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[13222] 【完結】GONG! ~超銀河英雄大戦【多重クロス】
Name: 行◆0e973d72 ID:18ce2c80
Date: 2009/12/04 21:03
「GONG! ~超銀河英雄大戦」





まえがき



 題名はJAM Projectの楽曲からの引用です。

 You Tube等に投稿される、同曲が使われているAMVやMAD動画みたいな話になる予定ですのでこんな題名となっております。

 同曲やAMVの熱さを再現することを目標としています。よろしければしばしの間お付き合いください。




 なお、多重クロスを実現するため設定歪曲・設定捏造は当たり前という仕様になっていますので、その点だけご注意ください。






〈付記〉
 スーパーロボット大戦シリーズとはクロスしません。まぎらわしくて済みません。






○更新履歴

・2009/10/31 第1話投稿
・2009/11/01 まえがきに付記を追加
・2009/11/07 第2話投稿
・2009/11/14 第3話投稿
・2009/11/14 マックホルツ遊星の設定が間違っていたので第1話を微修正
・2009/11/17 第3話幕間投稿
・2009/11/22 第4話投稿
・2009/11/28 第5話投稿
・2009/11/29 第6話投稿



[13222] 第1話「さよりなオルタネイティブ」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:18ce2c80
Date: 2009/10/31 22:00

第1話「さよりなオルタネイティブ」その1







「……ここどこ?」

 岡島さよりが目覚めた時、彼女は自分が知らない場所にいる事実を発見した。

 さよりは下半身を布団の中に入れたまま周囲を見回した。六畳程度の広さの部屋に、ベッドと学習デスク、洋服タンスに本棚にTVとゲーム機。雰囲気的には典型的な、日本の中高生程度の年代の男の子の部屋っぽい。

「昨日は確か……」

 半ば寝ぼけた頭のままで昨晩のことを回想する。某商業誌に連載中の小説を書いていて、どうにも筆が乗らなかったのでだらだらとネットサーフィンをして、某小説投稿サイトに引っかかって二次創作小説を読み出したらあっと言う間に午前3時を回ってしまって寝落ちしそうになり、最後の力で布団に潜り込んで……。

「目が覚めたら全然知らない部屋にいた、と」

 さよりは周囲を見回して自分のパートナーを探した。

「すなすなー、すなすなー」

 唱えているのは呪文ではなく、彼女のパートナーの名前である。いつもならすぐに姿を見せるはずなのに、出てこない。何気なく布団をめくってみると、そこに一匹のフェレットが横たわっていた。

「どうしたの? すなすな」

 さよりはすなすなの体を揺さぶるが、すなすなはぐったりとして身動き一つしようとしない。何度も呼びかけて揺さぶって、

「ぴっ? ぴぃ~」

 ようやく目を覚ましたと思ったら、また寝込んでしまった。

 さよりはすなすなを預かった時に教えてもらった話を思い返していた。

『――彼等は多少程度のエネルギーバランスの異常なら吸収できますが、あまり大量のエネルギーを吸収すると調子を崩します。さよりさんが平行世界に移動してしまうほどのエネルギーバランスの異常は彼等には過大で、まず吸収しきれません』

「……要するに、またどこかに飛ばされちゃった、ってこと?」

 さよりはこの事実にしばらく頭を抱えるが、やがて気を取り直した。とりあえずは部屋を出て人を探しつつ情報を収集する、そう方針を決めて行動を開始する。

 今身にしているのは着古したシャツとジーンズ。近所のコンビニに行く程度ならこれでも構わないかもしれないが、出来ればもう少しマシな服装に着替えたい。そう思って部屋の中を見回し、ハンガーに掛かっているとある服に目がとまった。白地に紫のラインと大きなリボン。短めのスカートの、どこかの私学の制服らしきものである。

 なんかどこかで見たような?と思いながらさよりはその制服に着替え、その部屋から外に出た。部屋から出、階段を下りて靴を履いて外の世界に一歩足を踏み出す。

 そこに広がっていたのは、一面の廃墟だった。

 元は住宅地だったのだろうが、まともな家は一軒も残っていない。全ての家があるいは焼かれ、あるいは崩れ、あるいは土台しか残っていない。一応原形を留めているのは、今さよりが出てきた家だけである。その隣の家などは、擱挫した巨大ロボットに押し潰されている。

「って巨大ロボット?!」

 さよりは唖然としたままそのロボットを見上げた。全高は10mくらいだろうか。埃に塗れて汚れているが、元は青系の塗装がされていたのだろう。形状は、近年のリアルロボットアニメに出てくる人型機動兵器そのものである。ロボットアニメは見ていてもメカニックには全く興味のないさよりでは、そのロボットの特徴について述べることが出来なかった。胸の真ん中は部品を取り外したように空っぽだ。多分コックピットがあって、パイロットはコックピットごと脱出したのだろう。

「……………………………………」

 さよりは嫌な予感を抑えることが出来なかった。目が覚めてから今までの状況が、記憶の中のある知識と符合する。それを信じたくない、そうであってほしくない思いに駆られながら、さよりは早足で歩き出した。特に当てはないが、山手と思われる方向へと歩を進める。1時間以上人一人いない、雑草くらいしか生えていない荒野と廃墟の街を彷徨い、さよりはようやく目当ての場所へとたどり着く。さよりはこの街に来て初めて人の姿を見た。

 門を守る歩哨の兵士が二人。迷彩服の兵士は自動小銃を携行しており、黒人と東洋人のペア。門の内側には5階建てくらいのビルがあり、ビルの屋上には巨大なレーダーが乗っている。

 門柱に記されていたのは間違えようもなく「国際連合太平洋方面軍第11軍横浜基地」という名称だった。

「はは……」

 最早さよりは笑うしかなかった。そんなさよりに二人の歩哨が接近し声を掛ける。

「外に出ていたのか? 物好きだな、何もないだろうに」

「隊に戻るんだろう? 許可証と認識票を提示してくれ」

 「あ……」と呟きながら俯いて小さく震えるさよりの姿に不振を覚えながらも、歩哨は職務を遂行しようとする。

「同じ基地所属でも、こればかりは規則だからな。省略するわけにも……ん」

「どうした?」

「こいつ、階級章がないぞ」

 歩哨はさよりから距離を置き、小銃を構えた。

「認識番号と所属部隊、および外出許可証を提示しろ」

 さよりは何の反応も示さない。一人が距離を置いて小銃を構えて警戒しつつ、一人がさよりに接近し身柄を拘束しようとする。黒人兵士の手がさより肩を掴もうとした時、

「ありがちな展開だぞーーー!!」

 さよりの魂からの叫びが轟いた。黒人兵士は思わず飛びずさっていた。







「岡島さより。17歳」

 所持品全てとすなすなを取り上げられたさよりは憲兵の取り調べに対し、それしか答えなかった。約2時間くらいだろうか。尋問は割合あっさりと終了し、さよりは若干拍子抜けした。さよりは牢獄に入れられる。

 牢獄の中は薄暗いがわりときれいで、トイレの臭いもほとんどしない。以前ぶち込まれたことのある牢獄の中で一番ひどかった場所のことを思えば、天国のような場所である。さよりは自分が結構好待遇を受けていると感じた。

 思ったより早いうちに何とかなりそうね、と楽観的に考えて、さよりは簡易ベッドに腰を掛けて状況を整理しようとした。

 さよりが知る由もないことだったが、同時刻さよりが入れられた牢獄の隣の部屋に、銀髪と碧眼を持つ1人の少女が待機していた。

 さよりが尋問を受けている間に所持品およびペットの検査が行われて、ペットの確認を行った医者がその異常性に気付いた。それは動物と等しく動き回るにもかかわらず実は動物ではなくぬいぐるみで、中に入っているのは砂みたいな金属の粉末だったのだ。その金属粉が何なのか、科学者等が機材を総動員しても何一つ判明しなかった。

 その結果報告を受けた香月夕呼が社霞に命令し、こうして霞はここにいる。

「霞、リーディングは出来そう?」

「はい、問題ありません」

 さよりが入れられた牢獄は、霞が入牢者の思考を最大限効率良く読み取るためだけに設計され建てられた物である。霞は隠しカメラ越しに入牢者の少女を観察した。同じものを夕呼は自分の執務室から眺めていることだろう。

 どちらかと言うと小柄な、ごく普通の日本人の少女である。顔にはうっすらとそばかすがあり、赤っぽいセミロングのくせのある髪を二つに分けて編んで、おさげにしている。牢獄に入れられるにも関わらず、不安そうな様子は見られない。

 霞は彼女が物思いにふけるのを見計らい、リーディングを開始した。

『まさかゲームそっくりの平行世界があるとは……恐るべし。どう考えても「マブラヴ」よね。問題は「アンリミテッド」か「オルタネイティヴ」かってとこだけど』

 少女は思考をほとんど言語化しており、霞にとって極めて読みやすかった。ただ読み取れた思考は霞にとって全く意味不明だったが。

『オルタだったとしたら、桜花作戦の前なのか後なのか。白銀武はどうしてるのかな。……あ、そー言えば社霞ってエスパーの娘がいたよね』

 見ず知らずの人間に唐突に自分のことを考えられ、霞の心臓は大きく跳ねた。

『やっほー霞ちゃん、わたし岡島さより17歳、よろしくねー。なんちゃて』

 霞は幽霊を見たかのように真っ青になった。さよりはそんな霞に構わず(構うわけがないが)脳天気な思考をだだ漏れさせる。

『昔は白銀武みたいにBETAのいない平和な世界で普通の高校生やってたのよね。でもひょんなことから平行世界を移動する体質になっちゃって、いろんな世界に行ったわよ。中世ヨーロッパみたいな世界、ロボットばっかりの世界、トカゲ型異星人に征服された世界、イカと戦ってる世界』

 霞は思考を停止させながらも、リーディングとその記憶に専念した。

『それで色々あって、平行警察に助けられてようやく元の世界に戻れたの。結局1年くらい漂流者やってたから高校は中退。体験談をSF小説にして小説家の卵になったり、大検取る勉強したりしてたんだけど、まさかゲームの世界にやってくるとは……えーと後は』

 しばらくさよりの思考がまとまらず、読み取れないものになる。

『……こんなものかな。社霞のリーディング結果と、あとすなすなを調べてもらえばわたしがこの世界の人間じゃないことは判るだろうし、白銀武の前例があればそんなに悪い待遇は受けないだろうし、その間に真上君が来てくれれば元の世界に帰れる目処も立つ……あ、もし桜花作戦前だったらわたしって00ユニットにさせられるのかしら?』

 さよりは「ひぃー」と小さく悲鳴を上げてベッドの上でじたばた暴れた。香月夕呼を本気で怖がっているその思考をリーディングし、霞は少しだけ溜飲を下げた。

『とにかく今がいつなのか知らないと……何か日付が判るものは、あとここが本当に「マブラヴ」の世界なのか、この世界について出来るだけ詳しく判るものがあれば』

 その時、「ぽんっ」と空気が抜けるような音がした。リーディングに集中していた霞はモニターに視線を送る。そこには、

『ああーっっ、またやっちゃったぁぁー』

「ああーっっ、またやっちゃったぁぁー」

 頭を抱えるさよりの姿。そのさよりの膝の上にはノートパソコンが置かれている。つい今までそんなもの、影も形もなかったはずなのに。

「社! 彼女は一体何をしたの?!」

 香月夕呼のナイフのように鋭い声が霞の耳に突き刺さった。霞は通信機の向こう側の夕呼に返答した。

「入れ替える……近隣の平行世界から……存在する可能性……空間のひずみが増大……帰れなくなるかも」

 読み取ったさよりの思考を霞がリアルタイムで報告し、夕呼がそれを即座に理論化した。

「パソコンが牢獄の中に存在する可能性のある平行世界から、パソコンが存在する可能性だけを取り寄せているって言うの?! そんな馬鹿げたESPが?」

「彼女自身がこの世界とは違う世界の住人です」

 霞の報告を受け、夕呼はしばらく沈黙し、やがて告げる。

「社、戻って詳しく報告して」

 夕呼の命令を受け、霞はその部屋を立ち去る。部屋を出る前にモニターを見ると、さよりはノートパソコンを使おうと四苦八苦しているところだった。







「まあ使っちゃったものはしょうがない。ここにこれがある以上は有効活用しなくちゃ」

 さよりが取り寄せたのは、電源が既に入った状態のノートパソコンだった。さよりは元の世界のOSとの違いに戸惑い、苦労しながらもそのノートパソコンを操作。目的に合致していそうなファイルを探して回る。そしてそれはあっさりと見つかった。

「桜花作戦における損害報告一覧」

 そんな名前のファイルを見つけ出し、さよりの全身から力が抜ける。

「終わってる……良かった」

 ちなみに今日の日付は2003年10月22日のようだった。しばらくは何も考えられなかったさよりだが、やがて気を取り直してファイルを手当たり次第開いて見て回る。やがて、さよりはある事実に気付く。

「タイムスケジュールが合わない?」

 桜花作戦の発動日が2002年12月31日になっていることを発見したさよりは、どんな事件がいつ起こったかを中心に資料探索を進めた。その結果判明したことは以下の通りである。



2002年12月19日 BETAの大軍が横浜基地に侵攻、横浜基地が機能停止
2002年12月14日 甲21号作戦発動
2002年07月10日 横浜基地においてMX3のトライアル実施
2002年03月05日 帝国軍の一部部隊によるクーデター発生



「……そっか、そりゃそうだ」

 さよりは腑に落ちたように呟いた。いくら何でも、ゲームのあのタイムスケジュールは無茶苦茶だった、と。

 白銀武がこの世界にやってきたのが2001年10月22日とするなら、約半年の仕官教育と訓練を受けて任官したことになる。新OSのMX3もやはり約半年の作成期間があったのだろうし、00ユニットの調律にも何ヶ月か掛かっているのだろう。

 さよりは「戦没者名簿」と記されたファイルを発見し、それを開いた。そして、そこに連なる何千もの名前を一つ一つ目で追う。その中の事故死者欄に、見知った「神宮司まりも」「伊隅みちる」「柏木晴子」「速瀬水月」等の名前を発見し、しばし黙祷を捧げた。

 さよりは自分の思い違いを悟り、密かに赤面していた。

「ここはゲームの中なんかじゃない、こういう現実がここにあるんだ」

 例えば、日本の戦国時代を題材にしたゲームがあり、それを日本史に関する知識が全くない人がプレイしたとしよう。彼はゲームの内容が史実に基づいていることを知らず、単なるフィクション、良くできたファンタジーだと思い込んでいる。そんな人間が何かの間違いで戦国時代にタイムスリップし、ゲームにも出てくる有名な武将に出会ったとしたら、彼はこうは思わないだろうか。

「うわー、ゲームの中の登場人物がここにいる。俺はゲームの中に入ってしまった!」

 だがそれは無知による勘違いなのだ。さよりの思い違いもこれと同じで、この世界の人物や事件を題材にして作られたのが「マブラヴ」というゲームなのであって、その逆では決してない。あのゲームの制作者がどうやってこの世界の出来事を知ったのかが疑問として残るが、それでも「現実→ゲームの中」なんて妄想を信じるよりはずっと人間として正しいあり方だと思う。

 その時、不意に牢獄の扉が開く音がした。さよりは反射的に扉の方に顔を向ける。

「あなたが岡島さよりね。初めまして」

 どこか嘲るような口調で彼女はさよりの名を呼ぶ。そこに立っているのが横浜基地副司令の香月夕呼であることを疑う必要はなかった。

 ゲームの登場人物――いや、ゲームの登場人物のモデルとなった人間と対面するのは初めてである。髪の色はさすがに紫ではないが、ゲームの香月夕呼と彼女はかなり良く似ている。月影千草と野際陽子くらいには瓜二つである。ただ、『本物』の香月夕呼はゲームでは感じ得なかった迫力を有していた。

『何というか……「極道の妻たち・BETA死闘篇」?』

 ゲームの香月夕呼の年齢は二十代だったが、現実にはおそらく三十の大台に乗っている。元々かなりきつめの美女が濃い化粧をし、堅気とは到底思えない威圧感を身にしているのだ。さよりの感想も無理はないかもしれなかった。

 呆然としたように見えるさよりを冷徹に観察する夕呼に、霞が何か耳打ちする。「……ふーん」と何の気もないような相づちを打ちながらも、夕呼からは冷たい怒気が発せられた。

「ひいいっ?!」

 失礼な感想が読み取られたことを悟り、さよりが怯える。夕呼はそれで気が済んだようで、威圧感を減らしてさよりに命令した。

「あなたの話を聞きたいわ。ついてきて」

 夕呼はそう言って身を翻す。数秒遅れてさよりはベッドから立ち上がり、慌てたように夕子の後を追った。




[13222] 第1話「さよりなオルタネイティブ」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:18ce2c80
Date: 2009/11/14 20:23
第1話「さよりなオルタネイティブ」その2







 横浜基地地下19階の夕呼の執務室。さよりはそこに連れてこられた。執務室にいるのは、香月夕呼、岡島さより、そして社霞の3人のみである。

 夕呼は自分の執務机に付き、さよりは用意されたパイプ椅子に腰掛ける。霞は少し離れた場所から二人の様子を眺めていた。

 社霞の実物は、最上級のビクスドールみたいな超絶美少女だった。白人と東洋人の良いところだけを抽出して掛け合わせたような、奇跡のようなハイブリッド。こんな人間がCGではなく肉体を持って存在していることが、さよりには信じられなかった。

「……さて、あたしはこの横浜基地の副司令をしている香月夕呼。そっちの子はあたしの助手の社霞――説明するまでもないのかしら?」

「いえ。あなた達のことは知識としては知ってるけど、単なる知識と実物はやはり別物だと思いますし」

 さよりのその答えは夕呼にとって少し意外だったのだろう。夕呼は面白そうな表情をした。

「……ふーん。じゃあまずは、あなたのその知識ってやつを出来るだけ詳しく話してもらいましょうか」

「それは良いんですけどその前に。いずれわたしは元の世界に戻れると思いますが、この世界に滞在する間の衣食住と身の安全を保証してください」

 夕呼がその要求をあっさり呑み、取引が成立。さよりはゲーム「マブラヴ」について覚えている限りのことを夕呼に語り出した。





 主人公の白銀武、メインヒロインの鑑純夏、準メインの御剣冥夜。サブヒロインの榊千鶴・彩峰慧・珠瀬壬姫・鎧衣美琴(尊人)。

 「エクストラ編」での学生生活……についてはほとんど印象に残っていないので概要だけ説明して割愛。

 「エクストラ編」から「アンリミテッド編」への突入。突然BETAのいる世界にやってきた白銀武が207B分隊に入隊させられ、衛士を目指して猛訓練。総戦技評価演習に何とか合格するが、12月24日にオルタネイティブ4の終了が突然告げられ、オルタネイティブ5に移行したこと。

 その2年後、バーナード星系へと移民船団が出発し、残された人類がBETAへの総反抗を行い、おそらく敗北したこと。

 そして「オルタネイティブ編」へと突入。再び2001年10月22日へとやってきた白銀武が、「アンリミテッド編」の知識と経験を元に敗北の歴史を変えようと奮闘すること。

 XM3を発案し、量子電導脳完成に必要な理論を元の世界に戻って回収し、00ユニットを完成させたこと。クーデターを早期に収拾させ、任官したこと。

 XM3のトライアルと、初の実戦経験。そして神宮司まりもの死と、元の世界への逃避。元の世界でもまりもと鑑純夏を喪い、この世界へと戻ってくること。

 00ユニットの調律を成功させ、甲21号作戦で凄乃皇が使用されること。凄乃皇の自爆で甲21号が佐渡島ごと吹き飛ぶことと、伊隅みちる・柏木晴子の戦死。

 佐渡島からBETAが大挙押し寄せ、横浜基地が機能停止、速瀬水月・涼宮遥の戦死。BETAへの情報流出の発覚。そして桜花作戦の発動と、あ号標的の撃破。御剣冥夜等5人の戦死と、00ユニット・鑑純夏の機能停止。

 そして、白銀武の元の世界への帰還……。





「……あとはエピローグです。まりもちゃんの死も鑑純夏の重傷も最初からなかったことになっててみんな元気で、鎧衣尊人が女の子になってて、御剣冥夜と御剣悠陽が転校してきて、ロシアからは社霞も転校してきて」

 霞がびっくりしたように目を見開いた。

「平和な世界で、白銀武を中心にしたどたばた騒ぎがこれからも続いていく……そんな終わり方です」

「……そうですか」

 霞がうっすらと瞳に涙を湛えていた。哀しみの涙では決してない。幸せそうな微笑みをかすかに垣間見せた、喜びの涙だった。

 一方の夕呼は皮肉げに口元を歪めているが、別に不機嫌というわけでもなさそうだ。

「ま、そんな脳天気な世界が一つくらいあっても構わないけどね。あいつも元気そうで何よりだし」

 さよりはある疑問を抱いて、夕呼に訊ねる。

「白銀武のこと、覚えてるんですか? ゲームではこの世界ではもう忘れられてるはずなんですけど」

「最近思い出したの。そのことは後で説明するわ」

 はあ、とさよりは返答し、別の質問を出した。

「今のは全部、わたしの世界にあったゲームの話ですが、多分ある程度はこの世界の現実に即していると思います」

「そうね。今の概要だけなら、そのゲームの内容はこの世界の現実そのままよ。『1周目』や『元の世界』のことも、あいつに聞いた話と同じだし」

「なんでこの世界のことがわたしの世界のゲームなんかに?」

「そうね、仮説や憶測ならいくつか考えられるけど」

 夕呼は書類の裏に鉛筆で図を書き出した。

「これがシュレディンガーの箱で、中の猫が生きているか死んでいるかは外からの観測でしか明らかにならない。ただ、外と言われるこの世界全体、観測者と言われるわたし達人間もまた、実は箱の中の猫と立場は変わらない。量子論を推し進めれば、この世界全体を巨大なシュレディンガーの箱と見なす発想が当然出てくるわ。そして、この世界を確定させる外からの観測者が必要とされる……それがあなた達なのかもしれないわね。ゲームや小説を通して外の世界からこの世界を観測し、それによってこの世界の事象が確定する」

 さよりがその憶測に疑問を呈した。

「こことは違う平行世界の事象を観測する――そんなことが出来るんですか?」

「あなたがさっき牢屋の中でやって見せたことがまさにそれじゃないの」

 夕呼は呆れたようにそう指摘する。

「近隣の平行世界からノートパソコンが存在する世界を観測し、その観測点をこの世界へとずらすことにより、ノートパソコンが存在する確率だけをこの世界に取り寄せる――そんなふざけた真似が出来る人間が二人といるとは思えないけど、ただの観測だけなら、大勢の人間が無意識の範疇でやっていると考えられるわ」

 夕呼はにやりと笑って見せた。

「あなたはこの世界やあたし達のことをゲームで見た、知ったと言っているけど、あなたの世界やあなた自身のことが、ここやあなたの世界とはまた別の世界で漫画や小説になっているかも知れないわよ?」

「あはは、そんなー……」

 さよりは冷や汗を流した。他人が聞いたらまさに漫画としか言いようがない自分の過去の体験を思い返せば、夕呼の推論を否定することは出来なかったのだ。そしてさよりはあることに気付く。

「あ、そう言えばわたし、自分の体験を小説にして発表してるんです。わたしにとっては小説の中身は実体験だけど、読者からすればフィクションでしかないでしょうね」

 夕呼はさよりの言葉に触発された。

「……そうか。遠い将来、あたしなり社なりがあの戦いの記録を、フィクションの形でも発表したとするなら、この世界にも『白銀武の物語』が存在するようになる。その存在をこの世界の人間が観測し、その観測行為が平行世界に干渉して完全なフィクションとしての『白銀武の物語』が存在するようになる……」

 喩えて言うなら、影絵のようなものだろうか。観測者が発している観測という光線が何かに当たり、観測結果がこの世界というスクリーンに映し出されている。だがこのスクリーンは光線を全ては遮断できず、ある程度の光線はスクリーンを透過してその後ろのスクリーンにも影絵が映し出されるのだ。

「今の仮説の方がそれっぽいですね。でも『白銀武の物語』が今の時点でわたし達の世界に存在するのはおかしくないですか?」

「別におかしくはないわよ? 各々の平行世界はエントロピーが極大化した混沌の海、特異点の海によって隔てられている。この特異点の海の中には距離や時間の概念が存在しないから、ある世界での100年後の観測行為が別の世界での今に干渉を及ぼしても何の不思議もないわ」

 夕呼はさよりに因果律量子論について簡単に説明した。

 「観測する」という原因と、それによって決定された「観測された」その結果。観測という「原因」から「結果」への働きかけを媒介している「何か」として量子っぽいものを想定し、量子論のアナロジーで理論展開しているのが香月夕呼の因果律量子論である。

「重力が次元の壁をある程度通り抜けて他次元に干渉するのは既に知られた話だけど、因果量子も同じように世界の壁を通り抜けて他世界に干渉する。本来ならそれは問題となるほどの強さではないのでしょうけど、因果導体が介在するなら話は別ね。

 ……それと、G弾の使用はこの次元の壁を本来より弱くすると考えられる。使用後の重力異常は近隣世界の重力の異常干渉によるものでしょうし、植生がいつまでも回復しないのは因果量子の異常流入によるものと推定される」

「え、そうなの?」

 さよりは初めて聞く話に目をぱちくりとさせた。

「そうなの。ちょっとやそっとの重力異常程度で植生がいつまでも全く回復しないなんて、おかしいじゃない。原因は重力異常とは別なの。

 横浜基地を例にするわね。横浜ハイブにG弾が使用された世界が100個あったとしましょう。このうちの1つはG弾を使ってもBETAを排除できず、横浜にBETAが残ったままになった。10個は一旦横浜基地を建設するけど、佐渡島ハイブからのBETAの侵攻に抗しきれず、基地を落とされ再びハイブとされてしまった。10個は第5計画派の妨害により横浜基地が機能停止、何年か後に結局ハイブとなってしまう。10個はオルタネイティブ4の失敗により人類が敗北、何年か後に結局ハイブとなってしまう……残りの69個がBETAを排除し、横浜基地を維持している状態。逆に言えば1/3がBETAに支配されて横浜が不毛の大地になっている状態とする。

 そしてこの1/3のそれらの世界での『不毛の大地』に対する観測行為が、本来なら植生が回復すべきこちらの世界に干渉し、この世界の横浜に『不毛』という観測結果をもたらしている。別な言い方をするなら『不毛』というより重い因果がこの世界に流れ込んで植生の回復を阻んでいる、ということね。

 人間の場合は、横浜が駄目なら帝都に逃げればいいだけだから、植生ほどは他世界の観測行為には影響されないと考えられる……長期間の干渉に曝されればどうなるか判らないけど」

 さよりが不安そうな様子を見せる。その時霞が初めて口を挟んだ。

「心配ありません、さよりさん。この基地に来るまでの間に、植生が回復しつつあるのを見かけませんでしたか?」

 さよりは「あ」と口を開けた。

「そう言えば、雑草が生えてた」

「あ号標的を撃破したことにより、この世界は『横浜が再びハイブとなり不毛の大地となる』世界群とは別の歴史を歩むことがほぼ確定しています。だからそれらの世界からの因果の異常流入がなくなり、植生が回復しようとしているんです」

「そっか、良かったね」

 霞は「はい」とかすかに嬉しそうな微笑みを見せた。

「確かにあれ以降BETAの動きは妙に鈍くなって、ハイブ攻略も簡単になった。鉄原・リヨン・エヴェンスクと、ハイブが次々と攻略されている。地球全体からBETAを完全排除するのも夢ではなくなりつつある……それでハッピーエンドとなってくれれば良かったんでしょうけど、ね」

 夕呼が空気を変えるようにそう言い、モニターに何かを表示させた。黒地に沢山の光点が瞬く、銀河の星々の観測写真である。

「――国連航空宇宙軍外宇宙監視局が撮影した、2003年09月28日14時55分58秒の観測写真よ。そしてこれが59秒の写真」

 夕呼が画像を切り替える。そこには何も写っていなかった。

「え?」

 さよりが不思議そうな表情を見せる。夕呼は冷徹な無表情の仮面をかぶって話を進める。

「グリニッジ標準時のこの時間は、『ブラックアウト・セコンド』と名付けられたわ。『ブラックアウト・セコンド』以降、人類は太陽系の外を観測することが一切出来ない。可視波長・不可視波長の電磁波全て、重力波・ニュートリノすら太陽系の外からは届いていない。全長120天文単位の巨大な箱に太陽系が閉じ込められたかのように――」

 夕呼が一瞬だけさよりの表情を伺い、次の画像を表示させる。その暗闇の画像には、光点が一つだけ写っていた。

「一週間前、地球に接近する隕石が発見されたわ。全長約3km、速度は光速の1%。速度から逆算すると、この隕石――マックホルツ遊星はブラックアウト・セコンドと同時間、この壁を通過したことになる。地球最接近は、11月02日08時28分、日本時間なら17時28分。最接近しても距離は2000万kmあるから、地球への影響は全くないのだけれど……」

 ちなみに、マックホルツは国連航空宇宙軍外宇宙監視局の職員の名前である。

「これ、BETAと関係あるんですか?」

 さよりがそう問うと、夕呼はがっくりと肩を落とした。

「やっぱりあなたも知らないのね……。今のところ、全く、何一つ判っていないのよ。BETAと関係あるのかどうかも。あたしは無関係なわけがないと思ってるけど。……ついでに言えば、あたしと社が白銀の記憶を取り戻したのもブラックアウト・セコンド以降よ」

 夕呼が言うには、二人が失っていたのは「白銀武に関する全ての記憶」ではなく、「白銀武が本来別世界の人間である事実」だけなのだそうだ。

「そのことを知っていたのは元々あたしと社だけ。あたし達がそれを忘れればこの世界の誰一人として白銀武が別世界の人間だとは疑ったりしない。あいつの記録は書類にもデータにも、何一つ残していないし、個人的に交流のあった一部の人間にしても、たまに『こんな奴がいたなぁ』と思い返すくらいでしょうし……つまり全ての記憶を消し去るなんて不自然な真似をするまでもなく、今の状態で充分に白銀武は『最初から存在しなかった』ことになっているのよ」

 それはともかく、と夕呼は話を元に戻した。

「今のあたしの、横浜基地の最大の使命がこれよ。ブラックアウト・セコンドの原因を探り、マックホルツ遊星の正体を暴く。桜花作戦からこっち、予算も権限もぎりぎりまで削られたけど、あたしに判らないことが地球上の他の誰かに判るわけがない。これはあたしの仕事なのよ」

 夕呼はレーザー光線のような視線をさよりへと向ける。さよりは竦み上がった。

「当然あなたにも協力してもらうわよ」

「で、でも一体何をすれば……」

 夕呼は沈黙したまま椅子を回転させ、横を向き、さよりに告げる。

「そのうちやってもらうことは出てくるわ。とりあえず、今の最優先課題は00ユニットの再起動。あれがあれば打てる手はいくらでも増える。――あなた、あれをどこかの平行世界から取り寄せることは出来ないの?」

「自分以外の人間を平行世界に移動させたことはないし、人間も取り寄せたことはないです。服やアクセサリーは特に問題なく一緒に移動できるし、物なら大抵の物を取り寄せることが出来ると思うけど……」

 あまりやりたくはないけど、とさよりは口の中で続けた。

「ふーん。それじゃ、反応炉に頼らないODLの浄化装置か、その設計図をお願い。こういうディスクに入れてくれればいいから」

 夕呼は全く当てにしていない様子で、さよりの前でCD-ROMケースのようなデータディスクケースをひらひらさせた。さよりは愛想笑いを浮かべる。

「あはは、いくら何でもそこまで都合のいい力じゃ――」

 「ぽんっ」という空気の抜けるような音がして、夕呼の執務机の上に突然データディスクが出現した。さより等3人が重い沈黙に飲み込まれる。

 夕呼が無言のままそのディスクをパソコンの読み取り装置に掛けて、中身を閲覧する。モニターに表示されたのは、何かの機械の設計図と、無数の数式と論文である。夕呼はひたすら無言でそれを閲覧し続けた。

「……あの、夕呼先生?」

 夕呼が突然立ち上がり「うっきーーーー!!」と奇声を上げた。そのままさよりの襟首を掴み、前後に揺さぶる。

「なんなのこれは?! 反応炉に頼らないODLの浄化装置! 設計図から理論まで! あたしがこれの研究にどれだけの時間と労力と予算を費やしたか……少なくなった権限でどんなに苦労したか……! 返せ! あたしの10ヶ月を返せぇー!」

 夕呼に散々揺さぶられ、さよりは目を回した。霞が夕呼を止めようとする。

「副司令、落ち着いてください」

 夕呼は霞の肩を掴むと、霞の顔にキスの雨を降らせた。霞は目を白黒させる。

「あはははっ! 社、これでやっとあの子を目覚めさせられる! もうしばらくの辛抱よ!」

「……はい」

 霞が嬉しそうに同意する。夕呼は霞を解放し、つい今までの狂態が嘘だったかのように平静を取り戻した。

「社、岡島、あなた達はもう下がっていいわ。あたしはこれを出来るだけ早く完成させる」

 夕呼はそう言ってさより達に背を向ける。最早夕呼の意識にはさより達のことは全く残っていないようだった。霞はさよりをつれて、夕呼の執務室を退室した。

 執務室の前の通路で、霞がさよりに向き直る。

「――さよりさん。あなたのおかげで純夏さんを再び目覚めさせることが出来ます。本当に、ありがとうございます」

 霞はそう言って、深々と頭を下げた。さよりは霞の頭を上げさせる。

「ううん、力になれれば嬉しいよ。純夏さんが目を覚ましたら、わたしにも紹介してね」

「はい、必ず」

 そう答えた霞は、さよりが今日見た中で一番の笑顔を見せていた。










解説



○岡島さより

 出典は竹本泉「さよりなパラレル」(竹書房)。

 本編主人公です。彼女を主人公とした二次創作小説が果たしてこれまであっただろうか?(なかったとは言えない)

 本編の彼女は「かなりのアニメ・ゲーム好きでオタク少女」という設定です。原作には特にそういう描写はないのですが「原作のエピローグでSF小説を書いていたから、SF小説は好きなのだろう→じゃあアニメ・ゲームが好きとしても、そんなに不自然ではあるまい」と、拡大解釈をしています。




○社霞・香月夕呼・鑑純夏

 出典はアージュ「マブラヴ」シリーズ。

 原作と本編の差異については、本編中で言及した通りです。

 本編1話は「現実→ゲーム」のパロディや考察であったりもします。






[13222] 第2話「機動戦艦さよりな」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/28 22:49


第2話「機動戦艦さよりな」その1






 香月夕呼はさよりとの約束をちゃんと守ってくれていた。宿泊先にはどこか見覚えのある、あるいは207Bの誰かが使ったのかも知れない個室をあてがわれた。ご飯は三食とも京塚曹長の勤め先のPXで食べており、評判通りかなり美味しい。服は霞とお揃いのオルタネイティブ4の黒い軍服を用意してもらった。さよりはこの機能的で格好良い軍服が大層気に入り、いつもこれを身にしている。黒い軍服を着て肩にフェレットを乗せた見慣れない少女の姿は、いろんな意味で基地内で注目の的だった。

 ただし夕呼が無償でさよりの衣食住を保証するわけもなく、さよりは横浜基地の研究者の研究活動に協力することを命じられていた。夕呼が反応炉に頼らないODL浄化装置を作成している間は何もやることがなかったので、さよりも特に異存はなかった。

 ゲームには夕呼以外の研究者が全く登場しなかったが現実には勿論そんなことはなく、因果律量子論の分野だけでも何人もの研究者が在籍している。

「しかしまあお前さん、とんでもない力を持っとるんじゃな」

 その第一人者が、この一ノ谷博士である。さよりにとっては、いくつかの平行世界で何人かの異世界同位体に会っている、割と馴染み深い人物である。だがまさかここで会うとは思ってもみなかったため、かなり意表を突かれた。

 さよりは霞など幾人かに、一ノ谷博士について訊ねた。それで判明したことは、彼が因果量子理論の最初の提唱者で、夕呼は彼の教え子であったこと。桜花作戦終結までは彼が横浜基地の副司令で、夕呼はその補佐であったこと。現在は基地の技術顧問であること、等である。

「そっか、そりゃそうかも」

 どれだけ香月夕呼が優秀でも、夕呼の年齢を考えれば基地の副司令の地位は現実的には高すぎる。対外的に収まりの良い人物を名目上の副司令に置いておいて、実際の指揮命令権は補佐の夕呼が握っていた、と見るのが妥当というものだろう。

 この数日間、さよりは一ノ谷博士等の学術的探求心を満足させるためのモルモットとして、あるいは好奇心を満たすための玩具となって過ごしていた。

 10月28日、夕呼は反応炉に頼らないODL浄化装置を完成させる。翌29日、あんまりな扱いに忍耐力がいい加減底をつきそうになった頃、霞がさよりを呼びに来た。

「ODL浄化作業が完了しました。問題がなければもうすぐ純夏さんが目覚めます」

「わたしも会いにいっていい?」

 霞の快諾を得、さよりは霞に連れられて地下19階へと向かった。

「それにしても、たった6日でODL浄化装置を完成させるなんて。ゲームの香月夕呼もびっくりだね」

「必要な部品や資材は全て手元に揃っていて、後は組み立てるだけだったそうです。元々研究のために必要そうなありとあらゆる資材が集められていましたから」

 夕呼が言うには「まるで、今手元にある資材だけで作ることを前提にしているような設計だったわ」とのことである。

 そしてやってきた地下19階。「脳みそシリンダールーム」のすぐ隣と見られる部屋の自動扉を、霞が開く。

「霞ちゃん!」

 少女が部屋の中から飛び出してきて、霞に抱きつく。霞と同じくオルタネイティブ4の制服を着た、赤っぽいロングヘアの少女――00ユニット、鑑純夏。

 現実の鑑純夏はかなりの美少女だった。外見だけなら、芸能界なら大して珍しくないくらいのレベルである。だが彼女の本領はその内面にあった。過酷な運命に耐え抜き、人類の存亡を懸けて戦った、その経験が少女に圧倒的な存在感を与えたようだった。

「純夏さん……良かったです」

「霞ちゃん、ありがとう助けてくれて。おかげで起きることが出来たよ」

 永遠と思えた別離をし、天佑の末に再会を果たした二人の少女は、今はもう言葉もなくただ涙を流した。今の二人にどんな言葉も必要なかった。

 さよりは二人から少し離れたところで佇んでいる。二人の再会にもらい泣きしそうになりながらも、いまいち居場所のない居心地の悪さを感じていた。とは言うものの、今の二人の間に割り込むような非道な真似がさよりに出来るわけがない。

「盛り上がってるところ悪いけど、邪魔するわよ」

 だが香月夕呼がそんなことに頓着するわけもないのだった。揶揄するような口調が、自然と二人を引き離す。

「夕呼先生」

「鑑、紹介するわね。彼女が岡島さより、あたし達の協力者よ」

 純夏はさよりの両手を両手で取って、上下に振り回した。

「初めましてありがとうございます! あなたのお話は色々と聞いてます!」

 純夏の言葉に、夕呼は怪訝そうな表情をした。夕呼は彼女のことを、まだ名前くらいしか説明していないはずなのに。

 純夏が真剣な表情になり、夕呼に向き直った。

「色々と積もる話はあるけれど、わたしからも先生に、みんなに大事なお話があります。それに、紹介したい人もいます」

 さより達の不思議そうな顔を置いておいて、純夏は三人を連れて部屋の中へと戻る。

「持ってきたわよ鑑」

 純夏の依頼で夕呼が取りに行ってきたのは、戦術機用の網膜投射式モニター・マイク・スピーカーのヘッドセットである。

「それじゃ、それを装着してください」

 椅子に座って楽な姿勢になったさより達が純夏の指示に従いヘッドセットを装着、電源を入れる。さよりの視界いっぱいにOSの起動画面が展開、続いて何もない白い空間が無限に広がった。

「うわぁ……」

 それは現実ではなく、コンピュータ上の仮想空間である。何もなかった空間に椅子が5つ現れ、さらにそれに座っている4人の人影。さよりと霞と純夏と夕呼である。霞達の姿はどう見てもCGには見えないので、実際の撮影画像と仮想空間のデータを組み合わせて処理しているのだろう。

「ここまで臨場感のある仮想空間を作り出すなんて、00ユニットの処理能力はさすがよね」

 夕呼はそう感嘆して見せた。だが、

「でも、ただ向かい合って話し合うだけならこんなの必要ないでしょう? 労力と能力の無駄遣いだわ」

 そう付け加えることも忘れない。純夏は「はい」と頷いた。

「この空間は、みんなにある人を紹介するためのものです」

 純夏はそう言い、空席になっている椅子に視線を送る。一同の視線がその空席に集中したその時、空席の少し後方に突然扉が出現し、圧搾空気が抜ける音とともにそれが横にスライドして開く。そして、そこから一人の女性が颯爽と姿を現し、










「わたしが機動戦艦ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカですっ!! ブイッ!!」





 満面の笑みで一同にVサインを突き出すミスマル・ユリカに対し、夕呼達は夜の深海よりも重く静かな沈黙をもって答えた。

 ユリカは一同の反応が期待とは違っていたようで、「あれ?」と首をひねっている。

「あはは、ユリカさん……」

 何とか愛想笑いを浮かべる純夏に、ユリカが訊ねた。

「インパクトちょっと足りなかった?」

「そんなことはないです」

 純夏が即座に否定する。

「人間やっぱり第一印象は大事だからね。ナデシコの時は、これでみんなのハートをがっちりキャッチ!だったんたけど」

 そう言いながらユリカは一同を見回し、霞に目を留めた。

「あ、すごいルリちゃんぽい子がいる!」

 ニコニコしながら接近し「うわーそのウサ耳可愛らしいねー、あ動くんだ」と怒濤のように一方的に話しかけてくるユリカに対し、霞はフリーズしたように固まっている。どう対応して良いのか全く判らない様子である。

「なんでナデシコ……」

 一方さよりは、多分この場の誰にも共感されない頭痛を覚え、一人頭を抱えていた。ミスマル・ユリカの服装は白いマントとタイトスカートの軍服に軍帽という、ナデシコ艦長そのままの物である。背はすらりと高く、グラビア嬢並みのプロポーション。髪は黒く艶やかで長く、太陽のように温かで華やかな美女である。女性としてほぼパーフェクト、完璧超人と言ってもいいだろう――その言動に目を瞑れば。

「……で、鑑。何なのあれ」

 と氷点下の口調で問う夕呼に、純夏は言い訳がましく答える。

「えっとあの、ユリカさんはわたしが量子電導脳として起動したのを察知してて、以前から接触の機会を伺っていて」

「あ、もしかして」

 さよりは夕呼達の視線を集めたことを悟り、そこで言葉を途切れさせてしまう。ユリカは優しく微笑みながら、

「何かな?」

 とさよりの言葉を促す。さよりはそれに背中を押され、少しためらいながらもある推論を述べた。

「もしかしてあなたは……遺跡の演算ユニットに接続されたままのユリカさんですか?」

 だがユリカはその推論を否定した。

「ううん、ミスマル・ユリカは演算ユニットから無事に切り離された。軍にも復帰して、逃げた旦那さんもちゃんと捕まえてた。あの事件以降、遺跡は全てのボソンジャンプを禁止して消えちゃったからA級ジャンパーの肩書きも無意味になって、二人は市井で幸せに暮らしていけたわ」

 さよりにはユリカの笑みが儚げに見えた。

「それじゃあなたは……もしかして、遺跡そのもの」

「うん。大正解」

 ユリカは淡々と答えを述べる。

「ミスマル・ユリカが遺跡の演算ユニットに『人間翻訳機』として融合させられていた時、彼女と演算ユニットは一体だったわ。演算ユニットには彼女の記憶と人格の全データが残っている。それは彼女が演算ユニットから切り離されても消えたりはしないの。つまり、演算ユニットに残ったミスマル・ユリカの記憶と人格のコピー、それがわたし」

 どんなに計算能力が高くても演算ユニット自体は本当にただの演算器で意志を持たないが、演算ユニットの中の計算領域で再現されたミスマル・ユリカの人格には意志や想いがある(例えば「火星の後継者にこれ以上の好きにはさせない」とか、「テンカワ・アキトに幸せになってほしい」とか)。そしてその「ミスマル・ユリカ」は自分の想いを現実に変えるために遺跡の力の、全てではないがかなりの部分を自由に使うことが出来た。演算ユニットをボソンジャンプで木星の中心核付近に移動させた上で、全てのボソンジャンプを禁止したのもその一環である。そんな今の彼女を「遺跡の意志」「遺跡そのもの」と言ってもそれほど間違ってはいないだろう。

「……要するに、演算ユニットのキャッシュが自分を『ミスマル・ユリカ』だと思い込んでいるだけなんだけどね。でも、わたしが『遺跡』だっていうのが妥当だとしても、そんなのあんまり実感ないし」

 自嘲するかのようにそう言う彼女に対し、さよりは

「それで良いと思います」

 と自らの考えを述べた。「ミスマル・ユリカ」が目を見開く。

「あなたが自分を『ミスマル・ユリカ』だって言うんなら、わたし達はそれを受け入れます。あなたのことを『ミスマル・ユリカ』じゃないって否定できるのは、オリジナルの、人間のミスマル・ユリカだけです。でももし彼女がわたしの知識にある女性そのままなら、あなたのことを決して否定しないと思いますよ」

 ユリカは花が開いたような笑顔を見せた。

「ありがとう、さよりちゃん。そうだよね、どんな時でも『私らしく』がミスマル・ユリカの、ナデシコのモットーなんだし。遺跡だろうが何だろうが、わたしはわたしらしく、だよね?」

 その宣言に、さよりや純夏は微笑みながら同意した。

 夕呼は沈黙を保ったままさよりとユリカのやり取りに全神経を傾けている。自分が下手に口を挟むよりもさより達に任せた方がユリカの発言を促しやすい、不明な点は後で確認すればいい、との判断である。また、より自然な状態のユリカの口から出来る限りの情報を引き出したいとの思惑もあった。

「そー言えば遺跡の演算ユニットって、平行世界の全ての自分とつながってるって設定があったような。純夏さんと友達になったのもその関係?」

 さよりの推論をユリカは「うん、その通り」と肯定した。

「純夏ちゃんが00ユニットとして起動した時から、その気配は感じられたの。……要するに、同じ原理の通信機で似たような周波数使って平行世界間の通信をしてたから、こっちの通信にノイズが入っていたような感じかな。思ったよりも遠かったから見つけるのに時間は掛かったけど、純夏ちゃんの存在は特定できた。あとはいつ接触するか、だったんだけど、きっかけを掴めないままでいて結局そのまま桜花作戦を迎えちゃった」

 ユリカの説明を純夏が引き継ぐ。

「ユリカさんは随分前から00ユニットが起動不能になった時に備えて、わたしの記憶と人格のバックアップを進めていたんだそうです……わたしは全然気が付かなかったんですけど。桜花作戦後、予想通り00ユニットとしてのわたしは起動不能になりましたが、遺跡の演算ユニットの記憶領域にわたしの記憶と人格の全てがプールされました。ユリカさんはのその上で、00ユニットが再起動できるよう手を尽くしてくれたんです。さよりちゃんがこっちの世界に移動してきたのもその一環です」

「え?」

 ときょとんとするさよりに対し、ユリカが合掌して頭を下げる。

「ごめんね、どうしてもあなたの力が必要だったの。だから本当は封印されていたはずのあなたの力を解放して、あなたがこの世界に転移してくるよう促したの」

「いやまあ、そんなには気にしないですけど。最終的に帰れるのなら」

 さよりは1年間の放浪生活で培った図太さを発揮しそう答え、ユリカを安堵させた。

「ODL浄化装置の設計図を平行世界の果てから見つけてきたのもユリカさんなんです」

 純夏の言葉にさよりは「ああ、なるほど。道理で力を使った自覚もなしにあんな物取り寄せられたわけだ」と一人納得していた。一方ユリカは「あはは」と照れ笑いを浮かべている。

「わたしの力なんて大したものじゃないよ。純夏ちゃんがいなくちゃこの世界の人に話しかけることすら出来ないし。さよりちゃんが生身であれだけの力を持っている方がよっぽどとんでもないよ」

「わたしの力もそれほどのものじゃないと思うけど」

 とさよりは謙遜した。

「使おうと思った時に使えなかったり、自分じゃ上手く制御できないし。せいぜい『ケーキ食べたいな』って思ったらケーキが出てきたりとか、そういうところは便利だけど」

 その時「ぽんっ」と空気が抜けるような音がして、さより達の前にケーキとお茶のセットが出現した。

「……えーと、お腹もすいたし喉も渇いたからちょうど良いわ。休憩にしよ!」

 と純夏が懸命にフォローし、ユリカと霞がそれに同意する。夕呼はにやにやと笑い、さよりは一人赤面した。







[13222] 第2話「機動戦艦さよりな」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/07 19:51

第2話「機動戦艦さよりな」その2






「さよりちゃんの力で取り寄せてほしいものがあるの。この世界を救うためにそれが必要だわ」

 和やかな休憩時間が終了し、その場は真面目な空気に包まれた。

「……桜花作戦以降、BETAとの戦いは順調に推移しています。にもかかわらず、さよりさんの力が必要なのですか?」

 霞の問いにユリカが頷く。

「それは、一月前から太陽系が『何か』に閉じ込められたことや、地球にマックホルツ遊星が接近していることと関係がありますか?」

「後者はイエス、前者はノー、かな。わたしも詳しい話は聞かされていないんだけど、これまでにないBETAの大群が太陽系に接近しているらしいの。『彼女』はBETAの目から太陽系そのものを隠す防壁を展開しているらしいわ。地球に接近している遊星の正体はBETAの一種で、宇宙戦闘用らしいわ」

「らしい、らしい、ばかりね。ちゃんと確認された情報はないの?」

 夕呼がそう皮肉り、ユリカが恐縮した。

「ごめんなさい、『彼女』が防壁の展開に全力を使っていて、ちゃんと話が出来ないんです……名前も聞いていなくって」

「とにかく、どれだけの大群なのかは判らないけどBETAを迎え撃つために戦力を揃える必要があるんです。それも、必要なのは宇宙戦の戦力です」

 純夏の言葉に、夕呼は肩をすくめた。

「今の地球の宇宙戦力なんて、たかが知れてるわよ。オルタネイティブ5が建造した移民船団を戦艦に改修する作業が進められているけど、改修が終わってるのはまだ10隻もないはずよ」

 マックホルツ遊星がBETAである可能性は、当然ながら米軍や国連航空宇宙軍でも検討されている。このため現在は地上のハイブ攻略を後回しにして宇宙戦力の整備が急ピッチで進められているところである。また、何機かの無人偵察機がマックホルツ遊星へ向けて射出されていた。偵察機は火星と木星の間の小惑星軌道上でマックホルツ遊星と接触する予定である。

「今の地球の戦力は当てにはしてないです。当てにしているのは平行世界の宇宙戦艦です」

 一同の視線がさよりへと集まった。さよりは思わずユリカに問う。

「もしかしてわたしにナデシコやユーチャリスを取り寄せろ、と……?」

「Yユニット装備のをお願いね」

 (はぁと)付きで無邪気に可愛くおねだりするユリカ。さよりは思わず、

「できるわけあるかーー!!」

 とわめいた。

「やっぱり駄目?」

「駄目とかじゃなくて無理なんだってば。戦艦大和やエンプラ級空母と同スケールの宇宙戦艦の取り寄せなんて、人間業じゃありません」

「そっか、それじゃ仕方ないので第二案です」

 冗談に付き合わされたことを悟ったさよりは、ユリカに対し軽く殺意を覚えた。

「正直、これは未確認情報や希望的観測が沢山入った話なんだけど……さよりちゃんには『星々の記憶』と呼ばれる、ある秘宝を取り寄せてもらおうと思うの」

「『星々の記憶』?」

「ええ、古代火星人の残したデータにはそう記されているわ。古代火星人にとっても正体不明原理不明の、超古代の遺産……伝説の神器。

 人間原理って知っているかな。宇宙は人間みたいな知的生命体に認識されることによって初めて存在し得る。人間の認識が変わればそれにつれて宇宙のあり方も変化する。違う歴史、違う科学史を持った平行世界間では物理法則すら同一ではなくなってしまうの。

 人類の歴史と宇宙の変遷は軌を一としている。宇宙には、星々には人類の歴史が刻まれている。『星々の記憶』と呼ばれる神器は、星々に刻まれた記憶を読み取るためのもの。そして読み取るだけじゃなく、それを再現することも出来るの。つまり、歴史上、伝説上の英雄や軍団を召喚するための神器、それが『星々の記憶』」

「……まるで聖杯ね」

 半ば冗談でさよりはそう呟く。が、

「あ、そう言う呼ばれ方もしたみたい。『一書に曰く、その名を銀河聖杯』」

 ユリカの言葉を聞いてずっこけそうになっていた。

「そ、それはともかく。ユリカさんはその『銀河聖杯』を使ってナデシコを召喚しようと?」

「うん。わたしがどれだけナビゲートしたとしても、戦艦一つを直接取り寄せるのはいくらさよりちゃんでも出来ないと思う。でも『銀河聖杯』は軍団一つ、艦隊一つを丸ごと召喚できるらしいから」

「その『銀河聖杯』の所在は判っているんですか?」

 霞の問いに、ユリカは自信なげに答えた。

「うん、一応。古代火星人の残したデータに該当する反応は掴んでる。かなり遠くて大変だけど、わたしがナビゲートすれば多分取り寄せられると思う」

「また頼りない話ね」

 夕呼の皮肉っぽい口調に、さよりはちょっと反感を覚えた。

「できるかどうかは実際やってみれば判ることだわ。ユリカさん頑張ろ!」

「うん、ファイト!」

 さよりとユリカは拳を握って気合いを入れた。









 さより・純夏・ユリカが正三角形を描くように立ち、夕呼と霞がそれを少し離れた場所から見守っている。

「わたしが純夏ちゃんに座標データとか送るから、純夏ちゃんがそれをさよりちゃんにプロジェクションで伝えて。わたしが直接ナビゲートするより、多少なりとも精度を上げられると思うから」

「うん、了解」「判った」

 ユリカの指示に頷く純夏とさより。ユリカと純夏の間で無言のままデータの転送が行われ、純夏がそれをさよりへとプロジェクションをする。データを受け取ったさよりは眩暈を起こして倒れそうになった。

「さよりさん、大丈夫ですか?」

「う、うん何とか。慣れない感覚を頭に直接入れられたから、目が回っただけ」

 不安げな霞の問いに強がってそう答えるさより。純夏もまた心配そうにさよりに確認する。

「さよりさん、イメージは掴めましたか? 取り寄せられそうですか?」

 聖杯との距離は物理的には銀河の反対側よりも遠い場所で、その距離感を人間が感覚的に理解できるものに変換すれば、そのイメージを受け取れば、気絶しそうになるのも当然である。聖杯の視覚的イメージは存在しなかったので、純夏が送ってきたのは聖杯のエネルギー値関係のデータだった。それを無理矢理人間の五感に変換したものだから、さよりに理解できたのは、それが熱くて冷たくてつるつるしていて風が吹いている何かということくらいである。

 正直さよりは「こんなの出来るかぁ!」とわめいて全てを投げ出したくなっていた。が、崖っぷちでどうにかそれを思い止まる。脳に電流を流されているかのような激しい頭痛を堪えながら、全身全霊を込めて銀河の果てに意識を飛ばし、その熱いんだか冷たいんだか良く判らない何かと似た感じがしないでもない何かの存在を捉える。そして、その存在を平行世界の彼方から強引に引き抜こうとするさより。気分は地引き網漁の漁師である。

「……くっ……あ、あんたはこっちに……来なさいよおーーっっ!!」

 さよりが雄叫びを上げ、そのままぶっ倒れた。精根を使い果たしたさよりは半ば気を失っている。ついでに言えばすなすなもエネルギー異常のあおりを食らって目を回している。霞が急いで駆け寄ってさよりを抱き起こした。 
 霞はさよりを介抱しながら周囲を見回すが、そこに目新しい何かは存在していない。

「純夏さん、聖杯は……? 失敗ですか?」

 一方純夏はユリカと不思議そうな顔を見合わせている。

「どうして何も? 何かがこちらに移動してきたのに」

「うん、時空震は観測してる。出現座標がずれたのかも」

 その時、その地下室にサイレンが鳴り響いた。純夏は即座に基地のデータ通信網に侵入して情報を得ようとする。

「――BETAじゃない? 未確認機……ただのスクランブル?」

 一方夕呼は携帯通信機を使って部下から情報を得ようとしていた。

「ピアティフ? 何が起こっているの?」

『レーダーが未確認機の反応を旧横浜市街地上空で捉えました。その、機体が何もないところからいきなり現れたみたいに、レーダーに突然反応が現れたんです』

 夕呼が無言のまま視線でユリカに問い、ユリカもまた無言のまま頷いた。

「未確認機の映像がほしいわ、直ちに偵察機を出しなさい。帝国軍には見つからないようにして」

『了解』

 夕呼の命令に従って3機の戦術機が出撃した。未確認機が旧市街地に不時着しているのではないかと推定されたためである。戦術機は匍匐飛行を使って最大戦速で移動、数分を経ずして目標との予想邂逅地点に到着した。

 さより達のいる仮想空間の中は、今は横浜基地の中央司令室っぽく構成されていた。戦術機が捉えた映像は、データリンクに侵入した純夏によりリアルタイムで夕呼達の前に表示され続けている。具体的には中央司令室正面の特大モニターに、廃墟となった横浜の住宅街の姿が映し出されていた。その廃墟の町並みの中に、巨大な何かが存在していた。

「わ、わたしの家がー?!」

「……戦艦?」

 純夏の実家を押し潰して鎮座していたのは、巨大な戦艦だった。ただし、それが戦艦だと理解できたのはユリカくらいである。双胴の艦首が艦体から伸びるその先鋭的なシルエットと未来的なデザインは、この世界の戦艦のイメージとはあまりにかけ離れている。夕呼も霞も、ユリカに言われなければそれが戦艦だとはとても判らなかっただろう。そしてさよりは、

「………………」

 その艦のデザインにどこか見覚えがあったため、必死になって自分の記憶を検索していた。
 画像の中の戦艦に急接近する戦術機。その時、その戦艦が気球のように優雅に浮き上がり、消えた。夕呼や霞は目を見張る。

「鑑、あれはどこに?!」

「見失ってません、大丈夫です。今あの艦に侵入を……何これプロコトルが違いすぎ……くっ」

 純夏が苦しげに顔を歪め、霞達はそれを見守ることしかできない。だが純夏は「あ、こっちなら」と何かに気付いた。そのまま順調そうに作業を進め、やがて一仕事終えた顔を夕呼達に向ける。

「あの艦の人と連絡が取れました。横浜基地の4番ドックに入港するよう依頼、向こうもそれを承諾しました」

「そう」

 と夕呼は純夏の行動を追認した。

「それじゃ4番ドックに行きましょう」

 夕呼の言葉に従い、ユリカを残して4人はその部屋を出る。ふと、夕呼はさよりに、意地悪そうな笑顔を向けた。

「巨大戦艦一隻、取り寄せちゃったわね。あんた本当に人間?」

「ほっといてください」

 さよりはふて腐れたようにそう返すしかなかった。








 横浜基地、海軍施設の4番ドック。横浜基地は国連軍にとって極東最大の拠点であり、軍港としても充実した設備を誇っている。4番ドックは大和級の戦艦も余裕で収容できる、全天候型巨大乾ドックである。純夏は異世界の戦艦を入港させるにあたり、人目に付かないことを最優先とした。

 ドックの中は野球場が二つくらいは入りそうな巨大な空間で、人目を避けるためにライト等は灯されておらず、昼間でも非常に暗い。乾ドックとは言え使っていない時は海水に満たされていて、暗がりの中で水面が静かに揺れている。
ドックは先ほどまでは全くの無人だったが、今はそこに4人の女性が集まっていた。そして、そこに巨大戦艦が入港する。

「うわぁ……」

 さよりはそのまま絶句した。途方もなく巨大と思えたドックが、船艦が入った途端手狭な印象になってしまった。つまり、この戦艦がそれだけ大きいということだ。

「本当、あんた良くこんなもの取り寄せられたわね」

 夕呼もそう言って感嘆した。そして意識を切り替えてさより達に警告する。

「相手は軍隊で、あたし達より遥かに進んだ技術力を有している。決して気を抜くんじゃないわよ」

 戦艦の上部甲板が開き、連絡艇と思しき飛行艇が出てきた。飛行艇は数十mを飛翔、夕呼達の前に着陸する。そして飛行艇の中から、軍服風の外套をまとった一人の少年が姿を現した。

「真上君!」

 さよりは思わず彼の名を呼んでいた。少年に駆け寄ったさよりは当惑する彼の手を掴み、皆から少し離れた場所に引っ張っていく。一同の注目を集めていることにも気付かないまま、さよりは少年と密談しようとする。

「あの、どこかで会いましたか?」

「あなたには会ってないけどね。早く中央管理局に問い合わせてよ」

「中央管理局?」

 少年はますます当惑するばかりである。さよりは小首を傾げて確認した。

「平行警察じゃないの?」

「いえ、我々は――」

 だが、さよりは少年の答えを聞く前に悟ってしまっていた。少年に続いて飛行艇から出てきたのは、黒いマントをまとった金のロングヘアの少女と、白い制服姿のツインテールの茶髪の少女。二人の少女は杖のようなものを手に持っている。

「――時空管理局です」

 さよりはその場に崩れ落ち、失意体前屈の見本みたいな姿勢になった。










解説

○ミスマル・ユリカ

 出典は「機動戦艦ナデシコ」。

 「遺跡の演算ユニットが平行世界の自分とつながっている」という設定は公式にはなかったと思います。ただ、公式では「遺跡の演算ユニットには時間と空間の区別がなく、過去・未来の自分とつながっている」→それなら「現時点から見て無数に存在する未来の可能性全てとつながっている」→「過去のある一点から見て、無数に存在する現在の可能性全てとつながっている」→なら「現時点の平行世界と直接つながっている」としてもそんなにおかしくはないだろう、と拡大解釈しています。






○真上カイエン

 出典は「さよりなパラレル」。

 いわゆる「真上シリーズ」の一人だが、平行警察の現地監視員ではなく何故か時空管理局に勤めている。

 「アースラ」副艦長でクロノの補佐。StSで言えばグリフィス君の立ち位置。一応魔導師だがランクは高くない。





[13222] 第3話「魔法少女パラレルさより」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/14 20:18



第3話「魔法少女パラレルさより」その1







 時空管理局所属・次元航行艦「アースラ」。現在「アースラ」はあるロストロギアの回収任務を終え、本局への帰路にある。

「今回は随分簡単な任務だったね」

「そうだね。崩れた遺跡からロストロギアを掘り出すのが面倒だっただけで、戦闘も何もなかったし」

 戦技教導隊所属の高町なのはと執務官のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、「アースラ」ブリッジでまったりと会話を交わしていた。

「正直言うと、子供の使いみたいな任務だったから『アースラ』やわたし達が出張る意味があったのかなと思わなくもない」

「学園祭も不参加になっちゃったしね」

「去年も参加できなかったから今年こそはと思ってたんだけど」

 なのはやフェイトは現在聖祥大附属中学の三年生。日本の女子中学生と管理局職員の、多忙な二重生活を送っている。

「なのは、フェイト、我々の任務はまだ終わったわけじゃないぞ。本局に帰着し、遺失物管理部にロストロギアを引き渡すまでは任務中だ」

 なのは達の会話にクロノ・ハラオウンが生真面目な口を挟み、

「そうそう。遠足は帰るまでが遠足です、ってね」

 エイミィ・リミエッタがそれを茶化す。なのはとフェイトがくすくすと笑みをこぼし、クロノが渋い顔をした。

「まあ、新任艦長の試運転にはちょうど良かったんじゃないかな」

「そうだね」

 なのはとフェイトはそう言ってこっそりと笑い合った。クロノにとって今回の任務は「アースラ」艦長に就任してから最初の任務だったのだ。このため、ただでさえ規律がバリアジャケットをまとっているような堅苦しい性格が輪をかけた状態になっている。

「ロストロギア『星々の記憶』は正体は全くの不明だが、惑星一つ、星系一つを滅ぼすことも簡単に出来る、という伝承が残っている。何が起こるか判らないから細心の注意を払ってほしいと、ユーノからも散々警告を受けただろう。これでもし任務に失敗したら、あのイタチもどきに何を言われるか」

 クロノは独り言っぽくそう言い続けていた。

「きっと、ここぞとばかりに嫌みや皮肉を言われるだろーね」

「でもそれは兄さんが悪いよ。普段あれだけ憎まれ口を叩いてるんだから」

「ユーノ君はそんな子じゃないよ。きっと優しく労ってくれる」

「そうだね、クロノ君にはそっちの方がずっと堪えることをちゃんと判った上でそうしそう」

 エイミィはクロノに肩の力を抜かせるために軽口を叩いている。それを理解しているクロノは渋い顔をしながらもそれを黙認するしかなかった。

「ともかく! 本局までの距離はまだまだ長い。何があるか判らないから気を抜かないように!」

 艦橋の一同がきれいに「はい!」と唱和し、クロノは一応それに満足した。

 その時、「アースラ」が大きく揺れた。艦橋には警報が鳴り響く。

「エイミィ!」

 クロノの訓戒は無意味ではなかったのだろう。艦橋メンバーは素早く突発事態に対処していく。

「次元断層が突然発生! 艦体が巻き込まれています!」

 別のオペレーターがクロノに報告する。

「中央保管室に高エネルギー反応! ロストロギアが活性化しています!」

 クロノはモニターに表示される各種数値に目を通した。「アースラ」艦体には二つに折れて轟沈しても不思議はないほどの負荷が掛かっている。クロノは艦の保全と乗員の生命を最優先とし、命令を発した。

「通常空間に復帰しろ! 近場ならどこでもいい!」

「了解!」

 戦闘態勢に入った「アースラ」は推力を最大にし、艦を拘束する次元断層を振り解いて通常空間へと復帰しようとする。壁にぶつかったかのような衝撃が「アースラ」を襲い、艦橋に悲鳴が響き、次いで暗闇に包まれた。

「くっ……」

 艦長席に突っ伏していたクロノが頭を振り身を起こす。一瞬だけだが気を失っていたらしい。クロノは暗闇に非常灯だけが灯された艦橋を見回した。

「フェイト! なのは! 大丈夫か!」

「うん、わたしもフェイトちゃんも大丈夫」

 そう言ってなのははフェイトを抱きかかえた状態でクロノの前に現れた。なのはは咄嗟にフェイトを抱いてプロテクションを自らの周囲に展開したため、怪我一つしていない。

「フェイトは中央保管室へ。ロストロギアの様子を見てきてほしい。ついでに艦内の状況も」

「了解」

 フェイトが艦橋を飛び出していくのを見送ったなのはは、クロノに訊ねる。

「艦長、わたしは」

「君はこの場で待機。まずはブリッジメンバーに怪我人がいないか確認してくれ。カイエン、艦内の損害確認を頼む。エイミィ、外の状況は判らないか?」

「今やってる。ちょっと待って」

 エイミィ達が動き出し、ようやく艦橋が機能を取り戻し出した。なのはが簡単な治癒魔法を使っている間に艦橋に照明が灯される。次いで艦の外部カメラが動き出し、艦橋のメインスクリーンに外の映像が投影された。

「な……」

 なのはがそのまま絶句した。クロノ等艦橋メンバーもそれは同じである。外の世界は一面の廃墟だった。破壊され、焼け残された住宅や建物の残骸がただ広がっているだけ。わずかばかりに生えている雑草以外に生き物の姿はない。

「エイミィ、ここは?」

「座標データ、取得できません。次元測定値に該当データありません……未確認世界です」

「……そうか」

 クロノは少しばかりの時間をかけて、その言葉を腑に落とし込んだ。未確認世界、それはミッドチルダを中心とする管理世界の人間が、誰も行き着いたことのない世界。管理世界の人間にとって全くの未知の世界である。

「カイエン」

 クロノは副艦長の名を呼んだ。

「はい。艦内の負傷者は7名、いずれもごく軽傷です。次元航行エンジンに損傷がありますが、次元航行自体は不可能ではありません。機関部で修理計画を立案中ですが、完全に直すには本局のドックに入らないと」

「その、本局のドックに戻るためにはエンジンが直っている必要があるんだ」

「了解です。最低限、本局まで航行できるだけの修理計画を立ててもらいます」

「頼む」

 その時、艦橋に再び警報が鳴り響いた。

「艦長! 本艦に高速接近する機影があります!」

 エイミィがその機影をメインスクリーンに投影、艦橋はどよめきに包まれた。

「傀儡兵……いや、違うか」

「ろ、ロボット?」

 「アースラ」に接近しているのは3機の武装した青いロボットだった。なのはは日本のアニメに出てくるような巨大ロボットの姿に目を丸くしている。

「魔法反応ありません。ただのロボットのようです。各機に一人ずつの生命反応を確認、有人機です」

「魔法ではなく科学技術が発達した世界ということか……まずいな」

 クロノは舌打ちをすると、全艦に命令を発した。

「第一種戦闘配置および、緊急次元潜行! 現地住民の目から逃れる!」

「了解!」

 管理世界の人間にとって、技術水準の違う非管理世界住民への不必要な接触・干渉は犯罪に準ずる行為である。ましてや、接近しているのは明らかに戦闘を目的とした軍のロボットだ。面倒なことになる前に逃げ出すのは当然の判断だった。

 「アースラ」が空中に浮き上がり、そのまま次元潜行に突入。通常空間の隣の亜空間に隠れ、息を潜めているような状態である。

「艦長、航行エンジンに負担が……修理は出来れば通常空間で行いたいと機関部が」

「判っている。少し待ってくれ」

 クロノはスクリーンに映写されたロボットの動きから目を離さない。ロボットは突然消えた「アースラ」を探し、右往左往していた。

「どうやら彼等には次元潜行技術はないみたいですね」

「ああ、それならば幸いだ。もう少し様子を見て問題がなければ、人里から離れた場所で通常空間に復帰して修理を行おう」

 その時、場違いな軽快な音楽が環境に鳴り渡る。なのはは「にゃあっ?!」とびっくりしながら、反射的に管理局の制服のポケットから携帯電話を取り出した。

 なのはが手にしているのは地球から持ち込んだ、日本の電話会社の携帯電話だ。ミッドチルダ等の管理世界の一部でも使えるように改造されている。だが未確認世界の、それも亜空間で使えるはずがない。ないのだが、それの呼び出し音が鳴り続けている。艦橋の一同が注目する中、クロノが鋭い視線を向ける中、なのはは躊躇いながらも携帯電話の着信ボタンを押した。

「……もしもし?」

『ああ良かった、つながった! あなたは先ほどのあの戦艦の乗組員ですね?』

 携帯から流れ出るのは、若い女性の明るい声である。声からは敵意を感じられないが、なのはは戸惑うばかりでどうしていいか判らない。途方に暮れたようななのはの視線を受けて、クロノはなのはの手から携帯を奪い取るように受け取った。

「……こちらは戦艦アースラ、私は艦長のクロノ・ハラオウンです」

『ありがとうございます! わたしは国連太平洋方面軍横浜基地オルタネイティブ4特務隊所属、鑑純夏少尉です。我々はあなた方との会談を望んでいます。横浜基地に入港してもらえませんか?』

 クロノは思考を高速回転させながら返答した。

「……あいにくですが、我々が所属している組織は我々以外の世界の住人との接触を禁止しています」

『あなた方は何らかの事故でこの世界に来たんですよね? その原因には多分わたし達が関わっています』

 クロノは思わず沈黙した。純夏が言葉を続ける。

『あなた方との接触はこちらの世界の人間には全て秘密にします。こちらの世界であなた方と接触するのは、横浜基地の副司令とその部下が私も含めて二人。合わせて三人だけです。他にわたし達の協力者が二人いますけど、その二人はこの世界とは別の世界の人間です』

「……判りました。入港しますので位置について指定をお願いします」

 わずかな逡巡の後、クロノは入港と会談を持つことを了承した。電話はそこで切られる。クロノは純夏から指定を受けた場所についてエイミィに指示、「アースラ」を通常空間に復帰させる準備を始める。

 ちょうどその頃、フェイトが艦橋へと戻ってきた。

「クロノ、あの……」

「ああ、フェイト――」

 クロノやなのは、艦橋メンバーはそのまま絶句する。フェイトは見覚えのない一人の少女を伴っていた。少女の年齢はなのはやフェイトより何歳か年下。人種は白人系で、ストレートの銀のロングヘアに紅い瞳。濃紫の上着と白いスカートの洋服を身にしている。

「あ、あなたは?」

「わたしはあなた達が『星々の記憶』と呼んでるロストロギア。その人間型取扱説明書というところかしら」

「それはどういう――」

 彼女はクロノの台詞を身振りで制した。

「詳しい話はこの世界の人間と一緒の場所でするわ。その方が二度手間が省けるから」

 彼女はそれ以上何も語るつもりはないようだった。クロノは諦めのため息をつき、艦長としての職務に戻る。彼女は好奇心いっぱいの様子で艦内の様子を見回している。今にも鼻歌でも歌いそうなくらいである。

 なのはがそんな彼女の前に進み出る。なのはが彼女と正面から向かい合い、彼女はそんななのはに不敵そうな視線を向けた。

「何?」

「わたし、高町なのは。あなたのお名前、教えてくれるかな」

 なのはの真剣な問いに対し、

「ロストロギアの真名は『ニーベルンゲン』。取扱説明書としてのわたしは、イリヤスフィールと呼んでくれればいいわ」

 彼女は小悪魔のような艶然とした笑みでそう答えた。








 その後、「アースラ」は指定通り横浜基地4番ドックに入港。互いが互いにとって異世界の軍隊(に準ずる組織)ということで、夕呼達もクロノ達もかなり緊張していた。が、そのファーストコンタクトはさよりと真上カイエンのために何だかぐだぐだになってしまった。程良く緊張感が抜けたところで、夕呼達は「アースラ」艦内へと招き入れられる。

 さより達はカイエンの先導に従い、薄暗い艦内の通路を無言のまま歩き続けた。霞がさよりに接近し、そっとその手を握る。

「さよりさん、もし彼等と戦いになった場合、わたし達は勝てますか?」

 霞はささやき声でそう訊いてきた。さよりの脳裏を、なのはの砲撃が戦術機を撃破する光景、八神はやてとヴォルケンリッターの5人が戦術機の大群と激突する光景、戦術機が「アースラ」に突撃する光景が横切った。

「あはは、もしかしたらいい勝負になるかもだけど、そんな心配要らないわよ。ちゃんと話せば解り合えるわ」

 霞は「そうですか」と答え、かすかに微笑んだ。さよりを握る手にわずかに力がこもる。

 夕呼達4人は艦内の会議室に案内された。横浜基地側の出席者は、香月夕呼、鑑純夏、社霞、そしてオブザーバーの岡島さより。ミスマル・ユリカは今はこの場にはいない。

 さよりは「アースラ」側からの出席者を確認する。まずは艦長のクロノ・ハラオウン。無印・A’s時代の童顔の面影がほとんど見られない、長身の立派な青年である。

 副艦長の真上カイエンは、さよりにとっては毎度おなじみの人物である。少し長めの髪にそれなりに高い身長と、それなりに整った容貌。だが全体的な印象はわりと地味である。

 執務官のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、今はバリアジャケットではなく軍服風の制服を着ている。長い金髪が美しい、繊細な印象の美少女だ。

 そして戦技教導隊所属の高町なのは。年齢はさよりより多少下。腰まで届きそうな栗色の長髪をサイドポニーにした美少女である。身にしているのはやはり軍服風の制服だ。

 最後の一人は銀の長髪と紅い瞳を持った一人の少女。濃紫のシャツと白いスカートを身にしたその姿は、ゲームから抜け出してきたとしか思えなかった。

「い、イリヤスフィール・アインツベルン……なんでこんなところに」

 さよりはまたもや頭を抱える。一方のイリヤは、そんなさよりを面白そうに眺めている。

「わたしがこんな姿をしているのは、主にあなたのせいなんだけど?」

 さよりは「へ?」と頭を上げた。

「『銀河聖杯』には契約者のサポートのために人間形態を取る機能があるんだけど、それが変な風に作動したみたい。あなたがわたしを、『銀河聖杯』を観測してこっちに引っ張ってきた時、わたしの本来の姿の視覚イメージがなかったんでしょう? だからあなたは『銀河聖杯』に無意識的に抱いていた視覚イメージをもってわたしを観測し、それが現実となった。その結果がこの姿よ」

「ああ、なるほど」

 とさよりは一応納得する。イリヤは皮肉げな笑みを見せた。

「だから、場合によっては全身縞模様のチンピラみたいな聖杯がここにいたかも知れないわ」

 それはそれで面白そうだったけど、とイリヤは説明をまとめた。一方のさよりはそうならなかったことを何者かに感謝した。

「……あー、そろそろ話を始めてもいいだろうか」

 クロノがさよりにそう声をかけ、さよりは恐縮しながら引っ込んだ。

 エイミィがTV会議に使われる立体映像投影装置を用意。ユリカが純夏経由でそれに侵入し、自分自身の映像を作り上げる。会談の参加者がこうして全員そろい、会談が開始された。

 まずは双方の事情説明である。クロノが「アースラ」側の状況について簡単に説明する。時空管理局という組織があり、彼等はそこに属していること。超古代の魔法技術の遺産、ロストロギアを回収・保管する任務に就いていること。「星々の記憶」と呼ばれるロストロギアを回収し、本局に戻る途中に転移事故に遭い、この世界に流れ着いたこと。そのロストロギアが今は女の子になってイリヤと名乗っていること、等。

 一方この世界の置かれた状況については、純夏とユリカから説明があった。BETAという侵略者と戦い続けていること。BETAの大群が太陽系に接近しているらしいこと。それに対抗するために準備を進めていて、そのためにさよりを招き、「銀河聖杯」を手に入れようとしたこと。

 なお、「アースラ」が転移事故を起こしたのは、夕呼の推論に依ればやはりさよりが原因らしい。「銀河聖杯」がこの世界に存在し得る可能性として一番高いのが「それを輸送している艦船が転移事故を起こしてその艦船ごとこの世界に現れる」というもので、さよりの力がそれを現実としてしまった、というのである。

「……わたし達が必要としているのは『銀河聖杯』だけだったんです。でもあなた方の艦までこの世界に来てしまったことは、本当に申し訳ないと思っています。元の世界にちゃんと戻れるよう手配はしますから」

 純夏がそう言って頭を下げた。だがクロノはそれを制する。

「だから『銀河聖杯』は置いていけ、と? 残念ですがその要求は受け入れかねます」

 会議室の室温がいきなり数度下がった気がした。横浜基地側と「アースラ」側の間に緊張が走る。

「く、クロノ君、でも……」

 なのはが躊躇いがちに異議を唱えようとするが、クロノは譲らなかった。

「なのは、僕達の任務は何だ。次元災害を引き起こす可能性のあるロストロギアの確保だろう。このまま『銀河聖杯』をこの世界に置いていけば、もしかしたらそのためにこの世界が、あるいは近隣次元世界が滅びることになるかも知れない」

「『銀河聖杯』がなければどの道この世界はBETAの大群に滅ぼされるのよ? あんたはそうなっても構わないと?」

 夕呼が殺気を湛えつつクロノに問う。クロノはそれを真正面から受け止めた。

「強力なロストロギアは複数の次元世界を破壊できる。一つの世界を救うために他の世界に危機を及ぼすのは認められない。――時空管理局の任務は次元災害・次元犯罪の予防・対処だ。その世界に内在する問題によってある世界が滅ぶことになったとしても、他の世界に波及しないのなら時空管理局が介入する話じゃない。管理世界ならともかく、ここは管理外世界ですらないのだから尚更だ」

「なかなか言うわね坊や。あんたみたいのは嫌いじゃないわよ」

 そう言って夕呼は嗤った。魔女と呼ばれるに相応しい禍々しい嗤い方である。

「……この世界はもう何十年も地獄の底にある。あたし自身も世界を救うためと称して屍山血河を積み上げてきたわ。そこにあんた達の血が数滴加わったところで気にする奴は誰もいないのよ」

 その時、艦橋からクロノへと連絡が入った。

「か、艦長! ドックの周囲にロボットが!」

 エイミィが「アースラ」周囲の映像をモニターに表示する。そこに映し出されたのは、十数機の戦術機、数百人の機械化歩兵・歩兵の混成部隊だ。それが4番ドックを包囲するように配置されている。

「随分と仰々しいことですが、あの程度の玩具が我々に通用するとお思いなのですか」

「戦術機には全機にS-11を持たせている。最悪全機この艦に突っ込ませて自爆させるわよ。いくらこの艦が頑丈でも耐えられないんじゃない?」

 横浜基地側と「アースラ」側間の緊張は極限まで高まっていた。夕呼とクロノの間でぶつかる殺意は物理的圧迫感を持ってさよりの心臓を締め上げる。

(あわわわ、何とかしないと……)

 それが必要と判断したなら戦術機に特攻するよう本当に命令を出せてしまうのが香月夕呼であり、命令があればそれを実行してしまうのがこの世界の軍人なのだ。そうなったら横浜基地側・「アースラ」側双方の血が大量に流れることになる。

(何とか止めないと、止められるのは……)

 さよりはこの事態を収拾できそうな人間を探した。霞や純夏は、夕呼ほどではないにしても数多の屍を乗り越えてこの場にいる。例え血が流れることになったとしても、最終的には夕呼の判断を是とするだろう。なのは等「アースラ」側の面々も結局はクロノと意志を一つにするはずだ。ユリカは肉体を持たず、この場への影響力が乏しい。残ったのはさよりと、

「イリヤちゃん!」

 さよりが大声でその名を呼び、一同の注目を集めた。事態を傍観するだけだったイリヤはちょっと興味ありげに「何?」と返答する。

「わたしはイリヤちゃんの考えが聞きたいな! 『銀河聖杯』は次元災害を引き起こすの? 『銀河聖杯』を使えばBETAに対抗できる? イリヤちゃん自身はどうしたい?」

「確かにその辺が判らないと正しい判断が出来ないですね! さすがですさよりちゃん!」

 ここぞとばかりにユリカがさよりに同調する。さらに純夏が、

「『銀河聖杯』が次元災害を引き起こさないのなら、これの使用はあなた方にとって問題にはならないですよね?」

 そしてフェイトが、

「イリヤスフィールさんが管理局に保護されることに同意するなら、あなた方が彼女をこの世界に留めておくことは出来ないですよね?」

 こうして全てがイリヤへと委ねられる。一同の熱い視線を集めたイリヤは、わずかに苦笑しながら皆の期待に応えた。

「――まず、『銀河聖杯』はもしその力を十全に発揮できるなら、何者をも対抗し得ない。どんな敵でも倒すことが出来る。次に、『銀河聖杯』の力は次元災害を引き起こす種類のものではない。最後にわたし自身がどうしたいかだけど……わたしは単なる『道具』だから、ちゃんと使ってもらうこと以外の望みは特にないわ。まあ敢えて言うなら、わたしはこの世界には過ぎた道具だと思うから、使い終わった後はこの世界には残らない方が良いでしょうね」

 イリヤの答えを聞いても、まだ夕呼とクロノの間には冷たい緊張感が維持されていた。が、先にクロノが妥協する。

「……『銀河聖杯』が指輪型ロストロギアのままならともかく、今の彼女には人間としての姿と意志がある。管理局はそれを最大限尊重せざるを得ません」

「『銀河聖杯』に彼女が言うほどの力が本当にあるなら、確かにこの世界には残らない方が良いわね。BETAを排除した後に彼女の力をめぐっての戦争が起こり、それで人類が滅びかねないわ」

 夕呼が笑みを見せながらそう答え、ようやく両者の緊張がほぐれる。さよりだけでなく一同が心底安堵し、ため息を漏らした。

「――話が無事まとまったところでイリヤちゃん、教えもらえるかな? 『銀河聖杯』とは、その力とは何か、どうすればその力を発揮できるのか」

 ユリカの問いに、イリヤは静かに頷いた。








 なお、これはさよりが後から聞いた話だが、

「こっちには社も鑑もいるのよ? 相手の手の内なんて丸分かりよ。あの艦長が『どうすれば彼等に銀河聖杯を使わせることが出来るのか』って考えてたのも判っていたし。問題は彼等が建前をどう整えるかだけだったわけ」

 と夕呼はうそぶいていたし、クロノはクロノで、

「あのロボットが突撃してきたなら艦全体に広域結界を展開するつもりだった。それで彼等は『アースラ』には手出し一つできなくなる。管理局は質量兵器を否定しているが、それへの対抗策まで否定しているわけじゃない。むしろ、どこの世界よりも熱心に対抗策に取り組んでいると言っていい」

 と豪語していた。

 双方の間で妥協が成立したのは、夕呼とクロノが相手の戦力よりは相手の力量を認め合ったからこそ、であると言えるだろう。





[13222] 第3話「魔法少女パラレルさより」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/14 20:22



第3話「魔法少女パラレルさより」その2









「……わたしがいつ誰に造られたのかは記憶にないのだけれど、少なくてもアルハザードの時代にはもう存在していたわ。あの時分のどこかの国がわたしを使おうとして自滅したことがあったから」

 イリヤの説明はそんな台詞から始まった。「自滅」という単語に夕呼達が眉をひそめるが、黙って話の続きを促す。

「わたしを使うことは魔導師なら大して難しくはないわ。契約を結んでわたしは契約者から魔力の提供を受ける。契約者はわたしに過去の英雄・軍団などの召喚を依頼する。契約者の魔力を使ってわたしはそれを実行する。召喚された英雄や軍団は魔力によって作り出された実体のある幻。魔力がなくなれば幻は霧散し召喚は終了する」

「戦いの時だけ呼び出して、用がなくなれば『はい、さようなら』か。実に都合が良いわね」

 夕呼がそう皮肉り、

「ええ。そういう意図で造られているのだから」

 とイリヤが真顔で返した。

「だが、過去の英雄・軍団を召喚するなんて……一体どうやって」

 クロノがそう疑問を呈し、イリヤが解説する。

「召喚できるのは過去だけじゃないわよ。充分な魔力さえあればどんな過去でも、あるいは未来でも、異世界や平行世界であってもそこから英雄・軍団を召喚できる。わたしの異名の一つに『星々の記憶』というのがあるけれど、わたしはその『星々の記憶』から英雄・軍団の情報を取り出し、それに魔力で仮の実体を与えるの。

 ……宇宙や星々は人類の認識とともに変遷する、宇宙の変遷は人類の歴史でもある、その人類の歴史と宇宙の変遷が刻まれているのが『星々の記憶』。別の言い方をすれば人類の集合無意識とか、アカシックレコードとかになるわ。そしてこれは各々の宇宙の外側にある。外側にあるから各々の宇宙の時間の流れには影響されず、自分の宇宙だけでなく他の宇宙の英雄・軍団を選ぶことも出来る。

 ついでに言っておくとわたしのこの姿や人格も、ある宇宙の『星々の記憶』から取り出してきた情報を元に構成されたものよ」

「……ああ、やっぱり実際の話なんだ、あれも……」

 さよりが疲れたようにそう呟き、イリヤはにやりと笑った。

「ええ、その通り。『星々の記憶』に刻まれた英雄譚の情報は他の世界に流れやすいの。他の世界に流れたそれらの情報はフィクションとして再構成され、それを人々が認識し、その認識が元の世界を安定させる。その相互認識が平行世界全体を安定させる力となっているわ。

 あなたの世界は特にその情報が流れ込みやすい、特異点となっているみたい。だからあなたの知っているフィクションとされる物語のうち、全部じゃないけど何パーセントかは他の世界で実際にあった出来事なの。人々に認識されやすい、つまり人気のある物語ほど実際の話だった可能性が高いと言えるわね」

「だからこそ、さよりちゃんに来てもらったんです」

 といきなり口を挟んできたのはユリカである。

「さよりちゃんのその特異な能力は勿論わたし達にとって必要だけど、それだけじゃないの。さよりちゃんの知識、さよりちゃんの世界の数多のフィクションに関する知識、実際にはフィクションじゃなく別の宇宙の現実のお話であるそれらの知識。それこそ重要なんです。

 さよりちゃんにはイリヤちゃんと契約を結んでもらい、それらの知識を元に異世界の英雄・軍団を召喚してもらおうと思っています」

「ええっ?! でも」

 素っ頓狂な声を上げるさよりをユリカが宥める。

「勿論わたしと純夏ちゃんが全力でサポートします。

 さよりちゃんが召喚対象を指定、わたしが平行世界を検索してそれが実在かどうかを確認、実在ならイリヤちゃんが召喚を準備し、わたしと純夏ちゃんで召喚対象の確固たるイメージをさよりちゃんに渡し、さよりちゃんが召喚実行、純夏ちゃんが召喚対象をこの世界にナビゲートする。……これがわたし達の作戦の概要です」

 ユリカの言葉が一同の脳裏に浸透した。だがさよりが控えめに異議を唱える。

「……あの、わたし魔導師じゃないんだけど。それでもイリヤちゃんと契約できるの?」

 ユリカが意表を突かれたように大きく目を見開いた。さよりが「もしかして考えてなかったの?」と言わんばかりの疑いの目を向け、ユリカが焦ったようにでっかい汗を流した。

「――出来るわよ。さよりの力も広い意味では魔法の一つだから」

 イリヤの助け船に「本当?!」と飛びつくユリカ。さよりはユリカに呆れながらもイリヤに「そうなの?」確認。イリヤの解説を聞く。

「魔法や魔術は、突き詰めれば意志の力で現実を自分の都合の良いものに変えること。猫が生きている世界と死んでいる世界、二つの世界のうちの一つを自分の意志で選ぶこと。10個のダイスを一度に振って10個とも1が出る確率は6千万回に1回だけだけど、その6千万回に1回の可能性を最初の1回目の現実にしてしまう。無数に存在する未来の可能性の中から、自分の意志で特定の可能性を認識し、それを現実とする。それこそが魔法の根幹であり、それはどんな世界であっても大して変わらないわ。

 そういう意味ではさよりの力は最もプリミティブであり、だからこそ強力な魔法よ。確かにリンカーコアも魔術回路もないけど、さよりは魔法が使える。なら、わたしと契約できないわけはないわ」

「そっか、良かった。それなら何とかなるかも」

 と明るい表情をするさよりと一同。だがイリヤがそれに冷や水を浴びせた

「残念だけど、一番大事なものが欠けているわ。あなた達の作戦は失敗するわよ」

「な――」

 さよりはそのまま絶句する。言葉を失った一同を、イリヤは仮面のような笑みを見せつつ見渡した。その中で一人、クロノだけが何かに気付いた様子を見せる。

「……君は『充分な魔力があれば』と言っていた。それは一体どれくらいの量を言うんだ? そもそも、人間一人で賄えるようなものなのか?」

 さよりが「あ」と漏らし、一同にも理解の色が広がる。イリヤは肩をすくめた。

「魔力が無制限にあるのならわたしは何だってやってみせるわ。銀河中の大艦隊を集めて宇宙を埋め尽くすことだってしてみせる。でも、人間の保有する魔力量なんてたかが知れてるのよ。

 以前アルハザードでわたしを使おうとした連中は、自国民の大半を生け贄に捧げて膨大な魔力を捻出した。確かに望みの軍団は召喚できたけど、半日も持たずに時間切れ。当然ながらその国は跡形もなく滅んだわ」

 会議室は重苦しい沈黙に包まれた。さより達はそれに押し潰されそうになる。

「――それで、生け贄の儀式ってどういう風にやるの?」

 夕呼が軽い口調でそう問い、室内の空気は別方向のマイナスに転じた。

「夕呼先生!」

「正気ですかあなたは?!」

「博士、それは止めてください」

 さよりとクロノとユリカが夕呼を止めようとするが、夕呼の暴走は止まらない。

「嫌ねぇ、本当にやるかどうかは判らないわよ? でも準備は必要じゃない?」

「彼女が言っていたでしょう、『その国は滅んだ』と。あなたは自分の手でこの国を、この世界を滅ぼすつもりですか?」

「全滅を免れるなら、十数億人をすり潰して百万人を助けられるなら、あたしはそれを選ぶわよ。それがこの世界の現実なの」

 クロノの発する怒気と殺気を夕呼は悠然と受け流す。最早夕呼は魔女を通り越して魔王の域に達していた。

「そんなの、オルタネイティブ5と何も変わらない……夕呼先生ならもっと良い手段を選ぶことが出来るんじゃないですか?」

 さよりは夕呼を見つめ、挑発するようにそう告げた。夕呼は肩をすくめる。

「正直、あまりにも専門外であたしには手札を選べるほど手持ちがないの。むしろ岡島、あんたの方が良い手札を持ってるんじゃない?」

「わたしが?」

 ええ、と頷く夕呼。

「この場の誰にも出来ないのなら、出来る人間を連れてくればいいのよ。人間に出来ないのなら、神様でも悪魔でも引っ張ってくればいいのよ。あんたがね」

 夕呼の言葉を受け、さよりは自分の考えに沈み込んだ。一同の期待の視線を集めながら、さよりは懸命に記憶を検索する。

(魔力、魔力、魔力、膨大な魔力を持ったキャラ……高町なのは、八神はやて、遠坂凛、間桐桜、シエル……駄目、到底足りない。わたしが魔力を持っているくらいなら、別に魔法関係に限らなくていい。人間には不可能、じゃあ神様か悪魔なら――神?)

「あ」

 さよりの知識の中の、ある人物がヒットした。さよりは鋭い視線をユリカへと向ける。

「ユリカさんすぐ調べて彼女が実在するかどうか。イリヤちゃん、ユリカさんを手伝える? 純夏ちゃんはわたしのイメージをユリカさんに」

 さよりの指示に従い3人が小気味良く動き出す。小一時間ほどの検索作業の後、ユリカ達は結論を告げた。

「……確かにいたわ。さよりちゃんの言う通りの人が」

「『神』とまで称されるのも頷けるわね。何この魔力。本当に人間?」

 呆れ果てたようなユリカとイリヤに、純夏が訊ねる。

「それで、『彼女』なら大丈夫なんですか?」

「ええ、『彼女』なら申し分ないわ。たかだか十数億程度の一般人を生け贄にするより、『彼女』一人と契約した方がよほど魔力を得ることが出来る。これなら大艦隊で太陽系を埋め尽くすことも不可能じゃないわ」

 イリヤの承認を得て、方針は固まった。『彼女』の召喚に向けてさよりやユリカ達が動き出す。

「召喚と言っても……これはされる側からすれば拉致以外の何物でもないだろう」

 クロノ達はそう言って渋い顔をしたが、ユリカ達は取り合わない。

「他に方法はないんです」

「『彼女』なら、むしろ喜ぶと思うけど」

 限りなく次元犯罪に近い行為を見過ごすことに、クロノ達は強い抵抗感を持った。が、代案があるわけではないクロノ達にはさより達を止めることが出来なかった。そして、全ての準備が整ったのは翌日である。








 翌10月30日、旧横浜市街地の一角。一面の瓦礫の荒野の中に、ぽつんと一軒のプレハブの仮設住宅が建てられていた。その一帯は「アースラ」が最初に不時着した場所であり、かつては鑑純夏や白銀武の自宅があった場所である。

「でも、どうしてわざわざこんな場所で召喚を?」

 と疑問を呈したのは高町なのは。鑑純夏がそれに答える。

「この場所はある時期召喚が繰り返されて、一種の特異点となっているの。他の世界とのつながりを持ちやすいから、さよりちゃんの負担も少なくなると思って」

 純夏の笑顔にわずかながら翳りを見い出すことが出来るのは、この場ではさよりだけだろう。

 『彼女』の召喚に立ち会っているのは全部で6人。召喚者のさよりとサポートのイリヤは当然として、横浜基地代表と道案内を兼ねて、鑑純夏と社霞。高町なのはとフェイト・ハラオウンは「アースラ」代表兼護衛である。

 「アースラ」に潰された白銀武宅は仮設ながら一晩で再建されている。仮設住宅の窓や壁は全て特殊装甲で覆われ、中を伺うことは出来なかった。夕呼はさよりに、召喚についてこのように助言していた。

「この家は一種のシュレディンガーの箱。中が観測できない以上、中で何が起こっていても不思議はない。隣の銀河だろうと余所の世界だろうと、どこにつながっていても何の不思議もないのよ。

 岡島、あんたはその箱の中に召喚対象がいることをイメージしなさい。これがあたしの考え得る最も確実な召喚方法よ」

 また、夕呼はその後にこう付け加えている。

「……と言っても、今は太陽系全体が既に全長120天文単位の巨大なシュレディンガーの箱の中にある。外からの観測が不可能な以上、中でどんな奇跡が起きていようと、どんな魔法が使われていようと、何の不思議もない。あたし達はとっくにその『魔法』の影響下にあるのかも知れないわね」

「要するに、うみねこの六軒島状態ってことか」

 というさよりの理解は誰にも共有されることはなかった。

「――それじゃ始めましょうか、さより」

 イリヤの指示に従い、さよりと純夏が配置に付く。なのはとフェイトは護衛として周囲の警戒に当たる。なのははさよりからすなすなを預かる。イリヤと純夏から受け取った情報を元に『彼女』のイメージを明確化、それがこの家の中の居るものと思い込む。

(いる、いる、いる……この世界に、ここにいる……!)

 意識が二つの世界をまたぐような、いつもの感覚。さよりは確かに何かを取り寄せた手応えを感じた。

「さよりさん?」

「うん、召喚できたと思う」

 なのはの問いにさよりが答えた。

 ……そのまま、妙に間の抜けた沈黙が一同を包み込む。外からは家の中を伺うことは出来ず、家の中からは誰も出てこない。

「……開けてみようか」

 一同を代表してさよりがそう言い、家のドアに手を掛ける。が、それと同時にドアが内側から開かれた。さよりはびっくりして一歩飛び退く。

 そこから現れたのは一人の少女。体格はさよりと同程度だが、スタイルの良さは段違いだ。着ているのは長袖のセーラー服。おかっぱより少し長い髪を黄色いリボンでまとめた、勝ち気そうな美少女――紛れもなく涼宮ハルヒその人だった。








解説



○高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、クロノ・ハラオウン

 出典は「魔法少女リリカルなのは」。

 時空管理局が魔法至上主義で質量兵器アレルギーで、管理外世界に武力で干渉介入しまくり、というSSをたまに見かけますが、わざわざそんな悪意に満ちた解釈をしなくても、と思わずにいられません。

 てことで、時空管理局のあり方についてはクロノの台詞の通りの解釈です。




○イリヤスフィール・アインツベルン

 出典は「Fate stay/night」。

 イリヤスフィールの姿と性格をしているというだけで、「Fate」のイリヤ本人ではありません。

 銀河聖杯の設定は「Fate」の聖杯の設定を元にしたパチもんであり、出典は特になしです。




[13222] 第3話幕間
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/17 21:01


第3話幕間









 次元航行艦「アースラ」会議室は今、他次元・他世界出身者同士の親睦会会場といった様相を呈している。一方のちょっとした話ももう一方については新鮮で興味深いことばかりである。話のネタが尽きることはない。

 中でも、さよりの体験談は誰の話よりも出席者一同を驚嘆させていた。……誰の話よりも全員を呆れさせた、と言い換えてもいい。

「――さよりさんの話に出てきた平行警察という組織ですが……」

 真上カイエンがさよりに確認する。

「元の世界に戻してもらう時にスカウトされて、平行警察の現地監視員になったの。仕事の中身は機械の監視と連絡役くらいのもので、今はただの漂流者なんだけど」

「平行警察と時空管理局は別の組織なんですか?」

 そう霞が質問する。

「管理してる範囲が全然違うんだろうね。わたしは時空管理局なんて組織が実在してるって、今日初めて知ったよ」

「平行警察というのは……平行世界、つまりある時点までは同じ歴史を共有していて、ある時点から分岐して違う歴史を持つようになった、そういう世界のことですか? それら複数の世界を管理する警察組織があると言うことですか?」

「ええ、そうだけど、時空管理局は違うの?」

 さよりにこともなげに答えられ、クロノやカイエンは内心でひっくり返りそうになっていた。カイエン達は化け物でも見るかのような目をさよりへと向ける。

 一方なのはやフェイトは今の話に特に疑問も抱いていないようで、きょとんとした表情をクロノに向けている。クロノは、

「ゆとり仕官教育の弊害がこんなところに」

 とため息をついた。

 クロノは全員に対し、平行世界と次元世界の違いを解説する。

「時空管理局が管理する次元世界というのは平行世界とは全くの別物なんだ。なのは、よく考えてくれ。第97管理外世界・地球の衛星が一つなのに対し、クラナガンの衛星は何個だ?」

「えっと、たくさん」

 と答えたのはさよりである。

「つまりクラナガンは地球の別の姿ではなく、太陽系の惑星ですらない。地球とは全く別の星のことだ。次元世界の全ての地域がそうなんだ。あくまでも別の世界・別の星系・別の惑星、決して同じ場所の別の姿なんかじゃない。

 一方で平行世界は一つの世界の別の姿、別の可能性だ。こちらは異星人に侵略された地球、こちらは侵略のない平和な地球。過去をさかのぼれば両者は同じ歴史を持つだろう。ある時点から分岐して両者は別の可能性を持つようになったんだ」

「次元世界が五次元方向に複数の世界が並んでいるとしたら、平行世界は六次元方向に並んでいる、ということかしら」

 夕呼の確認に、「その理解で良いと思います」とクロノは答えた。

「つまり……もし『アースラ』がその六次元の壁を飛び越えてここに引っ張られたんだとしたら、この世界にもミッドチルダやクラナガンや時空管理局があったりするかも知れない、ってことよね?」

 さよりの喩えに、「そうだね」とクロノは頷いた。

「あるいは僕達の別の可能性もそこにいるかも知れない」

「クロノ君がナンパで女好きだったり、なのはちゃんが御神流無双で暗殺者だったり、フェイトちゃんの脱ぎっぷりがいまいちだったり」

 フェイトが勢い良くお茶を吹き出す。

「わたし脱いだりしません! というか、わたしどういうイメージで見られてるんですか?」

 フェイトが半泣きになりながらさよりに抗議、さよりは「ごめんごめん」と平謝りした。

「けど、平行世界間の移動の方が技術的に難易度が低そうに思えるんだけど? 魔法が絡むとそうでもないのかな」

 純夏がそう疑問を呈し、さよりが同調した。それに対してクロノはこう回答する。

「……時空管理局が把握している世界は、全て人為的に造られたものだという説がある。アルハザードの魔法使い達には不可能はなかった。彼等の植民地として生み出されたのが全ての次元世界で、アルハザードが滅んだために自らの起源と相互のつながりの全てを忘れてしまった、と言うものだ。この説には根拠や状況証拠も多く、支持する学者も少なくない。

 つまり、次元の壁に隔てられているとは言っても全ての次元世界は一つの宇宙でしかない、と言っても言い過ぎじゃない。我々はまだ別の宇宙に進出する技術を持っていないんだ」

「じゃあ次元世界にとってはわたし達が平行世界に移動・接触した最初の人間になるの?」

 フェイトがそう問い、クロノは、

「ああ、そうなる。ここが次元世界にとって本当に平行世界であれば、だが」

 とかすかに高揚をにじませつつ答えた。だがさよりが、

「あの最高評議会なら、平行世界と既に接触を持っていて、それを隠していそう」

 と呟く。クロノは思い当たる節があるのか、がっくりと肩を落としていた。







(第3話の中に上手く入らなかった説明を番外編ぽく投稿しました)




[13222] 第4話「岡島さよりの憂鬱」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/22 13:44


第4話「岡島さよりの憂鬱」その1









 ゆさ、ゆさと身体が規則正しく揺さぶられている。まるで機械でも使っているかのような正確な周期性だが、揺さぶる手から感じる躊躇いや優しさは機械のものではあり得ない。

「……ん」

 涼宮ハルヒはゆっくりを目を開けた。八割以上寝ぼけた胡乱な頭のままで、ゆっくりと周囲を見回す。横たわるハルヒの隣にしゃがんでいる長門有希。有希は制服の上にカーディガンを羽織っている。ハルヒ自身もセーラー服の制服姿である。

 どこかの屋内であることは確かだが、部屋の中は暗闇に近い。非常灯がわずかに灯されているだけである。

 約1分の時間を掛け、ハルヒの頭脳が本格的に動き出した。

「……昨日は普通に布団に入って寝たはずなのに、どうしてこんなところに? 有希、あなたは?」

「同じ」

 有希は必要最小限の単語で返答した。ハルヒは「ふむふむ」と頷きながら、もっともらしく周囲を見回している。

(……以前似たようなことはあったけど結局それは夢だったし……とてもただの夢とは思えなかったけど……もしかして古泉君主催の何かのイベント?)

「なら、とにかく動かないと始まらないわね。外に出るわよ」

 ハルヒは有希を連れて、ドアへと向かい勢い良く戸を開ける。溢れる光がハルヒの目を麻痺させる。数秒掛けて視力を取り戻したハルヒだが、依然目がバカになっているのかと疑問に思ってしまった。

 ハルヒの目の前にいるのは、6人の少女。ハルヒと同年代の3人は、揃いの黒い軍服らしき制服を身にしている。一人は赤髪の二つおさげ。肩にはフェレットを乗せている。もう一人は赤髪のロングを大きな黄色のリボンでまとめている。最後の一人は銀髪にうさぎの耳を模したカチューシャをした、白人系の少女。

 残りの3人のうち二人はハルヒ達より若干年下。種類は違うがやはり軍服っぽい制服だ。一人は栗色のサイドポニー。一人は金髪のロングで、白人系である。最後の一人は紫色の私服の少女で、やはり彼女も白人系だ。

 キョンや古泉一樹がいるものとばかり思っていたハルヒは、見ず知らずの人間に囲まれてしばしの間思考停止した。

 その間に有希がハルヒより前に足を踏み出した。見知らぬ6人からハルヒを庇うような立ち位置である。

「長門有希……なんであなたまで」

 フェレットを連れた少女が有希の名を呟いた。有希は無言のまま彼女をじっと見つめている。有希の表情には一見何の感情も表れていないように見える。だがハルヒは有希から強い敵意と警戒心を感じ取っていた。有希から敵意を向けられ、少女は息が詰まりそうな表情をしている。

「待って」

 とそこに黄色いリボンの少女が割り込んできた。有希とリボンの少女が互いの瞳を見つめ合っている。

「……有希、どうしたのよ」

 ハルヒが躊躇いがちに有希に訊ねる。が、有希は、

「何でもない」

 と言って後方に引っ込んでしまった。仕方ないのでハルヒが矢面に立つ。ハルヒは腕を組み、偉そうにして見せながら問うた。

「……で、あんた達、何?」

「わたしは岡島さより」

「鑑純夏です」

「社霞です」

「高町なのはです」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 純夏となのはとフェイトは敬礼付で名を名乗る。

「わたしはイリヤスフィール」

「長門有希」

 一連の流れに沿って有希がさらっと自己紹介を済ませる。ハルヒは傲然と胸を張り、一同に告げた。

「あたしはSOS団団長涼宮ハルヒ。ハルヒとでも、団長とでも、好きなように呼びなさい」








 事情は道々説明するから一緒に来てほしい、との純夏の提案をハルヒと有希は受け入れた。さより達は8人の大所帯で横浜基地に戻るべく歩いていた。先頭を純夏・ハルヒ・有希の3人。真ん中の列は霞・さより・イリヤ。後方になのは・フェイトという隊列である。

 旧横浜市街地は廃墟と荒野の中である。雑草が多少生えているが、植生は未だ砂漠同様であるため非常に埃っぽい。人影は全くなく非常に静かな中、ハルヒにこの世界の状況を説明する純夏の声だけが聞こえていた。

 さよりは後方から涼宮ハルヒの様子を伺っている。ハルヒは周囲の状況が気に掛かるらしく、ひたすら周囲を見回していて純夏の説明をあまり聞いていないようである。

 長門有希はセーラー服にカーディガンを羽織った、整った容貌の小柄な少女だ。ショートの髪は少し脱色していて、くすんだ灰色の色合いが加わっているように見えた。先ほどさよりに向けた敵意が嘘だったかのような、無表情・無言のままで純夏に同行している。

 さよりは内緒話を聞かれないようハルヒ達から少し距離を置き、霞に質問した。

「……長門有希、あの子はどうしてわたしにあんな敵意をぶつけてきたの? 霞ちゃん判る?」

 霞はかすかな苦笑をひらめかせた。

「自分達を突然この世界に引っ張ってきたのが、それを実行したのがさよりさんだったからです。クロノさんの言う通り、わたし達の行為はされる側からすれば拉致としか言いようがありません」

 さよりは密かに赤面した。さよりは平行世界を放浪した1年間、何度も牢屋にぶち込まれたり処刑されそうになったり生け贄にされかけたり陰謀や戦闘に巻き込まれたりと、波瀾万丈の旅を送っていた。このためユリカにより突然異世界に連れてこられたこと、それ自体はさよりにとっては大した問題にはならない。だがその感覚を他者にそのまま適用するのは、大いに問題があったようである。

「見た限りではそんな風に見えないけど、彼女はまだ怒ってる?」

「いえ、純夏さんが彼女に事情を全て話して説得して、彼女もそれで納得したようです」

 00ユニットと、情報統合思念体謹製の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスとの間では、いつの間にやら情報交換が済まされていたようである。おそらくファーストコンタクト時の見つめ合いがそれだったのだろう。

「彼女はわたし達がある条件を呑むことと引き替えに、わたし達に協力することを確約しています」

「その条件て?」

「涼宮ハルヒ、彼女の力のことを彼女自身に明かさないこと。彼女の安全を保証することです」

 さよりはその条件に納得した。

「じゃあ涼宮ハルヒ、彼女の方はどんな感じ? 想像していたよりも反応が随分大人しいんだけど」

「自分達が騙されている可能性、今自分が夢を見ている可能性を徹底的に検討しています。常識という枠組みに捕らわれているため、状況を受け入れられないようです」

 ま、普通はそうだろうな、とさよりは思う。……涼宮ハルヒを普通に入れて良いのかどうかという疑問は残るが。

 その間にも純夏の説明は最も重要な箇所へと入っていた。BETAの大群が太陽系に接近していること、それに対抗するための戦力を揃えようとしていること、その準備のために必要な人材を平行世界から集めていること。

「――そして涼宮さん、あなたがこの世界に導かれた。それは、あなたに我々が必要とする力があることの証です」

 純夏はハルヒの思考を誘導していた。ハルヒが名指しで召喚された事実を隠し、必要な力を持つ人間を無作為に召喚したら出てきたのがハルヒだった、という印象になるよう情報を操作した。

「あたしに何の力があるって言うのよ」

「それは今この場では言えません。ですが、あなたには我々が求める力があり、役割がある。そのことは忘れないでください」

 ハルヒはそのまま沈黙する。 

 ハルヒへの説明が一旦終了する頃、さより達は横浜基地に到着した。








 横浜基地に到着後、ハルヒは真っ先にトイレに向かった。その間にさよりは有希を連れて移動する。

「涼宮さんが戻ってきたら適当に誤魔化しておいて」

 純夏等にそうお願いし、さよりは有希とともに未使用の会議室にやってきた。

 有希は無言だが「何?」と言いたげにさよりを見つめている。さよりはその有希に向かい、深々と頭を下げた。

「――ごめんなさい、とんでもないことに巻き込んじゃって。わたし、あなた達の事情とか意志とか全然考えていなかった。フィクションに登場したあなた達のことしか頭になくて、心や血肉のあるあなた達のことを忘れていた」

 有希の表情は一見動きがないように見えるが、見る人が見れば驚いているように見えただろう。

「……構わない。判ってくれればいい」

 有希はぼそぼそとそれだけを言う。さよりには有希がもう怒っていないと確証は持てなかったが、怒っていようといまいと彼女の対応がいつもこんなものだと知識としては知っている。だからこの件についてはこれで終わりと区切りを付けることにした。

 さよりは話を次に移した。

「ところで涼宮さんのことなんだけど。元の世界に戻った後どうするの?」

「記憶を封印する」

 有希がそう即答する。

「やっぱりそうするんだ。じゃあこの世界にいる間は何もかも話しちゃっても構わないんじゃないの? 涼宮さんの力のことも含めて」

 さよりの疑問に対し、有希はとつとつと説明した。

「もし彼女が自分の力を自覚した場合、わたしでは彼女に対抗できなくなる。彼女の記憶を封印できないまま元の世界に戻ることになる。非常に危険」

「危険? 元の世界が、ってこと?」

「それもある。でも、何より彼女自身にとって危険」

 意外なことを言われ、さよりは目を見開いた。

「彼女が自分の力を自覚し、自分の意志によってその力を振るうなら、出来ないことは何もない。でも人間の精神はそんな力に耐えられるほど強くない。力を暴走させて自滅するか、彼女自身が暴走して地球を破壊するか、自分の力を恐れて自殺するか。結果はそのいずれかになる」

 言われてみればその通りだ。さよりは有希の説明に納得した。それと同時に、有希にとってハルヒが単なる監視対象ではないことに気付かされる。

「そっか、涼宮さんは大事な仲間だもんね。暴走なんかさせられないか」

 有希がわずかながら身体を揺らす。さよりは赤面して動揺しながら「何を言うのよ」と言う長門有希を幻視した。

「……彼女は膨大な魔力を持っている。銀河聖杯を起動できるのは彼女だけ。伝えていいのはそれだけ」

 有希が話を転じる。さよりもそれに対応した。

「それは言っちゃうんだ。大丈夫なの?」

「伝えないことには彼女は自分の役割を果たせない。膨大な魔力が内在している、だけでは彼女は自分の力を自覚できない」

 むしろ「魔力」という曖昧で怪しい言葉は、彼女の力の本質を隠蔽する役に立つだろう。

「うん、判った。じゃあその方向で涼宮さんとは話をするね」

 打ち合わせを終え、さよりは有希とともに皆のところへと戻っていった。

 ハルヒは既に純夏達と一緒にいた。ようやく戻ってきた有希達をハルヒが発見する。

「有希、どこに行ってたのよ」

 それに答えたのは純夏である。

「ごめん、涼宮さんの分と一緒に書類手続きをお願いしてたの。軍隊もやっぱりお役所だから、そういうのが必要なの」

 ハルヒからは、ふーん、と気のない返事が返ってくる。

「それじゃ案内します」

 純夏の先導でハルヒ達が動き出す。行く先は海軍港4番ドックの「アースラ」である。

 さより達8人は2台のジープに分乗して4番ドックへと向かった。さよりが乗ったのは純夏が運転するジープで、同乗者はハルヒ・有希。もう一方のジープは霞が運転している。さよりは有希に頼み、後部座席のハルヒの隣の横を席を譲ってもらった。

「……まだ夢か何かだって疑ってる?」

 しかめっ面で基地内の光景を見回すハルヒに、さよりはそう話しかけた。

「――そうね。正直言って現実とはとても思えないわね。異星人と大戦争? 日本の半分が壊滅してて、地球人口は十数億? ロボットが兵器の主戦力? あたしには秘められた力があって、運命に選ばれた? はっ、どこのラノベよ」

 ハルヒは皮肉げに口を歪めて鼻で笑った。さよりは、

「夕呼先生なら『あんたがわけわかんなくても現実は変わらない』って言うところだなぁ」

 と考えている。

「そう言いたくなるのも良く判るわ。わたしもこの世界出身じゃなくて外の世界から来たから。でも、わたし達にとってはゲームか小説の中としか思えないこの世界だけど、この世界の人達にとっては二つとない現実なのよ」

 ハルヒは大きく目を見開き、さよりを見つめた。さよりは話を続ける。

「わたし達は一時的にこの世界にお邪魔しているだけ。この世界の人達からすれば、わたし達の存在の方が夢か幻みたいなものなのかも知れない」

「……胡蝶の夢、ってやつ? 夢を見たのは蝶の方か、私の方か」

「うん、それそれ」

 さよりは不意にハルヒの手を握った。ハルヒはいきなりのことで、身を固くする。

「――わたしにはちゃんと体温もあるし、切ったら痛いし血も流れる。涼宮さん、それは今のあなたも同じでしょ? もし今見ているのが夢だったとしても、ここまで現実に即しているならそれはもう『もう一つの現実』と考えていいんじゃない?

 登場人物は想像の産物や人形なんかじゃなく、それぞれちゃんと意志と人格を持っている。次に何が起こるのか誰にも判らず、自分の思い通りになることはほとんどない。怪我をすれば本当に痛いしなかなか直らない。下手を打てば死んでしまって二度と目が覚めない。今あなたが見ているのはそんな夢なの」

 ハルヒはさよりの話を聞き、自分の考えに沈み込んだ。

「夢……平行世界……そんな超常現象、まさか、本当に……?」

 俯きながらぶつぶつ呟いているハルヒ。だんだん興奮してきたハルヒの心臓は早鐘を打ち、血液の大半が脳と顔面に集まった。ハルヒがのぼせたような顔をさよりへと向ける。

「だ、騙されないわよそんな口車に。そう、これは超常現象なんかじゃなくてただの夢。現実よりも過酷な世界で登場人物には意志も人格もあるしここで死んだら本当に死んじゃうかも知れないけど、それを除けば普通の夢と変わらないわ」

 さよりは程良くテンパりつつあるハルヒを宥めようとした。

「うんうん、ちょっと特殊なただの夢だから。深く考えずに現実と変わらないと思って対応いていけばいいわ」

 ええ判った、とハルヒが頷く。

「それであたしの力って、役目って何?! きっとあたしにしか動かせない兵器が用意されているとかよね? でやっぱりそれは巨大ロボットよね!」

 「現実」を受け入れたハルヒはテンションをほぼ垂直に急上昇させる。

「シューティングゲームは得意じゃないけど、運動神経には自信があるわ! ちゃんと特訓すればきっちりロボットを動かしてみせる! そう特訓よ! マンネリと言われようとお約束と様式美は欠かせないわ!」

「……いや、あなたの役目はそーゆーんじゃないから」

 さよりはハルヒを落ち着かせようとする。「ああ、やっぱりこの子はこーゆー子なんだなぁ」と、さよりは思わず遠い目をしてしまった。

 話をしているうちにジープは4番ドックに到着した。4番ドック周辺はクロノ達により認識阻害と人払いの結界が幾重にも展開されており、さらにその外側を横浜基地の歩兵中隊と戦術機小隊が歩哨に当たっている。ジープは歩哨の検問を通過し、そのままドックの中へと入っていく。

「こ、これが!」

 ハルヒが驚嘆の声を上げた。4番ドックの中には巨大艦「アースラ」が鎮座している。暗闇のドックの中に、修理のため外部照明を灯した
「アースラ」の姿が鮮やかに浮かび上がっていた。

「これがロボットに変形するのね!! 名前は何?! 合体機能は?!」

 ハルヒのテンションは今最高潮である。「あやば鼻血が」と顔を伏せるハルヒ。有希からちり紙を渡されて鼻を押さえるハルヒを、さより達は生温かい視線で見守った。








 「アースラ」で一番大きい会議室は、今や「BETA大群対策本部」と言うべき有様である。その部屋にはユリカが常駐し、クロノやなのは等「アースラ」主要メンバーも一日の大半をそこに詰めている。夕呼も、横浜基地よりずっと設備が整い防諜面でも安全な「アースラ」が本部となることに異存はなかった。

 さより等8人がその会議室に戻ってきて、元からいたユリカ・クロノ・カイエン・夕呼と合流。対策本部の現時点のフルメンバーが揃ったことになる。12人が会議机を囲んで着席した。

「……マックホルツ遊星は太陽系に接近するBETAの大群の斥候ではないかと考えてるんですけど、その地球最接近も目前に迫っています」

 ユリカを司会進行役として、対策本部会議が始まった。

「ですがわたし達はその前に必要な人材を全て集めました。このメンバーなら、BETAの大群にも臆する必要はありません」

 ユリカはハルヒのために銀河聖杯起動と召喚の手順について改めて説明した。ハルヒがイリヤに魔力供給・さよりが召喚対象を指定・ユリカが召喚対象の所在を確認・さよりが召喚実行、純夏がさよりの補助として召喚対象をナビゲート。

 ハルヒは不服そうに頬に膨らませた。

「あたしは単なる燃料タンクか」

 という不機嫌そうな呟きがさよりの耳に届いた。

「銀河聖杯は一度起動し召喚を実行したなら、しばらく間を起きないともう一度使うことは出来ないわ」

 イリヤが聖杯の仕様について説明する。

「しばらくというのは?」

「前例が少なすぎて判らない。短くて二、三日。長ければ数年。召喚対象が多数・強力であればあるほど休眠期間が長くなるわね」

 クロノと夕呼が互いに難しい顔を見合っている。

「正直、試験や実験もなしにぶっつけ本番の召喚実行にはかなり不安があるんだが」

「ええ確かに。でも二、三日の間というのは状況によっては致命傷になりかねないわ」

 マックホルツ遊星最接近まであと76時間だが、BETAの大群がそれとは無関係に今日、今侵攻してくる可能性もないとは言えない。それを考えれば銀河聖杯の試験や実験による召喚は出来ない、という結論となった。だがやはり不安はぬぐえない。

「大丈夫です、ちゃんとやってくれます。みんなの、さよりちゃんの力を信じるしかないと思います」

 ユリカがそう話をまとめ、クロノ達も不安を隠してそれに頷くしかなかった。そのさよりは、

「もし失敗したらわたしのせいになるの?」

 と今更ながらのことに気付いて冷や汗をだらだら流している。一方ユリカは不機嫌そうなハルヒに目を留めた。ハルヒは面白くなさそうな様子で片手で頬杖を付ながらそっぽを向いている。

「――ハルヒちゃん、何か言いたいことある? 疑問とか不満とか意見とか」

「別に何も。ご心配なく。自分の役目はきっちり果たすから」

 ハルヒはユリカの方を向かないままそう答えた。

「BETAの本隊が到着したならそれに合わせて召喚を実行します。召喚の機会は一度しかないので、その一回で可能な限りの戦力を連続召喚し、一気に本隊を殲滅します。ハルヒちゃんの魔力量があって、初めて可能な作戦です」

 銀河聖杯は魔力の供給が絶えない限りは起動し続けるし、連続召喚も可能である。これまではそれだけの魔力を供給できる契約者がいなかっただけである。

 涼宮ハルヒは自覚や意識もなく、自分の都合の良いように宇宙すら作り替えてしまう。魔法や魔術を「意志の力で現実を自分の都合の良いものに変えること」と定義するならハルヒは間違いなく宇宙最強の魔法使いであり、その魔力量も無尽蔵に等しい。

「とりあえず、準備は全て終えておきましょう。さよりちゃんとハルヒちゃんはイリヤちゃんと契約してください」

 名前を呼ばれた三人が席を立って、一箇所に集まる。さよりとハルヒは当惑したような表情を見合わせた。

「契約って、どうやるのよ」

「さあ。イリヤちゃん、どうやるの?」

 さよりの問いに、イリヤは小悪魔そのものの笑みを見せた。

「わたしのこの姿から想像できない? 粘膜接触による体液交換よ」

「な……」

 と言ったまま絶句するさよりとハルヒ。二人とも急速に顔に血を昇らせる。

「ちょっ、まっ、何でそんな方法なのよ! 他の方法はないの?!」

 ハルヒはそう喚きながら、クロノ達にも確認する。クロノは平静を装いながら答えた。

「その契約方法は確かに多くの次元世界で使われている、割合一般的なやり方だ。それに、魔法の素養がない人間でも簡単に出来るという利点がある。ミッドチルダの契約儀式は君達には難しいかも知れない」

 クロノの言葉にイリヤが追加する。

「『アースラ』の誰かがわたしと契約するならともかく、そうでないならミッドチルダの契約儀式は使えないわよ。手伝ってもらう必要はあるけれど。契約の魔方陣を描いてもらって、その中で呪文を唱えてキスによる体液交換。それで契約は完了よ」

 イリヤが契約の手順を簡単に説明した。さよりはなかなか踏ん切りが付かなかったが、ハルヒが意を決した。

「ふん! こんな幼女とのキス、仔猫に舐められるのと別に変わらないじゃない。どうってことないわ」

 イリヤは幼女呼ばわりされ、一瞬無表情になった。が、すぐに平静を取り戻す。

「契約の魔方陣をお願い」

 イリヤの依頼を受け、クロノがデバイスを使って魔方陣を展開。イリヤとハルヒがその中心で向かい合った。イリヤがドイツ語らしき言葉で呪文を唱え、最後にハルヒに問う。

「Schließt du ein Vertrag mit mir?」

「ええ、あなたと契約を結ぶわ」

 イリヤの問いに対し、ハルヒは躊躇なく答えた。ハルヒとイリヤは目を瞑り、ゆっくり顔を寄せ合った。そして、二人の唇が触れ合う。最初は唇が触れ合うだけだったが、

「むっ……! うぐっ……!」

 イリヤの舌がハルヒの口内に侵入する。逃げようとするハルヒの頭部をイリヤは掴んで話さない。じたばたするハルヒに構わず、イリヤは舌技でハルヒを蹂躙した。

 一同が赤面しながら見守る中、イリヤは散々ハルヒを弄ぶ。ハルヒがようやく解放されたのは5分以上経ってからである。脳が熱暴走を起こしてぶっ倒れているハルヒに対し、イリヤは妙に艶やかな肌と笑顔を輝かせていた。

「――さて、次はさよりね」

 イリヤは猫科の肉食獣のような瞳をさよりへと向ける。逃げようとするさよりだが、純夏と霞に捕まった。そのままイリヤの前へと連行される。

「お願い離して純夏ちゃん霞ちゃん!」

「逃げないでさよりちゃん。心配しなくても仔猫に舐められるのと大して変わらないから」

「こんなたちの悪い猫いない!」

 いないことないけどなー、等と考えているクロノやその他メンバーに生温く見守られながら、魔方陣の中の放り込まれてそのままイリヤに補食されるさより。イリヤがさよりを弄んだ時間は、ハルヒよりは短かったとだけ記しておく。

 契約の儀式が終了し、

「ま、なかなか乙なお味だったわ」

 と満腹げなイリヤ。

「……うう、ヤマグチノボルめ、赤松健め……」

 とよく判らない方向に八つ当たりしているさより。

「……女同士なんだからノーカンよノーカン」

 とひたすら自己暗示を掛けているハルヒと、対策本部は混沌とした状況になっていた。

「……涼宮さんはカウント1だっけ」

 ハルヒの自己暗示を耳にしたさよりがぼそっと呟く。

「なっ何で知って――じゃなくて! あれは夢よ夢!」

「今ここにこうしていることだって夢だって言ってたでしょ。じゃあその夢だってただの夢じゃないかも」

 うぐ、詰まったハルヒをさよりは追い詰める。

「でその彼と涼宮さんはどんな感じなの? あと彼の本名も教えて」

「そういうさよりは誰か良い人いないわけ?」

 ハルヒの反撃にわずかに動揺するさより。さよりの視線が一瞬カイエンの姿を追ったのを、ハルヒは見逃さなかった。

「……ふふん」

「な、何」

 形勢は一瞬にして逆転しさよりが不利となった。恋する乙女二人の対峙を、一同が興味半分・呆れ半分で見守っている。

「……標的を変更しようか」

「ま、いいでしょ」

 さよりは他人を身代わりにしてハルヒとの抗争回避を選択、ハルヒもそれに同意した。獲物を探す二人の視線が同時に標的を定める。

「――にゃあっ?!」

 二人の視線に捕らえられたなのはが逃げようとするが、その前に両脇
をさよりとハルヒに固められた。

「それでなのはちゃん、ユーノ君とは実際のところどうなのかな?」

「ふんふん、ユーノ君ていうんだ。どんな子?」

「あ、ユーノはなのはの魔法の師匠で」

「フェイトちゃん?!」

 なのはの表情が「ブルータス、お前もか」とばかりに絶望に染まった。いつの間にか純夏と霞もなのは包囲網に加わっており、なのはは逃げようがない。

 恋愛談義に花を咲かせる乙女達がいる一方、クロノやカイエンは、

「これで聖杯起動の準備は全て終わったと考えていいのか? イリヤスフィール」

 と真面目に仕事の話を続けている。間違っても彼女達の話題に巻き込まれないよう逃げたとも言う。

「ええ。あとは起動して召喚を実行するだけ。敵の本隊を待つだけね」

「その前にマックホルツ遊星との接触がある。我々の送ったサーチャーが明日には接触する予定だ」

「データの提供をお願いね」

「立ち会っていただいても構いませんよ」

 準備は全て終わっている、後は会敵して戦うだけだ。そしてそれはごく間近に迫っている。夕呼達はそんな確信を抱いていた。









[13222] 第4話「岡島さよりの憂鬱」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/22 13:52


第4話「岡島さよりの憂鬱」その2








 2003年10月31日。夕呼や霞は午前中から「アースラ」に移動。サーチャーをマックホルツ遊星に接触させデータ収集させる、その現場に立ち会う予定である。

 一方の純夏は朝早くから衛士訓練学校である。何故?と彼女が問われれば「夕呼先生の気まぐれです」と答えるだろう。ハルヒが戦術機操縦の訓練を受けたいと強硬に主張、夕呼が気まぐれでOKを出し、純夏はその教官役となったのだ。

 ハルヒとともに戦術機操縦訓練を受けるのは、有希・さより。なのはとフェイトは当初単なる護衛だったはずなのだが、いつの間にか訓練に加わっていた。

 さすがに強化装備に着替えたりはせず、全員普段着のままである。さより達は軍服、ハルヒと有希は北高のセーラー服だ。まずシミュレーターによる適性試験があり、さよりはふらふらになったが一応かろうじて合格。さより以外は全員高い適性を示して合格した。続いては動作教習基本課程だが、彼女達を本当に戦術機に乗せるわけではないので非常に駆け足で教習を進める。

 座学をすっ飛ばしてコックピットに座っているため、動作の一つ一つについて説明を受ける必要がある。説明があまりに多すぎてとても覚え切れず、例え覚えたとしてもそれで出来ることは前進や後退・右折左折といったごく基本的な動作だけ。正直さよりは教習を投げ出したくて仕方なかった。

 なのはやフェイトはさよりと同程度におぼつかない操縦だが、それでも真面目に教習を受けているし、特に辛そうには見えない。教習や訓練の類は管理局で慣れているからだろうか。ハルヒは退屈な教習を一番最初に投げ出してもおかしくないと思っていたが、誰よりも真摯に、熱心に受け続けていた。有希にはそもそも教習の必要などなく、付き合いで一緒に受けているだけである。彼女がその気になればすぐに白銀武並みの機動が出来るだろう。

 数時間ぶっ続けで教習を受け、休憩に入ったのは昼食の時間になってからである。ぐったりしたさよりは未だ元気なハルヒに引きずられるようにしてPXに移動した。

「――ねえ、どうして操縦訓練を?」

 さよりは合成鯨の竜田揚げ定食を突きながらハルヒに訊ねる。一方ハルヒが口いっぱいに頬張っているのは合成中華丼である。

「ん? そんなのあのロボットを動かせるようになるために決まってるじゃない。あのロボットでなきゃBETAってやつと戦えないんでしょ?」

 当たり前のことを言うようにハルヒは返答した。だがその答えにさよりは当惑する。

「わたし達の作戦が成功すれば、わたし達が戦う必要なんてないんだけど……」

 それに、今回の主戦場は宇宙空間だ。衛士でもない彼女達が戦術機を駆って戦う羽目になるとしたら、それは作戦が失敗してBETAが降下しているという最悪の事態だけである。

「自分の役目はちゃんと果たすわよ。作戦が失敗していいなんて思ってない。でも、正直言ってこの作戦は気に入らないわ」

 食べ終わったハルヒは立ち上がりながらさよりに告げる。

「召喚するだけ、戦ってもらうだけ、何もしなくていいなんて、あたしの趣味じゃないのよ」

 ハルヒはそのまま食器を片付けに行く。そしてまた教習を受けに行くのだろう。さよりは急いで竜田揚げ定食を完食し、ハルヒの後を追った。









 純夏は教習を適当なところで切り上げ、午後になったら『アースラ』に戻るつもりでいた。だがハルヒとさよりが競うように懸命に教習を受けているため、なかなか切り上げることが出来ない。そうこうしているうちにタイミングを失してしまっていた。

 同時刻、『アースラ』。同艦が放ったサーチャーは間もなくマックホルツ遊星と接触するところである。エイミィやカイエンは艦橋でサーチャーからのデータ受信を待ち構えている。夕呼と霞も艦橋での同席を許可されてそこにいた。

「データ受信開始。映像届きます」

 サーチャーが捉えたマックホルツ遊星の映像が艦橋のメインスクリーンに表示され、畏怖とも感嘆とも付かない声が上がった。夕呼もまた声を上げそうになるが、それを何とか押しとどめる。

 スクリーンに表示されているのは、前方が尖っていて後方が膨らんでいる、巨大で毒々しい色の、生物らしき何かだった。その異様な形状は人間の発想のものではなく、他星系の生物と見なす他ない。

「……これがBETAなのですか? 提供してもらったデータのBETAのどれにも似ていないのですが」

 クロノが疑問を呈する横で、エイミィが隣のオペレーターと「うわー、気持ち悪」「色だけはきれいかも」等と小声でしゃべっている。

「おそらく、今地球にいるBETAとは別系統の進化を遂げた群れに属しているのでしょうね」

 夕呼は艦橋の全員に解説してあげた。

「そもそも今地球にいるBETAにしても、共生するにも何らかの目的で造られたにしても、不自然に種類が多いし形状もバラバラで、まとまりがなさ過ぎる。多分、宇宙で最初に造られたBETAは一種類だけで、機能も単純なものだったのでしょうね。資源採掘のために他惑星に送り込まれ、そこで現地の生物と衝突し、その中で戦力を増強させ形状を多様化させていったのよ。

 BETAは接触した生物の形質を取り入れて自己進化する機能を持っていると見られている。兵士級や戦車級が人間の形質を取り入れて作り出されたBETAであることは明らか。なら、突撃級や要塞級や他の種類も、過去に接触した種族の形質を取り入れて生み出されたものと見なすべきよ」

「そしてこの遊星も、ということですか」

 クロノの言葉に、夕呼は「ええ」と頷いた。

「新確認・新種のBETA――戦艦級とでも呼称すべきかしらね」

 そうこうしているうちに、サーチャーはマックホルツ遊星――戦艦級BETAに触れんばかりに接近する。

「スキャナー起動、魔力スキャン開始します」

 魔力スキャンはどんなものの内部にも走査線を送り込むことが出来る。魔法結界でも使わない限りこれを防ぐことは不可能である。

 サーチャーが戦艦級に対し魔力を使った走査を開始した、その瞬間。

「?!」

 クロノ達が息を呑んだ。戦艦級の表面の半球状の物体が紅く輝き、メインスクリーンが沈黙した。

「さ、サーチャー破壊されました」

 オペレーターの一人がそう報告する。その報告が終わらないうちに、エイミィが悲鳴に近い声を上げた。

「戦艦級の反応をロスト! 所在把握できません!」

「カイエン、広域魔力走査の準備。範囲は第五惑星軌道圏内で」

「了解」

 だが、カイエンが何をする前にエイミィが戦艦級の所在を掴む。

「戦艦級の出現を確認! 場所は――月軌道!!」

 驚愕が颶風となって艦橋を突き抜けた。

「BETAが空間跳躍を?! そんな馬鹿な!」

 常識を覆された夕呼がたまらず怒鳴り声に近い声を出す。クロノ達にはそんな夕呼に構っている暇がない。

「戦艦級、地球に向けて急速接近! 速度は光速の9パーセント! 推定目標、本艦!」

「全艦緊急発進! 全員衝撃に備えろ!」

「戦艦級に高エネルギー反応!」

 「アースラ」が4番ドックの屋根を突き破って緊急浮上。その直後、4番ドックに光の砲弾が降り注いだ。巨大ドックが跡形もなく吹き飛び、「アースラ」も爆風に煽られて流される。

「きゃあぁっ!!」

 艦内はミキサーにかき回されているような状態となった。夕呼や霞は手近な椅子やモニターに必死でしがみつく。

 戦艦級からの攻撃はさらに続いた。強力な光弾が陸地に突き刺さり、海面に水柱を生み出す。「アースラ」操舵士は体勢を立て直すべく必死になって操縦する。戦闘機並みの機動により「アースラ」は何とか戦艦級からの砲撃を避け切った。

「横浜基地が……」

 砲撃の流れ弾を受けた横浜基地は甚大な被害を受けたようだった。今の霞はモニターから基地の様子を伺うことしかできない。

「香月副司令。本来なら戦闘開始前に退艦してもらうところですが、そんな余裕はなさそうです」

「余裕があっても降りるつもりはないわよ」

 クロノの気遣いに対し、夕呼は笑い飛ばすようにそう告げた。

「戦艦級から小型種分離! 数は100以上、急速接近!」

「全艦最大戦速! 振り切れ!」

 戦艦級から分離したのは戦術機と同スケールの、昆虫みたいな形状のBETAである。100以上出現したそれらは大気圏を突入し、マッハで空中を飛行し「アースラ」に殺到する。「アースラ」は急速上昇で大気圏外に脱出、小型種の半数を振り切った。振り切られた数十体の小型種がそのまま横浜基地へと流れていく。

「副司令、小型種が横浜基地に」

「今は他人の心配をしている場合じゃないわよ、社。とにかくこの戦闘を乗り切らないと基地の救援にも行けないわ」

 夕呼は霞を落ち着かせる。そして「とりあえずあの小型種は『艦載機級』とでも呼びましょうか」とクロノに告げた。









 一方横浜基地。突然の砲撃により基地が受けた損害は小さくない。それでも何とか総員が戦闘配置に付いた頃、艦載機級の群れが基地に殺到した。高射砲が砲撃し、戦術機が突撃法を撃ち放つ。

 衛士訓練学校の校舎から飛び出したさより達が目にしたのは、我が物顔で空を飛ぶ艦載機級と、地上からの砲撃だった。砲撃を受けた艦載機級が爆散・墜落していくのが見える。だが慣れない対空戦を強いられている横浜基地側は苦戦しているようだった。

「BETA? 一体どこから?!」

「空戦タイプ? あんなのがいたの?!」

 さよりとハルヒは呆然としたまま激しい空戦を見上げている。艦載機級の姿は昆虫か甲殻類に良く似ていて、兵士級や戦車級よりは真っ当な生物に近いように思えた。純夏は厳しい表情でデータリンクで得た情報の分析を進めている。一方なのはとフェイトは、

「レイジングハート」「バルディッシュ」「「セーット・アップ!!」」

 二人は変身してバリアジャケットを身にまとった。それは戦闘を眼前にした空戦魔導師としての本能みたいなものだったが、この場合はそれが裏目に出た。

「動きが変わった? ――こっちに向かってる!」

 横浜基地をかき回すように攻撃していた艦載機級が、突然動きを変えた。全個体が一斉にさより達の方へと殺到してきている。慌てて物陰に隠れるさより達。なのはとフェイトはその場から飛び上がり、砲撃魔法を放つ。それで仕留められたのは2体だけだ。残り数十の艦載機級となのは・フェイトによる命がけの鬼ごっこが始まった。








 一方衛星軌道上の「アースラ」。一見「アースラ」と戦艦級は熾烈なドッグファイトを演じているように見えるだろう。だがその実、「アースラ」は戦艦級の追撃から必死に逃げているだけだった。「アースラ」の通常武装は艦載機級には効果的でそのほとんどを撃破したが、肝心の戦艦級には全く通用しなかったのだ。

「アルカンシェルを搭載していなければ手も足も出ないところだったが」

「使えなきゃ意味がないわね」

 クロノ達はアルカンシェルの破壊力には絶対の自信を持っている。だが魔力チャージのために一定時間が必要であり、その間「アースラ」は無防備になってしまう。

「何とか時間を稼げる場所まで移動できれば……」

「それならここに移動すると良いわ」

 夕呼が指し示したのは地球に一番近いラグランジュ点である。そこは移民船団建造の廃材が放置されたため、人工的な岩礁となっている。クロノは夕呼の提案を受け入れ、「アースラ」を一路ラグランジュ点へと向かわせた。最大戦速で加速をし続けた「アースラ」はものの十数分でその地点に到着する。

「よし、光学迷彩結界展開。あの岩礁で身を隠す」

「艦長! 現地世界の宇宙軍の戦艦を捕捉! 数は10!」

 そこにあったのは、国連航空宇宙軍(実質的には米軍)の宇宙艦隊である。クロノは思わず夕呼の顔を凝視した。夕呼は悠然とした笑みを湛えてクロノを見返す。

「……あなたは、味方を囮に」

「元々BETAは彼等の敵なのよ? 遠慮する必要なんかないじゃない。それに、あれだけの戦力があれば戦艦級だって目じゃないかも知れないわよ?」

 夕呼は自分でも全く信じていない言葉でクロノの追求を逸らした。移民船団を改修した宇宙戦艦はオルタネイティブ5の手駒であり巣窟であると言っても過言ではない。夕呼にとっては味方とは言い難い連中なのだ。

 光学迷彩結界を展開した「アースラ」は地球側の艦隊に見つかることなく岩礁に潜り込んだ。「アースラ」はアルカンシェルの砲撃準備を全力で進める。

 その間に、戦艦級は地球側艦隊と接触しようとしていた。地球側艦隊が先制攻撃でミサイルを撃ち放つ。

「ミサイル、戦艦級に着弾! ――重力崩壊現象を確認! 衝撃波来ます!」

「G弾を?!」

 霞は目を見張った。いくら戦艦級が強力でもG弾の直撃に耐えられるとは思えない。勝負はこれで着いた、霞はそう考えた。衝撃波を受けて激しく揺れる「アースラ」の中で、夕呼もそう思っていた。だが、

「映像回復します。――戦艦級を確認! 健在です!」

 メインスクリーンに映し出された戦艦級は確かに血を流し、かなりのダメージを受けていた。だがG弾の直撃を食らって生きていること、原形を留めていること自体がおかしいのだ。夕呼が思わず毒づく。

「馬鹿な! あいつ、本当にBETAなの?!」

 戦艦級が光弾を放ち、地球側の戦艦を次々と貫く。地球側艦隊はあっという間に1隻残らず全滅した。だがその数分は「アースラ」にとって値千金だった。

「アルカンシェル、魔力チャージ完了! バレル展開!」

「戦艦級急速接近! 安全距離を確保できません!」

「発射後にシールドを全力で展開しろ! アルカンシェル発射!!」

 アルカンシェルから放たれた凶悪な魔力フィールドが戦艦級を包み込み、そのまま空間ごと戦艦級を切り刻み、ひねり潰し、押し潰そうとする。だが、それですら戦艦級を殺し尽くせなかった。

「そんな……」

 エイミィ達は呆然とする他ない。戦艦級はアルカンシェルの魔力フィールドを、部分的ながら突き破っていた。頭部と思しき部分が魔力フィールドの外に出てきて、本体から頭部が切り離される。全身の9割は根こそぎ破壊されながらも、残りの1割は余命を保った。その1割、頭部と見られる部位が「アースラ」へと最後の突撃を敢行する。

「左舷回頭、避けろ!」

 戦艦級頭部が「アースラ」に高速接近、何とか避けようとする「アースラ」の左舷後方エンジンブロックに突っ込んだ。「アースラ」はエンジン一つを失いながらも、戦艦級に対しゼロ距離砲撃、戦艦級の身体を突き放す。さらに極近距離連続砲撃を慣行、戦艦級は爆散した。

 戦艦級爆沈の衝撃波を直撃される「アースラ」。戦闘が終わった時、「アースラ」は沈没していないのが不思議なくらいの満身創痍となっていた。







 一方横浜基地。時刻は若干前後する。

 なのはとフェイトは自分に光学迷彩結界を展開して空中戦を行っていた。光学迷彩と言っても光の球をまとっただけの簡単な代物だが、横浜基地の兵士達に顔や姿を見られないためだけならこの程度で充分だ。

 ピンクや金色に輝く光の球が艦載機級と展開する空中戦は、さよりの目には幻想的なもののように見えた。だが当事者のなのはとフェイトは生き延びるために必死である。

「くっ、牽制用の小技程度じゃ傷一つ付けられない。全力に近いディバインバスターじゃなきゃ撃破不可能。スターライトブレイカーなら一掃できるかも知れないのに」

 なのはの戦況分析は段々愚痴っぽくなった。最大砲撃で敵を一掃するための時間がほしいのだが、敵はそれを作らせてくれない。多数の敵が間断なく前後左右上下から突撃してくるため、避け続けるので精一杯である。

「……まずい、このままじゃ」

 フェイトの方はまだ余裕があるようだが、なのはは避けるのも苦しくなってきつつあった。多少無茶をしてでも勝負に出るべきか、と考えていた時。

(なのはさん、フェイトさん、敵を4番ドック上空に誘い出してください)

 純夏はプロジェクションを使って二人にそう要請した。純夏に何らかの作戦があることを悟った二人は要請に従って4番ドック方向へと向かう。それを艦載機級が追撃する。

 4番ドックは戦艦級の砲撃により跡形もなくなり、円形の湾となっていた。なのはとフェイトが艦載機級を引き連れるようにしてその上空にやってくる。陸地からそれを待ち構えていたのは純夏と1機の戦術機、不知火。それにさよりとハルヒである。

 なのはとフェイトが敵を引きつけるため若干速度を落とし、4番ドック跡地の海面すれすれを疾走する。それを艦載機級が一団となって追尾。不知火が榴弾砲を発射。なのはとフェイトが速度を上げて艦載機級の一団を一気に引き離し、艦載機級が速度を上げてなのは等を追おうとしたその時。不知火が放った榴弾が艦載機級の鼻先で炸裂した。

「きゃっ……!」

 さより達は咄嗟に目を庇った。S-11榴弾が光と熱となって艦載機級の一団を飲み込んだ。小型のキノコ雲が4番ドック跡地に立ち昇る。

「凄い……これなら」

「いえ、全部は仕留められなかったみたいです」

 爆風を逃れた5体の艦載機級がなのはとフェイトへと向かっている。だが二人は動じなかった。

「フェイトちゃん時間を稼いで! スターライトブレイカーで決りを着ける!」

「了解!」

 フェイトが5体の艦載機級の中に飛び込み、艦載機級を攻撃、そして逃げる。艦載機級が5体ともフェイトを追い、なのはは少し離れた場所で魔力をチャージし続ける。なのはに向かおうとする艦載機級はフェイトが、純夏の横の不知火が牽制し近づけさせない。

「フェイトちゃん!」

 フェイトは無言で頷き、なのはのために射線を開けた。

「いくよ……! スターライトブレイカーーぁっ!!」

 放たれた桃色の奔流が艦載機級を押し流し、押し潰す。艦載機級は次々と打ち抜かれ、打ち砕かれていく。物理破壊属性を最大にしたスターライトブレイカーの破壊力は戦艦の砲撃と大して変わらない。この世界の軍艦を撃沈することも可能である。

「……何、あの子。本当に人間?」

 と唖然とするハルヒ。なのはの力を知識としては知っているさよりはハルヒほどは驚いておらず、ハルヒの言葉に苦笑を漏らした。

 敵を撃破し、安堵の吐息をつくなのは。だが、

「――だめ! まだ敵が」

 1体だけだが艦載機級が生き残っている。全身ボロボロのその個体は最後の力を振り絞ってなのはへと突撃を敢行する。魔力を使い果たしたなのははそれに反応できない。艦載機級がなのはに特攻し、なのはの身体を打つ砕かんとするその瞬間。

「――フェイトちゃん!!」

 フェイトがなのはに体当たりするようになのはを抱いて、艦載機級の突撃を逸らす。だが完全には躱し切れなかった。艦載機級の身体の一部がフェイトの背中に当たる。フェイトは背中を殴られ、斬られ、血飛沫を散らした。

 なのはを抱いたまま墜落するフェイト。さらにそれを追おうとする艦載機級だが、不知火の突撃砲一斉射によりようやく撃破された。

 フェイト達は陸地に墜ちようとしていた。さより達は反射的に墜落予測地点へと走り出している。

「ええいいっっ!!」

 さよりが全身全霊を懸けてその力を行使、墜落予測地点にクッションを用意する。クッションはアクション映画のスタント等に使われるような、10m四方もある大きなものである。フェイト達はその中に飛び込んだ。

 ようやく墜落地点に到着したさより達は壁を乗り越えるようにしてクッションの上に登る。そこには、うつぶせで倒れるフェイトを抱いているなのはの姿があった。

「フェイトちゃん、フェイトちゃん……!」

 なのはは嗚咽を漏らしながら片手でフェイトを抱き、もう片手で治癒魔法を行使し続けている。

「……うぐ」

 傷口を覗き込んださよりは目を逸らした。フェイトの背中はざっくりと傷口が開き、白い骨が見えている。流れる血は止まろうとしなかった。

 そこに不知火を連れた純夏も到着、不知火からは有希が降り立った。フェイトの元にやってきた有希は、治癒魔法を行使するなのはの手に自分の手を添える。なのはは思わず有希の目を見た。

「落ち着いて」

 それまで大して効果のなかった治癒魔法が突然めざましい効果を上げた。血が止まり、折れた骨が元に戻り、切れた神経や血管がつながっていく。さよりは、有希が情報操作によりフェイトの治療を行っていることを理解した。

「あなたは一体……」

「あなたの治癒魔法の力。わたしは何もしていない」

 ハルヒ達の事情をある程度聞いているなのはは、有希の言葉を受け入れた。

「どう? 直りそう?」

 包帯やら傷薬やら、治療に使えそうなものを片っ端から取り寄せながらさよりが訊ねる。なのは涙をぬぐいながら答えた。

「応急処置は何とかできたから、今すぐは生命に別状はないわ。でも早く本格的な治療を受けさせないと」

「もうすぐ『アースラ』が戻って来るみたい。そこで見てもらおう?」

 純夏の言葉になのはは頷いた。やがて、戦闘でボロボロになった「アースラ」が降りてきて東京湾に着水。迎えの連絡艇がやってくる。さより達は連絡艇で「アースラ」へと向かった。

 ハルヒは連絡艇の窓から、甚大な被害が出た基地内を見下ろした。あちこちから煙が立ち昇り、兵士や重機が忙しく動き回っている。

「……何も出来なかった。何のためにあたしはここにいるのよ」

 ハルヒは悔しげな顔を俯かせた。









 「アースラ」は満身創痍、沈没寸前といった有様だった。

 フェイトは医務室に運ばれ、最優先で治療を受けている。多くの怪我人の中で最も重傷なのがフェイトだった。奇跡的に死者はいない。

 会議室、BETA対策本部。そこにはクロノの他、夕呼・霞・ユリカ・イリヤが集まっている。クロノは艦橋のエイミィから艦の状況について報告を受けていた。

「左舷エンジンは完全に潰れてて、修理の当ても見込みもなし。右舷エンジンも同じく不調」

「仕方がない。左右のエンジンは諦めて、中央エンジンを共食い修理で直してくれ。最低限、次元航行が出来ればいい。どのくらい掛かる?」

「丸1日はほしいって」

「手の空いた人間は全員機関部の応援に回ってくれ。それで何とか、2~3時間で直してほしい」

「言ってはみるけど……。ブリッジも、わたし以外は応援に行ってもらうから」

「頼む」

 エイミィとの通信を終えたクロノは、深々とため息をついた。

「状況は芳しくないわね」

 夕呼の揶揄するような言葉に、クロノは真面目に返した。

「全くです。死者が出なかったのは不幸中の幸いでしたが……」

「横浜基地の方は何人か死んだみたいだけど」

 クロノは自分の不用意な言葉に、内心舌打ちした。

「失礼しました。お悔やみします」

「BETAと戦ってるんだから死者くらい出るわ。この程度で済んだのだから被害は少ない方よ」

 夕呼はクロノの言葉を軽く受け流した。

「ところでこの艦、この世界の人間には見つからないでしょうね」

「光学迷彩結界を展開しています。レーダーにも写りません」

 ならいいけど、と夕呼は呟いた。

「この艦が横浜基地に停泊していたこと、マックホルツ遊星と戦ってこれを撃破したことは世界中に知られたわ。基地司令のところには問い合わせが殺到しているそうよ」

 夕呼は他人事のようにクロノに報告する。クロノは頭痛を堪えているような様子である。

「この世界の政争や紛争に関わるつもりはありません。可能な限り速やかに横浜基地を退去しますので」

「心がけは結構ね。もう手遅れのような気もするけど」

 クロノが胃痛を併発しそうになっているところに、さよりやハルヒ、純夏・有希・なのはが戻ってきた。医務室のフェイト・機関部の応援に行っているカイエンを除き、対策本部のフルメンバーが揃ったことになる。一同が着席し、会議が始められる。

「夕呼先生、一体何が。マックホルツ遊星は」

 待ちかねたように夕呼を問い詰めようとするさよりを、クロノが抑えた。

「マックホルツ遊星は宇宙戦艦サイズの強力なBETAだった。『アースラ』はこれと戦い、多大な被害を出しながらも撃破した。これがそのBETAだ。戦艦級と呼称している」

 クロノは端末を操作し、戦艦級の映像をモニターに表示させる。それを目にしたさよりは、思わず椅子を倒しながら立ち上がっていた。

「――BETAじゃない?! まさか……」

 蒼白になり、声を震わせるさよりに、クロノが、夕呼が、問う。

「さより、これを知っているのか?」

「BETAじゃないというのはどういう意味?」

 さよりはそれを聞いていなかった。記憶の中のその姿と、モニターの戦艦級の映像を重ね合わせる。――どう考えても両者は同一であり、それを否定する要素はどこにもなかった。

「まさか、まさか……宇宙怪獣?」

 艦橋のエイミィから緊急通信が入った。

「クロノ君、敵が、敵が……」

 エイミィは蒼白となっていた。声と手を震わせながら、エイミィは索敵情報を会議室のモニターへと転送した。土星軌道までを範囲とした広域魔力走査が敵の接近を知らせている。

「BETAの大群が空間跳躍で太陽系に、第五惑星軌道圏内に出現してる……出現し続けてる」

 敵総数は――100万。さらに敵は増え続けている。

「……」

 対策本部は冷たい沈黙で満たされた。敵はなお増え続ける。

「……ここに表示された数字は、艦載機級も含めてか?」

 クロノはかすれた声でそれを問う。エイミィは頭を振った。

「ううん、戦艦級より小さい反応は全部無視してる」

 そんな話をしている間に、敵総数は300万を突破した。それでもなお増え続ける。

 なお増え続ける。誰一人、声を出すことも出来ない。カウンターが数字を刻む音だけが虚ろに響いている。なお増え続ける。

「はは……」

 夕呼は虚ろな嗤いを漏らすことしかできなかった。敵はなお増え続ける。







 敵総数は、1億を超えたところで計測不能となった。






「到着したのですね。やつらの本隊が」

 さより達の誰のものでもない声が聞こえた。一斉に振り返るさより達。それまで誰もいなかったはずのそこに立っているのは、彼女達が初めて見る女性である。

「あなたは……」

 ユリカだけは彼女と面識があった。そしてさよりも彼女のことを、知識としては知っている。

 年齢はおそらく20歳前後。全身を覆う、黒いボディースーツのような姿。長く美しい髪と、不思議な形の光彩。

「……ニア?」

 彼女の名はニア・テッペリン。または、アンチスパイラルのメッセンジャーと名乗っていた女性である。








[13222] 第5話「天元突破岡島さより」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/28 15:54

第5話「天元突破岡島さより」その1








  2003年10月31日04時12分。アメリカ、ヒューストン。国連航空宇宙軍外宇宙監視局。

「何だ?! 何が起こっている?!」

「あの光の渦は、一体……?」

 監視局職員達は半ばパニックになりながらも、観測を続けている。

 まるで決壊したダムから水が溢れ出すような勢いで、何もない空間から光が涌き出てきている。光の奔流は渦を巻いて太陽系へ、火星軌道へと流れ込んでいる。まるで火星軌道上に突然銀河系が出現したかのようだ。

「空が……明るい。まるで昼間だ」

 無数の光点は地球から見て太陽とは反対側のほぼ全天を覆っている。白が七分に黒が三分どころではない。白が九分九厘である。本来は夜の領域のはずの太陽の反対側は、まるで昼間のように明るかった。

「……国防長官……いや、大統領へのホットラインを。至急連絡だ」

 だが同時刻、アメリカ大統領は国防総省からの緊急報告を受けていた。

「BETAの総攻撃?」

「はい。ヴェルホヤンスク・ハタンガ・アンバール・ブタペスト・ミンスク・ロギニエミ、各ハイブからのBETAの出現を確認しています。総数不明。BETAは各ハイブの観測基地を破壊。その後前線基地へと突撃、現在交戦中です」

「ちょっと待て。観測基地を破壊?」

 各ハイブ近隣に設置された観測基地は、BETAの侵攻ルートからは外れた場所にあり大した武装もしていない。人類を障害物あるいは自然災害としか見なしていないBETAはこの観測基地をわざわざ破壊したりはしなかったのだ――これまでは。

 大統領の訝しげな問いに、国防長官は生真面目に答える。

「はい。BETAは前例のない動きをしているようです。現在情報部が全力で情報収集に当たっています」

「何が起こっている……?」

 その答えを知る者は地球上には誰もいなかった――横浜にいるさより達を除いては。








 日本時間18時12分、次元航行艦「アースラ」。その会議室。

「ニア……さんというのね、彼女は?」

 ユリカがさよりに確認する。混乱状態のさよりは頷くだけで精一杯である。

「そう――ニアさん、あなたが展開していた防壁はどうなったんですか? 破られてしまったの?」

「まだ展開中ですが、敵の目から逃れて時間を稼ぐという役割はもう果たせなくなりました」

「こちらの準備は全て終わっているから時間を稼ぐ意味はもうないけど……まさかこれほどの大群なんて……」

 ユリカはそう呟き、目を伏せる。ニアはそれに構わず、仮面のような感情の判らない顔をさよりへと向けた。さよりは小さく身を震わせる。

「岡島さより、銀河聖杯の起動を。敵を撃滅します」

「ちょっと待って! あなたは一体何?! その姿は、アンチスパイラルのものじゃないの?!」

 さよりは振り絞るようにそう問うた。そんなさよりを純夏が宥めようとする。

「さよりちゃん落ち着いて。敵が、BETAが動き出している、時間がないわ」

「でも!」

 むきになってニアに詰めようとするさよりだが、鉄壁に見えるニアの無表情の中にわずかに哀しげな感情の動きを見出した。それでさよりの頭が冷え、少し冷静になった。

「……ニアさん、最初から説明してもらえませんか? あなたはアンチスパイラルじゃないの? あの敵は宇宙怪獣じゃないの?」

 さよりの真剣な視線を受け、ニアが沈黙する。わずかな逡巡の後、ニアは「判りました」と返答した。「時間がない」と言っていた純夏もそれ以上口を挟まなかった。








「あなた方がBETAと呼ぶ敵。さよりさんが宇宙怪獣と呼ぶ敵。それらは螺旋族殲滅のためにアンチスパイラルが作り出した種族体系です」

 ニアの説明はそんな結論から始まった。螺旋族とアンチスパイラルについてはさよりが補足説明をする。

 螺旋族とは人類のような二重螺旋構造の遺伝子を持つ種族で、螺旋力というエネルギーを持っていること。螺旋族の過剰進化・螺旋力の過剰使用が宇宙を滅ぼすことに気付いたアンチスパイラルが、宇宙を守るために螺旋族を滅ぼすと決めたこと、等。

「あらゆる銀河、あらゆる宇宙に蔓延する螺旋族全てを滅ぼすことはアンチスパイラルにとっても困難なことでした。このため、アンチスパイラルはより効率的な螺旋族殲滅システムを考案し作成したのです。

 そのシステムは生み出された当初は一体だけ・一種類だけで、機能も単純なものしか持っていませんでした。ですが、そのシステムは自己増殖・自己進化機能を有していた。螺旋族のいる惑星に送り込まれ、そこで現地の螺旋族と接触し、その螺旋情報を取り入れて進化を果たし戦力を向上させ、増殖により戦力を増強させる。

 このシステムは敵対する螺旋族がいる限り無限に増殖し、無限に進化する。アンチスパイラルは気付いたのです、このシステムがスパイラル・ネメシスそのものであることに。このためこのシステムに属する種は一旦は全て滅ぼされ、システムのコアは――アンチスパイラルはネメシスと呼んでいましたが――封印されました。

 ですがグレン団との戦いによりアンチスパイラルが倒され、封印が解けてしまった。脱走したネメシスは宇宙の果て、次元の果て、平行世界の果てへと逃亡していきました。ネメシスの目的は螺旋族の殲滅、それは今も変わりません。

 ネメシスは逃亡中のあちこちの宇宙に自分の種子を撒いていきました。それらはそれぞれの宇宙で全く違う進化を遂げ、増殖により獲得した膨大な戦力でそれぞれの宇宙の螺旋族を脅かしています。それらは宇宙ごとに違う名前で呼ばれています……ザナックス、ネウロイ、バーサーカー、レギオン、ヴァジュラ、宇宙怪獣、そしてBETA。

 これらの種の中で最も戦闘力を洗練されたのが宇宙怪獣と呼ばれる種です。ネメシスは直営戦力にこの宇宙怪獣を選びました。そして、自分の手で螺旋族を殲滅しようと動き出している」

 ニアが天井を見上げる。その視線の先には数億の宇宙怪獣の群れが渦を巻いているはずだった。

「あの敵の本隊、あの中心にネメシスは存在しています。

 ――ネメシスの脱走に気付いたアンチスパイラルは最後の力を使って、自立存在でき自律行動できるある仮想生命を生み出した。その仮想生命の役目はネメシスを完全に滅ぼすこと。それがわたしです」

 さよりは躊躇いがちに彼女に訊ねる。

「……じゃあ、あなたはニア・テッペリンじゃないの?」

「確かにわたしはニア・テッペリンと呼ばれた仮想生命を元に、その記録と情報を引き継いで作り出されています。ですがわたしはニアではありません」

「シモンさんには会いたくないの?」

 さよりのその問いに、彼女は誰の目にも見える動揺を示した。その様子に、さよりがようやく安堵の笑みを見せる。

「シモンさんへのその想いを引き継いでいるのなら、あなたはニアさん本人じゃないのかな。あなたがわたしの知ってるニアさんなら、わたしは安心してあなたを仲間として迎えられる」

 そしてさよりは一同を、頼もしい仲間達を見回した。

「ユリカさん、純夏ちゃん、イリヤちゃん、ハルヒちゃん、やろう。召喚を始めよう」

 さよりの念頭にあるのは、グレンラガンでありガンバスターでありバスターマシン7号である。ニアがここにいる以上グレンラガンが実在するのは言うまでもないし、敵が宇宙怪獣ならそれと戦ったガンバスター達を召喚しようとするのも当然である。それだけの戦力があれば宇宙怪獣もネメシスも敵ではない、さよりはそう思っていた。








 地球の衛星軌道。宇宙怪獣の大軍団の先鋒は既にここまで到着していた。宇宙怪獣が兵隊――こちらの世界では艦載機級と呼ばれた小型種を放出、無数の艦載機級が地球に降下する。艦載機級が向かった先は北米大陸、次いで日本である。

 一方横浜基地の沖合、「アースラ」。

 さより達は会議室から移動し、甲板にやってきた。太陽は既に沈み、月の代わりに全天を覆う巨大な星雲が地平線から昇ってきている。銀河のような姿のそれは、宇宙怪獣の大群だった。

「あ、あれが……全部敵?」

 ハルヒがそのまま絶句する。クロノは拳を握り締め、夕呼は乾いた笑いを漏らした。

「ここまで戦力差があるとむしろ清々しいくらいね。悪あがきする気も起こらないわ」

 そんな夕呼に純夏が報告をする。

「これまでにないBETAの大群が人類の生存圏に向かっています。米軍の観測では、地上の全てのハイブから全てのBETAが出撃しているのではないか、ということです」

「空の連中と呼応しているのかしら」

 夕呼の疑問に、「その通りです」と答えたのはニアである。

「BETAと呼ばれる種は、ネメシスが撒いた種子をある珪素系生命体が資源採集用に改造したものです。このため資源採集を口実としつつ螺旋族を殲滅しようとする、奇妙な行動原理を持つようになりました。

 ですが、ネメシスがBETAに対して絶対命令権を有することには変化がありません。ネメシスはBETAに人類殲滅を最優先命令で出したのだと思います」

 それを聞いたさよりは「じゃあ地上の方も何とかしないと」と再度気合いを入れた。

「さよりさん、お願いします。この星を、人類を救ってください」

 霞が精一杯の気持ちを込めてさよりに願う。さよりは「うん、判った」と頷いた。

 「アースラ」甲板。その中央にさよりとイリヤが向かい合って立ち、その周囲にユリカ・純夏・ハルヒが並ぶ。その外側から、霞・夕呼・クロノ・なのは・有希、そしてニアが見守っていた。

「イリヤちゃん、お願い」

「判った――Anfang」

 イリヤの身体から金色に輝く魔力の奔流が溢れ出る。さよりは思わず手で顔を庇おうとした。だがその前にさよりの意識がどこでもない場所へと飛ばされる。さよりの意識が世界を超え、次元を超える。無限に広がる平行世界、無数に連なる宇宙。さよりの意識がそれらの姿を掴んだ。

「――え」

 気が付いたら、さよりは元の場所に戻っていて、目の前にはイリヤがいた。意識を飛ばしていたのは一瞬だけだったらしい。

「銀河聖杯は起動したわ。さよりの意識は今わたし達を通じて、あらゆる宇宙、あらゆる平行世界につながっている。そこから誰を召喚するか、あとはさより次第よ」

 イリヤの言葉にさよりは頷いた。目を瞑り、祈るように手を合わせたさよりはその意識を銀河の果て、平行世界の果てへと延ばした。光速の何千億倍の速度でさよりの意識が星々の海を翔けていく。幾千の平行世界、幾万の銀河、幾億の地球を通り過ぎ、さよりは求め願った世界へと行き着いた。

(グレンラガン……シモン……グレン団……! お願い、わたし達を助けて、この世界を救って……!)

 さよりの意識は確かにその英雄達を捉えていた。








 H11・ブタペストハイブ近く。

 ハイブから溢れたBETAの群れは津波となって大地を覆っている。もし航空機からこの大地を望めるなら、地平線の向こうまで大地を埋め尽くしたBETAが虫のように黒々と蠢いているのが見えるだろう。

 EU軍の戦術機が必死にBETAの群れを押し止めようとしているが、まさしく蟷螂の斧である。全滅は時間の問題だった。

 その時、古参の歩兵の一人が聞き慣れない音を聞いて空を見上げた。巨大な何かが力任せに空気を切り裂き、空を飛ぶ音――光線級の登場以降久しく聞かなかった音である。

「な――」

 空を飛んでいたのは、巨大な昆虫だった。要塞級並みに巨大な昆虫型飛行体が、音速で空を飛んでいる。何千という昆虫の群れはそのままの勢いでBETAの大地の中に突っ込んだ。BETAの群れがその昆虫にたかり、しがみつき、昆虫の巨大な身体を覆い尽くしてしまう。

「BETAに食われている?」

「まさか、BETAの敵なのか……?」

 その淡い期待は最悪の形で裏切られた。昆虫はBETAをしがみつかせたまま、空を飛んでいく。全ての昆虫が同じ方向へと向かっている。その方向の先にあるのは、ウィーン、ブリュッセル、そしてブリテン島。

「……まさか、まさか……BETAを輸送しているのか?!」

 ブリュッセルのEU軍基地が空からBETAの群れに襲われるのは、それから間もなくのことである。








 「アースラ」甲板上。さよりは目を瞑り手を合わせた祈りを捧げるような姿勢のまま身動き一つせず、懸命に召喚を試みている。

 周囲のユリカや純夏達は腑を焼かれているような焦燥を抱きながらも、さよりを見守ることしかできなかった。

(西暦2048年の地球、バスターマシン1号、2号、タカヤ・ノリコ……)

 さよりの意識がその世界の「星々の記憶」にアクセス、そこに刻まれた彼女達の勇姿を目の当たりにする。

(お願い……! 来て、この世界を救って……!)

 さよりの呼びかけは間違いなく彼女達に届いていた。








 北米大陸、ニューヨーク。

 衛星軌道より飛来した艦載機級の群れはニューヨークを空襲した。長距離攻撃の手段を持たない艦載機級は、節足を振り回してビルを破壊し、体当たりで林立する摩天楼を突き崩した。

「くそおっ! こいつら! こいつらぁ!」

 出撃した戦術機が迎撃。慣れない対空迎撃に戸惑いながらも、その戦術機は艦載機級の一匹を突撃砲で穴だらけにする。失速した艦載機級はビルの一つに激突し、ビルごと爆発四散した。

「ちくしょう……! 俺達の街を……」

 その衛士は次の目標に狙いを定める。だが、彼は上空から降ってきたビルの残骸に戦術機ごと潰されて果てた。

 ニューヨークを救援するため、アメリカ大西洋艦隊がノーフォークを出撃する。だがその艦隊に艦載機級の群れが襲いかかる。両者はノーフォークの沖合で戦端を開いた。

 戦艦マサチューセッツの主砲が火を噴き、空中で炸裂。数十の艦載機級がその一撃で粉微塵となり、乗組員は歓声を上げた。だがそれが悲鳴に変わるのに、それほど長い時間を要しなかった。

 マサチューセッツの対空砲火をかいくぐり、艦載機級がその横腹に体当たりする。たった一匹の、ただの一撃。それだけで、マサチューセッツは戦闘不能となった。マサチューセッツの横腹には巨大な穴が空き、艦体はくの字に曲がっている。海水が艦内に流れ込み、あっという間に傾斜。マサチューセッツはそのまま横倒しになって、沈没した。

 大西洋艦隊の艦艇50余隻がマサチューセッツと同じ運命をたどるのに要した時間は1時間足らず。全滅までに大西洋艦隊は千近くの艦載機級を撃破した。だがその数は北米大陸に飛来した艦載機級の十分の一にも満たなかった。









(バスターマシン7号、ノノ……お願い、来て……! 来て……!)

 さよりはイリヤを通じてその世界の「星々の記憶」にアクセスしている。さよりは確かに彼女の存在を把握している。彼女には確かにさよりの声が届いている。届いているはずなのに、

「……ど、どうして……」

 上空から爆音が響き、さよりが思わず上を振り仰ぐ。そこにいたのは艦載機級の大群である。

「エイミィ! 機銃に自動迎撃させろ!」

「岡島! 早くしなさい! ここで死にたいの?!」

 クロノが艦の防御を命じ、夕呼がさよりを叱責する。さらに純夏とユリカが、

「帝都にも、ニューヨークにも艦載機級の大群が、それにブリュッセルのEU軍もBETAの奇襲を受けてる」

「敵の本隊は地球からもう1000万キロまで接近しているわ。前衛は既に月軌道に到着しているのよ」

 さらにはハルヒと霞までがさよりを責めた。

「何やってるのよさより!」

「さよりさん……」

 さよりは我慢できなくなったように、助けを求めるように叫んだ。

「やってる! ずっと呼びかけてる! 声は確かに届いている! でも、来てくれない!」

 さよりの頬は汗とも涙ともつかないもので濡れていてた。

「イリヤちゃん、どうして?! 間違いなく聞こえている、届いているはずなのに……!」

 さよりの八つ当たりじみた詰問に、イリヤは肩をすくめる。

「召喚される側にも意志や想いがある。それに反することを求めた場合、召喚は失敗するでしょうね」

 例えば、祖国を救うために戦い、その功績で英雄となった人物や軍団を、当の祖国を滅ぼすために召喚しようとしても失敗するだろう。「星々の記憶」に刻まれているのは英雄当人の意志や想いだけではない。その英雄に向けられた人々の想いや憧憬、英雄に託された理想や希望がともに刻まれているのだ。銀河聖杯が召喚するのは意志のない人形などではなく、人々が夢見た英雄そのものなのだから。

「わたしが悪いって言うの?!」

「さよりちゃん、落ち着いて。もう一度最初から」

 憤るさよりをユリカが宥め、召喚をやり直させようとする。さよりは憤怒や焦燥で腑がよじれそうになっているが、それでもユリカの言葉に従って再度召喚を試みた。

「とにかく片っ端から呼び出してみなさいよ!」

 というハルヒの助言に従い、さよりは召喚対象を大幅に拡大する。

(ガンダム、マクロス、イデオン、ヤマト、ゲッターロボ、マジンガー、エヴァンゲリオン、ガオガイガー、エルドランシリーズ、アクエリオン、銀英伝……)

 思いつく限り全ての作品について実在の有無を確認し、実在であればひたすら呼びかけを行う。最早宇宙怪獣に対抗できるかどうかなど関係なかった。

(もう何でもいい。誰でもいい。一人でもいい。だから、わたし達を――わたしを助けて……!)

 さよりの意識は数多の勇者、無数の英雄の姿を捉えていた。さよりの声は確かに彼等に届いていた。だが、その呼びかけに応える者がただの一人もいない。

 その時、艦載機級の攻撃を受けて「アースラ」が大きく揺れる。さよりの身体は甲板の上に投げ出された。さよりはかろうじて上半身を起こす。

「どうして……どうして誰も来てくれないの……?」

 だが、さよりにはもう立ち上がる力は残っていなかった。両手と尻を甲板につき、子供のように涙を流す。その姿は、一同に作戦の失敗と自分達の敗北を認識させた。









[13222] 第5話「天元突破岡島さより」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/28 16:04

第5話「天元突破岡島さより」その2








 日本帝国、帝都。

 帝国斯衛軍の戦術機部隊は、天空より飛来した艦載機級と激しい戦闘を繰り広げていた。

「敵群第七波、飛来! 敵数、五百!」

 斯衛軍は政威大将軍悠陽が自ら紫の武御雷を駆って最前線で戦っている。敵の飛来があまりにも早くて避難が間に合わなかったためであるが、悠陽には逃げるつもりは最早ない。このため斯衛の士気はいつになく高く、敵の攻撃の第六波までは何とか撃退できた。

 だが、それにも限界はやってくる。

「第七波の後方からさらに第八波、第九波!」

 悲鳴に等しいCPの報告に、悠陽は唇を噛み締めた。飛来する艦載機級の一群を撃退しても、すぐにそれに倍する敵がやってくる。敵数とその戦力は既に斯衛のそれを大幅に超えていた。

「住民の避難の優先を! わたし達の役目は時間を稼ぐことです!」

 悠陽と斯衛は官庁のビル群を盾代わりにして艦載機級の攻撃を凌ごうとした。だがそれも焼け石に水である。武御雷が、不知火が、次々と撃破されていく。

「横浜基地は……香月副司令から連絡は?」

「未だ何も。副司令は所在不明のままです」

 悠陽は数分おきに同じ質問を繰り返し、そのたびに同じ回答が返ってきた。悠陽は自分の弱い心を振り切るように、まなじりを決した。

「冥夜が生命を懸けて守ったこの国を、この星を、お前達に渡しはしない――!」









 一方「アースラ」。さよりは現実から目を逸らし、子供のように泣き続けているだけである。クロノ達は苦いものを噛み締めながらその姿を見つめた。

「……これまでですね」

 まずニアがそう言ってさよりから背を向ける。

「奥の手を一つ残していたのですが、この状態では使う意味がありません。ネメシスを倒す絶好の機会と思っていたのですが」

「でも、これだけの準備を整えて、それでも失敗するなんて……他にどんな作戦があったって言うんですか?」

 太陽系外だろうと別の宇宙だろうといつでも転移可能なニアと、元々本体がこの世界にないユリカは既に「次」を見据えた言葉を交わしている。

 ニアはユリカの問いに答えず、無言のまま立ち去っていった。残されたユリカは肩を落とす。

(そっか、失敗したんだ。……あんな大群なんだもの、負けちゃっても仕方ないよね)

 フェイトの墜落以降感情を凍らせたなのはは、人形のように虚ろな瞳にクロノ達の姿を写していた。

「機関部の修理はどうなっている?」

「あと6時間はほしいって」

「そんなに待てるか! とにかく、いかだ状態で漂うだけで構わないんだ、すぐに次元航行できるようにしろ!」

 エイミィは半泣きになりながらも機関部の言葉をクロノに伝える。彼女に出来るのはそれしかなかった。

「それでもあと1時間は必要だ、って」

「――判った」

 クロノは苦渋の表情で、その報告を受け入れた。

(1時間あったら敵の本体が到着しちゃう。そうなったら逃げることも出来るかどうか……こんなところで死んじゃうのかな。わたしも、フェイトちゃんも)

 なのはの理性は現状を冷静に確認し、結論を出した。何しろ彼我戦力差は数億対1未満なのだ。勝てると思う方がおかしい。

(……本当に?)

 なのはの耳に誰かの小さな囁きが届いた気がした。だがそれは間違いなく空耳だろう。

「1時間あったら敵の本体が到着するわね。その前に艦載機級の攻撃を凌げるどうかが問題だけど」

 夕呼が他人の不幸を楽しむような態度で当たり前の事実をクロノに指摘する。クロノは顔をしかめた。

「香月副司令、あなた達には本来なら次元航行前に退艦してもらうところですが、それを認めることが出来ません。このままこの艦に留まってもらいます」

 自分の生命について完全に諦めていた夕呼は、思わぬ助け船に目を見開いた。

「あら、この世界から逃がしてくれるってこと? あたし達を助けてくれるのかしら」

「結果的にはそうなりますが、自分は艦の安全を最優先にしただけです」

 その言葉により夕呼はクロノの不安を理解した。

「そうか。あたしをこの艦から放り出した場合、この世界から逃げようとするあたしが戦術機の一団を連れて戻ってくるかも知れないものね」

「さらに言えば『この世界から、あの敵から逃げられる手段がここにある』と知られるわけにはいかないのです。ですので、横浜基地との接触や連絡の全てを禁止します。逃げるのに一緒に連れて行きたい人が陸地に残っているかも知れませんが、連絡を取ることも連れてくることも一切認められません」

 クロノの通告を夕呼は了承する。純夏や霞は何か言いたげにしていたが、結局何も言わなかった。亡者の群れのように「アースラ」に押し寄せてくる横浜基地の兵士達、それをクロノやなのはが魔法で排除し、二人は兵士達の返り血で赤く染まる――クロノが脳裏で描くそんな光景を読み取った純夏達は、それ以上何も言えなかった。

「社も鑑もここにいるのだから、あたしはこれ以上は望まないわ。もっとも、あの敵から本当に逃げられるのかどうかは疑問だけど」

「……確かに」

(どう考えても間に合わないじゃない。二人とも、もう諦めればいいのに)

 なのはいつになくシニカルな心境でクロノ達を眺めていた。

(悪あがきしたところで結果が変わらないなら、意味ないじゃない)

 だが、

(……本当に?)

 またその空耳が聞こえてくる。なのははわずかに眉をひそめた。

「艦載機級の数がこれ以上増えたら修理する前に潰されるわよ。魔法でどうにか出来ないの?」

「その魔法が敵を引き寄せている可能性があります。サーチャーの魔力スキャンに対する戦艦級の反応、それに」

「高町ともう一人に対する艦載機級の反応から推測するに、かしら? 確かにその可能性は高いわね」

 夕呼は学者っぽい講義口調で解説する。

「アンチスパイラルが目の敵にする螺旋力、それが意志の力に基づくものなら本質的には魔法との差はない。戦艦級や艦載機級には魔力と螺旋力の違いが判らないとしても不思議はないわ」

(ほら、ますます逃げるのが難しくなっていく。どう考えても逃げられないじゃない)

 なのはは内心で皮肉っぽく夕呼達を論破していた。その一方、

(……本当に?)

 誰の声とも判らないその空耳はますます強くなっていく。なのはの苛立ちは強まった。

「どうにか敵の注意を逸らす方法があれば……」

「横浜基地が奮闘してくれることを期待するしかないかしらね」

 夕呼はそう言って肩をすくめた。実は夕呼は純夏を通じて基地の守備隊に敵に対する徹底攻撃を命令しているのだが、そんなことはおくびにも出さない。

 一見惚けたまま甲板の片隅に座っているだけのなのはだが、その内面は荒海のようだった。

(わたしに何が出来るっていうの?! わたしに出来ることなんて、もう何も残ってないじゃない!)

 なのはは罵るように、見知らぬ誰かに激しく言葉を返す。だが、

(――本当に?)

 静かに返されたその言葉に、なのははもう何も言えなかった。彼女は全てを理解したのだ。

『敵はあまりに大きい、もうなにも出来ない、諦めるしかない』

 なのはのその理性の言葉に対し、

『諦めないで、投げ出さないで、生命を捨てないで』

 そう必死に反論をしていたのはなのは自身、なのはの魂――その名を「不屈の心」。

「……ああ、そうか。それだけのことなんだ」

 誰にも気付かれないまま、なのはは静かに立ち上がった。その瞳には意志の輝きが戻り、その口元にはかすかな微笑みが浮かんでいる。

「わたしはただ単に、簡単に負けを認めるのが嫌だったんだ」

 なのははそのまま艦首方向へと歩き出す。別に騒いだわけではない、物音を立てたわけでもない。だが、一同の視線は自然となのはに、なのはの背中へと集まっていた。

「……なのは、どうした?」

 一同を代表してクロノが怪訝そうに質問する。なのは少しだけ後ろを振り向いて答える。

「クロノ君、わたしが敵を引きつけるからその間に『アースラ』の修理を」

「待て、何のつもりだ」

 クロノはなのはが何をしようとしているかを感覚で理解し、これを止めようとした。だがなのはは止まらない。

「わたしが艦載機級に空中戦を仕掛ける。魔法を使いまくれば敵の注意をわたしに集められるんでしょ? そうしたらそのまま戦線を『アースラ』から引き離すの」

 なのはの声は、現実から逃れるだけだったさよりの心にも届いた。さよりは俯いてた顔を上げる。

「無茶だ! 死ぬつもりか?!」

「なのはちゃん、待って。他の方法を」

「この空域の艦載機級は一万を超えてる、無謀すぎるよ!」

 そう言い立ててなのはを止めようとするクロノ達。だが彼等は、なのはの透き通った微笑みを見て説得の言葉を失った。

「わたしにはまだ空を飛ぶ翼がある。みんなを守る魔法がある。だから諦めるなんて出来ない」

 不意になのはは年相応の笑顔になって、クロノ達に告げた。

「自己犠牲を気取るつもりも、死ぬつもりもないよ。わたしはきっとここに帰ってくるから」

 目を瞑ったなのはが胸の前で紅い宝玉を握った。

「風は空に」

 さよりは目を見開いてその光景を見つめている。なのはの背中から目が離せない。

「星は天に」

 なのはは澄んだ声で呪文を唱える。さよりはその声に、単語一つ聞き漏らさないよう耳を傾けた。

「輝く光はこの腕に」

 手の中の宝玉が強く優しい桃色の光を放つ。それこそ彼女の心の強さ、それこそ彼女の魂の輝き。

「不屈の心はこの胸に!」

 それは彼女の無二のパートナー、それは彼女のもう一つの名前、それは彼女の魂の名――

「レイジングハート、セットアップ!」

「Stand by Ready, Set-Up」

 なのはの呼びかけにレイジングハートが応える。桜色の光がなのはを包み、それが弾けた時、そこには純白のバリアジャケットをまとったなのはが立っていた。

 なのははそのまま音もなく飛び上がり、吸い込まれるようにして群青の空へと翔け上がっていく。残されるのは輝く羽根だけだ。

 ああ、とさよりは心の内で感嘆していた。この姿こそ英雄の姿だ。時代を超え、世界すら超えて語り継がれる、英雄の姿だ。人々の願い、人々の理想、人々の希望、そんなものを託されながらもなお空高く飛ぶことの出来る、真の英雄だ。

 一体どのくらいの時間そうしていたのだろうか。突然、さよりはハルヒに襟首を掴まれた。ハルヒはそのままさよりを揺すぶる。

「武器! 何でも良いから武器を取り寄せなさい! 元々のあんたの力を使って!」

 目を白黒させるさよりを、ハルヒはそのまま締め上げた。

「巨大ロボットでも宇宙戦艦でもいいけど、とびっきり強力な武器よ! 戦ってもらうんじゃない、それを使って戦うのよ、あたし達が! ――だいたい、呼び出すだけ、戦ってもらうだけなんて作戦、最初から気に食わなかったのよ! ちょうど良いわ!」

 ハルヒの言葉がさよりの脳に浸透する。その間に、純夏達も動き出していた。

「さよりちゃん、凄乃皇をお願い。あれがあればわたし達も戦える」

「さよりちゃんナデシコを、いえ、エステバリスでも構わないわ。時間を稼ぐくらいならわたしだって」

 そう、純夏やユリカだって英雄なのだ。なのはのあんな姿を見せられて、立ち上がらないわけがない。

 さよりもまた甲板を踏みしめ、立ち上がった。桃色の光を散らし、天空で戦うなのはを見上げる。

(……わたしはなのはちゃんみたいにはなれないけど、なのはちゃんの後に続くことは出来る、なのはちゃんを助けることくらいなら出来る……!)

 その姿に憧れる者がいる。その背中を追いかける者がいる。彼女に続く者がいる。彼女に並ぼうとする者がいる。英雄は決して一人ではない、孤独ではないのだ。

「こんなところで死なせてたまるか! わたしだって戦う!」

 さよりは気合いを入れるため一際大きな声を出した。大きく息を吸い、意識を別の宇宙へと、「星々の記憶」へと延ばす。その姿はさきほどから捉えたままになっている。さよりは全身全霊を懸けてそれへと呼びかけた。

 そう、それこそ彼女の知る銀河最強、宇宙最強のロボット――

「来て!! わたしに力を貸して、グレンラガン――!!」

 その時、「アースラ」の目の前で巨大な光が弾けた。まるで数メートル先に突然太陽が出現したかのようだ。目と鼻の先にいたさより達には目がくらんで何も見えなかったが、遠くからそれを見ていたなら、その光は緑がかっているように見えただろう。さらに、巨大な重量物が「アースラ」甲板に着地する。「アースラ」は転覆するかと思うほど大きく揺れた。

「きゃっ……!」

 一同は咄嗟にしゃがんで甲板に捕まり、転がり落ちるのを防いだ。

「……」

 甲板の揺れがようやく収まる。さよりは伏せていた頭を慎重に上げた。引き続き目が痛くなるほどの光量を放っているが、さよりの瞳には確かにその姿が写っていた。

 真紅と漆黒に彩られた鋼の巨体、全身から溢れ出るエメラルドのような輝き。その威容、その勇姿、それこそ宇宙を救った英雄の姿。さよりが求めた最強の武器――。

「グレンラガン……! 来てくれた……!」

 さよりの瞳に先ほどまでとは違った理由で涙が溢れた。何度も涙をぬぐい、グレンラガンの姿をその目で確かめ続ける。

 ふと、グレンラガンが膝を突いて姿勢を低くした。ラガンがグレンから分離して、さより達の目の前に飛び降りてくる。さより達は何が起こっているのか判らないまま、ラガンを見つめた。

 さより達一同の中心にラガンが立っている。ラガンの上部ハッチが開いて、

「え――」

 さよりはそのまま言葉を失った。さよりは無人のグレンラガンを取り寄せたとばかり思っていたのだから。









「ようやく道が開いたぜ。待たせたな」







[13222] 第6話「遙かなる地球の歌」その1
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/29 13:22


第6話「遙かなる地球の歌」その1









 「アースラ」艦橋のエイミィは己が目を疑った。

「な……一体何が」

 地球から数百万kmまで接近した敵、宇宙怪獣の大軍団。敵総数は「アースラ」の計器の計測限界値を遥かに突破しているため判然としないが、概算で数億。レーダーでは敵の姿を最早「領域」としてしか捕らえられない。その「領域」がゆっくりと前進し、地球を飲み込もうとしたまさにその時、敵の「領域」に巨大な穴が空いたのだ。

 そこには最低でも百万に達する敵個体が存在していたはずである。だがそれだけの敵が一瞬にして消滅し、代わりのように巨大な何かが存在している。

「な、何これ、戦艦……? でも月と同じくらいの大きさがある」

 一方「アースラ」艦橋の上、そこに佇むニアが天空を振り仰ぐ。ニアは彼等がようやくここに到着したことを悟っていた。

「カテドラル・テラ――いえ、超銀河ダイグレン」

 ニアの瞳には、宇宙怪獣軍団のど真ん中に乗り込んで敵を次々と蹴散らしていく超銀河ダイグレンの姿が映っていた。








 一方「アースラ」甲板のさより達。

「待たせたな、じゃなぁーーいいっっ!!」

「ぷろふぁっ?!」

 ハルヒの鉄拳がラガンから現れた男――シモンの顔面に叩き込まれる。シモンはたまらずもんどり打って倒れた。

「なな何すんだよ」

 それでも起き上がって文句を言うシモンに対し、ハルヒが槍のように鋭く人差し指を突きつけた。

「何格好つけて勿体ぶっていたのよ! 来れるんならさっさと来なさいよ! あんた達が来るまでにどれだけ被害が出たと思ってるのよ?!」

 シモンはちょっと傷ついたような顔をした。

「俺達だって来れるんならもっと早く来たかったんだぜ? 声は早くから聞こえていたんだ。でもなかなか道が開かなくて、いつになったら行けるんだって、ずっと苛々していたんだ」

「でも、どうして今まで道が開かなかくて、どうして急に」

 我知らずのうちにそう疑問を呈するユリカに、シモンが当たり前のように答えた。

「そんなの簡単だろ。お前等は助けてもらうことしか考えてなくて、自分達で戦うつもりがなかった。俺達は俺達で『助けてやらなきゃ』って上から目線だった。気合いが一つになってなかったから道が開けなかったんだよ」

「……ああ、そうか」

 ユリカはシモンの言葉に完全に納得していた。そもそも召喚という行為自体が「英雄に助けてもらう」ことを前提としている以上、さよりがどう頑張ろうとこの作戦は最初から失敗が約束されていたのだ。召喚が成功したのは奇跡と言っていい。

 「おい、お前」とシモンがハルヒの瞳を見つめる。

「へ?」

 とハルヒは自分を指差した。

「グレンに乗れよ。自分達で戦うんだろ?」

 シモンは不敵な笑みを見せる。シモンの言葉を理解したハルヒは、笑顔を輝かせた。

「え、ええ! やるわ! あたしの力を見せてあげる!」

 シモンに導かれ、ハルヒはグレンの操縦席に乗り込む。シモンもまたラガンの操縦席に座り直した。

「さより!」

「は、はいっ!」

 シモンに名前を呼ばれ、さよりは直立不動の姿勢になって返答する。

「早く他のみんなも呼んでやれ。みんなこっちに来たくてうずうずしているから」

「判りました!」

 将軍に会った新米兵士みたいに、硬直しつつ大声で返答するさより。シモンは笑顔を一つ残し、ラガンのハッチを閉めた。

「行くぜラガン!」

 ラガンはグレンと再度合体、グレンラガンとなって天へと昇っていく。

 光の矢となって空を翔るグレンラガンを、ニアは笑顔とも泣き顔ともつかない表情で「アースラ」の上から見送っていた。








 「アースラ」艦橋ではエイミィが一人で謎の戦艦――超銀河ダイグレンの戦いを見守っている。超銀河ダイグレンはただの一隻で敵本隊の侵攻を押し止めていた。だが、どれだけ巨大だろうと、強力だろうと、ダイグレンはたった一隻だった。

「だめ……! 敵が回り込んでくる……!」

 敵本隊がダイグレンを引きつけている間に、敵の分隊が左右から地球へと向かっている。分隊と言っても、それぞれ億に届く宇宙怪獣を擁する大軍団だ。ダイグレンのない地球など一捻りだろう。だが、

「――敵の侵攻が止まってる?」

 いや、止まっているのではない。何かが敵を止めているのだ。ダイグレンに比べれば吹けば飛ぶくらいに小さい。宇宙怪獣一個体に比べてもまだ小さい。その小さな何かが、億の宇宙怪獣を押し止めている。敵の数を一方的に減らしている。

 「アースラ」から見て獅子座方向の天空に陣取り、腕を組んで仁王立ちになっているのは灰色の鋼の巨人である。巨人の中では、一人の少女がやはり腕を組み、威風に鉢巻きをなびかせていた。

 宇宙怪獣の砲撃が巨人を襲う。だが巨人は煩わしげに振った右腕だけで、その砲撃を打ち払った。

「このガンバスターを、ただのマシンと思わないでよ」

 その威容こそ人類の夢、人類の叡智。百億の宇宙怪獣にも屈しなかった、人々の希望。それこそオオタ・コウイチロウの心と、アマノ・カズミの努力と、タカヤ・ノリコの根性の結晶――その名はガンバスター!

「バァスター・ビィーームッッ!!」

 ガンバスターのバスタービームが万の宇宙怪獣を消し飛ばし、蒸発させた。

 もう一方の魚座方向に存在しているのは、ガンバスターよりさらに小さい、人間サイズの何かである。エーテルの風にたなびくマフラー、白く輝く少女のボディ。やはり堂々と腕を組んで敵と相対しているのは言うまでもない。

「立ち上がるのに必要なのは、武器でもバスターマシンでもありません!」

 彼女の頭部の、アンテナのような髪の一房が意志を持つかのように左右に動いた。それに合わせて、宇宙怪獣と似たような姿を持った一団が整然と動いている。

「心の奥底からわき上がるひとかけらの勇気。それこそが人間の本当の、最強の武器!」

 バスターマシン7号ことノノは脚部からバスターミサイルを放った。さらに彼女に率いられた無敵のバスター軍団が宇宙怪獣と文字通りに激突する。両者の激突とそれによって生まれた爆発は、まるで巨大な壁のようだ。ノノとバスター軍団は結界を展開しているかのように、宇宙怪獣をある一線から一歩も先に進めさせなかった。

 一方牡牛座方向。そこに位置しているのは敵本隊と、超銀河ダイグレンである。地球を飛び立ったグレンラガンは瞬く間にそこに到着した。

「行くぜ、ダイグレン!」

 グレンラガンがダイグレンに搭乗――いや、合体する。ダイグレンが戦艦から人型に変形、そこに誕生したのは天体サイズの巨神だった。

「おいお前、あれをやるぞ」

 シモンからのその言葉に、ハルヒが戸惑ったのは一瞬である。

「ふふん、面白いじゃない」

 ハルヒはそう言って同意した。シモンが銀河に響けと雄々しく口上を切る。

「敵は幾万、幾億、無限大! だが!」

 シモンの口上にハルヒが続く。

「助けを求める声あらば、世界を超えて現れる!」

「螺旋の友が呼ぶならば、時代を超えて甦る!」

 そして二人が唱和する。

「英霊合体、超銀河グレンラガン!!」

「俺を!」「あたしを!」




「誰だと思ってやがるっっ!!!」




 超銀河グレンラガンが鎧袖一触とばかりに周囲の宇宙怪獣を蹴散らす。メガトン級水爆を遥かに超える爆発が、まるで線香花火のように無数に花開いた。








 グレンラガン、ガンバスター、バスターマシン7号の勇姿を見守っていたニアはある決断を下した。ニアは目を瞑り、精神を集中させる。

「――え? 何これ?」

 旧横浜市街上空を必死に逃げ回っていたなのはは、空中で目を見開いた。

「空間の質が変わった? 結界が展開されたのか?」

 一方「アースラ」のクロノもそれを察知する。そこに、前触れも音もなくニアが出現した。

「さよりさん。今わたしが残していた最後の手を発動させました」

「ニアさん……」

 ニアはさよりの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「今、太陽系全体が超螺旋宇宙へと一時的に遷移しています。ここでは認識が実体化し、意志の強さがどんな奇跡をも可能とする。銀河聖杯による連続召喚を。総力を挙げてネメシスを倒します」

「うん、判った」

 さよりが力強く頷く。さよりは目を瞑り、意識を数多の宇宙、無数の平行世界へと延ばした。まるでさよりの意識があらゆる宇宙、全ての平行世界を把握しているかのようだ。英雄達に声を届かせることが出来る。彼等の声を聞くことが出来る。早く呼べ、道を開けと、揃ってさよりにそう言ってくれている。

 出来ないことは何もない、そう思えた。

「――来て! 力を貸して、一緒に戦って!」







[13222] 第6話「遙かなる地球の歌」その2
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/11/30 22:45
第6話「遙かなる地球の歌」その2







 グレンラガンの中のハルヒが、まず気が付いた。

「あれは?」

 何体ものロボットが空を翔ている。超銀河グレンラガンを追い越して宇宙怪獣の群れのただ中に飛び込み、敵をなぎ払っている。

「ははっ! 遅いぜキタン! ヨーコ!」

 シモンの嬉しそうな呼びかけに、スペース・キングキタンやスペースヨーコWタンクから返答が入る。

「うるせー! てめーだけ先に来て楽しみやがって!」

「そうそう!」

 さらに彼等に続き、ダヤッカ・アイラック・マッケン・ジョーガンとバリンボー等、グレン団のスペースガンメンが。さらにはロージェノムのラゼンガンまで戦列に加わり、次々と敵へと突撃していく。スペースガンメンとラゼンガンは縦横無尽に暴れ回り、見る間に敵が減っていく。

「負けてられないわよ、あたし達も!」

「おうよ!」

 超銀河グレンラガンもまた敵中に飛び込み、領域単位で敵の群れを削っていった。

 一方、ガンバスターの周囲にはヱルトリウム率いる銀河中心殴り込み艦隊が、ユング達の搭乗するシズラーシリーズが並んでいる。ヱルトリウムを先頭に敵陣へと切り込んでいく銀河中心殴り込み艦隊。宇宙怪獣の軍団は熱したナイフで切られるバターのように、きれいに深々と切られた。

 さらに一方のノノとバスター軍団の側には、ラルクの搭乗するバスターマシン19号、さらにはヴァンセット・トランサン・ソワサント・カトルヴァンヌ・キャトフヴァンディスといったフラタニティのバスターマシンが勢揃いし、ノノとラルクを援護していた。

 三つに分かれた敵軍を、グレン団・銀河中心殴り込み艦隊・バスター軍団とフラタニティの三軍団がそれぞれ受け持って戦っている。宇宙怪獣は戦力をさらに細かく分散させて地球に向かおうとした。細かいと言っても、一億の百分の一でも百万、千分の一でも十万の大艦隊だ。地球を人の住めない惑星に変えるには充分すぎる戦力である。

 銀河中心殴り込み艦隊が守護する領域のさらに外側から回り込んで地球へと向かう宇宙怪獣、その数ざっと百万。だが、一条の光が宇宙怪獣を飲み込み、蒸発させる。その一撃で数万の宇宙怪獣が蒸発した。

 その宙域で宇宙怪獣を待ち構えていたのは宇宙戦艦ヤマト、さらには総旗艦アンドロメダ率いる地球防衛軍連合艦隊である。ヤマトの波動砲が、アンドロメダと連合艦隊の拡散波動砲が火を噴く。宇宙怪獣はタキオンの奔流に飲み込まれ、押し流され、溶かされた。

 彼等から少し離れた宙域にはキャプテンハーロック率いるアルカディア号、女海賊エメラルダスのクイーン・エメラルダス号が宇宙怪獣を撃破している。さらにその隣では機動戦艦ナデシコとユーチャリスが。Yユニットを装備したナデシコの相転移砲は絶大な威力を発揮、それを食らった宇宙怪獣は為す術もなく艦隊単位で消えていった。

 一方、バスター軍団とフラタニティが守護する領域を迂回しようとする宇宙怪獣軍団。だがそこに待ち構えていたのは銀河帝国が擁する数十万の大艦隊であり、それを率いているのは銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムである。

「ファイエル!」

 皇帝ラインハルトが白磁のような手を振り下ろすのと同時に、帝国軍全艦が一斉砲撃を開始。それに続いてビッテンフェルトの黒色槍騎兵艦隊が、疾風フォルフの、ロイエンタールの、鉄壁ミュラーの各艦隊が宇宙怪獣軍団に突撃。それはまるで悪竜に食らいつく猟犬のようである。

 活躍する各艦隊の少し後方に控えている総旗艦ブリュンヒルト。その後方から自由惑星同盟の軍艦が出現し、ブリュンヒルトに速度を合わせて併走する。さらに数万隻の同盟軍の艦隊が。その艦こそヤン・ウェンリーの旗艦ヒューベリオンであり、その艦隊こそ無敗を誇るヤン不正規艦隊だった。

 ブリュンヒルトとヒューベリオンはその存在を誇示するように轡を並べて併走。そして共に宇宙怪獣の群れへと突撃した。








 一方地上、旧横浜市街上空。

「アクセルシューター!」

 なのはの攻撃魔法が艦載機級を撃破する。撃墜数は既に数えていられないほどだが、おそらく千より少ないことはないだろう。

(さっきから凄く調子が良い。カートリッジはもうないのに、どれだけ使っても魔力が減らない。ディバインシューターで艦載機級を落とせる)

 ニアが特殊な結界を展開したことは、クロノ経由でなのはも聞いている。それがなければなのははとっくに死んでいた。

(これならいくらでも戦い続けることが出来る)

 だが、魔力は減らずとも気力と体力は消耗する。なのはは接近してくる艦載機級の群れをディバインバスターで一掃しようと、レイジングハートを向けた。疲労の蓄積したなのはは周囲への警戒がおろそかになっていた。

「――っ! しまった!」

 気が付いたら背後に艦載機級が急接近していた。激突を覚悟し、目を瞑って身を固くする。だが、その艦載機級はなのはに触れることなく撃墜されていた。

「――っ、誰?!」

 なのはは周囲を見回すが、そこには誰もいない。またもやなのはに急接近する艦載機級。だがその4体の艦載機級に、遙か彼方から音速で飛来した何かが突き刺さる。

「剣?」

 剣のような形の、螺旋を描いた何かは爆弾のように爆発、艦載機級を墜落させた。なのはは剣が飛来してきた方向へと目を向ける。1km以上向こう、魔法を使わなければ人がいることも判らないその丘の上に誰かが立っている。赤い外套をまとった男が弓を構えている。

 男はなのはに頼もしげな笑みを見せると、六連の矢を連べ打ちにした。なのはの周囲の艦載機級が次々と落とされる。

 なのはその男に微笑みを返し、艦載機級の群れへと向かい合った。自分の背中はあの弓兵に任せればいい。自分の役目は砲台となって、この群れを撃破すること!

「スターライトブレイカぁー!!」

 なのはの放った桃色の砲撃が艦載機級の群れをなぎ払った。








 帝都では、首都圏の帝国軍と斯衛軍の戦力を九割以上消耗した悠陽が最後の抵抗を試みている。手持ちの弾薬ももうすぐ底をつく。そうなればS-11による自爆しか抵抗の術は残されていない。

 悠陽は己が死を覚悟した。だがその時、悠陽達を包囲する敵の一団が吹っ飛ぶ。

「な……何が」

 上空を見上げた悠陽はそこに見た。金色の輝きを放つ巨大なロボットが艦載機級を撃破していくのを。

「超級覇王、電影弾!」

 その巨大ロボット――ゴッドガンダムが竜巻を生み出し、艦載機級の群れを巻き込んで吹き飛ばす。悠陽達は自分の目が信じられず、唖然としたまま空を見上げるしかなかった。

 さらに帝都にはシャイニングガンダムと風雲再起が出現、ゴッドガンダムを支援する。一方のニューヨークにはガンダムマックスターが。ブリュッセルにはガンダムローズやノーベルガンダム、ガンダムシュピーゲルやネーデルガンダムが救援に駆け付けている。

 さらにはインドのボパールにはマンダラガンダムやコブラガンダムが。中東のアンバールにはミナレットガンダムやファラオガンダム13世が。ソ連のヴェルホヤンスクにはボルトガンダムやテムジンガンダムが。中国の重慶にはドラゴンガンダムやマスターガンダムが。救援に降り立ったガンダム連合のファイター達はBETAをなぎ払い、ハイブを破壊する。地上のBETAは急速にその数を減らしていった。









 グレン団に足止めされている、一方的に数を削られている宇宙怪獣の一団は艦載機級を放出してグレン団の攪乱を計った。スペースガンメンの攻撃をすり抜け、地球へと向かう数億の艦載機級。だが、彼等を待っていたのは一騎当千の機動兵器軍団である。

 アムロ・レイのνガンダムが、カミーユ・ビダンのZガンダムが、ダブルゼータが、F91が、Vガンダムが、フリーダムが艦載機級を撃墜していく。デンドロビウムのビームサーベルが艦載機級を斬り裂き、∀ガンダムの月光蝶が宇宙怪獣を咀嚼する。ミーティアを装備したジャスティスが敵をまとめて撃ち落とし、ガンダムXのサテライトキャノンが敵を群れごと焼き払った。

 さらにはイデオンが全方位にミサイルを放ち、ガオガイガーがブロークンマグナムを振るう。マイク・サウンダース部隊がソリタリーウェーブを放射し、キングジェイダーが反中間子砲で砲撃する。

 それでも艦載機級の群れの何パーセントはそれら精鋭の防衛線を突破してしまう。だがその彼等を待ち構えていたのは、巨大戦艦マクロス、バトル7、バトルフロンティア、マクロスクォーターの揃い踏みだった。

 4隻のマクロスが砲門を揃えて主砲を斉射、艦載機級の群れを蒸発させる。そして発艦する可変戦闘機ヴァルキリー。マクロスのスカル小隊が、バトル7のダイヤモンドフォースが、マクロスクォーターのSMSが、縦横無尽に星の海を翔け、艦載機級を翻弄し撃ち落とした。その彼等を支援するように、歌が聞こえてくる。

「歌? この歌は……」

 その歌声は敵軍の中心にいるシモン達にも届いていた。

 リン・ミンメイが愛を歌う。熱気バサラが情熱を歌う。ミレーヌ・ジーナスが恋を歌う。シェリル・ノームが夢を歌い、ランカ・リーが生命を歌った。

 さらにはマイク・サウンダース13世が勇気を歌い、エターナルのラクス・クラインが理想を歌った。誰かがそれに唱和する。一人、また一人と声を揃えて歌を歌う。

「なかなか良い歌ね! あたし達も歌うわよ!」

 ハルヒが高らかに歌う。シモンが戸惑いながらも声を張り上げて歌う。グレン団の面々も、若干調子を外しながらも景気良く歌っている。

「お姉様、あたし達も!」

 タカヤ・ノリコとアマノ・カズミも、ノノとラルクも美しい声を調和させてその歌を歌った。ヱルトリウムの軍人やフラタニティのトップレスも声を合わせて歌う。バスター軍団も歌に合わせて踊っているかのようだ。

 皇帝ラインハルトが指でリズムを取り、ナデシコの星野ルリがその歌を口ずさむ。ガンダムのパイロット達が勇ましく歌い、ヴァルキリーのパイロット達が雄々しく歌った。

 その歌声は真空の宇宙を超え、数百万kmの距離を超え、地球にも届いていた。









「歌? 一体どこから」

 悠陽は周囲を見回すが、その歌がどこから聞こえてくるか判らない。見渡せばその歌が聞こえているのは自分だけではないらしい。斯衛の衛士等も、初めて耳にする歌に戸惑いを隠せないでいる。

 悠陽は心を澄ませ、その歌に耳を傾けた。初めは静かに聞いているだけだったが、段々胸が熱くなっていく。血が滾っていく。心が昂ぶっていく。この思いを何かにぶつけずにはいられない。

 いつの間にか、悠陽はその歌を口ずさんでいた。見れば悠陽だけではない。斯衛の衛士等も皆、最初は小さな声で、やがては声を張り上げて喉も枯れんばかりにその歌を歌っている。生命の歌を、未来への歌を歌っている。

 それは帝都だけの光景ではなかった。ニューヨークで、ブリュッセルで、ユーラシア大陸の中央で、ハイブの眼前で、兵士が歌を歌っている。市民が歌を歌っている。皆が歌を歌っている。BETAを怯ますほどに、大地を揺るがすほどに。歌で生命を讃え、未来を紡いでいる。

 勿論横浜でも同じ光景が見られた。さよりが朗らかに、純夏が華やかに。霞が淑やかに、ユリカが麗らかに歌を歌っている。イリヤやクロノ、有希も声を揃え、夕呼もそっぽを向きながらも一応声は出していた。

 十数億の人類が、無数の英雄達が一つの歌を歌っている。一つとなって歌を歌っている。歌が太陽系に、銀河に響いている。まるで歌自体が力を持っているかのように、宇宙怪獣軍団が追い詰められていく。急速にその数を減らしている。いや、本当に歌が力を持っているのだ。歌声が勇気となり、勇気が力となって敵の攻撃を跳ね返す。宇宙怪獣の攻撃が人類側に全く通用せず、人類側は一方的に宇宙怪獣を殲滅し続けている。

 まるで悲鳴のような、呻き声のような不気味な声が轟き、英雄達の軍団を一瞬揺るがした。

 「アースラ」ブリッジ。歌いながらも敵の観測を続けていたエイミィは目を見張った。

「敵数が……!」

 宇宙怪獣軍団の総数がついに億の単位を下回り、「アースラ」の計器で計測可能となった。その数も恐ろしいほどの勢いで減り続けている。最初は浮かれていたエイミィだが、すぐに気が付いた。

「――違う! 敵の個体数は減ってるけど、エネルギー総量は減ってない!」

 いや、エネルギー総量もちゃんと減っているのだ。だがそれは個体数の減少ほどには減ってない。

「な、何これ……」

 敵軍団の最奥、これまで「領域」としてしか把握できなかった場所に、巨大な何かが存在しているのが判る。地球とほぼ同じ大きさの何かが、地球に向かって前進している。

 一方、グレンラガンのシモン達もほぼ同時刻にそれに気が付いていた。

「何あれ? 敵の親玉?」

「そうみたいだな。子分を吸収して大きくなってやがる」

 そこにいたのは惑星サイズの超巨大宇宙怪獣だった。しかもそれは自分の周囲の宇宙怪獣を吸収して少しずつ大きさを増している。形や配色はまるで巨大な髑髏のようである。それは人類にとって死に神そのものだった。

 突然超銀河グレンラガンの顔の横に、ニアの搭乗機・ソルバーニアが出現する。

「あれこそ敵の本体、妖星ネメシスです」

「ニア……」

 感情を殺したニアがシモンへと告げる。

「宇宙怪獣ネメシス。螺旋族殲滅システム・ネメシス。あの妖星の中心核・コアユニットを破壊し、この戦いに終止符を」

 シモンは超銀河グレンラガンの搭乗ハッチを解放し、

「ニア、来い!」

 と手を伸ばした。ニアはわずかに躊躇いながらも、グレンラガンの腕を取る。ソルバーニアはグレンラガンと共に超銀河グレンラガンと一つとなった。

「征くぜ野郎ども! 最後の戦いだ!」

「征くわよみんな! 歌いなさい声高らかに!」

 シモンとハルヒの号令に合わせ、英雄の軍団が雄叫びを上げる。そして歌を歌いながら妖星ネメシスへと突撃した。

 妖星ネメシスは周囲の宇宙怪獣を吸収して防護を固める一方、配下の宇宙怪獣をシモン達へと特攻させる。宇宙怪獣そのものを質量兵器とした攻撃である。バスター軍団が身を挺してそれを迎撃し、マクロスの主砲がそれを撃破する。ユーチャリスのグラビティブラストが、イデオンの波導ガンが敵を蹴散らし突破口を開く。そこにグレンラガンが、ガンバスターが、バスターマシン7号と19号が乗り込んで血路を開いて進撃していく。

 全ての英雄が、全てのロボットが、全ての戦艦が、歌で心を一つにし前進を続けている。敵を蹴散らし、敵の攻撃を跳ね返し、敵をなぎ払って突き進む。光を放つその姿は、やがて巨大な彗星のようになった。

 妖星ネメシスは断末魔のような呻き声を上げながら、その彗星を攻撃し続けている。だがそれは全く通用していない。彗星は回転してネメシスの攻撃を跳ね返す。回転はますます速度を上げて、彗星は竜巻のようになり、ドリルのようになった。

 そして一つの巨大なドリルと化した軍団が、妖星ネメシスへと突き刺さる。銀河に風穴を開けた一撃がネメシスに巨大な穴を穿つ。宇宙怪獣を積み重ねて作った防壁を突破し、粉砕し、撃滅し、奥へ奥へと進んでいく。やがてシモン達は眼前にネメシス中心核・コアユニットの姿を捉えた。

「逃さない!」

 あ号標的によく似た姿をしたコアユニットは空間跳躍で逃げようとするが、ニアが空間を固定し脱出を阻む。空間ごと磔になったコアユニットに、

「覚えておけ! 貴様が人類の未来を絶望で塞ごうとしても、俺達のドリルがいつでも風穴を開けてやる!」

 グレンラガンのギガドリルブレイクが、ガンバスターとバスターマシン7号と19号のスーパー稲妻キックが、ガオガイガーのゴルディオンハンマーが、イデオンのイデオンソードが、ダブルゼータのハイメガキャノンが、νガンダムのフィン・ファンネルが、フリーダムのクスィフィアスが、

「過去の理想と未来の希望、二つの光を螺旋に紡いで今を掘る! それが俺達のドリルだ!!」

 放たれた光が渦となり螺旋となって突き進み、コアユニットを飲み込んでいく。コアユニットには胴体よりも大きい風穴が空き、砕かれたその身体は万に、億に、兆に、京に分解し、原子となり粒子となって消えていき――








「きゃあっ……!」

 上空に発生した衝撃波に、さよりは思わず耳を塞いでしゃがみ込んでいた。衝撃波は地球の夜の側の雲を全て吹き飛ばし、空は赤く輝く光に染まっている。

「一体何が……敵はどうなったの……?」

 さより達はおそるおそる顔を上げ、赤く染まった空を見上げた。

 そこにニアが突然現れた。ニアは意識のないハルヒをその腕に抱いている。

「ニアさん! ハルヒ!」

「ニアさん、敵は、ネメシスは」

「勝ったんですか?」

 さよりや純夏達がニアを取り囲もうとする。ニアは気絶したままのハルヒを有希に引き渡し、一同に向き直った。

「螺旋族殲滅システム・ネメシスの完全消滅を確認しました。わたしが展開していた障壁ももうすぐ解除され、太陽系も超螺旋宇宙から元の時空に戻ります」

 安堵のあまりさよりの全身から力が抜け、さよりはその場に座り込んだ。見ればそれはさよりだけではない。純夏や霞、夕呼も今にも倒れそうになっているのは同じである。

「――あれは?」

 ユリカがその光に気が付いた。ユリカの視線が指し示す空の先を、さより達が見上げる。

 雲一つない空の彼方を何かが編隊を組んで飛行している。何十機ものロボット、何百機もの戦闘機、何千何万もの宇宙戦艦――それが整然と並び、空を進み、宇宙を征く。

「さよりさんが呼んだ異世界の英雄・軍団……彼等が元の世界へと還っていきます」

 さよりは立ち上がり、彼等に向けて力一杯手を振った。見えているかどうか判らないが――いや、きっと見えている。見てくれているはずだ。

 さよりが、純夏が、霞が、夕呼が、クロノが、有希が、イリヤが、そしてニアが。万感の想いと感謝を込めて手を振った。英雄達が空の彼方に、星の海へと消えるまで、さより達はいつまでも手を振り続けていた。








[13222] 第6話エピローグ
Name: 行◆0e973d72 ID:d0f899f5
Date: 2009/12/04 21:04

第6話エピローグ







 荒野の中にぽつんと存在する寒村。そこを一人の男が訪れていた。

「おおっ! 水が出た!」

「やったー!」

 集まった村人が歓声を上げている。村の中央に掘られた井戸、そこから水が勢い良く吹き出ていた。

「ありがとうごぜぇます、なんとお礼を言ったらいいものやら……」

 村長がフードをかぶったその壮年の男に頭を下げている。水脈の上に固い岩盤があったため井戸の採掘作業が滞っていたのだが、その男が手持ちのドリルで岩盤を砕いてしまったのである。

 ドリルを担いだ男は、

「花を植えてくれ。この村を花いっぱいにしてくれればそれでいい」

 それだけ告げて村長に背を向けた。小さなブタモグラを連れたその男は、次の村へと向かって歩いていった。

 西に沈む太陽が荒野を赤く染めている。赤い荒野の中を一人と一匹で前へと進むその男の前に、突然一隻の戦艦が出現した。

「むっ……」

 男はドリルを手に警戒する。だが、戦艦から現れた女性の姿に、男の手からドリルが滑り落ちた。

「に、ニア……」

 ニアと呼ばれた女性が今にも泣きそうな微笑みを男へと向ける。数十mの二人の距離がゼロになるまで少し時間が掛かった。その戦艦のブリッジでは、そんな二人の様子をユリカが温かく見守っていた。









「見守っていた……まる、と」

 さよりはその文章に一区切りつけて、一休みする。コーヒーを飲みながら、さよりは大きく伸びをした。疲れた目を休めるために窓の外を眺めるさより。その肩の上にはすなすなが乗っている。

 さよりが元の世界に戻ってきてから1ヶ月が経過していた。

 さよりがあの世界で過ごしたのは2週間ほどだが、元の世界では半日も経過していなかった。このためさよりは精神面以外には何の支障もなく元の生活に戻っている。

 さより以外はどうだったか。

 まずあの決戦直後。イリヤは本人が事前に告げていた通りに休眠に入ることとなった。

「これほどの大軍団を召喚したことは過去になかったし、これからもないでしょうね。召喚した軍団の量と戦力を考えると、休眠期間が何万年になっても不思議はないわ」

 イリヤはそう言い残して元の指輪型ロストロギアの姿となり、それは事前の協定通りにクロノ達の手に委ねられた。最終的には管理局の保管庫で永い永い眠りに就くのだろう。

 魔力を使い果たして目を回していたハルヒは、意識を失ったままの状態で有希に連れられ元の世界に戻っていった。別れを惜しむ間もなかったのは残念だが、彼女がその力を自覚しないよう封印を施すためにはそれが最善だったのだから仕方ない。

 そしてあの世界の情勢である。BETA・艦載機級との戦いで人類側の戦力は7割減に近い消耗を強いられた。だがBETAはそれ以上に消耗しており、地球上のハイブもH6・エキバストゥズとH7・スルグートを残して全て破壊されている。人類の優位はまず揺るがないだろう。

 宇宙怪獣の大軍団と艦載機級の襲来、そしてそれを撃退した謎の軍団。世界を混乱の坩堝に陥れた一連の出来事に対し、明快な説明を提示したのが香月夕呼である。夕呼曰く、

「我々と同じ螺旋構造の遺伝子を持つ種族と、それを目の敵にしている存在。両者が宇宙の彼方で互いの存亡を懸けて戦っている。仮に、一方を螺旋族、もう一方をアンチスパイラルと呼ぶことにしよう」

「アンチスパイラルは螺旋族の一種である人類を滅ぼすために太陽系に乗り込んできた。一方、螺旋の同胞を守るため、アンチスパイラルを倒すため、螺旋族の戦士も太陽系を訪れた。螺旋族の斥候艦と最初に接触したのが横浜基地である。我々は彼等と情報交換を行っていた」

 多大な被害を受けた各国政府は夕呼を非難せずにはいられなかった。

「その事実をすぐに公表していたら、BETAや艦載機級に備えることが出来たら、被害はここまで大きくならなかったのではないか?」

 夕呼はそれに対し、

「すぐに事実を公表したとして、皆さんはそれを信じられたとお思いですか?」

 その反論に沈黙するしかない各国政府代表。さらに、夕呼の切り札が非難を完全に消し飛ばした。ナデシコのディストーションフィールドやグラビティブラストにつながる重力・空間制御技術、その基礎理論を全世界に公表したのである。

 それが、純夏がユリカを経由して遺跡の演算ユニットに侵入して盗み取ってきたデータであり理論であることは言うまでもない。ユリカは事態に頭を抱えた。だが、これにより夕呼の立場が大幅に強化されたこと。そして、公表されたのが基礎理論でしかなく、そこから実物のディストーションフィールドやグラビティブラストを作成するにはまだ何十年もの試行錯誤が必要であろうことから、結局は夕呼のやったことを追認するしかなかった。

 それに、月面や火星のBETAはまだ健在なのだ。この世界の戦力増強は不可欠であり、それには夕呼の頭脳や今の地位が必要なのである。

 ちなみに、純夏が盗み取ってきたデータの中にはオモイカネシリーズの実現につながる人工知能関係理論が含まれていたのだが、それは夕呼の最後の切り札として徹底的に秘匿された。

 「アースラ」は横浜基地沖で修理を続け、数日後には何とか次元航行が可能なまでに復旧、ミッドチルダへの帰路に就いた。さよりも「アースラ」に同乗し、元の世界に戻ることとなる。さよりの元の世界、およびミッドチルダへの航路を示したのはユリカであり、「アースラ」をして六次元の壁を飛び越えさせたのはニアである。

「ネメシスを倒してもわたしの役目が全て終わったわけではありません」

 「アースラ」に同乗したニアはさより達にそう言っていた。

「ネメシスが撒いた種子はそれぞれの宇宙で独自の進化を遂げ、勢力を拡大し、その宇宙の螺旋族を今も脅かし続けています。BETAや宇宙怪獣に類似したそれらの種の根絶。それがこれからのわたしの役目です」

「わたしもニアさんの手伝いをすることにしたわ。木星の中心核に引きこもっているよりずっと良いしね」

 やはり「アースラ」に同乗したユリカはさより達にそう言っていた。また、

「やっぱり螺旋族の戦艦が必要ですよね。何より、螺旋の戦士の協力が必要だと思いませんか?」

 さよりの元の世界に到着するまで、ユリカはずっとそう言い続けてニアを辟易させていた。さよりが「アースラ」を降りて以降のことは判らないが、あの分なら説得されてしまっていても不思議はない。







 つまり、さよりが執筆していたニアとシモンの再会は、実は単なるさよりの想像なのである。

 いや、願望であり、希望であると言っていい。この文章を発表し、さよりだけでなく多くの人々が二人の再会を観測すれば、平行世界の彼方であるいはそれが実現するかも知れない。

「二人はいつまでも一緒でした……BETAは全て倒され、世界に平和が戻りました……やっぱり物語はハッピーエンドでなくちゃ」

 そしてさよりは物語を紡ぐ。遠い宇宙の、幸せな結末を夢見て。








 それはとてもちいさな、

 とてもおおきな、

 とてもたいせつな、

 愛と勇気と――気合いと努力と根性のおとぎばなし




(完)









○あとがき

 「GONG! 超銀河英雄大戦」はこれにて完結です。
 皆様お付き合いいただきましてありがとうございます。
 最後に、発表の場をご提供いただいた舞様に感謝いたします。


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