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[35536] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 12:09
'15,01,30 PC版TEに準拠し文章改稿

因みに、此処で言う準拠とは、基本PC版TEのストーリーを辿った世界としています。
が、ご都合設定として10月19日の評価試験が25日まで延びたという無茶振りをしました。
(つまり、異●●妹バレも、狙●も、緋焔白霊のくだり、も有り)
出来るだけTEをプレイしていなくてもある程度流れが判るようにしたつもり(ネタバレ含む)ですが、
気になる方はソフトでご確認下さい。





初めてのss投稿になります。

思うところ有り、試しに上げてみました。
原作やメカ本等に示されるあまりにも絶望的な状況の中、本気で人類が永続するにはこの位は必要かな、と。
故にオリ主はチートオブチートです。


なお、この作品は、以下の要素を含みます。

・所謂 武クン3周目(主観記憶)+ 原作混入型オリ主 ものになります。
・武クン最強、オリ主チート仕様です。苦手な方は回避推奨。
・TE要素(基本PC版TE)含みます。
・ハーレム要素含みます。原作ペアリング無視もあり。
・【R15】程度の、残酷[グロ]描写・性的[エロ]描写在り。(原作が原作なので^^;)


この話は殆どが、ご都合設定+勝手解釈(=唯我独尊[やりたいほうだい]《意訳》)で出来ています。
文章がかなり理屈っぽく、厨二臭最強です。(設定厨、説明厨)


以上の前提が気に触る方はブラウザバックを強く[●●]お勧めします。


需要が在りそうなら、続きを検討します。
力不足で途中更新が鈍ることも在るかと思いますが、訥々と書き連ねていくつもりです。

一時の暇潰しにでもして頂ければ幸いです。




'12,12,01 追記 

感想板への多数の書き込みありがとうございます。大変嬉しく思って居ます。
ただ、書き込みに関しては、掲示板TOPの感想板投稿に関する注意書きにある内容に逸脱しない範囲でお願いします。


'12,10,17 チラ裏より板移動しました。

ですが、板移動の操作中、ブラウザ不調に陥りデータ欠損が生じたため、泣く泣く新規投稿し直しました。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。







[35536] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:45
’12,09,26 upload
’12,09,28 誤字修正


Side ??


・・・・・。

目覚めた瞬間、見覚えのある天井が視界に映る。

・・・永い、夢を見ていた・・・?


その視界が、直ぐに歪む。深層意識がその問いを否定し、こみ上げる。

!! 夢・・・、ではない。

心の大部分が抜け落ちてしまった様な、この圧倒的な喪失感・・・。
夢であって呉れればどんなに良かったか、昨日何十回、何百回そう思ったことか。

僅か24時間前に、この手から滑り落ちて行ったのだから・・・。



-アンタはこの世界を救ったのよ-

―ずっと見ています-


頭に響いた声。
あの世界で最後に掛けられた、優しい言葉。
その記憶すら何の慰めにも成りはしなかった。


朝の柔らかい光に満ちた“自分の部屋”。
声もなく、ただ涙が、とめどなく、頬を伝った。



「・・・え?」

しかし次の瞬間、頭の中に棒でも突き立てられたような衝撃に全身が硬直する。
初めは、なにがなんだか解らなかった。
一気に流れ込んでくる情報の奔流。

これは・・・知らない“記憶”。

どうにか状況を理解した物の、その余りにも膨大な量の圧力に、叫び声すら上げられず、頭を抱えたまま凍り付いた。
頭痛というより、脳が膨れあがるような“記憶”の流入に、自分の頭が破裂する様な恐怖を覚える。

―――何処まで続くんだっ!?

その底知れない恐怖の中で巡る、様々なシチュエーションでの“あの世界”での“シロガネタケル”の“経緯”と“終わり”。
それは、BETAによる死であったり、戦術機の自爆であったり、因果導体からの開放による“帰還”であったり、様々だが、そこに至る過程は千差万別。
正しく確率分岐世界での様々な“シロガネタケル”の人生を、超並列・超高速で再生されているのだった。



「・・・なんだこれは・・?」

漸く“記憶の再生”がおさまる。
ホッとしつつ気がつけば、全身に脂汗が吹き出していた。筋肉という筋肉が攣った後のようにゴワゴワと動きにくい。
ギギッと音がしそうな首を曲げ、時計を見れば8:30。
30分間も“記憶”の圧力に耐えていたのか、全ての筋肉がその緊張を解かれ疲労にぐったりしていく。

記憶の氾濫が収まるとともに、ゴチャゴチャのそれらを整理せざるをえなかった。



主観的な記憶としては自分が辿った(筈の)ものなのだが、そこに傍系記憶が付いてくる。

所謂“元の世界”の“白銀武”、これは途中までほぼ主観記憶の一本道、昨日までの記憶だ。
BETAの存在しない平和といえる世界で、平穏に生きる高校生としての記憶。

しかし、今日であるはずの10月22日以降は、未来の記憶が多数あり、しかもその内容も様々だったりする。
今朝の朝起きた時の相手が、幼馴染みの純夏とのいつもの喧噪であったり、いつの間にかベッドに潜り込んでいた冥夜だったり、またはゲーム仲間の尊人との対戦徹夜明けだったり、宿題の課題解決を頼み込んだ彼方だったりといったパターンが存在する。

そして、そこから枝分かれした“元の世界”の記憶は、純夏や冥夜、委員長や彩嶺、たまや柏木、あるいはその他の女性と結ばれた様々な記憶“群”としてある。
“関係”だけなら、まりもちゃんや、月詠さんさえあるのだ。
それらの記憶は、いずれも途中まででふっと途切れているのだが・・。


ただ、それらに付いては“2周目”の世界で夕呼先生の仮説を訊いていたから、いくらか理解もしていた。
そもそも、“BETA世界”の自分は、『タケルちゃんに会いたい』という“BETA世界”の純夏の願望によって引き寄せられた存在、それも“元の世界”の確率分岐世界から“少しずつ”集められた集合体である、と言うこと。
その際、“元の世界”の純夏にとって大規模な分岐が生じた10月22日、武と結ばれなかったが故に、その日への戻れたらという“元の世界”の純夏の意志が重い因果となって、“BETA世界”の純夏とシンクロし、そこに現れたのだ、という解釈だった。

つまり、今の自分はその集められた分岐世界の“シロガネタケル”の、元の記憶を全て有している、ということになる。


・・・どういう事だ?

少なくとも俺は最後のループで、因果導体でなくなった筈だ。
純夏の無意識領域での嫉妬フィルターがなくなった所為??


そう思いつつも、そこから繋がる次の記憶は、正しくBETAの世界に転移した“1周目”の記憶。

主観記憶としては、多大な混乱の上放り込まれた訓練兵、激しく苦労しつつもどうにか任官に至り、仲間と共に闘っていくわけだが、何も出来ぬまま、クリスマス・イヴにオルタネイティヴ4は5に移行。国連横浜基地も大幅な再編を実施される。
バーナード星系へ10万人の旅立ちを見送り、残された人類が実施したバビロン作戦、その混乱の中で、いつの間にか記憶が途切れている、そんなあやふやな物だった。

だが、その主観記憶とは別に、やはりその他の記憶や状況が傍系記憶として存在する。

5への移行前に207Bメンバーや、夕呼先生とさえ結ばれた記憶、オルタネイティヴ5直後の混乱で死亡したり、他方生き延びて欧州・アラスカ・アジアなど各地で闘った、数え切れないほどの多岐にわたる記憶が存在する。
なにしろバーナード星系への脱出の後実施されたバビロン計画、その結果招いたのは、大規模な環境破壊・大海崩。G弾乱用の結果、愚かにも自らが引き起こした未曾有の激甚災害により、人類の社会基盤が根こそぎ破壊された。
その余りにも厳しい状況の中、それでも残存BETAとの闘争を繰り広げながら絶望の10年、自分の記憶としては、2008年頃に果てるまでの記憶“群”である。


桜花作戦の後、霞に聞かされた説明では、少なくとも自分自身が8度はループしていること。
つまり純夏に辿り着かず、他の子と結ばれた世界の記憶は、純夏の無意識領域によって濾過され、ループしていたということ。
その“1周目”の状況に一致する。
全部忘れ、10月22日に戻る。途中で死んだりした場合も全てリセットされるわけだから、この世界の記憶群として正しいのだろう。

だが、それらの記憶が全てある、と言うことは、やはり純夏の無意識嫉妬フィルターが働いていない。
それらはいずれも、前後の経緯こそ千差万別だが、2001年12月24日に、オルタネイティヴ4が凍結され、5が発動した記憶“群”であり、自分の中では元の世界からBETA世界に来た後の“1周目”にあたった。
と言うか、繋がる記憶が無く、スタート時点が同じだから、分岐世界に於ける並行進行(パラレル)に感じるが、実際にはループによる逐次進行(シリーズ)の記憶を、“1周目”として全て持っている訳だ。


最後が、“2周目”の記憶“群”。
それは、“1周目”の主観記憶一通りだけを有し、その記憶からより良い未来に繋がるようにあがいた世界。

その記憶も主観としては、“XM3”を開発し、夕呼先生に頼んでHSSTの墜落や天元山の悲劇を回避しながらよりよい未来を目指していた。しかし、歴史が変えられた所為か、1周目にはなかったクーデターの発生、トライアル時の混乱とまりもちゃんの喪失、そして逃げ帰った元の世界での悲劇へと繋がる。元の世界の安定を取り戻すためにも、因果導体であることを解消すべく決意して“BETA”の世界に戻った。純夏を00ユニットとして復活させた後、甲21号、純夏と結ばれた事で因果導体を解かれるが、横浜基地襲撃後、甲1号を攻略、と言う流れ。
最終的にあ号標的を撃破するも、その過程で霞を除く仲間の全てを喪い、皮肉なことに結ばれた純夏さえ喪ったことで、因果が断たれ元の世界へ戻る。
今朝目覚めて、最初に思い出したのも、その“2周目の世界”の記憶、主観的にはほんの昨日の記憶なのだ。

しかし、それにもまさに記憶“群”と呼ぶべき様々なバリエーションが存在していた。
それは大別して3種類。
一つは自分を因果導体としていた純夏と結ばれることなく、死亡したケース。
一つは今の主観記憶、この世界から帰還する筈のケース。
そして純夏と結ばれて因果導体としては開放され、純夏を喪うことで戻るはずが、甲1号を破壊した後も死ぬまでBETA世界で戦い続けたケース。

最初のケースは正しく、失敗。死亡がループに繋がるはずなので、そのまま2週目の何処かの始まりにループしているのだろう。
00ユニットそのものの完成・調律に至らない場合や、完成したが結ばれない記憶が殆どで、調律が上手く行かないから甲21号か、甲1号で撃破される状況が占めていた。

2番目のケースは、今の主観記憶、その1つしかない。
達成条件をクリアして、あとは元に戻る、と言った状況で、今こんな記憶“群”が在ること自体がおかしいのだ。

最後のケースは、純夏の復活と結ばれること、そして桜花作戦自体は、成功したり失敗したりするが、何れも純夏は死(機能停止)に至り、本来なら因果の原因が消え、元の世界に戻る筈が、その後もBETA世界に残り、BETAに抵抗を続ける様々な状況の記憶“群”、であった。
その際に説明された夕呼先生の仮説に因れば、XM3の開発や、甲21号、桜花作戦で世界的に有名になり、“シロガネタケル”がこの“世界”の認知に至ったのではないか、ということ。
つまり、世界が自らの一部と認めたことで、因果導体であった原因を喪っても戻らなかった、と言うものだった。

これら様々な記憶を有するが、自分が生きている範囲でBETAから地球を奪還したケースは存在しない。
確かに2周目はバビロン作戦が強行されず、1周目の世界よりは永く保ったが、最終的にはBETAの物量に押し切られそうな中で記憶は途切れている。
いずれも消耗と疲弊、絶望の中、それでもあがき続けた記憶、しかなかった。

この2周目の記憶“群”によれば、途中死亡は何れかのループに戻り、BETA 世界に残った場合はBETA世界の一住人として人生を終え、本来それらの“シロガネタケル”は主観記憶と同じく、元の世界に戻り純夏によって再構築された平穏(?)な日常に戻る状況だった。


そして、更にたった一つ、今まで整理したどれにも属さない記憶が在ることに、気がついた。






流れ込んだ記憶の整理が付き、今の自分の状況が掴めるにつれ、背筋が冷たく引き攣り、鳥肌が立ってくる。
そう、BETA世界の記憶は、元の世界に戻る際虚数空間で濾過され、全く思い出せなくなるはず、夕呼先生はそう予測した。
なのに今の自分は主観記憶だけでなく、様々な確率分岐世界、というかループしたそれぞれの記憶までもを有している。


厭な予感がした。
そもそも、元の世界に戻れば、今朝ここに居るはずの冥夜がいない。
その事を知っている時点で既におかしい。

つまり・・・元の世界に戻ったのではなく、ここは“3周目”の世界、なのか?

そして・・・・。

耐えられなくなり、ベッドを飛び出すと、一瞬だけ逡巡し、思い切って窓を開けた。








“予感”通り・・・。

目の前には幼馴染みの家を押しつぶして頽れた巨大な“戦術機”の骸。
見渡す限りの廃墟と化した街、柊町。






やはり“元の世界”に戻って居らず、ここは三度“BETA”世界。
部屋の中だけが、“元の世界”の部屋だが、“確率の霧”状態なのだろう、ここを出れば、廃墟に変わる。
主観記憶ではそんな知識はなかったはずだが、傍系記憶では物を取りに来て廃墟と化した部屋に入り愕然とした記憶がある。

つまりは、記憶にある“1周目”と“2周目”の“はじまりの日”、その起点10月22日と全く同じ状況だった。




どういう事だ?!

・・・“この世界”、そしてこの記憶“群”はなんなんだ?
既に因果導体ではない筈の自分。
結ばれたことでループさせる力を、その必要性を、喪った筈の純夏。

では、何故自分は此処にいる??
しかも、繰り返しループした全ての記憶はおろか、呼ばれた確率分岐世界の記憶まで持って・・・?










「・・・やっぱ、夕呼先生に聞くしか無いよな・・・」

自分の置かれた状況に途惑いつつ、自分で考えるだけ無駄に思えてきた。
“自分”にとっては、結局“今”しかないのだ。
過去の記憶は唯の記憶だし、未来の記憶も此処では選びうる確率の一つ、でしかない。、


そしてそれは一方で微かな希望。
もし、・・・もし、これが“3周目”なら、あの未来を変えられるかも知れないという希望。
喪った筈のモノが、ここにはまだ“存在する”、という事。


純夏。

冥夜。

美琴、たま、彩峰、委員長。

速瀬中尉、涼宮中尉、伊隅大尉、柏木。

そして、まりもちゃん・・・。


今度こそみんなを・・・救えるのか?

窓の外に広がる廃墟を見ながら思いを馳せた。









「朝っぱらから、いきなり窓開けて、テンション高いな・・」

その時、背後から掛けられた声にぎょっとした
振り向けば、部屋の片隅、寝袋から上半身を起こした状態で、声の主が居た。


Sideout





[35536] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2013/05/15 19:59
’12,09,26 upload
’13,05,15 誤字修正


Side 武


それは耳に馴染んだ声、見覚えのある面影。
並行世界を少なくとも2回、主観記憶では合計で2年近く渡ってきたため、随分昔、とも取れるのだが、同時にさっき流入した記憶の中には、つい最近の元の世界の記憶もある。
それ故、相手が誰なのか、理解できる。

「!!! 彼方っ!?」

並行世界と元の世界の記憶の混乱に少し困惑しながら。

「・・・ああ?  何故久々に会ったような疑問系?」

「って!?  どうしてお前ここに・・って・・・。」

「寝ぼけたか?  ご挨拶だな。昨日課題終わらんと泣き付いてきたヤツが。」

「ッ・・・・・」

そう、思い出した元の世界の昨日の記憶。その中に確かに宿題の解決に泣きついた、という記憶がある。
実際元の世界のどの記憶でも、課題の解決に純夏や尊人がアテになるわけでもなく、しょっちゅう頼っていた相手なのだから。

つまり今回ループした俺は、元の世界では彼方に課題の手伝いを頼んでいた俺で、そのせいで俺の部屋と共に彼方までもこっちに引っ張り込んだってことか!?


困惑する俺を尻目に、外の異変に気付いたのか、彼方は寝袋を抜け出すと窓の外を眺める。

「・・・ちなみに、ここは何処だ?」

「え?」

「・・・世界が違いすぎる。・・・近所に人の気配すらない。」

彼方は戸惑うこともなく、淡々と口にした。

「えっと、その・・」

何処まで話していいものか?
少なくとも今までの自分の経緯を話すことは、この世界に於ける軍事的最高機密にも触れることだ。
元の世界と余りにも違う軍部が突出したこの世界で、元の世界の常識しか持ち得ない“BETA”世界初心者の友人に全てを話して良いモノか?

「・・・しかも、この部屋と外の世界は一種隔たりさえ感じる。・・・訳は・・・知ってるみたいだな。」

だが、既に現状の異常を悟り、ゆっくり振り向いた親友の、勁い眼光には抗えるはずもなかった。




閑話休題




「・・・成る程ね。随分と壮絶なことに。・・・ん、いや・・・、そっか・・・頑張ったな、武。」

最初の転移から主観記憶における殆ど全てを話し終えたとき、この極めて冷静で、恐ろしく聡明な親友はそう口にした。

「!!!っ!」




話の前に、と着替えた後、必要と思われるモノを持ち一旦外に出た。やはり確率の状態だった部屋が廃墟に変わった。
確率の霧のまま永く話しては不安定になりそうなのと、衛星通信を試した彼方から、不安定な霧の中からでは、通信が繋がりにくい、という主張があったからだった。

再度廃墟と化した部屋に入り、適当に座る場所を作って落ち着くと、オレの永い永い、経験の話をした。
彼方はPDAと一旦持ち出したモニタを繋ぎ、オレの話を聞きながらも何か操作もしていたが。
もちろん廃墟に電源は通っていないから、モニターに繋いでいるのは彼方持参の簡易電池。
交流100Vの簡易電池など元の世界でも他では聞いたこともないが、彼方は普段から持ち歩いていたので気にしない。気にしたら負け、なのだ。

彼方は話を聞きながら、小さな携帯用アンテナを展開し、片手間で通信衛星との接続を試みていた。

お、繋がるじゃん、衛星通信のプロトコルは同一規格か・・・。
とか、
セキュリティは、・・・・甘甘だな。
インターネットは、・・まだ公開されていない、か。
とか、
まあ基幹はあるし、そこそこ整備はされてるし、公官庁、研究設備さえ繋がってればいいから充分だな。
とか時々呟いていたのは、ご愛敬。

そんな操作をしながらも、しかし意識は聖徳太子の如く確かにオレに向いており、長い話に時折質問を交えて、微に入り細に入り2度のループに渡る殆ど全てを話し終えたときには、すでに2時間が過ぎていた。

その間彼方は、どう聞いても荒唐無稽なオレの話そのものには疑問を挟むこともなく、そして途中からは、ずっとその話を整理するように自分のPDAに何かを打ち込みながら聞いていた。

最後に、本来なら純夏に再構成された“元の世界”に戻ると予想されたはずが、何故かBETAの居るだろうこの世界で目覚め、三度目のリセットだろうと思われることを伝えると、暫しの沈黙のあと、この2歳年上の同級生は前述のように言ってくれたのだ。

それは話を訝しむとかではなく、オレの経験した過去への慰撫に他ならない。
実際、大事な仲間を亡くしたのは、オレにとってほんの一昨日のことなのだから。


「あ・・・」

それを理解して、鼻の奥がツンとする。

「・・ってっ!おまえ、こんな荒唐無稽な話を信じるのかよっ?!」

込み上げる涙を堪えるように誤魔化すように叫ぶ。

「・・・この現状の説明には最も納得できる話だ・・。何よりもここで武が俺にそんな壮大な嘘を言う必然性が全くない。」

「か、彼方・・・・・・」

「武が説明したこの世界の状況や、過去の事件が、この世界の現実と一致している事もネットで確認しながら聞いていた。
因みに、お前の言うとおり、今日は2001年の10月22日だ。俺自身の記憶でも、昨日武の家に来たのは10月21日だった。

武の話は、“初めて”飛ばされたとしたら、知っているわけが無い事実ばかり。
それにお前自分で気付いているか?  今のその身体は俺の記憶にある“元の世界の武”と違い、十分その2回目の世界のTOPGUNの身体だぜ?
少なくとも元の世界じゃ、武の腹筋は8つに分かれてない。
・・・もっとも世界を超えて、身体は鍛えられたって言うのに相変わらずの感激屋だけどな。」

茶化すように、目元に悪戯っぽい笑みを刻んで涙ぐんでいたことを揶揄されると、自覚が在っただけに顔が熱くなる。

「う、うるさいっ!!」

「デレツン乙。そこは三連呼が正しいが、まあどうでもいい。・・・さてこれからどうする?」

「あ、・・・ああ。」

鉄板なつっこみでからかわれ、噴き掛けた思考に、冷や水。
さり気なく掌の上で遊ばれてる気がしないでもないが、この冷静さが今は頼もしい。

「・・・取り敢えず、横浜基地に行くことは必須だと思う。夕呼先生の協力は不可欠だからな。」

「・・・お前としては、鑑やおまえの仲間、ってかこの世界でのクラスメートが横浜基地に居る以上、避けられない、か・・・。」

「だな。・・・成り行きとは言え、彼方にもこの世界の最高機密も全部ばらしちまった様なもんだし・・・。」

「フム、で・・・?  お前その夕呼センセの数式、覚えているのか?」

「え?  まさか。数学が得意でもないオレにあんな複雑な式、覚えられるはずないだろ」

「・・・それは・・・・・・。・・・まあいいか。」

「え?」

意味ありげな沈黙に引っかかる。その疑問顔を察したのか、彼方は説明モードに入る。

「・・・そもそもさっきの話では、“2周目”の世界で鑑とリア充ラブラブHして因果導体と言う存在から外れ、その後その世界の鑑が機能停止したから還る筈、だったんだよな?」

「!っ・・・露骨な表現を控えて貰えると助かるが、まあぶっちゃけ、そうだ。」

言葉から“その”ことを鮮明に思い出してしまって赤くなったり、一方で、喪ったことに落ち込んでみたり。

「・・・三度この世界に戻ってきたのは、元因果導体であった武の未練と我が儘以外原因はないだろうが、経緯に因果導体から外れている事実が在る以上、今の武は因果導体ではないだろう?」

「恐らくそうだけど・・・・、あ!・・・それって・・!! 元の世界行って数式回収が出来ないってことかっ?!」

「・・・鋭いな。恐らくそうだ。
そもそも普通の人間がBETAの居ない異世界に転移できるなら、とっくに避難してる。
世界を渡る裏技なんぞ、本来無理。
夕呼センセの仮説で言えば、鑑がこの“BETA世界”と俺たちの“元の世界”を繋いだ。
そして向こうの世界群から、集めた武を2つの世界の因果を繋ぐ存在:“因果導体”としてこの“BETA世界”に引き込んだ。
だからこそ因果導体のお前は、その2つの世界を繋ぐ“繋累”を辿って元の世界に戻れた。
因果導体である事と、武の言う社嬢のサポートが在ったとは言え、それでも本来は相当低い成功率だろ。
それを実行したって事は、夕呼センセらしくもないが・・・、余程、切羽詰まってた、と言うことか。・・・まあ、あと2ヶ月!と期限切られれば仕方ない、な。

それが、鑑の望みの成就に因って、武の因果導体は解消され、その“繋累”は既に切れている筈だ。
“繋累”が無くなった今、無数にある分岐世界群から目的の世界を探し、転移して、また同じ世界に戻ってくるなど出来ないよ。」

「・・・・じゃあ、数式は回収不可能?  00ユニットは・・・完成しない?  純夏は・・・っ!?」

「・・・落ち着けって。・・・ふむ、だから世界は俺を選んだな。」

「は?“世界”・・・?」

「夕呼センセの論文は発表されて居るんだよな?」

「あ、ああ・・・。」

DB[データベース]を探してみるか。」

「・・・・・。」

沈黙。
モニタを高速で流れる文字列。

学会系の論文データベースから、論文リスト表示、検索。元の世界と違い、インターネットなど、まだ整備もされていないこの世界。しかしその元となる“経路網”は既に在るらしい。

検索に勤しむ彼方に、問いかける。

「・・・なあ、彼方、この世界は“ループ”して再構成されたんだよな?」

「ああ。お前の経緯を聞く限り、そう考えるのが妥当だろう。」

「じゃあ、“戻った”と言うことは、オレが因果導体であることも戻った、と言うこうじゃないのか?  ここにいる純夏も、オレを引き込んだんだよな?」

「・・・・」

モニタから視線を外し、人の顔を興味深そうに眺める。

「?  何だよ、人の顔マジマジと・・」

「いや、複数の並行記憶の所為か、頭が回るな、と。
けど、残念ながらそれは無いな。お前の死で、今日に戻る閉じたループが続くこの世界とはいえ、その直前、つまり昨日までは確率分岐が存在していたはずだ。
ループ時の再構成に当たり基礎となる選択肢は多い。なので同じ様なループでも、過去は微妙に違っていたりしなかったか?」

「・・・ああ。そう言えば、そうだ。
今まで記憶が主観一本だから気にもしなかったが、傍系記憶では、過去がかなり違う場合もある。」

「で、因果導体に縛られた世界は、ループの度に様々なパターンに分岐した。それはお前が因果導体で、その在り方によってルートが変わる為。
逆に言えば因果導体が世界の在り方を変えられる。
本来並行[パラレル]に進む分岐世界が、因果導体のループによって逐次[シリーズ]世界になったようなものだ。
そしてお前は前回、そのループそのものを起こしている原因、鑑を解放した。」

「・・・つまり原因が消えれば、結果が消える・・・ってことか?」

「そ。話が早くて助かる。
その上で再構成されたのが“此処”。
一見タイムパラドックスにも思えるが、そもそも因果律量子論では時間なんか相対的な指標でしかないからな。“此処”で言う支配的な時間の流れは、因果導体だったお前の“経緯”。
つまり鑑の希望を叶え、因果導体から開放された、という“因果”の“因” 。
その“因”を過去として持っているお前の居るこの世界の鑑は、既に“元の世界”から“シロガネタケル”を呼び込めてない、と考えるのが妥当なんだ。」

「・・・・」

本来多数にあった確率分岐世界。
純夏が“その力”を得たことで、オレが引き込まれ、閉じた世界。その“主因”が無くなり閉じた世界は開放された。
この世界は、“主因”がないことを前提に再構成された世界、と言うことだろうか。

「オレが因果導体でないのは、因果の “結果”、じゃないのか?」

「因果は当然繋がっているから、見方に拠れば、というか武の経緯で言えば、確かに結果だ。
だから、その結果に合わせる様に、原因も変わる。
ここで再構成された世界は、お前が因果導体ではない、という結果に繋がる世界、つまりこの世界の確率分岐の中で、鑑が他の世界の“シロガネタケル”を呼べない世界さ。
因果導体である“シロガネタケル”には来れない世界だが、この世界の一部となった今の“白銀武”なら存在できる世界、ってところか。」

因果導体で無くなった事を前提とした再構成世界、と言うことか。

「・・・・・・あ、これか・・・。フム・・この論文の理論式を見れば、間違いくらいは解るな。」

自分の考えに黙り込んでいたら、検索からヒットしたらしい、彼方が声を上げる。

そもそも今のネット環境は、公開用のホームページなど存在しない。リモートログインで、直接サーバやコンピュータシステムにアクセスしている、らしい。
どう控えめに言ってもハッキングという犯罪行為そのもの。
普通IDもパスも無いはずなのに、あっさり入り込む。
彼方に言わせればまた公開が前提とされていない世界なので、そこらのホストはセキュリティが相当甘いそうだ。メンテ用のシステムIDとパスワードがそのまま使える所も在ったとか。

尤も、それ以前に衛星と通信できている時点で破格、なのだが。

そう言えば、彼方がこんなハッキングスキルを有しているのを知ったのも、物理教科室のPCで、夕呼先生とあちこちの実験結果を漁っていた所を見たからだ。

「!!! 彼方そう言えば、向こうで夕呼先生としょっちゅう議論してたよな?!」

「・・・だよ。多分、該当する理論の議論も出来る程度に、な。だから、“世界”は俺を選んだんだろう。」

理論が完成する希望が持てたことに、歓喜が沸き上がる反面、背筋が重い冷気に晒される。
これでは、彼方が夕呼先生に巻き込まれること確定だ。

「けど・・、いいのか?  それじゃ完全に巻き込まれることになるけど?」

「今更、っていうか、武が気に病む必要もない。元の世界でだって、センセと連んでいたんだぜ?   世界違ったって、本質的な魂は同一だしな。
仮に、このまま武と別行動したトコで、この年齢の男子は殆どが既に兵役なんだろ?
異世界転移してこっちの身元もあやふや、悪ければスパイ容疑で射殺、次点でも違法難民扱いで留置は確定。
こっちの俺が死んでいれば戸籍すら無いわけだし。
よしんば開放されても、軍属してどっかの戦線に歩兵として送られて、それでおわりだ。」

「!!」

この世界に来た時点であり得ない話ではない、と言うか、今の時代背景からすれば、それは確定した未来に思える。勿論、このチートが服を着ているようなコイツが黙ってそんな事になるとは到底思えないまでも。
初めて来た時、俺がそれを理解したのは何度も営倉で過ごした後だったと言うのに、コイツはもう理解している。
何というか、驚異的な適応力?

何れにしても、そんな状況に巻き込んでしまったことの想いが僅かに表情に出たのか。

「・・・別に俺が来たのはお前の所為じゃないから、お前が気に病むこともない。
世界に選ばれた時点で巻き込まれることは決まってる、と言うか、武と居ることが最も効率が高く、使えるカードが多いことが解っている。
お前の目標は? 仲間を護り、人類を永続させることじゃないのか?」

「! 勿論!!!」

「俺としても別に無為に死にたい訳ではないし、BETAに喰われる様な事態は全力で避ける。
この世界の人類を永続させる事に異存も反論もないし、知り合いの死に目に遭うのも遠慮したい。
世界が相手じゃ、俺が因果導体とは思えないから元の世界に還る手立てはほぼ無いし、ここでの人生を考えれば人類の永続には寧ろ積極的に貢献したい。
目指す目的は、同じ、だったら最大限サポートさせてもらうさ。
・・・おっと、あ、・・ここか・・・。」

「?! 彼方・・・?」

彼方の目がモニターに留まる。モニターでは流し読みしていた夕呼先生の論文。

「・・・成る程、“元の世界”の夕呼理論とはちょっと違うな・・・。
向こうの夕呼センセに言わせれば一世代前の考え方、たしかにセンセの言い方では “古い”な。
これは・・・階層の概念が入ってないのか・・・。
・・・例の数式は何とか出来そうだぜ?」

悪戯っぽい笑みと、呆気ないばかりの言葉に唖然とするしかない。
“世界”が選んだという彼方は、数式回収という最大の懸念をあっさりと打破してしまった。


・・・・・・まあ、これが、彼方、だ。

世界は最適な存在を引き込んだらしい。





最初にこの世界に来たときは、何も無かった。

何故ここに来たのか、純夏の事情など何も知らず、今思えば、ひ弱で無知で何もない、情けないまでの自分。
そんなオレを置き去りに、人類はほんの僅かの人数で、遙かな宇宙への逃避行に奔り、そして残りは玉砕戦に討ってでた。
それは、絶望の終焉でしかなかった。


無意識の内に何度もループし続けた末に辿り着いた2周目には、1周目で培った力は在った。
その記憶もあった。
けれどやはり未だ、精神的にはまだまだ幼稚で甘甘な、ガキだった。
この世界で本当に生きていく、その覚悟すら無かった。
XM3の成果が思いの他在った所為で傲り、そこから生じた失態でまりもちゃんを死なせ、あげく逃げ帰った元の世界のまりもちゃんや純夏にさえ重大な因果をもたらした。
決意と共に戻ってはきたが、結局最後まで甘ちゃんは抜けず、207Bみんなの命と引き替えに、助けて貰って生き延びただけだった。
彼女たちの凄絶な生き様死に様を伝え、散った者の分まで全てを負って生きるのが努め、そういまわの際に冥夜と約束しながら、それさえ反故にして流され、元の世界に還るしかない、そう納得してしまった最後の最後まで情けない男だった。

殆どの仲間を失い、オリジナルハイヴは墜としたものの、人類そのものの傷は深く、生き存えることは微妙であるのは漠然と理解もしていたのに・・・。

そう、結局異邦人でありこの世界のものではない構成因子は、いつも、どのループでも、たった一人だった。



だが、今回は違う。

傍系記憶も合計すれば、ざっと100年を越える経験、力も在る
まあ、スタートが同じ時系列の、しかも蓄積のないループなので、精神年齢はたいして上がっている気はしないが。

それでも、覚悟は出来た。


そして、はっきり言ってオレが知る限り、元の世界で最もチートな親友。
彼方には元の世界で、実は世界を相手に喧嘩を売る力があった。
元の世界の冥夜を以てして、規格外、と評した頼もしい相棒が来てくれた。

今度こそ、絶対、皆を守る!

心の中で固く決意する。




「・・・さて、論文関連の理解は、こんなトコでいい。
じゃ基地行く前にもう少し話させろ。経験者の、武の意見を聞きたい。」

「は?」

「・・・人類がBETAに勝つ方法について、だ。」

彼方の口元には、あるかないかのアルカイック・スマイル。
これは・・・・彼方が猫を被らないときの表情。

・・・あ、BETA死んだ・・・。
あ号は阿部定確定だな・・・。


背筋に寧ろ薄ら寒いものを感じながら、どうにか曖昧に、ああ、と応えた。


Sideout





[35536] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:46
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Side 武


知っているだけのBETAの知識、戦術機関連、幾多のループで経験した戦術や試作兵器。
主観記憶以外にも“未来情報”が在るわけで、それらは雑多に渡る。
XM3の概念も話したし、傍系記憶に在ったレールガンや弐型のことも話をした。

但し、主観以外の“記憶”に於いても、人類の状況は決して良いものではなく、常に消耗していく、という状況が正しい。
それは、傍系記憶にある甲1号を陥とした後の世界でも同じ状況だった。


「で、武、この世界の当面の敵はBETAなのは解った。その他の敵は?」

「・・・オルタネイティヴ5急進派。あと潜在的な国粋主義者。」

「HSST墜落工作を初めとする妨害とクーデターか。」

「そうだ。
狭霧大尉は、結局踊らされていただけだから、まだ何とか説得できると思うけど、米国に操られていた者の所為で死傷者が増加し、説得も妨害された。
5の連中は、どうしようもない。」

「・・・フム、5の主張は間違っては居ないんだぜ?  やり方はデメリットが大きすぎてダメダメだがな。」

「! 間違ってないって、たった10万逃がす計画がか?!」

「それは明かな失敗。
選別、人種構成、指揮系統、内紛のフラグ満載だし、航路、機関、そして目的地も不安要素だらけ。
俺なら選ばれても乗らない。
間違って居ないのはバビロン作戦の、考え方、だけさ。人的損耗をせずに、ハイヴを殲滅するという、その考え方。」

「!!・・・、それは・・・そうかもな」

人類の抵抗は、人的物資的消耗そのものだった。
損耗率が例え3割だって、2回戦えば部隊は半分、4回戦えば、1/4にまで減じる。
それが、BETA戦においては、5割6割当たり前、の世界。
軌道降下部隊に至っては、8割と聞いた。数字上2回生き延びる衛士がいないのだ。

永い期間と莫大な費用を掛け、育て上げ作り上げた衛士や戦術機が、使い捨てのように消耗していく。そんな戦いに未来が在るはずは無かった。


「・・・見てみ、このグラフ。
今朝からずっとネットで情報を集めてみたが・・・過去の統計とハイヴの成長から予測した、BETAの数と人類人口の遷移だ。
・・・今のまま何の戦略変化もなければ、9年後にはBETAの数が人口を上回る。」

「!!!」

示されたグラフは、級数的にBETAが増加していく様子を示している。

「取り敢えず、ハイヴの各フェイズに於ける規模と、ハイヴ成長速度からの予測だ。
ハイヴの成長速度には結構バラツキがあるが、おしなべて平均で見るとこんな所だろう。
各フェイズに於けるハイヴの半径と深さで示される支配体積に対し、ハイヴ内のスタブ密度、スタブの抗径及び存在BETA密度がほぼ等しいと考える。
そうするとフェイズIIでは3000体位のBETA数が、IIIでは1万7000、IVでは既に11万に達する。
Vなら60万、地球上最大のハイヴVIに至っては実に300万だ。
因みにBETA数は全て大型種だけの数字な。

今の統計では、ハイヴの発生からVIへの到達年数は25年前後。
それ以降は指数曲線による近似なので仮定だけどな、流石にハイヴ成長規模もサチるから、フェイズVIIへは55年、VIIIへは100年掛かると見てる。火星にあるらしいマーズ0は150年強、フェイズIX。因みにそこで予測されるBETA数は予測されるその体積規模から言って1億7000万に達する。」

「!!!」

なだらかなカーヴを描く片対数軸のグラフ。フェイズVI迄の規模をグラフにし、その曲線を外挿したものだ。ログ軸では確かにサチっているが、リアル軸に直せば指数的な増加に変わりはない。
ハイヴ1基で1億7000万など、考えただけでめまいがする。

「地球上では今まで人類相手の占領地域の平行拡大がメインだったんだろうな、今のところフェイズVIはH1だけだが、設置された時期から考えて近々H6までがVIに達する、と考えて良い。」

現在のBETA総数は、推定1500万。
急激に伸び始めるのは、今から4年後。
6年後の2008年には、今の倍の3000万に達し、人類が滅ぶと言う10年後は4000万だった。
一方で、漸近的に減少していくのが、世界人口と戦術機生産可能数。

「あ号を倒せば、司令塔が消えるから、BETAは巣に引き籠もり、ハイヴ成長が若干鈍るが、それでも30年後にはやはり破綻する。
聞いていたんだろ、夕呼センセから人類は10年保たないと。」

線が1本追加される。
2002年でBETA数に僅かな段が生じ、増加が緩やかになる。それでも、2030年前に、激増が始まっている。
その何れもが傍系記憶で経験した状況に等しい。

「・・・・」

「・・・増殖速度の桁が違う。これが10年前なら、まだ色々な対応が取れたはずだ。
過去のデータを裏表見る限り、大国のエゴと、利益主義、見通しの甘い楽観的な予測、それが今の事態を招いた。
今となっては、特に対抗兵器である対戦術機比が絶望的。
自決的環境破壊、そして武が経験したというフェイズ5以上には効果が薄いという事を知らない、乃至認めたがらないあの国の支配者連中にしてみれば、G弾はもっとも合理的なドクトリンと言える。人的損耗無しでハイヴ攻略・BETA殲滅殲滅出来るんだから。
故に、第5計画の奴らからしてみれば、オルタネイティヴ4こそ、無駄なあがき、と本気で思っている。
そもそもこの事態を招いたのも自分たちの利益誘導戦略だということさえ棚に上げて、な。
まぁ自分の計画の重大な穴を看過している時点で、救えないバカだけど。」

「・・・・」

「実際、武の経験にあるオルタネイティヴ4だって、結局成果として、BETAの指示構造を暴き、その司令塔を一つ潰したけど、その代償に人類としての損耗はあまりにも莫大。
一方で、BETAの物量に対抗する根本的な戦略は何ら講じられて居ないに等しい。
20年延びただけという、夕呼センセのシニカルな言葉は、極めて正しい。
桜花作戦で主戦力だった凄乃皇だって鑑とG-11頼りだった訳だし。
実際桜花作戦後に武が戻ってしまう世界では、鑑もA-01も殆ど居ない、武も居ない。
凄乃皇もない。その未来は、相当厳しかった筈だぜ。」

・・・頷くしかない。
あ号を喪ったってBETAはBETAだ。


「・・・何とか、成らないのか?」

何十回とループした記憶を持ったのに、ここまで言われて初めて思い知った。
あと10年しか保たない、と言う夕呼先生の言葉の、本当の意味を。この世界の人類が置かれた、余りにも底無しの深淵を。

まだ甘かったのか?
まだ足りないのか?

・・・いや、何時だって世界を覆う悲壮感は漠然とは感じていた。
こんな数字、為政者は誰も表に出していない。
出せる筈がない。
出したら一般市民の心は保たない。
自壊が始まる。


けれど彼方がこの世界に来て、僅か数時間で達した結論。
この世界に居る人々が感じていないわけがないのだ。

それを、明確な数字に示されて初めて実感した。
現状1万のBETAの進軍ですら、単独では拮抗できる部隊すら無い。
それが10年後、4000万・・・。
人口予測がそれを切るということは、今は無事な南北アメリカ、アフリカ、そしてオーストラリアや南極すら陥ちているだろう。

その未来を知って、そして現実を知って、世の権力者がオルタネイティヴ5に縋った心情が初めて判った。


「・・・と、何を言った所で、所詮バビロン作戦は人類自決作戦みたいなものだ。今は無事な南半球の補給庫を自分で壊すことだからな。
絶対阻止は前提。
それと、移民計画:バーナード星系ねぇ・・・、これも今はBETAの勢力圏だな。」

PDAを操作しながらいう。

「え?!」

「この計画の大本は・・97年のダイダロス計画からの情報だっけ・・・?   
1960年代に既に惑星存在が報告されているんだが・・・、ふーんこっちの世界では一応在るみたいだな。元の世界では、存在自体[●●●●]が否定されてたからな。
・・・この観測スペクトルから地球型惑星の存在を確認してるって事で、97年は移民計画のための茶番か。
けれど、辛うじて生きてるハッブルの観測結果を見ると、それも近年変化してる。」

「!?・・・・」

モニタに表示されていたグラフが変わった。

「・・・左上がバーナード星系第1惑星、地球型惑星と見なされる星の、60年代のスペクトル分布。左下が同じくBETA侵攻前の地球のスペクトル分布。確かに、似てるな。海洋と、植生くらいは在りそうだ。
けれど・・・、右上が最近観測されたバーナード星系第1惑星のスペクトル分布だ。
右下に最近の地球、特にユーラシアをメインにした解析結果を並べると・・・」

「!!!!」

・・・衝撃的。

2つのスペクトル分布は、何れも比較的高い周波数が減り、低い領域の周波数帯が増加している。
その増減の仕方が相似。
色で言えば、緑・青色系統が減少し、黄・赤色系統が増加していると言うことだ。

「これが、この“BETA世界”の現実。
さっきの武の話じゃ、BETA上位存在数は10の37乗だって?  既に太陽系に来たのなら、この周辺星系は同じ状況だろうな。

・・・ま、どうせ俺もこの世界で生きていくしかないからな、・・・何とかするさ。」


八方ふさがり。
深く考えれば考えるほど、何の希望も見いだせないこの状況に、気楽なまでに軽く言う。


「・・・なんとか成るのか?」

示された余りの状況に、衝撃が大きすぎて疑問系になってしまった。
そこには非難の色すらあったかもしれない。
その視線を、何の色も浮かべない、ただただ透き通った、底知れない深淵の様な瞳が受け止める。


「・・・・・お前にその意志が無いなら無理だ。」

「え?」

「・・・確定された未来、支配因果律を覆せるのは、因果導体だけじゃないのか?
俺は世界がたまたま引っかけて連れてこられたイレギュラーだぜ?
今の武は、元因果導体、けれど謂わばこの俺を引っ張り込めるほど因果を変える可能性をもった、“因果特異体”。
勁い“意志”、それだけ[●●●●]が、世界を変えられると教えられたんじゃないのか?」

「!!!」

「お前が“前の世界”で、喪った全て。その“全て”が、まだ[●●]、この世界には存在[ある]んだぜ?」

「!!!!」

「お前の記憶では確かに喪った。だが世界にとってその事象は、ループによって“なかった事”に成っている。
そして、その迎える“未来”を変えられるのは、お前だけなんだぜ?」

「・・・・」





・・・そうだった。

守りたかった全てが、此処[●●]ではまだ、“在る[●●]”のだ。
・・・喪ってなんか、いない。
オレの記憶は、今となっては唯の、“あるかも知れない未来”の一つに過ぎない。

人類が絶望的だなんて、何度もループして、とっくに解っていたことだ。
それでもオレは、運命を、世界を変えたくて、元の世界にオレを戻そうとした純夏の意志すら曲げて、“ここ”に戻ってきた。

地球が、人類が、どんなに絶望的な状況であっても、オレは、オレだけは諦めちゃイケナイ。

“世界を変える”、その意志だけが、オレの武器なのだから。



「・・・ああ!! 遣るさ、・・遣ってやるともっ!!」

「オゥ!・・・宜しくな、武」

彼方の掲げた拳に、オレは固く握った自分の拳を合わせた。


Sideout





[35536] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/12 17:12
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'12,12,12 誤字修正


Side 武


「で、あんた達は何者?」


守衛所で、もはやテンプレの一悶着の後、あいも変わらず4時間にも及ぶ検査を経て、面会室に案内された。

結構永い時間情報交換をしていたため、日も傾く頃になって漸く横浜基地までたどり着いたオレ達は、認識票も外出許可も在るわけ無く、案の定予定通り、守衛に拘束される。

しかし幾多の2周目の記憶通り、夕呼先生に連絡をして貰い幾つかのキーワードを告げると、いつもの検査の後に、ここに連れてこられた。初めて入るここは面会室。
今回は、男2人と言うこともあり余計に警戒されているのだろう、武装した伊隅大尉と宗像中尉が直衛に付き、ドアの外に待機する仕儀となった。
夕呼先生との間には、分厚いアクリルのしきりがある。
要するに、刑務所の面会室みたいな仕様だ。

一応盗聴の類は彼方がチェックしてくれているらしい。霞が隣に居ることも、彼方が気配で確認した。

彼方がどう遣ってそれを知るのかは知らないが、ヤツがそう言う以上、そうなのだ。
訊けばあっさり、アストラル領域の知覚で、という理解できない答えが返ってくるだけだ。

厨二?

だが実際彼方は15歳の時、落雷に直撃されて植物状態一歩手前で2年間昏睡していた、と言う凄まじい過去がある。

事故後の検査で微弱な脳波があり、辛うじて生きているモノの、この状態に於ける脳細胞の再生速度を鑑みれば、意識が目覚めるのは60年後、とまで言われたのだ。
それが、ほぼ1年後、突然目を覚ました。それから1週間で、健常者と変わらない迄に回復したという。
だが、もう1フェイズ行けそう、という謎の言葉を残して、再び昏睡に陥った。
そして再び、きっかり1年後突然目を覚まし、あげく2週間後に編入試験の上、転校し復学までした、という強者だった。
奇跡の復活、として詳細な経緯が新聞にまで載ったので、結構有名な話だ。

転校・復学は、2年の病気休校で以前の高校には行き難い、との本人の話だったが意識覚醒後2週間で、難関と言われる私立高校の編入試験を満点で通過する事もいろいろとおかしい。
成績は勿論優秀、スポーツも手を抜いているらしいが、出来ないことはない。
人当たりは悪くないが、何処か飄々としていて、周囲を煙に巻くことの方が多い。
アストラル領域ではないが、発言や行動が時折人類を逸脱していたりする。

不思議な存在、というのが向こうの純夏の印象。
そして、規格外、というのはいろいろ調べた冥夜の一言だった。

ペンタゴンさえフリーに入れる超絶ハッカーだと知ったのは偶然。
必要なら、世界にだって喧嘩を売る、傲然とそう言い切った男なのだ。


それが何の因果かとうとうこんな世界にまで巻き込んで、・・・なのに本人は平然としている。
転移したという現実が認められず、駄々ばかり捏ねていた1周目世界のオレとは随分違う、と思ってしまう。
転移してきて状況を察するに、いきなり衛星に通信を繋げ、未成熟なネットを辿りこの世界の情報を的確に掴んでいた。
元の世界ではインターネットの普及に伴い、ハッキングとセキュリティ対策は鼬ごっこと化した。
しかしまだ一般的な公開さえされていなかったこの世界のセキュリティは、総じて意識が低く、だだ漏れらしい。古典的な手法で、ほぼフリーパスだとか。
結局世界情勢から、軍事機密まで漁り放題漁り捲くっている。


コイツが慌てたところを見てみたい、というのも実は密かな願望だ。


「さっきも言いましたが、オレは白銀武、こいつは御子神彼方ですよ、夕呼先生」

「は? 先生? あたしは教え子なんか持った覚えないわよ?」

何処の世界でも最初の反応は同じだと、苦笑する。
と言うか、オレのループは分岐世界を渡っているわけではなく、この世界での遡行だから、実は相手をしている夕呼センセは、いつも同じ、はずなのだ。

そう考えて、傍系記憶を辿ると、時折違った反応が在ったりする。
基本ループなのだが、実際にはオレが来るまでの分岐世界の再構築、だったりするのは、さっき彼方に指摘された。
因果導体、ということで本来ある分岐が縛られ、10月22日で束ねられている。
ループして再構成される際の元の世界は、何時も同一ではないようで、皆同じ人物なのだが、過去経緯が異なったりしている。
それが、微妙な差に成って現れるのだろう。

そう言えば、あの記憶の様な状況も初めてだ。
いや・・・、傍系記憶には同じ様な状況もあったかもな。その時は訳がわからなかったが。


「オレにとっては尊敬する先生なんです、・・どの世界でも。
今までもずっとそう呼んでたんで、その辺は勘弁してください。」 

「はあ?」

見慣れた呆れ顔の夕呼先生に構わず言葉を継ぐ。

「多分先生は、シリンダーの中の、鑑純夏のたった一つの願い、『タケルちゃんにあいたい』という意識と、記録上鑑純夏と共に死亡した筈の“白銀武”が現れたことで、オレに興味を持ったんでしょう?」

「!!・・・」

態度には出さないが、僅かに瞳孔が拡がるのを見逃さない。

「死んだはずの者が現れる、この通常は有り得ない筈の事象に、解を持っているのは夕呼先生だけ・・・。
オレは、簡単に言えば夕呼先生の因果律量子論により実在を予測される、分岐世界からの界渡りを実体験した、因果導体、あー、今となっては元因果導体です。」

「え・・・?」

「なので、この世界はオレの主観記憶で“3周目”、となります。
もっとも“1周目”も“2周目”も同じように夕呼先生に拾われ、ここで訓練兵から始めました。
その過程で、オルタネイティヴ4と5、因果律量子論や00ユニットに付いても深く関わりました。
・・・全部それぞれの前の世界の夕呼先生から教えて貰った事ですけどね。」

「・・・アンタは因果導体としてこの世界をループしている存在だとでも言うの?」

「理論的にあり得ない事じゃない、と知っているのは夕呼先生のみ、・・・と言うか、夕呼先生の理論の体現者ですよね。」

「・・・・・つまりアンタは多数の未来を知っている、と?」

「オレが死ぬ度に再構成される世界ですし、細かいところでは色々な分岐もあって確定では在りませんが、この後の事も概ね知っています。」

「・・どういうこと?」

「今回のオレには様々なパターンの記憶“群”が存在します。
ただ大きく大別するとそれは、“元の世界”の記憶群、“1周目”の世界の記憶群、そして“2周目”の世界の記憶群とあり、その後に、今日に繋がっています。」

「・・・・続けなさい」

「まず“元の世界”の記憶群は、途中まではほぼ1本道です。
俺たちの元の世界は、BETAの存在しない世界で、オレと彼方はこの柊町で唯の高校生として生活していました。
この白稜基地はその世界では白稜大学附属の柊高校で、オレ達はそこに通っていたんです。
因みに夕呼先生はその高校の物理の先生、まりもちゃんは数学の先生でオレと彼方の担任でした。
そこでも夕呼先生は天才でしたがアナーキーな性格で、物理学会からは異端視されてたみたいです。」

「・・・・」

「元の世界の記憶で分岐しているのは10月22日の朝の記憶ですね。
朝起きたときに部屋にいるのが、純夏か、冥夜か、尊人か、彼方か、と言った程度の差ですが。
但しその後の記憶はバラバラで、まあいろんなパターンの記憶が在るわけですが、概ねドタバタで幸せな世界の記憶です。
どれも終わりが曖昧ですが2008年頃までの記憶ですね。」

「・・・・」

「こんなゲームの存在する、概ね平和な世界でした。」

ゲームガイをアクリルの隙間から夕呼先生に渡す。
爆発物や危険物ではないことは確認されているため、手元に返されていた。
夕呼先生は言われるままに電源を入れ、流れる音楽に眉をしかめる。

「・・・で、そんな平和な世界のオレが、いきなり“1周目”の世界の2001年10月22日に転移しました。
主観記憶では21日に眠った後、起きたら、といった所だし、その時には分岐世界の記憶は無かったし、夕呼先生の説明も受けていないので、まぁ・・・最初は訳もわからず、取り乱していましたよ。
そこからも幾つかの分岐があって、一応メインの記憶では、廃墟を彷徨ったあとここにきて守衛に捕まり、営倉に放り込まれました。
その後面白そうだという理由で夕呼先生が訓練兵にしてくれました。

勿論、当時はこの世界の経験が皆無でしたから、一般常識すらない、訓練兵レベルの体力も無い、あまりにも元の世界と違うこの世界に文句と悲嘆しかしてなかった、それこそ同期の訓練部隊の足を引くばかりの劣等兵でした。
但し戦術機適性だけは異常に高かった所為で、どうにか士官してからはそこそこ戦えました。

・・・まあ、主観記憶はそうですが、その他の傍系記憶群では、門で暴れていきなり射殺された記憶とか、訓練中に死亡した記憶とかも在るんですけどね。

ただ、その1周目の記憶“群”で共通しているのが、途中で死ぬ事を除けば、今年の12月24日にオルタネイティヴ4が打ち切られ、5への移行が決定した、とラダビノット基地指令から通知されたことです。」

「!! 今年のクリスマス・・・?」

「理由は簡単、4は何の成果も上げられなかったから。
・・・そしてそのとき地下19階の執務室でグテングテンに酔っぱらった夕呼先生から、初めてオルタネイティヴ計画、特に4と5についての説明を聞きました。」

目を見開いて睨み付けてくる夕呼先生を尻目に、彼方がちょいちょいと、合図をしてくる。
予め決めてあった盗聴の可能性が高まったときの合図だ。
微かに頷いて尋ねる。

「・・・この先まだまだありますが、このまま此処で話してしまっていいですか?」

「!!・・・そうね、場所を変えようかしら。
・・・まだまだ時間掛かりそうだし・・・、食事をして、それから執務室にいらっしゃい。
PX・・・、は拙いわね、その格好も拙いから軍装と臨時のID・パスと共にここに持って来させるわ。
・・・アタシもパソコンで整理しながら聞きたいから。」

「・・・了解です。」

取り敢えず、在る程度の信用は得られたみたいだ。


Sideout





[35536] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/06 20:40
'12,09,27 upload
'12,12,06 誤字修正


Side 夕呼


ノックに返した許可を以て彼らは入室してきた。
本来ならこちらに敬礼するところだが、どうせ必要ないと言われるのを知っているのだろう、無駄はしない。
成る程、別の分岐世界でのアタシとの付き合いは長いらしい。
散らかしたままの部屋に、白銀がむしろ懐かしそうな視線を走らせる。


その態度に、アタシは内心ため息を付く。

これは賭、だった。
勝ったのか負けたのか、はまだ判らないが。

既に直接接触が可能なこの状態で、彼らには何のアクションも無い。
ここにはアタシと、そして社しか居ない。勿論、外には護衛を付けたから暴挙に及べば拘束される。
その時にはアタシは生きていないだろうが。

つまりは第5計画側の工作員、と言う筋が殆ど消える。残るのは白銀武が本物の因果導体、彼らの言葉で言えば、“元因果導体”である、という事だ。
それが僥倖なのか、破滅なのか、今はまだ判断できない。


しかし、白銀が因果導体、しかも幾多のループを巡っている以上、話の内容が最高機密に関わる事は必至。実際、面接室で話したのも迂闊と言えば迂闊だった。
余りの衝撃的内容に突っ込みすぎた、と言うのもある。
若さ故の過ち?  ・・認めるわ、アタシもまだ若いってことを。


第4計画、そして第5計画。
その存在を知っている人間は、この基地では僅か3人。伊隅ですら極秘計画、としてしか知らない。
国内でも首相とその筆頭秘書官、政威大将軍と斯衛・帝国軍大将、国連の事務次官級しか知り得ない極秘中の極秘情報。つまり国内でこの計画の存在を知るのは十に満たない人間だけなのだ。
見方に拠っては、人権を悉く無視した超危険な計画。生きている人間を殺して量子伝導脳に差し替えBETAの事を探る、人の命を命とも見ない、対BETA諜報計画。
そんなモノを認め、誘致している段階で、迂闊に露見すればこの国の行政機構は瓦解する。


そして・・・。

カガミスミカの名前を知っているのは、此処にいる2名のみ。
年若い殿下にはその存在も知られていないし、基地指令も榊首相も、BETAの実験に晒された00ユニットの候補被験体、としてしか知らない。

-彼は、その内容を全て知っています。-

それだけに網膜投影にテキストで伝えられた社の報告は、衝撃的なものだった。

そして更にアタシを襲った衝撃。

“白銀武”は“元”因果導体。

そして、12月24日にオルタネイティヴ4が打ち切り。


横浜基地に突然現れた不審人物は、初手から飛んでもないカードを切ってきたのだ。





アタシは時間が欲しかった、情報を整理する時間が。

故に態と彼らに食事を挟ませて、その間に社からも更に情報収集し対応を練った。
あらゆる可能性を検討する。

一番高い可能性は、第5計画の手先による攪乱で在ること。或いは責任者であるアタシの暗殺。
しかし、その可能性は何れにしても矛盾が在りすぎる。例え社のリーディングを欺瞞できたとしても、こうして此処で話す意味がない。
暗殺が目的なら、今の時点で完了しているのだから。

つまりは、アタシが今こうして生きている時点で、全てを満たす解は一つだけ。
・・・此奴等の言っていることが、真実だと言うことだった。


社には言われた。
面会室で白銀は盗聴の動きを御子神に指示され、話を中断した、と。
社から見ても、実際その動きがあったらしい、とのことも。

盗聴の兆候を見逃さないなど、油断ならない相手ではあるようだ。


しかし因果導体であったことを肯定したとしても、前の世界とやらでアタシは何処まで話したんだか。こんなガキに話したと言う“自分”の迂闊さが厭になる。
予想される内容が内容だけに、下手な護衛も置けない。

今後を考えると、真面目に機密を共有できる護衛が必要かも知れない。
一応拳銃は用意してあるが、自信はまるでない。
けれどさっきの話がアタシを釣るためのフェイクである可能性は、既に低い。


白銀の社を見る目が優しい。
何故か僅かに頬が紅くなり、その思考を読んだのか、兎の耳がぴょこんと跳ねた。

・・・何遣ったんだコイツら?

社の目は真っ赤だ。もともと瞳は紅いが、白目まで泣きはらし、見事に真っ赤。

「・・・夕呼先生にしては、随分無防備ですね?」

「・・・社に感謝しなさい。アンタの悲しみは本物ですと泣きながら言われたわ。」

「!!」

目が赤い理由を理解したのか、ちょっと辛そうな顔をした。

「・・・こっちでは、初めまして、だよな、霞、・・・あ!?  いや、悪い、やし「霞でいいです」・・・霞?」

「・・・私のこと、知って居るんですね。」

「・・・ああ。」

「・・・ずっと見ていると、約束していました。私もこの世界の貴方をずっと見ています。」

「・・・そっか・・・。オレは白銀武。改めて宜しくな、霞。」

「・・・はい。宜しく、です。」

そして社が向きを変える。
一方の御子神はそんな社を見て微笑む。

「御子神彼方だ。初めまして。」

「・・・はい、初めましてです。社霞です。」

「うん、武から飛び切り優秀で滅茶苦茶可愛い子と聞いている。宜しくな。」

「・・・宜しくです。・・・御子神さんは、なぜ盗聴に気付いたのですか?」

「簡単に言えば、“気配”とかを感じる力がある。もっともテレパスではないので、考えを読んだり出来ないけどな。」

社は不思議そうに御子神を見ていた。


そう、白銀に引き摺られたと言う謎の人物。社をして上手く思考が読み取れない、と言う。
リーディングにも相性があるようで、相性の悪い相手には、この程度に成る事例も存在したから気にするほどでもない。その思考に暗い色はなく温かい色。後ろ暗い陰謀や謀略を隠してることはあり得ない、とまで社が言い切ったため、一応危険は無いと判断した。
しかし、ある種の能力者、と言う訳か。思考は読めないと言うが、真実は知れない。
此方も一応のリーディングプロテクトはしているから、読まれることは無いと思うが、警戒するに越したことはない。


シロガネタケルがカガミスミカの幼馴染みであり、98年のBETA横浜襲撃時に死亡とされているのは、既にデータベースで確認している。
尤も誰も死んだところを見てないし、遺体が確認された訳でもないから、実質MIAなのだが、直前に其処にいたことが明確な場合、そして事後1年を経て名乗り出ない場合MIAではなく、KIAとなる。

一方同じ横浜市内に、御子神彼方という住民票もあったが、此方もMIA。行方不明。襲撃事前の所在が明確でなかった。その為に、BETA襲撃時の死亡とされていないのだ。
それでも親族から申請が在れば通常3年でKIAに成るのだが。BETA戦ではMIAもKIAも同じことだ。


「挨拶は終わった?  なら座りなさい。いろいろ聞きたいことも在るから。」

白銀と御子神は、執務机横のソファに座る。
社はその向かいに腰掛け、アタシは執務机のまま、傍らのモニタを見ながらキーボードを叩いている。

「アンタの言う、1周目の12月24日から続けてくれる?」

「あ、はい。
ラダビノット指令の、オルタネイティヴ4の打ち切り通知の後ここに来ると、夕呼先生はミニスカサンタの衣装を着て、グテングテンに酔っぱらってました。
・・・聖女になれなかった・・・、夕呼先生はそう言って悲嘆していました・・・。」

ミニスカサンタの衣装はここにも在る。
今度まりもに着せようと思って手に入れておいたヤツだ。

そして聖女。

メシアを産み出した存在。
正に・・・アタシの目指したモノ。

「・・・・・」

「・・・因みに“1周目の記憶群”では、その後10数万人がバーナード星系に向け旅立った後の記憶も各種在ります。主観記憶では冥夜と夕呼先生、霞は選ばれて宇宙に旅立ちました。
まあ他の記憶では残っていたパターンもありますが。
そして残った人類によるバビロン作戦:G弾によるハイヴ掃討は、一応成功したかに見えました。
しかし、G弾のユーラシアへの集中使用により、その後大規模な重力偏差が生じ、大海崩と呼ばれる海水の異常分布が発生しました。」

「!!!」

高重力潮汐作用による海面偏位!
横浜周辺でも潮位の変動は確認されている。ユーラシアに集中したハイヴへのG弾大量運用なら、相互作用による連鎖も当然有り得る。爆心地付近の重力異常による植生根絶だけではないのだ。それが連鎖して潮位を変えたら・・・。

「・・・ユーラシア大陸はほぼ水没、大量の海水が移動した大洋は逆に干上がり、一面塩の平原に変貌、当然異常気象に晒され、残されていた南半球も潰滅。
重力偏差は人工衛星軌道さえねじ曲げ、衛星通信網壊滅、電離層異常まで引き起こして地上通信をも途絶させました。
そして、一部の、特にフェイズV以上のハイヴについては、モニュメントこそ破壊されていましたが、反応炉は生き残っていたらしく、海水に沈んだ水底から再びBETAの侵攻が始まりました。
フェイズV以上のハイヴが残ったのが、BETAのG弾対策が在ったのか、単に反応炉の深度が深いため効果が届かなかったのか、は判りませんが・・・。

生き残った人類は、それでも再び現れたBETAと闘いながら損耗していく、そんな末路を辿りました。


これはその世界の風の噂でしたが、幾つかの記憶では、バーナード星系に脱出した船団の、通信途絶も在ったようです。」

「・・・大海崩にG弾無効化、通信途絶・・・ね。」

顔が苦々しく歪むことが抑えられない。いみじくも白銀の使った“末路”と言う表現が相応しい。何れも有り得ない事ではない。白銀にとっては実際に経験した世界と言うこと、絵空事、と言い切れないリアリティがそこにはある。

「・・・その世界の主観記憶では出発の後の記憶があやふやで、2003年頃だとは思うんですがどうやって死んだか解らないんです。何らかの突発事故に巻き込まれた様ですが。
何れにしろそこで死んだオレは、再び2001年の10月22日、今日、ここ、柊町で目覚めます。
・・・それが“2周目の記憶群”です。」

「・・・アタシ流に言えば、確率分布世界の転移による時間逆行、乃至別世界群への転移、と言う所かしら?」

「あとで聞いた2周目の世界の先生の推論では、何らかの理由で因果導体になったオレの転移してきた日、10月22日を起点に、オレの死によってこの世界は閉じている、そうです。
なので、時間遡行と言うよりは、世界のリセット再構成とか。」

「それって、アンタは随分とはた迷惑な存在ね?」

「その辺は先生の方で検討して下さい。2周目の世界群の夕呼先生も同じ様なことを言ってました。
というか、それで言うと、オレの出会った夕呼先生は、全て同じ夕呼先生なんですけどね。」

「・・・」

意識もしない内にリセット再構成ループとか、厭過ぎる。

「分岐世界で身体特徴に差違が出るかは知りませんが、前に会ったときには首筋に小さな傷がありました。後日肩もみを要求されて気付いたんですけど。捜し物をしていて、机の引き出しに引っかけた、とか。たしか22日に遣ったと聞きました。
そんな事でも証明に成りますか?」

「・・・そうね。確かにあるわ。」


・・・確定的。
コイツ、本物の因果導体。
この傷は、ついさっき付けたもの。
白銀から見える位置ではなく、社でさえ知らない。

「話そらして済みません。
2周目は、1周目の記憶を1通りだけ持って目覚めました。
その未来の記憶と、鍛えた身体や技能は継承していたので、同じように夕呼先生を頼り、ここに来ました。
オルタネイティヴ4・5に関わるキーワードで在る程度興味を持たれたオレは、一周目の記憶を頼りに11月のBETA再侵攻、HSSTの墜落や天元山の事件を事前に防いでいきます。
因果導体だ、と言われたのもこの時です。
オレは因果導体である原因を突き止め元の世界に還るため、夕呼先生はそれを利用してオルタネイティヴ4を完遂するための協力関係と言うのですか、そんな関係です。
多分現実は、因果導体ではあるけど先生の10%も覚悟のない甘ちゃんだったオレが、一方的に利用されていたんでしょうけど・・・。

戦術面では自分の機動概念を元にしたXM3と言う戦術機のOSを作り、戦闘能力の底上げもしたし、207B訓練部隊にも普及して行きました。

けれど、色々と歴史を変えたその為にか、12月5日に1周目には全く経験のないクーデターが起こり、榊首相他閣僚が殺害され、帝国は混乱しました。それが後々尾を引くことになります。

実はその前後、オレは偶然この世界の夕呼先生の論文のを目にして、オレが元の世界で見たことが在ることを思い出していました。元の世界の夕呼先生が理論が完成したと言っていたことも。
なので、2周目の世界の夕呼先生は、理論の回収のために因果導体であることを利用してオレを元の世界へ転移することを試みました。
結果、元の世界の夕呼先生に接触して理論構築を頼むことに成功しました。」

「!! 理論が完成したの!?」

「・・・結果的には。
でも取りに行った後、XM3のトライアルがあり、その時に研究用に捕獲したBETAが逃走し、襲いかかって来る事件が発生したんです。
オレはそこでパニックを起こし、催眠導入とクスリの所為で殆ど錯乱状態で闘っていました。
結果的にA-01部隊に助けられ、かなりの犠牲を伴いつつも逃げたBETAを殲滅したんですが、落ち込んでいるときに慰めてくれていたまりもちゃん・・・神宮司教官が残存していた兵士級に頭部を噛み砕かれて・・・・亡くなりました。」

「!! まりもが!?」

「・・・後悔と恐怖で、オレは元の世界に逃げ帰りました。
でも、因果導体のままだったオレは、この世界の重い因果を元の世界に引き寄せ、むこうのまりもちゃんを同じ様な死因でストーカーに殺され、周囲の親しい者の記憶から消され、そして幼馴染みの純夏に植物状態という大怪我を負わせ・・・。
因果導体であることを解消し原因を断つしかない、と向こうの夕呼先生に言われて、覚悟と共にこちらの世界に戻っていました。」

「・・・」

「その後、先生が望むとおり00ユニットとして、純夏が復活しました。BETAに心まで壊されていた純夏の調律には手こずりましたが。
その後純夏は、XG-70bの衛士として、甲21号作戦に臨みましたが、途中で別の分岐世界の情報流入が発生し、急激なODL劣化により純夏は自閉モード、XG-70bは擱座。
00ユニットの確保を最優先に、オレが純夏を連れて不知火で脱出。
XG-70bの再起動を試みた伊隅大尉は、柏木を護衛に残りましたが結局失敗。
柏木も要塞級に殺され、残った伊隅大尉は機体を自爆させ、佐渡島と共に爆散しました。」

なるべく平滑な声を出しているつもりらしい。
だがどうしても声が震えてしまうのか、白銀の声は硬い。
アタシにとってはこれから起きるかも知れない未来の一つだが、白銀にとっては、経験してきたことなのだろう。

「・・・それでも、純夏は甲21号ハイヴでのリーディングと横浜基地でのODL浄化中の反応炉から、重大な事をリーディングしていました。
・・・此処まではオルタネイティヴ4の内容なので歴史以外は夕呼先生が判断出来ると思います。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

何かを耐えるような、長い沈黙。
焦れたアタシが促す。

「・・・・その先も、あるのよね?」

「・・・あります。」

気を取り直した様に白銀が続けた。

「佐渡島が消滅した際に、その爆発でH21のBETAは殆ど殲滅されました。けれど大深度地下に旅団級が残っていたらしく、その旅団級BETAが地下から防衛線を抜け、ここ横浜基地を襲撃しました。
先のクーデターで防衛戦力が著しく低下していた首都近傍の防衛網は時を経ずに潰滅、基地戦力による防衛線も、BETAが初めて使った陽動により戦線内部に師団規模の侵攻を赦し、基地局地戦に陥りました。
結果、反応炉を破壊せざるを得なくなりました。

その際A-01の先任、速瀬中尉、涼宮中尉が死亡、宗像中尉、風間少尉、涼宮茜少尉負傷により後送。

そして・・・、そんな状況にありながら、先の純夏が読み取った重大事項のため、2001年1月1日に桜花作戦が決行されました。」

「桜花作戦?」

「甲1号攻略作戦です。」

「!!! そんないきなり!?  重要事項ってなによっ!?」

「・・・幾つか在りますが最大の理由は、BETAの命令系統が、今言われているピラミッド構造ではなく、オリジナルハイヴのあ号標的を頂点とした箒型構造であること。
人類の戦略があ号に漏れ、それに対応されてしまえば、人類に勝機は無いと言うことが判明したこと。」

「!!!」

「後で纏めますが、BETAは創造主と呼ぶ珪素系生命体が作り出した資源探査・回収用の炭素系端末:ロボットに相当します。それまでの人類の抵抗をあ号は重大災害と表現しました。
あ号は、自分自身を含め炭素系組織を持つ生物を、生命体と認めていません。故にろくな対策を講じていませんでした。戦略を悟られ、対策を講じられたら勝ち目はない。その対策が講じられる前、人類の戦略が有効である内に叩かなければ、人類に未来はない。
それが桜花作戦です。」

「・・・」

「・・・いわば全人類の存続を賭けた戦闘は熾烈を極めました。
既に人類の戦略を熟知していた甲1号の対応は早く、悉く既存の戦術を打ち破りました。

国連軍軌道降下部隊全滅。
軍隊用語での全滅ではなく、文字通り一人も戻りませんでした。
米国軍の降下部隊も8割を損耗。
全世界規模の陽動として、全てのハイヴにも局地戦が仕掛けられました。
全世界規模での損耗は4割、と聞いています・・・。

けれど、最終的にはオレと、A-01として残った今の207Bメンバー、純夏、霞でハイヴに突入し、あ号目標の殲滅を達成しました。」

「!!!! あ号を殲滅したの・・・?」

「・・・但し、帰還したのはオレと霞だけ。
A-01の皆は、オレを生かし、任務を達成するために散りました。
純夏も無理が祟りODL劣化から、帰還途上で回復不能の機能停止に至りました。」

「!!・・・・」

「・・・主観記憶では、この一連の流れで因果導体である要素が除かれたオレは、翌1月2日にパラポジトロン光に包まれ、この世界から消えます。
まあ、他の記憶群の中には何故か残って戦い続ける、という記憶も多数ありますが・・・。
その記憶で受けた説明では、XM3の製作や甲1号攻略達成などオレの存在に対する世界的な認知度が高すぎて、この世界の存在として認識された結果らしい、とか。それらの殆どの記憶では、以降もずっとハイヴダイバーでしたね。」

「・・・」

「で、主観記憶としてこの世界から消え、因果導体でなくなったオレは、原因が排除され再構成された元の世界で目覚めるはずが・・・、なぜか今日ここで目覚めました。しかも、元の世界で記憶にあった1つのパターン、彼方まで巻き込んで。

これが今に至る、オレの経緯です。」


Sideout





[35536] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:47
’12,09,27 upload
’12,09,28 誤字修正


Side 夕呼


もたらされた膨大な未来情報。

荒唐無稽な与太話にも思えるが、確認する状況証拠は全て白銀の言葉が正しいことを示している。
未来に繋がる現在には、その兆候が出ているので、現状の情報から白銀の語る内容を精査しても、そうなる確率が高いことを伺わせる。

何よりも、元とはいうが因果導体、そのループ。
この白銀を否定することは、自分の理論そのものを自己否定することに他ならない。
それは、研究者としての矜持に関わる。
社のリーディングでも、少なくとも白銀自身は一切のウソを言っていないとの結果が出されている。


「・・・何れにしても、あと2ヶ月ちょいで世界は変わる・・・。俄には信じられないけど、真実なら壮絶、ね。」

「少なくともオレの中では真実です。ループした今では、今後取り得る可能性の一つ、と言うところですが。
霞も・・・、どうせ今もリーディングさせているんでしょう?
疲れるんだから、あまり無理させないでやって下さいね。」

「ちっ、そんなことまで・・ってその記憶が真実なら当たり前、なわけね・・・。」

「・・・一応信じて貰えたと思っていいんですか?」

「・・・こんだけ矛盾のない未来情報を出されたら、少なくとも元因果導体でループしていることを認めない訳にはいかないでしょ。」

「・・・」

「・・・少なくとも“聖女”、“ODL劣化”、“自閉モード”、何れも現段階では、アタシの頭の中だけにある、社ですら知り得ない情報なの。アンタや御子神が例え社の様な存在でも、バッフワイト素子でリーディングプロテクトしているアタシから読み取ることは不可能。別の確率分岐世界で知る以外には、方法が無い訳。
だからアンタが“ループしている存在”であることは信じるしかないわ。」

「・・・」

「だから訊くわ。
アンタの目的は何?
因果導体から外れて元の世界に戻るはずが、ここに来た理由は?」

「・・・この世界に戻った理由はオレにも判りません。それこそ夕呼先生に聞こうと思っています。
でもオレの目的は、前の世界群では喪った仲間を守ることです。
その為に先生のオルタネイティヴ4を完成させ、BETAを地球から駆逐する・・・。」

閑かに、しかし決意と覚悟を携えた言葉。


「・・・・・・・・そう。
後半の目的は同じでも、至る過程は違うかも知れない、アンタの望む結果に成るかどうかは不明だわ。
それでもアンタはアタシに協力するの?」

正直甘いとしか思えない。
BETA相手に損耗のない戦いなんて、それこそ奇跡だ。
しかも未来情報に依れば、今から最低でも3回、絶望的なまでの戦力差における戦闘がある。
その状況で、あ号を撃破できたことの方が奇跡的だ。

「・・・守りたい仲間がここにいる以上、先生との協力は不可欠です。
先生が目標達成のためには、仲間を、・・・自分の命すら犠牲にすることを厭わない覚悟をしていることは、前の世界でも十分知っています。トライアルの際に捕獲したBETAを放したのは、先生でしたから。」

「!!」

「基地の緩んだ綱紀に活を入れるという目的のために、・・・A-01衛士とまりもちゃんを喪っても。」

「・・・・」

・・・成る程、アタシなら遣るだろう。
しかも11月11日に都合良くBETAが来るという。白銀の言う2周目の世界では、情報を得てそこで集めたのだろう。
そしてその結果がまりもの死・・・。

・・・なにを今更、か。

「で、あるならオレは、先生がそんな選択をする必要のない状況を作り出すだけです。」

・・・青い、わね。
・・・少なくとも“覚悟”はあるみたいだけど。


「・・・とりあえず白銀の立ち位置は理解したわ。で、御子神の立ち位置は?
さっきの様子からすると、コイツ、アンタの事情、要するに軍事機密に関することも全て知っている様ね。」

睨み付けるアタシの視線を軽く逸らし、少し申し訳なさそうに言う。

「・・・そうなります。オレの経緯を理解した上で、さっき話した様に説明しろ、と言ったのも彼方ですから。オレからすると巻き込んじゃった元の世界のクラスメート、なんですが。彼方に言わせると、巻き込んだのはこの“世界”だ、と言うんで。」

「・・・どういう事?」

「・・・答えを確認したいので、一つ訊いてもいいか?」

まるで敬語が成ってないが、まあいい。白銀のような話し方をされても少し鬱陶しい。

「・・・何?」

「今の武は2周目の世界で因果導体であった原因から解放され、因果導体ではなくなった、と見て良いのか?」

「・・・訊く限りの状況的にはそうなるわね。
因果導体であった主因がなんだか知らないけど、それを喪った存在が、パラポジトロニウム光を纏ってこの世界から消える瞬間、それを記憶して居るんだから。
主因が取り除かれない限り、世界間移動なんておきないでしょ。なので、いまの白銀が“何なのか”はまだ不明、・・元因果導体というしかない存在ね。その辺は詳しい話を聞いて検証する必要はあるけど。」

「・・・であれば、こっちはやはりこの“世界”が自らの安定のために引き込んだ存在、と言う所だ。」

「・・・どういう事?」

「端的に言えば、既に因果導体で無くなったここにいる武は、“2周目”の世界のように元の世界に帰還して、理論回収できると思うか?」

「!!・・・無理ね・・・」

そんな事が出来るなら、とっくに他の世界に逃げ出してる。
きっと今のアタシは苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。
あわよくば、また白銀を利用して、と目論んでいたのを初端から潰されたのだから。

「単純に言えば、だからこの世界は、元の世界からそれを補完できる存在を引き寄せた。
勿論夕呼センセ本人を引き寄せれば話は早いが、この世界でちゃんと存在している人物を引き寄せるのは無理。なのでそれに近い者、ってところか。」

「!! アンタに理論構築できるの?」

「元の世界じゃ、夕呼センセの研究室に入り浸っていろいろ論議してた。向こうで夕呼センセが構築していた理論も大方記憶している。纏まっている段階ではないがな。
さっきこっちの論文も確認したし、元の世界の理論との相違点も見つけた。」

「!! ・・・そう。アンタはそうするためにこの世界が選んだ存在、って訳ね。」

「そんな所。
何れにしろこちらとしても、戻れる当ては皆無。因果導体じゃなさそうだしな。
なので、立ち位置は武と一緒。オルタネイティヴ4の完遂に協力し、地球からBETAを駆逐する。
まあ、協力は惜しまない代わりに、それなりの対価は要求するけど。」

「・・・そうね、それが本当ではったりじゃなければね。
なら、先に聞いておきましょう。あんた達の求める対価ってのは何?」

2人は顔を見合わせ、向き直ると白銀が口にする。

「・・・取り敢えずで構いません。信頼とは言いませんが、信用を下さい。
少なくともオルタネイティヴ4を完成させる情報を提供するわけだから、敵対勢力ではあり得ない。
勿論完成の目処が立った時点で構いませんから。」

「・・・」

「その上で、オレは、既に2度に渡ってこの世界に生き、多くの仲間を喪って来ました。それがオレの未練です。だからこの新たなループを抜けるためにも、仲間を護り、BETAを駆逐し、最終的に人類の未来を取り戻すことを目標としています。」

「・・・」

「なので、オレには各関係部署と交渉・教導出来るだけの立場階級と庇護、彼方には技術関係を含め同じく交渉出来る立場階級と庇護、設備使用の権限を下さい。」

「・・・アタシのメリットは何?  因果律量子論の補完だけ?」

「勿論、それだけでは在りません。

まず、
・分岐世界での詳細な未来情報の提供
 ・・・特に甲21号と甲1号ハイヴ攻略時のBETA情報は、対BETA戦略の根幹を覆すものです。
    いわば00ユニット作成の目的の半分、対BETA諜報活動の結果そのものをフライングゲット
    するようなものですから。
 ・・・事象の未来情報から事前の対策が可能です。全ての記憶群に共通している事象に対し
    対策していけば、不利な状況を最善に整えることが出来ると思います。
・00ユニットの完成とオルタ4の完遂の手伝い
 ・・・ユニット装備そのものの完成は勿論夕呼先生にお任せします。
    理論完成と純夏の安定のためには協力を惜しみません。
    てか、積極的に参加させてもらいます。
・戦術機性能の底上げ
 ・・・前の世界で構築・実証した戦術機の新OS・XM3を普及させ、人類の戦力そのものを向上させ
    ます。
    前の世界では将兵の損耗を半分にした奇跡のOSと呼ばれました。
    普及は一気には出来ませんがこれも帝国や他国との交渉における強力なカードとして使えます。
    プログラミングして貰う時間だけが前回の夕呼先生や霞の負荷でしたが、今回はそれも彼方が
    やってくれるので、実質夕呼先生に負担は在りません。
    あ、スピンオフの高性能CPUは供給してください。
    XM3は、まずはA-01と207B隊への教導、そして行く行く斯衛、帝国軍、海外と拡大
    していきます。その際の伝手はお願いしたいと思いますが。
 ・・・戦術機の改修・試作
    これは向こうの世界の技術供与で、既に腹案が在る彼方に任せます。
    今のところは未知数なので詳しい計画が策定できたら、相談させていただきます。
 ・・・対BETA戦術と装備の提供
    これについてもオレらの私案が多数有り、検証しながら提案・試作供給させていただきます。
    これらも外部との交渉の際の有力なカードと成り得ます。
    基本試作予算と設備・人員以外の負荷は発生しませんし、メーカーを巻き込めばそれも
    補填できるでしょう。

取り敢えず以上。
00ユニットが完成しても、対BETA戦略の構築とそれを実施する実行部隊の戦力は絶対必須です。」


・・・コイツはなんで此処までのカードを切るのだろう?   

話を聞く限りに於いてアタシの負荷は殆ど無い。簡単に言えば立場階級さえ与えれば、勝手に遣ってくれる、と言うこと。それで得られるメリットの方が多大である。

未来情報では、現状このままなにも変化が無ければオルタネイティヴ4が、12月に打ち切りと成るのは確定。
けれど彼らの言うことが真実なら、それをひっくり返し、且つ何歩も先に進めるだけの情報を既に有しているのだから。
現状の藁にも縋りたい状況に於いて、この話が本当なら掴んだのは豪華なクルーザーの搭乗梯子か?   

理論が構築出来てユニットが完成するなら、対BETA戦略の構築が必要に成ることは必至、たしかに実践する強力な部隊は必要だ。その部隊が戦力として増強できるなら其れに超したことはない。


「・・・・・・少なくともあたしにはデメリットはない、と言うわけ?」

「あー、悪いけど個人的には追加がある。」

「・・・何?   」

「理論構築が完了出来たら、・・・夕呼先生、あんたが欲しい」

「「!!!」」

流石に驚いて御子神を睨む。
涼しげな表情。見返す瞳も寧ろ冷ややかで、思慕しているようにも欲情しているようにも見えない。

からかわれてる? 試されてる?


「え?!彼方、まさか?!」

「・・・ああ。今となっちゃ隠しても仕方ない・・・元の世界でもそれなりの仲だったからな。
そう言う関係じゃないことの方が違和感が大きい。
まあ、向こうだと本来倫理的には問題在るかも知れないが、ここでは問題ないだろ。理論完成が出来るなら、十分見合う対価だと思うが?」

「・・・そんなんで女、手に入れようなんて相当俗物ね。・・・あんた17・8じゃないの?  異性認識範囲外なんだけど・・・?」

「向こうでも最初は同じこと言われた。まあ、2年ほどとある事情で昏睡してて、だぶっている。武とは同級生だがもう20には達しているから、ギリギリ認識して貰えたけどな。」

見た目も悪くは無いと思う。趣味かどうかは別として。
軍でさえ若い女性の方が多いこのご時世である。人口が激減して出産奨励、ひいては自由交渉まで割と大らか。別にアタシなんか構わなくても喰い放題の筈。

そして実際今の立場は、端から見ればアタシの方が弱い。
御子神の言うことが本当なら、理論完成のヒントというアタシにとって究極の切り札を有しているのである。
彼らが此処に来た理由は、突き詰めれば白銀の拘りと効率、その2点しかない。
他所でも、彼らが有している情報や技術が本物なら、時間さえ掛ければ通用する。
白銀は自分の未練がここに在る以上謂わばアタシと共生の関係にあり、下手に出ているし他意は無いだろう。

しかし御子神は理解しているのだ。自分のカードの有効性は此処に限らない、と。

勿論、ここは軍である。
アタシには、それを動かすだけの権力もある。
彼らをスパイだと捕縛して、自白剤でも使えば情報は引き出せるかもしれない。
しかし、もし引き出せなかった場合、得られた筈の全てを喪う。
強硬手段は、リスクが高すぎる。
白銀が下手で在る以上、共闘するのが最もローリスクハイリターンなのだ。
御子神の圧倒的優位、と言うことを除いて。


だが、その圧倒的優位に立てる立場を、敢えて釣り合わせる、とアタシに知らせる一言。
それがこの要求。


「・・・別の世界のアタシがあんたとねぇ・・・。まあ、・・・本当に理論完成できるなら、・・・考えてもいいわ。」

「ん・了解、それでいい。」

案の定、軽い返事。
もしかしたら断っても同じ返事をしたかも知れない。

しかしこちらは対価を提示したのだ。曲がりなりにも望む対価を。
だったら、アタシは好きにやる。
そんな甘い譲歩をしたことを、後悔させるくらいに扱き使ってやる。

白銀がちょっと引いた。
あら、獰猛な笑みが零れちゃったかしら?


「・・・それとアンタらの要求は詰まるところ、当面の階級と教導・開発への関与、それと庇護ね。
新OSと、その導入・教導については、まずはそれだけの口がたたけるモノと腕かどうか、確認させて貰うわ。
XM3に付いて詳しく説明しなさい。」

「1周目からそうでしたが、オレの戦術機機動は元の世界の、まあ此処で言うシミューレータによるスコアゲームのようなモノを基礎としています。
そこでの機動は、宇宙空間までも想定した3次元機動であり、それがBETAに対しても有効であることを2度のループ“群”で実証してきました。因みにXM3は、eXtra-Manuva of 3 dimensionの略です。
主な機能は3つ、在ります。
1つが、入力と機動の“待ち”を解消する“先行入力”。
これは予め予想される次の動作を連続して入力することで、機動の繋ぎを連続して行う機能です。
2つめがその予測と状況が異なったとき、予定機動を中断する“キャンセル”、これは動作硬直などの自動シーケンスにも有効で、無防備な硬直時間を可能な限り短くします。
3つめが、“コンボ”。
先行入力される頻度の高い一連の動作をパターン化して登録するようにします。
基礎データの蓄積や自動シーケンスとのバランス、調整は必要ですが、これは戦術機に乗ったばかりのルーキーでも、登録されたパターンによる熟練衛士なみ、というかオレと同じ3次元機動が可能になります。
勿論、使いどころの習熟は必要ですけどね。
あと、処理は重くなるので、夕呼先生謹製のオルタネイティヴ4のスピンアウトCPUは必要に成ります。副次的な効果で、反応速度が3割増しました。」

・・・聞く限り、デメリットはない。戦術機には興味はないが、効率悪そうな動きだと思ったことはある。その動きが、大改修を伴わないCPUとOSの換装で済むなら、これ程手軽な戦力向上は無い。

「2周目の甲21号作戦では、XM3を装備したA-01と今の207Bで、旅団規模のBETAを殲滅していましたし、桜花作戦でXG-70dの直衛としてフェイズ6ハイヴの反応炉まで辿り着いたのは、XM3を装備した5機の武御雷でした。
後年XM3が普及した世界では、実際衛士の損耗率がそれまでの半分以下に減りました。
なので、前の世界の夕呼先生は、そのOS を交渉のカードとしても使っていた様です。」

「・・・解ったわ。アタシの手を煩わせないならCPUは供給するから、出来るだけ早くβ版を作りなさい。使い物になるかどうかはシミュレーターで確認して判断するわ。」

「了解。」

「で、戦術機や装備の改修は追々聞くことにして、庇護ってのは具体的になんなの?」

白銀が苦笑する。

「なにしろこの世界の白銀武はとうに死んでますから、先生に身分を用意してもらわないと、怪しすぎてどうにも動きようがありません。彼方についてはこちらの状況すら解りませんから。
オレについては城内省にもデータが在るみたいなんです。それが元で斯衛には疑いの眼差しで見られてました。」

少なくとも国連内部のことなら、すぐにでも可能だ。しかし、城内省のデータ改竄となると、一朝一夕というような容易いことではない。
アタシがそう言うと、それについてはどうにかする、と御子神が返した。
その言葉を聞いて納得したのか白銀が国連だけで良いと言うので、アタシはその場で端末を操作し、国連内部の二人の情報を改竄してしまった。

「・・・あとは、階級?」

「どのみち先生の直属部下として動くことになるでしょうから、適当で構いませんが、対外的な教導や交渉も必要になるので、それなりの階級じゃないと拙いかな、と。」

これも横浜基地副司令と言う立場のアタシなら、独断で在る程度何とでもなる。
確実に成果を得てから、つまり数式を確認後という条件で承諾した。



「・・じゃあ、一つ先生に聞きたい事があるんですが、いいですか?」

白銀が切り出したのは、交渉が一段落し、暫定的な措置が粗方決まった後だった。


Sideout





[35536] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:47
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Side 夕呼


その言葉に僅かな齟齬を感じながら返す。

「・・・なによ?」

「今のオレって、一体何なんでしょう?」



白銀の状態・・・・聞く限りでは、元・因果導体。
けれどさっきまでの説明では、確かに微妙に省かれていた。

「それじゃわかんないわ。・・・キチンと説明しなさい。」

因果律量子論に関する興味もあり、先を促す。



白銀が2周目の世界で聞いたという、因果導体に関するその世界のアタシの仮説。

全ての起点[●●●●●]は“この世界”、三年前の横浜。


1998年8月に起きた、遠く喀什に端を発するBETAの東進。
それまでアラブや欧州方面に西進していたBETAは、ヨーロッパ大陸を手中に収め、東へとその標的を換えた。一説では100万とも言われるBETAの津波は、中国、朝鮮半島まで一気に飲み込み、遂に東シナ海を越え日本列島にまで達した。

折り悪く台風上陸という悪天候にも祟られ、また一方でBETAとの直接接触が少なかった本土防衛軍、BETA恐るにたらず、という根拠のない傲りが蔓延しており、結果帝国はBETA上陸を阻止できなかった。
一気に防衛線が瓦解した帝国軍は、判断遅れによる防衛線の潰滅と遅きに失する撤退という悪循環を繰り返し、一部は避難民の誘導さえ間に合わず、実に人口の1/3と、九州から一時は関東圏までをBETAに蹂躙された。

その侵攻の最終段で、当時横浜に住んでいた鑑純夏と“この世界”の白銀武は逃げ遅れ、BETAに捕らえられた。記録上は2人ともKIAとあるように。
実際には、同じ様な捕虜は100数十人に上ったらしいが、捕獲後、徐々に生体実験に使われ減っていった。後に99年に横浜ハイヴを制圧した際、発見されたラボ。そこに在った幾多の脳髄が、彼らのなれの果てなのは、今更だ。

そして最後となった2人にその順番が回ってきた時、この世界の白銀は鑑を守ろうとBETAに抵抗、虚しく鑑の目の前で兵士級に殺され、食い散らかされた。残された鑑は為す術無く、BETAの実験によって極めて過酷な人体実験・酸鼻を極める陵辱を受けたという。

その実験は、人が何処までの快楽に溺れるか検証する、と言える様な内容で、快感を効率よく与えるためにやがて肉体さえ淫らに改造され、逆に快楽を与えるために不要とされた器官は徐々に切除されていった。そして最後には今の姿、脳髄と脊髄だけまで解体され尽くした。
終わりのない絶頂を与え続けられながら、身体は徐々に解体されてゆく凄惨な陵辱に、身体だけでなく心までも壊されて行った鑑は、しかしその状態でも生き続けた。
自我を保つ、と言う意味ではギリギリの瀬戸際、と言うか、既に毀れていたのかも知れない。
ただ目の前で喪った武への執着、普通なら諦めざるを得ない、もはや妄執じみた武への想いのみで鑑は生きていた、という。

「・・・これは前の世界で、全ての記憶を取り戻した純夏本人から、プロジェクションを通して知ったんですけどね・・・。」

虚ろな、自嘲とも思える白銀の言葉。

「・・・」

隣のシリンダールームにある鑑の姿を思い出し、顔が歪む。発見された当初は、脳髄内部に幾本もの電極と思われるラインが繋がれていた。
何らかの実験、とは考えられていたが・・・。

生きているのに殆ど真っ黒なその意識。憎悪とか諦観とか暗い意識で塗りつぶされた心象。
唯一はっきりとして在るのは、会いたいという思慕だけ。あとは、訳のわからないハレーション、と社は読み取った。
残っているのは、その陵辱の断片でしかないのだ。

鑑には同情という事すら遙かに及ばないだろう余りに過酷な事実だろうが、しかし、何故?という疑問がアタシの意識にこびり付いた。


翌1999年、横浜奪還のため、明星作戦が決行される。
その際、前年安保を一方的に破棄した筈の米軍によって、事前通告もなく投下された二発のG弾。投下強行の真意は明らかにされていないが、そのG弾が味方とともに、大方のBETAを飲み込み、奪還を後押ししたのも事実だ。
その際の5次元爆発による高重力潮汐作用により時空間に鋭い亀裂を作ったと推測されている。
実際こちらの観測でも、本来放出されるべきエネルギー総量が足りないのだ。当時G弾の情報を握っていたのは、米国のみ。在る程度の効果範囲は認識していた筈だ。そのエネルギーは時空間に生じた亀裂に大部分が流れむと予測していたのだろう。

しかし、その時空の亀裂に、鑑の半ば狂わされ他に何も無くなったが故の、唯一にして強烈な思慕が反応した。その強い想いに更に繋がっている反応炉が相乗、ハイヴに蓄積されたG元素をも糧に、白銀武が既に存在しないこの世界群と、彼らの言う元の世界:BETAの居ない世界群を短時間ながら繋げた。

今此処にいる “BETA世界”をループしていた白銀武は、その繋がれた元の世界群の幾多の“シロガネタケル”から、何らかの無作為によって集められた因果情報によりこの“BETA 世界”で構成された存在であり、2つの世界群を繋ぐ“因果導体”となった、という。
そして“元の世界”で、多くの分岐世界の起点となったのが、2001年10月22日。それが“この世界”でも重い因果情報となって刻まれ、その日付に“白銀武”は現れた。

「オレの元の世界の記憶群において、多数の分岐があるのは10月22日です。そこまではほぼ一本道なのに22日の朝に限れば、部屋にいたのが純夏だったり、冥夜だったり、尊人や彼方だったり・・・。
実際元の世界は、そこを分岐に純夏と結ばれる世界と、結ばれない世界に分岐した、との推測です。そして未知の無作為が集めたのは、たまたま純夏と結ばれなかった世界群のオレの方が多いらしくて、なので元の世界群で結ばれなかった純夏達の想い、10月22日に戻ってやり直せたら・・・という負の思考が重い因果としてこの世界にも作用した、と前の世界の夕呼先生は推測していました。」

成る程、元の世界に於ける確率分岐が多数発生する特異点、それが10月22日であり、白銀を呼び込んだ際の因果情報として刻まれた。その可能性は高い。
何しろ、狂気やG弾の影響とはいえ、他の世界群を繋げ、白銀を因果導体として引き込める程の存在なのだ。


・・・鑑純夏、恐ろしい子。


そして、少なくとも今までの“BETA世界群”は、白銀が因果導体と成ったことにより、本来無限に分岐するはずの世界は閉じられ、一方で武の死をもって起点となる今日に戻る、無限にループし続ける閉じた世界となっていた。
この白銀のループでは、鑑の無意識領域の嫉妬により、白銀が他の女性と結ばれた場合、その記憶を削り取っていて、実際には何度も1周目をループしていたというのだ。
事実今は数え切れないほど繰り返した1周目の記憶・・・、様々な女性と結ばれた記憶もある、と言うことだった。

「・・・ループ、つまり因果導体からの解放条件は、オレが純夏と結ばれることでした。
けれど、“1周目”の記憶群では、結局オレは純夏に辿り着けませんでした。
実際自分で目にしても、シリンダーの中の脳髄が純夏だと気付くことは無かったし、夕呼先生も量子電導脳の素子化を完成出来ず、計画は打ち切りになったから。
けれど、たまたま偶然にも誰とも結ばれないままオレが死亡したケースが在るらしく、その記憶を失わないまま“2周目”に入りました。」

2周目。
ここでも鑑に辿り着かなかった白銀の死を終端に、多数のループが存在したのは間違いなく、今の白銀はそれを大凡覚えていた。



そして唐突に閃く。

98年のBETA東進。
九州から四国、そして近畿中部を一気に攻め落とし、関東をも全て飲み込む勢いだった侵攻が、何故か横浜で止まった。
BETAは突然、そこにハイヴを作り始めた、のである。
後の奪還でラボが発見され、多くの人体実験者の残滓が認められたことで、今まではBETAが人間に対する研究を行うため、と思っていた。

が、実は鑑純夏を目的としていたのではないか?  と。


さっきの白銀の話で言えば、どれだけの個体がいようとBETAにとっての人間は生命体ではない。
しかし、人間が例えば多数のアリの群れの中で、もし強烈な光を発する個体を発見すれば、その個体を捕まえ、調査をするだろう。
そして鑑にその力が在ることも、BETAには見えていたのだろう。
正に鑑純夏は、その力故にBETAに狙われ、綿密な調査の上に生かされた?

更にその力の根底は、白銀への純粋な思慕であり、恋愛感情なのは間違いない。
技術的にもBETAはバッフワイト等という精神波動を感知・制御する素子すら有しているのである。
人の感情の細かい機微は解らなくても、その恋愛成就の一面がセックスであるならば、BETAによるあれだけ執拗な性的陵辱も頷ける。

鑑の実験が最後に回されたのは、それ以前に人間の身体構造を詳しく調べるため。
BETAからみれば脆弱な人間の肉体など、直ぐに毀れてしまうだろう。どうすれば長く生かし続け、そして力を引き出せるのか、それが故の人体実験だったのではないか?

大体、創造主とやらの増殖機構は全く不明だが、珪素系生命に生殖という概念があるかどうかさえ、甚だ疑問である。その資源回収用端末に過ぎないBETAには元々性的嗜好[エロゲ属性]はなく、本来“性的陵辱”という概念は、存在しない。
しかし、個体が有する力の発露が、“恋愛”に基づく物なら、その力を制御する手段として、“快楽”を効率よく与える手法を探ることは、有り得ないことではない。
SEXの快楽から感情も墜ちる事象[NTR]だって俗世間には遍く存在する。

故にBETAは、ただ無機質に、効率的に、強制的に・・・。
それを施された方は、堪ったものではないが・・・。
BETAは決して“満足”などせず、ただ最大効率で、限界をも超越した絶頂を与え続けられるのだから・・・。

結果、鑑は精神崩壊、それでも残された白銀への思慕により、尚増した力故に、只生かされ続けた。
そう、限界を完全に逸脱した性的陵辱に晒されながらも、タケルちゃんに会いたい、という“想い”だけは消すことが出来なかったのだ。



そして、背筋が薄ら寒くなった。

もし、その“想い”が消え、快楽への依存から鑑の意識がBETAに隷従していたら、一体どうなったのか・・・?   
G元素の副次効果が在ったとしても、離れた世界群をも連結し異世界の白銀を因果導体として引き寄せた“力”、白銀がループする度に時間も空間も全て無視して、“世界”を再構成できる程のその“力”を、BETAが手にいてたら・・・。

それが、BETAの、創造主の、目的?


横浜などと言う、BETAにとって何の意味もない土地にハイヴを構え、人間研究の為のラボまで作ったのは、単に鑑純夏の接収[NTR]の為。
BETAにとって未知か既知かは不明だが、そのエネルギーの為だとしたら・・・。


逆に言えば在る意味、当時東京を堕とされたら崩壊にいたっただろう帝国を救ったのは鑑純夏の存在。予告無しのG弾投下の影響など、看過できない事も多数あったものの、この地にこうして基地を構え、今も居られるのは、鑑のお蔭とも言える訳だ。


アタシはキーボードを叩きながら思考を纏めていた。




気がつけば、白銀が話を止めていた。
アタシは“仮説”の思考を取りやめ、視線を向けるとまた語り出す。

「“2周目の世界”で純夏は00ユニットとして復活します。初めは認識されませんでしたが、“調律”の末、全ての記憶も取り戻し、そしてオレと純夏は結ばれました。
けれど、それがトリガーとなって純夏の無意識領域が解放され、全てを知ってしまったんです。

自分の“想い”が、他の世界から無理矢理オレを連れてきてしまったこと。
それがオレに苦難を強い、一方で自分の無意識とはいえ嫉妬により、ほぼ無限ループさせていたこと。これは誰かと結ばれたって、それを覚えていれば、2度目の世界ですぐ2周目に入れたんですよね。
そしてオレに会いたいという我が儘がこの世界をねじ曲げ、オレの死によってループ・再構成されるよう閉じてしまったこと。
更にはODL浄化の為の交換により、人類の戦略・戦術情報を全て漏らしてしまった事。」

「え・・・?」

「・・・桜花作戦強行の重要事項、人類の戦略が漏れたのは、その所為です。
オリジナルハイヴが人類の戦略を熟知していた理由。
反応炉はエネルギのジェネレータで在ると共に、反応炉間の通信、範囲BETAの指令まで行う、統合システムであり、BETA個体との情報交換はODLで行われます。
桜花作戦以降反応炉は、頭脳級BETAと呼ばれました。
BETAの箒型構造、頭脳級の頂点があ号標的、重頭脳級と呼ばれる上位存在。
各ハイヴで頭脳級により集められてたODLを始め全ての情報は、頭脳級間の通信により上位存在に集約され、対策が講じられる。
ODL劣化のために反応炉に戻された純夏のODLには、純夏も知らぬ間に、関わった全ての情報が含まれていたんです。
故にその対策が講じられ、凄乃皇や人類の戦略が無効化される前に上位存在を叩く、これが必要になったんです。」

「!!!・・・・」

これには絶句するしかなかった。
対BETA諜報を目的に創った00ユニットが、逆に人類の戦略を漏洩することに成ろうとは、なんと言う皮肉。

「・・・その全ての償いに、純夏はオリジナルハイヴに赴いて───そこでの無理が祟ってODLが劣化、恐らく完全な人格消失により再起動不能・・・、つまり死にました。向こうの霞に聞いた話では、一人でも行こうとしてたみたいです。
言ったように佐渡島の残存BETAに横浜基地が襲撃され、反応炉を破壊せざるを得ませんでした。最後まで反応炉停止で済ませようとしていた夕呼先生に対し、反応炉爆破を提言したのも、爆破の際の弱点位置を速瀬中尉に伝えたのも純夏でしたから。
自分がもう助からないことは解っていた、と言うか、オレのループ条件を解消したので、あとはオレを呼び込んだ原因:自分が消えれば、オレが元の世界に帰れる、この世界がループから開放される、と言うことを知っていたんですよね。」

白銀の瞳が遠くを見やる。
白銀の主観記憶では、わずかに二日前のことなのだ。

「結果、因果導体を開放されたオレは、オレを因果導体としこの世界に呼んだ純夏と言う原因が消失することで、“元の世界”に還るはずでした。
因果導体であったオレが重い因果をもたらした、“元の世界”もその原因が消え、純夏の願い通りに再構成される、その世界に・・・。

桜花作戦の次の日、オレは確かにパラポジトロニウム光に包まれて“この世界”から消えました。

―――――そして、今日、2001年10月22日、その記憶を全て持ったまま、“3周目”のこの世界で目を覚ましました。」

因果導体からの開放、因果原因の消失による、“結果”の消失。
パラポジトロニウム光による、世界転移。
仮説をどう辿っても、本来なら白銀は元の世界に還っていなければならない。


「先生・・・、今のオレは、・・・なんなんですか?
因果導体でなくなれば、元の世界はその因果導体がもたらした結果が消える、と言われました。
けど、因果導体でなくなったのに元の世界にも戻らず、こうして此処にいる俺は・・。

・・・確かに嬉しいんです。
還る時だって、みんなが命を賭けて守った世界を護り続けたいと、望んだし、傍系記憶では実際そうなった記憶もあるんです。けれど、其処では既に全て喪った後・・・。
今、ここでは、その喪った全てが、“まだ”あります。

けど、元の世界は?
オレによって因果を狂わされた世界は、本当に救われたのですか?
向こうのまりもちゃんは?  ・・・純夏は?」

アタシは理解した。
白銀はオルタネイティヴに抗う只の子供。
此処に戻ってきたコイツは、喪った全てを取り戻したいのだ。本来なら歴史に蹂躙される程度の、一個人の青臭い願望。それでもなんでも、この世界で喪った仲間を救いたい、という強烈な“意志”が因果導体を外れてまで戻ってきた主因であろう。

その一方で、自分が戻らなかった事による“元の世界”の“破綻”への懺悔。
かつて喪ったもの迄渇望しているのだ。

無い物ねだりの子供。


「・・・・・・・・どうにか、ならないのですか?」

魂から絞り出すような、懇願にも近い問いが漏れた。

それが無謀な願いなのは本人も判っているのだろう。
オルタネイティヴは、二者択一。本来両取りはあり得ない。

故に白銀の問いは、質問と言うよりも宣告の時を待つ罪人にも近い諦観に聞こえた。


Sideout





[35536] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:47
’12,09,29 upload


Side 夕呼


「・・・ちょっと待て武、それは必要ないぞ?」

そこに冷静な言葉で制したのは御子神だった。

「「え?!」」

「・・・根拠は2点。
一つは、少なくとも白銀武という存在は元の世界に戻った。」

「え?  だってオレ、現にここに・・・」

「おまえ、この世界に来た自分が、向こうの世界群における確率分岐世界からの集合体、って自分で言ったじゃん。その時向こうの世界の武は消えたのか?」

「・・・」

「それに、ただのループなら、何故おまえは元の世界や、この世界に於ける全ての記憶を持っている?」

「あ・・・」

「・・・恐らくだが、前回武が因果導体で無くなった瞬間、つまり鑑とHしてから元の世界に還るその間に、幾つかの確率分岐が発生したはすだ。既に因果導体は存在せず、世界は開放されたからな・・・。
そこでの支配因果は、武が“還る”ことだったから武の主観記憶はそこまでなんだが、特に“戻らない事”強く願った個体・或いは世界に認識されて残った個体が数例こちらの世界に残り、地球にあるハイヴを潰していった。違うか?」

「いや・・・、そう言う記憶があるのは確かだ。」

「今の武は、この世界に認識されたそれらを核に、無数のループの際に虚数空間に溜まっていた、記憶や未練、後悔の全てを引き寄せた集合体だ。」

「「な!?」」

「だから今のお前は既に因果導体じゃないし、元の世界との繋がりも記憶以外皆無、むしろこの世界で経験した記憶が主だからこの世界の存在と言える。主観記憶がそうなのは、元に戻った存在がその記憶を虚数空間に残していったからだ。因果導体開放以降の殆どの存在は、元の世界に戻った。」

「! ・・・なんでそんなことが言えるんだ?」

「俺が此処にいるからだ。」

「「・・・は?」」

「はっきり言えば、単体で世界を渡るのなんか、不可能に近い。
幾ら世界に都合がよくたって、世界が擬人化して隣の世界から狙った人間を転移させた訳じゃないんだぜ?」

「・・・」

「それこそ鑑みたいな存在の、強い想いと、謂わば極限まで追い詰められた一種の狂気、接続された反応炉のエネルギ共鳴、そして空間に亀裂を生じたG弾の効果と、G元素という代償要素、それら偶然の偶然が重なって、初めて異世界の存在を引っこ抜けるんだ。
この世界の何処に俺を望んだ存在と、そんな僥倖が他に在ると思うか?」

「あ・・」

「鑑と結ばれたことで武は因果導体から開放された。けれどその時点では、まだ因果導体である武の繋げた2つの世界は繋がったまま。鑑という武をこの世界に呼び込んだ原因が消失することで武は戻り、それがトリガーとなって元の世界も再構成される。多分、鑑の望むように再構成された世界として。
けれどその繋累に沿って武が戻る際には膨大な影響を及ぼすから、その反動が当然存在する。
武が戻ったのは当然今日10月22日だから、その反動を利用して、その周辺に居た都合の良い人間を、消えかける繋累に乗せて引き込んだ。

それが、俺だ。

つまり、武が戻ったからこそ、俺を引き込むルートと反動が生じた。
ついでに言えば、その反動は俺を引き抜くだけではなく、お前という因果意識の集合体が強く望んだ皆の生存、つまりループを起こすことで、この世界も再構成された。
元の世界の存在である俺が此処にいることこそが、武が無事元の世界に戻った証拠さ。」

「け、けど、じゃあ向こうの彼方は・・」

「心配しなくてもお前と一緒、多くの確率分岐世界からの集合体だ。もとの世界にも残っている。
もともとその世界の存在を根こそぎ消してしまうような転移は無理だろうな。世界に繋がる個人の膨大な“因果”そのものに関わるんだから。
この世界を縛っているのはお前にとっては当たり前の“白銀武”の因果だが、他に人だって強度の差こそあれ、同じ因果で世界に繋がっているんだぜ?」

「!!」

「尤も俺は武のように因果導体として来たわけでなく、反動で消失する道筋に乗ってきただけだから元の世界の因果の流出もない。当然ループもしない。今回一回きりさ。」

・・・成る程、的確な把握だった。因果論にも矛盾しない。
向こうの世界のアタシと論議したというのも頷ける。


白銀が安堵に膝を堕とした。

「良かった・・・、まりもちゃん・・・純夏・・・。
・・・因果を曲げた原因が消失したから過去の事象も書き換わるなだよな?」

「因果導体と言う原因が消えたからな。
・・・尤もその点に関しては元からそんなに心配することはなかったんだけどな。」

「・・?」

「心配するな。
それが2つめの根拠で、且つ因果律量子論、というか因果律支配の確率分岐世界について、夕呼センセの誤認もまさにそこだからな。」

「な!?」

「どういうことよっ?!」

アタシも叫ぶ。

「そもそも確率分岐世界って言うのは正確な表現ではない。多分正確に表すには確率密度世界なんだ。」

「確率密度世界?!」

「ああ。原子の廻りを取り巻く、電子雲の振る舞いと一緒だ。素粒子の世界に於ける電子は、その存在があやふやで、位置が特定できず、確率密度で表すしかない。
けれど、全体としては常に1の電荷や質量を持っている。その相似性さ。
確率世界といえど一般物理法則は存在するんだぜ。無制限に無限に分岐する世界が全て等しい質量を保っていたら、発散するに決まっている。」

「「!!!」」

「一つの世界群、これをクラスタとすると、そこに存在する無数の確率密度世界は、その事象の確率が低ければ低いほど因果論的な密度が薄くなる。つまり存在確率が低下するわけだ。
なので世界はnのn乗に分岐しつつ、クラスタ全体としては常に存在確率1として存在する。
勿論、これは一つの階層に於ける振る舞いで、存在確率が1となる階層内の集合:クラスタそのものは原子と一緒で無数にあるわけだけど、1つのクラスタの確率密度は最終的に支配因果律に帰着する。

世界をわたっちまった俺たちは、実際別のクラスタに属する世界“群”から飛ばされた訳だけどな。
さっき武が集合体として呼ばれたとき、鑑と結ばれる未来の方が少ないと言ったのは、元の世界の支配因果がそっちに傾いていたからだろう。当然引っ張ったこっちの世界の鑑としては、無意識とはいえ容認できない。だからこそ、元の世界で結ばれなかった鑑達の意識がこっちの世界の因果に繋がった。未知の無作為ではなく、均一に引っ張ってくればそうなる、ってだけだ。

つまり、一つの世界群クラスタの中で言えば、様々に分岐しながら、けれど常に1の存在しか持たない。
確率密度世界が、分裂や統合して他の分岐世界とどの様に関わるのか?  是はまだ不明。
個人的には、分岐世界も接合・交差・分裂くらいしそうだと思うけど、観測例も無いし今後の課題ってとこか。


ただ、もともとセンセの因果律量子論による演算器の概念はこの一つのクラスタ内無限分岐をnビットの演算子として捉え、計算するものだ。けれどクラスタ内確率分岐に分岐世界そのものと等量の比重を与えたため、概念発散して解が得られないことになってしまう。
けど考えてみなよ。一つのクラスタ、つまり一つの問題に対して、求めたい解は基本1つなんだよ、・・・って言うのが元の世界の夕呼センセの結論さ」

「・・・!!! そ、そのとおりだわ!! さすがアタシ!」

「で、・・・クラスタ化による素子化理論式も既に判るトコまで整理してある。」

そう言ってメモリを渡してくる御子神。

「!! よっしゃ~っ!! あぁ、彼方あんた最っ高よっ!! さっきの失礼な提案も許す!
理論が完成したら幾っらでも、バンバン相手してあげる!!」

ハイテンションでメモリを受け取り早速PCに移すアタシ。



この時アタシは数式に気を取られて、御子神が、白銀の杞憂を取り除くと同時に、最大の懸案[●●●●●]を誤魔化した事に気がつかなかった。


Sideout




Side 武


テンションMAXでモニターに向かう夕呼先生。
唖然としているしか、ない。。

「・・・で、どういう事になるんだ?」

「・・・世界は様々な分岐を繰り返しながら、けれど全体としては確率密度の一番高い事象群に沿って推移して居るんだ。前回武が元の世界群に戻ったことで、一部の確率では因果を引き寄せた事による悲劇が起きた。だが武はすぐ戻ってきただろ?
なので、元の世界群で周囲の確率世界が深刻な影響を受けた可能性はない。その世界としての確率密度で言えば“無かったこと”になっているだろう。つまり元の世界の支配因果律は、基本あれらの悲劇が無かった世界に成っているってことだ。
尤も、それも含めて、因果導体としての原因も断ち切れ、今回全部リセットされているだろうけどな。
もし万が一武が戻って居なくても、大丈夫ってことだ。」

「・・・・・・・・・・・よかった・・。
でも、じゃあこの世界は?  残っちまった俺は、特大のイレギュラーだよな?
しかも死ねばループ?」

だから[●●●]俺が世界に引きずられたんだろ。
イレギュラーだって存在すればするほど近しい確率密度世界に影響を与え始める。その事象のポテンシャルが高ければ高いほど、周囲に影響する。そうすると確率密度が上がり、最終的には支配因果律のバランスを人類側に引き込める可能性だってある。
しかも、武は特殊な例だが因果導体に近い特性を持っているらしい。つまり確率分岐が発生せず、お前の行動がそのまま支配因果になっちまう存在。
・・・つまりお前が頑張って、みんなを護り、BETAを殲滅すればするほど、今はBETAに傾いている支配因果律を人類優位に変えることができるんだ。」

「・・・・・・・そっか・・!    
!! !!! そっかっ!!! 俺が戻ってきたことは無駄じゃないわけだ!!」

「そうだ。・・・で、憂いが無くなったところで、取り敢えず、鑑に会ってきたらどうだ?」

「!!! そうだった! 最速で会いに行くって約束したんだ! 先生、良いですか?」

「・・・勿論赦す! ・・・ああ、これよ~、コレが言いたかったのよ~」

目前に展開された数式にうっとりとしている。

「・・・霞、頼めるか?」

「・・・はい。」

「・・・俺は反応炉見てきて良いですか?」

「反応炉?  なにすんの?」

「・・・調査?」

「調査って、・・・まあいいわ。パスを一時的に書き換えるから。」

俺たちは上機嫌で数式構築している夕呼先生を置いて、執務室を出た。


Sideout





[35536] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:48
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Side 武


目の前には、仄蒼く光るシリンダー。

紫外線での組織損傷を抑えるため部屋全体が薄暗く設定されている中で、その淡い光に脳髄とそれに連なる脊髄神経節が浮いている。


「また、逢えたな純夏。
・・・オマエに取っては“はじめまして!”で、“久しぶり!”だな。
真っ先とは言えないけど、約束通り最速で会いにきたぞ?」


話しかけるが、何度見ても現実感がない。

これが、オレの愛する幼馴染み。つい2日前に喪った半身。
主観記憶で00ユニットとして蘇った純夏と肌を重ねた。そう、頭では理解していても、どうしても一致しないのだ。
記憶の中にある純夏。

前のループで、純夏として一緒に居られたのはたった2週間にも満たない時間。
傍系記憶まで含めれば、永い永い遙かとも思えるループの末に巡り逢いながら、ほんの僅かな逢瀬だった。

量子電導脳は人工物だったが、人としての認識を持たせ、人格を保つと言う意味で、細部まで再現された肉体は、結局純夏のDNAから再生培養された細胞を部分的に使っていたのだから、実質純夏そのものだった。
何よりも、霞の協力を得て記憶が再構築され、それを切っ掛けに無意識領域から流れ込んだ記憶、そしてその根幹である人格というか、魂そのものは、紛れもなく純夏だった。

それだけに、その記憶が切ない。
未来の可能性という意味では、今もそれもありなのだ。

普段は、意識下にある傍系記憶でも、元の世界の未来の可能性の一つとして、純夏と結ばれ結婚した記憶もある。それは、“元の世界”に戻った“白銀武”が今後辿るであろう、幸せな未来の、一つの可能性。
今のオレには、既に遠い甘やかな夢。

自らの意志でこの世界に残ったオレが取り得る可能性で言えば、純夏が再び00ユニットとして覚醒すること。
その純夏と、出来るだけ長く、生きていくこと。


傍系記憶で言えば、1周目は常に誰かが居てくれた。
空に旅立ったメンツによって相手は変わるが、主に207Bの誰かである事が多い。

今思えば、多分純夏が居なかったから・・・。
この世界に純夏が居ないと思いこんでいたオレは、結局寂しがりで、誰かを求めずに居られなかったのだ。

その、全てを喪った、前のループ。
確かに既に記憶だけ、なのだが、あの喪失感は深く刻まれたまま残っている。
その傷が深いからこそ、此処では未だ喪って居ないことに安堵する。
そして、再び、喪う事に恐怖する。
・・・また、喪ってしまったら・・・・・・


「武さん・・・」

「え?  あ・・・」

声を掛けられて振り向けば、よく知っている容姿より、少し幼い顔で、心配そうにのぞき込む瞳。

「・・・ああ、サンキュー、霞」

ぐちゃぐちゃの、負のスパイラルに落ち込みそうになった意識を戻す。

「でも、疲れるんだから、そんなにリーディング使っちゃだめだぞ?」

「・・・はい・・」

そう言えば、桜花作戦の後、残った分岐のオレは、殆ど例外なく霞と結婚していたなぁ、と思いかけ、ふと流れた意識を、慌てて引き戻す。

この傍系記憶は普段封印している。
オレに対しては結構細かい思考や記憶までリーディングが出来てしまうらしい霞。
相性がかなりいいとのこと。
けれどこの記憶、夫婦と言えば当然アレもするわけで、いろいろヤヴァイ記憶も・・・。霞サンは見かけによらずはげ・・・ゲフンゲフン、兎に角そんなのを今の霞に見せるわけにはいかない。

意識が流れてやばそうに成るのを、意識的に主観記憶の純夏を重ねる。
主観記憶そのものを隠すような高等テクは、オレにはない。


一度は言われて止めたらしいが、表情の変わるオレを不審に思ったのか、再び読んだのだろう。
そこには耳飾りの蒼い部分まで真っ赤にした兎さんが居たりする。
ウーム、あのウサ耳飾り、動くだけじゃなく色まで変わるのか。
無駄に高性能だったりするな。

やはり霞には過去であり未来である純夏との想い出を、つぶさに見られてしまったらしい。
ゴメン、霞。
どうにかHィ記憶から意識を切り替えたオレに、霞はふるふると首を振ってくれた。




そう、此処は3周目の、世界。
今のオレは、このBETA世界に残ったオレ達を核に、虚数空間に残された数多の“想い”を受け継いだ存在、らしい。
純夏が繋いだ元の世界との繋がりが切れる時、元の世界に戻ったオレの反動で、この世界を救うために彼方が引き込まれ、更には残ったオレ達の希望で再びループしたこの世界。


実は、それ以外にも別の思い入れもあるのだ。


それは一つの記憶。





想いが溢れる。

元の世界の記憶。


そして2周目の世界での00ユニットとしての復活と、調律と言う名の治療行為。記憶の統合と覚醒。そして心重ねた夜。





今度こそ・・・新しい未来を創る。
既にここが、オレの世界。
逃げ帰る場所はない。
00ユニットとしてでもいい。ずっと一緒に居られる世界を目指す。

この世界が、極めて厳しい状況に在ることは、解っている。

それでも、だ。
ここには、まだ純夏が生きていて、皆が生きていて、希望があるのだから。



「・・・沢山、想い出あるんですね・・・」

脳髄姿の純夏を見て、改めて決意を新たにしていると、ずっと後ろに付いていた霞の方から再び言葉を掛けてくれた。

「ああ・・・。ありがとな、霞。
純夏さ、寂しがりだから霞が居てくれてホント良かったよ。ずっと話しかけて呉れていたんだよな。」

「鑑・・・純夏さんの色が、さっき一瞬だけ、変わりました。」

「そっか。オレが来たのを気付いてくれたならいいけど・・・。数式は彼方が何とかしてくれたし、きっと早い内に此処から出してやれる。
純夏を此処から出したら、霞も一緒に想い出創ろうな。」

「! 私も、・・ですか?」

「ああ。オレには霞との想い出もいっぱいあるぞ。主観記憶のは、さっき少し見たよな?」

「・・・・」

ちょっと顔を赤くして、ぺこりと頷く。
主観記憶で言えば、思い浮かべたのが最後の告白シーンだからなぁ。
去り際ギリギリでありがとうしか言えなかったけど。
まあその分、分岐世界では、もう目一杯応えたし。

「・・・傍系記憶には、もっといっぱいあるけど、それは内緒な。だって、今の霞と想い出創らないと、意味ないもんな。」

「想い出・・・、私にもできますか?」

「勿論出来るよ。こうしてオレ達が出会ったのだって、霞の想い出になるんだぜ?」

「!」

「もっともっと楽しい想い出創っていこうな。」

「・・・はい!」


Sideout





[35536] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/06 21:12
'12,09,29 upload
'12,12,06 誤字修正


Side 武


彼方と、そして霞も一緒に、デリバリされた朝食を取ったあと、またB19フロアの執務室に行く。夕呼先生は、近年まれに見る機嫌の良さ。朝からテンションMAXだ。
それも、そうか。
昨夜、彼方が提出した数式で、理論がほぼ完成したらしい。10年来の悲願が達成したのだ。

前回はキスの嵐だったけど、今回それは彼方が引き受けてくれた。
ちょっと惜しいなんて思っていないぞ?
夕呼先生は、なんと言うか大人だけにどうしても自分では釣り合って思えなかった。
・・・アノ記憶だって、今思えば一方的に喰われただけだし・・・。
何処の肉食系女子なんだか。
例え何度ループしてようと、並行の経験が在るだけで精神的にスタートはいつも17歳。
桜花後残った記憶でさえ数えてみれば10年未満。その殆どを前線に居続けた経験は、人間関係的には大したコトはない。特殊な環境下といった方がいい。

その点彼方なら、余裕だろう。なにせ前の世界でもそう言う関係だったというのだから。
あの、自由奔放が服を着ているような夕呼先生と付き合えていたコトが凄い。


そう言えば、今朝起こしてくれたのは霞だった。
前の記憶を読み取ったらしい。
基本、まだ階級も貰っていないので、点呼や確認もないのだが。
昨夜日付も過ぎてから寝るところも決まって居ないことに気付き、夕呼先生に聞けば、上士官用の個室を与えられた。彼方の示した式は、完成度が高く、理論構築は確定的、ということで、未だ示されては居ないがそれなりに高い階級を考えているらしい。
どうせ寝るためだけに戻る部屋なので、気にしないのだが。

そして、まだ教えていないのに、また記憶を読んだのか、またね、と言って霞が去ろうとしたそこに、彼方が現れた。
手伝えと言われ、朝飯前に霞と一仕事したのだ。







「・・・・・・これがあ号標的・・・重頭脳級との接触ログ、その全容ね。」

メモリの音源を聞き終えた夕呼先生が呟く。

「はい。今朝起きたあと、霞にオレの記憶をリーディングして貰いました。
それを彼方にプロジェクション、そのデータを音声に起こしたのがこれで・・・、オレの記憶で言う一昨日のハイヴ突入時のまんまです。」

「・・・前の世界でBETAとの通信状態になった鑑を通して霞がI/Oインターフェースってことかしら。」

「そうなります。」

「・・・どうやって音源に起こしたのかは知らないけど・・・」

「・・・社のプロジェクションを電気的に音声変換するI/Fを、バッフワイト使って作成しただけだ。音声が明瞭なのは、鮮明なイメージを投影できる社の手柄だ。」

彼方の説明に頷いて偉いぞ、と霞の頭を撫でると、うさ耳がひょんと跳ねた。

「・・・飛んでもないことあっさり言うわね。普通一晩でできるレベルじゃないでしょ?  あとで設計図よこしなさい。」

「夕呼センセならいくらでも。」

「・・・」

命令調の言葉に、何でもない返し。先生の目尻に一瞬朱が差した。口元が歪むのは照れ隠しか。

・・・うん、この位に成らないと夕呼先生の相手は無理だ。
オレには出来そうにないし、したいとも思わない、後が怖い。
流石彼方、そこに痺れる。・・・憧れないけど。

「・・・まったく遣りにくいわね、アンタは・・・。
じゃあ余計な加工はないってことだけど・・・、これは・・・このデータの存在は衝撃的ね。
ある意味00ユニット作成目的の半分は完璧に達成しちゃってるじゃない?
是をもう一度遣るとなると、こっちの情報流出とか色々問題在りそうだし、この音源はそのままオルタネイティヴ4の成果として出せるわね。

・・・しかもこの内容に至っては対BETA戦略の根幹を完全に改める必要があるわ。
昨日も聞いたけど・・・BETAは炭素系生物を生命体・・・多分概念としては知性体と認めていない、ってことね。」

「・・・というか、BETA自体が創造主の資源採掘作業用システムに類するもので、創造主は基質の全く異なる珪素系生物、・・・大方その思考までガチガチの石頭ってことだ。」

「重大災害、か・・・。ホントなめてるとしか思えないわね。
人が蜂蜜取ろうとして雀蜂の大群に襲われ大被害を受けた、位のつもりなのかしら・・・。

ま、いいわ。遣ることは変わらない。

BETAが知性体と認識していなかろうが関係ない、地球上のBETAを駆逐して、人類という種の保存を図る、これだけね。
創造主とやらに会いに行けるほどの技術力はなくても、資源回収端末を殲滅し続ければその内気付くでしょ。」

そう言って先生は3人を見回す。

「・・・昨夜貰った数式の展開が殆ど終わったわ。後は量子電導脳の設計図に組み込むだけど。2,3日詰めるから。
で、アンタ達は具体的にはどうするの?」

「オレは言ったようにA-01と207B分隊の教導をさせてください。」

「それはまずシミュレータで腕とか確かめないと無理ね。XM3、御子神が作るんだっけ?  何時頃出来るの?」

「・・・それももう出来てる。
昨夜訊いたらシミュレータも弄って良いと言われたので、朝の内に追加登録しておいた。」

「「ウソっ!?  もう構築した(の?!)のか?」」

「おいおい、夕呼センセはともかく、少なくとも武は前の世界で俺がどんだけシステム弄ってたか知ってるだろ?」

「あ、ゲームガイのCFW(カスタム・ファーム・ウェア)か?・・・、そっからバルジャーノンのプログラム引っ張り出した?」

「そ。昨日午前中にその概念は聞いたから、ゲームガイからアルゴリズムの該当部分引っ張り出してディスアセンブルしておいた。操作に対するコマンドのプールや割り込みの構造は同じだからな。そのあと暇な身体検査中に基本アーキテクチャは組んで、武が夕呼センセと話してる最中にプログラム修正。シミュレータ弄って操作端末とのI/Fを取り、今朝調整した。
実際もう少し調整に手間取ると思っていたんだが、今朝方社嬢が手伝って呉れた。どうも武の前の世界じゃ社嬢がその辺を組んでいたって武の記憶読んだらしくて、今朝方シミュレータI/F取っていたらやってきて呉れた。」

驚いて霞を見ると小さくVサイン。
あ~、もう、この娘さんは!
頭を撫で撫でしてしまう。

「・・・アンタ、寝たの?」

「・・・完徹してる人に言われたくないが、睡眠の深度もコントロールできるから、完熟1時間で十分。ついでにシミュレータの乗せる際、システムの最適化もしておいた。
CPUは実機における夕呼先生のカスタムCPU相当として、即応性は武の記憶に約3%上乗せして33%ってとこか。
ついでにコンボや先行入力に対するモジュレーションも追加した。」

「なんだ、それ?」

「先行入力やコンボの“前倒し”、ないし逆にディレイする“間”やタイミングを見計らう“溜め”だ。要するにコマンドの発動タイミング微調整だ。使い方次第では、コンボや先行入力のスロー再生や早送りが可能。」

「あぁ!成る程! ゲーム弄くった彼方ならではの発想なんだけど・・・。
夕呼先生ですら作るのに1週間掛かったプログラムを1日で済ますとは相変わらずデタラメな能力だな。
流石コードブレーカーってことか。」

「ゲームコード丸ごとパクリで、ゼロからの構築じゃないからな。元の世界じゃライセンス絡みで間違っても表に出せない代物。
寧ろその辺の基礎知識が皆無のセンセや社が1週間で作り上げたことの方が驚きだけど。」

そう言えばそうだと思い直す。ゲームを知っているオレにとっての常識が、この世界には無いのだった。


「コードブレイカーって・・・どーゆー事よ?」

「・・・ああ、大きな声では言えませんが、彼方は元の世界で世界最高とか最強とか言われたハッカーです。それこそ向こうの世界のペンタゴンの、最高機密も痕跡すら残さず閲覧出来るような、ね。当時彼方がその気になって破れないセキュリティはなかったし、侵入の痕跡を捕まれたことすらありません。
おまけでオレの機動の元としてる対戦ゲームでも最強クラスで、ネット部門の世界ランクはオレと同じ、日本人ではたった二人の一桁でした。」

「・・・そうね、こっち来た早々衛星使ってあちこち入り込んでたんだわね。それにしたって、一日で組むなんて有り得ないわ、あれだけ他のことしてて。
・・・・・・アンタ何物なの?」

「そこは“何者”が正しいんだが・・・、ん~、所謂一つの自前量子生体脳?」

「・・・」

そこで電波なツッコミと疑問系。相変わらず彩峰以上だな、コイツ。
流石の夕呼先生も呆れてる。

「ま、いいわ。折角社も頑張ってくれたなら、アンタ達の腕前を見せて貰おうじゃない?」


・・・世界は中々トンでもないモノを引き当てたようだ。


Sideout





[35536] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2013/01/19 17:36
'12,09,29 upload
'13,01,19 誤字修正



Side ピアティフ


香月副司令からシミュレータの準備をしてほしいとの依頼があったのは、9:00だった。
副指令自らこういった依頼は珍しい。具体的には初めて、ではなかろうか?
思わず復唱してしまった。

直ぐに使用状況の確認をし、機密占有措置をして、オペレータールームに赴く。
向かった先、油圧式の足を持った箱がいくつも立ち並ぶシミュレーターデッキにはすでに、白衣姿の博士と小さなウサ耳飾りの助手、そして見知らぬ2名の若い男性が待っていた。

「ピアティフ、悪いけど紹介は後回しにさせて頂戴。彼ら極秘の外部特務から戻ったんだけど、出来高次第で、今後機密解除するかどうか決めるから。」

「了解しました。」

「それじゃあ始めてちょうだい。御子神は最初参加しないで良いのね?」

「ああ。武闘派の武と違い技術系、BETA実戦経験は皆無、せいぜい慣熟しとく。」

「・・・・ま、いいわ。ピアティフ、1台端末解放してやって。」

「了解です。」

「じゃあ白銀、始めなさい。」




シミュレータに乗り込み、開始値点に付きながら機体を操作する白銀と呼ばれた青年。
・・・若い。
まだ二十歳前、少年と呼べそうな面差しすらある。通常の仕官なら、任官するかしないか位の年だろう。
それが極秘の外部特務?
いけない、NEED TO KNOWよね。

けれど、コックピットに乗り込んだ彼は、落ち着いて着座調整を済まし、感触を確かめる様に各レバーの遊びを確認する。
任官してるしてないのレベルではない手慣れた操作だった。

そして、躊躇無く機体を動かす。
モニターで見るその動きの違いは、素人目でもはっきりと解った。



『すげーな・・・。
[桜花作戦]の時のVer.3.2より全然ヤバイじゃん・・。
しかもコンボも入力式じゃなく、予測先行入力の選択式か。これは初心者の使用難易度が格段に下がるな・・・。』

「取り敢えず違和感ないか?  一応お前の挙動は現状関節負荷が高いから機動終端に僅かな緩衝動作入れてるんだが・・・」

『やっぱり?  けど問題ない。むしろ有り難い。』

「OK、じゃ、Good Luck。」

『ああ、準備完了です。行けます。』

御子神と呼ばれたもう一人の男性(こちらも少し落ち着いているとはいえ、20前後には違いない)と、2,3の会話。技術、と言った通りの内容。

そして搭乗者は準備が整ったことを伝えてきた。



指示された状況を開始する。

『では、CASE-29、開始します。

状況:BETA侵攻に対する撤退戦。
戦況:混乱、司令部潰滅、データリンク機能停止。
達成条件:支援部隊との合流 可能な限りの友軍衛士確保。

―――3、・2、・1、・状況開始してください。』




その言葉が終わるか否かといったタイミングだった。

「え?」

モニターの中の不知火は、いきなりジャンプ跳躍、今では誰も飛ばない空から両手突撃砲の一連射。
前方の友軍エレメントに襲いかかろうとしていた要塞級の前肢関節を打ち砕く。

勿論、一拍置いてそこに光線級からの光条が空を薙ぐ。


瞬殺!?

そう思った。


しかし既に、光条の薙いだ空間に不知火の姿は無く、信じられない反射で低空に舞い降りた不知火は、そのまま直角に地面すれすれを匍匐飛行、続く光線級の照準を要撃級を盾にして回避する。
その要撃級の振るった蝕腕を長刀で薙ぐ様に切り落とし、繋ぐ動作で胴体を串刺しにしたまま、一気に跳躍推進、さっきの攻撃で位置を把握したいた光線級群との距離を詰める。

一連射で光線級4体が36mmになぎ倒された。


「!!!」


ここまでわずが30秒!
信じられない物を、見た気がした。







その後、自分はもうモニタを前に呆然としているだけだった。

戦場に散る光線級を優先的に撃破する。
行き掛けの駄賃とばかりに、突撃級や要撃級の前肢を斬り飛ばす。

周囲の動けるNPC僚機には簡単な指示。もともとシミュレーションのAIに、組織だった動作など望めない。それでも搭乗者の指示には従ってくれる。
BETAの流れすら把握しているのか、尤も被害の少ないだろう方向に誘導していく。

要塞級を向こうにまわし足を狙うことで、殲滅は出来なくても弾数を節約しつつ、行動制限。
突撃級が集団でくれば、平気な顔で上空から殲滅掃射。
その跳躍で光線属種の砲撃を誘う。
そして照準照射中に急降下回避、位置を特定した光線級を優先的に潰していく。


やがて自分でさえ気がついた。


彼は、既に光線属種に対する回避・索敵・接近・殲滅、のパターンが完璧に出来上がっているのだ。

光線属種の砲撃回避。
突き詰めれば、唯一点。
この挙動を何時でも可能とすることによって、光線属種の居る戦域では絶対飛ばない、という対BETA戦の常識を、根底から覆した。


BETAの進軍に戦略は無い。戦術もなければ、連携すら殆どない。
連携と言えそうなのは、光線属種の水平照射に対する避退くらい。
愚直なまでに唯々前に進む。
習性として、フレンドリーファイアは決してしない、優先順位の高いモノから襲いかかる。
そしてその優先順位は、飛翔体であり、動体であり、電子機器であったりする。
BETAの中にあって機動時間が長ければ長いほど、その優先順位が上がってゆく。
長く生き残る者:熟練の衛士やエースと呼ばれる者ほど集中的な攻撃に晒されやすいコトが知られている。

今、限定的とはいえ飛翔し、高速で動き回り、BETAを殲滅し続ける彼の機体は、周辺BETA全体を誘引するほど優先順位が上がっているのだ。

それでもBETAは連携しない。
つまり一度飛べば、彼を認知している全ての光線属種BETAが“一斉”に照射してくる。
フェイントや連携による逐次照射など一切行わない。
それは、どんなに無駄だろうが全く“学習”しない。

だから、彼はもう彼の中にある決められたパターンを、唯繰り返すだけ。

これだけ見ていると、BETA殲滅が単純作業にすら見えてくる。



なにせ無駄がない。
戦場に残る僅かな補充担架や壊れた自軍戦術機の兵装・増槽を逐次マーキング、残弾や推進剤の残りを意識しながら的確に拾い補充していく。
それで居て派手な陽動で一定戦域のBETAを悉く誘引していき、一方で指示し集めた味方NPCを巧みに退避させていく。



「…………コイツ[]化け物ね…………」

後ろでモニターを見つめる副司令がつぶやく。
 一台だけ稼動しているシミュレーターの情報を映し出すオペレータールーム。

その中で、突然現れた年若い衛士の行っているシミュレーションに、自分自身も息を呑んで見守っていた。




結果。

本土侵攻時九州戦線のデータを基にした、基本的には自己保存を目標に設定された状況で、師団規模のBETAを向こうに回し、重光線級8、光線級56を撃破、要塞級行動規制27、要撃・突撃級に於いては無数、小型種を除き計1000体超の撃破数をカウント。
更に、遂行上障害物にしか成らない僚機NPCを36騎生存させたまま援軍合流に間に合わせ、且つ自己被弾0,損耗は弾薬推進剤だけというデタラメ振り。

獲得スコアで言えば、340万・・・。

単騎では10万出せばTOPGUNと言われ、今までのレコードが70万であったCASE-29で、ブッチギリの世界レコード、驚愕の成績をたたき出したのだ。

・・・つまり本土侵攻時に彼が居たら、違う未来が描けたかも知れない?  と思ってしまうほどに。


何よりも、光線属種の存在を歯牙にも掛けない3次元機動は、今まで地に貶められていた戦術機にとって一線を画すものであり、飛んでも主照射を喰らわない機動が、その戦術の在り方を変えた。
態と飛行跳躍し、照射を誘うことで光線級の位置を把握、それらを優先的に排除し、大型種に対しては弱点撃破による行動規制で機動力を奪い、最小の弾数で友軍の確保を実施。
BETAとNPCの流れすらコントロールしながら、援軍到着まで無傷で持ちこたえてしまった。


「・・・ピアティフ、至急伊隅とまりもを呼びなさい。」

「は、はい!」

今、なにか飛んでもないことが起きてる・・・、そんな予感を覚えながら呼び出しを行った。


Sideout




Side 霞


シミュレータががっこん、がっこん動いています。

今朝、というよりもまだ、夜中だった3時、目が覚めてしまったワタシは此処に来て、御子神さんのお手伝いをしました。
XM3というプログラムを組んだのは、白銀さんの前のループでは副指令とワタシだったみたいで、白銀さんの記憶にも頑張って撫でられているワタシが居ました。

今回は御子神さんがいるから、というコトでしたが、ワタシもお手伝いが出来るならしたいです。
昨夜分かれたとき、御子神さんの意識がシミュレータに向いていたのも知っていたので、目が覚めたついでに行ってみれば、まさに作業中でした。

御子神さんも、細かい思考や、記憶は読み取れませんが、興味の対象や雰囲気くらいは読めるのです。
尤も、白銀さんは、何故かかなり細かい所まで読めてしまいます。
昨夜純夏さんの所に居たときも・・・。白銀さんと純夏さんの、・・・えっと、アレも、ちょっとだけ見てしまいました。
あと、白銀さんが主観記憶と呼んでいる記憶は、結構読めたりしちゃいます。
結構、と言うか、相当リーディングの相性が良くないと此処まで見えたりしません。

今朝記憶に在った様に白銀さんを起こした後、主観記憶に在った純夏さんを通じたあ号標的との会話ログ、白銀さんの覚えていない細かいところまで全部、読み取れました。
それを御子神さんにプロジェクションしたら、なんと言うことでしょう、会話ログが音源データになっていました。
・・・御子神さんは、魔法使いの様な人です。


そして白銀さん・・・。

話は全部聞いていました。
純夏さんに連れてこられて、結ばれるまで何度も何度もループしてきた途轍もない過去を持って居る人。
ワタシの力を知っているのに、前の世界でも今も、少しも怖がったりしません。

そういえば、白銀さんは、傍系記憶と呼んでいる分岐世界での記憶は、普段封印しているみたいです。
ワタシでも、其処までは読み取れません。
ですが、純夏さんとのアレを見てしまう直前、ワタシは一瞬だけ、見えてしまいました。
・・・白銀さんの側で微笑んでいる、少し大きなワタシ。

あれは何でしょう?

白銀さんの主観記憶に拠れば、前の世界でワタシは白銀さんに告白しています。
それも純夏さんを喪ったばかり、そのとても狡い時に・・・。
主観記憶、つまり白銀さんが前の世界から消える記憶では、ワタシは応えを貰っていませんでした。
居なくなったので当然です。
では、残ったという傍系記憶では?

でも白銀さんが隠したい記憶を読むのはきっとダメです。

白銀さんなら、何時か話してくれると思います。

そして白銀さんの記憶にあるワタシではなく、今のワタシと思い出作ろうと、言ってくれました。

あの微笑むワタシが何なのか、きっと知ることが出来ると思います。


そう。目の前で起きている白銀さんのシミュレーションは、圧倒的です。
こんな成績を見たことが在りません。
ワタシが手伝ったOSで、此処までの成績が出たのは嬉しいのですが、それ以上に哀しい人。

何度も何度も喪って、それでも求め続けて、自分が死ぬ度に、その事実すら無いことにされ、振り出しに戻る。世界は事実を喪失し、白銀さんの記憶にのみ刻まれる。

その遙かな繰り返しの中、積み重ねてきたのが今の白銀さんの技量だと思うと哀しくなります。

大切な人を守る、その為に鍛えたのに、圧倒的なBETAの物量に飲み込まれていく守りたい、守りたかった大切な人たち・・・。

その末の、力。


最後まで、そして、今も諦めていない白銀さん。


前の世界でも約束していた様に、ワタシは見ていることしか出来ません。
それでも、ずっとずっと見ています。

ずっとずっと側に、居ます。


Sideout




Side 武


すげーな・・・、オレ・・・。


正直吃驚だ。

自分でも信じられなかった。

獲得スコア340万?   
我ながら呆れる。
それは幾ら彼方の組んだ新OSが想像以上だったにしても、到底有り得ない数字なのだ。




主観記憶に於けるオレの実戦経験は、実はそんなに多くない。

1周目の主観記憶では、5への移行に伴う混乱と移民船への搭乗資格云々が先行し、BETAとはハグレBETAとの小競り合いみたいな接触しか無かった。
1周目の主な戦闘は、傍系記憶にあるバビロン作戦以降がメインであり、そっちは地獄だったけど。

そして2周目も、初戦はクーデターの対人戦。2度目はトライアルで醜態を晒し散々なけっかだったが、甲21号作戦で漸く初めて単騎陽動が実行できた。それでも、戦術機として機動したのは、次の横浜防衛戦までで、桜花作戦ではXG-70dで出撃、実質戦術機機動などしていないのだ。
・・・勿論傍系記憶には、イヤってほどあるけど。

つまり、主観記憶では、戦術機によるBETA戦は、たったの3回、微々たるものである。



・・・それが、これだ。ホント自分でも呆れる。


一応桜花作戦以降も残り、戦い続けた傍系記憶があるからどうにかなるか、普通の衛士以上には動けるだろうと漠然と思っていたが、そんなちゃちなものでは無かった。


そう、視界にBETAを確認した瞬間、手足が勝手に動いていたのだ。

頭の中には、瞬時に戦域に於けるBETAの配置、行動予測が閃いた。




今はその殆どを深層に押し込めている記憶“群”。
1周目の、地獄のような消耗戦。
2周目の、あがき続けたハイヴ攻略戦。
普段それらの記憶は封じていて意識しなければ思い出さないが、並行して培われた経験や技能は、どうやら違うらしい。
全ての世界に於ける経験は、その全てが畳み込まれ、今のオレ“白銀武”の“機動モデル”としてこの身体に備えられていた。
そう、頭で考える迄もなく、“身体”が覚えている。


BETA各種の攻撃パターン。その予備動作。
BETAの行動特性。


それらを瞬時に見抜き、覚えた身体が最適な対応をしていく。

それら、既に“完成されたモデル”を持つオレにとって、平面状況に置けるBETA殲滅戦は、もはや単なる“作業”に過ぎなかった。

なにせ跳躍に対し、BETAはレーザーしか[●●]攻撃手段を持たないのだ。
そして飛べばオレを認知している光線属種は、迷わず同じタイミングでオレに照射し、そのコトで自らの居場所を知らせてくれる。
オレにとって怖いのは、超長距離に於ける光線属種の狙撃だけ。
しかし限定された地上をはね回る限り、その危険は殆どないことも判っている。

超長距離ではほんの僅かな射角の修正による精密狙撃が可能でも、近接戦闘、少なくとも数100m範囲の戦闘では、戦術機の機動に光線属種の射角修正が追従できない。
それ故に戦闘機という航空戦力が無力化され、戦術機という機動性に優れた兵器が主流に成ったのだから。
それでも、地上に比べ自由が効かない空中機動は、レーザー照射に喰われ易かったのは確かだ。しかし空中に於ける雑多な自動制御を纏めて無視出来るXM3を得たオレには、その照射さえ余裕を保って回避できる。
こうして“空”が使える以上、地べたを這い回るしか能の無い他のBETA種は唯の的。
光線属種さえ先に潰せば、例え地面がBETAで埋め尽くされて居ても突撃級の背から背へ八艘跳び出来る自信もある。
あとは弾薬・推進剤の消費を考慮するだけった。


更に今のオレには、戦域のBETAの動きが、何となくだが判るのだ。
状況に対する膨大な経験による直観というのか、予測というのか。

どの辺りに光線属種がいるのか、向こうの一団が次どういう風に動くのか。
それが、殆ど“見え”てしまう。

なので、目の前のBETA殲滅は、“反射”にまかせ、実際オレが機動中に遣っていたのは、BETAの動き予測とそれに対するNPCの誘導、更には残存弾薬・燃料と、その補給・回収を如何に行うか、と言うことだった。



幾多の世界の“経験”の、畳み込み。
それは、それぞれ個別の世界で到達した“極み”と言えた到達点をも既に凌駕していた。

そこに至るのは、彼方が組んでくれた新XM3の完成度故、なのだろう。
“反射”的に入力しているコマンド量が、明らかに減っているのだ。
初めは癖になっているのか、キャンセル再入力の方が多かったが、新機能“モジュレーション”を使うことにより、その量が明らかに減った。
組み立てられたコンボや先行入力の時間調整。
タイミングがずれて、今までならキャンセルして回避するしかなかった斬撃行動に、一瞬の“溜め”。
回避を回避したことで、当初の予定通り動作が続く。
不意に生じた横槍には、次動作の始動を早め、攻撃を完了すると共にかわす。
実際には戦術機の動作そのものを加速することなどそうそう出来ないのだが、一部動作をスキップすることで発動自体を早めることが出来る。
キャンセル再入力に対し、流れを造る上で無理のないその操作は、直ぐに馴染み、コマンドの入力量と無駄な機動量そのものを大幅に減らす。

それは、自分の到達した挙動モデルとの相性も良く、自分から見ても、今の機動は一つに“究極”に達している、と思えた。




・・・これが、オレの“力”か・・・。

純夏を護り、皆を護り、そして地球上からBETAを駆逐する“力”。

長いループの中、あがき続け、藻掻き続けたこの世界の“オレ達”が望んだ、結晶。



・・・・・・届くかも知れない。

イヤ、絶対に届かせる! 絶対!!


Sideout





[35536] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/02/08 11:03
'12,10,09 誤字修正
'15,02,08 誤字修正


Side まりも


ピアティフ中尉の至急、という呼び出しに、座学していた訓練兵を自習させ、シミュレータルームに着いた。

「御子神、行けるの?」

ドアを開くと、夕呼がインカムで指示している。
その表情が、何処か明るい。
また徹夜したのか、目の下にうっすらと隈があるが、ここ数ヶ月、見たことのないほど活き活きとしている。

『ああ。』

シミュレーター内の音声が管制室のスピーカーにそのままオープンになっている。
そこから知らない若い男の声がした。

『さっき発生した小さなバグは、全部取り終わった。』

「! 動作中にプログラム変更したの?」

「シミュレータだからな。一機しか動かしてないから制御は余裕あるしバックグラウンドに3本走らせて、都度修正掛けた。」

「・・・ったく、本当デタラメね。それも終わったんなら、アンタも逝きなさい。」

何となく字面が違っている様な気がする。
悪魔のような蠱惑的な笑みを口元に携えてた夕呼だもの。
背筋を厭な予感が走る。こんなノリノリの夕呼を見るのは、本当に久しぶりだ。
それだけに、これから被る被害が怖い。

オペレーションにはピアティフ中尉、社助手も傍らで見ている。
そして教官も?と小声で疑問を呈した嘗ての教え子、伊隅大尉が居る。


「白銀・御子神、次の状況よ。アンタ達の“力”見せてみなさい。」

インカムでそう言う夕呼の顔に、悪い予感しかしない。
何か、飛んでもないことが起きる、そうとしか思えない。

『Yes,Ma'am。状況は?』

「勿論白銀お得意のハイヴ戦よ。
ヴォールク・データ、難易度はSランクね。初期装備以外の補充は無し、エレメント突入、地上陽動率10%よ」

隣で、伊隅大尉が息を呑むのが判った。私も同じ様な反応だろう。
・・・・一言言うわ夕呼、それ無謀。

『―――了解。けど、ドSっすねー、俺等フィードバックデータすらまだ無いんですよ?』

別の、やはり若い男の声が何でもないように言う。ドSってなに?
と言うか、強化装備のフィードバックデータは戦術機のGを緩衝、衛士を保護する機能。シミュレーターとは言えかなりのGを発生する機構があるから、データ無しでは強烈なGが掛かる。はっきり言って、通常の機動さえままならない。
それをSランクのハイヴ攻略、衛士としての立場で言えば、狂っているとしか思えない。
それほどまでに、ヴォールクは厳しいのだ。

人類史上初めて当時フェイズIVのH5:ミンスク・ハイヴに挑んだソビエト陸軍第43戦術機甲師団ヴォールク連隊の陣容は、突入部隊27個小隊、戦闘車両240両、機械化歩兵500名、歩兵1800名、工兵2300名に登る。この内、ハイヴから生還したのは30分毎に観測データを運び出した7組14名の衛士のみ。その規模の連隊が僅か3時間半で“絶滅”したのだ。
隊はその名をデータに残すのみ、なのだ。

隣で伊隅大尉が引き攣った笑みを貼り付けている。
彼女だってどれだけ無謀なコトなのか理解しているだろう。
ハイヴ攻略は、挟路であるため、数を揃えればいいと言う物でもないが、少なくとも成果を上げるには中隊以上の規模は必要である。
しかも難易度Sランク、トップガンを揃えた中隊でも、今のレコードは中層到達の筈。
エレメント単位では、ほんの数分で終わってもおかしくない、というか終わる、そんな状況なのだ。

夕呼は一体何を期待して、こんなシミュレーションを見せたいのか?
小さなため息を付く。


『・・・武のFBDは、さっきのシミュでBASE DATA構築しておいた。逐次適応修正するから動けば動くだけ楽になる。多少の無理はいける。』

『おー、流石彼方、Thanks!    』

「・・・さっきの一回でデータ作成?  逐次適応?  ・・・言うのもバカらしく成るくらい半端無いわね、アンタは・・・。で、アンタ自身は大丈夫なの? 戦術機は初めてじゃなかった?」

戦術機は[●●●●]、な。同じ様な機体の経験はバリエーション含めかなりある。
それに、機械で操作するモノはどれもさして変わらない。操作量と挙動量の応答モデルを構築すれば良いだけだから。』


・・・流石に呆れを通り越して、怒りすら覚える。
初めてでヴォールクSなど狂気の沙汰。と言うか、舐めているとしか思えない。
こんな茶番を見るために、大事な教え子を置いて来た訳じゃない。

「副司令、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」

「相変わらず、硬っいわねェ。今は身内しか居ないからそんな呼び方は無しよ、ってか禁止。伊隅も良いわよね?」

苦笑する伊隅大尉。

「・・・・・」

毒気を抜かれて、やっぱり夕呼だし、と思いつつ、訊きたいことを訊く。

「・・・・どうしていきなりこんなシミュレータを見せるの?」

隣で伊隅大尉も同じ様な困惑顔。

「あぁ・・そうね、これからあんた達に見て貰うのは、戦術機の新概念に基づく新しいOSよ。今、不知火に乗っているのは、その提案者と制作者。
かなりの戦力向上が見込めると踏んだから、近々あんたたちの教導も行ってもらう予定。」

「新OS・・・ですか?」

「そうよ。・・・そうね、さしずめ人類の希望の階。
まりもには、207Bの戦術機演習にもこれを使って貰う予定だから、先行してA-01と一緒に慣熟して貰うわ。」

「「・・・了解」」

・・・今ひとつ納得いかないモノを含みながら、伊隅大尉の返事とかさなった。




「さて、白銀・御子神、そろそろ逝ってきなさい」

『『Yes,Ma'am』・・・って字違うし・・・』

何で当てた字が解るのだろう、と思いつつ、夕呼の合図と共にモニタールームのモニターには、2騎の戦術機情報が左右に映し出される。


「では、CASE-01、開始します。

状況:ヴォールクデータ、フェイズIVハイヴ侵攻戦。
戦況:エレメント突入、CP通信不可、データリンク機能エレメント間のみ有効。
達成条件:反応炉破壊 可能な限り生還。

―――3、・2、・1、・状況開始してください。」

ピアティフ中尉が宣言と同時にシミュレーションをスタートさせた。


画面には、主観カメラと、その後方視点。
画面は軌道降下終端、2騎はハイヴへと続くスタブ入口に向かい突入する。

『ルートは?』

『任せる』

『了解。適当に後ろから指示する。武は後ろ気にせず自分のペースで突っ込んでいい。』

『解った』

交わされた短い会話。
片方は初めてだと言うのに、言葉には微塵のゆらぎもない。機体の操作も極めて安定している。
それ以外の機体経験はある、と言った。それなり、と言うことか。

2騎はそのまま、殆ど最大降下速度で、BETAひしめくスタブに飛び込んだ。
仄蒼い光に包まれた、一種幻想的なハイヴの壁が映し出され、同時にそこここに張り付いていた無数のBETAが弾かれたように、2騎の不知火へと動き出す。

『行くぜ!』

『ああ。』

明確な意志を携えた宣言に、抑揚無く返す声は何処までも落ち着いていた。






そして画面には、何の躊躇いも感じさせず、淡々とBETAの群に切り込んでいく不知火。
ハイヴという通常は厄介でしかない閉鎖空間を巧みに利用し、壁、時には天井さえ駆け抜ける3次元機動。空を抑えられた地表に於ける平面機動とは全く異なるその操作。
異常な速度でハイヴ内部に侵攻する機体。

口元の笑みを深くする親友、何処か哀しげなその余りにも年若い助手。そして明らかに何かを期待するようなオペレータ。
そして、隣で驚愕する嘗ての教え子。

だが私自身周囲の人間の様子など、既に認識の外にあった。




・・・・・有り得ない・・!!

現在のハイヴ攻略戦術は、ルート選択と殲滅による。つまり、反応炉までの最短距離にでてくるBETAを全て撃破し侵攻する。それが基本だった。

しかし、このエレメントは違う。
BETAの持つ物量を、可能な限り後方に置き去りにする。一切足を、留めない。留め無いどころか、下手をすると足を地面に付けない。体操の床運動の様な機動、果ては、壁や、天井すら“駆け抜ける”。攻撃すら最小限、進路上邪魔な個体や、障害となるBETAしか排除しない。
跳び、廻り、捻り、かわす。
時にはムーンサルトのような、それらが複合した動作すら存在する。それとて、密集したBETAの触手を交わす、最小限の動作だったりする。
それでありながら、天地反転挙動中にも、天井から降ってくる障害BETAを正確に撃ち抜く。時に、地上の突撃級すら足場に、進む。


ただ、奥へ。

それは驚異的なスピードだった。



やがて私は気がつく。これは、“有効”な手段なのだと。
いままでのハイヴ攻略概念とは全く思想を異にするが、極めて有効なのだ、と。

だとすれば教官である自分がすることは、何時までも驚いてみていることではない。
その機動概念を、そこに必要な技術を見極める事だった。
どんな操作をすれば、この動きになるのか。
何を判断すれば、その選択をするのか。

自分の記憶に当てはめて分析していく。


そして、違和感。

「ねぇ、夕呼。あの不知火、おかしくない?」

「なにが?」

「動きが・・・、そう、“硬化時間”が、一切無いのよ」

「・・・そうよ。その為の新OS【XM3】だもの。」

あっさり返された返事に驚愕する。

「・・・コマンドの入力時に、次の動作を連続して打ち込める“先行入力”、そして状況が変化したときや、機体の自動硬直すら割り込み処理で中止させる“キャンセル”。
この2つの新概念を実現したこのOSでは、各操作の間の繋ぎや、“硬化”時間そのものを殆ど0に近づけているの。」

「そんな! オートバランサーや、緩衝の為の硬化時間が無くなったらどうなるのよ?」

「・・・例えば、人間だってバランスを崩したとき、その場に踏ん張ることも出来る。でも敢えてそのまま前転し、柔道の受け身を取ることも出来るわ。いっそバランスを崩した方向に斜め跳躍して離脱するという違う動作に繋げる事も出来る。
緩衝だって、ダンパーのストロークを使い切ることも方法の一つだけど、関節を円を描くように回し、力を分散することも可能だわ。今のα-1の様にね。」

「!!」

「今までは、それを全て戦術機任せにして硬直した動作しか出来なかった。
でも先行入力と、キャンセルの概念は、入力待ち時間を無くし、その取り得る選択肢を増やしたの。その状況に於いて、最適な行動が取れるようにね。」

「「なっ!?」」

・・・・何よそれ・・それが本当なら戦術機の世界が変わる!!

「勿論シチュエーションは様々だし、取り得る動作の選択肢が増えるから、その入力も大量になる。
でもね、当然取り得る最適な行動パターンは、動かしている内に幾つかに絞られてくるものよ。
そうして絞られた一連の行動パターンを一つの動作として登録する機能が、“コンボ”よ。」

「コンボ?」

「例えば、回避・噴射跳躍・反転・照準・銃撃、この動作を対象選択と回避・噴射跳躍まで入力すると、あとは勝手にそれ以降がセットされるとしたら?」

「「!!」・・・、でも相手が常に同じ動きとは限らないわ?」

「その時の選択肢は2つ。
1つはモジュレーション、先行入力されたコマンドを“繰り上げ”て早めたり、逆に“間”を持たせて発動を遅らせる。
もう一つはキャンセル、全く新たな入力をして、決められた一連の動作自体をキャンセルするか、ね。」

話を聞きながら、背中がゾクゾクと総毛立ってくる。
自分の操作に当てはめてみれば、その計り知れない効果が、恩恵が、即座に理解できるのだ。

今まで、何処かぎくしゃくとしたロボット然とした戦術機の動きが、いまハイヴ深く侵攻する滑らかな動きに変わる。

「・・・基本的にこのOSは、適応進化するOSなの。ハイヴ戦や、迎撃戦において、使うパターンは頻度が異なるはず。
でも状況により、コンボの優先順位を変えれば、その状況にあったコンボが設定できる。更にはコンボ自体や、その最良なタイミングは部隊間や軍内部でデータリンクによってより効率の高い物にシェイプすることも出来る。勿論個人による動作蓄積により、個々の好みを反映した上で、ね」

「!! それって、じゃあ、訓練兵がいきなり彼の機動をすることも出来るの?」

「理論的には、ね。勿論Gに対する身体的限界とか、あとは使いどころの選択とか、制限は多いはずなのはまりもならわかるわよね。」

そんなことは、解る。
寧ろ自分でさえ、この異次元と呼べるような機動を直ぐ行えと言われても、今は迷うだろう。

しかし。
これは、確かに希望の階。
このOSが実装できれば、衛士の損耗率が格段に下がる事は明らかだ。
・・・このOSが完成したら私の教え子達は、いえ今BETAと対峙している衛士は、死ななくて済むかもしれない。

その想いに視界が滲んだ。
霞む視界を拭い、更にモニターを見据える。
“希望”を実現する、その機動を更に理解するように・・・。


「・・・しかし、副司令、あの挙動は余りにも飛びすぎではありませんか?
エレメントの動きはまだ理解できますが、光線種のいる地上では不可能では?」

伊隅大尉がその先鋒が見せる挙動の異常性を指摘する。

「・・ああ、後で見せるけど、白銀、α-1の方ね、このCASE-01の前に単騎でCASE-29遣ってるわ。
アイツはあの空中機動で師団規模のBETAを向こうに回し、重光線級8、光線級56、要塞級行動規制27、要撃・突撃級に於いては無数、小型種を除き計1000体超の撃破数をカウントして見せた。
その上で障害物にしか成らない僚機NPCを36騎生存させたまま、援軍合流、自己被弾0,損耗は弾薬推進剤だけ。・・・最終的に上げたスコアは、340万よ。」

「「??!! 340万!?」」

「・・跳躍飛行で面制圧、光線級の照準照射を緊急回避しつつ光線級の位置をマーク、その光線級を優先的に撃破しながらあげた戦績よ。知っての通りシミュレータの光線級照準は安全を考えて照準照射が短めに成っているから、実際には余裕でかわすわね。」

「!!・・・・」

光線級の存在する空を翔け、光線級を撃破していく。そんな機動と、それを顕現至らしめる新OS.
それが本当なら、対BETA戦術は、革命が起きる。




そんな中でも画面の状況は進む。

『武、次、2時下30』

『了解』

そしてモニタを見ていた誰もが、え、と誰もが思う。
管制室のサブモニタでは、エレメントが今何処に居て何処に向かっているのか、解る。しかし戦術機内ではハイヴの全体構造は把握できない。特にデータのない未攻略ハイヴの場合、そこは完全な3次元迷路なのだ。
そこで通常スタブ侵入後は、基本的にハイヴ中心を目指し、兎に角最下層を選択する。それが最短のルートで在るからだ。
しかし、α-2:御子神と言う衛士の選ぶルートは、侵攻途中から弧を描くようなルートに変わった。
そのまま前進すれば、大きな障害無く反応炉に到達できると言うのに、態とBETAを誘うようなルートをとるのだ。

特に今の指示は、明かな遠回り。勿論、モニタールームでは全体に於ける位置を俯瞰できるので、その間違いが如実に解るのだが、指示としては大きなミスとしか思えない。
ハイヴは初めてと言っていたから、異常とも言える進行速度を有するその前衛の機体に、全く遅れることなく追随するだけでも相当のモノかも知れない。しかし革命的なまでの機動を魅せる前衛に対し、なんとか追随しているだけ、という感は否めない。

その機動は僚機と比して殆ど目立たず、むしろ先鋒の影のように付き従うが、よくよく見れば、時折前衛の着地位置を的確に確保していたりする。それも着地点そのモノではなく、その着地点に落下してくるBETAや、蝕腕を振り回すよな要撃級のみを排除する。
そして実際彼の攻撃の殆どは、後方から迫るBETAへの牽制だ。
常に大型種の前肢を狙い、攪座させるのだが、そのタイミングが遅い。殆どが狭路を抜けた後に行う為、後続のBETAが次々と狭路を抜けてきてしまうのだ。

むしろ狭路前なら有効なのに・・・、と思う。

どう見ても圧倒的な経験不足。
つまりこのハイヴの侵攻に対して、なんの貢献も出来ているように思えず、寧ろ回り道の指示は、侵攻を遅延し無為に攻略難易度を上げているとしか思えない。
それが現時点α-2の評価であり、それは隣の伊隅大尉も、そして夕呼も同じ感想らしかった。

華麗なまでの前衛に対し、余りにも稚拙、それが見ている者の総意だった。


唯一不思議なのは、見る限り相当豊富な経験を有して居るであろう前衛が、この不可解な指示に一切疑問を呈さず、従っていること。



「あ、やっぱり・・・」

ルート取りの失敗から、BETAに前後を挟まれる形になる。
前衛は更に回り込む形になり、後衛は未だに徒に、意味のない大型種の足止めだけ行う。
塞がれたBETAの壁に、主縦坑の周辺をほぼ1周する形で、漸くBETAを一時引き離した。



『さて武、機体交換するぞ』

一時的な安全地帯に着くと漸く機動を止めた2騎、そんな台詞が飛び出した。

『え?』

『おまえ推進剤使いすぎ。このあと地上まで保たない。機体は同じだし、今までの機動蓄積データは差し替えるから機動やフィードバックデータに違和感はないよ。・・ああ、背中の担架は交換してくれ。』

ハッとして、モニタールームの全員が機体状況を確認する。

前衛α-1の推進剤は残り2割。実際にはそれだって驚愕だ。フェイズIVとはいえ、補給なしでハイヴ最深部まで至ったのである。
しかし一方のα-2に至っては到底信じられないことに、なんと7割を残している。
基本追従する位置だったとはいえ、常識では考えられない驚異の速度で進行したのだ。
それを7割残していると言うことは、追従する動きの殆どを、跳躍ユニットを使用せずに来たと言うことである。
太刀もα-1の損耗度が7割に比べ、α-2は1割にも達していない。他方、砲撃支援していた36mmや120mmは残弾が4割のα-2に比べ、α-1は7割が残っていた。

・・・つまりは、この状況を想定してα-2は機体の保持に徹していたと言うのか?
初めてというハイヴ戦で?


背が粟立つ。
何か、全く未知なるモノの片鱗を見たような気がした。



モニタの中で二人はシミュレータを乗り換える。

『・・・って、こんなに残ってんの?!』

『こっちは殆ど推進跳躍してないからな。遠慮無く使え。』

『!・・・Thanks!・・』

『ところで、このシミュレータ、ヴォールク隊の観測データそのまま使って居るんだよな?』

『ああ、そう聞いてる』

『なら、・・・そこに偽装坑が在る。中にBETAはいない。シミュレーションのBETA配置状況設定が既知の坑だけなんで、実際とは相当異なるが、な。
武の分のS-11を渡してくれ。
偽装抗抜ければすぐ主縦坑だから、一気に降下する。目標には、そっちの機体に示したポイント2カ所にこのS-11設置する。その間の援護を、頼む。』

『・・・了解』

そしてα-2の放った120mmは、何も無かった壁で炸裂し、ボロボロと崩れた先に、偽装坑が出現した。





「!!!」

「こ、これは!?」

驚愕するモニタールーム。
確かに言われたように、ヴォールクデータは観測された地下探査データを直接使っている謂わば3次元データだ。ハイヴ内からの超音波エコーの集大成であり、地質の情報も含まれてはいる。
勿論、ヴォールク隊が遭遇した偽装縦坑・横坑のデータも入っている。

しかし、遭遇していない偽装坑については、確かに未チェックだ。

「!! 副司令、こんな設定があるのですか?!」

「・・・アタシも初めて知ったわ・・・。流石、“天才”技術士官ね・・・。ヴォールク情報を精査して見つけたんでしょ。」

「“天才”技術士官、ですか?」

「そ。彼はこの新OS・XM3を実質1日で組み上げたわ。」

「!!」


モニタの中では、易々と偽装坑を抜け、再度土壁を壊した先には、最下層から続く主縦坑。
BETAひしめく壁を、一気に降下する。
メインホールから、一間抜けたその空間に、蒼くそびえ立つ反応炉があった。

「反応炉、到達!!」

エレメントで反応炉到達!!
それだけでも快挙。
そしてこの異端の2騎は、未だに余力を残している。

しかし、そこはBETAの海。
地面や壁が見えないほど隙間無く要撃級や突撃級がひしめき、小型種がその足下を埋め尽くしている。要塞級まで何体か見える。

その中に、2騎は一瞬の逡巡もなく、飛び込んだ。

反応炉に取り憑くα-2。その作業は、流れるようで淀みない。
このヴォールク・シミュレータですらBETA無しの異常な状況設定以外、誰も遣ったことのない作業にも拘わらず、この超高密度のBETA存在下で、淡々とすすめる。。

そして・・・。

α-1は、光線種が存在しないハイヴメインホールにおいて、反応炉の前面にホバリングし、両手に抱えた突撃砲を乱射する。左右照準の余りのデタラメさに、最初はただの乱射か、と思えるほどだった。しかしその着弾点を追って、私は震撼した。

デタラメに撃っているように見える機銃のキルレートが、9割。
これは突入時からの総計で、時間で切り出した先刻からのテンポラリキルレートは、99.8%。
つまり2000発のマガジンで4発しか外していないのだ。
それも、左右別の方向に撃っているにも拘わらず、120mmは、要撃級と突撃級の前肢を、36mmは小型種の頭部を、ほぼ1発で破壊していく。
前肢を破壊された突撃級は、その場で無為な旋回を強いられ、足下の小型種を挽きつぶす。
滴のように落ちてくるBETAも、あっさりとかわし、S-11を設置している僚機の周囲に降ってくるBETAは、空中で撃ち抜く。

・・・何という近接射撃技量!!

けれど当人もそう思ったらしい。

『・・彼方、コレ、なんかした?』

『これとは?』

『突撃砲。バーストモードでのキルレートがあり得ない数字出してるんですけど・・・』

『ああ、夕呼センセ謹製のCPUにキャパあったから、2秒以上引き金引きっぱなしすると、自動照準と予測射撃で射撃制御するアビオニクス組んだ。』

『・・・なるほど』

『尤も、ストッピングパワーが激しく不満。
戦術機サイズで36mmって、対人22口径の更に半分相当だからな。まあ重量比を考慮しても22口径相当。戦術機サイズのBETAには所詮豆鉄砲だ。
まぁ、これも何れ何とかするさ・・・。』

『・・・ああ、頼む!』

・・・もう絶句するしか無かった。

『設置完了、離脱OKだ。避退ルート転送する。飛び込んだらそのまま突っ切れ。
爆破コントロールはそっちだから、カウント10で爆破』

『了解。』

メインホールに躍り出て、跳躍に移るα-1。
続いたα-2は、最後に背中に担いでいた担架をメインホールに投げ捨てると、α-1に追従した。





2騎は一気に推進跳躍。主縦坑を抜ける。
主縦坑を一気に中層まで翔け上がると、ひしめくBETAさえ足場に、垂直跳躍、弾幕で空けた側坑に飛び込む。
主縦坑上部には、光線種もちらほら。これ以上の飛翔は、下からの光線級の照準にされかねない。
α-2に指示されている避退ルートは、主縦坑周囲のスタブを螺旋状に駆け上がる。


『・・・カウント、3、2,1,爆破!!』

スタブを駆け上がる画面をよそに、反応炉を映したモニタが白く輝く。

「!! 反応炉機能完全停止!! 崩壊します!! 周辺BETAは多数殲滅、15000超!!」

「!!!」


爆風がメインホールから主縦坑を駆け上がる。その下層の壁に張り付いていたBETAが爆風に舐められると、ボロボロと落ちていく、
なるべく殲滅を避けていたとはいえ、それでなくとも突出していたα-1の撃墜数が跳ね上がる。
キルレートの個人カウントは、装備の所有権に依るからS-11の設置はα-2でも起爆はα-1なのだ。
総数は既に17000に達している。
対するα-2は、僅かに140。

だが。
たった2発のS-11で、的確に反応炉を破壊した。通常破壊には5,6発必要と考えられていたのだ。
モニタを操作して確認していた夕呼が呻る。

「・・・アイツ、反応炉の構造も調べ上げたんだわ。」

「・・・どういうこと?」

「実は、ここのシミュレータの反応炉モデルは横浜のデータを使っているの。ヴォールク隊とはいえ、反応炉には到達できていない。メインホール近辺は外周から把握した精度の荒い物だけよ。なので横浜のデータで補完してある。
だから、一応正確ではあるんだけど、御子神がS-11を設置したポイントは、そうね人間に例えれば、頸動脈。
反応炉そのものの活動を維持するエネルギの流れで、もっとも外皮に近い部分よ。」

「!!」

そして、その瞬間、BETAの動きが変化した。2騎の不知火に向かっていた全てのBETAの動きが、一方向に向いた。それは、最も近い隣のハイヴの方向。

「!! BETA撤退を始めます! α隊、上層到達、地表まで350!」

すでに最優先目標を撤退に切り替えたBETA。
そのBETAの波に乗るように、残った弾で殲滅しつつ駆け上がるα-1と、追随するα-2。



「・・・アイツ、なにやってんの?」

夕呼が怪訝そうに訊いた。

「え?・・・あ・・・。」

装備をチェックしたピアティフ中尉が確認する。

「・・α-2は、拡張装備に土木工務用破砕装備を携行しています! それをスタブ壁面に打ち込んで居るようです。」

「土木工務用破砕装備?」

「ハイヴ戦での工作を想定して考案された装備です。
ハイヴ突入したことが無いので、実際には殆ど使われず、シミュレーションでもデータとして残っているだけですが・・・」

「・・・!!    アイツ! 
ピアティフ、BETAの撤退状況チェックして! 特に2騎の侵入方向。たしか、いまのBETA撤退方向を巡るように侵入したわよね?!」

「はい! ・・・・・あ」

絶句したピアティフ中尉に、画面を見る。


そこには・・・・。

折り重なり、空間も埋めるようにひしめくBETAの塊が、其処此処に幾つも発生していた。
そう、ボトルネックとなる狭路に於いて、抜ける度に大型種の行動規制をしていたα-2。
行動規制をしていた大型種が、撤退と共に狭路に向かったせいで、ボトルネックの口が、更に狭くなったのだ。
そこに、螺旋を描くような彼らの侵入で、結果的に中心部に集められたBETAが、撤退を始め殺到した。

結果・・・。
お互いの邪魔はしないが、決して協力はしないBETA。相互のコミュニケーションは希薄で、光線種のフレンドリファイアこそないが、隣が傷ついても関しない。故にこのような状況に於いては、譲る、障害を排除する、連携する、回避する、そんな行動が見られない。
ひしめき合うBETAは、ほんの僅かに抜けていく小型種以外、そこここで、“停滞”していた。


「・・・御子神の無意味に見えた後方射撃は、これを狙って・・!?」

「技術屋だから、機動では白銀に及ばないのは解っていたけど・・・、やってくれるわぁ。
アンタ達、面白いモノが、見られるカモよ?」

「「え?」」

「α隊、第1層に至ります!    え?  ・・・S-11?」

「なに?」

「α-2、モニュメント下部にS-11設置中。」

「?  なぜそんな所に?  今更モニュメントを壊すのか?」




『武、ちょっと飛びたいんで、外の目玉潰しておいて呉れる?』

『了解、彼方のお蔭で推進剤十分だからな、余裕余裕』

言って地表に飛び出し、翔上がる不知火。

スタブからわき出るようなBETA群。群れは一方向を目指し、その流れに乗ったBETAからは光条がこない。しかし湧き上がった直後や。行進方向が此方を向いている個体からは、幾条もの光が空を薙ぐ。α-1は、その悉くを回避し、光線級のみを排除していく。

「・・・これが、戦術機の機動か・・・?」

改めて伊隅大尉が絶句した。



それを幾度繰り返しただろうか。唐突な通信で状況が進む。

『設置完了。モニュメントを爆破する。低空飛翔でレーザー回避しつつ、SW-18に着地』

『了解』

『・・カウント、5,4,3,2,1,爆破』

抑揚のないカウントの終端と共に、2発のS-11が爆発した。




足下を崩され、やがてスローモーションのように崩れていくモニュメント。その中で、間欠的に地下から爆発音が連続する。


「・・・え?」

そして、信じられないことが起きた。

崩れ落ちたモニュメントは、地表に積まれることなく、更に“落下”する。
それは、ドミノ倒しの様に、更に崩される地層という質量を以て、次々に“階下”を押しつぶす。
当然、そのスタブに“停滞”していたBETA群諸共。

それは、まず工務用破砕弾を設置した主縦坑を螺旋状に崩落させ、その重量と、要所要所を削られた“支持構造”は、崩落する上部質量を支えきれず、良くできたドミノ倒しのギミックを見ているように、連鎖的に崩壊していく。

「・・・ハイヴ主縦坑周辺、中層まで・・・崩落・・、主縦坑、・・・埋没します・・・」

惚けたように、状況だけ報告するピアティフ。
そして膨大な質量がメインホールの空気を圧縮した瞬間、メインホールを再び閃光が埋めた。
上から加圧されながら発生した爆風は、各ボトルネックで停滞していたBETA群を後ろから圧殺するのに余りあった。
暴力的な迄に数字が飛んでいくカウンター。

「・・α-2キルレート・・・・40000越えました・・・」

それは、御子神の狙いを予め察知した夕呼ですら惚けたように口をあけたまま、唖然とさせる結果だった。


後日このデータが、プラチナコード、後に理想のエレメント・理想のハイヴ攻略戦として流布され、世界中の衛士の目標とされるとともに、後年、実際にこの戦術をアレンジしたハイヴ潜行部隊によってミンスクハイヴを堕とすことになる。


モニタールームには、もはや言葉もない。
ただ呆然と驚愕のレコードスコアが記されたモニタを見やるだけだった。


Sideout




Side みちる


突然呼ばれたシミュレータルーム、そのモニター室。
突然見せられた若い男性と想われるエレメント。そのたった2人の衛士が叩き出した空前絶後の結果に、私は暫く自失していた。


・・・・コレハナンダ?


A-01が中隊規模でも、中層440mがレコードのヴォールク・Sランク難度。
その状況に於いて、到達深度1200m。
反応炉到達。破壊成功。
自爆を覚悟のハイヴ攻略による反応炉破壊すらままならない現状に於いて、ハイヴ完全攻略から更に脱出・生還。

そして、考えも及ばなかったハイヴ構造の崩落。

総BETA殲滅数、7万。
設定数が10万だから、その7割を殲滅したことになる。


戦術機損耗、0。

極めつけは、これだけの戦果をもたらした衛士のひとりは、ハイヴ戦初挑戦の、技術将兵だと言うことだった・・・。




なにかとおかしい。

・・・今までと余りにも異なる機動概念。
BETAの行動原理、反応炉の構造、ハイヴの構造、全てを熟知した上で構築されたとてつもない戦術。

そう、初めは前衛の鮮烈な突破力に目を奪われた。新OSのもたらすだろう戦果に、瞠目した。
そこに於いて、後衛は前衛に追従するだけの、そして余りにも拙い初心者にしか見えず、エレメントとして余りにアンバランス、そう思わざるを得なかった。

何故か後衛に任せたルート取り、不的確なBETAの足止め。
私ならもっと旨く出来る、そう思ってさえいた。

反応炉直前で機体の交換を行った辺りからその機動の意味を徐々に理解させられた。
それでも前衛の突破力を持続する為の、極めて消極的戦術、としか思えなかったが・・・。



しかし、誰も気付かなかったヴォールクデータに隠された地殻情報。そのデータから偽装坑を発見し、主縦坑に抜けると、一気に反応炉到達。
挙げ句、たった2発のS-11で反応炉を完全破壊した。





そして、・・・そして!!

反応炉破壊後のBETA撤退を想定したと思われる、これまでのルート、BETA行動規制。
メインホールで最後に投げ捨てた担架にすら、気化爆弾が残されていたのだ。それはS-11爆発後に噴出し、気化ガスをハイヴ内に充満させた。
結果、モニュメントの落下重量さえ利用して、ハイヴの連鎖崩落を引き起こし、気化爆弾の爆発を連鎖させ、最終的に4万ものBETAを殲滅に至らしめた。

快挙?  偉業?
否、殆ど、神の御業にしか思えなかった。







筐体から、若い男が降りてくる。
強化装備から覗く身体は細い乍ら引き締まり、一流の衛士にもひけを取らないのは解る。しかし2人とも、どう見ても年下だ。1人は最近配属した新任少尉と変わらないのではないか?


「・・・完全に突き抜けちゃってるわね、あんたたち・・・。
あっさり世界記録塗り替えた、じゃ済まないわ・・・・・。獲得スコア5700万ってなに?
もう、あんたたちで甲21号、堕としてくれない?」

「夕呼先生が言うと、冗談に聞こえないから怖いですけど・・・、反応炉破壊辺りで死にますよ。現実のハイヴに比べたら、BETA数・出現設定共に甘すぎます。そもそも偽装坑にBETA居ないなんてあり得ないから。」

「これを実現するために、装備の準備をするさ。現状課題は山ほど把握したから。」

「・・・あっそ。それでも反応炉破壊までは出来るんだ。
ま、手持ちの世界最高戦力をそんな賭け事で使い潰す気はないわ。

で、皆に紹介しとくわね。
特務って事で、暫く外での任務に就いて貰っていたけど、今回呼び戻したの。
白銀武少佐と、御子神彼方技術少佐、よ。」

何故かニヤニヤとした副指令の言葉に、白銀少佐が若干引き攣りながら応える。

「え?  あ、白銀武少・・・佐です。宜しくお願いします。」

・・・何故敬語?
しかも私と神宮司教官を交互に見て、目が潤んでる?

「・・御子神彼方技術少佐だ。宜しく。」

こちらはそんなのも何処吹く風で飄々としていた。

「は! 国連太平洋方面第11軍、A-01連隊 第9中隊隊長・伊隅みちる大尉であります。宜しくお願いします。」

「同じく国連太平洋方面第11軍所属、イリーナ・ピアティフ中尉です。」

「はい、あ! あー、すいません伊隅大尉・ピアティフ中尉、ってかお三方にお願いが在るんですが・・・」

「「「は?」」」

「オレ、少佐ってことですが未だ17で年下だし、その、年上の綺麗な女性に敬語使われるのは、かなり気恥ずかしかったりするんですよ。
一応しかるべき場所以外では気をつけますんで、普段は敬語も階級も抜きで普通に話して貰えませんか?」

「はぁ!?  え・・、あ・・、しかし・・・」

「・・・・・・右に同じ・・、だな。俺は敬語も使わないが、夕呼センセの部下だと想って納得してくれ。宜しくな。」

「「あ、は、はぁ・・・」」

神宮司教官・ピアティフ中尉と共に目を白黒させるしかない。

17なら確かに年下だろうが相手は佐官・・・、と言うか、17で、あの技量!?  それも世界最高のエレメント戦力だというのにこの態度!?

・・・・・・まあ、驕り高ぶった人格より遙かにマシ、と割り切るか・・・?

「・・・もしかして、私もで「勿論宜しくお願いします! まりもちゃん!」・・・はぁっ!?  まりもちゃんっ!?」

「あ・・・、いけねっ! すみません、同じ名前でにた雰囲気の知人がいたもので。」

そう言って神宮司教官を見つめる白銀少佐は、心なしかさっきより明確に、もう涙ぐんでいるように見える。
何というか、捨てられた子犬みたいな!?

その懇願と期待に満ちた白銀少佐の視線に明らかに途惑う教官。
その横でニヤニヤしながら経緯を見守る副指令は悪魔のよう・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、もうそれでも良いです。

国連太平洋方面第11軍、第207衛士訓練部隊教導官、神宮司まりも軍曹、です。宜しく・・・ね、白銀君、御子神君。」

永い永い逡巡の後、神宮司教官が折れた。

「!はいっ!! 宜しくお願いします!!」

短い尻尾を千切れんばかりに振るチビ犬が透けて見えるのは私だけだろうか?

「宜しく、な。」

御子神少佐さえ苦笑している。

「で、さっきも言ったけど、白銀は今回の新OSの発案者で、成長するOSの基礎挙動概念の構築者ね。見て貰ったとおり、恐らく単騎でも世界最高の戦力よ。」

「!!」

そうだ。17だろうが、子犬に見えようが、あの技量は掛け値無しの本物。

「・・・今日からでも、あんたたちに新OS教導をしてもらうわ。彼の教導を受けられることを名誉に思いなさい。」

「「はっ! 宜しくお願いします!」」

普段通りといわれつつも命令にはそう返してしまう。

「御子神は、此方も見てもらったとおり、世界最高の戦術家、新OSのプログラマーでもあるわ。普段は新OSの調整や、新戦術の創出、新装備の開発を担当して貰う。
見たとおり白銀とのエレメントは戦力としても別格だから、重要な作戦には参加して貰うけど。
組織や小隊の変更については追って連絡するわ。」

「「了解です」」




「ところで御子神・・・、一つ質問が有るのだが・・・?」

一瞬躊躇したが階級は省いた。

「どうぞ」

柔らかい応答、これで良かったらしい。

「・・・ハイヴと言うのは、ああも容易く崩せるモノなのだろうか?」

「ああ、崩落のことか・・・。
そうだな、このシミュレーションに使われている地殻情報は比較的正確とは言え、実際は通常出来ないな。」

「・・・通常、とは?」

「このヴォールク・データには反映されていないが、・・・ハイヴ構造壁にはBETA由来の強化が施されている。ここ横浜もそうだが、エネルギーを通す事によって強度を増す地殻構造材だ。」

「?! なによそれっ!?」

「突撃級の衝角なんかも同じなんだが、・・・気付いてなかった?
じゃなければあんな構造力学を無視したモニュメントが核に耐えられる訳がない。
モース硬度15って言うのも固体の分子間力を遙かに逸脱している数字だぜ?

ついでに言えば、構造壁を通るそのエネルギが電波遮蔽もするからハイヴ内は通信がし難いし、BETAがハイヴ内に地下侵攻しないのもその所為だ。
・・・仄蒼く光っているのがそれなんだがな。」

「・・・はぁぁん、・・・そう言うことね・・・。」

「もっとも強化構造壁のエネルギ供給源は反応炉だから、反応炉を先に止めれば、さっきのように強度はヴォールク・データ通りとなり、地殻情報に従ってハイヴ崩落を引き起こす事が出来る。
今回は手持ちの火薬が少なかったからあの範囲だけだったけど、中隊構成なら、もう少し崩せる。
勿論、最小手数で落とすには、適切な位置への爆薬設置が必要だがな。」

「・・・成る程。しかし、そんな事をせずに反応炉を破壊するだけなら、もっと早く出来るのでは?」

侵攻時誘導するように迂回し、各所に弁を設置した手間を除けば、最速で反応炉撃破出来るはずだ。
しかし、御子神少佐はこの問いに微妙な顔をした。

「・・・大分認識が違うんだが、武も同じ意見?」

「・・・いや、ハイヴ攻略がスピード勝負なのは確かだけど、彼方の戦術は理想に近い。・・・いや、本来在るべき姿・・・かもな」

「それは勿論そうだが・・・反応炉破壊が第1優先ではないのか?」

「・・・なら聞こう。
佐渡のハイヴを速度重視で反応炉を破壊したとしよう。当然BETAは置き去りにしたからその時残存BETAは20万。
・・・・・・奴らは何処を目指すんだ?」

「・・・!!!!」

「!!・・横浜・・ここ、か?」

「反応炉破壊だけに絞れば攻略はもっと早く出来るだろう。
XM3に習熟し、武並みの機動をマスターすれば、少数精鋭で到達するのはそう困難でもない。
中隊規模で自爆覚悟ならすぐ墜とせる。
問題は反応炉破壊後の汪溢BETAを如何に殲滅するか、と言うこと。フェイズIVクラスの撤退BETA群とまともに相対したら、XM3の高機動くらいじゃ到底抑えきれない。
一度ハイヴを出て拡散されたら、手の打ちようがない。
集中しているBETAを一網打尽に叩く、通常兵器によって高い効率を上げるための方策が、先刻の戦術なんだけどな。」

「!!!」


この日、最大の価値観の激動だった。


Sideout





[35536] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/01/13 23:23
'12,09,30 upload?
'15,01,13 誤字修正


Side 夕呼


「しっかし・・・飛んでもないわねアンタ達。」

「彼方のOSと崩落戦術のお陰ですね。霞も手伝ってくれたから1日でXM3出来たし。
俺自身、どの世界のシミュレータでもスコア5700万とか初めてだし、実際のハイヴ攻略だってあの殲滅率は経験在りません。
機動で言えば彼方の加えてくれた新概念の恩恵が大きいです。
モジュレーション、マジ凄い。タイミングがずれてキャンセルするしかなかった機動が面白いように繋がる!」

「・・・ま、現実はパターン化されたゲームとは異なるからな。寧ろ前それ無しでよくやれてたな?」

「同じ概念で語れるヤツがいなかったからなぁ。キャンセル・再入力しまくりだった・・・」

「鬼入力か、・・・武らしいっちゃらしいが。」

「けど彼方もそこそこ遣るだろうと予想してたけど、ここまでとは思わなかった。
戦術機は、初めてだろ?」

「最初の世界の武と一緒。操作経験は十分ある。シミュレータ弄りながらハイヴ構造把握して、戦術構築したから。昨夜から動作確認しながらやってた。4時間程度の慣熟で十分。
寧ろ通信対戦のラグみたいな不確定要素がないから楽、武との連携は散々やってたしな。」

「流石世界ランク1位は違うね。」

「こっちは、武のお蔭でサポートや爆薬敷設に徹する事が出来たからな。BETA相手の戦闘機動は自体はまだまだだが、・・・そこは追々どうにかするさ。

・・・で、彼女らに少佐と紹介してくれたってことは、かなり期待してくれたってことで良いのかな?」

「・・・褒めるのも悔しいけど、掛け値無しに凄腕なのも理解したわ。アンタ達を少尉にしたらバランス狂うわよ。
白銀はXM3の発案と新機動概念構築、御子神はXM3作成とハイヴ構造壁の解明や崩落戦術考案。
どちらも極めて重要な論功行賞の対象だわ。
で、白銀は当面A-01とまりも、それに207Bの教導かしら?」

「そうですね。・・・207Bは出来ればオレを訓練兵として扱えませんか?」

「どうして?」

「少佐程上位からだと反発されそうで・・・。夕呼先生、オレの設定ってどうなっているんですか?」

「98年の横浜襲撃時に拾って、特殊部隊に所属したことに成っているけど?」

「・・・・じゃあ、BETAの横浜襲撃で奇跡的に生き残ったけど、その際の衝撃で記憶喪失だったことにして下さい。ついでに機密部隊に救出されちゃってヤバイ機密を知った上に、記憶がなくて行き場がなかったことと、たまたま戦術機適性が突出していた為、そのままハイヴ威力偵察が主な任務の、戸籍がない者で構成された非合法の幽霊部隊に所属した、ってことにすれば、行方不明にも今の技量にも説明付きますよね?」

「あら、なかなか良いじゃない?
・・・そう言えば、前に外部で本当にそんな部隊創ったわ。春先に潰滅しちゃったから、そこの唯一の生き残りってことにしときましょ。
で、裏の技術将兵だった御子神と、自分のハイヴ攻略経験と機動概念を具現化したXM3を構築した。それが実に良くできていて、さすがにそのままじゃ勿体ないから、最後の出撃で一人生き残った際に記憶が戻ったことと併せ、表に戻す為に戸籍の復活をすることになった・・・。
技量や功績として十分に少佐なんだけど、正式任官するためには、士官訓練校終了が必要、ってとこかしら?」

「・・・・・・やけに具体的で生々しいんですが、取り敢えずバッチリですね。
207Bに絡むと、斯衛に絡まれるから、準備しておかないと、ね。」

「成る程ね。」

「・・・実は、虚数空間で流れ込んできたらしい記憶の中に、毛色の違うのが一つだけ在って・・・」

「なによ、毛色が違うって?」

「“この世界”の白銀武の記憶が在るんですよ。」

「え?!」

「・・・横浜ハイヴの地下、正にこの近くですが、この世界の純夏を守って兵士級に殴られるところ、までです。
どうも、母さんがそこそこの武家出身らしくて、中学に上がる迄は冥夜と遊んだ記憶があります。
確か悠陽とも、1度は会っていますね。」

「・・・それで城内省にまでデータがあるのね。どこの家よ?」

「斉御司、だったかな。母さんが跳ねっ返りで飛び出したから斯衛じゃなかったみたいですけど。」

「ぶっ!! 五摂家?!」

「・・ああ、そんなこと言ったらこの世界の彼方だって、九條分家の、赤ですよ?
中学生の頃、会った記憶あるし、確か、この世界の彼方は、その後横浜襲撃以前に行方不明に成っていたはず・・・。当時はいつものことって戸籍はそのままみたいですが。」

「・・・らしいな。
こっちで調べた範囲じゃ、その後一度姿を現している。次に居なくなった時期が、横浜にG弾落ちた頃、と言ってもこの世界に存在は感じない。其れこそその余波か何かで、異世界転移とかしててもおかしくない。あるいは元の世界の俺と同じ様に、落雷喰らっていたら何処かで人知れずそのままくたばったかもな。さすがに京都防衛で両親が亡くなって庇う者が姉しか居らず、親戚筋が行方不明扱いにしたらしい。」

「・・・・・・彼方らしいというか・・」

「・・・・まあ、俺は明星作戦に巻き込まれて長く昏睡していたことにでもしておいてくれ。米軍に回収され、そのままハワイで療養。丁度そこにこっちの俺の知己が居るから話合わせて貰う。
去年覚醒したが、その後はリハビリと技術習得してきた、でいい。
こっちの俺も色々動いていたみたいだし、それ故に敵も多かったらしいから、存在を隠して療養してても変に思われないだろ。
で、夕呼センセの技術に惚れ込んで、裏の技術開発に従事、ハッキングとか得意だし。最近裏の武と知り合って、武の目指す機動の出来るOSを組み上げた、ってトコかな。」

「こっちも具体的ね。・・・ハマり過ぎて怖いわ・・。なんでこっちのアンタのコトまで知ってるのよ?」

「ああ、ブログ見つけたから。」

「・・・・ブログって?」

「こっちにはその概念はまだないな。ネット上にある個人エリアに書き記す日記とかスケジュール、防備録みたいなメモの総称。ウェブログの略称。保存場所とID、パスワードさえ解れば、どこからでも記入・閲覧出来る。
この世界に来て、念のために自分のコトも調べたときに、行き着いた。俺も元の世界に残してたし。
勿論、飛び切りのセキュリティ掛かってるから、普通は入れないが、思考パターンが同じなんだろうな、さほど苦もなく解錠できた。」

「・・・・こっちの世界の彼方かぁ、思考パターンが同じってトコが怖いんだけど?」

「ああ、具体的には9歳くらいから、BETAとの戦争を想定して、色々動いていたみたいだな。
家もそれなりに有名な武家の宗家長男、家は姉が継いだみたいだけど。少なくとも京都陥落までは力も在ったし。単に残念なのは、当時の年齢。表だった活動は無理。
年若い、と言うことで、政治的アプローチは諦め、事を起こすのに最低限必要なことを準備していたみたいだ。
・・・あと10年早く生まれていれば、この世界の状況はもう少しマシだったかも知れない。
まあ、準備していた“物”は、有り難く有効に使わせて貰うがな・・・。」

「・・・この世界のアンタも規格外なのね・・・。」

「・・・否定できない・・・。」

「何れにしろ、白銀は暫く昼は訓練部隊、夜はA-01とまりもの教導ね。伊隅とまりもには連絡しておくわ。
あと御子神はOS調整と?」

「当面は、戦術機と装備の改修。その為の準備。
XM3の機動は何気に関節負荷がでかい。動きが俊敏に出来る分、動的負荷が激増するからな。
あと、戦術機の大規模な改修を試したいんで、そこそこの不知火か、弐型の機体が4,5機欲しい。
内1機は、副座が望ましい。」

「・・・・何やるの?」

「戦術機はまだ確定していないから後でまとめる。当面の装備はこんなとこ。」

彼方がモニタにファイルを開く。


3次元フェイズドアレイ地下探査ソナー

99式電磁投射砲改 36mmレールガン

S-11小型化技術による120mm S-11炸薬弾

AEGIS-マイクロミサイル防衛構想


「・・・ふーん、・・・案外ありきたりね。」

「コンセプトは、今この世界で即座に[●●●]実現できるレベル、だからな。
装備一つ取ったって、試作設計・組み立て・概念実証・実戦証明・量産化設備整備・・・、
どんなに早くても2年はかかる。戦術機に至っては最短でも4年。
それじゃ遅い。」

「・・・・・」

「当面“今存在する物”を改修して臨むしかない。」

「・・・いいわ。A-01の予備機が2機、あるし副座のユニットも遊んでいるから取り敢えず、それから使いなさい。
新規も遣ってみるけど、でも弐型が手配できるかどうかは微妙よ?
そもそも、なんでそんなに急ぐのよ?」

「・・・武の未来情報によれば、今年の12月25日、甲21号作戦開始時点で・佐渡に存在したBETA数は、合計30万近い。
これはフェイズIVハイヴとして、規模に対しあまりに過剰、飽和している。だとすれば・・・」

「!! 再侵攻が近い・・ってわけね?」

「10万単位で佐渡から再上陸されたら、今の帝国の防御じゃひとたまりもない。
当然、奴らは此処を目指す。取り敢えず、オルタネイティヴ4の“足場”が崩されるのは極めて拙い。」

白銀の経験が正しく、そのままの未来を進めばあり得る数字だ。

「武の記憶では前のループで、柏木と伊隅大尉が命を賭けてその殆どを消し飛ばしてくれても、残った3万程度のBETA急襲で横浜基地は潰滅手前まで追い込まれた。
なので、甲21号を年内に叩くことは絶対必要な確定事項。」

「・・・・」

「・・・そしてBETAの命令系統が箒型で在る以上、上位存在が人類の抵抗を“災害”としか認識していない今しか、反撃のチャンスはない。
その為には甲21号でも、上位存在殲滅前に余り手札を晒したくない。対策を取られるのは厭だからな。

武の記憶では、12月25日の甲21号作戦から、たった6日しか経っていないのに、桜花作戦の時点でオリジナルハイヴでは、抗レーザー弾からラザフォード場まで対処された。
上位存在に関しては、その対策実証をしている訳だから、対処に言われている19日も掛からないってこと。
なので、可能ならオリジナルハイヴから陥とし、且つ年内に甲21号を殲滅する。
コンバットプルーフが無いままで、それが許可されるにはハードルも高いが、何れにしろ年内にこの2つを陥とすことが人類存続の為の絶対クリア条件。」

「・・・・・・この2ヶ月はオルタネイティブ4の正念場ではなく、人類存続の正念場、というコトね・・・・・・解ったわ。基本はその方向性で行きましょう。」

白銀も貌を引き締めて頷く。


・・・正念場。

そう、00ユニット完成は目的ではなく手段なのだ。
・・・BETAに対抗できる人類の剣、XG-70を使える様にする為の。

「装備は11月11日のBETA新潟再侵攻で実戦証明する。
で、99式は、センセのブラックボックス、弄るけど構わないか?」

「・・・構わないけど、何するの?」

「・・・究極は戦術機のオール電化・・・?」

「・・・電力、全然足らないわよ?」

「そこはどうにかする。で、武はA-01の教導は勿論、可能なら207Bも間に合わせられるか?」

「ぶっ!! 無茶言うな!! 総合戦技演習も済んでないのに間に合う訳ないだろうっ!?」

「・・・そうすると、彼女たちの初陣は、いきなり喀什か、譲っても佐渡だぜ?」

「!!!!」

「クーデターなんか起こさせる気はないんだろ?  トライアルの混乱も不要。横浜防衛戦なんて起きた時点でビハインドもいいとこだ。
逆算すると、当然、そうなる。」

「!・・・・」


成る程、過保護な白銀だ。
彼女たちの生存を臨んで還ってきたとも言える。しかし人類の存続を前提にする以上、御子神の言うことは正しい。

「それとも、喀什攻略から外すか?  今のA-01が全員生き残れば、武の知っている桜花作戦の陣容以上に整えられるだろう。」

「・・・・イヤ、アイツ等は必要だ。より良い未来を引き寄せる力は、多分今のA-01より強い筈だから。
・・・判った。なんとか遣ってみる。夕呼先生、美琴の退院と総合戦技演習、前倒ししていいですよね?」

「・・・ちゃんと物に出来るの?」

「それで落ちるなら、この世界のアイツ等は“より良い未来を引き寄せる力”がなかった、と思うだけです。11月11日は最後方でも良いはずですから、1週間あれば、形には出来ます。」

「・・・いいわ、アンタの判断に任せる。」

「こっちは先ず11月11日にむけ、切るカードを揃える。

・・・武は夕呼センセの概念実践部隊として、A-01や207Bを鍛え、BETA殲滅戦術を実施する。

俺は、その戦術機や装備を限りなく高め、実践部隊の損耗を極力抑え、継続的なBETA戦闘を可能とする。

・・・・・・そして、その戦術や提案された装備を使って、BETAと、・・・そして世界を相手にした勝利の戦略を構築するのが夕呼センセ、貴女なんだぜ。」

「!!!・・・」

「その為にはXM3も、新装備も、そして部隊や俺たちの命でさえも、カードとして使えばいい。」

「・・・・・・・・・・フン、解っているわよ。」

アタシは、不敵に微笑んで見せた。





「・・・OK、これはその為の情報。」

「・・・何?」

「G弾による横浜の高重力潮汐効果観測結果から導き出された、バビロン作戦による大海崩の予見と発生メカニズムに関する論文、そしてもう一つが、ハッブルのスペクトル解析に基づくバーナード星系の惑星環境についての論文。」

「これって・・」

「一切ウソは書いてないよ。正当な観測結果に基づき、シミュレーション検証するとこうなる、という結果で、だれが計算しても1足す1は2。
武の未来記憶でも証明されている。再現性は揺るがない。」

・・・成る程、第5計画派を弄るネタとしては丁度良い。


「・・・当面、それで全部?」

「ああ、あと2点ほど。」

「・・・アンタまだなんか遣らせる気?」

「肩凝るならマッサージでも整体でも施術する。なに、大した手間じゃない。

一つは、センセがいま設計している00ユニットについて、装着型に出来ないか?」

「!!」

「・・・健常者に付けさせるの?
ODL劣化は最小限に抑えられるから、最悪使い捨てなら情報漏洩は防げるけど・・・鑑はどうするの?」

「・・・昨夜許可もらったから反応炉に行った。通信自体は上位存在支配なので迂闊に弄れないことが判ったが、その他はクラック可能。」

「! クラックって、アンタ構造壁とか調べただけじゃないの?  BETAまでハッキングしたの!?」

「バッフワイトなんて面白い代物があったからな。電気信号と繋げてしまえば大した手間はなかった。社のプロジェクションを音声化したのも、そのオマケだ。」

「・・・・・こっちの技術者もその位試したわよ?」

「そいつ、ペンタゴンのクラッキング出来た?」

「・・・・・はぁ。つくづく飛んでもないの連れてきたわけね、世界は。
3週目の白銀だけでもラッキーなのに・・・。

・・・で?」

「ああ、通信自体は規制できないが、ODL情報にブロックを掛けることは多分、可能。」

「え?  じゃあODLの浄化が問題ないんだから・・・」

「・・・ただ武の前回の記憶で判るように、00ユニットとして反応炉に接続すると、鑑が上位存在に認知されてしまうから、最悪喀什侵攻時は拙い。
これは鑑の心理的負担、および情報漏洩の観点からも避けたい。」

「あ! ああ、あ号に支配されてトラウマがフラッシュバックしたんだっけ・・。でもそもそも00ユニットにならなきゃ、純夏は?」

「・・・クラックした情報の中に、ほかの検体含め人類を弄くり回して構築したBETAの人ゲノム遺伝子操作技術があるんだ。」

「・・・え?」

「そもそもBETA自体、タンパク質弄って生産しているわけだから、かなり、強力だぜ、これ。
ぶっちゃけ生きたままの人間の構造を作り替える様なことまで可能。極端なことを言えば、その場で翼はやしたり出来る。」

「・・・」

白銀の貌が歪む。
前の世界で純夏にプロジェクションされたという記憶には、確か、淫らな身体に改造されていく鑑が居たという。
それを思い出しているのか、きつく拳を握りしめる。

「分化とか成長蓄積までコントロールしてる。
これで人を素体に兵士級に改造してたりするんだろう。
はっきり言ってかなり、えげつない技術だが、逆にそれを使えば、当然鑑を元に戻すことも出来るわけだ。」

「・・・・・え!?」

「まだ、ぬか喜びの可能性も在るから、詳細はもう少し待って欲しいんだが、・・・今の鑑の脳髄から、元の身体を再構成できる可能性がかなりあるってことだ。」

「!!!! じゃあ、じゃあ! 純夏はっ!?」

「・・2日、呉れ。」

「・・・・・・わ、わかった・・」

「夕呼センセもそれでいいかな?」

「・・・いいわ。00ユニットは装着型も視野に作成を進める。で、2つ目は?」

「伝手だけほしい。」

「どこの?」

「可能なら政威大将軍、榊首相、技術関係で・・巌谷中佐辺り。・・・あと鎧衣課長かな。悠陽が覚えていれば、武や俺でも何とか出来そうだが、他はね。」

「・・・取り敢えず鎧衣に通す位いいけど・・・・何すんの?」

「何処まで晒すかは、話してみて決めたい。装備の量産とか必要だから、少なくとも斯衛くらいは巻き込むつもりだが、取り敢えずは帝国の内政援助か。
・・・まあ、どうしようか、かなり悩んだんだけど。
昨日からあちこちダイヴしてるが、この国は・・・もう、かなりまずい。国土を総て喪った西欧とかよりは幾分マシって程度。いや、寧ろ避難民が多い分、厳しい面もあるな。
食料に関しては現実既に国連や米国の援助が無かったらやっていけない状態。この点では米国寄りと見なされている榊首相は正しい。
それでもいまのままでは、第4計画が完遂されて国土を取り戻しても、日本はあと10年で破産する。
なにせ抱えた膨大な非生産難民が最大の問題。
因果論じゃ食えない・・・。」

「・・・はぁ、さすが元の世界の最強ハッカーね。こんど色々探ってもらおうかしら。
けど流石にそんな所までアタシは手が回らないわよ?
・・・手があるの?」

「さっきのこの世界の“俺”がいろいろ仕込んでいたからな。ただそれだけじゃ喰って行けないので、状況に拠っては鬼札[●●]を切る。
ランドサットで一応存在は確認したから何とかなるだろ。
折角苦労してBETAを駆逐したって食べ物無くて日本人の大部分を餓死なんてさせたら意味ない。
日本が第4計画の地盤である以上、帝国はそれなりの基盤が必須。まあ、伝以外ではセンセのお手は煩わさないさ。」

「・・・そうね、その辺は任せるわ。」

だんだん面倒くさくなったのは事実。
アタシは、アタシの遣ることに専念しようかしら。

もう、コイツなら丸投げで構わない、と・・・。


「なあ、彼方、それ、オレも行っていいか?」

「ん?  何か在るのか?」

「・・・新潟に備えて、斯衛にXM3教導したい。場合によっては帝国軍にも。」

「成る程、でも良いのか?  クーデター軍も強くなるぜ?」

「・・・どうせクーデターなんか起こさせる気無いんだろ?  心配してねーよ。」

「・・・その辺は相手の応答見て決めるか。・・・いいかなセンセ?」

「もともとアンタ達の成果でしょ?  好きに使ったら?」

「了解。」


Sideout





[35536] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/16 23:01
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Side まりも


訓練部隊の昼食喫飯に乗じて夕呼に再度呼び出された私は、正直頭を抱えた。

説明された白銀クンの経歴には驚かされたけど、15の年からハイヴ威力偵察任務を遂行し、そして生き残って来たならあの技量も、そして仲間を全て喪ってきた哀しみも、頷ける。
その自らの機動概念を実行するために組み上げたXM3。
それが彼を世界最高の単騎戦力とせしめている。

しかし。

・・・それはあんまりよ、夕呼。

その単騎世界最高戦力[●●●●●●●●●]を、訓練兵[●●●]として扱え、なんて・・・。

御子神クンは技術なので必要ないと言うが、今後中隊以上を率いる可能性の高い白銀クンは衛士としての過程として必要、と判断したらしい。実際戦地任官に近く、ろくな訓練や座学もなく戦術機に乗ったらしいから。それで損耗率ももっとも激しいだろう幽霊部隊を一人生き抜いたんだから。それ故の訓練部隊所属、その事自体は、納得できないでもない。

ただ他でやって、と言いたいが・・・。



問題は、その後。

白銀クンは夕呼直属で、新たな部隊の隊長となる。
A-00戦術機概念実証試験部隊。所謂テストパイロットの部隊だ。
所属メンバーは、御子神クンが副隊長、社さんが特務少尉の階級で補佐に付く。行く行くは増やすらしいが、こともあろうに私に[●●]その試験部隊への併属も内示されたのだ。・・・・・・・・・“大尉”として。

もともと富士教導隊の大尉でしょ?  何の問題もないから。

言い切る親友は、“イイ”笑顔。
要するに教導官として軍曹の階級を持ちながら、試験部隊では大尉で概念実証すべきOSや装備の開発にも従事し、そしてそれを教導することを視野に入れろ、って・・・どんだけよ・・・。

なので、私も白銀クンと同じ様な二重階級を賜るハメに陥った。

襟章は、表が軍曹。裏が大尉、である。
教導中は軍曹、その他は大尉なのだが、面倒なのは白銀クン、同じ訓練兵と少佐の二重階級を持つ彼が、教導中は“白銀ェ!”と呼びつける訓練兵、他は直属上官である“少佐殿!”なのだから・・・。


目の前で、申し訳なさそうにこちらを見ながら、合成鯖味噌煮定食をつついている彼を見て嘆息する。

話のあと、唖然としていた私を、御子神クン社少尉共々、喫飯に誘ってくれたのだ。
別に彼の所為ではないので、恨みはないのだが・・・。




「ところで、まりもちゃんに聞きたいこと、在るんですけど・・・」

・・ここでもその呼び方なのね・・・。せめて訓練兵の前では、って言うかそこは叱責すべきよね?
ウン、その場合は階級的にも正しいわ。

「アイツ等・・・、207B訓練小隊の訓練兵は、どうですか?」

「・・・しょ・・白銀クンは、あの娘達を知っているの?」

・・・開き直るしかないのね。なんか私の中の軍紀が崩れていく気がする・・・。
年下よ年下! それも10も!・・・・なんか哀しい。負けた気がする・・・。

それもこれも、みんなみんな夕呼の所為よ!!


「ええ、まぁ・・・。一応同期になるんで、データも見ましたし。・・・かなり複雑、みたいですね。」

「!!・・・」


そうなのだ・・・。

私の最大の頭痛の種は、そんな[●●●]中にこの単騎世界最高戦力[さわぎのモト]を放り込むこと。



もともと第207衛士訓練部隊は、夕呼の目的に沿って選ばれた候補生を鍛える為に設立された訓練部隊だ。

この基地が白稜基地だった当時、富士教導隊に在籍していた私が教導官として招かれたのである。
一本釣りで、拉致された、とも言うが。
以来、BETA東進による仙台移設や、その後の明星作戦を経て、再びこの横浜に戻ってきて、結局今もここで教導を続けてきた。

その中でも、飛び抜けて、最大級に、飛んでもない複雑な内情を有する部隊、それが今の207B訓練小隊である。
しかも全員が全員。


夕呼の目指す目的、そしてその資質がなんなのか、詳しいことを私は知らない。夕呼の関わる極秘計画に必要な資質らしいが、その内容も明確に聞いたこともない。
ただ私の経験から言っても、ここに選ばれてくる候補生は、“粒選り”であることは間違いない。
当初の技能や成績、それらは寧ろ平均的で、それを元に選別している訳ではなさそうなのだが、“結果”が突出しているのだ。

・・・そしてその“優秀”であることが、哀しいことに高い損耗率を呼び寄せる。


部隊発足以来、送り出した人数は1個連隊を上回る。
明確に知らされているわけではないが、生き残っているのは1割にも満たない。
それもついこの間送り出した“死の8分間”さえ乗り越えていない者も含めて・・・。




人類の存続は、既に最早あと10年、と迄言われている。
帝国も疲弊し、度重なる教育基本法の改定や、徴兵性別・年齢の拡大。
人の命が余りに軽くなっていく世界。BETAを倒すためなら、人権など何の意味も成さない。
政府は勿論明言しないし、言えば“建前”上拙い事態に陥るが、実質既に軍では、人権など無いに等しい。死ねと言う事に等しい命令が、上意という軍規の下に、平然と行われる。

そんな中でも、少しでも教え子が生き残れるよう、心砕き、時には鬼になって教導してきたつもりだ。



それが、今の207Bには出来ていない。

夕呼ですら衛士にすること、つまり総合戦技演習の合否については明言してこない。
確実に合格させてよ、と何時も無茶な注文を付けてくる夕呼が、である。
夕呼さえ躊躇する、それほど迄に、彼女達の柵は複雑だ。

明確に衛士と成られては困る、そう言う背景を持つ者。それは立場であったり、もたらす影響であったり、その理由は様々なのだろうが。
端的に言えば暗に、総合戦技演習が不合格になり、国連内の後方部隊に回される事を望まれているのだ。
彼女達の意志とは別に・・・。

そう、彼女達本人の意志は別にある。しかし柵は、彼女たち自身にも絡み付いており、自分たちでそれを解脱出来るほど大人でも無かった。

私自身にも、夕呼さえもが望まないなら、危険な戦場に送り出したくはない、と言う気持ちが在ることも否めない。

故に小隊に存在する齟齬を取り除く事もせず。


結果、1度目の総合戦技演習は不合格に終わった。




「まりもちゃん。」

「! ん、あ、何?」

「・・・・・・・・・あと2ヶ月で、世界は変わります、いえ、変えます。」

「・・・!」

閑かな、しかし決して揺るがない、決意のようなその言葉。
その言葉の、含むモノに思い当たり、目を瞠る。

そうだった。

あと10年と言われる人類の未来。
だが、さっき見せられた白銀クンの鮮烈なる機動、御子神クンの深遠なる智謀に、確かな曙光をみたのだ。
彼らが語るその言葉は、最早一兵卒の言葉ではないのだ。



「・・・アイツ等の力は、その為に必要なんです。」

「!」

「・・・勿論後方が悪いなんて間違っても言わないし、その方が安全かもしれない事も知っています。本当に力尽くして、それでも尚届かないならそれも在りでしょう。
でもオレは、アイツ等が有する力を、信じています。
そして、しかるべき所で、自らも生かすために揮って欲しい、・・・・そう願っています。」

「・・・・。」

「アイツ等を取り巻く柵なんて、些細な問題です。合格してしまえば、どうにでも成ります。
・・・何よりも、アイツ等がそれを望んでいます。」

「・・・・。」

「だから、オレはアイツ等を衛士になれるよう、そして、生き残れるよう鍛えます。
それを、まりもちゃんにも手伝って欲しいんです。」

「!!!・・・・」



BETA に勝つ為ではなく、生き残る為に鍛える・・・。
その言葉は、私の裡にある“教導の礎”と意を同じくするものだ。






私は今までの彼女たちへの接し方を顧み、自分を恥じる。

今まで何をしていたのだろう?


部隊の齟齬を糺し在るべきチームの在り方を説く、それは前線・後方に拘わらず、生き残るのに必要なコトではなかったのか?
総合戦技演習の合否など関わりなく、その術を伝えたのか?

白銀クンの言うように、合否など後から付いてくるモノで、柵など関係ない。

私は私の遣るべきコトを、まだ何も遣っていないではないか!


「勿論よ! 宜しくね、白銀クン!」

・・・それを、強いとはいえ、あの娘達と同じ年の“訓練兵”に教わるなんてね。


私は、彼の部隊に所属することを、初めてちょっぴり、感謝した。


Sideout



Side 冥夜


食事を終えた私は、午後の座学に備え、足りなくなったノートを購入にPXを横切った。

その際、PXの片隅で喫飯していたのは教導官である神宮司軍曹。2人のC型軍装を着た若い男性と、兎耳型の髪飾りを付けた少女を向かいに、食後の話をしていた様子であった。


この時代に、若い男性など珍しいものだ。

その時には、そう思いながらも教官の邪魔せぬよう、通路の反対側を通り過ぎた。





購買部で目的のノートを、予備を含め数冊購入し、座学の行われる教室に向かう。

すでに他の訓練兵は先に向かった。


真っ白な頁が少し捲れ、ふと思う。

このノートが埋まる頃、私は何をしているのだろう、と。


望むモノは在る。
その為の手段として、この地を選んだ。
今は未だ浮薄の身分なれど、任官しさえすれば、その望みも叶う。少なくとも、彼の御方の一助になれる・・・。

・・・そう思っていた。



しかし・・・。

現実は冷酷で、そんなに甘くはない。
思い通りになど行かない。私はただ足踏みをしているだけだ。


そして、容赦なく時は近づいている。

遅くとも12月までには、2回目の総合戦技演習がある。

それが最後の機会。



こんなコトでは、あの者に哄われてしまうな・・・。








自戒しながら喫食エリアを戻りかけて、先程のコトを思い出す。
神宮司教官と話をしていた3名。

同じルートを戻るため、まだ居るかも知れぬな、そう思う程度の事だった。



実際にそこを通りかかる、そこまでは。








「・・・・え?」

神宮司教官に向いて微笑んだその相貌を見たとき、私には衝撃が奔り、立ちつくした。



この面影、この微笑み。
それを持つ、持っていたはずの者を知っている! と湧き上がる感情。

それと同時に、あの者は、BETAの横浜襲撃に飲み込まれ、既に鬼籍に入ったはず、と押しとどめる理性。



葛藤する2つの意識に、立ちつくした私を怪訝に思ったのか、気がついたその者が視線を向ける。




そこには、驚いた様な表情。

そして直ぐに破顔し、口元が動いた。


その時には、最早耳にも入らなかった。それでもその唇は、確かに動いた。

メ・イ・ヤ・・・、と。





抱えていた胸元から、ばさばさと落ちるノートもそのままに駆け寄ると、立ち上がろうと椅子を引いた“彼”にそのままダイヴしていた。






幼少の砌、数えきれぬ程抱きついた、その懐かしい胸に。


Sideout




Side 武


PXで逢った冥夜に、いきなりダイヴィング・ハグされました、まる。









確かにこの世界のオレの記憶に、小さい頃何度も受け止めていたのが記憶にあるが、この歳でのコレは、かなり来るモノがある。
と言うか、このPXでそれは自重して欲しかった。周囲の視線が痛い痛い。

しかも立ち上がりかけた不安定な状態で喰らったもんだから、危うく“押し倒される”ところだった。
後ろには椅子、退くことも儘成らず盛大に後頭部から・・・。
と言うところを、その後ろに座っていた彼方がさり気なく支えてくれて事なきを得、助かった。
感謝。



それでも泣きすがる冥夜に、小さく嘆息。

そして安堵。


前の世界で、あ号標的に浸蝕され、助からないと悟った冥夜は、オレの手で逝くことを望んだ。
上位存在諸共オレの手で喪ってしまった、大切だった存在。

それが、今は未だ、確かな存在として、腕の中にある。

さっきの伊隅大尉や、まりもちゃんと同じ、喪う未来を体験した、掛け替えのない存在。
それが温もりと、破壊力抜群の柔らかさを有して腕の中で嗚咽している。



突然の事態に、吃驚していたまりもちゃんは、まず呆気にとられ、次に青筋が浮いた。
霞のウサミミが、高速で動いている。

「!・・・幼馴染みなんですよ、ほらオレ、記憶喪失で行方不明だったから・・・」

相変わらず器用に結われた髪の、その後頭部を撫でながら、一言付け加えておく。
その言葉に一応、納得してくれたみたいだ。



・・・しかし、これは・・・。一悶着じゃすまないなぁ・・・。



想いながらさりげに視線を巡らず。

案の定、少し離れた柱の影から、暗黒物質にも似たどす黒いオーラが立ち上っているのを、直ぐに見つけてしまった。


あーもー、・・・・・・・・どうしろって。


Sideout




Side 冥夜


一頻り縋って泣き、そこで漸く落ち着いた私は、教官からプライベートには口出しせんが、そう言うことは他で遣れ、と言われ、今も耳たぶまで熱い。

PX中の衆目を攫ったことは確実で、後日京塚のオバサマにまでからかわれた。


・・・仕方なかろう、喪ったと思っていた運命とも感じた相手が生きていたのだから。


・・・しかも、背も高く、凛々しくなり、優しげな表情だがその相貌は引き締まり、甘さもない。思わず抱きついてしまった胸は靱やかで且つ外連味のない鋼線のような筋肉。
・・・纏う雰囲気は、既に一流の衛士。


「冥夜、詳しいことは後で話す。今は時間がないので簡単に言うと・・・・月詠さんも呼んで貰えるか?」

「あ、うむ、承知した。」

少し離れたところで、蜷局を捲いている蝮のような雰囲気を纏っていた月詠を呼ぶ。



「・・・お久しぶりです、月詠さ・・、今は中尉なのですね。白銀武です。」

「え?  な!?  まさか!?  武殿・・・か?!
・・・武殿は3年前のBETA殲滅侵攻で亡くなられたはず・・・」

「大変ご心配かけたコトはお詫びしますが、どうにか生きてました。
尤もこの春までは、記憶喪失で自分が誰かも覚えてなかったんです。」

「!!」

「横浜襲撃時に逃げ遅れた後、BETA殲滅に襲われて、奇跡的に助け出されたんですが、助けてくれた相手が機密部隊で機密行動中、しかも目が覚めたら記憶喪失だったんで、そのままその部隊に所属しちゃったんですよ。」

「・・・・機密部隊?」

「・・・内容は済みませんが今でも開示できません。
今後殿下にお会いする機会でもあれば、お伝えしますので殿下から聞いてください。
ああ、念のため髪の毛渡しておきますので、DNAで確認取っていただいて構いません。」

「・・・いや、しかし・・・、その機密部隊はどうなったのだ?」

「実は春先に、オレを除いて全滅してしまいました。オレはそのショックで、逆に記憶を取り戻して・・・。
その後、ここに居る彼方とオレの戦術機機動概念を実現するシステム構築をしていたんです。」

「・・彼方?  む、もしやっ!!・・・貴殿も・・!?」

「御察しのとおり、御子神彼方だ。」

「・・・まさか!?」

「こっちは99年のG弾に巻き込まれてね。
1年ほど長々と昏睡してた。
唯国内じゃ危ないってんで、わざわざハワイの病院に担ぎ込まれてたさ。
そこで記憶回復後リハビリ中の武と逢って、ずっと技術習得してた。」

「・・・・それは・・・、しかし・・・殿下には?」

「昨日戻って来たばかりだから、まだ報告していない。
戸籍も横浜基地から修正して貰っただけで、城内省には通知していない。こっちもDNAで確証取れたら、出来れば正式に帰還報告したいから、アポ取って貰えると有り難い。
行方知れずの方が安全なのでそのままにしておいたが、武の考案したシステムがかなり出来が良くて、武の記憶も戻ったし、概念実証するに当たり、機密部隊から表に正式任官することになったわけだ。
俺は技術だから特に制約はないが、武は戦地採用で、正式な教育も受けていないから、神宮司教導官の207B訓練小隊に配属され、訓練終了を以て正式任官する運びとなる。」

「!! それは、国連軍に所属、と言うことか?」

「・・・元々オレの母さんが跳ねっ返りで、斯衛飛び出した人だしな、今更斯衛はないさ。」

「こっちも未だに帝国軍に敵は多いから。柵のない国連軍が適当。」

「・・・その辺りは出来れば殿下と相談して欲しい。
失礼には当たるが、確証を得るため髪の毛は預かり、DNA鑑定をさせていただく。
謁見の日時は、確認がとれ次第通知、と言うことで宜しいだろうか?」

「ああ、構わない。寧ろ手間を掛ける。宜しく頼む。」

「構わん。・・・しかし冥夜様が抱きつくなど、何処ぞの不埒者、と思えば・・・まさか武殿とは・・・」


御子神・・少佐殿と真那は知己なのか、私の知らない話をしている。私は少なくとも逢った記憶がない。“あの方”の話も出ていたから、その方面なのだろう。


そして武は、訓練兵の襟章を付け、私に微笑んでくれていた!

「・・・・つまり武は、私達の訓練小隊の一員として、一緒に訓練することになる・・・と?」

嬉しくて上目遣いに問いただすと、微笑んで頭を撫でられる。


「ああ、宜しくな!」

それは記憶に違わぬ、武の仕草だった。


Sideout





[35536] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/06 00:01
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Side まりも


「本日、只今より新たな仲間がこの207B訓練小隊に加わることととなった。
白銀武訓練兵だ。白銀、自己紹介しろ。」

「はっ! 白銀武訓練兵であります!    例外的な時期での編入となりますが、よろしくお願いします・・・」




・・・白銀クンの自己紹介が続いている。
なによ・・・至って普通ぢゃない!    私の時とは随分差を付けてくれちゃって・・・。
考えて見れば既に3年近い最前線での軍歴、“一応”それなりの言葉遣いもできるのね・・・。

対する207Bの反応は、やっぱり戸惑うわよねェ・・・、総合戦技演習も差し迫ったこの時期、なんだから変則もいいところ。特に小隊長の榊は、至極迷惑そうね。
珠瀬は興味深げ、彩峰は相変わらす無関心ってところか。

その中でひとり異質なのはやっぱり御剣よね。
PXで感極まって抱きついちゃうような関係の幼なじみ・・・。
嬉しさと期待に満ちた表情。あんな表情も出来るのね、初めて見たわ。


・・・はぁ、これで頭痛の種が増えなきゃいいけど。





白銀クンの事情は、少佐という階級以外、私の判断で明かして良い事になっている。階級は正式任官まで未定、という設定だ。練度はどうせ訓練に入ればバレるから、と笑っていた。

それはそうだろう。なにせ相手はACE of ACE様だ。
対人過剰攻撃[収束砲]は使わないし説教的虐待[ OHANASHI]もしないけど、その驚くべき機動で師団級BETA群と渡り合っちゃうような存在。
・・・え?これ電波?  それってACE of ACEの必須項目じゃなかったの?

・・・まあ言ってみれば二つ名人外[]設定された私から見てもあれは規格外。

因みにもう一人の規格外、御子神クンは207B訓練小隊には基本関わらない。A-00は、当然A-01と同じく機密部隊扱い。一般兵卒にも満たない訓練兵が知るレベルではない。
私だってA-00所属の大尉という階級故に開示された機密事項が大量にある。
そもそもその隊長である白銀クンがその訓練兵扱いということが異常なのだ。

夕呼はいつも強引なんだから、訓練記録なんかデッチ上げるのはお手の物なのに、こう言う時に限って面倒事を押し付けてくる、って思っていたら、白銀クンに謝られた。
・・・どうやら訓練部隊所属は、彼自身の希望らしい。
まあ、ワケあり幼なじみの御剣が居るなら仕方ない・・・のか?

名前と歳、そして差し障りの無い抱負を述べて彼は自己紹介を終える。




「・・・ウム、では榊訓練兵、隊の紹介をしてやれ。」

「はっ! 国連太平洋方面第11軍、第207衛士訓練部隊 207B訓練小隊隊長を任じられています、榊千鶴訓練兵です。貴君の入隊を歓迎します。よろしくお願いします。・・・・・」


・・・目は歓迎してないのね。この時期に使えない奴だったら困る、というところかしら。

残酷だけど、使えるかどうか判断されるのは、貴女の方なのよ?
尤も使えるように鍛えあげるのが私の仕事だけど。
貴方の持つ、余計な柵と、過剰な使命感。それは別に悪いことじゃないわ。
なのにそれに囚われ過ぎて、拘り過ぎて全然周囲が見えていない。
今までは看過してきたけど、さてどう修正しようかしら。

そして進む方向は全く逆なのに、その理由は全く同じ彩峰。
似たもの同士だからこそココまでぶつかるのかしらね。



今後、この207B訓練小隊は白銀クン達が創り上げた新しいOS、XM3の概念実証部隊となる。
確かに行き着く先は素晴らしい。人類の希望となることは確かだ。
しかしその間口が狭ければ、使えない者には淘汰という選別もあり得る。

当然その教導には勿論白銀クンも携わる。私ですら今夕食後から、慣熟なのだ。
キチンと見極めて、正しく伝える。必要な要望は上げて欲しいとも言われた。
製作者も居るのだから、改良、バージョンアップも此処で行える。

この娘達が、あの白銀クンの機動をどこまでモノにすることができるか?  それ如何でその生存率が大幅に変わる。
そう、この娘達が生き残れるようにそれを叩き込むことが私の“やるべき事”・・・。


故に、先行概念実証となる207Bに行われる教導は、それだけではない。
今後の教導におけるテストケースでも在るのだ。
戦術機教導の変更に伴って、それに先立つ現在の総合戦技演習前のカリキュラムにも変更が加えられる事になると夕呼は言った。
確かに、どう見ても効率が悪すぎる。
戦術機を放棄しての撤退戦など起こりうる状況は1%にも満たないだろう。その状況から生き延びれば“奇跡”と言われるのだから。
その状況を以て行う演習には常に疑問も抱いていた。単なる現場の一教導官には口出しできるレベルではなかった。
まだBETAの脅威がここまで顕在化していなかったころに帝国軍で考案されたユルイ状況の演習と、一度決めたことは悪しき慣習で在っても変えようとしない“伝統”。
この国連基地でそれを変えようとしなかったのは、夕呼の“面倒臭がり”だとは思うけど。
今回は、それも変えちゃっていいわよ、とのお墨付きも貰った。

その権限を白銀クン・御子神クンが持っている。

既に白銀クンも何かしら腹案を持っているらしい。
一抹の不安を覚えた私に、何をするか必ず事前に確認して貰います、と御子神クンは言ってくれた。







検査入院で不在の鎧衣を除く全員の紹介と短い挨拶が終わった。

優しげな、そして懐かしげな?柔らかい表情で皆を見回す白銀クン。
そろそろ・・・爆弾を落としておこうかしら。


「異例の時期の編入であるが、軍ではよくある事だ。気にせず貴様らは自分達のすべき事を全うしろ。
・・・榊、余計な心配するな。白銀は総合戦技演習には参加しない。」

「はっ、・・・・え!?」

「・・・白銀武訓練兵は、既に現役の衛士だ。
しかも戦地任用より2年半、最も過酷な前線での特殊任務を生き抜いてきた、飛び切りのエース。
・・・衛士としての練度は、私より遥かに高い。」


「「「「!!!」」」」

「今回、とある事情により前線より帰還、臨時の戦地任用ではない正式任官の運びとなったが、前線では正式な訓練課程など無くてな、当然受けていない故の訓練部隊所属となった。
しかし、人類にそんな有能な衛士を遊ばせておく余裕はない。白銀は既に極秘計画のメンバーとして特務に付いている。可能なかぎり訓練は受けるが、特務故に隊を離れることも屡々あるだろう。」

「・・・!」

「貴様らは、僅かでも現役の、しかも紛れもないエースと同期として机を並べられる幸運を得たのだ。
衛士としての現実の厳しさを、しっかり教えてもらえ。」

「! は! 了解しましたっ!」


榊は一応復唱したが、唇を噛んでいる。

彩峰もさっきまでの上の空が、今は興味深そうに見つめていた。

さて白銀クン、負けん気強いわよ、榊と彩峰は・・・。


Sideout




Side 千鶴


教官が副司令からの呼び出しで自習となった後、午後の座学でいきなり新しい訓練兵を紹介された。

白銀武、17歳。・・・同じ学年だ。しかも男子。



今の教育基本法では、16歳以上の男女に等しく徴兵が課せられている。今頃の編入ってことは、今まで何らかの理由で徴兵免除でもされていたのかしらね。男子の徴兵免除は女子よりもキツイ。
世間的にも相当な理由がないと後ろゆびさされる。

聞いた限り一応挨拶はそれなりだし、身体も病弱や肥満ではいないみたいだけど・・・。
使い物になるのかしらね。


実際私たちが訓練兵となったのも16の年。本来1年間の衛士訓練で、任官に至る筈だった。
その総仕上げ、総合戦技演習に失敗、不合格・・・。以来再戦に向け精進してきた。

その総合戦技演習も近い今頃になって、徴兵免除を受けていた様な軟弱者の、海のものとも山のものともつかない不確定要素の編入は、はっきり言って迷惑だった。

しかし、これも軍、と言われてしまえば、それまでなのだが。
厄介なのは彩峰一人にしてほしい。






だが・・・。わたしの思惑は、教官の言葉に一蹴された。
初めは、教官が何を行っているのか、わからなかった。



・・・既に現役衛士?  2年半って15歳から?

・・・戦地任用?  最前線?

・・・2年半も過酷な特殊任務を生き抜いてきた?  彼が?


・・・衛士としての練度が教官より遥かにう、上ェ~~!!??

・・・そして特務??






・・・嘘でしょう??!!










神宮司教官は、元は高い練度で知られる富士教導隊に所属していた歴戦の衛士であったと聞く。
教導官としての最高位は軍曹であるが、歳若くして大尉にまでなったその腕前はこの基地でも随一らしい。

その神宮司教官をして、教官自ら遥かに上といわせる衛士が同い年?




ありえないわよ!!


しかも戦地任用の実戦生き残り故、正式任官の為の訓練課程履修・・・・。
・・・総合戦技演習に参加しない、ということは、要するに総合戦技演習の結果に関わり無く、既に任官は決定事項。


次に落ちたら、後のない私たちとは異なる遥かな高み[上から目線]に居るのだ。




・・・そんな・・・そんな奴! 別の意味で迷惑よ!!


Sideout




Side 慧


新しいメンバーが加わった。
別に興味はない。

男っていうのが珍しいだけね。
珍獣?   
同じ年代の男なんて今では8人に一人。
そのほとんどが、成績優秀での徴兵免除をうけたガリや、親の権勢を嵩に着たグズばかり。

こんなとこで訓練兵である男を見ることは、珍しいってだけね。






そう思ってたんだけど・・・・。


・・・・・・・・・フーン、教官よりもスゴイの?


内緒なんだけど知ってしまった“狂犬”という二つ名を持つ、神宮司教官。
あたしの得意の接近戦でも、未だ勝ったことはない。

その教官をして遥かに高いと言わしめる“同い年”。

そそるね、ヤッ[]てみたいな。








エースと呼ばれるアイツを超えられれば、少しは届くのかな・・・。


Sideout




Side 壬姫


この時期にしては珍しく、男の人が編入してきました。

白銀武さん。

スラっと背が高くて、シュッとした顔立ちの、でも優しそうな眼差しの同い年。
身体は鍛えているみたいで、動作の体幹がズレません。弓の錬士を見ているみたい・・・。

いいなァと、思わずにいられません。
だって、壬姫は体格的にちゃっちゃくて、体力もないから、何時も皆の足を引っ張ってばかり。狙撃以外に取り柄のない、落ちこぼれです。
今は入院している美琴さんは、同じような体型なのに、驚く様な瞬発力と、サバイバル能力があります。

これでも頑張ってきたんですが、無理なのかなぁ・・・。


もうすぐ2度目の総合戦技演習です。
これに落ちれば、衛士としての道は閉ざされ、より死亡率の高い歩兵部隊か機甲部隊に転属になるそうです。
この訓練小隊の雰囲気が悪いことは気がついています。
春まで一緒に訓練してきた207A小隊は、個々の練度が207Bより低かったにも関わらず、先に総合戦技演習を終了しました。
・・・分かっているんです。
・・・でも、自分に自信の持てない壬姫には、何も言えません。



流されて来ちゃった壬姫。

16歳の徴兵。パパの仕事からもしかしたら免除もできたかもしれません。でもいつの間にかこの基地の訓練校に入隊が決まっていました。

頑張る、と言ったあたしに、パパは辛そうに、ゴメンと一言漏らしただけでした。




え!?


既に衛士!?


前線で生き残って・・・教官より凄いんですかァ!?


そんな凄い人が訓練兵って・・?




パパ、壬姫の未来が、なんか変わる気がします。


Sideout




Side 冥夜


PXで聞いた通り、武が同じ訓練部隊に編入してきた。





幼少の折から、“あの方”の影として表に出ぬよう、殆ど隔離される様な生活をしてきた私にとって、数少ない幼なじみ、それが“白銀武”という存在だ。
ご母堂が、今の斉御司頭首の妹御であったが、武家の水に馴染めず、出奔したと聞き及んでいる。しかし亡くなられた前領袖や、現頭首も妹御に甘く、彼岸や盆暮れには何時も御実家に戻られていた。
屋敷が近かった御剣の庭で、忍び込んだ武と、同じくその幼なじみである純夏と出会ったのは、まだ小学校に入学する前の暮れであった。

一人で遊んでいた私は、誘われるままに合流し、結果泥だらけになるまでハシャギまわった。


当然、やがて家人の知れることとなり、雷電お爺さまに雷を落とされた。

が、そこで泣いている女の子をかばって、対峙したのが武であった。

面白そうだと忍び込もうと誘ったのも自分だし、泥だらけになる遊びを提案したのも自分だ、悪いのは自分なのだから、怒られるのは自分だけでよい、と。



結局それ以上雷は落ちる事なく、逆に破顔したお爺さまは、斉御司、ひいては白銀家にも連絡し、武と純夏を私の遊び相手として認めてくれた。

以来、中学入学まで春秋の彼岸と、盆暮れに実家に戻る都度、共に遊んだ記憶がある。
純夏は同行している時もいない時もあったが、やはり共に遊び、そしてこっそりと互いにライバル宣言した“強敵”でもあった。


しかし武の両親は、参加した大陸派兵で共に散り、そして残された武もそして純夏も、横浜襲撃時に避難が遅れ、死亡認定されたとき、私は1週間泣き伏した。


それから・・・、なのだ。

守りたい。

大事な人を、その周りにいる人々を、この国の民を、守りたい。

その為の力が欲しい、と決めたのは。



武に出会った頃と前後して、“あの方”とも一度だけ、お会いしたことがある。
勿論、極秘の上、砕けた面会ではなかったが。
少しの遊びと、会話。

穏やかに語られるその言語の節々に、けれど、やがてこの国を背負う“あの方”の決意・・・いまとなっては“覚悟”が察せられた。

重い運命に臆すること無く、弛まぬ道程を進む意志。
それはその名に違わぬ眩しさとして感じられたのだ。

影に生まれ、冥き忌名を持つ自分にも、何か出来ないか?

そう想い続けていた。




それが、今選んだ道。

当然斯衛は避け、帝国軍も何かと柵が多く、結局国連軍を目指すことにはなったが・・。





その流れ着いた横浜基地で、武と再会できるとは!!

感極まって抱きつき、泣きじゃくったとしても仕方ないだろう?
月詠にはキツク叱られたが。
私の小学校から護衛として付いていた真那は、当然武と面識があり、その死を悼んでいたので一応理解はしてくれて助かった。


しかし、思わずヤッてしまったが、・・・凛々しく成長した武は・・・・・思わず・・・・・・略。






その武の事情は、先ほど少しだけ聞いた。

BETA襲撃の折、衝撃でこの春まで、記憶喪失。
記憶もないままに、拾われた機密部隊にそのまま所属し、生き抜いて来たと言う。
その部隊が春先に、武を除き全滅、そのショックで、逆に記憶取り戻したした事で、正式任官のため、帰還したと・・・。




そして、神宮司教官の言葉に驚愕する。

現役の衛士であることは、武の言葉から予想がついた。
2年半、極秘の特殊任務なのだから、過酷な最前線を生き抜いてきたと言うことも。


・・・飛び切りのエース?  システム構築の為の後送ではなかったのか?

・・・衛士としての練度が、神宮司教官より遥かに高い?

・・・そして今も特殊任務に従事?


今や斯衛でも有数の実力者である真那をして、互角以上かもしれぬ衛士、と言わしめる神宮司教官がそう言い切った。





・・・武は、私の遥か前を進んでいるのだな。

・・・あの時、怒るお爺さまに、真っ直ぐ対峙したように・・・。



その事が理解できた。


・・・必ず追いつく。








まずは今夜、詳しい話を聞かせて貰わねば!!


Sideout





[35536] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2013/05/15 20:03
’12,10,04 upload
‘13,05,15 誤字修正


Side 水月


部屋は静まりかえっていた。
誰もが呆然と、スクリーンの中で成された仮想現実を、理解できないでいた。





副司令の呼び出しで伊隅大尉が離れていた間、演習場で訓練していたA-01部隊は、午後の訓練予定を変更し、ブリーフィングルームに集合と成った。


曰く、画期的な新OSの教導を受けることになった、という。

その言葉に、はじめは皆懐疑的だった。
たかがOSの変更で、教導もないものだ。
逆に言えば実験的なOSみたいな信頼性のないものは、使いたくない、初めは誰もがそう考えているような表情だった。



「そのOSを極めた集大成が、この映像だ。」

そう言って見せられた内容は、正しく衝撃だった。



光線級を歯牙にも掛けず、空を舞う姿は、後光さえ差して見えた。

戦域の光線級をあぶり出す跳躍飛行掃討。
レーザー照射の緊急回避から着地後、マークした光線属種を確実に潰していく。
突撃級や要撃級でさえ片手間で、小型種などもはや相手にもしない。足を止めない戦術機の前では、とりつく島さえなく蹴散らされるのだ。
潰すのに手間の掛かる要塞級は関節だけ破壊して行動規制、放置。
図体がでかいだけに、いちいち止めを刺すには手間も弾数も掛かる、動けなければそれでいい、と言う完全な割り切り。
その時間でNPCに対する確実な救援と、BETAの行動を先読みした明確な指示。
合間合間での抜け目ない補給。



最初、そのあり得ない機動に騒いでいたメンバーは、光線級の照射を確実に避けていることを理解すると共に驚愕し、それを実現する新OSに新たなる希望を見いだした。
皆が食い入るように、その動きを追う。
流れるような機動、忘れられていた空中での華麗なまでのマニューバ。
その信じられない反応を支える新OSの凄まじさは、映像を見ているだけで判る。






しかし、この衛士はなんだ?
技量・判断、何れも超1流・・・・。
機動概念そのものが、既存の衛士とは一線を画する。



そして到底信じられないスコアを出して映像は終了した。









沈黙が徐々に歓喜に変わる。

理解できてくると、確かな希望を感じさせる新OSに、部隊員は湧いた。
しかもこの“衛士”が、教導に来るというのだ。


戦れる!!

恐らく今は手も足も出ないだろう。
いくら戦闘狂とまで言われるあたしでも、これだけ離れた実力差は理解できる。

だが。

このOSさえモノにすれば・・・・。




「いつですか?  何時から教導に来るんですか!?」

「今日の夕方からだ。午前中に紹介された。
技量として、このくらいはできる様になってほしい、と言うか、出来るようになれ、と言われた。
そして次に見せるのが我々A-01の目指すべき目標だそうだ。」

「次・・ですか?」

「ああ・・・。
ヴォールク・データのハイヴ攻略戦。
史上最高の世界レコード、・・・間違いなく世界最高峰のエレメントだ。」

「エレメントでハイヴ攻略って、いくら新OSでもなめてません?  それで史上最高レコードって・・・。」

「レコードだと下層到達?  反応炉は・・・エレメントじゃ有り得無いね。」

「・・・私もはじめはそう思った。
数分で終わるのではないか、と・・・。

その自分の価値観を根底から覆されたよ。
・・・まあ、感想はあとで聞こう」

遙と美冴の反応に、苦笑いしながら伊隅大尉が応える。



伊隅大尉の価値観さえ覆したと言うエレメント、どんなもんだか見せて貰おうじゃない!








そしてハイヴ侵攻を開始する2騎の不知火。
先ほどと同じ衛士と覚しき前衛の、その動きは正に鮮烈だった。


あの3次元機動はこのためにある、と言うことをまざまざと見せつける。

スタブ内の狭いトンネルで、壁や天井はおろか、時にはBETAの背すらを踏み台に、異常と言える速度で、ハイヴ深くに侵攻をすすめる。

その輝きが余りにも強烈で、見る者を惹く。

BETAのその殆ど、置き去りに。
あたしにもその有効性が理解できた。
BETAの脅威は、全てその物量にある。どんなに倒しても、恐れすら抱くことなく前進してくるその物量。ハイヴ攻略は、その最たるものだった。
10万と言われるフェイズIVハイヴのBETA数。端的に言えば、その“物量”と、一本橋で相対する。それがハイヴ戦だった。10万が同時に襲いかかってくる訳ではなく、倒しても倒しても尽きない後続。やがて弾薬が尽き、飲み込まれる。
今までは、その10万を如何に分散させ、陽動とルート取りで軽減するか、そこに注力していた。

BETAを無視して、置き去りにする・・・、その思想は無かったし、それが出来るだけの機体も存在しなかった。

今、目の前の画面に踊る機体は、戦術機特有の、カクカクした断続的な機動ではなく繋ぎのない、滑らかな動きで迫り来るBETAをすり抜けてゆく。





だが・・・・。

当初それは太陽の光に隠れる星のように、全く目立つ所のないエレメント僚機は忘れられ、意識にも上らなかった。

しかし、それが、前衛の目覚ましい輝きを曇らすモノだったら、どうか?


強い憤りさえ感じてしまうのだ。



・・・どう考えても指示するルート取りが愚劣。
後衛だと言うのに碌に前衛の支援すらせず、殆どが意味のない後方への射撃。
それも大型種を殺しきれず、あげく放置。



このエレメントの何処が世界最高峰なのだろう?



「!! あぁっ! またルートミスっ!!
何なんですか、この後衛、馬鹿すぎます!    このくらいなら、アタシの方がましですよ、ほんとっ!!    」

「・・・水月、因みにその後衛の衛士は、技術少佐だ。
まあ、気持ちはわからないでもないが、それ以上口に出すのは上官侮辱に当たるからやめておけ。」

「げ・・・」

「ついでに、後衛の少佐は、シミュレーションでもハイヴ戦初めてだそうだ。」

「!!」

じゃあ、何か?  上官だから間違ったルートでも文句言わないのか、前衛の衛士は。
・・・居るんだよなぁ、経験も無いくせに階級に傘を来て威張る馬鹿が。
これで史上最高出せたなら、後衛変えれば更に上を狙えるじゃないのか!?






ルート取りの拙さから、夾撃され、迷走にも見える迂回の末。漸くの下層到達。
・・・いや其れさえ凄いのだ。
エレメントで下層到達の前例などない。この時点で既にレコード。

それなのに漸く、と感じてしまうのは、そのルート取りの余りの酷さ。
あの侵攻速度が実現できるなら、もっとずっと早く下層に到達し、今頃反応炉到達すら出来ていたかも知れない。

だがルート取りに失敗し、無駄にBETAの接近を許したことで、主縦坑に近づけず、周囲を巡るように半周するしかなくなった。
そこで、どうにか後続のBETAを振り切って休止したのだ。



『さて武、機体交換するぞ』

聞こえた音声に場が凍る。

『おまえ推進剤使いすぎ。このあと地上まで保たない。機体は同じだし、今までの機動蓄積データは差し替えるから機動やフィードバックデータに違和感はないよ。・・ああ、背中の担架は交換してくれ。』

皆がハッとして、モニターで機体状況を確認する。


気がつかなかった・・・。


・・・つまりは、α-2は推進剤を殆ど使わず、あの異常な侵攻速度のα-1に追随していた?!
背筋に冷や水を浴びせられたような寒気。

だが、次の台詞に更に驚愕。


『ところで、このシミュレータ、ヴォールク隊の観測データそのまま使って居るんだよな?』

『ああ、そう聞いてる』

『なら、・・・そこに偽装坑が在る。中にBETAはいない。シミュレーションのBETA配置状況設定が既知の坑だけなんで、実際とは相当異なるが、な。』




「・・・・・!!! 大尉っ! こんな偽装抗が有るんですか?!」

「・・・ああ、データ上存在していたらしい。
今まで誰も気付かなかったが、ヴォールクデータの地下構造は、基本超音波測定のデータをそのまま使用している。
今までは下層到達すら達成できて居ないため、検討もされなかった、というのが真相らしい。」

「・・・・・・」



画面ではエレメントが隠されていた極秘ルートを抜け、接近してきた追従BETAを尻目に、主縦坑にたどり着くと、躊躇もせずにその暗い穴に飛び込んでいく。


「「「・・・・反応炉、到達!!」」」

固唾を飲んで見守っていた何人かが叫ぶ。

エレメントで反応炉到達、・・・もう、とてつもない快挙だ。
勿論、その殆どが前衛衛士の功績だが。


けれど、後衛がどんな愚図でも2機いれば、自爆でも反応炉破壊も可能性が出てくる。

持参S-11は各2。通常の自決用と他に1基背面担架内に所持していた。




反応炉周辺はBETAの海。
その中に、2騎は一瞬の逡巡もなく、飛び込んだ。

α-2がS-11をセットする。
そのカバーに入ったのはα-1。



「「「「え・・・・???」」」」

「すご・・・。テンポラリキルレート、99.8って・・・・」

一見デタラメにすら見えた乱射は、1000発に2発しか外さない神業。

しかし。


『・・彼方、コレ、なんかした?』

『これとは?』

『突撃砲。バーストモードでのキルレートがあり得ない数字出してるんですけど・・・』

『ああ、夕呼センセ謹製のCPUにキャパあったから、2秒以上引き金引きっぱなしすると、自動照準と予測射撃で射撃制御するアビオニクス組んだ。』

『・・・なるほど』

『尤も、ストッピングパワーが激しく不満。
戦術機サイズで36mmって、対人22口径の更に半分相当だからな。まあ重量比を考慮しても22口径相当。戦術機サイズのBETAには所詮豆鉄砲だ。
まぁ、これも何れ何とかするさ・・・。』

『・・・ああ、頼む!』


・・・・交わしている会話の内容も内容だが、ハイヴ反応炉を前にして、何という場違いな。
装備開発の会議室ではないのだ。

・・・確かに技術少佐だ。

皆の無言の認識が一致した。




そして、その技術少佐が設置したのは、たった2発のS-11。
フェイズIVクラスの反応炉破壊には、5,6発のS-11が必要と考えられている。
それなのに自分の持ってきたS-11すら使わず、それだけで離脱する。


「あ、もう! コイツにはハイヴ攻略の常識すらな・・い・・・・・え?  ・・嘘!?」

あたしが上げた怒りの声は、そのもたらされた結果にすぼむ。



「・・・・・・・・2発で反応炉破壊って・・・」

「・・・・少佐の有しているのははっきり言えば“常識”ではない。反応炉を精査した“知識”だ。先ほどの偽装抗のようにな。反応炉にも弱点があるそうだ。
少佐の設置した位置は、反応炉そのものの活動エネルギ循環のもっとも外皮に近い場所、になるとの事だ。
少佐と言っても技術少佐である彼は、ハイヴも反応炉も、綿密に調べたのだろう。」

「・・・・・・」


言われてしまえば絶句するしかない。

この世界で言われる常識は、誰かの言った予想。反応炉破壊を達成した事すらない人類に経験は無く、その規模とここ横浜で調べられた強度、そこから逆算して、“全部”潰すのに必要な量が“常識”になっただけなのだ。



・・・それよりも、である。

・・・気がついてしまった。

このエレメントは、最初から“生還”を視野に入れている、と・・・。





この世界の、少なくとも今までの“常識”では、ハイヴ攻略は、“特攻”と同義。
推進剤も弾薬も自爆装備さえ、全て片道分。それを消費してさえも中層までしか届かなかった現実。


対して彼らはつまり、反応炉まで到達して、自爆して道連れにする、そういう考えは初端からない、と言うことだ。



価値観が覆された・・・、始まる前に大尉はそう言った。



ハイヴ突入は、特攻ではない・・・。



何かがこみ上げる。

この戦術を採ることが出来るなら・・・この挙動を実現する新しいOSと、技量があれば・・・・。

人類は・・・・。









・・・・そして。

シンとブリーフィングルームが鎮まりかえる中、進んだ状況。

撤退BETAが溢れかえる中、主縦坑周辺から地上を目指すエレメントを呆然と見ていた。




え?  なに?

モニュメントを壊すことに何の意味があるの?

そう思わずに居られなかったα-2の行動。






もたらされたさらなる驚愕。

スローモーションのように崩れていくモニュメント。


その時、誰もが思っても居なかった現象が起きた。

その膨大な質量が、落下荷重となってスタブ構造を連鎖的に崩落させていく。

中層まで押しつぶした上部質量は、さらに主縦坑に崩れ落ち、膨大な質量がメインホールに達した瞬間、メインホールを閃光が埋めた。





「・・α-2キルレート・・・・40000??・・・」

「・・トータルスコア、5700万て・・・」

そのあり得ない数字が、全く理解が出来なかった。









伊隅大尉の解説に、身体の芯から震えた。
“奇跡”を見せたエレメント α。

・・・確かに紛れもなく“世界最高峰”のエレメント。




α-1は、白銀武少佐。
異次元の機動概念を有する、単騎世界最高戦力。

そしてα-2が、御子神彼方技術少佐。
このハイヴ崩落によるBETAの大量殲滅戦術を実現した、世界最高戦術家。

それは、その初期装備からしてちがった。
土木工務用破砕装備。
広域殲滅気化爆弾。


つまりハイヴ突入は初めてでも、詳細なハイヴ調査と反応炉調査、そしてBETA行動モデルを全て熟知した上で、戦術を駆使していたのだ。

それが、散々疑問の声を上げた進入時のルート取りである。

あの後、そのシミュレーション時の、BETA全体の動きを確認したピアティフ中尉が、驚愕のデータをもたらした。
エレメント侵攻時ハイヴ内の全BETAの動きを点群で表した時間経緯の動画である。
エレメントの侵攻に連れ、ハイヴ内のBETAがどんなルートで集まってくるのか、どの様に追いかけてくるのかが一目で判る。

往路であえて時間を掛け、そしてボトルネックでは、追いかけて来る後続BETAの邪魔にならないように、ボトルネックの内側で大型種を2,3体ずつ行動規制する。
それは、反応炉破壊後の中央部に集めたBETAの撤退方向を、おおよそカバーするように、謂わば逆流抑止“弁”を設置していったのだ。

そうして周辺BETAが螺旋を描くような彼らの侵攻に、徐々に主縦坑周辺に集められていく。

それはこうして俯瞰的に全容を見ることで初めて理解できる、広大な3次元空間に於けるBETAの動きを全て予測しているような動きだったのである。





「・・・・・・因みに、後で質問したところ、白銀少佐は一切この戦術を知らなかったらしい。一見無駄に思えるルート取りも、
どうせ彼方は無駄なことしないから、とおっしゃっていた。」

それはあの周囲から見て居てさえ愚鈍に見えた侵攻を、疑いもしなかったという事実。

「そして御子神少佐にも聞いた。BETAに埋もれる事は考えなかったのか?  と。
対して、武の突破力は規格外だからな、と返されたよ。」


・・・史上最高のエレメント、と言われるのも納得する。

事前打ち合わせもなく殆どぶっつけ本番、阿吽の呼吸だけでこのスコアをたたき出せる。

そんな彼らにとっては単純な侵攻など予定調和の中、反応炉破壊後こそが、御子神少佐の独壇場。
見せられた映像には、折り重なり、空間も埋めるようにひしめくBETAの塊が、幾つも発生していた。

そう、ボトルネックとなる狭路に於いて、抜ける度に大型種の行動規制をしていたα-2。
行動規制をしていた大型種が、撤退と共に狭路に向かったせいで、ボトルネックの口が、更に狭くなったのだ。
ボトルネック内側に設置された“弁”が、下層BETAの撤退を完封した。
行動規制された大型種が狭路をふさぐことにより、大渋滞が各所に発生。
連鎖的に本来通れる通路さえどんどんBETAで埋まり、結果後方の渋滞に影響、周囲からの流入で全体の流れが滞ったのだ。


脱出時も主縦坑から螺旋状に地上を目指しながら、要所に爆薬を設置していた。
後から検証すれば、最小限の爆薬で、信じられない位強固といわれるハイヴを壊す、芸術的なまでに最適位置に設置されているという。


爆破解体アーティスト。

通常の爆破解体は、構造物を自重で崩落させるように設置する。
少佐の行ったのは、ハイヴモニュメントの崩落さえ利用し、その重さと爆破のタイミングを合わせることで、強固と言われるハイヴ構造を潰す連鎖崩落を引き起こした。
上部崩落の“落下G”を利用して、さらに重さを加え、下部を押しつぶす・・・、その思想が破壊不能と言われたハイヴ構造の大崩落を実現した。
構造的に、また携行弾薬制限から連鎖崩落は中層にとどまったが、墜ちてきた大質量は、主縦坑を圧縮する。

そこには、置き土産の気化爆弾。

気化拡散した爆弾に、高圧縮。
各所に設置された“弁”。

音速を超える速度で爆轟した気体は、主縦坑を抑えられたことでスタヴに伝播、音速を超える圧力衝撃波となって下層に停滞していたBETAを圧殺し、爆散させた。

それが総数70000超という撃破数だった。



「補足すると、反応炉が生きている場合は、この崩落作戦は使えないらしい。
ハイヴ構造壁にはエネルギーを供給することによって強度を増す構造材が使われていることが、御子神少佐のここ、横浜ハイヴの調査により判明した。
突撃級の衝角も同じ様な構造だそうだ。
それ故、逆に反応炉を先に停止すれば、核にも耐えるハイヴの崩落が可能、という事だ。」


・・・全てが計算ずく。

稚拙で愚鈍だったのは、それが判らなかった自分たち。


「まあ、そこはあまり気にするな。私も神宮司教官もハイヴが崩落するまで気がつかなかった。
いや、ピアティフ中尉のデータを見るまで、あの侵攻ルートの意味も理解していなかった。
途中で気付いた副司令さえ、ここまでの戦果は予想していなかった様だ。
桁が2つ程違っている、ということだ。」

大尉が苦笑する。それはスコアからして2つは違う。




「そしてもう一つ、ハイヴ攻略の最重要課題は、反応炉破壊である、と言う価値観もひっくり返された。」

「え?」

「これだけのエレメントだ。反応炉破壊だけに絞れば、甲21号も特攻でなら完遂出来るそうだ。」

「・・・」

「だが、その際の残存BETAは20万。・・・・奴らは、何処を目指す?」

「「「「「「!!!!!」」」」」」


・・・・そうだ。
今、佐渡から20万のBETAが横浜を目指したら・・・帝国は間違いなく瓦解する。


その集まっているBETAをまとめて殲滅するための戦術。
その為の反応炉破壊。


苦笑いしていた伊隅大尉の表情が引き締まる。
刺すような視線が全員を見回す。


「現実のハイヴ突入戦の経験もあるらしい白銀少佐がおっしゃった。
実際のハイヴは、こんなに“甘くない”らしい。」

「「「「「「!!!」」」」」」

「そして当面の目標は喀什、フェイズVI・オリジナルハイヴだそうだ。」

「「「「「「!!!」」」」」」

「是だけの技量と戦術を有するお二方でも、二人じゃ全然足りないそうだ。
・・・その為のA-01への新OS【XM3】教導、と言われた。」


「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」




それは、つまり、・・・・あのレベルになれ、と。

オリジナルハイヴに、付いてこい、と。




覆された既成概念。

光線属種をものともしない機動。

“特攻”ではない、ハイヴ攻略。



それは、まさしく“希望”。

あと10年と言われる人類の未来を果断に切り拓く、鮮烈なまでの・・・。

その一翼を担え、と言うことだ。




「どうだ?  貴様等!?」

「「「「「「「「「「・・・望むところです!!!!!」」」」」」」」」」



これで燃えなきゃ女じゃない!


Sideout





[35536] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/03/06 21:04
'12,10,06 upload
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'15,03,06 誤記訂正


Side 武


207Bのメンバーと夕食を喫飯した後、特務って事で抜けてきた。

まりもちゃんが煽るからヘイト稼いじゃったな。委員長の視線が痛いこと。夕食の席で、皆の呼び方は指定してきたけど、どこの委員長よ、とつぶやいていた。

で、これからはA-01タイム。

時間が勿体無いので、シミュレータルームに集合してもらった。
見回せば、懐かしい顔、と言っても、一番早かった柏木でも1週間ちょいしか経っていないのだ。
涼宮中尉。速瀬中尉。宗像中尉や、風間少尉、茜も壮健。
やっぱり皆揃ってこその伊隅ヴァルキリーズである。

そして、今回は幾多のループでも会えなかった先任達も揃っている。
11月11日のBETA新潟上陸時、捕獲作戦に於いて戦死した2名、辻村晶代中尉と相原美沙少尉、再起不能の重傷を負い病院送りとなった、遠乃優莉少尉。
12月5日のクーデターに於いて戦死した高原眞美少尉。
横浜事件(XM3トライアル時のBETA奇襲というか夕呼先生のカンフル剤)で戦死した築地多恵少尉と病院送りとなった麻倉美波少尉。

この6名の姿もあった。


CPの涼宮中尉を除いて12名。12人の戦乙女になぞらえた隊のネーミング。
主観記憶の裏で、たった1ヶ月で半数にまで減り、207Bの任官で再びオレを入れて12名にはなった。オレだけは男だけど、そこは涼宮中尉をカウントってことなのか。

それでも、その1ヶ月後には、オレ以外残っていなかった。
桜花作戦後も残った記憶では、茜や宗像中尉、風間中尉は復帰してきてくれたけど。


改めて、思う。


こんどこそ、貴女方を護る、と。

烏滸がましいことは重々承知。それでも、そう思わずに居られない。





「初めまして。ご紹介に預かった、白銀武です。
今回新しいOSや戦術機・装備の試験部隊として創設されたA-00戦術機概念実証試験部隊を預かる少佐に任じられました。
若輩者で、目上の綺麗な女性に対する命令口調には、慣れていない為、普段は敬語のまま話します。皆さんも普段は砕けて貰ってかまいませんので、気軽にお話ください。学年で言えば一番歳若い新人と同じですから。
・・・ただし、ケジメはキッチリ付けていただきます。作戦行動中の狎れ合いは容赦しません。口調がオレ様に変わったらご注意ください。」


「御子神彼方技術少佐だ。試験部隊の副隊長となる。
武と違って敬語は使わないが、敬語の要求もしないのは同じ、敬礼も要らん。香月副司令麾下と思って諦めてくれ。」


「・・・神宮司まりも大尉だ。今回の試験部隊創設にあたり、教導官との併任を下命された。試験部隊とはいえ、実戦も視野に入れており、前任階級への復帰となった。何かと戸惑うことも多いとは思うが、これも御子神少佐がおっしゃったように、香月副司令麾下の宿命と思って諦めて貰いたい。
今後、A-01部隊には、新たに考案された新OS【XM3】の習熟に入ってもらい、私も同じく教導を受けさせてもらう事となる。宜しく!」


取り敢えず3人が挨拶。
まりもちゃんが挨拶すると、その内容に流石にちょっとざわついた。
A-01部隊は、全てまりもちゃんの教え子で構成されている。士官した今、軍曹であったまりもちゃんより上位という階級になっても、実質頭が上がる人はいなかった。それがいきなり現場復帰で中隊長と同じ大尉殿。

相変わらず夕呼先生、まりもちゃんで遊んでるな。





「まあ、長話もなんだよな、速瀬。もうウズウズしているのか?」

彼方が茶化す。

「御子神少佐、速瀬中尉は戦闘となると、リビドーを抑えられないのです。」

「・・宗像「「「む・・・」」」」

声を上げようとしたのは3人。
抗議しようとした速瀬中尉と、あと叱責に掛かった伊隅大尉とまりもちゃん。

その機先を制して、彼方が声をかけた。

「はっ!」

「・・・・・・ナルホド、勇者だな、お前。人物像も分からん上位者に揶揄から入るか。
まあ大方反応を見て体勢を整える[アクティヴ・ソナー]、・・・・・・ってところか。」

「・・・・」

「うん、嫌いじゃないぞ、そう言うの。
特に武はそう言うのがすきだから、どんどん弄ってやれ。ただし、神宮司大尉の居る前ではホドホドにな。」

「・・・はっ! 勉強になります!」



・・・ヤバいかも知れない。
彼方が口元に刻んだ笑に、宗像中尉がニヤリと返した。







「さて、お待ちかねのXM3“初体験”だが、その前にひとつだけ伝えておく。
A-00試験部隊は、現状この3名、技術補佐の特務少尉を加えても、4名しか居ない。
そこで、現在A-01との再配置を検討している。追って配属変更が在るものと考えてくれ。
勿論、基本的な教導に差はつけない。実戦にも同じく赴く事になる。
無理やり分ければ、A-00は、装備メイン概念実証、A-01は今後改修する戦術機そのものの概念実証を予定しているが、そこまで明確になることはない。
また、現在神宮司大尉が教導している207B訓練小隊も近々総合戦技演習に入る。207Bには大尉と武が初期からのXM3教導を実施した先例としての教導が行われる予定である。
結果、任官すれば再度編成することも視野に入れるように。
・・・ヒヨッコに負けられんぞ?  先任として威厳を見せてやれよ。」

「「「「「「「「「「「Yes、Sir!」」」」」」」」」」」


彼方の檄に、伊隅ヴァルキリーズの声が唱和した。


Sideout




Side まりも


『きゃー!!』『あれ~!?』『うわぁ!』

デタラメに動いている13基のシミュレータ。

オープン回線には、ヴァルキリーズの黄色い悲鳴が満ちている。現実には唯の箱だが、仮想世界である視野には、累々と横転し、のたうち回る不知火が映っていた。


即応性33%増だけで、こんなに!


だが、この即応性と、キャンセル・先行入力が使いこなせれば、光線属種の照射さえ躱せるようになる。
その明確な目標がわたしを高ぶらせる。

操作に対する緻密な動きは確かに気を遣うが、馴れてしまえば自然に出来るようになる。


そう、正に“覚醒”。

のたうち回っていたメンバーもやがてその操作に馴れてくる。
一騎、また一騎と立ち上がり、動き回る。





今まで束縛されていた行動が解放される。

思い通りに、と錯覚しそうなほど、動きに自由度が増え、動作が連続的に繋がる。

ハードウェアは大量に増えた処理をこなすCPUを強化しただけ・・・。



何よりも動作の終了を待つことなく続けて出来る入力、どんな入力を続けてもその終端と初端を滑らかに繋げ、動作を止めない。

今までの駒割動作が、フレーム数の多い動画になったのだ。

予定の動作と状況に齟齬が生じれば、即キャンセル。そのキャンセル動作中に、もう次のコマンドを打ち込める。



それは確かに戦術機の機動に於いて、革命的な事だった。


周囲の不知火が飛び上がりクルクルと回り始める中、私は一つづつ、基本の機動を確認してゆく。

午前中に見せられた鮮烈な機動、その機動を自分のコマンドで再現してゆく。
今までは不可能だった挙動が、可能になる。
夕呼が言ったとおり、行動の選択可能性は無限なのだ。



こみ上げてくる熱いモノを感じながら、私は、XM3の慣熟を続けた。





「・・・・御子神クン、聞いてる?」

『ああ。なんか問題でも?』

「このOSは、午前中に貴方方が使ったモノと同じもの?」

『パッケージは基本一つ。カスタムなんて作ってない。何故?』

「・・・反応速度がほんの僅かだけど、白銀クンの機動と違う気がするの。」

『・・・・・・・流石まりもセンセだな。1/100程度の違いなんだけどな。』

「つまり、違うの?」

『カスタムは作って居ないが、個々の“パーソナライズ”はされる様に組んだ。誰もがいきなり殆どの機動を反射だけで行っている武と同じ動きを出来るわけがないから。』

いつの間にか全員がおしゃべりを止め、聞き耳を立てている。

『・・・XM3には、モニタリング機能を付けてある。
これは操縦者の操作や視覚情報に対する反応速度とか、常に監視しているんだ。
元々機械の動きって言うのは、当然人間の反射速度より速い。操作に戸惑ったり、状況の変化に対する思考が入ればますます遅れる。
入力と動作の結果による反応速度、これを常に監視しモジュレーションを自動的に掛けることで、操縦者の意志に対し過剰な反応をしないように抑制が入っているんだ。』

「!! つまり今は始めたばかりで馴れていないから過剰動作を抑制している・・ってこと?」

『ああ。始め即応性だけで転んでいたからな、多分レベルはIまで落ちた筈だ。なので、あがき続けたら操作しやすくなっただろう?   
そこから操作に習熟し、反射の速度が上がってくれば、自然に機体の反射速度が向上する。

『・・・そんなOSを組んだって言うのか!?  御子神は!?』

『・・・兵器ってのは武みたいな人外だけが使うんじゃないんだぜ?   さっきからモニタリングしてるのを見ても、このA-01も相当にハイスペックだけどな。それこそ衛士に成り立てのルーキーから、百戦錬磨のベテランまでが基本同じ機材を使用する。
カスタマイズが許される存在など、ほんの一握り。
けれど実際にBETAの前面に立つのは、その殆どの“一般衛士”なんだぜ。』

「・・・・・」

『ソフトだけなら、どんな機能を追加したって、許されたCPUキャパの中でコストには関係ない。一度組んでしまえば、製造コストすら発生しない。
その中で、操縦者に逐次適応し、最適な反応速度を実現するアーキテクチャを組んだだけさ。』



私が危惧していたのは、遥かな高みにある白銀クンの機動を実現するために組まれたOSが、過敏すぎてルーキーには到底使いこなせない、ピーキーな性能になることだった。
兵器の性能を、最低限の操縦者に合わせろ、と言うのはその性能を大きく減じることになり、どこのメーカーも最高クラスの衛士に合わせてくるから、いつも訓練兵の教導には苦労する。それが常だし、ある程度の水準に達しないルーキーはその技能を伸ばす暇も与えられないまま、死の8分間を越えられない。
それが今までの現実だったし、それで仕方ないと思い込んでいた。

でも。

人が兵器に望まれる基準に達しないなら、兵器を下げればいい。練度をモニターし、反応が向上すれば、兵器の反応を追従させる。
正に多様な練度の兵士が使う兵器に求められる最大の命題。
ルーキーにも容易く扱えて、練度が上がればそれに連れて性能さえ向上する、広い間口と深い奥行きを有する理想的な性能を持たせてしまったのだ。
言うのは易いが、実現するには難い、遠き理想。

それを、たったひとつOSをくみ上げるだけで。


何という、思想。何という、深算遠謀。







驚愕を越えて、感動すらしてしまった。











『ちなみに、抑制レベルは5段階ある。Iが初心者。IIで一般。ヴァルキリーズに数人、まりもセンセもそろそろこのレベルになる。
レベルIVに達すれば、光線属種の照射回避が問題なくできる。Vで最高レベルの衛士だな。』

『白銀がそのレベルか・・・』

『いや。武は一切の抑制が入っていない。殆どの機動を脊髄反射だけで行っているし、BETAの行動予測から下手すると視覚情報を見る前に10を越える先行入力を駆使している。当然、これを普通の人が遣ると、気がついたときには壁に激突してました、ってことに成りかねない。
Vレベルの抑制も入っていないリミットフリー、人類の反射を超えるような速度を出す限定解除の人外さ。』

『『『『『『『『『『『『 !!!!! 』』』』』』』』』』』』 

『まぁ、反射速度なんで、早いからと言って強いわけではないが、強い人が、早いのは確かだ。』




白銀クンは結局とんでもないのね、と思いつつもう一つの疑問。


「貴方も白銀クンも改めてとんでもないのは判ったわ。で、あのハイヴ侵攻の時の御子神クンの侵攻速度を再現しようとしてみたんだけど、出来ないのよ。」

『・・・はぁ、見てただけでそこに気付くまりもセンセも殆ど神降りちゃってるな。
武の機動に目を奪われるから、まず気付かないんだけど。
そうだよ、電磁伸縮炭素帯の制御そのものを弄った。
戦術機のマグネシウム燃料電池は、跳躍推進剤に対してキャパが大きい。
炭素帯の制御も、見直せば無駄が多い。安全側に振っている制御量を変えれば、瞬発的には2倍近い速度が出せる。
但し、常に断裂のリスクが伴うし、炭素帯そのもののファームウェアで決められているので、OSじゃ変更出来ない。
俺が直接弄るくらいしか出来ない。
当面考えている戦術機の改修計画の1つ、と思ってくれ。』







とんでもないヤツ等。


これが白銀クンと、御子神クンなのね!


Sideout





[35536] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/06/19 19:23
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'12,10,21 矛盾是正
'15,06,19 誤字修正


Side 真那


昼食時のPX、冥夜様の突然の奇行、衆目の中で見知らぬ殿方に抱きつき、泣きじゃくるなど、失礼ながら、気が触れたか、とさえ思った。

直に神宮司軍曹が執り成してくれて、それ以上の事態には及ばなかったが、冥夜様とその相手をどうしてくれよう、と鬱々としていたのは確かだ。

それが席に呼ばれて、驚いた、驚愕した、吃驚した。


亡くなられたと思われていた冥夜様の“お相手”、白銀武殿がそこに居たのだから。

しかも、悠陽殿下の知己、御子神彼方殿と共に・・・。




無論、死んだ筈の者が突然現れたのである。

当然警戒すべき対象。
近年は再生化技術も進歩し、場合によっては他人の遺伝子で構成した“顔”さえ実現できるのだから。

しかし、その気配に鋭い筈の冥夜様が手放しで抱きついた相手。もし顔だけだったら、その“違和感”で即座に突き飛ばしただろう。
そして私の直感でも、紛れもない“武”殿の魂を感じる。
なんというかどこか女に弱い[ヘタレ]、的な?


平然と臆すること無くDNA検証を申し出たから本物に違いない。







そして冥夜様と訪れた私室。しかも上級士官用とは驚いたが。
そこで詳しい経緯を話してくれた。






横浜襲撃で逃げ遅れ襲われた武殿は、純夏殿を守ろうとBETAに対峙するも虚しく殴り飛ばされ、気を失い、そこで直ぐたまたま極秘任務中の部隊に拾われたらしい。
そして、目が覚めた時、部隊はまだ極秘任務中、意図せずその内容を知ってしまった。
しかも、殴られた後遺症か、襲われたショックか自分の名前も思い出せない記憶喪失。

当初部隊には、いっそ射殺してBETAの群れに放り込め、との意見すら在ったらしいが、流石にそれは出来ず、仮の名前を与えられ、その部隊に戦地任用という事になった。
それは、武殿を拾ってくれた衛士がその後の作戦行動で怪我をした際、武殿がいきなり戦術機を動かしてしまった、と言う事にも拠るらしい。
作戦後、拠点に戻って測ってみれば武殿の戦術機適性値は、歴代最高だったそうだ。
そのまま、簡単な訓練を経て、損耗率の極めて高い極秘部隊に所属となった。

そこは、所謂“幽霊部隊”。
戸籍や、国籍すらない者が寄せ集められた命を消耗品と割り切る非合法部隊だった。



「・・・簡単に言うと、ハイヴ威力偵察強行部隊。ハイヴの情報収集を目的とした潜入部隊です。オレが2年半で潜ったハイヴは、7つになります。」

「!!!」

最初信じられなかった。

ハイヴに潜ってもどってきたのは、ヴォールク隊の14名。
スワラージ作戦では具体的な数字はなくパーセントであるが、おそらくは一桁。
攻略に成功したここ横浜ハイヴを除けば公式記録[●●●●]ではそれだけ、なのだ。


しかし、武殿がそんな無用の嘘を付く必要もない。



昼間、訓練に入った冥夜様の様子も見た。

武殿も勿論正規任官をする為訓練兵として参加したのだが・・・、はっきり言って次元が違った。

体力・持久力は、極限まで鍛え上げた歩兵以上、近接戦闘は4人を同時に相手にして一蹴、2回戦では4人同時に、各々の欠点を指摘しながら教導までヤッてのけ、射撃も訓練に有りがちなクセを早々に指摘修正する。
遠距離狙撃に於いても、精度こそ珠瀬訓練兵に劣るが、照準までの速さと速射性では圧倒、“実戦”経験者として求められる最高を示したのだ。

・・・それが命がけの経験によって培われたものであることは、いやと言うほど理解できた。
そう・・・理解できてしまった。



「春先に行われた、大深度潜行作戦。・・・反応炉までの情報を探る作戦です。そこでこの極秘部隊は絶滅しました。オレ一人を除いて・・・。そのショックで、オレは、BETAに襲われた過去、自分の記憶を取り戻しました。」



過酷な、と言う言葉では到底足りない極限の任務。その中で生き残ってきた存在。




つまり、武殿の経験も、そして失って来たものも、すべて本物・・・。





「実は、最後の作戦の前後で、彼方と逢ったんです。勿論オレは覚えてなかったんですが、アイツは中学の時逢った事を自分の記録見て知っていて、そん時オレの本名がわかったんですよ。
尤もアイツも明星作戦でG弾に巻き込まれて、昏睡状態になった所を、知己の米軍関係者に確保されたらしくて。
その人、彼方の協力者らしくて、彼方になにかあったら、敵の多い国内より、国外に行くことにしてたみたいですよ。」

「・・・なるほど、彼方殿と、本家で在るはずの九條の確執は有名であったな・・・。生家の方が危険であれば、いっそ対立している米軍の方が安全と言うわけか。」

「そうみたいです。
で、その時に、オレが実現したいハイヴでの機動概念を可能とするOSのプロトタイプを作って貰いました。」

「OS?」

「ええ。それが在ったから、最後の作戦は完遂出来ました。・・・犠牲も多かったけど。
結局、部隊は壊滅、ショックで記憶は戻った、試作のOSは既存の物を遥かに上回る性能。その後リハビリしながら彼方とOSの完成に勤しみ、それを表に出すためにも、機密部隊から正規部隊に復帰、戸籍も戻す、って事で、・・・昨日戻って来たんですよ。」

「・・・そのOSと言うのは?」

「月詠さんに殿下への謁見を申し出たのは、その件も在るんです。
元々オレが所属してた機密部隊は、此処の香月副指令の直属部隊です。」

「!!」

「それで、正式任官に合わせ、今までの論功行賞、表立っては新OSの実現と言う事で、国連軍少佐になるんですよ、オレ。」

「「少佐!?」」

「ええ。彼方は技術少佐ですが。それで、ここで極秘計画直属の概念実証試験部隊を率いる事になります。その成果を、斯衛や帝国にも広めたいと思いまして。
・・・BEATから地球を取り戻す、その為の人類の剣として!」

「・・・いや、それは、しかし・・・そもそも香月副司令がそんな事を許すのか?」

「ああ、先生は外面メチャクチャ悪いですからね。でも目指しているのはBETA殲滅であり、情報を出さないのは、帝国内部に食い込んだ米国国粋主義者たちへの漏洩を防ぐため、と言うのは理解してくださいね。」

「!!」



・・・なるほど、この歳で少佐など務まるのか、と思ったが、最前線に於ける地獄の経験は武殿を一気に成長させたようだ。刮目に値する。

「新OSについては、試験部隊の責任者、つまりオレと彼方に一任されています。なのでその裁量で、自由に出来ます。
これが、新OSによる機動の一端。どうぞ真那さんの目で確かめてください。一応、真那さんが信頼できる範囲なら見せても構いません。

っと、冥夜は今度な。
もうすぐまりもちゃんと教導の変革始めるし、207Bの戦術機教導には、いきなりこの新OS【XM3】を使ってもらうから。」


データが収められていると思われるメモリを渡された。


「・・・ちょっと待て、武、それは武が教導を行うと言うことか?  というか神宮司教官をまりもちゃん?」

「ああ、まりもちゃん、神宮司軍曹は、さっきの試験部隊に所属してもらって、そこでは大尉に階級になる。・・・一応部下になるんだ。彼方は副官だけどね。」

「!!!」

「それで、真那さん。映像や言葉だけじゃ納得出来ないと思いますから、その内一度お手合わせしませんか?
それで、もし望むなら、第19独立警備小隊への、XM3導入も考えています。
・・・勿論武御雷へのインストールは、殿下の許可を頂いてからにしますが。」








・・・なかなかに横浜は面白い事態になっている様だ。

ただ冥夜様に望む道を進んで頂きたい、と思っていたが。

運命が動き始めた気配すら感じる。



神宮司軍曹をして、遥かな高み、と言わしめた武殿の技量、最前線のハイヴ威力偵察部隊で磨かれた技。
その機動を実現する新OS。

魔女とも女狐と呼ばれる香月女史すら認める者。




「・・・見せて貰おうか、その覚悟。」







流石、雷電様すら認め、冥夜様の伴侶に、と望んだ存在。

BETAから地球を取り戻すその魁とならんとするのか。




そうそう冥夜様?  本日の粗相、寛恕致します。

むしろ衆目に知らしめたその慧眼、天晴[GJ]でございますわ!    


Sideout




Side 武


大方伝えたいことを伝えた。
しかし、前の世界では、と言うか殆どの世界でもオレを疑っていた真那さんが、こうも簡単に信用してくれるなんて・・。
2、3かな、武家の縁者だった経験は。尤もその時はこの世界の記憶なんかないから、全部知らなくて、結局疑われたんだよな。

今の真那さんは、むしろ“元”の世界で、冥夜をけしかけてた、イイ笑顔の真那さんに近い?



「・・・武・・・ひとつ良いだろうか?」

「ん?」

「・・・その聞きにくいのだが・・・、純夏は・・・」

「ああ、冥夜、純夏とも仲よかったもんな。」

「・・・。」

「オレが殴り飛ばされたあと、純夏はBETAに拉致られたらしくて・・・」

「「!!」」

「その後人体実験とかされていたらしいんだ。明星作戦で横浜を奪還した時に、ハイヴ内で発見されたんだけど、今も意識不明でこの横浜基地にいる。極秘だから生存者扱いもされてないしな。」

「「!!!」・・・そんな・・・」

「・・・たださ! 彼方が持ってきた最新技術で何とか出来るって言ってたから、それが上手く行けば、もうすぐ覚醒出来るらしいんだ!」

「!! それは本当か!?」

「ああ!    彼方が約束してくれたからな。」

「・・そうか・・・・・・・。それは重畳。・・・ならば気兼ねなく同衾できると言うモノ。」



「・・・・・・・・え?」

ドウキン・・てナンデスカ・・?

オレの背中を冷たいものが流れる。
何、この雰囲気?   








「もう幼少[ロリ]の戯れではないのだ。既に齢も17、結婚もできる歳なのだ。」

「・・・・ちょちょちょちょぉ~っと待て、冥夜、落ち落ち落ち着け!」

「・・・落ち着くのは武のほうであろう?」

「あーーー、うん・・・」








しばらく黙考[ポクポクポク]閃光[ちーん]








「・・・・・あ~・・・、つまりそういう事?」

「・・・前々から真那に忠言されていてな、武は鈍い[●●]ので、一直線[ストレート]イケ[●●]、と。一度は七夜泣き伏して諦めたが、・・・・こうして運命のように戻ってきた今、もはや遠慮はせん。」


見れば、案の定月詠さん、再びのイイ笑顔。
GJ連発してる。








前の世界でも、桜花作戦の最後の最後、今際の際の極限状態で告白された。
その時は純夏に遠慮して、それでも伝えてくれた想い。


これは・・・。





「・・・少し、待って欲しい。もうすぐ純夏も目を覚ますし、何よりもBETAをどうにかしたい。」

「・・・純夏の件は了解する。お互い好敵手と認めた相手だ。抜け駆けはするまい。
だがBETAは、・・・一朝一夕に状況が変わる訳ではないだろう?」

「冥夜は衛士となってBETAを殲滅するんじゃないのか?」

「ウム、BETAを打ち倒し、この国の民を救いたいというのは本当だ。しかしそれがすぐに叶うものではない現実も理解している。せめて女の幸せくらいは求める余地位あろう?」






・・・無意識に使ったのかも知れない。

けれどオレは、その言語に衝撃をうけた。

せめて・・・。

あまりに刹那的なその単語に。

冥夜にすらそんな事を感じさせているこの世界。

必ず、変える!









「・・・年内。」

「え?」

「年内に世界を変えなければ、人類は滅ぶ。その為にオレは・・オレ達は戻ってきた[●●●●●]。」


「・・・・・・・・・わかった。それまでは待つ。しかし武は待つ必要はないぞ?  気持ちが決まったらいつでも言ってくれ!」





・・・躱しきれない。むしろ自分でリミット切った?

あれぇ?



・・・しかし何だこれは?

彼方のお陰で、初めて純夏が蘇生して普通に生活[バカップル]できそうだっていうのに、・・・修羅場[抑止力]





その時、ノックの音がした。


Sideout



Side まりも


ノックをすると、中から返事があった。

ドアを開けると、白銀クンだけではなく、御剣訓練兵と斯衛の軍服を纏った月詠中尉も居た。

「・・・これは失礼しました。」

微妙な雰囲気。
ナルホド、白銀クンの経緯を説明していたのだろう。

「・・・ああ、気にしないでいいですよ。オレがお願いしたんだし。こちらの話は、一応済みましたから。」

そう言われれば頷くしかない。




なにしろ白銀クンは、この中で最高階級の少佐殿、月詠中尉とて、文句も言えない。

「・・・で、どうでした?」

「・・・・」

手に持ったヘッドギアを渡しながら、周囲を気にする。

「・・ああ、別に構いません。なんだったら、真那さんにも体験して貰いたい位ですから。ここはプライベートなので、砕けてくださいね、まりもちゃん」

「・・・・・・はぁ、わかったわ。月詠中尉もこれが白銀クンの普段[デフォルト]なので、ご容赦ください。
・・・で、これ[●●]を訓練兵にやらせるの?」

「そうです。彼方に頼んで、作って貰いました。ついでだから、って5セットは作ってくれたみたいで、身体は動かさないから入院中の美琴でも使えます。
必ずまりもちゃんの確認を取れ、と言われましたが。」

「・・・・・・確かにあの娘達の足りていない部分が自覚できるわ・・・強烈に[●●●]、ね。しかも最後があれって・・・」

「・・・オレの前の部隊での、・・・・オレ自身の体験ですから・・・」

「!!! まさか極秘部隊でのっ!?」

「そうです。オレとCPしか生き残れなかった、オレが記憶を取り戻すキッカケになり、部隊が壊滅した最後の作戦。
もちろん、機密部分は全て消去して、機体とか不要な状況とか、個人が特定できないアレンジは入っていますが、基本オレの中では現実です。」



現実。



その言語に絶句するしかなかった。

なんという過酷な作戦。

たった1個中隊にさえ満たない6騎でのハイヴ威力偵察戦。
ヴォールクとは明らかに異なる巨大ハイヴは、フェイズV以上。プロトタイプXM3を搭載していたという不知火は、どれも練度が高く、個々が紛れもなくTOPGUNクラス。
しかし異常と言えるBETA密度に、1騎、また1騎と沈んでゆく。

これが現実・・・。





・・・そうなのだ。

あの娘達は、今話しを聞いている御剣含め、まだまだ甘い。
衛士になりさえすれば、自分の望む自分に成れると、勘違いしている。

だから、あんなにも偽りの孤高でいられる。
あれはただの排他主義[引き篭もりだ]


BETA戦は、衛士になった後、地獄が始まる。
それを認識していない、否、させていない。甘い訓練だけで送り出し、死の8分間さえ越せない新人を送り出す。
それが今の教導。

どんなに努力しても届かない現実。甘えの余地など入り込む僅かな隙間さえ存在しない過酷な状況。決して一人では足りない状況。
それをまず教えることが第一歩。







「・・・そうね、いいわ。明日、これを遣らせましょう。」

甘い訓練課程と、環境に緩んだあの娘たちへの、激烈なカンフル剤。


これで潰れる様なら戦場には立てない。
いや、むしろ立たないで欲しい、喪うだけだから。






「冥夜。」

白銀クンが神妙な御剣に告げる。

「・・・なんだ?」

「・・・・見せてやるよ、明日。オレが駆け抜けた地獄[ハイヴ]が、どんな所だったのか、を。」


Sideout





[35536] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/10/20 17:51
’12,10,04 upload
‘12,10,06 誤字修正


Side 夕呼


ノックの音に返事を返す。
どうせ此処まで来れるセキュリティパスの持ち主は、社と2人の新任少佐しかいない。
丁度、素子化の術式が一区切り付いたところ。

案の定、変わらず飄々とした男が入ってきた。

「・・・何か用?  丁度休憩しようと想ったところだから、珈琲入れるけど、要る?」

「ああ、チョットばかり内緒話。あと丁度いい、これは異世界の土産だ。」

「?  !!」

渡されたのはブルーマウンテン100%。しかも手煎りと書かれた重厚な缶。
プルトップを切って香りを確かめるが、近年ではかいだこともない芳醇ともいえる芳香。
極上の逸品に間違いない。

「こっちで言う天然物。ま、異世界産だけどな、武に珈琲好きだって聞いた。」

「・・・随分気が利いてるわね。
でもこんな物、所持品検査の時には持っていなかった筈だけど?」

「・・・ちょっと裏技。
そう・・・だな、一種のESPと言うか、正確にはPKの一種と捉えて貰うのが良いか。社とは方向性が明後日に違うけどね。なのでリーディングやプロジェクションは出来ない。
・・・そう言う意味ではハッキングは出来る、ってことになるかな。
詳細は、武にも言ってないし。」

「・・・成る程ね。電子操作系の能力者って方向ね。
でも良いの?  あたしにバラして?」

「此方が信頼しなきゃ信用なんて得られない。少なくとも俺は元の世界の夕呼先生を信頼していた。」

「・・・他の女と比べられるのは面白くないわね。」

「他の女じゃない。・・・魂魄は繋がっている筈だぜ。」

「・・・・」

茶化したアタシに平然と切り返しながら、てきぱきと珈琲の準備をする。
アタシはその作業を明け渡し、ソファに腰掛けた。

無意識領域の共有・・・。確かに繋がっていてもおかしくはない。





理論は完成したのだ。
早速、情事の要求かとも思ったが、そうでも無いらしい。



「で・・?  内緒話ってなによ?」

「あぁ、武のこと。」

「白銀?  なんか問題在るの?」

「・・・昨日はああ説明したけどな、事態はそう簡単じゃ無さそうだ。」

「・・・え?」

アタシはその含むモノに眉を上げる。





「今の武は何だ、と考える?」

「・・・元因果導体・・ってだけじゃなさそうね、その言い方は・・・」

「・・・俺の予測じゃ、少なからず近いうちに、この世界群は崩壊する可能性がある。」

「!?・・・どー言うこと?」

「・・・武が因果特異体[●●●●●]だからさ。」



沸いた湯をネル式のドリップに落とす。
細く途切れなく注がれる熱湯に、馥郁と言った芳香が匂い立つ。


「・・・・言ってみなさい」

「俺と武の居た世界を“元”の世界群とし、この世界を“BETA”世界群とする。
BETA世界群で鑑はBETAに捕まり、そしてG弾の効果も加わって元の世界群を此処と繋げ、そこから武を因果導体として引っ張り込んだ、これがBETA世界群の最も確率密度が高い事象で、此処までは一本道だ。」

「・・・」

「鑑が想いを遂げられなかった武の一周目の世界は、夕呼センセの言ったように閉じていて、武が死ぬたび特異起点、つまり昨日10月22日に戻った。
そして武自身は分けているが1周目と2周目の差は、1周目で鑑以外の誰かと結ばれたか否かの一点。記憶は似たようなケースがあって重複してるから、武自身数え切れていないが、当然かなりの数をループしている。
その中で誰とも関係を持たず、且つ第5計画に移行して直ぐ、何かの要因で早々と死亡した事で、漸く2周目の世界に繋がった。
それまでは鑑が女性関係を消去するのに、結局丸ごと記憶や経験を消していたが、それが行われなかった為に記憶と経験を引き継いだまま2周目が始まった、と言うわけだ。
ただ、その2周目も鑑に辿り着かなければ、同じ条件で起点にもどる。

つまり武は因果導体故に、このBETA世界に様々な確率分岐を発生せせる事無く、延々とループを繰り返したわけだ。

で、前回、遂に鑑に辿り着き、結ばれ、武は因果導体と無くなったことで、本来ある元の世界に戻る。」



話しながらもゆっくりと落としたドリッパーから、カップに注ぐ。


「因果導体が消えれば2つの世界を繋いだことが原因である事象が消え、再構成される。
少なくとも“元”の世界群は再構成されたはずだ。
因果導体を解かれ、大部分の武は戻ったからな。」

「それの何が問題なの?」


差し出されたソーサーを受け取りながら聞いた。


「その原因が消失したことで、この“BETA”世界群も再構成された。それが昨日、10月22日。」

「・・・・」

「・・・因果導体で在った武が影響したこの“BETA”世界は、因果導体の消失による再構成ではなく、そのまま未来に進む筈じゃなかったのか?」

「!!」

「事実、今回の武の傍系記憶には、“因果導体じゃなくなった”のに、留まり続けた分岐世界がある。
本来、この“BETA”世界は、2002年の1月2日、そこから確率分岐し、武の存在に関わりなく、それこそ残った“武”が死んだ後も続いていく筈だったんだろう?」

「・・・それが、“起点”に戻った・・・これは、本来有り得ないループ・・・と言う事ね?」


考えを巡らせながら、カップに唇をつける。

・・・香りそのものを飲むような体験。
鼻腔を満たす馥郁と、口腔を刺激する甘い苦みや僅かな酸味が混ざり合い、得もいえぬ快感として落ちていく。

甘い、と言えるほどの苦みに、頭の中がすっきりする。

・・・淹れ方が完璧よ、・・・・・良い仕事するわね、アンタ。




「・・・いろいろ傍証はあるんだが、・・・鑑純夏が途轍もない存在[●●●●●●●]だと言うのは同意できるか?」

「・・・・・・そうね。
無意識の狂気に近いとはいえ、目の前で死んだ男に会いたいからといって、隣の世界群から引き込んで、その相手を因果導体とし、自分と結ばれるまでループさせ続ける・・・。
その為に“世界”を閉じてしまうような存在だものね。
G元素やG弾の効果が在るとは言え、そのポテンシャルは計り知れないわ。」

「なら・・・その鑑に応えられるだけの武が、唯の一般人だと思うか?」

「!!」

「・・・夕呼センセのいう00ユニット適合可能性、実は武の方が高いんじゃないか?」

「・・・可能性はあるわね・・・」

「・・・と言うか、俺は逆に“白銀武”こそが世界震駭者だと思う。
恋愛原子核、とも元の世界の夕呼センセは呼んでたけどな、武に惹かれる女子は、総じてポテンシャルが高い。
ここの207BやA-01が00ユニット適格者候補を集めていると聞いているが、元の世界のクラスや学校にはごろごろ居た。」

「なによ?  恋愛原子核って。」

「前の世界の夕呼センセが命名した武の二つ名。
原子核に引き寄せられる電子の如く、女子を引きつける、って意味で。」

「成る程ね。ハーレムなわけだ。」

「いや、本人はその手の感情に鈍感で無自覚だっていうので、逆に始末が悪いんだがな。」

「・・・平和な世界ね。」

「ところが、言葉ほど安穏とした物でもない。
向こうの言葉で言うと、無自覚フラグ構築体質[エロゲ属性の一種[なんだけど、現実の物となるとギャグじゃすまない。
しかも、武の周囲に集まるのは、矢鱈ポテンシャルの高い娘ばっかり。
これが武がテレビタレント等有名人で、と言うならまだ解る。
なのに、偶々の生まれた土地や学校、つまり地縁や職縁で集まったに過ぎない一高校で、あたかも意図的に集められたように周囲に存在し、且つその殆どが武に惹かれるって言うのは既に異常。
夕呼センセやまりもセンセですら、その一端だからな。
実際、向こうの夕呼センセは、恋愛原子核と因果律との関わりを探っていた位だから。」

「・・・そんなに凄いの?」

「少なくとも夕呼センセは、ここのA-01部隊を、全国規模で集めたはず。
ポテンシャルの高い、00ユニット適合性という観点で。
けれど、元の世界では、今残っている隊員の殆どが、多かれ少なかれ武の近辺に存在していた。」

「・・・・」

「寧ろ鑑ですら運命的に武に引き寄せられた存在、と思われる。
そんな武がこの世界では、重い後悔を重ねながら、果てしないループを繰り返してきたんだぜ?」

「・・・つまり、鑑に匹敵する所か、凌駕する程のポテンシャルが、数知れないループで重積した後悔と願望が寄り集まり、強烈な“意志”として自らループ可能な存在に至った・・・と言うこと?」

「・・・・・まあな。
鑑と違い、G弾やG元素の補助はないからな。当然鑑以上のポテンシャルは必要だろう。
今の武は、主観記憶は、“支配因果律”に近いけど、肉体や経験は、むしろハイヴに潜り続けた“最強の衛士”さえ越えている。経験が全て畳み込まれてる様だ。
戦い続けた分岐では、やむを得ずG弾を使ったケースも在るらしいから、その影響も全く無いとは言い切れない。

因みに俺に付いても、殆どの武が戻った時消失する繋累にその反動を利用して“元の世界”群から、もっとも都合の良い存在、“武の[●●]無意識領域”にあるもっともチートな存在を、再構成する際に連れてきた、と言うのが妥当だろうな。
“武が”、とか言うとアイツの性格上悩みそうだから、説明の都合上“世界”が、なんて言っているが、本当に“世界”なんかに擬人化された“意志”など在るかどうかは、疑問。
・・・まあ無意識領域を“世界”と定義すれば、あながちウソでもないけどな。」

「・・・・」

「要するに・・・武は遣りすぎた。
鑑に至るのが遅すぎて、なのに諦めが悪すぎた。
アイツの無限にも思えるループ、その中で達した成果。
XM3、甲21号、桜花。この世界の存在、と認められてしまったから、一部分岐では残り続けた。
それでも尚、届かなかった世界。
そしてもとの世界に戻った武“群”も、ループの間に濾過された膨大な“想い”を全て虚数空間に残した。

過去のループで夕呼センセが武に言ったように意志の強さが世界をすら変える。


全ての記憶が持っていた、それぞれの“シロガネタケル”の絶望と後悔、皆を守れなかったという懺悔。
それは紛れもなくこの世界群のものであり、それが凝固して元の存在を再構成した。

それが今の“白銀武”だろう。

つまり、今の武は、 “この世界に認められた武達”を核に、虚数空間に残された、この世界に於ける全ての武の記憶、その集合体、といった所。

で、その膨大な未練の集合体である武が、今回のループを引き起こした。


それが・・・因果特異体[●●●●●]


・・・俺はそう考えている。」



彼方の言葉を反芻し、頭の中で構築する。

「つまり・・今回のループは、結ばれて力を失った鑑ではなく、白銀自身が望んだ、と言うことね・・・?」


喪ったモノが大きすぎるのか。
それ故に自らを捕らえてしまったのか。

直列に並んだループ世界での膨大な経験は、それに対する救いではなく、後悔と懺悔の蓄積。

死ぬ度にループする存在は、忘れ去ることで経験が蓄積されず、何時も大人になりきれない、割り切れない精神だけが虚数空間に蓄積されていく。

結局、幾多に渡るループですら白銀の望むようになった世界は一つも無いのだ。




この世界からBETAを殲滅したいと望むのは歓迎だし、一向に構わないが、その“過程”に固執されたら、厄介だ。
飽くまで“BETA”駆逐による人類の永続が目的であり、その完遂の為に必要な犠牲なら、迷わず選択する。


基地の綱紀が緩んでいるなら、再度の捕獲BETAとその開放も実施する。
それでまりもが再び死ぬことになろうとも・・・。

これまでもそう選択し、推進してきた。
結果的に死に追いやった部下も既に一桁や二桁ではない。
ヴァルキリーズだって、それが必要ならば総て00ユニット化する。

その覚悟は変わっていないし、変えられない。
それこそが世界を救う事を目指したアタシの覚悟だから・・・。






「・・けど、それが何故世界の崩壊に?」

「・・・そもそもループってそんなに都合の良い事象なんだっけ?  延々と同じ時間を繰り返す世界が・・・。」

「・・・・因果世界で時間概念は無意味、だと思うけど?」

「数多の世界群の中では、総じてそうだろうな。けれど、世界は隣の世界と何の繋がりも無いのか?」

「・・・」

「少なくとも元の世界群と、BETA世界群が似ている、と言うことは、そこに超次元的な繋がりがある。武が因果導体であった繋がりほど、明確で強固ではないにしても・・・。
世界間が遠く離れるほど、繋がりも薄れその類似性は薄くなるだろう。

その似たような世界群の中で、トポロジーが完全に閉じ、周囲との繋がりを無視して巡り続ける世界が在ったとしたら?」

「・・・・歪が溜まって来る、という訳ね・・」

「それでなくとも武が関わったこの“BETA”世界は、周囲の世界群に対し、かなり“遅れている”。
一方で“元”の世界は、このあと滞りない未来に進むだろう。
でもこの“世界”は?」

「・・・すすまない、いえ、すすめない・・。
・・・つまり白銀が無意識でもループさせる力を持っていた場合・・・・・・白銀のループ条件を解消しないと、ループが発生し、時間弾性が周辺世界との歪に耐えきれなくなったら、この世界そのものが崩壊する、ということね・・・?」

「・・・時間概念がどの程度歪みに影響するか、によるな。
けれど、正直俺自身は因果導体でも特異体でもない存在だからな。
今回は武の無意識願望が入っていたので引っ張られたが、次のループ先で存在できなかった場合は、以降数式回収が極めて困難、と言うことに成りかねない。」

「・・・そうなれば、いつかは歪が破綻する、のね・・・。」

「いや、時間歪みが存在しなくても、その状態に陥ったとき、この世界群のトポロジーは、白銀武に付いて完全に“閉じる”。」

「・・・」

「完全に閉じた世界、前に進まない世界は、その存在意義[●●●●]すらあるのか?」

「!! トポロジーの破綻!?」

「・・・もう一つ、その無限ループが始まったとき、武の精神が持つと思うか?」

「!!!」


「・・・アイツは今回、メインとなる1周目と2周目の記憶を主観記憶、他を傍系記憶として区別している。傍系記憶は、謂わば本や映画で見た他人の人生、みたいな扱い。
けれどそれは、アイツの無意識による心理防衛措置だろう。全部のループを“自分”のことだと認めてしまったら、きっとアイツの心は保たない。
この世界にとっては再構成で、繰り返したループは無いことになっているが、アイツの記憶には全て在って、それは全て本物だ。
取り敢えず今回は、“まだ”喪っていない、やり直せるんだ、と意識誘導したが・・・今回失敗してループした先では今回の記憶も全て、今度は自分の事、として残る。
それを繰り返せば、傍系記憶もやがて自分の事だ、と認識される。

それじゃなくても一度喪った記憶が在るだけに、その喪失感を覚えているだけに、再び喪うことに対して過剰に臆病になっている。

そこで繰り返される喪失と絶望。そこに・・・出口は、ない。

・・・・・・・・・・少なくとも、俺はやだね。」


・・・同意だわ。
あの過保護な白銀が、再び喪うことには、耐えられないだろう。
当然そうなれば、白銀の精神は破綻し、世界をループさせている因果特異体そのものが崩壊、世界はその暗黒に飲み込まれるコトは間違いない。


・・・時間弾性限界、トポロジーの破綻、そして白銀の精神崩壊。
・・・何れもこの世界の崩壊には違いないのだ。

そして、それが現実の有り得る未来。



「・・・・・・つまり、どっちにしろアンタが存在する今回がラストチャンス、ってことね。

・・・問題の白銀のループ条件は・・・」

「・・・まあ、それがアイツの後悔と未練、懺悔だから。

アイツの未練の元、仲間の「“全員生存”、だろうな(ね)」





・・・否定できない。
言われればそうだ。

白銀も、鑑と同じにBETAにも捕縛された個体。
そして、鑑と共に最後まで残された固体[●●●●●●●●●●]

喪った存在を隣の世界群から引っ張ってくる鑑も凄いが、それに応え続けた白銀も只者ではないと言われれば、そうなのだ。





ため息付いて再び珈琲に口を付ける。
こんな重い話をしていても、瞬間珈琲に意識を引き摺られるほど、芳醇。

こんな話の共では、最高の珈琲が勿体ない、・・・いや、寧ろ救われたのか。

ほっと息を付ける自分が居る。








「・・・・・・・・いきなり難易度上げてくれるわね。」

「問題はアイツの意識で言う“仲間”の範囲。
当面、207Bと鑑。
なんだったら、ハーレムに誘導してやる。
あとはまりもセンセと夕呼センセ、社。此処までは確定。

後は喪ったA-01ヴァリキリーズが微妙。特に問題は前回武と面識が無くて、今回は“まだ”生存しているメンバー、だな。
守りたい対象をあえてメンバーから外すのもありだが・・・戦力の低下に繋がるし、それで武が納得するのかは不明。」

「・・・つまり、大枠の歴史を変えずに、達成条件をクリアする必要があるってこと?」

「・・・大枠はすでに変わってきているからさほど問題ないだろう。
それでも無理ゲーぽくて激しく厭だけど・・・。

思うに、兎に角甲1号と21号をA-01と記される死者を0でクリアできればOKだろうな。

戦闘自体に死者0等有り得ない、って言うことは理解し納得してるしな。
先々検証は必要だが。」


そして一息つくと真っ直ぐ見つめてくる。白銀程華は無いが、端正と言える相貌。
真剣で理知的な眼差し。底知れない深淵を湛えた瞳。

・・・結構、好みなのよね、と思う。

悔しいから言わないけど。



「・・・この世界に、この世界の人間として、武の存在は迷惑か?」

「・・・そうね。
その仮説が正しければ、知らぬ間に閉じているループ。個人の死に世界が引き摺られて、挙げ句の果てに世界が消えるかもしれない存在・・・。
迷惑っちゃ迷惑だけ、どうせあと10年と言われる人類だから、個人的には気にしないわ。

寧ろ、白銀が因果特異体で因果に直接干渉出来るなら、一発逆転も可能って事よね?
ラストチャンスみたいだけど、本来人生なんか常に一発勝負だし、もし白銀の願うような形であ号を倒せれば、閉塞した今の人類に、初めて本当に未来が開けるわ。」

「・・・」

「・・・けど、因果特異体、とはね。
アンタ、同じ世界出身の白銀にすら内緒にしてアタシには言う訳ね。」

「それで世界が滅んじゃ、本末転倒。
そして、武本人が知ってしまうと、アイツの性格上なにかと弊害が出る。と言って、司令官である夕呼センセと共闘しておかないと、色々な意味で拙そうだからな。」

「・・・アンタ・・・随分大人ね。ループした記憶のあるアイツより随分判っているじゃないの。
・・・比べてアイツは何度もループしてるはずなのに未だ青臭いったら。」

「・・・こっちはループはしてないがいろいろと、ね。」


やはりコイツとも共犯者なわけだ。
BETAを蹂躙する技術を有していたとしても、白銀と言う縛りを開放しない限り、この世界に未来はない。
それを為すのは、ここ横浜でしか出来ない。


けれど、これで二十歳ね・・・。

“元”の世界のアタシがコイツを認めたのも理解できる。
青臭い白銀では、到底届かないほど、狡い“大人”だ。







「・・・で、白銀、或いは世界が選んだお助けキャラは何してくれるわけ?」










「センセ、それ判って言ってる?」

「なぁに?」

「・・・・ここに来てから俺がしたことは、情報の収集と分析、それに基づくプログラムと戦術構築だけ。
・・・・本来十全な00ユニット[●●●●●]なら楽にできる[●●●●●]レベルだよな。」



「・・・・・そうよ・・・・。

アタシが真に00ユニットに求めたのは、それ[●●]だもの。
世界規模のハッキングとクラッキングによる情報の収集・統合。
BETAの情報鹵獲による戦術構築。
無意識領域情報取得による技術進化。
前の世界の鑑では、そもそもBETA由来の雑多な問題でその10%も達成出来なかった見たいだけれど。

アタシの目指した理想を体現して呉れちゃったのが、御子神彼方、・・・・アンタ[●●●]よ。

こんだけ成果見ちゃうと、リスクが無いなら、それこそA-01全てを00ユニット化したい位だわ。

00ユニット脅威論が再燃するかも知れないけど。


それを、BETAも居ない世界で単独で、しかも安定してリスク無く実現している、それがアンタの最大のチートね。」


アタシは、甘く鋭く、彼方を睨む。
・・・コイツにそれをアタシに教える気が在るのか無いのかも判らない。

・・・・・・勿論逃がす気など、サラサラ無いわ。




アタシは立ち上がると彼方の横に腰掛ける。
彼の頬に指を添え、動揺もしない涼しげな口元に、軽く自分の唇を押し当てた。

・・・昨日会ったばかりの男だというのに。
まあ、今朝は理論完成にはっちゃけて、既にキスの雨降らせているけど。


「・・・最初あたしを望んだとき、所詮下衆か、と思ったけど・・・確かに悪くないわよ、アンタ。
元の世界のあたしを墜としたんなら、ここでも墜として見せなさい。」

彼方は対価としてアタシを望んだ。
言葉遊びレベルの、一種譲歩であった事にも気付いている。
小狡いコイツは分かっていたのだろう。・・・自分が、アタシの興味の対象であることを。












当初の交渉で、彼方に比べ一方の白銀はアタシにとっても必要と思われる事しか要求しなかった。

アタシの野望、この絶望的な状況からBETAを駆逐し、人類を永続する目的を果たす。
そのBETA戦略的に、白銀はアタシが喉から手が出るほど欲しい情報を暴露し捲って、実際の要求は本当に些末だけ。無欲すぎて逆に裏を考えさせずにおかなかったのも事実。
旨すぎる話には、必ず落とし穴がある、そう思わずには居られなかった。

今確かに、巨大な落とし穴、此処に来て難易度を大幅に上げてくれちゃったのだが・・・。
・・・これは本人の意図ではないので文句を付けても仕方ない。


ループによる未来情報は白銀しか持っていない。
その中には、いっそもう00ユニット無駄ぢゃね?  と思うような情報も存在する。
BETAの指示構造や、ODL通信など。
他にも説明し切れていないが、多数在るのだろう。それが判って居る今となっては、当初考えていた使用法だけでは、00ユニットの情報流出のリスクに対し、旨味が少ないのは確実。

それもこれも全て白銀情報。

これだけの戦略的に重要な情報をぽんと出しておいて、今更第5計画の罠も何も無いとは思うが、清廉すぎる相手とは、交渉しづらいのも確か。そこには付け入る隙もないから。


それ故に、彼方のあけすけな、平然と女を要求する俗物根性が、逆にアタシにとっては当初信用が出来た。
差し出された譲歩、というのが、アタシの深読みしすぎだったとしても。
対価に、他でもない自分を選んだ、と言うのが自尊心を満たした、と言うのも在るかも知れないわね。




そして、白銀の求める理想。それを叶えるためにのみ白銀武は此処に在る。
しかし醒めた目で見れば、それは余りにも青臭い理想。
理想を持つのは大切だが、固執されたら厄介でしかない。

対して彼方は極めてリアリストだった。
現実が俯瞰できている。白銀の足りない穴、アタシの足りない穴を即座に見抜き、予測し、そして対処する能力もある。BETAを凌駕できる技術も既に提示された。何れ戦略レベルまで上げてくる。
更には過剰な技術提供がリスクを高くすることも理解している。

それでいて素直な自身の欲望も隠さない。
それは、生きることに達観も飽きもしていないと言うこと。欲のない聖人なんかの相手はまっぴらだ。


実際にコイツの理論に対する示唆は的確で、渡された数式は見事にアタシの言いたいことを表してくれていた。
大本の因果律量子論は階層化による僅かな修正が入るだけで、大筋は変わらない。
しかし、素子化という段階では、彼方の示唆した階層化と確率密度が大きく寄与する。
その整理も粗方付いた。
すでに理論式は完成し、あと少し展開すれば、設計図に落とせるところまで来た。
浮かれてちょっと年下に靡いても仕方ないじゃない?




オルタネイティヴ4の完遂に、それこそ命を賭けているアタシにとってその推進の為なら、自分の身体など差し出すことは些末だった。
それで数式の完成が出来ると言うのなら、どんな嫌いな相手[キモデブ]にだって股を開くことも厭わない。
そう言う意味では、彼方が寧ろ好みの範疇に入っているのは嫌悪感が沸かない、と言う意味でもラッキーだった。


なぜって。
00ユニットという物の実現は、戦略的にはBETAに対するコミュニケーションの手段であるが、それだけでは無い。
アタシにとっては因果律量子論という異端の理論を実証する存在[●●●●●●]、そのものでもあるから。
BETA情報の先取りが出来たとて、必要性の有無抜きに完成することが、アタシのエゴ。







そして今彼方に指摘されたように、00ユニットにはもう一つの意味があった。
その可能性も、白銀の話から確証を得ていた。・・・・つまり無意識領域に至る[●●●●●●●●]こと。

まあ、それさえも察知していたのか、足下を見るように対価に女を指定した時点で当初彼方を俗物、とも判断したわけだが。






















そしてアタシからのキスに、どんな反応をするかと見ていたら、流石にちょっと吃驚した顔をした後、優しげに微笑んだ。

・・・・・・やるわね。

身体の要求も、実は少しはポーズかとも思っていたが、今度は彼方からキスを落としてきた。


少しだけ開いた唇から、浅く舌を絡めたが、深追いすることなく直ぐ離れる。
一応、求められているらしい・・・。
・・・悔しいから絶対言わないが、久々の感覚に腰が甘く痺れた。



「・・・光栄だな。じゃ、ま、色々遣るさ。」

彼方は薄く微笑むと、更に深いキスを落とされた。







世界ならぬ“白銀”は随分と都合の良い人間を引き込んだことだ。

白銀に感謝しなきゃいけないかしら・・・?


Sideout





[35536] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/02/08 11:06
'12,10,09 upload
'15,02,08 誤字修正


Side 冥夜


コレは何だ?
コレが武の辿ってきた道、武の体験だと言うのか・・・・・?

こんな・・・・こんな事が現実に・・・。















今朝は予定していた座学内容を変更し、そのまま鎧衣美琴の入院しているB5フロアの入院施設エリアに移動、個室に赴いた。
武と鎧衣訓練兵の簡単な紹介の後、神宮司教官が言われた。

「今回、新たな衛士訓練の一環として、衛士訓練兵たる貴様等の目指す“衛士”と言うモノを知って貰う事にした。それ故本日の教習内容では、今まで掛かっていた機密制限も一部解除してある。
当然、貴様等にとっては全てが初めての体験に成るだろう。

このプログラムは、白銀武が前の部隊を去ることと成った最後の作戦を元に構成されている。
今回はその白銀の“体験”をそのまま“追体験”してもらう。
無論、制限以上の機密に関わる部分は、削除されたり、隠蔽されたり、変更されたりしている。
・・・が、基本は白銀が潜り抜けてきた修羅の道だ。

これから総合戦技演習突破を目指す貴様等に、今一度衛士になると言うことがどういう事か、考えて貰うために実施が決定された。

その事を忘れずに体験してこい。」

「「「「「 了解! 」」」」」


その言葉と共に、目まで覆い隠すヘッドギアを渡され、装着するとそれぞれ用意されていたベッドに横になる。
鎧衣も、皆も同じ。


そのまま待つこと数十秒。動いている周囲の雑音が収まると共に、それは唐突に始まった。




一瞬、目を閉じていたにも拘わらず、視界にノイズが走り、目前に視界が広がる。

『・・・これは、仮想現実[VR]シミュレータと言う。
通常の戦術機シミュレータでは、戦術機外部の地形状況や、BETA・僚機の動きを視覚・聴覚・加速度情報として再現しているが、このシステムでは、外部の情報を全て神経に直接刺激として与えている。
故に視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚までリアルに再現出来る。

今、貴様等は不知火のコックピットに座っている筈だ。
そして貴様等の目の前には、フェイズV以上の、とあるハイヴの突入抗がある。

勿論、これは“追体験”なので、白銀が捉えた五感を再現している、が、勿論思考や感情を再現するものではなく、また能動的な操作や変更は出来ない。』




まず驚いたのは、そのリアルな世界だった。

視覚、聴覚、触覚、そして嗅覚や味覚さえある。
握ったレバーの固い感触、戦術機の“匂い”、強く噛み締めた唇の、微かな鉄の味すら感じる。
勿論コックピットに鏡など無く、網膜投影の中のモニタもコミュニケーション用のウインドウは開かず、サウンドオンリーに成っている。これは恐らく機密対処なのだろう。
それ故VRの中の自分の顔は確認できないが、視界に入る強化装備に見慣れたはずのふくらみは無く、腕も男性の筋っぽさがある、と言うか間違いなく武の腕だ。私が見紛うワケがない。


そして網膜投影に映るレーダーには、5騎の僚機。自機がM01-ω00、隊長機がM01-α00、以下M01-α01、02、M01-ω01、02の2個小隊からなる中隊編成。

本格的な戦術機演習については総合戦技演習合格後だから、戦術機特有と思われる細かい事は判らないまでも、知識が皆無という事でもない。強化歩兵装備等でも、同様なフォーマットの網膜投影が行われる。


『本作戦は、“銀河作戦”。

目的はハイヴ反応炉区画への到達による情報収集。特殊な情報収集ユニットが必要であり、それはメビウス1である白銀機、つまり貴様等の機体にしか搭載されていない。その直衛にメビウス中隊5騎が随伴する。当然情報を持ち帰るためにメビウス1の帰還が作戦の成功条件となる。』

「「「「「・・・」」」」」



・・・ハイヴ潜行威力偵察作戦。
当然公開されていない極秘作戦。
私とて、昨夜武に聞き及んでいた故今更驚かないが、初めて聞くだろう榊達の驚愕が目に浮かぶ。


成る程、この“追体験”なら、神宮司教官をして遥かな上と言わしめた武の実力も“体験”出来る訳か・・・。


『今は、私の声が届いているが、ハイヴ突入と共に、生身の感覚は全て遮断され、貴様等はVRの世界に完全に入り込む。もちろん、接続中貴様等のバイタルはモニタリングしているから、万が一危険な状態に陥ったら接続を切る事となる。
・・・それ以外は、作戦終了まで体感時間で約2時間、離脱は出来ない。

細かい質問は、後で受け付ける。


それでは、・・・・・・・・地獄へ行ってこい。』


神宮司教官の声と共に、機体はハイヴに突入した。









仄蒼いハイヴ内に突入した6騎、そしてその直後、そのスタブの内壁に張り付いていた醜悪な物体が一斉に蠢き始める。


・・・・これがBETA!!


態と嫌悪感を抱かせるようにしたとしか思えないような、毳毳しい配色。
おぞましさをかき立てるだけの、粘着質且つ無機質な動き。
生理的な嫌悪しか湧かない笑みを貼り付けたような、頭部と思わしき部位の表情。




『スルーするぞっ! 装備・弾薬の消耗を最小限に抑えろ!!』

メビウス0:α00が中隊長の支持が飛ぶ。

『・・・必要な排除はする。』

すかさず揶揄を入れるメビウス3:α01。

『・・・・・・ったく。少しは控えろメビウス3。』

『・・・それでBETAが退くならな。』


あからさまな舌打ちにも、武を含め他の4人は何も言わない。
今の時代には珍しく、この中隊は全てが男性だった。


『・・・行くぞっ!!』








そして瞠目する。

・・・・・・何という入力速度!!
其れによる自機の、閃光の様な切り込み。

長刀と突撃砲を携え、地面の見えないBETAの海に突っ込む。
襲い来るBETAを躱し、跳躍、その僅かに空いた隙間に機体をねじり込む。


・・・一重の極み。

相手の攻撃に対し、大げさな回避行動を取らない最小限の見切りが、反応の自由度を増やし、隙間のない死地に新たな活路を切り開く。


躱し、躱し、躱し切り、どうしても躱せない時のみ、切り払う。
其れすらも最小限の動作。
力任せに叩き切る、のではなく、円を描く長刀の、その切っ先の軌道に斜めに滑らせる様に撫で斬る。
刀に負荷を掛けない、日本刀の描く反りを有効に使った理想的な当て方。

時折、36mmを単射。
それは的確に蟹の様な大型種の、貌に見える部分を潰す。

一瞬、その意味が判らないのだが、2,3挙動先に、その動きの鈍った大型種の背中を足場にしたりする。





勿論BETAそのモノをこれだけ間近に見るのも初めてだが、戦術機による近接戦闘を見るのも初めてだ。


しかし、その技量は・・・・。


到底殲滅不能と思えるBETA密度。
単純戦力比で対抗するには、1個大隊以上が必要となろう大群。



だが、武は単騎でもその海に飛び込み、接敵数を周囲に絞り込み、そこに最小限の穴を穿つことで、前進し侵攻を深める。
その速度が尋常ではない。
光線属種が照射をしないと言われるハイヴ内、長駆となる噴射飛行をすれば距離も時間も稼げるが、限り在る推進剤が瞬く間に底をつく。
なので、主脚移動を基本としながら、驚くべき速度で侵攻していく。

そうすることで、BETAの物量を後方に置き去りにし、無力化する。
追撃しようにも、そこにも健在なBETAは残っており、それ以上接近できないのだから・・・。



勿論、今までそんな戦法は聞いたこともないし、出来るとも考えていなかった。









これが武の力!

その機動が尋常ではないことは、見ただけで判る。
もはや何をしているのかさえ判らないようなコマンド入力。BETAの動きを予測しているとしか思えない様な予定調和にも思える先読み。

自分が見た、過去のどの衛士よりも、その機動が滑らかで速い。






そして、周囲を見ればメビウス小隊のメンバーも、それぞれが百戦錬磨。
単純突破力では武に劣るかも知れないが、武の突破によって誘引されたBETAの隙を旨く使い、武ほどではないまでも、見事な機動を駆使し、それぞれが最小限の消耗で、BETAの隙間を縫ってくる。
・・・・・時に、相互扶助さえしながら。

視界に入る範囲の印象では、α01:メビウス3とω01:メビウス2は近接戦に長け、武に次ぐ突破力を有する。メビウス3が総合体術的な機動でBETAを翻弄するのに対し、メビウス2は直線的な閃剣でBETAの海を割る。

α02:メビウス4はその射撃精度が尋常ではない。自機がBETAを躱し、次の挙動に入るその一瞬の“間”で、先行する武の頭上に振ってくる中型の蜘蛛の様なBETAを打ち抜いている。
武が一瞬の注意を上に向けた瞬間、その胴体が打ち抜かれる光景が何度か繰り返されるのだ。

α00:メビウス0は隊全体の進行度と、振動探知による戦域BETAの動きを見ながら、細かい指示を飛ばし、ω02:メビウス5は直感的な危機察知なのか、偽装抗の存在や、進路上の危険地形を示唆する。

確かにこの乱戦に於いては陣形など在ったモノではなく、武、そしてメビウス3は突出しがちではあるが、何れもメビウス0の想定範囲であるのだろう。手数・弾数も確かに多いが、それで後続の進路が楽に成っていることも確かなので、皮肉以外の𠮟責は飛ばない。






・・・第一印象で感じた空々しい雰囲気など無く・・・・・・・羨むような理想的な中隊・・・・。












しかし、その一方で、喜悦も生じていた。

人類は・・・、戦術機は、此処まで出来る!
“此処”まで技量を磨けば、中隊規模でもハイヴ侵攻が可能。


私は、その事に、逆に“希望”を見いだしていたのだった。


・・・・・・そこまでは。












反応炉に通じる“横抗”。

そこに、“隔壁”が2つ、存在していることはハイヴの調査から判っていたらしく、その開閉装備も持参していた。但し、その隔壁に開閉作業に掛かる時間は、約600秒。さらに隔壁が潜り抜けられる様になるまで、約300秒が掛かる。
一方でその第1隔壁が存在する“主広間”には、音紋分析から推定される数は15万のBETAが犇めいていた。・・・デタラメな数字。一国が陥ちるほどの数。

それを6騎で突破しようというのだから。



今までの様に、闇雲に突破しても、隔壁の開放に掛かる15分の時間は稼げない。
BETAの海に沈むだけである。

そこで隊長から提示された作戦は、戦術機の機動によってBETAを振り回すモノだった。



まず、主広間の入り口で、全開戦闘。主広間内のBETAを全て誘引。
全体を半分よりこっちまで引きつけたタイミングで、噴射跳躍を用い一気にBETA群を抜け、第1隔壁まで到達。
そこでメビウス5とメビウス4が隔壁解放作業、残り4騎が、UターンしてきたBETA群を誘引しつつ再び主広間入り口に戻る。
主広間端の底部にS-11を設置、BETAを誘引しながら4騎は入ってきた横抗に退避。
メビウス5とメビウス4が戦術機が通れる大きさまで隔壁が開き、第2隔壁の解放に先行した段階で、S-11を起爆。主広間内のBETA一気殲滅を謀る、という内容だった。


無論、異論はなく、その妥当性を確認すると、互いに装備を調える。
明らかに素晴らしい作戦、と思えたそれは、しかし主広間に突入した瞬間疑問に変わる。、

これを陽動するのか!?





主広間は、正しくBETA地獄だった。


全ての壁面を埋め尽くすBETAは、既に“一面”ではなく、何層にも折り重なって存在し、互いの脚部が区別できないほどに蠢いていた。
それが侵入者である自分たちに向かって押し寄せる様は、まるで主広間の壁自体が内臓のように収縮し、迫ってくるような感覚。

急速に潮が満ちてくる浅瀬に取り残された様な焦燥感の中、目に見える範囲のBETAを殲滅し、そして其れに倍々するBETAを引きつける。

接敵すれば足場が確保出来ない。
噴射でホバリングしようにも、天井からBETAが“塊”で降ってくる。

空間を見つけ、大型種の背を足場にしながら擦り抜けるが、脇を落ちてくるBETA塊から、飛びついてくる蜘蛛の様な中型種、大型種の背にも無数の“腕”が伸び、一度それに捕まったら、確実に“沈む”。









それ故、メビウス0からの合図と共に、噴射跳躍でその“地獄”を一気に突き抜けたときは、全身から力が抜けた。
その時になって背中から踵まで、背面の神経がビリビリと震え、肌が粟立っている事を、ようやく認識する。







しかし、第1隔壁にたどり着いた時、振り向いた先には、再び転進を始めたBETA群。

今度は此処であの群れを引きつけなければならない。



その進軍してくるBETAの波頭が、津波のように徐々に高まっていく。


先に入口方向に誘引した時、一様に散っていたBETAは主広間の入り口に殺到した。
当然足の早いBETAが先に到達し、足の遅いBETAが後方に取り残されながら入り口に向かっていた。

それが今転進した為、最後尾から一気に先頭になった足の遅いBETAに対し、後方になった足の早いBETAがそれをを乗り越えるようにのしかかる。
そして管状の広間に於いて、それは底部だけではなく、壁や天井に於いても同じ現象が生じていた。

結果それはBETAの波頭を高く盛り上げ、距離800を切るころには、最後の隙間すら消え、完全に主広間におけるBETAの“壁”、そのものとなって迫りつつあった!    





『混乱のマージンを取って600まで引きつける!
BETA壁突破後、端部底付近へのS-11設置は俺がやる。
メビウス5は隔壁が必要量開く3分前に通信、乃至“黄”の信号弾で、準備完了を通知。

陽動班は、入ってきた狭路に退避して耐爆に入れ。工作班は隔壁が開き次第横抗侵入し、メビウス5は第2隔壁の解放作業に入り、メビウス4はこちらに知らせてくれ。
通信が繋がらない場合は、“赤”の信号弾を狭路内に打ち込んでくれ。それが済んだら隔壁横抗側で、耐爆姿勢。』

『『『『『 了解[ラジャー] 』』』』』

『ここが正念場! 行くぞ!!』



陽動班は、BETA誘引のため、BETAの壁に無差別攻撃。
勿論、そんな攻撃で容易く崩れるようなBETA密度ではなく、その圧力は恐ろしいまでの地響きとなってハイヴ全体を振るわせているかの様だった。





『600!!』

その合図と共に、4騎が翔た。

四方に散った“目標”に、不自然に“壁”が震え、示し合わせた様に同時に放たれてた120mm炸薬弾が中央少し上部、尤も“薄い”部分で炸裂する。
完全に閉じていたBETAの“壁”の、その部分がほんの僅かだけ崩れ、向こう側が見えた。


その僅かな隙間を縫うように、一気に翔けた4騎は、衝突するとしか思えなかった。

しかし恐らくは1m以下、もしかすると数cmというタイミングとクリアランスまで、4騎は一瞬収束し、そして同じタイイングで散開した。


戦術機の噴射跳躍による超高度なアクロバット飛行でも見られないような、4騎同時の1点突破。


しかも示し合わせた様な全騎の、続くBETA壁背面への一斉掃射に上部のBETAが巨大な塊のまま落下し、下部のBETAを盛大に巻き込んで渦巻く。



連鎖する様に尚も五月雨のように降り注ぐBETAに、僚機の姿すら見失いながら、躱し、掃射し、切り飛ばし最大限誘引する様、攻撃を続ける。




残弾は既に半分を切った。推進剤ももう4割しかない。
自機である武機は脱出用に推進剤増槽を付けており、兵装は僚機より少ない。
長刀にしたところで、いくら負担の少ない切り方をしていても、10万を優に越えるBETAの中で戦っているのである。耐久度の低下は、推して知るべし。









・・・・・・これが、ハイヴ。

これがハイヴ侵攻戦。


ハイヴがBETAの巣であり源である以上、ハイヴ殲滅は人類永続の必要条件である。

それは理解しているし、いずれはそういう事もあろう、位には考えていた。


しかし・・・。

・・・衛士に求められる作戦とは、こんなにも厳しいモノなのか・・・。

これが、自ら目指した“衛士”なのか・・・・。













武は、漸く降り掛かるBETAを振り切って、豪雨の範囲を抜ける。

噴射剤節約にすぐ底部に降りると、そこにメビウス2と、メビウス3も居た。既にメビウス0はS-11設置作業中らしい。





目前で渦巻くBETAは、それ自体が集合体となった巨蛇の様にとぐろを巻き、そしてそれがそここで崩れ、再びこちらに向かって進軍を始める。

BETAそのもの1体1体の脅威は、そんなに大きくない。
長大な足を持つ超大型種でも無ければ、戦術機でも十分圧倒できる。
しかし、BETAには数万、数十万という物量がある。しかも、基本的に同じ種でも全く周囲に関心がないBETAは、その周囲の仲間の死にさえ、なんの関心も示さないらしい。

唯、只管、前進、のみ。

恐れすら知らない愚直な前進。それが最大の脅威であり、不気味さなのだ。


転回し突進してくる犀の様なBETA。
36mmすら弾く正面装甲を照準から外し、僅かに見える前肢に掃射する。
被弾し、前肢が高速突進の回転について行けなくなった個体は、盛大に周囲を巻き込みつつ、転倒する。
しかし、それすらを直ぐに飲み込むように、蟹に似たBETAが大量に乗り越えてくる。



その時、その向こうから、黄色の閃光を曳いた信号弾が駆け抜けた。

早い!

10分と想定した作業が、7分掛かっていない。
だが、助かった事には変わりはない。
このBETAの波が、こちら側に押し寄せるのはあと3分も掛からないだろうから・・・。








迫るBETA群を尻目に、横坑に避退し耐爆姿勢を取ろうとしたとき、メビウス2がぼそりとつぶやく。

『崩落させた広間44が、貫かれた・・・』

『『『 !!! 』』』

『・・・接敵まで・・・・、先頭は3分! BETA数約3万、・・・・いや、その後続は・・・・30万だな・・・。』

とメビウス3。

『・・・・さっき突入前に調べて置いた。ここ[●●]の横抗も、構造的に弱い箇所が2カ所ある。主広間上側からS-11で爆破すれば、多分崩落させられる。』

データリンクを示しながらメビウス2が告げる。

『・・・但し、この構造強度だと1発では不足、BETAが切迫した現状では、退避しながらの順次爆破も無理だな。・・・・2発同時が必要だろう。』

「・・・ここは放置して先の横抗に逃げ込む手もある。」

『・・・希望的観測、だ。
ここでは曲がりなりにも、俺が隊長を任されている。具申は認めるが異論は認めない。

時間がない、もうすぐ赤の信号弾が、この横抗に飛び込んで来る。
すぐさまS-11を起爆次第、メビウス1とメビウス2は、第1隔壁に急行、隔壁閉鎖準備を開始。
そしてS-11による主広間内残存BETAが1万以下なら、俺とメビウス3も残存BETAを殲滅しながら隔壁通過し、隔壁閉鎖後S-11で隔壁脳を破壊する。
しかし残存BETAが1万以上の場合は、・・・・・隔壁閉鎖作業とS-11設置作業が困難になると判断、俺とメビウス3は此処に残り、主広間内残存BETAの誘引をすると共に、メビウス2の具申した位置にS-11を設置、残存BETAの殲滅と後続BETAの遮断を実施する。』

「!!!・・・・」

『・・・異論ではない。・・・けれど何故俺じゃない?  自分で具申した内容を人に押しつけるのは性に合わん。』

『メビウス1には反応炉探査の重要作業が残っている。任務達成条件が反応炉の探査と情報回収である以上、メビウス1にこの選択は無い。そして接続作業中無防備になるメビウス1の防御には、近接戦闘のスペシャリストが必須。そこまで行けば、司令塔など必要ない。』

『・・・・』

『そして・・・、これだけ言っても何一つ言ってこないメビウス3には、選ばれるだけの理由があるのだろう、・・・・違うか?』

『・・・・嫌みなくらい良く見てる・・・。
そうだ、さっきの混乱で推進剤の増槽をやられた。長駆は、あと1回。隔壁まで一気に跳躍したところでエンプティだ。』

『「 !!! 」』

『・・・と、言うことだ。ま、残存BETAが1万以下なら、イヤでも連れていくがね。』

会話はのんびりだが、追撃BETAの先鋒は、既に狭路内に侵入し、あと200まで迫っている。

主広場内の津波も、もはや端に達しようとしていた。




その時、そのBETAの群を縫い、狭路の中に、赤い曳光弾が飛び込んできた。
あの距離で、弾道のブレやすい信号弾を平然と挟路に打ち込む腕は、珠瀬をも超えるか、と思える。



『メビウス1! BETAが10000以上残った場合、この起爆を0として、ジャスト60秒で崩落起爆させる。爆風が通過次第、BETA残存数に構わす、行け!!』

武の返事は、爆音にかき消された。








押し寄せていた主広間内のBETA、そして狭路を進んでいた追撃の大群、その先鋒は、逆流した爆風に薙ぎ飛ばされた。

「・・・・クッ! Good Luck・・・。」

それだけを残し、岩陰から飛び出し、噴射跳躍に入る武。
追従するメビウス2。



その途上、オープンになった音声がつぶやく。

『主広間内残存・・・・15,000か。まあそんなモンだろ。』

『・・・・全く、死出の旅までアンタと一緒とはね。』

『・・・俺は嫌いじゃなかったが?   ・・・退屈しなくて良い。』

『・・・あぁ、もう、最期まで付き合いますよ、・・・・・・隊長。』

『・・・押しつけて悪いが、後は頼むよ、・・・武・・・。』


それを最後に、通信は、雑音にかき消された。










そして武とメビウス2が隔壁を抜け、耐爆姿勢に入った時、一つにしか聞こえない爆音が、主広間全体を振るわせた。












『メビウス1、今の爆発は?』

「メビウス5・・・。広間44が突破された。主広間の残存15000と、狭路を崩落するために、メビウス0とメビウス3が・・・・。」

『・・・・そう、・・か。
・・・・・。

こっちは第2隔壁の解放作業が終わった。あと3分ほどで、通れる。
解放次第、通過してくれて構わない。
オレは第1隔壁の閉鎖作業に入る。メビウス4は最後のS-11設置してくれ。崩落は足止めにしかならない。確実にBETAを留めるには、隔壁を封鎖し、開かないように脳を破壊するしかない。』

『・・・了解だ。』

『何、閉鎖準備はすぐ終わる。S-11設置次第横抗に入って閉鎖後、S-11の有線起爆だ。』









そう言って、彼らは隔壁の向こうに消えた。














『閉鎖準備完了。X-11ももう終わる・・・・って・・・・何だ?  この振動・・・!・・・・っ!!! 』

『っ! これ何だ?  というか・・・・BETA!?  でかすぎだろう?  これは・・・、うおぉ!?』

「!! メビウス5! メビウス4!」

『メビウス4っ!?・・・・・・クッ!! 流石ハイヴ、いろんなびっくり箱が在るな。
出現したのは・・・・目視直径170m、全長は埋まっていて不明、推定1000m、超特大のBETA。シーリングマシンみたいなヤツだ。しかも中にBETAてんこ盛り・・・数は約10000、要塞級までいやがる・・・・。』

「!!! 今行く!」

『来るな! 問題ない』

「っ!?」

『今、隔壁閉鎖開始した。』

『「 !! 」』

『閉鎖まで2分。俺とメビウス4はここでS-11を隔壁が閉じるまで此処を死守する。至近S-11の爆発で脳は破壊しても隔壁自体は耐えられる。』

「だったら、内側で・・・」

『S-11が囓られて、不発に終わる。隔壁を閉じても脳が破壊出来なければ、再び隔壁が開けられる。
メビウス4はそっちに行かせたかったが、さっき新種超大型BETAに直撃食らって、主脚がいかれたらしい。』

『・・・悪いな。ようやくお役はゴメンだ。
・・・ここからは俺の、俺だけの、狩りの時間だ。・・・・邪魔はするな。』

『そういうことだ。
・・・・まあ俺等は世間的には皆もう死んでいる存在だからな。
2回目にしちゃ、なかなか良いシチュエーション。・・・お前等は生き残れよ、じゃあな。』











第1隔壁が閉じるのと同時に、ハイヴが揺れ、そして第2隔壁、地獄の最後の門が開いた。











この後、武が何をしていたのか、隠蔽されていて判らない。
反応炉との接続作業なのであろう。

しかしその間の網膜投影による外部の映像は、そこに異様なモノを映していた。




あれが・・・・・・反応炉っ!?

・・・私も未経験故、間近に観察した事もなく、定かな事は言及出来かねるが・・・アレは、アレの形では・・?

こんなモノが反応炉??






突入後その異様な形のモノから伸びる触手のような刺突は、半端のない速度であり、武の護衛に付いたメビウス2が良く凌いでいる。

その剣技に見惚れる。

何処の流派というわけでもない、しかし、直線的な、というか無駄なモノを全てそぎ落としていったような剣閃。
傍目でさえ追い切れない変幻自在な刺突を弾き、逸らし、躱す。

遥かな高みにある技量。此処まで至るのに、どんな苦難を乗り越えてきたのか。
決して天賦の才だけでは至らず、そして弛まぬ精進をした者にしか至れない境地。



哀しいとさえ思わせる、その極み。






「!! コンタクト、完了したっ!! メビウス2、離脱するぞ。」

唐突に武のコントロールが戻る。

『・・・・行け』

目にもとまらない連続刺突を凌ぎきる。反した刀が引き際の触手を薙ぎ、その一本が飛んだ。

「・・・・え?」

『・・・俺に構わず、行け。』

「・・・メビウス2?・・・」

『俺が下がった瞬間、触手が飛んでくる。・・・コイツは俺を逃がす気は無いらしい。俺が戦っている限り、お前は脱出できる。』

「・・・・」

『生きて還ったところで、もう俺には何も残っていない。守るべきモノも、コイツの所為で全て喪った・・・。』

「!!・・・」

変幻自在に分裂する触手までも、凌ぎきる。

『・・・以来俺は、コイツに一太刀浴びせることだけを望み、24時間戦術機と刀の事だけを考えてきた。
そうすることで、俺は漸くあいつらの所に逝ける・・・・。』

「・・・・」

『さっきもメビウス3と代わってやるつもりだったんだがな。まあお陰でこうしてコイツと切り結べる。メビウス3には感謝だな。

そしてメビウス5も言っていたが、俺たちは死んだ人間、戸籍も名前も喪った人間だ。

しかも其れでいい、と皆が納得していたのは、戸籍や名前以上に、大切なモノを全て喪って、今更戻ったところで何も無い連中ばかり、生きることには諦観しちまった人間ばかりだからだ。」

「!!」

『・・・・・俺達は皆、“死に場所”を求めてさまよっている、それだけの存在なんだよ。


行け[●●]、武。お前は、違う[●●]

だから接続探査ユニットは、生還者たるお前に託された。』

「!!!」

『・・・・・・だから、行け、武! お前は行って、明日を掴め!

それが、名もない俺たちへの、最高の手向けだ・・・・。』



メビウス2に切られ、飛来する触手がまた増える。

今はその触手10数本と、平然と切り結ぶ不知火・・・。














そこで、唐突に感覚がぶれた。



気がつけば、ヘッドギアを付け、ベッドに横たわった私が居た。



「・・・・終了だ。

このまま、少し休憩に入れ。・・・・気分が悪い者は、具申しなさい。」

神宮司教官の声が聞こえる。






終わった?  ・・・・ああ、終わった、のか・・・・。


しかし、今の“現実”が寧ろ儚い幻の様に思える。

あまりの事に、頭がぐちゃぐちゃで、感情も思考も、整理が付かなかった。

・・・・・・・ただ黙って、瞑黙するしか、なかった。


Sideout



Side 武


彼方の組んだ“ストーリー”をなぞる。

基本はオレが前の世界で体験した、“桜花作戦”。
どうやら作戦名までもじっているらしい。

霞にリーディングして貰ったオレの桜花作戦時のイメージを一部映像化もしている。
それと、ヴォールクデータや、横浜ハイヴのデータを組み合わせ、さらにはシミュレーションに使われるBETAや戦術機の機動映像まで取り込んで、一つのVRデータを構成していた。




その状況で“再構成”された桜花作戦もどきの銀河作戦。

登場人物は、少しだけ、アイツ等の性格を投影しているらしいが、基本オリジナル。
にしては、ありえないほどのリアリティが在るんだが・・・。

オレの記憶に残された状況から判断された、その“過程”。
だが、委員長や彩峰、タマや美琴がどんな風に散っていったか、その一端を初めて知ったような気がする。


現実、と言い切るには確かに語弊がある。
オレの記憶にある事だって、厳密には今のこの世界では“未来に在るかも知れない可能性”の一つに過ぎない。
それでもオレの記憶はオレにとって紛れもない現実であり、その現実を元に再構成されたこのデータの状況は、現実と言っても差し支えなかった。
勿論、幾多のループを覚えているオレは、皆の気持ちも理解している。
前回の桜花作戦で何故皆で示し合わせた様に守って呉れたのか、それも理解はしていた。
皆に見せるのに流石にその描写は避けて欲しく、彼方にアレンジを頼んだ。

そもそも今回のVRデータでは、凄乃皇四型はなく、純夏も霞も参加していない設定であり、オレも不知火で参加しているが、前のループでは凄乃皇四型で先行し、恐らくはハイヴに於ける通信遮断さえ利用して、オレに一切の負担を掛けないよう気を配って呉れたのがあの結果なのだ。
・・・・冥夜がオレに対しずっと皆の欺瞞情報を送っていたように・・・。


当時はあ号を確実に殲滅出来るのが凄乃皇四型の荷電粒子砲だったため、最優先で先行させられた。

崩落させた後方の広間をこじ開けた20万を越えるBETAの大群。それはデータで再現されたスタブを埋め尽くす激流そのもの。
そのなかで、連携自爆で見事狭路を再度崩落させた委員長と彩峰。

さらに主広間に突如現れた母艦級。
今でこそその全容を知っているが、当時としてはあり得ない状況の激変。
その激変の混乱の中でも、達成された第1隔壁の閉鎖・脳破壊。
それを達成しながら母艦級の出現により、結果BETAの奔流に飲まれたタマと美琴。
記憶ではS-11の爆発は無かったが、何らかの方法で達成し、散っていった事は確かなのだ。


命を賭した、アイツ等の成果。
朧気ながら、或いは若干の誤差は在るにしても、未来で喪った仲間達の最期を漸く知れた気がしたのだ。




そして冥夜。

此処は記憶する状況とは、敢えて全く変えてきた。
恐らくは、この部分だけ、今年の春まで本当に存在したという幽霊部隊の記録から引っ張ってきたのだろう。
流石にもう一度BETAに侵食される冥夜を見たくないし、その冥夜を自分の手で殺す場面もみたくなかったので正直オレ自身が助かった。

そして、オレの記憶にない範囲でも大勢の衛士や兵士、そして一般の人までもが理不尽な死に追いやられ、そして生きている人さえ何かを背負って生きている、その現実を思い起こさせてもくれたが・・・。
記憶を失っていたなら、記憶が戻るキッカケともなるだろう、一幕になっていた。









・・・そう今はまだ喪っていないこの仲間達。


そして、このデータに彼方が反映した“今の”オレの練度とXM3、そして“期待値”として組み込まれた冥夜達の目標ともなるアバター達の練度。

其れに準じる練度が実現できれば、凄乃皇無しでもたった1個中隊で結構行けるんだなぁ、と改めて思う。

勿論本来は、まずは入り口のSW115に至るまでが滅茶苦茶大変なのだが・・・。


それでも前の世界では、純夏のラザフォード場を頼りに、相当強引に突破したBETAを、このデータでは殆ど置き去りにし、広間を利用した部分崩落で時間を稼ぎ、主広間でも強行突破と陽動によるBETA誘引で隔壁解放の時間を確保、最終的にS-11で殲滅する戦法を取ることが出来るのだ。

あとは、あ号標的を破壊するだけの火力さえ温存出来れば、純夏に負担を掛けることなく桜花作戦が実現できる事になる。
勿論、現状の装備では、まだまだ決して容認できない犠牲が出ているが、それは誰よりもこのデータを組んだ彼方が認識している。







桜花作戦では凄乃皇四型という、謂わばBETAに対抗した物量で殲滅しながら侵攻したが、その大きさが逆に仇となり、本来戦術機最大の利点である機動的な作戦が取り難かった。

この再構成されたVRデータでは、凄乃皇四型のもたらす物量は無いが、その戦術機機動にものを言わせ、同等の侵攻を果たしていると言える。


問題は火力・推進力不足と、そして彼方の言う反応炉破壊後残存するBETAの汪溢か・・・・。






そして、このデータには、本来訓練兵などには到底見せられない最高機密がてんこ盛りである。
夕呼先生も、これを訓練兵に見せる事には、当初難色を示したらしい。

だが、オレのループから得られたBETAの情報、特に上位存在との会話ログに信憑性を持たせるために丁度良い設定であること、そしてもう一つ・・・。

それは、この世界の人類が感じている厭戦ムード、と言うか、既に諦観とも言える逃避、他人への転嫁、自暴自棄。あと10年と言われる現実による圧力。それらを払拭し、人類に未来を示す為にも、今後は徐々に情報公開をせざるを得ないと判断したらしい。


そう言われれば、狭霧大尉のクーデターすら、無意識の諦観による責任の転嫁、とも言える。
殿下が大権委譲さえ為されれば、あとはどうにかなる、という無責任。
BETAの侵攻が齎す重圧や諦観故の自棄、という一面が在ったのも否定できないのだから。

だからこそ、米国の裏工作とは別に、あれほどのメンバーが賛同したのだろう。
高位の者、練度の高い者ほど、BETAに対するその無力さを感じていたのだから。







年内に、喀什を陥とす・・・。

最終的に夕呼先生は、その為に必要なら、訓練兵への開示など些末にしか過ぎない、そう判断したのだろう。







さて、この“追体験”がアイツ等にどう映るか、どう受け止めるか。

それはアイツ等次第。


自らの望む衛士と言う存在。
このデータにある状況は、少なくともここ横浜の訓練学校を出る限り、もっともあり得る可能性の高い未来であるのだから。




それでも、オレは期待し、待っている。

アイツ等が、此処まで来ることを・・・・。


Sideout





[35536] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/06 21:17
'12,10,11 upload   ※説明冗長です。苦手な方はパスしてください。
'12,12,06 誤字修正


Side 遥


昨夜に続き、新OS・XM3の慣熟に入った。

白銀少佐の見せた、あの煌星の様な機動。衛士として憧れない訳がない。
光線級すら歯牙にも掛けないその機動は、絶望に瀕した人類の光明にも見えた。
その機動実現の、基礎とも言える新OS【XM3】。
最初は皆激変した応答性に戸惑っていたようだが、御子神少佐の組んでくれたレベライズの助けもあり、1時間もしないうちに、目覚しい機動を見せるようになったのだ。

正式任官の為に未受講の訓練課程を受けると言う白銀少佐は、昼間訓練兵扱いとなり、神宮司大尉と共に訓練教程の為、教導には来られない。
あの白銀少佐に何を、という今更感が強いが、何らかの思惑があるのだろう、そこはNTK[ニード・ツー・ノウ]なのだろう。


代わりに、と言っては失礼だが、御子神少佐が見に来てくれた。

実際、オペレーションルームでガコンガコン動く高足蟹の甲羅みたいなシミュレータを眺めつつ、各人のシミュレーション映像をモニターするくらいしか、やることのなかった私に、大量のお仕事を下さった。


バイタルモニターから、先行入力率・入力速度・反応速度・ヒット率・キャンセル応答速度・事後入力速度・適性率・コンボ構築数・使用頻度・・・・・・・・。

そして3次元方向への耐G馴致課程。対XM3仮想アグレッサー。


これでもか、と言うくらいのてんこ盛り教導プログラムだった。



「取り敢えず、試作β版で、追々改修していくが、当面これだけあれば武が居なくても熟せるだろう。」

「・・・・お腹イッパイです。」

苦笑いする御子神少佐。

「俺もいつも教導に付き合えるわけじゃないしな、基本これらの推進とデータの検証は涼宮姉が中心となって、伊隅と相談しながら進めて欲しい・・・んだが・・・・・・」

「了解です、・・・って何か?」

しげしげと見つめる視線に問を返す。

「・・・涼宮姉は・・・・皆と一緒に戦術機に乗りたいか?」

「・・・・それは、どういう意味ですか?」

「いろいろ向こうから引っ張ってきた技術が在ってな。望むなら、生体擬体をほぼ元通りに出来る可能性があるって事だ。」

「!!!」

ちょっと待って!
それって・・・ええっ!?
いろんな想いがゴチャゴチャに入り乱れて、考えが纏まらない。

「・・・私が今から衛士になって、皆のレベルに追いつけるでしょうか?」

「XM3に関しては、アイツらもヒヨッコと変わらん。BETAに対する経験は、むしろ常に俯瞰していた涼宮姉の方が豊富。ただ、隊全体として見たとき、どちらが戦力として上になるのか、そこは予想がつかない。
A-01は言ったようにハイヴ攻略戦を想定しているが、CPの場合は複座に就いて貰うつもりだからな。」

「・・・少し時間を頂いていいですか?」

「ああ。・・・ただどのみち、今のバタバタが一段落したら、治すけどな。」

「・・・ありがとうございます。」


この人は、何なんだろう・・・?
入り乱れる想いの中、唐突に思ったのは、それだった。












『本当にこれ、白銀少佐のコピーなの?  機動弄ってない?』

水月の声がする。
いけない、いけない。
御子神少佐の爆弾は置いておいて、チェックに入る。


教導プログラムの大まかな説明を終え、先ずは現状認識の意味でも、一部の戦闘狂が望んだ意味でも“人外”級アグレッサーとの対戦を望んだのだ。


「今朝武にも試して貰ったが、気味悪いくらいそっくりだと言っていた。まあ、当然本人には届かないから9割方再現している、と言ったところか。
なら、試しに速瀬は“自分”と闘ってみるか・・・。ほら、換装したぞ。」

『え?  あ・・・、本当だ。変態機動しなくなった!!って、えぇ!?  うわっ!!』


御子神少佐は基本的に自分でシミュレータに機乗しない。
技術職で実機経験が無い自分にはおこがましい、と言うのが理由だった。本当は面倒くさいだけらしいが。

その代わり、対BETA戦経験も対人戦経験も豊富だという白銀少佐の仮想戦術機モデルを作ってきた。

因みにその白銀アグレッサーモデルにハイヴ攻略をさせたところ、前回とは全く別ルートで同じように反応炉破壊まで行って見せた。
ただし、実現できるのは9割なので成功は10回に3回程度らしい。


そして行われた仮想白銀機対戦は、個別で行ったら訳もわからないうちに全員秒殺。
そこで編成を変え、A-01隊全機との対戦にしてみたが、それを以てしても、吹雪1機に太刀打ちできないという結果に終わった。
白銀少佐の3次元機動は、対戦術機戦に於いても、極めて有効なのだ、と言うことを実感させられた。





「さて、取り敢えず目指すべき目標は見えたかな?
今のデータを見る限り、まだまだ全然XM3の優位性を使いこなせていない。反応速度の向上に頼った動きだ。
一応伊隅と、速瀬、・・・なぜか築地が反応速度レベルIIには達したが、先行入力のヒット率はまだまだ、築地にいたってはキャンセル率もダントツに1位だ。

夕方からは武が来るが、アイツは、基本習うより慣れろ、ってヤツだし、何よりもアイツ自身感覚だけで操っている様なもんだから、中々に理解しにくいところもあると思う。
まあBETAとの実戦経験は豊富なヤツだから、間違いではないんだけどな。」

『!! あの機動は、実戦に於いて培われたモノなんですか?』

「ああ。武の経験は本物だ。新種でも出てこない限り、有効だよ。極秘部隊上がりだからな。まあその内知る機会も在るだろうし、そこでの最後の作戦のデータもあるから、見せてもらえばいい。」

「・・・・・」

当然といえば当然。あのハイヴ侵攻は、ハイヴを攻めた経験がなければ無理だろう。
むしろ初見でハイヴを崩落させた方が異常だ。誰とは言わないが。


「・・・それでは、感覚的すぎる武の教導が始まる前に、理解して貰うための説明をしておきたい。
小難しいかもしれないが、基本は既に知っていなければならない内容だからな。ちゃんと理解しろよ。
シミュレータ乗っているんだから、確認しながら聞いていてもいいぞ。」


そして御子神少佐は、戦術機の操縦に関する説明を始めた。









「先ず認識してもらいたいのは、戦術機が人を模した乗り物[●●●]である、と言うことだ。



では、乗り物とはなにか。

最初に自動車を思い浮かべてくれ。免許を持っている者も、居ない者も漠然とならわかるだろう。
進む・曲がる・止まる。
いろいろやっているが、移動に関する基本的な操作は、それしかない。

次に、飛行機は?
飛行機は空をとぶから、車が地面、つまり2次元で行っていた挙動に、上がる・下がるが加わっただけ、
・・・・と思われがちだが実は違う。

車でも、2次元で曲がる、と言う動作は厳密には垂直軸周りのモーメント、つまり回る(ヨー)、という動作によって進行方向を変え、結果曲がることを実現している。
飛行機に於いて、3次元にそれが拡張された場合、先のヨーに加え、前後軸回りのモーメント、捻る(ピッチ)と言う概念と、左右軸周りのモーメント、転がる(ロール)という概念が追加されている。
そして飛行機の機動は全てこの組み合わせで行われている。
飛行機では主翼による揚力の発生原理上、主翼に関わる力の発生が大きい。逆に小さな尾翼でしか発生しないヨー方向の動きはかなり苦手だ。
なので、早く横に曲がりたい時には、まずピッチで主翼を垂直に立て、次いでロールを行う事によって、結果的に横方向に曲がる、という機動を取る。
すなわち複雑に思える飛行機の機動に於いても、実際に行われている操作は基本的に、ヨー、ピッチ、ロール、それに加減速の4つしかないと言うことだ。



では戦術機は?

実は、複雑にみえても戦術機全体を1つの質点として見れば、自由度や機動の応答性などを除いて、飛行機、それも戦闘機と等しい。
実際、ダイレクトな機動レバーやペダルは、その4自由度のみ。
自機の各主軸に対するモーメント発生と、前後軸方向の加減速を制御しているわけだ。

そしてこれを移動操作と言う。

戦術機で移動するとき、曲がるのにどうやって脚を動かそう、なんて考えたことないだろう?
考えるのは、進行方向と、加速手段が主脚走行なのか噴射跳躍を使うのか、速度はどのくらいか、位のはず。」


いくつかのシミュレータがその言語を試すように動いている。
基礎中の基礎ではあるが、立ち返ればそういう事。


「で、・・・“乗り物”としては、それで十分な訳だが、戦術機は戦う為に作られた存在。
しかも、この戦闘機動に於いては、他の戦闘機動体に比べ、桁違いに多い自由度をもつ。

元々人体を模しているから、戦術機の持つ関節の自由度だけで考えても、頸部、腰部、左右肩、左右肘、左右手頸、左右股、左右膝、左右足頸、主要な関節の自由度だけでも14×3方向、更に個別の自由度を持つ副腕にも2方向ずつあるので、8自由度、さらには掴む、といった掌や指の関節を細かく分割すると、それだけで優に100を超える自由度になるわけだ。

それらを一つ一つ制御や操作など出来るわけもないから、戦術機の戦闘機動操作には2種類の方法が考えられる。



1つは、エミュレーション。

これは操縦者の個々の関節の動きを、完全に戦術機に転写する方法。
それ故きちんと制御出来れば、極めて繊細な動作を可能とする。

けれど、欠点も多い、と言うかその長所以外は、全て欠点といって良い。
非常に複雑な操縦者とのインターフェースが必要になること。つまり操縦者の動作そのものが戦術機の機動と成るため、操縦者も常に自由度を保った空間で動けることが必要だし、機動や感覚のフィードバックに関わる制御が膨大で重く、また常に動くことに成る操縦者の疲労も馬鹿にならない。
何よりも最大の欠点は、操縦者の身体能力以上の事が出来ない、ってことだ。機械である戦術機が、応答性や出力と言った機械の長所が生かせず、人間の性能に収まるなど、馬鹿らしいわけだ。
余程生身で人外の動きができる格闘家でもなければ意味が無いし、衛士のレベルがそんなに在るわけもない。


なので、現在の戦術機の戦闘機動操作には、もう一つの手法、コマンドドライブ方式が取られている。

つまり、何処をどの様に動かしたいか、ではなく、何をしたいか、を入力する。
36mmを撃ちたい、長刀を抜きたい、と言う様にな。
例えば、36mmを撃つ、と入力すれば、戦術機は前方、つまり自機主軸方向に1発発射する。
狙点を定め・36mmを撃つ、とすれば目標とした点に可能なかぎり早く1発発射する。
さらに、狙点を定め・36mmを連射、とすれば、止め、のコマンドが入力されるまで、具体的にはトリガーが離れるまで撃ち続ける。
知ってのように、強化装備のヘッドセットを介した、間接思考制御と言うのが、このコマンド入力を補助している。
何に対して、どの様に、何をするか、と言う事を、ある程度パターン化し、右手操作系のトリガーや攻撃機動と、視線選択入力を使うことによる目標設定やオプション選択を組み合わせて迅速に決定し、戦術機の戦闘機動操作をバックアップしている訳だ。



最終的には、それを移動操作と併せて実施しているのが、戦術機の統合機動となる。

つまり戦術機は、左の操縦レバーにより移動操作を、足のベダルにより主軸方向の加減速、右のコマンドレバーと視線選択入力によって戦闘機動を選択・実行し、それらを統合制御に従って最も合理的な機動を実現している、と言うわけだ。


ここまでは、基本的にまりもセンセが講義したはずなんだが、覚えてるか?」


『『『『『『『『『『『 ・・・・ 』』』』』』』』』』』


「・・・おまえら、武と同じだな。脳筋どもめ。
まあ、いい。もう少しそのまま聞け。

ここで問題に成るのは、移動と攻撃機動は、その動作に齟齬がない限り並行して行えるが、戦闘機動は1つのコマンドが完了しない限り、次の入力が出来ない[●●●●●●●●●]、と言うことだ。

例えばBETAが密集している場合、牽制に一掃射して、長刀を抜き、薙ぐ、と言う動作を実現したい。
けれど、戦闘コマンドは、その動作が完了してから入力に成るため、どんなに早く入力しても入力する“間”が生じる。
こればっかりはどんな達人でも0には出来ない。

それを解消した概念が、“先行入力”だ。


一掃射中に、更に抜刀、横一閃、とコマンド入力すれば、命令がバッファに蓄積され、順次実行されるだけではなく、統合制御がその2つの機動の終端と初端をなめらかにつなぎ、完全に連続した動作として実現する。
あとは移動で、それを実施するのに齟齬のない、相応しい位置取りをすればいい。
先行入力と移動操作を組み合わせることで、途切れのない攻撃機動を継続できる、ということになる。
当然戦闘機動と移動のシンクロが鍵になる。


そして、もうひとつ。
例えば、先の狙点射撃を考えてみよう。

狙点を定め・36mmを撃つ、とすればそれが主脚移動中でも、狙点は制御の許す範囲である程度追尾してくれるから、相対射角が許容範囲内なら中る。
一方で、相手の動きを見定め、姿勢を制御することで、射線を定め、タイミングを見計らって、唯、撃つ、としても、その射線やタイミングが合っていれば中る訳だ。


しかし実は既存のOSには自律制御に任されているが故の齟齬が生じる。

先に言った事例の場合、狙点の維持と射撃は、移動に優先して実行される。
つまり狙点を維持できない自機の挙動、例えば振り向くとか、は、射撃が実施されるまで出来ない。
最悪、相手の動きが早く、狙点が追いつかない場合は、狙点が振り切られるか、射撃が完了するまで他の動作が取れない、という事態さえあり得る。


それを避けるため、ひとつひとつの動作における全体機動と戦闘機動を細かく分割し、戦闘コマンドを他の制御に阻害されない動作にまで単純化するノウハウが、斯衛式、と言われる戦闘機動の入力方法だ。
ただし、移動と戦闘機動を戦術機任せにせず、操縦者自身が構築するわけだから、当然難易度はメチャクチャ高く、習熟には相当の努力と才能を求められるシロモノだな。


そして更に、戦術機には戦術機側の都合もある。
移動と戦闘機動を統合し、且つ必要な間節の動き、結果の姿勢、バランス、それを実現する力の配分。
それを全て統合しているわけだから。
当然慣性やモーメントを相殺する必要もあるし、その上でバランスを維持する事も必要になる。そういった実際には裏で走っている複数のプロセスが、維持できなくなった時、所謂“硬化時間”が発生する。
発生するのは、主に耐久的な問題が多い。
人間が、ある程度以上関節が曲がらないように、戦術機にも機動の限界がある。また、過剰な力による関節負荷も、耐久限界を越えれば損傷する。
自機の保護を最優先に、機動終端にシステムが勝手に入れる動作で、主に平衡回復や、ショックの吸収等に当てられる、と言うことだ。


しかし、BETAや、実際の格闘戦では、捨て身で転ぶことによって避けられることもある。転ばない事による硬直で突進を喰らうなら、転んででも次の噴射跳躍で距離を取り、生存に繋げる、と言う思想だ。
BETAが直前に迫っていれば、耐久性など構って居られないし、喰らってしまえば耐久性もなにも在ったものではないからな。

そこで本来優先度の高いこれら全ての機動や制御に優先して、その動作を強制的に終了し[●●●●●●●]、次の入力動作に移行する機能、それが“キャンセル”だ。
そしてこの機能は、先行入力で予定した動作と異なる事態が発生したとき、その機動を取りやめる為のコマンドでもある。


実戦では、平衡を回復するより、跳んで避けるほうが重要だ。しかし勿論戦術機の安全対策まで強制的に停止するから、その後の動作が適切でない場合は、当然戦術機の耐久性にも影響する事になる。
それ故、重要なのは、キャンセルの後にどれだけ適切な入力が出来るか、ということになる。
バランスを崩したなら、柔道の受身を取ってもいい、衝撃だってダンパーを使わずとも体幹を回して、関節全体に分散して受ける事もできる。どんな選択をするのか、それは各人の個性となる。

そして、リスクが無いわけではない。
先程言ったように、希望する挙動の裏には、いくつもの必要なプロセスが並行して走っていて、どれを残すのか、どれを取りやめるのか最初は解らないからだ。
その為、ある戦闘機動をキャンセルした途端、バランス機構も停止し、転倒することもある。
それは、挙動のキャンセル時にどのプロセスを残すか、という選択が適正に行われていないからで、使っていく内に、学習機能によって適正なプロセスを残すような最適化機能が付いている。今のシミュレータ、そして換装中の戦術機OSの基礎動作には、現在武の挙動モデルが入っている。
が、これは今後も逐次学習するので、各人が修練するに従って各々の動作により適応した動作に変わっていく。
つまり、各自の挙動特性に併せて成長していくOSであるとおもってくれていい。これは、昨夜まりもセンセに説明したパーソナライズの一端でもある。」


ウンウンと皆が頷く。


「で・・・、この様に使っていくと、やがてこの動作の次にはこれ、といったある種の決まったパターンがいくつも出現する。その使用頻度の高い一連の動作を1つの入力として扱うのが、コンボという概念だ。

もちろん、登録は自動的に実施されるし、同じ機動の羅列が入力されたとき、サジェスチョンという形で、予測入力もされる。これは、入力数を減らしたり、似たようなコンボで途中分岐している選択肢を選ぶことも出来る。
コンボは基本移動まで含めた形で動作するから、発動条件さえ整えれば、後は最速で戦術機が勝手に動いてくれる。


因みに武の場合、BETA相手だと機動の殆どをコンボで組み合わせている。
今回モジュレーションを組み込んで、発動タイミングを調整出来るようにすることで、再入力を最大限減らしている。



そしてコンボを含めたこれらの情報は、データリンクで統合化され最も効率の良い制御パターンや汎用コンボを、新たな動作パターンとして登録し、別の機体で実施することも可能となる。


これらが、新OS【XM3】の基本概念だ。」


『『『『『『『『『『『 ・・・・ 』』』』』』』』』』』


「今、皆の機体に換装しているOSには、昨日からのシミュレータで入力された挙動もフィードバックされる。そしてなによりも武の3次元挙動の基礎動作も反映されている。
それを自ら咀嚼し体得することでしか、それらは使いこなせない。各自の特性や動作には個性があるからだ。

そこで必要になるのは、状況を把握し、先を読み、自分の動作を決定すること。
そしてそれに合わせ、最適な位置取りをすること。


予測と同調[●●●●●] が重要な要素と成る。

今朝の機動を眺める限り、その事に留意して動かしている者が少ないんでな。
“現在”のことだけに対処している裡は、XM3を使いこなしているとは言えない。

それらを成長させるのは、各人の予測に基づく創造力、だ。
XM3は何も即応性だけを求めたOSではない。そして進むことによって進化し続けるOSである。

その事を意識して習熟して欲しい。」


『・・・・・・・だから勝てないんだ・・・』

「・・・武はその辺の予測に関するBETAや人の挙動情報経験が段違いのうえ、突拍子もない挙動を編み出すのが得意だからな。
・・・まあ、武の異常性はそれだけでは無いけどね。

昨夜も言ったけど、こういった操作に習熟してくると、脳内にも戦術機操作のモデルが構築される。
視覚や予測から、全く脳で考慮することなく反射的に最適なパタンを入力する反射モデルが、ね。
武の場合、その反射モデルが既に膨大に形成されている。単騎世界最高戦力ってのはそういうことさ。

例え同じXM3搭載機とはいえ、個人の頭の中のモデルは一朝一夕には構築できない。
機動パターンや汎用コンボはデータリンクで共有可能でも、脳みその中はコピーできないってことで、まぁ速瀬、がんばんな。

ちなみにシミュレータの中のアグレッサはその辺の応答速度も考慮して作ってあるから、あれに勝てれば10回に3回は本人にも勝てるかもよ?」

『道のりは長いですね、中尉』


XM3の全容を理解して、改めて凄まじい武器を手に入れた、と理解する反面、その遙か先にある白銀武と言う存在を理解した乙女隊の面々だった。







「・・・一つ、質問いいですか?」

私の問に、ちらと視線が合う。

「・・・どうぞ」

「こんな発想を、白銀少佐はどうして出来たんですか?」

「・・・・・・・・」

天才だから・・・・そんな答えを予想した。
そう言われれば納得してしまうだろう。
しかし一方で、どんなに努力しても届かない現実、と言うのも認識させられてしまう。


「・・・これは厳密に言えば、武だけで作ったモノではない。」

『『『『『『『『『『『 え? 』』』』』』』』』』』

「・・・・・。」

無言のままに、キーボードを操作する。
目前の共有モニターにウィンドウが現れ、その中でワイヤーフレームが動いている。
長球のプリミティヴを組み合わせた動くモノが、人を表していることに、やがて気がついた。
その人型は、画面を無重力空間のように動きまわり、現れるターゲットを殴ったり蹴飛ばしたりして、潰していく。

「・・・これはオレが中学校の時、武と作ったシミュレーション・・・、まあスコアゲームだな。一般家庭にあるPCで動かせるレベルだからそこそこ遊べた。
他に遊ぶ事も少ない時代、かなり限定的ローカルに流行ってな、そのとき周囲にはコアなマニアやディープなファンが結構居たんだ。

今見せているこれは最終型に近くて、初めは機動も操作系もこんなもんじゃなく、1フレームに1秒掛かるようなシロモノだった。
で、ソイツらの意見や発想をプログラムしては、組み合わせて、要らないところは削り、優劣を比較して改修してきた。
かれこれ2年くらいの期間で、ここまで“進化”させたわけだ。」

「・・・・」

「このマネキンの動作と操作の中から、“先行入力”、そして間違ったそれを止めるための“キャンセル”、更には複雑挙動を統合化する“コンボ”という概念が生まれた。キッカケが誰だったか、今となっては定かではないが、武もその一人なのはたしかだな。


今の戦術機の基礎をつくりあげたのは、米国だ。今では各国で作られてはいるが、基本概念は殆ど変わっていない。そしてまだ生まれてから四半世紀をようやく越えた所、世代だってやっと第3世代だ。
概念自体が新しいから、まだ成熟世代に至っていない。
しかも互換性を考慮して、管制ユニットは米国マーキン・ベルガー社のユニットが全世界統一規格となっている。間接思考制御を含むOSについても、ほぼ1社独占状態。
ライセンスを持っていれば、何もしなくても稼げるからな、開発や概念実証に膨大な費用のかかる改良など考えないだろ。
・・・全く競争のない状態では進歩なんかしないんだ。

けれどこっちは違う。お金なんか関係ない。何よりも自分が楽しむため、どうすればいいか、考える。
ハイスコアを取るために必要なものは何か。そしてそれは、他にも考える奴がいて、そいつよりも早く動くには、正確に攻撃を当てるには、どうする?  と考える。
有効な手段は、相手のアイデアでも貪欲に取り込み、選別し、評価する。

交差、選択、淘汰、統合・・・・そうした実証実験の果てに生き残った[●●●●●]のが、このシステム。

XM3はそれを戦術機に転用したんだ。」

「・・・・交差、選択、淘汰、統合の結果ですか・・・。なんか生命の進化みたいですね。」

「そうだよ。・・・・こんな風に環境に合わせて成熟する多点参照最適化手法を、“遺伝的アルゴリズム”と言う。」

「!」

「今、人類は滅亡の瀬戸際にある。人という種そのものは、そうそう簡単に進化しないけど、戦術や戦略、システムはまだまだ進化する余地がある。いろんなモノを取り込み、選択したシステムが、生き残るか、淘汰されるか、それこそ自分たち次第、と言うことだ。



・・・はっきり、言おうか。
伊隅ヴァルキリーズは、今後ハイヴ攻略戦の中心となって貰うのは話した通りだ。
少なくとも、年内に2回、確実に実施されると考えてくれ。

尚、これが失敗した場合、人類の滅亡は確定的と成る。」

『『『『『『『『『『『 !!!! 』』』』』』』』』』』

「・・・と言って、うら若く見目麗しい乙女を死地に送り込むのも、俺の心理的負担という意味でも、忍びない。
今後、ヴァルキリーズ全員にXM3の慣熟を行ってもらう。
そして、XM3は、昨夜説明した通りモニタリング機能を持っている。

ハイヴ攻略戦立案時、その評価基準でレベルIIIに達しない者は、参加メンバーから外す事とする。」

『『『『『『『『『『『 !!!! 』』』』』』』』』』』

「・・・軍としては異例でもあるが、ハイヴ攻略が3次元機動という、余りにも特殊な技能を求められること、その技量に満たない者を参加させても、無為に命を散らすばかりか、更に周囲の者さえ巻き込み、作戦の成否に影響しかねない、と言う判断からの特例措置だ。」

『『『『『『『『『『『 ・・・・ 』』』』』』』』』』』


「・・・・・・・覚悟を以て臨め。・・以上だ。」





閑話休題




「彼方君!」

美沙が気軽に声を掛けてる。

「ん?」

「って言うかぁ、ハイヴ完全攻略のエレメントで武君のバディだったじゃない!?」

「・・・まあな。」

「実戦経験はないって聞いたけど、どのくらい強いの?」

「ん~、武と同じ位?」

「え・・・」

「多分、BETA相手のスコア勝負だと経験差でかなり負けるな。対人なら少し勝つか、な。」

周囲も驚いた様な顔。
この2日間、シミュレータにも乗っていない。対戦相手も努めていない。

「・・・じゃ、あのアグレッサに勝てるの?」

「8:2かな。」

「・・・見本見せて!!」

「ん~、ま、いっか」

そう言って、彼方は強化装備も無しにシミュレータに乗ると3次元挙動中の仮想モデルにあっさりと長刀を突き刺して大破判定させた。



「うそ~!?  なに~!?  どうやってんのよ~!?」

「・・・武の戦法は先行入力コンボの嵐だからな。逆に言えば完全にパターン化している。
つまり、俺にとっては最も読みやすいってこと。
幾ら早くても、次に来る動作が解ってたら、タイミング外して一手入れるだけ。
フェイクで誘ってパターン化したコンボに乗ったところで、墜とせばいい。

逆に実戦経験がない俺は、行動パターンの蓄積がないBETA相手だと戦力として武に届かないってこと。」


あっさり言うが、御子神少佐が、“裏の単騎世界最高戦力[エース喰いジョーカー]”と乙女隊に認識された瞬間だった。


Sideout





[35536] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/11/10 07:00
'12,10,13 upload   ※ご都合[チート]設定、炸裂します。突っ込み所満載だなぁ^^;
'12,10,14 誤字修正
'12,10,30 矛盾点修正


Side 夕呼


網膜投影に映る、仄蒼い隧道を不思議な感覚で眺めていた。

流れるような景色は、速い割に揺れることも耳障りなこともない。
機動する戦術機に乗るのは初めてだが、こんなに安心して乗っていられるとは思わなかった。
・・・・尤も新品が納品されるたびに、管制ユニットのビニールシートを破りにコックピットには乗り込んだが・・・。

強化装備は無いが、戦闘機動をするわけではないので、問題ない。
網膜投影を行う簡易型のヘッドセットだけは、付けた。
そして操縦者は、彼方。
電磁伸縮炭素帯をフルに使い、作動音すら殆どしない程、音と振動を抑制しているのだろう。


俺にはハイヴの単騎攻略なんか到底出来ないよ、と言うが、戦闘機動はともかく、事戦術機の制御に関して彼方以上の存在はないだろう。何しろ戦術機機動の基礎である電磁伸縮炭素すら弄っているらしい。

OSは、操縦者の意志を反映し、統合制御で機体に信号を伝えるI/Oを行うが、それを動作にするのは炭素帯である。入力された信号に対し、どの様な応答速度でどの位動くのか、単純にいえば大電流を流すリレーの制御は炭素帯自体のファームウェアが行っている。OSの制御がどんなに細かくても、それを力に変える末端は結構泥臭かったりする。
聞けば、今までのOSでは問題にならなかった領域だが、白銀の概念を元に彼方が組んだXM3は、アタシの試作CPUをフルに使っている。OSの緻密な要求に対し、今までの炭素体ファームウェアは“粗い”そうだ。
で、ファームウェアに対しても、クロックアップと出力の非線形に対する補正を掛けた、と言う。
信号入力のビット数は変わっていないが、クロック周波数が上がったことで、出力の緻密さは8ビットが16ビット相当になり、非線形領域の補正で立ち上がりと高出力領域でのピーキーな特性がなくなったとか。
パーツなんか一流の設計者でも納品されたままの性能を如何に使い切るか、が腕だと思っている節があるから、戦術機そのものの開発に余程深く関わらない限り普通は気付かない領域なんだけど・・・。


その結果が、この絹みたいな乗り心地、だと言う。

・・・ま、戦闘力も上がるんだから何も文句はないけれど・・・。



今、この“海神”が通っているのは、横浜ハイヴの外郭に広がるスタブの一つ。
横浜基地自体は、地下茎構造がフェイズIVクラスだったH22の、主縦坑を中心とした範囲に構築されている。
しかし半径で10kmに及ぶ外郭スタブに関しては、埋戻す手間もなく、基地外郭で閉鎖しただけで、そのまま残されている。

彼方はあろうことか、基地最深部のスタブ構造から、気がついて居なかった偽装抗を抜け、この周辺スタブに潜り込んだのである。











「ちょっと出かけてきたいんで、海神[わたつみ]貸して貰えるか?」

彼方がそう言ってきたのは、昼食時間も終わり、午後の作業に入った頃だった。
相変わらず唐突なやつ。
・・・・・・しかも昨夜の今日だというのに、全くかわいげがない。

アタシと言えば、今朝はこの上ないくらいすっきりしてたし、午前の設計もサクサク進んで上機嫌だったのに。
・・・・・尤も、それで我が物顔で馴れ馴れしく成るような奴なら願い下げだが。


「海神?  そんなの、ここに在った?」

「格納庫の隅に1機、ホコリかぶってた。朝一でA-01に教導プログラム渡した後、整備しておいた。
サンプルか、海底作業用だろう?」

「なら・・・・・別にいいけど・・・、なにするの?」

「・・・昨日少し話したこの世界の“御子神彼方[ネイティヴ]”が、用意していた遺産[●●]を確認しに行く。」

「・・・・こっちの世界のアンタ、ね。何してたのかしら?   ・・・でも海神で出歩くなんて目立つのはイヤよ。」

「ああ、そこはどうにかする。・・・・・・いっそ夕呼センセも行く?  ココの海神は複座だったし。」

「・・・はぁ?」


話によれば、所要時間は4時間、夕方には帰ってこられるという。
素子化作業が思いの外はかどり、今は試作待ち、時間に余裕の在ったアタシは、興味本位に話に乗った。


・・・・・・・・デートなんて思ってないんだからねっ!






そして仄蒼い坑道を抜けた小さな広間には、水面がゆらゆらと壁の蒼を映して光っていた。

「ここ、どの辺り?」

「昔の地名でいう八景島あたり。スタブから海中に直接出られる唯一のルートらしいな。」

・・・・・・抜け目ない奴。
確かに機密区画からスタブに抜けて、そのまま海中に出られるのなら、誰にも見咎められない。

そしてその後は、仄暗い海の中をおよそ40分。

移動速度が20ノットだから21、2kmかしら、浅めの海底が、急に崖のような深い深淵に変わる。
その淵にそのまま潜行してすぐ、薄暗い海中に巨大な構造物を認めた。
彼方は臆することもなく、その底部に回る。
その人工構造物[●●●●●]の気密ハッチと覚しき場所にたどり着いた。





何をどう操作しているのか、シークエンスが進む。水深は100m程度と推定、それなりの水圧はあるのだろう、減圧エリアを抜けて、プールに浮かぶ。そのままドックに上陸した。

・・・・・・広い。

横浜基地の戦術機ドックくらいある。
殆どがらんとした空間に、小型の再突入HSSTだけが佇んでいた。
あれって・・・前進翼の実験機じゃ無かった?

周囲はシンとしていて、他に動くものもない。
勿論人の気配なんかない。
しかし自動的に証明が点くところを見ると、この施設は生きている[●●●●●]のだ。



彼方は適当なところで海神の膝を着くと、ハッチを解放した。
彼方は、少し高い位置からの着地に手を貸してくれる。




「・・・・・・なによ此処は?」

御子神[ネイティヴ]が9歳から行方不明に成る18歳までの10年間で構築したメガフロート・・・、今は沈めてあるからメガシンク、だな。
少し斜めだが、東西方向に2km、南北方向に5km、高さは平均50、最大100mの海中基地。

・・・・ま、今は唯の倉庫だけどな。」


・・・・目眩がする。

幅2km、長さ5kmのメガシンク?

・・・・・覚悟しとこうかしら。この世界の彼方も、トンでもなかったみたいね・・・。



と、彼方はアタシの手を引き、そのまま近くのエレベータに乗る。

「・・・知ってるの?」

「MAPは見た。手近なコントロールルームに行こう。」

「・・・・・こんな規模のモノが10年で出来るものなの?」

「・・・・・壊滅状態の横浜に2年弱であの規模の基地を作った人に言われちゃ、御子神[ネイティヴ]も立つ瀬がないが、このメガシンクは結構面白い作り方してる。
落雷喰らってないから“覚醒”してない筈なのに、技術的[●●●]に俺よりチート[●●●]っぽいな、御子神[ネイティヴ]は・・・・。
こっちの世界のほうが、ある分野技術的に進歩してた事もある・・・、のかな。

エネルギーを供給する“[コア]”ブロックを最初に作って、その周囲にメタンハイドレートを利用した炭素系モノマーから高靭性ポリマーを成形している。しかもハイヴ壁と同じ思想・・・導電繊維に電圧かけると、強化される構造してる。」

「!! それって成長できるってこと?」

コントロールルームには、いくつもの制御盤、それに付随するモニターや、端末が並んでいる。
今は、その全てが自律制御しているらしい。

片隅には給湯コーナーもあり、置いてあった缶を開封し、珈琲を入れてくれた。

大きなモニターを有するミーティングコーナーに座ると、キーボードを叩いてこの施設の全容を示してくれた。

「・・・・外殻で生成して、徐々に硬化蓄積。珊瑚みたいな成長だな。材料次第で成長速度は桁違いだが。
この場所では材料になるメタンが無いからこれ以上は無理だが、メタンハイドレートの堆積している外洋大陸棚に行けば、1年でギガフロート位になるだろう。
あんまり急ぐとメタンハイドレートの堆積層そのものを崩落破壊しそうだからそんなに無理は出来ないが・・・御子神[ネイティヴ]の遺したプロセスによれば、3年で30基は行けるか・・・水稲と野菜類の水耕栽培位は出来るな。」


「30基、・・・・って?」

「ギガフロート30基。1基で1ギガ平方メートル、つまり1000平方kmが30基ってこと。」

「・・・・・ちょっと待って!?  確か東京都の面積が・・・2000平方km位じゃなかった?」

「2,200弱、かな。当面農業プラントしか出来ないから、1000万人の移住には、ちょっとまだ足りないが、5年在れば何とかなるだろ。」




・・・・・・絶句。


覚悟はしてたのに・・・・。

彼方をして技術的にチートと評した御子神[ネイティヴ]


「・・・・なるほどね、・・・これが帝国への援助ね?」

「・・・・俺のポケットには大きすぎらぁ。」

「・・・・なにそれ?」

「気にするな・・・、一度言ってみたかっただけだ。」

「・・・・でもコレだけの技術が在るなら、なぜ御子神[ネイティヴ]はもっと早く使わなかったのよ?」

「それが、本家との確執だな。」



・・・・九條。

五摂家の一角でありながら、一番穏やかで、波風を立てない、と言われている。
御子神の家は、九條家の分家、元は2位か3位の家格だったはず。

御子神[ネイティヴ]のブログによれば、と言うか元々武家には商売に関わることを軽蔑する気質が在るんだろ?  異世界産の俺には感覚的に馴染めないが。」

「らしいわね。」

「だから、御子神[ネイティヴ]が提案する技術を使った事業化にも悉く反対した。まあ押し潰した、と言う方が表現としては正確かな。
ところが、提案に猛反対した筈の技術が、とある財閥系の企業から特許として申請され、大々的なプラントとして推進される事が公表された。
当然御子神[ネイティヴ]と内容を知っていた御子神家は九條に抗議、返ってきた答は、たまたまその企業が同じ事を研究推進していたのだろう、と。
寧ろ御子神[ネイティヴ]こそ、その技術を盗んだのではないか、という𠮟責。
当時まだ9歳だからな。
当然、その財閥から九條に多額の寄付という名目で裏金が流れていたのは掴んでいたが、結局表沙汰には出来ず、以来御子神[ネイティヴ]は一切の表だった活動を止めた。」

「・・・何の技術だったのよ?」

「合成半透膜による淡水化プラント。」

「え?  でも其れって確か・・・・・。」

彼方がニヤリと哄う。

御子神[ネイティヴ]も俺と似たような性格らしいな。
九條に提出したプラントモデルには、重大な欠陥を紛れ込ませていたらしい。実験室レベルの規模では判らないが、大規模プラントの本格稼働には致命的になるようなヤツをね。
当然計画を推進した企業は、プラント工期の終端になってそれが発覚。当然天から振ってきたような技術、内容を深く理解しているような技術者は居なかったから、改善策もお手上げで大損害が確定した。下手すると会社が傾くかってほどのな。」

「・・・・覚えてるわ。画期的な技術と言われながらの致命的欠陥騒ぎで、政治的な責任問題にまで発展してたもの。」

「・・・一方でオリジナルを知っている御子神[ネイティヴ]はちゃっかり裏で小さな会社を設立して、その改良特許を被せていた。其れに気付いたその企業は言い値で買ったらしいぜ、その改良版を。
今でもそのプラントが生み出す利益の8割は、その支払いに充てられてるらしいから。当然その後、その財閥と九條は疎遠になった。御子神[ネイティヴ]を𠮟責するわけにも行かず、当主は微妙な貌をしていたらしい。」

「フフッ!目に浮かぶわ。・・・・・・・ワル、ね。」

「俺じゃないし。」

「魂魄は繋がってんでしょ。」

「・・・・まあ、俺でもその位はするかもな。

で、表面上は経済活動から一切手を引いた。
その頃、悠陽とも引き合わされている。本家の意向でな。

その時点で悠陽は、次期将軍候補って所だったが、一応の抑えだったんだろう。他に年の近いのが本家・分家筋にも居なかったし、当時表向きは従容としていたらしいからな。

で、その裏で手がけたのが、ロジスティックス、だった。
表に出ないよう、密かに協力者を集め、NPOを立ち上げて、絡んでいった。


当時、世界はボパールハイヴが出来、喀什のBETAが本格的な東進を開始した頃だから、軍関係の物資を除いても、食料や避難民と言った大量の輸送が必要だった。
そして帝国はまだ後方国家扱いだから、特に北米や南米からの物資の一大中継基地になっていた。
勿論、海運が中心なんだが、各社の動きがバラバラで、余りにも無駄が多かった。
それを統合したのが、NPO: Chat Noir [シャノア]ってわけだ。」

「彼方、そのNPOって?」

「ああ、ハワイに知己が居るって言っただろう?  ビデオチャットで話をした。
雷の直撃喰らってずっと昏睡、ようやく意識は戻ったが、記憶野は個人的な領域が再生不能、と言ってある。
電子記録を確認した範囲で、前の知識が在ることも。
そのまま代表権も渡そうとしたんだが、それは保留にされた。
既に2年不在だったから、実質奴が代表なんだがな。」

「そういう事ね・・・。」

「まあ、やり方は構築したからな。
ニーズとシーズを収集・分析し、必要な輸送を最低限の手数で叶える、一種の輸送最適化だ。
それをグローバルからローカルまで展開する。そんな活動を展開した。

なにせ、NPOだからな。
各社の調整はするが、金は取らない。はじめは訝っていた各海運会社も効率が良くなって稼働率そのものを高められるから、稼ぎも上がる。当然徐々に信頼され、更に情報が集まる。
やがて日本を通過する貨物を主とした活動から、2年後にはアジア、オセアニア圏まで網羅する物流の統括となっていった。

アフリカを除けば、世界の食糧の8割を生産する地域の、太平洋・インド洋航路を殆ど統括していた、というか今もしている。
例のプラント騒ぎの特許料やその他もあって資金もあるから、自前の運輸手段も揃えていった。特にホバークラフトによって内陸の戦地まで届く陸上輸送を手がけたのが“シャノア”だったからな。

で、最終的に一手に引き受けたのが、“前線国家への食料調達”だったわけだ。」

「・・・・・初めから狙っていたの?」

「そこはブログに書いてなかったから、定かではないが、どちらかというと、日本が侵攻されたときの避難場所と避難手段を想定していたらしい。
だからこんな施設も作ったし、ギガフロートの生成プロセスも考えていた。数千万人規模の輸送を想定していたんだろ。

だが、予定外だったのは、中華戦線のふがいなさと帝国軍の壊滅が余りに[●●●]早かったこと。

重慶ハイヴからの東進に、中華戦線は一切の抵抗を放棄して早々に撤退したこと。
そして台風の影響が在ったとはいえ、既にソ連・中国の軍は大幅に損耗していたから、当時の世界で言えば第2位の軍事力を保っていた帝国が、僅か1週間で九州・四国・中国地方を喪い、帝都防衛さえも1ヶ月足らずしか継戦出来なかったこと。
当時の戦力を冷静に検討すれば、流石にいくら何でも半年は保つ、と考えていたらしいから、1週間しか保たなかったのは完全に想定外。
と言うか可笑しいだろ、それ。九州から京都までの距離を考えれば、BETAの進軍を全く留めることが出来なかった、と言うことになる。帝国陸軍の壊滅的打撃と3,600万人もの犠牲を出していながら、な。


結局、その半年が致命的な遅れになった。

実際、ギガフロートの展開準備が全て終わったのは、明星作戦直前。
そして明星作戦後、実施という段階に至って、今度は当の御子神[ネイティヴ]行方不明[●●●●]、という事態に陥ったわけだ。
死亡ではなさそうなんだけど、実際この“世界”に御子神[ネイティヴ]気配は無い。まあ、居れば俺が来ることは無いだろう。
御子神[ネイティヴ]は、悠陽の協力者ということで、一応斯衛衛士と言う立場だったらしいが、現実は情報部みたいなことばかりしてたらしいから、G弾の影響範囲には居なかった筈だが、此処が在るからな、横浜付近に居たことは確実だろう。
当時G弾の影響でいろんな現象が起きていたらしい。外縁部では局所的上昇気流によるスーパーセルも発生したから、俺と同じ落雷ってのも可能性が高い。それで何処かに飛ばされた、かな。

そしてこのギガフロート計画そのものは、完全秘匿、“シャノア”の幹部や悠陽にさえ詳しい内容は伝えて無かったらしいから。」


判らないでもない。計画が大きければ大きいほど、その抵抗も強い。
オルタネイティヴだって、例に漏れない。
コアさえ作成してしまえば、極少人数でも推進できる計画。それだけに漏洩したときの被害も大きい。
完全秘匿が絶対条件になるのは安全上仕方がない。



「・・・・話が前後したが、そう言った訳で、92年頃から、“前線国家への食料調達”を引き受けた“シャノア”だが、その成果というか、結果というか、お零れがコレだ。」

「・・・・・・・」


目の前のモニターに映されたのは、コンテナの群。5段ぐらいに積まれたそれは、白く凍り付いているが、白く霞む冷気の所為で、並べられた横幅と奥行きが判らない程、膨大な量[●●●●]


「・・・・1992年から1998年の6年間に、主に中国やソ連に送られた食料、国連のバンクーバー協定に基づく最前線国家への無償供与、その一部。このメガシンクで-50℃に保管されているその総量は、約1000万トン。」

「!!! 荷を抜いた[●●●]って言うの?!」

「まさか。・・・・・・考えても見ろよ、無償[●●] って言うのは、ある意味、最も無責任[●●●]って事なんだぜ。」

「・・・・・・」

「もともと、当時の中華もソ連も腐りきってたからな、食料を送り出しても、それが前線に届く頃には、その量が1/10に成っている事など、珍しいことではない。“シャノア”が直接前線まで届ける分はそうでもなかったらしいが、普通の海運で港に下ろされた荷物は、大体そこで当時の権力者に、散々に蚕食された。

なにせ、“ただ” だからな。

国連や送り出した国は、その荷が送られた、という証明さえあればいい。責任は果たした、と言うことになる。受け取った後の使い道なんか知ったことではない。
コレが有償だったら話が違う。届かなければ費用の支払いが滞り訴えられるわけだから、ちゃんと届いたかどうか、そこまで気を配る。
無償であるが故に、送り出した、という事項を以て責任は完了する。ああ、良いことをした、という満足感だけ残して、な。そこに受領証明なんか必要ないんだ。

そして平気で焦土作戦を敢行するような無能な権力者に、それを全量戦地に送る意識など全くない。横流しして自分の懐を暖めることに腐心した。
結果、前線が崩壊し、自国が滅ぶ事になっても、金を蓄えた自分たちは、いくらでも行くところがある。」


BETA大戦で、初期の主戦場となった中国とソ連による戦略の失敗は、明かである。初期の段階で、封殺が出来ていれば、今の状況は無かったのだ。
奢りによる状況判断の遅れ、そして何よりもその腐敗[●●]が致命的な失敗を招き、そして今尚、国連常任理事国という立場からその責任さえ明確に問われていない。
前線を犠牲にしてぶくぶくと肥え太った権力者が、今も2つの国を牛耳っている。


「・・・・・そしてもう一つ、それが絶望的なまでの前線の後退、さ。
今此処に眠る荷の殆どは、“行き先”を喪った出戻り[●●●]
予定より早い撤退であれば、勿論それは運が良い方で、殆どはBETAの怒濤に飲み込まれ、破壊し尽くされた基地や、避難所、集落だったりしたわけだ。」

「!!!」

「そして、一度送り出した荷物[●●●●●●●●●]を国連が受け取ることは、無かった。
さっきも言ったように、“無償”だからな。送り出すことまでが、責任範囲。戻ってくる輸送費や、新たな送り先を選定・再送する手間は省きたい。
当初は戻そうとしたらしいが、廃棄を指示された。ほっといても次の“無償供与”の荷がとどくからな。」


・・・・・愚かしい。余りにも・・・。

人類の生存を賭けたはずの戦争。人類の9割近くが死にゆく中で、近視眼的な思考しかできない権力者の無明が、今の事態を招いた。


「・・・で、御子神[ネイティヴ]は全てをこのメガシンクに集積した。来るべき国家危急の時に備えて。恐らくは、誰にも伝えず。」

「それは・・・・。」

「さっきも言ったけど、西日本を1週間で陥とされた無能な指揮者集団。その1998年の西日本陥落まで、この国の上層部にそんな危機感が在ったと思うか?
10年以上、関わっている夕呼センセが、最もよく分かっていると思うが?」

「!!・・・」


今の立法と行政の乖離。
そもそも行政権力の多重構造。
この人類の瀬戸際に在ってさえ、一国レベルでも纏まれない人類という、種。

人類の最大の敵は、BETAでも国際社会でも、国家でもなく、各個の裡に在るのかもしれない。







「・・・・・ちょっと統計を調べてみたんだが、西日本が壊滅する1997年まで、帝国の食料消費量は、年間1億トンに近い。
が、実はこの数字は、少し異常だと思わないか?   
いろいろ異論もあろうが、人一人食事1回当たりの摂取量を300gとすれば、1日3食で0.9kg。年間でも330kg程度だから、1億人居ても消費量は本来1/3程度で済むはず。」

「!!」

「つまり、その1/3は最初から、食用から飼料に転換されより高級な食材、畜産物へと変えられる。
そして残りの1/3は簡単にいえば色々な課程で廃棄される。
つまり日本人は年間に実際に食べる量と同じだけの量を家畜に与え、そしてまた同じ量を、捨てていた、と言うわけだ。

それが1998年、BETAの侵攻によって、3,600万人の犠牲者、2,500万人の避難民を生じた。
生き残った人口は7,400万人と推定されているが、当然農業・漁業生産は半分以下に落ち込み、今も回復していない。
避難民の内、計1,000万人はいくつかの国に分散して海外に移住し、残りの内500万人は避難先で何らかの定職を確保したが、残る1,000万人は未だ非生産難民。

結局BETA侵攻以来、国内に残る5400万人の稼ぎで6400万人を養う、と言う構図が出来上がっている。


そして現在の食料受給は、国内生産量が年間1,500万トン、輸入が1,500万トン。

それに佐渡と横浜にハイヴが出来たことで、最前線国家に指定を受け、国連から与えられる食料支援、これが500万トン。



先の試算では、飼料や廃棄の無駄を除けば、避難民も含め国内では十分3食が確保できる筈だった。

普通なら1,000万人の非生産難民を維持するなど到底無理なんだけどな。
ところが500万トン在るはずの支援食料が、避難民に届く頃には、1/10に減っている。


その差は、何処に行った?


御子神[ネイティヴ]を暗鬱とさせた中国やソ連の上層部と同じ事を遣ったのが、九條と統合参謀本部[●●●●●●●●●]だった。」


「!!!!」



御子神[ネイティヴ]が調べた範囲でも九條は先の財閥への技術横流しなんか些末で、いろいろ遣っていたらしい。
時の政府閣僚や、現場を取り仕切る高級官僚を抱え込み、そこと結託して前職の政威大将軍の時から何かと文句を付け、その権限を形骸化させていった。
当時の事は、電子文書の形で残ってないから憶測でしかないが、五摂家として元枢府から政治に参画し、将軍に進言しながら、その穴を政府官僚に漏洩し、責め立てる、そんな事を繰り返し統帥権干犯を推し進めたらしい。
扱いやすし、と踏んだんだろうな、’98年の政威大将軍の就任に当たって悠陽を強く推したのも、九條だ。
その当時で既に将軍の意思が政治に反映されることはほとんど出来なくなっていたからな。

国連からの最前線国家特権で供与される物資を取り仕切ったのは政府・省庁、そして統合参謀本部。それも、殆ど九條の息が掛かった者ばかり。喰いたい放題の“無償”物資に群がった。
“蛇の道は蛇”で、大陸で中国やソ連の上層部が遣っていたことを知っていたらしい。

政威大将軍の権限を制限しながら、その職そのものを完全に消さなかったのはそのため。
政府の管轄でもない、将軍の管轄でもない、非常に中途半端な位置にしたかったらしい。その中途半端を、軍需というBETAに瀕した状況に訴え、参謀本部と言う本来口出しできない組織が引っ張った。


そして、本土防衛でまさか手を抜いた、とまでは言えないとも思うが、九條が仇敵と口では言っている米国国内に、相当の預金が在ることも確認した。
・・・・・・第5計画派に近しいことも、な・・・。」


「!!!」


「権力者ほど、今の世界の悲観的な状況が理解でき、目敏い者ほど微かな希望、移民計画にすがりたがる。
もし、九條が数年先ではなく、10年先を見ていたとしたら、3,600万人を切ってでも、濡れ手に粟の“無償供与”を呼び込みたかった可能性は、0じゃない。どうせ10年後、10億は死に絶えるのだから。」

「・・・・・」

「・・・・そもそも九條は斯衛軍にはあまり近く無い。実際五摂家でありながら今の斯衛将官に、九條縁の者は居ない。
佐官の御子神遥華・・・まあ、御子神[ネイティヴ]の姉で、今の御子神当主だな・・・が居る位。

代わりに何故か、統合参謀本部には将官・佐官併せて4人が在籍している。更に本土防衛軍にも3名。
尤もこれは99年の初頭に御子神[ネイティヴ]が起こした“弾劾”の所為でもある。」

「・・・・・あの話は本当だったのね?」

「ああ。・・・・供与食料の横流しを名指しで指摘された九條は、決定的に御子神[ネイティヴ]と決裂した。

若いね御子神[ネイティヴ]も。

よりにもよって、皇帝陛下が国政について審問する評価会に於いて、武家の在り方として義に背けば親でも弾劾する、と前置きした上で、本家を提訴した。
形骸化した儀礼的な意味合いしかない評価会だが、出された動議が国際的にも信用を失墜しかねない動議、しかも証拠が決定的だっただけに無視できなかったし、武家の在り方を言われてしまえば、九條も分家絶縁すら出来なかった。現実的には以来交流は無いだろうけど。

結局、動議そのものは武家社会の恥とされ隠蔽されたが、九條は宗家の重鎮に責任を被せて切るしかなく、縁者の斯衛将軍職も辞した。代わりに本土防衛軍に入っただけだけどな。



そもそもこの本土防衛軍と言うのは変な組織なんだ。
実戦部隊を一切保たず、実際の戦闘には帝国軍を招集。その指揮だけを取るという上位パラサイト。
統合参謀本部と結託というか、統合参謀本部そのもの。

結局大陸派兵にビビった上位の腰抜けが、ポスト確保のために作った実態のないハリボテ、と御子神[ネイティヴ]は見ていた。
しかし、逆に大陸に派兵した有能な将官は、軒並み損耗した。主に荷抜きをする以外能のない中華戦線のお偉方に前線配備された所為でな。

現実に軍を動かす指揮官が激減した所為で、本土防衛軍は益々つけあがった。


その結果が惨憺たる本土防衛であり、極めつけが京都防衛戦。

それ迄の敗戦も画策したように酷いが、本土防衛軍と名をつける者が、皇帝や将軍がそこに居ることを良い事に、斯衛に丸投げして真っ先に逃げ出した。
将軍に成り立ての悠陽をして、将軍・五摂家は帝都と共に在るべし、なんて茶番を仕掛けたのも九條。裏で本土防衛軍と名の付く者は逃げておいて、だ。
敵前逃亡と変わらない状況だって言うのに、提訴するべき統合参謀本部と裁かれる本土防衛軍が実質同じだって言うんだから、嫌疑さえかからなかった。

彩峰中将の時は舌鋒峻険だったらしいけど。
陸軍が統合されて、今その下で猿回されている狭霧はいい面の皮だ。


しかし、こうして御子神[ネイティヴ]の記録を紐解くと、このコトだけで外伝どころか、一大長編が書けそうだけどな。」



「・・・・何処でも波瀾万丈の人生送ってるのね。・・・けどなんで、そんなの相手にする必要があるのよ?」

「・・・・面倒なんだが・・・俺達の計画が進み年内に佐渡を奪還すると、日本国内にはハイヴがなくなるわけだ。」

「・・・・・あ!・・・、最前線国家から外れる訳ね!    」

「そ。その瞬間500万トンの食糧援助が有償になる。輸入量が一気に33%増、支払いはすべて国庫。

一瞬で飛ぶ[●●]だろ。

デフォルト、債務不履行。

普通に行ったら、国内に抱えた1000万人超の非生産難民を養えるわけがない。
所得がないから税金も取れないばかりか、生活保障にはその何倍もの金がかかる。
さっきの比率で行けば、避難民一人養うのに、5人分の税金が使われる。
・・・・現実的には、ジェノサイド位しか手がない所まで、本気で来ている。

勿論国の借金は無理、そもそも飛んだら国債が成立しない。


ギガフロートはその避難民を農業に当てるための設備であり、この備蓄は、生産が軌道に乗るまでの、その間避難民を養うための備蓄。
まあ3年以降、荒廃した国土をどこまで取り戻せるかは不明。
そこまでは、責任持たんよ。

けど、これを邪魔をするなら、俺は本気で九條と統合参謀本部、本土防衛軍を潰す。俺には何の柵もないからな。」

軽く言い切る彼方。
コイツがその気になれば、潰すだろう。
御子神[ネイティヴ]みたいに尻尾切りで済ますこともない。
・・・遣るなら徹底的に。










「しかし・・・・大した遺産だわ。3年間、帝国を支えきるわけね。」

「上位存在殲滅は、人類安寧の第一段階に過ぎないからな。
月、火星、その先を考えれば、今経済的にも帝国を滅亡させるわけにもいかない。
まあ最悪米国のシンパと組んで乗り換える、と言う手もあるが、あの国はあの国で面倒くさいし。」

「で、一つ良いかしら?」

「・・・・・・・なんなりと。」

気付いているらしい。彼方が諦めたようにため息をつく。

「この世界の御子神[ネイティヴ]が居なかったら、否、居ても此処まで準備されてなかったら、どうするつもりだったの?」

「・・・・・・ここの“[コア]”と同じものを供与した。」

「・・・コア?」

「夕呼センセなら、いずれ気がつくとは思って居たけどな・・・。隠せるなら惚けていようと思ったんだけど。
コレが御子神[ネイティヴ]、そして向こうの世界でも“俺”がたどり着いたこのメガシンクのキー・テクノロジーさ。」

そう言って、モニターに示したのは一葉の論文。


『相対性プラズマ励起場に於ける準高温領域核融合炉の実現』

「・・・!!!!」

「・・・実際俺も元の世界でも公表出来なかった革新的核融合技術。これは向こうで取り敢えず書いた論文だけどな。
公表してたら石油メジャーや中東産油国、各国エネルギーメジャーから暗殺者が、各国家から拉致者が来ること間違いなしの超弩級爆弾、さ。
これがギガフロートのポリマーを構成し、1000万トンもの食料を冷凍し続け、3万平方kmもの米や野菜の水耕栽培を実現し、1000万人の生活を支えきる“[コア]”。」

「・・・・・・・」

「水さえ供給すれば、勝手にそこから重水素を取り出して供給する、いわば永久機関。
但し、炉の製作に必要な重積カーボン・ナノフラーレン・チューブがこの世界で作れるのは、生産設備構築含めて10年位掛かるかもな。」

「・・・核融合の壁を越えたの?」

地球上で熱核融合を引き起こすのに必要な温度は1億℃と言われる。それに対し温度が上がれば上がるほど、それを縛る電磁場を維持する電力コストが跳ね上がる。
最終的に、発生できる電力量より、消費する電力量のほうが多くなり、何の意味もない事になってしまう。

太陽内部では1000万℃程度で出来ているがそれは電磁場ではなく、重力場そのものでプラズマを維持できるからに過ぎない。

「読んで貰えば判るが・・・特殊な場に於いては10万℃程度で、核融合が励起できるとしたら?
10万℃程度、レーザーの集光で直ぐ届く範囲。そして10万℃でも、核融合自体を維持できれば十分プラズマ成形されているから、MHD発電で電力発生出来る。
重積カーボン・ナノフラーレン・チューブは環状巡回で、常にプラズマ維持をしていて熱排出をしないから、水蒸気・タービンと言う発電過程が必要ない。」

「それって・・・・・・」

「・・・そうだ。理解してるよ。
社会構造へのインパクトで言えば、革命[レボリューション]級を越えた、破滅[カタストロフ]級の技術ってこともな。

俺も、恐らくは御子神[ネイティヴ]も、暗殺なんかどうでも良いが、社会に及ぼす影響の、余りの大きさに公開を控えた。

人間の、と言うか生命の歴史なんて、言い換えればエネルギーを如何に取り込むかという歴史。
太古、酸化硫黄や熱からエネルギーを得ていたた細菌からやがて酸素を生成する光合成を経て、生み出された酸素そのものを使用する構造に進化、さらにはその細菌を取り込むことで、組織として進化した細胞。
如何に効率よくエネルギーを取り込むか、の歴史に等しい。

人の社会も同じ。
やがて知恵を付けた人は外部エネルギーの果実を享受し始めた。

物を燃やすことで得られる熱から、様々な物を作り、やがて使い勝手の良い電気へと進化する。
水力・火力、そして原子力へと変遷しながら、効率の良い、そして永続できるエネルギー源を欲してきた。
いま、各国首脳が欲してやまないG元素。
それすら桁違いな発電効率所以であって、大戦初期の消極的なBETAの排除は、このG元素が欲しかったから、という側面さえある。

実際エネルギーさえ供給されれば、何でもできるからな。食料の生産も、水も、合成してしまえばいい。
空気や環境すら整えられる。

それが、無尽蔵に供給されるとしたら、究極的に人は、働く必要がなくなる[●●●●●●●●●]わけだ。

つまり、この技術が公表されれば、世界が変わる・・・、と言うか人の在り方すら変える可能性がある。


この世界では、既に80%を越える人口の激減によって、すでに人類文明が存続不可能な所まで追い込まれている。
この技術は、人類文明の再起には必要不可欠な要素でありながら、ひとつ用法を間違えれば、ショック死をしかねない劇薬ともなる。


だから[●●●]、“鬼札”さ。
“自身”を滅ぼす可能性さえ在る、な。



御子神[ネイティヴ]の遺産が無かったら、コレを餌に、先ずは中華の欲張り辺りを丸め込んで、大東亜連合でも立ち上げ、帝国を最前線国家待遇に持って行くか、と考えていた。
国連や、米国にもちらつかせれば、すぐ承認するだろ。
ハイヴ攻略にも“国内”と同じ扱いで、本土防衛軍に当たらせるとかできそうだし。
その上で、国内環境整備、と言った流れだっただろうな。


まあ当面御子神[ネイティヴ]のお陰で、そこまで黒いことせずに済みそうだ。
ポリマー生成の際の剰余メタンで動いている発電機、とでも言ってしばらくはごまかす。


まあ残念なのは、小型化は難しいことから対BETA戦略としては、人類の基礎体力強化以外の使い道はなさそうだけどな。」




成る程、彼方が言うように規格外の“鬼札”だ。
少なくとも、もう少し“人類”全体が成熟しなければ、劇薬ともなるだろう技術。

特大の隠し球。


・・・・それでも、まだ底が見えない[●●●●●●]

・・・それが頼もしくもあるけど・・・。

楽しくなってきた、と思うのは不謹慎かしら?


Sideout





[35536] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/01/13 23:30
'12,10,15 upload   ※幕間?短めです
'15,01,13 誤字修正


Side 武


彼方を探してシリンダールームに寄ったあと、夕呼先生の執務室に向かう。霞を誘うと、相変わらず無言ではあるが、トコトコ付いてきた。
・・・何か、それだけで癒される。ピコピコ動くウサ耳を見ながら、可愛いなぁ、と思って和んでいたら、その頬にほんの僅か赤みが差す。

・・・・・・霞、リーディング禁止!



夕食後のA-01とまりもちゃんのXM3教導を終え、シャワーを浴びるとこの時間。
朝は207Bの仮想体験、その後一緒に訓練過程に入ったから、今日は彼方と会っていない。A-01の教導の際にも居なかったから。


207Bのメンバーに取って、やはり朝の仮想体験は流石にショックだったらしい。冥夜ですら期待と不安、畏怖と憧憬と自省が複雑に入り交じったような微妙な表情をしていた。他も推して知るべし。
自分の抱いていた衛士像とのギャップ。BETAと言うどう足掻いても個人の技量では抗えないその物量。要求される高度なチームワーク。それですら、尚届かない過酷な現実。

まりもちゃんも、今は特に何かを皆に言及することなく、各自の考えがまとめるのを待つ方向でいるらしい。
私自身も彼女達への不干渉を止めるわ、と言ってくれたので、事後のフォローがちょっぴり心配だったオレは、かなり安心することが出来た。まりもちゃん自身、今までは皆の複雑な背景から、積極的に関わって来なかったそうだ。もともと落ちても構わない、と言う“逃避”もあったらしい。
それはそうだと思う。あの1週目の余りに情けなかったオレを、短期間で一人前に鍛え上げてくれたまりもちゃんである。寧ろ前の世界や傍系記憶にある207Bに対しての不干渉な態度は、優秀な教官としてのまりもちゃんとずっと噛み合わなかったのだから。

なので、座学は寧ろあの仮想現実で新たに知り得た情報の整理や補完に充て、訓練はそれぞれの機動を支える身体能力の解説と向上方法に充てられた。
元々207Bの今の教導内容は、総合戦技演習を落ちたことにより、以前に習った事の焼き直しや繰り返しでしかないから、本来問題無いのである。207B訓練小隊は、知識・技能が劣って不合格になった訳ではないのだから。
で、在るならば今後前倒しされる戦術機を動かすための訓練に先立ち、理想とする機動の基礎を紐解くことは重要で、自分の在り方に悩んでいた皆も、一時それは横に置き、講義や訓練に集中して聞いていた。、

・・・・つまり彼女らは、心折れて居ないのだ。

無意識にでも衛士に成ることそのものを諦めてしまった心では、そんな訓練に集中することは無いだろう。
前に進もうという意志は、既に皆の無意識の中にある。それは今回のこのループでも健在。それだけでも見せた価値が在るというもの。

そんな事を嬉しく感じながら、専らまりもちゃんの言う模範演武をし続けた訓練だった。


そして夕食後はA-01教導の為、シミュレータルームに行ってその練度の向上に驚いた。

聞けばオレが今朝朝飯前に試した、オレをエミュレーションした仮想アグレッサーが既に搭載されていると言う。流石にその実行には、大型のスパコンかクラスタレベルのCPUパワーを必要とするから、仮想人格を戦術機そのものに乗せて動かす事は出来ないらしいが、シミュレータの世界ではオレの基本とする機動をほぼ完璧に再現していた。
オレのコピーを載せた無人機が量産できればいいのにな、とも思う。・・・・ちょっと心情的には微妙だが。彼方に言わせると、外界の情報、時に視覚情報から、判断し、動作を決定する認識ルーチンが最もプログラム化し難いのだという。人間で言うなら、所謂経験と勘で直感的に最善を選び出す、そのアルゴリズムが構築できないらしい。それをクラスタを用いたスーパーコンピュータなら、膨大な並列作業で選び出せるが、戦術機レベルのCPUでは到底無理、と言うことだった。
戦術機全てに00ユニット載む訳にいかないだろう?  と言われればそれもそうだと納得してしまう。

その他にも3次元方向への耐G馴致訓練課程など、いろいろてんこ盛りで渡されたらしく、A-01の進歩はそれに沿った訓練の成果らしい。
有り難くもオレには座学的な要素は期待していない、との事だったので、ほぼ2時間、みっちり相手をした。いや、させられたと表現するほうが妥当か。
妙に皆さん、モチベーションが高かった。彼方はどんな発破を掛けたやら・・・・。

そして昼間そういった教導に勤しめるA-01に比べ、時間と言う意味でどうしても遅れてしまうまりもちゃんにもちゃんと置き土産が在って、いくつかのデータと共に、午後11時までと早朝5時からののシミュレータ使用許可が出されていた。
彼方が解説した音声や、皆の機動映像、その際の入力ログなどなど・・・。
オレならげんなりしそうなお土産に、何故か期待に満ちたキラキラの瞳で嬉しそうに受け取るまりもちゃん、何気にまりもちゃんもワーカホリックに成りそうで怖い。



しばらく定常化しそうな、そんな1日を過ごしつつ、オレは寝る前には純夏に会いに来る事にしている。

昨日も冥夜達との話のあと、シリンダールームで霞に手伝って貰い、純夏に1時間くらい話をしながら、サンタウサギを作って居た。材料は頼んだ彼方が揃えて呉れたので、既におおまかラフな形にはなっていた。それらのパーツを丁寧にサンドペーパーで削り、更に記憶にある形に整える。今はまだ塗装前で、仮組の状態だが、それなりの形にはなっている、と思う。
シリンダールームを訪れたオレに、

「御子神さんなら、さっきまで此処に居ました。」

と教えてくれたのは、そこで何かの支度をしていた霞。
今日も日付が変わる頃までは純夏の傍に居てやりたいが、その前に塗料が欲しいのだ。



で、霞と共に出た廊下で、夕呼先生の執務室に手を伸ばし、止まっている彼方を見つけた。

「かな「!」・・・」

呼びかけて目で制される。

「・・・・・・なに?」

近づいて小声で聞くと、薄く笑う。

「・・・居るみたいだぜ、何気に怪しい[●●●●●●]人が。」

「!!」

それだけで理解した。



鍵が掛かっていないドアを開けると、珍しく薄暗い室内。
霞がすぐオレの背に回って服の裾を掴んでくる。
何処の霞も同じだな、と変わらないことを嬉しく思いつつ、室内に入った。

「・・・・居るんでしょ、鎧衣課長。態々電気消していることもないでしょ。」

オレが声を掛け、彼方が照明を点けると、スーツにトレンチコート、トレードマークの鍔の狭いボルサリーノ。
何時もの格好、穏やかな表情に眼だけがその奥底に炯々とした光を湛える、いかにも怪しげな人物が、佇んでいた。

「・・・・・おやおや、吃驚させようと思って居たのがお見通しかね、シロガネタケル。
私の記憶が確かならば、君とは、初対面の筈なのだが、私のことは知っているようだね。」

「いろいろ聞いてますよ。鎧衣課長こそ初対面なのにオレの事をよく知っているようで。
・・・・初めまして、オレが白銀武です。」

「ウム、私が鎧衣左近だ。
君が黄泉路より、わざわざ地獄の現世に舞い戻った事は、月詠中尉より伺っているよ。・・・・DNA含め“本人に間違いない”との事も含めてね。」

確かめるような視線。既に月詠中尉より、拝謁希望の事は伝わって居るのだろう。

「煉獄の黄泉路よりは、地獄のほうがマシです。」

オレの言葉に肩をすくめ、そして鎧衣課長は、貌を彼方に向ける。


「・・・・・・・・・お久しぶりです、御子神殿。2年前行方不明となられた貴公がこのタイミングで戻られるとは・・・。」

・・・・・・・・・随分と態度違わネ?

「こちらの事も月詠中尉から聞き及んで居ると思うが、・・・・・俺は2年前落雷の直撃を受け、長い間意識不明だった。この春に漸く昏睡からは目覚めたが、落雷が頭を抜けたことで記憶野は物理的に完全に喪われた。
その為、鎧衣課長と面識があった記録[●●]は在るが、記憶[●●]には無い。
なので、心情的には、初めまして、なのだがな。」

「ご謙遜下さるな。今でも我らに多大なる便宜を図って戴けるNPO・“ Chat Noir [シャノア]”創立者、ご帰還を喜ばしく思って存おります。」

「・・・・・言葉が過ぎるな。
記録に拠れば、少なくとも公式の席でない限りそんな言葉使いはしていない。俺を試すならもう止めにしてくれ。
どうせ悠陽に言われて、俺を知っているアンタが“真贋”を確かめに来ただけだろ?」

「・・・・・・・ウム! 記憶を失ったとはいえ、確かにその態度、紛れもなく御子神彼方と言うことか!」

「茶番はいい。あんまりうっとうしいと、“シャノア”の外務二課優遇措置、取りやめるぞ。」

「おぉ、それは何度ぞご勘弁を・・。世界を股に掛ける“シャノア”の俊足を失っては、我らの機動力が激減してしまいます故。」

「・・・・彼方、なに?  “シャノア”って?」

「(こっちの)俺が昔立ち上げた、物流関係のNPO。
武器以外の食料や難民関連のロジスティックスをほぼ統括している。
記録の上では、少なくとも鎧衣課長以下、外務二課は悠陽サイド[●●●●●]だからな、物流のついでに彼らの移動をサポートしてる。」

「左様・・・。当初、九條の差し金で殿下に接近したかと、訝しんだが、コイツはトンでもないタマでな。なんと、義を重んじ、宗家当主に真っ向から噛み付いた漢だ。
月詠中尉からの報告が“本物”と知れば、殿下がどんなにお喜びになることか・・・。」


・・・・・ああ、そういえば彼方は殿下の知己だっけ・・・。思わすPXでの冥夜を思い出す。・・・・・アレの殿下版?


「・・・しかし、行方不明とて、御身の斯衛籍は抹消されて居らぬ筈なのに、何故、横浜基地になどに・・・?」

「“魔女”に“黒猫[シャノア]”は、似合わないか?」

“シャノア”って、黒猫?  で物流?
・・・・・オレは思わず元の世界を走り回っていた、黒猫印のバンを思い出してしまった。

魔女に黒猫に物流かよ・・・・。彼方、嵌り[]だぜ、それ・・・。
少なくとも、ネーミングした筈のこっちの彼方がそれを知っているとは思えないから、・・・もしかして夕呼先生との共闘とかも視野に入れていたってコトか?
こっちの彼方も、なかなか抜け目なさそうな奴だったもんなぁ・・・・。そういえば、オレと逢った時も“猫”被っていたし・・・・。


「おお、それはそうだな。そもそも黒猫は、その色ゆえ暗闇に紛れ、人の目に見えず、隠れ留まる能力を持ち・・・・・「アンタ達、人の部屋でなにやってんのよ?」」

おっと、件の魔女、この部屋の主が現れた。


「・・・・これはこれは、香月博士、今宵は一段と・・・・・・、ウム、一段どころでは在りませぬな。元々お美しかったが、今はなにやらこう、内側から光が差すような美貌・・・、何か善きことでも・・・?」

「・・・・そりゃあそうでしょ。この2人のお陰で、計画完遂の目処が立ったんだから。」


あ・・・、あっさり、ぶっちゃけたよ! この人!!


「なんですと!!??」

「なんですとも、かんですとも、そー言う事よ。
はっきり言ってしまえば、対BETAの地球侵略意図に関する情報収集はこれ以上遣っても無駄、ってトコまで済んだのよ。

今後は、BETAの勢力情報や展開状況の分析と、対抗する戦略・戦術の構築、そして実行よ。
その際作戦実行のメインは、この2人。
其れも含めて謁見をお願いした。・・・・・勿論、秘密裏にってことで。
その辺判って行動してくれたんでしょうね?」

「いやはや・・・・、何時にもましてオーダーが厳しいですな。
しかし・・・・・・そうですか。其処まで計画に進展が在ったとは・・・・。
では例の件も、早急に進める必要が在りますな・・・・。」

「そうね・・・・、可及的速やか[ASAP]ではなく、最優先[●●●]でお願いできるかしら?」

「了解致しました。微力ながら力を尽くしましょう。

・・・そして白銀武国連軍少佐、御子神彼方国連軍技術少佐、煌武院悠陽殿下への内密のお目通り願い、以下のよう仕儀が整っている。
来る10月27日、午前10時、帝都城にて貴君等の到着を待つ。案内としては帝国斯衛軍第19独立警護小隊隊長・月詠真那中尉が随伴する。

尚、謁見には希望のあった内閣総理大臣榊是親殿と技術廠・第壱開発局副部長である帝国陸軍巌谷榮二中佐、及び、帝国斯衛軍紅蓮醍三郎大将閣下も同席する。
因みに私も末席に連なることを許された。」

「・・・上意受諾した。
内密って割には、白昼堂々って言うのが気になるが、まあいい。」

「懸念も尤もだが、当日は殿下も首相も別のところで政務を行っていることになっている。」

「・・・・了解。そう言うことなら当日その時間はヘリポート一つを空けておいて貰えると助かる。」

「! 空路で来るつもりか?」

「許可が降りれば、使用予定があってな。俺が前に乗ってた機体、知っているだろ?」

「!! XSSTか。佐渡から狙われるぞ?」

「馴れてるよ、低空進入する。」

「・・・・・・ナルホド、欠損した個人的記憶以外は、正しく御子神彼方、という事か・・・了解した、伝えておこう。」


・・・・すげーな、彼方。こっちの記憶は無いのに、鎧衣課長がタジタジだぜ。
よっぽど貸しが在る訳か。世界を股にかける神出鬼没って言うのも、“シャノア”の協力が在ってこそ、と言うことか。確かに“武器”輸送ではないけど、もっと剣呑な気がしないでもないが・・・・。


「武は、当日強化装備持参な。実機は無くても、シミュレータ演武位は在ると思うぜ。」

「おう、判ってる!」


そう、オレの望みはXM3の教導。
オレはオレの出来ることをするだけさ!


Sideout





[35536] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2013/04/04 22:05
'12,10,15 upload   ※連投。ご都合[チート]設定、再爆です。
'12,10,17 大幅改稿  ※後半部分の語句統一・説明追加等しました。
'13,04,04 誤字修正

Side 武


鎧衣課長が立ち去った後、徐ろに切り出したのは彼方だった。

一仕事してもらう時間をくれと言う趣旨。一瞬夕呼先生は文句を言おうとしたらしいが、彼方の様子に口を噤んだ。霞は、ただ黙っている。
そして、彼方が移動したのは、純夏の居るシリンダールームだった。

つまり・・・・純夏の蘇生に関することか!?



「・・・約束の2日経たからな。明日の朝でもいいんだが、昼間は何かと忙しい面子だ。ここで一気に極めておきたい。」

「・・・・・・いいわ、鑑に関することだもの。それによって作るユニットの形態も変わることだし。
で、結論は?」

「・・・限定的肯定。

その為の作業をコレからこのメンバーで行う。その結果次第で鑑を再生出来るか、00ユニットに移植するか、決まる。」

「!!」

「・・・・・この2日鑑の蘇生に関する情報を集めてきた。
その結果判ったことは、現状では鑑の脳神経組織は、重大な障害[●●●●●]が生じている、と言う事。
簡単に言えば、そのままでは再生不可能[●●●●●]、だ。」

「!!!・・・」

「・・・鑑はBETAによって脳幹以外消失している状態だ。
当然肺も心臓もないから、酸素やエネルギーである糖分、細胞増殖用のアミノ酸すら満たされているODLから供給されている。二酸化炭素や老廃物の排出もな。
謂わばBETA製代替血液に浮いているような状態だ。
ODLは単なる冷却機能だけを持つものではなく、幾多の機能をコマンドによって規定することが出来る、一種のナノマシンだと考えられる。直接細胞に遺伝子操作を施し、別の形態を強制的に発現させるのもODLの作用だしな。

で、そんなODLの作用で生きながらえさせられているわけだが、見ての通り、脳髄しか無い。
本来、間脳等で制御されるべき対象の臓器や、大脳につながる感覚器、運動制御する神経も脊髄までしかなく、筋肉も存在していない。
そのため、制御の該当部分は使われなくなった神経節が大幅に退化、乃至壊死している。これは使われないために神経節そのものが萎縮しているか、制御のために使われるレセプターに、応答がないため伝達物質が放出過剰となり、レセプターそのものが毀れてしまったか、のどちらかだ。

まあ、これらに付いては対応する器官の再構築と共に、神経系も一気に再生すれば問題ない、と言うことも判ったけどな。


けれど・・・・、問題は、BETAによる例の“性的陵辱”過程で、過剰な“快感”を与え続けられた神経節、特にA-10神経系のレセプターが、その過負荷に晒され続け伝達物質の放出抑制機構が破壊された事。
通常麻薬や覚醒剤を使用した性交でも同じ様な現象が起きるが、その場合レセプターの過剰応答による硬化は比較的緩慢なのに対し、BETAのやり方は、最終的には感覚器を断ち切り、その神経節に直接電流を流すという極めて乱暴なものだからな、レセプターの硬化も強制的で激烈だっただろう。
大量に放出された伝達物質は、結果的にその受容体を破壊し、一方で受け皿のなくなった伝達物質、所謂脳内麻薬が感覚野から大量に流出し、思考野や記憶野の神経組織までをも浸潤、破壊しつくした。

・・・・・・これが拙い。」


握った拳から血が滴り、唇を噛み締めた口の中に鉄の匂いがする。
前の世界で、純夏のプロジェクションにより、BETAの触手に犯され、更に敏感な部位を肥大させる様に身体を改造されて行く純夏を見た。
その様子ですら身を引きちぎられる想いだったのに、更なる過酷な責め苦は、それらの感覚器が全て切除されたその後に在ったというのだ。



「勿論これらも外から強引に再生すれば、神経細胞そのものの再生自体は可能だが、主に記憶や思考に関わるこの領域の神経節構造は元々鑑の成長と共に発展構築して行った鑑固有のものだからな、完全に元のままと言う訳にはいかない。
そしてこの激変は、今までの人格さえ破壊しかねない。」

「・・・・・・そんなの、どうやって直すのよ?」

「他の誰でもない、鑑自身にやってもらうしかないだろ?」

「「・・・・・・え?!」」

「・・・やり方は、知っている。何しろ・・・・・・俺はその経験者だから、・・・な。」

「・・・・・・。」



・・・・・経験者?

何の?





「ま、チョイと長い過去話しだが先ずは聞いてくれ。

前から言っているし、武は新聞でも知っていると思うが、俺は高校入ってすぐの15の時、落雷の直撃を受けた。
そいつは見事に脳天から入って、その時していたミュージックプレイヤーのイヤホンから外に抜けたらしいが、その通過ルートで、主に脳内の感覚野と、思考野をものの見事に破壊してくれた。
運動野や記憶野、間脳・脊髄はほぼぶじだったから、身体そのものは生きていたが、病院に担ぎ込まれた時点で脳波は殆どフラット、実際所謂脳死判定ギリギリのレベルだったらしい。
むしろ直撃で辛うじてでも生きていた事が奇跡に近いだろうが、な。

で、容態は、と言えば脳波殆ど無いが、身体機能は比較的安定、所謂植物状態一歩手前、ってところだ。
当時から医学的には脳細胞神経節が、“再生”されることは、既に知られていた。
脳細胞は、通常の細胞と違い、必要であれば増殖し、不要となれば衰退する。これは年令に関係なく、備わっている機能であると言われている。欠損した必要な脳細胞は、再生する、と言うことだ。

但し問題は、その再生速度。
特に神経節の再生に“刺激”を与える筈の感覚野が殆ど機能しない状態では、脳神経細胞の発達を促す刺激そのものが少なく、故に再生速度は極めて遅い。
俺が落雷によって被った広範囲における神経細胞の再生が行われ、意識覚醒に至るまで、少なくとも60年、と予測されたそうだ。

それでも、“生きている”からな。代謝や反射は問題なし。最低レベルの脳波だけはある。
そこから一度繋いでしまった生命維持装置を外すことは“殺人”に当たる。
・・・と、言う事で俺はそのまま生かされ続けた。

まあ、過程と姿は鑑の方が言い表せないほど過酷だとは思うが、今の鑑と同じような状態に在ったと思ってくれればいい。」

息を呑む。新聞で知識としては聞いていたが、実際に経験者の語る事実は重い。
・・・そうだ。
彼方は、その死地からの“生還者”。奇跡の体現者だった。


「鑑と違うのは、俺にはそのボロボロにされた思考野の神経節でも、生き残ったシナプス同士が辛うじて繋がり、極細い糸が絡みあうような危うさで、微かな“意識”が残されていた、と言うことだろ。脳波計にすら乗らないような、か細い意識が。

まあそれは、感覚野が破壊され、認識出来る五感は無いから一切何も感じないし、運動野そのものは無事でも、そことの繋がりは完全に切断されているから動くことも出来ない、正しく真闇の中に取り残された“自意識”だけの状態だった。

記憶野そのモノは破壊を免れたが、その接続が不完全で、思い出しようにもただただ混乱する記憶。
感覚の全くない、自分自身が在るかどうかもあやふやな、存在感。
まさしく死んでいるのか生きているのかさえ解らない、極めて曖昧な状態さ。

・・・・・・最初は、とっとと殺してくれ、と思ったよ。」

「!・・・・・・。」

いつでも飄然としている彼方が、そう想うなど絶望の深さが思われる。
一切の感覚が遮断された、完全な闇に浮かぶだけの意識。
救いのない絶望。彼方もそうだが、それは今も純夏の置かれている状況と同じ。
・・・・本当に理解してやれていたのか、今更ながらの前のループに於ける純夏を想う。


「それでも、何となく自覚はしていた。事故当時、強力な寒冷前線の影響であちこちにダウンバーストやら竜巻が発生していた。大地は鳴動してたし、頭上には急成長を続ける超大型積乱雲[スーパーセル]。大気が震える様な嫌な予感しかしなかったからな。

それが、いきなり意識が途切れ、気がつけば、そこは全てが断たれた真闇だけ。状況から雷の直撃を受けた事は想像できたし、それで脳が重大な障害を受けたらしいことも・・・。それを考えるだけ相当の労力を払ったけどな。」

「・・・・。」

「・・・で、真闇に浮かんでいるだけの意識なんだけどな、まともに思考も出来ない壊れかけの脳には、“自我”を保って居るだけでかなりの負担に成るんだろうな。なので休止期間、つまり“睡眠”が存在して居ることもすぐ判ったし、更に言えばそんな状態でも“夢”は見る事も知った。
眠ると、辛うじて繋がる記憶野から漏れ出る情報の再構成、みたいなやつ?

起きていても、何の情報も得られず、何をすることも出来ず、ただ“そこに在る”だけ。
何の希望も感じない。

そんな状態だったから、初めはその夢ばかり追った。
それしか刺激が無かったから。

で、そうしている内に、その夢のコントロールが出来ることに気がついた。
明晰夢、というやつ?  夢を見ていることを自覚している状態だな。


そして、ある時、唐突に思ったよ。

そもそもコレハナンダ?

・・・・とね。




つまり、当時の俺の脳味噌は、起きているとき、まともな思考さえ維持できないほど思考野が壊れていた。
難しいことを考えようとすると、途中でポコンと考えていたことが欠落するんだ。
CPUで言うメモリ不足。思考野で生きている記憶領域そのものが不足している訳だな。

実際蘇生した後で確認したけど、その時の俺の頭蓋内MR画像なんて悲惨。感覚野・思考野は、ポッカリ白く抜けていて、薄い蜘蛛の巣みたいな神経節が確認できる程度。脳細胞として使える領域なんてほんの僅かしか残っていなくて、本来“夢”、しかも明晰夢みたいな大量の記憶を操る領域とか、肉体的には全く存在していなかった。

そういった思考の欠落は認識していたのに、何故か展開される“夢”という膨大な情報。音や映像すらはっきりした明晰夢、それをコントロールすることすら可能。

メインメモリが完全に足りないのに展開される膨大な情報の矛盾、に気づいたわけだ。



それはつまり、何処か肉体とは別に仮想メモリがある、ということ。
破壊され切断された脳神経系ではない外部の、大容量記憶媒体に一時的な主記憶領域を構築することに他ならない。



既に自分に都合の良い、けれど結局“夢”でしかないモノを求めることにも飽きていたからな、以来ずっとそれ[●●]を、求めた。

時間だけは在った、と言うか時間しか無かった。


それが、アストラル・フェイズの存在、そしてそこに在るアストラル体[●●●●●●]だった。」


「「・・・・・」」


「ま、武が戸惑うのは理解できる。・・・・でも夕呼センセは判ってるよな。
“因果律量子論”が、同じ要素を含んでいる[●●●●●●●●●●]事を。」

「・・・あら、何処が同じだって言うのかしら?」

「因果律って言うのは、物理的な意味もあるが、元々は哲学的な概念、原因と結果を結ぶモノだ。それと量子論、つまり物理的な世界の成り立ちを結びつけようという挑戦。
もっと言えば、世界の“根源”である原因と、構成された結果である“世界”の関連を紐解こうという壮大な理論。」

「・・・・買いかぶり過ぎてない?」

「別に“根源”と言う表現がお気に召さないなら、“集団的無意識”でもいい。“原初”でもいいし、“真理”と言い換えても構わない。
平行世界とは別の高次に存在する“根源”からの、“意識”や“自我”の発露、それを量子論的物質[●●●●●●]として“現界”した生命[●●] 、それを解き明かすことを目論んだ。」

「なんで生命なの?」

「観測者の存在しない“世界”なんて、意味ないんじゃないのか?」

「・・・・・。」

「そのキーアイテムが00ユニット。」

「・・・・・・・・そうかもね・・。取り敢えず話逸れたわよ? そのアストラル体とやらがどうだって言うの?」


彼方は口元に笑を刻む。
それに対し夕呼先生は・・・・・・これって拗ねてる?


「アストラル体・・・・・まあ、呼び方は情緒体、感情体、感覚体、星辰体等色々だし、出処も神智学からで、その存在に付いてはその殆どが科学的とは言えない内容だって言うのも認める。
実際俺もその概念が近いだけでそう呼んでいるが、妥当性を完全に検証したわけでもないし。

けれど人間は、“物質”だけ構成されているわけではない、と言うのは誰もが認めることで、例えば遺伝子再生で、肉体の全てのパーツを組み上げてもそこに“自我”は発現しない。
なのに、それが例え人工であっても、ちゃんと受精卵から成長させ、育成された肉体には、それぞれに魂が宿り、自我が育まれる、紛れもない人間だ。」

彼方が優しい眼差しで霞を見つめる。
霞は、ぴくりと少し耳を動かしただけだった。

「人間とは器である“肉体”と、自我である“精神”、そして本質的な生命である“魂魄”という3つの要素が組み合わされた存在だといわれる。
さっきの言葉に直せば、“精神”は“自我”や“意識”、“魂魄”は、“根源”に繋がる生命存在そのもの、という事になる。

そしてその実在証明で言えば、アストラルフェイズやアストラル体と言う考え方は、そのままESPや、PKと言った能力との関わりになる。“知覚”と言う作用がアストラル体である“意識”に及ぼすモノで、感じる=作用されるという受動は、作用する=動かすと言う能動の表裏であり、物質すなわち物理現象を越えた知覚・作用を醸すのが、ESPとPK、と言う事になる。
更にはBETA由来のバッフワイト素子による物理現象ではない“思考波”の観測からも、既にこの領域はオカルトの域を外れている、と思うが、その辺はどうなんだ?」

「・・・・・そうね。今ではそれらの実例を否定できる科学者は居ないわ。
BETAに追われて基礎的な研究が全く進んでいない分野だから、未だに反射的な嫌悪感を示す研究者も多いけど・・・、ね。」

「まあ、他の人間が信じようが信じまいが関係ない。実際、俺はこうして存在している。
で、話を大元に戻すと、このアストラル体がメモリーとして作用、つまり“記憶”が残せる事に気がついた。


これも傍証は沢山あって、例えば臓器移植で臓器の提供を受けたレシピエントが、ドナーの記憶を受け継いだりする事例が報告されている。心臓や肺、果ては角膜移植でさえね。
物質である肉体と共にあると考えられているアストラル体は、切除された肉体と共に移植され、そこに記録されたドナーの記憶がレシピエントに伝わる、という事で、生前のドナーしか知りえない記憶の再現により実証もされている。

・・・・・・そもそも、此処[●●]には、その集大成が存在[●●]するしな。」

「・・・・・え?」

「・・・・・お前[●●]だよ、武。
虚数空間に残された膨大な量の“記憶”。幾多のループの中で肉体は滅びても残り続けたその記憶こそ、通常の物質界、その時空すら越えた存在、アストラル体の集合体そのものじゃないのか?」

「あ・・・・・」

何かがストン、と堕ちた。虚数空間に溜まり続けた記憶。その媒体[●●]の事など考えたことも無かったが、そう言われれば納得してしまう。





「・・・そして、単純に言えば、記憶が出来るなら、“演算装置”も出来る。
メモリが構成できるなら、CPUも出来るってわけだ。」

「・・・・・・・随分乱暴な理論ね?」

「だろうな。結果論だからな。しかも今使っているメモリーをCPUに改造[●●]しようって言うんだからな。

尤も、如何にも更にオカルティックな話ではあるが、アレイスター・クロウリーと言う魔術師は、意識の地平を拡張してアストラルフェイズに至るために、“光体”という仮の身体を育成することを考えたと言われているし、同じような考え方が、中国の道教を祖とする仙道にも、“陽神”という形で存在する。陽神と合一して“羽化”したのが、“仙人”と言うわけだ。
アストラル体を具現化しようという試みは、科学技術の発達していない昔はどこでも行われていたのさ。
・・・どんだけ成功したかまでは知らないがな。

俺は、流石にそんなオカルトに頼る訳にもいかない。


まず、夢と言う無意識領域だけでなく、起きている時でも、アストラル体をキャッシュメモリとして使えるように訓練した。これは明晰夢から展開してどうにかなった。

次にアストラル体をセンサーとして使えるものか、試した。ESPもあるし、感覚器として使えることは知っていたが、それ自体不定形で、意志を以て操る事が出来ることが判ったからな。
結果で言うと、まあ触覚に近いんだが、アストラル体の触覚は、光や音、分子といった物質の物理的な指標ではなく、“ポテンシャル”や、“概念”、社で言えば、“思考”や“意志”といった物理的には抽象的な事象が読み取れることを理解した。

そこで、ICUのベッドを制御している端末を探し、そこから制御しているコンピュータ、さらにはその所謂電脳概念に“情報”の感覚器をのばし、そこからネット情報の海に出た。

実際自分の記憶でメモリやCPUの構成なんて知っているわけ無いからな。
で、ネット情報や、むしろCPUメーカーにもハッキングしまくって、メモリや記憶装置の構成から、CPUやMPU、OSの“概念”までを漁り、知覚し、それをアストラル領域で具現化していくことによって、徐々に“思考体”を組み上げた。

つまり、古典的なオカルト手法に依らず、CPUの構築という極めて現代的な手法で、アストラル思考体構築を目指したわけだ。」

「・・・アストラル体って言うのは、“自我”なんだろ?、それ自体が思考出来るんじゃないのか?」

「そうだな、そう思われがちだが通常は出来ない。“自我”や“意識”は、ある種、ソフトウェアの様なものだと解釈してくれ。情報や思考過程の塊では在っても、ハードウェア、すなわち神経細胞による大規模な演算装置がなければ動かない[●●●●]
更には、ハードウェアの性能次第で、発現する思考が異なる。つまり虫にも魂があって、自我もあるが、高度な精神活動は出来ない、という事になる。」

「・・・じゃあどうやって思考体なんか?」

「言ったろ?、アストラル体は記憶媒体[●●●●]、つまりメモリーなんだ。ソフトウェアだって、記憶媒体で伝えられる。
つまり媒体であるメモリーそのものを、改造してCPUに変えるっていうデタラメなこと。
勿論現実のUSBとかじゃあ無理だが、そこは構成その物に自由度を有していたアストラル体だからな。」

「・・・なるほど・・」

「・・・勿論、口で言うほど簡単なコトではなかったけどね。それこそ基礎の基礎、単純な信号レベルのI/Oから構築する様なものだったからな。

そしてそれは、時間だけは在った、といっても、体感時間で約10年、現実の肉体時間で1年掛かった。

まあ、そんな細かい操作は嫌いでは無かったけど。お陰でのめり込んだ、と言うわけ。
・・・・・要するに、究極すら超越した、引き篭もりオタク[●●●●●●●●] ってトコだな。


・・・・・・・・そして、その過程でアストラル体からの働きかけで、体細胞DNAの活性化が出来る事が解ったんだ。」


「え!?」


「話が跳んで悪いが、今度は生物の話だ。

・・・もともとDNAには生物の肉体的情報が全て、内包されている、そんな事は皆知っている。
その設計図に因って展開構築された肉体は、ミトコンドリアDNAと連携し、エネルギーを摂取し、分化、成長していく。それは、よく知られた細胞分化のプロセスに相違ない。

けれど、そこに“意識”の構築はなく、“意志”の発露はない。


そもそも、根源的な疑問なんだけど、その設計図に従って、生命を創れ、と命令するのは誰だ?
DNAからの情報の引き出し、タンパク質の構成、それを細胞としての増殖。それらのプロセスは確かに解明されている。

けれど・・・・。

そのスイッチは、誰が押す?
これだけ複雑な分化を、誰が指示するのか?
タンパク質の塊に過ぎない細胞が、なぜ“生きる”のか?
60兆個と言われている人の細胞同士にはなんの連絡手段も無いのに、個々の細胞は全体の一部として機能し、個々の細胞が統合された全体を構成している。

“誰が”、或いは“何が”そうさせているんだ?


その全体を繋げているのがアストラル体であり、そしてそれによって繋がった“魂魄”の意志であり、いわば“根源”の意志に他ならない、・・・とアストラル思考体の俺は捕らえたわけだ。


もっとも是は仮説で、宗教的・哲学的な議論も含むから、ここではこれ以上突っ込まない。
けれど、アストラル体からの操作が、DNAの活性化、分化のスイッチに成っていることは、確かだった。



あとは、解るだろ?

アストラル思考体を構築した俺は、当時ボロボロだった神経節を再構成し、アストラル体の“自我”に沿った神経細胞による思考野を構築。それを元に今度は破壊された脳内神経節の“分化”をコントロールして、思考野と感覚野のシナプスを急速に接続・修復、元のように肉体でも[●●]思考が出来るように全部接続し直して、意識覚醒。

結果・・・1年間の昏睡の末、“奇跡の生還”となったわけだ。」



しばし、声もない。

雷の直撃によって闇に落ちた彼方は、結局その闇から、自分の力だけで、這い上がってきたのだ。
恐らくは才能とか、幸運とかではなく、諦めない心[●●●●●]と、その思考[●●]だけで・・・。

10年の真闇、10年の孤独。



「・・・・・・・・・・・・・・・・それを鑑にも遣らせる、・・・ってこと?」

「・・・武の前の世界・・・2周目の世界で、鑑は00ユニットに成った。
その際、壊れかけた脳髄から、記憶や思考体の残骸を全部量子電子脳に移植した。
恐らくなんだが、その際その操作により、アストラル体も移植されたんだと思う。

と言うのは、今回鑑の脳髄を検査して思ったが、通常ここまで破壊された脳神経細胞では、意識は全く保てない。つまり普通ならとっくにアストラル体、ひいては魂魄との接続が切れて、脳死にいたってる。
思考野はアストラル体と繋がり、そして魂魄に至る重要な部分だから、それがここまで破壊されて生きていられる方が不思議。

鑑の場合、人の極限を越えた拷問に晒されたことにより、壊されかけた鑑は知らず最後に残った記憶情報をすべてアストラル体に転写し、それを封印することで自己防衛、すなわち魂魄との接続を守った。
『タケルちゃんに会いたい』という意志は、いわば眠っているアストラル体の意識から溢れた、寝言みたいなものじゃないかな。

前の世界の人格転移手術は、それごと新たな器に移したので、鑑の魂魄は移されたアストラル体を介して00ユニットに繋げられたわけだ。

事実、武は目覚めた00ユニットを紛れもなく鑑と認識したし、隊の誰もが、鑑を人間として見なした。
コレは00ユニットに同化したアストラル体を介して繋がった魂が鑑純夏そのものだったから、じゃないのか?」

「・・・・・・直感的になんだけど、・・・もの凄く納得できる。
前の主観記憶でも、身体が作り物、って解っているのに、あれは絶対に純夏そのものだった。」

「まあ、前回の鑑がアストラル領域に避難できたのは、僅かな記憶だけで、そこに思考体や感覚器を構築する時間も技術もなかっただろう。
それが逆に00ユニットとなることで、思考野や、感覚野は、完璧に再現されたが、中身のデータは皆無。
記憶野の穴埋めが出来たのは、武の記憶をリーディングした社がプロジェクションしたからだろうな。

で、徐々に鑑純夏が再構築され、武との接触が退避して眠っていたアストラル体の自意識を起こした。
あとは、量子電導脳自体がアストラル思考体とおなじ様なものだからな、恐らく上位フェイズにアクセスして、因果世界の他の量子電導脳から情報を集める事により、自我と記憶を補完した、と言うところかな。」

「・・・なによ上位フェイズって?」

「・・・イデアルフェイズ。
さっき言った“根源”、“集団的無意識”、“原初”、“真理”、更に別の言葉でいえば、・・・母生命、アカシックレコード、涅槃。
夕呼センセっぽく言えば、因果の地平か、虚数空間も同じ概念?
無意識領域は、そのパーソナルエリアと言うところか。

・・・・本来、夕呼センセが00ユニットに求めた物。」

「!!」

「・・・まあ、俺も向こうで夕呼先生に会うまで、そんな概念全く思いつかなかったけどな。
量子電導脳は、このイデアルフェイズに接触できる可能性がある、と思っている。
と、言うか、00ユニットはそこに接続するI/Fそのものでしょう?  夕呼センセ。」

「・・・・やっぱり気付いていたのね・・・。」

「・・・まあね。本当に00[ゼロゼロ]で良いなら人格[●●]を付与する必要が無いから。BETAとのI/Fには必要ない。
けれどイデアルフェイズに至る為には、勿論、そこに繋がる人格が存在することが大前提。
その人格に由来する、限定的な情報・無意識領域にしか接続出来ないので、“神”みたいに成ることはない、けどな。」

「・・・って事は、経験があるの?」

「・・・俺は覚醒後、脳神経細胞の再生で一時的に無理した体調を整え、もう一度自発的に昏睡に入った。目的は、アストラル思考体で存在が“見えた”イデアルフェイズへの接触。
思考速度を上げていたので感覚時間で約100年。肉体時間では1年だったな。
それだけ掛かっても、結局完全な合一には至らなかった。
まあ、お蔭で色々な技術に転用できる知識は付いたけどな。」

「・・・とても興味深い研究ね・・・。」

「これが、向こうの世界の夕呼先生とも仲良かった理由。

そして因果律量子論が、この概念を避けて語れないことの証拠さ。

と言うか、俺が構築したアストラル思考体は、さっきも言ったけど一種の量子計算機と同じものだと思っている。
固定されたビットを持つハードウェアじゃない。
問題に対してスケーラビリティを有し、必要に応じて演算子すら構成する。
当然分割思考[マルチタスク]も可能。

ただし、もともと“計算”することを目指したんじゃなく“思考”することを目指したから、緻密な計算は苦手だけどな。それは外部に投げればいいし。

そっちの才能はあまりなかったから、リーディングやプロジェクションは出来ないが、そもそも構築のための情報収集で使ったアストラル体を介した電脳世界接続は可能、ハッキング・クラッキングはやりたい放題。正しく鑑が行ったハッキングと同じレベルで実行出来る。」

「・・・・向こうのアタシが彼方を離さなかったのも当然ね。
BETAなんかいなかったら、アタシがこんな面白い研究テーマを見逃すわけがない。
生命、哲学、倫理、物理、全ての根源に至れるかも知れない“真理”。
因果律量子論が求めたその一端を、紛れもなく掴んでいると言うことね。」

「アプローチを異にするが、この領域も突き詰めると因果律に関わるからな。・・・・で、話を戻す。

00ユニットの有用性は、さっきの通り。が、出来れば鑑には生身の身体で蘇生して欲しい。
武の心情的にも、BETAへの情報流出対策や、反応炉依存度を無くす為にも。
前に言ったとおり、その情報や技術は既にある。

BETAの技術と、さっきのアストラル体からのスイッチングを行えば、ほぼ完璧に鑑の壊された思考野と感覚野を再生出来る。
ただし、脳神経節については、さっきの話からも鑑本人の自意識から構築する必要がある。
自由度が高くアストラル思考体に構造がにている量子電子脳ならともかく、寧ろクローンとして再生させれば、生身の未構築な脳神経細胞に今の鑑の意識が一致するとは思えない、というか間違いなくしない。最悪肉体と意識が乖離する危険性もある。

で、自力再生を促すために、眠っている鑑の意識を覚醒しに行く必要がある。」

「・・・どうやって?」

「・・・・・サイコダイヴ。」


・・・それって・・・・もしかして、オレ今夜純夏に逢えるのか・・・・?


Sideout



※あとがき

取り敢えず、荒唐無稽な御子神の秘密も漸くバラしたし、純夏ん復活ルート確定しました^^;
ので、次の投稿を以て、本板に移動しようかと考えています。


今更感満載ですが、難しいですね、SSは。
先達の偉大さを改めて知るこの頃。
思うところ(=たどり着きたい結末)は、初めから在るのですが、そこに至る経緯や設定を詰めていると、まだ別の設定が必要になる、という悪夢の芋蔓。話が拡がるばかりでちっとも収束しやしない。
何よりも、24話も使っていながら未だ以て2人の顕現から、まだ3日しか経っていないという事実! に作者も吃驚。
決して、愚痴じゃないですよ、愚痴じゃ^^;
それでも読者様の貴重なご意見ご指摘で作者は、本筋に係わらない描写はなるべく切ると言うスキル“割り切り”(Lv1)を獲得することが出来ました。ネタや薀蓄話には無効みたいですが^^;

まあ、力不足で途中更新が鈍ることも在るかと思いますが、コレからも訥々と書き連ねていくつもりなので、こんな駄文で宜しければ、今後もお付き合い下さい。





[35536] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2013/04/08 22:10
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'13,04,08 誤字修正


Side 夕呼


「・・・・サイコダイヴ?」

アタシは聞きなれない言葉を鸚鵡返しした。





まったく、彼方ときたら、次から次へと何でも出てくる魔法のポケットの様だ。

・・・・・・しかも、自分の能力をあっさりとカミングアウトしてくれちゃって。


けど、アストラル体による思考体の構築って、何よその反則!?
本気で量子電導脳クラスの思考体を自前[●●]で持っているなんて!


アタシは因果律量子論から量子電導脳の発想に至り、それが普遍的・集合的無意識領域、彼方の言うイデアルフェイズに至る可能性を見つけた。母生命や、根源、涅槃とか表現していたけど、確かに精神であるアストラル体を介して、繋がる魂の根源と言う意味では、全て同様の概念かもしれない。
一方の彼方は、落雷の結果突き落とされた奈落の底で、アストラル体の存在を知るに至り、そこから抜け出すために思考体を構築、その過程で“根源”を知り、そこから因果論に接近した。

だからこそ因果律量子論との類似性に気がついた。

アプローチは全く違うけど、いずれも“真理”を目指す知的好奇心の塊。

前の世界のアタシが、側に置いたのも頷ける。
ズルイわよね、こんな隠し玉が在るならアタシが届かなかった数式にも至れるハズだわ。BETAの由来物質が無くても、量子電導脳の領域に至り、別のアプローチで因果律量子論を語れる“相棒”がいるんだもの。

・・・・・此処の彼方はアタシのモノ、絶対返さないわよっ!





それにしたって・・・・。

10年の孤独。感覚を全て遮断された自意識。
夢に逃避したと言っていたが、そんな環境に人の精神は耐えられるのだろうか?
何も感じない、出口もなく、自殺さえ出来ない、救いの全くない圧倒的な恐怖。
この彼方をして、早く殺せと感じた底知れない絶望。
“そこ”から、まともな精神のままで、現世にまで這い上がってきたその強靭な自我[●●●●●]こそが、彼方最大の天禀なのだろう。

究極を超越した引き篭もりと表現してたけど、救いがそこに在るなら、没頭するのも理解できる。
けれどそれにもまして、知りたい、という好奇心だけで、更に100年の孤独に自ら突進した、“天才[バカ]”。
その見方で言うと、自分の興味にトコトン嵌り込むと言う意味らしいオタクという表現も[あなが]ち外していないって訳ね。







「サイコダイヴ・・・・・・・まあ、正確に表現すれば、ナーヴリンク、感覚共有による意識領域重合、かな。サイコダイヴは直感的な、イメージ先行の言い方。

社のリーディグを発展強化して、平面的に捉えていた鑑の心理ヴィジョンを立体的に感じられ、恰も周囲に存在するよう体験的に知覚出来るようにし、更にプロジェクションも発展強化して、その“世界”に於ける作用を“行動”として実行出来るようにする事。鑑の意識の内的領域から繋がるアストラル体を探索するわけだ。
オカルティックな表現では、“アストラル投射”と言う技法らしい。
社の能力を、俺が“思考体”でサポート・強化することで、実現できる。」


見れば、社がコクンと頷いた。
鑑の調査や、手法の検討で一緒だったのだろう。彼方に対しても全く警戒していない。
この娘にすれば、珍しい。


「どうすんの?  そんなコトして?」

「さっきも言ったように、鑑は自己防衛のため、破壊された思考野から“アストラル体”に“自我”を退避させている。
けれど、そこには思考体を構築出来たわけじゃないからな、“自我”のプログラムを、まるごとバックアップしたような物、つまり眠っている様なモノだ。
社がリーディングしていたのは、辛うじて残っている神経細胞に流れる、その自我情報の断片、“夢”みたいなもの。
勿論、思考野とアストラル体は繋がっているから、社が施したプロジェクションは、眠っている鑑の“自我”を刺激している。特に、武が来た後、その“思い出”には、反応していた筈だ。
それを続けて起こすのも在りだが、如何せん今のボロボロの思考野では、まともな“自我”が保てない。
武の前のループでは、それが完成された00ユニット上で展開されたから問題なかったがな。

なので、先ずは鑑を起こしに行く。

アストラルフェイズの自我が目覚めればそれを元に、BETA技術を応用して神経細胞のDNA分化を促進し再生する事が出来る。鑑の自我に沿った範囲の、最低限の思考野を構築する事が。
後はアストラルフェイズにある“自我”を戻す要領で、神経細胞の分化を継続させれば、鑑の“自我”に即した“思考野”が再生される。」

「・・・・・・可能なの?」

「鑑が起きるかどうか次第。・・・・・・だから武が必要なんだ。
武と夕呼センセは、社のようなESP系の力は未顕現だから、VRシミュレータを介して、同行してもらう。」

「!! だからあんなの作った訳?!」

「ああ。武をそこに連れていくことが主目的で、207Bへの擬似体験プログラムの方がオマケ。・・・なにせ、鑑を起こせる可能性が最も高いのが武だからな。
・・・・・・どうする? 武は行けるか?」

「勿論!!」

「・・・・・・現段階では、BETAに壊された鑑の心の残骸だ、そこに至るまで、千切れてバラバラにされた記憶野の残骸を“感じる”ことに成るから、相当の衝撃がある。
・・・・・俺が表現した過酷な状況よりも、更に厳しい事実を“体験”するかも知れないぜ?」

ナルホド、アタシでも不快に感じた歯に衣を着せないBETAによる鑑の陵辱表現も、白銀に耐性を付ける事前の心理的訓練か。

「聞くまでもない。全てを受け入れると、約束した。」

・・・・・・男の子ね、白銀も。

「・・・で、・・・・・・アタシが必要な訳は?」

「センセは理論の構築者だろう? 後で説明するだけでいいなら、留守番でも構わないが。
サイコダイヴなんて、普通は無理だ。
健常なら“自我”は強力だからな。自分の心に侵入する異物[●●]を、抵抗なく受け入れる筈がない。」

「!! ・・・そうね、勿論行くわ。」

「じゃあ、全員の意志が固まった所で、行くか・・・。」






用意されたベッドに楽な姿勢で寝かされ、ヘッドセットを付ける。彼方が、すぐ側にいる気配。

社には、白銀が付いている、というか、ヘッドセットを付けているのは白銀なので、社が側に付いている、と言うのが正しい。

それなりに危険もあるようで、場合によってはPTSDも引き起こしかねないとか。

壊れかけの意識故に無意識の抵抗や、混乱もある。
それでも、白銀は基本的根源的に鑑の求める相手であり、彼方はもう言わずもがな、こんな事をやってのける手練であるから咄嗟の時の備え、と言うことだ。肉体の物理的位置が近いほうが、把握しやすい、とか。

社は白銀の腕の中で少し恥ずかしそうだが、アタシとしては今更照れる相手でもない。



「じゃあ、始める。」

その言葉と共に、導眠されるように意識がふっと薄れ、気がつくと“そこ”にいた。





これは・・・。

これが“思惟の世界”と言うのだろうか?

何に例えればいいだろう。

宇宙空間? いや、纏わり付く様な雰囲気の密度は、むしろ粘度のある液体、サラダオイルの中に浮いているかのようだ。
そして、その中にところどころ何かの残滓が漂っているような何かが浮いている。

全体的に薄暮のような明るさと視界しか無く、漂う何かは、明滅を途切れさせながら流れ行く。

何処か茫漠とした、虚無の空間。


――先ず“自分”という存剤を強く認識しろ

背後に気配。見て確認にしなくても、誰かはわかる。

頭に、と言うか意識に直接流れ込む“声”
耳という感覚器ではなく、言葉として直接認識させる。

なるほど、意識が薄れると、“存在”が霞む。
手が、指が、歪んで油の中に流れそうになる。

――・・・本来表層意識がある場所なんだがな、流石にカラッポか・・・・。


ふと、目の前に流れた淡く瞬くモヤみたいなカケラに手を伸ばす。


!!!

その瞬間、腕にそのカケラが纏わり付く。

全身が一瞬で総毛立つ。

ソレが絡みついた腕にもたらされた、なめくじが這い回るような嫌悪感と、身体のシンを蕩かすような快感がごちゃ混ぜに成った、おぞましい感触。
正しく、腕を犯されて[●●●●]いるような、それが危険な事と分かっていながらつい委ねたく成るような、矛盾に満ちた感覚。

ゾワゾワと背筋を這い登るのが、嫌悪感か、快感か、区別が付かなくなる。
腕の神経が蕩かされた様に、痺れて動かない。

そいつは、更にズルリと肘から二の腕に這い登る。


――ヒッ!!!


微かな悲鳴を上げた瞬間、背後の気配が一閃。

何をしたのか分からないが、纏わり付いた気配から、粘性が消え、サラサラと流れていく。
虚空に流れたソレは、そのまま煌めくように消えて行った。


それでもがくがくとアタシの膝が笑い、ヘタリ込みそうになる。
浮いているのだからそんな訳はないのだが、地上なら、既に立っていられないほど力が入らない。
全身の筋肉がプルプルと微かに震えている。


マズイ・・・。

強力な催淫成分でも含んでいたのだろう、全身の感覚が異常に鋭敏になっている。
敏感な所にざわざわと血が集まり、そこが服と擦れるその感触だけで、声が漏れてしまいそうだった。
否応なく紅潮させられる肌。高まる動悸。



その意識に、ふわりと何かが被さる感覚。
それは過敏になった神経に障ること無く、浸み込むように満たしてゆく。その滲み込むなにかが、キチキチに先鋭化した感覚を徐々に宥めてくれる。
強制的に興奮させられた熱量が引き、動機や酩酊感、偽りの多幸感が薄らいでゆく。

背後の存在に安堵感を抱きながら、それらの感覚が収まるのを待った。



――表層に漂う残滓は、鑑が受けた陵辱の記憶の断片。気を張ってないと、喰らわれるぜ。

簡単に言ってくれるが、あれで断片。

おぞましいことは分かっているのに、女の性を直接舐る様な魔性。

それを理解させるために、敢えてしばらく放置したのだろう。


・・・・アレはヤバい[●●●]

昏く何処までも堕ちてゆく様な感覚。

2度と浮かび上がれないタールの海。

それさえも鑑が囚えられた“地獄”の一端でしか過ぎないのだ。それを漸く実感した。



進むとも無く、進む。

天地もなく、浮遊感が強く、歩いているわけではないので、定かでは無いのだが、深く沈んでいくという認識がある。

確かに、感覚的なイメージで言えば、深海に潜りゆくダイヴ。

周囲は変わらず昏く空虚で、時折ぼんやり光る深海魚みたいなカケラが過ぎ去って往くが、2度と手は出さない。



茫漠とした空間はやがて薄ぼんやりとその全景を浮かび上がらせる。。

闇に侵された空間は欠損だらけの心。
散らばる記憶の残滓は果てし無き悲鳴、底知れぬ悲嘆、漆黒の闇にまみれた絶望、ねばりつく諦観、際限なく繰り返す怨嗟、全てを憎む憤怒・・・。

社の言う、暗く、激しく、尖って、そして哀しい。
紛れもなく、社がリーディングしていた世界そのものが、そこに広がっていた。



――奥に進む。その表現が正しいのかもわからない。深く沈む、の方がしっくりするかしら。


どこまで行っても空虚。

時折こびり付く、冥いどす黒い快楽の塊。
身を引き裂かれる様な悲嘆。


BETAに蹂躙された精神の成れの果てがこれであった。




――まずいな。武もこっちに!

聞こえた瞬間、世界が崩れた。
奔流、激しく明滅する視界。鳴動する世界。

それは、憎悪。

昏く、熱く、激しい。

社がハレーションと表するその激流。

深層心理への侵入に対する防衛反射だという。

その怒涛を、往なし沈めながら何でもないように彼方は潜行する。




その波濤の水底、ハレーションの根源に、ソレは存在した。




深層心理の最奥部。

その空間を埋め尽くしたのはまるで海底に沈む荊の繭。

荊棘の蔓の塊が、浮いているように見える。

自己を守るように伸ばしたその刺は、剣のように長く、細く、鋭く。




そこで、事態は膠着した。












白銀が、幾度呼びかけても、社が何度投影しても、その荊棘は開くこと無く。

既になんどもその荊棘に吶喊した白銀は、血まみれだった。


――予想以上に、自己防衛反応が強い。これ以上武が怪我すると、心理的にPTSDを発症する危険性もある。
鑑の蘇生を諦めて、義体をつくるしかないか・・・・。


ここが鑑の内的空間で在る以上、それを破壊してしまう事は出来ないのだ。


――最後にもう一度だけ、遣らせてくれ。


血塗れの白銀がそう言い切った。






絶叫に近い白銀の呼びかけ。

そしてその中心に向かって投げられた、小さな塊。

荊棘は“それ”を攻撃すること無く、排除すること無く、受け入れた。
やがて荊棘は左右に分かれ、その小さな塊まで、道か現れる。
開かれた荊棘。



――何投げ入れたんだ?

――サンタウサギ。

――・・・・了解、キーアイテムだったな。・・・まあ、まずその血塗れ直せ。

え?

思惟の世界だ。強く思えば消える。

あ・・・、そうか。





そして進んだ荊棘の奥には、眠る鑑としての存在。



――純夏っ!!



白銀は、鑑をゆすり、声をかけるが、眠っていると言うよりは、死んでいるかのようにピクリとも反応しなかった。


――これ、本当に眠っているのか? まさか手遅れで・・・・

――相手は眠り姫なんだ、やることは一つだろ?

――!!

――口づけ キス ベーゼ 接吻、なんでもいいぜ。
・・・・粘膜接触って言うのは結構重要なんだぜ。体液の交換や、一種相互の遺伝子を交換する象徴。
互いに相手を受け入れる行為そのものだからな。



そして観念したように、白銀が鑑に唇を重ねた。








ぴくりと睫毛が震え、うっすらとその瞳を覗かせる。



「・・・・・・・タケルちゃん?」

「・・・ああ」

「・・・・・・タケルちゃん、
・・・・・タケルちゃん、
・・・・タケルちゃん、
・・・タケルちゃん、
・・タケルちゃん、
・タケルちゃん、
タケルちゃん、
タケルちゃん!
タケルちゃん!!
タケルちゃん!!!
タケルちゃん!!!!
タケルちゃん!!!!!
タケルちゃん!!!!!!」

鑑が白銀に抱きつく。白銀は何も言わず、受け止めた。







再会。

若いわね・・・。

白銀にとっては・・・主観記憶では4日ぶり? 大した事無いじゃない・・・。
まあ、生身の鑑とは、この世界で横浜侵攻の時以来だから、お互い3年ぶりと言うところかしら・・・・。
尤も、まだ生身とは、言えないわね。

あら?

そして喜び合い熱い抱擁を交わす恋人たちを尻目に、何故か彼方がorz状態で凹んでいた。

・・・・浮いてるのにorzとは器用な奴ね。

社が肩を叩いて宥めているのが、妙に哀愁を誘った。





そして“この空間”の主が目覚めた為か、ねば付いていたサラダオイルがサラサラと随分軽い密度に変わった。

なので、話せば声が聞こえた。

「・・・・・・ところで武ちゃん、なんでこんなトコに居るの? 夕呼先生や、霞ちゃんまで・・・・。ってか、向こうの世界の彼方君!?  なんで此処って、・・・・・そもそもわたし死ねば武ちゃん元の世界に戻るはず・・・ってわたし死んでない!? ・・・って、此処何処?! 天国?」

そして漸く落ち着いた鑑からの第1声は、正しく驚愕のセリフ。そして再びのパニック。

「え・・・?  純夏なんで前の世界の記憶在るの?」

「わかんないけど、00ユニットとして復活して、えと、・・・いろいろあって、桜花作戦で脱出して、いろいろ考えてたら、眠くなって・・・」

「お前だ、おまえ!!」


なんか投げやりの彼方。


「「え?」」

「・・・・・武が鑑のその因果情報を持ってたんだよ。
鑑の記憶は飽くまでこの世界の記憶だからな。因果特異体として虚数空間から記憶として持ってきたんだ。
当然自分の記憶ではないから、武自身は認識など出来ない。

それをキスによる粘膜接触・・・此処では概念だけどな・・・で鑑に渡した。

武は延々この世界をループしてるんだ。
ってことは、この世界群の中で、鑑純夏は常にこいつ一人。
武の記憶にある鑑も、未来の鑑そのものだ、一つの可能性としてのな。

因果導体ではないから、他の世界群の情報は引き込めないが、この世界群における、自分のループで蓄積した因果情報は、記憶として持っている。
その持っていた00ユニットとしての因果を、一気に鑑のアストラルフェイズに転写しやがった。

つまり、00ユニットで鑑純夏の意識として動いていた構成を、鑑のアストラルフェイズに転写、要するに思考体をいきなり構築したって言うこと。

・・・・・・・・このバカップル、俺が10年掛かったことを、キス1発[●●●●]で済ませやがった!!」


・・・・成程、それで凹んでいたわけね・・・初めてね、アンタのそんな様子。
普段絶対見せないだけに・・・・ちょっとそそる[●●●]わね。

それでも、一頻り喚くと、気が済んだらしい。
面倒な再生が丸投げ出来るからそこはラッキーか、と小声で愚痴っていたけど。

ふと、思う。

「・・・・今後白銀が他の娘とキスしたら、同じように因果情報が流れる可能性が在るのかしら?」

「・・・・否定はできないが、可能性としては少ないな。
確かに皆00ユニット候補だからな、それなりにポテンシャルはあるだろうが、今の鑑と違いまだアストラル体に一切触れていからな。緊急避難とはいえ、“自我”を一度転写した鑑とは違うだろ。」

「そうか、白銀の持っている情報はアストラル体だから、受け側にその資質が整わないと渡せないのね。」

「たぶんな。」




漸く状況を説明し終わったとき、鑑は目を白黒させていた。

そもそも此処は現実空間ではなく、鑑自信の意識空間で在ること。
今は鑑ではなく因果特異体となった武によってループした2001年であり、その時点でまだ鑑の知る仲間は誰も死んでなく、生身の鑑は脳髄だけであること。
前回のループで鑑に解放された殆どの武は、鑑の再構築した元の世界に戻り、ドタバタやっているだろうこと。
その際に、この世界に必要な彼方を元の世界の分岐世界から集めて引っ張り込んだため、彼方が居ること。
彼方がBETAを解析し、鑑の肉体を再構築できること。
ただしそのためには、壊された思考野を鑑自信が再生することが必要であること。

そしてBETAを駆逐するため、いろいろ画策していること。


全てを説明し終わったとき、鑑はまた泣き出し、しばらくまた白銀がなだめることとなった。

前のループで望んだ通り、呼び込んだ白銀は元の世界に戻り、それでも残ってくれた白銀が、今度は鑑を求めてループしたのだ。つまり、今の白銀は、他の世界から拉致して引っ張りまわした白銀ではなく、この世界の鑑だけの白銀、と言う事になる。
しかも彼方というオプション付きで、生身で蘇生できる可能性はあるわ、前回死なせてしまった皆は生きているわ・・・・。

これ以上無い、と言う状況なのだ。
話が出来るように成るまで、更に時間を要した。





「じゃあ、鑑も全て前の世界の事を覚えているわけね。」

「はい、先生。あ、でも、00ユニットとして貯めたBETAのハイヴのデータとかは、無いっぽいです。」

「それはいいわ。そもそも鑑はまだ再生もしていないんだから。けど、今此処でアストラル思考体ってことは・・・つまり鑑は彼方と同じ存在?」

「・・・初歩の思考体だけだけどな。00ユニットとは違うから、イデアルフェイズ接触は無理。
今後00ユニット装着すれば可能だろうけど、自我が確立していて、過去に繋がった記憶も在る以上、必要ないだろ。“超越”も今回はさせる気ないしな。」

「? なんだ“超越”って?」

「前回の武の記憶で、桜花作戦の最後の最後、何故か一瞬で荷電粒子砲のエネルギーが充填され、ラザフォード場に対応された筈の触手攻撃も弾いたんだろ?」

「確かにあの時、信じられないような力が出てた・・・・」

「鑑は、そのこと覚えているか?」

「・・・・武ちゃんの声が聞こえた気はするけど、はっきりとは・・・」

「・・・・恐らくは、無意識状態で、イデアルフェイズにシフトし、その力を使った為だと思うぜ。
なにせ、イデアルフェイズの力は、世界の力、神の力、“根源の力”、そのものだからな。」

「!!!!」

「まあ今後は使う機会もないし、極限状況の無意識状態でしか使えないとは思うが、00ユニット装着しても絶対遣るなよ。
無理な上位フェイズへのシフトは、逆に人間としての存在を喪失させてしまう可能性が高いからな。

ソレじゃなくても鑑は、世界連結や、因果導体誘引、世界ループ、と無意識の裡に、“根源の力”を使い捲っているんだ。
せっかく今回は武と念願の、“生身でラブラブモード”に入れるのに、これ以上使うと世界に弾かれるぜ。」


鑑は顔を青くしているが、それはそうだろう。

世界そのものの在り方を変えてしまうような力は、“根源”にしかありえない。
無意識とはいえ、それにアクセスしたのが“超因果体”である鑑なのだ。


「・・・じゃあ、今の純夏は?」

「・・・元のポテンシャルが高いから、武が思考体を移したことで、リーディングやプロジェクション位は出来るだろうけど。
ハッキングは・・・微妙だな。00ユニットとして電子機器へのI/Fが無いしバッフワイトも未装備だし。
・・・それでも非常識に高性能だけどな。流石“超因果体”と、“因果特異体”のカップリングだぜ。」

「複雑な気分~。BETAなんか来なければ、こんな力知らずに済んだのに。」

「逆だ、逆。」

「え?」

「BETAは鑑みたいな存在を目的に地球に来た。
外宇宙からタイタン、火星、そして月、地球っておかしいだろ。
BETAまっしぐら、だ。
奴らの求めているのが鉱物資源なら、外惑星やその衛星にだって豊富にあるはずだ。」

「ちょっと待って、タイタンてなによ?!」

「ああ、太陽系に最初に漂着したハイヴ。頭脳級の記録に在った。」

「はあ、マーズ0じゃ無いんだ・・・」

「人間を目的って・・・・奴ら人間を生命体と見なしていないんじゃないのかよ?」

「見なしてないよ。」

「え?」

「相手は創造主、珪素を基質とした生命体だぜ。恐らくだが代謝は極めて永い。
例えるなら・・、地球は生きていて意識があります、と言われるようなものだ。」

「・・・・・・・」

「例えば地球に意識が在ったら、地球にとって人間は何だろうな。
ただのタンパク質がくっついては崩れる“現象”か、表皮に生みだしてやった“被創造物”の“細菌”がいいところだろう?」

「「・・・・・・」」


「創造主は“他の珪素系[●●●]生命”には手出ししないんだから、地球は生命ではないんだろうな。
少なくとも、“思考”し、“自己増殖”し、“散逸”する構造を有していない。

けれど、そんな“存在”が居ることは否定できないし、実際BETAの創造主は、そう言う存在なんだろ。」

「・・・・」

「恐らくは進化の過程も全く異なり、当然水を媒体としない生命。
下手すれば寿命や、生殖と言った概念さえなく、彼らに取っての人間は、いつの間にかあって、そしてすぐ消えていく、我々にとっての細菌みたいな“現象”。
時間軸も、歴史も、全てが異なる異生物、・・・・それが創造主。」

「・・・・じゃあ、じゃあ奴らの資源てなんなんだよ? なんでBETAなんて使う?」

「人間だって、有用な細菌を選別し、培養して使うよな。」

「「!!」」

「その細菌を集めたり、殺したりするのに、同じ細菌の遺伝子を弄って使ったりするわけだ」

「!!」

「人間と細菌やウィルスは、下手すれば同じ起源を持つ炭素基質生命だから、生命としている。
しかし珪素基質の創造主にすれば、試験管培養の細菌に過ぎないってことだ。
だがその中に創造主にとって極めて有用な個体があれば、宇宙中にBETAを飛ばしてでも探索に当たる、と言うこと。」

「・・・有用な個体?」

「・・・おまえ、鑑はどんな存在だと思っている?」

「え?」

「・・・おまえにとっては、何でも言い合える、ちょっと抜けてて短気だけど、誰よりも愛しい幼馴染み、かもしれないけどな。」

白銀・鑑真っ赤。

「端から見れば、この世界と他の世界を繋げてしまえる存在。
繋げた他の世界から因果導体を連れてこられる存在。
そして一つの世界“群”を閉じたループにしてしまうことが出来る存在。
すなわち・・・根源に至れる存在、だ。
だから、超因果体[●●●●]、ってところだろ。」

「!!!」

「・・・夕呼センセ、そんな存在の現れる確率は?」

「・・・・・・詳しくは計算が必要だけど、ざっと10億分の1くらいかしら。」

「妥当な線だな。
しかも、前回の事例から見れば、武と結ばれることで成就、霧散してるから、下手すると思春期限定かもしれない。
てことはこの地球上にも2,3人しか居ない超稀少因果操作技能者、ということだ」

「・・・じゃあ、私の所為でBETAが?」

「それは違う。
鑑が超因果体でなくてもBETAは来た。
求める存在が、創造主の言う炭素系寄生物に発生することは既知だろうから、見つけるまで侵攻を繰り返す。
寧ろ鑑がつかまって、BETAの目的がその調査になったことで、横浜ハイヴがつくられ、BETAは転進したから帝都が助かった、と考えるべきだ。」

「BETAは目的を達したのか?」

「鑑がここに居るんだから達していない。他は知らんが。
鑑に関しては、素体の確保には一端は成功したが、発現に至る前に奪還した、って考えるべき。
創造主はともかく、末端のBETAには訳のわからないアストラルフェイズに鑑が引き籠もったことで、発現を諦めていた感も在るけどな。
10億で1人なら、今までに4,5人、そして残った人類にあと1,2人、居てもおかしくはない。そっちを探すだろ。」

「・・そもそもなんでBETAは超因果体を?」

「・・・これは推論でしかないけどな、珪素質生命体である創造主が植物のように動けない知性体だとしたら?
そして超因果体には世界を渡る力がある、と思うぜ?」

「!!・・・じゃあ、全ての並行世界に?」

「・・・可能性の一つとしては。」

「!!!」




成程。
以前にアタシが考えた推論には彼方も至ったらしい。
そして更に創造主が珪素系生命であれば、その理由もあり得る。
人類の最初のミスは、相手を自分たちと同類としてしか対応してこなかった、と言うことだ。
目的も同じ。
BETAの侵攻に波があるのは、主目的が鉱物資源ではなく、炭素型生物の攻略状況に拠るのだろう。

・・・ん?

「ちょっと待って。
じゃあ何故BETAはその重要な資源となりそうな“人間”をああも無残に食い散らかすのよ?」

「・・・一応バッフワイト素子みたいな小技も持っているBETAだからな、“目標”の大体の位置は分かるみたいだぜ。」

「「「!!!」」」

「横浜襲撃時、鑑とその周辺に居た避難民は、その場で殺されずに、“検査”されたわけだろ?、“目標”周辺を全部確保、と言うわけだ。その後、最後まで残されたのは、襲撃時点では不明だったが、その後は“目標”がハッキリしていた可能性が高い。」

「・・・・。」

「・・・だいたい、俺が向こうの世界で、覚醒後に柊高に編入したのも、元はといえば鑑が居たからだしな。」

「「えっ!?」」

「・・・・・アストラルフェイズの知覚から見ても、超特異な存在だったんだぜ、鑑は。
・・・武が居なかったら、・・・・手、出してたかもな。」

「え!? でも色々アドバイスしてくれたし・・・。」

「武が余りにも鈍感だったからなぁ・・・。・・・鑑が可哀想過ぎて同情した。
あの後、飾りなんか一切付けずに直球ど真ん中で告れ、と言うつもりだったんだぜ。・・・温泉旅行が実現しそうだったから。」

「!!!」


・・・微妙な顔をしているのは白銀と鑑。
コイツ等は過去未来のいろんな世界の多岐に渡る記憶を持っている。
その中に、該当しそうな記憶が在るのだろう。


「・・・けど、それでダメなら後釜狙うつもりもあったんだ。・・・・尤も、その前に・・・、俺の方も見つけちゃったけどな。」

「?  なにを?」

「・・・アストラル体やイデアルフェイズの概念すら無いのに、唐突に因果律量子論なんてものを構築しちゃった“天才”ってヤツを、・・・さ。」


「「「!!!」」」




・・・・・・え!?


それって・・・・彼方が惚れたのっ?! アタシっていうか、向こうのアタシに?!

・・・・それはアタシじゃないけど、でも無意識領域で魂はつながってて、・・・・やっぱりアタシィ!?

ちょっ!! 完全な不意打ちじゃないっ!

・・・あ、ダメ!、そんな瞳で見つめるなぁっ!!

くっ、マズイ!、急速に顔が熱くなってくる。・・・・・やだ、どうしよ!? 抑えられないっ!


・・・・白銀や鑑、社までが口を丸く開けて、アタシを見てる。



うぅ・・・うるさい、うるさい! うるさいっ!!


アタシは心のなかで絶叫した。

・・・・彼方ァ、覚えてなさい! ぜっーたい、イジメてやるんだからっ!!













「・・・・そっか、じゃあ神経細胞を再生出来れば、私の身体を蘇生出来るの!?」

「俺にはプロジェクションなんて器用なスキルは無いから、社にプロジェクションして貰う。
あまり此処来ると、逆に心理的負担になって結果的に鑑の再生の邪魔になるしな。・・・・・社、構わないか?」

「はい。それが純夏さんにも御子神さんにも負担が少ないのですから。」

「Thanks」

「ありがとう、霞ちゃん! それでね、霞ちゃん・・・」

何を思ったか、鑑は社の手を引いて少し離れたところに行くと、耳もとでコソコソ。
話を聞いていた霞、吃驚眼のあと、徐々に紅潮して、真っ赤。

「純夏さん!」

「もう、決めちゃった!! お願いね!」

さっぱり顔の鑑、アワアワオロオロしている社。・・・・なにヤッたんだ鑑?




「・・・何を言ったんだ? 純夏・・・・?」

若干引き攣りながら白銀が聞く。

「ああ、私が身体再生されるまで、武ちゃんを宜しくね、って。
ホントは冥夜や、彩峰さんや榊さんにも言っておきたいんだけど、伝える事できないし、さ。
・・・・今度こそ仲良くしたいじゃん!」

「冥夜って、・・・ああ、純夏も当然この世界の記憶も在るのか・・・。冥夜もライバル宣言していたしな・・・。」

「それヤメるの。」

「・・・・・へ?」

「武ちゃん、判ってないなぁ~、もう。
今のわた、純夏さんには、元の世界の分岐世界から、武ちゃんのループ世界で無意識のわたしが消しちゃった全ての記憶があるんだよ? つまり武ちゃんの辿った全てのループを同じように知っている唯一の存在なの。・・・私がループさせたんだからね。」

「あ・・・・」


言われて顔色をなくす白銀。

そう言われればそうだ。
数多のループをたどった、しかし本来白銀の記憶の中にしか無かった“消えた歴史”、その白銀の全てを知る唯一の存在、それが鑑純夏だ。

そして要するに白銀の主観記憶と呼んでいる記憶以外は、途中死亡した失敗を除き、全て[●●]、鑑以外の女と結ばれる記憶。
言ってしまえば、膨大な浮気の記憶なのだ。
ほっといても女が寄って来る“恋愛原子核”、殊によればA-01のメンバーはおろか、アタシやまりも、悠陽殿下とかも在るのかもしれない。社なんか即落ちだろう。

それを、全て[●●]知る嫁なのだ!


「前の世界でも知っちゃってから、ずっとずっと悩んだんだよ?
違う世界から武ちゃんを連れてきちゃうし、数えきれないくらいループさせちゃったし、私以外の娘と幸せになった記憶は消しちゃって、歴史自体無かったことになっちゃって。
えっとその、前回想いは叶ったから、あとは私が消えれば、武ちゃんは戻せるけど、他の皆には悪いなって思って、そして武ちゃんと皆の償いにあ号潰そうと思ったのに、結局皆の方が先に逝っちゃってさ。
帰りのシャトルで私の意識が消えるまで、ずーっと考えていたのは、皆で幸せに成りたかったよ~ってことだったんだから。」

「え・・・・?」

「だって武ちゃん、考えても見て? 今帝国でも適齢の女性に対し、男性の数は1/8なんだよ? つまり単純計算でも1人の男性は、最低でも8人の女性に子供を産んでもらわないと、人口が激減しちゃうって事! 1/8だよ!? 大変なんだよ!?
それでなくても、帝国の人口は既に3,000万以上減ってるし、世界でも40億人以上死んじゃっているんでしょう?
この後BETAを駆逐できても、50年後には帝国の人口が1000万人を切っちゃうんだよ?
このままじゃ、人類が滅亡しちゃうよ!!」

「・・・・・・・純夏が微妙に頭回って・・・・・確かに言ってる事は正論だが、・・・それは、つまり・・・・・」

「そうだよ!。ここは平和だった武ちゃんの元の世界と違って、相手を1人に絞る必要は無いんだもん。
きっと悠陽殿下を説得すれば、法律も変えられるし、皆を悲しませることもない。
・・・皆で幸せになる世界じゃダメ?」

白銀は救いを求めるように彼方を見るが、彼方は目をつぶって、静かに首を横に振った。
あ・き・ら・め・ろ、と・・・。



「・・・・・オレは・・・お前とだな・・・。」

「うん、それは嬉しい!!
・・・・・・でも、じゃあ他の娘は泣かせるの? 皆を笑顔に出来る手段もあって、武ちゃんにはその力もあるのに?

そんなに武ちゃんは甲斐性なし[●●●●●]なの?」




白銀轟沈。

・・・・遣るわね、鑑、天晴だわ!


残ったのは、空間に浮かびながら見事なorz状態の白銀と、何故かもう和気あいあいの、嫁候補二人の良い笑顔だった。


Sideout





[35536] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 11:58
'12,10,19 upload  ※幕間 ダイジェスト風味
'12,11,01 題名のみ変更
'15.01.24 大幅改稿(pcTEに準拠:Side榮二)
'15,01,30 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side 悠陽


「・・・・・では、過日横浜基地に現れた御仁は、紛れもなく兄さま[●●●]である、との事ですね?」

「疑う余地も在りませぬな。
月詠中尉の報告通り、不幸な事故により細かい記憶は完全になくしている様子ですが、ご自分の“記録”に残されていた過去は、全て承知して居るようです。
何よりもあの飄然としたその佇まいは、御子神彼方以外の何者でも在りませぬ。」

「・・・・然様ですか、それは誠に、・・・僥倖でありました・・・・。」

ワタクシは震えそうになる語尾を抑えます。

「・・・では、紅蓮、月詠真那に連絡を。
帝国斯衛軍第19独立警護小隊の機体に対する新OS・XM3の搭載を許可します。
早急に新OSの導入、及び教導を依頼しその評価を下しなさい、と伝えなさい。
尚、本件に関わる全て事項は以降、ワタクシ煌武院悠陽の名において、最重要特級機密事項と致します。
その旨も中尉に伝達を。」

「了解いたしました。」

「鎧衣には、引き続き情報管制を。ワタクシはお飾り将軍ですので、当日の休みに那須に休養、と言う事で影武者の手配を。相応の警備もお願いしますね。」

「は。承りました。」

「・・・しかし、空路ですか。さすれば浜離宮のヘリポートが適当ですわね。周辺地域の可能な限りの人払いをお願いします。」

「彼の機はステルス性が高かったと存じます。BETAは兎も角、光学迷彩も可能だったかと存じます。」

「・・・然様でしたね。ですが兄様の意図をお聞きするまでは、九條に知られる訳には参りません。念には念を入れ、事に当たって下さい。」

「は、確と。」

・・・・思い出しました。
そういえば、XSSTの秘匿姓を良いことに、帝都を抜けだしていろいろな所に連れていってくれたのも兄さまでしたね・・・。


「・・・・紅蓮、鎧衣・・・・。」

「「は・・・」」

「・・・・ワタクシは、・・・・・あの方[●●●]が望んだ“政威大将軍”足りえているのでしょうか?」

「殿下・・・・、胸をお張り下さい。」

「・・・そうですな。それこそが彼が殿下に望む姿かと存じます。」

「・・・・その通りですね。・・・・・そなたらに、感謝を。」

諫言を心に刻む。












2年前、横浜にG弾が落とされたあの日。

それはワタクシに取っても、正に世界が変わった日でありました。

兄さま・・・御子神彼方が、忽然と姿を消した日・・・。


いつもふらりと現れる兄様は、ちょっと見てくる、と仰って出かけられてた後、消息が途絶えました。
そして伝えられた、事前通告なしの米国軍によるG弾の投下とその被害。
ハイヴと共に残された将兵を巻き込み、そして横浜は永劫の不毛の地と化したあの日。


・・・・そして、ワタクシが本当の意味で、“覚悟”を有した日。






BETAの西日本侵攻が始まり空前絶後の混乱の中、前将軍の死。
帝都防衛戦の直前、なし崩しの様な決定を以て齢15で“政威大将軍”に任じられたワタクシには、当初縁者である御剣家、警護にあたる月詠家、剣や戦術機の師匠筋に当たる神野・紅蓮両閣下以外に、心から信頼を寄せられる者が居りませんでした。
・・・・たった一人の例外、“兄さま”と呼ぶことを許された、御子神彼方を除いて。

その後帝都陥落、放棄により東へと落ち延びる中、鎧衣を紹介してくれたのも、思えば兄さま。
それ以前も、榊首相や珠瀬国連大使等、錚々たる重鎮と極秘裏に繋累を結んで戴きました。

何の後ろ盾も、庇護もなかった15の小娘。その往くべき道を指し示し、淡く照らして呉れた兄さま。


そもそも、7つの誕生日に知り合い、“兄”と呼ぶことを許されて以来、すっとその庇護の中に居たことを、あの日喪ったことで、漸く理解したのです。
憂えるばかりで、何もしない・・・・、そう、出来ないのではなく何もしなかったワタクシに対し、
兄さまが裏でどれだけの事をしてくれていたのか、知ったのはその存在を、庇護を喪ってから・・・。






7つで紹介されたとき、ワタクシの親戚筋・仕える殆ど全ての者が、兄さまを疑いの目で見ておりました。
紹介者が、九條。そして、九條繫属の御子神家宗主直系。
九條の家は五摂家の中でも、その祖を平安貴族に持ち、当時の皇家血筋とも交わりのあった家系。武家体質の他家とは趣を異にする存在。

現当主の九條兼実も表面鷹揚とし、穏健で意を発しない、と見られていますが、裏では何をしているのか判らない、という風評でありました。
武家の仕来りや、斯衛にすら距離を置く五摂家としては異端であった故、兄さまの紹介は、あからさまな懐柔手段、としか見られなかったのです。
曰く、九條の回し者、密偵。
犬とまで呼ばれていた事を知ったときには、怒りよりも哀しくなったものです。
それを承知の上で、しかし兄さまは、事あるごとにワタクシの元に足を運んで呉れ、やがてワタクシにとって、もっとも頼れる存在となりました。
そう、“兄さま”と呼ぶことを願うほどに。

当時他にも紹介を受けた有力各家の子女は数多くいらっしゃいました。
その中で、唯一兄さまだけが、ワタクシを“7つの子供”と見ず、“煌武院悠陽”として見て呉れたのです。
他愛ない遊び相手や、子供の世話を言いつけられた年上、と言う立場ではなく。

兄さまの語る世界。そして、実際に見せてくれる数々の事象は、子供心にも深く響きました。
それは、今になって漸く理解できる“政威大将軍”として求められる素養、“現実”を知ること。
おべっかや、虚飾に埋もれた綺麗事ではなく、ただ其処にある生々しい事実。
心躍るような成功事例も、そしてやがて長じるに従い、目を覆いたくなるような悲惨な出来事も包み隠さず伝えてくれる。そして其れに対する、背景の考察やどうすれば善かったかという対応まで。
それらを物語のように聞かせ、興味深く語りながら、ワタクシが自分で悩み、考え、決めることを黙って待っている、そんな兄さまでありました。

当然ワタクシ自身は、早くにそういった知性に触れ、尊敬し、誰よりも私淑していましたが、ワタクシの周囲にはそれを一切顕すこともなく、従容とその酷い評価に甘んじていた兄さまです。
兄さまを私淑するワタクシへの忠言、諫言も数え切れないほど在りましたし、恐らくはそれ以上に皮肉や暴言をぶつけられていた筈です。
けれど、兄さまから訪れる以上、それを力ずくで止める事は、明確な五摂家間の対立と見なされるために表面化しませんでした。
結局、兄さま自身はどんな誹謗中傷も何処吹く風で、ワタクシには一切嫌な顔も見せず。
その誤解に悲嘆するワタクシに、実害はないから構わない、むしろ宗家に警戒される方が厄介、と取り合ってももらえませんでした。
宗家にバレると会いにくくなるからね、と言われれば、黙るしかありません。


そう。

今思えば、7つの邂逅から、折りにふれ説かれた、その心構えや考え方、示された事象と考察。勿論、幼き子供に諭すのに、最初は寓話や、他愛ないお伽話のような形態をとっていましたが、今思えばそれらは全て為政者の考え方、そして民衆の考え方を、幼いながらに考えさせ、認識させるもの。
中学就学年齢以降は、それが更に政治から、経済、行政機構や、社会の在り方といった内容にまで及んでいました。

それが全て帝王学に近かった事を漸く認識できたのは、中学で次期政威大将軍候補の筆頭になって以降でした。






そして、’98年BETA西日本侵攻の混乱の中での政威大将軍就任と敗走。

西日本の前線が為す術もなく崩壊し続け、潰走に潰走を重ねる中、喪われた3,600万の命。更に危機に晒された2,500万人に登る避難民の、実に半分以上を輸送したのはNPO “シャノア”でした。

それは歴史にも残ると言われた伝説的な撤退戦。
将軍は帝都と命運を共にするべきという、九條兼実の茶番を撤回できたのも、迅速な帝都周辺の避難があったからからだった、と知りました。
当時マジックと評された其れは、誰もその全容を把握して居なかったのです。

一方で、兄さまは衛士資格を有しながら、戦術機に一切乗ることもなく居た帝都防衛戦。
BETAに臆した衛士、と言うのが兄さまの評判でした。


当時九條側にも、そしてワタクシの傍に於いても、周囲は敵ばかりで、そしてワタクシに対しては過保護だった兄さまは、誰にも知られず、準備を進めておりました。


・・・・・・知り合ってから実に9年間、兄さまが行方知れずになる数ヶ月前、`99初頭に兄さまが起こした“弾劾”まで、その実態を隠し続けたのです。








翌年初頭の恒例報告会、皇帝陛下の評価は、極めて厳しい物になる、それが大方の予想でした。
通過儀礼的な意味合いが強いとはいえ、陛下とてご意見をお持ちになります。
昨夏に於ける西日本の喪失と、3,600万人もの人命が喪われ、更に帝都まで陥落放棄したこと。

それは、その直前に大将軍就任したとはいえ、あってはならぬ損害。


その時、そのプレゼンを行ったのが、兄さまでありました。




会場にはニヤニヤ顔の九條一統。
顔色を無くし、やはり九條の犬、真耶などはそう言って罵っていました。

報告は当然ワタクシにとって厳しいものに成るはずで、このタイミングでのあからさまな背信、離反を示すその抜擢。
それは、もはや九條が政威大将軍と言う職そのものを、見限った証。
箸にも棒にもかからない者として、更なる奈落に突き落とさんと、ワタクシが慕い懐いていた兄さまをして糾弾する、と言う悪意がアリアリと透けて見えました。

ワタクシの周囲の皆が、歯を食いしばり、臍を噛む中、けれどワタクシだけは、不思議と落ち着いていたのです。



始められたプレゼンは、純然たる事実の積み重ね。その意図が無かろうとも確かにワタクシにとっての針の筵。
九條に指弾されるまでもなく喪ったのは何もしてこなかった、出来なかったワタクシの罪。
そう思い唇を噛み締めて耐えることしか出来なかったワタクシは、場がざわざわとどよめいていることに、気づくのが遅れました。


九條一門からの質問や制止を、御前への説明中である、の一言で切って捨て、更に示された資料。


いつの間にか、資料は、本土防衛軍が冒した失策から、防衛軍全体が如何に崩れていったか、という趣旨に代わり、戦域全体に渡るシミュレーションへと展開していました。
BETAに対し甘すぎた見通し。奢り。本土防衛軍の立てた戦略自体が不足していたこと。
その裏で行われた、米国の安保条約放棄。

一方でNPOに協力を求めた撤退戦では、本来喪われるところだった1,500万の難民を、安全圏まで避難させたこと。
戦線と避難が交差することで混乱する陸上輸送に対し、BETAの手が届きにくい海上輸送を展開、ホバークラフトによる機動性。海上に展開された大型の貨物船団。
陸上輸送に於けるその総量を最適に間引くことにより、混乱や渋滞を減じ、避難全体の速度を速めたその手段。
当時、誰も知らなかった避難の手の内を、その場で全て晒したのでした。

・・・・全てワタクシ[●●●●]が執った指示[●●]として。



更には、その時点で情勢も鑑みずに献策された首都居残りの為、更に友軍の損害を拡大したこと。

シミュレーションによる動画で、緻密に構成されたそのプレゼンは、そこを指揮していた者でなければ分からない情報まで付加され、付け入る隙もなく、圧倒的な説得力を以て、訴えられました。

それは、プライドに固執し状況も鑑みず徒に被害を拡大した本土防衛軍と九條、実利を鑑み人民の生命を最優先で避難せしめたワタクシ、という構図が見事に示されておりました。

そして、あからさまに叛旗を翻した兄さまを睨みつけていた九條一統を涼しげに見やると、武家の在り方として義に背けば親でも弾劾致します、と前置きした上で、その後搬入された始めた国連の支援物資、その裏帳簿を暴露したのです。

流石にそこに当主・九條兼実の名は見当たりませんでしたが、シンパや側近の名が見え隠れし、参謀本部と九條一統が支援物資を蚕食したことは火を見るより明らか。

其処にいたり、初めて兼実が顔色を喪う結果となりました。


世間的には、完全に宗家に尻尾を振るだけの犬、と双方に見なされていた兄さまが、その雌伏を止め、飼い主の片腕を引きちぎって離反した瞬間でもありました。

それも最高のタイミングで・・・・。









衛士資格を有しながら戦術機に一切乗ることもなく、その一方で大規模な撤退戦の陣頭指揮に当たっていた事を知ったのは、鎧衣に教えて貰うまで知りませんでした。
“シャノア”を設立、指揮していたのが、兄さまだ、と言うことも含めて。

首都防衛戦では、自らの両親さえ亡くしているのに・・・・。


そして皮肉なことに、ワタクシの周囲が兄さまを初めて認め、ワタクシが政威大将軍としての立場を確かな物にしていくに連れ、逆に兄さまの足が遠のいていました。

・・・・・・明星作戦の実行と、兄さまの行方不明が報じられたのは、そんな折りでした。







以来、ワタクシは、その兄さまの志を継いで、あやふやだった“足場”を更に固めてきました。

斯衛の掌握、そして帝国海軍。

時の内閣、そして国連大使とも連絡を密にし。



・・・けれど、未だ力足らず、想い届かず。



力なきお飾り、と今尚思われている状況を、一気呵成に転覆するには、まだ足りない・・。

今こそ奸臣を排し、国家挙党が必要なこの時に。











その杞憂を払拭するが如く、もたらされた吉報。
それが、さる23日、冥夜の護衛として国連横浜基地に赴任している月詠真那から齎された、未嫡ながら血筋上、斉御司家次期当主に準じる白銀武殿、そして“兄さま”御子神彼方殿の生還という情報でした。


しかも翌24日には、驚愕の映像を携えて。

当然その真贋を確かめるべく、鎧衣課長に確認をお願いしました。
簡易のDNA検査では、既に9割9分、本人に間違いないとの結果も得ています・・・・身体的には。
記憶の欠損等もあり、兄さまについて真那では判別がつかなかった為です。


本当は居ても立っても居られなくなったワタクシですが、10年に渡って兄さまに鍛えられた自制心は、どうにかその逸る心を封じ込めました。


極秘事項。
特に、近頃またなにやら画策しているらしい九條に兄さまのその生存を知らせるわけにはいきません。

“弾劾”以降、事実上断絶している九條と御子神。
兄さまを目の敵とし、MIAとも思える行方不明で溜飲を下げた彼らが、再び御子神排除に躍起になることは間違いないのですから。





そして。

落ち着いてくると、今度は不安に駆られます。


ワタクシには、兄さまに合わせる顔が在るのでしょうか?

兄さまが幼い頃から諭してくれた“政威大将軍”たれて居るのでしょうか?

しかも、兄さまは個人的な記憶を喪っている状態、どの様な顔でお会いすれば宜しいのでしょうか?




ワタクシの心は、嬉しさと不安で、千々に乱れるばかりです。


Sideout




■14:00 技術廠 第壱開発局

Side 榮二


モニターを前に、一人座り、腕を組み、瞑想する。





今日、極秘、という事で紅蓮大将直々に呼び出されたオレは、一つのデータを渡された。

曰く、横浜で開発された、新しい概念のOS、それを使用したシミュレーション映像、との事だった。
横浜、―――魔女のお膝元。
あまりいい気分ではなかった。
魔女の名に恥ぬ秘密主義で、計算高く、同胞の命すら秤に掛ける、唾棄すべき女、という認識が強かった。
極秘計画の一旦という名目で明かされないブラックボックス。にもかかわらず、その代償として関わる技術を根こそぎ持って行った強欲な女。

何故それが中佐に過ぎないオレに、とも思ったが、どうやら先方のご指名でもあるらしい。何でも他の技術者は、信用が出来ない、とか。


またかとも思ったが、皮肉にも腑に落ちてしまった。
最近になって、オレも漸く魔女殿の警戒が理解できるようになったのか。



技術廠は国防省の管轄下であり、階級こそ陸軍中佐ではあるか、本土防衛軍には属していない。

あの“弾劾”により、統合参謀本部と本土防衛軍は、自己粛清を実施し、刷新されたことになっている。だが実態を見れば、ポストの名前を変更し、シャッフルしただけだ。実質何も変わっていない。
糾弾する統合参謀本部と糾弾される本土防衛軍が同体なのだから、粛清もなにも在ったものではない。

大陸派兵や西日本侵攻で消耗した陸軍は、現在その殆どが本土防衛軍麾下、となっている。
使い潰されるような、派兵もザラだった。


今の技術廠も、内実はその派閥ばかりだ。
海外の実力も知らず、国産に拘る国粋主義。
一方で米国に擦り寄る親米派。
どうも米国が極秘裏に進めている計画に関係が在るらしいが、ソレ以上の情報には触れるだけの権限がない。
オレの居る第壱開発局が唯一孤立している状態だ。
逆にだからこそ、参謀本部にも米国にも情報が流れない、と言う事で、オレの所に話が来たわけだ。

更に最近では国粋右派の、画策の件もある。
戦術機開発を国産に頼るべきでないと言うのなら、ソ連製戦術機までをもXFJ候補に入れよとの要求。
国粋主義者、と言うより反米・嫌米主義者なのだろう。
先のユーコンテロの際、不知火弐型Phase2二番機が2.5世代機と言われるSu-37に撃墜されたことに端を発し、ソ連指導部が色気を出し、ロビー活動が展開された為らしい。
そもそもイーブンとは到底言えない状況に於ける撃墜である。
それを理由に断ることにした矢先、―――ユーコンであの娘が凶弾に倒れた。


テロの混乱に紛れあの娘が何らかの機密に触れた事実も在ったが、恐らくはプロミネンス計画に参画している不知火弐型のXFJ計画を擱座せしめ、その隙に入り込もうという魂胆。
売り込みを掛けているソ連上層部がプロミネンス計画に参加している実験小隊に捩じ込んだ結果であろう。
追撃を避けるため虚偽の死亡報告をし、手を尽くした結果、幸いにも一命は取り留め、以後の経過も順調との事だった。
安堵したものの、意識を取り戻したあの娘には即刻の帰国を命じたが、しかしそれには断固として抗命された。


自分は正しく身命を賭してこの計画に従事している。
謀られた陰謀に何の対応もないまま別の者が来ても同じく命を狙われるだけ。
叔父様が軍の上官として送り出した以上、殉職の覚悟は“中佐”もお持ちのはず。
先方の要求が単に評価対象とすることで在るならば、実力で退けて見せる。
何よりも其の様な卑劣な横槍で帝国防衛の未来を担うXFJ計画を頓挫させるわけにはいかない。
・・・と泣きながら、しかしその勁い眼差しを一切逸らさずに・・・。

生真面目で自省癖の強いあの娘のこと。
正論であるその意思を曲げさせて帰国させれば、確実に折れる。
ヘタをするとそのまま切腹もしかねない。

親友の忘れ形見をこんな陰謀で失うわけには行かないのだが、軍人として武家として生きようと足掻くあの娘の矜持を蔑ろにすることも出来なかった。


苦渋の選択の結果、ソ連機の評価試験を了承し、あの娘は療養先からユーコンに戻った。



この人類の末期に来て、未だそこここに跋扈する魑魅魍魎。
未だ曙光は見えず―――。



さて、この深い宵闇に横浜の魔女はどんなモノを見せてくれるのか―――。









―――そして、件の映像を見たオレは、打ちのめされた。






・・・・判ってしまったのだ、技術屋のオレには・・・。
発案者と製作者だという2人の衛士、コイツ等が何を為したのか。


発想が違う、と言ってしまえばソレまでなのだが、我々戦術機の開発に永く携わってきた者が、今や“常識”と断じ、強固な固定観念で一切触れなかったもの。
・・・それを根底から覆した。

そしてその事が齎す意義に付いても、予測ができてしまった。


帝国の未来を信じ、謂わばあの娘の命まで差し出して拘泥したXFJ計画さえが霞む。
否、意味をなさなくなる[●●●●●●●●●]くらいの、甚大なインパクト。


この異次元の挙動を実現するのに必要な部品は、実質CPU1個だけ。
高性能とはいえ、量産すれば数千円単位の部品、そしてソフトウェアと言う製造コストすら必要のない“概念”で、XFJ計画が弐型で目指す以上の動きを実現してしまった。
今後、弐型が当初の予定通り仕上がったとしても、或いは秘めているPhase3まで仕上がったとしても、光線属種の照射をここまで確実に躱す機動は実現できない。



そして気づく。

そもそも[●●●●]、戦術機は、コレを実現したかったのではないか?
光線属種に予測されやすい前進機動しか出来ない航空戦力に代わり、多様な機動性を以て照射を躱し、BETAを殲滅する事をコンセプトに作られた兵器。
それが戦術歩行戦闘機、所謂戦術機であり、目指すべき到達点であったはずだ。

しかし、主機の出力を上げ、炭素帯の構成を変えて世代を上げても、未だ其処には到達しなかった。

何時しか、その大本のコンセプトさえ無理だと諦め、偏った方向に流れていたのではないか?
この舞うような機動を見ていると、そんな思いすら湧いてくる。




―――次には、笑いが湧いてきた。


技術者としては、負けた。完敗だ。この発想は、無かった。

しかし、米国が主流で、今もその殆どの特許を押さえられている戦術機の現実に於いて、そのど真ん中に穴を開ける特大の一発。
戦術機の在り方そのものに革命を起こしうる技術。
それを同じ帝国の衛士がなしたのだとすれば、コレほど痛快な事もない。
漸くフランクに一泡吹かせることが出来る、と言うものだ。



何よりも、BETAの侵略に冒される地球人類として見れば、これは希望。
今ある戦術機の継戦能力を一気に大幅に高め、人類を勝利に導く明らかな希望だ。



国家間の技術情報交換を行い、より高みを目指した次世代の戦術機を開発しようと言う高い理想の元に集まりながら、未だ機密に固執し出口さえ見えないBETA戦後を見越した政治的意図、利権絡みの企業間対立。
あの娘にその現実を知ってもらいたかったのも事実だが、それだけに終始するなら理想だけを謳い実態の伴わないプロミネンス計画が馬鹿らしく思えてくる。





紅蓮大将は、このOSを開発した衛士が、殿下と秘密裏に会談すると言った。
そこにオレの同席を求める、とも。

相手は、シミュレーションとは言え遙かな高みにある技量を示した、白銀武少佐。

そして、明星作戦以降行方知れずとなり、死亡認定まであと僅かだった、御子神彼方技術少佐。
―――そう、あの“弾劾”を起こした当人。
もっとも、ハイヴの崩落という驚天動地の戦術を構築したのが彼だと知り、妙に納得してしまったのだが・・・。
敵も、そして味方すらも9年間に渡って謀り、殿下の窮地を救った規格外なら、この位遣るだろう、と。






・・・・面白い。


あの御子神彼方が、例え魔女の元に居ようが、おとなしくしているわけがないのだ。
これに乗らない手は無かった。





唐突に、デスクの電話が鳴った。
思考を中断して受話器を取り上げる。


「巌谷だ。」

『中佐殿でありますか、情報部の都筑であります。
つい先程、アラスカユーコン基地に関して秘匿通信で連絡が在りました。』

「・・・内容は長いか?」

『あ、いえ。』

「・・・訊こう。」

『・・・“問題解消なれど、経緯詳細一切不明”・・・との事です。』

「・・・了解した。」

『は。失礼いたします―――。』


その連絡に唐突に思い至る。

いっそ・・・・・あの娘も、呼び戻すか?




あの娘の命を盾に迫られたソ連機との比較評価も一段落した。
衛士の不調とのことで暫く先延ばしにされていた評価試験が漸く実施されたのは現地時間で昨日、10時間程前だ。
結果はソ連製最新鋭第3世代機を僅差だが退けたとの知らせが、今日早朝に届いていた。

しかしその直後、Phase3改修前倒しにフランクが何やらやらかして呉れたらしく機密漏洩疑惑が掛かった事も複数筋から舞い込んでいた。
確かに形状は似る部分も在るため疑惑の対象にもなろう。
刺激をしない為にもPhase3に関しては国内での展開を予定していたのだから。
機密流用に関わると相当デリケートな問題となるためこちらも迂闊に動くわけには行かない。
危惧しつつも、先ずは何が起きたか、情報収集を各所に依頼していたところだった。

今の連絡は、それに関する続報である。
なぜか突然問題解消されたと成れば、何らかの政治決着がなされたという事だろう。
フランクが仕掛けたか、はたまたハルトウィック大佐か・・・。

捜査中拘留されていたと見られるあの娘からの報告はまだ無い。
ならばこのタイミングの帰国には抗命すまい。

―――オレは、時差を考えつつ、受話器を手にした。


Sideout




■15:00 B19シリンダールーム

Side 霞


昨日のサイコダイヴで覚醒し、前回の記憶をも得た純夏さんの状態は極めて安定していました。

プロジェクションで再生の方法を伝えた後、純夏さんはBETA からの過剰刺激により欠損していた脳神経節の自己再生を開始。
ほぼ問題なくエレメンタルフェイズで思考出来る様になるはずです。

ワタシはその後、御子神さんから教わった手法で、リーディングとプロジェクションを強化、純夏さんのアストラル体による強化を受けて、内的領域にお邪魔しています。

純夏さんは、まだ感覚器のない脳髄だけの状態だし、御子神さんのようにアストラルフェイズの知覚は出来ないので、私のプロジェクションが唯一の外的刺激、らしいです。
寂しいから来てよ、と言われ、遣ってみたら出来ました。


今も傍で早く出せーと騒ぐ脳細胞は、内側から見ても順調に回復しています。

それは、余りにも過剰な性的刺激に蹂躙され、壊された尽くした組織ではありません。
純夏さんが、自らの“意志”で再生した、真っ新のうぶい神経節。


そして同時に氾濫した脳内物質によって破壊された記憶領域も補修されて行きます。
記憶野を再構築するその作業によって、逆に忌々しい記憶はむしろぼけたので、丁度いいとか・・・。

代わりに白銀さんが虚数空間から持ってきた前の世界の記憶を上書きしていきます。
と言っても未来の純夏さんの記憶みたいなもので、白銀さんと同じ時系列の未来情報がある、と言う事になります。



ワタシは、その中で、見てしまいました。

純夏さんと、武さんの、えっとその、・・・・ハジメテのその時。

前も白銀さんの記憶で少しだけ見た事がありますが、今度は目の前で。
顔を手で覆いつつ、指の隙間からしっかり見えちゃった純夏さんの記憶。



初めはぎこちなく、初々しく。

でも、1度目が終わる辺りから、様相が違ってきて・・・。



・・・・・・・・・・・・。



・・・武さん、ケダモノですぅ!

・・・純夏さん、BETAに蹂躙されてたときより、アヘ顔もとい、蕩けた顔じゃないですかぁ!?


・・・こんな、こんな激しいなんて!?









霞ちゃ~ん?


うさみみがピクンと硬直して、固まりました、
振り向くと、指の隙間から目が会いました。

黒くは無いのですが、イイ霊光[オーラ]を纏っています。

「・・・ホント武ちゃんは、ケダモノよぅ! 
あんな、あんな激しく毎晩求められたら、BETAより壊されちゃうじゃない!

だ・か・ら、霞ちゃんワケワケ宜しくね!」



まだダメです。禁止です。もう2年は待って下さい。お願いします。

・・・御子神さん、それでもワタシの小さな身体、保つでしょうか?

・・・鞍替えしたら、副司令は赦してくれるかな・・・? 


Sideout





[35536] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 12:35
'12,10,20 upload  ※今回も少し短め?
'15,01,23 誤字修正


Side 武


彼方に呼ばれたのは、A-01の教導から帰る途中。

一旦自室に戻り、シャワーだけ浴びてB19の夕呼先生の執務室に、行くと大きなモニタが展開している。


「どうした? こんな時間に・・。」

「207BとA-01の教導でお疲れの悪いが、所昼間は忙しいからな。
・・・ところで、どんな感触だ? 彼女らは?」

「ああ、順調。
A-01はまだ4日目だが、殆どがレベルIIに上がった。モジュレーションを使い始めている者もいる位上達してる。伊隅大尉や、まりもちゃん、速瀬中尉なんかは、もうすぐレベルIIIに届きそうだ。」

「ほう、流石に00ユニット適合者候補ってところか。」

「元々の練度が高いからな。新任はどうあれ、培った経験は決して無駄にはならない。
で、207Bは、今日からXM3演習に入った。
彼方が看てくれたお陰で、早々に美琴も復帰したし、何よりも甘えが随分無くなった。
あの体験[●●]は、無駄にならなかったらしい。
唯衛士を目指すんだ、と言う姿勢から、衛士に成って何をすべきか、という考え方に変わった。
それに、まりもちゃんのお陰もあって、かなり隊としての連携も出来るようになった。
・・・まだ“目的の為に気にくわないけど連携する”っていう感じだけどな。そこはなかなか難しいよ。
・・・・それでも・・11月の頭には、総合戦技演習を受けさせたいと思ってる。」

「・・・行けそうか?」

「演習だけなら、今でも十分・・・。ただその後の11日新潟と成るとな・・・・。」

「・・・武はまるでパパの様だな。・・・・過保護が過ぎると、反発されるぜ?」

「・・・・判ってる。」

苦笑する。
同じ訓練兵としての立場の筈が、いまでは完全な教官だ。少佐という階級は冥夜にしかばらしていないが、あの映像を体験したのである。オレが普通で無いことは、しっかり認識されている。
それでも、何かと質問をしてくる冥夜に引きずられて、皆も打ち解けてくれたとは思う。
何げにライバル視されている雰囲気もあるが・・・。
そして、映像の中に居た、衛士達、いまの207Bを重ねた自分自身の影にも、興味を持ち、尋ねてくるようになった。
オレが話すのは、その未来の思い出たるみんなの姿。


「・・・・取り敢えず、白銀の過保護はほっといて、進めてちょうだい。」

「Yes, Ma'am。

取り敢えず、明日の謁見に当たって、当面の戦略を整合しておこうと思ってね。」

「・・・アタシは00ユニットに集中してるから、任せる、で良いんだけど?」

「00ユニットは本来ゴールでは無く、スタート。どんな戦略で喀什を考えているか概要だけでも必要だろ。」

「・・・そうねぇ。なんかあんの?」

「・・・相手次第だが、少なくともTOPには、全部ぶっちゃける。」

「!!!」

夕呼先生が鋭いまなざしで彼方を見やる。

「・・・・どこまで?」

「・・・上位存在との会話ログ、BETAの支配構造、H22のBETA数増大、その為にも年内にH1攻略を実行する計画であること、・・・までかな。」

「・・・勝算はあるの?、無ければ荒唐無稽と取られるわ。」

「・・・・まず、これ見て。」

彼方がモニタに示したそれは、単純なグラフ。

BETA面密度と戦術機性能の対比。
面密度には威力偵察行動、日本侵攻時、ハイヴ側溝、主縦坑と幾つか注釈がある。
一方で撃震や、陽炎、不知火、武御雷、あるいはイーグルやラプターといった記述。

「過去のデータをかっさらって、戦力を平均化したシミュレーターを作った。
単純面制圧を行った場合の戦力彼我比。
今の標準装備じゃ武御雷や、ラプターを揃えてもハイヴ攻略は無理ってこと。狭いハイヴ内では単位面積当たりの弾幕が制限されるからな。

で、ここにXM3を投入すると、こんな感じ。

更に、いま開発しているレールガンやミサイルでこんなになる。」

「・・・」

線が上書きに追加されていく。その装備平均で何処までの面密度に対処できるか、といった単純明快な比較。

「・・・・で、これを使ってオリジナルハイヴの攻略をシミュレートしてみると・・・」


そこに示されるのは、前の世界で行われたオリジナルハイヴ攻略戦“桜花作戦”。
各段階に於ける陽動部隊の損耗率、そして、ハイヴ侵攻部隊の損耗率が示されていた。

それぞれ、35%と40%・・・・。

勿論、前のループに比べれば、格段に良い。
けれど、それでも40%、12人が侵攻すれば5人が喪われる。
・・・・背筋がこわばる。
喪う事への恐怖が、身体の奥底から湧き上がってくる。


「・・・今考えている装備でも、なんとか攻略可能。けれどその損耗は、現段階でもこの数字・・・。」

そこでオレは気がつく。

「降下時の損耗が低すぎないか?」

「前回はALMをBETAが迎撃しなかった所為で、全く重金属雲が発生しなかったんだろ? 今回は高度信管による爆散機構を追加して、迎撃しなくても予定高度で爆発する。」

「成る程・・・・・・!!、ちょっと待った、この突入部隊の数字は凄乃皇なしの数字?」

「・・・ああ。武の記憶でもラザフォード場と、G弾は対策されている可能性が高いからな、凄乃皇には、降下支援だけして貰い、以降は陽動及び汪溢BETAの殲滅に回って貰ってる。」

「それで・・・か・・・。」

「前回凄乃皇を使ったのは、佐渡だけ。なのに桜花作戦では対処してきた。G弾も横浜で2発だけなんだが、横浜でG弾が使われた時、全てのBETAが殲滅された訳ではない。寧ろ横浜にある貴重な素体・鑑の喪失を回避するため、早期に撤退した帰来がある。
その情報は佐渡に辿り着いたBETAから上位存在に伝えられた可能性が高いな。」

「・・・しかしBETAも反則ね、ラザフォード場なんて、どうやって破るのよ・・」

きょとんとした顔をしたのは、彼方。

「・・・割と簡単だと思うけど。・・・センセの作ったブラックボックス、アレでも破れるんじゃないか?」

「「え?」」

「・・・同じML臨界反応圏が在れば良いだけだろ?、センセのブラックボックス、マイクロML場を形成して電力供給してるんだから。
・・・触手に同じML臨界反応圏張れば、後は密度次第で貫通できる筈だぜ?」

「・・・アタシが考えつくことくらいは上位存在もやる・・・ってことね? でもそれじゃあG弾は?
ミサイル降下中なら兎も角、ML臨界反応圏張ったミサイルをBETAが持っているとは聞いてないし、超臨界に達した後は防ぎようがないと思うけど?」

「・・・武、お前の傍系記憶で、G弾はフェイズVクラスもモニュメントは破壊できたんだよな?」

「そう聞いてる。反応炉まで達しなかったんじゃないか、って言うのが定説だった。」

「・・・夕呼センセ、ML機関の減速材って?」

「・・・G-9、よ。」

「・・・G-11に特殊な電磁場を掛けて励起するラザフォード場を、G-9の超伝導による偏向電磁場で制御する、って理解でいいか?」

「・・・・・・・・あっさり言うのね。・・・・・それ、世界でも最高クラスの機密、・・その通りよ。」

「だったら簡単だな。爆発したG弾の多重乱数指向重力効果域を包含する[●●●●]規模の偏向電磁場を形成してG-11の崩壊そのものを減速してしまえばいい。上空では無理でも、ハイヴ近傍に呼び込めばBETAなら楽勝だ。フェイズIV以下のハイヴでは、ハイヴ規模の方が小さくて機能しないみたいだが、な。」

「「 !!! 」」

余りの発言に、夕呼先生さえ呆気にとられた。
コイツはなんでこんな当たり前のように簡単に言うのか。
そう言われてしまえば、そうなのだ。多重乱数指向重力効果域を包含する[●●●●]規模の偏向電磁場など、人間のレベルでは困難きわまりないことでも、爆発地点が予測できて、人類を遥かに凌駕するエネルギーを有するBETAなら可能である。
・・・・しかし普通はそんなこと、思わないぞ? アストラル思考体持ちは、やっぱりどこか規模がおかしい。


「・・・逆に言えば、その機能が凄乃皇のラザフォード場にも有効だと判れば、ハイヴに入った途端に無力化されかねない。凄乃皇を動かすのは現状鑑しか居ないんだから、突入させるわけに行かないだろ?」


更に凍り付く。前回は突破されただけだが、そんな場を形成されたら、凄乃皇は制御を喪い、墜落する。
頷くしかない。
そんな危険のある所に、純夏を赴かせる訳にはいかない。



「・・・やはり・・・どうしても、もう一手、欲しいな。
・・・だが、それは今後どうにかするにしても、少なくとも現段階でも、オリジナルハイヴ攻略が、全く不可能ではない数字であることが見せられれば、協力も得られる。
・・・・この方向性で、話進めていいか?」

「・・・・・・・いいわ。どうせこの後は、形振りは構っていられない。
・・・彼方に任せる。
アタシ達は、出し惜しみして負けるわけには行かないもの!」

その通りだ。
後は、無い。
最悪は、その犠牲を払っても、前に進むしかないのだ。

皆の顔を脳裏に思い浮かべながら、拳を握りしめた。


Sideout




Side 夕呼


白銀の日課と成った鑑への接触タイム。23:00を回ると、お休みの挨拶を残して、そそくさとシリンダールームに向かった。
まだ社が居るのだろう。
そう言えば、社が鑑のサポートで、サイコダイヴ出来る様になったらしく、日付が変わる頃まで3人でおしゃべりしているらしい。
鑑の脳神経細胞も回復は順調で、このままならあと2,3日で思考野と記憶野の再構築が完了するらしい。来週早々、帝都から2人が帰って来れば、鑑が現界する。



そして部屋に残った彼方は、物陰からワインボトルとグラスを取り出した。
アタシはキーボードを打ちながら横目で睨むが、彼方は涼しい顔で抜栓する。
途端に溢れる百花の香り。

「! なによそれ?!」

「DRCリシュブール・・‘85だからちょうど飲み頃かな。」

・・・また飛んでもないモノを。

「・・・白銀はいいわけ?」

「アイツには、まだ早いよ。・・・・まあ、鑑が甦生したら、ロマネでも開けてやるさ。」

紅い芳醇な液体が注がれたグラスを受け取り、グラスを掲げる。



ヨーロッパの全域が尽く荒廃した今、もう望むべくもない至高のワイン。
アメリカの大統領ですら今では口に出来ない、喪われた逸品。
何処から持ってきたかは知らないが、たしか御子神の先々代あたりが、マニアだったらしい。
どこぞに秘匿していたのを見つけてきた訳か。
・・・・抜け目ないヤツ。


「・・00ユニット、完成したんだろ?、メサイアの生誕に・・・・」

「・・・・」

キン、と澄んだ音。
そして更に抜け目ない台詞に、無言で甘く睨みながらグラスを傾ける。

馥郁と、濃密な香りの塊のような液体が口孔を、喉を、鼻腔を甘く潤す。





コイツに初めて抱かれたのは、彼らが現れた翌日だ。

前日に受け取った数式。その検証。
結果、私は彼方の所有となった。

と言ってもその日は、解析から00ユニットへの演繹に熱中し、気がついたら朝だった。

基本B19階の地底人。BETAと変わらぬ日の当たらない生活。

ピアティフの諫言や、社の悲しげな瞳すら受け流し、そのままナチュラルハイに任せて、朝駆けに会った彼方にキスの雨を降らせた。

その後提示された上位存在との会話ログや、価値観さえ覆された途方もない技量と戦術。
午後はそのまま素子化式をまとめ、一段落した頃に彼方が入ってきた。


まあその頃には覚悟、というよりも寧ろ期待?もしてたし、実際感謝はしてたから彼方に抱かれる事は抵抗無かった。

そして饗されたのは、ほろ苦い、極上の珈琲と白銀武の真実。

珈琲で一時的に覚醒したけど、二徹に近かった脳は、素直に墜ちた。
普通なら厄介で不機嫌に成りそうな問題も、コイツが居れば何とかなるかなぁ、とか思ってしまった。


ま、もともとアタシも14から帝都大学に在籍し、研究一筋だったから、もちろん男の経験なんて余り無い。
処女ではなかったが、それも好奇心から試して見た、というのがせいぜいで、痛みはまあそれほどでも無かったが、別に良いモノではない、と言うのが認識だった。
寧ろ攻める方が好き? 悶える男を翻弄するほうが性に合う、・・・と思って居た。
もともと理性で思考するタイプの女性には、不感症が多いのも統計的に実証されていたし。

だがこちらからの誘いに違わずクスリと笑った彼方は、軽々とあたしを抱き上げ、ベッドまで運び、そしてこのアタシが思い出すだけで赤面しそうになる、甘々な記憶を刻みつけてくれた。

その夜、彼に攻め抜かれ体力を空にされたアタシは、久方ぶり・・本当に久方ぶり、恐らくBETAの地球侵略以来の、深い睡眠を与えられたのだ。


・・・・アタシとしては、初めて経験する、中々に衝撃的な内容だった訳だし、気恥ずかしかったりしたのだが、翌日の彼方の態度は、それまでと微塵も変わらなかった。
もう鉄壁と言っても良い。
・・・逆にこっちが悔しくなって拗ねそうになった。

随分後になって、白銀が不思議そうな顔で、その関係なのかと尋ねてきたくらい、ヤツは他でも変わりなかったらしい。
・・・勿論、こちらとしては有り難いわけだが。


そしてその日の夜には、鑑純夏の脳髄にサイコダイヴというトンでもない体験と共にアタシはコイツの力の一端を知った。


落雷直撃と、脳神経節の大欠損。
その闇しかない無間地獄から、奇跡の生還を果たした男。

感覚時間で10年と言った。
そしてその10年の闇から戻ったあと、さらにイデアルフェイズへと挑戦したのだ。
感覚時間で100年・・・。

感情では信じられなかったが、理性ではそれが正しいと理解した。コイツなら遣りかねない、と。
超並列思考も可能。
しかも、アストラルフェイズでの電子機器へのI/Fを有している。
BETAですらハッキングする技能。

自分で自分のアストラル体に量子電導脳もどきを作ってしまった男には、何でもないこと。





そして知らされたBETAの起源と目的。

確率分岐世界に於ける他世界[クラスタ]への“転移”。
その為の“移動手段”として資源=“超因果体”を集めること。

日本侵攻に於いて、BETAは鑑を確保したから止まった。
アタシもそう考察した。

しかし、初めから鑑純夏のような超因果体狙いだとまでは思わなかった。

タイタン、火星 月、そして地球。
確かに鉱物資源(恐らくついで)がメインだとしたら地球など後回しで良いのだ。


そして珪素基質生命体の思考の違い。
時間的組成的差違を明確に認識していた。

白銀が言いよどみ、アタシですら即答できない上位存在からの質問、生命体であることの証明ですらコイツは即答した。

“母生命(根源)を礎とする魂魄と結合した、基質を問わず自我を有する散逸自律体を生命と言う”、と。


この定義で言えば、人工物ですら魂魄さえ宿れば生命体となる。かつての鑑がそうであったように。
この返答に窮するのは上位存在である。

創造主は兎も角、端末である上位存在には根源も魂魄も認識がないだろう。
しかしその定義が創造主に伝わったとき、果たして創造主(群)?はどうするのか。

興味は尽きない。



そう、アタシは認めたのだ。
たった3日で。

コイツは天才だと。

そして、認められたのだ。
直接アタシでないのが悔しいが、前の世界で。

天才、と。

イデアルフェイズである無意識領域では魂が繋がっているから、それも有りらしい。


それは対価という狡い手段だったが、いともあっさりと、身体は墜ちた。

・・・で、正直に言えば、心も堕とされた。



それでいてサポートは完璧。
疲れたと思えば、マッサージや整体。時折どこかからか引き出す嗜好品は、今の世の中眼にすることすらあり得ない品物だったりする。
それを尋ねれば、自分のモノはとても大切にする性質なんだ、と軽く返された。
屈託のない笑顔に赤面させられたのが悔しい。

外出の際の警護さえも、今は彼方だ。


傍若無人にみえていて、軽妙で、外連味のない態度や会話は、何故かあたしの癇に障らない。
そしてその知性はさり気なく飛んでもない。
ブラックボックスの中身は愚か、G弾無効化の方法を、ああも簡単に言われてしまうとは。

その場でXM3を組んだ技量は序の口。
半導体150億個の素子構成とともに立ち後れていた量子電脳用のOS基礎構造を一晩で作り上げてくれた。
非ノイマン-ニューラルフローという新概念。
ビット拡張する素子に最適なフレキシブル・アーキテクチャを有する。
元の世界の知識が基本らしい。
基礎は同じなので、既存のOSでも計算出来ないことは無かっただろうが、その速度と無駄を省いた効率で言えば隔絶している。





かつて、アタシ独りに全てが掛かっていた第4計画。

それは、白銀の経験した1周目そのもの。

理論は停滞し、焦燥ばかりが募る。形振り構わず集めたものは、ただただ損耗して行き、今まで犠牲にしてきた物が加速度的な重圧となってのし掛かる。
BETAを駆逐するという大義名分で割り切ってきた多くの命が、ただの無駄死にへと貶められる。

そんな重圧に苛まれながら、為す術もなく12月24日を迎えたのだろう。


それが、彼らが現れた22日を境に、一気に変容した。
渇望していた理論の提供。
鑑純夏の再生と、残存戦力のめざましい底上げ。
それを叶える装備群。

今や、その戦力的な負担は白銀がほぼ受け持ち、国内政治的な負担は彼方が受けてくれた。

彼方は技術的な負担、更には海外の対外的な面倒事すらも流せるのだから、今は純粋に理論構築による量子電導脳の展開に集中できたわけだ。

あれだけ行き詰まっていたプロジェクトは、彼らが現れてたった4日で最大の壁を突破[ブレーク・スルー]した。
与えられたモノは多大で、それに対し返せるモノは、実は、殆ど無い。
この先、衛士であれば部下にあたり、謂わば死ねという命令すら下せる立場にありながら。




望んだ未来、気の置けない相手と、最高のワイン。

―――――すこぶる気分が良い。



唇が合わさる。
するりと、舌を絡めてくる。
気怠げに応えるが、触れ合う粘膜の感触に、アタシの中の“女”が身じろぎするのが解る。
疼く、と言う意味を初めて知った。

心地よい酔い。


情愛になんか縛られるのはまっぴらだが、こんな関係が殊の外気に入ってしまった事を認めざるを得なかった。












閑話休題



翌朝。

珍しく朝食に出たPXでたまたま会ったまりもに、粘り着くようなジト眼で睨まれた。

「・・・・・・香月副指令、随分と肌つやが、絶妙[●●]に宜しいようで・・・。
なにか相当[●●]良いことでもありましたか?」

・・・拙い。
普段弄っているだけに、こういう時のまりもは極めてヤヴァイ。


このところの適度なセックスのお蔭か、ホルモンバランスが絶妙に整えられている。
加えて彼方の過保護なまでのケア。
なにせアストラルフェイズの知覚から、ヨガや仙道、気功と言った内氣系スキルは達人クラスの上、BEATのヒトゲノム知識や技能さえモノにして、今ではその気になれば遺伝子欠陥まで直すのだから・・・。
リンパマッサージから、“氣”を基盤に全身の整体まで遣ってくれちゃう。

正式な会合時以外は化粧など殆どしないが、ほんの1週間前迄は長年の疲労と不摂生で、相当に荒れていたのは確かだった。

なのに今は、潤いのなかったばさばさの髪がしっとり落ち着き、肌が綺麗に肌理揃っているのだから、まりもには隠し様がない。鎧衣に指摘された時は、誤魔化したけど、それもまりもには通じそうにない。



・・・うん、今度彼方にまりもの相手もするように言っておこう。

白銀でもいいのだが、ヤツにはもう鑑も御剣も社もいるし、207Bも徐々に懐柔しているらしい。
尤もそれだけでもヘタレていたから、まりもの相手までは荷が重いだろう。

彼方なら、その気になれば、まりもを墜とすくらいは出来るだろう。
鑑に依れば、今の男は8人までが責任範囲らしいし。

少なくともセックスに関しては、どうせアタシだけじゃ手に余る。
白銀は恋愛原子核と呼ばれる存在だそうだが、彼方は白銀ほど無自覚で無作為ではない。
キチンと線を引ける狡い[●●]男。

それでも今の時代、これだけのスペックなら求める女は多いだろう。
尤もヤツが素直にスペック公開するとは思えないが・・・。
まりもも白銀にはお姉さんぽく接しているが、彼方には無意識で頼っている節がある。

主にあたしとまりものストレス回避の意味で。
まりもを墜としてメロメロにしてくれれば、きっとアタシが楽になるから。


Sideout





[35536] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/01/23 23:22
'12,10,22 upload  ※テンプレが外れんっ!
'15,01,23 誤字訂正


Side 悠陽


水平線上に見えた“それ”は、輪郭のぼやけた靄の様にも見えました。
光学迷彩とはいえ、完全に透明化するわけでは無いので、視線を凝らして意識を向ければ判りますが、余り航空機の飛ばない昨今、低空で超音速による衝撃波でも出さない限り、空を往くこの機を認識する方は稀でありましょう。
速度は出ていません。今はラムジェットもカットしてほぼ滑空しているようです。
佐渡から約400kmはなれたこの地、佐渡の最高標高がほぼ1,200mでありますが、途中北関東に2,000m級の山地が在り射線を遮るため、ここ東京周辺はほぼ5,000mまでの高度が安全圏であると言われています。ですので安全の為というより秘匿姓に配慮し高度50m程度、機は海面を舐めるように進入してきました。


「!!、馬鹿者っ!! 進入速度が速すぎるっ!、此処は滑走路では無いんだぞ!?」

着陸管制していた担当官が悲鳴に近い叫びを上げます。
チラリと視線を戻せば、既に光学迷彩を解除したXSSTは、ランディングギアを降ろし、かなり接近しています。再突入艦艇らしからぬ機動性を追求した前進翼を広げ、そのまま滑走路進入をするよう滑り込んで来ました。

「!!、突っ込むぞ!?」

周囲、数少ないとはいえ、数人の護衛もざわめいた時。
XSSTは僅かな逆噴射と共にカナード・尾翼を最大に立てて軽いコブラ[●●●]に移行、さながらに獲物向かい着地する猛禽類のように主翼を立てます。
そこに空気を掴み一気に減速、ヘリポートすれすれで一瞬その場にホバリング、そして何事も無かったかの様に後輪から接地し、フワリと大型のヘリポートサークル内に舞い降りました。
落下荷重を支えきったダンパーが戻る時、僅かに身を震わせたXSSTの姿に懐かしさを感じます。

地面に突っ込み爆散する機体を予期し、叫び声を上げ掛けた皆が、口を開けたまま絶句していました。


・・・・・・・・・相変わらずです。

あのXSSTの機動は一線級の戦闘機に近いとはいえ、実際30m近い再突入艦でこんな着陸をするのは、兄さまくらいしか知りません。
・・・・VTOL機能も在るのですから、使えば宜しいのに。。
確かにVTOL噴射をした場合に比べ、その方法[●●●●]はヘリポートへの損傷が少ないのは認めます。

でも見る方が見れば即座に兄さまと判ってしまいます。御自重くださいまし。
あのコブラでフワリと浮く感覚が、クセ[●●]になるのは、お察しいたしますが・・・・。

苦笑している紅蓮と真耶に、何事も無かったように話しかけました。

「・・・それでは参りましょうか。」









専用車で停止した機体に近づきます。
上部ハッチからは、既に3人の姿か現れ、地上に降り立ちました。

赤の斯衛軍服に身を包んだ月詠中尉、国連軍のC型軍服を着た2名の佐官。
一人はその面影に見覚えのある白銀武少佐。

そして、・・・・そして。

直衛の紅蓮と真耶に続き車を降りるワタクシを認め、颯爽とした敬礼を取るその姿。
紛れもなく、あの日喪った存在。
・・・・御子神彼方兄さまでありました。



「殿下御身自らのお出迎え、恐悦至極に存じます。」

真那を含む3人は、その場で拝跪をし、深々と頭を下げます。

「ようこそいらっしゃいました。此度は非公式の会合故、堅苦しい儀礼には及びませぬ。・・・・皆、面を上げて下さい。」

「は。斯衛軍第19独立警護小隊隊長・月詠真那、勅命により国連太平洋方面第11軍所属白銀武少佐、及び御子神技術少佐をお連れ致しました。」

「大儀でありました。・・・・[]はご健勝でありますか?」

「は。万事つつがなく。・・・・詳しきは、そこな白銀少佐がご存じになって居られます故。」

「!、然様ですか、それは重畳。後ほどゆるりとお聞かせ願いましょう、・・・ね?、白銀少佐。」

未だ少年と言って差し障りない風貌ながら、甘さを削ぎ落したような精悍な顔に、打って変わった子供のような邪気のない笑顔を浮かべます。
あの娘[●●●]の幼馴染にして、今の、仮初ではありますが同期。この屈託の無さがあの娘の心を捉えたのでしょう。

「勿体ないお言葉です。・・・・お久しぶりです、殿下。
国連太平洋方面第11軍横浜基地A-00戦術機概念実証試験部隊部隊長白銀武、先日帰国と共に着任致しました。」

「誠に重畳でありました。無事の帰還を大変嬉しく思います。」

「ありがとうございます。此度は突然のお願いにも関わらず、この様な機会をもうけて戴き、重ねて深く感謝いたします。」

「構いませぬ。なにやら重大な案件もある様子、こちらこそ期待しておりますよ・・・。・・・そして御子神少佐。」


逸る気持ちを必死に抑え、儀礼通り順番に挨拶を交わして来た。

「・・・・同じく戦術機概念実証試験部隊部副隊長御子神彼方。過日着任致しました、殿下[●●]。」

・・・その固い言い方に少し戸惑います。
兄さま[●●●]なら、儀礼には及ばない、と言った時点で砕けてくると思って居ました。

「・・・・・お久しぶりです。兄さま[●●●]。ご生還、・・・誠に、誠に、喜ばしく思います・・・。
どうか、昔通り“悠陽”とお呼び下さい。口調も兄さま[●●●]らしく在りませぬ。」

「そう・・か。では口調は戻すが・・・。
こちらも、久方ぶり・・・と言うのが筋なんだろうが、悪いな。
記録は知っていても、俺自身は一切覚えがない。」

「!!・・・・」

え・・・?

「・・・・・月詠中尉や鎧衣課長から聞き及んでいると思うが、既に記憶野は一度完全に喪われ、個人的な記憶の回復可能性は絶無。
・・・つまり殿下[●●]の知る御子神彼方は、あの日落雷で喪われた。
今此処に居る御子神彼方は、殿下の知る御子神彼方とは別人[●●]と思ってくれ。」

「・・・・・・・・・・・・・・それは・・・兄さま[●●●]、・・・では、ない、と?」

あまりの言葉に強ばるワタクシ、周囲も緊張します。
姿も、声も、その口調、雰囲気、全てが兄さまです。それは間違いが無いのです。
けれど記憶の消失・・・。

それは確かに兄さまにとって見ればワタクシは見知らぬ相手。その記録を知ったとしても、ワタクシ自身の事を記憶では一切何も知らないと言うこと。
ワタクシはワタクシの主観でしか見ていませんでしたが、相手の立場に立てばその戸惑いも理解は出来ます。
と言うよりも、指摘されて初めてその事実を、漸く理解したワタクシ・・・。


「・・・ああ。そう呼べば、殿下は前の俺を期待してしまうだろう?
・・・・申し訳ないとは思うが、俺はそれに応えることが出来ないんでね。」

「!!・・・・・・。」

再会の喜悦が凍り付き、顔から血の気が引いていきます。足下が崩れていくような喪失感。
けれど・・・それが厳然とした事実。

「・・・それを認識して尚、名前で呼べ、と言うのならそうしよう。」

「・・・ではワタクシには、“兄さま”ではなく、御子神と呼べ、とでも?」

混乱のまま、八つ当たりのように言葉を叩きつけます。


「・・・いや、悠陽[●●]が嫌でなければ、“彼方”と呼び捨てで構わない。」

「 !!! 」


“悠陽”・・・。その声で、同じ言い方で真っ直ぐ呼ばれ、身体の芯を何かが疾りました。


・・・・・・・・・嗚呼・・・。

確かに、この方はワタクシを知らないのでしょう。
・・・けれど、これは確かに兄さま、いえ、ワタクシの知る“御子神彼方”その人なのだと、改めて思います。
ワタクシが“兄さま”と呼んだ“過去”に応えることは出来ない、けれどその名の示す通り“彼方”として“未来”に応えよう、と言ってくれているのでしょうか。


・・・・そうですね。

彼らが此処に来たのは、ただ旧交を温めに来たわけでは無いのです。
香月博士の名代として、この国、ひいては人類の“未来”の為に何を成すべきか、それを話に来たのですから・・・。


・・・ワタクシは、まだまだですね、彼方[●●]
そなたに苦言を呈される今の今まで、政威大将軍としてではなく、煌武院悠陽としてしか此処に居なかったのですから。

確かにワタクシは、サヨナラをする必要があるようです、・・・・“兄さま”と、そしてその“甘え”に。
共に過ごした過去は既に貴方の中から喪われました。けれど、ワタクシの中には今も確りと残っています。ワタクシを慈しみ、育んで、そして護って頂いた、大切な記憶として。
けれどワタクシは、これからのBETA大戦を生き抜いて、民を護り、国を治めて行かねばならない立場。
その責を有するワタクシが、またも“兄さま”甘えるなど、許されることではないし、何よりも“兄さま”が望んだワタクシの姿では在りませんでした。

そして、それでもその未来に向い、彼方[●●]は今も生きて、ワタクシの傍に居てくれる、と言うのですね・・・?。



「・・・承知いたしました。・・・それでは、宜しくお願いしますね、“彼方”。」

「・・・・・・・ああ。」

しばらくワタクシを見つめた後、そうぞんざいに応えた御子神彼方は、けれど先ほど眼にして以来、初めてワタクシに向けて、太々しいくらいの笑みを刻んでくれました。


Sideout




Side 榮二


人目の多い帝都城を僅かにはなれた、浜離宮庭園、その一角にある茶室。
悠陽殿下自らが亭主となり、茶を点てていた。

先に通され、待っていたそこに遅れてきた客は、国連太平洋方面第11軍横浜基地A-00戦術機概念実証試験部隊部所属、白銀武。
先日渡されたデータの中で、光線属種を翻弄し、BETA制圧を唯の“作業”としてこなした単騎世界最高戦力。
そして所属を同じくする御子神彼方。こちらはかって、かの“弾劾”を仕掛け、今の殿下の立場をお護りし、そして今回提示されたデータではヴォールク攻略に於いて奇跡の戦術を立案・実行した男。

彼らがその“奇跡”を成し遂げた原動力、新概念のOS、それがオレがこんな固い席に呼ばれた理由だろう。
何しろ他の列席者は、斯衛軍副司令官紅蓮醍三郎大将、日本帝国内閣総理大臣榊是親首相、情報省外務二課課長鎧衣左近という、錚々たる面子なのだから。


先程茶が点てられるのに先だって、鎧衣課長より彼らの来歴が紹介された。オレと榊首相が知らない為だ。

それによれば、白銀少佐は98年のBETA横浜侵攻で被災。BETAに襲われ辛うじて命を長らえた物の、記憶喪失に陥った事と、たまたま救助したのが極秘活動中の機密部隊。しかも助けてくれた戦術機のパイロットが負傷する中、その戦術機を操縦して危機を脱し、そのまま戦地任官で極秘部隊所属となった、とのこと。
強化装備無し、簡易のヘッドギアでいきなり戦術機の操縦など信じられなかったが、彼の戦術機適性値を聞いて唸る。恐らくは数値的に世界最高、通常の値から完全に1桁ずれていた。これだけあれば、生身でも細かい統合制御は無理としても、移動操作位なら可能だろう。
そのままその極秘部隊で過酷な任務を2年間経ながら、今年の春先にその所属した部隊は壊滅。その時のショックで逆に記憶を取り戻した彼は、最後の作戦の際に使用した彼の機動を実現する新概念のOSを上梓するために正式任官となり、今までの成果とOS発案の勲功により少佐として今の国連横浜基地に帰属した。
一応正式訓練経験が無いため、訓練校にも併属し、そこでは殿下の縁者である御剣息女、そして榊首相の息女、更には鎧衣課長の息女とも同期で在るということで、暫し話が逸れたが・・・。

一方で御子神少佐は、99年の明星作戦の時G弾の爆発影響により発生した落雷に撃たれ、昏睡状態に陥ったという。当時周囲の配慮により敵の多い国内を避け極秘裏にハワイで治療を受けていた。どうにか年初に覚醒した彼は、その時点で個人的な記憶野をほぼ喪っていたが、PC上に残した自らの記録を辿り、リハビリを実施。たまたまその地で邂逅した白銀少佐の特異な機動概念を実現するOSに興味を持ち、彼とプロトタイプをくみ上げた。
その地で他にもいろいろな技術を習得した彼は、作戦唯一の生還者・白銀武と共に、本格的に新OSを組むため、同じ横浜基地に技術少佐として帰属したという。
99年の行方不明以降、斯衛軍に在った軍籍は一時凍結しており、こちらも復帰を果たせば併属となる。


「・・・しかし、何故横浜基地である必要が在ったのかね?」

「それを今から説明致します。かなり衝撃的な話と成りますので、殿下に点てて戴いたお茶で心鎮めて下さいね。」

そう言う白銀少佐は、年相応に朗らかに笑ったが、その眼は真剣だった。




茶が饗される間に、茶室には不似合いなモニターが展開する。
一応極秘のプレゼンも可能な賓室でも在るわけだ。



まず、そこで示されたのは、・・・・・オルタネイティヴ4 という極秘計画についてだった。

95年に横浜の魔女、立案者である香月夕呼博士を司令官として、帝国が誘致し、開始された極秘計画。
博士の理論を応用した、量子電導脳を搭載する00ユニットによって、BETAに対する諜報を行い、その情報収集を目的とする。
更には、それらもたらされた情報による対BETA戦略の構築をめざし、現在国連横浜基地で推進中の計画だという。
その誘致には榊首相が積極的に関わっており、それは一方で予告無しのG弾による戦果に気を良くした米国が提案した計画、G弾によるハイヴ殲滅とバーナード星系への10万人規模の移住がセットになった米国案抑止の為、正式採用された経緯もあるらしい。
但しその米国の計画は、今も米国のごり押しによって第4計画の予備計画となっており、もし第4計画が失敗した場合、直ちに発動されるという。
その為第4計画には、第5計画やそれを推進したい米国主流派の妨害工作が頻繁に在るとの事で、香月女史の秘密主義も漸く一部が納得できた。


・・・・しかし第5計画は酷い計画だ。

母なる大地を汚し、10万人ぽっちで辿り着くかどうかも判らない異星に向かう。
元々フロンティア精神ばかりが旺盛な米国人が考えそうな計画だった。その開拓によって過去、一体どれだけの原住民族が犠牲になったのか。全く理解も反省もしてもいない訳だ。


「そして今回の報告は、全てこの第4計画に基づくモノとお考え下さい。
そもそも、オレが所属していたのは、その第4計画、香月博士麾下の威力偵察部隊、通称ハイヴダイバーズでした。」

「「「 !!! 」」」

「・・・これがオレの、その部隊での最後の作戦、“銀河作戦”の映像です。」


次に示されたそれは15分程のダイジェストでは在ったが、その壮絶な映像は、色々な意味で衝撃だった。

広間に溢れるのは、なんとフェイズ3ハイヴの総BETA数にも相当する15万と言う規模のBETA。
そこを“機動”で切り抜け、殲滅する部隊の何という高みに至った“技量”、それでも届かない“果て”。
聞いたこともない非合法の部隊。しかし所属していたのは、寧ろ“自らの意志”で、死地を求める戸籍のない“死者”達。
結局、白銀に託された試作00ユニットによるオリジナルハイヴ[●●●●●●●●]威力偵察は、白銀を残し部隊の壊滅と共に、貴重な“上位存在”との会話ログをもたらしたのだった。

「そして、コレがその時の会話ログです。」




茶室を沈黙が支配する。

これを以て第4計画は完遂、と言い切っても構わない内容。
しかし、その会話の内容が、衝撃的すぎた。

「・・・・・・・つまり、端的に言うとBETAは創造主が作った、資源回収用の炭素系ロボット[●●●●●●●]、と言う訳か?」

「そうです。意志も思考もない、ただのロボット。
そして地球上の全てのBETAを統合し、“災害”に対して“対策”を講じるのが、この会話をした上位存在。地球上のBETAがこの上位存在を頂点とし、通信によって各地のハイヴを統べる箒型の支配構造を有することも判明しています。
ですが、この上位存在ですら重頭脳級と名付けたBETAの一種、謂わば地球に於けるロボットの分隊司令塔に過ぎず、事実上位存在は自分自身すら生命と思って居ません。
当然、人間のことも、唯の“現象”であり、抵抗は“災害”としか認識していない・・・。」

「・・・意志の疎通や、ましてや和解など到底不可能。・・・・其れが10の37乗、存在って・・・・」

「人類の逃げ場は無いって事です。
上位存在は計算上と言っていますが、もしBETAの生存率が鰯並の0.01%だったとしても、存在数は10の33乗体存在、一方で全宇宙の恒星数は密度の概算により7×10の22乗個と言われています。切り上げて10の23乗としても1恒星系当たりに10の10乗、即ち100億体のBETAが存在する事になります。

・・・・事実、このグラフを見て下さい。
左上が移住計画の目的地であり、地球型惑星と見なされるバーナード星系第1惑星の、60年代のスペクトル分布。左下が同じくBETA侵攻前の地球のスペクトル分布。
右上は最近ハッブル宇宙望遠鏡で観測されたバーナード星系第1惑星のスペクトル分布。そして右下は最近の地球、特にユーラシアをメインにした解析結果です。」

「「「「 !!! 」」」」

一目瞭然とはこのことだろう。何を言うまでもない。



「・・・我々はこの地球を護り、太陽系からBETAを駆逐しなければならないのです。」

「・・・・・・・・・コレは・・・、日本帝国云々よりも、国連に持って行く内容ではないのか?」

「当然、第4計画は国連の管轄下ですから、勿論香月博士以下、我々はその準備をしています。
しかし今、明確な打開策が無いままこれを公表したら、どうなると思いますか?」

「「「「 !!! 」」」」

・・・そうだ。我々ですら絶望的な、暗鬱な気分で居るのだ。


「・・・・・・・世界規模の恐慌と、第4計画完了による米国暴走、G弾による殲滅戦強行か・・・・。」

「・・・恐らく。それが人類滅亡の引き金になると言うのに。」

「「「「・・・・・え?」」」」

「・・・・横浜はG弾の影響に晒された唯一の地域です。
その横浜の重力異常観測結果から、ユーラシアに集中するハイヴへG弾の飽和攻撃が行われた場合、どの様な影響が出るのか、彼方がシミュレートしました。
結果、G弾の集中使用により、地球上に大規模な重力偏差が生じ、数100mから数1000mに及ぶ海水の異常分布が発生する事が判りました。
このシミュレーションに依れば、ユーラシア大陸はほぼ水没、大量の海水が移動した主な大洋は逆に干上がり、一面塩の平原に変貌。
当然海水移動により世界各地は異常気象に晒され、残されていた南半球の穀倉地帯も潰滅。
更に重力偏差は人工衛星軌道さえねじ曲げ、衛星通信網壊滅、電離層異常まで引き起こして地上通信をも途絶させる可能性が極めて高い、・・・・との予測です。」

「「「「 !!! 」」」」

「そしてこれは現在検証中ですが、フェイズ5以上のハイヴでは、G弾が無効化される可能性が懸念されています。」

「な!?、迎撃不可能と言われるG弾をどうやって防ぐのだ?!」

「G弾は既に横浜で使われています。
BETAにとって重要なハイヴを破壊した“重大災害”として認識されていない筈が無いのです。横浜戦では全てのBETAが殲滅された訳ではなく、むしろ早期に撤退し、佐渡や鉄原に逃げ延びたBETAが確認されています。そこからの情報は、全て上位存在に集められ、結果取られた“対策”を、下位のハイヴに伝達する事でBETAの戦略は進化します。
BETAによるG弾の対処方法は、彼方が予測しました。

G弾の爆発は核爆弾と異なり、グレイ元素の連鎖反応による消失に、ある程度の時間が掛かります。核の連鎖反応が分裂や融合による“僅かな質量”をほぼ一瞬で熱エネルギーに変換するのに対し、G元素は崩壊により“全ての質量”を多重乱数指向重力のエネルギーに変換し、それを維持拡大することで消費するのに時間を要するからです。
なので爆発初期、G弾の多重乱数指向重力効果域が拡がる前にそれを包含する[●●●●]規模の偏向電磁場を形成してG-11の崩壊そのものを減速してしまえばいいのです。当然初期多重乱数指向重力効果域内に関しては破壊できますが、それ以上は減速され、多重乱数指向重力効果域は縮小・消滅すると考えられます。
ハイヴを殲滅する為には、ハイヴ近傍でG弾を爆発させる必要が在るので、起爆エリアは絞り込めます。
ただし小規模の、例えばフェイズ4以下のハイヴでは、ハイヴ規模の方が小さくて機能しない可能性は在りますが・・・。」

「・・・・・・・つまり大災害覚悟でG弾を使っても、フェイズ5以上のハイヴは生き残る、と言うことか。」

「・・・そして、当然その情報が提示されても、疑心暗鬼や先鋭化した第5計画派が納得する訳がない、・・・・と言うことですね?」

「その通りです。
我々はこの事実、第4計画の成果公表に際し、実行可能[●●●●]なBETA攻略戦略を明確に示さなければ、なし崩し的に第5計画が発動し、人類が自決に追い込まれる可能性が高い、と予測しています。

現在我々は、その準備を始めて居ます。
そして、その為の後ろ盾として、日本帝国の盤石[●●]が、不可欠なのです。」

「「・・・・・・。」」


話がでかい。一介の技術左官に聞かせる話ではないだろう。しかし、実際の帝国国民、そして地球人としては人事ではないのだ。

BETA大戦が勃発して以来、ソ連、中国と言う大国が殆ど全ての国土を喪い、今はその権力維持に汲々とする支配者が今も国際社会に害毒をまき散らしている。
その中で実質一切の被害を受けていない米国は、専横を恣にしているのが実情だ。南半球の国々は、基本的に軍事的に強大な米国の庇護下にあり、離反することは考えられないし、国土の殆どを蹂躙されたEUにもかつての力はない。石油を喪ったアラブ、アジアアフリカ諸国も言わずもがなである。

その中で国土の半分をBETAに囓られながら、米国の一方的な国際条約破棄や、事前通知すらなかった勝手な大量殺戮兵器による被害に遭いながら、未だ自国のみでBETAに対する継戦能力を有する日本だけが辛うじて米国に意見できる、と言うのは理解できる。


「・・・その一端が、示されたそなた達のシミュレーション映像・・・・新OS【XM3】の力なのですね?」

「はい。示したのはヴォールクデータですが、先の映像で示したように、オリジナルハイヴの情報が既に存在します。それを元に、いま必要な戦力を分析し、今後詳細なシミュレーションを行う予定です。
これが、現在構築している新装備を使った場合の、計画成功率概要です。」

オリジナルはイヴ攻略戦を実施した場合の、各段階に於ける陽動部隊の損耗率、そして、ハイヴ侵攻部隊の損耗率が示されていた。
それぞれ、35%と40%で、先ほどの映像で見た上位存在、反応炉の殲滅が可能とある。


決して低い損耗率ではないが、不可能ではない数字。
・・・・これは、正に希望。


「・・・今考えている装備でもなんとか攻略可能な数字です。
しかし、残るハイヴを考えれば、まだまだ高い損耗率ではありますが・・・・。」

「・・・オリジナルハイヴを真っ先に攻落するというのは、対策されることを防ぐためか?」

「はい。
新装備を考案しても、他のハイヴで使えば、何れオリジナルハイヴに対策されてしまいます。上位存在が人類の抵抗を“災害”としか考えていない今しか、人類に反撃のチャンスは無いのです。」

「・・・それ故に、そなた達は、国連軍に所属している・・・と言うことですね?」

「そうです。帝国軍や斯衛では、海外のハイヴ攻略に於ける中心的な立場には成り得ませんから。」

「・・・成程、それを見越しての国連軍所属か。」


皆の表情がさっきと比べ明るい。
絶望的な状況だけ示されれば、誰でも逃避や暴挙に走る。それが今まで専横してきた米国なら尚更だ。


「・・・・しかし、何故そんなに急ぐ必要があるのかね?、シロガネタケル。」

「・・・急いでいる、と感じる鎧衣課長には理由の一端は判って居ると思います。
そして彼方を蛇蝎の如く嫌っている派閥も・・・。」

「ウム、・・・やはり気付いていたか。」

「・・・ま、それも在るんだけどな。今回はそれ以上に問題が在る。」

「・・・なに?」


モニターに展開される地図。
・・・佐渡島。

そして地図は3次元透視図に変わり、俯瞰するように旋回する画面に、光る点群が打たれていく。

「・・・・衛星、航空、海洋、無人装置による諜報、音紋・・・・全てのデータを総合して見ると、H21に属するBETA数は、年末までに30万を突破する。」

「「「「 !!! 」」」」

「これを我々第4計画メンバーは、日本、特に横浜を目指した再侵攻が近いことを示していると考えている。そして、過去のBETA侵攻パターンを詳細に分析すると、大侵攻の前には師団から旅団クラスの斥候行動、威力偵察が実施されていることが確認された。
今の増加速度とH21の規模を勘案すると・・・・・恐らくそのタイミングは11月上旬、師団クラス以上の侵攻が起きる可能性が高い。」

「「「 !! 」」」

「・・・11月に、BETAの侵攻が?!」

「統計的には・・・10日を中心とした前後5日の間に起きる可能性が最も高い。
そして其の侵攻がどういう結果になろうとも、そこから約2ヶ月後に次は10万を越える規模の再侵攻が発生する。」

「「「・・・・・。」」」

「つまり、今後の人類存続を叶える為の礎として帝国の安寧を図るには、
11月上旬に師団クラス以上のBETAを迎撃し、
その後年内にはオリジナルハイヴを攻略した上で、
新年年初までにH21を殲滅する、
と言うプロセスを完遂する必要がある。」

「むう・・・・・・」


2ヶ月・・・・。
今、帝国には、10万を超えるBETAの侵攻を止める術はない。11月に在るという、師団規模の斥候でさえ大規模な被害が予想される。


「・・・・お恥ずかしい話ですが、未だ帝国はBETA大戦に対する挙国体勢が整っておりません。
ワタクシとて、未だお飾り、歯がゆく思い、ソナタ達の要請に応えたい、と切望いたしますが、届くに至っておりません。
・・・・それでも尚ワタクシとの会見を望んだ、と言うことは、ワタクシが為せる事が何か有るのですか?」

白銀と御子神が顔を見合わせ、御子神が嬉しそうな笑みを口元に刻む。


・・・なんとなく、判ってしまった。コイツ過保護だな。

多分、御子神が殿下に求めたのはただ一点。
自らに力なきことを自覚し、周囲の献策を素直に受ける度量を示せるかどうか。

政威大将軍自らが、力を持つ必要はない。必要なのは、その時々に於いて、適切な判断が下せるか否か。そしてその判断の末に生じた結果を受け入れる覚悟が有るか無いか。
だからそれを示した殿下に、笑ったのだ。

記憶が無いのは確からしいが、コイツが殿下、ひいては帝国を思っていることは間違いないらしい。



「では、謹んで献策させて頂きます。
11月上旬と見られるBETA斥候部隊の侵攻に於いて、XM3ほか、提案装備の実戦検証を行いたいと考えます。その為にXM3を斯衛軍に頒布・教導を実施します。」

「斯衛か?!、いくらBETAの侵攻とはいえ理由なく出られんぞ?」

「・・・ご心配なく。悠陽殿下に前線に赴いて頂きます。」

「「なっ!?」」

「ばっ!?、馬鹿な事を申すなっ!!」

「・・・殿下の護衛であれば、堂々と参戦できる。しかもBETAの侵攻は此処に居る皆様の他は、誰も知りません。
時間が立てば侵攻が起きる日の確度が上がります。今最も怪しい10日を中心に前後3日、1週間の本土防衛に即した本土防衛軍の実戦演習とし、殿下の視察とともに斯衛も参加すればいいだけのこと。

・・・・尤も、斯衛には師団規模のBETAから殿下をお守りする力がない、と、閣下が言うのであれば、この策は、撤回させていただきますが。」

「・・・・くっ!!、言うに事欠いてっ!!」

「勿論、最大限の協力をさせていただきます。許可がいただければ、本日にもXM3を城内のシミュレータに換装致します。また戦術機のXM3搭載に必要な交換用のCPUボードユニットも、必要量供給したします。更に、明日より3日間、オレ自身が教導を行います。」

「実戦証明もされていないOSをいきなり使うのか?」

「先程のオリジナルハイヴ威力偵察は、XM3を使用して行われました。XM3でなければ、成功していなかったのは明らかです。公に出来ないだけで、実戦証明は、既にされています。
それに、検証は巌谷中佐がしてくれるものと考えています。
更に一つ、OSの換装に付いては、戦術機に実戦証明に明確な規定が有りません。元々のOSもバグ取りなどの小規模なバージョンアップが施されていますが、誰も騒いだことが有りません。彼方に言わせると、電磁伸縮炭素帯なども、ファームウェアは頻繁に変更されているようです。」

「ソフトウェアの更新に、そこまで無頓着だったと言うことか!?」

「ええ。それでも心配なら、選択肢を設ければ良いかと。XM3を試した上で、どちらを使うか、衛士自身に選ばせれないいのです。」

「・・・うむ、それなら構わぬ、か。」

「あと、ただ、申し訳ありませんが帝国軍に関しては、今回の11月までに全量を揃えることが出来ません。また横浜製と言うと、反射的に嫌悪感を抱くものも居ります。
そこで巌谷中佐。」

「む、オレか?」

「彼方が、現行のCPUでも動くダウングレード版のXM3Liteを作成してくれました。連携数が制限されていたり、高位の機能は有りませんが、反応性6%の向上と、主要な機能は実現しています。
これも評価し、使うに価すると判断されたら、帝国軍に頒布してほしいんです。」

「!!、現行CPUで実現したのか?」

「はい。」

成程、その為にオレを呼んだか。
確かに“横浜謹製”ある意味忌避されかねない。

こうして話を聞いたからこそ漸く理解できるが、オレとて国連横浜軍で極秘計画が進められているらしい、と言う位しか聞いていないし、、その計画を親米派と見られていた榊現首相が誘致したことは知っていた。故に横浜は米国の占領地であり身中の虫と言う認識だったのだ。博士の事も、帝国軍の腐敗を知るに連れ少しは薄らいでいたが、相変わらず気に入らないことは同じだった。

それが米国の手先、と思っていた榊首相は、逆に殿下の盾となり動いているし、国連横浜基地は米国の専横に対抗する第4計画の牙城。あの女狐、もとい香月博士が難癖をつけ、帝国軍に情報を流さないのは、今の政府に流せば、米国に筒抜けになるからと言うことだ。

随分とオレも視野狭窄に陥ったものだ。

「・・・・成程、評価させて貰おう。」


「XM3・・・、それを用いた貴様の腕は判った。しかし、他の者にも効果があるものなのか?」

「その点に関しては・・・既にどの程度のモノか、月詠真那中尉が一昨日から体験しております。」

「・・・然様ですか。・・・真那。」

「はっ!」

躙り口に控えていた月詠中尉が応え、中に入ってきた。。

「・・・ソナタの体験したXM3、如何な仕儀で有りましたか?」

「は・・・。正直に申しまして、その恩恵は計り知れません。
OS一つで、此処まで変わるのか、と驚愕されられたほどの激変でした。」

「ほう・・・真那をしてそこまで言わせるか・・・」

「・・・一昨日警護小隊の武御雷4機に導入、教導を行って頂きました。
慣熟後、昨日検証を行った戦術機の機動評価項目に於いて、全機軒並み15%以上の向上を果たしております。」

「!!15%以上!?」

「・・・それはまた・・・」

戦術機の基礎的な機動性能を顕す機動評価項目。複数の定形機動に於ける能動性を評価する。
それが20%違えば、1世代違うとも言われる。
第3世代の最後発、もっとも第4世代に近いと言われる武御雷で15%向上と言うのはそれだけで破格だ。

「既存の操作と少し違いがある故、転換当初は若干の慣れが必要ですが、小官を含めた使用後の隊員の感想は、皆口を揃え“2度と元のOSに戻れない”、です。」

「むう・・・、そこまでのモノか?」

「・・・更に、このOSには、画期的な機能が搭載されていると聞き及びました。
搭乗者のモニタリングによるパーソナライズ機能が搭載されている、と。」

「・・・それは?」

「操縦者の熟練度による機体反応速度の調整、だそうです。
先程の数値は、ほぼ初心者レベルの反応速度で出した数値。
機動に習熟し、反応速度が向上すると、機体がそれに応えてくれる、と言うことだそうです。」

「!!、それはつまりルーキーが過剰な制御に振り回されることがない、と言うことか?」

「はい。初心者から、超上級者まで、経験と技量に合った反応をしてくれるOS、と。
実際我らは一昨日使い始めたばかりでまだレベルIですが、先に教導を始めた国連軍の機密部隊では、すでにレベル3に達した者も居ると聞き及んでおります。
尚、白銀少佐の見せた光線種のレーザー照射回避は、レベル4以上なら可能であり、最高レベルが5だとか。」

「むう・・、それがXM3を使いこなす白銀のレベルか・・・」

「・・・武に関しては違うな。レベルって言うのは制御抑制レベルの事だからな。武は一切の抑制が入らない限定解除だ。」

「な、なんと?!」

「・・・武御雷へのXM3導入前に、XM3搭載の“吹雪”を駆る武殿と、小官の小隊で模擬戦を行っています。
・・・・お恥ずかしい話ですが、武御雷4騎で一矢も入れること叶わず、撃破されました。」

「「な・・・・!?。」」


絶句。
武御雷と吹雪の性能差を知っているだけに。それが事実であるならば、大変なことである。
しかも衛士は斯衛でも指折りの手練、月詠真那なのである。
ハードの改造なしに、吹雪を武御雷並にしてしまうOS。
勿論、限定解除で在るという白銀の出鱈目さも在るのだろうが、4騎を相手に一矢も受けない、と言うのは桁が違う。





「白銀・・・・協力は有り難く思います。このOSが普及すれば、将兵の死傷率が下がることは明白です。
・・・・けれど、XM3、そしてXM3Liteの頒布、供与、その対価は、いかなるものでしょうか?」

・・・そうだった。これらは全て[●●]第4計画の成果。あの雌狐が、一体どんな対価を吹っ掛けてくるのか。

「ああ、夕呼先生ですね。ご心配ありません。
このOSは、オレが発案し、彼方が組みました。全てオレ達の自由にしていいと言われています。」

「!、それは」

「そしてオレ達が望む対価、それは悠陽殿下の大権奉還[●●●●] です。」

「!!、なんと?!」

「今回オレ達は、提供する情報を、全て[●●]悠陽殿下の指示による成果、とする準備があります。
その実戦検証である演習で、突如現れたBETAを殲滅。
その功績と実戦経験を以て、殿下には大権奉還を行って頂きたい。」

「「「「 !!!! 」」」」

「・・・・その為のOS・装備と、殿下ご自身のご出陣かっ!?」

「そして、大権奉還が成った時、政権や軍部に巣食う親米派、特に第5計画推進派の粛清を行っていただきたいのです。・・・・帝国の磐石のために!」

白銀は、そう言い切った。












閑話休題




「しかし白銀・・・・その腕、後ほど確かめさせて貰っても良いか?」

強いモノに目がない紅蓮大将の一言。・・・・オレも以前は何度付き合わされたことか。
知っているのか、白銀は苦笑い。

「やっぱりそう来るんですね・・・。口だけでは理解されないと思いましたので、強化装備だけは持参いたしました。彼方なら1機10分ほどで換装いたしますので、機体を貸していただけるなら、お手合わせ出来ます。シミュレーションでも良いのですが、物足りないのでしょう?」

「うむ!、その意気や佳し!、・・・・流石冥夜の選んだ婿だけのことはある!」

「え?、なぁっ!?」

「・・・・照れんでも良い。月詠より聞き及んでおる。雷電にも通知済みだ。
“年内”と言った言葉に、これ程の“真意”と“覚悟”が含まれていたとは思いもよらなかったがな!」


何か壮大な誤解が在ったのか、orzにヘタレる白銀と、カッカと高笑いする大将。

しかし・・・そうか・・・、白銀は売約済みか。
・・・少し残念だ。
丁度良さそうな相手だと思ったのだがなぁ。

御子神は・・・・殿下があやしい? 記憶を喪ったとはいえ、アレだけ世話になった相手だ。
九條さえどうにかなれば、成婚も視野にしているだろう。血筋上は全く問題ない。
むしろ九條が取り潰しとでもなれば、一條二條は同罪だから、御子神が五摂家という可能性すらあるな。

うーむ、男が少ない時代だからなぁ、婿探しも難儀なことだ。



「・・・殿下、その件につきましては、香月博士より伝言を承っております。」

まだ入り口に控えていた月詠中尉が言葉を挟む。

「博士が?、なんと?」

「・・・願いが成就した折り、今後を見据えて抜本的な人口対策を行わねば国力の低下は必至、とか。」

「・・・そうですね、早急なる対策が必要となりますね。」

「実は、白銀少佐には冥夜様がライバルと目する方が居られるのです。ですが、博士曰く、優秀な遺伝子ほど多く残す義務が在る、とのこと・・・。」

「・・・!!、正しく、その通りですわ・・・。
・・・・博士には万謝とともに、確と承りました、と伝えなさい。」

「は!」


む・・・、少し黒いがイイ笑顔だ。

これは・・・マズイぞ唯依ちゃん!
早く参戦せねば、乗り遅れかねん!
確かに、優秀な遺伝子の確保は重要だ!
今夜には、帰国するはずだから。明日の教導に参加させるしかないかっ?!


Sideout





[35536] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/02/08 10:15
'12,10,24 upload  ※続けると長くなるので一旦投下
'15,02,08 誤字修正


Side 是親


白銀の献策を聞きながら黙考する。

彼らの情報が全て正しい[●●●●●]とすれば、確かにこの年内、2ヶ月が正念場、と言う事になる。
戸籍を喪った者の中から希望者によって組織された幽霊部隊の存在、そして過酷な任務の果て、春先の壊滅も聞き及んでいたから、状況に矛盾はない。

・・・まさか、その際にこのような情報を得ていたとは思わなかったが。
そしてその情報の秘匿理由も尤もだ。
其れでなくとも終末的な雰囲気が蔓延した中に、こんな絶望的な情報が流れたら、それだけで人類は崩壊しかねない。
そのまま暴走しかねない第5勢力についても、彼らは移住計画やバビロン作戦の穴さえ指摘してみせた。情報の出所は直ぐに判るし、その真偽などすぐに検証できる。ばれて信用を落とすような情報を開示するとも思えないから、真実、なんだろう。

そして、今ここで公開されたのは、逆に言えば曲がりなりにもその打開策に一応の目処がたったから、なのだろう。


これらが全て、あるいは一部が欺瞞だとしても、彼らの益になることは在るのだろうか?
第5計画派の牽制?
しかしそれも使い方によっては、煽る事にもなりかねない。


つまる所、これらは厳然とした事実のみを積み上げ、そこから導かれた可能性の最も高い予測である、と言うことだ。

その上で示されたプロセス。
・・・・正直、厳しい、厳しすぎる。

11月上旬に師団クラス以上のBETAを迎撃。
年内にオリジナルハイヴを攻略。
新年年初までにH21を殲滅。

今の帝国では、最初の迎撃だけで息が切れる。
2番目は国連主導の作戦になるだろうが、最後の一つが帝国にとっての最大の問題。


そこに巨大なジレンマを抱えている事に、殿下すら気づいていない。


大権奉還・・・。

さて私は殿下の臣としてどうすべきかね・・・。






「・・・成程、殿下の大権奉還を対価とするかシロガネタケル、帝国の磐石が求めるモノならそれが肝要、と言うことだな?」

「はい。」

「・・・BETAの侵攻すら奇貨とし、先手を打って大権奉還を為してしまえば、無用なクーデターの機運もしぼむ、いやそもそも企む意味すら消失するか。」

「「「なっ!?」」、クーデター?!」

「どういう事です? 鎧衣?」

「は。実は現在、帝国陸軍、特に首都防衛隊で、一部にそのような動きが有ります。
表向きは戦略研究会、としているようですが、今の体制は米国に寄った閣僚の専横による汚職体制と断じ、此処にいらっしゃる榊首相を初めとする主要閣僚を国賊とみなしています。
・・・これは榊殿の殿下をお守りする為の、極端な隠蔽策が裏目に出ましたな。

そして殿下を擁し大権を奉還せしめる、と言うのが彼らの言う大義だそうで。」

「・・・その為に動乱を興し、無辜の血を流す、・・・と!?」

「然様ですな。勿論彼ら自身も唯では済みませんが、・・・・その覚悟はあるようです。」

「・・・・・・」



なんと、その様な動きも既にあったか!
いつかは、と思ってはいたが。



「・・・しかし、その実は違う、だろ?」

「・・・・その通り。御子神殿もその筋から情報を得られている様子ですな。」

「・・・ああ。九條は未だに懲りてないからな・・・。」

「・・・それは?」

「・・・米国第5計画派、近しいCIAあたりが最近活発に動いています。
密かに第5計画派と繋がっている九條がそれとなく煽動しているようです。具体的には、九條の名ではなく、筆頭分家筋の一條や二條だそうですが。」

「彼奴らか!」

「いえ、彼らは煽るだけで、クーデターの実働はむしろ先ほど申した帝国陸軍、本土防衛軍に使い回されている首都防衛隊、その現政権に不満を持つ若手士官を中心とした面々です。
そして、その者たちに便宜を図り、同様の不満を持つ者同士を引き合わせたり、現政権の汚職とも見られかねない情報をリークしているのが、先に言った一條・二條の息が掛かる、参謀本部上層部や、米国と癒着の強い政治家・官僚、あるいはCIAの工作員そのもの。
その為、戦略研究会は発足間もないのですが、賛同者はかなりの規模になっている様子。
我々情報省でも、最近になって漸く掴んだ情報です。

扇動されている方は、殆どが米国の干渉排除を掲げた国粋主義者。
それを煽動しているのは、むしろ米国第5計画派そのもの。」

「・・・扇動された彼らが決起する可能性がある、と言うことですね?」

「はい。このまま事態が推移すれば、遅くとも1年以内に彼らは決起しましょう。
彼ら若手士官達の目的は殿下に忠をなし、殿下の意に沿わぬ事を知りながら血を流し、殿下の復権を願う。
・・・ですが、彼らの行動は、彼らの意図とは全く逆の方向に推移する事となります。」

「なにっ!?」

「・・・先の九條分家、一條・二條の手引きで、クーデター軍蜂起後米軍の介入による鎮圧を目論む動きが在るようです。
米国にとって目の上のたんこぶたる第4計画を日本に誘致し、便宜を図る榊首相以下主要閣僚は、クーデター軍が国賊とみなし誅殺、一方殿下の身柄はクーデター鎮圧に動いた米軍が味方の振りをして抑え、その名だけを借り、御身は幽閉か最悪事故に見せかけての弑逆、そのまま米国傀儡政権発足、と言うのが第5計画派及び九條の目論見でしょうな。」

「ぐぬぬぬ・・・、おのれ九條、そこまで堕ちたかっ!?」

「・・・そこまでしたいなら、いっそ自分が政威大将軍に成ればいいのにな・・・。」

「・・・それは、避けたいようです。」

「何故?」

「政威大将軍と言う地位は、本来権力が集中している故に“悪い事”がし難いのでしょうな。良くも悪くも注目され、それが“個人”に集中しますから。名を出さず、裏で暗躍する事を望む九條が求める地位ではないのです。
彼が望むのは、大勢の壁に囲まれた黒幕。
何かがばれても、その壁を一枚、差し出せばいいのですから。」

「如何にも・・・九條らしいな。」

「しかし、・・・その方向でクーデターが推移すれば、当然第4計画は帝国の支持を失い即刻中止、第5計画の発動を狙った動きですな。
米国としてもユーラシアからのBETA圧力に対する要である帝国の兵力は、有効に使いたいのでしょう。正面切った第4計画メンバーへの危害や、横浜基地制圧等は更に今以上の帝国世論の離反を招きかねないので控えている様子。
尤もそれもバビロン計画発動までの間、捨て駒としてBETA汪溢の蓋として機能させたいだけですが。
・・・ベトナム以来、彼国は自国の兵士が死傷することを極端に忌避する帰来がありますからな。」

「・・・・・・。」

「其れで居て、最終的に脱出させようと言うのが10万人ぽっちとは、呆れるがな。内政的に国民への言い訳として、自国の兵は出さない。
そしてそれら国民をすら殆ど全てだまして、特権階級のみが宇宙に脱出。」

さも有りなん、と言う想いが去来する。
彼国とて、幾多の人民が暮らす国。全ての人が同じ思想であると言うことはなく、個々、あるいは団体だって真っ当な者も多い。
けれど何故か、国政レベルの意思統一に於いては、そういった先鋭化した護国主義が優先される。
大きな力を持ってしまった、子供、という困った存在。

「いっそアホな特権階級は、BETAに汚染されたバーナード星系に捨てるってプロセスもいいな。どうせ九條が第5計画にすり寄っているのも、優先搭乗権でも約束されているんだろ?
G弾さえ使わせなきゃ良い訳だから・・・。」


・・・さりげに飛んでもないことを言う。
君が言うと冗談に聞こえないのだがね・・・。


「・・・・けれどソナタ達の献策では、そのクーデターに先んじ、大権奉還と第5計画派の排除を行えば、クーデターを起こす意味すら無くなる、と言うことですね?」

「そうです。
元々煽られた者たちは、国を想い、表面上それに反しているように見える現政府に対する憤懣を有する者達。賛同者の拡がりでも判るように、その意識は帝国軍内部に充満している可能性が高いと考えます。
けれど、それも結局は、遅々として進まないBETAの駆逐、追い詰められていく人類、開けない明日への希望、そう言ったものの裏返しである、と考えます。
・・・本人たちが、自覚しているしていないに関わらず。

その暗鬱とした意識を打ち破り、明日への希望としてその慧眼を以てBETA侵攻を一蹴した殿下が復権なさる事が、何よりも必要なのです。

何よりも、クーデターを起こさせれば、敵味方問わず、多くの帝国将兵が喪われます。持つ思いは皆同じだというのに。
此処に居られる榊首相も、真っ先に狙われるでしょう。
BETAの再侵攻を目前としている今、その様な損害は到底認められません。未然の検挙ですら、多数の優秀な、そして殿下に忠を尽くす衛士を処断しなければなりません。

殿下が復権し、そして禍根である第5計画派の徹底排除を実施することで、彼らは正道に帰することと思います。」

「・・・・都合のいい情報だけ与えられて、誘導され、騙されているだけだからな。
わざわざ蜂起させて無駄な血を流す余裕など何処にもない。
現状に諦観し、後ろしか見ていない死にたがりは、迷惑なだけだ。
目を醒まさせるにはその位必要だろ。
神輿を担がせる悠陽には悪いけどな、そんなのに構ってる暇はない。」


御子神の毒舌に皆が苦笑する。
帝国軍クーデターと言う、国家転覆の一大事すら、そんなの[●●●●]扱い。


「・・・献策通りに殿下が復権し、第5計画派を排除出来れば、クーデターを企てた者も、煽っていた者こそが米国の手先と知り、裁くまでもなく自らの蒙昧を自覚するとともに、希望を見出し、正道に立ち返る、そう言うことだな・・・。」

「・・・・。」

白銀は静かに頷いた。





この時代に首相になることは、自殺行為だということも分かっていた。
滅び行くかも知れない人類。
その断末魔は想像することも出来ず、終末に向けた混迷は益々深まろう。

その中で、僅かにでも国家を長らえ、民を生き長らえさせる。
それを目標に、此処まで来た。

政敵や国家の維持を謀るため、汚い手もなんども使った。
家族も蔑ろにし、家内の死に目にすら立ち会えず、娘も離れて行った。
莫逆とも言える友であった者ですら、帝国の安寧と引換にこの手に掛けたに等しい。

碌な死に方はせんな、何時もそう思っていた。
米国に煽られたクーデターによって、国賊として誅殺、・・・如何にも在り得た未来だ。



国を長らえる。

その淡い希望の一旦であったのが、オルタネイティブ第4計画。

若干21歳の若い研究者を司令官とし、何度説明されても理解出来ない理論で構成された00ユニットを以てBETA諜報を行う。
今思っても、よくもまあこれ程無茶苦茶な計画が、本計画に成ったものだと思う。
実際、当時の気持ちとしては、理解出来ないが故に、同じく理解出来ないBETAが解明できる可能性がある、だった。

国連での荒唐無稽な説得。

しかし、当時国際社会は米国が開発したBETA由来の新兵器、G弾の威力に酔ったような米国の計画を警戒した。
自国にハイヴの存在しない米国は、何でも無いことのように言うか、どんな影響があるのか明確にされていない上、使用されるG元素が、全てエネルギーになれば、計算上地球だけでなく太陽系そのものが消し飛ぶ、とまで言われたのだ。
米国は起爆実験を実施し、そうならないと自信を持っていたが、そのデータ自体は機密と隠蔽したのだから始末に終えない。最終的には、横浜に於ける事前通告なしの強制使用までしでかしたのだから・・・。

当時としても、バビロン作戦を第4計画にしてしまっては、ハイヴと共に自国を不毛の大地に変えられてしまう、との懸念は各国共通のものとなり、それを恐れた国際社会は、よくわからないが、むしろ安全な諜報活動を継続する、という日本案に一気に傾いた、と言うのが実情だろう。



無論、因果律量子論を使った00ユニットによるBETA諜報計画、今の第4計画に暗部が存在しないわけではない。

横浜ハイヴ攻略時に見つかった“生きている脳髄”。
00ユニットの最有力候補は“ソレ”だ。それがどんな人間だったか、どんな状態なのか、それは語られない。
一応生きているが、人格は無視され、人権は無いに等しい。
人ならざる人。
それを00ユニットの実験台とし、使い潰すのだ。

そして、その候補として集められた“素体候補”。
中隊規模で集めながら、“より良い未来を掴み取れる素材”、を選別するために、過酷な任務につかされた。
実際、それが不必要な任務だったわけではなく、誰かが遣らなければならない任務でもあったし、その素体候補となる適合性が高いためか、通常とは異なる成果も生み出した。
仕方ないと割り切ることも出来る。
しかし本来の目的は、選別のための任務なのだ。

そして00ユニットが完成すれば、その素体として“殺される”。


理論そのものは判らなくても、その暗部は理解していながら、最終的には誘致した。

大多数を守る為に、少数を切り捨て、犠牲にし、踏みにじってきたのは私も同じ。
人類を救えるなら、同じ罪もいくらでも被ろう、と。



しかし、もし、人類が・・帝国が永らえる事が出来るのなら、歳若い“殿下”には、この闇を引き継ぐまい。
“これ”は、私が地獄に持っていく。

そう、決心していた。



それ故、その殿下から極秘会談の同席を求められたとき、少し驚いた。
しかも第4計画に関わる事だという。
ここの所計画には進捗が全くない事も聞き及んでいた為だ。


私にとって、理解出来ない理論による計画は、5年という時間の中で、既に単なる時間稼ぎに変貌していた。

単に、第5計画の発動を抑える重し。
既に5年以上、本来の成果らしい成果も出ず、要である00ユニットの完成さえおぼつかない。
進まない成果を、さも進捗が在るように記述し、国連の査察を引き伸ばす。

・・・それももうすぐ限界に達する。
我が国の国連大使が、年内には抜き打ち的に査察に入るだろうという極秘情報も得ていた。

同じ帝国民でも、全人類の代表としての査察である。手心など望むべくもない。
進展が見込めないことが判れば、あとは、国連が何時見限るか、という段階に入っていたのだ。

査察が行われれば、年内。それがリミットだろうと予測していた。



それが今になって何故?
しかも、女史本人は出席しない?


驚いて電話をすれば、ダメもとでばらまいた作戦が、春先にアタリを引いていたらしい。その後当事者が記憶回復に伴う混乱によりリハビリが必要な状態になり、情報収集が若干遅れたと言うが、その情報を限定的ながら公開するという。
しかも、女史はまだ、対BETA戦略用の00ユニット作成を続けており、その完成が間近で在るため、基地を離れられない、とか。
頭の中には、女史らしくないセリフが残っていた。

―――― 腹心、・・よ。少なくとも彼方の言葉は、アタシの言葉と思って頂戴。――――

その言葉に、香月夕呼がどれだけその男を信用しているか、初めて知った。


そして現れた男は、あの“弾劾”によって殿下をお護りした本人、御子神彼方その人だった。




示されたのは、驚愕の情報。

オリジナルハイヴ威力偵察。多大な犠牲の上に齎された貴重な情報。
それだけで第4計画の目的がほぼ達成されたと言っても過言ではない情報だった。


しかしその内容自体は、余りに絶望的な内容。
和解の余地などカケラもなく、生命とすら見なされていないと言う事実。

更に積み上げる絶望。
バーナード星のBETA汚染。
G弾の無力化と重力偏差による世界の壊滅。


確かに白銀少佐が言うように、救いのない状態でこの内容を公開しようものなら、その時点で人類は終る。

同時にこの情報を、国連ではなく帝国に持って来た訳も理解した。
国連とて、一枚岩ではない。
むしろ懸念されている様に米国の支配は色濃く、第4計画派は少数。国連に齎せば、第5計画派に漏洩することは必至。

香月女史自身が、此処に来ない真意も理解した。会談したという情報ですら漏れたときの影響が大きい。
第4計画の司令官と、お飾りと見せているが、自らも復権を画策していた殿下が会談とあっては、第5計画派、ひいては九條が黙っていないだろう。


移住もG弾神話も崩壊した中で、BETAに対抗する戦術、それを構築する事に既に第4計画はシフトしているのだ。

その第4計画の後ろ盾と成るべき帝国。

その帝国でも第5計画の暗躍による国家転覆までが画策されているという。




それを払拭し、BETA大戦に曙光を示す、献策。


反論のしようもない。

政威大将軍殿下という御威光に縋り、全てを歳若い殿下の双肩に負わせる事は、臣としては容認しかねる。
しかし、此処で復権されなければ、軍部に不満はくすぶり続け、引き続き第5計画派の陰謀に晒され続けることに成る。
反対するのは、それを阻止できる対案が必要となる。感情の問題では無いのだから。



しかし・・・。

逡巡。




「・・・榊首相の懸念は、佐渡奪還以降か?」

「 !!! 」


・・・・そうか。そうであったな。

此処に居るのは、他でもない、“御子神彼方”。

記憶を喪ったとはいえ、西日本を喪失する大禍からも殿下をお護りした存在なのだ。



もし、今この場に居るのが白銀少佐だけであったら、恐らく私は献策に反対しただろう。

彼には、英雄の資質がある。
人々に勇気を与え、希望を齎すだろう存在。彼の戦果は多くの人を奮い立たせ、導くだろう。
しかし、人は希望だけでは生きられない。
食料という形ある現実がなければ、生きられないのもまた事実なのだ。

しかし、御子神彼方は違う。
彼は補佐、サポート、もっと言えば裏方に徹する。9年間、殿下の裏に在って、その補佐に徹したように。それが結果的に殿下を、殿下のお立場を救った。

そして彼は、技術者。
九條離反のキッカケが、合成半透膜の特許絡みであったことは、後日知った。
そのプラントは今でもBETA大戦の中、貴重な水を供給し続けてくれている。寧ろそれが無かったらどれだけ水の確保に苦労していたことか。
BETAに晒され、主要な輸出品目も限られた現在の帝国に於いて、その特許による外貨獲得が、どれだけ大きいことか。


そう、人を導くのは英雄かも知れない。

しかし、世界を変えるのは、何時だって“技術”。
産業革命しかり、核技術しかり。

もちろん時に人の器にぞぐわぬ“技術”が禍をなすこともある。
核爆弾、そして今のBETA由来技術にしても・・・・。

それでも、臆することは出来ないのだ。

彼の齎す“技術”が、世界を変えてくれることを願うしか無い。







「・・・理解して居られる様だな。」

「・・・用意だけは、な。記憶にはないが、記録はある。」

「・・・お任せしても?」

「まさか。運用には馬車馬のごとく働いて貰わないと困る。
悠陽に大権奉還したら、隠居などと考えてないだろうな?」

「!、榊? ソナタには今後も国政を仕切って貰わねばなりませぬよ?」



笑みが溢れる。なかなかではないか。


「元より承知してございます。

成程、大権奉還には賛同いたしましょう。諸々の事情を鑑み、この時節を外せば、様々な禍を為す事になるのであれば、是非もなく。

私は、我が身命を捧げ、殿下より賜りし信任に応え、最後まで責を負う覚悟。
その上で、大権奉還にあたっては、一つ条件を具申いたしましょう。」

「条件?」

「なに、たいした事では有りませぬ。
殿下の後ろ盾に君が、成ること、・・・この一点は、譲れませぬな。」

「?、俺の後ろ盾など、お門違・・・・・・・・・、そう云う意味か・・・。」

「??」


通常政威大将軍の後ろ盾と言えば、前職で在ったり、高位の五摂家であったりする。
本来赤とはいえ下位のしかも歳若い者がなるモノではないのは言うまでもない。

私の言葉の意図を悟った“オヤジ”連中は、ニヤニヤしている。

意味の分かっていないのは、若い殿下と白銀。


「・・・・・・俺としては、今日初めて(逢った)に等しいんだがな。」

「何も今すぐとは言いませぬ。」

「・・・心に留め置く。」

「榊殿、無理強いはいかがなものかと。」

「・・・・そうであったな。ならば今はその言語を肯定と見做し信じよう。」

「・・・・喰えねえ爺だ。」

「ふぉふぉふぉっ、君にそう思わせただけでも善しとしよう。」

先輩に一本くらい譲っても、バチは当たらんよ、御子神。


Sideout





[35536] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/12/16 18:30
'12,10,26 upload  ※リク、書いてみました
'12,10,27 一部追記・誤字修正
'12,10,30 矛盾修正
'12,12,16 誤字修正


Side 真耶


庵に誂えた食事を摂った後、控えの間に退いた。
榊首相以下オヤジ連は、二人の少佐と話しをしている。
成る程、丁度息子と言っても良い年頃なのだろう。
どちらもヤンチャな息子だろうが。

この後、帝都城内にもどり、XM3のシミュレータへのインストール、戦術機の換装、閣下が望んだ白銀少佐との模擬戦、という流れ。

そして、その後まだあるという。
あ奴の話は終っていないらしい。
・・・・一体何が飛び出すやら。




4日前、御子神彼方が還って来た、と言う報告を聞いたとき頭痛がした。

その段階ではまだ確定情報では無かったが、主である殿下の様子は当然尋常ではなかった。
鎧衣に確認を命じ、その結果を心待ちにしていた。


そして・・・確定。

一人涙して喜ぶ殿下に、しかし私は嫌な予感しかしなかった。

聞くところによれば、当の本人には記憶の欠損が在るという。

それは手放しで喜ぶ殿下にとって、寧ろ悪い結果にならないか?
殿下が再びあの悲嘆に暮れる姿は、もうみたくない。
漸く最近、思い出さなくなっていたのに。

会談の日取りが決められ、ウキウキする様な殿下のご様子に、私の頭痛は酷くなるばかりだった。







御子神彼方は、長年に渡る私の頭痛の種。

私が、唯一敗北を認め、そして殿下の傍に在るべき存在と一度は納得し、そしてそれを行方不明という結果で手酷く裏切った男だった。
こちらの勝手な押し付けなど知らん、とあ奴なら言うだろうが・・・な。


殿下が6つの時、10で護衛見習いとしてお側についた私。
将来の政威大将軍候補と目されていた殿下は、当時から聡明であらせられた。
最初は、護衛のはずの私が、逆に気を使われてしまう始末。
その凛として気高く在りながら下をも慮る佇まいに、主として相応しい、と子供心にすら思ったものだ。
そんな殿下には将来の政威大将軍として当然五摂家をまとめる立場が望まれ、記憶も考え方も固まってくるその年のころから、様々な方々と接し、交友を広く持つことが求められた。
相手は、主に赤以上の武家の子女。
当然殿下よりも年上が多く、実際殿下はどなたにも可愛がられていた。殿下の方もたおやかな笑みを浮かべ相応に応対していたが、その実、誰に対しても決して心開くことも懐くことも無かった。

・・・たった一人、御子神彼方を除いて・・・。

何故選りに選って御子神彼方なのか。そしてその御子神彼方が最大の問題だった。


表向き従容としながら、裏で何をしているか分からない五摂家の一角、九條。
御子神はその九條分家、一條二條に続く3位の分家、赤を纏う家系だった。
表面上、九條から煌武院に対する直接の作為はない物の、当時の政威大将軍に対する陥穽謀略の数々、その黒幕が何時しか一條二條と知れ、裏で糸を引くのは九條であるとに認識が既に在った。
具体的には官僚や軍部上層部からの具申と言う形であり、そこに九條は愚か、一條二條の名前も表には出ないため、単なる噂に過ぎないという見方もあったが、火のない処に煙の例えもあるとおり、全ての放火現場に一條二條の影がチラついていたのも確かなのだ。
故に、御子神彼方が紹介されたとき、殿下の周囲は、私も含め全ての者があ奴を敵視した。


元々平安貴族に祖を持つ九條は武家社会と微妙に異なる感性を有している。
斯衛にも殆ど組みせず、本土防衛軍を創設したのも九條閨閥。そこから寧ろ帝国軍に関係することが多い。
血筋をたどれば、いくつかの時代で皇帝陛下の血縁ともなっており、今生陛下も曽祖父が同じという親戚筋にも当たる。結果覚えめでたく・・・と言うよりも、陛下ですら少し引いているフシが見受けられた。
五摂家の一角でありながら、政威大将軍という職制そのものを疑問視する意向だけは伝え聞く。実際裏では疎んじ、蔑ろにし、それでいて利権だけはいつの間にやら手の届く範囲に寄せている、そんな疑惑が多い存在であったのだから、その分家筋が政威大将軍筆頭候補である殿下に近づくなど、怪しくないわけがない。


なのに、殿下はそんな周囲の危惧も知ってか知らずか、他の誰よりも御子神彼方に心を許し、一緒に居たがった。兄と呼ぶことを乞うまでに・・・。
そして何度説得をしても兄さまは九條ではない、の一点張り。
あまりしつこく言うと、逆に言った者を忌避しはじめる。

勿論表面上御子神も殿下に危害を加えるようなことは全く無く、むしろ殿下を気遣う様は、本来望まれるべく仕儀にも至るほどの有り様だった。
・・・・出自が九條繋累である、と言う事を除けば。


だが、子供の頃から周囲の大人に九條の悪口を聞かされ、その一門が如何に汚いかに憤慨していた私は、しかし、殿下に当たることは出来ず、結局御子神本人に当たることも屡々。
それを一度殿下に見咎められ、殿下が涙を浮かべられた時は、その後一週間口を聞いてくださらなかった。以来直接的な行為は避けるように成ったが、あ奴が嫌いで、警戒していることは変わらない。

・・・いつも護衛としてだけではなく、それ以上に私を慕ってくれる殿下が、御子神に関してだけはそちらを優先する、今思えばそれに嫉妬していたのかもしれないが・・・。


それは、殿下が10の齢になる前後、次期政威大将軍として内定し、私が任官と共に正式な護衛として着任した後も変わらない、
否、頻度は少し減った物の、その行動は、益々エスカレートしていた。

どんな魔法を使っているのか、帝都城を抜け出すなど朝飯前。何処をどう連れ回しているのか知れないが、実際約束された時間に戻っていないことはない。
要職内定者ではあるが、その行動を拘束されているわけではないので、抗議も出来ないのだが、護衛である私を悠々と振り切り、何処ぞとも知れぬ危険に晒すのは我慢ならなかった。
が、殿下にワタクシが望みました、と言われてしまえばぐうの音も出ない。泣かれると困るのは私だ。

尤もあの“弾劾”の後、それがXSSTまで用いた世界規模の“お散歩”だったことを知った時には、流石に絶句したのだが・・・。



それにしても御子神は私以外のどんな妨害もそれを飄々と躱し、殿下に求められるままに面会を途絶えさせることは無かった。

何を目的にと訝しみ、一時はあ奴に偏った性癖でもあるのか、とまで怪しんだが、その方面に付いて殿下は未だにまるで何も理解しておらず、それ故にその嫌疑は水泡に帰した。

何をしているのか、聞いても答えてくれない殿下ではあったが、何時も側に侍る護衛である、気を配れば薄々感じられる。明確な答えではなくても言葉を重ねれば端々に見える輪郭。


そして私が得た結論。
・・・それは、謂わば“疑似体験”。
幼き頃は、話して聞かせ、徐々に長じて来れば、身体を動かし、体験させ、経験させる。実体験で在ることもあったし、映像やシミュレーションで在ることあったらしい。様々な事を“教える”でもなく、“諭す”でもなく、“一緒に体験”させ、“一緒に考える”。
幼き殿下にとって“最高の遊び”で在りながら、“最高の勉強”。
それを与えてくれるあ奴に、殿下が懐いた理由を理解すると共に、逆に他の誰にも心許さなかった理由も察せられた。
身分や将来に縛られた殿下にとって、今の状況は籠の鳥。それを追認させるだけのお仕着せの“友人”など欲しくはないのだ。儀礼とか格式とかに縛られた彼らは、幼い殿下にとっての、“籠”そのものなのだから。
その“籠”を易々とぶち破るあ奴は殿下にとって紛れもない憧れ。
しかし聡い殿下は、それが自分の運命であることも理解し、従容と受け入れていた。だからこそ、殿下はあ奴の見せる世界を、体験し理解しつつも、飛び出すような暴挙には及ばない。

・・・そして、あ奴はそんな殿下をじっと見守っていたのだ。
8年間もの永き間・・・。


あ奴のやっていることを理解した頃には、何故、九條一門が? と言う疑念とは裏腹に、信じてもいいのかも知れない・・・という淡い期待が生まれていたのも確かだった。




そしてそれも踏みにじる様に、訪れた動乱の日々。
'98,7,7、遂にBETAは、日本帝国にその矛先を向けた。

余りの“量の暴力”に、抵抗むなしく、BETA侵攻は僅か1週間で姫路にまで達した。
1,200年の栄華を誇った帝都京都の防衛ですら、九州の陥落と共に増したBETA物量の前に、1ヶ月抵抗するのが精一杯。
帝都は燃え落ち、東へと落ち延びるしか無かった。

更に東進を進めたBETAは、先鋒が新潟の半分まで至った時点で、佐渡にハイヴを建設し始めた。この時点で信濃川から諏訪湖を通り天竜川に抜けるラインより以西が、BETAに占拠されていた。
内陸深くに侵攻されたため、艦砲射撃が届かず大規模な殲滅が敢行できなかった事に加え、避難民の犠牲を顧みない強行作戦や首都京都を蔑ろにした防衛戦構築で帝国軍と対立したと噂される米軍は、この時点で日米安保条約を一方的に破棄し参戦しなかった為であった。
その為、京都陥落後僅か1ヶ月足らずでBETAの津波に飲み込まれた当該地域で在ったが、そのエリアに居た住民及び避難民2,500万人を、殆ど欠くこと無く避難した事は、“奇跡の逃避行”とまで謳われていた。
BETA対応に追われる軍、日米関係の悪化から事態の収拾に追われる政府は、なんら組織的な避難手段を講じることが出来ず、住民の自主避難に任せるしか手が無かったにも関わらず、である。
何らかの介在が噂はされていたが、次なる侵攻や、慌ただし遷都に相次ぐ政府には関与している余裕など何処にも無かったのだ。


暫し佐渡ヶ島ハイヴ建築に腐心していたBETAは、しかしその2ヶ月後、またも唐突に東進を再開する。
その間、既に在日米軍は完全撤退を敢行しており、一時的に東京に置かれた首都も、先の侵攻戦を見越し、仙台にまで退いていた。
主に太平洋側を東進した主力BETAは、一気に冨士川防衛ラインを食い破り、山梨、神奈川を制圧、白銀少佐を襲ったという横浜侵攻も怒涛の侵攻速度による避難遅れが招いた悲劇であった。

それは東京すらそのまま飲み込む勢いであり、一時はその壊滅すら危ぶまれた。
しかし、なぜかBETAはそこで一転し、伊豆半島を南進して唐突に侵攻の波を止めた。
その後、佐渡に続き横浜にもハイヴを作り始めた事が判明、以降99年の明星作戦まで、多摩川を挟み間引き作戦を繰り返す小康状態が続いていた。




その状況の中で訪れたあの日・・・。




■'99,01,04(Mon) 10:00 仙台第2帝都城 特別会議室


年始恒例の年次報告会、通称“評価”。

国政に於いて前年の状況を顧み、年初の抱負を皇帝陛下に言上する。
報告は各省庁及び統合参謀本部が上げ元枢府(五摂家)が取りまとめ、基本その取りまとめ役となる政威大将軍から陛下に献上することが建前だったが、実際は通過儀礼的なもの。その取りまとめやプレゼンテーションも、全て五摂家筆頭である九條が取り仕切っており、将軍はそれを追認する、と言うのが通例だった。過去にそれが問題に成ったことは一度もなく、故に九條専横に口をはさむ余地が無かった。
それに対して、日本帝国の象徴である陛下も、基本口出しはせず、いくつかの質問だけで承認と言う流れである。

・・・通例であれば・・・。


しかし、前年のBETA大禍により、3,600万人という犠牲と共に、帝都京都を含む国土の半分を喪い、横浜と佐渡に新たなハイヴを建設された。その国家的・経済的打撃は計り知れず、日米安保が一方的に破棄される状況にも陥っている。
今後横浜ハイヴが本格稼働すれば、BETA北進は間違いなく、今や日本帝国存亡の瀬戸際に立たされているのだ。
現実に御身も過酷な退避を体験された皇帝陛下の憂慮は深く、荒れる、と言うのが大方の予想。
その場で責任問題になれば、2,3人のクビが飛ぶどころではなく、最悪政威大将軍の罷免、という皇帝陛下の大権発動さえあり得る。


もともと我が国は、維新による大政奉還以来、一貫して立憲君主制を維持してきた。
維新後は陛下を主君とし、倒幕派大名と将軍家が五摂家として元枢府を構成、陛下の補佐をする。その代表が政威大将軍であり、その下に行政と立法、司法を執る内閣、帝国議会、帝国裁判所が設置された。皇帝が選挙のない大統領であり政威大将軍が補佐官、行政を内閣が司るフランス型の政治形態に近い。
この形態が今の形に変化したのは、大東亜戦争(第二次世界大戦)終結時の条件付き降伏にある。
世界の趨勢であり、米国からの強い民主化圧力に対し、我が国は飽くまで主権在君の維持を図った。その妥協として、政治形態を変化させた。
つまり、主君として有していた政治軍事に関する全権を、政威大将軍に委任、但し皇帝陛下はその政威大将軍の任免・罷免権を有する、という形態である。
政威大将軍は五摂家の推薦により陛下が任命し、その罷免権は皇帝のみが有する。それ以外の全権は政威大将軍が有し、皇帝陛下は帝国の“象徴”として国事に参加する事と成った。
それを以て国号も大日本帝国から日本帝国に変更された。

しかし、現実としては、行政に於いて経験と人脈を構築してきた官僚や、閣僚、軍内部で派閥を形成した軍閥により、徐々にその権限が抑制され、内閣・閣僚の罷免任免権、議会解散権等にひもが付いたり、帝国軍に対する命令権限そのものが統合参謀本部に委譲されたりして、執行権が干犯されてきたのが、現在の状況であった。


つまり、戦後改訂された政治改革により制定されて以来、唯の一度も使われたことのない陛下の大権。

伝統格式を重んじる武家社会に於いて、一度任命されながら初の罷免ともなれば、もはや切腹物と言う話すら出ていた。
・・・実際、紅蓮閣下は、殿下の身代わりとしての覚悟を決め、内側に白装束を着けている。



特別会議室は、相応の広さを有し、正面に巨大なスクリーンを前にし、中央に皇帝陛下と侍従、そして陛下の直衛に当たる五摂家一角、崇宰現当主崇宰信朋以下警護数名。
左手に報告者である悠陽殿下が紅蓮閣下、榊首相を従え、最前面に立ち、護衛である私もすこし下がった位置に侍る。
その後方には、残る五摂家当主とその主要門閥、更に斯衛軍将官が並ぶ。
一方の右手には、統合参謀本部を初めとした帝国軍関係者、各軍将官、そして国政を預かる各省事務次官級が列席していた。

どの様なプレゼンが為されるのか。
殿下は報告者でありながら、九條に全て握られ、再三再四の要請にも関わらず、その内容を一度も見ていない。
追認するだけだった今までの政威大将軍に問題はなかった、と言う。
しかし今回に限って言えば勿論、その内容が九條や関連する統合参謀本部に有利な報告になっていることは間違いなく、陛下の怒りを買えば、政威大将軍という職の罷免にも関わる。

それを従容と受け入れざるを得ない立場に居ながら、殿下はその場にスッと背筋を伸ばし、正面を見据え、凛と立つ、その心情が慮れた。



そして皇帝陛下へのプレゼンターとして、そこに現れたのは、御子神彼方だった。



!!、この為にかっ!!


振り向き睨みつけた九條兼実の顔は、取り澄ました公家顔に、哄いが張り付いているようだった。

殿下が慕い、懐いた御子神彼方を以て、殿下の立場を糾弾する。
今までのあ奴に対する殿下の信頼を、無残に打ち捨てる裏切りそのもの。

あまりの憤怒に血管の2,3本切れたのだろう。視界が真っ赤になっていた。

事、此処に至っては、何も出来ない。
これが、廊下であれば殿中構わず刀の錆にしてくれたものを・・・!!


殿下の陣営からそれだけで殺せそうな視線を浴びながら、中央の御子神は、それには頓着せず、寧ろ不安気な視線を九條当主、兼実に向けた。

「・・・・案ずるでない。プレゼン開始以降、質問が許されるのは陛下のみ。
どんな知己[●●]であれ関わり無く、真実を告げれば宜し。」

「そうだそうだ、大舞台だからって親類縁者に頼んじゃねえぞ!」

当主の言葉に軽い野次と笑い。それは殿下に対する嘲笑すら含んでいた。



・・・理解してしまった。
どんなに規格外に見えても、結局は武家社会の枠に生きる者。
あのふてぶてしいあ奴が、九條当主の前では借りてきた猫に見える。

当然、殿下に紹介し、思いの外に上手く殿下があ奴を慕っていることを知り、この若造をプレゼンターに仕立て上げたのは、紛れもなく九條兼実。赤とは言え、尉官如きが出席できる会議ではないのだ。私だって殿下直衛の立場でなければ、内容は愚か、開催日時さえ知らされないだろう。
御子神彼方も・・・・所詮、九條繋累・・・・。
・・・いきがっているだけの小僧に、何の力も無いか・・・。


私を支配したのは、脱力感を伴う、深い諦観だった。





定刻と共に、プレゼンか開始される。

あ奴は、開始前当主に対し見せた一種縋る様な風情など微塵もなく、皇帝陛下を前に優雅にさえ見える拝礼を以て、説明を始めた。

その内容は、政治・経済・軍事の多岐に渡る。

年度末に向けて各省庁がまとめる年次報告、所謂白書の先行版。
いつもは基本、数字だけのその報告が、色分けし、統一されたフォーマットのグラフ化してあり、極めて分かりやすい報告になっていた。
通例、今までの報告では各省の報告をそのまま並べるだけなのだが、その見せ方はプレゼンターに一任される。
数字の改竄さえ無ければ、問題はない。

そして、逆にその見やすさ故に、昨年から今に続くBETA禍による被害の大きさが浮き彫りに成った。

特に、国勢、経済、外交、そして軍事。

国土の半分を喪い、人口の1/3を喪ったその国勢状況は、目を覆う。
戦闘による男子の損耗が激しく、婚姻適齢年齢に於いてはその比が1:8にまで広がっている。
昨今の男子激減の折りから昨年には、女子の徴兵年齢が16に引き下げられたばかり。
うら若き少女を戦場に送る、その法案にもどれほど殿下が心痛めたことか。

経済も軒並み通年の半分以下。今後年度末までの増加も全くみこめない状況にある。
殊に、生産の極端な縮小から慢性的な食糧難に陥った状況は甚だしく、秋から開始されたバンクーバー協定に寄る最前衛国家に対する食料の無償援助でくいつないでいる、と言った状況が浮き彫りにされていた。

外交の最大の失点は米国との安全保障条約が一方的に破棄されたこと。
避難民を犠牲とする殲滅作戦、京都を灰燼と化す琵琶湖運河防衛構想は、到底受け入れられるものではなく、決裂は如何ともし難いものであった。


皇帝陛下は、ただ黙ってそれを聞き、殿下は身じろぎもしなかった。


被害事実の積み上げ。

しかし、それだけでも殿下には針のむしろ。
本来、政治軍事の長として、全権を陛下から委任されている立場なのだから。

けれど、実際当時、碌な引き継ぎさえ行われず、就任したばかりの殿下に何が出来たと言うのか?
本来政威大将軍に在るべきその権限を、永きに渡り徐々に干犯したのは、そのデータを揃えた官僚どもと、九條ではないか!
陛下から委託されている筈の、国勢に対する執行権は、内閣閣僚や、酷い時には各省庁にまで落ち、それに対する罷免権すら内閣の承認が必要と制限されている。
軍に対する命令権限も、今は斯衛軍に限定され、帝国軍に関しては作戦執行の承認・否認権すら統合参謀本部に帰属する。その斯衛軍は、武力行使が皇帝皇族、五摂家及びその有力分家の守護に限られ、本来守護される側の五摂家有力諸氏が自ら陣頭に立たなければ、遠征も出来ないという捻れた機構に貶められている。
全権を有する大統領制に近いはずの政威大将軍という職制が、何時しか単なる名誉職として蔑ろにされているのが現在の姿。
・・・にも、関わらずこんな時だけは、非難の矢面に立たねばならない。


理不尽。
・・・正にその一言に尽きた。





それでもプレゼンは進み、軍事関連の資料に差し掛かる。
日本帝国に未曽有の被害をもたらした、元凶、BETA西日本侵攻に説明は及んだ。


それは一瞬の違和感。

示された一枚の資料。
目に入るのは、殆どが数字の羅列。


今までは、全ての数字が、見事な迄に視覚化され、見やすいグラフや簡潔に纏められた表に姿を変えていたため、正しく違和感を感じるほど、解り難い資料だった。


暫し数字を追っていくと、漸く内容が伝わってくる。
そしてそこには、明確な悪意が見て取れた。


まあ簡単に言ってしまえば、本土防衛軍は緒戦で5000を殲滅した。
けれど2日後、北九州から山陰まで上陸されたのは、範囲が広範囲にわたり、また折しも大型の台風の影響で海上からの援護が出来ず、如何ともし難い状況だった。
(本土防衛軍は頑張った。損耗数を見て? 死して国土をまもってるんだよ。)

姫路の最終防衛戦に於いては、政威大将軍の御出陣まで賜り、斯衛軍中心で対応するも、民衆の避難が遅れ、戦場が混乱したために、大規模な援護射撃も出来す、壊滅に至った。
(だめじゃん、将軍士気高揚しないし、斯衛も役に立たないね。)

急遽、前任政威大将軍の戦死に伴い、煌武院悠陽に政威大将軍が任命。
斯衛軍は京都を動かず、そのまま31日の防衛戦に突入。
(もう、ムリムリ。姫様将軍にはむりっすよ。)


悪意に満ち満ちた裏の声が聞こえてくるような、まとめであった。

つまり、この資料が言いたいのは、姫路以西が堕ちたのは、台風という不運の所為で、本土防衛軍に非はない。寧ろ死を賭して、最大効率でBETAを道連れにした。
帝都防衛第1次防衛ラインが突破されたのは、不甲斐ない斯衛と、無能な指揮官(政威大将軍)の所為。
以降、次の政威大将軍は京都防衛まで斯衛軍を動かさず、京都落ちたのもその所為。

と、明確に謳っているばかりの資料だった。

当時実際斯衛は、京都決戦に於いて要人警護に当たっていた。
五摂家なのに九條一門には斯衛所属者が極端に少ない。部下の居ない名誉職の将軍が一人だけ。後は御子神宗家のみ。因みに、前任政威大将軍の一次防衛戦に赴いた斯衛の中には、御子神の前当主である両親も含まれていた。

そして、その要人警護に最も多くの斯衛を割かれたのが、九條からの警護要請だった。
五摂家の要人警護が主たる任務であるため、言われてしまえば出さざるを得ない。
通常各五摂家の御庭番が斯衛となり、主筋傍系の一部までを警護しているのだが、九條は分家一門まで斯衛から警護を出させ、引き回していた。

にもかかわらず、斯衛軍を有効活用出来ず、その指揮を悠陽が出来なかった、と結論づけていた。


・・・・政威大将軍不適格。

簡単に言えばそれを結論づける内容だった。
京都が堕ちたためにBETAの進軍を抑える事が出来ず、首都も喪い、今の帝国が危機的状況にある。
その主因は、前任政威大将軍の敗戦と新任政威大将軍の指揮能力不足。
そう読まれても仕方ない、というか其れを誘導するような数字だけが並べられていた。




目の前が暗くなる。
いままでの説明で積み上げた被害の“大元”が、殿下の指揮能力不足、と言われたような物。
皇帝陛下がそう断じれば、当然罷免。


「・・・・御子神。」

「は。」

「・・・何故この資料だけ体裁が異なる?」

「・・・この資料に付いてのみ、提供者から一切の変更を禁じられました。」

「これは・・・つまり要約すれば、斯衛を動かせなかった悠陽が帝都陥落を招き、この未曽有の大過を齎した、と言うことなのか?
・・・・・・・・これでは解からん・・・・。」

「・・・・では、この数字を別角度で見た資料が御座いますのでそちらを説明いたします。」




スクリーンが変わる。

会場が一瞬ざわめいた。

それは極めて精密な3次元の俯瞰図。うっすらと透ける日本地図に赤い輝点が現れ侵攻していく。
一方で現れた緑の輝点と、防人防衛線。
赤と緑は佐賀・長崎辺りでぶつかる。

左上に、日時が出ていた。


説明を受けるまでもなく明解に理解できる。
これは7月7日に対馬上陸で蓋の開いた地獄の釜。
そこから溢れでたBETAの進軍と帝国軍の抵抗を、時系列に視覚化したものであった。


重慶と鉄源ハイヴの拡大から、本土決戦は来年年初と見込んでいた帝国には、今回の侵攻は完全に虚を突かれた形となった。
それでも、構築した防人防衛線は、有効に機能し、斥候と見られる師団規模のBETAを短時間で殲滅せしめた。


だが、その後が不味かった。

BETA侵攻地点を防人防衛線と見越した本土防衛軍は、日本海沿岸に展開していた海軍、陸軍を移動した[●●●●]のだ。
防人防衛線から赤い輝点は消えたが、後方から集結する緑の輝点。

そして2日後、特に山陰に展開していた緑の輝点が移動し消える頃になって、再び今度は大量の赤い輝点が、その防衛線が薄くなった北九州、山陰に現れた。折しも接近した大型台風で波立つ海から上陸したBETAは薄い防衛戦を一気に突破、殆ど抵抗も無いまま北九州から山陰までの広い範囲に上陸を許す事と成った。


会場がざわつく。

統合参謀本部、本土防衛軍の将官が、赤くなったり青くなったりしている。

「御子神、きさ「控えおろう[●●●●●]・・・。」」

さっきあ奴を揶揄した縁者の怒声に、ポツンと呟いたような低い言葉は、しかし何故か騒然としだした背後の喧騒よりも、深く勁く耳朶に響き、背筋に冷気が這い登るような、底知れない迫力を以てその声を封じる。

「・・・御前である。陛下以外の発言は受けぬ。・・・この場に親類縁者の関わりは無い。」

「 !!! 」

先程の揶揄を冷徹な視線と厳然とした言葉で制したその態度は、とても高が17の若造には思えない。聞いていただけでも背筋が粟立つ。
無数の修羅場を潜って、尚静謐とした気配。
借りてきた猫など、とんでもない。猫かぶっていたのは、途方も無い猛獣。
・・・まるで長大な剣牙を持つ漆黒の迅豹が身じろぎしたかの様だった。

誰も声を発しない。発せない。

見れば九條兼実は、一人瞑黙している。


永きに渡り雌伏していた猫が、本性を現し何でもないことのように本家に叛旗を翻した瞬間であった。







画面で進む状況は、後は知られるとおり。

画面に現れた黄色の輝点は住民・避難民を表し、嵐の中、防備の薄くなった海岸線を易々と抜けるBETA群。上陸を果たしたその赤い輝点は、直ぐ様侵攻を開始する。
地図上のいくつかの基地、及び集中していた西九州から緑の輝点が散り始めるが、折りしもの台風で、九州に向かった艦艇がもどるには時間を要し、避難用の大型船舶の接岸さえおぼつかない。
逃げ惑う避難民と入り乱れた戦況では、如何な有効な戦術も取れず、為す術無く諸共赤い輝点に飲み込まれてゆく。

画面上部右側には、別の角度から、と確かにあ奴が言った様に、先程の資料に示されていた数字、BETA殲滅数、帝国軍将兵損耗数、斯衛軍将兵損耗数、そして住民・避難民の犠牲者数が、カウントされていた。


「・・・コヤツらは、何処から来たのだ?」

「先の防人、そして北九州に上陸したBETAは重慶ハイヴ起源、山陰に別れて上陸したのは鉄源起源と思われます。どちらも状況からの推定ですありますが、それぞれに10万を超える規模かと。」

「・・・20万規模の侵攻であったか・・・」


更に日時は進み、7月の12日。
姫路に一次防衛線が集結しつつ在る。紫の輝点、斯衛軍が中心となった部隊だった。
海岸線の住民は非難させ、問題は無い。
相手BETAは既に4,5万に膨れ上がった軍団規模。
戦力比から次々に損耗する状況で、戦力の逐次投入をしてどうにか維持している戦線に、何を思ったか、北のBETAに追われた避難民の移送部隊が合流した。

それはどう見てもおかしなルートだった。そのまま中国道を東に向かえばいいものを、態々姫路で南下したのだ。

結果混乱した戦線は、一気に瓦解。敗走へと追い込まれる。
この一戦で前職の政威大将軍が喪われたのだ。斯衛赤を纏っていた御子神少将・大佐夫妻と共に。


「・・・・この転進を指示した者は誰か・・・?」

「私には、観測された事実以上の、“指揮系統”を伺う権限は与えられて居りません。」

「・・・・統合参謀議長、二條宗房。」

「は・・。・・・そ、早急に調査いたします。」

指名された中将は今にも倒れそうに狼狽えながら、必死に言い繕う。

「・・・既に5ヶ月も経つ今になって、前将軍職を喪った原因すら掴んでいない、と言うことか。」

「 !!! 」

「この事実からは、本土防衛軍が斯衛軍の足を引っ張ったとしか思えないのだが、どうか?」

「そそ、それは、わが軍には、けして、その、そのような意図は・・」

ブルブル震えながら、言い募る姿は、何か裏がある、と思われても仕方ないくらいの動揺。
混乱の中隠されていた事実を知り、斯衛将官には憎悪の目で統合参謀本部を見る者さえ居る。

「恐れながら言上致しまする。」

割り込んだのは、九條兼実。

「・・苦しゅうない、申せ。」

「・・・成程、御子神の集めたデータは確かに事実、当時の流れに相応な経緯と存じまする。
されど、当時戦線は乱れ、将兵・避難民とも疲弊し、このように俯瞰的な状況が見えていなかったことも事実。今になって分析すれば、という事でございまする。
BETAどもに蹂躙された山陰から逃げ延びた輸送隊が、船舶による移動を求め南の海を目指しても、致し方ないかと愚考したしまする。」

「・・・・・・では、その判断は正しかった、と?」

「・・・それは在り得ませぬ。
状況を勘案し、相応の処罰を科すことを、我の名においていたしましょうぞ。」

「・・・あい、判った。」

九條兼実の能面のような顔の、僅かに唇が歪む。
御子神の醸しだした場の雰囲気と皇帝陛下の鋭い舌鋒が、九條の予定を大きく逸脱したことは、確かなのだ。



そしてそれは、続く帝都防衛戦の推移に於いて、皇族・五摂家を守護しながらも、果敢にBETAを殲滅し、帝都の最後まで残り続けた斯衛に比べ、残された本土防衛軍は右往左往するだけで定まった戦術がなく、皇族・五摂家に先行する形で東に逃げ堕ちたことも暴露され、冷たい視線にさらされる。
皇族・五摂家は帝都と命運を共にすべきでは、と具申した一條基良本土防衛軍少将が、自分も同時に逃げていたことを指摘され、その場で顔を真っ青にして貧血で崩折れた。
その茶番のせいで、更に優秀な斯衛軍将兵を多数喪ったのだから。

現実的に損耗数の少なかった斯衛は、戦闘を忌避していたわけではなく、寧ろ損耗当たりの殲滅率が高く、瑞鶴や武御雷が配備されるその実力も明示されたのである。
先程の資料では意図的に隠されていた撃墜率が示された所為だった。

・・・・・・私とて、当時第16大隊に属し、皇族・五摂家の避難に随伴した。
殿下ばかりでなく、斯衛も含め臆病で無能と断じられかねない先の一葉の資料には、一角ならぬ憤懣を感じていたのだ。
それは、本土防衛軍の指揮の下に従った帝国海軍や陸軍も同じような指示に疑惑を募らせていたらしく、疑り深い眼差しで、参謀本部・本土防衛軍上層部を見るばかり。


斯衛を動かせなかった殿下が帝都陥落を招き、この未曽有の大過を齎した、と取られかねない数字が、あ奴の集めたデータから別角度で時系列に解りやすく見せる事により、本土防衛軍の判断ミスこそが、容易い西日本の陥落を招き、前職政威大将軍すら喪わせたことを暴きだしたのだ。



胸のすく思い、と言うのは此の様なことなのであろう。



猫を被っていたあ奴は、初めてその本性を九條に晒し、あからさまな叛旗を翻してみせた。
長年の雌伏、殿下との友誼、何も出来ぬ小物を使って殿下を突き落とす、と言うのが九條のシナリオ。いかにも九條らしいやり口。あ奴を侮った九條を完全に謀り、そしてそのやり口を知るあ奴は、その口裏に乗るように見せかけて、牙を剝いた。
くみやすい猫と侮ったあ奴は、その片腕毎リードを引きちぎった、獰猛な迅豹。

流石の九條もカンペキにやりこまれ、表情が硬い。






だが、あ奴の仕掛けたギミックは、それだけに留まらなかった。


「・・・・では、皇帝陛下に一つ種明かしを致します。」

「・・・なんと?」

「西日本に於いて、在住した4000万のうち実に3600万人もの臣民を喪うに至りました。この事に大変心痛めた殿下は、国際的な非営利組織である“シャノア”に、避難民の補佐を依頼しています。
その際の的確な指示が“奇跡の逃避行”を実現しました。」

「!、なんと、あの逃避行は悠陽の指示であったと申すか?」

「然様にございます。」

「どのような的確な指示をしたのだ?」

「それは、ご本人にお尋ね下さい。」

まさかの指名であった。
殿下がそんな指示を出していたなど、私でさえ知らない。

殿下は一度あ奴を見た後、口を開く。

「愚考ながら申し上げます。
大規模な避難、つまり移送では、ボトルネック、即ち最も狭く、通過量が絞られる箇所を如何に抜けるか、によって全体の移動速度が決定されます。
今回の避難に於いて、最大の難所は、紀伊半島に残留していた避難民が集中し、且つ絞られる大河川である木曽川、そしてその先、天竜川、富士川がそれに次ぎます。」

「ウム。」

「それでは、ご覧下さい。これが実際に推移した避難状況、及び実際の映像です。」


続けて流れるシミュレーション。
舞台は、京都壊滅後の避難状況。

避難指定区域から一斉に動き始める黄色い輝点。追うように侵攻する赤い輝点。
黄色い輝点は徐々に集まり、流れと成るが、殿下の言ったように紀伊半島からの流れは、ボトルネックと成った木曽川で滞る。

が、そこで新たな流れが生じた。


海へ。

画面右下に映像が映し出される。

木曽川の護岸壁に連なった小舟から、避難民が海に出、そして大型の船舶に収容されていく。民間から借り上げた船舶も含め、実に数千隻。それが生き物のように連携し、多くの避難民を収容していく。

ボトルネックの流量を削減する事により、自主避難を続ける人の流れも、その速度が飛躍的に上がった。

それは、避難が進行するにつれ、天竜川や富士川でも行われた。


結果、避難民の殿は、一度もBETAに追いつかれることなく、全てが関東以北に逃げ切ったのだった。


「尚、これはこの措置が執られなかった場合の避難状況です。」

先のボトルネックに於ける大渋滞。後方に続々と集まる避難民に対し、通過する量が明らかに細い。

やがてBETAが殿に食いつき、北に散るが、それでも追いすがられ、結果2500万の避難民のウチ、1/3に当たる800万人が喪失される結果と成っていた。

“奇跡”と言われ、“マジック”と言われた撤退戦逃避行。

それが、まさかこの席で種明かしされるなどとは、誰も思っていなかった。



「実に見事である! 誠に天晴れであった!!」


ずっと渋い顔をしていた皇帝陛下のご尊顔が、今日初めて輝いた。







「ウム、日本帝国にとって、今後は益々厳しい状況になろう。
しかし、悠陽、そちは、新たな希望をも抱かせてくれる。
今後の帝国を頼もうぞ。」

「勅命、謹んで拝領致します。」

「ウム。・・・・御子神。」

「は!」

「宗家に此処まで楯突くなど、中々剛毅な性格をしておる。
朕の名に於いて、今後もその家名、赤を纏うことを許す。」

「ありがたき幸せに存じます。」

「・・・悠陽を頼むぞ。」

「は!」

「・・・なにか、望む物は在るか?」

「望む物は在りませぬ。望む事は帝国の安寧。
故に、大変心苦しい仕儀でありますが、もう一つ、事実を報告いたします。」

「・・・申してみよ。」

「・・・・武家の在り方として、義に背けば親でも弾劾[●●]致します。

先程お伝えした、前年における食料供給と消費つきまして追加データ、実際の配分量と、消費量を並べたものです。」

スクリーンが変わった。


ガタン、と音がする。
正面の参謀本部、官僚の何人かが青い顔をしている。



会場がざわつき始める。

「・・・これは・・・、配分された筈の量に対し、消費された量が、余りにも少ないではないか!!」

「・・・これらの供給元は、バンクーバー協定に基づく、国連からの無償供与。
その配分を決めているのは、“何故か”軍である統合参謀本部と関連する少数の閣僚・官僚です。
無償供与分の“輸送量”詳細と担当官が、こちらになります。」


最後の最後に投下された爆弾の直撃に、流石の九條兼実も、顔面を白くし、引きつった。







・・・思いを馳せる。

そう、あの日、私はあ奴を認めたのだ。

負けも認めた。私には出来なった、殿下を、殿下としての立場を、護りきった男。

本来護衛としてお護りする立場の殿下に、何の力添えもを出来なかった自分に対し、周到に、綿密に、来る災厄を予期し、その対処を構築しながら、九條兼実をも謀り切った鬼謀。
後で殿下にお聞きすれば、移送に於けるボトルネック問題は、以前に提示され考えた。その時シミュレーション映像も見ていたらしい。
話を振られた一瞬でそれに思い当たった殿下は、避難に際し問題点と成る箇所を的確に示した。

その呼吸に、あ奴が殿下の隣に並び立つことが悪くない、とも思ったのだ。

結果的に奇跡の逃避行を成し遂げ、マジックを仕掛け800万人もの臣民を救ったのは殿下、と言うことになった。
“シャノア”の設立者があ奴であることは、その後で知ったが。
黒猫とは笑止。黒豹でも足らぬわ。


その後、“行方不明”という最大の裏切り行為で姿を隠していたが、今日、再びその姿を見せた。
私が懸念していた状況には、陥る前にあ奴は自分でその事を殿下に認識させた。

・・・その上で、協力しようと。

記憶が無いのは本当らしいが、確かにこの手口、御子神彼方だなと、一瞬で理解してしまった。

ならば記憶に無くても記録にあるという、過去のあ奴があれだけ可愛がった殿下を、今のあ奴が無碍にするわけはないのだ。








「・・・時に、真耶、一つ訪ねたいのですが、先程の榊の言葉、どう云う意味なのでしょうか?」

「・・・イケマセンね、殿下。そこは素早く察知して、一声掛けるべきでございました。」

「?・・・・」

「・・・・後ろ盾とは、役目としての意味はでは御座いません。
榊殿の言葉通り、“殿下の後ろに立つ者に君がなれ”、後ろ、つまり、背に立つ君、背の君[●●●]になれ、と言う意味かと。」

「え・・・背の・・、!!!!っ・・・・・」

・・・・漸く認識したらしい。

まさに茹で蛸レベルまで赤くなり、硬直している。普段自らを律する殿下にしては、珍しい。

「勿論、殿下が望まないなら榊殿の話は単なる先走り。」

「・・・え?・・あ・・・・」

「・・・そして、一切の記憶をなくしている彼方殿に、殿下が望まれなければ、これもなかった事になります・・・。」

「 !!! 」

殿下は幼い頃からずっと“兄さま”として接していたせいか、ご自分の感情には今ひとつホヨヨンとして無頓着だったりします。
他人事、特に冥夜様の事には聡いのに・・・。
ですが、殿下ももうすぐ18、そろそろキッチリ認識ハッキリ自覚していただかないと困ります。

私が殿下のお相手として認めるのはあ奴だけ、そして記憶を喪ったとはいえ、強かなあ奴の心獲れるか、殿下のご努力しだいですわ。


Sideout





[35536] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/01/23 23:26
'12,10,28 upload  ※難産^^;戦闘は難しい
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,01,23 誤字修正


Side 武


94式戦術歩行戦闘機“不知火”。
数多の傍系記憶が畳み込まれたオレの経験に於いて、最も“馴染んだ”機体だった。
紅蓮大将との模擬戦に於いて、機体の選択を迫られたとき、一も二もなくこの機体を選んだ。

勿論相手は武御雷、しかも“赤”TypeFに搭乗する“日本最高峰の衛士”、紅蓮醍三郎大将閣下。
出力比だけでも、およそ1.5倍強の差があることは理解している。
傍系記憶で武御雷に乗ったときはその差に感動すらしたほどだ。
今回のループでは、斉御司筋なので、“青”でも構いませぬよ、と殿下にも言われた。

決して舐めている訳ではないのだが、それでも、今現在、ここ一番の勝負所では“不知火”を選ぶ。
さらに、不知火+XM3で、紅蓮機を墜とす、それがオレの拘りでもあった。
XM3がもたらす物、それはパワーではなくスピード。敏捷性:agilityと言った方が良いかもしれない。XM3の真価を理解して貰う事が重要と考えるオレとしては、同等パワーで押し切りました、ではしょうがないのだ。
尤も、閣下としてはオレの腕を見たいだけ、戦いたいだけ、という側面が在ることも理解しているが。


幾多の経験をも取り込み、一種の対BETA用ゲーム脳、と彼方が揶揄するオレにとって、BETAは怖い存在ではない。接敵すれば、考えるまでもなく勝手に身体が動く。寧ろオレは、個々のBETAよりも戦域全体の動きに気を配りつつ、全体の流れを統制することに終始したりする。
部隊を預かった経験、中にはその判断ミスで僚機を喪った苦い記憶にも依るところが大きいのだろう。
常に、“生き抜く”ことを前提に流れを見極めた。時に臆病と罵られた記憶もある。
“死しては何をも護れない” ことを念頭に護り続けた経験。それでも、結局力及ばず幾度も果てた。
今度こそ、と意気込むのは自分でも突っ込み過ぎと思うが、仕方ないことと割り切った。

その対BETA戦に比して、対人戦は、全く異なる。
ロボットだけに機動・性能が完全に統一されたBETAに比べ、人はその機動の幅が広すぎる。
技量や機体にもよるが正確や気分、その時の精神状態でもコロコロ変わる。
数多の傍系記憶には、対人戦闘の記憶も在るし、今A-01に於いて行っている教導も一部にはマニアも居て、対人戦闘も多分に含まれているが、経験による反射と言うよりは、予測と反応速度で対応しているようなものだった。


そして、目の前に居るのは、恐らくそれだけでは足りない相手。

正面に立つ、00式戦術歩行戦闘機“武御雷”TypeF、“赤”の機体。

XM3未搭載とはいえ、侮れる相手では到底あり得ない。
傍系記憶にもあるが、この“機”と“衛士”のデタラメさは、よくわかっている。
勿論JIVESであり、弾はペイント弾、長刀短刀は刀体をシリコンに換えた練習刀であるが、それでもまともに食らえば、腕の一本は飛ばされそうだ。


その距離は100m。

互いに接敵前の、探知や隠遁など面倒くさい小細工は一切無し。
正面からのガチ。

紅蓮機から、霊光が覇気となって立ち上る。
背筋にゾクゾクする殺気を感じながら、オレは自分の口角が吊り上がるのを自覚していた。






北の丸に位置する帝都城第2演武場。赤坂に在る、滑走路に併設された第1演武場に比べ、規模は小さいが、帝都城内裏だけあって施設は充実している。
将軍の身辺警護を行う斯衛軍第2大隊、及び斯衛軍の中から更に精鋭を集めた第16斯衛大隊の駐屯地でもあり、土曜日の午後とはいえ、施設を使って自主訓練に励む斯衛軍衛士も多数見受けられた。

そこに“上意”で演武場を封鎖し、現れた2機の戦術機。

一機は“赤”の武御雷、しかも頭部アンテナの彩色“金”は、大将機。
もう一方は、何の変哲もない不知火。

管制室は立ち入り禁止とされたが、観戦エリアは特に制限が設けられなかった為、自主訓練を止めた衛士を中心に、結構な人数が集まっていた。

明らかに、これから起きることを期待する空気。


国内最高峰の衛士と謳われる紅蓮閣下ではあるが、一部ではバトル・フリークとしても有名であり、部隊訓練の観閲などした日には、有望と目を付けた衛士に自ら教練を付けることでも知られていた。
“紅蓮の鬼”ともあだ名されるその教練は厳しく、勿論相当な高位者でも閣下相手に数分と持たない。

そこそこ互角に打ち合えると言われるのは、神野大将くらい。一矢報いることが出来るのが第2連隊隊長の斉御司巴大佐、第16大隊隊長の斑鳩崇継中佐、御子神遥華少佐、無現鬼道流同門である月詠真那中尉等極限られた人間だけだ。

相手が不知火なので、斯衛でない事も考えられるが、この衛士が“紅蓮の鬼”を相手に、何処まで保つか、それが観戦している者の共通する興味であった。






管制を務める真那さんの“始め!”の声。

それを殆ど聞く間を置かず、駆け抜けた一陣の風。


「・・・・遣ってくれますね!」

唇が歪む。笑みが零れてしまう。

長刀を構えながら、抜き撃ちのように副腕でまさかの一射をしてきたのだ。
反射的に頭部を傾げていなかったら、いきなりセンサーを持って行かれるところだった。

と言いつつ、こちらもスラスターを噴かせて一気に距離を詰める。
続く偏差射撃を直前で止まることでやり過ごし、移動の慣性を円運動に換えながら長刀を薙いだ。


ガギン。

長刀同士のシリコン部を抜け、フレームがぶつかり合った衝撃。僅かに長刀を逸らし、関節への衝撃を緩和しつつ、そのままトンボを切る。

案の定、反す刀での連撃が、虚空を切った。


これでXM3未搭載と言うのだから、信じられない。
斯衛流入力術の極致とでもいうのか。一瞬の機体反応は遅くとも、その溢れるパワーで加速度を稼ぐ。

無現鬼道流師範。冥夜の師匠。
ここのところ訓練で何度か冥夜とも模擬刀の鍔を競り合い、鎬を削った。
・・・にしたって、それは生身での話である。

その生身での“達人”の動きを、平然と戦術機[●●●]で行うのだから、この人も規格外には違いない。


空中に逃げたオレに、36mmの追撃。

勿論“生身”なら空中に逃げた段階で“詰み”だ。
空中ではせいぜい姿勢を変える手段しか無く、重心は初速で定めた放物線を描くしか無いからだ。

だが、コレは戦術機。
機体を捻りながら牽制に120mmを一発。

予測した方向に避ける紅蓮機の上方にスラスターの一吹きで機体を滑らせたオレは、落下荷重と回転する機体のモーメントを乗せた長刀を、そこに叩き付けた。



『紅蓮機、副腕損傷、使用不能。白銀機、突撃砲損傷、使用不能。』



激突後、左右に弾けて、再び対峙した2騎に、真那さんのアナウンス。
副腕を潰したのはいいが、とっさに反した長刀で突撃砲を持って行かれた。

皆伝の冥夜と比べ、更にそこから永い研鑽を積み、境地に至った“達人”。
色々な意味で“綺麗”な冥夜の剣筋とは異なる。
生死も超越した領域から、一閃の剣戟。
その剣筋は融通無碍であり、最早、奥義とかという“型”に嵌ったレベルではない。

“武”のみを愚直に求めた武人が、戦術機に体現するその“極致”。


・・・やっぱ、半端ないっすよ、紅蓮閣下!






観戦エリアは、静まりかえっていた。


今目の前で起きた出来事が、信じられない。

閃光の様な武御雷の初撃、それですら初めて見る。
今回の模擬戦は、見る者に配慮してか、ペイント弾が曳光仕様になっていた。
その光の残像は、一撃で不知火の頭部を貫いた様に見えたのだった。
今までの閣下の教練は何時だって受け身だった。自らが先に攻めれば、教練もなにもなく、一瞬で終わる事を承知していたから。

しかし、それを紙一重で躱しつつ、縮地の様な機動で接近した不知火は、続く射撃を予期していたように急停止、その勢いを旋回運動に換え、長刀をなぎ払った。

信じられなかったのは、そこからの機動。


“戦場では飛ぶな”


それが訓練兵以来、衛士に言われる言葉だった。
光線級の出現以来、“空”は、BETAのもの、飛べばレーザーに打ち抜かれる。
それが常識だった。

果敢に吶喊した不知火は、しかし初撃を止められ、続く連撃に一合で終わる、そう言う状況だった。
その速度は驚嘆すべきモノが在ったが、相手は“紅蓮の鬼”である。
既に突撃砲は退路を予測した射線を保持しており、長刀は溜められ、不知火が退いた瞬間にそれが炸裂して終わり、と高位の衛士は予測していた。

それを、トンボを切ることで宙に翻り、長刀の追撃も躱し、好機と見た突撃砲の照準を120mmキャニスター弾で牽制、スラスターで機体を滑らせ、そこに移動した武御雷に長刀を叩き付けた。

上部を向いていた副腕が飛ばされ、代わりに突きだした剣閃で、突撃砲を飛ばされたが、死地から一気に互角にまで持って行ったのだ。


・・・・・今まで、先の5名以外触った事のない、金角カラーの武御雷に小破判定を与えて・・・・。


何という、空中機動。
完全な3次元空間に於いて、不安定なと言うか、月面宙返り状態の様な姿勢から、バーニアの噴射で狙った位置に的確に機体を滑らせた。
そこからの一切の外連味無い、落雷のような剣戟も見事!の一言だった。

今まで見たことも、聞いたこともない戦術機の3次元機動。
観戦エリアの全員が、息をするのも憚れるような緊張の中、食い入るようにその模擬戦に見入った。






対峙する武御雷の雰囲気は、変わらない、と言うか、どこか楽しげにも見える。
閣下ほどの達人とも成れば、そうそうその実力を解放できる機会もないのかも知れない。

コレは、今後速瀬中尉みたいにならないよな?、と一抹の不安を抱えつつ気を引き締める。

お互い突撃砲を喪い、長刀を構えている。相手の突撃砲自体は生きているが、お互い拾う隙はない。

閣下が無拍子や縮地の域に達していることは知っているし、こちらが其れに近いことが出来る事も、初撃の攻防で知られているはず。

コレは、武御雷にXM3導入したら、相手をするのは不知火じゃ確実に無理だな、と思う。
恐らく、閣下の武御雷は、TypeRに近いチューンが施されているのだろう。予測よりも1割増しで早い。
単純な力押しに成らずそのパワーでXM3のアドバンテージであるスピードを補われたら、同じXM3を搭載した途端、不知火が負ける。

それでも、今は互角。後は“腕” 次第、か。

すいません、紅蓮閣下。XM3の有用性を示す為にも、此処[●●]では負けられません。

・・・・・“入らせて”、戴きます。






息を呑むような対峙。

先に動いた方が負ける、とでも言うような緊張感。
“達人”同士が見せる最高の演武。

フ、と、不知火の雰囲気が変わった様に見えた。

瞬間、不知火が消えた。
少なくとも、消えたようにしか見えなかった。


ガガガガガ、と地響きのような連続音。

一瞬で武御雷に接近した不知火が、腕が8本にも見えるような連続斬撃。
そして其れを武御雷が受けきっている音だと気付いたのは、一瞬の後。


信じられない・・・。


あの“融通無碍”の“紅蓮の鬼”が、その“変幻自在”な連続攻撃に、防戦一方に立たされていた。

寧ろ、良く堪え忍んでいる、と言った風情。

其れなのに、受ける剣の反動すら利用するように、攻撃側の回転速度が徐々に上がってゆく。

人の目では追いきれない、“戦術機”だからこそ実現できる速度の“攻防”。


武御雷が“間”を取ろうとし、それが困難と悟ると、防戦の中にも前に出ての反撃を試みるが、その度に3次元機動でそれを躱す。
振るう長刀の剣先は平面で在るから、通常は後退するしかない斬撃を、上方[●●]に躱し、その空中に於いてバーニアを巧みに使うことにより、まるでそこに足場が在るかのような機動を行う。
まったく何も無い空中で、三角飛びやバレルロールをしながら斬撃を放ってくる。

これは、いかな経験豊富な“紅蓮の鬼”とて、初めての体験。
平面で戦った事しかない人間が、いきなり天地もない宇宙空間で戦っているような感覚。

敵を“前”に戦うことに比べ、“上”に置いた時の攻撃予測などいきなり出来る訳がない。


・・・・しかし、この機動は一体なんなのだ?


徐々に削られていく武御雷、削る不知火。
圧倒的な機体性能さえ覆す、驚愕の空中殺法。

なにか、とてつもないモノを見ているのではないか?

観戦エリアは、声も無かった。








『紅蓮機、機関部大破、戦闘不能。白銀機、左腕大破、・・・よって本模擬戦は白銀機の勝利。』


アナウンスとともに遠ざかっていた音が戻ってくる。
色を失っていた世界に色が戻り、 “ゆっくり”と流れていた時間も元に戻った。

彼方に言わせると、フローとかZONE、ピークエクスペリエンスと呼ばれる状態らしい。
心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱し、様々な分野で言及されているという。・・・少なくとも元の世界では。もともと色々なところで見受けられた現象らしいが。
一流のアスリートが極度に集中した時に見られる現象で、全ての脳神経活動が目的にのみ向かい、眠っている脳の一部すら覚醒させることも在るらしい。
音、つまり聴覚や味覚嗅覚の消失、視覚に於いても色彩情報の欠落、それに伴う時間感覚の伸長、反応速度の向上、結果の幻視等が上げられるという。
今回三度目となる世界に覚めて、シミュレーションや実機で戦術機を操るウチに、“自分で”その状態に移れることに気がつき、彼方に相談したところ返ってきた答が、それだった。
そしてその状態に於ける訓練の方法も教えてくれた。明確な目的意識、集中力。それは霞と純夏が行ってくれるサイコダイブでも領域拡大が出来るらしく、少しずつだが訓練もしてきた。
ただし使い過ぎは、当然極度の疲労を招くため、時間制限が必要・・・と言うか集中力が切れて抜けてしまうのだが。


けど、それを使ってまでしても、結局15分も粘り抜かれ、最後の最後には左腕を持って行かれた閣下の方が怖いんですが・・・。
あと少し粘られたら、こちらの推進剤も集中力も保たなかった。
見た目とは裏腹の、かなり薄氷の勝利である。

閣下はこの先、何処まで行くんですか?


Sideout




Side 巴


城内省の並びにある斯衛軍参謀本部がざわついたのは、2時過ぎ。


基本教練のない土曜の午後は、少しだけ緩んだ空気が流れる。

2年前に横浜を取り戻し、BETAも佐渡と大陸に押し返した。それでもBETAに占領されていた土地は使われた劣化ウラン弾や重金属汚染で、当分使い物に成らない死した大地。取り分けG弾の使われた横浜の地は、植生の回復すら目処も付かなかった。

焦燥。

こうしている間にもBETAは増殖し、次の侵攻を整えているというのに、海を挟んだ今、散発的な間引きすら実施できていない。
教練に身を置いている間は良い。それらを忘れられる。
しかし、こうしてぽっかり時間が空くと、過去を、未来を思わずに居られない。

五摂家の枠がどうしても嫌で家を飛び出した姉。何れ来る日本侵攻に備え帝国陸軍から大陸派兵に参加した義兄。二人は’95に亡くなった。
二人の最期は今や知る由もなく、その3年後には、彼らの忘れ形見である甥すらも、横浜侵攻で死亡となった。盆暮れの度に幼なじみと京都を訪れ、御剣家の息女と遊んでいた潜在的な女誑し。そのクセ真っ直ぐで妙にヘタレ。弄ると真っ赤になる楽しい奴だったのに・・・。
6歳も離れた姉なのに、今年、とうとうその年齢に追いついてしまった。故郷京都の菩提寺すら既に無く、七回忌も出来ぬままに。
・・・人類の85%が既に喪われたのである。ありふれた風景なのかも知れないが。


止め止め!、私らしくもない!

其れよりも何か騒がしい。何が起きていると言うのだ?


隊長執務室を出ると、大隊事務室になっている。秘書官や通信担当官、情報担当官が全て部屋のミーティングコーナーの大型モニターにかじりついていた。

「何ご・・・」

「あ、斉御司大佐。」

敬礼を返す担当官を手で制し、画面に見入る。

「・・・・コレは?」

「は、只今第2演武場で行われている模擬戦にございます。何時もの紅蓮閣下の教練と思ったのですが・・・。」

「・・・・・。」

画面に釘付けになる。
確かにライブ映像。だが、おかしい。
一方的に斬撃を受けているのは“赤”の武御雷、金の彩色角は、紛れもない紅蓮閣下の機体。
そして国内最高峰といわれ、私ですらまだ大破判定を奪ったことのない衛士を相手に、一方的な攻勢をしかけるのは、なんと不知火。

・・・・そう言えば、今日閣下は、所用で人に会う、と言って居なかったか?
これが、その相手?


・・・しかし、この不知火、動きが良すぎる[●●●●●●●]。何らかの改造?、外見上変化は亡いところを見るとチューンの範囲か?

そして、この衛士の機動はなんだ?
移動時以外、空を飛ぶことすら憚れるこの時勢に、ここまで完璧に3次元機動をモノにし、攻撃を継続できる衛士など、聞いたこともない。
奴の周りだけ、重力が無い[●●●●●]ように感じる。

そしてハタと思い当たる。
これだけの機動が可能なら、光線属種の照射すら、躱すことが出来る?
衛士の機動に合わせてカウントする。光線級の照射なら、いやと言うほど知っている。
そして、予備照射から本照射の間に、躱しきる不知火。
・・・・背筋をゾクゾクと這い上る興奮。

これは!
それが可能なら、膠着したBETAとの戦闘に、革命を起こすことが出来る!


しかし、コヤツ、なんというラッシュ。
それを凌いでいる閣下も凄まじい。
これを見てしまうと、まだ私は手加減されているのだなと、思わずに居られない。

チッ・・・・タヌキめ。


「・・・む?」

暫し息も呑むような張り詰めた攻防を眺め、気付いてしまった。

この異次元の衛士が3次元機動を仕掛ける時の、ほんの僅かなクセ[●●]
相手が並の衛士なら、一撃で墜とされているから、明らかになることもないのだろう。
そして今観戦エリアや、この映像を見ている者の何名が気付いただろうか。
本当に些細な、隙とも言い切れないほどの解れ。
しかし、凌ぎ続ける紅蓮機に、流石に焦りが出てきたのか。
一方的に空中から仕掛ける為、推進剤にも不安はあろう。


・・・・当然だ。

これだけの手数、精緻な3次元機動、その集中力や、なんたるものか。

だからこそ、凌ぐ閣下には判って居るはずである。
相手の集中力の綻び。長引くことに依る推進剤の消耗、その焦り。
それが、クセを助長していることも。
ほんの僅かなクセであるが、それを見逃すほど、閣下は甘い衛士ではない。

その証拠に、相手の衛士に気付かれないよう、逆に弱り掛けている様相を見せ、掠り傷が多くなる。
閣下の、誘い。


好機!、と見たか、不知火が、翔た。


乾坤一擲!

狙い澄ました閣下の一閃は、跳躍からマニューバに移る一瞬の隙を突き、模擬刀でありながら不知火の左腕を切り飛ばした。

その瞬間、武御雷の胴を、いつの間にか逆手に持ち替えた不知火の長刀が、薙ぎ払った。


!!!!


静まりかえる画面。

・・・・JIVESが、機関部大破判定を下したのだろう。

頽れる武御雷。

左腕を失って、尚そびえ立つ不知火。



まさか、・・・まさか其れすら誘いだったか!

見事! と言うしかない!

何という、衛士!


・・・・これは、閣下に直談判の必要が在るわね!

そう思って指をワキワキさせていたら、電話が鳴った。


Sideout





[35536] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 11:59
'12,10,30 upload
'12,11,05 誤字修正
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,01,24 大幅改稿(pcTEに準拠:Side 榮二)
'15,08,28 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side 巴(斉御司巴帝国斯衛軍第2連隊長)


演武場の傍らに建つ管制棟。

そのブリーフィングルームに呼び出されたのは、日本帝国斯衛軍第2連隊隊長の私、そして第16大隊隊長斑鳩崇継中佐と、その副官の御子神遥華少佐だった。
・・・うん、相変わらずい良い雰囲気だこと。さっさとくっつけ。

そして、其処に居たのは、紅蓮閣下の他に、なんと煌武院悠陽殿下。
直衛の月詠大尉が付いているから、本人だ。静養で那須に向かった筈ではなかったのか。数人が護衛に随伴したはず。
・・・とすれば向こうが影。連隊長の私にまで言わないなど、中々面白そうな事に成っているではないか!


「休みの折り、突然の招集済まんな。だが儂の負け様は見て貰えたか?」

「は!、まさか閣下が不知火に敗れるとは、・・・・しかし、あの不知火、そしてあの衛士は一体・・・」

一応目配せして最上位者の私が応える。

あれだけの騒ぎ、しかもライブ映像まで流していた。当然崇継も遥華も見ていたらしい。
勿論、記録も在ろうがそれこそライブの臨場感は相当なものだった筈。・・・私だって出来るなら観戦エリアで見たかった。
こんな面白いコトをするなら、事前に知らせてくれても良いと思う。
国内衛士最高峰と言われる閣下の敗北。動きの良すぎる不知火に、異次元の機動を持つ衛士。誰もが興味津々。ここに来る道すがらだって、行き交う演武場周辺の会話は、それ一色だった。

当然だ。
全ての衛士が目標としていた紅蓮閣下を下したのだ。しかも今拝顔するに、そのことに閣下はまるで悪びれていない。むしろなにか面白い玩具でも見つけた子供のように、瞳をキラキラさせている。

「うむ、それを説明しようと思ってな。
実は、ここにおわす悠陽殿下が膠着したBETA大戦をどうにかしたいと、前々から技術開発の要請を行っていらっしゃった。
その中の一つが、今国連横浜基地で、極秘計画を進めている香月女史だ。」

「・・・・。」

横浜の魔女。牝狐と呼ばれる人物。私は別に好きでも嫌いでもないが、国連を米国と重ねる節がある国内じゃ、嫌われ者だわね。極秘計画だって、親米派と見られる榊首相が招致したものだし。寧ろ殿下との繋がりがある方が驚いてしまう。

「その女史から、今回の提供があった。・・・それが先ほど儂を負かした衛士本人が考案した、新しい戦術機のOSだ。」

「!、戦術機の新OS! それがあの不知火ですか!?」

「その通り。尤も、衛士自身の腕もべらぼうだがな。
彼奴は、自分の理想とする機動概念を実現するために、あのOSを発案した。プログラムを組んだのは別の者だが、その後極秘に検証を続け、その実証を得たことで、此度帰国し公開する運びとなった。」

そこで閣下は言葉を区切る。私と遥華に少し言いづらそうに口ごもった。

「・・・先に話しておくと、その発案者と作成者だが、・・・少し事情が複雑でな、心して理解してくれ。
発案者は、’98年のBETA横浜侵攻に巻き込まれ負傷した。それを救助したのが、先の香月女史が指揮する機密部隊でな。しかも負傷により記憶喪失に陥った為、そのまま機密部隊に戦地任官となった。以来約3年間、過酷な任務を生き抜いてきた。今年の春先に部隊そのものが壊滅した最後の作戦でも唯一生き残り、先のOSの実戦証明と、多大な成果を齎したこと、一方でそのショックにより記憶を取り戻したことによりこの度帰国し、国連太平洋方面第11軍横浜基地に正式任官となった。」

その来歴に顔がこわばる。
横浜? 記憶喪失? 機密部隊に戦地任官?

・・・・・・まさか・・・?

「・・・そして一方、このOSを組んだ者は、’99年の明星作戦時、G弾の余波により発生した落雷に打たれ、昏睡に陥った。当時周囲に居た者が、日本国内を席巻しているBETA禍を逃れ、海外にて療養させた。漸く今年になって意識は覚醒したが、個人的な記憶野は落雷の影響で回復不能との事だ。それでも、残されていた過去の自分の記録から、自分が何者で今まで何をしてきたか、は理解している。」


隣で今度は、遥華が引き攣った顔をしている。
そう、この娘の超絶無頼破天荒天元突破な弟は、明星作戦以来行方不明。
本来隊長だけでいい要件に、敢えて副官を連れてきた理由がそれだとしたら・・・。


「・・・判って居る様だな。・・・白銀、御子神、入れ。」

閣下の声に、その背後のドアから入ってきた2人の男。
一人は、さっきの模擬戦から直ぐだけ在って、強化装備のまま。もう一人は国連軍のC型軍装。

その顔には、確かに見覚えが在った。


「!!、タケ坊っ!!」
「彼方っ!!」

遥華が弾かれるように飛びつく。
閣下も、殿下も生き別れた肉親の再会に、笑顔で無礼講の様だ。
そして私も歩を進める。

記憶にあるタケ坊よりもずっと背が高く、凛々しく成っている。久方ぶりに見た甥は、照れたような笑いと、懐かしさか、微かに目を潤ませている。
私だってこみ上げてきそうなものをどうにか押しとどめ、口元に笑を刻んでいる。

一丁前に、腹筋まで綺麗に割って、・・・って!、コイツが閣下を下した衛士ィ~?!

・・・しかもまだ17の筈、とっさに階級章を見れば少佐とは、・・・・タケ坊のクセに生意気な!!


私はゆっくりとその正面に立つ。遥華はもうとっくに弟の胸に飛び込んで泣きじゃくっているが、私はそんな事はしない。

「・・・・・ご無沙汰してました、トモ姉。」

170近い私を、越す長身。私を懐かしそうに見るその頭に手を回すと、思い切り引きつけ、そのまま胸に抱き込んだ。

「!!!」

小学校以来の私のスキンシップ。当時はまだ私だって20代だから、オバサンなんて絶対呼ばせない。胸に抱き込むと真っ赤になる甥っ子が可愛くて、コイツが中学になっても止めなかった。
・・・当時亡くした母親の代わり、と言う意識も少しは在ったかも知れない。
そのころはもう2次性徴もあっただろうけど、ムラムラしたってコイツには純夏ちゃんも冥夜様も居たし・・・。発散をそっちでしてくれれば、あの娘達にも喜ばれるだろうし。

今も私の胸に顔を埋めて絶句し、目を白黒させ、真っ赤になっている。
・・・相変わらずウブなやつだ。ちっとも変わらん。誘引体質のクセにヘタレ健在だな。さっきの話じゃ海外経験も長いというのに、未だチェリーか?

・・・うん、これがタケ坊だ!


因みに私だってまだ32だ。形も崩してないし、大きさも顔を埋めるほどにはあるぞ?

「・・・よくぞ、戻ってきた!」

「!!、・・・うん、ただいま、トモ姉・・・」

その言葉を聞いて、漸くタケ坊が確かに戻って来たのだ、と言う実感が湧いた。

窒息寸前でタップが入るまで、ギュウギュウに抱きしめてやった。



殿下と閣下あとは月詠大尉が、私の腕の中でぐったりしたタケ坊をみて苦笑いする中、ふと隣を見れば、漸く遥華が弟の胸から泣きぬれた顔を見上げて話している。
コイツはお姉ちゃん属性のくせにメチャ涙もろい。しっかり者且つドジっ娘と言う矛盾した属性持ち。
それなのに、何故が剣を持たせると鬼神の様な強さを発揮する。
その傍に立つのは斑鳩崇継。昔っから誰とでも別け隔てなく接した崇継。九條繋累だが、特に御子神彼方とは呼び捨てで呼ぶことを許すほどに仲がよかった。
その事がきっかけとなり、あの“弾劾”前から、遥華は崇継と仲がいいと聞いた。


「・・・悪いな。個人的な記憶は無いし、武みたいに回復する望みも皆無。
けれど“記録”は浚ったから、自分が過去何をしたか、一応の事は分かっている。」

「・・・そうなんだ・・・・。でもお姉ちゃんとしては、見てくれるの?」

「・・・流石に血縁は切れん。俺が血縁と認めるのは3親等以内だが。
どうも遥華には、イロイロ苦労掛けたらしいし、・・・・尤も昔の俺も崇継が居たから当時から心配はしていなかったみたいだが・・・。」

「! ん、もう!」

「・・・漸くご帰還か、放蕩者。」

「好きで昏睡してたわけではないけどな、漸く還ってきた。・・・ただいま、かな。」

「「おかえり!」」

「・・・・苦労掛けたか?」

「否、問題ない。
で・・・? 今後は戻れるのか? 流石にこれ以遥華や殿下を悲しませるのは勘弁だぞ?」


流石、斑鳩の若き当主。イケメン顔に爽やかな笑顔。ハンサム兄貴も板についてきた。それでいて京都の防衛戦以来“阿修羅”の二つ名も未だに健在。




「・・・では、その辺のお話を進めましょうか。」

殿下が割って、朗らかに告げる。

ナルホド、先程から妙に機嫌が良いのはそのせいか。
宗家を盛大に謀り、その腕をも喰いちぎって護ってくれた“守護神”が還ってきたのだ。それはそれは、殿下も喜ばしいことだろう。

しかし、此処から先は茶々は無しだな。・・・相当、重い話が在るのだろうから。






「・・・以上が武が発案し、俺が組んだ新OS【XM3】の概要だ。これを公表し、モノにするために俺と武は戻ってきた。今後は基本国内に居る。
但し所属は基本国連軍とし、斯衛は併属だけどな。」

「・・・戦闘機動を連続して入力出来る“先行入力”、定型化した挙動パターンを1コマンドで設定出来る“コンボ”、それらのタイミングを調整する“モジュレーション”、そして戦術機の自律機動まで含めてブレイクする“キャンセル”、か。」

「・・・しかも、モニタリングによるパーソナライズ、個人の機動志向に合わせたテイミング、機体反射速度を抑制するレベリングまでソフトで実現しているのね。」

「・・・反応速度33%向上だけでも、目が回りそうだ。そして、そのXM3の齎す世界が、あの閣下撃墜であり、この光線属種の照射回避機動か。」


殿下の要請を受け、簡単な概念を説明してくれてた御子神彼方技術少佐。
モニター画面には、シミュレーションながらタケ坊、もとい白銀少佐の操る不知火が、次々と光線級の照射を躱し、殲滅していく様子が映し出されている。
さっき見た3次元機動の敏捷性[アジリティ]から予測はしたが、こうも鮮やかに実現できているとは思わなかった。
射線回避という、消極的な使い方ではないのだ。敢えて照射を誘引し光線属種の位置を見極め優先的に撃破する、積極的な使い方をしている。
これはBETA戦に於ける戦術機戦闘の概念すら引っ繰り返す機動だ。


「・・・導入に反対する理由は全くないな。
寧ろこれが行き渡れば、衛士の生存率は飛躍的に高まるだろう。」

「確かに今までのOSに馴染んでいるから、切り替えは大変でしょうが、今まで出来なかった機動が出来るようになり、更に上を目指せるなら、切り替えない者は居ないでしょうね。」

「換装に必要なCPUボードパックに付いては、第16大隊用の36基、第2連隊用の108基に付いては既に用意している。第1、24連隊、各警護小隊や実験部隊に付いては来週末までに200基、欠員もあるから、足りるだろう。」

「また斯衛軍優先? 統合参謀本部がうるさいわよ?」

「そこは巌谷中佐に頼んだ。現行搭載のCPUで動くデチューン版を頒布してもらう。」

「ナルホド。・・けど太っ腹ね!、ガメツイと言われる上司は良いのかしら?」

「・・・センセには他の情報[モノ]を鱈腹食わせてるよ。」

「あらあら、あの女性を“満足”させるなんて、・・・ヤル[●●]わね。」

御子神少佐・・・被るわね、彼方でいいわ彼方で。

「・・・あのヒトは貪欲だけど、“量”より“質”に拘るからな。」

・・・平然と切り返すとは、喰えないわねホント。
寧ろ傍らの悠陽殿下が、楚々と近づくと、その彼方の軍服の裾をコネコネしている。

こんなのを見てしまうと、忠臣の身としては、これ以上弄って主に拗ねられても困る。


御子神彼方、面と向かうのは初めてだが、ナルホド、面白い奴だ。


「・・・夕呼先生は彼方に任せれば良いとして・・・」

おずおずと切り出す白銀少佐。
タケ坊、アンタは神経細っそいわねぇ! そこはアンタが引きつる所じゃ無いでしょ!?
聞くところによると、確か横浜の特務部隊は伊隅ヴァルキリーズ、女ばっかの中隊でしょう?
こんなんで大丈夫なのかしら?

「・・・ま、ぶっちゃけ、発案者であり、3次元機動概念の構築者である武が、この後から月曜まで教導に入れる。既に第2演武場隣の仮想訓練棟に設置された36基のシミュレータは、OS選択が可能な様に改修してある。
操作性に直接関わるから、個人の感覚も大事だろう。シミュレータで感覚を理解してもらってから、戦術機制御ボードの換装としたい。
・・・・どうする?」

彼方が引いたタケ坊のセリフを攫う。


おぉー。
重要なコトを話しながら、他の人には見えない角度で裾を弄っていた殿下の手を摂り、指を絡めてキュッと握ると、さりげに放す。
こういうさりげない小技はタケ坊にはまだ無理だわ。と言うか、素でジゴロっぽいぞ、彼方。
コイツが自分の欲だけでそうしているのなら、完全にそっちだな。

・・まあ、自分の欲だけなら、殿下のためにあんな“弾劾”は起こさないだろう。
冷酷に判断すれば、あの時点で殿下を庇ったところで、自分には何の得にもならないのだから。
寧ろ宗家を裏切り、孤立するデメリットの方が膨大だ。

そこまでして何を賭けたか? 決まっている。コイツは“未来”を賭けたのだ。

人の心は移ろうし、そもそも記憶もないらしいが、そこはまず賭けた未来を信じるべきであろう。
・・・殿下がそこまで鈍いとも思えないし。


「成る程、シミュレータで試して、戦術機を換装するかどうか、判断せよ、と言うわけですね?」

「・・・面白い。そのシミュレータで、タケ坊とヤレ[●●]るわけか!」

「残念ながら、あまり悠長なコトをしている時間はない。選択は、早めに行って欲しい。
来月11月10日前後に、大規模な実弾演習を実施し、実戦検証とする予定だ。」

「それはまた・・・随分急だな。何か急ぐ理由が在るのか?」

「・・・スマンが現時点ではそれ以上は、機密だ。」

「ナルホド。」

ナニカ在るわけだ、ソコ[●●]に。


頭の中で組み立てる。あと約2週間。確かに微妙な数字ではある。

「・・・判った。直ぐ臨時に隊を招集し、シミュレータ体験に入る。
この後4時から入れば、“御前”の所の連隊入れても、一大隊2時間は当てられるわけだな。」

流石に精鋭16大隊長。決断が速い。

「・・・こちらも了解よ。」

「1時間は導入用のチュートリアルを組んである。残り1時間が武の教導だ。」

「問題ない。・・・で、一つ聞きたいのだが。
白銀武少佐は良いとして、御子神彼方少佐の情報は、どこまで公開していいんだ?」


次は九條か。

‘99年の行方不明の後も、しばらく警戒していたからな。
コイツなら必要に応じて姿を隠すくらいするだろう。

そして行方不明が半年もすると、九條一門はまた裏でゴソゴソと動き出した。

“弾劾”以来、本土防衛軍も統合参謀本部も頭をすげ替えておとなしくしていた。別組織の斯衛軍はまだしも、指揮する立場の海軍や陸軍からも白い目で見られたのである。

「さっき説明した経歴も含めて公開して構わない。」

「・・・・戻ってきたと在っては、九條が黙っていないぞ?」

「どうせ、それほど長い期間でもない。さっき悠陽や閣下とも相談したが、無理に隠そうとしても何れバレるし、このまま隠していたからと言って奴らにあからさまな油断が出来るわけでもない。
今は国連軍所属が基本だから、顔を合わせる機会もないしな。
寧ろオープンにすることで、より警戒してくれたほうが、却ってコチラが動きやすい、という結論になった。
まあ、遥華や崇継に向かう嫌がらせがこっちに向かえば御の字だな。」

「そんな事はいいが・・・・良いのか?」

「・・・・正直な所、俺は九條なんかどうでもいい。
生き汚い鼠が沈み行く船から必死に逃げ出そうとしているだけだ。
当面の敵はBETA・上位存在。それさえ邪魔しないなら、構いもしない。」


・・・・言い切ったよ、コイツ。・・・九条兼実が聞いたら噴飯物だね・・・。

御子神憎し、に凝り固まる一門。
事実を巧みに隠蔽して仕掛けたり、荷抜きをするなど、晒されても自業自得だと思うのだが。自らの反省もせず、繋累の仕儀を暴いた彼方が裏切り者扱い。
まあ、いきり立って居たのは末端で、上の方は情報を抜かれた事そのものを自省し、より周到な隠蔽した工作を心がけているという。反省の方向が甚だおかしいが、その熱意だけはご立派なことだ。

恐らくは九條が見ているのは10年後。
形振りなど構わず“生き残る”、それを第1義とし、その方策を探し求めている。
彼方の言うとおり、沈み行く船から“必死”に逃げ出そうとしているのだろう。
ある意味“辣腕”には違いない。


御子神はあの“弾劾”のあと、九條からの明確な断絶は無かったが、当然そんな背景なら迫害はあり、御子神本家に従った親戚一同8世帯32家族に、有り余っていた特許収入を分け与え、海外に移住させた。職も在るところに送ったらしく、全く問題ないらしい。
本人は皇帝から家名と“赤”を纏う事の継続を許され、宗家と切れても独立して平然としている状態。その中で、唯一日本に残ったのが姉の遥華だった。
斯衛に属していた遥華に対しても、海外への移住を勧めたらしいが、本人が頑として望ま無かったという。私はその頃の遥華の上官。プンプン膨れていた遥華をよく覚えている。

その頃、元々精鋭を以て鳴る第16斯衛大隊は、京都防衛線で一時8騎にまでその数を減らしていた為、残った第1、第2連隊からも補充人員が送られていた。
性格は温厚だが、一度戦術機に乗れば鬼神とまで言われた遥華が16大隊に異動になったのも頷ける。
私は当時もう第2連隊で、大隊の一つを預かる身だったから異動は無理だったけど・・・。
同じ“青”だしね。一大隊に2騎の“青”はないでしょ。
・・・武御雷に乗れて無いのだけが残念だわ。

ただ、それからだと言っていた。彼方が海外に行けと言わなくなったのは。
崇継と遥華に噂が立ったのは、異動してすぐ。元々彼方を通して仲は良かったらしいし。
本人達は、否定も肯定もしていないが、周囲には歓迎されている。

実際斯衛の中でも九條門閥はどことなく警戒されていたのだ。それが彼方の“弾劾”で、空気が変わった。唯一の九條系将官も辞した。天下るように参謀本部に行ったが。
勿論、評価会の内容は武家の恥に当たる、と一般公開はされなかった。一応緘口令も敷かれた。警護以外は、将官クラスでないと出席出来ない。私だって五摂家繋累で出た。当主の崇継も同じだが、当時は九條繋累だった遥華は出ていない。
そこでプレゼンターに抜擢された弟が、どれだけ飛んでもない事をしでかしたのか、詳しくは知らない。聞かされたのは当主に楯突いた、という事だけだろう。
揉め事は昔かららしいので、とうとう切れたのね、と言うのが遥華の応えだった。切れたと言うよりは、極めて緻密に、用意周到に、ものの見事に嵌めた[●●●]と言うのが、私としては正しい表現だと思うのだが・・・。

“弾劾”以降、将軍職警護を最大の任務とする斯衛軍上層部にとって、BETA大禍の責から悠陽殿下を護りきった御子神は、“英雄”扱いなのだ。特に政威大将軍派である斉御司、斑鳩、煌武院にとって。現状、崇宰は中立の立場を崩しておらず、九條は相変わらずなのだが。
そんな中唯一国内に残った肉親が斑鳩当主の側に居れば、流石に心配性の弟も少しは安心したらしい。

繋累は海外で安泰、姉は他の五摂家の庇護下。
周囲に杞憂の無い今、コイツにとって九條如き本当に路傍の石でしか無いのだろう。


どこかずれた、まるでヒトの権力や、欲望などのどろどろした範囲を完全に逸脱し、遙かに超越してしまった領域に棲んでいる様な感覚。


そんな彼らに全幅の信頼を寄せているのか、黙って微笑み、何も口を挟まない殿下。


・・・・・・唯一こんなのに惚れ込んでいそうな殿下の、苦労が思い遣られるわ。


Sideout




Side 榮二


今は自分以外誰もいないブリーフィングルームで、一人技術資料を読み耽る。
事前に渡されたのは、概要と映像の一部だったが、今回は仕様書と全ての映像記録が付いている。


白銀少佐が、自らが理想とするハイヴ内での3次元機動を実現するために発案し、御子神少佐が実現した新OS【XM3】。
その実戦緒戦となった“銀河作戦”、あのオリジナルハイヴの最奥部、“上位存在”にまで至った原動力。

シミュレータに於いて、平面制圧では自らを囮として光線属種をあぶり出し、優先的に殲滅。
ヴォールクでは、エレメント単位にて反応炉撃破どころか、ハイヴ崩落までさせ殲滅数7万をたたき出す。

そして今日、対人戦に於いてさえ、あの紅蓮閣下を凌駕した。
シミュレーションはデータに甘いところが在るのは認める。
こんなの現実的ではないと言うのは、当の本人も言っていた。
あの“銀河作戦”を生き抜いた者なら、当然だ。
それでも、示された成果が余りにかけ離れている所為か、何処か現実離れした夢物語のように感じていたのも確かだった。

それが、実際に目の前で何の変哲もない不知火に搭載され、紅蓮閣下の操る武御雷をも撃破した。

無論、白銀という衛士の技量が凄まじいのは理解した。
桁が違うと言うより、文字通り次元が違う。
2次元でしか戦っていない今の戦術機に対し、完全な3次元に適応している。
この僅か17歳の少年に秘められた力。
戦術機適合性と言う才の高さもあろうが、ハイヴ威力偵察を繰り返し、最後のミッションであるオリジナルハイヴの、あの地獄すら潜り抜けた“単騎世界最高戦力”。
死線を潜り抜けた経験でさえ一桁ではないだろう。
三桁にすら届くかも知れない。
九死に一生を得るどころではなく、万死に一生を掴んで来た存在なのだ。

しかし、それでも本来対人戦は勝手が違う所があるのだが、それすらも、ハイヴ攻略で培った3次元機動を駆使して見事凌駕してみせた。
過酷な任務で磨き抜かれた突き詰めた才能が、武を極めた達人にすら優ったのだ。


その天才の機動概念を具現化する【XM3】。
今後、白銀少佐の域まで届く者が現れるかどうかは不明だが、明確に戦術機という戦力全体[●●]を底上げしてしまう、画期的な技術で在ることは疑う余地も無かった。



しかし実はオレは、一つの危惧を抱いていた。
シミュレータでは顕在化し難い問題。

XM3は確かに素晴らしい。
その実現する機動、ルーキーからベテランまで間口広く懐深く、その全てに合わせる操作性。

・・・それ故に犠牲になるのは、耐久性や信頼性。
少なくとも不知火のハードで弄ったのは、CPUボードのみ。
動力系、駆動系から操作系すら、何も弄っていない。
ただ在るものの制御のみ。

それで、あの機動に保つのか?

それが最大の懸案だった。
今後の課題は、消耗が激しい関節強化や、整備体制の確保だな・・・。
そう、感じた。




だが。


こうして詳細な仕様書を目にすると判る。

ド派手な機動性。
懐深い柔軟性。

その裏にあったのは極めて精緻な制御。
XM3による不知火は、旧OS以上の堅牢性さえ手に入れていたのを知ったのだ。


戦術機のOSは、ほぼ一社独占状態にある。
開発用のOS以外、量産は全て同じと言える。
操縦者とのI/Fである管制ユニットが全世界統一規格だからと言えばそれまでだが、開発用が存在するように作れない事はない。
間接思考制御による操縦は、とっつきにくく、熟練に時間が掛かるとはいえ、悪いものではなく、これまで何の手も入れられていなかったのが実情だった。

今日、簡単な説明を聞いたとき、最初XM3とは、戦術機の操作における“随意領域”の拡張を図ったシステムである、と思った。
先行入力やコンボ、そのモジュレーション、そして自律領域の割り込みも行うキャンセル。
確かにその恩恵は凄まじく、習熟までに時間を要する間接思考制御の補助を待つまでもなく、あの3次元機動を実現する。
なので、その思想にテイミングやレベリングと言うパーソナライズが考慮されていることに驚いた。
兵器の在り方が、ちゃんと解っているのだ。


そして、技術資料を読み進めるうちに愕然とした。

このXM3と言うOSのアーキテクチャは、“自律領域”どころか、主機の出力、燃料電池のスタック流量、電磁伸縮炭素帯のファームウェアにまでに渡る、“統合制御”を行っていたのだった。



今までのOSに於いて、自律制御中は随意制御が出来なかった様に、“自律領域”は、全て機械都合で決定され、固定化されていた。
設計者は戦術機の保全を最優先にそれを決め、操縦者は、それを前提に腕でそれをカバーした。

だが、操縦者の意思というヒューマンコンシャスの思想で構成されたXM3は、その固定化された自律制御を撤廃した。
と言って自律制御は戦術機保護のために行われる内部動作であるため、無くしてしまう訳にはいかない。
御子神少佐が行ったのは、“固定”された制御を排し、“柔軟”な制御を取り入れる事だった。
元々今までの自律制御はバランスにしても反力相殺にしても、“静的”、つまり止まった状態を前提とする。なので、“硬化時間”が出現する。
しかし戦術機は動いているのだ。
先行入力や、コンボで次の動作が決められているなら、その動きの中で、“動的”に対処していけばいい。
そのための電磁伸縮炭素帯は、全身関節周りにいくらでもある。
停止している他部位の電磁伸縮炭素帯を統合的に使用することによって、正しく人体が全身で運動をするように、全ての衝撃や平衡を動作の中で受け流す様になった。
動作や力が全身に渡るため、個々の駆動量は微小で済む。
自律制御なので、操縦者ですら気付かない。
次動作が決まっているときには、その動作を阻害しない方向に持っていく。
出力が必要なら、そのタイミングに合わせて準備し、キャンセルが入れば、その余剰動作と次動作を結合するように自律制御が動いていく。
 それを実現する為に、主機や燃料電池、そして電磁伸縮炭素対まで統合下においた。
ファームウェアの許す限りのクロックアップを行い、制御を緻密化させた。
それは、急峻な大出力の為ではなく、寧ろ出力を平滑化し、バランスを取るもの。
故に立ち上がりに於けるオーバーシュートや、制御遅れに寄るエネルギ損失が格段に減る。

結果、お仕着せの自律制御しか出来なかった旧OSに対し、操縦者に十分に馴致された状態では、摩耗率が30~40%程も低減されるシステムに変更されていた。
全身に渡るエネルギーマネージメントで燃費も3%向上している。

しかもそれらの自律制御ですら、操縦者のクセによって、逐次最適化され使う位置が徐々に修正、搭乗者に合わせた機体テイミングが行われていく。
乗れば乗るほど滑らかに軽やかに全身で馴染んでいく機体。
操縦者のデータはリンクで保存され、機体を乗り換えた場合にも適用される。
機体ごとのクセは、換装初期にアナライズされ関数化されることにより、どの機体に乗ろうと同じ操作を実現できる。



この機能のお陰なのだ。

白銀少佐が、紅蓮閣下に対し、15分もラッシュを掛け、その機体が保ったのは。






しかし・・・・。

これだけのモノを入れ込んだOSで在りながら、ハードを弄らない、この縛りがどれだけ困難なことであったか。
巧みに伝達モデルを構築したり別の信号変換したりして、回避しているが、それがCPUの負荷を上げ、冗長性を欠いている事には変りないのだ。

その理由も既に知っている。
年内、つまりH1とH21の攻略までは、時間が無い。
それを重々承知しているから、全てを“改良”だけで済まそうとしている。
年初に昏睡から覚醒したと言っていたから、まだ1年も経っていない。
その限られた時間で、差し迫った問題を解決しなければならない。


けれど逆に言えば、この“思想”を100%実現できるハードが組めたなら・・・・。
この国が、無事来年を迎えることが出来たなら・・・。


・・・・そしてまた、それ[●●]こそが真のXFJが求めたものでは無かったか?







ノックの音がした。

返事をすると国連軍の青を基調としたC型軍装の女性が入ってきた。


「――篁唯依中尉、ただ今アラスカから帰還いたしました。」


ピッとした敬礼をしたのは、篁唯依中尉である。


「おぉ、唯依ちゃん! おかえり・・・無事で良かった―――。」


表情が硬い。
が、その顔を見て安堵したのも事実。
遠い地で狙撃を受け倒れたと聞いて以来、実際に元気な姿を目にするのは初めてなのだ。
祐唯の忘れ形見、そして幼少より面倒を見てきた愛娘にも等しい。
その表情が揺れる。

「あ・・・その節は大変ご心配、お掛けしました。」

「ウム―――。
復帰後も問題無さそうで何より。
後で栴納さんにも元気な姿を見せてきなさい。」

「は!、ご配慮感謝致します。」

「殆ど完治したとは聞いたが、未だ大事を取ることも必要、先ずは座りなさい。」

「は。」


近くの椅子に座り、居住まいを正す。


「さて、ユーコンでのXFJ計画の推進、大義であった。
・・・しかも昨日の今日とは随分早い到着、ご苦労だったな。
今はオレしか居ない。普段どおりで構わないぞ。」

「あ、・・・はぁ・・。
今朝方、丁度臨時のHSSTが有りましたので、それに・・・。
先に市ヶ谷に伺ったら、コチラにいらっしゃるとお聞きしました。」

「そうか、それは幸運だったな。
―――それでは、此度XFJ計画に掛けられた技術漏洩疑惑について報告してくれ。」


態度は硬いまま。
まあ、今回の帰国命令も有無を言わせずイキナリだったしな。
しかも漏洩疑惑の直後だ。
唯依ちゃんのことだ、譴責も覚悟して来たのだろう。




事の発端はやはりソ連機の評価試験。
被弾後、意識を回復した中尉は、オレの帰国命令とその説明で裏にあった意図に気付いてしまった。
継続を上申するその勁い意思に評価試験を認めた訳だが、既に実施されていた戦況は実際芳しくなかった。
彼女が復帰後直ちに状況を把握するに、ユーコン事件の折り垣間見せたという精神的・薬物的処置を施されたソ連軍開発衛士の技量は凄まじく、Su-47の性能とも合目って不知火弐型Phase2では不足と判断。
更に当地での専任開発衛士より齎された、目を瞠るような的確且つ大量の改善勧告。
そしてSu-47の性能に危機感を抱いたボーニング上層部の懸念。
それらの状況を鑑み本来帰国後実施予定だったPhase3の前倒しを決めた。

ユーコン事件に於いては謂わばソ連軍最強衛士とも言える相手を凌駕し、そして自らが凶弾に伏せていた間にもその遺志を汲んでくれた開発衛士に応えるべく、その要望を満たせるPhase3の前倒しに至るのは必着、と言うこと。

しかし―――成程、カエルの子はカエル。
いや、寧ろ祐唯とあのミラのハイブリッド[●●●●●●]が、只者で在るわけがないか―――。



それにしても、何という皮肉―――。

互いに受け継いだ血が抜きんでていたがために彼の地で巡り逢い、そしてまた似たところが在るが故に共鳴してしまえば、惹きあうのもしかたないこと。
損な役を押し付けたフランクには申し訳なかったが、どうにか今は落ち着いた様子。
何らかの割り切りが出来たことは確かなのだろう。


「・・・成程、対Su-47と開発衛士の熱意に応えるべくPhase3の前倒しを要望し、フランクがそれに応じた・・・、と。」

「は―――。
当初予定に背き、極秘だったPhase3を当地で前倒したばかりにこのような事態を招いた暗愚、全て私の責任。如何様な処分も受ける所存い御座います。
誠に申し訳ありません。」

「―――その件に付いては、中尉の現場判断として妥当であり、不問としよう。
実際Su-47で特殊技能持ち衛士相手では厳しかったこともある。
状況を見るにソ連の計画は衛士の先鋭化であり、機体の進化を目指すXFJ計画そのものの存否とは本来比較しようもない。」

「――は。御勘酌頂き恐縮です。」

「・・・しかしそこで軍事機密漏洩とは・・・。
Phase3の内容は国内で実施する分に付いても、機密漏洩規定に当たるものは無かったと思うが?」

「は・・・。
それにつきまして担当した捜査官が私の動揺を狙いリークした所によると、1号機には当初Phase3計画には無かった統合補給支援機構[JRSS]が搭載されている疑惑が在ると―――。」

「―――なッ!?、それは、篁中尉の要望ではなく?」

「天地神明に誓ってそのような要望は致しておりません。
統合補給支援機構[JRSS]なるシステムそのものが初めて聞く内容ですし、模擬戦が中心の試験機に必要な装備とは思えません。
・・・更に捜査官の話では、YF-23にて使われていた第2世代アクティブステルスも搭載の可能性もあるとか・・・」

「―――少なくとも2号機の仕様書にはその記載はない。
と言うことは、1号機だけ・・・か。」

「・・・・・・。」


どうやらフランクに何らかの意図があったのは確実か。
統合補給支援機構[JRSS]なんぞ実戦それも最前線でしか使わない代物、中尉の言う様に模擬戦が殆どの試験機につける装備ではない。
またアクティブステルスが米国の国防上重要な技術だというのはフランク本人が最も理解しているはず。
そして米国が国防に関することには強硬な事も十分に理解しているはずだが。
今回のSu-47を見る限り前科[●●]もありそうだ。
或いは自分は投獄されることはないと踏んだか・・・?。

それでも模擬戦などで使えば一発で露見するステルスシステムを、その危険を犯してまで追加するのも妙だ。
殆ど敵陣への潜行や脱出戦を想定しているような・・・!、まさか亡命まで視野にいれたのか?

・・・第5計画の内容を聞かされた今なら判る。
ボーニング社とは言えその主流は第5計画派。
しかしその内実は移民計画の宇宙船建造に関わっているからであって、G弾を基本としたドクトリンに沿った戦術機の開発、或いは本当に戦術機を必要とする前線国家への供給と言ったマーケティングを考慮すれば、フランクの才はまだまだ必要だ。
しかし彼は “戦術機の鬼”。
寧ろ自分がやりたい開発が出来るなら、何処でも良いと考えている節もある。
G弾後の世界制覇に向けてステルス技術の流出を絶対阻止したい第5計画派と、亡命までチラつかせたフランクの鬩ぎ合いが今回の疑惑騒動、と見るべきか。

―――それだけに急転直下で嫌疑は晴れた事のほうが謎だ。


「・・・何れにしても査察が実施されればかなり危機的な状況だった様だが、何故急に嫌疑が晴れたのだ?」

「―――それが判りません。
突然捜査も査察も打ち切られ、即刻釈放されました。
理由を尋ねても捜査官は、高度な政治的な判断、としか言いませんでした。
ただその後に会ったハイネマン氏は、どうやら第5計画派に不利な情報が齎されたらしい、とだけ・・・・。
―――私には意味がわかりませんでしたが。」

「―――あ・・・。」


はたと思い当たる。
先の浜離宮の話では、第5計画派の思想はG弾最優先。
プロミネンス計画、曳いてはフェニックス計画など不要とさえ思っている第5計画派ならば、戦術機設計の鬼だろうと神様だろうと不要と見切った可能性もある。
それを見誤ったフランクが弐型をPhase3に改修したのを見計らって、XFJ・フェニックス計画の打ち切り、よしんばプロミネンス計画自体の潰滅を狙ったと考えらるのが妥当か・・・。
事実不知火弐型Phase3に機体から統合補給支援機構[JRSS]だのアクティブステルスだの見つかれば、当然フランクは投獄、XFJ開発メンバーも良くて強制送還、悪ければ一生幽閉となろう。
踏み込んでしまえば、曖昧な落とし所は存在しない。
当然それを助長したプロミネンス計画も縮小、或いは打ち切りも有り得る。

しかし、午前中見せられたG弾の危険性、バーナード星の現実、そして或いはあの珠玉の機動映像までを米軍の上層部が見せられたら・・・。
第5計画派が今の段階で見切ったのは、第4計画の打ち切りが近いことが要因。
しかし突如出てきた情報そしてOSは、その第4計画から出てきているのだ。
この土壇場に来て第4計画に何らかの進展が在ったと見るべきで、しかもその成果はOS一つ取っても並々ならぬものがある。
当然打ち切りの話など立ち消え、当面予備計画の繰り上げはなくなるだろう。

と成れば、戦術機開発自体を停滞させ、日本のXFJ、或いはプロミネンスを潰し、EU・ソ連を含めた諸外国との関係を一気に悪くする状況に、今の段階[●●●●]で踏み込むわけには行かなく成った。


―――そう言うことだろう。


あんな有利な情報を手にしたのだ、性格のひねた魔女なら嬉々として真っ先に米国国防省辺りにリークしそうだ。
あの手の否定情報は手の内に隠しても全く意味が無い。
相手にこそ認識され、そして広く大衆が知ることによりその効果を発揮する。
だったら真っ先にG弾使用に忌憚ない相手の懐に落とすのが効果的。

鎧衣課長に聞いた限りでは、あの国の国防省も当然幾つか派閥があるらしい。
さらには第5計画派と言っても、移民推進派とG弾推進派で別れ、更にG弾過信派とG弾慎重派が居り、慎重派は必ずしもG弾が絶対とは思っておらず、飽くまでBETA殲滅の一手段としてG弾が最も効率が良いと考えている良識派らしい。
当然、あの“大海崩”の様な予測があればその科学的検証が優先される。
何しろその被害は凡地球規模、自国でさえ国土の半分を喪失する予測とも成れば今までのような対岸の火事では済まないのだ。

結果G弾使用が困難と成れば、BETA戦は再び戦術機主体に立ち戻る可能性が急浮上した。

ならば今この段階で、戦術機開発に深刻な悪影響を与え、ましてや戦術機の“天才”を喪失[●●]流出[●●]する可能性が高い捜査を強行するわけには行かない。

―――その結果がこの高度な政治的判断。
これが、フランク想い描いた通りなのかどうかは別として―――。



苦笑する。
知らぬ内に魔女に助けられていたか・・・。





「―――了解した。その件に関しては以上勘酌しない事とする。」

「は?、・・・はぁ、了解しました。」


釈然とはしないが、己の踏み込む領域ではないと納得したか。
今後の流れ次第では、早々に気付くこともあるだろう。


「で、・・・だ。実はいきなり帰国してもらったのは、それだけではない・・・と言うか寧ろ此方がメインだ。」

「え? 未だ私はユーコンで遣るべき事があると考えていますが・・・?。」

「・・・実質日本に戻ってから行う予定だったPhase3までをも完了し、評価試験で最後発新鋭機Su-47を凌駕する性能を見せた。
つまり実機検証まで完遂している事と成るのだが―――これ以上、何が在る?」

「!・・・・・・。」

「・・・簡単にいえば、それどころでは無くなった、と言うのが一番正しい。」

「え?」


・・・そう、あと2ヶ月で帝国の存亡が、ひいては人類の運命が決すると言っても過言ではない。
彼らが示したのは、謂わば可逆分岐点[●●●●●]―――。
瀬戸際といつも意識してきたはずだが、まさかここまで差し迫っているなどとは思っていなかった。
燃え尽きた帝都の二の舞をこの東京で決して起こしてはならない。
それを許せば、後は地滑り的に人類の滅亡は進む。
その流れを誰も止められなくなる。



「・・・実際に見てもらった方が早い。」


 そしてオレは端末を操作し、モニターに画像を映す。


「―――まずはこれをXFJ開発主任として評価してくれ。」



Sideout




[35536] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2015/01/23 23:31
'12,10,31 upload  ※決して急いでいるわけでは無いんですが、連投。
'15,01,23 誤字修正


Side 悠陽


模擬戦で使用した不知火・城内シミュレータへのXM3の導入、それに国内に居る唯一の肉親との再会も終え、彼方と共に浜離宮に戻ってきました。
彼方の生存は公開しても、ワタクシとの接触は勿論内密、本来ワタクシは此処に居てはならないのですから、極秘の連絡通路を使用します。
護衛として紅蓮、真耶も随伴しています。

浜離宮の来賓室には、榊首相と鎧依課長も再び揃って居ました。

模擬戦に続く早速の教導と言うことで白銀、および、技術検証と言うことで巌谷も既に此処には居りません。
白銀の今後の予定に付いては、叔母である巴に一任したので、大丈夫でしょう・・・きっと・・・恐らく?



「して、御子神、貴殿の再びの詮議はなんだ?」

席に着くと早速紅蓮が切り出します。
紅蓮を下した白銀に依るXM3の教導には、後ろ髪惹かれるものが在るらしく、気もそぞろなのですが、護衛も兼ねているため、致し方有りません。
ワタクシも、後ほど白銀とは別に、彼方が直々に教導してくれると言うので、期待しています。

「ああ、首相[ジジイ]の危惧を取り除いて、早速仕事をしてもらおうと思ってね。」

「榊の危惧?」

「H21攻略後さ。」

「・・・出来ない、と?」

「いや。出来ると踏んでいるからこその、危惧だ。」

「?・・・・」

一瞬何のことか思い至りませんでした。
榊だけが、その杞憂を慮っている様子。・・・まだまだですね、ワタクシは。


「つまり、H21が攻略出来た瞬間、日本は最前線国家ではなくなる。」

「・・・そうだな、国内ハイヴが消滅するわけだから。」

「・・・その瞬間、年間500万トンの無償食料が、“有償”になるわけだ。」

「「「 !!! 」」」

「それを賄う国庫は?」

「・・・・・・残念ながら・・・有りませんな。」

苦渋を吐露するような榊の表情。

・・・何という、ジレンマ!!
佐渡島ハイヴが我が国に於ける最大の危惧であるというのに、その危惧を排除した瞬間、“帝国”という国家存続の経済的滅亡が待っているとは!

「この責を悠陽に負わせたくなくて、大権奉還を渋っていたんだよな、首相[ジジイ]は。」

「 !!! 」

「・・・国内に避難民という膨大な非生産人口を抱え、BETAの脅威に国土の回復も望めない。その存亡分岐点は先も言ったように今年の年末。
しかしそれを乗り切ったとしても、国土の復興には、尚長い時間がかかる。
その間、1000万という非生産人口を最前線国家に対する援助なしで乗り切るのは極めて困難。
確実に日本帝国にはデフォルトが生じる。」

「デフォルト・・・、!! 榊!?」

「・・・・・・・・・・・・は。
残念ながらその予測は確度の高いもの、と言わざるを得ません。」

永い沈黙がその苦渋を表しています。
いくつもの手段を考えたのでしょう。政治の世界が綺麗事だけで済まないことは、既によく知っています。
手段が無いわけではないのでしょう。例えば、1000万の避難民が居なくなればいい[●●●●●●●●]、そんな考え方だって、在るのですから・・・。
その時・・・、国家存続の為にワタクシにそれが出来るでしょうか?
たとえ、オリジナルハイヴ、甲21号ハイヴの殲滅が成ったとしても被らなければいけない[]
それを榊は自らの手で下す決意をしているのでしょう。

「・・・現在あらゆる手段を用いて対策を検討しておりますが、有効な施策は打てるに至っておりません。」

1000万人の避難民。
どこの後方国家にもそれだけの難民を受け入れる余裕は、もはやないでしょう。
その受け入れは、国内にもう一つの国家が出来るようなものなのですから。
例え土地は在っても受け入れれば、国家そのものが破綻することが目に見えています。


「アジア圏と連合でも組んで、鉄源や重慶をも国内ハイヴ化し、最前線国家として援助を継続する手はあるが、流石に年末までには調整できないだろう。
急げば足元を見られるし、ハイヴ攻略以降では、無償援助狙いと取られ、国際的な信用は落ちる。
・・・それでも、それらを全部自分で被る気だったんだろ。一命を賭して悠陽に繋ぐ為に・・・。」

「・・・・・・それを僭越と諫めるのは、今は止めましょう。しかし帝国の政の責は、この私にあります。
して・・・彼方には、このデフォルトを回避する腹案があるのですか?」

「・・・・・・・・悠陽の“兄さま”、つまり記憶を喪う前の俺が、10年かけて準備していた仮初の大地。
外洋海底のメタンハイドレートを原料に、高靭性ポリマーで構築されるギガフロート。
・・・その構築を既に開始している。」

「 !!!! 」


大型のモニターに映されたのは、外洋に浮かぶ人工構造物。

中央に滑走路を持つ正六角形の浮島、その周囲に、同じくサイズを大きくした六角形の浮島が6つ、囲むように姿を表しつつある。

「・・・ギガフロート、仮称“高天原”のリアルタイム映像。房総半島の、300キロほど東方に浮かんでいる。
中心の“コア”にある滑走路が、4,000m級だと思ってくれれば、全体の規模が判るだろう。周辺の形成中の“居住区”が一辺約6kmの正六角形。今後その先に一辺約20kmの正六角形が形成される。」

画像が退いて、合成映像がオーバーレイされます。
・・・規模が・・・。

「来年の春まで、つまり稲苗の植えつけまでに1基、3年後までには全部で18基を形成する。土壌は無いが、炭素系繊維床に水を張れば、水耕栽培が出来る。当然世話する人手が必要だがな。」

最終的にオーバーレイされた画像は、18個の正六角形で構成された、大きな正六角形に形作られました。

「・・・・18基・・・?、一辺20kmと言うことは・・・。」

「ギガフロートの名の通り、一基で約1000平方キロメートル、東京都の約半分。18基で18000平方キロメートル、岩手と神奈川を足した位の面積だ。」

「 !!!! 」

・・・部屋を沈黙が支配しました。





「・・・・く、クククク・・・ワッハッハ!!」

長く沈黙が続いた後、その沈黙を破ったのも榊。
最初抑えていたものの、榊が盛大に笑い出しました。

・・・お気持ち、お察しいたします。

・・・兄さま!、いえ、彼方!!
スケールが・・、スケールが違いすぎますっ!!

紅蓮も鎧衣も、真耶まで呆れているではありませんか!



「ククク・・、いや失敬。余りにも想定外の話で、箍が外れてしまったものでな。

・・・成程、3年で岩手県まるまる1個分以上の水田か・・・。当然残る稲藁も合成食料の原料とすれば3年後には500万トンを優に賄える計算だ。その為に1000万の難民のうち、かなりの数に職を与える事も可能だろう。
しかし、君の話によれば、佐渡島は既に瀬戸際、年初には殲滅が必要なのだろう?
その間3年、いや、2年間はどう耐え忍ぶ?」

「・・・・後で見せようと思ったが、この“コア”には、過去10年間の間に、“シャノア”に委託された“廃棄食料”が備蓄されている。」

画面に表れる広大な冷凍倉庫。

「・・・廃棄食料?!」

「崩壊するユーラシア各地に、兵器以外の輸送を統括していたのは“シャノア”だからな。
特に前線への国連無償物資の調達を一手に引き受けていた。」

「・・・・。」

「この食料は、受け取り手の居なくなった物資の一部だ。」

「 !!! 」

「無償物資だからな、国連も返送費用を出さない。再配送するにも、手続きが煩雑。唯のモノにお金を出すより良いと結局廃棄してくれの一言。
その半分は、シャノアが独自に食料が枯渇している難民収容所に配布したが、残り半分はこうして“危急の時”に備え備蓄された。」

「・・・・・・総量はっ!?」

「約1000万トン。」


掴みかからんばかりで詰め寄った榊の顔が、徐々に紅潮しました。
みるみる瞳が潤み、目尻からこぼれて行きます。

・・・ワタクシも視界が歪みます。



「・・・・・・・・感謝するっ!!」

榊の人生すら感じさせる万感の籠った言葉は、ワタクシの気持ちをも代弁してくれました。







「・・・・・・・俺としては、人の手柄を盗っているようで、微妙に心苦しいんだがな・・・。」

ポツリと彼方がこぼした愚痴には、けれど皆して笑ってしまいました。


「ついでに言うと、これも悠陽の指示とすればいい。
XM3の開発依頼、導入、それによるBETA侵攻の指揮・制圧。そして新天地の創造。
食料の出処に関しては、あまり公にすると国連が渋い顔するから、無償供与が途切れた後、国内余剰の備蓄と、言った方がいいだろうな。
こんだけ功績があれば、九條も文句は付けられないだろ。
どうせ転覆させる気だろうが、現段階での帝国の崩壊は米国の望むことでも無いからな、国力の増強は寧ろ歓迎すべきこと。
それごと接収しようと画策するだろ、クーデターで。

けれど帝国軍だって、本来内閣管轄。
今までは首相が何も言わないから好き勝手していたが、首相が統括権を返還すれば、悠陽一統。
今何も掴んでいないと油断している隙に調べ上げて、奉還と同時に一気に汚染要素を徹底排除すればイイ。
その際には、対BETA新戦術構想が、殿下の要請の元、第4計画で策定されたこと、先の傀儡跋扈する帝国軍と隔絶する必要があったこと、国連横浜基地が第5計画や米国専横に対する牙城であること、そして榊首相が殿下の要請を受け、第4計画を誘致したことを明言してしまえばいい。

・・・そこは鎧衣課長、任せてもいいか?」

「御意。・・・ご協力は?」

「・・・・・ああ、する・・・・・・が、その返事はないだろ?」

「おやおや、これは異な事を。コレだけのモノを供しておいて、大権奉還させた当の殿下は放置する、と? まだ17の殿下に重い責任を負わせ、ご自分は知らぬ存ぜぬ、とでも?」

「・・・・・・・・コイツ[タヌキ]もか・・・。」

「帝国の安寧に貴殿[●●]は必須の要素かと思うもので。・・・如何ですかな、榊殿。」

「然様ですな。」

「チッ!、・・・クソ親爺どもめ。覚えてろよ、過労死寸前までこき使ってやるからな。」

「望むところですな。帝国のためなら、何時でもこの老骨埋めましょうぞ。」

「・・・・・・・悠陽・・・折角XSSTもあるし、コアまで行ってみるか?」

「!!、是非もありません!」


話を強引に逸らされましたが、今は未だ訊かずにおきます。

ワタクシは笑う榊達に弄られ、苦々しい表情の彼方の腕に、そっと掴まりました。


Sideout




Side 真耶


高天原。

太平洋上に突如出現した、メガフロート。今後ギガフロートにまで成長するという。

“コア”を中心とし、今は6片の花弁を形成するように、6つの正六角形が配される。

XSSTに搭乗し、光学迷彩をかけて光線級照射の心配ない高度で一気に房総半島を横断、音速を突破すると約400kmが約10分の距離。

そこで上空から見ると、それは海上に咲いた巨大な花。今は霞掛かった雲を纏い、光学迷彩も掛かっているようだが、此処まで近付いてしまえば関係ない。

“コア”の正六角形でも一辺が3km。単体で23平方キロメートルの面積を持つ。
取り囲む周囲の正六角形、一辺は6km。面積は94平方キロメートルに達する。それが6片だから、その巨大さが判る。
3月までには稲作用の一辺20kmの正六角形という広大な浮島が、さらに最外殻に設置される。

浜離宮のヘリポートと異なり広い滑走路を悠々とランしたXSSTは、ターミナル直近に停止する。上空を通過する航空機が殆ど無い、形成を海面下で行って居ること、人工雲の発生に、遠距離光学迷彩、ついでに電子的欺瞞を偵察衛星に仕掛けることで、今は存在を誤魔化しているという。

なので、降り立てば、地下に潜るようなターミナル以外は、構造物のない、平坦な“大地”。
海の上だが、ほぼ中央に位置するため、縁まではおよそ2.5km。
勿論揺れも感じず、海の気配すら希薄だった。
それでも、周囲360°は、水平線。海の上に浮く、真っ平らな“土地”だった。


ターミナルから内部に入る。

この“コア”の施設についてのみ、過去10年に渡って“御子神彼方”が準備し、建造してきたと言う。滑走路を初めとし、地下には、正に1個連隊が駐留出来るだけの施設も伴っていた。
哀しいことに防衛のため、そういう設備も必要と言うことだ。

“コア”自体は極秘に建造してのち、神奈川観音崎沖の海溝に沈めて置いたという。
G弾余波の落雷に逢ったのも、この施設の無事を確認する為だったらしい。
以降、施設は自律制御で維持してきたが、彼方の帰国後再起動され、その後原料であるメタンハイドレートを確保できるこの位置で、本来の姿に“形成”を開始した。

「・・・・外殻で生成して、徐々に硬化蓄積する珊瑚みたいな成長だが、珊瑚に比べれば成長速度は桁違いだ。無論、それほど精密な形状制御が出来るわけではないから、内部に空洞を持ったおおよその形状に成長させた所で、人の手を入れる必要が生じる。」

と言う事だ。

“コア”は、その余剰メタンによる大型リアクターを有し、全てのエネルギーを供給するらしい。

更には、様々な実験施設。
稲作水耕栽培や野菜類栽培のサンプルも在った。
野菜や、根菜類に関しても、表層下、第2層で育成が可能。その場合は、太陽光ではなく、EL(エレクトロスミネッセンス)光による温室栽培となる。
区画ごとに気温湿度を調整可能なので、根を保持する炭素繊維メッシュの敷き方と水のやり方で多様な品種に対応可能、謂わば野菜工場が実現する。
当然、将来的には、畜産区も設置可能なのだ。

勿論、工場などの建設も可能であるが、その利用計画に付いては、殿下、ひいては政府に一任されることになる。



それらを一通り見学し、賓室に戻ってきた。
基本的にまだ人のいない施設。
茶を淹れてくれたのもあ奴だ。

「「「!!」」」

玉露!?、しかも今では決して手に入らない最高級品。しかも、温度、淹れ方が完璧だ!

「これは?」

「ああ、これは昔の俺の個人的な備蓄。」

そう言ってウィンク。
嗜好品まで個人で備蓄だと? ・・・狡い奴だ・・・。




「俺は“場”とそれに伴う“エネルギー”を供することしかしない。
・・・今は、存亡の瀬戸際。出来る限り迅速にどの様な構想で、どの様な設備施設を建設し、避難民の移民計画につなげるか、農政労務はどうするか、全てを策定し、立ち上げなければ機を逸する。」

「それは重々承知しております。・・・榊、早急に極秘のプロジェクトチームを結成招集しなさい。
移民の第1陣は調査・建築関係者で11月中の公表を目処に、来年以降の施設計画と移民計画を策定するのです。」

「は!、然と承りました。」

「11月の半ばに大権奉還すれば、その時に発表され、以降は欺瞞も解除、海上に浮上し、以降沈むことはないだろう。
全世界が知ることになるから、以降の外交も考えておいたほうがいい。
特に、国土を喪ったソ連、中国、EU等、ユーラシア諸国にとっては、垂涎の的になる。移民のうち10%位は、多国籍の受け入れも検討した方がいいだろう。」

「・・・・この技術は供与する事が出来るのですか?」

「・・・正直言えばしたくない。
米国が、グレイ元素関連の情報を隠蔽している様に、イロイロやばい技術もある。
あと動力源であるリアクター、元々作っていた神戸が壊滅しているから、再び作れるように成るまで、10年は掛かる。
公海にあるメタンハイドレートの争奪戦も始まろう。無造作に掘るとメタンハイドレートの堆積層そのものを崩落破壊しそうだから、無秩序に遣られると困る。
ここはその意味でもギリギリ200海里以内を狙って作っている。
・・・・それを承知で外交カードとするなら、それもいいだろう。
・・悠陽の判断に任せよう。」

「承知致しました。・・・感謝を。」

「当然、守備隊も必要だろうな。浮かんでいると下からの潜入も厄介だから、海神系も必要。」

「承知つかまつった。
・・・・出来れば殿下が指示した将軍領として、斯衛を配するか。第1・2連隊から1大隊ずつ出すことを検討しよう。」

「鎧衣課長は情報統制も宜しく。」

「・・・御意。・・確かに人使いは荒そうですなぁ」



明るい笑いだった。

何という一日であった事だろう。

風の女王[XSST]に乗り舞い降りた2人の若者は、確かな“希望”をもたらしてくれた。

その言は壮大で、敵は強大、道のりは短くて急峻。

それでも白銀少佐は、その“武”で、自らの言葉を証明し、あ奴は、その“智”で、帝国の未来を供してくれた。



そして、すっと殿下があ奴の前に立つ。

「・・・彼方・・・・、対価は・・・、ワタクシは何を返せばその御恩に報いることが出来るのでしょうか?」

「・・・・悠陽個人に返して貰う事じゃないな。
これらは帝国の安寧、ひいては人類の存続に繋がると考え、託すモノだ。
少しでも多くの人類が生き延びること、それが最高の対価だと思って居る。」

「・・・・。」

あっさり言い切るあ奴。
答えを聞いて、そして、殿下はその左中指の指輪を外す。

「これを、受け取っていただけますか?」

「・・・」

「煌武院悠陽の、信頼の証、です。」

周囲が息を呑む。

「・・・・流石に拙くないか?」

・・・その反応は知っているのだろう。
それは、本来陛下の全権代行たる殿下の、“名代”に与えられるモノ。
即ち軍に在っては斯衛軍総帥代行、国政にあっては全権代行、その名代として下命できると言うものだ。
殿下の絶対的な信頼の証であり、将来もし別の者が夫に成ったとしても、渡される可能性は低いという、とんでもない代物であった。

「・・・俺自身は、まだ会って1日も経ってないんだけどな・・・。」

「時間は関係ありません。何の見返りも求めず、帝国のため、人類の為にこれだけのモノを授けていただいた方を信じず、どなたを信ずというのでしょう?」

「・・・わかった。固辞は逆に不敬に当たるな。」

「はいっ!」

嬉しそうな殿下にあ奴は優しげに微笑んだ。

「・・・これはけど、お返しが必要だな。」

そう言ってあ奴は、一度退出した。
そして戻ったときには、羅紗の袋に包まれたものを持っていた。

「・・・復権する政威大将軍だからな。この位が相応しいだろう。
本来は薙刀使いらしいけど、大太刀だから近いしな。」

殿下がその束を受け取って、紐を解く。
中身は日本刀、それも3尺を越えそうな大太刀だ。

華美ではないが、重厚な趣の誂え。
何層にも重ねられたであろう、漆は黒く透明な飴にすら見える。

殿下が懐紙を咥え、鞘走れば、見事な乱れ波紋。

「!! まさか?!」

目釘を外し、束を外す。

銘 嘉暦元年十月相州住正宗、そして“一”の切り銘。

「・・・岡崎五郎入道正宗。
96年に相模の鎌倉時代の集落跡で、凝固した油塊が発掘された。中に入っていた一振りがこれ。
恐らくは、焼き鈍し用の油槽にいれたまま、何らかの理由で放置され、凡そ1000年の時を眠っていた極物。
世に出てないから享保名物帳にも記載されず、江戸期の大磨上もされていない正宗真正の大太刀。
人の鍛えた破魔の太刀としては最高峰。政威大将軍の持ち物として相応しいだろ。
悠陽の未来を切り開いて呉れるよ。」

刃紋は遠目にも、[のた]、変化・働きと言った刃紋にみられる様々な文様がそこらの刀と格段に違う。
匂いと言われる粒子の文様が刃一面に敷かれ、それはもはや刃そのものが匂いで出来ており、それ故一点の曇り無く冴え冴えと見える。

国宝として現存する正宗の、どの作よりもそれらの完成度が高いのが見て取れた。


殿下が震える手で刀身を閣下に渡す。

同じように懐紙を咥えた閣下が重く、呻った。

「筋金入」の語源でもある筋金が、尋常では無いほど入り、その映りは“曜変の妙味”が、正宗の“神髓”であると言われる。

それをまざまざと体現した刀身は、紛れもない真作としか思えなかった。

嶺、幅は薄めながら一点の瑕疵もない完璧なコンディション。
刃先が揺らめいて光るかのように、澄んでいる。


閣下が刃の上に新たな懐紙をフワリと墜とせば、なんの抵抗もなく、すり抜け、2つに分かれた。

「むぅ・・。正に正宗、真作に相違在りませぬ。」

これは既に煌武院家に伝えられる宝刀さえも凌駕する業物。
凡そ1000年に渡る日本刀の歴史に於いて、頂点と言っても過言ではない一降り。
歴史の中に埋没していった筈の、幻の一振りだった。


「こ、このような物を「俺の悠陽への、信の証。受け取ってくれるよね?」・・・・・・・・承知、いたしました。・・・そなたに全ての感謝を。」

ニヤリと笑ったあ奴は、殿下の頭を軽く撫でる。

・・・殿下、嬉しいのは判りましたから、尻尾を振るのはおやめなさい。









「さて、食事もここで良いかな?」

「え?」

「悠陽に鍋物は失礼に当たるかな?」

「それは・・・、ワタクシは構いません。」

「そっか。なら用意しよう。」








そうして饗された夕餉。

今は手に入らない神戸牛のスキヤキ。
野菜も特殊な冷凍技術で凍結解凍されたしゃきしゃきのネギや春菊。
豆腐や白滝すら天然物。
極めつけが、長期低温貯蔵していたという、新潟魚沼産コシヒカリ。
そして親爺達には、八海山純米大吟醸。

政威大将軍をして、今となっては決して食せぬ品々。

あ奴の鍋将軍ぶりも、様になっていた。


「・・・彼方はいつもこのような食事を?」

「まさか。これは此処にある個人的な備蓄。帰国以降、此処に来たのは3度だけ。
使い切ったら終わりだし、普段基地ではみんなと同じ合成食料だが、此処が軌道に乗れば、それも改善するな。
まあ、そこそこの備蓄量は在るから、折に触れまた提供する。外交とかにも必要だしな。
多分、今では2度と手に入らないモノもあるし・・・。」

「・・・」

「そんな顔しなくても、また、作ればいい。
土壌や水質もコントロール出来るから、新潟に近い風土は、ここでも再現出来る。
コシヒカリやササニシキの種籾もある。いまから頑張れば来年の春には作付けできて、秋には新米が穫れるはず。」

「!!!」

「米が穫れれば清酒も醸造可能。勿論牧畜も可能だから、5年後くらいには、食肉の供給も始められる。」

「・・・・」

「そしてBETAを駆逐すれば、国土も戻して行けばいい。」

「・・・・はい!!」

殿下が応える。

その示される未来が、決して願望や空想ではない。

確かな希望が、そこには存在した。


Sideout





[35536] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 12:00
'12,11,04 upload
'12,11,06 ほんのちょっと追記
'13,01,19 誤字修正
'15,01,24 大幅改稿(pcTEに準拠)
'15,12,26 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side 唯依


私は一体、何を遣って来たのだろう・・・。


講堂の片隅に座りながら、一人自省する。


遠く離れてしまった、今では心から“仲間”と呼べる彼ら。

幻だった“恋”、そして決してそう呼ぶことはない“兄”。


自分が必死に積み上げたその全てを、軽々と凌駕してしまったかのようなOS。
それは、命がけの死闘を、悩みぬいた日々を、あっさりと否定された様な気がしたのだ。




昨夜の話では、叔父様はプロミネンス計画参画について、8月の弐型Phase2ロールアウト時点での離脱も視野に入れていたらしい。
AH戦を目的としたブルーフラッグは、対BETA戦を想定したXFJの本筋から外れる、と考えていたからだという。

しかし、帝国軍総合参謀本部は、対人戦に拘ったとの事。

元々の対象は違っても、XFJ計画が謳って居るのは、“他国第三世代機と同等以上の機動性及び運動性”であり、その比較対象機がEF-2000やF-22Aなのだから、評価には最適と言われてしまえば、叔父様もそれを跳ね除けるだけの明確な根拠はなく、ズルズルとAH評価に突入した。

そして巻き込まれた大規模テロ。

テロの一環で開放された連隊規模に及ぶBETAの襲来。
それにより、BETA侵攻を留める為極秘裏に設置されていた、核起爆による最終防衛手段:“レッドシフト”発動の瀬戸際にまで立たされた。
基地所属の部隊や米軍の働きもあり、その侵攻はテロ自体とともに何とか撃退したものの、テロ主導者は逃亡、開発部隊やプロミネンス計画そのものにも多大な犠牲を出すこととなった。

その復興初端、22日に私自身は狙撃された。
一時は生死の境を彷徨ったらしいが、父様の遺品である懐中時計が弾道を僅かに逸らし、心臓を避けた僥倖により一命を取り留めた。
基地は、テロ残留犯の犯行と位置づけたが未だ犯人は不明。

だが意識を回復した後、私自身は巌谷中佐にその意図を伺った。
帰国命令に厳罰も辞さない覚悟で抗命した居り、背景を説明してくださった。

XFJ計画擱座によるソ連製戦術機の売り込み・・・。

ユーコンに蔓延る国際的な陰謀の禍根は深い事を、身を以て知らされたのだった。
尚更こんな脅迫に屈するわけには行かない。
必死の説得に、私は継続を承諾していただけた。


そして復帰した私を待っていたのは、迎えてくれる笑顔と、そしてユウヤからの分厚い上申書だった。

内容は正に驚愕の一言。
よくぞここまで不知火弐型Phase2を理解し、改善点を見つけてきた。
更に示された対策も確かな機動に裏打ちされたもの。

私が死んだと偽って療養する中、ユウヤは失意や悲嘆に暮れること無く、私が望んだであろうことを為すために只管騎乗を繰り返したという。

その情熱と想いに負けぬよう、そしてSu-47を凌駕すべくハイネマン氏に帰国後実施される予定だったPhase3実施の前倒しを打診した。
そこで得られた了承、そして知らされた驚くべき真実―――。



ユウヤに流れる血は、自分と同じ血―――。
それは紛れもなく父の血。
ビャーチェノワ少尉に呟いた“恋敵”など幻。
余りにも儚く消えた “初恋”。


その日私は、ステラに抱き締められて泣いた。




―――後日、約束だった肉じゃがを饗した折、ユウヤの生い立ちや、その母の秘めた想いに触れ、そして自らの父と母の想いを知った。
そして、私は篁家当主の証である緋焔白霊を、ユウヤに託した。





イーダル1衛士の不調により延期されていたSu-47との評価試験が25日になって漸く再開。
不知火弐型Phase3で1on1を実施したユウヤは、Su-47と拮抗し最後はイーダル1の自爆という形で決着した。
恐らく衛士の再不調に依るものと思われるが、ソ連側はそれを隠蔽し情報を開示しない。
前回の不調から衛士の万全を期し、半月以上の時間を掛けたのだ。
これ以上の引き伸ばしは此方としても認められるものではなく、評価試験は完了となった。


ところが、その日の内に突然不知火弐型Phase3に嫌疑が掛けられた。
米国武器技術不正流用容疑―――。
チームメンバーは全員拘留、任意事情聴取と言う名の、取り調べを受ける事態に陥った。

担当した捜査官の口ぶりでは、Phase3に特殊なオプションが装備されている事に自信を持っている様子。
自白を誘導する様な、そして自国の技術を自慢する様な話に正直腹が立ったが、ただ只管耐え、事情聴取は膠着していた。

Phase3機体の査察―――。
その結果次第ではXFJは瓦解する。
唯の疑惑、唯の尋問であるなら、何日でも耐えるのみ。
私自身の行動に何の恥じ入るところも無いが、私の与り知らぬ所で政治絡みの謀略に巻き込まれているとしたら・・・?


しかしその危惧を他所に、事態はまたも急転回。
何故か夜には“高度な政治的判断”との事で、無罪放免。
機体査察の実施も取りやめられた。

そして訳がわからぬ内に、巌谷中佐に急遽日本に呼び戻されたのだ。




当然、今回の評価試験、及び不正流用疑惑に関する詳細報告だと思い厳しい譴責を覚悟して帰路についたのだが、疑惑については僅かの問答で納得してしまった様子。
正直拍子抜けしたのも確かだった。


だが、その安堵も束の間。

私を待っていたのは、奈落への崩落。



―――見せられたのは、自分の努力の全てを否定される様な、映像だった。








[]の不知火を駆って、見たこともない3次元機動で光線属種のレーザー照射を躱し、師団級のBETAを翻弄していく。
ユーコン事件で自分たちがあれだけ苦労した光線級を含むBETAの群れを、唯の作業のように無力化していく様は、当初、在り得ない、との想いしか抱けなかった。
シミュレーションなら、設定次第でいくらでも無双は出来るのだ。

しかし確認すれば、難易度はS。
国際的に訓練の統一を図るため、レギュレーションが厳密に定められているシミュレーションである。
記録映像の欺瞞など出来ないのだ。
スコア340万は、連隊規模のBETAを単騎で制圧したということ。
つまりこの衛士が居れば、ユーコンの街は陥落しなかった。

内心絶望を感じながら、何の冗談ですか、と返した私に、叔父様が次に見せてくれたのは、その日の午後に行われたという、模擬戦の映像。
嘘も偽りも通じない、実機でのJIVES実写映像。
“赤”の武御雷に対したのは、[]の不知火。
その不知火が、さっき見たシミュレーションと同じ3次元機動で、“赤”の武御雷、それも金の彩色角は国内最高峰の衛士と言われる紅蓮閣下を翻弄していた。
機体の圧倒的な性能差を覆し、殆ど一方的に攻め続け、最後には腕一本と引換に大破判定を奪った。





・・・判ってしまったのだ、私は。

自分も、そしてユウヤの駆る不知火弐型Phase3でさえ、この不知火には勝てない、と。

武御雷さえ凌駕するこの不知火が、既にXFJ計画の目標に十分届いているだろう、と言うことも。




機動が、その概念が、違いすぎる。

武御雷のパワーに敏捷性を以て拮抗し、紅蓮閣下の技量を3次元機動で凌駕する。


それは、この半年自分が、そしてユウヤが遣って来たことを、全て否定されたとしか思えなかった。

文字通り何度も命を賭け、地ベタに這いつくばって成し遂げたものさえ、今目の前にあるこの輝きの前には、余りに矮小に思えてしまう。







昨夜、叔父様の計らいと斯衛軍第2連隊隊長の斉御司大佐のご好意により、飛び入りで教導に参加させて頂いた。

体験したXM3は、チュートリアルからして、その動きが違う。
重く動きの悪い鎧でも脱いだかのような、応答性と敏捷性。
自律機動に一切縛られない動きは、それだけでも世界が違った。


量産すれば、たった数千円のCPUと、製造コストすら掛からないソフトウェアだけで、成し遂げた莫大な成果。
CPUの量産が間に合わないため、当面はこの北の丸に駐屯する部隊、独立護衛小隊に優先的に配されるが、CPUさえ既存の仕様で動作するというデチューン版XM3Liteも供されているらしい。
殆どコストを掛けず、今ある戦術機全体のレベルを一気に底上げしてしまう画期的な技術。
・・・正に奇跡のOS。
戦術機の革命とも言えるOSだった。


そして、その極みとも言える、白銀少佐の機動。
一体どんな操作をしているのか。
その差をまざまざと見せつけられるような、鮮烈な挙動だった。


その思いは、教導後に見せられた技術資料を見て、さらに深まる。
この自然な動きが何故なのか、それがパーソナライズと、統合制御。
ルーキーからベテランまでに合わせて機体反応を調整し、慣熟すれば慣熟するほどに、向上する機動性。
その終着点が、あの白銀少佐の機動なのだ。
これを組んだのは、“神”かとさえ思う。



素晴らしいOS。そしてこのOSが齎すだろう輝かしい成果。

それが、素晴らしければ素晴らしい程、輝かしければ輝かしい程、私は自分の情け無さに、身を竦めるばかりだった。




今朝、朝一に挨拶した叔父様には、控えめながらユーコンに戻ることを打診した。
日の光を避ける様に・・・。

しかし昨夜も言われた通り、Phase3の評価試験が終了した今、もはやユーコンで遣ることはない。
プロミネンス計画に於けるXJF計画は、実質完了と言う事になる。
あの地で、これ以外に遣ることがあるのか? それがXFJ計画の仕事か?、と問われれば、返す答えはない。

これ以上プロミネンス計画に参画する意味はない、それがXFJ計画そのものの推進者である巌谷中佐の判断であるなら、自分に意見具申する事など何も無い。
不知火弐型Phase3に関しては、費用がボーニング持ち出しである事もあり、当面アルゴス小隊に留めおくが、私の武御雷については、既に移送の手続きも取られていた。

勿論、今の状況で自分がユーコンを突然去る事が、不義理に当たることは叔父様も認識していた。
代わりに供されたのが、昨夜見せられた驚愕のシミュレーション映像らしい。
人類から空を奪った光線属種の照射を悉く躱し逐次殲滅していく異次元の機動。
そして限定的ながら、それを実現した新OS【XM3Lite】の提供も考慮の余地がある、と打診していた。





ユウヤはこの映像と、私の代わりに供される新OSに、何を思うのだろう。

それを知る術すら、私には残されていなかった。




一方でXFJ計画の責任者としての巌谷中佐に指示されたのは、XM3の“理解”と“慣熟”。
未だXFJ計画自体は存続しているのだから、XFJのOSがXM3に成るのは当然の事と言える。

けれど、事此処に至り、私の出来ることなど何もない。
これほど完成されたOSの何処を弄れと言うのか?

ユーコンに戻ることも成らず、よしんば戻っても遣ることはなく、ただ想いを持てあますのだろう。
そして、帝国斯衛軍中央評価試験中隊は、新たな上官を迎える。


・・・・私の居場所など、もう何処にもないのだ。








「それでは、XM3特別教導に当たり、XM3製作者である国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊技術少佐、併せてこの都度、帝国斯衛軍中央評価試験部隊にも技術少佐として籍を置くことと成った、御子神彼方少佐にお話を戴く。」


会場がどよめいた。

あの、とか、弾劾者とか、生きていたんだ、と言うざわめきが聞こえたが、私には何のことだか判らなかった。

壇上に飄然と現れた男性に、時ならぬ拍手が湧いた。


既に概念発案者である同じ国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊に所属する白銀武少佐は、昨夜の教導後に挨拶を済ませていた。
今は壇上の後方に座している。少佐でありながらヘッドギアを外せば、まだ少年の面影さえ残る同じ歳。
チュートリアルに続く初期教導は、相当に厳しく、動かない者には容赦ない叱咤が飛んだ。
このOSは動いてナンボだと。

しかし教導中の厳しい指摘とは裏腹に、事後は年相応に気さくな雰囲気の挨拶。
あの凄いOSを発案した人物とは思えないほど腰が低かった。
15の歳に戦地任用され、以来機密部隊で極めて危険度の高い任務を潜り抜けてきたという。
その部隊のたった一人の生き残り。
同じ’98年に繰り上げ任官しながら、この差は何だろう、と更に落ち込んだ。


「紹介戴いた御子神彼方だ。
失敬に当たるとは思うが、XM3教導中は階級を無視して構わないとの言を紅蓮閣下より戴いているので、此処では敬語省略して話させて貰う。」


少し高圧的な言葉に、場が少し鼻白む。
昨日の白銀少佐の人懐っこさとは正反対だ。


「・・・XM3の初期教導にあたり、その概念を説明するが、其れに先立って貴官らに感謝を伝えたい。
・・・BETA禍以降永きに渡るその間、帝国を、そして殿下をまもりぬいてくれたこと、深く感謝する。
・・・ありがとう。」


え?との戸惑い。
シンと静まる講堂。


「貴官等がその時間を作ってくれたからこそ、漸く貴官等に報恩できるOSを届けることが出来る。
このOSは、貴官等の、此までの精勤の成果だと誇って欲しい。」


そしてにっこり破顔した。

再びの巻き起きた拍手と、そして歓声。

・・・そうだった。
あのルーキーにまで心配ったOSを組んだ人なのだ。
現場の苦労をおもんばかっていないわけがない。



それに比べて私は・・・・。

こんな現場の重い期待を本当に理解していたのだろうか?
それを何時しか忘れ、XFJ計画を完遂する事そのものが、目的になっていたのではないか?


「それでは、煌武院悠陽殿下のご依頼と、此処に居る白銀武少佐の発案により、実現した新OS【XM3】についての説明を始めよう。
と、言っても昨夜のウチにチュートリアルを実行している貴官等は、既にXM3の実現した機能、先行入力やキャンセル、コンボ等については理解していることと思う。

そこで今回は、それら機能の基礎概念を理解して貰い、今後の慣熟に生かして貰いたいと考える。

さて些か唐突ではあるが・・・この中で、野球の投球には自信のある者は居るだろうか?
そうだな、投球の初速が140lm/hを越える、と言う者が居れば、挙手願いたい・・・、うん、貴兄の名前は?」

「は!、第16大隊所属、田中優中尉であります!」

「職業野球の無い今、140km/h越えるのは凄いな。
どの位練習した?」

「は、小学校でリトルリーグに参加以来、徴兵までの10年、また今も身体作りの傍ら、同期とキャッチボールを続けております。」

「そうか。では田中中尉に尋ねよう。
戦術機の体格は、人体の約10倍、つまり10倍のリーチを有する。
戦術機を使えば、140km/hの10倍の1400km/h、つまり音速を超える[●●●●●●]ボールを投げられると思うだろうか?」

「え?・・・・・・・・・自分には、無理だと愚考します。」

「うん。今までのOSでは無理だろう。
そしてXM3は、其れを可能とすることを目指したOSなんだ。」

「え・・・・?」


あっさりと言い切る。
御子神少佐は、講堂をぐるりと見回し、徐に話を進めた。


「では、まず何故田中中尉が140km/hで、ボールが投げられるのか、を考えてみよう。

人体の運動は、骨格による関節を、筋肉で動かす事で成り立っている。
つまり人の運動で、直線的な伸縮という運動は関節の遊び程度しか出来ず、その大部分が回転運動で成り立っていると言うことになる。
我々は、生まれて以降赤子の頃から、この回転運動を使って如何に動くか、という訓練をしている。
当然生まれたばかりは、何も出来ない。
全身の筋肉を、統合して動かす制御モデル、所謂動作の“脳内モデル”が皆無だからだ。
それが、座る、這う、立つ、歩く、走る。
赤ん坊が成長に連れ、徐々に身体を自在に動かせるようになるのは、脳の発達に伴い、これらの動作モデルを順次形成していくからである。
全ての動作は、徐々にそして何度も訓練し、脳内にそのモデルを構築することによって全てを実現してきているのだ。

先の田中中尉の投球術も同じである。

彼は小学校以来、否恐らくはそれ以前から“投げる”と言うことを“訓練”してきた。
それがリトルリーグで更に進化し、投球に必要な筋肉量を増やしたり、関節の自由度をより大きく使うフォームに変更したりしてきた。
元々肩や全身の筋肉が強い等の個人的資質も在っただろうが、結果として、田中中尉の脳には、140km/h級の速球を投げる動作モデルが形成された事になる。


ここで、それは、一体どのようなモデルなのであろうか?

先に言ったように、人体の運動は、殆どが回転運動である。
その時、関節の強度や、筋肉の性能から、人類のみならず、ほ乳類では最大で20rad/sec程の角速度を発揮できるとされている。
だが、田中中尉のリーチは、70cm程度。
最大の角速度でも指先の速度は14m/sec、つまり時速にすれば50km/h程度の速度しか出ないことになる。

では、田中中尉は、どのようにボールを投げる?」

「・・・全身で投げます。
こう・・、大きく踏み出すことで足の力を腰に溜め、更に速度を腕に乗せるような・・・。」

「その通り。
足による踏みだし、その重心移動と腰の回転、肩の回転のタイミングを合わせ、その回転を腕の振りにのせる。
肩だけではなく肘を使い、最後に手首のスナップや、指の力まで使ってボールを押し出す。
即ち70cmのリーチではなく、全身、正に足先から指先までの距離約2m、それらを全て連動させて、全ての関節で20rad/secを発揮する。
結果的に重畳された指先は40m/sec、時速にして144km/hの速度を実現しているわけだ。

身体の成長、筋肉の充実、そして脳内モデルによるそれら全身の動きを統合した精緻な投球術、それをもたらしたのは、過去10数年に渡り田中中尉が磨いてきた努力から投げられるようになった、と言うことになる。」

「・・・。」



「次に何故戦術機では、それが出来ないのか、それを今度は考えてみよう。

今までのOSにも間接思考制御という搭乗者の思考をある程度反映するシステムが搭載されている。
しかしその自由度は少なく、また習熟するまでに長い時間が掛かる。
戦闘機動を覚えるだけでも大変なのに、投球など遣る価値も暇もない、と言うことだろう。

更に今までのOSには、機会都合で決められた自律機動による“硬直時間”が存在する。
態と不安定な状態から踏み出して投げる、人体では自然な投球動作が、“不安定”機動として、硬直させられかねない、と言うことになる。

つまり全身を連動してボールを投げるような動作を実現するのは、間接思考制御を最大限使わなければならず、そしてそれを実現しようにも、自律機動がそれを阻害する、故に田中中尉は出来ないと応えた。


ここで、XM3の特徴である機能を思い出して欲しい。

“先行入力”と“モジュレーション”は、滑らかな機動と緩急を付けた人体の動きを実現するもの。
“キャンセル”は自律制御そのものの制限。

そして“コンボ”は、一連の動作の登録、つまり、“脳内モデル”そのものの実現に当たる。


即ちXM3は、人体が実現する動作の基本である“脳内モデル”を、戦術機の内部[●●●●●●]に再現することを目指したOSである、とも言い換えることが出来る。」


シンと鎮まっていた会場が息を呑む。

いつの間にか聞き入っていた私は、昨夜の資料が思い出される。
“統合機動制御”・・・これは、人体の動作システムを、そのまま戦術機に実現する事だったのか!


「その為に、今まで静的な領域、つまり硬直時間によって無理矢理抑制していた反動やバランスを取り戦術機の保護を図る自律機動を、全体の動作の中で動的に処理することを組み込んだ。
人体と同じように自律機動のみならず、その機動の元と成る電磁伸縮炭素帯や、燃料電池スタックの流量まで、全ての制御を統一した機動モデルの支配下に置いた。
そこから、搭乗者の意志、即ち先行入力による行動を最適な機動で実現しつつ、発生する反力やバランスを失墜を、他の稼働部位、つまり全身で動きながら対応していく。

当然、最初は制御の範囲を越えれば、転ぶ。
赤ん坊が、何度も転ぶように。
その中から、自分に合った最適な制御が出来るように成るわけだ。」


人の動作の成長過程を、戦術機で実現したOS。
それがXM3。
つまり人の動作で実現できるものは、すべて戦術機で実現できることになる。

白銀少佐の3次元機動は、さながら体操選手の床運動か。
しかも戦術機にはスラスターがあり、人体には出来ない平行移動が可能なのだ。

それらを組み合わせたのが、あの機動。


「では、XM3に関して赤ん坊である貴官等が、習熟するのは、永い時間が掛かるのか、と言うことであるが、それに付いては、“データリンク”が大きな意味を持つ。

人の動作に於いては、自分で体験し獲得していくしかない。
勿論視覚情報や、伝聞によるイメージで動作を構成して見る事も可能だが、それを自分のモノにするには、それなりの時間が掛かる。

しかし、戦術機の場合は、違う。
実際に今動かしているXM3の基礎モデルを組んだのは、全て白銀少佐だ。

そして複雑なモデル・コンボであっても、貴官等で動かす事が出来るのだ。
つまり、バック転をしたこともない者が、戦術機ならコマンド一つで出来る事と成る。

もちろん、それは白銀少佐の機動であり、クセがある。
その動作を“自分のもの”にするためには、勿論慣熟が必要となる。
だが、全てを自ら組むのと、手本があり、それを自分に合わせテイミングしていくことでは、掛かる時間がどれだけ違うか、判るだろう?

そして、その様に構成された成果が、コレだ。」


現れたのは演壇後方のスクリーン。
其処には、サイズ比としてボールくらいの石を手にした“不知火”。

それは、大きく振りかぶる。
リズムに乗るように上がる脚。十分に溜めたそこから、踏み出しと共に旋回する腰、上体の撓りと、腕の振り。
正しく体重を乗せた、流れるようなフォーム。

そしてその握られたボール大の石がリリースされた瞬間、どんっ!、と巨大な音がし、マッハコーンを残して虚空に消えた。


どよどよとざわめきが拡がる。


「・・・人体の10倍のスケールを有する戦術機。本体力を発揮し、荷重に耐える筋肉や骨格は、スケールの2乗に比例し、その重量は3乗に比例する。
その差を埋めたのは、CNT(カーボンナノチューブ)を初めとする複合材料であり、電磁伸縮炭素帯という筋肉を遥かに凌駕する出力を誇る技術である。
故に、人体以上の間接角速度を発揮する事の可能な戦術機に於いては、今見せた投球動作だけではなく、斬撃に於ける超音速剣すら可能となる。


つまりXM3とは、戦術機の全てを動的に統合制御しつつ、動作モデルを搭乗者に合わせて構築するシステムである。

今、貴官等の機体に換装しているOSにも、これらシミュレータで培われた個人の挙動がフィードバックされる。そしてなによりも白銀少佐の3次元挙動の基礎動作も反映されている。

だが、それを咀嚼し体得することでしか、それらは使いこなせない。
各自の特性や動作には個性があるからだ。
搭乗者の“クセ”を含んで制御を洗練していくテイミングや、過剰な反応を抑制するレベリングも同じく其れを補助していくが、最終的にそれらを成長させるのは、各人の予測に基づく創造力である。


このようにXM3は何も闇雲に即応性だけを求めたOSではない。
そして各人が精進することによって常に進化し続けるOSである。
その成果はデータリンクを介して、個にも全体にも反映される。


その事を意識して習熟して欲しい。」


三度、期せずして拍手が湧き上がる。

示された明確な概念は、極めて直観的で判りやすい。
そして何よりも、これなら自分でも出来る、と希望を抱かせるものだった。
コンボやキャンセルと言った機能重点の説明ではなく、その在り方。

単純に言えば、弛まぬ努力こそが、極致に至る道。
そう明言してくれたのだから・・・。



「ここまでで何か質問はあるか?」


2,3の質問に、御子神少佐は的確に応える。
そして続けて問われた質問。


「御子神少佐、及び白銀少佐は、斯衛軍と併属で、国連軍に所属しています。
なぜ、米国の犬と成り下がった国連軍に所属するのか、なぜ斯衛軍に戻ってきて下さらないのですか?」

「ふむ。まあ疑問はもっともだとは思う。
色々と細々した理由はあるが、ここでは其れには触れないでおこう。
我らが国連軍に所属する理由は、主に2つある。
その一つは、BETAとの戦いは、佐渡を取り戻せば終わり、では無いことだ。
つまり、ハイヴは世界中にある。
そして根源たるH1、オリジナルハイヴにしても、海外に存在する。
BETAとの戦いを見据えたとき、斯衛軍ではその行動に常に規制が伴ってしまう。
・・・それとも貴姉は、悠陽殿下に喀什まで遠征させたいと思うかな?」

「 !!!、 つまり国内のみ成らず海外ハイヴの排除を視野に置いた為、ですか?」

「そう言うことだ。
そしてもう一点、それは其処が横浜基地であるからだ。」

「横浜基地?」

「そう。貴姉は我らのハイヴ攻略戦を見て貰えたかな?」

「 !!、あのプラチナ・コードはやはりお二方が?」

「そう。で、おかしいとは感じなかったか?」

「・・・・・。」

「具体的には、S-11たった2発で反応炉を撃破し、モニュメントを崩壊させてハイヴ崩落させたところ、だ。」

「!!、は。確かに違和感を感じ、何度もデータを確認いたしました。」

「では横浜基地が何処に建てて居るのか、知っているか?」

「・・・!!、H22!」

「・・・敵を知らなければ戦なんか出来ない。
あの反応炉を2発で壊滅させた位置も、ハイヴを崩落させた情報も、全て横浜基地のH22を精査することによって得られたものだ。

米国の一部勢力が間違った方向に向かっていることは俺も感じている。
しかし、人類の存続という大命題を前にしたとき、国家間の争いなど二の次、と考えている。
故に必要と考える事を実施している。
何よりも、俺など居なくとも2年もの間斯衛は、正道を全うしてきた。
何れ全てを壊滅させた暁には、斯衛に戻ろう。
その時まで、貴君等に任せたい、と言うのは、俺の我が儘か?」

「!!、・・・はッ!、承知致しました。
小官は自分の持てる全てを以て、御子神少佐のご期待に添えるよう、精進いたします!」


全ハイヴの殲滅・・・。
遙か遠き理想としか思えなかったそれが、御子神少佐が言うと、出来るような気がしてしまう。





「さて・・・」


演壇の御子神少佐が声を上げると、少しざわめいていた会場が、すっと静まる。


「今後の教導について伝えるよう。
今後も、城内第2演武場に於いては、今日明日、及びその後も3日に一度、白銀少佐が登城し教導を行う。
とは言っても武の身も一つ故、特に個人教導を行う者は、此方で指定させていただく。
これは日々の訓練記録を元に、教導の必要性が在る者を優先的に行う為である。

このOSの習熟に於いては、先も言ったように日々の習熟が何よりも重要である。

その為の施策として、城内のシミュレータのみならず、今回CPUを換装し、XM3を搭載した戦術機にも、シミュレータモードを搭載した。

これにより戦術機に乗りながら、仮想現実の中で戦術機を動かすことなく、訓練することが可能となった。

まあGや傾きを体感させる程度には機体が動くことになるがな。

また、そのモードではデータリンクを用いた連隊規模の連携シミュレーションも可能である。
必要に応じて適宜司令官の下、訓練するといい。


そして更に、シミュレータモードに於いては、状況設定やBETA配置の他に、ナビゲータAIとアグレッサーAIを実装した。

今回の教導の成果は、各人毎に数値化してあるが、本人と上位者にしか公開しない。
その数値を元に、擬似教導を行ってくれるのが、ナビゲータAI・“まりもちゃん”である。」


ディスプレイに示される、3頭身にデフォルメされたアニメキャラに、御子神少佐の後ろに座っていた白銀少佐がずっこけた。


「網膜に示される彼女に聞けば、自分の現状スペック、コンディション、得手・不得手、それに対する有効な訓練方法を提示し、訓練モードのナビゲーションを行ってくれる。
また、コンディションが極端に低下したときは、中止勧告や、外部へのアラートも実施するお助けキャラだ。
勿論、CPUリソースを喰うから、シミュレータモード限定で、実機単独では動作しないからそこは期待しないように。

そしてアグレッサーAIが“たけるくん”だ。」


再び現れたキャラに今度は会場に笑いが零れる。

“まりもちゃん”は誰だか判らなかったが、“たけるくん”は明らかに白銀少佐のデフォルメ。


「笑っているが、このたけるくんの戦闘機動は、白銀武少佐をほぼ9割方再現している。
搭乗機体も吹雪・不知火・武御雷の3機から選択できる。
最初は手抜きをしているが、撃破すると本気度が上がる。
因みに本気度100%は、十分人外相当に達する。

タケルくんの不知火乗機・100%で、仮想人格によるヴォールクを単騎突入させると、10回中3回、反応炉破壊による自爆で終了した。

そのくらいの再現性と強さを持っていると、思って貰って構わない。

これらを使いこなし、先行入力やコンボに習熟すると、分岐といった上位概念が開放される。

そこまでが教導の一区切りといえるため、先ずは上位概念開放を目指して切磋琢磨して欲しい。」





コレは何?

私は戦慄していた。

それは会場の隅で蒼い顔をしている叔父様も同じだろう。

戦術機をシミュレータ化し、連隊規模の演習すら可能とする大規模通信シミュレータ、一人の衛士の戦闘機動を忠実に再現する仮想人格。
その思想だけでも尋常ではない。
アイデアというレベルではなく、実用可能な機能として実装して見せたのだ。
確かに必要なのは今回XM3に合わせて換装されるCPUとそして、システムだけだ。

しかし、こんな発想は無かった。

しかも、それをあっけなくぽんと提供する。
これらを開発委託したら、どれだけの金額と期間が掛かるのか。
特許やライセンスがどれ程になるのか。
それだけでも、想像も出来ない。





「・・・武、なんかあるか?」

「ああ、技術的な系統立てた説明は苦手だ。
彼方に任す。」

「解った。実機模擬戦の準備でもしてな。」


壇上での軽い会話さえ、最早気にならない。





「―――では、諸君。
XM3の導入教導に際し、我等から一言だけ添えよう。


我らは、BETAを駆逐し人類を永続する、その為の手段の一つとして、このXM3を作り上げた。
教導に関する周辺含め、全てが同じ思想の元に構成されている。
より多くの将兵が、このOSを使いこなすことで、より多くの成果が期待できることと信じている。


・・・だが、敢えて言おう。

我らはより多くのBETAを滅する事よりも、より多くの諸君等の生存を望む。
なぜなら、人類の存続のためには、諸君等の生存が大前提なのだ。

BETAの先鋭より民を護る、その諸君らが死して一体誰が民を護るであろう?

故に性能に奢った過信や慢心は、決してするな。
新型OSとて、例え白銀少佐とて単騎でハイヴを責めれば、自決してもたった1つのハイヴしか墜とせない。
装備は決して万能ではないのだ。

そしてBETAから地球を、月を、太陽系を奪還するためには、今後も数多の将兵が必要であり、その全体技量の底上げこそが、その礎なのだ。

故にここではまだ詳細を明かすことは出来ないが、護るための盾、攻めるための矛を別途開発途上である。
それらが配備されれば、より安全に迅速にBETAを駆逐することが叶おう。
今回の教導はその為の布石であると理解して欲しい。


因って、無駄に命を散らすな。

それらを理解して、人類の凱歌のために研鑽に勤しんで貰えることを願う。


・・・以上!!」




今、漸く新OSの概念と到達点、そして開発理念までも知った。


その概念は既存の思考を凌駕し。
その到達点は人を超え。
その理念は唯愚直なまでの人類の永続。


到達点は、想像の埒外にあった。
その性能ともたらされる成果を思い、震撼したのも確かだ。
その余りにもまぶしい燦めきに

しかしそれを、込められた理念を以て諫めたのもまた、彼らだった。


得られた成果に慢心せず、目前の成果ではなく、大局の目的を目指す姿勢。
求めるのは人類の永続のみ。


初めパラパラと湧いた拍手は、次第に大きくなり、更には一部が起立すると、それは波のように全体に拡がる。

万雷のスタンディングオベーション。


いつの間にか、私も立ち上がり拍手をしながら、自らの陥っていた自省さえ忘れ、御子神少佐の紡ぐ未来に、想いを馳せていた。


Sideout




[35536] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2016/05/06 12:00
'12,11,06 upload  ※ご都合設定炸裂^^;
'13,05,15 誤字修正
'15.01.24 大幅改稿(pcTEに準拠)
'15,01,31 一部追記
'16,05,06 タイトル修正



Side 悠陽


先ほど、那須よりのジェットヘリがポートに着陸しました。
ワタクシと彼方は、ここで初めて帰任報告を兼ねた謁見と言う事になっています。
帝都城内は基本的に斯衛の勢力圏内ですが、九條の目が無いわけではなく、今の時点では把握しきれていないのです。
やはり必要以上の接触は、不要な警戒心を抱かせるとの事で、表面上短時間で形式的な内容に済ませました。



勿論実際には、昨夜あのまま“高天原”で、その運用に付いての指示や、11月上旬に予測されるBETA侵攻に向けての準備、XM3教導だけではなく新装備の手配・検証、予測される侵攻の規模ごとに、どの様な配置でこれを受けるか、その訓練をどうするか、といった事まで夕餉の後に話し、帝都城に戻ったのは22:00を回った頃でありました。
榊は高天原の資料を、鎧衣は内通者情報を、紅蓮は侵攻予測情報を、それに土産に貰った八海山大吟醸の4合瓶をそれぞれ小脇に抱え、散って行きました。
因みに真耶も玉露を貰い、何時もクールな口元を綻ばせていました。


・・・全てはワタクシが出した指示として。

形式上は確かに白銀や彼方の献策を得て、受諾をし、推進を指示したのはワタクシですが、勿論釈然とはしません。
これだけの大功を受ける一方で良いのか? 未だその思いが占めています。


けれど、全てが動き出したのです。


BETA反抗の象徴。

暗澹とした今の世に、輝く希望の象徴たれ。


それが偶像であることは理解しています。
それでも人は、解りやすい権威に縋るものであると言うことも。

だから彼方は一介の技術少佐として在り、ワタクシを御旗として選んだのでしょう。
当然、そのリスクも承知の上で。

けれど、それは紛れもなくワタクシが望んだワタクシの在り方でも在ります。
陛下から下賜された大権を以て、国の安寧をはかり、民人を護る。
その為の“偶像”が必要なら、いくらでもなりましょう。



昨夜、遅いからまた今度と言う彼方に、黙って軍服の裾を握り上目遣いで見つめると、諦めたようにワタクシの乗機もXM3に換装して頂けました。
彼方に記憶は無いのですが、“兄さま”と同じ手段が有効の様です。

横浜基地には、美しい女性も多いと聞き及びます。
特に“兄さま”は頭の良い方がお好きだったので、性格そのままの彼方も、同じなのでしょう。
真耶に指摘されるまで気が付きませんでしたが、そう言われれば、女性の気配も微かに感じます。
・・・今は既に“兄さま”では無く、彼方なのですからホヨホヨ甘えてたあの頃とは違うのです。
そちら[●●●]の事も早急に精進せねばなりません。

“あの娘” の事も含め、法の準備も進めましょう。
あの様子なら榊もすぐに乗ってくれそうです。



そしてOS換装後、およそ1時間導入教導が行われました。
約束通りマンツーマンです。

彼方はワタクシの操縦するType-Rのエマージェンシーシートに乗り、ヘッドギアで操作系にリンクを繋ぎ、チュートリアルを進めていきます。
あの3次元機動を軽々と行う白銀も異常でしたが、エマージェンシーシートの不安定な保持で、チュートリアルとはいえ、3次元機動のGに平然としている彼方も十分人外です。

そして確かに身体は接触していませんが、操作上補佐してくれるその感覚は、正しく手取り足取り。
誰よりもその概念を理解し、そしてプログラムとして組んだ内容に精通している彼方です。
的確な指示や、模範操作、その解りやすい理屈の説明。
ワタクシが何をしでかして操作が乱れても瞬時に収めてくれる様な、背後に感じる絶大な安心感。

これでも、戦場での陣頭指揮に備え、戦術機の搭乗時間は100時間に届く所まで乗っているワタクシですが、鱗が何枚も落ちました。
“統合機動制御”、彼方がXM3で実現した人の動作を模したシステムは、驚くほどすんなりと身体に馴染みました。


・・・・・・でもこの個人教導は、他の衛士、特に女性には絶対禁止です!
ダメですっ!! 容認できませんっっ!!!




そんな二人っきりの空間で、ワタクシがポツリと呟いた言葉。


「記憶は無くされても、やはり彼方は彼方なのですね。」

「・・・・・そうだな。・・・結局根源の魂は同じだからな。
実際記憶は人格の一部だろうから、その記憶のない今、言ったように俺は悠陽の“兄さま”とは別人である、という認識でいる。
なので、本来“兄さま”が用意したモノを自分のもの様に扱うのは、前も言ったが、心苦しくもある。」

「・・・・。」

「しかし、“兄さま”が、悠陽のため、そしてひいては帝国・世界人類の為に、準備してきた計画であり、物資だ。使わないのは、その“遺志”に反するし、使えるのはその“記録”を受け継いだ俺だけだ。
・・・使うことそのものには、躊躇なんかしない。」

「彼方・・・。」

「そしてこんだけの重荷を悠陽に背負わすことも理解している。
そこに多大なリスクが伴う事もな・・・。
“兄さま”が未来に繋がると信じ、ここまで心砕いた悠陽の未来、結局背負わせた責任含めて、無碍になんかしない。」

「・・・・・。」

「・・・ま、こっちは初対面だから、ジジイ共が望む様なカタチになるかどうかは、また別の話だけどな。」

「!!」


最後の最後に、意地悪なセリフで、悪戯っぽく微笑む彼方。



・・・・承知致しましたわ彼方。

祓正無道・神野無双流 煌武院悠陽、[]として、推して参らせて頂きますっ!!






そんな決意を再度固めながらの、カタチばかりの謁見を終え、視察と称して演武場を巡り、それもほぼ終わった時でした。

山吹の強化装備のまま、地面に座り込んでいる唯依を見かけたのは・・・。


Sideout



■15:00 帝都城第2演武場

Side 唯依


違う―――。
・・・違いすぎる。


今朝ユーコンから送還された自らの武御雷に搭載されたXM3、午前中一杯、その機動を確認した。
昨夜のシミュレータで行った記録は既にそのまま反映され、武御雷が直ぐ様、これ迄にはないほどに馴染んでくる。
レベリングで制限された上位概念や上位機動は出来なくとも、初歩の3次元機動までなら簡単に再現できる。
身伸一捻り前方宙返り位は、容易かった。
勿論BASEとして組まれた機動モデルは、“まだ”自分のモノではない。
だが、それだけでも無限のバリエーションが拡がるのだ。
この挙動一つで突撃級の突進を低空で躱しつつ、その一挙動で、背中に36mmを叩き込むことも可能なのである。
そしてそれは使い込むほどにテイミングされ、自分に合わせて高められる。

シミュレーションモードで“AIまりもちゃん”に聞けば、その動きがどの様な場面で有効か、その例も示してくれるし、その実例をシミュレーションで再現し、直ぐに体験することや訓練することも出来る。
自然な表情で話し、上手くいくと微笑んでくれたりする、妙に完成度の高いアニメキャラ。
対人戦を望むなら、“AIたけるくん”がいつでも相手をしてくれる。
こちらも本気度が上がれば上がるほど真顔に成る。

しかも二人とも、バイタルさえ監視してくれて、効率が落ちると休憩を提案してくるのだ。


膨大な実戦経験に基づき、機動との関連性を留意させながら、衛士の興味を損なうこと無く、自らの教導を行える理想的な環境。

何故こんなソフトが組めるのか―――?
先ほど白銀少佐にお尋ねしたら、彼方はソフトウェアに関しては“神”級の能力を持っているから、と引き攣ったような顔で答えてくださった。
思考速度10倍、無限マルチタスク、ビット・スケーラビリティ等とブツブツ呟いていたけど、私には意味不明。

そしてそのシステムを使い、様々なシチュエーションを試し、どこをどう探しても、このOSに穴など見当たらず、その素晴らしさに頭を垂れるばかり。
朝からぶっ通しの搭乗に“AIまりもちゃん”から休憩勧告されるまで、乗っていた。





「唯依?」

「・・・え? !!!っ、殿下っ!! 失礼致しましたっ!!」

自分を呼ぶ、馴染んだ声に顔を上げれば、そこにはうっすら微笑む煌武院悠陽殿下が、伴の月詠大尉を後ろに従えて立っていらした。

弾かれたように慌てて立ち上がり、敬礼する。


「唯依も戻っていたのですね?」

「はっ! 巌谷中佐にXFJ計画に関わる重要事項との事で、昨日帰国致しました。
帰任のご挨拶が遅れ申し訳ありません。」

「まあ、それは突然でありましたね。
・・・此度のテロではユーコン基地も多大な被害を被った様子。
しかも被弾したとも聞き及んで居ります。
そなたの元気な姿、安堵いたしました。
混乱の中での大任、誠に大儀でありました。」

「! ・・・勿体無いお言葉です。
・・・けれど殿下のご慧眼には及ぶべくも有りません。
我等の努力など芥の如き稚技に過ぎません。」


・・・言っていて涙が出そうになる。


「・・・・唯依、少しワタクシと話しませんか? 主従としてではなく、小学校以来の“学友”として・・・。」

「え・・?」


私の様子に何を察したのか、殿下がいきなり振って来る。


「・・・真耶、何処か部屋を。」

「は。・・・階上の貴賓観覧室が適当かと存じます。」

「ではそこに・・・参りましょうか。」


私は促されるままに、殿下についていくしか無かった。






殿下とは小学校の折り、所謂“ご学友”に当たる。
早生まれの私は、学年で殿下と同じ年に帝都京都で小学校に入学、譜代ということで、お近づきになる栄誉に浴した。
殿下は既にその頃から、次期政威大将軍候補であらせられ、高貴なる霊光を纏っていらっしゃったが、親藩譜代どころか、下々の者にも別け隔てなく接する様は、眩しいくらいであった。
同じ学年には他に、五摂家や他の親藩の子女が居なかったこともあり、私はかなり親密に接して頂いた。
それこそ、苗字ではなく、唯依、と名前で呼ばれるほどに・・・。
ユーコンに旅立つ前も、個人的に謁見させて頂いている。帝国の明日を担う戦術機の開発、頼みました、とのお言葉も頂いた。

その道半ばにして挫けた私。

殿下の要請で素晴らしいOSを齎した今、私などに何の用があるというのだろう?




「唯依から見て、あの二人はどの様に見えますか?」

「・・・お二方とも、本当に素晴らしいお方です。
白銀少佐はまだお若いのに、あの異次元の機動。
“単騎世界最高峰”と言われるのも当然に思えます。」

見せつけられたシミュレーション。
CASE-29、難易度Sで、獲得スコア340万。
私など足元にも及ばない。
確実にユウヤよりも、紅の姉妹よりも、そして紅蓮閣下よりも強い。

紅蓮閣下相手に1on1のJIVESで、見事に大破判定をもぎ取った。
フロックや、トリックと言った小技ではなく、正面から打ち合った勝負にて、である。
その白銀少佐が操る3次元機動。
つい一昨日までユーコンにいて、様々な国の戦術機・衛士を見てきたが、こんな機動を実現し、それを以て光線照射まで躱すなど、想像の埒外だった。


「―――そして御子神少佐の解析力・開発力は・・・もはや“神”のように思えます・・・。」


天才でも神童でもない自分には決して届かない領域。
昨夜、続いて見せられたヴォールクデータでのシミュレーションに、もはや絶句するしか無かった。

不知火2機のエレメントで、ハイヴを攻略し、そして生還する。
しかも大規模落盤まで誘発し、信じられない数のBETAを殲滅。
ただ唯一の違いが、搭載されたOSだと言うのだ。

当初は愚鈍に見えるほどの手法で侵攻中にBETAを誘引し、中央部に集める。
反応炉破壊と共に脱出を図るBETAを、前半に設置した“弁”で規制し、崩落と気化爆弾で一掃する。
これら反応炉の破壊や、ハイヴ崩落さえBETAの精査から発見した新事実だという。


「そんなお二方でも、ずっと苦難の道を歩んできたのです。」

「え?」


そして殿下より初めて知らされた彼らの来歴。
記憶喪失と戦地任官。
過酷な任務を繰り返した秘密部隊の最後の生き残り。
一方でG弾余波に因る落雷を受け、1年半生死の境をさまよった男。


「そしてその落雷は、彼方から“兄さま”としての記憶を全て奪って仕舞いました。」

「・・・え?、殿下の“兄さま”は、御子神少佐の事なんですか!?
じゃあ“兄さま”が起こした“弾劾”って・・・あの?」

「はい。本人は記憶にはなく、記録を理解した、と言っていますが。」


それを推して、いや、それが在ったからこそ、逆況をバネに此の様な技量、此の様な発想や技術にまで達したのだろうか。
所属した部隊の仲間を全て喪った白銀少佐。
そして個人的な過去の記憶を全て喪った御子神少佐。

今成した結果だけ見て、それを羨むとは、なんとあさましいのだろう。


しかも、“弾劾”を起こしたのが御子神少佐。
さっき少佐が紹介された時のざわめきが漸く理解できた。
本来公開されていない情報、下位の士官の間では半ば都市伝説。
事実を知っている将官級は、否定も肯定もしない。

私も殿下に“兄さま”が、というのは聞いた。
しかし、“兄さま”が誰なのか、結局小学生以来今に到るまで会った事もなく、名前も知らなかった。
都市伝説化した噂はあまり信ぜず、まともに内容を聞くこともしなかった。


「それでも別人として区別をつけるために、彼方と名前で呼ぶことを許されました。」


ああと思う。
殿下がなんとなく嬉しそうな理由が理解できた。
待ち焦がれ、そして一度は諦めた男性が還ってきたのだ。
例え記憶を無くし、別人の様だったとしても。
殿下の“兄さま”が行方不明になった頃の悲痛な様子も垣間見ていただけに、その喜びも判る。


チクリと胸が痛む。

兄と呼んでいた人が別の男性として還って来てくれたのだ。
私とは正反対・・・。
まだ割りきれてはいないのか―――。


「唯依はワタクシが何故、彼らに・・・横浜にXM3を頼んだのか、判りますか?」

「あ、いえ・・・。」


そうだ。
この素晴らしいOS開発の依頼は殿下がしたのだ。


「・・・昔、それこそ未だ彼方が行方不明になる前、“兄さま”に初めて戦術機に載せられたとき思ったのです。
何故、思い通りに動いてくれないのだろう?、と。」

「・・・ッ!!」

「おかしいとは思いませんか? 何故人が機械に合わせなければならぬのでしょう?」

「・・・・・・。」

ヒューマンコンシャス、マシンミニマム、・・・同じ様な思想概念は数多ある。
確かに初めて搭乗し、操作したとき、私も同じことを感じたはず。
いつの間にそれを疑問と感じなくなったのだろう。



「―――人類は、そして我が国は存亡の瀬戸際に在ります。
言われ続け、いつの間にか陳腐化してしまいました。
けれど残された時間は、思っているよりもずっと短い・・・ワタクシはそう思っています。
だからこそ、今、既存の戦力全体を即座に向上する、そんな技術が必要であり、彼らはそれに見事応えてくれました。」

「・・・。」

「―――されど唯依。
それでもまだまだ足りぬのです。
この瑞穂の国よりBETAを排し、母なる地球を取り戻し、2度とこの地を踏ませぬためには、まだまだ届かぬのです―――。」

「!!―――。」

「そなたにお願いしたのは護るだけではなく、更にBETAを打ち払うための、帝国を取り戻すための“次の力”。
・・・例えばXM3を搭載した不知火弐型に白銀を乗せたら、どんな機動を魅せてくれるか―――
見てみたいと思いませんか?」


楽しそうに微笑む殿下。
そう・・・、私も見てみたいと思う。



目の前が突然拓けた。

次元の異なる事を比べて欝に浸るなど私は何をしていたのだろう。
そんな暇があるなら、さっさと不知火弐型にXM3を入れてもらい評価すれば良いのだ。
今更不知火や武御雷にハードを変更する余裕などないが、まだ開発途上の不知火弐型ならそれが可能ではないか。

彼の地には私の訃報にも屈せず過たず、愚直なまでに訥々とPhase2の検証を積み上げた者が居たではないか―――。



「唯依、―――いえ、篁唯依中尉。」

「ハッ」

「XFJの開発―――、然とお任せしましたよ。」

「は―――。」


殿下―――。
この御方はなんと―――。






殿下が退出なさった。

月詠大尉が、小さく頷いてくれた。
殿下や大尉にまで一目で気取られるほどに落ち込み、鬱々としていたのだろう。
それをまた苦々しく思う。
しかし、やるべき事はみえた。
先ずは巌谷の叔父さまに相談を。


「!、痛っ」


そう思って立ち上がり、ドアを開けようとすると、掌に痛みが走る。
見れば、肉刺が破れ、皮が剥けていた。
慣れない動きのレバー操作を半日も続けた所為だろう。
強化装備で出来難い筈ではあるが、万全でもない。
戦術機で肉刺を潰すことも久しぶりだった。


取り敢えず、医療センターに行くか。

私は踵を返した。


Sideout



■15:00 帝都城第2演武場

Side 武


何人目かの個人教導を終えて、一旦休憩に入る。

昨夜のチュートリアルとデモンストレーション、そして今朝の講義と教導。
ちょっと寝不足。

昨夜は当然のごとく、0時までの教導が終わってからトモ姉に本家に連れて行かれたのだ。
伯父である当主含め、記憶にある親戚が夜も更けているというのに皆集まっていた。
流石に教導中と言うこともあり、祝宴まではいかなかったが、盛大に帰還を歓迎され、暮れには帰って来いと念を押された。

・・・予定通りなら、その頃には一段落はしているはず。
なんか、それ以降もオレ的には波乱の予感しかしないが・・・。


そんな昨夜というか、今朝と言うか、彼方は第16斯衛大隊の武御雷、そして第2連隊の瑞鶴、全ての戦術機のCPUボードを換装してしまった。
換装そのものは、夜のうちに整備兵に依頼し、その調整を朝までやっていたらしい。
XM3、そして戦術機シミュレータを実装したボードであり、新旧OSの切り替えからシミュレータ用メインフレームとの通信まで、全てを実現する。
お陰で今日は、シミュレータの空き待ちをすること無く、皆が教導に入れる。
特権ユーザーからはシミュレーションモードに入っている全ての内容が確認できるから、問題のある衛士を見つけては、その仮想空間に割り込む、という事が可能である。
個人単位、エレメント単位から、連隊規模での演習まで実現しちゃってるわけだ。
今後はこれで、新潟戦に備えたシミュレーションも可能、という事になる。

但し、流石にこの規模になると、かなり大型のクラスターシステムと大容量通信が必要らしく、シミュレータモードを使えるのは帝都城エリアに限定される。
勿論、金曜日のうちに横浜基地には設置していたので、行く行くは、帝都城と横浜基地間の演習も可能と言う事になる。
赤坂や調布との連携も、いずれ実現できる。

そんな高度なシステムを実現したボードであるが当然の様にネズミ捕りが付いているらしく、許可無くボードを抜こうとすると、スタンガンクラスの電撃が流れ、機体のハッチが内部から開かなくなる。
セキュリティを組んだのは彼方なのだから、もしそれを排して盗み出せたとしても、そう簡単にコピー出来るようなヤワなものは組んでいないだろう。


篁中尉には聞かれたが、アストラル思考体持ちのソフトウェア開発能力は並じゃないのだ。



そう思ったら黄色の強化装備で咄嗟の敬礼を決める当人と鉢合わせた。


「オレ相手に普段の敬礼なんて必要無いですよ。」

「そう言われましても・・・。」


困ったその顔を見て、思う。
篁中尉か……そういえば傍系記憶では桜花作戦の後、何度か一緒に戦ったっけ・・・。
状況判断や作戦遂行能力に長けた、指揮官型の衛士だった気がする。
幾つかの傍系ルートでは最終的にオレのメインになった不知火弐型、のちのTYPE04を作りだしたXFJ計画の日本側開発リーダーだったはず。
それだけの腕も知識もある。
でもループでは今頃アラスカにいたと言っていた気もする。
桜花の陽動では鉄源ハイヴ、だったかな。

そういえば会談相手に技術の巌谷中佐が居たからもしかして呼び戻されたわけか、XM3の為に・・・。
今回は、かなりいろいろ早めに推移しているから、いろんなバタフライ効果が出そうだな。


向かう方向が同じなので、彼女は一歩下がって付いてくる。


「そういえば、篁中尉は先日までアラスカで不知火弐型の開発に携わっていたんですよね?」

視界の隅でピクンと身体が竦んだ。
・・・・・まずいこと、聞いたのか?


「・・・ええ、そうですが」

「アラスカと言えば・・・“ユウヤ・ブリッジス”は元気でしたか?」

「!?」


おー、おっきな目が真ん丸だ。


「・・・少佐はブリッジス少尉のことを御存じなのですか?」

「・・・ええ。
ああ、まあこっちは極秘任務だったので、向こうはオレのこと知りませんが。」


やべ~。
そういやユウヤに会ったのは傍系記憶・桜花後だっけ。
東シベリア奪還のときじゃん。
不知火弐型Phase3乗ってたからプロミネンスでXFJ携わってたって知ったんだし。

―――そういえば、アイツ、桜花の陽動の時、ヤバい奴[●●●●][]ったって言ってなかったか・・・?


おっと、思考が逸れた。
ユウヤは確か、昔は日本が嫌いだったと言っていたな。
尊敬できる奴に会って変わったとか。
・・・とすればアイツを変えたのが篁中尉ってことか。


「アイツ、日本嫌いって言ってたから、苦労したんじゃないですか?」

「あ、――はい。
ご存知だったのですね。
ユーコンに赴任した直後の頃は、それで喧嘩ばかりしていました。
―――でも、今は大分治ったと思います。
好きとは言わなくても、認めるくらいには・・・。」

「わぉ、アイツの日本嫌い直したんですか。―――そりゃスゴイな。中尉頑張ったんですね。」

「・・・いえ。
きっと亡くなられた父や母から託された思いに気付いたのです―――。」


ナルホド・・・。
本気[マジ]でいろいろ在ったみたいだ。
これ以上突っ込んで墓穴掘る前に、この話題からは離れたほうがいいかな。

ユウヤ[あれ]は・・・・紛れもなく属性持ち[●●●●]だろうし。
加えて超鈍感属性。
・・・人の事は言えないと彼方にツッコまれそうだが。
これでも幾多のループを経て漸く空気は読めるように成ったんだよ!

・・・・・尤も読めたら読めたで辛いが・・・。

207Bは、皆から“遺書”で告白、という重いのを貰っている。
純夏と、・・・そして冥夜や霞が居る以上、正直不誠実に思えて、それ以上はない! と思っていたんだけど、ついついアイツらには世話焼いちまう。
傍系記憶では添い遂げた記憶も在るだけに、どうしても人事じゃないっていうか・・・。

お陰で抜け出せない泥沼にはまり込んでいる気がしないでもない。


「―――まあ、でも腕とセンスはピカイチだったな。」

「・・・そうですね。私も随分助けられました―――。」


嬉しそうな篁中尉。
うん。
褒めておくに限る。


「・・・白銀少佐。」

「はい?」

「不知火弐型にXM3を搭載したら、どうなると思いますか?」

「―――羽化[バケ] ます。
確実に、世界が変わります―――。

と、言うかオレが言っちゃいけないのかも知れないけど、彼方の中で既にロックオンされていると思いますよ。」

「!!、・・・ありがとうございます―――。」


何かを決意したような気概。


「あ、あの、私は少し肉刺の治療に医療センター寄って行きますので、ここで失礼します。」

「ああ、慣れない操作で肉刺破いちゃっいましたか、お大事に。」

「は、ありがとうございます。」


そう言って篁中尉は足早に立ち去った。

・・・うーん。
そこはかとなく波乱の予感。
より良き未来を信じるしかない・・・か。


Sideout




■15:15 帝都城第2演武場

Side 唯依


殿下の御示唆。

ユウヤを知っていると言う白銀少佐の言葉。

そして不知火弐型の評価。


どれも嬉しくなるものだった。
姿が見えなくなると、つい立ち止まり、噛み締める。

―――そう、誰に言えなくても自らは誇ろう。

あの日々を――。







「・・・・何をしているのです?」


声をかけられふと顔を上げた私。
小径の途中で瞑黙していたのだ。
それは邪魔であろう。

そこに居たのは、時折見かける独特の制服に身を包んだ、同じ年頃の女性。
肩くらいまでのクセのない髪、前髪を揃えた何処か見覚え在る髪型。

その瞳が見開かれる。


「唯依っ! 唯依ねっ!?」

「え?」


フラッシュバック。

帝都防衛戦。
繰り上げ任官からのいきなりの初陣。
瞬く間に崩れる防衛戦と、あっけなく損耗していく僚機。
撤退戦。
僚機に巻き込まれて堕ちてゆく白の瑞鶴。
共に墜落した地下エリアでひしゃげた搭乗機に挟まれたのか動けない血塗れの顔。
集る戦車級。
絶叫。
結局、懇願された“介錯”の引き金を引けずに彼女の手足が宙に飛んだ時には、自分にも戦車級が迫っていた。



トラウマ。

何故引き金が引けなかったのか。
何故殺してあげられなかったのか。

繰り返した悪夢。自問自答。自省癖はここからだろうか。

それは自らの弱さ。
彼女を殺した、という咎を恐れた自己防衛。

自分可愛さに、最期の救いすら彼女に与えることが出来なかった後悔。



その彼女、山城上総が、満面の笑み、ちょっと気の強そうな切れ長の目に溢れんばかりの涙を湛えて私の肩を掴んでいた。


「・・・や山・・・か、上総・・?」

「そうよ、唯依、お化けじゃないですわ、本物。
生き延びたのですよ、わたしもあの地獄[●●]を!」


肩を掴む手が温かい。

再会に涙を零しながら微笑む顔は紛れもなく彼女。
髪こそ短くなっているが、あの日失ったと思っていた同期の親友。


「・・かずさ・・・上総っ!、上総っっ!!」


私は泣きじゃくりながらその胸に飛び込んでしまった。
上総は私を抱きしめて、同じように泣いている。


ぐちゃぐちゃの感情。

これまでの後悔、重圧、ジレンマ、そして“ユウヤ”も“弐型”も、皆溢れ出すように。

私の弱さ、そして覚悟の原点。

今際の際に望まれた“介錯”すらしてあげられなかった後悔。

その相手が生きていた。それだけが嬉しくて・・・。





二人で抱き合って一頻り泣き、漸く落ち着いて来て、互いに泣きぬれた顔を見合わせ、笑いあう。


「でもかず、・・・山城さん、一体どうやって?」

「・・・まだ“山城さん”ですの?
先程は“上総”って呼んでくれたのに――。」

「あぅ・・・。」


まだ名前で呼べない・・・そう思っていたのは何時のことか。
私には、今もってその資格が在るのか、其れすら知れない。


「―――いいですわよ、私も唯依にそう呼んでほしい・・・。」

「え?・・・か、上総?」

「ええ!」


にっこり微笑むその表情は、あの頃のまま変わらない。


「それで、そうですね・・・死んだと思っていたのですわ、私も。
・・・戦車級に噛みちぎられて。
でも気づいたら、集中治療室みたいなトコにおりました。

後程聞いた話では、あの時試験運用でそのまま実戦に入り、あの場に突入した武御雷を機動していた方が、その場のBETAを蹴散らして、私と唯依を助けてくれたとの事。」

「!!、“青”の武御雷?」

「ええ。
その時かの衛士は、私の状況から野戦病院じゃ助からないと判断し、琵琶湖まで来ていた“シャノア”の病院船に運んでくれたらしいのです。
実際手足はもう無かったので、4割が擬似生体に換装され、その後のリハビリだけで半年掛かりましたわ。
そのまましばらく死亡扱いでしたし・・・。」

「!!!・・・・。ごめん・・なさい・・・。」

「やぁね、何ですの? いきなり」

「・・・私はあの時、貴女を撃てなかった・・・。」

「・・・・・・でもお陰で、こうして生きて逢える。
唯依の判断は、正しかったのですよ?」

「それは・・・結果論で・・・」

「そうですね。・・・はっきり言えば、リハビリ中は辛くって、なんで殺してくれなかったの、って思ったことも在りますわ。」

「 !! 」

「どうせ唯依の事だから、自分が弱いから撃てなかったとか思ってるのでしょ?」

「 !!! 」

「それを言うなら、私も同じ。
もし私を撃っていれば、私は救われたかもしれないですが、それをさせた唯依に、重い傷を負わせる事になります。
それでも“自分”が苦しくないように懇願したんだから、同じですわ?」

「・・・・・。」

「当時逆の立場でしたら、自分でも出来たかどうか、判りませんし・・。
其れ故、恨んでなんかいませんし、謝られても困りますわ。
私は、こうして生きて会えたことが一番嬉しい―――。
それでは、駄目かしら?」


嗚呼―――。
まっすぐだ。相変わらず。

共に訓練し、技を磨きあった日々。考えたら自分の僅かな軍籍の中で、尤も長く同じ時間を過ごしたのは、彼女たち。
繰り上げ任官となった嵐山中隊で、唯一の生き残りになってしまったと思っていた。
その時間を共にした、親友と呼べる彼女が生きていてくれること、それは自分に取っても限りない救いだった。


「貴女の事だから、あの時何故撃てなかったか、とか悩んだのでしょう?
同道結論は、自分を守る為に撃てなかった、私を殺したと言う事実を恐れた、自分が弱かった、・・・とか言うのでしょう?」

「 !!! 」

「・・・謝罪しますわ。
私も、貴女が傷つく事まで思い至らずに絶叫なんかしてしまいましたし・・。
まあ唯依が悩んだ分、私もリハビリで苦労したのですからお相子ってことで、許して下さいね。」

「上総・・・・。」

「・・・本当の優しさは勁さだって言う人が居ります。
人の為に自分が傷つくことも厭わない勁さ。
覚悟と言っても良い。
それがない優しさなんて、唯の偽善だと。」

「 !! 」

「でも、そんなの嘘っぱちですわ。
人は人の為に生きているのではないのです。
覚悟在る自己犠牲は、見方を変えればそれこそ唯の自己満足。
人のために自分は傷ついたんだ、と言う偽善にも成り得ます。」

「 !!! 」

「自分を大事に出来ない人は、人も大事にしないものです。
強い人には、弱い人が理解出来ない。
本当の優しさはね、そんな人の弱さも強さも、すべて飲み込んで、相手を理解すること―――。
押し付けや、自己犠牲ではないのです。
・・・・・・私は、“シャノア”の病院船で、そう学びました。」


・・・眩しい。
BETAに齧られ、四肢を喪ったと言った。
実際私は宙を飛ぶ彼女の手足を見た。
その死地から生還し、こうして此処にある。
勁さとは、自己犠牲を厭わないことではないのだ。
従容とあるがままの自分や相手を受け入れる。
それでいて流されること無く、“自分”を確立する。
それを為している彼女なのだ。

私は・・・自分の弱さを受け入れただろうか? 相手の弱さを認めただろうか?


「それって、今も“シャノア”に?」


あのBETA大禍に於ける避難で、悠陽殿下の依頼によりその移送を請け負ったのが“シャノア”。
奇跡の逃避行を支えた輸送集団。
あの時ならその病院船が来ていてもおかしくない。
国際的NPOであるが、当然殿下の覚えめでたく、上総の着る制服は時折この城内でも見かける。


「ええ。
喪ったのが四肢だったから当時の擬似生体では衛士は無理でしたし、リハビリ後もしばらくはロクに動けなかったのですから・・・。
そのまま“シャノア”の一員として貰い、今も病院船を手伝っています。
その肉刺で、センター行こうとしてたのですね。
お貸しなさい、処置いたしますわ。」


そう言って肉刺が潰れた手を取る。
衛士の応急セットよりはずっと高度な治療キット。
手馴れた作業で消毒から治療をしてくれる。


「え? でも・・・。」


そういうが、違和感が無い。
さっき抱き合った時も、四肢が擬似生体とは思えなかった。


「・・・私と唯依を助けてくれた方、“シャノア”の代表もしていらっしゃるのですけど、暫く行方不明でしたの。
今回、突然復帰なさったと思ったら、どこかで極秘に技術開発していらしたらしく、擬似生体を完全に生体化出来る遺伝子技術を持ち帰りました。
その臨床試験として私が志願し、今回帰国する仕儀となりました。
今日此処に居るのもその処置を施したため。
その御方が此処にいるからです。」

「え?、“青”の武御雷の!?」

「そうですわ。
“青”は、京都防衛の当時、五摂家優先で造られて居りましたから。
九條の機体を本人は使わないため、当時斯衛に居て技術担当していた御子神様が乗っておりましたの。
尤も調整を兼ねてなのでその一回だけだったとお聞きしましたが。」

「・・み、御子神さま?」

「午前中に演壇に立ってらしたのでしょう? 御子神彼方様。
“シャノア”創立者にして、天才技術者。
今回の生体化技術もそう。
私にとっては、命の恩人で、今回は喪った手足を元通りに治してくれた“神”様ですわ。」

「 !!!! 」


御子神少佐が、あの“青”の衛士で、私と上総の恩人っっ!?








上総との連絡先を交換した後、呼び出されたのは、斯衛軍の参謀本部。

XFJに付いての何らかの沙汰だろうか。

それでも私の足取りは少し、軽い。

殿下の助言。白銀少佐の言葉。そして上総との再会。
今思えば共に泣きじゃくったことで、今まで溜めに溜め込んでいたいたものを、一気に流し出せた気がした。

上総が生きていてくれたことで、“弱い自分”を漸く認める事ができそうな気がした。
何か呪縛から解かれたような、憑き物が落ちたような気分だった。



ノックする。

許可と共に室内に入ると、見知った顔が並んでいた。


「帝国斯衛軍中央評価試験中隊篁唯依、出頭致しました。」

「おう、唯依ちゃん、教導中悪いな。」

「巌谷もこんなだ、堅苦しい言葉遣いは要らんぞ。」

「は、・・・はぁ。」


ピッと敬礼したのに気の抜ける返事。
そのなかで、唯一答礼を返してくれた人。


「面と向かっては、初めてだな。
国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊技術少佐、併せて帝国斯衛軍中央評価試験部隊付き技術少佐も拝任した御子神彼方だ。宜しくな。」

「!、は!、よろしくお願いします!」


この人が殿下の“兄さま”だった人。
そして私と上総の恩人。
そう、部屋に居たのは、斯衛軍の副司令官である紅蓮閣下、XFJ計画での上司に当たる帝国軍技術廠・第壱開発局副部長の巌谷中佐、そして帝国斯衛軍中央評価試験部隊付き、つまり直属の上司に成った御子神少佐だった。


「篁はXFJ計画の推進大儀であった。
不知火弐型、短期間で此処まで出来れば十分な成果、誇って良いぞ。」

「は、ありがとうございます。帰任の報告が遅れて申し訳ありません。」

「気にせんでいい。どうせ巌谷が先走って呼び戻したんだろう。」


叔父様が苦笑している。そして徐ろに告げた。


「そのXFJ計画だが、Phase2,Phase3 と既に十分な進化が認められる。
だが、この後実施が決まっている重要作戦に於いて使用される特殊な機体を“Evolution4” として進化させることに決まった。」

「 !! 」

「・・・まあ、簡単にいえば、XM3に合わせた機体、と言うことだ。」

「・・・XM3[]合わせるのではなく、XM3[]合わせる、のですね?」

「・・・判っている様だな。
既に統合機動制御を実現しているXM3だが、既存の機体に合わせた場合、制約もまた多い。
センシングやアクチュエータ、制御用のモデルなど、全てある物で対応している。
結果的に回りくどい制御が必要になり、燃費で言っても10%位スポイルされている。
それでも現行のOSより向上しているのだから如何に今までが無駄だったかわかるだろう。」

「・・・・・何故弐型なのですか?」

「・・・武がXM3で実現したかった機動概念は何なのか、判って居るだろう?」

「え、あ・・・・3次元機動!」

「・・・肩部スラスターを有して機動実績があるのは、Su-37かACTV、そして弐型だ。
その機動は見せてもらった。
XM3無しで此処まで動けるのは賞賛に値する。」

「 !! 」

「XM3を組めば、XFJ計画の求めた成果は全てクリアする。
次期主力として全く問題ない。
だが、それだけじゃ届かない所もある。」

「・・・Evolution4は、特定の任務に向けたSPL仕様、と言うことですか?」

「・・・そうだ。」


XM3に合わせた機体づくり。
私が叔父様に具申しようとした内容そのもの。


「因みに計画は、国連太平洋方面第11軍、所謂国連横浜基地のA-00戦術機概念実証試験部隊にて行う。
既に以前から打診されていたが、富士教導隊で試験運用される来週にもロールアウトする初ロット5機は全て、来月に予定されている2ロット目も半分の6機はそこに搬入される。
Phase2やPhase3への追加改修、そしてEvolution4への進化もそこで行われる。」

「 !! 」

「帝国軍技術廠、そして斯衛軍として、篁唯依中尉には、引き続きXFJ計画Evolution4を担当し、開発に携わって欲しい。」


・・・・え?、上意、じゃないの?


「・・・別に無理にとは言わない。オヤジ共の言うことなんて訊かなくてもいいぞ。」

「!、なぜですか?」


閣下までオヤジ扱い。
閣下もなんでもない様に流している。


「中佐が無理に呼び戻したらしいしな。
今朝もユーコンへの帰還を希望していたと聞いた。」

「・・・・。」

「今回プロミネンス計画にも“データ”を送りつけたからな。
XM3Liteを手土産に、向こうの連中に布教してもらっても構わない。
それも重要な仕事だと思うぞ。」

「・・・何故そんな容易くXM3を他国に渡せるのですか?」

「俺の敵はBETAだからな。
日本の衛士だけが強くなったって、世界のBETAは滅ぼせない。」


・・・あっさり言い切るんだ・・・。


「・・・・私はEvolution4に必要有りませんか?」

「一応軍だからな。
個人の参加不参加で作戦が頓挫してはマズイだろ。
居ないならそれを前提にどうにかする。
―――だが正直言えば格段に効率が違うことは否定出来ない。」

「ならば、・・・お手伝いさせてください!」

「・・・意気はいいが、過酷だぜ? ユーコンの方がよっぽど安全だ。」

「構いません。」

「・・・・かなり萎れてたって聞いたんだが、随分吹っ切ったな。」

「・・・殿下と、白銀少佐、御子神少佐のお陰です。―――上総に会いました。」

「上総?・・・ああ、山城か。」

「・・・明星作戦以前の事ゆえ、少佐は記憶にないと思われますが、上総と私を助けていただいて、ありがとうございました!」

「・・・・あ~、なるほどね。
京都駅近くの地下エリアで助けた瑞鶴が君らの機体か。」

「一度は死んだ身です。
危険と言われたって今はどこでも危険です。
オリジナルハイヴに突っ込めとか言うのでは無いので「それ正解」・・す・・・え?、うそ?」


驚いて叔父様や閣下を見たら目を逸らした。

・・・・・本気?


「・・・・ Evo4[●●●●]は、ハイヴ侵攻SPL。」


暫し絶句する。
選りにも選ってオリジナルハイヴ。
戦術機の改修くらいでどうこう出来るレベルではないだろう。

だが、叔父様や閣下がそれを否定しない。

・・・・・・つまり、御子神少佐は本気なのだ。
本気でBETAを駆逐する気でいる。

だからこそEvolution4を手がけ、国家戦略的には多大なアドバンテージと成り得るXM3を諸外国に渡すことにも何ら躊躇がない。

だったら・・・。


「・・・望む所です。」


私は静かな決意を込めて、そう答えた。


Sideout




Side 真耶


「・・・宜しいのですか? 篁へのあの様な言葉・・・・」

「良いのです。」

「・・・些か迂闊、と存じますが・・・。」

「え?」

「篁がアラスカに戻るなら良いですが、あれではまず帝国に残り、弐型の納入を希望する御子神少佐に開発の経験者として望まれる公算が高いと思われます。
しかも殿下が設定した直属の上司。
二人の距離が物理的だけではなく近くなることも在り得ます。」

「!!」


私が煽ると、一瞬しまった、という顔をする。
うん、まだか。
しかし、何かを思いついたように穏やかな表情に戻る。


「・・・唯依の生真面目な性格故に、あまりその様な心配は無さそうに思います。
ワタクシの想い人と認識しているなら、考えられないでしょう。
もし、それすら構わないほどに唯依が本気で、そしてそれを彼方が認めるなら、ワタクシは唯依なら吝かではありません。
・・・・寧ろそうなった時、唯依がワタクシにどう知らせてくるか、見てみたい気もします。」


そう言って本当に可笑しそうにコロコロ笑っている。

おお、なかなかに勁くなったことだ。
しかも黒い?

うむ、御子神、覚悟を決められた殿下の成長は殊の外速いぞ?

心せい。


Sideout




[35536] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3
Date: 2012/11/08 22:20
'12,11,07 upload  ※幕間 開き直った?


Side 夕呼  18:00 B19夕呼執務室


ノックと共にドアが開く。

「あら、お帰り。早かったわね、教導は明日までじゃなかった?」

アタシは装着型00ユニットのチェック作業を中断して向き直る。
入ってきた彼方は、そのままソファに深く沈んだ。珍しく草臥れた様子。

「教導は、な。俺は換装してしまえば終わりだし、臨床試験も順調、必要と思われる施策は全部振った。
そろそろ鑑の思考野再生が完了するだろ? 早めに出してやんないとな。」

「ちゃんと殿下陥とした?」

「・・・そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
・・・マジ御子神[ネイティヴ]パネェ・・・。」


芝居がかったセリフに笑いながら、それもそうかと思う。

彼方が知っているのは、御子神[ネイティヴ]のブログだけ。主観で書かれた記録に、周囲の客観なんか書かれているわけがない。

“弾劾”を知っている者なら、殿下の窮地を救った救世主。そして今回は白銀という英雄と共にXM3と言う奇跡のOSを齎し、そしてまだ未発表であろうが帝国の未来を支えるあの“高天原”を献上したのだ。
アタシが殿下でも陥ちるし、それを知る周囲が望むのは、当然そういうことだろう。
そして殿下もあの件に前向きとの礼も貰っている。

使うことに躊躇はなくても、本質的には御子神[ネイティヴ]の功績を自分のモノのように扱うことをヨシとしない彼方にとっては、居心地が悪いことこの上ないだろう。
少なくとも衛士に感謝されるXM3は白銀とアンタの功績でしょうに。


こう見えてコイツ、結構お固い[ジジクサイ]。傍若無人なのに、自由奔放とか若さに任せて爆発、とかはしそうにない。まあ、肉体20でも、精神時間は100年超えているわけだから老成しているのか、妙にストイックだ。
フラグは立てる癖に、いつの間にかへし折っていたりする。
その辺はループをしつつ、けれど何時もリセットされ継続した経験なく17歳を繰り返した白銀とは違う。白銀は順調に若さに任せたハーレムへの道を歩んでいるというのに。
アタシだけ、と言う優越感はたしかに有るが、縛る気もないし、縛られる気もない。

けれど流石に御子神[ネイティヴ]が立てていた強固なフラグは簡単に折れないらしい。


「まあ、諦めなさい。鑑の言うとおり、優秀な男程早死する時代、超優秀な生き残り[サヴァイヴァー]には遺伝子を残す義務があるわ。
殿下との竿姉妹なら、光栄ね。」

「・・・此処はそう云う世界か?」

「そう云う世界よ。」

「・・・・まあ武が望んだループ世界となれば、こうなるのも仕方ない、か・・・。」

「・・・仕方ないついでに、まりももお願いね。」

「は?」

「・・・本来はアタシが贖罪すべきなのは解っている。でもこればっかりはアタシがタチって訳にもいかないでしょ?」

軽い冗談のような口調に、探るような視線。
アタシは口元には笑みを残しながら、真っ直ぐ見つめ返す。
・・・・茶々や冗談ではない。これは・・・懇願、なのだ。




「・・・・・・・判った。」

長い沈黙の末、彼方は端的に応えた。


・・・ホントコイツ、イイ男だ。

弱みを晒したくないアタシの事をちゃんと理解してくれている。
世界や時代の所為にしたって、多分本人の主義を曲げることにもなるのだろう。
それでも、それごと[●●●●]受け入れてくれた。コイツを惚れさせた向こうの世界のアタシにも感謝する。



罪悪感。

まりもは親友だなんて言いながら、計り知れない重荷を背負わせた。かなりイロイロ無理させているのも知っている。
優しいまりもに、損耗率がケタ違いになる部隊専用の教導などさせるべきでないのは、重々判っていた。
それでも、他に信頼できる者が居なくて、頼まざるを得なかった。

他にも無理させた者は大勢いるし、死んでいった者も少なくない。その全てを“BETA駆逐”という成果につなげることで報いよう、それがアタシの覚悟だった。
それでも迫る期限。目の前にある人類の終焉。
今までは形振りなんか構ってなかったし、死んでから謝るしかないなぁ、位にしか思っていなかった。

それが、彼方達が来て状況は一変した。
齎された情報と技術は確かに未来に繋がる希望がある。
未だ予断を許す状況ではないが、その先を考えなければならない程に事態が好転していることも確かだった。

勿論アタシ流に傲慢な言い方をすれば、今の関係は彼方が数式の対価にアタシを望んだ、と言う言い方も出来る。別にアタシが望んだ関係ではない、と。
もしかしたら、それすらアタシの性格を知っている彼方が図ってくれたのかも知れないが。

少なくともその関係を認めてしまった以上、まりもだけは放置できなかった。


白銀の前のループで、まりもが死んだ時、向こうのアタシは何を思ったのだろう?
桜花作戦が成ったのなら、白銀に殺される事を望んだかも知れない。


今も、既に死んでしまった者たちには、当面懺悔しか返すことが出来ない。それでいいのかと問われれば何も返せないが、死者は黙して何も語らない。
もし輪廻が本当に在るのなら、再び人に生まれる事が出来るよう、人類が生き延びること、それで返すしかない。
そして、今を生きている者には、出来うる限りの生を、その未来を齎すことで、贖罪とするしか無い。

その中でも、まりもだけは・・・・、アタシと同じ死んでいった者たちまでをも、背負わせてしまっているのだ。
アタシだけが望外の幸運を享受している事は、いくらアタシが厚顔でも出来なかった。


彼方に任せることが傲慢なのも、他力本願なのも理解している。
それでも少なくとも彼方なら、まりもを癒してくれる、それがアタシの信頼だ。
それをそこらの男に任せることなんか出来ない。
白銀なら悪くはないと思ったが、奴には鑑も御剣も、社も居る。



それを全て察して、ただ一言で了解してくれた彼方には感謝するしか無かった。


まあ、報酬はまりもの身体ってことで。何処でも好きなトコ使っていいからね!


Sideout




Side まりも  23:30 A-00専用ハンガー


統合機動制御。白銀クンの機動概念を元に、御子神クンがXM3正規版上に実現した思想。

今までβ版と、実現している機能は同じ。操作性も違和感がない。
しかしそのバックボーンを仮初めのモノから大胆に変更した。つまりシミュレーションでは問題にならなかった関節損耗や細かい燃費。そういったモノまで全て制御し、自律機動そのものを動的に取り込んでしまうことにより、その動きは更に自然になった。
それはβ版を元に教導を繰り返したA-01や私、白銀少佐の機動やコマンドを精査し、求められる機能を含む全体的な制御へと拡張させた。
結果、β版では消耗の増大した関節部さえ、今までのOS以下に抑制することが可能になった。

それを3日足らずで遣ってしまうのだから呆れるしかない。


更に木曜日、協力を要請されたのは、XM3のナビゲーション。
私がXM3で確かめていた基礎動作、そして今後207Bを想定して組み立てていた教導計画。

それら全てを実現したのが、ナビゲータAI。

XM3を搭載したで戦術機に於いてクラスタシステムと通信することにより実現する、シミュレータモード、ナビゲータAI、更に以前から基地のメインフレームに作って居たアグレッサーAIを実装したシステムが、A-00とA-01に示されたのは、金曜日の夕方だった。


以来22時迄の合同訓練の後も、不知火に潜り込み、そのチェックを行っていた。


擬似教導を行うのは、ナビゲータAI・“まりもちゃん”。
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