<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7628] 『習作』 再・恋姫無双(真・恋姫無双二次創作 一刀転生物)   改訂版掲載
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2013/01/17 00:34
この作品は、処女作です。

至らない部分がたくさんあると思いますが生暖かい目で見ていただいたら幸いです

尚、この作品に出てくる一刀はスペックが高く原作キャラも性格改変の可能性があり独自解釈もあります。


それでも良いという読者様はぜひ見てください




2009年三月より投稿開始



[7628] 願い
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/04/14 01:32
「ついに終わるか…」

自分の体が鉛のように重くなっていくのがわかる。
いままで何度も死線をくぐってきたが、死ぬというのははじめての経験だった。
しかし、そこには恐怖は何もない。生きてきた人生の中でやるべきことはすべてやってきたと思うから。

長い年月を掛けて
武を鍛えた…結果・武神と呼ばれるようになった。
 
智を磨いた…結果・国の守護者と呼ばれるようになった。
 
技を学んだ…結果・偉人と呼ばれるようになった。

これもすべては若き日に見た夢が原因である。

学生の時に見たあの夢…戦乱の夢。

そこで俺はかけがいの無いものに出会った。

現実のものではない胡蝶の夢だったのかもしれないが、彼女達と駆け抜け、触れ合い、愛し合った日々は夢というには余りにもリアルに感じたし、なによりも別れ際の彼女の言葉、涙、表情が頭から離れなかった。

あの世界に生きる彼女たちは傑物ばかりであった。

心を通わせ・体を重ねることはできたがあそこで俺ができることといえば、記憶を使って危機を回避した程度のことであった。

戦では役立たず、策を出すにもあの中では余りにも稚拙だった。それでも三国を平定したときには(こんな俺でも…)と思うことはできたし彼女達も俺の働きを認めてくれていた。…だが、俺は消えてしまった。「離れない」と誓ったのに、「いつまでも一緒に」と言ったのに…

「愛している」
 
といったのを遠い昔の記憶だがいまでも鮮明に残っている。

そんな現実とも取れる夢から覚めた俺は泣いた…声が枯れ、精神が磨耗するまで泣いた。 
しばらくは引きこもりのような生活を送った。現実に絶望していたから。 

だけど考えた、「このままでは彼女達に顔向けできない…」と誇り高く心優しい彼女達が愛したのはこんな俺ではないと思ったのだ。

だから誓った「いつかまた出会う日のために良い男になってやる」と…

実際、心も体も人としての魅力もそれなりの男になれたのではないかと思う。

たくさんできた知人や友人達からは女性を紹介されたりしたが、彼女達と比べるとどうも見劣りしてしまい結果この年になるまで嫁はもらわなかった。

だが、こんな俺を父のように・兄弟のように・息子のように思ってくれる家族ができたから余り後悔はしていないしそれだけ頑張ってよかったと思っている。

だけど、もし生まれ変わることができたのなら今度は

天和・地和・人和・桂花・風・凛・霞・凪・真桜・沙和・流琉・季衣・秋蘭・春蘭

そして…

「華…琳…」

彼女達と生きて行けたら良いなと願った。


この日…現代の生んだ風雲児 北郷一刀 がこの世から去った。










「…ん?」

気づいたら俺はなにも無い空間に漂っていた。

暑くも無く、寒くも無く、明るくも無く、暗くも無い空間だった。

体を動かそうとしても動かない・目を凝らしてもなにも見えない・感じることは出来るのに確認できない。かなりあやふやな空間であるとわかった。

「ここがあの世…かな」

自分が死んだということは何となく感じていたため、ここはあの世かそれに続く道ではないかと考えた、それにしても…

「本っっ当になにもない」

やっぱしあの世に行くには、三途の川があってお花畑があって鬼がいて閻魔さまがいるというものを想像した俺にとってはこの空間は肩透かしもいいところだった。

「ってなに勝手に地獄行きにしてんだよ… おう!?」

とりあえず溜息をついたら… 背中から寒気を感じ

「どぅふふふ… だぁーーーれだ?」

と目を隠された… 野太い声で。

そこからの俺の行動は速かった… さっきまでの拘束感も無かったかのように抜け出しゆっくりと後ろを確認した、そこには… 三つ編みで紐パンでマッチョな何かがいた

「あらん、一刀様ったら逃げちゃってほんとにもうシャイなんだぶるぅぅぅわぁぁ!!?? 」

俺はそれが言葉らしきものを言い終わる前に、全力全壊で殴る蹴る極めるのコンボ決めた後そこには、血まみれでピクピクと痙攣しながらも恍惚な顔を浮かべるものがあった。

うかつにもそれを目視してしまった俺は

「やっぱ… 無理」
 
と口を押さえながらこみ上げる吐き気と格闘していた。

吐き気もおさまり気をとりなおして見てみると、今までそこにあったものはケロっとした顔をしながらこっちを見ていた。すると

「んもう、ご主人様ったらいくらびっくりしたからって、ここまでやることは無いじゃない? だ・け・ど、無表情ながらも私を殴る御主人様…思い出すだけで素敵だわん」

などとほざきやがった。もう一回コンボをお見舞いしてやろうと思ってたら

「じょっ冗談よん、じょ・う・だ・ん…だけど怒った顔もス・テ・ぶほわぁぁ!!」

… 思考よりも先に体が反応した。



[7628] 慟哭~そして始まる
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2011/05/31 00:41
「冗談だっていったのにぃん…」
                    
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ!! 貂蝉!!」

俺の言葉を聞いたと同時に貂蝉はうれしそうに顔をほころばせた。…今度は寒気は起きない。なぜそのような顔をするのかは疑問であったが貂蝉に対する警戒を緩めた。

「あらん、警戒をゆるめてくれたのねぇん。」

「まあな、とりあえず今のお前からは変な気は感じないし。なによりも」

貂蝉を指差して

「俺に対してそんな顔をする人に殺気を放つのは失礼だろう?」

と言ってやった。

まぁ、こちとら人生の中で何十人もの政治家や達人どもと腹の探り合いをしてきたんだ。いまさら、表情から相手が何を考えているかなんて丸解りだっつーの。

そう指摘してやると、貂蝉は少し呆けてから顔をまたほころばせた。

「あぁん、ご主人様ぁん。少し会わない内にすごい良い漢になったのねぇん。」

… 男という字がなんか違うように聞こえたのはスルーしておこう。
… いや、スルー出来ないことが一つだけあった。
この際だ聞いてみるか・・・

「なぁ、貂蝉」

「なにかしらん? 」

「何故俺は、お前の名前を知っている? そして何で俺の名前を知っている? 」

そう、これが引っかかっていたことだ。
俺はこいつに名乗った覚えもないし、名乗られた覚えもない。忘れたという路線もあったが、こんなインパクトの強い奴を忘れるほど、俺の脳みそは衰えちゃあいない。

「うふん、やっと慣れてきたみたいねん。」

どういうことだ??と聞こうとしたら

「!?!」

頭の中にいくつもの光景・・記憶が津波のように流れ込んできた。
その記憶の中心にいるのは俺。だが・・

(こんなの記憶に無い!!)

すべて覚えの無いものばかりであった。
そして全部が全部

(さっき死んだばかりだっていうのによ!?)

俺が死んだという記憶であった。
子供を助けようとして切り殺される俺・罠にはめられて死ぬ俺・女の子をかばって毒矢にささった俺・病気で死ぬ俺・事故で死ぬ俺……
何人もの俺の死の記憶が頭に入ってくる。 痛みや辛さに対しては乗り切ることが出来るのだが問題はその後、泣きながら俺に集まる少女達姿を見たとたん。

「あ… あああ!? 」

胸が引き裂かれそうになり、目から涙が止まらずいつの間にか俺は泣き叫んでいた。
そう胡蝶の夢から帰還したときのように…



最後の波が終わった後に俺はその場にへたり込んだ。全身汗で濡れ、顔から上半身に至っては汗と鼻水と涎と涙でぐしょぐしょというかグチャグチャというか・・・とにかくカオスな状態だった。

「ガハァ! ゲホ!! ゴホ!!」

泣きすぎでえづいてしまい喋るどころかもう少しでゲロる所だった。呼吸を整え貂蝉から渡されたタオル(漢女とびっしりと刺繍されていたがこのさい気にせず)で顔を拭った。

「いっ今のは? 」

息も絶え絶えながらも聞く

「ご主人様の記憶よん… 無念の死を遂げたねん」

そういうと貂蝉は話し始めた。

ここは正史と外史の狭間であるということ、あの胡蝶の夢が現実でそれは外史とよばれていたこと、外史は正史から派生したものということ、そこには無数に「俺」が存在したこと、あの記憶は志半ばに死んだ俺の記憶だということ

俺は彼女達を悲しませるだけの存在なのか?

そう思うと自己嫌悪に落ちそうになった。いくら精神を鍛えてもこたえるものはこたえた。だが・・・

「大丈夫よん、ご主人様はちゃんとあの子達を幸せしてたから。」

聞くと俺に流れてきたのは途中で力尽きた(俺)の記憶だけでそれ以外の俺は幸せにやっているということらしい。

貂蝉の顔を見ると本当の事を言っている様だった。
どの俺の記憶かわからないが俺は貂蝉のことを信頼していたらしい。ここは、記憶を頼りにしてこいつを信用いや信頼すべきだろう。

「そうか」

「まださっきのことを説明してなかったわねん」

そう言うとまた説明を始める。
正史の中では、この世界に対する想いというものがたまりすぎてパンクする直前だったらしい。と同時に正しくは、俺の人生が終わると同時にはじけたというわけである。

「はじけとんだか… それでも存在しているということは、もしかして正史とこの世界は別のものになったと考えていいのか?」

「そういっても間違いはないわん… この世界すべての外史が正史になったというわけなのよん」

「独立したというのか…」

「そういうことよん。鋭いわねんご・主・人・様」

思わずグーが出そうになったがそれを抑えて

「腰を折ってすまん、続けてくれ。」

と促した。

貂蝉が言うには正史の人間が最後に、ドロップアウトした北郷一刀を主役にした外史の土台を作りこれからシナリオを考えるというところで今回のパンクが起こった為に世界が一つだけ余ってしまったということである。

そして、その正史となった外史の主人公を選定する役目を負ったのが貂蝉だったらしい。

「一目、見たときにこのご主人様しかいないって確信したのねん」

だけどと言葉を挟む

「違うご主人様達にも幸せになってほしかったのよん。だけど選べるのはあなた一人だけ… だから賭けにでたのん」

「賭け?」

「違うご主人様の記憶をあなたに統合したの… 死んでしまったご主人様たちと違ってあなたは一回外史を終わらせているし、その後も死ぬまで鍛えつづけたために心・体共に高い所まで昇華していたからあのフラッシュバックに耐えられると思ったのよん。」

確かに17歳やそこらで死んだ俺にあれが耐えられるとは思わない。
だが、俺は耐え切ったということは…

「合格…ということでいいのか?」

「ええ、だからご主人様は耐えてくれたわん。だから、新しい扉の鍵をあなたにあげる」

「だけど、俺にとっての一番はやっぱり華琳達だ、違う女の子のを見れるかどうか。 それに、ほとんどの子の真名を覚えていない。」

この記憶は俺の物であるが俺の物ではない。 
想いを受け取ることは出来たが、彼女達の性格や真名までは教えてくれなかった。
さすがに俺一人では限界がある… そう言おうとしたとき。

「ぶるうわあああああ!!」

気合とともにかき消された…

「ご主人様… 弱気はだめよん。魏の種馬と呼ばれたお人がそんなこといっちゃだ~め。今のご主人様ならそれだけの力はあるし魅力もあるわん。それとも何かしら?一度好意を向けられた女の子を無視するほど尻の穴が小さい男だったのかしらん?」

それじゃぁあたしの○○○なんて入らないわよんと言って腰を振る貂蝉。
正直あまり目にしたくない光景だが真正面から奴の目を見て

にやり

と笑ったあと言ってやった

「わかったぜ貂蝉。お前の言う通りだ、紛れも無くこの俺、北郷一刀が愛した女達だ… 記憶がなんだ!!真名がなんだ!! もしこの記憶が無くなっても本能と直感で見つけ出して、他のどの男でもない俺があいつら全員に完全無欠のハッピーエンドを送らせてやる!!!」

もう迷わない!!ハーレムだろうが倫理だろうが関係ねぇ!!
俺は…

「あいつらを愛しているんだぁぁぁぁ!!」

吼えた!!











あとがき


やってしまいました・・・・色々と・・・実はこの貂蝉との話1~2話ぐらいで終って次の世界に発つというつもりだったのですが。文章力と構成力の甘さで長くなってしまった上に、勢いに乗りすぎて一刀に完全ハーレム宣言させてしまいました。 ううう、最初は魏だけのつもりだったのに・・・・こりゃ、長丁場を覚悟するしかないかなぁと思っています。
書いてる時はノリノリでなんかもう気持ちよかったです




[7628] 生誕
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 01:43
貂蝉に向かってそう宣言する。

思い切って叫んだからジンジンと喉が痛む。

だけど、今無性に心が高ぶっているのがわかった。
俺が俺の行くべき道を定めたからじゃないかなと思う。

「あなたの思いは確かに受け取ったわん。 それじゃ… あの子達のことをよろしくお願いするわねん。 …卑弥呼様。」

「応」

するといつの間にかそこには褌・ビキニ・燕尾服でマッチョな男… 否、漢女がいた。

「ワシの名は卑弥呼。これよりうぬを新たなる世界へ連れていく。 貂蝉よ、後のことはワシにまかせておけぃ! 無事にこの者を送り届けようぞ!!」

そう言ってから俺のほうに振り向くと。

「べっ別に、うぬのためにやってやるわけではないのだからな! ただ、貂蝉がここまでやっているのだ。ワシが何かやらなければ、性格の悪い奴に見られてしまうから仕方なくやってやるのだからな!! 」

あー ツンデレのテンプレというか、なんというか…
まぁ俺のために手伝ってくれるのだ。何もいうまい。

「ありがとうな二人とも。こんなにも助けてくれて嬉しいよ。」

感謝の言葉を伝えた後、しばらくの間二人と視線を交わした。

すると、後ろを向いて二人で何かを話し始めた。

(貂蝉よ… この者、なかなか良い男ではないか。)

(そうなのよん。前に会ったときよりずっと素敵になってるわん。)

(うーむ… ダーリンといい勝負じゃのう。)

(ええ… ご主人様ならきっと良い世界にしてくれる。そう思うのよん。)

話し合いが終わったのか二人は振り返った。

卑弥呼が口を開く

「うぬ、いや一刀よ。貂蝉から聞いたかもしれないがこれから行く外史… いや、正史は最後に作られただけあって人々の想いが強く込められている。その想いはお主に味方するかもしれないし、壁となって立ちふさがるかもしれない。だが… お主ならきっと乗り越えてくれると信じている。 」

「わかった…」

卑弥呼の激励を胸に刻み貂蝉をみる

貂蝉は微笑みながら。

「世界とあの子達を頼むわねん」

といった後

「記憶が消えてしまう前にご主人様に会えてよかったわ。」

なんて付け足しやがった。

記憶が無くなる!?

「貂蝉っ!! それはいったいどういう…!? 」

華琳から消えてしまったあのときのように。俺の体が光となって消えていく。自由な首を動かしてみると、卑弥呼が印を結びながらブツブツとつぶやいていた。

「わたしはご主人様を統合したとき、卑弥呼様はこの場所からご主人様を送りだすために力を使いすぎちゃうのよねん。どっちもかなり反則技だから、それなりのペナルティみたいなものよん。」

貂蝉は話す

「あっちの世界の私たちはご主人様のことを知らない思うわん。だけどもし会うことになったらあっちの私達とも仲良くしてねん。」

まったく… こいつらには頭が上がらない。
なら、消える前に俺が言う言葉は決まっている。

「さっき言ったろ? 記憶なんて関係ないって… 貂蝉、卑弥呼少しの間だったけど俺たちは仲間だったんだ。 だからきっと会える、そしてあっちの世界でも仲間になろう!! 」

襲ってきたら殴り飛ばすけどなって付け加えながら笑う。
もう、首の辺りまで消えてきている…

「また会う日まで… じゃあな!! 」

言い終わると同時に俺の意識は闇に溶け込んだ。









貂蝉SIDE

「またね、ご主人様。」

ご主人様が消えた後すぐ私の体の消滅が始まり、いまでは胸まで進行していた。

「貂蝉」

卑弥呼様を見ると消耗が激しかったのか今にも消えそうな勢いだった。

「ワシは必ずあっちの世界でも漢女道を歩む… だから貂蝉よその気があるのならあっちでもワシの後を追えい!! そしてダーリンと共に真の漢女道を極めようぞ!!」

笑いながら拳を突き出す…

「わかったわん、卑弥呼様。また漢女道を突き進み今度こそ真の漢女になるわよん」

こっちも拳を突き出し

ガス!!

空気に響くように合わせた。

と同時に体の全てが光となり。そこには何も無くなった。













???SIDE

「まだなのか…」

妻が産気づいてから大分時間が経つ。使用人や医者に聞いてもこれほど時間がかかることは無いという。出産というものがここまで心臓に悪いものだと思わなかった。これから生まれてくる子供は、私にとっても妻にとっても最初の子供だ・・・ いてもたっていられない。

「少しは落ち着かんか。」

声をかけられてふと足を止める。

声の主を探すとそこには

「父上」

父がいた。

「まったく… 北家の棟梁たるお前がそのようにオロオロしていったいどうする。」

そうやって椅子に座っているのが私の父で、前棟梁。そして、今生まれてくる子供の祖父になる人だ。
北(ホン)家は後漢朝が興されたときから続く家であり代々文官を勤めてきた。
「頭ばかりの北家」と揶揄されるほど学問以外には才能がないというのが代々言われてきていたが。それを、覆したのが私の父である。
父は武にとても秀でた人で後漢王朝11代皇帝 桓帝の近衛隊の練兵の指揮を行い、個人で戦っても大陸一と言われた人である。老いた今でこそ一線を退いているがその武勇はまだ健在らしい。

「お前やお前の弟妹が生まれた時だってそんなうろたえる事なんぞなかったわい…もう少しシャキッとせんか見苦しい。こういうときは腰を落ち着けてドンと構えているのが武人じゃ。」

夜の性活においても盛んであり、父の代になってから家の親戚が一気に増えたことも武勇伝である。
だが長男の私は父の特徴というものを全くといっていいほど受け継がなかった。
まあ、争い事が苦手な私には都合が良かったのですが・・・

「そのようにウロウロうごくな… 普段の生活からみてもお前よりも嫁殿のほうがよっぽど気丈だぞ。」

…あまり一緒にしていただきたくないです。 
私の妻は見目麗しく性格も良いのですが。女だてらに戦場に出て武勲を立てるほどの武官でして… 求婚の際も私からじゃなく妻からするという男気あふれる展開でしたし。
…決めた。生まれてくる子供は大事にそだてよう… そして私の様に文官になってもらうのです。そうだ、それがいい。第一子と初孫が私の味方についてくれれば片身の狭い思いはしなくてすむし。 苦労を分かち合える。
素晴らしい… 嗚呼、早く生まれてきてくださいわが子よ。

バタバタ! ドタドタ!

ん… どうしたのでしょう?

「ご報告します! お子様が生まれました!! 元気な男の子です!!」

うっ生まれた!!… 名前はどんなのがいいだろう?
それよりも早く顔を見に行かなければ…


祖父SIDE

我が息子はさっきからあっちへウロウロこっちへウロウロ… せわしないったらありゃしない。
声をかけてもそわそわしているしの。
少し静かになったため落ち着いたかと思えば今度はブツブツ独り言を言っておるし… こいつは本当にわしの子か?
嫁殿のほうが実子と言ったほうがしっくりくるぞ…
うむ、うまれてくる孫にはこうならないようにしっかりと鍛錬してやらないとな…
いずれは わしを越す位の武芸者になって貰い、わしの子が誰も継げなかった武技を継いで貰わなければいかんな。

バタバタ!

ん?生まれたか… どれ顔を見に行くかな。

嫁殿と考えた名前を呼ばんといかんからな。

母SIDE

「ん~~~!!」
下腹部から尋常じゃない痛みが伝わってくる。
こんな痛み今まで生きてきてはじめて感じるほど… 本当ならすぐにでも意識を飛ばしたいくらい。だけど…

「もう少しです! 奥方様!! あと少しでお子様が出てきます!!」

そんなことは出来ない… この子がこんなにも頑張っているのに母である私がへこたれていてはいけない。 それにこの子は私や夫、お義父様とは異なる運命が待っているに違いない。必ず歴史に名を残すような人物になると核心している。そう思うにはわけがある…あれはこの子がいるとわかる一月前のことだった。
夢をみた… 死屍累々の戦場。そこでは全ての生物が戦い死に屍しか残らず。賊が蔓延り、病が蔓延し飢饉が起こるというある意味地獄のような大地の夢… 
人は重なる戦で疲れ果て。生きる気力も無いという状況の中、奇跡がおきた。
天の郷から暗雲を引き裂き閃光が大地に突き刺さった。いずれ、閃光は一振りの刀となりそこから緑が生まれ、恵みを世界にもたらす… そしてその刀は私の目の前まで来てお腹に消えた。
この夢を見たとき、ビビ!!っと感じた。
このことをお義父さまに相談したところ(夫は仕事でいなかった)天啓だといい夢の情景を基にして名前もすぐ決まった。夫には言ってない(というより忘れてた)
だから… 今は母親の私が頑張るしかない!!

「もう一息です! 頑張ってください!!」

「んんん~~!!!」

「! よし最後の一息ですよ!!」

「ああああ!!! 」

おぎゃーおぎゃー

「おめでとうございます! 元気なおのこですよ!!」

うっ生まれた…

産湯に浸かった息子を見る。


・・
・・・
・・・・
・・・・・・

はっ!! ほうけている場合じゃない誰よりも早く名前を呼んであげよう…
あなたの名前は…

「姓は北(ホン)名は郷(ゴウ)字は天恵(テンケイ)真名は… 一刀(カズト)」
これがあなたの名前よ…







あとがき・・・ 主に言い訳

字と真名についてのいいわけです。

感想版に乗せていたのですが編集したほうがよいという指摘をいただきましたので編集しました。

字が最初からあるのはおかしいという指摘でしたが。この一刀の字と真名は口にだしてますが、生まれたばかりの一刀には字と真名はまだついていません。ついたのは姓と名だけです。
将来つくだろう字を発表しただけですので確定ではありません。
僕の考えなんですが真名と字は同じように姓と名とは別に後から付けるもので、付けられる時期は別だと思っています。真名が先でも、字が先に付いてもいいものだと考えています。
僕のなかでは字は自分で付けれますが、真名は100%親から贈られるものであって余り親しくない人から呼ばれるのが字で、字が付く頃にその逆の意味がある真名が付けられるものだと考えました。また、北は中国ではベイですがここではホンということにしておいてください。
拙い文で解りにくいとは思いますが。
多分この話は本編で説明すると思いますのでそのときに改めて補足したいと思います。


・・ 我ながら穴が空きまくりな説明ですが、これからもお付き合い頂けたら幸いです。
















[7628] 状況整理と思惑
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 01:47
はっきり言っておこう…

今の展開に頭がついていってない

情けないことにこれが現在の俺の状況である。

だって…

「ほら~郷~私があなたのお母さんですよ~。」

うちの母親そっくりの人が俺を抱いているのだ… 似ているのは母さんだけではない。

「ん… いい子だ。嫁殿、良い跡継ぎを産んでくれたな。」

爺ちゃんあんたもか… となると

「はぁはぁ… やっと追いついた。父上酷いでs「鍛えていないお前が悪いのだ。」 うぅ…別にいいじゃないですか、私は文官なんですから。」

というとこっちに向き直り

「っとそれよりも次は私に抱かせてくだs「次はお義父様の番ですから。」あうぅ…」

相変わらず二人に頭が上がらない父親の姿があった

混乱した頭を落ち着けさせて三人の会話を聞いてみる


・・
・・・

うん、この三人がおれの家族で間違いないらしい。

顔や性格も俺の記憶の中にあるまんまである。

唯一違うものといえば… 服装である。
三人とも古代の大陸色の強い服を着ており(爺ちゃんにいたってはなぜか鎧を着けていた)男二人に至っては腰に剣を佩いていた。

そして、俺は生まれたばかりらしい。

やはりこの世界は俺の知っている外史(まぁ今となっては正史だが)とは異なる始まり方らしい… 実際、貂蝉達の前から消えるまでは今までと同じ始まり方。 

目を開けば荒野に立っていて、その後に例の三人組に絡まれる。

というお馴染みな始まり方を考えていただけあって。

まさか、赤ん坊に転生するとは思っていなかった。

おまけに赤ん坊なだけあって

「だぁ~だだぁ~」

声も出ないし身動きもできない。

まぁ、首もしっかりと据わってないから仕方なんだけど。

とりあえずしばらくはこのままでいるしかないか… 





父SIDE

うう… 父上も妻も酷い…

確かに夢を見た時期に仕事を入れた私も悪かったのですが… だからって、

「名前を勝手に決めるなんて… 」

それも字も真名まで全部って…  

決まったなら決まったって教えてくれればよかったのに… 

そんな恨めしそうに妻に言うと

「ごめんなさい、すっかり忘れていたわ。」

って笑顔で言われてしまいました…

まぁいい… 名前では遅れをとりましたが郷は私が責任もって立派な文官にしてあげましょう!! 

よぉし… まずは父と息子の触れ合いから

「では私に抱かせてください。 」

そうやって父上に言った後。ようやく郷を抱けるのでした。




祖父SIDE

「お前という奴は…」

ワシよりだいぶ遅れてきた息子を見ながら言う。

まぁよい、今はへばっている息子よりも孫だ… 

「ん… いい子じゃ。」

郷を抱き上げる。

泣き出すと思いきや郷は平然としており、ただワシのことをじっと見ていた。

こやつ大物になるかもしれん… 

ワシは嫁殿が身篭ったと知らせに来たときのことを思い出した。







嫁殿が話を聞いて欲しいと言って訪ねてきたときは、とうとう息子に愛想を尽かしたのかとヒヤヒヤしたが…そう聞いたときにはやんわりと「そんなことありません」と微笑みながら返された。

うむ… いいおなごだ。

最初結婚すると聞いたときには、何かの間違いではないかと何度も思ったものだ。

男顔負けの武を持ち戦場でも武勲をたて、器量性格共に良い女子。かたや文官としての仕事は出来るが争いや喧嘩等とは無縁の息子… 

しかも、求婚は嫁殿からという。  

息子よりも断然男らしい女子。 うーむ… 嫁殿がワシの息子だったなら… 

などと考えていたら嫁殿に「 お義父様? 」と呼ばれてしまった。

「ぬ? おお… すまない」

まぁよい、今となっては我が義娘なのだからな。

それよりも

「さて… 話とは何かの? 」

本題を聞くことにしよう… 




「夢… とな?」

「はい」

嫁殿の口から聞いたのはそれは普通では見ることも無い内容だった。戦乱の世・貧困に喘ぐ民・終わらぬ闘争… そして


「天から降りてきた刀か… 」

おまけにその刀が嫁殿の体に消えたという。

「ふむ」

断定できるわけではないが確かに身篭った確立が高い。それに、夜の性活にしても頻繁に交わしているらしい。

… 顔を赤らめて「…はい」と言った嫁殿に何かわからんがキタのはワシだけの秘密である。


・・
・・・

とにかく! そのような事があったのだ、その上ワシの孫で嫁殿の子だ。将来は良い武人になってくれるに違いない。

とりあえず。さっきから郷を抱きたくてうずうずしている息子に代わってやるとするかの…



母SIDE

郷が義父の手から夫の手へ渡されている。

夫の手つきは危なっかしくて冷や冷やしながら見ていたが、上手く郷をあやせているようだ。

とろけるように笑う義父と夫を見て私も自然と頬が緩む。

夫なんて「名前を決めてしまった」と言ったとき拗ねていたのにもかかわらず笑っている。

思えば夫は郷を文官にさせたいらしい。

そう呟いていたと侍女が言っていた。

夫は義父と違い気弱なところがあるため、家では私と義父に頭があがらない状況だ。

郷を文官にすることによって自分の味方を作ろうとしたのだろう。女々しいというか男らしくないというか…。

私としては夫の優しいところは気に入っているのだけれど… あまり似て欲しくないものです。

対して義父は、武官を望んでいるみたいです。確かに義父の孫・私の息子ですから素質はあると思います。というよりあってほしいです。

あの夢が本当ならこの子の生きる時代は乱世でその中を駆け抜けなければいけない。身を守るという意味でも郷には強くなってもらいたいものです。

そう思いながら私は夫に抱かれる郷をずっと見ていた。



[7628] 動き出す歯車
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 01:53
どうも一刀です… いや、一刀じゃなくて今は郷か。
俺が生まれてから約9年が経った。

俺は今

「逝くぞ! 郷!!」

パワフル爺ちゃんに拉致されています

あれは昨日の夜のことだった…








「497・498・499・500!!」

息を整えながら素振り用の剣を地面におろす

すでにこの剣を振り続けて4年以上になる。

そもそもの始まりとしてはうちのパワフル爺ちゃんが

「武家の子供が剣も振れなきゃ情けない!」

とのことで始まったのだが…

あの爺さん 俺が子供用の剣を振れるとわかったとたん、日に日に剣の重さを増やしていって結果現在の重さに至るのだが。

にしても…

「この重さは無いよなぁ」

そういいながら傍らの剣を見る。そこには子供が持つと思えない肉厚で長身の剣がおいてある。

きっと大人でも持つのは厳しいだろう―

まぁこの体になる前はこれくらいの鍛錬は行なっていたから精神的には楽だろうと最初は思っていたのだが。

「まさか、記憶だけじゃなくて体力・筋力まで引き継いでいるなんてなぁ… 」

これは驚いた。前世?では人生の大半をつぎ込んで鍛えてきたのだからその経験が生かせるというのは正直ありがたかった。知識の面においても同じことだ。
だけど生まれたばかりのときは大変だった… いきなりしゃべるということは無かったが中々体の自由が利かないため自分の力を制御できないことが多々あった。

例えば…

「郷~お父さんですよ~」

といって出された指を握ろうとしたら。

「のおおおおおお!!(涙)」

思いっきり握ってしまったり。

初めて立った時は…

(やべっ・ 転ぶ!)

「郷! 危ない!!」

といって助けに入った父さんの手にしがみついたために

「え?… のぷろっ!!」

引き倒してしまったり。

他にもetc…

…ほとんど被害者父さんだし。

(申し訳ないことしたな~)

俺と触れ合うたびに生傷が増えていく父を見るたびに故意にしたわけではないのだが良心が痛んだのは俺だけの秘密である。

それでも家族には感謝している。こんな化け物じみた息子を持ってもけして俺を避けなかった、爺ちゃん・母さんに至っては「将来が安心」といっていたし、父さんも俺がすぐ文字を書けると知ると嬉々としながら学問を教えてくれた。

こんな風に過ごしていたもんだから周りから「神童」だの「天才」だの「天の御子」だの言われるようになった。

…一つ聞きなれた物があったがそれはいいとして。 

今となっては少し目立ち過ぎたかもしれないと思っている。俺の生まれた北家は上に対して強い発言力を持ち、文武共に優秀な人材を輩出し、政策によって街の人を保護しているため慕われている。そのため荒稼ぎできない有力商人や他の権力者達と仲が良いとはいえない。そこに俺みたいな奴が生まれてしまったのだ、また風当たりが強くなるような気がする。

だけど、俺は強くなんなくちゃいけない。

これはあの時から決めていたことだし今の俺の存在理由といっても過言ではないのだから。

そんなことを思い出しながらまた鍛錬を始めようと剣を持ち立ち上がろうとしたら

「郷」

と呼ばれたので振り返ってみると爺ちゃんがいた

「? なんですか師匠?」(鍛錬中はこう呼べといわれた)

「うむ! いきなりだが出かけるぞ!!」

「は?」

いきなり何言うんだこの爺さんは

「あのそれはどういう「いいから付いて来い!」俺まだ飯食ってな「ぐたぐたうるさい奴じゃのう」のヴぉ!!?」

台詞の途中だというのに俺に一撃を入れる爺さん。

9歳だけど俺の身体能力は成人男性のそれをはるかに上回る。はずなのだがいまだに爺さんと母さんには勝ったことがない。

(この、化け物ジジイ… )

もちろんこんなこと爺さんに言えても母さんには言えない。家ではあの人が衣・食・住を握っているといっても過言ではないため基本優しいが怒らしたらただではすまない。

「俺の・ シュウ・・ マイ」

俺の帰りを待っている母の手作り料理を考えながら俺の意識はブラックアウトしていった。






祖父SIDE

「やっと落ちたか… 」

こやつ… 孫の郷は全てにおいて規格外である。筋力・体力・頑丈さ・知識はそこらへんの鍛えた成人の男の比ではない。実質こやつを眠らすには熊でも一撃で卒倒するやつを食らわせんといかん。

「跡取りとしては申し分ないんだがな… 」

跡取りとしてはこれほど頼りになる奴はいない。

だが問題もある。

郷が余りにも規格外すぎるため、そこらへんの家から婿の話が来るうえにワシを目の敵にしおる中央の役人達は郷を教育の為に家によこせといいおる。まぁいざとなったら人質にもなるからの。まぁ、奴らとのにらみ合いは息子に任せるとしよう。家ではあれでも中々肝が据わっとるしな。

「いつのまにか重くなったの…」

郷を抱えながら馬屋に向かう。こんな時間に出かけることになったのも理由がある。あれは、数時間前のことだった… 





「伝令とな?」

「はい、お急ぎのようでしたよ」

と嫁殿がいうのだすぐその伝令から話を聞かんといかんな…

嫁殿に頼んで伝令を部屋に入れてもらう

「してどのような話かな?」

伝令が口を開く。

伝令によると最近活発に活動している盗賊団の討伐の指揮を執って欲しいのことでその日時というのが明日だという

「それは急じゃの… 」

「申し訳ありません… 色々な方にあたっていたのですがどなたも良い返事が頂けず藁にもすがる思いで北家の皆様にお願いに参りました」

どうかお力をお貸しくださいと頭を下げる伝令

うーむそこまで言われては断ることもできんのう。

にしても最近の朝廷の腐敗振りと武官・文官の堕落具合は目に余るものがある。 

文官は機嫌取りに賄賂が横行するわ。武官は威張り腐るだけでいざ戦となったら自分で動かないわ。高官どもはそれを見てるだけで何もしない… 

これでは盗賊が活発になっても仕方ないわ

そう中央で言ってやったときにはスカッとしたわい(息子がすっっごく慌てた顔をしていたけどな)

「わかった、こんな爺でよければ力を貸しましょうぞ。」

「! ありがとうございます!!!」

「ではすぐにでも支度をしよう… おっと忘れていた、場所はどこだったかの?」

「沛の譙県でございます。」

ん? そこは…

「曹騰様がいるところですね?」

伝令がいなくなったあと嫁殿が話しかけてきた。

「うむ、中々気のよい御仁であったな…」

「私もそう思います。 確か曹騰様にもかわいいお孫さんがいらっしゃ
ると聞きましたが?」

「みたいじゃの… これが中々の才女らしいみたいだが。」

「ええ… 郷の良い友達になってくれると嬉しいのですが。」

「ふむ…」

郷か… 確かにあやつに合わせられる子供が回りにいないからな。いつも回りにいるのは友人というより舎弟みたいだしの… まぁ慕われているようだし良いんだがな。 

「最近は、子供衆をまとめて訓練してるみたいではないか?」

「はい、もしものときは自分たちが街を守るのだと言っていますわ」

うん、もう少ししたらあやつに隊の一つでも任してみるかな…

「ところで嫁殿。郷の奴は今どこに?」

「中庭で鍛錬していると思います… お義父さまもしかして郷を?」

「ああ、連れて行こうとおもっとる。 あやつにも戦場になれてもらわなければいけないからな… まぁ任しておけワシの目が黒いうちは郷は死なせんよ。」

「私も出れればいいのですが… 」

そういってお腹をなでる嫁殿。医者によると二人目が宿っているみたいだ。

「いやいや 身重なのだから安静にしてもらわねば息子に怒鳴られるわい」

いつもは頭が上がらない息子だが郷や嫁殿のことになるとひとが変わるからのう

「ふふ わかりましたわ… とりあえず郷とお義父様のお弁当を用意しますわ」

「頼む」

んじゃワシは郷を拉tじゃない連れて行く準備をするかな…っと少し早いがあれも持っていこう。なぁにあいつなら使いこなせるだろうに。

そんなことを考えながらワシは中庭に足を運んだ。







母SIDE

「ふう」

とうとうあの子も戦場に立つ日がきたのですね…

私の息子 郷

この子は他の子とは何もかもが違いました。最初こそはかわいい子でしたが、成長すると同時に体力・知力・人をひきつける魅力共に常人のはるか上回っていきましたから。

そのためか、人は集まるのですが心の許せる友がいないというのが気がかりで… ですから曹家の姫があの子の心を許せる存在になれば嬉しいのですが。
まあお嫁さん関しては、郷は悩まなくても済みそうね。実際あの子の笑顔は子供だけでなく大人を魅了しますからね。 おまけに祖父がお義父様ですし…


・・
・・・
うーんこれって隔世遺伝って奴かしら?

うちの夫には出ませんでしたし… 気にしても仕方ない。

初めて戦場に立つのだからあの子の好きな物を詰めてあげるとしましょう。




[7628] そして・・
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 01:56

「・・・んか・」

ん~なんか聞こえる…

「郷・・きんか」

あ~誰か読んでる?

「いつまで寝とるんじゃ! 早く起きんか!!」

え~爺ちゃ「いっでぇぇぇ!?」

えっなに!? この爺今殴りやがった!?

「なにすんだよ! 爺ちゃん!」

「そんなの起きないお前が悪い」

「だからって殴ることは無いだろう!!」

「静かにせんか。ったく」

この爺さんは手加減というものを知らない。今の一撃だって下手したら骨の一本や二本持っていかれるとこだったぞ。

とグチグチ考えながら辺りを見回す。

まぁ話の内容からどこかに出かけるとは思っていたがここは…

「知らない天井だ… 」


・・

すまん、一度はこの台詞を使ってみたかった。


とまぁ少しばかりアレな発言をしたがスルーして欲しい。

改めて見回してみると

「ここは… 陣か?」

ものものしい雰囲気といい爺さんの装備といいまるで今から戦でも始めるような空気だった。

「やっと目が覚めてきたか」

「なんだ爺さん今から戦でも始めんのか?」

すると爺さんは今の状況の説明を始めた。

俺を拉致した後、兵を引き連れ出発しそのまま陣に入ったらしい。あと数時間もすれば盗賊の巣窟に討ち入りをするみたいだ。

「だけど爺ちゃん… 今の俺は丸腰だぜ?。」

 まぁ素手でも戦えないわけではないが(むしろ十分だが)こっちは久しぶりの実践なのだ、やっぱ得物があったほうが色々と安心だ

「馬鹿もん、お前みたいな小僧をいきなり戦場に出すわけなかろう」

そう言うと爺ちゃんは待機していた兵に「あれを持ってきてくれ」と言ってまた話を続けた

「お前も武人の端くれ。ならそろそろ戦場を知っておいても良いと思ってな。そう考えておったらちょうど今回の話が来たわけだ。「失礼します」 ん? どうやら来たみたいじゃの入ってくれ」

「はっ」

そういって入って来た兵の腕には白い布にくるまれた細長いものがあった。爺ちゃんはそれを受け取ると俺に差し出した。

「まぁお祝いみたいなもんだ… 受け取れ」

受け取って布の紐を解く。そこには一振りの刀があった

「前にお前が言っていた武器に限りなく近づけてみた・・ 職人達が嘆いておったぞ「設計をした郷さまがいなければ完全な物はできません」とな」

確かに限りなく日本刀に近づいているが、完全な形にするのは無理だったらしい… 本当は俺が刀を打とうと思っていたのだが(こうみえても前世では刀匠と呼ばれていた)こんな子供を仕事場に入れるのは職人達にとって気持ちの良いものではないだろう思ったからだ。 爺ちゃんの話を聞く限り杞憂に終わったみたいだったけど。それでもここまで再現できるとは… この時代の職人の腕をなめてたなぁ。




だがこの刀は限りなく日本刀に近いだけであってそれではない。 日本刀を作るに至って欠かせないもの玉鋼がここでは手に入らない。 そもそも玉鋼は日本でなければ精製が難しい。 玉鋼は鉄鉱石と違い不純物がほとんど無い。これは硬度や切れ味、日本刀にとっては芸術面で大事な刃紋に影響する。(また加工しやすい)玉鋼は砂鉄から作るというのは有名だが、砂鉄を溶かして固めただけでは不純物ばかりが混ざってしまい玉鋼には至らない。
ではどうすればよいのか。蹈鞴(たたら)というものを聞いたことがあるだろうか? 簡単にいうと木炭の燃焼熱によって砂鉄を還元し、鉄を得る方法。なのだが一番イメージとして出しやすいものとすれば「も○○け姫」(宮○監督すみません)に出てくるたたら場である。あそこで女達が歌いながら交互に踏みふいごを踏んでいるシーンがあるあれが製鉄の現場である。確かに蹈鞴だけならば古代中国でも出来ると思うのだが問題は火力である。砂鉄や鉄鉱石から不純物を除くにはそれなりの火力が必要なのだ。火力すなわち木炭なのだが大量に必要になる。例としてたたら場周辺を思い出していただきたい(見てない方は申し訳ありません)一山分ほど木がないのである。 木自体いつかは生えてくるものだからできないわけではないのだがここでまた問題がでる。日本と中国では木の再生速度が異なるのである。日本というのは雨が良く降るそのためほっといても木はほっといても生えてくる(といっても時間はかかるが)だが中国大陸は日本に比べると雨の量が少ないため日本に比べると時間がかかるのである。結果、古代中国でも玉鋼精製は可能だが効率が悪いということになる




「試しに斬ってみるか?」

「ああ… 藁はどこに?」

どうやら外に用意しているらしい。俺は爺ちゃんについて外に出た

人型を模した藁の前に対峙する

さてどうするか?

普通に斬ってもいいのだがそれでは少し味気ない。せっかくここまで日本刀に似せたのだ前から練習していたあれでいこう

左手を鞘に右手を柄に添えて距離を詰めたあと

(振りぬく!)

一文字に振られた刃は吸い込まれるように藁に向かい一瞬で振りぬかれた。

「… うん腕にも刃にも問題なし。」

刃こぼれがないかを確認しながら呟く

パチパチパチ・・

ん?誰だ。 これくらいじゃ爺さんが拍手なんかするわけないし…

辺りを見回すと

「いや、お見事」と手をたたいている文官風の初老の男がいた。

爺さんがその姿を確認すると礼をしている。 爺さんが挨拶しているのだ俺もそれに習い礼をする。

「さすが神童といわれるだけありますな、その年でこれだけの武をお持ちとは… いや北家も安泰ですな。」

「いや、まだまだ小僧ですからな。これからも精進してもらわなければ困りますわい… ほれ挨拶せんか」

爺さんに促されて挨拶する

「初めてお目にかかります。北郷と申します字はまだございません、郷とお呼びください」

「おお 礼儀もできておる。私の名は曹騰だ」

曹騰だと?…まさか!!

曹騰・・ 曹操の・ 華琳の祖父の名前だ!!

もしかして… 会える…のか!? 

彼女に!!

何よりも気高く、誇り高くて、だけど寂しがりな女の子・・

俺の人生、俺の在り方を決めたあの子に!!

「会えるかもしれない…」

「ん? どうかしたのか?」

「いや… なんでもないよ」

俺がボーとしている間に爺さんたちが話していたらしいが全く耳に入ってなかった。

とうとう手に入れたのだ華琳に会える切欠を!

そう考えていると

「こんなところで話すのもあれですし私の天幕に行きませぬか?小さいながら宴の準備もさせてありますので。」

「おお! それはありがたい… 郷! 何を突っ立ておるさっさと行くぞ!」

感傷に浸っている俺の頭を小突いて急かす爺さん。 

「解った解ったってば… はぁ~ 宴だからってそんなはしゃがないでよ」

「馬鹿もん! 酒と戦と女子は人生に欠かせないものだ!!」

「まぁ解らないでもないけどさ~」

「ならば… 逝くぞ!」

お~い字が違ってるよ~

爺さんとそんなやり取りをしながら俺は曹騰様の天幕へ急いだ。




曹騰SIDE

うむ・ これほどだったとは…

北家の跡取り 郷の剣筋を見る… 実はあの巻き藁には内緒で鉄を仕込んでおいたのだが郷は何の問題も無く真っ二つにしてしまった。

本人の腕もあるようだがあの剣技も影響しているだろう。なにせ切り口が滑らかなのだ。

これが普通の鉄剣ならば叩き斬れたようにひしゃげて切れていただろう。

鞘に入れたままから振りぬく… 私自身宦官で武術にそう詳しいわけではないがあのような技は見たことが無い。

北家の秘伝だろうか?

そしてあの剣だ、あの得物だけを見たら貧相に見えるが… いやはや見かけによらぬとはこの事だ。 

聞けばまだ九つだという。 内の孫娘達より二・三年上か… なのにあの武、少し話しただけだが頭も良いだろう、噂によると孫子など兵法書を暗記し人を寄せ付ける魅力もあるらしい。

おまけにあの北家の嫡子。最高の武人の祖父と戦巫女の母から受け継いだ武。中央の文官の中でも切れ者の父の才覚

確かに中央の高官達が引き入れたいのも解る。郷を押さえてしまえば北家は何も出来ないと考えているらしいからな。


・・
・・・
ふむ・ 北郷か… 奴は家にどのような影響を及ぼすだろうか?

自分で言うのもいきなりなんだが私の孫娘の一人である華琳は間違いなく天才である。
そしてなによりも

可憐である!!

春蘭・秋蘭もかわいいが 華琳はもっとかわいい 本当にかわいい大事なとこだから二回言ったが。
あれは将来掛け値なしに美人になる。だが・・

少しばかり女子好きなところがある!

…まぁあの三人の周りにまともな男がいなかったから仕方ないが。

いまでは同年代の男を馬鹿にしつつある。このままだと(ほんっとうにありえない事だが)いつか男に足元を掬われる可能性がでてくる。

だからこそ… 北郷には頑張っていただきたい。彼なら、孫娘達も受け入れるだろう。

だが・ だがな・・ 万が一にでも・・・

華琳に手を出したら!!

たとえ子供でも容赦しないよ・・ ふっふふっふふふふふふふふふふ。

だがなぁ

北家の御大(爺さんの事)の夜の武勇伝は有名だからな北郷にもそれが継がれてなければ安心なのだがな。と考えながら案内する曹騰お爺ちゃんでしたマル







あとがき・・ という名の言い訳

あの~今回はですね。 少し暴走しすぎた感がぬぐえないっす。まぁ日本刀の下りもさることながら、曹騰の性格もやっちまった感が・・ いや・・ いやぁね曹騰って確か曹操のことめっちゃかわいがってんじゃないかな~と思ってみたり・・
感想で今回こそ華琳出るって書いてもらってますけど。すんません今回もまだです・・ やっやめて!! 石投げないで!! むっ無理!?そんな大きいの無理だから!! アッーーーーーー!! ・・・てな具合でヒロイン不在のまま進行してますがお願いです・・ 見捨てないで頂けたら幸いです。 では次のあとがきで 







[7628] 一度目の再開
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/04/14 02:07
おおう!? なんか今怨念に近い殺気を感じたが… 

うん、忘れよう。

なんかそれについて余り考えてはいけない気がする。

俺は今曹騰様の天幕にいるもうそろそろ宴(小さいと言ってたが結構でかい)が始まってしばらくたっているが

なぜかみんな浴びるように飲んでいる

夜とはいえここ戦場だぜ?いかんだろう… あっまた一人倒れた。

これで何人だよ潰されたの… というか

潰しているの家の爺さんだけどな!

…あの人に酒で挑んじゃいけない いやいや本当だって!?

俺の七つのお祝いの時も

家の使用人全員潰してるからな!

その後、盗人が出たとか言って爺さんが捕獲に出たら

ボッコボコにのして帰ってきたからな。まったく酔拳かよ…
んで結局最後まで起きてたの俺と爺さんと

最初から酒盛りに付き合ってたはずの母さんだった……

あっ父さんは初っ端につぶされていたから別にハブられていないよ?

まぁそれはどうでもいいとして

「こりゃぁまずいだろ…」

爺さんは酔っても戦えるとしてその他の主要な人たち潰したらいかんだろう。
これじゃぁいざとなった時に兵達が動けんぞ?

曹騰様に華琳達のことを聞こうにも寝てるし…

つーか華琳達いるって聞いたのに宴に参加してないし… まぁ明日には会えるだろうから別にいいけど いや! 良くないって!!

一人で問答しながらため息をつく

…とりあえず外に行って新鮮な空気が吸いたい。

ここは酒臭くてたまらない そして俺は天幕の外へ足を向けるのだった。




外に出て少し冷たくなった空気を肺に入れる

これを何回か繰り返すうちに、鼻にこびりついていた酒臭さが少しは取れたような気がした。

今俺は空気の入れ替えをしながら、天幕の外をぶらぶらとしていた。

んで兵達の様子を見ることにしたんだけど…

「若様」

天幕からだいぶ離れたところで後ろから誰かに呼ばれた

「ウチの門番隊の隊長の紅さんじゃん(残念ながら娘の名前は美鈴じゃなかった) 何息切らしちゃって… どうしたの?」

「何ですかその説明口調は? まぁいいです。いつの間にか若様の姿が見えなくなっていましたので追いかけたのですよ」

「ああ ごめん余りにも酒臭かったからさあ外の空気が吸いたくなってね」

「ならば一言言って下さい。 若様に何かあったら街のみんなに殺されてしまいます」

ごめん、ごめんと苦笑しながら謝る。 

なんか俺って町のみんなから好かれてるもんなぁ。

俺としてはただ単に腐葉土とかの活用方と作り方や簡単な算術を教えているだけなんだけど… 

まぁこの頃の算数の教科書って言ったら(九章算術)が元になった奴だもんなぁ みんながみんな文字を読めるわけないから簡単に噛み砕いた俺の説明の方が解り易いらしい… まぁ前の世界じゃ子供らに色々教えてたからなぁ

今度算盤でも作ろうかな… 時期ぜんぜん違うけど

とりあえず…

「ねえ」

「はい?」

「これ… どう思う?」

「すごく… 酷いですね」

「だよね~ 見張りが居眠りとかほんと失格だね」  

「そうですね… 若様はこれからどうなされるんです?」

「う~ん 散歩がてら一人見回りでもしようかなと思ってたんだけど…「だめです」やっぱり?」

「先ほども申したように、若様の身に危険が起きたら私があの街暮らせなくなります。 若様の武がそんじょそこらの輩に破れるとは思いませんが、まだ子供なのですからせめて護衛を何人か付けてください」

子供って… 確かにまだ9歳だけどさぁ 精神的には人生一回りしてるからいまさら子供って言われてもなぁ…

でも心配してくれているんだ今はその好意に甘んじておこうかな

「うーん わかった… んじゃ紅さん散歩したいから何人か護衛につけてもらえるかな?」

「かしこまりました… 少々お待ちください」

・ 
・・
・・・

んで四半刻も経たないうちに人が集まり現在、散歩兼見回りをしてるわけなんだけど…

「全く… ここは戦場だというのに」

はっきり言おう… だらけまくっている。
どのような状況かというと

「見張りが居眠りしてどーすんだよ」

ってかんじである。おまけに寝てる兵のほとんどが中央の兵なのだからため息物である。

さすがに曹・北家の兵はちゃんと仕事をしてるのだが大部分が中央つまり王朝の兵なのだ。ちなみにこの兵を連れてきた将は仕事を完全に爺ちゃん達に丸投げしている… 中央の高官の息子らしい

これじゃ黄巾党ができんのも仕方ないな… 実際はアイドルの追っかけの暴走なんだけど。

盗賊たちの数もあるが今襲われたらかなりの打撃を受けるはず…

いやいや、悪いことを考えるのは止めよう。本当に起こっちまう。

寝ている兵の変わりに俺が見回るか…

にしても緩んでんなぁ~ 

あそこの兵なんて横になって寝てるよ…  ん? 横になって…?

いやな予感がして駆け寄ってみる
そこには

胸を矢で射られて倒れている中央兵がいた…

死体に触れてみる… まだ暖かい、ということは

「若様!!」

六人か!… 良し!!

「いきなり走り出して、どうしたのですか… ってこれは!?」

「多分賊が攻めてきた… まだ殺されてそんなに時間がたってないのを見て少し前に入ったんだと思う。 あんたはすぐそこに兵舎があるから兵を叩き起こして! そんで何人かはすぐ偵察に向かわせて!! 敵の本隊が近づいてる可能性があるから!! そこの二人は起きた兵かき集めて陣の周りを固めて鼠一匹逃さないようにして!! 後残ったなら水・食料の確保だ! 火攻めにも気をつけて! 賊が放つかもしれないから!! そこの人はこのことを爺さんに伝えてくれ!! 俺は陣の外の様子を見る!! 残りの人は手伝ってくれ!!!」

「しかし郷様の身が「だから何人か護衛を残したんだ!! どーでもいいから早く動いてくれ!!」 …わかりました!!」 

紅さんが声をかけると

「「「「応!! 」」」」

と言って散ってくれたこれで何とかなるだろう…あとは!!

「俺達は賊の捕獲場合によっては殺害だ!! 途中寝ている馬鹿がいたら叩き起こしながら行くぞ!!」

「「応!」」






今日は満月なのだが今は雲に隠れて視界が闇に覆われている。

陣で焚いてある松明の明かりも少し心もとない…

目だけに頼ってしまうと拉致があかないため聴覚と嗅覚を最大まで活用し、俺は声のする方向に向かい駆け出した。

剣戟の音と血の臭いが強くなるのを感じる

陣の近くでは小規模の戦闘が行われていた



情報によると盗賊団の人数は約2500程 大してこちらは4500



人数の差では圧倒的にこちらのほうが有利なのだが。如何せん夜襲をかけられたという動揺と、兵の大部分を占める中央兵の空気が緩んでいたために咄嗟に反応できず浮き足だっている。 おまけに相手の勢いにビビッて逃げ出す始末・・

「おいおい…」

いかん、こりゃかなり旗色が悪い。まぁ 指揮官がいない、勢いが無いのないない尽くしじゃぁしかたないけど… ん?

そこで俺はある部分に目が行く

陣から少し離れた場所。
戦闘の中心ともいえるそこの周りには一段と死体が散乱としていた
一体また一体と死体が出来上がってゆく…

誰が戦っているのだろう?

そう思った俺はそこ一帯を支配する主を探す為に目を凝らす…



そこにいたのは


華琳達だった__



記憶にあるものと違い幼い姿ではあったが、一度愛したのだ見間違える筈が無い。

その背中を守るのは二つの影

春蘭・秋蘭の姉妹

三人が戦う姿はまるで天女達が舞っているようであった

手にある得物を振るたびに男たちは物言わぬ骸となり

切られる度に出る血流は月光に照らされ彼女達を美しく彩った

まるで一枚の絵であるように… 彼女達が舞っていた


「ああ… 綺麗だ」


目の前で行われているのは殺戮だというのに、目の前の光景に目を奪われていた


今、ここにあるのは彼女達と俺のみ… そんな強い錯覚を覚える



「・・様! 若様!?」

「あ・ うん、ごめん」

紅さんの呼びかけで一気に現実に戻る。

危ない危ない、戦場でボーっとするなんてまだまだ俺も鍛錬が足りない

そう考えながらもう一度目を凝らす…

彼女達の動きが鈍い、疲労のためかどこか怪我をしているのか。

それもそうだ、華琳達が3人に対して賊は十数人で取り囲んでいた

見ると後方の包囲が甘い… 視線を延ばしてみるとそこには

彼女達が戦っている奥のほうで男が三人弓、を構えており。その切っ先には華琳達がいた…


華琳達は自分達が狙われていることに気づいていない、そんな余裕があるのだろう男達はじっくりと狙いを定めていた。

悪いことに華琳達の周りには家の兵が誰もいない

この距離では今駆け出しても間に合わない… なら!!

「ごめん! ちょっと貸して!!」

「えっ? ちょっ若様!?」

俺を呼ぶ声がするが気にしない

走りながら弓を構え 

矢を三本取り立て続けに放つ

放った矢は空気を裂き、華琳達の間を縫いながら。弓兵の頭・喉に突き刺さり賊の命を刈った

「お前らどうした!!…何!?」

弓兵達と連携するつもりだったのだろう、賊達はいつまでたっても来ない支援に苛立ったのか後ろに目を向けようとする。

すかさず俺は矢をつがえ一気に放った。

その勢いのまま彼女達の元に近づき

「後は任せろ!!」

と叫び半分の数になった賊に意識を集中させた。

・ ・
・ ・・


最後に残った男の頸を切り飛ばす

斬った頸から噴水のように血が出た後、亡骸は地に伏した。

すぐ回りの気配を読む… どうやら他の賊はいないらしい

刀に付いた血を飛ばし鞘に収める

時間が止まっていたかのごとく重かった時間が

「「華琳さま!!」」

二人の声で動き出す

「華琳さまごぶじですか!」

「おちつけ姉者華琳さまおけがの方は…?」

「だいじょうぶよ春蘭・秋蘭すこし切ったぐらいだから…」

声の主達を見る… 雲から顔を出した月に照らされていたのは間ごう事無く

俺が愛した彼女達だった

ああ 間違いない… 俺の生きる理由であり、この世界に来た理由である。

覇王とその従者達がいた。

ハンカチ代わりに持っていた手ぬぐいを口で裂き近づく

少し警戒した顔をするが手で制する。 声が出ない… 口を開けば瞬間涙がこぼれそうだから

「…少し我慢してくれ」

言いたいことは沢山あったが言葉を選びやっとのこと口にする

華琳の傷の血を拭い、持っていた酒を口に含み傷に吹きかける。

「なっ!? きさま!」

「消毒だ… 」 

主に酒をかけるとは無礼なと思ったのだろう。 春蘭が口を開こうと最低限の言葉で説明する。 

酒を軽く拭い、俺が作った切り傷用の軟膏を塗る…未来の知識を使ったものだから効果は抜群だ

最後にもう一枚布を取り出しきつく縛る… うん応急処置はこのくらいでいいだろう傷もそんなに深くなかったし跡に残ることは無いと思う。

改めて正面から彼女達を見る(三人とも幼い顔立ちだったが記憶にあるものと同じで華琳は髪をおろしていた)

ああ、もうだめだ…

会いたかった。 寂しかった。 申し訳なかった。 消えてごめんと謝りたかった。 

無事でよかった…

色々な感情が入り混じり俺は

涙を流していた

思えば涙を流したのはいつ以来だろう… 苦しい鍛錬でも窮地に立たされたときも泣くことはなかったんだけどな

「おっおい… だいじょうぶか?」

戸惑う春蘭の声で冷静さを取り戻す

「さっきの戦闘でけがをしたのかしら?… どこか痛いの?」

「そうだったのなら見せてくれ… 大丈夫だ、怪我の治療なら姉者でなれている」

「しゅっ秋蘭! それではまるで私がいつも傷をつくっているみたいではないか!?」

「あら… 私は春蘭が傷をつくらない日をみたことがないわ」

「かっ華琳さままでそんなぁ~」

三人のやり取りを聞く… 彼女達はどの世界でも変わらないらしい

「フフ…」

俺は笑っていた。

変わらない彼女達が嬉しくて・愛しくて、笑みをこぼしていた。

「あら? 収まったみたいね」

「ああ… ごめんいきなり」

それにしても照れくさい… 見た目は子供でも中身は成熟しているのだ。理由はともあれ子供の前で泣いた上にその子供に慰められるなんて…

まぁいいや。 最初の変な空気もずいぶん和らいだみたいだし・…
とりあえず

「自己紹介が遅れたね。 俺の名ま「ちょっとまって」へ?」

「恩人であるあなたの名を先に聞いてしまっては失礼になる。 だから先に名乗らせて…」

「姓は曹 名は操 字はまだ無いわ、そして…」

一回言葉をとぎると彼女は言葉を紡いだ…

「あなたに私の真名を預けるわ 華琳と呼びなさい」

「え?」

いやいやいや! 華琳さん? 真名を預けてくれるのはうれしいのですが、今あったばかりの人間にそう簡単に教えちゃいかんでしょ!? もういっぺん聞いてみないと・・

「あの曹そ」
「華琳よ」
「だけど…」
「華琳」
「…わかったよ華琳」

「なっ!? おっおまえ!! 華琳さまの真名をたやすく」
「静かにしなさい 春蘭」
「だって」
「まぁいいじゃないか 姉者」
「秋蘭?」

「華琳さまの恩人なら私達にとっても恩人だろう? 実際、助太刀してもらえなければかなりきびしかったと思うのだが?」

「むぅ~ だって… だって! 華琳さまの真名を呼んでいいのは私と秋蘭だけだったのにぃ…」

なっ何なんですかこの春蘭は!? すごく… かわいいじゃないか!?

「それならあなた達も真名を教えればいいじゃない?」

「だけど華琳さま…」
「それはいいですね華琳さま… 私は姓は夏候名は淵 真名は秋蘭だよろしく」
「秋蘭!?」

しばらく俺と華琳を交互に見た後に
「… 姓は夏候名は惇 真名は春蘭」 

小さな声でだが真名を名乗ってくれた

「さて… 今度はあなたの名前を教えてくれないかしら?」

華琳が子供と思えない妖艶な微笑を見せる

本当に変わらないや…

俺は色々な思いを込めながら天を仰ぐ

いつの間にか雲が晴れ、満点の星が空を彩っていた

よし…

「俺の名前は…」

一筋の風が俺の頬を撫でた…






[7628] 一度目の再開 華琳SIDE 前編
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 02:13
華琳 SIDE

男なんて… って思ってた。

同年代の男は皆馬鹿ばかり、年上にしてみても皆私より弱く、見た目も父親と同じように醜い豚の予備軍で。
少しまともかと思いきや、自分の親の地位を鼻に掛けるような奴ばっか。

子供の頃なら仕方ない気もするが、その親や周りの男を見ていると結局こうなるのかと思い、私は男に興味が無くなっていた。
          

そう… 無くなって(いた)のだ

あの日、彼に会うまでは…





「戦… ですか?」

ある日私はお爺様に呼ばれた。 どうやら近々ここら一帯を荒らしている盗賊団の討伐が行われるらしく、お爺様に戦力確保・人材集めをしろとのことである。

「そうだ、だからしばらくの間留守ば」
「私もいきます」
「… へ?」

「ですから、私もついていきます」

「だっだがお前はまだ子ど」
「そこらの者より使えると思いますわ」
「しかし戦じょ
「春蘭・秋蘭・私・・ この三人に武で勝てる人間がいますか?」
「むう・・」

そう唸った後、お爺様は黙り込んでしまった。

無理も無い。私達三人がそろって、今まで誰かに負けたことが無いし、これからも負けるつもりがまったく無い。

おまけに、春蘭・秋蘭共に将来はきっと… いえ絶対に美人になる。世間では、男と女が結ばれて子を成すのが当然といわれているが。私にしてみれば、愚鈍な男達に春蘭達を渡すつもりが無いし、私自身も渡すつもりが無い。
しかし、これではお互いにもったいない… だから最近おもうのだ。

天下の美女を私の元に集め、愛でたほうがいいのではないかと。

・ ・ 別に私は変な趣味の持ち主ではない。 ただ、美しい女が阿呆な男の物になってしまうのが我慢なら無いだけ。(実際お爺様は尊敬に値するし)
美術品は価値もわからない者ではなく、その価値がわかりさらに大切に出来る者が手に入れるべきだと考えたのだ。

まぁありえないことだけど、私の知を越え春蘭たちの武を越し、且つ魅力的な男が現れたのなら、この身をそいつに差し出しましょう。

自分でもありえない事を言ってるのは解る。

だけど、それくらいの男でなければ私が納得できないわ。だけど、私達三人を超える男が出てくるなんて考えてもいない。それだけ、お爺様以外の男性に魅力が無いということだもの。

…まぁどうでもいいわ、出なかったらこの私が手に入れるだけだもの。

もしも、の話なんて効率が悪い。

「わかった…」

お爺様が重い口を開く。

「ありがとうございますわお爺さま」

「しかし条件がある」

「…なんです?」

いつも私の願いを聞いてくれるお爺様が珍しい… 条件を聞いてみるとこうだ

1 春蘭・秋蘭の他にも絶対に護衛をつけること。
2 今回は見るだけ、よっぽどのことが無い限り戦いには参加しないこと。
この二つを守ることだ。 

「しかし、それでは戦働きが」
「不満なら来なくていいのだぞ?」
「…」

お爺様は心配しすぎだ。私だってお爺様の役に立ちたいのに…。

「わかりましたわ」

仕方ない、ここは頷いておこう。

「うむ、話はそれだけだ。…もう夜も遅いから早く寝なさい。」

「はい、おやすみなさいお爺様。」

お爺様に一礼してから部屋を出て寝室へ向かう。とりあえず明日、春蘭・秋蘭達の所へ行こう。二人のことだ、この事を話せば喜んでついてくるだろう。

「ん…」

頬に風を感じ、ふと足を止めて天を見上げる。

そこには瞬く星と上弦の月が浮かんでいた。

そして

(何故かわからないけど)

なにか

(心が締め付けられる?)

予兆だろうか… 懐かしくて、悲しくて、暖かくて、涙が出そうになる。

そんな気持ちにさせる月夜だった…





それから数日が経った…

予定どうり、私・春蘭・秋蘭の三人はお爺様に付いて陣へと赴いた。

するともう天幕の用意は出来ており、後は大将の到着とお爺様が助力を頼んだ武将を待つだけらしい。

「そういえばお爺様。 何故助力を頼んだのですか?」

「ここだけの話、大将が頼りにならんからだよ。 高官の息子なんだが、今回が初めての戦らしくてな。一回あって話したのだが… ありゃだめだ。名誉のために、指揮を執りたいと言ってるのが丸解りでな。兵法の優れているかと思えばそうでもなく、武勇に優れているのか言えば… はっきり言って春蘭の方が何倍も強いからね。」

おまけに、兵のほうも完全に鍛錬が足りないらしい。これでは、いくら数が多くても意味がない。戦場では手足のように使える兵のほうが使える、鍛錬の足りない兵なんて旗色が悪くなったら逃げ出すのがオチだろう。

諸侯に助力を願ってもなにか適当に理由を付けられて断られたらしい。

「まぁ腹の中では、私の失脚を狙っていると思うんだけどね。」

曹家はそれなりに財力がある。だから今回の討伐を失敗させて力を削るのが魂胆だろう。

「ではお爺様を助けてくれるといった家とは?」

「ああ、北家の御大だよ。」

北家…聞いたことがある。 優秀な文官を輩出する家だったが、北家の御大の代からは武力にも優れ、強い発言力を有するという… いわゆる名家の一つである。

「そっ曹騰様… それは誠ですか!?」

春蘭が興奮したように話す。 
そういえば御大を憧れていたわね。

大陸最強の武を持つ者

老いてなおその力は健在だという。確かに格闘馬鹿の春蘭にとっては神様みたいなものだろう。

「こら姉者…」

秋蘭が諌めようとしても…

「おお! すごいぞ秋蘭!! あの御大に会えるのだぞ!?」

目をキラキラと輝かせ、顔を赤らめて興奮する春蘭の耳には届かないようだった。

それをみた秋蘭はやれやれといった風にため息をつく

まったくこれじゃどちらが姉かよく判らないわね。

こんな事を話していたら天幕の外から「失礼いたします」と兵の声がした。

「どうした?」

「はい、どうやら援軍と思われる軍団が見えましたのでご報告に…」

「して、旗は?」

「色は藍、北の字が描かれていました。」

「どうやら着いたようだな、出迎えるとしよう… 華琳、春蘭、秋蘭行きますよ。」

といって外に向かうお爺様。 その後に付いて行く… 前に

「秋蘭」

「はい」

「とりあえず… その子をこっちの世界に戻してくれない?」

「…はい」

なんだか変な世界に旅立っている愛すべきお馬鹿さんを起こさないと。

そんなことを思いながら秋蘭とため息を一つ吐いた。




・・
・・・



「あれが…」

誰かが息を呑む

「大陸一の武」

髪と髭こそ白色だがそれ以外は老いを感じさせない。筋骨隆々とした体に、落ち着いているが、圧倒的威圧感を感じさせる目…

兵も数こそ少ないが皆自信に満ち、行軍の動きを見ても良く鍛錬されているのだとわかる。

数より質

この言葉がよく合う一軍だった。

「遅れてすまぬ、曹騰殿。ただいま参上した。」

馬から降りて礼をする

「いえこちらこそ… 遠路はるばる申し訳ありませぬ。」

それを返すお爺様、私達もそれに習う。

「いや、この老いぼれでよければいくらでも戦働きをします故… ところで曹騰殿?」

「なんですかな?」

「そこの可愛らしいお嬢ちゃん達は?」

「ああそうですね… 華琳、春蘭、秋蘭挨拶なさい」

お爺様に促される

「初めてお目にかかります、孫の曹操と申します。この度はご助力のほどありがとうございます。…春蘭?」

後に続くはずの春蘭の声がない。後ろを見ると…

春蘭が固まっていた。

これじゃ挨拶もできないはずだ、仕方ない…

「秋蘭」

「はい。姉に代わり失礼します、私は夏候淵と申します。そしてこっちで固まって いるのが姉の」
「か・かっ夏候惇ともうひましゅ。」
「… です。」

春蘭が変な間で噛んだため、一瞬微妙な空気が流れるかと思ったのだけど。

「おお! お嬢ちゃん達が曹家の… うわさ通り、将来有望そうな子達じゃの。」

私達に向ける顔は綻んでおり、傍から見れば好々爺そのものだ。
しかし、春蘭などさっきよりも恐縮してしまい、体を縮こませてしまっている。

「やはり、女の子はいいもんじゃ 家の郷とは違うの~」

「確かそちらもお孫殿を連れてこられたと伺いましたが?」

「おお!? すっかり忘れとったわ!!」

カカカと笑う御大

「跡継ぎの郷殿は神童とうわさで聞きますが?」

お爺様が尋ねる。 

すこしだけだけど聞いたことがある。北家の北郷、同年代でありながらその武・智は大人顔負けで、人をひきつける魅力があるという。

少し前からだけど顔を見てみたいと思っていた。

「確かに多少大人びているようなところもありますが、ワシらにとってはまだまだ子供ですぞい。 今日もあやつを強引に連れてきたのだが、ギャーギャー喧しくての。 一発殴って気絶させてから連れてきましたわい。 」

先ほども眠らせてきたと言いながら笑う。…随分と暴力的だが他所の家のやり方だ流しておきましょう。

その後二言三言言葉を交わした後、私達は彼を天幕まで案内することとなったのだが。その途中、今回の大将が到着したらしくお爺様と私達はその場を後にした。



[7628] 一度目の再開 華琳SIDE 後編
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 02:25
「あっあああの下郎! かっ華琳さまにあのような目を向けるなんてぇぇ!!」

春蘭が怒り狂っている。いつもならなだめる秋蘭も…

「・・・」

黙りこくって全身から怒気を発している。

まぁ仕方ないだろう、私でさえこんなにも気分が波立つのは久しぶりなのだから。

先ほど今回の大将に会いに行ったのだが… 全くをもって愚物だった。

見た目は丸々と肥えており、動きは鈍重。
自分のやるべきことも聞かずにこちらに丸投げ、なのに戦闘の指示だけはやらせろという… まさにお爺様から聞いた通りで私が最も嫌いな男であった。

これだけならばまだ良かった… この豚(もうこれでいいわ)あろうことか、にやけながら私達に目を向け舐め回すように見てきたのだ。

結局、話が終わるまであの豚はこっちに視線を送り続けていた…

そして豚の小屋から帰り今、私たちは天幕にいるわけなのだが。

豚のせいで完全に空気がおかしくなってしまっていた。

「ふぅ…」

一息を入れ

「もういいわ。 春蘭・秋蘭」

「へう!?」

「華琳さま?」

「確かに、あの幼女趣味の変態豚の行動は万死に値するわ… だけどね、あんな豚の視線なんかを、いつまでも気にしているなんて曹家の名折れよ。もう気になんかしていないわ、だからあなた達も気を静めなさい。」

「だって… だって華琳さま!」

「私のために怒ってくれているのね、かわいい子… しかし私は気を静めろと言ってるの春蘭。」

「うう…」

「貴女もそうよ秋蘭?」

「ですが…」

どうしてこう二人は、全く…

「秋蘭」

「はい」

「春蘭」

「はっはい!」

「いい? あれはどうってこないことなの。道を歩いてたらゴミ虫を踏んでしまったと同じことなの。そんなのいちいち気にしていたらラチがあかないわ・・
それとも何? あなた達はたまたま踏んでしまったゴミ虫を気にするのかしら? くつを洗うなり、捨てるなどすればいいのだからどうでもいいじゃない?」

「うう・・ わかりました」

「ふふ、ききわけのいい子は好きよ春蘭。 秋蘭もいいかしら?」

「華琳さまがそうおっしゃるのなら・・」

「それじゃあもうこの話はおしまいね「華琳・・ 少しいいかね?」 お爺様?」

声の聞こえた方向に顔を向けると、お爺様が入り口から顔を覗かせていた。

話を聞くと私たちを気にかけ、様子を見に来てくれたようだ。

「申し訳ありません、お仕事の最中なのに・・」

「いや、いいんだよ。 私もあの態度には良い気はしなかったからね。」

「ありがとうございます・・ 私達はもう平気ですので、お戻りになられて下さい。」

「そうか・…わかった。 後でちょっとした宴をするからね、そのときにまた来るよ… それじゃ」

お爺様が天幕の外へ出ようとしたその時

「あっあの!」

「春蘭?」

振り向くと春蘭がこっち向き、オズオズと口を開いた

「その、宴のことなのですが…」

「どうかしたのかね?」

「あの… えっと…」

私を気にするようにチラチラと見ながら歯切れ悪く喋る春蘭。すると

「まったく、らしくないぞ姉者」

見かねたのか秋蘭が助け舟を出した

「つまりですね… 姉者は宴に出たくないのですよ」

あの良く食べる春蘭が… 

「どういうことなの?」

「姉者は宴の席でまたあいつに会うのがいやなのですよ」

「…その話は終ったはずよ」

「ふふ・・ 華琳さま。姉者は馬鹿ですが」
「しゅっ秋蘭!」
「華琳さまの言うことだけは必ず守りますし、頭の中も華琳さま第一で作られています。
「うう~」
「なのになんでそんなことを言うのかというと・・・ 」

秋蘭は春蘭に目配せをする。

すると春蘭は息を吸い一気に喋り始めた

「私は、またあの視線に華琳さまと秋蘭がさらされると思うとわたしは今度こそ我慢出来ない!!」

「 …というわけなのです」

「あなたは反対なの? 秋蘭」

「臣下としては華琳さまに従いますが―― 個人としては姉者と同じ気持ちです」

…全く、この姉妹は

「お爺様」

「ん?」

「申し訳ありません、なんだか調子が悪くて。」

「ああ、最近疲れが溜まっていたようだからね。…今日の宴は欠席ということで良いかね?」

「ありがとうございます」

「わかったよ… 暇だからってくれぐれも陣の外に出ないようにな?」

「はい」

そう注意するとお爺様は天幕から立ち去っていった。

「華琳さま…」

お爺様を見送ると同時にオズオズと声をかけられる、そこには気まずそうな顔をした二人がいた

「ねえ」

声をかける

「私は『豚のことについては忘れるように』とさっき言ったはずなんだけど?」

「それを踏まえた上で『私』が発言しました」

秋蘭がとっさに答える

「そう… 主の決めた事に対して進言するのが部下のすることと思って?」

「…何らかの罰を受けるのは覚悟の上です。 ですが姉者には軽くしていただけませんか? 姉者は『お願い』したのでなく、私に『言わされた』だけですし 実際に華琳さまに進言したのは私ですの…」

「そう―― なら
「おっお待ちください!!」
「なに、春蘭? 」

少し声色を変えて返事をする

「そっその… 最初に宴に反対したのは私が先です! 秋蘭はそれを手伝っただけなのです!! ですから、罰は私だけに…」

「華琳さま― これは私が華琳さまの命に背くと判った上で姉者を手伝ったんです… 姉者は華琳さまのために言っただけなので、私よりも罪は軽くなると思うのですが…」

「違うんです華琳さま! そっその… 秋蘭に『手伝わなければ、大切な華琳さま人形を壊すぞ』って言ったんです! だから悪いのは私だけで…」

「姉者!?なっなぜその人形を!!?  ちゃんとしまってあったのに… じゃなくて! そんなバレバレな嘘 華琳さまに通じるわけないだろう!」

「嘘じゃないです! 秋蘭はいつも寝る前になると机の鍵付き引き出しの中の人形を出して一緒に寝ています!!」

「なぁ!? あっ姉者だって華琳さまの姿絵をいつも枕に忍ばせて寝ているじゃないか!」

「? それのどこが悪いんだ?」

だんだん収集が付かなくなってきた… とりあえず

「いいかげんになさい!!」

二人の言い合いがピタリと止まる

「「いや、あの… 華琳さま これはですね」」
「静かになさい」 
「「はい」」

「どっちにしろ二人が私の命に背いたことは事実… なら等しく罰を受け入れなさい」

「うう…」

「…はい」

二人とも観念したのかうつむいている

「罰を言うわ… 夏候敦・夏候淵両名今夜の宴参加を禁じ、私の身辺警護を命ずる」

「え?」

「今のが罰… 今夜は私についていなさい」

一瞬二人ともポケェとするが春蘭は顔を綻ばせ、秋蘭は少し喜色を浮かべながら

「「御意(!)」」

と返事をするのだった。




宴に行かないと決めたのは私自身であったが、その分だけ時間が空いてしまった。 

暇なのだ

外に出るには遅く、寝るにはまだ早い。

之といってすることも無いため、暇つぶしがてら陣内を三人で散策することにしたのだが―

(戦闘に巻き込まれるとは思わなかったわね)

散策に出てしばらく経った後、見張りの死体と陣の外で戦闘が行なわれているのに気づいた

剣戟・怒号ー 初めて嗅ぐ濃い血臭 鮮やかな赤が時間が経つと共に黒くなるのを見ると

恐怖 

頭の中はその二文字が浮かんでいた。

怪我をするかもしれない、死ぬかもしれない… 殺さなければいけないかもしれない。

逃げる

だけど、ここで逃げたら

(私が私で無くなる)

二人の主として胸を張れなくなる

そうならない為に

「春蘭・秋蘭― その命私に預けれる?
戦場に赴くことを決意した


春蘭SIDE

華琳さまは生涯お仕えする主… と親に言われたがはっきり言って仕えるとか主とか奉仕とかよくわからない。 だけど今では私にとって秋蘭と合わせて一番大切な人だというのがわかるし、華琳さまをお守りするのが私の使命だと判ってからは常に鍛えてきた。

そして今

「春蘭・秋蘭― その命私に預けれる?」

華琳さまが私の力を必要としている…

怖い・すごく怖い。

痛いのも嫌だし、怖いのも嫌だ。だけど、自分が嫌だと感じていることを華琳さまと秋蘭に感じさせたくない! 

だから

「もちろん!!」

どこまでも… お守りします!

戦うのを決意した


秋蘭SIDE

体が熱い―

体が震える――

頭の中は驚くほどに冷静だ… 相手の戟の軌道が判るくらいに、自分の感覚が恐ろしく研ぎ澄まされており敵を倒す。

華琳さまも姉者も同じ様で賊をなぎ倒している。

しかし

「おいおいお嬢ちゃんたちよ!疲れてきたんじゃないんだろうな?」

「まだまだこっちは数があり余ってんだ… 全員相手にするまでくたばって貰っちゃ困るだがなぁ」

「なんだお前ぇ こんなガキが好みなのか?」

「くくっ…まぁこんだけ顔が良いんだ変態共には良い値で売れるだろうよぉ」

(くそっ! 黙れ!!)

私達が華琳さまに続き戦闘に介入してから大分たったが一向に好転しない。それどころか兵が逃げていき私達が取り残されてしまった…

賊共もこっちが不利なのを判っているのか余裕を見せて攻めてきている・・  いや、単純な武力ではこっちが上なのに―― 何なのだこいつらの余裕は。

不安になった私は賊と対峙しながら辺りを警戒する・・ すると

(弓兵!)

狙っているのは… 華琳さま!?

「華琳さま! お逃げ」

声を出そうとするも

「余所見たぁいい度胸じゃねえか!」 

「っく!」

阻まれる

くそ! このままじゃ間に合わない!!

このままじゃ・・・

このままじゃ・・

「あれ~なに泣いちゃってんのかなぁ?」

「大丈夫だって! 後で別の意味で泣かしてやるからよぉ」

「んじゃ俺、金髪で」

「俺 馬鹿っぽい黒髪~」

「じゃぁこいつでいいや」

「うわ!? おれの周り変態だらけじゃねぇか!?」

下品な声が響く 華琳さまも気づいたらしく顔をむける。しかし

無情にもすでに狙いが付けられた後だった

駄目かと思った其の時… 風が切れる音が聞こえたと思ったら

弓兵に矢が生えていた

「お前らどうしt!!」

途中で声が途切れたため確かめると、私達を囲んでいた賊のほとんどが矢によって絶命していた。

あっけにとられていると影が飛び込み

「後は任せろ!!」

といい賊を蹂躙していった…



華琳SIDE

影は疾走しながら、頼りない剣を滑らせ賊の命を刈ってゆく、そして最後の賊の頸を刎ねると血が噴水のように出た。

血の噴水越しに影の姿を確認する

よく見ると―

「男の子?」

それも同じくらいの年の…

血にぬれた髪と服が肌に張り付き、子供と思えない色気を醸し出しており目は爛々と輝いていた。


・・
・・・

ああそうか… 私は今、彼に見とれていたのか

「「華琳さま!!」」

二人の声で現実に戻される

しばらくすると男の子が近づき、私の腕に酒を拭きかけ軟膏を塗り傷口を布できつく縛り顔を覗かれた。

一瞬顔が熱くなるが

(えっ…?)

軽く驚きに変わる

涙を流し始めたのだ。 どこか怪我をしたのだろうか? 

気になる__ おかしな話だ、今まで男なんて気にもしなかったのに目の前の彼に意識が集中してしまっている。

「おっおい!? …大丈夫か?」

春蘭が話しかける

とりあえず今は彼の涙を止めて

そして…

(名前を聞こう)

そう思った。





[7628] 戦の後
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 02:33

・ ・
・ ・・

「俺の名前は… えっと」

「? どうしたの?」

華琳が顔を傾げながら聞いてくる

(かっかわええ… じゃねえ! ピンチ! ピンチだぞ俺!!)

なんでこんなに慌ててるのかというと

(真名が無い!!)

ということなのだ。

そう俺には『まだ』真名が無い。

いや… 別につけて貰えないってわけじゃないんだよ! 北家の子供は何故か字と真名が10の誕生日に贈られるという取り決めがあるため、まだ九つの俺にはまだこの二つはつけられていないのだ。

まぁ仕方ないっちゃぁ仕方ないんだが… 

とはいえ初対面(この世界では)の俺に真名を許してくれたって言うのに俺が真名を明かさないって言うのは

(さすがに気まずい…)

頭の中であれやこれやと考えるが時間だけが過ぎていく

華琳達も困惑しながら待っている… いや春蘭だけはイライラしているのが見て取れた

(あああ! もうこうなったら!!)

「おい! お前いいかげんに「ごめん!!」し…ろ?」

とりあえず謝ることにした__ 



華琳SIDE

彼の様子がおかしい

名前を聞こうとしただけなのに「あ~」「う~」と唸りながら困ったような顔を浮かべている、何かあったのだろうか?

私と秋蘭は別にかまわないのだが、春蘭が痺れを切らしそうだ

「おい! お前いいかげんに「ごめん!!」し・・ろ?」

土下座… とまでは行かないが足をそろえ腰を直角に曲げるというある意味芸術的な『謝罪の礼』をしていた

「よく意味がわからないのだけど…」

もしかして名前がないのかしら? いやそれは無いだろう。血に濡れているが彼が纏っている服は家でよく見る上質なもの見えるし、何より彼の佇まいが孤児のようには見えない。

「え~ 説明しますと…」

・・・

「…というわけ」

結構変わった家もあるのね…

「おまえ~ なまえもないのに私たちの真名をきいたのか!?」

「そんなつもりは無いって! 真名が無いだけで名前が無いなんて言ってないから!」

「…同じようなものじゃないか!!」

「違うって!」

「なにがちがうん「まぁいいわ」華琳さま・・」

暴走しそうな春蘭を制しながら会話に割ってはいる

「あなたの名前をおしえてくれないかしら?」

「…俺には真名が無いんだz」
「かまわないわ」
「へ?」

彼の顔が一瞬キョトンとしたものになる。凛々しい印象が強かったがなんだか可愛らしい

「そのかわり、真名が決まったらまっさきにおしえなさい」

「…わかった」

彼は私の目を見て

「姓は北、名は郷… 字と真名はまだ無いから郷と呼んでくれ」

「よろしく」といいながら笑った。

それは優しくて・暖かくて・だけどとても寂しいもので… なにか締め付けられる。

あの月夜を思い出させる…

そんな笑顔だった





戦が終った

戦自体はすんなり終わったんだよ? あの後爺ちゃんが出陣して沈静化したからねぇ… 

だけどこの一戦で王朝の衰退というものをひしひしと感じたんだよね。

理由はまぁ色々あるのだがまず挙げられるのが『兵の弱体化』だろう。

まとまりのなさ・鍛錬の足りなさ・何よりも仕事に対する意識の低さは致命的であった。

次に挙げられるのが『役人が馬鹿ばっか』  某ナデ○コのロリっ子が頭に浮かんだ君… 一緒に酒でもどうだ? じゃなかった。

華琳曰く豚のような役人が『台所に生息しているG』のごとく増えつつあり、なおかつ変に知恵を働かして高官に付くのだから始末に終えないのだ。
 
能力が足らないのなら上司に賄賂を贈り、媚を売り上に行く足がかりとする。

間違っちゃあいない。

しかしだ、生活がキツキツの民から更に搾り取ってまで賄賂を贈ろうとするのは民衆にとっては迷惑に他でしかない。

それで食べれなくなった民が賊になり町を襲い治安が悪くなる。

治安が悪いと商品が流通せず貧窮化が進む…

にもかかわらず役人が税を搾り取って民が食べれなくな(以降エンドレス)という解りやすいスパイラルに陥ってしまっているのが現状である… 

というか衰退というより腐敗していると言ったほうが現状としてしっくりくるだろう 

そんなことを考えつつ華琳たちと曹騰様と爺ちゃんのところに報告の為に行ったんだけど… いやぁびびったよいきなり華琳達に抱きついて号泣だもんなぁ家の爺さんと大違いだよ。

だって「心配させるでないこの馬鹿もんが!!」で拳骨なんだぜ? その後四刻(約一時間?)に渡って説教だったし… (まぁ説教事態、俺を気遣ってくれる内容だったから素直に聞いていたけど)

後は事後処理をして終わるはずだったのだけど、今回のことで爺ちゃんと曹騰様が意気投合したみたいで戦が終ってからも家と曹家の交流が続いた。

もちろん俺は爺ちゃんに付いて曹家に足繁く通い。その甲斐もあってか華琳達も曹騰様と一緒に家に来てくれたりしているのを見てもかなり親密になっていると思う。
 
子供だから表現の仕方は(春蘭は変わらんが)ストレートだし、上に対する礼儀はしっかりしててるけど、同年代の俺に対しては子供らしいところを見せてくれる。

自立した華琳達しか知らない俺にとっては新鮮な日々だった…


ん? 今俺が何をしているのかって? 

今は――

「…手をはなしなさい」

「お~ほっほっほ!! そのようなつもりなどこれっぽちもありませんわ!!」

金髪美(幼)女にはさまれています。






あれは華琳の家に遊びに行ったときのことだった。

「郷」

「なに、華琳?」

「あしたから少し出かけるからつきあいなさい」

話によると、友人のとある名家の娘が誕生日を迎えたため祝いの挨拶に向かうとの事だ

「別にいいけどさ春蘭達はどうしたんだ? 姿が見当たらないけど」

この世界でも春蘭達の華琳好きは健在だ。 俺が曹家にいるときには常に華琳の傍に春蘭と秋蘭の姿があるため、俺・華琳・春蘭・秋蘭で一組と数えられることが多い。

「それがね」
「かっ華琳しゃま~ ごぉ~ 」
「…話すよりもみたほうがはやいかもね」

そう言って声がするほうを見る華琳。

視線の先から、何かズルズルという音とタタタっと駆け寄る足音が聞こえた
 
「姉者ちょっと待て! ねてなければだめだろう!!」 

「うるしゃ~い ひさしぶりに華琳しゃまとごぉといっしょでかけられるのら~ ねてなんていられるか~」

そんな話をしながら現れたのは頭に氷嚢を乗せ、剣を杖のようにつきながら這いずるように歩く春蘭とやれやれという風な顔をしながら歩く秋蘭の姿があった。

「すみません華琳さま… 郷すまないな、少しまっていてくれ… ほら姉者へやにもどろう、ここにいてはわるくなってしまうぞ?」

「私はかえらないぞしゅうら~ん、ごうとはなしをするのら~」

「ろれつが回ってないじゃないか… 仕方ない。 姉者すまない! 」

秋蘭はそういうと「てい!」といいながら春蘭の首筋に手刀をいれると

「しゅっ秋蘭なにを… きゅう~」

あんなに駄々をこねていた春蘭が一気に大人しくなった… というよりパタリと床に倒れた。

何? どゆこと?

俺が頭に?マークを浮かべていると

華琳が「とりあえず春蘭をへやにはこびましょう」とやれやれと苦笑を顔に浮かばせて言ったのだった…





「熱が下がらない?」

「そうよ」

「そうだ」

華琳と秋蘭が頷く。

話をざっくりとまとめるとこうだ。
四日ぐらい前に出かけることを話す=春蘭テンションアップ=俺も来ることも話す=更にアップ…

その翌日から熱が下がらず、薬を使ったが大して効かなかったらしい…

(一体何の病気なんだ?)

「どうしましょうか華琳さま?」

(普通の風邪だとしてもこんなに長引くのも変だ…)

「そうね・・ これを試してみましょうか」

(おたふく風邪も経験済みだというし…)

「それは?」

(というか… 超健康優良児の春蘭が病気というのが考えられん)

「――にさすとたちまちねつが下がるみたいなの」

(他に可能性があるとしたら… )

「まぁ物はためしやってみましょう… 姉者少ししつれいするぞ」

(やっぱあれかなぁ春蘭だし… ちょっと聞いてみるか )

「なぁ ちょっとい… いい!?」

話を聞くために顔を上げるとそこは… 

「んぅ… !? 秋蘭! 華琳さまなにを!?」

カオスだった。

想像してみてくれ。
一見まじめな顔をしてるが目には危ない光を爛々と灯し、片方は手をワキワキとさせ、もう片方は片手にネギを持ち

「ちりょうよ… さぁ春蘭、力をぬいて私にみをまかせなさい」

「そうだぞ姉者… 安心して華琳さまにまかせるがいい」

と呟きながら近づく二人の美(幼)女と

「ひっ!?」

ビビりながら寝台の上で後ずさる美(幼)女の姿を・・

「だっだれか… !? 郷たのむ! たすけて!」

この光景に呆気にとられていた俺だったが、春蘭の声で気を取り直し

「ちょおっっっと待てぇぇい!!」

ツッコミを入れた。




ネギの魔の手から春蘭を救い出した後、改めて春蘭の症状を聞いてみたところ(話が出た晩わくわくして眠れなかったやテンションが異常に高かった等) 【興奮のしすぎによる発熱】だということが判明した。

思わず子供か! と言いそうになったが、実際に相手は子供なためここは自重する。

「明日の遠出はお預け… だな」

「そんなぁ~」

「仕方ないだろう? 熱だけで咳もお腹も下してないから結構元気そうに見えるけど、ここは大事をとって寝てろ まぁよかったじゃないか風邪じゃなくて」

「うぅ~」 

と以上のやり取りの結果、春蘭と秋蘭(曰く「姉者が心配だから」という理由で)は留守番となり。華琳の遠出には俺が着いていくことになった。

そして翌日、うらめしそうな視線を送る春蘭を秋蘭に任せて俺と華琳は護衛をつけて出かけることになったのだった。










あとがき

この度は投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
この車との接触事故で一ヶ月ほど入院しておりまして保険の手続きとか手術やらで
SSをほったらかしにしていました・・・
中にはこのSSを楽しみにしていただいた方もいらっしゃるのに・・ 情けない限りです。 今後も卒業論文やらなんやらで更新が遅れますが広い心で待っていただけたら幸いで・・ やっやめて! 色々投げないで!! リポのライフはもう0よ!

石を投げるならもっと硬くて大きな奴をお願いします。

ではまた。




[7628] 大陸一の・・
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:a14f713c
Date: 2010/04/14 02:43
??? SIDE

ある家で、ある男がブツブツと呟いている

邪魔だ…

私が朝廷を握るには奴らは邪魔だ…

私の計画に気付き身辺を漁っている子倅。
奴は私が恋していた彼女を奪っただけでなく、反逆しようとしている。

私の命令に従わない耄碌爺
奴は私の命に従わず好き勝手に軍を動かしやがる。

許せない

奴らは__ 北家の人間は邪魔だ…

どうにかせねば…

ある男が呟いている… 

虚空に対し呟いている。

そこに相手がいるわけじゃないのに、誰かがいるわけではないのに、聞かせるわけでないのに

ある男が呟いている

誰の耳にも入らずその言葉は暗闇に溶けて無くなった

ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ

その呟きは、怨嗟で満ちていた…

SIDE OUT










私にとって北郷という少年は、興味が尽きない存在である。

子供でありながら大人顔負けの武と知識を持ち、その人格も万人から愛され・慕われる所謂人誑しというものだった。

事実彼が家に来るようになってからは母様や使用人だけでなく街の住民達とも親しくなっていた。

もちろん常に彼の傍にいる私達三人も例に漏れずに… いやそれどころか一緒にいるのが多い分、人誑しの影響を直に受けてしまっている。

春蘭の場合最初は郷に対し、どのように接して良いのか分からずおっかなびっくりな様子だったのだが、今となっては郷と聞くと子犬が飼い主にじゃれる(本人は「飼い主は華琳さまだけだ!」と言っているが・・)様な状態だ。

秋蘭は秋蘭で最初こそ少し警戒するという具合ではあったが、最近はこっそりと郷に弓を教えてもらっているみたいだ。(郷曰く秋蘭には才能があるらしい)

そして私は… 

そんな春蘭達を見て焦りを感じていた。

郷は優しい。

甘いと優しいの区別はついているが、それを除いてもとにかく優しかった。

貴賎の差別もせずに誰でも礼節と笑顔で対応し、困っている人がいるなら手を差し伸べる。

郷が春蘭と楽しそうに遊ぶ度、秋蘭と鍛錬で触れ合う度、私以外の女の人と話す度にいつも私はよくわからない焦りに駆られるのだ…


郷が遠くに行ってしまいそうで…

私から離れていってしまいそうで…

苦しくなる。

よく分からない… この感情はいったい何なのだろう?

お爺様に相談したら「そうか…」と嬉しそうな表情をしながら「だがしかし…」と難しそうな顔になってしまったし。

そんなことを考えて毎日を過ごしているうちに今回の話が来た。それも郷がいる時に

最近は郷も春蘭と秋蘭に付きっきりだったため、今回の遠出はいい機会だと思い誘ったのだ… 決して春蘭が体調を崩したのを好機などとは思っていない。

「華琳? おーい華琳さ-ん」

いけない、考えに没頭して隣に郷がいるのを忘れていた…

気を取り直して隣にいる郷に顔を向ける。

ちょうどいい長さに切りそろえられたサラサラの黒髪から黒い瞳がこっちを見ていた。 

「ごめんなさいね… 少し呆けていたわ」

「へぇ珍しい華琳がぼーっとするなんて」

笑いながら私をからかう… むぅ…

「私だってたまにはするわよ… 悪い?」

なにか郷の言い方がいやだったのでいじける私… だけど

「そんなこと無いって、俺は華琳の色んな表情が見れて嬉しいよ。 もちろん今のいじけた顔も… ね?」

こんな事を笑顔で言うのだから郷はズルイ

私は顔の熱が高くなるのを感じ、ばれないようにそっぽを向く

「…それより何か聞くことがあるのではないの?」

「いや 後どれくらいで着くのかなぁ~って」

「たぶんこのきゅうけいが最後になるはずよ、もうすぐそこだから」

「そっか… うんありがと」

笑いながら御礼を言う郷

なんだか気恥ずかしくなって視線を下に落とすと郷の剣が目に入った。

郷の剣… 見た目は他の剣と違い細くひ弱そうで、慣れていない人間が使うと使いにくいことこの上ないが、郷が使うと全てを切り裂くと思える錯覚を起こす程の切れ味を誇り。

刀身は芸術品のように美しく、その刀身は意匠を施された鞘に収まっている。 

きっと美術品としても価値があるだろう、実際私はそれに目を奪われた。

ジーと見ているとそこであるものに気付く… 邪魔にならない程度の大きさの髑髏の形をした飾りがついていたのだ。

「郷… これは?」

「ん? ああこれね」

よほど大切なのか大事そうに見ながら話す

「なんていうのかな… 思い入れがあるんだ」

「思い入れ?」

「そう」

「うまく説明できないけどね」と困ったように笑う。

何か思い出の品だろうか?その飾りは郷の絆を象徴しているように思った・・

だから

「ねえ…」

私も…

「それってどうやってつくるの?」

絆を共有したいと思った…





最後の休憩も終わり少し馬車に揺られるとすぐに街に入った。

結構大きな街らしく賑わっているようにみえる
しかしそれよりも気になるものがあった… 「袁」と書かれた旗である。

(袁の旗、華琳の知人… 確実にあの娘か)

そんな事を考えていると目的地の屋敷にも着いた、挨拶もすませ部屋にも案内された為考えていたことを後にして一息つくことにした。

華琳は少しやることがあるらしく今はいない、ついてきただけの俺にはやることが無い、おまけに宴まで時間がある。

結果…

(この後何しよう?)

暇なのである。

手持ち無沙汰ぼんやりと庭を見渡していると視界の隅に何かが入った。よく見ると…

「女の子?」

俺と同じくらいの年で、華琳とよく似ているウェーブの掛かった金髪で少し派手な服を着ている女の子が歩いている… しかもどっかで見たような顔である。

面白そうだからそのままジーッと視姦じゃなかった観察してみる。

辺りをキョロキョロ見ながら確認を取ると、おもむろに頭を壁伝いの茂みに突っ込んだ。

ガサガサと何かを探しているようだ… 小振りのお尻が可愛らしいと思ったのは俺の秘密である。

少し気になり始めた俺は護衛の人に適当に理由をつけて庭に出てみることにした。





「ありゃ?」

庭に出てみるとさっきの女の子の姿は消えていた

(おっかしいなぁ)

女の子の痕跡を探すため茂みを壁伝いに調べてみる。

すると…

「そーゆうことか…」

壁に子供一人通れそうな穴が空いていたのだ。

きっとさっきの女の子はこれを捜していたのであろう。

「どうしようか?」

気になるから後をつけてみたいのだが、如何せん今の俺は客人かつ子供かつ華琳の付き添いだ。

勝手に出て行ったら心配を掛ける上に、確実に華琳の機嫌を損ねるだろう。

この後の行動をその場で考えていると…

「お嬢様~ どこにいらっしゃるのですか~?」

と声が後ろから聞こえてきた。

視線を向けると女官だろうか? 女の人数人が慌てながら庭で何かを探していた。

とりあえず一番冷静そうな人に話しかけてみる

「あの~ 何かあったんですか?」

「えっ…?」

一瞬?頭に出るがすぐ下の俺に気付くと

「あれぇ~ どうしたのかな僕? ここに入ってきちゃいけないよ?」

と腰を落としながら笑顔で注意してきた。

「すみません 何か慌てていたようですので・・ 申し送れました俺は本日の宴に客人で招待された曹操殿の付き添いで北郷と申します」

疑われないように挨拶をする俺

「えっ!? しっ失礼しました! お客様とは知らずに・・ 」

確かに見かけない子供がいたらおかしいわな…

「いえ、いいですよ… ところで一体? 何かお手伝いできるかもしれませんよ?」

「えっ… ですが」

言い難そうにする女の人。

まぁこっちは客人でその上子供だし… 仕方ないちゃぁ仕方ない。

…こうしていても埒があかない、こっちから切り出すしかないだろう。

「どうやら人を探している様に見えましたが… 俺と同じぐらいの女の子なら見かけましたよ?」

相手は「え!」という顔をしている__ どうやら当たりみたいだ

あの女の子で間違いないらしい

まさか

(あの子が袁紹なんてな__)




女官さんに話しを聞いた後、早速行動に移すことにした―― 以前から「一人で街に出たい」とごねていたというのを聞いても確実にあの子だろう。

もちろん護衛さんと華琳に対する連絡も頼んでおいた。 

これで自由に外に出れるようになった… まぁ華琳のお小言は確実にくらうだろうけど。

んで今、通りに出て探しているところだ―― 最初に見たとおり人で賑わっている。 こんなところ子供、しかも一人歩きに慣れていない女の子が紛れたら迷子になるのは絶対だろう。

(…ん?さっきの曲がり角に何かいたぞ?)

もう一度視線を返してみる。 

いた

体育座りをしながら顔を伏せている… 多分迷子になってしまい、知っている大人もいないから不安になってしまったというところだろう。

少し苦笑しながら近づき

「どうかしたのかい?」

話しかけることにした。


??? SIDE

屋敷にいても誰も何もやらせてくれない…

何をしようとも使用人がやってきて一人でできない―― お勉強にしても、湯浴みにしても、お着替えに一人で出来たためしがない。

だからあの壁を見つけた時はなんだか嬉しかった。

誰の手伝いも無しに外に出れると、一人でできるとそう思っていた。

外にでる時は一番忙しいとき―― わたくしのお誕生日のお祝いの準備をしているときが狙い目… 事実作戦は成功した。  

だけど

外に出ると知らない人がたくさんいて、すぐに自分がどこにいるのかが分からなくなってしまった。

屋敷を捜そうとも人に押されて動けなく、進もうとしても人の波に流されて進めなく、おまけに転んでひざをすりむい…

やっと出れたと思ったらぜんぜん知らないところで

怖くなってしまった。家に帰れなかったらどうしよう、お祝いに間に合わなかったらどうしよう、みんなに会えなかったらどうしよう… そんな事を考えていたら涙が出てきてしまった。

歩くのをやめて、壁に寄りかかって、泣いた

誰も自分に気付かない、気付いてくれない__ まるでこの世から投げ出されてしまったお化けみたいになってしまったんだと考えながら・・ 泣いた。

だけど

「どうかしたのかい?」

話しかけてくれる男の子がいた。

しゃくり上げながら話す自分の言葉を根気よく聞いてくれたうえに、手を握っていてくれた。

「大丈夫… 大丈夫…」と彼は背中をさすってくれる――

「こっちだよ」握った手を離さないように彼は、道をどんどん歩いてゆく

ちょっと人ごみが怖くなった私だったけど彼がいたからか、不思議と怖くなかった

途中彼は少しでも私を落ち着かせるために、自分で作ったきゃらめるとかいう見たこともないお菓子をくれた。

きゃらめるは今でも大好物だ。

家に帰る間色んな話もした、普通の話だったけどすごく楽しかった

少し迷いながらも大人の人に聞きながら進むと家についてしまった―― なんでだろうあんなに帰りたかったのに今は帰りたくない。

だけど彼はどんどん歩く、私はそれについてゆく。

そして――

「はい到着」

ついてしまった。

離れてしまった手が今は寂しかった…



女官達が門でまっていたらしく私を見つけると風のように近づいてきて、私を抱えて嵐のように門から離れていった。

みんなが言うには時間が無いらしい

彼の事が気になりながらも勢いに負けてなすがままで… いつの間にか宴が始まっていた。

祝辞や催し物があっても気になるのは彼の事ばかり――

「・は・・いは・・麗羽!! 」

「!? なっなんですの華琳さん!?」

「はぁあなたって人は… まぁいいわ、おたんじょう日おめでとう。 これ、おいわいの品」

といいながら箱を渡す華琳さん

箱をあけるとそこには

「きゃらめるっていうお菓子よ… 」

きゃらめるが入っていた 一つ口にいれる。

間違いない。 あれよりおいしいけど・・ 同じだ!

これをどうしたのか聞こうとすると華琳さんが誰かの手を引いていた

「つくり方をおしえてくれた人をしょうかいするわ… ほら郷」

手の先には笑っている彼…

いや

「さっき振りだね… 改めて始めまして北郷っていいます」

郷さんの姿があった。



・・
・・・

あの宴が終わり私は今―― 華琳さんの家に向かっている。

直接郷さんの家に行っても良かったのだが、なにか恥ずかしいため郷さんが華琳さんの家にいる時を狙っているのだ。

だけど華琳さんといい、春蘭さんといい、秋蘭さんといい、いつも私が郷さんと遊ぼうとするのを邪魔しますの――

今も…

「… 手をはなしなさい」

「お~ほっほっほ!! そのようなつもりなどこれっぽちもありませんわ!!」

「ははは(汗)」

華琳さんが邪魔をする――

わかりましたわ… 華琳さん受けて経ちますわ

この大陸一の名家… 袁家の姫の力見せてさしあげますわ!!! 

お~ほっほっほっほ!!






袁紹… いや麗羽がここに来るようになってから一気に騒がしくなった。

というよりも俺の精神がカリカリと削られているように感じる…

一人を相手にすれば他の子が、その子を相手にすると他の子がという風な感じである。

まぁ… 嬉しいからいいんだけどね

だけど… 彼女達、特に麗羽は変わってきている。

俺の記憶の中では何をするにも他人任せ、何も考えない奴だったが… 今の彼女は違う。

自分のことは自分でやり、ちゃんと考えて行動する… 将来が楽しみな人材になるんじゃないかなと思っている。


「郷」

「郷さん」

「ごぉ!」

「郷…」

「「「「今日は誰と遊ぶの(ですの)(のだ)(んだ)?」」」」


俺… 胃が持つかなぁ










心身ともにクタクタなまま家路につく…

自分の街に入る前にあるところに目が入った

「!? ちょっと止めて!!」

急いで近づくそこには… 子供がいた

俺はその子を急いで馬車に運び寝かせる

「若様一体何が」
「すぐ医者の所に!!」
「え!?」
「早く!!」
「はい! 」

俺もまだまだ青い… 普通の子だったらこんなに動転しないのに…

普通の子だったら…

スウスウと寝息を立てるその子を見る。

ちょうど月明かりに顔が照らされたところだった…

ふわふわとした茶色の髪・整った顔・そして… 猫の耳に見えるフード

「桂花」

男嫌いな軍師 荀彧文若 がボロボロになって寝ていた。











あとがき

ひさしぶりです、リポです。
おそくなってすみません・・ 最近卒論の作成に時間がとられて完全に放置の方向でした。
卒論が無ければSS作成に力が注げるというのに!!・・ 多分(笑)
多分これからも卒論で更新が遅くなると思いますが見捨てずにしてもらえたら嬉しいです。

後今回、麗羽様が参戦するんですが・・ いや出会いに力を入れすぎたというか・・なんか華琳よりもヒロインっぽいような・・ いっいや!? 華琳は蔑ろにはしませんよ!? ちょっとかいてたらノリに乗っちゃいまして・・・ いや麗羽ってなんか書きやすくて・・ 華琳好きの皆様には申し訳ありませんがヒロインは急遽変更して麗h嘘です冗談です ちょっっ ごめんな・・ アッーーーーー!!

(ムク)

ミナサン、ワタシハ魏ノキャラクターガスキデス(呉・蜀も好きですが)ヒロインハカワラナイデス。

デハコレカラモ、再・恋姫無双ヨロシクオネガイイタシマス。




[7628] 彼女が家に来た日 改定
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/04/14 02:44
先日私の父が死んだ・・ 足を滑らして頭をうちあっけなく死んでしまった。

普通、子供ならこのことを悲しみ、泣きはらすのが道理だろう。しかし、私の心の中は悲しみよりも、虚脱感と安堵感が多くを占めていた。

父との良い思い出がなかったわけではない。

だがそれよりも悪い思い出ばかりが頭に浮かんでしまうのだ。

母と祖母曰く・・

ウチの一族の女は全員男運が、ひ! じょ! う! に無いらしい

祖母が言うには祖父は祖母が稼いだ金(かなりの額)をほとんど博打に使ってしまう程の博打好き・・ いや中毒といっても過言じゃなかったみたいだ。

私が生まれる頃にはもう亡くなっており。其の死因というのが、博打の掛け金の揉め事の最中に興奮しすぎて血管が切れてしまったかららしい


母が言う父、私から見た父は「まるで駄目な男」である__ 



今どこかで「マダオ」って誰かが・・    まぁ気のせいね 

とにかく駄目なのだ、どれくらいかというと・・・

商売をするといって行商人にだまされ大赤字を出す。
・・なんで普通の石が売れると思ったのだろうか

文官の仕事をすれば、できもしないのに他人の仕事をすぐ請け負ってしまう。
結果、終わらなくて信用を無くす・・ ああ、大切な書類を無くして頸を切られそうなことも有ったわね・・

金を持たせれば、すぐ寄付をする。
「丸々」とした「餓死寸前の一家」になぜか一月分の給金を全部渡す

そしてだまされたと気付いた後は、「困ったねどうしようか」と言うだけ・・ 言うだけなのだ。

何度、母が父の尻拭いをした事だろうか・・ 何度父の為に家がつぶれそうになったことか・・・

といっても父のことは嫌いではない。だが、こんなどうしようも無いことばかりする父への私の評価は、低いものになったのも仕方の無いものだといえるだろう。

だから、父が亡くなっても悲しさはあったが胸のうちは「これで母の負担が減り家が安定する」「これからは私が母を助けていく」という思いでいっぱいだった・・

しかし、その思いは成されることはなかった。

父の死後から数日__
何故か借金があることが判明した。母に秘密で開拓しようとした事業の成れの果てらしく、借金はあくどい金貸しから借りたものでとんでもない額に膨れ上がっていた。

名家であるはずの家の倉庫が空になっても借金は消えることはなかった・・ 

このような事態を招いた父や、話を聞く限りではろくでなしだった祖父。

毎日毎日取り立てに来ては、私や母に品も知性も無い言葉を浴びせ娼館に売ると脅す男達。

家の風評は地に落ち、街全体に同情の目で見られ、毎日の取立てで命の危険を感じ始めた頃。

母は私を街から逃がした。

商隊にまぎれ、遠戚をたどるために街から離れたのだ・・ だが安心したのも束の間で今度は夜盗に襲われた。

商隊は壊滅・・ 襲った夜盗たちはもちろん男だった。

幸いなことに私は気づかれずに逃げることが出来た。

走って。

走って。

走り続けた。

疲れと飢えで意識が朦朧としながら考える。

(何故こんなことになったのか?)

ふと夜盗の顔、借金取りの顔・・ 父の顔が浮かんだ。

(ああそうか)

その答えに行き着いたとたんに睡魔に襲われる・・ そう、この時私は男に対する恐怖感そして嫌悪感を答えにしたのであった。






(んぅ・・)

鳥のさえずりと日の光によってゆっくりと目を開く。

(ここ・・ は?)

昨日は外で寝てしまっていたはずだ。ならなぜ、寝台で寝ているのだろうか?

朦朧とした頭のまま部屋を見渡す・・・ 

部屋には品質の高い家具が揃えられており、自分が寝ている布団も肌触りの良い高級なものだと思える。

何処かの貴族に拾われたのだろうか?

拾ってくれたのなら女性ならまだいい。 

しかし、これが男だったら? 子供相手に欲情する変態だったら?

考えただけで怖い・・

すると、扉の向こう側からコツコツと足音が聞こえ始めたのだ。

(逃げなきゃ!!)

私の心は恐怖感で一杯になり脱出を試みる。

が、足音は部屋の前で止まり「トントン」と扉を鳴らしたのだ。

(母さま! 母さま!!)

内心半狂乱になるが恐怖で声が出ない・・ 母の姿を捜してもどこにもいない。

隠れる場所無いため布団に包まる。

音の主は反応が無いのを確認したのだろう キィと音を鳴らして扉を開き私が寝ている寝台に近づいてきた。

でも、何もしてこない・・ どれくらい待っても何も起こらないのだ。

私は布団の隙間から外をのぞき見た・・ するとそこには恐怖の対象の男で無く

私と同じか、少し上ぐらいの男の子がいた。

椅子に座り本を読んでいる。

白を主にした服とそれによって映える黒髪が印象的だった。

それが朝の光と相まって一種の幻想的な空気を作り出していた。

しばらく見つめていると・・・

(あっ)

目が合った。

男の子は微笑みながら「おはよう」と声を掛けてきたのだ。

すぐに返そうとする・・・ だが

(嘘・・)

声が出ないのだ。

「あ」や「う」の端的なものしか出ず、言葉が紡げないのである。

魚の様に口をパクパクとするしか出来ない。

(なんで・・)

これまでの記憶が蘇る

(なんでなの・・)

奴らは家、母だけでなく

(なんでなのよ!!)

とうとう私の声まで奪っていったのだ。

私はまだ子供なのにこれからどのように生きればいいのだろうか?

どうやって母に会いに行けばいいのだろうか?

このままでは私は・・・

暗い感情が頭をグルグルと駆け巡る。

だけど、

「落ち着いて」

掛けられた言葉と

(あたたかい・・)

包まれた手の温もりが私の暗い感情を溶かしていった・・・


・・
・・・

男の子・・いえ郷のおかげで落ち着いた私は黒板とちょーく?というものを使って色々とおしゃべり?をした。

私を助けてくれたのは彼らしくそのまま家で手当てをしてくれたみたいだ。

にしてもここが北家の家でその嫡男に助けられたなんて・・

北家に関する噂は絶え間が無い。

強い力を持ち、代々有能な文官、最近は武官を輩出する名家・・ 今では曹家・袁家とも友禅を結びその力は随一といわれる。

そして・・ 嫡男である北郷。

私とそう変わらない年齢なのに教養・武術の頭角を表す神童。

ここまで賞賛されているからもっと高慢な性格をしているかと思っていたけど・・ その性根はとても穏やかで暖かなものだった。

事実、彼は私の身の上話を聞くと同時に、両親と祖父に私の衣・食・住の保証の許可を願ってくれた。

結果は・・ 快諾。

おば様(始めに奥様と言ったら堅いと言われた)・おじ様・お爺様に母に会えるまで自分の家だと思って良いと許しを頂いた。

こうして私は久方ぶりの平穏を手に入れることが出来たのだ。

SIDE OUT


荀彧__ 桂花が暮らすようになってからしばらくたった。

まさか、声を失っているとは考えもしなかったが。

あんなことがあったのだから声が出なくなっても仕方ないだろう・・ まぁ体に大事が無いだけ良かったと言える。

しかし・・

(畜生)

俺の心の中では後悔の念で荒れていた。

もっと積極的に朝廷に関わり情報を掴めば前もって荀家に介入できたのに・・

そうすれば桂花もあんな目にあわずにすんだだろう。

だが俺は目立ちすぎた・・ 良い意味でも、悪い意味でも。

ただでさえウチは爺さん・父さんのタッグによる中央・地方問わずの汚職指摘とその制裁は色々な方面から煙たがられている。

その上で俺だ。

ただでさえ厳しかった諸侯のマークがより強くなったのである。

今では、公の場に出る度に良く無い視線を感じるのだ。

私事では問題無い。
しかし、公事においては不自由というのが現状だ。

クイ

腕の服を引っ張られる感覚。
それが思考の海に潜っていた俺の意識をサルベージする。

「ん?」

振り向くとそこには

(ジー)クイ、クイ

ジッとこっちを見ながら頬を膨らませる桂花がいた。

「ごめん、ごめん少し考え事をしてたんだよ」

『郷はいつも考え事ばっか』

桂花は俺が渡した黒板とチョークで素早く返事をする。

「ちょっと大事なことをね」

「?」

律儀に?を黒板に書きながら首をかしげる桂花。

諸君は解っていただけるだろうか・・ この愛らしさを!?

そもそもだ、華琳にしても春蘭・秋蘭にしても麗羽にしても成長したらあんなに美人になるんだ。

成長したらしたでそれ相応の魅力を備わるこれは当たり前だ。

だがしかし!! 

未成熟なら未成熟の素晴らしさがある!!

考えてもみてくれ・・

恥も照れも無く一緒に風呂に入るあの無邪気さを!

香水も何もつけていないのにほんのりと香るミルクのような甘い香りを!

少しのことで瞳に涙を湛えるあの純真さを!(戦闘のときは容赦ないが・・)

そして・・(以下省略)

以上をもって北郷による美少女・幼女学概論を終りま・・ ん?シリアスじゃなかったのかって?

それを聞くのは野暮ってもんだよお客さん・・ ハッ!?

ここにはいない第三者と話している間すっかり忘れていた桂花に恐る恐る向き直ると・・

そこには、でかでかと『馬鹿!!!』と書かれたミニ黒板がポツンと置いてあり、その向こうには不機嫌そうな猫耳フードが背を向けて歩いていた。

(やっちまったなぁ)

とりあえず黒板を拾いながら桂花の後を追いかける。

謝罪の言葉ともうひとつ

(いつ華琳達に会わせようかなぁ)

この事を考えながら・・・






祖父SIDE

(おお 追いかけとる追いかけとる)

孫達の(桂花も孫認定)やり取りを一通り監察した後酒を飲んで一息つく。

ワシも息子も最初こそ桂花に怯えられたが今ではお爺様、おじ様と言いながら笑顔を見せてくれるようになった。

今では目にもいれても痛くないほどにかわいくて仕方ない。

(だからこそ・・ 悩む!!)

執務用の机に広がるモノを恨めしそうに睨む。

(郷の許婚のぉ)

今までにもそのような話は何度もあったが、どうにも腑に落ちないものばかりだった為、すべて突っぱねてきた。

だが今回は本当に良い話であった。

まずは袁家・・ いわずと知れた名家である。

ここと繋がりを持てれば我が家の力は磐石になる事は確定だろう。

そして何より__

(袁紹・・麗羽か。 ありゃ良い女になる)

曹家で郷達と一緒にいるところを良く見る・・最初こそ袁家の姫はアホで高飛車な性格だったらしいが。

最近は真面目に学問に取り組んでおり、その性格も丸くなったと聞く。

曹家で何度か話したが__ モジモジと「おじいさま」といわせた時はとても、とても愛らしかったと言っておこう。

そしてワシの感ではあるが__ 春蘭・秋蘭らと同じくらい肉付きの良い体になるだろう・・ 

ん?ワシの感は当たるぞ?

まぁ華琳と桂花は残念な感がしたがな・・


んで桂花だな。

桂花が可愛いからという理由もあるが__これは、正式に話が来たわけではない。

実際荀家がそれどころでないからのぉ。

だが荀家もれっきとした名家__ 格は落ちるかも知れんが。

まぁ良いとりあえず保留だな。

次に

「曹家か・・」
 
曹騰殿のものと思われる文字で内容が綴られている。

曹騰殿・・ 宦官でありながら国を帝を心から思う忠士。汚職・賄賂が横行する中央で唯一ワシが信をおける御仁と言えるだろう。

内容には相手の名前が記されていなかったが確実にあの三人だと考えられる。

まず、春蘭・・ 馬鹿である。

だが子犬を思わせる無邪気さ・純真さそれに忠義さは評価が高い。

と言うより尻尾があるように見えるしの。

「おっおじっ・・ おじいさま」と噛みながらもしゃべる姿はいじらしいしのう。

秋蘭も良い。

大人を思わせる程の冷静さと思慮深さ。 

そしていつも春蘭を気に掛け、時には顔を立てさせるのを見ると良い嫁になるだろう。

「お爺さま・・ これでよろしいですか?」と微笑みながら言う姿もまた良い。

そして・・ 華琳。

華琳は紛れも無い逸材・・ いや天才と言っても過言でないだろう。

なによりその気質・気配がそこらのものと異なるものである。

もし・・ もしもの話だ。

この世が戦乱の世になるのなら確実に王として才覚を出すのではないか?と思うほどである。

その容姿も将来が楽しみだ・・ 背と胸以外。

いつもは毅然・冷静という言葉が似合う彼女だがはにかみながら「お爺様」という姿には郷と一緒に「萌えた」と呟いてしまった・・ 意味は分からんがな。

全ての話が良縁だと言えるだろう。

なにより全員が郷の奴を好いているというのが良い・・ だからこそ悩むのだが。

しばらく悩んでいると・・

廊下から控えめにこちらを除く桂花が視界に入った。

「どうかしたかの? まぁ良いこっちに来なさい」

すると桂花は予備の黒板を取り出し、さっきの郷とのやり取りを膨れながら説明し始めた。

だが、その顔はどこか楽しげである。

(まぁこのことはまた今度でいいかの?)

今は桂花と

「爺ちゃん。 桂花知らな「郷! なに桂花を泣かしているのだ!?」うおぅ!?」

馬鹿孫の相手をするかの・・





あと一言・・ なぜお爺様と呼ばれてるのかって?可愛い女子にはお爺さまと呼ばれたいと思うのは当然だろう!? いいかぁ!?(長くなるので以下省略したままフェードアウト)




その頃の嫁候補達

曹騰SIDE

ちょうどその日は郷以外の面子がそろっていた。

頃合だろうと思い例の話を伝える。

あいつ・・ 郷にならこの子達を幸せに出来るそう思った。(当初の頃なら絶対に許さなかったが)

だからこそこの話を考えたのだ・・ 袁家も同じような事を考えているらしいからだ。

「にしても・・」

反応は多種多様だった

春蘭は顔を真っ赤にしながら混乱していたし

秋蘭は「そうですか・・」と言いながら頬を染め微笑を湛えていた

華琳と麗羽は花が咲いたような笑顔で返してきた

「・・ふぅ」

今日はいい酒が飲めそうだ。

郷への嫉妬をツマミにするのもありだろう・・ そう考えながら部屋に向かったのであった。


春蘭SIDE

顔が熱くて・・ 頭が熱くて何も考えられない。

自分がどうやって帰ってきたのかすらも良く覚えていないのだ。

部屋に帰ると同時に寝台に身を投げる。

ポスンという音を出しながら私を受け入れる。

布団の柔らかさと冷たさが今は心地がいい。

「郷・・」

許婚になるということは将来郷と・・ このように抱き合ったり!?

「~~~!!」 

そう思うだけで顔に熱が集まる。

無理やりにでも寝ようと寝台の上でジッとするが__

駄目だ・・ 今日は眠れそうにも無い。

そして初めて私は眠れない夜と言うものをすごした。

秋蘭SIDE

「ふふふ」

いけない・・ 顔のにやけが治らない。

華琳様たちの前では冷静を装っていたがもう・・

「無理だ!!」

寝台に飛び込み枕に顔をうずめて足をバタバタとさせる。

嫌ではないというより・・ 嫌な訳があるか!!

あの戦場で会って・・ 同じ時間を過ごして・・ いつの間にか私は奴の事が・・

「!!!」

声に出して走り回りたい衝動に駆られるが枕をバンバンと殴ることで必死に抑える。

胸から湧き上がってくる熱と戦いながら眠りに・・

「つけないなぁ・・」


麗羽SIDE

結婚・

結婚・・ 結婚・・

結婚・・ 結婚・・ 結婚!!

「あ~もう 辛抱たまりませんわ!!」

郷さんはこの話を聞いているのかしら・・

もっもし郷さんもワタクシの事をそっその・・ 思ってくれたら!!

両手を頬に沿え身もだえしながら体を左右に振る。

このままでは熱が体を支配して眠れない。

(よし!)

火を灯し机に向かう

(お勉強すれば頭も冷えると思いますわ!)

華琳さんにも秋蘭さんにもまだまだ及びませんから少しでも追いつきませんと・・

そしていつかは・・

結局朝まで机の前で悶々しっぱなしの麗羽だった。

華琳SIDE

喉を通る水の冷たさが心地良い・・

特に体が火照っていると特にだ。

ふと空を見上げ・・ 郷の顔を思い浮かべる。

彼には空が良く似合う・・青空でも夜空でもだ。

そのあり方が、その優しさが、その暖かさが、その深さが、その全てが空を髣髴させる。

今はその空が欲しい。

いとおしくてたまらない。

だから__

「待っていなさい」

必ず

「手に入れてあげるから」

私は杯を空に仰ぎ(水ではあるが)一気に飲み干した。





翌日俺が曹家にいくと皆顔を赤くしてこっちを見る・・ よく見ると隈が出来ている。

華琳以外__

「ねぇ」

「なっなに!?」

「何で皆あんなに隈を作ってんの?」

「さっさぁ? 私はよく知らないわ」

ふーんまぁいいや・・ っと今日は華琳の部屋に用事があるんだった。

だがそれを必死に止める華琳。

ここまで必死だとなんかあれだよね?

こうなんというか好きな子をいじめたい症候群と言いますか・・

「しまった!?」

某アメフト漫画の走法、悪魔蝙蝠幽霊で華琳の横を華麗に抜きさる俺。

そのまま走り部屋の前に前に立ちタッチダウンをしようとしたが・・

ぞわ

!?

悪寒を感じ後ろを向くと__ 華琳がいた。

なに!?もしや神速の神経遺伝の持ちぬ・・

俺の意識は刈り取られた


華琳様の一言

「・・ 寝る前に水なんか飲むもんじゃないわね」














父SIDE

「ふぅ・・」

ちょっと一息つきましょう。

この資料をまとめた後は迎えが来るのを待つだけです。

最近は家族が一人増えましたから頑張りませんと・・ まぁもう一人増える予定ですけどね。

豪放で奔放で頭痛の種だが尊敬できる父。

将来が楽しみで仕方ない息子。

愛すべき妻。

私は幸せの中にいると言ってもいいでしょう。これは家族を持つ人間なら誰でも感じることだと思います。

でもこの国には、この当たり前の幸せを感じることが出来ない人・気づかない人・無くしてしまう人が増えています。

そして、それを食い物にしようとする人間がいます。

父のような武才には恵まれませんでしたが、知略と情報の広さには自信があります。

証拠を手に入れ法的に追い込みそのような輩を減らす・・ それが私の使命であり、誇りなのです。

しかし、正直言って今回は大きい仕事です・・ 下手したら高官達の多くが牢に入れられるほどになりかねません。

賄賂や謀殺に着服・・ これらの証拠がかなり集まりました__ 後はまとめて準備を整えた後に提出するだけです。 

(って違う違う)

休憩のはずが仕事のことを考えてしまっている。

空気の入れ替えでもすれば気もまぎれるだろう、そう考えた窓の戸を開ける



何か・・ おかしい?

いつもなら夜の冷えた空気が入ってくるはずなのだ・・ 

しかし、今日に限り 

肌に張り付くような気持ち悪い空気が・・!?

瞬間

私の肩に何かがぶつかり、私は勢いを殺せずにそのまま倒れる。

(何が・・!?)

朦朧としたが自分の肩に突き刺さった矢を認識すると思考が覚醒する。

「ぐ・・ うぅ・・」

襲ってきた痛みに耐えながら走る。

死ぬわけにはいかない。

国のためにも

ここで暮らす人々のためにも

何より家族の為に・・・(ドス)も・・

部屋を出てしばらくした時だった。

曲がり角を曲がると同時に

私の胸に剣が生えたのは

「かっ__ かはっ」

血を吐き出しながら膝をつき頭を垂れる。

最後の力を振り絞り見上げたそこには狂笑を浮かべた男が一人

「張ぉ・・ じょ・・」

私の意識は闇に飲み込まれた。










お久しぶりですリポです。

リアルが落ち着いたため更新しました。いや・・ 中々仕事って決まらないものですね。
それはさておき桂花の男嫌いの理由を捏造させていただきました。
まぁ皆様方には腑に落ちないかもしれません。ですがこれ以上の文章は僕の能力では無理っぽいですorz
おまけに父ちゃん久しぶりに出たと思ったら死んじゃうし・・ 僕はこの小説をどうしたいのでしょうか!?(まぁプロットは決まってはいますが・・)
とりあえず頑張っていきますのでまたよろしくお願いします。

追伸・・ 次の更新はその他版でしようかな?と考えております。ですがその他版に行ってもいいのかと悩んでいますので皆様方アドバイスお願い致します。



[7628] 親の思い・子の思い
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2011/05/31 01:00
「そんな馬鹿な話があるか!!」

爺さんの怒声が屋敷に響き渡る。

昨晩父さんの護衛に行った兵が一人だけ帰ってきた。

その一人も息も絶え絶えで搾り出すように喋り始めた。

旦那様が亡くなったと。

遺体を運ぼうにも仕事場が火に包まれてだめだったと。

帰還中ある部隊に襲われ生き残ったのは自分だけだと。

その部隊は・・ 十常侍の息のかかった諸侯の部隊だと・・ 。

彼はそこまで話すと最後に大きく息を吸い込み__ 息を引き取った。

誰も声を発することが出来ない・・ 母さんは顔を蒼白にしながらも口を真一文字に結び耐えている。

桂花も涙を湛えながら俯いている。

俺は__ 手から血が滴り落ちるのも構わずに固く拳を握り締めていた。


・ ・
・ ・ ・

母SIDE

眠れないまま夜が明けた・・

未だに信じられないあの人が死んだなんて。

でも・・ きっと真実なのだろう。

私たちにこの事を知らせてくれた兵が死の間際、拳に握っていたものを渡してきた。

それは・・ 紛れも無く彼の首飾りだった。

華美な装飾は無いが単純な美しさのある首飾り・・ 私が彼に求婚する際に贈った唯一無いもの。

「・・・」

話を聞いたとき泣き叫びたかった・・

問い詰めたかった・・

今でも駆け出して確認したかった・・

でも__ できなかった。

理由は色々ある。

お腹の子の為、赤の他人なのに泣いてくれる桂花の為。

そして何より、血が出るくらい拳を握り耐えていた郷の為。

泣くわけには行かなかった。

だけど__

「・・・ぁ」

一人の今なら

「・・・・あぁ」

泣いてもいいわよね?


・・
・・・

「嫁殿__ 今よろしいか?」

「お義父様? ・・はい」

腫れた目を見られないよう節目がちに義父と相対する・・ しかし会話が始まらない。

「嫁殿」

重苦しい空気破ったのは

「嫁殿・・ 郷と桂花を連れてこの屋敷を出て行きなさい」

義父のこの言葉だった。

「な・・ぜ・?」

言葉がうまく出てこない。

「今回のこの件__下手人はワシをいやこの家を本気で潰そうと思ってはじめた事だろう。 いきなりこんな手に出たということは、相手はかなりの準備してきたと考えてもいいかもしれん」

「ですがこちらには何も「非が無い・・ もしそれが捏造されたら? 完璧な証拠をつけられて」!?」

「もしかして・・」
「擦り付けられたんだね」
「郷!?」

扉に注目する。

そこには__ 郷が立っていた。

「ごめん・・ 話し声が聞こえてね」

そう話しながら部屋に入ってくる郷。

そのまま私の横__ 義父の前に座る。

義父は郷の瞳を見ながら

「どこまで予測が付いている?」

言葉を掛ける。

「犯人の事? この後の奴らの動き?」

「どっちもだ」

「・・・ 爺ちゃんと大体同じだよ。 犯人は多数の高官・・ そしてそれを束ねる力のある数人・・中央の中でもウチを煩わしく思っている奴としたら答えは・・十常侍だと思う」

郷の口から出てくる核心に近いだろう答え。

「・・今後の奴らの動きは?」

「これも考えていることは同じだと思うけど・・ 父さんの資料を良い様に改竄しそれを証拠として近い時期に一族を犯罪人として連行すると思う・・ 曹家や袁家を介入させない為にね・・ 一族は市井に落とされ、家は良くて幽閉悪くて―― 死罪っていうのが台本だと思う」

「死罪…」

それだけは避けなければならない。

私は郷を桂花をお腹の子を生かさなければいけない。

それが私のいえ… あの人の望み。

「だけど…」

郷が言葉を紡ぐ

「この策はどう考えても強引過ぎる…だからいくらでも穴はあるはずだ! おまけに父さんの作った完璧な資料なんだからどうしても改竄しきれない矛盾点があるはず… だから爺ちゃん!! 今から俺と一緒に」
「待ちなさい!」
「えっ?」

この子は一族のために今まで必死に道を探していたのだろう… しかし。

「あなたを行かせる訳には行きません」

その道が彼方の身に危険を及ぼすというのなら…

「だけど… 今しかないんだ! 今動けば間に合う―― いや、絶対に間に合わせる!!」

私は…

「なりません…」

行かせるわけにはいかない。

「わかってくれ母さん!! 俺には耐えられないんだ… 父さんの仕事に爺ちゃんの誇りに傷をつけられるのだけは!!」

「なりません」

例えそれが

「何故!? 何故なんだ!! 俺は爺ちゃんの孫で父さんと母さんの子なんだ! 一族を守る為にも、この町を守る為にも、家族を守る為にも母さん頼む行かせてくれ!!」

「なりません!」

愛した人の名前に泥を塗ることになっても…

「母さん…」
いつの間にか私は涙を流していた…

ごめんなさいあなた。

私は自分を律することも出来ない弱い母親です。

夫の無念を晴らせない妻です。

天涯孤独の私を拾っていただいた義父を蔑ろにする親不孝者です。

ですがこの子だけは…

「もし彼方が行くというのなら!」

この子達だけは…!!

「私を殺してからにしなさい!!」

死なせません!!!

「くっ!」

唇を噛みながらたたずむ郷。

そんな郷に近づき肩に手を掛ける義父。

「郷よ… ありがとう」

「なっ… 爺ちゃん!?」

「全くお前はあいつに似て変なところで強情になったの… だけどその諦めの悪さが今は嬉しいぞい」

「なんだよ… 諦めんのかよ!!」

「いや、今からワシは屋敷を出て帝の所に向かう」

「!! それなら…」

「いや、向かうのはワシだけだ…」

「だけど俺がいれば勝てる確立が…ぁ?」

義父は郷に気づかれないように延髄に手刀を落としていた。

いつもの郷ならかわしていただろう。

「じぃ…」

「楽しかったぞ… 一刀」

完全に沈黙する郷いえ一刀。

一刀を抱えながらこちらを向く義父。

「しばらく起きないだろう」

「はい」

寝台に一刀を寝かす。

「これからどうするつもりなのだ?」

「…一刀と桂花は曹家に匿ってもらおうと考えております」

「嫁殿は?」

「私はこの体です…追っ手の目を散らす為にもこの子達と違うところに行こうと思います。 ちょうど涼州に知り合いがおりますので…」

「良いのか?」

「私は誓ったのですあの人に… 絶対に死なせないって」

だから

「この子を生かすのなら… 喜んで離れます」

母としての権利も捨てる。

これが私の覚悟


・・
・・・

それから義父と話し合い今後の方針が決まり私は

「すぐ準備をして家を出ます―― お義父様、一刀と桂花をお願いします」

馬車ないし馬、護衛や賃金の用意をするため義父に背を向ける。

そこで――

「嫁殿」

ふと呼び止められる。

「そのままでいい… 少しだけだから」

そのまま足を止め耳を傾ける… 一字一句を逃さないように。

「嫁殿…」

義父が口を開く… そこから出たのは

「倅といっしょになってくれて… わしの娘になってくれて… 一刀に会わせてくれて… 本当にありがとう」

義父の感謝の言葉だった。

「…」

何も言わずに… 何も言えずにその場を立ち去る。

廊下に私の足音と嗚咽が響く。

桂花

一刀

お義父様

あなた…

本当にありがとうございました。

私の涙が頬を伝い


義父から預かったソレに音を立てて落ちた。



SIDE OUT






目が覚めたのは翌日… 馬車の中だった。

ひどい絶望感と脱力感。

俺達の護衛の紅さんから話を聞いたときに感じたのは真っ先にそれだった。

生前はもっと精神的に強かった筈だったのだが… 若い俺と統合したことにより弱くなったのだろうか?

旅を続けながらも情報を集めるが… どれも悪いものばかりであった。

あの後大群が流れ込んだと言う事

住んでいた街が壊滅状態だという事

爺さんが捕まった事

位が剥奪された事

そして…

「公開処刑だと…」

爺さんの処刑の日取りがわかったのだった。

幸いここからあまり離れていない。

だから

「紅さん… 桂花を連れて先に行ってくれないか?」

桂花は驚いた顔でこっちを見る。

紅さんは、動じない。

まるでわかっていたかのように。

桂花は文字を書くのも忘れ俺の腕を取り止めようとする。

しかし、俺の意志が強いのを見ると黒板にこう書いた。

『私も行く』

「駄目だよ」

敵の中心に飛び込むようなものそんな所に桂花を連れて行けない。

それに

「爺ちゃんの死ぬところを見るんだよ?」

桂花は予想を裏切られた顔をしている。

「俺は爺さんを助けるために行くんじゃない… 爺さんの死に様を見るために行くんだよ。」

『なんでなの』

文字こそ普通だが桂花を見ると混乱の様子が見てとれる。

『助けたいと思わないの』

「思っているさ・・ だけど爺ちゃんはそれを望んでいない」

『そんなこと』

「生きたいのならあの夜に俺の策に乗ったはずだよ。だけど乗らなかった・・ 死ぬ気だったんだよ」

『なんでわかるのよ』

無機質な黒板に書かれた文字だが桂花の想いを感じる…だが俺はそれに答えることができない。

「あの人は俺達が生き残れるようにしたんだ・・ 自分の命と引き換えにね」

桂花は俺の答えに息を呑むとそのまま黙ってしまった。

やりきれない空気が場を支配するが。

時間が無い。

「後は頼みます… 桂花をお願いします」

「御意」

改めて桂花のことを頼むとそのまま向かうことにした。

馬に乗っていけばギリギリ間に合うだろう。

しかし、動けない。

桂花に裾を握り締められていたのだ。

彼女は決意のこもった目でこっちを見ると――

『私も行く』

と書かれた黒板を改めて見せてきた。

「危険だよ?」

彼女は首を縦に振る。

「助けられないよ?」

縦に振る。

「…… 辛いよ?」

少し動きを止めると

『郷がいれば大丈夫』

書き直す桂花

『それに…あんたのほうがもっと辛いから… だから』

桂花の心が優しさが俺に届く。

わかったよ…

「一緒に行こう」『一緒に連れて行きなさい』

ほぼ同じタイミングで同じ言葉を放った。

「若様! …ちょっと待ってください」

横を見ると紅さんがバツが悪そうにしている。

すると

「命令には背きますが… 護衛がいたほうがいいでしょう?」

といってくれたのだ。

紅さんはいったん受けた命令には必ず守る人だ。 門番の守り等を任されるときもあるが家の近衛隊では一番腕が立つ。

「紅さん」

「これが最初で最後の命令違反です… 私も連れて行ってください」

二人とも… ありがとう。

「急ごう」

俺達は動いた。





あとがき

どうもリポです・・・ いやぁシリアスですね。 ぶっちゃけギャグや戦闘、ラブコメより書きやすいのかスラスラと書けました。 まぁそのおかげで早くに投稿できたって言うのもありますけどね。今回のお話いかがでしたでしょうか?僕は書いていて「桂花なんて良い子なの!」とか一刀君にはきつい道進ませちゃったかなって思いましたがどうですかね? とりあえずこの一山が終れば第一部完という形になると思いますのでそれまでお付き合いください。
ではまた次の更新で。

追伸 念願のその他版だぜこのヤローー!!



[7628] 届いた言葉  溢れる狂喜 改定
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/06/07 20:38
会場には多くの人で溢れている… がそこには賑やかさは無い。

まるで通夜のようにシンと静まり返っていた。

俺たち三人は前列を目指し進む。

紅さんは多少強引に、俺と桂花は小さい体を生かして人の波間を抜けるように前に出る。

人垣を越えた其処には広場があった。

広場の中心に築かれた台たぶん処刑台だろう… それだけが不気味にポツンと存在していた。

不意に空を仰ぎ見る。

雲が重い――

今にも雨を降らしそうな雲が空一面を覆っていた。

周りを見渡すと薄暗い中に人々が人形のようにズラッと並び立つ。

しかし、腹に何かを溜め込んでいる… そのような印象をうける。

それが怒りなのか、悲しみなのか… 今はまだわからない。

人々の気が、場の空気と相まってまるで異世界に迷い込んだ錯覚をさせる… そんな奇妙な光景だった。

だが

「来たぞ…」

この一言で世界に音が蘇る。

前列にいる誰かが呟いたのだろうか… 水面の波紋が広がるようにざわめきも広がっていった。

だが長くは続かない。

ジャリ、ジャリと大地を踏みしめる音だけが聞こえてくる。

音のする方向に目を向けると… 其処には爺さんがいた。

その身を戦装束に固め、目はまっすぐと先を見つめている。

実に堂々とした力強い歩きだった…

そう… その姿はまるで

「王」であった。

爺さんは台にあがるとそのままドカっと座り込む。

しばらくの静寂が続くが… ふと時が動き出す。

爺さんが座るのを皮切りに着々と進行していく。

宦官風の男-張譲が朗々と罪科を読み上げる… がそれに待ったを掛けるように音が爆発した。

広場に向かって幾つもの怒声が飛び交う。

しかし、それらは罵声等でなくて

「何かの間違いだ」

「そのお方を放せ」

「冤罪だ」

爺さんの命を救おうとする人々の心の叫びだった。
ここにいる人達はわかっていたのだ。

父さんのしてきたこと、爺さんのやってきたこと全てがここにいるみんなに届いていた。

兵士達はその熱気に圧されたじろぐ… だが張譲の命により民衆に槍を向ける。

槍の鈍い輝きに少しどよめくがそれも一瞬で熱に切り替わる。

一触即発

言葉に表すなら今まさにその状態である。

いつ暴動が起きてもおかしくない空気が張り詰める…だがしかし

「静まれぇい!!」

それを止めたのは…爺さんだった。



祖父SIDE
結局… ワシの話が聞き入れられる事はなかった。
ワシが着く前には既に根回しが終了していた。
帝は奴らの話を信じたのである。
その結果…牢に入れられた。

中にはワシを逃がそうとする者もいたのだが… 牢の前の包囲網を潜り抜けることが出来ずに殺された。

王に言葉は届かず、この身もここから動けず… ただ無意味に時間だけが過ぎていった。

多分…ワシは殺される。

王朝では歯止めをかける者が消えることによって国が急速に腐り… 強い者が弱い者を虐げ、弱い者は強い者に虐げられる血と暴動の時代が到来する。

そこには国など無い…あるのは阿鼻叫喚の地獄絵図だけだろう。

それだけは避けねばならない。

しかし… この身はもはや死を待つだけである。

ならば…死に様を見せてくれよう。

潔い死に様を…気高き死に様を…人々に見せてやろう。

そして…

「そこな兵よ…」

残していく家族の耳に伝えられるような死に様を

「…張譲に取り次いでくれんかの」

見せてやろう。






そして今…ワシはここにいる。

熱気と殺気に満ちた空気を吹き飛ばすように放った言霊は届いたようだった。

台の上から見回す…多くの人々がいた。

すぐに決まった処刑であったがこれだけの人々が集まった事…ワシの身を案じてくれた事に対し感謝の念しか沸いてこない。

溢れてくる涙をこらえながら語る。

だから聞いてほしい…そして願わくば

あ奴に…困難な道を歩むだろう我が孫一刀に

最期の言葉を届けてほしい






大気を震わせながら声は広がる

「ここに集いし我が友人達よぉ!」

人だけではない

「ワシは… 死ぬ!!」

天に

「ワシの後にも多くの人間が死ぬだろう!!」

地に

「その中には自分の友が 親が 子が 愛する人がいるかもしれん!!」

届けと言わんばかりに

「だが下を向くでない… 前を見据えろ!!」

響きわたる

「死も絶望も悲しみも怒りも…全てを越えていけ!」

俺は刻み込む…魂に

「越えた先にはきっと希望がある!!」

わかったよ爺さん…

「これが最後の言葉だ」

越えていくよ

「生きろぉぉ!!」

目を充血させ、額に汗を光らせながら叫ぶ爺さん… 息の限界なのか終ると同時に顔を伏せる。

動ける者も―― 音を立てる者もいない

聞こえるのは爺さんの荒い息と

ジャリ…

執行人の足音だけだった。

そこだけ時間の流れ鈍く感じる。

ジャリ…

今なら助けられるのでないか?

ジャリ…

まだ間に合うのでないだろうか?

ジャリ…

など甘い幻想を思い描いても…足音に現実を思い知らされる。

ジャリ…

とうとう…

ジャ

音が止まった。


……爺さんはゆっくりと顔をあげる。

俺もそれをジッと見つめる。

すると少しだけ… 本当に少しだけだが目が合った。

爺さんは一瞬驚くが… 笑みを浮かべた。

喉まで声が出かかる…それを無理やり抑える。

こんなところで声を出してしまったら逃げるのは難しい。

だから震える口角を上げて… 笑顔を返した。

ブルブルと震える桂花を抱き寄せて… 笑顔を返した。

そして

軽い風斬り音を残して

赤い花が― 咲いた。





張譲 SIDE

大地が血に濡れ

血臭が漂う 

だがポツポツと降り出した雨によって消される。

斬られた奴の首がゴロゴロと転がるもその動きを今止めた。

瞬間の間…しかし次に襲ってきたのは

歓喜だった。

死んだ

死んだ

死んだ

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだシンだしんだ死んだしんだシンダ死んだシンだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだシンだしんだ死んだしんだシンダ死んだシンだんだしんだシンダシンダシンダ

死んだぁ

これで私を邪魔するものはもういない。

私が政治を握り、私が武力を握り、国を握る。

残るのは彼女とその子供

悲しくも奴の子を産んでしまったが…まぁいい殺してしまえば問題ないだろう。

彼女も傷つくかもしれんが私の愛によって癒してやろう。

性の悦びは与えてやれないがそれ以上の悦びを与えてやろう。

内から出てくる感情を抑えながら奴の首があるところまで歩く。

どんな表情をしているだろうか。

絶望?

悲しみ?

情けない顔だろうか?

次第に勢いを増していく雨が身を濡らすが… 心地よくてたまらなかった。

奴の首を見下ろしたとき愕然とした後…私は激情にとらわれた。

なぜそんな穏やかな顔をしている?

何故?

何故?

何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ

ナゼナノダ!?

高ぶる感情を抑えきれない。

忌々しい。

辺りから怒りの声が滝のようにくるが気にしない。

所詮力を持たぬ下民など私に指一本も触れることなどできないのだ。

鬱憤を晴らすように力の限り首を空に蹴り飛ばす。

私の行為に呆然したのか声が消える。

そのときだった

「お義爺さま!!」

悲鳴とも取れる耳を裂くような声が響く。

血で跡を残しながら高く高く弧を描いていく首。

鈍い音をしながら地にぶつかると二転三転と転がり止まるのを確認した後、声の聞えた方に目を向ける。

目を凝らしてよく見るとその人垣には

青い顔をしながら自分の口を押さえる女児と

それを驚いた顔で見つめる

ヤツノムスコガイタ。

「そこの」

奴は女児の手を取り

「餓鬼どもを」

一気に反転した

「捕らえろ」





下民どもの抵抗にあい餓鬼どもを逃がしてしまった。

まぁ良い。

追っ手には私の部隊の中で最速の騎馬兵を出した。

捕まえるのも時間の問題だろう。

嗚呼楽しくて仕方ない。

「ククッ」

今の私は機嫌が良い。

下民どもの血と死肉に覆われた汚らわしい光景を見ても

笑っているのだからな…







短い…かな?

皆さんどうも大絶賛煮詰まり中のリポです。

爺ちゃん死んじゃいましたね… 
死ぬ際に爺さんに感動する言葉を言ってもらおうと思いましたが…絶望した!!
自分の文章力の無さに絶望した!! って感じです。
このシーンだけで3週間悩んだのにこの出来orz

とりあえず後一話で一区切りかなって感じです。

といってもまだ続きますんでよろしくお願いいたします。

まぁ…仕事が始まったんで中々更新できないと思いますが頑張ります(遠い空を見つめながら)

ではまた次の更新まで。



[7628] 更新じゃありません… 唯の言い訳です
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/06/07 20:37
本来なら次の更新のときに載せるのが当たり前なのですが…すみません色々言い訳させて下さい。

感想版を覗いたところ色々御指摘を頂きましたのでそのレス返しという形になります。

まず…「王という表記はおかしい」と言う点では完全に私のミスです。
帝か王のどちらで行くか考えていたのですが… 間違いみたいですね。申し訳ありませんが表記は帝でいいのでしょうか? 教えていただけたら幸いです。

また「宦官だから子供を産ませようとしても無理」と言う点ですが… 確かに無理です。 そのため「性の悦びを与えてやれない」=「えろい事できないけど俺の愛で癒してやる」という形で表したつもりでしたが… 解りにくかったでしょうか?
もしそうならすみません。

また「一族で公開処刑」ですが… これも普通ならそうです。
このSSの張譲は北家を邪魔に思っております。(その結果父は殺されたのですが)特にその象徴ともいえる爺ちゃんを消してしまえば一気に潰す事も可能です。
何が言いたいのかというと要は「我慢が出来なかった」です。
それと袁家と曹家の介入を嫌がったと理由もありますが。説明不足でした。

そして「一刀がうかつすぎる」という点に関してですが。
 確かに神童と言われる程能力が高い一刀です。その中身も一度人生を全うしているためこの行動は軽率と言われても仕方ないと思います。
ですが自分の家族でかつ尊敬する師の死に際を近くで見届けたいというのは駄目でしょうか?
自分の中の一刀像は恋姫でも真・恋姫でも「理想を追う現実主義者」だと思っています。それを行動で表したかったのです。これ以外にもっと良い書き方があったと思います。全ては自分の浅学非才のせいであります。

自分がこの一刀が好きです。
二時創作の偽者の一刀かも知れませんが… 自分は好きで仕方ないのです。
読者の皆様はキモいと思うとおもいます、呆れてると思います。
ですが「郷の評価が落ちた」と言う指摘を見たら衝動的に書いてしまいました。
その方は良かれと思い指摘してくれたと思います…現に応援のお言葉を頂きました。

今回のこれは自分の自己満足です。

唯の一般人のくせに自分の能力の無さを悔やみながら書いています。

無駄な更新をしてしまい本当に申し訳ありません。

できることなら見捨てないでいただけたら幸いです。


これは自分の戒めとして残します。

失礼いたしました。




[7628] 始まりの終わり 前編
Name: リポビタン魏◆b11de515 ID:d0decee6
Date: 2010/07/12 20:19
あの後俺達はすぐその場から逃げた。

周りにいた人たちが助けてくれなかったら今頃俺は捕まっていただろう。

多分あの人たちも今はもう… いや後悔はしない、してはならない。

皆は俺の為に命をかけた。

だから俺も命を懸けて逃げるしかない。

だが馬車に乗り全速力で離れるが騎馬兵の速さにはかなわない。

それに降り出した雨が豪雨となり長い時間降り続けていたため馬車では車輪が取られ一頭しかいない馬の体力が持たない。

実際に速度が負けているのだろう… 逃げてからずっと追いかけてくる兵を馬車から弓で牽制している… が、さっきから追いかけてくる兵の数がずいぶん増えてきている。

戦力・矢の量・速度・体力どの点においても分が悪い。

そう判断した俺達は車から降り大事な荷物を持ち森に身を潜めた。

森を突っ切った方が曹家に速く行けるのだ。

しかし現実はうまくいかない。

いつもは何でもない川が氾濫し勢いも強いため渡れなくなっており、橋をさがしてもそこには残骸しか残ってなかった。

俺達は川を渡るのを諦めさきほど偶然見つけた洞穴に身を隠しているところである。

「やばいな」

「ですね」

桂花の反応は無い… 代わりに小さな寝息だけが聞こえてくる。

歩きつかれた事もあるだろうが… 今は精神的に疲労のことを考えれば仕方ないだろう。

それでもこちらの呼びかけには首を振って反応する。

だが、声を発することは無かった。

(声…か)

雨といい、川といい思えば今日は誤算ばかりだ。

特に桂花の声は一番だった。

いや…桂花のせいじゃない。

連れてきた俺の責任だ。

馬車を放置したのも不味かった…

あれでは「ここに逃げましたよ」と教えてるのと同じだ。

冷静になればなるほど自分の悪手に腹が立つ… がそれは後だ。

今はこの窮地をどのように抜けるか考えなければならない。

橋の残骸があったということはここはよく人が通ると考えられる。

なら上流… 山のほうにも橋が作られているのでないだろうか?

事実山に続く道らしきものがあったため可能性はあるだろう。

だがあくまで可能性… 賭けだ。

そのうえ探す事も考えると時間も足らない。

ならば稼ぐしかない。

だがどうやって?

頭の中で自問自答を繰り返す俺。

しかし… どうしても全員が生き残る術が見つからない。

そう全員が生き残る術が無い。

この全員を二人にするだけで難易度は下がる。

一人を犠牲にすればいいのだ。

一人だけを…







「…紅さん」

ごめん…

「何でしょうか若様?」

穏やかな声が聞こえる… この声を忘れない。だから

「一人で何処まで戦える?」

俺たちの為に死んでください。




紅SIDE

若様は優しい方だ。

私に死ねと言う事をこんなにも躊躇ってくださった。

返事はもちろん快諾。

若様の気を紛らわせる為に明るく荀 ケ殿を起こさないように静かに話す。

死ぬことに対して思うこと無いのかというと… 正直ある。

だが、ここで若様を殺されてしまえば… 私は胸を張って生きること出来ないだろう。

この方は希望だ。

今は北家に関係のある人間にとっての希望である。

しかし、時がたてばこの地に生きる人々全ての希望になるお方だ。

それだけでない。

私にとってもわが子の様にかわいいのだ。

だから… 命を掛けるに値する。

私の全てをかけて若様と荀 ケ殿が逃げる時間を稼ごう。

この方のために死ぬのなら思い残すことは何も無い…… いや、一番大切なことが一つあった。

御館様から託されたあれを渡さなければ…

荷物の中から慎重にそれを取り出すと、外の様子を伺っていた若様に声を掛けた。

「どうかした?」

振り向くとそこにはいつもの笑顔があった… 嬉しいとき、楽しいとき若様が浮かべる私達が好きな笑顔がそこにはあった。

気がつけば私は

「ありがとう」

と呟いていた。

SIDE OUT



声を掛けられたとき正直どんな顔をしてわからなかったが… 笑顔で答える。

辛気臭い顔をして別れるよりも、笑顔でいたほうがいいと思ったからだ。

紅さんはどう思うだろうか

意味がわからず戸惑うだろうか?

気が狂ったと思うだろうか?

色々と考えていると

「ありがとう」

と感謝の言葉が耳に届いた。

彼は微笑んでいた… 

あのときの爺さんが浮かべていた顔と同じ顔だった。

だから俺も笑顔で返す。

長いような短いようなよくわからない時間が流れる。

だがそれも彼が視線を落とすと同時に終わる。

その視線を辿ると朱塗りの箱に行き着いた。

紅さんはそれを両手で持ち、頭を下げながら俺に掲げ

「御館様よりお預かり致しました。若様の… 北郷様の字と御真名が記されております…ご確認下さい」

と言った。

微かに震える手でそれを受け取り紐を解いていく。

ふたを開けるとそこには紙が綺麗に折りたたまれて鎮座していた。

恐る恐る広げて目を通す。

そこには… 俺の名が記されていた。

「…御館様より言伝が御座います」

膝をつき頭を下げながら紅さんが口を開く

「何?」

「『すまない… そしておめでとう』との事です」

目頭が熱くなる… だが涙は流さない、流すわけにいかない。

しかし、少し持たなかったのか一筋だけ涙が頬に流れるのを感じた。

袖で拭う。

大丈夫だ…大丈夫

俺はまだまだ生きていける。

ありがとう。

瞼の裏で爺さんに感謝を述べ、紅さんに目を向け

「誠に大儀である」

言葉をかける

「褒美の代わりにもならんが… 俺の真名を預けよう」

最大の感謝を表わす。

紅さんはそれはいけないと体を起こすが手で制する。

彼には知って欲しかった。

彼がいなければ俺は俺の名を知らずにいたのだから

…だがその思いを伝えることは

「俺の真名は…「おい!そっちはどうだ!?」!?」

出来なかった。


紅SIDE

声を聞くだけでは数は少ないが… じきに雪崩のように押し寄せてくるだろう。

若様は行動を起こしていた。

荀 ケ殿を起こし最低限の荷物と御名が記された箱を身につけ何時でも外に出れる状態になるまで時間が掛からなかった。

しかしその目は悔しさで一杯だった。

私も同じだ… もう少しで若様の真名を聞くことができたと言うのに。

今ここで伝えても敵の耳に入ってしまう可能性がある。

私は聞く機会を失ってしまったのだ…永遠に。

そう思うと腹が立ってきた

これはもう空気の読めない奴らにぶつけるしかない様だ。

「それでは…」

洞窟から出ようとする

「紅さん!」

が呼び止められる。 後ろを向くと

「またな」

ニカっと笑う若様がいた。

「はい!」

それを返すと若様は荀 ケ殿の手を握り山へ向かっていった。

そして私は剣を佩き槍を握り敵の前に躍り出た。

「我は天下無敵の北家の門番長にして親衛隊が紅なり!! 主が敵を討たんが為に馳せ参じた!! 命がいらぬ者はかかってくるが良い!!」

若様…

またあいましょう。




敵兵SIDE

かなりの人数で此の任務に参加したのだが… 一人の男によってそのほとんどがいなくなった。

男は槍が折れても、剣が折れても、体に刃を突き立てられても羅刹のような殺戮をやめなかったのだ。

地獄の様な現実が終わるのはそれから大分たった後… 男の死と共に終了する。

俺は半ば呆然としていたのだが… 部下の「隊長」と言う言葉で気を取り直す。

雨なのにあたりに立ち込める血の臭いに顔をしかめながらも幽鬼のように…だが微動だにしないまま立ちふさがる男の様子を探る。

…男は立ったまま死んでいた。

辺りは血の海であったがその背中の道… 山への道だけは血で汚れていない。

俺は男に畏怖の念を払いながらも残存兵力を引きつれ山に向かう。

俺は見てみたかった… 

このような豪傑が命を賭して逃がした子供がどのようなものなのか。

残存兵力をまとめたといえこいつらがどのような行動をするのか検討がつかない。

戦功に目がくらみ中には暴走する奴もいるだろう。

幸い残った兵士の中には俺より役職が上の奴がいなかったため、立場を利用して見つけても「俺が命じるまで殺すな」と支持できた。

捕まえるにしても、殺すにしても、殺した事にするにしても…まずは会ってからだ。

そんな事を考えながら山道を走る。

すると… 見つけたのだ。

濁流の上に掛かる橋を渡る子供の姿を。






だが… その顔を見ることは適わなかった。




桂花SIDE

親衛隊の人… 紅さんと別れてから山道を走った私達は運よく岸を繋ぐ橋を見つけた。

見たところ丈夫そうに見えるのだが… 

吹きすさぶ風、横殴りの雨によって中空を危なげに揺れる姿と、下を流れる岩をも砕かん勢いで流れる濁流によってとても頼りなく見える。

「ちょっと待ってて」

そういうと郷は橋の縄や板を簡単に調べる。

意外と大丈夫そうだ…

彼もそう思ったのだろうこちらを振り向き

「俺は後ろを見張ってるから、桂花は先に渡って… 危ないと思ったら引き返してくるんだよ?」

と言った。

私としては郷が先に行くべきだと主張したかったのだが… いかんせんこの天気では黒板は使えないし時間がもったいない。

なにより今は郷の支持に従うしかない。

コクリ

頷くと私は慎重に橋を渡り始めた。






結果を言えば渡れた。

時々足を滑らしそうになるたびに肝を冷やしたが… 何とかなるものだ。

後は彼が渡るのを待って山を下れば目的地はすぐそこだ。

追っ手もまだ来ない。

郷が渡ってしまったら橋を落としてしまえば追われることは無いだろう。

…この数日で目まぐるしく私の平穏は変わってしまった。

第二の家族と言える皆とも散りじりになってしまい、心地よかったあの街とも唐突にさよならをしなければならかった。

きっと私一人じゃ耐え切れなかった… 郷がいなければ。

彼が私を見つけなければもっと早く壊れていただろう。

彼が一緒にいてくれなければ潰れていただろう。

私は彼に守られていてばかりだ。

きっと今回のことで私よりも郷のほうがずっと傷ついているはず… 

だから今度は私が彼を守る番だ。

私が感じた寂しさを、悲しみを彼には感じさせないように、少しでも和らぐように彼を支えていくのだ。

きっと曹家の人たちも手伝ってくれるだろう。

(そういえば…)

郷は曹家の姫達に合わせたいと言っていたが… どのような人たちだろうか?

とりあえず郷が仲良くしているのだ… 私もきっと仲良くできるだろう。

場違いではあるがそんな事を考えている内に彼は橋を渡り始める。

軽い足取りでとんとんとこちらへ近づいてくる。

こっちに着くにはそう時間がかからないだろう。

気が緩み一息つくと共に一瞬目を伏せる…

「なっ!?」

!?

郷の慌てた声を聞きハッとなり目を向ける。

彼は数本の矢に襲われていた… といってもこの強風の中だ、まともに飛んでくる矢はほとんどない。

だが安心は出来ない。

射たれ続けている矢の出所を見るとかなり近い考えているうちも追っては距離を近づけているだろう。

「くぅ!!」

一気に速度をあげて彼は橋を駆ける。

もう少し…

もう少しだから…

祈ることしか出来ないが… 祈りを込めてジッと見つめる。




だが… 祈りは届かなかった。



[7628] 始まりの終わり 後編
Name: リポビタン魏◆b11de515 ID:256a27ae
Date: 2010/07/12 20:44
「ハハ… まじかよ…」

橋の片側の縄が切れた。

鈍く光る槍のようなものが縄の切れ端と共に濁流へ呑まれたのを見ると切られたといったほうが正解だろう… 


それが切欠になったのだろうか、桂花が待つ側の縄を残して橋の瓦解がものすごい速さで起きていき。

「うおぉぉぉ!?」

そのまま俺はターザン・スパイダーマンもよろしくと言わんばかりのロープワークを見せながら…

「痛っ!」

崖に叩きつけられた… 一瞬気が飛びそうになるが根性でとどめる。

今や橋は完全に崩れてかろうじて縄が一本とそれにかろうじてついている数枚の板のみがかろうじて残っている。

幸いその一本を手に掴んでいるが… ピシピシと音がするところ俺が上に登るまで持たないだろう。

登るまでもたないのなら…

上を見るとこちらに必死に手を伸ばす桂花と目が合う。

意を決すると桂花に向かい叫ぶ。

「桂花ぁぁぁ!!」

彼女はビクンと体を反応させこちらをじっと見る。

だが… その目は涙で溢れていた。

まるで俺がこの後言う言葉を解っているかのように…

「先に行けぇ!」

声を張り上げ端的に伝える。

もちろん彼女は横に首を振る。

でも、桂花に行ってもらうしかない。

強風で矢が届くという可能性は低いし追っ手も橋が無くなったことによりこちら側へ来れなくなったが… もしものことがある。

桂花の足を見ても今すぐに発ってもらわなければならないだろう。

「大丈夫!! 俺は死なない!!」

叫んでからジッと桂花の目を見つめる。

最初はひたすら首を振り続けていたが… こちらの思いを解ってくれたのか小さく首を縦に振ってくれた。

「ありがとう! それと」

「これを」といいながら着物の衿に方手を入れて小箱を取り出し桂花に投げる。

彼女がそれを取るのを確認すると聞こえるように話す。

「それを曹… いや華琳に渡してくれ」

聞こえたみたいだ… コクリと首を振る。

「それと伝言がある、聞いてくれ!」

息を吸うと一気に伝える。

さきほどからピシピシからブチブチへと音が変わっている。

時間は無い。

「必ず皆に…桂花達に会いに行く!! 待っててくれ!!」

言い切ると近くにあった板を片手で抱えると同時に体が落下するのを感じ…

俺は水に叩きつけられた






敵兵SIDE

「貴様らぁ!!」

俺は橋が崩壊する原因を作った槍を投げた奴、弓を射った奴等に詰め寄る。

しかし… 返ってくるのは「自分は命令に従っただけ」・「むしろ殺すなというあなたがおかしい」という言葉だった。

確かにあの子供に会いたいと思ったのは俺だけだ。

こいつらは間違ったことをしていない… 上からされたのは「捕獲」か「殺害」だ、むしろ間違っているのは俺である。

(糞ったれ…)

内心忌々しく思いながら命令を出す。

標的の殺害を伝えるための退却の命令をだ。

(…悪いな坊主)

俺に出来るのはお嬢ちゃんを逃がすくらいだ。

ギャーギャー騒ぐ兵を無視して引き返す俺。

それを見てうるさかった奴らも渋々ついてきた。

最後にチラリと向こう岸を見る。

そこにはもう誰もいなかった…



春蘭SIDE

北家のものがやってきたと聞いていてもたってもいられず駆け出していた。

門で奴を郷を待つ私。

しかし… 来たのは

「おい医者を呼べ!!」

兵に抱えられていた子供だけだった…

ちょっと待て何故あいつがいない?

とたんに怖くなってその兵に聞く

「なぁ…郷は? 郷は…どうしたのだ?」

言いにくそうに目を逸らす兵

何だ? 何故目をそらすのだ!?

もう一回聞こうとすると横から文字が書かれた板がにゅっと出て来た…

その主を見るとあの子供だ。

受け取りその文字を読む… 震えて汚い字であったが馬鹿な私でも読めた。

だけど…

このときだけは…

「うそだ…」

何でもっと馬鹿じゃなかったんだろうと思った…

「うそなのだろう?」

字さえ読めなければ… こんなこと知らずにすんだのに!!

「うそといええええええええ!!!」

信じられなくて信じたくなくてうそだと思ってそいつに飛び掛ろうとする。

だが…

「姉者!! 落ち着け!!」

秋蘭に止められる。

「うそだ! うそだ!! あいつはいるんだ!!!」

言葉が… 想いが出てくる。

「こんどけいこするっていった! やまにあそびにいくっていった! いっしょにねるっていった!!」

何故か涙も出てくる

「しんじない! しんじらっれ… なっい! ヒック… うっ うう  うああああああああああ!!」

もう…とまらない

「ごおおおおおおおおおおお!!」


秋蘭SIDE

「郷が… 郷がぁ」

泣きじゃくる姉者の話を聞きながら板に書かれた文字を見る。

汚くてよく読めないが、そこには…

「馬鹿 な…」

郷が濁流に飲まれたという文字が書かれていた。

この持ち主に聞こうにももういない…

絶対安静… 誰にも会わせないそうだ。

頭が…

頭が…真っ白で…

どこを歩いているのかよくわからない…

兵に板を渡し姉者を部屋に連れて行ってもらうように頼んだのは覚えているのだが… それからが曖昧だ。

「ここは…」

気がつけば修練場に来ていた。

ここでは私と姉者が一番思い出があるだろう。

ふと肌身離さず持っている弓が目に入る… 彼が作ってくれたものだ。

秋蘭は弓がうまくなるからって強引に渡されて… 郷に一から教えてもらって… 楽しかったなぁ…

(あれ)

熱いものが瞳から溢れる。

拭っても、拭っても止まらない。

「うっ うぅ」

そうか… 私は…

「大好きだったんだ」

郷のことが…

大好きだったんだ…

「ううぅぅ ああぁぁぁ」

私は日がくれるまでずっと泣いていた。

「ごぅ…」

彼にもらった弓を抱えながら。



麗羽SIDE

「そんな… 」

話を聞くと同時に呟く

「そんな事…」

ありえませんわ!!? と否定の言葉を上げることが出来なかった。

それを伝えた彼女の眼が悲しみに満ちていたから… 本当の事だと悟ってしまった。

(郷さん…)

あの優しさが

(郷さん!)

あの温もりが

(ごうさん!!!)

あの笑顔がもう… 無い。

「いやああああああああああああ!!!??」

そこからよく覚えていない…

気がついたら寝室で寝ていた。

夢なら良い… 夢であってほしい…

何度も思ったが… 忘れられない。

「帰ってきてくださいまし…」

お勉強しますから

「帰ってきてくださいまし……」

嫌いなお野菜もしっかり食べますから

「帰ってきてくださいまし………」

大好きってまだいってないのですから

「郷さん」

愛しい名前は… 虚空に消えた。


華琳SIDE

私達が事の顛末を知ったのは兵より渡されたその板だった。

信じられない。

だが郷が此の場にいないということはこれが本当だということだろう。

即行で行われた御大のお爺さまの処刑に家も袁家も全く対処できなかった。

お爺様はこの速さは計画していたとしか考えられないと言っていた… きっとそうだろう。

私は自分の無力さを呪った… 呪うしか出来なかった。

そして… 運命も呪った。

呆然とする中、麗羽が悲鳴と倒れる音によって我に返る。

「誰かある!」

兵を呼び麗羽を寝室に連れていくように指示を出す… すると麗羽と入れ替わるように今度は兵に連れられて此の板の持ち主である荀 ケがやってきた。

聞きたいことはたくさんあるしかし… 酷い状態だ。

表情は病人そのもの、今にも倒れそうにフラフラしている… 早く休ませなければ危険だろう。

「あなた… ひどい顔よ。はやく休みなさいな?」

態々来てもらってすぐに帰るように言うのもあれだが…休息をとるように進める。

しかし、彼女は従わずに私に近づくと小箱を渡してきた。。

「私に?」

荀 ケは私が受け取るのを確認すると安心したのか死んだように眠ってしまった。

兵は彼女を受け止めると私に頭を下げながら出て行った。

彼女は何を渡したのだろうか?

小箱の封を解くとそこには…

「髪飾り?」

髑髏をあしらった髪飾りが一組内包されていた。

「これって…」

確か郷の鞘についていたのと同じ物じゃ… ん?

髪飾りの下に紙が敷いてある… 何か文字が書かれているみたいだ。

髪飾りをどけてそれを手に取り読む。

『華琳へ… 直接聞くのが少し照れくさいから手紙にしました。前に髑髏の飾りが欲しいって言ってたよね? あの時作り方は教えちゃったけどもう作ってしまったかな。俺が作ったものだけど…良かったら受け取って欲しい。女の子に髑髏って言うのも変だから小さめの髪飾りにしてみました。気に入ったのなら付けてくれたら嬉しい。そしたら具合を教えてよきっと春蘭達も欲しいと思うからね… それじゃまた会う時に… 北郷』

そこには彼の字で偽りの無い言葉達が書かれていた。

「ばか…!」

具合なら自分で聞きに来なさいよ…

「ばか… ばか…!」

渡すなら直接渡しなさいよ…

「ばか… ばか… ばか…!」

私は一緒に作りたかったのよ…

「ばかばかばかばかばかばか!!」

気に入るに…

「決まってんじゃないのよばか!!」

好きな男の子から物を貰って嫌がる女の子なんていないわよ!!

「郷の…」

ばかと言おうとして駄目だった。

そのまま布団に飛び込み顔を押し付けると声が漏れないように

「うっうう ふっ… うう!!」

涙を流した。






SIDEOUT


それから数日後… 北郷の死亡が大体的に伝えられる。

これによって北家は滅亡… 反逆者として処理された。

その事に反論する家も多々あったが… 張譲を始めとする強力な力をもった十常侍に反論できず沈黙。

その際に曹家に暗殺事件が発生。

曹騰が殺されることとなり… 実質王朝は十常侍が握る事になった。

案の定… 政治は荒れ、その影響は夜盗や飢餓となって民に降りかかった。

漢の国は今急速に崩壊への拍車がかかった…


とある漁師SIDE

それを拾ったのは偶然だった。

船の上で網を引いたら掛かっていたのだ。

上質な作りの箱だ… 中身もさぞ高価なものが入っていると思い期待をして中を見る。

しかしそこには巻物しか入ってなかった。

絵画と思いそれを開く。

「何じゃこりゃ… 」

文字が書いてあるようだが… 俺には読めない。

それに前の部分が良く見えない。

後半はなにか名前のようなものが書いてあるみたいだが… 関係ないだろう。

箱だけ貰ってこれは捨ててしまおう… 変なことに巻き込まれる前に。

俺は巻物をそのまま海に放り投げ漁を続けるとにした。

SIDEOUT

ユラユラと海面に漂う巻物。

しかし波にもまれるうちに海の藻屑と消えるだろう。

なんでもないただの巻物… 必要な人間以外にとってはゴミみたいなものだろう。

それはそうだ… 名前しか書かれていないのだ。

その名前とは 

字  天恵 

真名 一刀

と言うものであった。


これはだれも知らないとある海での一幕である。

あとがき
第1章終了って感じです。楽しんでいただけたでしょうか?
前回の更新では失礼しました。
反省して次にいかしていきたいです。

実は今投稿で困っていることがあります。
いつもはパソコンから投稿しているのですが、今回作者メニューに入るためにパスワードをうっても入れないという状態になっています。
何回やっても「このファイルにアクセスする権限がありません。リンクをたどって下さいと」いう文ばかり出てきます。
運営版や要望版にこのことを書き込もうとしても同じ文が出てきて書き込むことが出来ません。(感想版も同じく)
この投稿も携帯からしているのですが…大変です。この原因と解決案をご存知の方がいらっしゃいましたら、教えてくださいお願いします。



[7628] 第2章開始 大徳との邂逅
Name: リポビタンG◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/12/09 00:52
「お腹すいたよ~」

お腹がキュルキュルとなり続けて結構な時間になる。

「もうどれくらい食べてないのかなぁ」

「はうう」と口からこぼしながら目の幅と同じ幅の涙がルールーと流れる。

「お母さん… 心配してるかなぁ」

家が貧しいのに女手一つで私をこの年まで育ててくれたお母さん。

そんなお母さんに少しでも良いから何かしてあげたかった。

そんな時に耳に入れたのが「お茶」の話だ…

とても珍しく高級なお茶。

このお茶と言うものをお母さんに飲ませてあげたかった。

村からかなり離れていたけどそこに行けば格安で手に入ると聞いたのだ。

お母さんは絶対に反対するだろうと思ったから秘密で出てきた。

お金が足りないかもしれないからこれまで貯めてきた全財産をもっていく。

もうそっちに行くと言う商隊には話は通してあったので後はもう出るだけだった。

旅の途中は順調だった… 途中まではだ――

ある夜、街で宿を取ったときの事である。

夜中にふと目が覚めた私は偶然聞いてしまった。

商人さん達は私を騙していたのだ。

「もともとどこかの女の子を誘拐するつもりだったがあっちから来てくれた」と「もうそろそろ売り飛ばすのを考える」とのことだった。

私は恐ろしくなって食料も護身用の剣もお茶を買うために持ってきたお金も全部置いて宿から飛び出してしまったのだ。

そして森に逃げ込み今にいたる。

当ても無く森をさまよっていたら途中で穴に落ちて足を怪我をしてしまった。

周りは暗闇、お腹もすいた、足も痛い。

「ううぅ」

心細くなって涙が出てくる… 今度は本気でとまらない。

疲れてしまった私は大きな木の幹を背もたれにしてその場に座り込んでしまう。

「私死んじゃうのかな?」

恐怖と不安が一気に襲ってくる。

それに比例して涙も増える。

「やだよう… 一人はやだよう」

グシャグシャになった袖で目を拭い続ける… 拭いすぎてもう目が痛い。

そのときだ

ガサガサ

と後ろで物音がしたのは…

「ひゃぁ!?」

驚きながら後ろを見る。

まだガサガサと茂みが鳴っている。

熊とかだったらどうしよう…

逃げようにも足が動かない。

そうやっている内に音の主はどんどん近づいていく。

私は迫りくる恐怖に耐え切れず…

「きゅう」

意識を手放してしまった。







「んえ?」

目が覚める。

「食べられてない?」

体をみてもどこもおかしい所はない… それどころか服が綺麗な物になっているし怪我の手当てもしてあった。

見回すと辺りは白い布に囲まれていた。大人が二~三人寝れそうな広さがあり布もかなり丈夫に作られているようだった。


「んんぅ…」

「きゃ!?」

いきなり誰かの声が聞こえて驚く。

声にしたほうをみると布の向こうで横になっている何かがいた。

時折もぞもぞと動いているのをみると人のようだ。

誰? 声の感じをすると男の子のような気がするけど…

興味にかられて布の間から顔を出して声の主の顔をマジマジと見ていると。

「ん… ん」

目が覚めたその子と思い切り目が合った。

「おっおはようございます! じゃなかった!! ごっごめんなさい!! 私別に怪しいものじゃなくて!!」

いきなりの事でわけのわからないことを言う私。

(恥ずかしいぃ 今私顔真っ赤だよぅ)

男の子は少しポカーンとするがすぐに笑みを作り

「よく寝れた?」

と彼が話しかけてくる。

「えっあ… うっうん!」と答えながら目の前の人物に注目する。

寝起きで少しトロンとしているが凛々しい印象を持つ目、筋の通った鼻、形の良い口と鼻、サラサラの黒い髪… うん、とっても

「かっこいぃ」

「はい?」

わっ私今なんて!?

「いっいえ!? なんでもないです!!」

「は… はぁ」

必死にごまかす私… うぅドジだなぁ

スーハー スーハーと深呼吸をして自分を少し落ち着かせて改めて男の子に話しかける。

「あのぅ」

「なに?」

「私を助けてくれたのって… あなたですか?」

一番聞きたかったことだ。

「ん~まぁそうなるかなぁ」

にへらと笑いながら答える彼。

「あっありがとうございました!!」

すごい勢いで頭を下げる私… そうだ

「あの!お名前教えてください!!」

「名前?」

助けてくれたのだから名前を聞かなきゃ… っとその前に私が自己紹介しなきゃ。

「私は姓は劉、名は備、字は玄徳で真名は…」

うん真名まで教えちゃっていいよね?

「真名は桃香っていいます!!」

私の名前をきくと彼は一瞬目を大きくさせる… 何かあったのかな?

彼はそのまま黙ってしまった。

沈黙が暫く続く… この沈黙に耐え切れず何度も声をかけるが、彼は黙ったままだった。

真名はともかくそれ以外なら教えてくれるかなぁと思っていたのだけれど… 

やっぱりだめかなぁ 私には教えてくれないのかなぁ。

もしそうだったら… あっ涙でそう。

必死に涙と格闘すると彼が慌てたように口を開く。

「ごっごめん! いや少し考え事していただけだから!?」

「でも…」

「あれだよいい名前だなぁって思ってただけだから!!」

「え!?」

突然の言葉に顔がまた赤くなるのがわかる。

うれしいけどはずかしいな… えへへ

「ありがとう」

小さな声でしか喋れないや… 

「う…うん」

うわー 変な空気になっちゃった…

お互いにお互いの出方を見て中々話し辛くなってしまった。

だけど…

「あ~そうそう俺の名前だっけ?」

彼の話で空気が動き出した。

「ごめん… 色々と理由があってね。 ちゃんとした名前を教えてあげられな… てぇぇ!?」

まさに上げてから落とす。

期待に胸躍らせていた私は彼の言葉を聞いたとたんに気分が沈む。

きっと私の周りは黒い物が漂っているだろう。

彼の慌てる声を聞きながら私が復活したのはそれから少し経ってからであった。






「ええと… 大丈夫かな劉備ちゃん?」

困ったように笑いながら彼は尋ねる。

真名どころか姓名も名乗れないのはきっと大切な理由があるのだろう…

現に彼はその件に関して謝ってくれたし、「真名を受け取れない」とまで言ったのだ。

本来ならここで諦めるのが普通だろう。

だけど… 

「桃香でいいよ?」

私は彼に真名で呼んでほしかった… 勿論これが彼を困らせる事になるとわかっている。

事実「でも…」と言う彼…

「君が真名を預けようとしてくれたのはとても嬉しいよ? だけど俺にはそれに答える事が出来ない。 人によっては無礼を働いたと取られても仕方な」

「そんなこと無いよ…」

彼が言い終わる前に私は口を開く。

「あなたは私を助けてくれたんだよ?」

「それは当たり前の事をしただけで…」

「人を助ける事を『当たり前』って言える。 そんな優しい人を悪く言う人なんて私はいないと思うなぁ」

「……」

「それに私が真名を呼んでほしいのは、ただあなたへの感謝の気持ち… それだけなんだよ?」

黙ってしかし真剣な眼差しでこっちを見つめる彼。

何か考えているのだろうか… 難しそうな顔をしながら聞き取れないがときおり



「さすが… 劉備」「人誑し」と何かを呟く。

そうやって暫く考えてた後、彼は「ハァ」と一息つくと少し呆れた様に

「わかったよ… そう言うことなら桃香って呼ばせてもらうよ」

私の事を真名で呼んでくれたのだ。

その瞬間体が熱を持ったように熱くなり、鼓動が少しずつ早くなったのを感じた。

そしてその感情を満面の笑顔に変えて

「うん!!」

と答えたのだった。

「それじゃあ… 今度は俺の番かな?」

教えてもらってばかりじゃ不公平だからねと彼は片目を瞑りながら笑いかけると。

「俺の事は一(カズ)って呼んでくれないかな? それが一番真名に近いから」

そういって彼… 一君は「コレでいいかな」って感じで私に笑いかけた… たんだけど。

くぅ

気の抜けた音がどこからともなく出る。 

その発生源は… 私のお腹だった。

「あぅぅ」

三度目の赤面。

「ハハハ 少し待ってて朝ごはんの準備するから」

そういうと彼はすぐ準備に取り掛かる。

…その後ろで私はどうしていたのかと言うと

「はいぃぃ」

あまりの恥ずかしさで頭から湯気が出そうな程の熱を感じたまま、身動きできずに気の抜けた返事をするので精一杯だった。







皆さんお久しぶりのリポです。

最近完全に放置していたため完全に更新が途切れておりました。

理由はまぁ色々ありますがとにかくすみませんでした。

さて迷走しながら始めてしまった第2章… 正直自信は御座いませんが… 色々おかしいのは気にしない… それがリポビタンクオリティ と言う事にして置いてください。

というより何通りか話を考えましたが… 悩んだ末にここで桃香を出しちゃいました。

原作の魏編ではあまりいいところの無い桃香こと劉備玄徳… そんな彼女を何でここで出したのかって?

それはやっぱし華琳様と違っておっぱいがおお……… 返事が無い屍のようだ。




[7628] 大徳の歩み
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:bb2752b8
Date: 2010/12/17 00:29
爽やかな朝の空気を吸い込むと木の臭いが胸いっぱいに広がる。

緑の木々の間を風が優しく吹きぬける『ザァ』という音と川を流れる水のせせらぎは耳に優しく響き、空を見上げれば空は青くお日様の光は燦燦と輝いている。

ここは穏やかな川の畔…

その一角に厚手の布を広げ私は座っていた… なるほどこれなら朝露や土で服を汚さないで済む。

そして私の向かいには

「ハハハ」(苦笑)

一君が座り優しく笑っている。 [注*食事に夢中で(苦笑)には気づいておりません]

普通の女の子なら見とれてしまいそうな微笑を向けられながら私は…

「おーいーしーいぃぃぃぃ!!」

歓喜の涙を流しながらそう叫んでいた。

「おいしぃ… おいしいよぉ」

そう呟き涙を流しながら目の前にあるご飯を口に頬張る。

飯ごうという道具で炊かれた艶々のご飯は甘く…

干したお魚の塩加減は丁度よくて…

お味噌汁っていうお汁を飲めば朝日の効果も相まってかスッキリした気分になる…

お野菜の塩漬け… お漬物を食べると口の中がサッパリする。

最初はお魚が干してあったり、坪に入ったお味噌やお野菜、飯ごうで炊かれるお米を見てあまり見ないものばかりだったため「美味しいのかな?」なんて思ったけど…

まさか… まさかこんなところで、こんなにおいしい朝ご飯にありつけるなんて!!

外で食べるという環境と空腹という最高の調味料が食欲をより刺激していてお箸が止まらない!

まさに「メシウマ状態!!」 …ってあれ? 何か今頭に浮かび上がったけど… ま、いっか!

と暢気にパクパクと食べていたら…

「んむ!?」

軽く喉に詰まらせてしまった。

みっ水ううう!?

喉に詰まったご飯を飲み込むため水分をとっさに探すが何もない。 お味噌汁は飲んでしまったしそれ以外の水分は見当たらない。

苦しさで軽く混乱状態に陥る― 前に

「はい、白湯」

と白湯の入った湯のみを渡され慌ててそれを呑む。 白湯は熱くも無くぬるくも無く丁度いい温かさで淀みなく私の喉を通った。

「ぷはぁ」

一気に半分ほど飲んで冷静になると自分のさっきまで行動を思い出す。

わっ私は一体なにをぉぉ!?

顔… というより全身を真っ赤にさせてしまう。

そんな私に彼は少し笑うと声をかける。

「いいよいいよ、気にしないで。 こんなに美味しそうに食べてくれるのなら作ったかいもあるから」

「うぅぅ」

そう言ってくれるのは嬉しいけど… 目が合わせられないから自分の持つ湯のみに視線を落とす。

「ほらほらシュンとしてないで… おかわりはいる?」

「まだあるから」と微笑んでしゃもじを片手に聞いてくる一君。

それを私は目だけでチラチラ見ながら。

「はい…」

消え入りそうな声で答えた。
 





後半、最後まで静かだった朝ご飯が終って今私は朝起きた布―― テントの中に入っています…

「大丈夫、嫌じゃない?」

一君と一緒にだ

「うっうん…」

彼は私の今一番敏感だろうと思われる『場所』に指を触れる…

「ひゃ!? あぅ…」

熱を持った『其処』に刺激を与えると私は軽く声をあげてしまう。 

「ごっごめん! 痛かった?」

「ちっ違うよ!? 今までこんなことがあっても自分で何とかしていたから… その誰かにやってもらったことがなくて…」

顔を仄かに赤くさせながら答える。

「そっか… だけど俺でいいの?」

彼… 一君は真剣な顔をして改めて聞き返す。

「うん… 私は一君が最初に触ってくれる人で嬉しいな」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの… できるだけ優しくするから力を抜いて」

顔を真っ赤にしながら答える私を気遣いながら彼はそこを優しくさする

「ぅん…  はっはい」

軽く擦られるたびに起きる刺激に小さな声をだしながらも頷く。

その様子を見て彼はその周辺に刺激を与えるのを再開する…

「ん…う」

ピクンピクンと反応する私の反応を見ながら彼は行為を続ける。

「ここだな…」

何を確信したのか… 彼は少し力を入れて刺激を与える… 

津波のように押し寄せてきた感覚に私は

「きゃん!」

という一際大きい反応を示して『そこ』を隠すように自分の手で…… 





















「腫れた足」を覆う。






















「もぉ… 痛いよぉ」

軽く頬を膨らませて言う。

「ごめんごめん… うーん、腱が断裂とまではいかないけど損傷してるみたいだねぇ」

「治療だけでみても少し時間が掛かるだろうと」の事を一君に説明される。 

どうしよう…

足を怪我しているんじゃ村に帰れない。 それにお金も無いし… この状態じゃお金を稼ぐ事も出来ない。

私の胸中は一気に不安で染められてしまった。

「…なにか事情があるみたいだね? 俺でよければ話を聞くよ」

こちらの顔を覗き込みながら聞いてくる一君。

嬉しい… だけど正直これ以上迷惑かけられない。

だから「大丈夫」って言ったのだけど。

「そんな顔して「大丈夫」じゃないって… まぁ話すだけならタダなんだから話してみなよ?」

この言葉で私はポツリと話し始めた。



事情を一通り説明する。

「災難だったね… と言いたいところだけどそれは駄目だよ」

と少し呆れたように彼は言った。

「えっなにが?」

私は軽く驚きながらも彼に聞く。

「今のこの国の状態知ってる? 政治が荒れているせいで国… 特に治安が荒れているんだ。 強盗、人攫いなんてのが格段に多くなっている今、自分の村の人間… もしかしたら自分の身内でさえ裏切ってもおかしくない程人の心って言うのは荒れているんだよ? そんな中でちゃんと確かめもせずについて行っちゃうなんて、無用心にも程があるよ」

「でも本当に良い人そうだっ」

「それが無用心だって言ってるだろ… 昨日の話を聞いても桃香の人を信じるっていう所はとてもいい事だと思うけどさ。 始めて会った人間・他人とかには警戒心もつとか、もっと用心しなきゃいけないよ」

「そんなの… 始めてあった人に警戒なんて失礼じゃ」

「それが今のこの状況でしょ?」

「うう」

彼の穏やかながらも的をいる指摘に私は何も言えなくなってしまう。

そんな私を見ると一息をつき「まぁこれから覚えていけばいいさ」と言って話題を変えた。

「さて君のこれからなんだけど… さっき言ってた置いてきた荷物に大切なものとかある?」

「うっうん、それは大丈夫かな?」

「… 剣とかいいの?」

少し真面目な顔をして彼は聞いてくる。

剣? あの剣は出てくるときに適当に買った剣だからそんな大切なものじゃないけど…

その事を伝えるとちょっと安堵して話し始める。

「んじゃ荷物は諦めようか? どうせ今行ったとしても何もないだろうし… 問題はお金だね。 今一銭も無い?」

「… 何もないです」

ズーンと気分が重くなる。 一君は「あー わかった」というと口元に手をやって暫く考える。

「ねぇ桃香」

「えっうん、何…かな?」

おずおずと返事する私。

「その無くなった路銀俺が出すと言った」

「駄目だよそれは!?」

私のせいだもん、相談に乗ってくれるだけでも嬉しいのにその上お金を借りるなんて出来ないよ。

「まぁそういうと思ったよ。 んじゃ別の子と聞くけど… 字の読み書きと簡単な計算ってできる?」

「えっと… 字は読めるし計算も少しぐらいなら」

「そっかなら… 桃香」

「はい」

「俺の仕事手伝ってみない?」

「へっ… えっええ!? だっだめだよ!? そんなお金かかるこ」

「お金なら大丈夫、さっき「変わりに出す」って言った時点でそれぐらいの余裕はあるんだよ」

断りを入れようにも言葉を被せられる。

「君が働いてその分俺が払う… そうだね、前金も幾らか払うよ。 どう? これはちゃんとした契約だから反故にするつもりはないし、悪い話じゃないと思うけど」

そうやって説明する一君… しかしその顔はどこか楽しそうだ。

まぁ少し理解できなかった所もあったが… 悪い話じゃないと思う。

だから…

「はい… よろしくお願いします」

その話を受ける事にした。

「よしわかった! それじゃ… 改めて宜しく!」

そうやって手を鳴らすとそのまま右手を私に出す。

「え?」

その手が何を意図しているのかわからなくて彼の手と顔を交互に見る。

私が困惑しているのがわかったのか笑いながら説明する。

「ああ、握手っていってね。 まぁ信頼と友好の儀式みたいなものだと思ってくれればいいよ」

「さ、俺の手を握って」と言う言葉に恥ずかしさを覚えながらもその手を握る。

「こちらこそよろしくね?」

キュッと握ると最初は少し冷たくてだけど暫くしてから感じる手の温かみと男の子らしいごつごつとした感触を手から感じる。

「うん! じゃあ俺の… じゃないな。 俺たちの相棒達を紹介するよ」

スッと消えた手の名残を感じながら彼に尋ねる。

「相棒?」

「そう、ちょっと待ってて」

そういって彼は立ち上がり口に何か咥えて息を噴出す、すると辺りに甲高い音が響きわたる。

「ひゃ!?」

座ったまま音量に驚く私。

「あっごめん笛なんだこれ… あっもうそろそろ来るよ」

彼のその視線の先にあるのは森の中… 私も彼と同じ方向に視線を向ける。

しばらくすると

「馬?」

馬が4頭こちらに向かってやって来る。

それぞれ特徴的な外見をしているが一番に目を引くのがその大きさである。

普通の馬よりも4頭とも2回り・3回りも大きいのだ。

そのうちの一頭… 先頭にいた巨馬一君に近づくとじゃれ始めた。

「あはは、よしよし」

その体は月の光をそのまま色にしたような毛並みに覆われており、荘厳な印象を受ける馬であった。

「相棒ってこの子達?」

「ああ、そうだよ。 んじゃ紹介するよ?」

そういうとそれぞれの馬の隣まで歩いていき名前を言っていく。

最初に一番近くにいた月毛色の馬に手を置くと

「まず『荒月』… 奥にいる青毛が『絶影』、赤毛が『赤兎馬』そして… おっと」

首筋に手を置き一頭一頭紹介していた彼だが最後の一頭だけはできなかった。

なぜなら…

「へ?」

私の目の前に最後の一頭が近づいてきていたのだ。

全体は普通の黒毛なのだが前足と後ろ足それと額が白いという印象的な馬だった。

ブルルル

鼻息が顔にかかりそうなくらいに近い、 状況が飲み込めないまま呆けているとそのままザラっとした舌が私の頬を舐めてきたのだ。

「きゃ! もうくすぐったいってば!!」

いきなり舐められたのは驚いたが嫌な気はしない。

きっとこの子は「よろしく」っていう挨拶のつもりなのだろう。

「ハハ、気に入られたみたいだね。 そいつの名前は『的盧』って言ってね… 実は君を見つけたのは的盧なんだよ?」

「この子が?」

「そうそう。俺がテントを建て丁度ぐらいにね、君の後ろ襟を加えて運んできたんだよブラーンって感じで」

「そう、なんだ… ありがとうね的盧ちゃん」

「私は桃香っていうんだ」と言い、感謝の思いを込めながら撫でる… がここで一つ疑問が出た

「そういえば… お仕事ってどんな事をするの?」

「仕事? 主に行商かな。 後はこいつらの力を借りて運搬とか色々な事をやってるよ」

「えっと私怪我してるけど… 」

「ああ、大丈夫。最初は負担がかからないような仕事をやってもらうから。 えーとあれは… あったあった。」

そうやって取り出したのは白くて厚い束。

パラパラと薄くめくれているのを見るとどうやら紙みたいだ。

「すごい量だねぇ… これだけ買ったのなら値段かからなかった」

「まぁ、安く仕入れる所を知ってるってことにしておいて。 …さて桃香にやってもらうのは帳簿付けだよ。 1日でどこで何を買ったとか、ここでこれがこの値段で売れたとか書いてもらうから」

「え!? それって結構大事な事なんじゃ… それに私あまり自信が無いんだけど…」

「確かに最初は大変だろうけど… 大丈夫俺がちゃんと教えるし。 それに桃香のこと信じてるからさ」

「私を?」

「さっき俺は他人を簡単に信じるなって言ったと思うけど…」

うんうんと頷く

「もう俺達は他人じゃなく同じ仕事を仲間なんだからさ… それだけで信じるに値すると思うんだよ」

「自分でも矛盾してると解っているけど」と苦笑する一君。

確かにさっきと言っている事と逆だろう… だけど私はそれに憤りを感じない。 むしろ彼の言葉がじんわりと胸に広がっていく。

私は… 嬉しかった。

人に騙された私だけど… まだ信じる事が出来る、信じてもらえると言う事を改めて気づけたから。

彼は私を信じると言った… なら私は? 

そんなの決まっている。

「私頑張るから…」

だから

「よろしくお願いします」

笑顔をもって彼にそう言葉を返す。

すると彼は顔をクシャリと綻ばせると

「それじゃ桃香、 テントをたたんで… 次の街に行こうか?」

こう言ったのだった。




[7628] 大徳の思い
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:6e519932
Date: 2011/05/31 00:29
ガラガラガラと音をたて積荷を載せた馬車が平原を走る。

現在、私たちはとある街から商売を終えて出て来た所である。

昼は一君のお手伝いをして、夜は帳簿をまとめる…… この生活を始めて約一月以上が過ぎた。 

まぁ、まとめると言ってもわからない所は彼に聞いてばかりだし、手伝うにしても足の怪我のためかなり限定されてしまっているけどね? 前はこのことで落ち込んでイライラした事もあったけど、

「君が今できる事を一生懸命やってくれているのは見てるから、あせらないでゆっくりと治していこう?」

という一君の言葉のおかげで今は自分に精一杯できることをやっている。

そのおかげか、馬車に揺られながらの街から街への移動や怪我の治療をしながらの生活に最近は慣れてきたのか以前より疲労感は感じない。むしろ充実感が体中に溢れているように思う。

「少しは仕事にも慣れてきたみたいだね」

馬車の前方を見ながら彼は私に話しかける。

「えっそうかなぁ?」

「うん、帳簿の間違いも殆どないし、今は商いの手伝いを手伝ってくれているしね」

「おかげで完売だよ」と嬉しそうに彼は話す。

「そんなことないよぉ、大きな商家さんとの取引は一君がやってくれるから全部売れてるんだって。 私が出来るのはせいぜい売り子だけだよ」

それに私達が売っているものが物珍しいということもある。

一君は商家さん相手に農具や日用品また青磁という陶器などの工芸品の納品を行なう。

これがまた評判が良い上、一君のやり方がうまいのかドンドン売れていく。

「そういえば一君」

少し疑問を思い出し彼に話しかける。

「なに?」

「いつも商人さんが「どこで売られているのか教えてくれ」って頼んでるけど、なんでだめなのかなぁって…… 商売だからっていうのはわかるよ? でも薬とかなら教えてあげてもいいんじゃないのかな?」

「うーん、桃香の言ったように商売だからって言うのもあるけど…… 取り扱いが難しいんだよね。 薬なんて特にそうでしょ? 作る側だけじゃなくてそれを取引する側もそれ相応の知識は必要だから、きちんと勉強する必要があるんだよ。 保存期間とか使用方法とか効能とかきっちり理解せずに売ってそれで何か起こったとしたら大事だからね? それに、全部の商品で言えることだけど数がそれほど多いわけじゃないんだよ」

「作る職人さんや薬師さんが少ないってこと?」

「そーゆーこと、今の数でもギリギリだからね…… これ以上は現状では無理なんだよ」

だから一君は「作っている人たちとの約束で…」と言っていつも断っているんだ。

「といってもあのやり取りも毎回の事…… いわゆる一つのお約束みたいなものだよ」

そういえば一君が断っても商人さんは機嫌が悪くなったようには見えない。

機嫌が悪くなるどころか「今回も駄目かぁ」と笑いながら談笑するのだ。

「まぁ 俺が取引するのはその街の商家さんの中でも、信頼しているところだけだからだよ。みんな自分の仕事に誇りを持ってるというのかな…… いい人たちと商売させてもらってるよ」

にこやかに、感謝するように彼は話す。

彼の行くところには笑顔が多い。

仕事の最中ではお客さんや取引相手に、それ以外の自由な時間では老若男女を問わず困っている人を助けていたりする。

助けると言ってもただ助けるのではない。

その人にとって今一番欲しい言葉で背中を後押ししたり、その人がいくら頑張っても出来ない部分を補ったりするのだ。

みんな最初は難しい顔だったり、泣いていたりするけど彼が関わると最終的には朗らかに笑っている…… 私がいい例だ。

きっと彼がこんな人だというのを知っているから笑顔が絶えないのだろう。

(クス)

よくわからないけど一君の笑っている顔を横から見ていると顔がにやける。

「桃香?」

彼は私の視線に気づいたのかこちらに顔を向ける。

「ううん、なぁんでもないよ」

そういって顔を見られないようになるべく前に向ける、私の顔が赤くなっているのをばれないように……

……
……
……


馬車につけられた提灯がゆらゆらと明かりを放つ。

「大分暗くなってきたねぇ」

空を見上げればそこには月の光を受けて星が瞬いていた。

と言っても辺りの森の木々が月光を遮ってしまい、前方に目を凝らせども提灯の明かりよりその先には道が見えない。かなり拓けた場所のためかその先には道ではなく、何かが口を開いて私たちを待っているように錯覚するほどの暗闇が広がっていた。

「今日はこの辺りで休んでもいいんじゃないかな? どうせ真っ暗なわけだし……… 」

少しの不安感を感じながらもそれを拭うように隣にいる一君に話しかける…… のだが彼は少し難しい顔をしながら「ふーむ」となにか考えている

「どうしたの?」

「いや、ここで休むのには賛成なんだけどさ…… どうも気になる事があってね?」

「気になる事って…… 」

「うん、ちょっとね? まぁこれは俺が後で確かめておくよ、今日は桃香の言うようにここで休もうか」

彼の『気になる事がある』と言ったときは少し緊張したが、その後の言葉でホッとした私がいる。

「はぁ~ でもよかったよぉ」

「え?」

「いくら隣に人がいて明かりが有ると言っても真っ暗な森の中を進むのってなんだか怖かったからねぇ。 それに……… お腹もすいたし」

私がそういうと彼は少しキョトンとした顔になった後

「ぷっはは―― うん、ならここで夕飯にしようか」

と面白そうに言ったのだ。

そして私は……

「うぅぅ」

自分の子供っぽい理由に恥ずかしくなってしまい、両手の人差し指を突付きあうという作業を繰り返していたのだった。

だがこの穏やかな空気は……

「――っ!? 桃香!!」

急速に変化する。

「え? きゃっ!?」

(え? ええええええええええ!? いいいいい行き成り何!? たったた確かに もうちょっと進展したいなぁって思っていたけど!? これはさすがに行き成りすぎだよぉぉ!? )

いきなり彼に押し倒されながら私の頭は混乱してしまう。

そして何より、

鼻をくすぐる彼の香り…

力強く抱きしめられた腕……

意志の強そうなその眼差し………

全てにおいて「男の子」を感じてしまい私の胸の鼓動が激しく高鳴る。

真剣な目でジッとみつめられる……

「桃香……」


私の名前をささやいたその声は、大人らしくどこか少年らしい印象を抱かせる。そして必然的に私の視線は彼の唇に集まってしまう。

(だめ…)

視線を外そうとしても熱に浮かされた頭は正常に働かず…… それどころかより一層目がそこに向いてしまう。

……… 私も女の子だ。 覚悟を決めないと!

暴れる鼓動と顔の熱を感じながら目をキュッと瞑り、恐る恐る唇を突き出そ―

「怪我は無い!?」

うとしたが彼の声によってその行動は中断してしまう。

「へ? ……うっうん」

それに行き成りの事で思考が対処できず間の抜けた返事を返す。

「チッ!」

彼の声色と馬車の回りに刺さっている矢から自分たちの現状を洗い出す。

すると私達―― 正確には私だけを包んでいた空気が物凄い勢いで崩壊する音が聞こえた。

(私ったらなんていう勘違いをぉぉ!!)

酷く困惑しながらも、自分たちの状況を確認するために努めて冷静に話しかける。

「えと…… もしかして」

「ああ、追われているね…… 気になる事が当たったみたいだ」

「しょうがない」と続けて嘆息混じりに呟くと、彼は直ぐ表情切り替えて前を見る。

時間にしてほぼ一瞬――

「桃香」

彼は私に一声掛けると――

「突っ切るよ!!」

暗闇の中、馬車の速度を一気に上げたのだった。

「うっ―― うん!!」

それに呼応するように提灯を回収し、キュッと目を閉じながら体が投げだされないように馬車の柱に身を寄せる。

「おっおい!? 逃げ――」

「追いかけ――」

後ろから聞こえてくる叫びを気にもせず、馬車はどんどんとその速度を上げていく―― 

目は閉じていても、顔に感じる強い風が今の速度を物語ってくれる。

これだけの速さなら木にぶつかったりすれば私たちはタダではすまないだろう。

だが暗闇の中を走っているのに私の心には恐怖というものが無かった。

それもそのはず……… ただただ馬車を引く『彼ら』のことを信じているからだ。

『彼ら』は暗闇の中を疾走しても微塵の恐怖も感じない―― それどころかいかような荒地だろうが己の足だけで踏破してしまう。

その力強き足音は大地を駆けているだけだ。しかし、それだけなのにどこまででも、どんな場所にでも連れて行ってくれる…… そんな万能感を感じる事が出来るのだ。

そっと目を開けてみる。

木々の密度はかなり薄くなっている…… となるとあと少しで森を抜けるだろう。

「よし、森を抜け…… なんとぉ!?」

「キャアア!?」

森を抜ければ後は駆け抜けるだけのはずが、私が感じたのは夜風を切る疾走感ではなく自分の体が横に振られる衝撃であった。

「桃香! 無事!?」

「大丈夫だけど…… 頭ぶつけたぁ 一体どうしたのぉ?」

ジンジンと痛む頭を抑え、目にたまる涙を拭い声を返す。

「あれが原因だよ」

そう言って彼が指差した先を見る。

するとそこには十数本の矢が地面に突き刺さっていたのだ。

角度からにして森から放たれたものではないだろう―― と言う事は……

「……どうやら回り込まれていたらしい」

前方から幽鬼のように影が出てきた…… それらが月光に照らされると人だというのが確認できる。

だが、そこには『人』はいなかった――

その獲物を持った手や獣性が宿ってる目を見ると、直ぐにでも人に襲いかかろうとする飢えた狼のような『ヒト』が徒党を組んでいたのだ。

ザリ、ザリ…… とその獣性を隠そうともせず一歩一歩こちらにやってくる。

その圧迫感に気圧されそうになる―― だが、それも

「――……」

肩に置かれた重みを感知すると、とたんに霧散してしまう。

その代わりに暖かさと、平常に思考できる安心感が私の体を包む………

「それじゃ、桃香? いつも通り…… 」

「うん、私はいつもみたいに馬車に隠れているね?」

そういうと慌てずに馬車の中に入っていく――

この馬車は普通のものと異なっている。

外面こそ何の変哲の無い唯の馬車である。それなりの広さがあり荷物を多く積んでも人一人寝れる程である(まぁテントを張ったほうが広いためあまり寝たことは無いが………)

これだけだとそこそこ大きい馬車としか言いようが無い。しかし、その内側は鉄板が幾重にも格子状に張られており、そのため強度が格段に違うのだ。
強度だけでなくその乗り心地も非常に快適で、悪路で石に乗り上げたとしても揺れが少なく感じるのである。 (一君は「車輪に細工をしてある」といって説明してくれたがよくわから無かったのは秘密である)そのほかにも暴風、火事、雨漏れ等、それぞれに対策が立たれているのだ。

つまり、この馬車の中にいれば外に出ているよりも格段に安全なのである。

そしてなにより―― 彼がいる。

「うん―― んじゃ俺は……」

一君は傍らに置いてあった『それ』を掴み

「障害物を取り除くとするかね!」

月が雲に隠れて薄暗い中を、荒月ちゃんに乗って駆けて行った――








(来たな……)

男が馬に乗って出てきたのを確認すると、そいつを包囲していつでも飛びかかれるように待機しろと手下どもに言ってから、馬に乗りながらそいつの正面まで移動し男が来るのを待つ。

奴らの後を急いで追いかけてきたため手下の人数こそ少ないがそれでも五十程…… たった一人を消すには十分すぎる数だ。

馬鹿でもわかるほど圧倒的にこちらの有利…… いや勝ちも同然である。

すぐにでも攻めてしまえば決着はつくだろう…… だがそれではつまらないし、足りない。

(さて、どのように料理しようか……)

俺は自然に口角が上がるのがわかった。

荷物と金は勿論あの見事な馬もすべて分捕ってやろう。

奴自身はすぐに殺さず捕らえて拷問じみた事をやってやろうか? 傷に塩を塗りつけてもいいし、爪を一枚、一枚剥がしてやるのもいい……

そうだ、確か女連れ……… ならば目の前で犯してやってもいいだろう。 

まぁ女と言うにはもう少し年が足りないが……… それを抜きにしても顔はかなりの上物だったな、それに年不相応にいい体を――

――ザンッ

「あぁ?」

楽しく事を考えていたのに何かの足音に中断されてしまう。

苛々しながら音のするほうに目を向けると……… 奴がいた。






時同じくして夜の風が唐突に吹き抜ける。

風は草木を鳴らすように走ると空に駆け上がり月にかかる雲を流す。

雲から開放された月はその優しき月光で地上を照らし始める。

光は雲が月から離れれば離れるほど照らす範囲を増やしていく、そして辺りが柔らかく、そして儚い光に照らされたとき。

そこには月明かりを受け黄金色に淡く光る一頭の巨馬、それと身の丈を越える朱槍を携え、月夜に映える白い衣を身に着けた武士(モノノフ)が佇んでいた。

絵師がいればすぐにでも筆を取っていたであろう……… 

歌人がいればこれを詩に表すだろう……… 

そのような光景が今ここにあったのだ。






奴は瞑っていた目をゆっくり見開くとそのまま俺にまっすぐ視線を向ける。

刹那、壁のようなものに圧される感覚を受ける。

馬上で重心を失いそうになるが、手下の手前無様なところを見せられないためそれをこらえる。

そうだ、これだけの人数で負けるはずが無い。

きっと今の感覚も勘違いで、奴は逃げるためにハッタリをかますか時間を稼ぐために出て来たにちがいない。

そう考える事にして、消えかけた殺気をもう一度練り上げ目の前の男にぶつける。

しかし、男は慌てた様子も見せずに周囲を見回し最後に俺に視線を戻す。

すると、さも面倒くさそうな顔して

「ったく…… 今なら許してやるから帰ってもらえると嬉しいんだけど?」

とほざきやがった。

「はぁ!? 何を言ってやがる!? 周りは囲まれさらに後ろには追っ手がいる…… この状況で許してやるだと? ハッ!! 恐怖で頭がおかしくなったのか?」

嘲りを込めて言い放つ。

「それでも考える事できるだろ? まぁ……今なら荷物と女を置いていけば命だけは」

「つーかお前、前の街にいた武官だろ? こんな盗賊まがいの事をしてんなよ……」

「なっ!?」

「助けてやる」と言おうとしたところで行き成り正体を言い当てられて緊張が走る。

「何を根拠に……」

覆面で隠された口から声を出す。

「声が震えてるぜ? それにあんたの手下―― 顔に蹄の跡がついた、いい男がちらほらいるからなぁ…… なんだ、馬に蹴られるのがここら辺の流行なのか? だったら謝るけど?」

「――っ!!? それはてめえがやった事だろうがよ!?」

「やれやれ、俺はあの時言っただろう?『こいつらに認められなければ何があっても知りませんよ?』って…… まさか強引に連れて帰ろうとして全員から蹴りを喰らうとは思わなかったけどな」

そういいながら男は軽く笑う。

「あれだけ手下を引き連れてきたと言うのに、いい男になり損ねたのはあんただけだからな……… どうだい? 今から整形してみるのは?」

ブツン

そのとき何かが音を立てて切れた。

「おめぇらぁぁ!! こいつをブチコロセェェェx!!!」

「「「「「「「おおおおおぉぉぉ!!」」」」」」」

手下達の逆鱗にも触れていたのか…… 俺の周りに弓兵を残して他は、雄たけびを上げながら奴に突進していく。

俺の横を騎馬が駆け抜けそれに続き、手に獲物を持つ手下達が奴に向かい走って行く。

さっきから何度も言っているが…… 俺は自身の勝利を疑ってなかった。

唯一、奴が乗っている馬だけは手に入らないだろうと思っていたが……… 数秒後には男の無様な死体がそこにあり、金も荷物も女も俺のものになるということで由としようとした。


しかし……

「なんだ……と?」

目の前では俺の考えと異なる事が起こっていた。


先頭を駆ける騎馬兵が勢いのまま奴に雪崩れかかる。

しかし、奴は微動だにしなかった……… 唯静かにその大槍を振り上げると。

一閃―― 横に凪いだ。

すると、奴に雪崩れかかった手下は馬ごと吹き飛ばされ地に伏していた。

後に続いていた奴らも、その光景を目の当たりにして慌てて反転しようとしたが………

「行くよ」

遅かった―― 奴はもう動き出していたのだ。

一閃…… また一閃する度に手下達が吹き飛ばされていく。

中には馬ごと体当たりをしようとする奴もいたが…… これがビクともしない。

逆に弾き飛ばされ人馬もろとも地に叩きつけられる。

同じ騎兵でこれだ…… 歩兵では歯が立つわけが無かった。

「射っ― 射ろ!? 射殺すんだ!!」

反射で叫ぶ。

歩兵を弾いて走る奴に十数本の矢が迫る…… が、奴は槍を巧みに使い全てを叩き落す。

そして奴は腰元を探るとそのまま何かを投げつけた。

一瞬の風切り音の後にドッと何かが当たる音がする

「イデエェェ!?」

そこには腕に短刀のような何かが刺さっている手下がいた。

次々に起こる手下の悲鳴…… 

そしていつの間にか立っているのは俺と――

「まだ…… やるかい?」

離れた場所に立つ奴だけだった。

「テッ― テメェ! 一体何をしやがった!?」

「何って、棒手裏剣を投げただけだよ……」

「まぁ知らないだろうけど」と肩をすかしながら言葉を続ける。

「んで…… だ。 もう手下はいないわけだが…… どうする?」

そういいながらこちらに槍を向ける。

よく見るとその穂先は何かに覆われているのがわかる。

「鞘…?」

「ん? あぁ…… とりあえず全員死んじゃいないよ。 それでも骨は何本か貰ったけどね」

そういいながら奴は朱槍を向けて段々とこちらにやってくる。

(糞がぁぁ!!)

その余裕そうな姿に頭が煮えくり返っているが、いったん距離をとろうとして馬を下げる。

しかし……

「なぜ動かねぇ!?」

馬がこちらの言う事を聞かず立ち止まったまま動かない…… 手綱を引こうが、怒鳴り散らそうがビクともしないのだ。

よく見るとさほど走ったわけでもないのに息が切れており、一点を見たまま硬直している。

そしてその視線の先にいるのが…… 奴だ。

(あ……れ?)

カチッ…… カチカチッ

歯が鳴っている…… 額に手をやれば雨に降られたように濡れている。

寒いわけでも無く、調子が悪いわけでもない

奴の姿を目視したとたん自分の身の異常を感じた。

「まっ―― 待ちやがれ!!」

自分の状態を知られないように声を張る…… 俺はまだ負けちゃいないのだ。

すると奴はその歩みを止めた。

「もっ森にまだ手下を置いてあんだ!! 俺が合図すりゃぁ馬車も中にいる女もどうにでも出来ちまうんだよ!!」

奴の乗る馬車を追っていた手下がまだいる―― あいつらが馬車を制圧しちまえばこの状況を逆転できる。

「てめぇの負け――」

「呼んでみたら?」

「はぁ!?」

こいつにとって馬車と女は弱み同然…… 何故こんなに悠長にしている!?

「何訳のわからんことをほざいてやがる! なら現実をおしえてやらぁ!!」

この威圧感から早く逃れたい…… その一心で森にいる筈だろう手下どもに合図する。

しかし…… 待てども待てども手下が来る気配が無い。

「なっなんで?」

本来ならすでに立場が逆転してるはずなのに! 

「何故来ないか教えてやろうか?」

「何を!?」

呆然と森を見詰める俺に奴は話しかける。

「答えは…… こいつらさ」

そう言って笛を口にくわえると辺りに音が響く。

すると、笛の音に誘われたかのように森から馬が3頭現われたのだ。

そのどれもが目の前の男が乗る馬と同等の巨馬…… それが森にいたということは――

「そんな馬鹿な!たかが馬ごときに…… それに何故あそこに馬がいるんだ!?」

「うちの馬達って、ただでかいだけじゃないんだよ。体力も力も普通の馬に比べて段違いでね…… 馬車を引かせるぐらいなら一頭で事足りるって訳だ。 ちなみに頭もいいからほっといても呼べば直ぐ来るってわけ。まぁそういうことだから、素直に現実を見たほうがいいぞ?」

奴の巨馬が一歩ずつ近づくに比例し、さっきまで煮えたぎっていた感情が強制に冷やされていく。

それに変わり台頭した感情は…… 恐怖だった。
 
「来るな…」

ボソリ呟く。

一回口に出してしまえば決壊した堀のように言葉が怒涛のように押し寄せる。

「くっ…… 来るんじゃねぇ!? それ以上近づくんじゃねぇ!!来るな!?来るな来るな来るな来るな来るなあああああ!!! がぁ!?」

俺の恐慌が馬にも伝染したのか…… 行き成り暴れてふり落とされ尻餅をつく。

馬を探そうとしてももう遠くまで駆け出していた。

「ヒィ!?」

呆然とする俺の鼻先に突きつけられる槍。

鞘こそされているがその重圧感は見ているものを圧倒する……… こんなもので殴られたら当たり所によっては死んでしまう。

「わっ悪かった! もうあんたには手出ししねぇ!! ゆっゆるしてくれぇぇ!!」

俺の声が届いたのか、奴は馬上から俺を見ると……

「……この事は県令に報告させてもらうよ」

「次は無いからな」といいながら後ろを振り向く…… 今だ!!

「とったああぁぁ!!」

冗談じゃない、こんな事がばれたら首が飛ぶ!

自分の破滅を避けるために、腰の剣を抜き奴に襲い掛かる。

だが―― 俺の目に広がったのは

「がぱあ!!?」

巨大な馬の蹄だった。








「……整形終了だな」

一がやれやれといった風に呟くと

「ブルル」

と荒月が答えたのであった。


………
………
………


「ごめん、待たせた?」

「ううん、全然大丈夫だよ」

会話だけを聞けば逢引の待ち合わせをした恋人のように聞こえるが。

彼の後ろで呻いている人たちを見ると、戦闘があったということを否が応でも実感させられる。

こうして襲われる事自体そう少なくない。

街において私たちが扱う商品に関して秘密にしてもらっていても、稀にどこかで漏れてしまっている事があるからだ。 

そして、その中でも特に目立つのがこの子達… 一君が連れている馬達である。

それぞれが特徴的な外見をしているというのも挙げられるが、何よりその体の大きさと力強さに目をつける人たちが沢山いるのだ。

勿論一君は基本断っているのだが…… 中にはそれが気に食わなくて、今回みたいに力ずくどうにかしようとする人もいるのである。

まぁ…… その度に一君が解決してしまうから、私はあまり深く考えた事は無いけど。

「とりあえず、さっさとここを抜けて先を急ごうか? 」

「えっ? 確かに次の街は近いけど…… でもこの時間に街に行っても、宿なんて空いてないんじゃないの?」

「大丈夫大丈夫、当てはあるからさ―― ん?」

何かを感じたかのようにジッと森の方を見る彼。

「どうし― 」

そんな彼に話しかけようとしたらそれを遮る様に右手がぶれ、森の木に何かが当たる音が静かに響く。

「えーと……」

「ああ、ごめん。 何か視線を感じたものだから様子見のつもりで投げたんだけど…… 動物だったみたいだ」

そういいながら暫くそこを見つめ一息つくと、馬車を走れるよう準備をして御者台に乗り込む。

「馬車に壊れたところ無いみたいだしこのまま出――」

『くぅぅ』と唐突に間抜けな音が馬車内に響く…… 勿論発生源は

「………毎度毎度すみません」

私である。

「……できるだけ急ぐから待ってて」

と淡々に言ってるが彼の肩が震えているのを私は見逃さなかった。

(いっそ笑ってくれた方が楽なのに…… )

まぁ、それも彼の優しさなのだろう。 私としては気まずいやら恥ずかしいやらでたまったもんじゃないが……

結局、街に着くまでこのなんともいえない空気は続いたままだった。






………
………
………



「おい、行ったか?」

「ああ…… にしても化け物だなあの男」

「まったくだ、完全に息を殺したはずだってのに…… 見てみろよ俺の頭の位置からあまり変わんないぜ?」

「それもあんな距離から短刀が刺さるもんなぁ…… まぁいい、早くお頭達を起こそうぜ」

「応、そういやあいつら…… 次の街に行くとか言ってたよな?」

「よく聞こえたなお前……」

「まあな、耳だけは自信があるしな。 それに、お頭のことだから絶対報復しに行くと思うからな…… いい情報を手に入れたぜ」

「全くだ! そんじゃ、さっさとお頭を起こしてそれを知らせんとなぁ」

「応」



………
………
………




「やあやあやあ! よくおいで下さいました!! お疲れになったでしょう?」

恰幅が良くそれ以上に人がよさそうな顔のおじさんが、にこやかに笑いながらこちらにやって来る。



私はそれをポカンとして見つめながら部屋のキョロキョロと見回してしまう。

(うわぁ、どれもこれも高そうなのばっかだぁ)

素人目でもわかるような高級そうな家具が部屋中に置かれており、それだけでなく廊下や庭園、部屋の数から見てもこのおじさんがお金持ちだというのが改めてわかる。

一君曰くここが『あて』らしい。

私はてっきり、夜遅くに来ても融通してくれる宿屋ぐらいに考えていたんだけど…… 実際は予想の斜め遥か上だった。

あれから少しの時間で街についた私たちだったが、一君はどこの宿屋で止まることなく一直線にこの屋敷の前に止まったのだ。

勿論、お屋敷の門番さんに注意されるが、一君が何か話すと訝しげな顔でお屋敷に入った後、物凄い勢いで帰って来るとお屋敷の中に入れてもらえたのである。

お屋敷に入ったら入ったで使用人の人たちに「お嬢様」なんていわれたり…… ご飯が物凄く高級そうな物だったり…… ご飯の後には準備してくれたお風呂に入れてくれたり…… とにかく怒涛の勢いで未知の世界を味わってしまったのだ。

そしてお風呂で体を綺麗にした後、お屋敷で一番広い部屋に通されると……

一君が優雅そうにお茶を飲んで待っていた。

私はなんだか不安になって一君に「お金…… とか大丈夫なの?」とか聞いてみようとしたところ―― 先ほどの会話に戻るのである。

「ははは、お久しぶりです」

一君がなんだかとっても偉そうな商人さんに手を握られながらお話している。

(えと…… どうしよ?)

そんな私の所在無さげにしていると――

「ところで…… そちらのお嬢さんは?」

「えっ? あっ!? 私!?」

行き成りおじさんに話を振られ慌てながらも自己紹介する。

「彼女には仕事を手伝ってもらっていてね…… 大切な相棒だよ」

「そうですか、私はこのとおり商人をしておりまして…… 以前この方に危ないところを助けていただきましてね。 それ以来懇意させていただいているのですよ」

「俺の商品の搬入の取次ぎとか、現地との交渉とかお願いしているんだ」

(へぇ、今までの商家さんとは違うんだ)

今まではあくまでも販売だけであって、この人とはそれまでの商家さんとは異なるみたいだ。

そんなことを考えていたら――

「それにしても驚きました。 いつの間にやら、こんな可愛らしい奥方が出来たのかと思いましたよ」

(なんてこと言っちゃうのおおおお!?)

「ええっ!? おっ奥!?」

突然のことで私は混乱してしまう。

「ハハハッ その冗談は桃香が困るから駄目だって」

しかし、彼はいたって普通の声色で返す。 
「おっとこれは失礼しました」

するとお互いに楽しそうに笑い出す。

それにたいして私は――

(少しぐらい慌ててくれてもいいのに……)

と思いながらこっそりと溜息を吐くのだった。



ちなみに―― 案内された部屋も物凄く豪勢であり。野宿や固い布団に慣れてしまった私はフワフワの布団に包まれても中々寝付けなかったというのを報告しておきます。






桃香が寝室に向かったのを確認する。

すると、先ほどまで和気藹々としていた部屋の空気が引き締まるのを感じる。

「…… 先ほどは馴れ馴れしい態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」

先ほどまで椅子で対面していた人物は、いつの間にか膝を着き頭を垂れていた。

「いや、今の俺はただの根無し草にしか過ぎないからね…… こちらこそ夜分に突然の訪問迷惑をかけた」

感謝の意をもって軽く頭を下げる。

「おやめになってください。 私共…… 北家の臣下はあなた様のお役に立つことこそ悦びとしておりますので……」

「それでも礼は言わせて貰うよ、ありがとう」

「本当にあの頃とお変わりが無いのですね……」

「今も昔も俺は俺…… 変わりはしないさ」

目を瞑るとここ数年の記憶が脳裏を巡る。

あの逃亡から数年……… 

命を永らえた俺は身を隠し、名前を隠した。

勿論、父や母それに祖父から貰った名前を隠した事に抵抗があったが…… いずれ来る騒乱まで生きるには仕方の無い事だった。

だからといって今まで唯生きていたわけでない。

己を鍛え、そして……

「それよりも…… 報告を」

己の軍を持つまでの準備をしていた。

「はっ―― それではまず……」


………
………
………


「以上が資金と各地の情勢についてのご報告でございます」

「そうか…… うん、これからもこの調子で頑張って」

「御意」

俺の協力者…… 大陸中に散らばっている臣下達が良く働いてくれている為、資金と情勢に関しては問題が無い。

……まぁ、一つ突っ込みを入れるとしたらだ

「話しただけの技術を実際のものにする職人マジパネェ………」

「は? 今なんと?」

「いや、別に………」

もう…… チートとしか言いようが無いね! どれも未完全とはいえ全てにおいてこの時代の技術を超えている。

お抱えの薬師達がペニシリン、職人達が備中鍬や青磁とか作り出した時には本当どうしようかと思ったよ………

なんというか実力や腕、人格が良くても芽が出ない人たちって結構いるもんだよね?

そういう人たちを集めて仕事をしてもらっているわけなんだけど…… いやぁ職人の情熱というもの侮っておりました。

まぁ、真桜がいればもっととんでもないことが起きてたと思うけど…… いや!? さすがに蒸気機関とかは無理っ…… 真桜だしなぁ、俺がそれなりの絵図を描けば実現してしまいそうな気が…… 

それに情報もあれだよ、あの人たち殆ど忍者だよ!? ……って、これに関しては俺が悪いな………

なんというか沙和方式で嬉々として細作の人達を扱いてしまいまして…… ね?

結果、ダンボールな蛇の人とか殺しの許可証を持つ零零七みたいな人たちが出来ちゃいまして……

うん、やりすぎた。

「あの?」

「はっはは、ごめんごめん」

いかんいかん、脱線してた……

突然の声に気がつき「ゴホン」と咳をいれて思考を元に戻す。

「次を頼む」

今までの情報も大切だったがこれからの物はもっと大切である。

「はい、ではまず奥方様…… お母様なんですが」

「………」

「以前、涼州に向かったという情報依頼新しいのはまだでございまして…… 推測ではございますが、以前ご親交のあった馬騰殿のところにいらっしゃるのでないかと」

「申し訳ございません」と彼は頭を下げる。

「そう…… か…… うん、気にしないで」

一番は俺が出向ければいいのだけど…… なぜか涼州は官軍が目を光らせている。

馬騰さんの進言を苦々しく思っての事か…… それとも…… 張譲が命じたことか。

あれから朝廷の横行は止まない。 それどころか拍車をまし今では大陸全土にその影響は広がっている…… 今日会った賊も賄賂で武官になった口だろう。

それだけではない、奴は俺の家族、街、そして曹騰様を………

いずれ、その首を取る…… 何も私怨だけではない。

この現状に拍車をかけた責任…… 必ず取ってもらう……

「………」

無言で窓際まで移動する。

今は夜風に当たりたかった。

夜の空気を感じながら深呼吸を行う…… 一度、二度続けて体の内にたまったものを吐き出し落ち着かせる。

「…… 袁家と曹家は?」

聞いているのは勿論………

「…… 皆様方全員ご健勝のようですよ」

「そうか……」

会いたい……

会いたくて仕方ない。

春蘭は稽古のしすぎで怪我とかしてないだろうか? 

秋蘭は相変わらず春蘭にべったりだろうか?

麗羽は寝る前に水を飲むのを控えるようになったのだろうか?

桂花は声が出せるようになったのだろうか?

そして……

「華琳……」 

君の事だから元気だろう…… 皆と仲良くしているだろう…… あの髪飾りはつけてくれているだろう……… そして、弛まぬ努力で自分を磨き続けているだろう…… 

(いや、これは全員そうか)

不思議と笑みがこぼれる。

「無礼を承知で進言させていただきます……」

後ろから声がかけられる。

「…… 俺に正式に北家を継いでほしいかな?」

息を呑むのがわかる。

「!?― 其のとおりでございます…… さすればいつでも曹家の姫君達と――」

「皆は優しいね? 他のところでも言われたよ……」

「………ならば!?」

ゆっくりと後ろを振り返る。

「わかっているでしょ? まだ早いんだ……」

「せめてお忍びでも……」

「…… 俺の存在は毒に近い劇薬みたいなもの…… まだ、この国に使うのは早いし知られるわけにもいかないんだ」

「それでは『若様』があまりにもっ!!」

それを聞くと彼は言葉を詰まらす。

「まだ…… まだなんだ」

俺が発つにはまだしばしの時間が必要だった……










「これ以上若様の周りに女性が増えたら…… 将来とんでもないことになるのに!!」

声が聞こえると…… 汗がブワァとでてくる。

はっはは…… 聞こえなーい、キコエナイyoオオ?

乾いた笑いがむなしく響いた………




[7628] 私の道……
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:585605f8
Date: 2011/05/26 01:10
物資の搬入や取引などで私たちは暫くこの街に滞在する事となった。

といっても其の殆どは一君に任せるしかなかったため、私がやる事が無いというのが現状である。

勿論、何か手伝える事が無いのか聞いてみたが…… 情けない事に私にできる事が無かったのだ。

どうしても彼の力になりたくて、一回彼の仕事現場に半ば強引に立ち会ったのだが…… 何をしているのか、何を話しているのか理解できなかったのである(泣)

物流・物価・需要と供給―― すなわち経済に関する言葉で話し合っている一君と会長さん(泊めてくれている商人さんのことらしい)の横で唯突っ立っていただけだ。

案の定、頭から煙を出し始めた私。

結果、自分の力量不足を痛感してしまうのだった。

とりあえず、この街にいる間は休暇にしてくれるとのことなのだが……

「はぁぁぁぁ~~」

寝台に腰掛けて盛大に溜息をつく。

この休暇を利用して一君の言う経済を自分なりに学んでみようとしたが――

「む、難しい……」

私にはどうも理解できなかったのだ。

「あ~もぉ~」

本を片手に寝台の上で大の字に寝転ぶ…… スカートがめくれて下着が見えているだろうが、この部屋にいるのは私だけだから気にしない。

「もっと頭良くなりたいなぁ」

村にいた頃は最低限計算が出来て、文字が書ければいいと思っていた。

だけど…… 外に出たらそれだけじゃ駄目だというのがわかった。

特に、彼のそばにいる為にはそれじゃ圧倒的に足りない。

いつまでも彼におんぶに抱っこじゃいられないのだ……

もっと色んな事を学んで、覚える…… そんな、私が出来る、努力をもっと、してかな………………――――。



(眩し……)

日差しが目に入るのを片手で遮りながら窓に目を向ける――

(いい天気だなぁ)

寝ぼけた頭のままそんなことを考える…… 外は快晴で日の光が燦々と降り注いでいた。

いつの間にか寝ていたみたいだ。

「あれ?」

すると自分に布団がかけられているのに気づく。

寝台の近くの台に目をやると紙が添えてあり、それを手に取り目を通す。

『さっきはごめん。 桃香のことだから少し落ち込んでると思って……… 経済云々についてはあまり気にしないでくれたら嬉しい。 知りたいのなら俺がわかる範囲で教えてあげるから、今は休暇を楽しんで欲しい…… もし外出するなら俺か屋敷の人に一声掛けてください』

彼がここに来たみたいだ…… 

確かに今わからないことでウジウジ悩んだって仕方ない。後々彼に教えてもらえばいいのだ――

窓に近づくと日差しと共に風が入り込み、賑わしい人の声が聞こえてくる。

「散歩しようかな……」

前向きに考えよう…… 怪我した足を鳴らすにも丁度いいし。

(あ、スカート………)

そういえば寝る前に下着が見えているのを直してなかったような…… それに服も結構派手に肌蹴ている。

(見られ…… たよね?)

其の事に赤面しながらも、そそくさと準備をする私なのだった。


………
………
………


杖を突きながら道を歩く。

足の怪我も大分痛みが引き、今では少し違和感があるくらいだ。

(皆楽しそうだな)

道行く人々の顔がそれを物語っている。

この街はかなり治安がいいのだろう…… 今まで周った街の中でも一番といってもいいくらいだ。

……もちろん酷い所もあった。

余りの悲惨さに街を通り過ぎただけだったのだが…… 私はあれを忘れる事が出来ない。

家はボロボロ、道はゴミだらけ、鼻につくやな臭いが風に乗ってくるのだ。

外観だけではない…… 人が人の目をしていないのだ。

昨日会った人たちのような人を止めた目でなく、生きるのを諦めた空ろな目…… 

一瞬、その人たちの中の一人に自分が重なって見えたのだ。

もし、あのまま騙されたままだったら?

もし、あの時彼に会っていなかったら?

もしかしたらあそこに座っていたのは私で、彼の隣にいるのは他の誰かだったのかもしれない………

だけど現実では私は違うところにいた、誰かの可能性を私が貰って彼の隣にいたのだ。

――勿論、これは『もしも』の話でしかない…… 私は運が良かったから、めぐり合わせが良かったから助かったのだ。

今は騙された事も、怪我をした事もひっくるめて運命というものに感謝している。

でも、きっと馬車の外にいた人たちは私と別の事を考えていただろう…… 

自分の現状に怒り、自分の未来を嘆き、自分の運命に絶望する…… それが彼らの『普通』なのだろう。

………彼らの気持ちは今の私にわかる事が出来ない。

それもそうだ、私の『普通』と彼らの『普通』は違うのだから……… わかるはずも無い。

だけど…… 認めたくない…… 認めたくないのだ………

自分の人生に、未来に、運命に絶望する『普通』が…

そこに住んでいる人たちが笑っていれない『普通』が……

それを『普通』と受け入れているという事が………

認められないのだ!!

でも…… 今の私は…… 思っているだけで…… 何も出来ない………

「お姉ちゃんどうしたの?」

「……えっ?」

突如、かけられた声に反応する―― するとそこには、両の手で熊のぬいぐるみを抱いた女の子がそのクリクリとした目をこちらに向けていた。

「私?」

私を呼んだだろう女の子に問いかけると「うん、そうだよ~」と返される。

どうやら思考に耽っているうちに足を止めていたらしい…… 目の前のこの子はそんな私を心配して声をかけてくれたみたいだ。

「ううん、大丈夫だよ~ 少し考え事をしていただけだから」

「そうなんだぁ…… ねぇねぇ、お姉ちゃんは旅の人?」

「えっ? そうだけど……」

「じゃあね! じゃあね! 他の街でわたしのお父さん見なかった!?」

「お父さん?」

特徴や背丈を聞いてもそのような人にあったことが無い。

「ごめんねぇ、ちょっとわからないかな?」

そのことを伝えると「そうなんだ……」とさっきまでの勢いが無くなりシュンとなってしまう。

「あ… ここにいたの?」

すると、女の子の母親らしき人がすぐ近くのお店から出てきた。

「どうもすみませんねぇ、この子がご迷惑をかけたみたいで……」

私に気づくと苦笑しながらそう言った。

「いえ、そんな事は」

「あら?そういえばはじめてみる人ですね…… 旅の方で?」

「あっはい、暫くここに逗留する事になりまして」

「そう、だからね…… もう、駄目でしょ人に迷惑かけちゃ?」

納得したように呟くと、母親は女の子に向かって優しく話しかける…… が、当人は頬を膨らませながらツーンと明後日の方向を向いてしまっている。

「ええと、何かあったんですか?」

とりあえず何かあったのか聞いてみる。

「ええっと実は………」

詳しく話を聞くと…… この子のお父さんは商人をしているらしく。今、仕事で街を離れているみたいである。

そして、もうそろそろお父さんが帰ってくる日が近いらしい。

最初こそ「迎えに行く」とか言って街の外まで行きそうな勢いで、危険だからと言い聞かせて思い止まらせていたが。

それでも本人はいてもたってもいられず、旅の人を捕まえてはこうして聞いて周っているとのことである。

おまけに、この街は賑わっているため私のような旅の人が一杯いるみたいで、父親のことを聞くにはもってこいの状況だと本人は考えているみたいらしく………

それに関して「迷惑がかかるからやめなさい」と言ってはいるのだが。自分も仕事があるため、隙を見ていつの間にか外に出ていてしまっているみたいだ。

「じっと待っていてくれれば一番いいんですけど…… ってすみませんね、変な話聞かせてしまいまして」

困ったような声を聞いた後、もう一度女の子を見る…… まだブスッとしているみたいだ。

(じっと待ちながら、様子がわかるもの…… それこそ遠くが見えるぐらい見渡しがよくて、目が良くなくちゃ駄目だし……  ん? だけどあれなら……)

そこまで言ってふと思い出す。

「あの…… 少し待っていてくれませんか? もしかしたら問題が解決できると思いますので」

「え… えぇ、ですが見ず知らずの方にそこまでしていただなくても……」

「いいんですよ、私も暇でしたし……」

……やる事も無いのだ。 この子の為に付き合うのもありだと思う。

「ねぇ、ちょっと待っててくれる? お姉ちゃんもお父さん探すの手伝うから…… ね?」

「ほんと!?」

そういうとブスっとしていた顔が一転して笑顔になる。

よしそれじゃ……

(お屋敷に戻って一君にあれを貸して貰おう!   ………………………あれ?)

意気込み立ち上がったのはいいが……… 歩けない。

(えーと……)

「あの?」

「お姉ちゃん?」

急に立ち止まった私を、心配したような声が耳に聞こえる。

気まずい…… しかし、これを聞かなければ私は歩き出す事が出来ない。

(よ…… よし!?)

意を決して振り返り…… 申し訳なさそうにそれを口にした。





「すみません…… ここってどこですか?」





考えながら歩いてたから帰り道がわからなくなってしまったのだった………



………
………
………


「お姉ちゃん! お姉ちゃん! すごいねこれ、遠くまで見えるよ!?」

望遠鏡を片手に興奮した顔でこっちに話しかける。

あの後、会長さんのお屋敷までの道を教えてもらうと(大きなお屋敷且つ、会長さんは街の取り締まりだったらしく驚かれた)そのまま一君に事情を説明する。

すると一君は望遠鏡だけでなく、会長さんに掛け合ってくれて。街全体が見通せる程の離れの部屋まで貸してくれたのだ。

「ここからなら街の外まで見えるもんね?」

「うん!」

満開の笑顔で返される。

「よかったぁ」

心があったかくなるのを感じていると、部屋の扉から『コンコン』と音が響く。

きっと彼だろう。

「あ、ハイどうぞ」と声を返すと案の定、一君がお盆に何かを載せて立っていた。

「失礼するよ…… ずっと見ているのもあれだから休憩したら?」

どうやらお菓子の差し入れに来てくれたらしい。

「お兄ちゃんありがとう!」

元気な声に顔を綻ばせるとテキパキとお茶の準備を始める。

「手遊びで作ったものだけど良かったら食べて」

「ありがとう、 あ、これ『あっぷるぱい』だっけ?」

「いただきます」と言ってそれを口にする。

以前、作ってもらってすごく美味しかったのを覚えている。 

そういえば、最初に一君がこの『あっぷるぱい』の材料を見つけたとき怪訝な顔をしていたけど…… ま、いっか。あの後「もう何があっても驚かない」とか言って納得したみたいだし。

口に『ふぉーく』を当てながらそんなことを考えていると「桃香」と一君に呼ばれた。

「ふぇ?」

「ほら、口にカスがついてるよ」

振り返ると、胸元から取り出された布巾で口元を拭かれる。

「あ…… ありがとう」

その行為と彼の優しそうな顔を間近で見てしまったことにより、顔の熱があがるのを感じる。

「いいよいいよ…… これくらいの事だったら。 ん?」

一君が何かに気づき顔を向ける…… 女の子がジッと一君を見ていたのだ。

「どうかした?」

「お兄ちゃんってお姉ちゃんの恋人なの?」

「え!?」

(先日に引き続きまたですか!?) 

「えっ違――」

「でも――」

彼女の口から飛び出た爆弾発言に困惑する私……… 昨日も会長さんに言われたけど私たちってそう見えるのかなぁ……  (注、周りの声が聞こえてません)

ふと考える…… いつまでもこの旅は続くわけではない。

足の怪我が治ったら、私は彼と別れて自分の村に帰らなければならない。

だけど、もし彼が私の村に来てくれてそのまま住んでくれたら…… それはとても素敵な事だと思う。

一君は強いし、頭もいい…… それにとっても優しいからお母さんも気に入ってくれるはずだし………

一緒に畑を耕して…… 一緒にご飯を食べて…… あっ、村の子供達に勉強を教えてもいいかも……… 

そしていつか…… 私と………

「…うか? 桃香?」

「ふぁ~い」

夢見心地のまま返事をする―― 

ペタリ

額に何か当てられた? なんだかいい気持ち…… ってぇええええええ!?

彼の顔が息が届きそうな場所にぃぃぃぃぃ!?

一気に熱が高くなるのを感じると………

「熱は無いみたいだけど…… ってどうした桃香ぁぁ!?」

「きゅう」

………気がついたら朝になってました。





「これだけイチャついて違うって…… 変なの」






………
………
………

初日は締まらないままで終ってしまったけど、あれからまだこの子の父親探しに付き合っている。

といっても望遠鏡で街の外だけじゃなく、空に浮かぶ雲や鳥を眺めたり、街の様子を見ていたり、時には外に出て旅人らしき人に聞いてみたり、三人でお茶をしたり……… という風な感じで数日を過ごした。

そして、今日も相も変わらず外を眺めていたときだった………

「あ」

隣で声が上がる。

「何どうしたの?」

もしかして、父親のいる商隊が見つかったのだろうか?

しかし、彼女の顔を見ても喜色に彩られておらず。変わりに訝しげな表情をしていた………

「えと、商隊みたいなんだけど………」

「なんだかおかしくて……」と言葉を続ける。

気になるため望遠鏡を借りて彼女と同じ方角へ目を向ける…… いた。

確かに様子がおかしい…… 街は目の前だというのに粉塵を巻き上げてこちらに向かってくるのは違和感がある。

見ようによっては何か急いでるようにも…… 

「えっ!?」

一列に並んでいる商隊を分断するように別の馬軍が突撃している!?

これってもしかして? 確信は持てない…… でももしそうだったら!?

「え? おねえちゃん!?」

声を背に受け望遠鏡を握り締めて部屋を飛び出す。

廊下を走り、階段を降り、外に出たら母屋に入り、階段を上ってまた走る。

膝に鈍い痛みが走る―― だけど今はそれに構っている暇は無い。

広いお屋敷を、今私が出せる全力で駆け抜ける―― 

目指すのは…… 彼の元!!

「一君!!」

倒れこむように扉を開けて彼の名前を呼ぶ。

どうやら会長さんとなにやら話していたみたいだ。

「何?」

何事かとこちらに顔を向けると席を立ち、息を切らして座り込んでいる私に近づく。

「どうしたんだいった…… ってその足!? 駄目じゃないか! 治りか――」

「商隊! 商隊の様子がおかしくて……! 」

息が切れるのをもどかしく思いながら、彼に説明し望遠鏡を渡す。

「こっちの方角?」

そういって確認すると彼の雰囲気が変わるのを理解する。

「会長さん!!」

「ここに……」

「商隊がかなりの数の賊に襲われている…… 兵と医療兵、今すぐ動かせる?」

「緊急を掛ければ今すぐにでも………」

「至急で頼む! できたら馬に乗せて準備させておいて」

「御意」

怒涛にやり取りされる言葉に口を挟めない。だが……

「ある程度数がそろったら俺が率いて――」

「だめぇ!!」

彼が戦場に赴くと言ったとき、私は反射のように言葉を発していた。

「あんなに沢山いるんだよ!? いくら一君が強くても無茶だよ!?」

今までの戦闘でも私という弱みがあったがそれでも切り抜けてきた。

それはなぜか? ……答えは、私『しか』いなかったからである。

私という明確な弱みがあるのなら、そこの防備を固めればいいし近づけさせなければいいのだ。

今までが数十人規模だとしたら今回は百…… いやもっと多いだろう。

それに今回は混戦…… 大人数対大人数の戦闘であり、その上こっちには商隊という弱みがある。

いくら彼が強くても他の事―― 商隊の保護に手間取ったら? 指揮に気を取られてしまったら?

「だから、ね? 戦うのは兵隊さんに任せて…… 私たちは私たちにできる事しよ?」

商隊の受け入れ準備や怪我人の保護、お医者さんの手配とかできる事は沢山あ――

「桃香」

名前を呼ばれ、彼の目を見る…… 落ち着いた目をこちらに向け、ゆっくりと首を横に振る。

わかっている…… わかっていたのだ……

いくら私が止めても彼は戦場へ赴く。

それが『彼に』いや『彼にしか』できないことだから。

彼はそれを自分で理解している。 勿論私も――

でも、頭で理解していても…… 

「やだよ……」

心が認めない。

「今まで一君にだけ戦ってもらって…… 守ってもらっていた私が言ったって説得力が無いのもわかるよ! だけど…… 私! 一君に怪我して欲しくないだけなの! 『もしも』の事が起きて欲しくないだけなの!!」

今まで彼だけに戦わせて―― 自分は安全な場所から見てるだけで――

自分でも矛盾しているのがわかる……

都合がいい事を言ってるのもわかる……

だけど――

「わかって……」

声を絞り出す。

彼は黙って聞いており何も言わず、さっきと同じ眼差しでこっちを見ている。

続いている沈黙が重い…… そのせいか時間が進むのが遅く感じる。

しかし……

「わかってる――」

彼が口を開くと停滞していった空気が流れ始めるのであった。

「わかっているよ、いくら荒事に自信があっても怪我すれば血が出て、打ち所が悪ければ死ぬ事もある唯の人でしかないなんて…… 自分でよく理解してるさ」

「じゃあ――」

「それに――」

言葉を発しようとしてもすぐ被せられる。

「俺が出ても怪我人、死人がいないという事にはならないだろうさ…… でも、俺は戦える…… 守る事が出来る…… なのに死ぬ可能性にビビって放棄して、どっちも増えたら俺は絶対後悔する」

瞼を閉じて一呼吸…… 開いたその瞳は

「傲慢だと思うけど、俺が出て少しでも誰かを助けられるのなら………」

まっすぐ、私を射抜く。

「俺は戦場に立つのを選ぶ」

敵意は無い…… だがとてつもない威圧感を彼から感じる。

これは彼の意思。

彼が選んだ事ならば私は口を挟めない―― 

「でも……」

拳を握り、意を決して彼の瞳を真正面から見据える。

「それでも私は――」

「桃香」

名前を呼ばれただけ…… だが、刃物のように怜悧な声と一層強くなった威圧感は私に口を挟む猶予を与えない。

硬直した空気の中で彼と対峙―― いや、違う…… 私は完全に彼の空気に飲まれその場に立っているだけだ。

声も発せず、体も動かせず―― 唯一動くのは私の額から顎に流れる冷たい汗のみ。

暫くすると彼は、軽く息を吐く…… ふと、私を取り巻く空気が緩和する。

そんな私の状態を見た彼は口を開く。

「桃香の気持ちは嬉しい…… でも、それは君の――」

彼は途中で口を噤む。そのまま私に近づくと肩に手を置き――

「大丈夫、まだ死ぬつもりはサラサラも無いから……」

「待ってて」というと肩から手を離しそのまま歩いていった。

途中、廊下に響く足音が激しいものに切り替わり、彼が戦場へ走って行くのがわかる。

しかし、私はその場を動く事が出来なかった……




………
………
………




俺の矜持を傷つけられたあの夜、俺は持てる戦力を掻き集めた。

そして、奴が向かった方面の情報を掴むとすぐさま移動を開始した…… 頭の中にあるのはこいつに対する復讐のみ。 

形振り構っていられなかった…… それこそ準備や後の処理の事を考えず、そこいらにある村等を襲撃すればいいと思っていたのだ。

そして、そのまま進んでいけばきっと『奴』にたどり着くだろうと考えていた…… その矢先この商隊を見つけたのだ。

無論襲う。

次の街にすぐにでもなだれ込めるように勢いをつけるため、強行軍の為か疲れや鬱憤の解消の為の行動だったのだ。

正直すぐ終ると思っていたのだが…… 予想外に商隊の護衛がしぶとかった。

それでも、数の利はこっちにあったため商隊を食いつぶすのも時間の問題だった――

しかし、奴らの援軍が来たところで事態は一変した。

こっちよりも少ないというのに奴らは確実に俺の兵を減らしていき…… いつの間にか形成は逆転していた。

どうなっているのだ!?

頭は混乱しながらも身の危険を悟り撤退しようとする。

しかし―― すでに幾多の騎馬に俺達は囲まれていた………

「また会ったな……」

その中の一人…… 月毛の巨馬に跨った男が声を発する。

顔と口が頭巾に覆われていたが、目の前にいる男は確かにあの男だ。

「きっ貴様!?」

奴だと断定すると怒りがこみ上げてくる。

「全く、あのまま静かにしていれば良かったものを……」

奴は相変わらず飄々としている。

「うるせぇ!! ここまで虚仮にされて黙っていられるか!?」

「別に虚仮にした覚えは無いんだけどな?」

「黙れ!!」

奴の言葉に反応して声を荒げる…… いや、駄目だこのまま奴の流れに乗ってしまう。

落ち着け 現状は最悪なのだ。

この場はどうにかして逃げなけ――

「逃げようとしても無理だよ」

「――っ!?」

空気が変わる。

鼻先に刃物を突きつけられたような錯覚が体の自由を奪う…… あのときの物より濃厚な『それ』が場を支配する。

「あの時は桃香がいたし、目立ちたくなかったから殺さずにいたけど――」

そう言いながら奴は穂先に付けられていた鞘を外していく…… 其の隙に逃げればいいのだが体が反応しない。

「言ったよな?」

鞘からその肉厚な穂先が姿を現すと陽光が鈍く反射する。

殺される

自分の末路を垣間見ると

「ひぃぃぃぃやあああああああああああああ!?」

奇声をあげて『それ』―― 殺気から逃れようとする

「へ?」

すると、行き成り体の拘束がとけた…… 逃げようとして後ろ振り向くが、俺の視線は後方でなく地面に向かっていく。

ドサリと地面に落ちると二転三転して空を仰ぎ見る。

其のとき俺の目には、馬に跨りながら血を噴いている見慣れた体が映り…… 

「『次は無い』って」

奴の声が聞こ――――



………
………
………




商隊の受け入れや怪我をしている人たちの治療の手伝いをしていると、あっという間に一日が過ぎていった。

(疲れた)

酷く疲労感を感じながら寝台に身を投げ、枕に顔を埋めると息を深く吐く。

(結局、何も出来なかったな……)

被害は少なくて済んだのだが…… それでも無しというわけにはいかなかった。

軽傷ですんだ人もいれば、重傷の人もいた…… 

そして、中には死んでしまった人もいる。

手伝いをしたといっても私が出来たのは雑用が限界…… 大事なところは人に任せるしかなかった。

目の前に痛い、苦しいといっている人がいたと言うのに私は見てるしか出来ない。

亡くなった家族の亡骸に縋りつく人の姿を見ても私は何もする事が出来ない。

それなのに……

それなのに………

「私は……!!」

ギュウと強く枕に顔を押し当て、皺になるほど布団を強く握る。

彼が無事だというのを確認すると私は安堵してしまったのだ…… 周りに悲しんでいる人がいたと言うのに、私は其の中で一人安堵の溜息をついていたのだ。

「………我がまま、か」

あの時、彼が口にしようとした言葉を重く口にする。

この言葉を口にしなかったのは彼の優しさだったのだろう。

しかし、胸の中にある感情は嬉しさではない。

今私の胸に渦巻いていたのは―― 苛立ちと嫌悪感。

何もできなくて、他人に任せて待っている事しか出来ない…… 自分への苛立ち。

そして、今襲われている商隊の人たちと一君の命を天秤にかけた…… いや、それだけじゃない。 

彼の命以外に私の未来…… 彼と過ごす自分の未来を天秤に乗せてしまった。

彼の事だ、必死に反対すれば戦場に行くのをやめてくれただろう…… 

でも、もしそれで商隊が壊滅したら?

その勢いのまま流れ込んできたら?

……この街は自分が認めない『異常な普通』が展開されるあの街のようになっていたのかもしれない。

嫌だ……

『異常な普通』が……

誰かが死ぬ事が……

幸せを諦める事が……

争いが起きる事が……

何より、自分が何もできないという事が………

嫌だ!!


「……決めた」

体を起こし、寝台から降りて彼の部屋に向かい歩き出す。

この決意を胸にして――


………
………
………


あれから数日――

私は街の外にいる…… 幽州に帰るために。

私は……甘えていたのだ。

彼に、そして今の現状に…… 

あの日、このままではいけないとそう思った私は、自分にできる事を探す為に彼の元を離れて幽州に帰るのを決めた。

彼に其の事を話す

「桃香が決めたのなら俺は何も言わないよ……」

と帰りの手配をしてくれた。

そして、見送りには来ないで欲しいとも伝えた。

別れの間際に彼の顔を見てしまったら決意が鈍ってしまいそうだったからだ。

………いつまでもここにいても仕方ないか。

今まで見ていた街を背にして馬車に足を向ける……

その時、

「桃香ぁ!!」

名前を呼ばれた。

後ろを振り向く勿論…… 彼だった。

彼…… 一君が荒月ちゃんに乗りながら、的盧ちゃんを引きいてこちらに駆けて来る。

「えっでも、なんで?」

彼はそう簡単に約束を破る人間ではないのは知っている。

では、何故ここに?

そんな事を考えている内に私の前に彼がやってくる。

勿論、彼が来てくれて嬉しい。 だけど、これでは踏ん切りがつかない。

「な……んで?」

戸惑いながら聞く。

「君にお礼を言いたい人がいてね…… 約束を破って悪かったけど、こうもしないと間に合わなかったから」

よく見ると彼に誰かしがみついている。

「……お姉ちゃん!!」

あの子だった。

「ひどいよ…… 勝手にいなくなっちゃうなんて」

そういえばあれ以降この子とは会っていなかった…… いや、会うのを避けていた。

「ごめんね」

言葉少なく返す事しか出来ない、だって私は……

「お父さんの事なら大丈夫だよ」

「え……」

「だってお父さん笑ってたもん…… 最後に私たちに会えてよかったって言ってたもん」

「だけど……私」

「お姉ちゃんと会えて無きゃ、きっと最後までお父さん会えなかったと思うんだ…… 悲しいし、辛いけど…… 最後にお父さんに会えたのはお姉ちゃんのお陰なんだよ?」

「だからね」といいながら一瞬顔を伏せると、瞳は涙に濡れながらも満面の笑顔をこっちに向ける。

「ありがとう、お姉ちゃん」

と言ったのだ。

もう駄目だ…… 情けないやら嬉しいやらで胸が一杯になると

「うっうぅ…… うあああん!」

涙をこらえる事が出来なかった。

私は泣きながら抱きしめると女の子も一緒になって泣く…… 

二人の声が辺りに響いていった。

………
………
………

「一君、ありがと」

赤くなった目を拭いながら彼に言うと

「これで心置きなく出発できる?」

彼は泣き疲れて眠ってしまった女の子を荒月ちゃんの背に乗せた後、悪戯っ子のような顔をして返してくる。

「うん」

これで心残りも無くなった…… 彼には感謝するしかない。

「そっか」と彼は言うと唐突に的盧ちゃんを呼ぶ……

「はい」

とその手綱を私に渡してきたのだった。

「え? なっ何!?」

あたふたとそれと彼の顔を交互に見る。

その私の様子を見ると、彼は微笑みながら言う。

「的盧を連れて行ってやってくれ」

「えっでも…… この子は気に入った人しか乗せないんじゃ」

「大丈夫さ、今の君なら…… それにこいつもそれを望んでるよ」

「さあ」と一君は改めて手綱を私に差し出す。

そして、それを私は――

「うん」

しっかりと受け取った。

微かに感じる彼の手のぬくもりを感じながら、的盧ちゃんに顔を向けオズオズと問いかける。

「的盧ちゃん、私と一緒に来てくれる?」

すると「任しておけと」言わんばかりに高らかに嘶く。

心強い―― 本当に心強い仲間が出来た瞬間だった。

「ありがとう」

ふと口から言葉が出る。

「私、頑張るよ…… この子にも、一君にも笑われないように」

「ああ、応援してるよ」

伝えたい事は沢山ある…… でも全部伝えていたらいつまでも私は彼から離れる事が出来ないだろう。

だから、私の思いを…… 私の気持ちの全てを一つにして………
「一君」

彼に……

「なんだい? とう」

伝えよう……







「劉備さん」

商隊の衛兵さんに呼ばれる…… もう出発の時間なのだろう。

「はい」

的盧ちゃんに乗り、商隊に向かう。

暫く進んだ後、もう一度彼を見ようと上半身だけ後方に振り返る。

そして真っ赤な頬を押さえ、呆然としている彼に顔を向けて声を出す。

「一君!」

「はひ!?」

変な声を出して反応する彼に笑いながらも……

「今は…… 今はまだ私に資格は無いから唇じゃなかったけど! また、いつか会ったとき私が成長していたら――」

私は大声で『宣誓』する。

「改めて…… 私の思いを受け取ってください!!」

彼の顔も見ずにそのまま前に進む。

体の熱が上がるのを感じるが…… 真っ直ぐと顔をむける。

まるで、私の心を映したように晴れやかな空だった………


………
………
………


だんだんと小さくなる商隊の姿を見つめながら、

「まさかこうなるなんてね……」

と彼女の感触が残る頬を押さえて一人呟く。

もう彼女は、俺の知っている甘く未熟な劉備じゃない。

今度会った時は、きっと一回りも二回りも成長した彼女を見ることが出来るだろう。

空を仰ぎ、そっと瞳を閉じる。

この数ヶ月で見てきた彼女の顔が浮かび上がってくる――

「またな…… 桃香」

雲ひとつ無い空には、暖かく優しい太陽が輝いていた………















おまけ


その日の夜

「いや…… その、皆さん? これは、浮気ではなくて…… ちょっ!? 待っ!? いやあぁぁぁぁぁぁぁ……………………――――(チーン)」

彼は変な夢を見たらしい………

























っく!俺の厨二が止まらない………  俺に近寄るんじゃねぇ!?怪我するぞ!!

………皆さんお久しぶりです。

少し書き方を変えたりなど色々迷走しながら且つ、早足のため間違いだらけの今回いかがでしたでしょうか?
まぁこれで桃香の話は一先ず終ったのですが…… 
僕は劉備のことかなり好きなのですが、魏シナリオ後というか主観の作品を見ていますとかなり不遇に書かれていますよね?
確かに、僕もイラっとしましたけど…… せめてこの話の中では自立した君主兼かわいい女の子として書けたらいいなと思っております。 
さて、次は黄巾の乱での話しになります。 勿論次にアプローチを欠ける事になるのは…… 服の面積が少ないあの人たちです!!(笑) ………後、華琳様なんですけど……再登場もう少し後になるかもです。 
おかしいなぁヒロイン?のはずなのに………
ですので魏が好きな方々には、ちょっともどかしく感じるかもしれませんが、これからも再・恋姫無双よろしくお願いします



[7628] 天の御使い(仮題)
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:585605f8
Date: 2011/06/21 02:18
「ああ、もう! ウジャウジャと…… 『油虫』じゃないんだから!!」

賊の胴を切り伏せながら悪態をつく。

本当…… 厨房によく出没する黒光りした『アレ』を髣髴させる。

「まったくですな策殿―― と言っても、最悪踏み潰してしまえば良い油虫と違って図体がデカイ分、こちらの方が対処が面倒でありますがな」

こちらを狙っていた弓兵を射抜きながら、呉の宿将・黄蓋こと『祭』はさも面倒臭そうに言葉を返す。

「まったくね……」と言葉を返しながら、また賊を切り伏せる。

結構な数を切り伏せたが…… 百を越えたところで数えるのをやめてしまった。

体力的まだ余裕はあるのだが、如何せん際限無く沸いてくる賊と返り血を浴びて重くなる服にいい加減嫌気がさしてきた。

これじゃ血を浴びても気分の高まりようが無い― 

「ねぇ祭?」

武器を持つ腕を動かしながら、弓を射続ける祭に話しかける。

「何ですかな?」

「私、この戦いが終ったら袁術をぶっ飛ばそうと思うのだけど?」

今回のこの状況を作り出した張本人の名前を出す。

口にしただけで腹が立ってきた…… ん? 何か死亡ふらぐって聞こえてきたけど…… まぁ気のせいね。

「賛同したいのは山々なのですが…… 策殿、それは口にしない方がいいのでは?」

「いいじゃない別に、 誰かに聞かれる心配なんて無いんだっ――から!!」

喋りながら一閃、今度は賊の首を飛ばす。

信じられないことだが、私と祭は少しの兵を残し、完全に孤立してしまっている。

最初こそそれなりの数を率いていたのだが、前線が崩れると同時に殆どの兵が離散…… 結果がこの状況と言うわけである。

「いや、そういうわけではなく――」

「とにかく!!」

一度文句を口にすると、腹の底からグラグラと煮えたぎったものが這い上がってきて………

「この際、神でも悪魔でもいいから………」

半ばやけくそになりながら――

「この状況どうにかしなさいよおおおお!!?」

空に向かって叫んだ。

「!? 策殿アレを!!」

何かに気付いたような祭の声。

アレと言われて向いた視線の先には…… 黄巾に矢の雨を降らせる一団の姿があった。

それだけではない、突然の奇襲に浮き足立った黄巾に追い討ちをかける為に騎馬も突撃している。

流れが変わり始めた。

それを肌で感じるとある物が私の目に入る…… 体の温度が一気に高まるのを自覚した。

「祭…… 行くわよ」

「しばし待たれよ策殿!? まだあの者達が味方だと決まったわけでは……」

「あの旗」

「ん? 旗とな―― !?」

それを確認した祭が息を飲む…… 

「神でも悪魔でもなく『天』が来るとはね、まぁ何にしても好機に変わりはないわ…… 突っ込むわよ」

「ですな…… 儂も続きましょう」

そういうと「おい!お主ら」と兵たちに激をかけ始める。

兵の様子はと言うと…… 

「俺達、死ななくてすむんだ!!」

「勝てる…… 勝てるぞ!!」

という声が上がるほどで、先ほどとは比べようが無く士気が上がっていた。

それとは逆に黄巾は勢いが無くなっている…… それどころか逃亡する兵まで出てきている。

「それも仕方ないか…… 」

一気に形勢が逆転した黄巾に哀れみを持ちながら、この流れを作り出した一団―― 正しくは旗に目を向ける………

蒼で染められた旗が風に吹かれていた。

そこに記されるのは十文字――

十文字を掲げる諸侯は聞いた事が無い。

しかし、悠然と風に踊るあの旗は、今この大陸で一番有名と言っても過言ではないだろう。

誰が先に言ったのかは解らないが――

曰く、鉄壁

曰く、無敵

曰く、高潔

と称されるほどの練度と整備された命令系統―― また、けして力を誇示せず不当な見返りを求めないその高潔さは民の間では評判を呼んでいた。

その中でも―― この軍を率いている人物の存在の評判が特に高く…… 武力・用兵・人格全てにおいて高い水準で備えていると言われている。

そして皆、口には出さないが裏ではこう呼んでいた…… この義勇軍を『天軍』それを率いる者の事を――

「天の御使い……か」

誰に話すわけでもなく唯呟く。

「策殿、こちらの準備が整いましたぞ」

祭に呼ばれ兵を見渡すと完全に士気を取り戻していた。

今こそ彼らを奮い立たせるときだ。

息を吸い、裂帛の気を込めて叫ぶ。

「勇敢なる我が兵よ! 長く苦しい雌伏ご苦労だった!! 溜めに溜めたその力を義勇軍…… いや『天軍』とその御使いと共に黄巾に叩きつけようぞ!!天佑は今我らにあり!!」

兵と自分の感情が高ぶるのを感じると『南海覇王』抜いて

「全員抜刀!! 突撃いいいい!!」

今までの鬱憤を晴らすために、兵たちの雄たけびと共に黄巾の群れへと突撃するのだった。











「これはどういうことなのだ!? 袁術殿!!」

抑えきれない怒気を目の前の人物に叩きつける。

「ひっひぃ」

怯えた顔をして「七乃~ 七乃~」と張勲の後ろに隠れるが…… そんな事で逃げれると思うな!!

「この度の戦…… 何故、我が姉孫策と黄蓋だけで向かわせたのだ!? 聞けば情報と異なり黄巾の数は数倍だと聞く。 袁術殿は我らが孫家の棟梁と宿将を殺す御つもりか!?」

「あの、孫権さん少し落ちつ――」

「これが落ちついていられるか!! それにこれは袁術殿へ聞いているのだ、張勳殿は黙っていてもらおう!!」

張勲を一喝し、再び袁術に顔を向ける。

しかし、袁術はいつまでも張勲の後ろで震えているだけで、こちらに顔を向けようともしない。

「さぁ袁術殿、納得のいく答えを貰おうか!?」

昂ぶる感情のまま袁術に言葉を叩きつける。

すると、袁術はオズオズと顔を出すと「褒めて貰いたかったのじゃ…… 」と声に出す。

「何?」

「各地の諸侯が梃子摺る黄巾、それを妾が少数で撃破すれば麗羽姉さまと華琳姉さまに褒めてもらえると思ったのじゃ! 丁度、妾の配下には孫策と黄蓋がいたから――」

「ふざけるな!!」

余りの言い分に意識が飛びそうになるのをこらえ、怒気をぶつける。

「そんな、そんな事のために我が家族を死地に赴かせたと――」

「そんな事とはなんじゃ!?」

「!?」

予想外の反論、袁術がその目に涙を溜めながら声を荒げる。

「妾にとって麗羽姉さまと華琳姉さまは目標であり憧れなのじゃ!! お二人のお手伝いをしたかったから自分なりに考えただけなのに…… そんな事とはどういうことじゃ!? それにお主らは妾の配下―― どう使おうが妾の勝手だろう!?」

配下……だと?

私たちは…… 私たち孫呉は……… 何者にも屈したりしない!!

家族を勝手に死地に向かわされた理不尽、屈した覚えもないのに配下と言われた事によって完全に――  キレタ

私の様子に気付いたのか張勲は身構えるが、今の私にはどうだっていい。

ただ激情に身を任せて腰の獲物に手をかけ――










「そこまで!!」










聞き覚えのある声を聞いて其方に顔を向ける―― するとそこには我が姉孫策が立っていた。

そのまま真っ直ぐに姉様はこちらに歩いてくると拳を振り上げ――

「ガッ…… ハ」 

腹を打ち抜かれた。

余りの衝撃に呼吸が出来なくなりその場に膝を着く。

「愚妹が失礼をいたしました」

混乱する頭に姉様の声が響く。

「う、うむ」

困惑する袁術の声をよそにして、姉様は事務的に報告するのだった。





………
………
………





「――以上が報告になります」

「うむご苦労じゃった」

戦場の様子や黄巾の動向、また祭が負傷した為先に帰らせた等一通りの説明を行うと袁術は満足そうな返事をする…… それもそうだろう、少数での撃破…… それも自分が想定して数よりも上の数値だったのだから。

「孫策よ、この度の戦働き誠に大儀であった。 妾はいま非常に気分がよい…… 褒美として何でも叶えてやろう」

何を偉そうに…… 貴様は姉様達を派遣しただけではないか!? それに祭は怪我を負ったのだぞ!?

鼻につく笑いを浮かべる袁術に対し、再び苛立ってくる…… しかし、今度は長くは続かなかった。

冬でもないのに感じる冷気のようなもの――

(姉様?)

肌があわ立つのを感じながら、それの発生源を見ると…… 姉様だった。

後姿しか見えないがそこから重圧のようなものを感じる。

かなり濃いソレはみるみるうちに私の感情を押さえつけていった。

(何故なのです、姉様……)

そう思いながら困惑と戸惑いをのせて後姿を見る。

「それでは――」

そんな私の視線に感じたのか姉様は口を開く。

「先ほどの妹の無礼を許していただきたい」

「な!?」

「うむ?」

(待ってください姉様!)

そう口を開こうとすると一層重圧が強くなる。

(黙って…… いろと?)

私は…… 唇をかみ締めその場に立っている事しかできなかった――






………
………
………






「さっきはごめんなさいね」

「え?」

袁術の城を出て暫くすると姉様が口を開く。

「袁術ちゃんの前でのことよ、私もやりすぎたと思ったけど…… あのときの貴女かなり頭に血が上っていたからね…… それに祭が負傷したって言うのも嘘心配させたわね」

確かにあの時の私は冷静ではなかった…… でも

「…… 私がどれだけ心配したと思っているのですか!?」

これだけは言わなくては気がすまない。

「やっと…… やっと皆が揃い、我らの悲願がかなうという矢先にあのような命を受けるなんて………」

「蓮華――」

「解っています! 袁術に悟られぬ為だと…… それでも私達が合流してから一言言ってくれれば良かったのに!」

合流した後冥琳にこの事を聞いた私は、思春達の静止を聞かずに馬に乗っていた。

今思えば、無謀だったと思う……… だが頭が沸騰していた私はそれに気付かなかった。

「そして褒美です…… なぜ、なぜ褒美で――」

私に非があるのは解っている、それこそ褒美が無ければ私の命はなかっただろう…… それでも、袁術に命を赦されたという事実が気に食わなかった。

「――っ」

子供のような自分の感情に呆れて言葉が出ず、そのまま言葉を出す事が出来ない。

「確かに――」

重苦しい空気の中、姉様が口を開く

「袁術の褒美で救われた貴女の気持ちも解らない訳ではないわ…… だけどね? あの場そうするしかなかった事はわかるでしょ?」

「……はい」と首を縦に振り答える。

「なら良いわ…… だけどね蓮華これが最後よ」

「最後…… ですか?」

「ええ、袁術に褒美を貰うのも頭を下げるのもね…… だから――」

真剣な顔で「今は耐えなさい」と口にする。

その顔を見ると私は確信した。

我らの悲願…… 孫呉の旗揚げが近いと――

「わかりました…… この孫仲謀今は耐えましょう」

当たり前だ…… 旗揚げが間近だと言うのに不貞腐れている場合ではない。

そんな私の言葉を聞くと姉様は顔を綻ばせた。

「だけど蓮華? まだまだ精神鍛錬が足らないんじゃないの? 袁術ちゃんに噛み付く貴女…… まるで母様みたいだったわよ?」

「なっ!? そう言われましてもあの時は必死でしたし…… それよりも姉様はどうなんですか? 姉様のことですから、怒り心頭の極みといっても過言ではないかと………」

「貴女もなかなか言うようになったわね…… ん~ そりゃ言われたときはぶっ飛ばしてやろうってぐらい血が上っていたけどねぇ」

「けど?」

にへらと顔を崩す姉様。 上機嫌だとわかるが…… 一体何があったと言うのか? 

興味が出た私はそのまま聞き返す…… 

のだが――

「ふっふっふ~ん♪ まあ城に着けばわかるわよ? でもそうねぇ…… あえて言うなら――」

姉の口から出たその言葉は――

「貴女とシャオにぃ」

私を――

「お義兄ちゃんができるってことよ♪」

叫ばせるのに――

「は?」

十分だった………

「はあああああああああああああああああ!?」






………
………
………






姉様に説明を求めてるうちに私たちは城についてしまった。

そして、そのまま祭と姉様と一緒に冥琳のお説教を受けていたのだが………

「雪蓮…… 蓮華様のご様子なのだが?」

全くをもって耳に入っていなかった。

祭と姉様と共に正座をしている私の顔を見ながら、『呉の柱石』周喩こと冥琳は姉様に尋ねる。

その冥琳の疑問に対し、

「お義兄ちゃんが出来るって話しちゃった♪」

と返す姉様。

「何だその『♪』は…… 全く、祭殿にも聞いたが…… そこまで本気なのですか?」

呆れながら今度は祭に話を振る、すると祭はどこか楽しそうに――

「そうじゃの…… 会ってみんと判らんと思うが、きっと公謹も気に入ると思うぞ?」

と彼の人物について話すと姉様も「モチのロンよ!」と胸を張る。

「はぁ…… ともかく、今の蓮華様に何を言っても無駄でしょうし…… 今日はこれぐらいにしておきましょう」

その言葉に喜色を浮かべる姉様と祭であったが

「蓮華様だけだ」

と冥琳がぴしゃりと言うと不満そうな顔を隠そうともせず表に出す。

「そもそもだ…… 貴女達の暴走のせいでこうなったのだ。せめて私に相談してくれれば――」

ぶーぶー言う二人の不満と冥琳の声を背に受けながらその場を去る。 

といっても頭は冥琳の説教から抜け出せたという喜びよりも、姉様の発言や祭と冥琳の会話の内容をまとめるので一杯だった。

(どういうこと!? どういうことなの!?)

混乱した頭のまま椅子に座る。

姉様の破天荒な行動はいまさら始まったことではないが、今回のことは余りにも突拍子がなさ過ぎる。

(おにいちゃん!? お兄ちゃん!? オニイチャン!?)

行き成りの兄発言…… 訳がわからない。

母・孫堅が産んだのは私を含めて三人の筈…… 父が他で撒いた種だと考えられるが、あれだけ身持ちの堅い父が母以外に懸想するとは考えられない。

そこでふと一つの答えが思い浮かぶ。

姉様が婿をとる?

(いや、しかし姉様に限って……)

まず、姉様に釣り合う男がいると考えられない上に冥琳という極上の愛人がいるのだ、今更男に興味を持つのが考えられない………が

しかし、一番可能性としては高い。

それに姉様はあれでも孫呉の王だ…… 呉の利益になる為なら自分を、そして肉親である私たちも駒の様に扱わなければならないときもある。

いずれ、国ために何処かの有力者と一緒になることは逃れられぬ運命だといえる。

王として、王族としてその考えはわかる…… しかし、普通の妹としては解りたくない。

(姉様はもしや望まぬ婚姻を……)

確かに今は独立のために力を蓄える時…… 婚姻を持って各地の豪族と結束を強めようとしているのではないのだろうか?

それも、王自身が婚姻に応じるとなると……

「一大事じゃない!」

姉様は呉の次の王は私だといっているが、それは戦乱の収まった時のこと―― 戦乱を乗り越える力が今の私にあると言えない。

それに、戦乱の世であるからこそ武勇に優れる孫策伯符という王の力が必要だというのに!

こんなところで呆けている暇なんてない。

考えたときにはもう来た道を駆け出していた、目指すのは勿論、姉様達がいる部屋だ。








………
………
………








「はぁ…… はぁ……」

息を切らせて扉の前に立つ。

額には玉のような汗を浮かべており、全力に近い速さで走ったのだなと自分でも思う。

だというのに……

(なんなのよこれは!?)

扉の向こう側では姉様たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

(わ、私が…… )

暢気そうに笑う姉様達の声を聞くと――

(どんな思いでぇぇ)

米神がヒクヒクと引き攣るのを感じ、つい

(来たと思っているのよ!?)

扉を強く開けたのは仕方のないことだろう。

「あら、お帰りなさいてんけ―― って蓮華? どうしたのよ一体?」

「蓮華様?」

「権殿?」

姉様の声にあわせて冥琳や祭も此方に目を向ける…… が、その呆けたような目が私の堪忍袋を刺激する。

「姉様…… 先ほどの『兄ができる』という言葉ですが」

「何よそんなカリカリしちゃって…… それがどうしたの?」

「それは、姉様が婿を取るということで?」

やっとのことで口を開いて出した私の言葉に対し姉様は、パァと顔を明るくさせる。

「当ったり~♪ そうそう貴女にもしょうか――」

「何故そんな大事な事を黙っていたのです!?」

「れっ蓮華?」

「今までそんな話なんてこれっぽちも表に出さなかったのに…… こんな行き成りだなんて………」

「れっ蓮華様これはですね」

「冥琳も言ってたじゃない!? 今が孫呉にとって一番重要な時期だと! それなのに私に話もなしに決めるなんて……… 」

「いや、あの権殿?」

「祭も祭でなんで話してくれなかったのよ!?」

トントン

一度溢れた言葉はとどまる事を知らない。

「解ってる…… 解ってるわよ!? それが孫呉にとって良い事だというのは! でも、こんな状況じゃ姉様を盛大に祝う事も出来ないじゃない!?」

「蓮華……」

トントン

「姉様も私も王族…… こんな形での結婚は納得できます! だからこそちゃんとお祝いしたいというのに…… 」

感情の昂ぶりか自分の瞳に涙が溜まっているのがわかる。

「家族だから…… 家族だからこそ、わっ私はぁ――」

溜まった涙が次々と瞳から流れ出て、もう喋る事すら間々ならない。

「ヒック…… エグッ……」

トントン

それにさっきから扉を叩く音が煩わしい。

(こっちはそれどころじゃないというのに!)

苛立つ私はそのまま扉の前に移動し…… 思い切り開く。

「さっきからなんだ!? 今取り込み――」

扉を叩きつける人物を追い払おうと声を張り上げる…… が言葉を継げれなかった。

そこにいる人物を少なくとも私は見たことがない。

白を基調にし、所々青を使用した外套を身にまとい。

頭は白い布で覆われ、覆面により口元も隠されていた。

そんな人物がお盆を持ってその場にたたずんでいたのだ。

「きっ貴様は!?」

身構えながら問う。

「いや、お茶と菓子を持ってきただけなんだけど…… お取り込み中だった?」

唯一表に出されている目を困ったように細めて言葉を発する―― 声からして男みたいである。

「取り込み中も何も貴様は誰だと――」

男と視線が合う。

黒い優しい目をしていた…… が今の私にそんなことは関係ない。

この男の正体を知らなければ!

そう考えていると男は何かに気付いたような顔をし、茶がこぼれない様に片手で抱え自分の胸元を探る。

(暗殺者!?)

その可能性に気付くがもう遅い…… 男が胸元に入れた手を私に向け――

「ちょっとごめんね」

私の目元を拭った。

「へっ え!?」

「ごめんね? なんか泣いてたみたいだからさ…… ああ、その手ぬぐいは綺麗だから大丈夫だよ?」

そう言って男は手拭を私に渡す…… その行動に私は――

「なっななななな!?」

顔を赤らめて硬直していた。

「ちょっとぉ、二人だけの世界を作るの止めてくれない?」

ギチギチと固まった首を向けると、そこには頬を膨らませた姉様がいた。

「ああ、ごめんごめん」

「まったくもう、早くも蓮華をオとすなんて……」

「オとすって…… 俺は別にそういうつもりじゃ……」

「いやいや、権殿のあの様子を見たらそうとしか言いようがないだろう? そう思わぬか公謹?」

「確かに…… 意識せずとも無意識に口説くとはさすがとしか言いようがないな」

「そんなつもりはないんだけどなぁ」

そんな会話をしながら笑いあう四人を見て私の硬直は一気に解ける。

「ねっ姉様!?」

「ん?」

「いっいいい一体その者は誰なのです!?」

片手で手拭を握りしめ、もう片方の手で男を何度も指差しながら聞く。

その言葉を聞くと姉様は「ニマァ」と笑う。

「彼は…… 」

息を飲む。

「今話題の『天の御使い』でぇ」

そこでいったん言葉を区切ると男の腕を抱き。

「私『達』の旦那様の『天恵』よぉ」

楽しそうにこういうのだった…… もちろん、私の今日二度目の絶叫が――

「旦那あああああああああ!?」

響くのも当然なのだった……



















「旦那って何だよ…… 旦那って……」

苦笑したようなその声は誰の耳に入ることなく…… 大音量によってかき消されるのであった。








あとがき

どうもです。

というわけで(なにがだ)今回呉に入ったわけですが…… うん、蓮華さん怒ってばっかですね(笑) まぁいつもは堅物な彼女ですが家族が絡むとこうなるのと勝手に考えておりますがww 自分にとって恋姫の呉は感慨深いものがあります。え? どうしてかって? そりゃ真っ先にクリアしたからに決まってるじゃないですか! 
「蓮華可愛いよ蓮華ハァハァ」と無印の時点でこの状態だったのに、真じゃ「雪れぇぇぇぇん!!」ですからねぇ。 
いやぁ、呉ルートは素晴らしかった(しみじみ)

えっ!? 魏はどうなんだって? 

……………… (言えない…… 無印の時には興味すら示さなかったなんて…… ましてや真じゃ最後にクリアしたなんて言えやしないよ)

っま、まぁ暫く呉が続きますので…… 皆さんお付き合いお願いします。

それでは次回の更新で…… 

ザン

返事がない唯の空き瓶のようだ。




PS 最近題名考えるの難しいです。



[7628] お知らせ
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:621eeb16
Date: 2012/10/20 01:48
皆様お久しぶりです。 

1年以上の放置― 申し訳ありませんでした。 
 
放置の理由といたしましては1つは感想に上手く答えられなかったと言う事があります。 皆様方のお言葉の一つ一つを見て、どうやって修正していこうかなとは考えていたのですが考えた事をなかなか文章にすることが出来ず筆が止まってしまいました。 

また転職し環境が変わり他の事に興味が移りモチベーションが落ちてしまったと言う事もあります。

はっきり言って今読み返すとこの小説、完全に自分のオナニー小説だよなぁと思いました。

そして一刀を神格化させすぎちゃったと思います。

流石に政治・経済・医術に武術と全てを極めていると言うのはハードルを高く設定しすぎてしまいました。 そりゃ、逆行モノですからある程度のチートは当然の事ですが…… これは少しやりすぎました。いくら恋姫世界がチートの塊だとしても浮いてしまいますし、なにより自分じゃ上手く一刀のチートをまとめることができなくなってしまいました。 

一刀は最高の材料提供者で周りの人材がそれを調理して最高のモノを作る…… 原作を始めからやり直してそう思いました。

政治とか商業とか医療とかろくに知らないのに風呂敷を広げすぎちゃった気がします。

完全な自己投影―― 恥ずかしい限りです。

だけどそんな中、久しぶりにここに来て感想版を見てみると「続きが見たい」という人がいてくれました…… 正直嬉しかったです。

ですから時間をいただけませんか?

話の本筋はあまり変わりませんが…… 設定等を変えて少し書き直してみたいのです。

相変わらずのチートでハーレムで自己投影バリバリのものになってしまうかもしれせんが…… 『自分の書ける話』をもう一度考えてみたい。 

そう思いました。

とりあえずチラ裏で出直そうと思います。

長い言い訳申し訳ありません…… これからは頭から徐々に修正して行こうと思います。

リアルが忙しく中々更新できないと思いますが…… これからもよろしくお願いします。  

リポビタン魏 



[7628] 改訂版 1話
Name: リポビタン魏◆7f7ad88f ID:1e4e866e
Date: 2013/01/17 00:34
秋―― 穏やかな日差しが降り注ぎ、幾らか冷たくなった風が緩やかに吹く中、一台のベンツが軽いブレーキ音を出しながら停止した。

「旦那様、到着しましたよ」

白い手袋をつけた運転手―― いや、雰囲気から執事と言った方が正しいだろう。彼は、ハンドルから手を離しすぐ外に出て後部座席のドアを開ける。

「ああ、ありがとう」

旦那様―― そう呼ばれた男性はゆっくりと車から降りてくる。

仕立ての良い、しかしいやらしさを感じさせない茶色のスーツを身に纏い男性は地に足をつける。

「おっと……」

一瞬よろめきそうになるが手に持っていた杖で転倒は免れた。

「大丈夫だよ……と言いたいが ハハ、私も年みたいだな」

慌てて駆け寄ろうとした執事にそう声をかけると男性―― 老人は空を見上げ、ゆっくりと「今日は良い日だ」と呟いた。

太陽の光に鈍く反射する白髪…… 口元に蓄えた髭…… 眼や口元に刻まれた皺が彼がかなりの老齢だと言う事を示していた。

しかし背筋は曲がることなく真っ直ぐに伸びており、刀剣のような美しさという印象を受ける立ち姿であったが。 彼の人柄―― だろうか、そこから発せられる穏やかな雰囲気がそれを中和していた。

その姿は刀剣―― しかし、誰かを守る懐剣…… それが彼の雰囲気だと言えるだろう。

少しの時間、彼は空を仰ぐと視線を前に落として杖を突き歩き始める。 

コツコツと杖の進む先にあるのは大きな門―― そして門の前には正装に身を固めた数百人の老若男女がずらりと並んでいた。

「――っ!?」

そのうちの一人が老人に気がつくと全員が居佇まいを直し一斉に頭を下げた。

それを見せられた老人は「ここまでしなくてもいいのに……」と笑いながらこの中で一番の責任者だろう初老の男性に声をかける。

「久しぶりだね?」

「はい、中々ご挨拶に行けず申し訳ありません」

「いいんだよ、皆忙しいだろうし…… だけど今日はありがとう、こんなにも来てくれるなんて思わなかったよ」

「いえ、私たち教え子一同先生の晴れの日に集まるのは当然かと……」

「おいおい…… いくら政界に身を置いているからといってももっと気を楽にしたらどうだい? それに、私は唯の教師…… 硬すぎるんじゃないのか?」

「皆もそう思うだろ?」老人が男性の横に並ぶ人々に語りかけると静かに笑い声が起きた。

よく見れば話しかけられた男性も横に並ぶ人々も一般人が見ても知っているような著名人ばかりだったのだ。比較的、年若い参列者もそれぞれの道で俊英と言われる人間だったりする。

近年、日本は躍進を遂げた―― 「日本は『大和魂』を取り戻した」と他国から言われるほどの芯を持った人間が台頭し始めたのだ。 そして、そのマンパワーによって環境・政治・外交・産業・歴史・教育など等…… これら数十年前からの日本の問題の道を開き、光明を照らし始めたのである。

その中核を担う人材が今この場所に集合していたのだった。

笑いの種にされた男性は赤い顔をして「ゴホン」と咳をすると――

「さぁ、先生。私の事はいいのでこちらにどうぞ」

と老人を案内し始めたのだった。

その言葉に合わせてゆっくりと門が開いた―― 老人は感慨深げに門を見ると……

「それじゃ行くとするかね」

ゆっくりと門の中に入り中の建物に向かうと、その後に並んでいた人々もついていくのであった。

誰もいなくなった門の前―― そこには建物の名前を記す看板とここで行われる式の名前が記されていた。

建物の看板は…… 『聖フランチェスカ学園』

式典の看板には…… 「北郷一刀先生 褒章授与式会場」と記されていた……





………
………
………





「ふぅっ…… と」

そう息を吐きながら彼―― 北郷一刀は革張りの椅子に腰を下ろした。

『少し疲れたから部屋に戻るよ』

そう言ってマスコミやら知り合いやらで騒がしい式典会場から逃げてきて、今度は何かと世話を焼いてくる教え子達を追い出して今に至る。

彼が逃げ場に選んだのは『理事長室』…… ここ数ヶ月、主不在の状態であったが久しぶりに部屋の主たる彼がやってきたのである。

久々に座った理事長の椅子に腰掛け、懐からパイプを取り出すと一息入れる。

「全く、大げさだよな……」

窓から注がれる心地よい光に紫煙が照らされるのを見ながら彼は棚に飾られた一つ色の増えた褒章達を見つめた。

学生の頃から真っ直ぐに―― ただひたすら真っ直ぐに生き。 人に対しては真摯に真剣に関係を築いてきた。

それだけだというのに他の人たちには眩しく見えたのだろう。

色々な人々が彼を愛し、彼も皆を愛した。

彼は大げさと言っているがそのような彼の積み重ねてきた行動の一つ一つが形となっただけなのだ。

今に至るまで彼は教育者・研究者として勤めてきた。

教育者として彼は先程も見たように素晴らしい人材を育て上げた。勿論、彼らだけでなくそのほかの教え子達も立派に社会に出てそれぞれが自分の道を歩んでおり…… 皆が全員というわけではなかったが「北郷先生がいてくれてよかった」と言う教え子ばかりであった。

研究者として専門は考古学を専攻しており様々な成果を挙げていた、中でも古代中国には熱心に取り組んでおり、一昔前にとんでもない説を発表して世間をにぎわせた事があった……… まぁ、当時の文献や史料に則った説であるがその内容があまりにも突拍子が無かったため今でも論議がされているのが現実である。

そんな彼の人生は多忙を極めており、老齢にいたるまで家庭を持つ事は無かった。

彼のことを理解してくれる女性もいたのだが伴侶は持たなかったのである…… いや、正しくは持てなかったと言うべきだろうか――

「――っと、いかんいかん」

パイプの火を消して心地よさそうにまどろんでいた彼は何かを思い出したように杖を手に取り身支度を整え部屋の外に出た。

「いつものところに」

部屋の外で待機していた黒服―― SPにそう伝えると彼は数人の黒服たちと共に部屋を後にするのだった。





………
………
………





「「「「「「北郷先生ありがとうございましたっ!!」」」」」」

100人以上ずらりと並んだ剣道着姿の学生達の野太い声が大気を震わせるようにビリビリと響く。

彼らは全員フランチェスカの剣道部に籍をおく学生である。

フランチェスカは学業だけでなく部活動も盛んだ。

吹奏楽などの文化系、運動系ともに強豪といっても間違いないレベルである。特になかでも剣道部を筆頭にする、居合道部・弓道部等の武道部は全国常連…… 剣道部にいたっては昨年、中等部・高等部・大学の三部門で日本一をとった快挙をなしたばかりであった。

そんな彼らが日々稽古に励んでいるのが後ろにある大きな建物―― 正式な名前は「フランチェスカ多目的武道場」であるが、世間一般には通称『北郷道場』と呼ばれている武道場であった。

建設当初、日本でも有数の武道家・武術家でもある彼のため、学園は敷地内には彼の名を冠した武道場を作ろうとしたのだが「照れくさいからやめてくれ」という彼の言葉で流れたのである。

といっても、周りの人間が『北郷道場』の名前を広めてしまっていたので正式名称よりも通称の方が浸透してしまっており、道場が大会会場になったときなど案内等に正式名称よりも通称で載せてしまったほうがピンと来る人間が多いくらいであった。

その事実に彼は嫌がったのだが…… 段々慣れてきたのか苦笑しながらも道場に通ったのであった。

剣道場の鬼と仏―― 彼が20代で赴任した時からずっと呼ばれていた名前である。

学生・社会人剣道界の覇者であった彼はその稽古内容もそれ相応であった。

学生に対する苛烈ともいえる稽古内容…… 一時期問題にされそうになったこともあったが稽古を受けた学生達がそれに否を唱えたのだ。

実績を挙げていた―― それもあったが一番は彼が学生達に最後まで付き合ったと言うのがある。

指導するだけでなく自らも稽古に混ざるのは勿論。素振りを始め、追い込みやかかり稽古を一緒にどころか練習量を増やして付き合っていたのである。

なにより、彼は誰も見捨てなかった。稽古以外では面倒見のいい兄貴分のように接し、学生達のケアとフォローを忘れずに行った結果、彼の指導していた期間は病気等のどうしようもない事情以外は退部者は殆ど出なかったのである。

そんな剣道部に触発され、当時の部活動は盛り上がりを見せ今日のフランチェスカの黄金期があるのである。

とうに現役は終えていたが今は名誉顧問として籍をおいている彼はちょくちょく道場に足を運んでおり。

今日も久しぶりに剣道部に顔を出したところであった。

時間にして一時間程か…… 道場内に響く竹刀の音や声、むわりと暑苦しい汗を染み込ませた防具の臭いを感じながら過ごしたところであった。

(若いっていいよな……)

部員達に帽子を取って答え、その場を歩いて後にしながら心の中で呟いた。

若さ―― 青春―― 学生の時からこの学校にいた彼にとっては世間的に見れば、ここが彼の若さ・青春の全てといえるだろう…… だが、彼にしてみれば間違いではないが正しくないのである。

彼にとっての青春―― いや全てといったものが別にあるのだ。

(もうすぐ……か)

老齢の彼にとって疲れを感じ始めたところに彼の目的の場所が眼に入った。

外見は白い壁に覆われた立派な建物である。

一般人には近寄りがたいイメージを持つその建物の入り口には、大理石で出来た看板が埋め込まれていた。

『北郷史料館』

彼とSP達はそう書かれた建物内に入っていったのだった。















彼らが史料館に入館したのを見て数十人の人影が動いた。

見た目はフランチェスカの学生と言っても通る若者達であるが…… その物々しい雰囲気や時折聞こえる言葉が日本語でないところから違うらしい。

彼らは何かを確認するように話すと一人が歩き始め、他の人間も追従するように歩き出した。

足の向かう先には『北郷史料館』…… それを見つめる若者達の眼には理想や義侠心に燃えていたが…… どこか狂気の光を孕んでいたのであった。















………
………
………









「やぁ、変わりは無いかい?」

史料館の中に入ると彼は受付に話しかける。

「お待ちしておりました」

受付の若い学芸員は彼の姿を確認するとカウンターの奥に向かった。

カード認証やら仰々しいセキュリティ解除を行うとロックが外された箱から一つの鍵を取り出すとそのまま差し出した。

『館長室』

そうプレートに書かれた鍵を受け取ると彼は後ろについていたSPに振り向き…… 「ここからは私だけでいいよ」と告げた。

「ですが――」と口を開くSPの答えを後にして彼はさっさと歩いていってしまう。





『北郷史料館』

この史料館、元々は学校が管理する施設であったが彼が学園の理事長に就任するまえに研究者として功績を讃えられて改めて建てなおされたものである。その史料数は豊富であり世界規模で見ても屈指の史料館といっても過言でもなかった。

そして唯一、彼が自分の名前をつけるのを許可した建物でもあった。

「なぜだろうか?」

彼のことを知る周りの人間には、彼が自分の名前を冠した物を建てるのに疑問を持ったのである。

そして、一番の謎は『館長室』の存在である。

この館長室が公開されたことがほぼない。

唯一あるのが彼が以前発表し、いまだに論議が交わされているとある説の史料を見せるためであった。

彼の説が発表された際、あまりにも新説すぎて世界の歴史家に「歴史に対する冒涜」とまで言われたのだった。

事実、説の元となった国では酷いバッシングがあったくらいである。

そんな中、彼は史料の一つ一つを丁寧に説明し、時には科学的根拠も持ち出して説を成り立たせたのである。

そして、一番の決定打になった史料がここ―― 館長室に存在しているのである。

この史料、彼が見つけ正当な手続きで彼の私物になっており。当初は館内で一般に公開されていたのだが、過激な一部の人間が破壊もしくは盗難しようとした為、館長室で保管されているのである。

ちなみに彼はその史料に大変な思い入れがあるらしく、以前裏オークションと通じている暴力団に強奪された時などいつも温厚な彼が組織に対し鬼神のように怒り狂い、警察の制止を振り切り単身乗り込み暴力団を叩き潰したあげくに犯罪グループの証拠を挙げたのは有名な話であった。

「技術って進歩するものだね……」

『館長室』と札がかかっている扉の前。

指紋に引き続き網膜の承認を済ませた彼は、疲れたように一言呟くと懐から先程預かった鍵を取り出しそのまま差し込んだ。

「………………」

無言のままカチャリと鍵を開ける…… その顔には先程の疲れは無く、変わりに嬉しさと悲しさを含んだ笑みを浮かべていた。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.21764302253723