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[6220] リリカなんとかなのはお前がどうとか【習作】
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/04 23:11
このお話は主人公最強です
俗に言うオリ主最強です
オリジナル魔法とか使いまくり!
お話をすべてテンプレどおりにやっていきます
パクリ?インスパイアです。
ラーメンは醤油
ブーン








朝 八神家


「朝やでー起きやー?」


全身に強い衝撃を受けて目を覚ます。


「ぐふっはやて、もう少し穏便にだな・・・」


なんのことはない同居している少女が自分の上にのしかかってきただけなのだが


「にいちゃんは朝弱いもんなぁ?こんくらいせぇへんと起きんやん?」


ニコニコと笑いながらかわいらしく言うが自分にとっては毎朝これをやられてはたまらない


「・・・俺が起きないのはともかく、生命の危機を感じるのは気のせいか?」


「気のせい気のせい。もう朝ごはんできとるよ。はよきてな」


そういいながら車椅子に戻り部屋を出て行くはやて。


何を言っても無駄だと解し、ため息をひとつ。どうしてこうなったのか自分でも分からない。



そうあれは2ヶ月前のことか










2ヶ月前、海鳴市某所


寒い。寒い。寒い。




自分はなぜここにいるのか




分からない


分からない、分からない


分からない、分からない、分からない


名前も



家族も



生き方も




分かるのは敵を殺す方法と






―――獲物を殺す方法―――






分からない





なぜ自分がそんなことを知っているか分からない



分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない



「俺は―――誰だ?」





ここは寒い。それだけが分かる


寒いのは嫌だ。寒いのは嫌だ


このまま俺はここで息絶えるのか




嫌だ




死にたくない


まだ、死にたくない





誰か、助けてください








          「大丈夫?」













このときはやての背中に羽が生えていたとしてもきっと俺は驚かなかったろう。










「行くところがなければ家に来ればええ」



彼女の家に連れられ自分のことを話し、最初にできた会話がそれだった。



「あんたも孤独、あたしも孤独、でも一緒なら孤独やない」



俺は孤独だった。家族も、名前も、記憶全てを失った俺は迷子よりも頼りない



少女も孤独だった。家族も、自由な脚すらもない



だから一緒にいよう?そう少女は言った。



不思議と涙が出た。



悲しいのかうれしいのかそれすらもわからない


ただ、誰かと共にあれるということがこれほど自分に強い感情を引き起こすとは思ってもいなかった



単なる傷の舐めあいだという奴もいるだろう。


厄介者が一緒になっただけだと言う奴もいるだろう。



それでも、このあふれ出る感情はとめられなかった。


「泣いとるん?」


「分からない。何で泣くかも、自分がどうなってしまったのかも」


「ええよ、泣いとき。家族なら当たり前や」


家族


そうきいた俺の感情は―



俺達が泣き止んだのは一時間後だった。




こうして奇妙な共同生活が始まったのだった。








現在 八神家


ぬる目のホットミルクをちびちびと舐めながらこれまでの生活を考える。


確かにここでの生活はすばらしい。自分にも帰れる場所があるということがここまでの安心をもたらすものだとは思っても見なかった。



だがしかし、同時にこうも思う。



(このままはやての世話になっていていいのだろうか)


はやてにきかれたら一笑に付されるような疑問だろう。


彼女は間違いなく是と応えるはずだ。


孤独を知っている者は孤独を恐れる。


(しかし、それでも俺がいる事が重荷になっているのでは?)


彼女のことを思うなら俺はさっさとここを出て行くほうがいいのかもしれない。胡散臭い奴がいつまでも一緒にいるというのは彼女のためにならないのではないだろうか?


(だが、はやてはまだ子供だ。一緒にいてやれる存在が必要だ)


そう考えたところで唇を歪めて自嘲する。



(詭弁だな)



結局自分が彼女と一緒にいたいだけなのだ。なんだかんだ言ってこの生活から抜け出す気がない。そんな自分に反吐が出る。


(結局自分のことだけか、俺は)



「にいちゃんどないしたん?」


「いや、なんでもないよ。今日もはやての作る朝食はおいしいなぁ、とね」


そっかといって何が楽しいのかニコニコ笑っているはやて。



ふと訪れる沈黙。



「なぁにいちゃん」


「なんだ?」



「にいちゃんはいなくならんでな」


俺は心底驚いた。彼女に自分の心を読まれたかとすら思った。


彼女は鋭い。おそらく同年代の少女と比べても数段に。長い通院生活の中で彼女は他者を観察する術を覚え驚異的な洞察力を持つに至ったのだろう。


事実これまでにもこちらの行動を読んでいるかの言動をする事が何度かあった。


「当たり前だ。ここは俺の家なのだろう?なんで自分の家からいなくならなきゃならん」


うまく自分の考えていたことを悟られず誤魔化せているだろうか


「そう・・・やね。ここはわたしたちの家やもんね」


俺の答えに満足したのか朝食の続きを食べ始めるはやて


「いやーなんかにいちゃんはここよりいい待遇の場所があったらさっさとそっちに移ってまうような気がしてなぁ」


「何言ってるんだ。いくらなんでもそこまで恩知らずじゃないぞ。俺は」


笑いながら朝食を摂る。


願わくばこの生活がもう少し続くことを


例えそれがかなわない願いだとしても。

























申し遅れた


俺の名前は“にい”


八神はやてに飼われるただの猫だ。






あとがき
このお話は主人公最強です。マジパネェッス。非常にテンプレどおりの話なので多分そこらにいくらでも似ている話が転がっていると思います。このオチもありがちなので多数の人は読めてたと思います。




にい この作品の主人公。別に人間が悪い魔法で猫に変身させられたとか満月の夜だけ人間に戻るとかそういう設定は一切ない。何で喋れるか?不思議な力です。何で強いのか?不思議な力です。なんで記憶がないのか?不思議な力です。


疑問や意見、叱責、テストの結果などがあったらどしどし送ってね。

何でも応えちゃうゾ




キメェと思った奴。君は正しい


                         1/29 投稿
                         3/4  タイトル改訂



[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/01/30 14:16
お話の続きです。
テンプレどおりにお話を進めていきます。
多分勘のいい人は最初の数行を読んだだけで展開が読めてしまうと思います。
だから読まなくても大丈夫です。







俺は猫である。

名前はにい。

どこで生まれたのかトンと見当がつかぬ。

ただ寒い道路の上で助けを求めていたことだけは覚えている。

俺はここで初めて人間というものを見た。


そして今、その少女と共に暮らしている。



今回はそんな俺の一日である。




八神家 



朝は特に言うべきことはない



特に言うことはない



人助けを少々



寝た










アリサ・バニングスは自分の迂闊さを呪っていた。確かに自分は尊敬する父が経営する財閥の一人娘である。冷静に考えれば一般人に比べると誘拐される可能性は格段に高いといえるだろう。

しかしまさかそれが自分に本当に降りかかってくるとは思っても見なかった。

いつもと同じように友達と一緒に帰り、いつもと同じ帰り道を通る。親友と別れ、一人になった帰り道。でもそれはいつものことだった。

違ったのはそれを狙っている輩がいたということ。それだけである。

一瞬の間。それを狙っていたかのように目隠しに猿轡をかませられ、あれよあれよという間に車に乗せられた。気がつけばどことも知れぬ廃屋に自分がいる。

―恐らくここは海鳴郊外の再開発地区、その廃ビルのどこかね。まずい。ビルばっかりで救援は望み薄か。

この思考も多少落ち着いた今だからできる思考であって、誘拐された直後はこんなこと考えることすらもできなかった。


(何で自分がこんな目に)


いまさらながら自分の迂闊さに腹が立ち情けなくなる。もう少し迎えが早く着ていれば、もう少しゆっくり歩いていれば、いかに考えても時すでに遅し、すでに自分はさらわれている。


「ちょっとあんた達、いったい何が目的なのよ!」


猿轡を外され最初に出た一言がこれである。彼女は自分の迂闊さを呪ったがそれだけで絶望するほど軟弱な精神ではなかった。


「こんなことしてただで済むと思ってんじゃないでしょうね!」


周囲にいるのは6~7人の男達。こちらをニヤニヤと見ている。

その中で一人リーダーらしき男が近づいてくる。


中肉中背周り全員が哂っている中で一人無表情である。


「目的・・・なんだろう・・・ひまつぶし?」


どっと周りにいる男達から笑い声が上がる。

呆れた。それと同時に怒りがこみ上げてくる。まさか自分がさらわれた理由が暇つぶし?お金とかじゃなくて暇つぶし?

「ちょっとふざけんじゃないわよ!暇つぶしでさらわれちゃたまったもんじゃないわよ!さっさと家に帰しなさい!」

「はぁ。ごめんなさい。でもそれはできないんですよ。なんかこの人たちがあなたに用があるらしいので」

なんだ。この男は。何考えてるのかさっぱり読めない。悠々と出てきたからリーダーかと思ったが単なる下っ端ではないのか?

「正確に言うとあなたのお父さんに用事があるらしいです。でもなかなか会えないからあなたをどうこうするとか云々」

するとその後ろにいたいかにもチンピラらしき男が出てきた。

「リ~ダ~もういいぜ~下に行って外から他の奴が来ないか見張っててくれよ~」

「はぁ。じゃあまぁ僕は下に行ってますね」

そういってリーダー(本当にリーダーなのか?)は下に降りていった。

残ったのはこちらをニヤニヤと見つめる男達だけである。

「さてお嬢ちゃん。事情は分かったかい?まぁ簡単に言うとね、君のお父さんにちょっと用事があるわけ。そんでちょっと君に協力してもらおうかなぁとね」

「大丈夫。ここにいる奴らは・・・まぁスナッフ趣味の奴はいないから」

奥を見るとカメラの準備をしている奴やら何か道具を用意している奴らがいる。




嫌だ。




アリサは自分がこれから何をされるか本能的に悟った。

怖い。恐い。怖い。自分がこれからされることになまじ想像がついてしまう自分の頭脳が恨めしい。このまま私はこの男達の慰み者になるのだ。


「イヤァッ!!」

いくら気丈な少女でも本能的な恐怖にかなうはずもなかった。

(助けて助けて助けて助けて誰か助けて)

「ちっやっぱうるせーな。もっかい目隠しと猿轡かませとけ」

そう言われ再び目隠しと猿轡をかまされる。

「ま、多分明日の朝までには終わるから安心してね」

その言葉が合図となって。

男達がアリサに群がっていった。




(誰か。。。助けてぇ!!!)









リィン・・・

小さな鈴の音が彼女の耳に響いた。













北ーーーーーーーーーーー!

カッコイイオリ主フラグktkr!!

一期2期と端役で3期に至ってはほとんど出番のなかったあたしの活躍フラグktkr!!

これでメインヒロインも夢じゃないわ!!

ふふふどんな奴が来たかしら。予想としてはクラスに転校生はいなかったからさっきのリーダーとか呼ばれてたやつかしら?おにいちゃんとか呼ぶフラグね。いや、待ちなさい。ここらに住み着いている同年代の転生オリ主もあるうるわ。もしくはカッコイイ人造人間とか?どんな奴が来ても外れなし、ここはとらはじゃない。リリカなんとかの世界だということを見越した私の出番フラグ!これで完璧!!あとはあたしの押しの強さでそいつとフラグ立てれば出番うなぎのぼり!人気沸騰!!これで『アリサの出番はまだですか』とか言われちゃうんだわイヤーンどうしましょ。ウフフさぁ早くきなさい。私の出番請負人。どんな奴がこようと大丈夫よ。大体オリ主はそれなりにかっこいい奴って相場が決まってるし、まぁ外見がよければそれでいいわよね中身は後でこっちの好みに変えられるし、少なくともみんなあたしの尻にしかれるような奴ばかりでしょうしね。不不不さぁアタシのオリ主カモーン!!


「ぐあっ」

「なんだ?どうした?」

男達が騒いでる。馬鹿ね。あんたらみたいなチンピラはやられ役って相場が決まってんのよ。大体ここはXXXじゃないんだから濡れ場があるわけないじゃない。世界の意識によって修正されるわよ。


「くそっ捕まえろ!」

「なんだ!てめぇは!!」


そうこうしているうちに二人が倒れたらしい。ふふふ馬鹿ね世界に守られたオリ主に勝てるわけないじゃない。

「くそ!!誰だてめぇは!!」

「貴様らに名乗る名などない。去ね」

声は男ね、良かった。これで一番の懸念材料だったTSオリ主の可能性は消えたわ。これで心置きなくいけるわ。

「ぐおっ」

「ぐぁぁぁぁ」

「ぎゃぁぁぁぁ」

残りは一人か。まぁそんなモンよね。さっさとやられなさいな。

「畜生・・・後一歩だったのに・・・」

最後の一人が倒れる音がする。

「急所は外しておいた。しばらくは動けまいが死にはすまい」



「無事か?」


そう言ってあたしの目隠しと猿轡を外してくれる。

ここで夜も寝ずに考えた印象ばっちりのセリフを言ってやらないと


「べ、べつにたすけてくれなんていってないんだからね!!」


・・・

あれ?



どこ?


「そうか、それは失礼をした」

声がするのに姿が見えない。おかしい。

「えっとどこにいらっしゃいますか」

わかった。恥ずかしがって出てこれないのね。

「どこを見ている。俺はここだ」

自分の真下から声がする。アタシよりも小さい子供・・・?はっこれは逆光源氏!成る程このパターンは予想してなかったわ!でもアタシ的にはバッチコーイ、むしろカモーンよ!

「で、でも一応お礼は言っておくわ・・・ありがと・・・?」

下を見る。

猫がいる。

。。。人がいない。

「礼には及ばんよ。同居人が君と同じくらいでね。義を見てせざるは勇無き也という奴だ」

・・・いやだ。受け入れたくない。

「・・・チェンジ」

「・・・君が何を言っているかは知らないが無事なようで何よりだ。俺はもう行くが一人で帰れるな?」

「え?ええ。まぁね」

当然GPSも完璧だ。後十分もしないうちに家のものが来るだろう。

「それではさらばだ。今度からはもう少し気をつけることだな。今回はたまたま俺がいたが次はこうは行かんぞ」


そういって一匹の猫はビルの窓から飛び出していった。


「・・・ちくしょう」







「にいちゃん今日は帰ってくるのちょい遅かったけど何してきたん?」

「なに、人助けを少々ね」












後日 月村邸

「すずか・・・あたし、猫をこれほど憎いと思ったことないわ」

「だからって猫鍋にして食べようとするのは黄色い救急車ものだよ?」




あとがき

テンプレどおりです。オリ主といえばアリサさんと本編前につなぎを持つものです。ちゃんとできました。とてもうれしいです。

なんでアリサがXXXとか知ってたか?不思議な力です。なんでアリサがとらはとかリリカ何とかっていってたか?不思議な力です。なんでアリサがオリ主とか知ってるんですか?不思議な力です。アリサさんに出番はあるんですか?不思議な力が働けばあります。





[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/02/07 08:57
三つ目です
このお話はテンプレどおりなので被ってるお話がたくさんあると思います
仕方ないね
今回も多分勘のいい人なら最初の数行で、悪い人でも半分くらいで展開が見えると思います






魔法 それは 聖なる力


魔法 それは 未知への冒険


魔法 それは 勇気の証





始まりはいつも突然に訪れる。

それが望むものかそうでないかはわからないが。




「お父様」

「どうしたアリア?ロッテ?」

「闇の書の主に動きがありました」

「兄を名乗るオリ主でもやってきたか?くそっいつもやつらは邪魔をする!」

「いえ、八神はやてが猫を飼い始めたようです」

「猫?誰かの使い魔か?魔力反応は?」

「いえ・・・ただの猫のようです。・・・排除しますか?」

「・・・計画に変更はない。それぐらいならイレギュラーとも呼べまい」

「わかりました」

「・・・偽善だな」

「お父様?」

「いや、なんでもないよ」









私立聖祥大付属小学校。

それがこの学校の名前である。そこにあるひとつの小さなクラスに小さな変化が訪れようとしていた。



sideなのは

「はーい今日は新しいお友達を紹介しまーす。みんな仲良くしてね~」

ガラガラとドアを開けてきた先生は開口一番そんなことを言った。転校生・・・仲良くなれるかなぁ?

「どんな人なんだろうね?」

ちょっとどきどきしながらすずかちゃんに話しかける。すずかちゃんもどんな人なのか興味があるみたい。

「優しい人だといいね」

そんな話をしていると先生が廊下にいるその子を呼んだみたい。

「じゃあ八神さんもう入っていいわよー」


ガラガラ ピシャ

すらりと伸びた長い足。細身ですが見る人が見ればしっかりとついているしなやかな筋肉。顔は切れ長の瞳が印象的でカッコイイ方に入ると思います。











「八神にいだ。よろしく」










・・・猫だ

どっからどう見ても完全無欠に猫だ。

「えーと席は・・・高町さんの隣が空いてるわね。高町さん、ちょっと手を上げてもらえる?」

先生に言われてはっとなって慌てて手を上げる。

「あの子の隣が八神くんの席ね。じゃあ今日のSHRは八神君への質問タイムにしまーす」

どうしよう。流石にこれは予想外なの。まさか転校生が猫だなんて思いも寄らないの。

「すずかちゃん・・・あの子・・・」

「カッコイイ人ですね」

「・・・違う」

駄目だこいつ早く何とかしないと。

「先生!」

「あら?高町さん積極的ねぇ。どんな質問かしら」

そういわれて周りの目が私に集中する。うぅ。でもいわなきゃ



「あの・・・猫。。。ですよね?」




沈黙が降りる。




静寂を破ったのは先生でした。

「高町さん。お友達を動物に似てるというのはあまり先生感心しませんよ?」

違う。そうじゃない

「先生。。。猫じゃないんですか?」

そういうと先生はちょっと怒った風になった。

「高町さん。人を見かけで判断してはいけませんよ。私はあなたにそんな心の貧しい人間になって欲しくありません」

そういうとそれまで何も喋らなかった八神・・・?くん?が言いました。

「高町さん。何か誤解があるようだから言っておくが俺はただの転校生だよ?少し他の人と違うのは勘弁して欲しい。制服がまだできてないんだ」

違う。そこじゃない。猫に制服があってたまるか。

「先生!どう見てもおかしいですよ!」

そういうと先生は少し疲れた顔、やれやれといった様子でこっちを見たの

「・・・高町さん。よく聞いてください。言葉を話すのは人間だけですね?」

「・・・はい」

「猫は言葉を喋れません。八神くんは言葉を話していませんか?」

「・・・喋っています」

「では彼は人間ですね」

「いやその理屈はおかしい」

この先生も駄目なの?


「先生、言葉を喋れるからといて人間であるとは限らないと思います!」


自分で言ってて何言ってるか訳が分からなくなってきました。


「高町さん、世界には事故で腕や脚を無くした人、病気で目や耳が聞こえない人たちがたくさんいます。そんな人たちにあなたは言うのですか?私と違うから人間ではない、と?」


「・・・いえ、言いません」


「この世の中にはいろんな人がいます。みんなそれぞれ少しずつ違うのです。もちろん八神君と高町さんも違うでしょう。でもそれを差別してしまうのは高町さんがとてもかわいそうだと思います。高町さん。あなたは優しい子です。先生はそんなあなたが狭い見方で人を差別してしまうのはとてもかなしいことだと思いますよ」


「先生・・・!」


「高町さん、俺が何か悪いことをしたなら言って欲しい。おかしいところがあれば直すから。俺は世間知らずなところがあってね。知らず知らずに君を、いやみんなを傷つけていたのかもしれない。もしそうなら謝る」


「八神君・・・」

そうか。みんな違うんだ。そうだみんな違うんだ!

みんな違ってみんないいんだ!!

「ごめんなさい先生!八神君!私が間違ってたの。みんな違ってみんなそれでよかったの!八神君これからヨロシクね!!」



わぁぁぁぁぁぁ



ちぱちぱちぱちぱちぱち




クラス中から割れんばかりの拍手が起こる。

こうして八神にいは私立聖祥大付属小学校に入学したのであった。




side金髪

「ちくしょう・・・」





テンプレ通りに行くなら同級生にならねばなりません。
テンプレどおりです。良かった。転校生というのはちょっとオリジナルかもしれませんね。

大体これくらいのイベントをこなすと次あたりから本編に入れます。多分やり残しはないと思います。もしあったら言ってみてください。

気が乗れば書きません。





[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/02/12 18:17
ここから本編です。
このお話はガチのシリアスです。
オリ主が大活躍する話です。だからそういうのが嫌いな人は嫌な気分になるといいと思います




どことも知れぬ森の中

二つの存在が戦っている。

一つは腕から血を流す少年、そしてもう一つは異形の化け物

少年は間一髪のところで異形を退けるもその場で力尽きたのか倒れてしまう。

「逃がし、ちゃった・・・追っかけ・・・なくちゃ・・・」

「誰か・・・僕の声を聞いて・・・力を貸して・・・力を・・・」

後に残ったのは小さな動物と赤い宝石だった。






八神家 朝

妙な夢を見て目が覚める。

「嫌に現実的な夢だったな・・・もしアレが襲ってくることになれば・・・いざとなればこの身一つではやてを守らねばならない、か」

思考にふける。いざとなればあの程度に遅れをとるつもりはないが・・・

ふと気づくとはやてがありえないものを見るような目でこっちを見ている。

{?なんだ?」

「にいちゃんが・・・あたしが起こす前に起きとる・・・」


・・・失礼なやつめ。





学校 昼休み

「将来・・・か」

転校してきたときの一件以来仲良くなった高町、その友人である月村とバニングスと共に食事を取りながらそんな話をする。

ぎゃいぎゃい騒いでいる高町とバニングスを見ながら考える。

ふと手持ち無沙汰になったらしい月村が話しかけてくる。

「八神くんはどうするの?」

「何、いまのまま、この時間が続けばいいなぁとね。それぐらいしか望みなどないよ」

そういうと何もなかったかのように食事を続けた。








海鳴市某所 夜

時々はやてには内緒で夜の散歩に出る。気晴らし兼周囲の見張り、といったところだ。このおかげで朝起きれないという問題があるのだが・・・

いつもの夜。何もかわったことのない夜。



それを爆音が切り裂いた。



「何の音だ!?」

道の向こう側から何かが破壊されるような音がする。まずい、向こうははやての、自分達が住む家がある!!

「くそっ」

悪態をつきながら夜道を駆ける。頼む。何事もなく終わってくれよ。

しかし、その願いは叶えられることはなかった。






そこについたときすでに戦いは始まっていた。

・・・あれは・・・高町!!?何を・・・?

アレは夢で見た化け物!!


くそっ何がなんだか分からんがとにかくあいつを退治すればいいのか!?

「どけっ高町!!」

そういいながら触手をはやした毛玉?の化け物に飛び掛る。

「八神君!?」

くそっこいつ脆いが動きが早い!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

一閃

化け物はバラバラになる。

「やったか!!?」

しかし異形の化け物は再生能力が高いのか即元の形に戻ろうとする。

このままではジリ貧だ。

「高町!!何か手はないのか!!」

応えたのは彼女ではなく彼女が抱えていたネズミもどきだった。

「アレを停止するには魔法で封印しなければなりません!しかし、封印してもとの姿にもどすには呪文の詠唱が・・・」

「最近はネズミが喋るのか・・・?」

一瞬ネズミが喋ったという幻視をしてしまう。いかんいかんネズミが喋るなんてそんな馬鹿なことあるはずがない。

「とりあえず理解した。高町、呪文を詠唱していろ。俺が時間を稼ぐ」

こちらのやることはわかった。ならば後は実行するのみ。

触手を伸ばしてくる化け物相手にどれだけ時間を稼げるか・・・

「やるしかないか・・・」




「リリカル!マジカル!封印すべきは忌まわしき器!ジュエルシード封印!!」

後の展開は高町が魔法?とやらを用いてジュエルシードとやらを封印していた。






海鳴市公園 深夜

「成る程な・・・ネズミが喋るとは・・・幻覚ではなかったか」

ふう、ネズミが喋る上に魔法・・・ね。世の中には不思議なことがあるものだ。

「それで、あなたは・・・?」

ネズミがこちらを伺っている。

「俺の名前は八神にい。高町とは同級生だ」

「あの・・・あなたも魔道師なのですか?」

こいつは何を言っているんだ?

「いや、ただの一般市民だ。たまたま巻き込まれただけ、といったところだ」

「八神君・・・このことは・・・」

高町がこちらを心配そうな目で見ている。

「分かっている。詳しく話すわけにもいかんしな。もう夜も遅いことだし帰るとしよう。積もる話は後回し、だ」






高町家玄関前 深夜

sideなのは

「こんな時間にどこにおでかけだ?」

家に帰るとお兄ちゃんとおねえちゃんが待ち構えていました。

「うう、その」

「失礼、高町さんの同級生の八神にいと申します。本日は妹さんをこんな夜遅くまで連れまわしてしまい申し訳ありませんでした」

「君が。。。なのはを呼んだのか?」

「彼女が助けたフェレットが病院から逃げ出してしまい、それをたまたま連絡を受けた僕がそれと思しきフェレットを捕まえてまして。それを連絡したところ、今から確認に来る、と。明日彼女に連絡すべきでした。申し訳ありません」

一瞬でお兄ちゃんに言い訳を考えついてた。すごいの。

「・・・まぁ何事もなかったから良かったものの・・・次からは一声かけてからいけよ」

「お兄ちゃん、心配かけてごめんなさい・・・」

お兄ちゃんに謝るとおねえちゃんがことさら明るい声で言いました

「よし、これで解決。八神君、ありがとね」

「いえ、それでは高町、明日、な」

そういうと身を翻して八神君は帰っていきました

「・・・なかなか子供にしては見所のある奴だったな」

「うーんなのはも大人びてると思ったけど八神君も大人びてるね」

・・・普通とちょっと違うのは同意するの






八神家 深夜

「にいちゃん・・・こんな夜遅くどこ行ってたんや・・・?」

こっちはまだ解決してなかったか・・・







学校 放課後

「成る程、ジュエルシードに、封印、か」

「わたしはユーノくんのお手伝いをしてあげようと思うんだけど・・・」

高町はお人よしだ。こいつなら頼まれれば大抵のことは嫌といわないだろう。

「まぁ詳細は納得してないがとりあえず理解した。手伝いをするなら余り無茶はしないようにな」

昨日のような被害をもたらすであろうジュエルシード、そんな危険物が後20近くもある。

「それでね、できれば八神君にも・・・」

「ストップだ高町。その先は言わなくても分かる。まぁこの町に危険がある、ということは俺の家族にも被害が及ぶ可能性があるってことだ。直接的な手伝いはどこまでできるかわからないがそれでよければ手伝おう」

そういうとぱっと花が開いたかのように高町が笑顔になる。

「ありがとう八神君!」

「一応ジュエルシードの現物を見せてくれるか?どんなものなのか確認だけはしておきたい」

「えっとねぇ・・・」





こうして俺はこの事件に巻き込まれることになった。


後に俺は思う。この時が分岐点だったのだ、この時が自分のこれからの人生を大きく変えてしまう場所だったのだ。





今回は全編シリアスで終われました。とてもうれしいです。
テンプレ通りに行くならなのはさんのお手伝いをして原作に巻き込まれねばなりません。
多分このお話だけを読んだ人はこのお話を最強オリキャラものときちんと理解してくれるでしょう。
そんな風に読んでくれることを楽しみにしています。





[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/02/18 20:53
5話目くらいだと思います。
今回もテンプレどおりの展開を目指して頑張ります。
君達はなぜこのお話を読むのか僕には良く分かりません。
最後に言っておきますが、このお話に笑いとかギャグとか求める人はそんなものはないので読まないほうがいいと思います。







「はぁ・・・」


一人ユーノはため息をついた。

時刻は夜。すでにあたりは暗くなっている。家族が心配するといけないから、となのはは先に家に帰らせ、現在は一人でジュエルシードを探している。しかし、今日は収穫がないのでそろそろ単独でのジュエルシード探索も打ち切り帰ろうか、といったところである。

高町なのはと知り合い、ジュエルシードを集め始めて幾数日。順調にジュエルシードは集まっているといえる。

現在のジュエルシードの数は六つ。これはなのはが魔法に稀有の才能があり、さらに現地に他の協力者がいることを差し引いても良いペース、いや驚異的なペースという事ができる。

では、なぜ彼はため息をついているのだろうか。

「確かにジュエルシードは集まった・・・でも・・・本当にこのままでいいんだろうか?」

高町なのはもそうであるが彼もまた考えすぎる人種、悪く言えば子供らしくない子供である。そこにこのため息は起因していた。

ユーノは考える。ジュエルシードは確かに集まっている。恐らくこのペースで行けば遅くとも一月かそこらですべて集まるだろう。

しかし、それに比例するようになのはの負担は大きくなっている。

先日あった人間が始めてジュエルシードを発動させてしまった折、なのはは疲労困憊状態だった。

それも当然である。昼は学校に行き、夕方はジュエルシードの探索、そしてジュエルシードが見つかれば夜には封印に向かう。他にも友達づきあいや塾に行くなどなどやる事が大量にある。そんな状態で普通の小学三年生かそれ以下の体力しかないなのはの疲労はどれほどのものだろうか

もし、あの時僕がジュエルシードに気づいていれば、もし、あの時僕がレイジングハートをうまく使いこなせていれば、もし、あの時僕が船に来る襲撃を予想できていたならば、もし、もし、、、

ユーノは考える。歴史にもしはない。考古学を専攻し、遺跡発掘を生業とするユーノはそのことをよく知っている。しかしユーノは考えてしまう。もしあの時僕がもう少しうまく立ち回れていたら・・・。


「なのはにここまでの決意をさせることにも、負担をかけることにならなかったかもしれない・・・」

頭ではきちんと理解している。

現実問題としてあれは仕方のないことだったのだ。誰にも予想できないものだったのだ。

当然それらはユーノのせいではない、事故だったのだ、と人は言うのだろう。

しかしそれがなのはに負担を強いていい理由にはならない。

力があれば、注意力があれば、もう少しだけでも僕に力があれば・・・

そこまで考えてふともう一人?の協力者を思い出す。

多くの言葉を交わしたわけではないが芯が通っており、皮肉屋だが親切(本人は「単なるお節介だ、と嘯いていたが)そして何よりも勇気と力を持つ彼のことを



「こんなところで何をしている」



「うわぁ!!」


ユーノは考えていた相手が急に目の前に現れて驚いた。

「どうした?豆が鳩鉄砲食らった様な顔しているぞ」

「や、八神、くん?」

「こうしてサシで話すのは初めてだな。ユーノ。。。スクライアでよかったか?」

「あ、あぁ」

タイミングよく登場した彼にユーノは心臓が飛び出そうだった。

「それで、何をしている?」

「えっと、ジュエルシードの捜索を・・・」

「?高町はどうした・・・っとこんな時間に外を歩いているほうが危ないか」

自分で納得いったのかククッと喉を鳴らす。

「や、八神君は何を?」

「何お前と同じだよ。このあたりの見回り兼ジュエルシードの捜索、だ」

考えてみれば当たり前のことである。彼は毎日このあたりを歩いているのだから

「それで、ジュエルシードの捜索といいつつこんなところでぼうっとしているお前は何をしていた?」

「・・・見ていたんですか」

「まぁな。ため息をつくと幸せが逃げるぞ。話ぐらいは聞いてやる」

「・・・あなたには関係ないです。これは僕の問題ですから」

目の前には自分が欲した力を持つ存在。ユーノはつい棘のある態度をとってしまう。

すると、ふぅと一息つき、

「そうか、ならばそれはどうでもいい。ところでどうしてジュエルシードはここらへんにばら撒かれたんだ?俺は高町からの又聞きでしか事情を聞いていない。ここであったのも何かの縁だ。本人から直接事情を聞きたいのだが?」

ユーノはうっとつまる。今まさにそれに関することを考えていたことだからだ。

「さて、とっとと事情を話したらどうだ?まさか協力者にも事情を話せない、とはいうまいな?」



ユーノは諦めてため息を一つ。これまでの事情を話すことにした。




「良かったじゃないか」

洗いざらい自分の心情をぶちまけて言われた一言がこれである。

「良いって・・・何が?」

「事故でジュエルシードが散らばって、手伝い感覚だった高町が自分の意思で集めることを決めたんだろう?良かったじゃないか。これでお前の感じるプレッシャーは減るだろう?お人よしは利用できていいな」

この言葉にユーノは頭に血が上っていくのを自覚した。

「なのはを利用なんてしていません!訂正してください!!」

「だが傍目から言わせてもらえばそう見えるぞ。高町のお人よし、この場合は責任感?まぁなんでもいい、につけこんであいつをいいように利用している。そう見える」

「違います!僕はそんなんじゃなくて・・・」

「なくて?」

ここでユーノは詰まった。僕はなのはを利用しているのか?違う、そんなこと考えていない!じゃあどうしたいんだ?



ボクハナノハヲドウシタイ・・・・・・



「答えられないだろう?」

「あなたに・・・あなたに何が分かるって言うんですか!!」

ここに来てユーノは激昂した。行き場のない焦燥、怒り、そういったものが彼から冷静な思考を奪って行った。

「わからんな。こんなところで立ち止まる奴のことなど知りたくもない」

ばっさりと切り捨てられる。

「あの時ああできたらよかった。こうできたらよかった。そんなことばかり考えてちっとも前に進もうとしない奴のいうことなど知りたくもない」

「あなたに・・・力があるあなたに・・・!」


「何をしてもかまわない。ただ立ち止まるな。進め。転んでも男なら死ぬときも前のめりだ」


唄うように告げる。


「失敗したらどうするんですか!失敗するくらいなら動かない方ががマシですよ」

そういうユーノにふふんと鼻で笑うと

「じゃあ次は失敗しないようにしこたま気をつけるさ」


「そんなのは、力のある人の言い分ですよ・・・」

力がないから失敗するのだ。そして自分にはその力がないのだ。

「なら力をつけろ。立ち止まる前に力をつけろ。足りない力をつけろ。俺が言った前に進むとはそういう意味でもある」

「・・・ずるいですね」

「だが、真理だ」






「さて、もう一度聞くぞ。ユーノ。お前は高町をどうしたい?」

「僕は、、、僕は、、、」

最初はただの素質のある女の子だった。

でも一緒に生活するようになって、彼女のいいところも悪いところも見て、

「僕は、彼女とジュエルシードを集めます!彼女が自分で集めたいというのなら、僕は彼女の力になります!!僕にできることは小さいかもしれないけど、僕は、僕は自分のためにも、彼女のためにもジュエルシードを集めます!」

「そうか、ならば俺もそれを手伝おう。誰かのためにでも自分のためにでもいい。歩みを止めなければ新しいものが見える。それはきっとお前を強くしてくれるよ。

大事なことはどうするか、ではない。自分がどうしたいか、だ」


「さて、少々おしゃべりがすぎたな。俺はそろそろ同居人が心配するので家に帰らせてもらう」

「僕の答えが正しいかは分からないけど、僕は、僕の道を歩こうと思います」

「それでいい。お前も遅くならないうちに帰れよ。あれで高町はなかなか心配性だ」

そういって彼は去って行った。

そして気づいた。






















「猫に慰められた・・・」

ユーノははますます落ち込んだ。

















フェレットに言われたくない。












テンプレ通りに行くなら原作キャラにお説教です。今回はユーノくんにお説教してみました。因みに僕はユーノくんは結構好きですよ。一期ではあんなに活躍してるのにね。これで原作は3羽くらいまで終了です。次はみんな大好きフェイトさんの出番が来ます。ちゃんとテンプレどおりです。





[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/17 03:01
このお話はめちゃんこ強い最強のオリ主が大活躍するお話です
人生に満足している人はとっとと戻ったほうがいいと思います
人生に退屈している人はとっととハローワークに行って下さい








狼の声が聞こえる。

遠く、そして悲しく、決意にあふれた声。


そしてもう一つ。

「ジュエルシード・・・すぐに手に入れるよ・・・」

声が響いて消えた。







海鳴市 商店街 夕刻

今日も今日とて学校帰りにジュエルシードの探索をする。

はやては最近俺が遅く帰ってくることに多少いぶかしんでいるようだが・・・今のところは何とかごまかしている。

流石に魔法云々の話をする訳にはいかない。もしはやてにそんな話をしたら黄色い救急車を呼ばれること請け合いだ。

「・・・ん?」

そんなことを考えて商店街にやってくるとなにやら喧騒が聞こえる。どうやら肉屋の主人と誰かが言い争っているようだ。

「だから、それはここじゃ使えないんだ、からかっているのなら別の店にいっとくれ」

「えっと、でも・・・」

どうやら金髪の少女と肉屋の主人、ゲンさんと呼ばれている、が言い争いをしているようだ。

「どうしたゲンさん、騒がしいじゃないか」

「おお、八神のところの、何、この嬢ちゃんが買い物に着たんだがね」

「?それがどうした?まさか見た目で売らないなんて野暮はすまい?」

ゲンさんは荒いがそんな狭量な人ではないはずだ。

「いや、そうじゃねぇんだ。売るのはかまわねぇんだが、カードは使えねぇときいてくれなくてよ」

なるほど、確かに個人商店でカードを使おうとしても無理な話だ。確かにスーパーやデパートではカードは便利だが、こういうところでは不便である

「これじゃ、買えないんですか?」

「そういうわけではない。ただこういう店ではカードは使えないんだ。家に一旦戻って現金を持ってくるほかない」

「えっと、でも、お金、これしかないんですけど・・・」

なんだそれは。この子の親は何を考えている?子供にカード渡して買い物に行かせる等放任がすぎる。いや、むしろ逆に過保護なのか?

「はぁ、仕方ない。ゲンさん。ここは俺が代わりに払っておく。この子に持たせてあげてくれ」

そういうとゲンさんは眉根を寄せて言った。

「かーっまた坊主のおせっかいが始まった。そうやっていつも人助けばっかしてやがる。わかった。わかったよ、俺も男だ。これからのかわいいお得意さん増やすためにも今日はサービスだ。持ってきな」

ばしばしと少女の肩を叩いて肉を包む。

「次来るときはちゃんとお金を持ってきてくれよ」

ゲンさんはにかっと笑うと少女にその包みを持たせた。









「あの、ありがとう、ございました・・・」

金髪の少女と共に歩く。

「なに、肉屋の主人も言っていただろう、単なるおせっかいだ。礼を言われるようなことじゃない」

「それでも・・・買い物ができないところだったから・・・」

「その礼ならゲンさんにいうんだな。あの人が全部やってくれたんだ」

事実俺は何もしていない。ただちょっと横から口を出しただけだ。

「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「あなたみたいなのは・・・この辺りでは珍しくないんですか?」

・・・・・・暗に俺のお節介を馬鹿にされてる気もするが正直に答える。確かにいろんなことに首を突っ込みたがるのは俺の悪癖かもしれないが逆にそれによって人に感謝されることもある。もちろんその逆も。

「さぁな。俺みたいな奴は珍しいといえば珍しいしどこにでもいるといえばどこにでもいる。そんなものさ」

結局人が持つ好奇心次第だろうと思う。好奇心旺盛な奴が多いか、興味を持ってそのあと人にどう関わるか、そこまでは俺にはわからない。

「それじゃ、ここではあまりこういうことに対する警戒心は薄いんですね?」

まぁスーパーやら何やらではただで物を持たせてくれるなんてことはないだろう。あれは個人の商店だからできる裏技みたいなものだ。

「まぁ場所によるが・・・少なくともこのあたりのところではああいう対応をしてくれる奴が多いだろうよ、他のところは知らんがね」

「そうですか、じゃあ、あまり神経質にならなくてもいいのかな・・・・・・?」

少女がなにやらぶつぶつ言っているがこの年頃の少女には色々あるのだろう。はやてもたまにこういう風にひとりでぶつぶつ言っている事があった。

「まぁなんにせよ、次来るときはもう少し準備をしっかりしてから来ることだ」

「え?あぁ、わかりました」

そこまで喋ると少女はふと立ち止まる。どうやらここで方角が変わるらしい。

「えっと色々ありがとうございました」

「そういうな、そういえば名前を言ってなかったな。俺の名前は八神にい。故あってこの町に住むただの男だ」

「男の人。。。だったんですか?」

「この姿を見てそれを言うかね・・・」

ちょっとショックだ。

「あ、そんなつもりじゃなくて、えっとごめんなさい。私はフェイト・テスタロッサといいます」

「テスタロッサか。やはりな・・・」

日本人ではなかったか。

一瞬少女の目が細くなった気がしたが、すぐに戻る。

「それではな、また機会があればあうこともあろう」

少女は遠見市方面に歩き俺は自宅への帰路を急いだ。

そろそろお姫様が怒り出す時間帯だ。

やれやれ、これはまたはやての説教かね・・・・・・。








アルフのためのお肉を買った帰り道、二人(?)で道を歩きます。

目の前にいるのはどう見ても猫です。この世界は魔法が存在しない世界って聞いてたけどそんなことないのかな・・・?

「あの、ありがとう、ございました・・・」

とりあえずお礼を言う。この人?がどんな人かわからないけど助けてくれたのには代わりがないんだし・・・

「なに、肉屋の主人も言っていただろう、単なるおせっかいだ。礼を言われるようなことじゃない」

やっぱり会話が成立してる。ってことはやっぱりさっきから喋っているのはこの猫なんだ・・・。

二言三言言葉を話す。良くは分からないけどもしかしたらこの世界は割と魔法がオープンになっている世界なのでは・・・?

「あなたみたいなのは・・・この辺りでは珍しくないんですか?」

もし彼みたいな存在が当たり前ならば、少々派手に探索をしても大丈夫だろう。魔法に寛容な世界なら・・・

「さぁな。俺みたいな奴は珍しいといえば珍しいしどこにでもいるといえばどこにでもいる。そんなものさ」

なるほど、使い魔は存在はしているがそこまで数は多くないということか。でも使い魔がそうぽんぽんいる世界というのもおかしいので納得する。

「それじゃ、ここではあまりこういうことに対する警戒心は薄いんですね?」

少なくとも使い魔が公に認められている世界なら、魔法が存在すると見ていいだろう。使い手が多いか少ないかは別として。

「まぁ場所によるが・・・少なくともこのあたりのところではああいう対応をしてくれる奴が多いだろうよ、他のところは知らんがね」

「そうですか、じゃあ、あまり神経質にならなくてもいいのかな・・・・・・?」

なるほど、この辺りでは魔法に対する警戒心は薄いみたいだ。確かに彼のような使い魔が出歩いても誰も疑問に思わないところを考えればそれも当然だ。

これは貴重な情報だ。あまり隠蔽工作をしなくてもいいということはジュエルシードの探索にそれだけ多くの力を割ける。

「アルフにも伝えてあげないと・・・それに母さんのいってた情報と随分違う。。。やっぱり実際に来るのとはなしで聞くだけじゃ大違いだね・・・」

この調子ではこの世界ではまだまだ齟齬があるかもしれない。ここは貴重な情報が得られたとしてあとでアルフとも相談しなければ。

これからのジュエルシード探索について考えていると不意に声をかけられる。


「まぁなんにせよ、次来るときはもう少し準備をしっかりしてから来ることだ」


!?

まさか私がジュエルシードを集めに来たことを読まれた!?

そんな馬鹿な。何も喋ってないしそんなそぶりは全く見せていない。いや、魔道師がいるのならジュエルシードが落ちてきたことに気がついているはず。。。

迂闊!

そんなところに私のような別の世界から魔道師が来たら疑われるのは必至!!

これは相手のカマかけ?それとももう正確にこっちを読みきっている?

なんとかこの場を離れないと・・・

ふと立ち止まると彼のほうも何か分かったのか立ち止まる。

「えっと色々ありがとうございました」

「そういうな、そういえば名前を言ってなかったな。俺の名前は八神にい。故あってこの町に住むただの男だ」

「男の人。。。だったんですか?」

「この姿を見てそれを言うかね・・・」

猫の性別なんて見た目で分かるわけがない。

「あ、そんなつもりじゃなくて、えっとごめんなさい。私はフェイト・テスタロッサといいます」

「テスタロッサか。やはりな・・・」

やはりこの猫は何かに気づいている。問題はどこまで感づいているかだ。私がジュエルシードを奪いに来たこと?最悪母さんの目的に至るまですべて知っている可能性がある。

これは、宣戦布告。お互いの名前を名乗りあうことにより始まる戦いの合図。

そう、これから戦いが始まるのだ。

「それではな、また機会があればあうこともあろう」

そういって一匹の猫は去っていった。

彼はこう言っているのだ。『この世界の秩序を乱すなら俺が相手になるぞ』

相手の大きさが見えない。しかしそれでも私はやるしかないのだ。それが母さんの願いだから。





オリ主といえば原作時間前にフェイトさんに会います。また性別が見た目で判断できないものです。こうしてフェイトさんはポンポン魔法を街中で連発したり海に大魔法をぶち込むようになりました。
このお話は全編シリアスです。誤解している方が多いので言っておきますが、このお話はあくまで本気で真剣に最強オリ主の話を作るとどうなるか?というのがコンセプトとしてあります。だから笑いとかそういうものは一切ありません。


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3/4   修正
3/17 誤字修正



[6220] テンプレ
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/04 23:05
大体7話目くらいな気がします。
僕の作品は誤字が多いのですが気のせいです。
前回がフェイトさんとの初邂逅だったので今回はその次のお話です。
前半の山場、温泉編です。登場人物が少々多いので大変です。








「つーん」

「なぁはやて・・・・・」

「つーん」

「ちょっとは話を・・・・・」

「ふーんだ、兄ちゃんなんか知らんもん」

駄目だ。処置なしだ。

最近俺がはやてに内緒でジュエルシードを探索に行っているのが気に食わないらしい。しかし真実を告げるわけにもいかないしなぁ・・・。

「ああ、にいちゃんはあたしを捨ててどっかいってしまうんや。そうして捨てられるあたし・・・なんてかわいそう」

「そんなことはしないといっているだろう、最近は少々物騒だから見回りをしているだけだ」

嘘は言ってないぞ。すべて言っているわけではないが。

「ふんだ。にいちゃんはあたしと一緒にいるのが嫌になったんや。もっと他にいい場所がないか、もっといい女はいないか探してるんや」

はやては車椅子に座って向こうを向いたままこっちを見ない。

傍から見れば子供がすねるのは微笑ましいのかもしれないが当事者としてはたまったものではない。何とかして機嫌を直してもらわねば。

・・・正攻法の説得は諦めよう。ここは一つ搦め手で行くか。

「ふむ、確かに最近ははやてをないがしろにしすぎたかもしれんな」

「謝ってもゆるさへんよ」

ぬ、これは少々怒りが深いか?仕方ない。ここはあの話を切り出すか。

「いや、そうじゃない。実は最近温泉に来ないかと誘われていてね」

はやれの肩がピクッと動く。脈ありか!はやては外出が少ないから旅行の経験は少ないはずだ。

「ふ、ふん。どうせにいちゃん一人で行ってまうんやろ」

心外な。俺はそんな外道じゃないぞ。

「いや、俺も車椅子の家族がいるから、と断ろうとしたのだが、先方はそんなことは気にするな、是非一緒に来てくれ、ということでな」

「そ、そんなんいうてもごまかされんからね」

「最近の罪滅ぼし、というわけでもないが一緒に行かないか?」

ぬ、よく見るとはやての肩が震えているのが分かる。もう一押しか。

「向こうからも是非、といわれているんだ。頼むここは俺の顔を立てると思って一緒に温泉に行ってくれないか?」

そういうとはやてはこっちをようやく振り向いた。

「そ、そこまで言うんなら一緒に行ってあげんでもないよ?あ、勘違いせんでねあくまでし・か・た・な・くやからね!」

口調こそ仕方ないから行ってやるといった感じだが久しぶり、ともするとはじめての温泉旅行に口が笑っている。

「あぁ。分かっているよ。俺のために一緒についてきてくれてありがとう」

やれやれ、機嫌も直って帰りが遅いこともごまかせて結果オーライ、という奴か?



「あ、でも帰りが遅いことに関してはまだ怒っとるんやからね」

・・・・・・まだこれからか。








こうして俺達ははやてと一緒に全国的な連休、その少し前に温泉旅行に行くことになったのであった。










「ふわー大きい旅館やねー」

車から車椅子ごと降りたはやては目の前の旅館を見てそう嘆息した。

「ここらでは一番有名な温泉らしいぞ。料理もうまいらしい」

「にいちゃんよくこんなところ知っとったなぁ」

車椅子を押してもらいながら玄関に入る。

「いらっしゃいませ」

「予約した八神だ」

「!!し、失礼いたしました!!」

その瞬間目の前にいる仲居が血相を変えて飛んでいく。

・・・数分後には目の前にずらりと仲居や番頭、女将から板長まで揃い踏みだ。

その中で恭しく女将の女性が頭を下げる。

「その節は大変お世話になりました。何もないところではございますが本日はごゆるりとお寛ぎくださいませ」

従業員一同が一斉に頭を下げる。猫相手に。




「・・・にいちゃん、なにしたん?」


「なに、人助けを少々ね」








車椅子ということで介助をしてもらいながらはやては温泉に入る。隣では女将がはやてのためにいつも控えている。

「お湯加減はいかがでしょうか?」

「あ、ちょうどええと思います」

はやてはそんな会話をしながら疑問に思ったことを聞いてみる。

「あの、うちのにいちゃん、一体何をしたんでしょうか、にいちゃんは人助けいうて教えてくれんのです」

すると女将は微笑んで

「あの方のおかげでこの旅館は今も建っているのです。そしてそれに従業員一同は感謝しております。申し訳ありませんがそれ以外申し上げることはできません」

そういうのだった。

「は、はあ。なんや分からんけど悪いことではないんですね」

「もちろんです。今回の旅行も私たちが御礼をするために無理に、と申しあげて来ていただいたのです」

なんかうちの猫は色々と規格外だなぁ・・・いまさらながらはやてはそう思うのだった。



温泉から部屋に戻るとはやての前には海鳴では見たこともないような海の幸、山の幸が所狭しと並んでいた。

「お。もどってきたか。温泉はどうだった?」

「う、うん気持ちよかったわ。にいちゃんは入らへんの?」

「後ではいるさ」

どうやって。はやてはその言葉を飲み込んだ。

「今は食事にしよう。板長が腕によりをかけて作ってくれた料理だぞ」

確かに目の前には料理番組でしか出てこないような料理が並んでいる。はやては段々不安になってきた。まさかこれは夢やないんか?

「にいちゃん。ここの料金とかってどないしたん?」

「タダだ」

「タダって・・・無料!?」

「向こうが是非にというものでな。料金の事を聞いたらそんなものはいらない、とさ」

その時襖がすっと開いて板長と女将が入ってくる。

「八神様からお足を頂くわけには参りません。これはわたしたちの感謝の気持ちなのですから」

「ボンズには俺達も世話になった。あの時ボンがいなかったらと思うと・・・」

「よしてくれ板長、女将。俺はただちょっとお節介をしただけさ」

「いえ、そんなことはございません。今ここに無事に旅館を経営できているのは八神様のおかげでございます」

「そうそう、今日のは飛びっきりの料理だ。冷めねぇうちに食ってくれ。ほらお嬢ちゃんもな」





考えるだけ無駄だ。はやては思考を放棄した。もういいや。目の前にはおいしい料理がある。あ、この料理のレシピ後で教えてもらお。

欠食児童もかくやという勢いで食べ始めたはやてを見て

「うむ、元気が出たようでよかった」

そう呟いた。









「なぁにいちゃん・・・」

「なんだはやて」

「展開おかしない?」

「知るか」






とうわけで温泉編です。テンプレ通りに行くなら温泉旅行に行かないといけません。オリ主はみんな行っています。これまでよりも少々登場人物が多かったので大変でした。はやてがいるので彼女と一緒に行くとなるとどうするか。それがこのお話の難しいところでした。

次は次元震の話かな?そこまでいけるといいけど。






[6220] オリジナル
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/17 02:59
今回はオリジナルな展開が多めになります。
仕方ないね。
次の話の伏線というか布石なので諦めてください。
そのおかげでいままでで一番出来がひどいです。







親友達と大喧嘩をしてしまったなのは、その日の放課後、二人はこの間温泉であったことを話し合っていた。

「そうか……そんな事が……」

「うん…ジュエルシードもとられちゃったし……」

この間の温泉旅行のときにあったことを説明しているなのは。その表情は暗い。

「それで、それは本題ではないだろう?」

確信しているような声。それは彼女の心情を察したものなのかそれともただの勘なのか―なのはには判断する事が出来なかった。

なのはは意を決して話す。

「あの子、悲しい顔してた。わたし、あの顔知ってるんだ」

それは少し前の記憶。彼女が一人でいた記憶。彼女もまた孤独を知っていた。だから思う。

「友達に、なりたいんだ」

言ってみて自分の心にストンとその言葉が落ちてきた。誰よりも優しく誰よりもさびしがりやな少女は誰にもそんな顔をさせたくなかった。

「答えは出たようだな。そのフェイト・テスタロッサだが…金髪に赤い目か……?」

「知ってるの?」

フェイトとあったことのないはずの彼の発言になのはは気色ばむ。

「少々以前に、ね。これも運命という奴か」

もしもこれが運命というのならば運命の名を持つ相手に神は何をさせようというのか。

「フェイトちゃんには、きっと何か事情があるんだと思う。だから」

その先を促す。彼にはその言葉の先が想像できていた。

「だから?」

「お話をしたいの。ユーノくんには、頼めないから。ユーノくんのジュエルシードを集めるって目的に私の我侭をつき合わせられないから」




「お願い、力を貸してください」



再びのお願い。

それは彼女にとってとても珍しい選択。彼女はまず人に頼らない。それでも彼には頼った。それは信頼や友情といったものかもしれない。が、もう一つ秘密を共有している唯一の存在であるという要因が強く作用していた。

つまりこれは彼女には自分の心情をありのままさらけ出せる相手がいないということでもあった。
例えば家族には魔法のことなど話せないし、ユーノに対してはお互いが持つ引け目(この場合は両者とも賢すぎる点が災いした)から彼女と話をするという我侭を押し通すことは出来ない。そこにきて彼はそんな事情とは全く無関係である。何せ単なる猫だ。しかも事情を知っている。なのはが彼に自分の心情を吐露したのも仕方のないことであった。

「……わかった。それでは選べ。ジュエルシードの封印と、テスタロッサとの話し、お前はどちらを優先させる?」

それは彼女に突きつけられた選択。どちらも優先することは出来ない。彼はいつも現実を見据えている。そして彼女に問う。どちらがより大事か?

「……分からない。でも、あの子とお話をする!ジュエルシードの封印もする!どっちが大事なんて考えないよ!」

それは理想。自分のやりたいことは全部やるというある種傲慢な考え。それでもその答えに満足した一匹の猫は―


「プ、くくく、高町らしい答えだな。何、任せろ。君の友人にも頼まれていることだしな。弾除けぐらいにはなってやる。戦うのは男の仕事だ」

とても楽しそうに笑うのだった。










話は少し遡る。なのはたちが大喧嘩をした、その日の昼のことである。

「八神君……」

彼は珍しく月村すずかから話しかけられた。

「なんだ?」

「ちょっと、来て」

そういい彼を抱きかかえたまま教室をでていくすずか。少々居心地が悪そうだ。

屋上まで来た彼女は彼を地面に降ろした。

「それで、こんなところまで呼び出して何のようだ」

無理やり連れてこられ不機嫌になる。しかしむこうはそれを意に介せず話を始めた。

「なのはちゃんのことなんだけど、何をしてるの?」

「……なぜ俺に聞く?知りたければ本人に聞け。俺は彼女の恋人でもなんでもないぞ」

「なのはちゃんは、きっと何も話してくれないと思う。それに、今一番なのはちゃんに近いのは八神君だから」

彼は彼女の推理、いや恐らくは勘というものなのだろうがそれに舌を巻いた。彼女は何かをうすうす気づいている。それが危険なものであるということも。

「答えられないものは答えられない。それでよければ話してやる。それが精一杯だ」

予想以上の返事があっさりときたことにすずかは驚くが質問をすることにする。

「それじゃあ、八神君はなのはちゃんがやってることを知ってるんだよね。それが危険だって言うことも」

質問というよりは確認、そんな意識が見えた。

「ああ、知っている。但しその具体的な中身については言えない」

「じゃあ、私に出来ることって……」


「ない」

にべもない言葉。彼は発言を続ける。

「君達は今のままでいればいい。今の日常を彼女に与えてくれればそれでいい。君達は俺が見る限り親友だ。俺のような付き合いが浅い奴にも分かるくらい親友だ。だから待て。高町はいつかきっと必ず話してくれる。それを俺が言うことは出来ないし、してはいけないことだと思う」

正論だ。吐き気がするくらい正論だ。しかし、彼女は割り切れない。親友の力になれない自分の無力さを嘆く。

「私は、なのはちゃんの役に立たないのかな」

「違う。俺の話を聞いていたか?高町はきっといつか話してくれる。それを待つのも親友の役目だ。そのときは俺ごときよりよっぽど役に立つ」



「分かった。じゃあ、一つだけ頼んでもいい?」

本当は分からない、分かりたくない。しかしその感情を無理やり押さえつけた。

「何だ?」

「なのはちゃんをよろしくお願いします」

「……任せろ」

屋上から一匹の猫が飛び降りていった。











「さて、任されたわけだが、これは一体どういう状況だ?」

あちら側にいるのはいるのはこの間のフェイト・テスタロッサとでかい犬、こちら側には高町なのはとねずみもどき。すでに結界を張っている。

『sealing form set up』

『sealing mode set up』

発動したジュエルシードに向かって二人の光が伸びる。片方は黄金色、そしてもう一方は桜色の奔流。

だが、二人の光はぶつかり合い、互いに相殺された。

そのうちの片方、フェイトがこちらに気づいたらしく告げる。

「……やっぱり彼女の仲間だったんですね」

「仲間、とは少し違うかもしれないな。フェイト、いや、テスタロッサと呼ぶべきか?」

隣からは八神君?と呼ぶ声が聞こえるがそれをあえて放置する。ここは自分が出張るところだ。

「2対2、いえ、2対3ですが負けない。勝負です、にいさん」

デバイスを構える。

「やってみろ、テスタロッサ」

瞬間足元が爆ぜる。強靭な脚力によって一瞬で空中まで飛び上がりそのままフェイトへと肉薄する。

『scythe form』

フェイトは近接戦闘形態に特化した形状にバルディッシュを変化させそれを迎え撃つ。

瞬間、両者の間に火花が飛び散る。黄色い、赤い火花。

「いい反応だ」

どこか余裕が感じられる声。

「あなたも…!」

片方の表情に笑みが浮かぶ。楽しい。愉しい。

しかしそんな二人に水を差す声がかけられた。

「やめて、八神君!!フェイトちゃん!!」

「高町、邪魔をするな!先にジュエルシードを封印してろ!こいつの足止めは俺がしておく!」

その声を聞いてユーノには彼の意図が読めた。

「なのは、今のうちにジュエルシードを封印するんだ!あの子とはその後話しをしても遅くない!」

そう、彼は単独で時間を稼ぎ、まず高町にジュエルシードを封印させる。その後、それをだしにするなりなんなりしてフェイトとの会話の場を設けようとしているのだ。

その意図を汲んだユーノはなのはに向かって封印を求める。しかしなのははそれに応じようとはしなかった。

「二人とも、戦っちゃ駄目だよ!ぶつかり合うのは仕方ないかもしれない!でも、二人が戦うのは、なんか、嫌だ!」

「話すだけじゃ分からないかもしれないけど、何も分からないままぶつかり合うのは、私嫌だよ!!」

なのはが叫ぶ。相手のことをもっと知りたい。戦うにしても相手のことをもっと知りたいという純粋な願い。そしてそれに彼は応えた。

「高町、役割変更だ!こいつの相手はお前がしろ!ユーノ、お前がジュエルシードの封印だ!俺は…あの犬っコロを倒す!」

『device mode』

「フェイトちゃん!私の名前は高町なのは!私立聖祥大付属小学校三年生!行くよ!フェイトちゃん!」

『flier fin』

そして少女は空を駆けた。





フェイトとの戦闘を一時なのはに預け、アルフのところに降りてくる。ここに二匹の獣がにらみ合った。


「アンタ、何者だい?」

純粋な問い。白い魔法使いの味方であり、ジュエルシードを確保するのが目的でもあるらしい目の前の猫。

魔力反応はおろか肉体的にもただの猫とかわりがないはず。それでも彼はフェイトと互角に打ち合った。あの余裕を見るに近接に限れば彼女の敬愛するご主人様を上回っていたかもしれない。白い魔法使いと協力すれば間違いなく自分のご主人を倒していただろう。(最も自分がそんなことはさせないという自負がアルフにはあるが)

しかし、フェイトを倒すのが目的ではない。

純粋な疑問。相手は猫だ。自分は狼だが使い魔だ。しかしこいつは違う。どっからどう見てもただの小さい猫だ。そのくせ余裕綽々で不適。こいつはいったいなんだ?だから問うた。

「アンタ一体何者だい?」




答えはあっけないほど簡単だった。





「通りすがりのクラスメートさ」












このお話はテンプレといえるようなテンプレがないので自分でお話しを作るしかありませんでした。すごく難産でした。だから完成度はいままでで一番低いです。多分修正すると思います。でも色々伏線張ってあるのでめんどくさくなってしないかも知れません。


3/10 投稿
3/17 誤字修正



[6220] 天ぷら
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/17 03:06
多分9話目くらいだったと思います。
どうでもいいですが投稿したときの番号はは-1されるため実は一話ぶん少なくなっている気がしてなりません。
前回の続きからです。オリジナル展開が半分くらいあるので我慢してください。








二人のデバイスが交差する。間にはジュエルシード。なのはとフェイト、二人の強大な魔力にさらされたジュエルシードは―

「なんだ!この光は!?」

アルフとの睨み合いを続けていた彼はすぐ近くの光の柱を見て気色ばんだ。

「ジュエルシードの暴走だ!」

唯一その状況を理解したユーノが叫ぶ。二人の魔力によってジュエルシードが反応し、小規模な次元震を引き起こしたのだ。その衝撃でなのはとフェイトは吹き飛ぶ。彼女らのデバイスもその余波を受けてボロボロだ。

「高町!無事か!?」

「な、なんとか……」

光の柱は徐々に収まるが、ジュエルシードは以前魔力を放出し続けている。ここでフェイトが動いた。

力の放出を続けるジュエルシードの封印を素手で行ったのだ。

「フェイト、駄目だ!危ない!」

「デバイスも使わず素手での封印なんて、無茶だ!」

アルフとユーノはその行動を見て叫ぶ。発動したジュエルシードは莫大な魔力の保有タンクである。それを独力で封印することは無謀に近いことだった。フェイトは両腕でジュエルシードを包み込むようにして念じ続ける。

「止まれ、、、止まれ、、、止まれ。。。」

両の掌が焼けるような痛み。それを無理やり押さえつけた。

しかしジュエルシードの発動は止まらない。

「無理だ!魔力の暴走が強すぎる!このままだとこのあたり一体が吹き飛ぶ!」

「フェイト!無茶だ!手を離して!」


それでもフェイトは手を離さない。


「止…まれ、止まれ、、、止ま……って」

フェイトの力が段々弱まる。それに伴いジュエルシードの輝きが段々強くなる。発動に耐え切れずそのまま吹き飛ぶのは時間の問題だった。

「フェイト!!駄目だ!このままじゃ……だれか、フェイトをたすけてぇ!」

アルフの悲痛な叫び。すでにジュエルシードの力は大きくなりすぎてそばに近づくことすら困難になっている。




「任せろ」


その時、不思議な事が起こった。


一匹の猫が駆けていった。それはあらゆる力を退けてジュエルシードのところまで駆けて行った。




「どいつもこいつも無茶をする」







フェイトは気を失う寸前にその言葉を聞いた。


(かあ…さ……ん)



鈴の音が鳴った。





気絶したフェイトを抱え、アルフは一匹の猫に向かって話しかける。

「なんであたし達を助けたんだい?」

「お前が望んだからだ。ついでに言えば後ろでこっちを見ているやつがそいつがいなくなることを望まなかったからだ。あとは、まぁ気まぐれだ」

「そうかい。一応礼はいっておくよ。理由はどうあれフェイトを助けてくれたのに変わりはないからね」

彼女にしてはとても珍しい言葉。それはアルフの本心からの言葉だった。

そしてアルフはフェイトを横抱きにしたまま夜の街を消えていった。



「さて、逃げられたが、まぁいいだろう?高町?」



「フェイトちゃん、大丈夫かなぁ」

状況を見ていたなのはが呟く。彼女にとってはジュエルシードを奪われたことよりもその封印に無茶をしたフェイトのほうが心配であった。

「なに、俺は魔法関係はよく分からないが見たところ大きな怪我はなさそうだったぞ。ジュエルシードを抑えてた掌くらいだろう」

そっか、となのははその言葉に安堵した。

「あいつは無事だったがそれよりも…」

しかし、その言葉はユーノによってさえぎられた。




「あのー」

「?どうしたユーノ。鳩が豆鉄砲食らった顔してるぞ」

「えっと、どうやってあの状況を収めたんですか?」






「企業秘密だ」










次元航行船アースラ。時空管理局所属の船である。その船は一路海鳴市へと航路を取っていた。

「次元震の発動は厄介ね…」

アースラ艦長、リンディ・ハラオウンは一人ごちる。下手をすれば次元断層が起こり、周辺の次元にまで影響が出た可能性もあったのだから当然といえる。

「しかし、小規模の次元震発動後、さらに大規模な次元震発動寸前に嘘のように痕跡が消えました。何があったんでしょうか?」

アースラのオペレーター、エイミィ・リミエッタがその声に反応する。

「なんにせよ、現地の捜索者たちの話を聞いてみないと話は分からないわね。その部分だけモニターできていないし…」

何があったか分からない。そのことにリンディは眉根を寄せた。

「…クロノにはいざとなればすぐに介入してもらわないといけないわね」

彼女の隣に立つ、少し背の低い少年に言う。その表情はとても晴れやかなものとはいえなかった。

「大丈夫ですよ。リンディ艦長。僕は、そのためにいるのですから」

だが、黒衣の執務官、クロノ・ハラオウンは自信ありげに答えた。

その自信は彼自身の自負によるものかはたまたただの強がりか。












翌々日。


その日から高町なのはは学校を休み始めた。教師の話では家庭の事情ということでしばらくの間学校にこれない、ということだった。

この知らせを聞いて驚いたのは彼女の親友達である。

「なのはちゃん、大丈夫だよね?」

唯一事情を知っているはずの男も今回の休みについては詳しい事情を知らないらしく彼女の疑問に答えることはできなかった。

「どうやら俺の役目はここまでだったらしい。おそらく高町は自分の足で歩く道を選んだのだろう。心配するな、とはいえないが、何、そのうちひょっこり帰ってくるさ」

俺に一言も言わずに消えたのはどうかと思うがな、そう続ける彼の姿にすずかは何もいえなかった。

なのはのことを頼んだのは自分であるが、そのなのは本人がどこかに行ってしまったのではどうすることもできない。すずかにとっては仕方がない、と思う一方彼に無理やりでもついていって欲しかった、という思いがあった。もちろんこれは彼女の我侭である。彼にも自分の生活がある。それを放棄してまでなのはの助けをしろ、というのは無茶である。しかし、それでも彼女の胸のうちにはほんの少しだけそんな思いがあった。

未だ彼女は自覚していないが―それは嫉妬という感情だった。

親友の助けになれない自分。助けられる位置にいた級友。自分が彼の立場だったら何を置いても彼女を助けただろう。しかし現実はそうならなかった。


親友はどこか遠いところに行ってしまった。もしかしたらそのまま帰ってこないのではないか。何かに悩んでいる親友は悩んだままどこかに行ってしまうのではないか。

そしてそれを知りえたかもしれない立場にいたのは―自分ではない。

論理立てて思考したわけではないが、すずかはもやもやとした感情を持つのだった。






十日後

高町なのはは一旦帰宅が許された、ということで久しぶりに学校に登校していた。久しぶりに会う親友達、クラスのみんな、そして、

「八神、くん…」

手助けを頼んだ相手。

「久しぶり、というほどでもないな、高町」

いつもどおりの飄々とした答え。


「それで、少しはうまくいきそうか?」

彼はきかなかった。いなくなったことに関しても、この数日何をしていたかも聞かなかった。ただ、うまくいきそうか、ということだけを聞いた。それがなのはにとって意外だった。

「え、うん…自分のやりたいように、やろうと、思う」

「そうか。ならばよし。これで俺も枕を高くして眠れる」

そう言って安心したような笑顔を見せた。

「えっと、ごめんなさい」

「意味のない謝罪は受け取らない主義だ」

「心配、かけちゃっただろうし、私が手伝ってっていったのに急にいなくなったりして…」

なのはにとってはそれだけが気がかりだった。フェイトちゃんとお話をする。どんな事情なのか聞く。それは自分が決めたこと。そのために彼に対して助けを求めたのに自分が勝手にいなくなった。それを身勝手と思っていた。

「そんなことはどうでもいい。手伝いを承認したのは俺だ。ま、知らぬ仲でもないわけだし、な」

「でも…」

「もういい、と言っているんだ、さ、君の親友達が待っているぞ。俺なんかに時間を割くよりも彼女達を安心させてやれ」

それは本心からの答え。首を突っ込んだのは自分。それをしようと決めたのも自分。自分で決めたことに対して謝られる理由はどこにもない。彼はそう考えていた。

そして向こう側でこっちの話が終わるのを今か今かと待ちわびている少女達を指差して、尻尾を振るのだった。













数日後…





「なんや、にいちゃんご機嫌やなぁ」

「ん?そうか?はやて?」

「うん、なにがあったん?」




「一人の寂しがりやが一人だと思い込んでいた子と友達になった、それだけの話さ」



そう言って笑う一匹の猫を見て、はやては首をかしげるのだった。








と言うわけで無印編終了です。テンプレどおり行くならフラグや伏線を張りまくってそれを全部ガン無視したり、叩き折らねばなりません、
さらにみんなやってるテンプレとして途中で更新を断絶しなければなりません。
完結させるのに更新断絶しなければならない。両方やらねばならないのがテンプレのつらいところでした。
本当は一話か二話で打ち切ってもよかったのですが、まぁこの辺だろうと打ち切りです。

と言うわけで次回からはA'S編に入ります。
あれ、あの部分はどうなったの?と言う質問があればどうぞ。答えられれば答えます。



3/14 投稿
3/17 修正



[6220] As一話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/17 03:07
無印は終了、今回からA'Sに入ります。
原作どおりの時間の進み方ではないです。
まずはあいつら出さないとどうしようもないので。
完全シリアスです。ギャグは0です。







うちの猫は規格外だ。

この一言が八神はやてが彼女の飼い猫、にいに持っている印象である。

見た目はどこからどう見ても普通の猫である。多分万人が万人みて想像するおよそ猫という存在そのものといえる。

そのくせに全く猫らしくないのだが。


まず喋る。

それはもう流暢な日本語を話す。本人(?)曰く「パプワニューギニアの奥地で話される原住民の土着語とアマゾンに住むいくつかの部族のスラング以外ならとりあえず全ての言語が話せる」そうである。

この時点でおかしいと思われるが待って欲しい。こんなものは序の口である。

次に学校に通っている。

それもよく童話であるような動物の学校とか、猫の集会所に通っているわけではない。

本当に普通の小学校に通っている。話を聞く限りではクラスでの評判も上々らしい。猫の分際で。そのあたりのことを一度はやては聞き出してみた事があるのだが、うまくはぐらかされて終わってしまった。曰く、『企業秘密』だそうである。

どこが企業なのか聞いてみたいと思ったが止めておいた。主に自分の精神を守るために。

さらに不思議なのはこれでいて周りからよく慕われているところである。いつぞや温泉に行った時も大きな旅館の豪華な部屋に宿泊費無料で泊まった。そこの女将が言うにはなにやら多大な恩があるとかないとか……

この他にも一緒に町を散歩したときなどは大変である。商店街に買い物に行けば明らかに出した金額よりも多くの商品を譲ってもらえる。周りに子供達が寄ってきては尊敬のまなざしで見ている。猫を。あるときなど妙齢の女性に「私も八神君のようなナイト様が欲しかったわ」等と言われればいやがおうでも意識せざるを得なかった。



目の前で毛糸玉に戯れて糸が絡まって動けないでいるところを見ればそんな幻想も吹き飛ぶだろうが。



「……なぁにいちゃん」

「なんだはやて」

素で返すな。よく考えるとこの時点でおかしいだろ。

「にいちゃんはなぁ、ねこさんなんやよね?」

ついに聞いてしまった。もしかしたら禁断の質問。

「突然何を言い出すかと思えば…俺が猫以外の何かに見えるなら眼科に行ったほうがいいぞ」

やはり猫らしい。確かに魚が好物らしいし、「散歩」と称してなにやら外に出て行くことも多い。その「散歩」で一体何をしているのかは知らないが。

「急にどうした、また何か心配事でもあるのか?」

はやては心配といえば心配であった。主に自分の脳が。ついでに言えばこの町の人間の精神が。

「なぁ、にいちゃん、いや、にい、普通、猫は喋らんちゃうん?」

言ってしまった。正直自分もいつの間にかこの猫が喋れることを気にしなかった、というか最初からそんなこと気にしていなかったのだが、ここに来てとうとう聞いてしまった。

「はやて、いいか、よく聞け。これは俺の担任の先生が言っていた言葉だ。世の中にはいろんな人間がいる。それを差別してはいけないよ、と」

優しく諭すわが飼い猫。しかし問題はそこではない。

「いや、差別とかそんなんちゃうよ、ただな、猫が喋ったり学校行くのはどうなんかなっと」

しかしその言葉に彼はやれやれとため息をつくだけだった。

「はやては九官鳥を知らんのか?オウムやインコでもいい、あいつらは喋るぞ」

違う、何が違うのかはよく分からないが九官鳥と猫は違うだろ。

だがはやては大人だった。少なくとも意固地にならないほどは大人の対応ができた。

「まぁええわ百歩譲って喋るのはゆるすわ。じゃあ何で学校いっとるん?」

「?勉強のために決まっているじゃないか」

何をいまさらとでも言いたげに言われる。かみ合わない。

「そうやのうて、どうやって学校いっとるん?」

「徒歩だ。高町、クラスメートのことだ、なんかはバスで通ったり、リムジンで通学しているやつらなんかもいたな。あとは内緒で自転車に乗っている奴もいるとか…」

「そうやない!!どないして学校に入学したんかきいとるんよ!普通は入学を許してくれんやろ!」

ああ、なるほど、少し待て、そう彼は呟き、どこからか生徒手帳と聖祥大付属小学校の入学案内を持ってきた。

「まずこの入学案内をみろ、いいか、ここは私立だから多少他と差があるかもしれないが、まずこの入学願書を出すわけだ。そして試験に合格すればいい。はやての場合は編入になるから少々手間だが、まぁ概ねやることは変わらない。ただ、編入試験は少々むずかしめに設定されている事が多いから気をつけろ、次に守るべき校則についてだが……」

「にいちゃん。何言うとるん?」

「何って…編入手続きと校則についてだが。はやても学校に通いたいんだろ?足が治ったらなんてけち臭いことは言わなくていいぞ。そのあたりはどうにでもなるからな」

いつの間にか自分が学校に編入することになっている。

「へーそれはええなぁ、あたしも学校いけるんかー」

「うむ、はやても学校に通いたかったのだろう。そのことに考えが至らないとは俺が悪かった。なに、金や保護者のことなら心配するな。どうにでもなる」

「って違うゆーとんやろー!!!!」

切れた。切れてしまった。はやては生まれて初めて大声を出した。関西人の血だろうか。

「なんだはやて、大声を出すな。ご近所に迷惑だろう」

あくまでマイペースを崩さないこの猫。やんわりと大声を出したことを注意してくる。

「だーかーらー!そうやのて、なんで猫が学校通えるかきいとるんよ!!」

もうなんかしっちゃかめっちゃかだ。ヒートアップしているのは少女だけだが。もう片方の当事者は全く動じない。

「なんだ、そんなことか。いいかはやて、この入学案内をよく読め」

そういわれてはやては入学案内の「編入資格について」の部分を見る。



「どこにも猫は入学してはいけないなんて書いてないぞ」



はやては目の前が真っ暗になった。












この猫は規格外である。

これが高町なのはが彼女のクラスメートに持っている印象である。

見た目は誰がどう見ようとただの猫である、およそ猫というものを想像したときに全ての人間が頭に思い浮かべるような猫である。

全く猫らしくないのだが。


まず強い。

とにかく強い。もう強いという言葉では言い表せないくらい強い。

なのはは春先にあったひょんなことから魔法を使えるようになり、それ以後、少しずつ魔法の練習をしている。

そしてその事件のとき彼が戦うのを見た。

強かった。魔法も何も関係なく強かった。自分が魔法で封印せざるを得なかった相手を一瞬で引き裂いた。

同じ魔法使いの子と戦って一歩も引かないどころかどこか余裕すら感じられた。

一度彼女の兄に、彼についての印象を聞いてみた事がある。

兄はこう答えた。

「あいつはきっと強い。多分父さんや俺が全力で戦っても勝てるかどうか…」

家で古流剣術を習得している兄をしてこの言葉である。なのはにとってはどれほどの強さなのか想像もつかない。

修行を見てもらうことを口実にどれくらい強いかを調べようとしたこともあったが、

「強さとはひけらかすものではない、高町、強くなるために修行することは悪いことではないが修行を人の強さを知ろうとするダシに使おうとするのは感心しないぞ」

一発で見破られた。

まぁとにかく彼が強いということは分かっていた。

次に頭がいい。

試験で百点を取るとか、物知りだとか言う頭のよさではない。

強いて言うならキレモノという言葉が近い気がする。

人の機微に敏感で、頼まれたことは決していやといわない。ただのお人よしだ、と本人は言っているが、間違いなく彼がクラスの中心として動いているのは確かである。猫の分際で。



しかし、なのははこうも思った。



(こんなにすごいのなら、八神君の弱点って何だろう?)

確かに子供らしい問いである。何かしらの弱点があるのは生物である以上当然といえた。しかし、なのははそんものは見たこともなかった。


まず食べ物、好き嫌いがあるかである。

しかし嫌いなたべものについての調査は難航した。

とにかく持ってきたお弁当はもとよりもらったり交換したものは全て平らげている。猫は葱やにんにくチョコが駄目だと聞いたがそんなことお構いもせずぺろりとたいらげている。


「八神君?嫌いなものってないの?」

「好き嫌いすると大きくなれないぞ」



次に水。

夏が近くなると学校でもプールの授業があるのだがこれについてはどうだろうか。

一般的に猫は水が嫌いである。

「八神君、プール入れるの?」

「任せろ、海鳴の青い流星とは俺のことだぜ」

微妙に痛い名前をつけてプールに飛び込む彼の姿を見てもしかして弱点はネーミングセンス?そんなことを考えた。




「は?俺の弱点?」

帰り道、たまたま一緒になったなのははここに来てとうとう本人に問いただすことにした。

「うん、八神君はなんでもできるけどさ、なにかできないことって言うか…弱点とかあるのかなぁ、って」

「そうだなぁ……」

うーんと唸りながら考え込む彼の姿を見て、そんなに自分の短所がない人なのかな、とかなり失礼なことを考える。

「あ、弱点って言うほどでもないが、箸を持つのが苦手だ」

弱点以前の問題だった。

「それは、弱点ていうのかな…?」

ある意味生物学的な問いに考えながら歩く。するとふと隣を歩いていたはずの彼が立ち止まる。

「八神君?」

「高町、この道は通れん。別の道を行くぞ」

見たこともない真剣な表情。まさか、なにか異常事態が?なのはは周りを見渡すが何も以上は見当たらない。その間に彼はずんずんと違う道を進んでいく。

「え、ちょっと、八神君?」

一本道をはずれどんどん進んでいく。その目には全く躊躇というものがなかった。


しかし、また少々進んだところで彼は立ち止まった。

「く、まさかこっちも通れぬようになっているとは・・・。昨日までは通れたというのに」

やはり真剣な表情。なのははなぜ彼がそんな表情をしてるか分からない。

「八神君?どうしたの?なんか変だよ?」

「すまないが高町、俺はここで特殊なルートを使って帰らせてもらう。申し訳ないがここでさらばだ」

そう告げると猫は塀を飛び越えてどこかへ去ってしまった。

「なんなの?もう……」





なのはの20m前には、水の入ったペットボトルがおいてあった。









「なあにいちゃん」

「なんだはやて」

「展開おかしない?」

「俺が知るか」








A'S一話目です。今回のお話は試験的に恋愛要素を入れてみようと思います。僕は恋愛ものとか書けるはずは無いと思うのですが何事も経験です。だから今回は恋愛要素が入ってくることになります。何かカップリングの要望があればドウゾ。別にそれは反映されませんが。





[6220] As二話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/03/29 00:33
多分2話目だと思います。
嘘です。
理想郷が復活しました。
とても嬉しいです。
管理人の舞氏にはいつもご苦労様ですの言葉とこれからもよろしくお願いしますという二つの言葉を捧げます。


こんなところを見ているわけがないのですが。









八神はやての夜は遅い。

いや、正確に言うと遅かったというのが正しい。なぜならば彼女の同居人が小学生の年齢にあるはやてが夜更かしすることにあまり好意的でないからだ。


一人で暮らしていた頃、彼女は眠るのが怖かった。


次の朝になったとき、もしかしたら自分はもう二度と目覚めないかもしれない。もしかしたら死んだはずの父と母が戻ってくるかもしれない。もしかしたら自分の足だけでなく腕までも動かなくなっているかもしれない。もしかしたら自分を誰か必要としてくれる人が現れるかもしれない。

希望と絶望が常にごちゃ混ぜになりはやてはいつも不安だった。誰にも言ったことはない。担当の先生にも、誰にも。

「このままでいるのが一番いい」「本当にこのままでいいんだろうか」

二つの異なる意思がはやてを蝕み、いつしか彼女は眠ることから逃げるようになった。


そうして彼女は本を読んだ。

空想の世界は優しいから。ほんのわずかな時間だけでも現実を忘れさせてくれるから。

しかしそこにほんの一つの異物が紛れ込んだ。


最初はただ可哀想だと思っただけだった。

もしかしたら人肌恋しかったのかもしれない。孤独はたやすく人を蝕むから。

でも、彼もまた孤独だった。

だから一緒にいた。いることを選んだ。


それによりはやての生活が劇的に変化したわけではない。

しかし長らく感じていなかった誰かと一緒にいることによる幸福、家族を心配する気持ち、家族と笑い合う喜びを彼女は再び得た。

はやては彼に感謝している。本人に問えば、「自分は何もしていない」などというだろうし、絶対に「自分のほうがはやてに感謝している」というだろうから言ったことはないがそれでもはやては彼に感謝していた。



だから、今は、眠るのがあまり怖くない。




だから、これは必然。


八神はやて誕生日当日夜のことである。






『Ich befreie eine Versiegelung』

『Anfang』

鎖に縛られた本が開き、黒い光が輝きだす。それに呼応してはやての胸のリンカーコアも輝く


「闇の書の起動を確認しました」

「我ら闇の書の蒐集を行い主を守る守護騎士にてございます」

「夜天の主の元に集いしヴォルケンリッター、何なりとご命令を」

そして現れる守護騎士達。

それは彼女らの存在理由。主に仕え主と共にある守護騎士達









「うるさいわ」



はやての寝起きは悪かった。






はやての部屋からもれる異常な気配に気づいた彼はすぐさまはやての部屋に駆けつけた。そしてそこにいるのは見たことのない4人の男女。一見かしづいているようにも見えるが、見知らぬ他人がいることに変わりはない。

「貴様ら、はやてに何のようだ……?」

彼にしては珍しいまでの怒気。

向こうもそれに気づいたのかただならぬ気配に表情が険しくなる。

「貴様…何者だ!?」

桃色の髪をした女性、シグナムが問いかける。目の前の存在からは歴戦の戦士を思わせる気配が漂っている。

「質問を質問で返すな。はやての誘拐ないし危害を加えることを目的と判断する。排除する」

瞬間、シグナムの目の前から彼の姿は消えた。

「っ!?」

慌ててレーヴァティンを取り出し掲げる。その瞬間高い金属音が響き渡った。

「賊の分際でいい動きだ。今のでしとめきれんとは」

(ためらいもせず首狙い、か)

間違いなく戦い慣れしている相手に、シグナムの背中を冷たい汗が流れる。

今の一撃を防げたのは相手に反応できたというよりも運や偶然の要素が強い。

(ここでは主に被害が及ぶやもしれん)

「おい、シグナム…」

赤い髪の少女、ヴィータも今の一瞬の攻防を見て相手が只者でないことを悟る。

「分かっている。シャマル、主を連れて下がれ。ザフィーラ、護衛を頼む。ヴィータ…我ら二人で片付けるぞ」

「シグナム、騎士甲冑もない状態なのよ?もし無理だと思ったら…」

金髪の女性、シャマルの言葉にシグナムも頷く。

「分かっている。無理と分かれば引く。主を頼む」


「戦闘中におしゃべりとは余裕だな」


(早い!!)

今度は後ろに回りこまれる。体を捻り直撃をそらすがわずかに避けきれず首に傷がつき、一筋の血が流れる。


「グラーフアイゼン!!」

『Jawohl』

ヴィータはその体に似合わぬハンマーを振りかぶり床へと叩きつける。

爆発音が響き渡り床が衝撃で沈没する。

「大振りすぎるな。奇襲にしては温い。30点だ」

しかし彼は止まらない。叩きつけたはずのグラーフアイゼンの上に乗り余裕綽々で言葉を告げる。

「ってめぇ!!」

「騒ぐな賊が。ここは狭い。表に出ろ…殺してやるからかかって来い」

一切の感情を排除した声。先ほどまでの怒気が嘘のように消え、今はただ氷よりもなお冷たい気配が漂っている。

彼もまた相手が只者ではないと悟り、頭を冷静にしたらしい。猛る怒りをおさえつけ、状況を観察している。

「言ってくれるな、畜生風情が……!!」

「その『風情』にやられる貴様らは畜生以下だな」

「ほざけ!レヴァンティン!」

『Ja wohl!!』

「いくぞグラーフアイゼン!!」

『Explosion!』

瞬間、グラーフアイゼンのカートリッジがロードされ、薬莢が排莢される。

「そこをどけ!賊どもが!!!」







「うるさいゆーとるやろが!!!!!!!!!!!!」








「大体なぁ、にいちゃんは夜おそくおきとるんはよくない言いながらやな、自分は起きとるってどういうことや」

「こう見えてもあたしもな、あんまりうるさくいうの好きやないんやよ、でもな、夜にどんちゃかどんちゃかやられたらどう思う?寝よう寝よう思うても寝られへんやん。近所の皆さんにも迷惑やろ!?」

「にいちゃんはご近所さんに顔が効くからな、そら許してもらえるかもしれん、でもな、それに甘えるのはちょおちがうんやないかと思うんよ、甘えと寛容は違うんやで」

「いや、はやて、あのな…」

「口答え禁止!!」

「…はい」

「挙句の果てには何?友達をこんな仰山連れ込んであたしの部屋に大穴あけるなんて何考えとるんや。ええか、修理するのもただやないんやで。そらおじさんがお父さんとお母さんの遺産管理しとるしこれぐらいは何てことない。でもな、お金は無駄遣いしたらあっちゅうまにきえていってしまうんやで」


「にいちゃん!!きいとるん!!」

「はい、よーく聞いております」

「ええか、反省したな、反省したら、まずこの大穴何とかせなな、ほらそこの人らも手伝って」

てきぱきと開いた穴を修繕しだす、彼らの背中には哀愁が漂っていた。









「そんで何?この人ら。にいちゃんの知り合いか?」

一頻り片づけを終えた守護騎士たちはいまさらながらの問いに答える。

「私たちは・・・」

「不振人物だ。はやて、即刻追い出せ」

あっさりといわれた。

「違います!私たちは闇の書の主、その守護騎士です!」

あわててシャマルが訂正をするが彼の目は冷たいままだった。

「ふん、大方遺産か何かを目当てにはやてに取り入ろうとしているのだろう。百年早いぞ」

「にいちゃん、話が進まんよ、とりあえずこの人らの事情を聞こうや?」

「…ふん」


そして彼女達は聞いた。闇の書のこと、その主のこと、魔法のこと、そして……蒐集のことを。

「我らヴォルケンリッターは主の手足となり闇の書の蒐集をする事が目的です」

「…はやて、やはりこいつらは危険だ。即刻追い出せ」

「貴様!」

追い出せという言葉にシグナムが強く反発する。

「はやてがそんなことを望むはずがない。誰かに迷惑をかけるぐらいなら自分が犠牲になることを選ぶ。はやてはそういう奴だ。そんな優しいはやてに蒐集をさせるよう命令しろ?ふざけるのも大概にしろ」

しかし、彼も引かない。彼ははやてにそんなことは似合うに会わない以前にできるはずがないと知っている。


「…なんかよお分からんけど、とりあえず分かった事があるわ」



そんな二人を尻目にはやては何か納得したように告げる。


「あたしが闇の書の現マスターとしてみんなの面倒みなあかんゆうことや、蒐集云々はよくわからんもん」


「…やれやれ、やっぱりか…」




この日、八神家に家族が増えた。








やっと登場しました彼らヴォルケンリッター。まぁ今回は顔みせです。しばらくは日常編でもやってみようと思います。約半年の空きがあるので何話かそういう話を挟んでから本編突入です。
出して欲しいキャラやら何やらがあったらどうぞ。気が乗れば書くかもしれません。多分書きません。





[6220] As三話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/04/01 02:46
3話目です。
そろそろ前書きが尽きてきました。
僕の話は王道を一直線に突っ切っていくので展開の予測はとても簡単です。
多分こうなるだろう、と想像すると大体そのとおりになります。








闇の書の守護騎士が呼び出されてから少々の時間が流れた。

はじめは新しい主、はやてに遠慮してかぎこちなかった面々も徐々にその生活に慣れ始め、彼女達は初めて「平穏」というものを手に入れた。

このお話はそんな面々の日常を描いた話である。







ヴォルケンリッターのリーダー、烈火の将、シグナムは悩んでいた。

いつもの彼女なら悩みなどない。精々が「今日の主が作ってくれる夕食は何だろう」といった程度である。いささか言いすぎな点もあるが概ね彼女の悩みなどこの程度のものだった。

だが今彼女は大きく悩んでいた。

別に今の主や自分のあり方に疑問を持っているわけではない。

むしろ今までの主と比べれば今の主は破格とも言えるほど好待遇であった。

食事の支度や身の回りの世話といったことから果ては日用の服の購入までいたれりつくせりであったし、闇の書の蒐集を行わないことも主がそれを望んでいる以上何もいう気はなかった。むしろはやては今のまま、みんなと一緒にいることを望んだのだから、その願いを果たすことが今の彼女の本分とも言える。

久しく、ともすれば初めて訪れる「平穏」に彼女は満足していた。

もちろん日々の鍛錬は欠かしていないし、そこいらの凡愚どもに遅れをとるつもりはさらさらない。

それでも彼女が今の平和を満喫していることは疑いようもない事実であった。

では彼女の悩み事とは何か。




ことの始まりは彼女達よりもはやてと先に同居していた同居人との話が発端である。


「ごちそーさまー」

今日も家族そろって夕食をとり、団欒の一時、そろそろ八神家ではいつもどおりとなった光景である。

「はやてーゲームしよーぜゲーム!」

守護騎士の中でも最も年齢の幼く見えるヴィータはその外見に違わずどこか子供っぽいところがあった。

「あら?明日のお弁当の仕込をしておこうと思ったのに…味醂が切れてるわ」

参謀という立ち居地が最も似合う女性は現在ほとんど家政婦と化していた。

「……」

そして件のシグナムは何も語らず食後のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。



そして、その時事件とも呼べぬ出来事が起こった。

「……なあ守護騎士ども、ちょっと話がある。ちょっとこっちにきてくれ。はやてもだ」

この家の同居している彼、八神にいによる突然の家族会議である。

ぞろぞろと集まると、彼は真剣な顔をして切り出した。



「長ったらしい前置きは抜きだ。単刀直入に言おう」



「働け」



時が止まった。



「ちょ、にいちゃん、何言うとるん?別に働かんでも食べていくだけのお金はあるで?」

はやての疑問は最もである。はやてには両親の遺産が毎月小父さんから振り込まれているし、その額は彼女達が食べていくのに困るほどではない。


「それは分かっている。俺が言いたいのはお金の問題ではないのだ。今の貴様らを見ているとただはやてに甘えているだけで何もしていない。いいか、家族とは助け合う存在であって依存しあうものではない。家族とはただ一緒にいるだけでは駄目だ。信頼を築いて、そしてお互いがお互いを支えあうものだ。然るに今のお前らを見るとそれができているとは言いがたい。特に言いたいのはお前だ、シグナム!」

突然名指しで言われシグナムはうろたえた。

「お前は守護騎士のリーダーでありながら率先して働こうという意思が見られん。ヴィータやザフィーラは仕方ないとしてもシャマルくらいの働きをしてみようとは思わんのか」

確かに今の自分が何か具体的なことをしているかといわれれば何もしていない。シャマルは家事の手伝いをして最近でははやての隣で料理の手伝いをしていることも見かける。ヴィータはその見かけから働くのは無理だろうし、ザフィーラはそもそもが狼だ。働けるわけがない。

「ぐぅ、そういう貴様はどうなのだ。働いているようには見えんが」

図星をさされたシグナムにできたのは相手にも自分の境遇を味あわせてやろうという反論をすることだけだった。

「ふん、俺は毎月はやてに決まった額を振り込んでいる」

「にいちゃん、初耳やで」

確かに最近振り込まれる金額が多くなったとは思っていたがまさかそんな事情があったとは。

はやてはまた彼の秘密を知って愕然とした。

「そういうわけでな、貴様も少々働いて来い。なに、バイトの斡旋なら俺がやってやろう。これでもそこそこ顔が利くのでね」

「むぅ…」

ここまで言われてはどうしようもない。しかし彼女には使命がある。現マスターである八神はやてを守るという使命が。

「ああ、それとも誇り高きヴォルケンリッターの将はヒモになるのがお望みか?」

小ばかにしたような口調で言われる。シグナムは思わずいった。言ってしまった。

「っ!よかろう!私も働いてこようではないか!これでもうニートなどとは呼ばせんぞ!」

誰もニートなどと呼んでいないのだが燃える彼女の目は本気だった。

「シグナム、無理せんでもええんやで、あたしはみんながいてくれればそれで満足やから…」

「いえ、主はやて、このままでは私はただの無駄飯食らい、かくなる上は精一杯働いて家計の助けとなって見せましょう!」

そう宣言する彼女の目は燃えていた。完全に働くということを戦闘と勘違いしている。

「そうか、先方には俺が話をつけておく、まぁ楽しみに待っていろ」


してやったりの笑顔を浮かべる彼には誰も気づかなかった。


こうして初めてのアルバイトと相成り、冒頭の彼女の悩みに戻るのである。




「準備はできたか」

「……ああ」

先日の自分を殴り飛ばしたい衝動を抑えつけながらシグナムは返事をした。自分は守護騎士の本分を忘れて何をやっているんだろう。

「よし、では行くぞ」



ケース1 ハンバーガーショップ

「お前は見た目がいいからな。多少のミスはそれで何とかなるだろう。とりあえずまずは接客業だ」

「まずはここだ」

そういわれ連れてこられたのは某ハンバーガーチェーン店である。

「やる仕事は適当にニコニコしながら接客をすればいい。大して難しくないだろう?」



「い、いラっシャいマセ……」

制服を着込み挨拶をする彼女の顔は傍目から見ても分かるほどに引きつりとても笑顔と呼べるものではなかった。

「表情が固い!もっと柔らかくだ!」

「はんばーガーふタつと、シェイくのえむがおヒとつでよロしかったでショうカ」

「ポテトを一緒に勧めんか!正しい敬語を使え馬鹿者!」

何かミスをするたびに横から檄が飛んでくる。彼女に掛かるストレスはマッハだった。


「…や」

「笑顔を崩すな!親が死んでも笑ってろ!それが接客の心得だ!」


「やってられるかーーーーーーーーー!!!!!」



記録一時間28分 レヴァンティン発動により周囲に被害。





ケース2 メイド喫茶

「ハンバーガーショップが駄目なら次はここだ」

目の前にはなにやらフリルやらレースやらがついたよく分からない店がある。

「この店なら笑顔を出さないことも一種の個性として認められるはずだ。お客様に失礼なことはするなよ」


「……私にこれを着ろというのか」

彼女の目の前にはメイド服。これでもかというほどのメイド服。

彼女の嗜好としては真っ先に避けたいものであった。

「ふん、その程度が怖くて金が稼げるか。それともベルカの騎士はこの程度のこともできないのか」

再び馬鹿にしたように言われる。シグナムは覚悟を決めた。


黒よりも濃紺に近いワンピース、白いレースをあしらったエプロン、俗に言うエプロンドレスを身につけ、スカートの丈はギリギリ膝よりも上といったくらい。白いガーターストッキングに足元は赤いピンヒール。頭にはホワイトプリムのヘッドドレスを装着。全体的に装飾は少なめだがそれゆえ間違いなく誰が見てもメイドと思われる格好だった。


ここにメイドシグナムが誕生した。

「いらっしゃいませごシュジんさマ…」

その素質はダメダメだったが。

「馬鹿者!棒読みでやる阿呆がどこにいる!ツンデレならもっとツンデレらしくしろ!」

「ごしゅジんさま、ナにニなサいまスか…」

「キャラが立ってない!だから貴様は人気がでないのだ!!」

「べ、ベツにまタ来て欲しいなンてオモってないンだカらね!」

「きさま、やる気があるのか!メイドを馬鹿にすると世界メイド協会から鉄槌が下るぞ!」

それでも彼女は耐えた。先ほどのハンバーガーショップの経験が生きた。多少はシグナムも耐えるということを覚えたらしい。


「恥じらいを捨てろ!照れをなくせ!貴様は虎だ!虎になるのだ!!」


だが、彼女が耐えるということは彼女の見た目に引き寄せられる連中がやってくるということであり、

「きみかわいいね~新しい娘?」

「仕事終わった後どう?ちょっと付き合わない?」

「ねぇねぇ写真とっていい?ねぇねぇ、いいでしょ?」

「バイトのシフトいつ?通っちゃおうかな~」


「や…」

「馬鹿者!適当に流さんか!お客様!写真撮影は禁止です!」

「やってられるかーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


記録 2時間13分 レヴァンティン発動 人的被害甚大、死者はなし 非殺傷指定だと思われる




ケース3 ペットボトル工場

「分かった。貴様に接客業は無理だ。今度はもっと簡単な奴にしてやる」

そういってやってきたのはそれなりに大きいペットボトル工場である。

「いいか、このいすに座って目の前で流れているペットボトルを見張る。倒れているのがあったら立て直す。これだけだ」

シグナムはこれまでと比べて随分簡単な仕事にほっとした。

「フフ、これくらいなら誰でもできる。あまり私を見くびるなよ」

これまでがこれまでだからかつい軽口が飛び出す。

「俺は別のところにいるからな、サボるんじゃないぞ」








スパーーーーン




シグナムは頭に強い衝撃を受けて目を覚ました。

「寝るな!!馬鹿者が!!」


記録 4時間38分 シグナム熟睡によりクビ。





「全く貴様という奴は…」

ぶつぶつと文句を言いながら歩く。

今日一日バイトをしてみたが全てクビになり、とぼとぼと歩いている。

「私は不器用だからな…戦う以外には何もできんのだ」

そう自嘲するシグナム。

「だからといって何もしなくても良い訳ではないぞ穀潰し、少しは働けるようになっておかねばな」

その言葉に流石にシグナムもカチンと来る。

「そもそもなぜ急に働けなどと言い出したのだ。私は主を守れればそれでいいのだ。それこそが私、いや我らの使命なのだからな」

それこそは彼女達の存在理由。だが、彼は言った。

「何かしらの理由でお前らが離れることになったらどうする?お前らは一人で生きていけるのか?」

それはありえない問いかけ。自分達がプログラムである以上主と離れることなどあるはずもない。

「今は、な、はやても子供だし家族ができたばかりだからその事がうれしいだけだろう。だがあと5年たち、10年、20年経てばどうなる?はやてももしかしたら自分の伴侶を見つけて一緒になるかもしれないし、お前達にも新しいパートナーができるかもしれない。そのときに『自分は不器用だから』とか『社会経験がない』といった理由で一人寂しく消えていくのか?」

今までの主なら考えられなかったこと。それは未来を考えるということ。

「はやては多分お前らと一生家族だしそれは決して変わるはずがないことだ。だが、だからといってそれに甘えっきりの生活というのは人を堕落させる。人生とはいついかなるときにどうなるかなぞ分からない。いいか、いろんなことを経験し学んでおけ、少なくともそれが無駄になることはまずないさ」

「…我らは主の剣だ。主のためにのみ我らは存在している。主の迷惑になるくらいなら我々は死を選ぶ」

「はやてはそんなこと望んでないし、望まないさ。家族ってものはどんなに離れてても心がつながっているからな」

「っと、最後の場所だ」

そして彼らがたどり着いたのは








「そんで、その後どうなったん?」

はやてがシグナムのバイト経験談の話しをきいて先を促した。

「何、知り合いの剣道道場の師範として今も行っているよ。人に教えるのはガラじゃないなどといっていたが中々どうして人気のある先生ぶりだったよ」

「そか、ならシグナムのバイトは一応成功ちゅうことやね」

「色々あったが収まるところに収まったということだな」



「にいちゃん」

「なんだはやて」

「ありがとな」

「…礼を言われるようなことは何もしていない」

一匹の猫はそそくさと外に散歩に行ってしまった。




テンプレどおり行くならAsでは彼らの日常を書かないといけません。でもこの辺はほとんどオリジナル展開にするしかないのですごく大変です。だから出来がひどいです。読み飛ばすべきです。

自分で書いてて思った。クセェ。ゲロ以下のにおいがぷんぷんする。




[6220] As四話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/04/06 01:31
いよお。また会ったな。
あ?何?初めてだって?こないだ蕎麦屋で飯食ってたろ?違う?
カカカ、細かいこと気にすんな!ハゲちまうぞ!
そんで今日は何の用事だ?

なるほどなるほど―――ふん、メンドクセェ……







12月2日 夜 海鳴市にて


高町なのはは正体不明の紅い少女―ヴィータに襲われていた。

「いきなり襲われる覚えはないよ!どこの子!!」

しかしヴィータは答えない。ただなのはに挑みかかっていくだけだ。

「話を……」

『devine』

「きいてってばぁーーーーーー!」

『buster』

業を煮やしたなのはの砲撃魔法が炸裂する。しかし桜色の魔力流はヴィータの帽子を掠めるだけで終わった。
だが、それで終わらないのがヴィータの方である。はやてから受け取った騎士服を一部とはいえ破壊され頭に血が上る。


「ッグラーフアイゼン!!カートリッジロード!」

『Explosion!』

『Raketen Form』

瞬間彼女の持つデバイスが変化。これまでのただのハンマーから更に突起物とブースターが装着される。

「ラケーテン・ハンマー!!」

ロケットに点火。遠心力と勢いを乗せてヴィータはなのはに吶喊した。

「レイジングハート!」

『protection』

「ぶちぬけーーーーーーー!」

なのははどうにかして守ろうとするがその守りはいとも簡単に破られた。

「あああああああああ!!」

アイゼンの直撃を受けビルに突っ込むなのは。その衝撃で彼女のバリアジャケットも外れてしまう。



「…命まではとらねー。黙ってればすぐに終わる」

ヴィータはアイゼンを突きつけ独白する。レイジングハートはすでにボロボロで戦闘続行は不可能である。

(こんなの……やだよ……誰か、助けて、ユーノくん、クロノ君、フェイトちゃん、やが…)

振り下ろされるアイゼン。

そして彼女は目を瞑った。






甲高い金属音が響き渡る。

なのははいつまでたってもこない衝撃に恐る恐る目を開いた。果たしてそこにいたのは、

「仲間か……!」

「…さぁな」

覆面をした一匹の猫だった。


「無事か?」

「あ、はい」

「ならば行け。外に貴様の仲間が待っているぞ」

そういわれあたりを探ると確かに知った魔力がちかづいて来るのが分かる。

「なのは!無事!?」

「フェイトちゃん!ユーノくん!」

知己の声を聞きなのはの顔が緩む。

すぐ外にはなのはの親友達の姿があった。



「てめぇ……何モンだ……管理局の魔道師か……?」

魔力の蒐集を阻止され相手に増援まで許してしまったヴィータは少々焦っていた。それでもそれを表に出すことはない。一匹ずつしとめていくしかない。カートリッジは残り2発。まずは目の前のこいつからだ。

黒い覆面に目だけが見える。スラリとした体格だが見る奴が見れば筋肉がついていると分かる。唯一見える瞳は切れ長であることだけが分かる。見たところどうとでもなる様な奴に見えて意外に隙がない。少なくとも先ほどの魔道師よりは実戦経験が豊富そうである。




目の前の猫はあっさりと答える。




「通りすがりのお節介焼きだ」






『Schwalbe Fiegen』

金属球形の魔力弾を形成。アイゼンでそれを打ち抜く。

しかしそれはあたらない。相手に簡単に回避されてしまう。

「くそっはぇぇ!魔力反応は無いのに……!」

何も魔法を使っているわけでもないのに宙に浮き、戦闘をこなす。ヴィータにとって不可解なのは相手が何も攻撃らしきことをしてこないことだった。

「退け。俺に戦闘の意思はない」

「はいそうですかって、退けるかよぉぉぉぉ!」

アイゼンを構え吶喊する。その時もう一つの声が彼女の耳に届いた。

「バルディッシュ!」

『arc saber』

金色の斬撃が飛んでくる。なのはをユーノに任せフェイトはヴィータの捕縛にやってきたのだ。

「!!障壁っ」

『Panzer Hidernis』

間一髪障壁を出してフェイトの攻撃を防ぐ。この魔道師も、強い。

(防がれた!)

(そうだ、まだ仲間がいやがった……)



三者の間に妙な緊張が流れる。誰が味方で誰が敵か、それが分からないこの場は膠着状態に陥っていた

そして一匹がおもむろに口を開いた。

「退かぬか。。。死ぬなよ?お前の主が悲しむ」

その言葉にヴィータは驚いた。こいつらが自分達の主を知っているはずがない。

「てめぇっ何でそれを!!」

「さぁな。自分で考えろ。後は任せたぞ。後ろの金色」

急に話を振られてフェイトは狼狽する。

「貴方は…何者ですか?」

「さぁな、また会うだろうよ」

そういうと一匹の猫は闇夜に消えて行った。

「消えた…この結界をどうやって?」

「くそっどこ行きやがった!」



思考を切り替える。奇しくもそれは同時だった。

(この人の仲間…ってわけでもなさそうだったね)

(こいつらの仲間…ってわけでもなさそうだったな)

何者だったかは分からない。しかも今は消えている。分かっているのは味方でも敵でもなさそうだったということ。

だから

まずは

目の前の敵を

「ぶっ飛ばす!」

「倒す!」







「あーにいちゃんおかえりー。みんなに会えたー?」

「ただいまはやて。あいつらは今日は遅くなるみたいだぞ。月村に誘われているんだろ?行ってきたらどうだ?」

「んーそうなん?シャマルに電話したらすぐ帰ってくる言うてたけど」

「あいつらはちょっと別のことに夢中になってたよ。留守番ならしていてやるから行って来い」

「あ、ちょおまって。もう少しで料理の仕込み終わるんよ」

「あいつらももうちょっと考えて動け。。。」

「それとな、にいちゃんも一緒にいくんやで。すずかちゃんに連れてくるようにいわれとるんやから」

「まて、聞いてないぞ」

「今言うたよ」

「月村め……」

「にいちゃんもすずかちゃんと友達ならはよ言うてくれればよかったのに」

「まて、クラスメートだ。友達じゃないぞ」

「そんなん言うたらあかんよー。友達は大事にせな」

「…わかったよ」




覆面をすれば大丈夫なのは基本です。テンプレどおりです。大体ASはこんな感じでお話が進んでいくことになります。なんとかオリジナルを出さずに済ませたいところです。




[6220] As五話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/04/12 22:20
時々一日が30時間だったらいいとか言う人がいますがもし本当に30時間になったら多分、なんで一日は40時間じゃないんだろうと言うと思います。
一日が40時間ならいいのに







最近父様の様子がおかしい。具体的にどこがおかしいと聞かれれば首を捻らざるを得ないがなんとなくおかしい。いうなれば使い魔と主の関係だからこそ分かるというべきか?周りから見れば何も変化はないようだが……長年連れ添った自分の目はごまかせない。

双子の姉妹であるロッテにも聞いてみたがやはりどこかしら違和感があると言っている。

心当たりはある。

つい先日、とうとう闇の書が覚醒したのだ。闇の書。無限の蒐集と転生を繰り返し人々に災厄を振りまくロストロギア。父様はこれの消滅に全てを賭けている。

エスティアを堕とす―――クライドハラオウンを殺したのは自分だ。

今でもお父様はあのことを後悔しつづけている。

これ以上の悲しみを断ち切るために、憎しみを増やさないために。

闇の書を消滅させる。

そのために自分がどうなろうとも。


アリアにとっても矛盾を感じないわけではない。

これ以上の悲しみを増やさないために自分達は幼い少女を利用している。このままうまく行けば少女は永遠に封印処理を施されることになるだろう。
そしてそれに加担した自分達もただではすまない。

よくて追放、悪ければ使い魔としての強制消滅が待っている。

「私たちが行く先は…きっと地獄だろうな……」

悲しみを増やすまいとして自分達が新たな悲しみを作り出している。それでも、それでもこれからの人たちが救われるなら。

いや、そんな難しいことは考えなくていい。

ただ自分の主が、お父様が望んでいる。使い魔はそれを果たすためだけの道具だ。

アリアは無理矢理自分を納得させるとグレアムの執務室へと急ぐのだった。







リーゼロッテもまた考えに沈んでいた。

最近の父様の様子がおかしいのだ。闇の書の監視任務、それの解除が言い渡されたのはつい先日のことである。

確かにこれまでと違い守護騎士達が覚醒するとなると監視するのは難しくなるだろう。彼らの中にはバックアップ担当の者がおり、彼女の目をかいくぐりながら監視任務を続行するというのは単独ではかなり難しい。

しかし、それでもロッテは自信があった。

確かにあの監視網をかいくぐることは並大抵のことではないが、こちらにも身体能力に長けた自分と魔法能力に優れた姉妹がいる。二人で協力すればできないことでもない。

「不確定要素、ねぇ」

父が彼女に言ったことは不確定な要素を排除する。基本的には何も手出しをするな、ということだった。

確かにデュランダルも完成間近、闇の書は覚醒し計画は順調に進んでいる。もし自分達が監視しているのがばれてそこから向こうに何かをかぎつけられたらまずいことになる。

しかし、彼女には父には別の理由があると踏んでいた。

おそらく父は彼女、八神はやてに最後の日常を味合わせてあげたかったのだと思う。

家族のいないはやてにせめて守護騎士達が家族代わりとなって一緒に生活して欲しかったのではないか。

そんな家族団欒に自分達が無粋なまねをしても仕方ない。結末は封印ということになってもそれまでの過程ではせめて彼女に幸せであって欲しいという、そんな思いがあるのだろう。

「偽善、だよね」

自分の父がしていることを見て一瞬顔に自嘲の笑みが浮かぶ。何よりも愚かなのはそれに気づきながらそれを否定できないでいる自分自身だと気づいているから。

結局甘いのだ。父様は。そしてその使い魔たる自分も。しかしそんな自分をどこか誇らしくも思う。

自分達はきっと地獄に落ちる。それだけの覚悟はしている。

別に許されたいわけじゃない。父様が望んだなら使い魔はいつもともにある。それだけだ。

そしてロッテはグレアムの執務室へと急ぐのだった。







「アリア、ロッテ大事な話がある」

突然の呼び出しに駆けつけた二人が見たものはいつになく真剣な表情の父だった。

「今日までご苦労だった。闇の書に関しては私達の活動はこれまでとする。アリア、ロッテ、通常の業務に戻りなさい」

突然の宣告。彼女達は色めき立った。

「なぜですか!闇の書の撃破は父様の悲願ではないのですか!」

たまらず反論するロッテ。隣でアリアも声こそ出さないものの表情から不満げなものが伺われる。

「もういい、もういいんだ。お前達は今日までよくやってくれた。後のことは全て任せておきなさい。もうできることなんてないんだよ」

落ち着いた声でこちらを見ながら告げるグレアム。その瞳にはどこか疲れがにじんで見えた。

「父様……」

アリアにはグレアムの心情が痛いほど理解できた。


父は全ての罪を自分ひとりが被る気でいるのだ。確かにこの事がばれれば自分達はただではすまない。しかしもし主犯がいたとしたら?使い魔は無理矢理つき合わせられているだけだとしたら?そして最後の肝心なところには何も関与していないとしたらどうなるだろうか?

自分で言うのもなんだが私達は使い魔の中でも優秀な魔道師だ。局の中にも慕うものは多いし、教導を施した相手も少なくない。そうして私たちに寄せられる同情と憐憫。恐らく私達は大した咎めもなく管理局に復帰できるだろう。――お父様への侮蔑と嘲笑を引き換えにして。



「納得できません!私たちにもやれることはあります!管理局が、闇の書がなんだというのです!そんなもの怖くもなんともありません!」

激昂するロッテを横目に見ながらアリアは冷静に思考をめぐらせる。熱くなりがちな前衛のロッテを抑えるのはいつも後衛の自分の役目だ。

本当はロッテもグレアムがなぜこんなことを言い出したか分かっている。結局父は私達に累が及ぶのを恐れている。それをロッテは甘いというかもしれないがそんな父を二人は誇りに思っているのだ。

「ロッテ、落ち着いて。お父様、それは命令でしょうか」

言わねばならないことを言うグレアムの顔は苦悶の表情だった。

「……命令だ」

「お父様!」

「分かりました。以後この件に関しては私たちは何も申しません。失礼します。ロッテ、行くわよ」

「アリア!」

いまだに納得の言っていない表情のロッテを引きずり執務室の外に出る。外に出るときグレアムの呟きは、聞こえなかった。

「すまない…」







執務室を出た二人は早速口論になっていた。

「アリア!なんであんなこと言ったのさ!」

「落ち着きなさいロッテ、貴方も分かっているでしょう?」

「分かってる。わかってるけどさぁ!」

ここまでやってきた事が全部無駄になるのが惜しいのではない。自分の愛する主と最後まで一緒にいられないことが悲しいのだ。

「父様の……馬鹿……」

自分達が頼りない存在なのか?そうではない。頼りになるからこそ自分達を遠ざけた。これからの、未来を託すために。




「昔ね、昔の話なんだけど使い魔の条件って本を読んだ事があるのよ」

「…?」

突然違う話をしだすアリアにロッテは不振気な目を寄せた。

「最も優れた使い魔の条件…ってさなんだと思う?」

「……主を……守ること?」

「それもそうなんだけどね、一番の条件は『主の本当の望みを常に叶えること』だってさ。ただ主からの指示を待つんじゃなくて『自分から』『主のために』動けるのが最上の使い魔なんだってさ」

「それって……」

長い付き合いだ。言いたいことは分かる。

「さて、お父様の今一番叶えたいことはなんでしょう?」

「アリア!」

「主の命令を無視したって、その本当の望みを叶えるのが使い魔の使命よ。ロッテ。さぁ行くわよ」

「うん!!」

常に冷静で物静かなアリア。熱くなりがちでお気楽なロッテ。二人は双子だがその性格は似ていないといわれる。

だが

結局のところ二人は似たもの姉妹なのである。







ギル・グレアムは悩んでいた。

悩みの対象は件の八神はやてのこと―――ではない。

いや、正確に言えば彼女にもかかわりがあることなのだがそれよりも大事な事が彼の頭を占めていた。

「まずい、原作が始まった」

ギル・グレアムは転生者である。こう聞けば黄色い救急車が必要だと思われるかもしれないがまって欲しい。以下に詳しく彼のこれまでの経緯を記す。

ある日、彼は死んだ。

気がついたらギル・グレアムだった。

赤ん坊じゃなくてもうジジイだった。

以上である。

そして彼は悩んでいる。このまま原作どおりに進むべきなのか独自の道を歩むべきなのか。

正直に言えばこのまま原作どおりにすればいいか、別にイギリスで隠居できれば良いし。等と考えていたのだがせっかく違う世界に来たんだからもっとうまいことできないか?と考えた。


無理だった。


このままだと犯罪者の黒幕としてフルボッコである。

唯一幸運なことは自分以外には不確定要素はなさそうということである。いや、確か猫を飼っているとかなんとかということを聞いたがリーゼの調べでは本当にただの猫らしい。まぁそれくらいならなんでもないだろうと放置した。

とりあえずリーゼ姉妹には監視を止めるようにいった。正直に言えばこのまま全部ガン無視して逃げてしまいたかったのだがそれやったらへたれだよな、と思い直した。

「どうすんべ」

別に闇の書に何の恨みもない老将は自分が生き残るとか原作に関わる関わらない以前にどうするべきかすら考えてなかった。

彼は別にリリカ~に思い入れがあるわけではない。だからストーリーがどうなろうと正直知ったこっちゃない。ぶっちゃけどうでもいい。

だから考える。適当に原作どおりやるか自分が何かやるか。そして考えた。


何もやらなきゃ良いんじゃね?


ほっとけば勝手にあの守護騎士達が蒐集してアースラだかアーガマだかがきて適当に解決してくれんじゃね?

自分達がいないことのデメリットを考える。別になさそうだ。

自分の仕事は適当にクロノにデュランダル渡して「これを使うかどうかは君次第だ」「提督…」とかやってれば良いんじゃね?

ある種完璧に他人任せであるが彼にはとても魅力的に感じた。

そして彼は使い魔を呼び出した。





最近のテンプレだとなんか転生とか憑依とかをやらないといけません。まぁ読めていた展開ですね。
多分もう彼に出番はあんまりないと思いますが。
最近忙しいです。一日12時間しか寝れなくなりました。これはまずいです。





[6220] As六話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/04/18 18:44
更新ペースが少しずつ落ちてきました。
今回はどうでもいい話なので読み飛ばしてください。
もう一度言いますがこのお話はテンプレ通りに原作が進んでいきます。
だからつまらないのは僕のせいです。




時空管理局本局医務室。突然の襲撃によって気絶したなのはは現在ここに収用されていた。

「……負けちゃった」

ベッドの上で目覚めたなのはの脳裏を占めるのは自分が負けたということだった。彼女にとって敗北は初めての経験ではないが、あそこまでの命の危機を感じたのは初めてであった。

いうなればあれは真剣勝負の更に上、初めての殺し合い。

相手は本気で自分を倒しに来ていた。自分に相手を倒す覚悟はあったのだろうか?どうしてあの人たちは私を襲ったんだろうか?そのことを自問自答しながらなのははベッドの上で悩み続けている。



「なのは、目が覚めたんだね…?」

「フェイト、ちゃん……」

なんはが悩んでいると扉が開く音がした。ふと目をそちらに向けるとそこにはフェイトが立っていた。

「…えっと、傷は、平気?」

「。。。うん、フェイト、ちゃんは?」

「こんなの、全然、平気だよ」

「……」

「……」

二人を沈黙が包む。なのはもフェイトも久しぶりに会ったお互いに対してどう接していいか分からないでいた。本当は言いたい事がたくさんあったはずなのに、したい事がたくさんあるのに。

「なんか、言いたい事がたくさんあったけど、うまくいえないや……。だから、ありがとうフェイトちゃん」

「なのは?」

「助けてくれてありがとうフェイトちゃん。本当に、来てくれたんだね」

あの時、なのははフェイトの名を呼んだ。そしてフェイトはその声に応えた。偶然だったかもしれないがそれでもなのははそれを偶然だとは思わなかった。

「なのはが、呼んでくれたからだよ。言ったよね。今度は私が助けるって」

それは約束。彼女達が交わした約束。そしてそれは本当になった。

お互いに顔を見合わせくすりと笑うとなのはとフェイトは再会を喜び合うのだった。






「問題は、奴らがどこにいるかということだ」

クロノは少々焦っていた。父の敵でもありこれまでに災厄のみを撒き散らしてきたロストロギア、闇の書。その操作担当になった自分に否が応でもはやる心を抑えきれない。

「なのはちゃんの世界を中心に周っていることは分かるんだけどね。そこからの絞込みはちょっと……」

エイミィが一連の魔道師襲撃事件の資料を読みながら応える。

そしてもう一つ、気になることがクロノにはあった。

「なのはが助けられたという覆面の男に関してだが……」

なのはが助けられフェイトたちもその姿を目撃したという覆面の男、いや、声が男だからといって本当に男かどうかすらも分からない。何しろ自分はその姿を見ていないのだから。

「そっちのほうは全く手がかりなし。こっちの探査魔法にも引っかかんなかったし、結界が解けたときにはあの4人しかいなかったよ。そもそもどうやって結界を抜けたのかもわかんない。……本当にそんな人いたのかな?」

エイミィも彼女達が嘘をつく少女達ではないと分かっている。しかし、ここまで何の痕跡もなく逃げられるということは別の理由を考えざるを得なかった。


「ゴースト、まさか、ね」


「エイミィ、そんなものを信じるな。士気に関わる。あそこに彼女達以外の第三者がいたことは事実なんだ」

「そんなこといってもさぁ、守護騎士が5人いるなんてことはこれまでもなかったんでしょ、じゃあいつの間にか表れて煙のように消えたその人はゴーストじゃなければなんなのさ~」

微妙にへたれたエイミィを見てクロノは処置なしと判断し、ため息をこぼすのだった。







なのはらを退けた守護騎士たちは八神家に戻ってきていた。

「主は…まだお帰りになられていないか」

ほっと安心し、一息をつく。主に寂しい思いをさせるのは彼女らの本懐ではない。

「…シグナム、怪我の具合はどう?」

フェイトとの一騎打ちをしていたシグナムは少なからぬ怪我を負っていた。

「大したことはない。このくらいで弱音を吐くほどお前達の将は軟弱ではない」

「一応治療はしておくわ。……まさかあなたの甲冑を打ち抜くとはね」

「いい太刀筋だった。良い師に学んだのだろう。デバイスの差がなければ危なかったかも知れんな。それよりも今気になるのは…」

「そうね、ヴィータちゃんが会ったという覆面の男……何者かしらね」

ヴィータが蒐集する寸前にあらわれ彼女の攻撃を軽く止めて見せた男。その正体は誰なのかわからない。

「アタシが見た限りでは管理局の奴らの仲間ってわけじゃなさそうだった。…だからこっちの味方ってわけでもねーだろうけど」

「私の探査にもかからなかったのよね?本当にそんな人がいたの?」

「わかんねー。いきなり消えたと思ったらもうどこにもいなかったんだ。…変な幻影だって言われたほうが納得できるぜ」

「なんにしろそいつはこちらの目的を知っているらしい行動をとって見せた。管理局も本腰を入れてこちらを捜査してくるだろう。これからはもっと慎重に蒐集を進めねばならんな」


「はやてを…助けるんだ…」


その言葉は彼女達の偽らざる本心だった。


「ただいまー」

「今帰ったぞ」

さぁ彼女達の敬愛する主のご帰還だ。あわてて表情を隠し守護騎士たちははやてを出迎えるのだった。







「すずかちゃん、今日はありがとうな」

「ううん、全然いいよ。送っていく?」

「いや、そこまで迷惑をかけるわけにはいかない。俺もいることだし大丈夫だ」

月村邸に呼ばれたはやてと彼はそろそろ彼女の邸宅をお暇するところだった。

「そうだね、八神君がいるなら安心かな」

くすりと笑うすずかに当然だといわんばかりに鼻を鳴らす。

「それと俺を呼ぶときは事前の連絡をくれ。いきなりはやてについてこいといわれて驚いたぞ」

「だってにいちゃん先に言ったらどっか逃げてまうやろ?」

くすくすと笑う二人を見て自分の行動を見透かされている事に気づき少々居心地が悪くなる。

「八神君、うちの子たちに大人気だから是非来て欲しいんだよ」

「チビどもにまとわりつかれるのはうっとうしくてかなわん」

「じゃあまた連れて来るわ」

「なぜそうなる…?」

自分は永遠にこの少女達にかなうことはないのだと悟りげんなりするのだった。




一人と一匹で帰り道を歩く。ふと、はやてがその歩みを止めた。

「なぁにいちゃん」

「なんだはやて」

はやての表情は真剣だった。

「にいちゃんは、みんなが何しとるか知ってるん?」

最近守護騎士たちの帰りが遅く、何かを隠しているのは分かっている。しかしそれを正面から問いただすことははやてにはためらわれた。だから彼に聞いた。一番の居候でありはやてが最も信頼する一匹に聞いた。

「…知っているとも言えるし知らないとも言える。急にどうした?」

「なんかな、みんな最近帰りが遅かったり夜更かししとるやん?何か、危ないことしとるかなと思ったんや」

「その質問に答える代わりにこちらの質問にも答えてくれ」

彼の目が鋭くなる。その視線にはやては一瞬たじろぐがすぐに見つめなおす。

「はやて、最近身体の調子がおかしくないか?」


「なにいうとるん?私は全然元気やで?」

ほらほらと力瘤を作って見せるはやてに彼は問い詰めた。

「じゃあ夜に胸を押さえて蹲ったり時々身体が動かなくなっていることも偶然か?」


「……いつから気づいてたん?」

「確信を得たのは今。薄々気づいたのは2~3ヶ月ほど前といったところだな」

「やっぱりにいちゃんには隠し事はできんなぁ」

そういって儚げに笑うはやてに対して彼は何も言わなかった。



「あいつらは―――」

「?」

「あいつらはきっとお前のために何かをやっている。それがなんなのかは俺は知らない。だが、恐らく危険なことだ。俺から言えるのはこんなところだ」

「危険、なんか?」

彼の言葉にはやてはたじろぐ。自分の家族が危険にさらされていると聞いて、自分のせいで家族を危険にさらしていると聞いて。

「まず間違いなく。下手をしたら命に関わることだな」

「やめさせることは―」

「無理だ。あいつらを止められるのはそれこそ真正面から叩き潰すくらいしか方法がない」

その言葉にはやては悩む。家族を危険にさらしたくない。でもそれを止めることはできない。自分で止めようにもきっとまた隠れてそれを続けるのだろう。

「なぁにいちゃん」

「なんだはやて」

「わたしじゃみんなを止められへん。それにみんながやってることがなんなのかも分からん。だからな、にいちゃんお願いや。みんなを助けてあげて。危なくなったりしたら助けてあげて。お願いや」

こんなときに自分の無力が悲しい。結局自分は人に頼ることしかできないのだ。



「……任せろ」



誰よりも頼りになる一匹の猫はそう返事をした。






現在僕は真剣勝負をしています。例えるならばカバディをしながら鼻で素麺をすする大食い勝負のようなものです。カレーが食べたくなったのでちょっと今から出かけてきます。





[6220] As七話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/05/04 23:59
優れた作者の書くキャラクターは勝手に動き出すそうです。
僕のキャラクターは勝手に動きません。
折角いつ来てくれてもいいようにお茶と羊羹を用意しているのに。
もしかしたら僕の知らないところで動いているのかもしれません。ホラーです。







時空管理局、その時空航行船アースラにて。クロノハラオウンの日記より抜粋。

4月某日

管理外世界にて二人の魔法使いと接触。一人は高町なのは、もう一人には逃げられてしまった。執務官としてあるまじき失態だ。猛省する。
彼女達の話を聞いたところロストロギア関連の事件と発覚。リンディ艦長によりすぐさま時空管理局預かりの事件となる。
ユーノとなのはに関しては現地の協力者としての参加が約束された。
最も本音を言えばあまり素人には関わって欲しくないのだが本人のやる気と熱意に押された格好だ。魔力資質も高いことだしこれを機に艦長は彼女を管理局とかかわりを持たせるのかもしれない。


5月某日

事件に一応の片がついて数日。フェイトテスタロッサはこのまま本局に移送されそこで裁判を受けることになる。最後になのはと二人で別れの挨拶を済ませていたようだ。我ながら甘いと思うが結果的には良かったとも思う。管理局はそこまで冷徹な組織ではないのだ。
おそらくこれでしばらくなのはには会えないだろうから最後に疑問に思っていたことを聞いておいた。
次元震が発生したときのことだ。このとき以外にも何度かこちらのサーチャーが全く効かず、状況が全く飲み込めなかった事が幾度かあった。
事件は解決したが詳しい報告書は必要なためそのあたりのことを聞いておかねばならない。いつのまにかここまで延び延びになってしまったがまぁ、そこまで大したこともなかっただろう。事件は解決しているのだから。


5月某日 次の日の日付

……彼女達の話が良く分からない。一応調書は取ったのだが……以下に内容を抜粋する。

・猫が助けてくれた。
・猫がフェイトテスタロッサと戦った。
・猫が手助けをしてくれた。
・猫がジュエルシードの暴走を押さえ込んだ。
・猫がジュエルシードの思念体を叩きのめした。
・猫に説教食らった。
・猫が強い
・猫すげえ
etc,,,etc,,,

ユーノ、フェイトらからも事情を聞くと概ねが事実らしい。その猫について聞いてみたところユーノ曰く魔道師や使い魔といった類ではなく本当にただの猫らしい。頭が痛くなってきた。どこに人間と渡り合う猫がいるというのだ。もしかしたらこれは集団催眠の一種ではないだろうか?まさかまだ事件は終わっていないのか?後ろにまだ何かいるのか?馬鹿馬鹿しいとは思いながらも少女達の顔は真剣だった。「八神」という名の猫らしい。しかしそれが分かったところでどうしようもない。事実かどうかの裏づけもとりようがない。この国には戸籍があるようだが猫の戸籍なんてどこにもないだろう。どうしようもない。そもそも本当かどうかも怪しい。アルフも含めて4人で僕をからかっているのではないだろうか?


5月某日 
まだミッドには戻れないため地球近くにアースラは滞在している。先日の件についてもう少し詳しい事情をユーノとフェイト、アルフから聞くことにした。どうせユーノかアルフ辺りが結界でも張っていたんだろうとか思っていた自分をぶん殴ってやりたい。

「僕が悩んでいたときに優しく諭してくれたよ。彼が言ったことは正しいのかは分からないけど僕に新しい考え方を吹き込んでくれたのは確かだね」

「買い物をするとき助けてもらったよ。それと戦ったこともある。ものすごく強かったよ。こっちの攻撃はみんなかわされちゃった」

「あいつかい?アタシはよく知らないけどね。まぁ悪い奴じゃないよ。なんていったってフェイトを助けてくれたんだからね」

繰り返すが猫についての記述である。頭がおかしいのではないだろうか。エイミィ、艦長とも相談してみたのだがエイミィは彼女達なりのジョークかなといって歯牙にもかけない。艦長は艦長でそんなにすごい猫さんなら一度会ってみたいわねなどと言い出している。
。。。現実的に考えてただの猫がそんなことをできるとは思えない。ここからは推測になるのだが恐らく彼女達は何かを隠しているのでは?
現地になのは達に協力した第3の人物、魔道師か一般人かは分からないが、がいたのではないだろうか?そしてその人物を隠すために彼女達は口裏を合わせていたのではないのだろうか?こう考えると辻褄が合う。本人の意思か彼女達の意思かは分からないがなのはもユーノもその人物と管理局を関わらせたくないのだ。しかし現実としてこちらのサーチャーが効かない事があったのは事実。そこで「猫」という架空の存在を作り出しそれに全ての責任を負わせることにしたのだ。もしここで強く言ってもそれを事実と言い張られたらこちらはそれ以上突っ込むこともできない。こちらが調査しようとしても猫の素性など分かるわけもない。恐らくは「八神にい」というのも偽名だろうから調査も不可能だ。というか誰がどう考えてもこんな名前は偽名だろう。彼女達はばれないと思ったのか?
誰が考えたかは知らないがうまい手だ。しかしそうまでして隠したい存在とは……どんな奴なのだろうか。
おそらく最後になのはとフェイト二人が会話したときにそんな取り決めがなされたのだろう。気を利かせて二人っきりにしたのが裏目に出たようだ。
過ぎたことは仕方ない。この件に関してはもう少し継続して調査を進めよう。


6月某日

訓練室にて。フェイトとユーノが模擬戦をしている。相変わらずユーノの防御魔法、結界魔法は優秀だしフェイトの高速機動戦闘術もかなりのものだ。この二人なら管理局の嘱託魔道師としても充分やっていけるだろう。特に最近のフェイトの高速機動にはますます磨きがかかっている。そのことを聞いてみたところ。

「にいさんはもっと早かった。こっちが切りかかったときにはもう真正面にいたよ。……手加減されてなかったら多分負けてた。……私も素早さには自信があったけどあそこまで完膚なきまでに負けたのは初めてだったね」

……頭が痛い。またそいつか。誰だよにいさんって。ユーノも横で確かに彼は早かった。多分クロノでも危ないなどといっている。
馬鹿にしてるのか?つまり僕は猫にも劣る人間だと暗に馬鹿にされてるのか?いや、自分の師匠が猫型の使い魔だったから決して猫が弱いといいたいわけじゃない。でもどう考えてもただの猫には負けないだろう。体格差もあるんだし。
しかし横で訳知り顔で頷くエイミィを見て色々と諦めた。


7月某日

本局に到着。結局「八神にい」なる人物についての詳細な調査は不可能だった。どこかでぽろっと本当のことを話してくれるのではとも思ったのだが彼女らのガードは存外に固かったらしい。
この件に関して艦長は大して興味を抱くそぶりも見せず結局気にしていたのは自分ひとりだった。艦長が言うには「いろいろな事情で管理局の前に出てこれない人たちがいるの。その人たちは犯罪者かもしれないしそうでないかもしれない。でも少なくともここまでなのはさんやフェイトさんの信頼を勝ち得ているということはその人は悪い人ではないでしょう?」

……僕にはそれでいいのか判断はできない。母さんのように割り切れない。ただこれからフェイトの裁判がある。この件に関しては一旦保留にせざるを得ない。今は無罪を勝ち取る事が大事だ…。





ユーノ・スクライアの供述。

彼について知ってることを話せって?うーんそう言っても僕も彼とそんなに親しいわけじゃないからなぁ。
最初に会ったときはなのはに助けを求めたときだね。彼はいつも夜になると町を巡回してるんだってさ。後で聞いた話だけど大事な家族がいる町を守るためらしいよ。
とにかくジュエルシードの思念体が暴走してさ、まだなのはは杖の展開すらおぼつかない。そんな時かな目の前に彼が現れたのは。目の前で襲ってくる触手を全部かわして一瞬で相手をばらばらにしちゃった。今思うとあれくらい彼ならできて当然なんて思うけどさ、あの時は驚いたなぁ。
結局封印はできなかったからなのはが封印したんだけどね。
次にあったときは僕が落ち込んでたときかな。
まぁ色々あって僕がへこんでいるときにたまたま会ってさそこでお説教されちゃったよ。大事なことはどうするかじゃなくて自分が何をするかってことを言われたよ。僕と同じくらいの年数しか生きてないのに含蓄ある、と思ったよ。
あとは……そうそうジュエルシードが暴走したときだ。正直僕はあの時もう駄目だって思ったんだよ。フェイトが無理やり押さえ込もうとしてたけどその前の戦闘で消耗してたのと思ったより力が強くてもう無理だと思ったんだ。このままいけばこの町、下手すればかなりの広範囲が吹き飛ぶと思ったよ。
でもそうはならなかった。
何をしたのかは知らないよ。聞いてみたけどはぐらかされたし。でも事実として終わったときには暴走が止まったジュエルシードと気絶したフェイトがいただけだったのさ。
それ以降?君達が地球に着てからは会ってないよ。何か事情があったのかな?是非紹介してあげたかったんだけど。そして自分がいかに矮小なことにこだわっているかということを思い知るといい。

悟りきった笑みを浮かべる彼の顔は晴れやかだった。




フェイト・テスタロッサの場合

フェイト・テスタロッサは最近寝つきが悪い。これは純然たる事実である。理由は分かっている。春先にあった事件のせいだ。
ここでフェイトはある魔道師?に出会った。

助けてもらったこともある。

本気でぶつかり合ったこともある。

結局勝負はつかず、いや、助けてもらったのも差し引いて自分の負けで終わってしまったがそこはさほど気にしていない。

負けた事がないわけじゃない。それこそリニスとの修行時代には何度も打ちのめされていたわけだから。

フェイトはあの時、助けてもらったときのことを考える。そうするとなにかもやもやとした、暖かいような、恥ずかしいようなえもいわれぬ気分になってしまうのだ。

この感情をなんと呼ぶのかは分からない。精神的に幼いところのあるフェイトは自分の感情をもてあましていた。

「う、ん……」

そうしてフェイトはまた眠れぬ夜を過ごすのだ。





高町なのはの憂鬱

「ふっ!はっ!はっ!」

高町恭也は自宅の道場にて木刀の素振りをおこなっていた。すでに習慣として身についてしまっているこれらの修行。隣では妹の美由紀が瞑想をしているのか静かにたたずんでいる。

いつもの朝の光景だった。しかし、最近は少々勝手が違っていた。

「……」

末の妹であるなのはが道場の隅でこちらを見学しているのである。

なのはが修練を見せて欲しいと言い出したのはここ数日のことである。元来運動嫌いで朝には滅法弱い妹がそんなことを言い出したのには驚いたが特に断る理由もないので恭也はそれを許可した。

それからというものなのはは何をするでもなく朝の修練をぼうっと見ている。

時々父が「なのはもやってみるか?」と誘っては見るものの運動嫌いのなのははそれを固辞している。ならば一体なぜ?別に古流剣術に興味があるわけではないようだ。それよりももっと別の……

そういえば以前にもなにか悩んでいた事があったな……。

春先になのはがこっそりと夜中に出かけていたことは父も自分も知っている。その時に何か悩んでいたことも。

相談されれば答えるつもりだったし何かあれば全力で手助けをするつもりだったが結局なのははそれを乗り越えてしまった。それが兄としては嬉しくもあり少し寂しくもあった。

その時と、悩んでいたときと同じ顔をしている。

「そろそろ今日は切り上げるぞ。なのは、美由紀、朝食だ」

無理矢理悩みを聞きだそうとはしなかった。この末の妹は頑固なところがある。無理に聞き出そうとしてもなんでもない、といわれますます意固地になるだけだろう。だからこちらからは何もしなかった。それが恭也には歯がゆかった。


しかし、今日、見学を始めてから初めてなのはは恭也に質問をした。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんはなんで修行しているの?」

ありきたりといえばありきたり、究極といえば究極の質問である。自分が修行する意味、それはどこにある?

「……強くなるためだな」

思い出すのは昔の自分。まだ力もなく何もできずただ父の足手まといだった自分。それが思い出される。恭也にとっては強さを求めることは一つの宿命でもあった。

「強くなって、誰と戦うの?」

「なのは、違う、強くなるのは誰かと戦うためじゃない、少なくとも俺はそして美由紀と父さんもそうだ」

「じゃあ、強くなってどうするの?」

これには恭也も面食らった。強くなって何をなすか?それをこの妹は問うてきているのだ。

「守るのさ、大切なものをな」

それは御神の教え。守りたいものを守る。この短い言葉の中にいかほどの恭也の思いが込められているか、なのはには分からなかった。ただ、深い、それこそ幾億の意味があるのだと漠然と理解した。

「お兄ちゃんの、大事なものって何?」

「父さんに母さん、美由紀たち、忍やそれに関わる全ての人たち。そして何よりもなのは、お前も大切なものの一つだよ」

そう言ってなのはの頭をなでて笑う兄の姿を見てなのはは赤面してしまった。



その日の夜、高町家で緊急家族会議が開かれた。議長は士郎である。

恭也から相談を受けた士郎が強さについてこんな質問をしてきたなのはから詳しく話を聞くためである。本来ならば士郎はこのようなことはしないのだが強さの意味となれば話は別だ。過ぎた力は自らの身を滅ぼす。士郎はそのことを身をもって知っていた。力を得るとはそんなに単純なことではないのだ。

「それで、どうしたんだ」

「えっとね、すごく、すごく強いクラスメイトがいるんだ」

なのはの頭に浮かぶのはクラスにいる一匹の猫。彼の強さを見て何かしら思うところが合ったらしい。

「それでね、どれくらい強いの?って聞いたら『強さはひけらかすものじゃない』って言われて。大事なときにこそ力は振るうべきだって言われて……」

なるほどそのクラスメイトはなかなか自分なりの強さを持っているらしい。士郎はそう判断した。

「力があればできないことができるようになるのに、力があればみんなを助けることができるのに、それを周りに見せないのはおかしいと思わない?自分の力をみんなに言いたいって、自分はこんな事ができるって言いたいのはおかしいのかな?」

なのはは家族に自分の力を隠している。それが彼女に若干の重石となっていた。正直に言うべきではないのか?秘密にしておいたほうがいいのではないか?その二つの感情の中で常に揺れ動いていた。力があってそれを隠すのは悪いことではないのか?

「強くなって、みんなに認めてもらいたいって思う私は、おかしいのかな」

これが真実、彼女には若干のコンプレックスがある。親友二人は頭脳明晰で運動神経も良い。父や兄、姉にいたっては言うに及ばず、母も一流のパティシエとして活躍している。そんな中自分には何もない。何かやりたい事が明確にあったわけでもない。そんなときに出会った魔法という未知の力。なのはがそれにある種の希望を見出してしまうのは致し方ないことだった。

もちろん親友や家族に聞けばなのはの美点をこれでもかと挙げてくれるだろうし何も長所がないなどということはありえない。

しかし周りと比較して自分を低く見がちななのははそのことに気づかなかった。

「わかんなくなっちゃって……強いって、力があるってなんだろうって思って…」

そして身近な存在である兄にそのことを聞いた。

これが顛末らしい。



一通り話を聞いた家族は静まり返っていた。

そしてこれまで一言も話さなかった士郎がここで初めて口を開いた。

「強さ、か」











             /)
           ///)
          /,.=゙''''"/
   /     i f ,.r=''"-‐''つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐''~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |    ←士郎
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー''´     /





「よし寝るぞ」

「お休みー」

「なのは、夜更かしするなよ」

「なのは、テレビを見すぎちゃいけないわよ」

ぞろぞろと出て行く家族。彼らを見てなのはは呟いた。





「やっぱり私は家族の中で浮いているのかもしれません……」


なのはは一つ大人になった。





投稿しようと思ったら、理想郷がメンテナンス中でした。
まずは管理人の舞様にご苦労様です。
多分字数でいえばいままでで一番長くなりました。
悩む少年少女、そしてその成長といえば物語でやり尽されたパターンです。

ところでみなさんはゴールデンウィークにどこに行きますか?
ぼくはゴールデンといわれたので金がもらえると思ったのですが実は違ったらしいです。詐欺だと思います。



4/30 投稿
5/4  修正



[6220] As八話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/05/05 00:43
随分長いことここにいる気がします。
気づいたら投稿を始めてから3ヶ月経っていました。
未だにAsの4話目くらいです。
馬鹿にしてるのか。






私立聖祥大学付属小学校。ここに一つの変化が訪れようとしていた。

教壇にたった先生はニコニコと笑いながらそれを告げた。

「今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。フェイトさん入ってください」

すでにそれを知っているなのはやすずかはどこか楽しげな気配を漂わせている。

「フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」

緊張半分嬉しさ半分の表情をしたままフェイトはそう挨拶をした。







「すごい人気だな……」

休み時間。フェイトの周りには黒山の人だかりができていた。海外からの留学生となれば無理もない。フェイトは周りの勢いに少々流され気味だ。

「あれは、ちょっとかわいそうかも……」

その様子を見たなのはが心配そうに言う。

「やれやれ、仕方ない。何とかしてやるか」

そう告げると黒山へと一匹は突貫して行った。


「静かにしろ。質問をするな、とは言わんがもう少し状況を考えて言え」

「あ、もしかして…にいさん?」

「久しぶりだな。テスタロッサ。何があったかは知らんがいい顔をするようになった。まぁ質問攻めにされるのは転校生の宿命だ。諦めろ」

見知った顔が突然現れて一瞬驚いたフェイトだったが、すぐに笑顔になると落ち着きを少々取り戻したらしい周りからの質問に答え始めるのだった。

「さて、と」

何かを考え付いたらしい猫は楽しそうに笑うのだった。




「高町、テスタロッサ。話がある。ちょっと付き合え」

放課後。彼はなのはとフェイトを呼び出した。目的は、この町で起こっていることの調査、はっきり言えばなのは達の状態を探ることである。

「さて、要件はわかっているな?」

「えっと、なんのことだがさっぱり……」

「とぼけるな。最近の不穏な町の空気。得体の知れない力の動き方。とどめにテスタロッサの転入だ。これで何もないと言い張るほうがおかしいぞ。どうせまたなにかろくでもない事が起こっているのだろう?」

本当は知っているのだがその辺を空とぼけて聞く。

「なのは、どうする?」

「うん…あまり言いたくはないんだけど……」

「詳しく話せ。まずは何がどうなっているか。なにが始まっているか、な」

しかし彼は追撃の手を緩めない。ここで相手の情報できれば戦力や状態を知っておきたい。

「……わかった。あんまり詳しいことは私も良く知らないから話せないんだけど…」

ここでなのはは事情を説明することを選んだ。これにはいくつかの理由がある。まず彼が実力者であるということ、そしてなのはに彼に対する負い目があったことである。

前者の理由はもはや言うまでもない。彼が自分でも適わない程の実力者なのはすでに知っている。そして頼りになることも。なのはにはもしかしたら彼が自分達を手伝ってくれるかもしれないと考えた。もちろんそこまで論理だてて考えたわけではないだろうが――そんな考えがないとはいえなかった・

そしてもう一つの理由。これはなのはが春先の事件で何も言わず彼の前から姿を消したときのことである。自分で手伝いを求めておきながらそれを勝手に自分から放置する形になってしまった。しかしそのことを彼は責めるでもなく許してくれた。そのことに対する負い目が彼女に残っていた。つまり、彼の頼みはなんとなくなのはにとって断りづらいのである。


「なのは、いいの?」

「うん。クロノ君やリンディさんには私から言っておくよ」

「……そのクロノとリンディとやらの話も聞かせてもらおうか」

聞きなれぬ名前を耳にし、敵に回るかもしれない相手に彼の瞳がきらめいた。






「ふむ、時空管理局に魔道師、か」

なのはたちから得た情報。聞いた限りではかなり大規模な組織らしい。そして守護騎士の目的。

「リンカーコアの蒐集、それによる闇の書の完成か」

はやてが蒐集を命じたとは思えない。はやては誰かを犠牲にしてでも足を治すことを優先するとは思えない。先日の言動からしてもあいつらが勝手に動いているのは明白だ。ならば導き出される答えは一つ。

「あいつらが勝手にはやてを治そうとしている、といったところか」

あるいははやてを本物のマスターにしようとしているか。おそらくはやての体の麻痺が広がっていることに奴らは気づいている。このままでははやてが長くはないということも。それを治すために主の意思に背いてまでも蒐集を行っているのだろう。

「いや、まだだ。情報が足りんな……管理局とやらが言うには闇の書は破壊の力しか生まないらしい。あいつらがそれを知らないとは思えない……何か裏があるな……」

はやての足は治りました。代わりに世界が滅びました、では話にならない。何かこの話には裏があるように見える。どこか、大事なピースが抜け落ちている。

「しばらくは、様子見だな…」

隣にある覆面に目をやると一つため息をついた。





数日後

「はやて、少し出かけてくる」

「にいちゃん?どこいくん?もうすぐ夕飯やで?」

「なに、少々約束を守れない馬鹿がでそうなのでね。今のうちに馬鹿どもを引きずってくるよ」

八神家家訓。夕食はなるべくみんなでとること。(一部例外あり)

八神家にはいくつかの掟がありこれを破ることは最大のタブーとされている。(決めたのは彼なのだが)

「あー、みんな今日もまだ帰ってきとらんもんなぁ。お手柔らかに、やで?」

「さぁな」







「レイジングハート!カートリッジロード!」

「バルディッシュ。カートリッジロード」

『『load cartridge』』

2つのデバイスがカートリッジをロードする。それは彼女達が得た新しい力。

そして彼女達は空を翔ける。





「アクセルシューター!」

なのはの周りから桃色の魔力球が生成され周囲を飛び回る。その数は放射状に十二。これまでのなのはならまず制御はできない。

「こんなの制御できるわけがねぇ!」

ヴィータはそれを見て魔道師のキャパシティを超えていると判断した。

しかしその言葉とは違いなのははそれを制御した。しきって見せた。

「シュート!!」

桜色の魔力球がヴィータに襲い掛かる。その威力は以前の比ではない。

「障壁!」

『Panzer Hindernis』

ダイヤモンド形の障壁をはりそれらを防ぐがカートリッジにより威力を増幅された魔力はヴィータの障壁を徐々に削っていくのだった。

(くそっこのままじゃ……)

ヴィータは相手の成長に舌を巻くがそうも言っていられない。このままでは敗北してしまうのだから。

しかし事態は更にヴィータにとって悪化していった。

「行くよ…!これが私の…!」

(まずい!あのレベルで打たれたら…!)

恐るべきはなのはの魔力制御と収束能力である。アクセルシューターを操りながらさらに別の魔法の準備までしている。

「ディバイィィィィン!バスターーーー!!」

桜色の魔力流が来る。ヴィータは覚悟してさらに自身の障壁に力を込めた。





しかし予想された衝撃は来なかった。

「馬鹿が。こんなところで暴れるな」

「てめぇは…!」

いつの間にかあらわれたのは黒い、覆面を被った猫。その口にはなのはをくわえている。

以前とは全く逆の状況にヴィータは色めき立った。

「お前もだ阿呆が」

このときヴィータは油断はしていなかった。しかし突然目の前に敵か見方かも分からない怪しい奴が現れて一瞬、ほんの一瞬冷静さを欠いてしまったのは事実だった。

「がっ!!」

首に強い衝撃を感じその言葉と共にヴィータは意識を失った。






黄色い閃光と紫色の閃光がぶつかり合う。

なのはたちと違いこちらは近接戦闘を主体としていた。


「レヴァンティン!」

『Schlange Form』

「バルディッシュ!」

『haken form』

二人のデバイスがぶつかり合い小規模な爆発が起こる。二人の高まりすぎた魔力が爆発を引き起こしたのだ。

「強いな…テスタロッサ。それにバルディッシュか」

『thank you』

「あなたも…シグナム」

『Danke』

にらみ合う二人。フェイトのデバイス強化によって二人の差はほとんどないものといえた。

お互い決め手を欠いている。それがこの膠着を表していた。




動いたのはどちらが先か。あるいは同時だったかもしれない。

ぶつかり合うデバイス。甲高い音が響き渡る。



しかし今度は爆発はおろかなにも起こらなかった。

代わりに二人のデバイスの中心には

「頭を冷やせ。猪どもが」

そこで二人は気を失った。





(ヴィータちゃん?シグナム?)

二人に念話が突如通じなくなったことにシャマルは焦っていた。まさか二人はもうやられてしまった?いや、そんなはずはない。ほんの先ほどまで少なくとも互角に戦っていた。

(状況は…まずいわね……でもこの結界はちょっと抜けられないわ……)

あくまで冷静に状況を判断する。シグナムとヴィータがいない以上最も打撃力のある魔法―この結界を貫けるまでの―を使うことはできない。ならばどうするか?

(!ザフィーラ?)

そうこうしているうちに今度はザフィーラからの念話も途絶える。これは本格的にまずいかもしれない。

「動くな。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。捜索指定ロストロギアの所持、使用の容疑で貴方を逮捕します。同意するなら武装の解除を」

後ろにデバイスを突きつけられる。シャマルは自分の迂闊さを呪った。

「よし!クロノ君!一人目だよ!」

(一人目…?)

シャマルは他の仲間がまだ捕まっていないことに安堵すると共に何か不測の事態が発生していることを理解した。それは管理局にとっても予想外であるということも。

「今すぐにもう一人を止めて武装の解除を。貴方達には弁護の機会があります」

この言葉がシャマルの考えを裏付けていた。自分達に5人目はいない。

だからシャマルは次の展開が予想できた。

「ぐぁっ!」

「今結界に穴を開ける。その瞬間を狙って全員を転移させろ」

執務官の吹き飛ぶ声と同時に男の声が聞こえる。しかしそれすらも予想済みだ。


「何者だ!」

後ろにいたはずの執務官はすでに距離をとって辺りをうかがっている。

「さぁな」

クロノの目には小さな影が写るのみだった。

速い。いや、速すぎる。

目にも止まらぬ速さというがこれは目が追いつかない速さだ。

「準備できました!お願いします!」

その声と共に影は結界に突っ込む。

「まさか、そんなはずは…」

そう呟いたのは誰か。

それは破るというよりも無理矢理貫いたといったほうが正しかった。そして一点に穴が開くとそこから守護騎士達は転移し抜けていくのだった。


「エイミィ!追跡は!!」

「やってるよ!でも……なにこれ!ジャミング?違う、サーチャーとレーダーが物理的に破壊されている!!?」

「相手が一枚上手だったか……!」

悔しそうに呟くクロノは自分の判断の甘さを後悔するのだった。

彼が到着してから僅か10分の間のことである。








「ただいま」

「あぁにいちゃんおかえりーみんなは?」

「もうすぐもどってくる…と」




「ただいまー…」

「なんやみんな疲れた顔しとるなぁ。今日はあったかお鍋やで。デザートもあるからな。みんな元気だしてーな」

「ありがとうございます。主…」

「今日は疲れました…早くご飯食べて寝ましょう…」

「約束を破ろうとするからそうなるんだ。何をしていたかは知らんがもう少しはやてのことを考えて行動しろ」

「まぁまぁにいちゃん。今日もみんな揃ったんやから硬いことはいいっこなしやで。さ、ご飯にしよ」





一日が30時間になる方法を思いつきました。
一時間を48分にすればいいのです。
これでノーベル賞はもらったな。






[6220] As九話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/05/16 02:15
そろそろ忘れられているでしょう。
PVを確認したら75000超えていてびびりました。

完結までは絶対に行きます。
こういっておけば適当に更新停止しても文句は言われないでしょう。





「準備は良いか?」

「良くはないが……聞いてくれないのだろう?」

「すまないがこれも仕事だ。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン、参る!」

「やれやれ……」







「にいさん、ちょっといいですか?」

フェイトが転入し、引越しを終えて数日、フェイトは彼を呼び出した。

「何か用か?」

「実は、時空管理局の人、クロノとリンディさんっていうんだけど、が是非君に会いたいっていっているんだけど」

ここで彼は考える。時空管理局とその職員についての大まかな知識は高町らから以前聞いているが実際に会ってみたわけではない。

「ユーノやアルフも久しぶりに会いたいって言ってるし、私もちょっと頼みたい事があるから……」

「今すぐ、か?どれくらいかかる?」

「えっと、できれば今日、多分クロノやリンディさんと話しをして終わりだと思うけど」

ここで彼は思考をめぐらせる。時空管理局は巨大な組織、そして闇の書を追っている組織だ。いわば守護騎士達の敵対勢力といえる。しかし闇の書に対する情報を数多く手にしていることも事実。聞いたところによれば闇の書は破壊にしか使われることはなく、世界を何度も危機に陥れてきたらしい。これはこれまでのマスターが阿呆でなければそのことを知らなかったかもしくは自動で暴走、破壊活動をしてしまうことを表している。



しかし今のマスターであるはやてがそれを望むか?答えは否である。


ならばどうするか。結局は闇の書をいかにして暴走させないか、もしくは完成をさせないか、という二つの結論に落ち着くことになる。

なんにせよ彼にとって現在最も必要なのは闇の書の詳しい情報である。
過去の闇の書がどのように扱われ、どのようにして暴走し、そのようにして鎮圧されたのか。そればかりではなく闇の書とはいかなるデバイスなのか、そこを詳しく知らねばならない。

そのために時空管理局の人間と接触することは渡りに船だった。

(如何にして入り込むか、だな)

もしかしたら数日がかりにもなるかもしれない。そうすると家にいる少女が悲しむかもしれないが仕方ない。


「わかった。放課後お前の家に行こう」

「あ、ありがとう、リンディさんもクロノもきっと喜ぶよ」







「ところでなんで俺を呼ぶときはさん付けなんだ?」

「年上の人は敬いなさいってリニスが……」

「そうか……」










「初めまして。時空管理局時空航行船アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです」

「八神にいだ。所属は…とくにない。見てのとおりだ」

「……じくうかんりきょく、しつむかんのクロノ・ハラオウンだ……」

「クロノ?どうしたの?」

「いえ、何でもありません、艦長……」

彼の目の前にいるのは緑髪をした妙齢の女性と黒髪黒目の少年。同じ苗字を名乗っていることから家族、親子か歳の離れた姉弟だろうと推測する。

「早速だけど色々聞きたい事があるの。答えてもらえるかしら?」

「内容次第、といったところだな。知らないものは知らないし答えられないものは答えられない」

その言葉にリンディは微笑みながら2、3度頷くと彼となのはの関係、魔道師とのつながりなどを問いただしていく。

「ひさしぶりだね。僕を覚えている?」

会話に花を咲かせているとそこに一人の少年がやってくる。ユーノ・スクライア。スクライア一族の一人であり春先の事件において活躍し、彼とも面識のある少年である。

「?誰だ?初めて会う顔だが…」

「う、ひどいな、公園とかジュエルシードの時に会ったユーノ・スクライアだよ。忘れちゃったのかい?」

苦笑しながら自分の名前と春先の事件のことを告げる。すると彼は驚いた顔で答えた。

「ユーノ…?もしかしてあのネズミか!?なるほど、存外に魔法とやらは便利なのだな……あれはネズミになっていたのか?それとも人間になる魔法があるのか?」

「一応こっちが本当の姿だよ。そうか、この姿で会うのは初めてだったよね、ゴメンゴメン」

たはは、と笑いながら頬を掻くその姿はどこか小動物を思わせる。それを見て彼は魔法を『なかなか滅茶苦茶なものだ』と評価を改める。

ユーノを交えこれまでにあったことをさらに話し合っているとこれまで何も話さなかったクロノが意を決したように立ち上がり口を開いた。

「おふざけはこのくらいで良いだろう。そろそろ正体を、本当の姿をみせたらどうだ?」

その言葉に彼は頭に疑問符を浮かべた。

「スクライア、ハラオウン艦長、こいつは何を言っているんだ?」

「とぼけるな、その姿が本当の姿とは言わせないぞ。どうせ魔法で変身してるんだろう」

「どうしたのさクロノ、らしくないよ」

「ユーノ、彼は明らかにおかしい。おそらく地球の魔道師なのだろう。何が目的だ。なのはやフェイトに近づいた目的はなんだ!?」

「……ハラオウン艦長、息子か弟か知らんがもう少しまともな思考回路を持たせるべきではないか?自分で呼んでおいて相手を不審者扱いするのはどうかと思うぞ」

「ごめんなさいね、八神君。クロノ、やめなさい。急にどうしたの?貴方らしくないわよ」

「そうだよ。彼が怪しい奴じゃないのは僕が保障する。多分なのはやフェイトに聞いても同じ事を言うよ」

「ユーノ!母さん!みんな騙されてるんだ!そいつは…」

「クロノいい加減にしなさい。八神君には善意で来ていただいているのよ。それを喧嘩腰になるとは何事ですか。クロノ執務官には退席を命じます。これはアースラ艦長としての命令です」

「ぐっしかし……」

「クロノ執務官!」

「っ了解しました」

渋々その言葉に従い席を外すクロノ。残ったのはユーノ、リンディと合わせて3人だ。

「ごめんなさいね。あの子は真面目なんだけどちょっと頭が固すぎるところがあってね」

リンディが先ほどのクロノの態度について謝罪をする。

「ま、現実との折り合いがついてないんだね。もう少し頭を柔らかくしないとこれから大変だよ」

「まぁそれほど気にしているわけではない。頭が固い、真面目ということは美徳でもあるわけだしな。それで、今度はこちらが質問をしたいのだが……」

「なのはさん達から事情は聞いているのよね。管理局としては部外者にあまり大事なことは説明できません。それでもよろしいですか?」

「もちろんだ」






「それでこれからの八神君はどうしますか?もし民間協力者として手伝っていただけるならばなのはさんやフェイトさんからも頼まれています。いくつか条件はありますが便宜を図りますが」

一頻り情報交換が終わって後、リンディはそれを切り出した。正直なところアースラが動かず管理局からの増援も望めない現在、手練の増援は喉から手が出るほど欲しい。彼女達からは『きっと手伝ってもらえる』とのお墨付きをいただいているが果たしてそれもどうなるか分からない。

彼は一つ頷くとこう切り出した。

「手伝うのはかまわんが、条件がある。まず俺はこの世界、海鳴を長時間はなれることはできない。だからこの辺りの防衛が主たる行動になる。それでいいか?」

「それは基本的にこちらに協力していただけるということでよろしいのかしら?」

「あくまで協力関係、というものかもしれないがな。こちらでできることに関しては俺もできる限り手伝おう」

条件としてはそれほど悪いものではない。確かに相手にも事情があるだろうし、この世界を離れて別の世界出ずっぱりというのもまずいだろう。しかしリンディにはもう一つ確かめなければならない事があった。

「……わかりました。それでは八神君の力を少々試させていただきたいわ。よろしいかしら?」

そう、伝聞の情報だけでは彼の実力を計ることはできない。少なくとも実際に強さをどれくらいかこの目で見てみないことには。

「……俺にここで戦ってみせろ、と?」

「ここではまずいわね。時間はあるかしら?ミッドの本局に一度来ていただきましょう」

そして冒頭に戻ることになる。








「フフフ、ここで貴様の化けの皮をはいでやる」

「生憎まだ三味線になる気は無いのでね。ごめんこうむる」

対峙する両者の間には緊張が流れている。妙な迫力を保ったものではあるが。

「じゃあ始めましょう」

そのリンディの言葉が戦闘開始の合図だった。









「すごいですね。彼」

戦闘記録をとっていたエイミィが隣に立つリンディに言う。モニターの中では現役の執務官と彼が戦っている。

「回避能力、敏捷性に関しては多分フェイトちゃんよりも上の数値叩き出してますよ」

「そう、ね。防御力に関してはわからないけどあのスピードだけで実力者ということは分かるわね」

「ま、彼ならこれくらいやってもおかしくは無いね」

一人彼の能力を知るユーノは余裕だ。

「攻撃力に関しては、ちょっと分からないですね。まだ攻撃を全くしていないので」

忙しくコンソールを動かしながら何の気なしに告げる。ここまで攻撃しているのはほぼクロノのみだ。

「攻撃、していない?」

リンディの頭に疑問符が浮かぶ。確かに愛息のクロノは執務官として優秀だしその戦闘能力も非常に高い。しかし相手は少なくともスピードにおいてはクロノをはるかに上回っている。そんな相手が一度も攻撃を仕掛けられない、仕掛けないということがありえるだろうか?

「遊ばれている?それともチャンスをうかがっている?」

その答えはすぐに出た。目の前の映像によって。


彼女が瞬きをしたのは一瞬。しかしその一瞬ですでに勝負は終わっていた。




「……え?」

「ハラオウン艦長。見てのとおり対象の無力化に成功。戦闘状況の終了を提言する」

「ちょ、ちょっと待ってね、エイミィ!何がどうなったの!!?」

「……記録、不可能でした」

「は?記録、してたんじゃないの?」

「せ、正確に言えば記録はありますけどわけが分かりません。一瞬クロノ君と彼の間に距離があったと思ったら次の瞬間にはもうクロノ君は倒れています。いくらスローにしてもわかりません。超スピードとかそういう次元のものじゃないです!」

「もっと別の恐ろしい何かってことね…」


「これでいいのか?こいつはちょっと気絶してるだけだからあと30分もすれば目覚めるだろう」

「……えぇ構わないわ。…クロノを医務室へ。ご苦労様、八神君」

もしかしたら自分達はジョーカーを手に入れたのではないか?リンディの背中には冷たい汗が流れていた。





「お疲れ様でした。八神君。民間協力者として時空管理局に協力していただくことに何の問題もありません」

正直に言えば彼女はこれが正しいかはわからない。しかし彼を野放しにすることのほうがリンディにとってはもっと恐ろしかった。…書類の改竄、いかに彼の存在をごまかすか頭が痛い。


「そうか。あぁそれともう一つ条件、というか頼みがあるのだが」

「何かしら?」

少なくとも現在の相手はこちらに敵意は無い。ならば相手の機嫌をとっておく意味でもここはある程度こちらが譲歩するべきだろう。リンディの頭にそんな打算的な思考が働く。

「なんでもいいのだが情報が欲しい。時空管理局には資料室みたいなものは無いのか?」

それを聞いてリンディの頭に今はただ資料が保管されているだけの雑多な資料室、書庫が思い出される。あまりに情報を収集しすぎたせいでだれも管理する事ができなくなったその場所を。

「わかりました。その件に関してはクロノから伝えさせます。ユーノさんが呼ばれた要件もそのことだったようですからね」

「え、僕が関係しているんですか?」


こうして彼はユーノと共に無限書庫に出入りするようになった。(クロノは渋面だったが)そのために帰りが遅くなりがちになりひとりの少女が不機嫌になったのはまた別の話である。






メアリー・スーテストなるものをを受けてみました。
結果は19点でした。
僕のお話は王道テンプレ最強ものなのにおかしいです。
おなかが空いていたからだと分かりました。
万事解決。






[6220] As十話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/06/05 21:27
とうとう十話目です。
ここまで来るのに色々ありました。
シーモンキー大人気、エリマキトカゲブーム、ダッダーンボヨヨンボヨヨン……
ひとえにこれらのおかげです。本当にありがとう。











時空管理局無限書庫。ここがその名前である。

管理局の全ての知識が存在するここは膨大な知識を溜め込み、いまやその蔵書の数は億を超えて兆にまで達するのではないかという者までいる。

しかしそれと同時にその膨大な知識は利用される術を欠いていたのもまた事実であった。

兆は言い過ぎにしてもここに存在する蔵書の数はそれこそその名の通り「無限」と呼べるほどを誇っており目当ての分野を検索するにも一苦労、まして特定の書籍に関しては何をかいわんやである。

つまりここは「全て」がありながら「全てを扱えない場所」という事ができる。


そんな場所に最近いりびたりの訪問者がいる。


「ふーん、よくそんなもので本の中身が分かるねぇ」

「まぁ、こういうのは僕の得意分野ですから」

本を運んでいるのがリーゼロッテ、中心で本を読破しながらそれに答えたのはユーノ・スクライアである。ユーノは今書庫の中で探査魔法を使いハイペースで本を読破していく。すでに読破された本が辺りに山積みになっており、その手伝いをしているロッテも感心しきりだ。

「僕達の部族は探索や調査に長けた魔法を使いますから、これくらいなら簡単ですよ」

こともなげにそういうが、ユーノ程度の年齢でここまで魔法を使えるものはかなり限られる。ロッテもそのことに気づいているのかユーノを見る目が少々変わってきている。


「……あそこにいる彼には劣りますけどね」


少々ばつが悪そうに言うユーノの指差す先にはここに来た最後の訪問客がいる。

「なんだ?よんだか?」

一応ユーノの言葉に答えながらその目は全くこちらを見ない。ユーノと違いただ本を読んでいる。間違いなく読んでいる。だがそのペースはユーノを超える上に冊数が尋常ではない。

ユーノはちらりと彼を観察する。自分は探査魔法を使い一度に十から二十程度の、それ以上の本を読破している。彼は一冊ずつ読んでいる。そこは間違いない。


それでペースが負けている。


(相変わらずだなぁ……)

もはや彼に対する理解を諦めたユーノは自分の作業に没頭していくのだった。









(夜天の魔道書……か)

無限書庫に来て幾日。彼はすでに闇の書に関する大まかな知識を集めていた。

もとはただの資料本であり、途中で何らかのプログラム改変があったせいで現在の闇の書と呼ばれるものになった。

守護騎士プログラムや転生機能も後につけられたものであり、もともとは単なるストレージデバイスであった、と。

(少々厄介なことになる、かもしれないな)

とりあえず一息入れようと気を抜くと、後ろに気配を感じる。この気配はユーノではない。

「…何のようだ?」

「もう一度、話がしたくてね。そっちの目的はまだ教えてもらってないからね」

リーゼロッテにとって彼と会うのはこれが初めてではない。むしろ会うのは幾度目か、そんな関係である。

彼女達はある理由によって彼と協力関係、寧ろ同盟というべきか、を結んでいた。

「あたし達は闇の書の完成をすることが目的だってことは前に話したよね?それなのに主の傍にいて、闇の書の危険性もわかっているはずなのに…あたし達に協力するのは何でなのさ?」

闇の書の完成、グレアムからは手を引くように言われたリーゼたちはしかし秘密裏に闇の書の完成を目指していた。しかしどうしても手が足りない。グレアムに相談することはできない。万が一にも自分達が行動しているとばれるわけには行かない。

そんなときに彼とであった。

最初は対立した。イレギュラーだと思った。単なる猫、どうにでもなると思った。

結果は負けた。

二人がかりで完膚なきまでに負けた。

自分達はこのまま父さまの願いを叶えられず終わるのだ、と地に伏しながら感じた。

しかしそうはならなかった。

「お前らは俺に負けた。だから今から俺の手下だ。少し手伝え」

……わけがわからなかった。さらに何をするのか聞いて驚いた。

『守護騎士達を助ける』

これが彼の打ち出した手伝いである。

リーゼらは面食らった。守護騎士を手伝い闇の書を完成させることは自分達の目的でも合ったからだ。

だが解せない。自分達はともかく彼は主を大事にしている。このまま自分達の計画通りに行けば闇の書は暴走して破壊の限りを尽くす。そのことは初めに説明してある。それでも彼はわらって「だからどうした」と言って自分達に手伝いを求めた。

それから彼らは戦場を駆けた。

直接的な介入はそれほど多くないがそれでも彼らは協力者となった。

自分達がいるとばれるとまずい、そういわれ黒い覆面を渡され、常に猫の状態でいるように指示したのも彼だ。

猫の状態なら確かに肉体的に体格のハンデが多少出るが逆にすばしこく隠密行動には最適と言えた。覆面をすればばれないと言うのもよく考えてある。

守護騎士達を気絶させたときは「やりすぎだ」と彼に言われたが、彼の友人(彼はクラスメートだと嘯くが)と守護騎士を同時に救うためにはあの方法しかなかったし、そのことは彼も理解しているのでそこまで本気でいるわけでもなさそうだった。

だが疑問がまだ残る。なぜ、闇の書の完成を目指しているか。

自分達と違う目的があるのは分かる。この関係は多分長くは続かない、と言うことも。それでも今はお互いの利益が一致している以上裏切る、と言うことは無いだろう。少なくともロッテはそう確信している。

「ねぇ、あんたは、どうして闇の書の完成を目指しているんだい?」

闇の書の魔力はマスターと精々管制人格しか使えない。そもそも彼には魔力なんてものは存在しない。自分達のように永久封印が目的でもない。ならばなぜ?

「さぁな。闇の書が完成するとろくなことにならないのは知っているが。。。まぁ優先順位の問題だな」

答えになっているようでなっていないような答えにロッテはむくれる。

「ナニソレ?全然わかんないんだけど?」

「わからなくていいさ……馬鹿な男の意地ってやつだ。それが破滅の道だと知っていてもソレを突き進むしかできないんだからな…」

「意地?なにそれ?」

「気にするな……と、ちょっと出かけてくる。馬鹿が馬鹿やらかしそうだ。ユーノには適当に言っておいてくれ」

「あたしもいく?」

「いや、大丈夫だ」

今のところ彼らの関係は比較的良好といえた。










とある管理外世界。砂漠地帯にて。

一人の少女が砂漠を歩いている。赤い帽子には小さなウサギが縫い付けられており紅いゴシックドレスを着ている。左手には古びた本を持ち右手にはハンマーを杖代わりにして持っている。もし、道端ですれ違えばだれもが振り向くだろう。少女のぼろぼろさ具合によって。

頬と額からは血を流し彼女自慢の帽子も汚れが目立つ。紅いゴシックドレスは裾がぼろぼろだ。体中砂と血とほこりにまみれている。しかしその中で彼女の目だけは力強い。

「アタシは…はやてを……助けるんだ……。アタシは…こんなの、全然、平気だ…」

だがその言葉は弱い。すでに彼女の体力は限界に差し掛かっている。

「まだ、やれる…」

ここで一度彼女は、ヴィータは引くべきであった。シャマルやシグナムと連絡を取るべきであった。

突然足元が崩れる。疲労した体に鞭打ちバックステップ。距離をとると目の前にはこの世界の原生生物。その体躯は蛇とトカゲを足した風貌に背中はびっしり金属質なうろこで覆われている。ぎちぎちと耳障りな鳴き声をあげながらヴィータの様子を伺っている。明らかに今の彼女の手には余る相手である。

「そっちから、来るなんて、好都合じゃん…」

しかしその目には諦めの色は見えない。寧ろやる気がみなぎっているようにみえる。

「行くぞーーーーーーーーーーーーー!」

気合一閃ハンマーを振りぬく。しかしすでに魔力の尽きている少女の攻撃を相手は小ざかしいと言わんばかりに吹き飛ばした。

「ぐぅっ!」

強かに地面に叩きつけられ苦悶の声が上がる。しかしすぐさま少女は立ち上がる。ここで負けるわけには行かない。

「まだまだぁ!」

再び突貫。最後のカートリッジをロード、全てを一撃に賭ける。

「ラケーテン・ハンマー!!」

爆音と共に自身を高速回転、遠心力と共に蛇の化け物に突っ込む。何を感じたか相手はその場から動かない。これを好機と見たヴィータは相手の頭を狙いハンマーをぶち込む。

「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

バチバチとハンマーと鱗がぶつかり合う音が聞こえる。もしこの攻撃を防がれたら少女に勝ち目は、ない。

「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

叫びと共にアイゼンで打ち抜く。ついに相手の鱗が耐え切れずはじけ飛ぶ。

「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」

断末魔の叫び声をあげて倒れる化け物。生きてはいるようだがしばらく動けないのは見て取れた。

「へへ…やったぜ…これで蒐しゅ……う」



そこで少女は気を失った。



「馬鹿が。無茶をする」



後ろに彼がいたことには気づかなかった。










「こ、こは…?」

次にヴィータが目を覚ましたのは自分のベッドの上、正確にははやてのベッドの上だった。

「あれ。。。アタシはどうなって、確かあいつをぶったおして…そうだ!闇の書!」

そのことに思い至り辺りを見回す。体の節々が痛むが動けないほどではない。ふとサイドボードを見ると闇の書がおいてあり、ひとまず安堵する。

「気がついたか」

「あんたは…」

目の前にいるのは一匹の猫。どうやら助けられたのだろうか?

「あんたが助けてくれたのか?」

「さぁな俺はぶっ倒れてるお前を見つけたから家まで引きずってきただけだ。驚いたぞあんなところで倒れてるんだからな」

その言葉に少々疑問が浮かぶ。あんなところとはどこだろうか?

「なぁ…」「あーヴィータ、目、覚めたんやね」

しかしその言葉ははやての乱入によってさえぎられた。

「全くもういくら楽しいからって土手で足滑らせて転ぶなんて危ないよ。もうちょっと気をつけて遊ばないとあかんよ。たまたまにいちゃんが見つけてくれたから良かったけど次からは気ぃつけてな」

「あ、あぁ」

はやての言葉にあいまいに頷く。どうやら自分は土手で気絶していたらしい。一体いつの間に戻ってきたのだろうか?

「はやて、ヴィータは目が覚めたばかりだ。何か飲み物でも持ってきてやったらどうだ?」

「あぁそやね。ヴィータ、ホットミルクでええ?」

「う、うん」

「俺の分は…」

「わかっとるよ、温めやね」

そう言ってくすくす笑いながら台所へとはやては去っていった。



「さて、言いたい事があるなら聞こうか?」



「…あんた、どこまで知ってるんだ?」

半年共に暮らしてみたがヴィータは彼が苦手だった。正確に言うと少々そりが合わない、と言うのが正しいかもしれない。普段から飄々としていてつかみ所が無い。ふらふらとどこかにいなくなることは日常茶飯事だしそのくせはやてからの信頼は厚い。そのことをはやてに問いただしても「にいちゃんやから」の一言で済まされてしまう。

ありていに言えばヴィータは彼に嫉妬している。ひどく幼いものであるがこの感情は嫉妬と呼ばれるものである。それがこの苦手意識の正体だった。

「さぁな。なにも俺は知らんよ。そういうことにしておいたほうが都合がいいのだろう?俺にとってもお前にとってもな」

まただ。またこうしてはぐらかされる。本当は知っているくせに知らないふりをしているのか本当に何も知らないのかその表情からは全く読めない。猫だから。

ヴィータは彼に対する追求を諦め、押し黙った。念話の気配からもうすぐほかの守護騎士たちも戻ってくる事がわかる。

「俺から言えることははやてのために何かをすることは悪いことじゃない。だからその道を突き進むといい、ってことだけだな」

「…やっぱり、知ってんじゃねぇか」

「何を?」

やはり空とぼけられる。

「なんでもねぇよ…」

「だからお前らもソレを邪魔されるのを覚悟しろよ」

「え?」

それってどういう意味―言いかけたところではやてが戻ってくる。お盆の上にはマグカップが乗っている。

「ヴィータ、にいちゃん、ホットミルクできたよ。あったまるよ」

そう言って微笑むはやてを前にしてヴィータは何もいえなくなってしまった。






時系列がずれてます。少しだけね。
しったこっちゃねぇや。
このお話を独創的だといわれました。
嘘っぱちだと思います。

5/25 投稿
6/5  修正



[6220] As十一話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/06/05 21:25
とうとう投稿数が20になりました。
予定では15くらいで投げるつもりだったのにおかしいです。
きっと僕の知らないところで誰かが書いてくださっているのでしょう。妖精さんとか。
どうもありがとう。







八神はやての趣味は読書である。本を読み始めた最初の切欠はただ寂しさを紛らわすためだったことは事実だが、もともとの自分の性質とあったのか、家族ができたいまでも本を読むことはやめていない。

その中でも特に童話や物語といったファンタジー要素の強いものを好んでいた。

しかし本が好きなことは事実なのだが、いかんせん小学生の年齢であるはやてはあまり本を買うということができなかった。あまりお金を使いたくない、という理由と、本を買いにわざわざ本屋まで行くのは一苦労である、という理由からである。

そんなわけで彼女はよく図書館を利用している。

図書館はバリアフリーが充実しており、自分の読みたい本がたくさんある場所、はやてのお気に入りの場所であった。新しい家族ができてからもちょくちょく通い、そこで色々な本を読むのは彼女の楽しみでもあった。

そしてもう一つ、ここにははやての友達がいることも大きな理由だった。

「はやてちゃん、この本はどうだった?」

「あ、その本読んだよー。結構あたし好みの本やった」

月村すずか。彼女もまた読書を趣味とし、この図書館によく来る少女である。

「はやてちゃんと私って好きな本が似ているからどんな本が面白いかすごく良く分かるよ」

「あはは、あたしもおんなじや。すずかちゃんのおかげで今までよりもぐっと読む本の幅が広がったで」

同じ趣味を持つものは仲良くなるのも早い。彼女らがであって僅か数ヶ月だが、お互いに仲の良い友人、とまで言えるほどになっていた。

「すずかちゃんと最初に会ったのは、確か…」

「うん、3ヶ月くらい前にペット関連の本を読んでるところだったよね」






数ヶ月前。

八神はやては少々悩んでいた。と言うよりも疑問に思っていた。

『うちの猫はどこかおかしいのではないだろうか?』

別に病気だとか異常な行動が見られるとかそういうわけではない。いや、異常と言われれば異常だがその辺りのことは気にしてはいけない。

新しい家族が増えて3ヶ月。紆余曲折あったが彼らも八神家になじみ、日々を楽しそうに生活している。

しかし誰も彼を疑問に思わない。

シグナム辺りに彼のことを聞けば、

「あの方は強いですね……いつか本気でやりあってみたいものです」

シャマルは

「にいさんですか?面倒見もいいし良い方なんじゃないでしょうか?その辺りのことははやてちゃんのほうが詳しいのでは?」

ヴィータに至っては

「アタシはあいつは気にくわねー。そりゃあ強いのもすげーのもわかるけど。。。なんか気にくわねー」

最後の家族を気に食わないと言い表す少女の鼻を抓みつつはやては分析した。

誰も彼が猫だと言うことには疑問を持たない。精々が強いとか良い人とかその辺の理解になっている。

正直に言えば自分も適当に思考を放棄してにいちゃんやから仕方ない、と問題をぶん投げてしまうことは結構ある。

でもここまで誰も疑問に思わないなら……。

こうしてはやては図書館で猫関連の本をあさっているところだった。

車椅子の自分では届かないところにある本、それを取ろうと手を伸ばした。



「この本ですね?」


すっと差し出される本、目の前にいるのは紫の髪に白いヘアバンドの少女、月村すずかがいた。

「猫、飼ってるんですか?」

手渡された本を受け取り、お礼を言うとそう話しかけられた。

「いや、ちょおうちの居候のことなんやけど、なんかおかしいんやないかって」

「病気なんですか?」

「そういうわけやないんやけど…あ、あたし八神はやていいます。平仮名ではやて、変な名前やろ?」

「八神……あの、もしかして八神君のお知り合いですか?」

この言葉に少々はやては面食らった。自分の同居人をこの少女は知っているのだろうか?

「にいちゃんをしってるん?」

するとすずかは微笑み自分の勘が正しいことを証明した。

「やっぱり。八神って苗字は結構珍しいからそうじゃないかなって思ったんだ」

「八神君のクラスメートで月村すずかです。ヨロシクね、はやてちゃん」


こうして二人は友人となり、ここ図書館でよく会うようになったのである。




「あんときは驚いたなぁ。まさかにいちゃんのクラスメートさんと出会うなんて思ってなかったわ」

「それは私もおんなじだよ。まさか八神君の家族に会えるなんて……」

共通の話題があり、さらに趣味まで同じとなればこの二人の仲が良くなるのに時間はさほどかからなかった。

お互いどんな本が面白かったかを教えあい、学校での彼の様子を聞く。たわいも無い雑談をする。はやてにとって同年代でかつ同じ性別の友人というのは初めてだった。

(これもみんなにいちゃんのおかげや)

心の中で考える。彼が来てから彼女の周りは少しずつ騒がしく、楽しくなった。新しい家族もできた。きっかけは些細なことだったが友人もできた。本当に彼には感謝しても仕切れない。

(ほんまににいちゃんは、すごいなぁ)

「はやてちゃん?どうしたの?」

突然黙り込んだはやてを不審に思ったのかすずかが話しかける。それに気づいたはやてはすずかにっこりと笑い、



「なんでもな―――」



胸ををおさえて車椅子から転げ落ちた。



(あかん、なん、やこれ、胸が、くる、しい、、、)

「―やてちゃ―!!だ―じょ―ぶ!?だ―か!救―車―!!!」

はやての耳にはすずかの声がかすれかすれに聞こえる。

(なん、なんや、これ、、、ちょお、しゃれに、ならん、、、)

「はやてちゃん!!!」

そこではやては気を失った。







走る、走る、走る。

守護騎士であるヴィータは病院内の廊下を全力で走っていた。途中看護婦らしき人に何か言われた気がするが、それすらも耳には入らない。


はやてが倒れた。


このことは八神家に即座に伝えられた。たまたま自宅にいたシャマルやシグナムらはすでに病室にいる。管理外世界で収集をしていた自分のみ来るのが送れてしまった。

「はやてっ!!」

病室のドアを開けるのももどかしく部屋に滑り込む。部屋の中にいたのはシグナムとシャマル、そして救急車を呼んでくれたと言うはやての友人の少女、そして

「なんや、ヴィータ、病院では静かにせんとあかんよ」

そこにはけろりとした表情のはやてがいた。

「は、やて、大丈夫、なのか?」

「せやから言うたやん。ちょお胸が苦しくなって倒れただけやて。みんな大げさにするんやから」

シグナムやシャマルを少々責めるような目で見る。しかしそれでもヴィータの心配は収まらない。

「ほんとに、ほんとーに大丈夫なんだな!?」

隣にいる主治医の石井女医にも確認を取る。

「まぁ、今日のところは大丈夫みたいね。ついでだからしばらく入院して検査とかもしちゃいましょう。シグナムさん、シャマルさんちょっとよろしいですか?」

二人を連れて出て行く。恐らくそこで詳しい話がされるのだろう。

とりあえず今すぐ命に別状があるわけではないということを悟り、ヴィータはひとまず安堵する。しかしそれが長続きしないことは誰よりも良く分かっている。

「はやて、やばかったり、辛かったらすぐに言ってくれよ…あたし達は何でもするから」

「ありがとな、ヴィータ」




「じゃあはやてちゃん、そろそろ私は帰るね」

「うん、色々ありがとうなすずかちゃん」

すずかもいつまでもいては家族が心配する、と帰宅し、とうとう部屋に残ったのはヴィータとはやてだけになる。




「なぁヴィータ、にいちゃんは、知らんの?」

「……しらねー。あたしは直接ここに来たから」

突然話しかけられてヴィータは驚くもその内容が彼のことだと知り少々不機嫌になる。

「そっか、でもにいちゃんなら大丈夫やね」

一体何が大丈夫なのかヴィータには全くわからなかったが小さく笑うはやてを見て何もいえなかった。



「あの者にはザフィーラと同じく留守を任せています。突然大勢で押しかけても気疲れなさるでしょうから」

外からシグナムが戻ってくる。どうやら石田女医との話が終わったので戻ってきたらしい。

正直に言えばシグナムは彼に留守番など頼んでいない。頼んだのはザフィーラのみである。彼が今どこにいるのかシグナムは知らないが、僅かでも主を安心させるために嘘をついた。

「あ、そうなん?ならええんよ。ちょおにいちゃんはどうしてるかなと思っただけやから」

慌てて両手を振り別になんでもないと示すはやて。

「今はご自分のお体を労わりください。些事に関しては私達で何とかなりますから」

シグナムにとって最も重要なのははやてである。それはこれからも決して変わる事が無い。

「あー、うん、にいちゃんもいるし、シャマルもおるから大丈夫やね。あたしはここでのんびりと生活させてもらいますか」

はやてはことさら元気に振舞う。それがヴィータには痛々しく思えた。








玄関を荒々しく開ける音がする。そのことに気づいた彼は帰宅したヴィータを出迎えた。

「お帰り。はやての様子はどうだった?」

知っている。彼ははやてが倒れて入院したことを知っている。それにもかかわらずここでのほほんとしている。

「てめぇ…なんで知ってるくせに病院に来なかった…?」

「…俺にも都合と言うものがある。それに大勢で押しかけてもはやてが疲れるだけだろう?」

「それ、本気でいってんのか?」

「無論だ」

「てめぇ!!」

ヴィータは彼の胸倉を掴みあげる。ヴィータにとって彼の言葉は到底容認できるものではなかった。

「てめぇ、はやてが大事じゃねぇのかよ!あたしらよりもはやてと一緒にいるんじゃねぇのかよ!?」

しかし彼は冷静で、全く動じる気配が無い。

「いいか、よく聞け。例えばだ。俺が見舞いに行ってなんになる?はやてが治るのか?少なからず症状が良くなるのか?ならんだろう。ならば気疲れさせるだけだ。真にはやてのことを思うならば大勢で押しかけるべきではない」

確かに間違ってはいない。大勢で押しかけたところで大したことにならないということはシグナムも言っていたことだ。だが、ヴィータは感情がそれについていかない。

「あたしがいってんのはそういうことじゃねぇ!はやてが大事じゃないかどうかって聞いてんだよ!!」

「……大事に決まっている」

搾り出すように声を出す。そこにどんな感情が込められているかヴィータには予想できなかった。

「だったら!!」

「だが、どうしようもないのだ。今ははやての周りにお前達がいる。俺にできることなど高が知れている。そんなところにわざわざ俺が行く必要も……」

「違う!!はやてはなぁ、笑ったんだよ!てめぇがどこで何してるか聞いて、そんで笑ったんだよ!あんな、あんな寂しい笑顔見たことねぇよ!!」

はやては彼のことを聞いた。そしてヴィータの答えに笑って見せた。その笑いは悲しい笑いだった。

しかしヴィータにはそれを埋めることはできない。その事がたまらなく悔しかった。

「はやてはなぁ、はやてはあんたがくるのをずっと待ってたんだ!なのに、なのに……」

すでにヴィータの声には泣き声が混じっている。頬を高潮させ、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。自分はどれだけはやてを好きでもはやての隙間を埋める事ができるのは自分ではない。それが悔しくて、悲しくて、自分が許せない。

「そう、か」

彼はそう呟いた。そしてそのまま居間へときびすを返していった。

「てめぇ、こんだけ聞いてもいかねぇ気かよ!!」

「…俺にも都合がある。第一面会時間はもう終わりだ」

憎たらしいほど冷静だ。確かに自分も面会時間が終了したから戻ってきたのだから。だが、今の彼女にはそんなことはどうでも良かった。


「てめぇがいかねぇって言うのなら…力づくでも連れて行ってやる!!」







ボロボロになった体を引きずりながら病院に向かう。

もうすぐ、もうすぐだ。

はやて、もうすぐこのわからずやを連れて行ってやるからな。

あたしは、はやての為ならなんだってできる。

シグナムやシャマルやザフィーラだっておんなじだ。

あたしは、あたし達ははやてのためなら絶対に何にも負けない。

だから、はやて、もうちょっとまっててくれよ…。







病院の入り口までやってきて気づいたらしき看護婦に言われた。


















「病院内はペットの持ち込み禁止です」










常識です。





[6220] As十二話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/06/14 03:47
投稿期間が段々延びてきました。
べ、べつに忙しいとか飽きたとかそんなんじゃないんだからね!
いや、本当に。
物語はそろそろクライマックスです。
予定ではあと3~5話くらいで終わる予定です。






最終話 全てを終わらせるとき

猫「チクショオオオオオオオオくらえヴィータ!!」

ロリ「ぐああああああ!ヴォルケンリッター鉄槌の騎士ヴィータともあろうものがこんな猫ごときにぃぃぃぃぃ!!」



ニート「ヴィータがやられたようだな」

金髪「ククク奴は我らヴォルケンリッターの仲でも最弱……」

「             」

猫「くらえええぇぇぇぇ!!」

3人「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




猫「ハァハァ、とうとうヴォルケンリッターを倒したぞ。これで後は闇の書の防衛プログラムを倒すだけだ」

闇の書防衛プログラム「フフフよく来たな。ここが貴様の墓場だ」

猫「お、お前が闇の書の防衛プログラムか!」

防衛プロ「戦う前に貴様に言っておく事がある。貴様ははやてを助けるために俺を倒さなければならないと思っているようだが、別に倒さなくても助かる」

猫「なんだって!」

防衛「そして闇の書とヴォルケンリッターは完全に修復した上で管制人格と共に八神はやてのところに送っておいた。後は俺を倒すだけだな。ククク…」

猫「上等だ。俺も言っておく事がある。猫姉妹とかすずかとかはやてとかにフラグを立てまくった気がしたが別にそんなことは無かったぜ!」

防e「そうか」

猫「行くぞ!うおおおおおおおおおおおお!!!」

b「さあ来い!!」

彼の勇気が世界を救うと信じて!!

ご愛読ありがとうございました。


完結





と言うわけで打ち切りです。プロットではこの後も話が続いていくのですがそんなもの誰も読みたがらないだろうし、ついでに言えばこれからはどう転んでもシリアスにしかなりませんから。あとはPVがそろそろ十万なのでキリがいいだろうということです。

なにか質問や疑問があったらどうぞ。答えられる範囲で答えます。


前書き?知るか(藁





[6220] As十三話目
Name: てすよ◆e8efcc3b ID:356c7f70
Date: 2009/07/23 00:13
一日幸せでいたかったら床屋に行きなさい。
一週間幸せでいたかったら車を買いなさい。
一月幸せでいたかったら結婚をしなさい。
一年幸せでいたかったら家を買いなさい。
一生幸せでいたいのなら……釣りを覚えなさい。








「という夢を見た」

「いや、それってどうなんだい?」

とある日の無限書庫、彼とその協力者である猫姉妹の片割れが昨日見た夢についての会話をしていた。

「いや、ああいう風に何でも簡単に片付いてくれるとありがたいのだが……現実は中々そううまく行かんな」

「そりゃそうだよ。あたしらが闇の書を封印しようとしているのはあんただって知ってるんだろ?そんな何でも都合よくうまくいってたまるかって言うんだ」

闇の書についてグレアムは詳細な調査をしている(と彼女らは思っている)。その結論として出た方法が永久凍結なのだ。その過程を全て無視して全て丸く収まりました、なんてことはありえない。

「だが、それが俺の目指すべきゴールだからな」

こともなげにそう言い放つ彼をロッテは見て思う。そうであればいいのに。全てがうまくいってあの子も封印されないで守護騎士も残って闇の書は二度とあらわれない。そんな奇跡のような事が起これば……


やめよう。そんなことは考えても仕方ない。


自分達は闇の書を封印する道を選んだ。目の前の彼もなにやら闇の書を完成させるところまでは目的が一致している。今はそれだけが真実。それだけでいい。完成した闇の書の封印を強行した場合、彼が立ちふさがるかもしれない。自分達は一度彼に倒されている。しかし、今度封印するときははグレアムが一緒だ。彼に勝てないまでも封印までの時間稼ぎくらいはしてみせる。ロッテの心にはその決意があった。

「アンタとの奇妙は関係も、もうすぐ終わりだね」

そのことに奇妙な感慨に捉われながらもロッテは告げた。

「闇の書の完成まで、あと僅か、か。恐らく完成は……」

「数日後。おそらくクリスマスイヴだね。今さらだけどさ、あたし等を捕まえとかなくていいの?ぶっちゃけあたしらはあんたの敵になる事が確定してるんだよ?」

「今は違うだろう?それに協力を頼んだのは俺のほうが先だ。目指す結末は違っても途中までの道が同じなら協力することはいいことだろう?俺もそれで助けられたしな」

彼にとって大事なのは現在である。彼は理想を目指す。全てがうまく行き、誰も傷つかない結末を目指す。すでにそこにはリーゼ姉妹達も組み込まれている。彼にとってはすでにリーゼらも彼が守るべき存在なのだ。

「何それ。変なの。そういえば変といえばあんたが闇の書を完成させようとした理由、なんだっけ男の意地?あれどういう意味なのさ?」



「笑うなよ?」

彼にとっては珍しい確認の言葉。

「さてね。変な理由だったらわかんないけどさ」

「闇の書の主、はやてのことは知っているな?あいつはな、ほとんど人に頼ることをしない。ずっと一人で生きてきたからな。一度手に入れたら失うのが怖いんだろう。みんなには迷惑をかけまい、自分は家族のために働こう。そんな意思が見え隠れしている」

「それで?」

「そんなあいつがな、たった一度だけ俺に頼んだんだ。『自分ではみんなを止められない。だからみんなを頼む』ってな。それしかないんだよ。それしかはやてが俺を頼ったことは無いんだよ」

「。。。馬鹿だね」

「自覚しているさ」



「闇の書が完成したら、あたし達は敵同士、恨みっこなし、いいね?」

「今さらだ。俺も俺の目指すゴールのために精々あがいてやるさ」


闇の書、完成のときは近い。







海鳴市立病院その病室にて

「ふんふんふーーーん♪」

「はやてちゃんご機嫌ですねぇ」

ベッドの上で携帯電話をいじりながら機嫌よさげなはやてを見て、花瓶の花を取り替えていたシャマルも嬉しくなる。

「わかる?あんな、すずかちゃんたちがこれから来てくれるんよ。新しい友達もできるかもしれんし、ちょお楽しみやねん」

それを聞いてシャマルの眉が少々ひそめられる。彼女の元に月村すずかからはやてのお見舞いに行きたいとのメールが来たのは先日のことである。そしてその時に見てしまった。メールに添付された写真に彼女達が、自分達の敵が移っているのを。そのときは入院したばかりでまだ日が浅いから、と言う理由で断ったがいつまでも断りきれるものでもない。シグナムらとも相談し、自分達が会わないようにしておけば大丈夫だろう、との認識の下お見舞いに来ることを許可した。

しかしそれでも不安はぬぐいきれるものでもない。

「そう……仲良くなれるといいですね?」

「うん、みんなにも後で紹介せななー」

朗らかに笑うはやての顔を見たシャマルは痛ましげに微笑むだけだった。








ハラオウン宅にて、闇の書の守護騎士に対する会議が行われていた。参加者はなのはやフェイト、クロノ、リンディと言った面々である。本当はユーノも来る予定だったのだが『今は少しでも多くの調べ物をしたい』とのことで参加を自粛している。

議題は先日の砂漠と森林での戦闘である。なのははヴィータと、フェイトはシグナムと交戦したが両者とも後一歩のところで邪魔が入り勝負は流れてしまった。

その時にフェイトは蒐集をされ、つい先ほどまでベッドの住人だったのだが、ようやっと起きれるようになったのである。

「こちらの対応は後手後手に回っている」

議長としてアースラクルーの面々を見回しながらクロノハラオウンは少々いらだたしげに宣言した。

「ユーノが調べてくれた闇の書、正式名称夜天の書の蒐集ペースを換算すればもういつ完成してもおかしくない。何とかして早く手を打たねば……」

しかし彼にもこれと言った腹案があるわけでもない。相手がいつどこに現れるかわからない異常その対応が事後的にならざるを得ないのは必然であった。

「あの、罠をかけるとかそういうのじゃ駄目なんですか?」

おずおずとなのはが手を上げて発言するがそれをクロノが一蹴する。

「無理だ。対応するための次元世界が広すぎる。人員も足りないし第一罠なんてあいつらは食い破りそうだ」

「じゃあ、待ち伏せとかも…」

「かわされて終了だろう。うまくこちらが観測している世界に来てくれればそれでいいが、そうでなければいたずらに蒐集が進んでしまうだけだ……」

苦々しげに言うクロノ。彼にもわかっている。しかし割り切れない思いが彼を焦らせていた。

「ねぇクロノ?結界魔道師を大量に送り込むのは?私達が何とか時間を稼いでいる間に相手を結界内に閉じ込めちゃうの」

フェイトがさも名案のように言うがそれにも彼は首を横に振った。

「それをしようとして一対一だから手を出すなと言ったのは誰だ?それに相手は一人じゃない。少なくとも僕が見た限りバックアップ担当が一人とさらにもう一人…」

「覆面の男……だね……」

「そうだ。あいつがいる限りことごとくこっちの行動は邪魔をされる!一体あいつは何者なんだ!小癪にも覆面なんかして!」

モニターには覆面をした猫が飛んだりはねたりしている映像が映し出されている。ひどくシュールだ。

「でも、この人、」守護騎士さんたちと仲間っていう感じはあんまりし無かったよ…?」

「確かに私が見た限りでもなにか別の目的があってシグナムたちを助けているように見えました」

実際に彼を見た少女らの言葉にもクロノは相好を崩せない。寧ろますます眉間に深いしわが刻まれるだけだ。

「そこがわからないんだ。あいつが守護騎士ではないのは過去の資料が証明済み。ではなんのために彼女らを助けているのかがわからないんだ」

「うーん、八方手詰まりね……ところで八神さん、なにか貴方から意見は無いかしら?」

これまで黙って息子クロノの発言を聞いていたリンディはいまだ黙して一度も語らない彼に話を振った。

「さてな。人ならざるこの身には他者の考えていることなど想像もつかんよ。ただ言える事はこの覆面の男はあまり出てこないらしい、と言うことともうすぐ闇の書が完成するから守護騎士たちと戦えるのは後一度が精々だ、と言うことくらいだ」

あくまで現状を確認する言葉しか出てこないことに少々落胆しながらもリンディは聞く。

「では、貴方がもしこの人、守護騎士の人たちを助けるとしたらどんな理由が考えられるかしら?」

緊張が走る。

「何が言いたい?」

「他意はないわ。ただ他人の気持ちになって考えてみることはとても大切なことよ?」

リンディの表情は笑顔であり、そこから悪意は確かに感じ取れない。気づいている?カマかけか?それとも本当にただの質問?その顔からは読み取ることはできない。

「……まぁ誰かに頼まれたとか、自分がその力を使うためだ、とかそんなことぐらいしか思い浮かばないな」

「ふーん、そう。あ、ごめんねクロノ。先に進めてもいいわよ」



(……危ないところだったな。俺がこっちにいるときにリーゼたちに出てもらってよかった。こいつらは覆面の男を単数と思っている。俺がアースラや無限書庫にいるのは確認済み。その時に覆面の男が出てきたのなら俺のアリバイは完璧になる。)

リンディがどこまで感づいているかはわからないが核心には至っていないようであり、一息をつく。

(もうすぐ、もうすぐ闇の書が完成する。闇の書、夜天の書の完成直後にのみ封印は効く、リーゼたちはそういった。つまりそこにだけ付け入る隙があると言うことだ)

彼の真意はまだ誰にもわからない。









ここからは蛇足です。
だから前回のお話で最終回です。
暑いです。眠いです、助けてください。
あ、最近やっと時間が取れるようになったので投稿しました。
いい理由だと思います。




[6220] クリスマスイブ
Name: てすよ◆dc9bdb52 ID:d88397db
Date: 2011/12/24 23:56
クリスマスです。
最初からこの日に投稿することだけ決めてました。
年が経ってるのは気のせいです。
でっていう。



闇の書。それは災厄の書といわれる悪魔の書。

かつてはただの魔法の資料本だったものがいつからかそう呼ばれるようになった。かつての持ち主たちは集めた魔法、魔力を使って様々なことをしようとした。

そしてその中で一番多かったといわれるものが。。。



今代のマスターである八神はやて。闇の書に侵食された哀れな少女。彼女の騎士たちは少女を助けるために魔力を、魔法を収集した。それがどのような結果になるとも知らず。

そして、今、闇の書は完成した。

ここから語られるは彼らに救いのない物語。

完成した闇の書に飲まれた少女とそれを救おうとした者たちの物語だった。







眠い…

ここで…どれくらい寝ているのだろう…

今は…このまどろみの中で…


ゆさゆさ

誰かが私を起こそうとしている…でもいいんや…もう少し…。

「あのー」


ゆさゆさゆさゆさ


「すいませーん。ちょっとおきてもらえますかー」

もう少し、眠らせてほしい…今は何も考えず…


「ちょっともうおきてくださいよ。こっちだって仕事なんですからほら」



「うるさいわ」



はやての寝起きは悪かった。







「なに、なんかようなん?」

若干いらいらしながらはやては目を覚ました。起きたときの感想が「死ねば良いのに」だったのは内緒だ。

はやての目の前には天使?らしき人?がいる。

背中には白っぽい羽が生えているし、わっかも付いている




スキンヘッドで巨漢だが。




「何?なんなんあんた?」

寝起きで少々不機嫌なはやてはそう切り出した。

「闇の書の管制人格です」

「…帰ってくれへんかな」

「そういうわけには…」

申し訳なさそうに語る管制人格。見た目の割にはとても腰が低い。

「そんで、管制人格さんが何の用ですか?」

「守護騎士たちが魔力を集めたのでマスターであるあなたの願いを叶えに来ました」

この発言にははやても少し驚いた。守護騎士たちが隠れて何かしているのは知っていたがまさかそんなことをしていたとは

「願い…あの子らそんなことしてたんか…」

「そういうわけで願い事をどうぞ」

「う~ん」

「さ、どうぞ」

「え、ちょおまってって、あ、ちょっと待つってのは願いやないよ!?」

「判ってますよ、そんな子供だましみたいなことしませんって」

「…あんた、ええ人やな」

よくお話に出てくる発言したこと全てを叶えてしまうような存在とは違うらしい。はやては少し落ち着いた。


「うーん、願いって言われても急には思いつかんなぁ。どんな願いでも叶えてくれるん?」

はやての問いに管制人格は答える。

「いえ、どんな、と言われると語弊がありますね。そこそこ程度で叶えられると思ってください」

「まぁ、そやね。何でも叶ういうほうがおかしいしなぁ」

「そうですね、それなりの願いなら叶えられます」

かなり曖昧な基準だがはやては頷いた。

「じゃあ願いの数を10個に増やすってのは?ちょお難しい?」

「できますよ」

「え、できるん?」

聞いたはやてが驚いた。


「はい、これで願いは10個になりました。さ、後10個の願いをどうぞ」

「なんか滅茶苦茶融通きくんやなぁ…」












「じゃあまず、順当なところでお金とかは出せる?よく漫画なんかやと億万長者になりたいなんてあるやん?」

まず最初の願い。よくある物語での願いだ。

「…額によりますねぇ。お金を勝手に作るわけにはいかないのでどこかから誤魔化して持ってくるのが…」

「え、そんなん魔法で一発ちゃうん?」

管制人格はその問いに言い聞かせるように答える。

「良いですか?この世界のお金とは信用で成り立っています。信用で成り立つから紙幣なんてものが流通するんです。もちろん私は紙幣とほとんど同じものを作れます。けどそれは偽札を作っているのと同義です。それでは犯罪者ですし、億万長者にもなってません。紙幣には全部番号も入っていて勝手に作るわけにはいかないんです。そしたらどこかから誤魔化して持ってくるしかないじゃないですか」

正論である。確かにはやても偽札を作ってほしいわけではない。

「じゃあ、いくらくらいなら誤魔化せるん?」

「うーんこの世界なら5、いや6万円くらいなら何とか…」

「微妙な額やな…」










「そもそも私はとくにお金に困ってるわけちゃうんよ。よくある願いやから聞いてみただけやねん」

「あ、そうなんですか。じゃあ他の願いをどうぞ」

「うーん。今までの人はどんな願い事してきたん?」

今代と言うことはこれまでにも願いをかなえてもらった人がいるはずだ。ならどんな願いか参考までに聞いてみた。

「そうですねぇ。。。健康でいられますように、とかですか」

「へ、そんなん?」

「そうですよ。健康第一。すばらしいですよ。あ、でも寿命では死にますよ。後事故とかにあっても死にます」

「なんか微妙やなそれ…」

「それと風邪とか腹痛とかにはなりますからね。その辺はあきらめてください。

「だんだんあんたがしょっぱく見えてきたで…」

「まさにそのとおり。しょぼくはないですがそこまで大きいものは叶えられないんです。大体魔力を集めただけで何でも願いが叶うなんて考えるほうがおかしいです。世界?たかが魔力で世界が壊せるわけないじゃないですか」

どこまでも正論である。

「まぁそんなもんかもわからんな…」

願いと聞いて少し上がっていたテンションが下がってだんだん冷静になってくる。

「あ、健康と言えばあたし今足が動かんのやけどこれは治せる?結構ええ願いやろ?」

原因不明で動かないはやての足。これが治るなら非常にうれしい。

「それは…難しいな…」

「え、なんでなん?ええやん治してーな」

ちょっとはやても真剣な願いなので必死だ。

「いいですか、あなたの足は動きません。しかしこれを治してしまっても動くかどうかとは別問題なんです」

「?いまいちわからんよ?どういうこと?」

「ですから治すことと動くことは別問題なんです。その足を『治す』と言うのがどの範囲なのか私にはわからないんです。あなたの足は生まれたときから動いてないでしょう?つまりそれがあなたの中ではそれが『正常』となってしまっているんです。『治す』というのは元の状態にすることですから『正常』のものを『異常』にはできないんです」

「じゃあこの足を動くようにしてーな。それならできるやろ?」

「できますけどそれ、意味ないですよ」

足が動くと言う願いに意味がない?なぜそうなるのか意味がわからない

「なんで意味がないん?」

「だってもう動きますから」

「は?」

「だからもう動きますって。足が動かなかったの闇の書のせいですから。開放されたからあとはリハビリすれば動きますよ。当たり前で書そんなこと。だから治していいのか効いてたんです。『正常』に戻すんなら動かなくするんですから」

確かに動かないことが『正常』ならそれに戻るのは真っ平だ。

「そっかぁ…もう動くんや」

感慨深げにつぶやいた。

「てゆーかあんたのせいやったんか」

「あ」








 


「まぁ過ぎたことはもうええわ。健康のほかにはどんな願いがあったん?」

ついでなので聞いてみる。後10個の願いが丸々残っているのだ。

「そうですね、次元世界が滅びませんようにってのがありましたね」

「え、それ凄いでかい願いやんか」

驚くはやて。確かに次元世界丸々守るなら大きな願いだ。

「いや、そうでもないですよ。次元世界っていっぱいありますし、むしろ滅ぼすほうが難しいですよ。昔あったアルハザードとかいうところだって滅んだとか言いつつ残ってますからね」

「確かに世界滅ぼすなんて普通できんわなぁ…」

正論である。

「よくいるんですよね、無茶な願いをしようとする人って。できないっていってんのに叶えろーとか。できないっていってるのに無理やり叶えようとするから魔力が暴走しちゃうんですよ。たかが魔力を集めただけなのに何期待してるんでしょうね?」

「なんや怖いなぁ…」

「大丈夫です。できないってことはできないって言いますし」

どこまでもできることと正論しか言わない管制人格だった。









「うーん、なんか考えてみたけどそんな願いなんてあらへんなぁ」

考えてみたが浮かばない。急に願いを出せと言うほうが無茶かもしれない。

「ま、どんな願いでもとりあえず言ってみたらどうですか。できるかどうかはこっちで判断しますよ」

「あ、じゃあまずさっき願いを10個にしたけど2つくらいにしてもらえる?」

「良いですよ・・・はい、後願いを二つどうぞ」

「そんならなぁまず、私の足がうまく動くようにってのお願いするわ」

確かに現地はもらったがそこはやはり不安なのだろう。はやてはそれを願った

「はい、大丈夫です。努力しだいで必ず動きます」

叶えたらしい。

「そしたら後一つは………」









12月24日 投稿


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