<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

XXXSS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15558] [エログロナンセンス!!!] 夢の国、地虫の話 [オリジナル]
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/07/20 11:41
・グロがあります。

・以上です。よろしくお願いします。



[15558] 『地虫の話』 第一話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:57
 『夢の国、地虫の話』 第一話



 俺は、暗くボロボロな下水道の中、汚水に混じり流れてくる、夢人が垂れ流したクソの、あまりにも臭い匂いで目を覚ました。
寝起きのぼんやりした視界の中、足元を何匹もの畸形のネズミが走り回る。
体長10センチほどの大きさ、全身に目が20個ほどついた、毛の生えていないピンク色ネズミ。
どこかの死体から奪ってきたのか、グズグズに腐った指をくわえ、元気に走り回っている。
 
 ゆっくりと体を起こし、ポケットから紙巻コメレスを取り出し、それと同じように昨日盗んだライターで火をつける。
肺いっぱいに大きく吸い込み、息を止める。下水の寒い空気の中で、吸い込んだケムリだけが温かい。
限界まで息を止め、肺の隅々にまでケムリを充満させてから、俺はゆっくりと紫煙を吐き出す。
 悪くない、上物だ……。クスクスと笑いが込み上げてくる。聴力、視力が冴え渡ってくる。
ぐっ……、足元のクソの臭い、何ヶ月もフロに入っていない俺の体臭までがくっきりと漂う。

「アバラ、いいもん持ってんじゃん。ワタシにも頂戴」

 ぼんやりとした視線で声のするほうに目を向ける。腰まで届くサラサラした銀色の髪、臭いのしない清潔なカラダ。
細いウエスト。ボロボロの服から覗く白い肌。人形のように整った顔。エメラルド色の瞳。栄養失調でツルペタの胸。細い足。長い指。

「あーー、ほら」

 ケムリを吐きながら、火がついたままの吸いかけの紙巻を渡す。

「おっ、感謝、感謝。いやー、アバラは優しいね」

 柔らかな笑顔を見せながら、ソイツはピンク色の唇に紙巻を挟む。目を閉じ、眉を寄せながら、ゆっくりとケムリを吸っている。
 俺は足元をちょろちょろと動き回るネズミどもを蹴飛ばす。ピギッと小さく豚のように一声あげて、ピンク色のネズミどもが走り去っていく。
走り去る直前、体中の目が俺を怨むように一斉に睨む。気にしない。走り去った方角に思い切り唾を吐く。

「んーー。いいね。どしたのさコレ。もしかして、夢人を襲ったの?」

 勝手に俺の隣に座ったソイツが問いかけてくる。馴れ馴れしい。というかコイツの名前、何だったか……。
かすかに記憶にあるんだが……。どうも思い出せない。

「ああ……。黒夢持ちで苦労したが、色々収穫はあった。で……、お前誰だっけな」

 何もかもが気だるい。かなり上質のコメレスだったようだ。自分の声がゆっくりに聞こえる。意識して話さなければ口が動かない。
効いてきたのだろう、突然空腹と性欲が沸きあがる。足元の荷物袋から、乾燥させたオオグリ蛾を取り出し、羽をむしり取り口の中に放り込む。
 口の中に、じゃりじゃりとした歯触りの後に、毎度おなじみのクソみたいな強烈な苦味、ゲロそっくりの酸味。そして、ほんの少しだけの甘み。

「また忘れたの?ジャンク品のコピー夢ばっか食ってんじゃない?ワタシはゾウムシだよ。ていうか、おとといもこんな会話したよ。あ、ワタシにもそれ頂戴、駄目……かな……?」

 コイツも腹が減ってるんだろう。俺が口の中に放り込むオオグリ蛾を、羨ましそうな目で見つめている。
変なヤツだ。これだけ外見が良いんだから、カラダを売ればいいものを。
 袋の中から、乾燥させたオオグリ蛾と、ミドリ蛆の串焼きを取り出す。いつから入れていたのかはっきり憶えていないが、まあ食えるだろう。
この程度で食中毒になりくたばってしまうほど繊細な体なら、地下には住めない。もうとっくにネズミの餌になっているだろう。
 ゾウムシの足元に、取り出した蟲を投げる。

「ああ、脳のどっかが壊れてるんだろうなぁ。ま、どうでもいいよ。ところで、その食い物とコメレス半分やるからよ、一発抜いてくれよ」

 俺の投げた蟲どもを、まさにガツガツという勢いで口に運ぶゾウムシに言う。
ポケットから残りのコメレス紙巻を取り出す。あと19本入っている。一本はあとで吸って、残り8本でジャンクディスクと交換して貰おう。

「えっ、あ……、そ、そりゃ、ワタシはいいけどさ……。アンタ、天使とはヤらないって言ってたじゃん?いいの?」

 目を逸らし、白い頬を赤く染めながらゾウムシがゆっくりと言葉をこぼす。

「あ?んだよっ、てめえフタナリかよ。ちっ、損したじゃねーか。クソ野朗」

 口の中に酸っぱいモノが込み上げる。クソ……。
というか、気付かなかった己に腹が立つ。寝起きとはいえ、コイツの整いすぎた顔を見た時に気付くべきだった。
 愛玩用に作られた存在。夢人どもはジョークのつもりか『天使』などとほざいているが、まあ、飽きたら捨てられるペットだ、このゾウムシのように。
清潔な肌にも納得、こいつらは新陳代謝が少ない。まあ、そのぶん寿命も短いらしいが……。

「ア、アバラ!!そんなら……、口で、シてあげようか?それなら関係ないじゃん。ね?アンタいつも親切だしさ……」

 俺の服に華奢な腕ですがりつくゾウムシ。すがるような瞳で俺を見上げ、小さな唇を広げ、誘うように真っ赤な舌をくねらせる。

「天使じゃ勃たねえんだ。邪魔だ、どけ」

 唾を吐き、勢いよく立ち上がる。

「きゃっ」

 ゾウムシが勢いに押されて倒れる。長く美しい銀色の髪が下水に浸され、クソ塗れに汚れる。
それを見ながら、足元の荷物袋を肩に背負う。
 胸がムカムカする。唾を何度も吐き出す。下水のヌルヌルしたヘドロがついた指を、躊躇せず口の中につっこみ、奥歯に挟まっていたオオグリ蛾の足を取る。
 体中が痒い。ヒゲの生えた顎をこすりながら、ゆっくりと地上へのステップを登っていく。

「ちょ、ちょっと、まってよアバラ。ワタシも連れてってよ。もう何日もまともなご飯食べてないの。これだけじゃ足りないよ。いいかげん死んじゃう」

「知るか、死ね」

 背後からかけられる声を無視し、ステップを登りきり、重い蓋を押し上げる。
ギシギシと軋む音を立てて蓋を持ち上げると、地上の清清しい空気が一気に流れ込んでくる。
地上の埃まみれの空気。イオンと金属、埃の臭いだが、クソまみれの下水よりはマシな香りだ。
 地下よりも遥かに暴力的で、夢人どもが支配するクソ以下の地上だが、少なくとも地下より清潔な事は確かだ。

「夜か……、良く寝てたって事だな」

 空を見上げると、馬鹿馬鹿しいほど多くの星が夜空に輝いている。昨日はここまで存在していなかったように思う。
きっと上級の夢人が創造したんだろう。くだらない。全く無駄な事をする。
 普通人に見つからないように、地上へズルズルと、虫ケラのように這い出す。
割れたビン、所々にぶちまけられた嘔吐物を避けながら、暗い路地の中をゆっくりとナメクジのように這って、手近の建物の影に入り込む。

「アバラ……、誰もいない感じ?」

 ようやく立ち上がろうとした俺に、ゾウムシの声がかけられる。思わずため息……。

「てめえ、ついてくるなって言ったろうがっ」

 小声で、しかし険悪な口調で言い放つ。

「いやー。ワタシ、地上は久々だわ。独りじゃ怖くって、ちょっと無理」

 無視かよ……。あきらめてため息を吐く。頭痛がする。脱力感に支配され、建物を背に座り込む。
そんな俺の隣に、すりよる猫のようにゾウムシがくっついてくる。

「ねっ、ウワサで聞いたんだけどさ、アバラって黒夢使いなんでしょ。だから夢人相手に強盗なんて出来ちゃうんだよね。いやー、ウワサでしか聞いた事なかったけど、実際に夢人がくたばる瞬間が見れると思うと、超興奮しちゃうよ」

 白い頬を染めながら、ゾウムシが興奮した口調で話しかけてくる。キラキラと尊敬したような潤んだ瞳で俺を見つめる。

「馬鹿か……。俺が夢人だったら、あんなクソ塗れの地下に住んでるワケねーだろ。少しは考えて話せよ。つか、邪魔だから帰ってくれ、頼む。お前の面倒見てる余裕は無いんだ」

 コイツ、声が大きい。このまま普通人に見つかりでもして、自治人でも呼ばれると非常に面倒な事になりかねない。
ゾウムシの折れそうなほど細い肩を掴み、強引に俺に向かせ、正面からそのエメラルド色の瞳を見つめ、はっきりと言い放った。

「あ。う、そ、そんなに邪魔だったの?ゴメンなさい……。ワタシはただ……、ん、何でもない。じ、じゃあ、また下で待ってるから。ホントに気をつけてね、アバラ」

 強く言い過ぎたか?少し涙声で俯きながら謝るゾウムシ。

「クソ山にクソして寝てろ。まあ、一仕事終えたら帰るから」

 俺らしくもなく優しめに言い放ち、振り返らず、建物沿いに街へと向かって足を進める。
向かう先は歓楽街。淫夢の街。夢人、普通人、奴隷の関係なく、皆が快楽に溺れる眠らない街。
 その街で俺達みたいな『ハグレ』は狩りをする。
夢を見れない為、『普通人』にもなれず、『奴隷』になるには自我が強すぎ、『夢人』になれる才能などあるハズも無い。
そんな俺達『ハグレ』 いや、夢人達に言わせれば俺達は『地虫』

「くくっ、理想郷にも地虫がいるってか……」

 ぼそりと呟いて、俺は走り出す。



 200年ほど前の大航海時代、ある一人の男が『夢』を実体化させる術式を編み上げた。
夢を具現化する能力。それは最初は歓喜、次に恐怖、そして諦めをもって世界に浸透していった。
術式に真に必要なモノが何かは秘匿されながら、ただその男の一族と、その男に認められ服従を誓った者だけが世界を支配していく。

 夢を己に反映させ、人間をはるかに凌駕する能力を手に入れる夢人達。
ある者は手のひらから炎を一瞬にして呼び出し、また超人的な運動能力、サイキックパワーとでもいう力を手に入れる者たちもいた。
噂では原初の『男』は不老不死の夢を見て、文字通り不老不死になったらしい。
どんな武器も、優れた戦術も、『私は天才』といった夢を得た者や、凶悪な津波、地震などの自然災害の夢によって潰されていった。
 
 そして、時代は進み、技術は進歩していく。
良い夢を見たものが、夢人にそれを売る時代が到来する。夢人でなくとも、良い夢を見る事ができる人々が富を稼げる時代。
リアルで、優れた夢を見れたのなら、それを高額で夢人に売る、また、ある者は有力者の夢人に庇護され、生活の面倒をみてもらえる。
 どんな宝石も、至高の料理も、便利な道具も、『リアルに夢に見る』ことができれば現実化できる世界。
だがそれは、ある負の一面も持つ事になった。
 
『リアルに幸せな者は、リアルに幸せな夢を見ることが出来る。だが、不幸なものが、真実味のある幸せな夢を見られるか?もちろん、見ることはできない。あこがれる事は出来ても、現実に耐えられるほど幸せな夢は見れない』

 つまり、『幸せな者はよりよい夢を見て、さらに幸せになり、貧しい者、不幸な者はよりいっそう不幸になる』というスパイラルが出来てしまった。
まれにこの壁を打ち破るほど、夢に才能をもった人間が現れるが、それは極一部であり、時代と共にはっきりとした階級が出来上がっていく。

 『リアルな夢』を『現実化』することができ、さらに己を夢で改造した『夢人』

 『良い夢』を見ることを目標に、日々を過ごす『普通人』

 『夢』をみることを諦め、リアルな夢を見れず、自我を捨て作業にのみ従事する『奴隷』

 そして『夢』を見ず、ただ日常に抵抗する『地虫』

 ここは夢が現実になる世界。夢の国。

 この国の名は『アルカディア』と呼ばれていた。

 これは、そんなアルカディアで、もがき、足掻き、生き抜く『地虫』の物語である。




[15558] 『地虫の話』 第ニ話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:57
 『夢の国、地虫の話』 第二話



 歓楽街。夜に此処にくると、人間の性欲の凄さがよく解る。

 道端に落ちている精液臭いティッシュを足で踏みつけながら、俺は歓楽街にある建物の影を進む。
 道幅20メートル程の通りには、夢人に創造された性処理人形どもが、通行人を誘うように微笑みかけている。
極ミニのボンテージスーツを着て、全身にタトゥーを彫りこんだ美女が、吐息を漏らしながら口を開き、赤い舌で男を誘う。
通りのこちら側では、ネコ耳を生やして、浅黒い肌に扇情的にオイルを塗りつけている獣娘が笑いかける。
10歳ほどにしか見えない幼女が妖艶な流し目を送り、冗談にしか思えないほど整った顔のフタナリどもが、普通人の男と女を誘う。
 通り沿いに設置された輝くショーウィンドーの中では、手足を切り取られた美女や幼女、少年が情欲に焦がれた顔で欲望をそそり、鼻輪をつけられた巨乳の若い女が自分の値札を笑顔で指差す。

 ありとあらゆる欲望をぶちまける為に創造された存在。人間に近いが、人間ではない。欲望を処理する為だけのヤツラ、性処理人形。
ゾウムシのように『人間』をベースに夢で改造した高級存在ではなく、ただ時間がくれば消えてしまう使い捨ての人形。
 いくらでも粗悪なコピーができるため、世界中どの歓楽街にいってもこういう人形が溢れているらしい。

「クソどもが、クソどもが、クソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!」

 小さな声で呟きつつ、道端に唾を吐き散らしながら、俺はゴキブリのように静かに、だが素早く影を移動する。
胸のむかつきが止まらない。
 自分でもよく解らないのだが、俺は人形が苦手……、いや嫌いだ。どうしても気持ち悪く思えてしまう。
それは、クソのような両親に原因があったのかもしれないし、俺の更にクソ塗れの人生に原因があるのかもしれない。
 だが、どんなに自分を分析してみても、あの人形のように整いすぎた外見や、すぐに人に惚れる態度、うすっぺらい感情表現が気持ち悪く思えてしまい欲情しきれない。
 ま、俺のような『地虫』に性処理人形が微笑みかけてくる事はない為、俺が嫌っていようが、好きだろうが、ヤツラとの間に接点は生まれないのだが。

「おい、ア、ア、ア、アバラッ。こ、こ、こっち、こっち」

 右手の影から声がかかる。死に掛けのネズミのような力の無い、気持ち悪い声。
その声の方角に目を向ける。ボロボロの布切れを体に巻きつけ、髪をモヒカンにし、死んだサカナのように白目がドロッっと濁った30歳くらいの『ハグレ』がいる。

「カメムシか……。お前のところには後で顔を出す。今日はまともなメシが欲しいんだ。一仕事してからでいいか?」

 影の中で立ち止まり、カメムシのいる路地に進み、小声で囁く。俺達『ハグレ』は殆ど囁き声で会話をする。それは、『地虫』である俺達がこの理想郷で生きていく為の処世術。まさに『地虫』の如く、街の最底辺を、目立たないようにと怯えながらドロドロと這い回るだけの、クソったれの人生。

「ア、アバラ……。それなんだがよ。お前、昨晩クソったれの『夢人』殺したか?ウ、ウワサなんだがよ。お、お前が、こ、こ、殺したって、皆が……」

 背中に冷や汗が流れる。誰かに見られたのか?
いや、それは無い……。昨日、夢人を殺したのは、この界隈ではもっとも高級なホテルの一室だ。あんな清潔で監視の厳しい所に他の『ハグレ』が入り込むことは出来ない。俺が殺したとウワサされているのは、きっと……。

「どうせ、ウシアブのクソ野朗が無責任なウワサをばら撒いているダケだろ。カメムシ、考えてくれよ、夢人をまともに殺せるワケねーだろ。脳ミソにウジが涌いているウシアブの妄想だ。あのフタナリ野朗、えっとなんつったっけ……、あっ、ゾウムシ。そう、ゾウムシを俺が匿っているのが気に入らないだけだ」

 俺の言葉にカメムシは、うんうんと頷きを返してくる。が、次の瞬間、濁った瞳で俺を強く睨む。

「そ、そ、それがよ……。昨夜、本当に夢人が、こ、こ、こ、殺されたんだとよ。しかも、その殺されたのが姫のお気に入りの夢人だったらしくてな。朝から、普通人、奴隷、ハグレに犯人捜索、め、め、命令が出てるんだよ。それで、ウ、ウ、ウシアブが夢人をぶっ殺すほどイカレてるのは、ア、ア、アバラしかいねえって皆に」

 足元に唾を吐く。クソッタレだ。これで昨日手に入れた紙巻コメレスをサバくことが出来なくなった。こんな高級品を捌いたら、すぐに足がついちまう。
クソ忌々しい。せっかくまともなメシでも持って帰ろうかと思ってたが。
 
 しかし、姫か……。この街の歓楽街を支配する『夢人』。元々の性別が男なのか女なのかは、誰にもわからないが、とにかく姫と呼ばれている。
外見はウワサでは、絶世の美女らしいが、どうせ他の夢人と変わらないありきたりな美系顔だろう。せいぜい目の色が違っていたり、髪が長かったり短かったりするだけ。
 夢人ってのは、たいがいがどれもこれも、中性的で美しい外見だ。そして華奢で若い。だが、その戦闘能力は凶悪の一言に尽きる。
素手で岩を砕くのは当たり前、あらゆる武術は達人クラスでマスター。更にはワケが解らない能力まで兼ね備えている。まさに化け物。

「ア、ア、アバラ……。今夜は止めとけ。皆がお前を探してるよ。悪い事は言わねえ、クソの巣に戻ったほうが、い、い、いいと思うよ」

「クソッタレな忠告ありがとな、カメムシ。今夜はクソ山でクソして寝ることにするわ、じゃあな」

 カメムシの自慢のモヒカンを手のひらで触り、別れの握手をし、路地裏を後にする。
今夜はツいてないようだ。手のひらのベタベタした汗を、手近の壁にこすり付けながらクソ塗れの家へと足を向ける。

「ちっ、しかし、ゾウムシが腹が減ったとかほざいてやがったな……」

 立ち止まり、足元に唾を吐きながら考える。荷物袋の中に汚れた手をつっこみ、かき混ぜる。駄目だ……、食い物は一片たりとも入っていない。
さらに今すぐ交換できるような物も無い。
 まいった……。あのクソフタナリが死にそうな顔で俺を待っている絵が脳裏に浮かぶ。
ドロだらけの指で、フケだらけの頭をかきながら考える。
 俺の足元をピンクネズミどもが駆け抜ける。一瞬コイツラを食ってやろうかという馬鹿げた考えが浮かぶ。
ありえない。空腹に負け、コイツラを食った『ハグレ』を見たことがある。
 全身にピンクネズミの目そっくりの腫瘍ができ、そこから色とりどりの膿汁を垂れ流し、クソを口から逆流させて死んでいた。
そいつの事を思うと、俺は夢を見ないタチで良かったと感謝する。

「仕方ねえ。とっておきのドラッグディスクでも換金するか……」

 アイデアが浮かばず、仕方なく自分のクソ塗れの巣に向かう。あそこに隠してある秘蔵のオリジナルディスク。
うまく換金すれば、俺とゾウムシが一ヶ月くらいは飢えなくてもすむだろう。
 プランを纏め、来た道を駆け足で戻っていく。相変わらず、歓楽街には人間のあえぎ声や笑い声、怒声が響き渡っている。
それらを後ろに置き去りにして、我が家の蓋の近くに辿り着く。

「ん……?」

 蓋が開いている……。確か、ゾウムシが巣に戻る時に閉めていたハズだが……。

「あぁぁあっっあっ……、やめてよ、そこは触らないで!!ちょっ、きゃっ!あっ、あっ、ああぁ……、イヤッ、助けて、アバラッ!!」

 我が家である下水から声が聞こえた。これは、ゾウムシの声!!それに重なるように男の笑い声。
ため息を吐く。今夜はツいてない。満天の星空を眺めながら、俺はどうしたものかと、もう一度深いため息をついた。
 



[15558] 『地虫の話』 第三話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:58
 『夢の国、地虫の話』 第三話



 全く今夜はツいてない。
相変わらず、下水から響くゾウムシの叫び声と、たぶんウシアブであろう男の笑い声を聞きながら、俺は荷物袋の中をかき混ぜる。
 ボロボロになった布切れ、どこかで拾った金属製の空き缶。ゲロ以下の価値しかない粗悪品のジャンクディスク。ピンクネズミの尻尾。
オオグリ蛾の羽。齧ると甘い木の枝(齧りすぎてもう味がしない)。俺の手書きのクソッタレな下水地図。汚水の染みが着いた帽子、などなど……。

「見事にゴミだらけ……、なんもねぇ」

 持ち主のクソ具合にふさわしく、荷物もクソだ。なんの役にも立ちそうに無い。
足元に喉に絡む痰を吐き出し、盛大に頭をかきむしる。

「やだ、やだやだやだやだ……、ヤメテ、お願い。痛いのイヤなのお願い、あ、やだやだやだ、そんなトコ舐めないで……、許してよぉ」

 クソだ。ゾウムシの声が叫びから、すすり泣くような声になっており、ついでに聞こえてくる太い男の声が、欲情にまみれたダミ声に変わっている。

「クソだ。山盛りのゲロだ。クソッタレの理想郷の中でも、今夜は俺がダントツで最低の腐れXXXだ」

 仕方なく足元のクソ重い下水の蓋を、なんとか右手で持ち上げて抱える。
唾を撒き散らしながら、小声で呪詛を喚きつつ、ゆっくりと下水へのステップを降りていく。出口にできた割れ目から、ギリギリ蓋を抱えて通し、右手で抱えなおす。
 毎度おなじみの、吐き気を催させるクソと下水の香りだけが、いつもと全く変わらずに優しく俺を出迎える。
ため息を吐く……。
 
 この先に、もしも予想通りにウシアブがいたとするなら、殴り合いでは俺に全く勝ち目は無い。
一年ほど前に、南にある農業エリアから、この歓楽街エリアに流れてきたという元奴隷のウシアブ。
元奴隷らしく、山盛りのクソ並みにがっしりした体型、ブタそっくりの顔とぶっとい首。アホ丸出しの太い腕。俺の顔よりデカイように見える拳。
 
 見事に何一つ勝ち目がない……。ため息を飲み込む俺。
右手に抱えた蓋から、何本もの足をグネグネとくねらせながら、鮮やかな紫色のヤスデが蠢き、下水に落ちていく。
それを横目に、俺は音を立てないよう注意しながら、何度も唾を飲み込んで、顔だけをゆっくりと出して下水をのぞき見た。

「おら、ゾウムシ!!これ以上痛い目に遭いたくねーならよ、ほら、はやく、はやく、ソイツを」

 クソだ。やはり俺はダントツでクソ塗れらしい。思わず、握り締めた下水の蓋を落としそうになる。

「ヤダヤダヤダ。そんな事したくないよっ。許してよ、お願いっ!!お願いします!!」

 夢人どもがひり出した大量のクソが流れる下水。
そこに頭を向け、ブタ並みの巨体を四つんばいにした下半身丸出しのウシアブが、自分のケツ穴をゾウムシに向けている。
その巨大なケツの前に立つゾウムシは何発か殴られでもしたのか、華奢な腕に紫色の痣が出来ている。

「おら、はやく俺様の穴にテメエの肉をブチ込めって言ってるだろうがっ!!また殴るぞ。フヒヒ、心配すんなって、あのイカレアバラなんかより数段気持ちよくしてやるからよ。オラ、早くしろっ!!俺様の穴は最高だぞ」

 長い銀色の髪をゆらしながら、グスグスとすすり泣くゾウムシ。
それでも覚悟を決めたのか、ゆっくりと自分のボロ布をたくし上げ、己の太ももをあらわにしていく。
 クソ塗れの下水の薄暗い光に、ゾウムシの白く細い足が艶かしく照らされる。
恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めて俯き、ウシアブのケツ穴に入れる為に、ゆっくりと自分自身のソレに手を伸ばしていく。

「フヒヒ、いいぞ……。ゾウムシ。お前は最高に綺麗だ。絶対に逃がさねえ。は、はやく、いれてくれ。ほ、ほら」

 待ちきれないようにウシアブがケツを振る。クソだらけの下水に顔を向け、交尾をねだるその様子は、まさにブタそのもの。
 
 込み上げてくる笑いを必死で押し殺し、俺は、重い蓋をしっかりと握り締め、ウシアブに気付かれぬようにそっと忍び寄る。
左手で、すすり泣きながら必死に自分自身を奮い立たせようとしているゾウムシの口を塞ぎ、そっと脇へ寄せる。
一瞬、ビクッっと体を震わせてゾウムシが驚くが、俺だと解ったとたん、喜びに顔を輝かせ、ゆっくりと頷きを返してくる。

 「じゃあ、い、今から、そ、挿入します……」

 咄嗟に俺にアドリブを合わせるゾウムシ。コイツもやはり『ハグレ』なだけはある。ただ外見が良いだけではこんな場所では生き伸びられない。
ゾウムシに頷きながら、俺はゆっくりと蓋を頭上に持ち上げ、ウジアブの丸々と太ったケツ目掛け、思い切り振り下ろす!!!

 「ブヒッ!!!!」

 一声、甲高くウシアブが鳴き、その巨体が崩れ落ちるように、ゆっくりとクソの流れる汚水に横たわる。
白目を剥き出しにして、口から泡を吐きながら悶絶している。
 腹の底から笑いが込み上げる。最高だ。

「あーーーん、アバラッ!アバラッ!!怖かったよ、ホントに怖かったんだから!!!」

 華奢な腕を強引に俺の首に回し、泣きながらしがみ付いてくるゾウムシ。ツルツルのくせに、微妙に柔らかい胸が俺の腕に押し当てられる。
こんなにクソ塗れの場所にも関わらず、なぜだかゾウムシの体全体から艶かしいような甘い体臭が立ち上ってくる。

「ウゼェ!!!とっと離れろ。クソフタナリが!!早くこの腐れ穴からズラかるぞ、ネズミの交尾より早く逃げなきゃヤベーんだよッ!!」

 聞いているのかいないのか、必死にしがみ付いてくるフタナリを突き放し、横たわって悶絶しているウシアブの股間に思い切り蹴りを入れ、秘蔵のディスクなどを隠している穴に手を突っ込む。
 ヌルヌルとしたコケやヘドロが、突っ込んだ腕にまとわりつく。指の先端にディスクの固い手触り。俺の腕を伝い、何匹ものアワゴキブリやウジモドキが這い回るが、気にせずにディスクを引き抜く。蟲どもを叩き落とし、ディスクの枚数を確認。
 そして、まだメソメソと泣きながら俺を見つめているゾウムシに言葉をかける。

「おら、とっとと準備しろって。置いていくぞ」

「ええっ!!ちょ、ちょっと待って。すぐ、すぐに準備するから、ね、すぐだからっ!!」

 あわてた様子で走り出すゾウムシ。ウシアブの巨体を踏みつけて、自分の荷物置きに駆け寄り、ごそごそと荷物をまとめ始める。
舌打ちをしながら、ポケットからコメレスを取り出し、火をつける。ケムリを味わいながら、ブツブツと呟きつつも急いで荷物をまとめているゾウムシを見る。
 何発か殴られたのだろう。華奢な顎、細く白い腕、布が破けてむき出しになった白い胴体に、紫色に変色した痣が出来ている。

「良し、おまたせーー。準備できたよん。にしし」

 先ほどまでの泣き顔は何処へやら。何が楽しいのか、能天気な笑顔で俺の隣へ駆けて来る。

「おせーんだよクソ野郎。おら、吸うか?」

 吸いかけのコメレスを渡し、俺達は下水の奥へと足をすすめる。

「おっ、感謝、感謝。いやー、やっぱアバラは優しいねーー」

「うぜぇ、殺すぞフタナリ。つか、テメエはなんでそんなに荷物が多いんだよ。アホが、半分持ってやるよ。おら、よこせクソ」

 下水は暗く、歩く俺達の足元を、見たことが無いような畸形の小動物が駆け抜けていく。
白い色の巨大なミミズが、クネクネと蠢きながらボールのように絡まりあい交尾をし、クソ色の巨大なナメクジが、目玉そっくりのキノコの上で産卵をしている。
クソの流れる下水から顔をだした濃い赤色の蛙が紫の舌を伸ばし、そのナメクジを捕食する。
 下水は何処までも暗い。一見、地獄のようにも見える暗闇と悪臭。
だが多様な生物が、それでも必死に生き延びようと足掻き続け、時に喰い、ときには喰われ、クソをして、交尾をし子供を産む。

 俺達は、これからどうなるのか。明日の事も何一つ解らない。
それでも俺達は、今日休む場所を求め、その暗闇の中をただ歩き続けた。




[15558] 『地虫の話』 第四話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:58
 『夢の国、地虫の話』 第四話



「ア、アバラ……、も、もう歩けない。ちょっと休憩しよ、ね」

 愛しのクサレ我が家から、九時間ほど歩いたぐらいか。俺の後ろでさっきからフラフラしているとは思っていたが、とうとうゾウムシに限界が来たようだ。

「ちっ」

 舌打ちを一つ、足を止め周辺を見回す。流れてくるクソやゴミの量がずいぶん少なくなって来ている。代わりに、鼻を刺す薬品の臭いが酷い。
歓楽街エリアを抜け、工業エリアに近づいた証拠だろう。
 
 下水に住む生物も随分と様変わりしている。やたらと蛙が多い。赤、グレー、ショッキングピンクに、一番多い色はゲロ色だ。
未消化のゲロそっくりのブツブツを体中に纏った、うす黄色の蛙。壁面、足元、頭上、所々にある地上へのステップ、時折ある壁面の裂け目、とにかくそこかしこに蛙が蠢いている。
 五センチほどの大きさのソイツらが、鳴き声も立てずに足元を行進し、流れてくる汚水の中を埋め尽くすほど大量の群れで泳ぐ。
 歩く度に何匹も踏み潰しているが、ボロ靴ごしに伝わる感触はグニャリと柔らかく、犬のクソを踏んだ感触そのもの。
踏んだその瞬間だけ、人間がゲロを吐く時と同じ声を出し、ドロドロの内臓を盛大に撒き散らしながらくたばる。

「吸うか?」

 ボソリと言い放ち、コメレスに火をつける。返事を待たずに、ハアハアと喘ぎ声を漏らす、ピンク色をした柔らかそうな唇へと咥えさせる。
そのケムリを吸いながら、力なく座り込みそうになるゾウムシの腕を掴み、無理矢理に立たせる。

「下手に座るとヤバい。この辺りは工業エリアに近い。ケツがドロドロに溶けて、延々とクソを垂れ流す事になるかもしれねえ。ほら」

 強引にゾウムシの柔らかい体を、俺の肩に寄りかからせる。あまり汗をかかないハズの天使だが、全身から汗をこぼしている。
イカレXXXのウシアブに殴られた所が痛むのか。まあ、華奢なフタナリにしては頑張ったほうだろう。
 
 正直、俺も辛い。ゾウムシのように改造された高級存在ではない俺は、当然だが喉の渇きが早い。
歓楽街エリアを抜ける間で、壁面にびっしりと生えたコケやヘドロから、水分をとってはいたが、この辺りでは全くコケが生えていない。
 頭上から時折垂れてくる水滴には変な苦味があり、なにより通路に所々ある水溜りに生き物が住んでいない。
下水のクソよりもタフな生き物さえ、全く棲息できない水だということだ。
 このエリアになんとか対応したらしい蛙どもも、流水には棲んでいるが水溜りには全く近寄ってこない。
一見、最高に綺麗な水に見える。だが、これを飲むくらいなら、自分の小便のほうが遥かに安全だろう。 

「ねえ、あと、どれ位歩けばいいのかな。や!、いや、元気だよっ!ワタシ元気だけどっ、ちょ、ちょっとダケ……、知りたいなーって」

 俺の肩に寄りかかり、熱い吐息をこぼしながら、ゾウムシが囁き声で尋ねてくる。
足手まといになり、俺に置いて行かれる事を心配しているのか、性病持ちの売春婦並みに控えめな態度。

「あと三十分くらい歩けば、工業エリアの『ハグレ』達が住むステップだ。そこまでだ……」

 喉にビリビリとくる空気を吸い込みながら、ゾウムシに告げる。
 工業エリアの『ハグレ』達は畸形が多い。手が無いとか、二つの目が顔の半分に寄っているとかは当たり前。
全身からクソそっくりの汁を垂れ流しながら生きているやつらも大勢いる。
 だが、たくましく生きている。気のイイやつらも大勢いれば、イカレてるやつらもクソのようにいる。それはどこのエリアだろうと変わらない。
工場の排水が凄まじい毒性を持つため、『ハグレ』の中では珍しく、あいつらは地上に家を持つ。
 俺が数年前に訪れた時には、器用にボロ布で汚物塗れの家を作り、そこでしたたかに生き抜いていた。
なんとか『カシラ』に取り次いで貰い、ドラッグディスクと交換で話をつける。そこまでの辛抱だ。

「よし、行くぞ……。腐れXXX」

 相変わらず、犬のクソそっくりの感触で潰れていく蛙を踏み潰しながら、俺たちは無言で足を動かす。
時折、左手でゾウムシの体を支え、右肩に背負う二人分の荷物の位置をなおし、あらい呼吸で歩き続ける。
 
 足を動かしながらも、イカレタ俺の脳ミソが、なぜ腐れ豚のウシアブが『ハグレ』の不可侵ルールを破ってまで巣に襲ってきたかを考えろとせっつく。
基本的に、『ハグレ』は誰の指示も受けない。勝手に生きようとあがき、勝手に肥溜めみたいな巣で地虫のようにくたばる。

 ハグレが守る戒律は三つだけ。

 『助けられそうな仲間は助けろ』

 『仲間の食い物は奪うな』

 『決して仲間を殺すな』 

 だが、俺を『姫』に売ろうと皆が探していたと、モヒカン頭のカメムシが言っていた。
脳の代わりに母親のクソがみっしりと詰まって生まれてきたであろう、あの交尾豚のウシアブですら三つの戒律は守り、他の『ハグレ』からの信頼も高い。
 アホ丸出しのクソ太い腕を縦横無尽にふるい、自治人や普通人から何度もハグレ達を守り抜いていた。俺も何度か助けられたことがある。
そんな『ハグレ』が仲間を売ろうとする状況……。
 つまり、歓楽街エリアの『カシラ』が『俺を助けられない』と判断したという事。
 
 昨晩に俺が殺した夢人。俺の黒夢の特性上、あまり記憶に残っていない……。それでも、必死に思い出そうとあがく。
 確かに脅威的な身体能力と、黒夢を使っていたが、それとは別によほど貴重な夢を持つ夢人だったのだろうか。
最後に「ぼ、ぼくが夢見た、さ、さ、最強の能力がぁーーーー」と叫び、鼻と口からゲロを噴水のように噴出し、小便とクソ塗れになってくたばった。
 死んだ本人だけは独特な夢だと思っていただろうが、俺が見た能力だけを考えると、クソにたかるウジよりもありふれた能力だったが……。
どうも、はっきりしない。そもそも、どうして俺がソイツを殺すことになったのかも、ぼんやりと霧がかかったように曖昧だ。
 昨晩、俺はあのホテルで『黒夢』を使った……。その後、目の前の死体から、コメリス紙巻と、そして、そして……、

「アバラッ!!アバラッ!!ここ違うの?もう随分歩いたけど」

 俺の腕にいつのまにかくっ付いていたゾウムシが、その腕を引っ張りながら声をかけてくる。一瞬、何事か解らないほどうろたえる。
コメリスが想像よりキいていたのだろう、時間間隔が曖昧としている。だが、確かにそのステップには、記憶通りのキズに見えるシルシがあった。

「あ、ああ……、助かった。腐れフタナリ」

「いいよ、いいよん。ココ?ようやく着いた?」

 頷きを返し、邪魔なゾウムシの腕を振り払う。確かにココだろう。
ステップに、踏み潰された蛙の死体が山のように積もり、モルグのような腐臭が漂っている。
 歓楽街エリアのゲロとクソの臭いも強烈だが、薬品とこの蛙の腐臭の臭いも、負けず劣らず凄まじい。
込み上げてくる嘔吐感を抑えながら、ゆっくりと急な角度のステップを登っていく。

「ゾウムシ、きっとどこかから見られてるからな。変な事するなよ、ぶち殺すぞ、マジで」

 俺の前で、ゼェゼェとあらく吐息をもらしつつ、青い顔でステップを登っていくゾウムシに忠告する。
舌打ちをし、その背中を軽く押す。ヌルヌルと滑る足元に気をつけながら、一段ずつ踏みしめるように足を出し、ひたすら出口を目指す。

「どけ」

 蓋に辿り着き、ゾウムシを押し退ける。ここは仕方ない。荷物を二つともゾウムシに預け、渾身の力で蓋を外していく。
疲れのあまり、両腕がブルブルと痙攣。ポタポタと汗が垂れ、滴が目に入り痛む。かなり重い。不思議な事に、エリアごとに蓋の大きさが違う。遥か昔、エリアを創造した夢人が異なるのかもしれない。ギシギシと奥歯を噛み締める。全身の力を、両腕に込める。

「わぁ……」

 ゾウムシの声。
 ゆっくりと開いていく蓋の隙間から、柔らかな光が差し込む。蛙の腐臭を追い払うような、新鮮な空気が一気に流れ込む。
朝だからだろう。ひんやりと冷えた空気が、どこか清涼感を感じさせ、歩き疲れた俺達を癒す。

「着いた……」

 ようやくクソ重い蓋を外しきる。柔らかな光が、俺達を照らす。
隣に立つゾウムシの髪が、キラキラと陽光を反射し、神秘的な銀色に輝き、柔らかく風に揺れる。
エメラルド色の瞳が、好奇心たっぷりの子猫の様に動き、きょろきょろと周囲を見渡している。

「早く行こう、新しい街だよっ。ワタシ、初めてっ!!」

「ま、山盛りのクソよりもトラブルだらけだろうがな」

 ゾウムシに応じ、ゆっくりと体を地上へ出す。なんとか逃げきる事が出来た……。
俺はそう考えながら、深く安堵の息を吐く。
 それが童貞のガキよりも甘い考えだと、どこか自覚しながら。

 



[15558] 自治人の話 ①
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:00
 
 挿話 夢の国、自治人の話 ①



 歓楽街エリア、治安維持局所。売春婦やドラッグの密売人が多くたむろする通りに面し、その建物はある。
歓楽街エリアの年を追うごとに増加する犯罪に対処するため、10年ほど前に『普通人』達から選抜され作られた組織。
 
 治安維持局、通称『自治人』
 
 男女問わずほぼ全員が、暴力沙汰に対応できるほどの度胸と腕っ節の強さを持ち、ドラッグを憎み、日夜行われる犯罪へと真摯に対応している。
少なくとも、建前上は……。




「ほらっ!!もっと我慢なさい。まだイかせないわ。まだよ……、もっと、もっと、お嬢様が素直になるまで、絶対に出させてあげないから」

 少女そっくりの外見にはそぐわない、白く大きなペニスに、私の長く赤い舌を這わせながら囁く。
その張り裂けそうなほど、怒張したペニスの根元を、指できつく握り締める。
狭い室内に、天使の喘ぎ声と射精を嘆願する声が響き渡る。
 まだ駄目……。見せ付けるように、ゆっくりと亀頭を唇で包むように咥える。ほんの少し軽く歯を立てる。先端からヌルヌルしたカウパーが溢れてくる。
口の中でたっぷりの唾液とあわせ、思い切り吸引しながら、口の中、頬の粘膜と舌で上下に扱きあげる。私の赤いルージュを塗った、厚めの唇でサオを強めに包む。頭ごと前後に振る。
 ああ……、素敵。私のお口が、オマンコになったみたい……。私は可愛い天使の精液便所。まだまだ、出させない。もっと、もっと……。

「だっ、出させて、出させて下さいっ!!ワタクシのメスミルク、ビュッって出させてっ!!お、お願いしますわ!!お願い、お願いっ!!」

 綺麗にツインテールにセットされたブロンド色の髪、琥珀色をした瞳、少女にしか見えない天使だが、その股間のペニスはもう一時間もの間、ずっと私の手、足、そして口で絶頂寸前までいじられ続けている。
 人形のように整ったその顔が、射精できない辛さと、与えられる快楽に歪んでいる。口からはだらだらと涎が垂れ、綺麗な瞳は裂けそうなほど限界まで開かれている。
 その様子を見ながら、容赦なく高速で口と舌を動かし続ける。右手はペニスの根元を握り締めたまま、左手の指を天使の女性器へと差し込んでいく。
熱い……。ドロドロに溶けそうなほど熱い。ここからが本番。私と同じオマンコが、こんなに綺麗な天使にもついているのが不思議に思える。
 
 私の長い指で、雌の快楽を無理矢理に引き出していく。膣の中の壁を、ゆっくりゆっくり、一定のペースでなぶる。
同時に、口の中でペニスを虐める。舌で先端の尿道口をチロチロと舐める。熱くペニスが暴れる。唇でカリをしごきあげる。

「あっ、あっ、あっ、やめでっ、もう許じで下さいませ!!許して、イかせてッーーー!!!!」

 絶叫……。クスッと笑みがこぼれる。最後に思い切り唇で吸引し、亀頭から口を離す。大量の唾液とカウパーが糸を引き、ペニスと私をつなげる。

「そんなに出したい? お嬢様のチンポミルク、私のお口に出したいの?」

 右手はペニスの根元を強く握り締めたまま。左手で三本の指をオマンコに挿しこみ、愛液をだらだらとこぼす膣内をかき回す。
少女は金色の髪をふりながら、コクコクと強く首を上下に振り頷く。
お嬢様の上品だった顔も、今はヨダレと涙でぐしゃぐしゃに崩れ、鼻水まで流している。小声でブツブツと「ださせて下さいませ。ださせて下さいませ……。お、お願いしますわ……」と壊れたように繰り返している。

「それじゃあ、お嬢様。お薬は何処で造ったのかしら、原料は何処から? ん? お姉さんに教えて」

 焦点の合っていない、虚ろな瞳を見ながら問いかける。その質問に少女の琥珀色の瞳が一瞬だけ曇る。
口を開こうかどうか迷っている。まだ……。

「ハイ、駄目ーー!!一時間延長決定っ!!」

 私は口を大きく開き、唾液たっぷりの口腔内を見せつけるようにして宣言。

「いッ、いやーーーー!!!ヤメテやめて。もうお許しになってッ!!!」

 悲鳴を聞きながら、皮バンドを取り出す。狭い取り調べ室に少女の哀願する叫びが響く。私は舌なめずりをしながら、容赦なくバンドを少女のペニスに巻きつける。絶対に射精出来ない様に、きつく縛り上げる。

「それじゃあ。今からはお嬢様のケツマンコを虐めてあげるわ。お姉さん得意なの。ケツ穴に指を入れられるだけでアクメしちゃうような、はしたない穴にしてあげるから」

 ウエストポーチから道具を取り出す。先端がゆるくカーブした細く長い木の枝。所々に突起のある太めの棒。ヌルヌルしたローションの入った小瓶。
取り調べ台ごと逆さへひっくり返す。お嬢様の白いお尻が私の目の前にセットされる。拘束具を操作し、犬のようにポーズをとらせる。
 薄いピンク色のアヌスがひくひくと小刻みに痙攣し、私を誘うように、時折小さく開く。
 
「お、お許しになって……。そんな所、い、いけませんわ。あ、あなた自治人でしょう。も、もう、許して…………、下さい……」

 歓楽街エリア。そこにある多数の『普通人』の資産家たち。その内の一つ、カルマン家。
50年ほど前から歓楽街に根を張り続けたその一族が、あろうことかドラッグの製造密売に手を染めていた。
 
 およそ8年にも及ぶ内偵。ようやく取り調べまで持ち込む事ができた。まだまだ、全てを聞き出すまで逃がさない。
時間はタップリとある。私、一等自治人、サキモリ ハガネの手でカルマン家の一人、シャーロットお嬢様を完全に屈服させる。
 背筋がゾクゾクと喜悦で震える。取り出した大きめの皮のバンドで、お嬢様の目隠しをし、口も塞ぐ。
ブロンド色のカールされたツインテールをかき分けながら、お嬢様の形の良い耳に私の唇を寄せる。舌を伸ばし、耳の外側をじっくりと舐め上げる。
右手で閉じられたアヌスを軽く弄り回しながら、お嬢様の耳に囁く。

「お嬢様がご自分から、話させてくださいっ!!って嘆願するまで虐め続けてあげますわ。カルマン家のお父様も、今頃は私の同僚の手で気持ち良くなっているでしょう。この件は夢人様から許可を頂いてます。どう足掻いても、助かりませんわ……」

 耳の中に舌を挿しこみながら囁く。封じられた口から甘い喘ぎ声と、絶望の響き。目隠しからは、ポロポロと大粒の涙がこぼれる。
カルマン家の頭首。年齢は50歳に近いはずだが、数年前、力の絶頂期に夢人へ取り入り、多数の貧民層『普通人』の脳と引き換えに、一族全員を『天使』に改造してもらうという暴挙に出ていた。
 そのツケは今後、たっぷりと支払う事になるだろう。私達『自治人』により全ての情報を吐き出させられ、末路は『性奴隷』、はたまた『地虫』か。

 シャーロットお嬢様のくぐもったすすり泣きの声を聞きながら、私は器具に手を伸ばす。まずはゆっくりと、排泄の快楽を教え込む事にしよう。
脳が壊れてはいけない。だが、マトモなままではもっといけない。快楽に染め上げる。
 私が主人だと、私の顔を見ただけでアクメを懇願し、自らすすんで情報を漏らすように仕込む。たまらない。天使をいたぶるのは凄まじい快感を私に与えてくれる。
 
 ただ、不満がある。このお嬢様のように、ある程度成長してから『天使』になった存在ではなく、もっと、そう、生まれた直後に『天使』になった存在を思う存分嬲ってみたい。
 ウワサでは、生誕直後に『天使』になった存在は、輝くダイヤのような銀の髪を持ち、エメラルドのように深く光る瞳を持つらしい。
そして、どんな環境にも耐えるタフな精神を持つと。願わくは、そのタフな精神が壊れるまで、じっくりと嬲りたい。あらゆる痛みと、あらゆる快感を骨の髄まで叩き込み、私の言葉だけで、はしたなくアクメ顔をさらしながらザーメンを撒き散らす性奴隷に仕上げたい。
 
 それが私の夢。一等自治人、サキモリ ハガネの欲望。

 シャーロットお嬢様が、情報を話し始めたのはそれから、4時間後。ザーメンを部屋中に撒き散らし、排泄物と小便を全身に塗りたくられ、連続でアクメしながらボロボロと情報をこぼし始まる。
 それを見ながら、私は頬を歪める。たまたま今日は調書をとり忘れてしまった、と。そもそも、今日は調書自体持ってきていなかった。仕方ない……。
体中をガクガクと痙攣させている。高貴な顔を涙とヨダレでぐちゃくちゃに歪め、ペニスを私の足に踏まれながら、ザーメンを吐き出すお嬢様。
その姿を冷たく見ながら考える。明日、もっと、もっと、細かく聞く事にしよう。きっと、明日は偶々、筆記用具を忘れてしまうだろうけど……。
 もっともっと、壊したい。この程度ではつまらない。やはり、生粋の『天使』がいい。ああ、もっとタフな『天使』を……。
 

 それから三ヵ月後、カルマン家の取り調べが、ようやく終わりを見せ始めた頃。
一等自治人 サキモリ ハガネに、『姫』直々に命令が届く。
 
 ・『地虫』アバラならび、『天使』『地虫』ゾウムシの逮捕。ただし、アバラは必ず生存している事。ゾウムシの生死は問わない。

 それは、アバラとゾウムシが歓楽街エリアを抜け出した翌日の話だった。



[15558] 『地虫の話』 第五話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:58
 『夢の国、地虫の話』 第五話



 「5本? ハッ、駄目駄目。ここいらじゃ、もうコメレスなんて流行ってねえんだよ。そんなダウナーより、ピヴィ粉の方がブットブぜ。まあ、10本。うん、10本なら、カシラに取り次いでやるよ」

 工業エリアの小便みたいな色の太陽が、ジリジリと俺達の肌を焼く。
歓楽街エリアでは吐く息が白くなるほど寒かった。ここ、工業エリアも朝は寒かったが、太陽が昇るにつれクソのように暑くなってきていた。
下水暮らしで陽光を浴びることが少なかった俺とゾウムシは、汗を流しながらこのエリアの『ハグレ』と交渉を続ける。

「おいおい、ちょっと待ってくれ。よく見てくれよ。このコメレスの質の良さは解るだろう? なかなか味わえねえ上モノだ。ピヴィ粉のブットビはそりゃイイがよ、コメレスの憂鬱もイイもんだぜ。6本だ。駄目なら、他のヤツに持ちかけるぜ、『カシラ』に取り次ぐだけだ。難しくねーだろうがよ」

 目の前に立つ、陽光を和らげる為の白い布を全身に巻いた工業エリアのハグレ。
地上に出てから最初に遭遇したハグレ。身長が高く引き締まった体型。肩幅はがっしりと広いが左腕が無く、口は耳まで犬のように裂けている。
どこか猛犬を思わせる顔、その二つの目は鋭く光を発しており、深い知性としたたかさを感じさせる。
 俺の言葉に、ソイツは犬のように大きな唇をニヤリと歪める。巨大な歯が、まるで本物の犬のように唇の端から覗く。

「しつこいクソ野朗だ、仕方ねえ。が……、8本だ。『カシラ』は忙しい方だ。こっちもリスクがあるんでな。俺は、お前等が誰とか興味はねえ。だが、その様子から見ると、どう考えてもワケ有りだろう?カエルの巣を今抜けてきたって感じだ。早く『カシラ』に認めてもらわねえと、ヤバイんじゃねーのか? ん?」

 俺は横目でゾウムシの様子を見る。無用なトラブルを避けるために、ボロ布で綺麗すぎる顔と長い銀髪を隠すように巻き、立ったまま無言で俺のやりとりを見つめている。
だが、体力的にもう限界だろう、いつぶっ倒れてもおかしくない。

「わかった。8本だ。だが、『カシラ』と会えるまでの間、休む場所とメシを用意してほしい。その条件なら10本くれてやるよ」

 足元に唾を吐きながら、ポケットから全ての紙巻コメレスを取り出す。よそ者が紹介状も無く『カシラ』に取り次いで貰う相場としても、かなり高い。だが仕方無い。
 とにかく、他のエリアに移動したときには真っ先に『カシラ』に会い、他のハグレに通達してもらう必要がある。
でなければ、殺されはしないだろうが、食料以外の物を全て剥ぎ取られ、下水にでも放り出されかねない。

「オーケー、ゲロ野郎。名前を教えろ。今から取り次いでやるよ。先に言っておくが、ここの『カシラ』は気難しい。会えるまで時間がかかるかもしれねえ。先に俺の腐れホームに案内してやるよ」

 一本だけの右腕で、俺の肩をポンポンと気安げに叩く。その右手はがっしりとした筋肉に覆われており、豚のウシアブ並みに巨大なコブシは圧倒的な力を感じさせる。
 名を告げた俺達に、尖った顎でについて来いと合図をし、振り返り、先を歩いていく。足取りががっしりと安定しており、体重のブレもない。かなり暴力ざたに慣れているのか、よそ者である俺達に背中を見せているのに、余裕たっぷりで先を進んでいく。
まあ、警戒する必要もないほどに、貧相に俺達が見えているだけかも知れないが……。
 
 そんな俺の思考など知るはずも無く、先を行く男は早足で進む。堪えきれずふらつくゾウムシを時折支えながら、俺達は必死で後を着いていく。
喉が渇ききっているのに、汗は滝のように流れ、足元へ点々と落ちていく。路地上のザラザラの砂があっという間にそれを吸収していく。
 
 強い風が時折吹き荒れる。砂の混じったその風が俺達の肌を叩きつけ、その度に小型の蜂に刺されたような、ピリピリとした痛みがはしる。
クソッタレの太陽が、相変わらず何の容赦もなくジリジリと俺達の肌を焼き続ける。
 
 何分ほど歩いたのか、ようやく遠くにボロボロの家が見える。また強風が俺達の肌を叩く。口の中にジャリジャリとした砂が入り込む。何度唾を吐いてもすぐに口の中へ砂が入り込む。とがった砂が入り込む瞳が、熱を持ったようにピリピリと痛む。下水とはまた異なった厳しい環境。
 
 この辺りに『ハグレ』しか住んでいない理由がコレだ。この工業エリアは植物が少なく、砂が多い。また、常に強風が吹き荒れている。
 その為もうずっと昔から『夢人』『普通人』『奴隷』は地下都市に住んでいるという。俺は侵入した事が無いが、うわさでは地下にも関わらず下水とは全く違うほど清潔で、明るい世界が広がっているらしい。
 専用通路を使い、地下から一度も地上に出ることなく『普通人』と『奴隷』は工場へと出勤し、働き終えた後、また地下の街に帰っていく。

 もうこれ以上は歩けないと思い始めた頃、ようやく一軒の家に辿り着く。大きさ4メートルほどの布で作られた三角形の住処。入り口から見える場所に、乾燥したカエルどもが大量に置かれ、奥には眠るための場所だろうか、柔らかそうな布が見える。入り口横には水がめが置かれており、たっぷりと砂混じりの水が湛えられている。
 俺のカラカラの喉が鳴る。弱みを見せてはいけないのだろうが、疲労と空腹がピークに達しており、今すぐにでも水がめに顔を突っ込みたい欲望に駆られる。

「ああ、言い忘れていたが、俺の名はナットだ。じゃあ、アバラとゾウムシか、クソッタレな我が家へようこそだ。メシはそこいら辺の物を喰っとけ、俺はカシラに会って来る」

 欲求を抑え切れない俺達を見透かすように、ニヤニヤと笑いながら、ナットと名乗る男は去ろうとする。その背中にあわてて問いかける。

「いいのか? 解ってると思うが、全部喰っちまうかもしれねえ。水もだ」

 ニヤリとまたもや犬のように歯をむき出しにして、ナットが笑い、言葉を返してくる。

「ああ。最近このエリアは仕事が多くてな。皆、水と食い物には困ってねえ。お前等、死にかけのニワトリよりもきつそうだ。遠慮せず喰え、じゃあな」

 笑いながら歩き去るナット。その姿を確認するや否や、俺達は水がめへと急いで顔を寄せる。大きさ50センチほどの水がめに二人で顔を寄せ合い、犬のように舌を伸ばし、必死で水を貪り始める。
 カラカラに乾ききった体に水が染み渡っていく。美味い……。時折、ジャリジャリと砂が口に入るが、全く気にならない。俺もゾウムシも、ただ時を忘れ、無我夢中で水をすくい、飲み干していく。全ての疲れが吹き飛ぶような快感。乾ききった体に水が染み入る喜びには、どんなドラッグも勝てない。
 飽きるほど水を貪った俺達は、ようやく乾燥カエルに手を伸ばす。
 大きく口を開き、歯を立てる。歯に乾燥した足のスジが絡むほど固い肉。だが、ほどよい塩気があり、一噛みごとに肉の凝縮された旨みが溢れてくる。コリコリとした食感の目玉が特に美味い。奥歯で肉を噛み締めるほど、濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がる。
 次々と手を伸ばす。皮を歯で噛み千切り、骨の周りの肉一片も残さぬようにしゃぶる。骨の中からすら、吸うごとに旨みのエキスが溢れる。

「めっちゃおいしい!!アバラ!!最高だよっ!!!」

 顔の布を外し、ピンク色の唇をカエルの油でテラテラと光らせながら、満面の笑顔でゾウムシが叫ぶ。俺も笑みが浮かぶ。強風に銀色の髪が舞う。辺りにゾウムシの、どこか牡を誘うようなほのかに甘い体臭が漂う。
 
「あああっ!!みてアバラ!!ギタールがあるっ!!弾いてよ、ねえ。弾いて!」

 テントの奥、あのナットの持ち物だろう。古びた弦楽器がある。一見ボロボロだが、掴むと手にしっくりと馴染む。あの男は片腕だったが、良く手入れされているのか弦も錆びておらず、ピンと張ったまま、物陰へと丁寧に置かれている。
 弦に指を這わせる。優しく、柔らかく、女の乳房に触るように。キュッという音、ポロンッと暖かい音、様々な音が空間にはじける。
目を閉じ、記憶の底から譜面を思い出す。しっかりとギタールを握り締める。両手が動き出す。それはかつて俺の中にあった音。
どこか懐かしく、クソまみれな人生なのに、過ぎた後は全てが愛しい。それは旧い曲。遠く離れた恋人を想い、男が作った曲。かつて、過ぎた時に俺が何度も弾いた曲。
 
 俺のメロディーに合わせ、ゾウムシがハミングする。最初は控えめに、じょじょに大きく、大胆に。
透き通るような声。その声とギタールの音色が、哀しく、優しく、テントの中に溢れる。
それは旧い旧い唄。戦火に追われ、離れ離れになった恋人。それぞれが孤独に、必死に日々を生き抜きながら、互いを想い唄った詩。

『それでも、貴方とわたくしは、きっとまた出会えるでしょう。ひと目でいい。ただ、一瞬、触れるだけでいい。貴方が生きていてくれるなら。わたくしが生きたと、貴方に知って貰えるなら』

 ゆっくりと最後の旋律を弾く。あまりにも久しぶりに弾いた為か、両手の先がジンジンと熱い。だが、悪くない。頬が緩む。
いつの間にか、俺と背中合わせに座っていたゾウムシ。その長い銀髪が風になびき、柔らかく俺の肩に降りかかる。
 背中ごしに伝わるゾウムシの温度。安らかな寝息が聞こえ始める。体力の限界だったのだろう。
俺もディスクの入った荷物袋を胸に抱き、ゆっくりと目を閉じる。猛烈な睡魔が俺を襲い始める。
 だが、眠りに落ちる寸前、昨夜の事が脳裏に浮かぶ。

 俺は、あの時……、ナニカに気付いた。何だ?コメリスを抜き取ったあと、足で死体を蹴った。最後に顔が見たかったからだ。
夢人の整った顔が苦悶に苦しんでいる表情を。だが、そこで見たんだ。俺は……、何を………………。
 
 意識がゆっくりと闇に沈む。俺は、夢の無い暗闇へとただ転がり落ちていく。





[15558] 『地虫の話』 第六話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:58
『夢の国、地虫の話』 第六話



 熱い。ナニか熱くて固いモノが、横たわり惰眠を貪る俺のケツにあたっている。
何だろう……。俺のクソッタレなケツに、さっきからスリスリと小動物のように擦りついて来る。
かなりくすぐったい。コメレスは抜けているハズだが、クスクスと笑いがでてくる。
 
 睡眠と覚醒のまどろみの中、俺はぼんやりと微笑む。背後からスヤスヤとした誰かの寝息。
明るい日差しの差し込むテントの中、甘ったるい香りが充満している。
 相変わらず、ケツに何度も熱いナニかが擦りつく。フクロスナネズミか、それともテノリウサギ……。
それが、つつく様な動作にかわる。擦りつくのではなく、まるで、ナニかを狙うような動き……。
 そう、まるで、俺のクソ穴に潜り込もうと……。

「どわあああああああああ!!!」

 『地虫』らしからぬ絶叫を上げ、一気に覚醒した俺は飛び起きる。ドキドキと脈打つ心臓をなだめながら、後ろを振り返る。
そこには、半開きの口からヨダレをこぼし、惰眠をむさぼっているゾウムシがいた。
幸せそうに顔をニヤニヤと緩め、何かをブツブツと呟きながら、ひたすら眠っている。
 それはいい。それは良いのだが、その股間……。
俺と同じくらい、いや下手すると俺よりもデカイんじゃねーかと思えるような男性器が、見事にそそり立っている。

「こ、ここ、こ、このイカレフタナリがああ。よ、よりによって俺のっ、俺のケツを狙うなっ!!!!」

 恐る恐る自分のケツ穴を触る。良かった……。安堵のため息を吐く。裂けてない、良かった。
恐怖が去り、ゆっくりと怒りが込み上げてくる。

「ん……、あん、やだ。えへえへえへ……アバラったらココが気持ちいいんだーー」

 宝石のような銀色の髪を床に広げ、時折艶かしい吐息、馬鹿馬鹿しい寝言を呟いているゾウムシを見る。
しかし、さすがは『天使』。はだけた布から見える、陶磁器のように白くなめらかな肌には、昨日殴られた痕など残っていない。
 『夢人』のどんなプレイにも耐えられるように作られた『天使』は、傷の治りも早い。
個体差は大きいが、相当の実力者に改造された『天使』は、怪我に関してはほぼ不死身に近いと聞く。
『夢』で見た原初の姿に、時とともに戻ろうとする作用があるという。

「おら!!起きろ腐れマンコ」

 小さくカタチの良い鼻をつまむ。ゾウムシの細い眉が若干、苦しそうに寄せられ、人形のように整った顔の眉間へシワが寄る。
そのまま柔らかな唇を右手で塞ぐ。

「ん、ん……、うんんんん……」

 まだ眠ったままのゾウムシ。呼吸が苦しいのだろう。小さな手で、俺の右手を払いのけようと、力なくひっかく。
子猫にじゃれ付かれているような感触。くすぐったい。細い足をジタバタと動かしている。体を覆う布がはだけ、透き通るような白い肌があらわになる。
 とうとう限界が来たのか、両の瞳がパッチリと開かれる。その輝き……。差し込む光に照らされ、深くミドリ色の宝石のように輝いている。
まあ、当然怒ったように俺を睨んでいるが。
 俺はクスクスと笑い声をあげる。両手は変わらず、ゾウムシの呼吸を阻害したまま、さっきの不満をぶちまける。

「てめえ、このクソフタナリ!!俺の可愛いケツ穴にっって、うわぁ!!」

 口を塞いだままの右手のひらに、熱くヌラリとした感触。ゾウムシの極上の柔らかさを持つ濡れた舌が、俺の塞いだままの手のひらを嘗め回し始める。
柔らかい舌が、何度もなぞるようにウネウネと手のひらを往復する。
 俺の背筋に鳥肌。驚きのあまり手を離し、後ろにずり下がる。

「ぷはっ!!!!ア、アバラッ!!何するのよっ!!折角いい夢見てたのにっ!!」

 ゾウムシの怒った声。体を起こし、俺をそのエメラルドの瞳で睨みつける。
そのまま数秒、どちらともなくクスクスと笑いがこぼれ始める。
 堪えきれない。俺達はドラッグが最高にキマった時のように、大きく笑い声をあげる。
これほど良く寝たのは久しぶりだ。腹も膨れているし、小便色の太陽は気持ち良い。
 これから、何があるかわからねえが、何とでもなるような気持ちにさせる。

「おいおい随分とゴキゲンだな。人の家で勝手にファックしたりしてねえだろうな、このゲロども」

 笑いあう俺達の背後から低い声。振り返り見ると片腕の巨漢ナットがテントの出口に立ち、大きな口をゆがめて微笑んでいる。

「こんな犬臭い家でファックなんかしねえよ、クソ野朗。だが、水とカエル、そしてギタールは最高だった。感謝してもしたりねえ」

 ハグレ式の挨拶と共に右手を振り、立ち上がりナットの元に歩く。右手でコブシを作り、ナットと互いにクロスさせ挨拶をする。

「ようやく『カシラ』が会うそうだ。準備してついて来い。ああ、その奥に新しい白い布がある。それに着替えろ。お前らの体は酷い臭いがする。俺の犬並みの鼻が曲がりそうだ。下水のカエルより臭い、何ヶ月も放置されたゲロ以下の臭いだぜ」

 ありがたく親切を受け入れる。下水のクソが染み込んだ布を脱ぎ去り、新しい白い布に着替える。
その柔らかい布が、体にまとわりつくように包んでくれる。脱いだボロ布を大切に道具袋にしまい込む。
『ハグレ』の生活に余裕など無い。ボロ布一枚が生死を分けることだってある。俺達は基本的に物を捨てない。
 捨てさるのは過去だけ、糞尿にさえ様々な利用法がある。

「どうっ!!アバラっ!!似合う? 似合う? 可愛い? 可愛い?」

「あー、似合う似合う。良かった良かった」

 着替えたゾウムシを一瞥もせず、歩き出したナットのあとを、ディスクの入った荷物を持ってついていく。
 風は相変わらず強い。だが、クソッタレの太陽は若干沈み始めていた。
長時間我慢をした後の小便のように、濃い黄色へと光が変わり始めており、辺りには時折冷たい風が吹き始める。

「ナニそれ、ナニそれ!!もう、ちゃんと見てよ。ちょ、ちょ、待って、待ってーー」

 相変わらず元気でウザい声を聞きながら、俺達は足を進める。
色々な大きさのテントが見え始める。足の無いハグレ。目の無い男。頭髪の一本も生えていない子供。布を縫っている鼻のない女。
テントの内外で笑い声。賑やかな生活が繰り広げられている。
 朝にナットが言っていたように、工業エリアは仕事が多いのだろう。皆生き生きと元気に活動している。
数年前に俺が立ち寄った時は、歓楽街エリアとさほど変わらない寂れた様子だったが、今は皆、どこか明るく生活しているように見える。
 
 皆、俺とゾウムシが珍しいのだろう。ジロジロと興味深いような視線で見つめてくる。だが、その視線にも嫌な雰囲気は感じない。
ココの皆には『余裕』があるのだ。よそ者がやってきても生活基盤が揺るがないほどのナニかが。

「なあ、ナットどうしてこんなに裕福になったんだ。何が起こってるんだ?」

 前方を行くナットに声をかける。
だが、俺の声が聞こえたはずだが、何も言わず先を進んでいく。言いたくないのか、それとも……。
 一軒の、ひときわ大きなテントに辿り着く。入り口には二人のがっしりした体格の『ハグレ』が立ち、俺達をジロリと見つめる。
ナットは無言でその二人と頷きを交わし、テントの前に立ち止まり、俺達を見下ろす。

「ここだ。この奥に『カシラ』がいる。朝も言ったが、気難しい方だからな。怒らせるなよ」

 ニヤリと猛犬の微笑みを見せるナット。頷きを返し、俺とゾウムシはテントの中に入っていく。
隣でゾウムシがごくりと喉を鳴らす。緊張しているのか。
 テントの中は暗く、外の明るさに慣れた目では見えない。
奥に誰かが座っているのが解る。テントの中に甘い、強烈な香りが充満している。

「おや……。一人は『天使』と聞いちゃいたけど、随分可愛らしい『天使』だねぇ。そして……、フーン、まあ60点って顔だねぇ」

 甘いハスキーなかすれ声がテントに響く。ゆっくりと闇に目が慣れる。テントの奥、椅子に腰掛けている姿が見える。
 
 太陽にやけた亜麻色の髪。健康的な浅黒い肌。カエルの皮をなめした布で作ったのだろう、肩を大きく露出した真っ赤なレザーのボンテージ調の服。
その服を破きそうなほど上向きにツンと尖った豊満すぎる胸、大きめの乳首の形がくっきりと浮き出ている。
 対照的に細いウエスト。たっぷりと脂肪ののった大きなケツ。
赤いレザーは太ももの付け根ギリギリまでしか覆っておらず、ムチムチした浅黒い太ももが、男を誘うように組まれている。

「アタシが、一応この工業エリアの『ハグレ』を仕切らせて貰ってる『カシラ』、フラックスさ。ようこそ、腐れ地虫ども」

 男を誘うような甘い声。その黒い瞳は強気を思わせる鋭いカタチで俺達を見つめる。
ぽってりした唇は紫色に塗られ、男を誘うようなその舌も紫色をしていた。
 テントに充満する甘い香り。それは、雄の本能を刺激するような刺激的なフェロモンの匂い。
裕福な工業エリアをしきる『カシラ』。それは、極上の雌を感じさせるイイ女だった。




[15558] 自治人の話 ② 前編
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:00
 挿話 夢の国、自治人の話 ② 前編




「サキモリ一等殿。ご命令の通り『地虫』ウシアブを取り調べ室に拘束致しました。よろしいでしょうか」

 先日、買い換えたばかりの赤いフレームの眼鏡。治安維持局所の個室で、そのかけ心地をチェックしていた私に、ノックの後、部下の声が扉越しに届く。

「了解。ご苦労さま」

 うん、いい感じ……。私の白い肌、青い瞳、茶色の髪に、赤い眼鏡が良く似合う。
自分で思うのも何だが、知的でクールな美人という雰囲気。実に満足。さて、現実逃避はこれくらいで終わりにしよう。
 鏡をデスクの引き出しにしまい込み、両手を組んで顎を乗せる。今日の忌々しい出来事を再び思い出し、考え始める。
 
 昨日『姫』からの勅命を受け、面会を許された。
その後、部下とミーティング、準備を済ませ、本日早朝に腕利きの部下を五人引き連れ、『地虫』アバラの棲家だったという下水に踏み込んだ。
 ウワサでは聞いていたが、想像以上に汚く、不潔な場所だった。
あんな所に『地虫』とはいえ、人間が住んでいたとは信じられない。まして『天使』まで一緒だったとは……。
 悪臭と吐き気に耐え、下水に降りてみると、残念な事にその住居に目標の『アバラ』は存在していなかった。
代わりにいたのは、ウシアブと名乗る超巨漢の『地虫』。
どうやら、そこに住んでいた『ゾウムシ』という天使に執着していたらしく、その『ゾウムシ』がかつて寝起きした場所で暮らすことに決めたらしい。
 
 まあ、ウシアブのそんな理由なんてどうでもいい。ちょうどよい参考人として、確保しようとしたのだが、これが恐ろしく手を焼かせられた。
足場は糞尿と汚水だらけでヌルヌルと滑る。地下の光は暗く、狭い下水の中で捕獲用の長い棒も使えない。
 そして、ウシアブという『地虫』の信じられないほどの怪力とタフさ。
百戦錬磨の部下たちが、いかに相手のホームグラウンドとは言え、まさに子ども扱いをされてしまった。
 
 部下の攻撃を全く意に介さず、見かけによらない機敏な動作で、縦横無尽にコブシを振り回す。
足元の汚水をすくいあげ、目潰しとして顔に投げつけてくる。怯んだところを逃さずに、強烈なストレートを打ち込んでくる。
 次々と部下が、文字通り『ぶっ飛ばされ』下水に転がり落ちる。あわてて助けようとした所を、また殴られる。悪循環の極み。
先週買ったばかりの緑色のマントが糞尿と汚水にまみれ、そしてとうとう、動ける部下が残り一人に。
 そう、昨日『姫』から、直々に手渡された『夢武器』を早々に使わされる事になるとは……。

 深くため息を吐く。使用回数制限の事を思うと頭が痛い。しかも、気絶したウシアブの重いこと、重いこと。
こんなに苦労し、ようやく維持局に確保したのに、取り調べに全く気が向かない。
 当然だ。『天使』でもなく、美しい少年少女でもなく、豚そっくりの筋肉と脂肪のカタマリの不潔な『地虫』……。
深い深いため息を吐き、デスクの上の資料を見る。『地虫』の3つの戒律が載っている。

 『助けられそうな仲間は助けろ』

 『仲間の食い物は奪うな』

 『決して仲間を殺すな』 

 頭が痛い。もしも『アバラ』が逃亡しておらず、歓楽街エリアにいるのであれば、『姫』の影響力できっとどうにかできるだろう。
私の希望的推測ではあるが、『助けられない』と判断され、情報もスムーズに取得できるのではないかと思う。
 だが、『アバラ』が既に逃亡済みの場合、『姫』の影響力が他エリアに及ばないために、『助けられそうな仲間』と判断される可能性がある。
となると、なかなか協力は得られないかもしれない。

 己の頬を叩き、気合を入れる。とにかくやってみるしかない。苦痛で責める。
デスクの大きめの引き出しから鞭を取り出す。カツラ水牛の皮を幾重にもなめし、上等の油で手入れされた、処刑にさえ使われる事がある鞭だ。
 しっかりと握り締め、椅子から立ち上がる。やるのだ、サキモリ ハガネ。

 

 ◆

 深くため息……。全く無駄だった……。人間とは思えないほどのタフさ。
鞭で叩き続ける事、二時間。その間、私の鞭を体中に受け、全身から血を流しながらも、気味悪く笑い続けていたウシアブ。

「ふひひ、ふひひ、無駄だ。愛の力は無敵だ。俺様のゾウムシへの燃え盛る愛がある限り、そんなものは効かん。フヒヒ、アバラはともかく、ゾウムシは絶対に売らん」

 狂っている。まさに狂人だ。ペニスを撃とうが、顔面に全力で叩きつけようが、あの厚い脂肪が吸収するとでもいうのか、全くこたえる様子が無かった。
取調室にこもる『地虫』の悪臭に、私のほうが耐えられなくなり、逃げるように部屋を飛び出してしまっていた。
 情け無い……。屈辱に体が震える。しかし、攻略の糸口が見つからない。
食料を抜くか? しかし、『地虫』だ。厳しい環境で生き抜いているヤツラを落とすのに、どれほどの時間が必要になるだろうか……。
 まったく…… 忌々しい。もう何度目になるか解らぬため息を吐きつつ、眼鏡を外してぼんやりとそれを眺める。
カルマン家の事件での報奨金で購入した眼鏡。そう、あの取り調べは最高だった。
 
 シャーロットお嬢様を調教しつくし、最終的には、己の排泄だけでアクメするほどにアヌスを開発しきった。
きっと今でも牢屋で大便をする度、あの澄ました顔を絶頂に歪めている事だろう。
 うん……? そういえばお嬢様のペニスに、鍵付きのバンドを装着したままだったかもしれない。
それならきっと今頃、射精も出来ず、ただ延々と排泄の度にアナルからの喜悦で身を焼かれ、狂いそうになっているに違いない。
 口元がニヤニヤと、笑みの形に歪む。
あの高貴なお嬢様が他の女囚人から毎晩ペニスを弄られ、射精の出来ないアクメ地獄で雌豚のように泣き叫ぶ姿が目に浮かぶ。
『天使』ゆえに狂う事もできず…………、『天使』?
 
 椅子から勢い良く立ち上がる。どうして気付かなかったのか!? 己の鈍さに腹が立つ。
『夢武器』を使用した事に、よほど気をとられていたのだろうか。
 舌打ちをしながら、先日まで使用していた古い外套を羽織る。帽子を被り、ドアを壊しそうな勢いで飛び出す。
向かう先は、刑務所。歓楽街エリア第四刑務所。シャーロットお嬢様が罪を償っている場所。
 頬が緩む。笑いが止まらない。これは存外、楽しい取調べになりそうね……。





「ほら、とっとと並びな!!チンポお嬢様!!食事時間は決まってるんだよ!!」

「は、はいっ!!申し訳ございませんっ!!!わ、わかりましたわっ!!」

 女囚班長の苛立ったような声に、わたくしは急いでトレーを持ち、他の女囚たちの長い列に並ぶ。
周囲からクスクスという笑い声。そして、家畜でも見るような冷たい視線がわたくしに突き刺さる。

 恥ずかしさのあまり、今すぐにでも泣き出したい。悪夢のような毎日。
わたくしの囚人服だけ下半身が破かれており、情け無いほどにそそり立ったペニスは剥きだし。
 かつて自慢だった、わたくしの白い肌。羨望の元だった綺麗にカールした金色の髪。その影に隠れ、必死にこぼれそうな涙を堪える。
剥きだしの足に、太い黒い線で大きく『性処理ペット』 『チンポ虐めて』 『アクメお嬢様』 などと書かれており、皆の視線に晒されている。

 ペニスには鍵付きの皮のバンドが巻かれており、精液を吐き出す事を許してくれない。
この刑務所に収容されている女囚はおよそ300人。その中で『天使』はわたくしだけ。
 『雄』の存在しないこの環境で、わたくしが皆の玩具になる事は、当然すぎるほど当然だった。

 収監初日の夜の自由時間に、抵抗し、怯え、泣き叫ぶわたくしは、哀願むなしく、皆の性処理用ペットに成り果てた。
常に下半身を剥きだしにさせられ、手で、舌で、ペニスで下賎の者へと奉仕を行うペット……。
 わたくし、カルマン=シャーロットが……。泣きたい、狂いたいのに、どうして、どうして、こんなに気持ちいいの……。
射精したい。思う様、黄色くドロドロしたザーメンを噴き出したい。
 毎日、毎日、皆の目を隠れ、トイレで排泄アクメしながら、皮のバンドを外そうと狂ったように己自身を引っ掻く。
あさましいと涙をこぼしながら、トイレの個室で射精できない苦しみ、排泄の愉悦でアクメを繰り返す。
射精したい。ザーメン出したい。それだけが頭の中でぐるぐると回る。
 ドロドロとした欲望が常に全身を焼き続け、吸う空気さえも熱くわたくしを責めるよう。

「ほら、さっさと進みな!!このアクメ豚!!澄ました顔してるんじゃないわよ!!」

 後ろから笑い混じりの怒声。その声と同時にわたくしのアナルに指が入り込む。

 ゾクっ、と眩暈がするほどの快感が背筋を走る。わたくしの開発されきってしまったアナルの中で、下賎な囚人の指が動き回る。
クスクスという笑い声が聞こえる。あああああああっ、気持ちいい……、ダメっ!強く下唇を噛み締め、トレーを握る両手に力を込める。
 指がわたくしをあざ笑うように、強引に根元まで入り込んでくる。笑い声、ヒソヒソとした声が聞こえてくる。
あ、あ……、肛門を無理矢理に広げられる感触。恥ずかしいのに、ヌルヌルした腸液が太ももを伝っていく。
 ビリビリとした快感。気持ちいい、いや……、漏れそうな声を必死で押さえ込む。金髪を必死に振り乱す。後ろの下民は指の動きを止めようとしない。
あろうことか、ヒクヒクと動くわたくしのアヌスに、もう一本指を差し入れてくる。無理矢理、強引にっ!!いやいやいや、快感が抑えられないっ!!!

 ダ、駄目、だめいやだいやだイクっ、いやイヤ嫌、イきたくない。だ、ダメ!!!
カリッっとわたくしの直腸内をその指が引っ掻く。頭の中が真っ白に……、

「いやああああああっ、イク、イクっ!!ア、アクメ、ケツアクメします!!み、見ないでっ、お、お許しになって!!!ううぅぅーー」

 ガクガクと足が震える。気持ちイイ、気持ちイイっ、ケツ穴の中でゴリゴリと容赦なく指が動かされる。
その度にわたくしの口から、あさましい叫び声が漏れ、笑い声が響く。ボロボロと涙がこぼれる。悔しいのに、快楽に逆らえない。

「ほらイッたっ!!!賭けは私の勝ちさ、一品よこしなよ!!」

「この豚!!一分も我慢できないなんて、どれだけ淫乱だよ、損したじゃねーか、てめえ、そのチンポ躾けてやるよ!!」

 食事室に皆の哄笑が響く。強引に両足を抱えられる。がっしりした体型の女囚に後ろから、両足ごと抱えられる。
ま、まるで子供がおしっこをさせられるようなポーズ……。
 あさましいわたくしのペニスが、皆の視線に晒される。恥ずかしい。涙がボロボロ、ボロボロとこぼれる。

「も、もう、お許しになって。わたくしを虐め、あ、ああああああああっ!!!」

 わたくしのペニスを、怒った女囚が指で弾く。容赦なく、強い力で。固くそそりたったソレが、衝撃でブラブラと揺れる。
でも、でも、なんで、なんで気持ちいいのっ。嫌、いや、しゃ、射精させて。許して許して!!

「ほら、皆、賭けようぜ。このお嬢様が、あと何回でアクメするかさ」

 ゲラゲラという笑い声。涙があとからあとから溢れてくる。逃げようと体をよじるが、恐ろしい力で固定され、屈辱的なポーズから全く身動きが取れない。
 何度も衝撃が襲う。痛いのに、その度、背筋を快感が襲う。射精したい、射精したい。ガクガクと体が震え、金髪が中に舞う。
皆の掛け声がぼんやりと聞こえる。数字とともに、わたくしのメスチンポが指で強く弾かれる。イヤ、嫌なのに……。イきたくないイきたくない
イきたくない気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいイきたくない気持ちいいイきたくない気持ちいい気持ちいい気持ちイイ気持ちイイっ!!!。


「21!ほら、そろそろだよっ!!マンコがヒクヒク大洪水になってやがる。そら22っ!!」

「いやああああああああーーーーッッッッ!!!!」

 両手で自慢だった金髪をかきむしる。イクイクイクッ!イッってるの、イッてるのに、射精できない。

「射精さぜで、射精、射精ざぜでぐだざいぃぃ。ゆるじで、やめでーーー」

 笑い声が響く。泣き叫んでいるのに、また何度も何度も指で弾かれる。オマンコに指が入ってくる。ケツ穴にスプーンが押し込まれる。

「ほら、お嬢様のスプーンですよ。それをお使い下さいねーーー」

 直腸内をスプーンがかき回す。再び絶頂に押しやられる。腸液、愛液が泡状にあふれて床に水溜りを作る。皆の笑い声。
その床を舌で舐め取るように命令され、泣きながら舐めるわたくしのペニスを、皆が足で嬲る。狂う、狂う、死ぬ、様々な快感で死んでしまう。
でも死ねない。『天使』の体が気が狂うことも、死ぬ事も許してくれない。快楽で脳がとろける。わたくしは、わたくしは…………。
 
 永遠に続くように思えた快楽地獄。どこかでぼんやりと笛の音が聞こえる。
甲高い靴音が聞こえる。静まり返った食堂内に、声が響き渡る。聞き覚えのある声。快楽でやかれた脳で、ぼんやりと思い出す。

「一等自治人、サキモリ ハガネである。カルマン=シャーロットを引き取りにきた」

 何度も聞いた声……。わたくしは、ゆっくりと気を失った…………。



[15558] 自治人の話 ② 後編
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:00
挿話 夢の国、自治人の話 ② 後編



 部下がドアの前で敬礼をし、姿勢よく足を上げ出て行く。治安維持局所、私専用の個室。
高級な調度品などは置いていないが、壁際に置かれた深緑のバキリバキスタの鉢植えがアクセント。
赤い眼鏡のズレを、人さし指でなおし、床で気絶したまま倒れている少女を見る。

「あらあら、随分可愛がられたみたいね」

 気絶しながらも、射精を封じられたまま、破裂しそうなほどに勃起している男性器。ヒクヒクと物欲しげに蠢くアヌス。
オマンコからはドロリとした粘性の高い愛液が垂れ続けており、カーペットに染みを作り始めている。
陶磁器のようにスベスベした真っ白い肌には、ヒワイな落書きがいくつも書かれている。
 だが、その少女の美貌は少しも衰えていない。綺麗にセットされた縦ロールのブロンドの髪。
気の強そうな、それでいて繊細さを感じさせる美しい顔。淫らな夢でも見ているのか、漏れる吐息が艶かしい。

「じゃあ、やさしく起こしてあげなきゃね」

 2週間ぶりくらいの再会になるかしら……。引き出しから、細い細い柔らかな枝を取り出す。たっぷりとローションを塗りこむ。
その柔らかく細い枝には、所々ポツポツした丸い小さな突起がある。これがシャーロットお嬢様は大好きだった。
口から泡を吹いて白目を剥き、気絶しようが、泣き叫ぼうが、何度も何度もアクメさせ続けた時の事を思い出し、倒れているお嬢様に近づく。

「はーい、お姉さまの前でちゅよ。起きなさい、お嬢様。ご挨拶は、どうちたのかなーー?」

 破裂しそうなペニスを左手で掴み、細い棒を尿道へと一気に差し込む。

「うぅぅぅぅっっっっ!!!!イ、いぎぃぃぃいぃあああああっっっっ!!!!」

 ケダモノのような叫び声を上げながら、シャーロットお嬢様が目を覚ます。無意識にでも逃げるつもりか、体をバタバタと動かすが、自治人の拘束具で固定された手足はビクともしない。
 クスクスと笑いながら、私は細い棒をゆっくりと上下に動かし始める。ローションが泡になり、亀頭の先端からこぼれ始める。
何度も何度も、連続で襲ってくる擬似的射精の感覚。その快楽と同時に、尿道を焼かれるような壮絶な痛み、相反する強烈な感覚。
 お嬢様の脳を焦がし、すばらしい目覚めになるだろう。ペニスからグチュグチュと音がこぼれる。再会のサービス。アナルに指を差込み、お嬢様の大好きな直腸部分を指でカリカリと引っ掻き続ける。私が開発した場所。お嬢様がすぐにアクメする部分は完全に把握している。

「いいいいいいいイグイグイグイグッぎぃぃああああ、イグッイグぅぅぅぅぅぅぅがぁああああああ!!!!!」

 可愛い声……。かつて良家の子女だったとは思えぬほどケダモノじみた叫び。大粒の涙をボロボロとこぼしながら、琥珀色に輝く瞳で、私を見つめる。
必死に挨拶の言葉を喋ろうとでもいうのか、口をパクパクと動かしているが、アクメの叫びに混ざり、言葉になっていない。

「あらあら。シャーロットお嬢様は挨拶もできないんでちゅかーー? あんなにお姉さんがおちえてあげたのに。駄目な子には、お仕置きでちゅよ?」

「イぐっ、がぁいぁあああっ!!!やべで、やべでくだざっ、ああああ、イグイグ、ゆるじでーーーーーうわぁぁあああああっ!!!!」

 ゾクゾクと背筋を喜悦が走る。お嬢様の柔らかなアナルから左手を抜き取る。そのままヌルヌルした腸液塗れの人さし指で、熱く腫れあがったペニスのカリの部分を高速でこする。
 右手では細い棒を容赦なく上下運動させ、擬似射精感を与え続ける。舌をウラスジの部分に這わせ、グネグネと動かして舐める。
 唇を尖らせ、キスをするようにペニスに吸い付く。痙攣し、暴れまくるペニスを左手で握り、絶妙な力加減でシゴキ上げる。
先端からブクブクとあふれて来るローションを舌でチロチロと舐めとる。左手でリズムよく、高速で上下にしごき続ける。
 楽しい……。お嬢様は今、死ぬほど気持ちイイのに、でもバンドが射精させてくれない。
細い棒を奥まで差込み、回転させる。イボイボの突起がお嬢様の快楽神経を責めまくる。
 イきまくるのに、ギリギリで焦らされ続ける。ふふ……、狂っちゃうかしら。

「ウっ!!ヴヴヴぅぅぅぅぅイ、イグーーーー!!!、じぬ、じんじゃううう……………」

 イきまくる叫び声が心地良い。ああ、なんて楽しい。あの『地虫』とは大違い……。
 はっ、とペニスから唇を離す。いけない、いけない。ちょっと夢中になりすぎていた。
名残惜しい気持ちを抑え、お嬢様のペニスから棒を抜き取り始める。この、抜き取る瞬間が最高……。溜めをつくり、一気に引き抜くッ!!

「あああああっ!!!! イ、イク!!イクイクイクイグッッッッ!!!!!!」

 強く引き抜くと同時に、お嬢様の魂から搾り出すような絶叫が響く。金髪の頭を振り乱し、白目を剥き口をだらしなく開き、あさましいアクメ顔で絶叫している。ガクガクと体を痙攣させ、お嬢様のオマンコから、大量の愛液が何度も何度も吐き出されていく。
 
 最高……。熱い吐息をはきながら、ぐったりと横たわったお嬢様の前に立つ。 
私のオマンコからも、ドロリとした愛液が漏れ、黒いショーツにシミができていくのが解る。
 靴を脱ぎさり、ストッキングに包まれた足を悠然とお嬢様の口元に近づける。堪らない。
ああ、今朝の下水で汚れた足。汚水に浸かった汚れが付着したままのストッキング。きっと凄まじい悪臭だろう。

「う……、うぅ、はぁ……ああ…………」
 
 ようやく、アクメの余韻から目を覚ましたお嬢様。私を確認し、一瞬のためらいも無くピンク色の舌を精一杯に伸ばし、悪臭漂うハズの私の足を必死で舐め始める。
そのまま、小さな口を大きく広げる。無言で足を突き出した私を見つめながら、口いっぱいに足を頬張っていく。
 ピンクの舌で必死に指をしゃぶり、その状態のまま言葉を漏らし始める。躾けたとおりの作法。

「サ、サキモヒおネエひゃま。ほ、ほんひつは、ご、ごきげんふるはしゅふ……。うぅぅぅぅ……うう、うううう……わぁぁあああああ……」

「はい、ご機嫌うるわしゅう、シャーロットお嬢様。あらあら、お泣きになって。どうなされたの? ほら……、涙を拭いて。せっかくの可愛いお顔が台無しですわ。さあ、拭いてさしあげます」

 悪臭漂う足の指でゆっくりとピンクの舌を嬲り、お嬢様の口から足を引き抜いていく。
大量のヨダレがストッキングにまとわりつき、お嬢様のピンク色の唇と、私の足に唾液の線ができる。
 
 制服から新しいハンカチを取り出し、隣に座る。お嬢様の涙と鼻水でグシャグシャになった顔を優しく拭いていく。
乱れに乱れた金髪を、ゆっくりと手で整えてあげる。泣き止むように、優しく肩をなでる。乱れた服装を整える。
落ち着かせるように、何度も額や頭に優しくキスを繰り返し行う。

「お、お姉さま。しゃ、射精させて下さい。も、もう、耐えられませんの。お願いします。なんでも致しますからっ、ザ、ザーメン、ザーメン出したいのっ、出させて、出させてっ、お姉さま、何でもっ、何でもしますからっっ!!」

 あとからあとからこぼれてくる涙を拭いていく。優しく金髪の頭を撫でる。ゆっくりとお嬢様の琥珀色の瞳を見つめる。

「ああ……、それは辛かったですね。御免なさい。私ったら、つい外し忘れてしまって。本当に御免なさい。お許しになってね。さあ、泣き止んで下さい。お嬢様、ね。笑って、さあ、お嬢様は笑顔が一番お似合いですよ」

 可愛い瞳。わなわなと震えているピンク色の唇。おびえきった表情。
 私は優しい笑顔を見せながら、何度も頭を撫でる。私の笑顔に安心し始めたのか、お嬢様がゆっくりと微笑みを見せようと努力を始める。
いくぶん引きつってはいるが、それでも、唇がゆっくりと笑みの形をつくり始める。

「臭い臭いチンポ汁出したいのね? メスチンポから、ビューーーって、きちゃないお汁出したいのね? 辛かったのね、なんて可哀想なお嬢様。ぴゅ、ぴゅ、ってイクイクイクッってちゃんと言いながらイけるかしら? そんなに出したい? どうしても射精したい?」

 私の言葉に気がふれたように何度も何度も頭を上下に振るお嬢様。顔を真っ赤に染め、全身が射精への期待で震えている。

「ほら、笑顔をお忘れですよ。もっとにっこりと微笑んで下さい、お嬢様」

 私は柔らかい笑顔でお嬢様を優しく抱きしめる。安心させるように、お嬢様の顔を見つめる。
お嬢様もようやく微笑みを見せる。まだ琥珀の瞳に涙が溜まっているが、ようやく笑顔が出来たようだ。

 その笑顔を見つめ、私も最高の笑顔で言葉をこぼす。





「でも駄目」

「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」

 絶望。心の底の底からの絶望の叫び声。お嬢様の笑顔が一瞬で凍りつく。裂けそうなほど目を開き、引きつった顔、大きく開かれた口。
涙が滝のように勢いよく、琥珀の両目から零れ落ちる。喉の奥から、絶望の叫びが続く。拘束具で不自由なからだをガクガクと痙攣させる。
 ああ……、いい……。イキそう、延々と続く絶望の叫び。高貴な顔が涙とよだれ、鼻水でドロドロに歪んで……、ああ、イクッ!!!!
声が漏れないよう、必死にハンカチを噛み締める。ガクガクと腰が震え、オマンコの奥から、ドロッっとした大量の汁が溢れ出してくる。
ストッキングの中を太ももに向かい、大量の愛液が垂れていく。最高……。
ほぅ…… と吐息を漏らし、余韻を十分に味わったあと、優しくお嬢様の頭をなでる。

「お嬢様。がっかりされるのは早いですわ。私が、お嬢様にピッタリの男性をご用意致しております。その方と夫婦になれば、思う存分チンポミルク吐き出してよろしいですわよ」

 アクメの余韻を十二分に味わいながら、私は、これ以上ないほどの優しい笑顔で、お嬢様にそう告げた。



 ◆

 取調室を出て、三人で私専用の個室に入る。
椅子に腰掛け、引き出しから用意していた書類を取り出し、デスクの上へとキレイに並べる。

「はい、これが書類よ。ウシアブ自治人下等補佐どの。そして、これが奥様の分……」

 あれから、5時間……。素晴らしい見物だった。耐え切れず、何度も何度もオナニーをしてしまった。
せっかくお気に入りのショーツだったのに。愛液でグショグショに濡れて気持ちが悪い。
うん……、あとでお嬢様にでもプレゼントしようかしら。ちょっと気のきいた、結婚祝いとしてでも。

「鍵を、鍵を、シャーロットの鍵をくれッ。外してやらんと死んじまう!!!」

「あら、さっそく亭主気取り? 仲がよろしい事……。ほら……」

 目の前に立つ豚そっくりの大男を見る。大量の水を使い、夫婦仲良く入浴させた為、悪臭はしない。
豚そっくりの顔だが、意外と優しげな表情をしている。鍵を渡す。

「解ってるわね?アンタ、暴れたりしたら、お嬢様はまた刑務所に戻すわよ。しかも、今度は鍵じゃなくて溶接したバンドをつけてね」

「そんな事をしてみろ、このッ!!腐れビッチ。貴様なぞっ!!」

「言葉が悪い!!自分の立場が解ってるの!!!」

 鞭を振るう。ウシアブにではなく、床に倒れているお嬢様に向かって。素早い速度で、ウシアブが庇う。お嬢様の代わりになり、自らの背中で受ける。
鋭い音が部屋に響く。

「解った。解りました。サ、サキモリ一等自治人殿」

 少し躾が必要のよう……。でも、まあ、焦らないでいこう。せっかく使い道が多い部下が増えたのだから。
それに、私を本気で怒らせ『夢武器』を出力最大で使わせてしまったら、ウシアブは瀕死で済むかもしれないが、お嬢様は即死だろう。
それが解らぬほど愚かな男でもなさそうだ。

 鍵を受け取り、お嬢様の元へ向かうウシアブを一瞬見たあと、デスクに置いた書類を見つめる。

 『自治人下等補佐任命書』 そして『婚姻届』 ならびに 『囚人保護観察申請書』

 ウシアブは『天使』に惚れていた。醜く粗暴な男だが、それゆえか綺麗な『天使』に対する執着は、読み通り激しかった。
取り調べ室での事を思い出す。


 ◆

 5時間前の取調室……。射精を封じられ、半ば狂い死にしそうなお嬢様を見せた時の反応。私の鞭にも耐え切った豚男が、目に見えて動揺していた。
それから、3時間……。お嬢様のペニスでガンガンにアヌスを掘られ、ウシアブがとうとう屈服した。

「わたくし、高貴な、シャーロットが、下種な地虫なんかにっ、ああああああ、でもでもでも気持ちいい、気持ちいいですわ!!溶けちゃう。メスチンポ溶けますわっ!!この豚ケツ穴ぎもぢいいいいいいい。なって、なって、わたくしの夫になってえええええ。わたくしを孕ませて、お願いお願いしますわ」

 最低のプロポーズ……。だが、そう泣き叫びながら腰を振るお嬢様に、ウシアブの情がうつったのを見逃さなかった。
射精を懇願しながら気絶したお嬢様を床に横たえたまま、悪臭漂う取調べ室での、私の提案……。

「どうかしらウシアブ。あなた、自治人下等補佐にならない?そうすれば、シャーロットお嬢様を『保護観察』扱いで自由にできますわ。勿論、知っている事は全て教えて貰います。それに、お嬢様と婚姻する事。そうすれば、お嬢様のバンド、外してあげます。どう?悪くないでしょう」

 もし、この話をウシアブが蹴るなら、本気でお嬢様を、ウシアブの目の前で責め殺すつもりだった。
だが、条件を飲むなら、お嬢様を私の権限で自由にできる。私の新しい部下の家内として『保護観察』にできる。

・特例第4条 自治人の配偶者が妊娠期、かつ実行犯でなく1から8までの罪状に該当しない場合、一等自治人の責任の下、『保護観察』に置けるものとする。

 およそ十年前に組織された自治人。当然ながら、刑務所内で自治人への配偶者、子供への風当たりは厳しい。レイプ、リンチの対象になってしまうことも多い。その為に作られた特例第4条。生まれてくる子供は、この国の宝だ。大人よりも、『夢人』にとって良い夢を見る可能性が高いから。
 
 クスクスと笑いが込み上げる。予想通り、ウシアブは条件を飲んだ。
そして、ゆっくりと様々な情報を吐き出していく。中でも、『天使』ゾウムシの外見についての情報は胸躍るもの。
 
 楽しみだ。胸が焦がれる。銀髪、エメラルド色の瞳を持ち、『地虫』の環境ですら明るく笑う天使……。
『姫』の指示書では『天使』としか書かれていなかった為、注意すらしていなかったが、もしかすると……。
ああ、考えるだけでとろけそうになる。しかも、どうやら『天使』には好きな男がいるようだ。指示書にあった『アバラ』という地虫。
 ゾクゾクと背中が震える。アバラの目の前で、ゾウムシを苦痛と快楽でドロドロに堕としてしまおう。
惚れた男に見られながら、それでも堪えきれず、何度も何度もアクメする銀髪の天使……。ああ、堪らない。考えるだけでイキそうになる。
 
 三人で取調室を出た時、私の胸は期待で震え、張り裂けそうだった。




 思い出を中断する。いけない、ゾウムシの事をつい考えてしまう。軽く頭を振り、意識を現在に戻す。
私室の中で疲労のあまり気絶しているお嬢様と、鍵を使いペニスバンドを外し、優しげにお嬢様、いや新婦の金髪を撫でている豚男を見る。

「さあ、サインをしたら、ここにある特別室を貸切にしてあげるわ。なんといっても大切な初夜ですものね。しっかり孕ませてあげるのよ」

 しぶしぶと頷いているウシアブ。ああ、じつに気分がいい。

「明日早朝、受精検査のあと、工業エリアに向かうわよ。夜更かしは、ほどほどにね」

 ウシアブ自治人下等補佐の報告によれば、アバラ、ゾウムシは工業エリアに逃亡した可能性が一番高い。
情報によれば工業エリアは今、非常に危険な状態にあるが、しかし、行ってみなければ始まらない。

 まだ見ぬ銀髪の天使の姿を思い浮かべる。ああ、勢い余って殺してしまうかも、いや、天使なら大丈夫かしら。
そうだ。私の部屋。深緑のバキリバキスタの鉢植えしかない殺風景な部屋。
 そこに手足を切り取った、銀髪の天使を飾ったらどうだろう。もちろん生きたままで。
そう、トイレ代わりに使おう。そして、便器の褒美として、一ヶ月に一度だけ何時間も連続でイかせ続けてやるのだ。
毎日、毎日、私の糞尿を食べながら、一ヶ月に一度の射精に焦がれる天使……、最高だ。胸の高鳴りが、止まらない……。




[15558] 『地虫の話』 第七話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:59
 『夢の国、地虫の話』 第七話




「まず、お前たち名前は……、ええと、アバラと、ゾウムシだと聞いているが、間違いないね?ああ、いつまでも突っ立てないで、適当にその辺りに座りなよ」

 大きなテントの中に甘く刺激的な香りが充満している。工業エリアの『カシラ』フラックスの甘いかすれ声が響く。
俺とゾウムシは、目前のフラックスから感じられる、強烈な雌の気配にどこか圧倒されつつも、頷きながら足元に座り込んで口を開く。

「ああ、俺はアバラ、そしてコイツがゾウムシ。よろしく頼む、フラックス」

 床に直接座ると、椅子に座ったままのフラックスを見上げるような形になる。彼女の椅子に座って組んだ足が艶かしく視線に入る。
引き締まっているのに、たっぷりとした肉を感じさせる褐色のむっちりした太もも。深紅の極短いボンテージレザーの服から見える足が、とんでもなく扇情的だ。

「さて、それじゃあ二人とも、まず『ハグレ』の仁義としてアンタ達の過去は聞かないよ。ただし! 過去は問わないと言っても『3つの戒律』は破っちゃないだろうね? 当然知っているだろうが、戒律破りはすぐに回状が手配される。ここで嘘を吐いたとしても、すぐに解るよ。もし、破っていたら叩き出す。場合によっては、死んで貰う、いいね」

 刺すような鋭い眼光で俺達を見つめる。若い女だが、しかしその迫力は本物だ。伊達に『カシラ』に選ばれていないという事だろう。
殺すべき時には殺す、という意思がはっきりと伝わってくる。鋭い光を宿したフラックスの黒い瞳。隣に座るゾウムシが、怯えたように短く息を吸い込む。だが、俺はその強い視線を見つめ返しながら、はっきりと言葉を吐き出す。

「大丈夫だ。俺もゾウムシもそれはない、安心して欲しい」

 睨みつけたまま、しっかりと言い切る。だがまあ、初対面のヤツの言葉などクソ以下の価値しかない。が、言うだけならタダだ。損は無い。

「ふん……、まあいいさ。それで、要件はなんだい? あのカエルの巣をわざわざ抜けて此処まで来たんだ。目的は?」

 酷くセクシーな声だ。ベッドの中で、この女はどんな声で喘ぐのだろう。心の底から、じわりと欲望が滲み出してくる。
だが、それを表情に表さぬように隠し、俺は話す。

「メシと寝る所が欲しい。はっきりは解らねえが、当分滞在するかもしれねえ。代償としてコレだ。頼む、カシラ」

 荷物袋から二枚のディスクを取り出す。銀色に輝く、直径3センチほどの円盤。表面には、細かく赤い血管のような模様がびっしりと描かれており、時折生きているかのようにドクドクと脈打っている。
 テントの中で二枚とも掲げ見せた後、それをフラックスのほうに持ってこうと立ち上がる。椅子までの距離は3メートル弱。むせ返る甘い匂いを感じながら、一歩足を踏み出す。

「待ちなっ!!それ以上近寄らないでくれるかい。ちょいとワケありでねぇ。雄に近くに来られると辛いのさ。すまないが、そこの天使で頼むよ」

 フラックスのかすれた声。一歩近づいただけだが、漂う甘い香りが強くなった気がする。まあ俺を拒む理由は解らないが、機嫌を損ねたらクソだ。
ゾウムシに目配せをして、二枚のディスクを渡す。きょとんとした顔で俺を見つめているゾウムシ。
 コクコクと子供のように頷き、俺からディスクを受け取ったのち、フラックスに近寄り手渡す。俺はそれを見ながら、元の場所に座りなおす。

「ああ、すまないね。フーン、へぇ…… これは、コピーじゃないね。オリジナルディスクかい。中身は?」

「そう、それは俺がヌイたオリジナルだ。中身は、腕利きの『複製屋』に解析してもらった。ドラッグだ。歓楽街特製のブットぶオリジナルだぜ、二枚ともな」

「アンタがヌいたのかい。となると中々の腕だね。へえ、元気よく血管がビクビク動いてるじゃないか、大したモンさ。アンタ、デッドからはヌけないのかい?」

 デッド、つまり死体。死体から『夢』をヌき取るのは至難の技だ。正直いって成功率は1割以下だろう。無理にヌいても、ジャンクになるのが関の山だし、何よりも俺の精神自体がヤバイ。デッドに引っ張られて一緒に逝っちまう。デッドから高確率でディスクを抜ける奴は、数少ないハグレの『ヌキ屋』全体でも更に数えるほどしかいないだろう。少なくとも、俺の知っている『ヌキ屋』の中にはいない。今は亡き俺のオヤジでも、成功率は3割ってとこだろう。

「いや、デッドは自信がねぇ。俺はケチな強盗だ。なるべく殺さずヌいてきた。だが、トギも少しは出来る。どうだろう?そのディスクでなんとかメシと住居が欲しい。二人分だ。頼む」

 歓楽街での俺の仕事。ドラッグや淫夢でイイ感じにトンだ『普通人』<ノーマル>を襲い、そいつの『夢』をヌく事。つまり『ヌキ屋』だ。
まあ、リアルな夢をもっているノーマルは数が少なく、またリアルな夢だとしてもそれが『使える夢』かどうかは別の話だ。
 はっきり言って、ドブの中から小銭を探すような率の悪い仕事だが、俺にはコレしかないため仕方がない。まれに上質の夢がヌケれば、それをモヒカンのカメムシみたいな『複製屋』に持って行き、買い取って貰う。または食料と交換。
 
 ごく稀に、ディスクを『トグ』仕事が入る事もあったが、俺は正直『トギ』の腕は悪い。
『トギ』に絶対的に必要な『共感』『ナオシ』が苦手だからだ。俺が得意なのは夢の『ヨミ』と『スイ』そしてディスクへの『カキ』だ。
 まあ、得意とは言っても、それは『ヌキ屋』全体で見れば、中の上くらいの腕だろうが……。

「そう、トギも出来るのかい。だがね、このエリアには凄腕の『トギ屋』がいるから必要ないよ。そうさね、このディスクも要らない。返すよ」

 言葉とともに、俺の座る所へと二枚のディスクが飛んでくる。俺は空中でそれをあわてて受け取る。受けとったディスクの表面で血管ソックリの『ライン』がビクビクと脈打つように震える。唖然とする。
 『トギ屋』は『ヌキ』や『複製』と比べて、かなり難しく、リスクの高い仕事だ。
 
 俺のオヤジも凄腕の『ヌキ屋』兼『トギ屋』だったが、俺が12歳の時に『トギ』にしくじり、お袋を殺し、首をつってくたばった。
ジャンクディスクの『ナオシ』は相当タフな精神、そして幸運が必要になる。
 
 グシャグシャの、まさに下痢便みたいなジャンクディスクの夢データに、自分の意識を突っ込み、そこへ共感しつつ、さらに修復するという並行作業が必要だからだ。
 俺も少しだけ『トギ』をするが、まず、ウジだらけの腐りきったマンコに自分のペニスを突っ込み射精できるタフな度胸が必要になる。
そして、自分のケツを大根並みのチンポでゴリゴリ突かれるような苦痛に耐え切る精神もいる。

 凄腕の『トギ屋』は普通人<ノーマル>の中にも殆ど存在しないのだ。
だが、このエリアにはいるらしい。不味い、だとするならば、このディスクにあまり価値が無い……。

「ちょ、ちょっと待ってくれカシラ。そ、それでも、最高にクールなオリジナルディスクだぜ。そこまで悪い条件じゃねえだろう。頼むよ」

 二枚のディスクを持った俺の必死な訴え。ちらりと、隣のゾウムシを見る。なにかフォローして欲しいと思ったのだが……。
こ、こいつ………、俺達の会話に退屈だったのか、こっくりこっくりと座ったまま居眠りをはじめてやがる。口元からは、だらしなくヨダレが垂れている。

「ふふ、そう慌てるんじゃないよ。まるで童貞のガキみたいじゃないか。違うのさ。心配しなくても、アンタ達のメシとファックする場所は手配してやるよ。ただ、仕事をして欲しいのさ。このエリアは今、人手が足りないんだ」

 笑いを含んだフラックスの言葉。それを聞いた俺は深く安堵のため息を吐く。肩から力が抜ける。全身の緊張が、わずかながら緩む。

「んだよ、マジでびびった。小便とクソをちびりそうだったぜ。が、そういう条件ならこっちからお願いしたいくらいだ。しかしフラックス、ディスクもそのまま貰っとけばよかったんじゃないのか? ディスクだけでは足りないから仕事しろ、と言われたとしても俺達が拒否できないのは解ってんだろ?それとも、何か仕事以外に目的でもあるのか?」

 そう言った俺の言葉を聞いたあと、大きな胸を見せ付けるように背筋を伸ばし、フラックスは楽しそうな笑顔を見せる。
ゾウムシのような純粋な雰囲気の笑顔ではなく、まるで雄をベッドに誘う売春婦のように色っぽい笑顔。
紫色の厚めの唇が、俺を誘うような微笑のカタチへとカーブを描いている。

「フフフ……。豊かなんだよ、此処は今。そんなセコイ真似はしなくっても、充分生きていけるのさ。アンタのカスだらけの臭いチンポを狙ったりとか、そんな他の目的があって優しくした訳じゃない。安心しなよ」

 妖艶な微笑み。喉が勝手に動き、溢れてくる唾を飲み込む。ヤバイ、ヤバ過ぎるほどイイ女だ。ヒィヒィよがり狂わせたくなる。
何度も何度もアクメさせ、泣きながら屈服した姿を見たくなるような、そういう雰囲気がある。
 その思いを押さえ込み、俺は口を開く。疑問をぶつける。

「そう、そこは俺も不思議だった。昔、俺が此処に流れてきた時は、全然豊かなんかじゃ無かったぜ。日々のメシにも困るような、最低のモルグみたいな棲家だった。だが、今はすげえ。皆が、サカリのついた猫並みに元気いっぱいだぜ。コイツはどういう事なんだ、フラックス」

「フフ……、不思議かい? まあ、おいおい教えてやるよ。ただ簡単に言えば、いま工業エリアの中で凄いドンパチが起こってるのさ。『オリジナルワールド』の夢人と『セカンドワールド』の夢人、まあやつらは自分の事を『転生者』と呼んでいるがさ。ソイツらが地下都市の中で争っているもんだから、警備も穴だらけ。セックスにハマッた女並みに簡単に股を開き、アタシ達を都市の中に入れてくれるのさ」

 心底楽しそうに笑うフラックス。座った椅子の横に置いたテーブルの上から、なにか小さな袋を取り、俺に投げてくる。
空中で受け取る。小さな透明な袋。その中にキラキラと白く輝く、塩のような粉末が入っている。
 『セカンドワールド』 そして『転生者』 聞いた事の無い単語に戸惑うが、今はコレが先だ。

「ピヴィ粉か?コレを都市の中で捌いてんのか? だからメシには困ってねえのか」

 手のひらにソレをサラサラとのせる。うん?ピヴィ粉の、独特な匂いが薄い。混ぜ物か? だが、ピヴィ粉は工業エリアの排水から出来る結晶を精製してできるドラッグ。ここ、工業エリアではいくらでも手に入る。あえて混ぜ物を入れる必要はない。
 さらにピヴィ粉は、グシャグシャなアップ感が特徴で、好きなヤツも多いが、効き時間が短く、バッドも多く、そして辛い。
バッドのきつさはコメレスの比ではない。バッドトリップ時の、永遠に続くような吐き気、全身にウジがたかる様な気持ち悪さ。目が飛び出そうなほどの体の内側からの圧迫感。どれをとっても地獄の苦しみだ。『ハグレ』には愛好者も多いが、ノーマルに流行るモノじゃない。

「まあ、やってみなよ。新しい世界だよ」

 フラックスのかすれた甘い声。俺はその声に押されるようにして、手のひらの粉に鼻を寄せ、右手で片方の鼻の穴を押さえる。そのまま、一気に残りの鼻から吸引する。鼻の粘膜に片栗粉が張り付いたような不快感。
 だが、その不快感は一瞬のうちに消え去る。ピヴィ粉独特の刺すような刺激臭が、ほのかに香る。
しかし、特に変化を感じない。ピヴィ粉のような、一気に脳天にクるグシャグシャなトリップ感も無い。
 
 なんだ?隣で眠りこけている、ゾウムシにも試させようと思い、かるく右手で肩を小突く。
ビクッと体を震わせ、ゾウムシがエメラルド色の瞳を開く。状況が解ってないのか、周囲をきょときょとと見回している。
そんなゾウムシに俺は袋を渡そうとするが、それより一瞬早く、フラックスの笑いを含んだ声が聞こえる。

「しっかし、その子は無邪気だねえ。まるで本当の天使みたいじゃないかい。だが、『地虫』と『天使』のカップルなんざ、随分と変わった組み合わせだよ。初めて見たねえ。たいがい『天使』は『ハグレ』よりも『性奴隷』になるもんだ。なんだい、アンタら駆け落ちってやつかい?」

 軽い世間話なんだろう。フラックスが妖艶な黒い瞳で俺達を見つめる。
だが、その声……、まるでベッドの中での喘ぎ声のように、甘くかすれたような響き。
何かヤバイ気持ちが沸き起こる……。最近ヌいてないのもあるが、凄まじく性欲を刺激される。
白い布の中で、俺のペニスが熱く硬くなっていく。もし、近くに誰もいなかったら、無理矢理に襲っちまうかもしれない。
 
 椅子に腰掛けたままのフラックスを両手で押さえ込み、体をピッタリと包む赤い皮を強引に剥ぎ取り、犬のようなポーズを取らせたい。
そして、そのでかいケツを手で何度も叩きながら、めちゃくちゃに突っ込むのだ。
言葉を話す度、俺を誘うように動く紫色の唇。その中の長い舌を強引に奪い、思い切り俺の舌を絡めたいという欲望が膨れていく。
 
 なにかヤバイ……、変だと思うのだが、体が熱く考えがまとまらない。必死の思いで性欲を押し留めようと足掻く。
そんな俺の欲望を見透かすようなフラックスの視線。なんとかマトモに返答しようとするが、喉がうまく動かない。

「やっ、やだ、恥ずかしいっ。え、ええ、えっと、ま、まだ……、そんなんじゃナイ……よね? ねっ、って!!アバラ!!大丈夫ッ!!!具合悪いの?大丈夫ッ!!凄い汗だよっ、どうしたの!!!」

 吐く息が熱い。マトモにモノが考えられない。今すぐにでもフラックスの褐色の肌に舌を這わせたい。あのデカすぎる胸に噛み付き、俺の歯型をつける。
俺のモノだというシルシを。さっきから、楽しそうに、そして俺を誘うようにチロチロと揺れ動いている紫の舌に、俺のペニスを擦り付けるんだ。
たっぷりとアブラがのった太もも。その奥にある性器に思い切り突っ込みたい。子宮の奥に届くほど突き入れ、狂うほどの快楽の中、精子を大量に吐き出し……。

「アバラッ!!アバラッ!!ね、しっかりしてっ!!お願い、お願いだよっ!!」

 泣き声が聞こえる。体がガクガクと揺さぶられる。性欲に支配された頭をゆっくりと横に向ける。
綺麗なエメラルドの瞳が俺を見つめている。そこから、大粒の涙がダイヤのように転がり落ちている。
 ナニを泣いているんだ……。銀色に輝く髪が、テントの外の夕日に照らされ、まるで燃えているように輝いている。
何をこいつは言っている?よく聞き取れない。馴れ馴れしく、俺の体を揺さぶるその手。何をコイツはこんなに必死に………。

 いや、待て…… 待て、そもそも……、コイツの…………、名前、ナンダッケ……?

「アバラッ!!!!!いやだいやだいやだっ、しっかりしてッ!!!!!!」

 俺の胸に必死に抱きついてくる。甘い香りが鼻に届く。細く白い腕。銀色の髪。俺が纏った白い布に涙…… だろうか、温かく濡れた感触。
柔らかい。温かい。コイツ、なんてそそりやがるんだ。俺を誘ってるのか。思い切り突っ込んでやろうか。処女のクセに男を誘う術を心得ているのか。
息を吐き出す。熱い……。吐く息が熱い……。抱きついてくる体が熱い。ペニスがドクドクと熱を持ち、暴れたいと、コイツをめちゃくちゃに犯したいと硬く硬くそそり立つ。熱い、何もかもが熱い。脳が焼けそうなほど熱を持っている。汗がゆっくりと顎を伝う。暑い。無理矢理目の前で泣く顔を抱きしめる。驚いたように開かれた緑色の瞳。その美しい瞳を見ながら、俺はそのピンク色の唇を奪う。驚いているのか、ぎゅっと硬く閉じられた唇。だが、柔らかく、そして甘い。舌で何度もその唇をなぞる。柔らかい。俺の舌に反応し、固く閉じられた唇から力が抜けていく。漏れてくる声「あっ……」感じているのか、何度も舌で唇をなぞる。おずおずと、小動物のようにその唇が開かれる。その中から、たっぷりと濡れた柔らかい舌が怯えながらでてくる。逃がさない。強引に吸引する。俺の口へ無理矢理にその柔らかすぎる舌を吸う。俺の舌に絡まり、ウネウネと蠢く。柔らかい。艶かしい吐息が聞こえる。甘い香り。そして熱い舌。まるでヤケドしそうなほど熱い。強引に体を抱きしめ、俺は唾液と舌を絡める。
 熱い。暑い……。豪華な調度品が並べられた部屋。恭しく挨拶をしてくる給仕へ頷きを送り、暖房を弱めさせる。深く一礼をして退出していく給仕。椅子に向かい合って座る俺達。服装、顔立ち、背格好から髪型まで、どれをとってもソックリ、いや全く同じ。整った指をテーブルの上に伸ばす目の前に座った男。いや、それは俺の腕だったろうか。向かい合う俺達はどちらともなく笑い出す。テーブルの上には一枚のディスク。テーブルの上でとびきりドクドクとラインを脈うたせている。とても200年前からのモノとは思えない。窓の外から歓楽街の喧騒が聞こえてくる。それを聞きながら、俺はゆっくりとコメレスを取り出し、火をつけようか悩む。この記念すべき瞬間にコメレス、いやいやいや、止めておこう悩んだ末に箱に戻す。箱の中にはまだ20本のコメレスが綺麗に並べられており俺はそこに戻すのに一瞬苦労する。俺が口を開く。いやソレは目の前の男かもしれない。いやさすがですね。整った顔恐ろしいほどに整いすぎた顔馬鹿馬鹿しい顔立ちぼくの夢見た最強ののうりょくがあああああ口と鼻から大量のゲロが逆流して噴き出す素顔に戻った俺はゲラゲラとソレをみて蹴りを入れ顔を見て絶叫をあげるいやそれはもう少しあとのこと俺は微笑む男も微笑む姫を騙したようやくここまできた苦労の事を少しだけ考えるやはり窓の外からの喧騒が聞こえちょっとうるさいな全く下民どもはこれだからこまるよと呟きそうそう妹の様子はどうかねと声が空中に漂いいや今はそんな事はどうでもよいだろうと俺達は息をとめ目の前のディスクを再び見つめる胸の奥から純粋に畏れが溢れ意識しないのに背中を汗がつたっていく何度も何度も唾を飲み込む全く夢人らしくなく緊張している原初だ始まりなのだまた唾を飲み込む覚悟を決めたようにどちらともなく頷き、ゆっくりと口を、開く。


「さあ…… 『男』が見た夢を見よう」


 がっ、と息を吐き出し、柔らかなゾウムシの舌を吐き出す。一気に意識が覚醒し、強烈な立ちくらみが俺を襲う。
ドクドクと激しく動く心臓、大きく深呼吸を繰り返す。
 唾を何度も飲み込む。必死に泣きじゃくるゾウムシの頭、抱きついてくる体。銀色のサラサラした髪を優しく撫でてやる。

「今のは……。つーかゾウムシ、痛い。痛いから離れてくれ。お前のぺちゃんこの胸があたって痛いんだよクソが」

 全身に凄まじい熱さ。少しは楽になったが、油断すると意識がブットびそうな感覚が絶え間なく襲う。ペニスが張り裂けそうにそそり立っている。
やばい。擦れる布の柔らかさだけでイッちまいそうなほど気持ちいい。
 意識して呼吸するが、空気が喉を通る感覚まではっきりと伝わる。その空気の振動すら堪らない快感を与えてくる。
 体の内部、気管を柔らかな舌で舐められているような感じ。

「フラックス……。これは…………」

「へえ、てっきりそのコを襲うかと思ってたけど……。よほど大事なのかい?変なヤツだねぇ。そう、それがここのメシの種。最高に新しくスマートなセックスドラッグ、『ストーマー』さ」

 フラックスのその甘い声。限界だ……。俺は、そのかすれた声を聞きながら、思い切り、布の中に射精した。

 



いつも読んでくださりありがとうございます。
今回はわざと読みにくく設定しております。読みにくい部分はとばしてもらっても大丈夫です。どうもすみません。



[15558] 『地虫の話』 第八話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:59

『夢の国、地虫の話』 第八話



 ひんやりと冷たく、水気を含んだ布のようなモノが、俺の汗だらけの体を拭いている。
気持ちがいい………… 足の先から、ゆっくりと、優しく、丁寧に。
何ヶ月も風呂に入っていない汚れた俺の体を、まるでひどく貴重なものだというように、丁寧に拭いてくれている。
 
 なんだか……、とても、懐かしい。
おぼろげな意識の中、閉じたままのまぶた。体はあいかわらず熱く、気だるい。何だろう。意識が……、朦朧と…………

「にひひ、よく寝てる。ねぇ、アバラ……、大好きだよ………… ドラッグの所為だって解ってるんだ。それでもね、あれが間違いだったとしても、アバラからキスして貰えて…… すごく嬉しかったよ……」

 ぼわんぼわんと、耳に誰かの言葉が届く…………。アバラ……? 誰だっけ…………?
好意……、人に好きなんて言われるのは、何年ぶりだ……。キス、キスってなんだっけか。
 ぐちゃぐちゃの脳は暴走を止めず、俺の思考はユラユラと勝手にさまよっていく。好意、好意のある声…………。

 閉じられたまぶたの裏で、俺の意識はまだクリアにならない。砂嵐のようなザラザラした風景だけが脳裏にながれる。なにか、遠い記憶が……

 ――― ばしゃんっと音を立ててボクは汚い色をした下水へと、たおれ込む。体全体が、まるで凍えているようにガクガク、ブルブルって震えている。
 ボクの頭の中はグシャグシャ。ただ夜が来るのが怖くて、怖くて怖くて……。きっと今夜も天使さんや人形さん達に…………、もう耐えられなかった。
だから、体のアチコチからのズキズキとした痛みを我慢して、なんとか逃げ出したけれど、ここで終わりみたいだ。
 
 お腹すいたなぁ……。おとといの晩、命令通り宿のゴミを持って、ゴミ捨て場に行ったときに、やっと捕まえたライケゴキブリが最後に食べた物……。倒れこんだ下水は冷たくって、臭くって、さっきから耳元でピンクネズミがちゅうちゅうって鳴いてる。ああ。今からボク、ネズミに食べられちゃうのかな。きっと痛いんだろうな。でもいいや、もう……。
 
 ばしゃばしゃと水の音が聞こえる。

(こんな所に……っ!?この子ッ!!大変……だわ、あなた!あなたっ来て!!)

 女の人の声。力なんて、もうどこにも残ってないハズなのに、ビクッってボクの体が震える。
 なにもかも諦めて、せっかく落ち着いていた胸の中が、またムカムカとしてくる。嫌だな。また、いじめられる。毎晩、毎晩、色んな事を僕にさせる。男の人も嫌だ。女の人も嫌。でも、人形さん、天使さんはもっと嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!もうやめて。そんな事させないでよ。死なせて。

 フッっと、体が軽くなる。下水で汚れ、つめたい僕のからだ。でも、そんな体をこの人は優しく抱きしめて……。ああぁ……。柔らかい。こんなに、優しく、ぎゅううってされたのって初めてだ。なんだろう、すごくあったかい。

(こ、この子、裏通りにある売春小屋の子だわ。私、よく見てたもの。ッ!?見て!この子の体。なんてっ……!! ねえ、あなた、もし、あの子が生きていたら丁度この子くらいの年齢だわ。私、そう思いながら、この子が辛そうに雑用をこなす所を見ていたの。あの子の代りに、幸せになって欲しいなって。で、でも、この体…… そんな、ひどい、酷いわ。ねえ!!きっと、きっとこれは――― が引き合わせてくれたのよ。この子を助けてあげてって)

(お、おい。いや、しかし、――― それはこの子の為になるかは解らねえぞ。俺達は『地虫』なんだ。それに助ける事がまず厳しいかもしれん。今、軽く『ヨミ』をしたが、この子の体には、異常なほどぎっしりとジャンクデータが詰まっている。無理矢理に詰め込まれたのか解らんが、狂っていてもおかしくない量だ。しかも……、ただのジャンクじゃあ無いようだが…… 待てっ!!これは――― この子は――― )

 懐かしい声が頭の中に響く。ああ、とても懐かしい。ゆっくりと体を濡れた布が這い回る。時折温かく、柔らかい手が、俺の力の抜けた体を支える。

(あなた腕利きのヌキ屋でしょう!! お願いですから、助けてあげて。この歳で、この子は毎晩天使や人形の相手をさせられ嬲られて、見て、この体!!こんなに、こんなにも、ガリガリに痩せて…… それにこの傷……、ハグレよりよっぽど酷いわ!! もう、もう、きっと死んでしまうわ……)

(そうだな……。お前の言うとおり、――― が引き合わせてくれたのかも知れん。この子が――― だとしても―――― しかし無理に『ヌキ』をすると記憶が――― それにだ…… )

(そんなの解ってるわ!!こんな境遇の子が他にも沢山いるって事は。でもそれでも、それでも、私のエゴでもいい。この子が――― でも関係ない。私は地虫だけど、偶然めぐり合ったこの子だけは、きっと立派に育ててみせる。死なせたくない。ええ、絶対に死なせないからっ!! )

「か、母……、さん…………」

 俺の喉から、ゴボゴボという音とともに、ゆっくりと言葉が吐き出される。それは小さな、本当に小さなささやき声。でも、なぜか、絶対にこの声が届くと確信がある。

「ん、あ…… えへへ……。アバラが寝言なんて、珍しいねぇ……。でも、ゴメンね……、お母さんじゃなくて…………、わたし、わたし、こんな事しかしてあげられなくて……ほんとにゴメンね……」

 小さな、本当に小さな囁き声と熱い水滴……、俺の体にポタポタと、熱い雫が落ちてくる。ナンダ、なんだろう、涙声…………?

「荷物ずっと持ってくれてたよね。それに、本当ならワタシを助ける必要なんてなかったでしょ。なのに……。でも、最初っからそうだったね。ワタシがハグレの性処理係になりそうな時から……、ごめんね」

 頭の中に蟲がいるような羽音が響く。ぼわん、ぼわんと大きくエコーのかかった声……。ポタポタ、ポタポタ、と熱い雫だけが……。俺の体に。

「カシラが言ってた。本当はね…… アバラに抱かれて、すっきりさせてあげるのが一番いいって。そのカシラの言葉を聞いたとき、すっごく興奮したんだよ。だってアバラ、いっつも優しいけど、絶対に抱いてくれないもんね。だからね、今ならって思ったんだ……」

 熱い……、落ちてくる雫が熱い。なんだ、どうして、泣いているんだ。俺は、お前の笑顔が…………。

「でも……、でもっ!!そんなのアバラ、イヤでしょ。ワタシみたいな、ばっ、化け物じゃ、イヤ……だよね……、うっ、アバラ…… ご、ごめんね…… いっつも役に立てなくて…… ワタシが、ワタシがっ!!普通の女の子だったら…………、こ、こんなカラダじゃなかったらっ!!そしたら、そしたらっ!!うっ…… それでも好きなの…… ゴメンね…… ゴメンなさい、うっ…… 」

 ポタポタと相変わらず、熱い雫だけが、リズムよく俺の体へと落ちてくる。誰かの涙声が、脳の奥で膨らむように響く。頭の中で、ハエが動き回るような音が聞こえる。
 どれくらいの時が流れたのか、いつのまにか熱い雫が止まっている。代りに近くで、布を水に浸し、絞るような音。
そしてまた、体が優しく拭かれ始める。浮き出る汗を丁寧に拭き取り、体をすみずみまで綺麗にしていく。髪の毛一本一本まで、優しく拭かれる。丁寧に、丁寧に。ああ…… 気持ちがいい……。

「ぐすっ、に、にひひ……、こんなんじゃ駄目だよね。明るくなくちゃね。さて、もうすぐワタシお仕事なんだ。もう、夜が明けそうだよ。アバラ……、コレくらいは、許して、ね…………」

 甘い、甘い香り。そして、柔らかいナニかが俺の唇に一瞬だけ触れる。まるで、鳥の羽のように。風に吹かれた花びらのように。

「じゃあね。今夜、会えたらいいなぁ。そしたらすっごく甘えるからっ!!だって、アバラのせいで一睡もしてないんだよ。それじゃあ、ね……」

 甘い香りを残し、布が床に擦れる音。体にふわりと柔らかい布がかけられる感触。そして、誰かが立ち去る気配……。俺の唇に柔らかさの余韻が残る。あんなに辛かった熱が、すっきりと無くなっている。
 どこからか、爽やかな朝の空気の匂いを感じる。柔らかく、温かだった。もっと側にいて欲しかった。
脳の中が、少しずつ整理されていく。俺は夢を見ない。夢を見れないはずなのに。

(この子の名前、『アバラ』にしましょう。ううん……、あの子の代わりって訳じゃないの。これは……、これは私の誓いなの。この子が、――― だろうと何だろうと、自分の子供として、大切に、大切に育てるっていう誓いなの。こんな時代だけど、私、きっとこの子に『生まれてきて良かった』って思って欲しいの。いいかしら、あなた…………)

(全く、解った、解った。なら、まず巣に戻ろう。そこで『ヌキ』だ。その後、此処のエリアを出る。この子、いや……、アバラ……を、探されると面倒だ)

「オヤジ、オフクロ……」

 呟いて、俺は毎度おなじみの暗闇へ落ちていく。夢の無い、クソッたれの、『ハグレ』にぴったりな場所へ、ただ落ちていく。


 ◆

「おい、そろそろ起きろ。この腰抜け。もうすぐ昼だぜ。起きねえと、てめえの役立たずのチンポ切り落とすぞ、おい」

 低い声。そして、かるく肩を蹴られた衝撃で飛び起きる。

「ぐおっ!!」

 光が眩しい。いや、それだけじゃねえ。鼻も、耳も、凄まじいほど鋭敏になっている。体の底から、こんこんと湧き出る水のようにエネルギーが全身、隅々まで行き渡る。叫びだしたいほど、圧倒的な万能感。脳の中もしゃっきりと冴え渡って……、

「あ、お、おいナット。こ、ここは、いや、俺達はどうなったんだっけ。確か、そう、メシと住居の変わりに仕事をしろって言われて」

 広いテントの中。外からは明るい太陽の光が差し込んでいる。俺の体には白い布。テントの奥あたりに、水が入った桶が置いてあり、そこに布が浮いている。体がすっきりとしている。まるで、風呂に入った後のように。
 いや、そんな事は後だ、エネルギーに満ちた体で立ち上がり、入り口に立つナットを見る。
くっくっくっという笑い声。立ち上がった俺を、さらに高みから見下ろす身長差がある巨漢ナット。猛犬のような笑い顔を見せる。

「てめえはその後、『ストーマー』でバッドにイッちまったんだよ。憶えてないのか?腰抜け」

 『ストーマー』 思い出す。いや、しかし、鼻にイれた所までは覚えているが、そこから先は全く覚えていない。気付けば『今』だ。
しかし、『ストーマー』 一夜明けたあとでも、ものすごいエネルギーがある。今なら、歓楽街エリアまで全部走っていける自信すら沸いてくる。

「まあ、いい。アバラ……。お前等はめでたく畸形だらけの俺達の一員だ、ファック野郎。さあ、とっととその服に着替えてくれ。カシラが待ってる」

 床を見る。そこには、まるで普通人が着ているような、ジーンズ、白いシャツ。そして黒いジャケットが置いてある。

「なんだよこれ、ゾウムシに死ぬほど笑われちまうぞ……って、おいゾウムシはどうした!」

 慌ててテントの中を見回す。俺のストーマーで鋭敏になった嗅覚に、ゾウムシのあの優しい甘い残り香が届く。一緒にいたハズだ。いや、俺達がバラバラになるなんて無い。強くナットを睨み、言葉を吐き出す。

「おいおい、まるでママを探すガキみてえだな。落ち着けよ、あの天使は共同作業所だ。女たちと仲良く、布を織ってるよ。しかし、そんなに大事なら、なんで昨日、いやまあいいか、とっとと急げ」

 頷きを返しながら、目の前の洋服を手に取る。なんとなくしか着方が解らない。まあ、間違っていたら、指摘されるだろう。
あきらめて、ジーンズに足を通していく。

 しかし、なんとなくだが、オヤジとオフクロの夢を見たような気がする。馬鹿げている、俺は夢を見ないのに……。
それでも、懐かしい気持ちになる。
 生まれてすぐに、流行り病にかかった俺。記憶は全くねえが、その死体のような状態のまま、オフクロからずっと看病されて続け生き延びたらしい。
やっと全快し、動き、言葉が喋れるようになったのが六歳の頃。それから、過保護気味のオフクロ、無口な親父とのありふれた生活。
 流行り病のせいで、ガキの頃の記憶は無いが、動き出せるようになってからオヤジの仕事を習ったり、オフクロを罵りながら食材集めを手伝ったり、クソだらけのごく平凡な少年時代だった。懐かしい。

「ふん、少しは見れるようになったじゃねえか。まるでクソッタレのノーマルみたいだぜ」

 ハグレの布に比べ、首周りが締め付けられるように苦しい。さらに、ジーンズの圧迫感がわずらわしい。こんな服をつねに着ているノーマルは、そうとうイカレてるとしか思えない。よほど布のほうが楽だ。ヤリたい時もすぐヤレる。

「黙れ、犬くせえんだよ。てめえ、可笑しいんだろう。はっきり笑えよ。隠してるつもりだろうが、てめえ声が笑ってんだよ。ちっ、こんな格好、まるでアホみたいだぜ。で、俺はこれからどこに行くってんだよ」

 テントを出て行くナット。ディスクを上着のポケットに放り込み、あわてて後をつける。
外に出たとたん、強風が勢いよく砂をぶつけてくる。顔にバチバチと当り、ビリビリとした痛みが走る。

「喜べ。お前は今から地下都市に潜入だ。あそこはすげえぞ。老女のマンコより臭く、そして危険だ。頑張りな」

 ナットの声。地下都市……。昨日のフラックスの言葉を思い出す。
セカンドワールドの『転生者』と『夢人』が、シノギを削っているという場所……。
ため息を吐きながら歩く俺。勿論、悪い予感しかしない。いったい、どんなクソが待っているのか。

 そう思いながら、ふと自分の唇を触る。そういえば、なにか……、今朝、柔らかいものが……。

 いや、気のせいだろう……。頭を軽く振り、俺は足を進める。危険に溢れているという。地下都市へと向かって。



[15558] 挿話 普通人の話 前
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/02/09 18:55
 
 挿話 普通人の話 前



 鏡に向かい、赤い色をした制服のリボンをととのえる。ついでにちょっと短めに折ったスカートの裾も直す。
 
 工業エリア 技能教習学校 高等部の制服。
 
 ベージュ色をした、この可愛いブレザーの制服を着るのもあと3ヶ月……、なんだか長かったような、あっという間だったような……。
そう思いながら、わたしは制服の胸に付けられた名札を見つめる。

『フラン=クロノス 高等学部3年Fクラス』

 この18年間慣れ親しんだ、私の名前。

「フラン=キルアム……、ふふっ、なんか変な感じ……」

 鏡の中の私が、頬を赤く染めている。直毛の黒い髪、白い肌、そして黒い瞳。
子供の頃、その髪と瞳の色が地味で嫌だ、って私が言うと、まるで黒曜石みたいで綺麗だ、って褒めてくれたイトコ。
 わたしが子供の頃から、ずっと大好きだったイトコ……、ハンダ=キルアム兄さんと、学校を卒業したらすぐに結婚。

「フラン、け、結婚しよう。君が高等学部を卒業したらっ!!」

 先月の私の誕生日、乱れたベッドの上のシーツ。床に脱ぎ捨てられた学校の制服。その制服の赤いリボンみたいに、シーツに点々とついた赤い血。
すごく痛くって、でも最高に幸せだった時間が終わり、時計の針が夜の10時を示す頃、ハンダ兄さんが、震える手で私を抱きしめながら言ってくれた言葉。
 
 私の憧れ。ずっと背中を追い続けていた、ハンダ兄さん。4歳年上で、化学の夢に天与の才を持つイトコ。
4年前、兄さんは、工業エリアの夢人のトップ『ピクシー』様のお気に入りになった。なんでも、素晴らしい『夢』を見たらしい。
私みたいな凡人には解らないけど、かなり画期的な夢だったらしい。結果、エリートしか行けない大学部に進学することになった。
 
 兄さんのように才能の無い私。それでも子供の頃から憧れていた兄さんに追いつきたくて、高等学部に入学後、必死に勉強をした。
そのおかげで、クラス委員長になったけれど、プレッシャーで押しつぶされそうな日々。
そんな私へ、大学に進学した兄さんは、忙しい合間をぬい毎週二回、家庭教師をしてくれた。それが最初のきっかけ……。

「あああ、あのっ!!に、兄さんは、す、す、好きな方……、とか、い、いらっしゃいますか?」

 家庭教師が始まって一年後、私が高等学部二年の夏にした、精一杯の質問。きっと、私はホウオウボタンのように、真っ赤な顔をしていたと思う。
でも、その質問に答えてくれた兄さんの顔も真っ赤だった。ばれてないって思ってたけど、私の好意は筒抜けだったみたい。
 それから、ほとんど家庭教師の時間に勉強をしなくなった。学校でいろんな知識を仕入れてくる、当時16歳の私と20歳の兄さん。
夜に家を抜け出し、二人で色々な所に行った。地下都市の輝く街並み。季節ごとに様々に姿を変える花。夏、噴水にきらめくイルミネーション。
深夜営業のレストランで、二人で食べたケーキ。すっかり行きつけになった喫茶店での紅茶。毎日がきらめいているように感じた、この2年間。
 
 髪を伸ばし始めたのも兄さんとお付き合いを始めた頃。昔から肩でバッサリと切ったショートの髪形だった私。
でも、兄さんがロングが好きだって気付いてから、ひそかに伸ばし始めた。私の黒髪が好きだって、ハンダ兄さんが言ってくれたから。
毎日手入れを繰り返し、サラサラした黒髪は、ようやく背中に少しかかるくらいになった。
鏡を見ながら、その髪をブラシで梳かす。結婚式までには、もう少し伸びるといいなぁって思う。それが、幸せな今の唯一の悩み。

 まあでも、今考えてみると、ひょっとして両親に乗せられたのかも? って思う。
だって、年頃の男女を毎週二回、夜に長時間二人きりにさせるなんて、ちょっとオカシイと思う。
二人でおそるおそる切り出した結婚の話にも、両親は大賛成。18歳で結婚。まあ珍しくは無いけど、それでも級友達の中では一番乗り。
きっとエリートになった兄さんに、わたしを嫁がせようと計画したんじゃないかなって思う。最初から、全部、あの両親の掌の上だったのかもしれない。

「でも……、大好きだから、いいかな……」

 ぽつり、と呟く。鏡にうつった私の顔は真っ赤。恥ずかしい……。
ほう…… と息を吐き、ブラシをテーブルの上に置く。ベッドの上に置いた鞄を持つ。
最後に大きく手を上に伸ばし、全身をストレッチ。よし、今日も頑張ろう。そう思い、両親の声を背に玄関を飛び出す。

 人ごみに紛れ、学校までの通路を歩む。朝の地下都市は気持ちいい。沢山の人や、奴隷さん達が歩いていく。
そんな私達を、地下都市の巨大な天井に沢山付けられている照明が、優しい光で照らしてくれる。
『外』から取り入れられた風が、時折やさしく吹く。なんでも何重にも濾過された、清浄な空気らしい。とっても気持ちがいい。
 
 ゴミ一つ無い通路。道幅10メートルほどのその広い通路を、皆が一つの方向にむかって進んでいく。
人と同じくらいの速度で10分ほど歩くと、途中からちらほら学生服姿が目立ちだす。もうすぐ学校が見えてくる。
あと三ヶ月お世話になる、工業エリア 技能教習学校。コンクリートで作られた校舎は、今日も平凡な一日を私に提供してくれるに違いない。 

「おはよう、フラン。今日も綺麗ね。やっぱりアレ? 恋する乙女は美しいってヤツ?」

 右側から友人の声。恋する乙女……。咄嗟に、ハンダ兄さんの事を考えてしまう。恥ずかしい……。
プロポーズされた事は、まだ誰にも言ってない。クラスの優等生で、ずっと委員長の私。
その私が、卒業後すぐに結婚なんて知られたら、どれだけ冷やかされることか。
 我ながら、ぎこちない笑みで挨拶を返す。と、そこに驚いた感じの友人の声。

「うわっ、フラン。見てアレっ!!すっごい、あれって確か『じどうしゃ』ってヤツじゃない?え、すごっ!!初めて見た!!」

 驚きのあまり通路で大声を上げる友人。でも、私も似たようなものだろう。驚きのあまり、大きく口を開きソレを見つめる。

 大きな円形のゴムみたいな輪が四つ着いた、わたしの髪よりも黒く輝く鉄の箱。その箱の上部には、周囲の風景を反射するほど奇麗に磨かれたガラスが装着されている。
 そのガラスの箱の中には操縦者だろうか、一人の男性が何か、輪のようなものを握り、無表情で前方を睨みつけている。
その『じどうしゃ』が通路の人々を押し退け、みるみると、まるで私達に用でもあるように近づいてくる。

「わわわっ!!フランっ!!どうしよっ、なんかこっち来るよ!わ、わ、コッチ来るってば!!」

 隣の友人にガクガクとブレザーの袖を引っ張られる。しかし、私は声も出ない。ただただ呆然と近づいてくるソレを見つめる。
人並みを押し寄せ、どんどんと近づいてくる。誰も妨害しない。当然だ……。
その『じどうしゃ』が誰の物かなんて、どんな子供だって知っている。誰も邪魔するハズが無い。いいえ、誰も邪魔など出来ない。
 
 キッっと音を立て、ソレが私の目の前で停まる。喉はカラカラ。隣の友人も一言も言葉を発しない。まるで時が止まったよう。
かちゃり、と後部の扉が開かれる。周囲の人々の動きも止まる。誰も喋らない。空気が凍ったかのように。

 少女……。黒いフリルのついた、ゴシックドレスに身を包んだ少女が、鉄の箱から、この上なく優雅な動作で降りてくる。
そして、正面から私を見つめ、口を開く。

「おはよう。フラン=クロノスさんですよね。初めまして、わたし、『瑠璃』って言います。よろしくね。あっ、『ピクシー』って言えば解るかな?」

 隣の友人がうめき声を上げ、どさりと倒れる。友人を助けなきゃいけないってどこかで考えてる。でも、動けない。
あまりの美しさに言葉が出ない。『天使』は見たことがあった。兄さんと二人で夜のデートの時に。
その夜にすれ違った『天使』の美しさも凄まじかったが、しかし、そんなレベルじゃない。
 
 アメジストのような紫色の髪。美しい瑠璃色の瞳。血管が透けて見えそうなほど白い肌。その白い肌を際立たせる、黒いドレス。
幼い少女のような顔だち。でも、その顔から神がかり的なオーラを感じる。まさにその名の通り『妖精』のような、この世ならぬ美しさ。
 小さな体。まるで、小学生のような身長。私に向かい、ニコニコと微笑む顔。純真無垢な妖精に見えるのに、それでも圧倒的な力の差を感じさせる。
周囲の人々は誰も口を開かない。身動きすらしない。解っているのだ。ここに在る『ピクシー』の機嫌を損ねたら、皆一瞬で死ぬ……、と。
 
 工業エリアの頂点、夢人のトップ。美しく幼き死の妖精 『ピクシー』 アマヤギリ・瑠璃。工業エリアに住んでいる人間で、彼女を知らぬ者などいない。もう、ずっと昔からこのエリアを支配し続けている『夢人』 
 あくまで学校の噂話で聞いたレベルの情報だが、南にある歓楽街の『姫』と何度も殺し合いを行い、引き分けに持ち込むほど優れたドリームマスター。
それほど優れた戦闘用の黒夢使いでありながら、その本質は創造、物質具現化に特化した『赤夢』使いなのだという。

「ふふふっ、みんなどうしちゃったのかな。ま、いいや。フランお姉ちゃん、この車の隣に乗って。来て欲しいところがあるの」

 無邪気な声と共に、アマヤギリ・瑠璃様が『じどうしゃ』に入っていく。フラフラと定まらない足元。
私は、まるで夢の中にいるような気持ちで、ようやくその足を踏み出し、『じどうしゃ』の中へと入る。
 かちゃり、と背後で自動的に扉が閉められる。わたしの目の前には、ニコニコと微笑む妖精が座っている。

「うふふ、お隣にどうぞ。フランお姉ちゃん」

 とろけそうなほど愛くるしい笑顔。
小さくつぶらな、ピンク色に輝く唇。その唇から発せられる言葉に導かれ、わたしは隣に座る。
 ゆっくりと動き出す『じどうしゃ』 窓の外の風景がどんどんと遠くなっていく。まるで、現実からわたしを連れ去るように、『じどうしゃ』は動き続ける。背中から汗が伝い、ベージュのブレザーの制服を濡らす。
 喉はカラカラで、何も言葉を発せられない。でも、無理矢理に喉を動かす。解らない事だらけだ。

「アマヤギリ様、お会いできて光栄でございます。改めまして、私、フラン=クロノスと申します。それで、ほ、本日は、私のような下民に、ゆ、夢人様が、いったいどのようなご用件でしょうか……」

 激しい眩暈が起こる。嘔吐しそうなほどの緊張の中、ようやくその言葉を言い切る。意外と広い『じどうしゃ』の中。
車がどんどんと加速していく。通路を越え、どこか遠い場所へと進んでいく。私を中に、閉じ込めたまま……。

「うふふ、緊張しなくていいのに。お姉ちゃん。えっとね、わたしの事は瑠璃って呼んでいいよ。瑠璃って、ねえ言ってみて、お姉ちゃん」

 制服のシャツに汗がじっとりと染み出していく。手のひらが、緊張のあまり汗でべとつく。
目の前の『ピクシー』の、あまりにも美しい笑顔。でも、全身から発せられる雰囲気に圧されて、うまく会話できない。

「る、る、瑠璃様……、とお呼びしてもよろしいのですか」

 口を開くたび、疲労感を感じる。なにかの間違いであって欲しい。その思いだけが、グルグルと脳内を巡る。

「うん。いいよ、お姉ちゃん。これから、長い付き合いになるんだもの。うふふ。ペットは可愛がってあげなきゃね。そう思うでしょう? お姉ちゃんも」

 無邪気な笑顔。いったい瑠璃様、が何を言っているのか解らない。解らないまま、曖昧に答える。とにかく早く学校に戻りたい。その事だけ。

「は、はい。瑠璃様。私もそう思います。ええ、ペットは可愛がるべきだと。流石、る、瑠璃様です」

 きっとそう、これは瑠璃様の気まぐれに違いない。私が知らなかっただけで、きっと瑠璃様はこういう遊びが好きなんだろう。毎朝、適当につかまえた下民で遊ぶという様な事が。

「えへへ、お姉ちゃんに褒められちゃった。じゃあね、お姉ちゃんにイイモノ見せてあげる。瑠璃のペット……、えっとそう、186匹目の映像だよ。目を閉じてね。フランお姉ちゃん」

 無邪気な言葉。瑠璃様は紫色の髪を、小さな右手でかき上げながら、楽しそうな笑顔で微笑む。その笑顔に促されるように、私は両目を閉じる。
ふわっ、っと柔らかい感触。きっと、手だろう。スベスベした柔らかく小さな指が、私の閉じられた両目の上に軽く載せられる。

「うふふ、じゃあ瑠璃の最近の一番のお気に入りペットの可愛い姿、フランお姉ちゃんに見せであげる、いくよ」

 その言葉の直後、脳裏に直接映像が浮かび上がっている。私の体が、一瞬にして『じどうしゃ』の座席にすわった姿勢のまま、固定される。
まるで、夢を見ているような感覚。脳裏にぼんやりとした映像が浮かんでくる………………。




 大きな白い部屋。その部屋全てが、純白の大理石で出来ているような輝きを放っている。
その大きな部屋の中央に、男性が裸で仰向けになって倒れている。
 兄さんのモノを、チラッっと横目でしか見たことがないけれど、男性器も剥きだしのまま、その人は倒れている。
その顔は黒い布でスッポリと覆われており、手は後ろで何かに拘束されてでもいるのか、身動きが取れないようになっている。

(この人が……、瑠璃様の、ペット…………?)

 夢の中のような、曖昧な意識のまま、私はぼんやりと考える。

 スッっと音も無く、その部屋と扉が開く。大きな純白の扉。見ただけでその扉の圧倒的な重量が解る。きっと大人5人がかりでも開けられないだろう扉。
 しかし、扉を開けた人物、瑠璃様は軽々と、その扉を閉めなおし、床で横たわる男性に近づく。
その姿……。幼い顔に娼婦顔負けの妖艶な微笑み。紫の髪を二つアップにして、団子状の髪型にしている。
なにより、その衣装……。白い肌にピッタリとフィットした、黒いレザーのボンテージスーツ。だが、無毛の性器、控えめな胸は剥きだしのまま。
 幼女の体型で、そんな売春婦のような服を着ているアンバランス感が、異常な雰囲気をかもし出している。
楽しそうに小さな唇から、チロチロと真っ赤な舌を出し、瑠璃様が口を開く。

「どうだった? お兄ちゃん。一晩中、淫夢を見せられて、でもチンポ弄りできなくって。辛かった? チンポ汁出したくって堪らないんじゃない? うふふ」

 汚れない妖精の口から飛び出す、卑猥な言葉。幼女の口から飛び出すその言葉が、私を打ちのめす。
 床に寝ている男性。体を赤く染め、隠すように体をよじるが、その男性器は隠しようも無く充血し、天を睨んでいた。

「あれ、恥ずかしいんだ。うふ。でも大丈夫、いまから瑠璃が、いっぱいぺろぺろしてあげるから。瑠璃のお口をお便所だと思って、いっぱい出していいからね。瑠璃の舌、すごく気持ちいいんだよ。あ、そうだ!! 頑張ったら、瑠璃のこのツルツルのオマンコでオチンポ食べてあげるね。このちっちゃいちっちゃい子供マンコで、お兄ちゃんのオチンポごしごししてあげる。狭くって、ヌルヌルで、すっごくキモチイイんだから。あはは、じゃあ、今からおしゃぶりだよ。頑張ってね、お兄ちゃん……」

 瑠璃様の発情しきった声が終わり、ゆっくりと男性に近づいていく。そのまま、何のためらいも無く、瑠璃様は男性器に顔を寄せる。
小さな手で、ゆっくりと男性器を掴む。レザーに覆われたその手で、上下にゆっくりとしごきだす。

「うっ、ううううっっっ!!」

 布で覆われた男性が、与えられた快感のためか、くぐもった声を上げる。
その様子を楽しそうに見つめながら、瑠璃様が真っ赤な舌を伸ばす……。その長さ……、ゆうに20センチはあるだろうか、真っ赤な色の舌が、クネクネと動き、男性の亀頭部分に巻きつくように、ねっとりと絡んでいく。そのまま、絡みついた舌が、グネグネと振動を始める。
 瑠璃様の右手が、優しく男性の睾丸部分をゆるゆると触っていく。男性器に絡みついた舌が、時折、サオを扱くような動きに変わる。
唾液で濡れた、柔らかい舌で、滅茶苦茶に男性部分が侵略されている。

「あれ? お兄ちゃん。もしかして、もうイっちゃうの? まだ、瑠璃のお口にも入れてないのに? うふふ、可愛いね。そんなに瑠璃の舌、キモチイイの? ほら、どう、この先っちょ。瑠璃の柔らかい舌で、こうやってクネクネってされるの気持ちイイ? あはっ、体、ビクビクっってなってる。お兄ちゃん、やらしすぎだよ」

「うううううううっっ!!」

 舌を、舌を男性のソレに絡め、嬲っているにも関わらず、瑠璃様の口から、次々と卑猥な言葉が飛び出してくる。いったいどうなっているのか、解らない。『夢』を叶えるのが『夢人』ならば、この妖精は、いったいどれほどの淫蕩な夢を見たのだろうか。

「お兄ちゃん、恥ずかしくないの。彼女がいるっていうのに、こんな子供のお口で、めちゃくちゃに虐められて。こんなにビクビク感じちゃって。恥ずかしい。うふふっ、お兄ちゃん、ココが好きなんだね? この先端を、舌でクリクリされちゃうのが、キモチイイの? どう? 言わなきゃやめちゃうよ。ほら、こうやって、クリクリクリクリ…………っ!!」

 舌に絡みつかれたままの亀頭。その先端部分に、舌が狙いを定め、延々と責め続ける。白い顔を興奮で赤く染めた瑠璃様が、本当に嬉しそうに笑いながら、快感のあまり、体をビクビクと痙攣させる男を見つめている。

「あ、あああああ、き、気持ち、気持ちイイです。る、瑠璃様っ!瑠璃様のお口で、あああ、お、お願いします。も、もうっ!!」

 布の下から、男性の声……。その快感でくぐもった声……。聞き覚えがある。私……、この人の事、シッテイル……?

「ふふふっ。イッちゃうんだね、お兄ちゃん。彼女がいるのに、こんな小さなお口にびゅーーーってザーメン出しちゃうのね? 飲ませたい? ねえ、お兄ちゃん。この瑠璃様の可愛いお口に、お兄ちゃんのきちゃないきちゃないザーメン飲ませたいの?」

「はい。はい。飲んで、飲んで下さいっ!!、ぼ、ボクのザーメンっ!!うっっ!!で、でるっ!!!」

 その声と同時、瑠璃様の真っ赤な口が、ぱくり、と亀頭を包み込む。小さな口の中で、まだ舌が動いているのか、グネグネと、小さな頬が動いている。
ガクガクと痙攣している男性の体。その姿を楽しそうに見つめながら、瑠璃様は顔全体を上下に動かし、強烈な勢いで、精液を搾りとる。

「うあああっ、瑠璃様っ!!瑠璃様っ!!キモチイイっ!し、舌が、あああっ、す、吸われる。ぜ、全部っ!!」

 ポンッという音と同時、瑠璃様が、ようやく男性器から口を離す。その表情は、絶頂に達したメスの顔そのもの。
小さな唇の端から、トロリとこぼれて来る、白濁した液体。ソレを器用に長い舌で舐めとる。口にいっぱい頬張ったまま、男性の顔に近づいていく。

「もう、出しすぎだよ。お兄ちゃん。瑠璃、窒息しちゃうかと思っちゃった。でも、ああ……。すごくおいしい……。見て、まだ、瑠璃のお口の中に、こんなにザーメン残ってるよ」

 言葉とともに、男性の布を取り去る瑠璃様。アレ、あれ、アレアレアレアレ。あの人は、あの人は……。

「見ててね、お兄ちゃん。瑠璃、全部ごっくんしてあげるね。お兄ちゃんのくっさいザーメン、全部飲んじゃうよ」

 その言葉どおり、喉を鳴らしながら、口内の精液を飲む瑠璃様。それを血走った目で見つめる男性。
その顔…………。ドウシテ、ニイサンガアソコニ………? 私のハンダ兄さんが……、あそこにいるの?

 暗転――――。

 「クスクスクス。まだまだ、こんなの始まったばかりだよ、お姉ちゃんっ」

 沈む意識の中、そんな、無邪気な、笑い声が、聞こえた気がした…………。




[15558] 挿話 普通人の話 中
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/02/09 18:55
 挿話 普通人の話 中



 ゆっくりと瞼を開く。真っ先に目に飛び込んできた風景は、天蓋つきの豪華なベッドだった。
御伽話で、どこかの国のお姫様が眠っているようなベッド。そこに、私は横たえられている。
 服装も今朝と全く同じ。ベージュ色のブレザーの制服に赤いリボン。どこにも乱れは無く、その制服が、コレは夢では無い、と教えてくれた。

「いったい……、ココって……? 」

 ドクンッと頭の中に、さっき見た風景が蘇る。恐怖と理不尽さが全身を襲う。
どうして、こんなことに? 得体の知れない恐怖にガタガタと体が震える。

「何、何なのっ? どうして、どうして兄さんがっ!ッ!ココは何処なのっ!!」

 ベッドから飛び降り、周囲を見渡す。あの映像で見たような内装。純白に輝く、大理石で出来た部屋。
私が寝ていた天蓋つきの豪華なベッドの他、ひと目見ただけで高価だとわかる木製のテーブルと椅子が2脚。
 部屋の入り口にある扉に駆け寄る。その扉も、あの映像と全く同じ。冷たい手触りで解る。その、凄まじいまでの重量が……。

「んッッッッゥ!!!!くッッッッ!!!」

 思い切り体重をかけて、押そうとしても、全力で引いても、ビクリとも動かない。それでも必死の思いで、開こうと足掻く。

「きゃッ!!!」

 思い切り体重をかけ、押していたその時、突然向こう側からこちら側へと、あっさりとドアが開き、凄まじい力で部屋の中へ吹き飛ばされる。
無様な格好で床に転がる。とっさに、腰をうたない様に手で受身をとる。簡単な護身術は、小学校からの必須科目。
 なんでもソツなくこなしていた私、影での地道な努力の成果。なんとか、受身をとる。しかし、床の大理石で打ちつけた両手がジンジンと痛む。

「あれ、ゴメンなさいお姉ちゃん。そんなトコにいたんだ。全然解んなかった。でも、お姉ちゃんはドジだね。そんなに無様に転がって、スカートの中身が丸見えだよ。あはは、はしたないなぁ」

 無邪気な声……。でも、その声にムラムラと怒りが沸いてくる。さっき見せられたあの映像。たとえ冗談だとしても、タチが悪すぎる。

「る、瑠璃様っ!!先ほどの映像は、どういう事なのでしょうか? それにっ!! ハンダ兄さんは何処!? 」

 目の前で、ニコニコと微笑んでいる瑠璃……。最初に見た時には、この世ならぬ美しさになかば陶然としたが、今では怒りしか沸いてこない。
頭の何処かで、警告が鳴っている気がしたけど、今の私の頭の中は、瑠璃に対する不快感と怒りで一杯だった。

「お兄ちゃん? うふふっ、もちろん連れて行ってあげるよ。さっきまでお姉ちゃんが寝てる間、お兄ちゃんとお話してたんだよ。うふふ……、お姉ちゃんをどうやって歓迎しようかって。さあ、一緒に行こうっ、お姉ちゃん」

 紫の髪をなびかせながら振り向く瑠璃。私に背を向け、前方を歩いていく少女。
その身に纏った黒いドレスのフリル飾りが、まるで私を嘲笑するかのように、歩くたびに揺れる。
私は置いて行かれまいと、その背を追い、開け放たれたままの扉から廊下に出る。

「なっ!!? 」

 驚愕……。この工業エリアの一体ドコにこれだけの空間があったのか。
幅15メートルほどの大理石でできた廊下が、視線の遥か先まで、延々と続いている。
 その廊下には、一定の間隔で、さっきまで私がいた部屋と同じ扉が延々と並ぶ。
まるで、無限の距離があるように見える廊下……。
 
 その廊下を、ほとんどスキップしながら歩いている少女。
このまま、此処に置いていかれたら……。怒りが僅かにしぼみ、恐怖がジワリっと込み上げてくる。

「くすくすっ……、お姉ちゃん、そんなに心配しないで。この空間は瑠璃が作った幻みたいなものよ。空間をつなげているの。大丈夫、瑠璃が側にいれば安心よっ。さ、コッチだよっ」

 私の心を見透かしたかのように、首だけを肩越しに私へ向け、瑠璃は微笑みながら言葉をこぼす。
その笑顔を見ながら、私はゆっくりと、口内にあふれ出る苦い唾を飲み込む。
 
 工業エリアのトップ、『ピクシー』の本質は『赤夢使い』 創造と、具現化に特化した妖精。
『黒夢使い』のように、瞬間的な物理的火力は無い。また、『白夢使い』のように、滅茶苦茶な人体回復、人体改造が出来る訳でもない。
だが、無機物を産み出すという、その一点において、『赤夢使い』は他の夢使いの追従を許さない。
 
 学校の授業で習った、『夢人』の特性。
当然だが、夢人である以上、リアルな夢であればどんな夢でも、一応は現実化、具現化できる。
 だが、不思議な事に、得意な夢、苦手な夢が個人によって異なるという。
上級になるほど、どんな夢でも高精度、大規模で現実化できるらしいのだが、それでも得手、不得手が存在するらしい。
 どうして、夢人で個体差が生じるのか、誰も解らない。夢人の学者の研究では、そういう問題も、原初の『男』が全ての根源とされている。
だが、約200年前の原初の『男』が、何を想い、どういう原理で夢を現実化できたかは、現代でも最大の謎……。

「さあ、お姉ちゃん。此処だよ。この向こうにお兄ちゃんは居るから。一緒に行こう」

 瑠璃が、嬉しそうに琥珀の瞳を私に向け、口を開く。黒のフリルをひらめかせ、恐ろしく重い扉を、軽々と片手で開く。
 そのまま、扉に入っていく彼女。締め出されまいと、急いで隙間から入り込む。
さっきまでの所と同じように純白に輝く部屋、そこへ入り込んだ瞬間、背後で扉が閉まる。

「ッ!!!!!」

 先ほどの部屋とは違い、部屋の中央に大きな椅子が設置されている。その椅子の上に、兄さんが座らされていた。
顔に目隠しをされ、全身は裸。木製の大きな椅子に、鉄製の拘束具で両手、両足を固定され、椅子に座らされている。
 すぐにでも駆け寄りたい。声を上げたい。兄さんと叫びたいのにっ!!

「うふふっ……、お姉ちゃん。そんなに必死になってどうしたの? 」

 私を、琥珀色に輝く瞳で見つめる少女。その瞳から、何か目に見えない力でも発されているのか。
体も、喉もピクリとも動かない。まるで、私の時間だけ止められたかのように、部屋に入ったままの姿で、私は動けない。
そんな私にゆっくりと歩みくる『ピクシー』 小さな口から、時々ちらりと赤い舌をみせ、獲物を狙うヘビのように近寄ってくる。

「あ、ちょっと力が強すぎたかな、ゴメンね。緩めてあげるね。はい、これで話せ……」

「ハンダ兄さんっ!!私ですっ!!フランですっ!!!兄さんッ!兄さんッ!!ッーーーー!!瑠璃ッ!!!アンタッ!!兄さんに何をっ!!キャッ!」

 必死で叫ぶ私。胸のうちに燃え盛る怒りを思い切りぶつけた。しかし、その言葉を言い切る間もなく、瑠璃の小さな手が私の首を押さえつける。
 その凄まじい力……。頭ではわかっているつもりだった。私達とは全く違う生き物だって。
でも、その動き、その力……。少女の外見にも関わらず、瞬間移動のようなスピード。そして、小さな片手だけで、私の首をガッチリと固定する。

「離せ……、離して……、このっ、化け物っ!!くぅぅ、ぐっ!!」

 首を押さえつける腕を叩こうと暴れる。しかし、私の足、手があたる直前で何か膜のようなものに弾かれてしまう。
そして、瑠璃の顔……。兄さんを心配するあまり半狂乱になっている私に、先ほどまでと全く同じ、ニコニコとした笑顔で微笑みかけてくる。

「もう、元気だね。お姉ちゃん。でも無駄だよ。お兄ちゃんは今、耳が聞こえないんだよ。お兄ちゃんの耳の周りの空気の振動を止めてるんだ。って言っても、お姉ちゃんには意味が解らないかも知れないけどっ、あはは。でもね……、それ以上暴れると……、折るよ? 」

 ギリギリと首に、少女の手が食い込む。目の前で変わらずニコニコと微笑んでいる少女。小学生のような体型。幼い顔立ち。
なのに、なのに……。全く歯が立たない。言葉より、私の喉に食い込む手の痛みよりも、その笑顔が抵抗する気力を奪う。
 諦めて、全身の力を抜く。今はおとなしくする。喉を押さえる力が緩む。落ち着こう……。
まず、どうしてこうなったのかを突き止める。落ち着け、落ち着け……。ゆっくりと深呼吸を行う。

「た、大変、失礼しました瑠璃様。つい、取り乱してしまいました。大変、申し訳ありませんが、私と兄さんがいったい何をしてしまったのでしょう? 瑠璃様のお気に召さないような事など、決してしておりません。どうか、どうか、お許しを頂けませんでしょうか」

 胸の奥が怒りで沸々と煮えたぎる。だが、その怒りを隠し、この場を兄さんと二人で切り抜ける。
忘れるんだ。そして、もうすぐ、私と兄さんで幸せな家庭を作る。何度も深呼吸を繰り返し、冷静さを心がける。
 両手で制服の乱れを整え、胸元の赤いリボンを結びなおす。スカートの裾を整える。冷静に、冷静に……。

「うふふ、もう、最初からそう聞いてくれれば良かったのに。あわてんぼうなお姉ちゃん。じゃあ、瑠璃が今から、どうしてお姉ちゃんが、これから死んだ方がマシって思えるような目にあうか、理由を説明してあげるねっ」

 え? 何を……。くすくすと、笑いながら、目の前の少女は、信じられないことを…………。

「理由は簡単。最近のハンダお兄ちゃんの見る『夢』が酷いから。本当に酷いんだよっ!? 『皆が幸せになる為の夢』みたいなのばっかり。がっかりだよね。うふふ、『皆が幸せ』なんて出来る訳がないのにね。昔はもっとリアルな夢だったんだよ。再現機の精度を上げる発明、窒素化合物の合成に関する発明。他にもね……」

 言葉をゆっくりとこぼしながら、瑠璃が私の制服に手を伸ばす。

「でね、理由を調べたの。どうしてお兄ちゃんが駄目になったか。そしたらすぐに解ったよ。お兄ちゃんたら、瑠璃のためにじゃなくって、お姉ちゃんのために幸せな夢を見ようとしてたんだもん。本当に愚かだよね。この服の繊維合成の機械も、地下都市の空気も、水のサイクルシステム、合成食料も、全部、全部、夢人あってこそだって言うのに」

 動けない。私の体が、また目に見えない力でがっちりと固定されている。
その私の体を瑠璃が触ってくる。兄さんしか触ったことのない両方の胸を、瑠璃の小さな手が遠慮なく蹂躙していく。

「だから、お兄ちゃんの目を覚ましてあげようって思ったの。まず、お姉ちゃんなんかより、瑠璃の方が何倍もいいって教え込むの。それでね、お姉ちゃんが最低のメス牛だって、お兄ちゃんに教えてあげようと思って。うふふ、素敵でしょ? こんなに大きな胸しちゃって。コレでお兄ちゃんを駄目にしちゃったのね。ああ、楽しみ……」

 瑠璃の小さな手で、制服の胸のところの布だけが、ビリビリに破かれる。ブラに包まれた大きな胸。
同級生に比べて大きい胸。密かな私の自慢だった場所。ブラも剥ぎ取られ、兄さんが何度もキスをしてくれた所が、空気にさらされる。

「でも、お姉ちゃんも可哀想だよね。せっかく結婚式がもうすぐだって言うのに。だから、優しい瑠璃がね、お姉ちゃんにピッタリの旦那様を手配してあげたの。アソコも、お兄ちゃんなんかより、ずっと大きいんだから。お姉ちゃん、すぐにイキまくって、自分からおねだりしちゃうようになるよ。その、堕ちて行く姿……。お兄ちゃんと二人で、じっくり……、鑑賞してあげる。あははははははっ!!」

 相変わらず凍りついたように動かない体。だが、いつの間にか、背後から声が聞こえる。ハァハァと息を吐くような声。
怖い……、後ろを振り向くのが怖い……。背筋が凍る。
 恐怖のあまり、股間から尿がチョロチョロと漏れ出す。下着を濡らし、スカートの内側、太ももを伝って、大理石の床に私の小便が広がっていく。
 恥ずかしい。泣きたいほど恥ずかしいけれど、それすら消し飛ぶほどの恐怖。

「すっごくいい顔だよ、お姉ちゃん……。じゃあ、紹介してあげるね。今から、お姉ちゃんのご主人様だよ、おいで、パトリックっ!!」

 瑠璃の声……。その声に反応し、私の後ろから現れた姿……。
それは、体長2メートルほどの、巨大な、黒い犬……。その股間には、黒々とした巨大なモノがそそり立っている。

「いい声でないてね、お姉ちゃん……」

 恐怖……。でも、体が動かない。そんな私に、その犬は長い舌を垂らし、ゆっくりと近づいてくる……。




[15558] 挿話 普通人の話 後 
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/07/20 03:27
 挿話 普通人の話 後



「あははっ、お姉ちゃんって先月までバージンだったんだよね。お兄ちゃんから聞いちゃった……。痛くって泣いちゃったって……。だからね、まずイクって事を、瑠璃がしっかり教え込んであげるね」

 黒い犬の背後に立ち、私を楽しそうに見つめながら笑う少女……。 
馬鹿にしきった声……。だが、その声は私の意識を通り過ぎる。私の視線は、黒い犬にのみ向けられる。

 目の前にいる巨大、巨大すぎる黒い犬……。その小山のような全身は、油を塗ったような光沢のある短い毛に覆われていた。
体毛の下には、鋼のように引き締まった筋肉。大きな口からヨダレを溢しながら、ゆっくりと私に近寄ってくる。
 怖い怖い怖い……。中身は化け物とはいえ、瑠璃は外見は少女だった。でも、じりじりと迫りくる黒い犬は、外見だけで私の心を殺す。
圧倒的な暴力を秘めた怪物……。私など、一瞬で噛み殺されるという事実が、残酷なほどハッキリと解る。

「いや、いやっ!やめて、イヤイヤイヤイヤっ!」

 いつの間にか、私の体を拘束していた力が無くなっている。だが、目の前に迫った圧倒的な恐怖に、ガクガクと体が震える。
逃げなきゃ……、逃げなきゃ……、そう思っているのに、体に、足に力が入らない。
 黒い犬の瞳……。真正面から、私を捉え続けるその瞳……。人間とは全く異なる、まるで人形のように丸い瞳が、私をジッと睨む。
獲物をじっくりと観察しているような視線……。
 その犬は、私がさっき漏らした尿へ一瞬鼻を近づけた後、突然、機敏な動きで飛び掛って……っ!!

「きゃああああああッッッ!!!」

 ドンッ!! と上半身に強い衝撃。カクカクと、情けないほど力の抜けた足が衝撃を吸収できず、仰向けに倒れる。
そのままあっという間に、圧倒的な力で足を抑えられる。
痛いっ……。咄嗟に下半身を見る。大きくヘソあたりまで捲り上がった制服のスカート。
 私の尿で汚れてしまった下着が剥きだしにさらされ、両足の太ももの上へ巨大な犬の前足が乗せられている。
そして、私の股間を覗き込むようにしている黒い頭。怖い……、怖い……。ボロボロと涙がこぼれる。
 
 ハァハァとヨダレをこぼしている。大きく耳まで裂けた、真っ赤な口が見える。その口にびっしりと並んだ鋭い牙。体に力が入らない。
死ぬ……。きっとこのまま、食い殺されてしまう……。捕食される恐怖。喰われてしまうという圧倒的な恐怖で、歯がガチガチと鳴り、マトモに考えられない……。ゆっくりと犬が頭部を下ろす。噛まれるッ!!!恐怖のあまり瞳を閉じる。

「んんんんんんっ~~~!!!」

 しかし……、私を襲ったのは、完全に予想外の刺激……。唇を噛み締め、必死で声をとどめる。
全身を駆け抜けたモノ……。それは、痛みではなく、脳に衝撃が走るほどの快感……。

「なっ! ヤ、めッ! んん……、んんんんんっ!!!!!!」

 再び、べちゃり…… と舐められる。恥ずかしくて、兄さんにもさせなかった行為……。私の股間を、犬の長い舌がじっくりと味わうように舐めている。
ブルブルと全身が震える。べちゃりと舐められるたびに、トロケそうな快感で腰がビクビクと勝手に動いてしまう。
 犬なんかに、犬なんかに、私の大切な所を……。兄さんにも許さなかったのに……。やめて……。涙がポロポロとこぼれる。
でも、犬はその行為を止めてくれない。べちゃり、べちゃり、とショーツの上から、私の反応を楽しむように、何度も、何度も舐め続けてくる。
 
「んっ……、ぃいい、イヤっ!んっ!ンンンンンンッーー!!!」

 嫌なのに、嫌なはずなのにっ!! とろけそうな愉悦が全身に走る。ただショーツの上から舐められているダケなのに……。
こんなので、感じるハズが無いのにっ!!心とは裏腹に、体の奥から、ジュクジュクと熱い液が溢れてくる。必死で漏れそうな声を抑える。
 そんなっ、こんなっ!! 何が何だか、グチャグチャに混乱する。自分の反応が信じられない……。

「うふふっ。お姉ちゃんったら、恥ずかしい……。犬なんかにオマンコをペロペロされて、すっごい気持ちよさそう。そんなに、お顔を真っ赤にして。いっぱい感じてるのね。ほら……、お姉ちゃんのオマンコから、いっぱいお汁がでてきてるよ……、恥ずかしくないの? ふふふっ……」

 いつの間にか、仰向けに倒れている私の頭上あたりに座っている瑠璃。真上から、私の顔を見下ろすように、じっと見つめ、笑っている。
罵りたい。思い切り罵声をぶつけ、無邪気な笑顔に唾を吐きかけたい。一瞬、胸にムラムラと闘志が涌きあがろうとする。
 なのに、また……。ぴちゃり……、と長い舌が……

「んんんんんんんっっっっ!!!!!」

 襲ってくるあまりの快感に、ぶるぶると足が痙攣する。犬のざらついた舌が、何度も、何度も、何度も、私の股間を舐める。
やめてやめてやめてっ!!そう思うのに、がっちりと抑えられた太ももは動かせず、容赦ない快感だけが私を襲う。
頭上から馬鹿にした笑い声が聞こえてくるが、反応できない。悔しいのに、圧倒的な快感に押し流される。

「イヤッ!んッ!!!!んんんんんんんんんんんんんんっっっぅっっうっううう!!!!」

 股間からの刺激……。何度も繰り返し舐められて、頭の中が真っ白に…………。
ガクガクと全身が震える。口から抑えてもうめき声がこぼれる。
 全身から力が抜け、下半身が失禁してしまったかのように、ぐったりとしてしまう。
今まで経験した事のない、恐ろしい快感……。ごく稀にしていた自慰でもこんな快感は無かった。怖い……。恐怖すら覚える快感。

「うふふ。イっちゃったんだね、お姉ちゃん。すっごくメス臭いよ。あはっ、その顔だと、やっぱりアクメは初めてだったみたいね。それが、本当のイクって事だよ。しっかり憶えてね。今から何回も何回も、お姉ちゃんが壊れるまで味わうんだから……」

 少女が私の耳に唇を寄せてくる。喜悦を抑え切れない囁き声……。いつのまにか、また理不尽な力で全身を拘束されている。
身動きの取れない私の体。剥きだしのままの胸に、瑠璃の小さな手が乗せられる。

「や、やめて。もう充分でしょう? も、もうっ!!」

「クスクスクス……。お姉ちゃん。何言ってるの? 今からが本番だよ。まずね、さっきみたいに、すっごく気持ちよくなったら『イク』って叫ぶの。わかった? 」

 ッ!!言葉と共に、両方の乳首を抓られる。少女の細い指が、私の乳首をコリコリと弄る。甘い痺れ……。快感が毒のように体に沁みてくる。

「ふっ、ふざけないでっ!! もう、もう開放してっ!!気は済んんんんっ!!は、あっ、あああああ、んんんん!!!」

 ウソ……。下半身を見る。また、犬が長い舌を……、だめ、ヤメテッッッッ!!!!んんんんん!!!!
べちゃべちゃと……。今度はさっきまでのゆっくりした動きじゃなかった。先ほどとは違い、長い舌を高速で動かしてっ!!!

「ふふふ……、我慢できるワケないじゃない。パトリックはね、『夢人』に逆らった女の人をね、もう何人も虜にしてきたんだよ。人妻だって、子供だって、雌は今まで全員、パトリックにイカされまくって、自分からおねだりするようになったんだから。うふふ……。いい? きちんと『イクッ』って言うんだよ。あはは、上手に言えないと、ずっとこのままだからね。あっ、そうだ! その邪魔な布切れ、瑠璃が取って上げるね。これで、もっともっとキモチいいよ……、ほらっ」

 簡単に……、いとも簡単にショーツが破り取られる。剥きだしになってしまった私の大切な場所……。兄さんにしか触らせなかった、大切な場所……。
涙がボロボロとこぼれる。イヤイヤイヤイヤ!!!
 犬が、鼻をソコにつける。鼻をフンフンと動かし、じっくりと臭われてしまう……。許して……。
臭いを嗅ぐのを止め、犬がまた、その長い長い舌を………

「あああっ!!!ふぅうううっっ!!!ッンンンンッッッッ!!!!」

 お尻のほうから、私の大事な部分まで一気に舐め上げられる。キモチイイ……。我慢なんて……、できない、できないよぉ……。
びちゃびちゃと舐められる。キモチイイ、お尻の穴から、クリトリスまで長すぎる舌が何度も往復する。
 タイミングを合わせて、私の耳を瑠璃の舌がジュルジュルと舐める。充血した乳首がグリグリと押しつぶすような動きで嬲られる。
くううううっっっっ!!!!!!あっという間にまた、深い快楽に導かれる。頭に稲妻が走ったような快感……。

「もうっ!! だから、『イクっ』ってきちんと言うのっ!! 聞こえてる? ほんと、しょうがないお姉ちゃん。しっかり言えるまでこのままだからね」

 ぼんやりと声が聞こえる。その言葉を理解しきる前に、また耳を少女の舌が蹂躙する。ガクガクと震え、はしたなく愛液を垂れ流す股間に、また犬の舌が迫る…………。

 ―――― 1時間後 ――――

「イクイクイクイクイクっ!!!言いましたっ!!ああああっ!!イクイクっ!!ま、またっ!!んんんんんっ!!イクッ!!」

 絶叫……、私の喉から獣のような声。部屋に響き渡るような大声で、何度も報告……。でも、考えられない。
全身を何度も襲う絶頂にドロドロに脳を解かされる。

「ふふっ、そんなんじゃ全然駄目だよお姉ちゃん。きちんとドコがイッてるのか教えてくれないと。きちんと、説明して。頑張ってね、お姉ちゃんっ」

 瑠璃の楽しそうな声……。その声と共に、私の唇へ舌が迫る。少女の小さな唇、赤い舌……。私は一切の躊躇なく、その舌へ自分の舌を絡める……。

 ―――― 3時間後 ――――

「オマンコッ!!オマンコイキますっ!!私のっ!!あああああああ、私のオマンコアクメしてますっ!!ご、ご主人様、ご主人様にっ!!何度も舐めて頂いて、うぐぐぐううううっぅうう。いぐいぐ、おぉぉおおぉ…… イっでまず、オマンコ、オマンゴアグメじでまずうう………… ああああっ、また、またイっちゃうううう、うう、マンコ、マンコがいぎまぐるううううう、瑠璃しゃまああああ、もう、ゆるじでええ、ああああいぐいぐいぐぅううう」

 ぎもぢいいぃぃぃいいい。なにもカンガエラレナイ……、こんなの、こんなの、たえられるわけないよぉ…………
あああああ、また、ご主人さまに、べろべろ舐められて、おまんこイク……、瑠璃しゃまのオシッコを顔にかけられながら、ふぅぅぅ、ま、またアクメ……
キモチよすぎるよぉ…… しんじゃうぅぅぅううう イキしんじゃうううううう、あああああ、またいくいくいくいく!!!!!!!!!
 あああ、どこかから、声がきこえる……、うふうううふふふ、あ、また、またイグ………

「あははははっ!! ほら、見て見てお兄ちゃんっ!! お姉ちゃん、すっごい、すっごいアクメ顔っ!! あの優等生だった顔が、あ、またイってるっ!! すっごいね。あんなにヨダレ垂らして、白目剥きだしで。それにあの声……。ふふふ、お兄ちゃん、泣いてるの? チンポはこんなにバキバキにしてるのに……。可哀想なお兄ちゃん。入れたい? いいよ……、瑠璃のつるつるオマンコの中に、いっぱい精子出させてあげる。うふふ、もう、あんなお姉ちゃんの事は忘れて、ね? お兄ちゃんは瑠璃がいつも気持ちよくしてあげるから」

 お兄ちゃん……、お兄ちゃんって、ダレダッケ、あははは、うふうううイグ、また、いぐうううううっぅぅぅぅx…………………
 


 翌日からの私は……、まさに犬だった……。

 朝、天蓋付きの豪華なベッドで目が覚めると、床に皿が置いてある。その皿には『フラン=クロノス』という名前が、可愛い文字で彫りこまれている。
皿に盛られた餌……。瑠璃様の説明によると、私がオマンコの事だけを考えられるように、オクスリが入っているらしい。
 諦めきった私は、泣きながらそれを床に四つんばいになって食べる。食べ終わったら、排泄……。
瑠璃様の見守る前で、部屋の隅に置いてある砂の上で行う。

 その後、兄さんの目の前で、ご主人様に何時間も舐められ、狂わされる……。自分からスカートを捲り上げ、ショーツを脱いでおねだり。
 もう、体がイクことを憶えてしまっている。瑠璃様とセックスをしている兄さんに見られながら、何度も何度も舐められ何回アクメしたかの報告……。
私のカラダ……、常に着ている学校の制服から、犬の唾液の臭いが漂う。その吐き気を催す臭いすら、どうしようもなく感じてしまう。
 
 アクメ報告の後は、ご主人様の巨大なペニスの処理……。まだ、オマンコには入れられていないソレを、毎日、私の口マンコで処理する。
瑠璃様に変えられてしまった私のカラダ……。喉の奥を、兄さんとは比べ物にならないほど大きいペニスで、ガンガンに突かれる。
 毎回、嘔吐するほど苦しいのに、臭くて、苦くて、死にたいほど情けないのに……。口まで、恐ろしいほどの性感帯に変えられていた。
嘔吐しながら、何度も何度もアクメ。ご主人様の射精は長く、30分以上、口の中に吐き出され続ける。
 
 それを、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み込み、また絶頂に達してしまう……。兄さんに見られ、瑠璃様に笑われる。でも、カラダがイキ続ける。
制服へ、口の端から飲みきれなかったドロドロのザーメンがこぼれおちる。可愛かった制服……。
所々が破れ、精子と愛液、嘔吐物でグチャグチャに汚れきっている。しかし、脱ぐ事が許されなかった。
そして、夜……、独りベッドで、その匂いを嗅ぎながら、私は何度もオナニーをしてしまう。あさましすぎる生活……。
 
 そんな、ケダモノ以下の生活が三ヶ月続いた……。



 鐘の音が、大理石作りの広い部屋に響き渡る。部屋には大きなオルガンが置かれており、演奏者がいないのに自動で音楽が鳴り響く。
その部屋の通路を、私はゆっくりと歩いていく。部屋の奥で待っているのは、瑠璃様と兄さん……。
 私に見せ付けるように、舌を絡めあっている。瑠璃様の手は、兄さんのチンポを触っている。何度も精子を吐き出したのか、瑠璃様の小さな手が、ザーメンでべったりと汚れている。

 私が着ているのはドレス……。純白のフリルのついた最高級のウエディングドレス……。隣にいるのは、当然、ご主人様。
巨大な黒い体で、私の横を同じペースでゆっくりと歩く。私の唇から、とろり、と唾液がこぼれ、ドレスの胸元に落ちる。
 瑠璃様に改造された巨大な胸……。乳首が痛いほど充血し、ドレスに擦れるだけでイキそうになるほどキモチいい……。

「うふふ、お姉ちゃん。すっごく良く似合ってるよ。ようやく待ちに待った結婚式だねっ!! 嬉しい?」

 兄さんの目がとろんとしている。ああ、兄さん、またイッちゃうんだ……。ビュッと勢いよく瑠璃様の手に精子が吐き出される。その匂い……。
くらくらと脳をとかす。ザーメンの臭い匂いだけで、イキそう……。

「は、はいっ!!嬉しいです、瑠璃様っ、もう、もう我慢できないんです。はやくはやくはやくっ!!」

 我慢できない。この日をどれだけ待ち焦がれたか。マンコからドロドロと愛液がこぼれ、太ももを伝っていく。マンコの奥、子宮がヒクヒクと痙攣しているのが解る。オナニーしそうになる手を、必死に止める。唇から、トロトロとヨダレがこぼれる。

「うふ。幸せそうだね、お姉ちゃん……。じゃあ、誓いの言葉だねっ!!」

 瑠璃様の言葉。ガクガクと全身が期待で震える。マンコがビュクビュクと汁をこぼし、ドレスのスカートに染みができる。
期待で震える両手で、ゆっくりと純白のウェディングドレスのスカート部分を捲り上げ、剥きだしの下半身をさらす。
 そのまま、床に両手をつき、膝立ちになる。本当に犬のよう……。あああ、はやくはやく……。脳が焼けそうなほど焦がれる。
ご主人様に、愛液でぐちゃぐちゃに濡れたマンコを向け、誓いの言葉を叫ぶように吐き出す。

「わ、わたし、フラン=クロノスは、パ、パトリック様に、オ、オマンコ奴隷として、一生を捧げますっ!!!い、いつでも、ご主人様の精液処理用の雌犬として、ああああ、はやぐうう、はやぐいれでぇ、うぐっ、に、兄さんのチ、チンポよりもずっと大きな、パトリック様の犬チンポがご主人様なんですっ!!いつでも、どこでも、パトリック様の、ぶっとい犬チンポで、フランの子宮のカタチが変わるまで入れてもらいます。そ、そして、どんな方のオシッコもザーメンもいつでも飲みます。私の口マンコは公衆便所ですぅぅううあぁあああっっ!!!」

 その言葉を言い切ると同時、待ち焦がれていたモノが私を貫く…………。その大きさ……、子宮の奥まで一気に貫かれる長さ。そして、兄さんとは比べ物にならないほど太く、固い。ゴツゴツした血管が、まるで瘤のように私のとろけきったマンコを蹂躙する。
 たちまち、絶頂へと押し上げられる……。この三ヶ月、何度も何度もアクメさせられたけど、オチンポだけは入れてもらえなかった。
最初に哀願したのはいつだったか……。一週間目か、一ヶ月目なのか。憶えていない。でも、我慢できなかった。
舐められ続けたマンコは、すっかり発情しきっており、子宮からは常に大量の粘液があふれる。この、結婚式をどれだけ待ち望んできたか。
 ガンガンと子宮をご主人様のモノで突かれるたびにアクメする。キモチイイ、キモチイイ。快感のあまり、大理石の床に爪を立ててしまう……。

「うふふ、お姉ちゃん。しっかり答えてね? お兄ちゃんのオチンポと、パトリックのオチンポは、どっちがキモチイイ? お兄ちゃんに、しっかり聞こえるように、大きな声で答えてねっ」

「はぃいいいいっ!!ご、ごしゅじんさまです、ごしゅじんさまの犬チンポ、犬チンポのほうが、何倍もぎもぢいいいいいっ!!兄さんのオヂンボじゃ全然ダメです。あああああああああイグイグイグ、いぎまぐりますぅううっ!!!ああ、ブクッって、しゃせい、しゃせいぐるよおお。ごしゅじんざまの射精がぎちゃううううう。イクイクイクイクっ!!兄さんのちっちゃいチンポより、ごっぢの、ごしゅじんしゃまのぢんぼが最高ですうううぅぅああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!!」

 ご主人様から、ドクドクと待ち焦がれていた大量の精子が吐き出される。脳が消し飛びそうな快楽の渦に叩き込まれる。ウェディングドレスを着たままの体をガクガクと痙攣させる。
自分の手で、大きな乳首を思い切りつまみあげる。勢いよく吐き出されるザーメンが子宮の奥に何度も叩きつけられ、連続でアクメする。
 気持ちイイ…………。何度も何度も押し寄せる絶頂……。ああ、幸せ……。

「うふふ……。ね、お兄ちゃん。言ったでしょう? 所詮、下民なんてこんなモノよ。あははっ、だから、お兄ちゃんは瑠璃のことだけ考えてくれればイイの……。瑠璃のオマンコのほうが、ずっと気持ちいいでしょ? ほら、オマンコでこうやって、ごしごししてあげるね……。あっ、もう出そう? お兄ちゃんは瑠璃にゴシゴシされながら、乳首舐められるとすぐイッちゃうもんね。ほら、いっぱい、いっぱい、っううう、瑠璃も、瑠璃もイクッ!!!!」

 ドクドクと、ご主人様の精子で子宮が満たされていく……。気持ちいい、気持ちいい……。カラダがとけちゃいそう……。
どこからか、瑠璃様と、誰かの泣き声が聞こえる。そして、鳴り響く鐘の音……。
 イキまくる視界の中、ぼんやりと、床に広がった自分の髪を見つめる。

 あはは……、髪、伸びてる……。うふふ、結婚式までに、髪、伸びたんだ、良かった……………、薄れていく意識の中、私はぼんやりと、そう、思った…………。




[15558] 『地虫の話』 第九話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 19:59
 『夢の国、地虫の話』 第九話




「フフン……、まあ合格だねぇ。半端に剃り残しのヒゲが、実に冴えないノーマルって感じでお似合いだよ、フフッ」

 ナットと二人で、カシラのテントの中に入った俺へ、最初にかけられた言葉。
3メートルほど離れたテントの奥。立ったまま腕組みをし、コメレス紙巻を紫の唇に咥えたまま話すフラックス。
 
 ノーマルの女が着るようなグレーの短いスカートに、同色のジャケット。短いスカートと褐色の太ももが実に良い。
シャツの下で、弾けそうなデカイ胸が窮屈そうだ。日にやけた亜麻色の髪を、動きやすいようにポニーテールに束ねた『カシラ』
かすれたような声が、とてつもなく劣情をそそる、やはり抜群にイイ女だ。

「ヒゲ…… だぁ? お、マジだ……。いつの間にっ。ちっ、フタナリが……」

 顎に手をやる。所々に剃り残しがあるうえに、少し傷がついちまっている。
一瞬、誰が? と考える。しかしまあ、こんな事をしてくれるのはゾウムシしかいねえだろう。
歓楽街の下水暮らしの時も、時々俺の耳掃除や散髪をしたがっていた。
若干、触るとピリピリ痛む顎を触りながら、いつも能天気なゾウムシの事を思う。女達と共同で仕事……、か。
 
 だが、どんな時でも馬鹿みたいに明るいヤツだから、俺が心配する必要はないだろう。
ゾウムシとは、かれこれ2年ほどの付き合いになるが、いつもアホみたいに笑っているイメージしかない。
 きっと今も、皆と仲良く仕事をしているだろう。アイツに悩みとか有るんだろうか……。お気楽なヤツだ。

「カシラ、では俺は清掃所のほうに先に行っておく。今日は、食料と消毒薬の日だったな。じゃあな、カシラを困らせるなよ、インポ野郎」

 俺をカシラのテントに残し、ナットが出て行こうとする。

「ああ待っとくれナット。来週アタマの便に追加で粉末ミルク、そして安定剤を入れるよう伝えといてくれ。先渡し分がコレさ」

 カシラが袋をナットに向かい投げる。片手で器用にナットがソレを受け取る。受け取った時に、チャラチャラとした硬貨の音が響く。

「了解だ、カシラ。ああそういえば、ニ、三日前にも地下都市で、爆発があったと列車の貨物員から聞いた。気をつけてくれよ、カシラ。じゃあな」

 右手を上げて出て行くナット。テントの中に、俺とカシラが残される。
時折、強く吹く風に舞い上がった砂が、激しくテントにぶつかり、バチバチという音が響く。

「さて、それじゃあね。あんまり期待しないで聞いとくが、アンタ文字は読み書きできるのかい? 」

 事務的な鋭い口調で、斜め上に細く紫煙を吐き出しながらフラックスが問う。

「ああ、まあ読みは出来る。書くほうは、まあそれなりに……、だな。綴りを完璧に書け、とか言われると自信がねえ」

「ヘぇ、それだけでも大したモンさ。随分ラクだよ。それじゃあ、今から何をするか、大まかに説明しとくよ。いいかい? 」

 カシラはそう言いながら、テントの奥から大きめの黒い板を持ってきて、ソレを床に置く。
そして、白い棒でその板に大きな正方形を描いていく。正方形の中央部分に×印、そこから真下に○だ。そして○の近くに△。

「この×の場所がここから一番近い地下都市の入り口。そして、此処の位置が○。いいかい? ここ、工業エリアは南の歓楽街、さらにその下の農業エリアと盛んに物を取引してる。そして、その大量の物は『列車』を使って輸送されてんのさ。そして、ココ。この△の所で、列車に付着した砂を落とすポイントがあるのさ。工業製品てのは、粉塵に弱いからね。工場に砂を入れないように列車を掃除するのさ」

 列車……。ハグレが乗れるシロモノじゃないが、俺達が住んでいるアルカディア、オリジナルワールド内の全てのエリアを通行する乗り物。
ずっと昔、ある一人の夢人が基礎を作った乗り物らしい。昼夜を問わず、ここ、オリジナルワールドの大陸中で運行されている。

「で、だ。今から来る列車の乗務員、貨物員は相当の量の金、そしてストーマーで餌付けしてある。で、今からアタシ達はこの△で掃除作業に紛れて列車に乗り込み、地下都市まで潜る。わかったかい? そして、今回の目的は都市のノーマルの工場員との『ストーマー』の取引。そして、アンタのパスの偽造さ」

「パス? 証明書か。しかし、偽造してもよ、エリアの役所に問い合わせされたら、すぐバレちまうだろ? 」

「それが大丈夫なのさ。5年ほど前に『夢人』と『転生人』が街のど真ん中で、黒夢の撃ち合いなんていう馬鹿やったせいで、エリアの役所が吹っ飛んじまったのさ。まあ、なんとか名簿を復活させようとしてるみたいだけどさ。今、地下では毎日死人が出てるからねぇ。ぱっと見てばれなきゃ平気さ。役所で名簿とつき合せて照会する事が出来ないんだ。パスさえ本物そっくりならOKさ」

「そうなのか。しっかし、街中で夢の撃ち合いかよ。そりゃイカレ過ぎだろ。なんなんだ、その転生者ってのは」

「そうさね、私もよくは知らないよ。まあ聞いた話によると、ヤバくなると稀に暴走するらしいねぇ。ただ、暴走にしては絶対に自滅せず、敵を攻撃するみたいだけどね。本当に転生者はワケが解らないとさ。噂では神を信じているヤツも多いらしいねぇ。日々の祈りは全くしないが、時々、神がどうとか、大型のクルマがどうとか、ぶつぶつ独り言を呟いているという話さ。ほとんどキチガイだよ」

 そう言いながら、フラックスは先ほど描いた大きな正方形の上の方向に矢印を書き込む。

「この世界そのものは『アルカディア』と呼ばれてる事は知ってるね? そして、私達が日々暮らしているこの大陸は、『オリジナルワールド』って呼ばれてる。そして、この矢印の方向に『セカンドワールド』と呼ばれてる大陸があるのさ。そこでは、ココよりもっと、ずっと酷いらしいねぇ。『夢人』 まあ『転生者』か。その転生者同士が潰しあい、互いを踏み台にして、勢力争いを繰り返しているそうさ。セカンドワールドに住むノーマルは、男は奴隷で踏み台、女は美人だとハーレムに入れられる、それはまさに理想郷ってヤツさ」

 俺は無言で頷きを返し、腕を組む。

「まぁそれで、セカンドワールドで踏み台にされたのか、なんなのか解らないが、6年ほど前に転生者が何人か工業エリアにやってきたのさ。そして、最初は色々交渉していたらしいが、結局はドンパチの始まり。まあ、私らにはあんまり関係ない話さ。さて、そろそろ行くよ。清掃所で、農業エリアからきた列車から、ナット達の荷物の引き取りが始まる頃さ。アタシらはその後の列車、歓楽街からの列車に乗り込むよ」

 黒板を奥に引っ込め、フラックスが顔をスッポリと覆う大きな仮面のようなマスクを手に持ちやってくる。そのまま、ソレを装着。フラックスのちょっとキツめだが、色っぽい顔がマスクに覆われ見えなくなる。
 それを被ったカシラは、初めて俺に近づき、かるく肩を叩きながら言う。

「いいかい? 一応アンタの事は信用してるさ。昨日『ストーマー』が入っても、襲ってこなかったから、ノーマルのスパイでもなさそうだしね。だがそれでも、もし金欲しさのあまりにオカシナ事をしたら、あんたの愛しい愛しい天使は、あっという間にハグレ達の性処理係になるよ。あの天使に惚れてるんだろう?」

「はあッ!? 何を言って」

「ふふふ、昨夜のストーマーは、セックスアップ以外に、本能が剥きだしになるようにデザインされた特別なストーマーだったのさ。このエリアに来たヤツには初日に絶対やらせるんだ。そうすれば、ノーマルの手先かどうか一発で解るからね。それに、だいたいどんな性根の持ち主なのかも判るしね。だが、昨夜、あの天使にキスしたあとのアンタの顔。ふふふ、優しそうな顔で天使と抱き合ってさ。くくく、ガキみたいだったよ」

 マスクの奥で楽しそうに笑っているカシラ。たしかに、初対面の人間に秘蔵のドラッグを見せるなんてオカシイと言われればオカシイ。
昨夜、テントの外にナット達、屈強な男が立っていたのも、中で俺が暴れたらすぐに殺すか、取り押さえるつもりだったのか。
 しかし……。ちょっと待て……。

「おおお、俺が、アイツにキスしただとっ!! ふ、ふざけんな。いいか、フラックス。これだけは言っとくぜ。俺は天使じゃ勃たねえんだ。俺とアイツは、仲の良い友達、いや兄弟みたいなモンだ。なんつーか、ほっとけないみたいな感じがするだけだ。俺は、アンタみたいなイイ女に突っ込むのが好きなんだ。そこは誤解しねえでくれ、頼む」

「ふふ、なんだそりゃ。アンタめちゃくちゃ勃起して、すぐにでも天使に突っ込みたそうな顔してたさ。それに、アンタにキスされた後の、あの天使の顔……。ふふふ、顔を真っ赤に染めて、すごく嬉しそうだったよ。いや、若いねぇ。さっ、馬鹿な話は置いといて、とっとと出るよ」

 ゾウムシに俺からキスした……。背筋を悪寒が走る。抑え切れず、テントの外に唾を吐く。
まだ、クスクスと笑っているフラックスと一緒に、テントの外に出た。
太陽が相変わらず暑く、クソッタレの洋服に汗が出てくる。上着を脱いで右肩からかけ、慣れた足取りで進むフラックスの後ろをついていく。
 
 途中ですれ違う、何人ものハグレたち。やはり、みんな元気が良く、瞳に力がある。ちらっと探すが、ゾウムシの姿は見えない。砂の入らない大きなテントの中にでもいるんだろう……。いかん、どうも調子がおかしい。なんで俺がアイツの事を考える必要があるのか。

 頭を振り、足を進めながら、前を行くフラックスの事に思いを切り替える。まだ30歳前くらいだろう。カシラとしては異常に若い年齢。だが、その若さでこれだけの豊かさを皆に提供しているのは、並みの手腕じゃない。
そうとうに、頭が良くまた努力家なんだろう。もしくは、なにか確固たる目的があるのか……。
 
 それに、このエリアのハグレのくせに、畸形らしい外見をしていないのも不思議だ。唇と舌が紫だが、歓楽街にもそういう女はいた。
なんでも口を凄まじい性感帯にするとそういう色になるらしい。フェラや精飲でイクようになると……。
 しかし、それだとフラックスは娼婦出身か? いや、ハグレの過去をほじくる事に意味は無い。どうせ皆、死ぬほどの不幸でいっぱいなのだから。 

「あれは……」

 考え事をしていると、目の前に突然ソレが姿を現す。ほとんど砂漠といってもいいような中を、30分ほど歩き続けた俺達。
その目前へ巨大な鉄の塊。その馬鹿デカク、黒く細長い箱に、何人ものノーマルが取り付いて箒で窓や車輪についた砂を落としている。
街で、チラリと見かけることはあったが、列車の周辺は自治人の警備が多く、こんなに間近で見た事は無かった。
 思わず、唾を飲む。

「何してんだい、いくよ」

 俺の前に立つフラックス。後をついて行き、列車の後部の扉から、中へ乗り込み、扉を閉める。
乗組員用の小部屋か? 部屋には一人制服を着た背の低いノーマルがいる。部屋の中は狭く、所々にゴミが散らばっている。
そのノーマルと無言で頷きを交わしているフラックス。そして、何かをフラックスから受け取ったそのノーマルが部屋を出て行く。

「まず、ここで砂を落とすのさ」

 フラックスから手渡される小型の箒。それを使い、洋服の砂をパラパラと落としていく。乾燥しきっているためか、以外にあっさりと奇麗に落ちる。
黒のジャケットを脱ぎ、パタパタと振り落とす。最後に床の砂を大きな箒でまとめ、塵取りに入れる。

「ちょっとすまないが、離れてくれるかい」

 そう言って、俺から距離をとり、マスクを外すカシラ。その後、スーツから取り出した小瓶から白い錠剤を手に取り、部屋に置いてあったコップの水で飲み込む。
 そして、部屋の鏡を使い、赤い口紅を塗っていく。厚めの唇が、艶のある赤い色になり、エロティックだ。

「さて、待たせたね。もうすぐ、地下に出発だろう。その前に、アンタの名前を決めとかなきゃいけないよ。アバラなんて名前じゃ、地虫だってすぐにバレちまう。そうさね、アバラだから、ノーマル風に『アル=バラッド』 辺りでいいだろう。いいかい? 」

 『アル=バラッド』思わず、苦笑いが出てしまう。なんの捻りもない。ただ、名前を分解しただけ。まあ、どうだっていいのだが……。

「ああ、別にかまわねえ。で、フラックス。アンタは何て呼べばいいんだ? フラックスだから、フ……、フラ……」

「フライアさ。アタシの名前は、『フライア=クライス』 そう呼んどくれ。いいかい?」

 強い口調のフラックス……。何かあったのか強張ったような、緊張しているような、そんな口調だ。
その眼差しも、どこか思いつめたような鋭い光を発している。唇の色といい、男を側に寄せたくないような行動といい、実に不思議な女だ。
だが、仲間に信頼され、その力も充分にある『カシラ』 である事は間違いない。
 俺は、カシラに伝わるように、大きく頷きを返した。




[15558] 『地虫の話』 第十話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:00
 『夢の国、地虫の話』 第十話




 工業エリアの砂嵐を防ぐ為なのか、列車は清掃所を発車後、すぐに巨大なトンネルの中へと入っていった。
窓の外は闇。ガタン、ゴトンと、一定のリズムを刻みながら、トンネルの中を延々と進んでいく。
 時折、等間隔でトンネルに設置された照明からの光が窓から差し込む。
しかし、列車を覆う暗闇を追い払うほどの効果は無い。
 
 今から15分程前、清掃所から地下都市へ向かって発車する直前に、俺とカシラは乗務員の小部屋から半ば乗務員に追い出されるような形で、一般車両へと移動した。
 歓楽街から工業エリアへと移動するノーマルが乗っている車両。フラックスの指示通り、出口扉のすぐ側で立ち、そこの吊り輪を掴む。
俺の肩ぐらいの身長のカシラ。すぐ目の前にある亜麻色のポニーテールから漂う甘い香り。纏めた髪のために覗く、細いうなじ、褐色の肌が色っぽい。

 いかん……、あまり見つめていると変な気持ちになってくる。このノーマルのジーンズという服、興奮するとナニが当たって窮屈で辛い。
実際、普通人の男どもはこんな物を履いて、興奮したら痛くないのか? 常にこんな物を履いている奴等の正気を疑う。
 きっと、ノーマルの男はマゾなんだろう。だが、マゾではない俺にとって充血した股間がカナリつらく、苦痛でしかない。

 気を逸らそうと、軽くため息をついて周囲を見渡す。そこまで多くは無いが、俺達以外にもポツポツと人が乗っている。
歓楽街へ泊り込みで遊びに行って帰宅する工業エリアの人間や、工業品の買い付けにきたノーマル達なんだろう。
  
 好奇心が刺激され、皆の表情などが見てみたいが、灯りが弱くイマイチよく解らない。
列車の天井に薄暗い灯りがついてはいるが、あまり効果はなく、まるで夕闇の中にいるみたいだ。
 時折、カーブを進む時に揺れ、目の前に立っているフラックスへ俺の体があたる。
その度、彼女の体全体から、雌そのものといった甘い香りが漂う。

「さて、そろそろ到着だよ。ほら……、あんまり周りをジロジロ見渡すんじゃないよ。アンタ、見た目はノーマルと変わらないけど、目がギラギラしすぎなんだ。もうちょっと、こう仕事で疲れた感じの目はできないもんかね」

 振り向きながら話すカシラ。周囲に聞こえないようにか、背伸びをして俺の耳へ赤い唇を近づけ、囁き声で話す。
その時、大きく列車が揺れ、フラックスの胸が俺の胸にぶつかり、抱き合うようなカタチになる。
 柔らかい……。腐りきった死体のような、とろける柔さ。
やばい…… このボリューム……。ゾウムシとは全然違う。ムニムニとした大きすぎる胸の感触……。
 アイツのツルペタとはハッキリ言って、比べ物にすらならない。

「ちっ、揺れるねぇ、って、ちょっと聞いてるのかい? ッ!! アっ、アンタ……、こんなトコで勃起してんじゃないよっ! 頼むからノーマルらしくしておくれよっ!!」

 俺の耳に噛み付くような距離で、小さくしかし強い口調で言ってくる。しかし、そのせいでドンドンとフラックスの体が俺に密着してくる。
赤い唇が、つやつやと潤んで見える。黒く意思の強そうな瞳。ツンと尖った顎から、大きな胸までのスラリと整ったライン。
 本気でマズイ……。ジーンズの中で、ナニが相当に窮屈だ。
そもそも、カシラこんなに俺に近づいて問題ないのか? 出発前に飲んでいた薬が関係しているのか?

「ちっ、そんなにヤリたいんなら今夜、思い切り天使に突っ込んでやるんだね。アンタ、あの子を泣かせたら、承知しないよ。ほら、さっさと離れなっ」

 ぐいっ、とカシラの腕で強引に押される。

「うおっ」

 タイミングが悪く、その瞬間にまた電車が大きく揺れる。ヤバイッ……。
ぐらりと、重心がずれる。足元が揺れ、後ろに立っていたノーマルにぶつかる。が、そのおかげで、なんとか倒れずに済んだ。

「す、すまねえ」

「いえいえ、お気遣い無く。お怪我は無い? お仕事でお疲れですか。頑張って下さいね」

 体勢を立て直し、ぶつかったノーマルに礼を言う。
赤いフレームの眼鏡をかけたノーマルの女。女らしくない、ごついブーツを履いているせいなのか、背が高く俺と同じくらいの目線。
いかにもエリートのような、知的な顔立ち。茶色の髪、ブルーの瞳。俺の全身を一瞥し、優しい言葉をかけてくれた。
 歓楽街から来たノーマルか。さっきまで、こんな女はいなかったような気もするが、まあ暗闇で気付かなかったのだろう。
スーツの上から、薄緑色のコートを羽織っている。胸は控えめのようだが、充分にいい女。

「ああ……。迷惑をかけた。悪い」

 軽く頭を下げ、フラックスの側に戻る。
うん……? 何かあったのか? カシラが親指の爪を噛みながら、目を細め、機嫌が悪そうに考え込んでいる。
と、ようやく窓の外が明るくなっていく。これは、到着したのか?

「アル=バラッド!!はやく行きましょう。工場にすぐ向かわなきゃ、遅刻しちゃうわ」

 カシラの明るく大きな声。一瞬、誰の事を? と思うが、俺の偽名だったと思い出す。

「あ、ああフライア。すまん。ちょっと昨夜遊びすぎだな」

 なんとかフラックスの偽名を思い出し、ブツブツと応じる。そして、一際大きな揺れの後、止まった列車の扉を開き、足を踏み出す。
俺達と同じく、多くのノーマルが降りてくる。

「アル、走るわよ、さぁ」

 フラックスはそう言い、俺の左手を握り、強引に人を押し退けながら駆け足で進んでいく。

「お、おいっ」

 前を塞ぐ、人の壁。いったい、どこにこんなに乗っていたんだと思えるような人数が、出口に向かい進んでいる。
同じ方向に、これほどの人々が淡々と進んでいく光景に、一瞬唖然とする。
フラックスに強い力で手を引っ張られながらも、周囲を見まわす。

「すげぇ……」

 大きな空間に、何台もの列車が止まっている。上を見れば、はるか上方にいくつもの照明が輝いており、何本もの鉄線が張り巡らされている。
コンクリートで作られた建物。多くの人を押し退けながら、俺とカシラは走る。
 けっこうな距離を走ったはずだが、まだ出口が見えない。と、人々の流れをそれ、通り沿いにある細い通りに連れ込まれる。
ちらっ、と上を見れば『この先、トイレ』と看板がかかっている。
 その路地に入った瞬間、ぎゅっ、っとフラックスが体を押し付け、俺の耳に唇を近づける。
走った為か、軽く乱れた呼吸音が喘いでいるように聞こえる。

「アンタ……。あの眼鏡の女、見覚えあったかい? あたしゃ、全然気付かなかったよ。どうだい?」

「いや、俺も気付いていなかった。薄暗かったしな。それが……」

 イライラした様子でフラックスがトイレのほうに向かい、足を進めながら口を開く。

「アンタは見えなかっただろうけどね。あの女……、吊り輪を握っていなかったにも関わらず、アンタがぶつかってもバランス一つ崩さなかったのさ。ただのノーマルじゃないよ、ありゃあ。夢人じゃあないだろうが、凄腕の自治人か何かだろう」

 忌々しそうに言い放ち、フラックスがトイレの前、マンホールで立ち止まる。
周囲に人がいないか確認。俺にも、指で合図を送る。
 頷きを返しながら、トイレの中や、通路を確認。こちらに向かっているノーマルはいない。
カシラに手でクリアのサインを送る。

「三ヶ月ほど前の話さ。歓楽街にカルマン家っていうノーマルの金持ち一族がいてね。ソコとここ何年かドラッグの取引をしてたんだが、完璧にルートを叩き潰されたのさ。幸い、コッチにまで火種は飛ばなかったが、その時に活躍した眼鏡の女の自治人がいたというハナシさ。感じるねぇ。ケジラミを伝染されたような不快な気分さ、とっとといくよ」

 唾を吐きながら、フラックスが素早くマンホールの扉を開ける。
周囲に、小便と大便が入り混じった、強烈な匂いが漂う。

「クソッタレ。まるで、オフクロの胎内に戻ったような懐かしい匂いだぜ」

 最後に周囲を見渡し、素早くマンホールの中に入る。ヌルヌルとステップが滑るが、歓楽街のモノより随分と清潔だ。
うじゃうじゃと一箇所にかたまっているゴキブリや、得体の知れない白い虫を靴で踏み潰す。
 顔に何匹か虫が落ちてくる。それがシャツに入り込み、くすぐったい。いったいノーマルは虫が服の中に入ってきた時に、どうしてるのか?
全く理解できない。このまま潰すのか? まあ、きっと皆そうしてるんだろう。シャツの上からプチプチと虫を叩き潰し、フラックスを待つ。

「さぁ、いくよ。ここを進んでいけば目的地まで一本道さ、なんだかイヤな予感がするよ。急ごう」

 フラックスの言葉に頷く。薄暗い下水。だが、このエリアに抜けてくる時に通った下水とは異なり、薬品の匂いが薄く、カエルもいない。
代りに、大量の虫がいる。手でバランスをとるために壁に触るが、その度にウゾウゾと多くの虫がうごめき、下へ落ちていく。
天井からも、俺達に驚いたのか、何匹も虫が落ちてきて、髪の中を這い回る。実に、懐かしい。思わず笑いが出そうになる。

「ちっ、あたしは嫌いだねぇ。砂のほうがずっと好きさ」

 ブツブツと俺の隣で呟いているフラックス。だが、文句を言いながらも足は止めない。
時折滑る足場を気にせず、かなりのスピードで進んでいく。

「まあそう言うなよカシラ。慣れれば可愛いモンだぜ。少なくとも、夢人よりずっとマシさ。コイツラは必死に生きてるだけだ。環境に文句を言わず、ただがむしゃらに」

 足を進める。下水の匂い、足元に所々ある様々な死体やゴミ。カサカサと音を立てて移動する虫達。
全てが懐かしい。俺に相応しい、ぴったりの棲家。薄暗く光る照明を頼りに、フラックスの手の合図に従い、曲がりくねった通路を進んでいく。
 
 下水はある意味、計画と混沌の私生児だ。上水道と並んで、生活に絶対に欠かせないモノであり、ノーマルの生活の基盤になるモノ。
夢人の都市計画で、厳密に計算して作られたハズなのに、人口が膨れ上がるにつれ、場当たり的に創造されたモノが混ざっていく。
 だからこそ面白い。論理的にはありえない場所に、ひょっこりと別の通路があったりする。
まさに迷路。ノーマルや夢人の足元に広がる、現代のラビリンス。俺達地虫は迷宮に巣食う、名も無き雑魚。

「ちょっと待っとくれ、アバラッ! 何か聞こえないかい?」

 30分ほど歩いただろうか。カシラの囁き声で足を止め、耳を澄ます。
 何だ……? 確かに聞こえる……。上方で、なにか激しく何かがぶつかりあうような、爆発するような音……。

「全く、なんてこったい。この上辺りが目的地だってのに。多分、ドンパチやってるねぇ。夢人と転生者がさ」

 カシラを見つめる。耳を澄ますが、物音はまだ収まらない。時折、ガリガリとなにかを削るような音が聞こえ、下水の壁が震える。
その度、天井からポトポトと虫が落ちてきて、首元からシャツの中に潜り込んでくる。

「この上にはねぇ。学校があったのさ。もう10年近く前になるねぇ。我が麗しの母校さ。ま、5年前にぶっ壊れて、とっくに廃墟になってるけどね」

 薄闇の中、自嘲気味に笑みを浮かべるフラックス。
呆然とする。10年前に学校に通っていた? フラックスは、昔、ノーマルだったって事か?

「フラン=クロノス 高等学部3年Fクラス。フフフ……。懐かしいハナシさ。まあ、どうだってイイけどねぇ。ただ、過去は捨てたハズなのにさ。ここに来ると、思い出しちまうねぇ。あの地獄の日々を……」

 言葉を吐き出すカシラを見る。その黒い瞳。日に焼けた亜麻色の髪。同じく長い砂漠暮らしで焼けてしまった褐色の肌。
俺は、上方から聞こえてくる音を聞きながら、カシラをじっと見つめる。
 カシラの黒い瞳。それはまるで、復讐という想いで、燃えているように、綺麗だった。



[15558] 『地虫の話』 第十一話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:00
 『夢の国、地虫の話』 第十一話



 
 突然!! グラリッと視線がずれる。一瞬、体が浮き上がるようなフワッとする感覚。その直後、恐ろしいほどの揺れが襲ってくる。
地震!? 下水の壁全体から響いてい来る低い音。立っている事すら難しい強い振動が、暗い下水の中を揺らす。

「っ……!! カシラっ!!ココにいたらヤバイ。生き埋めにされちまうぞッ!!」

 グラグラと足元が揺れる。あんなに大量にいた蟲どもも、どこかに避難していったのか、周囲にいない。
水路に溢れていた汚水や、浮いているクソがバシャバシャと水滴を飛ばし、まるで沸騰した水のように揺れる。

「チィィ!!仕方ないねッ!! 上に出るよッ!!」

 下水に取り付けられた、薄暗い照明が振動の度、点滅を繰り返す。
四方八方から、ビシビシと何かかひび割れるような音、ボロボロと頭上から細かい破片が落ちてくる。
 頭や体に絶え間なく降り注ぐコンクリートの破片を無視し、ひたすら地上へのステップを登る。

「いいかいッ!! 地上に出たら、とにかくどこかに隠れるんだッ!! もし、私とバラバラになったら、集合場所は駅トイレの下水だッ!! よし、行くよッ!!」

 相変わらずの轟音と振動の中、マンホールの蓋が外される。
一気に飛び出すカシラ。俺も、両足に力を込め、勢いよく飛び出そうとする……。だがッ!!!

「うおッおッ!!!」
 
 両足で壁を蹴り、一気に地上へと昇ろうとした瞬間に、一際大きな揺れが襲う。
その揺れのために重心がブレ、足をステップから踏み外してしまう。

(不味いッッッッ!!!!!!!!)

 ヌルヌルとヘドロがこびり付いた足場。大きな揺れと相まって、一気に2メートルほどの高さから滑り落ちる。
ギリッ!! と奥歯を噛み締め、少しでも減速するように、壁にガリガリと爪をたてる。しかし、その足掻きも虚しく、下水の底に打ち付けられる。

「がはッ!!!」

 一瞬、肺の中の空気が全て押し出され、背中に強烈な衝撃……。飛び散った汚水が全身に降りかかる。
目の前が霞むほどの痛み。両手の爪から刺すような痛み。
 しかし、揺れは収まらない。相変わらず、頭上からバラバラと細かい破片が降り注ぎ、ミシミシと下水全体が軋む音が響く。
このまま生き埋めになる恐怖……。恐怖に背中を押されるように、必死に這い上がり、今度こそ地上へと転がり出る。

「なッ!!!」

 俺の目に飛び込んできた、地上の風景……。出口のすぐ目の前に、ボロボロになったコンクリートで出来た巨大な建物があった。
きっとこれが『学校』なんだろう。所々に大きなひび割れが走り、建物の上の部分はまるで巨大なナニかがぶつかったかのように、粉々に砕けている。

 だが、真に驚愕すべきはその横にある物体……。目に映る、その異様な物体に唖然としてしまう。
なんと形容すべきだろうか、全体を濃い緑色でペイントした幅3メートルほどの巨大な鉄の箱……。
さっき乗った列車の車両の半分くらいのサイズ、そして圧倒的な質量を感じさせる鉄の雰囲気。
 
 だが列車とは違い、車輪の部分に大きな鉄製のベルトが巻かれている。それが動く度、キュラキュラといった甲高い音を立てる。
よほどの重量なんだろう。その緑色の箱が動く度に、地面へビシビシと小さなヒビが入っていく。
 そして、その車輪にベルトを巻いた大きな箱の上には、鉄パイプのような棒が着いた小さめの箱が乗っている。
動く度に、周囲を睨むようにそれが旋回する。その棒は芯の部分が空洞になっているが、いったい何なのか、全く予想がつかない。

「んだアリャ……」

 ワケが解らない物体だが、滅茶苦茶にヤバイとだけは、なぜか理解できる。
背中を冷や汗が伝う。一瞬、マンホールに戻ろうか、という思いが浮かぶ。

「おおおおおおおおっ!!アマヤギリッ!!この化け物がッ!!!消し飛べッッッ!!!」

 その時、上空から男の叫び声。思わず頭上を仰ぎ見る。
銀色に輝く服を着て、バサバサと漆黒のマントをはためかせた金髪の男が空中に立っていた。
その両手……。頭上に掲げられた両手の上に直径3メートルほどの大きさの光る珠が浮いている。

「やっべえええ!!!」

 なんつうデカイ黒夢ッ!!! 恐怖に押されるまま、発作的に横に跳び、ゴロゴロと地面を転がる。
金髪の男が腕を振り下ろす。その動作に合わせ、光る珠が恐ろしいスピードで地上に向かい飛翔!!
そのエネルギー……。どれほどの黒夢かは解らねえが、空気がビリビリと震える。
 
 だが、地上の緑の箱も負けずに動く。瞬時に小さな箱についた棒の先を空中の男に向け、男が腕を振った直後ッ!!
ドゴンッ!!!っと落雷のような轟音が周囲に響き渡る。
あの棒から何かを発射したのか? 目で確認などできるワケも無いが、何か圧倒的な力が射出されたのだと、ぼんやりと解った。

 一瞬の静寂、そして……。
地上に凄まじい音、そして熱と暴風が吹き荒れる。男の放った光る珠のエネルギーの余波だろう。
転がり続けて逃げる俺にすら、チリチリとした熱風が押し寄せ、髪が焦げる匂いがする。
必死の思いで、なんとか大きな瓦礫の側に辿り着く。這うようにして、慌ててその影に隠れる。

「滅茶苦茶やりやがるぜ!!! クソどもが……」

 悪態をつきながら上空を見れば、さっきの金髪男はいなくなっていた。
地上の箱からの攻撃でくたばったのか、逃げたのかは解らないが、とにかくいない。
 今度は、光る珠が直撃した場所を見る。

「ッ!! アレの直撃に耐えてやがる……、化け物か……」

 うっすらと煙が晴れていく。その煙から現われた巨大な物体。
濃い緑色は、すすけたような黒に変色し、棒も捻じ曲がっているが、それでもその箱は地上にあった。
だが、ピクリとも動く様子は無い。そして、俺の見ている目の前で、その箱はみるみると霧がはれるように薄く消えていく。

「赤夢……、だったのか……」

 おそらく、あの中に赤夢使いが乗っていたんだろう。
緑の鉄箱が瞬時に消滅しなかった所を見れば、即死では無いだろうが、維持が出来なくなった所をみると、中で気絶でもしたのかも知れない。
 が、まあどうせ夢人だ。俺には全く関係が無い。むしろくたばっていてくれたほうが嬉しい。
死んでいれば身ぐるみ全部剥ぎ取って、全ての持ち物を頂きたいが、今はフラックスと合流する事が先だ。

 カシラ……、俺よりずいぶん先に飛び出した。大丈夫だとは思う……、しかし、先ほどまでの攻撃に巻き込まれていなければいいが……。

「カシ……、フ、フライアッ!!フライアッ!! 無事かッ!? ドコにいるッ!?」

 叫びながら、とりあえず下水の入り口まで戻る。ズキズキと背中が痛む。足がときおり、フラフラともつれる。

「コイツは……」

 下水……。無茶してでも脱出して良かった。マンホールの中は、さっきの金髪男が放った黒夢のせいか、壁がボロボロに砕け、底が見えないほどに埋まっている。あのまま、地下で待機していたら最悪だと生き埋め、運が良くても大きな破片で大怪我だったかも知れない。
 背中を伝う寒気を振り払いながら、元学校だったという廃墟に近づいていく。

「うう……、痛い……よぉ」

 弱々しい声……。その声の方を見る。ボロボロに破けた黒い服を着た、幼い少女が仰向けに倒れている。
さっきまで戦っていた夢人か……。まるで小学生のような身長。紫色の髪。破けた服から見える、ゾウムシ並みに白い肌。
 その顔は、ゾウムシ並み、いや下手をするとそれ以上に美しい。だが、その美しさは偽りだ。願望という仮面を被った美しさ。 
しかし、まあ子供の外見の夢人というのは珍しい。普通は、もう少し上の年齢の外見をしているもんだが。

「とっとと死ね」

 呟いて、うめいている少女を無視し、校舎へと足を進めようとする。
その時、ふわりと甘い香りが鼻に届く。甘くほのかに雄を誘うような、柔らかい匂い。
 それは、まるでアイツの匂い……。ゾウムシそっくりな、その甘い香り……。
よりにもよって、その少女から、その香りは漂ってくる。
 
 一瞬、倒れてうめいている少女と、ゾウムシの姿がダブって見える。
馬鹿げている。気の迷いだと、頭を振る。
 だが、何故か耳の奥にアイツの涙で震える声が流れる。
ゾウムシのエメラルド色の瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる映像が浮かんでは消えていく。
 アイツの泣き顔など、見た事など無いはずなのに。
それなのに俺の脳裏には、泣きながら苦しむアイツの姿が浮かび、目の前の少女と重なる。
 唇がジンジンと熱い。昨夜、俺からキスを……。そして今朝も、唇に、何か柔らかいモノが……。

「クソ……。どうにかしちまったのか? アイツにキスなんかしたからだ。クソ……。アホ以下だ」

 倒れている少女に近づく。片ひざをつき、右手で夢人の額を触る。
『ヨミ』を行う。予想通り、いくつかの黒夢の破片が少女の体を浸食している。
 基本、夢人というのは怪我をしないし、怪我をしたとしても瞬時に回復する。
それは、存在がほとんど夢そのものだからだ。だから、夢人を殺すには、同じ夢で殺すしかない。

 上着のポケットから、ディスクを取り出し、少女の黒い服を破る。むき出しになった白い肌、その腹、ヘソの上にディスクを載せる
ドクドクとディスク表面の血管が波打つ。そのままディスクの上に、俺の爪が剥げ、血まみれになった右手を載せる。
 残る左手は少女の額の上。チャンスは一瞬だ。一瞬で、少女を蝕んでいる黒夢を『ヌキ』、ディスクを書き換える必要がある。
最終的には運だ。運が良ければ、俺は最高にイカした黒夢をゲットでき、この夢人も助かる。
 大きく息を吸い込む。

「マウントオン……。スキャニング、ライティング始動ッ!!」

 ドンッ!!!!っとケツにペニスを無理矢理突っ込まれるような痛みが走る。
こいつは……。想像以上ッ! 6種類もの黒夢がコイツの体を浸食している。
と、いうことはコイツは最低でも6人以上の黒夢使いと戦っていたという事……。
 外見に似合わず、凄まじい実力者だ。

 やばい……。俺の脳が負荷に耐えかね、グニャリと視界が歪む。マズイ……。
いや……、抑え込む。左手から次々に吸出し、右手で書き込む。時間との勝負。
脳の中を様々な風景が駆け巡る。ギリギリと噛み締めた奥歯が鳴る。イけるッ!!!

「がぁああああああああ!!!」

 一気にヌキ終える。全身からポタポタと大量の汗が落ちる。夢人から、夢を抜いた……。
特殊な状況とは言え、ハグレの『ヌキ屋』で夢人から抜いたヤツなんてそうはいないだろう。
 右手の下にあるディスクを見る。ドクドクと血管が脈打ち、張り裂けそうなほど太くなっている。

「よっしゃ。コイツは最高に高く売れるぜ……」

 唾を吐き、フラフラと立ち上げる。後は急いで、此処から離れよう。
この怪我だ。まだまだ、この少女が目覚めるまで時間があるだろうが、それでも早く身を隠したい。
 振り向いて、校舎に向かう。早くフラックスと合流しよう。若干揺れる視界を誤魔化しつつ、前へと足を進める。

「あれ……、お兄ちゃんドコ行くの? 瑠璃の味方でしょ? 側にいて欲しいなぁ……」

 ゾクッ……、と背中に鳥肌が立つ。馬鹿な……、あの状態から、一瞬で回復するなんてありえねぇ。
もしかして、やばいほど上級の夢人だったのか。ゴクリと溢れる唾を飲み込む。
後ろを振り返るべきか迷ったまま、俺は呆然とただ立っている。 

「うふふ……。お洋服が汚れてるのが恥ずかしいの? いいよ、瑠璃は気にしないからっ! ね、すごく助かっちゃった。お礼もしたいし、お顔見せて」

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……。やはり、関わるんじゃなかった。ゾウムシに似た香りと、黒夢に釣られた己に後悔が押し寄せる。
ここは、振り向かずに一気に駆け出そう。覚悟を決め、地面を蹴るために両足に力を込める。

「ぐっ……、んだこりゃ、動かねぇッ!!」

 足が、いや、体全体が動かせない。恐怖が襲う。背中を冷たい汗が伝っていく。

「いっぱい、瑠璃がお礼してあげるね。お兄ちゃん……」

 動けない俺の背後から、本当に嬉しそうな、少女の声が、聞こえてくる。
その声を聞きながら、俺は、恐怖のあまり叫びそうになる喉を必死に押さえ込んでいた。



[15558] 自治人の話 ③ 上
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:01
 挿話 夢の国、自治人の話 ③ 上




 濃いタールのようなブラックコーヒーを飲み干し、私は右手に持っていた書類をデスクの上に投げ出す。
深くため息を吐く。肌寒い歓楽街の早朝。せっかくの良い天気も、この書類に書かれている『不許可』 の三文字の所為で台無しな気分……。

「半ば予想はしてたけど、部下を連れて行けないなんて……。いくら工業エリアが微妙な情勢とは言っても、ちょっと厳しいわね」

 工業エリアへの出張許可を昨夜のうちに提出、そして多数の部下自治人を要請したのだが、維持局上層部から許可はおりなかった。
連れて行けるのは、昨夜篭絡したウシアブのみ。となると、ウシアブを制御する為にあのお嬢様も連れて行かないと不味いだろう。
 どう考えても、捜査にお嬢様が役に立つとは思えない。だが、あの豚男の暴走を制御する為には必要だろう。
今、そのお嬢様は保護観察の書類を、ウシアブ自治人下等補佐と一緒に提出している頃か。
仕方ない…… お嬢様には、せいぜい私の欲求をぶつけさせてもらう事にしよう。

 それにしても…… と、工業エリアの現状が記されたレポートを、引き出しから取り出して見つめる。
『ピクシー』たち、オリジナルの夢人と、『転生者』の争い。もう、ここ五年ほど続いていると書いてある。
 なぜ争っているのか? その原因は不明…… だがそんな事はどうだっていい。問題は、近い将来、どちらが工業エリアを支配するのか? だ。
 
 もし今回の件で私達、歓楽街治安維持局が『ピクシー』へ、大人数の自治人逗留許可を願い出た場合、当然、なんらかの交換条件を求められるだろう。
その条件がなんであれ、仮に将来『転生者』が工業エリアの支配者になった場合、『ピクシー』に協力したという事で、都合が悪くなるかもしれない。
最悪、それを口実にして歓楽街へ『転生者』が攻めて来る恐れもある。
 逆もまたしかり。『転生者』に協力は依頼できない。ただでさえ、『姫』と『ピクシー』の仲が悪い事は有名なのだ。

 噂では『姫』と『妖精』の二人は、姉妹だと言われている。だが、性格や外見も正反対らしい。
先日、お会いした『姫』の姿を思い出す。
 動きやすいように、紫色の髪を無造作に肩くらいの短さで切り揃え、多くの部下や普通人たちと精力的に会談し、夢人にも関わらず、積極的に実務処理を行っていた姿。
 歓楽街は『夢』を生み出すのに最も適した場所だと言われている。また、訪問する人々も多く、トラブルも多い。
それに対処すべく、日夜、身を粉にして精力的に働く『姫』。美しい顔に汗を流し、普通人とともに生きている。

 反対に、『妖精』は、気ままに毎日を過ごしているという噂だ。
あくまで伝聞ではあるが、子供の姿で己の時を止め、ただ夢を吸い取り貪欲に生きているらしい。
まあ、ここは歓楽街。どうしても、噂が『姫』寄りになるのは仕方が無いが……。

「どちらにせよ、目立つ事は出来ないって事か……」

 仕方が無い。私達自治人の勝手な判断で、他エリアとの紛争の火種を作ることは出来ない。私達は、一般人を守るために存在しているのだ。
一応、『姫』への報告書を書き上げる。出発前に、受付へ渡し、『姫』に送って貰おう。

「フゥ……」

 立ち上がり、眼鏡の位置をなおす。机の引き出しから、『夢武器』を取り出す。
コレが頼りだ。何があるかは解らないが、圧倒的な力というモノは、いつだって有効だ。

 それは一見、なんの変哲も無い指輪。ひどくシンプルなデザインだ。どこにも装飾は無く、安物の金属でできているような鈍い銀色に輝いている。
これなら、この指輪を狙って強盗などに襲われる事もないだろう。
 だが違うのだ。大きく息を吸い、覚悟を決めて、その指輪を右手の人さし指へと嵌める。

「ッツ!!!」

 その途端、指輪の内側から、何本もの鋭利な針で刺されるような痛みが走る。
細い針が、皮膚に何本も突き刺さり、しかもウネウネと動いきながら、掌に伸びてくる感触。
神経をゆっくりと焼かれるような激痛。唇を噛み締めて、苦痛の声が漏れないようにする。
デスクの上へと、人さし指から血がポタポタと落ちる。手首の辺りまで、細い針が侵食してくる。太い血管に何本もソレが突き刺さる痛み。
 
 スっ、と唐突にその痛みが消えさる。大きく息を吐く。この痛みは、何度やっても慣れない。
ゆっくりと右手を動かして接続を確かめる。
 と、その時……、大きくドアがノックされる。

「ウシアブ、じ、自治人下等補佐ならびに、我が、は、は、配偶者、カルマン=シャーロット、は、入ります」

 低い声……。巨漢ウシアブの難しい言い回しに不慣れな声だ。きっと不貞腐れた顔をしている事だろう。
今朝、自治人用の特注サイズの制服を渡したときも、露骨に嫌そうな顔をしていた。
 だが、以外に頭の回転が速い。外見は豚のようだが、実は使える部下になるかもしれないと思う。

「はい、どうぞ」

 さて、これから小旅行だ。大きくドアを開けるウシアブ。
レディーファーストのつもりだろうか、シャーロットお嬢様を先に部屋へ入れ、そのあとから巨体をのっそりと入れ、ぎこちない敬礼をしてくる。

「それじゃ、新婚旅行といきましょうか、お二人さん」

 やれる事をやるしかない。
気分を切り替え、クローゼットから薄緑色の外套を取り出しながら、私は二人へ出発を告げた。


 ◆

「それでお嬢様、初夜はいかがでしたか? オマンコにいっぱいザーメン出して貰ったのでしょう。気持ち良かった? いっぱいアクメしちゃったの? イクイクイクーーーってあの豚男にしがみ付きながら、可愛くアクメ顔をお見せになりました?」
 
 囁き声で話しかける。ガタゴトと揺れる列車。その食堂車両で、私はシャーロットお嬢様とテーブルを挟むカタチで向かい合っている。
細やかな刺繍をあしらった大きなレースがかけられたテーブル。その上に、お嬢様の前には紅茶。私の前にはコーヒーとサンドイッチが置かれている。
 
 ウシアブは列車に乗り込み、個室に入った後、すぐに寝息を立て始めた。昨夜、頑張りすぎたのだろう。
豚そっくりなイビキがあまりにうるさいため、お嬢様と二人で流れる風景を眺めながら、お洒落なティータイム……。
 と言うのに、お嬢様は上品な顔を真っ赤に染め、何かに耐えるように唇を噛み締めながら、ふるふると全身を振るわせ続けている。

「あ、あぁぁ、お姉さま、お、おみ足での、悪戯をおやめになって……。声、声が出ちゃいますわ。は、はしたない声が、あうっ…… ん、んんんん。ば、ばれてしましますわ。み、皆に、きっとばれてしまいますっ!!」

 小さな震える声で、ようやく言葉を返すお嬢様。金色の髪を奇麗に縦ロールにして、真っ赤に染まった顔の横に垂らしている。
天使の美しい外見に似合っており、先ほどからチラチラと多くの視線を浴びている。
 着ている服はカルマン家から押収した鮮やかな赤色のドレス。豪華に飾られた刺繍。どこから見ても名家の令嬢だろう。
男女問わず、羨望の視線を集めている。だと言うのに……。クスッっと笑いが漏れる。

「あら、お嬢様……。ちゃんと言って貰わないと解りませんわ。うふふ……、もしかして、コレ? ふふ、お嬢様はこんな風に、ストッキングに包まれた足でカリをコスられるのが大好きですものね……。 ほら、ほら、どう? こうやって足でメスチンポをシコシコされて? ほら、はっきり仰って」

 大きめのレースで隠されたテーブルの下で、黒いストッキングに包まれた両足を動かす。
右足の親指と人さし指で、お嬢様の怒張したペニスを挟み上下にシゴく。
 ヌルヌルと溢れてくるカウパー液を、たっぷりと塗りつけながら、左足の裏でビクビクと震えるペニスの先端を優しくこすりあげる。

「ふぅぅぅううう……。み、皆様に見られてる、見られてますわ。わ、わたくしの、は、はしたなく感じている顔が……。そ、そんなに虐められたらッ!! あっ、だめ、だめ……、シコシコ駄目ですわ。んんん……、あ、足で、足でメスチンポ、メスチンポ虐められると、か、感じすぎますの。うぁぁ……」

 ストッキングのサラサラした肌触りを使い、お嬢様のカリ首を責める。笑顔でコーヒーを飲みながら。
周囲の視線を感じる。ガタン、ゴトン、と景色が流れる。
 その風景を見ながら、張り裂けそうなカリ首を、右足の親指で何度もコスる。左足で鈴口を何度もつつく。
チョン、チョン、と尿道を突く動作。その度に、お嬢様の体がビクビクと痙攣を繰り返す。

 右足で亀頭を挟み込み、クネクネと動かしながら、左足でドクドクと熱いカウパーを溢れさせている先端をこする。
じゅくじゅくと、ストッキングに粘液が染み入る。美しい花が飾られたテーブルに、雄のホルモン臭が漂う。

「もう、お嬢様ったら……、そんなに俯いていたら、皆様に変に思われますわよ。ほら、あちらに立っているボーイさんが、さっきからお嬢様をじっと見つめてますわ。うふふ……、ココね、この場所が気持ちいいのね……。さあ、お顔をお上げになって」

 そろそろ一度イカせようかしら。両足の裏で、怒張しきったペニスを挟み込み、容赦なく高速で上下にシゴキあげる。
私に言われ、顔を上げたお嬢様。絶頂寸前なのだろう。ウルウルと両目を濡らし、ピンクの唇をかすかに開き、何度も舌で唇を舐めている。

「ふうううう、お、お姉さまッ。も、もう、そ、そんなに、そんなにされたら、イ、イキますわッ。で、出ちゃいますの。が、我慢できませんわ。んんん……。ア、アクメ、アクメしちゃいますわ、こ、こんな、こんな所でッ、ア、アクメ顔、だらしないアクメ顔見られちゃいますッ!!」

 クスクスと笑いが込み上げる。容赦なく両足を動かす。ビクビクと震えているペニス。何度も何度もコスリあげ、絶頂へと追い込む。
ガクガクと全身を震わせるお嬢様。ガチガチと歯を噛み締め、整った顔を歪めて、喘ぎ声を押し殺している。うふふ……、可愛い……。
 限界だろう。最後に根元から先端まで、ストッキングに包まれた足で挟み上げ、トドメをさす。

「はぁああああああああああ、イクイクイクイクッッッッッ!!! イクッ!!!!!」

 お嬢様の感極まった声。予想以上に大きく、艶かしい。流石に焦る……。
素早く空のティーカップを右手に持ち、移動。
 ガクガクを震えるお嬢様の隣に移り、アクメ声を漏らす口を左手で塞ぐ。
ドクドクと大量のザーメンを吐き出しているお嬢様のペニス。ビクビクと震えている先端を、空のティーカップに入れ、あふれるザーメンを受け止める。
ようやく落ち着いてきた声を確認し、左手で、まだドクドクと熱いペニスを掴み、ザーメンを優しく搾り取る。

 ほっ、とため息を吐く。どうやら、気付かれなかったようだ。運がいい。
成功にニヤリと頬が緩む。そのまま、真っ赤なお嬢様の耳に口を寄せ、囁く。

「ふふ、お嬢様のミルクティー、つくって差し上げますわ。ほら、このカップ、ごらんになって。ドロドロと濃くて、黄色くって、とーっても美味しそうなミルクでしょう? もっと、もっと沢山ミルクを搾り入れて差しあげますから。うふふ……。次は、私の手、その次はお口、最後は、お嬢様の大好きな尿道責めですわよ。ふふふ……。そしたら……、最高の笑顔でお飲み下さいましね……」

 金髪を掻き分けて、耳にゆっくりと舌を差しこみながら囁く。右手では、既にお嬢様のペニスを握り締め、上下にゆるゆるとシゴキ始める。

 工業エリアに着くまで、あと4時間……。その間、精々、お嬢様で楽しむとしよう。
再度、硬さを取り戻し、大きくなってきたペニスを握り締めながら、私はクスクスと笑った。




[15558] 自治人の話 ③ 中 
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:01
 挿話 夢の国、自治人の話 ③ 中




 窓の外を流れる風景が、いつの間にか砂漠のような景色に変わっていた。
わたくしは嬲られすぎたあまり、ドンヨリと重い下腹部を感じながら、フラフラと個室まで向かって歩く。
 今も一人で食堂に残り、書類を見ているお姉さま。彼女に、どれ位嬲られただろうか……。
恥ずかしさのあまり、泣きそうになる。何度精液を吐き出しても尽きぬ、天使の体があさましい。

 すれ違う人々の好奇の眼差しと、羨望の視線が疎ましく感じる。
けっして、わたくしが望んだ体では無かった。一族皆を天使にする、というお父様の決定に誰も逆らえなかっただけ……。
いや……。

「いいえ、同じ事でございますわね……」

 ドラッグ製造密売の件についても同じ。知っていながら、逆らわなかった。
いえ、いさめる言葉一つ漏らさず、ただお父様に従い、手伝い続けた。その報いがこの有様……。
辿り着いた個室のドアの前でポツリとこぼす。
 
 暗い気分のまま、ゆっくりとドアを開ける。それなりの内装の個室が広がる。
だが今、そのホテルの一室のようなその中に、場違いのような大きな音が響いていた。
 設置してあるソファーを独り占めする形で横たわっている巨大な男。大きな音、それはその男のイビキ……。

「うふふ……」

 思わず笑い声が出る。醜い寝顔だと思う……。
そう、確かに豚そっくりで醜い寝顔なのだが、不思議なことに見つめているとどことなくユーモラスで可愛く思えてくる。
その寝顔、そして大きなイビキが、暗く沈んだわたくしの思いを軽くしてくれた。
 
 わたくしの夫……。ウシアブの大きな体を包む濃いブルーの制服を見る。ああ……、せっかくの新しい制服なのに、ヨダレがこぼれている。
そっと、ポケットからハンカチを取り出す。
軽く押すようにして、ヨダレを拭き取る。そうしながら、わたくしは左手をそっと伸ばし、制帽の下の彼の髪を触る。

 まるでタワシのよう……、固くって真っ黒な髪。チクチクと痛い。雑にカットされたのだろう。所々に刈り残しがある。
きっと、本人は全く気にしていないのだろう。今度、わたくしが切ってあげようか……、と思いが浮かぶ。
照れる彼を抑え、ハサミをつかって丁寧に。
 
 そう……、まるでそれは、本当に愛し合っている夫婦のようで……、

「は、はぅ……、あ、あ、ありえませんわっ!! わ、わたくしったら、なんてことを……」

 自分の思考に驚き、彼の髪を触っていた手をどける。なぜか、ドキドキと胸がうるさい。
 あわてて大きく深呼吸をしながら、窓の方へと移動し、砂だらけの風景を見つめる。
この風景のどこかに、工業エリアの地下都市が眠っている。そして、その先にはまだ見ぬ大陸、セカンドワールドが広がっているのだと。
ドキドキとうるさい胸を沈める為に、必死でまだ見ぬ世界に思いをはせようとする。

 だが、イビキが聞こてくる。
大きくて、うるさくて、でも、どことなくユーモラスで……。

 本当によく眠っている……。が、それは当たり前だと思う。なぜならば、わたくしの為、彼は一晩中起きていてくれたのだから。
悪夢にわたくしがうなされ、悲鳴を上げて飛び起きるたび、彼は大きな手で優しく、わたくしの背を撫でてくれたのだ。
そして、わたくしが再び眠りにつくまで、ずっと優しく抱きしめてくれていたのだから。
 不思議……。醜い男なのに、気付けば彼の事を考えてしまう。胸がドキドキとする。
生まれてからこの17年間、こんな経験は無かった。いったい、何なんだろう? この胸の痛みは……。
 わたくしは不思議なその痛みを抱えながら、ぼんやりと昨夜の事を思い出す……。


 ◆

「やめてっ!!! 近くに寄らないでくださいましっ!!! このッ!! このッ!! 醜い下民風情がッ!!!」

 ボロボロと涙がこぼれる。何度も何度も、目の前の大男へ握り締めたコブシをぶつける。
あさましい、あさましいっ!! 自分に腹が立つ。涙があとからあとから零れ落ち、胸の底から怒りが溢れてくる。

「どうしてッ!!! どうしてッ!! わたくしがッ!!! わたくしが、こんなことにッ!!! どうしてッ!!」

 自治人特別室に置いてあったランプ、食器、本、枕、手当たり次第に掴み、目の前の醜い大男に投げつける。
顔や体にゴツゴツと命中し血を流している。なのに、男は何も言わない……。ただ、じっとわたくしを見つめるだけ。
 
「わたくしを犯せばいいでしょうッ!! さっさと、力ずくで、犯せばいいじゃないっ!!! どうせ、どうせッ!! わたくしはあさましいですわっ!!どうせっ、どうせっ!! け、刑務所に戻りたくなければ、あ、あなたに犯されるしかないのですものッ!! 無理矢理にッ!! 無理矢理犯せばいいでしょうっ!!」

 コブシを握り締め、思い切り力を込めて彼の顔を殴る。
八つ当たりだと解っている。でも、抑えられない。
 何度も、何度も、目の前の醜い顔、大きな体を殴る。それでも、彼は反応しない。反応してくれない。ただ、わたくしを見つめるだけ。
その体に爪を立てる。わたくしの小さな手に、思い切り力を込める。彼の体に赤いラインが引かれ、うっすらと血が滲む。
 ボロボロと涙がこぼれる。口から獣のような嗚咽があふれる。

 今からおよそ三十分ほど前、わたくしが目を覚ますと、あのバンドが外されていた。見渡せば、大きな部屋。
ここには見覚えがあった。自治人特別室……。三ヶ月前から、何日もここで快楽という名の拷問を受けていた。
 だが、そんなことはどうだって良かった。はちきれそうな己自身に触れながら、急いでトイレへと駆け込む。
身を焼くほどの排泄の快楽と、この二週間焦らされ続けた射精の愉悦……。
圧倒的な快楽に涙を流し、ドロドロに溶けそうな快楽の中で、己自身を慰め続ける。

 そしてようやく部屋に戻ると、豚そっくりの巨漢が途方にくれたような顔で立っていた。
唐突に、脳裏へお姉さまとの会話が蘇る。そう……、

 『この男と結婚し、懐妊しなければ、再び刑務所に戻される』

 再びあの刑務所に戻る……、圧倒的な絶望感がわたくしを襲う。そして、半狂乱になった。
快楽によって変えられてしまった、わたくしのカラダ。何も考えたくなかった。
 どうせなら、無理矢理にレイプして欲しかった。わたくしから、この男に妊娠させてくれと頼む? 
そんな事は耐えられない……。男がわたくしの攻撃によって怒り、そして無理矢理に犯してくれたほうがよほどいい。
 なのにっ! それなのにッ!!!

「どうしてよぉ、うう……、な、なぜ、怒りませんの? あ、あなたは、何も悪くないのでしょう? わ、わたくしに、どうして……、うう、ううう」

 がっくりと膝が崩れ、床へうずくまる。嗚咽が喉の奥から、どんどんと溢れてきて、涙が止まらない。
その時、巨大な手が、優しく私の肩を撫でる。おずおずと、ためらいがちに。こんなに汚れたわたくしを、まるでいたわる様に……。

「わ、わかっとるんです。お、俺は醜い……。お、俺なんか好きになれない事は、よくわかっとるんです」

 低い声……。でも、どこか優しい。その声に導かれ、ゆっくりと顔を上げる。
額から一筋の血が流れている。わたくしが投げたランプで切ってしまったのだろう。
 なのに、近くで見る彼の瞳は優しく、まるで怯えているように見えた。

「どうしてッ!! む、無理矢理に犯せばいいでしょうっ!! わ、わたくしなんかにや、優しくしないでくださいましッ!! あ、哀れみなど、いりませんわ。さあっ!!」

 覚悟を決め、ゆっくりと目を閉じ、床の上に身を横たえる。涙があふれ、顔を伝っていく。

「お、お知りなのでしょう? わ、わたくしは快楽に逆らえませんのッ!! あ、あさましいカラダ。起きている間中、他人に嬲られて。そ、それに、わたくしはドラッグの売人でしたのよッ!! そ、組織のナンバー3でしたわっ。あ、あなたもう自治人なのでしょう? お好きに、お、犯せばいいじゃないッ!!」

 もう、どうだっていい。それが、わたくしへの罰。起きている間、皆に嬲られる日々。
そして、夜。夢の中で、ドラッグによって廃人になった人々、家族がわたくしを責める日々。
 あの取り調べの日々の中で、何日もドラッグで廃人になった人々を収容している施設に送られた。
地獄の苦しみを受けている人々。お姉さまが、わたくしの耳元で責任を取れと、全てわたくしの所為だと囁き続けた日々……。
 もう、どうだっていい。このまま、犯されないなら、刑務所に戻り、虐め殺されても、文句は言えないのだろう。

「お、お嬢様は、う、美しい。さ、最高に、キレイです。泣かないで下さい。美しい人に泣かれると、お、俺は悲しいんです」

 ふっ、と優しくカラダを持ち上げられる。男が、軽々とわたくしのカラダを抱き上げ、ベッドへと運んでいく。
そのまま、フワッっと、まるでわたくしが壊れやすいモノのように、大切に横たえられる。

「お。俺の母様は、て、天使でした。お、俺は農業エリアの大きなノーマルの家で生まれた4男で……。でも、生まれつき、俺だけが醜い顔でした。そ、それに痛覚も鈍く、そして力も異常にあったんです」

 ぼそぼそと男が喋る。

「い、痛みってのがあまり解らなくて、力加減が下手なんです。だからしょっちゅう兄弟に怪我をさせて、それに醜いから兄たちに憎まれて。お、俺に優しかったのは母様だけで……。でも、母様も、お、俺を産んだ事に無理があったのか、子供の時に死んでしまって。そ、それで俺は奴隷としてう、売られたんです。兄達に」

 大きな手で髪を撫でられる。男の話に、すこしだけ引き込まれる。

「でも、それでもいいと思ってたんです。俺は醜くて、豚そっくりで。仕方ないと……。でも、1年前に奴隷として歓楽街エリアへ物の売買に来た時、天使を見たんです。その天使は、『地虫』だったのに、明るく笑ってて、楽しそうで。蟲を食って生き延びるだけの地虫が……。俺は聞いたんです。どうして笑っていられるのかって」

 天使、天使なのに地虫……。不思議、一度会って見たい……。

「そんなことわかんない、と……。今だけを考えて生きてるって。過去は過ぎ去った事だと。それで、俺も何かわかんねえけど、地虫になったんです。俺は、お、お嬢様のような美しい人に泣かれると、『今』が辛いんです。俺のような醜い男じゃ、嫌なのは解ってます。でも、それでも、あんなバンドを付けられて刑務所にもどされるよりは、少しは……、ほ、ほんの僅かだけでも、マシにしてやれると思うんです」

 男の瞳が、私を見つめている。潤んだつぶらな瞳。けっして整った形ではない。
それでも、なぜか優しく感じる。この大男の母の気持ち……、少しだけ解る気がする。

「お、俺は力加減が下手なんです。今から、お嬢様を抱くとき、もしかしたら傷つけてしまうかもしれねぇ。そ、それが怖いんで……」

 そっと、右手を伸ばし、彼の口を塞ぐ。
驚いたような彼の顔。少しだけ、ユーモラス……。

「あなた……、天使を侮っているのではなくって? わたくしのカラダは少しの傷なら二晩ほどで治りますわ。あんまり、侮らないで頂けます?」

 小さく囁く。
ゆっくりと、彼の頭に両手を伸ばす。大きな頭……。豚そっくりの醜い顔。
 でも、なんだか、温かい……。ぽつりと涙がこぼれる。優しく彼の頭を抱きしめる。

「もしかして、だから貴方……、犯されるほうが好きになりましたの? 他人を抱きしめて傷つけるのが怖いから……」

 そっと耳に囁く。驚いているのか、大きく口を開き、わたくしを見つめている。
徐々にその顔が赤くなる。彼は下を向き、小さく頷く。

 くすっと笑みがこぼれる。
この人は、とても愚かで、とても臆病で、そして、そして、なんて優しいのだろう……。
 
 わたくしの頬を一滴の涙が伝い、彼の黒い髪へと落ちていく。
彼の吐息が胸にあたる。それが、とても温かで……。
 彼の頬に両手をあてる。正面から、彼の顔を見つめる。醜くて、でもやっぱりどこかユーモラスで、可愛い。

「最初は、わたくしが上になりますわ。よろしくて……?」

 小さな声で、そっと囁く。恥ずかしい……。きっと、わたくしの顔も真っ赤になっている事だろう。でも、いい。『今』はこうしていたい。
 そう思いながら、わたくしは、彼の唇を奪う。
そして、胸のうちでぼんやりと考える。

 なんだか……、今夜は少しだけ、おだやかに眠れるような気がする。
彼が、一晩中、守ってくれると。
 何も言わなくても、わたくしを優しく守ってくれると、不思議とそう確信していた……。




[15558] 自治人の話 ③ 下 
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:01
 挿話 夢の国、自治人の話 ③ 下



 ガタガタとリズムを刻みながら、列車が進む。その食堂室のテーブルに座り、私は目の前のコーヒーカップを掴む。
よたよたと、半ば足を引き摺るようなカタチで歩み去っていくお嬢様……。
その姿を見ながら、私はすっかり冷めてしまったコーヒーを口に含む。
 
 至福の時間……。周囲の目を気にしながら、何度もアクメするお嬢様の顔……。
自らの手を口にあて、顔を真っ赤に染め、ガクガクと痙攣しながら射精を繰り返す姿。
 素晴らしかった。私の女陰もとろけそうなほどに濡れてしまっている。
コーヒーを飲み干し、ほぅっと独りため息を吐く。

 だだ、確かに最高の時間ではあったのだが、一つだけ気になる点があった。
それはお嬢様のザーメンが、若干薄かった事。三ヶ月前から、何度も何度も嬲りぬいたお嬢様のカラダ。
ザーメンの量、濃さ、どれくらいまでの射精が限界なのか、全て知り尽くしているつもりだ。
今回も、モチロン天使であるゆえに量、濃さともに普通の男の比では無かったのだが……。

「昨夜、ウシアブとよほどヤリまくったのかしら?」

 少し気になる……。あの気位の高いお嬢様が、あの醜い豚男と何度も肌を重ねたのだろうか?
眼鏡のズレを直し、少し考えに沈む。
 ウシアブがお嬢様に耽溺するのはいい。あの醜い男が美しいお嬢様に惚れぬくのは想定済みだ。
それは、あの豚男を縛る要素が強化されるだけだ。何の問題も無い。
快楽で調教しつくしたお嬢様が、私の意向に背けるハズが無い。お嬢様を盾に、あの豚男をこき使える事になるだろう。

 だが、逆にお嬢様がウシアブに惚れたら? 
相思相愛の関係になり、馬鹿馬鹿しい御伽話のように、

『辛い生活でもあなたと二人ならどこでも暮らしていける、二人でどこかに駆け落ちしましょう』
 
 とでもなったら? いやいや最悪の場合、私を怨み襲ってきたら?
夢武器が使えない極限状況での裏切り……、考えただけでゾッとする。
 
 いや落ち着こう。その可能性は低いだろうと思う。この三ヶ月、お嬢様のカラダに私の快楽を刻み付けてきた。
それに、あの豚男は醜い。そう、あの育ちの良いお嬢様があんな男に惚れるなど有り得ないだろう。
 そもそも、あのお嬢様が地虫や奴隷の生活に耐えられるハズも無い。私の与える快楽から逃げようなどと思わないだろう。

「考えすぎ、か……。さ、お遊びはココまでね」

 軽く両腕上に伸ばし、背筋を伸ばす。
その後、鞄から書類を取り出してレースのかかったテーブルに置く。
 ウシアブから聞き出した、『地虫』アバラについての報告書。
我が最新の部下であるウシアブの下手糞なサインを見ながら、報告書に目を通していく。

   ○ 地虫名 アバラ 
 
 ・ 歓楽街の下水に、約3年前ほどから住みついた男。年齢は20歳から30歳前半くらいと推測される外見。

 ・ 身長は170センチ前後。軽い痩せ型。無精ヒゲを伸ばし、手入れのされていない頭髪。外から見える傷や、身体欠損などの特徴は無し。

 ・ 瞳の色は、もっともこの世界で多い平凡なこげ茶色。顔にも特筆すべき特徴は無し。まさに平凡。

 ・ 腕利きの『ヌキ屋』として、歓楽街で泥酔しているノーマル相手の夢抜きを行い、それを生業としていた。

 ・ また、ごく稀に『トギ』を行うこともあるらしいが、ウシアブは確認していない。

 ・ また2年ほど同居している『天使』ゾウムシがいるが、不思議な事にその天使と肉体関係はないらしい。

 ・ 根拠として、その天使は泣きながらウシアブに『なぜアバラは自分を抱いてくれないのだろうか?』との相談をした事があるとの事。

 ・ しかし上記のように、抱いていないにも関わらず、その天使に対する執着心、保護欲は強い模様。

 ・ ある時天使がミスした際、性処理係へとなりそうな時に、凄まじい内容のオリジナルディスクを5枚ほどカシラへ渡し、救う行動に出た事もある。

 ・ 特記事項として、まれに別人のように凶暴になっている時があり、率先してノーマルを殺そうとするアバラを止める為、ウシアブと殴り合いになった事もある。

 ・ 基本的に、他の地虫との連携をとらず、一人で行動することが多い。

 ・ 元々はどこかのエリアから流れてきたらしいが、各地を放浪していたとの噂もあり、どのエリア出身なのかハッキリしない。



「ふう……、雲を掴むような話よね。やっぱり天使を狙うべきだわ」

 こんな地虫など、掃いて捨てるほど存在しているだろう。特徴が無さ過ぎる。捕獲するには天使の方が目立つし、そちらをまず目標にすべきだ。
 報告書が全て事実であれば、アバラの行動の一貫性の無さが若干気になるが、ドラッグのやり過ぎで脳が壊れているに違いない。
『ヌキ屋』であるという事を除けば、一般的な地虫だと思う。『ヌキ屋』自体も少数とはいえ、そこまでレアな能力では無い。
はっきり言って、平凡な地虫だ。

 そう。ただ、一点の疑問を除いては……。

「問題は、何故『姫』がこんな地虫を……。しかも『名指しで』捕獲せよと命令したのかってトコよね……」

 その容疑は夢人殺害だと言う。笑ってしまう。これが『姫』の勅命で無ければ、下手なジョークだと一笑に付すだろう。
地虫が夢人を殺した? 有り得ない。夢人以外に夢人を殺すことなど出来ないだろう。
 と、いうのに事件後一日で、姫はこの『アバラ』が犯人だと断定し、名指しで捕獲命令を出した。
ただの地虫の名前を、夢人のトップたる『姫』が知っていた事も異常。しかも『姫』は、犯人はアバラだと確信しているという事……。

 奇妙すぎる。アバラはただの地虫では無いのか? それとも私に知らされていない事情があるのか? 
が、この疑問は『姫』に関わる疑問だ。シンプルに考えれば、私の仕事はアバラを捕らえる事だけ。他の事は考えないようにしよう。

 眼鏡を外し、目頭を揉みながら列車の窓の外を見る。砂漠のような風景が広がっている。
このエリアのどこかに、アバラ、そしてゾウムシが潜んでいるのだろうか……。
 まずは地虫どもの棲家を見つけなければならない。歓楽街を抜けだした二人だが、ボロ布をまとった外見では地下都市に入る事などできまい。
必ず、工業エリアの地虫に接触し、その地虫のボスに面会しているはずだ。

 地虫の棲家を見つけるにあたり、まず第一の問題として工業エリアの地虫は砂漠に住んでいる点だ。
広大な砂漠、そしていつでも移動できるという住居形体。実に厄介。
 場所に関する大まかな情報はあるものの、はっきりとこの場所が地虫の棲家だというデータが無い。
しかも、季節とともに工業エリアの地虫は棲家を移動させるという噂話もあると言う。悩ましい……。

 やはり圧倒的に人手が足りない。情報も足りない。頼りにしたい工業エリアの自治人組織も、影響力が弱くあまり権限が無いうえに、人手不足だという。
地下都市において自治人組織よりも昔からある技術者ギルドの影響が強く、そのギルドの会議により都市は運営されている。治安などに関しても自治人よりギルドの影響が圧倒的に強い。

 だが、その技術者ギルドが曲者なのだ。
工業エリアとほぼ同じ時期に結成された古い組織である技術者ギルド……。
私の推測だと、ギルドにドラッグ製造密売にどっぷり浸かっているヤツらがいる。
 
 カルマン家の捜査も、結局はギルドとの協力が出来ず、歓楽街エリアのみの摘発に終わってしまった。
カルマン家頭首の自白でも、工業エリアのドラッグ組織がどうなっているのかは、全く解らなかった。
恐ろしく用心深く、頭が切れる人物がドラックを取り仕切っているのだろう。

「とにかく…… 地虫どもの住居を探さなきゃお話にならないわね」

 考えを一段落させて、周囲を見渡す。いつの間にか列車が止まっていた。
そして窓の外を見ると、大量の普通人が窓などに取り付き、箒で砂を落とし始めている。

 いつの間にか清掃ポイントまで……。胸のうちで呟きながら、テーブルの上の書類を鞄へと仕舞っていく。
風の弱いポイントでの清掃作業。これが終われば、もうすぐ地下都市だ。
 赤い眼鏡のズレを直し、鞄を持って立ち上がる。
今から、長いトンネルに入るのだろう。一応、最後に外の景色を見回ろうと思いながら足を進める。

 もちろん、列車から見える位置に地虫の住居があるなどと期待していない。
だが、なんらかの参考にはなるかもしれない。直に己の目で砂漠の風景を見ておこう。

 ゆっくりと車内を歩いていく。高級な個室車両を抜け出、一般利用者用の車両へと移る。
思ったよりも、多くの人々が乗っている。
 工業エリアから泊りがけで歓楽街に遊びに行った人々が帰宅する為や、仕事で工業品買取りの為に利用しているのだろう。
皆、一様にどこか疲れた表情をしている。職業ゆえの好奇心から、皆の顔をじっくりと見たい所だ。
 人々の顔、窓からの砂漠の風景を見ながら、ゆっくりと足を進めていく。

 と、その時、車両の先の方で扉の開く音が聞こえる。反射的にそちらを見る。
一人の乗務員が扉に入り、入れ替わりに男女二人が出てくる所が見えた。
 乗務員の友人だろうか。落ち着いた様子で出口近くの吊り輪を握り立っている。

 そしてガタン、とゆっくり列車が動き出しトンネルの中に入る。たちまち、周囲が暗闇に支配され、一瞬のち車内に暗い照明が灯る。
 まるで夕闇のような暗さ。砂漠の明るさに慣れた瞳だから余計に暗く感じるのだろう。
 風景を諦め、せめて人々を一人ずつ観察しながら、ゆっくりと足を進めていく。

 がっしりした体型の女が、自分の腕をポリポリと盛大に掻いている。
老いた男が、暗い照明の中で一冊の本を貪るように読んでいる。
 若い男が、歓楽街での一夜を思い出しているのか、ときおりニヤニヤと笑っている。
私の感覚に、何も訴えてこない。ごく平凡な人々。

 ときおり列車が揺れるが、私の足は乱れず、静かに進んでいく。
そして、先ほどの男女のあたりまで辿り着く。

 ぱっと目に付くのは女だ。赤い口紅を塗った、憎たらしいほど胸の大きな女。
日に焼けた亜麻色の髪をポニーテールにまとめ、肌を健康的な小麦色に焼いている。
 工業エリアは、基本的に外光が無いが、ファッションとして日焼けを楽しむ人々がいるらしい。
この女もその口なのだろう。仕立ての良いグレーのスーツに身を包み、吊り輪を握っている。

 その女の後ろに立っている男。これといって特徴の無いノーマルだ。
女とは対照的に肌が白いが、一般的な工業エリアの男はコレぐらいなのかもしれない。
平凡なスーツを着て、ときおりキョロキョロと車内を見渡している。

 単体で見るとなんの違和感も感じない。だが、この二人の関係はなんなのだろう?
夫婦、恋人、友人? なんとなくどれも納得できない。
 ここまで日焼けした女と、全く日焼けしていない男がそういう関係……。
まあ、そういう事はあるだろう。
たが、私の職業的好奇心が止まらない。ただの暇つぶしだと自分でも解っているのだが、まあ職業病のようなモノだ。 

 この二人……、単なるファッションの相違だが、ここまで対照的な肌の色だと若干不思議に思える。
ここまで価値観が違う二人が、歓楽街へ泊り込みの小旅行をするだろうか?
地下都市在住の者がここまで肌を焼くには、相当の時間と手間が必要だろう。あそこには陽光が射さないのだから。

 只の仕事の同僚である、というのが最も妥当な線だが、それにしては二人は近くに立ちすぎのような気もする。
列車が大きめに揺れると女の体が男に触れる。その度ごとに、男は女の首を食い入るような瞳で見つめている。
 付き合い始めの男女……、としてもしっくりこない。なんだろう。
好奇心に背を押されるように、ゆっくりと二人の後ろに移動する。この二人の関係が気になる……。

 女が男に向き直り、耳元に唇を寄せて何かボソボソと喋っているが聞き取れない。
まるで抱き合っているような二人。なんだ……、やはり恋人同士だったのか。
 世の中には様々なカップルがいる。中にはこんな二人もいるというだけの事……。
半ばがっかりした気分で、個室に戻ろうと振り返ろうとした、その時、

「うおっ」

 一際大きく列車が揺れる。バランスを崩したのだろうか、男が私に向かって倒れてくる。
訓練の成果、反射的に蹴りそうになるが、足を必死に抑えて男を支える。

「す、すまねえ」

「いえいえ、お気遣い無く。お怪我は無い? お仕事でお疲れですか。頑張って下さいね」

 男を優しく支えたあと手を離し、口を開く。こげ茶色の瞳。近くでみても、とことん平凡な男だ…………… うん?

「ああ……。迷惑をかけた。悪い」

 頭を下げる男。そのまま女の方に移動していく。
その男の言葉……、若干の歓楽街訛りがあった。アクセントが微妙に違う。
ボソボソとした口調の為、はっきり断定出来なかったが、歓楽街訛りがある事は間違いない。
と、いう事はこの二人は歓楽街エリアのカップルという事か……。

 その時、窓の外が明るくなっていく。どうやら到着したようだ。
私達も降りなければならない。個室の方角に向き直る。

「アル=バラッド、はやく行きましょう。工場にすぐ向かわなきゃ、遅刻しちゃうわ」

「あ、ああフライア。すまん。ちょっと昨夜遊びすぎだな」

 背後で男女の声を聞きながら、そのまま個室方向に足を進める。胸の内に疑問が沸き起こる。
実に、実に不思議だ……。女には歓楽街訛りが無かった。代りに、ちょっと違うアクセントがある。
きっとそれは、工業エリアの訛りなんだろう。
 そして、そのセリフからすると、二人は工場で働いているのか? 男は歓楽街訛りがあったのに?

 奇妙だ、実に、チグハグな感じがする。
一人一人だと違和感は無いのだが、二人一組と考えると途端に奇妙に思える。
 何か……、興味を引かれる。どこか、しっくりこない。なんだろうか、あのノーマルの二人は……。
その気分を抱えたまま、個室をノックする。

「サキモリよ、いいかしら? 入るわよ」

 扉を開ける。そこには、顔を赤くしたままハサミを持っているお嬢様と、同じく顔を真っ赤にしたウシアブ。
制帽を胸に抱き、椅子に座っている。床を見れば、髪の毛が散らばっている。

「あら、仲がよろしい事。でも、お仕事の時間ですよ。さあ降りましょう」

 声をかける。どうやら、散髪でもしていたのだろう。
意外に仲が良い二人の様子に若干不安になる。
 しかし、ウシアブの制服姿……。がっしりした体型の所為だろう。意外と様になっている。
ヒゲをそり、髪型を整えたため、とても元『地虫』には見えない。
 きっと元の仲間が見ても、一見誰なのか解らないだろう。
この自治人が、昨日まで『地虫』だったとは……………。

 ――――― 髪 ヒゲ 洋服 ―――――

 ゾクッっと背中に鳥肌が立つ。
有り得ないと、その仮定を打ち消す。そんな偶然などあるだろうか?

 まるで初めて乗る様に、キョロキョロと珍しそうに車内を見渡していた姿。

 列車の揺れで、簡単にバランスを崩していた事。

 歓楽街訛り。

 まるで、長時間下水暮らしをしていたように白い肌。

 乗務員室から出てきた二人。もしかして乗務員の友人ではなく、あの清掃ポイントで乗り込んできた、のか?

 平凡なこげ茶色の瞳。

 ぞわぞわと鳥肌が収まらない。耳の奥でドクドクと血管が脈打つ音が響く。

「……っ、二人とも、夕方までこの駅で待機するわ。夕方から、さっきの清掃ポイントに移動。わかった?」

 これは勘だ。一等自治人、サキモリ ハガネの勘……。

 あの男こそが、目標『アバラ』では? 

 いますぐあの二人を追いかけたい。だが、もう人ごみに紛れいなくなっているだろう。
となれば、手がかりがあるのはアソコしかない。
 清掃ポイント。
案外、清掃ポイントの近くに地虫の棲家があるのでは? 

 私はゆっくりと、唾を飲み込みながら、夢武器を嵌めた右手を握り締めた。




[15558] ※※※ 設定、用語集など 未完成 ※※※
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/02/13 18:11
 設定です。
 設定に興味の無い方は見る必要はありません。
 しかも、まともに全部書くと、恐ろしくネタバレになりますので概要っぽいとこだけです。
 いわゆる中途半端です。すみません。


 ● 夢人について ●

 『夢を現実にできる能力を持つ人』です。
その能力を『再現』とこの小説では呼びます。
強力な夢人=上級の夢人はこの『再現』が高精度、広範囲に及びます。
アルカディア中に200人ほどいると言われています。

 
 ◆ 補足ですが、能力としては他に、

『読み』 ・他人の夢を読む能力

『書き』 ・夢をディスクに書く能力

『吸い』 ・夢を吸い取る能力

『共感』 ・『読み』をした夢を自分の夢のように感じる力

『直し』 ・途切れ途切れで不確かな状態な夢を修復し、リアルな夢にする力

 などがあります。が、夢人に絶対に必要な能力というワケではありません。
『再現』が出来るか否か。が夢人とそれ以外の絶対の壁です。

 ● 『再現』する夢の種類は大まかに別けて3つです。

 『黒夢』

 ・瞬間的な物理的エネルギーを再現すると、こう呼ばれる事が多いです。夢人として、コレが得意な者がもっとも多いです。

 『白夢』

 ・怪我からの回復。身体能力の強化。他人の肉体改造。などが主です。当然ながら、攻撃能力もあります。(対象者の心臓を他臓器に変化させるなど)ただ、黒夢より時間がかかる為、一対一などには向いていません。優れた白夢使いは人間を天使に改造できます。

 『赤夢』
 
 ・もっとも汎用性の高い夢であり、大まかに言えば無機物を作成する夢です。夢人の能力差がもっとも如実にあらわれる夢であり、真に優れた赤夢使いは極めて稀です。


 ◆ 補足1 特殊な職業について

・上記の能力 『読み・書き・吸い・共感・直し』 を持つ人間がいます。
条件は解っていませんが、普通人、奴隷、ハグレの中にもいます。
この能力を組み合わせて職業にしている人たちがいます。

 ● 『ヌキ屋』 ●

 『読み・吸い・書き』に秀でた者達は『ヌキ屋』と呼ばれます。
能力には個人差があります。下手な『ヌキ屋』は夢を抜いてもジャンクになることが多いです。非常に優れた『ヌキ屋』は死体から抜く事もできます。
が、それでも成功率は3割程度であり、失敗すると運が悪い場合は死にます。
 『読み・吸い・書き』は瞬時に行われ、また術者の無意識下で作業される為、普通は『ヌキ屋』は自分が抜いた夢がどんな夢なのか完全には認識できません。
ただ、状況からこの夢しか無い、という場合などは別です。

 ● 『複製屋』 ●

 『読み・共感・書き』に秀でた人たちは『複製屋』と言われます。
オリジナルディスクに書きこまれた他人の夢に共感し、他のディスクに書き込む事ができます。
ただし、複製をするたびに、オリジナルディスクは劣化していきますので、何度もコピーは出来ません。
また、『複製屋』は作業中にずっと他人の意識に同化していますので、精神崩壊しやすい職業であり、ヌキ屋以上に腕の差がはっきり表れる職です。
『共感』だけを行うことで、ディスクの鑑定が出来ます。
また、『複製屋』は他人に共感する感情が優れている人が多いため、性格的に素晴らしく優しく、臆病で、思いやりのある人達が多いです。

 ● 『トギ屋』 ●

 『読み・書き・共感・直し』に優れた人々は『トギ屋』と言われます。
凄まじく少数しかいません。ジャンクディスクを読み、共感し、欠けた部分、整合性の無い部分に、己の夢を加工してツギハギを行い『リアル』にする職業です。
優れた夢ほど影響力が強い為に、そこに己の自我を混ぜていく行為は非常に危険であり、容易に精神崩壊を引き起こします。
 己の自我を切り売りするような行為であり、ノーマルの『トギ屋』はほとんど存在しません。

 
 ◆ 補足2 ディスクについて。

 ある普通人が見た夢を元に作られたモノです。
大きさは直径3センチほど。全体に血管のような模様が浮いた銀色の円盤です。
このディスクを対象者の体に接触させ、『書き』を行うなどします。
『書き』をしたばかりのディスクは『オリジナルディスク』と呼ばれます。

この『オリジナルディスク』に触り、夢人は『再現』する事ができます。(『読み』ができる夢人に限りますが)
 もしくは、『再現機』と呼ばれる機械に差し込み、夢を『再現』します。
ただし、『再現機』は精度が低い、再現できるモノが限られている、非常に高価な上壊れやすい等の問題があります。
 使用したオリジナルディスクは、ジャンクディスクになります。

 再現機で最も多く使用されているのは、食料再現機と、性処理人形再現機です。
用途別に多くの種類があります。逆を言えば、食料再現機で人形は再現できないし、逆もまたしかり、という事です。





◆作者の独り言

 どうもすみませんメメクラゲです。
ご要望があったので、設定集を載せようと思ったのですが、エディタにのせてあるものを載せると、話が終わってしまう為に用語集にしてみました。
 というか、ノートに書き込んでいる設定はこの10倍近くある為、全部書くのは非常に大変だと……。

 申し訳ありませんが、設定は時間を見てSAGE補充していきます。
今は本編完結を第一優先で更新させて頂こうと思います。
設定を期待された方、まことに申し訳ありません。
もし、設定の充実を望む声が多ければ、色々項目を増やす予定です。
人物紹介とか、必要ですかね……。解りにくいですか?
むしろ、この設定集は邪魔な気もして……。削除するかもです。
 



[15558] 『地虫の話』 第十二話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:01
 『夢の国、地虫の話』 第十二話



 恐怖……。背後から伝わる、圧倒的な力。それが、俺を狂いそうなほどに追い込む。
『ヌキ屋』だからこそ解る……。俺の背後に立っている少女、ゆっくりと近づいてくる存在は別格だと。
 これほど、これほどまでに高位の夢人だったとは……。ガチガチと奥歯が鳴る。


 ――――― 黒夢 ―――――


 心の底から、ジワリ…… とソレが染み出してくる。
背後から聞こえる夢人の声、小さな足音に触発されるように。
 恐怖で塗りつぶされそうな、俺の心。その底の底から、勝手にソレが浮かび上がってくる。

「怖がらなくていいよ、お兄ちゃん。瑠璃って、優しいんだよ」

 俺の黒夢……。グツグツと脳髄が沸騰してくるような感覚。
記憶……、俺の過去を触媒にして、ソイツが蠢き出す。
使いたくない。使いたい。塗りつぶされる。

 死体にたかるウジのように、俺のココロ、俺の記憶、俺の人格を喰い散らかしながら。
やめろやめろやめろやめろやめろ、ソレは喰わないでクレ……、また、アイツを…………。

 燃える炎のように、黒い夢が……、俺を塗りつぶし始める。

 ああアアア……、また、アイツの名前、忘れちまう……。いや、今度こそ、全部、ワスレテ、しまう、かも……

「瑠璃様ッ!! お、お怪我はございませんかッ!! ッつ!! そこのノーマルッ!!、何者だッ!!!」

 突然ッ!! 瓦礫だらけの広場に、凛とした鋭い叫びが響く。
その叫び声が、俺を一気に現実に引き戻す。

「げほッ、う、うげッ!!」

 喉の奥から、酸っぱい嘔吐物が込み上げてくる。堪えきれず、足元にぶちまける。
フッっと、俺の全身を拘束していた力が緩む。カラダに力が入らない。
 崩れ落ちるように両膝を地面に落とし、込み上げてくるモノをぶちまける。

「もぅ!! ユキッたら!! せっかくお兄ちゃんが、何か面白そうな事しようとしてたのにッ!! 台無しじゃないッ!!」

 少女の少し怒ったような甲高い叫び声。
だが、先ほどまで発せられていた、圧倒的な威圧感は霧散している。大丈夫だ……。コレなら、まだ……。
嘔吐感が引いていく。まだ胃が痙攣しているような痛みはあるが、ゆっくりと落ち着いていく。
口内に残る酸っぱい唾を吐く。少しずつ空気を吸い、呼吸を整える。

「も、申し訳ありませんっ瑠璃様ッ!! し、しかし、そこのノーマルが何か、その、異様な雰囲気を……、あれ? 感じない……?」

 泣きそうな声。
俺は地面にうずくまった姿のまま、謝っている声がする方向を見る。

「……… ネコ?」

 柔らかそうな薄い黄色の髪、ゾウムシといい勝負のツルペタの胸。濃いブルーの瞳。気の弱そうな、優しげな顔立ち。
そして、頭上にネコの耳……。 性処理人形? いや、人間をベースに改造された獣娘か。
 カナリ、珍しい。天使に比べるとマイナーな部類に入る高級存在。

「ひょ、豹だっ!! め、女豹だぞ。き、キサマ、下民のクセに。さっきから怪しいヤツ!!」

 うっ、5メートル弱の距離で、俺の呟きを聞き取るとは……。
耳をピクピクと動かしながら、顔を真っ赤に染め、俺を憎憎しげに睨んでくる。
 だがそのおかげで、なんとなく場の緊張感が緩む。ほっ、っとため息を吐き、ゆっくりと立ち上がり、夢人と獣娘に向き直る。

「ちょっとユキ、落ち着いて。お兄ちゃんは瑠璃をさっき助けてくれたの。でも照れ屋だから逃げようとしたんだよねっ!! うふふ、もう逃げなさそうだね。さ、お兄ちゃん。瑠璃が今から自動車創るからっ。ちょっと待っててね。お家にご招待してあげるっ」

 瑠璃と名乗る少女。その夢人は言葉を言い終えると同時、俺の目の前に霧のようなモノが浮かびだす。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は、なんつーか、その、用事があるんだ。ソレが終わったら絶対に行くから、待っててもらえねか? モチロン、嘘じゃねーぜ。ゆ、夢人様のお礼を貰い忘れる馬鹿はいねえだろ。必ず行くからさ、なっ?」

 モチロン、行く気なぞカケラも無い。
なんとか切り抜けて、とっとと地上に逃げる。こんな化け物に付き合っていられない。
 コイツラの価値観は、完全にイカレてる。一見、まともに見える少女……。
だが、外見を自由に変えられる夢人であるにも関わらず、己の姿を幼女で固定しているその精神……。
完璧にアウト。絶対マトモじゃねぇ。臆病である事。それは地虫の智恵だ。

「あはっ!! ぜったいヤダっ!!!お兄ちゃん面白そうだもん。あんなに鮮やかに『ヌキ』しちゃうのも吃驚だし、その後も、何かしそうだったでしょ? 絶対、ぜーったい逃がさない。ほら、もう出来たよっ。ユキ、運転してっ」

「ちょ、俺が嘘を吐く訳がって、ちょ、なッ!!」

 ガクンっ、と左腕に重さを感じる。
驚愕……。左手首から肘辺りまで巻きつくように、金属性の鎖が『再現』されている。
 重い、そして、カナリ動きが制限される。
ヤバイ……、このままだと右手にまでっ

「待ってくれっ。乗る。素直に乗るよ。だから右手は勘弁してくれ。俺、胸に発疹があるんだ。痒くて堪えられねえ。頼む」

 上着の下のシャツを見せる。汚水の降りかかったシャツ。
そして、下水でプチプチと潰した蟲の汁が、いい感じに染みになっている。

「うわっ!! る、瑠璃さま、ほ、ホントにこんな下民を連れて行くんですか……」

 頭上の耳を力なく垂らしながら、獣娘が心底嫌そうな声で言葉を吐き出す。
 泣けてくる。行きたくないのは俺のほうだ……。
思わず漏らしそうなため息を堪え、作り笑顔を見せる。
 最悪だ、こんな事なら黒夢を躊躇無く使うべきだった。だが、もう遅い。俺の黒夢は一対一にのみ特化している。
 獣娘がいる今の状況で使っても、瞬殺されてしまうダケ……。

「もうっ、ユキったら失礼だよ。うん、いいよお兄ちゃん。瑠璃のお家に着いたら、瑠璃がお兄ちゃんの全身にお薬塗ってあげるね。ヌルヌルのグチョグチョで、とっても効くんだよ。さ、行こうっ」

 先に乗り込む瑠璃。ニコニコと作り笑顔のまま、俺はその後をついて後部の自動車とやらに乗り込む。

「や、やわらけぇ……、つか、すげぇ」

 とても『赤夢』だとは信じられない。地下都市に来るときに乗った列車の3倍は豪華な雰囲気。
 ケツの椅子はフワフワと弾力があり、背もたれは肉を包み込む。ブクブクと太った売春婦の体よりも柔らかい感触。
 相変わらず、俺の隣でニコニコと笑顔を見せている夢人。
その笑顔をみながら、俺は上着の中に右手を差し込み、ポリポリと胸を掻く。

「うふふっ。今日は転生者を6匹もぶっ飛ばしたし、記念すべき222人目も見つかって、ほんとに嬉しいなぁ。お兄ちゃんもそう思うでしょう? 今日はラッキーだなって、ね?」

 紫色の髪をかき上げながら、大きな琥珀色の瞳が輝いている。
ナニを言っているのか、意味が解らない。返事をする気力も沸かない。
無言で前方を見れば、薄い黄色の髪を後ろに纏めた獣娘が、椅子に座ってなにか輪のようなモノを握っている。
 と、ゆっくりと自動車が動き出す。周囲の瓦礫だらけの風景が、ゆっくりと後方に流れていく。
フラックス……、大丈夫だろうか。いや、今は俺だ。俺は、これから、どうなる?

「お兄ちゃんたら、瑠璃のお話聞いてる? あ、そうだ、まだお名前教えて貰ってないよ。ねえ、お名前おしえてっ」

 自動車がどんどんと加速していく。広く清潔な道。だが、時々ボロボロに崩れた建物が目に入る。

「ア、アル=バラッド。歓楽街のノーマル、だ」

 一瞬の迷いのあと、そう言い切る。パスをまだ偽造していない今の状況なら、こう言うしかないだろう。
もしかしたら、すぐにバレる嘘かもしれないが、コレしかない。
 ごくりと溢れる唾を飲み込み、俺は胸を掻くフリを続ける。
隣では、相変わらずニコニコと少女が微笑んでおり、前方の座席では獣娘が必死な顔で正面を睨んでいる。
 悪夢のような状況……。ドキドキと心臓が高鳴り、汗が吹き出る。
が、その時……、

「る、瑠璃さまっ!! え、駅が、駅が炎上していますっ!!」

 獣娘の必死な叫び。
その声に導かれ、前方を見る。

 一際大きく、豪華そうなその建物。白いコンクリートで作られた、駅。
俺達が一時間ほど前に抜け出した場所……。
 その建物の上部が、何か巨大なスプーンで抉り取られたように無くなっている。
そして、その空間から、もうもうと黒い煙が……。

「なっ!! ユキ、車止めてっ!!」

 駅から大勢の人々が叫びながら、走り出てくる。
洋服が破けている男、足を引き摺っている女。泣き喚いている子供。
時折、瓦礫の破片がガラガラと崩れ落ちる様子が、ここからでもハッキリ解る。

 チャンスだ……。
俺は胸を掻いていた手を、ゆっくりと内ポケットに移動させ、中に入れていたジャンクディスクに触る。
不自由な左手を動かし、ゆっくりと車のドアに触れる。

 車外から人々の叫び声、泣き声、怒声が聞こえる。
ソレを聞き流し、俺はしっかりと瞳を閉じ、呼吸を整え始める。




[15558] 自治人の話 ④
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:01
 挿話 夢の国、自治人の話 ④



「それじゃあ、この待合室で夕方まで待機。お二人さん、お食事は?」

 赤い眼鏡を触りながら、私は目の前の二人に話しかける。
駅の待合室。それなりに広い空間に椅子が並び、そこへ8人ほどのノーマルが疲れた様子で腰掛けている。
 窓の外には、地下都市の風景が広がっている。照明の灯りが家々を照らす。
歓楽街のごみごみした雰囲気は無く、整然とした住宅や建物が続いている。
良く見ると、所々に壊れたような建物が見えるが、いったい何なのだろう?

「いや、まだ俺はいいです。腹はそんなに減ってない」

「わ、わたくしも結構ですわ」

 ウシアブとお嬢様が、全く同じタイミングで言葉を返す。
それに驚いたのか、二人して顔を見つめ、ほのかに頬を赤く染めている。

「ふ……、気が合うこと。ま、いいわ。夕方まであと3時間ほどあるから。出発前には何か食べなさい、お金は持っているでしょう?」

 出発前に、ウシアブには現金を渡している。売店で飲み物とサンドイッチ二人分程度なら充分に買える額。
 万が一にも逃亡されると困るため小額しか与えなかった。
ではあるが下等自治人は命がけの仕事、今月末には、それなりに給与されるだろう。
 安定した給料を貰い続けていけば、ウシアブもあっというまにノーマルに身も心も染まっていくと思う。
そうすれば、一人の優秀な部下の出来上がりだ。

「うん? サキモリ一等殿。あれはなんでしょう?」

 ウシアブの声、彼の指差す方向を見る。
なんだろう? 人だかりと、ザワザワとした声。
 はっきりと良く見えないが、誰かが駅の入り口辺りで倒れているようだ。
黒いマント……。そして、倒れている金髪の頭が、チラリと見える。

「行き倒れ…… かしらね?それにしては、皆が騒ぎすぎのような……、なにっ!!!」

 突然っ!!! カッ!!! とその男から閃光が迸る。
一瞬、目の前が真っ白になるほどの輝き。そして……、

「キャアあああああああああああああああっっっ!!!」

 人々の絶叫。ありえない、一体何がっ!?
何度も、建物が爆発するような轟音が響く。閃光が走った所を見る。

「馬鹿なっ!!!」

 連続して大きな爆音が響きわたる。
 見ると倒れていた金髪の男が立ち上がっており、その両手から周囲に向け、手当たり次第ナニかを放出している。
両手から、直径10センチほどの光弾が次々と射出され、それが当たった人々や建物が爆発していく。

「く、黒夢ッ!!! 夢人……、いえ、まさか転生者ッッ!!!」

 フラフラと歩き出す、その金髪の夢人。
よく見れば、黒いマントはボロボロに破け、その左肩はズタズタに傷つき血が吹き出している。

「と、止めなきゃ、ウシアブっ!! 皆を遠くに誘導してっ!! 私はアレを止める!!」

 金髪の男をよく見れば、全身に細かい傷が入り、銀色の服もボロボロ。
右手のリングを強く意識する。きっと大丈夫……。これなら、やれる。自分に言い聞かせる。

 ここは、工業エリアだ。私の管理地ではない。でも、私は自治人。
一般人の生活を守る。そう……、私は守りたくてこの仕事に就いたのだ。逃げない。
ウシアブに一瞬視線を向ける。醜い顔が緊張で引き締まっているが、その瞳は冷静さを保っている。

「いい? まず子供からよ。頼むわね」

 言い残し、前方へと駆け出す。同時に呼吸を整えながら、人さし指のリングに意識を集中させる。
『姫』から言われた使用回数は6発。一回はウシアブに使ってしまったから、残り5発。いける……。
 目標の金髪の男は、駆け寄る私に気付いていない。ギリギリと奥歯を噛み締めながら、ゆっくりと男に右手を向け、人さし指を構える。

 一瞬……、撃つべきか迷う。この金髪男が転生者なら、歓楽街エリアとの火種になるかもしれない。
いや……、この状況。周囲に散らばる『元』人間だった肉片を見る。
 きっと、『姫』であれば、この状況で闘わなかった事こそお怒りになるだろう。
事情を知れば、満面の笑顔で許して下さるはずだ、絶対に……。

「死ね……」

 小さく呟いて、開放…………。
激痛、人さし指、いや右手そのものが吹き飛ぶような痛み。
 だが、その痛みに呼応するように、深紅の輝きが射出され、光線となりて金髪の男を貫くっ!!

 命中っ!!

 深紅の輝きが、背後から金髪の男の背中を貫く。
まだだ……。相手は夢人。ボロボロの状態とは言え、きっと一撃では足りない。
 息を短く吸い、棒立ちになっている男に向け、再度、深紅の光線を射出ッ!!

 しかしっ!!

「貴様っ!!! 化け物の手先かっ!!」

 一瞬早く、金髪の男が私に振り返る。深紅の光線が、ギリギリで男のかざした右手に遮られる。
私を見つめるその瞳……。ギラギラと狂気に濡れ、視線が定まっていない。
 左肩、そして先ほど私が狙撃した部分から、ドクドクと血が流れているが、致命傷には至らなかったのか……。

「崇高な理念を理解できぬ夢人とその手先が、この我をっ」

 ブツブツと呟く男。その両手に光る珠が集束していく……。マズイ、唾を飲む。
遠い場所で悲鳴が上がっているのが聞こえるが、気にする余裕は無い。ソレを回避できるか……。
 腰を落とし、半ば絶望を感じながら、転がるタイミングを計る。汗が一筋、垂れる。

「死ねっ!!!」

 男が両手を私に向け、射出ッ!!
それに合わせ、死体が散乱している床へ跳び転がる。そのまま、右手に意識を集中し始める。
 ビシャビシャと床の血が顔や体にかかる。時折、千切れた腕が不気味に体に当たる。
だがいける……。うまく回避できたっ。これで決めるッ!!

「えっ……」

 勢いよく立ち上がろうとしたが、カクンッとバランスを崩す。おかしい……、左足にチカラが……。

「――― ッ!!!」

 漏れそうになる悲鳴を押し殺す。左足、膝から先が無い……。切断面からドクドクと血が溢れ続けている。
痛みは無い……。いや、まだ感じていない。
 だが、その衝撃で、せっかく人差し指に集めた『黒夢』が拡散してしまった。
急いで、右手に集中する。早く、ここで私が決めないと……、もっと被害が……。

「消しトべ」

 駄目だ……。間に合わない。私を睨む金髪の男。その右手から、直径30センチほどの光珠が……っ!!
恐怖に負けて、目をつぶる。死ぬ……、こんな所で……。姫の依頼も果たせずに。

 だが、フッと体が運ばれる感触。誰かに持ち上げられているような。
ハッフッという、誰かの息遣いが聞こえる。驚いて目を開ける。

「ウ、ウシアブッ」

 その大きな右腕で、私の体を抱えウシアブが走っている。その瞳には、恐怖と決意がみなぎっている。

「シャーロットに誘導は任せてきた。俺が、注意を引きつける。その間に、撃て」

「ど、どうして、ウシアブ、あなた……」

「……… 行くぞ」

 どさっと床に下ろされる。どうしてウシアブが私を助けたのか、訳が解らない。
が、今はどうでもいい。左足から、ドクドクと血が流れていくのを感じる。
 相変わらず痛みは感じない。だが、ゾクゾクとした寒気を感じる。
止血が必要……。いや、まずはヤツを殺さねばっ!!

 ウシアブが男に一直線に駆け寄る。足元は死体だらけ、血まみれで滑るはずだが、全く気にした様子は無い。
巨体を滑らせるように、素早い動きで間合いを詰める。
 夢人と殴り合いをするつもりだろうか……。なんという無謀。
瞬殺されてしまう、身体能力が違う。
 いや、そもそも夢人の体に触れる事すら出来ないだろう、単純な力では夢人の障壁は破れない。
だが、
 
「す、すごい……」

 岩をも砕く、と言われる夢人の打撃。それを体に受けながらも、ウシアブが一歩も引かずに立っている。
巨体を揺らしながら、不安定な足場で急所への打撃をかわし続けている。
 そして、その巨大な左手が動く。駄目っ!!、障壁に弾かれるっ、だが、そう見えた瞬間!!

 驚愕……。ウシアブの左手が、障壁など無いもののように貫通し、夢人の体に届く。
ドンッ!!と強烈な一撃が夢人の腹に突き刺さる。苦痛に歪む夢人の顔。
 何故……? 不思議に思う。しかし、これはッ!!最大の好機っ!!

「撃つッ!!! ウシアブっ!! どけッ!!」

 絶叫!! 左手を床につけ、残った右足でバランスをとりながら、右手のリングを開放っ!!
出し惜しみはしない。残った3回分のエネルギー、それをこの一撃に込め、砕けそうになる痛みをこらえながら射出っ!!!!

「ぐぅうううう」

 反動で右手の骨がボキボキと砕ける音が聞こえる。右肩の鎖骨辺りまで……。全身に衝撃が走り、気を失いそうになる。
噛み締めた唇からポタポタと血が流れ落ちる。
 しかし、その血よりもなお赤き閃光が、真っ直ぐ金髪の男を直撃するっ!!
目がくらむような輝き。かすかに男の絶叫が聞こえる。
 やった……。全身の力が抜け、死体だらけの床へと、ゆっくりと倒れこむ。

「サキモリっ!! 大丈夫かっ!!」

 ウシアブの声。手早く布を取り出し、私の左足を縛り始める。
その強烈な締め付け。気絶しそうになるほどの痛みに目が覚める。

「やった……? あの男、死んだかしら?」

 荒い息を吐きながら尋ねる。マズい、血を流しすぎた。このままでは危険だ。
早急に白ディスク再現機を使わねば、死んでしまうだろう。寒い。全身を襲う寒さ。
 ガタガタと体が震える。
 しかし、満足だ。なんとか、被害を止めることができたのだから。
手近にある死体から洋服を剥ぎ取り、体に巻く。大きく息を吐く。やった……。
眼鏡がズレ、ぼんやりした視線で、金髪の男が吹き飛んだ場所を見る。

「―――ッ!!!!!!」

 男が立っている。顔の半分がほぼ消し飛んだ状態で……。
整った顔の右半分から骸骨が覗き、右目が頬の辺りまで垂れている。
 右半身はズタズタにちぎれ、右手、右足が壊れた人形のように捻れている。
だが、立っている。その左目が、狂気に満ちて私を睨む。

「あああああ……」

 金髪の男の喉から、もはや声にもならぬうめき声。だが、その左手は私達に向けられ光る珠が……。

「ぐううううッ!!」

 こんな所で死ねないっ!! 左手で、ボキボキに折れた右手首を掴む。全身を苛む激痛。
折れそうなほど奥歯を噛み締め、骨が折れ、肉を食い破っている右手を男へと向ける。
 あと一撃……。残りカスでもいい。なんとか、あの男を……。

 男の光珠が飛翔してくる。私を庇うウシアブ。その巨体が珠に弾かれ、右半身がグシャグシャになりながら吹き飛んでいく。

「―――――ッ!!!!!!」

 出ない……。あと一撃。ほんの僅かでいいのに。届かない……。涙が溢れる。
吹き飛んだウシアブを見る。ッ!!立ち上がろうとしている。残った左足、左手で……。
 あくまでも生き足掻こうと……。
その姿に勇気を貰う。あと一撃、リングが駄目なら、このコブシで、ヤツを殺す……。
 右足で立とうとするが、バランスがとれずに転倒してしまう。
死んでしまった人々の間を転がりながら、それでもヤツに近づこうと…………。

―――― 白い、輝き ――――

「ほう……。リングを最後まで使い切ったら妾を召喚するようにと、夢を仕込んではいましたが……。これほどの修羅場とは。サキモリ、死ぬでないぞ……。そなた、死ぬには惜しい」

 血塗れのその空間にそぐわない、背筋が溶けそうなほど美しい声……。
無造作に肩で切った紫の髪……。琥珀の瞳。女ですら見惚れるほどの美貌。美の女神のようにバランスのとれた肢体……。
 シンプルな白いワンピースを、まるで最高級ドレスのように着こなし、悠然と微笑むその姿……。

「ひ、姫……」
 
 人々の肉片が散らばり、悲鳴や怒声が鳴り響く、地獄のような風景。
そこへ、『姫』 アマヤギリ・翡翠が、悠然と立ったまま、微笑んでいた。




[15558] 『地虫の話』 第十三話 
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:02
  『夢の国、地虫の話』 第十三話



「こっ、この気配ッ!! 瞬間移動……? ううん、違うっ、自己の遠距離再構成ッ!! こんな馬鹿馬鹿しいほどの白夢……。もう何代目? 相変わらず、殺したいほどイヤな感じ」

 豪華な車内。俺の隣に座る紫色をした髪の少女が、そう憎憎しげに呟く。
気にせずに、必死に車体の夢構成を『ヨミ』しようと焦る俺。目をつぶり、己に深く埋没しようとする。
 だが、隣の少女の気配。ソレが見る見るうちに膨れ上がっていく。その恐ろしいほどの殺気……。
廃校舎で出会った時のような圧倒されるほどの気配に、俺の集中が途切れてしまう。恐怖。隣に座る少女の圧力が、俺の背筋を凍らせる。

「ユキっ、お兄ちゃんをこのまま瑠璃のお家まで連れて行って。解った? そしたらあの椅子に座らせておくんだよ、いい?」

 前方の座席に向かい話しかける夢人の少女。その響き……、あどけない声なのに、絶対に逆らえない雰囲気を漂わせている。

「は、ハイッ!! かしこまりました瑠璃様っ! それで、瑠璃様は……、まさかっ!!」

 前方座席から首だけを振り返り、少女に返答する獣娘。頭頂部の耳が、ピクピクと緊張しているように動いている。

「当然駅に行くわ。あの女に挨拶しないワケいかないもの。それに、ここは瑠璃のエリアよ。全てが瑠璃のモノなの。大切な駅を壊されて許せるワケないでしょ」

 紫の髪をかき上げながら、小さな唇を歪めて笑う少女。その名の通り、瑠璃色の瞳が車外の光に照らされて輝く。

「ごめんね、お兄ちゃん。用事を終わらせたらすぐに会えるから。大人しく待ってるんだよっ! あ、そうだっ。左手重いよね? ちょっと待ってね」

 小さな体を動かし、隣に座る俺へと向き直る少女。その言葉が終わらぬうちに、俺の左手に巻き付いていた鎖が変化を始める。
重く何重にも巻きついた銀色の鎖。ソレがズルズルと巨大なムカデのように動き出す。みるみるうちに、細く小さく変化。
そして左腕全体に巻かれていた鎖が、俺の左手、薬指の根元へと巻かれていく。まるで、ノーマルが着けている指輪のように……。

「こ、こいつはっ!! ぐ、がぁあああああああっ!!!」

 激痛。その指輪のように小さくなった鎖。まるでソコから小さな針が生え、手の内側に向かい伸びていくような痛み。
ゾリゾリと神経を犯しながら、その細い針が手の中を通り、手首まで届く。口から漏れる苦痛の叫びを抑え切れない。
まるで、左手が燃えるように熱く、痛い。これは……、ナンだ……。

「うふふっ。お礼だよ。きっとお兄ちゃんなら、すぐに使い方が解ると思うよ。さて、じゃあ行くね。大人しく待っててね」

 激痛に悶える俺、驚いた表情をしている獣娘を残し、笑いながら瑠璃がドアから飛び出す。
そのまま視認しきれないほどの速度で駅の方へと駆けて行く。
 だが、そんな事よりも左手の痛みが堪らない。ギリギリと歯を喰いしばる。
痛い、痛い、痛い。コイツはナンだ。指輪の内側から生えた細い針のような刺激。それは既に手首を越え、肘の辺りまで侵食している。
ポタポタと額から汗が滴り落ちる。

「お、おいっ!! お前、大丈夫かよっ、すごい汗だ。お、おかしいよっ。普通ならもうとっくに接続が終わってるハズだよっ!! おい、しっかりしてよっ」

 悲鳴のような声を上げながら、前方座席から身を乗り出した獣娘が布で俺の顔を拭く。
だが痛みが引かない。既に肘を越え、左肩に届く勢いで針が伸びてくる。体内で蠢く細い針の傷みと感触。
 あまりの激痛に噛み締めた奥歯からギリギリと音が響く。

「お、おいっ!! 身を任せるんだよ。ソレは起動の為の夢を探してるんだ。夢を『ヌキ』された事があるだろ? お前の中の夢をその指輪に委ねるんだよっ!! う、うわっ。る、瑠璃様はもう行っちゃったし、アタシだけじゃどうすりゃいいかわかんないよっ」

 もはや、あまりの激痛に声さえ出せない。夢……、夢。俺は夢なんか、見れない。もうずっと、夢など見ていない。
失神しそうな痛みの中、獣娘の助言に従って、なんとか夢を搾り出そうと足掻く。夢、俺の夢…………。
 最後、最後に見た夢はナンだったか……。記憶が無い。脳がガリガリと削られるような痛み。
見た夢、夢……。確か、一人の赤子を。泣き叫んでいる一人の女性。その女性は生まれたばかりなのに、ぐったりした赤子を抱いて…………。
 俺はお気に入りの服に身を包み、紫の髪をした少女と遊んでいた。翡翠のようなその瞳……。
今日は彼女に妹が生まれる日。でも、聞こえてきたのは叫び声……。オソロしいほどのさけびごえ………………。



『貴様は対極。夢が夢として在る為の陰。永遠に夢に焦がれ、ソレを語る為の存在。ゆえに貴様は夢を見ず、その生涯を地虫の如く生きる。夢に焦がれつつ、決してソレを掴む事が出来ぬ虫けら。人々を姫と妖精が導き世界は満たされる。その神話を人足りえぬ地虫が永遠に語り継ぐ。人、姫、妖精、地虫。この四柱こそが根源』



「があああああああああああああああああアアアあああああああああああああああああっっっっっ!!!!」

 喉が張り裂けそうな叫び。頭の中にダレカの声が聞こえた。聞いた事が無いような、ずっと知っているような男の声……。
怒り。突然、何もかもを壊したくなるような怒りが俺を支配する。渇望。俺だけが、何も手に入れられない事に対する怒り。
 失い続ける。あの日、赤子を救ったあの日から、何もかもが俺の手から、水のように零れ落ちていく。
俺は何も得ることが出来ない。夢に焦がれ続けるだけ。地虫、地面をズルズルと這いずり回るダケの存在。
何も、何も得られない。親父は俺のジャンクの『トギ』で狂って死んだ。お袋を殺し、俺を殺そうとして。
12歳だった俺。ただ無我夢中で足掻き、気付いたら『黒い夢』が……。壊す。全てを壊したい。何も得られないなら、いっそ壊してしまいたい。



『それでも、貴方とわたくしは、きっとまた出会えるでしょう。ひと目でいい。ただ、一瞬、触れるだけでいい。貴方が生きていてくれるなら。わたくしが生きたと、貴方に知って貰えるなら』



 砂漠のテントの中。アイツと二人で背中合わせで座る。ギタールの音色に、アイツの声が絡まりあい、穏やかな気持ちになる。
柔らかな風に、銀色の髪が揺れ、甘い香りが周囲に漂う。ギタールを弾きながら、時折振り返ってアイツの瞳を見つめる。エメラルドの瞳が俺を真っ直ぐにみつめ、何故か恥ずかしさに襲われて目を逸らす。
 俺に体重を預ける柔らかなアイツのカラダ。温かな体温が背中から伝わり、ドクドクと脈打つ鼓動が響く。
互いに微笑む。その唇。やわらかなカーブを描いて微笑むアイツの唇。柔らかな唇の感触。それはまるで、鳥の羽のように。風に吹かれた花びらのように。

 スっと痛みが収まる。あまりにも唐突に。今までの痛みが幻覚だったと思えるほど、何の痛みも無い。
荒い息を吐きながら左手を見る。薬指。ソコに深い緑色をした小さな石が嵌った、銀色の指輪が輝いていた。

「おいっ!! だ、大丈夫かよっ? 収まった、みたいだね? ああああ、良かったっ!! もしあのままアンタが死んだら、アタシ、瑠璃様に殺されるトコだったよ。もうっ!! よし、さっさと行こうっ!!」

 心底安堵したような獣娘の声。俺は急激な感覚の変化に戸惑い、口を開く事さえ忘れ、ただ頷く。
一体、今のは何だったんだ? 思い出せないほど子供の頃の記憶が……。どこかの、大きな庭で……、そんな記憶なんて無いのに。
 いや、それよりあの声は……。自分の記憶が信じられない。訳が解らない恐怖に駆られる。
いかん、まず落ち着くべきだ。大きく深呼吸をしながら、窓の外を見るって、マズイっ!!

「うおっ!! てめえ動いているじゃねーか。ちょ、止めろこの腐れネコっ!!」

 今はのんびり考え事などしている余裕など無かった。止まった場所から、ゆっくりと自動車が動き始めている。
マズイ……。車のドア、その一部を『ヌキ』 車外へと転がり逃げる予定が……。動いている状態で無理矢理飛び出すか?
 大丈夫だろうか。さっきまで、かなりの速度が出ていたようだ。大怪我をしちまったら、そもそも逃げるどころの話では無くなっちまう。

「う、うるさいっ!! アタシは女豹だって言っただろッ!! お前、口が悪いぞ、まるで地虫、ってキャア!!」

 ガクンッ! と強い衝撃。そのありえない光景に唖然とする。
車前方にある透明な壁。そこへ、黒いマントを羽織った金髪の男が激突していた。
しかも、その姿……。顔の右半分は骸骨と肉が剥きだしになっており、右目は零れ落ちている。
 更には、全身が腐っているようにグズグズに溶け始めている。体の皮膚全体を真っ赤な湿疹が覆いつくし、そこ全てから、黄色い膿を噴出し続けている。

「うわあああああああ、グロいいいい!!! って、こいつ、転生者っ!!」

 叫び声を上げ、自動車を止めた獣娘。
チャンス。もう此処しかない。車体前方に死体のように転がっていく転生者とやら。その悪夢のようにグシャグシャな姿を見ながら、右手を上着の中、ディスクに触れる。指輪の嵌った左手をドアに貼り付ける。
 廃校舎で瑠璃が、車を『再現』する所を観察していて、本当に助かった。普通であれば、赤夢を『ヌキ』する事など絶対に不可能だ。
『再現』を間近で見た事と、内側から、つまり赤夢そのものに全身で触れているからこそいける。

 息を吸い、瞳を閉じる。獣娘がそんな俺の様子に気付かず、ドアを開け、転がっている転生者へと近寄っていく。
まさに千載一遇のチャンス。焦る気持ちを抑えながら、一気に『ヌキ』、ドアそのものを消滅させる。

 息を必死で整える。急げ、気付かれる前にっ!! まだ転生者を見ている獣娘。それを確認し、音を立てないように地面へと這うように降りる。
マンホールを探す。駅周辺には必ずあるハズだ。音を立てないように、それでも出来るだけ早く、ゴキブリのように這う。

「ああああっつっあああ!!!!!」

 突然、獣娘の絶叫が響き渡る。やばい、見つかった……。覚悟を決めて立ち上がり、一気に走り出す。
確か、アッチにあったと思うが……。車内から見ていた景色を必死に思い出しながら走る。
豹と人間の合成存在。その運動能力は普通の人間を遥かに凌駕する。まともに走れば一瞬で追いつかれる……。
 恐怖に怯えながら、夢中で足を進める。ようやくマンホールが見えた。汚臭と蟲の巣である下水。
そこが今、なにより愛しく思える。

「やめてやめてやめてっ!! 食べないで、アタシを、食べないでッッッ!!!」

 悲鳴。何事か解らず、思わず振り返る。獣娘……、ソイツが一人で頭を抱え、地面の上で転がり絶叫している。
そこから少し離れた場所に、転生者の死体。グズグズに腐ったように溶けている。
 一体、何が? 全く理解できない。だが、これは助かった。

 余裕をもちながらマンホールの蓋を開ける。途端にあふれ出す悪臭……。
住宅街に近い事もあり、吐き気を催すほどの腐臭がする。ヌルヌルしたコケやヘドロが壁面にこびり付いており、小さな虫が沢山固まっていた。

「やったぜ……」

 なんとか切り抜けた。相変わらず悲鳴を上げている獣娘。
俺はそれを見ながら、ゆっくりと下水道の中へと入っていった。
 



[15558] カッコウの話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/12 20:02
 
 挿話 カッコウの話



「さて……、君に質問があるのだが、いいかね?」

 ハッ!! とその男の声で目を覚ます。アタシは何を? 周囲を見渡す。何だ、ここ……。
そこは、霧がかかったようにぼんやりとした、真っ白な空間だった。上も下もなく、ただ金髪の男とアタシが、グルグルと空間で回っているダケの世界。
目の前に浮かんでいる金髪の男……。こいつ、転生者!! 瑠璃様の敵であり、数年前からこの工業エリアに巣食う寄生虫。

「こ、ここはドコだっ!! キサマっ、何をしたっ!!」

 アタシは油断無く体勢を構え、両手から爪を伸ばし転生者に問う。一体何が起こったのか、全く理解出来ない。
思い出せ……。アタシは車を運転していた。そうしたら、ボンネットへ突然、この男が落下してきて、そして……。
 そこから思い出せない。そもそも、この空間は何だ? アタシはただの獣人だ。夢の再現など出来ない。転生者は『夢人』だ。とても戦えない。
自分の置かれている絶望的な状況に、心が砕けそうになる。いけない、瑠璃様をまた、独りにさせるワケには……。

「私から質問したのだが……。まあいい。此処はドコかと問うたな? それには私はこう答える。此処は君の意識の中だ、と。そして、何をしたか? という問いには、こう答えよう。した、ではなく、している最中だ、とね」

 含み笑いを漏らしながら、ゆっくりと返答する転生者。その内容を考える。
私の意識の中…… だと? ならコレは夢、なのか? 私が見ている夢、コレが?

「それでは、私が質問する番だね。問おう、記憶についてだ。例えばだ。君が事故で、自分の名前だけを完全に忘れてしまった、としよう。その状態の君に、違う名前を与え、周囲がその新しい名前で君を認知した場合、それは記憶を失う前の君と同一人物かな? どう思うかね」

 相変わらずの持って回った言い回し、それがアタシを妙に不安な気持ちにさせる。

「そ、そんなの名前が変わったダケだろ。名前なんかどうでもいい。同一人物に決まってる。そんな事より、これがアタシの夢だとしたら、早く目覚めなきゃ。そもそも何で、アタシの夢にキサマら転生者なんかが出てくるんだ。ああもう、イライラする」

「そう、本質は変わってないだろう。名前ダケだからね、変わったのは。だが…… その後の君は、自分の名前が変わった事にすら気付けぬだろう。それから後の一生を己の名前が変わった事に気付かぬまま過ごす事になるのだ。さて……、ならば過去の記憶についてはどうだろうか? 過去の記憶を全て失い、新たな記憶を植えつけられたとしたら、だ。どうかね?」

 目を覚ましたい。こんなタワゴトなんてどうだっていい。はやく目を覚まして、瑠璃様の元に……。これが夢なら、コレが、ワタシの…………。
ワタシ? ワタシって、名前……、ナンダッケ?

「そうだ、過去の記憶。思い出。考えてくれたまえ、過去の記憶とはその人の人格を司る、『その人そのもの』だとは言えないかね? その人物の判断、行動理念、食べ物の好き嫌い。好きな事、嫌いな事。嬉しい事苦手な人物。それらは全て、過去の記憶の積み重ねで創られるモノだろう? その過去を全て失い、全く別人の記憶に支配されたら? それは、もはや、『キミ』とは言えないとは思わないかね? どうだろう」

 名前、ワタシの名前……。少しずつ思い出そう。子供の頃、瑠璃様に助けられた事……。一緒に過ごした時間。憶えてる。
そう、ワタシは誓ったんだ。その時に、瑠璃様に一生従い、その孤独を少しでも癒そうと……。

(ふふ、XXって心配性だね。いつも瑠璃を心配してくれてありがと。XXだけだよ、瑠璃を怒ってくれるのって。瑠璃、歳をとれない、ずっと子供のままの姿で固定されてるから、ずっと、もう200年近くになるんだね。瑠璃は皆の為に、『夢』を生むだけの存在だから。一生懸命に人を導いて、より良い『夢』を紡ぐためだけの『妖精』だから。XXだけだね、瑠璃を人間として扱ってくれるのは。うふふ、ありがとう)

 脳裏に思い出されるのは、あの日の記憶。瑠璃様が満天の星空を見ながら、泣いていた夜の事だけ。それだけは、しっかりとワタシの中に……。

「ふむ……、意外にしぶといな。もはや、自我など残っていないと思っていたのだが……。どうやら、強く失いたくないと願っている記憶があるな。そしてそれが、キサマの行動理念になっている。なるべくなら、ラクに終わらせてやりたかったが、な」

 突如、周囲の空間が歪む。一気にカラダが落下する感覚。どちらが上か下なのかすら解らないが、とにかく一方向に向かってカラダが落下していく。
ドン!! と何かに打ち付けられる衝撃。だが、ワタシは獣人の身体能力を生かし、柔軟に衝撃を逃がし一瞬で立ち上がって身構える。

「さっきからワケ解らない事ばっか言うなっ!! ワタシはワタシだ。ここがワタシの意識の中だって言うなら、この場所もそうなんだろっ!! コッチに有利なはずだ。出て来い。内臓を切り裂き腸を引きずり出して、ズタズタにしてやるよっ!!」

 恐怖と怒りがワタシの全身を支配する。周囲の空間が、先ほどまでは白かったのに、一気に暗くなってきている。
まるで夕闇の中にいるように。だが、問題ない。ワタシの瞳はどんな闇でも見通せる。この両手に生えた爪は人など一撃で切り裂く。
此処がワタシの世界だとするなら、転生者だろうと関係ない。全身を細切れに切り裂く。殺意に身を固め、油断なく神経を張り詰める。

「残念ながら、もはや此処は君の世界とは言えないのだ。君に残っている記憶は、もはやソレだけだ。後は、全て私が頂いた。全部、喰い散らかしてしまったよ。体は私が使ってあげよう。その唯一残った記憶を踏みにじり、私の記憶が君を支配する。光栄に思え。我が崇高な理念の礎になる事を」

 ワタシの周囲、全方向から転生者の声が響く。恐怖と怒り、ソレに支配されながら見渡すが何の姿も見えない。一体何が? ワタシの記憶、記憶……。
必死に思い出そうと足掻くが、瑠璃様の笑顔、泣いていた顔、悲しそうな声。夜、うなされていた事しか思い出せない。
 ガクガクと膝が震える。ワタシの体に混じる豹の組織。ソレさえも闘争心を無くし、恐怖に震える。いけない、こんな……、

「ぎゃっ!!」

 突然、両足に酷い激痛が走る。咄嗟に足元を見る。な、何? そこに見えたのは何匹もの蟲。大きさ三センチほどの足の無い濃い緑色の芋虫のようなモノ。
ソレが大量にウネウネと蠢きながら、ワタシの両足を食い破り、皮膚の中へと進入し始めているっ!!

「う、うわああああっっ!!」

 咄嗟に爪を振るい、足元を攻撃しようとする。だがその両手、いや肩に激しい痛み。
恐怖に涙を浮かべ、己の肩を見る。悪夢、まさに悪夢だ。ワタシの手、肩から胸にかけて何匹もの蟲が……。

「いやああああっっ!! 痛い、痛いっ!! やめて、やめてッ!! 痛いっ!! 痛いっっっ!!!」

 ぽとっ…… と頭に軽い重み。激痛に支配された視界で上方を見上げる。

「う、うわぁああああああ!!!」

 天井に張り付いた大量の蟲。濃い緑色の足の無い芋虫が、天井一杯に張り付き、うねうねと動きながらぽとり、ぽとりと落ちてくる光景……。
必死に逃げる為、足を動かそうとする。でも動かない。ワタシの足……。豹と混ざった鍛え上げられた筋肉で覆われた自慢の足が……。
喉の奥から恐怖の叫びが漏れる。いくつもの空洞が開き、そこへ何匹もの蟲が潜り込み、どんどんと体へ這い上がってきている。

「なんだよこれっ!! あ、なに、なに、なんで、なんだコレっ!!」

 怖い。怖い……。もはや両足が体重を支えきれず、壊れた人形のようにゆっくりと倒れていく。頭上からは相変わらず蟲が落ちてきて、両肩、背中、腹部へと進入してくる。
 痛み。もはや痛みを感じない。感じるのは猛烈な痒み。グジュグジュと体に空いた穴から、強烈な痒みが全身を犯していく。力が入らない。
涙で滲む視界。倒れこんだワタシの目の前で、大量の芋虫が蠢いている。込み上げてくる吐き気を抑えきれず、喉元から一気に吐き出す。

「うあああああっっっ!!!」

 その嘔吐物のなかにも大量の蟲が混ざり蠢いていた……。痒い、痒い、痒い。全身が痒くて狂いそう……。両手、両足は既に殆どが食い尽くされ、まるでワタシが一匹の芋虫になったよう。

「ふむ聞こえてるかね。ここからが大変なのだよ。なかなか砕けない君の自我を終わらせるには、苦痛と快楽、どちらが効果的かね。そうだな、どうせなら、どちらも同時に味わってみるかね? これが、君の最後の記憶になるのだから。君の自我、過去の記憶全てを塗り替えるほどの、苦痛と快楽を捧げてあげよう」

 響いてくる男の声。ソレと同時に周囲の芋虫の姿が消え去る。涙で滲んだ視界の中、両手両足を一瞬で失ってしまったワタシは、気が狂いそうな痒みの中、ひたすらうめき声を上げている。
 痒い、痒い、痒い。ダルマのようになったワタシはソレだけしか考えられない。必死に這いずり、地面に腹部を擦らせる。

「いぎぃ!!」

 突然、両方の乳房を襲う激痛。痒みすら忘れるほどの痛みに全身を震わせて仰向けに転がる。涙を流しながら、二つのふくらみを見る。
一体何が……。これ以上、ワタシに何を……。

「ああ……、あああああっ……」

 絶望の声が喉から溢れ出す。ワタシの乳房にいたモノ。それは体長一センチにも満たないほどの大きさのアリ。薄い赤色をしたソレが、びっしりと両方の乳房にたかっていた。
 そいつらが小さな牙をワタシの胸に突き立ててくる。その度に全身が痙攣するほどの痛み。いや、痛みと同時、脳がトロけるほどの快楽までもが襲ってくる。
ぞわぞわと周囲から音が聞こえる。恐怖と期待に打ち震える胸。やはり、大量のアリ。床一面を埋め尽くす量のそいつらが集団でワタシの体全体を覆いつくしていく。

「あああああああっ!! やべで、もう、ごろじでえ……」

 ただひたすら、ソイツらは牙を突き立ててくる。ワタシを喰う為ではなく、ただワタシに刺激を与える為だけに……。
何度も何度も、体中にソイツらが噛み付いてくる。耳の中にゾワゾワという音が響き、叫び声を上げる口の中へも大量のアリが張り付いてくる。
 乳首、クリトリス、秘唇、膣の中にまでもアリが入り込む。噛まれる度、気が狂いそうになるほどの痛みと、泣くほどの愉悦が全身に電流のように流れる。
特にクリトリスが酷い。何度泣き喚いて懇願しても、容赦なく勃起したソコを噛まれてしまう。愛液がとめどなくあふれ、気が狂いたいほどのアクメを繰り返す。

 芋虫に開けられた体中の穴。ソコへもアリが入り込む。皮膚の内側と外から同時に噛まれる。子宮と肛門を隔てる壁に何匹ものアリが噛み付き、芋虫のように体を痙攣させて、アクメに溺れていく。伸ばした舌へ見えなくなるほどのアリが覆いつくし柔らかな粘膜を責める。

「ふむ。この様子なら随分早く終わりそうだな。体感時間であと四日…… ほどか」

 ぼんやりとした声が聞こえる。
あはは、なんだろう。耳の内側を通り、頭の中からもカサコソと音が響く。プチプチと音をたてながら、脳が噛まれる感覚。気持ちいい……。
背骨が痙攣するほど気持ちがいい……。脳を犯されるのって、こんなに気持ちいいんだ……。

 ◆

 もはや、ソレは一個の奇妙なオブジェだった。両手、両足を無くした女性が、全身をアリに隙間なく犯され、絶頂にうめく人形のような存在。
体を内側と外側から同時に責められ、苦痛と快楽に喘ぐオモチャ。
 だが永遠とも思える時間が過ぎ、その責めは終わりを告げた。
大量のアリ。それが一箇所へと固まり、見る見るうちに人間のような形へと集合していく。一瞬後、大量のアリがいた場所に立つ、一人の男がいた。
 楽しそうに笑いながら、両手で乱れた金髪を整えているその男。口元に張り付いた、冷たそうな微笑。その口が動き言葉を吐き出す。

「実に、実に、面白い記憶だったよ。君の体は、私が有効に使ってあげよう。何、悲しむ事は無い。すぐに、君の大切なアマヤギリ・瑠璃も、そしてあの『姫』とやらも私が喰い尽くしてやるから。君の外見を使えば、流石にあの化け物妖精も防げまい。楽しみに待っててくれたまえ」

 大きく響く哄笑。高笑いをしながら、その男がもはや白痴のような顔で倒れている獣人へと近寄る。
ゆっくりと手を伸ばす。快楽で蕩けきった獣人の顔。男は笑いながら、その娘の頭から、バリバリと齧りだす。
 
 部屋のような空間の中、哄笑と、おぞましい食事の音だけが響いていた。



[15558] 自治人の話 ⑤
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:583704fc
Date: 2010/03/12 20:02
 挿話 夢の国、自治人の話 ⑤



 駅の床にぶちまけられた大量の肉片と血。周囲には悲鳴、怒鳴り声が駅の中に響き渡っている。
そんな悪夢のような状況の中、私は無くなってしまった左足の切断面を出血を防ぐ為、左手で押さえる。
出来るなら両手で押さえ込みたいが、右手は指先から右肩、鎖骨まで完全に砕け、肉を骨が食い破り白いモノが覗いている。
 たが、そんな事は気にならなかった。私、サキモリ ハガネの目の前で対峙する二人の『夢人』に視線が吸い寄せられる。

 一人は、右半身がグズグズに焼け焦げ、裂けた皮膚から覗く真っ赤な肉から血を滴らせている転生者。
しかし、そんな状態でありながらも、狂気に満ちた瞳を開き、爛々と殺意に目を輝かせている。
その顔の半分は骸骨と化し、右目は頬辺りまで零れ落ち、見る者の吐き気をさそう。
 ほとんど生ける屍とでも言えるその状態。だが、戦闘能力は失ってはいない。眼前を睨みながら左手に光珠を集束し始めている。
その危険なほどの大きさ。直径50センチに達しようかというサイズ。その破壊力を思い、背筋に冷たい戦慄が走る。

 転生者の目前に立つ、もう一人の夢人。それはまさに、女神としか言いようの無い存在。
就寝中だったのか、シンプルな白いワンピースを着ているダケの姿にも関わらず、周囲を支配するほどの圧倒的な美しさを持っていた。
 悠然と遥か高みから『転生者』を見下ろすような微笑を浮かべ、時折吹く風に肩までの長さの紫髪を揺らしている。
『姫』 アマヤギリ・翡翠。その名の通り、美しく翡翠のように輝く瞳。ワンピースの裾から透き通るほど白く、細い足を伸ばし、血と肉で汚れた床へ立つ。

「引き際を知らぬ下郎よな。妾の手を汚すのもおぞましいが、これほど多くの人々を害した罪。妾が直々に罰を下す」

 ルビーのように真っ赤な唇を笑みのカタチに歪め、姫が言葉を告げる。その言葉に応じるように、姫の周囲へまるで霧のような白いモヤが漂い始めていく。
形の良い足から、華奢な全身を覆うようなその白きモヤ。ソレが私の目には、まるで『姫』を飾る純白のドレスのように見えた。

「あぁぁあああああ!!」

 転生者がおぞましい叫び声を上げ、左手を『姫』へと向ける。
ビリビリと空気が震えるほどのエネルギーを放つ光弾。回転しながら、ソレが凄まじい速度で転生者から射出される。

「ひ、姫ッ!!」

 出血多量で霞む私の視界。消えそうになる意識。だが、ぎりぎり自我を保ちながら、姫の身を案じ喉の奥から叫び声を上げる。
アレをまともに喰らったら、流石の姫でも……。己の顔が青ざめていくのが解る。
 だが、『姫』は優雅に立ったまま回避しようともしない。あくまでも優雅に、迫り来る光弾へと微笑んでいる。
何故!? 心配のあまりパニックになる。その瞬間、気付く。姫と転生者の立っている場所……。
なんてこと……、もし姫が回避すれば私だけでなく、まだ辛うじて生き残っている人々へと光球が着弾してしまう。まさか……。

 カッ!! と目に焼きつくほどの閃光が煌く。直撃……。微笑みながら立っていた姫の上半身へモロに光球が当たる。
その瞬間、姫の周囲を飾るように漂っていた白い霧が集束。瞬時に『姫』へと集まる。
 一体、何が……。見守る私の目の前で、そのモヤが晴れ、視界が開ける。

「ふむ……。これがキサマの全力か? 所詮、まがい物の夢人よな。能力も、外見も、考え方も、その経験すら全てが借り物、寄生虫よりもおぞましい下種。存在するだけで虫唾が走る、ただの自己顕示欲の塊。生まれ出でて、即座に巣を乗っ取る鳥、カッコウよりも歪で醜いナルシスト」

 そこには、全く微動だにせず、悠然と立ったままの『姫』がいた。髪の毛一筋ほどのダメージも無い。
鮮血のような真っ赤な唇を、笑みの形に曲げ、失望したような声で呟いている。
その呟きに呼応するように、周囲を漂う白い霧。ソレがよりいっそう濃く広がり始め、血まみれの空間全てを包み込むように広がっていく。
 これは……。その白い霧、私の右手、左足に触れる。その途端、全身を通り抜ける心地良い振動。
体の疲労、出血からくる倦怠感、それら全てを吹き払うような快感。右手の砕けた骨が、何の痛みもなく回復していく。
驚きに目を見張る私の前で、ほとんど一瞬の間に骨折が治り、裂けた皮膚、筋肉すら修復していく。

周囲はミルクのような霧に閉ざされ、視界が全く効かない。しかし突然、その霧を切り裂くような恐ろしい苦痛の叫び声が上がる。
聞くだけで鳥肌が立つほどの、喉の奥から搾り出すような絶望のうめき声。

「キサマの全身、細胞全てを腐らせた。生きながら、体が腐れ落ちる苦痛。それをキサマが害した人々への手向けとしよう。おぞましき存在よ、悪夢の中で逝くがよい」

 姫の凛とした声が、転生者の苦痛の叫びを切り裂くように響き渡る。恐ろしいほどの苦痛の叫び声、そしてガラスが砕ける音。
そして、周囲から歓喜の声が上がり始める。瀕死だった人々、彼らが『姫』の霧に助けられたのか、次々と目を覚まし、驚愕しながらも喜んでいる。左半身がグズグズになっていたウシアブですら怪我一つ無く、きょとんとした顔で周囲を見渡している。
 その光景に呆然としながら、私は左足を見る。膝から下が完全に消失したはずの左足。その場所へ大量の霧が集束し、まるで足のように形作っている。
突然、ずきりとした痛み。驚きに目を開きながら、ソレを見る。足が、無くなった足が『再現』されていた。
どんな白夢再現機にも出来ないほどの奇跡……。『姫』の底知れぬ能力に、恐れにも似た畏敬の感情が沸き上がる。

「大丈夫か、サキモリ。もう、案ずる事はない。僅かでも生きていた者は助かるであろう。そなたの己を犠牲にしての行動、そこの下等自治人の男ともども、見事、大儀であった。妾は、そなた達を誇りに思う」

 だんだんと薄くなっていく霧。その中を足音一つ立てず、姫が静かに歩み、私に向かって口を開く。そのあまりにも美しい顔……。
戦闘後なのに、汗一つかかず優雅に微笑んでいる。その笑顔と、あまりにもったいない褒め言葉。自然と頭が下がっていく、まともに顔を合わせられない。
その存在感。何か言葉を言わなければと焦るのだが、圧倒的な美しさに気おされ、何も思いつかない。
 しかし、何か言わなければ、そうだ……。列車の中で見たあの男。私の勘に触るあの男の姿。ソレを姫に読んで頂ければ……。そう思いつき、口を開こうと……、

「あらあら、瑠璃のエリアで随分好き勝手してくれたのね『姫』 お久しぶりね、と言うより初めまして、かしら? ふふっ、普通人に媚びを売り、恋に狂った『姫』にはお似合いのお洋服だこと。『妖精』アマヤギリ・瑠璃よ。ここは私のエリア。その忌々しい顔を下げ、瑠璃へと平伏なさい」

 突如、はっきりとした、しかし幼い声が響く。鈴が鳴るように美しいその声。その方向を見る。
そこには『姫』そっくりの紫色の髪を腰まで垂らした、美しい少女が立っていた。フリルの沢山ついた、黒曜石のようにキラキラと輝くドレスを纏い、妖艶な微笑みを見せる少女。
 圧倒的な気配……。見ているだけで心が折れそうになるほど、強烈な力を漂わせている。『姫』を瑠璃色の瞳で睨みながら、小さな手をヒラヒラと舞うように動かす。
その動きに合わせ、崩れ落ちた建物。ソレが轟音を響かせながら、みるみるうちに元の場所へと戻っていく。ありえない……。ありえないほどの『赤夢』
 これが……、『妖精』か……。ごくりと唾を飲む。工業エリアの支配者、何歳とも知れぬ、圧倒的な夢人。ほとんど伝説のような存在、アマヤギリ・瑠璃。

「初めてお目にかかる。そして、久しいな『妖精』 先代より継承した記憶通り、相変わらず夢を生む為、全てを犠牲にしておるのか? 恋も知らず、200年もの永い時を、ただただ機械の如く夢を生み出す存在。その呆れるほどの精神に挨拶をしよう。妾は、9代目『姫』アマヤギリ・翡翠なり。今回は非常事態ゆえの事。そなたと争う心算は無い。早急に此処を去る。それでよかろう?」

 優雅に微笑みながら、睨み合う二人の『夢人』……。先ほどの転生者との一戦が、まるで子供だましだったかのような緊張が高まっていく。
怪我から回復した人々が、這うような動作で二人から必死に遠ざかる。その気持ちが痛いほどよく解る。見ている私の肩がガクガクと緊張で震え、喉が渇く。
 ただひたすらに恐ろしい。この二人の発する、とてつもない量の覇気が空間を歪めていくようにすら感じる。

「うふふ、そんな話が通ると思っているの? そこの二人、眼鏡のお姉ちゃんと豚そっくりのお兄ちゃん、どうやら自治人でしょ? 瑠璃のエリアに、アナタの薄汚い手下を送り込んで、一体どういうつもり? また争う? アナタの先代とは随分遊んだわ。さっさと目的を教えなさい。貴女を殺す事は流石に無理。でもね、そこの自治人なら一瞬で殺せるし、殺すわ」

 『姫』の美しい唇が一瞬、苦悩するように歪むのが解った。当然ながら、己の管理エリアで『夢人』を殺害された事を知られたくないのだろう。
無言のまま立っている『姫』
 だが、その様子に業を煮やしたのか、『妖精』は私達の方へとチラリと視線を向ける。その顔に張り付いた微笑……、恐ろしいほど美しく、冷たさを感じた。
膨れ上がる『妖精』の殺意。折れる、心が砕けてしまう。軽く視線を向けられただけなのに……。圧倒的な力の差を感じさせられてしまう。
何も出来ないまま殺される。はっきりとした現実に、歯がガチガチと鳴り、思わず後ろへと後ずさりを……、その時、背後からドンッっと強い衝撃。

「しっかりしろ、サキモリ一等殿。俺達は『今』生きてる。醜くても足掻け。相手なんて関係ない。クソ塗れの地虫らしく、最後の最後まで足掻け」

 力強いのに、ボソボソとした低い呟き声。私の背後に立っていたウシアブ。制帽を深く被り、濃いブルーの制服の胸を張り、堂々と立った姿。
まるで怒った豚のような顔。一気に緊張がほぐれ、笑みが浮かぶ。全く……、やはり私の勘は正しかった。この男は立派な自治人になる。

「ふふ、私は地虫じゃないわよ。そして……、貴方も違う。もう貴方は自治人よ。でも、その意見……、全面的に賛成するわ」

 背後へ強く言い返しながら、赤い眼鏡のズレを直し、膝の震えを誤魔化しながら立ち上がる。『姫』が驚いたような、そして嬉しそうな顔で微笑んでいる。
それを横目で見ながら、妖精へと向き直り、しっかりとその瑠璃色の瞳を見つめ返す。

「申し遅れました瑠璃様。私は歓楽街一等自治人、サキモリ ハガネと申します。背後に控えますは、我が部下のウシアブ。ご挨拶が遅れた事、深くお詫び致します。この度、私どものドラッグ密売、販売調査におきまして、努力不足の為に犯人を工業エリアへと捕り逃しました。瑠璃様へとご挨拶に向かう途中、先の騒動に巻き込まれた次第であります。ただし、犯人の居場所の見当はついております為、私どももすぐにこのエリアを立ち去ります。ご心配なきようお願い申し上げますわ」

 深く頭を下げ、堂々と大きな声で言い切る。内容は嘘塗れ。元々、挨拶に行くつもりなど欠片も無かったし、内容もでっちあげだ。
だが、歓楽街エリアでのドラック捜査が最近まで行われていた事は周知の事実。
 そもそも、『夢人』は薬物系ドラッグを嫌っている。ドラッグディスクでの夢に比べ、あまりに体や精神に害を与えるからだろう。
この言い訳は通る、と思うが……。内心では冷や汗を流しながら、頭を起こし『妖精』に向かって優雅に微笑む。

「そう……、ここ最近、確かにドラッグの捜査についての報告がギルドから来ていたようね。まあ、瑠璃には関係ないからギルドに任せてたけど……。ふーん、でも本当なのかなぁ。お姉ちゃんが着けている指輪、夢武器でしょ? ちょっと見た感じ相当のモノよね。いくら『姫』が夢人の責任を放棄して、下民どもの仕事を手伝っているとは言っても、どうなのかなぁ。うーん、お姉ちゃん、何か隠してない?」

 小さな手を顎にあて、首をかしげながら考えている妖精。本当にあどけなく、可愛らしいのにどこか妖艶な気配が漂っている。
とにかく、思考を読まれたらアウトだ。『姫』のフォローを願うしかない。
 横目で姫を見る。満足そうに頷き、微笑んでいる。どうやら、乗り切れるか? 対峙したまま、誰も口を開かず数分の時が流れる。
緊張で胃が痛む。背後で岩のように立っているウシアブが頼もしい。何か、言うべきだろうか。最後の一押しとなるような言葉を……。
頭の中で必死に考える。と、その時、

「る、瑠璃さまー。も、も、申し訳ありませんって、キ、キサマら、何者だっ!!」

 突如、甲高い声が、対峙を続けている私達の間に入る。息一つ乱さず、素晴らしい速度で駆けつけてきた女性、いや獣人がいた。
瑠璃を庇うように、その前に立ち油断なく両手を構える。黄色の髪を後ろに纏め、頭上に生えている猫のような耳をピクピクと動かしている姿。
虎、だろうか? まあ、そういう大型の獣との混在存在だろう。濃いブルーの瞳で、姫と私達を強い眼光で睨んでいる。

「ちょっと、ユキ。お兄ちゃんはどうしたのっ!! あなた、まさかっ!!」

「は、はい。逃げられちゃいました、申し訳ありません瑠璃様……。屋敷に入る直前、いきなりドアを『ヌキ』され、あの男の仲間らしき者たちが次々と……。どうやらあの男は薄汚いギャングだったようです。本当に申し訳ありませんっ」

 妖精の声に、耳を垂らし必死で謝り始める獣人。本気で謝罪しているのだろうが、どことなくユーモラスで憎めない。
場の空気が一気に緊張感を無くし和む。長い尻尾を足の間に巻き込み、ペコペコと涙目で頭を下げている。
 妖精が何かブツブツと文句を言うたび、両手をこすり合わせ哀願している。だが、悲壮感は無い。どうやら、見る限りでは妖精とこの獣人は良い主従関係のようだ。

「もうっ、ユキったら、いいわよ。どうせお兄ちゃんがアレを使えば、位置は解るんだし。仕方ないわ。瑠璃の想像以上に凄腕の『ヌキ屋』だったって事よね。ふふっ、ますます欲しくなっちゃった。さっ、その話はもういいわ。それじゃあね、こっちのお客様はどうしようかなぁ……」

 あどけない笑顔で瑠璃が言葉を話す。先ほどまでの張り詰めた殺気が薄れている。なんとかなりそうな気配がする。
私は気取られぬように、ゆっくりと息を吐き出しながらたたずむ。

「妖精よ、妾はもう飽きた。審議は充分であろう? 先ほどの宣言通り妾は此処を去る。我が自治人は優秀だ、そなたに迷惑は加えぬ。ドラッグは我等共通の害のはず。妾の不出来からこういう状態になったが、今日、妾が工業エリアの人々の命を救った事で良しとせぬか? 無意味な争いはそなたも望まぬであろう?」

 姫がゆったりと言葉を紡ぐ。その足元から立ち上る白い霧が、どんどんと濃さを増していく。姫の美しい肢体を隠し、純白のドレスのように姫へ纏わりつき始める。

「そうね、瑠璃も今日は流石に疲れたわ。だけどっ、そこの自治人の行動監視としてユキを連れていって貰うわ。これは譲れないわよ。ユキ、解ったわね? この自治人に同行し、このエリアを立ち去るまで見届けること。ただし、その期間はいかなる理由があろうとも二日間。その二日間を過ぎても、瑠璃のエリアにまだ居残っていたら、絶対に殺すわ。わかった?」

 妖精の提示条件に舌打ちしそうになる、が、仕方ないと諦める。姫を見れば、ゆっくりと頷いていた。驚異的な身体能力を誇る獣人と言えども、妖精よりはマシだ。どうにかするしかない。妖精の言葉に深く頷き、感謝の言葉を返す。

「寛大な処置を頂き、ありがとうございます。それでは歓楽街エリアの2名は盟約通り、残り48時間以内にこの工業エリアを立ち去ります。それでよろしいですか、妖精様」

 瑠璃色の瞳を見ながら、言い終える。どことなく不機嫌にしながらも、妖精は頷いて、小さな口を開き欠伸を始める。
何があったか知らないし、興味も無いが、疲労していると先ほど言っていたことは嘘ではなさそうだ。

「ええっ!! ワ、ワタシは瑠璃様と一緒がいいです。こ、こんな他エリアのやつらと行動するなんて、しかも最大2日もですか……」

 気落ちしている獣人。それでも瑠璃に睨まれ、しょんぼりした様子で私達へと近づいてくる。よほど妖精の側に居たかったのだろう、顔を伏せているが、悔しさのあまりか、歯を噛み締めながら歩いてきた。
 右手を差し出し、握手を行う。簡単な自己紹介を行い、挨拶をする。さて、問題はどうやってこの獣人を騙すか、だ。
考えようとした私、だがそこへ姫への言葉がかけられた。

「サキモリ、すまぬが妾は戻らせて貰う。そのリング、補充しておいたからの。使用回数は3回。勿論、最後の1回にはアレを仕込んである。それに前回のリングよりも威力は上げておるゆえ、あまり無茶はせぬように。よいな? そう、それから、お主達の気概と精神、非常に喜ばしかった。最近妾は思う。夢人とソレ以外の人々、実はなんら変わりはないのではないか? とな。己に恥じぬ生き方が出来れば良いと思うのだ。まあ良い……。それでは、そなたらの無事を祈っておるぞ」

 その言葉を最後、瞬時に姫の体に白い霧が纏わりつき、白い輝きが放たれる。目がくらむほどの美しい光。その直後、姫が消えていた。まるで夢だったかのように……。

「ふんっ。自分のエリアに己自身を『再現』したのね。姫の白夢、相変わらず化け物だこと……。じゃあ、ユキ、瑠璃も帰る。その自治人について行ってね、頼んだわよ。あ、そうそう、眼鏡のお姉ちゃんっ!!」

 妖精が私に向かい、ニコニコと微笑みを向ける。殺意は感じられない。感じられないが、とても逆らえない雰囲気を発している。

「瑠璃はね、姫みたいな甘い希望は持ってないんだ。アルカディアは夢で維持されてる。だから、夢を創り、維持できる人々に従うのは当然だと思うの。つまりね、このエリアで瑠璃に逆らったり、変なコトしたら、殺すよ……。いい?」

 唾を飲み込みながら、そのあどけない笑顔に頷きを返す。納得したのか、駅の出口に向かい歩き去っていく妖精。
背中からドッっと汗が噴出し、その場に座り込みそうになる。いけない。気力を振り絞り、ウシアブと獣人へと視線を向ける。

「さ、それじゃあ夕方の列車まで待機しましょう。ユキさん、貴女に紹介しとかないといけない天使もいるしね。さぁ、行きましょう」

「えっ、もう一人? あれ、瑠璃様は二人だって言ってなかったか?」

 驚いたようなユキの声。まあ、妖精がそう思ったことは事実だろう。シャーロットお嬢様は、ここから離れた場所にいるのだから。
が、どんな理由であれ妖精と約束したのは二人だ。時間制限通り、48時間後にこのエリアを出て行かなければならないのは二人だけ。
最悪の場合、私だけは、此処に残れる。

「え? ああ、貴女が来る前に天使についての話は終わっていたの。全部で三人、いやユキさんを入れて四人ね。さ、行きましょう。随分疲れたわ。列車が予定通りに運行すればいいんだけど……」

 何気ない口調で嘘を吐き足を進める。背後からウシアブの大きな欠伸が聞こえた。先ほどまであった、崩れ落ちた瓦礫、飛び散った肉片や血痕は影も形も無く、清潔な駅の風景が広がっている。
 大勢の人々があわただしく駆け出し、待合室に多くの人々が座っている。

「ウシアブっ!! わたくし、もう、心配してましたのよっ!!」

 その中に大きな声が響く。笑顔でこちらへ駆けてくるお嬢様。必死で人々を誘導していたのか、額に汗を流し、高級なドレスも所々破れている。
だが、そんなことは気にならないとでも言うように、私達に向かい駆けて来る。横目でウシアブの姿を見る。
 妖精にも動揺していなかった巨漢が、醜い顔を真っ赤に染めて立ちすくんでいる。

 自然と頬が緩む。が、内心気合を入れなおす。ここから先も容易なコトでは済まないだろう。
私は自治人だ。あくまでもノーマルの生活を守る事が使命であり、そもそも私の力ではノーマルを守ろうとするのが精一杯。
 地虫、そう、これから向かうのは地虫の棲家。はたして、ウシアブはエリアは違うとは言え、かつての同僚である地虫と戦えるか?
いや、場合によっては殺す必要もあるだろう。

 微笑んでいるシャーロットお嬢様の顔。途方にくれたようなウシアブの真っ赤な顔。
これから、この二人は厳しい現実に直面する事になる。
 幸せそうな二人の姿を見ながら、その現実を二人が乗り越えてくれる事を願いつつ、私はゆっくりと、ため息を吐いた。 




[15558] 挿話 元普通人の話 前編
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/14 05:04
 挿話 元普通人の話 前編



 地下都市の灯りがぼんやりと差し込む薄暗い部屋の中、三人の男達が立っている。
それなりの広さを持つ部屋の中に、その三人の男から漏れる、興奮したような荒い呼吸音だけが響いていた。

「お、おい。大丈夫か。そんな量をいきなり注射しちまったらよ、いくらこの女でも……」

「大丈夫だって。もう何人もこのストーマーで雌便器にしてきたんだ。俺の腕を見くびるなよ。それより、もっとしっかり押さえとけ」

「しっかし、夢みてえだな。このカシラを犯せる日がくるなんてよ。このデカイ胸、この気の強そうな顔がヒィヒィよがるなんて、たまらねえな」

 各自が好き勝手に喋る中、一人の男が注射器を取り出し、部屋の中央に置かれている椅子の前に立つ。
中央に置かれた大きな椅子。そこには猿ぐつわを噛まされ、残る二人の男に両腕、両足を固定された女が座らされていた。
真っ黒な瞳で、火が出そうなほどの激しさで近づく男を睨む。封じられた口からはモゴモゴと声にならない怒鳴り声と、涎がこぼれている。

「おいおい、ドラッグのカシラともあろうお方が暴れるんじゃねーよ。さ、ご存知ストーマーだぜ。アンタが持ってきたとびっきりの上物だ。何、すぐにチンポ狂いにしてやるよ。おい」

 注射器をもった男が顎を動かし、それに合わせ腕を押さえている男が女の上着の袖をナイフで切り裂く。
ビリビリという布の裂ける音と共に、女の日に焼けた浅黒い左腕があらわになる。そこへ、一瞬のためらいも無く針を突き立てる男。
興奮を隠さず荒い息を吐きながら、注射器のポンプを操り、中身を女の血管へと注入していく。

「まあ、吃驚したぜ。取引相手のアンタが一人で旧校舎で気絶してるのを見つけた時はよ。護衛の男もいねぇし、何の冗談かと思ったぜ。どうやらドンパチがあったらしいが、てめえ巻き込まれたな。ま、これまでずっと俺達を相手に稼いできたんだ。ここらで還元してもいいだろ?」

 下品な笑い声を上げながら、一人の男がフラックスのスーツにナイフで切り目を入れていく。大きな胸を押さえつけているボタンが弾けとび、下着をつけていない見事な胸が空気に晒される。
 手で掴んでも、柔らかな肉がはみ出るほどのボリューム。ピンク色の乳首が男達の視線に嬲られ、ツンと尖っている。

「まあ、還元つってもだ。お前は今から俺達にこってり犯されて、ストーマーの作成方法を吐き、一生工業ギルドの雌便器になるんだがよ。ハハッ!!」

 男の欲情にかすれた声。その声に反応した女が、必死に暴れるが、両手両足を押さえつけられ、大きな胸が揺れるだけ。だがその瞳は、毅然として男達を睨む。
強気の姿勢を崩さず、口から猿ぐつわ越しに怒鳴っているが、声にならず部屋に響くだけ。

「ま、諦めな。運が無かったんだよ、カシラ。それより、そろそろ効いてクルころだぜ。てめえも、もう終わりだよ。これからストーマーを何本もぶち込まれ、ひぃひぃアクメ泣きしながら、喜んで俺達のケツ穴をしゃぶるようになるぜ……。おいっ!!」

 注射器を持っていたリーダー格の男の合図で、腕を押さえている男がフラックスの耳へと唇を寄せて行く。情欲に歪む脂ぎった顔、その唇から舌を伸ばし、女の耳へとしゃぶりつく。
 両足を押さえている男が、うめき声を上げながら舌を伸ばし、フラックスの太ももを舐め始める。激しく音を立て、女に聞かせるように。

「ふっ、ううううぅぅううっっ!!」

 その行為に、はっきりと快感に濡れた声を漏らし、ガクガクと体を震わせる女。一瞬、黒い瞳がトロンとした涙目になる。
だが、気を取り直したのか、あくまでも強気で男を睨む。顔を真っ赤に染め、亜麻色の髪を振り乱しながらも強気な表情を崩さない。

「へえ。耳と太ももを舐められるダケで、大概の女はイクもんだが、さすがだねぇ。ま、まだまだ時間はあるしよ。楽しんでくれよ」

 リーダーの男がニヤニヤと笑いながら、その上着のポケットから何か箱を取り出す。煙草の箱くらいの大きさ。だが、その中に入っているものは違った。
長さ10センチほどの大きな針。それを何本も箱の中から取り出し、椅子の前にあるテーブルへと並べ始める。

「まあ、アンタは当然知ってるだろうがよ。ストーマーってのは痛みと快楽がごちゃまぜになる作用がある。へへ、普通に犯しまくってチンポ中毒にするのもいいがよ、てめえみたいなプライドの高い雌にはコレが効くんだよっと」

 そう言うなり、男が一本の針を持ち、女の乳首目掛けいきなり刺し貫く。

「うぐぅぅうううううううっっぅううう!!!」

 顔を真っ赤に染め、ガクガクと全身を震わせながら猿ぐつわの奥で叫び声を上げるフラックス。その間も容赦無く、他の男達は耳と体を舐め続けている。
その度、ビクビクと全身が痙攣している女。黒い瞳にじわり、と涙が溜まり始めている。

「どうだい自分の体が信じられないだろうが、え? イッただろ? 痛いクセにめちゃくちゃ気持ち良かっただろうが、え? おい、しっかり答えろ。でねえともう一本いくぞ」

 針を女の目の前で振る。しかし、凶暴な顔で睨む男にも屈せず、はっきりと横に顔を振る女。
だが、その顔は明らかに絶頂で歪み、針が刺さったままの乳首は凄まじい硬さでツンと尖り、秘部から椅子を濡らすほど愛液が流れていた……。

「そうかい。ならいい、次は細い針でいくぜ。この髪の毛並みに細いヤツでよ、お前のそのデカイ乳を刺しつくしてやるよ。コイツはきついぜ。ギリギリでアクメできねえぞ。ま、狂う前に素直になるこったぜっと」

 言葉の最後、プツッっと音を立てるような勢いで男の右手は動き、大きな乳房へと針が刺さる。細い細いその針。それが乳首を避け、乳輪部分へと突き刺さっている。女のくぐもった絶叫が響く。だが、その声には明らかに甘い響きが伴っていた。
 そんな女を見ながら、何本もの針を乳輪へと刺していく男。物欲しげに固くそそりたった乳首には一切触れず、ただその周りの部分へ何本もの針を刺していく。

「うぐっ、ううぅううう、ううううううっっっ!!!!」

 ガクガクと全身を痙攣させている女。太ももを舐めていた男が下品な声で笑い声を立て、スーツの短いスカートを捲り上げる。
空気に露になった女の下着。黒くレースのあしらったその下着は、女陰部分の布が染みになるほどに濡れていた。

「うはっ、見ろよ。このマンコ。椅子に汁が垂れるほど感じまくってやがる。たまんねーな。ひひ、今からタップリ可愛がってやるからよ。もう足がガクガクして力も入ってねえな。ほら、開けよっ!!」

 太ももを舐めていた太った男が言いながら、フラックスの肉付きの良い褐色の足を大きく広げ、椅子へと置かせる。そのまま、小さなナイフで黒く濡れた下着を切り取り、床へと投げ捨てる。

「ほらほらっ、こっちも早く素直にならねーと、テメエのデカイ胸が針だらけになっちまうぜ。こんなに乳首をおったてやがってよ。マンコも濡れ濡れじゃねーか、え? おら、軽く頷けば乳首に刺してやるぜ。どうだ、欲しくてしかたねーんだろ、この雌豚がっ!!」

 針を持った男が持ち替えた長い針で、フラックスの乳首をツンツンと軽く嬲る。その大きな乳房には既に何本もの細い針が刺さり、うっすらと赤い血が流れていた。
だがそれにも快楽を感じているフラックス。両の黒い瞳を涙で濡らし、顔を真っ赤に染め、必死に我慢するように顔をしかめている。
男の針が乳首に触れる度、期待するように体を揺らし、喉の奥からくぐもった喘ぎ声を漏らしている。しかし、それでも頷かない。ギリギリで踏みとどまっている。

「それじゃあ、俺はこのマンコとケツ穴を責めてやるよ。ひひ、この筆でよ、粘膜部分にストーマーをイヤってほど塗りこんでやるよ。これはキツイぜ。処女ガキでもよ、チンポ欲しさにマゾ泣きしちまうからな。精々頑張ってくれや、カシラっ!!」

 太ももを舐めていた男が、足元に置かれたバッグから絵筆を取り出し、テーブルの上に置かれている皿へと先端を浸す。その皿の中には、水に溶かしたストーマーがたっぷりと湛えられていた。筆にソレを含ませ、堪えきれない笑みを浮かべながら、男が先端を女の陰部へと近づけていく。

「うううっ!! ううっ!! おおおおっ!! うぐぃいいぃいううううっっっ!!」

 顔を真っ赤にし、堪えきれず汗と涙、鼻水を垂らす女。必死で顔を横に振り、力が入らない腰を、それでも逃がそうと動く。

「おらっ、筆ばっかりに気を取られてるんじゃねーぞ、こらっ!!」

 女の意識が下半身に向けられた瞬間を見逃さず、ブツッっと長い針がフラックスの固く尖った乳首へと突き刺さる。

「うぐっ、うぐうううううううっっっ!!!」

 一瞬で絶頂へと登りつめる。気丈な顔はだらしなく歪み、ガクガクと体を痙攣させて、アクメの余韻を味わう。
しかし、男達は手を休めない。下の男が、絶頂で敏感になったフラックスのクリトリスを嬲るように、何度も筆でくすぐる。
 その度、電流を流されたように跳ねる女の体。何度も、何度もアクメしているのか、喉から甘い叫びを上げながら、蕩けた顔で喜びの涙を流している。陰部からは、一筆ごとに大量の汁が溢れ、椅子にどんどんと染みが広がっていく。
 その様子を見ながら、針を手にした男が、何本もの針を乳首へと刺す。その後、針を抜き取り、うっすらと出来た傷口に液体のストーマーを塗りこんでいく。
いくつもの穴を開けられた両方の乳首をストーマーで濡れた指で摘み、コリコリと刺激を加え、固く尖った乳首をさらに巨大に張り詰めさせる。

「こいつ、イキまくりじゃねーか。も、もう我慢できねえ。この顔、すっかり雌便器そのものだぜ。たまんねぇ」

 両手を押さえながら、耳や顔を舐めていた男がそう叫び、ズボンを一気に足元まで下ろす。中央の男根は張り裂けそうなほどに怒張し、女を陵辱しようと上を向いていた。
その男根を、連続して絶頂へと導かれているフラックスに近づける。
 と、その時、フラックスの表情が一変した。何度アクメしようとも、ギリギリのところで強気の姿勢を崩さなかったフラックス。
それが、男根が顔に寄せられた途端、その瞳がトロンと蕩け、男に、いや男根に媚びを売るような視線を向ける。
 まるでそれは、徹底的に性処理奴隷の作法を身につけた雌のようだった。ハァハァと、猿ぐつわ越しに甘い吐息を漏らし、男根へ自ら頬擦りしそうなほど近寄っていく。
 自由になった両手がブルブルと震え、まるで主人を迎えるように熱い男根へと触れる。そのまま、欲望を抑えきれず男根を擦りだす。褐色に日焼けした腕で、暴れることも無く、完全に屈服したように男根へと奉仕を行い始める。

「うう、コイツ。そうとうチンポ慣れしてやがる。この手コキうますぎじゃねーか。それに解ったぜ、この女。とっくにチンポ中毒だ。チンポの匂いを嗅いだ途端、心が折れやがった。この顔、性奴隷そのもののツラしてやがる。ほら、その口マンコで奉仕しな。コレがテメエのご主人様だよ」

 言いながら、女の口から猿ぐつわを外す。その瞬間、抑え切れない喘ぎ声が部屋へと響き渡る。フラックスの体を嬲っていた他の男達も、その様子を見て、ズボンを下ろし猛り狂った男根を取り出す。
 ハァハァと犬のように紫の舌を伸ばし、目の前の三本の男根を舐めようとするフラックス。
先ほどまでの光は既に瞳の中に無く、そこにはただの性欲に狂った雌の顔だけがあった。

「おら、カシラ。まだ舐めさせねえぞ。挨拶があるだろうが。この三本のチンポに対する挨拶がよ。言え。じゃねえとずっとお預けだぜ。ほら」

 三人の粗暴な笑い声が部屋の中へと響き渡る。その声に、ビクッっと体を痙攣させるフラックス。ガクガクと体を痙攣させながらも、必死で歯を喰いしばり、男達に抵抗の様子を見せる。
 男根を触っていた手を必死で離し、男達を睨みながら情欲で震える唇を開く。

「き、貴様ら、なんかに。ふ、ふざけるんじゃないよっ。そんな、そんなチンポ……、ほ、欲しくなんか、ん……、クソ、絶対、絶対っ!!」

「ちっ、全くしぶとい女だぜ。仕方ねえ。どうやら、本気で嬲ってやらなきゃいけないみてえだな。此処はよ、うちのギルドの拷問室兼、調教室なんだぜ。たっぷり狂わせてやる。てめえの弱点も解ったことだしよ。匂いだろ? へへ、一発で解ったぜ。てめえはチンポの匂い、雄の匂いで感じちまう雌豚なんだよ。それをよ、たっぷり解らせてやる。おい、椅子を倒してコイツを固定しろ。もう遠慮しねえぞ。ぶっ壊れる寸前まで追い込んでやるよ」

 リーダーの指示に従い、二人の男が情欲で力の抜けた女の体を、水平に倒した椅子に固定してく。何度も経験があるのか手際よく、喘ぎながら暴れる女を押さえ付け、両腕、両足を広げた格好で固定していく。スーツに何度も切れ目を入れ、両腕、胸、太もも、陰部があらわになる。

「それじゃあ、コレだ。解るか? 開口具と鼻フックってヤツだ。覚悟しろよ。テメエが泣きわめいて失神しても容赦しねえ。死ぬギリギリまで責めまくってやるぜ」

 両手両足をガッチリと皮具で椅子に固定されているフラックスへ、男が笑いながら近づいていく。その右手には、奇妙な道具が握り締めてあった。
残り二人の男は、女の顔を男根で嬲るように叩く。その度、体が痙攣するように震え、股間から抑え切れない愛液がビュクビュクと溢れる。
 快楽に抵抗できないその顔を二人の男が固定し、口へ奇妙な器具が取り付けられていく。ソレは穴の空いた皮製の猿ぐつわ。中央にぽっかりと大きな穴が開いており、その中でフラックスの紫の舌が覗いている。そして、鼻フックが取り付けられる。まるで、家畜のように……。

「ふぐ、うぅぅうううぐぐうううっっっ!!」

「はははっ、まるで豚みたいな顔になったぜ。お似合いだ。くくっ、ストーマーの所為で痛くはねぇだろう? 今から何をされるか解るか? まず、お前に便器の作法を叩き込んでやるよ。そのクソ生意気な口の中に、俺達の小便と精液を注ぎこんでやる。それから、鼻の中にもだ。脳までザーメンの匂いがこびり付くように、直接ぶちまけてやるから、覚悟しろよ。おい。俺は、マンコに針を刺しまくってやる。この生意気な女を死ぬほどイキまくらせるぞ」

 言い終えた男が、何本もの針をストーマーへと浸していく。ヒクヒクと痙攣している陰部を指でなぞり、その粘ついた濡れ具合を確かめる。
男の指の間でねっとりと糸を引くほど濃い愛液が大量にこぼれ出し、筆で嬲られたクリトリスは、固く赤子の親指並みの大きさでそそり立っていた。

「よし、お前らザーメンと小便を飲ませてやれ。喉の奥まで突っ込んで、一滴残さず胃の中へぶちまけてやるんだ。ひひ、カシラ様よ、そんなに顔を真っ赤に染めて、え? 期待してるんだろうが? さっきから、マン汁が溢れてきて止まんねえぞ。余った一人は交代するまで、乳首を潰すくらい摘みながら、全身をこってり舐めまくってやれ。腋の下からヘソの穴まで、今なら死ぬほど感じるようになってる。よし、やるぜ」

 その言葉の直後、プスッっと何のためらいも無くクリトリスへ、ストーマーに濡れた細い針が突き立てられる。

「うぐっ!!! あぁ、ああああああっ、うぐっ、うぐぅぅぅぅうううっ!!!」

 開口具の奥からアクメの叫び声を上げる女。涙を流し、陰部から勢いよく潮を噴き、男の針を持つ手を濡らす。
だが、その手は止まらない。ゲラゲラと笑いながら何度も何度も、細い針をクリトリス、陰唇、膣の入り口へと突き刺しては、抜く動作を繰り返す。
その度、フラックスの体が海老のようにのけぞり、喉から絶頂のアクメ声が上がる。新たにできた傷口、そこを筆で何度もなぞり、容赦なく快楽へと突き落とし続けていく。

「よし、それじゃあ俺もやるぜ。ほらカシラっ、メシだ。テメエはこれから先、一生、小便と精液を主食にして生きるんだ。おら、隠してもバレバレなんだよ。俺のチンポから目を離さねえじゃねーか、あ? そんなに蕩けた目をしやがって。え、どうした、抵抗しねえーのか? ひひ、そら突っ込んでやるよ」

 顔の前に突きつけられた男根が、ぐぼっっと音を立て、女の口に挿し込まれる。一気に喉の奥まで容赦なく進入し、強烈なピストン運動を繰り返す。

「うおおっ!! こ、こいつ、めちゃくちゃ舌を動かしやがって。すげえぞ……、コイツの口。うお、喉の奥まで吸い込まれて、舌が、舌がすげえ。おぉ」

 顔を紅潮させ、鼻フックから甘く鼻息を漏らしながら、自分から頭を動かす女。頬は思い切り男根を吸引している為か、強くすぼまり、黒い瞳からは歓喜のあまり涙をこぼしている。
 それを見ながら、男達は笑い、さらに嬲るように快感を加えていく。グポグポと卑猥な水音が部屋に響き、女の甘い鼻息が漏れる。

「ははっ、見ろよコイツのマンコっ!! 喉に突っ込まれる度に潮を吹いてやがる。この感じかた、ただ事じゃねーな。舌の色といい、夢人に改造されてやがったんだ。ちくしょう、元から雌奴隷のクセに俺達からずっと金を奪ってやがったんだな、このクソアマはよ。こいつは許せねえ。便器らしく、キッチリ躾けをしてやらなきゃよ」

 怒鳴りながら針を投げ捨てた男が、自らの男根に何かを巻いて行く。それは凶悪な突起のついたゴム状の布。その男根に巻きついた突起へ粉末状のストーマーをたっぷり塗りつけていく。全身を舐めていた男が、リーダーの合図に従い、新しい注射器を取り出す。
ポンプの中には新たな液体がタップリと充満している。
 だがその動きにフラックスは気付かない。喜びの涙を流しながら、鼻息荒くひたすら頭を動かして男根へと奉仕している。
情欲に蕩けきった顔、瞳孔の開ききった瞳、媚びるような表情で、まさに便器のように男根へとむしゃぶりついている。

「おおっ、出るっ!! コイツの舌が、グニグニと絡み付いて。ううう。おし、出すぞ、え? ドコに欲しい? このまま口に出して欲しいか? え? カシラ様よ。肉便器らしく口にザーメンが欲しいか、あ?」

 激しく頭を動かして奉仕を続けるフラックス。その瞳に輝きは無く、ただ男に、いや男根に媚びるような色だけがあった。
美しく整った褐色の顔が、鼻フックで固定され醜く情欲に歪み、ただ男根に支配され、甘い吐息を漏らす。
そして、男の言葉に何度も頷く。出して欲しいと、喉の奥を精液で征服して欲しいとひたすら哀願を続ける。

「うぅうう、うううっ!!」

 その完璧に堕ちた雌の表情に、男が堪えきれず、喉の奥へと男根を深く挿し込む。

「うううっ、この便器がっ、出るっ、出るぞ。飲め、飲めっ!!」

「うぐぅううううぅぅうう!!!!!」

 男根を咥えたままの女の喉から、はっきりと分かる大きな絶頂の叫び声。喉の奥に汚い精子を出されながら、今までで一番深くアクメする女。
そのガクガクと痙攣している乳首に、新たな注射器が突き立てられ、一気に中身が流し込まれる。
さらに、凶悪な突起がついた男根が情け容赦なく、フラックスの後ろの蕾に差し込まれる。

「ううううううううううううううううううううううううぅぅぅうう!!!」

 白目を剥きながら、あまりの快感に失神する女。しかし、男達はそれを許さない。
気絶したフラックスの顔につけられた鼻フックを揺らし、現実へと引き戻す。

「くく、次は俺の番だぜ、便器女。あ? 少しはイイ顔になってきたじゃねーか。まだまだ終わらねえぞ。皆が出し終わったら、次はその鼻に流し込む。そして、ケツ穴。最後、テメエを床に這わせ、俺達の小便を舐めさせながらマンコを何時間も犯してやるよ。え? ははっ、なんだ、想像だけでイっちまったのか? めちゃくちゃ潮噴きしてるじゃねーか。とんだ便器女だぜ。おら、しっかり舌を動かせよっ!!」

 新たな男が、いきり立った男根をフラックスの喉へと挿しこむ。
アナルは凶悪なモノで容赦なくほじられ、それでも感じているのか、ブクブクと泡になった腸液が椅子に流れていく。
 
 部屋に何度も響き渡る、フラックスの甘い絶頂の叫び声。
何度精液を吐き出しても、ストーマーの効果からかすぐさま復活し、女へと襲い掛かる男達。

 狭い部屋の中、肉欲の地獄が、いつ終わるとも無く繰り広げられていた。



[15558] 挿話 元普通人の話 後編
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/03/19 02:14
 挿話 元普通人の話



 地下都市の暗い夜道を、風のように一つの影が疾走していた。
長身の引き絞ったカラダを着慣れないスーツに包んだ姿。顔は大型の工業用マスクですっぽりと覆われている。
スーツの上からでも解る発達した筋肉と、暗闇の中を全くブレもせずに駆ける、その凄まじい運動能力。

 長い足が滑るように動き、足音一つ立てずに建物の陰から陰へと移動していく。工業エリアのハグレ。フラックス護衛役『ナット』 それが、彼の名前。
 工業ギルドの餌付けしてあるスパイから聞きだした住所。
壊れた噴水の近くにあるその建物を見上げながら、彼はゆっくりと左手の義手を取り外し、短い槍のような形状へと変形させ、右手で油断なく脇へと構えた。

 いまから約2時間前、餌付けしてある列車乗務員から彼が聞いた報告。

 『駅と旧校舎周辺での転生者による破壊騒動』

 カシラからの取引終了の報告を待っていた彼は、その言葉が伝えられた瞬間、スーツに着替え列車へと向かった。
地下都市には畸形がいない。いや、正確には、街を自由に歩いている畸形が存在しない。
工業エリアでは畸形は、皆一箇所の施設に纏められ、人目に触れない生活をさせられる事になっている。

 ソレが新入りのアバラを地下都市に潜入させた理由であり、彼こそが工業エリアのハグレが最も欲しがっていた、カシラ以外のドラッグ取引要員。
その顔見せとパス偽造。簡単な要件のハズだったが、一向にカシラからの連絡がこない。
焦れていたナットを突き動かすには、列車乗務員のその報告で充分だった。

 マスクを装着した姿で、夕方の列車で地下都市に潜入。駅で珍しく獣人とすれ違い、一瞬なぜか不吉な思いに捉われつつも、マンホールへと侵入。
何故かそこで眠っていたアバラを起こし、列車のチケットを渡し、ナットだけが旧校舎へと向かった。
 瓦礫で埋まっていたマンホールを迂回し、旧校舎へ辿り着いたナット。そこで彼は発見する。フラックスのスーツの切れ端と、少量の血痕を。
己の勘に従い、すぐに工業ギルドの連絡員に会い、カシラのいる場所を選定し、現在へと至る。
 

 建物を見上げた後、一瞬の迷いもなく、彼は足音一つ立てずに潜入を始める。右手でしっかりと短槍を構えながら、建物の中へと。
ナットと建物の周囲を暗闇が取り囲んでいる。地下都市が、夜も明るく治安が良かったのは、はるか昔の事。
5年前、転生者と夢人の争いが始まってから、夜は暗く危険なものと化した。
窓の外から差し込む光もない。闇の支配する廊下を、彼はただ独りで油断なく進んでいく。

 と、ピタリと彼の足が止まる。どこからか聞こえてくるボソボソとした話し声。
マスクを外して腰にかけ、犬のように歯をむき出しにしながら、ナットは瞳を閉じて、耳に神経を集中する。
 
 突き当たり、右の部屋から、複数の男の低い声と笑い声が聞こえてくる。
独り静かに頷いた後、ナットは真っ直ぐにその部屋へと向かう。はっきりと聞こえる話し声。そこから彼は、一瞬で三人以上だと判断を下す。
扉に背をつけ、一分間瞳を閉じたまま耳を澄ます。相変わらず聞こえてくる笑い声。それが最も高まる瞬間を見極め、一気にドアを蹴破る。

「なっ、なんだ、て、てめえはっ!!」

 突然表れたナットに対し、驚愕の叫びを上げる男達。それに構わず、まずナットが狙ったのは照明。
疾風のごとく槍を振るい、部屋の中央に下げられていた照明を破壊。
瞬時に闇に包まれる部屋。男達のどよめき声が聞こえる。
 
 立ち直る暇など与えない。前もって瞳を閉じていた為、ナットには闇の中でもはっきりと男達の場所が解った。恐怖に怯えている、その表情までもが…。
無造作に槍を突き出し、近くに立っている男の胸を貫通。そのまま右手を捻る。
かちり、と音を立て、胸に刺さった部分が外れ、その中から新たに尖った穂先が現れる。

「うげっ」

 太った男に近づき、足払いをかけて床へと転倒させる。
無様に転がったその姿、剥きだしの下半身をおもいきり踏みつけ、あっさりと残る一人の胸へ穂先を突き刺した。
突然の事態を理解できず、口から大量の血を吐き出しながら悶える男。
 完全にそれを無視しながら、ナットは槍を引き抜き、足元で悶絶している男の心臓へ、ずぶりっと刺す。
ガクガクと全身を痙攣させながら、足元の太った男が血を吐き、ぐったりと死体になっていく。
彼が扉を蹴破り、最後の男が息絶えるまで要した時間……、約三十秒。

 全ては彼が館に潜入し、五分と経たない時間の出来事であった。




「カシラ……。おいっ、フラックスっ!! 大丈夫か、おいっ!! カシラっ!!」

 ガクガクと気だるい体を揺さぶられ、ゆっくりと私は目を開く。無理矢理、口の中におなじみの安定剤が押し込まれ、冷たい水で流し込まれる。
喉を潤す、その感触。冷えた水で一気に脳が冴えわたる。
 私は素早く自分の体を確認した後、目の前に立っている狼のように口が裂けた、隻腕長身の男を見つめながら口を開く。

「ナット……? くっ、すまないね。今は……、もう夜かい。ちょっとしくじっちまったよ、アイツラ、は……」

 見回すと、私が嬲られた部屋の中、その三人の男の死体が無造作に転がっていた。
全員の胸、丁度心臓の位置にあたる場所。そこに、槍のようなモノで刺し貫かれたような穴が、ポッカリと空いていた。

「ああ。昼過ぎに駅で爆発があったと駅員から聞いてな。まあ、それでギルドの餌付けしたヤツを使い、何とかここまで潜って来た。だが、限界だな。俺の外見は目立ちすぎる。今すぐ地上に戻らねえと、クソを全身に浴びるより酷い事になりそうだ。カシラ、立てるか?」

 彼の残った右手だけで、力強く私の体を支えられる。
股間、口の中、いや体全体から三人の男のザーメンと小便の匂いが漂い、ドクンっと私を劣情に誘う。
 
 いや、しっかりしなければ……。安定剤の助けを借り、なんとか意識を保とうと足掻く。
旧校舎に入り込んだ直後、落ちてきた破片で頭を打って気絶したあげくが、この有様……。
 瑠璃に改造されつくした性奴隷の本能が、雄の精液の匂いへ反抗を許さない。もう過去は振り切ったつもりだった。
だが、甘かった。自分の弱さに、肉欲の浅ましさへ情けなさが湧き上がり、思わずギリギリと奥歯を噛み締める。

「カシラ……。まあ何にせよ、無事で良かったぜ。アンタは俺達に必要なんだ。カシラのおかげで皆、随分助かってるし裕福になった。日々のメシにも困らずに済んでる。子供も死なずに皆、犬コロ並みにはしゃいでる」

 ナットの低い声。まるで狼のように裂けた唇からこぼれてくる低い声。それに少しずつ心が慰められていく。

「いいか? 前も言ったと思うが、カシラが自分を卑下するのは勝手だ。アンタの心だし、アンタだけのクソッタレな過去だからな。だが、皆が……、いや俺が、過去とか関係なく『今』のアンタを尊敬してるって事は忘れんでくれ……。さあ、行こうぜカシラ。やはり地下は臭い。臭くて俺の犬鼻が曲がりそうだぜ」

 ニヤリと微笑んだ彼、その一本だけの腕でがっしりと背中を支えられる。ナットの低く、淡々とした言葉に心が揺さぶられ、勇気を貰う。
彼の狼のように鋭い視線。尖った顎。飢狼のように研ぎ澄まされた気配。5年前、私を助けてくれた頃と何も変わってない。
そう、あの頃と何一つ。そして、今日もまた助けられた。5年前に彼がいなければ、私はきっと今でも瑠璃の屋敷で、奴隷として飼われていただろう。

「ああ……。いつもすまないね。さ、地上に戻ろうって、そうだ。アバラは? ナット、あの男を見なかったかい?」

 気力を振り絞り、ナットの持ってきた布で体を拭きながら尋ねる。そうだ、あの男……。あの男と天使はもう、立派な工業エリアのハグレだ。
口では色々と試すような事を言ったが、二人とも立派な仲間。見捨てる事など出来ないし、見捨てない。

『助けられそうな仲間は助けろ』

 あまりに曖昧なハグレの戒律。5年前、地下のゴミ捨て場でナットに助けられ、ハグレとしてずっと暮らし、ナットの推薦によってカシラになった。
それからの日々。私は一人でも多くのハグレを助けたいと思い、それだけを目標に努力してきた。
『助けられそうな仲間』を増やす為、文字通り、血を流す思いを重ね、ようやく軌道にのってきたハグレ達の生活。
もはや子供が生めないカラダの私。代りに手に入れた、大切な子供と言えるハグレの仲間。誰一人として、見捨てない……。

「ああ、あのインポ野朗か。駅の下水で眠ってたぜ。なにやらゴタゴタがあったみたいだが、まあ、一刻も早く天使に会いたいってツラしてたからよ。夜の列車で帰らせたぜ。ソレで良かったかい、カシラ? まあ、こんな様子じゃあ次のストーマーの取引も当分先になるだろ?」

 その報告に安堵のため息を吐きながら、頷きを返す。平凡な顔立ちながら、修羅場をくぐってきたハグレらしい瞳をもっていたアバラ。
簡単に死んだりする男じゃないと思っていたが、やはり目端の利く男だったようだ。

「そうかい。じゃあ、とっととズラかるかい。すまなかったね、ナット。今から急げば深夜の列車には潜り込めるだろう。行こう」

 汚れた布を足元に投げ捨て、男達の死体から着れそうな服を剥ぎ取る。ナットを見れば、顔を隠すためだろう。大き目のマスクをスッポリと被り、スーツの左手部分に木製の義手を装着していた。
 年季の入った飴色の木で出来た義手。肩から取り外しができ、スイッチ一つで杭のような短い槍として使用できる武器でもある。
工業エリアで最強のハグレであるナット。5年前、犬に犯されていた私を救い、人間へと引き戻してくれた狼……。

 私に大きな背中を向け、油断なく外を見渡している姿。真剣な鋭い眼差し。カラダの底から、ズキリとした甘い痛みのような思いが湧きあがる。
その想いを隠しながら、私は静かな足取りで彼の後を追い、外へと飛び出した。
 胸の奥、カシラの命令として『私を抱け』となぜこの狼に命令しないのか、と自問しながら……。




[15558] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 1/16
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:9a343a1e
Date: 2010/07/20 03:33
 終章 『それでも貴方とわたくしは』 1/16



 ガタガタと相変わらずリズム良く揺れる列車。その窓際に座った俺は、憎憎しげに左手薬指のリングを睨み、深くため息を吐く。
銀色の輝きを放つリング……、その中央には緑色の宝石が嵌っている。何度も引っ張ったり回したりと試しているのだが、全く外れる様子すらない。
男に飢えた未亡人の性器のように、俺の薬指をくわえ込み、がっしりと固定している。

「クソったれ……。ゾウムシが見たら、死ぬほど笑いやがるだろうな……」

 諦めて上着のポケットに手を突っ込み、舌打ちをしながらコメレス紙巻を取り出す。
駅トイレのマンホールで、<犬野郎> ナットに列車のチケットと一緒に貰ったモノ。まあ貰ったと言っても、昨日、俺がナットに交換条件として渡したブツだ。
鼻に押し当て、ほんのりと青臭い匂いを吸い込む。はやく火をつけて煙を肺に入れたい。しかし、列車の中では流石にマズイだろう。
欲望を我慢しながら唾を飲み込み、ぼんやりと窓の外を見る。
 
 暗い……。トンネルの中だから暗いのは当たり前なのだが、時間的にはとっくに夜だ。このトンネルを抜けたその先にも、暗い闇が広がっているのだろう。駅で騒動があったらしく、列車の発車が遅れた為、なんとかギリギリで夕方の列車に乗り込むことが出来た。
全く……、数時間の僅かな滞在とはいえ、ゲロ以下のトラブルばかりが起こった地下都市訪問だった。

 地下都市……。今日の昼にカシラ達が言っていた通り、発情したピンクネズミのようにトラブルが向こうから寄って来る最悪の街。
色々とあったが、やはり<カシラ> フラックスの事が心配だ。あの極上に熟れたカラダ……。気の強そうな瞳……。かすれたような欲情をそそる声……。
 どこを取っても最高クラスの女。しかし、それゆえに、トラブルに巻き込まれたとしても、そう簡単には殺されないだろう。
あのカラダは利用価値が高すぎる。どんな厄介ごとに巻き込まれているにせよ、きっと生きている。
 俺に出来ることなら手助けしてやりたい。だが、ほとんど他所者に過ぎない俺には地理も解らず、何も出来ないだろう。
ナットの言葉通り、一足先にハグレの棲家へと戻る事を決め列車に飛び込むことになった。 

 ガクンっと一際大きな衝撃が走り、列車がゆっくりと減速を始める。トンネルを抜け、ようやく清掃ポイントに着いたようだ。
ここで路線の切り替え作業を行う為、数分間の停止を行うらしい。勿論、俺はココで降りる事になる。
席を立って列車乗務員に頷きを送り、乗務員室へと入る。昼に乗った部屋と変わらない広さを持つ一室を抜け、コメレスを唇に挟みつつステップを降りた。
 
 その途端、強烈に吹き付けてくる砂混じりの風。バチバチと顔にあたり、小型の蜂に刺されたような痛みが襲ってくる。
舌打ちをしながら列車の影に入り、風をよけてコメレスに火をつけ、砂漠の中へ足を踏み出す。
やはりとっくに日は落ちていた。闇を抜けてくる風は冷たく、吹き付ける砂の痛みをより一層際立たせてくる。
その中を俺はコメレスのほのかに甘いような煙を吸い込みながら、しっかりと足を踏み出していく。
 
 充分に注意をしながら、昼間ここを通った時に教えられた目印を、見失わないように注意する。一見、何の変わり映えもないような、この砂漠の景色。
だが、所々に配置されている生き物の骨や、枯れた木の枝、大葛サボテンの針の位置。そういったモノの全てがハグレの棲家への道しるべとなっている。
これを見失えば、広大な砂漠の中で下手すると死ぬまで彷徨う事になる。時々足をとられる砂を踏みしめながら、俺は暗闇の砂漠の中をゆっくりと歩いていく。

 見渡す限りの闇の中、星明りだけを頼りにして進む。夜風に吹かれ、舞い上がる砂が、時々瞳に入り痛みを起こす。
足元をカサカサと音をたてながら枯れた草が転がっていく。どこか、なつかしいその音……。
 俺が12の時、親父が死んで、そこからずっと一人だった。棲家にしていた商業エリアを抜け、オリジナルワールド中のハグレの巣を彷徨った事を思い出す。
頼りに出来るのは『ヌキ屋』としての腕と、俺の奥底に潜んでいる『黒夢』だけ……。様々なエリアを抜けながら、色々な人々と知り合い、そして別れた。
どうして、俺はあんなに彷徨っていたのか? もはやその動機は消え去り、ただ、ぼんやりとした過去の記憶しか残っていない。

 足元に吸い終ったコメレスを投げ捨て、砂の上で踏み潰す。小さな火が僅かに飛び、それもすぐに消えさっていく。
俺は……、かつて誰かを探し、求めていたような気がする。
もはや、思い出せない記憶。『黒夢』に喰われた記憶の中で、俺は誰かの姿を探し求め、必死に彷徨っていたはずだ。
半身とも言える存在を、俺はかつて、必死に求めていた……。やはり、俺は大切なナニカを忘れている、という不安が膨れ上がる。

 ――― 黒夢 ―――

 地虫である俺に眠る力。それは、有り得ないハズの能力。夢を『再現』できるのは『夢人』のみ。そんな事は、オナニー狂いのガキでも知っている事実。
なら、俺に使えるこの力は何だ? 俺の記憶、俺の人格をあざ笑うように食い散らす、この能力は……。
 何を忘れたのかすら、忘れている。だだ胸によぎるのは、何かを無くしまったという喪失感だけ。結局、俺は何も得られない……。
例え、どんな良い事も悪い事、悲しい事も、いずれ全て忘れることになり、そして忘れた事さえ気付けない。

 気が狂いそうな不安感に押しつぶされそうになる。だが、それを必死の努力で考えないようにして、ひたすら足を踏み出す。
考えるな……。アイツが待ってるんだ。アイツ……、ゾウムシが俺の帰りを待っている。
 柔らかくなびく銀色の髪、エメラルドの瞳を子猫のように輝かせながら、馬鹿みたいな笑い顔で俺を待っている。
ほう……と大きく息を吐く。夜になると急激に冷え込む砂漠の中で、吐き出した息が白く漂う。アイツが待っている。
 それだけは、ただそれだけは忘れたくないと、俺は何かに願いながら、また一歩足を踏み出し続ける。





 テントの布に、バチバチと砂が当たる音が響く。私は自分の唇を触りながら、その音を聞いている。
昨夜のキス。アバラからして貰った、初めてのキスのことを思い出す。自分の頬が赤く染まり、ニヤケてしまうのが解る。
カラダの奥、下腹部がジンジンと熱を持ち、なんだか恥ずかしいような、嬉しいような不思議な気持ち……。

 今日の仕事。機織りの最中も、何度もニヤけてしまい、いっぱい皆にからかわれてしまった事を思い出す。
自分の銀色の髪を、その中の一人、片目のおばちゃんに貰った櫛でとかしながら、ゆっくりと息を吸い込む。

「あらあら。ゾウムシちゃん。そんなに可愛いんだから、積極的に行かなきゃ駄目だよ。うちの『カシラ』は美人だからねぇ。ウチの亭主なんか、いっつも涎垂らしてるんだから。ほらっ、そんな顔しないのっ!! 言ったでしょう、もっと積極的に行けば大丈夫よ。この櫛も口紅も貸したげるから、ね?」

 片目、片足のおばちゃんはそう言って大きな声で笑いながら、私にコレを貸してくれた。テントの中にある鏡に向かい、ちょっと震える手でその口紅を取り出す。
私の薄い唇……。あの『カシラ』さんとは全然違う、妖艶さの欠片もない唇……。ちょっと泣きそうになる。
鏡に映る私の瞳に、うっすらと涙が溜まっている。いけない……。ぶんぶんと頭を振りながら、なれない手付きでゆっくりと紅を差していく。

 アバラ……、笑うかな? それとも、少しはドキドキしてくれる? 思ったよりも上手に出来た唇。鏡の中の私がにっこりと微笑んでいる。
私が、アバラの元に押しかけて2年……。一度も抱いてくれなかった日々。それなのに残酷なほど優しい。
『天使』のカラダが性を求め、私を蝕む夜が何度もあった。その度、アバラに見つからないように声を押し殺し、自分で自分を慰める夜。

 でもいい……。気分を切り替え、鏡に向かいもう一度微笑んで、すっと立ち上がる。きっともうすぐ帰って来るアバラの為に、テント中央の火で蛙を炙り出す。
じゅうじゅうと油が滴り落ち、表面がパリッっとした感じに焼きあがる。そのギリギリ直前で火から外す。後はアバラが帰って来てから、最後に軽く炙れば出来上がり。
テントの中に充満したいい香りが食欲をそそる。二人で笑いながら、一緒に食べる。その想像の風景に笑顔がこぼれる。ああ……、早く会いたいなぁ……。

 睡眠不足の目をこすりながら、大きく欠伸。
 ねぇ、アバラ……。私、我儘言わない。アバラが嫌なら、抱いて欲しいなんて求めない。
もしも、カシラが好きだって言うならそれでもいい。だから……、せめて側に居させて……。偶にその笑顔を私に見せてくれれば、それでいい……。
けして声に出せない、そんな想いを胸に秘め、私はもう一度、大きく欠伸を繰り返した。
 






「なっ!! あの男っ……。ウシアブっ見て! 今、列車を降りてきたあの男……、ひょっとしてアバラじゃない? 昼の列車で見かけた時、どうも気になって仕方がなかった男よ。ヒゲ、髪、服装が違うから解りにくいと思うけど……。どうかしら、ウシアブ?」

 意外と広い小屋の中、歓楽街の自治人、サキモリ ハガネが赤い眼鏡を触りながら、隣に立つウシアブへと緊張した口調で問いかける。
列車清掃人が休憩する為の小屋。その小屋の中で四人の男女が息を殺しつつ、列車から降りてきた男を見つめていた。

「…………ああ、そうだ。暗くてヒゲと髪が随分違うから解りにくいが……。まず間違いなくアバラの野郎だ。なぁ、サキモリ……、繰り返すがあの野郎と、ゾ、ゾウムシは殺さないんだろ? ただ、姫に連れて行くだけ。そうだな?」

 元地虫らしいボソボソとした低い口調でウシアブが言葉を返す。その口調には、苦悩と諦めの響きが混ざっているようにも聞こえた。

「そう、やっぱりそうだったのね……。ええ、ウシアブ。姫の指示では、アバラは必ず生存している事だったわ。それに、私の趣味として、絶対にゾウムシは殺さないわ。ただし……、姫の要件が済んだら銀髪の天使は私が頂くからね。ふふ……。ウシアブ? 貴方にはお嬢様がいるでしょう? 過去にこだわっていたら嫉妬されちゃうわよ、ふふふ」

 楽しそうな、そして欲情に焦がれた声で一等自治人が返す。その返事にウシアブは複雑そうな顔のまま、隣にいるシャーロットを見つめる。
どこか不安げなシャーロットの顔。ウシアブとサキモリの二人を交互に見つめ、思い悩んだ顔をしている。
金髪の<天使>カルマン=シャーロット。胸の中でまだ見ぬ銀髪の<天使>ゾウムシの事を考えているのか?
 
 歓楽街から来た三人の自治人達。彼らが先回りした小屋の中でアバラを観察し、それぞれがこれからの事を考えていた時、残る一人、獣人の女は全く違うことを思っていた。
 いや……、正確には獣人の外見を借りている存在<転生者>がアバラの姿を見て、考えを纏めようととしていた。

(あの男が自治人どもの捕獲目標とは……。この獣人の記憶によれば間違いなく、妖精が欲しがっているノーマルの男……。これは、どうするべきか? 捕獲して瑠璃に持っていけば、あの化け物の隙を突く事ができるかもしれん。いや待て……、あの男はギャングだったと瑠璃に嘘の報告をしてしまった。それならば、面倒な事になる前に殺すべきか? それとも……、いっそあの男を <喰い> その外見で妖精、または姫を襲う事はできるか?)

 獣人ユキの外見を借り、密かに考えを纏めている <転生者>。その事に誰も気付かず、ただ小屋の中に沈黙が漂う。
が、その空気を払うように、サキモリが声を上げた。

「いい? とにかく姫の指示を完遂するわ。これから、あの男<アバラ>を尾行。そして、住居を突き止めた後、一旦この小屋まで帰り、再度計画を練る。充分知っているとは思うけど、地虫どもは恐ろしいほど仲間を守ろうとする。だから、ベストはあの男の家だけを急襲する事よ。いいわね? きっとあの男の小屋には天使もいるわ。なるだけ闇に紛れ、静かに行動する事。わかったかしら? とりあえず今から尾行を行うのは私とウシアブの二人。お嬢様は監視役のユキさんと此処で待機。いい?」

 そのサキモリの言葉に皆が頷き、行動を起こし始める。ウシアブが大きな手でお嬢様の肩を一瞬撫で、制帽を深く被る。サキモリが荷物袋の中から砂漠によく似たベージュ色の外套を取り出し、体に纏う。さらに赤い眼鏡の上からゴーグルを装着し、ウシアブと小声で打ち合わせを始める。
一等自治人サキモリ ハガネの瞳が飢えた猟犬のように輝く。彼女の右手にはリングが輝き、ウシアブの腰には警棒が何本も装着されている。
作戦前で高揚する精神。だから、サキモリは気付けなかった。

 独り闇を睨んでいる獣人ユキ。彼女の口が邪悪に歪んでいた事を……。サキモリは気付いていなかった。ユキの目が、一瞬、彼女の右手に止まり、納得したように頷いた事を……。



[15558] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 2/16
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:583704fc
Date: 2010/07/20 03:33
 終章 『それでも貴方とわたくしは』 2/16



 夜の闇の中、見渡す限りの広大な砂漠が、まるで海のように広がっている。白く輝く月が照らし出す中、俺は一歩ずつ前へと足を進めていく。
時折強い風が吹き荒れ、ザラザラとした砂が顔にあたる。何度拭っても瞳の中へと入り込み、両目は熱を持ったように痛む。

「クソ……寒いうえに……腹は減ったしよ、ヤク切れのジャンキー並みに最悪だぜ」

 夜の砂漠は信じられないほど寒く、日中との気温差が容赦なく体力を奪っていく。何度も唾を飛ばし、口の中へと入り込む砂を足元へと吐き出す。
列車を降りどれくらい歩いたのか、昼とはまた違う劣悪な環境に時間感覚は薄れ、はっきりと把握できない。
 時折、巧妙に隠された手がかりを調べれば方向は間違っていないはずだが……。

「ん……? なんだ……、なにかの曲……?」

 砂漠を吹き荒れる風に乗り、聞き覚えのあるメロディーが途切れ途切れになりながら、俺の耳へと届く。それは、昨日テントの中で聞いた声……。
透き通った氷のような穢れの無い声。どこか懐かしく、哀切を憶えるその旋律。それは旧い旧い詩……。離れ離れになった恋人が互いを想い作った詩。
 間違いない。俺の口が笑みのカタチへと歪んでしまう。ほとんど無意識に安堵のため息をはく。やっと帰って来れた……。
疲れきったはずの両足に力が戻る。

「あの腐れフタナリ……。のんびり歌なんて……」

 自然に笑みが溢れる。何故か軽くなった足をまた一歩踏み出し、俺はゆっくりとその方向へと進んでいく。強風に煽られながら、バチバチと顔にあたる砂を払いのける。遠くにポツポツと灯りが見えた。工業エリアのハグレどもの棲家だろう。
 どんな劣悪な環境だろうと、夢など無くても、それでも必死に足掻くモノ達の家。過去の事、未来の事など考えず、ただ無我夢中でひたすら『今』を生きている。

 地下都市でクソったれの犬野郎に貰ったコメレスを抜き出し、ゆっくりと唇へと挟む。強風にコメレス紙巻が煽られ、唇の先でフルフルと震える感触がくすぐったい。すぐに火を点けたいトコロだが、あと少し我慢する。
 きっと、あのクサレフタナリが待ってる。アイツと二人、メシを食って、そう、またギタールでも弾きながら……。

「ん……?」

 ぼんやりと記憶のソコにあるカタチと同じテントが目に映る。居住区に入り、周囲にハグレ達の棲家があるためか、じょじょに風は弱まり、視界がひらけていく。大きく聞こえてくるアイツの歌声。澄み切った水のような、砂漠を越えてどこまでも世界を巡っていく風のような、どこまでも伸びやかで自由な響き。

 テントの入り口まで、倒れそうなカラダを引き摺りつつ、そこで俺は立ちすくむ。自分の腐れノーマルそのものの姿を見て、苦笑しか浮かばない。
所々、地下都市の下水で付着した愛すべき蟲どもの体液、こびり付いた下水が乾き、茶色に変色してはいるが、それでも『地虫』には見えないほど清潔な姿……。しかも、ご丁寧に左手にはリングまで着けて……。
 なんとなく、この姿をテントの中で待っているゾウムシに、見られちまうのは気恥ずかしい。カシラかナットのテントに潜り込み、勝手に布に着替えちまうか? と、俺が躊躇した瞬間っ、

「アバラ!?」

 うんざりするほど元気な声と共に、バッっと音を立て勢いよくテントの入り口が開かれた。
闇夜に輝く銀の月……。その輝きを反射するように、風に吹かれながらサラサラと宝石のようになびく銀の髪。
 栄養失調の少年のように細い肩と、ペタンコな胸、薄く桃色に塗られた唇。そして、美しい顔に、エメラルドの輝きを持つ瞳。

「ゾウムシ……」

 テントの中から、パチパチと炎の燃える音、そして肉を焼いた食欲をそそる香りがあふれ出す。
が、俺達はそんな事を忘れ、ただ無言で馬鹿みたいに見つめ合う。何か言おう……と思うのだが、何故か言葉が胸につかえて出てこない。
 ――コイツだけは、俺を忘れずに、ずっと、ずっと待っていてくれる。
 ゆっくりと俺の顔に向かい伸びてくるゾウムシの掌。細く、白く、長い指。ピンク色で、綺麗に切りそろえられた爪。
それに向かい、俺もゆっくりと手を伸ばす。所々に怪我があり、太く、不潔で、爪の間に黒いカスがこびり付いた指。
 そっと、俺達は無言のまま、互いの指を絡めあう。ゾウムシの白い指、俺の黒い指。それが月明かりに照らし出され、二匹の蜘蛛が交尾をするように……。

「お、おかえりなさい……アバラ……」

「ああ……、ただいま……ゾウムシ……」

 頬を染め、俯き加減に唇を動かすフタナリ。なんだか、妙にその動作が艶っぽく、俺は何度も唾を飲み込みながら、そっけなく返事を返す。
弱々しく絡みついたままのゾウムシの指。それをしっかりと握りしめたまま、軽く空咳を行い、変になっちまった喉に渇を入れ、口を動かした。

「腐れフタナリ、腹減ったぜ。メシ、てめぇだけ先に喰ってんじゃねーよ。クソ」

「あっ、ああっ、そんな酷いっ。私、ずっと待っててあげたんだからっ。にししっ、いいトコあるでしょ? さっ、すぐに準備できるから、テントに入ろうっ」

 つないだままの左手が、そっとゾウムシに引かれ、俺はそのまま舌打ちをしながら、テントの中へと入り込む。
明るく炎に照らされたその内部。中央にある囲炉裏の周りには、何匹もの蛙が、口からケツの穴まで木の枝をぶち込まれた姿で、こんがりと焼かれている。
 工業エリアの下水に、足の踏み場もないほど繁殖しているカエル。その外見はとてつもなくグロテスクだが、味は最高。
昨日の昼間に喰った、あのジューシーな脂の旨みが舌へと蘇り、俺は生唾を飲み込む。

「ふふふっ、いっぱい食べようね。それに、その格好っ。あははっ、アバラ、似合うじゃん。ノーマルみたいに抜けてるよ、ひひひ」

「死ねよ、クソが! なんでそんなに笑ってんだ。手前にも着させてやろうか? 手前のチンポもよ、この圧迫される苦しみ、味わってみるか、あ?」

 軽口を叩きあいながら、ゆっくりと囲炉裏の周りへと座り込む。ゾウムシが素早く中腰になり、なれた動作で素早くカエルどもを、中央の火で炙りだす。
ジュウジュウと食欲を立てる音が、テントの中へ響き、なんとも言えない美味そうな香りが立ち昇る。

 ――ああ、やっと、コイツとの退屈な日常に戻ってこれた……。
俺は、ゾウムシの何が嬉しいのか、ニコニコと微笑んでいる横顔を見ながら、コメレス巻紙を唇へと咥えようとして…………。
 背後にあるテントの入り口……、それが、勢いよく開かれる音に、気がついた。


◆◆◆


 私のすぐ背後を、巨体のわりに全く足音を立てずについてくるウシアブ。
 歓楽街エリアで最初、ウシアブを拘束しようとした時の事、工業エリアの駅で、転生者と一戦の際の、ウシアブの尋常ではない体捌き……。その時から思っていたが、一級自治人である私と同等、いや下手をするとそれ以上の体術を持っているのでは?
 目の前、数メートル離れた場所をフラフラと歩く、標的アバラ。その後姿を気配を消しつつ見つめながら、私は背後のウシアブについても不思議な疑問を抱く。
自治人補佐にする際、取り調べた事によれば、ウシアブは農業エリア出身の地虫。だが……、毎日が喰う事で必死であるはずの『地虫』が、ここまでの肉体と体術を会得できうるものだろうか?
 それに、もう一つ疑問がある。駅での転生者との近接格闘時、たしかに彼の拳は転生者の肉体へとヒットした。通常、『夢人』の周囲には、常に外界から己を守るべく防壁、というべき膜が展開されている。それは、無意識に展開されている膜であり、それを貫くには、『夢』で強引に破るしかない。
 が、確かにあの瞬間、ウシアブの拳が転生者の腹部へと、重く鋭く突き刺さるのをハッキリと私は見た。一体……あれは、どういう事?

 ――もの思いに沈みながら、ゆっくりと砂の上へ足を踏み出していた私。その肩が、後ろからゆっくりと触れられる。
背後を振り向けば、ウシアブが素早く手を交差させ、いくつかの指示を私へ仰ぐ。

『音、確認、目標場所近い』

 手話とでも言うべき、単語を細切れにして、身振りと手で会話を行う技術。それは、皮肉にも闇に紛れ、囁き声でひっそりと会話をする『地虫』から発祥した技術。それを、原型とし自治人では、無言でのサインのやり取りの際に利用していた。元は同じものであり、ウシアブの習得は実に早かった。
 私も無言で頷きを返しながら、高速で腕を動かしつつ、これからの事を考えていく。

『現状維持、場所確認、後、帰還』

 当初の予定通り、標的アバラ、そして天使ゾウムシの住居を確認したら、一旦、列車清掃所の小屋まで戻り、そして深夜まで待機する。
いくら夢武器がある、とは言えたった二人でこの地虫の巣を抜けられるかどうか……。
 この工業エリアの地虫の『カシラ』がどれくらいの人物であるか? に左右されるけれど、油断は出来ないし、出来うるならば夢武器は使用したくない。
方針を再度、無言でウシアブと確認しあった後、私達は再び尾行を開始する。

 標的である平凡な男、アバラ……。スーツをざっくばらんに着崩した姿であり、この距離から見れば、くたびれた普通人にしか見えない。
だが、月明かりに照らされたその瞳は、確かに『地虫』のように、際限の無い飢えと、迷いの無い眼力を持っていた。
 そう……、ヤツら『地虫』は迷わないように思える。それは、きっと、迷ったり悩んだりすれば、たちまちのうちに、飢えて死ぬ環境にいるからだろう。
が、それは蟲や動物の生き方だ。私達ノーマルは、きっと未来が良くなる事を信じ、その為に生きていく。

「――――ッ!!!」

 素早く、音を立てないように注意をしながら、私は身を伏せる。もっとも近くにあった木の箱……、用途不明のモノだが、その背後へ影のように入り込む。
私の背中、同じように音もなくついてくるウシアブ。彼と二人、呼吸音さえも漏らさぬように、ひたすら静かにアバラの様子を伺う。

 一軒のテントの前で、アバラが何かを考え込むように立っている。しきりに己の服装と、左手を何度も月明かりに照らし、がしがしと頭部を掻き毟っていた。
 あそこが、ゾウムシがいるテントだろうか? 出来うるなら中が見える位置に移動したい……。丁度、ココからでは、入り口が開いた時に中が覗けない角度。
焦る気持ちを抑えながら、視界の端にアバラを捕らえつつ、どこか良い場所がないか探そうと……、した時に、勢いよくテントの入り口が開いた。

「アバラ!?」

 辛うじて聞こえたその声と共に、満面の笑みを浮かべた一人の『天使』が姿を見せる。

「――――ッッ!!!」

 その姿……。遠めからでもハッキリと解る、輝くダイアモンドのような銀髪に、洞窟の最深部に眠るエメラルドのような緑色の瞳。
まごうことなき純粋な『天使』の姿。シャーロットお嬢様も、普通の『天使』と比べれば極上の部類、一級品ではあった。
 が……、この『天使』はレベルが違う……。何人もの『天使』を嬲りぬき、徹底して快楽人形へと調教してきた私だが、ゾウムシの姿を見た瞬間、全身へと鳥肌が立って治まらない。
 背後のウシアブも、何かを思うように強く息を飲んでいる。私も、荒くなりそうな呼吸を必死で押し止める。
胸に込み上げる欲望。私、一等自治人、サキモリ=ハガネの『夢』。完璧なる『天使』を、骨の髄まで嬲り抜き、芸術といえるほどに壊したい……。

 ――あの細い両手、両足、それを少しずつ少しずつ、ナイフでゆっくりと傷口を入れ、そして、その度ごとに快楽を与えて射精させる。
一時間ごとに繰り返される、想像を絶する苦痛と、凄まじい快楽。お嬢様も大好きだった尿道責めを行いながら、じっくりとアナルの快感を仕込もう。
 そう……、そして射精を封じ、哀願するようになったら、耳元で私は囁くのだ……、「ピアス穴を開けさせてくれたら、射精させてあげる」と。
あの美しい顔が恐怖と快楽でグチャグチャに染まり堕ち、快楽への期待に負け、「穴を開けてください」と自ら哀願するまで……。
 まずは乳首だろうか? それとも舌? いや、いきなりラビアなんかもいいかもしれない。下品な音が鳴る鈴入りのピアスを着けてあげよう。
何度も、何度も射精させながら。

 私の目の前で、うっとりとした表情でアバラと指を絡めあっている『天使』の姿を見つめ続ける。
あの美しい顔を、肉の悦びで……!? あの顔…………。あの、天使の、顔…………。

「なっ!?」

 驚愕のあまり、私は一瞬、大きな声を上げてしまう。不味いっっっ!!!
ここは、『地虫』の巣の中央に近い。きっと警備役の地虫がいる筈。
 視界の端で、テントへと入っていくアバラとゾウムシの姿を確認しつつ、周囲を緊張しながら見回す。
なんという、馬鹿なミスを……。いや……、しかし……、あの天使の顔……、まさか……、あれでは、まるでっっ!!

「ウシアブッ、すまない、私のミスだわ。きっと気付かれた。ここで引き返すのは、地虫に迎撃の用意をさせるだけ。今ッ!! 強引に奪うわ。いい? あなたはアバラを確保。私はゾウムシ。殺しては駄目だけど、ほとんど殺す気で殴っていいわ。最速で身柄を確保っ!! いくわっ!」

 顔を覆うゴーグルを引き上げ、手に打撃用の警棒を持つ。不意をついてテントへと殴りこみ、容赦なく打撃を与え、そのまま連れ去る。
極端に言えば、殺しさえしなければいい。瀕死であっても構わないのだ。
 そう、身柄を拘束さえすれば、どんな怪我でも生きていれば『姫』が完治してくださるから。
素早く立ち上がり、テントへと向かおうとした私。しかし、その時、私の腕が背後から、ウシアブのがっしりとした掌で掴まれる。

「くっ!? 何っ?」

「サキモリ、必要な事だけ言う。いいか? もしも、アバラを俺が一撃で昏倒させられなかった場合、俺が命懸けで時間を稼ぐ。そしたら、ゾウムシを連れて必死で逃げろ。いいな?」

 豚そっくりな顔の中央、まっすぐな二つの瞳が、私を真剣に見つめている。が……、その内容の意味が解らない。
ウシアブの体術の凄まじさは十分に知っている。短時間ならば、あの転生者とさえ互角に殴り合っていた。
 一体、何を? 軽く首を曲げ、不審の念を返す。と、ウシアブは素早くテントへと移動しつつ、小さな声で囁く。

「報告書にもあげたが、俺はアバラと殴り合いをした事がある。アイツがゾウムシを殴ったノーマル15人を殺し、そのまま、一区画ごと燃やそうとしたからだ。ノーマルなぞどうだって良かったんだが、流石にそれはやりすぎだと、俺が止めに入った。……が、3秒だった。仲間の話では、俺は3秒しか立っていられなかったらしい。アバラ……、あのクズは……、どこか……、おかしい。数日前、『夢人』が殺されたって聞いた時、皆、アイツしかいないって知ってたよ。行くぞっ!」

 スッ……と滑るように巨体を動かすウシアブ。そのがっしりとした背中を見つめ、私は一瞬遅れてその後へと続く。
胸に溢れるのは驚愕と、そして、際限の無い恐怖。
 『姫』が名指しでアバラを犯人だと断定した事。
 このウシアブを一瞬で無力化したというアバラの事。
 ――そして、そして……、

 私とウシアブは、一気にテントへと近づき、その入り口を素早く開く。中央に燃える囲炉裏の炎。
そして、驚愕した表情で振り返る間抜け顔のアバラ。
 ――そして、そして、同じように驚いた顔のゾウムシ。そう、その顔……。髪はダイアモンドのように銀。瞳は宝石のようなエメラルド。

 そして、その顔は…………、『姫』と、まるで双子であるかの様に、そっくりだった…………。



[15558] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 3/16
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:583704fc
Date: 2010/08/04 04:39

 終章 『それでも貴方とわたくしは』 3/16

 バッっという布が擦れる音と共に、俺の背後から砂混じりの強風がテントの中へと吹き付け、目の前にある囲炉裏の炎がパチパチと音を立てて揺らめいた。
 疲労と空腹で、振り返るのも正直面倒臭い……。だが、ようやくカシラ達が帰って来たんだろう、と思いつつ振り向いた俺は、驚愕のあまり呆然と口を開いた。

「なっ!?」

 ダンッっと凄まじい勢いで入り口を蹴り、大型の猛禽のように飛び込んできた赤い眼鏡の女。全身を包むように覆ったベージュと茶色の柄のマントを、怪鳥のようになびかせ、炎をものともせずに跳躍。凄まじい速度、電光石火の勢いで俺の横を通り過ぎる。
 そして、女の背後から全く気配を感じさせず、素早い体捌きで姿を見せる大男。俺の太もも並みのサイズはありそうな腕に、大木の根っこのように隆々たる首筋。紺色の自治人の制服が分厚い胸板ではちきれそうに膨らんでおり、そして、がっしりとした顔はブタそっくりに醜くい……!?

「て、てめぇ……、ウ、ウジアブかっ!? 何でここにっ!?」

「アバラッ!!」

 低く呟きつつ、豚男が恐ろしい迫力で俺との間合いを詰める。右手に掴んだ警棒が、座り込んだままの俺の頭部へ、はるか頭上より打ち下ろされるように動くッ! ビュオッ!! と空間を切り裂く音と共に、一切の手加減無しでッッ!!

「クソがッ、ぐがぁっっっ……」

 とても座ったままで回避しきれない。咄嗟に転がろうとしたものの、俺の右肩上部、鎖骨の辺りへと思いっきりぶち当たる。ゴギッ……と鈍い音がカラダの内側から全身へと広がり、凄まじい痛みと吐き気、衝撃が俺を犯す。

「アバラッ!! やだっ、きゃぁ、カハッ……」

 ぼんやりと聞こえるゾウムシの泣き声……、が、そちらを見る余裕などこれっぽっちも無く、ウシアブの履いたブーツのつま先……鋭く尖った岩のように見えるソレが、まるでハンマーのように俺の腹へと迫るッッッ!!!

「ぐぎっっっ……」

 ドンッっ!! と冗談みたいな勢いで、俺のカラダが二メートルほど中を舞う。軽々と空を吹っ飛ばされ、テントの外、砂だらけの大地までゴロゴロと転がっていく。
 痛い、痛い、痛い……。何も食っていない俺の口から、黄色い胃液とドス黒い血がゲロのようにあふれ出す。喉に込み上げる酸っぱい味と鉄の匂い。
思いっきり蹴り上げられた腹部の激痛で、身動きする事も難しい。痛みのあまり、失禁してしまい、履いているジーンズが湿っていく。

「うぐっ……、くそっ、何が」

 ブルブルと震えながら、俺は必死に砂の上を這いずり回る。とにかく時間を稼ぐ事……。きっと、工業エリア『ハグレ』の護衛役たちが気付いてくれる。折れた左肩の鎖骨、腹のわき腹の骨も何本かイッちまってる感触。小便を垂れ流しつつ、俺は必死に遠くへと逃げようと這う。ザラザラした砂地へと爪をたて、力の入らない下半身を無理矢理に引き摺るように……。

「ぐっ……」

 が、努力も虚しく俺の髪ががっしりと大きな掌で掴まれる。ブチブチと何本もの髪の毛が抜ける音と痛み。
クソ……今朝、せっかくゾウムシにカットしてもらった髪が……。こんな事態なのに、のんびりそんな事を思う自分に、少し苦笑が込み上げる。
 激痛で震える瞼を無理矢理に開き、俺の髪を掴んでいるウシアブの豚面を見ながら、俺は血が混じった唾をその制服へと飛ばす。
紺色の制服へ、べっとりと付着した俺の赤い唾液が、ナメクジのようにゆっくりと地面へと這い落ちていく。

「アバラ……」

 低く不吉なウシアブの声が聞こえ、それと同時、俺の顔面へと恐ろしい勢いで迫り来る岩のような拳。

(ち……、痛てぇだろうな。最悪だ……いや、そうでもねえか……)

 どうやら此処で俺は捕まるだろう。しかし、追っ手がウシアブで良かった……。コイツはゾウムシにどうしようもなくイカレている。
俺には容赦しねえだろうが、ゾウムシには、優しくしてくれるだろう……。
 ――グシャッッ!! というタマゴの殻が粉々に砕けるような音が、俺の顔面から響き渡る。ブチブチと髪の毛が抜け、殴られた俺は受身もとれずに、ゴロゴロと砂の大地の上を転がる。痛み……は感じない。ただ、ひたすら顔が熱いだけ……、そして、血が食道に入り込み、メチャクチャに息苦しい。
 そんな事を思いながら、俺はグニャリとした暗闇へと……、一気に滑り落ちていく…………。



 サラサラとした極上の絹の手触りのような銀の髪。私の膝蹴りを腹部へと受け、ぐったりと気絶している『天使』の体を右肩に担ぎつつ、私はテントの外へと出て行った部下、ウシアブの背中を追う。パチパチと音を立てている囲炉裏の炎を飛び越え、赤い眼鏡の上からゴーグルを装着。
とにかく急がねば……。焦る気持ちを懸命に抑えつつ、テントの入り口から外へ出た。

『グシャッッ!!!』

 砂が吹き荒れる外へ出た瞬間、私の目前でウシアブの大きな拳が、標的『アバラ』の顔面に思いっきりヒットしていた。
月が照らし出す闇の中、平凡な男、アバラが前歯を空中へとぶちまけつつ、ゴロゴロと砂地の上を転がっていく。
ノーマルが着るような黒いジャケットにジーンズ姿のまま、顔面はつぶれたトマトのように真っ赤。

「ウシアブッ、アバラを担いでっ!! すぐに離脱するわ。巣から離れましょう。急いで清掃所まで戻るわよ」

 突入直前、ウシアブが言っていた事は杞憂に終わった……。安堵を感じつつ、危険だ、不思議な男だと言われていた標的『アバラ』を見つめた。
部下の打撃を受けて鼻が折れたようで、無様に横を向いており、唇は裂け、真っ赤な血と、黄色い膿のような汁を垂れ流している。
瞼は紫色に腫れ上がり、小便でも漏らしたのか、ジーンズの股間部分に染みが出来ていた。

「ふふっ、当分流動食ね。まあ、姫がどういう処罰を下されるか……によるだろうケド……」

 軽々とアバラの体を担ぎ上げる部下の姿を見つつ、私は『姫』の事を少し考える。このアバラを瞬時に夢人殺害犯人だと断定し、さらに私に夢武器を授け、さらには『自己遠距離再構成』までも夢武器へと仕込んでいた『姫』。
 
 不思議だ……と、何度目になるか解らぬ疑問を抱く。
 『姫』は日々、恐ろしいほどの激務に追われ、しかもその最前線に立って膨大な仕事をさばいていらっしゃる。だから、自治人の中でも1、2を争う検挙率を誇る私へと依頼したのだろう。しかし、だ……それにしても、いささか回りくどい、と感じる。
 『姫』が本気で動けば、歓楽街で出来ぬ事などほとんどあるまい。私に授けた夢武器へ転送の夢を仕込むくらいなら、ご自身で動かれたほうがずっと素早くこの『アバラ』も確保出来たのではないか? 勿論、姫にお仕事が沢山ある事は承知しているが……、まるで……、そう、まるで、『アバラ』に会いたいのに、でも会うのを恐れているような。
 
 ―― 勘だが、それはまるで……、離れ離れになったかつての恋人に、本当は心が焦がれるほどに会いたいのに、変わってしまった自分を知られる事が恐くて会いたくない、そんな矛盾した想いを抱く乙女のようで……。
 私、一等自治人、サキモリ=ハガネの勘がそう囁いて止まらない。コレには何かとてつもない裏があると……。平凡な男『アバラ』、そして『姫』とそっくりの顔を持つ『ゾウムシ』。
 ゾクリ……と何故か身震いをしつつ、私はウシアブへと目配せを行って砂地の上へブーツを踏み出していく。今は考えない。とにかく安全な場所へ退避する。バチバチとゴーグルに当たる砂の音を聞きながら、私達は飛ぶように砂地の上を駆け出した。



 ――工業エリアの地虫の棲家、その真っ只中を影のように疾走していく。肩に担いだ『天使』が時折苦しそうに呻きながら、身動きをするが、まだ気絶している様子。ジリジリとした焦燥感を感じつつ、背後からピッタリとついてくるウシアブと、何度も無言のまま手でサインを交換する。

(これは……、何かトラブルでもあったのかしら?)

 アバラとゾウムシを強奪してから、約30分。ずっと駆け続け、ようやく列車が遠くに見えてきた頃……、私はため息をつきながら足を止めた。
歓楽街エリアだろうと工業エリアだろうと、『地虫』の中にはガード役が存在するはず。自治人による数々の『地虫』研究レポートには確かにそう記されていた。『カシラ』を最優先に守護し、そして『地虫』を守る任務を持ったガード役。
 地虫が守る絶対の戒律の一つ。

『助けられそうな仲間は助けろ』

 を実践する為の戦闘部隊。『今』に固執し『明日』の事など考えない『地虫』のガード役の戦い方は、相打ちでさえ厭わない。その戦闘能力は並みの自治人に勝り、自爆を覚悟しているが故に恐ろしく厄介。絶対に気付かれたと思い、必死でここまで逃げてきたのだが、未だに襲われる気配が無い。
もしかしたら、工業エリアの『カシラ』に今夜、何かトラブルでも起こっているのかもしれない。だから、今回、棲家のガードが手薄になっていた……。

(なんにせよ、幸運ということね)

 遠目に見える清掃ポイントの小屋。そこで待機しているであろうシャーロットお嬢様と、監視役の獣人を思いながら、私は足元に『天使』の華奢なカラダを横たえた。大理石のように真っ白な肌、苦しそうに閉ざされた瞳から伸びる美しい睫毛。単純な白い布をまとっただけの姿ながら、ゾウムシの容姿はゾクゾクするほど美しい……。

「サキモリ……、どうした? 早く小屋へ……」

 私の背後から部下、ウシアブの焦ったような囁き声。醜い豚そっくりの顔が苦悩しているように歪んで見える。早くシャーロットお嬢様に会いたいのか、それとも私の足元で気絶しているゾウムシが気にかかるのか? 肩に軽々と担いでいるアバラを持ったまま、小さくてつぶらな瞳で私の顔を見つめる。

「いい? ウシアブ……。今から、この天使の顔を、輪郭が解らなくなるまでボコボコに潰すから。邪魔しないで」

「なっ!?」

 驚愕したように小さな瞳を大きく見開く部下。その瞳を強く睨み、これは任務だと、命令なのだと、はっきり理解させる。

 ――問題は、監視役のユキなのだ。当初の計画では、この天使の顔を見られても何の問題もないハズだった。しかし……、ゾウムシはあまりに『姫』に似すぎている。『姫』は髪の色が紫である事、瞳が翡翠のように濃緑である事……、その二つを除けば『姫』と『ゾウムシ』は双子であるかのように瓜二つ。
 夢人の顔や姿形は、その夢人本人が願った通りに具現化されるという。そして、『天使』は夢で再現されたとおりの外見になる。
ならば、『姫』と『ゾウムシ』の相似はどういう事なのか? 
 この『天使』には何か秘密がある……と、『妖精』の従者である獣人は判断するだろう。そうなった場合、すんなりと歓楽街エリアへ私達を解放してくれるだろうか? 最悪、なんらかの手段で獣人が『妖精』に連絡をとった場合、私には打つ手がほとんど無い。
 
 妖精が降臨した場合、私に出来る事……それは夢武器を使い『姫』を召喚する事だけ。しかし、そうなれば工業エリアと歓楽街エリアの抗争が始まるかもしれない。そんなリスクはとても背負えない……ならば……。

「ウシアブ、貴方は『姫』のお顔を見たのが一瞬で、あんな修羅場の後だから気付かなかったんでしょう。でも、これは絶対に必要な事です。繰り返すわ、絶対に邪魔をしないで」

 強く言い捨て、私は足元で横たわっているゾウムシの顔を見つめる。本当ならこういうプレイはもっと後にしたい。快楽を十分すぎるほどカラダへと染み込ませた後、泣き叫び、「やめて下さい」と哀願を繰り返しながらも、後のアクメに期待している顔へ、思いっきり暴力を振るうのが最高なのだ。
 だが、今回は仕方ない……。
 カサカサに乾いた唇を舐めつつ、私はゆっくりとブーツのつま先で、ゾウムシの美しすぎる顔を、蹴り上げた。


◆◆


「……ぎゃうっ」

 ぴくん……と俺の指先が震える。何か……聞こえてはいけない悲鳴が、俺の耳へ届いたような……。相変わらず、俺の口からダラダラと血、そして胃液があふれだし、ウシアブが着ているクソッタレな紺の制服を汚していく。
 顔にバチバチとあたる砂がうっとうしい。瞼がブクブクに腫れあがっちまってるようで何も見えない。

「サ、サキモリっ……、もう、もうっ、許してやってくれっ!! 十分だろうっ」

 豚男、ウシアブの怯えたような、怒りを抑えたような声が響く。何だ? 何をやってやがる?
腹部からの激痛、嘔吐感、顔面が燃えるように熱く、ガンガンと耳鳴りがして、堪らなく気持ちが悪い。クソ……、もう暴れないから、さっさと寝かせて欲しい……。
 どうやら、俺はウシアブの肩へ担がれている様子だ。どれくらい気絶していたのか、さっぱりわからない。

「まだよっ、黙っててウシアブっ!! そうね、歯も何本か折っておきましょうか……ねッ!!」

「あうっっっ!!」

 バチィッ!! と鈍い音……、そして、俺の心にズキンッと響く悲鳴が聞こえる。全く力の入らない体、腫れあがって塞がった瞼に気合を入れ、俺は必死で目を開こうと足掻く。
 何か……、絶対に許せない事が起こっているという確信。その衝動が俺のカラダを突き動かそうとする。

「ふふっ、泣かないのね? 偉いわぁ……そうよねぇ、泣いたら、アナタの大事なアバラの顔、もっと蹴るって約束したものね。さ、それじゃあ、もう一回イクわよッ!!」

 ぐちゃ……という肉がつぶれるような音。そして、必死に何か、苦痛を堪えているような声……。
ズキズキと頭の奥が痛い。今すぐに目を覚ませと、何かが俺の耳へと囁いている。

「うくっ……、アバラ……大好き……だよ……」

 誰の声……。この苦痛に耐え、心の底から搾り出すような声はダレの声だ? あふれ出す鼻血が口内へと溜まり出し、それを俺は何度もゴクリと飲み込む。
 指先から全身にゆっくりと黒い何かが広がっていく。熱い……熱い……、さっき思いきり殴られた顔面が、蹴られた腹が、折られた鎖骨が、燃えるように熱く俺を焦がす。

「そんな顔になってまで……、タフね……。素晴らしいわ、ゾウムシ」

 ゾウムシ……、聞こえてきた単語が、カッっと閃光のように全身を貫く。さっきから耳に聞こえる悲鳴、苦悶の声はダレの声なんだ?
まさか……、まさか!?
 胸の奥から黒いモノが、凄まじい勢いであふれ出し、俺を喰い散らかしていく。ビクンッ、ビクンッとくたばった直後の死体みたいに、俺の手足が痙攣を繰り返す。全身に黒い衝動が血の様に巡り、圧倒的な暴力への衝動が高まっていく。

「ゾウ……ムシ……?」

 瞼を開く……。遠くにボンヤリと見えるのは、列車清掃ポイントの灯りだろうか? いつの間にか、こんな所まで運ばれちまった……。
そんなどうでもいい思考を垂れ流しつつ、俺ははっきりとソレを見た。

「アバラ……」

 俺が美しいと何度も思った銀色の髪、ニコニコとアホみたいに笑いながら、俺を下水道の巣でいつでも出迎えてくれたアイツの顔。
それら全てが、真っ赤な血でドロドロに汚れている。
 すっきりと整った鼻筋、薄くカタチの良かった唇がボロボロに潰れ、細い顎がボコボコに歪んで……。

 ――――ニコニコとボクの目の前で微笑んでる彼女。紫の髪をして、翡翠の瞳をもったボクの友達。「今日ね、わたしに妹が生まれるの」ニコリと微笑む彼女をボクはとっても可愛いなって思った。「じゃあ、二人ともボクが守る。ボクがずっと守ってみせる」それは何て、バカバカしい約束。でも、ボクは真剣だった。そしてボクの言葉に彼女も、すごく嬉しそうに微笑む。「絵本の中の騎士さまみたいに?」はにかみながら恥ずかしそうに囁く彼女。朝日に照らされた紫の髪がとっても綺麗で……「うん、騎士と、姫みたいに」「永遠に?」「うん、永遠に」

「ゾウムシッ!!!」

 脳裏に浮かび上がるフラッシュバック。そんな風景を無視しながら、俺はただ絶叫する。驚いたように、俺を肩へ担いだウシアブが痙攣……。
がっしりと俺の胴体を抱え込むウシアブの右手。身動きできないように、凄まじい力で、その太い腕が俺の腰を締め付ける。

「ア、アバラ……、こっち、見、見ないでっ」

 俺から必死に顔を背けるゾウムシ。細く繊細なガラス細工のように、美しかったアイツの輪郭。何度もネコのように頬擦りしてきたアイツの顔。
それが……それが……。

「ウシアブッ!! アバラを黙らせてッ!!」

 どこからか聞こえる女の叫び声。同時にギリギリと腰が締め付けられる。身動き出来ない俺のカラダ……、顔面へと新たに拳が飛んでくる。
そして、グシャリ……と熟れきった果実が潰れるような音が、夜の砂漠へ、鳴り響いた。



[15558] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 4/16
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:a58d69f2
Date: 2012/05/20 18:27


 終章 『それでも貴方とわたくしは』 4/16




 ――夜の砂漠の上へ浮かんでいる月が、凍りつくような銀色に輝いている。わずかの欠けもない完璧な満月。その月はあまりにも、あまりにも美しすぎるが故に、逆に何かの『おぞましさ』を象徴しているかのよう。
 工業エリア、地虫たちの棲む夜の砂漠へ絶え間なく吹き荒れる砂混じりの強風。その轟々とした音の中に、突如『グシャリ』という音が混じる。そして、ドサリッ……と重い物体が落下する音が続いた。

「ウシアブ!!」

 自治人サキモリ・ハガネが部下の名を叫ぶ。夜の砂漠、列車の清掃ポイントの近くで彼女の予想もつかない事態が起こり始めようとしていた。
 強襲用の一等自治人専用装備に身を包んだサキモリ。そんなものものしい完全武装であるのに、心細さと不安を抱く。

「何が……」

 呟いた彼女の目前には、部下ウシアブが倒れていた。つい先ほどまでアバラを太い腕で拘束していた部下が……。まるで糸の切れた人形のごとく、夜の砂漠へその巨体を投げ出していた。
 そしてユラリと、ウシアブの側へ目標の男『アバラ』が幽霊のようにたたずんでいる。

「……ッ!」

 いったい何が? サキモリは唾を飲み込みながら混乱した脳を落ち着かせようとする。
 アバラは部下から確かに強烈な打撃を受け、ほとんど失神状態で拘束されていた。その不自由な体勢から、恐ろしいほどタフなウシアブを一瞬でダウン出来るはずがない! はずがない……のに、目前でウシアブは砂漠へ倒れ、ピクリとも動く様子さえなかった。

「くっ」

 アバラが何をしたのか? それは全く理解できなかったが、とにかくサキモリの前でアバラはボンヤリと立ったまま。
 ――ならば『やる』しかない。
 自分の足元にうずくまっている天使……顔をサキモリから滅茶苦茶に蹴られ、苦痛にうめいているゾウムシをいつでも盾にできる様に移動しつつ、素早く、けれど慎重に腕を動かす。
 サキモリの中へある『夢』。それを媒体とし、右手人差し指の夢武器へと力を収束させていく。

「ふぅぅぅ」
「ア、アバラ。逃げて、お願い」

 血だらけの唇から、ぼろきれのような天使ゾウムシがか細い声を出す。けれどその囁きにどちらの人影も反応を見せない。
 アバラは相変わらずただ砂漠へ立ったまま。
 サキモリもゾウムシの相手をする余裕などなく、ひたすらに力を人差し指へと集め……そして射出準備が終わる。
 けれど発射するタイミング、それが掴めない。いつ射出しても命中するような……が、どれだけ狙いすましても絶対にあたらない気もした。

「くそっ」
「あうっ!」

 夢武器をあてる為のタイミングが欲しくて、サキモリは足元に横たわるゾウムシの顔……口元へと蹴りを入れる。力などほとんど入らないおざなりの一撃ではあるが、元々の傷口へとヒットさせたため、相当の激痛があるはず。
 目論見どおり天使の弱弱しい悲鳴が響いた瞬間、アバラの体勢がユラリと揺れた。

「今!」

 その時を逃さず、一等自治人は心の中の引き金を絞る。アバラの体を赤い光線で貫き、歓楽街エリアへ連行するために。
 しかし……。

(――えっ?)

 次の瞬間、サキモリの視界へ映ったのは砂の大地。指先へと集めた夢を射出する間もなく、何故か己の肉体が砂漠へと倒れこんでいる。
 苦痛や衝撃は一切ない。ないのだがドサリ……という音、頬に冷たい砂の感触が触れ、自分が倒れこんでいる事を伝えてきた。

(な、なにっっ!!)

 ピクリとも動かない。指先一本動かすことができない。驚愕で衝撃が走るが、それを表情に表す事さえ出来なかった。まるで死体のようにサキモリは砂漠へと倒れ伏す。まるでさっきの部下、ウシアブのように。
 そして混乱している彼女の耳へ、ザクザクという砂漠を踏みしめて近づいてくる足音が響いた。

(こ、これは……)

 襲撃直前、ウシアブから聞いたセリフが脳裏へと蘇る。不思議な地虫アバラ。かつてヤツと相対したウシアブは数秒しか立っていられなかった……と。
 これがその原因なのか? 夢? これはヤツの黒夢なのか? やはりヤツは夢人で、一瞬の間に何かをされてしまった!?

「――!!」

 何も出来ず砂漠へ横たわったままの体が、容赦のない勢いで蹴り上げられた。近づいてきたアバラの足が、無造作に小動物でも蹴るように打撃を加えたのだ。
 肋骨から腹部へと襲い来る凄まじい衝撃。けれど悲鳴をあげる事さえ出来ない。蹴りの衝撃で仰向けとなる。
 かろうじて見える視界に映っている目標アバラの姿。その足がゆっくりと上がり、何のためらいもなく自治人の顔面へと踏みおろされる。

(っううう!!)

 ぐしゃりという己の顔が踏まれる音と、ゴーグルと鼻が折れる衝撃。凄まじい激痛がサキモリを犯す。けれど変わらず体は動かすことが出来ず、悲鳴さえ出ない……いや、そんな痛みよりも。

(呼吸! 呼吸がっっ!! できていないっ!!)

 脳裏を襲ったのは痛みを越える衝撃。
 いつから呼吸できていないのか? それは砂漠へ倒れた時、自治人の体が死体のように麻痺した瞬間から? 
 そう、悲鳴が出ないのも当然だった。サキモリの肉体は今呼吸さえしていない。指先一つ動かせないどころか、臓器である肺までもが麻痺していた。

(これは死ぬ……わ)

 驚愕を受けている間も、断続的に迫るアバラの足。それは全く無頓着に何の容赦もなく、繰り返し繰り返し彼女の顔、胸、腹を思い切り踏みつける。
 気が遠くなっていく。激痛によるものか、それとも呼吸できないからなのか、あるいは両方の理由からか。
 とにかく意識は急速に薄れ始め、ただ何度もアバラの靴で顔を踏まれ続ける。眼鏡とゴーグルはすでに跡形もなく、顔面は血まみれ。前歯は全て折れ、頬の肉が裂けて白い骨とピンク色の筋が見えた。
 しかも、頼みの綱である右手――姫から直々に賜った夢武器のリングが接続されてある――指までも念入りに踏まれており、骨は複雑に折れ曲がってあらぬ捻れかたをしていた。

「アバラッッッ!」

 ほぼ絶望しかけたその時、サキモリの耳へ響く野太い声。それは部下ウシアブの叫び。そして、激しい足音の直後にドスンっという重い打撃音が響く。

(っ!! こ、呼吸が……、う、動く……)

 その瞬間に自由になるサキモリの肉体。顔や全身を襲う痛みを忘れ、ただひたすらに呼吸をむさぼった。気管へと血が入り込みむせる。が、文字通り何とか息を吹き返し、ガクガクと震える両足へと力を込めた。
 今しかないっ!

「ぐ、あああああっっ!!」

 悠長に夢を貯めている暇はなく、サキモリは空気を裂くような声をあげつつ、思い切り左手にもった自治人用のトンファーを振るう。
 ほとんど視界はきかないが一等自治人の勘、そしてなかば破れかぶれの一撃。

「ぐっ」

 しかし、それはあやまたずにアバラの腰へとぶち当たる。一方的にウシアブへ拳を振るっていたアバラの背後から、腰骨への容赦ない一撃。
 メキッと重い音が確かに耳へ届く。トンファーを握り締めた左手にも、かなりの手ごたえがあった。足や腕ならば間違いなく骨を砕いたと思う。

「くぅう」

 そのまま追撃はせず、サキモリは転がるようにアバラから距離をとる。あまりにも得体の知れない麻痺能力を警戒し、一呼吸置こうとしたのだ。
 けれど……。

(ま、またっ!?)

 数メートルほど転がりはなれた所で、再び自治人の体が硬直した。指一本動かせない……いや、やはり呼吸さえ出来ない。
 サキモリの心を恐怖が犯す。せっかく得体のしれない麻痺から逃れたと思ったのに……。

「アバラ、どこを向いてやがる。俺はまだッ!」

 けれどその瞬間に響く力強い部下の声。そしてその瞬間に謎の麻痺は解除された。
 あわてて呼吸を再開させつつ、サキモリはアバラとウシアブのほうを見る。

「ウシアブッ!」

 サキモリの視線の先には何故か棒立ちのままでアバラの打撃を受けているウシアブの姿があった。部下のその様子はまるで死体のようで、さきほどの自分と同じ。巨体は完全に麻痺し、アバラのサンドバックとなっていた。

「これは……」

 サキモリの脳へ閃きが走る。そう、考えてみればおかしい。不思議な麻痺がアバラの能力であったとして、なぜこうも途切れ途切れなのか?
 それに、決まってサキモリが麻痺している時にウシアブの助けが入るのか?

「つまり」

 言葉をこぼしながらサキモリは前方へと足を出す。アバラの手品の種は割れた。危機的状況に変わりは無いが、一縷の望みが全身に力を満たしていく。

「おおおっ!」

 アバラの背後から声をあげつつ、思い切りトンファーを振りかぶる。視線の先で驚いたようにこちらへ振り向くアバラ。
 その瞳から『何か』ドス黒いモノを感じた瞬間、サキモリの体から力が抜ける。呼吸さえ止める恐るべき麻痺。
 ――しかし、これは予想の範囲内。

「ぐっっ」

 こちらへアバラが振り向いた瞬間にやはり麻痺が解けて動き出すウシアブ。その巨大な拳がアバラの後頭部へと振るわれる。
 ゴツンッと鈍い音が響き、アバラの肉体が衝撃で揺れた。

(やっぱり……)

 動かない肉体の中、サキモリは心中で納得と同時に勝利を確信する。
 ――標的アバラの得体のしれない能力。それは、『一人の肉体へ対する麻痺』だと。
 黒夢なのか、それとも別の催眠術のようなものか? わからないが、今は十分。
 これが一対一であれば、まったく何も出来ずに殺されていただろう。けれど、この状況であれば何の問題もない。
 サキモリの肉体の麻痺が解ける。見ればアバラは背後のウシアブへと視線を向けていた。

「はははっ」

 手繰り寄せた勝利に興奮しつつ、サキモリは素早く左指を腰のポーチへと這わせた。そこに装備してある『携帯再現機』を操作する為に。
 ――携帯再現機――それは一等自治人のみに使用が許された道具。夢武器を除いて考えれば、これこそがエリート中のエリートである一等自治人の最終兵器。通常の任務では支給されることさえ決して無い切り札<ジョーカー>。
 噂に拠れば、人間の脳が部品に使われているという携帯再現機は恐ろしく高価であり、かつ使い捨ての消耗品。
 ――けれどそれ以上の価値はある。十二分に。

「ふぅぅぅぅ」

 操作、発動したサキモリの肉体へみるみる内に漲る万能感と力。受けた傷の痛みさえ全く感じない。視力、嗅覚の強化はおろか筋力は常人の数十倍へ飛躍し、ゆっくりかつ僅かではあるが怪我さえも回復していく。
 まさに擬似夢人と呼べる存在。通常、これを所持しているだけで敵対行為とみなされるために、こういう完全装備の時でしか使用できないが、その効果は圧倒的。

「シッ!!」

 つま先にミシミシと音が鳴るほど力を込め、サキモリは砂を蹴る。瞬時にその肉体は数メートルの距離をゼロにする。蹴られた足元の砂が大量に舞い、まるで爆発したかのよう。
 銀の月に照らされた姿は、まさに魔影。
 サキモリは人間の目では確認し辛いほどのスピードを保ったまま、トンファーをアバラの背骨へと振るう。あたれば確実に背骨を砕き、瀕死になるパワーを乗せて。
 ――これで勝ち。

「がッ!!」

 メキィィ! という音。そして完璧な手ごたえが左手に伝わる。アバラの背骨は砕かれ、余韻で2メートルほどその地虫の肉体が宙を舞う。

「フッ!」

 サキモリは空中に浮いたアバラを見つめながら腰を一瞬落とし、両足の膝を曲げてバネを溜める。そして、再び爆発したように舞う足元の砂。マントを翼のようにはためかせて自治人は跳躍し、中に浮いているアバラのさらに上へ飛翔。

「その目を貰う!!」

 あの麻痺の力はアバラの両目から照射されていた、とサキモリの勘がささやく。
 その勘に従って、化鳥のように空中へ舞い上がったサキモリは、何の躊躇もなくアバラの両目を狙う。
 常人をはるかに凌駕する速度と正確さを持って、左手の指先をアバラの両目へ……。

「うあああああっ」

 もしかしたら麻痺させられるかも知れないと覚悟していたが、サキモリの指先が一瞬早かった……のか、それとももはやアバラにそれだけの力が残っていなかったのか? 
 とにかく結果的にサキモリの左手は凶鳥の嘴のごとくアバラの両眼球の中心へ突き刺さり、ブチュリという音と悲鳴が響き渡る。

「アバラっ! アバラ、やだっ、やだぁあああああああああああ!!」

 ゾウムシの魂を絞るような悲痛の叫びが砂漠へ響く。その声を自治人は勝利の余韻とともに味わう。

(これで、勝った)

 ヌルヌルとした液体と血にまみれた左指をアバラの眼から抜き取りつつ、サキモリはほっとため息をついた。 
 
 ――それがあまりにも甘い考えだったと、後に後悔することも知らず。


 ◆


 同じ頃、工業エリア市街地区にある大理石造りの一室にて。
 
 『妖精』アマヤギリ・瑠璃は独り、お気に入りの椅子――数十人ぶんの頭皮をなめした皮で出来ている――に、その幼い外見のカラダを預けていた。
 長い睫毛の下に小悪魔っぽく輝く瑠璃色の瞳はパッチリとした二重で、愛らしいと誰もが思う。ぷっくりとしたピンクの唇はつややかに輝き、わずかに覗く舌先さえも魅力を感じさせる。紫色の髪は、幼いながらも強烈な色気を漂わせる肢体を飾るよう。
 黒色のゴシックドレスに身を包んだ夢幻のような美少女。伝説の赤夢使い。夢人のトップ。死の妖精。アマヤギリ・瑠璃。
 全ての夢人の中で――原初の『男』その人を除けば――もっとも旧い存在の一人。ゆえにその能力は研ぎ澄まされ、元来戦闘向きではない赤夢使いでありながら、恐ろしい殲滅力を誇る。普通人は言うに及ばず、並の夢人であれど束になろうと歯牙にもかけない。

「……」

 けれどこの所、妖精は確かに疲労していた。『転生者』という新しいタイプの夢人との連戦が、瑠璃のカラダに簡単には拭えぬ傷を与えていたからだ。

「あのお兄ちゃん……、アル・バラッドとか言ったよね?」

 だからこそ今日の昼間に出会い、鮮やかに瑠璃のカラダから黒夢をヌいた男が気になっていた。転生者の『夢』はあまりにも今までの『夢』と構造が異なっていて、流石の妖精でさえ中和に苦労していたのに。
 けれどあのみすぼらしい男は見事にヌいた。しかも、最高クラスの夢人たる自分から。

「おもしろーい」

 椅子に座ったまま瑠璃はくすくすと笑う。あの男と出会った時に感じた波動は強烈だった。
 夢人ではない……とだけは理解できたが、ただの普通人ではありえない。永い永い時を生きてきた瑠璃にとっても理解不可能な人物だった。
 信頼している部下、獣人ユキの話では薄汚れたギャングだったそうだが、そんな事はどうでもいい。

「ああ、とっても楽しみ……」

 この館へ招待したらどうやって歓迎しようか? 瑠璃はニコニコと輝くような笑みを浮かべながら考える。
 まず、あの男の肉体をあどけない少年にまで退行させてみようか? もちろんペニスだけは現在のままで。

「ふふ……」

 脳の記憶も弄ろうと、瑠璃は自分の唇を淫らに舐めながら思う。射精は何よりも恥ずかしい事……それ人に強制され、見られる事は死ぬほど情けない事だと意識を植え付ける。
 そんな少年と化した男をひたすらに嬲りぬく。あどけない少年となった肉体で、わけもわからず必死で瑠璃に懇願するだろう。射精させないで、見ないで下さい……と。

「ああ、楽しそう」

 瑠璃は自分の手をゆっくりと胸にはわせつつ吐息をもらす。脳内の予定で発情したその乳首は、黒色フリルドレスの布の下でぷっくりと硬くなっていた。

「ん……」

 泣いてわめいて、死ぬほど恥ずかしい射精を見られたくないと抵抗する少年。そのペニスを唇と舌で追い詰める。
 瑠璃の幼い小さな唇が少年の亀頭を這い回り、指でクニクニと肛門の前立腺を責める。涙を流している少年に、尿道をほじる舌を見せつけながら、おもいっきり射精させよう。

「ん、んん、ああぁ……」

 瑠璃の左手がドレスの上から乳首を弄り続ける。そうしながら右手がゆっくりと下へと動き、ドレスの裾をずり上げていく。
 大理石のように真っ白な太ももがあらわとなり、その奥……黒のレースがあしらわれたパンティが少しだけ空気に晒された。少女に似つかわしくないそれには、真っ赤なリボンが飾られている。
 陰毛のまったく生えていないピッタリと淫唇の閉じた少女の性器は、持ち主の外見どおりに美しく、なんの穢れもないように見えた。けれどソコへ触れていく少女の指先。

「ん、んんんっっ」

 はっきりと官能を感じさせる吐息。少女とは思えないほど固くなったクリトリスを黒のパンティ越しに撫でる指。

「――っん」

 淫らな自慰を続けながらも瑠璃の妄想はとまらない。
――泣きながら瑠璃の口の中へ射精した少年。そのザーメンは全て空間を捻じ曲げて少年のペニスへと戻す。何度射精しても尽きぬザーメン。延々と繰り返される快楽。
それを全て瑠璃に見つめられ続ける。笑い、思い切り軽蔑され、罵倒の言葉を吐き出す瑠璃の前で、少年は止まらない射精を繰り返させられる。

「はやく、会いたいな……」

 自分を慰めながら瑠璃は淫蕩につぶやく。あの男に渡したリング――瑠璃の夢武器――は、もちろん妖精自身と繋がっており、発動した瞬間に男の場所がわかる。
 その時、瑠璃は空間と時間を一時的に捻じ曲げて、どんな障害があろうとも男を手に入れる。
 それはきっと遠い未来ではなく、ごく近い……と思った瞬間。

「あっ!」

 妖精の中で赤い夢が弾ける。遠く離れた場所で、今、この瞬間に夢武器が発動したのだと、はっきりと認識できた。
 が、しかし、それは大きく瑠璃の予想と異なっていた。

「うっ、――っっ!!! な、なによコレ!!」

 少女――伝説の夢人――である自分の制御を越えて、恐ろしい勢いで夢が引きずりだされていく。
 それは夢武器の範疇をはるかに越え、もはや通常の夢人であっても夢に飲み込まれて消滅してしまうレベル。
 永い永い時の間、さまざまな通常人や奴隷、ときには夢人から搾り出して蓄えてきた夢――それは瑠璃そのものと呼べる――が、彼女の制御をあっさりと無視して流れ出していく。

「あは、あははははっ。すごい。わたし、わたし、レイプされちゃってるっ。あああっ、すごい、あああああっ。痛い、痛いのに気持ちいいぃ!」

 椅子の上で妖精のカラダがバタバタと跳ね、愛らしい顔には苦痛の表情が浮かぶ。その奥に見え隠れするのは紛れもない快楽の顔。

「すごい、ああああっ、すごいよぉ。イク、すぐに会いにイクからっ。あっ、あっ、あっ、イク、イクっ」

 苦痛にあえぎながら、パンティの上の指を動かし続ける瑠璃。

「あ、痛いっ。痛いっっ。ああああっ、絶対、絶対に許さないからっ。あははっ、ああああああ。瑠璃もレイプしちゃうからね。お兄ちゃんを滅茶苦茶に、あっ、ああああっ。すごい、何コレ、何コレ、何これ!!」

 部屋の中に響く妖精の絶叫。苦痛と快楽の混じりあった、表現しようもなく淫らな叫び。
 ドレスの上からでもはっきりとわかるほど幼い乳首は勃起し、下着は沁みだした愛液でドロドロに濡れる。
 整った愛らしい顔は、思い切り唇を開き、長く真っ赤な舌が見えた。

「あああっ、いく、いくっ、いくぅ!!」

 ひときわ大きな絶頂の声……。
 ――そしてその直後、瑠璃の姿は椅子の上からあとかたもなく消えた。部屋の中に響く淫らな叫び。そのかすかな反響を残し。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.12899112701416