一つ水たまりが始末された。モンモランシーは鞭でお尻を撫でることで、始末したことを褒めた。だが部屋の各所にはまだまだ始末すべき場所が残っている。

「ほら、次よ。早くなさいな、クズ」

 まだ先は長いわねと溜息をつき、鞭で尻を撫でることをやめる。モンモランシーは「次にいきなさい」と、合図にぴしっとギーシュに鞭をくれたのであるが……

「っっ早くしなさいって、っ言ったでしょぉ……ッ!」

 彼女には不自由な身体から行動の遅いギーシュを叱るために、鞭を一際高く振り上げる必要があった。



 憔悴しきった様子でギーシュが座り込まされていた。視線を合わせて嗤ってやると、ギーシュは情けなさそうに愛想笑いをしてみせる。
 何とかして呼吸を整えようと努力している最中であり、全身が痛むのでその表情を歪ませている。そして目を離すと床に倒れ込もうとするギーシュだったので、それをさせまいとモンモランシーが手を貸していた。
 具体的には髪を掴んで才人の方を向かせ、背筋を伸ばすように「姿勢が悪いですわ」と、その背中に鞭を振るうのである。ギーシュは疲労困憊となって、才人の顔を見上げていた。

「くっくっくっ…こう見えてモンモランシーは怖いからな。あんまり怒らせないようにするこったぜ?」

 ギーシュは泣きそうな顔になって、いや泣き顔で才人の指摘にコクリとうなずく。

 っ……はぁ…はぁ…ぐっ~~~~ッッ、かはぁぁっ……! な、なんてことだ。っモ、モンモランシーは天使だと思ってたのに……。

「で、どうだ? モンモランシーとケティの奴隷になる踏ん切りはついたか?」

 ギーシュの未来は奴隷である。それはどうあっても変わらない。だが、その将来を自主的に受け入れるか? それともそれは嫌だと泣き事を入れるか? その選択がまだなされていない。この選択をさせるために、これまでこんなにも回りくどいことをしてきた。

 ……くっくっくっ…どっちだ? どっちを選ぶんだ? それとも予想外の行動を取ってくれるのか?

 才人はニヤリと嗤う。いよいよ選択の時間であった。

 すると一瞬だけ逡巡したギーシュだが、やがて何かに気付いたような顔をする。そしてびくりと身体を震わせたかと思うと、ぶんぶんと大きく首を振ってイエスと応えた。
 まあ、ここまでは予想通りといえるであろう。脅されている最中であるし、解放されるならと、ギーシュならずともうなずくのが当たり前。そう、問題はここからであった。

「そうかそうか。じゃあ儀式をしなくっちゃあな」 

 視線を横へと向け、うなずいて合図を送る。すると才人に寄り添って幸せそうだったケティは微笑み返し、荷物のもとへと走っていく。戻ってきたその手には破壊の杖が握られていた。

「いいか? これからコイツをオマエのケツの中に入れる。今ロープを解いてやるからさ、覚悟ができたんなら思いっきりケツを開いて『お願いします』って言ってみろ。そうすりゃ二人ともオマエを奴隷として認めてくれるって寸法だ」

 破壊の杖を確認したギーシュの顔は真っ青になった。

 透明な円筒の容器に入っている白みがかった透明な液体。ギーシュに杖の正体や用途はわからなかった。だが尻に入れると言っているのだから、アレでもって肛門へと液体を入れるつもりなのであろう。
 そしてギーシュはその液体を怪しげな秘薬の類だと思った。それはそうであろう。常識からも、その量からも、とてもではないが才人の精液だとは想像できまい。

 っ……あれか!? あれが二人をおかしくしてしまったタネなのか!?

 しかし肝心なことはそこではない。おそらくはアレを入れられてしまうと、もう取り返しがつかない。ギーシュにはそのことが理解できた。
 何故ならモンモランシーとケティがおかしくなったのは、あの液体の所為に違いない。そうでないととてもではないが、二人の異常を説明できないのである。

 っくっ……ど、どうする? 逃げるにしても裸だし、杖だって奪われてしまってる。逃げきれるとは思えないし……

 考えるギーシュ。だが、いい考えがどうしても浮かんでこない。魔法なしで才人に勝てないのは決闘のときに嫌というほど理解させられた。それに容器の液体がアレ一つという保証もない。

 っっも、もしもだ。もしも逃げようとして失敗したら、ぼ、僕はどうなってしまうんだ?

 それに成功の確率の低い賭けに失敗してしまったら、どんな目にあわされるかわかったものではない。万全でも才人には勝てそうもないのに、今の自分は殴られ、鞭打たれ、ボロボロの身体なのだ。
 まさに八方塞がりだった。反逆しても成功の確率は薄い。薄すぎる。そして失敗したら恐ろしすぎる目に合わされるだろう。だがおとなしくしたままだと、おそらくは自分は奴隷となって抜け出せなくなってしまうのである

「くっくっく……モンモランシー、ギーシュの縄を解いてやれ」

「わかりましたわ、ご主人様。…ギーシュ。手首から力を抜きなさい」

 しゅるしゅると音をさせて、手首から縄が解かれていく。少しだけ安心したギーシュだった。どれだけぶりかで縄がほどかれ、身体が楽になったのだ。見れば手首はうっ血し、縄目の痕がクッキリと残っている。
 今は指先にまで血が回り始め、少しずつ握力が戻ってくるのがわかる。これならあと少しで物だって握れるように回復するだろう。

「さっ、ギーシュ。儀式の時間だぜ? くくく…そのまま限界までケツを上げろ。んで限界まで広げろ。“もしそのつもりになったんなら、俺の目を見ながら『お願いします、モンモランシーさま』と言ってみろ”」

 そうやって痛む手首を擦っていたギーシュに才人が問い掛けていく。きょろきょろと辺りを見渡せば才人だけではなかった。ケティはにこにこ微笑んでいるし、モンモランシーはにんまりと嗤いながらピストンを操作していた。

 っ……ぼ、僕はどうすればいいんだ……

 そう、ケティは破壊の杖をモンモランシーへと手渡してしまっていた。全員が自分を注視している。ギーシュはそのことに気が付いてしまった。全員がどう動くかに期待して、一挙手一投足に注目しているのである。

 っき、決められないよ! っき、決められるわけが、ないじゃ、ないかね……。

 だがギーシュは決断をしなければならなかった。そして、その余裕はあまりないだろう。何故なら早く決断しないと、後ろのモンモランシーがどう動くかわからない。

 っ……このクズ! のろま! 早く決めちゃいなさいな! ご主人様がお待ちでしょう! 

 反逆か、屈服か、わくわくしながら才人は待つ。これを楽しみにこんな回りくどいことしてきた。そしてそれはもう直ぐなのだ。逡巡していたギーシュだが、やがてゆっくりとその顔を上げてきたのである。

 っ来いっ! どっちなんだよギーシュ! くっ、あんまり焦らすもんじゃねえってーの!

 果てしてその決断やいかに? 才人は生唾を飲み込んだ。これからギーシュが口を開くのである。



[27351] 薔薇の行く末
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/06/21 23:03
 才人は意外そうな顔をしたあとにくくくっと苦笑した。ギーシュが膝立ちになったのだ。そして両手を使ってぐいっと大きく尻たぶを開いたのである。

「ほ、ほねがひひまふっッ! モンモランジーざまッ! ど、どうか入れでぐだざいッッ!!」

 ギーシュは屈服の道を選んだ。ここまで来るのに実はもう一悶着あったのだが、こうなった以上はどうでも良いことであろう。なんと、ギーシュは自ら奴隷になると言ったのである。
 ケティは微笑み、モンモランシーは満足気にうなずいていた。

 っだ、だって仕方ないじゃないかッ! ッぼ、僕はモンモランシーが怖いんだよッ!!

 これは快挙だった。奴隷の扱いとはいかなるものかを匂わせ、一端を実行させ、それなのに正真正銘で「生涯の奴隷としてください」と宣言したに等しかった。
 しかもギーシュを責め始めてまだほんの数時間しか経っていないのである。これを快挙と言わずして何というのか?

「…………ほぅ、いいのか? 儀式をしたら一生二人の奴隷なんだぜ?」

「っが、がばいまぜんっ! い、入れでぐだざいッ!」

 一体何を考えているのだろう? やはり信じていないのだろうか? だが、才人としては結果が全てだ。そしてこの豹変ぶりは大歓迎だった。ここは決意が変わらないうちに話を進めるべきであった。だから才人はニヤリと嗤う。
 サイドテーブルを顎で示し、了解したケティは部屋の中央へと引き摺ってくる。支えがないと身体を支えきれないので、そのお腹に当てようと言うのだ。

「……ギーシュ。もう一度言いなさいな。思いっきりケツを開いて、『お願いします』って言うの。そうしたらコレをケツ穴にぶっ刺して差し上げますわ」

「っっほ、ほねがいひまふッ! モンモランシーざまッ! っゲ、ゲツにぶっ刺じでぐだざいッ!!」

 この期に及んでは躊躇いはない。早く終わらせ、早く解放して欲しい。ギーシュの心はただそれのみしか考えられなくなっている。

「うふふ……よくできましたわ。ギーシュ、褒めてあげるわ」

「あ、ありがどうございまう!!」

 満足気に口の端を釣り上げ、目標へと狙いを定める。モンモランシーの瞳がキラリと光り、その視線の先はひくひくと蠢くギーシュの菊穴。
 モンモランシーだって最初はその良さがわからなかった。でも、今では違う。膣には膣、アナルにはアナルの良さがあるとモンモランシーは理解した。才人によって理解させられてしまったのだ。
 ならばギーシュが例外であるはずがない。モンモランシー、およびケティ。ギーシュはこの二人によってその良さを教えられることになるであろう。

 ……うふふ……さようなら、ギーシュ。そしてようこそ、ギーシュ。新しい世界へ。

 モンモランシーがこれで本当に一杯なの? と、そう確認するためにスパンキングを一つ。するとギーシュは更に力を入れ、その時に備える。
 渾身の力を込めているのであろう。真っ赤な顔をし、鼻息も荒くなっている。おそらくは長く持たないと判断した才人はモンモランシーにニヤリと合図を送ってみせる。

「ッッアッ、アッッーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 そして、破壊の杖はギーシュの菊へと挿入された。モンモランシーがピストンを押し、才人の精液が注入されてしまった。テーブルへと突っ伏し、なんとか呼吸を整えようとするギーシュ。杖のひんやりとした感触と、注入された液体のおぞましさに絶叫と言える悲鳴をあげてしまった。

 っっこ、これで終わりだ……。っこ、これでやっと帰れるんだ……。

 ぬぽっと一気に破壊の杖は抜かれる。

 ……くっくっくっ、こっからだな。ここまでやってギーシュに咥えさせるなんて勘弁だぜ?

 才人は「よく頑張ったな。だがこんなのは序の口だと思うぜ?」と嗤いかける。するとギーシュは愛想笑いを浮かべてみせた。その心は「頑張りました。ですからもう勘弁してください」辺りであろうか?

 いずれにせよ、最後の儀式が終わったのである



 さて、話は10分ほどさかのぼる。ギーシュはロープを解くことを許され、しかし同時にシャツをも抜き取られ、とうとう全裸にさせられてしまった。才人の目にはその立派なブツがすっかりと縮こまってしまったのが確認できる。
 何故であろう? 女が二人、それも全裸ですぐそばにいるのである。ギーシュは女好きではなかったのだろうか? 才人はらしくないなと思ったが、そんな時もあるだろう。それより今はギーシュの決断だった。

 ……くっくっくっ…、さあ、ギーシュ。どうするんだ? 

 ギーシュは部屋の中央で正座となって、辺りをせわしなく見回している。ニヤリと笑い掛けてやると、生唾を飲み込んだのが確認できた。背筋を伸ばし、頬を引くつかせながら笑った。そして――

「ほ、ほねがひしまふっ! が、がんべんしでぐだはいッ!!」

 ギーシュは床へと手をついた。そして額を擦りつけて「勘弁してください」と泣きついてきたのだった。

 ……あーあ、結局はそっちか。ギーシュならって期待したんだけどな……。

 果てしてギーシュの決断は否であった。自主的に奴隷になるのを拒否し、破壊の杖は嫌だと言ってきた。
 この結果には才人はがっかりだった。期待が大きかっただけに興醒めもいいところだったのである。

「やめろ、モンモランシー」

 鞭を構えようとしたモンモランシーを止める。そんなことよりこれからどうするべきかを考えなくてはいけない。しつけは大事だが、悲鳴があってはうるさくていい考えが思いつかないのだ。

「ふうぅぅ……がっかりだな。ギーシュ、がっかりだよ。もしかしたらって思ったんだけどな……」

「っ…………」

 ギーシュには何ががっかりで、才人が何に失望してしまったのかわからない。だがこんな状況へと追い込んでおきながら勝手に失望するなど、身勝手にも程があろう。ギーシュの心に怒りの感情が湧き起こる。
 モンモランシーたちに命令して散々に鞭で殴り、床の小便を舐めることで始末させ、今だって全裸にされて土下座させられている。まったく屈辱の限りだった。

 った、頼むっ! 何でもするからその秘薬だけは勘弁してくれっ! オールド・オスマンにも言わない! 足を舐めろと言うなら舐めても見せようっ!

 だが口ごたえなどとんでもなかった。それに下手に「何でもするから許してくれ」などと言った日には、才人は「じゃあ言うとおりにしろ」と言うに違いない。
 ならばできることはただ一つだった。言葉は少なくただ頭を下げ、言われたことにだけ答えればいい。だが、破壊の杖だけは駄目だ。これだけは断る必要がある。
 舎弟になるくらいなら耐えてもみせようが、取り返しがつかなくなるであろう破壊の杖だけは駄目だ。反逆しても成功の確率は低い。低すぎる。だからギーシュは言葉は少なく、土下座し続けることによって、慈悲に縋ろうと考えた。
 果てして才人はどう応える? 許してくれるはずとギーシュは信じるのだ。何故なら貴族がこれだけ頭を下げている。才人だって悪魔ではあるまいと、ギーシュは信じるのである。

 くっ、頼むよサイト! 復讐なんて考えない! 今後一切近づかないから、それで勘弁してくれないかねッ!!

 すると才人は頭を下げたままのギーシュに構わず、不機嫌そうな声で「ケティ、ここまでの時間は?」と確認した。そしてケティは「三時間を超えたところですわ」と回答し――この時ギーシュは閃いた。

 あの秘薬には時間制限がある!?

 ギーシュは高速で思考する。もしかしたら、あの液体を入れられても大丈夫な可能性があるのでは? だが、そんな不確定なことに己の将来を賭けるわけにはいかない。この期に及んでは浣腸ぐらいで解放してくれるならその程度はやぶさかではないが、やっぱり浣腸は駄目だろう。ではこのまま時間稼ぎに徹するのはどうか? 時間制限のあるであろう秘薬を使えなくし、嫌でも解放せざるを得なくなる朝まで粘る策だ。だが問題は本当に時間制限がある秘薬かということ。ギーシュは一時期気絶していたので今の時間はわからない。しかし、おそらくはケティの言うとおりにワインを飲まされて3時間程度しか経っていないであろう。そうなると朝までたっぷりと。仮に今が日付が変わるくらいだとすると、6時間以上はある計算になる。

 っ無理だ! 倍以上の時間なんて耐えられないよ!

 ギーシュは不可能だと思った。それに押さえつけられ、強引に入れられてしまったらどうしようもない。もし時間制限のある秘薬だとしたら、才人は直ぐにも入れてこようとするであろう。そしてギーシュにはそれに対抗する術がないのである。

 つまりどうあがいても運命は変えられない? 抵抗も時間稼ぎも意味はないのか?

「っ…………っサ、ザイドざまッ!」

「ん? どうしたんだ?」

 ギーシュは決断した。もうこれしか方法はない。少ない可能性に賭けるしかない!

「っほねがいじまずっ! モンモランジ―ざまッ! い、いれへぐだざいッ!!」

 手を当ててぐいっと大きく広げる。才人の目を見て宣言をする。ギーシュは屈服の道を選んだ。どう考えてもこのまま朝までの責めには耐えられるとは思えなかった。
 ならば運命が変わらないと言うのなら、少しでも苦痛の少ない方を選びたかったのである。

「…………ほぅ、いいのか? 儀式をしたら一生二人の奴隷なんだぜ?」

「っが、がばいまぜんっ! い、入れでぐだざいッ!」

 まさに予想外、大どんでん返しだった。

「……くっ、くくくく……。よ、よし。じゃあそのままじゃ俺の目が見にくいよな?」

 合図を受けたケティの引き摺ってきたテーブルへと腹を乗せた。それから尻の肉を掴んでぐいっと両手で押し広げた。モンモランシーが杖を構え、ひんやりとした先端を菊の中へと差し込んでくる。
 ギーシュは動けない。動くわけにはいかなかった。それどころか菊の力を抜かなければならなかった。

 そして、注入開始。

 おぞましい感触と絶望感から悲鳴をあげた。だが、モンモランシーは手を休めない。しっかりと、最後まで、ピストンを押し切ってしまい、それからぬぽっと音をさせてからギーシュを解放したのだった。

「っ~~ッはぁ……はぁ……はぁ……っ~~ッはぁ……はぁ……」

 ギーシュは机に突っ伏したまま、荒い呼吸で息を整えようとしている。どうやら心が折れているようだと才人は判断するが、そんなことはどうでもいい。才人は「その場で立ってみろ」と命令した。するとギーシュはのろのろと身体を起こしてきた。そうして椅子に座っている才人に、卑屈にしまらない笑みを見せたのである。

 ふむ。……それじゃあ確かめるとしましょうかね?

 支配に成功しているかどうか。それを確認しなくてはならないであろう。上手く行かないとギーシュにフェラチオさせるか、おカマを掘らなくてはならない。
 才人は能力を解放する。だから才人は真剣だった。願うは女好きなギーシュが裸の女が近くにいればどんな反応をするであろうか? そしてそうなるにはどうすればいいか?

「……くっ、くくく……上手く行ったみたいだな」

 才人は嗤った。そしてギーシュはありえないと驚愕することになったのである。

 っば、馬鹿な……こ、こんなこと信じられないよ……。

 それを確認すれば、もう才人にはギーシュに用がなかった。だから「“ギーシュ。モンモランシーとケティの命令は俺の命令だと思え”」と言い放つ。ギーシュの管理はモンモランシーとケティの仕事なのだ。そして才人の仕事はそのモンモランシーとケティの管理なのである。

「くっくっくっ、それじゃあギーシュに説明しといてやれ。それが終わったら褒美だ。じっくりと可愛がってやるから、それを楽しみに説明と最初の教育とをしといてやれ」

「!わかりましたわ、ご主人様。ギーシュには説明と、みっちりと教育をしておきますわ」

 モンモランシーには願ってもない言葉だった。計画を進めないといけなかったので我慢していたのだが、これでようやくしつけを出来る。そしてその暁にはじっくりと褒美をくれると言うのだから、文句などあるわけがない。

「!お任せくださいまし、ご主人様! ケティは頑張ってやりますわ!」

 そしてケティだった。なんとご褒美がもらえるという。褒めてもらえるどころか、ご褒美をもらえるという。才人はきっときっと思う存分中出しをしてくれ、美味しい精液を堪能させてくれるに違いない。

「……うふ…うふふふふふふ……」

 バタンと音をさせ、才人が部屋から出ていく。モンモランシーはおかしくて堪らないと言う風に笑った。だが、ギーシュとしては困惑と恐怖とでそれどころではない。
 二人をこれほどまでに喜ばせる“褒美”とは一体何なのか? そうして一体今から自分はどうされてしまうのか? どう考えても、悪い想像しかできないだろう。

「モンモランシーさま! ご褒美ですわ! ご主人様はご褒美とおっしゃっていましたわ!」

「そうですわね、ご褒美よ。うふふ……頑張らないといけませんわね……」

“ご褒美”と聞いてケティは目を輝かせる。ぎゅっと胸を抱えて天井を見上げ、陶酔したあとはにんまりとギーシュに微笑みかける。
 ああ、ああ、とギーシュは思った。モンモランシーだけではなかった。ケティもまた、ギーシュへの暴力に躊躇いを覚える人間ではなかった。
 
 ならばこれから自分は二人掛かりで責められてしまう? そして教育とはいかなる意味を指してしまう?

「……ねぇギーシュ、質問してもいいかしら?」

「っは、はい。モンモランジ―ざま。なんなりとどうぞ!」

 くすくすとモンモランシーは笑う。にんまりとしてケティが嗤っている。

「話は聞いていたんでしょう? これからあんたは説明を受けて、それから教育を受けることになりますわ。それなのに、ねぇギーシュ。何をそんなに期待しているのかしら?」

「…………」

 ギーシュは答えられなかった。自分でも何故だかわからないのである。だからじっとしてうつむき、床を眺めるのであるが……

 っっな、なんでなんだ? こ、こんなことありえないじゃないかねッ!

 視界に映る肉棒はこれ以上ないくらいに反り返り、びくびくと蠢き、カウパーを溢れさせていた。これからおそらくは想像を絶する責めを受けると言うのに、なんで自分は勃起をしているのか? 
 ギーシュには信じられなかった。だがそれは紛れもなく事実だった。そしてふと気配に気付いたギーシュが顔をあげる。

 っ……ぼ、ぼくは、一体、これから…ど、どうされて、しまうんだね……。

 そこには2人の女がにんまりと嗤って立っていた。



 才人にとってシエスタに八つ当たりし、己に土下座させた罪は重かった。それに手駒としての価値しかなく、使用することのできない奴隷、それがギーシュ・ド・グラモンである。だから才人は迷わなかった。マチルダの下で充分であろう。
 
 では才人の提案に各奴隷の反応はどうだったか?

 ルイズはギーシュなどどうでも良かった。反対すべき理由がないのだから賛成に回った。庇いだてしたところでメリットはないし、ご褒美の機会も遠のいてしまう。賛成が才人の意志なのである。
 そしてキュルケ。キュルケも概ねルイズと同様であった。ただ決闘において衆人環視で才人を嬲ろうとした事実は覆らない。これは許されることではないであろう。よってどちらかというと、賛成より大賛成だった。
 ではモンモランシーはどうか? 彼女も見捨てた以上はどうなろうとかまわなかったので賛成。マチルダは自分の下がいるのは嬉しいので大賛成。ケティも才人のやることならすべて大賛成なのだ。
 まあ問題はマチルダとの兼ね合いをどうするかだけだったし、基本的に関わり合いがないはずなので、奴隷たちは全員が賛成に回ったのである。ギーシュに味方は、いなかった。

 さて身分が決まれば次は扱いとなるであろう。才人が使うことはないのでモンモランシー、あるいはケティに丸投げすることは比較的早く決定する。問題は次であった。どんな奴隷として楽しむべきであろうか?
 才人が使うつもりはないのだから、嗤われる存在であってもらいたい。そのためにはどうあるのが適当なのであろうか?

「ねぇ、モンモランシーはどうしたいの? 管理するからには手元に置いておく必要があるわ。ギーシュを生きたディルドーとして使うつもりはあるのかしら?」

「……いりませんわ。ギーシュのちんぽなんていりません。ちんぽはサイトのおちんぽが一番ですわ」

 キュルケがモンモランシーへと問い掛けた。答えは当然否である。そんなことをすれば才人の不興を買ってしまうだろう。
 それにギーシュの肉棒やテクニックが才人に勝っているはずもないのである。

「じゃあどうするの? ギーシュには何をさせるの?」

「……そうですわね。やはり情報収集と、イザというときの盾でしょうか?」

 ルイズもモンモランシーに問い掛ける。ケティは質問されれば答えるものの普段は控えめであるし、マチルダも奴隷の奴隷であるからして発言力が弱い。
 結果としてルイズ、モンモランシー、キュルケが中心となって主導権を取り、才人はニヤニヤしながら必要なときだけ会話に加わるのである。

「……では、現場の判断がありますので確定ではありませんが、一応最終決定ということでよろしいですか?」

「うん、それでいいと思うわ。うふふ…どうなっちゃうのかしらね?」

「そうね~。まっ、それでいいと思うわ。今の段階ではあんまり目立つわけにはいかないしね。でも、それなら奴隷の身分だってすぐわかるしね。…うふふ…便女も文句なんかないわよね?」

「え? あ、はい。うふふ…そうですわね。それくらいなら言い訳が利くと思いますわ。…ケティお姉様はどうでしょう?」

「はい。それでよろしいと思いますわ。ギーシュさまにはお似合いではないでしょうか?」

 ギーシュの扱いが決定した。ポイントはこれまでの行いと性格を参考に、奴隷らしい味付けを加えていくこと。

 まず第一にどう呼ばせるかだが、普通に“さま”付けにする。才人はギーシュに“ご主人様”とは呼ばれたくなかったが、だからといって呼び捨ては不敬にあたるだろう。
 モンモランシーたちもマチルダのように“お姉様”は嫌だったし、“さま”付けとなったのである。
 まあ才人としては敬語はともかく別に呼び捨てで構わなかった。主人とは不自由なものだと苦笑したのだが、例えば他の奴隷がモンモランシー様と呼ぶのに、呼び捨てを許しては沽券に係わるのだ。
 それからギーシュをどう呼ぶかだが、位置づけとしてはマチルダの下になるギーシュである。本来ならマチルダが“便女”なので、ギーシュもまた相応しい二つ名を名乗るべきであろう。だが才人の鶴の一声、「語呂が悪いし、適当なのがないからギーシュはギーシュでいい」により、単なる呼び捨てとなることに決まった。
 例えば“便男ギーシュ”と名乗られると気持ち悪かったので、それは流石に遠慮したかったのである。

 第二にギーシュはモンモランシーにも、ケティにも、「永久に奉仕する」だの「他の女に目を向けない」だの「君のためならなんでもやる」だの言っていた。ならば言葉通りにしてもらおうとなった。奴隷の境遇とは基本方針として因果応報なのだ。
 もっともこれについては才人の意向が絶対となろう。ケティのように気紛れに堕としきられることは充分にあり得る。だが、基本方針は因果応報なのである。
 そしてモンモランシーとケティにギーシュを使うつもりがないのだから、今後のギーシュは女に縁がなくなることが確定したのだった。

 第三に徹底的にしつけようとなった。何故ならこれまでギーシュはあっちにふらふら、こっちにふらふらと、女性に色目を使うことをやめなかった。これからはそういうわけにはいかないだろう。奴隷となったからにはそんなことを許すわけにはいかない。
 だが言葉で言っても直ぐに忘れてしまうギーシュであるから、身体で覚えてもらおうということになったのだ。
 これからのギーシュは脊髄反射で正しい行動がとれるよう、徹底的にしつけるのである。

 最後、奴隷の装飾である。一目で奴隷とわかる装飾とは何であろうか? 今の段階でピアスや刺青などをするわけにはいかないし、第一才人には男にそんなことをして喜ぶ趣味はない。ただ何かしらの処置をする必要はあるだろう。ギーシュには是非とも嗤われる存在であってもらいたいのだ。
 
 くっくっくっ…コイツは恥ずかしい。だが、ナルシストでセンスの悪かったギーシュだ。ギリギリだが多分通用するッ!

 それで決まったのが、女性用下着の着用だった。せっかく大量に購入してきた下着類であるし、お古の一部をギーシュに提供しようとなったのである。
 
 もしそうなればそれは絶対に噂となるだろう。そうなれば今後のギーシュは友人たちには更に馬鹿にされることになるだろうし、まして近づこうとする女生徒などいなくなるに違いない。
 新しい世界に目覚めたギーシュが、ケティなりモンモランシーなりに付きまとう。そういう形にすれば接点ができ上がるし、二人は同情を勝ち得ることだってできるだろう。
 才人たちがギーシュをどう扱おうとも、自業自得と助けに入るものはいなくなるのだから、まさに一石二鳥、いや三鳥、四鳥の策であった。

 貴族も平民も“ギーシュだから仕方がない”で納得するはず。ギリギリだが、多分大丈夫。ギーシュだって下着に対して興味深々だったし、美しいものが好きだと言っていたのだ。
 だから今後のギーシュには可愛らしく、美しいショーツを愛用してもらうのである。

 おおぅ! なんとも気持ちわりぃ! くく…想像しちまったじゃねーかよ! スカートを捲り上げて恥じらうギーシュを想像しちまったじゃねーか!

 以上のようにギーシュの待遇は決まったのだった。あとは細かい点では肉棒の管理などがあるだろう。例えば自慰の回数や時期など。それから主人への敬意の表し方や、日常生活での注意点などもある。マチルダのように四つ足にさせるかとか、友人や平民への接し方などがそうだ。
 だが、そういった細かい点は管理することになるモンモランシーとケティに任せておけばいいだろう。才人は報告を聞き、面白い方向へと誘導していけばいい。こうしてギーシュの扱いが確定したのである。


 ギーシュは驚愕し、抵抗を試みようと考えた。とてもではないが受け入れることなど出来ないであろう。だが才人が帰り際に発した「“ギーシュ。モンモランシーとケティの命令は俺の命令だと思え”」との一言があった。
 この意志のこもった一言がある限りどうしようもない。身体はモンモランシーとケティの命令は才人の命令だと認識してしまう。
「無駄口を叩くな」と言われればピタリと声が出せなくなる。「お尻を突き出せ」と言われれば、鞭を受けやすいようにお尻をモンモランシーたちに差し出していってしまう。そして――

「うふふ…さあギーシュ。期待していたからそんなに大きくさせてたんでしょう? だったら早く勃たせなさいな」

「モ、モンモランジ―さまぁぁッ! お、お許しをぉぉッ!」

 説明と同時に、ギーシュは教育を受けることになった。ではその教育である。モンモランシーたちはギーシュにどのようなことを企んだのであろうか?
 モンモランシーは思った。ギーシュのモノを踏みつけた時の感触。あれはとてもとても心地よいものだった。それにギーシュはこれからしつけを受けると言うのに、これ以上ないくらいに勃起をしてしまっていた。ならば最適なしつけの方法があるのではないだろうか?

「うふふふ……モンモランシーさまの仰る通りですわ。ギーシュ、次はわたしの番なんです。早く勃たせて、その台の上に乗せるのですわ」

「!ひぃいぃいぃぃぃッッ……! お、お許しくださいッ、ケティさまぁぁっ!」

 ケティはその考えをもっともだと思った。それにいくら肉棒の管理をするといっても、出来ることなら才人以外の肉棒など触りたくない。ならば妥協できる線として、踏みつけるくらいしかないのでは?
 それに身分を知らしめるため、徹底的にやるのがいい考えだと思った。

「!!!ッッぎゅごぉぉあぁぁぁあぁぁっぅッぁぁあぁぁぁぁぁッッ……!」

 ギーシュは必死になって肉棒を擦り、限界寸前となったところで、本を重ねた作られた台の上にのせる。そして二人は交互にぐりぐりっ、こりこりっと踏みつけ、その刺激によって射精をさせる。
 そしてもし行動が遅れたりすれば、それはもちろん罰の対象になるだろう。そうなればお尻と背中に鞭の雨を降らせ、奴隷の奴隷とはいかなるものかを教えてやる。それが管理を任された二人の仕事になったのだ。

“くっくっく、まあアレだ。杖を薔薇にした時点でヤツの運命は決まっていたってやつだな”

 それからもう一つ。才人は意味深な言葉をつぶやいていた。

 ギーシュ・ド・グラモン。土系統の名門グラモンの四男。ドットとしてはそこそこ優秀な青銅を二つ名とする土メイジ。この日、彼は新しい世界へと強制的に旅立たされたのである。
 



[27351] 絶望のオスマン
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/23 19:27
 学院長室は、本塔の最上階にあった。トリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏は普段白い口ひげと髪を揺らし、重厚なつくりのセコイアのテーブルに肘をつき、そして美人秘書のお尻を眺めながらぼんやりとしていることが多い。学院長とは案外暇なのである。
 王宮との折衝や苦情の調整などで時に忙しい時もあるが、それはどちらかと言えば例外にあたる。トリステイン魔法学院の学院長は名誉職の色合いが強かったのだ。

 まあトップとは責任を取るためにいるのだから、普段が暇でも問題はない。それに学院長に必要とされる能力は魔法使いとしての力量もそうだが、その他にも必要なものがある。それは各貴族との顔の広さ、王宮とのコネクション、いかにも魔法使いと言った風貌など。
 氏はこれらの能力を十二分に兼ね備えており、これまで大過なく学院長としての職務を遂行することができていた。

 オスマン氏は鼻毛を抜いては身だしなみに気を付ける。暇を潰すためには使い魔に覗かせ、秘書の下着の色を知ろうとするのもいいし、時にはお尻を撫でまわして折檻されて喜ぶのも良かった。
 そうやってオスマン氏は普段はぼんやりとして過ごせていたのであった。悩み事などうまいこと学費を徴収するにはどうすればいいか? そんな程度で済ますことが出来ていたのである。


「……本当かね?」

「はい、オールド・オスマン。多分間違いないと思います」

 そうしていつものようにぼんやりとしながら水キセルを吹かしていたオスマン。この日は少し変化があった。学生で有力貴族の子女であるルイズから報告を受けていたのだ。
 それは驚くべき内容だった。なんとルイズはフーケに盗まれたはずの『破壊の杖』を見つけ出し、それを取り戻してきたというのである。

 うむ……それならなんでフーケは秘宝を盗んだりしたんじゃ? そんなことをするくらいならわざわざ盗み出すことなどなかったじゃろうに……。

 ルイズはトリステインのとある露店で買い物をしたのだという。キレイだったし価格も投げ売りと言ってよかったので購入したら、それが『破壊の杖』だったというのである。

 ……わからんのぅ……まあ、貴族の好事家に転売するのは危険じゃというのはわかるんじゃが……

 オスマンにはにわかに信じられなかった。フーケに奪われた秘宝がなんで露店なんかで売っていた? 確かに価値がわからないものには単なるガラクタであろう。でも捨て値で手放すくらいなら手元に置いておけばいいではないか? 少なくとも自分ならそうする。苦労して盗んだはずの秘宝なのである。

「ふむ……。それで『破壊の杖』はどうしたのかね? 見当たらんようじゃが……」

「はい。取りあえず報告をと思いました。杖はわたしの部屋に置いてあります。どうすればいいか指示を貰えますか?」

 じいっと上目使いに覗き込んでくる。その「これで良かったんでしょうか?」と不安げな眼差しに苦笑したオスマンだったが、それで杖を持ってこなかった理由がわかった気がした。つまりルイズも半信半疑だったのだ。
 ルイズによると「これって秘宝の杖じゃないの?」とキュルケに指摘され、それで吃驚して報告に来たとのことらしい。だがもし現物を持って、それで意気込んで報告にきたとする。それで間違いだったならルイズは恥ずかしいと思ったのだ。だからオスマンの方から「持ってきなさい」と言わせたかったのであろう。

 オスマンはにっこりと微笑んで見せる。

 ここは教育者として生徒に「それでよかったんじゃよ」と安心させる場面であった。本当は一緒に持ってきてもらった方が手間が省けてありがたかったのだが、指示を求めるルイズの行動もまた間違いではない。
 すると案の定ルイズはほっと溜息をつき、それからちらりとオスマンの横へと視線を向ける。

「ふむ…ミス・ロングビル。ミス・ヴァリエールの部屋に行って『破壊の杖』をもってくるのじゃ。ただし秘宝でない可能性もある。騒ぎにならんよう目立たない様にしてもってくるのじゃ」

 オスマンは視線の先の人物へと命令する。ミス・ロングビルは「承知致しましたわ」と頭を下げた。ここはルイズに取りに行かせるより、秘書を使うべきであった。こうした雑用のために雇っているのである。それに何と言ってもまだルイズの報告を聞いていたかった。諦めていた秘宝の情報なのである。

「うむ。ではミス・ヴァリーエール。どんな状況で杖が売られていたのか。どんな人物が杖を売っていたのか。詳しい話を話すのじゃ」

 これはもしかしたらフーケの有力な手掛かりになるかもしれない。売り手には事情聴取する必要があるだろう。
 ただ露店というのだからもう店を畳んでいるかもしれないともオスマンは思った。だがそれもこれも詳しい話を聞いてからである。そして案内をさせ、トリステインの街まで行かなくてはならないのだ。

 ……やれやれじゃな。秘宝が戻ってきたのは喜ばしいが面倒なことになりそうじゃて……

 とはいえ面倒だと思う気持ちよりも嬉しさの方が遥かに勝る。ここは素直に喜び、詳しい事情を聞くべきであろう。
 ロングビルが杖を取りに部屋を出ていく。オスマンは緊張しているルイズを安心させようと、微笑みながらルイズへと視線を戻したのだった。



「……うむ。確かに秘宝の『破壊の杖』じゃ。じゃが……これはいったいなんなのじゃ?」

「……見てのとおりです。見つけた時にはそうなっていたんです。それでどうしたものかと、オールド・オスマンの意見を聞きたかったんです」

 困惑しているルイズだが、オスマンもまた困惑するしかなかった。

 最初は杖のケースを見て喜んだ。見覚えのあるケースだったのだ。そして蓋を開けてみると確かに秘宝の破壊の杖である。
 だが…杖の中には白みがかった液体が入っていたのである。杖には中身など入っていなかったはずなのだ。そうなるとこれをどうしたものであろう?
 ディティクトマジックを掛けてみるが反応はない。ゆさゆさと揺らしてみれば少し粘度があるように思えるが、水としか思えない。

 ……わからん。何かの秘薬じゃと思うんじゃが、そうなるとますます謎じゃ。一体フーケは何をしたかったんじゃ?

 探知の魔法に反応しないのだからやっぱり単なる水であろうか? だがそれにしては粘度といい、濁り方といい、何らかの秘薬である可能性が高い。そうなるとフーケは貴重な秘薬を詰めたままに、破壊の杖を手放したことになる。
 ではこのまま中身を捨てて宝物庫へと戻していいものだろうか? もし捨てたら何か拙いことでもあるのだろうか?
 安全を考えればこのまま杖ごと捨てるのが正解なのだろうが、それには破壊の杖は惜しい。オスマンには惜しすぎるのである。

 そうやってむぅ、と考え込んでいて…ふと顔を上げると才人が何か言いたそうにしているのに気が付いた。そういえば才人はルイズの使い魔だったので一緒に入室してきたのである。だが一体この平民は何を言いたいというのだろう? 興味を持ったオスマンは「かまわんからいいなさい」と声を掛ける。

 すると才人は言いづらそうにしながらその口を開いたのであった。

 っよし! どうやって話を振ろうかと思ってたらジジイからきやがった!

 この状況なら今すぐにでも支配出来る。オスマンは才人を微塵も疑っていない様子なのだ。一時的に支配し、そのまま傀儡へと堕とせるであろう。
 だが、才人としてはその前にどうしても確認しておきたいことがあったのだ。

 ったく、なんで学院の秘宝が浣腸器なんだよ! それを聞いてからでないと夜も眠れないっつーの!

 才人はオスマンが破壊の杖を学院の秘宝となった経緯と、それと杖の正体を知っていたかどうか、支配の前にどうしても聞いておきたかった。
 つまりオスマンに対して特に因縁もない才人だ。老人を嬲って喜ぶ趣味もないのでさっさと終わらせたかったが、何と言っても学院支配の大きな節目となる。せめてそのくらいのイベントは欲しかった。それが今回手間を掛けて会談に臨んだ理由だったのである。

 才人はニッコリと笑って問い掛ける。

「えっとですね。それじゃあその杖、『破壊の杖』って言うんですよね? なんでそんな名前なんです? それを是非とも知りたいなって思いまして……」

 もしも杖の正体を知っていたなら、それはお仕置きに値するであろう。果たしてオスマンの返答はいかに? するとオスマンは「じつはのぉ……」と照れ臭そうにしながら話し出したのであった。

「あの杖はわしの友人の形見なのじゃ。今から三十年も昔の話じゃ」

「……形見、ですか?」

「三十年前、森を散策していた私はワイバーンに襲われているのを見つけた。それがあの『破壊の杖』の持ち主じゃ。わしは魔法でワイバーンを追い返したんじゃが、ばったりと倒れおった。怪我をしていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、看護の甲斐なく……」

「死んでしまったと?」

 オスマンは頷いた。

「私は彼と話していてな、彼のことがいっぺんで好きになった。だから形見の品を宝物庫にしまいこんだ。秘宝として大事にすることにしたのじゃ……」

 オスマンは遠い目になった。

「彼はベッドの上でも杖を手放そうとしなくてな、繰り返して言っておった。『コイツを使えば女なんてイチコロなんだ、コイツの威力は最高なんだぜ』とな。彼はこの杖を使って何人もの女性と仲良くなったと言うんじゃよ。だからわしは『破壊の杖』と名付けたんじゃ。友の執念にぴったりの名前だと思ったのじゃよ」

「……だから『破壊の杖』なんですか? 学院長はこの杖の使い方を知っていたんじゃないんですか?」

「それはわからん。どんな使い方をするのか、それはわからん。ただ聞いてもニヤリと悪戯っぽく笑いおっての。『回復したら教えてやると、そうしたらコイツの凄さと破壊の力を教えてやる』と、そう言ったまま友は死んでしまったんじゃよ」

「…………」

 どうやらオスマンは何も知らなかったようであった。だが友とは何らかの理由でハルキゲニアに迷い込んだ地球出身者であって、浣腸器であることをしっかりと認識していたらしい。
 つまりである。どうやらオスマンはエロの話で意気投合し、それで持ち主のことを友と呼んで、私的な理由で宝物としていたというのであろう。 

 ……はあ…それが真相かよ。そんな理由で『破壊の杖』で、んで学院の秘宝だってか? その彼が聞いたら…まあ大爆笑かもしれんが……

 才人はマチルダの様子をうかがって見る。するとぴくぴくとコメカミが引くついていたのがわかった。
 それからルイズの方をうかがって見る。心底呆れたと言う風に、オスマンに向かって軽蔑の視線を投げかけている。
 まったく同感であった。これでは苦労して杖を盗み、それで奴隷とされてしまったマチルダが哀れすぎる。

 ま、それでも理由を聞けたんだ。あんまり手間取ってると教師連中がいつくるかわかったもんじゃないしな。さくっとジジイを終わらせてやるとしますかね?

 才人はふぅと溜息をつき、やれやれと頭を振る。聞きたいことは聞いたし、そろそろ始めるべきであろう。愚図愚図していたら授業時間が終わってしまうのである。
 ロックを掛けておけば学院長室に入ってくる人物などいないであろうが、支配の前に来られると面倒なことになってしまうかもしれないのだ。

 ったく……。んじゃ、その威力をその身で味わってもらいましょうかね……

 才人は節目となる一言を呟いた。

「“学院長。黙って聞いてくれませんかね?”実はルイズだけじゃなくて、俺の方からも学院長に用件があるんですよ」

 オスマンは頷く。

「じゃあ俺の要件です。“魔法を使うな。逃げるな。それから、そこから立ち上がって部屋の中央に移動しろ”」

 これで詰みである。才人は命令口調に豹変した。そしてそんな態度に驚愕したオスマンへとニヤリと嗤いかけ、「始めるぞ」と奴隷たちへと顎をしゃくったのであった。



「くっくっくっ…やれ。マチルダ」

「っや、やめるんじゃ……」

 マチルダは破壊の杖をすちゃっと構え、余分な空気を抜くべくピストンを押す。

 っな、なんてことじゃ! 身体が勝手に動いてしまうのじゃ! 

 才人は学院長の椅子にどっかと座って足を組む。オスマンはセコイアのデスクに手をつき、才人を見上げる。

「うわぁ……汚いケツ。ったく仕方ないわね。便女、さっさとやっちゃいなさい。こんなのいつまでも触っていたくないんだかんね」

「わかってますわ、ルイズお姉様。さっさと終わらせて、これからの指示に移りますから」

 ルイズはお尻の肉を強引に割り広げる。老人のオスマンであった。その肉は弛み、染みが出てキレイとは言えなかったのである。

 い、いかんわいっ! ミス・ヴァリエールとミス・ロングビルの様子からして話は本当じゃ! 杖を使われたらわしは終わりになってしまうのじゃ!

「っや、やめろ! やめるんじゃっ!」

 オスマンは必死になって訴える。確かにマチルダから折檻されて喜んでいたオスマンだが、あれば遊びだから楽しかったのだ。本当に奴隷にされて折檻されるなど、冗談としか思えない。

 ……くっくっくっ…まあ直接の恨みは無いんだけどな、考えてみりゃああんな馬鹿共を量産してたんだ。その責任はキッチリ取るべきだと思うぜ?

 お尻を振ってオスマンは嫌がる。才人が言うには杖の中身を浣腸されてしまうと生涯逆らえなくなってしまうのだ。だから諦めるわけにはいかない。身体が動かない以上、何とか説得して止めさせなければならなかった。

「!! や、やめ……」 

 だが、注入開始。

「!? ふおっ、ふぬぉおおぉぉおぉぉおぉぉぉぉおおぉぉぉッッ……!」

 絶望感から悲鳴をあげるオスマン。マチルダはそれを気に留める様子もない。ぎゅぅうっとピストンを押し切り、そしてぬぽっと音をさせてそれを抜く。

「うふふ…オールド・オスマン。いえ、オスマンね。あんたはもうサイトの奴隷なんだからね? ご主人様のためにしっかりと働きなさい」

 背後からルイズの声が聞こえる。オスマンは荒い息をつき、机へと突っ伏して、才人の姿を仰ぎ見ながら絶望するしかなかった。そしてどうしてこんなことにと後悔していた。コルベールから相談された時、もっと真摯に受け止めておけば良かった。王宮に報告しておけば、あるいは今日の事態は防げていたかもしれないのだ。

「くっくっくっ…、ルイズの言うとおりだぜ、ジジイ。“これからはマチルダ…いやロングビルか。ロングビルの命令は俺の命令だと思え。これからは俺のためだけに働いてもらうぜ?”」

 あるいは遠見の鏡で監視するとかしていれば、才人の正体に気付けたかもしれない。今の事態は防げていた可能性があった。だが…すべてはもう遅い。オスマンは破壊の杖を使われてしまったのである。

「よし。んじゃ、あとは任せたぜ? 立場ってモンをしっかりと説明しておいてくれ」

「わかりました。きっちりと教育しておきます」

 バタンと音をさせ、ルイズを伴い才人は出ていく。残されたのはオスマンとマチルダとなる。秘書であるマチルダだったので、職場は学院長室なのだ。だからこれからのオスマンの管理はマチルダの仕事に決まっていたのである。

「……さて、オスマン」

 才人が去り、静寂となった学院長室。もう関係は秘書と学院長ではなくなったのだ。奴隷と、更にその下の管理される奴隷に変わったのだから、呼び捨てにするのが適当であろう。

「ふふっ、これからのことを説明してあげる。それから……」

 マチルダはにんまりと嗤い、そしてオスマンの髪を掴みあげると振り向かせた。

「まずはあたしにしてたセクハラと、『破壊の杖』なんてものを秘宝としてたお礼をしなくっちゃあいけないよねぇ?」

 オスマンが目にしたのは猛禽類の目つきとなり、妖艶に嗤いかけてくるマチルダである。

 っわ、わしはこれから、一体どうなってしまうんじゃ……

 齢100とも300とも噂されるオスマン老。これから彼は才人が起こす様々なトラブルを処理すべく、ぼんやりと過ごす日々とは無縁になると思われる。

 この日を持ってオスマンは傀儡へとなり下がり、才人の意向で動くことになるのであった。



「コルベール先生!」

「おお、ミス。ミス・ツェルプストー。一体何の用ですかな? 何かわからないことでもありましたかな?」

 授業が終わり、声を掛けられて振りむく。意外な人物の問い掛けにコルベールは表情を崩す。
 教師として贔屓するつもりはないが、キュルケは外国出身の貴族に加えて自身と同じ火のトライアングル。だからどうしたって印象深かった。そんな生徒から満面の笑顔で声を掛けられたのだ。教師として嬉しくもなるというものであった。

「あ、いえ。そうじゃなくてですね。実はお願いがありまして……」

「ほう。お願いですか。一体どんなお願いですかな?」

 コルベールは興味深そうに問い返す。これまでキュルケは授業内容でさえも質問することが稀であったのだ。それなのにお願いがあるという。一体何ごとであろうと、気持ちが軽くなるのをコルベールは感じた。

「えっと、実はですね、ダーリンにミスタのことを話したら、発明品に興味があるって言うんですの。それでもしよろしければ研究室を見学したいって言うんです」

「っなんですと!? ミ、ミスっ、それは本当のことですかなっ!?」

 それは驚きの内容であった。周囲から変人と言われ、自身でも仕方のないことと自覚しているコルベールである。何しろ研究に自信はあるが、現時点で何の評価もされていないのである。それなのに何と研究室の見学をしたい? 信じられない言葉であった。

「っえ、ええ……もちろん本当です。それで見学の方はよろしいんでしょうか?」

「っも、もももちろん構いませんぞ! いつでも構いませんぞ! 直ぐに来てくれて構いませんぞ!」

 興奮しだしたコルベールにキュルケは少し引き気味となった。だがコルベールにはそんなことも気にならないくらい、答えなんて決まりきっている。

 おおっ! わたしの研究に興味を持ってくれるとは! ……ん? ダーリン? ダーリンとは一体誰のこと……

 と、そこでコルベールは少し冷静となる。生徒たちから何の役にも立たないと酷評されている発明品なのだ。それなのにダーリン? キュルケの付き合っている生徒のことであろうが、そうなると誰が発明品に興味を持ってくれていると言うのか? 疑問に思ったコルベールは質問する。

「……ミス。その…ダーリンとは誰のことですかな? 一体どの生徒がわたしの研究に興味を持ってくれたというのですかな?」

「あら、ダーリンはダーリンですわ。けど、それだとミスタにはわかりませんわね。サイトがわたしのダーリンです。コルベール先生」

 キュルケはニッコリと笑って答える。それでコルベールは納得した。

「おお、サイトくんでしたか。それで? 見学にはいつ来るんですかな? 直ぐ来てくれても構わないんですぞ!」

 才人ならわかる。情けない話だが生徒たちはコルベールの研究を魔法を使えば良い無駄なものと馬鹿に仕切っている。その点平民である才人なら魔法が使えないので馬鹿にしようがないのだから。

「ありがとうございます、先生。……そうですね、ダーリンの予定を聞かなくちゃならないし、ダーリンにも準備が必要だし……」

 キュルケは少しばかり考え込む。それをコルベールはわくわくとした気持ちで返答を待つ。

「それじゃあ先生。多分ですけど一時間後くらいに研究室に伺います。もしかしたら二時間後くらいかもしれませんけど……」

「っわかりましたぞ! 一時間後ですな? それでは待っているのでサイトくんによろしく伝えてくれるようお願いいたしますぞ!」

 背を向けたキュルケが去っていく。

 もしかしたら初めて人から「凄い」と褒めてもらえるかもしれない。それなら平民だろうと構わない。ここはなんとしても才人に満足してもらえるよう準備するべきだ。そうすれば喜ぶであろう才人に自尊心を擽られて、コルベール自身も満足できるだろう。

 そしてふと思いついた。才人は東方の出身だというのを思い出す。

「……っこうしてはおれませんぞっ! これまでの発明品の中からサイトくんの好みそうなのを吟味しなくてはならないのですからな!!」

 これは作品を見てもらえるのに加え、東方の技術を教えてもらえるかもしれない機会である。
 平民なのだから大した知識はないであろうが、それでもハルキゲニアにはない知識かもしれない。もしそれを教えてもらうことができれば、そうしたら研究が飛躍的に進むかもしれないだろう。

「うむ。気合が入ってきましたぞ! これはチャンスなんですぞ!」

 コルベールのテンションは近年意識したことがないくらい高まっていく。スキップするような軽快な足取りとなって、研究室へと戻っていく。ジャン・コルベール、至福の時間なのであった。


「っっの、ぬぉぉぅぉぅぉぅぉおぅぉおぅおぉぉっ……!!」

 そして二時間後、火の塔の傍の小屋で一つの悲鳴が上がったのである――。



[27351] 学院の支配者
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/23 20:05
 火の塔の傍の小屋で悲鳴が上がって次の日である。フリッグの舞踏会が開かれた。

 ブリッグの舞踏会。それは多くの新入生が社交界へと、本格的なデビューを果たす舞踏会。それはこの舞踏会は学院が主催し、出席者が全ての学生であるというだけであって、一般的な舞踏会と大きな違いはない。

 ルイズは貴族で学生であった。だから当然に出席する。ならば使い魔である才人も付き合うより仕方がない。すると才人はトラブルに巻き込まれてしまうことになった。ベリッソンという名の三年生に喧嘩を吹っかけられてしまったのである。

「平民。少しいい気になってるんじゃあないのかね?」

 彼は舞踏会が終わるなり才人を呼び出し、頭を杖でぺしぺしと小突いた。そして馬鹿を見る目で相手をしなかった才人に逆上して「魔法も使えぬ平民風情が!」と、背後から杖を振る暴挙をやらかした。

 無警戒な才人の背中にベリッソンの魔法が襲う! だがその瞬間、キュルケの杖から炎が伸びる! 

「あんたみたいな卑怯者は見たこともないわ! ちょっと顔がいいからっていい気になってるのはあんたでしょ!」

 ……事件の動機は嫉妬であった。少々偏狭なところのあったベリッソン。舞踏会で才人がキュルケと踊り、ルイズとモンモランシーとも踊り、それがどうにも腹に据えかねた。それで思い知らしてやろうと凶行に走ったというのである。

 だが無力な平民に対して言いがかりをつけ、卑怯にも後ろから魔法を使うような男。それが誇り高いトリステイン貴族として相応しいと言えるであろうか? それは否、断じて否ではないだろうか?

「くっくっくっ…ご苦労だったな。これからもこうやって力を貸してくれるよな?」

「ふおっ!? か、構わんぞい。苦情の処理がわしの仕事じゃ。サ、サイトくんに協力するのは当たり前のことなんじゃ!」

 そこで才人はオスマンへと協力を要請したのであった。

 場所は本塔、学院長室である。応接セットのソファに身を沈め、才人はオスマンへと語り掛ける。ベリッソンへ注意してもらうよう依頼した才人。快く引き受けてくれたオスマンなのであった。

「ベリッソンも頼むな? こうしてちゃんと褒美を用意してるんだからさ、しっかりと仕事するようお願いするぜ?」

 そうして才人はニヤリと嗤い、視線の先をセコイアのデスクへと向ける。

「っぅぉおぇっ……! はぁ…はぁ…あ、安心してくれたまえ。オールド・オスマンに報告すればいいんだろう? ッッぺ、ぺろぺろっ……! はぁ…はぁ…ま、任せておいてくれたまえっ!」

 ベリッソンの声だった。だが才人の目にその姿は見えない。いったいどこにいるのであろう? まあ会話ができれば問題はないと、才人は気にしないで話を続ける。

「そっかそっか、頑張ってくれ。んで、マチルダ。あとどれくらいが褒美の時間として適当だと思う? ジジイは枯れてるからキリがないんだよな」

「はい。では取りあえずは30分ほど。それから時間の許す限り教育をしようかと思います」

 オスマンの横へと視線を向ける。そこにはマチルダが立っていた。秘書であるマチルダである、学院長室にいるのは当たり前のことなのである。

 ――ベリッソンは才人に危害を加えないよう貴族たちを宥め、闇討ちなどの計画があれば入手するよう努力する。
 ――才人はその献身と情報の代償として、出世の窓口となるオスマンとの繋がりを提供する。
 ――オスマンは契約が反古とならないよう重石として存在し、見返りとして少しばかりの性的サービスを受け取る。

 才人はベリッソンと和解のしるしとして契約をしたのであった。

 才人は学院での安全が欲しい。そしてベリッソンだが出世のためにオスマン、ひいては王宮とのコネが欲しい。オスマンは仲介の労として少しだけ良い思いをする。
この契約ならば誰も損をしないのである。

 っ~~~~こ、こん…ぉうぇぇぇっ……! っっこ、こんな契約があるかっ! な、何がみんなで幸せになろうよだっ! はぁ……はぁ…ぺ、べろべろっ……!

 我ながら素晴らしいアイデアだと、上機嫌の才人である。そうしてキュルケを膝の上にのせ、スカートの中に入れて悪戯をし、オスマンの表情変化を楽しんで上機嫌の才人なのであった。

 っっうっげぇぇぇぇぇっっ……っ! ッ~~~~っっうっぷぅうっ、げ、げぇえぇぇぇっぇぇっっ……!

 キュルケの喘ぎ声が囁かれる。それからオスマンの荒い鼻息と、ぴちゃぴちゃと何やら水気のような音が聞こえる。

「……オスマン。書類を読む手が止まっています。ちゃんと集中して仕事をしなさい」

「! ふおっ、す、すまなんだ……。か、勘弁なのじゃっ、ミス・ロングビルっ!」

 さて、そんなベリッソンの情報によると学生たちは才人のことを生意気な平民だと、そんな風に反感を持っているらしかった。
 それから貴族への暴力を躊躇わない危険な平民だと、そんな風に警戒しているようであった。どうやらギーシュとの決闘がかなり利いているらしい。

 だが、だからと言って制裁に動くかといえば、そんな雰囲気でもないのだという。何故ならもし魔法を使って思い知らせようとしようとしたら、その時はキュルケによって報復されるかもしれない。だが、だからといって直接的な暴力に訴えようとするのはメイジとしての誇りに関わるし、ギーシュとの決闘を見る限りは勝算が薄いのだ。

 それにルイズの存在もあった。無能な学生なので魔法は怖くないが、なんと言ってもヴァリエール公爵家の三女である。ヴァリーエールといえばトリステインで一、二を争う名家だ。使い魔に怪我をさせると恨まれるかもしれない。
 つまり忌々しい限りの才人だが、喧嘩を売るには様々な意味で割に合わない。出来ることは精々が嫌味や陰口。才人から仕掛ければ話は別であろうが、今のところは喧嘩を売られる心配はないというのである。

 ……くっくっくっ…なるほど、なるほどねぇ。平民に脅されてたってのに、周りはまるで知らんぷりだ。コイツは貴族なら自分で解決しろってことなのか? 

 後日となって才人はアルヴィーズの食堂で試してみる。ルイズの隣の席に勝手に座り、貴族の食卓で食事を取ってみた。
 するとなるほど、自分の席を奪われたマルコリヌという生徒は震えながら「どけ」と言って、必死になって虚勢を張った。そうしてちょっと強く出ただけで降参して黙り込み、周りの貴族はといえば何も言ってはこなかったのである。

 っ~~~~ッッ! ア、アイツは悪魔だ! っエ、エルフよりタチが悪いじゃないかっ!

 この結果に才人は安心する。完璧とは言えないが、もうこれで学院では安全になったと見ていいだろう。怖いのは一人で歩いていて、その時問答無用で闇討ちされることなのだが、これならよほどのことがない限りは不覚を取ることもないだろう。

「よし。そんじゃあマチルダ。俺はもう帰るから立場ってモンをしっかりと説明しといてくれ」

「お任せください。きっちりと教育しておきます」

 バタンと音をさせ、キュルケを伴い才人は出ていく。残されたのはマチルダにオスマン、それから新しい奴隷であるベリッソンとなる。

「……さて、ベリッソン」

 才人が去った学院長室。便女であるマチルダだが、男の奴隷よりは上の立場なのだ。呼び捨てにするのが適当であった。才人は基本的に男の扱いは酷いのである。

「これからのことを説明してあげる。それから……」

 マチルダはオスマンの足元へと手を伸ばす。何かを引きずり出すと、猛禽類の目つきとなって妖艶に嗤う。

「うふふ…ご主人様の後ろから魔法を打とうとしたんだって? そんなことしたら危ないって、もしかしてあんたは想像すらできなかったて言うのかい?」

 ああ、ああ、これからされること。それからオスマンの肉棒をフェラチオし続けること。一体どっちがマシなのであろう?

 っな、なんてことだ。っミ、ミス・ロングビルがこんな怖い人だったなんて……

 ベリッソン。古代の彫刻のような完成された美貌を持つ、トリステイン魔法学院きっての色男。少々嫉妬深く、愛嬌に欠けるのが玉に傷。

 これから彼は才人に逆らう人間が出ないよう、必死になって努力すると思われるのであった。



 才人はオスマンの支配を機に少しずつ行動を開始する。舞踏会の振る舞いはその一環である。口に出して宣言したわけではないが、まずはルイズ、モンモランシ―、キュルケが自分の女であるとアピールしたのだ。

 まあそうしたらベリッソンが釣れてしまったわけだが、これからもこうしたトラブルが起こればオスマンを使って処理すればいい。
 ケティとマチルダについては納得のいく関連性が希薄であるから、今のところ保留である。だが、頻繁に才人のもとへと通えばいずれ目撃者も現れようし、そうしたら邪推するものも出てくるかもしれない。
 トラブルとなったらオスマンを使って擁護させればいいのだ。そして、それでも駄目ならベリッソンのように奴隷にする。才人は行動を開始する。

「! っギ、ギーシュッ! き、きき君の穿いてるのはショ、ショーツじゃあないのかねっ!?」

「え? あ、ああ、これかねっ? ケ、ケケティにプレゼントしようと思ったんだがね? つ、ついつい穿いてみたくなってしまってね? っっは、穿きごこちの良さに止められなくなってしまったんだよっ!!」

 そして才人の最初の行動はギーシュのお披露目となったのであった。

 フリッグの舞踏会の前のこと、オスマン支配の次の日に、才人は下着姿を披露させたのである。ギーシュは学院の脱衣場で、堂々と可愛らしいショーツ姿を披露したのだ。

 っっは、はは恥ずかしいなんてもんじゃないじゃないかねッ! だ、だってだよ君!? こ、擦れると、意識して勃起してしまいそうになるんだよッ!」

 友人たちは一斉に引いた。小さなショーツは不自然に膨らみ、肉棒の形をクッキリと浮き上がらせていた。

「…………」

「…………」

 気まずい沈黙とひそひそ何かが囁かれる中、ギーシュはスリットを解いてショーツを脱く。逃げるようにして脱衣場から去り、浴槽に浸かれば目立たないよう隅っこの方で数を数える。

 ……終わりだ……。あ、明日っから、僕はどのツラ下げて、が、学院に行けばいいんだね……

 そうしてギーシュが脱衣場へと戻った時、服の周りにはまだ学生たちが集っていたのであった。

「す、すまないね、きみ。か、返しては、く、くれないかね?」

 手早くショーツを身に着ける。これからケティのところに行かなければならないのだ。そして何をしたか? どんな反応だったか? その時の気持ちはどうだったか? それらを包み隠さず話さなければならない。

 ぅ、ううぅっ……。サ、サイトさまに土下座なんてさせなければ……

 後悔するギーシュ。だが…すべてはもう遅い。リーヴスラシルに支配された以上、それを解除することは才人にだってできないのだから。

 そして翌日、それは噂になって爆発的に広がってしまう。ギーシュは後ろ指を指されながらニヤニヤ嗤われ、女子生徒は汚物を見る目で一切近寄ろうとせず、平民の従業員は笑わないよう顔を背けて対応をした。

「っこの変態っ! 恥ずかしいことしているんじゃありませんわッ!」

 しかしそんな中、一人だけ動いた女子生徒がいた。それはモンモランシーだった。

 これはモンモランシーなりのけじめであった。彼女は過去にギーシュと付き合っていたのだ。だからもうこれっぽっちも未練がないことを示すため、衆人環視でバッシーン……! と殴りつける必要があったのである。

「いいですこと? よ~く、お聞きなさい。わたしにあんたと付き合っていた過去なんてありません。いいですこと? 余計なことを言ったらただじゃおきませんことよ!」

 だからモンモランシーは吹き飛んだギーシュの前まで歩き、ふんっと腰に手を当てて、ギーシュを見下ろすように立った。

「っっ……し、白。…モ、モンモランシーは白いのであります……」 

「! っ~~~~っい、いい度胸をしてますわ……。こ、これはこの際、徹底的に思い知らせる必要がありますわね……」

 するとギーシュは何と命知らずなのであろう? 仰向けになって起き上がれないにもかかわずモンモランシーを見上げ、いい笑顔をしながら下着の色を暴露したのだ!

 ……この後モンモランシーは更にギーシュをぎたぎたにし、最後にがしっと顔を踏みつける。水で首輪を作るとずるずると引き摺って行き、中庭へとポイっと投げ捨てたのであるが……

 だが、彼はこりないのが信条の男なのであった。

 ギーシュはこれで何かに目覚めてしまったのであろう。モンモランシーを女王様として崇拝し、何かと付きまとうようになっていく。
 これには学生たちも教師たちも呆れかえってしまったのだが、まあ趣味嗜好は人それぞれなのだ。さじを投げ、「ギーシュなのだから仕方がない」と、次第に容認の姿勢へと変化していった。

「ああっ、お可哀想なギーシュさま……」

 そうしてケティはそんなギーシュを見捨てない。必死になって止める友人たちを振り払い、ギーシュの更生を諦めない。

 この後学院では何かとギーシュの世話を焼いて語り掛け、嬉しそうに微笑むケティの姿が見られるようになっていくのだった。



「よくやったな、モンモランシー。褒めてやるぜ?」

 ギーシュの立ち位置をうまく誘導させた才人は次の段階へと移行する。

 受け入れられるかどうか一抹の不安を抱いていたのだが、まあナルシストなのだから女性用下着を着用するのもアリだったのだろう。それに何かの切っ掛けで目覚めるのも良くある話なのだ。

「さっ、次はオマエラの番だ。取りあえず様子見だけどな」

 そうして万一の際の盾とするべく、ギーシュの確保に成功した才人は次の計画を実行に移す。男であるギーシュなぞに拘っているより、メスの奴隷で嗤っている方が、才人にとって楽しいのだから。
 よって才人はかねてから考えていた計画を実行に移した。ベッドに腰掛け、己のセンスに深くうなずく。そうしてそれぞれ表情を作っている女たちへと嗤ってみせる。

「ね、ねぇサイト。これってマズイんじゃない? 様子見にしては行き過ぎだと思うんだけど……」

「……これは注目を浴びますわね。それに三人一緒だと、少し不自然ではないでしょうか?」

「あら、これくらいいいじゃない。ダーリン! あたしは気に入ったわ!」

 奴隷たちの姿を上から下まで、ニヤニヤしながらじっくりと見つめ直す。

 ……うむ。やっぱこっちの方がいいよな? さてさて、一体どういう結果になりますかね?

 まず上着。二の腕が眩しいノースリーブである。これから季節は夏なのだ。だから才人は奴隷の衣替えをしようと思い立ち、予備の制服をランジェリーショップに持ち込んだ。友人であるカレンさんに仕立て直しをお願いしたのだ。
 そうして白地の長袖だった制服はノースリーブとなって、何とも制服は涼しげなものへと変わった。

 才人の改造コンセプトは、“コスプレ”である。

 極力、胴の丈を短くするように依頼したのではあるが、調子に乗ったカレンさんは予定より短く仕上げてしまった。おへそが見えるギリギリまでつめられ、したがって少しでも動くと、常におへそが露出する状態となる。

 そしてスカート。才人はこれも極力、丈をつめるように依頼した。結果、またしてもカレンさんは暴走する。
 太ももが完全に露出してしまい、膝上二十センチの仕上がりとなった。ブリッツスカートというよりは、タイトなフレアスカートといった感じ。絶対領域という言葉がなければ、ヤバイくらいの長さである。

 ……まあノースリーブにしたから面影なんて残ってないな。でもまあ制服は制服だ。くく…それにだ。慎み深い動きなら問題なんかねーんだ。俺はそんな仕草こそが本当の淑女ってモンだと思うね。

 才人の狙いは常に視線を意識させること。これによって見られているかもしれないと、奴隷であることを一日中意識してもらう。そうして露出の快感を得るようになっていくも良し。羞恥によって常に身悶えているも良しなのである。

「よし。んじゃ、行って来い。堂々として振る舞うようにするんだぜ? そうすりゃ周りの奴らも慣れてくしよ。くく…当たり前だって顔してりゃいいんだから頑張ってくれな」

 そう、計画とは制服の変更であったのである。

 ……はぁ……このような恰好では下着が見えてしまうかもしれませんわ。

 モンモランシーは憂鬱だった。注目を浴びることが好きなモンモランシーだが、それは羨望の眼差しが好きだったのだ。それに慎みが美徳とされるトリステインである。男子生徒は喜ぶかもしれないが、下手をしなくても女子生徒は軽蔑の視線を送ってくるに違いない。

 ……いえ、色々と買い物したんですもの。多分見せるような短さにすると、サイトはいつかおっしゃるんでしょうね……

 そして、それでもモンモランシーは女子生徒に嫌われてしまうわけにはいかないのだ。
 何故ならモンモランシーに期待されているのは噂を流し、入手するための繋がりである。これを失ってしまうと罰の対象とされてしまうだろう。だからこれからの苦労を思いやり、モンモランシーの心は憂鬱だった。

 ……頑張るしかないわ。ううん、失敗なんてできない。わたしはこれを成功させなくちゃいけない!

 ルイズは決意していた。元々否は存在しないのである。ならば恥ずかしいという感情をもっていると、例えば顔に赤みが指すなどで不審に思われてしまうかもしれない。
 堂々と、当たり前に振る舞って、こんな恰好が好むのがルイズであると、そんな風に受け入れてもらうしかないだろう。
 そうして「よくやったな」と褒めてもらい、ご褒美としてベッドを使えるようにお願いする。ルイズは決意をもって、この困難なミッションをやり遂げようと誓う。

 ……う~ん、なんか二人とも力が入りすぎって感じがするのよねぇ、もっと気楽に考えればいいと思うんだけど……。

 最後にキュルケである。皆がどんな反応をするかわくわくしていた。元よりスタイルに自信があって、胸元を強調するような着こなしをしていたのだ。
 それに過去にアクシデントとはいえ、全裸を学生たちに晒してしまった経験がある。それに比べれば今更であったし、ちょっと変わっているがちゃんとした服である。
 何より才人が決め、やれと命令したのだ。従えることが嬉しかったし、もしかしたらご褒美の対象になるかもしれない。だから当たり前に受け入れ、学生たちの反応を楽しみにし、身体が芯からうずいてくるのを意識した。

 くっくっくっ…素晴らしい……。まあ衣装としてはこれ以上なんていくらでもあるだろうけどよ、制服の改造ってのがポイントなんだよな…… 

 才人は出来上がりに満足する。少しばかり大胆な気もするが、まあ予定を繰り上げたと思えばいい。いい仕事であるのは間違いないし、カレンさんに任せた以上、これくらいは覚悟しておくべであったのだから。

「さっ、愚図愚図してると遅刻しちまうぜ? 早いトコ行って、男どもを喜ばしてやるんだ」

 奴隷たちは才人の指示にうなずく。ルイズは真剣な面持ちで、モンモランシーは少し諦めの入った真剣さで、キュルケは嬉しそうな面持ちで、才人の指示にうなずいた。そうして彼女たちは教室へと乗り込んだのである。そして――

 ……まあそうですわよね。わたしだって何も知らなければ、おそらくそんな反応をしたことだと思いますわ……。

 ノースリーブ――健康的な二の腕に脇の下が見えそう! 
 そしてその丈の短さ――得意そうに腰に手を当てたからおへそが見えたではないか! 
 そしてそのスカートの短さ――太ももの白さが眩しいのに加えて、ガーターベルトとの対比のなんと見事な事か!

 男子生徒たちは一斉に、食い入るように見つめたのである。

 口をあんぐりと開けて驚き、驚愕から覚めると、もう夢中だった。何しろ今まで想像もしなかった着こなしである。制服とはとても言えない制服姿で、セクシーさとエロさを足して割った感じで彼女たちは現れたのだ。健全な青少年として当然の反応と言えよう。

 ……はぁ…どうやったら皆さんに嫌われずにすむんでしょう? やっぱりうまいこと誘導して、同じような恰好をするように仕向けていくしかないんでしょうか……

 だが女子生徒たちは、そんな風に男子が反応したことに対して急速に嫉妬し、そうしてから注目を浴びるためにそこまでやるのかと、憎々しい目で彼女たちを睨み付ける。

 モンモランシーは女子生徒の視線から、前途の困難さを感じて憂鬱になってしまう。だが、だからと言って諦めるわけにはいかないだろう。

 教室中の視線を集めながら席へと向かう。胸中ではそれぞれの思惑があったが、共通しているのは一つだけ。誇らしげに胸を張り、堂々とした足取りで、彼女たちは自分の席へと向かったのだった。



「……ルイズ。今なんて言ったかもう一度言ってみろ」

「ご、ごめんなさい、サイト。そんなつもりはなかったんだけど、いつの間にか引き受けたことになっちゃったの……」

 さて、そうして才人の露出調教が始まってしばらくしてのことだった。『使い魔品評会』などというイベントがあった。当然才人はそんなものに出る気など更々ない。

「……モンモランシー。オマエがいて止めることが出来なかったって言うのか? 俺がそんなこと許すわけないって、そんな程度の判断も出来なかったって言うのか?」

「っ、も、申し訳ありません。黙っていましたらいつの間にか話が進んでしまったんです。貴族として、話し掛けると不敬となってしまうのですわ。それでどうしたものかと、サイトをお待ちしてたのですわ……」

 だからその日、才人は護衛としてキュルケを引き連れ、朝からトリステインの街へと出掛けた。残っていると面倒なことになりそうだったのだ。
 それにタイミング的に、そろそろ風呂を完成させるべきだと判断していた才人である。
 材料の入手や職人の手配など、色々と交渉する必要があるだろう。納期についての説明や、建物の使用目的について説明する必要もあるだろう。

 っく……! どうする? 確かにルイズの言い分もわからんでもない。だけどよ、どう考えてもありえねーだろ? 何でそんなことしなくちゃなんねーんだよ!

 だから調度いい機会だと街へと出掛け、職人たちと交渉をし、カレンさんとついつい長く会話を楽しんで、馬で三時間だったので夜も遅くにくたくたになって帰ってきたら、コレである。恐縮しているルイズだが、才人はどうしたって冷やかな目つきを抑えきれなかった。

「……キュルケ、どうしたら良いと思う? 言っとくが俺はそんな気更々ねーぞ? でもよ、こうなった以上はやらなくちゃなんねーのか?」

「……そうよね、ダーリン。一体どうしたらいいのかしらね……」

 キュルケも忌々しそうにルイズを見る。キュルケにとって今のルイズは半ば裏切り者としか思えなかったのだ。

「……ふぅ…モンモランシー、とりあえずマチルダを連れてこい。んでこれからどうするか決めてくぞ? ったく面倒なことになりそうだぜ……」

 指示を受けたモンモランシーが部屋から出ていく。それを見送りながら才人は思いがけないトラブルに頭を抱え、ルイズを殴りつけたい気持ちで一杯だった。いや、殴ってもいいのだが、今はそんな余裕はなかったのだ。

「……とりあえずだ、ルイズ。モンモランシーが戻ってくる前にもう一度説明しろ。なんでこんなことになったのか説明するんだ」

「っわ、わかった。そ、それじゃあ、もう一度説明するわね? 実は今日、サイトが学院から出かけてしばらくしてのことなんだけど……」

 それはルイズから詳しい話を聞かなくてはならなかったからである。才人はぐっと怒りを抑え、ルイズの話を聞いていく。まったくこんなことがないように、オスマンを支配したと言ってもいいのである。それなのに何でこんなにも追い詰められてしまっているのか。

 ったく、この国の貴族ってのはそうなのか? 貴族がそうだから王族も腐ってやがるのか? っありえねーだろーが! アポなしで押しかけて勝手なことほざいてんじゃねーっての!

 姿勢を正したルイズは語り始める。それはとある王子と、とある王女の恋の話だった。

 アンリエッタ・ド・トリステインという名の王女は戦争中で、しかも負け戦最中な城へと乗り込んでくれ。そして親書を届け、恋文を回収して戻ってこいという、どう考えても死んでこいと変わらない、それはそれは無理、無茶、難題な、とある恋の話をしたのである。



[27351] 港町ラ・ロシェールにて
Name: 通りすがり……◆60293ed9 ID:52126834
Date: 2011/10/29 21:28
 すらりとした気品ある顔立ち。薄いブルーの瞳に高い鼻。生まれと育ちから来る高貴な雰囲気。プロポーションは完璧で、出るところは出、引っ込むところは引っ込んでいる。

 何とも瑞々しい色気だった。魔性とはこのことであろうか? なるほど、いささか大仰な「ハルキゲニアに誇る可憐な一輪の花」。そんな形容も納得するしかないだろう。
 にこりと微笑めば如何なる献身をも厭わせない雰囲気を、そんなオーラを放っているのだ。ハルキゲニアの全ての民が、この方のためと死ぬであろう。

 アンリエッタ・ド・トリステイン。トリステイン王国、その王女であって、次代の女王と目される美女である。

 さて、そんな彼女だが、憂鬱な気分で表情が曇っていた。婚姻をすることになったのだが、ある問題によってそれが壊れてしまう恐れがあったのだ。

 もしあの手紙が公になったらどうしよう? 同盟が壊れてしまったらどうしよう? もしそうなって祖国が蹂躙されてしまったらどうしよう?

 アンリエッタは考えていた。全てはこれからに掛かっている。何としても説得し、任務を受けてもらうしかないのだ。

「……いきましょう。ルイズに会わなくてはならないのです……」

 そうしてアンリエッタは寝所を抜け出す。目立たないように黒いマントとフードを被り、目的の部屋へと向かったのだった。



 才人はアンリエッタの依頼を検討する。だからマチルダからの報告でアルビオン情勢を確認し、キュルケにゲルマニアの思惑を推測してもらった。まずは現状を認識しないと、動きようがないだろう。

 ――行けと命じられた国はアルビオン。浮遊大陸として存在し、空軍の充実から強国とされている国である。この国はレコン・キスタ軍(貴族派)と、アルビオン軍(王党派)とで、絶賛内戦の真っ最中である。
 ――アンリエッタの依頼は王党派のウェールズ王子に謁見して親書を渡し、恋文を回収して来いというもの。だが、現在の戦況は王党派の圧倒的不利。よって王党派の拠点までたどり着けというのが、そもそも非常な困難と予想される。
 ――恋文を回収する目的はゲルマニアとの同盟締結のため。ゲルマニア皇帝はトリステインとの同盟締結の条件として、アンリエッタ王女をアルブレヒト三世に嫁がせることを要求した。
 ――アンリエッタは恋文でウェールズ王子に永遠の愛を、しかもラドグリアン湖の精霊に誓ってしまった。故に恋文の内容を暴露されると、ウェールズ以外と結婚をすることができない。何故なら水の精霊への誓いはハルキゲニアで絶対のものであって、このままだと重婚の罪を犯してしまうことになる。

「……まあ要約するとこんな感じになるわけだ。マチルダ、これで合ってるか?」

「はい。それで王党派ですが、決戦に敗れて戦力が枯渇しているはずです。もはや貴族派の進軍を食い止める術はなく、ニュー・カッスル城に籠城しているものと思われます」

「キュルケ、ゲルマニアの目的はアンリエッタ…っていうより始祖の血筋なわけだよな? 国内を纏めるのに高貴な血筋を欲しがってるってわけだ。それで合ってるよな?」

「うん、それで合ってるわ。アルブレヒト三世は言ってみれば諸侯の代表って立場だし、ゲルマニア貴族に忠誠心は薄いの。だから始祖の血筋を取り込んで、その状況から抜け出したいって考えだと思うわ」

 才人は考える。

 ……ふむ。んで、レコン・キスタのスローガンは聖地の奪還。そのためにはハルキゲニアを統一する必要があって、んで、地理的にアルビオンの次の目標はトリステインになる。味方が欲しいトリステインはゲルマニアと同盟を結ぶ必要があるっと……。

 なるほどと思う。そうした理由を聞かされてはトリステイン貴族としては断りにくいだろう。しかも“おともだち”を連発されて、頼れるのはあなただけとまで言われては、単に危険だからでは通らないかもしれない。だが

「よし。んじゃ結論を言うぞ? アルビオンには行かないことにする」

 才人の結論は否であった。

「ったく、冗談じゃないっての! 別に俺たちが行く必要ねーじゃねーか!」

 確かに成功した方がいい任務ではあろう。だが、だからといってルイズが、引いては使い魔として同行しなければ不自然となる才人が、そんな死んで来いと言うような任務を受ける謂れはない。それにだ、才人には手紙の一つで状況が変わるとも思えなかった。

 ――当初は絶対王政の世界であると思っていた。だが、どうやらハルキゲニアは封権制に近いと、今ではそんな風に才人は捉えている。つまり統治には正当性が必要なのだ。そして力で諸侯を抑えている皇帝だから、始祖の血を取り込んで立場の強化を狙っている。ならば手紙の一つくらいは敵の謀略と済ますのではないだろうか?
 ――レコンキスタがトリステインの次に目標とするのはゲルマニアになる。粛清によって貴族たちに動揺が走り、内情が不安定とされるガリアであるが、ゲルマニアに比べれば一枚岩だろう。諸侯の連合体であるゲルマニアの方が、各個撃破は容易いのだ。
 ――トリステインはゲルマニアの盾として有効である。つまりトリステインの次の目標がゲルマニアなら、始祖の血が得られなくとも支援する価値がある。

 才人はポイントがガリアにあると見た。双子の王冠とも呼ばれ、文化的にも似通ってるガリア。過去に何度も血のやり取りをしたガリアである。それなのにトリステインは野蛮と蔑むゲルマニアとの同盟を選んだ。これは厄介事を嫌われ、断られたとみていいだろう。またガリアはレコン・キスタが攻めてきたとしても、充分に対処する自信があるということだろう。
 つまりトリステインほど致命的ではないが、ゲルマニアも追い詰められているのではないだろうか? 条件を付けるほど渋っているように見えるゲルマニアだが、同盟を望んでいるのはかの国も同じではないだろうか?
 それともう一つ。あるいは国内を纏める手段として、ゲルマニア皇帝は敵を欲している可能性があるのではないか? 外敵を作ることで団結し、諸侯を消耗させることで、相対的に権力の強化を狙うやり方だ。うまくやらないと反乱や国力の低下を引き起こす諸刃の剣であるが、有効な手段である。

 才人はこれらのことからゲルマニアとトリステインの同盟であるが、必然であると判断した。レコン・キスタを共通の敵として、トリステインとゲルマニアは手を結ぶに足りうる。
 アンリエッタが重婚云々で同盟が取りやめと言ったのは、これ以上トリステインの立場を弱くしたくない、そんな建前である可能性が高いのではないだろうか?

「よし。んじゃ、そういうことだから断る口実を考えるぞ。それと万一断り切れなかった時の対応を考えておく」

 ベッドに腰掛けた才人は集まった奴隷たちを見下ろす。あれから追加で召集したケティを含めて五人。ルイズ、モンモランシー、キュルケ、マチルダ、ケティの五人である。
 無理やりであろうが何であろうが、いったん引き受けた以上は、断るのにそれなりの理由がいる。任務の達成は不可能である、そんな不自然でないだけの理由である。それをこれから考える必要があったのだ。

 ……やれやれだぜ……。まぁ別にかまわんけどよ、そんなこと伝えに戦場へ行けなんて、んなもん冗談じゃないってーの……。

 それともう一つ気が付いたことがあった。ルイズの話を聞いていて気付いたのだが、どうやらアンリエッタはウェールズを亡命させたいらしい。
 レコン・キスタの目的からすると、王や王子を匿った位でトリステイン征服を諦めるとは思わない。だが火種の一つとはなろうし、出来るなら亡命なんてして欲しくない。才人にとって見ず知らずの人間の命より、自分の安全の方が大事なのだ。

 ……とはいってもなぁ、そうすっと王女の恨みを買うことになる。ルイズがそうなっちまうと、俺まで迷惑がくる可能性が高いしよぉ、ったく、こいつもどうしたもんかね……

 どうしたものかと検討する。才人は時間のない中頭を捻り、奴隷たちに明日の対応を考えさせたのであった。



 アンリエッタは出発する一行を学院長室の窓から見つめていた。目を閉じて、手を組んで「彼女たちに、加護をお与えください。始祖ブリミルよ……」と祈る。

 困難な任務であることはわかっていた。だからだろう、ルイズはじっと考え込んで、なかなか返事をくれようとしなかった。それを頭を下げることで驚かせ、「おやめください」というのを「では、引き受けてくださるのね」と、半ば強引に承諾させたのである。

 ……わたくしはなんと罪深い女なのでしょう。友情に縋って唯一のおともだちに無理をいってしまったのです……

 そして翌朝、ルイズは申し訳なさげに現れた。なんと任務のことを考えながら歩いていて、それで不注意となったルイズは階段から転げ落ちてしまったのだと言う。
 それでもルイズは「姫さま、申し訳ありません、これでは馬に乗ることがかないません」と、足首の痛々しい包帯を見せながら謝ってくれた。そして「ギーシュが協力を申し出てくれました」と、次善の策を考え付いてくれたのだ。

 アンリエッタもグラモン家なら知っている。グラモンといえば当主が元帥の家系である。単なら伯爵家では特使としての格に問題があるが、その点グラモンなら不足はない。

 ……でも、結局はいいわけですわ。こうして怪我をしてしまったルイズに無理をさせてしまっている。ああ…始祖ブリミルよ。わたくしはなんと罪深いことをしているのでしょう。どうか…どうか始祖ブリミルよ、愚かなわたくしをお許しください……

 信頼の点でルイズには格段に落ちるが、怪我をしてしまった以上はしょうがないだろう。アンリエッタは「では特使の任を……」と言い掛けた。だが、その時護衛として同行させようと思っていたワルド子爵が現れた。「姫殿下、ではわたしのグリフォンに乗せればいいでしょう」と現れたのである。
 
 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。子爵の爵位を持ち、三隊ある魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊を預かる貴族である。

 ワルドは茫然として驚いているルイズに「久しぶりだね、でも大丈夫。ぼくがきみを抱えてグリフォンに乗せるから安心するがいい」と微笑んだ。そうした経緯があって、ルイズはアルビオンへと旅立つことになったのだ。

 ……始祖ブリミルよ、どうかルイズにそのお力を……

 アンリエッタ視線を外す。そうして後ろで悠然と立っているオスマン氏へと語り掛ける。

「見送らないのですか? オールド・オスマン」

「ほ、ほほ、姫、すでに杖は振られたのですぞ。見送ったからとて、結果が変わるものでもありますまい。違いますかな?」

「それはそうですが……」

 アンリエッタは納得しなさげな視線を送る。学院長室で待ち受けていたオスマン氏だが、アンリエッタの入室から立ち位置を変えようとしなかった。困難な任務に赴く生徒たちなのだ。せめて窓際まで来て見送るくらいはしてもいいと、アンリエッタなどは思うのだ。

「! っ、あ、あいだっ!」

「? どうしたのです? オールド・オスマン」

「は、はは…姫、見てのとおりおいぼれですじゃ、時おり身体の節々が痛みましてな」

「そうですか……」

 アンリエッタはふぅと溜息をついた。考えてみれば齢100とも300とも噂されるオスマン氏である。ルイズだけでなく、オスマンにも無理をさせてしまっている。学院長を望む貴族は多いのだが、派閥争いに結びついてしまう。だからオスマン氏はなかなか引退できなかったのである。

 ……わたくしは本当に罪深いですわ、ですが祖国の危機なのです。どうかこの困難を乗り越えてルイズが戻ってきますよう……

 アンリエッタは遠い目となって、はるか先にあるアルビオンの大地を目蓋に浮かべる。「祈りましょう……」と目を瞑り、異国の王子を想像した。


 こうした経緯があって、才人はアルビオンに行くことになったのである。

 ……くっそう……あのアマ、絶対に奴隷にしてやる。皇帝に嫁ぐそうだから非処女はマズい? くく…んなもん今更だよな。演技とかさせりゃあいい。

 ギーシュに押し付けることで難を逃れようと思った才人。こんな時のためのギーシュだったのに、思惑通り運ばず不機嫌なのであった。

 ギーシュ一人をアルビオンに行かせ、『水のルビー』だけは確保しておこうと思った。身分の証明に預かった『水のルビー』だが、デルフリンガーから虚無覚醒のアイテムだと教えてもらっていたのだ。あとはギーシュが依頼を達成するもよし、異国の地に果てるもよしと思っていた。

 ……くっくっくっ…、力を使って妊娠させるかどうか、それだけ決めりゃあいいんだ。どうしてもマズいってんならケツ穴専門にでもしてやるさ……

 それなのにワルドである。全く余計なことをしてくれた。ルイズを行かせ、才人が行かなければ済む、そんな問題ではないのである。ルイズが死ねば、ルーンが消える可能性が濃厚なのだ。

 才人はギーシュが死んでもいいとは思っている。だが、殺そうとまでは思っていない。やはり才人は日本人として、殺人への忌避感は残っていた。
 シエスタへの仕打ちや土下座させられたことで、殺意を覚えた才人ではある。そんな時なら勢い余ってというのはあるだろう。だが激情が覚めると、殺したいとまでは思わなかった。
 そして任務だが、やはり失敗よりは成功の方が、いい結果に繋がるだろう。

 ふぅぅ……ったく、プラン変更だな。……まあ、ああなるとは思ってなかったが、考えてみりゃこの方が良かったかもしれん。ギーシュ一人だと不安だったのは確かだしな。……くくっ、となりゃあ……

 そう、そこで都合よく現れてくれたワルドなのである。

 ワルドは魔法衛士隊の隊長だという。つまり正規の軍人である。貴族であろうと民間人を守るのが軍人というものであろうし、軍人が国のために死ぬのはある意味当たり前である。護衛をして、ギーシュ生還の確率が高まるならその方がいいのだ。

 ふむ……となりゃあ、打ち合わせする必要がある。アルビオンの窓口、ラ・ロシェールまで早馬で二日って話だし、そん時奴隷にして、んで今後どうするか考えるとするか……。

 こうして才人は方針を決めた。最初の宿で打ち合わせするとだけ奴隷たちに囁き、ワルドを示しながらニヤリと嗤ってみせた。そうすることでだいたいの思惑を伝えたのである。



「では諸君! 出撃だ!」

 朝もやのなか、ワルドは恰好よく吠える。愛騎のグリフォンの前足を持ち上げ、疾走を開始させた。ラ・ロシェールの街を目指しての出発である。
 一行はモンモランシー、ギーシュ、才人である。そしてその他に、ワルドの胸に抱えられたルイズがいた。

 で、ワルドの思惑は出発の時から狂う。彼はルイズの前に颯爽と現れ、劇的な再会で印象を良くしようと企んでいた。だが入口で見張っていたルイズは馬小屋に行かず、代わりにアンリエッタを訪れていた。しかも足首に包帯を巻き、びっこを引きながら現れたのである。

 ……思えばこの時点で何かおかしかった。引き受けた次の日に怪我なんておかしかったのだ……

 不審に思ったのであとをつける。するとルイズは貴賓室へと行き、アンリエッタに足首を示した。

 怪我をしてしまった、二三日で治るだろうがこれでは馬に乗れない。だから任務を辞退させてもらえないだろうか? 
 任務の重要さはわかる。だからギーシュを推薦するので、任務を辞退させてはもらえないだろうか? といい始めたのだ。

 冗談ではないと思った。そんなことが認められるかと思った。

 ――ゲルマニアとトリステインの同盟を阻止する鍵であるアンリエッタの恋文奪取。
 ――レコン・キスタでの地位向上のための武勲、ウェールズ・テューダ―の首。
 ――ハルキゲニアにおいて無視しえない意味をもつ虚無。その使い手である可能性が高い、そう睨んでいるルイズの心。

 ワルドは三つの目的を持っていた。彼は祖国トリステインを裏切り、聖地への近道であるレコン・キスタの一員となっていた。だからルイズが旅をしないとなれば、その目的の一つであるルイズの心、それを奪うチャンスが無くなってしまうのだ。

「姫殿下、それではルイズをわたしのグリフォンに乗せましょう。そうすれば問題はないはずです」

 慌てて学院の貴賓室へと入った。様子をうかがい、盗み聞きしていたのがバレてしまったのだが、まあそれはいい。どうせこの国とは縁が切れるのだ。叱責される情けない姿を見られてしまったのだが、何とか誤魔化して、渋るルイズを強引に任務に就かせる。

 っくっ……! 欲張るべきではなかったのか? 手紙とウェルーズで我慢しておけば良かったのか?

 そこからは全てが誤算の連続である。

「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」

「……お久しぶりでございます」

 ルイズは何の感情も乗せないで返事をする。あの純真だったルイズなのだ。ここでおかしいと思うべきだったのである。確かに10年もほっぱらかしだっだが、逆に言えばほっぱらかし故に悪く思われる要素もないはずだ。

 懐かしいと嬉しくなるのが当たり前ではないのだろうか?
 ほがらかに笑い掛けたのに平坦に返される。それは明らかな悪意だと、そう判断するべきだったのではないだろうか?
 
「あ、相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」

「……ワルドさま。相変わらずと言われましても、十年も昔の話ですわ。それはわたしが育っていないと言いたいのでしょうか?」

「…………」

 抱きかかえ、グリフォンの上へと乗せる。叱責される情けないところを晒してしまったからなのだろう。ルイズの冷やかな反応だった。

 ……っく……ここだ! ここで目がないと諦めておけば良かったのだ! いいところを見せて挽回すればいいなど、思わなければ良かったのだ!

「っワルド! サイトが追い付いて来てないじゃい!」

「ん? 別にかまわないだろう? へばったならおいておけばいい」

「っ馬鹿言ってんじゃないわ! そんなこというならわたし、降りる。アルビオンへは一人で行きなさいよっ!」

 グリフォンを疾駆させればルイズは怒った。馬と段違いな幻獣を見せつければ印象が良くなると思ったのに、怒ったのである。
 そしてハラハラとして後ろを振り向くばかり。最後には杖を引き抜いて「降ろしなさい」と宣告してくる。

 っこ、ここもだ! 意識を奪ってそのままアルビオンへと行けば良かったのだ! 10年も前の恋心なんて、そんなものが残ってるわけないじゃないかっ!

 慌ててスピードを落とすしかなかった。誤魔化そうと「ル、ルイズ、あの使い魔のサイトという少年は恋人かい?」と聞く。するとルイズはふぅと溜息をついて「……恋人なんかじゃないわ」、である。
 恋人ではないと少しだけ安心したので「そうか、なら良かった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」とおどけた。するとルイズは馬鹿を見る目で嫌そうに見る。

 っく……いいところを見せようとした奇襲は失敗するし、プロポーズで同じ部屋にしようとしたら「下心が見え見えだわ」だと? っふざけるな! 僕だってそんな貧相な身体なんか興味はないわ!

 傭兵を雇って決行した自作自演の奇襲。華麗に立ち回ってスクウェアの実力を見せつける。それで、さあもう直ぐ襲撃場所だと思っていた。すると伏せさせていた場所に着く前にキュルケ、マチルダ、タバサと三人もトライアングルメイジが来るし、しかも風竜と一緒の有様である。
 それはもうあっけないものだった。キュルケは飛んできた矢を纏めて燃やすし、マチルダは巨大なゴーレムで追いかけまわした。そして風竜に乗ったタバサは疲れ果てた傭兵たちを一か所に集め、逃げようとしたら氷を飛ばして串刺しにした。ワルドが手を出すまでもなく、傭兵たちは全滅してしまったのである。

「ダーリン、頭らしいのを捕まえておいたわ。物取りだって言ってるけど、念のためダーリンも聞いておく?」

「ん? ……ああ、じゃあそうするか。くく…んじゃ、ワルドさん。強行軍でしたけど、流石に今日はラ・ロシェールで泊まるんでしょ? 先に行って宿を取っておいて下さいよ」

 ニヤリとして才人は言う。そうして先行し、宿を取ったワルドである。同室にしてもらおうと「大事な話があるんだ」とルイズを誘えば、馬鹿を見る目で「下心が見え見えね」なのだ。
 ワルドはどうやらキュルケがルイズの友人で、才人はそんなキュルケと付き合っているらしいと思った。そしてルイズはそんな才人に恋をしているのだが、友人から略奪するわけにもいかずに悩んでいるのだと思った。

 ……もしあの時「時間の無駄だ」と切って捨てておけば……。打ちのめしてやればルイズの見る目も変わってくると思ったりしなければ……

 そしてワルドは決心する。翌朝、最後の勝負に出たのである。

「……おはよう、使い魔くん。随分と立派な剣じゃないか。さぞかし相当な使い手なんだろうね?」

「ん? そんなことないですよ。使い手なんてとんでもない。持ってると警戒してくれますからね。今回は念のため持ってきただけですって」

 くっくっくっと忍んで話す才人にワルドは嫌な奴だと思った。

「んで? そんなこと聞いてなんだってんです? 船が出るのは明日だから、今日は休みなんでしょう?」

「そうよ! 朝から押しかけるなんて非常識だわ! 勝手に扉を開けるなんて何考えてるのよ! っこの礼儀知らずっ! お里が知れるってもんだわ、ひげ男っ!」

 シーツで身体を隠し、キュルケはワルドを非難する。結局部屋割りはワルド、ギーシュ。マチルダ、タバサ。ルイズ、モンモランシー。そして才人、キュルケとなったのである。

 っうるさいわ! この淫売が! 少しは慎みを持てって言うんだ!

 昨晩は眠れなくて大変だった。隣の部屋だったので、それはもう淫語丸出しで「まんこいいっ、まんこいいっ」だの「ダ、ダーリンっ! 次はケツッ、ケツ穴にも入れてぇっ!」だの漏れ聞こえて大変だったのである。
 だがワルドはぐっと怒りを抑える。どれだけノックして出てこなかったとしても、悪いのは自分だ。だからワルドはぐっと怒りを抑えつける。本題は「喘ぎ声を抑えてくれると助かった」。そんな出歯亀してたと、告白するも同然なクレームではないのだ。

「くく…で? 何の用で来たんです?」

「……ああ、その、あれだ。そんな立派な剣を持っているきみに興味を抱いたのだ。それでどのくらいの腕前だか知りたくなってね、ちょっと手合せ願いたい」

 そう、目的は才人を叩きのめすことである。メイジとしての力量に加え、剣の腕前を示すことである。そうなればルイズは才人に失望するであろうし、その状態で甘い言葉をささやいてしまえば、小娘一人くらい、丸め込んでしまうのは簡単なのである。

 さあ乗ってこい! 乗ってこなければ散々馬鹿にして、無理やりにでも乗らせてやるぞ! さあ乗ってこい! 魔法衛士隊の隊長がどれほどのものか、教えてやるから乗ってこいっ!

 ワルドはにこやかに笑って誘う。もう観客としてルイズを誘っているのだ。だからどうしたって乗ってもらう必要があった。すると才人はキュルケに向かってニヤリと嗤い掛けて「……だってよ」と呟く。

「いいですよ。手合せですね? ただワルドさんは風のスクウェアと聞いてます。魔法を使われたんじゃ勝ち目ありませんからね、“ワルドさんは魔法無しって条件なら受けますけど?”」

「構わんよ。元からそのつもりだ。安心して掛かってくるがいい」

「そうですか、それなら構いません。……ああ、それと念のため聞いておきたいんですけどね。“風のスクウェアってことは偏在が使えるんですよね? 今のワルドさんは本物なんですか?”」

「もちろんさ。僕は本当のワルドだよ。偏在は使えるが本物さ。さっ、そうと決まったんなら早く行こう。この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。中庭には昔の練兵場があってね。手合せするにはもってこいの場所なのさ」

 そうしてワルドが去っていく。だが、その背後には口角を釣り上げている二つの笑顔があった。

 ……くっくっくっ…、なんとまあ都合のいいことで。偏在使いってだけがネックだったんだよな。くく…しかも練兵場ねぇ……確か物置みたいになってたよな? しかも古びた壁で視線が遮断できるような造りになってたよな?

 うってつけのシチュエーションであった。一言二言キュルケに対して囁き、それが終わると準備のために服を着始める。

 さてさて、傭兵たちは仮面を被ったとある貴族に頼まれて俺たちを襲ったってか? アンリエッタの依頼を知ってて、んで傭兵を雇えるのは偏在使いのワルドだけって思うのは間違ってるか? まあ仲間がいるって線はあるだろうが、そうだとしてもワルドが洩らした可能性が高いよなぁ?

 くっくっくっと才人は嗤う。

 どんな目的で襲撃させたかはわからない。いろいろと想像はつくが、重要なことはワルドは純粋な味方ではなく、なにがしかの思惑があるということだ。そしてそのことに才人が気付いていると、悟られた雰囲気がないことである。

 ……もしもワルドの後ろ目があったなら、その邪悪さに勝負を回避して逃げる。そんな選択が生まれたかもしれなかった。そして場面は練兵場へと移り変わるのである。

「……昔、といってもきみにはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」

「ほほう、決闘ですか」

 才人は馬鹿じゃねえのと思う。手合せといっておきながら模造刀や木剣を用意せず、そうして来てみれば決闘を匂わす。が、まあ話に付き合ってやろうと思った。

「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代……、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」

 才人はニヤリとする。ここまで露骨だといっそ笑えてくる。

 ふぅ……いやいや、わかりやすくていいね。……でも、何でルイズに執着してるんだ? 虚無だって知ってるのか? でも家族やジジイさえも“爆発”を失敗とみなして不思議に思わねーんだ。それなのに何で虚無だって知ってるんだ? ……それともロリでツルペタが好みなのか?

 才人は不思議に思う。一体何でルイズに執着してるのか? 才人も使っているのだが、それはそれ。あれだけ露骨にキュルケとの恋人関係を示したのだ。それなのに何故? 婚約者に付きまとう虫と、そんな風に考えたとは考えられない。
 正解はレコン・キスタの盟主が虚無の使い手だと噂を聞き、それで虚無のことをずっと考え、調べていた。そんな時にルイズが平民を使い魔として召喚したと聞き及んだのだ。

 始祖は人を使い魔としていたらしい。ならばルイズはもしかしたら虚無ではないだろうか? それがワルドのルイズにこだわる理由だったのだが、そんなことは才人にはわからないのである。

「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」

 と、ここで助演女優の登場であった。才人は思考を切り上げる。詳しい話ならあとでゆっくり聞けばいいだろう。

 ワルドは「任務の途中に馬鹿なことを」と食い掛かるルイズに「彼の実力を、ちょっと試してみたくなってね」と笑い掛けていた。才人はそれを聞いて「よくいう」と苦笑いする。「貴族とは強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」ともワルドはいう。“ちょっとした手合せ”はどこにいってしまったんだという話だ。

 はぁ……、コイツ、タチわりぃわ。腕に自信があって叩きのめす気満々なんだろ? それにもし仮に分が悪いと見たら、約束破って魔法を使ってくるタイプだな。負けるくらいなら何でもやるタイプだわ。

「……ルイズ。もうそのくらいにしとけ。始めるからどいてろ」

「! わ、わかった」

 疲れた才人は始めることにする。大事なことはここにいるワルドは本物であるということ、それだけなのだ。

「ふぅ……じゃあワルドさん、始めましょう。ただいくつかルールを決めたいんですが構いませんか?」

「なんだね? 構わんから言いたまえ。今更怖気づいたってのはないぞ!」 

 才人は視線を合わせながらにっこりと嗤い掛けた。



 そしていくつかのやり取りを経て、ルイズは才人の足元にひざまずいていたのだった。

「はぁっ、はぁっ……んっ…はぁぁぁ……べろぺろ……ん…っ…ぢゅ……ちゅぷ……えろ……」

「っば、馬鹿な……こんなことが許されるのか……」

 古樽の上に腰掛ける才人、その股の間へと顔を埋め、取り出した肉棒に対してキスをする。細かいキスを繰り返し、袋を頬張っては唾液を啜り取り、肉棒をすっすっと擦り、カウパーを味わおうと唇を被せる。

「くっくっく…大分うまくなったもんだ。褒めてやるぜ? この調子で精進し続けろ」

 エラの裏の恥垢を絡め取る。見せつけるようにしなければならないだろう。限界一杯にまで舌先を突き出し、その頭は根元の根元から、れろぉ、れろぉ、れろぉっと何度も何度も往復した。やわやわと袋をもてあそび、もう片手でぎゅっと肉棒を握り、しこしこしこしこっと高速で動かす。

「よし。次はマンズリしながらしてみろ。くく…触ってみりゃあハッキリする。多分いつもより興奮してると思うぜ?」

 熱い吐息を吹きかける。もう慣れてしまった匂いである。この匂いの持ち主がルイズのご主人様だった。片手で肉棒を支え、大きく開いた口で肉棒を咥え、鼻息の荒いルイズ。スリットが上手くほどけず、もどかしい手つきでショーツを摺り下ろす。

 っはぁっ、はぁああぁぁあぁっ……な、なんでこんな匂いで安心するの? っく、臭いのにっ、ち、ちんぽの臭いなのにっ! はぁあぁぁぁっ…っぁぁあ……く、臭いのがいいわっ、臭いからいいんだわ……

 触れてもいないのにその秘所は濡れていた。あとからあとから愛液は沸き出し、ひくひくと蠢いているような、そんな錯覚を覚えるほどに湧き出してきた。必要のなくなったショーツを勢いのままに投げ捨て、激しく自慰に耽りながら奉仕していく。

「どうだ、美味いか? くく…ルイズ、今の気持ちを正直に言え」

「! ぱはっ……はぁ、はぁ…っお、美味しいわ。っはぁっ、ち、ちんぽしゃぶるとメス汁が溢れてくるの…サイトっ、ち、ちんぽ汁美味しいわ……」

 才人はニヤリと嗤う。このルイズの成長ぶりはどうだ?

 露出調教を始めてから、ルイズは明らかに淫乱へと成長してる。蔑みの視線に対して堂々と胸を張り、部屋へと戻れば思い出す。そうして興奮して、自慰へと耽る有様になったのだ。

「くっくっくっ…そうか、そうか、そいつは良かった。じゃあ次だ、手を使わないでやってみろ」

「っはぁ…はぁ…っ、わかったわ」

 才人は立ち上がる。それでルイズは頭の後ろに両手を回す。どんなことを要求されているか、それを悟ったので膝立ちになる。

「お、お願いします。口まんこ使って下さい」

 限界一杯まで口を開き、舌を差し出し、微動だにしないよう気を付ける。ニヤリとした才人は「おう、使ってやるぜ?」と嗤い、そうして髪を引っ掴んだ。

 髪ごと頭を動かし、喉の奥まで肉棒を突き入れる。乱暴に往復させ、えずこうともそんなことは関係はない。仮に声を出そうものならお仕置きであろう。何しろ膣が声など出すはずがないのである。

 ぐっぽぐっぽぐぉっぽと、ルイズの頭はリズミカルに動く。

 涎が垂れ、口元からはカウパーの糸を引き、それは地面へと落ちて染みとなる。そしてひたすらぐっぽぐっぽぐっぽとリズミカルに。ルイズは才人が「よし」というまで、この状態を維持し続ける。
 動いたらお仕置きなのだ。オナホールと化したルイズはただひたすらに耐え、粗相をしないようするしかない。

「…………」

 ワルドは声も出なかった。あんぐりと口を開け、ルイズの痴態に目を見開くしかなかった。
 決して興奮しているのではない。ただただ唖然として見つめるしかなかった。

 ……ぼくは夢を見ているのか? あ、あのルイズが平民のモノを咥えているだと? いいように口を犯されてるのに動こうともしないだと? …………っく、薬か? だが、操られているようにはどうしても思えない……。

 ぐちょぐちょと激しい水音が聞こえた。それはルイズが蜜壺を掻き回している音であって、ぐぽぐぽとした音は口元から出ていた。
 息継ぎの音は甘い吐息交じりに荒々しく、お尻をフリフリしながら、ルイズはフェラチオへと熱中する。

 そうしてそれが終わればオナホールだ。

 薬で操られているのか? ならばここに現れる前からおかしくないと不自然だ。では脅迫されてやっているのだろうか? それではあれだけ熱中し、興奮していたのを何と説明すればいいかわからない。

 ……くっくっくっ、驚いてるみたいだが…見りゃあわかるってもんじゃないか? 出来なかった朝の日課をここでしろっていったんだ。つまりルイズは毎朝フェラしてるってこったろ? んでバリエーションをいくつか取得したってだけたろ? ったく、そんなことも貴族ってはわからないのかねぇ?

「さっ、とりあえずそんなもんだ。出しちまうから用意しろ」

「! ぱぁあああっはっ……! ……はぁ…はぁ……っ、ぺろぺろっ……だ、出して…そうだった。っはぁ…はぁ…っご、ごめんなさい、サイト。っ……い、今準備するから……」

 唐突に解放されてルイズは驚いた。このまま才人は射精すると思っていたのだ。だが、目的を思い出したので荷物へと駆け寄り、戻ってきたその手には『破壊の杖』が握られている。

 さあ、わくわくすんね? 男でもこの瞬間だけは楽しみなんだよな?

 呆け方からして、そろそろ見せつけるのは頃合いである。ルイズは杖の持ち手を外した。そうして肉棒の先にセット完了。逆手に竿を握り、しこしこしこしこしこっと手コキする。

「くぅっ……! くく…思うんだけどマヌケだよな、まあ仕方ないんだけどな?」

 準備が完了する。どぴゅるるるるるっと射精された精液は『破壊の杖』に充填された。才人はニヤリと嗤い、「始めろ」と顎をしゃくる。

「っな、何をするつもりだッ!」

 ルイズは破壊の杖をすちゃっと構え、余分な空気を抜くべくピストンを押す。

 っ、せ、精液をそんなものに詰めてどうするっていうんだッ!!

「ル、ルイズッ! 何をするつもりなんだ! こ、答えてくれっ! 答えるんだ、ルイズッ!」

 才人は眼前に立って見下ろす。ニヤリと嗤いながら「“四つん這いになれ、ルイズの指示に従って動くんだ”」と命令した。

「……ふぅ、……ワルドさま、そのままじっとしていてください」

「! ま、まさか……よ、よせっ! や、やめろっ、ば、馬鹿なことをするなっ! 正気に戻ってくれ、ルイズッ!」

 かちゃかちゃとベルトを外した。マントをめくりあげてズボンを露出させた。そしてぺろんと丸出しにし、眼前にはその筋の人間に堪らないお尻。流石は魔法衛士隊の隊長、鍛えられたその肉はしっかりと締まっていた。

 っな、何故だ!? 何故身体が動かない!? こ、このままだとアレを入れられてしまうではないかっ……!!

「や、やめろっ! 何だってするからそれはやめろッ! っ頼むッ! た、頼むからやめろぉぉっっ……!!」

 ワルドは必死になって訴える。だが、これだけ懇願してるのに、ルイズは構わずお尻を割り開いていく。

「!! た、たの……」

 もう何がなんだかわからない。それでも「やめろやめろ」と繰り返すしかなく、気が付けばひんやりとした嘴がセットされ

「!? う、うぉおぉぉぉおおぉぉぉぉおぉぉっっっ……!」 

 注入開始であった。ルイズはぎぅうっとピストンを押し切り、中身を入れきってしまう。そうしてからぬぽっと音をさせてソレを抜く。

「……ごめんなさい、ワルドさま。でも、もうこれで一生ご主人様には逆らえないから。……昔は王子様だと思っていたわ。でも、これからはわたしの奴隷だから……」

 悲しそうな声だった。ルイズはワルドの境遇を憐れんでいる。命じられてしまえば、どうしたって従わなければならない。それはルイズだって同じだ。何故ならご主人様とは絶対の存在なのである。

「くっくっく…ルイズのいうとおりだぜ。これからオマエはルイズの奴隷だ。くく…とりあえず身分ってモンをこれからしっかりと教えてもらうんだな?」

 ……言い返す気力が持てなかった。絶望感に包まれて、息を整えることしかできなかった。

 才人を平民と侮ったばかりにこのざまである。メイジとして努力を重ね、スクウェアまで上り詰めたというのに、そんなものは何の役にも立たなかった。どれだけ抵抗しようとしてもピクリとも身体は動かず、命令されればそのとおりに動いた。

「さっ、“ワルド、これからはルイズの命令は俺の命令だと思え、どんなことにも従ってもらう”。……よし。そんなわけだ。俺はもう行くから、身分ってモンを弁えさせておいてくれ」

「……わかってるわ。それでサイト、どのくらい言い聞かせておけばいいの?」

「ふむ……そうだな、キリ良く五回ってところか。やりやすいようにしといてやるから頑張ってくれ」

 才人はワルドの髪を掴みあげる。そうして顔を覗き込むとニヤリと嗤う。“五回”とは何だろうとワルドは思ったが、どうせろくでもないことなのだろう。

「…………さて、ワルド」

 才人は去っていった。それを見送ったルイズはへたり、座り込んでいるワルドへと語り掛ける。

「ふぅ……サイトはね、女王様として振る舞えって。ギーシュみたいにワルドを扱えって言っていたわ……」

 ルイズは懐かしむような口調で青空を見上げる。ワルドは一体何を言っているんだと、悪い予感に怯えながらも、ルイズの方へと振り返る。

「だからね、ご褒美を教えてあげる。しつけも大事だけど、まずはご褒美をあげる。これから戦場に行くんだから、死んでも悔いのないよう、ご褒美から奴隷の身分を教えてあげるわ」

 ルイズは見慣れないものを持っていた。

 がさごそと何かを探る音は聞き違えでなかったのだ。ルイズはその手に奇妙な物体を握っていた。それは黒い革で出来ているようであり、棒状のものをくっつけていた。

 ……あの可愛かったルイズはもういないんだな……。

 こんな状況に陥ってしまえば、それをどのように使うか、それは嫌でも予測できるだろう。

 野望の果て、たどり着いたのは奴隷だった。死は覚悟していたが、こんな決着となってしまえば、もう笑って受け入れるのも一つの選択かも知れない。

 くっ、くくくっ……ルイズはもう身も心も、あの平民の奴隷になってしまっている。そしてこれからは僕もその一員ってわけか……。

 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。聖地にこだわり、待遇への不満もあってレコン・キスタへとその身を投じたグリフォン隊の隊長。がっくりと首を落とし、敗北を認めざるを得なかった。



 処分を終わらせた才人は宿へと戻る。ワルドについては、ルイズに任せておけばいいだろう。これからじっくりと身分を教えてくれるに違いない。

「さてと、モンモランシー」

 入口ではモンモランシーが控えていた。

「くく…夫婦で経営してるって話だったよな、準備はもう出来てるか?」

「……出来てますわ。縛り上げて、猿轡を嵌めさせてます。今は泊まっていた部屋に押し込んでありますわ」

「そっか、そっか、まあ単なる保険なんだからそんな顔すんなって。支配して、忘れさせたらそのまんまだからさ、これまで通りに生活してくさ」

「……わかってますわ。単なる保険ですものね……」 

 モンモランシーは神妙な面持ちだった。

 昨晩、ワルドをからかおうとサイレントなしでキュルケを責めた。大丈夫だとは思うが、噂になってしまう可能性は否定できない。それともう一つ、トリステインを裏切っていた疑いが濃厚のワルドだ。そのワルドが指名した宿だったので、連絡員などで宿の主人は仲間の可能性がある。万が一を考え、才人はこの宿の夫婦を支配し、尋問することにしたのである。

「……くく…で、本命の方はどうだ? 準備の方はどうなってる?」

「……そちらも大丈夫ですわ。ギーシュに使ったのと同じ薬を使いました。念の為に縛り上げて、今はベッドで眠ってますわ……」

 才人は大きくうなずいて満足の意を示す。

「よし。んじゃ、まずは夫婦の方から片付けていくぞ? それが終わったら本命といく。キュルケとマチルダ、それからギーシュはどうしてるんだ?」

「キュルケはタバサのところにおりますわ。便女とギーシュは万が一に備えて周囲を警戒しています。ですから外にいて、この宿にはおりせんわ」

「くく…そうかそうか、んじゃ、これを渡しておく」

 才人は『破壊の杖』を手渡した。

「まっ、ワルドに一回使っちまったしな、一応水洗いしておけ。洗い終わったら二人を支配する」

「……わかりました」

 才人はニヤリと嗤う。オスマンから正体を聞きだしていた。

「んでメシ食ったらタバサだ。くく…不確定要素は潰しておく必要があるしな?」

「……わかりましたわ、ではそのようにいたしますわ」

 奴隷として嬲るには不足である。故に才人はこれまで放置していた。

 だがマチルダの実力をバラし、宿でキュルケに嬌声をあげさせるなど、その正体の一部を晒してしまった。ならば支配しておいたほうが良いだろう。手駒としてなら充分に価値があるのだ。

 ……王位争いに負けた王弟の娘ねぇ……、まあどんな事情で留学してたのかしらんが…偽名で身分を隠してるってのは、後ろ暗いことがあるってこったろ? 

 タバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。雪風の二つ名を持ち、風竜を使い魔とする風系統のトライアングルメイジ。この少女がこれからどうなっていくのか? それはこれから明らかになる。


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