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[6228] マブラヴ オルタネイティヴ  チートな少佐と黒い堕天使(スパロボクロス)
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/29 01:27
初投稿となります。どこぞの壁際のいぶし銀ことG・Jです。

当投稿掲示板にある突撃159氏を何度も読み返し、本家?アストラナガンの活躍する姿も見たいな~と思い筆を執った次第です。


パイロットは勿論イングラム少佐。

スーパーヒーロー作戦のユーゼスの虚構の世界から脱し、その先でもいいようにユーゼスに操られ、自分を取り戻したと思ったらアウルゲルミルに取り込まれ、
過去からの回帰後にケイサル・エフェスに破れクォヴレーと合身、分離後DWでゴッツォ?に操られ……ようやく自由になった直後です(長っ


至らない部分が多いとは思いますが、優しく見守ってやって下さい。



なお、今のところスパロボに出てくるキャラクターの同一人物登場は予定されておりませんが、希望等ありましたら是非お申し付けください。





それでは、アストラ無双でもOKな方はお進みください。





[6228] アストラナガン&イングラム少佐 スペックVer1
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:12



アストラナガン&イングラム・プリスケン スペック      ─── 一部wikipedia等より抜粋+微妙に設定追加 ───






 アストラナガン -Astranagant-




 全高 40.7m

 重量 187.9t

 装甲材質 ズフィルード・クリスタル

 動力源 メイン:量子波動エンジン
       サブ:ティプラー・シリンダー  

 防御機構 念動フィールド強

  主武装 フォトンライフル  (フォトン粒子によるバルカン。フォトンは光子と呼ばれる特殊な粒子)
        Z・Oソード    (ゾル・オリハルコニウム製念動剣。伸縮自在)
        アトラクターシャワー(多弾頭型重力散弾:爆心地から数十メートルに強重力場を発生)
        T-LINKフェザー(ゾル・ファルコニウム製羽。広域マシンガン?)
        ガン・ファミリア  (ファンネル(マテ )

 戦略武装 アキシオン・キャノン (暗黒物質集合体アキシオンを対象にぶつけ、巨大重力圏に引き落として圧壊させる攻撃)
        インフィニティーシリンダー(10個の中性子星を対象周辺で超高速回転、それにより生じる時間遡行で対象を『存在しなかった』ことにする)






 イングラム・プリスケン -Ingram Prisken-



 身長・体重・年齢 不明 身長に関しては180~190?

 戦闘スキル  指揮官   (元PTXチーム隊長、SRXチーム教官経験などから)
          念動力   (ヒーロー作戦時より……確か持ってたはず?)
          ガンファイト(インファイトよりガンファイトっぽいので……あっ、でもサークルザンバー大好きさんだっけ……) 

 非戦闘スキル 開発者(モノとモノを組み合わせることで新しいモノを作るスキル) 
          技術者(理論から新しいモノを作るスキル)



 一時的、永続的どちらかは分からないが、ゴッツォの枷により捕らわれていない状態。
 元PTXチーム隊長、SRXチーム教官としてのパイロット技術に加えて、SRX計画を進め、かつ独自にアストラナガンを完成させるという、パイロットとして、開発者として一流の腕を持つ。
 ここ最近は冷静・冷酷・冷徹という3冷的な役回りが多いが、内には非常に熱い心を持つ。
 これまでにリュウセイ達やクォヴレー達と、地球人の手によって多くの枷を外してもらっているため、人間、ひいては地球そのものに対して大きな恩(本人曰く借り)を感じている。
 動揺等という言葉には無縁に思われるが、クスハ特性栄養ドリンクを飲んでやせ我慢してみたり、ヴィレッタに対抗意識を燃やしてラーダのヨガにつき合ったりと、意外なお茶目さん。



[6228] 再会、そして別れ……
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:13










 『……俺は、操られていたのか』

 『そうだ。ゴッツォの名を持つものに』

 『……因縁だな』



 
 数多の世界を漂い、『平行世界を彷徨うもの』として、普く平行世界へと悪意を向ける存在を探していた時、それは起った。

 とある世界でユーゼス・ゴッツォの枷に縛られ、かつての仲間達と戦い……ようやく己の肉体と精神を取り戻したのも束の間、諸悪の根元たる霊帝ケイサル・エフェスに破れ、完全に肉体を失った。

 そして、今目の前にいる男……俺自身のコピー体でもあるアイン・バルシェムにその精神を宿したはずだった。


 しかし、世界を渡りすぎたためであろうか。自身も『因果律の鎖』によって縛られてしまっている。

 そして、どの肉体にも共通して言えるのは『ゴッツォの枷』がかけられていると言うこと……



 ふと目を開けると、目の前の男は自分に向かって腕を差し向けている。




 『俺を助ける気か?』

 『今あの男に、俺たちの力を利用されるわけには、いかない』



 ……

 そうだな。

 因果律の番人でもあるこの俺が……そう易々と利用されるわけにはいかない。

 そして……




 「─── リュウセイ、ライ、アヤ。 ……お前達に、力を」












                             †









 『……何故、俺を助けた?』

 『あの男に、力を与えぬためだ。
  審判者を屠らねば、お前の魂魄はこの世界での肉体に封じられる。
  ゴッツォの眷属に利用され続けていただろう……かつての、俺のように』

 『永劫に繰り返される因縁。逃れられぬ運命、か』

 『……いや、数多の世界が大いなる終焉を迎える時、俺たちの役目と放浪も、終わるはずだ』

 『……それを信じるか』

 『あぁ。 世界の終焉へ導く因子が集結し始めている。……俺はそう感じる』

 『お前がこの世界に現れたのは、そのせいか』

 『おそらく』




 始まりの地……数多の平行世界へと接続される異空間。

 因果律の番人があるべき場所。

 そこでは既に、次なる世界へのゲートが開きつつあった。




 『しばしの別れだ』

 『あぁ』

 『……イングラム、俺の意志は変わらない。俺は俺であり続ける』

 『……いいだろう。運命に抗い続けた先に何があるのか、見せてもらおう』

 


 ……奴は最後、笑ったのだろうか。

 憎むべき存在であり、同時に存在してはならぬものであり、そして……ただ1人、魂のつながった存在。




 「……さらばだ。リュウセイ、ライ、アヤ。そして……」











                  ────── もう1人の俺、クォヴレー・ゴードン ──────
 




























[6228] 新天地
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:15













 ──── 某年某月某日 未明 国連宇宙総軍北米司令部 エドワーズ基地




 「……本日も異常なし。 宇宙は未だ平穏なり、か……」



 
 いつもの日課とも言える、宇宙の監視。

 主にHSSTや月のBETAなどが監視対象ではあるのだが、自分がこの職に就いてから、一度として異常があったことはない。

 要職、というわけではないが特にする仕事もなく、日々本を読んだり昼寝をしたり、BETAという危険が人類に忍び寄っていて尚、気ままな生活をしていた。

 同じ仕事をする仲間は、既に昼食に行ってしまっている。
 



 「まっ、だからって何か起ってくれって訳じゃないけどさ。ここまで暇だともうすることなんて無い……?」


 
 ふと、宇宙を示すマップに気になる点が見つかる。

 それは、月軌道上に位置する場所。監視衛星や軌道降下のための中継基地があるにはあるが……




 「……エネルギー反応、にしちゃまた微妙だよな……」



 赤く光る点滅。

 エネルギー反応と言うことは、そこに某かのエネルギーが存在すると言うことではある。

 だが、それがこうも点滅するというのはどういう事だろうか?

 それが中継基地など自家発電を行なう場所なら、点滅などせずに点灯し続ける。




 「BETAか……っ!?」




 一瞬、その一瞬だけ、その光点半径は周囲の人工物まで届くほどに ──── まるでG弾でも爆発させたかのような軌跡を残し……消えた。

 BETA?月のBETAが何かやったのだろうか?

 だがこことは別に、目視映像で宇宙を監視している部署もある。

 もしBETAが何かが何かやったというのなら、おそらく今頃、基地中を蜂が突いたかのような大騒ぎになっているはずである。




 「……一応、報告だけはしとくか?」




 言いしれぬ不安を感じつつも、先ほどのログをもって、上層部に掛け合いに行く。

 だが結局、この未知のエネルギー反応は監視コンピュータの誤報と言うことで片づけられてしまった。

 理由はただ1つ、目視で確認する部署で、一切の異変が記録されていなかったことにあったとか……












                       †










 同日未明 月軌道上


 『クロスゲート・パラダイム・システム』
 
 それは、時空因果律変動装置とも呼ばれるシステムであり、限定された空間の因果律をコントロールする事で、その限定された空間の世界を自由に構築する装置である。

 元を辿ればゼ・バルマリィ帝国への反逆を胸に、誰よりも速く無限力に取り込まれた男、ユーゼス・ゴッツォの作り上げたシステムであるが、そのシステムも未完成のまま、ユーゼス・ゴッツォは世界から姿

を消した。




 ……だが、これに似て非なるシステムを構築した男が他に存在する。



 1人は、ギリアム・イェーガー。

 ヘリオス・オリンパス、アポロン総統などの名を持つ『平行世界を彷徨うもの』であり、『システムXN』と呼ばれる、空間・次元転移に特化したシステムを構築している。

 元はXNガイストと呼ばれる機動兵器のコア部分ではあるが、それ単体であっても、ある程度の空間・次元転移は可能となっている。



 そしてもう1人が、イングラム・プリスケン。

 機動兵器アストラナガンを駆り、平行世界を渡り歩き……そして、ある存在に敗れた男。

 彼の作り出した特殊機関『ティプラー・シリンダー』は、各階層の次元や平行宇宙から様々なエネルギーを取り出すことで空間転移、平行世界への移動、時空間移動 ──── タイムトラベルさえ可能とする

、最もクロスゲート・パラダイム・システムに近いものである。

 ある特定の人間に分かりやすく言うならば、キシュア・ゼルレッチ+タイムマシンといったところだろうか。



 そんな物騒なシステムを搭載した機動兵器 ─── どこぞの蒼い魔神と本気で闘えば宇宙が崩壊するとか ─── アストラナガンが、この世界へと降り立った。






 「……宇宙、だが……どこだ?ここは……」


 

 着ているものは、R-GUN搭乗時のものと同じパイロットスーツ。

 乗っているのは、自身の愛機アストラナガン。

 そしてただ一つ、今までと決定的に違うことは……



 「……おれは、自由……なのか?」




 『ゴッツォの枷』が無いこと……














                             †













 「──── 量子波動エンジン、出力に異常なし。T-LINKシステム、正常起動。念動フィールド、展開率80%。頭部フォトン粒子充填率77%……」



 次々と機体チェックを行なっていくが、特に異常は見当たらない。

 装甲であるズフィルード・クリスタルにも損害箇所は無し。ダミー・ファミリアも、正常稼働する。

 敢えて挙げるのならティプラー・シリンダーの出力が上がらないところだが、空間転移直後であれば起こりえる事象だ。
 
 また問題があるとするならば、機体よりもむしろこの世界の方だろう。




 「……月面には異様な構造物多数、加えて中は地下茎。……異星人か?」




 ざっとスキャンしただけでも十数個の構造物に、地下茎構造。

 もしこれを人間が作ったというのなら、流石にそのセンスを疑う。

 が、その構造物を調べるうちに、これが人間の手によるものではないということに気が付いた。



 「……STMC、というわけではないか。だが、これは……」



 STMC─── Space Terrible Monster Crisis ─── 宇宙怪獣と呼称されるそれは、文字通り宇宙を荒らし回る生物群である。

 もっとも、科学者の意見の中には銀河にはびこるバクテリアを駆除するための免疫抗体であるという仮説もある。

 荒らされる側から言えば有害極まりないものだが、人間が母星を汚し、環境を破壊している面から言うと、一概に悪いとは言い切れない部分もある。

 
 だが、STMCはあのような『構造物』を作る習性はない。

 恒星に卵を産み付け繁殖し、存在する文明を目掛けてただひたすら攻撃するのみである。


 
 「……情報が足りない、か」



 月を挟んだ背後に存在する地球にしても、自分が知っているような緑豊かな地ではなくなっている。故に、最初は異星かと疑った。

 ヨーロッパからユーラシア大陸の多くの部分が荒廃し、拡大ズームで見る限り、月と同じような建造物も多く建っている。

 所々の暗がりに、人工的な灯があることからも、まだ人類、もしくはそれに準じた生命体が存在することは明らかである。



 「……既に、ケイサル・エフェスは存在しない。『ゴッツォの枷』も無い以上、干渉する必要もない。何をしても構うまいが……」



 だが……








               この惑星には、大きな借りがあるからな……








[6228] 漆黒の侵略者
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:16











 転移完了から、おおよそ1時間。場所は月を挟んで、地球の反対側。

 自身の置かれた状況を大体理解したところで、次なる疑問へと思考を向ける。



 「……人間とは異なる炭素系生命体か」



 精神的嫌悪感を感じるその醜悪な姿に、思わず眉をひそめる。

 地球にも、月と大差ないような構造物が多数存在する。おそらく、同一のモノと見て間違いないだろう。



 「─── この様子ならば、既に月はこの生命体の支配地域と言うことか」



 元々は人間の施設もあったのであろうが、既にその痕跡はない。

 小さな宇宙ステーションがいくつか存在していることから、人類が宇宙進出していることも間違いあるまい。




 「……」



 どうするか決めかねたその時、突如アラームが鳴り響く。

 ふと目をそちらにやれば、今にも襲いかかってくる、といった風の存在が腕?を振り上げている。

 瞬時に念動フィールドを展開し、接触によるエネルギー消耗率をみる。

 ……前提条件に『フィールドを破られない』と考えているからの選択ではあったが。



 「フィールド消耗率1.3%。宇宙怪獣より多少弱い程度か」



 だが、これではっきりした。

 あれは、まごうかたなきアストラナガンの敵だ。



 「……地球周辺の衛星の数から考えても、戦略兵装の使用は控えるべきか」



 アレが人類、また自身の敵というのは分かったが、敵の敵が味方とは限らない。

 この世界にとって、イングラム・プリスケンと言う男とアストラナガンという兵器は、間違いなく異分子である。

 インフィニティーシリンダーなど使おうものなら、最悪月が『存在しなかったもの』となってしまう。アキシオン・キャノンに関しても同じ事が言えるだろう。


 加えて、アトラクター・シャワー。

 これは多弾頭型重力散弾と呼ばれるミサイルの一種ではあるが、爆心地を中心に数十メートル規模の超重力圏を発生させ、効果範囲内全てのものを圧壊させる。

 月に対するダメージは先の2兵装ほどではないが、強力な重力異常が起るため、地球側に察知される可能性が高い。



 となると、自ずと戦闘方法は見えてくる。


 ガン・ファミリアで敵を牽制し、T-LINKフェザー、フォトンライフルで周辺掃討。

 近づいてきた敵をZ・Oソードで薙ぎ払う。

 インフィニティー・シリンダーとアキシオン・キャノンは極力使用するわけにはいかないが……深度が深くなれば、低出力ならば問題なかろう。
 

 単純且つ一連の流れ作業。敵対象スペックに未だ不明な点は多いが、乗るは愛機、アストラナガン。



 「ちょうど良いサンプル集めだ……」
 


 主の声に反応したのか、漆黒の堕天使はその翼から大量のゾル・オリハルコニウムを噴出させ、月面構造物 ─── 月面ハイヴ モニュメント ─── を目掛けて疾駆した。





























 「行け、ガン・ファミリア」



 ダミー・ファミリアを介し、無線誘導兵器であるガン・ファミリアが宙間を走り、銃撃が敵に殺到する。

 今のところダミー・ファミリアは効果を上げているが、一部敵対象には、些か効きが悪いことがある。

 おそらく硬度の問題なのだろうが、炭素生命体がそれほどの甲殻を得ることが可能なのだろうか。




 「……組成成分を高温圧縮してダイアモンド系結晶化、層間も共有結合させて更に硬度を上げているか。フフフ……」




 ここまで硬度にのみ特化した装甲……この場合甲殻と言った方が正しいだろうが、結局はそれすら、実弾兵器を利用しないアストラナガンにとっては脅威ですらない。

 唯一フィールド防御である念動フィールドにある程度干渉できる攻撃を持ってしても、そう易々と破られるようなフィールド防御ではない。


 ……もっとも、敵ユニットのあまりの数に、月面降下直後にT-LINKフェザーを一帯に斉射。月面にいた対象の殆どを屠っている。


 ズフィルード・クリスタルには遠く及ばないが、そこそこの強度を誇る装甲。

 無限に湧き出てくるのではないかと思えるほどの、大量人海戦術。

 そして、様々な個体に別れた種族。

 何より、イングラムに興味を持たせたのは、一部の敵を屠った後に出てくる妙な物体だ。



 「トロニウム、と言うわけではないが……これがあの内燃機関燃料か……?とすると、こいつらの存在は……」



 ただの炭素生命体、と言うわけではあるまい。

 おそらくは、何者かによって創造された人造生命体のなれの果て……または、何かしらの目的を持って作られた作業機械。



 「……潜ってみるか」



 スキャン結果、最大深度は2000メートル近く。

 その最下層に、高エネルギー反応が感じられる。



 「製造プラント、補給用エネルギー備蓄倉庫、施設運用エネルギー炉……まぁそんなところだろが、利用しない手はあるまい」



 幸い、地下へと続く縦穴は大きい。

 ここは月の裏側。加えて地下に入る直前。



 「……爆発エネルギーを下部に集中させれば、例え地球からでも観測されることは無かろう」



 そう、これはあくまでこの世界における兵装テストだ。

 決して、決してチマチマと潜るのが面倒というわけではない。



 「さぁ、虚空の彼方へ消え去れ……」



 出力を絞り、ダークマターで構成されるアキシオンを目標へと打ち出す。

 着弾したアキシオンは周辺にワームホールを開き、隔壁素材、炭素生命体共々巨大重力圏 ── グレートアトラクター ── へと落とし込む。

 発生したワームホールは一方通行というわけではないが、よほどのエネルギーを持っていない限り、ワームホールに落ちた先から、再度ワームホールをくぐって戻ることはできない。

 戦略兵器アキシオン・キャノンによって作られた穴は、結果的に500メートルほどを掘るに至った。



 「ふん……この程度か」



 周辺に散らばる『元』生命体を一瞥し、イングラムは更に歩を進めた……













                                        †












 「……ここが、最深部か」



 そこにあったのは、巨大なエネルギー装置。

 おそらくは、先ほどの種族に搭載されていた燃料と同じものなのだろうが、規模はその比ではない。
 
 だが……



 「……ブラックホールエンジン程度か」



 物騒なことをいう男である。
 
 因みにブラックホールエンジンとは、重力フィールド内に発生させたマイクロブラックホールから得られる重力エネルギーを、動力などの変換する装置である。

 ブラックホール自体が超重力を発生させる天体のようなものであるため作ることはできるが、暴走すれば周辺数キロから数十キロを消滅させる危険極まりない代物である。


 故に、これが破壊の際にどのような反応をするかは分からないが、真っ正面から破壊すれば大惨事になるであろう事は簡単に推測できる。




 「──── 回れ、インフィニティー・シリンダー」


 

 ならば、『存在しなかったこと』にすればいい。

 ティプラー・シリンダーの出力を、限界まで絞る。

 もし絞りきることができなければ、周辺の岩盤ごと消滅、もしくは大崩落するのは必至。


 未だかつてしたことのない、『最低限界出力』でのインフィニティー・シリンダー発射。

 今後のためにも、今この場において地球側に知らせる必要性など無いし、余計な面倒事を自分から作る趣味はない。

 そして何より……こいつらは気にくわない。精神的にも、視覚作用的にも、そして存在そのものが。


 アストラナガンの腕が胸の前で開かれ、神々しいまでの光が輪形円に4つの十字を描く。

 うまく出力調整できているのだろう。翼から噴出されるゾル・オルハルコニウムはほとんど無い。

 

 「時を遡り、無に帰するのだ……デッド・エンド・シュート!」



 もはや口癖となった、デッド・エンド・シュートの掛声と共に、十字の光が反応炉へと向かう。


 光は目標到達前に10の中性子星を発生させ、その後目標の周辺を高速回転する。

 発生した中性子星は、質量がおおよそ太陽程度のもの。

 これらを高速回転── 光の速さに近い ──させることでその中心部の因果律を破り、過去を遡らせ、『存在していない』時間にまで戻す。

 タイムマシンの理論の1つではあるが、過去限定である上に『未だ存在する』時間で止めることなどできない。



 そうこうしている内にも反応炉は過去回帰 ──── 見た目は虫食いのように消滅していくものだが、だんだんと姿を減らしていき……そして、その姿を消した。

 すると、今までアストラナガンの背後に殺到していた ──── と言ってもイナーシャルキャンセラーによって一定距離にすら近づけていなかったのだが ─── BETAの動きが変わった。

 我先にと逃げ出すように、月面へと向けて殺到し始めたのである。



 「ふん。どうやらこのエネルギー炉を失うと逃げ出す……と言うよりも、他に似た構造の方へ身を寄せる、と言った方が正しいか。──── どうやら、連中にとっては大事であるものの、他に同種のエネル

ギー炉が存在すれば、問題ないという訳か」



 言うなれば、代替の効くもの。

 ある程度の打撃を連中に与えることはできたのだろうが、未だ無数にあるこの構造物。

 1つ潰したところで焼け石に水である。




 「……月ごと消滅させれば楽だが ──── 今はまだ、その時ではない。地球の生態系に及ぼす影響を考えると、そう簡単に取れる選択ではないか」



 地球上の生命は、全てとはいわないがその殆どのものが、月と地球の相互引力に依存している部分がある。

 ウミガメや珊瑚の産卵などが、その典型例としてあげられるだろう。


 

 「……何にせよ、現在の地球に対する侵略者のおおよそは掴めた。あとは、地球人どもとどうコンタクトを取るかだが……」




 今まで機動兵器を直接は持ち込まず、身分を偽って軍に潜入。

 その後自分にとって必要な機体開発計画を立てた上で、その成果を利用する……それが普通だったし、それだけのことをする余裕があった。

 だが、今回はどうだろうか。

 今まではまだ、ある程度人型機動兵器が開発されていたため新型兵器の立案もやり安かった。

 しかし今の世界を見る限り、それだけのことを望むのは酷かもしれない。


 周辺宙域どこを見渡してもコロニーなど大型居住区は無いし、それだけの宇宙開発技術があるかどうかが不明。

 もっとも、先ほど接敵した生命体に全てやられたということは否定できないが……




 「──── ここで考えても無駄だな。……取り敢えず、伊豆へと向かうか」




 先ほど地球をスキャンした時、ユーラシア大陸はともかくアフリカ、南北アメリカ、オーストラリア、そして日本は比較的文明の痕跡が深く残っていた。

 わざわざ遠くに着陸して歩くなどということは面倒である上、どうせアストラナガンを見られたところで、化物がもう1機来た程度で済むだろう。

 特に考えずに、自分自身に最も馴染みの深い『伊豆』の名前が出たのは、別にイングラムには一切の問題点はない。

 ただあるとすれば、それは運命の悪戯だろう。


 伊豆の直ぐ近くに、『横浜』があるという、悪戯……










 ───── 後書き ─────────────

 はい。結構むちゃくちゃな設定です。
 フォトンライフルは粒子系バルカン……光学バルカンということにしました。
 ハイヴの反応炉に関してもブラックホールエンジンとか……実際の出力が分からないので、トロニウムエンジンでも良かったので合うが、物騒な名前レベルということでこちらにしました。

 はい。次はいよいよ夕呼先生との対面です。
 イングラム少佐は腹芸は……まぁ、探り合い、化かし合いなら得意でしょう。
 問題は、少佐が何年何月何日にこの地に来たのか、後は武に対してどんな印象を抱くか。


 頑張って、冷静ながらもお茶目な少佐を書けるよう、努力する次第であります!





[6228] 横浜襲撃
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:17










 漆黒の宇宙空間。

 そんな中、アストラナガンは降下準備を始めていた。


 目標地点は、伊豆。

 かつてSRX計画を進め、SRXチームを養成した、自身にとっても思い入れのある地である。

 周辺の状況を確認したところ、横浜、横須賀、厚木と思われる地区に比較的大きな基地を確認している。

 いざとなれば、そちらに向かえばいいだろう。




 「──── ん?あれは……」




 降下の準備を行なっている最中に目に付いたもの。

 正確にはアストラナガンが認識したものであるが、そこでは今まさに、何者かの手によって船の様なものが作られていた。

 特別大きいというわけではないが、それでも大人数の人間が乗れるほどのものだろう。

 それが、今まさに地球から淘汰されつつある人間が作っているのだとしたら……



 「なるほど、ここの人間は地球を棄てるか」



 考えられるのはそれくらいだ。

 ……まぁ、アレがマクロス級のように変形して戦う、と言うのならまた話は変わってくるのだろうが。



 「だが、……おそらくは、無駄なことだろう」



 あの月や地球に巣くう地球外生命体。

 アレがこの宇宙にどれだけ存在するのかは分からないが、もしSTMCと同等かそれ以上だとするのなら、あの船に乗る移民団も100年とせずに滅ぼされるだろう。

 運良くあの地球外生命体を屠る種族が周辺宙域に存在していたとしても、隷属させられるのがオチだ。

 ───── それこそ、αナンバーズなどのような、並はずれてお人好しな戦闘集団のようなものがいない限りは。




 「──── 人類に逃げ場無し、か」



 かつて、2つの異なる世界で同じ人間の発した言葉。

 ディバイン・クルセイダーズ総帥ビアン・ゾルダーク。

 前者の世界では、様々な異星人やゼ・バルマリィ帝国のことを。

 後者の世界では、今は存在するか分からないゼ・バルマリィ帝国とゾヴォーグ星間連合のことを。


 彼の者は自身を強大なる敵の前哨戦とする事で、来るべき大戦への抵抗力をつけさせた。

 結果、バルマーによる侵略の先兵であるネビーイーム、そのコアたるジュデッカに加え最後の審判者たるセプタギンをも落すことができた。


 ……もっとも最後の1つは、クォヴレー・ゴードンの力によるところも多かったが。














                                         †













 2001年10月23日 国連軍横浜基地 香月夕呼副司令室





 「……あれが本物の白銀武だとして、アイツの持ってきた情報と言えば……」



 2001年12月24日、オルタネイティヴ第四計画の中止と、オルタネイティヴ第五計画の発動。

 確かにこの情報だけを聞けば、自分自身にもう時間はないと言うことは分かる。

 ……だから、何だというのか?

 焦れば結果が出るわけではないし、今最優先でしなければならない00ユニットの管制制御システムというべき中枢機関……量子伝導脳に至っては、今の理論で150億個の半導体を掌サイズなど不可能だ。

 タイムリミットを聞いたから焦る、等というバカなことはしないが、それでも少し急がなければならない。



 ……もっとも、未だに全てを信じているわけではない。

 自身の因果律量子論の結果であろう事は、別室のシリンダーや国連軍・及び帝国城内省の情報から、ほぼ間違いないと言っていい。

 だが、まだあまりにも精神が未熟すぎる。

 理想だけでは世界など救えない、犠牲無くして大願成就などあり得ない。今はそんな時代だ。



 「まぁ衛士としてはそこそこ腕に自信があるようね。肉体に関してもどうやらループする直前のまま……」



 また、本人が体験していても忘れてしまっている情報というのもあるだろう。

 当分は様子見、と言ったところだろうか。


 軽く溜め息をついた時、自室のインターホンがなる。




 『香月博士、至急司令室に来て下さいっ!』

 「なによピアティフ、そんなに焦っちゃって……」

 『現在大気圏外から落下する物体を捕捉!質量はそれほど大きくないらしいのですが、どうも人工物かBETAのようで……』

 「っ!?すぐに行くわっ!」



 あんのバカ、こんな直ぐにとんでもない出来事が起きるなんて、聞いてないわよっ!










 同日 国連軍横浜基地 中央司令部



 「状況はっ?」

 「現在、高度100キロメートル。突入加速に入った状態です。既に戦術機甲部隊にはスクランブルをかけましたが……」

 「いいわ、ありがとう。迎撃には撃震の部隊を出しといて。……そうね、取り敢えず3個中隊でいいかしら」

 「了解」



 直ぐさま撃震を主としている部隊に待機命令を出し、その後に備える。

 落下予測地点が相模湾とでている以上、迎撃態勢まで取る必要はないのだが、それはやはり落ちてくる物による。


 破壊された衛星やそれに準じる物ならば、落下の様子を見た上で被害が出そうなら、狙撃なりなんなりさせればいい。

 もっとも、相模湾に落下したとしても、津波程度で済むと言えば済むのだが……。

 むしろ懸念されるのは、BETA関連の物が落ちてくるという可能性。

 かつて喀什におちたユニットは、そこを拠点としてハイヴによる占拠を周囲へと進め、今でも各方面への親交の中央拠点となっている。

 また1974年7月、北アメリカ大陸カナダ、サスカチュアン州にユニットが落ちてきた時は、米軍による戦略核兵器の集中運用で殲滅した……が、その結果重度の放射能汚染により、人の住める地ではなくなっ

た。
 


 ……もっとも今更横浜に落したところで、BETAにはそれほどの利益があるとは思えないが……相手はBETAだ。何を考えているかなど、分かるはずもなかった。



 (白銀なら知ってるんでしょうけどね……ってそうだ、白銀っ!)



 アイツに聞けば今回の事件に関しても何か知っているはずだ。

 最悪知らなかったとしても、それは歴史に改変が入ったということであり、全部が全部悪いというわけではない。


 ……もっとも、それがBETA関係ではなければの話ではあるが……











 横浜基地 ミーティングルーム



 「──── と言うわけでお前達は室内待機だ。以後の命令は……」

 「まりも、ちょっと失礼するわよ」

 「ゆっ……香月副「あぁ、ちょっと白銀借りてくから」ってちょっ、夕……香月副指令っ!」



 白金の首根っこを持ちながら去っていく夕呼をまりもは止めようとしたが、追いかけるより先にブリーフィング室を出てしまった。

 後に残るのは、呆然とした207B分隊の面子。

 そんなことをよそに、夕呼は白銀を自室へと連れて行く。

 まだ落下加速を始めたばかりというのならば、数分の余裕はあると見て良いだろう。







 「──── で、知らないと?」

 「は、はい。俺が知っている事件で似ているのは、珠瀬事務次官がやってきた日にHSSTが落ちてきたことくらいで……それだって、もっと後だったはずです」

 「そう……」



 どうやら、白銀の記憶には全くない事象のようだ。

 今落ちてきているのは、間違ってもHSST等ではない。

 推定予測40~50メートルサイズの物体。

 BETAであるとすれば要塞級がちょうど良いくらいだが、わざわざ要塞級一体を送り込んでくる理由がない。

 衛星などのような人工物にしても、国連宇宙総軍から一切の通達がないのはおかしい。



 (痺れをきらしたオルタネイティヴ5の連中かしら?……それにしたって、こんな警告したって意味は大してないわよね)



 こちらを焦らせるためなら、こういった実力行使などよりもっと現実的な方法があるはずだ。

 あり得ないことではないが、あまり確率は高くないだろう。



 「まぁ幸いここに落ちてはこないし、様子見かしらね」

 「……すみません、俺……」

 「んなところで落ち込んでる暇があるなら、自分のできることでもしていなさい。時間は無限にある訳じゃないのよ」

 「はい……」



 落ち込んでいる、と言うよりも、ループした次の日にいきなり記憶違いのことが起きて混乱しているだけだろう。

 それも結局、精神が未熟故なのだろうが……



 「──── ピアティフ、一応基地を防衛基準態勢2へ移行」

 『了解』



 とりあえず、これでどうにかならなければ終わりだろう。

 横浜基地の虎の子である伊隅ヴァルキリーズ。

 何もないに越したことはないが、何かあった場合には彼女たちがこの基地防衛の要だ。



 「……っと、いつまでもここにいるわけにはいかないわね」



 何にせよ、上からの通達がない以上無視して構うまい。

 もし何かしらの問題があったとしても、避すだけの準備はできる。

 あとは……本当に、今落下している物体がこちらの害にならなければいい。











                                      †














 建造中の大型宇宙船を横目に、アストラナガンは降下シークエンスに入る。

 どこぞのファーストなガン○ムとは違い、単体での大気圏離脱及び突入が容易にできる。

 もっとも、何も対策を講じずに、また入射角計算も行なわずに再突入するほど愚かではない。

 もし何もせずにそのまま重力に引きずられれば、アストラナガンの玉のお肌に傷が付くことは必至である。……ズフィルード・クリスタル故、直ぐに修復してしまうだろうが。




 「──── 軌道入射角計算終了。念動フィールド出力30%。……フィールド防御による突入角誤差±0.1%」




 地球に降り立つと言うことだけが目的ならば、ティプラー・シリンダーを動かして空間転移すればいいだけの話ではある。

 しかし、今目の前に広がる地球の技術が、空間転移の反応を察知できるかと問われれば、イングラムとしては答えることはできない。

 下手な刺激を与えれば、情報を得る前に地球全体の敵となり得る。
 
 この世界での目的は、今まで散々自分の因果に巻き込んできた地球に対する、せめてもの詫びである。

 故に、空間転移で大きな刺激を与えるくらいなら、宇宙から降下して存在を示した方がまだましだ……という考えに基づくものである。


 ……もっとも、巨大人型兵器が空から降ってくる時点で、地球人に対して大きな刺激を与えるのには違いないのだが。




 「突入進路クリア。落下予測地点、伊豆北東40キロ相模湾内」




 目標としているのは、相模湾のおよそ中心部。

 更に詳しくいうと、伊豆市と横浜市を直線で結んだ場合の中間点。

 横浜、横須賀、厚木に軍施設と思われる場所があるため、もしかしたら何かしらのコンタクトがあるかもしれないが……




 「──── 降下開始」




 今、漆黒の堕天使が地球に舞い降りる……















                                        †













 「各戦術機甲部隊、準備完了!」

 「不明物体、なおも加速しつつ落下!現在高度50!」

 「さて、そろそろ光学映像でも見える頃だと思うけど……」




 遅い。

 突入準備に入ってから実際の突入までの時間が長すぎる。

 こうなるともはや、無人の人工衛星などと考えるよりはBETAだと思った方がよっぽどしっくり来る。

 もしくは、何らかの計画による有人操作か……




 「距離800!目標のシルエット確認!……えっ?な、なに、これ……」

 「せっ、戦術機?……違う、推定40メートルの人型ユニットですっ!」

 「……なによ、これ……」




 映像に映し出されているのは、何らかの力場を纏っているのだろうか。

 摩擦熱の膜が周辺を覆っている、漆黒の人型ユニット。
 
 それは背部に大きな翼を携え、地球へと降り立とうとしている。

 少なくとも、BETA程の嫌悪感は覚えないが、その姿は見た者の背筋を凍らせるには十分だった。

 それと同時に夕呼の頭をよぎったのは、アメリカで計画凍結されたHI-MARF計画の機動兵器XG-70。

 アレもまたラザフォード場をコントロールすることで重力制御を行なうものだが、あれはあんなに『小さく』ない。

 XG-70bですらも、100メートル以上はあったはずだ。



 (まさか、ML機関の自動制御と小型化に成功ッ!?……なわけないか。となると、何らかの要因で宇宙に打ち上げてた機体が突然落下しだしたか……パイロットがミンチになって制御不能になったか)




 どちらにせよ、今の状況が良いモノとは思えない。

 国連宇宙総軍から何の通達もない以上、アレは管轄外なのだろう。




 「……落下速度もそれほどではないわね。津波の心配はそれほどではない、か」

 「確かにそうかもしれませんが……何なんでしょうか、アレ」

 「それはアタシの方が聞きたいわね」




 まったく……白銀と言いあの人型ユニットと言い、なんでよりにもよってここに来るのだろうか?

 これが白銀の因子が運んだ終焉へのカウントダウンだとしたら、奴をできる限りの方法で呪ってやる……そう、心に誓う夕呼であった。












                                         †












 
 「──── ロックオンは無し。だが基地には機動兵器を展開、か」



 現在高度は20キロ。

 念動フィールドの影響もあり、速度はそこまで出ていない。

 おそらく、落下による被害はない物だろうと考えたのだろうが……あの人型機動兵器には些か興味が湧いてきた。 



 「ふむ、些かこの世界の文明を甘く見ていたか……?」



 高度10キロを切ったくらいだっただろうか。

 アストラナガンのレーダーに、つい最近捕らえたことのある光点が映し出される。

 謎のエネルギー炉。 それが、横浜と思しき場所の地下深くで感じられる。

 その横浜には基地と思しき物があり、中隊ほどの人型機動兵器が警戒している。


 
 「──── フフフ……」



 漆黒の堕天使は着水直前に進路変更し、『横浜基地』へと疾駆した。












 
 横浜基地司令本部




 『──── も、目標は進路変更! 北上しています!』

 「目的地はここか、それとも厚木か横須賀か帝都か……部隊展開。 上空を素通りするようなら無視して構わないわ。 攻撃をかけてくるようなら迎撃。あわよくば捕縛ね」

 『『りょ、了解っ!』』




 目標としていた漆黒のユニットは、着水前に背部のユニットを展開させて急減速。

 有人機が業とそうしたのか、無人機が眼下の海に反応してそれを行なったのかは、まだ分からない。

 目標ユニットは狙いをこちら側に定め、急速接近中。

 飛行速度は、マッハ4。単純計算で300秒後……5分後には、この基地上空へ到達する予定だ。

 スピードもさることながら、先ほどの機動。 ミサイルによる迎撃など、おそらく意味などなさないだろう。
 



 「……まさか、BETA以外の宇宙人だとでもいうの?」




 その、当たってはいないが完全に外れているわけでもない答えに疑問を抱く。

 確かに、地球人という存在がこの場にある以上、別段異星人がいたとしても何ら不思議はない。

 だが、もしそうだとしたら何故今頃現れたのだろうか?
 
 BETAと戦争をしているもう1つの星系国家?在処もしれないが、わざわざ地球に来る必要性が感じられない。今見せられている技術だけを見れば、BETAに対抗することが容易なのは見て取れる。

 BETAを駆逐する代わりに星をよこせ、と言うのも考えられるが……むしろこちらの方が考えにくい。

 そうしたいのなら、地球人類が滅亡してからでも遅くはないだろう。


 マッハ4という高速でこちらへと向かってくる漆黒の機体。

 翼からは光り輝く何かが絶え間なく噴出し、魅入ってしまうほど美しく光が舞っている。

 翼が生えているということさえ除けば、完全なまでの人型機動兵器。……いや、翼人型機動兵器とでもいうべきか?
 

 だが、完全に絶望だけがあるわけではない。

 アレが曲がりなりにも『人型』をしているということは、アレを作った存在、またはアレに乗り込んでいる存在は自分たちと限りなく似た二足歩行知的生命体……言うなればヒトである可能性が高い。
 
 BETAと違い、ヒトならばコミュニケーションを取ることも可能……の筈だが、あいにく先制攻撃を行なったのはこちらであり、このまま壊滅されても文句は言えない。

 が、座して死を迎えるなどということだけは、認めることができなかった。



 「ピアティフ、できうる通信パターン全てを使ってアレと交信して頂戴!」

 「了解っ!」



 様々な周波数の通信から光によるモールス信号、果てはシャッタ通信まで使っている。

 どこから取り出したかは知らないが、シャッタ通信でどうにかなるだろうかとも思ってしまう。

 いっそ白旗でも掲げる準備でも進めておこうか?

 そんなことすら頭をよぎったが、それは最後の手段だろう。

 大体、今接近している対象にとって白旗が降伏を表すとは限らないし、実際どこぞの軍隊は、『白旗=相手を1人残らず殲滅する』を意味している。

 もっとも、夕呼自身はそこまで悲観的ではない。

 もしアレが、白銀と同じように『因果律量子論』に関係する存在なら……















                                       †













 「───── ほう、攻撃より先に通信によるコンタクトか」



 先ほどから、アストラナガンにはひっきりなしに、様々な手段で通信がよこされている。

 しかもよくよく見てみれば、基地の方角では光が点滅を繰り返し……それがモールス信号である事に気づいたのは、この後に行なわれる戦闘が終わってからだ。


 こちらを迎撃しなかったのは、何か目論見があるからなのか。 それとも攻撃手段が無かったのか……

 その内白旗でも上がるのではないか、等と考えて頬をつり上げる。
 
 ここいらで通信に答えるのも良いが、それでは面白くない。

 未だ敵戦力 ──── 実際は敵とすら認めていない人型機動兵器ではあるが、アレがどれくらいやるのか、というのは実際に体験してみたい。

 ゲシュペンスト系統よりもヒュッケバイン系統を模したような姿。

 ただパーソナルトルーパー等とはまた違う分野の機体に思える。

 全体的にほっそりとした体躯に、背部ジョイントに搭載されている火器。 

 何より興味深いのは、あの基地直下に存在しているエネルギー反応。

 月にあったモノとほぼ同等のエネルギー炉があるということは、あそこがかつて月の異星人に占拠されていたか……あり得ないことではないが、あの機動兵器すら異星人の物なのか。

 通信が来ている上に、それが様々な言語 ─── 主に日本語と英語だが ─── で問いかけが来ているので、未だ異星人がいるという確率は少ないだろう。



 「───── Z・Oソード」



 右手に持った柄から、ゾル・オリハルコニウムで構成される刀身が伸びる。

 背部翼から噴出されるモノと同じ色の ──── 淡い緑色をしたそれは、あらゆる物を裁断する剣。

 かつてあらゆる敵を屠ってきたその剣が今、横浜基地へと向けられる。



 「リュウセイ達ほどは望まないが、少しでも楽しませてもらいたいものだな。フフフ……」



 元の……元というと多少の語弊があるが、以前までのサディスティックな笑みが表情に出る。

 アストラナガンもまた、主に答えるかのように真紅の双眼を光らせた。

 接敵まで、残り20秒……










 

 サイズからして戦術機の倍の大きさ。

 加えて音速を超える速力に、外部センサーから入ってくる情報に映るのは、右手に緑光色に光る剣。 その刀身だけで、戦術機の全高に達するだろう。

 上空を通り過ぎてくれ。

 撃震に乗るパイロットはただそれだけを考えていた。
 



 ……だが無情にも、その『悪魔』は自分たちの上で止まった。

 見下ろす眼光が、自分自身の目を射抜き、右腕が振り上げられる。



 『うっ、うわぁぁぁぁっ!』



 つい最近衛士となった新人が、パニックのあまり突撃砲の引き金を引き、それを合図に数機の撃震が銃を乱射する。

 敵は上空でほぼ静止状態の上に、的は大きい。

 全ての撃震が全弾命中させて ────── ズフィルード・クリスタルの装甲にかすり傷を負わせた。



 「なっ!あれだけの銃撃で、あの程度だとっ!?」



 実際はかすり傷ではなく、もう少し大きな傷ができていた。

 しかしズフィルード・クリスタルの3大要素『自己進化・自己増殖・自己修復』により、その傷は瞬く間にふさがる。

 もっとも、念動フィールドを張っていないと言うハンデがあってこれである。






 「──── データ収集。索敵モードオフ。量子波動エンジン出力50%。兵装ロック……」



 一切の索敵モードを外し、視認戦闘を行なうアストラナガンと、そのパイロットであるイングラム・プリスケン。

 敵機動兵器に関するデータ収集をコンピュータに任せ、周囲を全天周囲モニターで確認する。

 正面に、大きな刀に似た長剣を装備した機体が6機と、マシンガンタイプの銃を構えるのが30機。

 その内、先の行動において銃撃をしてきた機体は6機。

 モデルとしてはゲシュペンストよりもヒュッケバインに近いが、全体的にスリムというか、所々 ─── 主に肩部と大腿部 ─── が無駄に大きいところが、逆に弱々しさを感じさせる。



 「……データが足りんな。モーションセレクト、オートA」



 本気など出そうものなら、この程度の基地なら1分とかからずに灰燼と化してしまうが、目的はそんなことではない。

 当面は、目の前にいる機動兵器の特性、動き、癖。

 見たところ、シュツバルトのような重装火力型は存在しない。

 機動力に能力を振った、地上用ヴァイスリッターと言ったところだろうか。

 大まかな斬撃だけを繰り返すのだが、それでも動きの硬い機動をする者は、それによって腕や脚を失っていく。、





 「ちっ! 新人どもはバックアップに回れっ! 動きは単調だっ、このまま回避しつつ攻撃を加えていくぞっ!」

 『『『了解っ!』』』



 相手の間合いは、踏み込みを含めても大凡60メートル。

 先ほどから頭部バルカン砲と思われる場所からも、銃弾を乱射してきているが、それとてある程度近づいた機体に対する牽制程度。

 緩慢な動きではあるが、近接戦闘を仕掛けようなどとは思わない。

 直ぐさま背部パイロンの突撃砲へと持ち替え、小隊事に斉射していく。

 与えているダメージなど、ほとんど無いだろ。だが、現状できることはこのくらいだった。






 「モーション、オートB。……なるほど、エンジン出力はAMやPTに比べるまでもなく低いな……だが、この出力でこれだけの機動兵器を動かす技術は興味深い」



 それに対して、戦う者としての顔から、もはや研究者、開発者の顔となっていくイングラム。

 もともとSRX計画の中枢で機体開発などを行なっていた上、またこのアストラナガンもラ・ギアスなどの異世界技術をふんだんに使って、自分でくみ上げている。
  
 完全オート状態で周辺を攻撃……もっとも、攻撃といってもZ・Oソードによる大振り攻撃とフォトンライフルによる牽制程度である。

 それでも、フォトン粒子はたやすく戦術機の装甲をぶち破るため、イングラムに対する機甲部隊は必至になって避けている。

 打開策など無い。

 G弾でも使えば排除可能かもしれないが、一度使われているこの場所で使うことは断固拒否であるし、何より実物がない。

 
 36mmはおろか、120mmすらたいしたダメージは与えられていない。

 かといって近づけば、邪魔だとばかりに頭部バルカン砲から得体の知れない物を撃ち出してくる。
 
 だが、身の危険を感じるかと言えばそうではない。

 先ほどから、攻撃を掛けているものに対する迎撃は、それこそバルカン砲のみだ。


 




 ───── すこし遊びすぎたが、データは集まった。

 集めたデータをアストラナガン内に保存し、不可視のコンソールを操る。



 「モーションセレクト、マニュアルへ。トリガー用設定……ディレイ有り……」



 先ほどのまでの大振り攻撃を止めて沈黙する巨体に、後期だとばかりに一斉攻撃が入る。





 「──── そろそろ終わりにしよう」














                                           †











 横浜基地司令部 香月夕呼


 動きの遅い所属不明機。

 圧倒的速度でやってきながら、行なう動作は剣を雑に振るか、頭部機関砲から銃弾をまき散らすことだけ。

 だからこそ、動きが止まった時に好機などとは思えなかった。

 それはおそらく、破滅をまき散らすための準備を行なっているのだろう、と……そう思ってしまった。











                                          †













 沈黙したはずのアストラナガンは、突如その動きを変える。

 大振り攻撃はなりを潜め、その剣戟は的確に周囲に群がる撃震を ──── 関節部分を狙って振るわれていた。



 「ば、バカな……」



 敵機再起動から、5秒。

 6機の撃震が、手足を完全に奪われていた。



 「さ、散か……っ!?」



 自身が散開を命じるよりも速く、その機体は再び宙を舞い、バルカンの雨を降らせていく。

 咄嗟の出来事に、多くの衛士の動きが凍り付き、為す術もなく破壊させられていく。

 間断なく撃っていたはずの36mm、120mmによる傷すら、背部には存在しない。

 

 「そんな、バカな……」



 自動で装甲を修復する装置など知りもしないし、何をどうやったら装甲が元に戻るのかも分からない。

 だが、目の前の機体は確かに、傷つけられた部分を修復したのだ……それもほぼ一瞬。整備員泣かせというしかない。

 ……3個中隊、つまり1個大隊が壊滅するまで、僅か30秒。
 
 キルレシオ30:1? いや、目の前の悪魔には∞:1としても、おつりが帰ってくるほどの危険を感じる。




 『……フッ、この程度か』

 「っ!?」



 男の声で、日本語……

 少なくとも、アレに乗っているのは言葉を話すことができる。
 
 そんな音声が、外部拡声器と思われる物で周囲へと流される。

 もちろん、司令部などの室内にも、同時に通信が行なわれている。



 
 『もう少しやると思っていたのだがな……』

 「……あんた、何者?」

 『答える義務はないな』

 「そう……まぁ、BETAに関する物じゃない訳ね」


 (ベータ……あの月にいた存在の呼称か?)



 何の略称かは知らないが、現地でそのような呼称がある以上自身もそうだと認識した方が良いだろう。

 と、思考のループにでも入っていたのか、こちらに届く音声には怒声が入り始めている。



 『いい加減に黙りは止めなさいよねっ!』

 「……なんだ?」

 『っ!ったく……それだけ日本語がペラペラだと言うことは、アンタ、日本人?』

 「……いや、違う」



 作られた存在、クローン人間だ。等とは言えなかった。

 事実ではあるが、どう考えても面倒事しか引き起こさない要因である。



 『そ、なら次。なんでここにきたのかしら?』

 「言う必要はないな」

 『……』

 「……」

 『……一応確認取るけど、人間、よね?』

 「あぁ……『ヒト』だ」

 『……降りて、話できるかしら?』




 今のところ、夕呼側が失ったのは中破~大破した撃震36機。

 もし目の前の対象が反オルタネイティヴ4の人間なら、このまま基地を破壊すればいいだろう。

 別の星の侵略軍の先兵であったとしてもまた然り。

 だが……もし『因果律量子論』による『異次元の存在』なら……



 『──── あぁ、良いだろう』



 ……利用できるかもしれない。











──── 後書き ────────────────────

 書き直しました。
 もう完全に変わってしまいましたが、どうにかなおしました。
 
 常時1個大隊が待機状態にあるのかなぁ?等という懸案事項はありますが、そこはそれ。創作物ということd(ry








[6228] 交渉
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/03 00:18












 『──── あぁ、良いだろう』




 その瞬間、夕呼の頬がつり上がる。

 アレにさえ乗っていなければ、中の人間などどうとでもなる。

 仮に、中の人間が不死身の化物であろうと、交渉の余地はある。



 「そう……なら、こちらから案内の兵を2人出すわ。後はその2人に……」

 『案内は1人でかまわん。 それと……ここは横浜であっているな?』

 「?……えぇ、ここは国連太平洋方面第11軍、横浜基地よ」

 『そうか』




 横浜の地名を知っている……とすると、やはり中に乗っているのは地球人か?

 だがそれにしても、今この世界のどこを探しても、あれだけの機動兵器を作る技術などない。

 
 (となると、やっぱり白銀みたいに別の世界から来ているか……それとも、地球を知っている異星人か……?)


 断固として、『今現在の』技術で作られていると認めない夕呼であった。









                                   †










 「……さて、もう一度聞かせてもらおうかしら。 あんたいったい、何者なの?」

 「……答える義務はないな」

 「「……」」



 かれこれ30分、この調子である。

 アストラナガンの中で『何故かあった』士官用連邦軍制服(白基調)に着替えたイングラムは、そのまま案内としてよこされた女性に言われるままに、この地下の夕呼の部屋へと来た。

 ちなみに、案内としてよこされた夕呼の右腕でもある秘書中尉は、戦々恐々とした面持ちで案内していったのを付け加えておく。


 もちろん、自身の命が狙われていることも考慮に入れている。

 いざとなれば、この地下施設を全壊してでも、アストラナガンを呼ぶつもりである。

 そのアストラナガンも、現在は基地のど真ん中に直立状態 ──── 人工AIによる半自立状態であるため、兵士は誰一人として、近寄れないでいた。


 さて、場面を戻してみると、相変わらず仏長面のイングラムと、こめかみに怒りマークを出し始めた夕呼が、相も変わらず相対している。

 ちなみに、案内役であったイリーナ・ピアティフ中尉は、このにらみ合い開始5分後には、居たたまれなくなって部屋を退室している。

 
 (……ここまで何も言わない男とはね……それにしても……っ!)


 
 「アンタねぇ、いい加減なんか言ったらどうなのっ!?さっきから『答える義務はない』の一点張りじゃないの! 降りて話をするっつったのはアンタでしょ!」

 「……それならば、自分から話すのが筋ではないのか? 俺は確かに降りて話すとは言ったが、貴様に言われたからそうしたのであって、俺から積極的に話があったわけではない」

 「くっ……」


 
 たしかに……確かに自分がそう言った。しかし……

 (こいつ、絶対に折れるつもりはないわね……)

 先ほどからのれんに腕押しのような問答に、さしもの夕呼にも疲れが見え、結果……



 「……そうね。 アンタがこの世界の事を『全く知らない』という仮定で話すわ」



 夕子自身が折れる羽目となった。








                                      †








 「───── という状態よ」



 2時間後、そこには現行の技術レベルと世界状況を知り、納得したイングラムと、いちいち細かいことまで聞いてくるイングラムに対して科学者魂に火をつけてしまったのか、少々余計なことまで喋ってしま

ったことを後悔している夕呼の姿があった。
 
 いや……あれは喋ってしまったというものではない。 喋らされてしまった、だ。
 
 この男、見た目以上に話術が巧みである上に、持っている知識も膨大なものがある。




 「なるほど。それで、貴様はその『オルタネイティブ4』の推進者であり、『オルタネイティブ5』には反対している……また『オルタネイティブ4』には日本……いや、日本帝国がスポンサーとしてついてい

る。 だが、当の国連を実質的に操っているアメリカからすればそれは面白くないことであり、4から5への移行を既に考えている……そんなところでいいんだな?」

 「理解力が高くて助かるわ。それじゃあ今度はこちらからの質問よ。アンタ、いったい何者なの?」

 「イングラム・プリスケンだ」

 「……もしかしなくてもさぁ、あたしをおちょくってんの?」

 「フッ……貴様ほどの知識があるのならば、俺の存在など大体の予想はついているのだろう?」

 「……じゃあやっぱり、平行世界の存在、ってわけね」




 2時間の解説の中で、うっかり語ってしまった因果律量子論。

 質問が一切無かったか事から、もしかしたらこちらの知識もあるのかと思っていたが、こちらの想像以上にあるようだ。
 
 おそらく、『この世界』にコイツの知り合いがいるか、もしくはこいつ自身が、白銀武の関係者であるか……だが、白銀がコイツの襲来を知らなかった以上、後者はハズレだと思った方が良い。

 それに……と、目の前にある液晶に目を落とす。

 隣の部屋には社を待機させているし、何かしら虚言があれば直ぐに……




 「……いい加減、他人の『心』に干渉するのは止めてもらいたいのだがな」

 「……なんの話?」

 「とぼけるのは貴様の勝手だが、隣室からこちらに干渉させているのは貴様だろう?」

 「なに、アンタってエスパー?」

 「どう取ろうと自由だ」

 「(まさか、コイツもESP能力かなんかあるのかしら?)……そう、気づいているのならいいわ。 社」




 おそらく、この男相手に隠し事など無駄なのだろう。

 そう評価をつけた上で、隣室に待機させていた社を部屋に入れさせる。

 
 オルタネイティブ計画において作られた存在。 第6世代ESP能力発現体。

 社 霞。

 だが……




 「……」
 
 「……」

 「……」

 「……社?」




 隣に声は聞こえているはずである。 しかし、肝心の社は部屋へと入ってこない。

 何かあったか?

 そう思い、目の前の男に一言言って、社の部屋へと通じるドアを開く。




 「っ! 社っ!」

 「……」

 「……気を失ってるだけのようね」

 「フッ……他人の『心象風景』が、必ずしも誰もが『見られる』ものではないと言うことだな」

 「(コイツッ……!)」




 思えば、先ほどの話の切り出し方もおかしかった。

 ESPで心を覗かれていると分かるのであれば、気づいたその時点でこちらに言えばいい。

 だがこの男、敢えて見られていると言うことに眼を瞑り、話を長引かせた上で社に『何か』を見せていたのだ。

 おそらく、話を切り出したのも社からの干渉が途切れたからだということであろうが……



 実際は受けていた念に近いものに対して、瞬間的に逆流の念を送っただけなのではあるが……




 「……アンタ、本当に何者なの?」

 「フッ……」

 「……質問を変えるわ。 あの機動兵器、あなたが作ったの?」

 「そうだ」

 「へぇ~……で、あんなものを持ち出してここに来たのは何故かしら?」

 「……強いていえば、借りを返しに来た」

 「借り? 一体誰に?」

 「……」




 沈黙……この男、自分のことに関しては何も語ろうとはしない。

 強大な力を持ちながらも、借りを返しに来た、と。

 この男に借りを作ったのがどれほどの存在かは分からないが、おそらく、碌なものじゃないだろう。

 

 ───── この男の存在を利用するなど、所詮無理な話だったのか。

 そう思っていたからこそ、この後に出てきた男の言葉には耳を疑った。



 
 「──── まだ実機を詳しく見ていないから何とも言えんが、協力くらいはしよう」

 「……はっ?」

 「この世界の技術に、いくつか興味深いものがあった。 お前の研究も含めてだが、それらの提供の代償として、こちらも幾らかの技術提供と戦力を貸そう」

 「……何を考えているかは知らないけど、アンタはそれで良いの?」

 「言ったはずだ。 俺は借りを返しに来たのだと」




 あんな化物機動兵器を作っておきながら、こちらの世界の技術に興味がある?

 技術だけではない。 『アタシの』研究にも興味があると言っている。
 
 
 ……この男の思惑は、全くと言っていいほど読みとれなかった。

 全く、この男に貸しなど作ったのはどれだけの化物なんだか……



 だが、夕呼は知らない。

 イングラムに貸しを作った集団は、全銀河系の中でも超弩級のお人好し先頭集団であることを……そして、それを『貸し』などと思っていないことも。




 「……アンタにどんな思惑があるかは知らないけど、こちらとしては魅力的な提案ね。 それで、先ずこちらが提供すればいいのは何かしら?」

 「フッ、話が早いな。 先ずは先ほどの機動兵器……戦術機、と言ったか。 あれらの設計図、ソフトとハード両面だ」

 「技術としての提供ね。 あとは?」

 「貴様の提唱する『因果律量子論』の情報。 この基地の地下にあるエネルギー源。 たしか『反応炉』だったか。 あとは、例のBETAに関するもの。 ……現状これだけあればいい」

 「そうね……BETAに関しても、詳しい生体などはまだ分かってないわ。 反応炉に関しても同じよ」

 「かまわん。 情報の整理はこちらでする」

 「そっ。 なら早めに用意はするけど……アンタはどうするのよ?」




 考えてみたら、この男に戸籍など存在しない。

 それどころか、ここに来たことは世界中に……とりわけ帝国軍には大きく知らされているだろう。

 
 別の世界から来た異邦人です……等と言って納得してもらえるならそれで良いだろうが、現実はそうもいかない。

 たとえ日本語がこれほどまでに流暢だとしても、こいつの名前は少なくとも、日本人ではない。 名前だけではない、顔立ちからして、西洋人だ。

 おそらく、今頃上には様々な方面からいろいろな情報が来ているとは思うが……




 「アンタが良いのなら、一応ここの所属にすることもできるけど?」




 これだけの知識と技術の固まり、他に横取りされるのだけはマズイ。

 だからこそ、この提案を出した。

 
 ……いや、この提案にしても本来無意味だ。

 コイツの持つ力を縛ることなど、もはや世界中を探したとしても見つかるまい。

 あるとすれば、コイツの興味を引いているらしいアタシの論文くらいなのだが。




 「───── 貴様が他の団体に対して説明、根回しがきちんとできるのであれば、それでもかまわん」




 ……訂正。

 コイツを縛ることは確かにできない。

 そもそもコイツは自分の興味がある分野にしか一切の目を向けないようだ。




 
 「……なら一応、部屋を用意させておくわ。 あと表の機動兵器だけど……」

 「アストラナガンだ」

 「アストラナガン、ね。 一応ハンガーを空けておくから、そっちに入れておいてもらえる? 勿論、誰にも手出しはさせないわ」

 「いいだろう」




 話は一応纏まった。

 コイツの思惑はどうでアレ、一応敵ではないらしい。 もっとも、味方と判断するにもまだ早計ではあるが……



 一方のイングラムも夕呼の持論である『因果律量子論』には非常に興味をそそられた。

 自分自身、おそらくこの理論を構成する事象の一部によって、今までユーゼス・ゴッツォなどゴッツォ家の存在に良いようにされてきた。
 
 もし、この地でその理論解析ができれば……上手くいけば、永遠にゴッツォ家と運が切れるのだ。

 そのためであれば、一切の協力を惜しまない。

 
 自身に掛けられた、呪縛とも思える因縁から解き放たれる。 そう思っていた時だった。




 (タケ……ちゃ……)

 「ッ!?」




 強いような、弱いような……よくわからない念が、自分自身へと届く。

 目を前に向けるが、蒼銀の少女は、未だに意識を失っている。



 (何かを求めるような念ではあったが……まさか、サイコドライバーか?)



 サイコドライバー

 それは、念動力、精神感応能力、透視能力、予知能力といった『神の頂に登ることのできる超能力者』とも言われる。

 イングラム自身念動力者ではあるが、サイコドライバーほどの力は持たない。

 
 だが、サイコドライバーの真価はそのような副次的なものではなく、もっと大きなもの。

 すなわち、宇宙の記録とも言える『アカシックレコード』に干渉できることにある。

 アカシックレコードに干渉すると言うことは、まさしく神の行為そのものであり、それ故に、イングラムも過去、サイコドライバーとしての素質があるものを鍛えてきた。



 (まさか、リュウセイほどの念動力者が?……いや、ありえん話ではないか)



 某かの平行世界である以上、この世界にリュウセイ・ダテという人物がいてもおかしくはないが、少なくとも旧西暦の時代である今の時期では期待薄であろう。

 それでも、念動力者が存在していてもおかしくない。 ましてサイコドライバーともなれば稀少だ。




 「───── えぇ、1室空けておいて。 後で連れて 「おい」 ……ちょっと待ってて。 なに?突然」

 「この基地には、先ほどのような能力者は他にいるのか?」

 「……能力者って、社のこと? それだったら、この基地にはいな……っ! ……なんでそんなことを?」

 「先ほどのものとは違うものからの干渉……と言うほどのものではないが、声が聞こえたからな」

 「へぇ……参考までに聞かせて欲しいんだけど、なんて言ってたの?」

 「詳しくはわからん。 だが……人の名を呼んでいるようだったな。 たしか、たけ……」
 
 「っ!」




 一瞬変わった夕呼の顔を、イングラムは見逃さなかった。

 おそらく、この施設にはまだ他に何かあるのだろう。 先ほど何も言わなかったことと今の表情から、これが『例の計画』絡みだと想像するのは容易かった。




 「心当たりがある、と言った顔だな」

 「……さぁ、どうかしら?」

 「そこで眠っている少女から受けたものとは違っていたが……俺自身、僅かばかりだが心当たりがある干渉だった。 もしよければ、教えてくれないか?」

 「……」




 この言葉は、額縁通り受け取ってはならない。

 『もし教えないと言うのなら、それなりに考えがある』

 時々夕子自身が見せる腹黒い一面。 そんな一面のような顔で、イングラムは夕呼を見ていた。


 もちろん、夕呼としてもこの男の持つ技術と戦力は惜しい。

 さらに上手くいけば、この男の存在だけで、第5計画の連中を黙らせることができるかもしれないのだ。




 「……いいわ。 隣の部屋だから、ついてきて」




 別に、見せたところでどうにかなるものじゃない。

 霞を横に寝かせると、ピアティフには後で来るように指示をして、イングラムを隣室へと案内した。









                                       †








 隣の部屋にあったものは、イングラムの想像以上のものだった。




 「──── 2年前に、ここにあった横浜ハイブ攻略戦の際、ハイブ地下のホールで、ある物が発見された。 それは柱に繋がれたシリンダーであり、中にはごらんのように、人間の脳髄が保存されていたわ。

もっとも、ほとんどが死亡状態。 奇跡的に……と言っていいかは分からないけど、このシリンダーの中身からだけは、脳波が感じられたのよ」

 「……」

 「もっとも、これにしても反応炉がないと生存できていない状態ね。 もしアレが止まれば、この中身も、直ぐに死ぬわ」

 「……」

 「アンタが感じたのも、おそらく脳波が直接送り込んだ声でしょうね。 一応まだ生きてる状態……?」




 反応がない。
 
 そう思ってイングラムの様子をうかがったところで、夕呼は自分の目を見開いた。


 そこにあったのは、ただひたすら何かを憎んでいるような、『憎悪』の表情。

 夕呼には、それが何故かは分からない。 だがこの時のイングラム・プリスケンは、横浜基地を襲撃した時よりも、遥かに恐ろしかった。



 当のイングラムにしても、これを見て最悪な思い出しかなかった。

 かつてのバルマー戦役、エンジェル・ハイロゥと呼ばれる巨大要塞が建造された。

 その中には数万人とも言えるサイキッカーたちがコールドスリープされており、その念の力の増幅によって、当時のSDF艦隊を窮地に陥れる……筈だった。


 だが、落下したエンジェル・ハイロゥの中にあったのは、想像を絶するものだった。

 確かに、サイキッカー達はいた。 いや、『一応』存在はしていた。

 しかしその全てが『脳髄状態』という残忍な方法をとられており、その手段を選択したのは、他ならぬイングラムの憎むべき敵、ユーゼス・ゴッツォだった。



 (まさか、奴が?……いや、ありえん。 地球がこのような惨状になっているのなら、好機とばかりに力を持つものを拉致するはずだ)



 かといって、あの醜い生物たちが何かの意図を持ってやったとも考えにくい。

 やはり、ユーゼス・ゴッツォが何かしら噛んでいる、そう思って行動した方が良いだろう。

 それに……幸いこの者は、まだ死んではいない。

 今は、それが分かれば十分だった。

 そう思い、イングラムは踵を返す。




 「……あら、もういいの?」

 「あぁ……今後、また訪れるかもしれんがな」

 「そう、まぁアンタとは技術面でもいろいろ教えてくれるみたいだし、この部屋までのパスは用意しておくわ」

 「そうか」




 そう言って、ふと足を止める。

 さて、これからどうするか。


 (……アストラナガンは、特に問題はない。 となると、あの戦術機とやらだが……)


 実機が存在する以上、操縦訓練するためのシミュレータという物は当然存在する。

 毎度毎度訓練の度に実機を動かされては、それこそ燃料代がバカにならない上、新人がいきなり実機を壊さないとも限らない。




 「……あの戦術機とやらのシミュレータは、ここにあるのか?」

 「? なに、みたいの?」

 「技術を提供するにも、現行の技術レベルや操作体系が分かっていなければ、話にならんからな」

 「……まぁ、それもそうね。 いいわ、ピアティフ……あんたをここまで連れてきた子に連れて行かせるから、部屋で待っておいて」

 「わかった」




 そう言って、もう一度脳髄の入ったシリンダーを見やると、今度こそ部屋を後にする。

 
 そして、部屋には夕呼だけが残った。

 もっとも、1人で考えたいこともあったのだが……


 (社のリーディングに反応できる上に、鑑の声を聞いた……となると、あの男も00ユニットの被験体としては問題ない以上だけど……)


 もちろん、リスクの方が多い。 と言うよりも、あの男相手にしらを切りながら被験体にするなど、ほぼ不可能だろう。

 加えて、鑑を見た時の表情。


 (怒り?……いえ、それ以上。 憎悪の表情だったわね。 ……でもBETAに対して、ってわけじゃなさそうだったし……)


 あの男の過去に何かありそうではあるが、期待薄だろう。

 結局技術は提供すると言ったが、アイツ本人に関しては『イングラム・プリスケン』と言う名前と、白銀武同様『因果律』に関連する存在であろうことしか解っていない。




 「……まぁ今のところ敵ではないみたいだし、様子見ってところね」




 今はまだ、結論を出すべき時期ではない。

 幸い、白銀の経験通り事が進んでも、第5計画移行は早くて12月24日。

 それまでにこちらが一定以上の成果を見せれば、第5計画移行は阻止できるし、アイツの知識が加われば、00ユニット開発も一気に進むだろう。 それに……




 「……いざとなったら、アイツ自身をオルタネイティブⅣの成果の一部と公表すればいいしね」




 だが、この時の夕呼はまだ知らない。

 香月夕呼とイングラム・プリスケンの間にはある種の溝があること。

 そしてそれ以上に、イングラム・プリスケンという男は、グランゾンのパイロット並みに、利用されるのが嫌いだと言うことを……













                                        †










 同日 シミュレーター施設前



 「こちらが、戦術機のシミュレーターとなっています」

 「ほぅ……それなりの作りのようだな」




 現在シミュレーターの前にいるのは、イリーナ・ピアティフと99式強化装備を来ているイングラムの2人。

 ちなみに、アストラナガンから香月博士のところまで案内しているから、一応一定の面識はある。

 が、ピアティフにとって居心地の良い物ではない。


 執務室に連れて行ったは良いものの、その後の壮絶なにらみ合いの空気に居たたまれなくなり逃走。

 2時間後にシミュレーターまで案内するように言われたものの、道中イングラムは口を開くこともなく、ただジッと、自分の背中を見ていた。 

 もちろん、それが自身に向けられる好意や敵視の視線などとは思っていない。 思っていないが、あそこまでじっと見られると緊張するのが人間の性である。


 結局、更衣室で着替えてくださいというまでピアティフも口を開くことができず、同時にイングラムも「わかった」の一言しか喋っていない。




 「では、1号機の方へ搭乗してください。 搭乗後の指示はこちらでします」

 「了解した」




 シミュレーターに実際に乗るにあたり、イングラム自身にはいくつかの考えがあった。

 1つは勿論、こちらの世界の機動兵器の水準を知るため。 これは主に武装や機動といったハードウェア的な分野を知ること。

 2つ目は、インターフェースなど、技術分野にまたがることにはなるが、操作形態やOSなどのソフトウェア的な分野を知ること。

 そして3つ目。 イングラムにとっては、これが一番気になることだった。


 それは、T-Linkシステムを利用できるであろう人間、つまり『テレキネシスαパルス』を発生させうる人間を見つけること。

 幸い、T-Linkシステムに関しては検知システムの構造も知っているため、直ぐにでも取りかかれば3日経たずして取り付けできる。

 T-Linkシステムで『テレキネシスαパルス』を増幅してやれば、一定以上の危機察知能力を得ることができる上、念動兵器を使用することができる。

 念動兵器開発が無理にしても、危機察知能力が高まると言うことは、それだけ事態に素早く反応できると言うことであり、強いては部隊単位での生存力がアップする。




 「それでは先ず、戦術機特性検査を行ないます。 座っているだけで構いませんので、楽にしていてください」

 『了解した』




 なぜ、特性検査からしなくてはならないのか。

 ピアティフは香月博士に指示された通り行なっただけではあるが、結果を見ていくうちに、やはり無用のものではないかと思えてくる。


 出ている結果は、極めて冷静。 視覚でコックピット内の計器を見ながら、時折手を伸ばす。

 全速力からの急停止にも一切の反応を見せず、BETAが出てきた瞬間に一瞬反応したが、それも本当に一瞬の出来事。

 何か化物でも見るかのような視線をシミュレーターに向ける一方、イングラムは別のことを考えていた。



 (揺れはたいしたことない……だが急制動時に揺れが大きいのは、慣性制御されていないためか? 動きも直線的なものが多い。 OSのみのせいというわけではないだろうが……)



 その後、検査終了後には自由に動かして構わないと言われたのでその通りにするが、あまりの動作に言葉を失う。



 (着地動作時などの硬直、関節負荷、子供だましのシミュレータ……話にならんな)



 変更可能ヶ所は山積み。 今のところはOS,CPU,関節ジョイントにシミュレーターに手を加えるぐらいだろうか。

 だが、得られたのは問題だけではない。

 この網膜投影システムに関しては、称賛に値すると言っても良い。

 これまでのパーソナルトルーパー(以後PT)や特機では、仮想タッチディスプレイが使用されていた。

 これならば確かに、コックピット内のスペースを節約できるが、結局はそちらの方へと視線を移さなければ見ることはできない。

 反対にこの網膜投影システムは、自身の網膜へとダイレクトに情報が伝わる。 故に、PT等に比べるとよそ見をする必要性は皆無である。


 逆に99式強化装備に関しては、どちらとも言えない。

 強化装備にこれまでのデータを蓄積することができると言うことは、機体が大破したとしても、パイロットさえ無事ならおろし立ての機体でも問題ないと言うことになる。

 だが逆に、緊急事態が発生した時にこれがなければ、データの反映されないまっさらな戦術機に乗ると言うことになる。

 
 ちなみにPTなどは、機体にデータを蓄積させた上で、帰還時に毎回データのバックアップを取っている。

 このデータは容易に通信でやりとりできる上、そもそもPTに使用されているTC-OS ── タクティカル・サイバネティクス-オペレーティング・システム ── には、モーションパターンが豊富に存在する。

 つまり、何も持っていない状態で新品に乗ろうが、直ぐに癖がデータ化されてしまうほどに、操作が容易となっている。



 (取り敢えずは、TC-OS,TGCジョイント,シミュレータ改造と言ったところか。 T-Linkシステム試験機設置も、そう難しくないようだしな。 TGCジョイントは……重力制御は誤魔化しておけば良かろう)



 かくして、科学者としてのイングラム・プリスケンは動き出す。

 戦術機強化プラン。 この強化計画は、後に『ハロウィン・プラン』と呼ばれる。









 ──────────────────
 作者です。
 リアルの方が忙しかったため再プレイすることがなかなかできず、4ヶ月が経ってしまいました。
 ここまで遅くなってしまったこと、深くお詫び申し上げます。
 
 因みに、オルタを再プレイしようと思ったところ、エクストラとアンリミのデータが残っていたので、先ずはそちらをやってます。
 ……AFのバレーしたさに先にAFを攻略したのは内緒(ぁ




[6228] 因果邂逅
Name: G・J◆3b7f0243 ID:397c144e
Date: 2009/06/29 01:27










 シミュレータを1時間ほど体感した後は、そのままピアティフ中尉によって、自身へと割り当てられた部屋へと赴く。

 部屋自体は、おそらくその辺の部屋と変わりはないだろうが、監視の目や耳は多少覚悟していなければならない。

 そもそもの存在自体が怪しいのだし、その程度で動じるほど未熟な精神などしていないが……あまり心地良いものでないのも確かである。


 もっとも、先ほど少女── 社 霞 ── に対して多少なりともアクションを起こしたのだから、全くないとも言い切れない。




「では、こちらがお部屋となっています。 お食事などはどういたしますか?」

「あぁ……何処かで食べることもできるのか?」

「Post eXchange……PXの方でお食事はできます。 必要であれば、お部屋まで運ばせていただきますが?」

「いや、それはいい。 場所の方は?」

「それでは、お連れ致します。 ……ですがその、その服では……」

「……ふむ」




 ピアティフが言っているのは、勿論イングラムが現在着ている『地球連邦軍』の制服のことである。

 部屋のベッドの上には、既に国連軍の制服が置いてある。

 黒を基調としたそれに対し、連邦軍の佐官用軍服は白と青を主体としているため、訓練生と同じような感じではある。

 もっとも、その存在自体と付けている階級章のようなものから、訓練生と間違えられると言うことはないだろう。


 だが問題は、もっと根本的なところ。 軍服そのものにある。

 国連軍ではない制服、まして帝国軍でもアメリカ軍のものでもない。

 そこに奇異の視線が集まることは必須。 それ以上に、この人間が巨大人型兵器のパイロットであることは、箝口令がしかれているとはいえ、ある程度知られている。




「その内解ることだ。 このままでも良かろう」

「ですが……」

「それに、俺はまだその制服に腕を通すわけにはいかん」




 現在のイングラムの身分は、あくまで異世界からの異邦人。

 そんなこと言ったところで信じられるかどうかは5:5……否、機動兵器とセットで説明すれば7:3くらいにはなるだろうか。


 兎に角、イングラム自身がこの世界の政治事情に精通していないことからも、先ずは情報を集めるのが先決である。

 香月夕呼の反応からも、日本はともかく、アメリカに行かれるのは相当拙そうであるのは窺い知れる。

 かといって、国連軍に所属すれば彼の国の影響を受ける可能性は否定しきれない。 そして、夕呼自身はイングラムをできるだけ手元に置いておきたい。

 結局何処かしらの部分で状態がコンフリクトする。 それ故に自身の考えをふまえた上で決定しなければならない。




「……わかりました。 それではご案内致します」

「すまんな」




 肩をスッと落としたピアティフの後に続く。

 少しは……少しは悪いことをしたと思っている。 結局この女性は『案内』を任されただけであって、『何かしらの決定』までは任せられていない。

 そんな彼女に対し『着るわけにはいかない』と言う。

 それでなくとも、彼女は未だ自分に対して『恐怖』という感情が存在する。……そんなに簡単に覆せるものではないが。












                                           †









 PXの1つについた時、ピアティフは思わず安堵した。

 人がいない。 まるで出払ったかのように人がいないのだ。


 確かに、時間帯としては早くはないが、遅いというわけでもない。

 食堂のおばちゃん── 京塚曹長も、何となく暇をもてあましているという感じだ。




「こちらがPXです」

「……殆ど食堂だな」




 PXとは、元々売店のことを指すのだが、この場所は売店と言うよりももはや食堂だった。

 まぁ、だからといって文句を言うつもりなどさらさら無い。 売店もセットになっているのだから便利、と考えられなくもない。




「食事の方はこちらで……京塚曹長」

「ん?……あぁ、ピアティフ中尉。 どうしたんだい?……っと、そちらさんは?」

「この方は……あぁ、その、えっと……」

「んん?」

「……イングラム・プリスケンだ。食事を取りたいのだが」




 今までに見たことのない顔、見たことの無い服を纏っている男ではあるが……ピアティフ中尉が連れてきたのだから問題ないのだろう。

 それに、連れてきた当の本人が、なにやら難しいような困ったような顔をしている。

 つまり、説明が難しいか、説明すること自体が問題なのか。

 
 そうなると、こちらから聞き出すのも悪いし、何より聞く必要性もそこまでない。




「メニューはこっちだよ。 どれにするんだい?」

「ふむ……ではこの合成サバミソ定食を頼む」

「はいよ。 ちょっと待ってな」




 そう言って、早速厨房へと向かう。

 イングラムとしては『合成』の2文字が気になるところではあるが、ここで詮索するようなことではない。

 ……まぁ食べられないものが出てくるというわけではないだろう。




「飲み物はお茶で良いかい?」

「あぁ、頼む」

「──── はいよ。 ピアティフ中尉の分もだよ」

「えっ?……あ、ありがとうございます」




 一瞬思考が飛んでいたのか、言われるまで気がつきませんでしたというような顔で答えるピアティフと、特に気にした様子も見えないイングラム。

 それから時間を於かずして、注文した『合成サバミソ定食』ができる。

 見た目は普通……だが味はどうなのだろうか?

 トレイを持って席へと着くと、ピアティフも後へと続く。

 そして、『合成』の名の付くものを口にする。




「……ふむ。うまいな」




 不味くはない。 だが、何か足りないような感覚がするのも確か。

 もっとも、ネビーイーム内の正体の分からない食事に比べれば天と地ほどの差もある。

 これを不味いというようなものなら、今まで自分が食べていたものは何だったのだろうか?と問いかけたくなる。


 ……裏切る前までは、伊豆基地などで美味いものを食べていたのは確かだが。




「『合成』と言っていたが、食料プラントか何かで作られているのか?」

「はい。 現在世界の殆どの国は食物自給率が極めて低いため、国連軍では合成食が主となっています。 アメリカなどのBETAに侵攻されていない国は、まだ自然食などがあるのですが……」

「フッ、自国の国民……いや、軍人には美味いものを食べさせているという訳か。 あの国らしいと言えば、あの国らしいが」

「……やはり、自然食の方がよろしいですか?」




 普通の人間なら、迷わず自然食の方が良いと言うだろう。

 そもそも、横浜基地は料理の鉄人である京塚曹長がいるからこそこの味が保てるのである。

 他の基地は時にそのようなものに拘っていないので、アメリカ軍からの配置転換組には極めて人気がない。

 
 加えて、目の前の人物は夕呼曰く異世界から来た人間。

 異世界がどのような物であるかは分からないが、なんとなく自然食を食べていたのではないか、と想像してしまう。

 そうなると、この地よりアメリカの地を選んでしまうのでは……などと考えていたピアティフではあった。




「いや、食に関しては特に拘るつもりはない。 これがここの食事であるのならば、それで構わない」

「そう、ですか」




 本日二度目の安堵の息と吐くと共に、いただいたお茶に口を付ける。

 おそらく、自分で感じていた以上に緊張していたのだろう。 喉を通るお茶がとても美味しく感じられる。


 そんなピアティフを尻目に、イングラムは箸を進めていく。

 元々大食漢ではないため、この量でもイングラムにとっては多い方だ。

 結局、全て食べきるまでに20分を要したのであるが……終始、会話が交わされるという事はなかった。




「なかなか美味かった。 代金の方は……」

「あぁ、いいよいいよ。 今日はもう、閉めるだろうしね」

「……何かあったのか?」




 勿論、その『なにか』など、考えるまでもない。

 もっとも、その事態とこうして食事を取る人間がいないというのに、いったい何の関係があるのかは分からないが。




「昼過ぎだったかい? なんか大きな兵器が降ってきたって大騒ぎでね……」




 そこまで言って、おばちゃんは口を紡ぐ。

 見慣れない顔、見たことのない制服。

 おそらく自分の考えた通りなのだろうが……かといって、そんなこと口には出さない。

 かといって、何も言わないというわけではない。




「このご時世だ。 BETA以上に敵が増えないことを祈るだけだよ、あたし達は」

「そうか……そうだな」




 この女性の言いたいことはわかるし、人間に敵対する気など、今のところ毛頭ない。

 かといって自分がパイロットだなどと言うべきとも思わない。

 お互いの心の中では分かっている。 口にするべき事、口にするべきではないこと。


 ……そう、今はそれで良い。









 だが、何事にもイレギュラーという物は付き物である。

 未来世界のメイガス然り、OG世界のもう一人の『並行する世界をさまよう宿命を背負う者』然り。

 そして……この地に存在する、『因果の狂った者』然り。




「──── それにしても、昼間の騒ぎはいったい何だったのであろうな?」

「さぁな……何でも巨大兵器が降下してきたって話だけど……実際見てないからなぁ」




 グラウンドの方からだろうか。 男女一組の声が聞こえてくるが、足音はそれだけではなかった。




「兵器って噂が流れるぐらいだからBETAじゃなかったんでしょうけど……ほんと、何だったのかしらね」

「とてもすごい謎」

「でも、戦術機が結構壊されたって誰かが言ってましたよ?」




 近付いてくる声に、イングラムは何かを感じ取る。

 念動力者? 確かに、それに近い存在もいるような感じはする。 だがこれは、そのようなレベルではない。

 もっと違う……そう、強いて言えば、前の世界で最後まで正体を掴めなかった『あの男』のような……




「まぁ、我らが詮索することでもあるまい ────── ?」

「どうしたんだ? 冥夜……っ?」




 イングラムの前に表れたのは、4人の少女と1人の男。

 
 (──── この男、因果の鎖が……? いや、違う。 直接因果の鎖があるというわけではない……世界に縛られているのか?)


 危険。

 何が危険だとは分からなかったが、イングラムの脳裏にはその2文字が浮かんできた。

 
 自身の存在が? この世界が? それとも、この男に関わることが?

 考えども、その答が得られるというわけではない。


 その時、眼鏡をかけた少女は何かに気がついたのか、他の4人に対して号令を掛ける。



「っ! 敬礼ッ!」




 その言葉に、他の4人は反射的に右手を挙げる。

 そして、それに釣られるようにして、イングラムも敬礼を返していたが……何故返したのかは、本人にも分からない。
 



「あなた達、どうしたの? こんな時間に」

「はっ、本日の訓練が途中で中止となったため、分隊で自主訓練をしておりました、少佐殿、中尉殿」

「少佐……あぁ、これか」




 イングラムもようやく理解した。

 目の前の少女は、自身の服に付いていた連邦軍の階級章を見て、少佐だと思ったのだろう。

 世界の階級章という物は、次元を越えても殆ど大差のない作りになっているため、そのような間違えをするのは当然といえば当然だったのだが。


 それとは対称的に、ピアティフはこの場をどう乗り切れば良い物かと思案していた。

 イングラム自身の存在などに比べればたいした物ではないが、目の前の少女達の経歴も、この世界では十分に『特別』であった。

 話を誤魔化すか? 目の前にいるのは幸い訓練生。 臨時中尉とは言え、上官から何か言われれば、おそらくそれに従うだろう。


 ……が、そんな思惑などお構いなしに、イングラムと目の前の少女達の話は進んでいた。




 「イングラム・プリスケンだ。 君たちは?」

 「はっ! 207衛士訓練小隊B分隊分隊長、榊 千鶴でありますっ!」

 「同じく、御剣 冥夜であります!」

 「た、珠瀬 壬姫でありますっ!」

 「彩峰 慧であります」

 「白銀 武であります!」




 ピアティフの考えは早速瓦解。 しっかり自己紹介まで済ませてしまっていた。

 ……そう、ここで香月博士に託けてイングラムを連れ出せば良かったのだが、世界はそんなに甘くはなかった。

 というよりも、イングラムの背中から立ち上るオーラの様な物が、ピアティフの口にチャックを付けていた。


 ……実際はピアティフに向けられた物ではなく、ここにいるもう1人の男── 白銀 武 ── に向けられた物であったのだが、特に敵視というような物でもなかったためか、武の方は気がついていない。

 そしてそれ以上に、この男の名前と因果の鎖が、2~3時間前に感じられた強念者の念を思い出させた。


 (シロガネ・タケル……タケル、か……なるほど、あの少女は……)


 あの脳髄の状態から少女、と判断したのではない。

 だが、あの脳髄の正体が、今目の前にいる男に何らかの干渉をしたというのは間違いないようだった。

 悲痛な思い、叶えられぬ望み。

 どれとも取れない思いが、この少年への影響としてでているのだろう。




「それでは失礼します。 プリスケン少佐」

「イングラムでかまわん」

「はっ! 了解しました、イングラム少佐」




 さて、なにやら自分は会話をしていたようだが、タケル・シロガネに関する脳内考察に思考を割いていたためにどのようなことを話したか覚えていない。

 ……まぁ、妙な目で見られていないことからも、アストラナガンに関することは喋っていないようではあったが……とんだイレギュラーだったが、収穫はあった。

 あの長髪の少女はどことなく見覚えのある顔ではあったが……彼女には『念』の素質があるように感じられた。

 訓練兵と言っていたが、どうやらまだ実機やシミュレータには乗っていないようだった。 となれば、できるだけ早めのシミュレータ改造が必要となるか。


 ……忘れていたが、後ろのイリーナ中尉は固まっているようだ。 再起動まで、およそ3分といったところだろう。

 今後の予定も、データを纏めた上で、こちらの情報に目を通すだけ。

 食事と共にもらったお茶を、イングラムは1人啜っていた……ピアティフ中尉が再起動する5分後まで。











                                          †











 同日同時刻 香月夕呼副指令 執務室


 Prrrr......

 イングラムが出ていった直後から、ここの電話はこのように鳴りっぱなしである。

 正確には、イングラムとの対話中から、司令室などの方にはこのように電話がかかりっきりだったのではあるが、イングラムとの対話を優先させていたため、折り返し電話をするように、オペレータや指令に

は頼んでいた。




「──── えぇ、ですからBETAなどではなく……はい、詳細は追って知らせますので……」




 電話の相手は大方予想通りだった。

 帝国だけでも内務省に城内省、情報省に斯衛軍高官。国連にアメリカにロシアに……数え上げればきりがないが、そのどれもが、昼間に降下してきた物体に関する情報提示を求めていた。

 アメリカやロシアに比べて、帝国は特に気になっていたようだが、無理もないだろう。

 
 落ちてきた場所が場所なだけに、また目の前にハイヴがあるために、必至になっているのだ。

 かといって、帝国とはいえおいそれと奴の情報を渡すわけにはいかない。

 奴は自分が持つジョーカーであると共に、下手を打てば自分の喉元に剣を突き付ける可能性すらあるJokerでもあるのだ。

 帝国に情報を渡した上で、奴自身を日本の味方とすることができるのならば何も問題ないが、現状日本に見切りを付けないとも言いきれない。アメリカに行こうものなら尚更である。


 オルタネイティヴ4完遂のためにも、今はまだ奴の真意を探る方が重要である。

 だからこそ、こうして対応してはいるのであるが……いい加減疲れてきているし、対応も全てマニュアル通りのようなもの。

 それだけに、日本帝国の『事実上』のトップからの電話には、少々対応が遅れてしまった。




『香月夕呼博士、どうしても彼の者との話し合いは望めませぬか?』

「……殿下、彼の者といわれましても落ちてきたのは異形の物体であり、生命反応までは」

『博士、こちらでも既に確認済みのことですので……やはり、『まだ』できませぬか?』

「……少々、お時間をいただけるでしょうか。私はまだ、あの男を全面的に信用しているというわけではないので」




 それに関しては、嘘偽りのない事実だ。

 結局あの男から何かしらの情報を引き出すことはできなかったし、技術提供をするといわれても、それがどれほどの物なのか、どこまで信用できるのか、そしてどれほど有用な物なのか……全く分かっていな

いのだ。

 ただ気になっているのは、奴が感じているらしい『借り』について。

 それが何に対するのか……それだけでも分かれば対策が取れそうな物ではあるのだが、生憎そう簡単に口を割くような男ではない。それは先ほどの問答で理解しているつもりだ。




『そうですか……それでは仕方がありませんね』

「申し訳ございません……ところで殿下、何故殿下自らこのような連絡など?」




 大凡殿下の部下─── と言っていいものかどうか迷うものであるが、日本帝国の上層部と言われていい連中からの連絡には既に応対済みだ。

 何故、殿下自らなのか……と言うよりも、マニュアル応対してしまったために思わず受話器を落としそうになってしまった事を隠す目的もある質問ではあるのだが。




『──── わかりません。自分でも、何故こうまで気になるのか……ですが、紅蓮の言っていたことが、やはり耳に残っているからだと』

「……紅蓮大佐は、なんと?」

『『黒い天使が舞い降りたようだ』と……』

「天使……ですか」




 夕呼にしてみればむしろ堕天使のような気がしてならないが、帝国軍にとっては黒くとも天使に見えたのであろう。

 ……その言葉を聞き、夕呼はいくつかの考えを纏める。

 それは、イングラムがどのような答を返すかではなく、どのようにしてイングラムの答を誘導させるか。

 限りなく無理だと思われることだが、今自分の取りかかっている半導体150億個などに比べれば、遥かにまし───── とまでは言えないが、それが可能であれば一気に今の状態を覆せることのできる言って

となる。

 ……当面は、自身の論文で興味を引かせればいい。 ではその興味が他に移ったら?

 


 今はまだ、そんなことどうでもいい。

 目の前にチャンスがあるのなら、それにチャレンジすればいい。

 幸運を掴むことのできる人間というのは、目の前に存在する『切っ掛け』に気づくことのできる人間だ。




「───── 殿下、先ほどのことで1つ、提案があるのですが……」




 夕呼は、自分の『Joker』を『ジョーカー』にするため、目の前の橋を渡り始めた。

 当てればそれこそ天使が手に入り、外せば全てが無へと帰しかねない……博打の最初の一手を。











 ──────後書き──────────────────
 遅くなりました。久方ぶりの更新となります。
 少々現実の方が忙しいため、更新はこれくらいが限度かも知れませんが……どうにか努力していきたいと思っています。
 
 え~……技術関連ですが、TGCジョイントなどには現代物理学以外の『スパロボ物理学』が適用されるため、現地整備員&科学者達には『不思議な』パーツにしか見えません。
 ……と言うことにしておきます。あまり技術系の話を詰め込んでもどうにもならない気が致しますので(主に作者が(ぁ




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