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[6264] 真・恋姫無双伝説異伝 天の覇者【真・恋姫無双×北斗の拳】(打ち切り)
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/09/16 17:01
 注意:
 このSSは多少丸くなった方々が出てくるため、
 北斗本編のイメージを少し損なう危険性があります。
 また、多少クロスキャラが強すぎる点があります。
 そして、作者のイメージが多大に入っているため、
 それでもいいという方のみ先にお進み下さい
 
 *主人公無双注意


 9月16日…
  今更ながら…
  本当に今更ながら流石にラオウが丸すぎかなと思い…この作品を凍結します。
  話のストーリーもちょっと破綻気味なのでクオリティがあがりそうに
  無いので、一から書き直します。
  ラオウ主役は変わりませんが、原作に限りなく近づけます(ラオウ外伝含む)
  そして、他の北斗のキャラクターは一人しか出しません。
  短い間でしたが、応援していただきありがとうございました。
  この作品自体は戒めの意味を込めて残しておきます。
   それでは……またいつか…



[6264] 第1話:出会い
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/05 09:07
 -幽州啄群・五台山麓-
 


  「愛紗ちゃん早く早くー」
  
  「お待ちください、桃香様!どう考えても変です
   このような昼間から流星が落ちるなど」
  
  「そうなのだ、あれはきっと危ないのだ」
 
 荒野を駆ける三人…桃色の髪を風に晒しながら先頭を走る優しげな瞳を持つ少女を
 残る二人、鋭い目つきを持ち長い黒髪をサイドにまとめた少女と
 活発で、紅い短髪の少女が追いかける形だ。
  
  「でもでも、あれがきっと編芭さんの言っていた天の御遣いの
   兆しかもしれないよ」
  
  「あのような占いは戯言です…」
  
  「そうなのだ、あの編芭って男の言っていた事は胡散臭いのだ」
  
  「それに、確かに乱世を平定する天の御遣いと言っておりましたが…
   その後に続く言葉も勿論覚えていらっしゃるんでしょうね」
  
 流星の落下地点あたりになって来た為、桃髪の少女を抑えて、
 進行するペースを落とす。
  
  「覚えてるよ…確か、暴凶星だっけ…その者は力による
   絶対支配を敷くであろうって…」
  
  「そうなのだ、そんな奴は悪い奴って相場が決まっているのだ!」
  
  「鈴々の言うとおりです―――」
  
  「でも…私たちにはもうそれに賭けるしかないんだよ?」
 
 明るいその表情を暗くしながら、他の二人に語りかける。
 その言葉を聞き、それきり三人はもくもくとその地点へと脚を進めた…。
 そして、流星の落下したと思われる地点へとたどり着いた三人…
 そこには、衝突によるクレーターは存在せず
  
  「愛紗ちゃん…この人大きいね」
  
  「それに…物凄くごついのだ」
  
  「桃香様お下がりください…まだ、安全とは決まっておりません」
 
 一人の大男が倒れていた…当然のことながら、歳は近くなさそうだ。
 三人の少女が、一人の眠っている男たちの前で話をしている。
 そして、ジーッと大男を見つめていた。
  
  「でも、純粋な悪人には見えないのだ」
  
  「うん…どこか優しい感じがするよ?
   確かに厳しい雰囲気はあるけど…」
  
  「何故、疑問系なのですか」
 
 二人の暢気なやり取りに、黒髪の少女が呆れたように
 溜息をつく。
 すると、その溜息に反応したのか…男がわずかに身じろぎをする。
   
  「く…」
  
  「お、眼を開けそうなのだ」
  
  「本当だ」
  
  「だから、お下がりください桃香様」
  
  「ぬう…」
  
 そして男は目を覚ました。
 目の前の風景を見渡し、それから三人の少女へと目を向ける。
 少女を警戒するような視線ではなく、ただ無言で…。
  
  「…」
  
  「「「…」」」
 
 驚いた顔、警戒した顔が並んでいる。
 マトモな話をしそうなのは、桃色の髪の少女と、黒い髪の少女
 だろうという目算をつけて男は口を開いた。
 
  「ここは何処だ」
  
 男は小さい少女から視線を外し、二人の少女に話を振る。
 
  「幽州の啄群、五台山の麓です」 
 
  「…聞かぬ名だ」
 
 黒い髪の少女が間髪入れずに答えたのに対し、
 男も間髪入れずに答える。
 といっても、三秒ほどの間があったため、
 間髪というには少し長かったが…。
 
  「うぬらは何者だ」
     
  「劉備だよ、字は玄徳」
  
  「鈴々は張飛なのだ!」
  
  「関雲長とは私のことだ」
  
 男の問いに間髪入れずに次々と自己紹介をしていく少女達。
 そして、少女達は自己紹介を終えた後、じっと、男のほうへと顔を向ける。
  
  「お兄さんの名前は?」
  
  「もうそんな歳でもないのだが…ラオウだ」
  
  「羅王?」
  
  「違和感がするがそうだ…聞いた事は無いのというのか?」
 
 と、男…ラオウが名乗った事でラオウ自身が一番驚いている。
 自分を知らない者が居るとは到底思えなかったからである。
  
  「えっと…じゃあ…何処の出身なの?」
  
  「修羅の国…其処が我が故郷」
  
 何所か感慨深げに、しかし淡々と語りだすラオウ。
 その目線は少女達を捕らえておらず、ただ何処かを見つめる視線だった。
   
  「聞かないね…」
   
  「凄い名前の国なのだ…」
 
 確かに国には適さないような名前だろう…。
 ラオウはそのような事よりも、周りの風景を見ていた。
 辺りには草が多少生えているのが見受けられ…木々も見える。
 少なくとも木々が茂るのは数年の期間が必要だ。
 ラオウの視線を気にする事無く、劉備が尋ねる。
  
  「何所の州なの?」
   
  「州とは何だ?」
  
  「幽州とか荊州とか何だけど…もしかして洛陽出身?」
  
  「知らぬな…」
  
 其処まで聞いて、ラオウは一つ確信したらしい表情になる。
 少なくとも、目の前の少女達は嘘はついてはいないようだ。
  
  (あの国とは違うな…あれは夢ではなかったというわけか…ならば、俺は何故生きている…
   あの時俺は確かに自ら天へと帰った筈だ…)
  
  「もしかしてお兄さん、この国の事何も知らない?」
 
  「…全く知らぬな」 
  
  「やっぱり、思った通りかもしれないよ、鈴々ちゃん!愛紗ちゃん!」
 
 突然、劉備が大喜びの表情で、声を上げる。
 しかし…関羽や張飛は警戒心を大きくした…。
  
  「この国の事をぜんぜん知らないし、知らない国の名前を言ったし、
   何より、雰囲気がそれっぽい!
   この人がきっと天の御遣いだよ!この乱世の大陸を平和にするために舞い降りた
   愛の天使様(?)なんだよきっと!」
 
 ?が付いたのは、きっと纏う雰囲気やガタイのせいだろう…確かに天使には見えない。
 こんな天使が居たらきっと愛の素晴らしさを伝える伝道者や救世主などではなく、
 筋肉の素晴らしさを伝える伝道者や覇王ぐらいなものだろう。
  
  「私には、天の覇王に見えるのですが」
  
  「鈴々もそう思うのだ」
  
  (…乱世…やはり同じ世界か?いや、この服装は見たことが無い上に
   聞かぬ名前…しばし、様子を見るか)
  
  「それに、アレはエセ占い師の戯言では?
   ここまでの経緯からすると…後の言は特に外れて欲しいところですが…」
  
  「うんうん。鈴々もそう思うのだ」
  
  「でも、雰囲気はまさにって感じだよ」
  
  「確かに、物凄く頼もしそうな体格なのだ」
  
  「まぁ、英雄たる雰囲気がひしひしと感じ取れますが…
   天の御遣いにしては…ちょっと雰囲気が…」
  
  「そうかなぁ?悪い人には見えないけど…」
  
 ラオウはいろいろと失礼な事を言われているが、特に気にした様子も無い。
 ラオウは動じる事無く、少女達の会話を聞いていた。
 そして…
  
  「…天の御遣いとは一体何のことだ」
 
 疑問に思った事をストレートに聞いた。
 確かに疑問に思うだろう…その言葉のさす意味がよく判らなかった。
  
  「この乱世を平和に誘う天の使者。…自称大陸一の天才
   占い師、編芭の言葉です」
 
 どこかで聞いたような名前が出てきたが、特に気にも留めずに無視した。
 そして、もう一つ疑問をぶつける。
  
  「乱世とは、核戦争後の世界の事か?」
 
 少なくともラオウの過ごした乱世で知らぬものは居ないであろう忌まわしき戦争。
 ありとあらゆる秩序を破壊しつくし、弱肉強食の世を復活させた戦争である。
  
  「カクセンソーは知らないけど、今の世の中は、漢王朝が腐敗して弱い人たちから
   たくさん税金を取って、好き勝手しているのだ。それに盗賊たちも一杯一杯いて
   弱い人たちを虐めているのだ!」
   
  「そんな力ない人たちを守ろうって立ち上がったのが、私たち三人なんだよ。
   だけど、私たち三人の力だけじゃ何も出来なくて…」
  
  「どうすれば良いのか、方策を考えているところで編芭と出会い…」
  
  「その占いを信じ、ここに俺が居たという事か」
  
 ラオウの言葉に三人の少女はコクリと首を縦に振る。
 三人揃って首肯されると何だかなぁという気分になるところだが、
 特に気にした様子も無いラオウ。
  
  「そういったもので断定されるか…ただの人間かもしれぬぞ」
  
 自嘲するような表情で応えるラオウ…どうみてもただの人間には見えません。
 本当にありがとうございました。
   
  「それでも!あなたがこの国の人間じゃないっていうのは
   隠しようも無いはずです!」
  
  「確かにそうだが」
  
  「でしょでしょ!だからあなたは天の御使いってことで確定です♪」
  
 三段論法にも成っていないのだが、ひとまず溜息をつくしかなかった。
 そして、ラオウは…立ち上がり、拳を構えた。
 その様子に、劉備は驚き…関羽と張飛は各々の武器を構えた。
  
  「残念だが、俺は天の遣いなどではない…天に挑むものだ」
 
  「く…あのエセ占い師…腕は確かだったようだ…」
  
  「愛紗…このラオウという男…倒せるのか?」
 
 武器を構えたものの、関羽と張飛の二人はラオウから感じ取れる闘気の量に絶望していた。 
 
  「世を救うという大業は結構…だが、うぬ等はそれを実現しうる力があるのか?」
 
 ラオウは闘気を纏い、三人を威圧する…世紀末覇者ラオウ、彼はこの乱世に躍り出るというのか…。
 しかし…ラオウは関羽達に放っていたわけではなかった。
 
  「そこの者共…居るのは既に知っておる…出てくるが良い…」
 
 ラオウが気迫十分に言い放つと、そこには百数十もの盗賊集団がいた。
  
  「うへへ…気づかれていたか…我らの群青暗殺拳・隠蔽を見破るとはたいした奴!」
  
  「な!?こいつら…」
  
  「こんな人数が隠れていたのに気づかなかったのだ!」
 
  「バレテは仕方ないが、女三人と男一人ではこの数はどうしようもないだろ!!」
  
 ケタケタと笑う男たち、その目には弱者を嬲る様な視線しか持ち合わせていなかった。
  
  「…うぬらの力、見せてもらおう…話はそれからだ」
 
  「ひゃっはー!オメーラあの村を襲う手始めだ!!男は殺せー!女は●せー!」
  
  「「「ひゃっはー!!!」」」
  
  「そうですね…関羽長!参る!!」
  
  「桃香お姉ちゃんは退がっているのだ!でやーーー!」
 
 夜盗集団の突進に合わせてラオウ、関羽、張飛の三人が駆け、二つの勢力がぶつかり合った。
 
  「…自業自得ってこういう事を言うんだね…」 
 
 劉備の感想通り…戦闘自体は呆気ない物だった…
 いや、それは戦闘と呼べるものではなく、只の掃討に過ぎなかった。
 それも、三人の戦力で…数百人の盗賊達を…だ。
 
  「北斗剛掌波!!」
  
  「「ぐぎぇ!」」
 
 剛拳から発せられる圧倒的な闘気を放ち、制圧をして行くラオウ。
 そして至近距離では、自分の拳で打ち砕いている…一応、秘孔を突いてはいるものの
 拳の破壊力が凄いため、まったく気づかれていない。
  
  「なんて野郎だ…切りつけても剣が欠けちまう!」
  
  「ば、化け物だ…」
 
 一方、関羽と張飛のコンビも凄まじいものがあった。
 関羽が斬り付け、その隙を突こうとしてきた賊どもを張飛が討ち取る。 
 
  「てりゃりゃりゃりゃりゃー!!」
  
  「はあああああ!!!」
  
  「ひぃ…なんだよ、化け物じゃねぇか…に、逃げ…」
  
  「ふん!!!!!」
  
 ラオウが腕を大振りする、すると夜盗どもは動きを止め…
 その後、爆散した。
  
  「獣に堕ちたモノどもが…許されると思うな」
  
  「す、凄い…」
 
 ラオウはすぐに劉備に振り向き…無事を確認すると…
 関羽と張飛は警戒した表情でラオウを見ている。
 ラオウの圧倒的な力を見てはいたが…いや、見ていたからこそ
 信用できなくなったのだ…占い師のあの予言の事が頭に過ぎったからだ。
 そんな時…
  
  くー……
  
 まるでこの場の雰囲気をぶち壊すような可愛らしい音が鳴り響く…
 その音の主の劉備は恥ずかしそうに顔を伏せている。
  
  「わ、私たち…朝食を食べてなかったよね!」
  
  「そそうなのだ!」
  
  「と、とりあえず、近くの町に行きませんか…」
 
 そう言って劉備達が歩き出し、ラオウはその後ろを着いていった。
 ところで先程の言からすると、関羽と張飛もお腹がなったらしい。
 劉備達に着いて行くラオウ…その表情には凶悪ではないものの…覇者としての顔があった。



[6264] 第2話:桃園の誓い
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/09 14:37
 
  「ひ…酷い目にあったのだ…」
 
 張飛がばてた様な表情で、言い放つ…先ほど食堂で食事をとった後…
 誰も金品を持っていなかった事が判明して、店員達にたこ殴りにあった。
 ――――ラオウは抵抗しなかった、が…全く堪えていなかった。
 そのため、劉備達は皿洗いをする羽目となったのだ。
 
  「ごめんなさい…天の御遣い様だから、お金を持っているものかと…」
  
  「気にはせぬ…あの程度の作業で許されたかと思えば容易い」
 
 そう言い放つラオウを信じられない目で見る劉備達。
 それもその筈、何故なら…
  
  「樹の丸太を素手で両断していたのが容易い…」
  
  「先の盗賊の件といい…本当に凄いお方だ…」

 見た目は伊達じゃないんだろうという理由で薪割りをやらされていたのだが…
 近くの樹を素手で両断し、一瞬にして数百もの薪をつくりあげていたのだ。 
 
  「み、見た目以上に…豪快な人だよね」
  
  「豪快さだけじゃないと思うのだ…」
  
 お店のおばさんもその豪快さに驚き、その影響かどうかはしら無いが
 劉備達は比較的短い時間で、皿洗いから解放されたのだ。
 ついでに凄いものを見せてもらったお礼にとお酒まで渡された。
  
  「こほん…食事中にも話していたと思うけど…」
 
 空気を変える為に劉備が軽く咳払いし、口調を変える。
 
  「私たちは弱い人達が傷つき、無念を抱いて倒れる事に我慢が出来なくて
   少しでも力になれるのならって、そう思って今まで旅を続けてきたの」
 
 しかし、その強い視線も次第に弱弱しくなっていき、声も小さくなる。
 
  「三人だけじゃもう、何の力にもなれない…そんな時代になってきてる」

 その劉備の言葉に続けるように関羽が言葉をつむぐ。
  
  「官匪の横行、太守の暴政…そして弱い人間が群れをなし、
   更に弱い人間を叩く。そういった負の連鎖が強大なうねりを帯びて
   この大陸を覆っている」
 
 元気なイメージのある張飛も落ち込んだように話し始める。 
 
  「三人じゃ、もう何も出来なくなっているのだ…」
  
  「当然だ、いかなる武人や武道家といえどたった数名で
   状況を覆そうなど、不可能なのだ」
 
 ラオウが非情に言い放つ、だが、その雰囲気はけして完全に馬鹿にしたようなものでは無い。
 そのことを見抜け無いほど、劉備達はおろかではないため、相づちと認識していた。
  
  「確かにそうです…でも、そんな事で挫けたくない。無力な私たちにだって
   何か出来る事があるはずなんです。
   だから…ラオウ様!」
 
 そういって、劉備は勢い良くラオウの手を握る。
  
  「…」
  
  「私たちに力を貸してください!」
 
 そう、大声で言い放った。 
  
  「天の御遣いであるあなたが力を貸してくだされば、
   きっともっともっと弱い人たちを守れるって、そう思うんです!」
  
  「戦えない人達を…力無き人たちを守るために。
   力があるからって好き放題暴れて、人のことを考えないケダモノ
   みたいな奴らを懲らしめるために!」
 
 真っ直ぐで強い意思とやさしさを持つ瞳。
 その瞳を興奮によって少し潤ませながら、劉備はラオウの手を握る。
 そこから伝わるのは、真心そのものである。
 ラオウは目を閉じ、何かを思案していた…おそらく、自分の居た世界と
 今の状況を比べているのだろう。
 劉備の力には人を惹きつける様な力が感じられる。
 
  「だが、先ほども言ったとおり、俺は天の遣いなどではない
   あくまで天に挑む者、そのような男がそのような役に当てはまると思うのか」
 
 人を助ける…言葉で言えばそれはとても簡単な事。
 ラオウの実力であれば、天の御遣いを名乗るのは適任だろう。
 だが、ラオウはあくまで最強の男を目指す野望…それこそ、天に居る
 神すらも打ち倒すという大きな野望を持っていた。
 ケンシロウに敗北し、凶悪な面は無くなったとしても、その野望のみは健在。
  
  「確かにあなたの言葉も正しい。しかし正直に言うと…
   ラオウ様が天の御遣いでなくても、それはそれで良いのです」
  
  「そうそう。天の御遣いかもしれないのが大切な事なのだ」
  
  「知名度か…」
  
  「えぇ、そうです。我ら三人は僅かばかりながらそれなりの力はあるのです
   …あなたの様な力はありませんが」
 
 盗賊との戦闘を思い出す関羽…あの光景を見せられては自身の力量に不安を
 覚えるのも当然だろう…おまけに食事中のとき、本気を出してないといっていた。
 何なんだあんた。
 先程の様子(ラオウの薪割り)を見ていた通行人がそんな奴がごろごろ居てたまるかと
 心の中で突っ込みを入れた。
  
  「でも、ラオウ様の言うとおり、知名度や風評みたいな人を惹きつける為の
   実績が無いの…」
  
  「山賊を倒したり賞金首を捕まえたりしても、それは一部の
   地域でも評判しか得る事が出来ないのだ…」
  
  「本来ならその積み重ねが大事なのですが…」
 
 そこまで聞いて、ラオウも話の本筋を理解し始めてきたようだ。
  
  「今の時代の状況が許さないという事だな?」
  
  「そうです、一つの村を救っても、他の村では泣いている。
   もう、私たちだけではどうしようもないんです」
  
  「だからこそ、天の御遣いの存在の評判を利用し、大きくこの乱世に
   躍り出ようというのか…」
  
 確かに、三国志の舞台であった後漢時代ならば、そういった神がかり的な評判は
 劉備たちには大きな力となるだろう。
 迷信や神への畏怖が人の心に強く関係していた時代だ。
 ……この中に約一名恐れていない存在が居るが…
 天の御遣いが柳眉の傍に居るというだけで人々は劉備に畏敬の念を抱き
 其の行動を注視するようになるだろう。
 注視するようになれば劉備に共感する人間や心服する人間が飛躍的に増えていく。
 それが知名度であり、名声というものだ。
 
 
 
 ケンシロウとの戦いの後、全てを託し悔いなく天へと向かったはずのラオウ。
 それが、何故こういう状況になったかはわからないが、しばし話を聞いていた。
 劉備たちの話を聞いている内にこの乱世の状況を考えていた。
 世紀末の世の中とは違うが、この乱世も混沌としたものである事が劉備達の話から
 察せられる。
 
  (それにしても…)
 
 劉備の表情を見る、強い意志とやさしさを感じられる。だが、それだけではなく、
 もろさも持ち合わせている。
 そういうところは歳相応の少女といったところだろう。
 天の遣い…天へと向かった身であるが故に遣わされたという表現は
 間違いでは無いだろう。
 そして、空を見上げる…一度瞑想した後。
 一度は死んだ身…第二の生だがもはや、恐怖の覇王として君臨するのは
 愛・哀しみを背負った身では資格は無いだろう…
 だが、覇道を諦めるのは惜しい…ならば、天の御遣いという大義名分を利用し
 恐怖によるものではなく、救世主としての覇者となろう…
 
  「引き受けてやろう、その役目」
 
 そして、ラオウ達は今、桃園に立っていた。
 因みに主人についてはラオウは否定しなかった…が、ご主人様は肌に合わないといったため
 ラオウ様のままになった。
 
  「それにしても・・・美しい場所だなここは…」
 
 懐かしむような目で周囲を見回すラオウ。
 劉備達は知らない…世紀末の世では花がほとんど咲いていないことを…
 だが、誰も言葉を発さなかった、今この場はラオウが空気を席巻している。
 その場を濁す事は誰にも許されないと…
  
  「…さて、ここに集った理由は何だ?」
 
 一通り桃の樹を眺めたラオウが劉備達に問う。
 その言葉を待っていたかのように、劉備が口を開く。
  
  「さっきのおばさんが教えてくれたんだけど、白蓮ちゃんのところで盗賊退治の義勇兵を
   集めているんだって」
  
  「それで、そこへと向かっていたのですが…その前にやりたい事がありまして
   ここへ来たのです」
 
 そう言って、杯を取り出し自分を含めた五人に配る。
 そして、先程ラオウが貰った酒を全員に注ぐ。
  
  「ここに来た理由は姉妹の契りを交わすためなのだ」
  
  「桃園の誓い…か…」
 
 一名男が混ざっているが姉妹の契りらしい。
 
  (ふ、また義理の家族が増えるのか…)
 
 そういえば、ジャギ・ケンシロウを含めると(トキは実の弟のため除く)ラオウは
 劉備たちを含めて六人の義兄弟妹ができる事になる。
 ラオウは、義弟の二人の事を考えて感慨にふけっていると…
 
  「どうしたの?ラオウ様」
 
 劉備がじっと、ラオウを心配そうに覗き込む。 
 
  「前を向き一つ一つこなしていくしかないだろうと思っただけだ」
  
 一時とはいえ、乱世の多大な部分を平定した事のあるラオウが吐く言葉。
 その言葉にはどのような思いが込められているのかは、まだ過ごした期間が
 短い劉備達にはわかる由も無い。
 ラオウはこのような言を吐いていたが、世紀末の世では
 迅速に平定する必要があった。
 劉備達の世界では、確かに迅速な対応が必要だったが…世紀末とは違い、
 一つ一つの村でもきちんとした秩序はあり、世紀末の世よりも多く正義も志を持つ者が居る。
 それゆえに、事態はそれほど深刻ではないのだ。
 
  「その通りなのだ、立ち止まって考えていても、物事は何も進展しやしないのだ」
 
 後に続く、張飛の声にラオウは表情を和らげる…ある程度警戒心は解かれたのだろう…
 だが…
  
  「やはり…覇者を目指すのですか?」
  
  「当然だ…一度覇権を目指した身…完全に諦めてしまえば天が哂う…
   …だが、恐怖による統括をしようとは思わぬ」
 
  「…しかし」
 
  「今の王は民の心を握ってはおらぬ、そのような不安を取り除くような存在と
   なるのも、この乱世を救うためには必要だ」
  
  「…どのみち、そういう世の中を作るには一番上に立たなきゃダメなんだよね」
  
  「…分かりました、その件についてはそれで納得する事にします…それと
   もうひとつ…」
  
  「何だ」
  
  「ラオウ様は我らの主となられたお方、それゆえに真名で
   呼んで頂きたい…」
  
  「真名とはなんだ」
 
 関羽の言葉に疑問を口にするラオウ。
 ラオウの居た時代にはそのような風習が無かったため、知らないのも当然だろう
  
  「我らの持つ、本当の名前の事です。家族や親しき者にしか呼ぶことを許さない
   神聖なる名…」
  
  「その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉なの。だから親しい人以外は
   例え知っていたとしても口に出してはいけない本当の名前」
  
  「だけど、ラオウ様にはちゃんと呼んで欲しいのだ」
 
 三人が説明をし、その説明をしたうえでラオウに要求する。
 三人がこういうからには、ラオウは信頼を得ているという事だろう。
 そのような風習が無いラオウは、自身に期待されている事を知る。
 ラオウもその期待に沿おうと―――
 
  「…聞かせてもらおうか、うぬらの真名を」
 
 そう口に出した。
  
  「我が真名は愛紗」
  
  「鈴々は鈴々!」
  
  「私は桃香!」
 
  「愛紗、鈴々、桃香…」
 
 三人の名を静かに呼ぶラオウ。
  
  「一本の枝では簡単に折れよう…だが、四本の枝であれば…
   簡単には折れぬ…」
  
 そう言って全員に、手ごろな枝を四本づつ配る…全員折るのに苦労しているようだ。
 そして、ラオウの手元に集中している。約二名は折りそうになっていたが…
  
  「…ここで折っては台無しだろう」
  
 全員の視線に対してラオウが応える。
 むしろ手ではなく…指で折れそうだから困る。
  
  「まぁ、それはおいておいて結盟だね」
  
 そう言って場の流れを元に戻す。
  
  「あぁ」
 
 ラオウが準備したのを確認し、関羽が杯を上げる。
 そして…
 
  「我ら四人!」
 
  「姓は違えど、姉妹の契りを結びしからは!」
  
  「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」
  
  「生を受けた年月は違えども!!!」
  
  「「「「死す時は同じ!」」」」
  
  「「「「乾杯!!!!!」」」」
  
 そうして、この外史は本格的に動き出す事になる。
 その後、ラオウは姓を【北斗】字を【拳王】と名乗り、真名はそのままに【ラオウ】とした。
 
  
 おまけ:
 
  「で、折れるのですか…?」
  
  「折りはせぬ…ただ…」
  
 ラオウが四本の枝から手を放すと…
 
  「くっ付いてるのだ!?」
  
  「圧縮されてる!?」



[6264] 第3話:出陣 Apart
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/05 09:14
 
 桃園で結盟したラオウ達は公孫賛の本拠地へと向かい、町の中でしばらく
 情報収集を行なった。
 というのも、公孫賛は桃香の友人。
 しかし相手は上の立場の相手。
 だが、友人だからといってズカズカと乗り込んでしまえば足元を見られるからだ。
 故に、ある程度の情報を集めて、相手が何を求めているのかを確かめる必要があった。
 それが分からなければただ力を利用されるだけに終わる…そんな心配は無さそうだが…
 ともかく、相手の欲しいものを提供し…評判を高める。
 それがラオウ達の基本方針だった。
  
  「この作業があの時代とは違うのだな」
  
  「何を言ってるの?」
  
  「気にするな、それはそうと情報は集まったのか?」
  
 食事を終えての会話、今回は少し仕事をした為、路銀に余裕があり、
 前回のような事態にはならなかった。
  
  「まず、盗賊の兵力は約5000です」
  
  「次に、白蓮ちゃんの軍勢だけど…数は3000ってところだね」
  
  「数では負けか…ならば、質の方はどうだ」
 
 数で劣るなら質で跳ね返すより手立ては無い。
 
  「元が農民の次男や三男ですから上ではありますが正直……」
  
  「となれば、指揮する者が必要だな」
  
  「ラオウ様は経験ある?」
  
  「ある…が、俺の方法ではマトモに動くまい。桃香達はどうだ」
 
 伊達に世紀末で軍勢を率いてはいない、が…ほぼ恐怖で動かしてるようなもの
 なので、その方法が通用するかどうかは微妙らしい。
 それでも、指揮経験はあると言える。
  
  「残念ながらありません」
  
  「でも、愛紗ちゃんたちなら上手く指揮できると思うよ」
  
  「しかし、今の状態ではただのほら吹きとあしらわれるのがオチであろう」
  
  「なら、義勇兵でしょうか」
  
 義勇兵を集めて行けば、ある程度の事はまかり通るだろうと判断する。
  
  「確かに兵隊を連れて行けば、認めてもらえるに決まっているのだ!」
  
  「でも、どうやって集めればいいの?」
  
  「現状では、いくつかの案がある」   

  「どのような案なのですか?」
  
  「一つは金銭」
  
 至極当然の案件、だが当然それなりの金が掛かる。
  
  「路銀を稼いだとしても…少し厳しいでしょうね」
  
  「無理か、ならば腕相撲でもして負かすのが」
  
  「「「それです(なのだ)(だよ)!!!」」」
 
 三人が一斉に立ち上がる。
 周りのお客さんが驚いて見ている。
 腕相撲で負かして連れて行く…少々強引な手段ではあるが有効だろう。
 ただ…
  
  「そういう腕っ節に自信のある連中はおそらく既に行っているだろうな」
  
  「あ、そうだよね」
  
  「それに、勝負するものも居ないでしょうね…」
 
 どんな馬鹿でも相手にしたくありません。
 見た目が筋肉達磨の相手と勝負は……。
  
  「ならば、最後の手段だな」
 
 そう言って、ラオウの最後の案件を伝えた。
 その策しか現実味が無かったので、すぐに実行された。
 因みに残金を確認したりしていると…鈴々がラオウよりも大喰らいであることが判明した。
 尚、ラオウの食べる量は関羽達と同等。
 
  「結局、腕相撲したんですね…しかもこんなに集まるなんて…」
  
  「試しにやってみたら集まっただけだ…流石に驚いたがな」
 
 金銭を出し合って集めた人数…二十人
 ラオウの腕相撲で集めた人数…二百人。
 
  「これだけの兵が居れば認めてはもらえるでしょうね」
  
  「そうだな、俺が集めた偽兵の内、百五十はそのまま兵として付いて来るそうだ」
  
 その八十人は随分と屈強な方々だった、聞くところによると生活が苦しく
 盗賊にでもなろうと思っていたが、ラオウに惨敗しついていく事に決めたそうだ。
 盗賊になっていたら死んでいただろう、運の良かった男たちであった。
  
  「…結局、腕相撲の案件が正解だったのだ」
 
 そして、ラオウ達はそのまま公孫賛のいる居城へと向かう事となった。
 若者などを二百名以上集めたラオウ達は、少々待たされたもののすぐさま
 お目通りする事となった。
  
  「お、桃香ひさしぶr……」
 
 桃香を見た瞬間、再会の言葉を述べる公孫賛だったが、すぐに別の人物に
 目がいき固まってしまった。が、すぐに気を取り直す。
  
  「えっと、どちら様?」
  
  「あ、紹介するね白蓮ちゃん、私の仲間の関雲長と張翼徳…
   それと編芭さんの占いで出てた天の御遣いで
   私たちのご主人様の北斗拳王様」
  
  「天の御遣いというより天の覇者だなまるで…」
 
 その場に居る誰もが頷く、仲間の愛紗や鈴々も頷いているためなんとも
 微妙な空気が流れる。頷かなかったのは桃香ぐらいだ。
  
  「…旧交を温めに来たわけじゃないだろ?本来の用件は何だ?」
  
  「うん、白蓮ちゃんが盗賊討伐に出るって聞いたから
   お手伝いをしにね」
  
  「それは助かる…正直数はまだしも指揮できるものが居なくて
   困っていたところなんだ」
 
 そういっている公孫賛の表情はしっかりと桃香を見ていた。
 なにやら、確認するような視線だ。
 
  「聞くところによると、結構な数を率いているとも聞いたけど?」
  
  「うん!たくさん居るよ兵隊さん!」
  
  「で、実際は何人ぐらいが本当の兵なんだ?」
  
  「え…」
 
 見抜いているといった表情で桃香の顔を見やる公孫賛。
 伊達に太守をやっているわけではないという事が窺えるといった感じだ。
  
  「桃香の考えている事は分かるよ…伊達に太守はやってないさ…
   あまり小細工をして欲しくなかったけどね」
  
  「それは俺が考案した作戦だ、桃香に非は無い公孫賛殿」
  
  「ん…北斗か…桃香が真名を許しているんなら私の事も真名でいいさ
   友の友は友だからね」
  
  「そうか、俺は一応、真名としてラオウがある。
   それでよい」
  
  「そうか…で、実際は何人なんだ?」
 
 あまり居ないんだろうなという表情で聞く白蓮、だがその後にちょっと驚いた。 
 
  「百五十だ」
  
  「七十は要らなかったんじゃないか?…まぁ、
   無いに越した事は無いしね…実際のあんた達の力量は…どうなのか」
  
  「人の事を見抜けと教えられた伯珪殿がその者達の力量を見抜けぬようでは
   話になりませんな」
  
  「そう言われると頭が痛いが…趙雲、お前には分かるのか?」
 
 白蓮の後ろより一人は少女が出てくる、身のこなしからして只者では無さそうだ。
  
  「当然、武を志すものとしてみただけで只者では無いとわかる
   …もっとも一方は桁が違いそうですが」
  
  「へー、星がそう言うんなら、そうなんだろうな…その一人が分かるのが怖いんだが」
  
  「ええ。そうであろう…関羽殿」
  
  「あなたもなかなかの武人であると分かる」
   
  「鈴々もそう思うのだ」
  
  「ふふふ、さてどうかな?」
 
 余裕を感じさせる少女の姿を眺めるラオウ…そのような視線に気が付いたか
 じっと趙雲は見詰め返す。
  
  「天の御遣いとはあなたのことだな?」
  
  「そう呼ばれてはいるな」
  
  「天から遣わされた身にしては仰々しいが…なかなかの闘気を感じる
   なるほど、嘘では無さそうだ」
  
  「おいおい、私の下を去ってラオウの下に行くんじゃないんだろうな…」
 
  「さて、どうでしょう…ふふふ」
 
 話がづれてきそうだったので、ラオウが声をかける。
  
  「で、だ…参加を認めてもらえるのか?」
  
  「あぁ、勿論…桃香の事は知ってるし…あんたは見た目で分かるし
   星が認めているんだ…コッチがお願いしたいくらいだよ…藁にも…
   (藁どころか巨大そうな船だけど)すがりたいところだしね」
  
  「うん♪私達頑張っちゃうよ!」
  
  「関羽殿、張飛殿もよろしく頼むぞ…北斗殿もな」
  
  「ああ、我が力とくとご覧じろ」
  
  「任せるのだ」
  
  「言われるまでも無い」
 
 こうして、公孫賛とともに戦う事になったラオウ達は、
 陣割が決まるまでしばしの休息を過ごした。
 そして、数刻後侍女に呼ばれたラオウ達はすぐさま城門の前に集まった。
 ラオウ達の前には武装した兵士達が所狭しと並んでいた。
 
  「壮観だねぇー」
  
  「全て白蓮の兵士か?」
  
  「そうだ!と言いたいところだけど…残念ながら、半分が義勇兵さ」
  
  「それ程、何とかしようとする者が増えているという事です」
   
  「盗賊達や山賊達が横行しているから皆、何とかしたいって思っているのだ」
  
  「この国の未来はどうなっていくんでしょうね…」
 
 憂いを帯びた目で兵を見やる愛紗。
  
  「民の為、庶民の為…間違った方向に行かせやしないさ…この私がな」
  
 そう呟く趙雲の真剣な瞳…自信もあるのだろうが、確かに言葉以上の
 強いきらめきがあった…そして、その表情を見ていた愛紗が…
 
  「…趙雲殿」
 
 志を同じくする者と出会えた影響か、趙雲に声をかけていたのだ。
  
  「ん?どうされた?関羽殿」
 
  「いや、あなたの志に深く感銘を受けた…我が盟友になっては
   頂けないだろうか」
  
  「鈴々もお姉ちゃんとお友達になりたいのだ」
 
  「ふ…志を同じくするもの人間同士、考える事は一緒という事か」
 
  「??どういう事だ?」
 
  「関羽殿の心の中に私と同じ強き炎を見たのだ…そして志を
   ともにしたいとそう思った」
 
 そう言って、趙雲は愛紗に手を差し出した。
 その手に、愛紗があわせる、鈴々もあわせる。
  
  「我ら、友としてこの乱世を治めよう」
  
  「ああ」
  
  「分かっているのだ」
  
  「あーずるいずるい、わたしもー♪」 
 
 そうして、四人が仲良く談笑していると…
 白蓮がラオウに近づいてきた。
 四人のやり取りはまだ続いている。
  
  「ラオウはやらないのかい?」
  
  「ふ、そのような柄でもない…白蓮は良いのか?
   混ざりたそうな顔をしているぞ」
   
  「そ、そんな柄じゃないさ」
 
  「ほう、では何故こちらを羨ましそうに見ているのかお聞かせ願おうか」
 
  「な!?別に私だって救国の志があるんだから忘れないでって…」
  
 四人がその様子を見てくすくすと笑っている。
 その様子に白蓮は顔を赤くし…そっぽを向いた。
  
 
 
 そして、出陣のとき…ようやく、陣割が決まりラオウ達は左翼に回された。
 それも左翼の部隊全てを…だ。
  
  「随分と信頼されておるな」
  
  「それだけ、期待もされているって事だよ」
  
  「期待には応えてやらねばな」
  
  「応!なのだ」
 
 そんな事を話していると、白蓮の声が響いた。
 軍の先頭に立ち、演説を始めるようだ。
 
  「諸君!いよいよ出陣のときは来た!
   
   今まで幾度となく対峙されながらも逃げおおせ、
   
   再び結成されていく盗賊ども!そのような狼藉者を今日こそ
   
   殲滅してくれようぞ!
   
   公孫の兵士達よ!今こそ巧名の好機ぞ!存分に手柄をたてーーい!」
 
  
  「おおおおお―――――!!!!!」
 
 愛紗達も声を上げた…勿論ラオウも…兵士達の声の大半はラオウにより
 かき消された。そのせいで…白蓮が出陣の号令をあげたものの…あまり通達していなかったらしく
 再び号令をかけることになったのは別の話。
  
 
 
 










 
 
 
 
 
 
 
 嘘予告シリーズその壱:本編とは一切関係無く、単純に思いついたネタを
             書き込んでいっているだけです。
             なので、設定なんてものは投げ捨てています。
             そのことを踏まえて、鑑賞ください。
  



















 時は後漢時代…
 一人の男が荒野に舞い降りた…男の名前は北郷一刀。
 その男は、天の御遣いとしてこの地へと舞い降りたのだ。
 一刀の前に現れたなぞの三人組…その者達は黄巾党の手下達であり、
 一刀の衣服を剥ぎ、命を奪おうとしていた!
  
  「ひゃっはー、服をよこ…」
   
  「そこまでだ!」
 
 窮地に立たされた一刀の前に現れた三人組…それは屈強な男たちだった。
 一刀の窮地を救った三人の男たちは占いを信じ、天の御遣いを探すべくここに集まったの。
 そして、一刀は天の遣いだと知らされ、一刀に仕えるべく、真名を託す!
  
  「北斗三義兄弟長兄・姓は劉備、字は元徳!真名は羅王」
  
  「北斗三義兄弟次兄・姓は関羽、字は雲長!真名は朱鷺」
  
  「北斗三義兄弟末兄・姓は張飛、字は翼徳!真名は拳士郎」
 
 そして、次々と倒される強敵達。
  
  「何だよ、敵はたったの四名だぞぼぁ!」
  
  「う、うわーらばーーー!!!」
  
  「へへへーいい気持ちだ…ちにゃ!」
  
  「せめて痛みを知らず安らかに死ぬがいい…」
  
  「お前達はもう死んでいる!」
  
  「うぬはこの劉備の力を見誤った!」
  
 新たに加わる仲間達
  
  「俺は姓は諸葛、名は亮、字は孔明!真名は邪戯!」
  
  「私は姓は鳳で名は統で字は士元で真名は百合阿と申します」
 
 以下略…(残りは全て恋姫準拠)
 
 
  
  三国志救世主伝説・北郷の刀!
  ~敵勢力逃げてー!超逃げてー!!!演義~
 
  
  「我が生涯に一片の悔い無し!」
  
  「もう、家に帰りたい…」
  
  
 
                    もういい、ここまでだ!



[6264] 第4話:出陣 Bpart
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/10 14:40
 注意:設定オリジナルのキャラが出ます…その点を踏まえて黙読してください
    出来たばかりなんだから候補にぐらい女性が居てもいいじゃない(おい)















  「ふ、あの夜盗どもを含めればこの世界二度目の戦か」
  
  「ラオウ様…天の世界にも戦はあったの?」
  
  「あった…いや、この世界よりも混沌としておった」
 
 進軍中、ラオウと劉備達が語り合う…ラオウの元居た世界を天の世界と
 区別するため呼ぶという事になった…世紀末の世の事を天の世界と呼ぶには
 多大な無理があると思うが。
  
  「核戦争により世界は焼き尽くされ、海は裂け地は枯れほぼ全ての生命が
   死滅してしまい、全ての秩序は崩壊し、強者は欲するものを手に入れ
   弱者はただ奪われる事を待つばかりであった」
 
 劉備達は静かに話を聞く…全員がラオウの後ろに位置しているため、表情は窺う事は出来な

い。
 
  「かつて、俺は神に見放されたその世界を天より与えられたこの拳で救おうと
   暴力の地を恐怖により支配しようとした…愛紗らが言っていた天の覇者は間違いではない」
 
  「何でその話を?」
  
  「一つのけじめだ…此度目指す覇道は、恐怖による支配ではなく
   真の救世主としての覇道だ」
  
  「…何が、貴方を変えたのですか」
 
  「愛と哀だ」
 
 一見すると同じ語を二回繰り返しただけに思えるが
 ラオウの口調から、二つの言葉が察せられたことを理解した桃香達は
 お互いに顔を見合わせて、安心した表情を浮かべる。
 少なくとも、占いで出てきた暴凶星の方は確実に外れらしい。
 
  「全軍停止!これより我が軍は鶴翼の陣を敷く!各員粛々と移動せよ!」
 
 本陣からの命令が命令を伝えながら前線に向けて駆け去っていった。
 どうやら賊軍の根城付近に到達したらしい。
 
  「いよいよですね」
  
  「そうだな、愛紗・鈴々よ兵の指揮は任せる…指揮力を見せてもらうぞ」
  
  「了解なのだ」
  
  「桃香様は後方にラオウ様も…と言いたい所ですが、どうせ言っても聞かないのでしょう」
  
  「当然だ、この俺も前へと出る…俺に後退は無い、あるのは前進勝利のみ!」
  
  「無理はなさらぬように」
 
  「ふ、誰に言っておる…北斗隊の兵士よ!」
 
 ラオウが大声で自身の隊に号令を送ろうとする。
 北斗隊は全てその言葉に耳を傾ける…そのうち百五十名はラオウ達自身が
 連れてきた義勇兵だ。
  
  「敵は組織化されておらぬ雑兵どもだ、気負うな!されど慢心はするな!
   公孫賛殿の下にて戦い、ともに勝利を味わおうでは無いか!」
  
  『『応!』』
  
  「これより、関羽と張飛が戦訓を授ける!!心して聞けぇい!!」
 
 兵士の指揮は一気に高まった、その頃合いを見計らい愛紗に
 戦訓支持を譲る。
  
  「兵士は、三人一組で行動するのだ!一人の敵に
   三人で立ち向かえば必勝なのだ!(例外は隣にいるけど蛇足なのだ)」
  
  「一人は敵と対峙して防御し、一人は横から攻撃!最後の一人は周囲の警戒に当たれ!」
  
  「敵は飢えた獣だと思えぇい!情けをかけるな!情けをかければ
   それはいつしか仇となりて跳ね返ってくるであろう!」
  
  「皆で一生懸命戦って勝って、平和な時代を取り戻すのだ!」
  
  『『おおおお―――!!!!』』
 
 戦闘士気はいよいよ最高潮に達する…もはや、この勝負
公孫賛軍の勝ちは揺るがないだろう…
 ラオウの隊が士気を高めたのが伝播し、中央・右翼も指揮が最高潮となる。
 公孫賛は自分が司令官なのにと心の中で静かに泣いていた。
 
  「総員!戦闘態勢を取れ!!!」
  
 ラオウが号令をかけた後…一人の兵が前線から緊迫した面持ちで走りよってくる。
 
  「盗賊たちが突出してきました!」
  
  「そうか…」
 
 静かな声…それは戦場に一時の静けさを呼ぶ。
 そして…
  
  「北斗隊!この拳王に続けぇい!敵を蹂躙せよ―――!!!!」
  
 一度獣に堕ち、今牙を向いてくる盗賊達にラオウは一切情けを欠ける気は無い。
 そのまま、一気に自身の脚で駆け出した。
 その後を愛紗達も北斗隊の兵も追々する。
 今、ここにラオウがこの世界に降り立って初めての戦争が幕を斬って下ろした!










 
 
 
 
 
  「北斗剛掌波!!!」
  
  「ぐぎゃーー!!!」
  
  「がふぁ!!!」
 
 北斗隊の戦闘はまるで案山子を相手にする訓練のようだった。
 ラオウが闘気を放っての一挙殲滅攻撃に対して敵は散り散りになり、そこを
  
  「てりゃりゃりゃりゃ―――!!!」
  
  「ぎゃあ!」
  
  「はあぁ―――!」
  
  「ぐへぇ!?」
 
 愛紗や鈴々が打ち崩す、その打ち崩れた賊を北斗隊が叩き潰す。
 まさに一方的な戦いとなった…賊どもははじめは、士気こそ高かったが
 剛掌波一撃が飛来して以来、一気に下がり始めていたのだ。
 右翼、左翼を攻めていた盗賊達も我を忘れて我先にと逃げようとして
 倒れこむものが多くなっている。そんな中混戦中であったため、ラオウに一太刀与えた
 盗賊がいた…しかし
 
  「へっへっへ…!?」
 
 盗賊の持っていた剣はラオウの肉体に到達した瞬間ポッキリと折れてしまった。
 ラオウはしばらくその場を動かなかった…賊達が必死になって突きいれ、
 振り下ろしていくが…そのことごとくが砕け散り、折れていく。
  
  「やはり、獣風情ではこの程度か…」
  
  「こ、この男…化け物だ―――!!!」
  
  「に、逃げろ―――」
  
  「逃げられると思うな…北斗剛掌波!!!
 
 そうして、逃げ出す敵の兵を闘気の放出で蹂躙してゆく。
 そして、左翼に向かってきた敵兵は殲滅され、中央の賊の後ろに回りこんだ。
 その形は挟み撃ちの形だ。
 賊は後ろからの攻撃に混乱し、左翼に向かっていた自分達の仲間が
 全て討たれている事にも気が付き大混乱となった。
 当然ながら、その集団ではもはや抵抗する気力など無く…次々と討ち取られていった。
  
  「ひ、ひぃ…た、助けて…」
  
 そして、残る賊はラオウの前で樹によりかかって息を乱している
 一人だけとなった。
 因みに北斗隊の死亡者数は零…当然のことながらラオウが一気に攻撃して
 乱したことで、楽に敵を蹂躙出来たからだ。
 尚、中央と右翼も損害はたいした事はなかった、おまけに挟撃の形になった時、
 敵は混乱していたので、その頃からはまったく死亡者が出なかったのだ。
  
  「ふん!」
 
 ラオウが賊の頭に指を突きたてる…何故か血は出ていない…
 そして引き抜いて、そのまま後にする。
 賊は一目散に逃げた。
  
  「ラオウ!?見逃すのかそいつを!?」
  
  「そうではない…奴はもう死んでいる」
  
  「え?何を言って…」
 
 その間、五秒の時がたった…賊は脚を止め狂い悶えながら体を爆散させ
 絶命した。
 
  「…天の御遣いの力だ」
  
  「天の力なら仕方ないな…いろいろ突っ込みたいけど…」
  
 そうして、この日の戦は呆気なく終わり…損害も少なく…
 完全勝利となった。















 そして、帰城した夜ラオウ達は白蓮と会話をしていた。
  
  「いやー、完全勝利だったね。良かった良かった」
  
  「さすがだね。白蓮ちゃん♪よ、さすが!」
  
  「…8~9割方ほとんどラオウのお陰なんだけどね、
   覇気が違いすぎるよ流石は天の覇王(御遣い)ってところかな」
  
  「…気のせいか、覇王にルビを振ったように聞こえたのだ」
 
 否定の言がなかった。ラオウはもう諦めたらしい。
 そして、趙雲が話の流れを変える。
 
  「しかし、伯珪殿…最近おかしな雰囲気を感じないか?」
  
  「おかしな雰囲気か?いや、特に感じないけど」
  
  「白蓮ちゃん、のんびりしてるねー」
 
  「むむ、確かにのんびりしてるけど桃香に言われるのは無性に腹が立つ」
  
  「えぇ!?私は白蓮ちゃんみたいにのんびりしてないもんね!」
  
  「そう思っているのは桃香だけだろう」
  
  「確かにそうなのだ」
 
  「身内から裏切り者が!?」
 
 きゃいきゃい話し合う中に自然に混ざりこんだラオウ…
 正直、巨漢が中に居るとはんz…奇妙な光景だ。
 と、その様子を微笑みに見ていた愛紗が
  
  「しかし、星の言う事も尤も。最近特に匪賊の活動が活発に
   なっているような気がします」
  
  「お主もそう思うのか…」
 
 愛紗の呟きに対して、趙雲が入り込む。
  
  「あぁ、ここしばらく匪賊は増加の一方だ…その影響で地方では
   すでに飢饉の兆候すら出ている」
  
  「収穫した作物を奪っているから当然飢饉は起きるのだ」
  
  「うむ、それと共に国境付近に五胡の影もちらついているという。
   何かが起こる予兆かも知れぬな」
  
  「いや、起こるだろう」
 
 夜空の星を見ながらラオウがはっきりと口にする。
  
  「ラオウ様?」
  
  「何で分かるんだ?」
  
  「北斗七星が一際輝いておる…何か一波乱ある兆候だ」
  
  「ふむ…確かに一際強く光って見えますな」
 
 北斗七星が一際輝いて見えるとの言…ラオウの言うとおり、この乱が終結した後
 大きな大乱が起こることとなる。
  
  「その乱世でどのように立って行くか…それが重要となる」
  
  「そう…ですね」
 
 そう言い、愛紗は北斗七星を見つめた。他の全員もその星を見つめていた。
 近くを通った侍女がその隅に光る星を見つけた時にはラオウに悔いなく生きろといわれ
 侍女は首を傾げた。 





























 
 深夜…ラオウは静かに荒野へと向かい…立っていた。
  
  「…」
 
 その目は、北斗七星を向き…北極星をも見ている。
 そして……
  
  「そろそろ出てきたらどうだ、先の戦場よりこの俺を見ていたのだろう」
  
  「ばれていたか…」
 
 暗闇から、まるで今現れたかのように一人の仮面をかぶった人物が出てきた。
 武具を持っていないところを見ると、拳法家の類のようだ。
  
  「北斗拳王といったか…貴様その拳を何処で身につけた」
  
  「天の国だ、この俺は天の御遣いだからな」
  
  「嘘をつくな…貴様の先の戦で最期に使った拳…門外不出の暗殺拳…
   北斗神拳の奥義の一つ残悔拳だろう…」
  
  「…うぬも遣い手か、なるほどこの拳は1800年の歴史を持つ
   この時代にも伝承者が居てもおかしくはあるまい…俺に何の用だ」
 
 ちなみに、ラオウはこの時代を少なくとも世紀末の世よりも過去であると
 認識している。
 異世界の線も考えていたが(それはそれで合っているが)、流石にそれは
 ないと思っている、三国志の武将の話は知らない為、桃香が覇王だと
 気が付かなかったのだ…女であったためという理由も大きいが…
  
  「何を言っているのかは知らないが…貴様に頼みがある…俺を雇ってくれ」
 
 淡々と語りだす人物…その眼はしっかりとラオウを見ていた。
 
  「何?」
 
 ラオウはその人物の目をしっかりと見て話を聞いていた。
   
  「北斗神拳は天帝に仕えるという…宗家は既に天帝守護の忍についている
   残る二人はどうか知らないが…おそらく、今世の大陸は天帝は身を潜める
   しかなくなるだろう、すると…新たな天帝に仕える者が必要となる」
  
  「…何故、俺に話す、今の乱世は他にも有力な候補がいるだろう」
  
  「俺は貴様…貴方様に極星を見た」
 
 はっきりと断言する、その人物の眼には一点の曇りも無かった。
 
  「…劉備…劉家…北斗劉家…くくく…はーっはっはっはっは!!!」
 
 ふと桃香の姓を思い出し…北斗神拳の経歴を思い出し笑い出すラオウ。
 かつて北斗神拳は…三国時代の時に三つの分家が分かれたと。
 歴史の書物の出来事だ…まさか、覇王が女だとは思って居なかったのだろう。
 話をしていた人物はその様子を面白く無い様子で見ていたが、
 悪意が感じられないのを察し静かに待っていた。
  
  「よかろう…我が軍に入ることを許そう…だが、
   まずは貴様の顔と拳を見せてみろ」
 
 そうして向かい合い、天帰掌の構えを取るラオウ…。
 その意味合いを察したのか、その人物も仮面を取り…天帰掌の構えを取る。
 
  「我が真名はラオウ…貴様の名を聞いておこう、北斗分家の女よ」
  
  「…姓は劉、字は玄戒、真名は瑞佳」
 
  「瑞佳よ…ゆくぞ…」
 
 二人の交差は一瞬…そして、すぐさま瑞佳は崩れ落ちた。
 だが、秘孔は突かれていない。
 撃たれた衝撃だけだ…
  
  「…っ…豪快なだけでなく…正確さも…やはり勝てないか」
  
  「…貴様は弱いわけではない、少なくともジャギやアミバよりは上だ」
  
  「…そうですか…貴方様はそれよりももっと上なのですね…」 
 
  「立てるか…?」
  
  「大丈夫だ…」
  
  「ならば、桃香達に紹介をしておこう…あやつら相手ならすぐに
   馴染める筈だ」
 
  「…男まさりの俺が馴染めるとは思わん」
  
  「ふ…自覚はあるか…だが、確かめてみればよかろう」
 
 渋々ながらも了承した瑞佳だが…翌日、ラオウに桃香達相手に紹介したところ…
 あっという間に馴染む事になり、服も着せ替えられてすっかり女らしくなったのであった。
 そして、瑞佳は主に劉備の護衛をさせられる事になった。
 すっかりと桃香のイジラレ役として固定されてしまったようだが…それは別の話。

























  
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 NGシーン(BADエンドルートつーかトキ化ルート?)
  
  「本当ですね…その横にひっそりと輝く星ですらも見えますよ」
 
  「ふむ、関羽殿も見えるか…」
  
  「趙雲お姉ちゃんも見えるのか?」
 
  「愛紗ちゃん達も見えるんだーラオウ様は?」
 
 ラオウは手すりに手をかけたまま固まった…白蓮は見ようと必死に目を凝らすが
 見えなかったらしく何故か落胆している。
  
  「…」
  
  「ちくしょう…なんか仲間外れみたいで悔しい…」
  
 そして、一年経たない内に桃香達は戦死してしまい…
 ラオウは…歴史から姿を消し、表舞台へと現れる事は無くなった。
 噂によると…小さな診療所を作り、北斗神拳を医学として使っているという…。
 まるで弟のトキのように…ただし三回に一回は失敗して病人が肉体猛々しくなっていたが…
 白蓮は統一を果たした曹操の下についていた。



[6264] 第5話:幕間1
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/08 13:44

 ラオウは今、歴史と向き合っていた。
 北斗の歴史の中で三つに分かれたという養父の話を思い出し…
 今後の拡大されるであろう勢力について考えていた。
  
  「曹操…孫権…あとは劉備、劉備は味方についているから良いとして…
   この二人か。白蓮の話では曹操は太守…孫権は囚われの身で今は姉が客将として
   袁術に従っている…か」
  
  「ラオウ様」
 
 強力な強敵手になるであろう勢力を吟味しているところに瑞佳が駆け寄ってくる。
 ラオウは纏めた資料を仕舞い、瑞佳に向き直る。
 
  「何の用だ、瑞佳…桃香は一緒ではないのか?」
  
  「今は愛紗殿が護衛について町へ出ている、俺はただラオウ様が
   どうしているのか見に来ただけだ」
  
  「そうか…なら、我らも出るか?桃香に聞きたい事があるのでな」
  
  「構わん…ラオウ様に護衛は必要なさそうだがな、一応着いてゆこう」
 
 そうして、町を出歩く…子供たちは驚いた表情で見、老人には崇められ、
 屈強な若者たちからは大きな挨拶をされた。
  
  「凄い人気だな、天の御遣いの効果は伊達では無いということか」
  
  「人気という意味合いでは無さそうだがな…」
 
 街は穏やかな雰囲気で包まれている。
 子供たちは元気に走り回り、若者たちや熟年の者たちは
 仕事に精を出している。
 
  「ん?ラオウ様、あれは?」
  
  「人だかりか…ほとんど子供となると…」
 
 そう言いながらその群れの中へと向かうラオウ…瑞佳も慌ててラオウの後を追う。
 その中には… 
  
  「やはりか…」
  
  「はうー、押さないでー」
  
  「ラオウ様…それと瑞佳も」
 
 子供たちにもみくちゃにされている桃香とそれを見守る愛紗の姿があった。
 愛紗はラオウに気が付いたようで軽く会釈をする。
 ラオウは目配せでそれに答える。
 因みに…
  
  「こら!誰だこの俺の尻を触った愚か者は!?」
 
 瑞佳は即効で子供たちに揉みくちゃにされた。
 どこか楽しいのは、子供が嫌いでは無いという証拠だろう。
 
  「お姉ちゃん、劉備お姉ちゃんみたいな胸がないよー?何でー?」
  
  「人には違いがあるんだ」

 子供の言う事は残酷である…が、気にしていないようだった。
  
  「桃香様が町へ出るといつもこの調子です。子供に見つかればもう諦めるほか無く…
   この町に住み人々は老若男女、ねずみの一匹に至るまで桃香様を嫌うものはおりません」
  
  「であろうな、桃香の雰囲気では好かれない訳が無かろう」
  
  「桃香様は暇さえあれば、このような治安維持に努められております
   時たま、瑞佳も巻き添えを食らっていますが」
 
  「愛紗ちゃーん」
  
  「こら!抱きつくな!?って手を離すな落ちるだろうお前が!」
 
 どうみても、子供に振り回されて泣いているようにしか見えない。
 瑞佳は子供が落ちないように支えている…一人を抱いて浮かせていたら
 他の子供達も私も僕もと群がって抱きついてきた為、焦っている。
 それでも子供とはいえ十五人を落とさず支えるとは、中々のバランス感覚だ。
 
  「ラオウ様はどのぐらいお持ちになられるのですか」
 
 愛紗が瑞佳の力に驚きつつも、ラオウに尋ねる。 
 
  「ふ、競う方が可笑しかろう…瑞佳より多く持てるとでも言っておこう」
  
  「はぐらかしますか」
 
 などと、談笑していると…
 
  「こ、これ以上は無理だ…いいから来るな…」
 
 十八人を抱えたところで限界に達したらしい。
 腕はがくがくと振るえ、膝はわらっている。
  
  「瑞佳ちゃんすごーい!よくそんなに持てるね―」
  
  「い・い・か・ら・どけ・て・くれ」
  
 倒れそうになっていたので、ラオウが支えて一人一人丁寧に引き剥がす。
 子供たちはBooBooと言っていたが、瑞佳の表情を見て
 全員が謝りだした。
 
  『ごめんなさい、瑞佳お姉ちゃん』
  
  「笑ながら謝るな!?反省しておらんな!おのれ―――!!!」
 
 その表情を見ていたようで、子供を追い回す。
 子供たちはきゃっきゃと笑いながら走り回っている。
 
  「ふ、強引に追い回しに移行か…」
  
  「抑えて走ってるよね…子供は嫌いだって言ってたのに」
 
 桃香は解放されたようで、ラオウ達に歩み寄ってくる。
 その目は瑞佳を優しく見ていた。
  
  「平和だな…」
  
 ラオウはしっかりと町の光景を眼に焼き付けていた。
 かつて、自身が居た世紀末の風景とは違う、緑豊か(ラオウ価値観)で
 町が活気に覆われている風景を…その時…
  
  「泥棒―――!!!」
  
 少し離れた場所で女性の悲痛な声が聞こえる。
 治安が良くてもこういう輩は現れる…いや、治安が良いからこそ
 人々の油断を突いてこのような輩が出るのだろう。
  
  「…うつけ者が出たか」
  
  「そのようだ、まったく…人がせっかく楽しませていたところに出てきおって」
  
  「やっぱり瑞佳ちゃん子供たちと遊んでたんだね」
  
  「…今はそれどころでは無いだろう桃香様」
  
  「はいはい♪」
 
 後で絶対にからかうつもりだ、ラオウと愛紗はこの時
 見事に心の中で意見が一致した。
 そんな時、泥棒が瑞佳に激突する。
  
  「ってぇ、テメー邪魔だ!どきやがれ!!!」
  
  「コイツが泥棒か…いかにもって顔だな」
  
  「テメー、俺より顔が良いからって舐めた口聞いてんじゃねーぞコラ」
 
 泥棒が挑発するような口調で瑞佳に詰め寄る。

  「貴様と俺とでは顔が違うのは当たり前だろう」
  
  「この野郎…女顔男の癖に、生意気だぞコラ」
 
  「何を勘違いしているのかは知らんが俺は女だ」
 
 町の女性が一気に瑞佳の胸に哀れみの視線を浴びせた。
 泥棒の男はそれでも信じられないと…瑞佳のことを挑発し続ける
  
  「は!その胸で女ー?まだ俺の方が胸囲があるじゃねーか」
 
 典型的な死亡フラグの台詞です…どうもありがとう御座いました。
 それはさておき、瑞佳は特に怒る事もせず…
 
  「そんな脂肪の塊が何になる、戦闘の邪魔なだけだろう」
 
 因みに本気で言っています。
  
  「呆れを通り越して溜息も出ぬ」
  
  「ラオウ様…本当に助けないで大丈夫なのですか?」
  
  「平気だ…力量で言えば愛紗に匹敵する実力がある」
 
 そうしている間に、泥棒男は秘孔を突かれるまでも無く
 顔面に対する平手打ちでダウンした。
 憲兵はしっかりと連行して行った…。
 
  「瑞佳ちゃん」
  
  「何だ、桃香様」
 
 因みに桃香は瑞佳に敬語を遣うなといってある。
 …ただ様付けだけは愛紗に言われて継続しているが
  
  「あそこは怒らなくちゃダメだよ!」

  「いや、意味が分からんのだが」
  
  「どうやら、女の子としての自覚が足りないみたいね…
   帰ったらしっかりと教えてあげるから♪」
 
 そう言って笑う桃香の後ろには悪魔の化身(デビルリバース)が立っていた。
 今の桃香ならきっと羅漢仁王拳を使えるだろう。
 愛紗は半笑いになりながら、そのやり取りを見ていた。
 その後、再び子供たちが集まってきてラオウ達を含めた全員で鬼ごっこをする事になった。
 最初の鬼は勿論ラオウである。
 ラオウがしっかりと十数える間…子供たちは広場の限られた範囲を走り回っていった。
 桃香も一緒になって走り回っている。
 瑞佳と愛紗も渋々一緒になっているが…その表情は楽しそうだ。
  
  「あははは、楽しいねぇ♪愛紗ちゃん、瑞佳ちゃん」
  
  「そうですね…偶にもこういうのも悪くはありません」
  
  「そうだな、正直ラオウ様が参加するとは思わなかったが」
  
  「そうだね、私も思わなかったよ、でも楽しければ良いんじゃない?」
  
  「そうだな、偶には悪くは無い、次は桃香が鬼だ」
 
 愛紗達と走りあいながら話していた桃香の後ろから猛スピードでラオウが出現し、
 桃香の肩に触れた。
  
  「ひゃい!?もう交代!!!?」
 
  「さて、敵からの逃走は趣味では無いが逃げさせてもらう」
 
 そう言って…超足で走り去った。
 それにしてもラオウ乗り気である…どんな勝負事にも手は抜かぬらしい。
 桃香は暫く唖然としていたが、ようやく気を取り直し…
 鬼として追い回した。
 が、結局疲れて夕方になるまで誰一人として交代することは無かった。
  
  「みんな酷い―――!!!?」


























NGその1

 後で絶対にからかうつもりだ、ラオウと愛紗はこの時
 見事に心の中で意見が一致した。
 そんな時、泥棒が瑞佳に激突する。
  
  「ってぇ、テメー邪魔だ!どきやがれ!!!」
  
  「コイツが泥棒か…いかにもって顔だな」
  
  「テメー、俺より顔が良いからって舐めた口聞いてんじゃねーぞコラ」
 
 泥棒が挑発するような口調で瑞佳に詰め寄る。

  「貴様と俺とでは顔が違うのは当たり前だろう」
  
  「この野郎…女顔男の癖に、生意気だぞコラ」
 
 空気が一瞬凍った…ラオウは助太刀するまでも無いと桃香達を抑えている。
 愛紗は最初は助太刀しようと進言していたが…凍った空気を悟って
 大人しくなった。
 
  「おい、貴様俺の性別を言ってみろ!」
  
  「あぁ?男だろ?その胸はよう、女装男」
 
 男の秘孔を、寸分違わなく打ち込む。
 今の速さならラオウに圧敗はしないだろう…それでも負けるが…
  
  「なんだ…体が動かねえ…」
  
  「もう一度だけ機会をやろう…俺の性別は何だ?」
 
 心臓の弱いものが見たら、一瞬にして命を奪うような形相で男を睨む瑞佳。
 …愛紗達と出会って以来、自身に女としての自覚をしたばかりで安定して無いため
 馬鹿にされるのが分かると一気に沸点に到達するのだ。
  
  「お…女です、あなたは女で御座います…だから助けて……」
  
  「俺は嘘が嫌いなんだ…あたたたたたたたたたたたたたたたたったたたたたたた!!!!!」
 
 そう言って、男をタコ殴りにする。
 普通ラオウは止めるだろうが…秘孔を突いてない事が分かっているため
 止めなかった。
 ラオウ以外の見物人は泥棒の冥福を祈った…

    :普通こうなるよなー





NGその2
 
 その後、再び子供たちが集まってきてラオウ達を含めた全員で鬼ごっこをする事になった。
 最初の鬼は勿論ラオウである。
 ラオウがしっかりと十数える間…子供たちは広場の限られた範囲を走り回っていった。
 桃香も一緒になって走り回っている。
 瑞佳と愛紗も渋々一緒になっているが…その表情は楽しそうだ。
  
  「あははは、楽しいねぇ♪愛紗ちゃん、瑞佳ちゃん」
  
  「そうですね…偶にもこういうのも悪くはありません」
  
  「そうだな、正直ラオウ様が参加するとは思わなかったが」
  
  「そうだね、私も思わなかったよ、でも楽しければ良いんじゃない?」
  
  「そうだな、偶には悪くは無い、次は桃香が鬼だ」
 
 愛紗達と走りあいながら話していた桃香の後ろから猛スピードでラオウが出現し、
 桃香の肩に触れた。
  
  「ひゃい!?もう交代!!!?」
 
  「俺は逃げもせぬ!見事このラオウに当てて見せよ」
 
 そう言いながら、桃香が手を触れようとした時に無想転生で回避し続け…
 大人気ない事をしていた。
 その後…その行為を見ていた瑞佳が北斗宗家に対し無想転生の事を伝え
 大人気ない究極奥義として伝わっていった。
 理由が悲しいとして後に伝わり曲解されて無想転生は深い哀しみを背負った時に
 習得できるとされた。
      
     :こんな無想転生だったら
      未来のケンシロウとラオウが知ったら泣くだろうなー…
      つか、鬼ごっこに究極奥義使うな



[6264] 第6話:名軍師加入!
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/10 14:41
 補足:どうでもいいけど一尺の長さは 一メートルの三十三分の十 です。
 

 圧倒的大勝利で賊を殲滅させたラオウ達は部屋の一室を与えられ
 請われるままに白蓮の下についていた。
 その間も賊討伐の日々は続き、最近では愛紗、鈴々そしてラオウの名を知らぬ
 者はほとんどいない状態となった。
 だが…ラオウにはとんでもない噂が付いていた。
 曰く、身の丈五十尺の筋肉巨漢のだとか…
 指先一つで人を葬る事が出来るとか…片手で何十人もの人間を殲滅できるとか…
 ラオウ本人はこの噂を知らないが…愛紗達はむしろ後の二つは出来そうで怖いと
 話の中で言っていた、実際に可能だが。
 
  「官軍が全滅したそうだな」
  
  「あぁ、そのお陰で私たちのような太守にもトバッチリが来たよ
   黄巾党の連中も迷惑なものだよ」
 
 そんなある日、侍女(見て無い人)に呼ばれ、白蓮のいる間へと集まっていた。
 その途中ラオウは偶然、一人の侍女(見た人)の会話を聞いてしまい
 心の中で冥福を祈った。
 ちなみにその内容は………
  
  「わたし、この動乱が終わったら田舎でのんびりと過ごすんだ…」
 
 さすが死兆星怖い、超怖い…もう、この侍女死にたいとしか思えない。
 その事をラオウはしっかりと胸に刻み込んだ。
 誰が忘れたとしても自身だけは覚えていようと…
 さて、話がずれてしまったが、漢王朝から命令伝達され、
 黄巾党を党滅せよとの命令が下っていた。
 そして…
  
  「岐路か…」
  
  「あぁ、そうだ。私はまだまだのし上がるつもりだ。
   でも…ラオウ達を付き合わせるわけにはいかないだろう?
   この乱を上手く使えば独立し、尚且つそれなりの地位を手に入れれるだろう?」
  
  「ふむ…」
 
 白蓮の言う事はもっとも…ラオウは別の可能性を思案していたが、それは無いとふんだ。
 別の可能性とは、太守より強い奴がいつまでも下にいちゃ面白く無いと言う事だ。
 だが、白蓮は完全にこちらを思っての事だろう。
 本当に人が良すぎる太守だ…いつしか大きな勢力となり、白蓮が困った時には
 力を貸そうと決意したラオウであった。

  「今まで世話になった…が、一つだけ頼みたい事がある」
  
  「…予想は付くけど何だ?」
  
  「手勢を集める事を許可してもらいたい」
  
 やっぱりか、と白蓮は呟く。
 確かに、いくらラオウや愛紗達が強いといっても人間…
 数万単位もの軍勢を相手に生き残れる保証など無い、体力は無限ではないのだ。
 
  「うーん、許可したいのは山々なんだけど…私だって集めるつもりなんだ…そういうのは」
  
  「伯珪殿、今こそ器量の見せ所ですぞ?」
 
 白蓮が迷っている時、趙雲が声をかけてきた。
 その言葉に白蓮は少し怯む。
  
  「それに、伯珪殿の兵は皆勇猛ではありませんか?
   このさい、友人の門出に数千の義勇兵ぐらい贈ってやればいいのです」
  
  「普通、そんなに集まる訳が無いが…ラオウ様の知名度を考えれば
   納得してしまうのが恐ろしいな」
 
  「…六千ぐらい取られるのは覚悟するか…星…桃香たちに兵具や糧を用意しておけ」
  
  「承知」
 
 そんなやり取りがあった直後
  
  「趙雲よ…」
  
  「何ですかな、北斗様…星で構いませんよ」
  
  「ならば星よ…
   もし、白蓮のところを離れる事があれば我が軍に合流すると言う
   選択肢を考えておいてくれ…強制は出来ぬからな」
  
  「…それもいいかもしれませぬな、一つの選択肢として心に留めておきましょう」
 
 そして星は倉庫へ向かい、ラオウは町へと赴き、義勇兵集めに専念した。
 数週間後……
 そこには予想が少し外れたのか引きつった顔を何とか堪える白蓮と
 嫌な笑いを白蓮に向けている趙雲。
 そして……
  
  「壮観なのだ…」
  
  「まさか、ここまで集まるとは…いやはや、ラオウ様の覇気は恐ろしいですな」
  
 集まった兵士は約九千…本当は三万近く集まったのだが、
 いくらなんでも多すぎるので減らしたのだ。
 町や村だけでなく…近隣の地方からも集まってきたらしい。
 それは引きつるのも無理は無い数だ…兵糧なども用意できたから良いものの
 これ以上連れて歩くには無理なところだったのだ。
  
  「ふ、これだけ取られれば普通激怒するものを…」
  
  「人が良すぎる…付け入れられなければ良いが…」
 
 ラオウと瑞佳が会話する…そして、愛紗達が兵の確認が終わって向かってくるのを見ると
 すぐに今後の行動を極めようと話し合う。
 
  「しかし、これからどうしましょうか…」
  
  「コウキントーを見つけ出して片っ端からやっつけるのだ!」
  
  「その心意気は買うが、それは漠然としすぎるぞ鈴々」
 
 鈴々の気合のある提案に瑞佳がピシャリと言い放つ。
 確かに基本方針ではあるが…これからの行動方針ではない。
 
  「それにその方法では兵糧がすぐに尽きてしまうぞ」
  
  「じゃあ、愛紗は何か案があるのか?」
  
  「それは…耳が痛いが…」
  
  「どうすればいいんだろうねー」
 
 と、考えていると…
  
  「しゅ、しゅみましぇん…あう、噛んじゃった」
  
  「?何処だ…」
 
 愛紗達はきょろきょろと辺りを見回す。
 ラオウは下を見た…そこには鈴々と同じぐらいの背の少女が二人居た。
 鈴々は当然、気が付いている…ラオウに対しては普通の表情をしていたが…
 愛紗達相手にはむすっとした表情で見ている。
 
  「はわわ!こっちですこっちですよ―――!」
  
  「何処だろう…」
  
  「声はすれども姿は見えず…霊の類か!?」
  
  「皆酷いのだ!ちびだからって馬鹿にするななのだ!」
  
  「…下だ」
 
 ラオウが溜息混じりに指示をする。
 すると、全員が一斉に下を向き、驚愕する。
 因みに打ち合わせはしておりません。
  
  「こ、こんにゅちゅわ!」
  
  「ち、ちわです―…」
 
 一人の少女は可愛らしい帽子をしている。
 もう一人は物語に出てくる魔女のような帽子をしていた。
 
  「こんにちわ…どちら様で?」
 
 瑞佳が尋ねる…すると、二人が元気よく
  
  「わ、私はしょしょかちゅ孔明でしゅ!」
  
  「わたわたしはほほほーとうでしぃう!」
  
 噛んだ。
  
  「二人ともカミカミなのだ!」
  
  「ふむ、諸葛孔明と鳳統か、その二人が何の用だ」
 
  「「「わかるの(ですか)!?」」」
 
 鈴々が苦笑いしていると、瑞佳が通訳していく…
 ラオウは特に反応しなかったが、桃香・愛紗・鈴々の三人は
 一気に突っ込んだ!
  
  「うぬらのような幼子が何故ここへ来た」
  
  「あ、あのですね私たちは荊州にある編芭塾って言う編芭先生と言う方が
   開いている私塾で学んでいたんですけどでも今この大陸を包み込んでいる
   危機的な状況を見るに見かねてそれで
   力の無い達が悲しむのを我慢できなくて私たちが学んだ事を活かすべきだって考えて
   でも自分達だけの力じゃ何も出来ないから誰かに協力してもらわなくちゃいけなくて
   それでそれで誰に協力してもらえば良いんだろうって考えた時に
   天の御遣いが義勇兵を募集してるって噂を聞いた…はう…」
 
 そこまで言って倒れこんでいく、その背を支える鳳統。
  
  「まずは、深呼吸せよ…話はそれからだ」
  
  「はあ、はぁ…」
  
  「そ、それでいろいろと話を聞くうちに、天の御遣い様の考えが
   私たちの考えと一緒だと分かって、協力してもらうなら
   この人だと思って…」
  
  「だから、私たちも戦列に加えてください!」
  
  「お願いします!」
  
 そう言って、少女とは思えないほどのキリリとした眼光をラオウに送る孔明達。
 
  「編芭さん…塾もやってたんだ」
  
  「謎なのだ、編芭」
  
  「…戦列に加えるには幼すぎる」
  
  「しかし愛紗、それを言えば鈴々とてそうだろう」
  
  「鈴々の武は一騎当千。歳は若くとも十分に戦力になります。
   しかし…二人は見たところ可憐過ぎるかと…」
 
 愛紗がじっと孔明たちを見やる。
 そのとき、桃香が助け舟を出す。
  
  「何も戦うだけが将の役目じゃないよ!
   そんな事を言っちゃったら私なんて全然役立たずだよう…
   あう、自分で言ってて悲しくなってきた」
 
 そう言って、地面にのの字を書いていく。
 
  「そうだ…何も武力だけが脳では無い…相手との力量差があるときには
   策を講じる事も重要となる…ラオウ様は不要だろうがな」
 
  「そうでも無い…この俺とて、策に敗れる事はある」
 
 覇道の途中、一度ユダの策に破れ拳王府を落とされた事がある。
 その後すぐに奪還したものの、姑息な策には弱い…拳王自身の敗北は無かったが。
  
  「おれは北斗拳王、真名はラオウ…うぬらの名は」
  
  「あ、はい姓は諸葛、名は亮、字は孔明…真名は朱里と言います
   朱里と呼んでください」
  
  「姓は鳳、名は統…字は士元で、真名は雛里っていいます!
   あの、よろしくお願いします」
  
  「朱里、雛里…うぬらの手腕、発揮できる時に頼らせてもらおう」
  
  「朱里に雛里か…こちらこそ頼むぞ、俺は劉玄戒…真名は瑞佳だ」
 
 そう言って、瑞佳が手を差し出す…朱里と雛里はその手を取る。 
 
  「えへへ、真名で呼んでもらいましたよ朱里ちゃん」
  
  「良かったね雛里ちゃん」
  
  「早速だが、うぬらの意見を聞かせてもらおう」
 
 ほのぼのと話す二人にラオウが意見を求める。
  
  「新参者の私たちが意見を言ってもいいんでしょうか?」
  
  「当然だ…今よりもう仲間だろう、何よりも今は行動方針が
   決まっておらぬ、意見は多くあったほうが良い」
  
  「わかりました…私たちの勢力は、他の黄巾党征伐に乗り出している
   諸侯に比べると数と義勇兵の質は弱小でしかありません
   ですので、今は黄巾党の中でも小さな勢力を相手にしていき
   勝利を重ね、名を高めるのが重要かと思われます」
 
 そこまで言って、一息をつく…先ほどのような失態は繰り返さないつもりだろう。
 そして、その間に愛紗が尋ねる。
  
  「敵を選べと言うのか?」
  
  「あぅ…そういうことですけど…えっと」
 
 言葉をつなごうとして戸惑う朱里。
 そういえばラオウと瑞佳以外は自己紹介をしていなかった。
 
  「この者は関羽、字は雲長という」
  
  「私は劉備元徳って言うんだよ、真名は桃香…これからは桃香って呼んでね♪」
  
  「鈴々は張飛って言って、鈴々は真名なのだ、呼びたければ呼んでいいぞー」
  
  「みなが真名を許すのであれば、私も許さなくては…
   先ほどラオウ様から紹介されたとおり、名は関羽、真名は愛紗だ」
  
 ラオウが紹介すると、桃香と鈴々が元気よく挨拶をする。
 すると、愛紗が全員が真名を託すならと自身の真名も明かす。
  
  「は、はい。よろしくお願いします」
 
 頭を下げる愛紗に続いて、朱里、雛里も同様に頭を下げる。
 
  「さて、互いの紹介も済んだところで…愛紗よ、俺は
   朱里の意見がもっともだと思うぞ」
  
  「瑞佳もか…しかし、いささか卑怯ではないか?」
  
  「愛紗の誇りもよくわかる…だが、今の我が兵力はあがいたところで
   弱小に過ぎぬ、ならば朱里の言うとおり名を高め義勇兵を募るしかなかろう
   一騎当千の愛紗や一気当軍のラオウ様とて単体ではかなり
   きついだろうからな。だが…」
  
  「ただ…問題は兵糧だ」
 
 愛紗の言に対して、同意しつつも瑞佳が意見を言う。
 確かに、兵が集まろうとも糧を提供できなくては、見限る兵が続出するだろう。
 
  「お腹が減るのは気合でどうにかなるわけでも無いからな―…」
  
  「「俺はそうでもない」」
 
  「「「「「え!!!?」」」」」
 
 北斗神拳には空腹を抑える術がある…ケンシロウが旅を続けていたのは
 これが一番大きな理由かもしれない…無論、水は必要だが…
  
  「コホン…とにかく、可能な者が少ない以上…集める手段は」
  
  「……は!?名を高めつつ、付近の村や町に住む富豪たちに寄付を募るか…」
  
  「敵の補給物資を奪獲するしか、今のところ解決方法は無いと思います」
 
  「うーん、だったら弱い敵部隊を狙って倒していったほうがお得だね…」
  
  「ならば、基本方針は弱小部隊を潰していく…基本方針はそれで決まりだな」
 
 基本方針が決まったところで、白蓮、星に別れを告げ…全部隊を動かしていく…
 新たな仲間をえたラオウ…その男が目指す先には、一体何が待ち受けているのか…
 それは天のみぞ知る!




























一発NG

  「こんにちわ…どちら様で?」
 
 瑞佳が尋ねる…すると、二人が元気よく
  
  「私は諸葛孔明、真名は由舵!」
  
  「私は鳳統!真名は李白」
  
  「帰れ」
 
 ラオウはすぐさまその言葉を投げかけた。
  
    :節穴はまだしも…裏切りは…(苦)



[6264] 第7話:獣死すべし…軍師の実力考査
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/10 08:36
 果てしない荒野を進軍しながら、各方面に細作を放ち、黄巾党の動向を探る。
 雛里、朱里がその作業を実行している。
 ラオウはただ、報告を待つのみ…その不動の姿勢は…兵達に頼もしさを伝えていた。
 すると…
 
  「申し上げます!」
 
 前方から一人の兵士が走りよってきて、ラオウの前で報告を開始する。
 
  「ここより前方、五里のところに黄巾党と思しき集団が陣を立てております
   その数、二万!」
  
  「二万か…多いな」
  
 ラオウの軍の兵士は九千…苦戦は必至だろう。
 かといえ、引いてしまえば黄巾党討伐の名目で集まった
 義勇兵が見限っていくだろう…無論、ラオウは敗北は無いと見通している。
 だが、悪戯に兵を消耗するのはやぶさかではない…
 葛藤していると…
  
  「あ、あの…」
 
 朱里の背中に隠れるようにしていた雛里が、躊躇いがちに
 ラオウの鎧から出てる布を引く…
  
  「どうした、雛里」
 
 ラオウの声にビクリと体を震わせる雛里だが…しっかりと言葉を紡ぐ。
  
  「大丈夫です、絶対勝てますから」
  
  「それは俺も分かっておる…問題は兵の損傷をどう少なくしていくかだ」
  
  「だけど…え、えと私達がいますから」
  
  「ん?どういう意味だ?」
 
  「あう…」
 
 愛紗の声にビクリと体を震わせた雛里がヨロヨロとラオウの背に隠れる。
 
  「愛紗、ダメだろう…怖がらせてしまっては」
 
 その様子に溜息をつきつつ、瑞佳が言葉を吐く。
  
  「えぇ!?私は怖がらせてなどいないぞ!?普通に聞いただけではないか!?」
 
  「へぅ…」
  
  「よしよし、大丈夫だ…怒っているわけではないからな」
 
 瑞佳がラオウの背に隠れた雛里を頭を撫でながら慰めていると…
  
  「むぅ…私は口調がそれほどまでにキツイのだろうか…
   ラオウ様より怖くは無いはずなのに…」
  
  「ラオウ様は見た目があるから覚悟できるけど、愛紗ちゃんは
   覚悟できるような見た目じゃないし、でもでも
   愛紗ちゃんの場合真面目すぎるだけだから」
 
 桃香がフォローを入れる…要約すると、覚悟できないものから
 怖い口調が来ると我慢できないと言う事だろう。
  
  「桃香様…支離滅裂な上にそれは助け舟になっておられません」
  
 愛紗ががっくりと肩を落として落ち込んだ。
 
  「と、とにかくですね、こういう時にこそ私と雛里ちゃんが
   役に立つと思うんです…本来ならば敵よりも多く兵を用意するというのが
   用兵の正道ですけど、それが無理な以上…策あるのみです。
   だからこそ、私達が勉強してきた事が役に立つかと」
 
  「勉強してきたって…朱里達は何を勉強してきたのだ?」
  
  「えと、孫子、呉子、六韜、三略、司馬法…それに
   九章算術、呂氏春秋、山海経…あとはいくつかの
   経済書と民政書を勉強しました」
  
  「何!?まさかそれを全て学んだと言うのか!?」
 
 朱里達の言に愛紗達も驚いたが、一番驚いていたのは瑞佳だった。
  
  「それほどまでに凄いのですか?孫子の兵法書は読んだ
   記憶がありますが、その他の書物の知識が無いのだが…」
  
  「孫子、呉子、六韜、三略、司馬法は兵法書、残りは
   算術農政地理書経済学民治学の書物だ」
 
  「ほへぇー、朱里たちは完璧超人なのだ」
  
  「えへへ…編芭先生には敵いませんけどね…医学にも精通していましたし」
  
  「結局何者なんだ、編芭は」
 
 ラオウはこの地点で編芭の正体に見当をつけていたが、特に気にする事無く
 朱里に策を聞く。
  
  「では、この数をひっくり返す策とやらを聞こう」
  
  「はい、斥候さんが言うには敵は五里先にいるとの事でその場所は
   兵法で言う衢地となっています」
  
  「くちってなんなのだ?」
  
  「衢地とは各方面に伸びた道が収束する場所の事を言うんです」
  
  「つまるところ、交通の要衝といったところか」
  
 その方面に兵や物資を配置していれば各方面にいる部隊に素早く
 補給物資を送ることが出来る。
 しかし、そのような重要な場所に二万は少しばかり少ない気もするが…
  
  「二万は少ないですから、それだけで敵は雑兵だと分かります。
   それにこちらには、愛紗さん、鈴々ちゃん、瑞佳さんの一騎当千の将。
   そして、一騎当軍のラオウ様がおられる上に士気の高さは上々…
   これだけあれば策があるだけで被害を少なくして勝つことが出来ます」
 
  「そして、敵の守っている地はこの辺り一体の要ともいえる場所です
   これを打ち崩す事が出来れば、私たちの名は高まります。
   千載一遇の好機かと」
  
  「敵はこちらよりも多いから油断も生じる…か、なるほど付け目だな」
  
  「瑞佳さんの言うとおりです」
 
 その意見にどうやら、全員が策に乗る気となったようだ。
 ラオウは改めて、小さな軍師に策を聞く。
  
  「して、策とは」
  
  「そうですね…まずは敵を陣地から引っ張り出す事が先決です」
  
  「その後に野戦に持ち込む事…ただし、平野で戦ってはいけません」
  
  「数で負けているなら、負けない状況を作ればいいんです」
  
 数で負けている場合には、平地で戦うのは不利…確かに包囲されてしまえば
 圧倒的不利になってしまうからだ。
 兵の士気が落ちてしまい、敵の士気は上がってしまう結果となる。
  
  「道が狭くなっている場所…北東より二里先の谷か?」
 
 道が狭い場所での戦闘について思いついたのだろう…瑞佳が記憶にある地図を頼りに
 その候補地を導き出す。
  
  「はわわ!先に言われてしまいました、川が干上がって出来た谷なんですが…
   瑞佳さんも地図を見た事があるのですか?」
  
  「ん?まぁ、それなりにな…それより、朱里達も知っていると言う事か」
  
  「はい、そういう事です」
  
  「で、でも地図にはそんな場所なんて無いよ?」
 
 そうして、桃香が地図を広げる。
 確かに地図にはそのような地が無いが…
  
  「その地図は市販のものですよね…?」
  
  「う、うんお店に売ってたものだけど?」
  
  「なら、正確な地図ではないですね」
  
  「そうなのかー?」
  
  「…なら、この地図って…偽物?」
  
  「そういうわけではないと言うことだろう…市販のものは商人達がよく使う
   道や山を記してあって、よく通る道を書いておけば地図としての役割は果たす」
 
 瑞佳が桃香の言に答える…確かに、使う道だけを記していれば、地図としては売れるだろう。
 ならば、偽者では無いといえる…戦略上役に立たないが。
 
  「正確な地図は漢王朝や官軍しかもっていないはずです。力をつけてきた諸侯も
   独自に作っているのですが……公孫賛さんはそこまで気が回っていなかったのかも…」
 
  「うーん…白蓮ちゃんは時々そういうオオポカをやらかしちゃうからねー…」
  
  「桃香が言うな」
 
 桃香の呟きに対してラオウが突っ込む、真面目な顔で突っ込まれてしまっては
 びびるだけだろう…案の定、桃香はうぐ、と言葉を詰まらせる。
  
  「幸いですね、私たちは編芭先生のツテで正確な地図を見ることが出来ました。
   だから、おおよその地理は覚えていますが…瑞佳さんは何処で知ったんですか?」
  
  「王朝の関係者の我が師が偶々持っていたのを見ただけだ」
 
 もと官軍サイドにいた為見ただけである。
 そうですかと、朱里は納得していた。
  
  「覚えてるって…もしかして大陸全部の地図を丸暗記してるって
   事なのか?」
  
  「(コクリ)」
 
 そのことに対して愛紗達が驚きの声を上げる…瑞佳も驚いていた。
 一方で、ラオウは感心していた。
 簡単に言ってしまえば、朱里たちは歩く地図である。
 感心期間もつかの間、ラオウはすぐさま問いかける。
  
  「ならば、その狭間に敵をおびき出すとして…どのように誘い出すつもりだ?」
  
  「簡単です。一度敵に姿を見せて後は逃げるだけです」
 
 何処かの聖帝が聞いたら帝王に逃走は無いのだ!といいながらその作戦を
 拒否しそうである。
 ラオウも本来なら後退は無いのだが…それは一対一の戦いの時だけと自分に言い聞かせた。
 今は、九千もの命を預かる身…無謀な策はするべきではない。
  
  「敵に追尾させるという事か…」
  
  「そういうことです…私たちの軍は正規軍には見えませんし、有効かと」
 
 数で劣り、弱そうな身なりできた相手を見れば…敵は舐めきって向かってくるだろう。
 となれば、あまり強そうな印象を与えすぎてもいけないということだろう。
  
  「元々、明確な意思があるのは一部の者達だけで、あとは
   食い詰めた農民達が欲望のままに動いている…これが黄巾党の正体ですから」
  
  「殺しつくし、奪いつくし、焼き尽くす…か、獣さえそこまでせぬだろう…」
 
 世紀末では日常茶飯事の出来事だったが、ラオウは語らない。

  「だからこそ!だよ、私達がコテンパンにやっつけないといけないの!」
 
 強い光を宿した桃香は、拳を握り締め強く言い切る。
 その瞳が、その声が…仲間たちの火を強く燃え上がらせる。
  
  「作戦は決まったな…あとは実行あるのみ!」
  
  『御意!』
  
  「愛紗・鈴々は前衛を率い、状況に応じ反転!狭間を目指す。
   瑞佳は後衛、反転し移動する部隊を守れ!」
   
  「お任せください」
  
  「了解なのだ!」
  
  「ふ、任せろ」
 
 指示を受けた三人がそれぞれ返事をする…鈴々はどこか嬉しそうだ。
 これが別の人物が大将であった場合は後ろに回されるところだろう。
 
  「朱里は瑞佳の補佐を命じる!」
  
  「はい!」
  
  「ラオウ様ー、私はー?」
 
 気の抜けたような声で桃香が尋ねる…せっかくのラオウの指示が台無しになるような
 声だった…先ほどまでの火をつけた人物と同じとは同じとは思えない。
  
  「桃香は当然本陣だ、雛里と共に状況に即時対応できるようにしておけ」
  
  「ラオウ様は先陣?」
  
  「いや、今回は本陣に居させてもらおう…俺がいては敵は出て来ないだろうからな」
 
 全員が納得したように頷く…幾ら敵が馬鹿でも化け物じみた強さの
 男がいれば先陣すら出てこなくなり篭る事になるだろう。
  
  「愛紗、鈴々、任せるぞ…見事敵を全て引き出してくるがいい」
  
  「お任せを…」
  
  「任せるのだ!」
 
 そうして、全員が気を引き締めたところで…
 
  「それじゃ、みんな敵さん目指して微速前進♪」
 
 気の抜けた声で部隊のあちこちで笑いが巻き起こった。
 ラオウは溜息をつくが、兵がリラックスでき全力を出せるだろうと
 前向きに考え、自身の緊張を高めていく事にした。
 
 
 
 
 
 荒野を吹き抜ける風をなびかせ、威風堂々とした足取りで
 敵陣目指して進軍していく。
 そのとき、斥候が勢いよく駆け寄ってきた。
 
  「前方、黄巾党に動きあり!」
  
  「うむ…愛紗!鈴々!瑞佳!」
  
  「御意!みなの者、戦闘態勢を取れ!作戦は先ほど通達したとおりだ!」
  
  「初撃をいなしてから、隙を見て転進!この場から後退するのだ!」
  
  「ここより二里先に狭間がある!そこに到達するまでは極力戦闘を避けて移動する!
   各々我らの指示を聞き逃すな!」
  
  『応!』
   
  「敵陣開門!来ます!」
  
  「北斗の兵士達よ!ゆくぞ!!」
 
  「勇敢なる戦士達よ!我に続け―――!!!」
 
 そう言って、愛紗と鈴々率いる部隊が敵に向かって進撃して行った。
 その動きに呼応するかのように土煙が天高く舞う…
 そして…両軍が激突した。
  
  
  「死にやがれ!」
  「コッチの台詞だこの野郎!」
  「俺のこの鉾捌きは誰にも負けた事無いんだよ―!」
  「俺が最初の男になってやろうか―!」
  「うほ…いい男」
  「やらないか」
  「テメーらの血は何色だ―――!!!」
  「ひゃっはー!」
 
 あちこちで上がる罵りあいと鋭い剣戟の音。
 悲鳴、怒号、叫びが絡まりあい…肉体や金属のぶつかり合う音が
 あいまって、戦場の雰囲気は巨大な音となり…
 本陣にまで届く。
 断末魔の叫びが起こるたびに、何処かで誰かの血が地へと撒き散らされる。
 目の前で繰り広げられる殺し合い…
 盗賊討伐の時とは違い、ラオウが先陣に立っていないため…
 自身の勢力のいくつかが命を落としていく。
 ラオウはひたすら…部隊の反転時期を見極めようと目を逸らさず
 目の前の光景を焼き付ける。
 前線はまだ粘っている…愛紗、鈴々の連携がそれなりに持っているためだろう…
 だが…
  
  「このままではジリ貧だな、まだ敵の全てを出し切れていない…か」
  
  「雛里ちゃん…まだなの!!?」
  
  「まだです…ラオウ様の言うとおり、敵の全てを引き出せていません…
   あと少し我慢してください…」
  
  「でも、このままじゃ前線が崩壊しちゃうよ…」
 
 確かに桃香の言うとおり、前線が崩れてきている…だが。
 
  「まだ大丈夫だ、愛紗や鈴々が持ちこたえてくれておる」
 
 ラオウの言葉に桃香が愛紗達の姿を探す。
 見つけた先には、奮戦している愛紗・鈴々の姿があった。
 
  「く…雑兵とはいえ、数が多いときついか…」
  
  「愛紗!このままじゃ、前線が崩れちゃうのだ」
  
  「分かっている…しかし、敵の後陣が様子見を決め込んでいるのだ…
   それを引き出さなくては、作戦の意味が無い」
 
 そう言いながらも、近づいてくる黄巾党の下っ端を次々と切り崩していく。
 その様子に味方は士気が上がり、更に持ち直し始めた…。
  
  「さすが、関羽様と張飛様だ…この方達がいれば俺たちは負けない!」
  
  「当然なのだ!」
  
  「我らは天の御遣いの天兵なり!餓鬼道に堕ちた獣風情に
   負けるはずが無い!だからこそ、あと少し踏ん張ってくれ!」
   
  『応!』
 
 その様子に、桃香はほっと胸をなでおろす。
 しかし、ラオウと雛里は油断をしない。
 
  「しかし、このままでは押し込まれるのも時間の問題か…
   桃香!雛里!本体の半数を前線に送り込め!」
  
  「はい!」
  
  「任せて!」
 
 大きく頷いた桃香が…
  
  「みんな、愛紗ちゃん達の部隊を助けにいくよ!私についてきて!」
 
 一端の将の顔立ちとなって、部隊を率いていく。
 
  「関羽様!張飛様!後方より本隊の一部が前進してきます!」
  
  「桃香様か!ありがたい…」
  
  「これでもう少し、時間を稼げるのだ!」
 
 そして、その様子に痺れを切らしたのか…遂に待ちわびた時がきた!
  
  「関羽様!敵の後方の部隊が援軍として突出してまいりました!」
  
  「遂に来たか!よし、桃香様の部隊と共に押し返し!
   反転させ、徐々に引いていくぞ!!」
  
  『応!』
 
 そして、本陣では…
  
  「ラオウ様!」
  
  「あぁ…遂にこの時が来たか…伝令!!」
  
  「は!」
 
 ラオウが掛け声を上げると、兵の一人が素早く駆け寄ってくる。
 
  「瑞佳の部隊に伝えよ!愛紗達の部隊の後退を援護しつつ、
   打ち合わせ通りに動けと!」
  
  「了解しました!」
 
 そして、瑞佳の下へと走り去っていく。
  
  「雛里、準備をするぞ」
  
  「ははい!」
 
 少し噛み掛けていたが、ラオウは気にしなかった。
 
  「本隊より伝令!劉備様達の部隊が後退して来るので援護しつつ
   打ち合わせ通りにせよとのことです!」
  
  「分かった…朱里…俺は部隊の維持に専念する、後退指揮は任せたぞ」
  
  「分かりました。瑞佳さんも頑張ってくださいね」
 
 そして、兵に伝達して行き、作戦態勢につく瑞佳隊。
 本陣は前線に合流し…
 
  「桃香、愛紗、鈴々」
  
  「ラオウ様。ただいま戻りました♪」
  
  「お待たせして申し訳ありません」
  
  「お待たせなのだ!」
  
  「それは良い…無事で何よりだ…すぐに反転するぞ。
   雛里!」

 無事な様子に安堵し、雛里に指示を出す。
 雛里はすぐに部隊の先導と指揮をする態勢に入った。

  「桃香は俺と共に本陣の指揮を!愛紗と鈴々は後退する瑞佳の補佐を!」
  
  『御意!』
 
 そして、後退戦闘へと突入した…その様子を別の軍が見ていた
 
  
  
 
 
 
 
 
 
 
  「華琳様、西方より砂塵を確認しました…
   おそらく、黄巾党と何処かの軍が戦闘をしているようです」
  
  「そう…この辺りに目をつけたとなると官軍では無さそうね」
  
  「だろうな―…今の官軍が主戦場を無視して重要拠点を狙うようなことしないもんな…」
  
  「む」
 
 一人の青年が行った事に対して頭巾を被った少女が睨みつける…
 どうやら、自分の言いたい事をほとんど言われて腹立てているようだった。
  
  「落ち着け、桂花…諸侯の中にも、なかなか見所のある人物がいるということでしょうな」
  
  「ふむ、一度顔を見ておきたいわね」
  
  「向かうのか?」
 
 華琳と呼ばれた少女に対して青年が語りかける。
 
  「そうね。でも今は目の前の事を終わらせるべきよ一刀。
   …春蘭、秋蘭」
  
  「「は!」」
  
  「躾のなっていない獣に恐怖というものを教えてあげなさい」
  
  「「御意!」」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「後方の状況はどうだ」
  
  「大丈夫!追い払わず、諦めさせずって感じで愛紗ちゃん達が頑張ってくれてる!」
  
  「ならばよし…雛里よ…後どれほどの距離だ」
  
  「もう、目の前です…あと少し…!」
  
  「伝令!」
 
 その言葉を聞いた地点で、ラオウが伝令を呼ぶ。
  
  「は!お傍に!」
  
  「先行する部隊に反転準備をさせ狭間の地点で二手に分かれて待機!
   その間を殿が通り過ぎたところで反撃に移ると伝えよ!」
  
  「は!」
  
  「桃香!雛里!我らも反撃の準備に移るぞ!!」
  
  「りょうかーい♪」
  
  「はい!」
 
 桃香はマイペース気味に…雛里は帽子がずり落ちそうなぐらい頷いたのを確認し…
 ラオウが号令を送る。
  
  「狭間を過ぎたところで右転し、殿と交代する!」
  
  『『応!』』
  
  「その後、勢いづいた敵の初撃を弾き返して谷の狭さを利用して各個撃破するから
   皆で一緒に頑張ろう!」
  
  『『おおおおおぉぉぉぉ――!!!!』』
 
 最期の号令は桃香…ラオウには劣るが中々の覇気がある。
 駆け足で進みつつ、兵士達は雄たけびを上げた。
 部隊の中に流れる一体とした空気…皆が皆、戦いへの高揚感に身を震わせる…
 そして、いよいよ戦場に君臨する…天の御遣いという名の覇者。
 道の両脇にそびえ立つ壁が、視界の隅から正面へ…やがて視界の端へと広がり始めて行き…
  
  「雛里…」
  
  「はい!ここなら大丈夫です!」
  
  「じゃあ、みんな回れ右―――!」
  
 桃香の掛け声と共に、兵士達が一斉に足を止め、その場で方向転換する。
  
  「皆さん深呼吸してください!」
 
 雛里の合図と共に兵士達が胸いっぱいに息を吸う音が聞こえてくる。
 その音が止んだ途端…まるで嵐の前の静けさのように…辺りがシーンとなった…。
 そして…
  
  「ラオウ様!愛紗ちゃん達が来たよ!」
  
  「…全軍に告げる!皆のもの間隔を空けて待機し愛紗らがすり抜けたと同時に再構築し
   敵の初撃を押し返すぞ!」
 
 そして、愛紗達の部隊が通り抜け…部隊を再構築する。
 愛紗達が戦列に加わったのを確認して…ラオウが吼えた。
  
  「敵を粉砕せよ!!!!!」
 
 一挙に殲滅されたのは言うまでも無い…直線上に放った剛掌波は敵を呑み込んでいき…
 手近に接近してきた敵も愛紗らが粉砕して行く…先ほどまでの偽りの苦戦が嘘かのように…
 
  「おい…なんだあの化け物は…」
  
  「たった一発何か撃ってきたと思ったら仲間が一気に…!?」
  
  「じょじょじょ冗談じゃねー!!!」
 
 敵の士気は下がり始めた…ここまできてしまえばもはや敵は烏合の衆。
 黄巾党はただただ逃げ始めたが…数の多さと後ろから来る味方の
 衝突により混乱するだけとなっていた。
  
  「北斗輯連打!」
 
 ラオウ流の北斗百烈拳…今回は秘孔を突く事ではなく、多くの敵を葬る事に特化していた。
 その疾い拳捌きに敵は対応しきれず、ただただ、拳に打ち砕かれるのみとなった。
 一方…朱里と雛里は策要らないんじゃなかったのかと唖然としていた…。
 ラオウには意図があった…それは、雛里達の軍師としての実力を測る事。
 結果としては、ラオウの予想を超える働きを見せた。
 ラオウは満足げに軽く笑い…顔を引き締めると…残る敵を一人を除き、殲滅させた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おまけ1:黄巾党側前日の会話
  
  「おい、みんな見てみろよ」
  
  「なんだなんだ?」
  
  「北斗七星の横に星が光って見えるぜ?」
  
  「お、本当だ!」
 
  「俺たちの活躍を祝福してるんじゃねーの?今まで見えなかったし」
 
 そう言って…近くの村から強奪した酒を飲み干す…
  
  「どんな奴が来たって負ける気がしないな」
  
  「俺は、次の軍との戦闘に勝ったら張角ちゃんに告白するんだ」
  
  「じゃあ、俺は張宝ちゃんな」
  
  「おい、ずりーぞ」「俺が告白するんだよ」「ばーか止めとけ振られるだけだって」
  「なんか死にそうな気がしてきたのは気のせいか?」「何だ?弱気だなお前」
  「じゃあ、おれ張梁ちゃんな」(…俺星見えねー)
 
 翌日彼らがどうなったのかは言うまでも無い。
 
      :見えない人一人…彼は最後まで打って出る事を反対していた。
       そして、最期まで生き延び、とある村で真面目に働いていると言う…。
 
   
   
 
  おまけ2:戦闘の時のパラメーター…ラオウ
  
  ラオウ(バランス?なにそれおいしいの?)
  
  騎:8 槍:8 弓:8
   軍師時:長蛇陣・鋒矢陣・衡軛陣
 
  奥義Lv.1 必要ゲージ数:5
   北斗剛掌波 :敵兵-
    世紀末覇者拳王の放つ気の塊。
    その一撃は鋼をも打ち砕く。
  
  奥義Lv.2 必要ゲージ数:10 
   世紀末覇者 :自兵+ 自攻+
    世紀末を支配した風格。
    その風格はどの覇者に劣ることは
    決して無い。
  
  奥義Lv.3 必要ゲージ数:15 
   無想転生 :数ターン無敵
    敵の攻撃を一方的に受け流し攻撃を加える。
    …ラオウだけだろ?
    なぁにぃ?聞こえんなぁ~!
 
 
 
 
 
  瑞佳
  
  騎:3 槍:4 弓:1
   軍師時:鋒矢陣
  
  奥義Lv.1 必要ゲージ数:5
   北斗七死騎兵斬 :迎撃
    騎兵を倒すことに特化した拳。
    馬上の不利を知れ!!!
  
  奥義Lv.2 必要ゲージ数:10
   北斗龍撃虎 :突撃
    捨て身の特攻攻撃。
    同士討ちなんて無いですよ?
    
  奥義Lv.3 必要ゲージ数:15
   北斗琉拳の鼓動 :自兵- 自攻+ 敵攻-
    魔界へと入り込む禁断の拳。
    この時より魔拳として覚醒し始める。



[6264] 第8話:曹操との邂逅
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/12 08:33
  「申し上げます」
 
 戦闘に勝利し、仲間の交流を深め
 敵の陣地を捜索していたところで、兵の一人が駆け寄ってくる。
  
  「どうした」
  
  「官軍らしき軍団が現れ、我らの部隊の指揮官にお会いしたいと…」
  
  「官軍らしき…とは?」
  
  「それが、官軍があげる旗が上がっていないと瑞佳様が…
   それに上がっている旗が曹のものだそうです」
  
  「瑞佳ちゃん…いないと思ったら外を見てたんだ」
 
 いつの間にいなくなったのか…ラオウは察知していたが、他の面々は呆気に取られていた。
 
  「黄巾党討伐に乗り出した諸侯でしょうね…」
  
  「曹の旗といえば…許昌で勢力を伸ばしている、曹操さんかと」

  「曹操か…」
 
 曹操といえば、三国に分かれるときにその一角を担う覇王の一人。
 その曹操が、今は弱小でしかないこの勢力に来たわけは何か…。
 単純に探りに来たのだろう。
  
  「挨拶はしておいた方が良いな」
  
  「そうですね、上手くいけば共同戦線も張れるでしょうし」
  
  「しかし…我らの手柄を横取りする可能性もあるのでは?」
 
 合うという方針で固めていると愛紗がそのような言をはさむ。
 確かに、おそらく相手の方が勢力は上だ…そのような事も考えられるが。
  
  「普通の官軍ならばそうでしょう…でも私が知っている曹操さんであれば
   そんな恥知らずな真似はしないでしょう…」
  
  「曹操ってどんな子なのだ?」
  
  「誇り高き覇者…言葉通りの方ですね」
  
  「器量、能力、兵力、財力。全てを兼ね備えているといっても
   過言ではないと思います」
  
  「ほわー…何その完璧超人さん」
  
 確かに完璧すぎる布陣だ。そのような人物が声をかけて来たのはどういうわけだと?
 と愛紗が言っていたが、どう考えてもこちらの探りだろう。
  
  「直接会えば済む事だ…迎え入れる準備を!」
  
  「は!あの、こちらでお会いされるのですか?」
  
  「当然だ、向こうから声をかけて来たのだ。こちらから出向く理由など無い。
   相手が諸侯であろうとも、我らは堂々とここで迎え入れる」
  
  「ラオウ様の言うとおり、へりくだる必要は無い。
   堂々としていれば良い」
 
 その言を聞いてから、兵は曹操の下へ向かう。
 ラオウはただ静かに待っていた。
 その間、愛紗達は曹操の事で話し合っていた。
  
  「朱里ちゃんや雛里ちゃんが知ってる噂ってどんなの?」
  
  「そうですね…治政の能臣、詩人であり…
   乱世を生き抜く奸雄である…ですね」
  
  「治政の能臣、乱世の奸雄…善悪定かならずというやつだな」
  
  「そうですね…あとは他者にも自分にも誇りを求めるということ…」
  
  「誇り?誇りってどういう?」
  
 桃香、愛紗達が話している間に、ラオウの傍にいつの間にか瑞佳が戻っていた。
 その顔はどこか不満げだ。そして、一人の少女が会話に乱入してきた。
  
  「誇りとは、天へと示す己の存在意義。誇りなき人物は、例えそれが
   有能な者であれ、人としては下品の下品。我が覇道の前にはそのような
   下郎は必要なし…そういう事よ」
  
  「な…誰「うぬが曹操か」…え!?」
 
  「あら、何で分かったのかしら?」
  
 臨戦態勢をとろうとした愛紗の言葉を遮り、ラオウが曹操の前に出る。
 
  「知れた事…うぬが否定しようともその覇気は隠し通せぬ」
  
  「見る目はあるようだな…そうだ、この御方こそ我らが盟主。
   曹孟徳様だ」
  
  「ふーん…あの桃色の髪の娘かと思っていたけど、貴方が率いていたのね」
  
  「そうだ、だが、この俺の力だけではない。我が名は北斗拳王」
 
 その名を聞き、曹操はしばし思案する…そして、思い至ったかのように
  
  「あぁ、天の御遣い等と言うつまらない噂の事ね…つまらないと思っていたけど
   なるほど与太話ではないようね……どうみても御遣いには見えないけど」
 
 その意見に納得です、と桃香と瑞佳以外のものが頷く。
 味方から大人数の裏切りが発生した。
 そして曹操はじーっとラオウの顔を見やり…
  
  「どうした」
  
  「別に。うちの貧弱と違って、随分と格が違うと思っただけよ。
   春蘭、秋蘭」
  
  「「は!」」
  
  「部隊に戻り、進軍の準備をしなさい」
  
  「「御意」」
  
 そして二人は自軍の方へと戻っていった。
 
  「さて、北斗といったわね…あなたがこの乱世に乗り出したわけは何?」
  
  「天」
 
 上空を指し、ただ一言告げる…全員が固まったのは言うまでも無い。
 劉備と瑞佳すら固まってしまった。
 意味が分からない。
  
  「……ごめんなさい、分かりやすく言ってくれるかしら」
 
  「…今、この乱世では弱き者が強き者に蹂躙されるままとなっている。
   そして、俺は天より授かりしこの拳で大陸を平定し誰もが怯える事の無い
   世界を創りあげる」
  
  《最初からそう言って置けばいいのに…あれ?天は関係ないんじゃ》
  
  「それが貴方の理想?」
  
  「そうだ」
 
 その返事を聞き、曹操がふむ、と納得し…ラオウを見据え。
  
  「ならば北斗…平和を乱す元凶である黄巾党を殲滅させる為、
   私に力を貸しなさい」
   
 傲慢とも違う、威厳にも満ちた言葉を発した。
 
  「今の貴方達には……………早急に黄巾の乱を鎮める力は無いでしょう。
   だけど、今は一刻も早く暴徒を鎮圧する事が大事…違うかしら」
  
  「その通りだな」
 
 全員が今の間は何だ?とハテナ顔になっている。
 
  「その通りなら私に協力しなさい…そちらにも一つの条件付で
   有利な条件を付けてあげるから」
  
  「何だ?」
 
  「ここの物資に手をつけず焼き尽くす事…その条件で貴方達に兵糧を提供するわよ」
 
 魅力的な提案だ…確かに、官位に着いていないとはいえ略奪物資に手をつけたとあっては
 賊となんら変わりは無い…この提案はぜひとも受けるべきだろう。
  
  「敵となるやも知れぬ者に、何故そこまで施す」
  
 だが、ラオウはただ一言問うた、相手の真意を聞きだすために。
  
  「考えなさい…考えて導き出された結果が貴方の答えよ…
   まあ、強敵手は必要…とだけ言っておくわ」
  
 そう言って、背を向けて歩き出して行く…ラオウは止めずにただ見る。
 
  「答えを出しているではないか…話し合いは軍師同士でよいな」
  
  「えぇ。言葉ではなく、行動で貴方の本質を見させてもらうわ」
   
  「こちらとて同じ事」
 
 ラオウの言葉に軽く笑い…曹操は去っていった。
 その後…早々が完全に見えなくなってから…全員が今息をしたかのようになる。
  
  「凄かったねー」
  
  「自身の塊のような女だな」
  
  「何を言っているのか、分からなかったのだー」
  
  「あれが曹操さんの哲学なのかもしれませんね」
  
  「言葉ではなく、行いによって…か。あの言、何処まで信用してよいやら」

 次々と感想を口にしていく。
 
  「信用しても良かろう…あの者の目はつまらぬ嘘を言うような愚者の目ではない」
  
  「ラオウ様が言うのでしたら…」
  
  「それよりも今は黄巾党の制圧が専決事項だ…朱里、雛里…話し合いのほうを頼むぞ」
  
 ラオウの言に頷き、朱里たちは話し合いの資料を纏めていく…
 ラオウはただ、曹操のいる方向を見ていた。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「北斗の軍と共同戦線…か?」
  
  「そうよ、一刀。このまま、北斗の軍と共に黄巾党の勢力を
   一挙に叩き潰すのよ」
  
  「ふむ。その為には、少しでも兵が多ければ良い。
   それが例え義勇兵といえども…ですか」
 
 一刀の問いかけに曹操が答え、その答えに対して夏侯淵が的確に
 見抜いた言を示す。
  
  「こんなところで我が軍の精兵を損耗するわけにはいかないわ。
   あの軍と行動をしていれば兵の損傷が極端に減るでしょうね」
  
  「なるほど、生きた的になってもらうのですね。流石です華琳さ」
  
  「違うわよ、紅柳。あの勢力は一人が圧倒的に強く…
   隠れて消えそうだけど、着いて来ている者も強い…そういう勢力は
   けして、使い捨てに出来るでもない…本当の意味での共同戦線を
   張る相手よ。
   …そういえば聞き忘れていたけど、最初に見たあの子とは
   知り合いなのかしら?」
  
  「まぁ、知り合いですよ…同じ拳の伝承者を競い合った仲ですし…
   私には劣りますがね」

 そう言って、自慢の長い髪をかきあげる紅柳…この者は男である。
 姓は曹陽、字は一角…真名は紅柳…後の北斗曹家拳の勢力の伝承者である。
   
  「相変わらずの自信家ね、実力があるからこそだけど…そこの犬も見習ったらいいのに」
  
  「相変わらず酷いなー…」
  
  「桂花のいう通りよ、自分の身ぐらいは守れるようになりなさい…天の御遣いとやらの
   体躯になったら殺すけど」
 
  「あぁ…あれは確かに…一刀、強くなりすぎずに強くなれよ」
 
  「無理な注文じゃない、それ」
 
 一刀は溜息を吐いて落ち込む…その様子に苦笑した後…
  
  「桂花、北斗軍との伝達は任せるわ」
  
  「御意に」
  
  「…何だか楽しそうだな、華琳」
  
  「気づいたか一刀…おそらく、華琳様は北斗軍の
   統率者に期待しているんだろう。
   好敵手となる事を…」
 
 障害が大きければ大きいほど燃え上がる…今は小さな勢力でしか無いが
 北斗軍はさらに増強される可能性を秘めている。
 この乱世を平定する時…最大最強の敵となるだろう…
  
  「天に輝く極星は…私か、あの男か…天のみぞ知るってところね」
 
 曹操は誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 三国志じゃなくて四国志…怖い
  
  第四の勢力:慈
  
  覇王:ユリア

  武将:ラオウ  :ケンシロウ :トキ
    :ジャギ  :カイオウ  :ヒョウ
    :ジュウザ :サウザー  :シン
    :レイ   :ユダ    :シュウ
    :アミバ  :フドウ   :ファルコ
    :ハン   :リハク   :シャチ
  
    :::嫌な勢力だ……



[6264] 第9話:囮…だと…?
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/13 13:52
:囮…?
 
 
 近くの町で義勇兵を募り、更に曹操の軍より兵糧を提供してもらう。
 曹操軍の軍師、荀彧とラオウの仲間の朱里、雛里の三人により作戦が討議され、
 その作戦にしたがって行動をしていた。
 黄巾党の本隊はどうやら冀州にいるらしいとの事。
 因みに一刀はこの軍勢で官軍に喧嘩売ったら勝てそうじゃない?
 と冗談を言ったが…かなりの間があって否定された。
 さすがに和が違いすぎるらしい…
 そして、特殊部隊を内部に放ち工作をして敵抹殺を敢行する事となったのだが。
 
  「で、だ…囮にすると言っておきながら何故貴様もいるのだ」 
  
  「さぁ?何ででしょうね?それなら、貴方も一群を率いる大将なのに
   前線に立っているのは何故なの?」
  
  「俺が敵を葬れば葬るほど…兵の損害は軽くなる、それに士気も上がるであろう…
   大将だからと言って安全な場にいるなど愚の骨頂」
 
 そう言って視線を敵のとりでの門に向ける。
 曹操はただただしっかりとラオウの挙動を見ていた。
 曹操の傍には一刀、夏侯淵、夏侯惇、許緒が控えており、
 ラオウの傍には、愛紗、鈴々の二人が控える。
 残りの主だった将たちは後方で本隊を率いて待機している。
 瑞佳と曹の二人は特殊部隊として参加している…北斗神拳は暗殺拳。
 潜入はお手の物である。
  
  「まぁ、良い…一時の盟友とはいえ、守れぬぞ」
  
  「ふ、そんなにやわじゃないわよ」
  
  「俺は場違いなんだけどなー」
 
 最後の呟きは一刀のもの…本来は本陣のはずなのだが…いつのまにか
 前線に回されていた。許緒は主に一刀の護衛のために来ていた。
  
  「ラオウ様…黄巾党が…」
  
  『『ひゃっはー!!!!』』
  
  「あれは乙団?」
  
  「なんだそれは…」
 
 夏侯淵の言葉に反応し、ラオウが敵に正面を向けたまま尋ねる。
  
  「黄巾党の中でももっとも下種な集団よ…」
  
  「蒔維怒と名乗っている者が将格なのよ、自ら真名を名乗っている愚か者よ」
  
  「ふ…ならば、元より無いが容赦する理由は無いな…」
 
 そう言い放ち、ラオウは気を集中させる。
 
  「開戦の祝撃だ…北斗剛掌波!!!!
 
 黄巾党は吹き飛んだ…愛紗や鈴々は慣れたもので驚いていないが…
 曹操側は華琳を除いて全員一時硬直した…すぐに気を取り直した。
  
  「片手で十数人を吹き飛ばす噂は本当だったのね」
  
  「華琳…動じないんだな」
 
 そして…ラオウはおもむろに大木を抜き出す…そして、門に向かってぶん投げた。
 当然、門はあっという間に破壊された。
 そのまま、一気に剛掌波を撃ちはなっていく…
  
  「鳳統達が策要らないといってた訳が分かったわ」
 
 本陣にて荀彧が呟いた…朱里と雛里はもう泣きたい気分だった。
 頑張れ…内政に成れば君達の力が役に立つから…それまで我慢だ。
  
  「煙が上がったか…混乱が見られる、これならば後は楽だな…」
 
 もとより楽にしか見えないんですけど…という突込みを諦めた。
 今は目の前の敵を殲滅する方が大切である。
 
  「北斗の兵達よ!!獣共はうろたえておる!!今のうちに殲滅せよ!!!!」
  
  「わが精兵達よ!!!後れを取るな、獣共に明日など無いことを思い知らせよ!!!」
 
 二人の覇者の号令に、曹操、ラオウの軍勢は士気を最高潮に敵へと雪崩込む…
 当然ながら、戦闘ではなく掃討戦となってしまった。
 
  「うおぉ――――――!!!!!」
 
 闘気を込めた腕を振り回すだけで敵の賊達は、次々と蹴散らされていく。
 もはや、歩く対軍兵器。
 …策などいらず、普通に突っ込むだけで勝っていたのではないか…?
 ただ、その場合は兵の損失が増大するだけだったのだが… 
 そして、ラオウ達は敵陣地内に居た。
  
  「うぬが蒔維怒か…」
 
 一般兵数人がかりで捕縛した男を睨みつけるラオウ…。
 その男は…周りで死んでいるものの死に方を見て…かつて自分を殺した男
 の事を思い出していた。
 何故ここに生き返ったのか、知らないが…世紀末の世と似ているため好き勝手やって
 暴れていたが…まさか、同じ様な男が目の前に再び現れるとは…
  
  「こ、このやろう…な、何を!?」
 
 ラオウがとある位置に指を突きいれていく。
 その位置は…頭維、実質死刑である。
 しかも、それ程強く押していないため、通常より死ぬのに時間が掛かる。
  
  「…もはやその男はあと十五秒で死ぬ」
 
 それだけ言い放ち、ラオウはズンズンと、立ち去っていく。
 曹操も何かを施したと理解して、さっさと立ち去る。
 全員が立ち去った後、蒔維怒…ジードは誰にも知られずに死に絶えた。
 
  「ふ、終わったな…ところで瑞佳よ…その娘は誰だ…
   そして、その格好はどうした」
 
 その言葉を聞き、特殊部隊に参加していた兵士達が凄い表情で
 ラオウを睨んでいた…が、ラオウには通用しない。
 瑞佳は額に青筋を少し浮かべたが…すぐに落ち着きを取り戻し…
  
  「……少しお耳を~~です」
 
 その名を聞くとラオウは呆れた目を見せた…まさか、このような娘が
 黄巾の乱の首謀者とは…しかし、瑞佳の話を聞く限りでは…原因ではあるが
 理由は乱を起こすためではなかったらしい。
 ちなみにその娘はすやすやと幸せそうに瑞佳の背で眠っている。
  
  「歌でこの大陸一になる為…か、呆れた理由だな」
  
  「…ラオウ様」
  
  「…瑞佳、うぬの配下として扱っておけ、俺は張角という名など聞かなかった」
 
 そして話はそれまでだと立ち去っていった。
 瑞佳の言を聞かずともどうして欲しいのか分かったのだろう…。
 ラオウは張角は別の人物を立てて置けばよいと考えていた。
 曹操の話を聞く限りでは角が生えていて腕が八本で身長が九十九尺ある
 化け物となっていたが… 
 瑞佳はラオウの姿が見えなくなるまで礼をして…背に抱えたまま自身の暗幕に向かった。
 その途中、兵士の一人に服の手配を頼んでいた。
 勿論、天和の服を変えておくためである。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「どう…桂花、あの男は…」
  
  「今はまだ………………………………………………
   弱小(?)勢力ですが、率いる北斗という男は
   龍をも超える獅子といったところ、また仕えている将達もどれも一角のもの…
   人気も集まっているようですし、眠れる龍王といったところでしょうか」
  
 途中の長い間にどれほどの葛藤があったのか、曹操は察する事が出来た。
  
  「ふむ…巨龍が死に体の今、新たな龍が目覚めるか…楽しみね」
  
  「…華琳、楽しみって…」
  
  「一刀、困難無き覇道など何の意味も無いのよ?
   障害無き覇道を邁進するよりも、難敵が待ち受ける茨の道をいく。
   それでこそ覇道に望む張り合いが出るというものよ」
   
  「さすが華琳ってとこか…けど、随分とデカイ障害だよなー…」
  
  「感服いたしました!」
 
  「ふふふ、感服なんてしてないで感じてもいいのよ」
  
 百合百合な雰囲気になってきたので、一刀はそそくさと立ち去った。
 人が見ている前ではじめないで欲しいと思う一刀だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「敵の本拠地を落とした…が、これからの行動はどうするのだ」
  
  「そうね…渠師の一人が率いる部隊を蹴散らすつもりだけど、
   出来れば同行してくれると助かるわ」
 
 兵の損失も少なくなりそうだしね、と付け足す。
 ラオウたちにしても、兵糧を提供してくれる者が同行してくれるのであれば
 兵の離反も少ないと踏んでいる為、同行する事には反対しない。
 
  「ふ、ならばこのまま同盟軍として行動させてもらおう」
  
  「そうね…物資提供分の働きは見せてもらうわよ」
 
 そして、会話は終わりを告げ…早々は自らの軍へと戻っていった。
  
  「朱里よ…曹操軍の動きを盗めるか」
  
  「…何とかやってみます」
 
 正直、軍の行動力は無いよりもあったほうが良い…曹操の軍ほど動ける軍は
 そうは多く無いだろう。
 ならば、その動きを参考してもらうのも軍制御には役に立つだろう…。
 そして、曹操と過ごして半年後…張角のいる(とされる)主力軍を打ち破り…
 張三姉妹は全員討ち取られたと言う…。
 張角の代理は、ラオウが黄巾党の一人を似顔絵どおりに改造したからである。
 アミバも顔の骨格を変えて変装したのだからこの程度は容易い。
 残りの二人については焼き尽くされて骨しか見つからなかったという…。
 もっとも、張角はラオウ軍…残る二人は曹操の軍に保護されているのだが、
 それは別の話である。
 尚、張三姉妹はそれぞれ、姉や妹達が生きている事を知らない。
 ちなみに曹操の軍とラオウの軍の活躍を聞いて…ようやく他の諸侯が本腰を入れたという。
 そして、この黄巾党の乱により、今の王朝の弱さが目の当たりとなり…
 巨龍である事には変わりが無いものの…もはや骨と皮だけしか無い状態となっていた。
 しかし、ラオウは動くでもなく…恩賞として与えられた平原というところの相に任命され…
 治政を行なっていた。
 …余談だが、雛里と朱里がようやく活躍の場が持てたと歓喜していたと言う…。
 ひとまずは…大陸に少しの平安が訪れた……。





















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おまけ:潜入部隊 
 
 瑞佳は敵の陣地内に居た。
  
  「…これほど楽に入り込めるとはな…」
  
  「…瑞佳様、紅柳様…嫌に静かですね」
  
  「門前で北斗殿が大暴れしているからだろう…
   正直、あの野郎より強くないか?」
 
 あの野郎とは今代の伝承者の事である。
 その時、近くの小屋らしきものが衝撃で吹っ飛んだ。
 
  「…今のはなんだ…」
  
  「ラオウ様の剛掌波だ…」
 
 工作部隊に冷や汗が落ちる…敵にではなく、味方に殺される可能性のほうが高い。
 洒落にならない事態に陥っていた。
  
  「も、門が破壊された―――!!!」
  
  「大木投げてぶっ壊しやがったあの化け物…全員でかかれ―――!!!」 

 遠くで聞こえてくる、怒号…正直作戦はいらなくね?と特殊部隊は思った。
 そして、衝撃が飛んできた。
  
  「ぐは!?」
  
  「瑞佳―――!!!?」
 
 剛掌波が飛んできた…距離があったため威力が抑えられているとはいえ…
 常人が当たっていたら間違いなく
 死んでいる威力だ。因みに、大声を出しているのに、敵は気が付いていないようだ。
 どう考えてもそれどころではないからだろう。
 瑞佳は咄嗟に体中の気功を制御し、事なきを得た。
  
  「は、早く火をつけるぞ…」
 
 その後、火をつけた後…潜入部隊は即座に脱出した。
 その脱出劇は、鬼気迫る勢いであったという。
 何故なら後方辺りで剛掌波の流れ弾が鳴り響いていたから…
 その途中…
 瑞佳は別行動(はぐれたともいう)を取っていたのだが…何かを踏んだ。
  
  「ぎゃぴ!?」
 
  「む?女?」
 
 脚をどけてみると…歳の同じぐらいの桃香よりも薄い桃色の髪の毛の少女が
 伸びていた…髪には黄色のリボンをつけている。
 おそらく黄巾党の一派だろう。
 その近くには黄巾党の賊が数人ほど見られる…少女を縛っているところを見ると…
 楽しむつもりだったのだろうか…
  
  「殺すか」
  
  「なんだ、この気障野郎!やっちまえ!!!
  
  「遅い…」
 
 あっという間に片を付け、少女の縄を解く…黄巾党に組したとはいえ
 このような目に遭ったならば同情するしかない。
 少女の顔を見た…何故か顔が赤いようだが…
 
  「お主、名は?」
  
  「ちょちょ、張角です!真名は天和です!天和と呼んでください!」
 
 今、凄い名前を聞いてしまった。
 張角と言えば、黄巾党の首領格ではないか…何故こんな所に。
  
  「何故このような場所に居たのだ」
  
  「い、妹達とはぐれちゃって…それで、捕まっちゃって…
   そんな時に貴方が颯爽と現れて~」
 
 妹とはぐれた…まで聞いて考察する…因みに天和は踏まれた事を記憶の彼方に追いやって

いた。
 やがて…戦場の音が消えた。
 そろそろ戻らなければならない、が…。
 
  「…」
  
  「~~~///」
 
 先ほどから流暢に話す少女…連れて行けば殺されるのは必至だろう…。
 だが、何故か好意を向けてきている少女を殺すのは抵抗がある。
 そして…おそらく男に勘違いされていると見当をつけて…
 
  「…俺は女だぞ」
  
  「え………それでもいいです!むしろ禁断の恋!?」
 
 熱は過熱してしまったようだ…見逃すから妹の下へ向かえと言う言も聞き入れず…
 無常に時間が過ぎていき…結局、ラオウ軍に連れて行くことにした。
 …あとは本編どおりである。


           :キャラが変わってね?



[6264] 第10話:幕間2 黒龍現る Apart
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/15 13:07
 町の就任早々…客人が訪れた。
  
  「星ちゃんだ―…久しぶり―」
  
  「おお、桃香殿。久方ぶりですな」
 
 その客人は星であった…確か白蓮のところに居たはずだが、
 半年の間に何があったのだろうか。
  
  「星よ…ここに来た用件は何だ」
  
  「わが剣を預ける人物を歩き探し…ここに至ったまでです」
 
  「…そうか」
 
  「大歓迎だよー♪」
  
  「星がいれば百人力なのだ」
  
  「共に戦わせて貰おう」
 
 そして、星は辺りを見回し…瑞佳達と目が合った…
 そういえば、瑞佳とはあっていたが、自己紹介はしていなかった。
 他の三人も同様である。
  
  「始めまして…と言っておこうか、俺は劉玄戒、真名は瑞佳と言う」
  
  「…一見すれば男とも取れるが…女ですか」
  
 その呟きに全員首肯する…髪の長さで誤魔化してはいるが…
 口調といい物腰といい…男にしか見えないのである。
 男に囲まれて育ったせいでもあるのだが…
  
  「わ、私は諸葛孔明…真名は朱里といいます」
  
  「あわわ、私は鳳統でしゅ、ま、真名は雛里でしゅ」
  
  「…少女のカミカミ調とはいいものですな」
  
  「…同意を求めるな」
 
 どう見ても変態です、本当にありがとう御座いました。
 ラオウは呆れた溜息を吐いたが、星はにやりと笑うだけでスルーした。
  
  「私は劉角です!真名は天和だよー!」
  
  「はて…随分と頭の弱そうなお嬢さんですな」
  
  「むむー!」
 
 桃香と似たような雰囲気を持つ少女、桃香との違いはおつむの弱さ…。
 因みに、天和は主に町の人の一体感を高めるための催しをやっている…。
 瑞佳を巻き込んで、何気にほとんどが恋愛系の演目なのだが…
 瑞佳は主に…というより全て男役であり、天和との恋役が多い。
 そのせいで、瑞佳は女性の支持者が多い…女性であると言う事は知れ渡っているのに…
 ちなみに多いのは、ときたま喜劇を催すからだ。
 
  「さて、仕事の割り振りだが…星は愛紗、鈴々とともに
   兵の鍛錬を任せる」
  
  「ふむ、任されました」
  
  「頼んだぞ…俺は桃香と共に町の警邏にあたっている」
 
 事件が起きる件数が急激に減っているのはラオウの影響です。
 兵の鍛錬に参加しない理由は…付いて来れる者が居ないからである。
  
  「朱里はいつもの通り市の管理、雛里は兵帖の管理を」
  
  「はい」
  
  「天和はいつもどおりで良い、瑞佳も護衛兼役者としていつも通りだ」
  
  「はいはーい」
  
  「…はい」
 
 適材適所である…。
 適材適所であると信じたい。
 
  「では、解散だ…夜には星の歓迎会を開くぞ」
  
 そう言って、ラオウは町の警邏へと繰り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「巨大な馬だと…?」

  「はい、なんでも近づく者を蹂躙しながら闊歩する黒い馬が居るそうなんです。
   近寄らなければ害は無いのですが…その馬に挑んだ屈強な男たちが次々と
   命を落としているそうです」
 
 黒く強大な馬…話を聞く限りでは、まるで黒王を思わせる風格である。
 ここが過去だという事を仮定すれば…黒王の先祖に当たる馬だろう…。
  
  「すいましぇーん、やおやはでょこですかー」
  
  「ん?それなら、そこの角を曲がった…おい、案内してやるぞ」
  
 考えている途中で、子供が元気よくラオウに八百屋の場所を聞いていた。
 おそらく、親に頼まれて使いにでも出たのだろう。
 …それにしてもラオウを見て驚かないとは、将来大物になりそうである。
  
  「…その馬の名は何と申す」
  
  「確か、黒龍と…龍の如き強さから名付けられたそうです」
 
 王ではなく、龍…おそらくは黒王と同等か、それ以上の力を持った馬なのだろう…。
 
  「それと、その黒龍は何かを守っているとの噂です」
  
  「…守る?」
  
 それが何かは分からないらしい…。
 ともあれラオウは、皆が落ち着いてから出向く事に決めた…。
 そして…三日後、町の治安が安定したため、ラオウは黒龍のところへと向かった。
 その山の裾にたどり着くと…そこには
 何人かが命を落とした証である墓が立っている。
 一人の少女がそこで墓を整地していた。
 数十人の男が少女に対して言い寄ってきている。
  
  「ここが黒龍のいる山とやらか」
  
  「…あなたは?」
 
 物静かに話す少女、儚げな雰囲気を持ち、同性であっても見とれるような美しさを持っていた


 大方、回りに居る男はこの少女に目をつけたのだろう。
 
  「北斗拳王…うぬは何故ここに居る」
  
  「…黒龍が運んでくる…男達を供養…するためです」
 
 そして、ゆっくりと正面を向く、ジーッとラオウの顔を見る。
 すると、無視されていた男たち(ラオウに驚いて固まっていた)が憤怒し。

  「そのお嬢ちゃんとは俺たちが話しているんだよ!」
  
  「デカブツはどっかいきな!」
 
 いかにも柄の悪そうな男たちである…ラオウは無視して…
  
  「黒龍とやらはこの山の奥か?」
  
  「…いえ、もう、来る頃だと…思います…皆さん、逃げてください…」
  
 そう言って、その場を離れようとする…すると、男の一人が少女の腕を強引に引く。
  
  「つれねーな…もうちょっと相手してくれてもいいじゃんよ」
  
  「…はな、して…」
 
  「馬が来るからってか?馬如き、この十人がかりで槍で…」
  
 そこまで言ったところでラオウが引き剥がす…
  
  「なんだ、てめ…」
  
  「黙っていろ」
 
 世紀末覇者の覇気を纏う…男たちは動けなくなった。
 少女は驚いて、ラオウを見る。
  
  「黒龍と同じ…いえ、それ以上…」
 
 その時…
  
  【ギュオオォォォ―――――!!!!!!】
 
 巨大な咆哮が聞こえてきた…それは最早生物の咆哮ではない。
 まるで、龍の咆哮とも取れる。
 その咆哮に、男達はもしかしたら、とんでもない化け物を
 相手にしているのではないかと震え上がる。
 だが、その男達の中の首領格であろう一人が…
  
  「へっへっへ…来やがったか…このお姫様の守護者がよ―」
 
 見るからに屈強な男である…腕はそれなりに立つであろう…
 もっとも、ラオウからすれば赤子に等しいが…
  
  「そこのデカブツ…よーく見てな、この俺様の力を!」
  
  『さすが兄貴だ!そこに痺れる、憧れる―!』
 
 ラオウはただ黙って、咆哮の聞こえてきた先を見据えた…
 既にそこには…馬とは思えぬほどの屈強な体つきをした巨大な馬が
 やってきていた…。
 その視線は、ラオウの後ろに居る少女を優しく見た後…
 ラオウの前に居る男達に威嚇をしていた…。
 
  「お、みえやが………」
 
 兄貴と呼ばれた男は後悔した…目の前に居るのはどう見ても馬ではない。
 まるで…龍だ。
 一歩歩くたびに地響きがし始め、あたりの動物達は逃げ惑う。

  「にげ…ないの…ですか?」
 
 男達に関してはもう死んだ者として扱っているのだろう…だが、ラオウに関しては
 何か感じるものがあったのか…横に並んでジッと見据えている。
  
  「逃げぬ…俺は奴に会いに来たのだ…成る程、名は体を現すというが…
   まさに龍そのものだな…」
 
 ラオウの言葉に我に帰ったのか、男が斧を構える。
 そして、異様な構えをとりだした。
 
  「お―!兄貴の究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞の構えだ!
   あの馬も終わりだ―!!!」
 
 名前だけを見れば何処の厨二病だとしか突っ込めない…
 ラオウから見れば隙だらけにしか見えない…
 現にラオウの仮想戦闘では既にその男は千回から先は覚えきれないぐらい
 死んでいる。
 そして、黒龍は静かに歩き出した…一歩一歩に力を込めているのか、
 その踏み込みだけでこの周囲一帯が地震が起きている感覚に囚われる。
 男達はバランスを崩していたが、ラオウは地面にしっかりと根を張る巨木のように
 全く動じていない…近くの少女は慣れているのか多少ふらつく程度で特に
 倒れるようには見えなかった。
  
  「ふん、くらえー!!!馬野郎!!!俺流究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞奥義…
   斬撃!!!!!!!!!!」
 
 ラオウがずっこけかけた…隣の少女は首を傾げていた。
 もう少しマシな名前は無いのか…どう考えても通常技にしか聞こえない。
 その男は空中に一回飛び上がって縦に回転しながら切りかかっていった。
 それを黒龍が後ろ足を上げておもいっきり蹴り上げ迎撃をする。
  
  「ぐぎょん!?」
  
  『兄貴―――!!?』
 
 その男は数百メートルほど吹っ飛んで…地面に激突した。
 ラオウはこの集団は漫才集団かと溜息をついていた…だとしたら全く
 琴線に触れていないが…因みに男はまだ生きていた…しぶとい男だ…。
 しかも立ち上がって、再び黒龍に立ち向かっていた。
 他の子分と一緒に。
  
  「死にやがれー!!!!」 
  
  『うおおおおおおおおお!!!!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数分後…男達は全滅していた…その死に顔は何かやり遂げたような顔だったという。
  
  「ぎゅるるるる…」
 
 そして、ラオウと黒龍は相対していた…近くには少女がラオウにお茶を持ってきて切り株に
 お盆ごと置いていた。
 先ほどからラオウと黒龍は互いを見たまま微動だにしない…。
  
  「…」
  
  「…」
  
  「…」
 
 二人と一頭は先ほどから言葉を全く発しない。
 静かに少女が男達の墓穴を掘る音が聞こえる。
 今回はかなりの人数なので時間が掛かるのだろう…ゆっくりとしかし
 しっかりとつくりあげていく。
 それから…数時間後。
  
  「…ぐる」
 
 黒龍が頭を垂れた…ラオウを認めたということだろう。
 ラオウは黒龍の頭を軽く撫でると…少女の手伝いをしに行った。
  
  「手伝おう…」
  
  「ありがとう…御座います……」
  
  「姓は北斗、字は拳王…先ほども名を言ったと思うが…」
  
  「北斗…さん…わ…私は……姓は、大和…字は、武蔵…真名は、小夜…です」
 
  「真名を言うか」
  
  「黒龍が…認めた、から…」
 
 そう言って、黒龍の方を見る…その目はまるで父を見るかのような眼差しだった。
  
  「…あの黒龍とうぬは家族なのだろう」
  
  「わかる…のですか…?」
  
  「覇者同士…言葉にせずとも伝わる…」
  
  「…そうです…」
  
  「…我が真名はラオウ」
 
 少女はそうですか…と言いながら作業を始めようとしていた。
 ラオウは…両手を構えると、次々と穴を作り上げていった。
 そして…小百合が驚いている間に、次々と男達を運び込んでいく。
 …その作業は数分で終わった。
 
  「さて…小夜よ」
  
  「…黒龍を、連れて行くのですか…?」
 
 ラオウは首肯する…小夜は静かにラオウと黒龍を見やり…
 
  「私は…あなたの実力を計ります…」
 
 …そして、ラオウと間合いを取った…。
  
  「やはり、拳士か…流派は何処だ」
  
  「南斗鳳凰拳…私はその伝承者です」
 
 構えを取らず制圧前進を得意とする南斗聖拳最強の拳法。
 おそらく黒龍が来ずとも
 どうにかする腕前は持っていただろう。
  
  「天帝に許可を貰い私は、この山で世の情勢を見ていました」

  「この俺と戦う理由は何だ」
  
  「拳士としての宿命です…勝負は一本…」
 
 そう言って両手を前で合わせて礼を取る。
 天帰掌では無いが…ある種の礼儀のようなものだろう。
  
  「一撃を入れた地点で勝負あり…そういう事だな」
  
  「(コクリ)…黒龍が合図です」
 
 黒龍がしっかりと歩き出し、前足の片足を上げる…。
 踏みしめた時が合図なのだろう…ラオウにも緊張が走る…恐らくは実力は
 瑞佳以上のものだろう…。
 そして、黒龍が脚を踏みしめた…!
  
                :戦闘は次回…ラオウの勢力がどんどん強くなる(苦)





































































 NGシーン

 
  「お、みえやが………」
  
  「やめておけ…貴様如きの腕でこの俺を倒すことは出来ん」
 
 兄貴と呼ばれた男は後悔した…目の前に居るのはどう見ても馬ではない。
 まるで…龍だ…というか喋っていた…
 ラオウは驚いた…黒龍の話す声が…義弟のケンシロウに似ていたからだ。

  「にげ…ないの…ですか?」
 
 男達に関してはもう死んだ者として扱っているのだろう…だが、ラオウに関しては
 何か感じるものがあったのか…横に並んでジッと見据えている。
  
  「逃げぬ…俺は奴に会いに来たのだ…成る程、名は体を現すというが…
   まさに龍そのものだな…喋るとは思わなかったが…」
 
 ラオウの言葉に我に帰ったのか、男が斧を構える。
 そして、異様な構えをとりだした。
 
  「お―!兄貴の究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞の構えだ!
   あの馬も終わりだ―!!!」
  
  「ほう、面白い技だ…撃って来い」
 
 名前だけを見れば何処の厨二病だとしか突っ込めない…
 ラオウから見れば隙だらけにしか見えない…
 現にラオウの仮想戦闘では既にその男は千回から先は覚えきれないぐらい
 死んでいる。
 そして、黒龍は静かに歩き出した…一歩一歩に力を込めているのか、
 その踏み込みだけでこの周囲一帯が地震が起きている感覚に囚われる。
 男達はバランスを崩していたが、ラオウは地面にしっかりと根を張る巨木のように
 全く動じていない…近くの少女は慣れているのか多少ふらつく程度で特に
 倒れるようには見えなかった。
  
  「ふん、くらえー!!!馬野郎!!!俺流究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞奥義…
   斬撃!!!!!!!!!!」
 
 ラオウがずっこけかけた…隣の少女は首を傾げていた。
 もう少しマシな名前は無いのか…どう考えても通常技にしか聞こえない。
 その男は空中に一回飛び上がって縦に回転しながら切りかかっていった。
 それを黒龍が後ろ足を上げておもいっきり蹴り上げ迎撃をする。
  
  「北斗迎空後脚!!!」
  
  『兄貴―――!!?』
 
 その男は数百メートルほど吹っ飛んで…地面に激突した。
 ラオウはこの集団は漫才集団かと溜息をついていた…だとしたら全く
 琴線に触れていないが…
  
  「ぬぅ…あれは…北斗神拳…」
  
  「あ…新記録…」
 
 ラオウは馬が北斗神拳を使ったのに驚いた…足技しか使いそうに無いが。
 少女は羊皮紙に何か単位を書き綴っていた…どうやら、見ただけで
 距離を図ることが出来るらしい…凄い才能だ。
 
     :無想転生使いそうな馬だ…



[6264] 第11話:幕間2 黒龍現る Bpart
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/17 09:09
 
  「北斗剛掌波!」
  
  「…駆」
 
 ラオウが闘気を篭めた剛掌波を放てばそれに対応するように
 小夜はするりと回避する…速さにおいては、サウザーすらも上回る速度だった。
 逆に、小夜が接近すれば…
  
  「…疾」
  
  「無想陰殺」
 
 ラオウが間合いを把握していたかのように無意識無想に蹴りを繰り出していく。
 その一撃を身をひねってかわしつつ、間合いを再び取る。
 
  「…剛、だけでなく…千差万別に立ち回る…北斗神拳…」
  
  「この時代にもこれほどの強者が…だが、うぬは力は無いようだな」
 
 速さに優れている…だが、ラオウの言うとおりその一方で力が無いため
 防御を崩せていないのだ。
 
  「…そちらは、本気を出していない…何故ですか…もしかして」
  
  「うぬが女という理由ではない…俺はこの時代に来てより本気で戦ったことなど
   一度とて無い」
 
 今まで、手加減をして戦っていた…それでも周囲からは圧倒的な力を持った存在に見られる
 わけだから、その力の度合いが窺える。
  
  「だが…どうやら、本気でいかねばならぬようだ…」
 
 そう言って、ラオウは構えを取る…それは…
  
  「北斗神拳奥義…天龍呼吸法」
 
  「…闘気を操り、自身の力を…最大限に発揮する奥義ですか」
 
 冷静に話しているが、元々静かな話し方であるため、特に変化は無いように感じる。
 しかし…小夜の頬には一筋の冷や汗が流れていた。
  
  「俺は今まで、僅かな力しか解放しておらぬ…元々剛拳を使えるが故に
   その程度の力で事足りておった…だが、うぬが相手ではそれでは足りぬ」
  
  「…黒龍の…見込んだとおり…闘気の桁が違う…」
 
 そう言って、脚に力を篭める小夜…恐らく速さを最大限に生かし…必殺の拳を繰り出すのだろう。
 ラオウも呼吸を制御し、闘気を高める。
 
  「南斗鳳凰拳…極星十字拳…」
  
  「北斗神拳…北斗剛掌波!!!」
 
 両者の闘気がぶつかり合い…そして、小夜の背が地面に打ち付けられた。
  
  「かふ……今代の…伝承者をも、越える力…」
 
  「手合わせた事があるのか」
 
  「えぇ…私が…勝ちましたが…」
 
 そう言って気を失う…ラオウの拳を受けて死なないだけでもかなりの実力者ではあるのだろう…
 そして、小夜の周りに小動物達が集ってきていた。
 勿論、黒龍も…。
  
  「…今のでも俺は本気を出してはおらぬ…だが…」
  
 そう言って静かに小夜の近くに腰を下ろす。
 そして、マントを被せてやった…。
  
  「…この時代最強の拳士か…強さ以外にも動物を引き寄せる何かを持つ…
   見事だ、小夜よ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 明け方…
  
  「う…ん…」
  
  「気が付いたか…」
 
 ラオウの声に対してコクリと頷きながらゆっくりと立ち上がる小夜。
 ふらついている様に見えるが、それは単に寝起きのためである。
 昨晩の内に、ラオウは小夜を抱えて小屋に入った。
 黒龍も動物達も後を着いてきて小屋に入る…黒龍が入るサイズの小屋なので
 小屋といっていいのか微妙であるが…。
 
  「…ありがとう、御座います…ラオウ、黒龍、皆」
 
 そう言いつつ、ラオウ以外の頭を撫でてやる小夜。
 おそらく、自分の事を見守っていた事に気が付いていたのだろう。
  
  「準備をしておけ…町へ行く…」
  
  「…わかりました…黒龍」
 
 荷物を纏めるのだろう…ラオウと黒龍は部屋を出る。
 そして、数分後…
  
  「お待たせしました…参りましょう…」
 
 小夜が歩いてきた…荷物は随分と少ない…。
 着替えだけなのだろう。
 そして、黒龍が腰を下ろす…黒王をも超える巨体だが、ラオウは難なく跨る…
 その後、小夜を片手で持ち上げ、後ろに座らせる。
 
  「黒龍よ…見せてもらうぞ、うぬの走りを…」
  
  【ギュオオオオオ―――!!!!】
 
 そうして、大地を踏み鳴らし疾走しはじめた。
 その速さは巨体とは思えないほど早く、時速に換算すれば百ほどは出ていた。
 
  「ふ、風が強いな」
 
 当然、風を受けながら走ることになる…だが、ラオウは闘気を纏っているため
 通用しない。
 後ろの小夜も振り落とされないようにしっかりとラオウに捕まっている為、
 風の影響を受けてはいない。
 そして、不思議なことに…黒龍の走った後には蹄の後が無かった。
 どのような走りをしているのかは不明である。
 ただ、蹄ではないものの…クレーターが出来ていただけだ。
 そして、ラオウの治めている町が見えてきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「な、何だ?この地響きは…」
  
  「盗賊団でも来たのかー…ラオウ様の留守中に」
  
 町では厳戒態勢が敷かれていた…響いてくる地響きに対応するためである…
 実に迅速な対応なのだが…如何せん、音源が急速に近づいてくるのだ。
 その為、愛紗・星・瑞佳・鈴々の一騎当千の将が数名の精鋭を引き連れて
 門の前で待機している。
 桃香達は急いで軍を編成しているところだった。
  
  「なんにせよ…今日中には帰られるとの事…それまでは守り通さねばな」
  
  「うむ…ん?見えてきた…ぞ…」
 
 星が気合を入れるために言をしたのに対して愛紗がこたえ…見えて来た為
 その音の主を見ると…
  
  「ら…ららららららラオウ様―――!!!?」
 
 瑞佳が物凄く驚いた表情で音の主…黒龍に乗ったラオウを見る。
 驚くのも無理は無い…見たことも無いような巨大な馬に跨りながら超スピードで
 接近してくるのだ…驚くなという方が無茶な話である。
 そして、桃香達がやってきた。

  「皆お待たせえ―――――!!?」
 
 えの発音のまま桃香が驚いている…朱里たちは驚きを通り越して固まっていた。
 やがて…黒龍は速度を緩めていき…門の前に悠々と姿を現した。
  
  「戻ったぞ、桃香・瑞佳・愛紗…どうしたそのような顔をして」
 
 いまだ固まっている愛紗達に声をかける。
 黒龍の背から降りたラオウ…そして後に続くように小夜も降りていく。
 小夜は首を傾げている…何故驚いているのかわからないのだろう。
 見慣れない人間が黒龍のような馬の超速疾走を見たら驚くに決まっている。
  
  「…は!ラオウ様、失礼しました!こ、この馬は…?」
 
 誰よりも早く気が付いた瑞佳がラオウに対して黒龍の事を聞く。
 他の全員も気が付いたようでブンブンと首を縦に振る。
 兵士達は未だに固まっているが。
  
  「出る前にも言ったであろう…我が友となるモノだ」
  
  「…………その者は?」
 
 長い間の間にラオウ様だから仕方ないと言い聞かせつつ小夜をみやる愛紗。
 愛紗の視線に丁寧にお辞儀をしつつ小夜が自己紹介する。
  
  「はじめまして…姓は、大和…字は、武蔵…真名は小夜です…よろしく、お願いします」
 
  「…何故、真名を」
  
  「ラオウが、気を許していそう…だったから」
 
  「ラオウ様…聞き間違いでなければ…」
  
  「瑞佳よ…うぬの考えている通りだ」
 
 瑞佳は見知っているのか、ジッと小夜を見る。
 小夜はジーッと瑞佳を見つめ、思い出したかのように手をぽんと叩く。
  
  「瑞佳ちゃん?」
  
  「その声…挙動…やはり南斗鳳凰拳伝承者・小夜か…」
  
 その後、全員で自己紹介を済ませ、改めて全員が黒龍を見る。
 ラオウが手を上げた地点がちょうど馬の背と同じ高さになるほど大きい。
 そして、顔立ちは馬特有のものではなくまるで、架空の存在である龍を連想させるような
 荒々しさを誇る。
  
  「馬舎に入るか?」
  
  「…どうでしょう…正直、中には入ると思いますが
   囲いの狭さを考えると無理に思えます」
  
  「ふむ…ならば急遽造る必要があるな…資金は足りるか?」
  
  「はい、張角さんを討ったと認識されたため多額の報酬がありますから余裕があります…
   すぐにでも取り掛かりましょうか?」
  
  「うむ、頼んだぞ朱里、その新たな馬舎を造るのにこの俺も加わろう」
 
 そう言って、朱里を肩に担いで歩き出すラオウ…朱里は驚いたものの、すぐに気を引き締めて
 大工のいる場所へと案内していた。
 ついでに、その後ろをテクテクと小夜が歩いていた。
  
  「…暴れないのだろうか」
 
 星がポツリと呟いて黒龍を見る…見たところ大人しくしているようだが…
 特にちょっかいをかけない限りは平気だろう。
  
  「一応、俺が見張っておこう…今日は公演も無いしな…」
 
 今日は天和の劇場が無い日である、そして…
  
  「じゃあ、私達も仕事に戻ってるね…」
 
 桃香が町の警邏に乗り出していく…他の面々も残っている仕事を片付けに歩き出した。
 その間、黒龍は微動だにせずラオウの去った方角を見据えていた
 小夜の仕事は主に町の警邏となった。
  
          :ラオウと小夜の戦闘時間は三十分程度です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 















































 おまけ
  
  「く…」
  
 愛紗が必死に黒龍の背に乗ろうと奮闘する、だが、なかなか乗らせようとはしなかった。
 鈴々や星、瑞佳や他の屈強な兵たちも乗ってみようと奮闘していたが、リタイアしていた。
  
  「やはり、ラオウ様か小夜で無いと乗らせてくれぬのでは無いのか?」
  
  「やっぱりそうなのかー」
  
  「小夜は幼き頃より一緒に居たと言うことだからな…
   ラオウ様は覇気で通づるものがあったのだろう」

 ぼろぼろになった体をはたきながらその場を去っていく瑞佳達…だが、翌日…

  「皆―!乗れたよ―!!」
 
  『……』
 
 桃香があっさり乗っていた。
 他のものが後で乗ろうと試しても乗ることが出来なかった…


:この黒龍、家族と覇者以外乗せぬ!



[6264] 第12話:反董卓連合結成!総大将はやはり奴が…
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/17 09:08
:原作と違い、とある勢力が仲良くなっており、約一名賢くなっています。






 漢の皇帝…霊帝の死…。
 それに伴い、黄巾の乱により発生していた権力争いが勃発…
 というような堅苦しい内容はおいておいて民を苦しめている董卓を
 ともに倒しましょう!
  
  「以上がこの手紙の内容だ」
  
  「過程いろいろ飛ばしてませんか…?」
 
 勿論、この手紙以外にも、マトモな内容が書かれたのもある…
 だが、あえて朱里はこの手紙を議題に取り上げたのだ。
  
  「何か、裏があるやも知れぬ…」
  
  「そもそも、このような手紙に乗る様な人は…」
  
  「弱い人々をいじめたおすなんて許せないよ!」
  
  「桃香様の言うとおりです!」
  
  「そうなのだそうなのだ!」
 
 …居た。
  
  「ごめんなさい、ちょっとした冗談です…でも、苦しんでいる人たちを
   助けたいのは本当だよ」
 
 すぐに桃香が謝罪する…愛紗もそれに習って謝罪をする…鈴々も。
 
  「…それはともかく、この召集に対しどう出るかだ…皆の意見を聞きたい」
  
  「私は賛成、重税を課してるって聞くし、苦しめている人たちを放っては置けないよ!」
  
  「鈴々も賛成なのだ!」
  
  「私も同意見です!」
  
  「ラオウ様、この俺も同意見です!」
 
 桃香・愛紗・鈴々・瑞佳が賛成派として発言する……その一方で首を傾げる四人が居た。
 
  「この手紙…全部が本当の事?」
 
  「賛成したいのは山々だが…少し気になる点があるな…」
  
  「もう少し考えるべきだと思います」
  
  「(コクリ)」
 
 小夜・星・朱里・雛里の四人は反対意見……というよりも疑問点を指摘する。
 当然の事ながら天和は軍議には参加しない。
 
  「漢の皇帝が去った以上、我らは理想を客観視し、現実を見据えねばなりませんからな」
  
  「私達のような弱小(?)勢力は上手く位置を掴まないと
   あっという間に激流に流されてしまいますから…その流れを打ち砕きそうな人が居ますけど」
  
  「それに、これは各諸侯の嫉妬によるものが大きいと思われます」
  
  「でも、だからと言って…」
  
  「これは…ラオウ、様が決めること…もう…答えは出ているのでしょう?」
 
 今までの話の流れを斬り、小夜がラオウを見る……他の面々も既にジッとラオウを見据えている。
 ラオウはこの会議が始まる前から既に答えは出ていたのであろう……それでも、
 議題にあげたという事は皆の意見を聞くためだろう。
 独断専行の覇者には恐怖でしか人を縛る術が無い……哀しみを背負ったラオウは
 恐怖での政治をする気はもう無い……本人の意思とは無関係に敵に恐怖を与えているが。
  
  「朱里よ…兵はどれほど用意できる」
  
  「えーっとですね…残った資金を考えると準備なども含めてこのぐらいかと…」
 
 ラオウの前に一本と二本の指を立てる…その様子だと…
  
  「一万二千か…仕方あるまい、その分を我らが補えばよいだけだ…雛里・朱里は
   兵糧、補給の用意を、愛紗・鈴々・瑞佳・星は兵の配備を」
  
  「…私は?」
  
  「俺とともに馬舎へ向かうぞ…桃香は兵士の緊張でも和らげておけ」
  
  「…なんか、私だけ役立たず?」
 
 落ち込む桃香だが、その様子を瑞佳・愛紗らがフォローする……ラオウはほぼ単体で
 軍として動けるが、他の面々は違う……そういう時に皆を纏め上げるのが桃香の役目だ。
 特に今回は統率力の低い黄巾党などとは違い……正真正銘の軍が相手となる。
 黄巾の乱の時のようなごり押し戦法では兵の負担が増えるだけだ。
  
  「此度の反董卓連合では、各地の有力な諸侯が集まるであろう…名を上げるには
   打ってつけともいえるな…」
  
  「弱小勢力じゃないってところを見せる…か」
 
 ラオウの言に瑞佳が反応する……確かに有力な諸侯の前で力を見せ付ければ弱小ではないと
 見せることが出来るだろう…そのためには、兵の損失をイカに少なくし、
 戦果を見せることが出来るのかが重要となる……。
  
  「…此度の戦い、見事乗り切って見せようぞ」
  
  『はい!』
 
 そうして、各々が出撃に向けて準備を開始した。
 余談だが…今回は天和はお留守番、瑞佳と一緒に行けないと駄々をこねていたが……
 瑞佳の機転によりファンの方々と一緒に全員で町を守りますと息巻いていた。
 何をしたのか尋ねたが、瑞佳は企業秘密だといっこうに答えなかったため、
 それ以上は聞くことはしなかった。
 そして、出撃の日…大勢の人々に見送られ、連合軍の居る陣地へと向かっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「ここが連合軍の集う陣地か…」
 
 陣地の至るところに天幕が張られ、諸侯の旗が所狭しと並べられていた。
 色とりどりの軍服で身を包んだ兵士達があちこちでたむろしていた。
  
  「ほわー…たくさん兵隊さんが居るね―」
  
  「ふむ…陣地中央の大天幕の旗が河北の雄、袁紹の旗か」
  
  「袁紹の従兄弟に当たる袁術、曹操・孫策・馬騰…あれは公孫賛殿の旗か?」
  
  「白蓮ちゃんも来てたんだ―」
  
  「これだけの将が一同に集結か……ふ、血がたぎってくるわ」
  
 ラオウが覇者としての顔でかなりいい笑顔をしていた……見た兵士達が失神するほどに。
 そんな時、金ぴかの鎧を纏った兵の一人が勇気を振り絞りながら近づいてきた。
  
  「長旅ご苦労様です、貴公の名と兵数をお聞かせ願いますでしょうか」
  
  「平原の相、北斗。兵を率いて参上した。連合軍の大将の元へ取次ぎ願いたい」
  
  「は!しかし恐れながら現在連合軍の総大将は決まっておらぬのです……」
 
  「……決まって、ない?」

 小夜が首を傾げる……決まってないとはどういう事なのだろうか。
 その時、聞き知った声が後ろから聞こえてきた。
  
  「今、急ぎで総大将を決めているところさ」
  
  「白蓮か」
  
  「白蓮ちゃん!」
 
  「よ、桃香。相変わらず元気そうだな……ラオウ、
   あんたは相変わらずごついね……さらにはとんでもない馬まで」
 
 黒龍の事を見ながら挨拶を交わしてくる……因みに黒龍が馬の居る領域に入った瞬間に
 暴れていた馬達が大人しくなった。
 
  「大将が決まってないってどういう意味なのだ?」
  
  「あぁ、それは」
  
  「諸侯の主導権争いが泥沼化しているんでしょうか…」
 
 朱里が割って入ると、白蓮は首を横に振り…
  
  「それがなぁ、逆なんだよ」
 
 溜息とともに眉間にしわを寄せて心底困ったように言葉を続ける。
  
  「一部を除いて、総大将など面倒だって人間がほとんどで……
   軍議が全く進まん」
  
  「そんなのやりたい奴にやらせればいいのだ―……違うのか?」
  
  「実際そうなんだが……やりたそうにしている奴が自分から言い出さないんだよ」
 
 つまり、やりたい奴がやれという状況になっているのに、やりたい者が
 立候補せず、また推薦するにも責任を背負ってしまうのが嫌な為、誰も薦めようとは
 しない……腹の探り合いが続いており、軍議が滞っているらしい。
 その状況に疲れたため、息抜きに軍議を抜け出して来たところをラオウ達が来たという事だ。
  
  「……ちょっと乗り込んでくる!?」
 
 ずかずかと歩き出しそうな桃香をラオウが片手で抑える。
  
  「落ち着け…これは権力争いの一端だ、発言力の弱い我らが言及したところで
   何の意味ももたらさん」
 
 そう言って、桃香を離す。桃香は納得がいかない表情で……俯いたまま黙り込む。
 このままでは、もしも圧制自体が本当だった場合苦しむ人々が更に苦しみ……
 董卓軍はますます軍備を強くしていくだろう。
  
  「まずは、軍議に参加する事が重要だな……ラオウが入ればそれなりに
   空気が変わるだろうさ」
  
 そう言って、白蓮が少し前に出て案内する足取りで天幕へと入っていく。
 ラオウは桃香の肩を一回叩き……
  
  「まずは軍議に参加するぞ」
  
  「……うん」
 
 桃香を連れて天幕へと入り込んでいった……残された愛紗達は自分達の天幕を張りに
 歩いていった……その後場所が決まった後で、小夜を中央の天幕の外へと派遣した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「あら?誰か来ましたわね」
  
 ラオウが天幕に入った瞬間、多少ざわめきがはしった。
 曹操はラオウと眼が合ったため軽く会釈をする。
 ラオウもそれに習った後。
 
  「平原の相、北斗だ」
 
 そう言ってラオウは空いている席を探し立ったまま腕を組む…椅子が合わなかったらしい。
 その椅子には桃香が座っている。
 
  「……コホン、さて軍議の続きですが、我々連合軍が効率良く兵を動かすにあたり、
   たった一つ足りないものがありますの」
 
 金髪のドリルヘアーをした少女がいち早く場を静め、沈黙する軍議の中で
 一人喋っていた。
  
  「兵力、軍資金、装備……全てにおいて完璧な我ら連合軍。
   しかしただ一つ足りないもの……さてそれは何でしょう」
 
 口元に手を当てて不敵に笑う少女……近くにいた白蓮の話ではあれが袁紹らしい。
 話し方からしてその袁紹が大将をやりたがっているというのは馬鹿でもわかることだ。
 もし仮に推薦したとしても援助はけして貰えないだろう……態度からして
 なって当然という雰囲気を纏っているのだから。
 まあ、もとより援助など必要が無いが。
 
  「まず第一にこれほど名誉ある目的を持った軍を率いるには、相応の
   家格というのが必要ですわ。
   そして、次に能力。気高く、誇り高く、優雅に敵を殲滅できる、
   素晴らしい能力を持った人材こそがふさわしいでしょう。
   最後に、天に愛されているかのような美しさと、誰しもが溜息を漏らす
   可憐さを備えた人物……そんな人物こそ、この連合軍を率いるに足る
   総大将だと思うのですが、どうかしら?」
 
 ペラペラとよく喋る口だ、とラオウが呆れ気味に呟く。
 聞こえていた周りの諸侯達は同意するかのように軽く首を縦に振る。
 
  「で、この連合軍の中に貴方の挙げた条件に合う人間は居るのかしら?」
  
  「さあ?それは私が知ることではありませんわ。
   けれど、世に名高いあなた方なら誰かお知りじゃありませんの?」

  「そうね。……案外身近にいるかもね」
 
 曹操が溜息をつきつつ言を返す。
 袁紹は笑ったまま……はっきり言って鬱陶しいだろう。
 そんな中……
 
  「じゃったら、突っ立っておるその男にやらせたらどうじゃ?」
 
 袁紹の近くに居た袁術が発言し、場は騒然となった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「(のう雪蓮……あの北斗という男は何者じゃ?)」
  
  「(最近現れた天の御遣いと噂されている人物よ)」
 
 ラオウがこの場に現れてからひそひそと会話する少女達……
 袁術と孫策の二人である。
 この二者は同盟関係にあり、客将というわけではなく
 友人のような関係を築いていた。
 袁術の下に来たとある男が袁術のアレな性格を矯正した
 と言われているのだが……そのため、孫策の母が倒れた時に
 吸収ではなく同盟として組み込んだそうだ。
  
  「(ほう……ちと、袁紹を困らせてやろうと思うのじゃがどうだ?)」
 
 袁術の企みに気が付いた孫策は、ラオウのほうを見やり……
 了承した。
 孫策の反応に満足したのか、袁術は曹操が呆れて袁紹が高笑いしている
 間に割り入るかのように……
  
  「じゃったら、突っ立っておるその男にやらせたらどうじゃ?」
 
 袁紹は口を高笑いした状態のまま固まり、曹操も一時固まったが……
 すぐにその企みに乗ることにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ラオウは不意打ちに対して多少驚いた、まさかまだ弱小勢力である自分に
 指名が飛んでくるとは思わなかったからである。
 桃香も驚いて袁術の居る方向を見ている。
 
  「なななな何をおっしゃいますの!袁術さん!」
  
  「だってのう……このままでは軍議が進まぬからさっさと総大将を
   決めたほうが得策じゃろう?」
  
  「そうね……このまま不毛な議題を続けるよりもさっさと決めて
   次にいった方が得策よ」
  
 孫策が袁術に同意するように言葉を続ける。
 袁紹は慌てていたが、すぐに冷静さを取り戻し……

  「でも、その男では条件には……」
  
  「あら結構合致してると思うわよ」
 
  「んなあ!?」
 
 今度は曹操が言を挟む……ラオウは袁術達の企みに気が付いたが
 無理に口を挟んで議題が延長に持ち込むことをよしとしないので
 黙ったまましっかりと見据えている。
 ……ラオウの分まであたふたしている少女が近くに座っているが。
  
  「まず家格は関係ないわ、あの男は今噂の天の御遣いと称されている男よ」
 
 その言葉に各諸侯の視線が集まった……英傑の覇気にラオウは動じる事無く
 しっかりと立っている。
  
  「次に、能力だけど雄々猛々しく(気高く)、誇り高く、豪快かつ圧倒的に(優雅に)敵を
   殲滅できる腕を彼単体で持っているわよ……これは黄巾の乱の時に
   一緒に戦った私が保証するわ」
   
  「今、当て字みたいな事を言っておりませんでした!?」
 
 曹操は、推薦する人物が袁紹であればこのように推薦することは無かっただろう……
 だが、戦いを共にした事のあるラオウとなれば話は別らしい。
 かなり活き活きとした表情で語りだしていく。
 八割以上本気でラオウを総大将に立てる気満々である。
 袁術は予想の斜め上をいく展開に驚いていたが……袁紹が総大将を張るよりマシだろうと
 傍観した。
  
  「最後に天に与えられた圧倒的な体格と覇気、誰しもが命を預けられるような頼もしさ……
   最後の条件が変わってしまったけれどそれに取って代わるかのような素質はあると思うけど?」
 
 確かに概観だけ見れば圧倒的な力を感じる体格……そして抑えてもにじみ出る覇王の気質。
 総大将の条件をかなりの部分満たしている上に、袁紹と双璧を成す曹操の言だから
 誰も文句は言わない。
  
  「あとは、北斗が決めることだけどね……」
  
  「お待ちください!総大将は私がやりたいのです!!!!」
 
 袁紹が大声でぶっちゃけた……この会話の流れでは自分が総大将になる事が出来ないからだろう。
 最大の敵は曹操であったが、その曹操が推薦するような男……ラオウも敵と認識したのだろう。
  
  「まったくやりたいのなら、最初からそう言えばいいのよ……でも、私は北斗を
   推薦したままよ?」
  
  「ならば、総大将を二人にすればいいのです!これで文句は無いでしょう!!」
  
 机をバン!と叩いてさっさと続きを促す……。
 結局この日は総大将が決まり、どちらの陣営に付くのかを決めるだけ決めてこの日は終了した。
 進展があっただけでもマシだと思ったが……いざ、自分達の天幕に戻り、詳細を伝えると……
  
  「総大将が二人……その内の一人がラオウ様……はう」
  
 朱里は驚きのあまり寝込んでしまった。
 他の面々も口を開けて固まった……そのような展開になるとは思っても居なかったようだ。
  
  「総大将ではあるが、俺の立場は総副将、実質的な将は袁紹だ」
 
 二つに分裂してしまっては勝てるものも勝てなくなる……そう考えたラオウは
 推薦した曹操の面子を潰さぬように……そして、誰しもが納得するようにと、
 副将としてならたつと宣言した。
 曹操は一瞬苦い顔をしていたが、会議が進行する度合いを考えるとその方が
 得策だとして(主に袁紹がらみ)円滑にするために口を挟まなかった。
 ちなみに、実質的な分派としては……ラオウサイドには曹操、孫策、袁術、白蓮……。
 その他の諸侯は流石に軍力が少なそうなラオウには味方をしなかった。
 
  「ともかく、明日より作戦が練られる……朱里、雛里……この資料を用い
   案を練るがよい……今日のところは各自しっかりと休め……」
 
 そうして、この日の軍議は終わりを告げた……。
 翌日、策など入らぬとして袁紹が

  「作戦は唯一つ![退かぬ!媚びぬ!省みぬ!]ですわ!」
 
 などと言い出したため、ラオウ・曹操・孫策・袁術・白蓮は独自に動くことを決意した。
 いざとなれば袁紹を盾として使うことを決めて進軍した。
 最初の難所は汜水関である…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おまけ:馬の言葉を人間のものとして解釈しています。
  
  「おい、新しい軍が到着したみたいだぜ?」
  
  「は!何処の田舎ものだ?」
 
 そうやって喚き散らしているのは袁紹のところに居る馬達である。
 豪華な装飾をつけており、威張ってばかりいる馬である。
 
  「何でも北斗の軍の馬らしいですぜ」
  
  「は!雌は連れて来い、雄は適当に立場を分からせてやれ」
  
  『へい!』
 
 いざ行動を起こそうとした時
  
  「仲のいい事だな」
 
 黒龍がゆったりとした足取りで入ってきた。
 馬とは思えぬ圧倒的な覇気……馬の王と言っても過言では無いだろう。
 馬達は全員沈黙せざるを得なかった。 
 
  「どうした、思い知らせるのではなかったのか?」
  
 その瞬間、袁紹の軍の馬は一斉に頭を下げた。
  
  『すんませんでした―――!!!!!』
 
 馬係のものは馬達が大人しくなったのに安心したが……
 黒龍の世話をどうしようかと悩む羽目になった。
 その後、小夜が来て黒龍だけは小夜が世話をすることになったが。



[6264] 第13話:卵こそが正義(?)
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/19 08:35
 
 
 
 
 
 汜水関―――虎牢関と並び難攻不落として名高い要塞。
 朱里の放った斥候によると汜水関に立て籠もっている董卓軍の数は五万。
 その内、強敵として上げられるのは三万を率いる華雄将軍、
 兵の質も装備の質も高く、士気もかなり高いとの事。
 そのような敵を明確な作戦も無いまま倒すことが出来るのか……
 軍の兵士全員がラオウクラスなら話は別だが…いや、一個小隊居るだけで足りるか。
  
  「う……吐き気が……」
  
  「どうしたのよ一刀」
  
  「いや、軍の人全員が北斗さんみたいな人ばかりだったら作戦要らないな
   と考えていたんだけど……その光景を想像したらちょっと、ね」

  「今すぐ忘れた方が賢明よ……とにかく、実質軍が二手に分かれてしまった以上
   袁紹の作戦行動を無視して、独自に作戦展開する必要があるわ」
  
 そう言って、一刀と珪花を引き連れ反董卓軍北斗連盟の集会に集った。
 
  「ひとまずは自己紹介ね、私は孫策」
  
  「北斗だ」
  
  「公孫賛だ…」
  
  「袁術じゃ」
  
  「曹操よ」
 
 軍師たちは既に自分同士で自己紹介を済ませている。
 ほとんどの有力諸侯が袁紹に集ったとはいえこの早々たる顔ぶれは
 袁紹側と比較しても劣ることの無い勢力である。
  
  「まずは改めて礼を言っておこう曹操よ……このような弱小勢力の俺を
   総大将の片割れとして推薦したことを」
  
  「ま、あれの指示に従うよりは兆倍マシだからね、そもそも
   腹の探り合いだけをしている連中を引き連れるのも癪だし」
  
  「副将と言ってもこの軍は実質総大将の軍勢と言っても過言では無いかのう?」
 
 それは言えてる、と参加者全員が頷いている……表向きは袁紹が総大将だが、
 覇気の事を考えれば曹操や孫策、ラオウ・桃香の方が上である。
 その面子が一同に会しているこの軍が主力だと言っても過言では無いだろう。
  
  「まあ、作戦要らないという事は籠城戦に限ればそうなんだけどなー」
  
  「いっその事門を壊しちゃうってのはどうかな?」
 
  「いや、出来ればいいが無理じゃろ」
 
 袁術が至極真っ当な突込みをする、確かに普通の人間では門を破壊する事など不可能だろう。
 それこそ、それ専用の大木を用いて突っ切る必要があるし……仮に
 人員を確保したとしても敵は攻撃をし続けるだろう……主に弓で。
  
  「それは名案ね、北斗、出来そうかしら?」
  
  「可能か不可能かで聞かれれば可能とだけ言っておこう」
 
 そう言って手持ち無沙汰な手で近くの石を拾い握りつぶす。
 陣地の外での護衛の任に付いている小夜は石を投げては真っ二つに切り裂く作業をしていた。
 南斗聖拳の特徴は素手で硬物を貫いたり切り裂いたりできる特徴がある。
 もっともラオウは闘気そのもので粉砕できるが。
  
  「……本気?」
 
 孫策が訝しげに見る……確かにラオウの体格はそこらの男では太刀打ちできない―――いや
 それどころか多数の名だたる将をぶつけたとしても軽く粉砕できるだろう。
 だが、孫策の考えとしては幾らなんでも門を破壊するなど無理だろうと言うことであった。
 少なくとも人間で考えられる範疇ではだが。
 
  「信じる信じないはそちらの勝手……私はその方向で進めて行こうと思うのだけど?」
  
  「まだその作戦を使うには時期が早すぎる……敵に警戒されれば本拠地決戦に
   持ち込まれかねん」
  
  「……できると言うことは信じよう……じゃがどうする?
   このままでは袁紹の作戦のままで突撃する羽目になるぞ」
  
 袁術がラオウの門破壊能力を一応認めたことにし、話をすすめるが……
 作戦が決まるでもなくただただ時間が過ぎていく。
 もうじき全軍出撃行動の時間ではあるが……。
  
  「……汜水関を守っているのって華雄よね?」
 
 孫策が軍師陣営に対して質問を投げかける。
 その質問に、代表して朱里が頷いて肯定する。
  
  「だったら、私の名前を使って挑発して外におびき出しましょう」 
  
  「……なるほどのう、しかし雪蓮いくら何でも乗ってくると思うか?」
  
  「そういえば、貴方のところの母君にコテンパンにされたんだっけ華雄は」
 
 ラオウの知らない話題に入ってきたためラオウは静かにその話を静聴する。
 その視線はとある方向を向いたままだったが……
 一刀は近くに座っていた一人の少年と意気投合して話し合っていた。
  
  「一刀さんですか、ここに来てからつけた名ですが僕は姓は鷺絆
   字は関。真名はシバと言います」
  
  「ここに来てからって…もしかして司馬も別の場所から?」
  
  「私もシバも同じ時代から来た……おそらく、北斗と言う男もな」
 
 司馬と一刀の会話に乱入してきた男、この男こそ袁術のアレな性格を直した人物である。
 ラオウは桃香達に作戦決めを任せて
 
  「……一応名を聞いておこう俺は北斗拳王…真名はラオウだ」
  
  「姓は鷺白、字は仁星…真名はシュウだ……随分と丸い性格となったものだなラオウ」
  
  「ケンシロウに敗れて憑き物が落ちたとでも言っておこう……眼は見えておるのか?」
  
  「残念ながら見えてはいない……どうやらあの瞬間だけしか視力が戻らなかったようだ」
 
  「…そうか」
 
 そう言ってラオウは再び議席へと戻っていった。
 
  「シバの父上と知り合いなのか?」
  
  「…あぁ」
  
  「ま、それはいいとしても作戦は決まったわよ」
  
  「挑発して出て来た所を一気に殲滅作戦」
  
  「出立には間に合ったわね……一応、先陣をとる旨を伝えておいて頂戴」
  
  「よかろう…」
 
 そう言ってラオウは袁紹のいるところへ行き、先陣に立つという
 事を伝えておいた。
 袁紹は先陣に立たせる役を誰にしようか悩んでいたのですぐに了承した。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「華雄…出たらあかんで?」
 
 ラオウ達が作戦通りに挑発を繰り返している。
 その間に弓兵に対してラオウが兵に持ってこさせた岩を投げるのも忘れていない。
 石を投げて挑発する子供がいたりするが、岩は挑発用にはならないだろう。
  
  「わかっている、わかっているんだ……だがなぁ…」
 
 弓で敵を討つ事が敵わず、また次々と兵を損耗していきつつ罵倒を浴びせられ
 かなり頭に血が上っている華雄。
 出撃しないのは張遼が必死に押しとどめているからだ。

  「華雄将軍!!!」
  
  「分かっている……くそ」
  
  「(こりゃあと一押しされたらあかんなー)」
 
 ふつふつと湧き上がっている華雄の怒りの質を見て
 そのようなことを思う張遼だった。
 そして、既に撤退準備を進める手はずを整えているのはちゃっかりしてるのか
 しっかりしているのか……
 
  「ぐぐぐぐぐぐぐぐ…孫策め―……」
  
  「(因縁がある相手の挑発に耐えれれるんやからまだマシな方やな―)」
 
 そんなことを思っていると少し乗り出していた華雄の額に……
 卵が命中した。
  
  「…」
  
  「(あ、もう止めるの無理や)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――少し前
  
  「やーいやーい臆病者ー!」
  
  「引篭もりー♪」
  
  「あんたの名が泣くぞ―」
  
  「とても勇敢な将には思えないわね―!」
  
  「ほらほらどうしたの!お母様に惨敗した恨みでも晴らしに来なさいよ―!」
  
 袁術・桃香・白蓮・曹操・孫策の順で挑発をしていた。
 演技だと分かっているのだがこの光景は少し異様である。
 
  「華琳がなんか楽しそうにしてるような…」
  
  「口を慎め一刀!華琳様がこのような事を楽しそうにするわけが無いだろう!!」
  
  「……半分一刀の言うとおりかもしれぬな…」
  
  「秋蘭!?」
  
  「出て来ぬか…」
 
 ラオウが一刀達の漫談を無視し岩の投げ入れを中断して敵の陣をみやる。
 敵の将が見えるのだが怒っているようだが、もう一人が押し留めているように見える。
 あの方向に岩を投げなかったのは単にラオウ流の礼儀。
 武将は戦場で倒すのが礼儀、と言う方針を固めている…。
 もう一度上を見る、怒りが有頂天に達しようとしていた――おそらく後一押しで…。
 その時、ラオウのマントをクイクイと引く者が居た、小夜である。
 
  「卵」
   
  「…なるほどな」
 
 かなりマヌケだが効果的であることは決定的明らか。
 ラオウはひょいと卵を投げた。
 結果は大成功…顔を拭くことを忘れた状態で華雄が兵を率いて門を出てきた。
  
  「…卵こそが正義、いい時代になったものだな」
 
  「何を言ってる瑞佳」
 
 瑞佳が泣いていた…どうやら卵は瑞佳の好物だったらしい。
 
  「さて、門が開き野戦に持ち込めた…後は」
  
  「一挙殲滅を目指しましょうか…」
 
  「全軍!敵は冷静さを失った兵だ!所詮勢いのみ、早期殲滅するぞ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 おまけ:一刀の想像した兵士全員ラオウクラス
  
  『『『北斗剛掌波!!!!』』』
 
 逃げ惑う敵、蹂躙していくラオウクラスの兵達。
 いくら作戦を練ろうが倒す事の出来ない無敵の軍勢。
 人々は抗う事ができず、ただ恐怖に怯えるしかなかった…。
 
  :逆に濃すぎてこれ以上の描写が出来ね―…



[6264] 第14話:華雄敗北
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/19 08:48
 
 華雄の軍がラオウ軍の前衛部隊と衝突した。
 その時にはラオウは本陣におり、前衛部隊には曹操、桃香、白蓮等の
 挑発していた武将の面々が並んでいた。
 因みに、卵が投げられ当たった場面は見ていない為、華雄が何故
 前髪の辺りがテカテカしているのか分かっていない。
 怒っているのは挑発に乗った為と分かっているのだが…
  
  「殺す殺す子r簾殺す殺す固陋!!!!!」
  
  「口が上手く回っていないわね…」
  
  「大成功だけど…なんかやばくないか?」
 
 曹操・白蓮が暢気に話しをする、その間にも前衛部隊は苦戦を強いられていた。
 曹操達が直接指揮しているためそれなりに防げているが…
 華雄の天をも貫くような怒気を当てられた華雄の兵士達は士気が半端無く上がっていた。

  「朱里ちゃ―ん…効果が思わぬ方向で失敗にむかってなーい?」
  
  「……これほどまでに怒るとは、余程孫策さんのお母様に負けた事を
   指摘されたことを怒っているようですね」
 
 朱里達には卵の件が分かっていません。
  
  「く…黄巾の時とは敵の実力が段違いの強さだ」
  
  「挑発が効き過ぎたらしいな」
  
  「怒りっぽすぎなのだ―」
  
 関羽達には卵(ry
  
  「春蘭…これ、やばくないか?」
  
  「挑発作戦は失敗だったか…」
  
 一刀達にも(ry
  
  「前線が崩壊しそうだな」
  
  「…行きますか?」
 
 本陣の方で状況を見るラオウ…本陣に居る理由は曹操に
 総大将は本陣でどっしりと構えるものよと言われたからである。
 
  「ここまで崩壊してしまえば、直にここまで兵士がやってくるだろう…」
  
  「…」
  
  「それが少しばかり早くなるだけの事…小夜、出るぞ」
 
 小夜に意見し、黒龍に乗るラオウ…その後ろにチョコンと
 小夜が座る…
  
  「本陣の兵たちよ…敵の攻撃は想像以上に苛烈だ…このままでは
   崩壊するだろう…だが、この俺が敵を殲滅しに動けば
   たちまちの内に状況は覆る…勇敢な兵たちよ!
   我に続け――――!!!!!!」
 
 ラオウ軍最強の二人が、今…前線に君臨しようとしていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  

 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
  「ラオウ様が…?」
  
  「北斗が出るのね…確かにこの劣勢は予想外だから賢明かもしれないわね」
  
  「そうだな」
  
  「え?この劣勢が覆るの?」
  
  「どういう事じゃ?」
  
 桃香達の意見の意味が呑み込めずキョトンとする孫策と袁術…
 この二人はまだラオウの無s…戦いぶりを見ていないので、
 首を傾げるだけだ。
 そこまで前人未到の強さを持つとは思っていないのだろう。
 門破壊の件は軽い冗談だと思っていたからだ。
  
  「見れば分かるわよ」
 
 そして、ラオウが曹操達の横を通り過ぎ…敵を攻撃し始めて
 ようやく、曹操達の言葉の意味を袁術達は知ることとなった。
 
  「北斗剛掌波!!!」
 
  「極星十字拳…」
 
 戦場を縦横無尽に駆け回り董卓の兵士を次々と葬っていく二人…いや、それは
 黒龍も同じで何とか懐に潜り込んだ兵を蹴り上げ、または踏みつけて蹂躙していく。
 それはまさに地獄だった。
 ぶつかり合った序盤こそラオウの軍勢が不利だったが……ラオウと小夜の二人が前線で
 このような蹂躙劇を繰り広げているうちにあっという間に戦局は覆された。
 
  「えーい!何をしている軟弱者!敵はたった二人だぞ!?」
 
  「二人ってレベルじゃないです!むしろ万の軍勢を相手にしてるようなものですよ!?」
 
 愛紗達はその兵の言う事に全面的に合意した。
 ラオウだけでもとんでもない戦闘力を持っているのに、小夜まで
 かなりの戦闘力を持っていたのだ。
 しかも、小夜に至ってはあまりに早すぎて何が起こっているのか理解できない。
 ラオウの剛拳は目立つ恐怖に対して小夜の速さは未知の恐怖。
 姿が消えたと思ったら既に自分は死んでいたという事が実際に起こっているのだ。
 踏み込みの速さは尋常ではない。
 
  「うぬが華雄か」
  
  「…っ」
 
 華雄の前に堂々と立ち塞がるラオウ…既にラオウと小夜の二名によって
 指揮系統はほぼ壊滅状態に陥り、残り数千名しか残されていなかった。
 もはや、全滅といっても過言ではない。
  
  「私も武人だ……せめて貴様の頸を貰うぞ…降りて戦え!」
 
 そう言って鉾をラオウに対して向ける。
 だが、ラオウは降りない…小夜はラオウの近くに待機し二人の様子を見る。
 華雄の兵士達は愛紗ら率いる軍勢と戦っていて動けない。

  「この俺を降ろすには貴様の腕では不可能だ」
  
  「な!?愚弄するか!!」
  
  「俺はこの場より動かぬ…掛かって来るがいい」
 
  「嘗めるな――――!!!!!」
 
 勢いよく跳躍し、ラオウの頭上にて鉾を直線上に振るう。
 だが…無数の拳に阻まれ、華雄は地へと片足を付いて落とされた。
 すぐにラオウを見ると…手綱から手を離していなかった。
  
  「ど、どういう事だ…」

  「貴様が見たのは我が闘気、一流の武芸者は闘気を纏うことが出来る。
   貴様はその闘気に負けたのだ」
 
  「な…」
  
 闘気による防壁。
 この防壁を抜けようと思ったらかなりの実力を持たねば抜くことは不可能。
 今、この場においてはシュウと小夜の二名しかその障壁を抜くことは出来ない。
 
  「小夜よ…任せる」
  
  「…わかりました」
 
 そう言い放ち、小夜は一直線に踏み込み、構えを取らせる事無く華雄を打ち倒した。
 傍目から見れば死んだように見えるが、実際は鳩尾を殴りつけて気絶させただけだ。
  
  「か、華雄将軍が負けた…」
  
  「に、逃げろ―――!!!」
 
 残った敵の兵士達は次々と逃げ去っていき、戦局は完全にラオウの勢力の勝利となった。
 そのまま、ラオウは汜水関の中へと堂々と入っていった。
 その後ろに華雄を抱えた小夜が続き、曹操達が続いて入った。
 因みに、袁紹側の勢力は戦いが終わったことに気が付かず数時間経ったところで
 ようやく、戦闘の終了に気が付き、汜水関の中へと慌てて入り込んだのだった。
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  

 
 
  
 
 
 

 
  

  
 
 
 
 
 
 
 
 
  「総大将である私を無視して堂々入関なんていい度胸じゃありませんの?」
 
 怒り有頂天の袁紹、二つに分かれた両軍の代表者が集って会議をしている。
 ラオウ側にはラオウと小夜の二人しか居ない……参加しないのは言わずもがなである。
  
  「…敵の工作兵が居ないかを調べてた…」
  
  「まあ、そうですの…とにかくご苦労でしたわね。ほぼ損害無しで
   終結させた事には感心せざるを得ないですわ」
 
 そう言って高笑いをする、正直うんざりする相手だ。
 これが世紀末の世であれば真っ先に殺していることだろう。
 
  「それで提案なのですが、次の虎牢関は我が軍が先陣を勤めますから
   しっかりと休んでなさいな」
 
 それは一概に、これ以上活躍をされたら正直鬱陶しいので、次は
 私に活躍の場を持たせろということだ。
 口にしなくてもその態度が物語っている。
 ラオウは少し考える振りをした後…
  
  「そうさせて貰おう」
 
  「では、今日の会議はここまで…曹操さん達に次は参加するよう言って置いてくださいな
   総副将さん」
  
 会議はお開きとなった、袁紹が居なくなった事を確認すると、
 ラオウは机を叩き割った。
 
  「…ラオウ様、落ち着いて…」
  
  「もう落ち着いた…ところでお前は何を作っておる」
  
  「…虎」
 
 叩き割った机の破片を少し掬い取り、南斗聖拳の斬撃を駆使して
 彫刻を彫っていた…明らかに無駄遣いにしか見えない。

  「…これも、修行」
  
  「そうか…ところで、そこの貴様はいつまで盗み聞きをする気だ」 
  
  「おやおや、ばれてしまいましたか」
 
 そう言って、スッと現れて来る一人の男…挙動から見て、
 何らかの拳法を使っているのは明らかだ。
  
  「うぬは」
  
  「失礼、私の姓は孫音、字は紀…真名は崇と申します」
  
  「…彼は北斗神拳伝承者候補の一人」
 
  「ふ…逃げ出した者の一人か」
  
  「ぐ…逃げ出したのではなく、私が見限ったのですよ」
 
 そう言いながらも額に浮かぶ青筋は隠れてはいない。
 相当の負けず嫌いのようだが…
  
  「うぬは鍛錬をしてはおらぬな」
  
  「鍛錬など、その様なもの凡人のすることだ」
  
  「ほう…?」

  「真の天才とは努力をせずとも実力が付いてくるものだ…この美しさすらも」
 
 そう言って前髪をかきあげる。
 袁紹とは違った意味で腹立たしい輩だ。
 
  「ここには何をしに来た」
  
  「北斗神拳を使う者の様子見さ…なるほど、豪快さはピカイチだね。
   美しく無いが」
  
 そういいながら、颯爽と部屋を去っていく。
 ラオウは再び割れた机を闘気を篭めて殴りつけた。
 粉々になった。
 これでは、もう彫刻は造れない、とふうと息を付き、小夜は
 手元の虎を仕上げに掛かっていた。
 そして、ラオウは自身の陣営の天幕に戻り、呼びつけた瑞佳・紅柳に祟の事を聞いた。
 すると二人は息ぴったりに
  
  「「ただの気障な野郎だ!!!」」
 
 怒って言った。
 聞くところによると、練習をサボってばかりいて他の門下生を
 いじめたおす事を趣味としているという。
 自我自賛ぶりは紅柳に匹敵するが、相手を完全に貶めるという点で
 その部分は乖離していた。
  
  「そうか…うぬらもそれほどまでに不快に感じるか」
  
  「孫策に使えているらしいが、やれやれ見る眼はあるが
   なんで登用したのかさっぱり分からん」
  
  「まったくだな」
 
 その後も祟の愚痴を延々と繰り返し、気が付けば夜明けごろになり
 寝不足の状態で会議に出席したのは別の話。
 ラオウと小夜が平然としていたのも別の話である。
 





























































































 NG:1
  
  「卵を投げつけてきた輩はドイツだ!!!!」
 
 華雄が激しく憤怒しながら聞きにくる…
 ラオウ達は迷わずはるか後方に居る袁紹を指差した。
  
  「アイツか―――――!!!!!!!!!!!」
  
 そのまま兵を率いて突進する。
 ラオウ達の軍は丁寧に道を譲った。
  
  「さて、このまま汜水関に入るぞ」
  
  「そうね、兵の数で勝ってる袁紹が負けるなんて無いでしょうね」
  
  「わらわが一番乗りでよいか?」
 
 そして、袁術が一番に入りその後ろをラオウ達が続いた。
 白蓮が……
  
  「これでいいんだろうか…」
 
 そう言いながらもちゃっかりとラオウ達のあとに入っていった。
 袁紹の軍が大分損害を受けたのは別の話。
 悲しいことにその後の戦局に大きなズレは生じなかった。

      :これは酷いなー

























 NG:2
 
  「そうか…ところで、そこの貴様はいつまで盗み聞きをする気だ」 
  
  「いやー、ばれちまったか」
 
 そう言って、スッと現れて来る一人の男…挙動から見て、
 何らかの拳法を使っているのは明らかだ。
 爽やかさを持った青年のようだ…何故か小夜がラオウの背に隠れているが
  
  「うぬは」
  
  「オッスおら、姓は孫○、字は空、真名はカカ○ットってんだ。宜しくな」
  
          :ギャー董卓軍逃げて―――!!!!もう遅いか



[6264] 第15話:宿命の影
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/20 08:13

  「退屈だ」
 
 瑞佳が見つめる先に捕らえてある華雄の姿があった。
 華雄は生き恥を晒すぐらいならと自害を試みようとしていたのだが…
 察知した瑞佳により秘孔を突かれて自害できないようにされていた。
 それでもう、諦めていたのだが何もする事が無く、暇をもてあましていた。
 
  「ラオウ様が来るまでは待て」
 
 そう言いつつ、型稽古を続ける瑞佳…仮想の相手を形作り、
 秘孔を正確かつ迅速に突く練習である。
 対峙する相手がいつも愛紗のイメージなのだが、それは実力が近いからである。
 時折、ラオウを思い浮かべて練習するが、全て秘孔封じによって無効化される。
 小夜に至っては当たらない。
  
  「…それは型稽古か?」
  
  「よく分かるな…そこらの兵では踊りかと思われてるみたいなのだが」
  
  「私とて一端の武人だ、それぐらいは区別がつく…だが、何か突き入れているみたいだが
   どの武術だ?」
  
  「あまり流通されていないがな、北斗神拳だ」
 
 聞いたこと無いなといいながら部屋の片隅で椅子に腰掛ける華雄。
 随分と放置されているように見えるが、実際には秘孔によって行動が制限されているため
 抵抗が出来ないのだ。
 
  「く、また当たらなかったか」
  
  「それ程速い…私が最後に戦った者か?」
  
  「まあな…さ――大和は速いよ、そして強い…おそらくラオウ軍…
   いや、連合軍二番目に強いといっても過言じゃないな」
  
  「そして連合軍最速であろうな」
  
  「ラオウ様」
 
 ラオウの言が聞こえて稽古を中断する。
 ラオウは瑞佳に挨拶をすると、すぐに華雄に対して視線を向けた。
 
  「うぬが華雄か…まずは謝罪しておこう、作戦とはいえ卵をぶつけた事を」
  
  「いや、戦場においては卑怯じゃない…もっとも堂々と戦って欲しかったがな」
 
 卵のことは最早怒っておらず、いや、簡単に乗ってしまった自分の方が悪いと
 省みていた。
 その時、ラオウがスッと華雄の背の一部分を強く押した。
 
  「では、聞こう…董卓が異常なまでの暴政を行なっているのは
   本当の事か」
  
  「いや、違う…それはそちら側のでっち上げだ…」
  
 華雄は自分の意思で話している為、喋らされていると自覚をしていない。
 嘘を言ってるようではない。
 
  「昨日の朝食は何だったのだ」
  
  「は?いきなり何を…雑炊と雀の唐揚げだ!?」
 
 今度は意味不明の質問をぶつけてみる。
 華雄は驚いていた、急に自分の意思とは無関係に口から
 すらすらと違う言葉が出たことに…。
 
  「やはり、あの手紙は偽りか…朱里の言うとおり諸侯の嫉妬によるものが
   今回の董卓討伐の目的か」
  
  「そのようですね、ではラオウ様はどうされるのですか?」
 
 瑞佳がラオウの眼を見て話す、物怖じする事無く真剣に。
 その問に対してラオウは…
  
  「桃香達であればなんとしてでも董卓を保護するだろう…」
  
  「そうですね」
  
  「ならば、他の者に見つからずに保護を優先とするぞ」
 
 董卓を死んだことにして、と付け足して…
  
  「華雄よ…董卓の人相を知っていそうな者に自軍以外で心当たりはあるか」
  
  「…随分お人よしだなあんた…まあいいか、この軍の将の名前を聞かん事には
   どうにも出来ん」
 
  「そうだったな…では、瑞佳に探りを入れさせた限りの…」
 
 多量の武将の者の名を挙げていく、華雄はフムフムと頷きながら
 名前をしっかりと聞いていく…瑞佳の手元にはかなりの数の巻物があった。
 因みに纏めたのは朱里と雛里である。
 
  「その中では袁紹だけだな」
  
  「…その割には似顔絵が…微妙なんだが」
  
 いつぞやの張角の時と似たような御触書きである。
 身長不明・角は二本、犬歯が鋭く尖っており手は長め…。
 書いたのは袁紹四天王の一人袁紹自身…自分を含めて四天王と自称している。
 残りの三人の内の二人は文醜・顔良、残る一人は…
  
  「随分と丸くなったものだなラオウ」
  
  「何奴!!!」
  
  「…レイか」
  
 そう言いながら入ってきたのは義星の宿星を持つ男レイ。
 
  「何か用か」
  
  「袁紹様が呼んでいるぞ、俺は伝令として回されてきた」
 
 白髪が目立つ。
 心霊台を突かれた状態の髪から変わってはいないようだ。
 もっとも新血愁の効果は無いが…。
  
  「ほう…貴様は袁紹に仕えているのか」
  
  「…実際は顔良に恩があってな」
 
 苦労人コンビとして袁紹軍で有名な二人になっていた。
 
  「黒い髪に戻ったはずなのだが、気が付けばこうなっていた」
 
 訂正・白髪になったのは苦労のためである。
 例の実力をもってしても袁紹は矯正出来なかった。
 袁術は歳が幼かったための影響もあっての事だが…
 袁紹は既に矯正出きるような年齢に無かったのだ。
 
  「…ご愁傷様だな、俺が遅れては苦労が増えよう…すぐに向かう。
   だが、一つだけ言っておく」
  
  「…董卓保護の事か?」
  
  「他言は無用だ」
  
  「いいだろう、だがうまくやれよ」
  
 そう言って二人は袁紹の待っている天幕へと向かっていった。
 
  「華雄、協力してくれるか?」
  
 思い出したかのように瑞佳が華雄に告げる。
 
  「いいだろう、だが…前衛に出るのは躊躇われる」
  
  「安心しろ、前衛には出ぬ…次は後衛に回る事になっているからな」
 
 そして二人は食事を取りながら董卓についての話をしていた。
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
  
 
 
 
  
 
 
 
  
 
 
  
 
 
  
 
 
 
 
 
  「次の前衛は私の軍勢ですわよ」
 
 レイは頭を抱え、ラオウは脳内シュミレートで袁紹を考えられる必殺の秘孔
 を何回も撃ち込んでいた。
 袁紹のこの話は実に十回目…。
 しつこいにも程がある…殺しても許される筈だと心の中で思ったが、
 世紀末のアホの事を思い浮かべて…あっという間に怒りが鎮火した。
  
  「それ程しつこく言わずとも承知している」
  
  「あら?まだ一回目ですわよ?」
  
 貴様は痴呆か。
 
  「貴様は痴呆か」
 
 口に出ていた、がどうやら聞こえなかったようだ。
 ラオウは了承の旨を伝えると、すぐに自軍の天幕へと戻り…
 酒をあおった。
 酒の相手は、さっきまで彫刻をたくさん作っていた小夜である…
 何故か軍全員の木彫り人形を作っていた。
 兵士一人一人の顔まで再現している。
 因みに、袁紹と祟だけは作っていない…訳ではなく、壊されている。
 主にラオウにより…理由は言わずもがな。
 
  「ラオウ様…飲みすぎですよ」
  
  「これぐらいで潰れはせん」
  
 結局一晩中飲明かして…二日酔いにならず出立の準備に間に合った。
 だが、出立の時に事件が起こった。
 袁紹側の馬が全く進まないのだ…一方向を見たまま。
 
  「進みませんわね」
  
  「どうするんですか麗羽様―」
  
 理由は単純、動物は完全に力こそが上下関係の全て。
 黒龍を差し置いて率いて出るなど恐れ多くて出来ないのだ。
  
  「えーい!さっさと進みなさい!!!」
  
 その頃、後方では…
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「次は私が乗ってもいいかしら?」
 
 孫策と曹操、劉備が交互に黒龍に乗り降りしていた。
 ラオウと小夜はその様子を見ながら、出立の合図をずっと待っていた。
 因みに、他の面々は全く乗せてもらえなかった。
 
  「けど、やっぱり北斗が乗った方がしっくり来るわね絵面的に」
  
  「だよねー」
  
 今度は三人同時に乗っている…袁術達は羨ましそうにその光景を見ている。
 余談だが、祟が乗ろうとしたら、目にも止まらぬ速さで蹴りを撃ちはなった。
 馬にも嫌われるほどの男…ただ、それだけの勢いで蹴られたにも関わらず
 生きていた。
 全員が舌打ちしたかに思えたが気のせいだろう。
 少なくとも桃香と小夜はしていないとだけ記しておく。
  
  「さて、こうして高さを満喫するのもいいけど…まだ出立しないの?」
  
  「…多分、黒龍の影響だと思う」
  
  「あら、どういう事って言わなくても分かったわ」
 
 戦場での光景を見た後で自己解決した。
 動物達の間では力こそが正義…いい時代になったものだな。
  
  「?」
  
  「どうした、シュウ」
  
  「いや、今一瞬シンの気配が」
  
  「気のせいであろう…うぬやレイが居る地点で居てもおかしくは無さそうだがな」
 
  「かれこれは四刻は経ってるぞ」
  
 軍全体がピリピリして来た…出立が遅いせいでイライラする者が増えてきているのだ。
 ラオウの軍勢は小夜の樹の彫刻教室にて暇が潰れているためそこまでピリピリしていない。
  
  「仕方あるまい…黒龍、出るぞ」
  
 桃香達を降ろして、黒龍がラオウを乗せて、前線へと疾駆する。
 そして、何刻か経った後…
  
  「袁紹大将軍…困っているようだな」

  「困ってなどいませんわ、ただ馬が進まないだけです」
  
  「…黒龍」
 
 そう言い、袁紹の乗る馬に近づかせる。
 そして黒龍が何かを話すように唸ると、そのまま後方の陣へと戻って行った。
  
  「何をしに来たんですの?副将は」
  
  「あ、姫、動いたみたいですよー」
 
 ようやく、馬が進み始めた。
 その馬に続いて馬の群れがようやく動いた。
 
  「さあ、皆さん!虎牢関に向けて出陣ですわ―!!!」
 
 
 
 
  
 
 
  
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
  
 
 
 
  
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
  
 
 
  
 
 
 
  

 
  「そろそろ現れる頃合いなんやけどなー」
 
  「…遅い」
 
 虎牢関の防衛に当たっている呂布たちは待ちぼうけをくらっていた。
 呂布は、暇を持て余しセキトと遊んでいる。
  
  「…それにしても、あんた。医者やなかったんか?って言っても最初は用心棒やったり
   塾の先生をやったりでおちついとらんかったけどな―」
   
  「人々が怯える原因を取り除くのも私の務め…それに、恋が心配だ」
  
  「命の恩人に報いるってか…健気やな―」
  
  「そうでも無いさ…詠の献身ぶりに比べればどうって事は無い」
 
 黒い髪を風に流しつつ苦笑する男…。
 
  「だけど、呂布とあんたがおればこの関も安泰や…でも、あっちの大将さんは強いで―」
  
  「聞いている…アミバの占いによってある程度見当はついているがな」
  
  「あー、自称天才君か…まあ、占いの腕は確かに眼を見張るもんがあるしな…
   でも天才は流石に無いと思うわ」
 
 その頃、董卓の居る都にてアミバと呼ばれた男がくしゃみをした。
 董卓に心配されているが、大丈夫といいながら占いをしている。
 
  「それにしても…信じられん、本当に恐怖は感じなかったのか?」
  
  「そうやな、あんたが言ってた凶暴なまでの恐怖は無かった…まあ、敵としての恐怖は
   あったけどな…正直アンタ以外に勝てるモンはおらんのと違うか?」
  
  「そうか…変わったのか、それとも別人なのか…」
 
 そう言って、男は再びスッと中へと戻る。
  
  「…何処に行くの?」
  
  「訓練で怪我をした者が居るらしくてね…その者達の治療だよ」
  
  「そう」
 
  「敵の軍勢が来たら教えてくれ…すぐに駆けつける」
  
  「うん、分かった――――――――
 
  
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
   ―――――トキ」
 
 トキと呼ばれた男は恋に笑いかけるとそのまま、治療所へと足を運んだ。
 
 
 
 
             :病は癒えています。
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 

 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おまけ:袁術更生のきっかけダイジェスト
  
  「七乃ー!男が二人倒れておるのじゃー」
  
  「本当ですねー?って美羽様連れて帰る気ですか?」

 一人の少年を抱え挙げて帰ろうとしていた。
 どうやら一目惚れをしたらしい…。


 
 
 
  「ふむ、ここでは真名の習慣があるのか」
  
  「そなたの姓は鷺じゃ!」
 
 白鷺拳からとったらしい…実に単純である。
 字などはシュウ達自身でつけた。 
 


 
 
  「眼が見えぬくせに一々うるさいのじゃ!!!」
  
  「そうですそうです、盲目の癖にうっとうしーんですよー」

  「父上…」
  
  「…いいのだシバ、私は気にしていない」
 
 口うるさいシュウに逆切れした袁術。
 


 
 
 
  「馬鹿にしたのに…なんで助けてくれたのじゃ…酷い事を、言ったのに…」
  
  「…子供の言う事は残酷だが、そういうのも含めて可愛げがあるというものだ。
   大切なのはそれをやり直すという事…」
 
 近くに横たわる数人の賊を背景に泣きじゃくる袁術を抱きすくめ、あやすシュウ…
 その後、袁術は謝罪してシュウに真名を許した。


 

 
  「そうだ、よく出来たな」
  
  「当然なのじゃ!」
 
 勉学をある程度教えている…七乃は相手にされなくなった為
 拗ねていたが、すぐに気を取り直し真面目に軍師の勉強をし始めた。





  「南斗白鷺拳!」
  
  「見よう見まねか…それではただの飛び蹴りだぞ」
 
 シュウの白鷺拳を真似しようと努力していた。
 ただし、飛び蹴りしか出来なかったが…

  
 


  「南斗白鷺拳、烈脚空舞!」
  
  「確かに出来ているが…大丈夫か」 
  
  「眼が回るのじゃー」
 
 結局、この技を覚えただけで美羽は諦めた。
 
 
 
 
  
  「ふむ…雪蓮殿の母君が倒れたのか」
  
  「この機に他の諸侯が狙う可能性がありますね―」
  
  「む、じゃったらこちらで保護するのじゃ!」
  
 すぐに同盟を結ぶ旨を孫策に送る。
 何か裏があるのかと疑っていたが、袁術の嘘のつけないような態度と
 友人関係にあるシュウの事を思い出し同盟を結ぶ。
 
 
     :纏まってない―(泣)、プロットを真面目に作らなきゃ…



[6264] 第16話:邂逅・宿命の兄弟
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/24 08:23

  「…来た」
 
 呂布がセキトと戯れるのを止めて目の前を見る。
  
  「来るって…ようやくかい、待ちくたびれたっちゃあ待ちくたびれたけどなー…
   もしかしてこれも作戦のうちか?」
  
  「…張遼将軍…どうされますか?」
  
  「ん、じゃあ出陣の準備や」
  
  「…トキを呼んでくる」
  
  「その必要は無い」
 
 ゆっくりとした足取りで現れる男、トキ。
 決意に満ちた表情で敵が来るであろう方向を見る。
  
  「お、来よったか董卓軍最強の医者兵」
  
  「その呼称は止めてもらいたいものだがな」
  
  「ヤメへんって、事実恋を手も足も出させず打ち破ったのはどなたさんかなー」
 
 ニヤニヤしながらトキを見やる張遼…恋はジッとそのやり取りを静観している。
  
  「…戦い」
  
  「せやったなー」
  
  「作戦はどうするつもりだ」
  
  「私に任せて欲しいのですぞ!」
 
 小さな子供がチョコチョコと歩いて出てきた。
 そして、恋の近くで両手を挙げる。
 
  「野戦に持ち込み、恋殿とトキ殿で乱戦に持ち込みそのまま逃げるのです!」
  
  「…確かにこの戦力差では勝つのは無理か」
  
  「…恋、お前はどうしたい」
  
  「残念だけど、もう勝てそうに無い…ちんきゅの意見でいい」
  
  「そうか」
 
 そう言ってトキは肩当てをはめる。
  
  「ならば、今は生き延びる事を考えよう…」
 
 恋達は軍の全てを虎牢関の外に出し、待ち構える策を取った。
 一切の小細工をせずに。だが、トキには一抹の不安があった。
 血が共鳴するかのように騒ぎ始めているのだ…。
  
  「やはり…ラオウか…」

  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「…血が騒ぐ」
  
  「…どうしたの?」
 
 黒龍の背の上で待機していると、突如ラオウが何かを感じ取ったのか前方を見やる。
 朱里の情報では三国無双とまで言われる呂布、趙雲から聞いた噂になるほど強いとされる
 張遼…それに、かなりの猛者とされる医者兵が居ると聞いていた。
 ラオウの前では全てが相手にならないと若干諦め気味に話していたのも覚えている。
 医者兵の話を少しばかり聞いたが聞けば聞くほど弟のトキの特徴が浮かんでくる。
 そして、関に近づくにつれて、徐々に共鳴するかのように血が騒いできたのだ。
 予想がほぼ核心に至ったような表情でラオウは一方向を見据える。
  
  「お前も来ていたのか……トキよ」
 
 小夜は意味もわからず首を傾げ、考え込んでいた。
 近くに居た桃香もラオウの言葉が分からず…
  
  「鳥がどうしたんだろうね?」 
  
  「桃香様、それはギャグなのか?」
 
 瑞佳に突っ込まれていた…朱鷺だと思ったらしい。






























  「あら?なにやら全軍外に出ておりますわね」
  
  「そのようですねー…何の意味があるんしょうか?」
  
  「レーイ、何か分かるか―?」
  
  「おそらくはかき乱して逃げるか、伏兵を用いているといったところか」
  
 前線の袁紹達は篭城戦だと思っていたのだが、肩透かしを食らう形となった。
 この野戦では数が多い連合軍の方が有利なのだが。
  
  「この前衛を破ったとしても後ろには強大な獅子が居るというのに」
  
  「獅子ですか?」
 
 ここでハテナ顔になったのには訳がある…ぶっちゃけ、ラオウ側が適当な説明をしただけなのと
 実際に戦いを見ていないので、ラオウの強さが分かっていないのだ。
 今、この場でラオウの強さを知っているのはレイただ一人。
 
  「それはともかく、恐らく敵は伏兵を用意してはいないだろうな」
  
  「ん?なんでですの?」
  
  「武人として、決戦を望むといったところだろうな」
  
  「お、成る程な―」
 
 二人は言っている意味があまり分かっていないようだが、
 文醜にはわかったようだ、それでいて楽しそうに腕を振るう。
  
  「そういうのは嫌いじゃないな」
 
  「でも、自分に有利な地形を捨てるのは作戦上不利だよ?」
  
  「無謀とも取れるがな…えてして武を志すものの心は同じ武にしか分からないものだ」
  
  「さっぱりですわ…ま、どちらにせよ敵を殲滅するだけですわ」
 
 そして、高笑いを始める…二人が溜息を吐いた…ついたじゃないのは
 かなりの盛大な溜息だったからだ。
 
  「軍を整えるか…やつらには凶が出るか蛇が出るか…それとも死兆星か…」
 
 レイの呟きは誰にも聞き取られなかった。































  「そろそろ、戦いが始まる頃合いか…」
  
  「そのようね…それにしても孫策、何であの男を配下にしたの」
 
 ラオウの言に同意しながら、一方向を見やり孫策に質問をする。
 孫策は呆れ顔をしながら…
  
  「あれでも、一応それなりの武は持っているのよ」
  
  「…たしかにそうだな、少なくとも俺や瑞佳と互角だぜ?」
 
 その発言に曹操達が驚く…紅柳の実力をかなり知っており…
 夏侯惇と互角といっても差し支えない実力を持っている。
 因みに、瑞佳の強さを知ってる関羽達も驚いて瑞佳を見るが…
 悔しそうに首を縦に振っていた。
  
  「自称天才は伊達じゃないというところね…」
  
  「天武の才だな…だが、それに溺れている愚者とも取れる」
  
  「ま、そういう事よ…正直、嫌だったんだけどね…うちの末妹に言い寄ってくるし」
  
  「そういえば美羽にも言い寄っていたな」
  
  「それなんてロリコン?」
 
 実力主義の世の中とは残酷である…しかも幼女博愛主義。
 一刀の言うことは皆にハテナ顔をさせるだけだった。
 シュウやラオウは英語などを知っていたためわかったらしいが。
  
  「あ、そういえばボクにも来たよ」
  
  「鈴々にも来たのだ…」
 
 許緒、鈴々には既に来ていた。
 愛紗と夏侯惇は殺気を最大にしていた…一応全員止めたが、本当に一応。
 朱里・雛里のところにはまだ来ていないらしい。あくまで「まだ」だが。
 
  「瑞佳・桃香・愛紗…朱里と雛里の護衛を頼む」
  
  『「任せろ!」「任せて!」「お任せを!」』
 
 気合十分…曹操も既に典韋を護衛せよと命令を出していた。
 むしろ敵と戦うときよりも気合が入っていたのは秘密である。
 孫策の陣営は…もう諦めて該当しそうな者には言い聞かせてあるだけだった。
 少なくとも、無理やりにはしないらしい。





























  「北斗有情拳…せめて痛みを知らず安らかに死ぬがいい」
 
  「…邪魔」
 
 その頃前衛は…というか袁紹軍は大混乱に陥っていた。
 虎牢関軍が突出してきたのは予想通りだったのだが、その戦闘能力が
 予想外だったのだ。
 呂布についてはもともと兵士では打倒できない事は袁紹も分かっていた。
 だが、もう一人の存在までは全く分からなかったのだ。

  「何ですの!?あの男は!?」
  
  「…く、おそらくトキだな」
 
  「知ってるのですか?」
 
 レイの呟きに顔良が反応する…知っているも何も、かつて行動を共にした事のある
 親友の義兄に当たる存在だ。
 なおかつ、最後に戦う時間を延ばしてくれた恩人でもある。
 董卓の軍のデマは知っていたのだが、顔良の恩に報いるために仕方なしに
 動向をしていたレイ…ひとつ言っておくが、レイの心には一人の女性しか映っていない。
 その為、顔良には恩義があるが、それ以上の感情は無い。
 話は戻るが、トキが現れた事によりレイは冷静さを欠いていた。
 黒髪だからアミバという可能性も捨てきれないが、自身が新血愁の効力が
 消えている事を考えると…病が消えている可能性がある。
 病が無ければ伝承者だったというケンシロウの言葉を思い出し、悔しげに唇をかむ。
 おそらく、トキを倒せるのは今後方に居るラオウだけだろう。
 そしてトキ・呂布・張遼と兵士達は、混戦でバラバラになった軍を突き進んでいき、
 レイの前に立った。
 
  「…眼が澄んでいる…トキか」
  
  「…レイ」
 
 トキの動きが止まった…混戦になっている為かどうか知らないがその場所は開けた場所になっていた。
 レイの隊はレイを先頭に立てて待機している。その後ろには顔良の部隊がある。
 トキの部隊も同じ様なものだ…先にトキが口を開いた。
  
  「おそらくこの軍に恩があるのだろうから何も聞かん」
  
  「そうしてくれると助かる…」

  「だが、一つ聞こう…ラオウはいるか」
 
 レイは静かにトキの言葉に耳を傾けていた。
 …隠す意味も無いだろう、そう思ったレイは首を縦に振った。
 トキはやはりという表情で立っていたが…呂布に突付かれて今の状況を思い出し…
 頭を撫でてやりながら…
  
  「私たちはただ、逃走するだけだ…見逃してくれぬか」
  
  「…」
 
 レイはその言葉に賛同したかった…だが、自分はあくまで一部隊の将、
 ここで敵の将軍を逃がすという事は裏切りと変わらない。
 顔良に恩がある為、袁紹に仕方なく付き合っているが…
 同様にトキにも恩がある…レイが悩んでいると…
  
  「レイさん…この人を見逃したいのですか?」
  
  「斗詩…そうだ、だが…」
  
  「…麗羽様にはうまく言っておきますから」
  
  「……また借りが出来たか、済まない」
 
 そうして、レイの部隊と顔良の部隊は道を空けた…トキは軽く礼を述べた後
 その間を一気に駆け抜けた…呂布達も共に…。
 
  「さて、言い訳を考えないといけませんね―」
  
  「…虎牢関を落とせばチャラになるだろう」
  
  「そうですね…はぐれてしまいましたから探して言っておきましょう」
 
 そうして、袁紹を探しに歩いていった…幸運な事に、混乱していたため
 逃がした事には袁紹は気が付かなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「敵が袁紹軍を抜けてきた模様です!」
  
  「やはり、か…伏兵もなしに正面決戦を挑んでくるとはな…」
  
  「この事を予知して布陣を指示したのですか?」
 
 伝令の言を聞き、ラオウが前を見ていると愛紗が声をかけてくる。
 ラオウは既に袁紹の軍が勝てないだろう事を予期し、戦闘に備えるために
 隊列を整えるよう指示を送っていたのだ。
  
  「さて、敵の隊列は二つに分かれたようだが…」
  
  「…一番強いのが二つ来る…」
 
 小夜が前を見据え、そう言った。
 一点突破を諦め、それぞれが分かれて突撃してきたようだった。
 ラオウは既に来る敵が誰であるか分かっていた…その為、黒龍からは
 降り立ち…前を見据えていたのだ。
 小夜も静かに呼吸を整え戦闘用に切り替える。
  
  「愛紗よ…俺が敵と戦う時には手出し無用と伝えておけ…」

  「手出しするどころか出来ませんよ…巻き込まれますから」
 
 呆れ気味に溜息をつく愛紗、ラオウが居るところに手出しをして
 無事に済むのは小夜ぐらいのものだろう。
  
  「瑞佳よ…見ておるがいい…北斗同士の対極の戦いを」
  
  「ラオウ様…まさか、敵が誰だか分かっておられるのですか…」
 
 瑞佳が驚いてラオウを見る…。
 
  「小夜…俺の邪魔はするな」
  
  「…わかっています」

 そして…敵の姿が視認できる距離になった。
 曹操、孫策のところには張遼が来ていた…。
 そして、互いの軍は止まったまま相手を窺っていた。
 トキとラオウは互いに口を開いた。
 
  「ラオウ…」
  
  「トキ…」
 
 今、再び両者が向かい合う形となった。
 果たしてこの邂逅がどのようになるのか…それは誰にも分からない。
 例え、神すらでも…。

 
      :私にも分からない…NGは本編の余韻を損なう可能性があるため
       できる事なら見ないでください。
       そんなの関係ない方はどうぞ先へお進み下さい。
































































































NG1

  「…眼が澄んでいる…トキか」
  
  「…レイ」
 
 トキの動きが止まった…混戦になっている為かどうか知らないがその場所は開けた場所になっていた。
 レイの隊はレイを先頭に立てて待機している。その後ろには顔良の部隊がある。
 トキの部隊も同じ様なものだ…先にトキが口を開いた。
  
  「おそらくこの軍に恩があるのだろうから何も聞かん」
  
  「そうしてくれると助かる…」

  「だが、一つ聞こう…新血愁の効果は残っているのか?」
  
  「いや、これはストレスのせいだ」
 
               :台無し…
 
 
 
 
 
 
  
 
 
NG2
 
 そして…敵の姿が視認できる距離になった。
 曹操、孫策のところには張遼が来ていた…。
 そして、互いの軍は止まったまま相手を窺っていた。
 トキとラオウは互いに口を開いた。
 
  「カイオウ…」
  
  「アミバ…」
 
 全員ずっこけた

      :両方ともそっくりさんじゃねーか(片方整形だけど)!



[6264] 第17話:剛と柔
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/24 08:29

  「ラオウ…何故居るのかは問わぬ…私たちは逃げているだけだ。
   退いてはくれないか」
 
  「退けぬな…逃げたくばこの兄ラオウを超えてみせよ」
 
 全員が驚いた表情で見る…どう見ても兄弟には見えない。
 ラオウとトキの周りには両者の軍が並んでいるものの…かなり離れた位置に居る。
 おそらく、両者の戦いに巻き込まれないためだろう。
 ラオウの傍には小夜…トキの傍には呂布がたっていた。
 黒龍は桃香を背に乗せて離れている。
  
  「やはり言葉は不要か…ラオウ、見極めさせてもらう…貴方が戻ったのかどうかを」
  
  「俺は変わらぬ…いや、変わったが最終的な志は変わりはせぬ」
  
  「…トキ」
  
  「下がっていろ恋…この戦いはもはや避けられん」
 
  「……勝って」
 
 そう言って呂布は下がる。
   
  「小夜…くれぐれも俺の助けに入ろうと思うなよ」
  
  「分かっている…黒龍が認めた貴方が負ける筈が無い…」
 
 小夜も下がっていき…
 そして…ラオウとトキは…自身の戦闘体制を取り始めた。
 究極の剛拳ラオウ…剛は殺を表し一撃一撃に重さを置き相手を圧倒する激流。
 究極の柔拳トキ…柔は情を表し、受け流す事を得意とし激流を制しそれに同化する。
 かつて二人は戦った事があるが、その時はラオウの勝利に終わった。
 トキの病のせいもあり、偽りの剛の拳で挑んだ事がその勝敗を分けたのだ。
 しかし、此度はトキには病が無く、完全な柔の拳…。
 この勝敗は神ですらも予測が出来ない…
 そんな中、朱里と雛里が驚愕の目でトキの姿を見ている。
  
  「編芭先生…」
  
  「知っているのか?朱里」
 
  「はい…姓は朱鷺戸、字は編芭…編芭塾の講師でした」
 
 二人がトキの姿を見る…それは、自分達を教えていた時とは変わらない風貌だった。
 できる事であれば恩を返したい…だが、今の自分の立場は敵対者。
 それに意見をしてもラオウが許さないだろうとも思い…無事で居られるよう祈るしかなかった。
 
  「ふ…」
  
  「…ラオウ、最後にもう一度だけ聞く…退いてくれないか」

  「…無理だな、もはや我ら二人が対峙するのは宿命…安心せよ
   万が一この俺が敗れたとしても貴様が逃げれるように取り計ってある」
 
  「…誓いの時ではない、だが私は私を信じてきた兵の為…貴方を超える!」
  
  「掛かってくるがいい…貴様が相手では俺は本気でいかざるを得ぬわ!!!」
 
 ラオウの闘気が全力で開放される…地は揺れ、天は震え…風が巻き起こる。
 この中心に居る者は並大抵のものではなければ耐えることは出来ないだろう。
 圧倒的な激流…その闘気は離れている筈の兵士達すらも巻き込み吹き飛ばす。
 だがトキはその激流を激流で返す事無く…受け流していく。
 
  「ふ、流石はトキだ…我が剛拳を受け流しておる…だが、いつまで我が剛拳を
   受け流せるかな!」
  
  「…激流に身を任せ同化する…ラオウ、もはや時間の経過で私を倒せるなどと思うな!」
 
 二人の距離は変わらない…ラオウが一歩詰め寄ればそれに呼応するかのように
 トキが一歩下がる。
 曹操や孫策の軍は張遼を囲み投降させ…ラオウ達の戦いを見ていた。
 今まで見た事も無い量の闘気を発するラオウに驚き、
 その闘気を受け流すトキに対しても驚きを隠せなかった。
  
  「これが…北斗拳王の本気…」
  
  「この俺が…震えているだと…」
 
 いつもは自意識過剰で皆に嫌われながらも我が道をいく祟ですらも
 ラオウとトキ、両方の戦いに目を離せないようだった。
 ラオウが数歩前に出、止まったとき…遂にトキが動いた。
 前へと踏み込み、手を突き出す。
  
  「はー!」
  
  「むん!」
 
 それにあわせるかのようにラオウが手を交差させる。
 だが、その動きも見抜いていたかのようにトキが蹴りを放つ。
 鮮やかに素早く繰り出された蹴りはラオウへと突き刺さる。
 
  「ぬあ!」
  
  「覚悟!!」
 
 ラオウの態勢が崩れた刹那…トキが無数の拳を放った。
 その一撃一撃全てがラオウの体に叩き込まれる。
 だが、急にトキは体を後方へと跳躍させた…そしてその刹那後に
 ラオウの拳が繰り出され、トキが先ほどまで居た位置を凪ぐ。
  
  「病が癒えても相変わらず、優しい拳だな」
  
  「やはり間合いには足りていなかったか」
 
 トキが打った場所は確かにへこみの様なものがあったが、
 すぐに秘孔封じにより無効化される。
 必殺の間合いには足りていなかったようだ…ダメージが見受けられない。
  
  「無想陰殺は足だけだと思ったが…」
  
  「奥義とは一しか存在しないとは限らぬ…多種多様に変化する戦場に応じ
   臨機応変に変化するもの…これは北斗神拳の真髄でもあるな」
 
 再び両者の間が開き…悪戯に時間だけが経過していく。
 袁紹は虎牢関を占拠し勝利の余韻に浸っていたのだが、そのような事情を
 知らないトキサイドの兵士達は、焦りを募らせていく。
 だが…二人の戦いに見惚れているのも事実…故に突破しようとは思っていない。
 トキはその様子にも動じず、ただ目の前のラオウをどう倒すのかだけを考えている。
 ラオウは強敵との戦いに不敵に笑い、トキを見やる。
 そして、暫くして二人の間合いが両者の拳が届く位置にまで縮まっていた。
 そのまま二人の動きが静止する。
  
  「う、動いてない?」 
  
  「…動いてる」
  
  「小夜…わかるのか?」
 
  「今、二人の間には…何千もの拳の交差が行なわれています」
 
 速さを得意とする小夜の意見、小夜の言うとおり、今二人の間には
 一般人…いや、達人クラスの者でも認識が出来ないほどの拳の交差が
 交わされていた。
 落ちてきた巨石が瞬時にして粉々になるほどの拳圧…。
 まさに人知を超えた戦いである、そのあまりの凄まじさに全ての兵士達は
 息をするのも忘れるほど見入っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「それにしても遅いですわね…」

  「そうですねーでも姫ー、出ないんですかー?」
 
  「前回のお返しですわ、気が付くまで放っておきなさい」
  
  「…両軍動かず…か」
 
 レイが外の様子を覗き見る…遠い場所で軍の後姿のようなものが見える。
 それは全く動かない。
 ちなみに袁紹は全軍に来るまで放っておけと命令を下していた。
  
  「トキとラオウが戦ったか…見に行きたいところだが…流石にこれ以上は無理だな」
 
 そうして、レイは袁紹が待っているであろう広間へと足を運び始めた。
 その下で編成されていた軍に気が付く事無く…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 両者の攻防は尚も続き、ラオウが拳を放ちその拳をトキが受けて流し、
 その隙を突くが、無想の一撃に阻まれ再び間合いが開く。
 互いに一歩も退く事無く、互角の勝負を繰り広げる…どちらが勝とうと
 おかしくは無いほどに…ラオウが剛の拳で制圧していくのに対して、トキは
 緩急自在に動き回り、制圧していく。
 愛紗らの武の実力をもってしても、ラオウやトキが複数いるかのような錯覚に囚われている。
 それを超える腕を持つ小夜でさえ、全ての動きを捕らえる事は出来るが攻撃の隙を見出す事

は出来ない。
  
  「ふ…」
  
  「はあー」
  
 そして、両者は打ち合わせたかのごとく天高く舞い上がった…最早その跳躍ですらも
 人間のものではけして無い、まるで空を自由自在に飛交っているかのように空中で拳を突き

合わせていく。
 そして、互いが一瞬の間をおき…必殺の拳を繰り出した。

  「天翔百烈拳!」
  
  「北斗一点鐘!」
 
 北斗神拳史上最も華麗な技を持つトキ…その真髄は空中でこそ最大に発揮される。
 トキの拳の連撃を受けつつもラオウは自身の闘気を直接トキに叩き込み秘孔を突く。
  
  「う…美しい…」
  
  「ラオウ様が…押されている?」
 
 祟はその華麗さに見惚れ、瑞佳や他の者はラオウの劣勢に見える状況に驚愕する。
 そして両者が地面にたどり着いたときにはラオウは血を吐きながら膝をつき、トキも
 同様に吐血し、地面に手を置き体を支える。
 
  「やはり互角か…」
  
  「ふ、これ程までに戦えるとはな…天に感謝せねばなるまい…
   トキと全力で戦える事を…」
 
 長時間にも及ぶ読みあい、拳の勝負、攻守の交代の末ラオウとトキは
 両者共にかなりの傷を負っていた。
 時間の経過につれ、両者共に集中力が欠けていき、両者の拳が
 相手の体に到達する割合が増えてきたのだ…
 だが、この傷だらけの体になって尚も両者の闘気はまったく衰えていなかった。
 
  「心地よい痛みというべきか…ケンシロウ以来だな」
  
  「…ラオウ、ケンシロウと戦ったか…」
  
  「あぁ、そして負けた…奴は良い成長を遂げた」
 
 勝負の最中にもかかわらずラオウが目を瞑り、ケンシロウとの戦いを思い描く…。
 トキは最大の勝機なのだが…打とうとはしなかった。
 打つのは無粋というものだろう…この時既に逃亡するための戦いだという事を忘れ
 純粋にラオウとの決戦だと思い始めていた。
 その心意気が伝わっているのか定かで無いが、兵士達もこの大勝負に見入って…
 周りの事に意識が向いていなかった。
  
  「…ケンシロウ…ラオウの魂を救ったのか…」
 
 その呟きは誰に届く事無く消えた…トキは再びラオウと向き合い…
 ラオウはトキの言を聞こうと体を緩め…
  
  「私が目指した敬愛する兄ラオウ…叶わぬと思っていたあの日の誓いを果たす」

  「来るがいい…わが生涯最大の強敵手よ…」
 
 二人が動き出したその時…トキのサイドの兵士達が悲鳴を上げた。
 その悲鳴にトキは脚を止め振り返る。
 ラオウも攻撃態勢を止めて、その方向を見る。
 トキの軍の後ろに、袁紹の側についた一諸侯が居たのだ。
 その諸侯は動きが止まっているのを筒で見るや否や手柄を立てようと
 軍を編成し、一気に追撃へと移ったのである。
 トキの軍も呂布の軍も錬度の高さではまったく劣っていないが、
 ラオウとトキとの戦いに見惚れていたために接近に気が付かなかったのだ。
 すぐさまトキは駆け寄ろうとするが、後方にラオウがいる事を思い出し
 振り返る…ラオウは最早闘気を纏っていなかった。
  
  「邪魔が入ったか…」
  
  「ラオウ…」
 
 勝負を中断し軍を助けるか…ラオウとの決戦を望むか…しかし、ラオウと戦っても
 もはや、後方の兵士達は助からない…トキの心が乱れていると…
  
  「トキよ…勝負は預ける…行くがいい」
  
  「………ラオウ…済まない…皆の者、後方の敵を押し返した後、一気に前へと
   駆けろ!!!」
  
  「我が兵士達よ!道を空けよ!!!」
 
 ラオウの号令ですぐに道を空けるラオウ軍兵士達…曹操・孫策の軍も
 それにあわせて動いたため、比較的スムーズにその作業は終わった。
 トキと呂布の二人の号令によって、後ろの諸侯の軍勢を後退させ…そのまま反転し
 一気にラオウの軍の空けた道を駆け抜けた。
  
  「いいのですか?」
  
  「構わぬ…興が殺がれた…生きておればまた機会は来よう」
 
 ラオウの予測では、袁紹の性格から考えて、先の戦いの意趣返しを
 する為軍を向けては来ないと思っていた。
 事実、袁紹は気が付くまで放置しろと命令を下し、虎牢関にて休息をとっていた。
 だが、ラオウの軍とトキの軍が止まっていることに気が付いた一諸侯が
 軍を纏めて追撃へと打って出たのである。
 
  「北斗殿、何故あの軍をみすみす見逃すような真似をしたのかね?」
 
 目の前の軍を率いているであろう男が見下すような視線でラオウを見る…
 と言っても、ラオウよりも小柄のため、ラオウが見下している様になっているのは
 気のせいではない。
 そして、その男は気が付いていない…ラオウを除いた二人の覇者が憤怒の気を纏っている事

を…

  「無事では済まない…そう思ったからこそ譲ったまでだ」
  
  「は…やはり成り上がりの者か…肝っ玉が小さいのう」
 
 ラオウは怒りを抑えて目の前の男を見ていた。
 立場上は総副将とはいえ、上下関係に表すと目の前の男の方が上。
 下手に手を下せば、負けるつもりは無いとはいえ、桃香達を危険な目に晒す羽目となる。
 それに、勝負を邪魔した事に腹は立っているものの、相手の考えが分かるのもまた事実。
  
  「そこまでにしなさい」
  
  「…っ、曹操様」
 
 流石に威張っていた男も袁紹と双璧をなす曹操の言には逆らえないらしく、
 口を閉ざす。
 だが、相も変わらずラオウを見下すような視線はやめる事は無い。
 ラオウの強さは噂では流れてはいるものの所詮は噂と高をくくっているものも多く
 この男もその内の一人である。
 実際に目にしなければ強さと言うものは分からないものである。
 
  「今俺は虫の居所が悪い…さっさと失せろ」
 
  「く…曹操様がいるからと言って強気になりおって…だがなぁ、この事を袁紹様に…」
 
  「なら、殺すしかないわね」
 
 そう言って、曹操は鎌を男の首筋に宛がった…それも尋常では無いほどの怒気を篭めて…
  
  「な、ななな何を…」
  
  「安心しなさいな…追撃中に思わぬ反撃を受けて名誉の戦死を遂げた事にしてあげるから

…」
  
  「わ、私を守れ―!!!」
 
 そう言って、男の軍からかなり身のこなしの早い者が突出してくる。
 曹操が男を切り裂くより早く…その男は曹操の居た地点を切り裂いた…
 夏侯惇は焦っていたが…
  
  「…はい」
  
  「あ…お前は…誰だ?」
  
  「姓は大和、字は武蔵…」
  
  「北斗の側近ね…別に助けられなくても助かったわよ…」
  
  「そうかも、でも…少なくともあいつは速い…」

 そう言い放った後、スッと視線をその男達に向けていく…。
  
  「流石は南斗聖拳最速を誇るお方…我の攻撃より先に接近し後退するとは」

  「南斗駝鳥拳…」
  
  「ふははは…驚いたか、私に仕える最強の男だ!」
 
 男が高笑いをあげる…その笑いに気分を害する事無く、駝鳥拳の使い手は
 刀を構え…
  
  「樹空様…ご指示を」
  
  「まずはそこの肉達磨を殺せ!」
  
  「…」
  
  「…南斗の同門だから忠告してあげます…大人しく下がってなさい…」
  
  「残念ながら聞く耳は持ちませんよ…行きますよ、肉達磨…」
 
 そう言って果敢に突っ込んだが…ラオウが片手をかざし覇気にて動きを封じた。
  
  「な…う、動かぬ…」
  
  「最早、容赦せぬ…死ね」
 
 剛掌波を撃ち放った…男の体は蒸発したかのように跡形も残らなかった。
  
  「な、なななな…」
  
  「北斗…私や孫策が口添えするから容赦なくやっときなさい」
  
  「礼は言わぬ」
  
  「この程度で言われても嬉しくは無いわ」
 
  「小夜…黒龍…手伝え」
  
  「…分かりました」
  
  【ぎゅおおおおおお――――!!!】
 
 桃香達は味方同士での殺し合いに反対だったが…向こうから仕掛けたからと言い聞かせて
 抑えていた…それに、あの目を瞑っていても目に焼きついて離れない勝負を中断させられた

事に
 怒っていたのも事実…目の前の虐殺は気にも留めないようにした。
 
  「それにしても、不完全燃焼ね…」     
 
 孫策の意見に対して全員が賛同する…神々の戦いと言っても過言では無いぐらいの
 史上最大の対決…その勝敗がこのような形でうやむやになったのは至極残念ではある。
 
  「…天命あれば再び合間見えるときが来よう…」
 
 そう言って、五千もの兵を撃滅させたラオウは
 トキの居るであろう方向を見やった後…軍を纏め虎牢関へと向かった。

          :男の名前は姓が芽夜、字が樹空、真名が前御
           逆さにして読むなよ!絶対だぞ!
           その後の制裁がやっつけになってしまった…。



































































おまけ

  「月、詠、虎牢関が落ちたぞ」
  
  「え…恋さんやトキさん達は?」
  
  「華雄と霞は捕らえられておるらしいが、恋とトキは既に逃げておる…
   トキは戻ってこようとするだろうが、恋が止めるだろうな」
 
 そう言いながら、詠と呼ばれた少女の隣に並ぶ男。
 その男の名前はアミバ。
 姓を編芭、字を土岐、真名をアミバとしている男…
 職業は占い師…何気に天職だったらしく、かなりの的中率を誇っている。
 今は、董卓の下で働いている。
  
  「…月、洛陽を捨てよう」
  
  「捨てるの?」
  
  「成る程、洛陽を捨て、涼州で再起を図るといったところか」
  
  「詠ちゃん、アミバさん…そこまでして戦わなくちゃいけないのかな?」
 
 月が目を伏せながら悲痛に呟く…その意見に詠は口をかみ締めていたが
 隣に居るアミバが
  
  「戦いを仕掛けてきたのは連合軍だ、俺たちはただ降りかかる火の粉を
   払おうとしているだけに過ぎん」
  
  「…そうだね、それに洛陽を捨てたって諸侯は月を狙って涼州にまで来るよ。
   いけにえを捧げないと権力争いは止まらないから」
  
  「もしかしたら張譲さんに協力を要請された事自体…罠だったのかも」
  
  「そうだな…まさかこのような卑劣な手を使ってくるとは思いもよらなかったな」
  
  「ごめんね…月」
 
 アミバが意見するのに合わせて詠が謝罪する。
 その様子に月は優しく顔を上げさせて…
  
  「ううん、いいの……涼州に帰ることが出来るのなら…そうした方がいいと思う」
  
  「絶対…絶対月を連れて帰るから…!」
 
  「安心しろ、この俺もついている…武ではそこらの者には劣る気は無いぞ」
 
 自信満々に言うアミバに詠は呆れ…月は少し笑みを浮かべていた。
 因みにアミバはその後で密かに占いを行なっていたが、結果は逃げられないとなっていた。
 
      :アミバの性格が変わっているのは月の影響があったりします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おまけ2
 
  「貴様には最早死あるのみ…」
  
  「な、なななあば、化け物ども…」
 
 五千の兵士を殲滅させた後、残る愚か者を残し、ラオウは拳を振り上げ…
 何度も拳を打ち込んだ。
  
  「か…かふ…」
  
  「秘孔・新膻中と胸椎の秘孔・龍含、それに秘孔新血愁と心霊台を突いた…
   貴様の命は後三日だ……その間数倍化される痛みに狂い悶えながら待つがいい」
  
  「ぎゃあああああああああ!!!!」
  
  「そして、気絶を出来ぬよう既に秘孔を突いておる…自害も出来ぬ…
   そのまま誰に知られる事なく死ね」
  
  「ぐががぎゃぎぎぎぎ…はかー――!?」
 
 断末魔の叫びを上げ続ける男を無視し、ラオウは先に行かせた劉備達の後を追った。
 
 










 おまけ2・NG
 
  「秘孔、頭維・新血愁・人中極・命門・大胸筋・激振孔・頸中・下扶突
   ・喘破・鬼床を突いた…苦しみながら果てよ」
  
  「ぎゃあああああ!?」
 
         :最終鬼畜全部危険な秘孔



[6264] 第18話:董卓保護
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/02/26 08:50

 洛陽へと向かう前に小休止した連合軍は軍を整えて出立していた。
 今回は分裂する事無く、合同で向かっていた。
 今回ラオウは黒龍の背には乗ってはいない。
 黒龍の背に乗っていないのは一応、袁紹をたてる為らしい。
 今現在黒龍の背には桃香と小夜の二人が乗っかっている。
 
  「何か申し訳ないな―…」
  
  「…それにしても、抵抗が無い…」
 
 小夜は洛陽に進軍するまでの道中の事を思い浮かべていた。
 その何れも特に抵抗などなく、ただ悠々と闊歩しているだけなのだ。
  
  「曹操よ…この状況をどう見る」
 
 曹操と同じ位置に居るラオウは曹操に対し質問を投げかける。
  
  「さあ…霞、内部事情は分かるかしら?」
  
  「内部事情か…うーん、反乱とかはあるわけが無いし
   ぶっちゃけわからへんのや」
  
  「悪役として祭り上げられたから…か、おそらく涼州にでも
   帰ったと言ったところだろうな」
 
  「…助けるつもりのようだけど、手助けはしないわよ?」
  
  「いらぬ…我が軍のみで実行する…ただ、知らぬ振りをしてくれると助かるがな」
  
  「そうね…私は何も聞かなかった…ただ、一つだけ言わせて貰うわ」
 
 そう言って、曹操がラオウの前に立つ。
  
  「あの男と決着を着けるときには…私の前でやりなさい」
 
  「…いいだろう」
 
 そう話している内に、連合軍は洛陽の手前に辿りついた。
 ここまで一切の反撃らしきものがなく、逆に不気味である。
 
  「困りましたわね…って、北斗さんは何処へ行ったのかしら?」
  
  「将校斥候として、内部に潜入しているらしいわよ…混乱が見られないのが
   不気味でしょうがないんだけど」
 
 普通バレバレのはずなのに…因みにラオウ軍の斥候しか潜入しておらず、
 それもラオウ・小夜・鈴々・瑞佳の四人による少数精鋭による潜入調査だった。
  
  「北斗神拳・南斗聖拳は元来暗殺拳だからな…潜入には打ってつけだろう」
 
 レイの言葉に対して…ラオウ側に居た全員が
  
  『…暗殺拳?』

 引きつりながら硬直していた。
 これは師父リュウケンも言っていたことだが、ラオウの拳は暗殺拳では無いようだ。
 確かに、暗殺拳とは思えない…いろいろと豪快すぎて。
  
  「ま、まあ…義星さんのいう通りかもしれないから安心かな?」

 因みに義星とはレイの字である。




























  「ここが、洛陽か…」
  
  「ラオウ様凄いのだ…全く気配がなかったのだ」
 
 ラオウが声を発するまで気が付かなかったらしいのだろう…潜入時に数人大人が
 居たのだが、まったく気が付かれていなかった。
 鈴々は子供と思われたらしく全く気にも留められていなかったが、
 ラオウ・小夜・瑞佳の三人はまったく認識されなかったのだ。
  
  「俺は中央を行く、左サイドに鈴々と瑞佳、右サイドに小夜…一刻後にここに集合だ」
  
  「了解なのだ」
  
  「…了解」

  「了解した」
 
 そして、散会した。
 ラオウは悠々と歩いているが、町の人は外に居る連合軍の話題で持ちきりのため
 まったく気が付いていなかった。
 暫く歩いていると、目の前に貴人の護衛をしているであろう兵士の姿が見受けられた。
 ラオウは気になったので、後ろを尾行する事にした。
 気配を完全に消し去って…。
  
  「お姉ちゃんは誰なのだ?」
 
 暫く尾行を続けていると、その向かい側から鈴々が其の一行に声を掛けた。
 瑞佳の姿は見当たらない…おそらくもう一段階分かれたといったところだろうか…
 少し周囲を見渡すと、離れた場所で鈴々との掛け合いを窺うものが居た。
 瑞佳である。
  
  「ちょっと!何処から紛れ込んだのよ!早くつまみ出しなさい!」
  
  「ダメだよ詠ちゃん…ごめんね、すぐに出て行くから大人しくしててね」
  
  「大人しくしとくけど…お姉ちゃん達は誰なのだ?」
 
  「それは言えないの…ごめんね」
 
 様子から察するに、あの少女が董卓なのだろう…華雄の話からすると其の傍にいるのが
 賈駆といったところか…アミバが居るのに対してラオウは一番疑問を持っている。
 その後、鈴々は瑞佳と合流し…そのまま、本陣方面へと向かっていった…一瞬目が合ったことから
 ラオウが尾行を続ける事で決定したらしい。
 まだ傷はいえてはいないとはいえ、そこらの兵に劣りはしない。
 
  「あ、忘れ物した…詠ちゃん戻ってるね…」
  
  「ちょ、月…誰か護衛しなさい!」
  
  「は!」

 兵の何人かがその場を後にし、董卓の後を追う。
 ラオウは同じ背格好の兵を見繕い…
  
  「ぐげ!?」
  
  「借りるぞ」
  
 気絶させて縛り上げ…後を追いかけた。
 入れ替わったのに全くその事に気が付いていないのは
 其の男の普段の平凡さと逃走のための焦りによるものだと思われる。
  
  「あ、あった…」
  
  「急ぎましょう、董卓様!時間がありませぬ!」
 
  「わかりました…?」
  
  「どうされました?」
  
  「いえ…たぶん気のせいです…」
  
 訂正、董卓に気が付かれそうになった…ただ、急いでいるため
 放置したのだが…そして、そのまま
  
  「董卓様が戻られました!」
  
  「何を忘れたのよ月」
  
  「詠ちゃんに貰った髪飾りだよ」
  
  「そんなものの為に!?」
  
  「私にとっては価値があるんだから…」
 
 仲のいい事だ…だが、おそらくは逃げ切る事は不可能だろう…。
 アミバは瑞佳より劣るし、兵の力もたいした者では無さそうだ。
 賈駆は戦闘向きではない…。
 やがて、瑞佳たちの気配を感じ取り…
  
  「そこまでだ!」
  
  「ちぃ…もう既に敵が来ていたか!」
  
  「あー!お前はー!!!」
  
  「にゃはは、さっきぶりなのだ」
 
 その後も、愛紗達が到着し、何処の悪党だといいたくなるほどの
 口上をした後…
  
  「そのお姉ちゃんが董卓なのかー?」
  
  「違う!私よ!」
  
  「違う!俺だ!」
 
 アミバはどう見ても無理がある……。
  
  「えー大将にしてはどっちも…っていうかあのときの胡散臭い占い師なのだ」
  
  「うぬが董卓だろう…」
 
 そう言ってラオウは甲冑を投げ捨てた…桃香達は驚き、それ以上に
 アミバが驚いていた。
  
  「ららららら、ラオウ!?」
  
  「久しいな、アミバよ…だが今はそのように挨拶をする気は無い」

  「…違和感はこれだったのですか…はい、私が董卓です」
  
  「月!?」
 
 董卓が白状する…他の兵士達はいつの間に摩り替っていたのか分からず
 ただ、武器を構えて動揺する。
  
  「残念だが、うぬを逃がす気は無い…大人しく捕縛されよ」
  
  「そんなこと出来る訳無いでしょう!月を助けるためには
   何処までも逃げるしかないんだから!」
  
  「逃げてどうするというのだ…最早連合軍はうぬらを何処までもつけまわすだろう…
   この戦いの責を擦り付けるためにな」
 
 兵士達の武器を腕の一回しで粉砕し…改めて董卓に向き直りつつ明言する…。
 
  「く…アミバ!何とかしなさいよ!」
  
  「む、無理だ…天才の俺でも世紀末覇王には勝てぬ…」
 
 自身の力量をわきまえる位の分別は付いている…そもそもラオウに全く歯がたたない事を
 実感しているらしい。
  
  「だが、うぬら二人を放っておくのも桃香らが反対しよう…」
  
  「うん、見過ごせないよ」
  
  「故に、董卓にはここで死んでもらおう…」
 
  「…ラオウ様、言葉を間違えています」
 
 ラオウが殺す発言した瞬間…全員が焦ったが…小夜の的確な突込みによって
 ラオウが気が付き…
  
  「間違えたな…死んだ事にする…だ」
  
  「ラオウ様ー、びっくりしましたよー」
 
  「…一つ質問をしても宜しいのでしょうか…」
 
 董卓が怖気づきながらもラオウに問を投げかけようとする…
 ラオウはただその言葉を聞こうとし…
  
  「私達を助けて何の得が…」
  
  「無いな」
  
  「そうだねー…でも、董卓ちゃんを処罰したからって何の徳も無いしねー」
  
  「…単なる自己満足」
 
 ラオウの言葉に続けて、桃香・小夜が意見を言う…
  
  「詠ちゃん…この人たちを信用したい」
  
  「月がそういうなら…信用してもいいけど、策はあるの?」
  
  「策などいらぬ…おそらくうぬの顔を覚えておるのは袁紹と袁術のみ…」
  
  「袁術のところなら、あの男の人がいるから説得は出来る」
  
  「袁紹さんの所も義星さんに任せればきっと何とかしてくれると思う…
   苦労が増えそうだけど」
 
 袁術については、事前に話を通してあるため可能だが…袁紹については
 何とか誤魔化すしかない。
  
  「そのために、二人には名を捨ててもらいたい」
  
  「…分かったわよ、真名を預ければいいわけだし…私の真名は詠」
  
  「私は月です」
  
  「我が真名はラオウだ…」
  
  「後で気が変わった…って言いそうに無いわね」
  
  「それはこの俺が保障しよう」
  
  「貴様に保障されては信用されにくいと思うのだが」
 
 そうよねーと詠が冗談交じりに話している所に…袁紹入城の知らせが届いた。
 しかも、半ば暴走気味に来ているらしい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「一番乗りは私ですわよー!!」
  
 盛大に高笑いをあげて、部隊を猛スピードで直行させる袁紹…既に
 ラオウの隊が一番乗りなのだが、特に気にしていないらしい。
 その後方で…
  
  「あさましいわね…」
  
  「わらわも一歩間違っておればあそこにいたのかのー」

  「軍隊としてああなったらおしまいよねー」
  
  「義星さん大丈夫かなー…」
  
  「レイの奴…ここ数日でさらに白くなっているような…」
 
 そして、袁紹サイドの兵が入ったのを確認し、数刻ほど間をおき…
 曹操や孫策の軍も住民に施すために入城した。
 余談だが、ラオウの軍は治安活動をし…狼藉者は一気に数を減らしたのは当然の話。
 一月が経過した後…全ての諸侯は自分の領土へと戻っていった。
 その時にラオウは、荊州を任される太守に任命された。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 

  







































































 おまけ:
  
  「腹減ったー…おかんの飯が食いてーよー…」
  
  「すまん…忘れておったわ」
 
 ラオウは数日ほど放置されていた兵士の存在をようやく思い出し…
 救助した。



















 恋姫シリーズ通していえそうな謎と言う名ののおまけ
  
  「ところでラオウよ、俺たちは何語で話しているんだろうな」
  
  「それをいったら原作もそうだろう」
 
 レイとラオウの会話…確かに最大の謎である。
 外史だから共通語なのか?



[6264] 第19話:幕間3・休息
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/02 09:51

 荊州に赴任して数日、概ね平和な日々を過ごしていた。
 月と詠は桃香の侍女として過ごしている…詠は軍師なのに、と愚痴愚痴言っていたが。
 アミバは占い師…兼兵士鍛錬役、瑞佳には劣るがそれなりの戦力である為
 その役に任命したのである。
 警邏責任者は相変わらずラオウと小夜と桃香。
 最初の頃こそ治安が悪かったもののラオウや小夜の影響で一気に小競り合いや
 犯罪行為は消えていった…そして、ラオウは平野にて小夜と対峙をしていた。
  
  「…」
  
  「…」
 
 互いに相手の挙動を見、繰り出す手、繰り出される手、次の一手を
 考察し、構えを取っていく…小夜は元々構えなどとらない…
 鳳凰拳には一つの例外を除き構えが存在せず構えが無いのが構え。
 あらゆる状況に対処し千差万別に打倒していく必殺の構えである。
 
  「…疾」
  
  「…」
 
 小夜が踏み込み、瞬間的にラオウの眼前に迫り拳を突きたてる。
 その一撃を受け止めそのまま蹴りを繰り出す。
 そして小夜はその脚に乗っかり上空を舞った後ラオウの後ろに着地し、
 拳を首に当てる。
 小夜がその気であったのならラオウは既に絶命している…
 いまだに途中で中断したとはいえトキとの死闘の傷は癒えていないらしい。
  
  「これで、千八百勝です…一日に数百も戦っては傷の治りが
   遅くはなりませんか?」
  
  「いや…徐々に回復しておる…だが、やはりまだまだのようだな…」
 
 そのままラオウはゆっくりと腰を下ろす…その隣に小夜が立ち…暫く無言のまま
 町の様子を眺める。
  
  「ようやく落ち着いた形になったな…」
  
  「…実際に働いているのは朱里達…」
  
  「ふ…俺も知識はあるとはいえ、雑務よりも警邏や鍛錬などの方が
   体に合う」
 
 文科系ではなく、超体育会系…逆にその体格で運動が苦手といわれても困る。
 二人はしばし風に当たった後、町の様子を調査する事にし、警邏の任に戻る事にした。
 





























  「で、貴様らは何者だ…」
  
  「人に名を尋ねるときには自分で名乗るのが先って習わなかったかしらー?」
 
 町を警邏中…図体のでかいほぼ全裸に近い妙な二人組みがいるとの報告を受け
 急行したところ…本当に図体のでかい二人がいた。
 ラオウと比べてもその濃さが掻き消されないほどの存在感。
 只者では無いだろう。

  「…北斗拳王…」
  
  「大和武蔵…」
  
  「卑弥呼だ」
  
  「貂蝉よん」
 
 周りにいるほかの警邏の兵は気味悪がっているが…濃さに関しては
 ラオウで耐性がある程度ついているため、そこそこ平気だった…が、流石に
 濃さのベクトルが違うのでかなり抵抗がある。
 ラオウと小夜の二人は特に気味悪がる事は無い…ラオウはこういう輩を
 世紀末で見たことがあるし、小夜に至ってはこういう人も居るんだと
 感心している。
  
  「その不気味な格好はどうにかならんのか、町人が怯えておるだろう」
  
  「こんないい女を捕まえて不気味だなんて、失礼ねー」
  
  「貴様らのような女がいるか」
 
 まったくである。
 因みに何故かラオウの声と被って、誰かの声が聞こえてきたが
 幻聴だったようなので放置した。
  
  「んもう、てれちゃ…っては無いわね、貴方が世紀末覇者拳王のラオウなら」
 
 その台詞にラオウが眉を潜ませる。
 小夜はラオウの知り合いなのかと一瞬思ったが、ラオウの雰囲気からして
 違う事が分かり…殺気を出した。
  
  「怖い怖い…ラオウ、貴方が何故ここにいるのかを知りたくは無いかしら」
  
  「…聞かせてもらおうか、ただし、この場所はダメだ」
 
 そう言ってラオウは着いて来いといい、自分の城へと案内した。
 因みに、その間にはラオウと小夜、そして卑弥呼達しか入っていなかった。
  
  「何故、貴方の事を知っているかと言われれば、連れて来たのは私達よ」
  
  「ほう…貴様らは一体どういう存在なのだ」
  
  「外史…いや、幾重にも分類される世界の監視者とでも言っておこう」
 
 流石のラオウもこの意見には唖然とするしかなかった。
 過去に戻ったと言う理由もシュウ達がいる理由も目の前の存在
 によるものなのか。
 だが、記憶が正しければ、全て死人である筈なのだが…。
  
  「そこら辺は企業秘密よ…企業って訳じゃないけどね」
  
  「…本来なら無理にでも聞き出したい所だが、あいにくと本調子で無い状態では
   貴様らに勝てそうに無い」
  
  「…嘘をつくでない…既に我ら二人の闘気を超えておるくせに…」
 
 その様子にラオウはほうと感心して二人を見る…見た目のごつさは伊達では無いといったところか…
  
  「にしても、この外史じゃご主人様は愛紗ちゃんサイドじゃないのねん」
  
  「…一つ聞こう、俺をこの外史とやらに呼び寄せたわけは何だ」
  
  「…ちょっとした実験よ」
 
  「実験…だと?」
 
 ラオウの問に対して、二人が呼吸を整え…
  
  「一般人が世界に迷い込んだときどうなるのか、この時代よりも
   困窮した時代から来たものはどのような行動を起こすのか、それを見たいだけよ。
   ま、それは建前として、私としては南斗乱れるとき北斗現るを実現させて欲しいんだけどね」
  
  「起こるかどうかわからないだろう…別に俺でなくても構うまい…
   この時代の伝承者では無理だということが分かったがな」
 
 この時代の伝承者は正史では不明だがこの外史ではラオウの隣にいる少女
 小夜によって敗れ去っている。
 もっとも、これは小夜が南斗聖拳の中でもずば抜けて圧倒的な武を持っていたからである。
 その他の流派では六聖拳を除き、北斗には及ばない。
  
  「そうよん、その男も確かに強いけど歴代で比べたら下の下に入る部類よ…
   貴方の時代には北斗神拳最強が三人も揃っていたけどね」
 
 究極の剛ラオウ、究極の柔トキ、そして歴代最強の伝承者ケンシロウ…
 各々が名を恥じぬ最強の伝承者となった事は確かである。
 
  「トキもつれてきておったようだが…トキかケンシロウにに頼めばよかろう…
   それを何故この俺を選んだのだ」
  
  「…あの男達では、乱世に覇を唱えない…南斗の一斉蜂起を相手にするには
   軍を率いるような者で無いと数の関係上不利となる…
   さすがに拳法を極めた武道家数千人を一人で倒すのは無理でしょう」
  
  「この時代の南斗はそれ程の数がいるのか?」
  
  「…一子相伝の鳳凰拳と慈母の星以外は多数の伝承者が居る」
 
 ラオウの問に瑞佳がボソリと答える…北斗・南斗は表裏一体…
 北斗は一子相伝であるのに対して、南斗は鳳凰拳を除いて一子相伝ではないのだ。
 その為伝承者候補が拳を封じられると言うこと自体は起こらない…
 結果、名義上の伝承者と自称伝承者が入り乱れている事になっている。
 これも宿命の一つであろう。
  
  「ジャギはまだしも義弟達はも覇を唱えようとはしないだろうからな…」
 
  「そういう事よん♪」
 
 そう言ってクネクネする…祟と違って不快なイメージは感じられない。
 真面目にやっている者を笑う事など出来はしないからだ…それでも多少の
 嫌悪感はあるが…
  
  「ちょうど貴方が北斗を名乗ってくれて助かったわ…辻褄が合うしね」
  
  「…そうか…それで、南斗の蜂起鎮圧の後は俺を殺すのか?」
 
 ラオウの言葉に小夜が不安まじりな視線を向ける。
 その奥に秘めている感情は一体何なのかは不明だが、
 眼差しはかなりの強い意思を秘めている。
  
  「いやねー…人をそんな始末屋のように扱わないで頂戴…
   別にこれは外史だから貴方が無理に捻じ曲げようとしても正史にほぼ影響は無いわ。
   さっき言った南斗の出来事ともう一つの事以外はね」

  「もう一つの事とは何だ」
  
  「それは秘密…よ」
  
  「…ならば聞かぬ」
 
 ラオウは納得したように頷き、卑弥呼達を見やる…
 そして、スッと自然な動作で頭を下げる。 
 
  「一応、恩人に当たるわけだから礼を言っておく」
  
  「別に礼を言う必要は無いわ…そうだ、一つ聞くけど貴方ご主人様の事を
   知らないかしら?」
  
  「………敬称ではなく名を示せ。話はそれからだ」
  
  「あ、そうだったわね。一刀…北郷一刀という名よ」
 
 ラオウはしばし考える…そういえば、何処かで聞いた名だ…。
 確か―――
  
  「…曹操の所に居る」
 
 小夜がきっぱりと告げる…別に隠すようなものではないのだろう。
 その事を聞き貂蝉は小夜に礼を告げて、ラオウに退城する旨を伝えた。
 余談だが、曹操の所に居る一刀は寒気を感じたと言う。
 姿が見えなくなった後、ラオウはしばし瞑想し… 

  「いいだろう、正史に影響を及ぼさぬと言うのであれば俺のやりたいようにするまでだ」
 
 三国統一…そして、桃香達の理想の実現、この二つを実現させる事を
 ラオウは改めて決意し、警邏へと乗り出した。
 その様子は―――――。
  
  「傷が、癒えましたか?」 
  
  「いや、癒えてはおらぬ…だが、まもなく癒えるだろう…」
 
 復活間近の覇王そのものだった。
 小夜はその闘気と覇気の威圧感に安堵し、ラオウに同行していった。
 



























  「桃香よ…またか、それに愛紗らまで」
  
 ラオウが警邏で回っている途中、子供たちに纏わりつかれている桃香達を発見した。
 相変わらずの人気ぶりだ…正史の方は知らないがなるほど、こういう雰囲気が
 覇王として君臨できたのだろう…とてもそうには見えず、尚且つラオウが覇王としての
 駒に位置づいているが…。
  
  「ちょっとー瑞佳様に触れて良いのは私だけよー!」
 
 ムキーと言いながら子供達の間を掻き分けて瑞佳に近寄ろうとしている
 天和…口調は荒々しそうに思えるが、掻き分け方が優しいので、
 なんだかんだで怒っておらず遊んでいるようだった。
 
  「訓練の方を休息として抜け出した途端これか…やれやれ、非常に困った」
  
  「星…顔が困っているようには見えんぞ」
 
 子供を肩車しながらのんびり(?)話している愛紗と星。
 鈴々はどこかと見回すと、朱里や雛里と共に子供達にあやとりを教えていた。
 朱里達もちょうど休憩しているらしい。その近くには侍女の格好をした
 月と詠の姿もあった。
 
  「皆ーこれが箒ですよー」
  
  「わーすごーい!諸葛亮お姉ちゃんと鳳統お姉ちゃん」
  
  「鈴々は馬を作ったのだ」
 
  「犬みたーい」
   
  「こ、これが北斗様です」
  
  『ちょ!!?』
  
  「月!?」
  
  「………半ば似ているのが怖いのだが」
 
 あやとりの次元を軽く超えているような気がする…桃香達も子供達も
 声をそろえて突っ込んだが、本人とあやとりを交互に見ながら
 確かに似ていると納得したようだ。
 月の意外な才能とでも言うべきか……。
 
  「まあ【ドコオ!】、偶には【バキ!】、休憩も【ドゴオ!】、必要であろう」
 
 台詞を言っている間に何処かの諸侯が放って来たであろう暗殺者を
 殴って失神させていくラオウ。
 暗殺者ではなくただの諜報員もいたが、どちらでもいい。
 因みに桃香を狙っていたものも居たので剛掌波で直接吹っ飛ばしたり、
 針を返したりしている。
 
  「北斗神拳は暗殺拳…トキやケンシロウでなくば俺を誤魔化せはせん」
 
 後で尋問といいながら兵士達に捕縛して運ぶよう指示を入れる。
 その様子に子供たちがかっこいいと言いながらわらわらとラオウに駆け寄る。
 そして、ラオウは…大木を用意すると中をくり貫いて子供達を中に乗せた…
 総勢二十名ほどである、樹のサイズではその程度しか入れられなかった。
 
  「ムン!」
 
 そしてその樹を抱えあげた…その瞬間小夜が先程よりもラオウの近くに寄っていく。
 子供たちは最初は驚いていたが、いつもと違う視線の高さに喜び騒いでいた。
 
  「立ち上がるな…しばらくこのまま町を回っていくぞ」
  
  『わー♪』
  
  「……いいなぁー」
  
  「…桃香お姉ちゃん?」
 
 羨ましそうにその大木バスを見る桃香…愛紗は子供らしいお方だと苦笑していたが、
 その顔は優しいものだった。
 ともあれ、他の子供達も乗りたいと言い出しどうしたものかと思っていると…
 
  「四人がかりなら出来るんじゃないか?」
 
 華雄がそう言い出した。
 四人とは愛紗・星・華雄・瑞佳である…納得したが正直言って
 恥ずかしい…だが、子供達は期待に満ちた目をしていた。
 結局根負けして、樹を切り倒し四人がかりで実行した。
 そして、全員が広場に戻り解散となった。
 その際、星がラオウに桃香の様子を密告したのは別の話。
 







































































 おまけ
  
  「ラオウ様!いいですから、羨ましいといったのはたしかなんだけど
   もう子供じゃないからー!」
  
  「何で私達も…」
  
 桃香達を樹に乗せて運んでいた。
 鈴々は純粋に楽しんでいたが他の者は羞恥に顔を赤く染めて
 俯いていた。
 尚、小夜は下で歩いている。
 このような行為に至ったのは、星が桃香の言をばらした為である。
 
  「星…お前のせいだぞ」
  
  「…この私の目をもってしても見抜けなかった」
 
 それは節穴フラグだ。



               :それは節穴フラグだ…大事な事なので二回書き込みました。



[6264] 第20話:蜀領救出作戦
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/04 08:28

 荊州に赴任して数週間後ラオウが傷を完治させた時…隣の州・益州の一人の民が助けを求めに来た。
 益州では、今まで劉焉が治めており、蜀という国になっていたのだが…
 先日劉焉が死去し、権力争いが発展し暴税と治政を実行し民の苦しみを無視して自分達は
 宴会騒ぎを繰り返していると聞いた。
 その為にすぐに益州に向かった…町のひとつは歓迎しすぐに取り込むことが出来た。
 そして、時を同じくして白蓮がこの領へと逃げのびてきた。
 袁紹が進行してきたそうだ…北の憂いを取り除きまずは曹操の領へと進行した模様だ。
 曹操も涼州を支配した後、袁紹と事を構える気でいるようだ。
 その影響でラオウの下に馬超らが来たのは別の話しというわけではない。
 …まあ、レイが居るにしてもあの袁紹では勝てる筈が無いのだが……。
 そして従妹の袁術は孫策に臣下の礼をし、孫策は本格的に乱世に立とうとしているらしい。
 
  「時代が動き始めたか」
  
  「そうだね…ラオウ様はやっぱり覇を唱えるの?」  
  
  「愚問だ桃香よ…これは男としての一種の宿命みたいなものだ…
   桃香らの理想を実現するためには力をつけねばならん」
  
  「自分達が正しいと証明させるには今は力でしか示すほかありません」
 
 桃香、ラオウ、小夜の三人が今後の予定を話す会議を一旦抜け出して、
 風に当たりながら会話をする。
 もっとも攻める方針がほぼラオウによる蹂躙だけで事足りるのだが、
 町に立て籠もっているときはその蹂躙戦法が使えない、何故なら
 一般人に被害が及んでしまい、支持してくれる民が激減してしまうから…
 
  「だが、俺は覇を目指す事よりも優先すべき事が一つある」
  
  「…」
  
  「…」
 
 桃香と小夜が黙り込む、ラオウが言わなくても分かるのだろう…
 トキとの決着。
 剛と柔、対極に位置する二人…桃香は仲良く出来ないのかと
 最初は思っていたのだが、あの戦いの事が頭から離れない。
 今でも目を閉じれば鮮明に浮かんでくる人知を超越した戦い…
 武を極めた者もそうでない者も釘付けになるほどの芸術ともいえる
 技の応酬…神々の戦いが存在するとすればまさにそれを体現しているような
 光景だった…一人の諸侯により中断されてしまったものの
 両者は互いに健在…トキという男の行方は依然知らないままだが、
 ラオウと同じく傷は癒えているだろう…
  
  「もっとも、その戦いも見つからぬ内は実現する事もあるまい」
  
  「…そうですね」
 
 再び沈黙がおりる…ラオウがそろそろ戻るかと言い、桃香達も
 それに従い、会議へと戻っていった。
 
  「ラオウ様ー、何か言い案は無いー?退屈でしょうがないよー」
  
  「こら、蒲公英!失礼だろう!」

 入ってきた瞬間、蒲公英に声をかけられた…すぐに翠により咎められていたが。
 会議は思った以上に難航しているようだ。
 今までは敵の城に攻勢に出る事はなかった、月のいた都へと
 攻め入った時も結局は悠々と入城し、戦闘にはならなかった。
 野戦でなら余程の数の差が無い限りは負ける事は無いとは言え、
 城に篭られたら、城下町の民にまで大幅な被害が及んでしまう…。
  
  「ひとまず、この会議は一時中断せよ…続きは明日とする。
   各々妙案を考えるように」
  
  『はい(御意)!!』
 
 結局数刻も考え込んでしまい、案が纏まらなかったためこの日は解散となった。
 単純に考えればいいのだろうが、ラオウの強さがこの軍の象徴となってしまっているので
 軍師達がその方向に頭を悩ませてしまい、難航してしまっているのだ。
 結局、全員持ち場に戻…らなかった。
 賊の情報が入った為ラオウと小夜と桃香は警邏の兵士を連れて、その場へと向かっていったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



















  「へっへっへ、お嬢ちゃん…お兄さん達と遊ぶ気になったかい?」
  
  「いやー!お母さんの所に帰してー!!!」
 
 薄暗い森の奥、百名近い賊と一人の少女が言い争っていた…
 少女の周りには少女を護衛していたであろう兵士達が物言わぬ状態で
 転がっていた。
  
  「おい、お前ら止めとけよ…」
 
 賊の中の唯一の良心とも言える男が無駄だと分かりつつも声をかけていく。
 だが、他の者はそのような声には耳を傾けず、目の前の幼子をどうしようか
 考えるので精一杯だった。
  
  「はあはあはあ」
  
  「あんた達なんか、白馬の王子様に倒されるんだから―――!!!」
 
 白馬の王子様…少女の持っている書物の登場人物の事である。
 はるか西からやってきた男がこの国用に編集し、売っている童話だった。
 子供たちや女性にはかなりの人気があるらしい。
  
  「俺たちが王子様になってあげるよー」
 
 …この男達も持っていた、世も末である。
  
  「もうやだこの組織…」
 
 男は用を足してくると言ってその場を去っていった…とは言っても戻るつもりではあるが
 そして、近くの樹に腰をかけ…先ほどの少女の無事を祈っていた…。
 その時、後ろより肩を叩かれた。
  
  「ん…誰だ………(俺終わった)」
 
 振り向いた所には一人の少女が立っていた…小夜である。
 男には理性が会った為、目の前の少女を見たとき、本能でこの少女には勝てないと
 悟ったのである……もう、楽しい事しか考えなかった、具体的には趣味の絵の事。
 それが今日のこの男の最後の思考となった……訳ではない。





























  「ラオウ様…前に人が」
  
  「おそらく、賊の一人だろう…随分と顔がやつれておるな」
 
 見えるの!?と兵士が全員で突っ込みたい気分になったが…北斗様なら
 仕方ないと諦めた。
 桃香も同様にラオウ様なら仕方ないと諦めた。
 ちなみにかなりの距離があり肉眼で見る事は不可能な距離である。
 更にはその男は木々に囲まれているため、余計に見えづらいのだ。
  
  「…調べてきます」
  
  「任せる」
 
 では、と言いながら小夜はその場から消えた…実際には
 超スピードで走り去っただけだが、常人には消えたようにしか感じられない。
 ラオウとトキを除けば間違いなく最強の部類に入る腕である。
  
  「相変わらず、速いよねー小夜ちゃん」
  
  「速さに関してなら俺やトキ以上だ」
 
 それでも反応速度で捉える辺りラオウも異常である。
 おそらくトキも捉えることは可能だろう。
  
  「…気絶させたな」
  
  「…情報でも聞き出すのかな?」
 
 聞き出したところで殲滅には変わりは無いのだが…。
 そして、小夜が戻ってきた。
  
  「どうするのだ」
  
  「賊にしては悪そうに見えませんから」
 
  「そうか…そういう事にしておこう」
 
 そして、ラオウはそのまま真っ直ぐに進軍し始めた。
 ちなみに黒龍が闊歩しているにもかかわらず、地響きは鳴り響いていない。
 賊に気がつかれずにいく為にわざわざ静かに歩いているのだ。
 もっとも、気がつかれても問題は無いが。
 
  「新一!」
 
 ラオウが移動している間に兵士が押さえている賊に口を割らせる秘孔を突く。
 賊の意識は復活し、自身の命がある事に神に対して感謝しつつ、ラオウを見て
 神を恨んだ。
  
  「規模はどれほどだ」
  
  「…ご五百だ!?」
 
  「何の為にここに居る?」
  
  「黄忠から、金を巻き上げるために子供を誘拐してここに連れ込んだんだよ…」
 
  「…桃香、小夜…黄忠とは誰か分かるか?」
 
 賊が口を割られているのに驚きながら諦めていると、名が出てきた為ラオウは
 桃香らに尋ねる。
  
  「聞いた事ありません」
  
  「私も…あ、朱里ちゃんが何か言っていたような?」
 
  「何だ?知らないのか?この先の城を守る劉璋の将の一人だぞ」
 
 賊がラオウの問に答えるように勝手に話しかける。
 とても賊とは思えない態度だ。
  
  「そうか…尚更隠密行動をする必要があるな」
  
  「ラオウ様と桃香様と私だけで参りましょう」
  
  「…え?」
 
 小夜の意見に桃香が唖然とした表情をする。
 そういう隠密行動なら殲滅させるのはラオウや小夜…
 それに瑞佳が適任じゃないのか…現在瑞佳は天和と劇中だが。
 
  「…子供の相手は桃香様が得意」
  
  「……小夜ちゃん苦手?」
  
  「はい…あまり明るくありませんし」
 
 物静かなイメージがある…が、戦闘ではかなり速さでの制圧前進による
 激情のイメージがある…素はおそらく前者だろうが。
 
  「そんな事は無いと思うけどなー…でも私では足手まといだよ?」
  
  「心配ありません、私が守ります」
 
  「五百程度、この俺一人で十分だ」
  
  「……えーと、今の話本当か?」
 
 賊が桃香に聞く…桃香はコクリと頷いた。
 
  「そういえば、俺ってもう用済み?」
  
  「用済だけど生かしてあげる」
  
  「その代わり案内せよ」
  
 賊は仲間を売る行為に躊躇していたが…仲間の様子を思い出し、
 躊躇いなく頷いた。
 ラオウが後で何故かを問うと、全員幼女愛好者だったらしい。
 賊の心労を察し、他の兵士達は肩に手を置いた。
 そして、ラオウと桃香、小夜と元賊は賊の集まる場所へと向かっていった。
 ラオウは黒龍に乗ったままだった。
  
 




























  「そろそろ俺、我慢出来ねー」
  
  「落ち着けよ兄弟、せめて手紙を書き上げてからだろ?」 
 
 その頃、賊の陣では迫り来る強大な死刑執行人が近づいてくる事など露知らず
 既に身代金の使い道を模索していた。
 少女…黄忠の娘は騒ぎ疲れてぐったりしている。
 その場所にラオウは辿りついた…闘気による気配遮断により、桃香達の気配も掻き消していた。
  
  「まあ、見りゃ分かるけどあの娘だよ」
  
  「大丈夫…なのかな?」
  
  「疲れて眠ってるだけですね…」
 
  「小夜…護衛は任せる」
 
  「はい」
 
 そして、ラオウは闘気を解放した…その瞬間、全ての賊はラオウの存在に気がつき、
 腰を抜かした。
 リーダー格らしきものはラオウの出現に動じた様子はなく不敵に笑っていた。
 と描写すれば聞こえは良いが、実際には引きつった笑いをしているだけである。
 ちなみに裏切り者の賊の事は誰も気がついていない。
  
  「ほう、貴様この人数の中をよく近づく事が出来たな」
  
  「御託は良い…とっとと殲滅させてもらう」
 
  「…白馬の王子様?」
  
  『どう見ても違うだろ(でしょ)!?』
 
 少女の言葉に小夜とラオウ以外が一斉に突っ込みを入れた。
 白馬の王子様ではなく、黒馬の覇王様である。
 語呂が良いわけでは無いが。
  
  「は…殲滅させる?この虎殺しの飛燕様に向かって良い度胸じゃないか」
  
  「虎相手に威張ってる」
  
  「そんな事言えるのこの中じゃ小夜ちゃんとラオウ様以外無理だって…黒龍もそうだけど」
  
  「実際に倒した事無いぞ、お頭は」
 
 むしろ逃げていると付け加えた…自称だった、まあ自称でなくても
 虎如きで威張って居る相手ではラオウの相手は務まらないようだが…
  
  「いくぞ、我が必殺の構えを!」
  
  『出た!お頭の必殺の構え究極最強絶対無敵天下無双二刀流乱舞だー!』
  
  「ラオウ様…何処かで聞いた覚えがあるのですが…」
  
  「究極最強絶対無敵天下無双斧乱舞か…」
  
  「ん?弟の構えを知っているのか?」
 
 驚愕の真実、あの男には兄弟が居た!
 だからどうと言う事ではないのだが…。
  
  「ふ、この俺の構えは弟に負けた事は無いぜ…兄より優れた弟など居ない!」
  
  「そうでも無いが」

 実際に義弟に負けたラオウが言葉を発するがその男は聞いていなかった。
 
  「受けてみろ…究極最強絶対無敵天下無双二刀流乱舞究極奥義…斬り付け!!!」
 
 …だから何故兄弟揃ってマトモな奥義名じゃないのか…ラオウは指一本で防ぎ
 弾き飛ばした。
 そしてその賊は地面に倒れ伏し…動かなくなった。
  
  「にににににに逃げろ―――!!!」
  
 賊は逃げ出していく…しかし、すぐさまラオウと小夜の攻勢により
 全滅した。戦闘描写すらない、ただの雑兵のようだ。
 
  「あうあうあう…王子様凄い…」
  
  「いや、違うだろ」
 
 元賊が突っ込んだ…。
 しばらくしてラオウが戻って来た。
  
  「お前の名は?」
  
  「り…璃々!」
 
 少し緊張しながらも元気よく答える璃々。
 
  「じゃあ、璃々ちゃん…お姉ちゃん達と一緒に来てくれる?
   お母さんに会わせられるのはもう少し先になっちゃうけど」
  
  「いいよ…早く会いたいけど、たちばがあるんでしょー?」
 
 意外と聡明な子供である…この様子であれば、母親はもっと聡明だろう。
 この日ラオウ達はひとまず城へと戻っていった。
 月や桃香が遊び相手を務めたお陰で特に問題なく過ごせた。


































































































 落ち無しのおまけ
  
  「そういえば、お前の名前は何だ?」
  
  「姓が四暗刻、名が単騎天和、字が大四喜…真名は字一色だ」
  
  『長い!!!?』
 
 
            :おまけのネタが手詰まりになってきた…麻雀で決まるのかな?この役って



[6264] 第21話:母子再会
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/06 09:08

  「さて…では送り届けに向かうぞ」
  
  「兵士を連れて行かないで本当に良いのか?」
 
 白蓮がラオウに話しかける、送り届けるのに向かっている一行は
 ラオウ・小夜・白蓮・桃香。
 一応兵士も居るがそれは精鋭中の精鋭であるラオウ親衛隊。
  
  「構わぬ、此度はただ送り届けに向かうだけだからな」
  
  「兵隊さんを連れて行くのは本当に一応の処置だよ…この人数でも
   かなりの戦力だけど」
 
 ラオウ親衛隊の人数は千二百、三人がかりで愛紗クラスの武将を苦戦させる
 腕前を持つ者ばかりである。
 …それでもラオウを苦戦させる事すら出来ないのだからラオウの実力は
 最早計測不能の領域に入っている。
  
  「あぁー…むしろこの人数の方が動きやすいと言う意味では良いのかな?」
 
  「武将もなるべくなら俺と小夜だけで行きたかったが…
   璃々の相手をする者が居ないのでな」
 
 子供の扱いに慣れている者が必要だったため桃香を呼んだのだ。
 白蓮が来た理由も似たようなものである。
  
  「劉備お姉ちゃーん、早くー」
  
  「あ、待って璃々ちゃん」
 
 馬に乗ろうとしている璃々を抱えて馬に乗る桃香。
 白蓮も溜息を吐きつつ馬に乗る。
 そして、ラオウの送り届け作戦軍は出立した。






























  「まだ見つからないの!?」
  
  「お、落ち着いてください黄忠様…全力をつくして探して」
  
  「いい訳は良いから早く捜しなさい!!!」
 
 温厚な黄忠が声高く怒鳴り声を上げていた…無理も無い、愛娘が一日消えてしまっていたからだ。
 それに近くには侵攻しているラオウの軍勢がある。
 評判こそ桃香の影響で悪いものではないのだが、ラオウの噂がとんでもなく凶悪なものばかりだった為、
 心配しているのだ…もっとも、その噂を流したのは袁紹である為信憑性は無いのだが、
 娘を心配するあまりそのような判断すらつかない状況だった。
  
  「黄忠様、あんなに取り乱して…」
  
  「仕方ねーよ、たった一人の娘さんだぜ?」
  
  「俺だって心配する、誰だってそうだろ?」 
 
 兵士達は黄忠の半ば八つ当たりに近い行動も気にした様子も無く作業に入るために
 各隊に伝える…そして…
  
  「黄忠様!!!」
  
  「何!」
  
  「北斗の軍勢が!!!」
  
 騒然となった…黄忠も一端の武将…民を守るために、六万の軍勢を
 篭城させて迎撃する態勢を整えるよう指示を出した。
  
  「御免なさいね…璃々」
 
 実の娘よりも民の安全を考える…民の意識は既に劉備を歓迎するような
 雰囲気になっているが、簡単には降伏をするわけにはいかない…。
 黄忠は弓を握り…戦場に立つべく部屋を後にした。






























  「見えたか…」
  
  「あらら…臨戦態勢を整えちゃってるね…」
 
 桃香が門の上に居る兵士の雰囲気を察知して溜息をつく…
 使者を送ろうかどうか考えていると、ラオウが前に前進していた。
 その状態で桃香にわずかに目配せをする。
  
  「え?進むの?」
  
  「桃香、今の目配せで分かったのか?」
  
  「危険だけど、下手な使者を送るよりマシ」
 
 侵攻しているように思われている部隊から使者を送ってもその使者の命が危険だろう。
 それなら、一番強い者が使者として向かえば被害は無くなる。
 本来の用件を果たした後で即座に撤収すれば良いだけだ。
 桃香の近くに小夜が行く…護衛のつもりらしい。
  
  「行くよ…白蓮ちゃん頼むね」
 
  「死なないでよ、といっても矢も効きそうに無いけどラオウ様は」
 
 桃香と小夜は璃々を連れて黒龍の近くに寄って行き、ズンズンと
 城へと向かって進んで行った。




  
  「黄忠様、北斗が…」
  
  「大将自ら来るとは…!」
 
 黄忠は弓の使い手であり達人クラス…それ故に近づいてくるラオウの近くに
 愛娘の璃々が居たのを発見した。
 もしかしたら…
  
  「脅しのつもり…ですかね」
  
  「……許せない…」
 
 近くに居た弓兵も璃々の存在に気がつき、黄忠に尋ねる。
 黄忠は怒りを露にして…
  
  「ノコノコと来た事を後悔しなさい!!」
 
 そう言い放って、矢をラオウの心臓に向けて撃ち放った。
 




  「…」
 
 指二本で飛んできた矢を掴む。
 そして矢を投げ捨て、ある程度前進して黄忠の見える位置に立つ。
 
  「黄忠よ!聞こえておるか!!!」
 
 黄忠のところに届くように巨大な声を発する。
 近くに居た小夜達はとばっちりを喰らい耳を押さえている、璃々は
 目を回して気絶してしまった。
  
  「俺はうぬの娘を送り届けに来ただけだ!」
  
  「…本当ですか?」
  
  「あぁ、本当だ!!」
 
 会話しているようになっているのは、ラオウが読唇術を使っているからだ。
 黄忠は自分の声が聞こえたのかと驚いていたが、ラオウの眼…そして桃香の
 表情を見て信頼し、数名の兵を引き連れて城門へと出た。
  
  「始めまして、黄忠です」
  
  「北斗だ…そら、桃香」
  
  「はい…璃々ちゃん、お母さんだよ」
  
  「お母さーん」
 
 璃々が母親の姿を認めて駆け寄っていく…黄忠は璃々を抱きかかえ
 涙を流しながら娘の無事を喜んだ。
 しばらくその状況が続いていたため、ラオウ達はその間待つ事となった。






















































































NG:1 鬱エンド直行的な選択

  「ノコノコと来た事を後悔しなさい!!」
 
 そう言い放って、矢をラオウの心臓に向けて撃ち放った。
 




  「…」
 
 指二本で飛んできた矢を掴む。
 そしてそのまま飛んできた方向へと返した。
 その矢はそのまま黄忠の心臓へと突き刺さった。
  
  「きゃあ!」
  
  「ぬお!いつもの癖で反射してしまった!」
  
  「お母さ――――ん!!!」

 その後、璃々はラオウの命を常に狙うようになった
        
           :奥義って怖いね







NG:2コマンド入力失敗

  「ノコノコと来た事を後悔しなさい!!」
 
 そう言い放って、矢をラオウの心臓に向けて撃ち放った。
 




  「…」
 
 指二本で飛んできた矢を掴み…損ねた。
 そのままラオウの心臓に突き刺さる。
  
  「ぐはぁ」
  
  「ラオウ様!!!」
  
 桃香が悲痛な叫びを上げ、近寄っていく、ラオウはそれを片手で
 制し、矢を抜きさって心臓の辺りの筋肉を集中させた。
 そして、どうにか致命傷にはならずにすんだ。
  
       :コマンド入力失敗した、テヘ…ちょ、こっちにくr(天将奔烈!!!



[6264] 第22話:新たな仲間!
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/07 16:15

 ようやく感動の再会の余韻が終了した所で、黄忠が頭を下げた。
  
  「申し訳ありません…送り届けてくれたとは知らず矢を射ってしまって…」
  
  「気にするな…といいたいところだが、今回に限って言えば少し早計だったな」
 
 見かけはともかく明らかに使者として出向いたのにそれを
 矢で射るという事は相手に対する侮蔑に他ならない。
  
  「うぬの弓の腕は確かだろう…風の動きをも考慮する射撃は見事としか良いようが無い」
  
  「天の御遣いに言って貰えるのは光栄ですわ」
 
 一発で認めた…と言うより認めざるをえないだろう。
 圧倒的な存在感は人間特有のものとは思えない…ならば天の御遣いである
 北斗拳王で間違い無いだろうと確信しての事だった。
  
  「…どのような処遇も甘んじて受けましょう…」
  
  「いや、そのような事をするつもりは無い」
 
 黄忠が驚いた顔でラオウを見る…
  
  「我らはただ、うぬの娘を送り届けに来ただけだ…それが終わった今…
   我が軍は次来る時より侵攻を開始するだけだ」
  
  「…ラオ「桃香様」小夜ちゃん?」
 
 桃香が口を挟もうとしたとき小夜が押し留める。
 桃香は小夜とラオウに何か考えがあると知り、口を閉じた。
  
  「…非礼の責により占拠すれば良いのではないのですか?」
  
  「そのような事で占拠した所で民の心は掴めぬ…それではただ相手の
   弱みにつけ込んだだけだからな」
 
 そのような手段は卑劣であるとラオウは眼で語る。
 眼は口ほどにモノを言うとはあるが、ラオウの行動はまさにそれだった。
  
  「正々堂々、誠意を持って接する…これが受け入れられる第一歩と踏んでおる」
  
  「…」
  
  「ではな…次まみえる時には答えを示すが良い…それがうぬに対する処遇として受け取っておけ」
  
  「待って…」
 
 ラオウがその場から立ち去ろうとすると、黄忠が声をかける…
  
  「天の御遣いは乱世を平定するために降りてきたとお聞きします…
   ならば、何故乱そうとするのですか?」  

  「乱世を平定するのに必要なものをうぬは知っておるか」
  
  「…」
  
  「俺は乱世平定に必要な要素を三つ心に留めておる」
  
  「それは…」
  
  「一、理想。二、力。三、愛…この三つだ」
 
 理想が無ければそもそも人の上に立つ資格など無く、またそれに同意しようとする者が現れない。
 力はどのような奇麗事を吐こうとも、それを否定する者がいれば対峙するのが人の宿命。
 最後に愛とは、親愛・友愛などの事、恐怖によっても人は縛れるが、それではその場しのぎの効果でしかない。
 しかし、分かり合う心を持っていればその効果は長く続く事になるだろう。
  
  「力なき人々に平安を…それが理想ではあるが、うぬが仕えておる璋劉はくだらぬ宴の為に
   税を上げ民を見る事などしておらぬだろう…だから、この俺が制圧し巨大な安心感を
   もたらそうとしておるのだ」
  
  「矛盾しているかもしれないけど、そういう事をしている人を倒す為には
   力で持ってして思い知らせなきゃいけないの…」
 
 ラオウの眼を見ながら話を聞いていた黄忠は次に桃香に視線を向けた…。
 どちらも嘘をついているようではなく、ラオウは民に頼もしさを、
 桃香は民に安心感を与える存在になるだろうと感じ取れた。
  
  「次の機会を待つまでもありません…一騎打ちで貴方を見させていただきます」
  
  「ほう…」
  
  「え…」
 
 黄忠の眼は決意に満ちた目だった。
 
  「なるほど…実際に今見極めると言うわけか…それがうぬの答えと言うわけだな」
  
  「はい…」
 
  「よかろう…その志に免じ、うぬと同じ地に立とう…」
 
 そう言って黒龍から降りるラオウ…今この時代に居る人物でラオウという巨星を
 地に降ろす事が出来る力量を持っているのはトキと小夜の二名のみであり、
 互角という観点も含めると該当するのはトキただ一人である。
  
  「勝負は一撃…一撃でも有効打撃を与えた者が勝利だ、とっととうぬの得意な間合いに
   つくが良い」
  
  「いえ…この距離で十分です」
  
  「何…?」

 通常弓兵は相手の間合いの外から打ち放ち、牽制と本命を使い分けて攻撃するのを得意とする。
 それ故、このような数メートルの距離にて攻撃することはまずありえない。
  
  「ここが、私にとっての必殺の間合いです」
  
  「…成る程…ならば、初撃はうぬから射って来るが良い」
 
 そう言ってラオウは指を二本構える。
  
  「では、お言葉に甘えまして…」
  
  「…」
 
 二人の様子を見る者達全員に緊張がはしる。
 といっても、小夜と黒龍は動じた様子も無くその勝負の行方を確信していた。
 桃香も確信には至っているものの、兆が一の心配をして見ている。
  
  「いきます…」
  
  「…」
 
 矢をつがえてラオウの心臓部を狙う…
  
  「は…」
  
  「北斗神拳…二指真空把」
 
 矢を掴みそのまま返した。
 その矢は黄忠に真っ直ぐ到達し…
 
  「…く」
 
 黄忠が死を覚悟したとき…矢は途中で一回転し、尾の部分が黄忠の額を叩いた。
 ペチリという真剣勝負に相応しくない音が鳴り響いた。
  
  「俺の勝ちだな」
  
  「………なにか納得がいかないのですが…」
  
  「あれだけの民や兵士に慕われておるうぬを殺せる筈など無かろう」
  
 黄忠の後方にはその勝負を心配する兵士の他に…大勢の民が居た。
 全員が黄忠の無事に安堵している様子だった。
  
  「さて、俺が勝った訳だが…どうすると言うのだ?」
  
  「…貴方達を受け入れます」
 
 その瞬間、民から歓迎の声が聞こえた…桃香の評判の良さを噂で
 聞いているので、少なくとも今の領主よりましだと判断しているからだ。
 
  「やれやれ…送り届けに来ただけだったのだがな…」
  
  「出陣準備も無駄になっちゃったね…白蓮ちゃんに伝えてくるね」
 
 その後、白蓮はラオウ親衛隊と共に愛紗達の待つ城へと向かっていった。
 そして、愛紗達を待つ間、ラオウは町の様子を観察し、桃香は璃々や町の子供達と
 共に遊んでいた(遊ばれていたとも言う)。
 その間、護衛に当たっていたのは小夜である。
 
 


























  「あ、親衛隊の方々達が見えましたよ!」
  
  「ようやく出番ってところか…でも六万相手に五万で尚且つ
   篭城戦で勝ち目があるのか?」

  「民の損害を無視すればラオウ様の突撃で道が開かれます…それはおいておいて
   その差を何とかするのが軍師の役目です…実は既に桃香様の人柄の良さを
   流してあるので、混乱する筈です」
  
  「成る程…それならば、あとはこちらの力を見せれば容易に事が進むと言うわけか」
  
  「朱里は凄いのだー」
 
 和んでいる雰囲気になっている…気を引き締めて進軍に息巻いているのは参入したばかりの
 蒲公英と翠…白蓮は着いた時…どうやって伝えようか悩んだ。
  
  「あれ?白蓮…ラオウ様や桃香様はどうしたんだ?」
  
  「いや…言い難いんだけど…もう進軍の必要無くなった…これから兵を率いて
   移動するだけだよ…」
  
  「え…まさか千二百の兵で六万の兵を打ち破ったのですか!?」
 
  「いや、違…」
  
  「せっかく戦闘に用いる策が出来たのに…グスン」
  
  「雛里ちゃん…私も悲しいよ…」
  
  「大丈夫だって、二人の力は治政で役立ってるんだからさ!
   それより、私達の立つ瀬が無いよ…」
  
  「話を聞いてくれ―――!!!!!」
 
 白蓮の叫びもむなしく…皆が正気に戻って詳しい話を聞くまでに四刻かかったそうな。




























 ――――――数日後…魏の国にて

  「申し上げます!」
  
  「何?今、大事な作戦会議中なんだけど」
  
  「いえ、北斗軍へと向けた諜報からの情報でして」
  
  「そう、北斗の所へはいずれ戦いに向かうし…情報は多いにこした事は無いわね」
 
 傍に居る夏侯淵・夏侯惇や一刀は口を挟まずに、紅柳からの言葉を待つ。

  「北斗の軍がたった千二百で黄忠率いる篭城した六万の軍勢を
   打ち破ったそうだ」
 
 会議場の時が止まった…。
 嘘や冗談と言う線も見たのだが、引きつった笑みを浮かべながら言う紅柳の
 表情を見て、曹操や他の将達も表情が引きつった。
 何故このような情報が伝わったのかと言うと…朱里達の動揺が演技ではなかった事と
 白蓮の言動に気がつかなかった諜報員がそのまま伝えてしまったからだ。
 その後も諜報員を送ったのだが、その時には
 既に黄忠の城の中であり、皆ラオウに発見され記憶を消されて戻って来た為
 判断材料が少ないのだ。
  
  「袁紹の軍を打ち破った後で行こうと思ったけど…孫策との戦闘を先にするわ」
  
 乱世の覇を唱えるための最大の障害…華琳の想像以上の化け物だったようだった。
 ラオウを打ち倒すのと大陸を平定するのは同じものだと認識しても良いだろう。
 ―――もっとも、もう一つの障害である孫策も難敵には違いが無いのだが。
  
  「…北斗と互角の一騎打ちを演じたあの男が居るなら話は別なんでしょうけどね」
 
  「無いものねだりの様な気もするけどな…でも華琳、諦めるつもりは無いんだろ?」
  
  「その通りよ!一度目指したものを諦めるようでは天に完全に見放されるわ」
 
 曹操の鼓舞するような笑みに家臣全員は冷静さを取り戻し、目先の敵である袁紹を打ち破る
 策を練り始めた。










 ――――――同じ頃、呉の領にて
  
  「大変じゃ―――!!!!」 
  
  「どうしたの美羽、そんなに慌てて」
  
  「そうだよー、水でも飲んで落ち着いてー」
 
 食事中に袁術が慌てて入ってきた。
 今日は呉での食事会が開かれているようだった。
 孫尚香が水を差し出す…袁術はその水を一気に飲み干し…むせた。
 
  「ゲホゲホ…」
  
  「はあ、しっかりしなさい美羽…」
  
  「シュウ…何かあったのか?」
 
 孫策がその背を軽く叩きながら相手をしているうちに、袁術の後ろからついて来た人物、
 シュウに孫権が話しかける。
  
  「北斗の軍勢が千二百で黄忠率いる六万の軍勢を打ち破ったらしい…」
 
 その瞬間、口に物を含んでいたものは全て噴出し、含んでいない者は
 固まってしまった…ラオウの強さを知っているとはいえ、流石に信じられない 
 出来事だった。
  
  「まさか、北斗の下にあの男が?」
  
  「うわ、考えたくないなその状況」
 
 一人でさえもかなりの…ほぼ無敵の軍勢クラスなのにそのような男が二人も居たら
 間違いなくどの勢力も勝てる要素が無くなってしまう。 
 
  「いや、少なくともそのような情報は入っていない…いやに冷静だな
   雪蓮・冥琳」
  
  「そりゃあ驚いているけど…こんな事で一々動揺していたら覇王を目指す身としては
   恥ずかしいわよ」
  
  「と、雪蓮は言っているけど…正直、私を含めて二人ともいっぱいいっぱいよ」
 
  「暢気に話しとる場合じゃないぞ!北斗の軍は攻めて来るのに
   時間が掛かりそうじゃが曹操の奴が絶対に来るぞ!!!」
  
  「そうね…なら、すぐにでも曹操と事を構えるようにしなきゃね」
 
 そう言って、いまだに放心状態中の他の将達を起こして、曹操との戦闘対策会議に入った。
 因みに、祟だが…ラオウとトキの戦いに何か感じるものがあったのかずっと修行に明け暮れていた。
 性格も少しはまともになり、接しやすい人物になっている……幼女愛好主義は変わってなかったが…。









 
 ―――――どこかの城にて
  
  「恋殿―――!大変ですじゃ―――!」
  
  「どうしたのちんきゅ」
  
  「はあはあ、北斗の軍勢が黄忠殿の城を落としたそうなのですじゃ―――!!!」
 
  「ラオウが…」
 
 蜀でも呉でも魏でも無い場所の城にてトキ達は陳宮の情報を聞いていた。
 因みに前の城主は既に民の心を無視した政治によって民の信頼を失っており、
 後から来たトキ達により討ち取られた。
 
  「となると、もはやラオウが蜀の地域を制圧するのは時間の問題となってくるな」
  
  「…トキ、どうする」
  
  「暫くは現状維持だ…ラオウとの戦いはこの大陸の乱が平定されてからだな…」
 
 凶悪な拳王ラオウとしてではなく、幼き頃の英雄のラオウを超えたいと願う意思があるが…
 今はその時ではないのだろう。
  
  「私達は時代の激流に立ち向かうのではなく、激流に身を任せ同化するのだ」
  
  「…激流に激流では打ち砕かれる…だよね」
  
  「ふ、そうだ」
 
 呂布の頭を撫でてやるトキ…こうしてみると、親子にしか見えない。
 陳宮もジーッとその様子を眺めていた。
  
  「ねねもよく頑張っているな」
  
  「…はふう」

 そんな様子に気がついたトキが陳宮の頭も撫でてやる。
 ここは概ね平和だった。




































































































 ―――次回予告(頑張って北斗風にしてみたけど失敗したので諦めた)
  
 紫苑を仲間に加え、その勢いのままに進軍を開始しようとする!
 この時、紫苑の言葉によって厳顔の居る居城へと向かうラオウ!!
 だがしかし、そこには厳顔・魏延の他に、ラオウよりも巨大な体格を持った
 一人の男が支配をしていた!
  
  「ぶひひひ…生きの良い獲物ですね」
  
  「豚は豚小屋へ行くが良い」
 
 拳法殺しの肉体を持つ者相手にラオウはどのような戦法を取るのか!
 そして、二人の勝負の行方は!!!
 
  次回、真・恋姫無双伝説異伝 天の覇者第23話!驚愕!拳法殺しの男!!!

          :勝敗は分かりきったものですけどねー



[6264] 第23話:豚の陰
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/11 08:14
  「巴群城に行けばよいのか」
  
  「はい、その城主である厳顔とその部下魏延の二人を仲間にすれば
   成都へ向かう道の城の全てがラオウ様のものになることは確実です」
  
  「それほどまでに人望厚き人物か」
  
  「はい」
 
 成都までいく為にどの道を通れば良いのかを紫苑に尋ねたところそのような意見が出た。
 聞く限りでは確かに良い選択肢に思える。

  「ですが…」
  
  「何かあるの?」
  
  「はい、本来なら力を見せてからの説得で澄む筈ですが…今では
   四人の男がその城を牛耳っています」
 
 苦虫をすり潰したような表情で言葉を発していく紫苑。
 どうやら一癖も二癖もある者のようだった。
  
  「その男達は?」
  
  「残念ながら詳しい特徴は知りません…ですが、暴虐の限りを尽くしているそうです。
   そして頭にこのような刺青をしてあるとだけ分かっています」
 
 そう言うと、一枚の羊皮紙に四つの模様を書いていく。
 桃香達は疑問があるように首を傾げつつ見ていたが…ラオウはその模様の意味を理解し
 相手の特定をする事が出来た。
  
  「シンの部下のあの四人か…」
  
  「…知り合い?」
  
  「いや、知り合いと言うほど親しくは無い」
 
  「そう、ですか」
 
 小夜とラオウの会話…ほとんど小声だったため誰にも聞き取られていない。
 
  「そして、道をその方面に指定したのはラオウ様の力を知ったからです」
  
  「…やはり、小夜との鍛錬を見ておったのはお前か」
 
  「はい、いけませんでしたか?」
  
  「禁止にはしておらぬ…だが、次からは堂々と見に来い」
 
  「申し訳ありません、ですがあの戦いともなると誰も相手に出来るものが居ないでしょう」
  
  『それは無いです!』
 
 トキの事を知っているメンバーが全員で否定する。
 トキ対ラオウの戦いはもはや語ろうとしても語れない領域にあるため
 愛紗達は語ることが出来ないが、小夜とラオウの打ち合わせよりも
 数段階…いやそれ以上のはるか高みにある決戦だった。
 翠や蒲公英は残念ながら袁紹陣営にいた為目撃はしていない。
 当然ながら留守番をしていた天和も…何故会議場に居るのか不明なのだが。
 
  「桃香様、愛紗鈴々星朱里雛里瑞佳華雄白蓮様…紫苑様とラオウ様の話が続きません」
 
  「省略したなそこの兵士!」
 
  「それよりもこいつの言うとおり話ですよ…」
  
  「そうであったな、字一色よ」
  
 会議場に何気に入っている元賊の一人。
 因みに最初に話した男はラオウ親衛隊の一人であり、黄巾討伐の際に加入し
 今も行動を共にしている一番古い兵士だったりする。
 どうでもいいがここでも彼は苦労する宿命を背負ってしまったようだ。
 その代わり上司には恵まれているが。
  
  「簡潔に言えばその者達を倒せば説得する機会があると言う事だな」
  
  「はい、その通りかと…一人かなりの力と頑強さがありますが
   ラオウ様なら問題ありません」
 
  「ふむ、よかろう…だが、問題は兵士達だな」
  
 いくらその四人が悪だとしても、厳顔達は町を守ろうとするために
 兵を動かしてくるだろう…出来る事ならほぼ双方共に無傷で済ませたいが
 そうはいかない可能性のほうが高い。
  
  「だとすれば暗殺ですか?」
  
  「いや、それでは力を示した事にはなるまい」
  
  「正面決戦だとしても…その四人が出てくるかどうか」
 
  「うーん、立て籠もられたらどうしようもないよねー」
  
  「ここで問答を繰り広げても仕方あるまい…明後日には出撃する。
   愛紗・星・翠・白蓮・華雄は兵士の準備を…朱里、雛里は兵糧の準備をせよ!」
  
  『御意(はい)!』






























  「おい、ハート…黄忠の奴が敗北したそうだぜ」
  
  「様をつけなさい、スペード君…これでも君達の主に当たるんですからね」
  
  「ハート様の言うとおりだぞ、それにしても黄忠が敗れたか…」
  
  「となると奴らはここへと来るのが定石でしょうね」
 
 玉座に集まっている四人の男…かつてKINGと名乗っていたシンに仕えていた
 スペード・ハート・クラブ・ダイヤである。
 
  「ぶひひひひ…やったのは北斗の軍だそうですね」
  
  「北斗の軍には若い美人の女が大勢居るとの事ですぜ」
  
  「おうおう…だったらそいつらを可愛がってやらないと
   失礼ってもんだなー…」
 
 くくくと笑いながら三人が舌なめずりをしている…その様子を見ながらも
 どこか浮かない表情で北斗の軍の情報を見ているスペード…。
 
  「どうしましたスペード君」
  
  「いや…北斗の軍の君主はめっぽう強い拳法家って書いてあるからさ」
  
  「ぶひひひ…殺す相手としては活きの良い獲物じゃないですか…
   どのような拳法を使おうともこの私の肉体を破壊できませんよ。
   南斗聖拳以外はね」
  
 そう言って自分の腹を叩くハート…叩かれた場所から波が起こり腹が揺れている。
 さらにこの…
  
  「といっても、その南斗聖拳すらも恐るるに足らず…何せ刃物すらも
   効かなくなりましたからねー」
  
  「あぁ…しっかりと見ていたよ…」
 
 この世界に落ちてより…ハートは自分達の主として君臨すると言い放ってきた。
 実力的には順当だったため、逆らわなかったが。
 そして、この城を攻めに来たのだが多量の軍が襲い掛かってきた。
 ハートに大量の矢が刺さり、槍が突かれていたが…その全てが肉を突くには
 力量が足りなかった…斬撃もきたがその斬撃すらも無効化しており…
 ハートはそのまま蹂躙戦に持ち込んだ。
 何故かは知らないが生前よりも特異体質が変化してしまったらしい。
  
  「ま、俺たちも強いし兵士も居る…負けるわけ無いさ、そんな事より
   お前も誰とやるか決めておけよ」
 
 余談だが、彼らは世紀末でのラオウの事をすっかりと記憶からなくしていた。
  
  「…そうだな、いざとなりゃこれがあるか…」
 
 自身の武器を確認しつつ油断だけはしないように心に刻み込み酒を飲み始めた。










  「桔梗様…いつまであいつらを放置しておくのですか?」
  
  「仕方あるまい、劉璋の坊主が受入れ寄ったんじゃからな…はあ劉焉殿が
   生きておったときならこんな事にはならなかったのになー」
  
  「民は劉備を歓迎する方針のようです」
  
  「ま、そうじゃろうな…少なくとも劉璋よりはましじゃろうな…」
  
 ラオウの話題に触れていないのは、ラオウの噂がどうしても信用できない事ばかりだからである。
 その一つとして…
  
  「千二百で六万の兵士撃破…か」

  「信じられると思いますか?」
  
  「紫苑程の者が敗れるわけ無いだろう…もっとも、相手が相当の化け物だったら
   話は別だがの」
  
 そう言ってハート達の居るであろう場所を睨みつける…民の不満の多くはハート達に向けてのものだった。
 クラブは大人を訓練と称して惨殺し、ダイヤは女を攫い…ハートは料理をたいらげている。
 スペードの方は意外とちゃんと政治しているようだったが…。
  
  「あのハートという怪物を倒せるならその話は本当だと認識するしかないな」
  
  「桔梗様…」
  
  「じゃが、わしらも戦人じゃ…戦って見極めたい気持ちの方が多いのう」
  
  「そうこなくっちゃ…ただ状況を受け入れるわけにはいきませんしね…」
 
 そう言って二人は兵士の準備をし始めた…。


























































































































NG

  「簡潔に言えばその者達を倒せば説得する機会があると言う事だな」
  
  「はい、その通りかと…一人かなりの力と頑強さがありますが
   ラオウ様なら問題ありません」
 
  「ならばその男は小夜で十分だな」
  
  「…分かりました」
  
  「残りの三人は愛紗達に任せる」
  
  「ラオウ様はどうするのですか?」

  「向かってくる雑魚をこの俺一人で無力化する…」
 
  『『………』』
 
 本人は本気で言ってそうだから困る、そして実現しそうだから困る。
  
  「冗談だ、流石に体力が持たん…兵士を率い朱里達と合同で行なう」
  
  「本気の表情で冗談を言わないで下さい」
  
  『って体力持つなら可能なの(ですか)―――!?』
  
  「当たり前だ、そのぐらいであれば小夜も可能となるぞ」
 
 全員が一斉に小夜の方向を向く、あまりのシンクロ率にビクリと
 肩を震わせていたが、すぐに
  
  「まあ…一般兵士級や親衛隊級ならどうにか…出来ますが」
  
  「つくづく規格外ばかりの軍だな」
  
  「一緒にされると困るんだけどなー」


         :あくまでNGです、あしからず…出来そうだけど



[6264] おまけ
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/11 08:15
読み方分からないって人居たので
一応纏めてみました。

 姓:大和(ヤマト 名:将(ショウ 字:武蔵(ムサシ 真名:小夜サヨ
   
  特徴:基本的に物静かな少女…南斗聖拳最強の拳士で、
     歴代最速を誇る…その速さはサウザー以上。
     反面、耐久と力はあまりない(それでも常人より格上)
     今代の伝承者を打ち破っている。
     名を名乗る事がほとんど無い為大(ヤマ、和(トと分けて読む人が多い。
     黒龍とは家族の関係。
   
   得意技:極星十字拳
   奥義:天翔十字鳳
 
  
 
 姓:劉(リュウ 名:璃(リ 字:玄戒(ゲンカイ 真名:瑞佳(ミズカ
  
  特徴:男勝りの少女、伝承者候補に残り今代の伝承者に敗れ去る。
     止めを刺されなかったのはその必要がないの一言だったらしいが…
     実際は天が三つの英雄に分かれる事を予期した伝承者によって生かされた。
     性格はいたって真面目であり、容姿の事を指摘されても怒らない。
     この人も
     女性のファンが多いのは秘密。
 
   得意技:北斗劉家拳
   奥義:特に無し
  

 
 姓:曹(ソウ 名:陽(ヨウ 字:一角(イッカク 真名:紅柳(クレイ

  特徴:努力家だが、その努力の部分を見せたがらない青年。
     相手を小ばかにする節があるが、ほとんどが相手を思いやっての事が多い。
     力を認めた相手にはちゃんと礼節を尽くす。
     ちなみにナルシスト。
  
   得意技:北斗曹家拳
   奥義:特に無し



 姓:孫(ソン 名:音(ネ 字:紀(ノリ 真名:祟(タタリ
  
  特徴:ナルシスト+ロリコンこれ以外に語ることなど無い。
     とにかく嫌な人物として描きたかったそれだけ。
     だけど、トキVSラオウ見た後はちょっとまじめになった。
   
   得意技:北斗孫家拳
   奥義:特に無し




 姓:鷺(ロ 名:白(ハク 字:仁星(ジンセイ 真名:シュウ
 
 姓:鷺(ロ 名:絆(ハン 字:関(カン 真名:シバ
 
 姓:北(ホク 名:斗(ト 字:拳王(ケンオウ 真名:ラオウ 
 
 姓:朱鷺(トキ 名:戸(ト 字:編芭(アミバ 真名:トキ
 
 姓:編(アミ 名:芭(バ 字:土岐(トキ 真名:アミバ
 
 姓:水(スイ 名:鳥(チョウ 字:義星(ギセイ 真名:レイ
 
 元賊はなくても良いよね



[6264] 第24話:豚は地獄へ行け
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/12 09:10
  「黒龍…速度落として」
  
  【ギュオオオ】
  
  「ふむ…この速度にはついて来れぬか」
 
 少し後方に居る劉備達の隊を見る…ラオウは何故か小夜と共に斥候作業をしていた。
 こんな斥候が居たらどの軍でもきっと逃げてしまう。
  
  「それにしても移動中にまでせずとも良いだろうに」
   
  「天和さんが…ストレス発散の為と」
 
 何故か後ろの部隊では天和による舞台が開かれていた…舞台一式は物凄く浮いており
 目立ってしまっている。
 その舞台の上で揺れをものともせずに天和と瑞佳が演目を続けている。
 愛紗達も素直に感動しつつ見ているようだった。

  「確かにストレスは発散されておるが…引っ張る馬の気持ちにもなれい」
 
 当たり前の事だが数十頭でその舞台を引っ張っていた。
  
  「部隊の安定にはちょうど良いかと思います」

  「だとしても…だ」
 
 緊張感の無い後方に溜息をつきながら最強の斥候は前の方向をしっかりと
 凝視していた。





























  「ハート様…北斗の軍勢が攻めてきているとの情報が届いてきました!」
  
  「ご苦労様…ようやくおいでなすったか」
  
  「ハート様、どうしますか?」
 
 一般兵士の連絡に対して、余裕の表情で返す四人…相手の情報をまったく持っていないという
 明らかな様子である。
 
  「ぶひひひ…言わなくても分かるじゃないですか…我々も出ますよ」
 
  「へっへっへ…たっぷりと可愛がってやるぜ」
  
  「ぐふふ…」
 
 最早勝つ気満々の表情で出陣の準備に取り掛かっていた。
 
  『はーっはっはっはっはは!!!』
 
 近所迷惑な声まで唱和し始めている。
 
  「うるさいな…あいつら」
  
  「仕方ないじゃろ…もう勝った気で居るんだからな」
 
 溜息をつきつつ、野戦の準備に取り掛かっていく。
 城での篭城戦で戦おうとしてしまえば劉備の受入れ運動が起こり
 混乱によって不利なのは明らかなので、野戦に持ち込むのだ。

  「願わくば、北斗が奴らを一掃してくれれば良いんじゃがのう…」
 
 曇りなき空を眺めながら厳顔は呟き、周りに居る兵士や魏延も同意するように
 首を縦に振っていた。































  「桃香!前方に敵が見えた。数は八万だ」
  
  「八万?……こっちは十万だから楽な方なのかな?」
  
  「でも、油断は出来ません…紫苑さんの言っていた四人の男の事も気になりますから」
 
  「不確定要素は戦場では命取り…か、だが少なくともこの俺の相手ではない」
 
 今現在ラオウと互角に戦える人物はトキ一人…ならば、その四人もラオウの口ぶりからすると
 弱者の部類にはいるのだろう。
 
  「正面から挑んで来るのは好都合…混戦に持ち込み一気にその男たちを討ち取るぞ」
  
  「先陣は…ラオウ様と小夜ちゃんと瑞佳ちゃん…でいいんだよね?」
  
  「そうだな…左翼には愛紗・鈴々・星」
  
  『御意』「おうなのだー」
  
  「右翼には翠・蒲公英・白蓮・華雄」
  
  『御意』「はーい」
  
  「本陣には桃香・紫苑・朱里・雛里・アミバを配置する…そこの侍女の二人も頼むぞ」
  
  「お任せー」「「「はい」」」「この俺に不可能は無い」「はい」「わかったわよ」
 
 いつの間にかアミバが将兵になっているが、誰も気にしては居ない。
 月達に命令するときには念には念を入れて小声になっていた。
  
  「以上だ…全ての兵士に言えることは死ぬな…だけだ」
  
  『御意!!』
  
  「では行くぞ!!!この北斗拳王の名の下に敵を打ち倒せ―――!!!!!」
  
  『『おおおおおお―――――!!!!!』』
 
 士気も最高潮に敵の陣へと雪崩込んでいく…そして、当初の目論見どおりに
 混戦へともつれ込んでいった。
 最初に決めた右翼などは意味がなかった。
 ラオウは向かってくる兵士のみを迎撃しながら辺りを観察する。
 剣戟や槍戟などが聞こえてくる中…ただ、頭のみを見て目的の人物を探していく。
 そして…クラブのマークが見えた。
  
  「見つけたぞ…貴様がクラブか」
  
  「ん…テメーが北斗拳王か…おうおう随分と逞しい肉体してんなー」
 
 クラブの手には長い爪のようなものがあり、その爪の先端には
 北斗軍の兵士の一人が息絶えようとしながら刺さっていた。
 周りには既に何人もの遺体が並んでいる。
  
  「味方すらも切りつけておるのか」
  
  「味方ぁ?駒の間違いだろ?こんな奴らなんてすぐに補充できるんだよ!」
 
 そう言いつつ、味方の兵士の遺体を蹴り付ける…外道と言う言葉では収まらない
 者がその男にはあった。
  
  「へ…にしても運が良いぜ…テメーを殺せばこの軍も士気を一気に落とすだろうぜ」
  
  「それがどうした?」
  
  「テメーはここで死ぬんだよ―――!!!」
 
 そして、クラブは目に止まる速さで飛び掛っていった。
 当然ながらラオウは軽く回避する。
 誰も近くに寄ってこないのは、ラオウ軍はラオウの攻撃の巻き添いにならないため…
 クラブの隊はもともとクラブを快く思っていない為だった。
  
  「へっへへ…避けるだけで精一杯のようだな」
  
  「貴様の目は節穴か」
  
  「あん?まだ格の差が…ん?」
 
 涼しい顔で言うラオウに対してクラブは腕を振り上げようとしたが…
 急な違和感を感じたため、腕を見る…ある筈の腕がそこにはなかった。
  
  「な…なんで…ぎゃああああ!!!」
  
 驚いたと同時に絶叫し始める…既にラオウが秘孔をついており、腕をもぎ取っていた。
 秘孔をついたときの効果は…見るまで痛みを感じないという至極簡単なもの。
  
  「格の差を知らぬのは貴様だ」
   
  「あああああああああ!!!腕を返せ―――!!!!」
  
  「それどころではないか…そら受け取れ」
 
 そう言って腕を投げた…かなりの速度で腕は飛んでいき、クラブの額に突き刺さる。
 クラブはそのまま絶命し、地面に倒れ伏した。
  
  「さて…ん?あれは小夜か?」
 
 
 
 
 





  「どうだ!俺の早い棒捌きは――!貴様に見切れるか――!」
  
  「…」
  
 先ほどから繰り出されてくる棒を紙一重でかわしながらジーッとダイヤの動きを
 凝視していく小夜、その動作は苦戦しているわけではなく…何かを細工しながら
 かわしているようだった。
  
  「へっへっへ、大人しく気絶して俺といい事しようじゃないの!?」
 
  「完成」
  
 ダイヤの動きが止まったわけは…棒が加工されており、ダイヤの体が真っ二つにされている
 胸像が作られていたからだ。
  
  「な、なんだと―――!!!?」
  
  「南斗鳳凰拳、死相予知拳」
  
 かなり余裕の面構えでダイヤを見る小夜。
  
  「く…死ね―――!?」
  
  「南斗鳳凰拳…極星一字拳」
 
 極星十字拳を一文字にしただけである、そして小夜はダイヤの表情を見た後…
  
  「失敗でした…死相」
  
  「鳳凰拳にそのような技があるのか?」
  
  「ラオウ様……いえ…思い付きです」
 
 死相にずれが生じた様で少し悔しげに胸像を見る小夜…
 といっても眼が開いているか開いていないかの差であったが。
 
  「…」
  
  「遊び心は程ほどにしておけ…」
 
 ともあれ、これで二人の男を倒したわけであるが…予想通り、敵の抵抗も徐々になくなってきていた。
 もともと従う理由が無いのだから当然ともいえるが…ハートの存在が影響していたのだろう。
 ハートを倒せば全てが丸く収まる。
  
  「次は…あれはアミバか」
  









  「はっはっは、くそ…何であたんねーんだよ!」
  
  「北斗神拳の前には銃など玩具に過ぎん…ましてや一対一なら尚更だ」
 
 正式に習っていたわけでは無いが、それでもかなりの錬度を誇るアミバ流北斗神拳。
 スペードは切り札である拳銃を持ち出し、発砲を続けているがすべてかわされている。
  
  「頭を狙ってばかりでは当たらんぞ…なんせ一番小さい的だからなー」
  
  「なら胴体を…!?」
 
 当たり前のように弾切れ…スペードは諦めもせず、ボーガンを構える。

  「これならどうだ!」
  
  「外せば貴様の命を貰うぞ」
  
  「く…ほざけ―――!!!」
 
 残念な事にスペードはケンシロウとの戦いを記憶していない…よって、
 普通に発射してアミバは簡単につかみ取り…投げ返した…見当違いの方向に。
  
  「なぁにぃ―――!!」
  
  「失敗してるじゃねーか、バーカ!死ね!!!?」
 
  「アミバよ、もう少しでこの俺に当たる所だったぞ」
  
  「すまん…ってラオウ様なら平気だろう」
  
  「そうだがな」
 
 そう言ってスペードを見る…心臓に刺さっており死んでいた。
 これで三人撃破となり残るはハートのみとなる。
 ちなみに、このクラブやスペードという名前はラオウが既に教え込んだ名前だ。
 マークの事を説明しその意味を伝えた。
 
  「ハートは…あのブタか、相手は愛紗だな…」
  
  「ん?見えんぞ?」
 
  「アミバから見て十一時の方角」
  
  「……見えねーよ!」
 
 拳質は真似る事は出来ても、視力までは真似れないアミバだった。










  「ぶひひひひ…お嬢さん、この私と戦おうというのですか?」
  
  「く…この男…随分と変な…」
  
  「ぶひひひ…失礼ですね―」
  
 美女と野獣という言葉が似合いそうな場面である…美女と豚か?
 どちらでもいいが、ハートの周りには愛紗・鈴々・白蓮・翠が集っていた。
 その様子を心配そうに桃香が見ており、近くには瑞佳と紫苑が居る。
  
  「しかし困ったな―…突いても斬っても傷がついてる様には見えないよ」
   
  「く…これが桔梗の言っていた不可思議な肉体…」
  
  「この俺の拳をもってしても無理だな…ラオウ様か小夜が居れば…」
 
 残念ながら少し離れた位置に居るため急行しても時間が掛かりそうである。
 兵士を無視して進んでくればもっと早いかもしれないが。
  
  「ほい…」
  
  「わわわわ…うわ―――」
  
  「鈴々!ぐ…」
 
 ハートが鈴々を持ち上げて愛紗に投げつけた。
 見た目どおりの重量級だっため、パワーもあり受け止めてた後背中を強打してしまった。
 
  「く…ぐふ!?」
  
  「いやー…すまん愛紗」
  
 白蓮も投げられた…流石に二人ものっかっては愛紗も苦しげになっていく。
 
  「きゃああ!」
  
  「桃香様!くそ…白蓮殿、早くどいてくれ」
  
  「あ、あぁすまん」
  
 桃香の悲鳴に愛紗は焦り、すぐに白蓮をどかす…白蓮はその時に
 鈴々を持ち上げた。
 急いで立ち上がった愛紗が見た光景は…桃香の上に座っているハートの姿だった。
  
  「あ…ぅ…」
  
  「く…このブヨブヨめ…!」
  
  「どきなさい…!」
 
 既に瑞佳と紫苑がどかせようと必死になっているが、
 いかんせん重量があるためどかす事が出来ない…。
 









  「ぬ…桃香が!」
  
  「おっと、行かせないよ!強そうなあんた、私と…」
  
  「どけぇい!」
  
  「うわ―――!!!」
 
 現れた女武将らしき人物を軽々と吹き飛ばす…その様子を見て
 もう一人の武将は兵士全員に
 
  「道を空けろ―――!!!」
  
  「は、厳顔様!」
 
  「ん?うぬが厳顔か…礼は後にするぞ」
  
 そう言ってラオウは黒龍で駆け抜けていく。
 小夜とアミバは置いてきぼりを食らったが…すぐに厳顔に顔を向ける。
  
  「私達は…通さない気ですか…」
  
  「ま、どうやらあの男だったらあの化け物を倒せそうだしのう…
   喧嘩する気にもなれん…じゃが、お前さんであればそれなりに楽しめそうだからの」
   
  「そう…ですか」
  
  「桔梗様…こいつ、強そうに見えな」
  
  「やってみますか?」
 
 抑えていた闘気を解放してジッと見る…睨むという行為が出来ない為
 このような事しか出来ないが…相対するものは背後に鳳凰を見ることになる。
 ラオウの場合だと獅子の姿な為、ラオウの方が弱いように感じるが…
 ラオウの獅子の下には龍が踏み潰されている為決して弱くは無い。
  
  「あ……じゃあそこの男勝負だ!!」
  
  「わしはもう諦める…」
  
 相手が悪かった…アミバはしっかりと構えを取り、魏延と相対した。
 結果はアミバが健闘したものの結局魏延の勝ちだった。










  「苦し…」
  
  「く…桃香様から離れろ…」
 
 吹っ飛ばされた愛紗が弱弱しく近づく…瑞佳も何度も飛ばされながらも
 自分に喝を入れて近づく。
  
  「く…もはやこれしか…」
 
 そう言って瑞佳は足の秘孔を付こうとし…とても馬とは思えない馬の蹄の音で
 後ろを振り返った。
 そこには…
  
  「ラオウ様!」
  
  「北斗剛掌波!!!」
 
 ラオウが居た…そして、剛掌波で桃香の上に居たハートを吹き飛ばす。
 ハートの体はその巨体に似合わないほど高く舞い上がった。
  
  「桃香よ、無事か」
  
  「な、何とか…」
 
 立てそうになかったのでラオウが手を貸し立ち上げる。
 そして、もう片方の手は天に向けていた。
  
  「?ラオウさ」
  
  「ぐえはぁ!?」
 
 落ちてきたハートの肉壁に突き刺さる…勿論、何もしていないので
 秘孔には届いていない…ただ、片手で持ち上げている状態にしているだけだ。
 
  「豚は消え去れ」
  
  「な、なななな…」
  
  「北斗水影心…南斗鳳凰拳…極星一字拳!!」
 
 そのまま横一文字に掻っ捌いた。
 そして…

  「いでー…」
  
  「北斗一点鐘!!」
 
 闘気によって秘孔を突いた…そして、ハートに対してはお約束のあの一言。
  
  「貴様はもう既に脂肪の塊だ」
  
  「ひで―ぶ―…」
 
 跡形もなく吹き飛んだ。
  
  「さて、戦闘は終わりか…」
  
 そして、ハートたちが居なくなった事により、厳顔達の抵抗はなくなり…
 戦闘行為は終了した。
 
            :ハートといえばひでぶ! 
 
 
 































































































四コマ風のオマケ



 :曹操軍



  「ところでレイさん…ここでの暮らしはどうですか?」
  
  「一刀か…袁紹のところよりはるかにマトモな環境だ」
 
 借りは返し終わっており、袁紹のお守りを止めて今は曹操の家臣として働いているレイ。
 体を動かすにも紅柳とともに戦う事である程度鍛錬になっているようだった。
  
  「まあ、袁紹も大分大人しくしてるしね…」
  
 袁紹は大人しく華琳の命令を聞いて…今は雑用係として
 働いている。
  
  「敗者に口無し…か」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 :孫策軍
  


  「のう、雪蓮」
  
  「何?美羽」
  
  「会議は良いのか?」
 
  「いいのよ…偶には羽を伸ばさないと潰れてしまうから」
  
 二人して日向ぼっこ中…その影にてシュウと周瑜が忙しく働いているのは割愛。



[6264] 第25話:猪突猛進作戦
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/12 09:11

  「ひひひひひとめぼれなんてしてませんんんんよ!」
  
  「…なんだこの空気は」
 
 城に迎え入れられ、厳顔と魏延と話をしようとしたところ…
 魏延が瑞佳を見て固まった…。
 全員が話しかけても反応しないのでラオウが大声で喝を入れたら
 上のような台詞が出て来た訳であるが…。
 その様子を見てか…天和が近づいていき…。

  「瑞佳様に目をつけたのは良い目をしているかもしれないけど、許さないよ」
 
  「まさかお前も…!」
 
  「で、厳顔よ…本当に仲間に加わるのか?」
 
 冷静にスルーしてラオウは厳顔に話しかける。 
 
  「あ、あぁ…そうだ、喧嘩にも負けたし、信用出来そうだしのう…」
 
 ちらちらと横目で女の戦いを眺める厳顔…ラオウと小夜以外の者は
 全員がその様子を見ていた。
 睨みあいだけですんでいるが…今にも取っ組み合いになりそうである。
  
  「今日のところは話にならぬな…」
  
  「そうだね…あ」
  
  「誰を好きになろうとも関係ないだろ!!」
  
  「関係あるに決まってるわよ!!瑞佳様は私の旦那様なんだから―!!!」
 
 取っ組み合いのけんかになった…本来なら魏延に分がある筈なのに、
 互角の戦いを繰り広げていた…。
 
  「いい加減にせぬか…」
 
 ラオウが二人の後襟首を掴んで引き剥がして持ち上げて距離を置かせる…
 空中のまま…。
 二人はそれに気がつかず…ラオウに蹴りを入れていた。
  
  「ちょ…二人とも落ち着け!」
  
  「そうだよそうだよ、皆仲良くしようよ!」
 
 瑞佳と桃香が止めようとしているが…この場に限って言えば
 火に油を注ぐ行為だった。
 逆にラオウに対する攻撃が増えただけ。
  
  「がるるるるる」
  
  「ぐるるるるる」
  
  「痛くも痒くも無いが…面倒くさい事この上ない」
  
 はあ、と溜息をつき、愛紗達に首で合図し…位置につかせると…
 一気に放り投げた。

  「両者落ち着くまで謹慎させておけ」
  
  『『御意!』』
 
 ずるずると力任せに引っ張って行く…苦労しているようだった。
 
  「はあ…困ったものだ」
  
  「ラオウ様…お疲れ様です」
  
  「お疲れ様ー」
 
 その場所に残った小夜と桃香がねぎらいの言葉をかける…
 ラオウは疲れてはいないものの多少気分が和らぐ。
  
  「ふ…女の恋は恐いというがその通りであったな」
  
  「そうですね…」
  
  「でも、あの場合って女の子同士だよね…」
  
  「私が集めた情報によると…瑞佳には町の娘の何百人もの数が好意を寄せてるそうです。
   それに、愛に性別は関係無いと言いそうですよあの方達は」
 
 世も末である…世紀末ですらないのに。
  
  「さて…とりあえず町の警邏に向かうか」
  
  「そうだね」
  
 いつもどおり町の警邏へと繰り出した。
 町のほうはいつもと同じく治安が良く…桃香が子供達にもみくちゃになっただけであった。





























  「「すいませんでした」」
 
 翌日…冷静になった二人が謝罪しに来た為に再び紹介に入った。
  
  「北斗の軍の纏め役の北斗拳王、真名はラオウだ」
  
  「えーと…噂通りだと北斗軍の癒しの花の劉備元徳…真名は桃香だよ。よろしくね」
  
  「わが名は厳顔、真名は桔梗だ」
  
  「名は魏延文長、真名は焔耶」
  
 以下略。
  
  「さて、次に向かうは蜀州都成都…か」
 
  「間にある城の悉くは受け入れ態勢に入っております」
  
  「ならば、進軍に問題は無いだろうな」
  
 そうして、ラオウは全軍に出撃命令を下した。
 そして…あっという間に成都に辿りついた。
 








 
  「これだけ近づいてようやく迎撃態勢か…」
  
  「ラオウ様…既に民は全て避難している模様です」
  
  「そうか…ならば、民に対する被害を気にせずとも良いわけか」
  
  「それでも、篭城してくるでしょうから少し厳しいですね」
  
  「いや…民に対する被害を気にしなくて済むのであれば」
  
 全員が嫌な予感の表情でラオウを見る…まだ日が浅い紫苑達は首をかしげている。
  
  「城門を破壊し、一挙に攻め込むぞ」
  
  「御意」
  
  『いやいやいや小夜(ちゃん)、御意じゃないって!』
 
 しかし、桃香達の叫びもむなしく…ラオウは既に黒龍に乗り…突っ込む態勢に入っていた。
 小夜も同様に突入態勢に入る。
 全員は盛大な溜息をついた後…ラオウを先頭にした戦闘陣形を構築し始めた。
  
  「あの…本当に出来るのですか?」
  
  「おいおいおい…構築し始めてるぞ」
  
  「あ、紫苑さん達は後方にいる天和ちゃん達と一緒に行動してね」
  
  「は…はい」

 とりあえず流されるままに後方に下がっていく…
 それと共に全軍が突撃し始めた…天和達の部隊(親衛隊)は住民達の護衛である。
  
  「一体何なんだ…」










  「劉璋様!北斗の軍勢が突っ込んでまいりました!!」
  
  「何だ?奴らは馬鹿か?まあいい、とりあえず矢を放つ準備をしておけ」
  
  「はは!」
  
 そう言って弓兵を配置させる兵士。
  
  「それにしても民が慕ってるといってたが…こんな単調な阿呆の何処が良いのやら」
 
 そう言って酒を煽る…周りにいる同じ雰囲気を持つ者も笑いながら劉璋に同意する。
 確かに普通に考えれば常人では阿呆にしか思えない作戦だろう…
 だが…その認識の甘さが、敗北の色の濃厚にさせる事となった。
 別段劉璋が無能すぎるというわけではない…ラオウが規格外なだけである。










  「ふむ…この距離からなら届くな」
  
  『…』
 
 もう既に破壊する態勢に入りはじめた。
 桃香達は運を天に任せて後に続いて行く…。
  
  「北斗剛掌波!」
 
 まず一撃目…城門にわずかな亀裂が入る…距離がある為それほど損傷は無いようだった。
 
  「北斗剛掌波!」
 
 もう一撃…更に亀裂が入る…成都の城壁で待機している弓兵達は
 冷や汗を出しながら焦り始めていた…突っ込んできて城門を破壊するようなので
 なんて阿呆な奴らだと思っていたのだが…ここに来て本当にやりかねないと
 理解し始めた…
  
  「お、俺降参する」
  
  「お、俺もだ!」
 
 兵士達は次々と武器を捨てて降参の意を示し始める…ラオウはその様子を確認した後…
 闘気を一気に集中させ…
  
  「北斗…剛掌波!!!!!」
 
 最大級の一撃を放ち…門を破壊してしまった。
 皆が驚く中で後で修理専門部隊に修理させようと冷静な頭で整理し始める朱里がいた。
  
  「雪崩込め!降伏する雑兵は許せ!抵抗する者には情けをかけるな!」
 
 そうして一気に町へと攻め入り…城へとはいった…城内は騒然となり、
 降伏する者がほとんどだった…。
 少し遅れて桃香達が到着し、城内の探索活動に入っていった。
  
  「相変わらず…豪快だよね」
  
  「城の修理にはラオウ様にも参加してもらいましょう」
 
  「当然の結果だよね…」
 
  「ところでラオウ様は?」
 
 静かな城内…ほとんどの兵士はいなくなり、後は劉璋とそれに仕える
 側近と親衛隊だけになってしまった。
 だが、どこかに隠れたのかその側近が見つからず、ずっと探し回っている所だった。
  
  「うーん…あ」
 
 進んでいる最中に小夜製作の木彫り人形を落とし取りに戻る桃香…
 その瞬間、ほんの一瞬だけだったか…愛紗達は目を離してしまった。
  
  「むぐ!?」
 
 そして、急に壁が開き、桃香はその壁に連れ込まれてしまった。
  
  「桃香様…?」
 
 愛紗達が振り向いた時には…桃香の姿が見えなくなっていた。





































































































おまけ
  
  「で、貴様は親衛隊長というわけか」
   
  「あぁ…拾われた恩があるんでな…北斗とやら、貴様の命
   貰い受ける!」
 
 そう言って槍を構える。
 
  「隊長の究極最強絶対無敵天下無双槍乱舞の構えだ」
 
 またか…と突っ込みを入れそうになった。

  「ほう、その顔…知っているのか?」
  
  「…よもや二人ほど兄弟がいたのか?」
  
  「あぁ…風の噂によると死んだらしいがな」
 
  「…」
 
 ラオウの目の前の男は闘気を纏っていた…それだけで
 兄弟二人を上回っている事が分かる。
  
  「ゆくぞ…受けてみろ究極最強絶対無敵天下無双槍乱舞・奥義
   "穿牙突衝覇"!!!」
 
 かなりマトモな技名でかなりの速度でラオウに槍を突き出していく。
 槍を回しながらもブレズに真っ直ぐ突き立てていく一撃は芸術にも等しい
 洗練された技である…が、当然ラオウの前では役不足だ。
  
  「無駄だ」
  
  「残念だが無駄ではない!」
  
  「ぬ!?」
 
 ラオウは一瞬我が目を疑った…槍が有り得ない軌跡で曲がってきたのだ。
 その一撃をなんとか大幅な跳躍でかわして着地する…。
  
  「今の攻撃は…」

  「我が奥義に死角無し」
 
  「明らかに無理な角度で曲がりおったな…」
  
  「意外に強敵…」
 
  「……あの構え方、もしや」
 
 ラオウが言葉を発したと同時に踏み込んで攻撃する…
 親衛隊隊長はその攻撃に対処できずに吹っ飛ばされて気絶した。
  
  「……攻めるしか能が無かったのでしょうか?」
  
  「隊長…防御なんていらないって言うから」
  
 攻撃の訓練しか行なっておらず…防御がおろそかだった。
 ラオウは戦いを終え、虚しい気持ちになった。



[6264] 第26話:汚物は消毒せねばなるまい
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/13 10:04

  「桃香が居ない?」
  
  「はい…急に姿が見えなくなって…兵士を総動員して探させているのですが…」
  
  「見つからないのだ」
 
 玉座を制圧して数刻…ラオウが小夜と共に愛紗を待っていると
 暫くして来たのだが桃香の姿が無く、尋ねたらそのような返事が来たのだ。
  
  「それは奇妙だな…最後に見た場所を覚えているか?」
 
  「はい…ですがそこは念入りに探しましたが痕跡がありませんでした」
  
  「それでも構わぬ…案内せい…」
 
 すぐさま立ち上がり、愛紗の傍に近寄る…小夜もささっと近づきラオウの隣に並ぶ。
  
  「では…こちらです」
 









  「ここになります」
  
  「何の変哲も無い通路だな」
 
 道は一直線になっており行方不明になる要素は見受けられない。
 隠れるような所も潜むような所も見受けられない。
  
  「壁が怪しいと思ったが…窓があるか」
 
 念のため窓から少し顔を出し壁の厚さを調べる…当然ながら人が入れるような隙間は無い。
 隠し通路は無いようだった。
  
  「壁に張り付いて行動しているのでは?」
  
  「…何の意味があってするの?」
 
 瑞佳が壁張り付きで行動しているのに対して冷静に突っ込みを入れる。
 その瑞佳の様子を見ても黄色い声をあげている二人が居る。
 うるさいのでラオウは点穴を突き、眠らせた。
  
  「それに桃香は不可能だろう…そして、劉璋の城に居た連中の事だ…
   愛紗格以上の者で無ければ出来ぬ事を出来るとは到底思えぬが」
  
  「桃香様を連れてとなると、ラオウ様格でないと不可能かと」
  
  「ぬ、そうか…しかし、となるとどうなっているのか全く分からないのだが」
 
 壁から降りて考え込む瑞佳…ラオウはしきりに周囲を見渡し、気配を調べているが、
 何も反応が得られていないようだった。
  
  「こうなれば、あやつらに聞くしかあるまい…小夜、瑞佳・愛紗と共に
   連れて来い」
  
  「はい」
  
  「くれぐれも逸れるな、仲間から目を逸らすな」
 
  「わかっている」
  
  「ラオウ様は?」
 
  「俺は俺の出来る範囲で調査する…俺の周りに兵士は要らぬ、他の場所の捜索に回せ」
  
  「しかし…」
  
  「心配するな愛紗…この俺がトキ以外の者にやられる事など無い」
 
 ケンシロウの名前を出さなかったのは、この世界で見かけていないからだ。
 
  「分かりました…ですが、せめてあの者だけでもお付けください」
 
  「アミバか…まあ、構うまい」
 
 そして、愛紗や他の者達は一斉に行動を開始した。 
 
  「念には念か…む、そうだ!占いはどうだ」
  
  「占いだと?」
  
  「あぁ、どうせ当ても無く探すんだ…ならばそういう類のものに頼ってはどうだ?」
  
  「ふむ、やってみせよ…どうせあの親衛隊達が来るまでは何も出来ぬしな」
 
  「ほいきた…んーと確か」
 
 許可が出たと同時にアミバが水晶玉を取り出す。
 その玉に自らの闘気を篭め始める。

  「ウシュンケロクハトンナーザウサンケウオウホトンナンアリユシンケウシュコトンナ、
   ダユンケクカウコトンナイレンケウチョイストンナンケイセクロトンナ!」
  
  「なんとも奇妙な呪文だな」
 
  「ダイサンテワレオ!!出たぞ…
   今日の貴方は運勢最悪!大切な人をうっかりと見失っちゃうかも、
   でもでも大丈夫!そんな貴方は足元をしっかりと見て歩けば
   きっと打開策が見つかる筈!ラッキーポイントはおもいっきり足踏み」
  
  「…」
   
  「…」

  「…」

  「…」
   
  「…」

  「…」
   
  「…」

  「…すまん」
  
 長い沈黙…アミバは空気を和ませる為にあのような事を言ったのだが、
 ラオウ相手では無意味だった。
  
  「おもいっきりと足踏みか…よかろう、全身全霊を込めて足踏みをしてやろうではないか!!!」
  
  「ララララオウ様!お、落ち着けば分かる!話せば分かる話せば!」
  
  「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおお!?」
 
 全身全霊を込めて足踏みをしたその瞬間…床が抜けてラオウがその床から落ちた。
  
  「ここは一階の筈…、調べたときには地下など無かったぞ…?」
  
  「ぐぬぬ…確かに占いどおりだったな…しかし、俺でなくば不可能だったか」

  「やはり俺の北斗占拳は天才だ!」
  
  「認めてやろう……ん?これは…」
 
 ラオウはそこで木彫り人形を拾う…その人形は確か小夜が桃香に贈った
 木彫り人形であった筈…頭身を下げてうっかりとぽっきり壊れないように作って
 何処でも持ち歩けるように作り上げた人形…ラオウは一度も見せて貰った事が無いが
 その人形はラオウや桃香の仲間が全員集まっている群体になっており仲良く手を繋いでいるものだった。
 そして…よく見なければ気がつかない小さな文字が一人一人に掘り込まれている。

  「ここからは俺一人で行こう…
   愛紗達に伝えておけ、桃香は俺が救出すると」
  
  「分かった」
 
 アミバの返事を聞き、ラオウは気配を掻き消して埃の上にある足跡を頼りに颯爽と進んでいった。
 木彫り人形をしっかりと壊さないように持ちながら…
 
  「劉璋とやらも馬鹿な男だな…あの世紀末覇者拳王を怒らせてしまったのだからな…」
  
  「ラオウ様!連れてまいりまし…アミバ、ラオウ様は何処へ向かわれた」
  
  「桃香様を救出に向かわれたよ」
 
  「な…たった一人でか!」
  
  「あぁ…だが、心配ないだろう…普段はもとより今のラオウ様は
   冷静かつ強大な怒りを纏っている…今ならトキですらも敵わぬかも知れぬ」
 
  「お前はラオウ様とトキの戦いを見てはいないだろう?」
  
  「見てはいないが…実力は知っている…ましてや病無しの状態なら
   ラオウと互角だろうさ」
 
 そう言ってラオウが去っていった方向を見る。

  「劉璋とその臣下の死体は見つからぬだろうな」






























  「ふっふっふっはー…あの化け物め…」
 
 劉璋が忌々しげにラオウの事の陰口を叩く…併走している臣下の者達も似たような
 感想を漏らしている。
 
  「むぐう…ふぅう!」
  
  「おっと、静かにしろよ…と言っても、この俺以外この秘密通路の存在は
   知らないがな」
 
  「劉璋様、何でその女をわざわざ?」
  
  「目に付いたから攫ってみただけだ…運良く誰も見ていなくて助かったなぁ」
 
 そう言って桃香の顔をまじまじと見る…いやらしい視線に桃香は少し怯えるが
 耐えている。
  
  「よく見ればかなり上玉だしな…本当にどうなる事かと思ったが
   やはり俺は運が良い」
 
 劉璋は笑い始める…実は紫苑達は一度反乱を起こそうとしていたのだが、
 その時にハート達が現れて有耶無耶になってしまい、さらにはハート達は
 牙を向いて来なかったのだ。
 さらにラオウが侵攻してきた事により、曹操は向かっては来なくなった。
 まあ、そのラオウが別格だったのだが…。
 
  「昨日も一段と光輝く星を見つけることが出来たしな…」
 
 そう言いながら桃香の首に手を回す…それ程強く締めてはいないが、
 猿轡をされている状態なので、息苦しくなり、苦痛に顔をゆがめる。
  
  「むぅ…ふぅ…」
  
  「んー、良い表情だ」
 
  「劉璋様…ここでやっちゃいますか?」
  
  「それもいいなぁ…」
 
 そう言って桃香の服に手をかけ始める…桃香は身をよじって抵抗しているが
 一般兵より少し強い程度の力では流石に十数名の男が相手では抵抗らしい抵抗は出来ず、
 目も当てられない姿になりつつあった。
  
  「へっへ…大人しくしろ…なんだ?誰だ涎を飛ばしたのは?」
 
 劉璋が後ろを振り向く…するとそこには頭から血を流している臣下の一人がいた。
  
  「涎じゃありません…わたし、のチィ!!」
 
 そのまま絶命し、地面に倒れ伏す…奇妙な事に、あれだけの出血にもかかわらず
 傷口が見当たらなかった。

  「な、何なんだ一体」
  
  「あ、おい…女は何処行った!?」
 
 その声に振り返ると桃香が居なくなっていた…更に屍が一人増えた状態で…
  
  「ひ…何なんだよ一体!?」
 
  「お、お前がやったんだろ!」
  
  「違う!俺じゃない!そういうお前がやったんじゃないのか!?」
  
  「なんだと!?」
 
 そのまま取っ組み合いのけんかをし始める…劉璋はわけも分からず…
 その様子を見ているしかなかった。
 
 








  「無事か…桃香」
  
  「ふぁ、ふぁふぉふふぁふぁ!」
  
  「外してやるが静かにしていろ…」
 
 そう言って猿轡を外す…桃香は呼吸をしやすくなった事で思いっきり息を吸い込み
 落ち着いた…その時にラオウよりマントが被せられた。

  「ラオウ様…?」
  
  「しばらくはそれで我慢しておれ…それと、ここで大人しく待っていろ」
 
 ラオウとは思えない優しい笑みに桃香は黙り込んでしまい、コクコクと頷いた。
  
  「奴らには髪の毛一本…塵に至るまでこの世には残さぬ…」
 
 そう言って、隠していた闘気を一気に解放した…その闘気はトキと
 戦った時に見せた闘気の量と同等のものだった…いや、闘気の力量で言えば
 この時のほうがはるかに上であった。
 
  「な、何だ貴様は!」
  
  「貴様らに名乗る名など持ち合わせておらぬ…それに知ったところで
   誰に語ることも出来ぬ…」
  
  「ま…まさかこいつが北斗拳王!」
  
 劉璋が驚いて逃げようとするがラオウが剛掌波を放ち、天井が崩れ逃げ道が塞がれる。
 逃げるなら目の前のラオウを倒すしか方法が無くなっていた。
 そして、今ラオウは奇妙な構えをしていたのだった…。

  「塵以上に砕け、消滅せよ…」
  
  「な、なんだその構えは…」
 
 そして両の手を構え…
  
  「秘奥義…天将奔烈!!!!!」

 剛掌波を遥かに上回る闘気の一撃を叩き込んだ…劉璋達はまともにその一撃を受けて
 跡形も無く消え去った…劉璋達が居たという証拠は崩れて出来た壁に映った影のみである。
 その証拠すらもラオウは剛掌波で消し去った。
  
  「ら、ラオウ様…」
  
  「桃香、落し物だ」
 
 桃香の手にあの人形を握らせてやる…唖然とした表情でそれを受け取り
 呆然とラオウの姿を見る。

  「これからは俺より離れるな…俺と小夜の二人で桃香を守ろう」
 
 ラオウに自覚は無いのだが、微妙に告白しているようなものである。
 小夜という名前がある地点でそうではないのだが。
  
  「う、うん…」
 
 一瞬顔を赤くしたのだが…相手がラオウと言うこともあり、
 妙な誤解はしなかった…。
 その後もと来た道を辿りながら戻っていき、愛紗達の下へと
 向かった。
 桃香の姿に驚いていたが、誰もラオウの事を疑わなかったのは
 人徳なのか、もともと無さそうだと思っての事なのかは不明である。
 そして…一人、自分の不甲斐無さを悔いてそっと離れていくものが
 居るのをラオウは見逃さなかった。




































































































おまけ:人形に書かれていた文字
 


  これからも誰一人欠ける事無くみんなと一緒に笑顔で過ごしていきたいな
                         
                               桃香



               :あれ?何か変なフラグが…



[6264] 第27話:幕間4・親子交流
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/16 08:34
:ケンシロウを出さないと言ったがそんな事なかったぜ!(夢だけど) おまけはグロ注意?
 今更ながら少し憶測が入った設定があります。





 ラオウはその日奇妙な夢を見た…それはケンシロウが
 こちらを見ながらやってくるといったものだった。

  「ケンシロウ」
  
  「ラオウ…一度死んだ身でもまた覇を唱えているのか」
  
  「あぁ、そうだ……この俺を倒しに来るのか?」
 
 ラオウが挑発的にケンシロウを見る。
 だが、ケンシロウは首を横に振りそのような事はしないとの意思を示す。
  
  「恐怖による支配じゃないからな」
  
  「そうか」
  
  「あの約束は果たしておいたぞ」
 
  「そうか…すまないなケンシロウよ」
 
 そして、カイオウを倒した時の事を話し出すケンシロウ。
 最後に人間に戻ったカイオウを思い浮かべラオウは笑みを浮かべた。

  「それと…これは奇妙な二人組みが言っていたことだが」
  
  「どうした?」

  「一日だけ、会ってやれ……自分の息子に」
  
 ケンシロウに聞き出そうとしたとき…そこでラオウの意識は覚醒してしまった。































  「ぬぅ…夢か…」
 
  「おはよう御座いますラオウ様」
  
  「んー、スースー」
 
  「桃香はまだ寝ているのか」

 同じ部屋に居る小夜が挨拶をしているのに対して軽く会釈し、桃香を見る。
 といっても寝台は別々である。
 ラオウが小夜と共に桃香の安全を死守する為に寝るときはこのようにすると
 提案したときはほとんどの人が驚きの声を上げたが…
 反対意見は無かった、というのもラオウだったらそういう事が起こらないと
 信頼しての事だった。
  
  「それは…一旦おきまして…ラオウ様、その子は誰ですか?」
 
 ラオウの布団に入っている人物に対して指をさして質問する。
 その動作でようやくラオウも隣に眠っている人物に気が付いたようだった。

  「スー…スー…」
  
  「……まさか、リュウか?」
 
 ケンシロウの言葉を思い出し、そして自分の子供の頃に似ている少年を
 見てそれが自分の息子である事を確信した。































  「やはり貴様らか…」
  
  「もう、そう邪見にしないでよ…その子が父親にどうしても会いたいと
   夜な夜な泣いていたから会わせてあげようかって聞いたら会わせてと
   大きな声で返事したのよ?」

 犯人はやはり貂蝉達であった…部屋に進入した事に気がつかなかったのは
 迂闊だった。

  「私達は部屋にははいっておらぬぞ…その子だけを転送したのだからな」
  
  「殺気が無いから気が付かなかったのか」
 
 ちなみにリュウはというと、女性や少女ばかりいるこの場所とラオウの存在に
 緊張しており黙っている。
 そして、周りの人物達は貂蝉の存在に驚いて開いた口が塞がらないという状況になっている。
 一部、包帯まみれの為、表情が窺えないものも居たが…
 
  「………」
 
 何故か桃香はリュウとラオウを見比べて頭を抱えながら何かを考えている為、
 貂蝉達には驚く暇も無いようだった。
  
  「夢でケンシロウが言っておったが…一日だけなのか?」
  
  「えぇそうよ…一日経てば帰るからその時まで過ごせなかった親子の時間を
   過ごしてあげなさい」
 
 そう言って貂蝉達は…窓から跳躍して何処かへと行った。
 
  「…」 

  「…」
 
 残ったもの全員が困った様子でリュウを眺める。
 ラオウはというとリュウを一回も見ることも無く目を瞑り
 黙祷状態になっていた。
 
  「と…父さん…」
  
  「…なんだ、リュウよ」
 
 返事をもらえた事にほっとして表情が緩むリュウ…
 しかし…それ以降は沈黙がずっと続いていく…ラオウは今更
 息子にどう接して良いのか分からず、リュウもまた何を話せば良いのか決まらず
 沈黙をしていた。

  「…」
  
  「…」
  
  (おい、桃香…どうにかならないのかこの空気)
  
  (無理だよー…あ、愛紗ちゃんはどう?)
  
  (私にも無理です…朱里達はどうだ)
  
  (無理でs…待ってください、良い案が浮かびました!)
 
 そして、ラオウとリュウ以外の面々が集まりひそひそと話し出し…
 桃香と小夜を残して全員が町へと繰り出していった。
 ラオウはその様子には気がついていたが、今優先すべき息子との
 交流に悩み放っておいた…守るべき対象である桃香も居るとの判断での
 思考である。
 
  「…」
  
  「…」
 
 そのまま、数刻の時が過ぎ去った…何故か外が騒がしくなってくる。
 普通は中にまで騒ぐ声が届かないものなのだが…
 
  「何が起こった…」
  
  「あ、ちょうど今日はお祭りなんだよ♪そうだ、ラオウ様もリュウ君と一緒に
   祭りに出てはどうですか?」
 
 そのような話は届いていないのだが…おそらく朱里達が過ごしやすいようにと
 手回しをしたのだろう……町の人々はかなり乗り気で実行に移したようだった。
 
  「……」
  
  (あうー、小夜ちゃんどうしよう?)
  
  (ばれてるのは、承知の上です)
  
  「まあ、良い……リュウ、行くか」
  
  「う、うん」
 
 作戦は成功したようだが…その祭りには結局桃香達も参加する事になった。
  


















 祭りはかなりの盛り上がりを見せていた…子供たちは作戦に乗ったわけではなく、
 純粋に楽しんでいる為、違和感は感じられない。
 大人たちもほとんど楽しんでおり、演技で無いことが分かる。
  
  「盛り上がっておるな」
  
  「そうだねー(こんなにうまくいってるなんて)」
  
  「でしょうね(人は楽しいものには強く参加するものですよ)」
 
 ラオウには明らかに聞こえているヒソヒソ話。
 リュウはいろいろな物に目移りをして、楽しそうにしている。
 幾分平和になったとはいえ、このような祭事は始めての経験らしい。
 
  「あ!あれは何!?」
  
  「あれは…玉投げか…」
 
 球を投げて積み立てられている木の棒を倒す遊びらしい。
  
  「やってみるか?」
  
  「うん!」
 
 そして、金を支払って遊び始めた。
 代金は要らないと言っていたが…そのような事は無粋だとして
 きちんと払った。

  「えい!」
 
 リュウが投球する…球は命中したようだが…木の棒は二、三本しか倒す事が出来なかった。
 
  「景品は菓子か…」
  
  「次は俺がやろう」
 
 心なしか店員の表情が優れない様に見える…というか諦めているような感じだった。
 
  「ふん!!!」
 
 当然であるかのように全てが倒れた…特等の景品である金を加工した板を
 手に入れた、鎖も付いており、首にかけられる形状になっていた。
  
  「……純金か」
  
  「「えぇ!?」」
  
  「本当ですか?」
 
 あきらかに景品に出すような代物ではないのは確かである。
 その後もしばらく、町の祭りの散策に歩き回っていた。
 途中でラオウがリュウを肩車して歩き…その姿は親子にしか見えなかった。
  
  「ふ…リュウよ少し外に出るか?」
  
  「え…うん」
 
 そしてラオウとリュウは町の外へと出た。
 ついて行くのも無粋な気もしたので桃香と小夜は町に留まる…
 その周りに間髪入れずに愛紗達が集合した。

  「二人だけで過ごすのでしょうか…」
  
  「結構時間が経ちましたからね…おそらく残りが少ないのでしょう…」
 
 丸一日といっていたが…それはリュウがこの世界に着てからの時間…
 貂蝉の話によると昨夜の九時に当たる時間に送り込んだといっていた。
 今は丁度、八時に当たる時間である……。































  「そうか…今はバルガの下で暮らしておるのか」
  
  「うん」
 
 暗い暗い夜道を親子二人が歩く…空には雲一つなく星が二人を導くように
 大きな輝きを見せている。
  
  「ケンが言っていたよ…父さんの腕はケン以上だったって」
  
  「当然だ…だが、ケンシロウはそれを上回る心で俺に打ち勝ったのだ」
 
 天地を砕く剛拳でさえも一握りの心は砕けない。
 成長したケンシロウの姿にラオウは感銘を受けて…全てを託せると信じ…
 辞世の句を残したのだ。
  
  (一片の悔い無し…だが……悔いはあったな)
 
 ラオウはリュウを抱き寄せる…リュウは少し恥ずかしがったが…
 父の温もりにその恥ずかしさは吹き飛んだ。

  「成長したな…リュウよ…俺は赤子の時のお前を抱いてやる事が出来なかった」
  
  「知ってる…おばちゃんから聞いているから…」
 
 あの乱世の中ではそれどころではなく…さらにラオウには故郷の修羅の国を
 一刻も早く救う必要があったために、生まれたばかりの姿を見たことはあれど…
 一度も抱くような事はなかった。そのような情は捨て去る必要があったのだ。
 それ故に暴走し、止められぬ事を理解していたが…。
  
  「本当はもっとはやく抱いてやりたかった…」
  
  「うん…」
 
 ラオウもリュウもリュウの体が少しずつ透けてきているのに気が付いているが…
 そのことは無視した。
  
  「リュウよ…この俺を恨んではおらぬか?」
  
  「恨んでないよ…だって、ケンが言ってたんだ…覇道を進んでいる間も
   けっして僕の事を忘れる事ができなかったって」
  
  「ケンシロウめ…言いよるわ」
 
 リュウの事を忘れる事はなかったのは本当だ…それ故にその自分と戦っており…
 バランの保護行動に苛立ち、八つ当たり気味なことも行なった。

  「やっぱり…帰りたくないなぁ…」
  
  「それはダメだろう…お前はあの世界でまだやるべき事があるのだろう?」
 
 ケンシロウを除いて唯一の北斗一族の血を引くリュウ…ケンシロウはおそらく北斗神拳を
 絶やす事はしないであろうからリュウの存在は必要なのだろう。
 一度リュウと離れたのは、経験を更に積ませる為だと推測される。

  「う…うぅ…」
  
  「今は泣くなとは言わぬ…そしてこれからも泣くなとは言わぬ…
   その涙の数だけ自分を高めていくがいい」
 
 リュウが大きな声を上げて泣き始めた…初めて見る父の姿…
 その姿を見れるのは今日だけだと理解し始めて…
  
  「これを受け取れ」
  
  「う…これって…」
  
 屋台で取った鎖以外が純金の首飾りだ。
  
  「文字が…それにこの顔は…」
  
  「あの時代には写真などなかろう…それをこの父だと思って大切にしろよ」
  
 そして、ラオウが少し距離を置く…リュウは駆け寄りたい衝動に駆られるが…
 何とか押さえ込んで…涙を拭き…一番言いたい事を話しだす。

  「父さん!」
  
  「何だリュウ!」
  
  「ケンにも誓ったけど…父さんにも誓うよ!
   必ず父さんを超えてみせるって!!」
   
  「そうか!ならば超えて見せろ…最後に見ておけ
   この父の全霊の一撃を!!!」
 
 片手に強大な闘気を篭める…その闘気の量は天将奔烈の比ではない。
 
  「はあ!!!!!!」
 
 その一撃を天空に向かって打ち放った…闘気は目に見えるほど光り輝き、
 圧倒的な力の本流が風圧となってラオウとリュウの周りの地面を抉り取る。
  
  「凄い…」
  
  「リュウよ!寂しくなろうともけして会いたいなどと思うな!
   だが、どうしても会いたくなった時、天を見よ!!!
   俺はそこからお前をずっと見守っているぞ!!!」
 
  「父s……」
 
 最後にリュウが何かを言おうとしたが…リュウの姿は完全に消えてしまい…
 後にはラオウ一人が荒野の上に立っていた。

  「…リュウ…」
 
 その後、数刻ほどそこに立っていたが…すぐに城へと戻っていった。
 城に帰り桃香が心配そうな表情で見ていたが…その頭を撫でてやり、
 穏やかな笑みで大丈夫だと伝えた。






























  「…ここは…僕の部屋…?今までのは夢…?」
  
 リュウは一人ベットの上で目覚める…どうにもラオウと会ったという実感が沸かない。
 その時、部屋に一人の男性が入ってくる…バルガだ。
  
  「リュウ様…起きましたか?朝食が出来上がっております」
  
  「今行く…」
 
 そして、リュウは起き上がる…その時、ベットから何かが零れ落ちた。
  
  「おや、リュウ様これは…?」
  
  「!!」
 
 それはラオウから貰ったものだった…あの出来事は夢ではなかったのか…
  
  「ラオウ様の顔…」
  
  「バルガ!返して!」
 
 すぐさまバルガよりその首飾りを取る…そして窓の外を見る。
 空は晴れ渡っていた……そしてほんの一瞬だが…ラオウの姿が見えた気がした。
  
  「父さん…」
  
  「リュウ様…はやく朝食を食べてください…本日は来客があります」
  
  「誰?」
  
  「ケンシロウ様です」
 
 そして、リュウは北斗神拳伝承者の道を歩む事となる…
 修行の最中、リュウは一度も首飾りを離す事はなかった…そしてケンシロウも
 その事を咎める事はしなかった。
  
    :シリアスは疲れるなー…
 
 
 




































































































おまけ:前回の愛紗のその後
 
 桃香が無事な事に対して安堵していたが、自分の不注意によって
 攫われたという事実が胸に突き刺さり愛紗はしばし放心した状態で
 フラフラとしていた。
 桃香が居なくなったときにはそれどころでは無いと自分に言い聞かせていたのだが
 見つかって救出された事により、自責の念が大きく出てしまったのだ。

  「あのハートという男に引き続き…またしても桃香様を危険な目にあわせてしまった…!」
 
 自分を傷つけるように壁に拳を打ち付ける…その痛みによって
 涙が溢れ出し…更に壁に拳を打ちつけていく。
  
  「そのどちらもラオウ様が助けてくださった…しかし、私は何だ!
   ハートの時には力不足のせい、今回の誘拐では私の不注意によって
   桃香様を…私にもっと力があれば…注意深く見ていれば…!!」
 
 ついには頭を壁に打ちつけていく…そうでもしなければ己の罪を清める事が出来ぬといわんばかりに
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……
 そのたびに傷が増え出血も多くなってくる。
 いつもは冷静な愛紗なのだが、義姉妹の契りを結んだ守るべき大切な身内を二回も危険な目にあわせ、
 自分はたいして危険な目に遭っていない事が愛紗をこのような凶行にはしらせた。
  
  「そこまでだ…命を投げ捨てる気か愛紗」
  
  「離せ瑞佳!」
  
  「離さぬ!離せばまたお前は自分を傷つけるのだろうが!」
 
 北斗神拳の天龍呼吸法により力は常人より上であり…愛紗であろうと押さえつけるには問題ない。
 そして、瑞佳がやってきた訳であるが…ラオウの次に瑞佳が気が付き…
 ラオウが行っても逆効果になるだろうと判断してラオウを留まらせて自分が来たのである。

  「お前に何が分かる!出会った時より守り通すと決めた桃香様を
   二回も危険な目に遭わせてしまったのだぞ!」
  
  「そんな事で桃香様が喜ぶと思っているのか!」
  
  「思ってなどいない!喜ぶどころかあの方は絶対に笑って許す筈だ…
   誰よりも桃香様の事を知っているのは私だ!だが、それでは
   誰が私を罰するのだ…誰が私を責めるのだ!!」
 
 心の奥よりの叫び…出血状態もあわせてその迫力はかなりのものである。
 瑞佳も一瞬怯んでしまったほどだ。
 
  「…」
  
  「わかったなら離せ…私は……」
 
  「この阿呆が――――!!!」
 
 愛紗が瑞佳の沈黙を愛紗の意見の肯定したとみなし離させようとするが…
 その前に瑞佳により思いっきり殴り飛ばされた。
  
  「がは!?」
  
  「罰すると言っているがなー!それは結局自己満足に過ぎんだろうが!
   それほどまでに罰して欲しいのならこの俺が罰してやる!!!」
 
 そのまま愛紗の上に馬乗りになり拳に力を集中し殴りかかる…
 愛紗は訳も分からず殴られ続け…その内抵抗するようになった。

  「や…やめ…」
  
  「痛いか!苦しいか!これがお前の罰なんだろう!!」
  
  「ひ…」
  
  「ふう…結局恐がってるじゃないか…気は済んだか」
  
 一方的に殴った後で穏やかな言葉を吐き出す…瑞佳の両手は血で濡れていた…ただし、
 自分の血で…愛紗を殴ったのは最初の一回だけで後は愛紗に当たるか当たらないかの位置で
 何度も拳を突き入れていたのだ。
  
  「な…なん」
  
  「一つ昔話をしよう…あるところに小さな女の子がおりました」
  
  「は?」
 
  「黙って聞いておけ…その少女には二人の妹がおりました…両親は既に他界しており
   誰も面倒を見てくれる者が無く、少女は二人の妹の為に自分がこの二人を護っていこうと
   決意をしていました」
  
 その会話は…影よりこっそりと覗いていた鈴々達も聞いていた。
 ちなみにラオウと桃香と小夜は不在…ラオウは行くのを止められているし
 桃香が行ってしまえば愛紗は余計に自分を追い込む…小夜が居るのは
 見に行くのも野暮だと判断しての事である。
  
  「しかし…少女が少しの間働く為に家を空けていた時…賊がその村に侵攻した…」
  
  「…」
  
  「少女は逃げ惑う村人の間を必死に掻い潜り、何とか家に辿り着き妹達を連れて
   逃げ出そうとしましたが…その時に三人の賊が目の前に立ち塞がり少女達を
   押さえつけ…そしてその賊たちは少女の前で妹達を無残に斬り始めました」
  
  『!!!』
  
  「ま、まさか…」
  
  「少女達が殺される寸前…旅の拳士によりその賊たちは絶命し…他の賊たちも
   その拳士によって皆殺しにされた」
 
 淡々と昔を思い出すように語り始める瑞佳…まるで人事のように話しているが
 話している表情を見ている愛紗はその悲しみに満ちた瞳をしっかりととらえていた。
  
  「少女と一人の妹は一命を取り留めましたが…もう一人の妹は助かりませんでした。
   今でも偶に夢に出てくる「痛いよ、寒いよ」と手を伸ばしてこちらに手を伸ばして
   助けを請う妹の姿……おっと、これはその少女の話だぞ?」
 
 力なく笑いかける瑞佳…だが、余程の馬鹿で無い限りは今の会話で瑞佳の
 過去だと気が付かない者は居ないだろう。
 こんな事は袁紹ですらも分かる。
  
  「少女は妹を護れなかった事を悔いた…そして、もう一人の妹を護る為に
   力をつけようと、その拳士に拳を教えてくれと頼み込んだ……拳士は
   断ろうとしていたようだったけど、その少女の表情を見て断る事が出来なかったらしい。
   その少女が後で聞いた話によると、その少女はその拳法の伝承者の近縁の者だったらしい…
   その証拠が額の横にある北斗七星の痣さ」
  
 愛紗がちらりと額の横を覗き込むと髪で隠れて見えなかったが…確かに星を示すような
 痣が見受けられた。
  
  「その少女は女である事を捨て成長し…ついには伝承者候補の一角を背負うまでに
   腕を上げた…それでも、少女が女であるという事実と自分達を差し置いて伝承者候補に
   上り詰めた少女が気に入らなかったらしく…よく嫌がらせを受けた」
  
  ((誰だ!瑞佳様に嫌がらせした奴は!ぶっ殺す!!!))
  
  (お、落ち着け焔耶)
  
  (天和さん落ち着いて下さいー)
 
 隠れている場所でこのようなやり取りがあったが、割愛する。
  
  「その嫌がらせにもめげず…妹の存在を支えにその少女は嫌がらせに屈しなかった…
   意外に、紅柳が結構味方となってくれたし…紅柳を支持する派閥も
   結構気の良い連中だったからってのもあったんだがな、今の伝承者のあいつも
   俺の…少女の腕前を結構認めていたしさ」
 
 祟は…その時はトキの戦いを見る前のような性格だった為と言っておこう。
  
  「だが、それでも気に入らない連中は…遂には妹に手を出した。
   私が妹と町に買出しに言っている時に少し目を放した隙に攫っていったのさ…」
  
 似ている…多少の違いはあるものの状況が似ているのだ…力不足で大切な者を護れなかったのも
 目を離して攫われてしまったのも……
  
  「少女は我を忘れて探し回った…しかし必死の捜索もむなしく…妹が見つかったのは
   三日経った後だった……その時妹は身も心もボロボロになっていて見るも無残だった…
   でもな、こっちが一生懸命謝っても妹は笑顔で「お姉ちゃんのせいじゃないよ、大丈夫だよ」
   って言ったんだ…全面的に悪いのは私なのに、だ……その後妹はそれが原因で病にかかって
   一週間と経たない内にこの世を去っていった」
 
 騒いでいた天和達も沈黙した…そして、ここで聞き耳を立てている事に後悔の念を感じ始めた。
  
  「妹が亡くなり…俺は一月の間誰にも会おうとはせず…また、何も口にしなかった…
   時折思い出したかのように水を飲んでいたがな」
 
 少女という代名詞がなくなっていた…だが、今この状況でそれを指摘するのは野暮である。
  
  「その時には俺の家の前に何度も食事が置き…何度も持って帰っていく師父の姿があった…
   と言っても俺は気が付いていなくて、紅柳に聞いて始めて気がついた事なんだけどな」
 
  「…」
  
  「その後、愛紗がやっていた通り自傷行為をして…同じ様にあいつに殴り飛ばされた」
  
  「あいつ…?」
  
  「宗家にして北斗神拳伝承者…真名は知っているが話すのは失礼に当たるから字の
   颯と言っておこう」
  
 そう言って、自らの頬を撫でる…傷や痕はついていないが…おそらくそこが殴られた箇所なのだろう。
  
  「その後両方で取っ組み合いの喧嘩さ…秘孔の突きあい、秘孔封じの応酬…今思えば
   命がけの取っ組み合いになっていたけどな」
 
 笑い話のように話しているが…実際にはかなり危険な行為である事は北斗神拳の知識が
 無い方々も分かった。
 陰に潜んでいる者達はアミバより講義を受けて…余計に恐ろしい行為になっている事に
 顔を引きつらせていたが…すぐに持ち直し、話の続きを窺っていた…。

  「と、言うわけで…愛紗、殴り合いは得意か?」
  
  「え…まあ、武器を壊された後のことを考えてそれなりに…」
  
  「この話の続きは言葉より行動…だ!」
 
 愛紗の実力に合わせて拳を突き出す…愛紗は訳も分からず…だが体は戦闘行動に
 反応し、受け止め反撃に出る。
 そのまま二人は殴り合いを行なった…結果は常に拳で戦っている瑞佳に分があり
 当然のように瑞佳の勝利に終わった。
  
  「どうだ?結構すっきりしただろう?」
  
  「…お前と一緒にするな…」
  
  「そうか、それはすまんな…」
  
  「だが…罪の意識は軽くなったな…」
 
 瑞佳の哀しみの前では自身の悩みなどちっぽけに思えてくる…と愛紗は思い始めていた。
 瑞佳にはいざと言うときに助けてくれるものが傍に居なかった…いや、少なかったと言うべきか。
 だが、今の愛紗には瑞佳を含め、小夜やラオウ…それに鈴々達が居る…。
  
  「いろいろな面でお前に負けてしまったよ…」
  
  「ふ…そうか」
  
  「だが、胸の大きさでは勝ったがな…」
  
  「減らず口を…」
 
 そう言って愛紗の額を軽く叩く…愛紗はわざと痛がる振りをしようとして…
 自身の出血を思い出して苦痛に顔をゆがめた。
  
  「ぐ…」
  
  「む、いかんな」
 
 そう言って瑞佳は自身の服を破き、近くの水場を探して布に浸し愛紗の血をふき取って
 清めた布で愛紗を治療していく。
  
  「応急処置はこんなものか…」
  
  「すまん…」
  
  「きにするな…立てるか?」
  
  「お前が何度も殴りつけてくれたお陰で立てないのだが?」
 
 ジト目で瑞佳を睨む愛紗…瑞佳は困ったように頭をかき…

  「仕方ない、責任を取って運ぼう…よっと」
  
  「な!お前この運び方は!」
 
 俗に言うお姫様抱っこ状態である…その言語を愛紗は知らないが。
 この状態ではかなり恥ずかしいものがある。
 普通に負ぶって運んでくれるものだと思った愛紗は慌て始める。
 
  「どうした?顔が赤いぞ?」
  
  「なななな…なんでこの運び方なんだ!!」
  
  「大人しく運ばれていろ、俺の責任なんだからな」
 
 下手な男よりも男らしい態度…愛紗はその表情に見惚れてしまい
 顔が余計に赤くなってしまった。
 その後、全員と合流し…やはり桃香は笑って許していたが…
 愛紗の心には罪の意識がそれ程残る事にはならなかった。
 そして、瑞佳に愛紗のフラグが立ってしまったのは別の話。

                 :ちょっと無理矢理感…シリアスにしようとすると疲れる。



[6264] 第28話:五胡の陰と南蛮平定
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/17 09:56

 リュウが帰還してから数日後…内政と軍備を整えていた。
 軍備の方はラオウの圧倒的な存在感が青年の心を惹きつけ、志願兵が多数来た為問題はなかった。
 そして、内政の方は朱里・雛里や詠や白蓮などの知将がいた為比較的スムーズに
 進んでいた……そんな中、曹操や孫策以外の方面から敵襲の報告が届いた。
 一方は南にある南蛮と呼ばれる国…もう一方は五胡である。
 
  「国境付近で暴れまわっておるそうだな」
  
  「そうですね…」
 
 報告書を読みまわしていく…どちらも深刻な被害こそ無いものの、
 放っておけば歓迎していた者達が一斉にそっぽを向く可能性がある…。
 二面作戦を取る方針で固めている。
 その編成はいたって単純なものだった。
  
  「西方にはラオウ様、桃香様、小夜さん、愛紗さん、瑞佳さん、天和さん、焔耶さん
   雛里ちゃん、鈴々ちゃん、白蓮さん…」
  
  「残りは全て南で篭城戦に徹する…と、これならば南方の士気の高さを維持可能だな」
 
 兵の数は少ないものの、武に優れた将をほぼ全てと言っていいほど動員しているのだ。
 これで士気が下がるのはまずありえないだろう…。
 いつのまにか将兵としてカウントされている人物が居るが割愛する。
 
  「五胡の情報については…何も無いな…」
  
  「すまぬ、ラオウ様」
  
  「気にするな…きけば他の国も同じ様なものだそうだな?」

  「はい、ですからあまり気にしないほうが宜しいかと思いますよ瑞佳さん」
  
  「だが…兵士達を無駄死にさせてしまった」
 
  「無念を晴らす為にも、一刻も早く追い払う事を考えろ…悔やむのは後回しだ」
 
  「あぁ…」
 
 浮かない表情で返事をする瑞佳…ラオウは少し心配そうに見ていたが…
 愛紗と天和、焔耶の存在を思い出し、すぐに表情を引き締めた。
  
  「これより侵攻してくる者共を追い払う作戦に出る!各々準備を怠るな!」
 
 そして、出陣に向けて全員が持ち場に着き始めた…ラオウはしっかりと桃香の
 傍に付き、歩行速度を緩めずに手を握って引きずらないように歩いた。
  
  「さて、五胡について何か分かる範囲のものはあるか?」
  
  「五胡は五つの部族の総称なのです…匈奴、鮮卑、邸、羌、羯の部族がそれに当たりますね」
  
  「それ以外は何にもわかって無いんだよねー」
 
 と言う事は情報の全く無い状態でその敵の軍と対峙する事になるのだろう…。

  「だが、負けるわけにはいかんな…俺達は俺達の国を護るだけだ」
  
  「そうだね」
  
  「…そうですね」
 
 ラオウが気を引き締めた事に反応したのか…兵士達の緊張は高まり、
 士気が上がっていく…やがて、五胡が占領したとされる町が見えてきた。
 
  「む…敵が出てきたか…」
  
  「敵は…こちらとほぼ同等の数です」
  
  「さて、実力の程はどうであろうな…」
 
 そう言いながらラオウは闘気を溜め、剛掌波を撃ち放った。























  「敵が引き上げている…?」
  
  「ラオウ様に恐れをなしたんでしょうか?」
 
 戦の勝敗は実にあっけないものだった…ラオウが数回剛掌波を
 打ち放っただけで、敵は見る見るうちに引き上げて行く…追撃戦も考えたのだが、
 危険が伴う為諦めた。
  
  「蛮賊にしては見事な引き際ですね…」
  
  「しかも整然とされておるな…蛮族だと馬鹿に出来ぬぞ」
  
  「そのようだな…今回は数の少なさに救われたようなものか…」
 
 指揮系統はかなり上手で、曹操や孫策にも劣らないものだろう…
 本国にはどれほどの数があるのか考えたくないものである。
 
  「後はここに兵を配置し、半年毎に交代させるようにしておくぞ」
  
  「それが妥当でしょうね…将としては張仁さん達を配置しましょう」
 
 その後、雛里と白蓮はその作業をする為の仕事に取り掛かっていた。
 
  「前門に曹操、孫策…後門には蛮族か…前途多難だな」
  
  「だが、そうも言ってられないだろう…雛里準備の方は出来たか?」
  
  「はい、出来ました」
  
  「よし、ならばこのまま南の方へと急行するぞ」
  
  「了解です!」
 
 そして、ラオウ達は電光石火の如く朱里達が待つ南方の領へと急いだ。

























  「ありゃりゃ…引き上げちゃったねー」
  
  「突然このような数の援軍を押し寄せればそうなるのは当たり前かと…」
  
  「どうしますラオウ様?」
  
  「ふむ…このまま、南蛮を制圧するぞ」
 
 曹操、孫策が睨み合いながらこちらとは関係ないところで領土を伸ばしているとの情報が入っている。
 ならばこちらも領土を伸ばして行くべきだろう…。
 五胡は不気味さがあるため手を出すのも憚れるが、南蛮についてはある程度の情報が
 入っているとの事で、制圧しておき少しでも西方と東方に備えようとの判断だった。
  
  「大陸の情勢は終盤に向かっていますし…それがいいかと思います」
  
  「南方の村々では不満がみたいですし…このまま南方を制圧し不満を解消させていきましょう」
  
  「兵達の疲労はどうだ?」
  
  「朱里ちゃん側は少し疲労があるみたいですね…ですが、こちらはまだ大丈夫です」
 
  「ならば、一日休養し…いっきに行くぞ……いつまで喧嘩している」
 
 焔耶、天和の二人に問いかける…愛紗は抜けていた…流石に女同士では
 ダメだと言い聞かせたらしい……
  
  「また、瑞佳ちゃんの取り愛かもねー」
  
  「桃香様…上手くないですよ」
 
  「この俺より英雄として相応しいかも知れぬな…」
 
 溜息を吐きながらラオウが呟く…この時代の英雄は色事にも力を
 注ぐと言うが、ラオウはその方面は特に意識していない…
 実際に、あの2人は表面化して瑞佳の取り合いをしているが……
 過去の話を聞いていない町の女性もほとんどが瑞佳に黄色い声を上げているらしい。
 ラオウ・桃香・小夜は過去話を後で聞いていたが、瑞佳にそのような感情は抱いていない。
  
  「大丈夫だよ♪少なくとも私と小夜ちゃんは瑞佳ちゃんにそのような感情は無いから♪」
  
  「……まあいい…今は目の前の事柄に対処するのが先だ」
  
  「曹操の所も百合の気色が流れていると聞きますが」
  
  「その話はもうやめい!」
 
 結局喧嘩の方は…ラオウの弱剛掌波によって両成敗し…会議に移行した。






























  「みぃさまー!ショクのひとたちが~せめてきたにょー?」
  
  「すぐにおいかえすにゃ!みんなトラにつづくにゃ!」
  
  「どうやっておいかえすにょ?」
 
  「がんばってにゃ!」
 
 見る人が見れば微笑ましいとしか見れない光景…獣衣装の少女達による
 蜀対策会議だそうだ。
  
  「敵なら成敗するにゃ!」
 
 言語がはっきりとしているのが南蛮の王である孟獲。
  
  「みんなを集めて成敗にゃ!」
 
 どうやら北斗の軍と戦争する事に決めたようである。






























  「ここが南蛮か…」
  
  「樹がいっぱい茂っているねー」
  
  「それにしても…暑いですね…」
 
 朱里や雛里が息を切らしながら歩いている…
 馬は通れないそうなので馬の指揮を黒龍に任せてラオウ達は徒歩で
 密林を進んでいた。
  
  「涼しそうに歩いている人が居るけどねー…」
 
 ラオウのことである…心頭滅却すれば火もまた涼しと言うが…
 闘気によって熱気を押さえるのはどうかと思う。
  
  「瑞佳ちゃんは出来ないの?」
  
  「流石に無理だな……闘気の持続力が足りなくなる」
 
 そんな事を話していると…
  
  「ショクのものども!覚悟にゃ!!!」
 
 孟獲が軍勢を引き連れて襲い掛かってきた。
  
  「襲い掛かってきましたよ!」
  
  「「あ、可愛い」」
  
 味方の攻撃意欲が激減した…

  「…」

  「にゃ!!!!!!?ちょっと待ったにゃ!!!」
 
 ラオウの姿を見て急に子分達とともになにやら話し合いをし始める孟獲…。
  
  「どうしたんでしょうね…」
  
  「あぁ、ナデナデしたいー」
  
  「えぇ、本当に…」
  
  「さあな…というか貴様ら!腑抜けるな!!!」
 
 ラオウの一喝でようやく我に帰る桃香達…だが、わずか数秒で
 また戦意を喪失する。
  
  「決まったにゃ!」
  
  「ん?どういう事だ?」
  
  「「「「降参にゃ、部下にしてください」」」」
 
 本能レベルでラオウに勝てないと理解した孟獲達はあっという間に降参した…。
 戦闘すらなく降参した孟獲…ラオウは溜息をつきつつ、その降伏を許諾した。
 こうして、南蛮をわずか数日で制圧し…西と東の敵に備えられるようになった。



































































































 おまけ

  「にゃにゃにゃ…美以はひゃくじゅうのおう孟獲さまだじょ!」
  
  「みいさまーやめようよー」
 
  【ぎゅうう】
 
 黒龍相手に絡んでいた…だが、数秒後孟獲はあっという間に降参したのだった…



[6264] 第29話:南斗の乱、魏呉墜つ
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/28 12:07
 今、大陸は三国に分かれた。
 一つ…曹操が指揮をしている魏の国、兵の数が一番多く…将の質も文句なし。
 一つ…孫策率いる呉の国、魏の国には劣るが兵数質ともに高く…士気も高い。
 そして、最後にラオウが統治する蜀の国…兵数や将の数では劣るものの…
 兵の質は高く…また、ラオウ自体が圧倒的な力を持っておりその部分を補っている。
 だが、その中でも曹魏は別格であり…兵の数は呉と蜀を凌駕するほどである。
 
  「民の様子はどうだ?」
  
  「不安がっていますね…三つ巴の睨みあいに入ってしまって一触即発状態ですから」
  
  「迂闊に攻め入れば残った一国が漁夫の利を狙う可能性があるしなー」
  
  「ラオウ様…どうします?」
 
  「……さて、困ったものだな…」
 
 大きく息を吐き返答するラオウ…ならばこの状況を動かす為にも攻め入ればいいものなのだが…
 そうした場合、後ろに控える五胡が攻め入ってくる可能性がある。
  
  「魏を討とうとするには呉との同盟が必要となるな」
  
  「確かにそうですが……今の状況では同盟には応じないでしょうね」
 
  「しかし…曹操も何故侵攻を開始しないのかも気になるな」
 
 密偵からの報告で曹操は既に軍備を整えていると聞いてから一週間近く…
 いまだに行動を起こしていないとの報告が何度も届いてくる。
 ただ…魏の中で不穏な気配が流れており…更には民に対する政治が曹操らしく無いという。
 そしてそれは孫策のところでも同じであった。
  
  「孫策さんや曹操さん達がそのような行動を起こすのは考えられません」
  
  「人の心は移ろいゆくもの…では言い訳にならぬな…あの二人は誇りに関して
   この俺以上といっても過言ではない」
  
  「天下を目指す野望はあるけど志は私たちと同じ様なものだったよね?」
  
  「えぇ、反董卓連合で共に戦いましたし…曹操達は民の事を思っている感じがしました」
 
 愛紗がそのような事を言う…弱い者達を守り抜くという志は同じだとしていた。
 性格に対しては苦手意識があったようだが、その志には感銘を受けたと言う。
  
  「なにかきな臭いな」
  
  「だが、その何かが分からぬ…警戒するにこしたことは無いだろうがな」
 
 曹操、孫策が悪政を強いているとの情報はとてもでは無いが信じられないものだ。
 だが…その密偵が嘘をついている可能性は無い。
 新一をついても異常はなかったし、口から出てきた言葉も同じものだった。
  
  「今はどうしようもないね…」

  「そうだな、情報を集める事が重要な時期だ…各々今は職務をまっとうせよ」
  
  『御意(はい)』





























 

  「華琳様!」
  
  「どうしたの…桂花」
 
 生気の無い表情で荀彧を見る曹操…ここ最近とある心配事により
 まったくと言っていいほど眠れていないのだ。
  
  「いつまであやつらをのさばらせておくのですか!!」
  
  「…分かってるわよ…でも」
  
  「お兄さんの行方は分かっていない…紅柳さんも必死に舎弟達と共に探しているようですが
   まったく発見できないそうです……春蘭ちゃんも秋蘭ちゃんも」
 
 程昱が入ってきて話す。
  
  「…そう…役に立たないわね」  
  
  「華琳様!」
   
  「……ごめんなさい、どうかしてたわね…」
  
  「いや、気にして無いさ…役立たずなのは本当の事だからな」
 
 紅柳がスッと音も無く入ってくる…曹操達は慣れたもので驚く事もなく
 紅柳を見る。
 華琳はすぐさま頭を下げた。
  
  「ごめんなさい…あいつらから隠れて必死に捜索してるのに…」
  
  「気にしてはいません…俺があの時油断していなければこのような事態に
   ならなかったのですから…」
 
 紅柳が土下座をする…一刀が伝えた謝る最上級のものらしい態勢だ。
 最初一刀が曹操にわざとではないが無礼な行いをしたときにした態勢である。
 訝しげに見て…質問して土下座の事を知り、わざわざ魏に広めたのだ。
 
  「一応…生きてるとは聞いているけど…ここまで姿が見えないと本当かどうか怪しいわね」
  
  「しかし…一刀の奴は自殺をし掛けたと言っておりましたよね…」
  
  「華琳様の足手まといになりたく無かったのでしょうね…」
  
  「馬鹿よね…そんな事をしたら地獄の底だろうと追いかけるのに…」
 
 自分に嘲笑するように笑う曹操…そんな曹操を三人は悲しそうに見つめていた。
 そんな中……
  
  「これはこれは曹操様…それに曹陽どのもこちらにおいででしたか…」
 
 耳障りな声が聞こえてくる…そして二十人近い男たちが現れた。
 この男達は何も武器を携帯していないが…全員拳法家らしい。
  
  「何の用だ…」
 
  「落ち着いてください桂花さん」
 
 荀彧が睨みつけるのに対して程昱が嗜める…といってもその程昱も
 かなり怒っていたが…

  「おぉ恐い恐い…そんな表情をしているとうっかりとあの男達を殺してしまいますよ?」
  
  「ぐ…」
 
 男達とは一刀と夏侯の姉妹の事である…この男達は一刀を攫った者達の配下の者である。
 そして…
  
  「それにしても北斗神拳もやはり地に落ちたものですな」
  
  「仕方ありませんよ…今代の伝承者は我らの頂点に立つお方にあっさりと
   敗れ去ったのですから…伝承者になれなかった屑など我らに敵いますまい」
  
  「それ…前の時も言いやがりましたよね貴様ら殿達…」
  
  「紅柳…」
 
 曹操が紅柳の袖を引く…今の曹操はかなり弱くなっており、一刀や従姉妹の二人を亡くす事を
 恐れている。
 その事を思い出して紅柳は嫌々ながらも男たちに土下座をした。
  
  「申し訳……ありませんでした…」
  
  「いやいや、我々は寛大だからな…殺すような事はしないさ…」
  
  「そうです…よ!」
  
  「ぐ…」
 
 そう言いながらも紅柳の横腹を思いっきり蹴り付ける男…その様子を悔しそうに見ながらも
 何も手出しが出来ない荀彧達。
  
  「まあ、これで許してあげますよ…そうそう、曹操様…今日はお願いがあってまいりました」
  
  「何…?」
  
  「民の税を引き伸ばすのに賛同していただきたい」
  
  「「何!?」」
 
  「…今でも貴方達は十分贅沢してるじゃない…」
  
  「今のは聞き逃してあげましょう…いやね、親分がもうすぐ生誕記念日なのですよ…
   その為の資金が必要なのでしてね?」

  「……民の不満はほとんど限界よ?」
 
  「それがどうしたのですか…民など王に従う奴隷でしょう」
 
 それが当然とばかりに高圧的な態度で話しかける男…その様子に憤慨しながらも
 華琳の哀しみが増すばかりだと行動できない夏候惇達。
  
  「分かったわ…明日その法案を作りましょう…」
  
  「お願いしますよ…曹操様…では、我らはこれで…」
 
 気配が遠ざかって行く…その気配が途切れたところで曹操が思いっきり床に手を叩きつける。
 拳法家のような出鱈目な能力など当然無く…曹操の血が流れただけだった。
  
  「曹操様」
  
  「…」
  
  「…くそう…」
 
 紅柳は悔しげに言葉を漏らした…頭に浮かんでくるのはラオウ…あの男のように力があれば
 このような事態にはならなかったのに、と…。
  
  「風…私は寝るわ…文官達に伝えておいて頂戴…」
  
  「……はい…」
 
 全員が力なく言葉を交わす…その時の全員の心には頼りない一人の青年の姿が共通として
 思い浮かべていた…曹操の恋人である青年の姿を…










 
 




 














  「雪蓮ー、少しは休んだらどうじゃ?それでは体を壊すぞよ…」
  
  「美羽…いいの、あいつらの民を省みない政策を実行しつつ民になるべく負担をかけないように
   法案を練っているんだから…」
 
 孫策の憔悴しきった表情に袁術は悔しげに口を噛み締める。
 孫権、孫尚香、周瑜…三人を人質にされて孫策は従う他無い状況になっていた。
 謎の集団は暴政を強いる。
 将達も悔しそうにしているのだが、孫策の命には逆らえず、また人質になっている
 三人の事を考えて捜索に当たっているのだ。
  
  「雪蓮、ここは私に任せて少しは休め…そのような状態では憂鬱になるだけだぞ」
  
  「シュウ…でもね…動いていないと余計に気が滅入りそうなのよ」
 
  「うーむむ…!そうじゃ」
 
 気遣うようなシュウの言葉に孫策は首を横に振り、そのまま作業に戻る。
 袁術はそんな様子に何も出来ない悔しさを噛み締め、何かしようとする為
 せめて甘いものを運んでこようと思い立ってすぐさま部屋を出て行く。
 
  「……美羽と話しているほうが気が紛れている様に思えるが?」
  
  「そうね…でも、妹達の事を考えると楽なんて出来ないわよ…」
 
  「ふぅ…それにしてもあいつらは…同じ南斗のものとして恥ずかしい」
  
  「大丈夫よ…少なくともこの国の人達はあいつらとあなたを同じに見ていないから」
 
 作業をしつつもそのような会話をしていく。
  
  「しぇ、雪蓮様」
  
  「明命…どうしたの?」
  
  「み、美羽様が!」
 
 ただ事で無い表情の周泰に嫌な予感がしたのか孫策はシュウに後を任せて
 周泰の案内の下、袁術の下へと向かった。
  
  「美羽ちゃん!」
  
  「う…ぐぅ…」
 
 そこには数十人もの男たちと…それに攻撃されてぐったりとしている袁術の姿があった。
  
  「困りますなー孫策様…このような子供の躾はしっかりとしませんと」
  
  「廊下を走ってぶつかって来るなど失礼にも程があります」
 
 くくく、と笑いながら袁術を蹴ってよこす…
 周泰が慌てて受け止め、袁術の様子を見た…命に別状は無さそうだが
 気を失っている。
  
  「…美羽…貴様ら!!!」
  
  「何ですかなその目は…そんな態度では無事は保障しませんよ?」
  
  「ぐ…」
 
 睨み付けるが多少怯えただけで効果は無いようだった…。
 
  「まったく、ま、蜀の支配が終われば返してあげますよ…」
 
 そう言って男達は姿を消した。
 
  「ごめんなさい…美羽…」
 
 孫策は美羽に謝る事しか出来なかった。





























  
 ラオウと小夜、桃香はいつも通りに三人固まって行動をしている。
 こころなしか、桃香とラオウの距離がいつもより近いような気がした。

  「ラオウ様…どうしたの?」
  
  「……気をつけろ、何者かがつけて来ておる」
  
  「やはりそうですか…敵ですか?」
 
  「そうだ…おそらく暗殺者の類だろうな」
 
 気配を消して近づいているようなのだが…ラオウの前には駄々漏れのようだった。
 曹操・孫策がこのような行為に及ぶとは到底考えられない為、五胡だろう。

  「人気の無いところに向かうぞ…」
  
  「了解」
  
  「う…うん」
 
 聞く人が聞けば犯罪な台詞だが、ラオウなのでそのような様子には思えない。
 
  「さて…さっさと姿を見せろ阿呆が……」
  
  「私たち二人を相手に気配を隠せると思わないことです」

  「…さすがは北斗神拳の使い手と我ら南斗聖拳最強の拳士ですなー」
 
 軽く拍手しながらの登場…刺客はどうやら男のようだった。
 後ろよりぞろぞろと男たちが現れる。
 その顔を小夜は少し驚いた顔で見ている。
 普段表情をあまり変化させない小夜にしては珍しい光景である。
  
  「知っている顔か?」
  
  「…南斗紅鶴拳伝承者候補第五席の男です」
  
  「その男が何故ここに?」
  
  「ばらしてしまいますが、劉玄徳を攫う為…そして、劉備を人質にして
   傀儡政治を行なう為ですよ……もっとも防御が硬くて不可能だったようですがね」
 
 ふふふ、と笑いながら話す男……ここにきてこの余裕は一体どういった了見なのかが不明である。

  「ま、いくらあなたが強いと言ってもこの人数を相手に立ち向かえますかな?」
  
  「雑魚が何匹掛かって来ようと無意味だ」
 
 言い切るラオウに対して、男達はふふふと不気味に笑う。
  
  「何がおかしい」
  
  「貴方は北斗神拳の使い手ですね?」
  
  「その通りだ」
 
 隠す意味も無いので肯定する…男達の態度はあの時の祟以上に煩わしいものだった。
  
  「北斗神拳の伝承者はわれら南斗聖拳最強の大和将様により敗北を喫した…
   故に伝承者で無い者など、我ら南斗聖拳のこの人数の前には無力に等しい」
  
 ラオウの実力を情報ですらも知らないといった様子で男が嘲笑する。
 ラオウの武勇伝は全て小夜のものであると変換しているようだった。
  
  「……」
  
  「桃香様…私から離れないで」
  
  「う、うん…」
 
 ラオウが小夜をチラリと一瞥し、小夜は桃香にぴったりとくっ付く。
  
  「ならば、伝承者なり損ないの拳…受けてみるがいい」
  
  「は…木偶の坊が…生きているのは劉玄徳のみでよい!我らの恐怖を知り、死ぬがいい!!」
 
 そう言って一斉に飛び掛って行く南斗聖拳の手勢…ラオウは闘気を解放し…
 強大な威圧で男達を睨みつける……今、ラオウは覇王としての威圧を纏っていた。
 その覇気に…先程まで余裕の表情でいた男達は固まってしまう。
  
  「う…ぐぅ…」
 
  「どうした…掛かってこないのか?」
 
 男達は…ラオウと対峙した時…死を恐怖していた、そしてその恐怖により動けないのだ。
  
  「あ、あわわ…こんな奴が居るなんて聞いてない!」
  
  「そうか…それは済まなかったな…侘びとして受け取れ」
 
 そう言って手をかざす…桃香はこれから怒る光景を予測し…せめて祈った。
  
  「北斗剛掌波!!!」
  
  「ぐぎゃああああ!」
 
 一人を残し、全て撃ち殺した。
  
  「さて、少し聞くとしよう…新一!」
 
  「が…」
 
  「貴様ら南斗は魏と呉でも活動しておるのか?」
  
  「ソ、そうだ…収束してるのを見計らって牛耳ろうと曹操孫策の
   命よりも大事であろう者達を攫い、既に傀儡政治を行なって…」
  

  「…曹操が動かぬわけはこれか…」
 
 南斗一斉蜂起…秘密裏に動いていたようである。
 だが、この男は何故このような事を話したのか…もはや死んでいる為に
 聞きだすことは出来ず、真相は謎である。
 
  「城に戻るぞ…至急軍議を開く」

 男には既に止めを刺していた。






























  「まさかそのような背景があったとは…」
  
  「でも何故南斗聖拳は一斉蜂起をしたんだ?」
  
  「何か分かるか小夜」
  
  「残念ですが…継承してからすぐに旅に出ましたからほとんど分かりません」
 
  「そうかぁ…」
 
 召集して軍議を開く…曹操・孫策は特に武力行動を行なっていないのだが…
 先程の男の話が本当ならば帰還しなければ曹操孫策をけしかけ同盟を結んで
 攻め入って来る可能性が高い。
  
  「兵の数は呉とは互角…魏は二倍…三倍の兵を相手にせねばならんと言うわけか」
  
  「それも二面作戦を展開してくるでしょう…これではほとんど手の施しようがありません」
 
 敵の勢力は強大…戦局を覆す事の出来る力を持ったラオウでも数の多さで圧倒されれば
 さすがに厳しいものがある。
 
  「だが、負けるわけにはいかぬ…曹操・孫策ならば降伏する道もあろう……
   しかし、おそらくこの南斗聖拳は悪党の集まりの可能性もある…
   いや、人質を使うような者は悪党だったな」
  
  「そんな悪い人達には絶対に負けたくない!でも…勝てるの?」
  
  「不可能だ」
 
 あまりにも非情な一言…全員批判を挙げたいのだが…ラオウが不可能と言えばそうなのだろう。
 事実、敵の戦力はあまりにも多すぎる。
 数の差を覆す力を持った戦力を抱えている陣営のこちらでも太刀打ちできないだろう。
  
  「大人しく降伏するか…それとも戦闘に持ち込み民や兵の損失を伴って服従に行くか…
   もはやこの二つしか道は残されておらぬ」
 
  「悔しいですが…二面作戦を展開できない以上そうするしかないでしょうね…」
 
 全員に悔しいという気持ちが流れて行く…明らかな悪に屈服する事が我慢ならないのだろう。
 その時、一人の兵士が駆け込んできた。
  
  「北斗様!劉備様!きゃ、客人が来ております!」
  
  「そんなに慌ててどうした字一色」
  
  「もしかして孫策さん達の降伏を勧告する使者かな?」
  
  「いえ!りょりょりょ、呂布と奇妙な男です!」
 
 その時、全員に動揺が走った…呂布といえば反董卓連合で一度見かけた少女である。
 その強さは天下無双とも言われ事実袁紹の陣営を突破した実績がある。
 そして、呂布と共にいる男と言えば…

  「すぐに通せ」
  
  「は、はい」
  
  「その必要は無いラオウ」
  
  『な…』
  
  「何の用だトキ」
 
 ラオウと互角の戦いを繰り広げた男…トキである。



































































































おまけ:嘘予告
  
  突如として現れたトキ…トキにより告げられる恐るべき事実!
  それは、自身が南斗聖拳の刺客だと明かし、ラオウを亡き者にしようとしている事!
  そしてトキの背後より現るはケンシロウとカイオウ…
  この三者を前にラオウはどのようにして戦うのか…また勝機はあるのか!?
  
               :この予告は嘘です…カイオウやケンシロウは出てきません。



[6264] 第30話:北斗長兄と次兄、共同戦線
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/27 14:40
*直接表現禁止

  「何の用だトキよ…」
    
  「何、ねねの放った密偵によって孫策と曹操の動きがおかしいと知ったからな…
   故にラオウ、あなたに味方しようと思ったまで。
   それに、この方の護衛の任もあったからな」
  
  「護衛?」
 
 ラオウの言葉と同時に呂布とトキの背後より一人の少女が現れる。
 その少女を見て、小夜が驚きの表情を浮かべる…南斗聖拳の男に
 遭った時以上の驚きようだった。
  
  「お久しぶりですね、小夜」
  
  「百合…何故ここに…?」
  
  「知り合いか?」
  
  「申し遅れました…私、南斗六聖拳の将の一人、慈母星の百合と申します。
   姓は大和慈母…字は信濃、真名は先ほど申し上げた百合です」
  
  「真名を?いや、それより大和とは…」
  
  「はい、姉がお世話になっております…姉が許しているのであれば私も真名を許そうと」
 
 姉妹揃って南斗六聖拳の一角を担っているとは驚きだ。
 といっても慈母の星と言う事は拳士では無さそうだが。
 
  「ふむ、やはり姉妹か…顔立ちが似ているからそうではないかと思ったが」
  
  「姓は同じ者も大勢いらっしゃいますから」
 
 劉備と劉焉の例もある…備や焉は名前に当たる為、姓が同じに当たる。
 当然ながら血縁関係には無い。
  
  「ここへ来た用件は何だ?南斗の一斉蜂起に呼応し、攻め入ってきたのか?」
  
  「いえ、違います…私は南斗の乱を収めたいのです」
  
  「収める、とは?」
  
  「文字通りの意味で御座います…既に南斗は完全に蜂起しました……
   ですが、私達穏健派はこのような争いを望んではいません」
  
  「…」
 
  「天帝に仕えるのが馬鹿らしくなった…北斗が南斗に敗れた…そういったものが
   強硬派が決行した今回の乱の原因です」
 
 時代が流れ、人が変わればそのような事が起きるのは必然…同じ一族による支配が
 ずっと続かないのはそういう理由が多いのかもしれない。
  
  「して、天帝は何と言ったのだ?」
  
  「私達が動く事に賛同してくれました…といっても北斗神拳伝承者と元斗皇拳伝承者は
   天帝守護の為動きませんでしたが」
  
  「ここに来た理由はまだ手にかかっていないと言う理由からか」
 
  「はい」
 
 組織に立ち向かうには組織…国に立ち向かうには国が必要となる。
 とはいえ、戦力が増えたところで不利な状況なのには変わりが無い。
  
  「トキが来たからにはあの方法しかあるまい…」
  
  「あの方法?」
  
  「………ラオウ様……本当にするの?」
  
 桃香が頭に大きなしずくを浮かべる表情で尋ねる。
 小夜も同様の雰囲気でラオウの方を見やる。
  
  「当然だ…むしろその方法が目を引くのには確実なのだ」

  「……何か嫌な予感がしますが、その方法は何ですか?」
 
 瑞佳が挙手しつつ尋ねる。
 ラオウは不敵に笑い……
  
  「黒龍と俺による蹂躙走覇作戦だ」
  
 時が止まった……今この空間内で行動できるのはラオウのみ…
 いくらなんでも猪突猛進過ぎる。
 近距離は黒龍によって蹂躙し遠距離中距離はラオウの剛掌波……
 移動砲台…いや、この場合は戦車が適切か。
 そして、トキが我に帰り、同時に時が動きだす。
  
  「本命は何だ?」
  
  「ほう、気が付いたか」
  
  「…もしかして、人質の救出ですか?」
  
  「その通りだ朱里…派手な攻防を繰り広げ、それに完全に意識を傾けさせ、
   本命の精鋭部隊が曹操と孫策の人質を救出するという作戦だ」
 
 全員がホッとした…ラオウが袁紹の様な馬鹿になったのかと心配したからだ…。
 それでもかなり無謀な作戦ではあるが…
 
  「人質救出に適任だったのは小夜だけであったが、トキが居るのであれば
   両国から救い出す事が可能となる」
  
  「二国を同時に相手にする気かラオウ…」
  
  「このまま大人しく降伏して、外道の軍門に下るのは愚の骨頂…
   それに、事が早く済めばそれだけ我が軍の被害は少なくなる」
 
  「ラオウ様の親衛隊もおりますし…正直時間を稼ぐのであればその方法が最善かと」
 
 蜀の頭脳朱里の台詞…手詰まりなので確かにその方法しか無さそうなのだが…
 援軍は期待できない代わりに敵の攻撃が無くなる。
  
  「安心せよ…俺は死なぬ、例え千を超える矢が刺さったとしても、だ」
 
 その顔は嘘を言っていない表情だった。
 その表情に信頼してか全員が渋々作戦に賛同する。
  
  「では、五車の星もお連れください」
 
  「五車の星?」
 
  「慈母の星は戦闘能力はほぼありません、それ故守護する為の
   精鋭達がいるのです」
  
  「まずは見せてみろ」
 
  「では…皆さん、お願いします」

 それと同時に五人の人間がババッという効果音と共に入ってくる。
  
  「な…何?」
  
  「束ね役にして青き知略の宿星を持つ男、海の星・青龍!!」
  
  「圧倒的な巨体で守りの戦いを得意とする玄き要塞、山の星・玄武!!」
  
  「自由気ままに生きる白き独立部隊、雲の星・白虎!!」
 
  「疾風の如く戦う金色の風、風の星・金隼!!」
  
  「五車の星、紅一点にして赤く燃える情熱、炎の星・朱雀!!」
  
  「「「「「我ら南斗五車星戦士団!!!!!」」」」」
  
  『『『『『………』』』』』
 
 決めポーズと共にビシリと決まったという表情で得意げになっている、
 南斗五車星戦士団……何処かの特選隊といい勝負かもしれない。
  
  「一人だけ仲間外れだな」
  
  「突っ込みどころそこなの!?」
 
  「確かに金隼さん以外四聖獣ですが…」
  
  「小夜ちゃんも!?」
 
 ラオウと小夜は動じずに冷静に分析していた…桃香はラオウ達の的外れに近い
 突っ込みに突っ込んだ。
  
  「うぅ…やはり突っ込まれた…やはり南斗四車星の方が良かったんじゃないか?」
  
  「何を言っている!それではこの態勢が成立しないじゃないか!」
 
  「面白い方達ですよね?」
  
  「まあ…確かに面白さはありますが正直引きますね」
  
  「いやそれより、実力…あるのか?」
 
 白蓮が至極まっとうな突込みをする……確かにこのままでは只のあ…ば…頭の弱い集団にしか見えない。
 
  「ほう、ならばやってみるか?」
  
  「止めておけ…仲間になるというのであれば余計な争いをしている場合では無いだろう」
  
  「「そうだそうだ!瑞佳様の言うとおりだー」」
  
  「愛紗らと互角か匹敵辺りといったところか…」
  
  「作戦決行は早い方が良い…小夜は魏へ行き情報収集と人質の救助を補佐には瑞佳をつける」
  
  「はい」

 およそ二名ほど喚いていたが無視した。
 
  「トキは呉の方へと向かってくれ、補佐はアミバだが構わんな?」
  
  「承知した…仲は悪いわけではない、月の所に居た時はそれなりに良好だったからな」
  
  「任せろ、占いと調査の二段構えで早急に終わらせてやる」
  
  「今ここで占え、どのようにすれば見つかるかどうかをな」
  
  「任せろ」
 
 胸を叩く…何故かこの時だけは今この場に居る誰よりも頼もしい表情をしていた。
 いくつかの札のようなものを取り出し、机に並べ…目を閉じる。
 そして、口を開き始めた…おそらく、呪文の類なのだろう。
  
  「ケスウチョノイメウキュウチョノーナコポンポノーピコポンポノイダンリーグ
   ノンガンリーシュンガンリーシュノポイパポイパポイパジウコブヤノジウコラブヤ
   ロコトムスニロコトルネウクツマイラウフツマイランウツマウギョイス
   ノギョイスリジャイカレキリスノウコゴムゲジュムゲジュ」
 
  「噛まずによく言えるよねー」
  
  「私ならもう十回ぐらい噛んでますよ」
  
  「ダイサンテワレオ!小夜の行動は黒い三匹連なって行動している悪魔について行けと出た。
   トキは五匹の黒い猫の後ろをニコヤカな表情でついて歩け、だ」
 
 黒い悪魔は台所に出てくる生物で、作者が人間が居なくなったらきっと支配者になっているだろうな
 と思うランキング一位に輝いている虫である。
 閑話休題…
 トキは全然不自然じゃないから困る。
  
  「あれを三匹追っかけろという事ですか…」
 
 小夜がジッと一箇所を見たまま動かない…いや、時折キョロキョロと動きを追っているようだが。
 その方角は愛紗の隣であった為愛紗が嫌な予感をしながら覗くと……黒い悪魔が居た。

  「きゃあああああ!?」
  
 可愛らしい悲鳴を上げて逃げる…いくら強いとは言え女の子…さすがに気持ち悪いものは気持ち悪いらしい。
 
  「こっち来た―――!!!?」
 
 星も甲高い声を上げて逃げる…武器で攻撃しろよという突っ込みは無かった、全員混乱している為である。
 混乱していない一部の人間(ラオウトキアミバ小夜と五車星)はその様子をジーッと見ていた。
 だが、中々混乱は収まらなかった為ラオウが 
 
  「後で修復するか…北斗剛掌波!」
 
 北斗剛掌波を放ち命中させて黒い悪魔を仕留めた。
 この世から綺麗さっぱりと。
  
  「さて、そろそろこの部屋から出ておれ…明日より作戦を開始する。
   各々準備を怠るな」
 
 返事は無かった…既にほぼ全員がその命令と共に部屋を立ち去った為だ。
 残ったのは小夜と小夜に抱きついている桃香とトキとアミバだけだった。
 五車の星は百合の護衛。
   
  「恋も苦手だったか…」
  
  「…得意な人間など居ないであろうな」
 
  「知ってるか?あの黒い悪魔にも秘孔がきちんとあるぞ?」
 
 ラオウとトキの呆れた視線がアミバを貫いた。
 そんな事まで実験していたのかこの男は…
 ともかく、作戦は固まり…トキの補助に瑞佳・小夜の補助にアミバにするという
 変更を伝えてこの日はお開きとなった。
 翌日、人質救出組は朝早くから出かけた。




































































































嫌なNG

 黒い悪魔の動きを闘気で封じ込め、ラオウは一歩一歩しっかりと踏みしめ
 歩いて行く。
 そして、歩を止めて……拳を振り上げる。
 闘気が一瞬消え去った。
  
  「受けてみよ…我が全霊の拳を!!!」
 
          :そこまでする必要ないですよ!?



[6264] 第31話:救出作戦、首謀者の陰
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/03/28 12:14
*直接表現禁止……な訳ではない、別に禁止要素では無いですよね?
 
  「今回はよろしく頼むわね孫策」
  
  「そうね…こちらこそよろしく頼むわ曹操」
 
 お互いに項垂れつつ書簡を交換し合い、項目に書き込んでいく…
 名目上は五胡と組み領土を脅かそうとする蜀に対抗する為の同盟となっているが…
 実際には桃香の拉致に失敗した南斗聖拳強硬派が曹操達を使って蜀を手中に収めようと
 しているだけだった。
  
  「北斗は大切な者を守り通したみたいね」
  
  「それで私達を使おうとしているって訳よね…あいつらのあの表情が見れたのは
   いい気味だと思ったけど、こういう手段に出るのは感心しないわよね」
  
 二人で愚痴を言い合う…南斗の一派はいない為このような事が言い合えるのだ。
  
  「あーあ…本当ならこんな事で戦いたくは無かったんだけどね」
  
  「それは同感ね…私の意志であの頂点に君臨するような存在に挑むつもりだったんだけどね」
  
  「北斗は立ち向かってくるのかしら…?」
   
  「来るでしょうね…あの男は策を弄しようとしない限りは決して背中を見せないような
   誇り高い精神を持っているもの」
 
 今でも浮かんでくる…圧倒的な存在感を持つ覇王…共同戦線を張っていた時には
 頼もしさを感じた…だが、それが今度は敵対者という形で向かってくるのだ。
  
  「兵の量は三倍以上あるけど…あの男の存在は戦局をあっという間に覆すでしょう」
  
  「兵士の質も親衛隊クラスは三人がかりで関羽将軍を苦戦させるほどの
   力量を持っているっていう情報は何かの冗談かと思ったけどあの北斗なら
   ありえないことで3は無いわよね」
  
  「しかも三千でしょ?……簡単に説明すると関羽が千人以上の群れで襲い掛かってくるようなものよね」
 
 出来れば想像したくない光景だ…それがラオウの群れで無い分マシなのだが。
  
  「ぶつかり合いになるとおそらく互角…先に北斗をどうにかしなければ負けもありえる」
  
  「それがわかって無いのよねーあいつ等は…」
  
  「単純に数で押せばどうにかなるとでも思っているのでしょう?」
 
 兵法の基本は相手よりも多く兵を用意する事…純粋に考えれば十分な量なのだが、
 圧倒的な武力は時として数の差をものともしない事がある……黒龍の存在も考えれば
 決して圧倒的有利だと考えてはいけない。
  
  「死すならば戦いの最中で…もし死ねば一刀に渡すようにと比較的マトモな奴に渡したわ」
  
  「あら、恋人?って言うかマトモな奴いたのね」
  
  「そうよ…人質の一人でもあるけどね……強硬派も下種ばかりではなかったって話よ」
  
  「少なくとも私の所は下種ばかりだったけどね…」
 
 それから二人は酒を飲み交わし、延々と南斗の愚痴を語り合っていた。
 






























  「酷い有様だな」
  
  「そうですね…それより猫は見つかりましたか?」
  
  「いや、犬は見かけるのだが…中々猫は見つからないな」
 
 呉の国の一つの町で気配を消して探索しながら歩くトキと瑞佳…二人は旅商人に変装して
 入り込んでいた……町に入るときにかなりの額を請求されたが…路銀でかなり多く持ち合わせていた為
 払う事が出来た…その際、ギリギリだったという演技も忘れてはいない。
  
  「あ、居ました五匹の猫だ」
  
  「無駄に色が揃っているな…あれは違うだろう…黒ではないからな」
 
 赤・緑・青・黄・桃…猫とは思えない色をしていた……アミバの占いには色の指定があった為、
 付いていきたい誘惑にちょっと駆られたが、無視して見回すと今度は真っ黒な猫五匹が居た。
 その猫達はまるでトキ達を待っているかのようにジッと見つめていた。
  
  「…あれだろうな」
  
  「トキ様、ニコヤカにですよ」
  
  「それなら簡単だ…それにあのような可愛らしい猫ならば自然に頬が緩む」
  
 確かに黒猫は全て子猫であり、目がクリクリッとしていて可愛らしい。
 この場に愛紗が居ればいつもの面影は無くなり、ホワーッとした表情になるだろう。
 トキと瑞佳が近づくと、付いて来いと言わんばかりにトテトテと歩き出した。
  
  「案内しているような感じだな」
  
  「時折振り向く仕草が可愛らしいですね」
 
 重大な任務なのだが…猫達の愛らしさに和んで自然にニコヤカに笑いながら後を付いていく。
 ある程度人通りの多い場所なのだが、猫達は中々路地裏には入りそうに無かった。
 そして…周りに自然にそこにいるかのような男達の居る建物で座り込んだ。
 
  「……瑞佳、気をつけろ…二十人ほど居るぞ」
  
  「え…流石ですね、俺には五人ぐらいしか気配が感じ取れませんでした」
 
 近くの開いたスペースに座り込み、物売りの振りをしつつ…様子を眺めるトキと瑞佳。
 
  「こちらにはまだ気が付いていないようだ…孫権、孫尚香、周瑜…三人居るな」
  
  「読唇術ですか…」
  
  「よし、早速行動を起こす…瑞佳はこのまま売り物をしていてくれ、私が一人で乗り込む」
  
  「え、トキ様……消えた?」
 
 気配を断って、高速で移動をしていた…その速さは小夜にはわずかに劣るが流石としか言いようが無い
 スピードだった。
 
  「トキ様…置いていかないでください…」
 
 慌てて瑞佳も行動を起こした。















  「ねえ、冥琳…シャオ達いつになったら解放されるのかなぁ?」
  
  「聞かれても困ります…おそらくは死ぬまでは出られそうに無いですが」
  
  「シャオ、少しは落ち着いたら?」
 
 部屋の中で溜息をつきながら話す三人…三人は自分のせいで孫策に迷惑をかけていると
 考えている…孫策はそのような事は思っていないのだが…内側からしか見えない窓から見ると
 民の様子は活気が無いとしか言いようが無いほどに沈んでいた。
  
  「お姉ちゃんだって、落ち着いて無いじゃない…あの男の似顔絵ばかり見て
   溜息をついてさー」
  
  「そ、それは…」
  
  「蓮華様ももう少し素直になられた方が宜しいですよ…祟に好意を寄せているのは
   周知の事実なのですから」
  
  「べ、別に最初の頃は幼い子供しか狙っていなくていい加減な奴で好き嫌いがハッキリしてるなとか
   最近修行に打ち込んでいる姿が格好いいなとか思っていない!」
  
  「…」
  
  「…」
 
  「…」
  
  「な、何だ…言いたい事があるならはっきり言え三人と…も…?」
 
 そこで孫権が違和感に気がつき、恐る恐る人数を数える。
  
  「点呼」
  
  「いーち」
  
  「二です」
  
  「三だ」
  
  「うん、三人か……あれ?私を含めると…四人」
 
 もう一度数えてみる…どうみても四人だ。
 しかし、あまりにも自然に紛れ込んでいた為気が付かなかった。
  
  「お前は…劉璃か?」
  
  「そうだ、久しぶりだな周瑜…助けに参った…早速だがここを出るぞ」
 
  「へ?でも、外には腹は立つけど腕の立つ奴らが居る……ってどうして入ってこれてるの?」
  
  「これは周瑜に聞けば分かると思うが…トキ様と共に此処へ来た」
  
  「……なるほど、確かにあの男の力量ならあの実力で人数、たいした障害では無いでしょう」
 
  「トキって…お姉様達が話してた拳の腕が神の領域に達していた二人の内の一人?」
  
  「そこまで大げさなものではない…」
 
 そう言いつつ入り込んでくるトキ。
 その手には一人の男が気絶したまま引き摺られていた。
  
  「人質は貴方達三人だけのようだ…今すぐ孫策のところに行きたいだろうと思うが」
  
  「分かったわ、蜀に行けばいいのね?」
  
  「さすがねねや朱里が認めるほどの軍師だな、察しが早くて助かる」
 
  「むぅ、お姉様に早く会いたいのは山々だけど冥琳が言うんじゃ仕方ないね」
 
 約一名ほど、不服そうだったが…今後の事を考えて渋々合意した…
 
  「それと…暫くはこれに着替えて変装してもらいたい」
  
  「……鬘と服、まあ、仕方ないでしょうね」

 渋々と着替えてその家を後にした…町を出るときに門番の者達に町を出る旨を伝えたときには
 三人とも冷や汗ものだったが、トキが頭に指を突きたて…門番は
  
  「五人…入ってきた時も五人だったから問題ないな…よし、精々気をつけて他の町へ行けよ」
 
 記憶すら操る北斗神拳…と言ってもこのような簡単な事しか変える事は出来ないらしいが
 それでも凄いものだった。
 ちなみに、孫権たちが囚われていた家には三人の偽者を置き、孫権たちがまだ居ると認識させておいた。
 そうしてトキ達は馬車に乗り、蜀へと馬を走らせた。































  「町に入って早速ゴキブリ発見だな、さすが俺の占いだ」
  
  「…」 
  
  「やはり俺は占いの天才だ」
  
  「……」
  
 呉をトキ達が出立した頃魏の国の町で一人饒舌に喋り、一人寡黙にゴキブリの後を付いていく二人。
 奇妙な事にそのゴキブリは串が刺さっている状態だった。
 不気味な光景だが、ゴキブリの生命力の強さを垣間見た瞬間でもあった。
 リンゴにぶつかって串の先端が刺さったときに、ゴキブリに直に触っても平気なアミバも不気味だが。
  
  「傍から見ればゴキブリを追跡する変な二人組みに見えるだろうが
   そのような事は関係ない…ようは目立たなければ良いのだ」
  
 かなり目立っているのだが、小夜は突っ込まなかった…なぜならゴキブリの動きを追いかけるのに
 必死になっているからだ…ゴキブリはちょろちょろと動くので少しでも見失ってしまえば
 見つけるのは困難になってしまうだろう。
  
  「どれ、歌でも歌って…」
  
  「…」
  
  「Y○UはSH○CK!愛で空が、落ちてくーるー…」
 
  「……着いたみたいですよ」
 
 ようやく辿り着いたようで小夜がようやく言葉を発する…町の中の酒場のようだった。
 昼間だがかなり賑わっている。
  
  「私は顔が割れている…アミバ、後はお任せして宜しいですか?」
  
  「ふむ、いいだろう…ところで中にはどれ程の数が居るのだ?」
  
  「南斗聖拳の使い手は二十ですね…でも、全員六聖拳の一角どころかその候補でも無いです」
 
 行動を起こした理由は知らないが、実力の程に関しては二千人近く居る拳士全員の実力を
 把握しきっている。
 故に、アミバでも問題無いと判断したわけだ。
  
  「別にあいつらを全て倒してしまっても構わんだろう?」
  
  「……急に不安になったから付いて行きます」
 
 妙な直感が働き、軽く変装してその酒場へと入っていた。
 














  「親父、神殺しを頼む」
   
  「私は龍殺しを」
  
  「そんな酒等無い!」
 
 二人とも冗談で言ったようで冗談だと笑い、店主も分かっている様で
 軽くあしらった。
  
  「で、本当の注文は?」
  
  「…人質の在り処を」
 
 その途端、辺りは静まり返り…小夜とアミバの周囲にこの店に居る南斗強硬派全員が
 集まった。
  
  「ほう、よく嗅ぎつけたようだが口を滑らせたな…ここに居る事は確かだが
   この人数を相手に勝てると思っているのか?」
  
  「勿論、勝て、ます!!!」
 
 小夜の姿が掻き消えた…そしてその一瞬の間に南斗の男一人を残して全員気を失った。
  
  「な!?」
  
  「南斗鳳凰拳に構えは無い…あらゆる状況を千差万別に対応できる南斗聖拳最強の拳法」
 
  「…さぁて、貴様にはいろいろと話してもらおうか…秘孔・新一!!」
 
 そして、その男から人質の人数を聞きだし…すぐさま救助へと向かっていった。















  「下が騒がしいと思ったら、お前達だったのか」
  
  「曹操の所に戻りたい?」
  
  「あ、あぁすぐに華琳のところに!!?」
  
  「落ち着け一刀…華琳様の周りにはまだ仲間がいる筈だ…」
  
  「そのような状況で戻ろうとしてもまた捕まる可能性が高い」
 
  「ここの者達には記憶の改造を施した…暫くはばれないだろう…一旦蜀へときてもらうぞ」
 
 一刀は悩んでいた表情をしていたが…すぐさま納得し…蜀へ行く事を了承した。
  
  「決まりましたね…その前に…いつまで戸の前で突っ立てるつもりですか?」
  
  「……大和将様…お久しぶりです」
  
 部屋の中に入ってきたのは一人の男だった…その手には一枚の手紙が握られている。
 強硬派の中でマトモな部類に入ると華琳が言っていた男である。
  
  「…まさか、貴方までこの騒ぎに居たとは思わなかった」
  
  「……言い訳は申しません…それと、北郷殿これを」
  
  「俺…?」
 
 男は丁寧に一刀の下へと手紙らしきものを投げ渡す…投げている地点で
 丁寧ではないのだが…
  
  「華琳から!?」
   
  「……筆跡も華琳様のものだな」
 
  「………大和将様…こちらへは来て頂けないのでしょうか?」 
  
  「無理…今の私には居場所がある……とても大切な」
 
 両者視線を外さず、しっかりと相手の表情を見ている……すると、男が諦めたかのように
 拳を構える。
  
  「南斗水鳥拳第三席…たとえ敵わずとも阿修羅となりて貴方をここでし止める」
  
  「……そう」
 
 小夜もジッと相手の挙動を見る…それなりの覚悟で向かわなければ倒せない強敵だと
 認識しているのだろう。
  
  「え…待てよ、話し合えば……?」
  
  「北郷殿…貴方は曹操殿を裏切れるのか?」
   
  「華林を裏切るなんてそんな事出来る訳ないだろ!?」
  
  「それと同様だ…例え悪人であろうとも私はあの方に仕えた……
   人に愚かだと言われようとも…私は…あのお方を裏切ることなど出来ぬ」
  
  「……忠星の宿命…か」
 
  「その宿命がなくとも…私はあのお方に仕えていた……話はここまでです!!」
  
 男が飛翔する…誰もがその飛翔に見惚れてしまった…決して外道が至る事が出来ない
 美しい技の構えに…
  
  「南斗水鳥拳奥義、飛翔白麗!!!」
  
  「南斗鳳凰拳、極星十字拳」
 
 ただ一人、小夜を除いて…両者が技を終え沈黙が流れる…
 小夜の服が僅かに割れ…男は胸を十字に切り裂かれていた…。
  
  「さようなら…碧忠」
  
  「名前を……覚えていただいて…光栄、で…」
  
  「忘れるわけが無い…あなたのように真っ直ぐな人は」
  
  「……やはり、あなた達には…」
 
 ―――――敵いませんよ―――― 

 安らかな表情で男は崩れ落ちた…壮絶な様に誰もが言葉を失った…。
 小夜は少し黙祷した後…何かに気が付いたかのように一方向を見て…
  
  「アミバ…ごめん、記憶の細工…無意味だったみたいですよ」
  
  「……何故だ?」
 
  「ごめんなさいね…もう少し時間があれば…ちゃんとしたお墓に入れれたのに…」
  
 そうして、むなしい雰囲気のままに小夜たちは蜀へと戻って行った。
 一刀は男から渡された手紙を読んで…生きて華琳に会わなければという気持ちを強くした。
 そして蜀へと辿り着く一日前に…蜀と魏・呉の全面対決が始まっていたのだった。




































































































 ある男の死に際に見た幻想
 



 
  「ねえ、君の名前は?」
  
  「え、わ、私は碧忠と申します!」
 
 これは…私の過去の記憶か…
  
  「私はね大和―――って言うんだよ?」
 
 あぁ、大和将様に似ていらっしゃる…あのお方との最初の邂逅か…
  
  「なんで君は、皆に避けられているの?」
   
  「あ…それはボクのお父さんが…」
 
 この時には、話してしまえばこの子もボクを見捨てるんだろうな、と怯えていたっけ…
  
  「あぁ、気にしない方がいいよ…だって君は君でしょ?」
 
 この子は全てを知った上でボクに話しかけてきたんだ…そう思うと急に心が楽になった。
  
  「凄いじゃない!伝承者候補に残ったんだって?」
  
  「う、うん」
 
 この方はまるで自分の事のように喜んでいましたね…あまりのはしゃぎように私は
 恥ずかしくて顔を赤くした記憶が残っている…。
 そのこともからかわれて余計に赤くなった事も覚えている…。
 もう私は死ぬしかないんだろうが最後にこの甘い幻想に浸れて……
 なんだろう…この暖かい感触は…最後の力を振り絞り眼を開けると……。
 
  「あぁ……大和――様…」
  
  「…」
  
  「すいま、せん…失敗してしまい…」
  
  「…よい、もともと三国に全面対決させる予定だったのだ…もはや人質は
   要らぬものとなったのだ」
 
 小夜とは違う声色で話す少女……血の匂いがする…自分のものではないなにかが…

  「それでも失敗は失敗だ…やつらは処断した」
  
  「そう…ですか……私も…ですか…」
  
  「いや…もうお前は死ぬのだろう…ならば止めを刺す必要は無い…精々失敗したことを悔やんで
   痛みを受けているが良い」
 
  「…はは、手厳……しい」
 
 致命傷である筈なのに…まだ話すことが出来る…少し手心を加えられていたようだ。
 それと同時に冷静になって今の状況を確認する…膝を枕にして眠っていたようだった。
  
  「あ…」
  
  「気にするな…お前の死に顔を見ようとする為にこうしただけだ…気にする必要は無い」
  
  「……そう、ですか…」
  
  「そうだ、別にそれ以外の感情など無いぞ?」
 
 いつもいつも手厳しい…この乱を起こした時からこのお方はいつも私にだけ
 特別に厳しかった…
   
  「…ふぅ…」
  
  「どうした、もう死ぬのか?」
 
 意地が悪い声が聞こえる…目を開いている筈なのに…何も見えない……
 体が冷たくなっていく……感じるのは頭の後ろに感じる暖かさだけ…。
 ……仕置きの筈なのに…このような幸せを感じる自分を恥じた……
 それが、私の最後の思考だった…。
  
  「…」
  
  「おい………逝ったか…ふん、死に際だというのに随分と幸せそうな奴だ」
  
  「…」
  
  「………直に…私も逝くだろう……地獄の前で……待っていろ……龍剣…」
 
 そうして、少女は暫くその男の亡骸の髪を撫で…男を抱えて何処かへと立ち去った。
 
                :シリアスは難しい……



[6264] エイプリルフールネタ最終回:北斗万愚節
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/04/24 08:02
:さくさく進みます、少しグロイ表現注意

 
  「来るがいい!北拳王!実は俺は指先一つで死ぬぞ――!!」
 
 南斗六聖拳の一角にして強硬派の一人が奇声を発しながら突っ込んで行く。
 脚力、体のバネ、瞬発力全てをいかして奥義を繰り出していく。
 
  「南斗紅鶴拳奥義!血粧…」
  
  「秘孔…新血愁!!!」
 
 だが、ラオウの前にはそのような奥義は児戯にも等しい。
 突っ込んできた南斗紅鶴拳伝承者を指先一つで軽くあしらい、投げ飛ばす。
 男が突っ込んだ先は岩が丁度尖った形になっており、男はそこに串刺しとなった。 
 
  「がは!!!」
  
  「笑止!貴様程度の腕前で蜀の覇者拳王を打ち破れると思っていたのか!!」
 
  「ふふふ…流石に強いな…だが!この俺の他にも…まだ、相手……が…」
 
 そこまで言って男は息絶えた…串刺しになっても尚喋ろうとした精神力は凄まじいが、
 それでもラオウの前には蟻にも等しいものだった。
 ラオウはその男が息絶えたのを確認すると、すぐさま走り出した。
















  「案山子がやられたか…」
  
  「ふふふ、奴は南斗強硬派四天王の中では最弱の汚物よ」
  
  「北斗神拳伝承者のなりそこないに敗れるとは南斗の面汚しだな」
 
 控えの広間にて紅鶴拳伝承者が敗れたのを見ている男たちが居た。
 暗くて顔までは見えないが、全員声色からして男である事は確かである。
 低い声にて喉の奥で笑いながら眺めていたのだ。
  
  「だが、今ので奴の実力は読めた…そう考えればよい犠牲となってくれたな」
 
  「次は、我ら三人で撃破に動くとしよう」
  
  「卑怯などではない、これは策略というものだからな」
 
 下種な笑い声を噛み殺しながら、三人は立ち上がり、扉に手をかけた。
  
  「天将奔烈!!!!!」
 
  「「「うぎゃああああ!!」」」
 
 その瞬間、ラオウの秘奥義によって扉は粉砕されて、三人は余波により吹き飛んでいく。
 一人は半身を失い、一人は頭部を失い、一人は肉体こそ残ったものの、足だけを出し
 床に突き刺さった。
 当然なのだが、全員即死状態である。
  
  「む…一、二、三…これで南斗強硬派の四天王は全て倒した…残るは首領のみ!!
   すぐに見つけ出して―――」
  
  「その必要は無い」
 
 突如響いた声にラオウは驚き、声のした方向を見る。
 そこにはいつの間にか一人の少女がいすに座って酒を煽っていた。
 気配無く入ってきたことに関してラオウは驚いたが、すぐに思い至り…
  
  「貴様が首領だな?」 
   
  「いかにも…南斗強硬派最強にして華麗な首領、大和鬼だ…真名は大朝、
   そして小夜と百合の姉だ」
 
 よく見れば確かに小夜と百合に似ているような顔立ちをしている…だが、
 当然ながら眼光は似てはいない。
 
  「知っておる…それに北斗神拳の魔に魅入られた女子だとも聞いておる」
 
 ラオウが油断する事無く目の前に居る少女を見る。
 少女は高笑いしながら…
  
  「はっはっは…当然だろう、大和家は北斗神拳の者の成れの果てなのだからな…
   北斗神拳を習得できてもなんら不思議ではないのだよ…我ら強硬派に付いた
   北斗神拳を学んだ者も居たのだからな」
 
 素人ですらも目に見えるほどの暗黒の闘気を纏いながらラオウに対峙する。
 その目は完全なる魔神そのものの眼光だった。
 後の歴史のカイオウには及ばないが、圧倒的な瘴気は不吉な感じを醸しだす。

  「ぬ…感じる…我が兄には及ばぬが中々の魔闘気だな…」
 
 トキ以外にも自分に匹敵するであろう強者に対してラオウは背筋を震わせ、軽い笑みを浮かべる。
 武道家としての宿命なのか、強敵を前にして武者震いをしていたのだ。
  
  「ほう、勝てる気でいるのか…」
 
  「当たり前だ…完全に負けるという気持ちで立ち向かうなど武道家としては失格だ」
 
 ラオウの挑戦的な目に大和鬼は軽く笑い、飲みかけた酒を一気に飲み干し…器を投げ捨てた。
  
  「戦う前に一つだけ言っておく…お前は宗家の力を身に付けなくては魔神の拳に
   対抗できないと思っている様だが、別に必要ない(闘気を制御出来ている意味で)」
  
  「何…」
 
  「そして、合戦中捕らえた劉玄徳は既に解放してある…あとはこの私を倒すだけだ」
 
 余裕の表情を浮かべた笑みでラオウを見る大和鬼。
 
  「そうか、ならば俺も言っておこう…ケンシロウとの戦いの前に愛を知らぬと言っていたが
   別にそんな事は無かった(息子がいた的な意味で)!」
  
  「ふ、ならば掛かってくるがいい!!」
  
  「ゆくぞ!!!」
 
 両者は自身の闘気を最大限に解放しぶつかり合った。
 ともに剛の拳同士で激流対激流…どちらも只ではすまない…
 もしかしたらラオウが敗れ去るかもしれない…
 だが、ラオウは負けるわけにはいかなかった…トキとの再戦を果たす為…
 桃香達の理想を実現させる為…歩を止めるわけにはいかないのだ…
 ラオウの覇気が大陸を救うと信じて………





           完:今までご愛読ありがとう御座いました
             感想掲示板の作者コメントにて次回作の告知があります。
             よろしければご覧ください。



[6264] 第32話:紅剛作戦
Name: 海野狸白◆f1c5a480 ID:69a68675
Date: 2009/04/24 08:04

  「小夜とトキは間に合わなかったか…」
  
 決戦予定地を見極め、その前に該当する城に篭って数日…
 魏も呉も既に兵の準備を終えているらしく既にかなり近い場所で布陣しているそうだ。
 門の前に一万もの馬と共に待ちうけ…機を見計らうラオウ。
 敵の陣営はまだ動いてはいない…とは言っても見える位置には居ないのだが。
  
  「ラオウ様…本当に兵は一人でいいの?」
 
 ラオウの様子が心配になったのか…城内待機を指示されていた桃香がラオウに駆け寄ってくる。
 ラオウは多少呆れた表情をしたものの…咎めるような事はしなかった。
  
  「そうだ…俺はこの黒龍とこの騎兵隊だけで十分だ」
 
 騎兵隊とは言っているが、兵はラオウ一人だけで後は全て無人の馬である。
 その状態でどう戦うのかは微妙だと思うのだが…馬を率いる強大な馬が居る為、
 馬自体の指揮は高い。
 それに馬一頭で大人五人ほどに匹敵する為、攻撃能力は低くなく…
 攻撃用の鎧を装備しており、圧倒的な存在感を醸しだしていた。
  
  「うーん…やっぱり心配だよ…ラオウ様が強いって言ったって相手は
   百万超えの軍隊だよ?」
  
  「確かにな…だが、今回の戦は時間稼ぎが主となる…おそらく一日持ちこたえれば
   トキ達は必ず戻ってくる」
 
 自分と互角の力を持つ男に対する絶大な信頼…
 少なくとも小夜が南斗聖拳最強格である以上、敵う者はまず居ない筈だ。
 小夜の方面は多少心配だが…穏健派が揃いも揃って南斗最強と推していたから
 問題は無いだろう。
  
  「それに、だ…今回で敵の指揮系統を乱すことも可能となる」
  
  「あの作戦の事…?一体何なの?」
  
  「…この俺が知る史実で数の差を覆し、敵の大将を追い詰めた策だ
   ところで…用意は整っているのだろうな」
  
  「うん…なんとか集めたよ…後は塗るだけだから」
  
  「明日の策の肝になる…念入りに塗りこんでおけ」































  「曹操様…間もなく北斗軍の結集している城が見える頃で御座います」
  
  「そう…なら、様子を探る事に念を入れておきなさい…あの男が篭城戦に
   持ち込むなんてあるわけ無いんだから」
  
  「は!」
 
 そして、伝令はそのまま他の隊へと伝令に向かっていった。
 華琳の言っていた事は間違いなどではなく…実際に篭城戦をしても
 この兵力の差では何の意味ももたらさない…むしろ野戦に持ち込んだほうが
 ラオウの存在により篭城するよりも有利に働く。
  
  「まったく…あいつらも無茶な要求をしたものね…」

  「仕方が無いでしょう…南斗の穏健派が北斗の軍に付いたって騒いでいたからね」
  
  「六聖拳と謳われている内の四つを抱え込んでいるくせにねぇ…」

 六聖拳の存在の事はレイから聞いている。
   
  「南斗最強の将…その存在を引き込めなかった事で騒いでいるらしいわね」
  
  「あぁ……確かにあの子だったら一度付いた者を裏切りそうに無いわね」
 
 南斗聖拳最強の南斗鳳凰拳…構えが存在せず、どのように繰り出してくるのが
 予測できないのと圧倒的な速さをもつらしい……実際、反董卓共同戦線の時には
 目にも写らない速さで戦場を駆け、兵を蹂躙していた。
 
  「北斗の存在に隠れがちだけど…優秀な将が揃っている事…」
 
  「将の質じゃ負けないけどね…敵の北斗と大和将は別格ね」
 
  「それに、それに劣る事の無い最強の馬が居るし……こちらの騎兵隊は役に立たないわ」
  
  「あぁー…だから置いてきたんだっけ…進軍速度が遅くなるってぼやいていたけど…
   使いものにならなくなるのだからしょうがないのよね…」
  
 最強の馬、黒龍…愛紗ら武将をも超えるであろう覇気を纏っている馬。
 方々の噂でその馬は千頭もの馬に匹敵すると謳われている馬である……
 真偽の程は定かではないが…確かに圧倒的な強さを誇っていた。
 人間と違い、動物は本能に忠実だ…黒龍が出てきてしまえばあっという間に
 馬は役に立たなくなってしまうだろう。
 そうなれば確実に騎兵隊は壊滅状態になる。
 ラオウは馬上にいると戦闘力が落ちるが……それを補う機動力と制圧力が備わる。
  
  「考えれば考えるほど鬱になってきたわ」
  
  「ま、なるようにしかならないでしょう…」
 
  「華琳様に孫策様…お二方がそれでは困ります…もっとしっかりと気を持ってください」
 
 この軍の軍師を勤めている荀彧が溜息混じりに激励する…しかし、その荀彧の表情も 
 翳っている為、説得力を持っていなかった。
 その時、急に前線から混乱が生じ…曹操達の場所にも動揺が伝わってきた。
  
  「どうしたのかしら?」

  「まさか、もう激突したの?」
  
  「いえ…それにしてはこの動揺はおかしいような気がしますが…」
   
  「も、申し上げます!」
  
 話し合っていると一人の兵士が曹操達の下へと訪れた。
 
  「どうしたの?」
 
  「北斗の軍勢が現れ、騎兵隊の強襲に遭い、指揮系統が乱れております!!!」
  
  「数は!」
   
  「そ、それが……たった一万です」
  
  「はあ?」







































 ―――少し前

  「中々…現れないなー…」
  
  「そりゃそうだろう…敵の城はまだかなり先だろ?」
 
 最前線の兵士達がゆっくりと丘を登って行く…その丘はかなり急であるらしく、
 中々苦戦していた……しかし、この丘ですらも他の丘と比べると緩やかだったのである。
  
  「それにしても…遅いよなー」
  
  「仕方が無いだろう…百五十万以上も兵を引き連れているんだからさ」
 
 愚痴を言いながら移動している……以前の曹操ならまだしも、今の曹操には
 かなりの不満があるようだった…。
 曹操というよりも南斗の将達に対しての不満だが。
  
  「そろそろ丘を抜けるな………と……」
  
  「おい、どうし……た……」
 
 丘を抜けた途端…兵士達の目には恐ろしい光景が映っていた…
 目の前…丘の下の方に赤い池があるのだ。
 ここを迂回するしかないのか…と溜息を吐きつつも…奇妙な事に気が付く。
 池が心なしか接近しているように見えたのだ。 

  「な、何だあれ…」
  
  「おいおい池だろ……動いている?」
 
 ようやく他の者達も気が付き脚を止める。
 池の接近速度は速くあと少しで池の正体が分かりそうだ。
  
  「お、見えてき……あ、あれは!?」
  
  「う、馬の群れ!?」
 
 視認出来る距離になってようやくその正体が判明した。
 巨大な馬を先頭に突進を仕掛けてくる紅い馬の軍勢だった。
 おまけに…明らかにおかしいほどの指揮能力の高さで……。






























  「ふ、見えてきたか…」
  
 ラオウは眼前の敵をとらえ、口元を歪ませる…黒龍の背に乗り…いや、今は真っ赤になっているため
 紅龍と呼ぶべきだろう。
 その馬にのり、目の前の軍勢に突撃を仕掛けているのだ。
 その後ろには同じく真っ赤に染められていた一万近い馬の数が同行している。
  
  「言葉の通じるものが今この場に居ない、か…だが、これも策略の一つだ
   全部隊に告ぐ!この戦いはあくまで時間を稼ぐ為のもの…討ち漏らしを気にするな!
   目に見える者共を殲滅せよ!!!!」

  【ギュオオオオオオオオウ!!!!】
  
  【【ヒヒヒィーーーーーン!!!!!!!!!!】】
    
 かなり近くまで接近したところで、ラオウは紅龍の速度を上げる。
 巨大なだけでなく、速度すらも最速…欠点としては小回りが効かないというものがあるが…
 今この状況ではそのような欠点など意味をもたらさない…
 あるのはいかに早く、制圧するかだけである。
 そして、ラオウには近距離攻撃以外に遠距離攻撃を可能とする奥義を所持している!
  
  「北斗剛掌波!!!」
 
 敵陣に辿り着く寸前に闘気をめいっぱい溜めた一撃を放つ…それにより百人近くが宙に舞い上がり、
 始めに攻撃を受けたものは四散した。
 宙に舞い上がった者は後方に吹き飛び落下し、二次災害が発生した。
 
  「これぞ、天を目指す剛の拳!」
 
  「ひ、ひぃい!?」
 
 兵士が驚いたのは、ラオウの形相と強さではない…それだけでも驚き恐れるだろうが…
 ラオウ自身も紅く染め上がっていたのだ…鎧も肌も…唯一瞳が赤く染まっていないだけで、
 それ以外は一点残らず赤だった。
 赤を見て…ラオウを見て血を連想してしまい、兵士達の戦意が大幅に削られていく。

  「貴様らが戦う意思を見せなければ俺は貴様らの軍を蹂躙しつくすだけだ!」

 そうして、何度も剛掌波を打ち込む…近場にいる兵士には眼もくれていないが、
 その兵士達は紅龍と化した黒龍が踏み潰し蹴り飛ばし蹂躙して行く…。
 更に遅れて到着した馬達が突進したまま兵士達を蹂躙していき、戦場は混沌としたものになった。
 前線の兵はあっという間に瓦解し、大混乱に陥っていく。
 
  「どうした!この程度か!この拳王を倒しえるものは居ないのか!?」
 
  【ギュオオオオオオオオウ!!!】
 
  「う、うわああああ、らば!!」
  
  「ぎゃああああ!」
  
 ラオウと紅龍の咆哮が戦場に響く…だが、兵士達はその言葉を聞く余裕が無かった。
 冷静さを取り戻そうにも、興奮を刺激するかのように紅い光景が眼に映るため
 冷静になれない…その混乱はどんどんと広がっていき、前衛部隊だけでなく
 本陣の部隊にも伝播していった。
 先ほどの曹操の所に伝わっていった混乱もその影響である。
  
  「ぬおおおおおおおお!!!」
 
 そして、ラオウは強大な闘気を一挙に解放し…
  
  「あ、あれ?何処へ行った?」
 
 姿を掻き消した…兵たちは唖然としていたが…馬の兵達は残っていた為、存在を忘れてしまっていた。
  
  『『ぎゃあああ!?』』
 
 突然、上空から強大な闘気が降り注ぎ、兵達は混乱する…
 そして、上を見てみると…
  
  「北斗剛掌波!!!」
 
 数秒おきに剛掌波を打ち放っているラオウの姿があった。
 先ほどの現象は姿を消したのではなく、宙へと舞い上がったのである。
 ケンシロウとの戦いの際に黒王ごと上空に舞い上がり空中戦に持ち込んでいた為
 このような方法は容易い…無論、完全に自由自在に飛びまわれるわけではなく
 浮いているという表現が正しいか。
  
  「弓兵!!」
  
  「無理だ!届くわけが無いだろう!!!」
 
 兵士の部隊長とも思える男が弓兵に活を入れる…だが、明らかに射程距離では無い。
 仮に届いたとしても、威力は無いに決まっている。
  
  「なんとかし…ぼあ!!」
 
  「隊長―――!!!」

 叫んでいるのが格好の的となってしまったのか…紅い馬に跳ね飛ばされる。
 仇を討とうとしたが、縦横無尽に駆け回る馬に成す術など無いと知り、
 逃走を試みる、が…

  「がはあ!!」
 
 運悪く、剛掌波の射程上に入ってしまい、命を落とした。
 
  「天将奔烈!!」
 
 若干疲れの見え始めたラオウは上空に秘奥義を放ち、急降下する…
 その下には勿論…
 
  「ぎゃああ!」
  
  「ひでぶ!」
  
  「うわらば!」
 
 兵士達が居た為、踏み潰す…紅龍は対して堪えた様子も無い…
 見た目どおりの頑強さ故に落下のダメージがほとんど無かったのだ。 
 やがて、ラオウの騎兵隊は踵を返し戦場領域を去っていった。
 その際にもいくらかの剛掌波を放っていき、兵士を数を減らしていった。
 そして、三つほど丘を越えたところで部隊を止めて息を整えて行く。

  「第一波は成功か…損害は五百二十頭か…」
 
 それでも、曹操の軍勢はそれ以上の損失を被っていた。
 被害総数は死者、数千名、重度の負傷者数万人、軽度の負傷者も同じ様な人数。
 
  「数刻後には再び向かうぞ黒龍」
 
 ラオウがそう言うと黒龍は静かに頷いた。
 





























  「酷い光景ね…」
  
  「兵たちを落ち着かせて話を聞いたのですが…人間は北斗一人だったようです」
  
  「あとは、全て無人の馬ばかり…黒龍の統率はかなり恐ろしい領域にあるって事なのね」
  
  「数よりも…上空に浮いていた方が驚いたけど」

 次々と運ばれてくる負傷兵を見やりながら曹操は下唇をかむ。
 先ほどの戦いの際にラオウが浮いていた所を目撃したのだ…そのせいで命令が遅れてしまい
 混沌とした状況を収めるのにかなりの時間を要してしまった。
 このような損害を出してしまっては数刻は動く事が出来ないだろう…どう考えても時間稼ぎに思える。

  「援軍の当てでもあるのかしら」
  
  「本当に五胡と組んでいるんじゃない?」
 
 その冗談はとても笑えるような類のものではなかった。
 もっとも五個の援軍は無いのだが…



              :これが、私の限界……半月以上考えてこれでは文章力もたかがしれているなー
               次回は五月以降になると思います…


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