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[20484] 【完結】ニートが神になりました(現実→異世界→マブラヴ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2012/03/15 12:46
 チラ裏の多分続かない一話だけの短編集からの派生作品です。

【注意】話が進むに従って崩壊していきます。後半の崩壊っぷりは以上。

【注意】キャラ、作品を馬鹿にされていると思われるかもしれませんが、暴走しまくっていて、尊重するよう気をつけて書いているとは口が裂けても言えませんが、作者なりに各作品を愛しています。
【この作品を楽しむ方法】マブラブ編一話で読むのをやめる事。それ以降を読む場合は覚悟をしましょう。

 出てくる作品

 オリジナル
 マブラヴ



[20484] 1話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:36
「○△! (ちょっと、貴方!)」

「な、なんだ?」

 俺は買い込んだガンダムの模型を落とさないようにしっかりと抱えて言った。
 俺を呼びとめた相手は可愛らしい幼女だった。しかし、幼女は幼女でも得体のしれない幼女だ。服は古代人のような服を着ているし、外国語らしいのに意味が分かる。何より少女は体が透けていた。

「△△。××……○。□(ふう、ようやく私を見える人に会えたわ。男の人ってのが不満だけど……ま、いいわ。貴方の器、貰うわよ。代わりに私の器をあげる)」

 少女が俺の体に触れる。
 俺に幼女が触れると、視界が反転した。
 目の前に、ふふんと笑った俺の姿。
 俺が自分の手を見つめると、その手は紅葉のような小さな手だった。当然、半透明である。

「な、なんだ!?」

 俺が叫ぶと、背中が引っ張られる感覚がして、ぐんぐん地上が遠くなる。
 空間に開いた黒い穴が俺を吸い込む。
 俺が笑顔で手を振っているのが、最後に見た光景だった。
 この野郎!
 黒い穴から出た先は、なんというか……廃墟だった。
 昔は栄えていたのだろう広い町に、貧しそうな人々がちらほらと歩いている程度だ。
 って落ち着いて観察してる場合じゃねぇぇぇぇぇ!
 落ちていく俺は一際大きな建物に激突、天井を透過し、床も透過し、地下の床に叩きつけられた。

「い……っ」

 あまりの痛みに声も出ない。しかし、死んでないだけでも僥倖だ。

「なんなんだよ、一体」

 俺は周囲を見回す。そこは何と言うか、アニメやゲームで見た祭壇に似た場所だった。
 中央には、一際輝く宝玉が掲げられている。
 何故か心を惹かれてその宝玉に触れると、その宝石に吸い込まれた。

「な、なんだ?」

 しかし、同時に何故か心が休まる。俺は酷く疲れている事に気がついた。
 宝玉から自在に外に出られる事を確認した俺は、宝玉の中で丸まる。
 これは夢だ。きっと夢なんだ。目覚めたらいつもと同じ朝が来る。
 俺は眠りについた。
 翌朝、俺は呼びかけられる声に目を覚ました。

『神よ……怠け者……いえ、隋落……いえ、停滞……いえ、穏やかなる生活を望む神よ。水の神の代わりとなってこの地に降り立った神よ』

 まただ。あの少女と同じ、明らかに外国語なのに意味のわかる声。

「お前は、誰なんだ?」

『私は巫女エリザにございます、神よ』

「俺は神なんかじゃない」

『神は恐らく神となったばかりで戸惑っておられるのでしょう』

 俺は宝玉から出た。祭壇に祈りを捧げるエリザがいた。
 美女だったか、正直俺は三次元には興味が無い。人と話をするのも嫌なんだが、ここは情報収集の為にエリザと会話を続けるべきだ。
 エリザは、俺の姿は見えないようだった。

『神よ、お願いがあります。どうか、この近隣の者からやる気を奪う事をおやめ下さい』

「俺は何もしていない」

『しているのです。この町は滅びました。人々が働く事をやめたから。三次元に興味が無いと言いだして、結婚するのをやめたから。夏は家内を涼しく、冬は暖かくするお恵みも下さった事は知っています。しかし、人々は働かなくては生きてはいけないのです。そして、貴方様の力の及ぶ範囲は徐々に広がっています』

「俺は知らない。俺は変な幼女にここに連れてこられたんだ。戻る方法を知らないか?」

 エリザはそれを聞いてため息を吐いた。

『水の神よ……準備期間は与えて下さったとはいえ、あんまりななさりようです……。このような神を後釜に据えるなど……』

「何なんだ、俺にわかるように説明してくれ」

『貴方は神となったのです』 

 なんで。思い出されるのは幼女の言葉。器の交換。
 アレが神になるって事か!?

「人間に戻る方法は!?」

 エリザは黙って首を振る。

「ここは一体どこなんだ」

『水の神システィア様の神殿跡です。申し訳ありませんが、神ご自身がどうにもできないなら、封印を……』

「○△」

 そこで、エリザの後ろにいた粗末な服を着た男が、拝むようにエリザに何か言った。
 その男の言葉は、エリザのようには意味が分かる事が無かった。

『わかりました。夏の昼だけ封印をさせて頂きます』

 そして巫女は俺にお札を張り、俺の意識はそこで途絶えた。
 それから俺が起きていられるのは夜だけになった。これも忌々しい巫女の所為だ。
 正直退屈で仕方ない。
 収穫があった日に一度、変わった植物を献上された事があったが、それくらいだ。
 しかし、捧げられれば体の無いこの身でも食べ物を食べる事が出来るとは思わなかった。
 シチューが食べたい。白いご飯が食べたい。魚が食べたい。
 本来俺は怠け者の性質だが、嫁達の元に戻る為なら努力も惜しまん。
俺が神だと言うなら、何か出来るはずだ。神様っぽい事が。
 俺は夜、思いつく限りの事を試してみる事にした。
 まず、空を飛べるかどうか試してみた。
 無理だった。
 攻撃呪文っぽい事が出来るかどうか試してみた。
 無理だった。
 むー、俺は神として何が出来るんだ。
 巫女に言われた事を紙に書いていく。
1. 働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!
2. 二次元嫁万歳。
3. 冷暖房完備。
 ろくな神じゃねーな……orz って、紙とペンが出せている!?
 紙さえあれば、多少の暇つぶしが出来る。でかした、俺!
 後はネットが出来ればなー。
 そう思案する俺の前に、パソコンが現れる。
 お……俺は天才かもしれん……。
 俺はパソコンに齧りついた。
 ネットにすぐさま繋ぐが、思いつく限りのURLを入れても何も動作しない。
 その後試行錯誤して、パソコンが5台増える事となった。
それでわかったのは、俺の出したパソコン同士ならデータのやり取りが出来ると言う事。
 このパソコンは俺以外には見えないと言う事。
 意味ねーorz
 他に、俺の最初に作ったパソコンに限り、俺の支配地を頭上から眺める事が出来る事もわかった。
 俺は更にパソコン達を調べる。
 更に、最初に作ったパソコンは俺しか所有者に出来ないが、他のパソコンは所有者設定画面がある事に気付いた。
 名前を設定するのでなく、血を捧げる形だが。
 貢物をパソコンに格納出来る事にも気付く。
 さらにパソコンを調べる。
 全てのプログラム。
 そこを覗くと、なんと俺の出来る事が並んであった。と言っても、先に挙げたような物だけだが。
 俺は召喚も出来るらしい。逆トリップは出来ないが。
 召喚プログラムをクリックすると、転生、召喚の二種類が選べる事が発覚した。
 現在の俺の信仰度、100。使用信仰度、転生20。召喚1000。
 召喚は出来ないな。すると転生か。俺の力は信仰度に由来するのかな。
 となると、何とか俺の信仰度を上げなくては。
 水の神とやらが俺に神を押し付けた以上、俺にも同じ事が出来るはずだ。
 そうだ、農業に詳しい者を勇者として転生させるのはどうだろう?
 しかし、そこで重大な事に気付いた。最も俺の力が届くこの地には、人っ子一人いない。
 精々お札をつけたり剥がしたりする為に毎日客が来るくらいだ。
 それに、パソコンを量産したことで俺は疲れていた。
仕方ない、一度休むか。
 俺は宝玉に入り込み、休息を取った。
 翌朝、俺はパソコンを開いた。
 日付を見て、驚く。百年も経過してるじゃねーか!
 急いでパソコンの頭上からのマップを確認。ここの神殿にも、人が復活していた。
 全般的に人々は貧しそうだが。
 俺の信仰度は2000位に変化していた。
 本当なら慎重に転生をまず試すのが本当だ。
 しかし俺は、どうしてもシチューを食べたかった。
 俺はパソコンの召喚プログラムを開く。
 対象者を選んで下さいと言う画面が出たので、農業大卒業生とつけた。
 マイクがパソコンから出てきて、画面に呼び掛けて下さいと言う文字が表示された。

「勇者よ……勇者よ、俺の声が聞こえるか……?」

 すると、いくつかの返事が来る。

「なんだなんだ?」

「キタ―!」

「とうとう幻聴が……」

「あー、この中で古代の世界で農業を極めてみたいというものはいないか」

 俺の言葉に質問が来る。

「ネットはあるんですか?」

「無い」

「魔法はあるんですか?」

「わからん」

「チート能力は貰えるの?」

 俺はパソコンをちらりと見る。

「パソコンをくれてやる。パソコンのアイテムファイルに物を詰め込む事も出来る。使えるのは冬と夜だけだがな」

「言葉は通じるの?」

 ……恐らく通じない。言語学者をつけるか。

「言語学者をつける」

「お礼は貰えるのですか?」

「俺のパソコンが礼だ」

「帰ってくる事は出来るのか?」

 俺はパソコン画面を確認した。可能なようだ。しかも時間の流れも違うから、向こうの世界で言うとほんの少しの時間らしい。もちろん、年は取るが。

「俺の信仰度を増やせば出来る。俺の名を広める事だな」

「貴方の名は?」

 俺は少し考える。

「ニートとオタクの神、ニーク」

 げらげらという笑い声が返り、俺は顔を赤くした。事実なんだから、仕方ないじゃないか。

「さあ、我こそはという者はいるか。選ばれるのは一人だけだぞ」

「俺が行く」

 画面上に名前が現れる。俺はその名前をクリックした。
 名前は鈴木茂。二人兄弟の次男。牧場の家でそこそこ裕福な家庭。
 向こうの時間で一年後に召喚タイマーをセット、その事を告げる。
 こまごまとした事を打ち合わせて、俺は通信を切った。
 さあ、次は通訳だ。
 今度はハードルをあげて、言語学者で検索。

「勇者よ、勇者よ……俺の声が聞こえるか?」

 そして、俺は加藤晴美という女性の言語学者をゲットした。
 全てが終わった後に俺は気づく。
 漫画家や小説家を召喚すりゃ良かったじゃん!
 俺は大いにへこむのだった。



[20484] 2話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:37
 俺、鈴木茂は喜びのあまり震えていた。
 神様からの勇者召喚キタ―! 俺は何か人と違う事が出来ると思っていた。
 夢ではない証拠に、俺の目の前には神から貰ったノートパソコンがある。
俺は喜び勇んで兄貴に報告しに行く。

「兄貴―! 聞いてくれ! 俺、神様に召喚された! 一年後! 見ろよ! 証拠のノートパソコン!」

 兄貴は駄目だこいつ早く何とかしないと……という顔で俺を見る。

「何も持っていないじゃないか。お前、今年大学卒業したんだろう。いい加減、大人になれ」

「え……?」

 俺はびっくりして兄貴を見た。
 まじまじとパソコンを見る。
 それは確かにそこにある。
 俺はすごすごと部屋に戻った。
 そうか、兄貴には見えないのか……。
 とにかくパソコンを開いてみる。何か証拠になりそうなものはないものか。
 パソコンを開くと、貴方の血を認証画面に捧げて下さいとある。
 驚いたが、これは神のパソコン。そう言う事もあるだろう。
 俺は震えながら針で指をつき、そして指で画面をつついた。
 パソコンが光を放ち、名前を付けて下さいと出る。

「クロ……クロだ」

 普段の姿を決めて下さいと出る。
 急に普段の姿と言われても。茂は猫の姿を思い浮かべた。ずっと飼いたくて、でも駄目だった。黒い可愛い猫。
設定が完了しました。起動時にはクロ、起動と唱えて下さい。消費MPは一時間につき10です。
そして、パソコンは思い浮かべた通りの可愛い黒ネコとなって前足を舐める。

「クロ、起動」

 俺は黒を抱き上げ、恐る恐る言った。
 再度パソコンが現れ、パソコンの画面の右上にMP315/325と表示されていた。

「すげぇ……すげぇ!」

 早速全てのプログラムを見ると、以下の物が作動しているのが分かった。
 「働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!」無言で切る。
 「二次元嫁万歳」ザクッときたがこれはどうせ変わらないから放置。
 「冷暖房完備」これも放置。
 「燃費削減」これも放置。
 「ネット機能(消費MP20)」繋いでみると、掲示板とチャット機能の二種類があるようだった。
 掲示板に、「加藤晴美です、よろしくお願いします。鈴木さんは、向こうに何を持って行かれますか? ……って農作物に決まってますよね。私より荷物が多くなりそうだから、アイテムゲージが足りなくなりそうだったら手伝いますよ」と書かれていた。ほほう、荷物を入れるのにアイテムゲージがいるのか。早速返事を書く。

「鈴木茂です。よろしくお願いします。助かります」

 それだけ掲示板に書いて(書き込みはMP5消費だった)、プログラムの確認に戻る。
 「アイテムボックス」これがアイテムをしまうものだな。アイテム画面を開いて、試しに鉛筆を入れてみる。アイテムゲージが僅かに減って、鉛筆が消えた。マウスパッドで画面の鉛筆をクリックすると鉛筆が出てくる。
 「メモ帳」これは特に問題ないな。
 「プリンタ(紙をアイテムボックスに入れて下さい)」
 機能はこんなものか。いくつかプログラムやデータを入れられるかどうか試してみよう。
 試した結果は可だった。ネットにもつなげる。
 そうだ、気候はどうなんだろう。掲示板で神様に問いかける。
 なるほど、冬は雪が結構降るんだな。牛小屋とかを作る所からスタートなのかな。
 考え考え、俺は再度兄貴の部屋に駆けた。

「兄貴! アイテムボックスにアイテムを入れる所を見てくれ! 俺は本当に神様から選ばれ……あっ」

 俺はこけて、ノートパソコンを兄貴にぶつけてしまった。兄貴の姿が消える。

「あ、兄貴―!?」

 俺は急いで兄貴をパソコンから出す。兄貴はガタガタ震えていた。

「いきなり暗闇が……」

「だから言ったろ! 俺、神様に選ばれたんだって!」

「お前、もうちょっと詳しく話してみろ」

 俺は喜び勇んで兄貴にその話をした。怒られた。

「そんな怪しい話に乗るな馬鹿!」

「うるせ―な、俺は行くぜ! 絶対行くぜ!」

 俺が主張すると、兄貴はため息をついた。

「父さんと母さんに相談してみよう」

 父さんと母さんに相談しました。怒られました。

「そんな怪しい話に乗る奴がいるか!」

「茂、貴方って子は……」

「とにかく、松下さんに相談してみよう」

 松下さんとは、良く相談に乗ってくれる農協の人だ。
 俺は困った事になったとため息をついたのだった。



 一ヶ月後、俺と晴美さんはとあるカフェで待ち合わせをしていた。怖い人達と一緒に。

「はぁ、なんでこんな事になったのかしら」

「さ、さあ……」

 話が広がりに広がり、ついに政府まで届いてしまったのだ。

「異世界というのは誰でも憧れると言う事ですよ」

 橋本さんというがっしりしたスーツの人が笑って言う。
 外国人のマークさんと言う人が頷く。

「それに、異世界には何があるかわかりませんからね。貴方方にもメリットのある話だ」

「持っていける者には限度があるのよ? 教授も連れて行けって五月蠅いし……」

「そうそう、牛や豚、色んな種や農作物の用具、当面の食べ物……持っていく物は大量にあるんだ」

「シチューの材料分の食材さえあればいいのでしょう? こちらで様々な準備をさせて頂きます」

 俺と晴美さんは、顔を見合わせ、ため息をついた。
 その代り、国で牛や豚などをバックアップしてもらえる事になった。
 一時的に国に調査員として雇われる事になり、給料も出る。
 それはいいのだが、何故か俺と晴美さんまで護身術とか機械の操作とか色々な事を勉強する事になった。行くのは古代だっていうのに。
 特に晴美さんは、神様から現地の人の喋る言葉を送ってもらってその解析をしながらだから忙しい。
 俺も、アニメのデータを神様に送ってやるのに忙しかったけど。
 最後の3か月は俺も向こうの言葉を学ぶ事になった。
 そして11ヶ月後、俺と晴美さんは政府の人達に見守られる中、旅立った。
 その時間が来ると、俺と晴美さんの体が輝く。

「おお、良く来た! じゃあ、頼むぞ」

 透けている金髪の可愛らしい少女がにこやかに笑う。
 その反対側では、少年が腰を抜かしていた。

『こんにちは。私は貴方の敵ではありません。神の遣いです』

『神の遣い? 隋落の神がこの地に何をもたらすと?』

『オイシイ、モノダ』

 俺は片言の言葉で答える。

『とにかく、貴方方が神様の御呼びになった人ってのは間違いなさそうだな』

 少年が立ちあがり、お札を宝珠に張る。
 すると、クロと晴美さんのキューティーが消えた。

『歓迎します、神の御遣いよ。この神殿をご案内します』

『ええ、お願いするわ。その前に、ちょっとだけお札を剥がしてもらえるかしら』

 少年は訝しげな顔をする。

『神の御遣いともあろう者が、この程度のお札をなんとかできないと?』

 晴美さんはムッとした顔をした。

『いいわ、何とかしてあげる。気配は遠くなったけれど……』

 晴美さんが精神を集中すると、消えたガントレットが再度出た。

「キューティー、起動」

 そして晴美さんはアイテムボックスを開き、橋本さんとマークさん、教授の井下さんと動物学者の尾身さん、植物学者の田中さんを出した。少年が驚く。

『あら、神の御遣いなんだから、これくらいしたって変じゃないでしょ?』

 晴美さんはふふんと笑って答えた。晴美さん怖い。

『あ、ああ。じゃあ、案内するよ』

 神殿の中は、予想以上に荒れていた。
 さすがに祭壇まで来る人はいないようだが、浮浪者のような人達が、多く住み着いている。

『神様の力だとあまり食べずに済むし冬に凍死しなくて済むから、皆ここに集まってるんだ。神様は仕事するのを邪魔するから、昼は必ずああしてお札を張らなきゃいけないけど……』

『ああ、それは聞いてるわ』

『一度、この町は滅びた事もあるんだ。神様の怠けさせる力で』

 晴美さんはコックリと頷いた。
 俺達は会話を晴美さんに任せて黙ってつき従った。

『だから仕方なく封じているけど、神様は怒っているかな?』

『封印を破ろうと思えば破れるわよ。私と同じように。それをしないのは、怒っていないからじゃないかしら』

 少年はにこりと笑うと、頷いた。

『おいら、カイトって言うんだ。御遣い様は?』

『晴美よ。ねぇ、開いている土地を探しているの。神様に畑を作るよう頼まれていて。あるかしら?』

『開いている畑はいっぱいあるよ。働く人はいつでも歓迎さ』

『それで十分よ。早速見せて頂戴』

 神殿は大きな城壁に囲まれており、その更に外側には畑と草原が広がり、その更に向こうには大人程の高さの城壁があった。
 見知らぬ草をいきなり牛に食べさせるわけにはいかない。やはり、牛を出すのは2,3年ここを開拓してからだろう。

「クロ、起動」

 俺はクロから鍬を取り出して、働き始めた。晴美さんと教授は人々と話をする為に消え、橋本さんとマークさんは晴美さんに出してもらった機械で何やら調べ始め、尾身さんと田中さんも色々と調べる為に消えた。やれやれ、一人くらい手伝ってくれる人がいてもいいじゃないか?
 



[20484] 3話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:37

 その日の夜、神殿の中枢部で、神様を交えた会議をした。

「どうやら、凶暴な野生動物がいるようだ」

 動物学者の尾身さんが言う。うん、その頭に齧りついている動物がその一種なんだな、良くわかるよ。マークさんが銃を一発、その生き物は沈黙した。

「ああっ貴重なサンプルがっ」

「それより早く頭の傷を手当しなさい」

 マークさんと尾身さんの漫才は放っておいて、橋本さんが報告した。

「地球との連絡は取れませんでした。信仰度をあげるまで、帰る事は諦めるしかないようですね。星も全く未知の天体でした」

 田中さんも、続けて言う。

「ここの植物は非常に興味深い。変わった形の果物がいっぱいですね。しかし、甘みは少ないようだ。品種改良をしても面白いかもしれません。地球のリンゴに良く似た植物があるのです。それと駆け合わせてみるのも面白い」

「私と教授は情報収集をしてきました。喜んで下さい、この地にはエルフや獣人がいます」

「いやっほぅ!」

 晴美さんが拍手をするが、はしゃいだのは俺達二人だけだった。落ちる沈黙に、晴美さんがほほを赤らめてこほんと咳払いをする。

「それらは元は普通の人間だそうです」

「ほほう」

「しかし、神の加護でそれぞれ特異な力と姿を得たとか」

「なるほど」

「例えば水の神。この神殿は水路が多いでしょう? 今はもう枯れているけれど……。これは、ここを人魚が泳いでいた名残らしいわ。人魚たちは水を操る事が出来たそうよ。水の神が力を与えるのをやめて以来、人魚もまた生まれなくなったらしいけれど……」

「おお、という事は俺も何か出来るって事だな!」

 神様が手を打った。

「強力な神にしか出来ないそうだけどね」

「そうか……」

 神様がしょげた。

「一番強力な神は何と言っても魔神ね。魔神は悪しき心を持つなら人間でも動物でもどんな種族でも受け入れるらしいわ。また、悪しき心をばら撒く事が出来るみたい。寄り代がいる間は暴れ放題。ま、オーソドックスな魔王って奴ね。ここにもちょこちょこ魔神の信者、魔物が現れるみたい。そこで、神様にお願いがあるんだけど。教授達にも祝福を頂戴? 魔神対策ね」

「祝福か。やりたくない、やりたくないが……こうか?」

 神様が教授の手にキスをすると、引籠という文字が手の甲に刻まれた。
 神様がちょっと落ち込み、晴美さんがこほんと咳払いをする。

「ま、まあいいんじゃないかしら」

「何か嫌な効果がありそうじゃな、これ」

 教授が言って、晴美さんの後を引き継いだ。

「まあ、わしは魔術について調べてきたぞ。魔術とは、要するに魔力のあるもので書いた神の文字らしい。そこで、実験をしたい事がある。これは神殿からかっぱらってきた魔力のある墨じゃ」

 教授は水色に光る墨で魔法陣を書き、中心に冷房と書く。
 すると、部屋が一気に涼しくなって皆が拍手をした。

「ははは、疲れはするがな。便利じゃろう?」

 最後は、俺の番だ。

「俺は、十メートル四方を耕した!」

「さ、寝るか」

「そうね、寝ましょう」

「お、おい、なんだよそれ。元からそういう目的でこっちに来たんだろうが、おーい!」

 俺の言葉を無視し、皆で寝袋を出して寝る準備を始めるのだった。
 翌日。
 俺は一番に起きて、体操を始めた。
 田中さんが取ってきてくれた木の実を食べて、一人働きに出る。うう、あんな木の実じゃ力がでない。でも、少なくとも今年いっぱいはあの木の実で我慢しないと。
 俺が神殿の外へ向かうと、お札を持った少年と行きあった。

『オオ、ショウネン。オハヨウ』

『ああ、おはよう。早いな。まだお札を張っていないのに働きに行こうと思えるなんて凄いな』

『オレ、ミツカイ』

『ああ、そうらしいな。じゃあ。俺も隣の畑をすぐに耕しに行くよ』

 俺と少年はそこで別れ、俺はせっせと土地を耕した。
 しばらくして、人々が次々とやってきて農作業をしだす。

『やっとるねぇ、新入りさん』

 老人がにこにこと笑いながら草むしりをしていた。環境は悪くないようだ。

『随分良い鍬をつかっとるようだね。羨ましい』

『オレ、カミノミツカイ』

『御遣い様ってのは、凄いんだねぇ』

「おお、早いね、鈴木君。早速だが私らの荷物を出してくれんかな。本腰を入れて調査したい」

 尾身さん田中さんコンビがいい、俺はこくりと頷いて唱えた。

「クロ、起動」

 そして、アイテムボックスから色々と機材を取り出して尾身さんと田中さんに渡す。

「そう言えば、晴美さんはどうしてる?」

「廊下で寝ているようじゃ不潔だと言って、神殿の掃除を始めたよ。いずれ、神殿の人口を調べて部屋の割り当てをしたいらしい。橋本さんはその手伝い。教授とマークさんは荷物を纏めて周囲の探索に出たよ。神様にパソコンを一台貰ってね。目標は王都らしい」

「無茶じゃないですかねぇ」

「しかし、やってみるようだ。私も魔物の生態を調べてみたいのでね。今日は少し遠出するつもりだよ」

「お気をつけて」

 尾身さんと田中さんを見送る。
 昼には晴美さんと橋本さんと一緒にご飯を食べた。

「畑を耕すのは順調に進んでいるようね?」

「晴美さんも手伝ってくれよ」

「今してる仕事が楽しいのよ。今日は書物を見つけてね。今夜は文字の解析で眠れないわ」

「情報収集や探索にも役立ちますしね」

 俺は橋本さんと晴美さんの言葉にため息をつく。
 なんてこった、俺は一人で畑を維持しないといけないのか。

「現地人を雇えばいいじゃない。こんな時の為にライターとか金貨とかたくさん持って来たんでしょう? 古代で役立ちそうな安価な物って事で」

「あ、そうか」

 その後、俺は晴美さんの計らいでライター一個と出来た作物少しと引き換えに一年働いて貰う契約を現地人と結んだ。晴美さんこえぇ。薄給なんてもんじゃねぇぞ!
 雇ったのは10人くらい。皆で協力して畑を広げる。水の神殿だけあって、水浸しの土地があって助かった。少し手を入れれば水田に出来そうだ。
 御遣いという事で、皆が協力的で良かった。
 四ヶ月後、無事最初の作物が出来た。人数が多かったから、いくつか種を増やす事が出来た。そう、まだ種を増やす段階だ。本格的な栽培は来年から。今回は全て種にする。
 ついでに、現地の人に神様の食べ物という事で配って育てるのを協力してもらう。
 段々涼しくなってきた事によって気付く。神様の力で温室できないか?
 太陽の光は室内に差す事は無理だけど、燃費削減と暖房があるわけだし……。
 試して、見るか。
 晴美さんは全ての部屋の掃除と部屋の割り当てを終え、満足そうだった。
 部屋を移動してもらう代わりに冷暖房の札を作って渡してやると、感謝すらされたらしい。
 それが終わったなら、そろそろ畑を手伝ってほしいのだが、晴美さんは次は学校を作るのだと張り切っている。
 仕方ないので、俺は俺でやる。
 金貨を積んで、塔型サイロの建設も進める。サイロとは家畜のえさの倉庫だ。倒壊事故が起きないように、慎重にしないとな。こちらは尾身さんも協力してくれて順調に進んでいる。尾身さんは現地の動物を家畜にしたいのだ。
 田中さんは今、植物辞典を作ろうと頑張っている。
 冬に入る前、マーク達と共に大勢のドワーフが神殿にやってきて、俺は驚くのだった。




[20484] 4話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:38
マークと教授は荷物を整え、一緒に近くの町についていた。

『こう言ってはなんだが……ここら辺は貧しい印象の町が多いですね』

 マークは金貨を質屋で崩しながら話す。

『一度、全員が働かなくなったからね。しっかり者は隋落の神様の力の及ばない所に逃げたよ』

『なるほど。所で王都に行きたいのですが、どうすればいちばん楽に行けるでしょうか』

『王都かい? それなら、商隊について行くのが一番いいだろう。ここら辺は山賊も魔物もやる気のない者達が大半だし、通行証のチェックもさぼっているからね。通り易いという事で、隊商のルートになっているんだよ。ここじゃやる気を出す武神のお守りがバカ売れするしね』

『隊商のルートに……。所で、通行証はどうやったら手に入るのですか?』

『なんだ、あんた持ってないのかい? 役所で発行してもらうんだよ。けど、ここら辺の役所は身分証明が無くても通行証を発行するから、遠い関所ほど通じない。王都へはいけないねぇ……。あんたらが神の力を使う神官ならば、王都まで行ける通行証を発行できるんだが』

 そこで教授は引籠の紋章を見せた。

『神の祝福を直接受けてるんだが、それでは駄目かね』

 質屋は目を見開いて言った。

『なるほど、それなら行けるだろうさ。役所は向こうだよ。しかし、あの隋落の神の祝福じゃ、加護は期待できないな』

『なに、早速王都への切符という加護を手に入れましたよ』

『違いない!』

 マークと教授が通行証を発券して貰い、商隊が通りかかるのを待った。
 しばらくすると、大きな馬車がいくつもやってくる。
 馬車というより竜車といった方がいいだろうか。大きなトカゲのような生き物が馬車を引いていた。

『すまないが、王都まで乗せてもらえないだろうか。料金は払う』

 商人はマークをじろりと見て言った。

『通行証は?』

 マークが通行証を見せると、商人は片眉をあげた。

『隋落の神の神官様ですか。意外ですが、どうぞ馬車においで下さい』

 商人はにこやかに馬車に案内する。
 馬車まで向かうと、そこには様々な者達がいた。
 獣人、龍人、エルフ、木人、鳥人、ドワーフ……もちろん、人間も。彼らは立派な服を着て静かに座っていた。

『隋落の神の神官様です』

『どうぞよろしく』

『獣の神の神官だ』

 獣人。

『武神の神の神官……』

 龍人。

『火の神の神官じゃ』

 人間。

『風の神の神官です』

 鳥人。

『大地の神の神官じゃ』

 木人。

『癒しの神の神官、サレスです』

 エルフ。

『鍛冶の神の神官』

 ドワーフ。
 マークはそれぞれを頭に叩き込みながら、にこやかに問いかける。

『神官様ばかりなのですね。何かあるのですか?』

『王都にある中央神殿で神官会議があるではないですか。私達は大都市グレンから神官会議に出席する途中なのですよ。てっきり貴方も参加するからこの商隊に入ったのかと』

 サレスがいい、マークは大げさに驚いた。

『なんと! それは正しく神の導き。いや、実は見識を深める為に旅に出ただけなのですよ。そんな会議があるならぜひ出席させて頂きたい。若輩者の私目に、色々教えて下さいませんか?』

『まあ、いいでしょう』

 サレスは、まんざらでもない顔をして頷く。
 教授とマークは頷きあって、情報収集を始めた。
 関所をいくつも通過する。途中、魔物と呼ばれる凶暴化した動物の襲撃を何回か受けたが、それが徐々に強くなっているのを感じていた。
 ついに、強力な魔物が現れたらしい。悲鳴が響き渡る。

『ドラゴンだ!』

『神官様方を守れ!』

『神官様には指一本触れさせるな!』

 ドラゴンという言葉を聞き、獣人と竜人が立ちあがる。

『どうやら、俺達の出番のようだ』

『リグルとパーズだけにいい格好はさせられないの』

 人間が立ちあがり、それを合図に全ての神官が立ちあがった。それから先は圧巻だった。
 獣人が大きな声で吠えるとドラゴンの動きが止まる。
 龍人の斬撃が空を割く。
 人間の放つ火球が爆発する。
 鳥人の真空波がドラゴンの翼を切り裂く。
木人の操る木の根がドラゴンの足に絡みつく。
 サレスが回復に回る。
 ドワーフの斧は振るうたびに雷撃を放った。

『はぁ……皆さん、凄いですね』

 マークと教授が呆然とする。そうしていながらも、カメラで情報収集するのを忘れない。

『貴方の神はどんな加護を? それはなんですか?』

『ああ、この馬車を涼しく出来ますよ。このカメラはなんでもありません』

 戦闘後、冷房の札を張ると、部屋に涼やかな風が吹いた。
 ふん、と竜人が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

『わしはカッティーじゃ。早速じゃが、その札分けてもらえんかのう。火の神の札をやるから。わしゃ熱いのは得意でも暑いのは苦手でのう』

 人間の神官が興味を示して手を差し出した。

『ええ、暖房もありますよ』

 噂はまたたく間に広まり、マークは札を量産せねばならない事になるのだった。
 中央神殿につくと、その芸術的な作りにマークはため息を漏らした。

『では、私が代わりに隋落の神の参加申請をしてきてあげます』

 サレスが中央神殿に入って行く。

「怖いくらいに順調だな」

 マークが笑い、教授が頷いた。
 サレスがすぐに神殿から顔を出す。

『部屋にご案内します』

 案内された部屋は小さなベッドが二つある部屋で、サレスは恐縮した。

『このような小さい部屋ですみません……』

『いや、ベッドと机があれば十分です。親切にありがとうございます。今後の予定を教えてくれませんか?』

 マークの質問に、サレスは机を指し示す。

『そうですね。まず、机の横に大きな魔力を込めた墨を溜めた壺と紙の束があるでしょう?それで、お札を作って下さい。一週間後、全ての会議に出席する神官はお札を中央神殿に寄贈する決まりです。ドワーフさんに依頼してもいいでしょう。ドワーフさんが作った物にお札を張る事で、お札の力を移す事が出来るのです。また、お札と同じ刻印を刻んだ物はお札より強い効力を持ちます。これもドワーフさんに作ってもらって、後から魔力を込める形がいいでしょう。低級なお札なら誰でも使えますが、作るのは素質のあるものしか出来ませんからね。それと、今までに作ったお札は中央神殿に納入してはなりません。決められた様式で無いと。これを一種10枚ずつ』

『普通に作れたから誰でも作れるのかと思ってました』

『お札を作る為には、術自体に対する才能と、神に認められる事が大切なのです。そして、神は二神に仕える事を望みません。鍛冶の神はまだ融通が効きますが、それでも鍛冶の神に対する最大限の忠誠を必要とします。強力な加護を同時に二つの神から得る事は難しい。それと、会議の後の交流会でお札を売ったり交換したりすると良いでしょう。魔術師と呼ばれる神に仕える事無くお札を作ったり使ったりする者たちも買いに来るはずです』

『魔術師と神官の違いは?』

『神官は決して他の神のお札を作りません。それゆえ、魔術師は多彩な力を使える代わりに弱く、神官は一つの力しか使えない代わりに強力です。もしも軽はずみに他の神のお札を作ろうと思う事があったら、やめておきなさい。二度と仕えていた神の強力なお札を作る事も出来なくなり、新しく仕える神にも心から認められる事はないでしょう。例え神が認めたとしても、力に濁りが出て100%神の力を受ける事が出来なくなる……例えば私の場合、エルフ族になる事が出来なくなります。そうするとお札なしで力を使う事が出来なくなります。今、私が冷房の札を作れば、私は人間へと戻るでしょう』

『なるほど、カッティーさんは?』

『彼は決して燃える事がありません。火人というのですよ。その加護が無くなります』

『お札を使う事は問題ない?』

『それは問題ありません』

『エルフ族になる為には何をすればいいんです?』

『修業を積み、その器を手に入れて神に認められる事です。大体、神官の心得としてはこんな所でしょうか。後、食事と湯は部屋に運ばれてくるのでご安心を。着替えはありますか? 神官としての正式な服がないなら仕立てを……いやしかし、神に無断で決めるのは問題ですね』

『そこら辺は何とかします』

『良かった。それではまた一週間後』

 長話をして疲れたマークと教授はため息をついた。

『興味深いが、色々面倒だな。早速情報を共有しないと』

 マークが貰った指輪型パソコン、ハンターを起動して橋本とニークと連絡を取り合う。
 神様はカメラで撮った戦闘映像に大喜びだった。

「服ですが、スーツでいいですか?」

「いや、マークが持ってた迷彩服で」

「それは……」

「迷彩服で」

 神様の命令は絶対である。マークはため息をついた。

「で、お札は何を作りますか?」

「作れるだけ作って出してみればいいじゃないか。そうだ、なんか知らないが最近信仰度が鰻登りでな。お陰でMPは極端に消費する物の、URLが設定可能になった。これで掲示板とチャット以外にページが持てるぞ」

「それは朗報ですね。お札はこちらで色々考えてみます」

 ネットを切り、マークと教授はお札作りに入った。

「冷暖房だけというわけには行くまい」

「そうですね。確かに」

「えーと、パソコンを見る限り、作れるのは……。働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる! のお札と二次元嫁万歳のお札と冷暖房のお札、燃費削減のお札、ですかね……チャットと掲示板はパソコンないと出来ないし」

「そうですね、やってみましょう。出来るだけたくさんのお札を入手したいですし、資金も必要です」

 マークと教授は、部屋から一歩も出ずに研究とお札作りを続けたのだった。
結果、ニークが許可を出し、巨大な魔法陣に魔法陣にキーボードと画面を描くという方法を確立した。
 早速、メンバーのチャット場を新URLに移動するよう通達し、掲示板の記事も全て移動する。全ての準備を整えて、一週間後に会議が始まった。
 サレスはエルフ代表ではないらしく、一つの種族につき二人ペアで会議に出席していた。
 司会をしていた木人が言う。

『まず、会議を始める前に我らに新たな仲間が加わった事を歓迎しましょう。隋落の神の神官、マーク殿です。今現在の神官達についての説明は事前に受けているようなので、自己紹介をしてもらいましょうか。貴方の神の教義はなんですか?』

 マークは汗をかいた。

「ハンター、起動」

 マークが指輪を起動させると、ノートパソコンが現れた。さすが神官達、ハンターが見えるらしく声をあげる。
 ドワーフの目がハンターにくぎ付けになった。

「ニークさん、貴方の教義はなんですか」

 ちなみにマークはニークを神様と呼んだ事はない。マークにはほかに信じるべき神がいるからだ。

「きょ、教義? 他人に迷惑をかけずに自分が楽しく生きる事かな」

『他者に迷惑をかけず、楽しく生きる事です』

 マークが自信を持って答えると、神官達に微妙な沈黙が広がった。
 ニークが水の神の神殿を滅ぼしたのは周知の事実である。

『とても素晴らしい教えだと思いますわ。それで、どのようなお札を持ってきたのか見せて頂けないかしら?』

 エルフの女性がにこやかにいい、マークは一枚のお札を出した。

『まずは働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!の札です。人の労働意欲を根こそぎ奪います』

 また、微妙な沈黙が落ちる。マークは次のお札を紹介した。

『二次元嫁万歳! 絵画の人物に恋をするようになり、実際の異性に興味が無くなります』

 人々がざわめく。

『あの、水の神殿を滅ぼした……』

『呪い……』

『隋落の神……』

 ニークはくじけず続ける。

『燃費削減! 運動力が落ちる代わりに少ない食事で済むようになります』

『要するに怠ける為のものだろう』

『運動能力が落ちては意味が無い』

『いや、雪に閉ざされた冬など、使える場面もあるやもしれん』

 竜人や獣人が突っ込みを入れる。マークとて、ここまではぼろくそに言われるのをわかっている。だから、これらを先に出したのだ。

『冷房、暖房の札! 冬は暖かく、夏は涼しくする事が可能となります』

『これの話は聞いている』

『これは使えるな』

『ふん、くだらん』

 そして、止めはこれだ。

『チャット、掲示板のお札! 遠い場所にいる人々同士が文通を交わす事が出来ます』

『どういう事だ?』

『実際にやって見せます。教授!』

 二人でお札を発動すると、描かれたキーボードを叩く。

『これは……文字か?』

『そうです。キーボードの文字は普段使われる物で構いません。これを打つと、同じ文字がこの画面に現れるわけです。そして、エンターキー。これは必ずEnterと書かれていなければなりません。ここに二回触れて……これで正式に書き込み完了。教授の方の画面……四角い枠の中を見て下さい』

『同じ文字が!』

 ドワーフが驚きの声をあげた。 

『驚いたの』

 火人が感嘆の声をあげる。

『欠点は、全てのこれを使う人々が同じ場所に書き込みをする事になる為、ログがすぐに流れてしまう事です。それを補うのが掲示板です。情報を探したければ、検索で』

『面白い。後で札を分けてくれんかの。武器の威力を上げる札をやるから』

『俺も!』

『私も』

『文字の多い国は苦労しそうだな』

『喜んで。ただしこれは高いですよ』

 マークは微笑んだ。説得は上手く行ったようだ。
 そして、議題に入った。
 内容は魔神対策から食料についてまで幅広いものだった。
 マークに求められた事は、燃費削減の札の生産だった。
 それを了承し、会議が終わった後は各自用意されたブースに行く。
 マーク達はたった二人なので交代で店番をするしかない。
 有用な札は早く売り切れるのが摂理だ。マークは走り、人気の高い所の弱い札から狙って、全種の札を入手した。調査用だから、威力はほとんどなくても構わないのである。
 そしてマークが店番をしていると、ドワーフがやってくる。

『会議であったな。ワシはマーティンだ。その指輪、興味深い。もしや、神とチャットが出来るのかね? 新しい種族の誕生かな』

『ご明察。新たな種族と言っていいかはわかりませんが』

『チャットの札を10枚ほど欲しい。ワシの書く文字でキーボードを作ってくれ』

『10枚も書くのは大変ですよ。一枚でご勘弁願います』

『仕方ないの』

 話していると、いかにも怪しいローブに仮面姿の者が現れた。しかも、複数だった。

『やる気の無くなる札を一つ……金貨1枚、いや5枚出す』

『二次元嫁万歳を一つ……くくく、これを兄上に使えば……』

『娘は誰にも嫁にやらん! 二次元嫁一つ』

『いつも口説いてくる彼に二次元嫁を使ってやるわ』

『あの人はいつも仕事ばかり……。少しは私の事を……。やる気の無くなる札を頂戴。無くなるのは勤労意欲だけなのでしょう?』

 どうみても呪う為です本当にありがとうございました。
 しかし、地獄の沙汰も金次第。という事で思う存分高値で売るマークだった。
 冷暖房が売れに売れた。チャットや掲示板は作る手間が大変だから少量しか売れなかった。
 サレスがにこやかにやってくる。

『どうですか、売れましたか』

『お陰さまで。お礼に、サレスさんには掲示板の札をプレゼントしますよ。王都も案内して頂けると嬉しいのですが』

『ええ、お安いご用ですよ』

『わしは図書室に籠ってようかの。魔術師を目指してみるつもりじゃ』

『そちらは教授にお任せします』

 マークは王都に向かう。有益そうなものはすべて買い取るつもりだ。その為にアイテムボックスには武器以外何も入れていなかったのだから。

『持ち帰れるんですか?』

『馬車を使いますから。何せ田舎者なものでね。全てが珍しいのですよ』

 片っ端から買い物をしては部屋に届けさせるマークに、サレスが汗をかいた。
 買い物を終えると、マークは何気なく言った。

『肉屋さんはありませんか? 私は分厚いステーキが好きでね』

『えっそんなにお金があるんですか? もしかしなくても、マークさんってお金持ちなんですか』

『肉は高いんですか?』

『あたりまえじゃないですか。魔物の肉は害がありますし、どの動物もいつ凶暴化するかわかりませんから。神の力の込めた首輪で守る事は出来ますが、札を作ってドワーフの作った首輪に力を移してその首輪を常時付けさせる事になりますから、コストが掛かるのですよ』

『神の祝福じゃ駄目なんですか?』

『動物に祝福って、そんな事をするのは魔神位ですよ』

 マークは聞いた事をしっかり頭に叩き込む。そして二人で果物を食べて、その日は別れた。
 部屋に帰ると、マークの帰りを数人の客人が待っていた。

『貴方方は?』

『私達は魔術師です。どうか、隋落の神の秘儀を私達にも』

『構いませんよ。貴方方の持っている他のお札と交換です。部屋は散らかっているので、お札作成室へ行きましょう』

 魔術師達がお札を作る為に念を送ると、それがニークに届く。
 ニークに断る理由はない。チャットも掲示板も許可した。
 そしてマークと教授は二か月ほどの滞在で物資と調査を終えた。
 馬車に向かうと、マーティンとサレスがそこで待っていた。

『ようやくお帰りかの』

『どうなさったんですか』

『神殿が復活したなら、ドワーフとエルフも行かねばなるまい。ドワーフは全ての者の武器を作り、エルフは全ての者を癒すのだから』

『では、私達はこれからお仲間ということじゃの。よろしく頼む』

 教授が笑みを浮かべてサレスとマーティンと握手をし、マークはため息を吐いた。



[20484] 5話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:39

 帰りにもやはり、強力な魔物が現れた。
 護衛団が戦うが、戦況が悪い。

『下がっておれ!』

 マーティンが斧を振るうと、そこから炎が弾け出た。何重にも別れた角のような物を持つ巨大な牛に似た生き物の角を、叩き折る。しかし直後、弾き飛ばされた。
 教授がマークの方を見、マークが頷いた。
 ここで死んでは元も子もない。いずれはばれただろう。多分。

「ハンター、起動」

 そしてマークが銃を構える。
 連続で撃たれた銃弾に、僅かなタイムラグの後、魔物はどうと倒れた。

『そそそ、その武器はなんだ!? 今どこから出した!? その武器を見せてくれ!』

 マーティンが勢い込んで叫ぶ。
 やれやれ、やはりこうなったかとマークは苦笑いをした。

『企業秘密ですよ』

『もう一度攻撃してみてくれ!』

『弾数に限りがあるので』

『弾数?』

『こういう銃弾を打ち出す武器なのです』

『なるほど! だがどうやって魔物を倒す速度で打ち出す!?』

『そこは部外秘です』

 マーティンはいきなりそこで土下座した。

『頼む! その武器を貸してくれ!』

『そんな事をされては困ります! うーん……弾を抜いた状態でなら……。壊さないでくださいよ?』

『おおお、ありがとうマーク』

 銃を調べるマーティン。
 その間に怪我人の治療をしていたサレスが、死んだトカゲの護符の首輪を回収していた隊商の長と喧嘩を始めた。

『怪我人を置いて行くなんてあんまりです!』

『仕方が無いんだ、怪我人を置いておくだけの馬車のスペースが無いし、乗ってきたトカゲは死んでしまったんだから』

『私が運びましょう』

 マークが、ハンターに怪我人を「収納する」。
 長とサレスは呆気にとられた。

『い、今のは……』

『隋落の神の加護を受けし者は物の持ち運びが簡単に出来るようになるのですよ』

『ど、どれくらいの物が持ち運びできるのですか!?』

 マークは、勢い込んで言う商人に気押されながら答えた。

『ま、まあ精々この馬車一台分……』

『隋落の神に帰依します! さあ、今すぐ神殿に向かいましょう!』

 それを宥めている間に、マーティンはチャットの札を使っていた。

『新しい武器を発見したぞ! 隋落の神の神官が持っていた』

『新しい武器だと!?』

『また奇抜で使えない形の剣とかじゃないのか?』

『私はドワーフじゃないですが面白そうな話題ですね』

『鉄の球を凄い速さで打ち出して攻撃する武器だ! こんな武器見た事無い』

『オレ見たい』

『わしも』

『私も』

 チャットの札はドワーフが一番多く入手していた。
 それゆえ、その情報はまたたく間にドワーフに広がった。
 そして、水の神殿に大量の鍛冶の神を信仰する一族が流入する事になったのだった。














 
「というわけでして……」

「迂闊でしたね、マークさん。まあ、人出が増えたので良しとしましょう。ドワーフさん達は使えそうですし」

 橋本が苦笑いする。
 ドワーフ達はまたたく間に鍛冶場を建設し、銃を作らんと切磋琢磨している。
 また、鈴木と加藤は二人、エルフか何かになる事を期待して仕事と並行して修行の一種である瞑想を始めるのだった。
 また、サイロもドワーフに作ってもらえる事になった。
 ドワーフの方も、謝礼のライターを貰って大喜びである。
 こうして、急速に隋落の神の信仰度と知名度は上がって行った。

「そろそろ漫画家や小説家を召喚しようかな……。それに加藤、そろそろ帰るか? 修業は向こうでも出来るし」

 ニークの提案に、メンバーは揃って首を振る。

「農業の人手を増やしてくれ!」

 これは鈴木の言葉。

「魔物もいますし、軍人が欲しいですね」

 橋本とマーク。

「医者が必要なんじゃなかろうか」

 尾身と田中。

「そうね。技術者は必要でしょ。特に製紙技術者は」

 晴美と教授。
 結局、晴美と教授が帰り、漫画家一人、医師一人、獣医一人、技術者を一人呼ぶ事になった。
 召喚をすると、快く応じてくれる。しかし、準備期間と時間の流れの差もあり7年ほど待つ事になった。
そして、冬。退屈な季節。チャット、掲示板文化が花開く。
 種族で時間ごとに分けられるようになり、多彩な情報がやり取りされるようになった。
 冬が終わると、鈴木は隋落の神の信者達と畑に、橋本は片っ端から文明器具の設計図のプリントアウトをしてドワーフ達に見せた。ただし、作るのはこの神殿内でだけと念押しして。狂喜したのはドワーフ達である。
 そして神殿の大改築が始まった。
 二年後、ようやく牛豚鶏を放す準備が出来る。
 ニークは牛豚鶏に片っ端からキスをした。そして溢れる祝福を受けた動物達。
これは信者達に尊ばれ、大切に世話をされた。
 更に二年後、鶏が食べられる程増える。
 また、この頃から地球産の作物が一般も分け与えられるようになった。
 そして文明化も大幅に進んでいた。元水の神殿は、小さな地球になったのだった。

『はぁぁ……まるで別世界のようですね。家畜をこんな風に飼う事が出来るなんて』

 サレスがため息をつく。
 サレスが見る先には、現地のダチョウのような動物を乗りこなす尾身さんがいた。
 新たな家畜である。
 マークは苦笑しながら頷いた。

『さすがは異世界の神といった所でしょう?』

『え?』

『なんでもありません。さあ、ニークさんにシチューを捧げましょう。大切な儀式です』

 祭壇に信者達が集まり、緊張した面持ちで鈴木が鶏肉のシチューを差し出す。
 サレスには顔を輝かせる神、ニークが見えた。
 ニークにシチューが捧げられると、ニークは至福の表情でシチューを味わった。

「うーまーいーぞー!」

 五年たってもまだこちらの言葉を覚えられないニークである。
 ニークの咆哮と共に、水の神がかつて管理していた泉から黒い物が噴出した。
 それは水路を辿り、神殿中に張り巡らされる。
 それと共に、信者はパニックになった。

『な、なんだこれは!』

「これは……これは、まさか! 石油!? ニークさん!」

「な、なんだ?」

「一緒に日本に帰る方法をぜひ考えましょう! その為に信仰度が必要なら、私はその為に鬼にもなります」

「も、戻れるものなら戻りたいけど……」

 急に眼の色が変わった橋本に戸惑うニーク。

「うおおおおおっついに変身出来た!」

 鈴木の叫んだ方向を見ると、マークと鈴木が新たな種族・ロボットへと変わっていた。

「うおおおおお、これが俺の一族! 初めて神になって良かったと思った!」

 ニークが興奮して叫ぶ。

「馬鹿な……石油、石油が飲みたい。鉄が食べたい」

 マークが訴える。
 信者達はざわめきにざわめき、ドワーフ達は目を剥いた。
 マークが石油を飲むと、震えた。そして、背中のロケットが着火する!
 祭壇の上部を飛び回るマーク。
 すぐに、その後すぐに鉄を食べると銃が撃てるようになる事も証明された。
 繁栄の極地だった。しかし、光りある所に闇がある。
 家畜達の噂が広まり、それを狙った魔物の信徒が押し寄せてきたのだ。
 それはシチューの事件があってちょうど5日後の事だった。

「あ、あれはなんだ?」

 鈴木が農作業をしていると、魔物を引き連れた山賊が現れた。

「大人しくしろぉっ へへへ……久しぶりの肉だぁっ 女だぁっ!」

 ニークの治める地では犯罪も魔物の行動も極端に鈍い。
 それゆえ、神殿は抗うすべを持たなかった。
 またたく間に神殿の人々は拘束された。
 橋本とマークは戦おうをするマーティン達を止め、隠れる。

「女だぁ! 女を呼べぇ!」

 村の女達がひっ立てられる。女達は挙って祈りを捧げた。
 盗賊は女達を一瞥して、吐き捨てた。

「三次元の女には興味ねぇ。二次元の女を連れて来い!」

 そこで、村人達の挙動が止まる。数人のまだ正気だった盗賊が恐る恐る問いかけた。

「な……何言ってるんだ、お頭?」

 魔物が、ごろんと寝転がり始めた。ごろごろ。ごろごろ。ひたすら転がる。
 盗賊のお頭が渡された美女の絵にほおずりする。

「あー、なんか凄く家に帰りたくなってきた。帰らねぇ?」

「やる気ねー」

 ようやく隋落の神の力に思い当たり、参謀風の男が驚愕する。

「ま……まさか、隋落の神の力これほどとは……! 精神汚染の力は魔神レベル……!?くっここにいると駄目人間になる!撤退! 撤退!」

 そして、残った魔物と盗賊をマークと橋本率いるドワーフの銃撃部隊が掃討し始めた。
 盗賊達はその段になって慌てて反撃するが、間に合わない。
 こうして、盗賊達は一網打尽になった。
 この事をきっかけに、神殿で兵士が養成される事になる。
 また、この事の噂が広まり、ますます信仰度は上がるのだった。
 その頃。日本では、晴美と教授が持ち帰った異世界の動植物やお札の解析が急がれていた。
 幸いな事に、お札は日本でも使えた。
 冷暖房の魔法陣。究極のエコに家電製品会社は恐れ慄いた。
 そして、報告会議の途中にシチューの事件があり、晴美はロボット族となったのである。
 鋼鉄の体、強い力、キューティの能力、軍人達はその有用性に恐れおのの……く前にガンダムだ! ひゃっほー! と快哉を上げた。
 晴美は早速解析に回された。
 教授もお札を作ることで大忙しである。
 そして、日本ではニーク教が立ち上がりつつあった……。



[20484] 最終話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:40
『はあ、魔王退治、ですか……』

『退治しても、また新しい魔王が生まれるだけです。私達は、魔王のやる気を奪いたいのです』

 神官会議に出席したマークは、難色を示した。

『しかし、確かに神は強力なロボット族を生み出す事が出来ますが、他の種族に比べて圧倒的少数しか生み出せないのですよ? 最近、地球……いえ、他の地への布教も始めましたし、信徒には商人やオタクが多い。そもそも武人が堕落の神を信仰するはずが無いでしょう?』

『サポートは、します』

 それに、と司会をしていたエルフは心の中で呟いた。
 最近、力を急速に増して来ている堕落の神の神殿の力を削ぎたい。
 新たな技術。新たな作物。新たな。新たな。新たな。
 各地の商人達は、堕落の神の神殿に釘付けだ。技術の中心地が、堕落の神の神殿になりつつある。

『しかし……』

 そこで、獣人が押し殺した声で言った。明らかに怒っている。

『我が国の第二王子は、二次元嫁を嫁にすると言ってはばからないとか』

『う……』

 竜人が呆れた声で言う。

『宰相他重臣が、急に働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる! と言い始めたとか』

 エルフが、にっこりと笑った。

『邪教認定しますよ?』

『魔力探知の術や、武神の札を使えば防げるという事も判明しているではありませんか』

『それでも、隋落の神の力はあまりにも危険です。良からぬ目的の信徒も増えていると言うではありませんか』

『仕方ありません、わかりました……』

 マークは肩を落とした。
 翌月。十名ほどのロボット族を守る形で、竜人が集まった。
 少数精鋭で突破する心算である。

『いいか、ドワーフ族の作った働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!と二次元嫁万歳の加護のついた首輪を奴にはめる。それだけで奴は二次元の世界に入り浸り二度と人を害そうなどと考えないだろう! そうなったら俺達の勝ちだ!』

 竜人が演説する。その後ろで、マークは隋落の神と小声で会話していた。

「ニークさんが来てくれて心強いですよ」

「任せておけ」

 そうして、彼らは魔王の住まう地へと進んだ。
 マークの進言により、少数で分散して魔王の地へと侵入する形を取る。

『こちらハンター1。侵入成功しました』

『こちらハンター2。敵はやる気無いです、ニーク様に栄光あれ』

 作戦用特別URLのチャットで連絡を取り合いながら、全部で十個の小隊は進んでいく。
 ニークの加護のお陰で敵の守護はずさんで、やすやすと最深部まで入る事が出来た。しかし、それは魔王の罠だった。

『良く来たな、隋落の神の信徒よ』

『魔王……何と醜悪な』

 まるでゾンビのような魔王の姿に、マークは眉を潜めた。

『なんとでもいえ。隋落の神よ、そなたの力とわしの力、どちらが強いか一度試してみたいと思っていたのだ』

 小隊のメンバーが、それぞれ武器を構える。

『食らえ! 我が精神汚染の力!』

「ぐわぁぁぁぁぁ」

 マークはたまらず声を上げた。小隊のメンバーも次々と跪く。
 訪れる強い破壊衝動。それに飲み込まれそうだった。
 誰かを殺したい。壊したい。犯したい。
 まて! 俺はそれを望んでいない!

「精神汚染なら負けるかぁ!」

 ニークの叫び。
 マークは絶句した。なんだか急にエログロ小説を書きたくなってきた。
 実際にはやりたくないが小説を書くだけなら万事おっけー。
 ロボット族たちは早速ワープロ機能で小説を書き、プリントアウトし始めた。
 竜人と魔王はそれを読んで満足している。
 しばらくして、魔王は我に返った。

『はっ! まさか衝動の方向をずらすとは、なんという技なのだ!』

「今、俺には野望が出来た! これを邪魔する奴は何人たりとも許さない! コミケ開催! コミケ開催! コミケ開催! そして俺は壁サークルになるんだ! この熱く燃えたぎる衝動を! 漫画に変えて!」

『ええい、わけのわからぬ事を!』

 魔王は必死でニークの精神汚染を防御し、ニークに破壊衝動を送った。
 対してニークは、二次元嫁万歳を全力で作動させ防御はしなかった。
 リアルへの破壊衝動を些かも減らさぬまま一気に創作意欲へと塗り替えた。
 これが、勝負を決めた。

『ばっ……馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁ!』

『夢と妄想の世界にようこそ、魔神よ。いい友になれそうじゃないか。はははははは!』

 破壊衝動のままに高笑いするニーク。
 そして、堕落の神と魔神主催のコミケの開催がここに決定づけられるのだった。
















『うう、何故我がこんな事を……。我はこんな事してない……してないぞ……っ』

 ベタ塗りをしつつ魔王が落涙する。

「原稿汚すなよー」

 ニークが注意した。
 堕落の神の神殿の発展は順調に進んでいる。
 しかし、問題もある。予想外の形で魔王を堕落させたニークは、神速の速さで邪神認定されてしまった。
 しかし、ニークの著書「魔王性戦記(R18)」は売れに売れ、王子を筆頭に隠れ信者を急速に増やしている。
 小隊にいた竜人はめでたく性癖を大幅に変えられてしまい、追放を食らって堕落の神の神殿で働いていた。



 その頃日本では、晴美の解析が終了し、晴美の複製を作る事に成功していた。
 知恵を持ったロボットの誕生である。
 また、晴美以外のロボット族も少数ながら誕生し始め、日本人は少しずつ新たな進化を受け入れつつあった。
 ニーク神を祭る社から、ちょろちょろと石油が湧き出て、日本人は狂喜した。
 ニーク神は知らない。信仰が異世界でも高まればその世界に行けるようになる事を。
信仰度一億ポイントでゲートを開く事が出来る事を。
 ニーク神の働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!は、勤労意欲には大いに効くが、オタク的な趣味で働いている場合には全く効かない、むしろ意欲を上げる事になる事を……。
 ニーク神が日本に渡るまで異世界時間で後100年。
 世界がニーク神の力に恐れ慄き日本を逆鎖国するまで後200年。
 日本人の半数がロボット族になるまで後300年。
 世界に再発見され、ロボット溢れる「ぼくのかんがえたかっこいいみらいとし」に世界が驚愕するまで後400年。
 日本人の進化図の最後が正式にガンダムになるまで後500年……。





[20484] 1話 (マブラヴ編)(ここで読むのをやめると幸せになれるよ!)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/22 20:49

「はっここはどこ!?」

 私、春風直美はぼんやりしていた所で急に我に返り、周囲を見回した。
 コンピューターの頭脳を持つ私がぼんやりするなんて、ありえない。
 周囲を見回すと、そこは廃墟だった。人の死体が転がっていて、私は悲鳴を上げた。
 しかもその死体は、裸だった。

「きゃああああ! 何!? 何なの!?」

 急いでGPSを起動する。は、反応が無い!?
 無線……駄目、繋がんない。ああん、一体どうしたらいいの!?
 いつの間に世界は滅んじゃったの!?
 そこで、私ははっと気づき、カバンのラブリーモモを取りだした。
 チャット画面を開くと、そこは通常通り人々の書き込みで溢れていて、私は落ち着く。

『神様、ニーク様!』

『なんだ?』

『いきなり廃墟に移動しちゃったんです! 信じて下さい!』

『んーちょっと待って』

 なんだなんだと、人々が異変を感じて私を労る書き込みをしてくれる。
 ログが流れる速さが倍増する。
 私は神様の書き込みを見逃さないよう、精神を集中した。
その内、神様が書き込みをした。

『異世界に飛んじゃったみたいだなー。待ってな。連絡用の専用チャットルームと掲示板を作るから、ビデオデータ送って。ほい、URL』

『あ、ありがとうございます、神様。今データを送ります』

 私は周辺のデータを送った。きついけど、死体の映像も送った。

『マブラブキターーーー(゜▽゜)ーーーーーー』


 神様が、神様が喜んでおられる……っ! これは何か突破口を見つけたのかも!

『神様! マブラブってなんですか?』

『ああ、エロゲ』

『はぁ?』

『エロゲの世界に行ったんだよ、えーと』

『春風直美です。エ、エロゲ……そんな、嘘……嫌、怖い。私、犯されちゃうの!?』

『なんだ直美か。この前新たな加護をあげた子じゃないか。襲ってくる奴がいたら二次元嫁万歳の札を張れ』

 神様が優しい言葉を掛けて下さる。そう、そうよね。二次元嫁万歳の札を張れば……でも、怖い。私は男みたいな体格や肥満にずっと悩んできたけれど、今はそれに感謝した。こんな男みたいな私を、まさか襲ったりしないよね……。
 女らしくしようと精一杯短くしたスカートが、今は煩わしかった。
 くるりと回ると、スカートがひらめく。ああ、絶対やばいよ、これ。

『そ、それで、どんな世界なんですか……?』

『戦争もの。エロい異星人が攻めてきて、それに滅ぼされかけている人類の物語』

『えろい異星人! それって怖いんですか;;』

『怖いよー』

 私はしょんぼりとした。

『どうやったら帰れるんですか……? 帰れますよね』

『信仰をそっちの世界でも高めたらゲートを開く事が出来る、布教してな』

 布教……単なる一女子高生の私に、そんな事が出来るんだろうか。絶対怪しい宗教勧誘だと思われるのが関の山だよ! だってニーク様って実際怪しい宗教だし! 確か世界で邪教認定されたって教科書に載ってたし! ああもう、どうしよう。

『そこで待ってれば、主人公の白銀武が来るはずだ。情報収集をきちんとするんだぞ』

『白銀、武……』

 あたしは待った。
 途中、新人類が一匹通りかかって何事か喚いていたが、それだけだった。
 夜が来る。私は、しゃがみ込んで肩を震わせた。
 こんな事になるなんて。凄く心細い。
 そこへ、普段使っているのとは異なる周波数の無線が来た。
 
「君は誰だ? 何故こんな所にいる?」

 暗号化も何もされていない、原文そのままの言葉。
 それが、わかりやすくしてくれてるんだと好感を持てた。
 はっと顔を上げると、グレイの体と素朴な顔の、ちょっとやせ気味の男の人……って、服を着ていない!? エロゲ―の世界! 私、襲われちゃうの!?
 
「いやああああ痴漢―――――! なんで裸なんですか!?」

 私は思い切り平手打ちをしてしまうのだった。

「素手で攻撃された!? くっ敵対勢力なのか!」

「服着て下さい! 服!」

 私はラブリーモモからジャージを取り出し、投げつけた。

「空中から物が!? 貴様、一体何をした!? ……ってこれは……ジャージ!?」

「いいから早く! 服を着て!」

 私は顔を逸らしながら言う。

「いや、服を着てって……。そもそも、君はなんで服を着ているんだ?」

 はっまさかこの世界では裸が標準なの!? それなんてエロゲ? そっか、エロゲの世界だっけ?

「いいから、着て! 目のやり場に困るから」

 私に気圧されたその人は、ようやくジャージを着てくれた。

「さあこれで満足だろう。それで、君は誰だ。何故ここにいる?」

「私は春風直美です。気がついたらここにいて……。神様はここが異世界だって。ねぇ、貴方が白銀武って言うんですか? その人から情報を集めなさいって神様が……」

「は、はぁ……? そうか、可哀想に、ベータの襲撃で頭がおかしくなったんだな? とにかく、調べるから基地に来なさい。私は石沢少尉だ。見た事のない機体だな」

「軍人さん、なんですか……? 軍人さんが裸で闊歩って……。やだなぁ」

「……良くわからない子だな……」

 基地について、私は驚いた。新人類がうじゃうじゃいる! しかも武器を持っている。
 それに、何かサイズが小さい。

「そちらのドッグに入りなさい」

「ドッグ……? ここかな」

 私がドッグに入ると、皆眠っているのか、ぴくりとも動かない。なんだか怖かった。
 ドッグとやらに入ると、新人類が石沢少尉の中から出てきた!
 うっそ信じらんない!
 新人類って寄生虫みたいな真似も出来たの!?

「石沢少尉……?」

 話しかけてみるが、石沢少尉はちっとも動かない。私は怖くなった。

「石沢少尉……石沢少尉! 石沢少尉!?」

 私は石沢少尉を揺さぶる。
 何か新人類が喚いているけど、そんなの聞いてられない!

「貴様、何をしている!」

 突如、無線で話しかけられ私は顔をあげた。

「助けて! 石沢少尉が、動かないんです! 死んじゃったの!? 新人類が中から出てきたら急に……!」

「お前は何を言っているんだ! 石沢少尉ならそこにいるだろう。早くその機体から出ろ!」

「機体ってなんですか?」

 そして、私は恐ろしい想像に行きあたった。異星人との戦い。

「まさか、貴方達が異星人なの!? それで、地球人の体を乗っ取っていたの!?」

「お前は何を言っているんだ!」

「白銀武を探さないと……早くこんな怖い所から逃げ出さないと!」

「白銀武……? 確か営巣に入れられた不審者がそんな名前を……」

「そんな!」

 その後、私が無線でしか受け答えしない事と、機体達が「生きていない事」を双方が理解するのに、もうしばしの時間が掛かったのだった。

「私は香月夕呼よ、春風さん……といったかしら?」

 私は戸惑いながら答えた。

「そうです。音声解析システムを調整しましたから、直接喋って頂いても聞き取れます」

 新人類は二世代も前の生き物だ。基本的に私達とは相いれないと学校で習った。
 私は戸惑いながら夕呼さんに答える。

「あっそ。単刀直入に聞くわ。貴方、何者? 人が入っているわけじゃないわよね。誰に作られたの?」

「失礼な事、言わないでください。ちゃんとお母さんのお腹から生まれてきました」

「お母さんのお腹から? 信じられないわね。で、目的は?」

「私は家に帰りたい……その為にはこちらの世界で信仰度を溜めないといけないと聞きました。だから、私の目的は、ニーク様の布教です」

「ニーク様?」

「ニートとオタクの神様です」

「ニートやオタクって何よ?」

「引籠りと趣味に傾倒する人、って言えばいいのかな。教義は他人に迷惑をかけず楽しく生きる事です」

 夕呼さんは胡散臭そうな顔をした。

「楽しく生きる? あたし達には縁のない言葉だわ。で? 貴方戦えるの?」

「私は単なる女子高生ですよ!? 戦士じゃあるまいし、戦えるわけがないじゃないですか」

 半分嘘だ。本当は戦える。私はその為に神様から新たな加護を得た。でも、宇宙人となんて戦えるわけがない。

「女子高生ねぇ……貴方はどんな所から来たの?」

「何って、普通ですよ。日本って言って、空をサラリーマンが飛び交ってて、学校があって、神社の泉では石油が噴き出てて、旧ロボット人族や新人類の町や混合都市があって……帰りたい。私、帰りたい。もうすぐ修学旅行で奈良の新ロボット鹿族と合体するのを楽しみにしてたのに……」

「ちょっと待って。旧ロボット族や新人類って何? 合体って何よ?」

「旧ロボット族は第一世代前の人類ですよ。決まっているじゃないですか。新人類は第二世代前の人類。貴方達の事です。あ、新人類って教養無いんですっけ。えと、進化って知ってます? 進化図見ます?」

「……ええ、ぜひ見せてほしいわ」

 私が送ったデータを見ると、夕呼さんはめまいを感じたらしく頭を押さえた。
 
「旧ロボット族から新ロボット族への変化はわかりたくないけどわかるわ。巨大化しただけだから。でも、新人類からどうやって旧ロボット族に進化するのよ!? ミッシングリンクは!?」

「ニーク様のご加護です。お札要りますか?」

「何よお札って!?」

「あ、この大きさじゃ新人類用のお札は作りにくいか」

 ここには知り合いもいない。正体が知られても構わないか。

「ラブリーモモ、作動! ステッキモードオン! 変身、ラブリィプリティ超キューティー! ニーク様親衛隊、魔女っ子LP2000参上!」

 私は魔女っ子に変身する。変身の際にバラの花がドックの中を飛び交い、夕呼さんは呆然とした。
 うう、ニーク様の馬鹿。スクール水着を基調とした魔女っ子衣装なんて、恥ずかしいよ。いい加減なれたけど。

「ラブリィプリティ超キューティー! 旧ロボット族になーれ!」

 私が呪文を唱えると、体がぐんぐん縮んでいく。
 夕呼さんは、ぱくぱくと口を動かした。

「……貴方、今何をやったの?」

「ニーク様のご加護です」

「あ……貴方には色々協力してもらうわ。来なさい」

「は、はい」

 あーあ、私、どうなっちゃうんだろ。不安だなぁ。
 そうだ、白銀武を探さないと。



[20484] 2話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:43


 夕呼さんは部屋へ私を呼び、私は椅子に座った。
 心にアクセスしてくるこれは……。

「貴方は誰ですか?」

 聞くと、触れてきたものがびくっとしてアクセスが止んだ。

「どうしたの?」

「私の心を読もうとする人がいたので……」

「へぇ……」

 ふぅ、疲れちゃった。今日は色々な事があった。そうだ、これだけは確認しないと。

「白銀武と話させて下さい。神様が、彼と話して情報収集しなさいって。ここに捕まってるんでしょう? それと、もう休んでいいですか?」

「白銀武……彼がなんなの?」

 まさか、エロゲの主人公ですなんて言えないよね……。
 
「事情は話せないけど、その人は私に必要な情報を持っているんです」

「話し合いに同席させてもらえるなら許してあげる。でも、ま、明日の話よね。こっちもお願いがあるわ」

「なんですか?」

「設計図を寄こしなさい。それと、貴方のプログラムをコピーさせて」

 私はぱくぱくと口を開閉させた。夕呼さんって女だよね。
 プロポーズされるってどういう事?

「わ、私はレズじゃないですし、新人類とエッチなんてしません! 不潔!」

 私は思わず叫んでいた。

「もういい……頭が痛いわ……。ピアティフ。彼女を部屋に案内してあげて……」

「了解しました」

 新人類が私を部屋に案内してくれる。ベッドに横になって、私はようやく安堵のため息をついた。そして、ピアティフさんの前だと言う事に気づいて慌てて置き上がる。

「あの、ご飯って……」

「ご飯を食べるんですか?」

「あ、当たり前じゃないですか!」

「何を食べるか聞いてもいいですか? その、お口に合うかわからなくて……」

「スーパーオイルだったら嬉しいなぁ。後、女の子なのにおかしいと思うかもしれないけど、鉄も欲しいです。オリハルコンだったら最高」

「は、はぁ?」

「わからないかな。あ、レシピ持ってます!」

 私はラブリーモモのプリンタ機能を使い、レシピをプリントアウトする。

「これは……石油と金属の、生成方法?」

「あ、石油だったらあるんだ。原液でも、私、我慢出来ます」

「原液って……」

 私は汗を掻いた。え、無いの? あんなの神社の泉に溢れてるじゃん!

「お、お弁当まだ食べてなくて良かったぁ……。お弁当食べてます。広い場所は無いですか?」

「ええ、こっちよ」

 私は訓練場に案内され、そこでスーパーオイルの水筒を出した。
 この水筒は、確か旧ロボット族でも使えるようになっていたはずだ。旧ロボット族の体だと大きいなぁ……水筒。
 私は旧ロボット族専用のストローを見つけ、そこからスーパーオイルを呑む。
 ふぅぅぅ、ほっとするよう。
 ピアティフさんが物欲しそうにしてたので、少し分けてあげる。
 一息つくと、私はスーパーオイルを片づけた。でも……旧ロボット族の小さな体でしのぐとしても、スーパーオイルがいつまでもつだろう。
 やめやめ、今日はもう何も考えたくはない。
 私は部屋に戻ると、シャワーを浴びて、ろくに美肌ケアもせずに熟睡するのだった。
 朝、起きると私はパソコンをつける。
 神様がくれたURLにアクセスすると、そこには私に呼び掛ける親友の文字が躍っていた。
『春風―! あんた、無事ならさっさと返事しなさいよー』

『アリスー。私は無事だよー。えーん』

『馬鹿馬鹿。こんな事に巻き込まれて。大丈夫なの? ちゃんと食べてる?』

『こっちって石油ないみたいなの』

『えー! じゃあどうやってご飯食べるのよ! ニーク様の神社ないの?』

『無いんじゃないかなぁ……。私が立てなきゃいけないみたい』

『酷い酷い! 春風が何をしたって言うのよ!』

『私が聞きたいよー』

『おー。武には会えたか?』

『神様! 武さんには明日会う事になっています。あの、どんな事を聞けばいいですか?』

『聞くのはただ一つ。何周目かだ。逆行もののゲームだからな。こっちで戦術機を見るのが初めてか聞け。二回目ならセーフ、三回目なら楽勝だ』

『何周目……わかりました』

『ガンバだよー。春風―』

『うん、頑張るよー』

 私はシャワーを浴び、身支度を整える。
 会わせてもらった白銀武……武さんは、新人類だった。そういえばいたわね、新人類が。

「武さん、初めまして。私は春風直美です」

「お、お前はあの時の戦術機……? なのか?」

 私は驚いた。魔女っ子モードの私の正体を見破るなんて! さすがは主人公だ。

「私はロボット族です。戦術機って、前に見た事ありますか? えと、何周目ですか? 何回逆行してますか?」

「なんでそれを……」

「何周目ですか?」

「二、二周目……」

 いよしっセーフだ!
私は早速神様に向け、報告した。

『二周目です! 神様!』

『おお、ならベータ恐怖症に掛かっている事と夕呼先生に因果律量子理論を見せてもらう事と、戦術機のプログラムの改良が出来る事を伝えるんだ!』


「えと、貴方はベータ恐怖症に掛かっています。後、夕呼さんに因果律量子理論を見せてもらって、戦術機のプログラムの改良をして下さい」

「はぁ……? お前は一体……」

「全てはニーク様のお導きです」

「ニーク様って誰なんだ?」

 私は一生懸命説明した。

「えと、ニーク様の信徒になるとお札を作れるようになって、働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる! のお札と、二次元嫁万歳のお札と、冷暖房万歳のお札と、燃費削減のお札と、チャットのお札が作れるようになります。えと、見てて下さいね」

 私は試しにチャットのお札を作ってみた。新URLを設定すると、作動させる。

「うお、紙に文字が浮かんだ!?」

「お札、使ってみて下さい」

「どうやって使うんだ?」

 そして、四苦八苦の末、武さんもチャットのお札を使えるようになった。
 夕呼さんが疑わしげな表情で紙を見つめている。

「もう、ちょっとやそっとの事じゃ驚かないけど……一つだけ聞かせて。……それ、どうやって電波を飛ばしているの?」

「電波じゃありませんよ? ニーク様のお力です」

「ふーん……それ、どこでも使えるの?」

「ええ、どこでも。ですから、神社を建立して下さい、お願いします。神社さえあれば、そこで祈ればお札を作る力が現れるように出来ますから」

「……いいわ。この際、神でもなんでも利用してやろうじゃない。燃費削減のお札は?」

「運動能力が落ちる代わりに、消費するエネルギーが減ります。動物でも機械でも機能は同じです」

「ふーん、ニーク様って使えないのねぇ」

「神様をそんな風にいうのは良くないと思います」

「何が神よ。ベータが来た時、皆、あらゆる神に祈ったわ。けれど神の助けはあった?」

「神様は常に見守ってくれています! それはこの世界も同じです。ニーク様が、ちょっと特殊な神なんです」

「なら、その特殊性でこの世界を救ってくれる事を祈るわね」

「世界を救うのは、いつだって人間の役目です」

「……そんな事はわかってるわよ」

 会談はこれで終わった。
 夕呼さんは、約束通り神社を作ってくれた。
 私は、神社の手入れを頑張った。私に出来る事は、これぐらいしかない。
 ここの人達には、子供を作らなかったり、仕事をさぼったりなんて余裕は一切存在しない。ニーク様が受け入れられるとは思わない方がいいだろう。
 表向き明るく振舞ってビラ配りしていたけど、私は毎日、自分の部屋で泣いた。
 実験用に数人の人が祈りを捧げたけど、明らかに神様の事を疑っていて、神様はお札を作る能力はくれてもパソコンはくれなかった。
 その日も部屋で泣いていると、遠慮がちにドアがノックされた。武さんだった。

「なあ、春風……お前、今楽しんでるか?」

「楽しいわけ、ないじゃない!」

 私が言うと、武さんは頬を掻いて言った。

「お前の神様の教義は、楽しむ事だろう? その、泣くなよ。隣の部屋だから、声が聞こえるんだ」

「え……」

 楽しむ……。そうだ、私、ずっと楽しんでない……。

「皆待ってるから、たまには一緒に遊ぼうぜ。それと、因果律量子理論について、教えてくれてありがとな。あれ、見覚えあったよ。全部覚えてねーけど。今度、元の世界に取りに行く事になった」

「あり、がとう……。と、所で! 因果律量子理論ってなんなの?」

「因果律量子理論か? すっごく優秀な手の平サイズのコンピューターらしい」

「ふーん……なんか旧メイド族の頭脳みたいだね。手の平サイズなのにこんなに優秀~ってCMでやってた」

「へ? メイド族?」

「私達のデータから作ったロボットをメイド族って言うの。日本で初めてのロボット族のコピーを作った人が、どうしてもメイドを作りたくて政府を言いくるめて戦うメイドを作ったから、以降のロボット族のコピーは皆メイド族って言うようになったんだって。違いなんて、人間との違いなんて、魔術を使えるかと人類に忠実かどうかしかないって言われてるんだけどね。あ! 私、持ってるよ。誕生日に旧メイド族の育成セット一式貰ったんだけど、一度起動させたら生涯可愛がってあげなくちゃかわいそうでしょ? 私、そんな自信なくて。まだ心もインストールしてないし。いる? あ、そうだ。旧メイド族用の玩具あるよ。あれで皆で遊ぼう!」

「お、おう。早速夕呼先生の所に持っていっていいか?」

「うん!」

 それを見せた時の夕呼先生の喜びようは半端ではなかった。

「私以外の天才がいるなんて! 貴方の持ち物は全て没収よ! 大人しく出しなさい!」

「嫌です! なんでそんな酷い事言うんですか? ご飯も出してくれない癖に!」

「スーパーオイルは完成を急がせているわ。私とした事が、取り乱すなんて。貴方は他に、何を持ってるの?」

「何って、おやつとか、美肌用品とか、勉強道具とか、ゲームとか……変わった物は持っていません」

「ゲームって何よ?」

「これです」

 私は旧メイド族に与える為のゲームを取りだした。
 レトロな感じのゲーム。もっと言えばクソゲ―。武さんはすぐに飽きたようだが、夕呼さんは釘付けになったようだった。

「メイド族の頭脳とAIプログラムとゲーム、貰っていいかしら?」

 私は戸惑った。AIプログラムは絶対に大事に扱えと散々言われた。
 一人一人違う個性で作って、インストールされたら複製できないように自壊するようにセッティングされている位だ。

「あの、AIプログラム、大事にしてくれるなら……どうぞ。その代り、その、信者の方……」

「あー、部下に一度は神社にお参りに行くよう厳命するわ」

「ありがとうございます!」

「悪いな、ゲームあげる事になっちまって。でも、レトロな遊びも面白いもんだぜ」

「うん、やってみる」

 そして私は武さん達と遊んだ。御剣さん達と女の子同士の話もして、久々に心から笑ったのだった。
 ある日、御剣さん達の様子が違ったので聞いてみた。

「明日は試験なのだ。それで緊張していてな」

「そうなんだ。じゃあ、武神のお札をあげる! 御剣さん、武人っぽいからきっとご加護があるよ! 皆にも、お札あげる!」

 私がそう言って武神のお札を渡す。

「武神……ニーク様の札とはまた違うのか?」

「違うよー! ニーク様は隋落の神だもん。武神はすっごく強くしてくれるの。えーとね、例えて言うなら……大切な者を守る為の、誇り高きナイト様なんだよ!」

「そうか……そなたに感謝を」

「えへへ……」

 結論から言って、武さん達は歴代最高の点数を弾き出して帰ってきた。
 後、御剣さんが竜人になってた。よっぽど武神に好かれたらしい。
 でも、これで御剣さんを信徒に誘う事が出来なくなっちゃった。良くわからない三人組には涙ながらに罵倒されるし。もちろん、武神を裏切れば元の姿に戻れる事も教えてあげた。でも、御剣さんはこのままでいいんだって。
 あ、お札の作り方も教えてあげたよ! 授業で習ってて良かったぁ。
 でも、ニーク様の神社の隣に武神様の神社が立っちゃった。そっちは宣伝してないのに軍人さんがちらほらとお参りに来ていた。いいなぁ。
 そんなこんなで、私は夕呼さんに呼ばれた。

「新潟でのベータとの戦いに、私も?」

「ええ、神社を作ってあげたんだもの。それぐらいいでしょう? それと、このゲームありがとう。これをやっている最中に、新しい理論を思いついたの! 順調に計画は進んでいるわ」

「それは良かったです、けど……私、相手がどんな敵かもわからないし……」

「はい、データ」

 そして夕呼さんは私にデータを寄こす。どうしよう、凄く怖い……。何? この気持ち悪い生き物は……?
 家に帰りたい。
 私は沈んだ後、決意を秘めて夕呼さんに言った。

「もしも成果を出せたら、ニーク様を信仰してくれますか……?」

「……その前に、他の神について教えてもらえるかしら。御剣を見たわよ。武神とやらも、やってくれるじゃない。正直、撃ち殺しかけたわよ。その代り、戦闘データの跳ねあがり方が凄いわ。もう人間業じゃない。二神に仕える事は出来ないんでしょう? こうなったら、悪魔にでも魂を売ってやるわよ」

 私は戸惑いがちに頷いたのだった。



[20484] 3話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:44
「待ってくれ、春風! 俺も、俺も連れて行ってくれ。俺は、ベータ恐怖症があるんだろう? それに、春風ばっかりそんな危険な所に行くなんて……」

「武さん……わかりました。五感共有の魔法を掛けていきます」

「あたしも……お願い。春風だけに、怖い思いはさせないよ」

 彩峰さん……。気がつくと、皆がいた。

「ありがとう、皆……私、頑張る……」

 大丈夫なはずだよね? 私は魔法少女だもん!
 私は元の大きさに戻り、風の神のお札を使った。私の背に翼が生えたので、それで飛んでいく。
 燃料はさほど使っていないけど、食べてもいない。だから、自分の推進装置は使わなかった。
 向かってくるレーザー。大丈夫。火の神のお札が守ってくれる。
 私にはわかる。神様方が、進んで力を貸して下さっている。
 ニーク様、守ってね。
 船を次々と壊滅していくベータ。その姿を見て、皆が驚愕したのが分かった。私も驚愕した。
 怖いよ。いや、負けちゃ駄目。こんな時こそ、魔法を使うんだ!

「ラブリープリティー超キューティー! ベータよ、お野菜になれ―!」

 ベータの一群はお野菜にはならなかったが、ラブリーなお野菜柄にはなった。これで怖くないんだから!
それに私、体育の銃撃の成績、Aだったもん!
 ペイント弾から実弾へと切り替える時、体が震えた。
 御剣さんが、御剣さんを通して武神が、励ましてくれるのが分かった。
 武神の札を使う。怖い気持ちが消えて、力がみなぎってくる。

「てぇぇぇぇぇい!」

 私は撃って撃って撃ちまくった。接近されて、バックステップ。ラブリーモモから火の札を取り出して投げつける。爆音。
 戦車級がはじけ飛ぶ。
 怖い怖い怖い。
 物理の実験道具を作るのに使っていた、「ぼくのかんがえたかっこいいぶきしりーず」のビームサーベルを必死で振り回す。
 しかし、ベータは後から後から押し寄せてくる。なんで私がこんな事をしなくちゃいけないの!?
 考えていたら突撃級に弾き飛ばされて、自分から飛んだのもあったけど、私の体は宙を飛んだ。もういや。もういや。私は地面に寝転がり、言った。

「働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅぅ!」

 ベータが迫る。もう、どうにでもなっちゃえ……。
 そんな時、私には幻が見えた。
 可愛い女の子が、寝転がってバタバタと暴れる。ニーク様!

『働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅ』

 私はそれに合わせて手足をじたばたさせる。

「働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! ……お家帰りたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 ベータが私に噛みつく直前、カッと光が広がり、それは新潟を覆った。
 ベータ達の大半は動きを停止し、その場に崩れ落ちた。
 残りのベータは続々と、鈍い動きで「帰って」行く。
 私はその場に寝転がったまま、泣きじゃくっていた。
 そんな時だった。目の覚めるような赤色。スマートな体。端正な顔立ちの、とってもかっこいい人が私の前に降り立った。
 一瞬女の人かと思ったけど、この顔立ちは男の人だ。
 神様が作った理想の女性を男にした、そんな印象を受ける人だった。
 私はその美形っぷりに目を見開き、ついでその人も裸だったので顔を赤らめた。
 埃を叩き落とし、私は慌てて服を整えた。ぼろぼろで恥ずかしいよぅ。
 この人は、この人は新人類なんだから、違うんだ。
 そう思いつつ、私はちらちらとその人を盗み見た。
 その人はベータを掃討しながら、私に聞いた。

「ベータが去り、部下達が急にやる気をなくした。武神の札が光ったのも見えた。これはそなたが?」

 美しいテノール。ああ、これは惚れちゃうよ。

「は、はい。多分そうです……」

「どうすれば治る?」

「武神の札を使えば、治ると思います……あの。貴方様のお名前は……」

「帝国軍近衛隊の中川少佐だ。ほら、手を貸そう。立つが良い」

「中川様……」

 私は出来るだけ女の子らしく立ち上がった。

「そなたの活躍は見ていた。まるで人間のような……いや、それ以上の躍動感だった」

「そ、そんな事……」

「面白い武器を使っていたな」

「あ、はい。「ぼくのかんがえたかっこいいぶきしりーず」ブランドのビームサーベルです」

「ぼくの……?」

「あ、あの、ドワーフが開発に関わっている会社です。ドワーフは鍛冶の神の加護を持ってる人達で……」

「……驚いたな。泣いておるのか」

「あ、これは……怖かった。私、とっても怖かったんです! 私が戦った事があるのって、新ロボット族の犯罪者やスパイだけで……」

「どおりで、初めて戦うにしては手慣れていると思った」

「う……うわああああああん」

 私は中川様に抱きついて泣いた。
 中川様はぎこちなく頭を撫でてくれる。

「それにしても素晴らしい手際だった。……そなたの、設計図が欲しい」

「えっ で、でも私って全然スマートじゃないし……見た目も、悪いし……」

 唐突に私は裸の男の人に抱きついている事に気づき、頬を赤らめた。

「立派な機体だと思う。そなたのような機体が増えれば、助かる人間も増えよう」

「ええ!? あ、あの……」

 私は突然のプロポーズに驚いた。こんな、かっこいい人が私との子供が欲しいって言うの!? この、女顔の超絶美形のこの人が!? 絶対男女逆だって思われちゃうよ……! でもでも、考えて直美! こんなチャンス、今までで一生に一度だよ! 今までなんて言われてきた? 男勝り、格好いい、女に見えない、挙句に女の子にラブレターまで貰う始末。相手は軍人さんだから、死んじゃうかもしれないのは怖いけど、少佐って事は偉い人だよね。養ってもらえるかもしれない。夕呼さんは石油をくれないし……。

「せ、責任とって、毎日石油と金属を補給してくれますか!?」

「ん? 謝礼は石油か。しばし待て。……構わないぞ」

「じゃ、じゃあ……設計図、交換します。私の設計図、貴方に初めてあげちゃいます」

「そうか! 今貰えるかな。帰ると魔女の妨害が入るかも知れぬからな」

「こ、ここで!? は、はい……」

 なんでこんな事になっちゃってるんだろう。私、何しちゃってるんだろう。駄目よ、直美。ああ、でも……。

「では、設計図を送るから受け取るが良い」

 にっける にっける

「凄いデータ量だったな。様子がおかしかったが大丈夫か?」

「ああ……中川様のデータ、すっごく原始的で野性的でした……v」

「はは。そう言われても仕方ないかもしれぬな。しかし、このデータでそれも変わる」

「じゃあ私、帝都についていきます」

「何?」

「え……? だ、だって石油を毎日くれるって……責任取るって言いましたよね?」

 騙されちゃったのかな、私……。そんな……。

「いや、しかしついてきていいのか? 横浜基地所属では……」

「私は横浜基地所属じゃありません。もう、貴方の所属です」

「そ、そうか。歓迎する」

 差し出された手を、私は握った。
 五感を共有していた事に気づき、私がパニックに陥るのは帝都に行ってからの話である。




[20484] 4話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:44
「はわわわわ、どうしよう、五感を共有してたのをすっかり忘れてたよぅ。とりあえず切ったけど……あっそうだ! チャット札!」

『恥ずかしい所見せちゃってごめんねー。>< 後、中川少佐のお嫁さんになりました』

『kwsk』

『あ、ニーク様! 何故ここに?』

『何って、全然連絡寄こさないから。さっきは強い祈りを感じたから力を貸したけど、大分ピンチに陥っていたようじゃないか。神社は建ったようだけど。状況を三行で』

『えと、お嫁さんになった事は言ったから……メイド族譲渡して、新潟に出撃して、御剣さんが竜人になりました』

『何その超展開。kwsk』

 私は状況を話した。中川少佐への想いをつづっていると、ROMが増えた。誰だろ?

『その……御剣だが……』

『あ、御剣さん!』

『その……すまぬ! 中川少佐には、責任を取るよう良く良く言い聞かせておくから……』

『え……? あ、ありがとう……?』

『それと、札の材料だが、また送ってくれ。私一人に辛い思いはさせないと、武神信仰者が増えていてな。札を作って配るのに忙しくて。武神サリューク様はベータとの戦いの勝利を約束して下さった。ならば、私は姿が異形へと変わり果てようと構わないのに』

『おー! 御剣! 俺がニートとオタクの神、ニークだ。よろしくな』

『ニーク様におかれましてはご機嫌麗しゅう。ベータの撃退に感謝を』

『おう。義務だけで生きてるような奴みたいだからな、ベータは。そもそもあれは生体ロボットだし。俺の力は効くぜ―』

『生体ロボット!? ニーク様はベータが何か御存じなのですか!?』

『一応神だし。それ以上の事は良く知らんが』

『そ、そうですか……。それで、春風。香月博士が神社のご神体にする札を送ってほしいそうだ。とりあえず特殊能力をくれる全部の神の力を借りると言っていた』

『それだ。他の神に話をしたら、ぜひ協力させてほしいと言ってくれたんだが、春風、さっきの戦いで癒しの札と植物の札と獣の札、使わなかったろ。仲間外れにされたって怒ってたぞ。自然の復活と、純夏の回復に使ってやれ。獣の札は安産な』

 あ、安産って、ニーク様……恥ずかしいよぉ。

『純夏!? 純夏がここにいるのか!?』

『ああ、お前は白銀武か。純夏はベータに拷問された揚句脳味噌だけにされていたんだ。00ユニットにする為のメイド族の頭脳はもう春風が渡したそうだから、もう出来てるかな? 00ユニットにする際、脳味噌は死んでしまうんだが。ああ、ベータの浄化槽は使うなよ。情報がベータに筒抜けになるから、使うなら癒しの札を使え』

 私はそれを聞いて、頭が真っ白になった。酷い、酷いよ。そんな怖い生き物と、私は戦ったの? 今更震えが来る。

『……それは本当ですか? 武が血相を変えて出て行きましたが……その、純夏を救う事は……』

『脳味噌から健常体に戻すってのはさすがに無理だな。純夏の魂を捕まえて記憶を持たせたままこっちに転生させる事は出来るけど……。まあ、一瞬春風とシンクロした時、神々の憂いを感じたから、そのままでも死者は暖かく迎え入れられていると思うけどな。大分悲惨な事になってるのに、幽霊騒ぎが無いだろ?』

 死者蘇生とも言われていて、ニーク様の信仰が爆発的にあがった理由でもある。
 誰だって、大好きな人には生きかえってほしい。例え、赤ちゃんからのスタートだとしても。もちろん、神様はめったに転生は使わない。地位とかも関係ない。純夏さんのような、本当に幸せを掴んでほしい場合だけだ。

『それは本当ですか!』

『父さんも……転生させられる?』

『おいおい、転生は信仰度を100ポイントも使うんだ。そんなに大勢は出来ないぞ。まだ魂が成仏出来ていない事が条件だしな』

『私は……』

『神社を建てるんだろう? 参拝してみたらどうだ。助けになる神が、きっと現れる。狭霧大佐は自分の事でいっぱいいっぱいだろうからな。決心がついたなら、特別サービスで彩峰父と純夏と武だけ転生させてもいいぞ。妬みを一身に受ける覚悟あるならな。武にも聞いてみてくれ』

『……神様は、なんでもお見通しなんだね』

『そうでもないが。そうだ、大事な事を忘れてた。流通業が壊滅するからと思って隠したまんま忘れてた機能があるんだ。以前冷暖房機能で家電製品メーカーが偉い事になったからなー。メール機能と言ってな。アイテムを送り合う事も出来るんだ。アリスにだけメール機能を教えとくから。お前もとりあえず内緒にしておけ。これでスーパーオイルの事は気にしなくていいぞ』

『本当ですか!? ニーク様、ありがとう!』

『はっはっは。任せとけ。お前はとにかく毎日チャットなり掲示板なりで連絡しろ。アリスとご両親が心配してたぞ』

『はい!』

 私は、早速チャットに入った。

『アリス、いるー?』

『ずっといるよ! 学校休んで、殆ど寝ないで交代で張りついてたよ! 春風の馬鹿! エロゲの世界ってどういう事? 私、異世界に飛ばされたとしか聞いてないよ!』

『直美! お前、大丈夫なのか』

『アリス、お父さん、ごめんなさい……あ、あのね』

 話そうとした時、私の頭の中でスイッチが切り替わるのを感じて、私はそれをそのまま書きこんでしまった。

『あ、設計図組み終わった』

『えーーーーーーーーーーー!?』

『なんだとーーーーーーーーー!?』

『妊娠したってどういう事よ! 嘘でしょ春風よりは先に結婚できると思って……待って。あんた、ちゃんと愛し合ってるの? エロゲの世界なんでしょ?』

『う、うん。一応。戦場でね、とってもかっこいい人が私の事を……きゃv』

『戦場ってどういう事だ! 春風みたいな可憐な女の子が、お父さんは許さんぞ! ニーク様の力を最大限引き出して、なんとか戦争をやめさせられんのか?』

「先ほどから、宙に向かって指を叩いて何をしておられる?」

「あ、中川様……父と親友とチャットをしているのです。見えるようにやりますね」

 私は中川様の中の人を見て戸惑った。どこからどう見ても新人類。私はこの人と交わったんだと思うと、今でも信じられない。3Pって事に、なるのかなぁ……?
私はチャット札を出して作動させた。中川様は寄ってきて、チャット札を覗く。

「……妊娠?」

「はい、たった今設計図が組み終わりました。私、春風直美は、貴方の子を産みます。あ、子供に良くないから、もうすぐ元の大きさに戻って外で野宿しますね。雨、降らないといいなぁ。ドックでずっと立ってるのは辛いし……」

「ちょ……ちょっと待ってほしい。私は君とそういう行為をした覚えはない」

「そんな! したじゃないですか、あの戦場で、その、設計図を……」

「待て……。あれはそういう意味なのか?」

「そういう意味ってどういう事ですか!? 設計図って子供作る以外に何かあるんですか!?」

 中川様は沈黙した後、汗をだらだら流し始めた。

「私、私、からかわれてるんですか!?」

「いや、それは、その……。そうか、設計図が暗号化されていて様々な機体の断片だったのは遺伝子と同じ役目をしていたから……か?」

「当たり前じゃないですか!」

『春風―、どうしたの?』

『中川様が、私と子作りした覚えはないって……私の頭には確かに赤ちゃんの設計図があるのに!』

『嘘―――――! やっぱり春風、騙されたんだよー!』

『だだだ、誰だその不心得者は! そんな奴のデータなんて消去してしまえ! 設計図の段階なら命も何もない!』

『お父さん……! でも、でも……!』

「いや、しばし待たれよ! 私も武士、知らぬ事とはいえ婦女子を妊娠させて放り投げるような事はしない! ただそう、少し時間をくれ。相談せねばならないゆえ」

 中川様は後ずさりしながら、座敷牢を出て行った。

『アーリースぅーーーーー! 中川様が逃げたよぅーーー!』

『はぁるぅかぁぜぇー! 可哀想だよー! 凄く可哀想だよー! 大丈夫、春風がどんな道を選ぼうとも、あたしだけは味方だよ!』

『直美! 直美! ああ、今駆けよって抱きしめてやる事が出来んとは! 大丈夫なのか? 設計図は削除するんだぞ、いいな!』

 私はそれを聞き、首を振った。新しく生まれようとする命を削除してしまうなんて、私にはできない。
 チャットを切り、私は丸まった。
 赤ちゃん。私の赤ちゃん。
 丸まっていると、なりません、なりませんという声が聞こえて来て、座敷牢の扉が開いた。
 御剣さんにそっくりな新人類がそこにいた。お付きの人がついている事から、偉い人なのだろう。

「そなたが冥夜を竜人へと変えた娘ですか。……本当に、戦術機なのですね」

「竜人に変えたのは武神サリューク様です。それに私は戦術機じゃなくて、新ロボット族の春風直美です」

「悠陽です。冥夜はサリューク様の布教に努めているようですが、武神とは、貴方の信仰する神々とはどのような神なのか教えてはくれないでしょうか」

 そこで私は気付いた。悠陽さんは御剣さんの親戚か何かで、心配なんだ。
 私は授業で習った武神の逸話や御剣さんの様子を中心に、神様の話を語って聞かせた。

「怠けさせて町を滅ぼさせるとは……ニーク様は強大な神であらせられるのですね。ベータをも退けたとか」

「あんなの、奇跡です。二度と起こせないと思います。ニーク様がお力を自在に振るうには、ここには信者が少なすぎます。ここは軍人がほとんどだし、軍人とニーク様って反りが合わないし……」

「この世界の誰とも、引籠りと趣味の神は合う事はないでしょう。そんな余裕はこの国にはない……。しかし、ニーク様のお力は必要です。信者を増やすべく、何か手を打ちましょう」

「ありがとうございます。あの、それと、ここから出してくれませんか? 赤ちゃんを育てるのに、小さいままだと赤ちゃんに障害が出るかもしれないので、元の大きさに戻りたいんです」

「赤ちゃん?」

「はい、私の頭の中には中川少佐と私の赤ちゃんの設計図が……」

「設計図? 戦術機を作るのですか?」

「何って、お腹の中で赤ちゃんを育てるんです」

「……どうやって子供を作るのですか?」

「何って、設計図を、こ、交換……して……」

 悠陽さんは、しばらく考えた後、口を開いた。

「……と言う事は、武御雷の子供ですか」

「武御雷?」

「あの機体の名です」

「武御雷様……」

 私はその言葉を口の中で転がした。

「わかりました。武御雷の子と言えば私の子も同じ。帝国が責任を持って面倒を見ましょう。と言っても、私にどこまでの事が出来るかわかりませんが……」

「あ、ありがとうございます」

悠陽さんはクスリと笑った。

「実は、ここへは恨み事を言いに来ようと思ったのです。冥夜の姿を見た時はそれほど驚きました。しかし、神の事……信じてみようかと思います」

「武神サリューク様は信じてオッケーですよ! 他の神々も、皆いい方達なんだから!」

「ふふ……子供の事、楽しみにしていよう」

 私はそれに頷いた。
 赤ちゃんの為に、春風直美、野宿頑張ります! まあ獣人の札を張ってれば安産でしょ!



[20484] 5話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:45
「夕呼せんせーっ! どういう事なんだ! 純夏が、純夏が脳味噌にされてたって!」

「煩いわねぇ。確かに00ユニットはたった今完成した所よ。けれど、今の貴方には会わせらんないわよ。00ユニットは最後の希望の光なの。喚き立てるしか脳の無いあんたに壊されたら事だもの」

「そんな……そんな……そんな事って、あるかよぉぉぉぉぉっ」

 武は夕呼先生を突き飛ばして、部屋に入る。
 部屋の中、霞が立ちはだかる。その後ろに、変わり果てた純夏がいた。

「純夏ぁ! 純夏純夏純夏! ごめんな、俺、ごめん……」

 霞がそっとどき、武は純夏を抱きしめた。癒しの札を当てて、武は祈る。

「癒しの神よ……俺は、俺はどうなってもいい。純夏を、純夏を癒してくれ……!」

『どうなってもいいと言ったな、異形の者となり果てても純夏を癒したいか、その娘はお前の純夏ではないと言うのに』

「ああ、俺は癒したい。純夏を助けたいんだっ!」

『ならば誓うか。我に忠誠を誓い、我が教えを広げ、あらゆる人を、動物を癒し続けると』

「何にだって誓ってやる! だから、頼む!」

 その時、武に純夏の記憶が流れ込む。
 武の背、怯える純夏、そして純夏を連れて行かんとするベータ。

「ベータッッッ く……怖くなんかねぇ、怖くなんかねぇ……!」

 武は拳を握りしめ、殴りかかろうとする。

『我は、戦う力を持たぬ。意味のない事はやめておけ』

「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

『愛しい女を抱きしめてやれ。心の痛みを癒すには、その痛みを経験せねばならぬ。痛みを、苦しみを、慟哭を、肩代わりしてやるのだ。なに、全てを経験しないといけないわけではない。繊細な癒しの術を行う為に、どのような傷か調べる為だけのものだ。怖気づいたか?』

「純夏っ!」

 武は躊躇せず、純夏を抱きしめる。
 とたん、純夏と武の位置は入れ替わっていた。

「武ちゃん……? 武ちゃん! 武ちゃん! 武ちゃん!!!」

 純夏が叫ぶ。武は、それに微笑み返した。

「武ちゃあああああん!」

 武の意識が現実へと戻ってきた時、純夏は泣いていた。武ちゃんと無表情な瞳で、呟きながら。

「ベータ、殺す……殺す……殺す……殺してやる……武ちゃんを、奪わないで……」

 純夏の羞恥、屈辱、快楽、絶望、怒り、憎しみ、悲しみ……そして武への愛。全てを抱きしめて、武は掠れた声で呪文を唱えた。そして武は術を使う。エルフにしか使えないはずの、札を使わない癒しの呪文を。その奥義を。純夏の辛い記憶に優しい蓋をし、純夏が挫けそうになる度に元気づけるそれを。その呪文を唱え終わると、武の体から力が抜けていく。純夏の痛みを肩代わりした上に、武に与えられたMPの全てを使い果たしたのだ。その耳は、鋭く、長く尖っていた。
 純夏の瞳に、光が戻ってくる。

「武ちゃん……!? 武ちゃん!!」

 純夏が、武を抱きとめた。
 武が次に目を覚ましたのは、三日後だった。

「よーやく目を覚ましたわね。私を突き飛ばした事は許してあげるわ。00ユニットが完成したわ。まさか癒しの札が心の痛みにも効くなんてね」

「夕呼せんせー……。そうだ、純夏は! 純夏は、一体……」

「00ユニットは無事よ。しばらく記憶の混乱を見せていたけど、急速に安定を示し始めているわ。それと、純夏は死んだわ。でも……ニート神が、望むなら生まれ変わらせてあげるそうよ。純夏とこっちの世界の武の、両方をね。どうする?」

「望みます……! 望むに決まってるじゃないですか! 俺は、全部の純夏の幸せを望みます!」

 純夏は、俺が守るんだ!
 その時、医務室の扉から泣いている純夏が現れた。

「武ちゃん、見たでしょう? 私は、武ちゃんの私じゃなくて、人間じゃなくて、ベータに……」

「泣くな純夏、もう大丈夫だ。俺が純夏の事、癒しつくしてやるからな……! 俺は、癒しの神エルロード様の神官だから」

「武ちゃん……! 武ちゃん……!」

「ま、これで全部の巫女や神官が揃った事になるわね」

「全部の巫女や神官が……?」

「あんたが寝ている間に、横浜基地の人員を動員して超特急で神社を作らせた後、全部の神社にお参りに行かせたのよ。武神は御剣、癒しの神はあんた、火の神は榊、大地の神は珠瀬、獣の神は鎧衣、風の神は彩峰を選んだわ。鍛冶の神は私と整備員ね。私は信仰心が足りなくてドワーフにはなれなかったけど……。全く、大騒ぎよ。化け物騒ぎとお祭り騒ぎ、両方ね。知ってた? 白銀ぇ。火の神の加護を鍛冶の神の加護で戦術機に付与すれば飛躍的にビームへの耐性が上がるのよ。鍛冶の神は自分で研究しろってなかなか知識をくれないけどね。神々の力、とことん利用しつくしてやろうじゃない」

「そ、それじゃあ、ベータに勝てるんですか!?」

「勝てるかじゃなくて、勝つのよ。神々の力の研究……やってやるわ。堕落の神の神官が中々見つからないのは問題ね。最も、堕落の神の力は簡単に借りられるものじゃないけど。力の及ぶ範囲も無差別だし……、無気力になって滅ぶなんてぞっとするわ。御剣が信者を集めて武神への祈りの儀式をしたらなんとか回復したけど……ベータにやる気を出されても困るしね。それにしても、春風が帝国に行って良かったわ。春風を寄こせってアメリカにせっつかれているから。さ、純夏の浄化をやってちょうだい。もうすぐ72時間立つわ」

武は、神妙に頷くのだった。
 その頃、春風は中川少佐の母親と対面していた。

「そなたが春風か」

「は、はい」

「事情が事情だから仕方がないとはいえ、我が名門中川家に小娘が入る事になるとは……。よいですか、迎え入れはしますが、あくまでも妾としてですからね」

「め、妾……」

「貴方には我が家のしきたりをしっかりと覚えてもらいますよ。これ、鉄を貪り食いながら話を聞くのではありません」

「ごめんなさい、お腹が空いてお腹が空いて……。獣人の札って安産早産の効果があるけど、いっぱいご飯を食べないといけないんです。戦時中だから早く産まないとって」

「……全く、最近の若い人はすぐ道具に頼って……無事な子を産むのですよ」

 話をしている横では、中川少佐の父が頭を押さえていた。

「我が妻ながら順応性が高いな……。まさか戦術機を嫁に迎える日が来るとは……。冥夜様と悠陽様両方から打診が来ては……」

「技術部からは完璧な設計図が一揃いするまでなんどでも設計図を交換しろと話が来ています……」

「まあ、夫婦間で仲が良いのは良い事ではないか。ロボット族のしきたりではそういう事になるのだろう? それで、子供についてだが、帝国で預かるか我が家で預かるかで大論争が起きてな。議論が巡り巡って何故か悠陽様に献上する事となった」

「危険です!」

「確かにな。悠陽様の所へ行く前に、しばらくうちで育てる事になっている。教育を怠るな」

「は」

 春風に対する中川母の説教は、いまだに続いていた。





 ふわぁーん、お腹が空いてお腹が空いてどうしようもないよう。
 私はアリスに送ってもらったスーパーオイルと資材を貪り食べる。
 そしてその合間に、子供の為に帝国の人に手伝ってもらいながら簡易の家を建てようとしていた。
 ちなみに、メールの件はアリスが家からたくさんのビームサーベルを持ちだした件でアリスの父親に速攻でばれた。アリスの父親経由で他の神々にもばれた。何故ばれたのかと言うと、アリスのお父さんの家系は忍者の家系なのだ。あちこちにスパイを放つ関係上、神官も多い。そのネットワークでばれたというわけだ。
 ちなみに、新ロボット族で忍者はアリスのお父さん一人だけだ。それもニーク様が忍者にも加護を受けてほしい! ロボット忍者見たい! 言う事を聞かなければお前の一族無気力にする! と地団太踏んだからだ。
 今まで忍者に新ロボット族がいなかったのは理由がある。何故なら、旧ロボット族はともかく、新ロボット族はどう頑張っても忍べないから。ハッカーの腕は一流だから、それで一族を助けているらしいけど、アリスのお父さんの地位は低い。
 もちろんニーク様はアリスを庇ってくれた。
 でも、武神はいっぱい信者を送れる事を黙っていたニーク様にお怒りになられた。
 神々の性質的に、ニーク様は武神に弱いのだ。
 アリスにも悪い事をした。でも、亨様はビームサーベルに興味を持っておられたし、結納の品の一つも用意しておきたかったのだ。もちろん、妾に結婚の儀式なんて無い事はわかってるけれど……。
 もちろん、アリスにはその為に私のお小遣いをそっくり渡してあった。
 しかし、ビームサーベルは買う際に証明書がいる危険物、いっぱい買ったら怪しまれると思い、アリスの父の所から持ち出したのだと言う。
 しかし、元々失踪事件や異世界に移動したらしいと言う事は噂レベルで広まっていたのが、この件で完全に信者サイドで裏打ちされた。
 即時神官会議は招集され、布教が決定したらしい。そこから政府に話が漏れて、近々国際会議が開催予定だ。なんでも、ベータに占領された土地はその国の物かどうかが争点らしい。ここら辺の政治の事は良くわからない。なんて言っていいかわからないから、亨様には報告していない。でも、ずっと言わないのも不味いよねぇ。はぁぁ、どうしよう……。
 あ、亨様が来た。あぁ、武御雷様っていつ見ても惚れぼれしちゃう。

「あ、亨様ぁ。えと、今日は設計図の交換の前に大事な話があるんです」

「大事な話?」

「えと、そろそろ塗料を飲まないといけない時期なんですけど……。子供には色々選ばせてあげたいけど、私の胃袋にも限界があるし……。カラフルな子が生まれちゃうかもしれないから色は一色の方がいいって説もあるし……どうしようかなって……。なにしろ、一生の事だから……男の子だから、黒がいいかな……?」

「そ、そうか色か。黒はならぬ。赤が良いだろう」

「亨様とお揃いの色にするんですか?」

 私は亨様が初めて見せてくれた父親らしさに微笑んだ。
 
「わかりました。発注しておきますね」

「発注……?」

「あ、ニーク様が、メールでアイテムのやり取りも可能にしてくれたんです。私最近、いつもスーパーオイルを飲んでるけど無くならないでしょう?」

「なんと!? ニーク様とはそのような事まで出来るのか!」

「は、はい。お陰で赤ちゃん用品とか、色々用意できるようになりました」

「それでは、そなたの世界の日本に救援を要請する事が出来るのではないか!?」

「あ、あの……。布教とか、要らなくなった土地を貰えないかと言う話は出ているそうです……」

「要らなくなった土地を、貰えないかだと!?」

 亨様は血を吐くかのように言った。言いたい事はわかる。要らなくなんかはない。必死に取り戻すべく頑張っているのだ。

「与えた土地のベータの排除は、当然するのだろうな」

「は……はい。アリスに聞いた話では……いえ、なんでもありません……」

「構わぬ。言ってみよ」

「武神様が、佐渡島辺りが狙い目だろう、と言っているらしくて……。佐渡島ならば、広さがあって、島で、日本にとっても防波堤になるからと……」

「!! 佐渡島を……! それはまことか!?」

「まだわからないけど……武神様は一柱でもやるといっているそうです……。この地に信仰を広めるのだ、その為に誰もが参拝出来る場所を作るのだと……」

「目的は信仰か……わかった。良く話してくれた。他にも情報があったら報告するが良い」

「あ、はい……」

「なるほど……その話、持ちかけられてきたら飲むほかはないのでしょうね」

「悠陽様!」

 亨様は畏まった。私は、わたわたしながら正座した。

「心なしか、お腹が大きくなってきたように感じますね。生まれるのはいつごろ?」

「は、はい。一月後には……」

「そんなに早いのか!?」

「そうですか、一月後……先ほど、カラーリングの話をしておりましたが、私の子なれば、紫にするわけにはいかないでしょうか」

「あ、あの……。悠陽様が私の子を自分の子のように扱ってくれて嬉しいです。でも、この子は私の子ですから……」

「しかし、私の養子となる予定の子です。なれば、色を決める権利が私にもあるのではないでしょうか」

「養子……?」

「いや、その、悠陽様……」

「亨様……どういう事?」

「中川少佐。伝えていなかったのですか?」

「いや、その……」

「亨様?」

「中川少佐?」

 結局、私と悠陽様の二人で育てる事になった。こんな大事な事を黙ってるなんて、亨様の馬鹿馬鹿。妾にしかなれないし、私ってすっごく茨の道を選んだのかもしれない。
 私は高級なオイルブロックをやけ食いするのだった。
 ちなみに塗料は紫と青になった。赤はどこ行ったのよ、亨様の弱腰っ





[20484] 6話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:46
 その日、私は神様と御剣さん達とチャットをしていた。

『ニーク:そう言えば、HSST事件はどうなった?』

『武:なんでもご存知ですね、神様は。あれは無くなりました。代わりに、珠瀬事務次官だけじゃなくて、なんかいっぱい要人が視察に来てましたよ。特に珠瀬の植物を育てる札が大人気でした。俺達神官の視察が目的の殆どって感じでしたねー。ニーク様の転生の力についても問い詰められましたよ』

『ニーク:そうか……あの能力についてのごたごたは、もううんざりなんだがな』

『御剣:仕方ありませぬ。誰でも、愛しい者ともう一度巡りたいと思うのは当たり前ゆえ……』

『ニーク:そういえば、春風。とにかく混合視察団を送る、だそうだ。俺の一番の愛し子のマイケルも来るからよろしくな。クーデター対策に、悠陽と春風以外と一切の交渉はするなと言っておいたから、これで悠陽の権限は増大するはずだ』

『春風:ええっ 日本国首相が!? それになんで私!?』

『武:クーデターだと!? どういう事なんだ、ニーク様!』

 ちなみにマイケル様はニーク様一押しで日本国首相についた人だ。父親はアメリカ系旧ロボット族で、獣人の血も混じっている。マイケル様が生まれた時、ニーク様は狂喜して名付け親となり、アメリカ合衆国大統領……は無理だったので日本国首相につけるべく神自らが教育し、その教育内容とニーク様の熱の入りように、誰もニーク様にNOを突き付けられなかったのだ。マイケル様の首相にふさわしい人間になりつつニーク様の望む振舞いを身につける為の涙ぐましい努力は伝説となっている。

『ニーク:何ってお前、大企業の社長にして技術省長官の海野の娘だろう。首相に次ぐ権力者の娘だし、そもそも日本国首相はお前の長兄じゃないのか』

『春風:でも、お母さんは、私を捨てて……。異父兄妹だっていっぱいいるし……。仲いいのアリスくらいだし……。マイケル様とは生まれてから一度も会った事……』

『ニーク:兄を様付けするな。捨てたわけじゃないさ。海野は常に子供達を見守ってた。最高傑作である子供達をな。俺が加護を与えたのも実験の一環だ。思うに、今回の転移は俺の力の暴走だと思う。神のうちで召喚を使えるのは俺だけだから。ただ、春風が選ばれたのにはそれなりの理由があると思う。俺の力を強く宿し、この世界の人々が望んだ、信仰した理想の戦術機、それに近かったから、春風、お前はあの世界に召喚されたんだと俺は思う。それに、戦術機との子供、俺は期待してるんだぞ。海野もな』

 知っている。異父兄妹達はマイケルを筆頭にお母さんの目に叶う様に、一生懸命努力していたし、今もしている。幼年訓練施設は、楽しさ第一のニーク様の方針で廃止されたけど、自分から乞うて厳しい訓練を軍人さん達につけてもらってる事も知ってる。でも、私はそんなのは嫌。愛してくれるのはお父さんだけでいい。それと亨様……だから私は、神様のお願いは聞いたけど、他は普通の女の子として振舞った。そして、望み通り、お母さんの合格ラインから脱落した事も知っている。私、知ってるんだよ。他の異父兄妹には、皆、より素晴らしい子供を作る為の婚約者がいる事を……。アリスだって……アリスの婚約者は鳥人だけど、どうやって子供を作るんだろう……。鳥忍者ロボットって神様が期待しまくっているらしいけど……。とにかく、そんな異父兄妹達は、私よりずっと頭が良くて強い。私は人一倍体ががっしりしてるけど、最弱なのだ。

『春風:でも私、お母さんに合わせる顔ないよ。そんな気もないし……。私、妾だし……。子供だって、悠陽様の養子に……』

『ニーク:何?』

『春風:私、妾なの』

『ニーク:お前、虐待されてるのか? 中川少佐とやらは、俺の愛し子、日本が誇る最高傑作が一人を虐待しているのか?』

『御剣:ニーク様、私が悪いのです! 普通の娘だと思い、ならば相手が名門だと言う事もあり、妾でも良かろうと……』

『ニーク:春風の母は話した通りだし、父も計算しつくされたメイド族と技術省職員との子……実験体だぞ』

『御剣:えーと……それは……その……偉いのですか?』

『武:実験体って偉いのか?』

『ニーク:偉いに決まってるだろう!』

『御剣:それは失礼した。許すが良い』

『武:待て待て、でも新人類の武家の子なら、新人類の跡継ぎが必要なんじゃねぇか!?』

『ニーク:む……それもそうか。神官と人間の子は神官だし、意図して力を濁らせるのは可哀想だしな。悠陽の子と言うのも良く言えば最高の待遇を、と言う事なのかな……』

 武の取りなしに、神様は納得する。早いよ、神様。

『ニーク:虐待されたら言えよ。俺が守ってやるから』

『春風:ニーク様の守ってやるって、害敵皆怠け死にさせる事じゃない……要らないよ。それに、私に人脈とか期待されても困るもん。私、やっぱり妾でいいよ。権力のドロドロなんて、関わりたくないもん。子供達と亨様と、平和に暮らせればそれでいいよ』

『ニーク:息子達が懲役されないとでも思ってるのか。違うから、獣人の札を最大限に使ってるんだろう?』

『春風:それはこっちの世界の人が皆、そうだよ』

『ニーク:春風……』

『武:で、クーデターってどういう事ですか』

『ニーク:もうすぐそれが起こるんだよ。原因は、一概には言えないが、大義名分は悠陽の権力が低いことへの不満だな。このチャットに明日の7時に要人が入る事になってるから、御剣と悠陽、夕呼先生は入っとけよ』

『御剣:私は……』

『ニーク:御剣はこの世界の武神の唯一の神官、愛し子だろ。この前の事でわかっただろうけど、お前って何気に春風に……もっといや俺に対抗できる唯一の存在なんだから、それなりに振るまえよ』

『御剣:……承知した。武達もいた方が良いのですか?』

『ニーク:武達に関しては、追って沙汰する。明日の主な話題は佐渡島の偵察任務だから、竜人とドワーフと春風とそっちの政府代表がいればいい。後、余計な奴は会話に加わるなよ。サリュークとトワレが入るって言ってるから、チャットとはいえ神聖な話し合いだ。破れば祟りが起きると思え』

『御剣:承知した』

 大変な事になっちゃった……。
 翌日、私の横には中川様や五摂家の皆さんが集まっていた。
 悠陽様も帝国の要人に囲まれておられる事だろう。緊張する。

『サリューク:早速だが、妾は佐渡島に中央神殿を建てたい。冥夜も賛成してくれような』

 武人様、アクティブだぁ。

『御剣:は。神殿を建てるのは賛成しますが、新しい国を作ると言うのは……』

『サリューク:日本とすれば日本人しか参拝に来れぬであろ。それに神殿は治外法権でなければならぬ』

『悠陽:国を治めるのは、どなたになるのでしょうか』

『サリューク:神官が持ち回りでする事になる。最初は冥夜に任せようぞ』

『悠陽:佐渡島を制覇する事……可能なのですか?』

『ニーク:それだけなら楽にできる。頭脳級のベータ……反応炉を破壊すればいいだけだから。だが、それだと周囲にベータが溢れかえるだろうな。横浜基地のある日本も危険に晒される』

『夕呼:楽にできるですって!』

『サリューク:そこはそれ、ニークと妾に勝てる者などいないであろ』

 まあ、ニーク様が力を使っちゃえば隙だらけになるもんね。

『ニーク:信者に大分被害が出るぞ』

『サリューク:それは仕方のない事じゃ』

『ニーク:うちは人口が少ないんだ。悠陽、お前はどうしたい?』

『悠陽:神々よ……どうぞ、日本を、地球をお救い下さい……』

『サリューク:うむ、任せよ。そして妾を称えるのじゃ』

『ニーク:うーん……。宇宙に移民する技術と惑星座標と引き換えなら、いいか……。宇宙開発の技術はまだそんなに発達してないし、こっちの世界にもその居住惑星があるかもしれないしな。後、俺はオルタ5もどんどん進めるべきだと思うぞ。保険はあって悪い事じゃない』

『サリューク:うむ、いっそ地球を寄こすがいいぞ。信者がちと増えすぎているでな。移民先が必要なのだ』

『悠陽:地球は私達の故郷です。しかし、共にベータを打ち払い、共生する事は出来ましょう』

『春風:あ、あの、それって取らぬ狸の皮算用じゃないですか? まずベータと戦ってみる事が重要だと思います』

『サリューク:うむ、御剣、わが軍を率い、ベータを減らして参れ』

『御剣:は?』

『マイケル:安心するがいい、ミズ・御剣。この私もついて言ってやろう。何故なら! 私は! 日本国首相だからだ!!』

『ニーク:きゃーマイケール! 行け行けー! 春風と、調査用に黒影もつけてやる』

『夕呼:待って! こっちも00ユニットと霞を向かわせてもらうわ。調査が必要なのはこちらも同じよ』

 ニーク様がお喜びになる。黒影はアリスの父だ。

『トワレ:楽しく話している所、悪いのう。ワシも反応炉を調べさせたいんじゃが良いじゃろうか?』

『ニーク:来たか、トワレ。まあ、調査だけなら問題ないだろ。じゃあ、話は大体纏まったな。お前達、明日からその方向で煮詰めろ。決行は12月5日な』

 そしてチャットから要人が離脱していく。
 あまりにも無茶で、あまりにもあっさりした話し合いに皆さん、呆然としていた。

「なんて事だ、冥夜様が……」

「あの、あくまでも偵察程度ですし、武神主催の戦で指揮官が死ぬなんてありえないと思います。でも、佐渡島では帝国も協力した方が良いかもしれませんね……。神官達の力だけで佐渡島を奪取されたら、本当に独立国になっちゃうと思います。でも、逆に、もしも帝国の力を見せつける事が出来たら……」

「厄介な事になったものだ……」

『皆の者、これを見ているのでしょう? どうか……冥夜を頼みます……』

「悠陽様……!」

 それにしても、大変な事になったものだ。ちょっとニーク様、何が守ってやるよ。私、妊娠中なんですけどー!
 その後の細かい話しの詰めには参加させてもらったけど、何が何だか分からなかった。
 12月1日、続々とアイテムボックスに竜人やドワーフや旧ロボット族が送られてきた。
彼らはパソコン機能のアイテムボックスでテントを出して設営していく。
ピリピリした風の国連と帝国の人達が出迎え、私はそれを見守った。

「直美君、いや、大変な事になったねぇ」

「春風ぇぇぇ!」

「黒影おじさま! アリス!」

「私が来たからにはもう安心だからね! 誰!? 春風を騙した奴は誰!?」

 そこに武御雷に乗った亨様が現れた。

「あ……v 春風、あの綺麗な人は誰……? いけないわ、私には風影様が……v」

「えと、私の旦那様の亨様です……」

「うっそーーー! こんな美形なの!? そりゃ騙されちゃうわー」

「君は一体どんな人物なのだね?」

 黒影さんとアリスが亨様に寄って行く。

「初めまして、直美さんの……その……遺憾ながら夫の……中川亨と申します。中川家と言う武家の跡取です」

「武家! ニーク様が好きそうな響きだな。となると家柄はそこそこいいのか」

「お武家さま……素敵v」

「ちょっと待ちなさいよ、アリス! 私の夫なんだからね!」

 私はアリスを牽制する。
 その後、クスリと笑った。
 凄く懐かしいよ。
 微笑む私の後ろでは、御剣さんが竜人と打ち合わせをして確実に戦の準備をしていた……。



[20484] 7話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:46
「無茶です!」

「無茶でもなんでもやらねばならぬのだ。幸い、私は武御雷を使う事を命じられた。そう簡単に死ぬ事もあるまい」

「しかし!」

 御剣さんが新人類の女性と問答しあう。

「はわわ、裸の人、いっぱいだよう」

 アリスが顔を赤らめる。

「Yeahhhh! GOに入ってはGOに従え!」

「脱がないでください、マイケル総理」

 騒がしくしながら、皆は船に乗り込んでいた。
 会談は遅々として進まなかった。ありていに言えば、佐渡島でお手並み拝見と言った所だ。
 私はお腹を撫でながら戦いの時を待っていた。
 空軍が宇宙から、そして海軍が海中から、ベータを攻撃する。
 皆が船から降り始める。真っ先に使うのが耐火札だ。そして武神札。
 竜人達が超絶美形の戦術機に率いられ、ベータとぶつかった!
 竜人達は強化された身体能力とドワーフが付与した能力でばっさばっさとベータを切って行く。

『嘘でしょ!? 本当に生身でベータとやり合っている!?』

黒影さんが、忍法を使ってベータに変形すると、ハイブの中に向かっていく。
ニーク様の加護があるとはいえ、ばれたら終わりだ。おじさま、頑張って。

『ちょっと今、どうやって変形したのよ!?』

「紳士なのは17時までだ! 今から佐渡島を取り戻す! レッツパァリィィィィィィィィ!!」

 私とアリスは守られながら、戦場へと降り立った。大丈夫、亨様が守ってくれている。
 私は既に魔女っ子へと変身していた。
 巨大コタツとテレビ、ミカン味のオイルブロックと、新ロボットネコ族。
 私は着々とニーク神様のお力を降ろす準備を始めた。
 信者が少ないこの地では、それなりの準備をしなければならない。
 私の周囲では、戦術機だけではなく、5体ずつ変形合体して旧ロボット族から疑似新ロボット族になった人達が警護してくれていた。
 他にも、旧ロボット馬族と合体し、ケンタウロスモードになった人達が槍を振るい、ベータを倒していた。

「へ、変形合体と言うのかあれは。……本当に元日本人なのか?」

「今も日本人だよ、亨様」

 私は儀式用の服、ジャージを着てコタツに入り、新ロボットネコ族を落ち着かせて膝に座らせる。
 オイルブロックを齧り、テレビにお札を張り、ラブリーモモに繋げた。

「どうみてもくつろいでいるようにしか見えないのだが……」

「重要な儀式です。亨様も手伝って下さい。ほら、おこたに入って」

「戦術機ではそのような機動は出来ない」

「じゃあアリス、おこたに入って」

「うん、私のクマの助もテレビに接続して……と。さあ、始めようか」

 私とアリスは手を組み、額をこつんと合わせる。

「「働きたくないでござる。絶対働きたくないでござる! レッツ自堕落生活!」」

 光が私とアリスを覆う。今だ!

「「ラブリープリティ―超キューティー。ゲーム機よ、いでよ!」」

 そして私達は精神を集中する。ゲームに。
 
「なんなのだ、それは。おお、ニート神が画面上に現れた」

『さあ、リア充ベータを爆発させるのだ!』

「「ラジャ!」」

 画面上に現れるのは、可愛らしくデフォルメされた戦場。
 そして小さなデフォルメされたロボットが、大きなボールを転がしだす。
 それがベータに触れると、ベータから半透明のベータが抜け出てボールにくっついた!
 大量にくっついたベータで、塊はどんどん大きくなっていく。
 私は塊をころころと転がしていく。

「竜人に当たらないようにね」

「うーん、でも意外と難しいんだって。あ、やった」

 竜人に当たると、ボールは大きく跳ね飛ばされ、いくらかベータが零れおちる。
 これぐらいならまだいい。しかし、ボールがあまりにも大きくなると、竜人すら巻き込んでしまうから注意が必要だ。

「難しいねぇ。ガンバ! 春風。10分したら一旦止めて2Pプレイね」

「うん! アリス!」

「こ……これは、まさかベータの魂を集めているのか!?」

「そんな、人聞きの悪い。やる気を集めているんだよ」

亨様が、ベータを掃討しながら汗をかく。

「ハローボーイ、そしておやすみボーイだ!」

 マイケルが「ぼくのかんがえたかっこいいぶきしりーず」を存分に使い、凄まじい勢いでベータを撃破していく。
 
「これが日本の首相魂だー!」

 要塞級を振りまわして投げつけるマイケル。ふわぁぁぁ、私にはとてもあんな事は出来ないよ。さすが兄妹で一番強いだけの事はある。

「このミカンおいしーw」

「ニャー」

「クロちゃんにもあげようねぇ」

 そして私とアリスはきゃっきゃうふふしながらベータを無気力に変えていった。

「むっ全員さがれ! ニーク様の御力が通るぞ! くっ間に合わん! 全員札に向かって祈れ! 気をしっかり持つのだ!」

「あっごめーん御剣さん」

 竜人達の祈りの壁で塊は跳ね返される。しかし、何人かのやる気は吸い取ってしまった。
 謝りながらもあまり心配していない。ほら、竜人達は手慣れたもので、即座に耐えきれず無気力になった者を武人札で回復していく。
 そろそろハイブ内に進入しようかな?
 そんな時、凄乃皇が現れた。そういえば、夕呼さんが投入するって言ってたっけ。
 ハイブ内をごろんごろん転がしていくと、その後凄乃皇とA01が追いかけていく。
 楽してるなぁ、純夏さん。
 戦闘最中に、一度純夏さんが倒れる事があったけど、武さんの癒しの札で回復していた。
 そして、ハイブ奥まで到達する。
 奥では、ベータになった黒影おじさまが、頭脳級ベータをハックしていた。
 私は羞恥に目を逸らす。出来るスパイは、色仕掛けも使うのだ。
 
『来たか、春風。ここ近辺のベータを全て無気力にしてくれ』

 はいはい。全ての作業が終わると、おじさんはドワーフや研究員の旧ロボット族を吐きだした。彼らは散らばって調査に向かっていく。
 A01の人達は、ひたすら動かなくなったベータを攻撃していた。
 おじさんは頭脳級ベータに竜人の札を張ってちょっとだけ回復をさせ、解析を続けていく。そして、おじさんのパソコン、「絶望」を閉じて言った。

『オリジナルハイブじゃないとこれ以上は無理だな。プログラムを書き換えようとしたら切り離されてしまったよ。解析に手間を取り過ぎた。しかし、お陰で好き勝手出来る。ここのベータには中央神殿を建てる為の作業員になってもらおうか。エネルギーが切れて死ぬまで、な……』

 黒い、黒いよ黒影おじさま。

『ベータ、殺す……殺す……殺す……』

『お嬢さん、何をしようとしている!? 待て!』

 テレビ画面が光で満ちた。
 まだ動けるベータが、今までとは全く別の動きを開始した。
 まずい。不味すぎる。

「どうした!?」

「純夏さんったら、頭脳級ベータを殺しちゃった! 横浜基地にベータが押し寄せちゃう!」

「なんだと!?」

 亨さんが焦りの声を上げる。

「皆の者! 聞いたか! ここでベータをせん滅するのだ!」

 御剣さんが叫んで、竜人達が、戦術機が鬨の声を上げるのだった。






「武さん、大丈夫かなぁ」

 その頃、他の神官達は癒しの神は帝都に待機、残りの神官達は新潟湾に待機していた。
 向こうの国連から来た要人も悠陽と共に一緒にいる。

『心配は無用。我らは後ろにどーんと控えておればよいのよ! なにしろ、ニークもサリュークも大雑把故な。どうせミスってハイヴ壊してベータの大群が押し寄せてあ奴ら自身は無傷と言うのが関の山だろうて!』

「うう、それもちょっと……」

『わしらの炎、見せてやろうて!』

「そうね、訓練したもの」

 遠くに、ベータの群れが見える。
 チャットでの報告が入った。

『ほら、予想通りだ。全く、世話の焼ける。行くぞ、珠瀬。そなたの力、見せ付けるのだ』

 悠陽は大声を張り上げた。それを、慧の魔術を通して日本全土に広がっている。
 
「私を支持してくれる兵士達よ! 今こそ新潟湾に集結し、ベータを討つのです!」

 それはもうお人形にはならないと言う、悠陽の鬨の声であり、クーデターを別の方向……ベータの方向へ向けんとする声だった。

『皆の者! 今こそ火の神、フレアリーに祈るのじゃ! さすれば新潟湾に迫るベータ、焼き尽くしてくれようぞ!』

『どさくさに何を言っている、フレアリー』

 日本全土から、戦術機が集まってくる。
 この時、実に日本の全戦術機の90%が冥夜か悠陽につくという異常事態が発生した。
悠陽が銃を抜いた。

「お願い、木さん、草さん、ベータを倒して!」

『人間界不可侵条約なんぞ知るか! こっちは千年もニークと人間のきゃっきゃうふふを指をくわえて見ていたんだ。行け! 草花よ、我が愛し子達の声を聞き、花開くのだ』

 珠瀬達大地の神官団が海に向かって種をまき、祈りを捧げると、それは凄まじいまでに凶悪に成長し、ベータを絡め取り、あるいは串刺しにしていく。

「あんたは一呼吸早いのよ」

「そっちが遅い」

「でも、ま……」

「一瞬のタイミングが合わないなら、時間を掛けて合わせればいい」

「行くわよ、慧! お願いします、皆さん!」

「行くよ……皆」

 榊と彩峰が力を合わせ、風と炎の竜巻を放つ。それはじりじりと接近し、一つの業火の竜巻となってベータを包んだ。

『ひゃっほう! いい眺めじゃなあ! こんな力を使ったのは久々じゃて!』

『ほんとーよ。ニークって今までこんな良い思いしてたんだぁ』

 それを乗り越えてくるベータを、悠陽は一つ一つ着実に撃墜した。

「何をしているのです! 戦うのです」

「「「は、はい、悠陽様!」」」

 留守番組の竜人が斬り込みに行き、変形合体して疑似新ロボット族と化した旧ロボット族が銃を撃ちだす。
 向こうの世界の国連の要人達も、避難するどころか進んで戦いに参加する始末である。
 もとより、インドア派は来ていない。
 向こうの人々は神々の我儘に慣れていたし、ましてややる気満々の神々の邪魔は決してするまいと決めていたのである。
 そして、向こうの要人達は冷静にデータを取り続ける。 
 今まで誰もやらなかった事、すなわち、神を敵に回したらどうなるかの詳細な戦力を知る為に。



[20484] 8話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:47
『サリューク:はっはっは。佐渡島を取ってやったぞ!』

『悠陽:とってやったぞ、ではありませぬ。あくまでも偵察だけで、本土には被害を出さない御約束のはず。あれで、多くの神官と衛士が命を落としました』

『サリューク:ぬ……』

『悠陽:それに、帝国が佐渡島を奪還した場合、佐渡島は帝国が取る御約束だったはず』

『サリューク:横から掻っ攫っただけであろう!』

『悠陽:御約束は御約束です。そなた達の宗教は保護いたしましょう。中央神殿の建設も御認めしましょう。御望みの知識も捧げましょう。移民も御引受けいたしましょう。帝国軍人に義務として武神の札を持たせましょう。しかし、佐渡島を渡す事、なりませぬ』

『サリューク:うぬぬ……』

『トワレ:まあまあサリューク、思う存分楽しめたんだから良いではないか。島一つと引き換えと思えば、破格の条件よ。ワシも貴重なデータを貰ったしな』

『マイケル:イェェェェァァアア! 我が日本も人道的支援をさせてもらう。さしあたっては自然の復活に努めようではないか! それとそちらの海軍を見たが、海軍に絶対的に必要な技術がまだ開発されてないようだな。これを最優先で提供しよう!』

『悠陽:その技術とは?』

『マイケル:全速前進する船に掲げた神聖なる日本国旗を横にはためかせる技術だ! 何、開発費はほんの二兆円で済む』

『悠陽:要りませぬ』

『マイケル:何故だ!?』

『悠陽:風の札を張れば済む話ではないですか』

『ニーク:頭いいな悠陽!』

『エルロード:それで、我らへの反逆の計画はどうする? マイケル』

『マイケル:HAHAHA。やはりお見通しだったようだな。やっぱ後千年は無理☆という結論が国連で下された』

『サリューク:それが良いであろう』

『マイケル:しかし、神の手助けでもないと滅びそうなこの世界はともかく、こちらの世界は過干渉は望まないと言う奏上は続けていく。例えそれで第三次世界大戦が起き、人類が滅びたとしてもそれは人類が選んだ道。箱庭の楽園より茨の道の自由を選びたいと言うのが国連の意志だ。というか佐野幹事長を無理やりリチャードに改名させてクーデター起こさせたから箱庭の楽園じゃないしな』

『ニーク:お前は一体何を言ってるんだ。それだと俺がつまらんだろ。神々の差別反対! リチャードの反乱の時だって死傷者は出さなかっただろ』

『フレアリー:臆面もなくはっきりそう言えるニークがたまに羨ましくなるのぅ……。強い力を持つ者の責任感とか0じゃしな』

『マイケル:それと向こうの国々も人道的見地に立ってそれぞれの国を支援したいそうだ。国連では兵器データ開示、神官会議では作物の種や家畜の提供とそれを増やす大地の神官、獣の神官の派遣が決定された。日本からは命とは認められない低級AIのロボット兵の提供が行われる。ひいてはアイテムを譲渡する為に各国に新旧ロボット族の受け入れを要請する。次世代OSとお札のトライアルの時が丁度いいだろう。それ以外にも各国の有志が各国の支援をする事になっている。それと、ひと足早く純夏と武と彩峰中将が生まれたので武と彩峰に引き渡す。獣人の札を張れば早く育つぞ』

『悠陽:そなた達に感謝を』

『ニーク:会談は纏まったようだな。春風、そこにいるな? 子供達の育て方をしっかり教えてやれよ』

『春風:はい、ニーク様』

 私はチャットを切って伸びをした。ううん、トライアルかぁ。面白そうかも。楽しみだなぁ。
 佐渡島には、神官達が集まって中央神殿建設と植物の育成を進めている。
 純夏さんは、黒影おじさまのやり方を見てハッキングの方法は覚えたとかで、トラウマと向き合う訓練をしている。術だけではどうにも出来ない部分もあるのだ。
 武さん達はトライアルで配るお札を作るのに大忙しだ。

「はぁるぅかぁぜぇ! 会談終わったんでしょう? 後50枚も作らなきゃいけないんだから、手伝ってよぉ!」

 うん、現実逃避です……。一番強力なお札を数日で百枚なんて、間に合うわけないよぉ。
 黒影おじさまは忙しくてトライアルを機に帰っちゃうらしいし。
 新たに送られてくる神官達の案内もあるし……困っちゃったよぅ。
 

 そしてトライアルの日。
 XM3のトライアルと共に、お札のトライアルがなされた。
 具体的に言えば、竜人と戦術機の模擬戦だ。
 御剣さんは善戦したけど、剣を素手で受け止めた時に真剣だったら真っ二つだったろう、と言う事で撃破判定を貰ってしまった。
 戦術機3体相手に善戦したんだけどなぁ。
 それを見て、配布用のお札が奪い合う様に無くなって行く。
 その場で各国の神官保護協定が結ばれていき、神官達が各国に向かう手続きもされる。
 既に向こうでは人口過多だけど、一時的に難民を預かる事なら可という話し合いも出た。
 あ、武さんはもちろん大活躍だった。
 最後には負けたと言え、黒影おじさんを圧倒するなんて、タダものじゃないよ!
 最後、黒影おじさんが奥の手の分身の術を使って無かったら、ううん。模擬刀じゃなかったら、負けてたね! おじさん、力弱いもん。狙いは正確だから命中判定は高い数値が出るけど、実際はそこまで切り裂けない。
 亨様も出ていて、私が応援していると、ベータが突如として現れた。
 その場がパニックになる。
 幸い数はいなくて、御剣さん達は目配せし合った。
武さんが戦術機で撹乱し、おじさまが手裏剣をベータに投げつける。
あんまり効いていないと見て、おじさんがため息をついて剣に切り替えた。

「着火!」

 榊さんが札を投げつけると、札が爆発する。

「お願い、蔦よ!」

 珠瀬さんが蔦でベータを拘束していく。

「行くよ……」

彩峰さんが風で兵士級ベータを切り裂く。

「冥夜さん程の事は出来ないけど……兵士級くらいなら……!」

 鎧衣さんがその爪でベータを切り裂く。
 御剣さんが大活躍したのは言うまでもない。
 整備員がとっさに戦術機の模擬刀に炎攻撃の属性をつけた。
 私とアリスも、働きたくないでござる。絶対に働きたくないでござる!の札を投げつけていく。
 やだ、急に動いたらお腹が痛い!

「春風!?」

「やだもぅ……痛いし―。だるいしー。働きたくないでござる。絶対働きたくないでござる!」

「いかん! 春風!」

 御剣さんが叫ぶ。
 私の体が光り、御剣さん達以外が虚脱した顔になった。ベータももちろん動かない。
 御剣さんが、亨様が急いで武さん達を回復していく。
 その間、私はいきんだ。

「春風、どうしたの……あっまさか!」

「生まれる――――――!」

 そして、いくつもの球体が紫と青の球体が零れおちていく。
 あ…亨様と、いっぱいしたから……v
 ころころと転がった球体に、亨様は目を丸くする。
 転がった球体は、いっせいにビービーと泣きだした。

「ば、爆弾!? なんの警報音だ!?」

「なにって、私達の愛の結晶じゃないですか」

「うわぁぁぁ……私、泣けてきちゃった……。やっぱり出産って感動的だよう。スーパーオイル、たくさん用意してて良かったね、春風」
 
 おじさまは私達の周囲のベータを一所懸命に掃討してくれた。
 そして嬉々とした竜神の助言を受けた御剣さんの指示の元、組織的なベータ探査が行われる。
 私とアリスは、その間に子供達にスーパーオイルや砂鉄を飲ませてあげて、服を着せるのだった。

「では、私は戻る。子供達をしっかり育てるのだぞ」

「はい、黒影おじさま。ですから、そこのカバンに入れた私の子を返して下さい」

「海野がどうしても一人欲しいと言うのだ。一人だけ……」

「皆私の可愛い子供です。一人だけも何もありません。返して下さい。……大人になったら、一人向かわせますから」

「いいか、春風。育成データは必ず送るのだぞ」

「わかっています。おじさま」

 そしてトライアルの後、三人の子供が送られてくる。
 私はそれを早速武さんと純夏さんと彩峰さんに渡した。

「で、このビービー言う球体はなんなんだ?」

「何って、赤ちゃんです。純夏さん達の転生体」

「機械で出来たボールにしか見えない……手足はないのか?」

「新人類だって、生まれてすぐには立ったり歩いたり出来ないでしょう? ロボット族も同じです。これから鉄を食べて、オイルを飲んで、センサーや体を精製していくんです。今は、転がる事しか出来ません」

「そんな……純夏はまた真っ暗やみの中に閉じ込められたって言うのか!?」

 武さんは絶望の表情で言う。

「だから、人間の赤ちゃんと同じ程度の不便さですって。獣人の札も張ってるし、すぐ育ちますよ」

「あ、ああ……」

「父さんが……ロボット……」

 彩峰さんが呆然と赤ちゃんを見つめる。

「慧さん! 一児の母親になったって本当か!? 父親は……よ、良かった……相手はロボット族って事は事故か……。慧さん、一人で異種族の赤ん坊を育てるなんて無理だ。け、結婚しよう」

「……」

「彩峰! あいつは誰だ!? 結婚って……!」

「狭霧大尉……さすがだな。あれを一目で赤子と見抜くとは」

 武さんが驚き、御剣さんが頷く。
 そうして皆が去って行ったあと、私は旧ロボット族に変身して亨様に寄り添った。

「亨様……名前、考えないといけませんねv」

「え……これ、全部、か? というか、もしかして見分けなくちゃならんのか……?」

 亨様は、乾いた笑い声を洩らすのだった。



[20484] 9話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:48
「皆の者、さあついてくるのです」

 三人でお庭の御散歩の時間。悠陽様が言うと、その後ろを球が転がって行く。
 たまに勝手な方向へ移動する球を、お付きの者がそっと戻した。
 悠陽様は後をついてくる球の大群をいたく気に入った。
 二体の紫の子には手ずから食事を与えるほどである。

「中川少佐、この子は武御雷に瓜二つだとは思いませぬか」

 子供を見せられ、乾いた笑いをもらす亨様だった。
 その時、球が激しく振動して、変形した。

「こ、これは……!」

 丸っこいロボットに変形したロボットは、初めて言葉を話す。

「パパ―!」

「凄い……初めての変形を! ほら、中川少佐。呼んでおるぞ」

「パパか……パパですか……パパですよー」

「私の事も! 私の事も呼んで!」

 私が言うと、小さなロボットはママ―といって推進装置を使い、飛んでくる。ああん、可愛いよぉ。

 その頃、武達も子育てに勤しんでいた。

「武ちゃーん。うわぁぁぁぁぁぁん」

「純夏ぁぁぁぁぁぁ!」

「「ごめん、君達の相方はあのロボット」」

 こちらの世界の武と純夏は、当然ながら互いの変わり果てた姿に気づかず、人間と00ユニットの武と純夏と感動の再会を果たした。
 思わず、苦笑いをする武と純夏だった。
 一方、謎だらけのロボット族の生態に夕呼は頭を抱えていた。

「ほーら、シリコンだぞー。胸の大きな女になれよ、純夏―」

「あっ武ちゃん酷いよぉ。じゃあ私は、鋼で。かっこいい武ちゃんに育ってね」

「遊んでるんじゃないわよ! 一体どうやって育ってんの、こいつら!?」

「……親の愛情」

「設計図が生成できずすみません、香月博士。やはり大人にならないと駄目なようです」

 彩峰が彩峰父を抱いて言う。彩峰父が謝罪した。
 
「それで、ハックは出来そうかしら?」

「うん、私、子供の為……ロボタケちゃんとロボスミちゃんの為なら頑張って見せる」

「そう……じゃあ、早速今夜。やるわよ」

「はい!」

「純夏、応援してるぞ。ハックしている間、手、握っててやるからな」

 その夜、純夏は反応炉の前に立った。

「ベータ……貴方に命じます。人間を、殺さないで……! うわぁぁぁ、武ちゃん。武ちゃん……!」

「純夏! 俺はここにいるぞ!」

「ああああぁああああああああああああ!!!」

「純夏ぁ!」

叫ぶ純夏を武は抱きとめる。

「武ちゃん……。どうしよう……全ての情報を取った代わりに、全ての情報を取られちゃった……。ベータが、ベータがサンプルを取りに、ロボタケちゃんを浚いにここへ攻めてくる……。でも、武ちゃん……本星の位置、取得したよ……!」

「純夏!」

「それは本当? 不味い事になったわね……早速会議よ!」

『心配要りません、マスターリモコン戦術機の状態は良好です。即座に人員を奥に避難させて下さい。私が応戦します』

「メイ!」

 宙から聞こえてきた声……。横浜基地にインストールされたメイドのメイの声に、夕呼は頷いた。メイを採用してから、リモコン型の兵器を横浜基地内に大分ばら撒いている。
 その時、反応炉が機能停止した。本体から切り離されただけではなく、破壊されたのだ。

「いえ、メイだけにやらせるわけにはいかないわ。至急人員配備を。武、あんたにも出てもらうわよ」

「子供達は俺が守ってやりますよ! 了解です、夕呼先生!」

 そして二四時間後、絶望的な戦いが始まった。ベータにとって絶望的な戦いが。
 実は、横浜基地の隣にはニークの社があるのだった。
 つまり、横浜基地はニークの勢力圏内だったのである。
 横浜基地に到着するなり無力化されていくベータ達。
 しかし、ニークの加護も完璧ではなかった。同じ敷地内に武神の社があるからである。作戦を変えたベータは堕落の神の社と武神の社を破壊し、武神札を奪って帰って行った。
 この事件で、人類のベータへの戦法は確定した。
 すなわち、ニーク様の札を使って周囲のベータを無効化しながら進み、ピンポイントで頭脳級ベータを狙うのである。
 一方、ベータは武神札を各地から集め、オリジナルハイヴに集中させるのだった……。



[20484] 最終話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/07/20 20:48
 夕呼さんは厳しい顔つきで言った。

「いい、確かに残るハイヴはオリジナルハイヴだけ。でも、オリジナルハイヴにはかつてないほどのベータが集まっているわ。武神札を持っているから、ニークの力も通じない。そこに、00ユニットを届けるのよ。生半可な事じゃできないわ」

 私達は頷いた。

「世界各国の戦術機が露払いをしてくれるわ。そして、そこに貴方達が侵入してもらう」

 私はこくりと頷いた。侵入するのは私とアリス。そして、私の子供達に乗ったA-01の人達と亨様を含む近衛の人達。彩峰中将と武さんと純夏さん。
 そう、私の子供の多くは戦術機タイプ……中に人が入って、人と共に戦う事を喜びとしたタイプの新ロボット族だった。新たな種族の誕生だ。
 それに、武さんはかっこいい新ロボット族へと変じていた。
 純夏さんは人間に大分近い形のロボット族だ。
 純夏さんズと人間の武さん、霞さんは凄乃皇に搭乗。
 そして、私達は出発した。
 オリジナルハイヴを取り囲むニーク様の神社。その結界のさなか、オリジナルハイヴの外まであふれたベータ達。それは正しく肉の壁だった。
 そこを、凄乃皇の攻撃で道を作って行く。
 A-01の皆も、戦術機と神様の力を存分に使いながら切り進んでいく。
 動けないベータに隠れて動けるベータが攻撃してくるのも問題だ。
 しかし、そこは歴戦の彩峰中将。皆をうまく指揮して、進んでいった。
 純夏さんが見つけ出した最短行路を、私達は進んでいく。
 戦術機でなく、私の子供達が選ばれたのは理由がある。
威力が高いが故の消耗品である癒しの札を、私は惜しみなく消費する。
そう、弾薬をアイテムボックスに入れる事が出来て、癒しの札で傷が癒えるロボット族は、この任務にうってつけだったのだ。
まだ幼い子供達を無理やり成長させて戦場に立たせるのは心が痛む。
しかし、子供達の中には、搭乗者を愛している子も多い。
あるいは愛ゆえに、あるいはこの義務感ゆえに、あるいは闘争心ゆえに、あるいは好奇心ゆえに。
子供達の方から、ぜひ参加させてほしいと言ってきてくれた。
 私はそれを聞き、涙を流していた。
 悠陽は強いと思う。あんなに可愛がっていたのに、笑って子供達を送りだしたのだから。
 この世界の人達はすべからく強い。そして、今や私もその住人なのだ。頑張らなくちゃ!

「あっ駄目!」

ベータの攻撃が娘のアイリーを貫く。アイリーの急所は外れているが、搭乗者席をかすっている。私は癒しの札を出そうとしたが、既に無くなっていた。武さんは作戦で別行動をしている。ここで高度な治療は出来ない。可哀想だけど……。

「ごめんなさい、アイリー。癒しの札がもうないわ」

「ならば、私が作ります。母上、ニーク様……お許し下さい。三塚、役立たずになって貴方に嫌われても、私は貴方に生きていて欲しい」

「いけないわ、アイリー!」

「癒しの神よ、どうか……」

 アイリーは癒しの札を作る。すると、アイリーは半人半機械のアンドロイドとなった。
 そうか、メイド族や戦術機の血も混ざってるから、完全な人間には戻れないんだ……!
 アイリーのアイテムボックスから、残っていた弾薬が零れおちる。
 そしてアイリーのノートパソコンは消滅した。

「ああああ、アイリー? その姿は……」

 亨様が動揺する。

「アイリー、そなたなのか? やはりアイリーは最高の女だな。私の為に信仰を捨てるとは、馬鹿な事を……」

「乗れなくなった私は、嫌いになりましたか? 三塚」

 三塚が無言でアイリーにキスをして、アイリーは顔を真っ赤にした。
 親としては感無量だ。でもでも、アイリーは体は大人でも、まだ実年齢が幼すぎるんじゃなかろうか。
 私はアイリーが三塚を治療したのを見届けて、三塚をアイテムボックスに入れることで避難させた。
 アイリーにもそうしようとしたけど、アイリーは首を振る。

「母上、このような姿となっても私は父上と母上の子。私も戦います」

「直美……お前達は、本当に人間だったのだな……」

「なにか今、聞き捨てならない事をいいませんでした、亨様!?」

「いや、だってあまりにも姿が違いすぎて……そうか……そうか……」

 もう、亨様ったら。
 そして、私達は負傷者を回収し、徐々に数を減らしながら奥へと進んでいた。
 S-11は腐るほど持ってきているから、工作は楽だった。
 ある程度進むたびに珠瀬さんに蔦で壁を作ってもらう。
 これで、前を見ているだけですむ。
 最奥に行くと、武さんがオリジナルハイヴと会話していた。
 内容は武さんがチャット札に書いてくれているので、伝わっている。
 外では全世界がこの会話を固唾をのんで見守っている事だろう。
 ちなみに混乱を防ぐ為、チャット場で話す権限は、武さんにのみ与えられている。

『武:シリコンからなる生命体……!?』

『武:純夏じゃ駄目なのか!?』

『ハイヴ:否定。ロボット族のような種族の存在はありえない』

『武:でもいるじゃねーか!』

『ハイヴ:ありえない』

『武:ありえないじゃねーだろ! 現実を認めろ! 炭素生物だってあれだろ、いたけどお前が知的生命体だと認めなかっただけだろ! 問い合わせて見ろよ、お前のご主人様にデータを送って!』

『ハイヴ:ならばそれに値する証拠を見せてみよ』


『武:おお、見せてやらあ! メカ純! 頼む!』

『メカ純:ハ、ハイヴは私がいれば止まるんでしょ? 止まって、止まってよ』

『ハイヴ:私には何も見えない』

『武:おいいいいい!』

 そこに、続々と私達が到着した。
 私達も攻撃されて、アイリーは力を使いはたしていて。また一人搭乗者の為に信仰を捨てる。

『ハイヴ:質量保存の法則の無視。理解不能。理解不能。そもそも全てが理解不能。上位存在に指示を仰ぐ』

『武:おお、仰げ仰げ。それで、侵略をやめろ!』

『ハイヴ:上位存在の指示が返ってくるまで推定一年。それまでは通常通りの活動を行う』

『武:ふざけんな! くそ、結局ここで倒さないといけないって事か……! 純夏、行けるか? 今癒しの札に全力で力を送ってる……!』

「武、今助ける。行くぞ、ミーア」

 ミーアに乗った御剣さんが刀を振るった。
 全員、戦闘状態に入る。

『武ちゃん! 母星の座標、見つけたよ!』

『純夏……純夏! すげぇよ! こっちまで伝わってくるほど辛い思いをしてるのに……よし、さっさと奴を倒して帰ろう!』

『うん、武ちゃん!』

 そして、光が頭脳級ベータを覆う。

 そして私達は、メカ純のアイテムボックスに入り、脱出したのだった。
 そして二年後。そこには、大地の神に力を借りて復興を続けるとともに、オルタネイティブ5と6計画に全力を注ぐ人類の姿があった。
 オルタネィティブ6の計画はもちろんベータを作った知的生命体との接触計画だ。
 オルタネィティブ5の計画も進んでいるのは何の事はない、要らないならもらうと神様が言いだしたからだ。
 激減した人口はいくらでも補充できる事となったし人材は欲しいが、乗っ取られるほどの数となると話は別だ。
 そして唐突に、その日は訪れた。
 UFOの襲来が。
 いつでも迎撃出来る準備をして、緊張して帝国人は出迎える。
 現れたのは、スーツ姿にキツネ目の……完璧なる人間だった。
 
「いやー、我が社の資源集積装置がご迷惑をかけたようですみません」

 第一声もまた、完璧なる日本語だった。
 その人物は、横浜基地へと案内される。

「あ、食事は要りません。これは作り物の体なのでね」

軽く笑ってコーヒーを下げさせ、夕呼さんと向かい合った。
しかし、視線は魔法で小さくなった私に向けられたままだ。

「それで、それなりの代償は支払ってもらえるのでしょうね」

 夕呼さんの言葉を無視して、その人物は口を開く。

「装置が送ってきたデータによると、貴方方は質量を操れるとか。見せて頂けませんか?」

「質量を操る? ……大きさを変えるって事ですか? は、はい。わかりました」

 私は外へ出て大きくなって見せる。
 
「ははは。凄い凄い。札の効用についてもぜひ教えてほしいですな」

「ちょっと! 中川、ただで情報を流しちゃ駄目よ!」

 すると、その人物は冷たい目で夕呼さんを見つめた後、一瞬で笑顔となった。

「これはこれはすいません。なにせ、私は科学者なものでしてね。すぐこういった事に夢中になってしまうのですよ。それでですね。和平協定ですが、『中川さん』達となら結びたいと思います」

「……! 私達は知的生命体と認めないって事ね」

「そもそも、あの装置に知的生命体の攻撃を避けさせたのは、それに反撃されるのを防ぐために他なりません。貴方方位の武力なら、どうとでもなる。そういう事です。それとも、貴方達特有の取引材料が……」

「私はもう、この世界の人間です。そしてこの世界の人達はもう神々の信徒です」

「そうですか、では、条件を提示しましょう。亜人を何人か我が星に御招待したい。永遠にね」

「馬鹿にしないで頂戴。こっちにだって00ユニットと私の頭脳があるわ。亜人だって売り渡したりしない。さあ、交渉を始めましょう」

夕呼さんが私を庇うように立って言い放つ。

「ふん。先ほどの提案を飲むほど馬鹿ではないようですね。宜しいでしょう。まず……」

 交渉が始まって、私は沈黙する。やっぱり、交渉事は苦手だ。
 その後、すぐにアメリカ大使たちが到着し、強引に会談の予約をする。
 どうやら、忙しくなりそうだった。
そのさなか、私は亨様に呼び出された。

「あの、何ですか? 亨様……」

「そなたに聞きたい。私が好きなのか、武御雷が好きなのか」

 それは難しい問題だ。ちょっと考えた後、私は答えた。

「武御雷は好きです。ですが、その中身は亨様でなくては。この答えじゃ駄目ですか?」

「ならば……私の為に、信仰を捨ててくれ。私は、そなたとの子供が欲しい。真実、そなたと私の子が」

「え……」

「きっかけは、アイリーだった。それ以来、ようやくそなた達を同じ人として見れるようになった。そなたを、正妻としよう。結婚式をあげよう。そして、アイリーのような可愛い娘を作ろう」

「亨様……。わかりました。私は貴方の妻……ごめんなさい、ニーク様……」

 私は、札を作る。獣人の札を。
 すると、私の体が縮まった。それでも亨様は、私より頭一つ小さい。

「あ……あれ? そなたも美人だが、アイリーはこんな体格のいい宝塚に出れそうな女性じゃなくて、もっとたおやかで触れれば折れそうな……」

「ああ、アイリーは武御雷似なのよ」

「そ、そんな!?」

「亨様、私からも質問を。好きなのは私? それとも、武御雷?」

 私は、獣人の札を亨様に張る。亨様の中で、性欲がわき上がるはずだ。

「ははは……それは、難しい問題だな。答えは……」

そして私達はキスをした。
00ユニットを通し、全ての並行世界の純夏がニーク神に帰依、またベータの本星の位置が知れ渡る事になった事を知るのは、一ヶ月後の事だった。
これにより、ニーク神の力は莫大に高まるのである。


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