<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[9582] ほのぼの異世界譚
Name: 炉真◆769adf85 ID:c2bf8da9
Date: 2011/03/27 16:16
『0話・手紙』


 俳句 背景

 拝啓


 お母様、お父様、そちらではどのようにお過ごしでしょうか?

 僕は現在異世界で平凡に暮らしています。

 最初は戸惑う事も多かったのですが、今は何とかやっています。

 異世界では家族の様な存在も出来ました。


 心優しい純粋無垢な、幼女に近い少女。

 気高く勇躍とした、慈愛を持った子猫。


 そんな一人と一匹が、僕のこちらの世界での家族です。





 思えば、色々な事がありました。


 お母様とお父様がお金欲しさに、僕を悪の組織に売っぱらった事もありました。

 お母様とお父様の借金の返済に、僕の臓器が狙われたこともありました。


 現在進行形で、元の世界に帰る方法を模索しております。

 もしも、帰ることが出来たら、テメェ等覚悟しておけよ。ぶん殴るから。





 それはそうと、気にかかっていることがあります。

 僕は悪の組織の慰安旅行中に、こちらの異世界に来てしまった訳ですが、僕のポジションの変わりは居るのでしょうか?

 そもそも、僕が居なくなったことに気付いてもらえているでしょうか?

 ……なんだか、悲しくなってきました。

 答えを聴くのが怖いです。


 それと、友人達は元気でしょうか?

 僕が居なくなって悲しんでいないでしょうか?

 もしも、僕が居なくなって爆笑していたら、構いません。ぶちのめして下さい。





 色々と思うところはあります。

 正義の味方との闘いも終わっていませんし、思い返せば彼女さえ出来ませんでした。

 しょっぱい青春でした。

 思い出すと涙が止まりません。


 ……泣いても……いいですか?





 何はともあれ、僕は異世界で楽しくやっています。

 ふぁんたじーで溢れているのに、全くの平和です。つまらないです。

 イベントとか中々起こりません。フラグも立ちません。

 僕が異世界に来た意味って何なんでしょうね?


 ……まぁ、事故なんですが。





 それでも、僕はこの世界で生きています。

 帰れるか帰れないか分かりませんが、精一杯生きています。

 そんな僕の日常のひとつとして、この手紙を書きました。





(中略)



(後略)





 と、いう訳です。面白いでしょう?

 HAHAHAHAHA!!!

 そろそろ紙面が足りなくなって来たので、これで筆を置くこととします。





 お母様、お父様、どうぞ健康には気を付けずに風邪をこじらせて下さいますようお祈り申し上げます。



 それでは、さようなら。





 敬具






P.S.

 帰ったらマジで覚えとけ。顔が変形するまで殴る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まえがき的なあとがき

 はじめまして。炉真と申す者です。
 初めての投稿なので、色々と至らない点などもあると思います。
 拙い文章ですが、暇潰し程度に読んで頂ければ幸いです。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
追記

 チラシの裏から引っ越してきました。
 これが処女作なので、拙い文章でお目汚しになるかもしれませんが、暇潰し程度に読んで頂ければ幸いです。
 忌憚ない意見・感想など、思ったことを遠慮せずにお書き下さい。
 よろしくお願い致します。

2009/06/15・初出(多分)。
2009/07/17・チラシの裏から移転
2010/05/06・ひっそりと0話~19話までの書式変更
2010/05/07・苦行の20話~28話の文章間隔変更
2011/01/19・久方の更新
2011/01/21・さくしゃ は ちから つきた!
2011/03/27・終りがそろそろ見えてきたやっふぃ。



[9582] 1話・平和な異世界
Name: 炉真◆769adf85 ID:c2bf8da9
Date: 2010/05/06 20:44


 唐突だが異世界にきた。びっくりである。





『1話・平和な異世界』





 それは突然だった。

 友人と共に女子風呂を覗いていたら、目の前の風景がガラリと変わったのだ。驚いた。
 その変化した風景は、どこかの城や砦といった内部の様だ。ゲームなどでよく見る光景だ。間違いない。ゲーマーもどきを舐めるな。
 良く云えば余計な物がない、悪く云えば殺風景なその場所に、可愛らしい顔立ちをした少女が居た。部屋の真ん中にポツンと佇んでいた。

 実に可愛いらしい。紛う事なき美少女だ。これで美少年とかだったら僕は泣く。ショタは中学と同時に卒業しました。

 そんな事を考えていたら、目の前の少女が悲鳴を上げた。顔が真っ赤である。そんな顔も可愛いのだから美少女は素晴らしい。
 しかし、何故に顔を両手で押さえて俯いているのだろうか。周囲を見回しても、特に変な物はない。

 一応自分の姿も見てみる。

 女子風呂を男子風呂から覗いていた為に全裸である。幻想郷パラダイスを見ていた最中に此処に来たので、下半身の一部は未だに激しく自己主張をしている。うむ、我ながら中々の逸物ムスコである。
 再び少女の方を向いてみる。未だに恥ずかしがって俯いている。困った。何に対して恥ずかしがっているのかが分からない。
 少女の恥ずかしがる要因に頭を捻っていると、視界の端を影が掠めた。
 なんだろうと少女の足元を見ていると、後ろから子猫がひょこっと顔を出した。
 突然の予期せぬ子猫との出会いに固まっていると、子猫が鳴いた。

 みー

 その余りの可愛らしさに跳び上がった。自他共に認めるネコスキーな僕としては当然の反応である。ネコ可愛いよネコ。
 その子猫に近寄る。必然、少女に近寄る訳だ。

 少女が絶叫した。

「服を着て下さい!!!」





 少女が恥ずかしがっている理由が分かった。





*****





 その後、服を身に付けようとは思ったものの着衣がなかった。

 どうしたものかと思っていたら、少女が服を持って来てくれた。気遣いの出来る女の子は素敵です。
 流石に肌寒かったのでありがたかった。
 服を着用して、少女が気持ちを落ち着け、子猫が鳴く。みー。
 幾分、気分の落ち着いた少女が僕の現状を教えてくれた。


 曰く、ここは僕の居た世界ではないこと。

 曰く、少女のマジュツとやらの失敗で僕が召喚されたこと。

 曰く、僕を元の世界に還す方法は、今のところ不明だということ。

 曰く、少女は9歳だということ。幼女と少女の中間点である。

 曰く、子猫の名前はジジだといういこと。三毛猫なのに。


 結論、僕は異世界に来たのだ。びっくり。
 へーそっかーと頷いたら、少女が恐る恐る尋ねて来た。

「……信じてくれるんですか?」

 確かに荒唐無稽な話である。僕も男から聞いたら信じない。
 しかし、それを告げたのが美少女……いや、美幼女? まぁ、どちらでもいいか。とにかく可愛い娘だから信じたのだ。子猫もいるし。

 カワイイは正義である。正義は信じるものである。

 その旨を伝えると、少女は頬をほんのりと赤くしながらも、呆れた様な目で僕を見た。興奮する。
 そんな僕達の間に漂う微妙な空気などお構いなしに、子猫が近寄って来た。2本の揺れる尻尾がキュートである。素晴らしい。
 じっと僕を見つめる子猫。とても可愛い。思わず口元が緩む。
 だらしなく口元を緩めている僕を見ながら、子猫が口を動かした。

「お主、変わっておるのぅ」

 子猫が喋った。それも美少女ボイスである。
 なんと、昨今の猫は喋るのか。知らなかった。ネコスキーな僕とした事がなんたる失態か。

「んな訳あるか」

 子猫に一蹴された。どうやら世間でも知られていないらしい。良かった。僕だけが知らないのかと思った。

「あの……」

 そんな遣り取りをしていた僕等に、少女が遠慮がちに声をかけてきた。その謙虚な姿勢を見ると、こう云わずにはいられない。





 萌え。





*****





 少女に色々と情報を訊いてみた。快く答えてくれた。嬉しかった。
 子猫に色々と言葉でいじられた。心地好くなってきた。興奮した。

 少女は僕を召喚したことに負い目がある様子だった。
 その負い目を利用して肉体を要求したら泣かれた。それを見た子猫が怒髪天になった。

 すぐに冗談だと云った。

 なんとか少女が泣き止んでくれた。子猫もそれを見て怒りを鎮めた。
 美少女を悲しませてはいけない。紳士ならば当然である。
 つまり、紳士の中の紳士である僕が美少女を泣かせる訳なかったのだが、なにぶんテンションが上がっていたのだ。舞い上がっていたのだ。

 なにせ、異世界である。
 それも召喚系統である。
 召喚者が美少女プラス子猫である。
 ズバリ僕が主人公的な冒険譚が始まるのである。

「異世界に召喚されたということは、僕になにか特別な力が発現しているということだね!」
「任意の召喚ならば世界の祝福があるが、お主の場合事故じゃから、それはないのぅ」
「僕は選ばれた勇者で魔王を倒す為に世界にばれんだね!」
「魔王は、だいぶ昔に寿命で死んだ」
「実は僕が魔王という展開で魔族を率いて世界に平和を!」
「百年程前に魔族とは和平を結んだぞい。今では善き隣人じゃ」
「…これから僕は旅をして、様々な困難を乗り越えて英雄ヒーローになるんだね!」
「英雄はもう居るのぅ。100人ほど」
「……僕が意味不明な魅力を振り撒きハーレムを築くんだね!」
「全裸で平然としておった輩に、それはない」
「………僕は転生者なんだよ!」
「その肉体は主の身体じゃないのか?」
「…………なんかの漫画や小説やアニメのオリ主なんだ!」
「異能ひとつ持たぬ、一般人な立場のか?」
「……………世界は今危機に瀕している!」
「一昨年、その問題は解決したな」

 絶望に打ちひしがれた。

 僕の物語が始まりを告げもせずに幕を閉じた。
 これほどまでの理不尽があって良いのだろうか。
 さめざめと泣いていると、少女が僕を慰めてくれた。
 十も歳が下の女の子に慰められる僕。いと哀れ。
 折角、異世界に来たのに冒険活劇や英雄譚が展開されないなど、なんたることか。
 体育座りをして、指で床にモナリザを描く。
 漫画なら、どんよりした雰囲気が出ていること間違いなしだ。

「あの、その、が、頑張ってください!」

 なにを頑張ればいいのか皆目分からないが、少女による古典ポーズの励ましに元気が出た。

 元気が出たので少女の腕を引張り抱きしめる。ぎゅー。

 腕の中で、あわあわともがく美少女に性的な悪戯を開始しようとして、子猫に猫パンチを頂いた。爪が鋭く痛い。顔が裂かれた。業界ではご褒美である。ありがとうございます。
 痛みによる恍惚を感じながら悶える僕。そんな僕から少女が抜けだした。慌てて子猫の後ろに下がる。

 子猫は呆れる様に云った。


「お主は阿呆か……」
「アホびゃないモン!」

 噛んだ。

 僕が噛んだのが子猫のツボに入ったらしい。爆笑している。
 勝った。何にかは知らないが。
 ようやく笑いが治まり、再び子猫が云った。

「まぁ、あれじゃ。喚び出した責任もある。お主が元の世界に還れるすべが見つかるまで、ここで暮らすがよい」

 その言葉に、思わず子猫をガン見した。ウインクされた。興奮した。
 少女も見た。少女は僕を見て微笑んで頷いた。とても良い子だ。今日から一緒のベッドで寝てあげよう。僕の感謝の気持ちである。





 そんなこんなで、こちらの世界での住居が決まった。





*****





 あれから一年経った。

 最初は慣れない生活に戸惑っていたが、流石に慣れた。
 この一年の間に色々な出来事があった。


 ある時は、ドラゴンを討伐しに行った。

 ある時は、獰猛な魔獣を退治に出掛けた。

 ある時は、妖精族の里でフラグを乱立した。

 ある時は、王宮魔術師にならないかと誘われた。


 全部嘘だが、実に充実した一年間だった。
 特に、この一年で劇的な変化もあった。


 先ず、子猫ジジを名前で呼ぶようになった。

 次に、少女メアを名前で呼ぶようになった。


 別に劇的でも何でもないが、気にしてはいけない。

 ふう、と手を休めて一息吐く。
 そもそも、たった一年で劇的な変化なんて起こらないのが世の常に決まっている。
 この一年での変化など大したことのないものばかりだ。
 例えば。


 少女はさらに美少女ぶりに磨きをかけ、色んな意味でとても美味しそうに育っている。

 そんな少女を見て、僕は息が荒くなる。そろそろ我慢と理性の限界かも知れない。


 変化などこの程度である。特筆すべき点など存在しない。
 さて、と鍬を持ち直し再び畑を耕そうとした。

 みー

 後ろから聞こえた鳴き声に振り返る。
 そこに三毛の子猫がいた。ジジである。

「昼飯の時間じゃ。早うこい」

 そう云って、もと来た道を戻っていくジジ。
 僕も鍬を置いて、ジジの後を追う。
 僕とジジは並んでそびえ立つ城へと歩いて行った。





 今日も異世界は平穏である。







[9582] 2話・新ジャンル
Name: 炉真◆769adf85 ID:c2bf8da9
Date: 2010/05/06 20:53


 今の僕なら与作に勝てる。畑が違うけどね。

 流石は僕。うまいこと云った!





『2話・新ジャンル』





 既に畑を耕すのも熟練してきた次第。
 僕は手に出来た肉刺まめの痛みを気にしつつも、実に誇らしい気持ちになった。
 見よ! この耕された広大な畑を!
 トウモロコシ畑とか目じゃねぇぜ!

「全体の四分の一じゃがな」

 ジジが非情な言葉を僕に浴びせる。
 べ 、別に嬉しくなんてないんだから……!!

「……お主はそろそろ医者に行くべきじゃ」

 どうやら僕の身体を気遣ってくれるらしい。
 大丈夫、肉刺程度で医者に診てもらう程に僕は貧弱ボーイではない。

 その旨を伝えた。
 ああ、こいつもう本格的に駄目だ、的な眼で見られた。

 これまでに43回程その眼を向けられたが、未だにそのような眼を向けられる理由が分からない。
 きっと照れ隠しなのだろう。
 可愛い奴である。

「……もう、お主については色々と諦めた」

 ジジが嘆息する。
 一体全ちゃ……!?

 …………………………。

 一体全体なんだというのか。

「お主、いま噛んだじゃろ?」





 ……噛んでないよ?





*****





「メアちゃんメアたんメアきちメアにゃんメア様メア嬢メア殿メア御前メア猊下メアっちメアトロイドご飯まだ~?」

 一息で云ってみた。
 息切れが凄まじい。これは危険だ。
 肺活量でも鍛えようか? 鍛え方知らないけどね!
 酸素不足の脳味噌でそんなことを考える。実に益体もない。
 白味噌でも詰めれば良い考えでも浮かぶだろうか。

「んな訳あるか」

 僕と同じく食事を待っている三毛で子猫なジジが、僕の考えを一刀の下に両断する。言葉の暴力此処に在り。
 しかし、何故に僕の考えを読めたのだろうか?

「お主の考えなど、手に取るように分かるわ」

 ニヤリと不敵に笑うジジ。

 なんと。

 それは、つまり、あれだ。
 僕とジジは以心伝心。ツーと云えばカー。「バルス!」と云えば「目がぁ! 目がぁぁ!!」な仲であると云う事だろうか。

 それは、あれだ、若干気恥ずかしいものだ。

 これ程の毛並みを持つ子猫と心が通じ合っているとは、とても嬉しいことこの上ない。思わず不埒な想像を絶賛垂れ流ししたくなる。
 不埒な想像をする僕。それを読み取る子猫。読み取った想像に顔を赤らめて俯く子猫。「にゃーん」と云う声が力無く、可愛いこと至上の悦楽なりにつき。

 その様な情景を思い浮かべて、言葉に出来ない感動が込み上げる。
 うへへへへぇ、とニヤケる。是非とも毎日不埒な想像をしよう。
 そんな僕を見て、ジジが怯える様に毛を逆立てる。

 大丈夫、怖がらなくても大丈夫だよジジ。もう逃がさないから。

 万感の思いを込めて、ジジにニヤリと笑いかける。
 その場から後方への大跳躍を見せるジジ。流石は子猫。「みゃうん!?」という怯える様な鳴き声も素晴らしい。
 これ程の高機動性能を僕に見せてくれたのだ。今日はジジを抱きしめて寝よう。そして、口で云うには憚られる様な行為をしよう。
 最初は嫌がるかもしれない。でも大丈夫。なぜなら僕とジジは心が通じ合っているのだから。以心伝心なのだから。お互いに相手のことを想っていなければ出来ないのだ。心が通うと云うのはそれほど難しい。
 つまり、僕と以心で伝心なジジは互いに想いあっているということなのだ。ジジは僕に惚れている。僕はニュータイプだから分かる。
 だから不埒な行為はオールオッケーだ。行為は好意だ。ジジも理解してくれるだろう。

 それでも、懸念はひとつ。

 さてはて、愛の結晶は猫なのだろうか、それとも人間だろうか。それとも猫娘だろうか。子猫と人間の夫婦など過去に前例がないから分からない。
 でも大丈夫。僕とジジの子だ。きっと可愛いだろう。出来ればジジに似て欲しい。名前も決めなければいけない。これから忙しくなるぞ。

 くはははは、と哄笑する僕。

 未だに、何故か過度に怯えて涙目の小さな花嫁に近寄る。
 ひぃっ! と息を呑む音が聴こえた。きっと、未来への期待が募ったためのしゃくりあげだろう。
 満面の笑みを浮かべ 、両手を広げて近寄る。

「こっち来んな!!!」

 ジジが咆哮する。
 照れ隠しか、可愛いなぁ。
 うひゃひゃひゃと笑いながら近寄る。大丈夫。ジジが僕の想っていることを分かるように、僕もジジの想っていることが分かるのだ。
 照れ隠しですね。分かります。

「分かっとらん! お主は私のことを分かってないわ!!」

 絶叫する。
 後半キャラが変わっている気がするが、それもまた良し。
 美子猫はカワイイ。カワイイは正義。正義は受け入れる物である。

 これが萌えなのだよ。

 兎に角、僕がジジの事を分かっていなくても、ジジが僕の事を分かっているのだから、それでいいじゃない。
 そんな訳で再度近寄る。
 みぎゃああああ!?!? と絶叫。はっはっは、照れ隠しが過剰だなぁ。そこにも萌える。

「私、貴方の考えていることなんか分からないわよぉ!!!」

 その言葉に足を止める。
 びくびくと怯えているジジを訝しげに見ながら、疑問を口にする。

 僕の考え、手に取るように分かるんじゃないの? と。

 僕の前進が止まり、多少落ち着いた風なジジ。それでも警戒心はバリバリである。
 そんなジジが僕の疑問に答える。

「あな……お主の考えなど、分かる訳ないじゃろうが」

 キャラが戻ったジジ。ちょっと残念。
 しかし、再びの疑問。
 なんで、先程は分かったのかしら。

「だって、お主、全部口に出しておったから」

 なんと。

「ちょいとからかうつもりが、物騒な事まで喋りおって。久々に貞操の危機を覚えたわい」

 どうやら今までの妄想を全部口に出していたようだ。
 その口に出していた僕の独り言に、ジジは恐怖を覚えたらしい。
 悪いことをした。
 反省はしていないし、後悔など微塵もないが。

「お主の超絶な変態っぷりを舐めておったわ。まさか猫に欲情するなどと……」

 ジジが何かを云っていたが、僕の耳には入らなかった。
 オゥ! アッー! ル! ゼットォオ! な体勢で落ち込む僕である。オーティーエルでも可。
 ジジと僕は、心が通っていないんだと云う事実が、胸を刺す。こう、ぶすり! と。
 頬を何かが伝い、地べたにしずくが落ちる。

 泣いてなんかいないんだから! これは、脳汁なんだから!

 得も云われぬ虚脱感に苛まれている僕。
 この無気力感を解消するためには、

「ジジを抱きしめるしかない……」
「何故!? それは無くなったんじゃないのか!?」

 それとこれとは別物である。
 ガソリンと灯油くらいの別物である。
 どこがどう違うとか説明できないけど。多分、別物じゃね?

「ご飯出来ましたよ~」

 再度の追い駆けっこをしていた僕とジジは、メアの言葉に動きを止める。
 行儀良く席につく。ジジは床でお座りしている。

「たくさん食べて下さいね」

 メアの言葉に僕とジジは同時に「うん!」と頷く。





 なによりも、先ずは食欲が大事なのさ。





*****





 食事後、メアに怒られた。

 先程の騒動がメアにばれたのだ。
 僕だけ正座して説教を喰らった。なんだか興奮した。
 幼女風味な少女による説教。
 これは新しい時代の先駆けだ!

 新ジャンル『幼女(少女)と説教プレイ』

 これは流行る!!

「ないです」
「ないな」
「気持ち悪いです」
「脳の病気じゃな」

 一人と一匹に駄目出しされた。
 僕の日頃の生活態度も含めてぼろくそに云われた。
 さて、上を向くだけじゃ駄目だ。涙がこぼれそう。

 泣いても……良いですか……?


 一方的に責められて、興奮で感極まった涙だけどね。





 よし、変態って云った奴。ちょっと表出ようか?





[9582] 3話・狩り
Name: 炉真◆769adf85 ID:195099a3
Date: 2010/05/06 20:58


 本能が叫ぶ。

 目の前の獲物を狩れと。





『3話・狩り』





 木陰に隠れて息を潜める。
 期は未だ最適に非ず。
 焦りは禁物。焦燥による失態は歴史が物語る。

 故に、焦らず。

 どこまでも気配を殺して身を潜める。
 獲物は未だ僕に背を向けたまま。

 だが、まだ早い。

 この距離では確実に獲物を捕えられない。
 汗が頬を伝う。

 暑い。

 物理的な熱気に加え、精神的高揚感が拍車をかける。

 暑い。

 だが、それでも未だ期は熟さず。
 息苦しい程の熱気が身体を覆う。

 暑い。

 その時、獲物が動いた。

 瞬間的に高まる緊張。
 精神は高位の次元に移行し、この光景を俯瞰的に感知する。
 視線は揺れず動かず真っ直ぐに。
 獲物の一挙一動をつぶさに観察する。
 目を見開き、その姿を焼き付ける。

 こちらまで、あと十歩。

 思わず唇を舐める。
 思いのほか、唇は乾いていた。

 あと、五歩。

 喉がからからに乾く。

 あと、四歩。

 唾を飲み込む。

 あと、三歩。

 舌がひりひりと痺れる。

 二歩。

 眼球が血走る。

 一。

 身体を血流が駆け巡る。


 ゼロ。


 獲物が目の前を通り過ぎる。
 身体中に力を込める。

 獲物は再び僕に背を向けた。

 両脚に、史上最高レベルの力が漲る。
 四つん這いになり、猫のように背を丸める。

 獲物は僕に気付かない。
 はち切れそうな程に漲った力を、一気に解放する。
 されど音は立たず、高速にて獲物へと肉薄する。
 まるで、弾丸の如く。
 成功を確信した僕は、歓喜の叫びを上げる。

「メアちゃ~~~~~ん!!!」

 振り向いた少女エモノが顔を驚愕に染める。
 だが、既に狩猟成功範囲内。
 いまさら気付こうが、余りに遅いっ!!

 瞬間。

 まさに少女を抱きかかえんとした僕の頭上。
 ひとつのちっこい影が視界をよぎった。

「甘いわ」

 一閃。

「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!」

 引っ掻かれた顔から血が噴き出す。
 視界を失った僕は、見当違いの方向へと軌道を変え、着地を仕損じたのだった。

 衝撃。


「ごぶぅ!!」


 僕の意識が暗闇に堕ちる。
 最後に見えたのは。





 呆れた様に僕を見る子猫と、僕を見て心配そうにあたふたしている少女だった。





*****





 現在、正座をして説教を受けている。
 説教をかましているのは、三毛の子猫。
 その名をジジと呼ぶ。
 三毛なのにジジとは是如何これいかに。そう思っていた時期もありました。
 けれど、何気にお腹の中が真っ黒なので似合っていると、最近思うようになりました。
 僕を叱りながらも、ふりふり揺れる2本の尻尾が愛らしいです。

 癒し万歳。

「こりゃ。聴いておるのか?」

 揺れるふかふか尻尾に癒されている僕をジジが咎めます。
 けれど、そこに怒りの感情はありません。
 ジジの眼を見ると、こいつには何を云っても無駄だしなぁ、といった諦観の眼差しをしています。
 最近よくその眼差しを向けられることが多いです。
 あと憐憫の眼差しも。
 とても疑問に思います。何故そのような眼差しを向けられるのか、さっぱりです。はぁ~さっぱりさっぱり。

「ジジ、もう良いよ……」

 横から声がかかる。
 僕とジジと一緒に住んでいる少女。我らがメアちゃんである。
 僕に説教していたジジを止める。

「でもねぇ……」
「大丈夫だから」

 不服そうなジジ。
 そんなジジを宥めるメア。
 実に良い子である。
 まぁ、それだけ僕がメアに信頼されているということだ。
 はっはっは。僕の人徳万歳。

「もう、あたしも諦めたから」

 なんだか凄く疲れた顔でメアが云う。
 十歳児が出してはいけない、全て無駄だと悟りきった雰囲気を発散している。
 どことなく虚ろな瞳が哀愁を誘う。

 なんだろうね。どうしてそんな表情をしているんだろうね。不思議。

「お主が原因じゃろうが」

 ジジが何か云っているが、僕には聞こえない。

「……馬の耳に念仏とは、このことじゃなぁ」

 ジジが悟りきった表情を浮かべて云う。
 失敬な。僕は発狂していないぞ。

「……どうして発狂という言葉が出てくるんですか?」

 メアが不思議そうに尋ねる。
 昔、馬の耳元で念仏を唱えたことがある。昼夜問わずに、一日中ずっと。結果、馬が発狂するに至った。
 いやぁ、あの時は大変だった。暴れ馬の真骨頂を見た気分だった。

 そんな旨を伝えた。

 メアが、もう駄目だなぁ的な、憐憫の視線を向ける。その表情もまた、かわゆす。胸がほんわかする。
 ジジは、こいつは終わってるなぁ的な、諦観の視線を向ける。その表情に言葉に出来ない悦楽が込み上げる。

「駄目ですねぇ……」
「駄目じゃなぁ……」

 一人と一匹の表情が、なんだか慈愛に満ちた物へと変質していた。
 どうやら、複雑な過程を通って精神状態が飽和しているようだ。
 温かい眼差しで、まるで見守る様に僕を見ている。
 何故にそんな風に見てくるのか、今の僕には理解できない。
 きっと、これからも理解できないだろう。



 だって、理解する気ないもんネ☆





 ……なんだろう、僕が凄い駄目人間な気がする。







[9582] 4話・悪魔
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:04


 恋に恋なんてしない! それが、僕だっ!





『4話・悪魔』





 ある日のことであった。


 その日、僕は畑を耕そうと鍬を持って畑に出向いた。
 畑に向かう途中で小鳥の囀りを聴き、思わず足を森に向けた。
 森の奥に存在する大樹。なんでも、世界樹のひとつだとかそうでないとか。そんな大樹だ。流石は異世界。
 見上げても頂点の見えない大樹の太い枝に、鳥の巣があって、小鳥がピーチクパーチクと囀っていた。
 僕は小鳥を視認して、大樹によじ登って行った。

 囀る小鳥を至近で観賞し、ほんわか癒され、親鳥に突き落とされた訳であるが、喰われなかったことは僥倖である。親鳥の全長がゆうに50m越えているなんて、ファンタジー万歳である。小鳥はあんなに小さくて可愛いのに。

 でも、親鳥好きです。カッチョエーです。ダイナブレイド万歳。
 地面に落ちて、親鳥に追い立てられたので適当に走って逃げた。


 迷子になった。


 泣きながら彷徨っていると、メアが僕を発見してくれて、一緒に城へと帰った。
 帰り着くまでメアは僕を慰めてくれた。本当にいい子である。癒された。
 帰り着いてジジが僕を鼻で笑った。本当に酷い奴である。興奮した。
 結局、畑を耕すことは出来ずに昼食となった。
 そこそこ賑やかな食事を楽しみ、人心地ついている時である。

 ある人物が来訪した。





 そんな日の出来事である。





*****





 来訪を告げるサイレンが鳴り響いた。
 結構な大音量だ。この非常事態を思わせる音が堪らない。
 一緒に広間に居たメアとジジは、このサイレンに耳を押さえながらも戸惑っている。
 それもその筈だ。なんせ、本来は誰かの来訪時、普通のチャイムが鳴る筈なのだから。
 そもそも、サイレンなんてつけていなかったのだから混乱は一入ひとしおだろう。

 メアの不安そうな顔に、本人は意識していない様だが涙が浮かんでいる。凄くテンパっているのだろう。可愛いなぁ。

 ジジは煩わしそうに顔を顰めている。器用に前足で耳を塞いでいる姿が、実にキュートである。

 そんな二人の姿を眺めて、うんうんと頷く僕である。
 メアの可愛い姿も、ジジのキュートな姿も見れた。
 わざわざサイレンを仕掛けた甲斐があるというものだ。
 ほぅ、と溜息を吐く。二人の愛らしい姿に心が安らいでいく。

「ぼーっとしとらんで、早く止めんかっ!!」

 ジジに叱られた。
 メアも涙目で僕を見つめてくる。
 仕方ないので、サイレンを止める。
 サイレンの音が止み、静かになる。静かになったが、その静かさが耳に痛いという不思議現象が発生した。

 音の暴力は恐ろしい。

 ジジがサイレンによる苛立ちを僕にぶつけるのだから、音の力とは凶悪である。ジジの眼に確かな殺意を垣間見た。子猫は音に敏感なのである。
 メアも恨みがましく僕を見る。音の力は純粋なメアにまで効力を発揮する様だ。そんな瞳で見られたお陰で気分が高まって仕方無い。音は偉大である。

「誰か居ませんかー?」

 僕にとって居心地の悪い空気が蔓延し、僕が開いてはいけない扉を開きかけようとした時、外から声が聞こえた。

 これ幸いと玄関口に向かう。

 ジジとメアの責める視線に、開拓してはいけない悦楽を覚えそうになり、結果的にそれを防ぐことができた。
 そのことに安堵の息を吐き、若干の落胆を胸に抱えている自分に驚愕する。
 バカなッ! これじゃ、僕が変態みたいじゃないかっ!!

 自分自身に戦慄する。


 僕はノーマルだ。標準だ。そうだろう、僕っ!


 頭の中で自分自身に言い訳する。
 自分自身への言い訳から、自分自身を褒め称えるのに、そんなに時間は掛からなかった。自画自賛って良いよね。
 とても良い気分になってきた頃、玄関口に着いた。
 大きな正門が閉め切っている。
 これ程の大きい物だと声なんか聴こえないと思うのだが、魔術とか魔法とかでどうにでもなるらしい。
 素晴らしい。これだから異世界は大好きなのだ。ファンタジー万歳。

「おーい、ホントに誰も居ないんですかー?」
「今開けますよー。ちょいと黙れー」

 大声を上げる相手に返事を返す。
 閂を外して門に手をかける。
 どうでもいいが、鍵の掛け方はレトロ方式なのは何故だろうか? 鍵も魔法とかのファンタジーでどうにかすればいいのに。
 そんなことを思いながら、門を開ける。

「やあ」
「帰れ」

 門を閉める。
 なんだ、ただの悪戯か。

「ちょ、こら! 開けなさい!」

 どんどんと門扉が叩かれる。
 ポルターガイストが真昼に起こるなんて。これだからファンタジーは侮れない。

「……誰でしたか?」

 異世界の不思議に感心していると、後からやって来たメアが僕に尋ねてきた。

「うん。悪戯だったよ」
「……いたずら、ですか?」

 不思議そうに首を傾げるメア。可愛さここに極まれり。
 さぁ広間に戻ろう。そう云おうとした時、再び声が聞こえた。

「魔女殿ですか? 私です! スティーノです! ここを開けて下さい!!」
「……スティーノさん?」

 メアが外の声に反応して、門を開こうとする。

「メア、騙されちゃいけない。今のは幻聴だ」
「魔女殿! そいつにこそ騙されてはいけません!!」
「えっと……あの……」

 メアがうろたえている。どうやら困惑しているようだ。
 ここがふんばりどころだ。頑張れ僕。

「メア。さぁ、広間に戻ろう」
「えっ? でも……」
「大丈夫。今のは幻聴さ」
「でも……」
「幻聴だ。幻聴なんだ。幻聴以外に有り得ない」
「幻聴、ですか?」
「そうだ」

 僕の剣幕に押されて、「幻聴……いまのは幻聴……」と呟くメアの可愛いこと可愛いこと。
 よし、次で納得させられる!!

「メア。一緒に寝よう」
「なんでじゃ!!」
「ぎゃあああああ!!?」

 思わず欲望を口走った僕を、何処からともなく現れたジジが引っ掻いた。
 顔に赤い縦線が走る。僕は失明するかもしれない。

「メア、しっかりせい。こやつの言葉に惑わされるな」
「あ、ジジ」

 ゴロゴロと石畳の床を転がる。
 これ程の痛みを子猫に与えられるなんて、なんたる屈辱。

 ……たまらねぇ。


「それで、誰が来とるんじゃ?」
「あっ、そうだった」

 僕が苦痛による快楽に呻いているのを無視して、ジジが事を進めていく。
 そして、門が開かれた。

「ふぅー、やっと中に入れた……」
「うむ。久しぶりじゃな、スティーノ」
「お久しぶりです、スティーノさん」
「はい。魔女殿に聖魔様、ご無沙汰しております」

 中に入ってきたのは、白い翼を持つ美青年。
 その美青年が、ジジとメアに挨拶する。

「申し訳ありません。先程はすぐに門を開けませんで」
「ああ! 魔女殿は悪くないので謝らないで下さい!!」
「そうじゃな、悪いのは全部こやつじゃしなぁ」

 そう云って、三つの視線が僕に浴びせられる。

 ………ぽっ。


「照れるな!!」





 ジジに引っ掻かれた。





*****





「それで、何しに来た。早く帰れ」

 広間に移動した僕達。
 開口一番に、目の前の美青年に尋ねる。
 ええい、白い翼が鬱陶しい。毟り取ってやろうか!?

「なんでお主は喧嘩腰なんじゃ……」

 ジジが呆れたように云う。
 子猫には分からないことだ。子猫は黙って僕に抱かれていればいい。

「どちらにせよ、用事を済ませたら帰りますよ」

 苦笑しながら告げる美青年。その姿も様になる。
 ええい! イケメンは全員悪魔だ!!
 いつか成敗してくれる!!

「お茶です」

 メアが人数分のお茶を注いできた。
 気遣い出来る少女って素晴らしいよね。

「魔女殿、お気遣いありがとうございます」
「ふはははっ! 天より高く奈落より深く感謝するがいい!!」
「なんでお主が偉そうにしとるんじゃ……」

 ジジが呆れた様にボヤく。
 メアのお茶にはそれだけの価値があるのだ。
 しかし、メアは全然偉ぶらないので、変わりに僕が偉ぶるのだ。
 当然だろう?

「それで、スティーノさんはどんなご用事で?」
「ああ、はい。先日ご協力して頂いた魔獣討伐での報告と、騎士団長並びに魔術師団長、女王陛下より言伝を賜っております」
「なんとまぁ……。堅苦しいのぉ」
「御苦労さまです」
「はっ、公僕め。鳥のくせして国家の狗か? 種族の誇りを捨てるなんて、恥を知れ!」
「聖魔様そう仰らずに。魔女殿お心遣い感謝します。貴様とは一度決着をつけなければなっ!!」

 何故か僕だけ怒鳴られた。
 これだから理不尽なイメケンは嫌いだ。

「スティーノ、そやつは無視して良い」
「……そうですね。相手にする私が馬鹿みたいですし」

 酷い云われようだ。
 その後、僕を無視して三人の会話は進んだ。
 会話が弾んでいる時もあったが、僕は無視された。





 泣いてないもんねっ!!





*****





「悪魔め、やっと帰ったか」

 白い翼を持った美青年が帰った。
 もう来ないで欲しい。切実に。

「あの……」

 清々しい顔をしていた僕にメアが声をかける。
 なに? と続きを促す。

「どうしてスティーノさんが悪魔なんですか? 容姿なら、どちらかと云えば天使が近いと思うんですけど」
「うむ。それはワシも気になっておった」

 メアの言葉にジジが同意の頷きを示す。
 二人とも不思議そうにしている。
 やれやれ、分からないのだろうか?

「そんなの決ってるじゃないか」
「どうしてですか?」
「スティーノがイケメンだからだ」
「……は?」

 ジジが呆けたように言葉を洩らす。

「イケメンはモテるだろ?」
「……はい」
「スティーノは確かにモテるが……」

 二人とも困惑気味だ。
 どうやら、僕の考えが理解できない様だ。
 しかし、この言葉を聴けば納得するだろう。

「モテるイケメンは悪なんだよ。その整った顔で人目を惹きつけ、その声で魅惑し、均整の取れた肉体で色気を振り撒き、世の女性をたらし込むんだ!」
「……はぁ」
「…………」
「然るに、イケメンは一般男性の惚れた女性を簡単に奪い去って行く事も出来る訳だ。そんなことされれば、平均顔の凡人に奪い返す術はないじゃないか!」
「…………」
「…………」
「それ以前に、モテモテな奴を見ると普通にムカツク。ムカツクという感情は負の感情だ。負の感情を想起させるのは悪魔だ。だからイケメンは悪の使途であり、悪魔そのものなんだよ!!」
「……無理矢理すぎません?」
「お主、単純にモテるスティーノが羨ましくて嫉妬してるだけじゃろ?」
「うん!」

 理解してくれて何よりだ。

「お主は駄目じゃ駄目じゃと思っておったが、本当に駄目なんじゃのぅ……」
「……なんだか、悲しくなってきました」

 憐憫の眼差しが僕に突き刺さる。
 やめて。そんな目で僕を見ちゃ、らめぇぇ!!
 自分の身体を抱きしめ、いやんいやんと身をよじらせる。
 そんな僕を見て、冷めた眼をしたジジが云った。

「気持ち悪い」





 今の言葉にときめいた僕は、もう駄目かもしれない。







[9582] 5話・マスター
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:08

 いまの僕には理解できない。

 ………云ってみたかっただけだよ?





『5話・マスター』





 今日は街に出掛けた。

 月に一度の買い物です。僕達の住居は、けっこう人里から離れているので買い溜めが基本である。
 いちいち街に繰り出して買い物するのはしんどいもの。
 余談だけど、こちらの世界では一週間が10日で、月は2週の20日構成である。週末2日間は休日で、8日間は平日である。
 一年は18月と年末の星辰祭という5日間の祝日から成っている。合計して一年は365日という訳だ。僕が元居た世界との、まさかのシンクロである。

 ついでに云えば、一週にも呼び方があり、一週の始まりから順に、【】【みず】【】【きん】【つち】【いかづち】【かぜ】【すい】【にち】【つき】となっている。

 語ってみて思った。普通に余談である。いらないよね、こんな情報。ごめんね! うへっ☆

「ぼーっとしとるでない」

 子猫から声が飛ぶ。我らがネコドル、ジジである。ところで、アイドルって愛をお金で売ってるみたいだよね? 愛$アイドルみたいな。……なんだろう、微妙に世間の真理に迫った気がする。

 そんなジジは今現在、僕の半歩先を歩くメアの肩に乗っかっているのである。メアとジジのこのコラボは実に素晴らしい。
 ジジを肩に乗せるメアの衣装は、鍔広の帽子を被り黒を基調とした服を着込み、夜色の外套を羽織っている。
 なんだろうね。微笑ましい光景だけど、何処かで見た記憶がある。魔女然とした衣装の少女に、肩に乗る三毛の子猫。

 あれー? 何処で見たっけー?

 うぅむ、と唸る僕にメアが不思議そうに首を傾げる。その姿は是非とも写真に収めたいのだが、この世界ではカメラは高い。むちゃくちゃ高い。

 なので、この光景は脳に焼き付ける。ガン見である。

 メアが僅かに怯えた。
 ジジが僕を怒った。
 僕は鼻を押さえた。

 メアの怯える顔も可愛い。ツボである。鼻血が出そうだ。





 その後も色々となんやかんやあったが、無事に街に辿り着いた。





*****





「マスター、カミュをロックで頼む」

 開口一番に告げてみる。

「ねーよ。ここは八百屋だ」

 マスターがすぐさま言葉を返す。
 もはや定例の挨拶と化しているこの遣り取り。
 当初は戸惑っていたマスターも今では慣れた物である。
 慣れって素晴らしいね。

「バカは放っといて、いらっしゃい。何にしますか?」
「ふむ。ヤツカの実とレオリブを頼む」
「それと、ユーチャギの根もお願いします」
「僕はチョコロール」
「ヤツカの実とレオリブにユーチャギの根ですね。チョコロールなんぞ知らん」

 しどい。

「量はどの位にしますか?」
「いつも通りで頼む」
「いつも通りでお願いします」
「いつも貴方を見ていたわ。好き! だからお金頂戴!」
「はいはい、毎度ありがとうございます」

 僕の発言が無視された。
 少しばかり僕に対する態度が酷くないだろうか。

「うむ。また頼む」
「ありがとうございました」
「もぉ~、マジでチョーあんがと~。みたいなぁ~?」
「またのお越しをお待ちしております」

 その後も終始、僕の発言は無視されたのであった。





 悲しいね!





*****





「ソロモンよ! 貴方は帰って来たっ!!」
「テメェも帰れ」

 つれない反応だ。
 かくいう僕も元ネタ知らない訳だが。うろ覚え万歳。
 面白そうだから使っているだけだし。

「魔女様、聖魔様、今日は何をお求めで?」
「そうじゃなぁ、メア」
「はい。では、リーガントのお肉とプロテスの腿肉、あとブロイヤーの胸肉をお願いします」
「僕からは得体の知れない何かを上げよう」
「はい、畏まりました。少々お待ち下さい」

 ここでも僕は無視された。

「ああ、そう云えば中々の珍品を仕入れましたよ」
「ほぅ。どんなものじゃ?」
「実は卑猥な物だったりするんだな。この変態が」
「レートの肉ですよ。あと、変態はテメェだ」

 やっと言葉を返したと思ったら、僕を罵倒する言葉だった。
 なんと失礼な。それが客に対する態度かっ!

「何も買わない奴は客じゃない。だからテメェは客じゃない」





 どうしよう、反論できない。





*****





「お嫁にしなさい!」
「性別変えて出直してきなさい」

 綺麗なお姉さんに告白してみた。
 いいよね、綺麗なお姉さん。人類の宝だよね。
 性別変えたら本当に嫁に貰ってくれるのだろうか?

「ようこそ、メア様、ジジ様」
「うむ」
「……はい」

 ここは薬屋である。
 店主は目の前に居るお姉さん。名前はイリーヤさん。
 とても美人で器量も良く、皆から慕われる人である。
 この店のリピータはかなりの数がいる。薬効がとても良く、品質も上等なのだから当たり前と云えば当たり前である。
 一般的な風邪薬から、冒険者用の各種様々な効果を持つ薬品まで手広く扱っている。

 リピータの7割が男性なのは、きっと冒険者は男性の方が多いからだろう。もしも、イリーヤさんを狙っての来店ならば、僕は闘わなくてはならない。容赦しないぞこら。
 残り3割の女性については不問である。イリーヤさん狙いならば、僕は寧ろ応援する。ついでに僕もその仲に入れてくれれば最高である。僕は百合の花大好きです。百合の花ってどんな花か分からないけど。
 イリーヤさんは人望も厚く、頭脳も明晰で冷静沈着なので皆の相談役になることが多い。

 そんなイリーヤさんの薬品店であるが、何故かメアはここに来ると少し不機嫌になる。
 僕が最初にメアと訪れた時は、寧ろ喜びの感情の方が強かった筈なのだが。
 なんでだろうね?

「何をご入用ですか?」
「傷薬と痛み止め、それと風邪薬をそれぞれ3箱程度頼む」
「はい、かしこまりました」
「僕には無限の愛情を下さい」
「あいにく、当店ではバカに付ける薬は扱っておりませんの」
「酷いっ!?」

 僕の扱いが酷いと思う。
 そんな扱いにさえ悦びを感じる。僕を笑いたければ笑うがいい。
 ただし、綺麗なお姉さん限定である。

「メア様。どうか致しましたか?」
「……別に、なんでもありません」

 イリーヤさんがメアに声をかける。
 声をかけられたメアは、なんだろう、どことなく拗ねているように見えた。
 そんなメアも可愛らしい。萌えだね。

「そうですか。ところで、もう少し甘えても良いと思いますよ?」
「え?」
「それくらい、受け止めてくれますよ」
「でも……」
「大丈夫、その程度で嫌われたりしませんわ。むしろ、好感度が鰻昇りだと思いますよ?」
「……そうでしょうか?」
「ええ。心配になるくらいなら、駄々をこねて気を惹くのも、淑女の嗜みでしてよ?」

 僕にはよく分からない会話だ。
 しかし、こうして見るとあれだね。イリーヤさんに諭されているメアの姿が、教師と生徒を思わせる。
 イリーヤさん似合いそうだな、教師。その時は眼鏡とか掛けてるのだろうか?
 イリーヤさんは教えるの上手なので、教師になっても違和感がない。なによりエロイ。女教師。いい響きだ。

「……考えてみます」
「焦らなくていいのよ。その気持ちも大事な物だから」

 うふふと微笑むイリーヤさんは大人の余裕を感じさせる。
 僕にはよく理解できない会話だったが、どうやら話は纏まった様だ。
 空気感を醸し出していたジジの穏やかな、我が子を見守る親猫の様な目も印象的だった。子猫なのに。

 しかし、まぁ、あれだ。

 流石はイリーヤさん。大人の女。
 愛の伝道師。ラブ師匠。もはや、恋愛マスターだ。
 僕にはメアが何故に拗ねていたのか理解できないのに、イリーヤさんはすぐに看破したようだ。

 年齢的な人生経験の差だろうか?


「失礼な事を考えちゃ駄目よ? もぐわよ」

 何を、とは訊いてはいけない。
 あれは本気の目だ。

「まぁいいわ。どうぞ、ジジ様」
「うむ。済まんな」

 いつの間にか薬を用意し終わっていたイリーヤさん。
 それを受け取るジジ。

「世話になった」
「ありがとうございました」
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
「またのお越しをお待ちしております」

 イリーヤさんの店を出る。





 これで僕達の買い物は終了である。





*****





 追記。


 帰りにメアが手を繋いできた。
 突然の事に驚き、思わず襲い掛かろうとして、ジジの魔法で吹き飛ばされた。
 メアの浮かべる何とも云えない表情が印象的だった。

「お主は本能をすぐさま行動に反映するのを自重せい!! 人の気も知らんで、愚鈍にもほどがあるわっ!!」

 なんのこっちゃ。
 というか、グドンって何? 怪獣? 帰って来た光の巨人と闘うのだろうか?





 どちらにせよ、今の僕には理解できない。





▼貴方達の感想が、作者の心に沁みました。感想ありがとうございます。


>おもしろーい!!続きに期待!

 ありがとうございます。
 続き……頑張ります。


>これは面白いww
>とりあえず主人公自重ww
>いや、むしろもっとやれwww

 楽しんで頂けたようで、なによりです。
 そうですね、主人公は自重した方がいいですね。
 (……自重ってなに?なんて、訊けないっ……)


>面白い。初投稿でこれとは末恐ろしいな。

 お褒め頂き恐悦です。


>これは良い紳士!
>続きを希望します。

 主人公は紳士ですもの。当然ですよ。
 続き……が、がんばります!


>ヒロインは子猫のほうだよね? 猫かわいいよ!

 わんこがにゃんこと戯れている映像が脳裏に浮かびました。
 子猫いいですよね子猫。
 ヒロインは……さぁ?
 どうなるんでしょうね……。


>面白いですwww

 ありがとうございます。
 これからもがんばります。




[9582] 6話・スイーツ
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:16


 戸惑う言葉を与えられても、僕の心は上の空さ。ぼけー。




『6話・スイーツ』





 ついに僕はやり遂げた。

 眼前に広がる光景に満足気に頷く。
 そこには、これでもかと云わんばかりの耕された畑がある。

 見よ! これが僕の全力だ!!

 心の中で喝采が飛ぶ。脳内会議では賛辞の嵐が巻き起こる。
 心の中に居る僕のファンは、総立ちでのスタンディングオベーションである。当然僕は手を振って応える。どーもどーも。
 自画自賛に酔いしれる僕、カッコイイ!

「それはない」

 そんな僕に冷や水を浴びせる子猫が一匹。
 三色の色合いを持つ子猫、ジジである。今日も可愛いね!
 呆れたように僕を見るジジ。
 なんだろうね、そんな目で見られると胸の奥から熱い何かが湧き出してくるよ。これは、恋かな?

「魚は好きじゃ」

 まさかのコイ違い。

「それで、ジジは何しに来たの?」
「ん? ああ、そうじゃった。じつはな……」
「僕に告白しに来たんだね。分かります」
「違う。ワシはお主の事がさっぱり分からん」
「さっぱり妖精が大活躍するね」
「……なんじゃ、それは?」

 しまった。ネタが通じない。
 今時、さっぱり妖精知ってる人って居るのかな?

「まぁ、良いわ。じつはな、これから少し用事があってな」
「ふむふむ、それで?」
「ワシとメアは所用で出掛けるから、留守番しておれ」
「了解。丁度畑も耕し終わったことだしね」
「………あと、半分も残っておるがな」





 それを云っちゃらめぇぇ。





*****





 留守番に飽きた。出掛けよう。
 いそいそと出掛ける準備をする。
 メアにお土産を頼み、昼食も用意してもらった。
 ジジには大人しく留守番をしておけと云われた。
 でも、やっぱり飽きる。
 テレビもパソコンもゲームも漫画も小説もないのだ。この城。
 飽きるのも当然じゃないか。

「今日の僕は可愛いのよ!」

 服を着替え、姿見を覗いてポーズをとりながら云ってみる。
 ポーズは女豹である。

 ピシリッ。

 鏡に亀裂が入った。
 どうやら、僕のあまりの美貌に姿を映すことが出来なかったらしい。

「ふふ、美しいとは罪だなぁ」


 ガシャアアアアアン。


 呟いた直後、鏡が粉々に砕けた。
 おやおや、この鏡はどうやら随分と古いものだった様だな。耐久年数を越えていたから砕け散ったのだろう。
 鏡の飛び散った破片を片付ける。

「こんなもんかな」

 あらかた片付け終わって、鏡の破片をどうしようかと悩む。
 悩んだ末、近くの窓から破片を落とした。
 なんだか下で「ぎゃあああ!!」という叫び声がしたが、きっと気のせいだろう。きっとそうだ。

「さぁ、行くわよ!!」

 某月の戦士の様なポーズで宣言する。
 室内は僕以外誰もいないので、シーンとしていた。
 僕の行為にツッコミを入れる人は、今この場に存在しない。

「なんでやねん」

 仕方なく、合っているのかいないのか分からないツッコミを自分で入れてみた。





 なにこれ、寂しくて死んじゃう。





*****





 出掛けると云っても、僕はここらの地理に明るくないので、どうしたものかと思い悩んでいた。
 悩みながら歩いたり、時には走ったりした。

 迷子になった。

 迷子になったのは、何もこれが初めてではない。迷子になったことなど今迄で50は超える。
 迷子マイスターな僕は、突発的な迷子ごときで泣いたりしないのだ。流石は僕。かっこいい。

「ふえ~ん! メア~、どこ~?」

 ……強がったっていいじゃない。
 意地があるんだよ、男の子だから。
 そんなこんなで泣きながら彷徨った。

「む?」

 当て所無くふらふらと彷徨っていると、先の方から人の騒ぎ声が聞こえた。
 気になって、そちらへと向かう。
 ちょっとした崖に着き、崖下で喧騒が聴こえるので覗きこむ。
 そこには、十数人のムサイ男集団と、それに対峙する様に立っている見覚えのある顔。その周囲にも数人の男が倒れている。
 ぎゃーぎゃーと男集団が喚いている。その矛先に居る見覚えのある顔の、要はメアとジジが平然と立っている。

 なにしてるんだろ? 祭りかなぁ……?

 そんなことを考えていたら、数人の男がメア達に向かって行く。
 メアが、腕を振るって炎を生み出し、男達を炎の瀑布が飲み込んでいく。
 そんな中、それを避けた男がメアに突進しようとしてジジにぶん殴られて吹っ飛んだ。尻尾ってあんなに強いんだね。
 ふと視線を動かせば、いつの間にかメア達の後方に回り込んでいた男がゆっくりと近づいていた。

 メアもジジも気付いていない。
 男は、大振りの剣を握りしめていた。


 瞬間。


 僕は飛び出した。
 高低差10mなんて怖くない。

 あ、やっぱ嘘。これ怖い。泣きそう。


「えぇぇぇええんだぁぁぁぁああぁぁああ!! いぃぃやぁああぁぁあああああ!!」


 絶叫を上げながら落下する僕に、その場に居た全員が振り向く。

 ゴシャア!

 メア達のすぐ傍まで接近していた男に見事な着地を決める。
 そして胸を押さえる僕。し、死ぬかと思った……!?
 息を呑む音がした。恐らく、この男の接近に今初めて気付いたのだろう。

「お、お主……」
「……あ」

 驚愕の呟きを洩らす一人と一匹。驚いた顔はどちらも可愛いね!

「な、なんだ!?」
「何者だっ!?」

 誰かが叫ぶ。

「僕──」

 すうっ、と腕を広げて脚も開く。
 微かに前傾姿勢を取り、告げる。

「──参上」





 登場の仕方は、最初からクライマックスでした。





*****





「状況が分かんないので、ギブミー現状」

 メアとジジの前に立ち、相手を見据えながら訊く。

「お主は、留守番しておれと……」
「今、それは置いておこう」

 脇に置いて、さらに箱詰めで密閉して二度と開けてくれなければ、僕は狂喜の舞を踊る。

「……向こうは、山賊です」
「……山賊」
「平和な世にも、悪党は尽きぬが道理よ」

 要は悪者だな。
 その悪者のなんかボスっぽい奴が、雰囲気からして中ボスっぽい奴が声を荒げた。

「おい! てめぇ、なめた真似しやがって!!」
「失敬な。僕は舐める時は徹底的にむしゃぶり尽くすぞ!!」

 飴とかキャンディーとか。

「いや、あれは比喩表現じゃから……」

 ジジが疲れたように声を出す。
 どうしたんだろうね。

「小僧! てめぇ、云い残したい事があったら今のうちに云っとくんだな!!」

 激昂している中ボス。
 カルシウムが足りていないな。牛乳を飲め。
 しかし、折角の申し出なので、一度は云ってみたかった言葉を口に出す。

「スイーツ(笑)」

 これって云う時大変そうだよね。
 いちいちカッコ笑いカッコ閉じって云わなきゃならないなんて。

「なっ……!? て、てめぇ、なんてことを……っ!?」
「お、親分! あいつヤバいっすよ!!」
「なんてことを云いやがるっ……!?」

 なんだか騒然とする山賊の皆さん。

「お主。いまのは、流石にないぞぃ……」
「……そんなことを云っちゃ、めっ! です」

 ジジとメアも僕も非難する。
 一体、こちらの世界ではスイーツはどんな意味なのだろうか。

「ちっ! この変態がっ!!」
「おいおい、知らないのか? 変態はいつだって紳士なんだぜ?」

 悪態を吐く山賊Aに言葉を返す。

「……変態じゃと、認めおった」
「……自覚、あったんですね」

 ジジとメアが何か呟いているが僕には聞こえない。
 相手も突然の僕の登場に戸惑っている。

 ここは先手必殺っ!!

 僕は一番近くにいた山賊に接近する。
 ガシ! ボカ! 山賊は死ななかった。

 あるぇ~?
 おかしいな、これは最強の必殺技だと思っていたのだが。

「て、てめぇ! やりやがっ」
「そぉい!!」

 仕方ないので地獄突きをしてみた。
 山賊Gはゴロゴロと悶え苦しんでいる。

「小僧、本気で死にたいようだなぁ」

 中ボスが睨んでくる。
 なんという気迫。若干怖い。
 僕を鶏と云ってはいけない。

「そこの気味の悪い魔女と化け物と一緒に殺してやる!!」
「……なに?」

 いま、なんと云った?
 メアが気味悪い? ジジが化け物? あまつさえ、殺す……だと……?
 オーケー。良く分かった。
 貴様は万死に値する!!

「このクソ野郎!! 死ぬのは貴様だ!!」
「なんだとぉ!!」

 既に貴様の死は決定事項だ。
 なぜならば。

「テメーは僕が怒らせたっ!!」
「ああそうだよ!!」

 云い間違えた!?

「リテイク!!」
「……格好付かんのぅ」

 お黙れ!
 ……噛んだ。
 お黙り!

「テメーは僕を怒らせた!!」
「あんだとぉ!?」

 怒髪天な中ボス。
 しかし、怒りは僕の方が有頂天だ!

「……意味が分からないです」

 何かを呟いたメアを置き去りに、一瞬で中ボスとの間合いを詰める。

「なっ!?」

 中ボスが驚愕の声を上げる。
 喰らえ! これが僕の怒りだぁぁあああ!!

「ダイイチダアアアアアア!!」
「ごほっ!?」
「ダイニダアアアアアアア!!」
「ごぇっ!?」
「ダイサンダアアアアアア!!」
「がはぁっ!?」
「ダイヨンダアアアアアア!!」
「げはぁあっ!?」

 殴る殴る。徹底的に殴る。
 皮膚を打ち、肉を討ち、骨を撃つ音が連続する。

「喰らえ! 必殺ぅううう!!」

 フラフラな中ボスに、僕の最高の連撃を叩きこむ。

「グゥオォレェェンダアアアアアアアア!!!」

 同時に繰り出される五発の拳が中ボスを穿つ。


 秘儀・牛頭鬼。


 紳士たるもの、必殺技の一つや二つ持っているものだ。
 見た目は、まるで何処かの魔法使いみたいな技だ。オリンピック的な技名の。
 僕の連撃技を喰らい、口から血を噴き出して中ボスが倒れる。
 それを見て、残りの山賊に動揺が走る。

「ふははははっ!! 山賊狩りじゃあああああ!!」

 ハイテンションな状態で山賊に襲い掛かる僕であった。

「……どっちが悪者か分からんのぅ」
「……そうですね」





 お黙れ。





*****





 山賊を壊滅させて、メア達と一緒に帰宅した。

 山賊を壊滅させた時、警邏隊にいたお姉さんにハァハァしていたらジジにブッ飛ばされた。尻尾の恐ろしさを知った。
 城に帰り着いた時、白翼の美青年スティーノが倒れていた。
 ガラス片が突き刺さっている。





 あー、あの時の悲鳴こいつかー。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まえがき あとがき

 お話書くのって大変ですね。疲れます。
 勢いだけで書いちゃいけませんよ。骨身に染みました。
 あと、感想の返信ですが、感想欄に書くのメンドイのでこっちで返しますね?
 ……一回目の返信で懲りたよ。

▼ 名前を消しているのはプライバシー保護とかそんなん。べ、別に感想欄に自分の名前が出ているのが思いのほか恥ずかしかった訳じゃないんだからねっ!勘違いしないでよね!


>このしゅじんこうはひじょうにかんじょういにゅうができます。ぼくはもうだめだとおもいました。

ちょっとまって、今・・・何て言った?今何ていった!?『もうだめ!?』
諦めんなよ…
諦めんなよ!!
どうしてそこでやめるんだ、そこで!!
もう少し頑張ってみろよ!
ダメダメダメダメ、諦めたら
周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって。
あともうちょっとのところなんだから。
もっと熱くなれよ…
熱い血燃やしてけよ…
人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ!
だからこそ、もっと!熱くなれよおおおおおおおおおおお!!!

とまぁ、そんな訳で。
主人公に感情移入が出来るのなら、貴方も立派な紳士の素質があります。頑張ってください。


>猫に指をなめられた時興奮してしまった俺が通りぬけますよ

おや?いま誰かすぐそこを通ったような?気のせいかな?


>面白い
>猫と少女がかわいくて仕方が無い
>もっとやってしまえ

お褒めの言葉ありがとうございます。
なにをやればいいのか作者にはさっぱり分からないのですが、頑張りたいと思います。


>なんだこの狂った世界はwww
>とにかく主人公が変態すぎるw
>猫もおkとかどんだけストライクゾーンが広いんだと小一時間(ry
>しかも常時テンション高いな。

変態じゃないよ!紳士だよ!

>正直メアが手をつなごうとしたことが理解できない。
>だって・・・あれだぜ?
>変態ってレベルを斜め右後方、さらには半ひねりに光速で時にはワープしながらぶっちぎってるような存在だよ?
>もうニコポとかナデポとかオリーシュとかいうレベルでは理解できない。
>俺には何がなんだか全く分からなかった。
>普通は半径1光年に進入禁止にしてもおかしくないと俺は思うねw

(′・ω・)<世の中理解できないことで溢れているのさ。どうして自分はカッコよく生まれなかったのかとか、どうして女性はイケメンに好意を抱くのかとか、1時間の遅刻ですっごく怒る友人とか。ほら、世の中は理解できない不思議で満ち溢れているでしょう?ぶっちゃけ、作者にもメアが手を繋ごうとした理由なんて分からないのです。これもまた理解できない不思議の一例ですね。

>ところで
>ソロモンよ! 貴方は帰って来たっ!!
>は
>ソロモンよ! 私は帰って来たっ!!
>ではないかと思ったのだが、もしかしてネタだったのかな。
>だったらKYでごめんなさい

一応ネタのつもりですが、やはり分かり難いですね。すいません。
作者の力量はこの程度しかないので、大目に見てやってください。


>>「マスター、カミュをロックで頼む」
>小銭形! 小銭形の旦那じゃないか!

あの人はダンディーだと作者は思うのです。

>なんという変態主人公。
>羨ましいと思っている俺はもう駄目かもわからんね。

変態じゃないよ!紳士だよ!(2度目
羨ましく思う気持ちは大事です。その気持ちを大事にしてください。

>メアに好かれているっぽいのは、本能を即行動に移す裏表の無さが理由だろうか。

……さぁ?どうなのでしょうねぇ?
きっと、それなりの理由が存在するのだと思いますよ。
決して作者にも分からない訳ではありません。作者は決してメアの行動を不思議に思ってなどおりません。……ホントだよ?




[9582] 7話・夜
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:22


 直径170cmが僕の手の届く距離!





『7話・夜』





 闇が街を包みこむ。
 昼間の賑やかな喧騒はなりを潜め、物静かな夜の雰囲気が街中を満たす。
 日中に商売していた商店は営業を終える。
 外で遊んでいた子供も、働きに出ていた大人も自らの家に帰宅する。
 夜の街にポツポツと優しい光が灯る。
 そんな中、これから営業を開始する夜の店が口を開く。
 ここは、そんな夜の店のひとつ。





 僕は現在、酒場でアルバイトをしています。





*****





 そもそもの発端は僕の現状にあった。
 当初は畑を耕して家庭菜園にでも精を出そうと思っていた。
 種を蒔き、肥料の仕入れや水やりなどで、これから忙しくなるぞーと想っていた。

 しかし、流石は異世界。植物の生命力が尋常ではありません。
 僕が畑のこれからについて思案していると、いつの間にかやって来ていたジジに声をかけられた。

 曰く、こちらの植物は、種を蒔けば何もしなくても勝手に育つ。

 すごいぜ異世界。やったね異世界。
 植物の管理が楽なんて、農業を生業としている農家の人達は大助かりだね。
 しかし、それでは僕は困るのである。
 今迄は畑仕事という役目があったが、これからは、そのほとんどをすることが無くなるのである。

 するとどうなるか。
 暇になります。すっごい暇です。
 畑仕事のなくなった僕の生活を、ちょっと想像してみました。


 朝、起床。メアの手料理を食べる。
 昼までごろごろ過ごす。
 昼、メアの手料理を食べる。
 夜まで悠々自適に過ごす。
 夜、メアの手料理を食べる。
 その後、風呂を覗きに行き、ジジとの死闘が勃発。
 就寝。


 うん。これなんてニート?

 ぶっちゃけて云えば、僕が働かなくても十分にやっていけるだけの貯蓄はあるらしい。
 何気にメア達は金持ちなのである。
 しかし、時々ではあるがメアもジジも働いている。
 その内容は主に、メアやジジの力を当てにした物であり、一般からの依頼や国家からの直々の要請であったりする。
 そんな年端もいかない少女と子猫を働かせて、一人だらだらと毎日を過ごす僕を、世間はどう見るだろうか。
 少女に働かせて、その少女に寄生する僕。

 あれ? 僕ってば社会のクズじゃね?
 どう見ても駄目人間です。本当にありがとうございます。

 そんな訳で、僕も働きに出ようと思った。
 そのことをメアとジジに相談した。
 ジジは賛成してくれたのだが、メアは渋っていた。
 どうにも僕が働くことを快く思っていないようだ。
 そんなに僕と離れ離れになるのが嫌なのだろうか? 愛されているなぁ、僕。
 そんなことを思っている僕の横で、ジジがメアに僕が働きに出るのを渋る理由を尋ねていた。

 メアが答えた。

「この人を、社会に解き放つんですか……?」

 どーゆー意味だ。

 さらに、その言葉を聴いたジジが黙り込んだ。
 何故に沈黙する。その沈黙はどういう意味だこのヤロー。
 それと、メアとはじっくりと話し合う必要があるかも知れない。今晩メアのベッドに忍び込んで話し合ってみよう。
 その後も紆余曲折を経て、ジジが紹介する店で働くことになった。

 条件は月一勤務で、時間帯は夜間のみ。

 何故この様な条件なのか。少し過保護過ぎじゃないか。僕は子供では無いのだから、もう少し働く時間が多くても良くはないか。
 その旨をジジに伝えたら、なんでも被害を最小限に抑えるためだとかなんとか。
 もう少し僕を信用してくれても良いと思う。

「無理じゃ」
「無理です」

 即答だった。
 僕は目頭を押さえて上を向く。
 あれ? 目から汗が滝のようにこぼれてくるよ?





 言葉は心を抉るって、知ってるかい?





*****





 酒場のカウンターでコップを磨く。
 きゅっきゅっとコップをこする音が堪らない。
 一片の曇りもないように一心不乱にガラスを磨く。

 きゅっきゅっきゅっ。
 ビシッ。

「あ」

 コップに亀裂が入った。
 どうやら力を入れ過ぎたようだ。

「むぅ、脆い」

 割れたコップを片付けながら愚痴る。最近のコップは根性がない。
 コップの破片を塵取りに集めて振り返る。

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 背後に積み重ねていた皿が全部床に落ちて割れた。

 ……えー。

「何だよお前ら! もっと頑張れよ! もっと耐えろよ! 怒られるのは僕なんだぞ! ちょっと力を入れても割れないぐらいの根性を見せろよ! 落ちても割れないぐらいのど根性を見せてみろよ!!」

 軽くテンパった僕は、割れた皿に檄を飛ばしてみた。
 無機物に叱咤激励をする僕は、傍目から見てどう映るのだろうか?
 きっと、とても心優しい青年に見えることだろう。
 若しくは、無機物に語りかける僕のピュアさにお姉様方が惚れるかもしれない。
 まったく、罪作りな奴だな、僕ってば。

 HAHAHAHAHA!!

 ……少しテンションがおかしい気がする。
 おそらく酒の匂いにあてられたのだろう。
 でなければ、クールボーイな僕がこんなバカみたいなことを考えるはずがないのである。
 そう、僕はクール。ソウクール。若しくはスクール。

「おい、そこのバカ。ちょっとこっち来い」

 誰かを呼ぶ声が聴こえる。
 なんとまぁ、バカが名前の代わりになっているとは、可哀相なことである。

「おい、聴いてるのか。このバカ」

 どうやら、件の人物は返事をしないようだ。 まぁ、バカなんて不名誉な呼ばれ方をされれば返事をしたくないのも分かるというものだ。

「聴いてるのかと云ってるんだ、バカ」

 僕の頭がぽかりと殴られた。
 振り向けば、胸元を開いた服装の麗人がいた。
 長身でスタイル抜群、出る所はしっかりきっかり出ている美しい女性だ。その豊満な胸が実に魅力的である。
 胸元が開けた服装のおかげで、谷間がしっかりと拝見出来ちゃう所なんて素晴らしいの一言だ。
 それに加え、麗人は大人びた雰囲気を身に纏っているので、色気が半端無い。
 しかし僕は紳士であるので、色気に釣られて開けた胸元をチラチラと覗き見る様な真似はしない。

 紳士ならば、ガン見するのが当然である。

「このバカ、どこを見ているんだ」

 ぽかりと頭を殴られた。
 そこで気付く、バカとは僕のことだったのか。
 さらに気付く、自分のことを可哀相とか云っちゃったよ。
 なんと失礼な。

「はいはい。取り敢えず、店の備品を破壊してないで注文くらいはとってきなさい」

 そう云って颯爽と去って行く麗人。
 あの麗人がこの酒場の店主である。名をエリーナさん。
 エリーナさんはこの街でも屈指の美人さんである。
 その美貌を見る為だけに、この酒場を訪れる男の多いこと多いこと。男って単純だね。
 酒場を見渡せば、客はそこそこに入っている。
 全体的に男性客が多いが、女性客もそれなりに入っている。心地よい賑やかさがこの酒場を満たしている。
 従来の酒場の、荒々しい賑やかさを出さないのがここの良いところだと思う。

 おそらく、この酒場の独特の雰囲気はエリーナさんの人徳とかそんなもののおかげだろう。
 そんな事を考えつつ、云われた通りに仕事をしなければと、持っていたガラス片や皿の残骸をそこら辺に捨てる。ぽいっ。
 そして店内を見回す。
 ここの酒場は、比較的に落ち着いた雰囲気を出している。

 しかし、ここが酒場である以上、性質の悪い酔っ払いは存在するものである。
 個人的にそういった客とは絡みたくないので、なるたけ穏やかそうな人物に当たろうと思っていた。

 そこで、ふと一人の客が目に留まる。

 カウンター席で俯きながら、チビチビと酒を飲んでいる客がいる。
 その人の周囲には、何故か誰もいない。

 ……ふむ。あの人物ならば、中々に穏やかそうだ。よし、注文でも訊こう。

 そう思い立ち、その客に近付いて行く。
 何故か店内がざわついた気がした。

「お客様、追加注文などはいかがでしょうか? 当店お勧めの、地中海風杏仁麻婆豆腐IN雑草の和え物など、どうでしょうか?」
「……へへっ、みんな死んじまえばいいんだ……。どうせ、どうせ俺なんてよぉ……俺なんてよぉ……」

 しまった。地雷を踏んだ。
 僕はこういったネガティブな人が苦手なのだ。
 ぶつぶつぶつぶつと呟いているお客さんを前に、僕は途方にくれる。

 どうしよう……。
 困った僕はエリーナさんに救いの目を向ける。
 エリーナさんが僕の方を見て、口をパクパクと動かしていた。

 え? なになに、あ・い・し・て・る?
 そ、そんな、エリーナさん。今は就業中ですよ、何を云ってるんですか。ま、まぁ、どうしてもと云うなら……え? 違う? そうじゃない?
 えっと、なになに、お・む・こ・に・こ・い?
 やだなぁ、どちらにしろ告白じゃ……え? これも違う? じゃあ何だって云うのよ、もう!
 ん~と、ど・う・に・か・し・ろ?
 おっ、当たり?
 つまり、僕にこの客をどうにかしろって? マジで?
 そんな無茶な……出来なかったら給料下げる?
 横暴だ!





 エリーナさんの権力に屈した僕であった。





*****





 仕方ないので、お客さんに付き合う事にした。

「お客様、どうされましたか? そんなにネガティブなことを仰って。僕の気分が滅入るので、早々にご帰宅された方がよろしいと存じ上げますが」
「……へへっ、世界はよぉ、俺を嫌ってんだよ。……なんだってんだよ、なぁおい。俺がなにかしたのかってんだ……」
「お客様、お客様はどうにもお疲れみたいですね。こんな所で酒に入り浸ってないで、とっとと家に帰りやがった方がよろしいのではないでしょうか?」
「……たくよぉ、俺をバカにしやがってよぉ。……無駄に歳喰ってりゃあ、偉いのかってんだ……」

 駄目だ、全然人の話を聞いてない。
 もう! だから酔っ払いは嫌いなんだ!

「お客様、そんなに落ち込まないで、ね? どうぞ、家に帰りやがれってんだ……ですよ」
「どうせ……どーせよぉ、俺は駄目なんだよぉ……」

 ……………鬱陶しい。

「自分の事を駄目なんて云うなよ! もっと自信持てよ!」
「ぁあ? はっ、俺にはどうせ無理なんだよぉ……」
「無理なんて決めつけるなよ! 諦めんなよ! もっと熱くなれよ!」
「……いいんだよ。たくっ、うるせぇなぁ……」

 ええい! この鬱々男爵めっ!
 僕はカウンターに積んでいた小麦粉の袋を手にとる。
 そして袋の口を開ける。

「お米食べろよ!」
「もがぁああ!?」

 小麦粉を男の口に流し込む。
 米が無かったので小麦粉で代用だ。
 どちらもタンパク質だし、大丈夫だろう。
 あれ? 小麦粉ってタンパク質だっけ? ……どうでもいっか!

「ごほっ! げほっ! がぼぉおお!?」
「エンディングまで吐くんじゃない!」

 咽て小麦粉を吐き出す男に、さらに小麦粉を流し込む。

「ごはぁ! じ、じぬ!? がぼごぉおおお!?」
「マンマミーア! マンマミーア!」

 自分でも意味不明な叫び声を上げながら、男に小麦粉を延々と流し込む。
 ……なんだろう。この苦しむ顔を見ると、胸の奥底から得体の知れない感情が湧きあがってくる。

「ふははははっ! 苦しむがいい! 存分に苦しむがいい!」
「なにをやっている、このバカが」

 頭をガツンと殴られた。
 僕の視界が揺れる。エリーナさんの胸も揺れる。ゆっさゆっさ。
 眼福なり眼福なり。

「お客さん、大丈夫ですか?」

 目を回している僕を無視して、エリーナさんが咳きこんでいる男に声をかける。

「げほっ、がほっ! あ、ああ、大丈夫だ……です」

 あ、こいつエリーナさんの胸を見て言葉を改めやがった。
 やーらしー。エロ助めっ!

「あ、あの、エリーナさん!」
「なんですか?」

 男がエリーナさんに声をかける。
 それに答えるエリーナさん。

 ……エリーナさん……せめて笑顔で接客しようよ。……無表情は流石にどうかと思いますよ?

 つくづく接客業に向いていない人だ。
 よく店が保つものである。美人ってお得だね。

「そ、その、俺と……」
「俺と?」

 男の言葉が途切れる。
 そして、なんだか覚悟を決めた顔でエリーナさんを見る。
 どうでもいいが、口の周りにべっとりと付いている小麦粉のせいで男が滑稽に見える。

「俺と、付き合って下さい!」
「寝言は寝て云って下さい」

 エリーナさんがばっさりと切り捨てた。

 よ、容赦ねぇ……。
 流石は氷の美女と呼ばれるお方だ……。

 崩れ落ちる男。
 もう興味がないと云わんばかりに去っていくエリーナさん。
 しくしくと床に伏せて泣く男。

 ……こいつ何がしたかったんだろう?

 僕には、男にかける言葉がなかったのでエリーナさんの胸を凝視していた。
 ぐふふ、眼福じゃ眼福じゃ。


 ……ふぅ。


 瞬間、僕の横をナイフが通り過ぎた。発射元はエリーナさんである。





 その行為にときめきを感じた僕は、もう普通には戻れないかもしれない。





▼感想に多大な感謝を

>爽快だなぁw ほんと抱腹絶倒、笑いすぎて苦しいけど、読後感すっきりw
>特に主人公一人で笑いが取れるとか凄すぎるww>アワレにも粉々になる鏡

なんだか好評のようで一安心です。文体が安定しないので、書き手としては致命的かも知れません。
それでも暇潰し程度の作品になるように頑張って行こうと思います。

>でも感想返しやあとがき読んで一番魅力的なのは作者かもしれないと思った。リアル話

そ れ は な い。
作者はこの世界で一番つまらない奴と自称しているので、リアルにがっかりです。きっと作者に魅力があればハーレムを築k……ぬわぁ!き、貴様、なにを!?や、やめ……(以下作者が睡魔に負けたため無言タイム


>え? 主人公って意外と強いの? オリーシュ(笑)パワーとか持ってんの?
>いえ、紳士の嗜みですね。わかります。

主人公ってば、元の世界では悪の組織とかに属していたびっくり人間なので、そこそこの戦闘力は保有しているんですよ~。
将来の夢が借金を肩代わりしてくれる年下の女の子の執事としてあんなことやこんなことをするのが夢だったのも関係しているかも知れませんが。


>なんという紳士もとい変態w

紳士じゃないよ!変た……∑( ̄口 ̄)ハッ!
ゴホンッ。
変態じゃないよ!紳士だよ!

>ちょくちょく知ってるネタがでるなぁ。
>グルグル好きでした。

作者も好きでしたグルグル。
盗賊の頭の衝撃的な変身が未だに忘れられません。




[9582] 8話・幽霊
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:31


 こんなに月が蒼い夜と紅い夜は、不思議な事が起こるといいなぁ。





『8話・幽霊』





「ふむ。これ位で良いじゃろ」
「そうですね」

 メアとジジがごそごそと何かをしている。

「あれ? 何やってんの?」

 僕がメア達に何をしているのか尋ねる。

「準備をしているんです」
「……準備?」

 なんの準備だろうか?

「ちと所用で出掛けるんじゃよ」
「うん? どんな用事?」
「まぁ、ちと……な」

 言葉を濁すジジ。
 むぅ、気になる。

「まあ、いいや」

 無闇に詮索をして欲しくないこともあるだろう。

「ごめんなさい」
「いいよ。気にしないで」
「うむ、済まんな」

 メアもジジも、若干申し訳なさそうに僕に謝ってくる。

「じゃあ、準備を進めようか」
「はい」
「そうじゃな」

 さてさて、どんなものが必要かな。

「む? 何故、お主まで準備をしとるんじゃ?」
「僕も行くからだよ?」

 当然じゃないか。

「……お主は留守番じゃ」
「そんな!?」

 またあの退屈な時間を過ごせと云うのか!?

「メア~」
「……残念ですが」

 メアが困ったような表情を浮かべながらも、僕の懇願を却下する。
 うぅ、メアまで……。

「……仕方ない。今回は諦めるよ」
「ごめんなさい」
「悪いのぉ」

 メアとジジが再度僕に謝る。

「いいよ。ただし……」
「ただし?」
「むぅ? なんじゃ?」

 僕はメアとジジをしっかり見据え、真面目な顔ではっきりと云った。

「二人のセクシーポーズを見せてくれればうがぁ!?」
「お主は脳を取り替えて来い!!」

 ジジの2本の尻尾が、僕の顔面を強かに打ちつけた。
 僕は痛みにのた打ち回る。





 た、たまらねぇ……。





*****





 今日はメアとジジはお出掛けである。
 なので僕はお留守番。うなー。
 ゴロゴロと自室のベッドの下で転がる。あっちへゴロゴロこっちへゴロゴロ。
 何度も何度も転がり続ける。ゴロゴログラコロ。
 ふと、転がるのを止めベッドの下からのそりと出てくる。
 最初は大人しく留守番でもしていようかと思った。

 しかし、やっぱり暇なのです。
 こうなれば、外出するしかあるまい。

 よーし、散策するぞー!

 先日、迷子になったことをすっかり忘れて、意気揚々と正門に手をかける。
 そこで、違和感。
 門を触って押したり引いたり、叩いたり蹴ったり舐めたりしてみる。
 そこまでして違和感の正体を知る。

 門が開かない!?

 ぴくりともしない門扉を前に、呆然とする僕。
 しばし呆けていたが、すぐに我に返る。
 おそらく、ジジかメアが魔法だの何だので門扉を閉じているのだろう。
 ならば、正門が駄目なら他の所ならばどうか。
 そう思い立ち、城中を駆け回る。

 裏門に行き、城中の窓を調べ、使用人通路に赴き、空気孔を覗き、メアの部屋のタンスを漁り、風呂場に行って汗を流し、用意されていた昼食を居間で食べ、再び正門に戻る。

 そこで膝をつき絶望する。

「ど、どこからも外に出られない……っ!?」


 裏門は正門と同じように閉じられていた。ま、当り前か。
 全ての窓から外に飛び出してみても、気付けば部屋の中に戻っている。無限ループ怖い。
 使用人通路は埃っぽかったので諦めた。掃除はこまめにしなきゃね。
 空気孔は穴が小さすぎた。お蔭で身体が嵌まってしまった。
 メアの部屋にはこれといった物は何もなかった。入手品は下着だけである。
 風呂場ではお湯が気持ち良かったし、食事も美味しかった。


 結論。僕は閉じ込められた様だ。

「くっ、どうあっても僕を外に出さない気か!?」

 思わず歯軋りをする。……あ、歯が痛い。止めよう。
 それにしてもである。ここまで異常に僕を閉じ込めるなんて、どういうつもりなのか?

「くそぅ。監禁されちゃったよ~」

 どちらかと云えば軟禁かもしれないが。

「まったく、僕が何をしたというのか」

 ぷりぷり怒ってみる。
 監禁が似合うのは僕のような男性ではなく、美幼女とか美少女とか美人なお姉さまとか、そういう可愛かったり綺麗だったりする女性の方だろうに。
 但し、現実でそのような行為に到れば、鬼畜の称号と社会からの制裁がもれなく付いてくること請け合いだ。

「暇だよ~暇だよ~」

 呟きながら、キタキタ踊りでも踊ってみる。
 踊っていたら、なんだか気分がノッテ来て、キタキタ踊りの切れのある動きから阿波踊りへと繋げる。
 まったく以って人生に於いて無駄な技術を練磨している最中に、何かの気配を感じた。
 その気配のする方向へと振り返る。





 そこに、クスクスと笑う可憐な幼女がいた。





*****





「おにーちゃん、可哀相なんだねぇ」
「そうだよ~。お兄ちゃん可哀相なの~」

 いつの間に此処に居たのか分からない幼女と、一緒に広間へと移動して会話をする。
 幼女は現在、僕の膝の上である。
 年頃は、おそらく5歳程度だろう。ふんわりとしたブラウンの長い髪からは良い匂いがする。
 ふりふりの沢山付いたドレスを着ている。肌は雪の様に白く、唇は鮮やかな赤色。瞳は青く、まるで人形のように可愛らしい。

「おにーちゃんは、これから何をするの?」
「うん。もうね~、ナニとかそんなことをしたい気分だよ~」
「ん~? けっきょく、何をするの?」
「ふへへへへ。今は何もしないよぉ~?」

 "今"はね。

「そっかぁ~」

 えへへぇ~、と朗らかに笑う幼女。笑顔が眩しいぜ!
 膝の上にいる幼女が、さらに体重を僕に預け、胸に頭をこつんと乗せる。
 そして僕の顔を見上げ、再びえへへぇ~とにっこり笑う。
 細められる瞳は優しく、微かに赤みがかったぷっくり膨れた頬、ぷりぷりとした唇から漏れる吐息。

「どうして、そっぽ向いてるの?」
「いや、なに。少々血が溢れてね」

 主に鼻から。

「だいじょーぶ? お鼻痛いの?」

 幼女が完全に僕の方を振り向き、その小さな手で僕の頭をぽんぽんと撫でる。
 そして、極上の笑みを浮かべて云う。

「痛いの痛いの、とんでけ~!」

 ぷっしゃあああああああああ!!!!

「ええ!? おにーちゃん!! だいじょーぶ!?」
「……お、オーケーオーケー、も、問題、ない」

 噴水のように溢れ出た鼻血が、辺り一面に赤い水溜りを作る。
 漫画などでよくある場面を、まさかこの身で実際に味わう事になろうとは。
 ダクダクと鼻血が流れる。
 それでも僕は凄く良い笑顔をしている筈だ。
 いやはや、可愛い幼女は核兵器に匹敵するね。

「ほんとうに、だいじょーぶ?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
「ホント? よかったぁ」
「ところで、ひとつお願いがあるんだけど……。いいかな?」
「ほぇ? なぁに?」

 不思議そうな顔で尋ねる幼女。つぶらな瞳がきらきらしている。
 その姿は、超可愛い。鼻血の流れる勢いが増した。

 僕は出血多量で死ぬかもしれない。

 死ぬにしても、これをやってから死ぬべきだ。
 僕は、若干前屈みになりながらも、こちらの言葉を待っている幼女を見る。
 その幼女に後光が射している気がする。なんと神々しい。

「ねぇ~、なぁにぃ?」

 幼女が僕の手を引っ張りながら催促する。

「あ、ああ。そうだね」

 心臓がどきどきしている。
 生涯の中で最高峰の緊張感が僕を支配する。

 僕が、緊張している、だと!?

 久方ぶりの感情に僕は戸惑う。
 まさか、お願いを云うだけでここまで緊張するとは思わなかった。
 相手は年端も行かない幼女だというのに。

「ねぇってばぁ、なぁにぃ?」

 再三の言葉に、意を決して言葉を出す。
 ゴクリと、唾を飲み込む。

「せ、セクシーポーズを、見せて、くれないかい?」
「こう?」

 パンッ!!

「お、おにーちゃん!?」

 僕の鼻が破裂した。

「だいじょーぶ!? ねぇ! だいじょ…うわぁ!? おにーちゃんがみるみると真っ赤な物体にぃ!?」

 薄れてゆく意識の中、僕は幼女のとった過激なセクシーポーズを思い出しながら、親指を突き立てた。


 グッジョブ!


 幼女の悲痛な叫びが聞こえた気がした。





 僕の意識が闇に堕ちる。ばたんきゅー。





*****





 目が覚めると、既に暗闇が迫る時間帯だった。
 しばしの間ぼーっとして、そこで「はっ!」と意識が覚める。

「幼女は!?」

 周囲をきょろきょろと見回し、ひとつの手紙が目に入る。


『 おにーちゃん。目は覚めましたか?
  あの後、おにーちゃんは眠ってしまいました。
  どうすることも出来なかったのでそのままにしておきました。
  ごめんなさい。
  とりあえず、お部屋は片付けておきました。
  おにーちゃんと過ごした時間は、とても楽しかったです。
  また、一緒にお話しようね!
                      コルディーナより 』


 部屋を見渡してみる。
 なるほど、血の一滴も付いていない。
 どうやらコルディーナというのが、あの幼女の名前らしい。

「ぐふふふふふ」

 思わず笑みが洩れる。
 僕が幼女のセクシーポーズを思い出し、危うく鼻血を出す所でチャイムが鳴り響いた。

「いま帰りましたー」
「帰ったぞー」

 メアとジジの声が次いで聴こえて来た。
 僕は出迎える為に玄関に行く。
 そこで、眉根を寄せて周囲を見回しているジジとメアがいた。

「お帰り。何やってんの?」
「あ、はい。ただいまです」
「うむ。ただいま」
「はいはい。それで、何やってんの?」

 再び訊いてみた。
 ジジは難しそうな顔をしながら僕を見る。
 なんだろう?

「ワシらが出ている間、誰か来たか?」

 ジジが神妙な顔付きで僕に尋ねて来た。
 誰か? と首を傾げ様として、コルディーナちゃんのことを思い出した。

「そういえばね、すんごい可愛いコルディーナちゃんっていう幼女が来たよ」
「やはりか……」
「やっぱり、コルディーナさんでしたね」

 メアとジジが微妙そうな顔で呟いた。
 なんなのだろうか。

「あー、お主には云っておらんかったんじゃがな」
「うん?」
「実はのぉ、この城出るんじゃよ」
「露出狂のお姉様が?」
「違います」

 メアに否定された。
 なんだ違うのか。ちょっとがっかり。

「出ると云ったら、アレじゃよ」
「あれ?」
「幽霊じゃよ」
「……幽霊?」

 メアとジジがうんうんと頷く。

「大昔じゃが、この城の元々の主を快く思っていなかった輩がおってな、そやつが城の主の息子を殺したんじゃよ」

 ああ、そう云えばこの城は安く売られていたと以前に聞いたな。
 それが原因なのだろうか。

「その不逞の輩は始末されたんじゃが、どうやら息子は心残りがあったらしくてな? 時たま姿を現すんじゃよ」
「…………」
「その息子は、女子の様に可愛らしくてなぁ。いつも女物の服を着ておったそうじゃ。年は15じゃというのに、年齢よりも遥かに身体も精神も幼くてのぅ、まるで童女みたいじゃったらしい」
「そして、その息子さんの名前をコルディーナと云うんです」
「…………」

 ジジの言葉を、メアが引き継いで話した。
 うん。わりとよくあるはなしだね。でもね? すこしきになることがあるんだ。

「……コルディーナちゃんが、幽霊?」
「そうじゃ」
「……コルディーナちゃんは、男の子?」
「そうです」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 間髪入れずに絶叫する僕。

「うお!? なんじゃ!?」
「あ、あの、落ち着いて下さい……」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 床の上をゴロゴロと転がる僕である。
 あまりにもショックな出来事に半狂乱に陥ってしまった。

「おやおやぁ? お主幽霊とかが苦手なのか?」
「……意外ですね」

 ニヤニヤと笑いながら、からかう様に云うジジ。
 ちょっぴり驚いた顔をしているメア。
 僕はがばっと立ち上がると、二人に声を荒げた。

「当たり前だろ! まさか男だったなんてっ!!」
「そっちか!? お主にとって重要なのはそっちか!?」

 当然だろうに。

「やっぱり、この人は普通じゃないんですね……」
「こやつに常識を求める方が、バカなのかもなぁ……」

 二人が何か云っているが、僕はそれどころではなかった。

「せめて、せめて10歳以下だったら……! 15歳であの容姿は有りなのかよ!? すんごい可愛い男って有りかよ!? ……ハッ! そうか分かったぞ! 実は息子と云うのが嘘で、本当は娘なんだな! コルディーナくんじゃなくてコルディーナちゃんであってるんだな!!」
「現実を受け入れんか」
「現実を受け入れましょうよ」

 メアとジジが僕を諭そうとしてくる。

「あんなに可愛い子が男の子のはずないんだーーー!!!」


 僕の絶叫が夜空を駆け抜けた。



「クスクス、おにーちゃんはやっぱり面白いね」





 どこかで、そんな声が聴こえた気がした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 文体が安定しないのですにゃ! 物書きとして致命的な気がするのにゃ! でも書かなきゃ文章書くの上達しないのにゃ! なんだか最近激しくだれている作者なのだにゃ!
 語尾に、にゃ! を付けて見たけど思いのほかキモイ自分に気づいた作者です。
 無理矢理な個性は駄目ですね。作者は平均人間として生きていくしかないのですよー。


▼いつも感想ありがとうございます。

>>「この人を、社会に解き放つんですか……?」
>メアも分かってるじゃないか。
>そして解き放たれてしまった紳士……もとい変態。
>きっと働いている間は不安で仕方ないはずだ!

変態じゃないよ!紳士だよ!…これ何回目だろう?
主人公が働いている間は、子供の心配をする母親な気分だったのでしょう。10歳児が母性本能を働かせるって、いいよ、ね?


>ほのぼのじゃない!全然ほのぼのじゃないっすよ!?
>だが、それがいいw

いえいえ、ほのぼのですよ。
仮に、この話がほのぼのでないとすれば、作者は何のジャンルをを書いているんだってことになっちゃうのです。
そう、この話はほのぼのです。ほのぼのなんです。立派にほのぼのなんだから!ほのぼのだっていってるじゃない!!
ふぅ。これだけ云えば、この話がほのぼのだということを分かってくれたことでしょう。






[9582] 9話・夢
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:37


 ちょっとだけシャイな僕は、きっと純情世界一。





『9話・夢』





 ほいやっそいやっ。
 えいやっはいやっ。

「……何をしているんですか?」

 一心不乱に腰を前後に動かす僕に、メアが疑問を投げ掛けてきた。
 激しく腰を前後に動かしながらメアの問いに答える。

「いや、ゲッダンを少々?」
「いえ……訊かれても……」

 それもそうだねーと云いながら、腰の動きはラストスパートへ。

「その、そもそも、げっだんって何ですか?」
「僕に訊かれてもなぁ……」
「えぇ……」

 ぶんぶんっ! ぶんぶんっ! ごきっ。

「ぬぐわぁ!?」
「だ、大丈夫ですか!? いま鈍い音がしましたよ!?」

 腰がぁ……腰がぁ……っ!!

「ぼ、僕は……もう、だめ……だ……」

 がくり。

「わあああああ!! ど、どうしよう!? ジジ! ジジーーー!!」

 倒れ伏した僕を見て、メアが叫び声を上げる。
 慌てるメアも可愛いなぁ。
 腰の痛みが引いていく気がする。

「呼んだかの?」

 ジジが前方空中回転をしながら現れた。
 そのまま、僕の腰に着地する。

「あんぎゃああああああああああ!?!?」
「おお!? なんじゃ、びっくりしたじゃろうが!」

 そう云って僕の腰をぺしんと叩くジジ。

「お? おお!? 顔面が蒼白にっ!?」
「きゃあああ!? しっかりしてください!!」


 うん、それ無理☆


 僕の意識が、薄れていく。

「もう、むりぽ」





 深い暗闇の眠りに落ちた僕であった。





*****





 草木が生い茂り、大樹が日の光を適度に抑える。
 とても清い風の吹き流れる樹海。
 此処は、聖地と呼ぶに相応しい場所。
 精霊があまねく森林。
 その森林に存在する、ひとつの集落。

「そんなこんなで、やって来ました妖精族の里! ひゃっふぅ~!!」

 集落の入り口。
 唐突に叫び声を上げた僕を、不審そうに見る妖精族の皆様。

 ああ、突き刺さる視線が気持ちいい……。

 僕が「何こいつ、ちょっとヤバくない?」的な視線に晒されて、身体をワナワナと震わせていると、声がかかった。

「あの、誰に説明しているんですか?」
「それ以前に、お主テンションが高すぎんか?」

 一人と一匹が不思議そうに尋ねてくる。
 だが、何故に僕と距離を取っているのだろうか?
 僕にはさっぱり分からない。

「こーゆー時は、説明口調で云うのが古典なのさ! テンションが高いのは、妖精とかファンタジー要素が出まくりだからさぁ!」

 良いよね、妖精。ファンタジーの王道だよ。
 耳の長い妖精族のお姉様な妖精に、ちっこい妖精らしい妖精。
 赤い帽子を被った幼女妖精に、青い帽子を被った少女妖精。

 見渡せば、妖精、妖精、妖精。
 妖精が選り取りみどりだぜ! 流石は妖精族の里!
 ひゃっふぅ~! と再度叫ぶ。
 途端に強まる、突き刺す視線の嵐。たまらんね。

 男の妖精? いや、そんなのに興味無いし。

 兎にも角にも、妖精は美人さんが多い。
 僕が見た限りでは、約6割が美人だ。物語の定番だね!
 ぐへへへへぇ、と笑いが洩れる。

 おっと、涎が……。

「さて、そろそろ急ぐか。のぅ、メア」
「そうですね。先方を待たせても悪いですし。行きましょう、ジジ」

 メアとジジが悠然と歩みを再開させる。
 その足には迷いがない。





 おやおや、僕は無視かい?





*****





 僕達は植物で出来た城にやってきた。
 集落なのに城があるのはどうなのだろうとも思ったが、ファンタジーだものと自己完結しておいた。
 城門を守る男の妖精騎士。
 身体は細身なのに、ひ弱さを感じさせない。
 なによりも、その容姿は実に整っている。けっ、イケメンが。

 唾を吐きだしたいのを堪え、中に通される。
 そこで、給仕服を着た女性の妖精が出迎えてくれた。
 僕が妖精のお姉さんの後ろ姿に情欲を掻き立てられ、息遣いが荒くなってきたころ、一際大きな扉の前に到着した。

 その扉が開き、僕達は中に入る。
 部屋の中は豪奢な装飾品が飾られ、この部屋を荘厳に感じさせる。
 奥には玉座があり、その前で豪奢に着飾った一人の佳人が立っており、その部屋の壁に沿って何人もの妖精騎士が立ち並ぶ。全員見目麗しいことこの上ない。
 大半が女性の妖精騎士なのが特に華々しさを際立たせる。
 おそらく、両脇に美人な妖精騎士のお姉さんを侍らせて、玉座の前に立つ佳人が妖精族の長なのだろう。
 というか、妖精族は女性主権なのだろうか?

「よく来たわね。歓迎するわ」

 柔らかい笑みを浮かべて、妖精族の女王が歓待の言葉を云う。

「うむ。久しいな、ティタニア」
「お久しぶりです。ティタニア様」

 ジジとメアが言葉を返す。
 そこには気負いなど感じられない。
 きっと、気心知れた善き友人みたいな関係なのだろう。

 しっかし、女王様の名前も定番だねぇ……。

 僕は眼前に立つ麗しのご婦人を見ながら思う。
 さらりと流れる金髪はまるで絹糸ようで、瞳はどこまでも澄んだ蒼色をしており、白い肌をした身体は凄く蟲惑的な肉付きをしている。
 そのふくよかな胸が目に眩しいです。

「ふふ、貴女も健勝そうね。流石は"ナインライブス"と云った所かしら? それとも、今は聖魔様、だったかしら?」
「それは昔の話じゃろう。それに今の呼び名も、仰々しくてワシは好かんのじゃがなぁ」
「うふふ、百年前は"血塗れの殺戮者"と謳われた貴女も丸くなったわねぇ」
「そういうティタニアも、"妖艶妖王"と呼ばれておった頃に比べれば、随分丸くなったもんじゃろう?」
「その呼び名も懐かしいわねぇ」
「なんせ百年前じゃからなぁ」

 お互いに笑い合う妖精の女王と2本の尻尾を持つ子猫。
 なんだか、中学二年生が考えそうな言葉が出て来た。
 うむ、これでこそ異世界だ。
 語り合う妖精と子猫という、ある種のシュールさを感じさせる光景を前にして、僕は妖精の女王の肉体を見つめる。

 うむ。実にエロイ身体だ。素晴らしい。

「そこの方は初めまして。私はティタニアと申します」

 ふと気付けば、女王が僕の方を見ていた。
 取り敢えず、言葉を返す。

「初めまして。女王様はエロイですね」
「ちょっ、な、何を云ってるんですか!?」

 メアが声を荒げて僕に云う。
 つい心の声を口に出してしまった。
 ざわざわと、ざわめきが広がる。

「なんと不埒なっ!!」
「極刑ものですわ」
「……下劣極まりないな」
「聖魔様と魔女殿の知り合いでなければ斬り捨てているとこだ!」
「まったくだな」

 物騒な内容が聴こえる。
 既に女王の両脇に控える二人のお姉さんが、腰に下げている剣の柄に手をかけ、僕を睨んでいる。

 うわぁい、居心地最悪だぁ。

 どうしようかなぁと、ぼんやり考えていると、女王が微笑みを浮かべながら妖精騎士の皆さんを窘める。

「お客様に失礼ですよ。不躾な事は控えなさい」

 女王の言葉で、一気に敵意の視線が和らぐ。権力万歳。
 女王は再び僕を見遣り、微笑む。

 あ、ど~も。

「お主は……まったく、少しは緊張感を持てと云うに」

 ジジが嘆息する。
 残念だが僕はそんなことを云われた覚えはない。

「なかなか、面白そうな御仁ね?」
「こやつと一度暮らしてみるか? 二度とそのような事を云えんくなるぞ」

 あんまりだ。

「あらあら、そうなのかしら?」

 女王が僕を見て問いかける。

「はっはっは。ジジはツンデレなので、本心はきっと僕にぞっこんです」
「それはない」
「メアも僕にぞっこんです。もう少しで恋仲な関係になりますよ」
「なりません」

 僕の言葉が一蹴される。
 まったく、この照れ屋さんどもめ。

「あらあらまぁまぁ、ホントに楽しそうねぇ」

 女王がクスクスと笑う。
 その姿は本気で綺麗だ。まるで名匠の描いた絵画の様である。

「しかし、女王様は美しいですね」
「あら? 今度は私を口説くおつもりかしら?」

 面白そうに目を細める女王。

「許されるのなら、すぐにでも口説きたいですね」
「まぁ……」

 驚いたように目を見開く女王。
 そして、すぐに面白そうに笑顔を浮かべる。

「いいですよ。どうぞ私を口説いてみて下さい」

 その言葉に周囲が騒然となる。

「女王陛下!」
「なにを仰っているのですか!?」
「この様な下衆にそのようなことを!」

 口々に抗議の声が上がる。
 随分な物言いもあった気がする。下衆って云うな。興奮するじゃないか。

「静かになさい」

 女王が周囲を見回す。
 それだけで喧騒が静まるのだから凄い。

「さぁ、どうぞ」

 女王が僕を見て口説き文句を促す。
 そこで僕はどのような口説き文句が良いか考える。


 条件1・女王は年上。少なくとも百歳以上。

 条件2・素晴らしい美貌を誇る。まさに人間離れした美しさの容貌を持つ。

 条件3・しかしながら、中々に妖しい気配を持っている。イッツミステリアスなり。


 これらの条件から最適の言葉を選び出す。
 そして、ひとつの言葉が脳内検索にヒットした。
 よし、これならば……イケるっ!!

「それでは、失礼して」
「ええ」

 微笑む女王。
 僕はひとつ咳払いをして、言葉を口にする。



「ババア、結婚してくれ」





 牢屋にぶち込まれた。





*****





 はっ! と意識が覚醒する。
 窓から外を見ると、既に暗闇が迫っていた。

 ……随分と懐かしい夢を見た。

 起き抜けの頭でそう思う。
 まぁ、懐かしいとは云っても半年程前なのだが。
 あの後が大変だった。
 牢屋にぶち込まれて、どうしたものかと色々とやってみたら、牢屋番のお姉さんに「うぜぇ、こいつマジうぜぇ」な目を向けられた。
 最終的には、まるで汚物を見る様な目で見られた。

「あの目には興奮したものだ」

 うんうんと頷いてみる。
 何故にあのような目で見られたのか、未だにさっぱりだが。

「……あ、起きましたか」

 背後から声をかけられ、振り向くとメアがいた。

「大丈夫でしたか?」
「うん。だいじょーぶ」

 心配してくれていたようだ。良い子である。抱きしめたい。

「ジジは?」
「『天罰じゃ!』とか云って、出掛けました。もうすぐ帰ると思いますが」

 僕に一切の配慮もない。酷い奴だ。抱きしめてやる。

「そういえば、なんだか嬉しそうな顔をしていましたけど、夢でも見ていたんですか?」
「うん。妖精族の里でのことをね」
「…………ああ、あれですか」

 メアが遠くを見つめて虚ろな目をしている。
 まるでトリップした様な状態で、うふふと笑い声が洩れている。
 どうしたんだろうね?

「帰ったぞ……むっ、起きておったか」

 ジジが帰って来たようだ。
 ジジは、なにやら尻尾に器用に袋を提げている。

「それ、なぁにぃ?」
「むっ、これは、そのぅ……」

 ジジがそっぽを向く。
 若干照れた様な声で云う。

「お主の為に、その、腰の塗り薬を……」

 恥ずかしいのだろう。
 声が徐々に小さくなっていく。
 その様子を見ていた僕は、思わずジジに飛びかかった。

「このツンデレめぇ!!」
「にゃっ!?」

 ジジが悲鳴を上げるが、もう遅い!!

 ぼきっ。

「ぴゃあああああああああああああ!!?」

 飛びかかった直後、再び僕の腰から異音がした。
 崩れ落ちる僕。

「大丈夫ですか!?」

 ようやくトリップ状態から我に還ったメアが僕に駆け寄る。
 ジジも警戒しながらも、心配そうに見ている。
 その後、僕の部屋に運ばれて介抱された。


 偶には腰を痛めるのも、いいかも知れない。


 ぽんっ。
 びきっ。


「ぎゃあああああああ!?」
「あ。すまん」





 折角、綺麗に、纏めようと、したのにっ……!!





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがーき

 作者のネタがそろそろ尽きてきました。もう限界よ!
 もうなんだか、無性に甘いものが食べたい心境です。とろけるプリンとか。
 てか、最近暑いのでだれまくりですよ。うなー。


▼感想毎度ありがとうねぇ……

>へ、変態だーっ!!(笑)
>…いや、可愛ければ男でも構わない、とか言わないだけマシ……やっぱり変態は変態だな。

変態(略 紳士だ(略

>P.S.そのうち、大根持って「ふんどし!」とか言い出しそう…って、ネタわかる人いるのか?

作者は浅く狭い知識しかないので、ネタはグルグルくらいしか分からないですよー。にぱー。
柴田のアーミン先生のネタかと思いました。


>逆に考えるんだ。
>こんな可愛い子が女の子なわけないとか
>付いてる?むしろご褒美ですとか
>可愛いからいいじゃないかどっちも穴あるしとか意識改革すればいいと
>思うよ。
>まあこの主人公の場合次の日くらいにその領域に至りそうだw

その境地に達したら色んな意味でヤバイですね。流石に。
主人公は紳士なので、その境地にはそれほど遠くない内に到ることでしょう。


>おい!なんだこれ!おもしれーぞ!
>頭空っぽにして読めました。

おう!ありがとよ!うれしーぜ!
何も考えずに読んで頂ける、軽い内容で構成されているのが当作品でございます。
今後ともご贔屓のほど宜しくお願いいたします。

>あなたを変態です。

惚れました。嘘ですが。





[9582] 10話・懐かしき友人
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 21:47


 見えない所でバタ足してたら足が攣った。





『10話・懐かしき友人』





 城の一室。
 その大広間で僕とジジとメアはまったりしていた。
 それぞれがまったりとした時間を過ごす。
 ジジは日向ぼっこをしている。
 メアは魔道書? だとかを読んでいる。
 僕は逆立ちしながらその光景を見ている。
 時間の流れに囚われず、各々がしたいことをする。時間の流れがひどく穏やかな物に変わった様な錯覚を起こさせる。
 それほどに、今この場所は優しい空気に包まれていた。

「……んっ、ふぅ……んっ!」

 体勢が崩れたので、腕に力を込めて立て直す。
 ふぅ、危ない危ない。
 だいぶ頭に血が上って来たので、視界がクラクラと揺れる。ん? 逆立ちしているのだから、血が下がると云う方が正確なのだろうか?

 ……まぁ、どうでもいいか。
 ぐらついて倒れそうになる自分を心の裡で叱咤しながら、必死で体勢を維持する。

「……ふぁ、あっ……うぅん……」

 口から息が洩れる。
 やはり、長時間この体勢を保つなの至難だ。今現在で、やっと50分維持出来ているが、既に腕力が限界に達そうとしている。

「あ、ぁあっ……ふぅ、んっ! ……んん」

 くっ、やはり、きつい……!

「……ずっと気になっていたんですけど、何をしているんですか?」

 メアが魔道書から顔を上げ、僕に尋ねる。

「逆立ち」
「……いえ、それは分かるんですけど……」

 簡潔に答えた僕の言葉に、メアが何やら困ったような表情で口篭もる。
 なんだろうか?

「んむぅ……にゃにが目的で、ちょのような格好をちておるのかと、尋ねちゃいんじゃよ……メアは……」

 ジジが目を擦りながら、それでもトローンとした眼つきで僕の疑問に答える。
 くあっ、と欠伸をするジジ。

 やだ……なに、この子猫。……凄く……愛らしい。

 普段は毅然とした態度のジジが寝惚け口調で話す姿は、びっくりするくらいの破壊力を持っていた。
 んーっ、と云いながら再び丸くなるジジ。
 すっっっごい、抱きしめたい。

「ちょう云いたいんじゃろう? にょう、メア?」
「……え? あ、ああ、うん。そうです」

 ちょこんと眠たげな顔を上げてジジが云う。
 メアの反応が僅かに鈍かったのは、メアも今のジジの姿に見惚れていた為だろう。
 気持ちは凄く分かる。今のジジの姿は犯罪級に可愛い。

「それで、どうにゃんじゃ?」

 ジジが再度、僕に尋ねる。
 今すぐにでも飛び掛かりたいのだが、この状態では無理だ。
 なので、通常の姿勢に体勢を戻す。

 くっくっくっ、これで準備完了だ。

 すると、ジジが急に俊敏に立ち上がった。その目には、既に眠気の色は無かった。

「あれ? もう一度お昼寝するんじゃないの?」
「嫌な予感がしての。目が急激に冴えた」

 メアの問いにジジが答える。
 ……ちっ!

「それで、いい加減に答えい。何故に逆立ち何ぞしておったんじゃ」
「あ、そうでした」

 再三のジジの問いかけ。メアも思い出したかのように僕に目を向ける。
 二人の視線を受け止め、ちょっとした興奮を覚えながらも疑問に答える。

「いや~。逆立ちすれば、なにか良い閃きでも浮かぶかなと思ってね。昔はよくテスト前日にやっていたんだよ」
「……てすとって、何ですか?」
「んっとね、学力試験……って云えばいいのかなぁ?」
「魔術学院の学術試験の様な物か?」
「うん、そんなの」

 魔術学院ってどんなのか知らないけど。

「……ふむ。そういえば、お主の過去話は聞いたこと無いのぅ」
「……私、興味あります」
「僕の昔の話?」

 興味津津な瞳を僕に向けて、うんうんと頷くメアとジジ。

「そうだなぁ……」


 その期待に応えるべく、昔を思い出す僕。





 さて、中学生時代のテストの話でもしてみよう。





*****





 先週はテスト期間で、今日はそのテストが返却された。
 現在は週の最終日である。
 僕達の学校では、テスト期間中は午前までテストが実施される。その日の科目が全て終了したらすぐに下校して良いという校風だった。要は正午には帰宅出来るという事だ。
 さらに、翌週の最終日にテストが返却される。
 僕達の学校ではテスト期間の翌週の最終日に全部返却されるのだ。
 基本、最終日はテスト返却しかないので、テストが返却されればすぐにでも帰宅出来る。
 しかし、そこは年若き中学生。皆はお互いのテストを見せ合いっこして、喚声を上げたり、一喜一憂したり、嫉妬していたり、悔しそうにしていたり、お互いに優劣を付け合ったりしている。

「よぉ、テスト結果どうだった?」

 そんな中、一人の若者が僕に近づいて来た。
 肩口まで伸びた髪。メガネを掛けた少年だ。

 きのした雪人ゆきひと。僕の友人である。

「おいっすぅ! なぁなぁ、お前ら結果どうだったよ?」

 もう一人、僕達に声をかける同級生。
 耳にかからない程度に髪の短い茶髪の少年。活発な印象を受ける。

 四十八願よいなら太助たすけ。僕の友人その2である。

「僕は、まだ結果見てないよ」
「オレもなんだよ。奇遇だなぁ!」
「まぁ、俺も結果はまだ見ていないな」

 どうやら、誰も結果を見ていないようだ。

「よし、見せっこしようぜ!」
「まぁ、俺もする気だったしなぁ」
「ん~、僕も構わないけどねぇ」
「んじゃあ、早速見せ合おうぜ」
「だが断る!」

 断ってみた。

「いやいや、いいからそういうの」
「そうそう。結果は変わらないんだから」
「そもそも構わないって云ったじゃんか」
「別に恥ずかしくないだろ。友達なんだし」

 普通の反応をされた。
 何気にショックだったりする僕である。

「せーの、で見せるぞ」
「全部の合計点か? 単品ずつか?」
「合計点でいいんじゃない?」
「んじゃあ合計点な」

 せーのっ! と太助が云って、一斉に机の上に置く。


 空・雪人──5教科中、485/500点。
 四十八願・太助──5教科中、250/500点。
 僕──5教科中、450/500点。


「ええええええええ!? なんでお前らそんなに点数良いんだ!?」


 太助が絶叫する。
 僕と雪人はお互いに顔を見合って、再び太助の方向を見て云う。

「なんでって」
「実力?」

 それしかないだろうに。

「う、嘘だっ!! 絶対に採点ミスだ!!」

 太助が僕達に難癖を付けてくる。
 どうしたものか。雪人も太助の扱いをどうしようか考えている。
 ぎゃーぎゃーと喚く太助。黙らせる為の方法は何かないものか。
 んー、と悩むが中々良い考えが浮かばない。
 こうなったら。

「もう、ねじ切るしか……」
「なにを!? オレの何をねじ切るの!?」

 太助が股間を押えながら声を荒げる。
 なんだ、分かっているじゃないか。

「……俺達の解答をお互いに照らし合わせればいいだろう」

 黙っていた雪人が口を開く。

「いいね」
「よし、それで行こう!」

 股間を押さえて意気揚々と同意する太助。





 格好悪いなぁ、もう。





*****





「順番は?」

 僕の質問に雪人が答える。

「数学・国語・英語・社会・理科・総合評価でいいだろう」
「そうだなぁ」

 太助が雪人の提案に同意する。
 僕も特に異論はない。

「んじゃあ、オレの間違ってる所を見ようぜ!」
「……お前の解答用紙、ペケだらけなんだけど……」
「一部でいいんじゃない? 1~2問程度で」
「だなぁ。全部確認するのもメンドイしな!」

 僕の提案に太助が同意の声を上げる。

「じゃあ、確認しようか」


~~~~~
【数学問題】
 問題1・次の問いに答えよ。
 1+1=?


【空・雪人の解答】── 正解。
 1+1=2

【先生のコメント】
 正解です。ここはサービス問題なので、皆さん正解している事でしょうね。


「ここは当然合ってるだろう!? 算数以下だぞこれ!?」
「お前の中での常識をオレに押し付けるな!!」
「ここで使う言葉じゃないね」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 1+1=田

【先生のコメント】
 まさか間違える生徒が居るなんて、夢にも思いませんでした。一度小学校に戻った方が良いのかも知れません。


「お前バカだろう!? バカだな!?」
「うるせぇー!! バカバカ云うなー!!」
「まるきゅー! まるきゅー!」
「お前もウゼェよ!?」


【僕の解答】── 正解。
 1+1=2+2-3×4-2+1-2+13=2

【先生のコメント】
 正解……ですけど……もっと簡潔に書きましょうね?


「お前もバカだろう……」
「なにおう! 失敬な!」
「あれ? オレの計算だと、答え3になるんだけど?」
「真性か! 太助は真性のバカか!」
「てめぇ! オレのどこがバカだ!」
「自覚が無い所じゃない?」


 問題12・次の問題を証明せよ。
 a^3+b^3=(a+b)^3-3ab(a+b)


【空・雪人の解答】── 正解。
 右辺=(a^3+3a^2b+3ab^2+b^3)-3a^2b-3ab^2=a^3+b^3
 よって a^3+b^3=(a+b)^3-3ab(a+b)

【先生のコメント】
 正解です。きちんと予習復習をしているのがみて取れます。この調子でこれからも頑張りましょう。


「これって中学一年生の問題じゃない気がするんだが……」
「だ、だよなぁ。間違えても仕方ないよな!」
「必死で言い訳を探しているね」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 佐辺=1^3+ab-3a+2c+b^3
 よって 合ってる。

【先生のコメント】
 先生には何が"よって"なのか分かりません。ですが、必死で考えたと云う点は褒められます。それと、漢字は正しく覚えましょう。


「お前にしては、頑張ったんじゃないか?」
「だ、だろぉ? オレはやれば出来るんだよ!」
「漢字間違ってるけどね!」
「うるせぇ!」


【僕の解答】── 不正解。
 これ暗記してます。たしか、証明できます。

【先生のコメント】
 暗記しているのは結構ですが、計算の過程を書きましょう。


「お前もオレと同じように間違えてんじゃねーか!」
「僕は書かなかったんだ! 分からなかった貴様と一緒にするな!」
「どちらにしろ、不正解だろ……」


~~~~~
【国語問題】
 問題3・次のひらがなを漢字にせよ。
 せんよう。


【空・雪人の解答】── 正解。
 専用。

【先生のコメント】
 正解です。専の文字に点を付け足す人が多い中、よくできました。


「ま、当然だな」
「そのどや顔がムカツク」
「あ、本当だ」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 シャア。

【先生のコメント】
 先生はあまりアニメとか漫画は知らないので、どう言葉を返していいのか迷っています。取り敢えず、漢字を書いてくださいね。


「別に3倍じゃねーだろ!? 赤くもねーし!?」
「専用と云ったらシャアしか浮かばないんだよ!!」
「あ。僕、ここ合ってる~」


 最終問題・先生に対しての告白の言葉を書きなさい。


【空・雪人の解答】── 不正解。
 質問の意図が分かりません。

【先生のコメント】
 先生だって女です。


「俺は未だに、この問題は意味が分からない」
「みよちゃんってば、結婚出来ないの気にしてんだなぁ……」
「もう三十路だっけ?」
「俺が気になるのは、女子はどう答えたんだろうな……これ」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 ヤらせて。

【先生のコメント】
 あまりの直接的な言葉に絶句しました。先生だって乙女なので、オブラートに包んだ表現にして欲しかったです。


「お前はホントにバカだな!!」
「容姿は良いんだから仕方ないじゃん!?」
「身長150センチで童顔の合法ロリだもんね」


【僕の解答】── 正解。
 僕の物になれ。お前は僕の女だ。

【先生のコメント】
 年上の女性をどう思いますか? 先生は年下の男性は魅力的だと思っています。期待しても……いい?


「ちょっとみよちゃん先生とホテルに行ってくる」
「こらぁ!! 速攻で宮川先生のところに行こうとするな!!」
「落ち着け! 過程を飛び抜かし過ぎだ!! 先ずはデートだ!!」
「そーゆー問題じゃない!! ……って、だから行こうとするなぁ!!!」


~~~~~
【英語問題】
 問題6・次の文章を英文にしなさい。
 私は午後3時に友人と駅で待ち合わせをした。


【空・雪人の解答】── 正解。
 I met the friend at the station at 3:00PM.

【先生のコメント】
 正解です。ここは特別に3o'clockでも正解にしています。


「よく分かるな、外国語なんて……」
「結構簡単だろ? この程度なら」
「まるで翻訳したみたいだね」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 I am 3o'clocks friend is station.

【先生のコメント】
 無理矢理に訳すると、『私は3時で友達は駅です』となるんでしょうか? ……どんな状況ですか。


「人間辞めたな」
「仕方ないだろ!? 分かんねーんだから!!」
「だよねー仕方ないよねー」


【僕の解答】── 不正解。
 watashiha gogo 3jini yujinto ekide matiawasewo the under.

【先生のコメント】
 単純にローマ字にしただけ……違う!? 最後だけ英語だ!? 何故に"した"だけ英語!? ……どっちにしろ間違っていますが。


「本当に何故最後だけ英語なんだ……」
「だって、壁の張り紙に書いてあったから……」
「あー、あるある。オレもよくする」


~~~~~
【社会問題】
 問題5・「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう 『    』」
 これは、とある戦国武将を表しているとされる歌です。『 』の中に適する言葉を入れ、その戦国武将は誰かを書きなさい。


【空・雪人の解答】── 正解。
 歌:「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」
 誰:豊臣秀吉

【先生のコメント】
 正解です。恐らくこれを間違う事は滅多に無い様な、簡単な問題ですね。織田信長や徳川家康のも覚えておきましょう。


「これって後世で作られた創作歌らしいな」
「え!? マジで!?」
「無駄な知識だね」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 歌:「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう 我が嫁よ」
 誰:オレ

【先生のコメント】
 君には彼女すら居なかったと思うのですが? あと、言葉は自重しましょう。それと、君は一体何歳だ。長寿にも程があります。


「なんで先生がオレの恋愛事情を知っているんだ!?」
「俺は、お前がためらいもなくこれを書いたことに恐怖を感じる」
「エロゲ脳だね」


【僕の解答】── 正解。
 歌:「声を殺すな 聴かせろよお前の声 ここがいいんだろ?」
 誰:小早川先生

【先生のコメント】
 原型がないと云う以前に、貴様か!? あの時の盗聴テープを私の靴箱に入れていたのは!? この問題は正解にしてやるから誰にも云うなよ!!


「脅迫じゃねーか!?」
「くっくっくっ、頭脳プレイと呼びたまえ」
「コバさん、不倫してんのかぁ……」


 問題32・黒船が浦賀に来航した時の記述である。次の( )に適する言葉を記入せよ。
( )に浦賀に来航した( )は( )を迫った。※最初の( )は年代です。


【空・雪人の解答】── 正解。
(1853年)に浦賀に来航した(ペリー)は(開国)を迫った。

【先生のコメント】
 正解です。来航した際の黒船は、帆船では無く蒸気機関船だということも覚えておきましょう。


「ここは中々思い出せなかった」
「難しいよな、歴史って」
「だにゃー」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
(嘉永6年6月3日)に浦賀に来航した(マシュー・ペリー)は(元カノに交際)を迫った。

【先生のコメント】
 逆に凄いとしか云えません。ただ、ペリーの元彼女が日本人だという事実にびっくりです。


「なんで難しい方の年代書けんだよ……ペリー、本名だし……」
「何をしに来たのかは覚えてなかったんだよ」
「あーわかるわかる」


【僕の解答】── 正解。
(3-CのH.Aさん)に浦賀に来航したとホテルに到着した(小早川光行)は(ベッドの上で関係)を迫った。

【先生のコメント】
 勘弁して下さい。


「……ブラックストマック………」
「くっくっくっ」
「……中学生と……コバさん、サイテーじゃんか……」


~~~~~
【理科問題】
 問題2・実験で使う器具をなんでもいいので一つ書きなさい。


【空・雪人の解答】── 正解。
 試験管フラスコ。

【先生のコメント】
 正解です。他にも沢山実験で使用する器具はありますので、間違わない様にしてください。


「定番だよな?」
「そうだな」
「そうだね」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 ニトログリセリン。

【先生のコメント】
 それは器具ではなく材料です。因みに中学の実験で使う事はありません。


「定番だよな?」
「脳に病気でも患ってんのか?」
「ニトロはない」


【僕の解答】── 不正解。
 人間。

【先生のコメント】
 恐ろしいです。


「定番だよね?」
「俺はお前と云う人物が分からなくなってきた……」
「普通にこえーよ」


 問題17・音の速さを書きなさい。


【空・雪人の解答】── 正解。
 340m/s

【先生のコメント】
 正解です。具体的には344m/sですが、授業では約340m/sと教えたので正解です。


「あー、そうなんだ」
「オレは知ってたぜ!」
「知っているのに間違えた太助の答えに期待」


【四十八願・太助の解答】── 不正解。
 344s/m

【先生のコメント】
 単位の間違えには気をつけましょう。


「期待させてこれか!? なんて平凡なんだ! 僕はがっかりだよ!」
「…………」
「太助、おーい、生きてるかー?」


【僕の解答】── 正解。
 音の速さ。

【先生のコメント】
 ある意味正解です。"音の速さ"は書いてますね。


「納得いかねー!!!」
「うわぁ!? 太助が突如として巨大化して街を襲う怪物にっ!!」
「ならねーよ!?」
「お前ら、楽しそうだな……」


~~~~~
【総合評価】


【空・雪人の総合評価】
 数学-98点、国語-98点、英語-98点、社会-97点、理科-94点。
 総合得点-485点。

【担任のコメント】
 非常に成績が優秀です。遅刻もなく、校則も遵守しているようでなによりです。これからも優等生として相応しい態度で学校生活を過ごして下さい。


「俺、担任嫌いなんだよなぁ」
「あー、オレも」
「僕はそうでもない」


【四十八願・太助の総合評価】
 数学-50点、国語-50点、英語-50点、社会-50点、理科-50点。
 総合得点-250点。

【担任のコメント】
 もう少し頑張ったらどうでしょうか。成績もあまりよろしくないですし、性格にも難ありです。素行も良いとは言えませんね。このままでは、将来きっと苦労するでしょうね。


「すんげームカツク」
「ああ、これはムカツクな」
「ほほぅ」


【僕の総合評価】
 数学-95点、国語-95点、英語-79点、社会-92点、理科-89点。
 総合得点-450点。

【担任のコメント】
 お願いします許して下さい何でもします何でもやりますだからどうかお許しくださいもう私は限界です私が悪いのだと認めます認めますからお願いだからもう私に関わるのをやめて下さいもう貴方には何も云いません手も足も口もだしませんからどうか私を解放してくださいお願いしますお願いしますお願いしますお金なら差し上げます労働だってします無休で働きますですので何卒私を解放して下さい生意気な私が全て悪かったです浅慮な私が全て悪かったです調子に乗っていました図に乗っていました全部全部反省しますだからどうか許して下さい助けてくださいお願いします………。


「だからこえーよ!?」
「今気付いたんだが、これ大抵教師の弱みを握ってないか? 不自然な正解が多い気がする……」
「気にしちゃ負けだよ」





 これが僕達の日常である。まる。





*****





「とまぁ、こんなもんだよ」

 語り終えて一息吐く。
 ああ、そう云えばアイツ等は元気にしているだろうかと、ふと思った。
 懐かしさに目を細める僕。
 その後も色々あったものだ。当時は中学一年生で、まだまだ尻の青い小僧だった僕達。そんな僕達も進級するに従って先輩というものの責任というか役目を意識し始めたのだ。

 我ながら立派な先輩だったと思う。
 何故か後輩諸君には敬遠されていたが。

「なんというか、その……」
「ううむぅ……」

 過去の思い出に意識を飛ばしていた僕は、メアとジジの唸り声の様な戸惑いの声の様なものに意識を現在に戻した。

「ん? な~に?」

 そんな二人に尋ねてみる。

「なんというかお主……」
「……さり気なく、怖いですね……」
「ええ~? まさか~」

 不本意ながら元の世界でも云われたなぁ、それ。
 僕はこんなにも優しい品行方正な好青年だというのに。

「なんというか、前々から思うておったが」
「うい?」
「……お主、底が知れんのぅ」

 射抜くような視線を僕に突き刺してジジが云う。
 そんなに睨まれたら、なんだか僕、興奮しちゃう。あふん。
 快感に身をぷるぷるさせている僕を見て、ジジが嘆息する。

「まぁ、いまは良いか。ワシは昼寝に戻るわぃ」

 そう云って、日の当たる場所に移動したジジ。

「……じゃあ、私も」

 メアも、手にしている魔道書を再び読み始めた。

「ふむ」

 再び穏やかな空間が展開される。
 さて、僕はどうしようか。
 これから何をしようか考えていたら、不意に睡魔が襲ってきた。
 僕の意識は瞬く間にその睡魔に呑み込まれた。





 ぐう。





*****





 僕が目を覚ました時、毛布が掛けてあった。
 おそらく、メアが掛けてくれたのだろう。
 メアの優しさに、自然と口元が緩む。

 本当に、良い娘だなぁ。

 僕はそんな思いを心に浮かべて、再び夢の中に旅立った。
 願わくば、メアとえっちぃことしている夢が見れますように。ぐぅ。

「やめてください」





 残念だが、眠っている僕には聴こえない。夢は自由に見るものさ。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
痕餓鬼

 やっちゃった!てへっ★
 なんだか巷で流行っているので便乗してみました。バカテスは作者も大好きです。あのクオリティーは凄い。
 しかし、もう二度としません。作者は勉強嫌いなのです。もしかしたら作品内の答え間違っているかもしれません。その際は「おい!間違ってんぞ、この低脳!」とでも言ってやってください。
 なんというか、無駄に長くなりました。反省。次回は短くしようと思っていますが、如何せん文章が書けない状態に陥りました。これがアラレちゃんか……。
 ネタはあるけど書けない状態ってきついね!


▼毎度おなじみ、感謝感激でござい~。

>訂正します。
>コイツ、へ(略)とかそれ以前にアホやーーっ!!

へ?へ、へ、ヘルニア?主人公はヘルニアからアホに進化した!

>ふんどしーーは、グルグルの作者、衛藤ヒロユキさんが昔、ドラクエ4コマでやっていたネタです。
>ええ、私はおじさんです。
>そのせいか「にぱー」がわからない。
>調べてまで知ろうと思わないので、そのまま放置してますが。

ドラクエ4コマですかー。ドラクエ4コマは柴田亜美先生のしか読んだことなかったので知りませんでした。
因みに「にぱー」は『ひぐらしのなく頃に』に出てくるキャラの誰かが使っているのです。詳しくは作者も知りません。なんか気に入ったので使ってみただけなのですー。あうー。
貴方がおじさんなら、作者もおじさんですかねぇ。どうせなら、仮面ライダーに出てくるおやっさんを目指したいものです。

追記:『ひぐらしなく頃に』には気をつけましょう。地獄が待っています。


>スキマ送りじゃなくて良かったねwww

寧ろ作者が会いたいです。ゆかりん可愛い!少女臭最高!
そんなこんなで一度隙間に飛び込んでみたいですねー。スキマ送りってどんなものか体験してみたいです。
スキマ送りから始まるラブストーリー。やってみてぇ……。


>これは良作ですね。
>ネタが面白くて吹きましたw
>次回の更新も楽しみにしています。

お褒め頂き光栄です。ありがとうございます。
続きにはあまり期待しない方がいいですよー。
作者ってば、簡単に期待を裏切りますので。




[9582] 11話・竜との対談
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 22:44


 全ての行いに愛があるから大丈夫!





『11話・竜との対談』





「申し訳ありませんが、よろしいでしょうか?」
「ん?」

 僕が久々に家庭菜園の様子を見に赴いていた時である。
 植物の成長具合を見ている僕の背後から声がかかった。
 振り向くと、頭が寂しく若干小太り気味の中年男性が立っていた。

「チェンジ!」
「……は?」

 おっと、つい本音を口に出してしまった。
 僕の唐突な言葉に呆けた顔を晒す中年男性。

「今の発言は、お気になさらず」
「はぁ……」

 訝しげにしていた中年男性だが、すぐに気を取り直した。
 状況に対する切り替えが上手い。この人は長生きするだろう。

「それで、何か御用で?」
「はい。それよりも、先ずはご挨拶を。囮様お久しぶりでございます」
「……ん?」

 深々と頭を下げる中年男性。
 その中年男性の言葉に僕は首を傾げる。

 ……オトリサマ? あれ? 何だかとっても嫌な思い出を想起させる名称を聞いた気がするんだけど……?

 目の前の中年男性を思わず見る。この人、どこでその名称を知ったのだろうか。
 中年男性は身体を起こして僕を見る。

「その節はどうもお世話になりました」
「貴様、何者だ!!」
「……覚えておられませんか?」
「……何を?」

 僕の言葉に苦笑する中年男性。
 むぅ、なんだというのか。

「私は、ドランド村の者です」
「……どらんど村?」

 なんだっけ? どこかで聞いたことのある気がするんだが。
 うー、と唸る僕を見た中年男性が言葉を続ける。

「その、ドラゴンの被害に遭った村と云えば良いのでしょうか?」
「……あー、はいはい、あの村か」

 ドラゴンが暴れていた村か。
 そのドラゴンをどうにかしてくれと、メアとジジに依頼に来たんだっけ。懐かしいなー。

「それで、どの様な御用で?」
「ええ、その、なんと云いますか……」
「何と云うか?」
「そのぉ、出来れば、魔女様と聖魔様にもお目通り願いたいのですが……」
「メアとジジに御用で?」
「ええ、その、まぁ、はい」

 煮え切らない返事だなぁ。
 まぁ、いいか。

「分かりました。それじゃ、案内しますよ」
「すいません。わざわざ囮様にこのような事を……」
「いえいえ。では、行きましょう」
「ああ、はい……って早っ!?」

 全速力で駆ける僕。

「ちょ……待って……!?」

 中年男性の声が随分と後ろから聞こえる。
 そしてあっという間に声が小さくなっていく。
 それでも僕は止まらない。

「ラディカルグッドスピードォオオオオオオオオオ!!!」





 今の僕は最速だ!





*****





 そんなこんなで、僕は無事に城へと帰り着いた。
 ジジにお客さんが来たと告げ、そのお客はどうしたと尋ねられ、置いて来たと答えたら、引っ掻かれた。
 相変わらずジジの爪は鋭かった。顔がヒリヒリする。
 引っ掻かれた後、ジジにバカものがっ! と叱られた。凄く興奮した。

「あ、誰か来たみたいです」

 僕がジジに構ってもらっている光景を見ていたメアが、不意にそう云った。
 一拍遅れて訪問者を告げるチャイムが鳴る。
 そのチャイムを聴き、ジジが僕への攻撃を止めて正門に向かう。メアもジジの後に続く。勿論、僕もメアのすぐ背後に続く。
 前を歩くメアの小さな背中を見て、僕の息が荒くなる。
 まったく、どうしてメアはこうも可愛いのか。今すぐにでもその背中を舐め回したい衝動に駆られる。実行してやろうかしら。

「あの、前を歩いてくれませんか?」

 メアが振り返って僕に云った。

「どうして?」
「いえ、不安なので……」
「何が?」
「……貴方が背後にいるのがです」
「どうして僕が後ろにいると不安なんだい?」
「……なにか、されそうなので……」
「ははは、何もしないよ。僕を信じたまえ」
「無理です」

 即答された。

 おかしいなぁ。今までの信頼関係からすると、ここは「そうですね」と肯定する場面ではなかろうか。どこで好感度の選択肢を間違えたのかしら。
 そんな事を考えつつ、メアの可愛い臀部に手を伸ばすが、ぴしゃりと叩き落とされた。それでも、さらに手を伸ばしたら僕の手が萌えた。違った。僕の手が燃えた。
 こう、メラメラって。

「熱い!?」
「変な事をするからです」
「僕の手が物理的に真っ赤に燃えるぅ!?」
「……何気に余裕がありますね」
「きゃー!? 消して消してぇ!?」
「もう、変な事はしませんか?」
「しない! もうしない!」

 溜息を吐いて、何かを呟き炎を消すメア。
 見れば僕の手は火傷ひとつ負ってない。なんでも、熱さを直に与えるだけで肉体的損傷は負わないとかなんとか。魔法って凄いね。
 そんな遣り取りをしていたら、正門に着いた。
 コンコンと門を叩く音がする。

「どなたかいっらしゃいませんかー?」
「少し待っておれ」

 ジジが外からの声に答える。

「ふぬぅ! むぅ……えいっ!」

 一生懸命に門を開こうとするジジ。ぴょんぴょん飛び跳ねている。あの取っ手の位置は、子猫の身には辛いのだろう。後少しという所で届かない。ぴょんぴょんぴょん。
 その飛び跳ねるジジを見つめる僕。ジジが可愛いです。胸がほんわかします。

「ジジ、私が開けますから」
「ふにゅう! ……むっ? そうか、すまんな」

 見かねたメアが門を開ける。
 門を開けると、先程の中年男性が姿を見せた。

「どうぞ」
「おお、これはこれは、魔女様。お久しぶりでございます」
「……どちら様でしょうか?」

 親しげに声をかける中年男性。
 その中年男性に首を傾げて尋ねるメア。

「申し遅れました。私、ドランド村のトリートと申します」

 メアの質問に答える中年男性。
 名前が似合わない。トリートメントなんか必要のない頭なのに。

「ドランド村の者が、何の用じゃ?」
「これは聖魔様、その節は御助力有り難く……」
「堅苦しい礼などいらん。何用かを云え」
「ああ、はい。これは失礼を。実は───」

 中年男性は一通りの事情を僕達に話した。

「それでは、聖魔様、魔女様、囮様、私めはこれで失礼致します」

 事情を話し終えた中年男性は、ほどなくして帰って行った。土産の一つもないのかよ。
 長ったるい話だったので、メアに話を要約して貰った。……別に話を聴いていなかった訳じゃないよ? ホントだよ?
 取り敢えず中年男性が云うには、再びドラゴンが村に現れたとの事である。
 しかし、ドラゴンは暴れる様子もなく村に現れてこう告げた。

『怪描たる聖魔と小さき魔女、それと儚き愚者を我が巣に呼べ』

 怪描たる聖魔は、ジジの事だろう。
 小さき魔女は、メアしかいない。
 そして、儚き愚者はどうやら僕の事らしい。
 何故に僕が愚者なのだろうか。僕はその気になれば、10秒で賢者になれると云うのに。本気を出せば7秒で賢者化が可能だし。

「ファーヴニルめ、ワシ等に何用じゃろうか……」
「なんでしょう。先の一件は、双方に後腐れが残らない様にしましたし……」
「どちらにせよ、直接の指名じゃ。行くしかあるまい」
「そうですね。行かなかったら癇癪を起こして、村の人々に被害が出るかもしれませんしね」
「竜族は自尊心が高いから厄介じゃ」
「そうですね」

 ジジとメアが溜息を吐く。

「そんなに溜息を吐くと幸せが逃げるよ。どうしても溜息を吐きたいのなら、僕が吸ってあげるからこっちにおいで」
「断る」
「嫌です」

 即答だった。
 そんなに遠慮しなくても、僕の好意を素直に受け取れば良いのに。

「お主のは好意ではなく悪意じゃ」
「邪気しか感じません」





 エライ云われようだ。





*****





 現在、竜の巣へとやって来た僕達である。
 ここへ到る道中、色んな事があったが無事に辿り着けた。

「よく来たな、歓迎しよう」

 竜の巣の最深部。そこに僕達を呼び付けたドラゴンが居た。
 その巨躯は見る者に威圧感を与える。迫力が凄い。
 巨大な玉座に座るドラゴンはカリスマが溢れている。

 しかし、あれだ。ここの部屋に来るまで一切モンスターを見かけなかった。
 大量のクマが居て無双状態! とかなかったので残念である。

「ファーヴニル様、御招きありがとうございます」
「……それで、ワシ等に何用じゃ?」

 メアとジジがドラゴンに話しかける。
 ドラゴン相手に臆した様子がない二人は流石だと思う。
 そんな僕は怯えたふりをしてメアの後ろに隠れている。

 ふふ、メアってば柔らかーい。いい匂いがするー。

 僕がなんだかイケナイ雰囲気になりかけようとした時だった。

「なに、用事があるのはそこの儚き愚者よ」

 そう云って僕を指さすドラゴン。爪が鋭いね。
 ……って、え? 僕がどうしたって?

「えっと、僕ですか?」
「うむ。主に用事がある」
「だったら、先ずは呼び名を改めろ!」

 今の呼び名は僕に失礼だろうが。

「くくく、相も変わらず主は中々の胆力を持っておるのぅ」
「……なんというか、時々お主が凄い傑物に見えるわ」
「……よく、竜族にそんな言葉を云えますね……」

 なんか知らんが、皆さんに感心された。
 照れるなぁ。

「よかろう、どの様な呼び名が所望だ?」
「ジョン・スミスで」
「ほぅ、その呼び名にはどの様な意味があるのだ?」
「過去に行ったり、ギャルゲーの主人公ポジションを確立したり、リアル中二病の当事者だったりする」

 僕の憧れる姿の一つだ。
 閉鎖空間とか響きが格好よすぎる。

「若しくは、キョンでも可」
「ふむぅ? ぎゃるげーだの、りあるちゅうにびょうだのと、理解できぬ単語があるが過去に行ける存在だと云う事は理解した」

 ふむふむと頷くドラゴン。
 なんだろうね。ちょっとした罪悪感が胸に湧き上がるよ。嘘だけど。

「それで、じょん・すみすよ」
「のんのん。ジョン・スミスだ」

 発音は大事です。

「ふむ、ジョン・スミス。これでよいか?」
「オーケーです」
「あやつ位ではないか? 竜族にあのように接する輩は……」
「何気に凄いですよね……」

 ジジとメアがなんかヒソヒソとしていたが僕には聞こえなかった。

「さて、本題に移るぞ」
「どうぞ」
「ジョン・スミス、主に我が王より伝言だ」
「……おう?」

 ドラゴンにも野球選手とか居るのだろうか?

「竜族の王と云うと、レヴァンタンか!?」
「神竜様が御言葉を!?」
「然り」

 なんだか、ジジとメアが驚いている。
 え、なに? そんなに有名な選手? 鈴木さんとかと同レベル?

「えっと、ひとつ良い?」
「なんじゃ」

 僕の質問にジジが未だに驚愕の色を残して応える。

「王さんって、誰?」
「王さんじゃない! 王じゃ! 竜族の王様じゃ!」
「ああ! 王様か!!」

 なるほど。野球選手ではなかったのか。エーティーエムの方か。

「ん? その王様がなんで僕に?」
「それは我が答えよう」

 僕の疑問に目の前のドラゴンことファーヴニルが答える。

「主、この我に一撃喰らわせたであろう?」
「あー、ありましたねー」
「それを聴いた我が王が主に興味を持ってな」
「……えー」

 なんでやねん。
 捕まったから駄々を捏ねていただけなんだけどなぁ。
 腕とか足とかぶんぶん振り回していたら、ファーヴニルの喉元の鱗に当たっただけなんだけどね。一個だけ逆向きに生えてる鱗に5~6発程度。

 ……あれ? 一撃じゃなくね?

「どちらにせよ、竜族相手に人族が勝利をもぎ取るなど、珍しいことだからな。故に、我が王はジョン・スミス、主に興味を抱かれたのだ」

 その後も色々と云っていたが、結論は一つ。





 なんか近日、僕が神竜とやらに逢う事になった。





*****





 あの後、割と普通の雑談をした。
 そしたら、なんかファーヴニルと意気投合するに至った。
 最終的には「ファフさん」「キョンの字」と呼び合う仲になった。
 それをジジとメアが信じられないと云った目で見ていたのが印象的だったわ。うふん。
 ファフさんとの対談を終え村に下ったが、村人の皆さんに「囮様!」と連呼されるのはイジメではないかと思った。

 嫌な思い出を想起させるから止めてくれい。

 そう云ったら、じゃあどう呼べば良いのかと尋ねられた。
 なので、ジョン・スミスでとお願いした。
 結果、僕はこの世界でジョン・スミスの地位を築き上げたのであった。
 この微妙な達成感が心地よい。

「なんじゃかなぁ……」
「なんでしょうねぇ……」

 ジジとメアが何とも云えない表情をしていた。





 いやはや、どうしたのだろうね?





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
作者は限界だ!

 もう、あれよ。中々に文章が出来ないわ。どういうことなの…。そう、これが噂のアラレちゃんなのね…。
 ウサギにツノがどうとかで、何気に最近この話を読んでいる人はどれ位いるのだろうと気になるお年頃。PV数とか見てみたい。具体的に言うと、この作品で暇潰せているのかしら?
 15話まで投稿できたら本板に進出しようかと画策中。でも、叩かれて終わりかも知れない。その時はその時でいいけどねー。読者に戻るだけだもの。
 ……それ以前に15話まで続くのかしら?


▼毎回ホントに感想ありがとうございます。作者感激!

>たかが、テストの回答に爆笑する日が来るとは思ってなかったヨwwww。
>更新に期待です!!
>それにしても主人公、素晴らしい紳士だすばらしい。

作者にはこれが限界なので、笑って頂けたようでなによりです。
もっと笑いのセンスが欲しいです。でも、笑いだけで構成されると、ほのぼのでなくなるというジレンマ。
当作品のジャンルは「ほのぼの」で構成されています。
それはそうと、ご感想どうもです。


>かわいい幼女や猫や女装幼児に萌えるのは真理です。
>ハァハァするのも仕方が無いことです。でも迷惑をかけるのはめっ、です。
>最新話ではお腹が痛くなる寸前まで逝きました。
>全体を意訳すると『GJ!もっとやれb』

女装幼児という言葉を初めて見た作者です。新ジャンルの確立ですね!昔からある様な気がするけど気にしない!
感想嬉しいです!ありがとう!何をやればいいのかさっぱりですが。


>あ゛ーしっぱいした・・・
>このSSは会社で読むもんじゃないですね。
>笑いを堪えるのに必死で周りから奇異の眼で・・・
>・・・いやこの主人公にならってコレでかいk・・・
>いやいやいやいやいや

暇潰し程度の作品なので、会社で読むほどの物ではないですよー。
……って、休憩時間とかありますねー。
周囲の視線が気になる貴方へこの言葉を。

『見てぇぇ!もっと見てぇぇぇ!…って、この人が言ってました(近くの人を指しながら)』




[9582] 12話・ナデポの修行
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 22:48


 飛んでいる鳥が分からない苦労だとしても、地上を歩く亀だって鳥の苦労は分からない。





『12話・ナデポの修行』





 なんだか知らないけど、神竜とやらに近々会いに行くフラグが立った。
 なので、手土産とか持って行った方が良いのかなぁという結論に。

「よぉ、今日は一人かい?」
「魔女様と聖魔様はどうした?」
「あれ? 珍しく一人だな」
「おおぅ! どうした? ついに見限られたか?」

 そんな訳で一人街へと繰り出した僕である。
 昼間は活気が良く、道を歩けばあちこちから声がかかる。

「あー! 変態が一人で歩いている!」
「御目付け役の聖魔様と魔女様はどうしたんだ?」
「ついに見捨てられたか……」
「さしもの変態には、堪忍袋の限界だったということか……」

 ……なんだか、とっても失礼な事を云われている気がする。





 そんなこんなと色々あって、街を散策中なのである。





*****





 そこそこの土産を手に、僕はさらに街を散策する。
 適当に歩いていたら、公園に出た。
 そこで数人の児童が遊んでいた。その児童の中には幼女も居た。
 故に、僕が突撃するのは当然であるのだ。

「きゃっほ~い♪」

 両腕を広げ、とても良い笑顔で児童達に駆け寄る僕。

「きゃあああ!」
「うわあああ!」
「うえ~ん!」
「やああああ!」

 何故か泣き叫びながら逃げ出す児童達。
 一体どうしたというのか。

「ははは、待ってよぉ~」
「来るなー!」
「来ないでー!」
「お母さーん!」
「パパー!」

 僕が追い駆け回したら、さらに悲鳴が倍増した。
 逃げ惑う児童達を良い笑顔で追いまわす僕。

 どうして僕から逃げるのか理解できない。

 気付けば、公園から児童は姿を消した。
 人っ子一人いない。

「むぅ、解せん」

 児童達が僕から逃げた理由を考えてみたが、全然分からなかった。
 全く以って、これっぽちも解せぬ。

「あれー? 誰もいないよー?」
「あら、ホントね」

 ふと、そんな声が公園の入口から聴こえた。
 振り返れば、二人の幼女が其処に居た。
 ふわふわっとした藍色の長髪の幼女と、肩口まで伸びた赤色の髪をした幼女。しかも二人とも頭に獣耳が付いている。
 藍色長髪の幼女は、おそらく猫耳だろう。赤色の髪の幼女は、なんだろうか。おそらく狐耳?
 さらには、二人とも尻尾まで生えている。
 有り得ない髪の色とか獣耳とか、素晴らしすぎる。しかも美幼女。流石は異世界。こうでなくっちゃ。

 萌え要因は必須だよねー。


「うっひょ~い♪」

 取り敢えず跳びかかってみた。

「ほえ?」
「なっ!?」

 藍色の髪の子はぽかーんとこちらを見て、赤色の髪の子は驚愕の表情でこちらを見る。

「このっ!」
「ぐはぁ!?」
「おお!」

 赤色の髪の子がカウンター気味に僕の顎を蹴りあげ、僕が思いっきりのけ反る。それを見て感嘆の声を上げる藍色の髪の子。
 蹴りを喰らった僕は、どさりと地面に仰向けに倒れ伏す。

「ななな、なに!?」
「だいじょーぶですかー?」
「ぐふぅ、中々の良い蹴りだったぜぇい……」

 顎をさすりながら起き上がる。
 赤色の髪の子は凄く警戒している。なんというか毛が逆立っている。尻尾もぴーん! と張って、こう、子狐が必死で威嚇している様な印象を受ける。
 一方、藍色の髪の子は僕の心配をしてくれている。その子の身に纏う雰囲気が、ぽや~んとしていて凄く和む。

 総じての評価は、二人とも実に可愛らしい。

 これは仲良くせねばと思うが、警戒されているので容易に近寄らせてくれない。
 どうやら僕を不審人物として認識しているらしい。





 やれやれ、どうしたものか。





*****





 どうにかこうにか、二人とは仲良くなった。
 ぶっちゃけ、土産に買ったお菓子で釣っただけだが。
 藍色の髪の子は「わーい」と云いながら僕に駆け寄り、赤色の髪の子も「くっ、ぬうぅ!」と唸っていたが陥落した。
 げに怖ろしきはお菓子の魔力なり。幼女を容易く陥落させるとか、お菓子様様である。
 お菓子を食べる二人に名前を尋ねたのだが、中々教えてくれなかった。
 まだ、少しの警戒心があるようだ。僕の隣でお菓子をもふもふ食べている愛らしい姿からは想像できない警戒心の強さだ。

「それで、二人のお名前は何ていうのかな?」
「……なんで、アンタに教えなきゃいけないのよ。もう3回目よ、それ」
「えっとねぇ、あたしはね……」
「ノエル、教えちゃ駄目よ!」
「え~、でもアリカちゃん。この人お菓子くれたから悪い人じゃないと思うよ」
「バカね。お菓子くれたくらいで善人とは限らないわよ。警戒するに越した事はないのよ」
「分かったよ、アリカちゃん」
「それでいいわ、ノエル」
「なるほど、ノエルちゃんにアリカちゃんって云うのか」
「なっ!? どうして、わたし達の名前を……っ!?」
「すごーい! おじーちゃんってエスパー?」
「はっはっは、おじいちゃんは止めようねー?」

 本当に可愛い子達である。
 おじいちゃんと呼ばれて傷ついた僕の心が癒される程に微笑ましい。
 しっかりしているようで、きっちりと幼女をしている。
 うむ、素晴らしい。

「こ、これで勝ったと思わないでよね!」

 赤色の髪の幼女、アリカちゃんが僕を睨みつけながら云う。どうやら名前を当てられたのが悔しかったらしい。
 しかし、口元にお菓子の食べカスが付いているのが、もう、こう、萌えええええ!!

「はっはっは、可愛いなぁ」
「ちょ、なに勝手に人の頭に……うっ、ふにゅう……」

 僕がアリカちゃんの頭を撫で撫でする。手触り抜群です。
 そのアリカちゃんは、最初僕に吼えかかろうとしていたが、すぐにトローンとした目つきになる。

 なでなで。

「はうぅ」

 なでなで。

「ふにゃああ」

 なでなで。

「くぅ~ん」


 ちょっ、なにこれ、超絶可愛い……。


 ふにゃふにゃ~とした顔のアリカちゃん。狐耳が垂れて、尻尾がだらしなく揺れている。
 この可愛さはリアルに犯罪だ。
 僕の手が離れる。もう悶えるのに忙しい。僕は萌えの真髄を見た。
 しばし、ぽけーっとしていたアリカちゃんだが、はっ!? と我に返った。

 そして、一気に僕と距離を取る。


「あ、危なかった……」
「なにが~?」
「あまりの気持ち良さに、もう少しで惚れるとこだったわ……」
「え、そんなに気持ち良かったの?」
「ええ。……くっ、このわたしが撫でられただけで、あんな醜態を晒すなんて……っ!!」
「そんなに気持ちいいんだ……」

 戦慄して震えるアリカちゃん。
 藍色の髪の子、ノエルちゃんがそんなアリカちゃんを羨ましそうに見ている。
 そして、ノエルちゃんが僕の方にトコトコと寄って来た。

「ねぇ~、あたしも撫でて~?」
「はっはっは、いいですとも!」

 ノエルちゃんの言葉に即座に悶えるのを止めて復活した僕。
 その頭に手を置き、撫でまくる!

 なでなで。

「ふわぁ!?」

 なでなで。

「はにゃあぁ……」

 なでなで。

「ふにぃー」


 そろそろ僕の限界でスパークが理性しそうです。


 僕の思考回路に重大な負荷がかかった。上手に言葉を紡げません。
 トローンとした目つきになって、脱力するノエルちゃん。耳がくたぁと垂れて、尻尾がゆらゆらと揺れている。
 口元がだらしなく半開きになっている様など、もう、もうっ、あああああああああ!!!
 ごろごろと悶える僕。
 なんだろうね。僕は今日死ぬかも知れない。

 死因は悶絶死。原因は幸福過多。
 なんて斬新な死に方だ。

「ふわぁ、も、もう一回……」
「ダメよ、ノエル!」
「ふぇ?」
「あれは麻薬と一緒よ……とりこになっちゃダメ」

 葛藤しているノエルちゃんとアリカちゃん。
 必死で自分を押し留めている。

 それも無理のない話だ。なにせ、元の世界に居た頃にナデポに憧れた僕が必死で習得しようと修行を積んだのだから。
 ある時は公園に赴き、ある時は幼稚園に乗り込み、ある時は散歩中の犬を撫で、ある時は塀の上にいる野良猫を撫でまくった。
 何回、警察のお世話になったことか。最終的には、警察のおじさんと仲良くなって応援して貰うに到った程である。

 そんな偉業の果ての習得技能だ。
 抗えるものならば抗ってみせろ。

「なんなら、もっと気持ち良くなってみるかい?」

 息を荒げながら僕が云う。
 息切れしているのは、悶えたからだ。興奮している訳じゃない。ああ、ホントだとも。嘘じゃないよ!

「どんなの?」
「……これ以上?」

 ノエルちゃんとアリカちゃんが、警戒3割、興味6割、危機感1割な割合で僕に尋ねてくる。

「そう。具体的には、先ずは服を脱いで、僕が君達の身体を、まさぐるぼわあがああああああ!!!!!」
「なにを云っとるか貴様わあああああああ!!!!」

 僕がとんでもない衝撃に吹きとんだ。超痛い。
 何が起こったのかと、僕が一瞬前まで居た場所を見る。
 そこに、三毛の子猫が居た。ジジだ。

「あ、聖魔さまー」
「聖魔さまが何故ここに?」
「うむ。お主等無事じゃったか?」

 ジジとノエルちゃんとアリカちゃんが、なにやら話していたが、僕はジジの一撃で意識が朦朧としているので上手く聞き取れなかった。

 ……お、おのれぇ、本気の一撃だったなぁ……。

 頭から血がダクダクと流れている。もはや滝だ。
 薄れゆく意識の中、僕は親指を突き立てた。

 あ、アイルビーバック……っ!!

 次こそは成し遂げてみせる。
 そんなことを思いながら、僕の意識は完全に堕ちた。





 今度はジジを撫でまくってやる。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
後書き

 もう、これ以上、文章が浮かばない……っ!!
 きっと、これからしばらく間が空くでしょう。頭の中の物を文章にするのって難しいね。心が折れそう!
 そんなこんなで、ほのぼの書くのって大変だな~と痛感致しました。無駄にシリアスっぽいのやらバトルっぽいのやら切ない系統っぽいのやら、そんな展開になってきている今日この頃。
 あくまでこの作品は「ほのぼのでハートフル」なのです。それ以外は駄目絶対!そういうのはもう少し後にしましょう!……続くか分からないけど!


▼感謝の波が寄せては引き引いては寄せ。波に攫われて溺死しないように注意!


>甘い。甘いよ。サッカリンの塊蜂蜜漬けのクリーム和えよりもスウィートだぜお嬢さんズ。

美味しいですね、サッカリンの塊蜂蜜漬けのクリーム和え。凄く甘かったです。食べたこと無いですけど。

>主人公は紳士だからな。全ての行いは「変」なことじゃないんだよ!

全ての行いは「熊吉」になると、主人公は言っていたり言っていなかったりした気がします。あくまで気がするだけです。
作者には主人公の考えが全く分かりません。まったく、羨ましい。


>主人公ホントいいキャラしてるわw
>まぁ美幼女と同居なんて「紳士」にならざるをえないよなwww

現実的に有り得るんですかねぇ、美幼女との同居なんて素敵シチュ。……シチューじゃないよ? 食べないよ?

>本板行ってもこの調子でいてくれw

本番(板)への挑戦は15話まで書いてからなのっさ!だからまだこっちにいるのっさ!
一番の問題は、果たして15話まで作者のモチベーションが持つのかという……。打ち切りの可能性が無きにしも非ずな状態です。
でも、ぼくちんガンバル!ガンバったらロリの王国に逝ける気がするんだ!


>>本気を出せば7秒で賢者
>早ぇよw
>主人公が変態すぐる。だがそこがいいw
>今回も楽しませていただきました!

変態じゃないよ!紳士だよ!
お楽しみ頂けたようでなによりでございます。
今後ともご贔屓にお願い致します。かしこ。


>PV数が見たいなら一回自分の作品を検索かけてみるといいよ!
>それにしても、こいつバカすぎるw

素敵情報ありがとうございます!早速検索するんよ!!……え?PVが18000も回ってる……どういう、こと…なの?やだなにこれ怖い…。いっても4000程度と予想していた作者に、電流走るっ…!
それと、バカはきっと人を幸せにすると思っています。どこぞの吉井くんの様に。


>竜の巣でクマ無双だと……何故そのネタを知っている!?
>あれは某動画サイトでも一部の者しか知らないはずなのだが……

激しく続編を希望している作者です。モザイク邪魔よっ!…でも取ったら消される悲しい結末……。
個人的にはクマンが素敵すぎると思います。あのクマンには惚れる。

>貴方は神か……

いいえ、ケフィアです。嘘です。ヨーグルトです。
衝撃の事実!作者は人間じゃ無かった!
む。しまった!金曜日の奴等に嗅ぎ付けられた……っ!!


>>本気を出せば7秒で賢者
>は確かに早すぎる。
>でもそんな紳士な主人公が好きですw

紳士ともなれば、その所作の一つ一つが機敏なのです。故に7秒という偉業を達するのです。人の気配に怯える必要のない素敵スキルですね!

>ところで、10話の
>>【僕の解答】── 正解。
>>1+1=2+2-3×4-2+1-2+12=1
>>【先生のコメント】
>> 正解……ですけど……もっと簡潔に書きましょうね?
>で、
>1+1=(中略)=1
>…?
>ここで疑問を持つ俺は小学生からやり直してきます。

では、その姿を作者が写真に収めましょう。嘘です。
これについては、普通に間違えていました。やだ、なにこれ、恥ずかしい……。でも、ビクンビクンとならないのが作者クオリティー。
指摘に感謝です!訂正しておきます。


>7秒に挑戦したが準備で既に過ぎていた……。自分の紳士道はまだ先が長い。自称ジョンブルの留学生(日本→イギリス→日本……帰国子女?)に相談したら切れられた。お前もオタクの癖に。

なにやってんすか……。
そんなことしたら「世界紳士共同組合本部協会」の一員として社交界デビューしちゃいますよ?それでもいいんですか?セレブな人妻とめくるめく官能世界にダイブしちゃうよ!?
畜生!ネタのつもりだったのに書いてて羨ましくなってきた!!
是非頑張ってください。ファイト、だよ!




[9582] 13話・魔族
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 22:54


 争うのはねぇ、どうしてだい? その愛は僕のためかな? え? 違う? そ、そっかぁ…。




『13話・魔族』





 ぼりぼりとお菓子を食べる。
 うん、美味い。流石は老舗の茶菓子。いい味を出している。

「む? なにを食べておるんじゃ?」
「お菓子だよー」

 僕が茶菓子を食していると、ジジが声をかけてきた。

「訊くが、そのお菓子はいつ手に入れた?」
「やだなぁ、このまえ街で買って来たじゃない」

 ぼりぼりと音を立てながら食べる。
 うーん。お茶が欲しい所だなぁ。口の中がパサパサしてきた。

「……まさか、神竜に持参する手土産じゃなかろうな?」
「そうだよー」

 もう一つ手に取って口に入れる。
 あ、これが最後の一つか……。

「……なんで食べておる?」
「小腹が空いてねぇ」

 むしゃむしゃと食べる。
 この餡子の様な、そうでない様な食感と味が絶妙だ。

「はぁ。……まぁ、ひとつ位ならば良いじゃろう」
「これで買ってきた土産は最後なんだけどね」
「……なに?」

 む! 喉にひっついた! くそっ、取れない!!

「……もしや、買ってきた土産を全部食べたのか?」
「うん」

 あ。取れた。

「このバカもんがああああああああああ!!!!」
「ぬぐほぁあああああ!!!」

 ジジの渾身の一撃が僕に炸裂した。
 僕は吹き飛んで壁に激突した。そればかりか、僕はそのまま壁にめり込んだ。
 身体中が痛いです。ありがとうございました。業界史上最大のご褒美に感謝する僕である。

「ええい、買い直して来い! まったく、お主には常識と云う物がないのか!?」

 ジジが僕を叱り飛ばす。その叱咤に背筋がぞくぞく震える。たまんねぇぜよ。
 結果、また手土産を買いに行くことになった僕である。





 先ずは、壁から抜け出すとしよう。





*****





 街に繰り出した僕は、無難な土産物を一通り買い集めた。
 黒蜥蜴の半生串焼き、よく分かんない獣の何かの汁、小鳥の骨を揚げて3日間放置した天麩羅、毒草から絞り出した毒茶をそれぞれ5箱。1箱10個入りの優れ物である。
 大抵の人が忌避していたので、きっと珍品なのだろう。お土産としては最適だ。なにより安かった。爬虫類にはこれで十分じゃないかな?

 ジジから貰ったお小遣いにも大分の余裕がある。
 うん。僕はなんて買い物上手なのだろう。自分の手腕に惚れ惚れするね。
 ジジに云われた通り、変な物は購入しなかったので、きっと褒められるだろう。

 その光景を思い浮かべて、くははは、と思わず笑い声が洩れる。その笑い声に驚いたのか、街路樹に留まっていた鳥達が一斉に飛び立った。おやおや、驚かせてしまったかな。……あ、一羽落ちた。
 まぁ、その様な些細な事に気を配る必要もない。既に用事は済んだのだから、とっとと城に帰ろう。
 街の出口に向かってスキップする。ほっぷ! すてっぷ!! じゃんぷ!!!
 僕が心持ちハイテンションな歩き方をすると、何故か道端に居る人達は目を逸らす。なんだろうか。あまりの僕の神々しさに直視できないのだろうか。
 そんな事を思いつつ角を曲がる。

 どすん、と衝撃を感じた。

 僅かにグラつく僕の身体。
 そのまま倒れそうになるのを堪える。足にぐっと力を入れて。
 一体何が起きたのかと、前方を見る。

 そこに、少女が尻もちをついていた。
 その姿を見た僕の行動は迅速だった。

 具体的に云えば、僕の中の紳士スキルは最速に最適な行動を取捨選択する。幾つもの起こすべき行動の中から、これだ! というものを選ぶのである。
 最良の行動を選び出した僕は、迅速に、もう凄い迅速に少女に向かって飛び込……否、倒れ込んだ。
 ギャルゲーでは王道の行動である。ぶつかった男と女はそのまま絡まり合って、くんずほぐれつな事態を巻き起こす。これこそ王の道。紳士の選ぶ道。この事態でのセクハラは総じて許されるのだから至上のイベントだ。
 そんな僕の思考は置き去りに、少女へと覆い被さる様に倒れ込む。両手を広げ凄い笑顔で。カマン、僕の胸へ。僕は君の胸に行くよ。

 その時だ。
 あとほんの2秒。いや3秒。もしかしたら4秒。あるいは5秒かも。
 要は、接触まであと数秒という所で、少女が敏捷に俊敏に起き上がって後方に跳び退いたのだ。

 僕は大地に熱い抱擁をかました。

「ごぶはぁ!?」

 身体を大地に強かに打ちつけ、とんでもない衝撃が走る。
 痛みにのたうち回る僕。女性によって与えられる痛み以外は快感に変換出来ないので、普通に痛いのさ。

「……ふぅ、びっくりした」

 ぶつかった少女が手で胸を押さえて息を整えている。
 衝撃によって生じた痛みを半ば無視して、即座に、しかし優雅さを醸し出しながら立ちあがる。
 そのあまりの華麗な立ち上がりは、それだけで人間国宝に選ばれてもおかしくない。

「うわ、ゾンビみたい」

 ……現実とは非情なのさ。

「ひ、ひひひ、お嬢ちゃん、大丈夫だった、かぁい?」
「……今が一番大丈夫じゃない気がする」

 若干、僕と距離を取りながら云う少女。
 僕が居るのだから、安心して貰って結構さ!

「あんたが一番危険そうな気がするわ」

 そんなことを云う少女。不審者や変質者を見る様な目をしている。あまつさえ、その視線を僕に向けている。
 これは本格的に僕の事を勘違いしているのかも知れない。

「お嬢さん、大丈夫。僕は紳士さ。紳士故に女性に襲い掛かることなんて時々しかないし、セクハラも4割方は合法だ。だから、安心してほしい」
「その発言で、あんたは自ら危険人物の地位を確たるものにしたわね。それと、セクハラ行為はそれだけで犯罪だからね?」

 僕を冷ややかに見つめる少女。興奮するじゃないか。
 お返しとばかりに僕も少女を見つめ返す。ねっちょりと。

 顔立ちは整っており、十人中八人は綺麗と評するであろう美貌だ。残りの二人は目が腐っているか頭が腐敗しているかだろう。
 身体は全体的に細い。細いのだが、そこにひ弱さを感じさせないような細さだ。自分で云っててよく分かんないや。
 紫色の髪を腰の辺りまで伸ばし、その頭から生えている、なんだろう、羊の角っぽい角が生えている。角がクルクル巻いている。髪ロールならぬ角ロールだ。
 年の頃は、16~18歳と云った所だろうか。じゅるり。おっと、涎が……。

 総合的に見て、容貌は実に美しい。絶世とまではいかなくても、それに類する程には魅力的だ。

 要は美少女である。
 正真正銘の美少女である。
 異世界は美少女率が高いのは王道だ。素晴らしい。

 しかし、目の前の美少女には身体の細さの通りに一部がこう、すとーんとなっているので、これは紳士ならば揉むしかあるまい。この僕の秘伝の紳士テクニックで、たわわにたゆんたゆんである。
 貧乳は確かに希少価値だが、豊乳に進化すれば世界の宝になる。
 若干自分でも意味不明な思考だが、僕は紳士なので許してほしい。

 紳士とは、常に頭が春爛漫なものである。

 と、そんな事は思考の片隅に追い遣り、再び美少女を見つめる。
 心なしか先程よりも若干、僕と距離を置いているように感じる。きっと僕の気のせいだろう。

「気のせいじゃないわよ。なに気持ち悪いことを喋っているのよ。あとね、私はまだ成長途中だから胸が小さいの。これから大きくなるわよ」

 なんと。
 どうやら、僕はまたしても心の声を物理的な声に変換して出力していたようだ。
 ぷりぷりと怒ったような眼差しの美少女を見て、どうせなら卑猥な事を口走れば良かったと後悔する。
 この手のタイプは、きっと純情なので卑猥でエロチックな言葉には、僕が萌える事になるであろう態度を示す筈なのだ。……意図的にやろうかしら?

「ねぇ」
「んにゃ?」

 僕が最大級のエロチシズムに溢れる言葉を心の紳士辞典から検索していると、美少女が声をかけてきた。

 なにかしら? 愛の告白?

「貴方、一年ほど前に来た異邦人について何か知ってる?」
「いほーじん?」

 残念ながら愛の告白ではなかった。……残念。
 それはさておき、初めて聞く単語が出てきた。
 いほーじんって何かしら。魔法陣の親戚?

「異邦人。異世界から渡って来た者の総称よ。一年前にここら辺に来訪したと聞いたのだけど……」
「んー。僕は知らないなぁ」
「そう」

 さして残念そうでもない美少女。どうやらそこまで、僕から得られる情報に大した期待してはいなかったようだ。
 しかし、一年前のことなど僕が知らないのも当たり前である。だって一年前位だし、僕がこっちに来たの。
 当時、僕以外の何者かもこちらに来訪していたようだ。知らなかった。そこはかとない物語の主人公的な匂いがする。

 くそぅ。誰だよ、そんな羨ましい奴は。

「九生猫と腐滅の魔女と共に暮らしているらしいのだけれど……」

 なんとはなしに美少女が呟く。
 なんだろう、またもや新単語が出てきた。意味深な単語は異世界の王道だけど、ここまで新たな言葉が出てしまうと、流石の僕の混乱するぜよ。

「まあまあ、それは兎も角として、脇に置いておくとして、お菓子でも食べないかい? 丁度仕入れたお菓子があるのだよ」
「……なに? 思いっきりあんたを警戒している私をナンパ? どういう神経してるのよ、あんた」

 なんか知らんが呆れられた視線を向けられた。
 むぅ。相も変わらず、世界を違えても、種族すら越えても、女性の心理は理解しづらい。
 美少女を手籠にしようとするなど、一般男性として当然ではないか。

「いやいや、ナンパなんてとんでもない。あわよくばホテルに連れ込もうと考えているだけですよ」
「ナンパより性質が悪いじゃない!? あんた普通を通り越して超絶な変態ね!! むしろ変質者よ!!」
「いやぁ、それほどでも。うへへへ」
「褒めてないわよ!? あんたどこまで前向きなのよ!?」
「目が何故、前に付いているか知っているかい? それはね、ひたすらに前を向いて進むためだよ」
「格好良い台詞だけどこの状況で遣う言葉じゃないわよ!? いい事云った! みたいなキメ顔出来る場面じゃないからね!? なにより不覚にもちょっと格好良いと思っちゃった自分に腹が立つわ!!」
「まぁ、目が付いてる方が前って概念付けられただけなんだけどね。目が付いてる方が後ろって概念付けられてたら、常に後ろ向きになる訳だが」
「しかも自分で云った言葉を自分で台無しに!? なんなのあんた! もう訳が分からない!!」
「ほら、僕って英検2級じゃん?」
「知らないわよ!?」
「ごめん。本当は英検4級です」
「だから知らないから!? それを私に伝えてどうする気なのよ!?」
「僕の事を知って貰いたいんだ! 君に!!」
「なんて積極性!? 惚れちゃいそう!!」
「最終的には君を肉奴隷にしたいんだ!!」
「最低ね!! やっぱり惚れないわ!!」
「僕のビッグキャノン砲が火を噴くぜ!!」
「あまつさえ下ネタに走った!?」
「砲弾はオタマジャクシみたいな物が何億発と出るよ!!」
「あんたには羞恥心という物がないのか!!」
「残念ながら、羞恥心はとある3人組に取られました。歌にもされちゃったしね」
「いや、云ってる事がさっぱり分からない……」

 向こうの世界の出来事をこちらの世界の住人が知っている訳ないか。ネタが通じないのでちょっと反省。
 それにしてもノリの良い娘さんだ。

「はぁ……。あんたと話していると疲れるわ……」
「僕は疲れないよ? 気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないわよ。なに、自分のせいじゃないみたいな風にしているのよ」
「僕が美少女を疲れさせるなんて、ベッドの中でも有り得ないね!!」
「早漏め」
「予想外の言葉に僕の心が大ダメージだ!?」
「ポークビッツめ」
「やめて!! それ以上云わないで!! 僕のライフポイントはもうゼロよ!?」

 ここぞとばかりに攻め立てやがる。なんて美少女だ。背筋がゾクゾクする。
 それ以前に異世界の住人がポークビッツを知っていることにびっくりだ。

 この後、美少女と色々と言い合いをしていたら仲良くなった。
 現実は小説よりも奇なりとはよく云ったものだ。仲良く出来る要素は傍から見れば皆無だったのに。世界は不思議で満ちている事を実感した僕である。
 お菓子を見せたら殴られたけどね。「ゲテモノ食わせる気か!!」と云われて。


 そんなこんなで、美少女と交流を持った僕である。





 そういえば、どうやら僕が異邦人とからしい。びっくり。





*****





 絶世とか云って良いかも知れない美少女こと、サイネは自身を魔族と称した。
 ぶっちゃけ僕には魔族ですとか云われても、ふーんとしか反応を返せない訳だが。面白い返しとか咄嗟に思いつかない。
 仕方ないので、凄いね! 魔族とかよく分かんないけど凄いね! って云ったら、変わってるわねあんた、と云いながら面白そうな顔をしたサイネは印象的でした。
 その後も色々と会話をした。時折、僕がセクハラを猛攻した訳だが軽く躱された。サイネはただ者ではないようだ。折角たゆんたゆんな円周率にしてあげようと思ったのに。
 そんな阿呆な遣り取りは、サイネを迎えに来た侍女(?)さんの登場で幕を閉じた。

 その一幕としてはこんな感じである。


「げっ、イーファじゃない……逃げるわよ!!」
「だが断る」
「なんで私の手を掴んで此処に留まろうとする!? あんた私がどうなってもいいっての!?」
「僕はね、基本的に露出度の高い女性の味方なんだ」
「良い笑顔で最低極まりないこと云ってるわよ!?」
「紳士とは、常にエロい女性に従うものさ」
「それは紳士じゃないから!」
「バカな!? では何だと云うのだ!?」
「変態でしょ!!」
「違うな。それは青少年と云うのだ」
「どちらにしろ紳士じゃないじゃない!!」
「そして気付けば、君が逃げようとしていた人物が目の前にいる訳だがね」
「はっ! しまった!?」

 そんな感じでサイネは露出度満点な素敵衣装を着飾ったお姉様に連行された。お姉様とちょっとした会話も出来たので、僕はとても満足でした。

「お嬢様捕獲のご協力に感謝致します」
「いえいえ、スリーサイズを教えて下さればそれで結構です」
「上から、87・56・82です。ついでに云えば処女です。それでは、我々はこれで失礼致します」
「ありがとうございましたぁああああ!!!!」

 無表情で淡々と云ってみせたお姉様に僕は心酔しそうになった。やべぇよ、格好良過ぎるよ。僕は今の言葉で惚れそうだ。
 お姉様の肩に担がれて、ぐったりしながらも恨みがましそうな目を向けるサイネに、僕は二コリと微笑んだ。唾を吐かれた。どうやら僕にはニコポの才能は無い様だった。修行の余地ありである。

 そんな感想を抱きながらも、二人を見送った僕は城へと帰宅した。
 お土産に買った品物は無事なので、きっとジジも僕を褒めてくれるだろうと意気揚々と帰宅したのだが、想定外な事にジジにぶっ飛ばされたのである。

「お主は喧嘩を売りに行く気か!!」

 そんな事を云われた。
 後日、ジジおよびメアの監視の下に三度お土産を選ぶこととなった。





 僕のセンスはどうやら高度過ぎるようだということが分かった。





*****





「う~、いい加減に降ろしてよぉ……」
「駄目です。逃げ出すでしょう?」
「逃げないわよ。だから降ろして」
「信用できません。駄目です」
「んもぉ……」
「ところで、サイネお嬢様……いえ、サイネリア・イビル・ダークライト魔王陛下、少々ご質問があります」
「まだ魔王の位を継承した訳じゃないんだから、私を魔王と呼ぶのは時期尚早よ、イーファ」
「私からすれば、サイネ様以外に魔王の座は考えられませんので」
「そう。まあいいわ。それで、質問って?」
「はい。先程の若者は一体何者でしょうか」
「異邦人よ。腐滅の魔女と九生猫が招き喚んだ、ね」
「招いた? 召喚は事故と御聞きしましたが……」
「本人達も気付いていないんでしょうよ。事故程度の偶然性で喚べる程、彼は安くないわ。"召喚"が"招喚"に変質していることにも気付かないなんてね」
「……高く評価しておられるんですね」
「ええ。あんなに面白い存在は、中々いないわよ」
「そうですか。では次の質問なのですが、よろしいですか?」
「ええ、いいわよ。なに?」
「その彼ですが、何者ですか?」
「だから異邦人だって……」
「いえ、そういう意味合いではなく。そもそも、彼という存在についてです」
「ん? どういう意味?」
「彼は、人族であれば忌避するような存在と暮らしているという特異な立場です。そればかりか、私の殺気を感じていながら一切揺らがないなど、彼は本当に人族ですか?」
「さぁ。ひとつ云えることは、彼は底知れないということよ」
「……例えば、どのような?」
「前魔王、私の父上と同じ匂いがする時点で既にただ者じゃないわよ」
「トウヤ前陛下と、ですか?」
「ええ。父上とは真逆の印象を受けるけど、根本的な処で同じベクトルを向いてる気がするわ」
「……そうですか」
「ええ」
「……最後の質問なんですが、よろしいですか?」
「まだあるの? なによ?」
「サイネ様、どうしてノーパンなんですか?」
「……は? 何云って……って、ないっ!? ええ!? うそっ!?」





「お主、その布切れはなんじゃ?」
「戦利品」





 サイネから抜き取ったパンティを、部屋に飾る僕であった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 皮下膿瘍って痛いよね!何もやる気起きなかったよ!薬を飲んだら目眩がしてぶっ倒れるという素敵なアクシデント付き。何度、殺せ!と思ったことか。
 そんな訳で、文体や文章に違和感を覚えるかもしれません。そこはスルーしましょう。そんな物書きとして最低な事を言ってみる作者です。
 さてはて、次の作品はいつに完成することやら……。


▼感謝の津波に流されて、作者は溺れてしまった!


>最初=??????(困惑)
>今=wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
>どうしてくれやがりますか!? 畜生! ありがとう!!
>テストのあたり、ってか先生自体が一部ヤバイ; 

こんな先生が居たらきっと学校生活楽しかったんだろうなぁ、という作者の願望が込められています。
なにはともあれ、楽しんで頂けたようでなによりです。


>過程をすっ飛ばした結果だけの小説なんて初めてみた。

本作品はあえて過程をすっ飛ばしております。何故なら……真面目な話になりそうですね。そういうの疲れるので止めます。
結論、新しい小説の形だよ!ということで。


>クソがっ!

(´・ω・)<クソって言われちゃった……
(*´ Д )<クソって言われちゃった……
表情と言い方次第で印象が変わります。皆さん、ここはテストに出ますよ?

>大体全部のネタが分かるうえ、
>物語だからもっとアグレッシヴでも問題ないとか思っちまう。
>とりあえず主人公には、アイドルあいこでもおすすめすべきか。

中々の知識をお持ちのようで。作者は半分も元ネタ分かってないのですよー。
アイドルあいこ……なんてものを……。主人公以前に、作者に新たな感情が芽生えるかも知れません。


>半端ない紳士スキルだ
>これは自分も修行を始めるしかないのか?

頑張って免許皆伝の腕前にご到達下さい。皆伝した暁には、作者の半径3メートル以内には近寄らない様にお願い致します。


>コメがえしが面白すぎるのと、本編が必携!紳士への道程!になってる件について

コメがえしまで見て頂いているとは……ありがとうございます。
本編に関しては、大丈夫です。何が大丈夫なのか分かりませんが、大丈夫です。紳士から賢者に移行するかも知れません。

>打ち切りなんて言わないで!
>三十話までXXX板に行かずに書き上げられたらもりのようせいさんになれるんだよ!?
>だから頑張って紳士道を極めて秘技・三擦り半に到達して下さい!

大丈夫です。高校時代の渾名が『もりのようせい』でした。現在『みずうみのようせい』にランクアップしております。だから、三十話まで頑張らなくてもいいのさ……。
あとねぇ、ぼくちゃん『三擦り半』って分からないのぉ。おしえてー、ねぇねぇ、おしえてー。
ホントにおしえたらぶっ飛ばすぞー☆


>チラ裏には良作が埋もれてるから困る。
>主人公の紳士っぷりが素晴らしいですねww
>しかしこのままだと、魔女と聖魔と魔法使い(30)のパーティーになる予感w

お褒めいだたき光栄の極みで御座います。ありがとうございます。
主人公は紳士ランク番外のレベル保持者です。故に、素晴らしい紳士であろうと心掛けております。そんな訳ないのですが。
大丈夫、魔法使いから瞬時に賢者に、さらには大魔導師に、極めつけは仙人モードに入ります。バラエティに富んだパーティ構成。これで負ける!!


>こんな良作が埋まっていたのか。
>しかしへんたいすぎた
>いいぞもっとやれ

変態じゃないよ!紳士だよ!
それはさておき、お褒め頂き恐悦至極に存じます。
これからもご贔屓によろしくお願い致します。


>テストの解答を見て思ったこと
>俺が女になれたら貰ってくれ!
>いつかなってみせるから!

え、ヤダよ。




[9582] 14話・神竜との邂逅
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 22:59


 「ウッジュゥコールミーイフユーニードマイラヴ?」「あ、自分英語分からないんで…」





『14話・神竜との邂逅』





 荷物を纏め、身嗜みを確認する。
 粗忽な装いを、仮にも竜族の長に見せる訳にはいかない。

「よし! ばっちりだ!」
「ふむ、準備も万端を期したことじゃし、そろそろ出掛けるか」
「はい。あとは、先方に失礼の無いようにして下さいね?」

 メアが僕を見ながら云う。
 はっはっは、メアは心配性だなぁ。

「真摯に紳士な僕が、相手に不快な思いをさせる訳がないじゃないか。そんなこと、有り得ないね」
「……有り得るから云っているんです」
「確かにのぅ。マリエルとの会合の時といい、ファーヴニルとの対談の時といい、お主には肝を冷やされておるからなぁ……」

 メアがジト目で僕を見て、ジジが嘆息する。
 そのような態度はやめて欲しい。性的な興奮が最高潮に昂って、到達してはいけない境地に達してしまいそうになる。

「まぁまぁ、そんなことよりも早く出掛けようじゃないか」
「……そうですね」
「うむ。そうじゃな」

 実に恥ずかしい事ではあるが、僕は少々、期待に胸を膨らませているところである。
 なにせ、竜族の住処に行くのだ。竜族の本拠地だ。ファンタジーの王道にして定番にして常道にして古典にして枢機にして、異世界に於いては重要なファクターを握っている確率が段違いな存在の本元だ。
 男の子ならば、誰しもが憧れる存在。正にファンタジーの権化だ。

 ここで胸をときめかせずして、いつ胸をときめかせろというのか。

 思わず小躍りをしたくなる程に、僕のテンションが急上昇である。やばいね、今なら空を飛べるかもしれない。テンション上がってきたぜぇぇぇ!!

「さあ! 早く行こうじゃないか! 輝かしい未来の為に!」

 僕は駆ける。未だ見ぬ、憧憬の竜の巣へ。今度こそ立派な巣を作っている最中だろうという思いを込めて。いっぱいエロイ罠が仕掛けられているのだろうと願いを込めて。
 僕は、竜の巣を目指して駆けだした。

「場所、知ってるんですか?」
「そっちは真逆じゃ。戻ってこーい」





 地図の見方って分かんないよね?





*****





 道中も様々な出来事が起こったが、割愛。
 暴れ牛みたいな魔獣や、有り得ない大きさの飛獣、すごくグロテスクな昆虫系統の害虫などに追い駆け回されたのは、ちょっとしたトラウマになりかねない。
 そんなこんなで、ジジに怒られメアに叱られながらも、神竜の住まうとされる竜族の住処に辿り着いた。

 ……。
 …………。
 ………………。
 でけぇ……。
 え、なにここ? どこの秘境の遺跡? 古代文明のなれの果て?

 想像していた物と全然違っていたことに、僕は愕然とする。
 てっきり、でかい洞窟とか、そうでなくても神殿みたいな物を想像していたのだが、全く以って予想とは違っていた。
 竜族の本拠地は神秘性を孕んだ古代遺跡のような、近代的な、ともすれば近未来的な科学遺跡のような、しかし、明らかにオーパーツ的な要素がてんこ盛りな物だった。
 なんか、空母艦などでよく見かける滑走路みたいな物もあれば、カタパルト的な発射台、頑強そうな管制塔がある。

 しかも、そこから様々な相貌をした竜が飛び立っていく。普通に飛べよ。
 それ以前に、幾ら竜族の総本山だからって数が多すぎる。ありがたみも何もねーよ。僕のテンション激下がりだ。ファンタジーでの竜の立場は希少価値だろ。希少でもなんでもねーよ。何だこの大量なドラゴンさん達は……。

 しかも、近代的な要塞作りなのに、外観は普通に岩壁なのだ。上手くカモフラージュされている。一見すれば、只の岩山にしか見えないかも知れない。そんな場所からドラゴンが飛び立って行く。続々と飛び立って行く。ある種、シュールである。

「む? どうした。幾分落ち込み気味じゃが?」
「……竜って……ドラゴンって、個体数少ないとか、そーゆーのじゃないの?」
「竜族は個体総数で云えば、世界で第4位じゃ」
「……マジで?」
「しかも、一体一体が頑強な鱗に覆われ、膨大な魔力を有し、総合的な実力も生物では上位を位置する存在な上に博識。種族としての脅威ではダントツ一位じゃ」
「チート性能が大挙なんて、ゲームバランスが崩壊するじゃないか!?」

 なんてこったい。
 普通に卑怯じゃないか、竜族。単体で強いなら、それ相応に調整しろよ。こいつらが一斉に癇癪起こしたら、世界が簡単に滅ぶぞ。

「取り敢えず、早く行きましょう。神竜様を待たせてしまいます」

 そう云って、僕の背中を押すメア。
 その可愛らしい行為に、若干ほんわかする。
 そのまま押されて、僕は竜族の、ドラゴンの本家本元の総本山に入場したのである。





 こうなったら、竜っ娘を探さなければっ。





*****





「よく来た」


 目の前に居る巨大な爬虫類が厳かに言い放つ。
 でけぇ。超でけぇ。むしろ、蝶でけぇ。
 眼前には見上げる程の巨体を誇るドラゴンさん。おそらく、このドラゴンが神竜なのだろう。
 とんでもなく広大な広間。壁から壁までの距離は、数百メートルはあるだろう。天井など、果てが小さく見える程に高い。
 そんな縮尺のおかしい広間の中でさえ、巨大と認識させられる神竜の大きさは推して知るべし。
 広間に飾り気など微塵もなく、唯一あるのが玉座だ。それも、まるで人が座る様な玉座。その玉座を中心に、とぐろを巻いている神竜。凄まじく蛇っぽい。

 ……うん。

「てめぇ! 竜ってか龍じゃねーか!!」
「お主はイキナリ何で声を荒げてるんじゃ!!」

 ずどんっ!

「はひふへほぉう!?」

 ジジの、目にも留まらぬ一閃が、僕の鳩尾を抉るように打ち抜いた。
 膝から崩れ落ちる僕。流石にこれは酷いと思う。

「ジ、ジジ!? 落ち着いて、気分が沈静しなきゃいけないのは当然であるように分かるけど!!」
「いや、済まんかった。じゃからメア、お主が落ち着け」
「う、うん……」

 ひー、ひー、ふー、と深呼吸をするメア。幾分、ピリピリした気配を沈めたジジ。どうやら、流石の二人も少々気が立っていたようだ。普段よりも凶暴性が段違いだったもの。

「面白いなぁ、主達は。実に面白い」

 鎌首をもたげている神竜が、目を細めながら言葉を発する。

「むぅ、すまぬ。礼を欠いたことを、詫びておく」
「申し訳ありませんでした。神竜様」
「二人もこう云っているんだ。許したまえ」
「お主が云うなや!!」
「ごべばっ!?」

 ジジから強烈なツッコミを受けた。
 どうしよう。上手に息が出来ません。

「ふふふふふ、随分とまぁ、珍しい光景だな。あのナインライブスが気を置いていない人族か」

 その言い方だと、ジジは気心知れた相手に、これ程の一撃を頻繁にお見舞いしていることになる。ヴァイオレンスだぜ、ジジ。素敵。

「それで、話とは何じゃ? こやつを呼び寄せるなど、何を考えておるんじゃ」
「なに、少々暇でな。ちょっとした余興よ。仁竜卿、ファーヴニルから聴けば、その者は中々に稀有な存在かつ、人間性が面白いらしいではないか」

 なにやら、僕はファフさんから高評価を受けているらしい。
 照れるざますよ。はっはっはっはっ。

「さて、そこの人の子よ」
「うい?」
「なんぞ、面白き語りでも余に聴かせい」
「爬虫類如きが命令すんな」
「ちょっ!? お主っ!?」
「なんて事を云ってるんですか!?」

 ジジとメアが慌てたように僕を見る。
 その目は、まるでとち狂った馬鹿を見るような目だった。何故そんな目で僕を見る。

「僕に命令していいのは、美幼女に美少女に美女だけだ!!」
「お主は何を考えておるんじゃ!!」
「もっぱらメアに接吻かますタイミングを考えています」
「私嫌なこと知っちゃったー!?」
「てか、爬虫類のくせに上から目線で話すな! 蒲焼きにすんぞ!!」
「お主には敬意や畏敬の念はないのか!? 危機管理能力はないのか!?」
「機器監理濃緑? なにそれ? 機材の監督責任者は濃い緑色をしているって云いたいの? それなんてクリーチャー?」
「お互いに重大な認識の齟齬が発生してます!! なにを云っているのか全く分かりません!!」
「大丈夫! 僕は紳士だから。いいかい? 紳士とは、イトをモウすモノノフと書くんだよ」
「それにどんな意味があるんじゃ?」
「え? さぁ?」
「投げ遣り過ぎます!? もう少し自分の発言に責任を持って下さい!!」
「家庭を持つよりも先に責任を持つだなんて、考えられない」
「お主のその思考自体が考えられんわ!!」
「失敬な! 僕は毎日歯磨きしてるんだ! 歯垢はないよ!!」
「そのシコウじゃありません!!」
「人の嗜好はそれぞれだろう!? 他人の大好きなモノを自分勝手に否定するのは差別だよ!!」
「そのシコウでもないわい!!」
「じゃあ何なのよ!!」

 なんだかカオスな展開になってきた。
 僕には収拾がつかない。どうしたものか。

「……人族の雌の体ならば、良いのか?」
「ほえ?」

 唐突に神竜がそう云った。
 なんだろうと思い、神竜の方を向くと、神竜の身体は光り輝いていた。そして、その巨体がみるみると凝縮していく。

「これで良いか?」

 光が治まった先には、玉座にとても可憐な美女が座っていた。
 その長い髪は澄んだ白銀。鼻梁はスッと通り、輪郭も細く、典型的な美女の顔。さらには、その肢体も女性ならば羨む様なスタイルを誇示している。しかしながら、その雰囲気はどこか儚げで、深窓のご令嬢を思わせる様な雰囲気を纏っている。美しい装飾の為されたドレスを着こむ姿には、全ての人が目を瞠るだろう。

 要は、どこからどう見ても、完璧な美女が、そこに居た。

「……神竜……さん?」
「ああ。これで良かったか?」
「私めの事は、ワンちゃんと御呼び下さい」
「お主、態度があからさま過ぎるぞ!?」

 傅いて言葉を献上する。今の僕の姿勢は、この世に存在する何処ぞの奴隷や従者や下僕よりも、堂に入った跪き方である。
 そんな僕を見て、ジジが何か云っているが僕には聞こえない。
 今の僕は、この傅いた体勢から、神竜様の下着を覗くのに必死であるからして。

「さて、余に何か面白き語りを聴かせよ」
「はっ! 喜んで!!」

 その後、色々と話を聴かせた。
 僕の元居た世界の話や、向こうとこちらの童話にアレンジを加えたもの等々。
 そこそこの盛り上がりを見せ、僕達はお暇することになった。





 まぁ、終始下着は見えなかった。残念。





*****





「陛下」
「なに?」

 ナインライブスと魔女、そしてあの人族の青年との語らいを終え、上機嫌な私に、御付きのテュポーンが声を掛けてきた。

「どういうおつもりですか?」
「なにが?」

 しかし、個性を出すためとはいえ、あの高圧的な喋り方や、自分を『余』と称するのは中々に気疲れするものだ。後半、結構グダグダになったが。
 うーん、と背伸びをする。背中が小気味よい音を立てる。

 あ~、気持ちいい。

「聖魔殿と魔女を呼び立てるのは理解できます。ですが、なにゆえ矮小な人族を第一として呼び立てたのでしょうか? 私には理解出来かねます」
「貴女は聞いていなかった? 暇潰し。余興よ、余興」
「それにしてはお戯れが過ぎます。下賤な人族のあの態度など、万死に値するといいますに」
「いいじゃない。固いな~もぅ~」

 テュポーンは頭が固い。固すぎて融通が利かないのが、この子の悪い所だ。もう少し、人生面白可笑しく過ごすのが楽しいだろうに。

「ご自身の身分を理解しておりますか? 神竜陛下」
「してるわよー」
「でしたら、あのような人族の態度を容認するのをお止め下さい。それと、このような軽はずみな思いつきも控えて下さい」
「うるさいなぁ~」
「陛下、そのような言葉遣いも……」
「ねぇ、誰に物を云っているか、理解している?」

 テュポーンを睨みつける、少しの威圧を乗せて。

「……っ!! 失礼しました……」
「まったく……」

 私の視線にびくりと身体を強張らせたテュポーンから視線を外す。
 あまり、私の機嫌を損ねないで欲しい。
 殺したくなっちゃうじゃない。

「別に、単純な暇潰し目的で彼を呼び立てた訳じゃないわよ?」
「……と、云いますと?」
「彼……えっと、キョン? ジョン・スミス? アドバーグ・エルドル? エル・ローライト? ……名前が何だったか忘れたけど、あの人族の彼。彼は、ファーヴニルに、あの仁竜卿に認められ、興味深いと云わせしめたのよ? 私が興味を惹かれるのも当然じゃない」
「あの仁竜卿が……」

 ファーヴニルの名前を反芻するように呟くテュポーンを尻目に、私は先程の充実した時間を思い出して、思わずにやける。
 本当に、彼は奇跡の様な存在だ。恐ろしい程に。彼と云う存在は奇跡の体現としか思えない。

「そもそも、貴女、気付かなかったの?」
「え、何にですか?」
「彼は、とても危険だと云う事よ」
「……確かに、あの人族は精神鑑定をした方が良いと思いますが……」
「そういう意味じゃないわよ」

 本当に分かってないのかしら?

「貴女もまだまだねぇ……」
「えっと、それでは、どういう意味でしょうか?」
「自分で考えなさい」
「はぁ」

 戸惑った様子のテュポーンを無視して、もう一度、彼を思い出す。
 彼を思い浮かべると、口元が緩む。

「本当に、なんて奇跡」


 若しくは、異常、異端、異質と云うところ。有り得ない存在だ。
 それとも、彼の元居た世界では、彼は標準的な存在なのだろうか。

 くすくすと笑い声が漏れる。





 ホント、とっても良い気分。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

「炉真って何て読むの?ろま?」
「炉真と書いて、ろしんと読むよ!」
「読みにくい」
「だって、本当は炉心にしたかったけど、俺は融解も誘拐もしないから」
「そーか」

 そんな会話を友人と致しました。P.N.とか、あまり考えていないので、適当に思いついたのを使用しているだけという。まったく興味関心ない蛇足話だね!ごめんね!
 さてはて、余談ですが次回の話はシリアスになるかもしれません。そういうのが嫌いな方は飛ばしても構いませんよと、一言。


▼感想を頂ける……物書きにとって、これほど嬉しいことはない。ありがとうっ!!


>オモスレー

ありがとうございます。
その一言で作者は歓喜の舞を踊る妄想をすることでしょう。




[9582] 15話・混沌
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 23:07


「今回はシリアス成分多目じゃ」
「シリアスが苦手な方は、回れ右、です」
「僕はボラギノォォオオオルゥゥゥウウウウ!!!!!!」





『15話・混沌』





「おお、死んでしまうとは情けない!!」

 気がつくと、目の前に禿げ上がった御老人がいた。
 そして、いきなり電波な事を云って来た。
 この人は何処ぞの王様だろうか?

「いきなり何だ!! 失礼な爺めっ!!」
「お主、儂が誰だか分かっているのか?」
「頭が色んな意味で可哀相な死に損ない」
「天罰!!!」
「ぎゃあああああああ!!!!」

 爺の怒声と同時、上空から僕に雷が降り注いだ。びりびり。
 雷で身体が透けて骨が見えるという表現がある。僕の場合、雷が落ちて身体は透けた。確かに透けた。まさか漫画でしか見たことのない光景を体感するとは思わなかった。
 しかし、身体が透けて見えたのは、その、神経とか筋肉とかだった。理科室に置いてある人体標本のような感じ。

 はっきり云ってグロイです。グロテスクです。

 どうしてコミカル表現じゃないんだ。映像化してしまえば、幼い子供達にトラウマを植えかねない。生々しい表現は避けようぜ。自分で自分の中身をクリティカルに見て吐き気がしたよ。
 そんなことを、プスプスと煙を上げながら、真っ黒に焦げた状態で思う。
 何故これで死んでいないのか不思議だ。僕はいつから不死身の身体になったのか。別に鋼鉄の機械兵団とは闘わないよ、僕は。

「無礼者め!」
「違いますぅ! 無作法なだけですぅ!」
「生意気じゃ。天罰パート2!!!」
「にょおおおおおおおお!!!!」

 再び僕を雷が襲う。びりびり。
 どうせなら、超電磁砲な科学万歳的な都市に住むお嬢様中学生の雷を浴びたいものだ。
 プスプスと焦げた臭いをさせながら思う。

「良いか、儂は神じゃ!」
「痴呆症は病院に行け」
「天罰パート3!!!」
「ほあああああああ!!!」

 三度、僕を強襲する雷。肩凝りくらい直してくれ。凝ってないけど。
 いい感じに電気ウナギ化するかも知れないと思わせるほどに、今の僕には電気が溜まっている気がする。
 このままいけば、雷帝になれるかもしれない。新宿の裏通りでカリスマになろうかしら。

「儂はボケとらんし、至極真面目じゃ。茶化すんじゃない」
「真面目に危険域だ。脳の病院で脳味噌を赤味噌にしてもらえ」
「天罰パート4!!!」
「甘いわ!!」

 その場から横にジャンプする。雷がジャンプ直前の場所に落ちる。
 ふっ、人間は成長するのだよ。4回も喰らうと思うなよ!

 落とし穴に落ちた。

「バカなっ!?」
「バカめっ!! 予想通りの行動じゃわ!!」
「この僕の行動を先読みしただと……っ!!」

 くっ……!! 中々やるじゃないかっ!!
 落とし穴に落ちながら、しかし僕は慌てない。こんなこと、悪の組織に居た時は日常茶飯事だったからして。

「太陽拳3倍だああああ!!!」

 僕は片腕を伸ばし、片腕を腰に当てた状態で思いっきり叫んだ。ジュワッ!
 舐めるなよ。僕には舞空術がある。成功したこと無いけど、今回は成功すればいいなぁ!!
 そして、僕は落とし穴を逆走する。飛んだのである。なんか飛べた。舞空術成功である。

「なんですって!?」

 びっくり。
 まさか成功するとは思っていなかったので、驚きは一入である。

「ふはははは!! 勝てる! 勝てるぞぉ!!」

 突然の出来事だが、しかし僕は決して慌てない。むしろ、喜ばしい感情で胸一杯だ。あと、おっぱい触りたい。
 落とし穴から勢いよく飛び出る。

「そう簡単には行かんよ」

 タライが降って来て直撃した。
 僕は再び落とし穴に真っ逆さまである。ぴゅ~。
 しかし、この程度で諦める僕では、ないっ!!

「不死鳥の如くぅううううう!!!」

 華麗に優雅に典雅に優美に、僕は舞い上がる。

「次行ってみよ~」

 そして、タライの嵐。
 タライ、タライ、タライ、タライ、タライ、タライ、タライ!!
 僕はその落ちてくるタライを全て、この身に受けた。
 落とし穴に再び落ちる僕。

「僕は、必ず、再び、舞い戻るぞぉぉぉおおお!!!」

 落とし穴を落下しながら、僕は叫ぶ。
 しかしこの落とし穴深いです。お仕置き用の落とし穴でもここまでないんじゃないかな?
 以下、これを10回繰り返した。
 何十個というタライをこの身に受けた。頭頂部にもクリティカルヒットが多数。
 僕は10回も落とし穴に真っ逆さまであった。
 流石に、この痛みは、あれだ。





 駄目だこりゃ。





*****





「良いか、儂は神じゃ。神様じゃ」
「髪がないのに?」
「そぉい!!」
「ぎゃー!? 僕の髪が毟られたぁ!?」
「この不届き者がぁ!!」
「この禿げ散らかした爺がぁ!!」

 落とし穴から這い出た僕は、その後、自称神様とリアルファイトを開始した。
 結果は僕の惨敗である。何よこの爺、超強いじゃないっ。
 流石は自称神である。魔封波を使わなくても強かった。

「まったく、落ち着いたか?」
「僕は最初から落ち着いていたい……」
「願望止まりじゃないか。実行しなさい」

 身体を滅多打ち……いや、滅多撃ちにされたので、身体を動かすのが億劫だ。まさか指銃まで使えるとは……。

「まぁ、良い。兎に角、儂は神じゃ」
「その神様が僕に何の用だ」
「ふむ。先ずは周りを見てみよ」

 そう云われたので、顔だけ動かして周囲を確認する。
 周囲の風景は実に奇妙な物だった。
 果てのない地平。一面真っ白の光景。地面もなく、空もない。よく分からない空間。それが今、僕の存在する場所だった。

「何処だココア!?」
「その質問が真っ先に出ると思っておったのに、まさかこの儂に喧嘩を吹っ掛けるとはな。調子が狂ったわい」

 僕が噛んだ事はスルーされた。
 その気遣いは嬉しいのだが、僅かに寂寥感を感じる。
 兎の様に可愛らしい僕は、構って貰えないと寂しくて死んじゃうのだ。

「首でも切り落とすのか、首切り兎めっ」
「のんのん。首は切りません。騙すんです」

 兎詐欺うさぎというじゃないか。

「それで、僕はどうしてこんなところに?」
「うむ、実は手違いでお主を殺してしまったんじゃ」
「なんですとー!?」
「いやー、済まんかった」

 はっはっはっ、と笑う自称神様。
 ウゼェ。

「えっと、死因は?」
「トラックに轢かれたんじゃ」

 あの世界でトラックに轢かれた覚えもなければ、トラック自体を見た覚えもないのだが、僕はどうやら知らない間に存在するかどうかも怪しいトラックに轢かれていたらしい。
 自称神様が云ってるのだから間違いないだろう。

「因みに、お主を轢いた瞬間の運転手は、実に楽しそうじゃった」
「悪意満々!?」

 文字通り車で楽しく轢きましたってか。
 巫山戯るな。僕を轢き殺していいのは露出狂のお姉様だけだ。それなら本望だ。むしろ、ありがとうと云いに行く。枕元に立ってでも。露出中でも憑いて行ってありがとうと云ってやる。ありがとうの意味合いが変わってきそうだが。

「まぁ、そんな訳で、あれじゃ。あれ」
「どれ?」
「ほれ、そこの、それじゃよ」
「んん? もしかして、これ?」
「それじゃないそれじゃない。その向こうのあれじゃよ」
「何にもねーじゃねーか!?」
「お主が振って来たんじゃろうが!? 最後までやれよ!!」

 随分とフランクフルトな神様だ。間違えた。フレンドリーな神様だ。

「それで、結局なに?」
「うむ。やっと本題か。長かった……」
「途切れが悪いなら泌尿器科にでも行けよ」
「流石に恥ずかしくって……」
「バカ野郎! 先生が若い女医さんだと仮定して、自分の分身があれやそれやともう興奮じゃない!!」
「実は、お主に詫びをしようと思ってな」
「うわぉ。無視されたー」

 真顔でスルーされるのって、結構傷つくんだぜ?

「特別に、お主を違う世界に転生させてやろうと思ってな」
「とある学園都市のフラグ乱立男か、猫耳宇宙人が遊びに来ちゃった世界の貧弱眼鏡ボーイか、幻想に包まれた桃源郷のガラクタ店の店主か、歌こそ力なりな世界で永遠の16歳が住む天高く聳える塔の騎士なフラグ男か、人形の螺子を巻いちゃった引き篭もり眼鏡ボーイか、物の死を見ちゃう退魔家系の不思議魅力を遺憾なく発揮する殺人貴か、銭湯を経営してたらUFOが突っ込んできて魂を共有しちゃう経営者か、すべてを戯言で片付ける最弱な無為式か、熱血で鉄血で冷血な吸血鬼に血を吸われちゃった劣等生か、発明化な宇宙人と同棲して告白されちゃってる毎日幸福少年か、女子寮の管理人になっていつの間にか人間的魅力が鰻昇っちゃった三浪な不死身眼鏡男か、小学生なのに女子中学校の教師をやっちゃう純情無垢な眼鏡少年か、お隣さんを400年も影に日向に守り続けている忍者か、おちこぼれだけど遺伝子的に超凄い魔法使いか、いきなり人生燃え上がっちゃって人間辞めた高校生か、目玉から熱光線を発射する絶対遵守な国崩しを狙う学生か、1億5千万の借金背負った万能執事か、三十三間もある元女子学園に通うパワフル男子学生か、瀬戸内で溺れたら可愛いお嫁さん貰ったエロ少年か、封印指定な正義の味方を目指す少年か、スクールがヘブンな桃色な台風生活の学園理事長の孫か、最終的には機械の神様で邪神を打倒しちゃったロリコン宣言者か、代理先生と教育実習生の二人と同棲しちゃう苦労学生か、思春期な妹を持っちゃったお兄ちゃんか、大学生の家庭教師に愛を教えてもらう教え子か、元女子高に通う一年生で生徒会役員に登り詰めた副会長か、ゲームに関してはズバ抜けた実力を持つ神と崇められる眼鏡少年か、原始の心臓と綺麗なお義姉さんを持つ大きな河の少年か、etc、etc……で、お願いします!!!」
「三言で」
「ハーレム! オリ主!! 僕TUEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」
「うん。それ無理」
「何云っちょっとね!? 神様なら出来るやろ!!」
「儂ってば、お主達が勝手に神だ何だと祭り上げているだけだしのぉ。儂は確かに万能じゃ。万能故に、大願を聞き届け、万の願いを成就させることは出来ても、億の欲望を実現し、兆の悲願を成し遂げさせてやることは出来んのじゃもん」
「"もん"じゃなかろうもん!! ならどうすっとや!?」
「儂が適当に送ったるわい」
「甚だ不安で堪りませんわ!?」

 不安どころじゃない。心の中は危機感で一杯一杯だ。
 この爺、本当に神様か?

「ミラクル☆マジカル☆るーるるるー♪」
「やめろ! 変なポーズでクルクル回るな!! 目が腐る!!!」
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」
「魔法の擬音!?」

 思いっきり振りかぶった神様が、いつの間に取り出したのか釘付きのバットで僕をぶっ叩いた。

「ぬべるわぁ!?」

 とんでもない衝撃が僕の身体を駆け抜ける。
 ファーストでセカンドでラストな一撃が光り輝いて僕を打ち貫く。
 思うんだ。貫くのは流石にどうよ。

「覚えてろおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ごめん。儂ってば痴呆じゃから、覚えれんわ」
「畜生!!」

 結局、呆け老人じゃないかっ。





 そして、僕は新たな世界で転生した。





*****





 ───僕は心に傷を負った男子高生。ガチムチスリムで恋愛体質の愛されボーイ♪

 僕がつるんでる友達は援助交際をやってるタクロウ(30歳、独身、雄)、学校にナイショでゲイバーで働いてるユウヤ(25歳、既婚、雄)。訳あって不良グループのパシリになってるタミゴロウ(76歳、独身貴族、性別不明)。
 友達がいてもやっぱり学校はタイクツ。今日もタクロウとちょっとしたことで口喧嘩になった。
 男のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆ そんな時、僕は一人でハッテン場を歩くことにしている。
 がんばった自分へのご褒美ってやつ? 自分らしさの演出とも言うかな!

「あームカツク」

 そんなことをつぶやきながらしつこいキャッチを軽くあしらう。

「カレシー、ちょっとケツ出してくれない?」

 どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
 キャッチの男はマッチョだけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大の僕を見て欲しい。

「やらないか?」

 ……またか、とセレブな僕は思った。シカトするつもりだったけど、チラっとキャッチの男の顔を見た。

「……!!」

 ……チガウ……今までの男とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚が僕のカラダを駆け巡った……。ウホッ! いい男。

(カッコイイ……!! ……これって運命……?)

 男はツナギのよく似合う男だった。公園の便所に連れていかれてズボンを脱がされた。

「ところで、こいつを見てくれ。こいつをどう思う?」

 すごく……大きいです……。
 ガシッ! ズブッ!


 僕は掘られた。アッーーー!!!


 僕は息を荒々しく吐きながら、身体を駆け巡る悪寒に必死に耐えていた。本来、出口である場所に異物が入っているのは、とてつもない違和感を僕に訴える。

 ふぅふぅ、と息を落ち着ける。

 そして思う。なんで僕はこんな事になっているんだろうね? というか、そもそもこの状況は伝えたらいけない気がする。ある種、ロレックスの金の腕時計だ。つまり、18金。
 でも大丈夫、直接的な描写はひとつもないので、きっと大丈夫だろう。安心安全な、ほのぼのハートフルストーリーだ。

「いいこと思いついた」

 ツナギのよく似合う男が、おもむろに云った。

「俺、お前の桃の中に聖水を掛けるぜ」
「ええ!?」

 とんでもないことを云って来た。
 流石の僕も戸惑いの声を上げる。流れで身を任せてとんでもない事態に進行してしまったが、これ以上は流石に不味い。
 開けてはいけない扉を全開にしてしまう。

「いくぜ」
「待っ───!!」

 僕の静止の声よりも早く、彼はそのゴールドな水を僕の桃の中に解き放った。
 貴様は僕の桃を仙果にでもする気かっ。

「ふぅ、すっきりしたぜ」
「う、ううっ……」

 男のオンバシラが僕のミジャグジにエクスパンデッドした。

 おいおい、マジかよ……。
 僕は悲しみに包まれる。ついに攻め込まれたことのないお城を破られてしまった……。

「よし、次は俺の番だな」

 そう云って、体勢を変えようとする男。
 待ってくれ。そこまでいくと、もう僕は取り返しがつかなくなってしまう。
 しかし、僕の心の声は虚しく胸の裡に響くのみである。
 僕が諦観の体で尚も流れる空気の濁流に身を任せようとした時であった。

「そこまでだ」

 そこには寺生まれで霊感の強いTさんの姿が!
 人の入ってる個室を開けるなよ! 助かったけど!

「破ァーーーー!!!」

 気合一閃。
 Tさんの手から光弾が弾け飛ぶ。弾けたら意味がないと思うけど!

「ぐわあああああ!!!」

 ツナギのよく似合う男は吹き飛んだ。跡形もない。
 ……これは殺人事件じゃなかろうか?
 とりあえず、Tさんが現れた時から感じていた疑問を訊いてみる。

「どうしてここに?」
「なに、いい男の匂いがしてな」

 お前もかよ。

「駄目だぜ、ホイホイついてきちゃ。ここらのハッテン場の奴等は、ノンケでも構わず喰っちまう男ばかりだぜ」

 去り際にTさんはニヒルに笑いながら僕に云った。

 寺生まれってスゴイ! ……僕はそう思った。

 思った時である。一人の少年が帰ろうとしているTさんの目の前に躍り出た。

「ねぇ、Tさんの弱点って何?」
「一番怖いのは生きている人間かもな……」

 そう云って、今度こそ去って行くTさん。
 その姿はとても格好良い。僕はズボンを穿きながらそう思った。

「……決めた」

 Tさんに弱点を訊いた少年がポツリと言葉を零した。
 なんだろうと少年を見る。

「ボクがTさんの弱点になる!!」

 少年は決意を秘めた目で闘志を燃やしていた。
 僕は思わず延髄切りをぶちかましてしまった。

「はやまるなぁあああああ!!!!」
「モルスァ!?」

 少年が物凄い勢いで飛んで行った。

「わお」

 僕は少年が飛んで行った方向には目もくれず、便所から出る。
 どうでもいいが、便所がボロボロだ。
 そんな事を感じながら、外に出た。
 モヒカン頭の有り得ない体格の奴等に絡まれた。

「おい貴様、俺の名前を云ってみろ!!」

 なんだか意味の分からないヘルメットを被った奴がそう云って来た。

「世界で一番お姫様!」

 僕は自分でも意味の分からないことを云ってみた。

「あ、ああ。うん。そうだね」

 そう云い残し、去って行く新喜劇な格好の集団。
 なんというグダグダっぷり。
 もう僕も意味が分からない。
 ブオンブオンという音を口で云いながら遠ざかって行く集団を見詰める。

「邪魔だ! どけ! 雑種ども!!」

 そんな声が、集団の方向から響いた。
 なんだ、という疑問の元に集団を凝視していたら、集団の一部が吹き飛んだ。
 集団がモーセの十戒の大海の如く割れる。
 その先に、光輝く姿。

 黄金の鎧。滲み出る、揺るぎ無い絶対の自信を漲らせる覇気。

「王であるおれの前を塞ぐな! 虫けらがぁ!!」

 何者をも寄せ付けぬ、圧倒的な暴力。
 それが、新喜劇な集団を吹き飛ばす。

 最も古き英雄の王が、威風堂々と、そこに居た。

「てめぇ! 俺の名前を云ってみろぉ!!」
「名前? ふん、どうして我が雑種如きの名前を把握していると思っているのか。その図々しい思い上がり、恥と知れ!!」

 瞬間的に広がる、絶対的な暴力が顕現しようとしている気配。何とも云えない畏れが、胸の奥より湧き起る。
 周囲に無機質な気配が蔓延する。同時に湧き上がる喜劇軍団のざわめき。
 空間が歪み、裂け、何かが這い出してくる。


 ずるぅりぃ。


 息を呑む音が、どこからともなく聴こえた。
 そして、全貌を現す───



 ───コッペパンの、群れ。



「我は、コッペパンを要求する!!」

 その一言と共に、膨大な数のコッペパンが空間を埋め尽くす。
 これが、伝説の───



 ───ゲート・オブ・コッペパン。



 大量のコッペパンが、世界を蹂躙する。
 高速で発射されるコッペパンは、その摩擦熱で美味しそうな匂いを撒き散らしながらも、標的の周囲を丸ごと飲み込んで砕いていく。
 土煙が舞い上がり、僕の視界は塞がれた。
 それでも、断続的に響く恐ろしい音。

 ぷにゅん。ぷにゅん。ぽにゅん。

 なんという恐ろしい音だ。聴くだけで魂が震えあがる。
 数分後、その恐ろしい音も止み、土煙も晴れた。
 その向こうの光景に、僕は絶句した。
 地面に突き立つコッペパンの数々。そして、集団の口元に押し込められたコッペパン。全ての人間が、その顔を恍惚に彩っている。

「ふん。今日はこの程度で許してやろう。我もそろそろ急がなければ、師匠達に物理的に地獄に落とされるのでな」

 そう云って、颯爽と立ち去って行く慢心王。
 すげぇ、かっきぃ。
 僕は、ぼーっと見惚れていた。なんて、気高い、高貴な、王。
 あれこそが、最古の王の姿か。
 梁山泊で無事で居られるのは貴方だけです。

「やっほー☆ 元気ぃ?」

 その僕の余韻を粉々に砕いて、その砕かれた破片を踏み躙った行為に及んだのは、頭が綺麗に太陽な禿げ老人であった。

「楽しんどるかぁ~?」
「楽しめるかっ!!」

 意味が分からないよ。なんだよ、この世界。
 僕の至極当然の訴えを、不思議そうな顔で聴く爺。

「楽しいじゃろう?」
「楽しくないよ!? なんで僕がこんな変態道に身を落とさなきゃならんのじゃい!!」
「変態なのは元からじゃん」
「失敬な!」
「こりゃ失敬」

 うぜぇ。

「生きているのなら、神様だって殺せるんだよぉお!!!」

 僕はポケットに忍ばせておいた、一際頑丈そうなナイフを抜きだした。それを油断なく構える。

「僕は貴様をころしたい」
「……ごめんなさい。こういう時、どういう顔をすればいいのか分からないの……」
「死ねば良いと思うよ」

 笑ったらその瞬間にバラバラに解体してやるっ。
 天才人形師に、自分の人形を作って貰え。そうすれば、3人目でも問題ない。

「死ねぇぇぇえええ!!!」

 一閃。
 二閃。

 白銀が煌めくが、それを禿げ爺は躱す。
 その、してやったりの顔が非常にムカツク。
 僕は目に力を込める。眼力、集中。

 喰らえっ!!

目玉焼きサニー・サイド・アップ!!」

 僕の眼から一筋の光線が爺に向けて直進する。
 しかし、死に損なった爺はそれを躱す。躱しやがったっ……!!

まがれぇぇぇええええええ!!!」

 僕は叫んでその光線を曲げる。
 光線はクルクルと渦巻きながら爺を追尾する。

「ふむ。良いじゃろう」

 光線の追尾を振り切った爺は、おもむろに振り返ると、体中から様々な文房具を取り出した。

「戦争を、しようじゃないか」

 面白い。この僕の、あるかどうかも分からない、回転の力をお披露目しよう。
 クルクル、くるくる、狂々と、回って廻って舞わるがいい。回転王の力に怯えて震えろ。


 僕と爺の死闘が、再度、開戦した。


「さぁ、こい!! 儂は一回刺されるだけで死ぬぞぉおおおお!!!」
「僕は立派な女王騎士になるんだぁあああああ!!!」

 いつの間にか、手の中に出現していた剣が、僕のマナを吸って刃を具現化させる。気付いたら出現していたので、剣へのツッコミとか出来ないっ。
 色々と思うところもあるけれど、取り敢えず、リアルソードマスターはもっと続いて欲しかったっ!!

「いくぞぉおおおおお!!!!」

 僕は神爺に吶喊した。
 いっそのこと、御神籤で勝敗を決めようかしら。何処ぞの教育施設の如く。
 兎にも角にもっ。


 僕の勇気が世界を救うと信じてっ!!





 唐突に、僕の意識が、覚醒した。





*****





「──と、いう夢を見たのさ」

 HAHAHA! と哄笑する。
 まさかの夢オチである。
 ぶっちゃけ、収拾が付けられません。
 そう考えると便利だよね、夢って。なんでもかんでも許されるんだから。蝶便利。

「はぁ……」
「言葉が返せん……」

 何とも云えない表情のメアとジジ。
 今日も可愛いよメア。今日も三色の毛が見事だよジジ。

「ふっ」

 僕は髪をおもむろに掻き上げて、窓から天空を見遣る。
 雲一つない晴天の青空が目に眩しいぜ。

「そう云えば」
「ん?」

 メアが何かを思い出したように声を上げた。何だろうか。

「夢と云うのは、記憶の整理を頭が行っている時に見ると聞きます」
「うん。それが?」
「その記憶整理中は、自分の願望が顕著に現れると云います。過去の記憶から、自分の望む未来を構成するのだとか……」

 そう云って、気まずそうに僕を見るメア。
 ………………。

「……何が云いたいのかな?」
「つまり、その夢はお主の願望じゃということじゃな」

 ジジがズバリと僕の心を切り裂く。
 僕の硝子のハートが粉々だよ?

「ははははは何を云っているのかよく分からないなぁジジは面白い事を云うよねはははははは」
「きゃー!? 窓から離れてー! 駄目です! 身を投げないでー!!」
「落ち着け。ここは2階じゃから確実には死ねんぞ」
「ジジ!」
「離せぇええ!! 死んでやるぅううう!!! そしてジジの夢の中に現れて口では云えないことをしてやるぅぅううう!!!!」
「それは止めい!!」
「その後メアの枕元に立ってメリーさんの羊をヒップホップ調で熱唱してやるぅうううう!!! それに怖がるメアの表情が美味しいおかずだぁぁああああああ!!!」
「私が巻き添えにぃ!?」





 まぁ、今日も平和な一日です。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
亞妬蛾忌

 じゃぎゃああああああん!!!ずぎゅんずぎゅん!!どっかーん!ばりばりばりぃ!?どどどんだっだっだぁぁああああああ!?!?かんがんぎゃあああああ!!まんみゃあああああどどぅぅぅうううう!!!??くりえいてぃぶ!くりえいてぃぶ!おう!くりえんちゃ~!!!はびゃおうん!!あんみゃんがーどーいっとー?!どーいっと?!あはん❤はん❤ははん❤あん❤うひょんびゃああああ!!でっどひーと!It's mine oh, happy?NO!NONONO!アイムグリーン!ははははははははは!!!!!もうちゃらんぎゅうううううう!!!!へんじゃじゃん!!……ふぅううん♂はんびゃらぼっちぃい♀おう、しっと!!はろーだでぃ!ダディ?ダディイイイイイイイイイ!?エンジャアアアアアアア!!!!


(※まことに勝手ながら、今回のあとがきは通訳無しでお送りしました。ご了承下さい)


▼最近感想見るのが楽しみですよ!作者感激!


>なんという紳士。
>こんなのがチラ裏にあったなんて、これだらやめられない。
>ぬこ耳やぬこ娘じゃなくてぬこそのものもターゲット可とは凄まじい紳士を見た気がする。

お褒め頂きありがとうござます。
猫に欲情する性癖は、猫が大好きな友人をモデルにしております。このことを友人に話したら、
「俺はここまで酷くない!ただの変態じゃないか!」
という言葉を頂戴しました。

>ダメだ、腹がww

盲腸ですか!?
誰か、誰か医者を!読者様の中にお医者様はおられませんか!!居たら握手してください!!!


>悔しい…! でも笑っちゃうッ…! ビクッビクッ(腹筋痙攣的な意味で)

存分に笑えば良いと思います。ビクッビクッ(特に意味は無い的な意味で)


>>彼の元居た世界では、彼は標準的な存在なのだろうか。
>そんな世界、あったら怖いって。
>すごく面白かったです。つづき期待してます。

主人公みたいなのが溢れた世界。はたして女性はどうなるのか?
紳士淑女が溢れる素晴らしい世界になることでしょう。おお、怖い怖い。
作者はモチベーションが下がって来たので続きは期待しない方がいいかも知れません。このままシリアス方面に突っ走る可能性大です。


>マリエルって誰ですか?

未だに登場していないキャラクターです。登場するかは不明。
蛇足ですが、マリエルは【妾っ娘】です。


>作品を見るときは、最下部のアマゾンを見れば、中身がわかるんだよね。

そんな裏ワザが……。作者の知らないことで溢れる世界に万歳。

>うん、さすがに、これは・・・
>触手死神以来の久々に楽しめるすばらしい変態紳士です。

あの作品は作者も好きです。早く再開しないかしら。

>ご馳走様でした。
>おかわりまだー?

一昨日おかわりしたばかりでしょ。


>こ れ は 酷 い

とうとう作者の拙い文章にツッコミがっ!?精進するから許してや~。

>良いぞ、もっとやれwww

何をやればいいのか分からないので、取り敢えず、雨乞いの舞でも踊ってみます。


P.S.
ついに15話迄来てしまいました。次回更新はオリジナル板に投稿しようと思います。はたして、作者は本板でどこまで通用するのか!叩かれて消える予感が満々よ!







[9582] 16話・再会した結果が敵
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 23:12


 僕らはあいに慣れることはないのさ、アンパンお化け以外。愛と勇気だけが友達なんて悲しすぎる。





『16話・再会した結果が敵』





 久方ぶりに畑に赴く。肩に鍬を背負って畑に歩みを進める。
 種を撒いてから、結構な月日が経った。具体的には3ヶ月弱だけど。
 こちらの異世界の植物は、実に素晴らしい生命力を持っているので世話をしなくていい。とても楽だ。楽なのは良いことだ。

 そんな事を思いつつ、実に約60日ぶりの畑を見ることにしたのである。
 ここで注意すべき点は、月日に関する具体的な数字を2つ出しているが、それが全部嘘であるということだ。この嘘が僕自身のクオリティーの高さを物語っている。空気を吸うように嘘を吐く僕って、とても素敵だと思う。
 そんな事は脇に置いておいて、若干の高揚感を感じながら、僅かばかり早足で畑に向かう。どんな風になっているのかしら。

 ワクワクドキドキとしながら畑に到着。
 久しぶりの畑なので、やはり感慨深いものがあるだろうと予想していた。
 しかし、僕が感慨に耽ることは、無かった。


 目前に広がる光景。

 巨大な怪鳥が畑をほじくり返している。

 荒らされた畑。

 散乱する野菜だった物の残骸。

 どうしようもなく、壊滅的な、僕の畑。

 その成れの果て。


 愕然とそれを見る。
 僕は呆けてそれを見る。
 意味が分からない。予想もしていなかった事態に、僕は思考するという行為を放棄していた。
 ただただ呆然と、眼前に広がる荒涼の土地を瞳に映す。

 思考は空白、動作は皆無。心は絶無の虚無が広がるのみ。

 その時、全長50mをゆうに超える怪鳥が鳴いた。

「アー! アー!」

 天に向かって吼える様に鳴く、巨大な鳥。
 その巨躯を震わせ、広大な翼を羽ばたかせる。

 豪風。強風。突風。害風。光風。春一番。
 生じる風は、即ち全ての【風】と云う概念を孕む物。

 それは神秘的で、魔性的で、神聖で、邪悪で、光を宿し、闇を宿した様な、この世の全ての【風】が纏う概念を宿す物。

「アアー!!」

 一際高く吼え鳴いて、その巨体は宙を舞う。

 その姿を瞳に映す僕は───

「待ったらんかい! このボケがぁあああ!!」
「クアッ!?」

 ───容赦なく手に持っていた鍬を投擲した。

 力一杯に、感情に任せてぶん投げたので、鍬はクルクルと回りながら飛んだ。その飛んだ鍬の持ち手部分が、怪鳥の頭に見事に命中。
 怪鳥が唐突な衝撃に怯んだ鳴き声を上げて地に落ちた。
 僕は怒りに肩を震わせながら、怪鳥を睨みつける。

「てめぇ、このダイナブレイド! よくも僕の畑を荒らしやがったなぁ!! 思わぬ事態に流石の僕も平静じゃ無かったぞ!!!」

 平静じゃなかったけど、冷静ではあった。
 畑を荒らしている最中の光景を、荒らし終わるまで待ってしまったのだから。
 あまつさえ、その光景を解説してしまった。
 こいつの巻き起こした風に、そこまでの荘厳さなんてないっての。
 普段の僕なら、迷わず吶喊とっかんしていただろうに。あまりの事態に特攻もかけずに行為が終了するまで待ってしまったよ、おい。

「クァアアアア!!!」

 大地に伏していた怪鳥が、体勢を立て直し激昂の鬨を上げる。
 その目に殺意を浮かべて、己の敵を、つまりは僕を睨んでいる。

「この野郎! 人様の、僕様の畑を荒らしておいて逆ギレか!? これだから最近の若い者はカルシウムが不足しているのよ!!」
「クアアアア! アーーーー! アーーーー!!! カアーーー!?」
「なんだと、この野郎!? 悪いのは貴様の方だろうが!!」
「キャオオオオ!! クルアアアアーーー!? キュウウウ!!!」
「僕の責任だとぅ!? 責任を転嫁するんじゃない! 僕には、まだ舌先をとある突起に転がさせてくれる嫁さんなんて居ないんだよ!!!」
「カアアアアアアア!!! グア! ギャアアアアアアアーーーーー!!! クルクルアアアーーーー!! アー?! ギャオオーーー!!」
「何が卑猥か! 具体的な部位の名称を僕は云っていないぞ!! 上か下かも分からないのに卑猥だと何故鳴ける!!」
「ギャウアアアアーーーー!!! アアーー!? クルオオオオオ!!! ガアアアアーー!!!」
「ちぃっ! 反論出来ないっ!! 鳥の癖に正論を鳴きやがって! 鳥の癖に鳥頭じゃないのか?!」
「クア!」
「なんだって!?」
「コウアアアーーー!! コッコッ、クケーーー!! キエエエエエーーー!!!」
「畜生!! そこまで鳴かなくたって良いじゃないか!! それは鳴き過ぎだ!!!」
「クッケー!!」
「こんにゃろう! 僕をバカにしやがって!! ダイナブレイドの癖にぃ!!!」
「クアッアーーー!!!!」
「望むところだぁあああああ!!!!」

 ところで、この鳥は何を云っているんだろうね?

 僕は鳥語とか分からないので一切合切意味不明だ。
 なんか勢いで言葉を返してしまった。





 意思疎通って重要だね。





*****





 ボロボロになった畑が広がる。

 そのど真ん中で、僕も負けじと襤褸切れの様な姿を晒していた。
 少し距離を置いた真向かいには、同じく羽根を散らした怪鳥ことダイナブレイドが鎮座していた。
 お互いにボロッボロになりながらも、しかし、それでも僕もダイナブレイドも眼光は鋭く相手を見つめている。
 中々の死闘を演じた僕とダイナブレイド。歴史に残っても可笑しくない、壮絶な戦いだった。
 既にお互いは満身創痍。次の一撃が、全身全霊にして全力全開の最後の一撃になるだろう。

 はぁはぁ。
 クェェクェェ。

 吐く息も荒く、肩を揺らす。ダイナブレイドも、熱い息を吐きながら気勢を整える。
 どうでもいいが、僕の中ではこの怪鳥が完全にダイナブレイドで固定されてしまった。どうしたものか。……どうもしなくていいか。

 ところで、殺し合いという物は本当に疲れる物である。

 しかし、互いの熱きパトスをぶつけ合い、互いのパッションを殺し合いという手段で相互に確かめ合う事が出来る。
 今まで、今の今まで、お互いを単純な害悪な存在であると、邪魔な存在であると、排除すべき存在であると認識していたが、殺し合いという手法により若干ながらも相手の事を理解出来てしまう状態に陥った、僕と奴。
 それは、その状態は、まるで親友のように、恋人のように、宿敵のように、とても心安らぐ関係を意識させるのだ。

 そうなると、なんだか相手の事を分かった気がして、先程までの憎悪等と云った感情が薄れていく。ある意味で賢者タイム。
 僕がそんな思考をしていると、ダイナブレイドが立ち上がろうとしていた。真っ直ぐに、僕を見据えて。
 それに僕も応える。奴を見据えて、全気力を以って立ち上がる。
 互いに互いを見据え、僕は、ふと笑みを零す。

「ふっ、中々楽しかったぜ、ダイナブレイド。少し、お前の事が分かった気がするよ。次が、事実上最後の一撃になるだろうが、不思議なものだな。僕は、少しの寂寥感を覚えているよ。結果が、勝利であれ敗北であれ、終わりが来るという事実が、僅かながらに寂しさを僕に与える。お前はどうだい?」
「ケッ」
「………………」

 唾を吐かれた。
 どうやら、お互いを分かりあえたと思っていたのは僕だけらしい。
 何だろうね、この気持ち。なんだか、とっても泣きたいんだ……。

 やるせねぇ……。

「ええい! 僕の一方的な気持ちを踏み躙ったことを、後悔させてやるぅあああ!!!」
「グエエエエエーーーー!!!!」

 ダイナブレイド目掛けて、僕は突っ込む。思いっきり右腕を振りかぶり、渾身の一撃をお見舞いしようと疾走する。
 それを躱そうとするダイナブレイド。巨大な羽根で突風を巻き起こし、僕を吹き飛ばそうとする。

 だが、甘いっ!

 既に我が身は、この一撃に全霊を掛けるのみ。振り絞った気力は並大抵の艱難辛苦如きに屈しはしないっ。

 僕の疾駆を、その程度のそよ風で阻めるものかぁぁぁあああああ!!!

「焼き鳥にして喰ってやるぅぅうああああああ!!!!」

 全身全霊全力全開本領発揮で渾身無双の一撃を、解き放つ!!!

 踏み込みによる大地の反動、筋肉収縮による極限値での力の流動、身体運用による理想的な血流の伝搬、迅速な脳内情報処理による、最適な一撃。


 秘伝之参・弾拳。


 別名、渾身の右ストレートだ!
 さあ血飛沫を撒き散らせぇぇ!!!

 が。

 なんと、僕の一撃をダイナブレイドは消失することにより回避したのだ。
 否、それは消失ではなく、焼失。
 ダイナブレイドは、その身を灼熱の炎に変質させて、僕の一撃を見事に躱したのである。
 そして、炎の塊と化したダイナブレイドが天空へと舞い上がる。
 その光景に僕は、思わず声を荒げた。

「自ら焼き鳥になっただと!?」

 なんてことだ。正真正銘の焼き鳥だ。
 鳥の形をした炎の塊なんて、流石に喰えないよっ!!

「ギョアアアアアアアッ!!!」

 どこから声を出しているのか不明だが、ダイナブレイドが咆哮を高らかに上げて僕に突進してきた。
 その様は、さながら紅蓮の大瀑布。

「にょあああああああああああああああああ!?!?!?」

 僕は、その瀑布に為す術なく呑み込まれた。





 火柱が、天を灼く。





*****





「…………何があったんですか?」

 僕がこんがりと焼きあがって、とても食欲をそそる匂いを醸し出しながら荒廃した畑に倒れ伏している時、様子を見にきたメアが唖然とした口調で言葉を漏らした。
 プスプスと黒煙を昇らせながら、僕はメアに答える。

「だ、ダイナブレイドが、焼き鳥、にぃ……っ!!」
「……意味が分かりません……」

 メアはますます困惑していた。
 困惑していたが、取り敢えず、この惨状は後回しにして僕を介抱してくれるメア。
 普段ならば、あからさまなボディタッチを敢行する所であるのだが、如何せんこの重症である。身体が動かない。実に惜しい。
 メアは懇切丁寧に、とても優しい治療を施してくれた。
 そのメアの治療行為に、下半身にある僕の分身がはっちゃけていた。

 この状態でも元気な息子に惚れ惚れする。流石は僕の自慢の息子だ。
 治療が終わり、僕の身体が動くまでに回復し、僕の息子が鎮まるまで待って、この惨状の説明をした。

 かくかくしかじか。

 この一文で意思疎通を行える世界が大好きである。
 実に合理的な端折り技。楽が出来ていいね!

「きちんと説明してください」

 ……かくかくしかじか、だけでは伝わらなかったらしい。

 仕方なく、慇懃に説明をする僕。
 僕の説明を聴いて、メアは表情を驚愕に彩った。
 どうしたのだろうか。

「始祖鳥と闘ったんですか!?」
「ん? あいつシソチョウって云うの? 酸っぱそうだね」

 梅干しでも漬けるのかしら。

「この森の世界樹に棲み、この世界が誕生した時に生まれたとされる神鳥になんて事を云うんですか!?」
「ああ、その始祖か」

 紫蘇かと思った。

「しかし、よく無事でしたね……」
「無事とは云い難いけどね」

 火傷しまくったもの。
 危うく木乃伊男になるところだった。

「その程度で済んだのだから、僥倖ですよ」
「どういう意味?」
「本来の始祖鳥は、聖炎に聖風の属性を身に宿す存在。その炎熱は総てを焼き尽くし、その颶風ぐふうは総てを薙ぎ払うと云われています」
「……強いの?」
「神竜様と同等以上の実力らしいですよ?」
「レヴァンお姉様と!?」

 とんでもない強さじゃないか!?

「一般的には、不死鳥と呼ばれています」
「なるほど、だから炎か」

 炎の属性を宿した鳥と云えば不死鳥がメジャーだものね。安易な発想であると云わざるを得ない。
 しかし、何気に凄い鳥だったんだな、ダイナブレイド。

「……ともかく、無事で良かったです」
「そうだねぇ」

 いやはや、気付かない内に死亡フラグが立つところだった。
 ……ん?

「あれ? そんなに凄いなら、どうして僕は無事だったんだろう?」
「基本的に穏やかな性格なので、よほどの事をしない限り本気にはなりませんよ」

 あいつ、あれで手加減してたのか。人を丸焼きにする行為でさえ、あいつにとっては本気ではないと云うのか。
 ……恐ろしい。

「ともかくとして、今日はもう戻りましょう」
「はーい」

 メアの言葉に従い、僕はメアと連れ立って城へと帰る。
 中々に波乱万丈な一日だったなぁ、と想いながらメアの臀部に手を伸ばし、しかし直前で叩き落とされた。
 メアに叩かれた手を抱え、きらりと涙を零す。
 いいじゃない、ちょっとくらい。

「燃やしますよ?」

 にこりと笑みを浮かべてメアに云われた。

「…………」

 …………嗚呼、今日の晩御飯は焼き鳥が食べたいなぁ。





 現実から、逃避を試みる僕であった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 本板での初投稿です。どのような反応が来るのかドキドキです。叩かれる予感しかしないっ!
 これが、プレッシャー、か……。


▼貴方達の温かい言葉が、作者の緊張を和らげます……。


>なんというハイレベルな変態w
>いいぞ、もっとやれ!

変態じゃないよ!紳士だよ!
ところで何をやればいいのか。作者にはさっぱりだ。


>Tさんひさびさに聞いた
>再登場希望デス

……無茶な。
今の作者の力量では、それは無茶なのさ。ごめんね!


>おい酔っ払い。いい加減にしろwwwww
>ちなみに、主人公に言ってる訳じゃないぞ。

(′・ω・)じゃあ誰に言っているのかしら?
(*′∀`*)さっぱり分かんない!ヒック!うぃ~。


>これは良作を発見したものだと感動しております。
>主人公ほどの紳士になると、きっと世界が余人とは違った色に見えるのでしょうね。
>本板に進出されるとのことですが、頑張ってください。
>ちなみにスクールヘブンは私も大好きです。
>応援しております。

ご丁寧な感想をどうもありがとうございます。
この作品を良作と思って頂き嬉しい限りです。
主人公については、作者にもさっぱり分からないので何とも言えません。怖いですね、己の力量で動かしづらいキャラクターって。
作者はスクールヘブンで真っ先にハーレムを目指しました。面白いですよね。賛否両論あるようですが、作者も大好きです。
これからも頑張って行きますので、どうぞよろしくお願いいたします。


>シリアスではなくて尻assだったんですね。
>いやあ、最初はどういう意味か良くわかりませんでした。ウヘヘヘヘ

(′・ω・)君が何を言っているのか分からないよ……。


>なんというカオスw
>言いたいことは色々あるけど、感想までカオスになりそうなので一つだけ
>クイーンナイトはもっと続いても良かったと思うんだ。

その色々な部分が気になるけれど、藪蛇そうだから訊かないヘタレな作者さ!
作者もクイーンナイトは続いて欲しかったです。できれば普通の終わり方をして欲しかったですよ。
あの終わり方は、衝撃でした。


>とりあえずあとがきの通訳を誰か頼む。
>話はそこからだ!

つまり話をする気はないということだな!




[9582] 17話・漢で乙女
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 23:16


 今日もお腹いっぱい遊びたい! …え、駄目?





『17話・漢で乙女』





「んもぉ~! だからねぇ、あの人ってばっ──!!」
「はいはい、そうですねー」

 月一でのバイトの最中。
 きゃんきゃんと高音かつ大声で愚痴を喚くクルーノさんの相手をする。
 この状態を既に小一時間も継続している。いい加減にげんなり気分の僕である。

「ちょっとぉ、聴いてるのぉ!?」
「聴いてるんじゃないですか~?」

 キンキン声が右耳から入ってくるので、それを左耳から受け流す。
 その際に脳味噌が震える。かき氷を一気喰いした時のように、頭がキーンとする。頭がキーンとする。
 別に大事なことではないが2回云ってみた。

「それでぇ、もうホントにあいつったらね!?」
「そー」

 超音波ボイスに顔を顰めながらも、僕はガラスのコップを磨きつつ愚痴を聴く。聴いて上げる。僕の優しさに咽び泣け。
 コップをキュッキュッと磨く。クルーノさんは未だに超音波を乱射している。その超音波で怪音波な声から逃げる様に、半径5m圏内には他のお客さんの姿はない。その迷惑ボイスの圏内に居るのは僕だけである。そんな苦行に耐える僕に対して、皆さん知らん顔である。女性客以外全員地獄に堕ちろ。
 それよりも、エリーナさん。貴女はこの酒場の店主でしょ。何故にバイトの僕に、こんな面倒臭い客を任せて、自分は悠々とお酒を他の客に晩酌させているのでしょうか? 本来は店主の貴女が相手をするべきなのではないのかと疑問に思います。

「ちょっとおおおお! 聴いてるのおおお!!」

 ガシャン。

「痛っ!?」

 僕が磨いている最中のコップが割れた。手で持っていたので、割れた破片が手に刺さり鋭い痛みが身体を駆け抜ける。
 というかこの人、声でガラスコップを割りやがった。本当に超音波出してやがったのか。あな恐ろしや。この人体兵器め。
 どうでもいいがエリーナさん。僕の痛がっている姿を酒の肴にしないで下さい。そんな面白そうに微笑まないで、このサディストめ。いつもは無表情の癖に。今すぐにでも、その綺麗なおみ足を僕の舌で舐め回してやろうか!!

 僕はその行為だけでも興奮出来るのだ。僕の息子の溌溂っぷりを舐めるなよ。いや、むしろ舐めて欲しいです。こう、レロレロと。
 若干、僕の思考が危ない方向に全力で走っている時でさえ、クルーノさんは轟々とした声で囂々ごうごうと喋り続けている。怪音波大発生である。後ろの棚にある皿までもが被害に遭おうとしている。

「───ねぇ!? 貴方はどう思うぅうううう!!!」

 ガシャアアアアアアアン!!!!!

「ぎゃああああああああ!?」

 とんでもないビブラートのかかった超音波が僕の耳を直撃した。いつの間にか至近に居たので、破壊力は尋常ではない。
 その超音波は僕の鼓膜に甚大なダメージを与えるだけでは留まらず、背後の食器を結構な数粉々にしたのである。
 そんな一撃を僕の耳元で叫ぶなんて、正気の沙汰じゃない。
 目眩にも似た感覚が僕を襲う。脳が揺れているっ、気持ち悪いっ。

「どうなのよぉおおおおおおお!!! 答えなさいよぉおおおおおお!!!」
「やめれええええええええ!?!?!?!?」

 僕を思いっきり前後に揺らすクルーノさん。
 ははは、分かった。僕を殺す気だなぁ?

「云いなさいよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あははははははははは!!!!!」

 僕の自我が崩れていく気がする。
 ここまで一方的に僕が攻められるなど珍しい。こんな弄られキャラは僕では無い。

 はっ!? もしや、これが件のキャラ崩壊かっ!!

 なるほど。キャラ崩壊ならば、僕の現状が自分のキャラに合っていないのも頷ける。
 そう考えるとキャラ崩壊が顕著になっている。目の前に綺麗なお花畑が見えるもの。一面が菊の花で埋め尽くされているのは、流石に如何かと思うが。
 それは脇に箱詰めして放置するとして、このまま行けば僕は新たなキャラクターを確立して華々しいデビューを飾ることだろう。





 揺れる脳味噌で、僕は益体もない事を脳裏に思い浮かべていた。





*****





 閑話をひとつ。
 結論から云えば、僕は三途の河に行った。行っちゃった。

 彼岸とは実に美しい所だった。流れる河を挟んだ向こう側、綺麗な菊の花畑が一面に咲き誇り、流水湛える河の水は透き通っていた。
 僕はそこでバタフライやクロールで泳ぎまくり、彼岸と此岸を20回程往復した。僕が気持ちよく泳いでいると、綺麗な花畑の方から声が聴こえて来た。背泳ぎで向かうと、見知らぬお婆さんがニコニコと微笑んでいた。傍らにはお爺さんも立っており、二人とも並んで僕を見ていた。
 なんだろうと思い陸に上がると、二人の姿がいきなり変貌したのである。軽くホラーでした。
 老夫婦然としていた二人は、その身を鬼のそれに変えていた。そして、おもむろに僕の衣服を脱がそうとしてきたのだ。なんてアグレッシブな爺婆だと感心したものである。

 しかし、流石の僕も老人は守備範囲外であるため、必死で抵抗した。これが綺麗なお姉さんだったら流れに身を任せるところである。
 取り敢えず、鬼化したお婆さんの顎を蹴り上げ、さらにジャーマンスープレックスをかまして地面に頭から埋めてあげた。
 その後、襲い来る鬼化したお爺さんの角を掴み、ジャイアントスイングをかけて思いっきり地面に叩きつけた後、伸びていた髪を引っ張りながら、引き摺って河の方に連れて行きリアル犬神家を敢行した。
 額に浮かぶ汗をいい笑顔で拭い、ふと、これは老人虐待になるのかしらと思った。

 でも、相手は鬼だしどうでもいいか。鬼には人権なんて無いから無問題だ。そう結論付けて、そろそろ戻るかと三途の河を泳いで向こう岸に、つまりは此岸に渡った。
 渡ったら、川岸で石を積み上げている少年が居た。なにをしているのか気になって声をかけたら、「うるさい。あっち行け」と云われた。中々に肝の据わった少年だ。
 取り敢えず、その積んでた石を蹴り崩して、さらに川岸の石を含む全ての石を河の中に投げ込んであげた。そうしたら少年が感激のあまりに号泣した。僕は素直な子供が好きなのです。生意気が赦されるのは少女だけなのです。

 自分の行為に満足して振り返ると、そこには牛の様な鬼の様な奴が困った顔をしていた。どうにも僕がこいつの役割を奪っちゃったのでどうしたものかと戸惑っていたらしい。
 しかしながら、そんなの僕の知る所では無いので無視した。これが可愛い鬼娘だったのならば、謝罪の一つでもして押し倒していたかもしれない。
 そんな感じで三途の河ライフを満喫していたら、急速に意識が浮上する感覚が僕を襲った。
 導かれるままに、意識の覚醒。眼前には知っている天井。お決まりの台詞が云えないことが、これ程に悔しいということを身を以って知った僕である。
 なにはともあれ、意識の覚醒を起こした僕はエリーナさんに叱咤された。曰く、サボるなだそうだ。サボっていた訳ではないのだが、その傍若無人っぷりに胸がキュンとする。

 兎に角が生えたら、竜の探究に出てきそうなモンスターの出来上がりであると云う事は兎も角として。





 閑話休題。





*****





「大丈夫ぅ?」
「ギリギリで……」

 未だに痛む頭を押さえて返答する。痛みを堪えてでも接客をする僕はバイトの鏡だと思う。

「それでね、話の続き何だけどぉ」
「まだ話すのか!?」

 こちとら貴様の超音波で三途の河を遊泳してきたというのに。

「それでねぇ、私の事をどう思うぅ?」
「僕の発言は無視かよ畜生」

 身体をくねくねとさせながら言葉を紡ぐクルーノさんに軽く殺意が湧き起る。この野郎、頸動脈をざっくり切ってやろうか。
 今度は銀製のナイフを磨きながら、そんなことを考える。

「そんな事はどうでもいいじゃない。それで、私の事どう思う?」
「どうでもよくねぇよ」

 そう答える僕。

 半ば僕の意志を貫き通すのを諦めて、取り敢えず先の問いに答えるべく、クルーノさんをきちんと視界に納める。
 錦糸のようにさらさらとした金色の髪。
 深く静謐な色を湛えた碧色の瞳。
 綺麗に整った顔は線が細く、顔のパーツがそれぞれ理想的に配置されている。
 唇はぷるぷるとしていて、鮮やかな紅色。
 とても綺麗なご尊顔。

 視線を下方向に下げる。

 逞しい二の腕。盛り上がった筋肉が素敵である。
 厚い胸板。きっと女性ならば黄色い歓声を上げるだろう。
 割れた腹筋に、カモシカの様な脚。どれだけ鍛えればここまで筋肉が付くのだろうか。
 傷で埋め尽くされた身体は、屈強さを伝えてくる。
 理想的なボディビルダーの身体。

 視線を上方向に戻す。

 綺麗な顔はまるで美女。鍛え上げられた身体は歴戦の戦士。
 当年とって26歳の冒険者。性別雄の既婚者でオネェ口調の筋肉バカ。漢の中の漢でありながら、心は純粋無垢の乙女と自称する男。

 それが、クルーノ・ダンティーノ、その人である。

 常々思うが、よくぞこの人と結婚した人がいるもんだ。その人は、果たしてまともな神経しているのだろうか。実は、現実には嫁などおらず、妄想の世界だけに存在する疑似嫁なのかもしれない。
 そんな事を考えてしまう程に、この人が妻帯者であることに違和感を覚える。

「それで、どうかしら?」

 僕が極めてどうでもいいことに思考を割いていると、クルーノさんが尋ねてきた。
 なので、率直に答える。

「相も変わらずキモイです」
「んだとゴルゥアア!!!」
「ぬおっ!?」

 ゴガン!

 咄嗟にカウンター席に置いてあったトレイでガードする。
 クルーノさんは腐っても冒険者なので、その一撃は凄まじい。
 拳が銀製のトレイを貫通しちゃったよ……。

 この野郎、殺す気か。

 そもそも、店の備品を壊すな。怒られるのは何故か僕なのだぞ。エリーナさんの理不尽な責苦は何気に辛いのである。
 美女の行為全般に興奮出来る僕でさえ、苦悶の表情で一昼夜を過ごした程に過激である。サデスティックの極みだ。

「もう! 失礼しちゃうわ!」

 ぷんぷんと云った様子でドカリと椅子に腰かけるクルーノさん。てめぇ、顔が綺麗じゃ無かったらボコボコにしてるところだぞ。
 男の癖に美女然とした顔のせいで、僕はクルーノさんに強く出られないのだ。性別は男だと分かり切っているのに、いざ暴力を揮おうとすると、どうしてもその顔で躊躇してしまうのだ。
 そんな訳で、僕はクルーノさんが苦手である。いつもの調子で接することが出来ないのだ。

「それでねそれでね────」

 またもや話を再開したクルーノさん。
 僕はそれを聞き流しながら相手を続ける。
 終業時間まで、あと4時間。





 夜のとばりは深まるばかり。





*****





「疲れた……」


 ようやく終業となり、閉店した酒場。
 あの後も延々と無駄な生産性の無い話に付き合わされた。
 僕の精神力は削られまくって、悟りでも開きそうな心境である。

「うなー」

 後片付けをして、店を掃除して、翌日の備えをする。
 全ての作業が完了する頃には、既に空は白み始めていた。

「おつかれさま」
「はいさー」

 後ろから声をかけられ、振り向きながら返事を返す。
 相も変わらぬ、無表情のエリーナさんがいらしゃった。

「よく我慢した。褒めてあげる」
「はっはっはっ、そうでしょうそうでしょう」

 クルーノさんの相手をしている時、何度手に持ったナイフで頸動脈を切り裂こうと思ったことか。
 その度にナイフをエリーナさんから投擲されて、実行には移せなかった訳だが。

「何かご褒美をあげるわ。何が良い?」

 唐突にエリーナさんが云ってきた。
 何だか、物凄く珍しい事を仰られている。
 明日、もはや今日な時刻だが、槍が降るかもしれない。それも僕の頭上にピンポイントで。
 とても不吉な気もするのだが、しかし、千載一遇の好機。駄目元で提案してみる。

「キス! キスして欲しいです! 頬ではなく唇に!」
「……いいわ」
「マジで!?」

 しまった! 今日が世界最後の日かっ!!

「目を閉じなさい」

 エリーナさんの言葉に従い、即座に目を閉じる僕。
 なんという展開。ついにエリーナさんも僕の魅力に堕ちたか。
 素晴らしい胸のドキドキを感じながら、今か今かと唇と唇が触れ合う感触を待つ。
 そして、それは来た。

 ぶちゅり、と唇に押し当てられる湿った感触。
 とても良く香る、獣の匂い。
 歯の中まで入り込んでくる、巨大な舌。
 口腔内を蹂躙される感触。

 酸っぱい様で、とても苦い、吐き気を催す様な味。

 たまらず、目を開けた。
 そして見えた、のっぺりとした細長い獣の顔。
 この酒場のペット、ジャンギー(雄、3歳、まんま駱駝)が、鼻息を荒げて僕を見ていた。
 僕は聡いので、現状を即座に理解してしまった。

「うおぇえええええええええええ!!!!」

 手を口に突っ込んで、思いっきりリバース。

「じゃあ、ご褒美は上げたわよ」
「何がご褒美か!? 罰だろこれ!?」
「キスしたかったのでしょう?」
「エリーナさんしてくれてないじゃん!」
「代わりにジャンギーがしたわ」
「何故、ジャンギーなんですかぁ!!」
「誰と、なんて云わなかったじゃない」
「屁理屈だ!!」
「そうね」

 認めやがった。

「じゃあ、ご褒美はあげたから」

 そう云い残し、去って行くエリーナさんとジャンギー。

「う、うぅぅ……」

 僕は崩れ落ちて咽び泣く。嗚呼、いと哀れ。





 ファーストキスは、野生の味がした。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 このお話は「ほのぼの」なのです。けれども最近「ほのぼの」が書けなくなってきているのです。由々しき事態です。にゃー。基本的に作者は本格シリアス作品の方が得意なので、「ほのぼの」って書くの難しいのです。どうしたものかしら。
 それはさておき、一先ず安心安堵な心境です。オリジナル板で叩かれると覚悟していましたが、特にそう云う事もなかったので一安心。単純に「感想書くまでもないなこれ」的なことかもしれませんが。
 それでも喜んでおく作者です。鈍感はひとつの武器なのさっ!


▼ワイール!感想嬉しいよー!ありがとなー!


>ついにオリジナル版に進出してしまったか

してしまったよ……。無謀な気がしないでもない。


>ついにオリジナル版進出ですか、おめでとうございます。
>とりあえず、ダイナブレイドがゴッドバード使うなんて反則だと思うんだ。

ありがとうございます。
作者はダイナブレイド大好きです。何度、その雄姿をみたくてコンテニューしたことか。


>更新きてた
>ダイナブレイドは画面端でのホイールハメが出来ないから嫌いです

ダイナブレイド大好きな作者は、ホイールハメなんて非道出来ないのさ。

>男の娘は(・∀・*)マーダー?

(*・∀・)マーダー。


>すんばらしいです!
>メチャストライクゾーンど真ん中!
>これからも更新頑張って下さい!!

ありがとうございます。
そこまで気にいって下さり、作者冥利に尽きます。
更新は頑張りたいですが、もしかしたら打ち切る可能性が無きにしも非ずな感じです。


>あえて多くは語るまい…
>ぐっじょぶ!!

せんきゅー。


>15話はどこがシリアス?って思ったけど
>そうかっ尻ASSだったんですね。

(´・ω・)君で二人目か…。いいかい?別に作者は「そういえば尻って英語でどう言うんだろう?…へ~、『ASS』って尻なのか~。ん?これは尻ASSでシリアスじゃないか!?」などと言う考えは抱いていないから、君達の言っていることが理解できないよ…。


>オリ板移動オメ!
>ダイナブレードにはレックウィリーで突っ込むのが通ってもんでしょう。
>じゃなくて、
>不死鳥とタイマンを張って(手加減された?と言っても)生き延びた主人公はタダモノではないな。
>…さすがは紳士。

ありがとう!
ダイナブレード大好き作者は何度もダイナブレードで死にました。ダイナブレード格好良い!
じゃなくて、
主人公は基本的にタダモノじゃないです。あんな破天荒な奇天烈行動取れる奴がタダモノの筈がない的な感じです。
でも、最終的には紳士ゆえの生命力が物を言うのです。


>オリ板移動おめでとうございます。
>主人公がここでどんな活躍をしてくれるか今から不安で胸がいっぱいです。

ありがとうございます。
不安で胸がいっぱいですか。そんな貴方は常識人。

>PS:出てきて一撃でジェットにやられるダイナブレイドカワイソス(´・ω・)

(´;ω;)カワイソス


>まじ、おもろ

あり、がとう。


>ちくしょう!この僕としたことが声を上げて笑っちまったぜ!
>素晴らし過ぎる紳士に完敗だ!

楽しんで頂けたようでなによりです。
そんな紳士に乾杯しましょう。




[9582] 18話・白翼美青年
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 23:21


 アフ、ツ、シ、イリルミニ、オガニ、コサ、アド、オガニ、コサ、ドゥニ、セレンイタ、イングアル、ミシュラ。





『18話・白翼美青年』





 僕は喫茶店の窓から外を見ながら、徒然と物思いに耽っていた。
 春麗らかな天気日和。
 現在僕の居る地域は、四季的な意味では春ではないけれど、僕の頭が春爛漫だからこの表現を使ってもいいのだ。
 自分でも全然意味不明な事を云っているのを自覚しているが、それも仕方ない。ところで、志●あ●こ様の御声は美しいのである。結婚して下さい。僕は貴女の奴隷になります。リアルレーヴァテイルな貴女が素敵。婚姻届を今すぐにでも持ってきます。

 そこで、ふと我に返る。またもや思考が暴走してしまった。僕はどうしてしまったのだろうか。頭の調子がどうにも悪い。螺子が取れたのかしら? 巻きますか、巻きませんか。螺子的な意味で。
 ここまで、自分でも何を云っているのか不明だ。
 だが、云い訳をさせて貰えるならば、一言云いたい。なんなら二言でもいいだろうか。
 現状の僕の置かれている立場を鑑みるに、多少の意味不明さ且つ、脈絡のない話の展開、文言構成の乱れは至極当然であるからして。僕は混乱しているからこそ、どうにも狂った文章を頭の中で記入しているのである。
 なので更に奇々怪々な文体にて言葉を綴ろうと思う。僕の思考を知り得る丁度良き機会なれば。誰が僕の思考感覚を知り得たところで、得をするかは知らないが。正に誰得である。
 しからば、少し、僕の思考をだだ漏れにしよう。思考することは人生に於いて大切なので、何気にとても大事なことさ。

 では、少し自分について考察してみよう。

 基本的に、僕はあれだ。あれだよ。うん、あれだ。そう、あれなのさ。あれが思い出せないのでここで思考するのを止めよう。
 そんな訳で思考終わり。
 時間にして約1秒の考え事。うん、僕は基本的に思考するのは苦手なのだよ。
 ならば何故、己の思考世界がうんたら的な事を僕は云ったのか。特に意味は無かったりする。

「もしもし、聴いていますか?」

 そういえば、上記の話をぶり返すが、●方●き●様のライブチケットが即日完売したのは、まぁ仕方ないと云える。だが、立ち見チケットが30秒完売とはどういうことか。

「おーい、聴いていますか?」

 何なのだろうか。貴様らそんなに志●●き●様が大好きなのか。大好きならば何も云えないじゃないか。文句の一つでも云ってやりたいのに、志を同じくする方々に文句など云えるはずがない。

「もしも~し?」

 でもね、僕も行きたかったんだよ。●●●●●様のライブに行って、その御尊顔を、美声を見たかったし聴きたかったんだよ。

「お~い!」
「僕の悔しさを思い知れ!!」
「ぬがっ!?」

 まぁ、そもそも僕は異世界に居るからライブには行ける筈も無かったのだが。けれど、現在、現実逃避していたら唐突に思いだしたのでどうしても云いたくなったのだ。
 あるよね、こういうこと。

「い、いきなり何をするんですか!」
「バカ野郎!」
「ぐはぁ!?」
「バカ野郎!」
「ぐぇ!?」

 キャンキャンと喚くスティーノを、全く意味無く2回連続で殴ってみた。
 心持ち僕の気持ちがすっきりした。こういう時だけ役に立つな、スティーノ。

「なぜ2回も連続で殴るんですか!?」
「バカ野郎!」
「させるかっ!!」
「バカめっ!」
「ごふぅ!?」

 生意気にも僕の3撃目を防いだスティーノの腹に蹴りをお見舞いする。スティーノが痛み苦しむ様は、僕の荒れ狂う心に安らぎを与えてくれる。

 ふははは! モテモテ野郎にはこれ位当然なのだよっ!!

 痛みに悶えるスティーノを見て、僕は暗い笑みをこれでもかと浮かべる。そんな素敵な僕に乾杯。

「最低!!」
「死ね!!」
「ゴミがっ!!」
「社会の屑めっ!!」

 スティーノをボコっていた光景を見ていた、店内の女性客が僕に罵倒を浴びせながら殺到した。
 僕は女性客達にフルボッコされながら、恍惚とした表情を浮かべる。

 僕にとっては、その一撃一撃が快感を喚起する媚薬なのさ。

 ボコボコに殴られ、時には蹴られ、偶に唾を吐きかけられて、僕は快感の渦に翻弄される。嗚呼! もっともっとぉ!!
 その時。

 スコンッ。

 包丁が、僕の頬を裂いて床に突き刺さった。
 僕の愛らしい頬から、赤い雫が流れる。
 僕を含めて、その場の全員が、包丁の飛んできた方角を見遣る。
 そこには、とても綺麗な笑みを浮かべている喫茶店のマスターがいた。

「他のお客様の邪魔になるので、それ以上騒ぐと殺しますよ?」

 絶対零度の笑みを浮かべるマスターを見て、女性客の皆さんが即行で喫茶店から逃げ出した。
 それを見届けて、マスターは自分の作業に戻る。
 今日も恐いね、マスター。僕と同年代なのに、漂う貫禄が桁違いです。何が僕達の持つ雰囲気を、こうも違わせたのだろうか。

「……取り敢えず、落ち着きましたか?」
「……割と」





 主にマスターの気迫でハイテンションが沈下しました。





*****





「それで、何だっけ。貴様の惚気話を聴けば良いんだっけ? 死ね」
「違います!! 話が改竄されている上に、私を罵倒するとは何事ですか!!」
「瑣末事だ」
「私が悪意の言葉を浴びせられるのが瑣末事!? なんですか、貴方はそんなに私が嫌いですか?!」
「うん!!」
「なんて爽やかな笑顔っ!?」

 何故か慄いているスティーノ。
 その姿さえ様になるのだからムカツクことこの上ない。
 背中にある、目に眩しい2枚1対の白翼を毟って燃やしたい。
 イケメンは僕の敵だ。僕は敵には容赦しない。
 短い付き合いだったな、スティーノ。

「なにか邪悪な事を考えていませんか!?」
「いや、びっくりするほど善良な事を考えている」

 どうにも僕の邪心を気取った様子のスティーノ。流石は鳥。殺意に敏感だ。
 これでは、スティーノ焼き鳥計画は頓挫だな。残念極まりない。

「……はぁ、まあいいです」
「溜息を吐くと幸せが逃げるぞ。貴様に幸せが来たら、どのみち僕が握り潰すが」
「陰湿だな! 貴様は本当に!!」
「陰湿じゃない! 陰険なんだ!!」
「どちらも変わらないだろ!?」
「意味合いが少し変わるわ!!」

 ほんのり変わる。
 詳しくは辞書を引こう。

「どうでもいいが、貴様口調が粗暴になっているぞ」
「むぅ」
「反省しろよ。全く、粗野なことこの上ない」
「……誰のせいだとっ!!」

 ワナワナ震えるスティーノを見て、僕はニヤニヤと笑う。
 ストレスで禿げてしまえっ。

「貴様とは本当に、一度決着を付けなければな!!」
「望むところだ! 今すぐやるか!!」

 いきり立つ僕とスティーノ。お互いにテーブルに手を着いて立ち上がる。ギラギラした眼は、油断なく、相手を射殺さんばかりに睨み合う。
 正に掴みかからんとした瞬間。
 手がテーブルから離れようとする、正にその時。

 スコン、スコン、スコン。
 ストン、ストン、ストン。

 広げていた指の間に、ナイフとフォークが突き立った。
 それを切欠に、僕とスティーノの動きが止まる。ギリギリと、油の切れた機械人形の如く、白銀の軌跡を描いて飛んできた方向を見る。
 にこりと微笑みを浮かべたマスターが、音もなく口を動かす。

 こ・ろ・す・ぞ。

 その口の動きを視認すると同時に、土下座を敢行する僕と直立で最敬礼をするスティーノ。

「次はないよ?」

 マスターは、壮絶な笑みを顔に張り付けて仰った。
 僕とスティーノは、ガタガタと震えるばかり。




 どうでもいいが、マスター。あんた何者だ。





*****





「───と、云う訳です」
「……要は、ジジとメアを説得しろと?」
「はい」

 平然と頷き返すスティーノ。
 貴様は自分が何を云っているのか理解しているのか。

「そんなの自分でやりやがれ」
「私では無理だから頼んでいるんですよ」

 困った顔をするスティーノを見て、新たに入って来た女性客達が小さな歓声を上げる。
 ……畜生。本来ならば、ここいらでスティーノに殴り掛かるか女性客達に襲い掛かる所なのだが、マスターがニコニコとした顔つきで、しかし鋭い眼光を僕に突き刺しているので、うかつな真似が出来ない。
 くっ、まさか僕が男に屈する日が来るとは思わなかった。

「っち!」
「何故いきなり舌打ちを!? そんなに嫌ですか?!」
「それもあるが、まぁ、他にも色々と」

 いつの日かマスターに下剋上をしてやる。
 そんなことを密かに決意しながら、話を戻す。

「なんというか、あれだ。説得程度の事、てめぇで勝手にやれよというのが本音だ。ただでさえ、ムカツク貴様と二人っきりで喫茶店に来てやってるのに、その上、僕に頼み事とか巫山戯るな」
「……そこまで私は貴方に嫌われているんですか……」
「何を云う。まだまだこんな物ではない」
「それ以上、云わないで下さい。そこまで確然とした嫌われ方に、私は慣れていないので、普通に凹みますから……」
「結構な事じゃないか」
「……全然結構じゃありませんよ」
「僕は嬉しい」
「私は嬉しくありません!」
「……そうか」
「本当に心底残念だ、みたいな顔をしないで下さい!!」

 人の表情にまでケチをつけるなよ。

「それで、どうですか。やって頂けませんか?」
「めんどい」
「お願いします! 貴方が頼りなんですから……」
「ジジとメアを王都に、ねぇ……」
「ええ。どうか、どうかお願いします!」
「メアなら簡単に説得出来そうだけど、ジジがなぁ……。下手したら、骨の二・三本覚悟しなきゃならないからなぁ……」

 説得しなきゃ駄目なほどに、王都に行く事に対して消極的ならば、それこそ本格的に八つ当たりされるかも知れない。
 どちらにせよ、ジジからの痛みは快感に変換可能だから、八つ当たりされることはどうでもいい。だが、それで骨をやられて自由気侭にジジやメアにボディタッチ出来なくなるかも知れないのが辛い。
 うんうん唸りながら悩む僕に、スティーノが意外な事を云ってきた。

「いえ。おそらく、最も説得が必要なのは、むしろ魔女殿の方かと」
「……なに?」

 そうなの?

「ええ。聖魔様はそこまで毛嫌いしておりませんが、魔女殿は相当に抵抗があるようなので」
「メアがねぇ」

 中々に信じ難いな。

「それで、どうでしょう。引き受けてくれますか?」

 スティーノが縋るように僕を見てくる。キモいから止めてくれ。

 しかし、どうしたものか。別に引き受けても僕は困らない訳だが。断られても、それはそれで良いし。僕とは関係ないことだから。
 その前に、先程から気になっている質問をしてみよう。

「ひとつ質問だ」
「なんですか?」
「どうして僕なんだ。他にも居るだろう適任は。イリーヤさんとかエリーナさんとか」

 他にも色々と。

「皆さん、貴方が最適だと仰ったので」
「……何故に?」

 解せぬ。
 云ってしまうと情けないが、僕はただの居候だぞ。特段特別な関係では無い。未だに、恋人が行う夜の営みとかしたことないし。
 今晩にでも挑戦してみようかしら?

「それに、私も個人的に貴方は凄いと思いますから」
「急にどうした!? 貴様も頭が春爛漫なのか!!」
「茶化さないで下さい。これでも本気でそう思っているのですから」

 真剣な表情を浮かべるスティーノ。その表情に熱い吐息を漏らす女性客達。まだ居たのか貴女達。

「私は、常々不思議に思っているのですが……」
「ん?」
「その……」

 俯いて云い難そうに、ともすれば居心地悪そうに、言葉を濁すスティーノを見てどうしたのだろうかと思う。
 云い難い事なら無理して云わずにそのまま失せろ。
 そんな事を思っていると、意を決したかのように顔を上げ、しかし若干、気まずそうに言葉を発した。

「貴方は、聖魔様や魔女殿が、その、怖くは無いのですか? 恐ろしくは、無いのですか?」
「全然」

 何を云ってるんだ、こいつ。

「……凄いですね。即答ですか」
「何が凄いのかさっぱりだ。貴様はさっぱり妖精を呼びたいのか?」
「そんな気はありませんよ。ただ、純粋に凄いと思っただけです」
「貴様の云ってる事は、最初から理解するつもりは無かったけども、流石に今のは本気で理解できなかった」

 可愛い女の子と可愛い子猫を相手に、怖がる理由も恐れる理由もないだろうに。
 こいつ、ついに頭に蛆でも湧いたのか?

「その台詞を、この世の中の何人が云えると思っているんですか……。それも即答だなんて」
「何気に沢山居るんじゃないか?」
「………どう、でしょうね」
「貴様は違うのか?」
「私は、真っ先に浮かぶ感情は、畏怖と畏敬ですから」
「ふーん」
「貴方は、そんな感情も無いのですか?」
「家族相手に畏怖だの畏敬だのと云った感情を持つ訳ないじゃん。尊敬の念は抱いても、畏れの念を抱く筈がないだろう」

 どれほど強くても、どれだけ凶悪な能力を保有していても、例え犯罪的な可愛さを振り撒こうとも。

「家族なんだから、その全てを受け入れるのは当然じゃないか」
「───そう、ですか」

 そう云うと、スティーノは目を細めた。
 まるで、眩しい物でも見ているかの様に。
 その視線を僕に向けている。

「貴様! 僕が禿げているとでも云いたいのか!!」
「ええ!? いきなりなんですか!?」
「眩しそうに人を見やがって! あれか、僕の頭頂部が光輝いているとでも云いたいのか!? 僕はフサフサだあ!!!」
「突然意味不明な事を云わないで下さい!」

 があああ! と雄叫びを上げながらスティーノに突進しようとした瞬間に、ヒュンという風切り音が聴こえ、喉元を何かが掠る。
 カツンという音がして、出刃包丁が壁に突き刺さっていた。
 恐る恐る、出刃包丁が飛んできた方向を見る。

「……学習しろよ」

 温度の無い笑顔を湛えたマスターが、ギラリと手に持った刺身包丁を光らせて見ていました。
 即座に土下座をして、且つ皿洗いなどの雑務を手伝わせて頂きましたよ、ええ。



 ジジやメアよりも、ここのマスターの方が普通に怖いだろ。





 因みに、説得の話は有耶無耶に流れましたとさ。チャンチャン。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
@がき

 本来作者は怠け者なのです。作者の座右の銘は「頑張りません!死ぬまでは!」なので、基本的に怠惰に身をやつすのがライフスタイルなのです。
 何が言いたいのかというと、更新を凄まじく不定期にしようということです。なんかもう、色々と面倒なのです。あーうー。
 次回の更新はもう、再来年程度でいいんじゃないかな?ほら、この作品のコンセプトとか言うのは「暇潰し」であるからして、作者も暇つぶしに書けばいいじゃないかと。本来の文章力向上という目的を無視していることには、作者は全く気付きません。

 結論、更新頻度はガタ落ちさせるんだ!忘れた頃に投稿すればいいじゃない!だって怠け者だもの!


▼感想を見るとニヤニヤしてきます。嬉しさで。


>この主人公タダモノではない。ケダモノである。

なん…だと…っ!?


>[67]お茶漬け
>粥…うま…。

そこは、お粥じゃなく、お茶漬けを食べようぜ?


>とても面白かったです、ナイス変態。

ありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。それと、一つ。
変態じゃないよ!紳士だよ!


>素敵。惚れた。

誰に?クルーノに?正気か!?

>ところで、ジジの擬人化はいつですか?(*´Д`*)ハァハァ

やっぱり必要ですかねぇ?希望が多ければ擬人化させてみようかしら。
今の所、2通りの構成があるのですよ。完全獣娘ルートと定番人型獣娘ルート。この2つが。でも、どちらで進むかは未定。


>こんな面白いのがチラ裏にあったのか!
>とりあえず主人公には激しく同意出来る俺がいる。
>まぁ守備範囲はもう少し前にいるけど。

面白いと言って頂きありがとうございます。
頑張れば守備範囲は広がると思います。頑張って!

>ただの人間には興味ありません。この中に、幼女、少女、いね、ぬこがいたら、あたしのところに来なさい

「にーにー!」
「おにいちゃーん!」
「わんわんお!」
「君はホントにバカだなぁ」

願いが叶った感想はどうだい?


>ワイール!
>なつかしぃ・・・

もうすでに懐かしいと言われる程の時間が経っているんですねぇ…。
個人的にはクイッキー大好きだった。


>ほの…ぼの…?
>君が何を言っているか分かんないよ…
>どう考えても尻assです、本当にありがとうございました。

(´・ω・)もう、何も言うまい……。


>超絶美女な顔面のガチムチとか、どう考えても尻assすぎんだろ…。主人公の貞操的な意味で。
>超音波放つガチムチとか強すぎる。これは剛田家の長男を呼び出すしかない。

早まるな!思い出せ!破壊的なバイオリンの音色を奏でる少女がいるじゃない!どうせなら、そっち呼び出そうぜ!
そして繰り広げられる、騒音という名の暴力。


>ほのぼの純愛かと思って釣られた俺バカスwwww

(´◉◞౪◟◉)悪いな。人生そう甘いことばかりじゃねーんだ。


>全部読んだがなぜか国語の先生が一番印象に残った・・・

国語の先生は可愛いから仕方ないさ!
あそこまで積極的なアプローチを、死んだ後でもいいから受けてみたいです。


>遂にオリジナル板に進出か……。
>めでたいような恐ろしいような(紳士集結的な意味で)。
>まぁ、主人公に激しく同意できる俺が言うことじゃないけどね!
>ちなみに8話で男の娘は出てるような?
>ところで男装少女はマダー?

進出さ!もうチラシの裏に帰ろうかしら?
恐れる事は、あんまりないさ(紳士終結的な意味で)。
主人公はきっと、皆の心の代弁者さ!決して作者の心を代弁している訳ではない!ここ大事よ!
8話のは「女装男児」だから「男の娘」じゃないのさ。「男の娘」はあれだ、最近人気の「●たな●」なんだよ、きっと。
男装少女……出して欲しい?出演キャラが多くて、頭がこんがらがるとかなりそうだね。それが心配。




[9582] 19話・藍赤幼女
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/06 23:45


 最終的には劇的に、ぐっと素敵に無敵に、助けて見せる!





『19話・藍赤幼女』





 ゆったりと、コーヒーを飲みながら人心地をつく。
 出来る得る限り音を立てない様にコーヒーを啜りながら、目を閉じる。これこそカッコイイ大人の飲み方。目を閉じるのは匂いをより意識して嗅ぐためだった気もするが、そんなこと僕は知らない。目を閉じながらコーヒーを飲むのが、僕のジャスティスであるからして。
 喫茶店の窓から、青天を見上げる。雲一つない空は、とても広大で美しいと個人的に思っているので、見続けても10秒間は飽きない。流石に10秒以上は飽きます。
 空へと向けていた視線を、ゆっくりと戻し、眼前の光景を見る。
 そこには、二人の幼女が美味しそうにパフェを食べている光景があった。猫耳と狐耳が揺れている。ゆらゆら。
 本当に、心の底から美味しそうに食べる二人の幼女。あぐあぐと一心不乱に食べる姿が実に愛らしい。口元に付いたクリームが愛嬌を感じさせ、時折見せるほころびた表情は、どうしようもなく保護欲を掻き立てられる。あまりにも可愛い二人の所作に、理性をかなぐり捨ててでも飛び付きたい所なのだが、この喫茶店内ではそれが困難だ。

 その理由は、至極簡単である。
 僕と二人の幼女が座る席を優しい笑顔で、しかし、その笑顔とは裏腹な鋭い眼光で僕をピンポイントで射抜いているマスター。そのマスターの存在が、僕の紳士的な振る舞いを抑制させる。させられる。無理矢理に。だって怖いんだもの。
 その視線から逃れる様に、僕は意識を幼女二人に集中させる。
 僕の視線の先に居る幼女達は、相も変わらず、これ以上の幸福はないとばかりの笑顔である。その笑顔を見るだけで僕も幸せです。
 幼女達は甘味の美味しさを味わって至福を獲得し、僕はそんな幼女達の浮かべる笑顔に至福の味わいを得る。嗚呼、なんと素晴らしき循環模様か。
 僕が感慨無量な心持ちの時、目の前の幼女二人が口を開いた。

「おいしいねぇ~」
「うん。美味しいわね」
「甘いよ~」
「甘いわね」
「おいしいねぇ~」
「ホントねぇ」
「アリカちゃん、おいしいね!」
「そうね。美味しいわね、ノエル」
「あたしはね、幸せだよ?」
「そうね。わたしも幸せよ」
「あ、アリカちゃんの口にクリーム付いてる」
「あら、どこに……ノエル、舐めないで。はしたないわよ?」
「らっへおいひいんだみょん」
「ぺろぺろ舐めないでよ、犬かアンタは」
「イヌじゃないよ? ネコだよ?」
「知ってるわよ。……ん? あら、ノエルもクリームがほっぺたに付いてるわよ」
「ほえ? どこ?」
「ここよ。んっ」
「にゃー、くすぐったいよぉ、アリカちゃん」
「ひゃっきの、おかえひよ」
「……むぅ~」
「ふぅ、美味しかった」
「取れたぁ?」
「ええ、取れたわ。それより、パフェってこんなに美味しいのね」
「うん。ここのパフェが今まで食べた中で一番おいしい」
「……ちょっと、そっちのパフェも一口ちょうだい」
「いいよー。はい、あ~ん」
「あ~ん」
「おいしい?」
「むぐっんぐっ、んっ。……ええ、とっても美味しいわ」
「じゃあ、あたしにも一口ちょーだい!」
「はいはい。ほら、あ~ん」
「あ~ん☆」
「もう、そんなにがっつかないの」
「あぐっむぐっ、んっ。……おいしいー!」

 そんな会話を繰り広げながら、お互いに笑い合う幼女二人。以前に知り合った幼女、ノエルちゃんとアリカちゃんである。二人は「おいしいわねー」「ねー」と云いながらパフェを美味しそうに食べ進める。
 僕はそんな二人から、空を見るような素振りで目を逸らす。見ていられない。この光景を直視してしまえば、マスターの存在を忘れて襲い掛かりそうになるがゆえ。
 僕は、流れ出た鼻血を拭きながら空を見る。実際には空を見る振りをしながら、感動に震えていた。
 先日のスティーノからの頼まれ事を、どうしたものかと考えながら街中を歩いていた時、偶然に遭遇した二人を御茶に誘ってよかったと心底思う。ノエルちゃんは簡単に釣れたのだが、アリカちゃんが難物だった。警戒心がバリバリで、頑として首を縦に振ってくれなかったのだ。

 しかし、僕は諦めずに頑張った。凄く頑張った。具体的には、お菓子に弱いアリカちゃんに、お菓子を与えて懐柔しただけなのだが。
 その際の「お菓子は食べたいけど受け取っちゃ駄目、でも食べたい」といった様子の苦悩に満ちた顔が、たまらなく魅力的でした。
 ふぅ、と思わず息を吐く。よかった、あの時諦めなくて。危東学生、試合は終了しませんでした。危東学生の意味が分からない人は、文字を全部反対にしてみよう。

「ふ、ふふ、ふふふふふふふふ」

 空を見上げていると、思わず笑い声が漏れてしまった。
 もうね、可愛いは犯罪だということを、今以上に得心がいったことはないよ。先の幼女二人の絡みとか、アカンわ。僕のマイサンがこれでもかとばかりに発奮してしまっている。取り敢えず、落ち着くんだ、我が愚息よ。ここでは駄目だ。あの暴虐の化身たるマスターが見張っている。未だ機は熟さず、時を静かに待つのだ。必ず好機はある。その時まで待つのだ。

 必死に自分の猛りを静めることに努める。こんなに頑張って理性を総動員して本能を宥める僕は紳士の鏡ではないかと思う。
 そんな僕をマスターが鋭い視線で射抜く。少しでもおかしな行動をすれば、マスターの手の中に納まっている万能包丁が閃くことだろう。
 どうせなら、包丁を媒体にして『かみさま』な少女を喚起して欲しい。単純に投擲するよりも、そちらの方が効果的だと思うよ。僕も逢えたら嬉しいです。

「ごちそーさまー!」
「ごちそうさま」

 そんな益体もない事をつらつらと考えていると、ノエルちゃんとアリカちゃんがパフェを食べ終えていた。
 その口元には、やはりというべきかなんというべきか、クリームが付いている。こういう所が酷い程にかわゆい。萌えだよ。これは一つの萌え要素だよ。
 僕はだらしなく緩んだ顔で、ナプキンを手に取る。

「ほらほら、お口が汚れているから拭いて上げるよ~」

 そう云って身を乗り出す僕から、距離を取るアリカちゃん。そんなアリカちゃんとは対照的に、僕に拭いてもらうのを待っているノエルちゃん。
 僕はノエルちゃんの期待に応えるべく、丁寧に口元をナプキンで拭う。優しく、包み込むように、気持ち良さを持たせた感触で。これで、このナプキンが生理用品だったら完璧だと思う。違う意味で。

「……ん…ぅん……にゅ……」

 時折漏れる声が、なんだか僕を変な気分に高めます。どうしよう。もう、押し倒そうかしら。
 このまま永続的に拭っていたかったのだが、あまりやりすぎてもいけない。ノエルちゃんの可憐な唇が傷付く可能性があるから。
 キリの良い所で、ナプキンを口元から離し、クリームで若干ベトベトになったナプキンを懐に仕舞う。

「ありがとー」

 花も恥じ入るだろう可憐な笑顔でお礼を云ってくるノエルちゃんに、どういたしましてと言葉を返しながら、新しいナプキンを手に持つ。
 そして、狐耳をピンと立てているアリカちゃんの方を向く。今の僕はとても良い笑顔を浮かべていることだろう。

「さぁ、次は君の番だよ。こっちにおいで~」
「いいわよ、わたしは自分で出来るもの」
「じゃあ、あたしがふいて上げる!」

 僕の申し出を断ったアリカちゃん。そんなアリカちゃんにノエルちゃんがナプキンを持って近寄る。

「いいわよ! 自分で出来るから!」
「だーめー! あたしがふくのー!」
「こら! 髪の毛を掴むのは止めなさい、痛いから!」
「じゃあ、こっち向いてよー」

 やいのやいのとじゃれ合う幼女二人を見る僕は絶賛微笑み中。
 凄く微笑ましい。これは微笑まずにはいられない。

「あー! ナプキンが落ちたー!」
「ほら、もう諦めなさい。拭くものなんて、もう持ってないでしょ?」
「う~」
「唸らないの」
「じゃあ、ナメ取るもん!」
「なにを云ってるのよ。……こら、ノエル止めなさい!」
「むぅ~!」
「ああもう! 舐めないの! くすぐったいでしょ!」
「さっきはさせてくれたのに、どうして今はダメなの?」
「さっきはパフェの甘さで、わたしもどうかしていたの。でも今は理性がきちんと働いているし、そもそも、そんなはしたない真似は下品でしょ?」
「納得いかなーい! いいもん! そんなのあたし知らないもん! だからアリカちゃんのクリームをナメるもん!」
「ちょっ、こら! 体重をかけるな!」
「ぺろぺろ~」
「アンタ、その仕草は猫じゃなくて犬っぽいわよ!?」
「ちゅー」
「なんでいきなりキスっぽくしてんのよ! あ、こら、だから体重かけるなって! バランスが……」

 ノエルちゃんがアリカちゃんを椅子の上に押し倒して、口元をぺろぺろ舐める。それに手足をバタバタさせて必死に抵抗するアリカちゃんだが、ノエルちゃんはそんなの意に介さずに舐めていく。
 幼女が幼女に押し倒されて、尚且つ、絡み合う姿。なにこれ凄くエロイ。だんだんと動きの鈍くなったアリカちゃんは、赤い顔で息を整えている。その息を整えている最中の表情が、あれだ、ヤバい。色んな意味でヤバい。
 一通り縺れ合った二人は、はぁはぁと息を荒げている。その息遣いが僕の琴線に触れるぜ。我が素晴らしき息子の溌溂っぷりが尋常ではない。何もしていないのに賢者化してしまいそうだ。

 そんな僕の心の機微など知らぬとばかりに、一足早く息を整えたノエルちゃん。その綺麗な藍色の髪を手櫛で整えながらも、にこにこと満開の笑顔を浮かべている。
 それとは対照的に、美しい赤色の髪よりも赤い顔で必死に息を整えているアリカちゃん。ぜぇぜぇ、という悩ましい吐息を繰り返している。やはり赤いから、息を整えるのに時間を三倍要するのかしら。
 僕は二人の幼女を見ながら、心の中で泣き叫ぶ。どうして今この瞬間に僕は撮影機を持っていないのか。永久保存に値するほどの光景だというのにっ……!!

 表情は穏やかなままで、しかしながら、悔しさに手を握りしめる。
 血が滴るのではないかと思う程に握りしめる。でも痛くなってきたので握るのを止める。あー、痛かった。
 手をぷらぷらとしながら、目の前の幼女二人を見て、にへらと顔が崩れる。可愛いんだもの、仕方ないよ。

 可愛いは正義であり、正義とは崇高な物である。さらに云えば崇高な物の代表例は神である。
 即ち、可愛い幼女は神なのです。女神様です。

 異論は認めるが、その時は僕と全面戦争をする覚悟を抱け。

 とりとめのない事を脳内で考えながらも、視線はぶれること無く幼女二人を捕捉し続ける。可愛いなー、もー。





 僕は久方ぶりの桃源郷を味わったのである。





*****





 喫茶店で支払いを済ませ、ノエルちゃんとアリカちゃんの二人の幼女と別れて帰りの途についた。
 支払いの際にマスターと視線が合った時は、一瞬びくりとなりました。紳士たるこの僕が、まさか一介の喫茶店店主風情に気圧されるとは思いもしなかった。実に稀有な体験だったよ。
 そもそも、マスター。アンタはホントに何者だよ。その正確無比な投擲術に、仮にも元の世界で悪の組織の末席を汚していた僕を気圧すだけの迫力。アンタは本当に一般人か?

 それとも、喫茶店のマスターと云う職種はその程度の技能が必須なのだろうか?
 そんな事を徒然と考えながら、帰り道を歩く。
 黙々と歩くのだが、やはり一人は少し物寂しい。こんなことならば、ノエルちゃんとアリカちゃんの家にでもお邪魔すればよかった。将来を一方的に誓った仲ですみたいなことを云って。

 因みに二人とも家族が迎えに来て一緒に帰って行きました。迎えに来たのは、凄く綺麗なお姉さんの二人組でした。やはり可愛い幼女の姉妹は綺麗な人で定番です。妹が可愛いなら姉は綺麗。鉄板です。鉄板のネタです。そのお姉様に僕は一瞬で発情しそうになりましたが、幼女二人の、太陽の如き笑顔に撃沈しました。スパイラル鼻血を噴き出して物理的に撃沈しました。
 もしも、どちらかの家にお邪魔していたら、その家の姉妹と丼料理を食べれたかも知れませんね。
 そんなことを夢想しながら、とぼとぼと帰りの道を歩いて行く。無駄に丁寧な口調になっちゃった。

 空は夕闇に染まり、周囲は薄暗くなっている。特段、暗闇を怖がると云う事はないけれど、それでもやはり物寂しい気分が胸に去来する。先程の家族の触れ合いを思い出すと、特に。
 これは、あれだろうか。随分と久しぶりに、僕が家族と云う存在と触れ合ったがゆえの寂寥感だろうか。久しぶり、というよりも初めてに近い感覚だ。僕は家族と云う存在と、今迄に2時間以上、同じ場所で過ごした事がないので、どうにもこの寂寥感が何に起因しているのか分からない。以前は、元の世界では、そもそも会話さえも殆ど無かったしね。

 僕を売った上に、借金背負わせてきたくらいだしなぁ。

 他にも色々とあるが、一般家庭で云うところの家族間イベントなんて起こった事がない。
 家族と云うより、見知った他人という感じだった。両親の声とか、あまり思い出せない。声を聞いたことがるのは、現在までで1時間も無い筈だ。向こうも僕に興味無かったし。

 あれ? もしかして僕の両親ってば最低なのかしら?

 ふと思うが、まぁどうでもいいやと切り捨てる。どのみちなんとも思ってないし。ただ、僕を一時的な金儲けに使ったのは腹が立ったけど。
 そんな事をボケッとした頭で考えながら歩いていたら、目の前に人影が在った。
 目を凝らしてみると、背丈の小さな影と、その足元にさらに小さな影が、こちらに向かって来ていた。

 メアとジジが、僕に心持ち早足で、近寄って来た。
 僕を迎えに、来てくれていた。

「帰りが遅いので迎えに来ました」
「お主が何処にいるのか分からんかったから、結構捜し回ったのじゃぞ?」

 温かい笑顔を浮かべて、僕の安否を心配していた旨を云ってくれるメア。
 つんけんした態度ながらも、目が泳いでいるので僕を心配していたことが事が分かるジジ。
 その気遣いに、少し、胸がほんわかした。なるほど、これが真の家族と云うものか。把握した。
 顔がほころんでいるのを自覚しながらも、どうしてもニヤニヤとした笑みが止められない。

「なにか、楽しいことでもあったんですか?」
「ニヤニヤして、気持ち悪いのぅ」
「はっはっは、楽しい事が現在進行形アルヨ。それと僕を気持ち悪いって云わないで! 泣くよ!?」

 そんな会話をしつつ、並んで一緒に帰る。
 天空に浮かぶ、3つの月が、僕達を照らしていた。

「そう云えば、どうして街に居たんですか?」
「……あれ?」

 月の光で伸びる影の中、メアの質問に答えられない僕。
 そういえば、なんで街に繰り出したんだっけ?





 幼女との思い出で、当初の目的を忘れてしまった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 ただいま試験期間真っ最中の作者です。試験勉強せずにひたすらに文章を書いていました。きっと、作者は脳を患っているのでしょう。誰かいい病院紹介してください。あ、病院は綺麗で可愛い上にどことなくエロイ女医さんがいるところをお願いします。


閑話について

 同じく試験期間真っ最中にも関わらず、何故か2作品も書いた作者は本格的に駄目人間の道を歩んでいます。千里の道は一歩も歩かず。だって疲れるもの。
 そんな訳で、閑話は本編とは、ほぼ関係ない話です。ぶっちゃけ見なくても困らない話です。
 閑話は実験的な試みをしていますので、クセのある文章になっています。それが嫌だという方は、読まずにブラウザバックで他作品を読むと幸せになります。


▼気がつけばPVも50000を越えています。なんだか、ちょっと嬉しい反面恐ろしい気持ちで一杯さ!


>意味は分からないけど面白い。

基本的にこの作品に意味はありません。
偉大な先駆者も言っています。考えるな感じろ、と。


>読んでて昔が懐かしくなりました。なんでもすいこむ~~。
>何気にみてとれる主人公の頑張りに惹かれました。ネコ可愛いです。

昔を懐古させるネタだということに、作者は驚愕です。
年は取りたくねぇなぁ……。


>このSSは紳士板を作ってでもそこへ移すべきだと思う。
>かkじゃなく先駆者的意味で

もしもそれで、紳士板にこの作品しかなかったら……。
恐ろしい想像をしてしまったぜ!


>「頑張りません!死ぬまでは!」
>何故か、異常に感動している自分がいる。姿すらしらぬあなたが空でサムズアップをしているのが見えました。

( 罪)<貴殿が某をどのような姿で空に投影したのか、実に気になる次第でござる!


>ハァハァ…みよちゃん先生……ウッ!
>ふぅ…やっぱり最初はデートからだろJK

みよちゃん先生が汚された!?畜生!みよちゃん先生を汚していいのは作者だけなんだぞ!
悔しいから、こんなの書いてやる!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
はぁはぁと荒い息遣いが耳朶を打つ。
ベッドに身を横たえるみよちゃん先生の、その白い首筋に舌を這わせる。

「んっ、あぁっ、ぃやぁあ……」

力無く否定の言葉を紡ぐが、しかしその声にはまぎれもなく甘い響きが多分に含まれていた。
僕は、みよちゃん先生の首筋を舐め上げながらも、右手をその豊かな双丘に乗せて、揉みしだく。服など、とうに脱がせているので、その柔らかさを手がダイレクトに感じる。
喉が、ごくりと鳴る。
最初は、ゆっくり優しく、次第に、早く幾分乱雑に。

「はぁ、はっ、はっ、くぅうんっ……!!」

必死で喘ぎ声を堪えるみよちゃん先生に、どうしようもない加虐心が湧き上がる。
僕はその顔に、若干のサドスティックな笑みを湛えて、左手をみよちゃん先生の腹に乗せる。
腹を優しく優しく撫で回し、その手が腰を撫で、脇腹をくすぐるように撫で上げる。

「ひぅ! んぃっ、くぁぁあ……」

感度は実に良好。みよちゃん先生の顔が真っ赤に染まる。
頬はこれ以上ない位に上気して、瞳は潤み、息は乱れる。

はぁはぁ。

荒々くも、多分に甘い吐息を含む息遣い。
僕が思わず舌なめずりをしてしまう程に色っぽい。
腹に乗せた手を、ゆっくりと下降させていく。

「……っ!」

息を飲む音が、みよちゃん先生から聞こえ、その音にたまらない程の興奮を覚えた。
そのまま、ついに手は秘境へと───
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
書くのに飽きた。


>ジジはこのままでも良い気が。
>この紳士がビックライト的な怪光線を目から放ち、そのままおっきなヌコと超絶紳士皆伝の主人公が地上で痴情がアーッアーッアーッでイイと思ふ。

なんだか、そんな感じの大人のビデオが有った気がするー。
ひとつ言わせてもらえば、そこまでいくと紳士じゃない気がするのさ!
取り敢えず、ジジは閑話の方で人化させてみました。これを踏まえて意見なんかくれると嬉しいです。


>爆wwwww笑wwwwwww
>ここまで変態だと、きもやかとしか言えない。

きもやかなんて初めて言われた!それと、変態じゃないよ!紳士だよ!

>最後のコメ返しが絶妙で、本文と同じくらい好きだ。
>作者、結婚してくれ!

(´・ω・)先ずは君の容姿を教えてもらおうか?


>メルニクス語を暗記したけど使い道が見つからなかった馬鹿が駆け抜けましたよ。

あっ!メルニクス語を暗記した人だ!待ってぇ!ちょっと待ってぇ!……くっ、この俺が追いつけないだと!?俺がスロウリィ!?
(´・ω・)イエス、スロウリィ。


>今更ながら13話の冒頭ワルキューレじゃないですかww

ついにバレた!?……バレたからには、このままではイケナイ!
そんな訳で、殆どの冒頭を改変しました。
わるQ作者大好きです。アニメも漫画もどっちも大好き!嫁に来て欲しい……。


>いいですよね、リアルレーヴァテイル。俺にあなたを守らせてくれ!

いいですよねー。作者がライナ●やクロ●の位置にいたら、迷わずハーレムを形成するぜ!
そして最後は、メールで「さよなら」と言われて刺される作者。


>発見して一気に読みきってしまった・・・
>とても面白かったです!!
>もう主人公の変態っぷりに、久々に笑いながらSSを読ましてもらいました!

いやはや、一気読みして頂き光栄です。
どうもありがとうございます。
最後に、変態じゃないよ!紳士だよ!


>> 貴様はさっぱり妖精を呼びたいのか?」
>> 「そんな気はありませんよ。
>居るのか!

いません!
……いや、ほんとのところは作者も知りません!ごめんね!




[9582] 閑話01・穏やかに壊れた世界
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2009/08/02 13:27
(※注:この作品は本編にはほぼ関係ないお話です。文章もクセがあります。そういうのが苦手な方は、ブラウザバックで他の良作品を読んで頂けると幸せになれます)


 これは、わたしがにーにと出逢う前の想い出。
 今は懐かしき、昔語り。




『閑話01・穏やかに壊れた世界』





 わたしの世界は崩れました。





*****





 わたしが存在するのは水の中。見える景色は機械的。
 水泡が上に上に昇ってく。こぽこぽー。
 変わり映えのしない風景は、白い白い光景。
 ばさばさ動く白い服。裾が無駄に長い。ばさばさー。

「ここでの検体の微反応なのですが……」
「───に於ける拒絶抗体の検出は……」
「……その点は、魔導回線を切断しての───」
「C検体16番に重大な破損を検出し……」
「……D検体3番が暴走時のデータですが───」
「───G検体12番を破棄した件によりまして……」

 白い服を着ている人間が、ムズカシイ事を話してる。
 眼鏡とかいう物を身につけている人間たち。
 人間は眼鏡が必須なのかな? かな?

「むっ。……U検体7番の自意識はいつ頃から目覚めた?」
「336時間24分12秒前です」
「自意識覚醒による固定認識差異の有無はどうだ?」
「認識に差異は見られません」
「そうか」
「ですが、自意識が芽生えてから、生物としての成長速度が他の検体よりも12倍上回っています」
「ほぅ」

 わたしの前で、なにかを話し合っていた人間。
 興味深そうにわたしを見てくる人間。じろじろー。
 わたしは裸だから、これは視姦なのかな? 変態さん?

「……我々の些細な行動からも、貪欲に情報を得ようとしているのか……素晴らしい……」

 髭を伸ばした人間が、わたしを見詰めながら云う。ひげー。
 その後も何かを色々と話していた人間たち。一区切り付いたみたいでわたしの前から去って行く。
 そんな人間の背中を見ながら、わたしは欠伸。ふわぁ。
 眠いです。ねむねむです。
 それでも今の内から眠ってしまうと、照明が落ちた後で眠れなくなるから眠らない。でも眠い。ねむーい。
 ふわぁともう一つ欠伸をして、わたしはいつも通りの無機質な部屋を見る。
 同じような人間が、同じ白い服を着て、わたしと同じ培養槽に入っている異形のモノたちを観察している。
 時にはビリビリ電流を、時にはグツグツ熱湯を、時にはブクブク酸素濃度を、他にも色々と。
 それをされるのはとても嫌。痛いし痺れるし暑いし苦しいし。
 けれども人間は、そんなわたしを、異形のみんなを、面白そうに、興味深そうに観察してる。
 その目に生物を映さず、実験物を映してる。道具を映してる。
 わたしたちの気持ちを察せず、考えず。自分たちの欲求を満たすべくわたしたちを傷付ける。
 それに文句の一つも云えないで、わたしたちは我慢する。我慢するしか道はないから。それ以外の解決策を知らないから。
 それは予定調和の毎日。決められた一連の流れ。
 今日も今日とて連日の繰り返し。うんざり。
 刺激はないのに命だけは毎日危機に瀕している状態。
 無機質な部屋で、無情な人間に、非道な行為を繰り返される。
 それがわたしの世界の全て。
 その全てで、わたしの世界は完結している。
 だから、わたしは諦観の日々を送ります。





 こぽりと気泡が水中を昇る。こぽこぽー。





*****





 変化の無い風景。変わり映えしない光景。一定の彩りのみの場景。
 毎日毎日わたしはそれを見続ける。じー。
 わたしは水の世界から外を見る。変容しない風景を。じろじろー。
 それが昨日までの全てでした。
 今日も今日とて同じ事を繰り返す。そう思ってた。
 けれども、どうにも今日は違うみたい。
 白い光景が視界を埋めない。埋まらない。
 白い光景は、いまや赤い光景に様変わりを果たしている。真っ赤っかー。
 こぽこぽ水泡と気泡が昇る液体の中で、わたしはそれをぼんやり見ている。ぼけー。
 ふんわり気分なわたしは、明滅する赤い景色を眺めてる。

 今日はお祭りかな? かな?

 静かな静かなわたしの世界は、いま、とてもとても五月蠅い。煩い。うーるーさーいー。
 ビービー響く大音響。思わず耳を塞ぎます。うるさいよー。
 ごぽりごぽりと気泡が湧く。わたしの口から気泡が湧く。
 周りのみんなも、異形のみんなも、びっくりしている。戸惑っている。ざわ……ざわ……。

「お? なんだぁ、ここ?」

 無機質で騒音に様変わりした、わたしの世界に闖入者。
 黒い瞳に、白色の尖った髪をした人間。つんつんだぁ。
 その人間が、わたしの世界を見渡している。

「……生体実験室とかってやつか。はっ! いい趣味してやがるなぁ、おい」

 愉快そうに顔を歪める人間。
 でも、その瞳は全然全く一分の隙も無く、笑っていない。
 ちょっと、こわい。ブルブル。

「ん?」

 白髪黒眼の人間が、わたしの前にやってきた。
 ジロジロわたしを見詰めてくる。じろじろ。わたしの裸がそんなに見たいのかなぁ?
 そんな事を考えるわたし。でも、人間はそんなわたしの思考を知らないから、不躾に見てくる。いやん。

「……驚いた。黒髪黒眼なんて、こっちで初めて見た」

 微かな驚愕を露わに、腰にびた刀を鞘から一息に抜き放つ。ひゅかん。
 キィィインという音が響き渡り、わたしの培養槽が断ち切られた。びっくり。
 ガコンと分厚い硝子が落ちて、中の培養液が流れ出る。わたしもついでに流れ出る。ざばざばー。
 こてん。
 わたしは、この時、初めて外気に触れた。

「うお! 靴が濡れた! それ以前に、なんだこの幼女!? 滅茶苦茶可愛いぞ!?」

 ここまで可愛い幼女は初めてだ。ロリコンの気持ちがちょっと分かるわぁ、と云いながら関心した風体でわたしを見る人間。

 ろりこんってなんだろう? かわいいってどんな意味?

 わたしは色々な感情を伴わせて、人間を見詰める。
 漆黒の長袖の服を着込み、黒いロングコートを羽織り、墨色の瞳で、純白のツンツンな髪をした、そこそこに背丈のある人間。
 今までのわたしの生涯で、ただの一度も見たことのない人間。
 そんな人間に、僅かばかりの興味が湧く。わくわく。
 見つめ合うわたしと人間。視線が絡み合う。

「ここにおったのか」

 そんな、わたしたちの睨み合いを、後ろから聴こえた声が邪魔をした。とても綺麗な声が邪魔をした。
 後ろを振り向くと、そこには獣人がいた。
 この部屋に存在する獣人とは違う、綺麗な綺麗な毛並みの獣人。
 3色の鮮やかな色合いの長髪、鮮血の様に赤い瞳、日に焼けたことがないと云わんばかりの白い肌。きれー。
 猫科の耳に、6本の尻尾を持つ獣人の女性。
 ただ、その腹部には大きな穴が開いていた。びゅうびゅうと風が通り抜ける。びゅうびゅーう。

「おお、どうしたジジ。尻尾が1本無くなってんじゃん。風穴までぶち抜いて、壮絶なイメチェンだな」
「うむ。少々、風通しを良くしたくてのぅ。お蔭で身体の芯から冷えて堪らんわ」
「くかかかか! ユーモア溢れる切り返しだなぁ、おい! しかし、テメェを一回殺すたぁ、中々の実力者のようじゃねーか?」
「ふんっ。外道英雄とかいう若造に、美少女英雄とかいう戯けた小娘を相手にしただけじゃ。外道は殺したが、小娘は逃がした。流石は外道と名乗るだけあって、下卑た事をしてきたわ」
「百英雄の奴等かよ。まーたメンドクセェ奴が来たもんだ」
「お主が5人も英雄を殺したからじゃろーが! お蔭様でワシは余計に一回死んだんじゃぞ!」
「悪ぃ悪ぃ、くかかかか!」
「おのれ、お主のせいでワシの尻尾が一本無くなったというに……。元の美しい九尾が六尾になってしもうたわ……」
「気にすんな。俺様は気にしない」
「ワシが気にするわ!」
「そう怒るなよ。年端もいかねぇ美少女が怒るのは、もうあれだ。一種のプレイだろ。十代中盤の美少女に怒られるなんて、ムカついてぶち殺したくなるじゃねーか」
「容姿だけじゃろ。中身は何百年も生きとるわ。あと美少女に向かって殺す云うな」
「うわぁ。ジジが自分のこと美少女って云ってる~。引くわー」
「お主が先に云ったんじゃろうが! 本気で殺すぞ!?」
「くかかかか!」

 呵呵大笑な人間に、いつの間にかお腹の穴が治っていた獣人。
 楽しそうな会話をしている。ちょっと、羨ましい。
 話しが会うという行為の会話。わたしもしてみたい。

「ぬっ? この娘は?」
「おお。ここの研究成果だろうさ。見ろよ、こっちじゃ見ること出来ない黒髪黒眼だぜ?」
「……双黒か。確かに、三方世界でも見たことないわい」
「ホントにな。どうせなら、俺様を双黒にして欲しかったぜ。正真正銘のマ王ってな」
「なんじゃそれは?」
「向こうの話だ。しかしホントに珍しいなぁ。俺様だってこっちに召喚された際に、髪が真っ白になったてーのに。あれか、俺様は人斬り抜刀斎と切り結ばなきゃならんのか?」

 俺様ってば、どこのシスコンだよ! そう云って爆笑する人間。それを呆れたように見る獣人。

 あれー? わたし蚊帳の外?

 そんな想いを抱きながらも、初めて直面する事態にわたしの身体は動かない。どうにも委縮してるよう。みゅー。

「それで、この娘をどうするんじゃ?」
「こんなに可愛い幼女だ。俺様の娘にする」
「性犯罪者めっ」
「くかかかか! 俺様の元居た世界の日本じゃ、20歳から養親になれるんだよ」
「お主、今何歳じゃ?」
「18」
「どちらにしろ駄目じゃないか!?」
「だいじょーぶ。ここは異世界。地球の法律適用外のパラダイス!」
「倫理的に駄目じゃ!」
「本能的にオールオッケー! どこぞのマ王様は、高校生の若い身空で子持ちになったんだ。だったら俺様だってそれに倣うぜ!」

 色々と喚いていた人間と獣人。きゃんきゃん。
 にやにやした顔つきで、人間がわたしを見る。

「おい、お前は今から俺様の娘だ。いいな?」
「……むすめ?」

 わたしは鸚鵡返おうむがえしに言葉を返す。

「待て、名前はどうするんじゃ?」
「あー、名前なぁ……」

 獣人の言葉に、人間は唸りながら周囲を見渡す。
 そんな最中も、わたしは先程の言葉を反芻する。
 むすめ、むすめ、むすめ。
 義理の娘、血の繋がらない娘、禁断の関係、もえ要素?

「おっ、こいつの入ってた培養槽に何か書いてる! なになに、U検体7番とな。よし、この幼女の名前はユナだ! 決定!」
「安直じゃなぁ……」
「安直結構コケコッコー」
「……好きにせい」
「おうともさ!」

 わたしの目の前に人間が立つ。それでわたしの思考が途切れる。ぷつり。だんぜつー。
 わたしは人間を見る。見上げる。なーにぃ?

「今からお前は、俺様の娘で名前はユナだ」
「……ゆな?」
「そうだ。そして俺様のことは、お父様と呼ぶように」
「魂胆見え見えじゃのぉ」
「うるせぇ」

 みゃーみゃー云い合う人間に獣人。
 わたしは若干の戸惑いと、未知への好奇心から言葉を紡ぐ。
 取り敢えず、人間の袖を引っ張る。グイグイ。

「おぅ? なんだ?」

 振り向いた人間に、言葉を放つ。
 背丈が高いので、上目気味で。じーっ。

「……とーたま」

 ちょっと噛んだ。

「う、うあ、うわぁ、うわあああああああああ!!!!」
「落ち着け」

 雄叫びを上げる人間。……違う、間違えた。とーさまだ。
 雄叫びを上げるとーさまは、そのままわたしを抱きしめる。ぎゅー。

「もうこの娘は絶対に俺様の娘だからな!? 絶対だからな!? 可愛ええええええええええ!!!」
「落ち着けと云うとろうが……」

 わたしを抱きしめて、とーさまが叫ぶ。
 それを獣人がたしなめる。こらー。だめだぞー。
 獣人は呆れたように溜息を吐いて、わたしを見る。ふぃー。

「ついでじゃ、ワシはジジと云う。覚えておけ」
「可愛ええ!!!」
「お主もデレデレしとらんで、自分の名前くらいは云わんか」
「ん? ああ、そうだな」

 わたしを離して、でも視線はわたしと同じ高さで、デレッとした顔でわたしに語りかけてくるとーさま。

「俺様はサカシタ・トウヤってんだ。職業は魔王をやってるぜぇ。そしてお前の、ユナのお父様だ」

 そう云って、微笑んだ、トウヤと云う名の魔王様。
 わたしは、その笑顔に見惚れた。初めて見る、笑顔に。ぽけー。





 わたしの中で、何かが動き始めた。





*****





 それからのこと。



 わたしは「わたし」という存在から「ユナ」へと。
 魔王は「人間」という存在から「とーさま」へと。
 猫の獣人は「獣人」という存在から「ジジ」へと。


 わたしは区別を知った。わたしは喜びを知った。
 わたしは戸惑いを知った。わたしは他者の温もりを知った。



 わたしは、違う世界を知った。



 わたしの世界は穏やかに崩れていく。
 わたしの世界が穏やかに砕けていく。



 わたしが世界を穏やかに認識していく。



 これは、わたしと同じ、黒髪黒眼も持つにーにが現れる前の出来事。
 にーにと出逢う、約300年前の、わたしの思い出。





 わたしの世界が一新した、穏やかに壊れた、大事な大事な思い出。







[9582] 20話・昔話
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:00


 坊や、良い子だからお眠りなさい。ここからは大人の時間さ。





『20話・昔話』





 ある晴れた日のこと。
 魔法以上に愉快な事が降ってくるかなぁと思っていた時分である。
 快晴の空に、鳥のさえずり。ダイナブレイドのいななきに、部屋に射しこむ暖かな日差し。
 今日も今日とて、実に爽快な目覚めを果たした僕である。
 快適素敵な気分で広間へ向かう。基本的にこの城で一番遅く起床するのは僕だから、広間には既にメアとジジが起きているのだ。
 快適な目覚めを果たした後は、素敵な朝の挨拶をするのは当然であるからして、僕は広間に入るなり大声で朗らかに、居るであろう二人へと、正確には一人と一匹に声をかける。

「おっはっよー!」

 しかし、僕の挨拶に返事が返ってくることはなかった。
 不思議に思い広間を見渡すが、そこにはメアもジジも居ない。一応と調理場も覗き、保険の為にトイレをこじ開け、欲望の発露によって風呂場に突入をかけてみたが、メアとジジの姿は影も形も無く、下着の一枚も落ちていなかった。残念。
 これはどうしたものか、もしや神隠しか、それともサプライズでも企んでいるのか、ついにジジにも発情期が巡り来てメアとめくるめく官能的な処理を施しているのだろうかと、徒然と頭に浮かんだことを反芻すつつ妄想しながら、取り敢えずはメアとジジの寝室を目指す。

 そもそも起きて来ていないなら、まだ寝ているかもしれないという考えが真っ先に浮かぶ筈なのだが、残念ながらそんな普通な思考をする僕ではない。だからと云って変人という訳じゃないよ? 単に常人とは違う思考をすることで、より多彩なアイデアを思いつくようになるかもしれないという考えがあっての思考ゆえに。……ホントだよ?
 僕は果たして誰に釈明しているのか。甚《はなは》だ不明だが、そこは華麗に無視する。僕は紳士なので、このような事は日常茶飯事だ。気にしちゃ負けである。

 そんなこんなで、まぁ、寝室に着いたわけである。
 部屋の扉を開けて、コンコンとノックをする。ノックは紳士の礼儀であるからして、必ずしなければいけない。
 扉を開け放ち、部屋の中に入る。そこで、毛布を被りベッドに横たわる小さい少女の姿。その枕元に蹲っている子猫。ちっ、着替え中じゃなかったか。
 それにしても、割りかし大きな音を立てて扉を開け、さらにノックまでしたというのにピクリとも動かないメアとジジ。
 ……おかしい。普段ならばジジ辺りが、扉を開ける順序が逆だ! みたいなことを云ってくる筈なのに、全くそのような事がない。

「おやおや? どうしたんだい、子猫ちゃん達ぃ?」

 僕は二人に近づいて行く。
 しかし、それでも起き上がろうとしない。
 これで本格的に心配になった僕は、二人の顔を覗きこむ。





 二人は、正確には一人と一匹は、顔を赤くして息を荒げていた。





*****





「はいはい、お粥を持ってきたよ~」
「……ごめんなさい」
「……すまんのぅ」
「それは云わない約束でしょー」

 約束した覚えは皆無だけど。

「なんなら、ふぅふぅして上げるよ?」
「……だいじょうぶです」
「……いらん」
「口移しを御所望か! 喜んで!」
「……ちがいます」
「……望んでおらん」

 はっはっはっ、照れ屋さんめ。
 そう思いながら、お粥を乗せた盆をベッド脇の机に置く。

「はいはーい、ゆっくりねぇ」
「……はい」

 メアの身体を起こす為に背中に手を当てて支える。
 ジジは僕が手伝う前に自力で立ち上がり、メア用のお粥と一緒に作ったミルク粥に舌を伸ばしていた。
 うむ。ジジがミルク粥を食べる光景は、名作映画を彷彿とさせる画である。惜しむらくは、ジジが黒猫ではなく三毛で子猫というところか。
 頷きながら、メアが完全に起き上がったのを確認し、机からお粥を取って手渡す。メアは僕に感謝の言葉を述べて、ふぅふぅと息を吹き掛けながらお粥を口に運ぶ。

 うん。僕にも息を吹き掛けてくれないかしら。

 そんな事を思いつつ、二人が食事を終えるのを待つ。
 パクパクと、普段よりも若干に遅いペースで食べていくメアとジジを眺めながら、ほんわか和む僕。心がぽかぽかします。
 緩く流れる時間を感じながら、まったり待っていると、二人が食べ終えた。
 その空になった容器を盆に乗せて、調理場に持っていく。早足で。
 調理場の洗い所で、容器を水桶に漬けて、駆け足で寝室に向かう。

 間に合ってくれ……っ!

 逸る気持ちに押されるように、一直線に寝室へ。
 再び勢いよく扉を開き、ノックして、部屋へと侵入。いや、進入。

「きゃっ!」
「ぬぅ?」

 服を脱ぎかけていたメアが、素早く脱ぎかけの服を着込み可愛い悲鳴を上げ、ジジはダルそうに僕を見てきた。

 ちぃ! 早過ぎたかっ!!

 先程、メアを支えていた時に汗を掻いていたのが分かったので、おそらく着替えるであろうと当たりを付けていたのだが、どうにも時期尚早だったようだ。
 拝見出来たのは、その美しい肩と鎖骨までである。もう少し遅く到着していれば、決定的な瞬間を見れたかも知れないのに。惜しい事をしたものだ。ホントに。
 しかし、それを悔やんでも仕方ない。過ぎ去った時間は戻らない物であるからして。悔恨に思いを馳せている暇はないのである。未来をしかと見据えるのが、何よりも重要なことさ。
 僕はメアをベッドに押し倒し、メアに跨りながらそんなことを考えていた。ふむ、哲学的な思考をする自分に惚れ惚れする。

「あ、あの? なにを……?」

 熱に浮かされているからか、いまいち現状を理解していないメア。ジジも不思議そうに僕を見ている。
 風邪は偉大である。まさか僕がいたいけな少女に跨っても、未だに無傷なんて快挙も快挙だ。

「あの……?」
「……なにをしておるんじゃ?」

 メアとジジが、怪訝そうに尋ねてくる。正常な判断を行えていないようだ。

「いやぁ、汗を掻いているようなので拭ってあげようかと」
「はぁ……」
「ついでにジジの毛並みも整えてあげようかと」
「確かに、少し寝乱れておるが……」
「安心して、僕に任せたまえ」

 どんと胸を叩いて、その衝撃に咽た。
 げほっげほっ。

「えっと、でも、手拭いみたいな物が、見当たらないんですけど?」
「見れば、櫛もないな。櫛もないのに、どうやって毛を整える気じゃ?」

 メアとジジが疑問の声を上げる。

「無論───」

 僕は、それに、断固たる意志の元、告げる。

「───舌で」

 即座に逃げ出そうとしたメアとジジは、しかしてその逃走は失敗に終わる。
 ガクリと、二人は揃ってベッドの上に倒れ伏す。

「……え?」
「……なっ!?」

 困惑の声を上げるメアと、驚愕の声を上げるジジ。

「か、身体が……!」
「お主、なにをした!?」
「いや、病人は絶対安静って云うのは鉄則じゃん?」

 なので、先程のお粥に隠し味として筋弛緩剤をちょいと。

「それはともかく、さあ! 身体を濡ら……拭おう!」

 取り敢えずは、ジジの首根っこを掴まえて、メアに覆い被さる。
 微かな恐怖の色を灯す二人に、優しく微笑みかける僕は、紳士の中の紳士である。ベスト・オブ・ジェントル。

「ひゃあ!?」
「みゅん!?」

 メアの白く細い首に舌を這わせて汗を舐め取る。
 一舐めしたら、今度はジジの身体に舌を這わせる。

「ひぅっ!?」
「みゃん!?」

 甲高い声を上げる二人の声は、どことなくエロイ気がする。
 そんな事を想いながら、僕は二人の身体の隅々まで舌を這わせていく。

「やっ、ダメ! ダメです! そこは汚いから───っ!!!」
「にゃ、やめっ! ダメじゃ、そんなとこ舐めたら───っ!!!」





 うむ、実に甘露なり。





*****





「よ、汚されちゃったぁ……」
「き、綺麗にされてしまったぁ……」

 シクシクとすすり泣く二人。正確には一人と一匹。いい加減にこれ云うのが面倒になってきた。
 しかし、メアの台詞は定番だが、ジジの台詞は思いのほか斬新である。綺麗にされてしまった事を嘆くのは新鮮味溢れていると思う。中々に居ないぜ、そんな台詞を吐くやつ。
 シクシクと泣く二人を眺めながら、僕は口の中に広がるゴワゴワした感触に至福の笑顔を浮かべる。
 子猫でも、毛を繕うと沢山の抜け毛が出る物である。布巾などで猫を拭くとよく分かる。その行為を僕は舌でやったので、口の中に抜け毛が沢山である。

 ジジの生毛を口に含む僕は、結構な上機嫌なのです。うん、美味。

「ふん? ふふふ、ふふふふふふふん?」
「……うぅ、なにを云ってるか分かりません」
「……口の中の毛を吐き出せぃ」
「ん、んぐっ、ふぅ。なに? なにを、悲しんでいるんだい?」
「私の毛を食べないでよぉ!」

 ジジの口調が激変した。
 そこまでショックだったか。

「まぁまぁ、落ち着きたまえ」
「うぅ、余計に容態が悪化した気がします……」
「ひっく……うぅ……ぐすっ……」

 ジジがまるで少女の様に咽び泣く。
 ジジのキャラが崩壊する程とは思わなかった。恐るべし、風邪。

「ほら、ベッドに横になって、二人とも」
「……はい」
「……うん」

 素直に僕の云う事を聴くメアとジジ。
 どうでもいいが、いやよくないが、結構重要な事だが、それは今は置いておこう。
 云いたい事はひとつ。この状態のジジが異常に可愛いです。本当にありがとうございます。
 ベッドに横たわるメアも可愛い。かわゆ過ぎる。押し倒したい程に可愛い。今ならその行為が容易なのだが、そこまでいくのは紳士ではないので自戒する。紳士ならば、弱っている時には襲わない。これは常識である。
 そして、そんなメアの横で弱々しく、若干涙目で蹲るジジの破壊力も尋常ではない。普段がキツイ攻撃的な強い性格なので、この突然のひ弱さは、あれだ、ギャップ的な意味でグッと来るものがある。

 おお、至福なり。

 凄まじい幸福感が僕を包みこむ。僕は真の幸せを知った。この発言が過言でない程の幸福感である。いと幸せなりや。
 ニコニコ笑顔な僕は、二人を優しく撫でる。そりゃあ、もうすんごい優しく撫でる。僕の優しい撫で方に二人の顔が弛んでくる。流石は僕の撫で撫で技術。ナデポを極めかけたマイハンド。痺れるぜぇ。
 一通りの自画自賛、自己嘆美を胸中で唱えて、朗らかな笑みで二人へと語りかける。

「どうやら僕が体調を悪化させてしまった様なので、僅かばかりの罪滅ぼしに御伽噺をして上げよう」

 二人が胡乱な眼で僕を見詰めてくる。
 どうしてそんな目で僕を見るのかしら?





 なにはともあれ、さあ、御伽噺を噺家の如く語ろうじゃないか。





*****





 昔々のあるところ。

 一人の青年が居りました。名を浦島太郎と云います。きっと長男だったのでしょう。これで三男とかだったら、両親のネーミングセンスには脱帽です。もう、帽子とか被っていられない。
 まあ、そんな事はどうでもいいのです。兎に角、浦島太郎と云う名の青年が居たのです。これが重要。

 ある日、浦島太郎は釣りの為に浜辺に行きました。

 すると、浜辺では馬鹿餓鬼共が亀を苛めているではありませんか。浦島太郎はその餓鬼共へと近づいて行きました。
 それに気付いた餓鬼共が、浦島太郎に云います。

「なんだよ、おっさん」
「何か用かよ、おっさん」
「向こう行けよ、じじい」

 浦島太郎は、その餓鬼共の言葉を聞き、ひとつ頷きました。
 うんうんと頷いて、おもむろにぶん殴りました。手加減一切なしです。大人気無いです。特に最後の糞餓鬼には容赦の度合いは全くなし。
 ぶん殴られた餓鬼共は、泣いて逃げ帰る事も出来ず、死屍累々な感じで浜辺に打ち捨てられました。もうこれは事件です。現代だったら確実に訴えられているレヴェル。

「雑魚が。稚魚如きが漁師たる俺に敵うかよ。身の程を知れ」

 若干、芝居がかった口調。浦島太郎は現代では、ちょっとウザい人なのかもしれませんね。
 しかし、この浦島太郎は強いです。無駄に強いです。それもその筈、彼は近所に住む友人と頻繁に争うのですから。
 友人の名前は金太郎と云います。幼少期に熊を相手に素手で戦闘を臨んだ、頭がちょっと残念な人です。ですが、そんな奴を相手にしていれば、自然と強くなるのがお伽噺の良い所。戦闘の才能だとかそんなの関係ありません。ご都合主義万歳。
 そんな訳で、ちょくちょく金太郎と、避暑地は山か海かで揉める浦島太郎は強いのです。文句は受け付けません。あしからず。
 さて、兎にも角にも餓鬼共を文字通り蹴散らし薙ぎ倒し血の海に沈めた浦島太郎に、亀が感謝の言葉を述べます。喋る亀。見世物小屋で売れば高く売れそうですね。

「あの、先程は助けていただ……」
「亀ゲットォ! 今晩は亀料理じゃあ!」

 感謝の言葉を述べている最中に、人語を喋る不思議亀を捕まえた浦島太郎。お前はその不思議動物を食べる気か。
 これに焦ったのは亀です。不思議亀です。龍玉に出てくる武の神様とか謳われたエロ爺さんの乗り物っぽい扱いを受けていた亀のように喋る亀です。まさか、助かったと思ったら実はそっちの方がデンジャラスとか、なんて酷い罠。

「いやぁ! 食べないでぇ!」
「黙れ! 何の見返りも寄越さぬ奴が、簡単に助かると思うなよ!」

 浦島太郎は根っからの現代人です。見返りないと助けない。現代人も心が荒んだものです。艶本とか、もう素敵展開のオンパレードだというのに。女性用の艶本なんて男の子を拾うのに。警察に連絡しないなんて、どこの誘拐犯だ。
 話が逸れましたが、要は亀がジタバタ悪足掻きをしているのです。頑張れ亀。

「私を助けてくれたら、竜宮城にお連れします!」
「知らん。何処だ其処は?」
「酒池肉林なパラダイスです!」
「横文字は皆目分からないのだよ、俺」
「楽園です! 乙姫様と云う綺麗な方が治める海底の楽園です!」
「海の底など、息が出来ないだろうが。女子高生」
「大丈夫です! 竜宮城には酸素があります!」
「酸素って何だ?」
「ちぃ! これだから学の無い人間は嫌いなんだ!」
「お前もう夜食決定。さあ行こう。我が家を目指せ」
「失言しました! ごめんなさい!」
「謝っても、もう遅いと」
「竜宮城には空気がありますから! 息が出来ますから! 乙姫様はエロイですから! エロイ肉体してますから!」
「よし、さあ連れて行け。今すぐに連れて行け」
「合点承知です!」

 なんとか浦島家夜食化計画を防げた亀。平然と乙姫様を売る行為には戦慄ものです。それに喰いつく浦島太郎。所詮は男。バカだね、男って。
 そんなこんなで亀の背に乗り、一路竜宮城を目指す浦島太郎と亀。
 勢いよく海の中に亀が潜り、浦島太郎は息を吐き出します。がぼがぼ。

「ぐはぁ!?」
「大丈夫ですか?」
「貴様! 息が出来ると云ったろうが!? どういう事だ!」

 危うく溺死する所だった浦島太郎。当然、怒りの声を亀にぶつけます。

「いえいえ、私は竜宮城では息が出来る、、、、、、、、、、と云いましたが、竜宮城に辿り着くまでの海は息が出来る、、、、、、、、、、、、、、、、、、とは云っておりませんので」

 ニヤニヤ笑いながら告げる亀。黒いです。真っ黒です。
 こいつ亀の癖に猫を被ってやがったな。誰ださっき亀を応援した奴。

「どうしますか? 引き返しましょうか?」
「………け」
「え?」
「行けと、云っている」
「えー、本当に大丈夫で、うぐっ!?」
「貴様は、ここで死にたいか?」
「よ、喜んで、つ、連れて、行きま、すから、首、首締めないでぇ」

 再び潜水する亀。浦島太郎もそれに続きます。
 今度は息を止めている浦島太郎。深度がグングン下がります。気圧とかの問題で、普通ならとっくに意識を失うのですが、なんと浦島太郎は根性で意識を繋ぎ留めます。こいつ人間じゃねぇ。
 遊泳すること一時間、ついに竜宮城に着きました。一時間も息を止め、あまつさえ意識を持ったままで竜宮城に訪れる者など、後にも先にも浦島太郎だけです。無駄な頑張りを見せた浦島太郎。絶対に人間じゃない。

 ぜぇぜぇと息を荒げる浦島太郎と、驚愕の眼差しで浦島太郎を見詰める亀。なんでこいつ生きてんの? そんな感情が顔にべったりと張り付いています。やはりこの亀は黒かった。
 そんな青年と亀の許に、一人の美女がやって来ました。

 乙姫です。

「あら、どうしたの? そちらの御仁は……」
「ふははは! 早速頂こうかぁ!」
「きゃあ!? な、なにをするのですか!?」
「くくく、俺はわざわざ貴様を目当てに来たんだ。楽しませて貰おうか!!」
「い、いやぁ! だめぇ!!」

 浦島太郎は乙姫の服を剥ぎ取ります。露わになった肉体を、乙姫は羞恥に手で隠しますが、浦島太郎がそうはさせません。

「隠すな! さあ、愉しもうか!」
「あ、ああ、だめ、いやぁ!」
「嫌よ嫌よもエロの内ってなぁ!」
「ひぃ! だ、だめ! そんなところは……!? ああん!」

 手が乙姫の肉体を這い回ります。程よく乗った肉付きの身体を、浦島太郎は貪ります。凄く貪ります。具体的に云えば、その豊満な双丘を片手で揉みながら、唇でもう片方の胸のとっ……え? いらない? いやでもほら、盛り上がるからさぁ。ここら辺は具体的に……いらない? ……はいはい分かった。省略するよ。
 えー、まあ、なんやかんやと浦島太郎は色々な事を致しまして、すっきりしたのか、とっとと帰ると云いました。もうこいつ死ねばいいのに。
 乙姫は瞳に光を灯さないまま、部下になにやら指示を出し、ひとつの箱を持って来させました。

「どうぞこれを、亀を助けて頂いたお礼です。是非とも陸に上がったら御開け下さい。是非とも。是非ともに御開け下さい」

 ふふふ、と暗い笑顔で笑い声を上げながら、浦島太郎に玉手箱を手渡します。
 玉手箱を受け取った浦島太郎は、今度は自力で泳いで帰りました。もうこいつ魚人なんじゃねーの?
 そんなこんなで、陸に上がった浦島太郎は周囲の状況に眉を顰めます。なんだか竜宮城に行く前と帰って来た後で、風景が変わっている気がしたのです。
 浦島太郎は調べました。原因を調べました。すると、どうにも竜宮城に行く前の、150年後だということが分かりました。どんな捜査をすればその結論に行き着いたのか、皆目見当もつきませんが所詮は御伽噺です。矛盾万歳。ご都合主義最強。
 途方にくれる浦島太郎。元我が家は、なんだか大変な事になっていました。あれは家じゃない、廃墟だ。
 これから先をどうしようかと悩む浦島太郎。先立つ物がひとつもありません。どうしたものかと思い、取り敢えず、手元の玉手箱を開けました。
 玉手箱から、如何にも怪しい煙が出てきたので、浦島太郎は横に飛び退いて煙の届かない位置に逃げました。

 煙は空へと昇り、丁度良く飛んでいた雉に当たりました。
 すると、なんと云う事でしょう。雉はその身を煙の如く真っ白に染めていました。どう見ても鶴です。この時、雉は種族を超える奇跡を体験したのです。

「なんじゃこりゃー!?」

 雉は、いや鶴は絶叫を上げました。そりゃ驚くでしょう。どうでもいいことですが、この雉、いや鶴も不思議動物か。
 浦島太郎は雉の有様を見て、安堵しました。自分に被害が来なかったのが嬉しい様です。巻き添えを喰らった雉には罪悪感の欠片もありません。

 それからというもの、浦島太郎は適当に大名の娘を口説いて結婚しました。
 適当と云う割には、なんだか充実しています。何故に落とせた、そもそも大名の娘にどうやって逢ったんだよ、そんな質問は禁句です。尋ねてはいけません。全ては世界の意志です。
 それから先の人生は順風満帆。子宝に恵まれることはありませんでしたが、幸せな人生を謳歌しました。これで不幸だなどと云えば、もう殺すしかありません。





 それは脇に置いておくとして、話しはまだまだ続きます。





*****





 今日も今日とて平和に生きている爺さん(浦島太郎)と婆さん(大名の娘)です。
 さてはて、そんな二人は、そもそも婆さんが金持ちなので働く必要性は皆無なのですが、趣味で仕事をしています。あくせく働く現代人に喧嘩売ってるとしか思えません。ムカつきますね。だから金持ちって嫌いよ。
 それは兎も角、爺さんは山に出掛けます。

「ちょいと、山まで金太郎をシバいて来るわ」

 そう、実は金太郎は生きていました。今年で既に200歳になったかならないかのご高齢。高齢ってレヴェルではない気もしますが。
 そして、最近発覚したことは、金太郎は日本国籍ではありません。金・太郎で海の向こうの人でした。どうでもいいことですが。

「じゃあ、私は川に洗濯にでも行ってきます」

 そう云って、婆さんは洗濯物を持ちもせずに川に出掛けます。洗濯自体を使用人がやってくれるので、婆さんは付き添いです。ぶっちゃけ洗濯の邪魔ですね。
 そうして二人は別れました。爺さんは山にシバきに、婆さんは川へ洗濯の付き添いに。
 そんなこんなで婆さん川に到着。川原から足を水につけて涼みます。もう洗濯とかどうでも良さそうです。
 そんな事をして居ると川上から、どんぶらこどんぶらこ、と有り得ない音を発生させながら大きな桃が流れてきました。一抱えもある大きな桃。明らかに妖しいです。怪しいではなく妖しいです。だって普通じゃねぇもん。有り得ないもん。

 そんな妖しげオーラを全方位に拡散放射している巨大桃。こんなの、まともな神経している人は無視します。
 しかし、婆さんは普通じゃなかった。あろうことか巨大桃を取ろうとしたのです。何考えてんだろうね?
 婆さんは着物が濡れるの嫌なので、洗濯している使用人を呼びますが、返事がありません。見渡してみると使用人は影も形もありません。どうやら洗濯終わって帰ったようです。使用人として主人を置いて帰って良いのか。

 結果、使用人が居ないので婆さんは巨大桃の捕獲を諦めました。ここら辺無駄に潔いです。妖しげな物に引っ掛かった割には、結構冷めた態度です。婆さんのキャラが定まっていないだけかも知れませんが。
 大きな桃はそのまま下流へと流れて行き、そう遠くない内に大海に繰り出すことでしょう。海に出る前に腐ると思うけど。
 婆さんは再び涼もうと川に足をつけます。すると、川上からまたもや桃が流れてきました。今度は普通サイズが十数個。

 婆さんは大喜びでその桃を拾います。運良く川岸方面に桃が流れて来たので拾います。
 婆さんは喜び溢れる顔で帰宅します。何故か洗濯籠は持って来ていたのでその中に桃を入れて。川上の方から「桃が流されたー!?」という悲鳴が聞こえた気がしましたが、あくまで気がしただけなので気のせいと判断して帰宅します。最近の老人は厚かましいのです。いいことですね。若者に負けるな。
 そして家に帰った婆さんは桃を剥いて、綺麗に飾り付けて、爺さんを待ちます。因みにこの工程は全て使用人が行いを為しました。

 しかして、爺さんが山から帰って来ました。
 婆さんが川上から取(盗)って来た桃を食べながら、今日あった出来事を話します。こういうところは普通の老夫婦ですね。

「今日は面白いのを見たぞ」
「どんなものですか?」
「金太郎とシバき合った後に柴刈り対決をしてな。その際に鬼共が二人の爺を躍らせていてな」
「あらまあ」
「そして敗者にコブを付けたんじゃよ。それも2つ」
「まあまあ」
「鬼と云う物は恐ろしいの。儂より強いというのも気に入らん」
「そうですか」
「うむ。いつの日か鬼を駆逐せんとな」

 会話の内容は普通ではありませんでしたが、まあ仲は良いのでしょう。
 そんな、和気藹々としていた雰囲気の時に、爺さんと婆さんの身体に変化が起きました。

「か、身体が熱い!?」
「ああ、身体の芯から熱が湧き上がる!?」
「ふおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ほああああああああああああああああ!!!!」

 奇声を上げる爺さん婆さん。拾い食いなんてしちゃうから。
 そして、二人はまばゆい光を撒き散らします。いつ、この二人は発光体にジョブチェンジしたのでしょうね。
 光が消えると、そこには、若りし頃の浦島太郎と大名の娘が居ました。どうやら若返ったみたいです。御伽噺でも無茶な展開には限度があると思いますがどうでしょう?
 まあ、どちらにせよ二人は若返りました。若返っちゃったもんはしょうがない。人生ままならないもんです。

 結果的に若返った二人は、どうするか分かりますね?
 そう、若さを手に入れた二人はその身の内に湧き上がった劣情色情欲情を解き放つのです。くんずほぐれつに二人は絡まり合います。接吻は深く、唾液を交換します。くちゅくちゅという音が生々しいです。独り身の男が聴いたら発狂するかもしれません。

 そして口を離す二人。つぅ、と糸が引きます。
 元爺さんは元婆さんの尻に手を這わせ、捏ね繰り回す様に揉みます。平然と揉みます。羨ましい限りです。

「くくく、お前さんの桃も頂こうかな? この熟れた桃尻を」
「ああん! 旦那様ぁ、どうかご慈悲を……」

 元婆さんの瞳に、発情の色を見た元爺さんは、そのまま畳に押し倒して……ええ、ここもいらない? でもほら、御話にはお色気シーンとか必須じゃない。……そんなことない? はぁ、分かったよ。じゃあ端折るよ。
 えーと、そうそう。元婆さんは元爺さんに云いました。

「ああ! 太郎さん! いい! すごくいい!」
「ふははは! それはどっちの太郎だ? 俺か、それともこっちかぁ?」
「あああん!!」

 ひと際高い矯正を上げた元婆さんに、怒涛の腰使いを……待て、分かった。よーく分かった。この場面は全部飛ばすよ。だからその爪を仕舞うんだジジそしてメアも辛そうな顔をしながら魔術を使おうとしないで大丈夫大丈夫もう云わないからほら安静にね安静に。ふぅ。

 えーと、どこまで話したっけ。……ああ、そうそう。
 えー、若くなった元爺さんと元婆さんは、それからと云う物いちゃいちゃらぶらぶえろえろな日々を送ります。爛れていますね。死ねよバカップル。
 すると、昔は恵まれなかった子宝を元婆さんが身籠ったのです。そりゃあ、猿のように毎日毎晩毎朝毎昼いたしていれば、子宝程度身籠るでしょう。独身貴族を舐め切っていますね。いつか刺されるかも知れませんね、この二人。

 さて、なんやかんやありまして子供が生まれました。
 二人とも大喜びです。早速名前を考えようと云う元婆さんに、元爺さんが答えます。即ち、既に考えていると。

「俺の太郎とお前の桃尻の愛の果てに生まれたんだ。子供の名前は、桃太郎にしようと思うが、どうだ?」
「ああ! とても素晴らしいです旦那様!」

 こうして子供は下ネタ全開の名前を付けられました。
 浦島桃太郎の誕生です。
 随分と先の事になりますが、桃太郎は鬼退治に出掛けます。元爺さんから爺さんに逆戻りを果たした男に云われたのです。鬼が気に入らないから殲滅して来いと。
 桃太郎は旅立ちます。爺さん直伝の剣術に、婆さん製作の媚薬丸薬、通称きび団子を手に旅立ちます。特に悪さをしていない鬼を虐殺するために旅立ちます。

 その旅路には様々な出会いもあります。三匹の御供との出会いがあります。雌犬(村娘、16歳、巨乳)に雌猿(貴族娘、13歳、貧乳)に鶴(元は雉だと云い張っている)との出会いが。主にきび団子の力で仲間にしながら、鬼達の理想郷、鬼ヶ島へと向かいます。
 しかし、相手は鬼。桃太郎は強いとは云っても所詮人間。果たして生き残れるのか。
 そして、桃太郎が負ければ、理不尽な桃太郎の行いに鬼が怒って人間に復讐するかも知れません。そうなった時の原因はきっと浦島太郎でしょう。
 なにはともあれ桃太郎の負けは、即ち、人間世界の負けなのです。
 こうなったら桃太郎が勝つことを信じるしかありません。若しくは、鬼ヶ島へ赴く前に殺すしかありません。

 それはそれとして、桃太郎は鬼ヶ島に突っ込みます。
 桃太郎の勝利を祈りましょう。じゃないと人類は破滅だ。基本的に浦島桃太郎と浦島太郎のせいで。

 兎にも角にも。





 桃太郎の勇気が世界を救うと信じて!





*****





「……と、そんな昔々の物語」

 僕は語り終えて、二人の反応を見る。
 きっと楽しんでくれたことだろう。

「……すぅ……すぅ」
「……みゅぅ……みゃぁ」

 いつの間にか眠りについていたようだ。すやすやと穏やかな寝息を立てている。
 ぐっすりと眠りについている二人を見て、僕は微笑む。

「安き眠りを、ご両人」

 二人の頭を撫でて、ベッドから離れる。
 部屋を出る前にタンスを漁り、メアの下着を入手して、部屋を出る。

「さて、今宵は栄養満点の料理を御馳走しよう」

 そう云いながら、僕は調理場に向かう。
 材料を確認し、僕の得意料理が作れるかを判断するために。

「良き夢にて、幸せを」

 再び二人に祝福の言葉を紡ぎ、僕は廊下を歩く。





 今日も今日とて、僕の大事な二人に、幸多からん事を。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そうよ、ここからが───あとがき

 祝20話記念にちょいと長めです。疲れました。
 ついでに、試験が違う意味で終わりました。もうどうでもいいよ。うははは。
 それはどうもいいとして。
 この作品に出てくる昔話は、本当はもっと長かったのです。浦島→桃→一寸→かぐや→金さん→etc、etcという具合に。最低でも8作品投入する筈でした。でも凄く長くなるんですよね、それすると。長いと読むのダレルので、削りました。程好い短さがこの作品の長所だと思うんだ!

 ぶっちゃけ、書くのが面倒だっただけですが、それは秘密さ★


▼ついこの間pv50000超えだったのに、既にpv60000超え。どういうことなのかしらね?ちょっと怖いのわぁ、うふふ。


>今回の話の一番のポイントはジジが人間形態になれることだと思った

その着眼点はとても大事です。素晴らしいです。これからも、その着眼点をスクスクと育てて下さい。


>聞きたいんですが先生との関係はどうなったんですか?wやったんですか?w
>脅迫で点とるなんてワロたw
>俺的に読んで人化!が素晴らしく感じたよ。

ここは一般投稿板なんだから、やったとか言っちゃ、めっ!
人化が好評のようで、ちょいと安心。ふぃー。

>・・・変態という紳士だと?!
>敵わぬ・・・どこまで逝くのだ?w

無論、紳士道の果てまで……。

>更新期待してるぜw

期待なんかしないでぇ~!


>なかなか、主人公がデムパ的で素敵ですね。

デムパ=デムニパンツの略ですね?
主人公はデムニパンツ的で素敵と評した貴方は、お洒落さんだな!

>>誰かいい病院紹介してください。あ、病院は綺麗で可愛い上にどことなくエロイ女医さんがいるところをお願いします。
>小生、健康診断のたびにお医者様に『頭が良くなる』方法を相談しますが、一番良い答えは以下の通りでした。
>医者:『ごめん。無理。着ける薬が無いわ』

医者様の返しも中々ですが、その質問をする貴方に敬服ものです。
作者は友人に相談したことありますね。

作者「頭を楽に良くする方法って、何かない?」
友人「つける薬を飲んだらいいんじゃね?」

さて、この時の友人は真面目に言ったのか、それとも皮肉で言ったのか、洒落で言ったのか。
謎は未だに深まるばかり。


>幼女だろうが猫だろうが好きに書いたらええ
>だ、だから早く…早くあとがきのみよちゃん先生分を追加するんだっ!!
>じゃないとお、俺のエレクト棒が…!!

(σ・∀・)σ<そのエレクト棒で電流イライラ棒に挑戦して破裂してしまえ。腫れ上がってしまえ。


>貴殿に『先行者』の称号を授けよう。

丁重に頂戴致す。かたじけないっ!

(´・ω・)ところで作者は何を先行しているのかしら?


>え?今回は普通にほのぼのなの?閑話にいたっては微シリアスだと…?
>もっと獣欲と尻assと電波に塗れた、いつもの紳士を、みんなの生きる上での心の支えを返してよ!
>変態を理性ある人間に変態させないで!
>タイトル中二、中身r18なクオリティをもう一度

この作品のテーマは「ほのぼのハートフル」だよ?ほのぼのなのは当然じゃないか。
それと、そんな紳士が心の支えになっている世界は滅ぶと思うが、そこんとこどうよ?
あと、誰が巧い事言えと……。
そして、何故に作者がタイトルを親戚の中学二年生から聞き出した好きな言葉から作っていると気付いた!?そんな訳ないけど!全部自作だけど!
ranking18位=r18ですね?分かります。そんな高いのか低いのかよく分からない地位を目指して、今後も慢心じゃなくて邁進します。

(´・ω・)ところで、そのランキングはどんなランキングかしら?

>まあ、なんだかんだいっても普通におもしろかったんだけどね。
>次回更新も楽しみに待ってます

適度に力を抜いてダルダルで頑張るけど、楽しめる内容じゃなかったらごめんね!


>返せ! 返せよ! 僕らの紳士を返してくれよ!
>自制する紳士なんて紳士じゃないよ!
>マスターの恐怖がなんだよ! それでも愛でるのが紳士じゃないか!

(´◉◞౪◟◉)恐怖は欲望にも勝る。つまりは、そういう事だ。

>そして閑話は過去話なのだろうか。
>つまり何が言いたいのかというと、美女ジジ様ディ・モールト。

残念。美女ではなく、美少女なんだ。
べ、別に作者の趣味で少女にした訳じゃないんだからね!勘違いしないでよね!


>トウヤ……orz
>暗黒史を彷彿とさせる名前につい右手がっ。

何やら作者の意図意識せぬところで心の琴線に触れた模様。
取り敢えず、その右手に幻想を壊す力でも付加すればいいと思います。




[9582] 21話・帰還
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:04


 こ~う~し~ん~りょ~う。





『21話・帰還』





「……久しぶりの……日差し……だ……」

 目に眩しい日差しが僕を攻め立てる。実に久しい感覚である。
 まさか、綺麗なお姉様ではなく自然の日光に攻められる日がこようとは思わなかった。吸血鬼と引き籠もりの気持ちが、今はとても良く分かる。

「……ふふふ……生きて、帰った……ぜぇ……」

 久しぶりの日差しに、肌がピリピリと痛む。僕は今、紫外線を直に感じているっ。びくんびくんとするべきだろうか。
 そんな取り留めのない思考を脳裏に浮かべながら、僕は久方ぶりの美味しい空気を吸う。これでもかと吸う。
 空気が美味しい。それが、僕の感動を誘う。なんだかとっても泣きそう。嬉しくても、人は泣けるんだぜ?
 ところで、どうして僕がたかが空気を吸うだけでここまで感動しているのか説明せねばなるまい。僕が一体、誰に向けて説明しようとしているのか甚だ不明だが。

 兎にも角にも、説明をしよう。
 風邪を利用して、メアとジジにセクハラをこれでもかと行ったあの日から、2ヶ月少々の月日が経っているのである。





 僕は2ヶ月少々の月日を、死に物狂いで駆け抜けていた。





*****





 一時的な幸福に満ち溢れていた僕は、しかし、その後の事を考えていなかった。風邪から立ち直ったメアとジジに拘束され、お仕置きと称された放置プレイを喰らったのである。
 拘束された後に強烈な一撃を受け意識を失い、ふと目が覚めれば、見知らぬ場所に放置されていたのである。

 周囲の風景は、なんというか、こう、ダンジョン的な様相だった。
 最も驚いたことは、目の前をモンスター的な動物がうろついて居ることだった。あからさまな危険地帯に放置された僕は、この時、初めてメアとジジの怒りの程を知ったのである。

 取り敢えず、縄で雁字搦めに拘束されたままでこの場に居るのは著しく危険なので、芋虫の如く移動して安全地帯を探した。
 ちょっと移動すると、狭く発見しにくい通路を見つけたので、その通路の先にある区画に身を隠す。そこで一息吐き、縄抜けを行使。縄と共に脱げた衣服を再び身に纏っている最中に、一枚の紙片を発見したのである。

 その紙片には、この様な事が記されていた。

『一週間そこで反省しろ。byジジ』

 そんな胸、もとい、そんな旨が書かれていたので、僕は楽観することにした。どうせ一週間で迎えが来るのならば、別に平気じゃね? という心境で。

「……ダンジョン……舐めていたよ……」

 そんな生クリームのシロップよりも甘い考えは、即座に叩き直されることになる。

 最初の一日目で、普通にモンスターとエンカウント。壮絶な追い駆けっこが開始される。実に数時間に及ぶ逃走劇。僕よりも先にモンスターの方がへばったので余裕で逃げ切れた。
 その翌日、つまりはダンジョン生活2日目。再びモンスターに遭遇し、昨日と同じ事の繰り返しである。これもまた僕は余裕でモンスターを振り切った。
 その更に翌日、ダンジョン生活3日目のこと。昨日も一昨日も振り切ったモンスターと出逢う。またもや同じ事の繰り返しかと思われたが、僕を追いかけてくるモンスターの数が、びっくりするほど増えていたのである。どうやら、過日のモンスターが呼び集めたらしい。多対一の追い駆けっこは、壮絶を極める……ということもなく、至って普通に逃げ切れた。

 ダンジョン生活4日目。モンスターの集団に追われる。ここまで、この間と同じだが、今回はモンスター勢の気迫が違った。目にはあからさまな殺意と怒気を孕ませて僕を追いかけてくるのである。3日目に「うふふ、僕を捕まえてごら~ん(はーと)」と云いながら逃げたのが余程気に食わなかったらしい。まぁ、普通に逃げ切れたが。
 その後も、モンスターの数は増えに増えた。多対一の追い駆けっこも、当初の余裕は既になく、必死に逃げなければならない程に。数の暴力は脅威であると、身をもって知った次第である。
 ジジが迎えに来るまでの残りの数日間。逃走犯などなんのそのという逃走劇を演じた僕。きっと僕の逃げ足は世界に通用する程にレベルが上がった筈である。
 モンスターは増えることはあれど、減ることはなく、捕まったら即アウトという、実に緊張感溢れるデッドゲームであった。
 そうして期日まで逃げ切った僕は、最初に放置されていた場所に戻り、ジジの迎えを今か今かと待ち侘びていた。久方ぶりに愛しのジジとメアに逢えるので、僕の心臓はこれでもかとときめいていた。ついでに云えば、この一週間絶食していたのでそろそろ食事をしたいと思っていたのである。メアの作る絶品料理を早く食べたいです。

 しかし。
 いつまで待ってもジジが現れないのである。どうしたことかと首を傾げていると、今日も振り切った筈のモンスター集団に見つかったので逃走を開始。もしかしたら、僕が日にちを間違えていただけかもしれないので、明日また来ようと心に決める。

 が。
 結局、その翌日もジジは現れなかった。
 既に僕を追いまわすモンスター諸君の数は、百を超える。デッドランを毎日毎日繰り返すので、流石に体力の限界が見えてきた。それなのに、ジジは一向に影も形も見せない。どういうことなの。

 そんな調子で2週間が過ぎ去った。当初に定められていた期日の実に二倍もの期間をこのダンジョンで過ごしているのである。もう、体力的にも限界であり、空腹具合に至っては未知の感触を味わった。
 僕が体力回復の為に身体を床に横たえて、だらけきっている状態の最中でさえ、腹は食物を催促する音を鳴らす。

『ゴンギュルガー商会だよ! ゴンギュルガーの紹介だよ!』

 腹の中に居る虫が、とんでもない音を奏でる。この音を聞いた時、僕は本気で死ぬかもしれないと思ったのである。餓死寸前になると、人間の身体はびっくりする様な音を奏でるのだということが分かり、勉強にはなったが。
 ゴンギュルガー商会ゴンギュルガー紹介と鳴り響く腹の音を聞きながら、ジジはいつになったら迎えに来るのだろうと考えつつ、同時進行でメアがスクール水着を着用している姿を懸想していた時である。

 唐突に、僕の頭にとある可能性が閃いた。





 すなわち「僕のこと、忘れているんじゃね?」と。





*****




 その結論に達した僕の行動は迅速を極めた。
 群がり襲い来るモンスターの集団を鎧袖一触とばかりに蹴散らし殴り散らし、ダンジョン攻略に乗り出した。
 本当は、モンスターに襲われる僕を迎えにきたジジかメアに助けてもらい「怖かったよぅ!」と泣き真似をしながらセクハラを敢行しようと思っていたのだが、迎えに来ないと分かってしまったので、モンスター共は用済みとなったのである。わざわざ逃げる必要も無くなったので、僕の暴力がモンスターを襲う訳だ。

 今まで逃げているだけだった獲物が、実は自分たちよりも強いと分かったモンスターはどのような心境なのだろうか。そんなことを考えながら僕は狩ったモンスターを焼いて食べる。火を噴くモンスターが居て助かった。流石に生肉を食べようとは思わないので。
 むしゃむしゃとモンスターの肉を喰らいながらダンジョンを探索する。肉を食い終わり、骨をしゃぶっている時に、階段を見つけた。上階に行く階段と、下階に行く階段。どちらに行こうか。
 少々迷うが、ここは直感にまかせて上に行く。直感もあるが、なによりも昨今のダンジョン物は地下ばかりだからだ。きっとこのダンジョンも地下に存在する迷宮とかそんなのだろう。浅い考えで生み出されたダンジョンの筈だ。
 その結論の元に上へ上へと昇って行く。すると、モンスターの強さに変化があった。段々と弱くなってきたのだ。これは僕の直感大当たりである。

 直感が当たったことを確信した僕は、ペースを上げる。だんだんと周囲が明るくなることで、僕は確実に出口に近づいていると理解する。
 その確信した日から何日経ったかは不明だが、ついに雑魚モンスターしかいない区画に辿り着き、そこで目にする巨大な扉。
 達成感が僕を包み、喜び勇んで扉を開け放つ。

 目に飛び込んでくるのは広大な空。
 薫るのは何処までも澄んだ空気。
 視線を下に向ければ、そこには偉大な自然が生み出した雄大な絶景が広がっている。
 時折、絶景を隠す様に流れる白いもやは、つまり雲である。
 そこには、神秘的な風景が広がっていた。

 その光景を目の当たりにした僕は、膝から崩れ落ちる。

 なんたることか。僕は標高的にかなり高い所に居るらしい。出口じゃなかった。なんて使えないんだ、僕の直感はっ!
 僕を包みこんでいた達成感は、突如として疲労感に変わった。どっと身体が重くなったような錯覚が僕を襲う。
 それでも疲弊しきった身体を動かして、周囲を探索する。ダンジョンならば入口と出口を兼ねる場所に通じるテレポーターのような機械があるかも知れない。

 結局そんなの無かった訳だが。

 周囲を探索して判明した事は、どうやら僕はかなり高い塔の屋上に居るらしいという事だ。まさか迷宮ダンジョンではなくて、塔系統のダンジョンだったとは思いもしなかった。
 先程開け放った扉の横に【F465】と記された木の板が貼り付けてあった。僕がどれほど駆け上ったのかは判然としないが、それでも地上465階まで来たのだ。相当頑張った僕である。よくやった。
 そこから僕は再び行動に移る。
 このダンジョンが塔であり、今この場所が頂上ならば、あとは一番下まで降りるだけである。
 心機一転の鋭気一新で、一気に駆け降りる。階段を物理的に。良い子も悪い子も真似をしちゃいけない。これは死ねるぜ。
 そんなこんなで、モンスターが強くなったり弱くなったり、時には、ハーピーやらパン・シーと云った雌型モンスターに色んな意味で襲いかかって時間をロスしながらも、最下層に辿り着いた。
 最上階に着いた時よりもあっさりな表現だが気にしてはいけない。まさか最下層までの道程が数行で終わるとは、僕もびっくりだ。
 それはそれとして、最下層に着き、扉が見つからないので探索を行い、頂上にもあった木の板を見つけた。
 木の板には【B200】と記されていた。そう、地下200階と。
 がくりと僕は崩れ落ちる。

「なんで塔と地下迷宮が合体しているんだよ!」





 僕の叫びは、広大な地底空間に虚しく響き渡った。





*****





「そんな訳で冒頭に戻るのである」

 地下から再び戻り、ようやく地上1階に辿り着いて、僕はついにこのダンジョンから抜け出した。抜け出せた。
 このダンジョンの最も怖ろしい所は、地上1階にダンジョンのラスボスが存在していたことだ。それもダンジョン内のモンスター達とは別格の強さを誇るボスが。
 ダンジョンに入ったら即ボス戦とかねーよ。僕は期せずして、ゲームバランスの重要性を知ったのである。

 そもそも、このダンジョンは入口付近の区画に強力なモンスター勢が揃い踏みなのだ。ダンジョンを進むほどに弱体化するという意味の分からないモンスター分布だった。ゲームだったら糞ゲーの称号を賜るだろう。
 その事は兎も角として、ようやく僕はダンジョンを抜け出した次第。久方ぶりの外気に感動ものです。

 取り敢えず、ジジとメアの居る古城へと向かう。
 城の場所は塔の屋上で確認したので、とっとと向かう。
 一度、一階のボスを倒した後に、城の位置を確認するためもう一度屋上に行ったので確実である。ところが、再び一階に戻るとボスが復活しているという悲劇。いらねぇよそんなゲーム性。
 そんな暗鬱とする事を思い出しながら森の中を歩く。ダンジョンで心身共にボロボロになっていたので、早く落ち着きたいのです。
 テクテクと歩き続けて、日差しも傾き空が夕闇に染まり始めた頃。
 ようやく、我が愛の巣である古城へと到着した。





 そんなこんなで、実に2ヶ月少々ぶりの帰還である。





*****





「なんじゃ、生きとったのか」

 初っ端から辛辣な言葉をジジから賜る僕。ジジ可愛いよジジ。
 約2ヶ月ぶりなのでジジのキャラを忘れそうだったが、そうだったそうだった。こんな感じだった。僕の生存に感激して激しく熱い一夜を共にする様なキャラでは無かったね。残念。

「凄いですね、あの『帰らずの塔』から自力で戻ってくるなんて」

 メアが心底感心したように云う。相も変わらず敬語で話す礼儀正しい良い子だ。メア可愛いよメア。
 約2ヶ月ぶりのメアの姿は、僕の心を貫く程の衝撃を与えた。髪が若干伸びており、なんか魅力値がアップしている。いますぐにでも押し倒したい衝動に駆られるんだぜ。
 でも、そこは堪える。何故なら今の僕は汚れているからだ。僕が抱きついたせいでメアが汚れるのは駄目なのである。なんだか興奮しそうだけど駄目なのである。駄目絶対。

「そんな訳でメアのパンツを貰えないだろうか」
「嫌です! どんな訳ですか!?」
「相変わらず思考がぶっ飛んどるのぅ」
「ふむ。ならばパンティーをおくれ」
「嫌です! 云い方変えただけじゃないですか!?」
「お主は自重しろ」
「僕は健康には気を遣ってるよ?」
「いや、それも確かに自重じゃけどな……。意味が違う意味が」
「全然反省してない気がします……」
「反省はしているよ! あの時もっと攻めるべきだったと!」
「反省してないじゃないですか!?」
「反省はしている。後悔は微塵もしていないけど」
「お主はもう、なんか色々ともう……っ!!」

 メアが顔を赤くして僕を睨みつける。背が低いので見上げる形になっており、とても愛らしい仕草になっていた。全く以って威圧感皆無である。
 ジジは何とも云えない苦い表情をしている。子猫が苦い表情をする貴重な瞬間。カメラが無いのが悔やまれる。

「くっ……! 二人ともこの2ヶ月少々の間に蕩れ度を上げた様だね!」
「とれ度ってなんですか?」
「またも意味の分からん言葉を吐きおって」
「まぁ、それは脇に置いておいて。久しぶりにまともな食事を食べたいです! 食事を要求する!」

 僕がその言葉を云ったと同時に、腹が鳴る。『オウ、エビバデセイッ、ヤーハー!!』と鳴る。今宵の腹の虫は西洋に居た虫なのだろうか? 最近、自分の腹事情が怖い僕である。

「さあ! 腹も鳴っているので食事にしよう!」
「えっと、ですね……」
「うん、なんだい? 今日は僕の好きな女体盛りをしてくれるのかい?」
「黙っとれ変態」
「変態……いい言葉だ……いい言葉は決して無くならない」
「変態のどこがいい言葉じゃ!?」
「それで、メアは何が云いたいの? 女体盛りの事かい?」
「女体盛りから離れて下さい」
「じゃあ、子猫盛り?」
「ワシを巻き込むな」
「そうじゃなくてですね、私達、もうご飯済んだんです」
「……え?」
「材料もさっきので使い切ったのぉ」
「……え?」
「だから、ごめんなさい。今日は我慢してください」
「……え?」
「ワシ達は今日も稼ぎに行っておったから、疲れておるでな。もう寝るぞ」
「その、そういう事なんです」
「……え?」
「おやすみなさい」
「うむ、また明日な」
「……え?」

 去って行くジジとメア。それを呆然と見送る僕。

『もう、ごーるしてもいいよね! こたえはきいてない!』





 お腹の音が、虚しく室内に響き渡った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あ~と~が~き~

 どうして書いた!どうして書いた!
 もう、20話で打ち切っとけばよかったと思わなくもない。


▼か、感想なんか貰っても、う、嬉しくなんかないんだからね!……でも、ちょっとは……っ!? な、なんでもないんだから!!


>僕は幼女のレヴァンたん\(´∀`)/

\(´∀`)/ならば僕は熟女のレヴァンたん


>うぉぉおおおメアとジジを舐めまわすだとおおお!!!!
>いいぞもっとやれ。
>今回のおとぎ話はあながち間違っていないとこがおとぎ話の恐いところ(亀をいじめてた子供たちに対する対応とか鬼退治の理由とかというかリアルにしたらこんなかんじだよね)

御伽噺は基本ブラックだと思います。


>メアが穢されたぁ
>こうして二人はいや、一人と一匹は主人公なしでは生きていけなくなるんですね。わかります。

違うよ!綺麗にされたんだ!心は穢されたかもしれないけれど!
主人公なしでも生きていけると、ジジ様とメア様が仰っておりまする。


>ついに魔の手にかかってしまったか
>昔話混ぜ過ぎwというかエロイ表現入れ過ぎだw よくやった

褒められたので反省はしません。


>美少女の声であるけれど猫を舐めまわすだと…
>なんという変態

変態でもきっとここまでしないと思う今日この頃。
美少女声の設定を忘れていました。そういえばそんな設定だった。


>主人公の紳士的行動とジジのキャラ崩壊に鼻からエレガントが噴き出ました。
>完治後のお仕置きに期待!
>そして昔話については……わっふるわっふる。

エレファントが噴き出なくてなによりです。
お仕置きは放置でした。
昔話は他の誰かがやればいいと思う。


>タイトルと魔女の宅急便フラグから紅の豚フラグを見いだしたがそんなことはなかったぜ
>たまには昔の話をは神曲
>(以下全略)

長かったから省略しちゃった。てへっ☆
紅の豚は見たこと無いのです。だから曲も分からないのです。
ジジのトイレについては、各自ご自由に想像してください。後に盛大に裏切ります。
同人誌は出せる場所がない田舎だし面倒だしで先送り。きっとこれからも出さないでしょう。
xxx板には、それを書くだけの力量がないので行かないよ!


>な、なめまわしたとなっ!

なめまわしたとさ。


>ネコの毛って、飲み込んで平気なのでしょうか。それも特別な化生の毛を。体内で変態化学反応起こしてそうです。
>そして、元雉のその後が気になってならない。無事に万年生きたのかな。

もしかしたら、後々のフラグになる、やも。
雉は無事に千年生きて晩年を過ごしたそうです。恩返しとかしたらしいです。


>さすがの紳士も食器を片付ける際にスプーンとか舐めなかったか。

直に舐められたのでプラスマイナスは差し引きゼロなのです。
舐めるという思考が働かない程に急いでいた理由があるのでしょう。きっと。その理由は分かりませんが。


>桃太郎が生まれる経緯が忠実でふいたww
>たまにハイレベルすぎてついていけないが、いいぞもっとやれ!!

これからはローテンションのシリアス作品を書けばいいのかしら?作者はシリアスの方が得意です。
桃太郎はそのままで良かったと思う。どうせ大きくなったら知ることですし。


>変態(という名の紳士)であり、しかも強いとかマジで手に負えないな・・・(汗

この強さを手に入れるまでの、壮大で壮絶な裏話があるとかないとか。


>(´◉◞౪◟◉)

(´◉◞౪◟◉)八(◉◞౪◟◉`)


>これはほのぼのじゃないwwwwただの変態紳士だwww
>これはXXX板の主人公よりも変態なんじゃなかろうかw

それほどでもなかったです。xxx板は強いです。


>トウヤお前もかw
>ヤバイ世界だと思われるだろこれは

事実、日本は結構ヤバいと思っている作者です。
こんな作品を生み出す程にはヤバいぜ。主人公達の元の世界はちょいと変質してますが。


>これは良い紳士。
>彼の今後の行動に期待です。

主人公は期待されるような行動をしていない件について。


>更新マダー?

もう、書かなくてもいい様な気がしてきた。
そっと消えて、皆さまの心にちょっとした思い出を作れればいいや的な。




[9582] 22話・バハムート
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:08


 今こそ立ち上がれ、運命の紳士よ!





『22話・バハムート』





「釣りに行こうと思います」
「……はぁ」
「うむ?」

 僕の発言にメアが意図を計りかねたように首を傾げ、ジジが怪訝な表情で顔をしかめる。
 むぅ。なにか可笑しな事でも云っただろうか?

「釣りに行こうと思います」
「……はぁ」
「うむ?」

 大事な事だから二回云ってみたのだけれど、返事は変わらず。なんだろうか。こっちには釣りという概念がないのだろうか?

「いいかい、釣りという物はだね……」
「いえ、それは分かります」
「いきなり何を云うかと思えば、釣りがどうしたんじゃ」

 おお。どうやら釣りという概念を根本から教える必要はない様だ。
 そも思い出してみれば、人里の街でも魚のような生物を売っていたので、それを入手する為の手段があることは明白なのだから、無駄に心配することは無かったか。

「釣りに行こうと思います」
「……はぁ。えっと、その」
「行けばよかろう」
「一緒に行こうよ」
「釣りにですか?」
「うん」

 僕の肯定する言に渋い顔をするメアとジジ。どうにも反応が芳しくない。一体これはどういうことか。
 少なくともジジは子猫なので「お魚大好きなのにゃ!」とか云って喜び勇んで同意してくれるものだとばかり思っていたのだが。
 メアにしてもそうだ。てっきり「素晴らしい考えだと思います!」とか云って僕の意見を後押ししてくれるものだとばかり思っていたのに。

「人生ままならないものだなぁ」
「お主はこれまでままなったことがあるのか?」
「計画性とかとは無縁そうですよね」

 メアが僕を傷付ける。
 いつからメアは僕を酷評するようになったのだろうか。

「ガラスのハートを持つ僕に余りキツイ言葉をぶつけない方がいい」
「割れるんですか?」
「むしろ砕けてしまえ」

 ジジが僕のハートをブロークンしようとしている。これには脅威を感じずにはいられない。

「物理的にも精神的にも砕けてしまえ」

 僕の心臓まで標的対象のようだ。どこまで僕に悪意をぶつけるつもりなのだろうか。
 しかし、である。

「ジジが僕の心臓を狙っている。大変だ、子猫ちゃんに僕の心が盗まれる予感」

 まさか魔女ではなく、子猫に大変な物を盗まれそうになるとは思わなんだ。この場合の魔女は黒白ではないが。

「それは絶対にないと思います」

 メアが僕を酷評します。
 あの素直なメアはどこに行ってしまったんだ。流石に泣いちゃうよ僕も。

 いや、でも、あれか。考えようによっては、メアはツンデレとして育っているのかもしれない。純真無垢な少女が、素直な気持ちを表に出せない少女に変わる。そうか、僕はメアをツンデレにしようとしているのか。
 ツンデレ少女育成とか、史上初かも知れないな。なんということだ。僕は伝説になるかも知れない。僕が為すかもしれない余りにも凄まじい偉業に震えが止まりません。
 どうやら僕は次世代の萌えを担うに足る頭脳をしているようだ。

「僕の脳内は宇宙だ」
「いきなり何を云っとるんじゃ」
「意味が分かりません」
「……なんだか釣りの事からズレてる気がする。どうしてだろうか?」
「お主のせいじゃ、お主の」
「貴方のせいです」
「メアがアナタって云ってくれた! これはもう攻略まであと一歩!」
「ないです」





 相も変わらずメアがツンデレです。





*****





「結局は釣りに来た僕達なのであった」

 なんやかんやと色々と話し合ったけれど、最終的には一緒に釣りに行くという事で落ち着いたのです。
 やはりあれだね。僕が滅茶苦茶に駄々を捏ねたのが効いたのだろう。床に転がって手足をバタバタさせたり、地団駄踏んでみたり、吐きそうな感じで泣き落してみたり。
 子供心を彷彿とさせる僕の姿に、メアとジジが心を打たれたであろうことは想像に難くない。仕方ねぇなぁ、みたいな表情を浮かべていたのが印象的ではあったが。

「そんな訳で、ほらメアもジジもしっかりと釣竿を持ってないと魚に持っていかれるよ」
「は、はい!」
「……持ちにくい」

 現在は森の中にある湖で釣りをしているのだが、どうやらメアは初めてらしくぎこちない手つきで釣竿をえっちらおっちらフラフラさせている。
 ジジはジジで、子猫の身体に対して釣竿が持ちにくい様子。二又の尻尾を器用に使って支えているが、それでもやりにくそうにしている。

「メア、もっとしっかりと釣竿を握るんだ。もっと強く、しっかりと釣竿を、竿を掴んで握るんだ!」
「は、はい……っ!」

 ぎゅっと釣竿を握りこむメア。真剣な表情で釣竿を、竿を握っている。必死に竿を握る姿に、目が釘付けな僕。

「ジジも。ほら、こう、尻尾で掴むだけじゃなく上下に動かしながら持つんだ。釣竿をこすりながら、竿を振る様に!」
「う、うむ」

 釣竿を二本の尻尾で器用に持っていたジジは、僕の指示通りに尻尾を上下に動かし始める。その姿は色々と目が離せない。

「……感動物だ」

 竿を持つ二人を眺めながら、若干前傾姿勢になる僕。
 そんな僕の姿には目もくれず二人は自分の事に夢中である。釣りが初めてのメアは当然として、ジジも何気に好物の魚が獲れるかもと期待しているのかもしれない。
 なんとも愛らしい事である。
 そんな二人の姿をほのぼのと見ている最中に、それは来た。

「むっ!」

 僕の釣竿が勢いよくしなる。どうやら魚がかかったようである。
 全力で引っ張るが、それでも釣竿ごと湖に持っていかれそうになる。これは大物だ。

「負けるかぁっ!!」

 乾坤一擲とばかりに力の限り引っ張る。
 しかし、それでも依然優勢は変わらず、僕の身体がじりじりと湖に引っ張られていく。手に持っている釣竿でさえ、ミシミシと悲鳴を上げている。
 一体全体どれほどの大物を引き当てたのか。

「ぐぬぬぬぬぅ!」

 身体中を引き締めて釣竿を引っ張るが、それがどうしたと云わんばかりである。
 もしや世界を釣っているのだろうか。そう思えるほどの力がぐいぐいと僕を引っ張る。
 冷静に考えれば、これだけの死闘に耐える得る釣竿も糸もとんでもない耐久力だ。
 そんな、一種の現実逃避気味な思考をしていると、急激に引く力が弱まった。
 何事かと思っていると、湖の水面が盛り上がり、莫大な水飛沫が巻き上がる。

 その中心から巨大な怪魚が姿を見せる。

 全長100メートルはあるのではなかろうかと云う巨体を誇る龍顔の魚。頑強そうな鱗は、あらゆる攻撃を弾きそうだと想像させるほどに流麗かつ剛毅さを感じさせる。
 その姿は神秘を孕んでいると云っても過言ではないだろう。
 一瞬の内にそう思考した僕の眼前で、怪魚は再び湖に舞い戻った。
 どうやらこの魚は跳ねたらしいと理解しながら、僕は湖へと身体を引き摺られる。

 どうにも、僕はこの怪魚を釣ったらしい。





 自分が釣った物に理解が及ぶと同時、僕の身体を刺すような冷たさが襲った。





*****





「まさかバハムートの幼生を釣り上げるとはなぁ……」

 湖から這い上がり、濡れた身体を日差しで乾かしている僕にジジが呆然とした口調で告げた。

「釣り損ねた。悔しいです」
「いえ、世界の支柱と謳われる神魚を釣っちゃ駄目です」
「というか、この湖に居たのじゃな。バハムート」

 僕の発言を諫めるメアに感慨深げに呟くジジ。
 しかし、あの巨大さで幼生とか成体はどれほど大きいんだって話しである。
 刺身にしたら何人分だろうか。

「ヤツを釣り上げることは出来なかったけど、収穫は上々だから、まぁいいか」

 あの怪魚が跳ねた時に、湖に居た魚たちが数十匹と陸に打ち上げられている。
 釣竿一本の犠牲にしては最高の収穫ではなかろうか。
 因みに、水飛沫が降り注いだ時、メアもジジも魔法だか魔術だかの障壁みたいなので防いだので濡れてはいない。

「実に惜しい限りだ」
「何がですか?」

 メアが僕の呟きに疑問を抱くが、答えは返さない。「濡れて服が透ければ良かったのに」なんて答えを返したら、ジジにまたもや湖に沈められるかもしれない。
 そんなことをされると、流石に僕の体力が保たないだろう。

「今日は豪勢な魚料理ですね」
「やったぁ!」





 心底嬉しそうな声を上げるジジが可愛いかったです。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 短くてもいいじゃない。すべては作者次第だもの。


▼御感想謝謝

>久々の更新お疲れ様です

ちゅかれました。


>更新来た!
>ひゃっほぅーぃ!!

ひゃっほぅーぃ!!


>作者は俺の嫁

就職難が叫ばれる昨今でまさかの永久就職。魅力的ですね。
だが、断る。


>一言一行あけ改行は日記でも読んでるような気分になります

全く意識していなかったのですけど、そう云われれば、なるほど、確かに。
スピーディーかつ読みやすい形にしていたらこうなりました。
元々が暇潰し的な感覚で読んで貰うために始めた物なので、格式ばった書き方をしていないのも理由かも知れませんが。
一人称って、要は具体的に描写が書かれた日記だよなぁ、という思いが作者にあるのも原因の一つかも知れませんね。あとは行稼ぎとか。
まぁ、気に入らなかったら気に入らなかったで「なんだよこの駄作は!」とでも思ってくれたら幸いです。
御意見感謝致します。ありがとうございました。




[9582] 閑話02・とある喫茶店の話
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2009/10/31 21:38


 平穏を約束しよう。





『閑話02・ある喫茶店の話』





 鳥のさえずりが心地よい早朝。朝焼けには程遠く、世界が黒から白へと変わる時。その日一日の始まりの光景である。

 浮上する意識に従い私は目を開け、横たわっていた寝台から身を起こす。
 眠気の残る目を手で擦りながら、「ふぁ」と欠伸を口から洩らしながらの起床。

 幾分のまどろみを残した頭を振って、意識の覚醒を促す。
 その動作によって、少々はっきりした意識をまどろみより勝ち得る。

 寝台から床へと降り立ち、洗面台へと向かい顔を冷水で洗う。

 身を刺すような冷たさの水で顔を充分に濡らして、ふかふかのタオルで濡れた顔を拭う。
 冷水を顔に浴びたことで、僅かに残っていた眠気も消え、意識は完全なる覚醒へと至る。

 その後、歯を磨き終わった後に寝間着から普段着を身に纏い、2階から1階へと降りて行く。

 1階には幾つかの椅子がテーブルに挙げられた状態で、全面硝子でしつらえた窓側に並んでおり、反対側にはカウンターが存在する。
 前日の終わりに十分な掃除をしているので、朝にやる事と云えば、軽く床を掃く位だ。

 店内の奥にある御不浄、つまりはトイレの対面に設置されている用具入れから、箒と塵取りを取り出し、再び店内へ。
 窓を全て開けて籠もった空気を入れ替える。ひんやりとした空気が店内に流れ込むのを肌で感じながら、さっさっと軽く箒で掃く。

 白んでいた空は、東の方向より赤く染まり始めていた。

 朝焼けの日差しが窓から店内に差し込む。雲一つない快晴な空が日の出を迎える頃に、軽い掃除も終わる。

 僅かな塵を取り、ゴミ袋に入れて、そう云えば今日がゴミの回収日であると思いだしてゴミ袋を捨てに行く。
 日の出を迎えたとはいえ、大衆にとっては若干ながら起床には早い時間帯であるために、誰某だれそれと出逢うことはない。

 ゴミを回収場所へと出し、帰りの途へと着く。
 店に戻る頃には、にわかに街が活気を帯び始める。

 店内に戻って先ずはと全開にしていた窓を閉め、カウンター奥へと行き、そろそろ材料を手配する頃合いかと頭の片隅で考えながら、朝の準備を仕込む。

 仕込みが大方完了し、外ではちらほらと人影が増え始める時間帯。

 店内をぐるりと見回し、ふむと一つ頷く。

 店内と店外を繋ぎつつも断絶する扉、つまるところの入口と出口を兼用する扉を開け放つ。
 出口脇に置いていた御品書きを表へと出して、扉に掛けてある『閉店』の札を『開店』へと裏返す。

 んっ、と息を詰めながら背伸びをして気持ちを一新。再び店の中へと戻る。



 それが私の一日の始まりである。



*****



 一日の始まりと云っても、特筆するようなことが起こる訳ではない。
 私が経営している喫茶【カーム】は、基本的に混雑する様な事は滅多になく、平穏を旨としているからだ。

 平穏。凪。安息。

 そのような意味を表す【カーム】を店名としている以上、実に相応しいと状況とも云える。

 このような益体もないことをつらつらと思い浮かべている訳ではあるが、だからと云って客足が皆無という訳ではない。
 現に、今の店内には数人の御客が居る。

 獣人の男性がコーヒーを啜りながら情報誌を読む姿。人族の初老の男性二人が、煙草を吹かしながら互いに将棋を指す姿。この西方世界でも珍しい妖精族の妙齢の女性がアイスコーヒーを傍らに、何かを幾枚もの紙に書き綴っている姿。人族の青年がパスタを美味しそうに食べ進める姿。

 それぞれが思い思いの時間を過ごすことで、無情に流れる時間が緩やかになったと錯覚させるほどに、この店は穏やかさに満ちている。
 その安らかな空間を肌で感じながら、自然と浮かぶ微笑み混じりの顔で汚れの気になったコップを拭く。
 静かな空気の中で、きゅっきゅっとした音が響く。

 私は、この平穏が大好きである。

 外では、慌ただしい世の中の真っ只中であるも、私が経営している喫茶店にはその慌ただしさとは隔絶された、穏やかな空気が満ちる。
 その穏やかな空気を生み出してくれる喫茶店の主であることを誇りに思いながら、拭いていたコップをカウンターに置く。


「マスター、勘定を頼む」
「はい、分かりました」


 食事を終えたらしい人族の青年が声を掛け、私は青年の許に行く。


「相変わらず、マスターの料理は美味しいね」
「ありがとうございます」


 支払いを済ませ、笑顔で去って行く青年を見送る。
 青年から支払われた金銭を、掛けているエプロンのポケットに入れて、食器を持ってカウンター内に引っ込む。

 食器を水桶に一先ず入れて、油を浮かす。
 さて、洗おうかとスポンジを泡立たせて食器を掴む。


「おーい、兄ちゃん。すまんが注文ええかね?」
「ええ、いいですよ」


 食器を洗おうかと思った矢先に呼ばれたので、掴んだ食器を再び水桶へと戻し、泡まみれの手をさっと水で流してエプロンで拭きつつ、人族の初老の男性二人の許に向かう。
 接客業の基本である笑顔を浮かべながら、追加注文を取り、再びカウンター内へと戻り、注文の品を作り始める。

 油をひいたフライパンが程良い熱を持った所で、プロテスの腿肉を投入する。
 じゅわりと肉の焼ける良い匂いが立ち昇り、その匂いが私の腹を刺激する。
 昼飯を何にしようかと考えつつ、調味料で味付けを行いながら料理の手を進める。



 私の腹が、くぅ、と鳴った。



*****



「繁盛している?」


 カラコロと扉に取り付けているベルが鳴り、客の来店を告げる。
 来店と同時に声を掛けてきた人物へ私は目を向けた。

 視線を向けた先には、目を瞠るほどの美女。

 透き通るかと思えるほどに白い肌、美しい桃色の唇、綺麗にすっと通った鼻梁、目もとは若干垂れていて、そのすらりとした相貌からは柔らい印象を受ける。
 淡い翠玉の長髪をなびかせ、均整のとれた身体つき。仕草の一つ一つが実に品がある。

 この街でも三指に入る美女。街中の男共を時には女性さえ種族を問わずに虜にする女性。

 イリーヤ・カスティル、その人が微笑んで私を見ていた。


「ぼちぼちですね。いらっしゃいませ、イリーヤさん」


 私はイリーヤさんに微笑みを浮かべて返答し、どうぞと席を勧める。
 御昼時というのもあって、朝方よりも多くの人々が訪れており、イリーヤさんの登場に若干ざわついた店内であるが、すぐに沈静化。
 というのも、イリーヤさんが店内にいた御客に微笑みながら見回したからである。
 その笑顔に熱に浮かされたような顔を浮かべながらも呆けたように静かになる人々。異性だけでなく、同性さえも魅了するとは恐れ入る。

 微笑むだけで人心を掌握できるイリーヤさんに薄ら寒い想いを浮かべながらも、私も軽く魅了されているのだから驚愕の一言だ。

 そのままイリーヤさんはカウンター席に座り、私に注文の品を告げる。私はそれを聴き、先ずはとエスプレッソを入れて差し出す。
 それに感謝の言葉を述べるイリーヤさんに微笑みを返し、注文の品を作り始める。

 ヤツカの実を主体としたサラダに、レオリブとリーガントの肉をパンで挟んだサンドイッチ。両方を同時進行で調理しながら、イリーヤさんが時折話し掛けてくるので、それに相槌を打つ。
 その私に、店内に居る男性諸君が私を嫉妬の目で見つめてくるのを、甘んじて受ける。

 私とて、男性諸君の気持は分かるのである。

 まぁ、流石に私に殺意を伴った視線を向ける者が若干名おり、その視線に背筋がぶるりと震える。
 その視線を向けているのが全て女性というのは、果たしてどういうことなのか。

 その視線を努めて無視しながら、出来あがった注文の品をイリーヤさんに渡す。
 再度、感謝の言葉を告げるイリーヤさん。それに伴い殺意の視線が圧力を増す。

 このままでは、流石に店内の穏やかな空気が壊れかねないので、はぁと溜息を吐く。

 嫉妬の視線を向ける男性諸君に、殺意の視線を向ける若干名の女性に、温度の無い笑顔を向ける。顔だけは笑顔を形作っているが、私の目は一切笑っていない。
 友人知人に絶対零度の笑みと称される私の笑顔である。

 私の笑顔を見た人々は、軒並み顔を青褪めさせて慌てて目を逸らす。


 ふむ。静かになったか。


 それに満足して一つ頷くと、クスクスという笑い声が聞こえて来たので、そちらに顔を向ける。
 そこには、手で口元を隠していたイリーヤさんの姿。


「どうしました?」
「いえ、相変わらずねぇ」
「なにがですか?」
「ふふ、貴方、この喫茶店がなんて呼ばれているか知ってる?」
「……いえ、存じませんが」
「色々と云われているわよ。隠れた名店、美食家御用達、平穏の喫茶、安らぎの場所、現代の止まり木」
「……はぁ」


 なんだろうか。褒められていると解釈しても良いものか。
 なんだか背中がムズムズするのだが。


「あと、一番云われているのが」
「なんでしょう?」
「裏世界の実力者の巣」
「…………」
「他にも、腹黒店長の座す所、とか」
「…………」

 何故にそのような名称が蔓延っているのだろうか。不思議過ぎる。
 これでも私は近所付き合いも良い方だし、材料の仕入れ相手とも親しい上に、街の人々とも笑顔で挨拶するほどだ。

 誠実にして品行方正を心掛ける私に、なんという不名誉な呼称が付いたことか。


「そうねぇ、確かに普段は誠実だし、優しいけれど」
「けれど?」
「貴方は、この穏やかな空間を壊す者を許さないでしょう? そう云った輩を、結構手酷く追い返していたりするそうじゃない」
「……相手は選んでいますがね」
「そうね。でも、その時の貴方は本当に怖いらしいわよ? 私は残念ながら貴方のそういった姿を見た事はないのだけれど」
「……そうですか」


 なんともはや、得心とでも云うのだろうか。
 どうやら私の矜持を穢す輩に制裁を加えていた姿が、大衆からすれば恐怖の対象として見られるらしい。
 ふむ。これは由々しき事態だな。昨今はとみに大人しくしていたと云うのに。

 これは、経営も苦しくなるかもしれないか。


「それは大丈夫だとは思うけどね」
「何故でしょう?」
「一度貴方の人となりを知れば、程度さえ間違えなければ無害だと分かるものだし、なによりも、ここの料理は本当に美味しいもの。一度食べれば、リピーターは自然と付くわよ」


 そう云って艶然と微笑むイリーヤさんに、しばし見蕩れてしまった。
 少しふやけた頭を振って平静を取り戻す。

 静まれ、私の鼓動。

 今の私のていを誤魔化す様に、言葉を紡ぐ。


「しかし、そうですか。最近は気を遣っていたのですけどね。私も自分の事くらい、自覚していますので」


 特に、私が不快になっただけで、その相手を敵と見做すような真似はしないようにと、いつも心掛けていた。
 一度敵と見做してしまえば、きっと私は容赦をなくすだろうから。


「貴方の昔の事を私は知らないから、そこに関しては触れないけれど」


 そう云って言葉を区切り、エスプレッソを飲んで一息吐くイリーヤさん。


「貴方が並々ならぬ武力を持っていることも見ていれば分かったし、それを無闇に揮わない様に必死で自制しているのも理解していたわ」


 ……恐れ入る。この人の前では、そういった暴力事を、私の持つ武力を見せた事は無かったのだが、見抜かれていたのか。
 大抵の者は、私の細身の身体を見れば、武力だの暴力だのと云ったモノとは無縁であると思うというのに。むしろ、ひ弱そうな男と思われる位だ。


「だから、気になるのよね。大抵の揉め事は話し合いでなんとかしていた貴方が、最近になって、人前で自分の武力を揮うのに頓着しなくなったという理由が」
「理由、ですか」
「ええ、理由」


 私に流し目を送りながら尋ねるイリーヤさん。
 その振り撒かれる色気に鼓動を早めながらも、思い当たることを正直に話してみる。


「強いて云えば……」
「云えば?」
「あの変態のせいでしょうか」
「……は?」


 ぽかーんとした表情で私を見てくるが、構わずに続ける。


「変態と聴いて、思い当たる人物が居ませんか?」
「……一人、居るわね」
「私は二人居るんですが、理由として挙げた変態は貴女が思い浮かべた変態で良いと思います」
「……彼が、どうしたの?」


 なんだか微妙な顔になったイリーヤさん。
 気持ちは凄く分かる。実際、私も話すと微妙な気分になる。私に若干の変化を与えたのが、あの変態などと。そもそも奴は本当に私と同年代なのだろうか。
 落ち着きが無さすぎる。


「確かに私は貴女の云う通り、それなりに強い武力を、暴力を持っています」
「ええ」
「普通の輩ならば、私の強さを知った時点で、もうこの店に近づかなくなるし、ちょっかいも出さなくなるものなのですよ。殺気も込めていますし、凄んで脅したりするので」
「……中々バイオレンスなことをしていたのね」
「ええ、まぁ。……それで、ですね。なんと云いますか、あの変態にも一度脅しを掛けた事がありまして」
「へぇ」
「普通なら、その程度の脅しでも来なくなるものなのですよ。現に巻き添えを喰らった当時の他の御客様はもうここを訪れたことはないので」


 恐らくだが、先程鎮静化させた人々も、もう来なくなるかもしれない。
 意図してやった訳ではないし、わざわざ店の収入を減らす気もないので、再び来てくれても構わないのだが、どうも本気で私の脅しは怖いらしい。たとえそれが程度の軽いものであっても。


「ですが、あの変態は私が脅しを仕掛けた後も、ちょくちょくとここに出向くようになりまして。結構頻繁に殺気をぶつけたりするんですが、それでも平然と来るものですから、なんというか、そういう行為が普通に成りかけているんですよ」


 一人で来る時は、割りかし理想的な御客として訪れるので、そういった時は追い返したり脅しを仕掛けたりと云ったことをしないしな。


「まぁ、それで、なんというか、他の御客さまにもあの変態と同じような対応をとっているようですね。無自覚に」
「あらあら」


 ふぅ、と物憂げに溜息を吐いて、ぼそりと呟く。


「良くも悪くも、色んな人に様々な影響を与えるのね、彼ってば」


 何を呟いたのかは上手く聞き取れなかったが、これだけは確信を持って断言出来る。


 その物憂げな表情も魅力的なのは、流石はイリーヤさんと云った所だ。


*****


 御客も全員帰り、就業時間を終えて店を閉じ、店内の掃除をする。
 一日だけで、中々汚れるものだ。
 発光鉱石に使う魔力を節約するために、掃除を終えた所に設置している幾つかの発光鉱石を切っているので、店内は仄暗い。
 店の入口付近など、外の暗さも合ってか真っ暗だ。


「然り。相も変わらず、このような茶番を続けているのかね」


 掃除をしていると、不意に声が響いた。
 顔を後ろに向けると、そこには人影が闇と共に立っていた。

 その人影を認識し、自然、私の声が鋭くなる。


「……何しに来た、夕闇の」
「然り。貴殿に逢うために」
「私に、一体何用だ」
「然り。貴殿を誘いに」


 相変わらず、特徴的な喋り方をする男だ。
 何を以って「然り」と云っているのか判然としない奴め。


「……私を何に誘う?」
「然り。これより起こる大戦争に」
「……なに?」


 この男の云った言葉に、目が鋭くなるのを自覚する。


「然り。これより先、東方世界と西方世界の間で大戦争が起こる。史実に残るであろう大戦争が。それに伴い、貴殿の力が欲しい」
「戯けたことを。私は既に一市民だ。その程度の男の力など、たかが知れているだろう」
「然り。故に、我らは一市民たる貴殿の力ではなく、百英雄たる貴殿の力が欲しいのだ」
「……私は、既に英雄ではない」
「然り。そう云うな、百英雄の十大傑物が一、平穏英雄殿。貴殿の席は未だに空席ぞ」
「……その口を閉じろ夕闇英雄、殺すぞ」


 かつての同輩だった男に殺意を向ける。


「然り。良いのかね? そのような不穏な言葉、君の信奉すべき平穏とはかけ離れているが」
「何も問題はないし、勘違いするな。既に私は英雄ではないと云ったぞ」
「……ふむ、意図が計りかねるが? それと先程の言葉、どの様な繋がりが。貴殿が未だに平穏を信奉していることは理解しているつもりだが」
「その平穏の定義が変わったということだ。今の私は、他者への平穏ではなく、自身への平穏を第一とする」
「……然り。得心よ」
「分かったら失せろ、夕闇。私の気分が変わらぬ内にな」


 言外に、今すぐ失せねば殺すぞと意志を込めて告げる。
 その私の言葉に、くくく、と嗤い声を出す。


「然り。承知よ。今宵は諦めれど、また来ようぞ」
「何度来ても同じだ」
「さて、それはどうか」


 くくく、と面白そうに嗤いながら、闇へと溶ける様に消える。

 気配を探り、本当に居なくなったことを確認して、掃除の続きを行う。

 全く以って、今日一日が台無しにされた気分である。



 私は掃除をしながら、深々と溜息を吐いた。





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 今回は閑話です。改行とかを本編とは色々と変えてみたりして実験中。
 今回のお話が本編に関係するかは不明。

▼あざーっす!……ところで「あざーっす」と「アザトース」って似てるよね。うん、それだけ。

>紳士が拗れて入院したかと思ったら立派な紳士としてまた戻ってきてたんですね。
>そして幼魚が一瞬幼女に見えた俺は立派な紳士ですね。

いえ、眼科に行きましょう。


>竜王のほうのバハムートかと思ったら神話(つーか聖書?)のほうのバハムートだった。
>一本とられた。
>あれ、うまそうだなぁ……

食べる時はそれなりの覚悟が必要そうですけどね。


>更新おつかれさまです!
>もう半分くらい諦めてたんでうれしい限りです!

どうもです。忘れた頃にちょこちょこ書こうと思います。

>バハムートってお魚さんだったんですね・・・
>自分はてっきり竜だと。
>まあもうすでに竜は出てきてしまっているので無理な話ですが(苦笑)
>これからもがんばってください。

いっそのこと浮遊大陸をとある騎士と一緒に守護しているバハムートにでもしようかしらと思いましたが、結局こっちにしました。
適度にがんばります。


>たまに珠玉の一文があるのがすごいと思います。それ以外は流し読みですが。

流し読みで充分かと。気軽に読んで頂ければ幸いですので。
あと、お褒め頂き恐悦です。珠玉の一文とか初めて言われました。嬉しです。





[9582] 23話・異質の刀匠と誇りの鍛冶師
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:12


 死をも恐れぬ薔薇の騎士達は、彼女に続くかもしれない。





『23話・異質の刀匠と誇りの鍛冶師』





「……熱い、暑いじゃなくて熱い……」

 ギィンギィンと鋼を打つ音を聞きながら言葉が漏れる。

「熱い、暑いじゃなくて熱い」

 今度はあからさまに言葉を発する。
 しかし、僕の言葉を聞いているのか聞いていないのか、全く気にも留めずに鋼は打たれ続ける。

「……おのれ」

 そんな態度に悪態を吐く。吐きながら、恨みがましい目で見つめるのも忘れない。こんにゃろめっ、という気持ちを過分に込めてジーっと。
 されども、そんな僕を無視して鋼を打ち続ける。ギィンギィンと鋼を打つ音が空間に響く。

「ちくしょう、換気だ換気」

 流石の僕も我慢が限界に達したので、籠もった熱気を追い出そうと出入口に向かう。この建物は空気だの何だのを調整するために窓がないため、換気をするには建物に唯一設置されている出入口を開けるしかない。
 暑い熱いと呟きつつ出入口の取っ手を握った瞬間である。
 ごうっ、と何かが僕の頭を掠めて鉄製の戸にぶつかった。
 ガギィインと硬質の物体がぶつかった際に生じた大音量が僕の耳朶を直撃。

「ぎゃあああ!」

 思わぬ事態につい叫び声を上げる僕。扉のすぐ近くに居た事が災いした。なんという不意打ち。
 ゴロゴロと地面を無様に転がる。耳がぁ、耳がぁ!?

「……勝手な事をしてんじゃねぇ」

 そんな僕に非情な言葉を投げかける人物が一人。
 僕のことを無視して鋼を打っていた男――フリゲル・アンディアその人である。

「鍛造中に勝手な真似をするな。空気が変われば、それだけで作品に大なり小なり支障を来たすだろうが」

 冷めた目でそう云い捨て、僕に向けていた視線を手元の鋼に移す。そして再び、ガギィンガギィンと鋼を打つ音が響く。
 なんだか、もう、僕には興味無いと云わんばかりの態度である。

「こ、この野郎っ、客人になんて事をしやがる……っ!」

 よろめきながらも身体を起こし毒突く。未だに視界がくらくらするぞコンチクショウ。

「鍛冶師の作業中に下手な事をするからだ。テメェさんも鍛冶師の友人が居るんなら、それくらい分かって然るべきだ」

 ギィンギィンと澄んだ音を響かせる鋼からは目を離さずに言葉を紡ぐフリゲルのおっさん。
 云っている事は僕にも理解出来る。フリゲルのおっさんは、こと鍛冶に関してはこの世で最も真摯であることも理解しているつもりだ。職人気質なので、集中を要する作業に余計な茶々が入るのを嫌うのも当然だろう。
 だがな、僕にだって言い分って物があるんだよ!

「人を呼び付けて置いて、その態度は如何な物か!?」

 そもそも、僕はアンタに呼ばれて出向いてやったんだ。なのに呼んだ相手を無視とかどういう了見だ。

「……それもそうだな」

 ギィィンと、甲高い音が響く。
 フリゲルのおっさんは目を鋼から逸らすことなく僕に云った。

「テメェさん、相槌を打て」
「……は?」

 鋼を打ち続けるフリゲルのおっさんに、僕は呆けた相槌を返す。
 何を云ってるんだこの親父?

「何故に僕が相槌を?」
「テメェさん、友人が鍛冶師って云ったろう?」
「鍛冶師じゃなくて刀匠だけど」
「そこら辺の細かい所は後で聴くとして、あれだ、手伝った事くらいあんだろ」
「決め付けいくない! 友人に刀匠が居るからって、そういった事を手伝う機会がある訳じゃない!」
「じゃあ、やったことねぇのかい?」
「…………あるけどさぁ」
「なら手伝いやがれ。テメェさんが手伝えば、早く終わるかも知れねぇんだからよ」

 このおっさん、客に仕事手伝わせるとか……。それってどうなのかしらね。
 心底から溢れる不満を飲み込んで、「はぁ」と溜息を吐き出す。
 壁際に掛けられている槌を手に取る。そして、フリゲルのおっさんに背後から近付き、思い切り槌を振り被り――落とすっ!

(不満を飲みこみ切れなかった。仕方ないと思う。僕は悪くねぇ!)

 胸中でそんなことを呟きつつ、脳天目掛けて振り落とされた槌は、しかして、フリゲルのおっさんの頭をトマトみたいに潰すことは出来なかった。
 ひょいとおっさんは身を横にズラし、僕の振るった槌は鋼を叩く。ギィイン。
 驚愕の光景を目にした僕は、驚きのまま槌を鋼から退かす。
 僕の槌が退いた後に、フリゲルのおっさんは再度、槌を鋼に打ち込む。

「その調子で頼むぜぇ」

 平然とした声を出すフリゲルのおっさん。
 その態度に心持ちカチンと来た僕は、再度槌を振り上げ、落とす。
 それを先程と同じように躱して作業を続けるフリゲル・アンディア。

「むきーっ!」

 ムキになって何度も何度も同じことを繰り返す。その度に同じ結末を迎えるのはどういうことか。
 そんな事がはや数百回。
 もはや幾度目になるかも分からない槌を振り落とす。ガギィンと甲高い音が響き、僕は崩れ落ちる。
 ぜはっぜはっと、荒く息を吸う。体力を根こそぎ持っていかれた。

「おう、助かったぜ」

 大量の汗を掻き、息を僅かに乱しているおっさん。それでも、熱せられて灼熱の色を灯す鋼を持って立ち上がる。この体力親父めっ!
 そんな僕の心境など露と知らない体力親父は、灼熱の鋼を焼き入れする。
 ジュワッ! と煙が立ち昇りフリゲルのおっさんを包み込む。
 煙に包まれるおっさんの姿を横目に見ながら、僕は一つの想いを胸に浮かべる。
 すなわち、態よく相槌打っちゃったと。





 悔しい思いを胸に抱いたまま横たわる僕、いと無様。





*****





「さてさて、さっきはどうもあんがとよ」

 莞爾かんじとしながらそんなことを云ってくるフリゲルのおっさん。
 先に云っておく、アンタ何者だよ。昨今の鍛冶職人はあれだけの身体能力必須なのか。僕びっくりだよ。

「さてさて。そんじゃま、本題に入るとしますかね」
「やっとかこの野郎」
「まあまあ、そう怒るなや」

 豪快に笑うフリゲル・アンディア。待たされた身としてはイラッとするね。待たせるのは好きだけど待つのは嫌いです。

「それで、なんだっけ?」
「あれだ、お前さんの友人の鍛冶師の話し」
「鍛冶師じゃなくて刀匠ね。なんか刀匠って言葉にこだわっているから、あいつ」
「そこも気になるんだよ。なんで、そのやっこさんは鍛冶師って呼ばれるのを嫌うよ?」
「あー、えっとねぇ……」

 まぁ理由は、あいつじゃないと分からない精神論みたいな物なのだけれど。

「えっとですねぇ、そいつは『刀』しか作らないからですよ。特に日本刀。だから、"刀"匠らしいよ!」
「ほぅ……。ニホントウってのは分からんが、刀はあれか、北方世界と南方世界での主流武器か」
「そうそうそれそれ」

 見た事はないけど、もう面倒だからテキトーに同意しておこう。

「てか今更ながらに凄く面倒です」
「あん、何が?」
「なんで僕は友人の話をむさ苦しいおっさんに話さなアカンのじゃ」
「テメェさんが酒場で同意したからだろうが」
「うっせ! 仕方ないじゃん! エリーナさんにお仕事してますって見せなきゃいけないんだから!」
「おまっ、そんな打算で仕事してんのか!?」
「普通はそんなもんです」

 仕事を糞真面目にする人はワーカーホリックだろ。

「……まぁ、いいか。それとこれとは。取り敢えず、その友人とやらの事を教えろ」
「無駄に友人に拘る件について。あれか、アンタは同性愛者か。しかもショタコンとか最悪過ぎる……はっ! ま、まさか僕まで……っ!?」
「ばっ、ちげーよ!? 単に同業者として奴さんの性質に興味が湧いただけだっ!!」

 必死に言い訳する姿で疑惑が増してくるんだぜ。

「と、兎にも角にも、その奴さんはどういうやつよ?」
「……ふむ」

 割りかし必死に否定するフリゲルのおっさんにショタコン同性愛者の疑いを深めつつ、刀匠である友人の事を思い出す。


『あのね~、通り魔が不夜くんだって云われてるのには理由があるの~』
『待つんだ。ナチュラルに名前を呼ぶな。3秒前まで苗字だったろうが、唐突過ぎるぞ』
『通り魔ね~、日本刀持ってるんだって~』
『聴けよ、俺の言葉。泣くぞ』
『いいよ~』
『そこだけは拾うのか!?』
『顔が般若なんだって~』
『何事もなかったように、続けた……だと……』
『だから終夜くんだって噂が出たの~』
『どこで? どこで俺という確信に至ったんだ? あと、呼び方は一貫しようよ』
『どこでって、顔』
『なんだとっ!?』
『でね~、ミッチーが普段は着物を着てるって聞いたから、ミッチーだ~って思ったの~』
『誰だよミッチーって。しかも、何故に着物が関係あるのか』
『人の話をちゃんと聴きなさい!』
『ええ!? 理不尽に怒られた!?』
『おにぎりって美味しいよね?』
『関係なくね!? いきなり話題を変えないでっ!』


 そうだそうだ、こんな感じだ。クラス最強の天然少女と対等に話しているような奴だった。
 断片的にしか思い出せなかったが、基本的にこんな会話ばかりしてた筈である。
 基本ツッコミ兼ボケの両刀遣いだった。……両刀遣いってなんかえっちぃ響きだな。
 その旨をフリゲルのおっさんに話す。かくかくしかじか。

「……鍛冶に関係ないだろ、それ」

 云われて気付く。そういやそうだ。全然鍛冶に関係ないことを思い出してしまった。

「テメェさん、俺っちは奴さんがどういった作品を作っているのかが気になるんだよ。そこんところを教えてくれ。何か俺っちの鍛冶に取り入れることが出来るかも知れねぇ」

 真剣な眼差しで僕を見据えるフリゲルのおっさん。本当に鍛冶に関して一途な人だなぁ。

「どんなことを聴きたいの?」
「先ず、そいつはどんな物を目指してたか、だな」
「うん?」
「そいつが刀匠だろうが鍛冶師だろうが、職人ならば目指すべき到達点ってのがあるもんだ。奴さん、どんな物を目指していたよ?」
「因みに、おっさんはどんな物を目指してんの?」
「俺っちかい。そうさなぁ、漠然としちゃいるが、生涯で最も最高の武器を鍛えることかねぇ。月並みだけどよぅ」
「ほほぅ」
「それで、奴さんは?」
「あいつは……えっとねぇ……」

 どんなの目指してるって云ってたっけ。特に興味無かったから、記憶が朧気なんだよなぁ。
 えっと、えっと、そうだっ!

「確かね、最強の一振りを打ちたいって云ってた」
「へぇ、なんだい、奴さんも月並みな事を云ってんのかい」
「意味合いが既存の武器職人とは違うけどね」
「うん? どういう意味だ?」
「んっとね、例えば、おっさんは武器をどんな物として捉えてる?」
「そりゃあ戦場で揮われる物だろ。命の奪い合いを旨とする利器なんだから、それが当然だろうよ」
「じゃあ、装飾刀とか飾る為の見栄え良い武器をどう思う?」
「……好きじゃねぇな。武器ってのは使われてこそ武器足り得る。戦場で揮われてこそ武器って考えているからな」
「まぁ、普通はそんなもんらしいね。例え太平の世だろうと、武器を作る鍛冶職人は根本的にそう思うのが当たり前っぽいので」
「……て、ことはなんだい。奴さんは違うのかい?」
「うん」

 あいつの考えは特殊らしいからなぁ。

「『刀はどのような物であれ、すべからく刀である』」
「おう?」
「『例え殺傷力が皆無であろうと、刀として造られた物は刀足り得る』」
「……なんだい、そりゃあ」
「友人が云ってた言葉。刀しか打たないので内容全部、刀が主体だけど」
「……ほぅ」
「そして、友人曰く『装飾刀は、飾られる事こそ戦い』らしい」
「そりゃあ、どういった意味だ?」
「飾られるのが役目なら、飾られて真価を発揮すればいい。それを見た全ての者を惹きつけ、畏れさせ、平伏させる。それこそが装飾刀の役目。殺し合いの戦場で揮われないならば、殺し合わない戦場で己が剣威を揮えばいい。そんな事を云ってた」
「……そうかい、そんな考えもあんのか」

 感心したと云った様子で呟くおっさん。僕はさらに言葉を重ねる。

「それを含めて、最強の一振りを打ちたいんだって」
「……含めて?」
「そう、含めて」

 ふぅと一息。

「折れず、曲がらず、朽ちず、砕けず。手入れせずとも些かも衰えぬ刀、森羅万象切り裂く刀、時間だろうが空間だろうが概念だろうが想念だろうが斬り捨てる刀。殺し合う戦場に於いて比類なき最強の利器、手にした者に勝利のみを与える最高の利器、振るえば天を裂き地を裂き人を裂く不変の利器。それを見た者の心を奪い惹きつけ畏れさせ平伏させ抗う事を考えさせない無類の刀、自ら殺されたい斬られたい殺したい斬りたいと想わせる無比の刀、ただ其処に在るだけで最強の刀。莫大な過去にあってさえ、膨大な未来にあってさえ、この世に遍く数多の武器さえも嘲笑に伏す、絶対の刀。存在する総てのモノと一線を画して頂上に座す刀。これを超えるモノなど有り得ない、無敵の刀……」

 息を吸う。

「……それが、目指すべき物らしいよ」

 そこまで云って、言葉を区切る。
 フリゲルのおっさんは、それを聴きうんうんと頷いた。

「崇高な考えじゃねぇか。成程な」
「……珍しい。大抵の人はこれを聴くとバカにするんだけどね。そんな物、夢物語だって」
「確かに、現実的じゃねぇ。それを本当に疑わずに心底可能だと思っているのなら。だがな、それを否定し莫迦にするのは簡単だ」

 そこまで云って、一際真摯な眼差しをするフリゲルのおっさん。

「俺っちの師匠が云っていた。『他者を否定するは三流、己こそ正しきと思うは二流、他者の意見を受け入れて初めて一流』ってな」
「おっさんは一流だから、受け入れたと?」
「いや、俺っちはさらにこう考えてんのよ。『他者の信念を否定せず、それでも己が信念を貫いてこそ超一流』ってよ」
「ふーん」
「あっさりだな、おい。俺っち今良いこと云ったろ?」
「いや、興味ないし」
「テメェさん酷いな!?」

 その後もなんやかんやと話し合った訳である。





 なんとなく、郷愁の念が湧いた今日この頃。





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 雰囲気がなんだか違う!でも、ほのぼのとはしてると思う!
 ほのぼのしてるならなんでもいいやと思った今日この頃。


▼いまだに感想を貰えると嬉しさが半端ない。


>お初です。面白くて一気読みしてしまいました。クリティカルなネタが所々に存在して、腹筋がヤバかったです。特に、「エンディングまで吐くんじゃない」とテストの部分が最高でした。

楽しんで頂けたようでなによりですたい。これからもご贔屓に!

>追伸
>MOTHER1のイヴに惚れたのは、オレだけでいい。

イヴ可愛いですよね。加えて言えば、あの無双っぷりには惚れるしかない。しかし、作者はギーグも好きです。幼少のギーグ話とか詳しく知りたいです。


>ヤヴァイ。電車でこのSSを見つけたのが運の尽きでした。電車にいたはずが、気づけばベッドに寝転がって弟に「キモい」って言われてました。後日、電車で携帯見ながら笑い転げる紳士の噂がたったら責任とってください。面白かったです。

作者は田舎に住んでいるので、きっとその噂は届かないと思うのです。よって、綺麗なお姉様以外に責任は取りません!
作者は悪くねぇ!


>読んでいると、たまに指先がピリピリする感じの文章があります。
>最初の頃の変態具合で絶対に嫌がってると思っていたメアの心境が、買い物の話で「嫌なだけではない」みたいなのを読んだ瞬間とか、ピリピリきました。
>これは…これがもしかして恋ですか

いいえ、それはボブです。
しかし、ピリピリするってどんな文章なのかしら。何気に気になりました。どの部分なのだろう……。

>面白かったです。

ありがとうございます。その一言が嬉しいです。





[9582] 24話・50の音取り遊び
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:18


 色は匂えど散りぬるを。





『24話・50の音取り遊び』





「アバンチュールは良いものだ」
「いきなりどうしたんですか?」
「うむ、相も変わらず意味不明じゃな」

 僕の言葉は、どうやらメアとジジに理解されなかったらしい。

「えっとね、アバンチュールは良いものだと思うんだよ!」
「お主はつまり何が云いたいんじゃ」
「カッコイイことを云いたいです」
「気持ち悪いほど意味が分からないですね」

 メアが最近僕に対して酷くなってきている気がする。これはどうしたことか。

「くっ、メアのツン具合が強すぎる……っ!」
「結構なことじゃな」

 ジジまで最近……いや、ジジは前から酷いか。そんなに変わってないな。いつまでも変わらないジジで居て欲しいものだ。
 それはそうと。

「ここまで二人にキツイ言葉を浴びせられると、興奮が止まらない」
「流石は変態じゃな」
「紳士だよ! 僕は変態じゃないよ! 紳士だよ!」
「凄く無理のある言葉ですね。明らかに紳士じゃありませんし」
「誠意ある行動しかしてないんだから、紳士だよ!」
「そんな訳あるか。誠意という言葉を履き違えるな」

 一方的に二人に責められる僕。
 嗚呼! 快感の波が止まらないっ!

「たまらねぇ……」
「畜生以下じゃな、お主。いや本当に」
「追随を許さない変態っぷりですね」

 本格的にメアはツン期に入ったのかもしれない。容赦がないです。
 しかしながら、ツンデレでのツン期とは世間一般で云う所の。

「照れ隠しだものね。流石はメア、可愛い! ……あ、そういえば女体盛りはいつするの?」
「唐突にセクハラ発言をかますな」
「なんというか本当に、アレ、ですよね……」

 メアが何とも云えない表情で僕を見る。
 どうしてそんな表情をするのかしら、さっぱり分からないわね。

「ニーズがあるなら僕が男体盛りをしてもいいけどね!」
「ぬるぬるしそうじゃな。変な液体とか出して。どちらにせよ、喰えた物じゃないが」
寧日ねいじつな日々にほんのりとしたスパイス男体盛り。……ヤバいな、流行るぞこれはっ!」
「ノイローゼになりそうなので絶対に実行しないで下さいね」

 仮に実行したとしても、そこまで酷くないと思う。僕の肉体美は中々の物だよ!
 ……たぶん、きっと、おそらく。うん。だ、大丈夫だ。自身を持つんだ僕っ! 僕が男体盛りを広めれば、料理界を代表するグルメ料理になる筈だっ!!

「廃棄物にしかならんから止めておけ」
「酷い妄想です。現実を見ましょう、ね?」

 メアに優しく諭された。その慈愛に満ちた目が僕の胸を抉るぜ!

「婦女子には受けると思うんだけどなぁ。……腐った方々には特に」

 大人気になりそうだ。いや、既に大人気かもしれない。

「変態的な発想じゃな」
「本当ですね」
「またもや変態って云われた!? 紳士だって云ってるのにっ!」

 仮に変態だったしても、変態と云う名の紳士だってクマ吉師匠が云ってたもん!

「身から出た錆じゃ。変態と云われても仕方なかろう」
「むぅ……」

 納得いかない。

「滅多に見れない紳士の中の紳士だと云うのに……」
「妄言甚だしいですね」

 先程の慈愛が無くなった目で僕を見るメア。
 嗚呼、みなぎってくるっ、何かがみなぎってくるっ! もっと、もっと見てぇ!! その冷めた目でぇ!!
 身体を抱いてビクンビクンとする僕。そんな僕を、より一層冷めた目で見るジジとメア。

「やはり変態じゃな」
「有害無益な変態ですね」
「よしんば変態だったとしても、それはきっと良い変態だよ!」

 それにしても、メアとジジの言葉が辛辣すぎる。

「落魄した者でもお主ほどに酷くはないじゃろうなぁ」
慄然りつぜんものの不快さですからね」

 そこまで云うか!?

「ルンペン以下の扱いには、流石の僕も泣きそうです!」

 ドイツ語を混ぜたお洒落な言葉で主張して見る。
 優しい言葉だって僕は嬉しいよ!

「冷眼視されるのは、浮浪者よりも多分お主の方が多かろうから仕方ない。理解出来たら絶望して泣け、泣いてしまえ」

 まさかドイツ語が通じるとは思わなかった。びっくり。
 あと、ジジの弩Sっぷりに惚れそうだ。ニヤニヤしているジジ可愛いです。子猫のニヤケ顔とか初めて見たよ。

牢乎ろうこなサドっぷりだねジジ。魚料理で可愛らしく『やったぁ!』と叫んだ姿からは想像もつかないサディスティックぶりだ」
「わざわざ堅苦しい言葉で云う程のサディズムでもないじゃろうが」

 ごもっともであります。
 まぁ、どんなジジでも僕はあれですよ。

「ヲーアイニーは変わらない訳だがね! ……あれ? なんか発音が若干違う気がする」

 正しくは「ウォーアイニー」だっけ? よく覚えてないや。
 ……まぁ、どっちも同じ発音だし良いかっ!

「ん。知っとる」

 僕の告白が軽くジジに返された。……いや、まぁ確かに、普段から好意を隠してないから知ってるのは当然だろうけど、なんだ。
 こうも軽く、しかも真顔で返されると、ね。





 ……流石に、ちょっと気恥ずかしい。





*****





「そういえば、今日はいつにも増してほのぼのしていますね」
「ねー。……と、メアが云う事には全て無条件で同意したいのは山々だけれど、基本的に普段の日常と変わらないと思う」
「うむ、そうじゃな。日常生活はいつもグダグダしとるからのぅ。……原因はいつもお主じゃが」
「頑張ってるんだけどね、僕なりに。毎日毎日これ全力なり!」
「理解出来ない行動ばかりしますけどね」

 ……メアのツンデレ具合って、今どの程度まで進行しているのだろうか。僕と出逢った頃のメアが懐かしい。
 まぁ、今のメアも魅力的なんだけどさ。

「ねぇねぇ、ふと思ったんだけど」
「どうしたんじゃ?」
「や、そのさ。えっと、あれ? ……何を云おうとしたんだっけ?」
「……結局グダグダですね、今日も」
「もう少しシャキシャキした態度ならば、少しはマシじゃろうに」

 なんだか、げんなりしている二人。
 仕方ないじゃない。云いたい事を忘れるのって、よくあることだと思う。

「苦々しく云わなくてもいいじゃない。僕だって話題を探すのに必死なんだよ?」
「よくもまぁ、そんな下らない事に必死になれるの。必死ついでに夭折ようせつしてしまえ」
「……え、なに? それは必死と夭折を掛けてるの? ねぇねぇ?」
「ええいっ、ウザい! そのニヤケ顔を止めい!」
「云っておくけど、それ程上手く掛かってないからね?」

 プルプルと震えて顔を赤く染めるジジ。いっつきゅーと。
 まぁ、流石に必死と若死に、つまりは早死にを掛けるには無理があり過ぎるからね。恥ずかしがるのも仕方ない。

 しかし、あれだな。

「猫が恥ずかしがる姿も珍しい。それが子猫ならば尚更に。これは萌えだね。いや、むしろ蕩れだ」

 うんうんと偉そうに頷く僕。実に眼福である。
 ニヤニヤとジジを眺める。うんうん、子猫の恥ずかしがる姿は実にいいものだ。

「……黙って聞いておれば、お主には常識を叩きこむ必要がありそうだなぁ?」
「……あれ?」

 ゴゴゴッ、という効果音が鳴りそうな感じで、ジジがドスを効かせた声を出す。
 あれれ? もしかして、怒っ、た?

「レクイエムは何が聴きたい。3秒で選ぶがいい」
「いやいや!? え! そこまで怒り心頭ですかっ!?」

 まさかの鎮魂歌。僕の命が危険域に達している!?
 くくくっ、と俯いて笑うジジが怖いっ!

「……積み重ねてきた我慢が、ついに爆発しちゃったんだね、ジジ」

 目元を拭う仕草をしてメアが云う。
 いやいや、そんな「可哀相なジジ、ほろり」みたいな状況じゃないよ!? 現在進行形で可哀相な目にあいそうなんですけど僕っ!!

「じゃあ、覚悟は出来ているな?」
「無いよ!? 覚悟なんて無いよ!? かつてない命の危機に流石の僕も冷や汗が止まらないよ!?」
「容赦はせんぞ!」

 僕の言葉を無視するジジ。これは本気だ。
 そしてジジから立ち昇る謎の漆黒のオーラ! ええ、何それ!? あれかい、闘気ってやつかい!? なんと漫画チックなっ!
 というか、漆黒のオーラってなんかアレじゃね?

「憎悪とか怨恨とかがあるキャラが出すべきものじゃない、それ!?」
「冷静に突っ込みますね。割と余裕あるんですか?」

 メアそんなことよりも、先ずはジジを止めようよ!

「介錯人は務めるので、安心して下さい」

 にっこりと素敵な笑顔でメアがブラックな事を云います。

 戻って! あの純真なメアに戻って! でも今のメアも素敵だよ!

 そんな風に若干テンパっている僕に向かい、いつの間にか煉獄を思わせる炎を従えていたジジが、綺麗な微笑みを僕に向けて。

「逝け」

 その言葉と共に炎が僕に放たれた。
 てか、ジジって魔法使えたんだね、初めて知ったよ!

「ぎゃあああああ!!!」





 獄炎が僕の身を焼いた。





*****





「お主の負けじゃな」

 プスプスと黒い煙を上げて横たわる僕に、ジジが言葉を投げかける。

「それにしても、最初から凄く無理のある会話でしたね」
「うむ、無理矢理感が凄かったな」

 痛みに苦しむ僕を放置して、会話を続ける二人。手当てしてくれてもいいと思うんだが、そこのところどうだろうか。

「まぁ、どの道お主の負けじゃから今月は掃除を全部一人でやるんじゃぞ」

 ジジが僕に死刑申告を下す。
 くそぅ、こんなことになるなら賭けなんてしなきゃ良かった。

「あの、本当に大変なら私も手伝いますから……」

 嗚呼、メアが優しい。惚れた、抱いて! むしろ抱きたい!
 しかし、軽く重体な僕は動くのが辛い訳であります。

「今は休んでおけ。放っておいても一時間位したら復活するじゃろうけど、明日から重労働じゃからな。万が一にも動けないのでは困る」

 ジジはジジで、気遣っているのかいないのか分からない態度を取る。
 メアよりもジジの方がツンデレ度は高いのかもしれない。

「取り敢えず、こいつを部屋に運ぶとするか」
「そうですね」

 そんな会話の後に、僕の身体がふわりと宙に浮く。どうやら魔法を使った様だ。
 そして、そのまま僕を宙に浮かせて運んで行く。ありがたいことだ。





 でも、治療はしてくれないんだね!





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 思いつきでやった。反省はしていないが後悔はしている。
 すんごい無理矢理な会話になってしまいました。2つもするんじゃなかったぜ!2個目とか無茶な繋がりが目立つ。
 普段よりもグダグダ感が増していることを否めない。

 もう二度としない。




[9582] 25話・王都の途上
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:23


 愛する人のためにすべてを捨てられるとか、どうなんだろうね。





『25話・王都の途上』





「ガタガタ揺れるよ馬車の旅!」
「子供の様にはしゃぐでない、鬱陶しい」
「はしゃいでいる割には顔色が凄く悪いですね。大丈夫ですか?」
「実はそんなに大丈夫じゃないよ!」

 現在進行形で酔っています。気持ちが悪い。
 空元気でも出してないと乗り切れないっ!

「馬車って凄く揺れるんだね。中世の人々は頑強だったんだね。凄いね」
「……視線が定まっとらんのぅ」
「……あの、なんだか危険域に達してません?」

 乗り物酔いってこんな感じなんだね。脳味噌がグラグラ揺れている気がする。視界がフラついて気分悪い。
 おおぅ……吐き気がする……。

「……ねぇねぇ」
「なんじゃ?」
「なんですか?」

 メアとジジが揃って僕を見る。
 そんな二人の姿を視界に映し、現状で出来得る限りの素敵な笑顔を浮かべて、云う。

「ナイアガラリバースしても、いいですか?」
「は?」
「ふえ?」
「あ、限界突破」
「なにを……ぉぉぉおおおおおお!?」
「きゃあああ!? あ、あっち! 馬車の外向いて下さい!! そとー!!」
「むしろ降りろ!! 降りてしまぐぅぇ!? 酸っぱい臭気が鼻に……っ!?」
「ジジ、ハンカチ! ハンカチを鼻に!」
「……よ、酔っぱらった……オヤジが、や、屋台で……うっぷ……ひと飲みした、あと、に……出せる、技……そ、それが、うぉぇ……な、ナイアガラ、り、リバース……なの、さ……おぐぅぇ」
「嘔吐しながら喋るな!」
「なんだか私も気持ち悪くなってきたぁ……」
「空気を入れ替えるんじゃ! 汚臭が、汚臭がぁあ! 二次災害が発生する前に!」
「うん、私、頑張るよジジ!」
「頑張るんじゃメア!」
「オゲェー」

 和気藹々とした会話を繰り広げるメアとジジ。そんな二人の声をバックグラウンドミュージックとしながら、外に吐瀉する僕。
 走る馬車はそれでも一路、道を走り続ける。





 僕らを乗せてっ。





*****




 馬車内がエライことになってしまった為に、王都の途上にある街に立ち寄ることにした。流石にあの状態で王都まで行くのはキツイとの判断であります。精神的に。

 酷い有り様になった馬車から一時的に降りる。
 まったく、とんだ災難だった。

「元凶が何をぬかすか」
「……空気が、美味しい」

 睨みながら辛辣な言葉を発するジジと、何故だか瞳を潤ませながら深呼吸をするメア。
 リアクションがオーバーだと思う。

「別にそこまで酷くはなかったと思うんだけど」
「凄まじく酷かったわい。まったく、ワシらまで気分が悪くなったじゃないか」
「もう少しで、私も吐いちゃう所でした……」
「是非とも存分に吐瀉れば良かったのに! 僕は一向に構わないよ! なんなら、この一身でメアの吐瀉物を受けても良いっ!!」
「……最悪過ぎる」
「……脳が腐ってます」
「酷い云われようだ」

 最近、僕の評価が下がりっぱなしな気がする。どうしたことか。
 取り敢えず、評価がこれ以上に下がらない為にも、この話題はここで打ち切った方が良さそうだ。
 だけれど、メアの嘔吐だったら少し見たい気がする。ジジの場合は搾乳が見たいです。

 ……僕ってば、随分とマニアックな考えをするようになったなぁ。

「それはそれとして、さてこれからどうしましょうかねぇ」
「馬車の洗浄は三時間ほど掛かると云ってましたしね」

 馬車貸しの人に洗浄をお願いした時の、あの引き攣った笑顔が印象的でした。あの笑顔を見た時に、心の中で「頑張れ」と思ったよ。

 それでも、罪悪感はなかったけれど。

「それじゃ、街でも見物して行くかのぉ。お主は云うに及ばず、メアもゆっくりと街中を見た事は無かった筈じゃしな」

 そんなジジの提案に、これといって異論が出る筈もなし。三人で街を見物することになった。
 てこてこと歩きながら街の中を行き交う人々をさり気なく見る。先ず最初に目につくのが、多様な衣装に身を纏った人達だ。
 そして、次に気にかかるのがこの街に居る人々が凄く多いということ。人族然り、獣人族然りと、人口密度が高いなぁと実感出来る。僕らがよく行く近場の街も種族に富んだ場所ではるが、ここまで人口は多くない。
 そんなことをつれつれと考えながら街中を徘徊する。
 ゆったり歩きながら、そう云えばと口を開く。

「ねぇねぇ、この街ってなんて名前なの?」
「えっと……確か、途上街のエルドシー、だったよね?」

 自信なさげに答えたメアが、ジジに確認をとる。
 うむ。小動物チックでとても可愛らしい。流石はメア。

「うむ。途上街エルドシーで合っておるぞ」

 メアの言葉をジジが肯定する。

「なんか名物とか名産とかあるの?」
「名産品と呼べるかどうかは分からぬが、この街の地理的な特性上として各地の珍品が手に入り易いの。様々な土地の商人達が露店を開いておるからな」
「ほぅほぅ、なるほど」

 王都の方はもっと賑わっているがな、とジジ。

「確かによく見れば、それぞれ違った特徴の服装をした人達ばかりですね」
「うむ。位置的に王都の手前という事もあってな、それだけで結構な人々が訪れるからな。様々な所から。……まぁ、それだけでもないが」
「というと?」
「この街にはな、とある名物を目当てで訪れる人々も多いんじゃよ」
「名物とな」
「ここにはな、西方世界で最も大きな賭博場があるんじゃ」
「賭博場ですか?」
「うむ。誰しも賭け事は好きじゃからな、一攫千金の夢を抱いて訪れる者達も多い」

 なるほど、ギャンブルは異世界でも人気なのか。その事実に「ほぇ~」と得心する僕と、理解出来ない様子のメア。
 メアは真面目っ娘なので、賭博で金を儲けるという発想は理解し難いのだろう。

「王都には無いの? 賭博場って」
「あるにはある。じゃが、女王の膝元では節度を越えた金額の遣り取りは出来んからな。人がほど良く集まり、且つ、女王の威光が厳しくない場所。それに当て嵌まるこの街の方が度を超えた金銭を動かせるのじゃよ」
「……よく分かりません。どうして賭け事でお金を稼ごうとするのか、私には理解出来ないです」

 メアが心底理解出来ないと首を傾げる。
 まぁ、賭博に関しては色々と議論が出るからね。賭けを知らないメアや堅実な人生を送っている人々には、賭け事って一生涯理解出来ないだろうし。
 と、そんな賭博談義はどうでもいい。今はそんなことよりも重大な事がある。

「僕は空腹なのです」
「話題の転換が唐突過ぎるぞ」
「というか、さっきまで戻してませんでしたか?」
「出したら減る、当然だね。なのでお腹が減った。なんか食べようよ!」
「それでまた吐き気がしたらどうする気じゃ」
「吐瀉ります」
「やめてください」
「自然現象なんだから仕方ないじゃない」
「じゃあ、予防策としてそもそも腹に何も詰めねば好かろう」
「嘔吐しなければ良いじゃない! 我慢するから!」
「さっき我慢出来なかった人に云われても……」
「大丈夫だよ! 今度は大丈夫だよ!」
「その大丈夫と云える根拠はなんじゃ」
「根性」
「やっぱり駄目です」
「酷い!! 横暴だ!! せめて小腹を満たす位いいじゃない! メアとジジの僕に対する辛辣な態度で心は満腹でも、胃は空腹なんだよ!」
「五月蠅いから黙れ」
「ところで全く関係ないけど、嘔吐と王都って似てるよね。なんだか僕が王都を吐いた的な空想が思い浮かんだのだけれど」
「本当に今までの流れと全く関係ないですね」
「というか止めろ! 消化不良な状態のドロドロした王都を想像してしまったではないか!?」

 ジジが本気で嫌そうに云う。軽くバイオハザードチックで面白そうじゃない。建物そのものから不快臭がするなんて、斬新だと思うよ。

「いいじゃない、ヘドロな都市。歩く度に、ぬちゃぬちゃべちゃべちゃぐちゅぐちゅと音がして、辺り一面から鼻を覆いたくなる臭いが発せられる都市、夢の様だね!」
「悪夢ですけどね」
「何故にお主はそこまでぶっ飛んだ考えが浮かぶ!? 気分が悪くなってきたわ!!」
「僕のゲーム脳は伊達じゃない!」
「伊達であろうとなかろうと、誇れることではありません」

 メアが冷静に突っ込む。ところでメアってば、年齢に見合わず大人びていると思うんだけど。

 実に今更な事だけどね!

「まぁ、萌えキャラだからいいか!」
「何がですか?」
「ジジも立派に萌えキャラだから安心していいよ!」
「何の話じゃ!?」





 物語の構成に外せないキャラクターの話です。





*****





「うめぇ! 何これ、凄く美味い!」

 結局、適当な食事処に入り食事を取る事にした次第。
 取り敢えず、そこのお勧めである『ソード』という料理を食した。見た目完全な蕎麦である。それもざるの。
 なんか久しぶりに和食というか、故郷の料理を食った気がする。というか、料理の正体が分かっているのだから『何これ』ではないと今気付いた僕。
 しかし、ここで訂正すると格好が付かないので発言を改めることはしない。

「何これって、ソードですけど」
「………」

 そんなことを思っていたらメアに突っ込みを受けた。訂正しなくても結局のところ格好が付かないのは僕の定めなのか。



 と、僕のその様な考えなど知らぬ存ぜぬとばかりに、和気藹々とした会話を繰り広げながら、穏やかに食事を終えた僕達は食事処を辞す。



「満足じゃ、僕は満足じゃ」
「お主小腹に詰める程度と云っていた癖に、五回も追加注文しおって」
「よくそんなに入りますね」
「美味しい物はびっくりするほど詰め込めるのさ。元の世界じゃ、いつ食えるか分からない状況とかあったからね!」
「何気に波乱万丈な生活を送っとるのぉ……」
「どんな職業に就いてたんですか?」
「悪の組織に勤めていました」

 懐かしいことこの上ない。皆元気だろうか。上司の麗魅れいみさんは相も変わらずエロイ格好をしているのだろうか。総帥も変わりなくエロさに磨きをかけているのだろうか。
 何とはなしに懐古の念に囚われる僕。まさか最後に女性隊員を見たのが覗きになるとは思いもしなかった。

「湯気で見えなかったけどな、ちくしょう!」
「いきなりなんじゃ」
「いや、こっちに来る直前の事を思い出してた。もう少し湯気が少なければバッチリだったのに……」
「……なにを云っているのか理解したくないのぅ」
「いやね、ちょっくら慰安旅行に行った際に女風呂を」
「説明するなっ!!」

 ジジに怒られた。なので自粛する。

「まったく、お主は本気で駄目じゃなっ!」
「嗚呼、ジジの罵倒に僕のチョモランマが隆起するっ」
「平然と下ネタに持って行くな!」
「失敬な! 今は上に向かってるんだから上ネタだよ!」
「訳の分からないことを云うな!?」
「つまりだね、普段は重力に従っている逸物なのだけど、興奮することによって血液が集中して重力に逆らって普段の状態からは真逆に」
「それ以上云ったら、もぐ」
「何を!?」

 軽く戦慄物。ジジの目が本気過ぎる。怖い。
 ガタガタと震えながら口を閉じる僕。そして、ふと、先程から静かなメアが気になり目を向ける。
 少し俯き加減で地面を見ながら元気なさそうに歩くメア。なにやら考え事をしているようにも見えるが、どうしたのだろう。
 気になったので尋ねてみる。

「どうしたの?」
「……え、あ、いえ。なんでもないです」
「もしかしてアレかな。女の子の日な」
「黙れ!」
「おぐふぅ!?」

 メアの元気がない理由を思いついたので口に出そうとしたのだが、口上の途中でジジから痛恨の一撃を頂いたので云い切れなかった。
 くぅっ……快楽の波が僕の脳内を侵すぜぇ。

「此処は真面目な流れじゃろうが、空気を読め空気を」
「残念ながら空気嫁は元の世界に置いてきました。六十万もしたのに、未だに使ったことないよ!」

 肌触りとか本物そっくりだった。今更ながらに手を出さなかったことが悔やまれる。
 僕の空気嫁フレンちゃん(定価五十七万八千円)は、今も暗い押し入れの中に居るのだろうか。
 ……なんだか思考が脱線してきたので、無理矢理に軌道修正を試みる。

「それで、つまるところメアはどうしたんだい? それとね、流石に天丼はしないから、その爪を仕舞おうねジジ」

 ジジが舌打ちをしながら鋭利な爪を引っ込めるのを視界の端に収めながら、メアを見遣る。
 再度の僕の問いかけに、しばし考え込むかのように顔を伏せていたが、意を決したのか僕を見据えて問うてきた。

「やっぱり、帰りたいですか?」
「何処に?」
「……元の世界に、です」
「………おお」

 すっかり忘れていた。そうだよ、最初は僕ってば元の世界に帰る方法を模索していたんじゃないか。いつの間にか普通に馴染んでいたよ。
 忘れかけていた事実を思い出し、僕を真剣に見詰めるメアに対して、取り敢えず答えを返す。

「そうだねぇ、やっぱり帰りたいかな。続きが気になる漫画とかアニメとかラノベとかあるし」
「お主の帰りたいと思う基準は娯楽なのか。もっと、こう、真面目な理由はないのか」
「充分真面目じゃん! 僕は楽しくもない世界に帰りたいとは思わないよ!」

 僕にとっての楽しみがあるからこそ、元の世界に帰りたいと思う。元の世界に対する僕の心残りは娯楽関係しかないのだから。

「……そうですか」

 そんな僕の回答にメアは少し、ほんの少し、顔を俯かせて呟いた。
 どうしたのかなと疑問を抱いたが、視界の端をよぎった建物に意識がそちらに集中する。
 勢いよく振り向いた先には、煌びやかな装飾を施した大きな建物が存在していた。

「もしや、あれはっ!?」
「ん? ああ、あれがこの街の賭博場じゃ」

 僕の予想を裏付けるジジの言葉に、テンションが上がる。
 これは突撃せねばなるまいてっ!!

「ちょっと行ってくる!」
「何処へですか?」

 先程の気弱な態度をいつの間にか一新していたメアが尋ねる。
 さっきの態度がそこはかとなく気になるが、まぁ大したことはないだろうと思い直して、口早に「カジノってくる!」と答える。

「手持ちがあるのか、お主?」
「取り敢えず、一万デルはあるよ!」

 メアとジジから貰っているお小遣いがあるのです。まさか、異世界でこんなヒモ状態になるとは思わなかったけどね!
 因みに一万デルは、日本円での一万円に相当する。覚えやすくて助かった。

「それでは、気を付けて」
「……うむ、まぁ、文無しにならない程度で引き上げて来るんじゃぞ」

 賭け事が理解できないって云っていたメアが、あっさりとした対応をしたので拍子抜け。てっきり止めてくる物だとばかり思っていたのに。
 ジジも意外だったかのか、若干の驚きに満ちた目でメアを見ていた。
 ふむぅ? メアは本当にどうしたのだろうか。さっきの蕎麦……じゃなくて、ソードに当たったのだろうかね?
 どうしたものかと若干戸惑っていると、ジジが目線で僕に離れろと訴えてきた。どうやらジジがなんとかする気の様だ。
 ならばとジジに全部丸投げして、僕は賭博場へと向かった。





 さてさて、早目に切り上げるかね。





*****





 一時間後、そこには素っ裸になった僕の姿がっ!!
 なんてことはなく、至って普通に賭博場から出てきた僕である。

「む、早かったな」

 僕の姿を視認したジジが声を上げる。気分の良い時に可愛らしい声を聴くと清々しい。

「ただいまー!」
「おかえりなさい」

 この一時間何をしていたのかは分からないけれど、幾分かすっきりした風情のメア。

「もういいの?」
「はい、おかげさまで」

 僅かに微笑むメアの姿を見て、やはりジジに任せて良かったと思う。
 メアは笑っている方が可愛いのだ。
 そんな風に思っていたら、ジジが声を掛けてきた。

「それで、どうじゃった。まぁ、お主のことじゃから身銭が無くなって出てきたとか、そういった……」
「二百万デル稼いできました」
「……ほらのぉ、じゃから素人がって、なにぃいいいいい!?」

 見事なノリ突っ込みを見せたジジ。なんだろう、ジジはこれから面白キャラに転向する気なのか。
 素晴らしくハイスペックな子猫である。

「一時間でそんなに儲けられる物なんですか?」
「ギャンブルの素晴らしい所だよね。即換金って」

 財布がギッチリでウハウハだよ!

「……お主、経験あったのか?」
「少々」

 元の世界では、自称世界一の詐欺師と渡り合ったことがあるので。
 そもそも、ここの賭博場は今日だけなのかもしれないけれど、総じて質が低かったしね。ボロ儲け出来たよ。

「そろそろ馬車も洗浄が終わった頃だと思うし、王都に向けて出発しようか」

 個人的にはこの街に二~三日滞在したいけど、それだと王都に出向くよう必死に説得したスティーノが泣くかも知れない。
 僕的にはスティーノが泣くのはどうでもいいのだが、それではメア達が気にしてしまうので、今回は泣かせない方が良いだろう。

「そうですね、そろそろ出発しましょうか」
「うむ、そうじゃな。それはそうと、次は吐くなよ?」
「はっはっはっ、なにを云っているんだいジジ。同じ轍は踏まないよ」





 さあ、王都に出発である!





*****





「アカン、アカンワ、もう無理やわ……」
「外を向け外をぉおおおおおっ!!!」
「あっち! あっち行ってください!! こっちに来ないでぇ!?」
「ナイアガラがっ……リバース……するっ……!!」
「にゃあああああああああああああああああああ!?!?」
「きゃあああああああああああああああああああ!?!?」





 無理でした☆





***************
あとがき

 最近シリアス染みた物しか書けないです。ほのぼの度が下がってきた。どうしたことか。
 そんなことはさておき、寒いです!誰か春を呼んでくれ!

 それと、現状で登場キャラが28名ってどういうこと……。


▼感想に感謝の極み!アッー!

>追記の追記
>「そねうがり どや?」まで読んで「ソネウ狩り? あ、違う」って気付きました。なるほどー、*****の下は普通なんだなぁと思っていたら
>しりとりとは…やられました(ノ´∀`*)

やっちゃいました(´ω`*)


>文章に違和感を覚えて、読み返して気づきました「あいうえお」と「シリトリ」・・・お見事です!

お褒めの言葉ありがとうございます!
しかし、作者の力量ではこれが限界でした。もっと台詞回しが上手くなりたいです。


>ん? 何が「負け」なんだ? と思い、読み返してみたら…
>「逝け」だから「け」から始まる台詞を言わなきゃならなかったのに、叫び声上げてしまったから、しりとり不成立で負けという意味だとは!!
>50音順といい、しりとりといい半端ねぇ…

しかし、仕上がりは若干半端気味の気がする作者です。
もっと台詞回しを面白おかしく出来ないものか。違和感のない台詞つなぎとかしたいですね。




[9582] 26話・闇の妖精-a
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:26

 村が焼ける。焦げた臭いが鼻をつく。

 みんなの悲鳴が木霊する。血の臭いが鼻をつく。

 ガタガタと震える私達に、「逃げて!」「逃げろ!」と云い放つ大好きな家族。血塗れにも関わらず、私達を心配する大好きな両親。
 みっともなく泣く私達の目の前に、凶悪な顔をしたヤツラがやってくる。凶悪な武器を手してやってくる。

 お父さんが飛びかかる。お母さんが身を盾に私達を守る。
 私が両親に駆け寄ろうとした時、腕がぐいっと力強く引っ張られる。
 思わず叫び声をあげる私の腕を引っ張って、お姉ちゃんが走り出す。逃げるよと、お父さんとお母さんの行為を無駄にしちゃダメと。

 二人で懸命に走る。文字通り一生懸命に。けれど、両親の血を付けたヤツラが追って来た。
 お姉ちゃんがそれを見ると、一人立ち止まる。
 叫ぶ私に振り返って、「逃げなさい」と云うお姉ちゃん。「お姉ちゃんは!?」と問いかける私に、微笑みを浮かべて「私が魔法で時間を稼ぐから」と返す。

 その答えに駄々を捏ねる私の頬を叩き、そして抱きしめ「お願いだから」とお姉ちゃん。その声は震えていた。
 もうそこまで迫って来たヤツラを見て、行きなさいと云われる。
 それでも、ぐずって動こうとしない私を「行きなさい!」と怒鳴る。
 その気迫に、びくりと身体を震わせ逡巡するも、お姉ちゃんの表情を見て、踵を返して走り出す。

 涙を流しながら駆ける私に、一つの言葉が聴こえた。大好きな、お姉ちゃんの言葉が。



 『生きなさい』と。



 泣きながら力いっぱい走る私。視界はぼやけて、胸は苦しくて、泣いても泣いても涙は尽きなくて。

 背後に在るべき大好きな私達の村は炎に変わり、大好きなみんなの悲鳴が天に昇り、たくさんの死体が地に伏して。


 その全てを振り切るように、私は逃げ出した。





『26話・闇の妖精-a』





 一つの人影が闇夜の世界を全力で疾走していた。
 息を乱しながらも、速度を一切緩めることなく駆ける。

(……しつ、こいっ!)

 後ろから追いすがって来ている存在に内心で苛立ちの言葉を紡ぎながらも、人影の足に停滞は見られない。

「ちっ、逃げ足の早いっ! いい加減に諦めやがれっ!!」
(誰がっ!!)

 人影を追走する集団から怒鳴り声が飛ぶ。それに胸中で反発の言葉を発する。
 空は曇天。光射さぬ暗闇をひたすらに走る。後ろを振り向きもせずに前を見て。


 一心不乱に駆けている最中、ふいに背筋を襲う寒気。


 己の直感に従い身を前に倒す。その急な動作により、身体が地面に転げた。
 次瞬、後方より飛来した火矢が転げた人影の前方に突き刺さる。その矢に付着した札を視認した人影が、息を呑む。

(爆裂符ですって!?)

 矢に貼り付いた札を認識した人影は、即座にその身を起こし回避を試みる。
 しかし、回避動作を取ろうとしたその瞬間、札が爆発。その膨大な熱量が周囲を閃光のように照らし出す。

「うあ……っ!」

 爆発の衝撃で吹き飛ぶ人影は、吹き飛んだ先にある木に強かにぶつかった。

「ぎっ、あっ……」

 人影から苦悶の声が上がる。
 爆風は周囲に存在していた木々を薙ぎ払い、炎熱は草木を轟々と燃やし、さらに人影の姿を照らし出す。


 艶やかな浅黒い肌に、肩まで伸ばされ、それ単体で輝いて見える程の銀髪。
 瞳は蒼穹の様に青く、耳は人族のそれよりもやや長い。
 顔立ちは整っており、女性らしい肉付きの身体で、腰には一振りの剣が差してある。
 所々に見られる傷口から血が流れる様が実に痛々しい。


 十人のうち八人は確実に振り返るであろう美貌を湛えた女は、しかし、その端麗な顔を苦痛に歪めていた。
 苦痛に苛まれながらも、それを気力で押し込んでその身を草葉に隠す。
 身を隠したそのすぐ後、幾つもの足音が、爆発した場所へと集まって来る。


「はぁー、こりゃまた派手に吹っ飛んだなぁ、おい」
「だから爆裂符は使うなと云ったんだ!」
「悪い悪い、あんまりにも苛々したもんでよ、つい」
「『つい』じゃねーよ。あーあ、どうすんだよ。アレ消し飛んだじゃねぇの?」
「いや、それは大丈夫だろう。アレは夜の寵児、この程度じゃ死なんだろうよ」
「それでもあの爆発だ。無傷とはいかんだろうぜ」
「てーことは、どういうこった?」
「恐らく、そう遠くには逃げていない。若しくは、この近辺に隠れているということだ」
「んじゃ、どのみちアレを探す事には変わりなし、と?」
「そういうことだ」
「めんどくせぇなぁ」
「ぼやくな。超一級の商品である闇の妖精を、そう易々と逃してたまるか」
「へいへい、分かってますよっと」
「そこそこの深手は負っている筈だ。お前達は先を行け、逃げているようなら直ぐに追いつくだろう。俺達はこの近辺を捜索だ」
「かーっ! めんどくせぇ! ただでさえめんどくせぇってのに、よりにもよってこんな薄気味悪い森に逃げ込むなんてよ! 見つけたら壊れるまで嬲り犯してやらぁ!」
「おいおい、大事な商品を壊そうとするなよ」

 下卑た笑いを上げる男達の声を耳にしながら、闇の妖精と呼ばれた彼女はじっと息を殺す。恐怖で震えそうになる身体を意志で抑え込み、物音を立てぬ様に気配を絶つ。

 幾人かの男が遠ざかり、少数の気配が動きだす。
 ガサガサと草葉を掻き分ける音が暗闇の森に響く。その音が近づいてくるに従って、女の心拍が高鳴る。
 近くで、男達がガサリと草葉を揺らす度に、出そうになる悲鳴を唇を噛みしめて我慢する。

「くそっ! 見にくいったらありゃしねぇ!」
「お前は俺達よりも僅かに夜目が効くんだから我慢しろ。松明にも限りがある」
「それでも限度ってもんがあるだろうがよぉ、ケチってねぇで松明ぐれぇ人数分用意しとけよなぁ」

 見にきぃなぁ! と文句を口に出しながら、女のすぐ近くまで近寄る。
 それを視界に収めながら、女は静かに手を腰の剣柄へと持って行く。いざとなったら、先手必殺で飛びかかるしかないと決意を固め。
 既に目と鼻の先の距離に男が近づき、意を決して女が飛び出そうとした瞬間。

「ぎゃあああああああああああっ!!」

 周囲を捜索していた一人の男の絶叫が、その場にいた全員の耳朶を打った。

「な、なんだ!? どうしたんだ!?」
「なにがあったっ!!」
「なぁっ!? お、おい! 気をつけろ、罠だ!」
「なっ、ほんとぎゃあああああああああっ!?」
「どうした!? おい!?」

 男達が怒号を交わし、それにつられて女の近くにいた男も離れて行く。

(……掛かった。チャンスは今しかないわっ)

 夜目に優れる女は既に罠に気付いていた。罠が上手く男達に発動したのを認め、胸の裡でぐっと拳を握る。
 ふぅと静かに息を吐き、男達の気がこちら側から逸れたのを確認。ゆっくりと物音を立てぬように森の奥へと移動する。

「どうなってんだこの森は?!」
「な、なんか書いてあるぞ、松明持ってこい!」
「『赤い人には三倍の効果があります』……な、なんだこがぁああああああああ!!」
「や、矢だ! 矢が飛んで来やがった!? 伏せろぉおお!!」
「なんか紙が付いてんぞ!」
「『油は落ちにくいから困る』って何書いてんだこれ?!」
「こっちのには『出会いが欲しい……エロイ出会いが……』って書いてんぞ!」
「意味ワカンネぇよ!? なんだよそれ!?」
「知らねぇよ! 俺に訊くなよ!」
「と、とにかく一旦引き揚げるぞ! なんだか知らんがここは不味い!」
『お、おうっ!!』

 背後から聴こえる戸惑いを多く含んだ声を聞きながら、女はさらに暗い闇へと進んでいく。
 相当の距離を草木を掻き分け進む。おそらく、既に男達とはかなりの距離を取れたであろう。

 尚も満身創痍の身を引き摺るように動かし歩いて行くと、開けた場所へと出た。耕された土が一面に広がっている場所である。

 その場所へと足を踏み出すが、急に柔らかくなった地面に足を取られ、その身を横たえた。

「……ぐうっ」

 呻きの声を上げ、身体を仰向けにする。曇天に覆われていた空は、いつの間にか晴れ、綺麗な満月が姿を見せていた。
 身体に蓄積した疲労と恐怖で溜まった心労を抱えた女は、男達から逃げ切ったことによる安堵から急激な眠気に襲われる。
 目蓋が徐々に重みを増し、意識も朦朧。
 満月を背に巨大な怪鳥の影が飛んでいるのを、半開きの瞳が映す。





 その光景を最後に、女の意識は闇へと落ちた。





~~~~~~~~~~~~~~~
短いけれど、気にすんな!

 二次創作を書きたい病に罹った昨今、世間の目も季節の風も冷たいことこのうえないです。誰か、温かい愛をくれぇ。
 さて、話を戻しますが、最近すごく二次的な作品を書きたくなってきました。
 一例をあげると、「ネギま!」でネギアンチが多いので逆にネギマンセー物とか、「なのは」で最低系物とか、「ヴァンドレッド(アニメver)」でヒビキチート物とか、「バハムートラグーン」で主人公の性格改悪物とか。
 そんなこんなもあって、筆が進まない進まない。決してメンドクサイ訳ではない筈です。妄想世界に存在するチート作者がそう言ってましたから、きっと間違いないです。


▼コメント変身!じゃなく、返信!

>これは絶対にシリアスじゃないです。尻明日って感じかも。

尻を明日へ向かって突き出すのですか。そうですか。
そんな評価を受けるこの作品は一体なんなんでしょうね?


>おお更新してる。またあの尻assが読めるのは嬉しいです。
>それにしても、悪の組織所属の設定とかすっかり忘れてた。
>やっぱあれか、覗きセクハラ痴漢盗撮で世界を支配しようとする紳士たちの秘密結社か

尻assの言葉が定着してきたことに、若干の不安を禁じえない作者がここにいる。
悪の組織に主人公が在籍していた時代の話は、構想もストーリーもあるのですけど、それ書くとこの作品際限なく続きそうなので、どうしたものかと思案中だったり。




[9582] 26話・闇の妖精-b
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:29


 君を追いかける僕がいた。決してストーカーではない。





『26話・闇の妖精-b』





 前日のことである。僕達は王都に出立した。
 王都への道中、主に僕の我が儘などでだが、とかく観光をしながら王都に到着した次第。当初の予定では1日とその半分程度の道中であったのだが、観光などをしてたっぷりと3日かけて王都に辿り着いたのは蛇足である。
 まぁ、どれだけ僕達の到着が遅れようと、実際に責任をとるのはスティーノだ。故に、特に罪悪感を抱くこともなく観光出来た。
 王都に到着した際、スティーノが引き攣った笑いを浮かべているのを見た時は留飲の下がる思いでした。モテモテ野郎は胃に穴が開けばいいんだよ、ちくしょう!
 軽く話が脱線したので元に戻す。兎にも角にも、僕達一行は王都に到着した訳である。

 そもそも、王都に出向いたのにも理由があるのだ。スティーノが必死になってジジやメアを説得していたのも、元を辿れば女王たるマリエル陛下の命令だったらしい。
 しかし、女王の勅命であるにしても、意外な頑固さを見せたメアに対し多大な労力と時間を払ったスティーノ。いつの世も、公務員というか宮仕えというか、とかく国家権力に在籍する者の多忙さにはある種の憐憫の情を抱かずにはいられなかった。無駄に責任が重かったりするので尚更に。
 そんな風に、僕にしては珍しくスティーノを哀れに思った珍事であったりもしたが、そこら辺の具体的な話は割愛する。

 王都に来るまで、過程になんやかんやありもしたが、結果としてはなるべくしてなった事と自己完結。しかして、僕達は王城に入城する運びとなる。
 その王城の謁見の間にて、当然の流れとして、メアとジジと陛下は言葉を交わし合っていた。急な呼び出し、不明瞭な指示、そんな話題を皮切りに、重たい空気が場を満たし始めるまではそう遅いことでは無かった。

 なにやら真剣な表情で言葉を紡ぐ三人と、会話に参加しない僕。
 なぜならば僕は、見目麗しき女王陛下の尊顔と、その蟲惑的な肉体に、下半身が臨戦状態へと移行するのを抑えているのに必死でござったが故。まっことタマラン肉体美よ。
 似非武士の様な言葉遣いをした僕を、空気の如く無視した三人の議論百出は、終幕に向かっていた。
 一切の会話を聴いていなかった僕。当たり前のように、話題の要約を求めた訳だが、その際に呆れられた視線を一身に受けたのはどういうことか。興奮したじゃないの。

 そんな感情を向けながらも、ジジが丁寧に教えてくれた。これだからツンデレなジジは大好き。
 かような僕の思いはさておき、交わされた話し合いを要約するとつまりこうなる。


『西方世界に不審な動きあり。有事に備え王都に逗留されたし』と。


 なんでも、きな臭い動きがちらほらと見えるらしい。以前からもそういった動きはあったが、ここ最近はさらに拍車がかかっているとのこと。「まるでこちらに悟らせるように、杜撰ずさんな動きで」とは、マリエル女王陛下の言である。
 しからば今直ぐにっ! と事が運ばないのは世の道理で、この物言いにメアは若干の抵抗を見せた。
 メアの態度に僅かながらの驚きを抱く僕であったが、しかし、粘り強い女王自らの説得に加え、ジジからも諭される言葉を受け、メアも流石にその案を飲まざるを得ない。

 結果として女王の言に従う運びとなった訳だが、それでもこちら側にも準備と云う物が存在する。
 その申し出に、確かに万全であるに越したことはないと頷く一同。それもその筈で、下手をすれば戦争をするかもしれないのだ。準備必須であることは明白。
 それにメアは、高名な魔女としてその名を馳せる程。相応の魔術的な物品を揃えていた方が良いに決まっている。さらに云えば、ジジとて聖魔と称えられる身、なにか凄い品を持っている可能性とてあるのだから。

 ついでに云えば僕とて心の補給物であるえっちぃ本を取りに戻りたい。時折、秘蔵本が失踪するので割と切実だ。コルディーナちゃんの悪戯だろうとは思うが、秘蔵の本がいつの間にやら姿を消していると、思いの外に精神的ダメージが大きい。
 それはさておき、とどのつまりである。




 僕達は王城を辞し、再び我らが愛の巣に戻ることになった次第にて候。





*****





 古城に出戻ってきた僕達。早速とばかりに僕は己の部屋に直行。
 しかしながら一足遅く、僕の部屋に隠してあった筈の秘蔵の本は姿形なく消失していた。
 その事実に膝から崩れ落ちる。まるでバスケットしたい高校生の様な体勢になって、滂沱の涙をとめどなく流す。
 おいおいと泣く僕の耳に、クスクスとした笑い声が虚空に響く。なんだと視線を走らせれば、そこには容姿で詐偽られること請け合いのコルディーナちゃん。

 その姿を認め、恨みが込み上げ発露しそうになるが、「ごめんなさい」の言葉とともに可憐な笑みを浮かべるコルディーナちゃんを見たら、抱いていた恨みが何処ぞへと消え去ったのである。可愛い子には滅法弱いという僕の弱点を利用するコルディーナちゃんに、若干慄く。
 性別が男だと分かっているのに、斯様にして悪逆な行い(エロ本隠し)を許してしまうことに、内心で「僕はショタコンじゃない僕はショタコンじゃない」と暗示を掛けずにはいられない。
 そんなこんなで、艶本を諦めざるを得ない状況に陥った。しかし、失意に暮れる僕とは裏腹に、メアとジジは準備にてんやわんやである。

 ぶっちゃけ、僕の準備物は秘蔵本のみであり、それが消えた時点で僕の用意する物がなく暇なのだ。
 なので、二人の手伝いを申し出てみたのだが。

「お主は邪魔になるから寄るな」
「気持ちは嬉しいのですが、ちょっと危ない物もあるので結構ですよ」

 と、すげなく断られた。
 ジジに邪険に断られ、メアにやんわり断られ、暇がここに極まった次第。どうしたものかと思案を巡らせる。
 そこで、ふと思いつく。そういえば畑に植物の種を植えてないやと。
 ダイナブレイドに荒らされて以来、土の整備はしていたのだが、思い出してみれば植物の種を蒔いてはいない。なんてこった。
 思い立ち、ついでに現状を確認。うん、暇です。





 暇を潰す為にも畑に出向くことは、自然の流れであった。





*****





「愛で空は落ちるのか~、そこに立つ影は誰だ~、どっらえ~さん」

 鼻歌を歌いながら歩を進める。空は少々の曇り空だが、僕の気分は晴れ渡っているので、うん、相乗効果で差し引き零だと思う。……自分で何を云っているのか分からないけど、気にしない方向で行く。気にしちゃ負けであるからして。

「そこを~責めちゃ嫌~、そこは~違う穴~、法律の穴を間違えないで~」

 鼻歌も段々と佳境を迎えつつ道を進む。踏みだす足もスキップに移行している。なんだか楽しくなってきた。

 そして、ふと漂う血の匂い。

 鼻をひくつかせ、その匂いを辿る。すると、森の中から薫るようだ。なんだろうか。
 気になったので森の中へと入って行く。てくてくと歩き続けると、徐々に匂いが強くなって来る。はてはて、動物でも怪我をしているのだろうか?
 そんなことを徒然と考えながら、ガサリと元凶らしき場所に出る。そして、むあっと強くなる匂い。
 眼前には人間の死体。一人は地面から突き出た槍衾に貫かれ、一人は樹上から降った刃の群に切り裂かれ、一人はその一身に大量の矢を受けて、絶命していた。

「……おおぅ」

 びっくり。なにがびっくりかと云うと、この様な場所に人間が居るのもびっくりだが、まさか暇潰しに設置した罠に掛かっていることにもびっくりだ。
 この罠って、悪意とか害意とかがないと発動しないのに。魔法って便利だとつくづく感じた代物である。
 そして、特筆すべきは死体の現状である。肉が野生の獣にでも喰われたのだろうか、所々食い千切られていてすでに原型の半分を留めていない。いとグロテスクなり。
 というかだ。罠に貼り付けていた紙が真っ黒になって血だまりに浮いている。
 ところで、僕ってこれにどんなことを書いていたのだろうか。何かを書いて貼り付けたのは覚えていたのだが、内容までは覚えていない。しかし予想は出来る。きっと崇高な言葉を書いていたのだろう。

「この分だと、他の場所にも仕掛けている罠が発動しているかもしれないなぁ……」

 呟きつつ踵を返す。死体は森の動物諸君が片付けてくれるだろう。この森には、さり気なく魔獣もいるし。まぁ、魔獣は滅多に見ないけど。
 そんな訳で、死体は放置して元の道に戻る。余計な手間を取ったが、罠が正常に作動することが確認できたので良しとするか。
 道に戻り畑へと向かいながら、罠ってやっぱり危険だなぁと再確認。
 徒然と取り留めもない事を考えながら、畑に到着。既に土は均してあるので後は種を蒔くだけである。

「おや?」

 さて蒔こうとした時に、視界になにやら塊を発見する。なんだろうかと近寄って見ると、どうにも人の様だ。
 仰向けに目を閉じる顔は美麗、美人さんである。その起伏に富んだ身体は女性のようだ。取り敢えず下着を脱がそう。

 下着を懐に仕舞いながら、その女性を見下ろす。まるで死んでいるようだ。だが、息はしているので恐らく眠っているだけなのだろうと予測。
 よく見れば身体は傷だらけである。腰に提げている剣に、なにやら物々しい事態を感じることを否めない。トラブルの臭いもするし、一番良いのはこのまま放置することだろう。

「そんな訳でお持ち帰りですたい」

 駄菓子菓子、ではなく、だがしかし。
 こんな美人さんを放置するなんて紳士失格である。紳士の中の紳士たる僕は、当然のように女性を背中におぶって城へと向かう。

 うん、背中に当たるたわわな果実に理性が消し飛びそうだ。

 しかし、眠っている女性を襲っては紳士の名折れ。必死で我慢しなければ。
 背負った女性に負荷が掛からない様にゆったり歩く。決して背中の感触を長く楽しむためにゆったりしている訳ではないことを、ここに明記しておく。本当だよ!
 褐色の肌と銀色の髪に長い耳を有す女性は、未だに僕の背中でぐっすり。首に吹き掛かる寝息がこそばゆい。でも、それがいい。





 おっちらおっちらと、女性を城に連れ帰る僕であった。





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 果たして、この作品の最新話を読んでいる人はどれほどいるのか。
 2、3話まで読んで離れていく人が多いんじゃなかろうかと、ふと思う今日この頃。


▼返信!

>感想欄みてしりとりわかった、なるー
>珍しく尻assでしたね、途中紙にかいてある言葉がおかしかったですが

作者のシリアスが尻assで固定されてしまっていることに、どのような反応を示せば良いのか。取り敢えず喜んで置きます。わーい!





[9582] 26話・闇の妖精-c
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:35


 頑張れ、負けるな! ありふれた言葉を送るからもっと熱くなれよ!





『26話・闇の妖精-c』





 前略、どこかの見知らぬ誰か様。後略、と続けてしまえば肝心の中身が謎に包まれたままなので、略しません。
 などとアホな事を考えている僕は、現在ピンチです。
 どのようなピンチかと云うと、僕の人間性のピンチです。人間性の窮地です。人間性の危機的状況です。

「さて、覚悟は出来ておるな?」
「…………」

 恐るべき怒気を放つジジと、無言ながらも温度の無い瞳で僕を見るメア。その二人の前で正座をさせられ、冷や汗をダラダラと浮かべる僕。
 なんという修羅場。近年稀に見る修羅場。空気が痛い!

「まさか、お主が本格的に犯罪へと手を染めるとはなぁ?」
「失望しました。元から何も望んでいませんでしたが、それでも失望しました」

 身を切り裂きそうな冷たさを湛えた瞳で告げる二人。メアの言葉が辛辣過ぎて泣ける。嬉しさ反面悲しさ反面。性的興奮が半分と困惑が半分。
 どうしてこうなった、どうしてこうなった!? と、思わずそんな事を叫びそうになる。僕が一体何をした。

「婦女子をかどわかしてくるとは、恥を知れ」
「あまつさえ暴行を加えるなんて、人として最低です」

 そう云いながら、二人は痛ましそうに横を見る。
 二人が見詰める先には、先程僕が保護した女性が寝台に横たわっていた。
 その女性には包帯が巻かれており、その身に刻まれた傷を隠した状態で眠りについている。ここに連れて来た時、僕から女性を引き剥がして二人が施した処置だ。
 僕に背負われた女性を見た瞬間の二人の迅速な動きは見事の一言に尽きる。パネェ。
 鬼の様な形相を浮かべて、まるで僕が女性を傷付けたと云わんばかりの行動だったけれども。

「さて、火炙り雷撃氷漬け鞭打ち斬り付けとあるが、どれが良い。選べ」
「他にも、断食断水監禁軟禁もありますよ?」
「フルコースで」

 恐るべき所業を僕に受けさせようとする二人に震えが止まらない。くそぅ、負けないぞぉ! ふひひ!

「己から全てを欲するとは、どこまで変態なんじゃ……」
「よだれを垂らして恍惚とした表情を浮かべているんですけど……」

 これから僕に襲い掛かるであろう行いに気を引き締め、心機一転とばかりの心持ちをしていたのに、何故だか二人がドン引きしている。

 どうしたのだろうか?

「ジジ、私なんだかとっても遣る瀬無いよぅ……」
「なんかもう、怒りが急速にしぼむのぉ……」

 げんなりとしている二人。おやおや、お仕置きとやらはマダなのだろうか。僕は既に準備万端ですことよ?

「よくよく考えてみれば、こやつに斯様なことが出来る筈もないか」
「そう、だ、ね……? ……うん、そうだね。何気にヘタレだしね」
「ごふぅ!?」

 メアがごく自然に云った言葉が臓腑を抉る。ヘタレって云っちゃ駄目だよ! それは禁断の言葉だ。云うのダメ絶対!
 唐突に身体をくの字に折り曲げた僕を、二人が何事かと見遣る。

「……なんともまぁ」
「……器用ですね」

 “九の字”に折り曲がった僕を唖然と見る。ふむぅ? 腹にダメージを受けた時のリアクションは、これがデフォルトじゃないのだろうか。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、身体を起こす。まさかお仕置きが精神的な物とは思わなかったけど。

「して、経緯を説明せい」
「あの妖精さんは、どうされたんですか?」

 二人がチラリと件の女性を見て問う。

「その前に、僕に対する所業の謝罪を求める」

 その問いに答える前に、先ずは謝罪を要求。在らぬ容疑を掛けられたのだ、謝罪の要求は妥当であろう。

「……お主、懐に入れている物を出してみよ」
「ななな、にゃにを、なにを云っているんだい? 僕の、ふふ、懐には愛と勇気と夢しか無いよっ!」
「てい」
「ああん!」

 動けない僕の懐に尻尾を突っ込むジジ。がさごそと探られる感触が得も云われない。

「は、初めてだから、激しくしてぇん。ああん❤」
「き、気色の悪い声を出すなっ!!」

 本気で気持ち悪そうに云うジジ。軽く傷つくからその顔は止めようねぇ。僕のガラスのハートにひびが入っちゃう。
 くねくねと身体をよじる僕の懐を漁っていたジジだが、何かを見つけたのか勢いよく尻尾を引き抜いた。その感触、筆舌に尽くしがたし。

「ぁああ、ぶげらっ!?」

 僕の顎を尻尾が撃ち抜き、嬌声ではなく変な声が出てしまった。
 痛い顎をさすることさえ、この満足に動かない身体では出来ない。くぅ、これが緊縛プレイか。僕の股間がチョモランマ化しそうだ。

「で、これは何じゃ?」

 冷ややかなジジの声に視線を上げれば、そこには二つの布切れ。

「……おおぅ」

 さて、これからどのように言葉を紡げばいいものか。

「お主に謝罪をする前に、この下着が誰の物か云って貰おう」
「め、メアの」
「こんなに大きいのが私のですかそうですか。……嫌味と受け取っていいんですね?」

 オワタ!

「下着を身に付けていなかったそこの妖精と、なにか関係があるのかのぅ?」
「まさか、破れていた服も貴方の仕業では、ないですよね?」
「ち、違う! 僕がやったのは脱がせただけで破いてはない……あ」
「白状したな、この女の敵めっ!」
「少し、反省しましょうね?」
「わぁ、素敵な笑顔」


 最後に僕が見た光景は、壮絶な笑みを浮かべる二人と。





 視界一面の氷雪だった。





*****





「……どういう状況?」

 僕が氷雪とキャッキャッウフウフと戯れている時に、運が良いのか悪いのか目を覚ました女性。
 眼前に広がる景色をぼんやりと眺め、スノーマンと化した僕を視界に収めて放った第一声である。
 ぼんやりとした目つきから、瞬く間に強い意志を宿した瞳へと変貌。即座に寝台から飛び起き臨戦態勢へと移るに到るまでの動きは迅速を極めた。

「ふぉおおおおおお!!」

 その際に激しく揺れた、たわわな果実を見取った僕は歓喜の声を上げる。息子が元気溌溂だ。その後、冷たい氷雪によってすぐさま鎮静化したが。
 大事な息子が霜焼け、それによって発生した痛みと痒みに百面相を披露する僕。おおぅ、グレイトォ……。
 そんな僕を見て、より一層の困惑を深める女性。まるで未知の生物と出逢ったような顔をする。

「落ち着くがよい。ワシ等はお主に危害を加える気はない」
「はい、ですから落ち着いて下さい。傷に触ります」
「冷静になれ。話はそれからだ」

 諭すようにジジ、優しい口調のメア、雪だるまな僕。僕達の言葉を聞き殺気を僅かに収めたが、それでも警戒は些かも衰えずに口を開く。

「ここは何処、貴方達は何者、奴等の仲間か?」

 射抜くような視線で僕達を睨みつける。ヤツラってなんぞ?

「ここはイエンベルの奥地にある古城、ワシ等はその住人、奴等というのが何を指しているのか分からぬ故、そこには的確な答えを返せぬ」
「……メア、イエンベルってなに?」
「私達が買い物をしている街の名前です。知らなかったんですか?」
「うん」

 ひそひそと話す僕達を横目に、二人の言葉は続く。

「私がどういう存在かは分かるわね?」
「うむ」
「なら、昔ながらの事よ。その上で問う。奴等の仲間か?」
「なるほど、承知した。ならば、否と返そう」
「証拠は?」
「お主が未だ無事であることは証拠にはならぬか?」
「……証拠としては不十分。優しさを餌に獲物を釣るのは、狩人の常識でしょう」
「然りじゃ。しかし、ワシ等ならばそのような面倒はせぬ」
「それは何故?」
「ワシ等の方が、少なくともワシとメア、そこの少女じゃがな。ワシとメアはお主よりも強い。圧倒的に」
「……随分な自信ね。私が闇の妖精と知り、且つ今の状況を鑑みて、高を括っているのかしら?」
「違うな、厳然たる事実じゃ。耳にした事はないか、二尾の聖魔と腐滅の魔女の名を」
「……聖魔に、魔女……もしかして」
「うむ、お主が思い浮かべた通りじゃ」
「……いえ、まだそれだけでは信用出来ない。貴女達が彼の者の名を騙っている可能性もある」
「頑固、じゃな」
「お陰様でね」

 怒涛の如く流れる言葉の応酬。非常に真面目な雰囲気です。
 未だに言葉を重ねる二人を横目に留め、メアに尋ねる。

「ところで、僕はいつまでダルマで居なきゃならないのだろうか」
「二人の会話が終わるまでです」

 そう云い視線を二人に向けるメア。ついでに僕も向く。
 二人は白熱の真っ只中。これ、会話終えるの随分先になるんじゃね?
 どうしたものかと天を仰ぐ。顔を上げた先には見慣れた天井。これが見知らぬ物ならば、かの名言の一つでも吐くというのに。

 激論している二人の声をBGMに、溜め息一つ。
 この霜焼けで腫れ上がったマイサンを、喜ぶべきか悲しむべきか。時間経過が進むと伴に、さらなる膨張を見せようとする我が愚息。





 壊死しない内に、早く終わらないかなぁ。





*****





 白熱を見せた舌戦も、気付けば終幕。ジジが云いくるめることに成功した模様。流石はジジ、惚れる。
 そのジジと舌戦を繰り広げていた女性も落ち着いた様子。さりとて、警戒を完全に絶つことは無いが。

 そんな妖精族の女性は、ユリアと名乗った。

 どうして傷つき倒れていたのかを問えば、心無い輩に散々と追われていたと答える。
 何故にユリアさんを追うのかと尋ねれば、闇の妖精だからと返す。なんのこっちゃ。意味が分からん。
 意味不明と云った態を晒す僕に、ジジからの補足が入る。

「闇の妖精と云うのはな、希少種族なのじゃよ。特異な性質を身に宿したが故、一般的な妖精族とは一線を画すほどの」
「先生、希少種だからといって追われる物なのですか?」
「誰が先生じゃ」
「僕が」
「お主なのか!?」

 ジジとの会話は幾度かの脱線を繰り返しつつも、闇の妖精の現状は理解した。要は、僕の元々の世界で中世時代に起きた、魔女狩りに於ける魔女の立場にいるらしい。
 そのまま魔女狩りと同義ではないが、それに似たような物。他種族に追われ、迫害され、嬲られる対象。それが闇の妖精という存在らしい。

「種族としての総個体数は数十名と極小。その上、同族の個体に於ける性能差も激しい。人族よりも弱き者も居れば、竜族と渡り合う強者も存在する。夜にのみ愛された妖精、それが闇の妖精じゃ」

 ジジの語りに続くように、ユリアさんが口を開く。

「元来、妖精とは精霊の具現化体を云うわ。精霊は自然そのものに溶ける形無き存在。その形無き存在が、世界の祝福を受けて実体化したもの。それが、一般的な妖精の定義よ」
「妖精は自然の結晶と云ってもいい存在じゃ。故に、自然美を生まれ持つ妖精は、美しい容姿をしている者が多い」

 妖精族の皆さんが美形なのには理由があるという衝撃の事実。ファンタジーの王道だからって訳じゃないのか、美形なのって。

「結果、世界は妖精を生み出す。自然の寵児として。自然の守り人として」
「自然の荘厳なる美を、最も醸し出すのは明るき時間じゃ。だから、一般的な妖精には、肌が白く輝くような美しい金髪といった容姿の者が多い」
「けれど、夜は違う。夜闇に閉ざされた世界は、自然の美麗よりも自然の恐怖が最も極まる時間。付随するように、生物が畏れる物の一つとして、闇がある」
「自然の寵児は、一種族だけでも充分じゃ。なにせ世界の祝福を受けたのじゃから。それは即ち、昼も夜も関係なく祝福を受けているという事実に変わりない」
「昼夜を問わずに祝福された妖精が既に存在するのに、どうして、夜のみの祝福しか受けられない種族が誕生したのか。それも極小規模で。そこに、闇の妖精が他種族に狙われる理由が存在するわ」

 ステレオの如く二人が流暢に紡いだ言葉が止まる。この間は、あれか。僕に考えろと云うのかな?
 僕を無言で見つめる二人。答えを待っているのか、それとも僕に見惚れているのか。どちらかなのかは判然とはしない。僕的には後者だと思うが如何か。

「たぶん、それは無いと思います」

 僕の心を読んだメアの発言。流石はメア、僕と以心伝心だ。
 と、益体有ることを想いながらも、先の言葉の意味を考える。考える。考える。

「分かった! エロいからだ!」
「……雑な捉え方だと、それも正解ね」

 おお、当たった。びっくり。適当に云ったのに。

「正解は、闇の妖精は生物の欲望から生み出されたからよ」

 わーい当たった当たった、今日は赤飯だー! と喜んでいる僕の耳に、憂鬱とした響きが耳朶を打つ。思わず振り返りユリアさんを見れど、当の本人はどこか遠い目をしたまま、ぽつぽつと言葉を連ねる。

「気に入らないモノを迫害したい欲求、相手を否定して悦に浸りたい欲求、我武者羅に暴力を揮いたい欲求、誰かを無駄に虐げたい欲求、己の性衝動をぶつけたい欲求、何でもいいから傷つけたい欲求、他者を陥れて笑い飛ばしたい欲求、意味もなく何かを壊したい欲求、欲しい物を手に入れたいと思う願望、己の欲を満たしたいと思う願望、自由気侭に振る舞いたいと思う願望、誰かを己の都合で振り回したいと思う願望、自分を無条件で受け入れて欲しいと思う願望、暴力を揮っても誰かに側にいて欲しいと思う願望、自分の特殊な趣味を受け入れて欲しいと思う願望、努力せずに才能を欲しいと思う願望……そんな生物の黒い欲望は精霊に歪んだ影響を与え、世界の意志を無視して妖精を具現化させるに至った」

 淡々とした声だけれど、形容のしようがない感情を湛えた響き。能面の様に無表情のユリアさんだが、その瞳には如何なる感情が渦巻いているのか。

「夜闇の時間ほど生物の欲望が高まる時間もない。生物の抱く願望の結晶である妖精は、正規の妖精とは姿を異なる物とした。それが黒い肌に銀の髪。容姿は正規の妖精と似通うけれど、正規の妖精は決して持ちえない不和の色。故に、その暗黒色を有す妖精は、同族の妖精から蔑称として闇の妖精と名付けられたわ」

 とつとつと語る、闇の妖精の誕生過程。同族から疎まれた闇の妖精は、同族による迫害の憂き目を見る。純粋無垢にて誕生した妖精と、欲望汚辱にて誕生した妖精の間には、決して埋められない確執が生まれていた。

「そこから先は、更なる地獄だったらしいわね。生物の欲望の塊である闇の妖精は総ての生物に狙われた。理想の奴隷になる素質を秘めた者も居れば、脅威を退ける圧倒的な武威を誇る者も居た。至高の肉体美を持つ者も居れば、嗜虐心を湧きあがらせる者も居た。他種族の目には、闇の妖精は自身の趣向を満たす道具にしか見えなかった。だから、当然の如く……」

 瞬間、憎悪をその瞳に宿し、憤怒を表情に貼り付け、慟哭。

「……闇の妖精は、最高級のモノとしか、見られなくなったっ!」

 ギリリッと歯を噛み締める音が響く。

「確かに私達は、道具として産まれたのかもしれない。確かに私達は、全ての存在の最下層にいるのかもしれない。けれど、けれども! 私達にだって意思があるっ! 感情があるっ!! 生きているっ!!! 他人の勝手な都合で私達の自由をやるものかっ!!! 他人の勝手な都合で自由に扱われて堪るものかっ!!!」

 声を張り上げ、吠える。

「私達は、ただ静かに平和に暮らしていたかっただけなのにっ! どうして私達は苦しまなければならないっ! 何故私達を傷付けるっ!」

 泣いているように、吼える。

「仲の良かった友達も、優しかった叔母も、厳しかった叔父も、笑顔の似合っていた隣のオジサンも、綺麗だった近所のおばさんもっ」

 心の絶叫が。

「母を、父を、みんなをっ――」

 世界を揺るがせる。





「――お姉ちゃんを、返してよっ!!」





*****





 しんとした空気が場を満たす。ユリアさんの痛々しい叫びが、まるで時間を止めたようにさえ思えるほど。
 顔を俯かせたユリアさんに、なんと声をかけていいのか分からない僕達。なんというか、ユリアさんの壮絶な日々を垣間見た気がする。

「……ごめんなさい。ちょっと感情的になりすぎたわ。話の趣旨もズレちゃったわね。こうなるから、自分の事を、己の種族の事を語るのは苦手なのよね」

 ふぅ、と息を吐いて俯いていた身体を起こすユリアさん。少々瞳が潤んでいるのは、果たして気分の昂りからか、過去の悲しみからか。

「要約すると、闇の妖精は欲望を満たす代物と云えるの。だから、私達は蹂躙されるし狩られるのよ。時には奴隷として、時には道具として。そういった背景があるのよ」
「……重い」

 なんと重い話か。僕ってばシリアス苦手なんだけども。今ここで思いっきりおちゃらけたい気分だ。でもそれをすると酷いバッシングを喰らうのは確実。確定的に明らか。なので我慢。

「……そういうことじゃ、理解出来たか?」
「うん。痛いほど」

 いやはや、とんでもないね。平和に満ちている世界だなと思ったけれど、そんなことはなかったか。やはり完全な平和というやつは、何処の世界にも存在しない物らしい。

「……御礼を云っておくわね、ありがとう。親切にされたのは、久しぶりだったわ」

 そう云って、この場を辞そうとするユリアさん。

「何処へ行くんですか? トイレは反対ですよ、若しくは僕の口です」
「……貴方、今までの話聴いていた? 聴いていたのなら、流れで分かるでしょ?」
「確かにここのトイレは水洗式で流れがいいですけど、いつの間に確認を?」
「話が通じないっ!?」

 驚愕に目を見開くユリアさん。その『未知の生物再び!?』な顔を止めましょう。開いた扉が壊れて二度と閉じられなくなるから。エクスタシーがそこまで迫るっ。

「ええいっ、もう、流れを読めないならハッキリと云うわ! 私を助けてくれたことには感謝するけど、それでも貴方達を信用することは出来ないの! だからお暇しますってことよ!」
「おひまします?」
「お・い・と・ま、しますよっ! 出て行くってこと!」
「なんと、ユリアさんには露出癖があったのか」
「はぁ? 何を……っ!!」

 僕の言葉に自分の身体を見降ろして、瞬間的に身体を腕で覆う様に隠すユリアさん。
 それもその筈で、今の状態は麻の服を一枚着ているだけなのだ。透けないネグリジェっぽいデザインの麻の服。いとエロし。

「まさか、そのような服装で外出しようとはね。ふふふ、これは天が僕に与えた公然と露出するチャンスか!!」
「それは違うと思います」

 メアに間髪入れずに否定された。今まで黙っていたのに、ツッコミ所は的確に反応する。
 メアの将来が少々不安になってきた。まさかお笑い芸人としてデビューはしないよ、ね?
 そんな下らない会話をしながら、先程のシリアスな展開が霧散し、やっとのことで普段のほのぼのとした雰囲気に戻すことが出来たと思った、その時である。


『うおおおおおお! ジジ、メア、うおおおおおおお!!』


 害敵を知らせる結界からの反応があったのは。


「むっ、敵か!」
「その前になんじゃこの声は!?」
「僕お手製の音声です。ただの警報音じゃ物足りないから……」
「……こいつ、もしかしなくても馬鹿よね?」
「いえ、それどころじゃないです」

 こそこそと内緒話をしているメアとユリアさん。何を云っているのだろうね。

「それはともかく、悪意を持った輩が入って来たのは確実だね」
「何者かのぉ」
「決まっているじゃない、私を追いかけ回していた奴等でしょ」

 そう云い、治療の際に外して壁に立て掛けていた剣をユリアさんが手にする。

「私の不始末よ、ケリは私が付けるわ」
「あいや待たれい」

 意気込むユリアさんに待ったを掛ける。それに怪訝そうな表情を向けるユリアさん。

「もしかしたら、件の輩じゃないかも知れないでしょ。最近は見ないけど、昔はここら辺にも山賊がいたし、そういった輩かもしれないから、ユリアさんを一人で行かせる訳にはいかないなぁ」
「確かにそうじゃな」
「私達もお供します」

 僕達の言にぽかんとするユリアさん。うむ、非常に愛らしい。ぐっと来るざます。

「とってつけた様な、幼稚な意見ね。そうかこつけて、私の手伝いをするつもりなら手出し無用。云ったわよね、私は貴方達を」
「幼稚だろうが何だろうが、結果は変わらないよ。少なくともこの土地は僕達の管理区域だ。不要な輩を処断するのに、貴女の意見は意味がない。同行する僕達を信用するしないは勝手にすればいいと思うし、なんなら隙を見て殺してもいい。それに対して、少なくとも僕に文句を云う権利はないからね。油断した僕が悪いってだけの話だ」
「何をっ」
「極論を云うと、貴女が僕達を信用していないように、僕達だって貴女を信用している訳ではない。褐色の肌も銀の髪も、魔法やら何やらで加工出来る範囲内だと思うからね。特に最近では、暗雲立ち込める様な事態が東方世界と西方世界の間で起きている。貴女が音に聞こえるメアやジジを狙った暗殺者である可能性だってある。暴論を云えば、さっきの感情の発露も演技の可能性は否めない」
「な!? 私はっ」
「違う違わないは問題じゃないよ。不利益に成り得る可能性があるならば、それを潰すのは当然の理。故に、結界に触れた輩と貴女が仲間である可能性もあるし、そもそも、その怪我もここに入りこむために負ったものかも知れない。偶然、僕が出向く畑に貴女が居た感じだったけど、そう見せている可能性もありますよね。ほら、これだけ貴女に対して疑惑を掛けられる。なら、貴女を監視するのは当然でしょう?」

 矢継ぎ早に言葉を重ね、相手に言葉を発させないようにする。交渉の肝は、如何に自分の空気に相手を巻き込むかだ。
 息を吐かせぬ言葉は、その実、曖昧だったり無理矢理だったり意味が通ってなくてもいい。なぜならば、人は雰囲気で抑え込むことができるから。ユリアさん妖精だけど。

 云い募ろうとするユリアさんの言葉を全て意図的に遮る。人は己の言論を封じられると、得も言われぬ圧迫を感じ、それによって意志を弱らせる。押し売りとかでもよく使われる手。暴力的な言葉の弾丸は、相手の気勢を殺ぐに長ける。理知的な人ならば特に。ユリアさん人じゃないけど。

「……分かったわよ」

 不承不承と頷かせることに成功。見たか、僕の舌先三寸口八丁の妙技。

「では私達も」
「いや、待って」

 準備をしようとしていたメアとジジを止める。

「さっきも云ったように、僕達を狙っている輩の可能性もある。なら、この城にも留守を置くべきだ。それも万全を期すならメアとジジを。……何故かって? それは、もしも僕達を直接狙わないとすれば、狙われるのはきっとこの城の魔術的道具や魔法器具、その他にも様々な実験薬品に魔法書などと云った物が狙われることは難くない。確かに、二人ならそんなの無くても充分の武威を揮うだろうけど、それでも有事に備えるなら、あるに越したことはない。もしかしたら、結界に反応している奴等だけではなく、別同隊がいるかもしれないんだ。だったら、そちらにも備えるべきだろう?」

 さらに言葉を重ねに重ねて、メアとジジを城に残らせる事に成功。流石は僕である。僕ってば格好良い!
 そんな風な僕に、呆然とした顔を向ける二人。

「ん? なに?」
「いえ、普通の思考も出来るんだなと思って……」

 なんと失礼な。

「そんな訳で、出撃兼迎撃は僕とユリアさん。防衛兼援護はメアとジジ。了解?」
「ええ」
「うむ」
「はい」
「じゃ、準備を始めようか」

 三人から同意を得たので、それではと早速準備を開始。各々がそれぞれ散らばる。
 そんな中、ユリアさんがジジに話しかけていた。

「ねぇ、えっと……」
「ジジで良いぞ」
「そう。ならジジさん、何か服を貸してくれないかしら。流石にこれだと、ね」
「良いのか?」
「毒を食らわば皿までよ。これに関しては諦めたわ」
「承知した」
「ああ、それと」
「なんじゃ?」





「その尻尾にある下着を返してくれないかしら? スースーして落ち着かないのだけど」





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 今回なげぇ!? どうしてこうなった!? ほんとは10kbで終了の筈だったのに……。2倍とかどういうことなの。
 とりあえず、書き上げるのに疲れました。


▼なぜ急に感想が増えたし!嬉しいけれども!ありがとうだけれど!ありがとう!

>まずは下着を脱がすなんてさすが紳士

そりゃあ、紳士ですもの。お召物を預かるのは当然ですよ。


>脱がした下着は上なのか、下なのか…当然両方かのぉ。
>しかもそこまでやりながら、その先には進まない辺り、ありとあらゆる意味で紳士ですね!

ありとあらゆる意味で紳士です!


>面白かったです。
>続きを楽しみにしています。

続きはガラリと印象が変わったりするかもしれませんが、精一杯頑張ります。


>下着を脱がしておんぶ……背負う以上、腕も使って体重を支える必要がある、つまり……
>生尻おんぶとはさすが紳士。

紳士ですもの、仕方ないですよ、ね?ね?


>紳士め!

紳士さ!


>ほのぼのレイ○ って言葉が脳裏に浮かんだ。

「ほのぼの」が一瞬「ぼのぼの」に見えてドキリとしました。
取り敢えず、作者的にはほのぼのだよ!と云っておこうと思います。タイトルつけた責任ですね。


>>だって、本当は炉心にしたかったけど、俺は融解も誘拐もしないから
>今回誘拐してんじゃんwww

ゆ、ゆゆゆ誘拐じゃないよよよぉ!ほほほ保護だよぉ!!


>あまりにも素晴らしいHEN☆TAI紳士SSに
>全俺がスタンディングオベーション(下半身的な意味で)
>最初からぶっ通しで読み続けてしまいましたが
>「ババァ、結婚してくれ」に5分ほど大爆笑してしまいました。
>母親が何事かと部屋を訪ねてくる程に。

この作品を最初からぶっ通しする猛者が居るとは思いませんでした。びっくりです。

>そして6話の内容に関して一つだけ不満が。
>留守番するなら室内探検という一大イベントがあるじゃないか!
>メアが居ない内にベットにダイブしてクンクンしたり、衣装箪笥(と書いて宝箱と読む)の下着の棚を調べてみたり!
>でも安心して!彼はHEN☆TAIという名の紳士だから
>邪ま気持ちなんてこれっぽっちもなくて、きっと留守番中に泥棒が入って下着を持って行っていないか確認して
>ついでとばかりに一年前のメアの成長記録差分を取ったり、
>下着がほつれていないか隅々まで調べてあげているだけなのに違いないよ!
>やったね!
>明日はホームランだ!(100万$の笑顔で)

ふふ、作者がその描写を全部書き切れるとは思わないことでございますよ?!

>べ、別にこの内容でSSを書いてほしいなんてこれっぽっちも思ってないんだからね!
>ただちょっとネタの足しにでもなればって思っただけなんだから!
>か、勘違いしないでよね!

ちゅんで……ノ―カンで……ツンデレ乙!


>おおおぉぉ持ち帰りぃぃぃぃ!!!!
>でも変態紳士だから嘗め回すように見ても、手は出さないと信じているww

「お持ち帰り」の発音が、ブリタニア皇帝とバルバトス殿で再生されてしまいました。なんてことだ。
紳士はあくまでも紳士ですよ。どうぞ不安になってください。




[9582] 26話・闇の妖精-d
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:48


 それは、きっと、奇跡の出逢い。





『26話・闇の妖精-d』





「しかし、あれだね! この状況はまるでデートのようだね! 僕ってば現在、猛烈に勝ち組状態! これで勝つる!」
「貴方とデートなんてありえないから安心して。それと何に勝つのよ」
「リア充から一気に喪男へと戻ってしまった! これは泣ける! 映画化決定だね!」
「……貴方、もしかしなくても、コミュニケーション不全? ……いえ、コミュニケーション不能なのかしら?」
「紳士ですから」
「答えになってない上に、紳士の意味を見事に履き違えているわね」
「照れるじゃないかぁ」
「……どうして照れる」

 そう云って、身体を気持ち悪くクネクネと動かしながら随伴する男を見る。こいつ、本気で面倒臭い。
 先の云い合いに負け、監視という名目で私に同行している男。あの時はそこそこに頭が回る奴かと思っていたのだが、蓋を開けてみればただの変態だった。鬱陶しいことこの上ない。

 この男と行動を伴にし、既に何度吐いたかも分からない溜息が出る。そもそも、どうしてこんな男が私の横にいるのだろうか?
 あの時は、つい空気に呑まれて同行を認めてしまった物の、それでも冷静になって見れば、色々と可笑しな節が多々ある。
 高名な幼き魔女殿と、数々の逸話を持つ九尾の――今は二尾のようだが――聖魔殿ならば、先に述べただけではない、どうしようもない我が種族の有する最悪な性質さえ、仔細に知り得ているだろうに。

 見ず知らずの不審な、それも闇の妖精を治療したくらいだ。恐らく、優しいのであろうということは想像に難くない。そんな気性をした御二方が、何故、よりによって異性を私に同伴させたのか。
 確かに、この男の云い分も尤もだったが、才知文武に優れると噂される御二方ならば、さらなる正論を以って先の云い分を打ち負かせた筈である。交渉事の場に慣れていないのならば納得もできるが、少なくとも聖魔殿に関しては、交渉の場に慣れぬ程に参加したことがないとは思えない。

 永永と語り継がれる程の伝説を残す御仁だ。この男のような若造の交渉事など、大した圧迫感も覚えぬだろうに。
 我が種族の性質を知りながら、この男を同伴させたことに、何か私の与り知らぬ程に深い思惑があるのだろうか。
 それとも、やはり本音の所、私の様な下賤な妖精など、どうでもいいと思っているのだろうか。
 ……まぁ、いい。御二方の考えなど、予測したところで埒もなし。この男が私の性質に因って不埒な真似をしようものなら、この男が発言通り、容赦なく首を切り落とすだけだ。

 腰に位置する剣柄を、そっと握る。
 この男も敵になるかもしれない。その時に、すぐさま剣を抜き放てる状態へと備える。この男が敵になる様は、何故か不思議と思い浮かばないけれど、それでも念には念を入れて。


『きっと大丈夫だと思いますよ』


 男の奇行に目を光らせている時に、ふと、魔女殿の言葉を思い出した。それは、出立の準備をしている最中のこと。
 出立の準備を整えている間も、私は落ち着いていなかった。
 なぜならば、異性の人族と行動を伴にすることに対して、激しい抵抗と不安が私の胸を締め上げていたからだ。そんな私に向けて、魔女殿が云った言葉が「大丈夫」。
 その言葉を聴いた時は、勝手な事をと、私の想いも知らぬ癖にと、なんと心無い言葉かと、そう思った。
 しかし、続いた言葉に、そんな激情の炎は鎮火する。


『私は【腐滅】の二つ名を冠す魔女です』


 その言葉に、押し黙った。

 嗚呼、この子も私と同等の、或いはそれ以上の苦しみを知っているのだな。

 聴いた瞬間にそう思ったから、黙った。“二つ名”を有すことが、どういった事なのか、私も理解している。それは、烙印であるが故。
 この幼子が大人びている理由に思い至ったことから来る同情か、それとも、悲劇を味わったであろうと勝手に予想したことによる仲間意識か。もしくは、己でも意識できぬ何某かの感情か。
 いづれにせよ、私がこの子に、この小さな魔女殿に、悪感情を抱く事は出来なくなっていた。

 そんな魔女殿が、どうにもこの男と不思議な信頼関係を築いているように思え、自然と疑問が湧き上がった。何故、この男を信じることが出来るのかと。
 そんな私の疑問に、幼い魔女殿は微笑んで。





『だって、私は――――』





*****





「敵影を補足。見付けたぜぇい」

 思考の海に埋没していた私は、はっと意識を覚醒させる。しまった、油断した。なんと不様な!
 このような状況に於いてさえ、意識を彼方へと飛ばした自分に苛立つ。なにをしているのかと、今は余計な事に煩わされる時ではないと。
 気分を鋭意一新。二度と不様を晒さぬと意気を高め、男が見遣る先に視線を走らせる。
 そこには、やはり私を追いまわしていた奴等。人数は二人、顔に見覚えがある。しかし、数があまりにも少ないことに眉をひそめる。

「さてはてやれとて、如何致しましょうか?」
「……その意味の分からない、最初に云った言葉の羅列は、なに?」
「いま適当に云ってみた。可愛いでしょ? うっふん」
「気持ち悪いから肉塊残さず滅んで頂戴」
「辛辣過ぎる!? 僕の周りにはキツイ事を云う人しかいないのか!?」
「静かにして、気取られるでしょ」

 イエスマム! と云って静かになる。誰がママだ。

「ねぇ、えっと……?」
「名前ならば、ジョンジョルノと御呼び下され」
「……本名?」
「まっさかぁ」

 こいつ今此処で殺してやろうかしら?

「……まぁ、いいわ。ねぇ、奴等が二人だけなのが気になるけど、どう思う?」
「ぶっちゃけ、どんくらいの人数が居たの?」
「私が確認した限りでは、十人以上は確実に居たわね」
「罠に嵌まったのかな? 暇な時に結構仕掛けたし」
「……あの罠、貴方が?」
「うん。日曜大工的なノリで」

 ニチヨウダイクが何なのかは知らないけど、あのエゲツない罠を張ったのがこの男だったなんて……。人は見かけに依らないって本当ね。
 若干、微妙なテンションになる。こんな変態の罠で死んだ奴等は、どんな思いなのかしら。
 そんな事を頭の片隅で思っていると、前方で草葉を掻き分けている二人の話し声が聞こえてきた。耳を澄ませる。

「……なっ、この森は! 罠だらけじゃねーかよ!」
「ああ、アレが仕掛けたとは考えづらい」
「てことは、やっぱ」
「うむ。ここに居を構える魔女の物だとするのが妥当か」
「はっ。薄気味悪い魔女は、やっぱ姑息なことしか出来ないんだろうな!」
「その姑息な罠に、俺達以外の同志が倒れたのだ。油断はするな」
「ははっ、同志か! 傑作だな! 罠に掛かりそうになった時、その同志を身代りにしたのは何処のドイツだよ!」
「身代わり? 違うな。あれは尊い犠牲と云うのだ」
「ひゃははっ、尊いってか! そりゃ傑作だわ!」

 聴こえた会話に、自然顔が厳しくなる。アイツ等、仲間を見捨てたのかっ!
 私にとっては願ってもないことだが、しかし、アイツ等の行為には沸々と怒りが込み上げる。正しく人でなしめ。

「あいつ……」

 ふと横から聴こえた声に振り向く。そこには険しい顔をした男……ジョンジョルノ。

「どうしたの?」
「……薄気味悪い? 姑息? ……あの野郎、もぎとって、自分のを喰わせてやるっ」
「ちょ、待ちな……っ!」

 怒り心頭といった具合で、勢いよく飛び出す。なんて無鉄砲な!
 草叢から飛び出し、叫びつつ、二人目掛けて走る。

「おおおい! そこの早漏野郎! てめぇ、今なんつ――っ!!」

 唐突に、姿が消えた。

「ぬわぁぁああ!! お、落とし穴だと! 一体誰がこんなもんをって、僕じゃねーかぁ!? なんてこったい!!」

 土の下から、正確には、地面に開いた空洞から、馬鹿の叫びが木霊する。こいつ、自分の罠に嵌まりやがった!!

「思いの外に深い! 僕ってばなんでこんなに深く掘ったんだ、不覚! あれ、今のって巧くない?!」
「な、なんだぁ?」
「……何者っ」

 喚く馬鹿の声に、二人が落とし穴へと近寄る。

「おおぅ? なんか紙が、って僕が書いたヤツじゃん。何々『下を見ろ』だって? 一体な……っ!? か、カリントウ!? カリントウだとぉ!? それも人間の!? なんちゅうもんを仕掛けてるんだ僕は!? レイドさんのタコ壺魔法かっ! ……はっ、し、しまっ、身体っ、身体は……!? よ、よし! 大丈夫、セーフッ! 付いてない、付いてないもんね!! ふ、ふははは! どうだ過去の僕、今の僕は過去に仕掛けた僕の罠に勝ったぞ!! 落ちた事は気にするな! 精神崩壊のエグイ罠に勝った方が重要なんだ!! 凄いぞ僕! やったね僕! 流石は僕! 素敵、抱いて!! ひゃっはぁー!!」
「……馬鹿がいる」
「……ああ、いるな」

 何だか意味不明なハイテンションになっている馬鹿。敵に馬鹿だと云われているが、もうその通りでしかない。だって馬鹿だし。
 というか、この男は馬鹿を越えた変態だ。私に時折、セクハラ行為やセクハラ発言を平然としてくるのが証拠。最初は私の性質がそうさせているのかと思っていたけど、話によれば常日頃からこの態度らしい。人間として終わっている。
 などと今の状況に関係なく、さりとて益すらもない思考を展開している私は、きっと混乱しているのだろう。

「むむっ? あっ、貴様はっ! おのれぇ、メアを侮辱しただけでは飽き足らず、僕を卑劣な罠に嵌めよって! 許さん! 許さんぞぉぉおおおおっ!!」
「ええ!? お、俺ぇ?」

 あまつさえ、自分で仕掛けた罠を敵のせいにし始めた。なんという責任転嫁。

「ああそうとも貴様だ貴様! さぁ、貴様をぶちのめして、もいで、それを喰らわせてやるから降りてこ……うわっ、やめろ! 砂を掛けるな! 石を投げるな! 唾を吐くな! 男からそんな行為されても嬉しくもなんともないわっ!!」
「……なぁ、兄貴」
「構わん。殺れ」

 ぎゃーぎゃー吠える馬鹿を尻目に、武器を構える敵二人! マズイッ!!
 思わず、草叢から飛び出す。本当はあの馬鹿を見捨てて隙をつくのが賢いやり方なのだろうが、私には無理だ。一方的な虐殺が繰り広げられるのを黙って見てはいられないっ。
 たとえ、それが私とは無関係だったとしても、我慢が出来ない。もう二度と、あんな光景は見たくないから。

「なっ、こいつ!?」
「ほぅ、獲物が自らを献上しに来たか」

 飛び出した私を捉えた二人に、凶悪な笑みが浮かぶ。その二人を相手に剣を抜き放ち、構える。

「へへっ、こりゃあ、今日は最高についてるぜぇ」
「くくくっ、普段の行いが善いが故の賜物か」

 じりじりと距離を詰めてくる。負傷したこの身で、二人を同時に相手取るのは流石にキツイかっ。
 大剣を構える長身の男と、鉄球を手に下げる男を見据える。
 そんな緊迫した空気の中、再び馬鹿が声を張り上げた。

「おーい、どうした!! 僕に恐れをなしてガクガクブルブルと震えて怯えて小便漏らして部屋の隅に体育座りしながら神様にお祈りでも捧げてんのかぁ!? このフニャフニャ野郎がっ! どこがとは云わないが、フニャフニャ野郎がっ! どうせ貴様の様な奴は彼女が出来ても本番で『下手糞は死んで良し、ぷぎゃー!』とでも云われてフラれるんだろう! はっ、負け犬めっ! いや、負け犬よりも酷い顔をしているんだから、負け犬に失礼だな! このド低能不能野郎っ!!」

 そんな罵倒の言葉を聞いた、敵の片割れが額に青筋を浮かべる。

「悪い兄貴。先にこいつぶっ殺すわ」
「冷静になれ、安い挑発だ」
「安い長髪? なんだ、貴様等ハゲなのか。やーいやーい、このハーゲ! ゲーハー! 安いカツラなんぞ付けても、貴様の魅力は一厘たりとも増さねぇよ! おめぇの髪ネェから!!」
「ぶっ殺す!」
「殺すぅ? はっ、出来ない事を口にするなよ、弱いくせに! 貴様なんぞ僕一人で十分過ぎるんだよ! だから、此処は任せて先に行くんだユリっち! あ、間違えた。ユリアさん!」
「喚いてんじゃねぇぞテメェエエ!!!」

 一番危機的状況に陥っているのは、そっちなのに。どうして、そこまで平然と啖呵を切れるのか。
 完全に私に対する敵意が逸れた一人。状況を見極めようとしているのか、動かないもう一人。
 逃げ出すならば今こそ最上。しかし、私もまた、どうしたものかと混迷する。
 そんな時、するりと耳に入った、声。

「大丈夫、僕は死なない。絶対に。だから、今は貴女が『生きる』ことを優先してください」

 その言葉に、身体が無条件で動く。

「ぬっ!?」
「兄貴は行ってくれ。俺もこいつ粉々にぶっ殺したら、すぐに追いつくからよぉ!」
「……分かった」

 振り返らずに、全力疾走。傷付いたこの身では、高が知れているだろうが、それでも走る。走り続ける。
 あの馬鹿が気になるけれど、あそこまで啖呵を切ったのだ。責任は負って貰う。

 そして、なによりもお姉ちゃんと同じ事を口にしたのだ。

 ならば。





 今だけは、信じよう。





*****




 どれほど走ったのか。一時間か十時間か、それとも未だ十分程度か。

 走り続けた私は、勢いよく大木に倒れ込んだ。倒れ伏す身体には傷が増えており、その傷口から血が流れる。目も霞がかってきた。意識も少々朦朧としている。
 ぜぇぜぇと乱れた息。喘ぐように酸素を求める。

「追い駆けっこは、終いか?」

 ゆらりと姿を現す敵。その手には、血に塗れた大剣。
 その大振りな剣を、この鬱蒼と茂る森の中で振るえる技量は驚愕の一言に尽きた。これでも、剣技には自信があったのだけど、敵のそれは私よりも遥かに上だった。
 走りながらの剣戟の応酬。私の身体は悲鳴を上げているのに、相手は息の乱れさえなし。こんな下衆の剣技に劣るのは、中々の屈辱。

 思わず、言葉を発する。

「下衆の癖に、強いじゃない……」
「下衆? この俺が? 戯けたことを」
「充分に、下衆でしょうがっ」
「何を以って、この俺を下衆と断ずるのか。皆目見当もつかないな」
「何を? 仲間を盾に罠を掻い潜り、私をモノとして見る。充分な下衆じゃないっ!」
「はっ!」

 私の言葉を一笑に付して、嘲る。

「あれは、仲間ではない。ただの道具だ。言葉を弄する道具、それをどう扱おうが俺の勝手だろう? それにな、この俺を守ったのだぞ。下らぬ道具共にとって名誉以外のなんだというのか」

 くつくつと笑いながら近付く男に向けて、渾身の力を込めた剣を揮う!
 されど、男が片手で軽く揮った大剣が、私の一撃を弾く。弾かれた衝撃で剣が手から放れた。
 衝撃で痛めた手を押さえていると、髪を掴まれ、顔を強制的に上げさせられる。

「ぐぅ……っ!」
「それにな、闇の妖精をモノと見ぬ虚けが何処にいる? これ程の上物、これ程の上級、これ程の高価な道具を、商品を、モノと見ぬなど有り得ん」

 服を片腕で、引き破られる。そうして露わになった肌に、舌が這う。気持ち悪い。

「そも、闇の妖精など慰み物が常道であろうに。貴様ら闇の妖精の特質もまた、然り。……なぁ?」
「う……っ!」

 掴まれた髪を引っ張られ、痛みに呻く。

「願望成就玩具たる貴様らが有す、特異な性質。いや、体質か? まぁどちらでもいいことか。その体質が、既に貴様らの価値を知らしめる証左であろうよ」
「うる、さいっ、触るな……っ!」
「吠えるな」
「がはっ!?」

 どすりと腹部を蹴られて息が詰まり、顔を掴まれて頭を背後の木に叩きつけられる。

「うぁっ」
「話しを続けよう。貴様らの奇異な体質は、その実、己と性別を異なる生物に働く。生物全般に。その肝要なる体質とは、即ち、異性を魅了する特殊なフェロモン」

 言葉を続けながら、何度も何度も頭を木に叩きつけられる。

「そのフェロモンは否応なく異性を発情させるもの。獣であろうが人間であろうが獣人であろうが魔獣であろうが魔族であろうが竜族であろうが、生物の範疇を超える同族の、一般的な妖精以外、その全てを」

 何度も。

「発情させ、己が身を捧げることによる自己保身なのかどうなのかは知らん。しかし、その有り様は娼婦にも劣り、売女よりもなお低俗! 性欲にかこつける特異な性質を有すと云う事実に加え、そもそもの貴様らの成り立ち。そこから推察出来ることなど、限られる!」

 何度も。

「貴様らは下卑た存在だと自らを声高に主張している! ならば、相応の扱いをしてなにが悪い! 当然の扱いをすることが下衆? 違うな。当然の扱いをせぬやつこそ下衆よ!」

 何度も、叩きつけられる。

「故に、安心して貴様は道具としての役割を全うせよ! 犯され、嬲られ、痛めつけられ、傷つけられ、弄ばれろ! 存分に!」

 がんっと勢いよく叩きつけられて、ドロリと血が流れる感触。

「壊れて道具として使い物にならなくとも、それもまた安心しろ。壊れた貴様を解体すれば、その臓腑は高価な材料となる。秘薬の基となり、魔術的価値の高い材料となる。捨てるところがない程に、実に生物の願望を満たしてくれるな! 実に、実によい商品だ!」

 哄笑しながら、無理矢理に目を合わせさせられる。

「貴様が生物としての『生』を望むなぞ、不敬に尽きる。貴様はただ、道具として『存在』せよ。貴様とて、そのことを心底理解しているのだろう?」

 そう云って、私を薙ぎ倒す。地面に私の身体が倒れる。
 痛い。痛い。身体が痛い。心が痛い。なにもかもが痛い。
 瞳から流れる液体は、果たして涙か、それとも血流か。
 意識が朦朧とし、視界は既に暗闇へと沈んでいく。

(ごめんね、おねえちゃん)

 不様に泣く体力も気力も尽きた。生への渇望すらも枯渇した。

(私が生きられるのは、ここまでみたい)

 がらんどうの心を空虚が占める。投げ出した身体は肉塊へ変わる。

「さて、では回収して弟と供に、この肉人形を楽しむとしよう」

 元より、心の何処かで漠然と諦観していたことは事実。己で己を卑下していたのも、また事実。自身で既に幸福など有り得ないと思っていた。ならば、たとえ必死に生きていたのだとしても、こんな結末を迎えるのは、運命だったのだろう。
 己が宿命に、抗おうともしない弱者如きを救うほど、運命は優しくなんてないのだから。




 絶望が、私を捉えようと手を伸ばし――















「へぇ、地獄にも空気嫁ってあるのかい?」















 ――止まる。





*****





 唐突に私から離れる絶望の気配。
 暗闇へと沈みかけた意識が浮上する。いま、有り得ない響きを耳にした。
 満身創痍の身体に最後の活力。半ば閉じていた目蓋を上げる。

「ふっ、この危機的状況に駆けつける。僕ってば主人公してるじゃないか!」
「……貴様はっ!?」

 そこには、どうしようもない馬鹿がいた。服の乱れこそ目立つ物の、その身には大した傷を負った様には見受けられない。
 その馬鹿が、ジョンジョルノなんて名乗った馬鹿が、まるで私を庇う様に前に出て、悠然と敵と向かい合う。

「貴様がユリアさんをこんな魅力的な姿にしたのか? それには礼を云っておこう。惜しむらくは、このユリアさんの艶姿を納めるキャメラがないことか……。やっぱり、ジジとメアにお願いして買って貰おうかなぁ……」
「……貴様、弟はどうした?」
「ん、弟? 誰……ってそうか、さっきの鉄球使いか」
「どうしたのかと尋ねている」
「眠たそうだったので寝かしつけてきた。永遠に夢の中だろうさ」
「弟を打倒したか」
「雑魚だったから、楽過ぎた」
「ただの馬鹿な優男と思ってみれば、どうやら違ったようだな」

 霞がかった瞳で、二人の姿を映す。

「僕は馬鹿じゃない、紳士だ」
「そうか、紳士か。ならば、そんな紳士にひとつ提案がある」
「あん?」
「俺の仲間になれ」

 唐突に発せられた言葉に、きょとんとする馬鹿。

「なんで?」
「使えぬクズよりも、それを打ち倒した貴様の方こそ価値がある。俺は高価な物が好きなのだよ」
「クズ、ねぇ。弟にあんまりな言葉だな」
「血の繋がりはない。クズの中では最も有能であったが故に、俺の弟分であっただけのことよ」
「……うわぁ。お前、自分至上主義だろ?」
「至上主義? 違うな。事実、俺は至上の存在というだけだ」
「自意識過剰な奴め」
「そんなことはどうでもいい。返答を寄こせ。もしも色の良い返答ならば、褒美を与えても良い」
「褒美?」
「そこの玩具を、貴様にやろう」


 私の身体が、強張る。


「それを好きに扱うことを許す。嬲るなり甚振いたぶるなり弄ぶなり、随意にしろ」
「……何を、云ってる」
「所詮は下賤な雌。貴様の玩具として壊れるまで扱っても構わん。飽きたら商品として売り出すだけ。俺は金銭の方がより欲しいのでな、売り物になるのならば、その所有には拘らぬ」
「…………」
「どうだ、悪い話でもあるまい。元より、貴様もそこな道具に劣情を催している筈。安易にそれが手に入るのだ、迷う事などあるまい?」

 身体が、震える。私を庇うように立つため、馬鹿の、彼の背中しか見えないから表情など見えないし、今は、見たくもない。
 ガタガタと、不安と恐怖が私の身体を支配する。

「…………」
「我が配下となるならば、易くそれを所有できるのだ。何を迷う。それとも、俺に挑み無駄に命を捨てるか?」

 まあ、有り得んことか。そんな呟きが耳に入り、言葉は続く。

「どうする? 言葉にするのが億劫ならば、態度で示しても良いのだぞ? 我が言に従うならば、それをこの場で犯し嬲ることを許す」

 その言葉に、くるりと振り返り私へと歩みを進める、彼。

「それで良い。いや、当然のことか」

 嗚呼、やはり、私はこんな結末か。もう顔を上げているのも億劫だ。
 俯き、目蓋を閉じて闇へと埋没する。そして、訪れるであろう絶望に、諦観のみを抱く。

(もう、いい。もう、諦めた)

 総ての思考を放棄。これからのことなど、考えたくなかった。
 しかして、私の身体を包み込む暖かな感触。

「え……?」

 思いがけない感触に、目を見開く。そこには、想像もしていなかった、優しい微笑み。
 羽織っていた上着を私に掛け、ぽんぽんと頭を撫でて立ち上がる。
 そして、再び、前に立つ。

「……なんのつもりだ?」

 凍える様な殺意をのせた敵の声。呆然と見上げる私の視線。
 その全てを受け止めて、不敵に笑う、その男。

「こんな可愛い女の子を道具と称した貴様如きに、従う筈もない」
「……道具を人並みに扱うだと。正気か」
「いたって正気。女の子を女の子扱いして、何が悪い」
「貴様はそれの体質を、特有のフェロモンを感じていないのか?」
「近くにいると気分が昂ることか? そんなもん、美人のそばに居れば、当然の現象だろうが」
「……失望した。貴様には失望したぞ。よもやモノをモノと思えぬ愚物だったとは」
「愚物じゃねぇ。紳士だ」
さえずるな。耳障りだ」
「貴様こそ語るな。空気が汚れる」

 びりびりと大気が震える程の殺意。それを真っ向から浴びてなお、不敵に笑い続ける、その男。
 私へと振り返り、云う。

「すぐに終わらせるから、眠って待ってて」

 優しさを湛えた声に、瞳が自然と潤む。
 生涯で、唯一、家族にしか感じたことのない、云いようのない安心感。知らず、胸中に安堵が広がる。
 今まで張り詰めていた糸が、ぷつりと切れる感覚。

 その男から感じる優しさからか、緊張が途切れる。それに伴い感じる身体のダルさ。眠気が襲う。
 有り得ないことだ。誰も信じられない、信じ切れない私が、この男を信じている。こんなこと、今まで無かったのに。
 意識が、暗闇へと沈み込む。先程より、遥かに恐怖の薄れた暗闇へ。

 目蓋が、降りる。

「さて、お姫様は眠りについた。これで凄惨な光景を見ることはないし、一安心」
「ふん、貴様が不様に惨たらしく死ぬ様を見せぬ為の気遣いか。流石は紳士だな」
「姫は健やかにお眠り下さい。貴女が目を覚ます頃には、なにもかもに決着がついていますでしょう」
「随分と余裕だな。武器も持たぬ癖に」
「確かに僕は武器を持っていない。だが、地の利ってやつがある。ところでさぁ」
「なんだ。命乞いか?」

 意識が落ちる、その寸前。

「貴様は、『鳥』って映画を知ってるかい?」





 あまりにも冷たい声を聴いた。





*****




 揺れている。その感覚に意識が浮上する。
 次いで、暖かい感触。久しく感じていなかった、人肌の温もり。
 まどろむ意識の中、それを手放さぬように、強く抱きしめる。

「いきなりの熱い抱擁。ついに僕にも春が来た。青い春が。それにしても、たわわな果実がたまらぬ。ふひひっ」

 その声を耳にして、まどろんでいた意識が覚醒。
 勢いよく身を起こす。

「よく眠れた?」
「え、ええ」

 眼前には人の後頭部らしき物。その向こう側から聴こえる、聞き覚えのある声。
 どうやら、私は背負われているようだ。
 まさか本当に、あの敵を打倒したのだろうか。俄かには信じられない。いや、こうして無事にいることが、全てを物語っているのだけど。もしや夢なのか。そんな事を考える。

 ……まぁ、いい。今は、この奇跡のような事実を受け入れよう。
 ただ、少し気になるのは、この男がボロボロで、体中に鳥の羽毛を被っていることだけど。

「お、降ろし、痛っ」
「無理をしなさんな。結構傷が深いんだから」
「……そういう貴方も、ボロボロじゃない」
「僕は大丈夫。なぜならば、紳士だから」
「……意味分かんない」

 自分こそボロボロなくせに、大丈夫と云う、目の前の馬鹿。……ホントに、バカ。
 ただ、その言葉に甘えようと、自然に思えた。
 ぽすりと頭を背中にうずめる。その行為に奇声を発するバカ。格好のつかないやつだ。そこは黙っているものだろうに。

「……ねぇ」
「うん?」

 ふと、言葉が口から出る。

「あれは、本音?」
「なにが?」
「私は道具じゃなくて、女の子だってこと……」

 言葉が、溢れる。意識を失う前に聴いた言葉を確かめたかった。もしも、夢だったらどうしよう。もしも、私のただの妄想だったらどうしよう。

 私を認めて欲しいと、心が勝手に生み出した幻想だったらどうしよう。

 そんな想いが胸を締め付ける。心拍数も上昇。怖い。こんなことを聴くのは怖い。他種族の、それも異性に、こんなことを尋ねるのは怖い。
 ここで、私はやはり道具だと、モノだと云われたら。私は壊れるかもしれない。初めて、『私』を認めてくれた、同等に扱ってくれた、女の子として見てくれた、この人に、『私』を否定されたら、きっと壊れる。拾った希望が絶望に戻ったら、私はもう立ち直れないだろう。
 そして、そんな思いは杞憂だと、知る。

「当たり前でしょ。ユリアさんは綺麗で可愛い女の子じゃないかぁ」
「……でも、私は闇の妖精よ?」
「それがなに? ユリアさんはユリアさんでしょ? 闇の妖精だからといって、ユリアさんが道具扱いを受ける謂われは微塵もないじゃん」
「……それでも、闇の妖精の誕生理由を考えれば、きっと、貴方の考えの方が異端。……それでも?」
「僕ってば、三歩歩くと何でも忘れちゃうので、闇の妖精の誕生理由とか覚えてないや。だから、知ったことじゃない」
「……鳥頭」
「いえ、鶏頭です」

 下らないことを云うバカに、知らず笑みがこぼれる。
 よくもまぁ、闇の妖精である私を、笑いながら受け入れられる物だ。

「そういえば、不思議なんだけど、貴方は私に対して欲情したり、しないの?」
「はっはっはっ、僕は全ての女性に対していつも欲情しているよ!」

 誇るなそんなこと。

「今なら、簡単に私を組伏せるけど、そうしないのは何故?」
「ふふふっ、反撃されないとマニア心は響かないのさ!」

 …………やっぱり変態ね。

「それに」
「それに?」
「僕ってば、紳士だからね」

 そう云って笑うバカからは、全くの劣情を感じなかった。不思議な人間だ。
 だからという訳でもないけれど。
 なんとなく、なんとなくだが、幼い魔女殿が云っていた言葉が理解できた。



『だって、私は――――』



 私を背負って歩くバカに、身体を預ける。「うひょー!!」と奇声を上げるバカ。
 色々と思う事はある。私を個として認めてくれた。私を同等に扱ってくれた。私を女の子として見てくれた。蔑むことなく、見下すことなく、嘲ることなく。
 初めてだ。初めてだった。他種族の、それも異性にそんな風に接して貰ったのは。
 今まで出逢った、どの男とも違う男。不思議な男。興味深い男。

 変態の癖に紳士と云い張る男、恐ろしい敵を撃退して見せた底知れない男。
 何故か、心地よい雰囲気を持つ男。この人は裏切らないと、根拠なく思わせる男。
 魔女殿が信じている男。

「…………」

 顔を背中に再びうずめ、そっと呟く。聴こえない様に、小さい小さい声で、呟く。
 今の私には、これが限界。







「ありがとう」







 認めてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。他にも様々な意味を込めて、ありがとう。



 私の呟きは、やはり聴こえなかったのだろう。依然、変わりなく歩く。





『だって、私は――――』






 魔女殿、貴女の云った事が、私にも少しだけ、ほんの少しだけ、理解できました。















『――――救われたから』















 私も、救われた。







~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

**********この文章はこっ恥ずかしい為隙間送りになりました**************


▼声援ありがとうございます!感謝感謝の大感謝!

>妖精族編が見たいです。あの『ババア、結婚してくれ』の後はどうなったのか非常に気になります。

気が向けば書くかも知れません。


>キャラが立ってていいなぁ主人公、再開に気付かなかった私より人生謳歌されてる気がする。つまり作者さんとの再会バンザイ。

お久しぶりです。またふらりと姿を消すかも知れませんがその時は、きっと、作者は桃源郷を目指す旅に出たのだと、そう御思い下さい。

>なまじ致死率高い罠を張れて交渉上手な主人公のスペックは流石。おまけに紳士なんてどこまで予想をこえていくのでしょうか。
>最後にジジの尻尾は不意打ちすぎです。

あの後、ジジが必死で弁明する姿をニヨニヨと笑いながら見る主人公が居たとか居ないとか。


>ジジが下着泥棒だなんて…

萌えますね!


>疑いは全てジジにwwwwwwwwwwwwwwwwwww

主人公はそれを見越していた可能性が…っ!?
なーんてことはありませんが。




[9582] 27話・ユリア
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:53


 生きてく希望を夢見る勇気を微笑む余裕を愛する心を持つのが僕なのさ!





『27話・ユリア』





「そんな訳で、ユリアさんを如何するかを話し合おうと思いまする」

 あの下郎共を下した翌日。早朝のことである。
 メアの作ってくれたご飯が所狭しと並んだテーブルに、メア、ジジ、ユリアさんが席についている状態。
 そこへと赴いた僕の第一声である。

「取り敢えず、服を着て来い」

 パンツ一枚姿で現れた僕を視界に収めたジジの第一声である。

「そんなことはどうでもいいんだ。むしろ存分に見て欲しい」
「……目が腐り落ちるんじゃないかしら?」

 僕の言葉に辛辣な言葉を返すユリアさん。
 なんということだ。昨日は良い雰囲気が作れたと思っていたのにぃっ!

「だらしない人にはご飯あげません」
「すぐ着替えてくる!」

 メアの言葉に素直に従う。一日の大事な糧を、それもメアと云う名の美少女が作り上げた物を食べられないなんて、死んじゃうっ!
 しかし、そう考えると僕は充実した現実を送っているなぁ。毎日毎日美少女の作ったご飯を食べているのだもの。

「僕ってば、なんというリア充」

 ふはははっと、手で顔を覆いながら呵呵大笑。そんな風に全力疾走していたら自室の扉に全力で激突。吹っ飛ぶ僕。

「ま、まさか、さっきの言葉が、死亡フラグだった、のかっ……?」

 廊下に横たわり呟く。別に死んではいないけど。

「ふふっ、ヤルじゃねぇか」

 むくりと起き上がり、僕を吹っ飛ばした扉に語りかける。
 しかし、当然ながら扉から応答はない。何をやっとるんだ僕は。
 兎にも角にも部屋へと入り、箪笥から服を出して着替えを始める。

「僕、これに着替えたらメアの美味しいご飯を食べるんだ……」

 そんなことを呟きながらも、せこせこと服を身に着けていく。おお、温かいなり。

「着替えた! いざ行かん、夢の彼方へ!」

 着替えを完了し、脱兎の如く駆ける。目指すは美女と美少女と美子猫が待つ桃源郷!
 部屋を勢いよく飛び出そうとした瞬間、思いっきり扉に足の小指をぶつけた。

「超痛い!」

 ゴロゴロと床を転げまわりながら悶える。





 まさか、足の小指に死亡フラグが立っていたとは思いもしなかった。





*****





「そんな訳で、議題はユリアさんの処遇についてでありまする」

 えっちらおっちらとハーレム空間に舞い戻り、可憐なる美少女の作り賜いし、いと美味しき食事を口にして、お腹がくちくなった頃。
 再び僕が口を開く。先程は有耶無耶になったが、出来るだけ早目に結論付ける事柄であるのは変わりない。
 早く話し合わなければならないにも関わらず、ご飯を5回程お代わりしたのは秘密さっ!

「うむ、そうじゃなぁ」
「……ええ、そうね」

 ジジの同意に続けて、若干の緊張を伴ったユリアさんの声。
 それも当然だろう。また今迄のように旅を続けるにしても、ここに留まりジジ達の庇護下に入るにしても、新たに己が暮らせる場所を探すにしても、中々にデリケートな話題なのだから。
 旅を続けてお別れか、それとも庇護を受けるか。それ故の処遇である。

「お前さんは、どうしたいのじゃ?」
「……出来れば平穏に暮らしたいのだけど、それは望外よね」
「そうでもないと思う。平穏に暮らしたいなら、僕のお嫁さんになれば良いよ!」
「話しがややこしくなるので黙っててください」

 メアに素敵な笑顔で云われた。取り敢えず、黙って見る。
 そんな僕を置き去りに会話が進む三人。女三人寄れば姦しいと云うけれど、そんな表現が似合わない程に静かに会話は進む。

「そうか、これが放置プレイか。ふふっ、興奮するじゃないの」

 じゅるりと口元を拭う。割といつもの事だけど、それを気にしては負けである。
 何に負けるかって? 自分の心にだよ!

「……どうしたものかのぉ」
「難しい、と云うよりは繊細な事ですからね」
「ここまで種族的性質に苦しむのも、いつもの事だけどね」

 いつの間にやら僕の与り知らぬ所で、だいぶ論議が進んだ模様。懊悩するジジとメア。それを見て苦笑するユリアさん。
 しかし、その苦笑には僅かなかげが見てとれる。どうやら種族的な問題で悩んでいるらしい。
 恐らく、異性を興奮させる体質のことと当たりを付けて、尤もらしいことを云っておく。

「ふぅむ。デックアールヴァならではのハンデだねぇ」
「……貴方、古い言葉を知っているのね」
「ん、なにが?」
「今云った“デックアールヴァ”よ。随分と古めかしい言葉を知っているのね」
「やっぱり、ダークエルフって云った方が良い?」

 取り敢えずの無駄知識を披露して見たのだけれど、思いの外に驚かれた。
 なので、メジャーな呼び方が良いのかしらと思い、尋ねる。
 しかして、ユリアさんは首を横に振った。

「別にどっちでもいいわ。仲間内の、それも三千年は生きた年配の方々が云っていた言葉だから、ちょっと驚いただけよ」
「むむ。やはり闇の妖精も、普通の妖精と同じ長寿なの?」
「ええ。願望の集大成だから、当然永寿の性質も有しているわ」
「……因みに、ユリアさんの御歳は?」
「女性に年齢を尋ねるのは失礼よ?」

 そう云って微笑むユリアさん。
 なんか背筋がゾクゾクした。朗らかに笑っているように見えるが、どうやら表面だけらしい。
 女性はえてして年齢を気にする物の様だ。そう云えば妖精族の里に出向いた時も、年齢関係で牢屋にぶち込まれたっけ。

「お主も、雑談しとらんで何か考えぬか」

 妖精族の女王ティタニア様のけしからん胸を思い出し、ハァハァしているとジジからの叱責が飛ぶ。
 取り敢えず、そもそも何を悩んでいるのか分からないので問うてみる。

「てかさ、なにを悩んでいるの?」
「お主の頭は飾りか?」
「失敬なっ! 素敵な煩悩が沢山詰まった僕の頭に、なんて云い草だ!」
「捨ててしまえ。そんな頭」

 新しい顔を投げてくれる人がいないので、それは断る。
 ……いや、まぁ、実際に投げられても困るけれども。現実でやったらグロイことこの上ない。

「私の性質よ、悩み所は。同性はまだいいとしても、異性面では、ね」
「さらに、闇の妖精に対する認識も問題じゃ」
「容姿は魔法でなんとかするにしても、種族的な性質ばかりは、どうしようもないんです」

 そう云って困り顔を晒す三人。悩んだ顔も中々に乙な物である。

「膨大な魔力があれば、種族的な因子へ強引に関与して問題を解消することも出来るんでしょうけど……」

 うーんうーんと頭を悩ますメア。いっつ、プリチーなり。
 しかしながら、未だに僕は何が問題なのか分からないので尋ねる。

「それの何処かに問題があるの?」
「膨大な量の魔力が必要と云ったじゃろう。メアもそこそこに規格外の魔力を保有しているとはいえ、人間の身じゃ。必要量には圧倒的に足りぬ」
「ジジは?」
「ワシでも無理じゃ。確かに世界でも屈指の魔力量を保有しているという自負はあるが、それでも足りぬ」
「ぶっちゃけ、どれくらい必要なの?」

 僕の言葉に少々の間を置いて答える。

「……そうじゃなぁ。少なくとも純粋な魔力だけで、重体の身を蘇生させる位には必要じゃろう」
「普通の魔法は、魔力を加工して効率よく使用していますからね。純粋な魔力だけで現象・事象を起こすのは、生物には基本無理ですし」

 極小規模の物以外は、と言葉を結ぶメア。

「……本当に、聴けば聴くほど忌まわしいわね。この性質」

 天井を仰ぎ見ながら呟くユリアさん。なんとなく、空気がどんよりしているなぁ。

「むむぅ、解せぬ」
「なにがじゃ?」
「どうしてそこまで悩むのか」
「……お主は話を聴いていなかったのか?」
「聴いてたよ?」
「ならば分かるじゃろう。手段はあるが、それに必要な物が無いんじゃ。普通、悩むじゃろう」
「いや、だからさ。それだと、もう解決してない?」
「……なに?」
「……え?」

 怪訝そうに僕を見遣るジジとメア。そこまで不思議がることかなぁ。
 ぶっちゃけた話、魔法関連の話は全く理解出来なかったけれど、兎に角、魔力が必要だという事は理解した。それに関してはアテがある。
 というか、ジジもメアも忘れているのだろうか?

「だって、宝珠があるじゃない」
『……あ』

 どうやら思い至ったらしい二人。流石に頭の回転が速い。

「え、え、なに、なんなの?」

 一人分かっていない様子のユリアさん。当たり前だけど。
 キョロキョロと周囲を見回す姿が、小動物チックでなんと愛らしいことか。今にも理性をかなぐり捨てて抱きつきたい。





 結果、抱きつこうとした僕は、見事なカウンターを喰らった。





*****





 自室に戻り、例のブツを取って来た。
 その際に扉を警戒していたのは、僕だけの恥ずかしい、ひ・み・つ。

「ぬるりと出すぜ」
「何処に入れ取るんじゃお主はぁ!?」
「あべしっ!?」

 下着の中に手を突っ込みブツを取り出す。それを見たジジに思いっきり殴られた。
 痛みと共に快感が駆け巡る。くっ、僕の一部がビクンビクンしちゃうっ!!

「これは……?」
「これこそ『奇跡の宝珠』で御座い」
「欠片ですけどね」

 そんな僕の内心を知らないユリアさんの疑問に答える。
 僕が持っているのは、不思議な光を宿したキラキラ光る発光物である。メアの補足通り、元は珠だったのだが、これはその欠片なのだ。

「別名『世界の宝珠』じゃ」
「うそっ、これが!?」
「欠片ですけどね」

 ジジの更なる補足に驚愕の声を上げるユリアさん。そして再度同じことを仰るメア。
 なんだろう。宝珠を粉々にしちゃった僕を、遠回しに責めているのだろうか。度重なる仕打ちに興奮度が振り切れそうだよ、ぼかぁ。

「欠片って……なに、元は完全な形であったの?」
「こやつが砕いたのじゃよ」
「こけたら割れた」
「まぁ、欠片でも莫大な魔力を有するからな。これから行う事には十分過ぎる程じゃ」
「むしろ、有り余るでしょうね」

 四魂のかけらもどきを見て、感嘆の吐息を漏らすユリアさんが色っぽい。背後から抱きつこうとしたら、またもや見事なカウンターを喰らった。

「なんでまた、こんな物を?」
「一年ほど前に魔獣が大量発生しての、その討伐に赴いた際にな」
「その時に僕が拾いますた」
「欠片になっちゃいましたけどね」

 メアが軽く酷い。これ以上僕を興奮させてどうする気なのか。

「兎にも角にも、これで問題点は解決したようなものじゃ」
「そうですね。早速、魔法を施しましょう」
「ええ、お願い」

 僕が床をゴロゴロと転がり悶え、興奮パラメーターを消費している間に、あれよあれよと三人の間で会話が進んでいた。
 またもや放置プレイ。ふふっ、消費した興奮メーターが復活してくるよ!





 悶える僕を、三人の瞳が憐れみを以って見ていた。





*****





「おおう、ビュウティフル……」
「ど、どこか変じゃない?」

 魔法で大変身、劇的ビフォアーアフターを果たしたユリアさん。
 褐色の肌は新雪を思わせるほどの白に、艶やかな銀髪は美しい金髪へと変貌。首にはネックレスとして加工した宝珠の欠片。

 綺麗な可愛らしい服を着飾ったその姿は、素晴らしいの一言。まるで深窓の御令嬢である。
 因みに、ネックレス型の宝珠の欠片は、身に着けている方が効率が良いらしい。魔法的に。僕にはよく分からないけれど。

「さてと、容姿に対しては過不足なかろう」
「あとは性質面ですけど、どうですか?」
「性欲を持て余す」
「こやつは普通に駄目じゃ。いつも発情しとるからアテにならん」
「……どうしましょうか」

 何故か僕の答えが気に入らなかった模様。一体何故であろう。

「いっそ街にでも繰り出さんと無理か」
「さ、流石にそれは……」

 ジジの提案に尻込みするユリアさん。やはりまだ恐怖心があるのだろう。嘆かわしいことである。

「仕方ない。もう、ここは僕と一生を添い遂げるしかないね!」
「ある意味で死刑宣告じゃな」

 僕と結婚することは死刑に等しいと申されるか!?

「あまりにも酷いジジの言葉に、僕は打ちひしがれるのであった」
「恍惚とした表情で云われても……」

 メアの指摘に表情を取り繕う。

「てかさぁ、平穏に暮らしたいだけなら此処に住めば良くない?」
「そうもいかんじゃろう。ずっと此処に引き篭もっていては、息苦しくて敵わんじゃろうし」
「健康に悪そうですよね」
「私としても、一方的に世話になりっ放しって云うのもねぇ……」

 朝昼夜の三食完備で、基本家の中をゴロゴロしているだけで良い生活だしね。さらに、朝はメアの布団に忍び込み添い寝状態からの「おはよう」で始まり、昼はシエスタを嗜み、夜は風呂を覗こうとしてジジとの死闘で適度に運動、就寝の際にはまたもやメアの布団に忍び込む。

 ヤバい、理想的なニート生活過ぎるっ! バイトを辞めたくなって来たっ!
 しかし、バイトを辞めればエリーナさんに逢えなくなってしまう。なんというヤマアラシのジレンマか。
 ヤマアラシのジレンマを誤用している気が無きにしも非ずだが、気にしないのが僕の本領さ。

「それに、ワシ達は幾日になるか判然とはせぬが、王都に行かねばならぬ。此処に一人残す訳にも行かんじゃろ」
「そうですね。それに、問題点さえ解決出来ていれば、マリエル陛下がなんとかしてくれると思いますし」

 僕が理想的な生活に浸り、遂にハーレムエンドを達成している妄想をしている間、話題は進行していた。
 またもや放置された。そろそろ僕は放置マスターになるかもしれない。

「兎にも角にも、お前さんの性質がどうにかなったのかを知るためにも、正しい反応を見ねばなるまい」
「そう、よねぇ」
「だから云ったじゃない。性欲を持てあ」
「黙りましょうね?」

 メアが怖い。

「お主も街には用があるじゃろう?」
「ん? ああ、うん。バイトを休むって伝えなきゃね!」
「あら、貴方は留守番じゃないの?」
「この人を一人にすると、何をするか分かりませんから」
「帰って来た時に、この古城が残っているかどうか分からんからの」
「……ああ、納得」

 僕はどういった風に見られているのか。というか、ユリアさんに至っては、まだ二日程度しか過ごしていないのに何故に納得したのか。
 やはりあれか、昨日の夜にはっちゃけたのが原因かしら?
 昨夜はっちゃけてぶち壊した壁を見て思う。

「まぁ、そういう訳じゃ。こやつも街に用向きがあるのでな、ついでに様子見をすればよかろう」
「私達も同行しますし、安心してください」
「そうそう、いざとなったら僕の肉体美でなんとかするよ!」
「貴方の言葉で不安が一気に増したわ……」
「なにゆえ」

 本気で不安そうなユリアさん。そんなユリアさんを宥めるジジとメアの二人。
 そこまで僕は信用ないかね。





 なんやかんやと有ったけど、結局街に行きました。





*****





 結論、大丈夫でした。


「びっくりする程あっさり解決したね!」
「その割には、視線を感じたのだけれど……」

 男衆が見惚れてましたからね、その美貌に。
 ユリアさんの隣を歩く僕を見る、男衆の悔しそうな顔が実に愉快であった。久々に優越感に浸れたよ!

「これでお前さんは日常生活を送る事が出来るようになった訳じゃ」
「住む所などの手配は私達がしてもいいですし、なんならマリエル陛下に口利きもしますよ?」
「どうせなら一緒に住もうよ。部屋は僕と同室で!」
「お主が手を出した瞬間に去勢するからな?」
「おおぅ、バイオレンス」

 ジジが怖いことを云う。僕に永久の賢者タイムを味わえと申すか。

「……ありがとう、こんなに、わ、私を、私の……」

 手で顔を覆い、涙声のユリアさん。頬を雫が伝う。恐らく、集落から逃げ伸びてから、初めての事なのだろう。他人に優しくされのは。感激に身を震わせている。
 そんなユリアさんを見守るジジとメアの二人。素早くユリアさんに近付き、流れる涙を舐める僕。
 ベロリンチョ。うむ、美味し。

「きゃあ!?」
「なにをしとるかぁ!?」
「…………っ!?」

 三人に殴られた。
 驚いたユリアさんの裏拳に、次いでジジの尻尾が鳩尾を捉え、最後にメアが空気を魔法で圧縮して撃つ。
 なんというコンボ。想定外の大ダメージと、予定外の快感に悶える。
 身をくねらせながら悶える僕を、諦観の念で眺める六つの瞳。

「……台無しじゃ」
「……台無しです」
「……台無しねぇ」





 遠い視線で呟く三人。どうしたのだろうね?





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 素晴らしい作品を見た後は、創作意欲が激減します。
 世の中には、すばらしい作品に感化される方もいるようですが、作者はその方々とは真逆にいるのです。
 つまり、最近のこの作品「ほのぼの度」が足りないなぁ、と。


▼感想が増えると作品が長くなる!なんてことはない!!

>・・・まさかジョンジョルノは悪の組織に改造された鶏人間か!
>Ω<ヤメロ○ッカー!ブットバスゾー!

“改造”の単語は、後々のフラグになるやも知れませぬ。


>主人公は良い思いをしてはいけません!!!

なんと殺生な!?主人公は美少女と子猫と同居している時点で、良い思いしてるのにっ!!


>主人公が主人公してるなんて……!!
>この主人公、やはり紳士なだけあって何かが違う。
>いや、何かと聞かれたら紳士としか答えられないのですが。

正に主人公は紳士の塊ですね!

>始祖鳥(でしたっけ?)がまさかやってくるとはw
>そこから脱出できる紳士はやはり紳士だった。
>次も楽しみにしてますね。
>それでは~ ノジ

期待せずにお待ち下され。ノシ


>鳥葬的攻撃か、サモン・フェニックスか、はたまた怪人ジェントルチキンに変態したのか。。。。
>ただ一つ言えるのはこの男、シリアスが似合わないッ

さてはて、どのような状態だったのかは各自のご想像で補完してくださいな。いつか書くかも知れませんが。


>ヒッチコックか……場面を想像したら冗談抜きで凄惨だ
>さすが紳士、見せたら一生のトラウマだったに違いない

作者はあれで一週間ほど鳥が怖かった思い出があります。


>過去の話を読んだらただのへんtじゃなくて紳士だってことが分かるけど
>まぁ悪の組織にいたのなら何かされていても可笑しくないが・・・鳥葬か・・・

主人公の過去が気になる様に書いてみたけれど、ぶっちゃけそんなに気にならない不思議。


>主人公が主人公っぽいことしてる!
>今回ばかりは尻assではなく尻アスですね!
>この紳士がシリアスになるひが来る前兆だろうか。

それでもシリアスから尻が取れない事に、作者はどのような反応をすればいいのか……。


>尻アヌスでもいいかも

それでもシリアスから尻が取れない(ry
どころか、新たな単語ができて、作者はどうすればいいの……?

>紳士格好良いwww
>しかも珍しく主人公らしい感じに

偶には主人公らしいことをさせてみました。


>うおおおおおお! ジジ、メア、ユリアさん、主人公、うおおおおおおお!!

うおおおおおおおおお!!!


>ダイナブレイドとその愉快な手下たちを召還したのかな?
>主人公が最近まともになりつつある。本名がgiogioだって聞いても違和感無かったとかないわー。
>どうしてくれるんだ、このままでは近いうちに惑星直列やら小惑星の雨やら世界的な性転換ブームやらが起きてしまうじゃないか。
>僕らの、性衝動と書いて紳士と読む主人公はいずこ!?

それは、皆様の心の中に……。

>…でも、面白かったです。

その一言がなによりも嬉しいです。ありがとうございます。


>こいつは主人公だったんだね。忘れてたよw
>変態ぃー!かっこいいぞぉー!

思考が危ない方向へ向かっているので、お気を付けて。作者は責任をとれませぬぞ!

>闇の妖精って変tごほん!紳士にしか普通に対応できないのか?……まあ紳士は普通に対応しないけどさ。
>それは幸せなような不幸のような
>……あれ、不幸じゃね?w

カミジョーさんを目指す紳士とか誕生するかもしれません。本作の主人公は無理ですが。




[9582] 28話・女王と癒しの魔女-a
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 00:59


 喧嘩は止めて争わないで、僕のた……うわっ、石を投げるな!





『28話・女王と癒しの魔女-a』





 準備完了いざ王都という運び。なんやかんやと色々な出来事もあったけど、結局は当初の目的を果たす為に馬車に乗り込み王都へ向う。
 ガタガタ揺れる馬車の中。相も変わらず気分が悪い。先日、馬車でエライ目にあったのは記憶に新しい。
 確かに原因は十割が十割、僕である。それは違えようもない事実。

「しかし、これは酷いのではなかろうか」
「適切な処置じゃ」

 ぐるぐる巻きに身体を縛られ拘束されている僕、いと哀れ。
 なんでも、僕が吐きそうになったら問答無用で馬車外へと叩きだすためらしい。叩きだすのに動き回れたら鬱陶しいので拘束したとのこと。
 僕の人権がおそろしく軽い扱いを受けている。これは断固抗議すべきであろう。

「これは人道的に見て明らかに酷い。断固として抗議する!」
「ファンタジーじゃから仕方ない」

 なんてことだ。まさか、ファンタジーの一言で片づけられるとは思ってもみなかった。凄まじくこの状況に合致していないのに、何故か納得しそうになる僕。しっかりするんだ僕、意識をしっかりと保て。

「ファンタジーは関係ないと思う!」
「ならば、ネタじゃ」
「それなら仕方ないね」
「……納得しちゃうんだ」

 ネタならば仕方なし。そう思っている僕に、呆れた声を上げるユリアさん。ザ・変身モードである。
 何故にユリアさんが同行しているのかと云うと、今後の方針として王城で騎士になるらしい。剣の腕前には自信があるらしく、事実その腕前は騎士として充分の力量とジジの太鼓判もある。

 さらに云えば、安全面で云えば女王直属の近衛兵になるのが最も安全。その為の口添えもジジとメアがするとのこと。二人の優しさ此処に極まれり。
 まぁ、詳細に二人の過去を知り得ている訳ではないけれど、それが中々に暗いモノであることは、日々を共に過ごせば自然と感じ取れる。そういった節を見かけない訳でもないし。
 故に、同じ様な境遇のユリアさんを放ってはおけないのだろう。

「どうせなら、その優しさの半分を僕にくれても良いのにぃ」

 そうとは分かっていても、ちょっとした不満があるのも事実。僕だって優しくされたいんだよ! 確かに、僕は過剰な優しさには不安になるけどさ、それでも優しくしてくれたら嬉しいんだよ!
 具体的には毎日添い寝とか、日々の接吻とか、僕のセクハラ行為を容認してくれるとか!

「凄い邪心を感じます」

 メアの勘が冴えわたっているから困る。以心伝心が極まり過ぎた。僕の心のプライバシーが侵されかねない。メアだったら望むところだったりするけれど。
 そんなことを考えていると、お腹の虫が『アンゴルスター星雲二十五時!』と鳴いた。吐かれたら敵わないと、朝食を食べさせて貰えなかったのだ。空腹でお腹の虫が騒いでも仕方ないよね!

「相も変わらず、狂った腹の音じゃな」
「ねぇ、貴方は本当に人間なの?」

 ジジの呆れを通り越して感心に達した呟きと、僕の種族を疑いにかかるユリアさんの疑惑に満ちた言葉。
 まさか、腹の音だけでこんな反応をされるとは思ってもみなかった。そんなに僕の腹の音は変なのだろうか。

「変じゃ」
「変ね」
「変です」

 三人同時に変だと云われた。可笑しい。元の世界では好評だったのに。何処ぞの前線基地には、この程度の腹の音を持つ男達で溢れているというのに。





 なんというカルチャーショック。





*****





 道中になんやかんやと有りはしたが、無事に王都へと辿り着いた僕達である。空腹加減と気分の悪さが半端無い。
 太陽も頂点に座す時間帯だというのに飯処に向うでもなく、そのままに王城へと直行する。
 確かに王城で食事を頂けることは想像がつく。仮にもVIP待遇のジジとメアがいるのだ。豪勢な食事程度は用意してくれるだろう。
 故に食事を取らないで王城へと直行するのは良い。ああ、いいとも。

「しかし、何故に僕は縛られたままなのか」
「お主は平然とマリエルの前で無礼を働くからな。それくらいの扱いは当然じゃ」
「そうですね。むしろ、今こうして五体満足で居られることが不思議なくらいですし」

 ああ、それは僕も思う。王族とか偉い人相手に無礼をしている意識はきちんとあるし、その上でそういう行動をとっている訳だけど、よくもまぁ、今現在こうして命を繋ぎとめているものだ。
 普通なら、その場で処刑されてもおかしくないことをしているのにね。それでも僕が無事なのは、ひとえに応対した相手がことごとく奇特な人物であったことが幸いした。幸運万歳、超万歳。
 流石はファンタジー。現代社会では考えられない人物が跋扈ばっこしている。これだからファンタジーって大好き。ご都合主義大万歳。

「それに加え、僕の主人公補正も加算されている! ふははっ! やはり僕は選ばれた人間なのだよ!」
「多感な時期の子供が口にするようなことを云うのね、貴方。その年で」
「心はいつでも少年なのさ。性癖はアダルティーだけど」

 身体は大人、頭脳は子供、趣味嗜好はプライスレス。それが僕であるからして。

「ようこそ、おいで下さいました。ご足労をお掛け致しまして申し訳ございません」

 グダグダと心温まる会話を三人と続けていると、不意に、こう、あからさまな程に好青年でイケメンだぜ! というような声が耳に滑り込んできた。
 視線を前に向ければ、既に王城へと着いていた模様。その城門の前に、イケメンスマイルを浮かべて立つ美青年。
 憎いアンチクショウこと、スティーノである。

「出迎え役が貴様だなんて、がっかりだ!」
「私も貴方が同伴しているのに落胆の念を禁じ得ませんよ」

 僕とスティーノの間で火花が弾ける。この野郎、しばらく会わない間に、というかたったの三日間で成長してやがる。まさか僕に皮肉を返すとは。
 くそぅ、スティーノのどや顔が非常に腹立たしい。

「やるようになったじゃないかっ」
「ええ、御蔭さまで」

 ふふふと互いに笑い合う。この野郎、絶対にまた極悪な悪戯をしてやる。貴様は弄られキャラがお似合いなのだ!

「え、なに? 仲が悪いの?」
「いえ、仲良しです」
「あやつに友人と呼べる輩が居るとすれば、スティーノ位じゃしな」

 なにやら三人がひそひそ話をしている。残念ながら内容を聞き取ることは出来なかったが。一体なにを話していたのだろうか。
 そんな三人に、正確にはユリアさんに気付いたスティーノが口を開く。

「おや、そちらの方は?」
「僕の愛人です」
「ははっ、冗談が過ぎますよ」

 こいつとは一度決着をつけねばなるまい。

「それで、実の所はどのような?」
「うむ、マリエルの近衛にどうかと思ってな」
「は、初めまして! ユリア・イルゲードと申します!」
「ユリアさんは剣の腕が立ちまして、そこで陛下の近衛が足りないと嘆いておられたようですので、ならば如何かといった次第です」

 スティーノの言葉に、ジジ、ユリアさん、メアの順で答える。

「そうでしたか。それならば、イルゲード殿も謁見の場に?」
「うむ。出来ればワシら直々に紹介したいと思っているのじゃが、都合してくれぬか?」
「委細承知致しました、聖魔殿」
「すまぬな」
「労いをかける程のことじゃないよ」
「ええ、確かに労いの言葉をかけて頂く程のことではありませんが、貴方が云わないで下さい」

 それは断る。

「まぁ、こやつの事は放っておけ。その方が楽じゃろう」
「……そうですね。改めまして、ようこそおいで下さいました」
「ふははっ! よきにはからえ!」
「静かにしましょうね?」

 最近メアの辛辣度が増している気がする。ツンデレ状態のツン期が、かくも辛辣な物であろうとは。予想GUYです。

「それでは、どうぞお入り下さい。陛下も御待ちでございます」

 そう云って王城へと歩を進めるスティーノ。そんなスティーノについて行く三人。うん、ちょっと待とうか?
 王城内部へと歩く三人の後ろ姿に声をかける。

「ちょっ、僕の縄をほどいてぇ!? 放置!? ここでも放置なの!? やだ、悔しい! なのに、感じちゃうっ!!」





 簀巻き状態で何をどうすればいいのか分からないが、取り敢えず、ビクンビクンしておこう。





*****





「悪いわね。こんな下らない諍いに巻き込んで」

 謁見の場。
 玉座に座り、僕達へと言葉を発する女性が一人。
 その相貌は見目麗しく、同性でさえ羨むほどの体躯を誇り、知に明るく武に精通する才覚を持ち、人々の上に立つ資格を生まれた際より手にした御仁。
 それが、眼前の玉座に悠然と座す女性――マリエル陛下、その人である。

「しかし、本当に東も煩わしいことをしてくれたわ」
「確かにな。こうも公然と条約を破棄するなど、何を企てておるのやら」
「ええ。妾としても、その辺りが実に気にかかるわ」

 ジジと言葉を交わすマリエル陛下。
 先代たる父から実権を奪い、名実ともに歴代最高峰の賢君と謳われる女傑であるが、流石に此度の事態は頭を悩ます物らしい。
 歴代の王族の中でも抜きんでた傑物であり、一人称が「妾」であるにも関わらず年寄り口調でない独特の個性持ち。そんなマリエル陛下でさえ、今回ばかりは、何かと後手後手に喫するという。

「東の動きが迅速過ぎるのよねぇ。妾の打つ手打つ手を即座に潰しにかかるなんて。それも戦争回避の物だけを」
「東方世界は戦争を望んでおると云うのか?」
「そう考えることしか出来ない動きだもの。不気味でならないわ」
「なるほど、ならば確かにワシ等が王都に居た方が、なにかと利があるのう」
「ええ。それに、本格的な戦争に突入するかもしれないのだから、貴女達を近場に置いていた方が牽制も出来るしね」
「身の守りに適すとは云えんがな」
「いいのよ。数多の伝説を残す聖魔が居ると分かれば、それだけで効果は絶大なんだから」
「じゃから、間者をあえてそのままにしておったのか」
「虚実混ざった情報ほど怖い物はないからね」
「なんじゃ、別にそのままにしとる訳でもないのか」
「後手に回っていると思わせるのも駆け引きというものでしょう?」

 なんだか会話が早いなぁ。ちっとも理解出来ない。所々の要所を抜いて話しているから尚更に。
 盛り上がりを見せるジジとマリエル陛下から視線を外し、横目でユリアさんとメアを見る。
 メアは話しの内容を理解しているのかいないのか茫洋としており、ユリアさんは緊張に身を強張らせている。

 視線を周囲に走らせれば、城の兵士達が――十数名だが――泰然と壁を背に並んでいる姿。その中の何名かは僕を睨んでいる。無理もないけどね、初っ端と先日と続けて陛下の前で無礼な振る舞いをしたのだから。内心はらわたが煮えくりかえっていることだろう。
 しかし、僕は主人公であるからして、そんな彼等を華麗に無視する。世の中の主人公補正万歳。マジ万歳。……誰だ、僕を主人公じゃないなんて思ったやつは。
 そんな思いを振り払うように、視線を玉座に向ける。マリエル陛下の傍らに立つのは、スティーノと陛下直属の近衛隊長。
 うむ。スティーノは、僕に向けられる僅かな敵意を感じ取っているようだ。表情は平然としているが、お腹をさするようま感じで手を置いている。気を配る奴ほど、この状況は憂うべきものだからね、当然と云えば当然なのかしら。

 まぁ、近衛隊長も僕に敵意を向けているしね。いや、むしろ殺意なのかな? どちらにしろ、女性から受ける物は快感になるから問題ないけど。
 そんな風にこの空気を楽しんでいたら、いつの間にか話題はユリアさんの事になっていた。
 特筆することもなく、流れる様にユリアさんが近衛隊に入隊する運びになったのは、マリエル陛下の度量の広さ故か、ジジの巧みな会話運び故か。たぶん、どっちもだろうけど。

「さてと、疲れもあるでしょうし、食事まで休んでいてくれて構わないわ」

 そんな陛下の言葉と共に、謁見は解散の運びとなった。
 謁見の間を辞す際に、一言も喋ってないことを思い出す。しまった、今回もスリーサイズを聞こうと思っていたのにぃっ。





 まぁ、知りたい事は知れたから良いか。





~~~~~~~~~~~~~~~
なんてっこたい!

 20話で書いた、主人公的昔話の完全版のデータを消してしまうという悲劇。すべて消去してから気づくなんて……。
 ちくしょう!やる気がなくなってくるぜ!なんてこったい!


▼体調には気をつけましょう。作者は、もう……。

>ベロリンチョで悪寒が襲ってきた。気持ち悪いです。
>急に鳥肌がぞわわわわ。もっと自重してほしい。

本当は「ペロッ……これは涙!」みたいなネタ的な表現にしようとしていたのですが、これに関しては主人公の、人によっては鼻につくとか悲惨な過去(笑)とか、そういったものから築かれた行動理念・思想に関係しているので、あえて入れた表現だったりします。
確かに人によっては好みの別れる表現ですね。まぁ、非難覚悟で投稿している様な物なので、作者的にはそういった評価は当然だと思います。
ですが、少々のやり過ぎた感があるのは事実なので、これからは出来るだけ自重しようとは思いますが、果たして作者の自重と貴方様の自重がどこまでの認識によるのか分かりません。なので、もしもお気に召さずに気分を害するようでしたら、「この作品は最悪だ」と喧伝しても構わないと思っています。
作者としても表現などには気をつけるつもりですが、もしも、その限りでは無い場合は、この作品を読まないことをお勧めします。所詮は素人作品なので内容も文章も拙いと思いますし。
取り敢えず、作者の狙い通りの反応を頂いたので、内心でほくそ笑んでおこうと思います。うへへ。
なんにせよ、指摘に感謝致します。ありがとうございます。


>一言だけ…「リア充」というか「メア充」むしろ「ハレ充」?
>あたまわるくてすいませぬ。

御安心を。作者はもっとあたまわるいのですよ!
このような作品を書いている時点で明らかですね!


>ダイナブレイドの出番にMOTTOMOTTO~とか歌って叫ぶ。何時の間に手懐けたのでしょう。
>涙をキスで啄ばむ描写は見たことあるけど、ベロリンチョは珍しい。主人公の紳士道は一線を区してますなぁ。

この表現は何気に主人公のこれまでの背景を想起させる一言ととして入れたのですけれど、ぶっちゃけそうは思えませんね。
ううむ、作者の腕もまだまだですなぁ……。


>シリアス? 尻assの間違いですね。意味が重複しております。

ち、ちくしょう!もう…もう後戻り出来ないってのか……っ!?


>この涙は…尻assしている味だぜ!
>綺麗な顔しているとはいえ初対面の同性の顔を躊躇いなく舐めまわすことのできるブチャさんは紳士の鏡だと思うのです。
>そう、われらが主人公のように!

JOJOでしたっけ、ブチャさんって?
作者はJOJOは一部と三部しか読んだこと無いので、あまり詳しくないのですよ。……ブチャさんって、一部と三部に登場…してませんよ、ね?ね?




[9582] 28話・女王と癒しの魔女-b
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 01:02


 みんな死ねばいいいのに……死ねば……死ねば、いいのにっ!!





『28話・女王と癒しの魔女-b』





「みんな死ねばいいのに! なにがクリスマスだ、ちくしょう!!」
「いきなりどうした」
「急にテンションが上がりましたね」

 謁見の場を辞してからの僕の第一声である。リア充爆ぜろ。滅却してしまえ。ついでにもげろ。これ以上ないってくらいにもげろ。

「爆ぜてもげて振られてしまえ! リア充なんか砕けてしまえ!」
「また、意味の分からぬことを……」
「くりすますってなんでしょう?」

 こちらの世界ではクリスマスという物が存在しないから素敵。これだからファンタジーって大好き。
 元の世界では、組織の同志諸君と街に繰り出してカップル共をブッコロヌしている時期だ。しかし、こっちの世界ではそういう物がないので実に素晴らしい。

「しかし、それでも僕の嫉妬心が滾るのである。パルいぜ!」

 僕が元の世界で設立した嫉妬団は今頃活動をしている頃だろうか。ここの「嫉妬」が「しっと」でない所が重要なのだ。

「……ふぅ、落ち着いた。大丈夫、今は賢者タイムだ」
「何が大丈夫なのか具体的に云ってみろ」
「先程までの真面目な空気が霧散しましたね」

 真面目な空気なんて有ったかしら?
 そんな疑問を口に出す事はなく、ジジとメアを連れ立って城内を適当に散策する。
 何故に僕達が城内を散策しているかと云うと、謁見の場を辞して各自の部屋で休息をとっていても、つまらないからである。城内をうろついていれば何某かのフラグを立てれるかも知れないしね!

 そんな訳で一人うろちょろしようと思っていたのだが、どうにも僕を一人で行動させるのが不安らしかったジジとメア。一緒に行動すると申し出てきた。
 そんなに僕は信用がないのだろうか。確かに、前回王城に来た際には高価な壺を並べてボーリングしたけれど。そんなの可愛らしい悪戯じゃないか。

「僕に信用がないことも不満である。先程、絵画でフリスビーしようとしたのを止められたのも不満である」
「止めるのが当然です」
「ユリアが近衛騎士になろうかという時じゃ。アホな行動は控えろ。というかするな」

 因みにユリアさんは、謁見の終わった後に近衛騎士のお姉さんに連れて行かれたので、ここには居ない。寂しいね!

「そうこうして彷徨っている間に、そろそろ昼食の時間が近付いてきた。くそぅ、何もフラグ立てれなかった。カミジョーさんに顔向けできないっ!」
「カミジョーって誰じゃ」
「カミジョーさんは知りませんけど、フラグが何なのか分かる様になった自分が情けないです」
「情けなくないよ! 素晴らしい事だよ!」
「どこがじゃ」

 喧々諤々としながらも食堂に向かって歩みを進める僕達。流石にそろそろお腹が空いて来たので、王宮料理が楽しみでならない。
 舌舐めずりをしながら角を曲がる。その少し先が食堂だ。

「む?」

 ワクワクしながら角を曲がると、そこに人影。
 白翼青年スティーノと、仮面を付けて黒の衣装に身を包む誰か。その二人がなにやら会話をしながらこちらに向かってくる。
 仮面を付けた人物は、体格的にどうやら女性の様だ。服の上からでも分かる程の抜群なプロポーション。
 この世界にはスタイル抜群な人しかいないのかしら。……ああ、サイネが居たか。貧相なスタイル。御労しや。

「あれは……」
「ふむ。スティーノと、もう一人は……」

 こちらに会話しながら向かってくる二人に気付いたジジとメア。
 メアの顔が若干の警戒に満ち、ジジが言葉を続けようとして、件の二人が僕達に気付く。

「ああ、これはこれは……」

 スティーノが僕達に声をかけようとした瞬間、隣の黒衣仮面の女性が弾丸のように飛び出した。
 その軌道上には、僕!

「アンドロメダカっ!?」

 腹部に物凄い衝撃を受けて通路に倒れる。倒れた際に後頭部を思いっきり打った。超痛い。
 痛みに悶絶する僕に対して、抱きついたままの黒衣仮面の女性が声を発する。

「嗚呼! 貴方様と再び出会える事を、一日千秋の想いで焦がれておりました!」

 熱に浮かされたような声色。凄く嬉しそうです。
 取り敢えず、僕はどうすればいいのか。今の声でこの黒衣仮面が誰であるかは分かったのだけれど、はて、ここからどうしたものか。

 先ずは、挨拶代わりに抱きしめておくとしよう。
 そう思い立ち、僕が抱きしめようとした瞬間、黒衣仮面の女性が僕から飛び退いた。そして僕を襲う衝撃。

「グレイトォオオオ!!!」

 予想外の攻撃に奇声を上げる僕。一体何があったのか。
 胡乱な眼で周囲を確認。そして右手を構えているメアが視界に映る。
 もしや先程のはメアか?

「危ないじゃないの、腐滅のお嬢ちゃん」
「先ずは挨拶から始めるのが、大人の礼儀と云う物ではないでしょうか? 治癒のお姉さん」
「突然攻撃する様な子に、礼儀を説かれるとは思ってもみなかったわ」
「私も、まさか大人の方に礼儀を説くとは思っていませんでした」
「あらあら、年端もいかない子供が大人じみた事を云うモノじゃないわよ?」
「背伸びしなければ大人は意見を聞き入れてくれないモノですから」

 バチバチと火花が散りそうな空気が充満する。お互いに視線をぶつけ合う二人。黒衣仮面の女性の表情は見えないが、メアは穏やかに微笑んでいる。目が笑ってはいないけど。

 怖っ! メア怖っ! その笑顔が怖い!

 倒れ伏しながらも、ガクガクブルブルと震える僕。なんだか嫌な汗が出てきた。
 黒衣仮面の女性も、仮面で顔が隠れてはいるが、きっと笑っているだろう。そんな予感がする。
 なんだろう。凄くお腹が痛い。胃の辺りがキリキリする。ぬおおお。

「二人とも険呑な雰囲気を出しとらんで、魔力を治めい。空気が悪くなる」
「腐滅の魔女殿、治癒の魔女殿、どうぞ気を御鎮め下さい!?」

 え、なに。もしや僕の直上で、またもや魔法大戦を繰り広げる気だったの? なにそれ怖い。というか流石に酷い。

「……それも、そうですね。失礼致しました」
「……ごめんなさい」

 二人がそう云った後、空気が若干軽くなる。

「申し訳ありません。大丈夫でしたか?」

 黒衣仮面の女性が僕を起こす。ううむ、なんだかしっくりこない。普段からこんな扱い受けないしなぁ。背中が痒い。
 そんな事を思いながらも、手を借りて起き上がる。

「……デレデレしないで下さい」

 メアに笑顔で云われた。超怖い。僕が何をした。

「あらあら、可愛い嫉妬心ね。その辺りは子供よねぇ」

 そんなメアにクスクスと笑いながら声をかける黒衣仮面の女性。うん、またギスギスした空気になるので止めてくれ。
 そう云いたいけど、云えない僕。チキンなり。七面鳥にして食べられるかも知れない。お姉さまなら大歓迎だけど。
 お姉さまに食べられる所まで妄想が進み、「うへへ」と涎を垂らしている僕を置いてけぼりに、黒衣仮面の女性が仮面を取る。

「お久しぶりです、聖魔様、幼い魔女ちゃん」

 綺麗な顔を晒す女性。その顔に微笑みを浮かべて挨拶。

「そして、貴方様も、お久しぶりで御座います」

 ひと際、綺麗な笑顔を浮かべ僕に言葉をかける。その女性こそ、王城に仕える王宮魔導師の最高峰の一人。





 治癒の魔女エリン=アーヤ、その人である。





*****





 その後も、なんやかんやと修羅場ったが、割愛。

 割愛しなきゃ僕の胃が持たない。マトモに話せる物か。怖かった。
 しかし、エリンは、てっきりツンデレかと思っていたのに、まさかのツンヤンデレだったとはね。びっくりだ。

「いや、本気で胃が痛くなった。こんなに痛くなったのは、女子更衣室のロッカーに一人取り残された時以来だ……」
「なにやってるんですか」

 スティーノの言葉を無視。
 因みに女性陣はみんな食堂に向かった。ここに留まっているのは、僕とスティーノだけである。
 何故に、こいつと残ったのか。それはね、女性陣の、主にメアとエリンの出す空気が怖かったからさ。

「……なんだろうね、この遣る瀬無さ」
「……なんでしょうね」

 なんだか僕らしくなかったなぁ。
 げに怖ろしきは女の確執なりや。いや、本気で怖かった。怖かったよぅ。

「取り敢えず、食堂に行きましょう」
「うむ、だがその前にすることがある」
「は? 一体何があぐほぉっ!?」
「スッキリ!」

 胸のもやもや感を解消するために、スティーノを取り敢えず殴った。
 うむ、すっきりだ。イケメンは苦しめばいい。

「さて、行くか」
「……待ったれや。貴様は毎度毎度と……くっくっくっ、貴様とは一度話し合う必要があると思っていたんだですよぉおおおおお!!!」
「逆ギレか。これだからドキュンは嫌いなのよ」
「正ギレだろうがぁぁぁあああああああああ!!!」

 スティーノと本気の殺し合いを演じることになった。これだからイケメンは嫌いなんだ。これくらい笑って流せ。
 壮絶を極めた僕とスティーノの殴り合いは、遅いと様子を見にきたジジに強制的に止められた。まさかのユキダルマン二体である。
 僕とスティーノが霜焼けと闘う最中、ジジに1時間説教をされた。





 僕が何をしたというのか。全部クリスマスのせいだ。ちくしょう!





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 語ることなど微塵もない。ちくしょう。


▼ぱるぱるぱるぱるぱる……。

>ベロリンチョから連想される主人公のこれまでの背景……
>あれ?今までと同じ変態の一言で済むというか、それ以外ありえないような。
>つまり主人公は今までもこれからも変態(紳士)だということですね、わかります。

うん、先ずは落ち着いてほしい。単純に作者の力量不足だったということは分かっている。
ぶっちゃけ、背景が全く感じられなかったね。でも、それでも良いと思う。


>なんて尻ass……!!
>ところでassの意味がわからないのでgoogle先生に訊いてくるぜ!
>追記
>調べてみたらロバだった。

信じられるか、それ以外にも意味があるんだぜ?
詳しくは辞書で。


>相変わらず周りはシリアスなのに、紳士のせいでシリアスになれない尻明日なssですね。
>そしてメア達を筆頭に扱い慣れられてきた紳士! このまま倦怠期に突入でしょうか?

バカッパルの倦怠期は好きです。


>自重してほしいって言ったけど自重したら彼は彼じゃなくなる。
>それはイヤだから自重しなくていいですよ。変態は紳士ですから。

なんて根本的な解決法を……っ!!


>面白かったです。
>やはり魔王の娘との紳士的協議が秀逸。
>ノンビリと更新してください。

ありがとうございます。
いっそのこと、2年で1話のペースで更新しようかと思います。




[9582] 29話・学園編でもしようかしら?
Name: 炉真◆769adf85 ID:e8f6ec84
Date: 2010/05/07 01:33


 それでも僕に出来る事は笑う事だったりなんだったり。





『29話・学園編でもしようかしら?』





「貴様には、この城から出て行ってもらうわ」

 朝食の時間。ルンルン気分で食堂に赴いた僕に、女王陛下が開口一番に云い放ってくださった言葉である。

「……えぶりでー?」
「え、えぶり……?」
「……間違えた。改めて、WHY? どうして? 何故?」
「……器用に間違えたのぅ」

 メアが僕の言葉に戸惑い、ジジは言葉を訂正した僕に突っ込みを入れてきた。

「どうしてもなにも、正直、貴様が居ると邪魔なの」
「そんな! 酷い! 一体僕が何をしたというの!?」
「貴様のここ一週間の生活態度を振り返ってみなさい」

 生活態度? 特に何か問題になる様な事をした覚えはないのだけれども。取り敢えず、云われた通りに振り返ってみる。


 初日、敵意満々な宮仕えの視線を華麗に無視したあと、エリンちゃんと出会って修羅場った。その後、スティーノと死闘を演じた。

 2日目、城内を探索しながら男の騎士共が敵意の視線を向けて来たので鼻で笑った。その後、乱闘してスティーノが仲介。

 3日目、再び城内を散策していたら、今度は女性の騎士の方々に敵意の視線を向けられたので興奮した。スティーノが女性騎士の方々を宥めていた。

 4日目、更に城内探検する。中庭に出たら、庭師のおじさんがお仕事していたので手伝った。無断で。植木をGOZIRA型にしたら泣かれた。喜んで貰えたようでなにより。スティーノが謝っていた。何故だろう。

 5日目、流石に城内構造は覚えた。なので暇潰しに城内の図書房に行って、一人蔵書ジェンガ大会を開催した。図書管理の人が泣いていた。僕の素晴らしい腕前に感動したのだろう。スティーノが慰めていたが、どうしたのだろうか。

 6日目、エリンちゃんの所に行ったらエロエロな空気になって「キタコレ!」と思っていたら、メアがやって来て修羅場再び。ちょっとした魔法大戦が勃発。城の壁が崩壊しまくった。スティーノが手で腹を押さえていた。

 7日目、給仕の女の子を手伝おうと思い立ち、給仕服を着込んだ。しかしながら、少しデザインに不満があったので改造。フリフリ度とヒラヒラ度が上がったついでに露出度が増えた。その姿で城内を闊歩していたら、道行く人々が全員目を押さえて呻いていた。なにかの流行病だろうか。スティーノが口から血を吐いた。


「特に何も問題はありませんが?」

 一週間を振り返ってみたが、やはりと云うべきか、特に問題はないように思う。
 そんな僕の態度に、口を引き攣らせているマリエル女王陛下様。そんな表情も美しい。……ところで、『陛下』の後に『様』って付けていいんだっけ? よく分かんない。日本語って難しい。

「……スティーノが衰弱してきているのよ。労働過多で」
「……あー」
「そういえば、そうでしたね」

 気の毒そうな顔をするジジとメア。
 この場に居ないスティーノに憐憫の情を向ける。別にそんなこと思わなくてもいいのに。

「身の丈に合わぬ仕事量をするからそうなる」
「その原因の8割が貴様だと知りなさい」
「そんな馬鹿な!?」
「安心せい。お主は真性の馬鹿じゃ」
「ジジにさり気なく罵倒された! 会話の繋がりを無視してまで云う事なのかな!? ちょっと興奮したけれども!」

 そんな会話が喧々囂々《<rp>けんけんごうごうと続いたが、結論としてはあれである。





 僕は無力だったということだ。





*****





 自室へと戻るなう。
 いやまぁ、用意して貰った来客部屋なので、厳密に云えば僕の部屋では無いのだけれどね。
 取り敢えず、今は僕の部屋だ。否、部屋だった。まさか追い出されるとは想像していなかったもん。
 そんなことを考えながらも廊下を歩いていたら、いつの間にか部屋まで辿り着いていた。ドアノブを回して扉を開ける。
 そして広がる眼前には――何もなかった。

「ええ!?」

 僕が持ち込んだり拾ってきたりした小物を始め、各所から拝借してきた下着類、最初から備え付けられていた寝台や机さえもなくなっている。どういうことなの……。
 文字通りの意味で空室となった部屋を前に呆然とする僕。なにこれどういうことなの。……思わず2回も云ってしまった。

「ああ、戻って来ましたか」

 背後から聴こえてくるイケメンボイス。この声はっ!?
 バッと勢いよく振り返る。グキリと首が鳴った。

「ぬぉおおおっ!!」
「なにをしているんですか、なにを」

 首の痛みに悶える僕へと、呆れた様な声が掛かる。

「おのれスティーノ、よくもやってくれたな!」
「理不尽過ぎますよ!?」
「利府人って何処の人だ!!」
「なにを云っているんだ貴方は!?」
「なにかだ!」
「そりゃそうでしょうけど!」
「誰が僧だと云った! 僕は坊主じゃないぞ! ふっさふさやぞ!」
「貴様は諸僧の方々に謝ってこい!!」
「車窓がどうした! 世界を旅するのか!?」
「聴き間違えてるんじゃねぇえええええええ!?」

 段々と意味の繋がらない会話になって来たので中断する。
 まったく、コミュニ……コミニュ……コミ? ……コミなんとか力の低い奴め。

「それはそうと、この部屋は一体どういう訳だ」
「そういう訳です」
「いや、ちょっとなにを云っているのか分かんない」
「つまり、貴様の部屋ねーから、と」
「イヤ、チョットナニヲ云ッテイルノカ分カラナイデス」
「現実を受け入れなさい」
「現実は目を背けるものだ」
「背けた先には何も在りませんよ?」
「否、僕の嫁が173人在る」
「何の話だ」
「オタい話さ」

 頭が痛い、と嘆息するスティーノ。所詮は鳥頭か。3歩歩くと忘れてしまう低脳な奴故に、僕の高尚な会話にはついて来れないのも仕方ない。

「それはそれとして、これを」
「なんぞ?」

 スティーノが一枚の用紙を渡してきた。なにやらグニャグニャした文字が書かれている。こちらの世界の文字である。
 しかし、僕は召喚されてからの一年で既に文字知識を取得しているのだ。なので普通に読む。

「なになに、『うっふん♪弩エロパークシティ☆』とな」
「何処にそんな物が書いてある」
「ああ、間違えた。えっと、『デルエント魔術学院入学許可証』か」
「有り得ない読み間違いをするな」

 スティーノを無視。
 それはそれとして。

「むぅ? 入学許可証?」

 手渡された用紙を見て首を傾げる。こんな物をどうしろというのか。

「貴方には此処へ移って頂きます」
「入学しろと、この僕に」
「そうなりますね」
「受験勉強とかしていないのに?」
「試験はありません。貴方は行くだけで大丈夫です。入学手続きもとってあります」
「本人の与り知らぬ所でやっていいことなのか、それ?」
「一般市民と女王陛下、どちらに重きを置くかなど、云わなくとも明白でしょう?」
「汚いさすが政府汚い」

 世の中の闇を目の当たりにする僕。一個人の意思が国に潰されている。由々しき事態だ。純真無垢な僕ちゃんには目の毒過ぎる。

「誰が純真無垢だ」
「違うとでも云う気か?」
「違うでしょう。どう見ても」
「失礼な鳥だな!」
「それはそれとして」
「あ、この野郎無視かこの野郎」
「取り敢えず、先方には既に伝えてありますので、とっとと出て行け」

 酷い物云いだ。

「というか、僕の私物とかは?」
「向こうに送ってあります。向こうの方に聴いて下さい」
「僕が向こうに行っちゃうとジジとメアとこの城の女の子たちが悲しんじゃうよ?」
「聖魔様に魔女様は、良い経験になると仰っていました。この城の女性陣は諸手を挙げて喜んでいました。大丈夫です」
「……ムードメーカーの僕が居なくなると城の空気が悪くなるよ?」
「貴様が居るよりは大分マシだ。いやマジで」
「…………エリンが泣くよ?」
「……なんとかします。大丈夫です」
「………………僕が泣くよ?」
「泣け」





 なにこいつ非道い。





*****





 なんやかんやとあって、正門前。
 盛大な見送りがあるかなと思ったけどそんなことはなかったZE!
 というか、ジジもメアも見送りに来てくれないってどういうこと。泣いちゃうよ、僕ってばわんわん泣いちゃうよ?

「泣け。わんわん泣け」

 唯一の見送りがスティーノである。ムカツク顔をしやがって。いや本当にどういうことなの。何故にこいつなんだ。詳細仔細委細を求む。
 因みに門兵は見送りに含まれない。ここはテストに出るような気がするよ!

「くっそぅ!」

 腕を目に当てて、ダッと走り出す。
 泣いてないもんね! 目から溢れてるこの水は幼女の涎だもんね!
 走り去る僕の背に、スティーノが元気溌溂といった感じで言葉を投げかける。

「貴様の居場所ねーから!」
「ごぶふぅ!?」

 なんという必殺の言葉ザラキ
 心が痛い。僕じゃなければ耐えられなかっただろう。


 僕は走る。ひたすら走る。悲しみを背負って。
 視界が歪むこの世界を風のように駆ける。全力で駆け抜ける。悲しみを振り切るように。


 駆け抜けた先に、きっと輝かしい未来あしたがあると信じて!





 こけた。痛い。





~~~~~~~~~~~~~~~
新年明けまして

 おめでとうございます!

 と思ったら既に5月。どういうことだ。4月馬鹿に乗り遅れてしまった。なんということでしょう。世の中には不思議なことがたくさんありますね。
 とりあえず、私は頑張りますよ、ええ。2年に一回の頻度で更新しますとも。私にあるまじき勤労宣言。普段見られないやる気が垣間見えますっ。

 しかし、正直誰得更新なのだろうと思うけど、一番得するのは作者っていうね。

▼お久しぶりね~!覚えてる~?

>はじめまして。
>今回の話を読んである極地にたどり着けたので御礼を言います。ありがとうございます。
>たどり着いた極地ですが・・・
>紳士は変態には成れず、変態は紳士に成れる、ゆえに変態の方が優れている。・・・ですね。
>おかげ他の変態紳士系ssをより楽しめそうです。
>これからの更新楽しみにしてますよ。

今ならまだ大丈夫だから帰っておいで!


>主人公に好意的な女性だと・・・ 洗脳良くない

経緯から考えると確かに洗脳染みた展開だったり。良くない!


>尻assな作者に報告
>削除したdataを復活させるソフトがあった希ガス
>たしか名前はdata recovery

そんなことより痔に効くソフトがあれば…いや、作者は痔じゃないよ?ホントだよ?


>途中までは主人公を好意的に見れましたが
>コルディーナちゃんをご褒美と受け取れない彼には失望しました
>非常に残念です、ですが、彼には高い素質を感じました
>男の娘がヒロインになるときを信じて……

ちょっと何云ってるか分かんないです。


>主人公に好意的?これはエリンさん「ついてる」フラグ来たな。二人目の男の娘か。
>主人公は男の娘がだめって時点で変態としては今ひとつ物足りないよね。
>尻assなんだからそっちもおいしくいただけばいいのに。

残念、それは主人公のお稲荷さん的なノリにはならないんだ。
あと、エリンは完全な女性ですたい。

>ところでエリンさん初登場ですよね?チョイ役がいっぱいなせいで思いだせん人がちょくちょくいるんだよね。

大丈夫!作者もだよ!


>ところどころ(15話とか)微妙かなあと思いながらも概ね楽しく読ませてもらいました。
>続き楽しみにしています。

基本的に脱力系深夜推奨作品なので、微妙な話ばかりな気がしなくもないです。15話とか特に。


>最近更新ないですね~。
>楽しみにしてますので頑張って下さい^^

頑張ったよ!作者頑張った!

>ぬう、続きが読みたい・・・・・
>まだなのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!

まーだだよ!





[9582] 30話・全3話で終わればいいなぁ学園編
Name: 炉真◆769adf85 ID:a33b35c4
Date: 2011/01/21 19:26


 十話以内だ! あと、十話以内で……っ!





『30話・全3話で終わればいいなぁ学園編』





 僕の眼前に存在するモノ、それは、お尻。
 それも、見るからに柔らかいと予想されるムッチリとした肉付き。しかもムッチリという感想を抱かせるにも関わらず、決して太っているとは感じさせない。そうむしろ、妖しくも艶やかといった言葉が脳裏に浮かぶ。妖艶、まさに妖艶。そう評するに相応しい、素晴らしき臀部。
 その美しき桃に、今すぐにでもかぶりつきたくなる。目に眩しい白桃を前に、恥も外聞もかなぐり捨てて舐め回したくなる。まるでカンバスのような白磁を、叩いて赤い紅葉を、蚯蚓を這わせたくなる。溢れる魅力が情欲を、獣欲を、穢れ無きモノを汚したくなるような卑しさを、雄として持ち得る、屈服させたいという本能を、これでもかと刺激する。
 いつまでも見つめていたい。この身が朽ちて腐り滅ぶまで視界に収めておきたい。それほどのモノ。それほどの一品。まさに奇跡と誇称するに相応しい代物。
 それは芸術だ。それは美術品だ。それは奇跡の代替物だ。それは素晴らしき物だ。それは賞讃されるべき物だ。それは崇高なる物だ。それは高尚なる物だ。それは奉ずるべき物だ。それは讃嘆して当然の物だ。それは希望だ。それは一つの到達点だ。それは神々しき物だ。
 ムチムチとした触感を容易に想起させる肉付きがたまらない。今にもたぽたぽとした音が聞こえそうな脂肪の付き方。それでいて、キュッと引き締まり、見苦しい垂れを感じさせない張り。あたかも発光しているのかと見紛うばかりの白磁の肌。生まれたばかりの赤子のような瑞々しさを感じさせる艶。それでいて程良く熟れている印象を与える形。小さく無く、かといって不快な程に大きくもない。
 全く異なる情動を綯い交ぜにしてしまうほどの破壊力。矛盾した感情が、しかし矛盾なく適応される既成力。

 嗚呼……(居るのか知らないけど)神よ、(基本的によく知らないけど)仏よ、(特に意味はないけど)世界よ! 僕を今この瞬間に存在させてくれたことに、莫大な感謝を! 膨大な謝意を!
 僕は、いま猛烈に感動している。溢れ出るパトスが体内を駆け巡る。生み出される活力が生命を燃え上がらせる。そう、僕は今、心から感動しているのだ。興奮していると置き換えてもいい。それほどまでに、荘厳なる代物だったのだ。

 しかし、元来それほど尻にフェティシズムを抱いていない僕には、たったの707文字しか語れない。語れないのだ。語れなかったのだ!
 この恐るべき至高の尻を前に、なんたる屈辱。原稿用紙2枚分にも及ばない感想など、読書感想文としても落第であろう。……いや、まあ、落第は言い過ぎかも知れない。ごめんなさい。ついでに云えば、お尻の感想も、もう少し語れるかも知れない。……うん、果てしなくどうでもいいね。
 兎にも角にも、今僕が抱いている感情は、嫉妬と憧憬である。そう、僕はたったの707文字しか述べられなかった感想を、きっと尻フェチという人種は、遥かに多くの言葉と語彙を駆使して雄弁に語るのであろう。一時間と云わず二時間と云わず、語ってくれるのであろう。きっと原稿用紙2枚未満など鼻で笑って、その魅力を原稿用紙千枚、否、二千枚。ともすれば、二千枚を超えるかも知れぬ。

 そのことを想像するだけで、どうしようもない妬み嫉みを駆り立てられる。そのことを想像するだけで、心胆からの羨みが憧れが胸に去来する。
 くそぅ。僕も、もう少し早く手広く、臀部にフェティシズムを抱いていれば、もっと語れたのにっ、この素晴らしさを伝えられたのにっ。悔しい! しかも感じない!

 自分自身でも、どんな心の動きが働いたのか。なんとなく悔しいので、身体をくねりくねりとくねらせてみた。まるで軟体生物の如き柔軟さを醸し出す動きに、きっと世界が嫉妬することだろう。
 そんなことを考え始めたら、なんだか楽しくなってきた。うねうねうねうねと、驚きの柔らかさを極めに掛かる。そう、今の僕は柔軟の権化と化しているのだ!

「なにをやっている莫迦者め」

 脅威のうにゃり具合を体現している僕へと、ふいに声が掛かる。
 耳に優しく心地よいアルトを聴覚にて認識すると同時に、頭へと軽い衝撃。ジジとメアとその他から受けるハードな衝撃とは違う、人を思い遣っていることが分かる衝撃だ。

「あふんっ」
「変な声を出すな、莫迦者」

 もはや優しさしか感じない衝撃に、思わず快楽の声が漏れた。そんな僕に再度、声を投げ掛ける女性。
 そちらに目を向ける。そこには細い首。
 おおっ、素晴らしく綺麗な首だ。その綺麗な肌に、瑞々しい艶と張り。首の魅力は、それこそうなじに多分を占めると思っていた。しかし、どうやらその考えは改めねばなるまい。よもや正面から見た首にさえ、ここまでの色気があろうとはっ!
 その首筋の綺麗な線に……と、これからと云う時に目の前を何かが遮った。そして、三度の美声。

「卑しい目で人の首を見るな。趣向が特殊すぎるぞ」
「ち、違うんです! 卑しい目じゃなくて厭らしい目で見ていたんです!」
「意味的には一緒だが、云い方はそっちの方が悪印象だと分かっているのか?」

 思わず正直に自分の有り様を云ってしまった。なんてこったい。
 されども僕より少し背の高い女性は、相も変わらぬ淡白な様相を崩さずに、無表情である。
 出席簿で肩をトントンと叩きながら、口を開く。

「そろそろ授業が始まる。早く教室に行きなさい」
「いえっさー」

 僕の返事を聴いたかどうか。クールビューティと呼びたくなる(というか普段から個人的に呼んでいたりする)女性は、颯爽と踵を返していた。
 もう少々、会話のキャッチボールをしていたかったのだけれど仕方ない。そろそろ教室へと戻るとしよう。
 最後に、僕へ驚愕と衝撃と感動を与えてくれた尻へと目を向ける。うむ、これは良い物だ。





 壁に掛けられていた、赤と青でグチャグチャに描かれた抽象画に後ろ髪を引かれつつも、僕は教室へと足を向けた。





*****





 戻って来た教室内は、実に騒がしい。ガヤガヤとかザワザワなんてものじゃない。ギョエーギョエー、ドゴンドゴンみたいな感じで、我が親愛なるクラスメイト達が騒いでいる。
 普通に五月蠅いんだぜ。少しは落ち着けと云いたいんだぜ。

 この騒音問題に匹敵しそうな五月蠅さ、実に迷惑極まりない。
 お隣の教室に文句を云われる前に、少々釘を刺すべきか。お隣が500m程離れているのは公然の秘密だ。決してこのクラスが隔離されている訳ではない。ええ、違いますとも。
 兎にも角にも、そうと決まれば即実行である。教壇の前に立ち、黒板を思いっきり叩く。すると黒板が落ちた。びっくり、僕びっくり。
 いそいそと黒板を元の状態に戻そうと試みるも、上手く戻せない。仕方ないので放置しよう、そうしよう。
 気付けば、級友諸兄がこちらに注目していた。まあ、すんげぇ音を立てて黒板が落ちたのだから、当然の反応だ。
 しかし、この状況は願ったり叶ったりである。想像していた過程とは違うが、注目を集めることに成功した。咳払いをひとつ。

「諸君、なんと落ち着きのないことか。僕を見習って、少しは上品にしたまえよ」

 云い終わった直後、大量の文房具及び教科書類が飛んできた。何故だ。
 取り敢えず、飛来するその全てを避ける。そして避けながら想う。どこのどいつだ、コンパスや鋏や机や椅子を投擲した奴は。当たったら怪我をするじゃないか。投げても許されるのは、教科書程度だろう。加減を知れ加減を。
 胸中で文句を垂れながらも、なんなく全ての飛来物を避けきる。教室中から舌打ちが聞こえた。なんて奴等だ。女子は許すが男子はくたばれこの野郎。

 まったくもって酷い目にあった。
 だがしかし、為すべき事を為したので達成感が胸を占める。
 うむ、なんという善人なんだ僕は。クラスの女子が総じて惚れるかも知れない。ふふふ、酒池肉林の宴だぜぇ。
 ニヤニヤと抑えることのできない笑みを浮かべつつ、己の席に座る。
 その際に髪を掻き上げることを忘れてはいけない。イケメンは皆この動作をしているのだから、イケメンな僕は当然しなければならない。
 ふっ、格好良い男も辛いものだ。

「いや、君は特段格好良くはない。男前でもない。即ち、イケメンではありえない」
「誰だ、いきなり僕の心を読んだ挙句に心を抉る言葉を放り投げる輩は!」
「私だよ」
「なんだ、りっちゃんか。りっちゃんなら仕方ない。もっと罵ってくれ」
「死ね」
「くっ、その軽蔑した眼差しにゾクゾクするっ」

 快感に身が震える。ああ、たまらない。
 ドキドキと心臓が高鳴る。そうか、これが、恋なのか。

「結婚して下さい」
「悪いね、私は聖人君子並に心が清らかな人しか恋愛対象にならないんだよ」
「まさに僕の事じゃないか」
「ははは、脳味噌を取り出して地面に叩きつけたまえ」
「ひどい云われ様だ。だが、ツン期だと考えれば興奮する不思議。早くデレ期が来ないものか。わくわく」
「キモい」

 ふふっ、照れ屋さんめ。
 照れ隠しに、まるで僕を汚物みたく見るなんて、可愛いじゃないか。
 嗚呼まったく、男装女子のツンツン具合は癖になる。それも男装しているのが美少女だから最高だ。しかも、その男装が単に男物の衣服を着ているだけというのがそそる。髪も腰辺りまで伸ばしているし、胸もさらしとかで押さえつけていない。なんという混淆の黄金比。たまらんね。
 まだ養成期間だから本格的な格好をしていないだけだろうという事実は秘密である。誰との秘密なのかは知らないが。

「……なんかまた邪なことを考えているでしょ?」

 と、その時。男装美少女ことリーゼリアが腰に提げている鎌から声が上がる。見た目はキーホルダーだが、戦闘時には手鎌から大鎌まで変幻自在に大きさを変える優れもの。
 話せて大きさも変更可能な自在鎌、しかしてその正体は!

 と思ったところで、サクリッと額に突き刺さる刃の切っ先が冷たいとか鋭い痛みが後から脳へ響くようにやってくるとかこれ致命傷なんじゃねという疑問が湧きあがることとか何かそれ以外にも胸中に色々なことがががががが!

「痛い! まるで刃物で刺されたように痛い!」
「刺したからね」
「さらりと酷いことを云う少女めっ! 好き! 抱かせて!」
「108回死んだ後に自分の脳髄をバケツに詰めて下水道に流し込んだ後に煮沸消毒したら隣に居る人に張り手を喰らわせてあげる」
「凄まじく酷いことをワンブレスで!? 笑顔で云っていいことじゃないよ!?」

 思い遣りが皆無な上に、何気に他人を巻き込んでいる所が恐ろしい。
 将来を感じさせる末恐ろしい台詞に慄く僕を尻目に、鎌から人型へと変化を遂げた少女はリーゼリアの傍へと立つ。
 鴉の濡れ羽色のように艶やかな黒髪を腰まで伸ばした少女。その身に纏う衣服は黒色のワンピースとかいうやつ。僕ってば服の名称分からないから確信は持てないけれど。そして整った顔立ちに紺碧色の瞳。唇とか程良い桜色でマジぷりてぃー。

 その容貌は、もうここまできたらお約束通りに整っている。なんなんだろうね。この世界には美女美少女美幼女しかいないのだろうか。僕が逢う人逢う人は皆美しい方々ばかりである。眼福ここに極まれり。野郎の事などは知らぬ。興味皆無なり。
 などと云う事を、この鎌少女ことレリーアの蔑む視線に見つめられながら考える僕ってば、意外と余裕があるのです。興奮しているけどね!
 ハァハァと熱い吐息を漏らす僕を無視して、リーゼリアとレリーアは会話を続行。いつもの光景である。

「そんなことをしちゃ駄目だよ、レリーア」
「あら、どうしてかしらリーゼリア?」
「とどめを刺さない暴力は、禍根の元になるだろう?」
「そうね。じゃあ軽く首を刎ねなきゃ」

 そう云って両腕を刃化したレリーアが僕に迫ってくる。命の危機を感じざるを得ない。レリーアの眼が本気っぽいので全力で逃げる。
 教室を縦横無尽に走る。前に存在する障害と云う名の級友達を薙ぎ倒しながら走る。すると、どうしたことか追ってくる人数が一気に増えた。何故だ。理不尽過ぎる。僕が一体なにをしたというのか。

「貴様の行動を顧みれば分かるだろうがあああああ!」

 暴力の塊から級友その1の怒声が上がる。なにをそんなに怒っているのだろうか。きっとカルシウム不足だろう。にぼしを砕いて牛乳と一緒に飲め。
 胸の裡で呟きながら廊下へと逃げ出す。一拍遅れて雪崩出る数の暴力。長い長い一直線の廊下を全力で走る僕と野蛮人の塊。正にハリウッド並のデッドヒートである。どうせならバイクとか自動車でやりたかったよ、と小声で零した瞬間に前方の廊下奥でキラリとなにかが光る。
 瞬間的に感じた悪寒に従いスライディング。ほぼ同時に頭をナニかが掠めた。直後、後方で爆発音。
 顔が廊下にガリガリと削られ終わったので即座に振り返る。

 暴力で犇めいていた筈の場所は、クレーターが出来て木っ端微塵となっていた。

 されど、そのような大破壊にも関わらず、我が級友勢は一瞬にしてその爆発地点よりも奥へと逃げおおせていた。なんて奴等だ。無駄に高性能過ぎる。流石は変人の巣窟にして人外魔境の2年0級生徒。油断ならない。
 まったく、僕の様な一般人がこのような輩共と同じクラスになるとは夢にも思わなかった。よくぞ2週間も無事に過ごせたものだ。僕偉い。よくやった。

 自己の世界にて拍手喝采が鳴り響く中、我が親愛なる級友共はクラスへと戻って行った。
 おそらく先程の破壊で熱が下がったのだろう。皆が素直に戻るのを見て助かったと安堵。
 そして後頭部に衝撃。目玉が飛び出そうな威力である。痛い痛い。
 何事と後ろを振り向いた瞬間に、今度は顔面に衝撃。吹き飛ぶ僕。鼻血の大噴水が巻き起こる。出血大サービスなりぃ。

「なにをギャーギャー騒いでいるのかと思えば、テメェか。またテメェか。一発死んでみるか? ああ?」

 ドスの利いた声に振り返れば、そこにはMY副ティーチャーの姿があった。その汚物を見る目を止めて下さい。興奮しちゃいます。

「らめええ! 興奮が止まらないのおおおほぐっ!?」
「騒ぐな喋るな猛るな吼えるな囀るな。黙って死ね」

 背中を踏み付けられた。どうしよう、このままだとあまりの快感に公衆の面前で云うには憚られる物が発射されてしまう。

「副ティーチャーが可愛い生徒に云う台詞では無いと思います。あと、どうせ踏むならズボンじゃなくてミニスカートの方ががはっ!?」
「圧死と爆死と轢死の三択から選ばせてやる」
「腹上死で」
「ハラワタ出されたいのかテメェ」

 手を輝かせるMY副ティーチャー。背中を再度踏んだ上に僕を爆殺しようとする。選ばせてやるとか云ったのに勝手に選ぶと云う暴挙。なんという残虐志向。戦慄せざるを得ない。ドキドキ。

「なにをやっている」

 今まさに振り下ろされんとするエクスプロージョンに僕のパッションがマグナカルタしてフォーリングアウトする寸前、冷やかな声が耳朶を打った。

「お、お姉ちゃ」
「なにを、やっている」

 びくりと身体を震わせる副ティーチャー。表情は見えないが、きっと怯えているのだろう。声がめっさ震えているでござる。
 踏み付ける力が弱まったので、よじよじと抜け出す。抜け出して後方を振り返れば、クールビューティーこと我らが担任が副ティーチャーを叱っていた。

「この爆発跡はなんだ、お前がやったのか」
「あ、あの、それは、ここ、こいつが」
「確か、私は云ったよな。爆発系統の魔術法は禁止だと」
「でで、でも、でもっ」
「云ったよな」

 その言葉にしゅんとする副ティーチャー。あらやだ可愛い。さっきのような暴力染みた姿も好きだけど、今の様にしおらしい姿も好きです。

「貴様もだ」

 ニヤニヤと眺めていたら、冷厳とした担任が僕へと目を向ける。
 二人して叱られました。超叱られました。興奮しました。とても興奮しました。まるで小学生が無理矢理書かされたような読書感想文の様な感じになるほど興奮しました。
 お叱りが終わり副ティーチャーがしょんぼりと、僕が恍惚と云う感じで教室に戻ろうとして、僕だけ呼び止められた。
 なんだろう、生徒と教師の禁断の愛的ななにかだろうか。告白されるのだろうか。ドキドキワクワクが止まらない。
 とかなんとか期待に胸を膨らませていたら、予想外な言葉を投げかけられた。





「貴様、頭から垂れ流している血をどうにかしなさい」





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 久方ぶりの更新でございます。新年明けましておめでとうございますです。まさか、2回続けて新年の挨拶から始まるとは思ってもみませんでしたぜ。

▼「それはボブですか?」「いいえ、ボブです」

>久しぶりに更新だー!!
>城から追い出される=この危険人物が野放し、ってヤバいでしょ!!(笑)

大丈夫です。世間は思いのほかご都合主義で出来ているのです。


>おぉ、更新だ
>本気で二年に一話のペースになるのかと思っちまったぜ

今度こそ、今度こそ宣言通りに2年に1話を守りますっ!きっとおそらくたぶん!


>何度目かの読みなおし。
>場面がコロコロ転がる物語はテンポよく読めるので読み直しが快適でした!
>これから感想は落ち着いて書きます!!

読み直しをして頂いているとは恐悦至極で御座います。
基本的に立ち読み感覚推奨の物語ですので、この作品に関しての感想は思うがままに書けばいいと思いまする。


>はあ~さっぱりさっぱり~
>とりあえず6話目に答えてみた。
>更新まってます。

更新待たせました。
6話目とか凄い懐かしいです。


>こんなに面白い作品があったのに何故気が付かなかった!
>主人公にはぜひ某雷電さんのように学園の女子寮を裸でスニーキングして頂きたい。

女子寮はしていませんが、女子更衣室はしておりまする。





[9582] 31話・定番といえば定番な異世界イベント
Name: 炉真◆769adf85 ID:f1458a94
Date: 2011/01/21 23:11


 夢に見たあの景色を今一度。





『31話・定番といえば定番な異世界イベント』





「出席を取る。席に着け」

 一限目の授業が始まる前のホームルーム。
 我が愛しの担任様が教壇の前に立つ。嗚呼、今日も一段と美しい。こう足を舐め回したくなる程に。
 僕の持ち得る技能の限りを尽くした、ねぶりテクニック。このテクニックは既に、前人未到の境地に達しているのである。


 ねぶりテクニックの一例として、この学院に中途入学した初日に、意味の分からない派閥みたいなのを作っていた女性がいた。こう、女王様的な。それほど美人と云う訳でもなかったのだけれど、無駄に豪奢な服装をしている女性。学院指定の制服はどうしたのかと尋ねたくなるような装いだった。しかし、女性という一点の事実は不変のものであるからして、紳士的振る舞いをしようと思った矢先に、その女性が「足を舐めろ」と云ってきたのだ。それもホームルームが終わり教室を出た瞬間、公衆が行き交う廊下で。
 その女性の取り巻き(これまた煌びやかな服装)や、周囲の野次馬(どいつもこいつも無駄に高そうな服)が見ているさなかのことである。取り巻きの見下すような視線に、野次馬達の馬鹿にしたような視線。何故このような失敬な視線を向けられるのかと自問し、僕の紳士的オーラが足らないからだと自答した。

 僕の女性に対する愛情が少ないと思われているからこそ、このような謂れもない視線を受けるのだと判断。こうなったら僕の紳士力を全力全開に解き放つと決意する。やるべきことが決まれば即実行。僕を見下すように見ている女王様っぽい女性が差しだしていた足に舌を這わせる。
 そのような僕の姿を見て、周囲からはクスクスとした笑い声。しかし、その笑い声はたった数十秒しか続かなかった。何故か。簡単である。僕が足をねぶりまくっている女性の様子が、急変したからだ。

 最初は侮蔑。次いで数秒、驚愕。続けて十数秒、恐怖。そして数十秒後には、泣き崩れた。「やめてやめてごめんなさいごめんなさい」と涙を流しながら云う女性。必死に僕から足を引き離そうとするが、しかし、僕にも紳士的力量を周囲に示さねばならぬので離しはしない。
 靴を脱がし足先爪先千差万別舐め尽くすっ! そのような不退転の志を元に、舌を這わせまくる。
 野次馬はドン引きしていた。なぜであろうか。不思議である。

 ともあれ、快感とも未知の感触とも云い難い様相で悶える女性の表情を見て、取り巻きが僕へと殺到し、引き剥がそうとしてきた。当然ながら、僕はいたく紳士的志を傷付けられた。
 どうするか。答えは簡単である。取り巻きの女性たちの足も、ねぶり舐め回す。複数の相手を同時に悶えさせる事が出来れば、僕の紳士力も認められるだろう。故に、男の取り巻きには鉄拳を喰らわせ、女性には奉仕をする。意識を失い地に倒れ伏す男が複数、悶え気絶する女性が複数。まさに阿鼻叫喚。
 野次馬は悲鳴を上げて逃げ出した。何故。

 しかしながら、取り巻き勢は全員倒れ伏し、残るは女王様風味の首魁たる女性一人のみ。廊下の隅でガタガタ震えている理由は分からないが、どうしたのだろう。されど僕の御奉仕と云う名の、ねぶりテクニックは未だ満了していないのだ。奉仕を途中で放棄するなど紳士の名折れ。続きをするために近づいて行く。
 僕が近付くと「ひっ」とした悲鳴を上げ「ごめんなさいごめんなさいゆるしてすみませんゆるして」と涙ながらに訴える女性。
 その姿を見て、はてなにがあったのかと首を傾げながらも近付き、彼女のおみ足を手に取り、口へと運ぶ。そして上がる、絶望の嬌声。





 翌日に、<変態足舐め事件>と題さることになろうとは思いもしなかった。誰が変態だ。





*****





 その後も色々とあったなぁと思いながら、かつての情景を想起して目を細める。あれが原因で、2年1級から2年0級にクラス移動されたのは遺憾であったと今でも思う。
 本当ならば今頃、貴族だか富豪だかの高貴なる育ちのクラスで「きゃっきゃうふふ」のハーレムを形成する筈であったのに。異世界に来た主人公としては当然のカリキュラムであるハーレム形成をする筈だったのに。

 かような崇高にして高潔なる指標を持つ僕は讃えられても良い筈であるのに、なにゆえ件の女王派閥に敵視されることとなったのか。不思議も不思議、未だに謎である。どうしてこうなった。どうしてこうなった。人生はいつも不平等だ。

「――と、いうことで異論はないな」

 などと、過去の事象に現を抜かしている間に、愛しの麗しき担任殿の話が終わってしまった。
 しくじった。なにを仰られていたのか、全然拝聴していなかった。なんたる失態。これはもう、職員室にある担任殿の机に僕のプロマイドを飾るしかないではないか。

「おい、なにラリってやがる。てめぇの番だろうが」

 不意に、なんとも野性味溢れる声が上方より降りかかる。見上げれば、そこには壁があった。

「なんと、壁が喋った。流石は異世界、ぬりかべも標準装備とは恐れ入る」
「誰がぬりかべだ。くだらねぇこと云ってねーで、早く行け」
「なんだ、良く見れば獣人のレオか。僕のドキドキ感を返せ」
「てめぇの心臓を刳り抜いてか?」

 ギラリと光る瞳に寒気。よもや物理的に返されそうになるなんて。
 ちょっと身体が大きいからっていい気になりやがって。獅子顔で巨躯で声が渋いからっていい気になりやがって。く、悔しくなんてないんだからっ。ちょっと格好良いな、なんて思ってないんだからっ。
 胸中で呟きながら、スゴスゴと教壇の前へと行く。決してレオの雰囲気に呑まれて従った訳ではない。ホントだよっ!

 と、思いつつも教壇の前に辿り着く。辿り着くのだが、はて、ここからなにをすればいいのか。担任殿の御言葉を拝聴していなかったので、なにをすればいいのか皆目見当もつかない。
 担任殿が僕へ向かって差し出す手には、なにやら細長い紙の束が握られている。なんだろう、一体何をすればいいのだろう。

「早くしなさい」

 戸惑っている僕の内心を知ってか知らずか、麗しの担任殿が急かす。
 どうしよう、今更なにをするのか訊ける雰囲気ではない。仕方ないので、自分で考えよう。
 ヒントは2つ。僕の前の生徒は皆なにかをしていた。担任殿の手に握られる細長い紙束。先の発言からすぐに終わること。この3つである。しまった。ヒントは3つだったか。なんという凡ミス。

 それはともかくとして、以上の点から考えられることは、もはやひとつしかない。なにをするのか理解したのなら、即行動。
 僕がやるべき事は単純明快。担任殿の美しい手を舐めることっ! 僕のねぶりテクニックの全霊をもってっ!

 顔を手に近づけ、舌を出そうとした瞬間。唐突に横から介入した鋏が、口の前でジョキリと音を立てる。怖っ!?
 慌てて顔を引っ込めると、いつの間にか教壇の横に立っていた副ティーチャーが「ちっ」と舌打ち。危うく舌切雀になる所で御座った。

「いくら僕の舌が愛おしいからといって、今のは流石にあんまりであります!」
「大丈夫だ。テメェの舌はあれだろ、二枚舌だろ」
「ああ、なるほど。確かにそれなら大丈夫ですね」
「なんだと」

 とても失礼な目で見てくる副ティーチャー。そのキ●ガイを見る様な視線を止めて下さい。涎が止まらなくなるので。

「くだらない事をしてるな。とっととくじを引け。後がつかえる」
「御意」

 今の遣り取りにすら、ピクリとも表情を変えぬ鉄面皮な担任殿に急かされたので、云う通りにする。結局やることは籤引きだったことが判明した。
 担任殿の素敵な御手を味わえなかったのは残念であるが、しかし、メアやジジやユリアさんやその他の女性達を味わってきたこの舌を失うのは惜しいので、諦めて素直に籤を引く。
 引いた籤の先は赤色だった。

「ふむ。これで全て埋まったわね」

 なにを、と思い視線を籤から離す。そして、黒板に何某かが書かれていることに気付く。


『全学年決闘戦技祭・代表者選抜』


 決闘戦技祭って確かあれだ。決められた選抜者が各々の技能を競って戦い合うやつ。K-1みたいなやつだった筈。異世界というかファンタジー世界では定番の奴。バトルトーナメント的な。
 そんな説明を入学当初に聴いた覚えがある。これに優勝すると、名誉だか賞金だかが手に入り、更には将来の就職先が武力関係である場合は有利になるとかどうとか。

 僕が決闘戦技祭の内容について思い出していると、副ティーチャーが黒板に何かを書き加える。
 どうでもいいけど、片手で鋏を持ってクルクル回すのは止めましょう。危ないです。自殺志願じゃないんですから、その鋏。

 などと思っていたら、副ティーチャーが書き終わったのかチョークを放した。
 なので、黒板へと視線を移す。


『代表者1・アルジーナ=エクト
 代表者2・ローレ=ルー=ラート
 代表者3・糞莫迦外道のゴミくず』


 なんてことだ。代表者3の名称が酷過ぎる。
 一体この哀れな人物は誰なのだろう。

「テメェのことだ。糞莫迦外道のゴミくず」

 副ティーチャーが僕を見ながら云い放つ。なんてこったい。いつの間にか僕の名前が罵倒語にされている。

「これで代表者は決まりだ」

 そしてそれを無視して進行する担任殿。
 僕の扱いが哀れ過ぎる。

「異議あり! 代表者には、その3人よりも俺を選抜すべきです!」
「同異議あり! わざわざクラスの変態トップ3を出す事はないと思います! むしろ私を出すべきです!」
「同意です! 他のゴミ共よりも私を選抜すべきです!」
「なにを云ってやがる雑魚共がっ、ここは俺様が行くべきだろう!」
「うるせー! マネキン偏愛者はマネキンの乳でも吸ってろ! ここは俺が出るべきだ!」
「静かにしなさい」
「そういう貴方も黙りなさい。このちりとり嗜好愛者。この場は高貴な私こそが相応しいわ」
「はっ! 薬指至上主義者がナニかほざいてやがる。お嬢ちゃんはいつも通り自分の薬指でも見て悶えてろ! ここは俺が行くっ」
「はははっ、弱い屑程よく吼える。頭頂臭溺愛者は失せろ。ここは僕が出るに相応しい!」
「静かにしなさい」
「おいおい、なにを云ってやがる脱ぎ棄てられたスク水好きが。あんたは黙ってスク水を口説く日課でもしてな。ここは、あたいが出るべきだっ」
「くだらない! 男のブルマ姿に興奮する変態女は退場せよ! ここは私がっ」
「そういう貴様も同性が履いていた靴下が大好きな変態男だろうが。やれやれ、ここは満を持して俺が出るしかないなっ」
「何の冗談だ。文房具にしか恋出来ない恋愛不適合者が出るべきではないな。ここはオイラが!」
「はあ? 飲み水に性的興奮を催す馬鹿が何を云っているのよ。ここは、あたしが行くしかないでしょうに」
「静かにしなさい」
「あらら、なにか云ったかしら? 同性に虐められて興奮して攻撃魔術を乱射するアバズレはお呼びでないの。あたくしが出場すべき大会なのだという事くらい分かるでしょうに」
「おやおやぁ? 涙を流す自分ってば可愛いと勘違いして毎日唐突に泣き始める糞女がなに云ってんだか。ここは勇猛果敢な僕ちゃんが出馬するに決まっているだろう」
「意味もなく眼帯と腕に包帯巻いて来るチビスケは黙ってな。ここはわっちが行くのが当然だろうよ」
「はっはっは、他人を露出させるのが好きな腐れは口を閉じな。あてくしが出るに決まっているだろう」
「常に上下の下着を服の上に着る頭の弱い子はお下がりくだされ。ここは拙者が」
「静かにしなさい」

 麗しの担任殿の静止の言葉を無視して「私が」「俺が」「いやいや拙僧が」と次々に口走る級友諸君。互いが互いに性癖を暴露していく様は実に圧巻である。
 なんというカオス。ここだけ空間がねじ曲がりそうだ。

「し、静かに……静かにぃ……しなさぁいぃ」

 不意に弱々しい静止を促す言葉。唐突な涙声にギョッとして発信源を見遣る。
 そこには麗しき担任殿が、いつも通りの無表情でぽろぽろと涙を流していた。
 そうだった。雰囲気や普段の態度や無表情の鉄面皮から、クールビューティーと称される担任殿だが、実は酷く打たれ弱いのだ。見た目は美しき麗人佳人でも、その心は正に純真無垢な乙女なのである。

 考えても見て欲しい。普段は凛々しい御方が、無表情とはいえ可愛らしい声で泣く愛らしい姿。表情は変わらないが、身体がぷるぷると震えるのを必死で押し留め、毅然とした態度を貫こうとするも、明らかに強がっているのが手に取るように分かる姿。
 凛々しさを湛えるのに小動物チックな担任殿の御姿。


 ――その破壊力は、天元を突破するっ!!


「テメェらあああああ! 今すぐ黙れえええええええ!!」
『イエス、副ティーチャー!』

 最初の咆哮は、お姉ちゃん大好きな副ティーチャー。
 それに応える、全級友共。男女の区別なく先程の諍いを意にも介さず、一人残らず2年0級生徒は愛しの担任殿を前にひとつとなった。

「黙ったら行儀良くしやがれ! 動いたら殺す! 喋ったら殺す!」
『イエス、副ティーチャー!』
「許可なく口を開くな! 許可なく声を上げるな! 許可なく音を立てるな!」
『イエス、副ティーチャー!』
「お姉ちゃんは絶対だ! お姉ちゃんが絶対だ! お姉ちゃんの言葉に従え! 莫迦みたいに阿呆みたいにお姉ちゃんの言葉をその腐った耳に入れやがれ!」
『イエス、副ティーチャー!』
「分かったな了解したな理解したな把握したな納得したな! いいか! 今からテメェらは人形だ! 無条件に無抵抗に無防備にお姉ちゃんの言葉へ腐った耳を傾けろ!」
『イエス、副ティーチャー!』

 なんという一体感。なんという連帯感。
 これが同じ指標を目指すべき者達の在るべき姿かっ。
 背筋真っ直ぐに直立不動で黙る僕。級友共も皆直立不動。もはや軍隊である。

「ほら、お姉ちゃん。静かになったよ」
「う、うん」

 優しい声音で尋ねかける副ティーチャーに対し、こくりと小さく頷きを返す担任殿。
 くっ、破壊力がでか過ぎるっ!
 担任殿の姿に見惚れ、床に倒れ伏しそうになる身体を叱咤激励。ここで倒れては、またもや担任殿を泣かせてしまう。踏ん張り所である。

 ゴシゴシと袖で目元を拭い顔を上げる担任殿。
 少しの間、浅い呼吸を繰り返し、いつも通りの美声を紡ぐ。





「先ずは皆、席に着け」





*****





 そこからは先は、不満大会の勃発である。主に選抜者に対しての。

「やはりクラスの代表なのですから、ここはクジ引きではなく実力で決めるのが賢明かと」

 そう発言するのは、鶏頭の学級委員長。比喩表現では無く、実際に鶏頭なのだ。
 学級委員長の提案に追従するように、あちこちで同意の声が上がる。
 こいつらそんなに名誉や賞金が欲しいのか。がめつい奴等め。

「まだ、0次元萌えの変態であるアルジーナは理解できます。しかし、糞莫迦外道のゴミくずは納得できません」
「自分も、無機物のカップリングにしか興味を示さないローレ女史は理解できます。ですが、糞莫迦外道のゴミくずには納得できません」
「俺様も、糞莫迦外道のゴミくずには反対だ」
「私も糞莫迦外道のゴミくずには反対です」
「最近来たばかりの糞莫迦外道のゴミくずには荷が勝ち過ぎます」
「糞莫迦外道のゴミくずは流石に外した方が良いと、拙者は愚考します」
「拙僧も、糞莫迦外道のゴミくずに対する意見には賛成です」
「せめて、リーゼリアは入れるべきではないかと。糞莫迦外道のゴミくずを外して」
「それなら、レオもだろう。勿論、糞莫迦外道のゴミくずを外して」
「兎に角、糞莫迦外道のゴミくずを外しましょう」

 言葉の暴力が僕を責め立てる。なんて酷い奴等だ。こいつらには遠慮と云う物がないのか。ナチュラルに僕を罵倒しやがって。……あれ、なんだか僕は泣きそうだよ。
 取り敢えず、僕を罵倒しまくっている輩を脳内メモ帳に記録。こいつら絶対に闇討ちしてやる。女子は許す。寧ろもっとカマン。

「皆の云い分は分かった。だが、残念ながら今回の決闘戦技祭の出場者はくじで決めることになっている。これは決定事項だ」

 淡々とした口調で告げる担任様。先程の可愛らしい姿が、まるで夢幻のようだ。
 そんなことを思っていたら、副ティーチャーが言葉を続ける。

「グダグダ云っても埒が明かねえし、お姉ちゃんが云った様に、もうこれは決定事項だ。覆らねぇから、今回の出場は諦めろ」

 だるそうに放った副ティーチャーの言葉に、クラスのあちこちでブーイングが上がる。
 しかし、先程までのような激しさではない。流石のこやつらも学習したようである。

 様々な性癖持ち及び変人及び問題児が集う2年0級だが、我等が担任様に関しては、一人残らず素直に云う事を聴く。男女を問わずに。担任様は2年0級生徒に愛されているのだ。ここまで慕われるのも、担任様の人徳が故。担任様マジ天使。

「さて、一通り不満をぶちまけた様だし、代表者は決闘戦技祭に向けての意思表明をしてもらう」
「あー、んじゃあ、アルジーナからな。起立して宣誓」

 その言葉に従い、ガタリと起立するアルジーナ。種族は確か亜人族に分類されるのだったか。
 服から出ている肌には、薄い鱗が覆っている。顔は普通に人間なのだが、耳がヒレみたいな、なんだかヒラヒラしたものだ。手には水掻きもある。流石はファンタジー溢れる異世界。いまさらだが。
 そんなアルジーナは、ニヒルに笑って宣誓した。

「ふっ、証明してやるさ。3次元は0次元に勝てないと云う事をな」

 そう云って着席。拍手はなし。皆「なに云ってんのこいつ」という視線を向けている。きっとアルジーナの嗜好が理解出来ないのだろう。
 こいつら、その行為が同族嫌悪になっていると気付いているのだろうか。ちょっとした疑問だ。

「相も変わらず、理解しがたい信念を持っているようだな。私にはいまいち理解出来ないが、信念を持つことは良い事だ。これからも精進しなさい」
「はっ!」
「じゃあ次、ローレ起立。宣誓」
「はーい」

 続いて立つのは、猫耳に猫尻尾を持つ獣人の少女ローレ。藍色の髪を有すその姿は、猫耳幼女のノエルちゃんを想起させる。
 ノエルちゃんは可愛いから、ローレみたいに育ったら美人になるだろうなと予想する。おっと涎が。うへへっ。

「センセーイ、あたしはぁ、学院のバカ共にぃ、無機物のカップリングは至高の物であるとぉ、思い知らせてやるよ」

 えへっと可愛らしく微笑んで着席するローレ。その仕草は可愛いのだが、間延びしない最後の言葉に本性が見え隠れしている。
 ノエルちゃんにはこうなって欲しくないなぁ。なったとしても当然、愛でるけれども。

「そうか。お前の目標もよく分からないが、頑張って目標を達成できるように、己を磨く事だ」
「はいっ」

 良い声で返事をするローレ。うむ、青春の一コマだ。
 それにしても、流石は聖人君子も凌ぐのではないかと0級内で噂される担任様。良いことを仰られる。
 うんうんと頷きながら、さて次は僕の番かと身構える。どのようなことを云おうか。

「以下省略」
『異議なし』

 副ティーチャーの言葉に対して、異口同音で唱和する級友共。
 本格的に僕の扱いが酷くはなかろうか? 僕ってばまだ学院にきて2週間、この世界で20日間しか過ごしていないのに。

「差別をしない」
「分かったよ、もう。お姉ちゃんは優しいなぁ。……んじゃあ、糞莫迦天地冥府外道の腐れゴミくず」
「さらに余分な物が付け足された!?」
「黙って喋れ」
「なんと困難な」

 くっ、ここまで僕を貶めに掛かるとは恐るべき存在だ副ティーチャー。僕をこれ以上喜ばせてどうするつもりなのかっ。
 副ティーチャーの未だ底を見せない魅力に、胸をときめかせながら起立。さて、どのような抱負を語った物か。悩み所ではあるが、ここは正直に行こう。

「宣言の前に、ひとつよろしいでしょうか?」
「ああ? んだよ」
「僕が優勝したら、なにかご褒美は出るのでしょうか」
「それは、名誉以外でということか?」

 担任様の言葉に頷く。
 しばし思案していたが、やがて口を開く。

「そうだな。私に出来ることならば、なにかひとつ願い事をきいてやろう」
「お姉ちゃんがそう云うなら、オレもなにかひとつ願い事をきいてやる」

 その言葉を待っていたのだ。言質は取った。もはやこのことを口にするのは構うまい。


「宣言します! 僕はこの大会で優勝し、担任様と副ティーチャーのパンティーを拝見賜ると!」


 僕は両腕を天に掲げた状態で止まる。困難な物をやっとの思いでやり遂げたというような、そんな感じにも似た達成感がこの身を駆け巡っていた。
 そんな僕の宣言を聴いた級友諸君は、しかし誰も喋らない。


 シンとした静寂。一拍後に大歓声。


「良く云った! 俺はお前を信じていた!」
「頑張れ! 頑張るんだ! 俺様はお前を力の限り応援しよう!」
「それでこそ、0級代表! 負けは許されないぞ!」
「私は最初から信じていたんです。貴方になら任せられると!」
「ふふっ、僕ともあろうものが、君の言葉に感銘を受けるとはね」
「俺っち、テメェならやれると入学した瞬間に分かっていたぜ!」
「貴様こそが0級の誇り! 胸を張って堂々と優勝してこい!」

 口々に僕を褒め称える級友共。こいつらマジで性根が腐ってやがる。こんなにあっさりと掌を返すとは。
 だが、まぁいい。存分に僕を讃えるがいいわ!
 刮目せよ、そして崇めよ、哀れなヘタレ狼どもよ!
 盛り上がりを見せる0級男子。絶対零度の視線を強める0級女子。嗚呼、青春なり青春なり。

「あー、盛り上がっているところ悪いがな」

 近年類を見ない盛り上がりを見せる0級男子に、副ティーチャーのバツの悪そうな声。

「なんでしょう。今更『やっぱなし』は駄目ですよ」
「いやー、そのなー」

 僕の言葉に「そうだそうだー」と同調する男子勢。エロになると連帯感が生まれるのは、男としてはしょうがないね。しょうもないとも云うが。
 そんな僕等に対して、副ティーチャーが爆弾を放りこんできた。


「いやオレさぁ、ノーパン主義だから、履いてない」
『な、なんだってー!』


 思わぬ発言に、男子ばかりか女子までもが驚愕の声を上げる。
 そんなバカな!? こんな身近に伝説のノーパニストが居るだなんてっ!!

「だから、テメェにパンツは見せれねーわ」

 悪ぃなと嘯く副ティーチャーに戦慄を禁じ得ない。そんな、僕が脱がす前に脱いでいるなんて! だからいつもズボンを履いているのかYO! これから視線が下半身に直行してしまうじゃないかぁ!
 いやだが待て、慌てるな。もしかしたら、約束を反故にする為の嘘かも知れぬ。孔明の罠なのかどうか、これは確かめねばっ。

「信用できません! 本当だと云うのなら、今此処でノーパンであることを証明するために見せて下さいお願いしますなんでもしますから!」
「テメェは糾弾しているのか懇願しているのかどっちなんだよ」
「そんなことはどうでもいいのです! さあ、もう約束とか関係なしに見せて下さい!」
「テメェらが目玉を抉ったら見せてやるよ」
「のわぁー!? 目がっ目がぁあああっ!?」
「ああ! 委員長が一切躊躇せずに指を目玉に突き立てたぁ!!」
「ぬぐぅっ!?」
「ああ! こっちではレオが目から血の涙を流しているぅ!!」
「野郎ども遅れを取るな! 桃源郷は目の前だぁ!!」
『おうよ!』

 莫迦な!? この紳士的最終兵器と自称している僕よりも圧倒的に早く目玉を抉ろうとした猛者が居るのか!?
 くっ、流石は0級。油断ならぬ強者共が犇めいていやがるっ。

「遅れてなるものかぁっ!!」

 気合一閃。
 己が手指を我が黒瞳へと導こうとした瞬間に、それは聴こえた。


「……ぅう。ぜ、絶対に……み、見せなきゃ、だ、駄目か……?」


 羞恥が滲んだ言葉を放つのは、愛おしき聖・担任。
 涙目涙声で仰る聖・担任のなんと可憐なことか。
 相変わらずの無表情であるのに、その顔色は真っ赤である。
 嗚呼、これは先程を上回る破壊力。胸キュンなんてものじゃない。

「テメェら、敵は一騎! 己の持つ最高の武力で、叩き潰せぇえええ!」
『応!』

 最初の咆哮は、お姉ちゃんフリークな副ティーチャー。
 それに応える、全級友共。男女の区別なく先程の喝采喧騒を意にも介さず、一人残らず2年0級生徒は愛しの担任殿を前にひとつとなった。

 なんという一体感。なんという連帯感。
 これが同一の敵(僕)を打倒すべき者達の在るべき姿かっ。


 暴力と云うには、余りにも強力すぎる何かが、僕へと殺到した。





 なにこの結果ひどい。





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 <変態足舐め事件>→<女王派閥逆襲の乱>→<鼻血に塗れた校門の変>→<それでも僕はやってない惨劇>と続きます。

▼そして伝説へ……。

>復活を待っていた!
>自重せず存分に書いてください。

存分に書いていきます。


>おお、復活じゃ~復活じゃ~ww
>しかし今回の主人公は、相変わらず素敵な紳士でしたが比較的おとなしい気がしました。
>つまり、女子更衣室での裸身装甲ダ○ゼンラー的な紳士っぷりをなぜ書か(ry)…炉真様の書きたいものを書いて、読ませて頂ければ幸いです。
>これからもお身体に気をつけて頑張って下さい。

裸身装甲だと装甲部分が皮しかないのです。皮の鎧だなんて言われたら主人公が泣いちゃうっ。
やる気が出た時限定で頑張って行こうと思いまする。


>このオリ主はあくのそしきにかいぞうされる前もこんなせいかくだったのかね
>まあ悪の組織でもここまでひどいHENTAI紳士は作らないか・・・

昨今の悪の組織には紳士が少ないと思うのです。悪と謳っているのだから、もう少し本能を全開にしていいと思うのです。
子供達にとんでもないトラウマを植え付けるかもしれませんが。


>何となしに小説を眺めていると、ふと見つけた「ほのぼの異世界譚」の文字。
>「はて、何処かで…」と思いながら開いてみたら、
>あなた様でしたか!久しぶりの更新お疲れさまです。
>依然と変わらぬ内容と主人公に私も何か興奮しました。
>続きを、出来れば年内にお願いしますww

年内に更新したよ!
へへっ……燃え尽きたぜっ……ネタが真っ白にな……。


>抽象画にまで発情する主人公の相変わらずの紳士っぷりに痺れます

その痺れはきっとクラゲによるものです。


>今日初めてあなたの作品を読みました
>電車内で読んでたのですが、思わず声を出して笑ってしまいました。
>周りの人から変な目で見られちょっと興奮してしまいました。
>とりあえず謝罪と賠償を要求します
>具体的にはメアたんを僕に下さい

されど断り申す。


>うわ、まさかの更新。
>相変わらずのっけから尻assで安心しました。
>最新話を読み終えましたが、作品のあらすじがなんか尻assだったことしか思い出せないので読み直してきます

わざわざ読み直すほどの作品では無いので、もう読み流して行けばいいじゃない!
内容を忘れて困るものでもありませんし。




[9582] 32話・決闘戦技祭
Name: 炉真◆769adf85 ID:ce4fc0d4
Date: 2011/03/27 16:15


 愛世の果てに生まれた自分なんか嫌い。





『32話・決闘戦技祭』





 ギラギラとした熱気が僕を襲う。
 本日は決闘戦技祭の当日。選抜された代表者は、僕を含めた全員が整列し、眼前にいる人物の言葉を耳に入れる。

「――で、ある。しかして――っ!」

 彼の人物――学院副理事長――が話し始めてから、既に十分を回った。正直だれる。早く終わりやがれ。
 キョロキョロと前方に並び立つ選抜者諸君を見る。誰も彼も、この長話に辟易しているのだろう。「まだ終わらねーのかよ……」と今にも云いたげな雰囲気である。
 常々に不思議なのだが、なにゆえ「五分ほど話をさせて頂きます」と云い放つ輩に限って、時間を超過するのだろうか。

 マジうぜぇのですぅ、くたばれですぅ。と、心中で呟きながら視線を彷徨わせる。選抜者の中には当然、我がクラスのローレ嬢を始めとした女性たちも参列している。しているのだが、悲しいかな。選抜者は全員が全員、学院指定の外套を羽織っているので、全然目が楽しくない。
 というのも、僕は選抜者達の一番後方にいるので、似通った姿しか見えないのだ。
 本来であれば、僕が整列する位置は中央よりもやや前方であった筈なのだが、学院指定の外套をムササビごっこをしていたら焼失してしまったのでこの位置にされたのである。

 いやぁ、外套を燃やされたあの時は本気で参った。
 まさかムササビごっこをしていたら、偶然女子更衣室の側まで飛んでしまい、偶然旋風に巻き込まれて女子更衣室付近を旋回せざるを得ず、旋回している最中に偶然女子更衣室の窓とカーテンを開けてしまい、偶然級友から貸して貰ったカメラが誤作動をしてしまい、偶然レンズの向いていた方向が女子更衣室であり、これまた偶然にも女子更衣室で複数人が着替の最中であり、偶然も偶然に「いやっほぅ!」な瞬間を誤作動したカメラが連続撮影してしまい、偶然の極みにもカメラの誤作動が収まった時に突風で女子更衣室から離れることになったのだ。
 いやはや、偶然に偶然が重なった偶然を極めた事故だった。不幸な事故だったね。
 不幸な事故であるのにも関わらず、これまた偶然にも女子更衣室で着替えていらっしゃった副ティーチャー出陣。上半身に下着のみを身に付けた装いで窓際に悠然と立つ副ティーチャー。下半身は見えなかったのでノーパンが真実であったかは確認することは出来なかった。
 出来なかったが、デフォルメされたキャラクターのワンポイントが施された可愛らしい乳バンドをしていることを知れた。萌えた。凄く萌えた。眼福である。
 そんな副ティーチャーをガン見した後、「ふははっ!」と高笑いしながら、悠々と飛んでいるムササビ状態の僕。そんな僕に向かって副ティーチャーが火炎弾を放つ。燃えた。凄く燃えた。ご褒美である。

 そのような経緯があり、僕の外套は焼失したのである。なんという不幸な出来事か。唯一無事であったのが、級友から借りたカメラだというのが、不幸中の幸いである。これだけであと十年戦えると云う物だ。
 そのカメラを巡って、後に<誇り無き漢共(2年0級男子)の愚神礼讃>と名付けられる死闘が勃発したのだが、それは別の御話である。だが敢えてひとつだけ、その死闘の決着を語るのだとしたら、止めを刺したのは担任様であった。
 担任様の猫耳カチューシャ装備の『にゃんこポーズ』及び『全員、いい加減に止めろ……わん』という必滅呪文の前に、全てが血に染まる。争いは醜くも、終幕には笑顔が溢れる決着と相成った。

 閑話休題。脱線回避。

 ともあれ、外套が焼失した上に予備の外套も無かったので、取り敢えずトイレットペーパーを繋ぎ合せ、外套の代わりとしてこの場に臨んだのだが、そもそも学院指定の外套は暗色系統の物。そんな中で一人真っ白な奴がいるのが、どうにも気に食わなかったようで最後尾に回されたのだ。
 などと、前日からの事を想起して時間を潰していたのだが、一向に終わる気配を見せぬ長口上。おい、誰か奴の口を封じろ。
 流石の僕も精神的な疲労がピークである。もう御託はいいから本題に行けよと云いたい。
 胸の奥から湧き上がるイライラとした感情をどう処理したものか。いっそのこと、あの侘しくなった頭頂部に向けて脱毛剤でも投擲してやろうか。
 しかしながら、残念な事に脱毛剤は手持ちにない。あるのは、りっちゃんこと男装美少女リーゼリアの下着だけである。どうしたものか。

 ううむ、と唸りながらりっちゃんの下着をにぎにぎと揉む。
 おや、なんだか気分が落ち着いてきたよ。寧ろ昂って来た。ふむ、やはりこれは良い物だ。
 朗らかとした笑顔を浮かべながら、無心に下着を触り続ける。優しく表面をなぞり、時には摘み、さすり、握り、揉み、つつき、押し、弾き、そしてゆっくりとなぞり上げる。
 無心に、ひたすら無心に下着を玩ぶ。すると、胸が高鳴り息が荒くなる。ハァハァと息を荒げながら、それでも我が手指は繊細さと荒荒しさを両備えつつ、下着を弄繰り回す。

「嗚呼、そうか。これが、恋なのか……」

 そうだ。この胸の高鳴りが、この火照る肉体が、この荒くなった息遣いが、この全てが総て、りっちゃんの下着へと向けられた恋心なのだろう。
 無償の愛を無性に与えたくなるこの感情。これを恋と云わずしてなんというのかっ。


 ――そう僕は、りっちゃんの下着に、恋をしたのだ。


 溢れ出すLibidoを抑えることは、実に難しく。
 Sentimentは白きEmotionとなり、PassionはLustをLoveへと導く。
 Envyは黒きMonopolyから派生したのではなく、BeautyをRespectしたが故にAlluringされたDestinyにしてDoomたるFateなのである。
 嗚呼、恋ハ麻薬ト云ウケレド。ソレサエ下ニ置ク我ガ慕情。
 純白たる乙女の如き柔布を、己の無骨な手が暴く。
 倒錯的で蟲惑的で艶美的で妖艶で魅惑で錯綜で、それは純然たるPathosと呼ぶに相応しく。
 思わず叫びたくなる程の、この激情に抗う事は無粋なのだと。
 然らば、叫ぼう。僕の、心の聲を。世界に宣言するのだ。この愛を。

 ……うん。なにを考えているのか自分でも意味不明だ。そんな自分の思考能力が素晴らしすぎて泣きそう。
 取り敢えずは、この胸の裡にわだかまる情熱を声に乗せて世界に吐き出してみる。
 息を吸い、口腔を開く。

「りっちゃんの下着は最高だっ!!」
「オーケー、分かった。テメェは圧殺して礫殺して絞殺して撲殺して刺殺して鏖殺して頓死させる」
「ひゅいっ!?」

 唐突に湧き上がった膨大な殺意に、思わず素敵な声が漏れた。
 勢いよく振り返れば、そこには我等が副ティーチャー。

「テメェは毎度毎度、静かにしていられねぇようだからなぁ。いっその事永遠に静かにさせてやらぁ」
「そんな、ずっとキスしていようだなんて嬉しすぎるよ」
「誰がンなこと云った!?」
「え? だって、恋人が静かにさせる方法は接吻だって決まっているじゃないですか」
「誰と誰がいつ、恋人になった?」
「僕とりっちゃんの下着が!」

 そう云って、手に持っていた下着を愛おしく抱きしめる。
 そんな僕を見て、副ティーチャーが「極まってやがるっ……!!」と呟いていたが一体どうしたのだろうか。
 頭を手で押さえて、ふるふると動かす副ティーチャーにどうしたものかと悩んでいる時に、不意に視界に入った……副ティーチャーの乳バンド。
 上体を少し前傾させているので、胸元が見える。そして姿を現す乳バンド。今日は黒か。素晴らしい。

 そこで、はっとする。
 そうだ。僕はなにを勘違いしていたのだ。そも下着とは女性が身に付けて初めて、十全な魅力を引き出すのだ。女性が身に着けていない下着など、新品で売られている下着と同じ価値しかないではないか。
 そうだ、そうなのだ。僕はなんと浅はかだったのだろう。
 下着とは、女性が身に付けている時に剥ぎ取るのが礼儀。その時こそ、下着の本領は発揮されるのだ。
 身に着けていない状態の下着など、八全の価値しかないのだ。本領を発揮していない下着に対して恋などと、下着に失礼である。

「副ティーチャー」
「……テメェはもう死ねよ」
「その続きはベッドの上で語る事として、先ずはこれを」

 下着の真価を見極めた。
 故に僕は、りっちゃんの下着を副ティーチャーへと渡す。

「……なんのつもりだ?」
「ふふっ、僕ともあろう者が下着の価値を見誤る所でした。そう、先程までの僕は、僕の脳内は普通ではなかったのです」

 ふっ、と遠い目をして語る。
 普段の僕を知っている副ティーチャーならば、きっと分かってくれるだろう。いつもの僕と様子が違っていたことが。

「つまり、いつも通りだろうが」

 そんな馬鹿な。
 あれ、予想と違う。

「いえ、いえいえいえ。いつもと違っていたでしょう?」
「いや、テメェはいつも通りだったろうが」

 そんな莫迦な。
 おかしい。本来ならばここで、「そうだな、心配したんだぞ? めっ!」と副ティーチャーが優しく叱ってエロゲ展開になる筈なのに。
 どこだ、どこで選択肢を間違えた。

「まぁ、兎にも角にも、だ」

 地面を見つめて懊悩している僕に、副ティーチャーが声をかける。
 その声に顔を上げ、そこで目に入る、光。
 副ティーチャーの両手がギュインギュインと輝いているで御座る。

「変態は、爆発しろ」





 そして、激光が僕を覆った。





*****





 まさかの副ティーチャーによる爆殺魔法によって医務室の廊下に放置された僕。ここまで来たのなら、もう医務室に運んでくれてもいいと思うんだ。
 とまれ、僕が目を覚ました時には既に選手訓戒とかいう意味の分からぬ行事は終わっていたので、まぁラッキーというものである。
 あとは開会式があり、そして決闘戦技祭本番というのが例年の流れらしい。廊下でそのまま死体ごっこして居た時に、そのようなことを一般生徒が話しをしているのを聴いた。
 それはそれとして、廊下を歩く生徒が全員男とかどういうことなの。女子生徒が来ないとか、なんのために死体ごっこをしていたのか。

 失意に塗れつつも教室へと向かう。試合開始には、まだ時間がある。その時間を利用して決闘戦技祭に於けるルールの確認をしなくてはならない。
 なんでも、毎年毎年ルールが変更されるらしい。主に学院理事長の独断と偏見と思いつきと家庭内不和による八つ当たりで。それでいいのか、この学院。そんな奴を学院のトップにしていて良いのか、この学院。
 ウサギにツノがあるのかどうかは置いといて、学院最高権力者による横暴専権による今年の独裁ルールが教室で発表されるので、教室に行かなければならない。会場でやれよという話である。

 とかなんとか考えていたら教室に着いたので扉を開け放つ。
 室内に居るのは、同じ選抜者の二人と担任様マジ天使と副ティーチャーご褒美ありがとうございますと数人の級友である。
 大多数の級友共は既に会場の方に行っているのだろう。蛇足となるが、会場はコロッセウムの様な円環決闘場だ。中央に四角に切られた石で出来たでかい石畳のステージがある。
 というか、施設や設備もそうだが、この学院無駄に広すぎる。どこにそれほどの金があるのか。
 そんな下らない事に思考を飛ばしていると、麗しき担任様の華麗なる唇から艶麗たる言葉によって、今年のルールが発表された。

 1つ、対戦形式はトーナメント戦である。
 1つ、場外は無条件で試合終了となる。
 1つ、武器は籤引きによって決められた物を使用すること。
 1つ、戦い方は籤引きによって提示された方法を遵守すること。
 1つ、降伏宣言後の攻撃は場合によっては反則負けとする。
 1つ、以上の事を原則とし、これに反すると敗北となる。

 武器はともかくとして、戦い方まで決められるとか酷いと思う。あと、『降伏宣言後の攻撃は場合によっては反則負けとする』の“場合”ってどういうことなのだろう。
 とかく、これが今年の主軸となるルールらしい。担任様のパンティーと副ティーチャーの下乳(ノーパニスト発覚後、もめにもめてご褒美がこのようになった)を見る為に頑張ろうと思う。
 立ち塞がる男は悉く殲滅殺し、立ちはだかる女性は全裸に剥いてリングアウトさせることを心に決める。

「説明は以上だ。また、くじの内容は特大魔法掲示板に表記されるので、反則行為は基本無理だと解釈しろ」
『はい』

 担任様の言葉に僕を含めた三人で返事をする。
 それを確認すると、ひとつ頷き、これからの予定を話す。

「今回は開会式及び理事長による選手激励はなしだ。すぐに第一試合が開始となる。己の試合までの時間は基本自由時間となるな。選手控室に居るも良し、会場で他試合を見るも良し、時間まで適当な場所で寛ぐも良しだ」
「ならば担任様と副ティーチャーを囲ったハーレム空間で、きゃっきゃうふふするのもいい訳ですね!」
「アルジーナの試合は第二試合、ローレは第七試合だ。鋭気でも養って精々頑張れや」
『はいっ』

 あれ、僕が色んな意味で無視されている。
 由々しき事態である。

「HEY! メインティーチャー! 僕がサブティーチャーに無視されているYO!」
「……貴様の試合は第九試合、一番最後だ」
「無表情なのに、どことなく呆れられている気がするで御座る」

 そんな担任様の態度に興奮しちゃう。

「兎に角、これで報告は終わりだ。各々、しっかりと準備を済ませておくこと」
「はい」
「はぁい」
「云わずもがな」

 そう言葉を返し、アルジーナとローレ、同席していた級友共が席を立ち教室を出て行く。僕もそれに続こうとした時、愛しの担任様に呼び止められた。ついに告白イベントか。胸が熱くなるな。

「貴様は先ず、服を着ろ」

 そういえば副ティーチャーによる爆殺魔法で服が燃え上がっていたのだった。意識したら、胸が寒くなった。





 嗚呼、通りでスースーすると思ったアルヨ。





*****





 会場に到着なう。

 人々がまるで越冬する虫のように固まっている会場では、熱気が凄いことになっている。体温で暖められた空気も、ここまで暑いと殺人級ではなかろうか。
 さらには、熱気だけでなく、そこはかとない塩っ気を空気から感じる。流石にこれだけ暑ければ、女性たちが流した汗も蒸発して空気に溶けるか。素敵だね。
 そこで、思いっきり空気を吸い込もうと思ったのだが、よくよく考えてみると男衆の汗も混ざっている可能性があったので辞めた。畜生、男共めっ、滅びればいいのに。

 思わず怨嗟の声を上げながら歩く。
 すると、どうした訳か通路上に居る人々が、わざわざ僕に道を開けてくれるようになった。
 どうやら僕の美しさの前に、立ち塞がることが出来ないようだ。美しいって罪ね。皆が皆、「うわこいつやべぇ」的な目つきをしているのが気になるところではあるが。
 ともあれ、通路を歩きながら進んでいると、りっちゃんことリーゼリアと、りっちゃんの武器兼相棒のレリーアちゃんを発見する。そして彼女達から一つ席を空けて、見覚えのある顔が二つ。
 見覚えある二人に、なにゆえこのような場所に居るのかと疑問を抱く。その疑問に直接訊けばいいやと結論し、丁度良く席が空いているので接近して座る。

「死ねばいいのに」

 僕が座った瞬間の、鎌少女の開口一番の言葉である。
 なんと非道い。もっと云ってくれ。

「どうしようリーゼ。あたし、こいつを殺したい」
「気が合うねレミィ。私も死体遺棄には興味があるんだ」

 ハァハァと荒げた息でりっちゃんとレリーアを見ていたら、凄く物騒な事を云われた。どうしてだろうか。不思議。
 二人に「こっち見んな、息をするな、そもそも生きるな」と云った甘美な言葉を頂き、「おいおい、それじゃあツンデレじゃなくてヤンデレだぞぅ☆」と云った返し言葉によるコミュニケーションを応酬させていると、逆側から声が掛かった。

「あらん、お久しぶりなのに挨拶もないのぉ? イケズねぇ」
「……今日は厄日か」

 美顔筋肉クルーノさんはクネクネしながら云い、良くお世話になっていた喫茶店のマスターは遠い目をしながら達観したように呟いた。
 凄い温度差である。

「これはこれは、クルーノさんに喫茶マスター。お久しぶりです」
「そうねぇ」
「……誰が喫茶マスターだ。変な称号を付けるな」
「時に、何故学院関係者ではない御二方が此処に居るのでせう?」
「……貴様は知らなかったのか。決闘戦技祭は、一般市民も見学できるんだよ」
「そうよぉ。決闘戦技祭なんて、云ってみればお祭りみたいなものだもの」

 なんと、そうであったのか。得心がいった。

「……そも、何故に変態野郎が此処に居る」
「それもそうねぇ。貴方、学院生じゃなかったわよね?」
「変態では無く紳士たるワタクシですが、それには聴くも涙語るも涙、笑うものはされこうべな出来事がありまして」
「へぇ、どんな出来事?」
「そもそも僕は女王陛下に呼ばれて王都にやって来た訳ですが」
「変態行動をして城から追い出されたか」
「マスターに話のオチを取られた!?」

 まだ出だししか喋ってないのにっ!?
 ええい、マスターはニュータイプかっ!?
 あと、変態行動とかしてないよ!

「あら、そろそろ始まるわね」

 僕達を尻目に、会場に目を向けているクルーノさんが云う。
 ……この野郎、訊いて来たのはそっちの筈なのに、一切話を聞いていやがらないだと。
 僕に対する愛情が少なすぎる。

「……そうか、彼を相手取る時は無視するのが効果的なのか」
「勉強になるわね」

 後ろで物騒な会話が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
 そう思わなければやってられない。





 果たして、決闘戦技祭の第一試合、開始である。





*****





「とんでもねぇぜ、決闘戦技祭っ……!!」
「いいわねいいわね! 今年の決闘戦技祭はドラマに溢れてるわ!」
「……ドラマチック過ぎるだろう」

 決闘戦技祭の全容を知り慄く僕と、きゃーきゃー喚くクルーノさん。そしてマスターは呆れたように呟く。
 りっちゃんとレリーアは、いつの間にか購入していたお菓子を食べながら、今迄の試合を検証していた。
 現在、第六試合までが終了。その時点で分かった事は、今年のルールが過酷に尽きる上に、様々なドラマが発生すると云う事だ。

 第一試合。選抜者は3年の魔法を得意とする女子生徒vs3年の騎士志願の男子生徒。籤引きの結果、女子生徒の武器は“包丁”で戦闘方法は“武器での攻撃”のみ。一方、男子生徒の武器は“割り箸”で戦闘方法は“魔法での攻撃”のみ。
 この時点でルールの過酷さがモロに出ているが、第一試合で早くもドラマチックな展開となる。
 というのも、この選抜者は元恋人同士であったのだ。女子生徒による「貴方を殺して私も死ぬわ! だって、ふられても貴方の事を愛しているから!」という愛の叫びに、「待て落ち着け話し合おう話せば分かるっ!!」という男子生徒の切羽詰まった絶叫が会場に響いた。まさかの痴話喧嘩勃発に観客が息を飲む。
 結果は女子生徒の勝利。勝因である男子生徒の「生まれてきてすいません」という降伏宣言は会場中の涙を誘った。

 第二試合。我がクラスのアルジーナvs3年の男子生徒。アルジーナの武器は“鉈”で戦闘方法は“攻撃する際に高笑いをする”こと。一方、3年男子生徒の武器は“攻城鎚”で戦闘方法は“攻撃せずに相手を論破する”こと。えげつなさが半端無い。
 必死にアルジーナへと言葉を投げかける3年男子生徒であったが、アルジーナによる0次元萌え哲学による混沌とした内容に、壊滅的なコミュニケーション不全が発生。
 あまりにもあんまりなアルジーナを前に、3年男子生徒敗北。いと哀れ。観客達の哀愁を買った。

 第三試合。2年男子生徒vs2年女子生徒。武器は2年男子が“剣”で2年女子が“弓”。戦闘方法は互いに“自由”を引き、至って普通の地味な試合が開催された。
 そして地味に決着。2年男子が勝利。
 今までの流れでこの結果。あまりにも地味で普通な戦闘に観客全員が戸惑った。

 第四試合。1年男子生徒vs2年男子生徒。武器は互いに“錫杖”。戦闘方法は1年男子が“相手に対して一番云いたいことを最初に云ったら後は自由に戦う”を引き、2年男子が“相手から質問されたことに正直に答えながら自由に戦う”を引くという、籤引き内容の意味不明度では互いにミラクルを達成。
 しかし、1年男子による「先輩、俺、俺どうしても先輩のことが忘れられないッス! もう、俺とはやり直せないんッスか!?」という絶叫でドラマ展開発生。会場中がどよめく中、2年男子の「俺と一緒に居たら、お前を不幸にしちまうんだ! 分かれよ! 俺だって、俺だって本当は……っ!」という返しに会場のどよめきが頂点に達する。
 1年男子と2年男子の薔薇色戦闘。「それでも俺は先輩が好きッス!」「うるせぇ! 俺のことはもう忘れろ!」等と云う言葉の応酬を繰り広げながら戦闘し満身創痍の両者。
 最終的にはステージ中央で熱い接吻を交わすという暴挙を行い、まさかのダブルノックアウト。会場の九部が悲鳴に包まれ、一部が歓声を上げた。腐ってやがる。

 第五試合。3年女子生徒vs1年女子生徒。武器は互いに“素手”で戦闘方法もこれまた互いに“肉弾戦”となる。
 先程と同じ展開を見せるのではと会場中の男共が期待を膨らませ、その期待は二人の女生徒が繰り広げる昼ドラ展開を前に粉々に砕け散った。
 髪を引っ張り合い、張り手を喰らわせ合い、「この泥棒猫がっ!」「うっさいのよババア!」と罵り合うキャットファイト。観客の男衆が目を背けるも、女衆の「いいぞー! もっとやれー!」という姿を視界に収め、ガクガクブルブルと震えた。
 壮絶な試合の結果は、3年女子の勝利。「図に乗るんじゃねーよ小娘がっ」と云い放ち、唾を吐きかける姿に男共戦慄。
 その後、3年女子が観客席に向け、花も恥じらう可憐な笑顔で「たっく~ん! あたし勝ったよ~! えへへ~、やっぱりこんな奴よりあたしの方が好きだよね~?」という可愛い声を出した瞬間に男共の恐怖がクライマックス。件のたっくんとやらが「うわあああああああ!」と悲鳴を上げた。

 第六試合。1年3級女子と1年3級男子の同級対決。1年女子の武器は“剣”で戦闘方法は“自由”を引く。片や1年男子の武器は“盾”で戦闘方法は“相手に降伏を宣言させる”を引く。
 1年女子の怒涛の連檄を見事に盾で受け捌くも攻めあぐねる1年男子。ステージの端まで追いつめられる。十度目の激突後、唐突に1年女子が降伏を宣言。
 あのまま続けていれば勝利を拾えたのに何事かと注目が集まる中、1年女子の「やっぱり私には無理ね。だって、好きな人の勝つ所が見たいんだもの」という、青春発言発動。1年男子の顔が真っ赤に染まり、会場から歓声があがる。
 第五試合とは対照的な結末に、ほっこりとした空気が会場に満ちた。





 そして迎える第七試合。我等がローレ嬢、満を持しての降臨である。





*****





「すげぇぜローレ嬢。ルールを完全に無視してやがる」
「流石ね、ローレ。一撃一撃が実に重い」
「ローレって、魔法専門だとばかり思っていたのだけれど違ったのね」

 上から順に僕、りっちゃん、レリーア。
 ステージ中央では、ローレ嬢が対戦相手にマウントポジションを取って、顔面をぼっこぼっこに殴っている。飛び散る赤い液体がステージに色を付けまくっています。

「あああああっ!? 盾様と槍様に謝罪しろ! 下賤な手で触れた上に乱雑に扱いやがって! 盾様と槍様を重ねて置くとか死ね! 謝罪して死ね!」

 ローレ嬢の怒号が会場に響く。まるで鬼の様な形相で、対戦相手を殴る殴る。一発一発が渾身の一撃。対戦相手の顔面は既に崩壊しているにも関わらず、一向に止む気配を見せない殴打の嵐。えげつねぇ。
 思いっきり反則なのだが、その圧倒的な迫力を前に審判は尻込みをしている。正直、ローレ嬢が本格的に鬼子母神化する前に止めて頂きたい。

 時間を遡ること、およそ1分前。
 ローレ嬢が武器として“メイス”を引き、対戦相手が“槍と盾”を引いた。その際に「やだぁ~。あたしぃ、こんなに重い物持てなぁい」とシナを作るローレ嬢。その姿に観客の幾人かが「がんばれー」と声援を送る。
 そして引かれる戦闘方法。ローレ嬢は“武器のみで攻撃”、対戦相手は“素手”を引き当てる。その後、審判により所定の位置につかされる二人。「えっとぉ、手加減してねぇ」と語尾にハートマークが付きそうな甘ったるい声で、キャピキャピとした態度のローレ嬢に対戦相手――性別は男――は鼻で一笑。ローレ嬢の口元が僅かに引き攣る。

 試合開始の合図が為された直後に悲劇、否、惨劇は起こった。

 対戦相手が「こんなの無くても楽勝だな」と槍と盾を乱暴に投げ捨てる。投げ捨てた直後、ローレ嬢の鉄拳が対戦相手の顔面を捉えた。吹っ飛ぶ対戦相手と云う名の獲物に追い縋り、倒れ伏した獲物からマウントポジションを奪う。
 殴打という名の公開処刑執行。
 一瞬にして間合いを詰めたローレ嬢であったが、戦闘行為が明らかなルール違反。審判がローレ嬢の反則を宣言するも、鉄拳制裁は終わらない。
 殴りに殴って殴る。殴打の乱舞。鉄拳が嵐の様に乱れ舞う。対戦相手は原始的な顔面整形を受ける受ける。観客はあまりにも酷い光景にドン引く。
 この暴挙に審判が止めに入ろうとするも、ローレ嬢の殺人鬼もかくやという眼力及び「あ゛あ゛ぁ?」というドス声を前に、「なんでも御座いません」とヘタレる。

 そんな審判を一切気に留めること無く「有機物如きが無機物様になんてことをしていやがる! 謝れ、謝罪しろ! 命で償え!」と叫びながら殴り続けるローレ嬢。
 メイスを重いと引き摺っていた非力な少女の姿からは想像も出来なかった、一流の武闘家にも劣らない剛力鉄拳が乱舞という光景が展開。なにこれおそろしい。自分の事を棚に上げているところとか特に。
 会場が静謐に満ちる中、冒頭に戻り、現在。

「おや、終わったね」
「重なっていた槍と盾を別々に置いているけど、なにか意味があるのかしら?」
「審判が未だに怯えているで御座る」
「うふふ。今、声を掛けるかどうか迷ってるわね。可愛い」
「……なんなんだ、今年の決闘戦技祭」

 りっちゃんの言葉を筆頭に、レリーア、僕、クルーノさん、マスターという順番で続く。
 ざわざわと、ざわめきを取り戻す観客席。
 オロオロとして一向に声を掛けない審判に、これまた一向に処刑場から降りようとしないローレお嬢様。
 困惑に依るざわめきが高まる中、ぽつりとローレ嬢がなにかを呟く。次第に静寂を取り戻す会場。
 ぶつぶつと何かを呟くローレ嬢の言葉が、次第に聴こえるようなって来た。

「……っ、てかマジで有り得ないんだよクソがっ。盾様を槍様に被せて置くんじゃねーよ。これじゃ、盾様が攻めか誘い受けか誘い攻めみたいじゃねーかってんだよ。それはそれで味があるけどよ、そんなのは有機物がとっくにやってるだろうがっ。なんの為の無機物だと思ってんだよ。攻めとか受けとか擬人化とか無機物には不要だろうがよ。そんなモノを超越しているのが無機物だろうによぉ。無機物は喋らないし意志を持たないからカップリングが萌えるんだろうが。無機物を接触させて萌えるのは三流、離して萌えれてようやく二流、無機物を正しく無機物と捉えて欲情出来ることこそが一流の条件だろうに。そんなの常識の不文律だろうがっ。重ねて置いたら、攻め受け擬人化を示唆しているみたいだろうが。そんなのは四流がすることだってんだ。無機物カップリングマイスターたるこのあたしに、こんな暴挙をするなんて非常識野郎が。そもそも、無機物の盾様や槍様を乱雑に扱いやがって。戦い以外での傷は盾様と槍様に対して不敬じゃねーか、クズがよぉ。もしもこれで傷が付いていたら、このゴミのチ●●をズタズタにしてグチャグチャにして●ツ●●に他の奴から切り取った●●ポを……」

 なんだかすっごい物騒でカオス塗れの言葉が朗々と響く。
 意識して呪い染みた言葉を全てシャットアウト。
 なにも聴こえない。僕はなにも聴こえないよ。聴いてしまったらSAN値をガリガリ削られるか、開拓してはいけない境地を開拓しそうになるから。良い子で紳士な僕は、そうならない為にも聴いてはいけない。いけないのだ。
 ダメ、絶対。僕はノーマルだもの。

 そんなこんなで、ローレ嬢は反則により敗北。
 会場から辞する際に「やぁん。わたしったらちょっと、はしたなかったかもぉ。てへっ☆」という、人格が変わったんじゃないかと思わせるほどの変貌を見せた。

 女性は魔物。女は生まれついての女優。





 これほど彼の格言が身に染みたことはなかった。





*****





 続けて始まった第八試合。
 微妙な空気のまま始まり、微妙な展開を催し、微妙な終幕を遂げた。あな悲し。

 というのも、前試合の濁った空気が滞留するなか、籤で提示された戦闘方法が両者互いに、まさかの“クイズ”であった。
 しかも内容が普通。これがぶっ飛んだ内容であったのならば、きっと、そこそこの盛り上がりを見せただろうに。因みに、武器は“爪切り”と“三味線”だった。
 結果、あまりにも平凡な終わり方に会場はノーリアクション。居心地悪そうに帰って行く選抜者二名。そこに勝者と敗者はいなかった。
 負けた方が「武器を使う試合なら勝てたのに……」と呟いていたが、果たして爪切りでどのように勝利を拾うつもりだったのか。
 なにはともあれ、未だに滞留するは、この何とも形容できぬ空気感。

「ならば、この僕が全てを払拭するしかあるまいよっ。そう、これは紳士を自負する者の義務であろうからっ」
「どうでもいいから早く行きなよ。呼ばれているよ?」
「斬新な登場の仕方をすればいいわよ。身体が千切れ落ちながら半死半生で入場した後、開始早々爆発するとか」

 りっちゃん酷い。レリーアは発想が下衆い。興奮するからもっと云ってくれ。
 だとかなんとか考えている間も、僕を呼ぶ放送が会場内に響く。
 しかし、まさか僕の名前が【糞莫迦外道のゴミくず】で登録されているとは思わなかった。

『糞莫迦外道のゴミくず君、早く会場に来て下さい。繰り返します。糞莫迦外道のゴミくず君、早く会場に来て下さい。時間内に来ない場合は不戦敗となります。糞莫迦外道のゴミくず君、早く会場に来て下さい。繰り返し……』

 繰り返される放送内容に、会場内がどよめく。
 世が世ならば、筆舌に絶すイジメだぜ。というか、放送してる人が淀みなく云ってる辺りにプロ魂を感じる。
 よもや大衆の面前で恥を掻かされるとは思わなんだ。おのれ副ティーチャー、愛してるっ。

『糞莫迦外道のゴミくず君、あと三十秒以内にステージ上に居ない場合は不戦敗とします、早く来て下さい。カウントを始めます』
「ねぇねぇん、本気で行かなくてもいいのぉ? 失格になるわよぉ?」

 なんだかカウンティングを始めた放送。
 クルーノさんが割りかし本気で急かし始める。

「ふふっ、主役はギリギリで登場するから格好良いんですよ」
「そんな発想をするとは、やはり馬鹿か」

 マスターがナチュラルに毒舌です。
 なんだか僕に対して風当たりが強くね?

『十ニ秒、十一秒、残り十秒……』

 むっ、カウントが十秒を切った。そろそろ行くとするか。
 大きく息を吸い込み、観客席の縁に足を掛ける。

「僕はここにいるぞっ!!!」





 叫び、勢いよくステージへと跳び出した。





*****





 負けたで御座る。





 ダイナミック入場を果たそうとした結果、足を滑らせてステージから落下。着地位置がステージ端だったが故の不慮の事故。エンカウンター極まるね。
 少々気恥ずかしくも、ステージへと登ろうとした瞬間に、まさかの『規定時刻を過ぎました。糞莫迦外道のゴミくず君、失格』と云う放送員からの敗北宣言。
 唖然呆然愕然悄然。「え、マジで?」と思わず呟いてしまった。
 いや、いやいや、主人公にして紳士たるこの僕が闘わずして負けるとか。ここ一番の見せ場が潰れるとか。ここは僕がなんやかんやで優勝する流れだろとか。担任様のパンティーを拝見出来ないとか。副ティーチャーの下乳が拝めないとか。

 理不尽極まる結末。不条理に尽きる結果。裏切りの様な終幕。
 第九試合。つまり僕が輝く時。それが、まさかの不戦敗。え、なにこれこわい。意味が分からな過ぎてこわい。
 物語の超展開に自失している僕に対し、会場中からブーイングが巻き起こる。特に、我が男子クラスメイト達の怨嗟の声がひと際大きかった。

 曰く、「俺達の夢を返せー!」「これだからお前ってやつはっー!」「死ねぇ! 死んでしまえぇ!」「返すで御座る! 拙者達の希望を返すで御座る!」等など。俗世に塗れて穢れ切った言葉が飛ぶ飛ぶ。
 だが、僕は一言物申したい。一番ショッキングなのは僕だと。てっきり、この決闘戦技祭で優勝して、ダブルティーチャーズとのオニチクエロゲ展開になると、心底思っていたのに。

 それがどうだ。
 なんだこの結果はっ。
 誰のせいだっ?! ………僕のせいだっ!!

 なんてこったい。申し開きのしようがない。
 あまりにも希望の光が見えぬ展開。こんなことなら、普通に入場しておけば良かった。後悔先に立たず。悔やんでも悔やんでも悔やみきれぬ。なんかもうホントにごめんなさい。僕は紳士失格で御座るよ。

 魂が抜けた状態の僕は、客席に戻った。
 一応、残りの試合も見ようと思っていたので戻ったのだが、ショックのあまり試合内容を一つも記憶出来なかった。
 見ているけど見ていないという不思議な状態。
 まるで表情だけは取り繕って授業を受けているけれど、頭の中では学校にやって来たテロリスト共を格好良く薙ぎ倒し、学校一の美女に惚れられるという妄想を行っている思春期の少年のような状態。
 なので、試合内容とか全然覚えていない。

 取り敢えず、今年の決闘戦技祭の優勝者は、予選第三試合で勝利した2年男子であった。地味だったのに凄いね。
 嗚呼、あとはもう表彰式だけかと、冷め切った頭で思う。
 どうでもいい、至極どうでもいい。ご褒美の無くなった行事などに興味は微塵もない。
 僕が考えることは、ただひとつ。この状況から、どのようにしてダブルティーチャーズ姉妹からご褒美を賜るかという一点。
 考えろ、冷徹な思考能力で。模索しろ、煮えたぎる心の情熱で。諦めずに、極小の可能性を見つけ出せ。パンティー&シタチチと云う名の勝利を呼び込むために、考えることを止めるな。

 そんな僕の思考を切り裂くように、再び放送が流れる。

『これより、最弱選抜者決定戦を開催致します。予選及び決勝戦で無様に敗北した皆様は、ステージ上へお集まりの上、再度くじをお引き下さい。繰り返し……』

 なん……だと……?
 最弱決定戦? マジで? なにそれひどい。寧ろえぐい。それは、もはやイジメだろう。

『尚、この最弱選抜者決定戦で最弱になった御方には、事前にご記入頂いたアンケート用紙の“もっとも屈辱を感じることはなんですか?”という項目に書かれた内容を明日から一週間にかけて、実践してもらいます』
「……うそだろ」

 絶句。
 決闘戦技祭、ここまで下衆いのかっ。
 唐突過ぎる放送内容に、会場内から数人の悲鳴が上がる。

「ま、負けられないっ! 色々な意味で負けられないっ!」

 最初は、この最弱決定戦で勝利し、それをネタに舌先三寸口八丁でダブルティーチャーズ姉妹からご褒美を得ようと考えた。
 しかし、事態は更なる深刻を迎えた。
 負けられぬ、絶対に負けられぬっ。あんなことをする位なら、全裸で王都を徘徊する方がまだマシだっ。だって普通に出来るからっ。

「呼ばれてるわよ、ゴミ虫。早くいきない」
「時に、君はどのような内容を書いたんだい」
「残念だが、りっちゃんにもそれだけは教えられない」

 レリーアの蔑む視線に興奮しながらも、りっちゃんに断りを入れる。
 ごめんね、これだけは口にするのも嫌なんだ。

「逆に気になるわね、云いなさいよ」
「ふむ、君の弱点か。実に興味をそそられるね」

 詰問しようとする二人から逃げるように、僕は再びステージへ向かうために観客席の縁を蹴り、宙を舞った。





 着地時に足を挫いたで御座るよ。痛し。





*****





 試合に敗北した我等負け犬一同。
 ステージ上で次から次へと籤を引く。
 着々と籤を引き進める負け犬仲間の皆様方。これもまたトーナメントだとかで、その順番を決めている。まぁ、変則トーナメントらしいから、油断は出来ないが。
 黙々と籤を引きに行く姿は、まるで死地に赴く殉教者のようである。傍から見たら、これは確実に不審者集団だがね。

 そして僕の番である。
 箱の中に手をぶち込んで中をまさぐる。ちっ、これが箱では無くて女性のあ……いや、流石にそこまで考えるのは止しておこう。
 今、背筋がぶるっときた。ぶるっと。メアやジジが本意気で放つ殺気に似ていた。急所狙いの攻撃を本気で真面目に容赦なく叩きこんでくる場面が脳裏に思い浮かぶ。おや、なんだか昂って来たよ?
 もしや、いま、ここに居ない、よね? ドキドキワクワク。

 若干の恐怖と多大な期待感を携えながら、籤を箱から引き抜く。
 そこに書かれていたのは“やったね、特殊シードだよ!”という文字列である。なんだこれは。たえちゃん的なノリか。家族が増えるよっ!
 ここでいう、たえちゃんという名称を聴いて、子供コミックのお色気漫画ヒロインが浮かぶ人は純粋な輩である。それ以外が浮かぶ奴とかマジ非道魔道極道。

 蛇足消去。さて、これは一体全体どういう意味か。
 頭を捻っていると、審査員である初老の教師が僕の疑問に答える。

「おお、これを引くとは。百数枚の中で、一枚しか入れていなかったものであるのに。なんという悲運」
「待て、悲運ってなんだ悲運って」
「説明するとだ、この籤内容は特殊シード。即ち“チャンスは一度で掴みとれ”という意味を込めて、決勝戦に問答無用で登録されるものだ」
「え」
「よって、お主は、一度の敗北で最弱決定ということだな」
「ええっ」
「頑張るがよいわ」

 そう云い残し、ガハハッと笑って去る初老教師。
 愕然と、僕は特大魔法掲示板に映し出されているトーナメント表を見遣る。どこのハンター2乗で出てきた試験だと云いたくなるようなトーナメント表。
 直通で決勝戦に引かれた線。その最下部に、僕の名前――糞莫迦外道のゴミくずとかマジ勘弁――が記される。





 え、なにこれ意味分かんない。





*****





 あっという間に最弱決定戦最終試合。

 つまりは僕の試合である。ほんとにあっという間だよ。
 次から次へと、その持前の不運によって試合を負け昇って来た僕の対戦相手となる輩と共にステージに並び立つ。
 ちらりと対戦相手の横顔を覗き見ると、凄まじい程の絶望感漂う表情をしている。まぁ、それも無理のないことだ。なにせ、全試合で戦闘方法が“攻撃不可”という、試合として成り立たない籤を引いているのだから。
 うん、もう哀れここに尽きる。不運っぷりが凄い。教育放送アニメの保険委員長並の不運っぷり。

 そんな対戦相手に対し哀れに思う気持ちもあるのだが、正直この不運っぷりならば、僕が負けることはないだろうという安心感の方が強い。
 故に、この試合、悪いがふるぼっこにさせてもらうっ。

 決意を再度心に滾らせ籤を引く。先ずは武器。
 籤には“割り箸の袋”という文字。なんだと。
 思わぬ展開に動揺。いや、だがまぁ落ち着け、僕よ。これはあくまで武器の籤結果だ。戦闘方法が未だに残っている。そちらに賭けよう。
 気持ちを新たに、今度は戦闘方法の籤を引く。さぁ、僕に奇跡をっ!
 籤に書かれていた文字は“武器のみで攻撃”というもの。
 割り箸の袋でどうしろというのだろうか。そもそも割り箸の袋を武器として認めた阿呆はどこのどいつだ。

 まさかの籤引き内容に絶望しそうになるが、相手はここまでの全試合で絶対不運を発揮してきた猛者。大丈夫、まだ望みはある。
 僕の一縷の希望を知ってか知らずか、相手は籤を引く。その内容が、武器は“自分の獲物”で戦闘方法が“自由”であった。

 どうあがいても絶望なり。
 喝采を上げる対戦相手と、悲嘆にくれる僕。納得がいかぬ。何故にここまで来て、こんな展開になるのだ。責任者出て来い。

「それでは、二人とも所定の位置にお着き下さぁい」

 対照的な反応を示す僕等に構わず、審判役の女教師が声を掛ける。
 おっとりした雰囲気(なぜか変換出来る。今更だね!)を醸し出す御仁。嗚呼、この殺伐とした心が癒される。

「早く位置に着いて下さぁい」
「貴女様が、その立派なお乳を揉ませてくれるのならば」
「早く行かないとぉ、この鑢で貴方の●●●をゴリゴリ削ってぇ、削れたカスを食べさせますよぉ?」
「おいこらてめぇ早く着けやぁ! 審判様が御待ちだろうがぁ!」

 純白天使降臨かと思ったら違ったで御座いますよ。
 股間がキュッとなる様な言葉を発する女教師様。あな恐ろしや。流石の僕も、男の誇りを削られるのは耐えられないのですぅ。
 ニコニコと真っ黒な微笑を浮かべる女教師様から視線を外し、もたもたとしている対戦相手を叱り飛ばす。まったく、なにをちんたらとしているんだ。
 ぷんすかと怒り心頭の僕に対して、「な、納得いかねぇ……」と口にし、釈然としない様子で定位置に着く相手。一体なにが納得いかないのか。僕はびっくりするほど納得しているというのに。

 取り敢えず、所定位置に着く僕と相手。
 相手は杖を構え、僕は割り箸の袋を構える。この状況、傍から見るとシュール過ぎるだろう。
 些細な事に気を割いている僕に対し、相手が自信に満ちた言葉を口にする。

「ふふっ、最初に云っておくがね。君が私に勝つことは、万が一にも有り得ない!」
「なんて卑猥なことを大声で。変態めっ」
「なにがだっ!? それと君だけには云われたくない!」

 ぷんぷんと怒り始めた対戦相手。情緒不安定過ぎる。ビタミンを取るがいいわ。
 しかし内容はどうであれ、今の発言で対戦相手が目立ってしまう。このままでは僕の影が薄くなっていけない。
 ここは僕もなにか格好良いことを云っておこう。

「ふっ、ならば僕も貴様に云っておくことがある」
「なにぃ?」
「貴様は、僕に触れることさえ出来ずに敗北するのだ!」
『ギリッ』
「おい、誰だ!? 今の発言のせいで僕の格好良い台詞が、ただの負け惜しみになっているじゃないか! 歯軋り音なんてだすなよ!」
『キリッ』
「おいいいっ! 違うよね、タイミングが違うよね!? 僕が今の台詞を、どや顔して云っているみたいじゃないかっ! ただのバカみたいなっているじゃないかっ!」
『ぶりっ』
「よし、いま云った奴出て来い。久しぶりに切れちまったよ。何故に文句を云いながら漏らしているんだよ僕はっ! どこのどいつか知らないけど出て来い!」
「……なにをしているんだ君は」

 突如として会場から入った茶々に言葉を返していると、対戦相手が呆れたように声をかけてきた。
 おお、こいつのことをすっかり忘れていた。忘れたままでも支障ないけど。僕の人生的な意味で。

「ああもうっ! とにかく行くぞっ!」

 大声を出して、杖を前に出す相手。

「魔法主体かっ」

 見覚えのある動作に、身構える僕。
 しかしながら、一向になにも起きないことに疑問を覚える。
 むぅ、どうしたんだ。

「ふははっ、やはりバカだな! 私の得意技能は魔法ではない!」
「早口言葉かっ!」
「違うわっ!?」

 はぁ、と溜息を洩らす相手。どことなく疲れているように見えるが、一体全体どうしたのであろうか。

「まあいい。私が得意なのはな――」

 瞬間、全身を駆け巡る寒気。
 相手の眼前で、何かが、なにかが、ナニかが、出現しようとしているっ。
 体内を巡る怖気に従い、相手との距離を一瞬で詰める。そして右拳を顔面に突き刺そうとして。

「――召霊術だ」

 人型の、光の塊に、止められた。
 止められたばかりか、腹部に衝撃を受けて吹き飛ぶ。ゴロゴロとステージを転がり、危うく場外寸前という所で止まる。
 ガバリと顔を上げて光の塊を見遣れば、そこに――



「おいおい、坊主。ルールは守らにゃいかんぜ?」



 ――スーツ姿で頭頂部が薄くなったオッサンが、居た。

 いや、いやいやいやいや。何故にオッサン。どうしてオッサン。年の頃が五十代と思わしきオッサンが、なにゆえ。
 普通、こういうのって竜とか妖精とか精霊とか死霊とかじゃないのか。なにゆえ、どこにでも居そうなオッサンなんだ。

「ふむ。どうやら先の一撃は、攻撃にさえなっていないと判断されているようだな。反則扱いがないか。それとも、手に握りこんでいたから、武器としての攻撃と判定されたのか。……どちらにせよ、目が良い様だな」

 なにかを喋っているオッサン。そんなことよりも、びっくり展開のせいで頭が上手く動いていない。
 取り敢えず、くたびれたスーツに哀愁を感じるのですががががが。

「さってと。……準備はいいな、坊主?」

 うわぁ、将来あんな頭になりたくねぇとか考えていたのだが、圧倒的な害意を感じ、即座に迎撃態勢を整える。
 どうやら、見た目とは裏腹に相当な実力者だと認識を――その場から横っ跳びに退避。

 ズドンッ、と轟音ひとつ。
 視線の先。僕が先程まで立っていた場所が粉微塵に砕け散っていた。

「……洒落になんねぇぞ、おい」
「おおう、よく躱したなぁ。並の奴らなら、この一撃で御釈迦様なんだがな」

 冷や汗を流す僕に、獰猛な笑みを浮かべるオッサン。
 見た目は凡庸な中年なのに、その身に宿す実力がとんでもない。
 容姿と実力のギャップがあり過ぎるだろうと、内心で舌打ち。どこのチョーさんだ貴様。





 直後、オッサンが襲いかかるっ!





~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

 大変なご時世にこんな拙い作品を書いていて良いものか。迷い所です。
 しかも無駄に長い。予選の試合内容とか削れば良かったかしら。もしくは冒頭すべて。
 プレビュー機能が使えないので、文章の構成が把握出来なくてつらい。

▼きっと、きっと、僕は辿り着ける。そう、あの児童溢るる路地に飛び込めばっ。

>主人公は本当にどこにたどり着くんだろうかwww

むしろ、この主人公は意味不明な処に到達している可能性が。


>尻ass最高です!w一家に一台是非とも欲し(ry
>ある意味世界団結かもww

嫌な世界団結で御座る。
そして、拙作の評価に尻assが固定されてしまっている。由々しき事態で候。


>上には上がいる。
>紳士道の奥深さに、眩暈がする程の感動を覚えました。
>それはさておき、女王様気取りの娘さんは自分が要求したことをされただけなのに、なぜ許しを乞うたのか謎です。
>さすが俺達の主人公だぜ!と思った自分自身の感情も謎ですが、不思議と悪い気はしませんでした。
>もう自分が何を言っているのか分かりません。
>今回も大変美味しく頂きました、これからも御作を拝読させて頂ければ幸いに存じます。

わざわざご丁寧に感想ありがとうございます。
これからも拙作を御目汚し暇潰し程度に御読み頂ければ幸いです。

>そして私は佐○木希似な女子大生(20歳)ですが、結婚して下さい。
>まぁ嘘ですが、頑張って下さい。

危なかった。佐々木小次郎似の女子大生(20歳)だったら、嘘を嘘と見抜けなかったかも知れない。危なし危なし。


>担任様と副担任様可愛すぎる
>なじられてぇ

作者にはどうすることも出来ないので、せめて貴君の脳内彼女に詰られてくださいませ。


>担任様をお持ち帰りさせていただく!
>妹!? おしとおいたいいたいやめてぶたないでばくさつしないでれきさつしないであっさつしないでいやぁぁぁぁぁぁ!
>主人公・・・世界に一人はいたほうが良いよね。世界が賑やかになる。ただし二人は要らない!

担任様をお持ち帰る権利は未発行で御座いまする。申し訳ありません。
主人公が実際にいたら、確実に一人悶死することでしょう。作者とか。


>うわぁ・・・
>なにこの紳士淑女の集合体・・・

2年0級生徒で御座い。


>おねぇちゃんを嫁に下さい!何なら副ティーチャーも込みで!!

全裸になってタケコプターで空を自由に飛び回る度胸がない輩とは、婚姻を結びたくないと、主人公が代弁しております。


>俺、作者が大好きだ!

作者も、えっちぃお姉さんが大好きです!


>お早い更新に歓喜!
>そして主人公も周りも紳士・淑女しかいないw
>0次元萌えって、どこに萌える要素があるんでしょう?

0次元萌えに萌える要素を見出せた時、孤独と云う名の地獄が待ち構えています。ご注意を。


>うお!更新されてる!
>とりあえず本当にノーパンか気になって夜も寝れないので確認させてください。
>あ、自分が確認するんで。
>一人だけだったらいけるよね?

逝けると思います。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.078359127044678