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[41992] アクガミ
Name: 青色◆ec0575d6 ID:89663cf7
Date: 2016/03/18 10:22

 不定期連載です。



[41992] アクガミ 第一話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:89663cf7
Date: 2016/03/18 10:23





 演目は『三文オペラ』だった。

 親しみやすく軽快な『モリダート』の旋律が奏でられている。

 混沌。

 久しぶりに見る、大空を舞い飛ぶ夢。

 眼下に広がるのは自分の手で優しくも厳しく全滅させ、たった一夜にして崩壊し棄て去った愛くるしい古き王国。

 無残な姿で血の海に転がる、四十人の生徒の死体。

 卒業してゆく生徒達。

 最後の授業。

 物の怪のような声で鳴きながら、狭い廊下を飛び回り露払いする二羽の眷属。

 熱くなった散弾銃は完全に一個の人格を獲得しており、野獣のような咆哮とともに、生け贄の命を奪うことに無上の喜びを覚えている。

「聖司くん。あかん。やめて……」

 殺戮をやめるよう訴える少女のか細い声は、無数の悪鬼たちの哄笑の中でかき消されてしまう。




 はっと目が覚めた。

 けっして彼女に、慕われてはいないだろう。

 むしろ恨まれているはずだ。

 カラスの鳴き声。

 町田から離れても蓮実聖司にストーカーみたいに執着して、毎朝いつも律儀に縁側で鳴くのは彼女なりの絶え間ぬ復讐。

 ムニン。

 左目の白濁している不気味なカラスの呪詛が、雨の日も風の日も蓮実の一日の始まりだった。

 追っ払おうとしてもどうせ無駄なのは、長い付き合いなのでもうわかっている。

 老朽化している平屋の日本建築。

 ところどころブルーシートで、恒久的に応急補修してある。

 両肩と首をぐるぐる回しながら、小さな庭に面した雨戸を開け放った。

 蓮実が起きたのを確認するまでは、いつまでも執拗に延々ムニンは鳴き止んでくれない。

 いた。

 相も変らぬ禍々しさで、悠然とこちらを見返している。

 ペットの置き土産のペット。

 ややこしい名前の飼い猫が震えているが、ムニンはそちらは一顧だにしない。

 どう聞いても阿呆としか聞こえない捨て台詞を残し、蓮実の顔を見て満足したのかぱっと飛び立っていく。

 もうすでに毎朝のお約束とはいえ、

「……やれやれ」

 だった。

 うんざりするカラスの押し売りモーニング・コールではあるが、遅刻の心配だけはしなくて済むのでそこだけは評価している。

 とりあえずすることもないのでジョギング。

 シャワー。

 しっかり朝食。

 何事もなければこれが蓮実の、朝のルーティン・ワークだった。

 身支度を整えて出勤。

 愛車はここでも重宝しているダイハツのハイゼット。

 こうして丘陵地帯を切り開いた急な坂道を登って通勤していると、前に務めていた懐かしい職場の記憶がふとしたとき後悔とともに蘇ってくる。

 今でもクラス全員の顔と名前を、蓮実は鮮明に思い出すことができた。

 可愛い生徒達。

 あんな忌まわく痛ましい事件さえなければ……。

 エンジン音に振り返る二人の女生徒に、蓮実は既視感を覚えずにはいられなかった。

「先生……」

「お、おはようございます」

 ただ目の前にいる水泳部の先輩後輩の二人は、記憶の中にある剣道部の教え子二人より礼儀正しかった。

 制服も小洒落てる。

 デザイナーズ・ブランドの、品の良いブレザーに白いブラウス。

 襟元で交差したリボンも、あざとくないワンポイント。

 プリーツ・スカートは丈が短めで、理事長の趣味だともっぱらの評判だった。

 上を見て下は育つということなのか、部長でもある三年生の塚原響に続き、期待の一年生ホープである七咲逢もきちんと蓮実に挨拶する。

 折った腰のラインが美しかった。

 切れ長の涼やかな瞳をした響は女子高にでも通っていたら、ラブレターやバレンタインのチョコの数は蓮実にも匹敵するだろう。

 背も高いので男装して颯爽と舞台にでも立てば、熱狂した歓声に包まれるのは疑いなかった。

 対して逢の方は一見すると、冷めた印象なのは響と同じなのだが、より生意気でより挑んでくるような雰囲気がある。

 小柄な身体から負けん気の強さが感じられた。

 蓮実に対する態度が二人とも少々緊張気味で堅い気もするが、根が真面目な二人の性格からすればこんなものかもしれない。

 悪くはない反応だ。

 これもこれまでの手間暇惜しまぬ努力の成果だろう。

 心酔とまではいかないものの、気持ちの天秤は大きく好意に傾いている。

「二人とも早いじゃん。水泳部の朝錬か?」

 まだ七時前だ。

 そうでもなければわざわざこんな時間に、登校してくるような生徒はほとんどいないだろう。

「七咲がどうしてもって訊かなくて。……この子はちゃんと見てないと、すぐオーバーワークしてしまいますから」

 そう言いながら響は、蓮実から気まずそうに視線をそらした。

 将来のエースであっても、贔屓するようなことはない。

 傍目には他の後輩と分け隔てなく、先輩として公明公平に接している。

 それでも逢を特に可愛がっているのは、蓮実の目からは手に取るようによくわかった。

 自分を重ねているのかもしれない。

 蓮実は二年前の校内で巡回がてらのバグの設置中に、放課後のプールで無理な練習を行って、足を攣った女生徒を助けたことがあった。

「すみません、先輩」

「べつに気にしなくていいわ」

「ありがとうございます」

 言葉だけ捉えると素っ気無い会話に聞こえるが、お互い先輩後輩として強く信頼しているのが感じられる。

 それは微笑ましかった。

 思わず頬の筋肉が緩んでしまう。

「先生、何こっち見て、ニヤけてるんですか?」

 これぞ教師冥利に尽きるというものだ。

 ほんの僅かな表情の変化なのに、目敏く見つけてむっとした顔をする逢と、ちらっと蓮実を見てから視線をそらす響。

「二人は仲が良いな」

 手を伸ばす。

 逢のセットされた髪の毛を、くしゃくしゃにしてやった。

「ちょ、せ、先生、や、やめてください。もう、それ、女子の間で不評なんですよ」

「だからやってるんだよ」

 慌てまくって顔を赤らめる逢が可愛らしくて、蓮実は車内から身を乗り出し、シャンプーでもするみたいにもみくしゃにする。

「もうっ」

「それじゃ若人諸君。これからの朝錬、あまり無茶しない程度に、しっかり頑張ってくれたまえよ」

 蓮実は逢のブーイングを聞き流しながら、ハイゼットを発進させた。

 すでに開いている校門をくぐり、教職員用の駐車スペースにハイゼットを止める。

 今日は昔の記憶がやたら蘇るなぁ。

 またしても蓮実の脳裏に、懐かしくフラッシュバックするものがあった。

 一番乗りの栄誉を前の学校では、必ず阻んでいたレクサスが停まってないのが、ほんのちょっとだけもの足りない。

 ゴルフ焼けした貧相な顔まで、また拝みたくはなかったが。

 ただそんな感傷めいたというには些か以上に、甘くもなければ苦くもない過去の映像は、職員室に入ると何事もなかったようにあっさり終了する。

 青少年の教育上、あまりよろしくない。

 学生の本分は勉学。

 派手ではないシンプルなデザインのスーツ。

 膝丈のタイト・スカート。

 抑え目な色合いの黒いパンティー・ストッキング。

 大人の女性としての当然の身嗜み、嗜み程度に施されたナチュラルメイク。

 ハイヒールの似合う二十九歳。

 刺激を与えぬようにとの配慮なのか、全体的に地味なコーディネートだが、残念ながらその効果のほどは疑わしい。

 本人にそのつもりはないだろうが色気十分で、男子生徒なら数式や英文などよりも、高橋麻耶教諭には教えて欲しいことがあるだろう。

 正確にはわからないが、少なくない人数がいるはずだった。

「蓮実先生。おはようございます」

「おはようございます」

 職場内では蓮実がもっとも年齢が近い。

 周囲に飛び交うセクハラまがいのオッサンギャグには、どうやら辟易していたようなので、蓮実の爽やかな弁舌は初めから好印象を持たれている。

 口調がくだけすぎることはないが、同僚教師という以上の関係を築けている自信があった。

 そろそろ次の段階に進んでも、いい頃合いなのかもしれない。

 この学校では麻耶の方が先輩だが、教師としては蓮実の方が先輩だ。

 教師には担任するクラスと担当教科以外にも、校務分掌という役割分担があって、蓮実と麻耶は生徒指導及び生活指導である。

 いろいろアドバイスやフォローもしてやっていた。

 本人は意識してないだろうが、教えを請うような態度を取ってることが多い。

 相談に乗るという形で呑みに誘えば、二人きりでもそれほど躊躇しないで承諾してくれるだろう。

 具体的な問題が起きる兆候もあるので、何ならそれを待ってもいいが待ちきれない。

「高橋先生」

 談笑が一区切りついたところで、蓮実は声のトーンを落とし、口元に手を当てて内緒話をしたいサインを送った。

 麻耶が可愛らしい耳を寄せてくる。

 45センチもない。

 恋人ではない同僚とその距離になるのに、さすがに麻耶は一瞬だけ反応を固くしたが、蓮実の気分を害してはと緊張しながら耳を寄せてくる。

 モデルにしたのは亡き恩師。

 これまで蓮実は無数の表情のストックの中から、度々麻耶には『真摯で熱い教育者』の顔を選んで見せてきた。

 他の『でもしか』な同僚と並列にして、邪推した反応を返すのは失礼。

 おそらく麻耶の心理は、おおよそそんなところだろう。

 ただ麻耶はあどけない初心な女子高生ではない。

 三十路間近の社会経験を積んだ女性であれば、この程度内心はどうあれ笑って巧く処理できるはずだ。

 あしらえる。

 頼れる同僚としか見ていなければ、ほどほどのスキンシップに逡巡や葛藤を必要とはしない。

 前任の学校でのことをどこまで知ってるか定かではないが、時折見せておいた『明るいがどこか陰のある男』の顔も効いている。

 あくまで同僚教師という立場で接してくる蓮実を、異性として自覚しないようにしているが、逆にそれは強く認識している証明だった。

「今晩どうで――」

「あーっ!! ハスミンが高橋先生とイチャついてるぅ!!」

 甘ったるい舌足らずな声。

 職員室はセーフティー・ゾーンだろうと、完全に高をくくり油断していた。

 こんな朝っぱらから来なくていいだろうに……。

 チャンスに割り込まれて蓮実は腹を立てたが、無論表情にはおくびにも出さない。

 即座に消しはしたものの対照的に麻耶は、ほっとしたようなむっとしたような、微妙なものの混じる複雑な表情をしていた。

「早いな」

 この台詞を言うのも、今日はもうすでに二度目だった。

 何気なさを装って後ろを振り返ると、受け持ちのクラスの生徒、橘美也がふくれっ面を隠しもせず睨んでいる。

 あどけなさが色濃く残る顔立ちは、芸能プロダクションが売り出してもおかしくない愛らしさだ。

 子役として。

 ブラジャーの必要性が疑わしい。

 そんな起伏に乏しい胸は言わずもがなで、全体的に肉の薄く小作りな身体は見事な幼児体型。

 発育の良い小学生なら、美也よりも余程高校生に見えるだろう。

 きまぐれ我侭甘えん坊な性格も相まってか、大きな瞳は好奇心旺盛な仔猫を連想させた。

 字こそ違うが同じ名前で、前に飼っていたお気に入りのペットの姿とも、見た目では似ていないが重ねてる部分が多いのもある。

 教師本来としての、やり甲斐がある生徒だった。

「橘が会いに来てくれたのは嬉しいんだけど、ここは職員室だから用がなきゃあんまり来ちゃダメだぞ?」

「日直だもん」

 期待してた答えじゃなかった美也は、叱られた子供みたいにぶすっとそっぽを向く。

 みゃーが朝からこうやって、折角ハスミンに会いに来てあげたのにぃ!!

 むくれた顔には言葉よりも素直に、少女の生の感情がストレートに表れていた。

「そうかそうか。ありがとう。橘はえらいな。ご苦労さん」

 異常に傷つきやすくデリケートな、今時の子供をフォローするために蓮実は、美也の頭をぽんぽんっと軽く叩いてやる。

 機嫌はあっさり直ったようで、満更でもない顔をしていた。

 日誌を渡し両手で髪をくしゃくしゃにしてから、怒ったふりは続けているが口元の緩んだ美也を送り出す。

「モテますね」

 麻耶からは鼻白んだ気配がした。

「イジられてるだけですよ」

「そうでしょうか?」

「じゃないなら嬉しいですね。って、これオフレコにしてください。もし生徒の耳にでも入ったら、ロリコン教師と言われてモテ期が終わります」

「女生徒たちは喜びそうですけど?」

「でもわたしの好みは、大人の女性ですから」

「…………」

 同僚の静かな返答はマイナスではなく、望む方向へ転がる予兆の好ましい沈黙だった。

 呑みに誘うタイミングは美也のおかげで逸していたが、その美也のおかげで一歩踏み込んだアピールができたので良しとする。

 今日はうっかりしてると、授業中に口笛を吹いてしまいそうだ。

 自分の担任する教室で朝のSHRを行いつつ、クラスに不穏分子が居ないか一人ひとり注意深く観察する。

「にっしっし~」

 美也がニヤニヤしてるくらいで、1年B組に特におかしなところはない。

 2年A組のような、厄介事の前兆は見られなかった。

 一時限目は空きでそこからは三コマの授業を連続でこなし、ようやく昼休みになったがカフェテリアは食べ盛りの生徒に占拠されている。

 近々のイベントとして、生徒会長選挙も開催されるので、いつもより数段騒がしい活気に満ちていた。

 会長は創設祭の実行委員長も兼務するので、何をするのかイメージしやすいのもあって、候補者のディスカッションはけっこうな熱が入っている。

 座れないこともないのだが蓮実の周りは、女生徒を中心に自然に人だかりができてしまう。

 営業活動の一環といつもは我慢できるのだが、今日はゆっくりと息抜きをしたかった。

 こういうとき行くところは決まっている。

 校内の片隅にぽつんとある茶道部なら、混雑とは無縁で煩わしさはないだろう。

 他にも空き教室の心当たりはあるが、あそこだったら黙っててもお茶が出る。

 俺の住んでるとこより立派だな。

 こじんまりとした日本家屋はそれほど古くないはずだが、どこか味わいがある上に造りがしっかりしている。

 茶室どころか茶屋をぽんっと作ってしまうあたりは、それなりに金のありそうで見栄っぱりな如何にも私立の学校らしかった。

「いらっしゃい」

「ようこそ。ハスミン」

 夕月瑠璃子と飛羽愛歌は、自室のように寛いでいる。

「お邪魔するよ」

「いやだなぁ水臭い」

「……私たちとハスミンの仲で」

 あらかじめ買っておいたパンを食べようとすると、何も言わなくとも湯飲みに入ったお茶が出てきた。

 部長と副部長だけあって二人とも、淹れるお茶は平の二年生部員より格段に美味い。

 これで部員数が三人でさえなければ、その凄さもよりわかるのだが。

「しっかし毎度毎度、人気者も大変だねぇ」

「是非ともあやかりたい」

 茶道部のこの現状というか、惨状からすればそうだろう。

「このままだと来年は、ここも桜井一人だけになっちゃうからな」

「まずいねそれ……」

「ハスミン。グッドなアイディア求む」

「そうだなぁ」

 考えてみれば考えてみるほど、来年は廃部というのが濃厚な気がするが、お茶をご馳走になっているので、頭を悩ますふりくらいは一応してやる。

 蓮実が顧問にでもなってやれば、万事解決しそうではあるが、メリットよりもデメリットの方が大きい。

 労多くして得るものは少ない面倒は御免だった。

 だったら憂い顔の女子高生二人を、こうして間近で眺めてる方がずっといい。

 黒縁眼鏡がトレードマークの瑠璃子は、男勝りで強引な言動が多いが、黙っていれば理知的に映る少女だ。

 江戸っ子気質、もしくは姉御肌という表現がしっくりくる。

 そしてその相棒になる愛歌は瑠璃子以上に、輪を掛けて黙っていればという注意事項が、さらに重要視されるミステリアス系の少女である。

 鴉の濡れ羽などという大仰な形容が似合いそうな、腰まで垂らされている黒髪が、いっそうその残念で勿体無い印象を深くさせていた。

 ぽっちゃり癒し系な二年の桜井利穂子も含めて、着物で卑猥な接待でもすれば男子部員はきっと増える。

「本気で御茶っていう文化に取り組んでるのを、地道に伝えていくのが結局近道なんじゃないか」

 脳内では劣情を催す光景を描きつつ、蓮実は誰にでも言えそうな建前を、あえて口にしてその場のお茶を濁した。

 中身のないことも言ってる人間次第で、どうにかそれなりの説得力は獲得できる。

 具体案はなくていい。

 二人とも安易に部員を増やしてこの小さな世界を、無闇に荒らされたくないという考えが根底にはある。

 筋道を立てて思考するのが難しい二人ではなかったが、願望がそれを邪魔して蓮実の適当な誘導にも簡単に乗ってきた。

「結局それしかないんだろうねぇ」

「……千里の道も一歩から? 一日一歩三日で三歩?」

「それだと何年も掛かっちゃうけどな。まあ、少なくともおまえらが安心して、この学校を卒業できるようにはしてやらないと」

「頼むよハスミン」

「ハスミンだけが頼り」

「任せとけ」

「でも純真な子をひどい目に遭わせるのは却下」

「承知しない」

「……わかってるよ」

 そうやって毒にも薬にもならない約束を二人にしてから、校内の死角になっている場所を見て回るため茶道部を後にした。

 輝日東高校には以前の学校のように、それほど性質の悪い生徒がいるわけではないが、それでも問題の芽は少しでも早く摘んでおいた方がいい。

 不良らしい不良は居ないが、屋上や体育館の裏などを見て回る。

 昼休みはそろそろ終わろうとしていたが、蓮実はとりあえずポンプ小屋も回っておくことにした。

 ほとんど人は寄り付かない場所ではあるが、それだからこそ利用しようとする者もいる。

 外からは鍵がかからないのに、内側からは鍵がかかってしまうという、どこかの施設と既視感を憶える管理上まずい状態だった。

 カップルが自分たちだけの時間を、満喫したいのはわからなくもないが。

 蓮実はドアを開けようとして苦笑した。

 使用中のようである。

 室内からはワンチャンだったり先輩の膝の裏だったり、高校生にしてはえらくマニアックな睦み声が漏れ聴こえていた。

 ここで邪魔するのは、野暮な気もしないではない。

 しかしそれはそれこれはこれ。

 はじめから午後の授業はエスケープするつもりだったのか、火が付いて夢中になっているのかわからないが、発見したからには見過ごせなかった。

 二人の行為がいったい今どこまでいって、どんな格好になっているのかはわからない。

 身繕いができるようにゆっくり、なるだけ気を遣ってドアをノックしてやる。

「誰かいるのか、ここを開けろ」

 それでも余程不意打ちだったみたいで驚いたのか、室内からはドタバタと慌てている音がした。

 しばらくの間があってからそろそろと、おっかなびっくりの気まずそうな様子で、蓮実のノックの間隔より何倍もゆっくりドアが開く。

「ど、どうも」

 バツの悪い見本みたいな顔を出したのは、美也の兄である橘純一と、照れたような顔をしている森島はるかだった。

 予想してない意外な組み合わせである。

 蓮実は純一の顔を知ってはいるが、それは主に麻耶の教え子であり美也の兄としてだった。

 成績にしてもスポーツにしても、ルックスにしてもプライベートにしても、所謂イケているという感じの目立つ生徒ではない。

 あらゆる意味で平均点。

 輝日東高校ではマドンナ的存在である三年の森島はるかは、まさに高嶺の花という言葉がしっくりとくる男子生徒だ。

 吊り合わない。

 室内や二人の表情などを観察した限りでは、セックスにまで及んでいたわけではなさそうだが……。

 これはとてもではないが看過できない抜け駆けだ。

 近くにはゴミ袋も砂もある。

 一撃。

 手練の技でブラックジャックを、こめかみに叩き込んでやろうか。

 冷たい怒りに支配されそうになる。

「おいおい。こんなとこで何をやってたんだ?」

 しかし蓮実はぐっと堪えると、冗談めかし笑顔で語りかけた。

「んもうやだなぁ。ハスミン先生ったら、ただワンチャンと遊んでただけですよぉ」

「そ、そう。そうですよ!!」

 図太いのか天然なのか微妙なところだが、とりあえず度胸はおどおどした純一よりも、どうやらずっとはるかの方がありそうである。

 そういった部分もイギリス人の血が混じった、クォーターだからかもしれない。

 もちろんほかの部分、胸だったり腰だったり尻だったりも、イギリス人の血の恩恵を多大に受けている。

 慎ましい日本人では困難なパーフェクトなボディを、森島はるかは男好きのするフェロモンとともに十八歳で完成させていた。

 カラーコンタクトでは再現できないブルーアイ。

 ちょっとした仕草に、いちいちエロティシズムが漂う。

 二人きりになれば即勃起してそうな、子供に遊ばせておくには、あまりにも惜しい玩具だった。

「……まったく」

 ぺしっぺしっと続けて二人の頭を軽く叩く。

 わからないように純一の頭は、はるかより少しだけ強めに叩いておいた。

「動物と遊ぶのはいいが、ここは生徒の立ち入りは禁止だぞ」

「はーい」

「すいませんでした」

「ところで橘の家の周りには、猫避けのペットボトルとか置いてるか?」

「え? あ、いや、置いてませんけど」

「ふ~ん。そうなのかぁ」

「なんですか?」

「いやいや、別に何でもないよ」

 主と従者のように去っていく二人の背中を見送りながら、外科手術的攻撃を気軽には用いれないことに歯噛みした。

 さすがに前の学校で、派手に乱発しすぎてる。

 控えるべきだ。

 美也を巻き込んでしまう恐れもある。

 上手く転がれば住む場所も家族も失った少女を、自宅で飼うことができるかもしれないが止めておいた。

 全滅の可能性の方が高い。

 やはり純一の排除は別の方法を、ここは考えるしかないだろう。

 昼休みが終わるぎりぎりで、職員室に戻ってきた蓮実は、シンプルに片付けようと決断していた。

 青春の思い出として、ブロークンハートしてもらおう。

 どこからか聴こえてくるのは『三文オペラ』の『モリダート』のメロディ。

 蓮実は自分が無意識に、口笛を吹いていたのに気づいた。






[41992] アクガミ 第二話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:c19e7ec5
Date: 2016/03/20 10:46




 それは理屈ではなく、野生の勘のようなものだった。

 直感を侮ってはならない。

 これまでも理論ではなく直感によって、幾度となく救われてきたのだから。

 AEDの自動録音機能を壊したり。

 後ろからではわからないくらいそっくりな、女生徒の顔をちゃんと確認してからカウントしたり。

 屋上からフェンスを乗り越えダイブさせる際、植え込みの陰に落ちているかチェックしたり。

 etcetc。

 放課後は巡回を兼ねて、目の保養に水泳部を覗くつもりだった。

 蓮実は小学生のときに行った臨海学校で、不幸にも仲の良かった同級生を失っている。

 二人だけで遊んでいる際に、離岸流に遭ってしまったのだ。

 今にして思えば別に死ななくてもいい人間が、殺されたことへのせめてもの供養だったのかもしれない。

 泳ぎには自信がある。

 どんなスポーツにも大概プラスになるのもあって、一時期はオリンピックを目指せるほど熱心に取り組んだものだ。

 部長である塚原響のお墨付き。

 レベルの高さを披露する機会もあったおかげで、水泳部のコーチみたいにして出入りするのを許可されている。

 これがほかの男性教諭ならば、部員も受け入れはしないだろうが、ハスミンならとむしろ歓迎されていた。

 または職業。

 生まれてくる時代を間違えた男に、細いが獰猛だと評された身体は、蓮実が教師の前に牡であることを意識させるだろう。

 若気の至りを晒したくはないが、背中に残る傷もそれはそれでいいアクセント。

 傍でキャーキャー言われるのも悪くないが、遠くから無言で見つめる生々しい視線が心地いい。

 幾人かの少女たちの瞳は、ぴたりと蓮実の股間を捉えている。

 Good!!

 普段は後輩の指導で手一杯で、自分自身は満足に練習できてない響。

 目を付けている部員たちの好感度アップのついでに、クールな部長のポイント稼ぎに勤しむ予定だったのだが。

「ふざけてんじゃないわよっ!!」

 怒声。

 聞き覚えがある。

 麻耶の教え子である棚町薫のものだ。

 かなりの興奮状態である。

 蓮実は廊下で息を潜めながら壁越しの、二年A組の教室でされている会話に耳を澄ませていたが、その必要もないくらいヒートアップしてきた。

 授業中の様子などからそれとなく、バグの情報などでしっかり掴んでいる。

 クラスメイトの男子と激しく揉めている最中で、フラストレーションが溜まっているのはわかっていた。

 お互い腹を割ってみろという、蓮実のアドバイスに従ったらしい。

 しかしこうなることも、蓮実にはわかっていた。

 わざわざ放課後居残りで行っているくらいなので、最初は話し合うつもりだったのかもしれないが所詮は高校生。

「どういうつもり?」

 口火がこんな喧嘩腰の態度では、話し合いになるわけがない。

 ヒステリックに自家中毒していた薫は、予想通り噛み付かんばかりになってる。

 一方的な糾弾になっていた。

「ね、ねぇ、薫、も、もう、もういいよ。いい、から。わ、わたしは平気……だから……」

 当事者である田中恵子の煮え切らなさも、アドレナリンを分泌している薫をさらに苛立たせる一因だろう。

 弄ばれたというほど、そんな大層なものじゃない。

 告白の返事を放ったらかしにされた。

 いきなりキスを強要された。

 好きな気持ちを綴った手紙を、仲間内で面白おかしく回し読みされた。

 といった他愛もない悪戯をされたらしいが、蓮実の見立てでは激するのにイマイチ弱い。

 添削しておいた。

 いつでもどこでも、頼めばすぐにヤラせてくれる。

 初心なようでいて意外にもベッドでは大胆。

 棚町とはセックスジャンキーフレンドで、よく一緒に乱交パーティーに参加してる。

 輝日東高校には裏サイトのような、気の利いたものはなかったが、生徒指導である蓮実にはさほど難しくはない。

 あることないこと噂を流すのは。

 まさかと思う。

 恵子にかぎって有り得ないと思うだろう。

 だがこの噂に触れた人間は、皆一様に面白いとも思ったはずだ。

 人は信じたいものを信じる。

 でなければ真偽が定かではないワイドショーや、三流ゴシップ誌があんなに売れているわけもない。

 せっせと暗躍した甲斐あって、恵子のデリケートな乙女心は酷く傷ついた。

 そんな理由で親友のために憤慨した薫が、こうしてその男子生徒とその仲間を呼び出しこうなっている。

 ちなみに女子だけ誹謗中傷されるのは、男女の同権が叫ばれてる昨今ではフェアーじゃない。

 コンプレックスを刺激すると思われるポイントを徹底的に罵倒した。

 器もアソコも小さい。

 傍に寄られるとイカ臭くて、ファブリーズのことばかり考えてしまう。

 馬鹿なのはやっぱ、オナニーばっかりしてるせいじゃね?

 しつこいだけで独りよがりのセックス。

 早漏。

 ガチで包茎。

 などなど両者のバランスには、なるだけ等分で心が抉られるよう、蓮実なりに細心の注意を払った配慮をしていた。

「楽しいのこんなことしてっ!!」

 しかしわからないなぁ。

 親友のために張り上げる薫の声を、心地よいものとして聞きながら、ウィンドミルばりに蓮実は首をひねらざるを得ない。

 薫の気持ちを、考察することは造作もなかった。

 しかし何故そこまで感情を、ここまで自分のことのように、爆発させられるのかはぴんとこない。

「クズね」

 なじり責める言葉はどんどんと、過激なものになっていった。

 浴びせられる相手もヒートアップさせるくらいの、せこいプライドを砕かんとするほどの容赦のないものになっていてる。

「女よりよっぽど女々しい。あんたには男らしさのカケラもないっ!!」

 主犯格の少年も呼び出されたのが自分だけなら、まだしも逆ギレする感情を抑えられたかもしれない。

 だが仲間の前でこてんぱんに罵倒されれば、もともと不足気味の自制が利くはずもなかった。

「……どうしたのよ? さっきから何黙ってんの? まあ、小物のあんたじゃ仕方がないか。びびって声も出せなくなっちゃうのはさ」

 威勢のいい啖呵。

 けれど薫の声は鋭さこそ失ってないが、男子生徒への微かな怯えが含まれている。

 数だけは二対二の構図になってはいるが、おっとりした恵子はもちろん頼りにならない。

 こういうケースではなるだけ、暴発さえないだけの戦力を連れてくるべきだ。

 さばさばした性格なので、薫はかなり人気がある。

 性別は問わなかった。

 観察していると少々スキンシップ、ボディコンタクトが過多で、勘違いさせそうな気もするが、女子だけではなくて男子にも友人は多い。

 喩えば純一を同伴させていれば、いくらかの抑止力になったろうし、幽霊気味だが剣道部の梅原なら充分な示威になったはずだ。

 スキャンダラスで赤裸々なテーマが絡むので、あまり男子には知られたくないのはわからなくもないが。

 女だけで対決するなど、人生が終わり兼ねない自殺行為。

 薫は急に静かになった相手に、後ずさりこそしないが気後れしだしてる。

「……れだけか」

「えっ?」

「言いてぇことはそれだけかっ!! このクソ女っ!! そんじゃおめぇに見せてやるよ、男らしさってやつをなぁ!!」

 蓮実が引き戸を僅かに開けて室内を覗き込んだのと、男子生徒に薫が突き飛ばされたのはほとんど同時だった。

 ウェーブのかかった髪が揺れる。

「きゃあ!!」

 これぞ少女という悲鳴。

 薫は不意打ちによろめいて、尻餅を突いてしまう。

 望まないM字開脚の終着点で、グレーの布地が露わになった。

 異性に見せる予定がないからなのか、色気も飾り気もないショーツだったが、夕暮れの陽射しに照らされて妙に扇情的に映る。

 獣の衝動を衝き動かすには充分だった。

 若ければ尚更。

 ごくっ。

 などという滑稽な音までさすがに、蓮実の耳に聴こえたわけではないが、男子生徒の喉仏が上下したのは間違いない。

 暴力は容易に性と結びつく。

 ベストパートナー。

 人間仕様で思春期と綺麗な言葉にしても、動物の根源の欲求や本質は変わらない。

 発情期真っ盛りな男子生徒のモードが切り替わったのを、たぶん本人よりも敏感に蓮実は感じ取っていた。

「……くっ!?」

 男子生徒の視線の先にあるものに気づいて、怒りではなく羞恥で顔を赤らめながら、女そのものの反応でショーツを慌てて隠したのもよくない。

 弱さを見せれば嵩にかかって、青い獣性を刺激してしまうだけだ。

「う、うおおおっ!!」

 牡の咆哮。

 雄々しくはない叫び声を上げながら、薫をあっという間に仰向けに転がし覆い被さる。

「ちょ、この、な、なにするのっ!!」

 揉み合いになった。

 とはいえそもそも男の腕力に敵うはずもなく、体重をかけられた状態では跳ね除けるのは到底不可能。

 アフリカ産のヒヒみたいだ。

 勝気に抵抗して薫は平手を飛ばすものの、それはそれなりに整った顔を醜悪に歪めさせ、あるかなしかの理性を蝕む効果しかない。

「薫っ!!」

「お、おい!?」

 恵子と男子生徒のツレ。

 暴走を意図して制止しようと、踏み出した双方の足が停まる。

 タイミングが合いすぎたおかげで、意図しないまま対峙する形になった。

「……あ」

 小動物のように恵子は身体を竦ませる。

 どうか襲ってくださいと、言ってるようなものだ。

 細い自制の糸があっさり切れる。

 理性を捨ててケダモノになった友人に続けとばかり、無力で気弱な獲物を目にしてモードが切り替わった。

 ねっとりした粘つく薄汚い欲望が宿った視線は、舐めるみたいにして同級生の少女の身体を這う。

 ここまでだな。

 それを確認してから蓮実は、力いっぱい引き戸を開けた。

 自分でレイプするのは好きだが、他人の輪姦ショーを見物する趣味はない。

 狩る者も狩られる者も等しく、四人が四人とも、凍り付いたように動きを止める。

「何をしている?」

 蓮実の声は静かだったが、それだけに伝わるものがあったようで、底知れず滲む迫力に呪縛が解けた。

 気圧されたように男子生徒は獲物を放し、そのツレは展開に付いていけてないみたいで、制服のズボンが膨らんでるのを気づかぬまま距離を取る。

「二人とも。こっちへ来い」

 薫は弾かれたように立ち上がり、恵子は泣きそうな顔で縋るように、手招きする蓮実の背後にすばやく隠れた。

 それを見て男子生徒たちの、強制的に冷やされた血が、また一気に沸騰して逆流してきている。

 威嚇するみたいに、蓮実を睨み付けていた。

 教師であっても、殴りかかってくるかもしれない。

 ただ輝日東高校はわりかし、お坊ちゃんやお穣ちゃんの学校だ。

 如何わしいクラブに入り浸ったり、近隣の不良どもに勇名を馳せるような生徒はいない。

 たぶんカツアゲされたことはあっても、カツアゲする側になったことはないだろう。

 まったく板に付いてない。

 凄んでみせても凄みがなかった。

 猛り狂う体育教諭。

 まして冬眠明けの羆みたいなアレに比べれば、高校生が四十人ぐらい居たところで、これといった脅威を蓮実は感じたりしない。

 顔面を吹き飛ばせば即座に動かなくなる相手が、仮にバタフライナイフを所持していたり、ボクシングの経験があったとしても感じるわけがない。

 毒蛇は急がない。

 タイの諺だ。

 どうにかして自分を強く演出しようとしている二人を、蛇が蛙にするみたいに無言のまま静かな目で見返す。

 しばらくすると毒が回ってきたのか、落ち着きがなくなり目が泳ぎだした。

「何をしている?」

 今度は優しく訊いてやると、二人はほっとした顔をする。

 迎合するような笑みまで浮かべていた。

 あきらかに蓮実を、恐れているのがわかる。

 やれやれ。

 心中では苦笑とため息。

 わかるのだがけれどこの状況で、二人がご機嫌を配慮すべきなのは、蓮実の背後にいる女生徒二人にしとくべきだった。

 さり気なくブロックしているからいいが、そうでなければ薫などは今にも飛び掛っていきそうである。

 大人しく柔和な性格の恵子でさえ、食いつくような視線を向けていた。

 火に油を注ぐとはこのことだろう。

 Pour oil on the fire……。

 話の持っていき方を間違えなければ、停学程度で済ませてやってもよかったのに。

 安い追従と希少な謝罪。

 どちらにより価値があるかなど、天秤にかけるまでもないだろう。

 自分のクラスからはオチコボレを作らないという、どこかの誰かと同じような教育モットーを持つ麻耶には同情を禁じえない。

 優しいものから厳しいものに、麻耶を慰める図を想像しほくそ笑みながら、蓮実は声と表情を暗転するように変化させた。

「おまえらが同級生にやっていたのはセクハラ、いや、もう暴行未遂だってわかってるだろうな?」

 加油!!

 めげるなよ若人。

 高校中退になったくらいで。

 そんな適当なエールを心中で送っていた蓮実だが、ふと教室の入り口に人の気配を感じてそちらを見る。

「蓮実先生? ……どうかしたんですか?」

 舞台袖で出待ちでもしてたみたいな、ここしかない抜群なタイミングでの登場だった。

 二年A組を担任している麻耶が訝しげな顔で、剣呑な雰囲気になっている両陣営に緊張した堅い視線を走らせる。

 蓮実に対するものは、説明を求めてもの問いたげだ。

「……高橋先生」

 ストックから沈鬱な顔を選んで被る。

 水面下で行われた主観的な真実は排除して、水上で起こった客観的な事実だけを滔々と述べ立てた。

 人間の顔色というのは、なかなかバラエティーに富んでいる。

 見てて飽きない。

 それが美人なら尚更。

 話を聞いて麻耶の顔色が、赤だったり青だったり、目まぐるしく変わっていた。

 蚊帳の外だったことにもショックを受けている。

 心の中で蓮実は麻耶に謝罪した。

 この一件を飲みに誘うときの隠し玉として、麻耶の耳に入らないようにしていたのだが、気づきもしなかったのかという非難の目で見ている。

 薫と恵子の麻耶への評価は、大幅に下ってしまったかもしれない。

 陥れる形になってしまい麻耶には悪いことをした。

 ……慰めてやろう。

 フルニトラゼパムの出番かもしれない。

 いつもカバンに入っている。

 ラビットパンチを飲まそうとしてる自分を想像して、カクテルを飲み干す麻耶を想像してほくそ笑みそうになった。

「わかってるな? おまえらのやろうとしてたのは、けっして許されちゃいけないことなのは」

 何の役職にも就いてなければ、ここに居る生徒達の担任ですらない。

 指図する権限はなかった。

「でもまだ若いおまえらの可能性の全てを、未来を俺も高橋先生も閉ざしたくはない」

 なのに運命を決めることを誰も不思議がってない。

 男子生徒二人に罪の意識を深く植え付けながら、女子生徒二人と麻耶の暴挙への怒りと嫌悪を巧みに煽った。

 ポーズだけじゃない、痛みを伴った反省と謝罪の必要性を説く。

 正式な沙汰は後日、親も呼んでということになったが、前科が付かないよう穏便にという、脅しをちらつかせつつ予定の着地点に落した。

 この一件の余波は小さく抑えられるだろう。

「……すみませんでした」

「ご、ごめんなさい」

 犯人が罪を全面的に認めているので、詳しい経緯や事情の究明もされない。

 残るのは最悪の事態になるのを未然に防いだ蓮実の功績と、女生徒二人と女性教諭一人の好意の加算に成功したことだけだ。

「これからなんだぞ、おまえらの人生は」

 空虚な台詞も今ならよく沁みる。

 ひと昔前の古臭い学園ドラマのような、虚偽と虚飾に満ち満ちたワンシーンだった。

 戯言に教室に居る全員が感動しているのに、蓮実は緩みそうになる口元を手で押さえて誤魔化す。

 つい調子に乗ってしまって、悪ノリが過ぎたかもしれない。

「生きてさえいれば、どこでだって、何度だって人生はやり直せるんだ」

 項垂れている二人の男子生徒の肩を抱きながら、頬をチック症みたいにぴくぴくさせつつ、沈んでいく綺麗な夕陽を眺めたりしてみる。

 手に震えが伝わった。

 二人がしくしく泣き出す。

 さらに良い画になった手応えを蓮実は感じていた。

「……とはいえ最悪は避けられたが、償っても償いきれないことをしでかしたのも、目を背けずこれからの人生に刻んでおけよ」

 もちろん出来過ぎな感動で消えないはずの傷が、下手に癒着したりしないよう塩を塗り込むのも忘れない。

 このまま何となく美談だけで終わられてしまっては困るので、醜聞の部分を改めて強調し再犯の危険も仄めかしておく。

 人の肉の味を一度覚えた熊は、憑かれたかのようにまた人を襲うもの。

 思春期の制御を誤った劣情の矛先は、教師にまで及ぶ恐れも暗にだが言及しておいた。

「高橋先生」

「は、はい!?」

 想像したくない想像をしていた麻耶が、蓮実の呼びかけにぎょっとしたように顔を上げる。

 目が焦点を探して彷徨っていた。

 微笑む蓮実の顔を見つけると、それ以外は視界に収めたくないのか、ぴたりと捉えたまま動かさない。

 麻耶に肩を抱かれている二人の女子生徒も、冬の寒空の下で震えるかのように身を寄せ合っている。

 さっきリアリティのある体験をしたばかりなだけに、恐怖の新鮮さとクオリティは麻耶のものよりも高いだろう。

 蓮実を捉えて離さない瞳は潤んでいる。

「こいつらは生徒相談室に連れて行きますので、高橋先生には二人のこと、どうかよろしくお願いしますね」

「……わかりました」

 てきぱきリードする。

 力強く守ってくれる頼もしい存在として、卑劣な男子生徒二人との対比もあり、蓮実聖司を牡として深く強烈に刻み込めた。

 艶かしい。

 無意識の仕草に表れている。

 あるかないかの微かなサインを送って、三者三様に匂い立つような媚びを売っていた。

 危うく口笛を吹きそうになったが、奇妙な気配を感じて蓮実は振り返る。

 設置したもののそこまでのスラッガーは居らず、無用の長物になっている高いフェンスの縁から、一羽のカラスが悠然と禍々しく見下ろしていた。

 街灯の光を反射している左目は、完全に白濁している。

 ムニン。

 瞬間、背筋がうそ寒くなる感覚に襲われる。

 しばらく蓮実を見下ろしていたが、やがてムニンは大きな羽音を立てて飛び立つと、ぐんぐん高度を上げて暗くなっていく空に溶け込んだ。






[41992] アクガミ 第三話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:89663cf7
Date: 2016/03/26 12:29




 学校にある薬品の定番は、やはり塩酸と水酸化ナトリウムらしい。

 戸棚には沢山の瓶が鎮座していた。

 昼でも薄暗い化学準備室は、普段からほとんど人気はない。

 べつに猫の祟りがなくともこういった場所に、それも放課後ともなればあるわけもなかった。

「ちゃんとできるね?」

 少女が頷く。

 個人レッスンをするには、なかなかの良い環境だった。

 恥ずかしがり屋でも、集中力を乱すことはない。

 紅潮し泣きそうな顔をしているものの、健気に言いつけを守ろうとしている。

 蓮実が命じたとおりに、制服のスカートがそろりそろり、焦らすようにゆっくり持ち上がっていく。

 場末の温泉街で団塊の世代を客に、夜な夜な繰り広げられるストリップショーのようだ。

 ロリータ・フェイスにツインテール。

 そのくせボディはふかふかな、胸も尻も女らしい丸みを帯びている。

 抱きしめるとすっぽり隠れるくらい小柄で、膝に乗せても苦にならないほどだが発育は良い。

 極端に人見知りな性癖で、どこかおどおどした表情も、庇護欲と嗜虐心をそそられる。

 中多紗江は愛玩動物としての必要な素養を初めから、先天性のものとして本質的に備えているのもいいところだ。

 もっとも仮にそうじゃなかったとしても、従順な奴隷になるように調教を施していただけのことだが。

 他の生徒と同じように。

 スカートの裾を握った小さな手が、ウエストのところにまで上がりきり、フリルの付いたコットンの下着が露わにされる。

 淡く薄いピンクのスタンダードなデザイン。

 少女らしくて似合っている。

 ――なのに淫ら。

 ショーツは触れてもいないのに、すでにうっすらと色が変わり、腰が揺れるたびに密やかな音が聞こえてくる。

 身も心も支配されているという意識が、そのまま悦びへと転化しているようだった。

 この子は一歩一歩、俺の創造物に近づいていく。

「Excellent!!」

 紗江の頭を優しく撫でてやった。

 以前は目を合わせることもできなかったが、今ではご褒美を期待して、とろ~んと蕩けた瞳を担任教師に向けている。

 桜の花びらのように可憐な口唇を、だらしなく開けてぬめる舌を覗かせていた。

「せ、先、生……わたし、も、もう……」

 髪を梳いているだけなのに、呼吸は荒くなり肩で息をしている。

 失禁しそうなのを我慢するみたいに、太腿をもじもじ擦り合わせていた。

 幼い顔には切ないと書いてある。

 苛めないでとも。

 けれどこういうときこそ指導の好機だ。

「おいで」

 教え子のふかふかした身体を、それこそ羽毛みたいに軽々と引っ張り、開いた自分の両足の間に座らせる。

 さすがに兄妹っていうのは、そろそろ無理があるかな。

 苦笑しつつ父娘に見えなければいいかと妥協して、蓮実は後ろから紗江の身体を抱き締める。

「あンッ!?」

 咄嗟のことに驚きつつも嬉しそうな声を漏らし、言いつけを守ってスカートの裾を、未だに捲くったままなのがいじらしい。

 尻に硬いモノが触れると一瞬身を堅くする。

 しかし微塵も拒もうとはせず、けっして熱さから離れようとしない。

 蓮実は紗江の肩口から顔を出すと、火照っている耳に息を吹きかけるように囁いた。

「生徒会長選挙、頑張ってるみたいじゃないか」

「……あ、ありがとう、ご、ございます」

 くすぐったいのか首を捩るたび、少女の甘酸っぱい体臭が鼻孔を刺激する。

 大きく吸い込んで肺をいっぱいにしてから、蓮実の左手はおもむろに紗江の右の乳房を掴んだ。

 たっぷりした重さがある。

「あ、あッ、ン……んッ……あ……んふッ……」

 制服越しなので乳房本来の柔らかさは幾分損なわれているが、それでもその感触と手のひらに収まらないサイズは、すでに勃起している牡器官に、

新たな血潮を、怒涛の如く流し込んでいた。

 スラックスのジッパーを今にも弾き飛ばしそうなほど興奮しており、若く未熟だが張りのある紗江の尻の谷間を捉えて執拗に嬲っている。

 もちろん右手も遊ばせてはいない。

「二年生の候補者にも離されずに、橘や七咲と協力してずいぶん健闘してるぞ」

「んウッ……!?」

 親友である美也が勢いだけで強く推したとはいえ、一年生でただ一人立候補するのは相当なものが必要だ。

 自分を変えようと勇気を振り絞った行動を褒めながら、天性のいやらしい身体をさらに蓮実は自分好みに変えようと弄ぶ。

 恥ずかしいシミのできている魅惑のデルタ地帯。

 ふっくらした曲面を這うように撫でながら、牡を体奥に迎え入れるのにもう、充分な潤いのある秘裂に二本の指先を食い込ませる。

 すると濡れたスポンジみたいに透明な粘液を滲みださせた。

 指に絡みつく。

 ショーツの下にある少女のフォルムを、愛でるみたいに丁寧になぞっていると、あどけなさを残しつつも卑猥な造形を刻々と浮かび上がらせた。

「自分で自分のを見てごらん」

 あられもない顔を蓮実に曝しながら、快楽に天井を仰いでいた紗江だったが、暗示にかかったように不自然に視線を下に落す。

 よがり喘いでいた紗江の身体が、凍りついたようにぴたりと停まった。

 あまりに生々しい。

 布地が一枚あるとは思えないほど鮮明だった。

 いつもは引き結ばれている大陰唇は、散々弄くられて笑みを浮かべたように綻んでいる。

 内側の淡い果肉の色までわかった。

 かぶりつきでもしたみたいに、ジューシーな果汁に塗れている。

「うぁっ――」

 呆けたように魅入っていた紗江の腰が、膨らんだ快楽の蕾を撫でられて、自然と弓なりになって突き出されていた。

 クリトリスに触れるか触れないかくらいの、繊細で静かなフェザータッチで円を描きこね回す。

「……ハッ……あッ……、あ、ンぁッ……ひッ……あ、んぅ……あふぁッ!!」

 後ろに仰け反った紗江は、口唇から涎を垂らし身体を痙攣させていた。

 恥じらいのカケラもない大股開きの恰好で、蓮実に抱えられたまま秘唇をひくつかせている。

 可愛らしいショーツの惨状と相まって、まるでお漏らししたみたいになっていた。

 ひとしきりエクスタシーのさざ波を愉しむと、紗江は魂が抜けたようにくったり蓮実に身体を預けくずおれる。

「あ……ン……はふぁ……」

 切なげな吐息とともに、紗江の全身のこわばりが解けた。

「こらこら。まだ話は終わってないぞ」

 そんな教え子の有様に嬉しいような困ったような、教師冥利に尽きる瞬間を堪能しつつ、蓮実は苦笑をしながらブラウスのボタンを外していく。

 火照り汗ばんでいる白い谷間と、ピンクのブラジャーが垣間見えた。

 ワイヤーで形成された球面に、ふわりと優しい弾性の柔肉が、窮屈そうにみっちり詰まっている。

 グイッと押し上げた。

「ひンッ!?」

 尖った乳首がカップの内側に擦れたのか、荒い息で豊かな胸を上下させて、忘我を彷徨っていた紗江の身体が鋭く跳ねる。

 わずかな動きにも反応して、メロンのように瑞々しい乳房が、ぷるるんっと柔らかそうに揺れていた。

 頂点で小さく実っているサクランボも、食べ頃を誇示するみたいに慎ましく震えている。

 まだ青く旬は迎えてなくとも美味そうだった。

「こっちも脱いじゃおうか」

 ウエスト部分のゴムに手をかける。

 ずり降ろした。

 濡れた秘唇とショーツの布地が離れるとき、ネチャッという湿った音がして、蓮実の浮かべている笑みをより深いものにさせる。

 ミルクプリンのような恥丘は、花園を好き放題に蹂躙されても、少女の持つ可愛らしさを失ってはいない。

 粘つく雫を滲ませていても、紗江のスリットは淫らで可憐だった。

 だからこそ牡として、穢してみたくなるのかもしれない。

「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……、あ!? ……ぁッ!!」

 乳房を乱暴に揉みしだく。

 当たり前だがダイレクトな状態だと、ぷりぷりした新鮮な肉の感触がよりわかる。

 少し力を入れただけで揉めば簡単に屈服して歪むが、それでいて元のカタチに戻ろうとする弾力は若い女ならではだ。

 それでいてまだ硬さが残る発展途上な身体は、男の支配欲を刺激せずにはいられなかった。

 蕩けるような熟した肉もいいが、この触感はこの時期じゃないと味わえない。

「選挙真っ最中に、立候補者がこんなことしてるなんて、皆、まさか思わないだろうな。清純イメージの一年生がPetだって知ったら」

 勃起した乳首を指先で弄りながら、言葉でも嬲り責めてみるが、要領を得ない返答ばかりだった。

 しかしそれに気を悪くするようなこともなく、むしろ蓮実は機嫌よくもう一方の手を伸ばして、やはりぷっくり勃起しているクリトリスを摘む。

「ひぁっ!?」

 紗江は口をパクパクさせて、腰を極限まで反らした。

 舐るみたいに指先でゆっくり転がして、こんなところまで箱入り娘な、過保護に守られている陰核を剥いていく。

 直接触れる外気。

 空調の微風に晒されただけでも、腰を震わせて身体の深奥から、トロリとしたものを新たに湧き出させている。

 蓮実の指先が少女の最も敏感な部位に、無防備になっている状態の部位に狙い済まして押し当てられた。

「ひいっ――」

 雷にでも打たれたよう。

 凶暴な痺れと疼きが駆け抜けたのは、これといって想像力がなくとも想像するに難くない。

 初心な少女が、快感と呼ぶには強烈過ぎる。

 絶え間ない悦楽の渦に翻弄され、歓びと苦痛の違いもわかってないだろう。

 こうなってくると愛撫などでなく、拷問と変わらないかもしれない。

「も、もう、や、やめ、せ、んッ、あッ、ン、やめ、て、くだ、あ、ああッ――!!」

 半透明の中に白いものが混じった液体を滴らせながら、途切れ途切れな切ない声を上げ、紗江は今にも狂い死にしそうだった。

 だが蓮実は共感したりはしない。

 耐えられる。

 じわじわ共感しかけている気もするが、まだ我慢できそうだったし、叫んでいる紗江を見ても心理的抵抗は特にない。

 感じているのは欲求の昂ぶりだけだ。

 蓮実は綻んでいる大陰唇に二本の指を宛がうと、逆ピースのようにして大きく左右に割り開く。

 粘膜の合わせ目に蓄えられていた果密がトロリ溢れ、会陰部を這うみたいに艶かしく伝い、尻の方にまで滴り垂れて椅子まで濡らしていた。

「あふァッ!? 先生、蓮、実、せッ、あ、あ、わたし、おッ、おかしく、おかしくなっちゃうからッ!!」

 苛められている子は苛められているとは、絶対素直には言ったりしないものである。

 優秀な教師は表面だけではなく、生徒の言葉の裏にあるものにも、キチンと気づいて応えてやらねばならない。

 ぱっくり割り開かれた秘裂から溢れている愛液は、滲み出たものよりも幾分粘度が高いようである。

 淫らにぬめる柔肉の底には、指一本でもきつそうな小さな穴が、誘うようにひくひく収縮をくり返していた。

 股間に咲いた粘膜の花。

「だいじょうぶだから。先生にまかせとけ」

 今日はここまでする気はなかったが、ここまで来たら想定していた以上の、紗江には痴態を曝してもらわないと収まりが付かない。

 生々しい牝のフェロモンの匂いで鼻孔をひくつかせながら、蓮実はシェル・ピンクのぬかるみの中へ指を滑り込ませる。

 蕩けそうな感触に歓喜で迎えられた。

 昼夜問わずで煮込んだシチューのようにトロトロになっている。

 さしたる抵抗もなく綺麗なスリットに男の指を咥え込んで、清楚な少女のアソコは卑猥そのものの存在になっていた。

 締めつけてくる。

 可憐なホールは貪欲に担任教師の指先を貪っていた。

「………ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……ぅああッ!! ……あ!? ……ああッ………んぁああッ!!」

 あのスニーカーはどうなってるだろう?

 忘れていたタイムカプセルのことを、何かの拍子にふと思い出したような気分。

 紗江の嬌声と合唱するみたいに、雨水の染み込んだ靴で足踏みするような、不快なはずなのに妙にくせになる粘着音がする。

 指揮者になったようだった。

「はひッ……ひッ……、あッ……あふぁッ!!」

 蓮実のときに荒々しくときに繊細な指の動きに、内気だった少女のコンパクトな肢体は即座に反応する。

 三文オペラのモリダートのメロディを、いつの間にか奏でていることに蓮実は、愉悦と呆れの入り混じった複雑な笑みを浮かべていた。

 そして悶える少女の身体がぶるりと、快感とは別の欲求で震えたのを確認すると、場違いなほどその笑みは爽やかなものになる。

 そういう方面の趣味があるわけではないが、そういう手段で少女を辱しめるのは嫌いではない。

 嬲る指先を止めた。

 隙をみて紗江が少女らしく迂遠に、わかってもらいたいがわかりづらく切り出す。

「あ、あの……」

「うん? どうした?」

「……その……えっと、あの……ちょ、ちょっと」

「ちょっと?」

 もちろん望みはわかっているが、まるで気づかないふりをして聞き返す。

 授業中に紗江が自分から挙手したことはなかった。

 だからこそこの問題の答えは是非とも、引っ込み思案な教え子の口から直接聞きたい。

「漏れ……、あ、いえ」

「言いたいことがあったら、遠慮なく意見を言いなさい」

「は、はい……あの」

「なんだい?」

 しばしラリーをくり返した。

「トイレ……に………、おトイレに……い、行かせてください……」

 するといくらもしないで、尿意は耐え難いまでに高まり、羞恥と膀胱のキャパシティを上回ったようで、涙“も”堪えながら先生にお願いをする。

 いつもの蓮実は締めるところは締めるものの、基本としては生徒の立場に立った、ややもすれば甘いと感じられる対応が多い。

 少なくとも他人からは、そう見えることの方が多い。

 しかしこの日は、スパルタだった。

「駄目だ」

「え?」

「授業を始める前に行っておくのは当然だぞ。どうしてもっていうんなら、……ここでしちゃいなさい」

 すぅーっと目を細めて言いつつ蓮実は、ポツッと小さく穿たれた尿道口を、マッサージするみたいに人差し指でくすぐりはじめた。

「あ、ダメっ、本当に、ダメなんですっ!!」

 腕の中で紗江が、切羽詰った甲高く鋭い悲鳴を上げる。

 けれどそれでやめてくれる蓮実ではない。

 尿道口をしつこく責める。

 熱心なレクチャーのおかげもあって、紗江はついに我慢の限界に達した。

「おっと」

 寸前で蓮実は背後の棚に手を伸ばして、あらかじめ用意しておいた空の瓶をセットする。

 いったん堰が切れると、もう止めようがない。

 ギリギリまでこらえていただけに、勢いよく噴出した尿は美しい放物線を描き、待ち構えていた瓶にナイスキャッチで注がれる。

「あ……あ……あ……」

 羞恥心と解放感の板挟みになりながらも、紗江はうっとりとした恍惚の表情で蓮実に身体を委ねていた。

 ……アンモニアがここにあっても、何にも不自然なことはないだろう。

 計ったみたいに満タンになった瓶を、ご存じ蓮実は何食わぬ顔して、沢山の薬品が陳列された棚の一角に紛れ込ませた。

 今だけはそんな瑣末なことに、関心を払ってはいられない。

 こんな貌までこの子は、魅せてくれるようになった。

 自分の教育が間違ってなかったのを確信しながら、火照ってる胸を腋の下から鷲掴んで、夢遊病みたにふらふらしている紗江を立たせる。

 向きを変えて気を付けを指示した。

 言葉以上に欲情を主張している勃起した乳首に、スカートの裾で隠れているが隠せてない内腿を静かに滴る果蜜。

 少女の熱視線はチラチラと、開かれた蓮実の脚の付け根辺りを彷徨っていた。

「できるね?」

 こくんっと小さく頷くと、躊躇うことなく埃のある床に跪く。

 蓮実はスラックスから、怒張したものを取り出した。

 紗江の髪を掴んで引き寄せる。

 みっちり反復学習させたやり方で奉仕させた。

 静脈を浮かせた赤黒い醜悪な肉塊に、可憐な唇で熱の篭ったキスをする。

 そのまま薄桃色の舌先をチロリと出して、膨張した太い幹の裏側にぴとり押し当てた。

 主人から餌を貰う仔犬みたいに、紗江は首から上だけを器用に動かし、唾液を塗り込めるようにして丁寧に舐める。

 まだまだ技術は稚拙だ。

 けれど何事も好きこそもののというやつで、このままいけばこれまでの歴代の生徒の中でも、最高の作品になるだけの素養を紗江は秘めていた。

 なにより紗江には、充分な時間がある。

 経験が積める。

 メールを盗み見るような好奇心・猜疑心さえ発揮しなければ、屋上から飛び降りることはないはずだから。






[41992] アクガミ 第四話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/04/01 10:16




 帰宅したのは午後九時過ぎ。

 取るものも取りあえず、すぐにパソコンを起動した。

 隠してあったUSBメモリーを差し込み、パスワードを打ち込んでファイルを立ち上げる。

 記憶だけを頼りにそれぞれの生徒の、今日一日で得た情報を書き加えていった。

 担任している1年B組は、非常に高いレベルで安定している。

 学校全体を見渡してもいえることだが、せいぜいが元気ややんちゃの範疇で、特にこれといった問題児がいないので楽なものだ。

 正直どんな構成でどのクラスを受け持っても、この学校の生徒なら労せず、同じようなレベルに仕立て上げる自信はある。

 あとはどれだけ、愉しめるかどうかだけだ。

 クラスの中心に位置しているのは、蓮実の影響下にある三人の少女達。

 絶対に欲しい生徒だった。

 入試面接から目を付けてたので譲れない。

 クラス分けの編成会議では、巧みな話術でリードし獲得していた。

 猫みたいにきまぐれで我侭、子供っぽく甘えん坊な橘美也は、マスコットとして外せないところである。

 極度に人見知りな性癖の中多紗江は、クラス全員に保護欲と責任感を提供してくれるだろう。

 ポーカーフェイスで口数の少ない七咲逢は、やや取っ付き難そうな印象を与えるが、実際には面倒見が良く規範の生徒となってくれるはずだ。

 蓮実が輝日東高校に採用されてから三年目になるが、担任としてクラスを受け持つのはこの1年B組が初めてになる。

 一年目から要請はされていたが、様々な理由を付けて頑なに断り続けてきた。

 前の学校で木の葉を隠すのに、山火事を起こしている。

 同情こそされ怪しまれることはないが、それでも傷心を癒しているだろうと思われる、ある程度の潜伏活動制限の期間はやはり必要だった。

 今の三年生の女子の入学からの成長の過程を、ただただ指をくわえて見ているだけの歯がゆい日々。

 解禁の契機となったのは森島はるかが卒業後、祖母の住んでいるイギリスに渡るという話を耳にしたからだ。

 計画ではもう一年くらいは、沼地のワニのようにしばらくはじっと動かず、大人しくしているつもりだったがどうにも堪えられない。

 ナマズやカエルならスルーできる。

 無警戒に無防備にうろうろしている美味そうなシカを、このまま見逃してしまうのはサメとしての習性が許してくれない。

 学校という接点がなくなっても、生徒と関係を維持する自信はあった。

 しかし蓮実は事情があって、アメリカには終生入国できない。

 ならイギリスは?

 そういう理屈があのメガロドンに通用するかどうか、軽い気持ちで試してみるにはあまりにもリスクが高すぎる。

 そんなわけで一年の前倒しになるが蓮実は、王国の統治に乗り出す頃合だと判断した。

 まだ狙いを定めた全員にではないものの、数年間のブランクを感じさせず、教育という名の奴隷への洗脳は順調に施されている。

 現在催されている生徒会長選挙も、もちろん有効活用させてもらうつもりだ。

 蓮実は湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れ、じゃれつくペットをあしらいつつブラックで一口味わう。

 メモリーから別のファイルを呼び出した。

 立候補者全員の名前と中間得票数が、いくつかの有権者のコメントとともに記されている。

 その中には紗江も居て、四人中四位ではあるが、これはあらゆる意味で予想通り。

 ほかの候補者が全員二年生の中で、ただ一人の一年生としては大善戦だ。

 愛らしいビジュアルや性格が、ある程度ウケるのはわかっていた。

 それだけでなく妙に最近エロくなってきたと、一部の生徒には囁かれはじめて票を伸ばしている。

 来年も出馬するのなら、いい布石になっただろう。

 とはいえ今年の選挙レースからは完全に脱落で、当選の可能性は三人の二年生候補者に絞られたといっていい。

 もっともこちらも荒れていた。

 ここまでは一強二弱の状態である。

 不自然なほど。

 字は違うが同じ名前。

 花園聖治が二位なのはわからなくもない。

 唯一の男性候補者。

 まずイケメンと言っていい甘いルックスをしているので、女子からの票がそれなりに集まることは誰でもわかるだろう。

 けれど本人と周りとの評価には、ギャップがある。

 体育の授業中に鼻血を出したことがあり、そこから付いた渾名は校内に知れ渡っていた。

 本人は不本意らしいが、親しみと揶揄を込めて『はなじ王子』と呼ばれている。

 自分のキャラがイジラレなんだと開き直れれば、さらに票が獲得できそうではあるが、花園本人はイケてる路線だと思っているのが難点。

 これ以上票は伸びないだろう。

 違和感があるとすれば、一位の黒沢典子と三位の絢辻詞だ。

 選挙が始まる前の蓮実の見立ててではこの二人が接戦、というよりも一騎打ちになるだろうと思っていたのだが。

 蓋を開けてみれば二人の一騎打ちどころか、残りの三人を足しても敵わない大差が付いている。

 あきらかに何らかの不正が、少なくとも公正ではない力が働いていた。

 いくらなんでも得票数に偏りがあり過ぎる。

 蓮実が本命に推していたのは詞で、対抗が典子ではあったのだが、それでもこれだけの大差がつくことは考えてなかった。

 昨年は一年生ながら創設祭委員として、実務活動をしているのもあって誰が見ても大本命。

 詞は絵に描いたような優等生で文武両道、クラスメイトのみならず教師からも一目置かれる存在で、学生時代の蓮実を彷彿とさせるところがある。

 だからちょっとした粗が気になった。

 なるほどこれか。

 ブレイクスルーさせてくれた恩師は事あるごとに蓮実を、心配し札付きの問題児に接しているような様子を見せていた。

 頷ける。

 教え子であればそれは、世話を焼きたくもなるだろう。

 自分の心に立ち入らせないバリアーを張り、完璧な仮面を被ってるつもりみたいだが危なっかしい。

 バリアーの向こうにある生の姿が、それこそ事あるごとにちらちら見え隠れしている。

 とはいえそれは蓮実が観察しているから浮かび上がってくるもので、周囲にはこれぞまさに大人の望んだ理想の生徒としか映らないだろう。

 では典子の方はどうかというと、こちらも仮面を被っているのは一緒だった。

 しかし蓮実の仮面はもちろんとして、詞のものと比べてみても、出店で売っているお面かというくらい安い。

 大人や男子の前ではあざとく可愛いキャラだが、同年代の女子の前では怖いキャラで典子は通っていた。

 典型的ないじめっ子タイプ。

 トイレの洗面所で賑やかに話していても『出ろ』、の一言だけで震え上がらせる迫力はないが、逆らえる同級生は男女含めそれほど多くはない。

 父親はどうも市議会議員だということだが、そういうのを鼻にかけた態度も、本人は無自覚なのだろうが如実に表れている。

 だが典子はそれに驕りはしてても、けっして馬鹿というわけではない。

 わかっているのだ。

 ライバル視をしてはいるものの、成績や人望などあらゆるもので、自分が本当は詞に敵わないのがわかっている。

 まともにやっていては到底勝つことはできない。

 なのでロビー活動していたようだが、日頃の行いのせいで、初っ端から利きすぎたようである。

 中間報告の結果として残ったのは、有利に進めてる印象でなく疑惑だけだ。

 派手にやった揺り返しはきっとくる。

 詞がここからキレることなく冷静に対処さえしていれば、巻き返すチャンスはいくらでもありそうだった。

 ……あくまで詞が冷静に、キレることなく対処さえしていれば。

 立つたびにじゃれてくるペットを足蹴にしながら、蓮実は二杯目のコーヒーを入れる。

 校内の中庭にアンケートが張り出されたとき、詞は涼しい顔をしていたものの、プライドの高さであればぶっちぎりで一位だろう。

 格下に噛み付かれたことでハラワタは、煮えくり返り冷たい激怒に支配されているはずだ。

 爆発しないかと期待しているが、詞は今のところ事なしの構えを崩してない。

 しかし蓮実ほどではないにしても、問題があったときの解決策の幅、選択肢が他の生徒と比べて詞もずっと広いものがある。

 最初のセットこそ典子にポイントを奪われはしたが、爪を研ぐように、闘志と反撃の手段を練っているのは疑いない。

 やられたらやり返す。

 少女達がそうやって暗闘に溺れてくれれば、出番を袖で待ってる蓮実もアクションが起こしやすい。

 ん?

 野生の勘がどうやらまだ一応残ってたみたいで、ペットの置き土産のペットが鳴りもしないのにそちらを見た。

 釣られて視線を追うと、蓮実の携帯電話が振動する。

 発信者を見ると薫からだった。

 もともと頼りになる先生というイメージはあっただろうが、あの一件以来かなり踏み込んだプライベートも相談されるようになった。

 タップする。

「……ハスミン。今、だいじょうぶ?」

 薫の声には何となく、不安そうな響きがあった。

 普段感じるのはまず自信と負けん気だが、こうやって電話をかけてくるときは決まってそれが影を潜める。

 いい傾向だった。

「ああ。どうしたんだ?」

「お母さんのことなんだけど……」

 相談の内容は思春期ではありがちというか、シングルマザーの母子家庭なら、どこにでも転がっていそうな悩みである。

 母も一人の女なのだということを、子供が子供のまま認識するのは難しい。

 これまで親一人子ひとりで頑張ってきた。

 そういう自負と想いが薫にはあったのかもしれないが、それを裏切られたと受け取ったみたいである。

 薫の母の年齢は同年代というには微妙ではあるが、三十半ばの蓮実とそんなに離れてはいない。

 まだまだ女であることを、諦めるような歳ではないだろう。

 男を作ってても悪いことはない。

「わたし洗濯だって掃除だって、サボったことないよ? 料理だってたまにはするし、お母さんの負担を少しは軽くしてきたつもりで」

「棚町はよくやってるよ。それはおまえのお母さんだってわかってるさ」

「そ、そうだよねぇ? ……で、でもさ。なのになんでなの? ハスミンなんでかなぁ?」

 こうしてありのまま泣きじゃくる迷子みたいに、弱さを曝している薫に頼られているのは快感だった。

 女の相談などという非建設的な無駄な時間を、わざわざ割いてまで付き合っているんだから、このぐらいの役得がないとやっていられない。

 そしてもちろんこの程度の役得で、いつまでもやっていられない。

「ハスミン」

 幸いなことに今夜の相談では新展開がありそうだ。薫の声は微かな熱を帯びて震えている。

「……わたし、子供なのかなぁ」

「え?」

「ホントはわかってるんだ。お母さんだって、恋がしたいってことくらい」

 ならもうちょっと早く言ってくれ。

 そう思ったが、そう思っただけにしておいた。言論の自由と思想の自由はけっして等価ではない。

 特に女性に対しては。

「まあ、そりゃ、……いつだって恋は、してたいよなぁ」

「やっぱハスミンもしてる?」

「してるよ」

「だ、誰に……?」

「おまえたち全員に、恋してるに決まってるだろ」

「げっ!? 何、それ? ひくー!!」

 生徒は誰でも大概こういう反応をするが、蓮実は生徒の誰であっても、こういうときはこう答えることにしている。

 本心だからだ。

 とはいえ恋だとか愛だとかいう言葉を生徒と、同じ意味で使っているのかはまた別の話だが。

 教育とは恋愛と同じであり、詰まるところ洗脳と同じである。

 マインド・コントロールに他ならない。

 言葉では冗談めかしてはいるが、電話越しの薫の声はキーが上がり弾んでいた。

 上機嫌なのは、姿が見えなくとも容易に視える。

「でも……ハスミンは」

 なのにもう次の瞬間にはころっと変わっているのだから、つくづく女心というのは山の天気よりも予測が難しい。

 一気にキーがズンと下って、沈んだ声音になっている。

 面倒臭い。

 ただこうやって感情の起伏があるのは、メリハリという意味ではとても有効だった。

 授業でもそうだが単調なリズムでやられていては、例えどんな精神状態であろうがいずれは飽きてくる。

 要は緊張と緩和を適度に与えてやることで、生徒の中の安心と不安を刺激し退屈させないことだ。

「付き合ってるの?」

「誰と?」

「高橋先生」

「馬鹿。ナニもないよ」

 今はな。

 蓮実は好意的な苦笑をしてやる。

 これもいい傾向。

 軽いやり取りで済むはずの話題を、薫の方から広げ掘り下げている。

 すでに頼れる相談相手という以上の好意を、蓮実に対して抱いているのは、潤んだような掠れた声が教えてくれている。

「じゃフリーなんだ?」

「言ったろ。俺の恋人はおまえらだって」

「……ハスミン」

「ん? なんだよ?」

「もう三十越えちゃってるおじさんがその台詞、女子高生に言うにはいろいろヤバくない?」

「悪かったな、おじさんで」

 ちょっと傷ついたような声で返したのがお気に召したらしい。

 薫は噴き出した。

「ごめんごめん。ハスミンはまだまだ全然若いよ。うん。おじさんなんかじゃない」

「おまえらを恋人にしてても、別におかしくないだろ?」

「うん」

「そうだろ」

「……恋人でもおかしくなんか、ちっともない」

「だけどお母さんびっくりするだろうな」

「え?」

「娘さんとお付き合いしてますって、俺がいきなり挨拶とかしたらさ。年齢的にはむしろ、お母さんと付き合ってる方が自然だろうし」

「そんなことないっ!!」

 また冗談めかして言ってみたが、薫はまるで笑わないどころか、今度は逆にむっとしたみたいだった。

 咄嗟に思わずという感じの、強い口調で言い返してくる。

 女としてもっとも負けたくない人物。

 どうやら母親というワードが、嫉妬を刺激するカンフル剤になったようだ。

「ハスミンにはお母さんなんかより、わたしの方がずっと自然だわ」

「おいおい。告ってんのか?」

「……自然だわ」

 不自然なほど熱を帯びた声で、薫は同じ言葉を静かにくり返す。

 第三者が客観的に判断したなら、まだ初期ではあるものの、ある病気に罹った患者の症状に映ったかもしれない。

 盲目になるあれだ。

 または狂うほど信じてる妖しい宗教。

「もしそんなことになったら自然と俺の姿は、淫行教師ってことで学校から消えてるよ」

 バレるようなヘマはしないが。

「だったらバレないようにすればいいじゃないの。わたし、ハスミンが学校から消えちゃうような、そんなヘマとか絶対にしたりしないよ?」

「いや、そういう問題じゃなくてだなぁ」

 渡りに船。

 その言葉を待っていた。

 とはいえここで飛びつくわけにもいかない。

「薫……」

「……え、な、なに? ハスミン」

 親しく相談を受ける仲になったが、こうやって下の名前で呼んだのは初めてだ。

 蓮実には記号でしかないが、特別感・優越感があるのか意外に効く。

 このカードはここらで切っておくべきだと思った。

「俺のこと、どう思ってる?」

「ど、どうって、ハスミンは大人だし頼れるし、楽しいしかっこいいし、本当に怖かったときに現れて、わたしのピンチを救ってくれたし」

 あいつらをけしかけたのも、俺だったりするけどな。

 新しい学校で頑張ってほしい。

 二人とももうとっくに、輝日東高校からその姿は消えている。

 蓮実に感謝までして爽やかに清々しく、涙ぐんではいたが晴れ晴れとした笑顔で去っていた。

「マイヒーローだよ」

「そっか」

「うん。だからハスミン……、って、あ、お、お母さん帰って来たっ!?」

 うっとりした表情が目に浮かぶようだった薫の声が、滑稽なほどうろたえた切羽詰ったものに切り替わる。

 その様子に笑いが込み上げたのは、けっして演技というわけではなかった。

 わざと声を潜める。

 囁くように。

「切るぞ」

「……うん。また明日ね。お、おやすみ」

「おやすみ」

 チュッ。

 と最後に投げキスでもしてやろうかと思ったが、想像すると我ながら寒いというか、さすがに調子に乗りすぎな気もするのでそのまま切った。

 もはや棚町薫は掌中にある。

 電話でなく目の前にいたら押し倒していただろうが、拒まれたりはしないとはっきり確信できた。

 薫はさばさばした性格で、男女を選ばないコミュニケーションの高さがあるが、最後の一線を容易に踏み込ませない警戒心も意外に高い。

 しかし人は接している時間が長いほど、相手に対して好意を抱き、話すことによってそのプロセスは一気に加速される。

 薫をモノにするための、パズルのピースは揃っていた。

 容易い。

「もうここまで来たら、おまえを殺すよりも簡単だ」

 無邪気な視線で見つめてくるペットの置き土産のペットに、蓮実はとびきりチャーミングな笑顔で指差しながらそう宣言した。






[41992] アクガミ 第五話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/04/09 12:09





「……ワンワン、と」

 〆る。

 意外なくらいに丁寧で綺麗。

 誰も来ないだろう生物・化学準備室で、二時間ほど集中して練習すると、純一の文字を完璧にコピーできる自信がついた。

 どちらかというと女っぽくって、書道でも習ってたのか柔らかく滑らかである。

 文章もそう。

 夢見がちなロマンチストでありデリケート、傷つきやすい繊細な心の持ち主なのがわかる。

 具体的にはクリスマス・イブにふられでもしたら、しばらくは恋愛イップスになって立ち直れそうにないくらいだ。

 短い文章だからこそ手は抜かない。

 いかにも書きそうな文章を、テストの英文を参考にして作成する。

 色素の薄いグレイの目は、ほとんど瞬くことがない。

 あの夜、ニューヨークのオフィスで見た同僚の、吟味され尽くした遺書と比べても遜色ない出来だった。

 何となく備え付けの壁掛け時計を確認すると、八時をそろそろ指そうとしている。

 生徒達は選挙などのイベントで忙しいが、教師陣は三年生を担当してなければ暇なものだ。

 輝日東高校にはこれといった問題児もいないので、予期せぬ突発的なトラブルさえなければ面倒な仕事もない。

 不用意にゴミ箱に捨てたりすると、そこからあっさり発覚することもある。

 みんなきっかり定時で帰ってしまったのか、すでに無人となっている職員室で、失敗作をシュレッダーにかけて処分。

 棚を見る。

 プールの使用は八時までになっているが、どうやらまだ使用中で鍵は戻ってきてないみたいだった。

 行ってみると室内プールの照明は、灯ったままになっている。

 響が泳いでいた。

 クロールでゆっくりクールダウン。

 ぴっちりした競泳水着に包まれた身体は、月並みな表現かもしれないがマーメイドのようだった。

 なら是非とも捕獲したい。

 生きたまま。

 響の部活で健康的に火照っている肌よりもなお熱く、穴が空くほどの鋭い視線でプールサイドから見つめていた。

 不埒な漁師が待ち構えてるとも知らず、響は水音ともにプールから上がってくる。

「え? ……あ、先生。すみません、もうそんな時間ですか?」

「いいよ。塚原がまともに練習できる時間は、限られちゃってるんだからさ」

 部長としては現役でも、選手としては引退しているので、響は後輩の指導やサポートが主になっていた。

 自分の練習時間はあまりない。

 なので最終の戸締り確認を合わせた三十分は、響が独りだけの集中した練習時間として、泳ぐことができるよう他の部員は先に帰っていた。

 ……人気のない放課後のプールで、濡れた水着の女子高生と二人きりか。

 ここまで条件が揃ってて、襲わない理由がない。

「塚原の泳ぎはこう何ていうのか、いつ見ても相変わらず美しいな」

「ありがとうございます」

 控え目な笑顔で謝辞を返しはしたが、こちらに近寄ってくる響の雰囲気はどこか固かった。

 はるかの隣りが定位置になっているので、あまり目立たなく印象もないが、女としての重要な部分はしっかり育っている。

 スレンダーな肢体は欲情するのに充分。

 今は水着姿を曝しているのもあって、詰め込まれた胸のふくらみ具合や、きゅっと鋭角にくびれた腰つき、引き締まった尻の形までよくわかった。

 こういうときの女子の観察力は、異様なほど研ぎ澄まされた勘も手伝って、うつつを抜かす男子の百倍は優れている。

 いつもと違う種類の蓮実の視線の行方が、わからないわけがなかった。

 足取りは慎重そのもので、明らかに蓮実を警戒している。

 1・2メートル。

 パーソナル・スペースには入ってこない。

「大学でも水泳は続けるんだろ?」

「さあ。まだそこまでは考えてません」

「やめたら勿体無いよ」

「でも水泳だけじゃなくって、ほかの事にもチャレンジしてみたい想いもあります」

「なるほど。それもまあ、ありっちゃありだよな」

 恋人ではない異性とは通常このくらいの距離を取るものだが、蓮実がこの距離を自分から詰めなくてはならない生徒はそう多くない。

 弛緩しきって擦り寄ってくる生徒が、男子であれ女子であれほとんどだった。

「え、あ」

 蓮実は無頓着を装って、目には見えないが明確な一線、恋人や家族にしか許されないそのラインを踏み越える。

 響が後退しようにも、後ろはもう水面である。

 さっきまではそこに浸かり、今も身体が濡れてはいても、落ちるには心理的抵抗があった。

 まだ何もされてないのに、露骨に逃げるような真似もできない。

 女の本能がそうさせたのか、自然に防御姿勢になっていた。

 自分の身体を抱きしめるみたいにして、男の視線から少しでも肌を隠すように両手をクロスさせている。

「あの……ちょっと」

 とはいえこの無作法にはさすがに、遠回しに響はたしなめようとしたが、またしても先手を取ったのは狩る側の蓮実だった。

「良かったら送ってやろうか」

「え?」

「練習して疲れてるだろ。家までってわけにはいかないけど、宿直の買い出しに行くついでにさ」

 さらに蓮実は響との間にある僅かな距離を、お互いの吐息が感じられるほど詰める。

 もうそれはキスをする寸前の距離だ。

「それは……その、いいです」

 かかとが水に触れる。

 響は蓮実を押し返すように両の掌を向けた。

 今がチャンスだ。

 怒るだろうがその後は、向こうが当惑するくらい謝ればいい。

「危ない」

 伸ばされた手をこれ幸いと掴み、力強くぐいっと自分へ引き寄せる。

 滑りのよい合成繊維越し。

 普段はクールな水泳部部長の、濡れた身体を抱きしめた。

 天使のように優しく、邪気のない顔をして傾ける。

 驚愕で微かに開いている薄い唇を、上から覆い被さるようにして奪った。

「――ンッ!?」

 すかさず白い歯並びを押し割り、響の口中に蓮実の舌が侵入する。

 舌先を口蓋や歯の裏、頬の裏までくすぐってやりながら、怯えるように縮こまっていた響の初々しい舌を捕まえた。

 交尾する軟体動物みたいに絡み合わせる。

 呼吸の役割を単独で担わされた鼻孔が、まだ熟してない青さの残る女の匂いで満たされた。

 異性にだけ嗅ぎ取れるあるかなしかの体臭に、プールの塩素の成分がミックスされて、口移した互いの唾液がより甘いものに感じられる。

 あまりにも美味だった。

 Excellent!!

「んッ……むッ……んーッ……」

 蓮実はテンションが上がり、唇と唇の密着度をさらに高める。

 より深く舌を差し入れて、これがおそらくファースト・キスなのだろう響に、ひどくディープな口づけを長々と心ゆくまで施した。

「んンッ!!」

 苦しげなうめきを漏らし息が続かなくなるまで、舌での交尾と唾液のやり取りを存分に愉しむ。

 そして解放した。

「ぷあッ……は……ぁ……はぁ……」

 本格的な蹂躙に移る前にどうにか理性を取り戻せたのは、一時的な快楽で終わらせるには惜しいと思ったからだ。

 このまま更衣室に連れ込むこともできるが、今夜はこのあとまだひと仕事残っている。

 ほとんどの教師にはホテル代わり。

 警備会社と契約して夜間は機械警備を行っているが、輝日東高校では万一に備えての宿直制度が伝統になって続いていた。

 人目を気にすることなく、いろいろ仕込めたりするので重宝している。

 銀色にきらめく唾液の糸がツゥーッと伸びて、生活指導及び生徒指導の男性教諭と、水泳部部長の生真面目な女子生徒の唇を妖しく繋いでいた。

 脚から力が抜けている。

 媚薬でも飲まされたみたいに肌を熱くしてぐったりしていた。

 響は片手間の、ツマミ喰いでは勿体無い。

 初めての体験と酸欠によるダブル・ショックで、ポーッとしている響の紅く染まった耳朶に狡猾に囁いた。

「送るよ。着替えてきなさい」

「……はい」

 響のような正義感の強そうな少女の場合、心を縛るのを怠って、身体を支配しようとすると、思わぬところで必ずしっぺ返しを食らう。

 それは前々校の四人組のリーダーで学んでいた。

 ひとまず今日は篭絡の、道筋を付けただけでいいだろう。

 ふらふらしている響がシャワー室に消えると、蓮実も着替えをするため、職員用のロッカーに寄ってから駐車スペースに向かう。

 遅れて数分で響もやって来た。

 ハイゼットの方に近づいてはくるものの、気まずそうな顔で遠巻きにしている。

「ほら。乗って」

 そうやって蓮実が勧めるとようやく、おそるおそる助手席に乗り込んだ。

 居心地は悪そうだった。

 車を発進させる。

 事故を起こすのはもちろんのこと、生徒を乗せて検問に引っかかるわけにはいかない。

 いつも以上に安全運転を心がける。

 制限速度を守るのは無論として、黄色信号でも律儀に一旦停止。

「どの辺りで降ろしたらいい?」

 響の住所はすでにしっかり頭に入っているし、蓮実は初めて行く場所でも土地勘が働くので、カーナビなどというものがなくても目的地に着ける。

 家の玄関どころか部屋まで、難なく送り届けることはできた。

「すみません。……それじゃ駅の近くまで、お願いします」

 指示されたのは輝日東高校の最寄り駅で、ついさっき初めて唇を奪われたばかりの少女の、そこはかとない羞恥心と警戒感が顕れている。

 それは必ずしも、悪いサインではない。

 男性と異なり女性の場合は、相反するはずの恐怖と愛は両立できる。

 ストックホルム症候群のように、むしろ錯覚が生まれ補強し合うことも多い。

 次が愉しみだ。

 静かな夜の街をドライブしてるというだけで、今日のところはとりあえず満足できそうである。

 チッ。

 なので水を差された気分だった。

 前方を見慣れた制服姿の、四、五人の集団が歩いてる。

「まずい。伏せてろ」

 身体を固くした響の後頭部を押さえると、外から見えないように姿勢を低くさせた。

 倒れ込んだ響は運転している蓮実の、腰に抱きつくような格好になっている。

 もしも車内を覗き込まれたら、誤解しない方が難しい恰好だった。

「ハスミーン!!」

 生徒の集団がエンジンの音に気づいて振り返る。

 蓮実のハイゼットを見つけたようだった。

 薫が手を振っている。

 その横を歩いている恵子も、蓮実を確認して顔を輝かせていた。

 少し前を歩いている梅原正吉も気づいたみたいで、気さくで気安い粋な笑みを浮かべて足を止める。

 そしてさらにその前を歩いているのは、腰までありそうなストレートロングの黒髪に、これぞ大人が望む優等生の綺麗な礼をする綾辻詞だ。

 怠ってない。

 ハイゼットとの距離はまだあるが、ターゲットである蓮実をロック・オンして、透明感のある雰囲気を撒き散らしている。

 まるで清く正しく美しくを、体現しようとしてるみたいだ。

 高いレベルの演技と言えるだろう。

 ただ蓮実の昔の家庭教師が目にすれば詞はまだまだ、「そんなんしたら、あかんやん」というレベルだった。

 彼女から多くを学んだ蓮実からすれば、完璧からは程遠い穴だらけの擬態である。

 じっくり教えてやるからな。

 蓮実は詞を見つめながら、後輩を諭すように心の中で呟いていた。

 問題はその隣り。

「……しっかし、あいつ、油断できないなぁ」

「え?」

「なんでもないよ」

 見直した。

 訝しげな声を上げる響の頭を、車体の底に沈めるようにして低くする。

 純一。

 あまり自己主張することもなく、どちらかというと目立たない生徒という印象だった。

 興味深い意外な才能。

 製作したビデオプロモーションは、選挙戦でかなりの武器になっていた。

 今後の学級運営の参考になるかもしれない。

 特殊な状況やイベントでは、普段は見られない一面が現れるということらしい。

 アクセルを踏み込む誘惑に駆られた。

 とはいえ小太りのおばさんでさえ、RX‐8で撥ね飛ばしても、死なないときは死なないものだ。

 大腿骨を折るくらいで、再起不能にすらなってくれない。

「乗せてよ」

 薫は物珍しそうに傷だらけの軽トラックを撫でさする。

 その仕草からは、無意識の媚びが感じられた。

 まさに顔面蒼白になっている響が、どうにか見えないぎりぎりのアングル。

 身を乗り出され車内を覗かれたら一発アウトだが、自然と上目遣いになっている薫と、蓮実のスラックスをギュッと掴んでくる響のいじらしさに、

堪らない愉悦が肌を這い回る。

「女子だけなら、乗せてやるんだけどなぁ」

 生徒とのコミュニケーションとしての冗談のつもりではあったが、言ってしまってからセクハラに取られかねないのに気づく。

「ひでぇ。男女差別だ」

「なら男だけ、乗せてやろうか? 心苦しいし息苦しいしの、たぶんダブルパンチになるぞ?」

「すいませんでした。僕たちは女子と一緒に、仲良く歩いて帰ります」

「よろしい」

 だがそういうのは日頃の行い次第だ。

 おどけて返した梅原や純一の男性陣だけでなく、女性陣の方もそんな風には取らなかったようである。

 詞と目が合った。

「何だかんだで選挙の方は、盛り返してきてるじゃないか?」

「おかげさまで。こんなに優秀なスタッフが居ますから」

 そつなく軽いジョークで場を和ませながら、蓮実には綺麗な白い歯を見せて微笑む。

「このまま独走でぶっちぎれそう?」

「まだまだわかりません。まだまだ選挙戦は続きます。……まだまだこんなものじゃ、まだまだまったく手は緩められませんよ」

 多次元尺度構成法による二次元分析のチャートで、それぞれの人気度はかなり実態に近い図式として見えていた。

 生徒会長選挙は現在、圧倒的な一強三弱の状態になっている。

 四位が紗江なのは変わってない。

 しかし、一、二、三位には、大きな変動があった。

 ただ一人の男性候補者で二位だった花園聖治は、絵に描いたようなスキャンダルでこけてる。

 この時期八方美人になるのは仕方ないが、そのベクトルが女子だけに集中し、そのうえ調子に乗って相手が勘違いするラインを飛び越えた。

 アイドルは所詮偶像なので、生々しくなったらアウトだ。

 二股だったり三股だったりの、修羅場があっちこっちで発生し炎上。

 脱落してる。

 むしろじわりじわり地道に確実に、ファンを増やしている紗江にも抜かれそうだった。

 今のところで(仮)だが三位である。

 そして二位なのが黒沢典子。

 最初のアンケート得票数では花園よりも高みにいただけに、もの凄い勢いで転落していて惨めなくらいだ。

 こちらもスキャンダル。

 セイシが行った抜き打ちの持ち物検査で、典子の鞄からタバコが発見されていた。

 典子は自分の持ち物ではないと、頑として否定はしたものの、動かぬ証拠のある現行犯で信じる者がいるはずがない。

 蓮実だけは嘘を吐いてないのをすぐに確信し、強く擁護したために厳重注意で終わってはいる。

 けっして教育的配慮から、信じるふりをしたのではない。

 典子が無実であることは誰よりも、確信を持ってよく知っているからだった。

 だがこういうときも、ものを言うのは日頃の行い。

 父親の権力であったり裏の暴力であったり、典子にあまり良い感情を持ってない生徒達の、くすぶっていたものがここぞとばかり爆発した。

 取り巻きだった子分も去り孤立している。

 生徒会長どころか、いじめられっ子一歩手前になっていた。

 選挙戦から撤退しないのは、彼女の最後のプライドであり意地だろう。

 もはや学校という小さな世界で、典子が生きていくには蓮実を頼るしかない。

 思わぬ駒が手に入った。

「最後まで全力でぶつかるつもりです」

 蓮実にとってこの輝日東高校の、ほとんどのの教師や生徒は等しく将棋の駒でしかなかった。

 ここでは盤の反対側に、指し手となる者は誰も座ってない。

 詞も駒だった。

 羊の群れに混じった捕食者ではあるものの、機会に恵まれなかったのだろうが経験が不足している。

 残念ながら詞は狩りに夢中になりすぎて、自分が狩られる可能性に想像力が働いてない。

 今後に活かせるかどうかはともかくとしても、やはり一人の教職者として是非、ここは貴重な教訓を与えてやるべきであろう。

 必ずおまえを見つけてやる。

「頑張れ」

「はい。頑張ります」

 優等生の微笑を絶やさない詞に、蓮実は心中で「Excellent!!」と喝采を叫びながら目を細めた。

「乗せてくれたっていいじゃん。ハスミンのケチっ!!」

 かまって欲しいのかしきりに纏わりついてくる薫の頭を、くしゃくしゃにしてやってからハイゼットを発進させる。

「もういいよ」

 のろのろとアンニュイな仕草で身を起こす響を、蓮実はミラー越しに見つめながら、駅でなくこのままホテルにでも行ってしまおうか迷っていた。

 カラスの鳴き声。

 ここまでくるともうホラー。

 バックミラーにはムニンが映っていた。






[41992] アクガミ 第六話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/04/16 12:37




 わざわざこうして放課後に独りひっそり、埃っぽい場所で待ってた甲斐があった。

「橘くん、ごめ~ん。待たせちゃったかなぁ?」

 何の警戒もしてない。

 録画中を示している赤い光。

 それははるかにも見覚えがあるはずだ。

 純一のと同機種。

 選挙戦のPR映像だけではなく、楽しそうにプライベートでも撮影していた。

 ポンプ小屋に入ってきたはるかが、カメラを視界に収めたのを確認して、物陰からプラスチックのパイプをそっと突き出す。

 瞬間震えた。

 神経電流をブロックされて、天然女王の身体が崩れ落ちる。

 床に倒れる前にキャッチ。

 蓮実は扉を後ろ手で閉めながら素早く、手紙ひとつでのこのこ呼び出された獲物を捕獲した。

 死体のように力の抜けた身体をゆっくり横たえると、躊躇いのない動きで目隠しをして、細い腕を背中に捻ると太いロープで縛り拘束する。

 どの程度の時間で回復するかは、以前の学校の教え子ですでに実証済みだった。

 闇に溶けるようにして、気配を殺しながらしばし待つ。

「……だ、誰? た、橘くん?」

 まだ痺れが取れてはいないのだろう。

 緩慢な動作で不安そうに、もぞもぞ身を起こし、闇しか映さない目で周囲の様子を窺っていた。

 もちろん蓮実は、何も答えてやらない。

 人が視界を完全に奪われたとき、心の深奥にある恐怖を刺激される。

 光を遮断し音や触感などの要素で、じわじわ責めていくのは、拷問としては入門編ともいえる初歩中の初歩だ。

「ね、ねえ、た、橘くん? 橘くんなんでしょっ!! こ、こら、黙ってたら、こ、怖いじゃないの!!」

 心の中の絶叫が漏れている。

 いい子だ。

 暗いところが苦手であることは、バグからの情報などで聴いてはいたが、可愛いもので素直にパニックになっている。

 この調子ならあっさり、嵌ってくれそうだった。

 首筋にひたりと、冷たいものを押し当てる。

「ひっ!?」

 熱いと思い込ませれば、本当に火傷するというのは有名な話だ。

 触れているのはただの定規なのだが、あり難いことにはるかの脳は自分から、率先して鋭利で凶悪な刃物に変換してくれる。

 どうやらシチュエーションに、だいぶ弱いのかもしれない。

 学食で純一と周囲の目も気にせず、犯人と人質という設定の即興劇で、じゃれ合っているのを見たことがあるが、役への入り込み度はかなりのも

のでちょっと驚いた。

 そういえば蓮実の知り合いの女性にも、生徒の性欲処理係という設定を好む養護教諭がいるが、女性というのは元来そういうものらしい。

 恐れながら楽しんでもいる。

 なかでもはるかは浮世離れした超現実主義なのだろう。

 リアルではないがリアリティのある不可視の刃で、舐めるようにしてはるかのすべすべした滑らかな肌を撫でる。

 首筋だけでなく頬や額などにも、眠っていた神経を強制的に揺り起こすみたいに、丹念に丁寧に何度も何度も蓮実はスライドさせた。

「……ハッ……、……あ……は……、はぁッ……」

 いくらもしないではるかの呼吸は、肩を上下させる荒いものになっていく。

 全身の毛穴から、脂汗を噴き出させ身悶えていた。

 小刻みにくねるグラマラスな肢体にとともに、牡を悦ばせる甘いシャンプーの匂いが拡散する。

 蓮実は背後に回って密着するように抱きつくと、制服越しでもわかる魅惑の巨乳をいきなり鷲掴みにした。

「やッ!?」

 手に収まりきらない大きさに、ずっしりとした心地よい重み。

 裾野から解すように揉みしだいた。

 弾力のある牝肉の感触。

 西洋の血が混じった女子高生の若い身体は、むっちりしていて何とも美味そうだった。

「んウッ、やめ、あっ、ンんぅ、ヤぁ、……あッ、ン、や、やめてッ」

 普段の天然女王からでは想像できない艶。

 涙声で懇願してくるはるかに、嗜虐欲を刺激される。

 笑顔もチャーミングではあるが、泣き顔はもっとチャーミングだった。

 もともとあるナチュラルな愛らしさに、エロティックな妖しさを上乗せできれば、ペットとして飼う付加価値はさらに高まるだろう。

 女としての悦び。

 それを生徒に教えてやるのは教師として当然ではあるが、同時に善意のボランティアとして必然のものである。

 熟してそうで熟してない清楚な香り。

 うなじに鼻を押しつけ少女の牝の匂いを堪能しながら、右の乳房を弄んでいた手を座っているはるかの内腿へ這わせる。

 瑞々しくむちむちしていた。

 そうやって張りのある太腿を撫でながら、舐めるようにさらに奥まで手を滑らせていく。

「やンッ!?」

 蓮実はほっとした。

 経験の浅い処女の当然の反応として、慌ててはるかは膝を閉じようとしている。

 もしかしたらと危惧していたが、純一に先を越されずに済んだようだ。

「お、お願い、やめ、あンッ」

 複雑な構造の耳殻をねぶり、哀しみの滲んだ声を途切れさせる。

 本気を感じさせる熱い吐息と舌を挿し込んで、真綿で首を絞めるように獲物を追い込んでいった。

 逃げる術などないし与えない。

「……そこ……ダメ……、ン……や……あぁッ……」

 抵抗する力を奪われ緩んだ内腿を易々と押し割って、蓮実の右手はついにスカートの中に侵入を果たす。

 秘められた部位。

 もっともプライベートな場所への、卑猥で執拗なアプローチを開始した。

 蓮実は揃えた指先を下に向けた手のひらでまずは、ショーツという薄皮一枚だけに護られたデルタ地帯を優しく撫でる。

「あふぁッ!!」

 本当に生徒の人気を得ようとするのなら、安易に要望に答えて媚びたりしたら駄目だ。

 たとえそのときは嫌われ憎まれるとしても、真に生徒のためを考えているのなら、あえて汚れ役になるのが教師の務めであり教育であろう。

 パソコンのマウスのように馴染む恥丘の曲面を擦りつつ、下着の上から秘裂に宛がっていた中指を喰い込ませた。

「やッ……やンッ……やはぁッ!!」

 いつもを知らないがそれでも、いつもよりずっと敏感なのがわかる。

 無条件で盛り狂うほど、淫乱でも変態でもないだろう。

 だがこのありえない異常なシチュエーションが、若い身体に顕著で恥ずかしい反応を起こさせていた。

 ほんのり膨らんだ大陰唇の狭間をぐっと圧迫すると、まるで水分を含んだスポンジのように、熱っぽい雫を下着に染み込ませ蓮実の指先を濡らす。

「はふぁ……」

 くっくっと押されるたび染みだして、ショーツ越しの指に粘っこく絡みついていた。

 身体もひくひく震えている。

 こういうのもプラシーボ効果というのか、理不尽に陵辱される女子高生という、当たり役にハマったはるかの感度は良好だった。

 敏感な粘膜をしつこいくらい擦られて、吸水性の限界を迎えた布地から、溢れた果蜜が柔肌を伝って床にまで滴っている。

「あッ……やン。だ、ダメッ!!」

 はるかは身をよじり、胎児のように丸まった。

 このままでは浅ましくも痴態を曝し、昇り詰めるのを本能で察しての、しぶとく残る乙女の矜持としての防御体勢。

 しかしそのおかげで弄ぶ指からは逃れられたが、しかしその所為で土下座するみたいな恰好で、背後にヒップを突き出すみたいになっていた。

 暖簾も同然。

 制服のスカートを大きく捲くり、白いショーツに包まれた尻を露わにする。

 布地のガードがあっても輪郭が、肉襞の複雑な凹凸までわかった。

 透けるくらいべったり肌に張り付いている下着の、ウエストに指先を引っ掛けてワンタッチでずり降ろす。

「もう……もう、やめて……」

 少女の艶かしい白桃は、あっさり剥きだしにされていた。

 そこに生々しさしか感じないネチャッ、という妙に耳に残る湿った音をさせながら、ぬめり煌く細い糸を垂らして内股になった膝に下着が絡まる。

 新たな拘束具の誕生だった。

 はるかの唇壁は穢れのない純潔を示すように、裂け目は見えるか見えないか程度の露出である。

 とはいえ初々しいヴァージン・ピンクではあっても、粘つく濃い愛液をトロリと零して、痙攣するように蠢動する様はやはり淫靡でしかない。

 女は女ってことかな。

 蓮実はそう結論付けてほくそ笑みながら、所有物の状態を確認するように尻を撫で回す。

 なめらかな肌からの心地よいぬくもりを味わいつつ、時折肉づきを確かめるように、揉み込むみたいにしてギュッと強く掴んだ。

「さ、触らないで、あゥッ、くッ、いやッ!! んッ、いや……いやいやッ!!」

 逃げられるわけもないのに逃げようと、可愛らしいのに脂のノリまでいい尻が左右に振りたくられる。

 誘うみたいにゆらゆら揺れていた。

 嗜虐心に火が付く。

 ただ見ているだけで無性に苛めたくなる。

 興奮によるものかほんのり赤らんできた尻から、授業でするみたいにリズムよく撫でていた手のひらをゆっくり離した。

 緊張が解けたわけではないが、僅かにほっとしたようにはるかが、息を吐いてほんの少しだけ、汗ばんでいる身体から力を抜いたのがわかる。

 そこを狙い済ました。

 テニスのスマッシュのように振りかぶって、剥きだしの尻に力いっぱいビンタする。

「ヒッ!?」

 少女の悲鳴を追いかけるように、手のひらに伝わってきたのは、6Hの鉛筆が貫通する痛みではなく、激しい高揚とくせになる痺れだった。

 歯を剥き出して身震いしていたクズの気持ち、性的に興奮していたのも今ならわかなくない。

 手首のスナップを充分に利かせて、小刻みに揺れている不遜な尻に、目も眩むような勢いで何度も打擲をくり返す。

「やめッ、んンッ、イッ、痛いっ……あ、あひッ、ああッ」

 乾いた肉打ちの音がようやく消えたのは、尻たぶが真っ赤になってからだった。

 熱を持った肌に、そっと触れる。

 はるかは子供みたいにくすんくすん、鼻を鳴らしてむせび泣くだけで、なすがままされるがままになっていた。

 当たり前だが誰だって、痛い思いをするのは嫌だろう。

 ましてはるかは暴力に対して、免疫というものがまるでなさそうだ。

 おそらく両親だけではなく、周りを囲む沢山の人たちからも、蝶よ花よと大切に育てられたのが窺える。

 森島はるかという少女は、そんな愛されるべき存在だった。

 ならば教師として教えてやるべきだろう。

 愛というやつにはいろいろ種類があり、驚くほどバリエーションが豊富なことを。

 スパンキングによる痛みを身体が快楽と錯覚させたのか、恥毛をうっすらと小判型に生やした秘唇は、さながら捕れたての新鮮な赤貝のようだ。

 充血してぷっくり勃起したクリトリスが、溺れそうなくらい妖しく淫らに濡れ光っている。

 美しくすらある排泄器官の窄まりが、はるかの怯えを表わすかのように、キュッキュッと収縮をくり返していた。

 蓮実はポケットからこのために用意していたクリームを取り出し、外国人にしたら激怒する指を立ててたっぷり塗りたくる。

「あひゃ!?」

 まさかそんなところを他人に弄られるなど、考えたこともなかったに違いない。

 皺の一本一本まで丁寧になぞり、初心な肛門を揉み解していく。

 馴染むまで根気よく蠢かせた。

 硬かった窄まりがゆっくり、唇みたいにふっくらしてくる。

「……あッ……あッ……やぁンッ……」

 未知の感覚に戦慄いている教え子を見守りつつ、さらなる経験をはるかに積ませてやろうと、指先を少しずつ慎重に押し込んでいった。

 粘膜を傷つけないよう、じっくりと時間をかける。

 その甲斐あって中指を根元まで、ずっぽりファックさせることができた。

「ああッ……あッ……、ン……あふぁッ!?」

 はるかのショックは大きなものだろう。

 何年後かに誰かと結ばれたとして、そう例えば純一とでも幸せな結婚をしたとして、けれどどんなに愛してても触れさせることはなかったはずだ。

 和洋が絶妙な配分でミックスされたクォーターな美貌には、苦悶の表情がありありと浮かんでいる。

 それでも新しい可能性の扉を、自分の手で開いてやれたことに、教師として蓮実の心は深い満足感を覚えていた。

 挿入した中指を前後させる。

「……うぁッ、あンッ、あ、やッ、ああんッ……い、いやッ……ああッ!!」

 潤滑油がなければ、抽送は困難だったかもしれない。

 たっぷりのクリームを塗られている中指に、括約筋を貪欲にうねらせ喰らいついている。

 徹底的に調教してみたくなるExcellentなアナルだった。

 コルク抜きみたいに指先をぐりぐり捻りながら、生温かい粘膜をじっくり熱を篭め、あくまでもスローペースで拡張していく。

「あっ……ンっ……だ、ダメ……ダメ……はうンッ……」

 若干ではあるが反応に変化が現れたのは、甘えるような響きが混ざりだしたのは意外に早かった。

 さすがはアブノーマルの本場、イギリスをルーツに持つだけはある。

 ならば次のステップもはるかなら、きっとクリアーしてくれると、咥え込まれた中指を引き抜きながら蓮実は確信した。

 ぷっくり膨らみ柔らかくなった菊蕾。

 がつがつ旺盛にハンバーグを食べる犬みたいに、いきなり鼻先を埋めると躊躇うことなくしゃぶりつく。

 舌を尖らせて肛門を、ぬるりとこじ開けた。

「あひッ!?」

 官能に蕩けた声。

 ぬるぬる出し入れしてピストンしたり、唇を密着して唾液を流し込み、それを逆に吸引したりして、肛門がふやけるほどしゃぶってやった。

 執拗なほど丁寧に粘膜を弄ぶ。

 はるかは全力疾走したあとのように、豊かに育っている双乳を激しく喘がせていた。

「ひッ……やめ……や……、ひぃッ……んンッ……、ひッ、ひッ……や……ダメ……あぁああッ!!」

 荒い息を撒き散らしながら、嬲られ続けて延々悶えている。

 蓮実の性衝動も抑えようもないくらい高まっていた。

 いつ果てるともなくアナルに愛撫を施していた唇をようやく離し、わざとカチャカチャ音をさせながら野獣を解き放つ。

 咆哮とともに生贄の命を奪うことに、それは無上の悦びを覚える悪魔の人格。

 これまで数々の女を犯す過程で、使い込まれ黒ずんでいる逞しい銃身。

 凶悪な弾丸を叩き込むべく狙いを定めた。

「さあ、どうした、行こう、相棒。このまま学校のマドンナのアナル、処女のまま派手に散らせてやろうぜっ!!」

 これは現実ではない。

 陵辱に酔いしれて脳内麻薬が、異常に分泌され幻覚を見ているのだ。

 火傷しそうなほど熱く滾っている牡器官は、もう完全に蓮実から分離して人格を獲得していた。

 それでも蓮実は冷静さを保ちつつ、尻たぶに指を食い込ませながら谷間を割り広げ、不浄なはずなのに無垢な標的をポイントする。

 獣欲のまま腰をスライドさせた。

 勃起の先端が菊座を抉る。

 クリームと指による予習のおかげもあって、きつい締めつけに苦労はさせられたものの、温かい粘膜に包まれながら奥まで沈み込んでいった。

 肉が勃起に絡みついてくるような感覚がある。

「うぁあぅぁッ!?」

 狭いポンプ小屋に被虐に満ちた新たな悲鳴が響いた。

 這いつくばる学校のマドンナの身体が、無残にもアナルを串刺しにされて前に傾ぐ。

 蓮実はくびれた細い腰をがっしり掴んで、やはりゆっくりしたスローペースで、剛根を引きずりだし直腸を擦った。

 抜け落ちるぎりぎりまで後退すると、深奥まで犯し尽くすように挿入する。

 捲くれ返っていた肛門がまたしても内側にへこみ、長大な太幹が容赦なく初心なアナルを嬲り蹂躙した。

「……あッ……くぅ……ああッ……!!」

 べつに蓮実はサディストではないので、相手の苦痛が悦びに変わるわけではない。

 だがはるかの方には真性の、マゾヒストの素養があるようだった。

 目隠しの隙間からは涙が零れてはいるものの、歪んでも美しいその表情が訴えているのはけっして痛みだけではない。

 排泄器官を犯されるという異常極まる体験に、早くも順応して愉悦の声を大きくさせていく。

 負けじと秘裂もさらなる潤みを帯びていた。

 物欲しげにひくついている。

 眉を八の字に寄せ、肛虐の嵐に曝される姿には、十八歳とは思えない色気が香っていた。

「うッ……あッ……い、いや……あッ……もう……ゆ、許して……お願い……、お願い…しま……ンぁああッ!!」

 ねっとり腰を遣いながら、震える背中に覆いかぶさる。

 大きくて柔らかな乳房はとても揺れやすく、ブラジャーの戒めをものともせず奔放に踊っていた。

 蓮実はしがみつくみたいな恰好になって、自由過ぎる双球を鷲掴みにする。

「ひぃンッ!?」

 さっきまで尻穴を執拗に責めていた舌先を、今度は耳孔に潜らせて、脳にまで達しそうな奥深くまで弄んだ。

 淫猥な粘着音はきっと、はるかの頭蓋で反響しているだろう。

 これぞまさしく洗脳だった。

「あううッ、やだ……ンン……ひああッ!! あッ、あッ、あッ……ああンッ……あひッ!!」

 女の悦びを脳髄にまで教えられた少女の嬌声に煽られて、もはや蓮実も自分の腰の動きが自分で制御できなくなってきている。

 抽送のリズムが狂ったように激しくなっていた。

 放出に向けてラストスパートをかけながら、掌に収まらない乳房を乱暴に揉みしだく。

 経験がなくとも牝の本能で感じたのか、浅ましく涎を垂らしている秘裂の代わりに、はるかのアナルはしっかり咥え込んだ勃起を締め上げた。

 牡の逞しさを貪欲に学習している。

 いい子だ。

 初体験の授業に対して真摯に取り組む教え子に、自然と蓮実の動きも熱の篭ったものになった。

 スポーツジムで筋力トレーニングを行う際は、ロータリートルソというマシンで負荷をかけ、身体を捻る力を徹底的に鍛え上げている。

 腰をウインドミルの要領で大きく回し、深いストロークと速いリズムをキープしながら、青い瞳をした少女の官能の炎を揺さぶった。

 そのまま一気に最後の一突きまで、勢いよく叩き込んでフェニッシュ。

 思う存分何度も何度も、濃厚なスペルマを撃ち出す。

「ひいいっ、だ、ダメっ……こんなの、あッ、ダメ、なん……だから、ンぁ、あッ!? あひいぃぃぃぃッ!!」

 処女のまま好き放題に肛門を犯され、直腸粘膜を灼かれてしまったはるかは、あられもない声を上げて淫らに身体を震わせていた。

 蕩ける柔らかなふくらみに射精の瞬間、十本の指先を深く喰い込ませて、跡がついてしまうほどきつく握り締める。

 ブラウスの胸元が左右に強く引っ張られ、上から三つ目のボタンが弾け飛んだ。

 これから服装検査があっても、この谷間は大目に見てやろう。

 二つの意味でそう決めつつ蓮実は、預けていた上体を起こして、改めて教え子の柳腰をがっしり掴んだ。

 肛門に刺さった勃起はまだ力を失ってない。

「あひいッ!? やっ、お尻、ひいッ……やめ……くううッ!!」

 スパルタで授業は続行。

 身体の最奥まで陵辱され粘液をたっぷり注がれた教え子に、トラウマ確定の立ち直れないショックを与えても止まらない。

 むしろ素晴らしい経験として昇華させるためにも、よりいっそうの荒々しさで挑み踊り狂わせる。

 老朽化したポンプ小屋の壁の隙間からは、室内を赤く染める夕日の色が滲んでいた。

 蓮実は学生時代に読んだレイ・ブラッドベリの、あの有名な書き出しで始まる『華氏451度』を思い出していた。

 It was a pleasure to burn.

 日本語では『火の色は愉しかった』という、素晴らしい訳で知られている。

 はるかにはこの自分の愉しさを、是非とも一緒に共感してもらいたい。

「ンああぁぁぁぁッ!!」

 数え切れないほどの絶頂で、意識は朦朧となっているだろう。

 それでも少女の汗でぬめっている瑞々しい肉体を、悲痛に歪む貌が恍惚に変わるまで、蓮実は獣の体位で執拗に嬲り犯し続けた。






[41992] アクガミ 第七話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/04/23 12:03




 橘純一はラーメンを載せたトレイを手にして、賑わっている昼休みの中庭を見回した。

 お目当ての人物を探す。

 いた。

 スポットライトを浴びているみたいに、純一には眩く輝いて見えるので、探すのにはそんなに苦労はしない。

 憧れを説明しろと言われたら、迷わず彼女と答えるだろう。

 あとほんのもう少し勇気さえあれば、きっと好きも森島はるかで説明できる。

 いつもと同じ席に座ってはるかは、親友及び保護者である塚原響と、和やかな雰囲気でテーブルを一緒にしている。

 Good!!

 蓮実教諭ならそう評するだろう。

 女性同士に妙な喩えになるかもしれないが、おいそれと同じ画に入れないお似合いの二人だった。

 割り込もうとするならアグレッシブさやポジティブさ、さらに自分のレベルを自覚しない鈍感さが必須になる。

「どうも」

 しまった。

 第一声が上ずっている。

 何度かこうやってお邪魔しているのに、それでも憧れにアプローチするのは緊張した。

 馴染むことはあっても慣れることはない。

 人気のないポンプ小屋で二人きりになって膝の裏に、ワンチャンみたいにキスができても、最初に感じたあのときめきはずっと変わってなかった。

「……あ、橘くん」

 パスタをくるくるさせて俯いていたはるかが、一瞬びくっと身体を震わせてからこちらを見る。

 純一はクォーターな青い目を見て「おや?」と思った。

 顔は笑ってる。

 惚れ直すほどチャーミングだった。

 ただ若干ではあるもののその表情は引き攣っており、瞳の奥には怯えのようなものが微かに浮かんでいる。

「あら? いらっしゃい」

 めずらしくぼーっとしながら、考えごとをしていたらしい響は、今になって純一に気づいたのか、こちらは取り繕ったような笑みを浮かべた。

 ぎこちなく誤魔化すみたいに椅子を勧めてくる。

「じゃあ失礼します」

 そうやって座りながら冷静になって、改めて先輩二人を観察してみると、どことは言えないがどことなく様子が違っていた。

 はるかは純一と目を合わせようとしない。

 そのくせ盗み見るみたいにして、こちらを盛んにちらちら窺っている。

 そしてそれは残念ながら、あまり好意的なものではない。

 疑いの眼差しだった。

 居心地が悪い。

「森島先輩は、なに食べてるんですか?」

「……クリームパスタだけど」

「美味しそうですね。僕もそれにすれば良かったな」

「別に美味しくないよ」

「え?」

「ううん。……なんでも、ない」

「……ああ、はい」

 これまではるかとの親交を深めてきたつもりなので、思い当たる節のない純一は、何故だろうと内心では頭を捻っていた。

 良くも悪くも人との付き合い方に、壁を作らないタイプのはるかに、こういう視線を向けられたのは初めて。

 思わず助けを求めるように、フォローを期待して響に視線を走らせた。

 しかしもう一人の先輩も、やはりいつもと様子が違う。

 うわの空だった。

 どっちが上手く巻けるかを、競ってるわけじゃないだろう。

 けれど響もパスタをくるくるしながら、はるかに負けないフォーク捌きを披露しつつ、悩みごとでもあるのか自分の世界に入り込んでいた。

 とてもこの雰囲気を払拭してくれるような、やわらげてくれるような気遣いは期待できない。

「ごめんね」

「え?」

「用事思い出したから、……もう行くね」

 二の句を継げなかった。

 まだ半分以上パスタは残っているが、はるかはトレイを持って足早に去っていく。

「ちょっ!?」

 親友のこの行動にはさすがに驚いたのか、席を立つ際に純一に軽く頭を下げて、慌てて響も同じくらいパスタの残ったトレイを持って追いかけた。

 そしてパスタ以上に取り残され、テーブルには純一だけが座っている。

 唐突過ぎてこんなとき、どうしたらいいのかわからない。

「……おいおい。なんでなんだよ?」

 先週まではもう怖いくらい順調だった。

 もしかしたら。

 そうやって人生で最高の有頂天になってても、おかしくないだけの手応えを感じていた。

 なのに週が明ければこの有様。

 強制的にルートを遮断されて爆弾を落された気分。

 独りで涙イベントを起こしそうになるのを、ふられたのかどうかもわかならいまま、ぐっと堪えて淋しく醤油ラーメンを啜る。

 味がしなかった。

 あんなに先週までは美味しかったのに……。

 味の記憶を辿っていくと必然的に、どうしても楽しい思い出まで蘇ってしまう。

 だから何気なく辺りを見回したのは、別に誰かを探したわけではなくて、純一なりの無意識に行ったであろう現実逃避。

 恵子と談笑しながら薫が、こちらに歩いてくるのが目に入る。

 向こうもすぐに気づいたみたいだ。

「おーすっ」

「うん」

「ちょっとなによそれ? な~んか随分素っ気ないわね。っていうかぜっんぜん覇気がないわねぇ?」

「……ホント楽しそうでいいよなぁ薫は。悩みごととかなさそうでさぁ」

 いつにも増しての軽口は誰かに、構ってほしかったからだろう。

 こういう風に言えば薫は大概の場合、ムキになって言い返しながらガキ大将みたいに、ヘッドロックくらいは平気でかけてくる。

 いろいろと色んなことがわかってないやつだが、自分が女なんだってことがわかってない。

 それもけっこう立派に育ってるのに。

 だけど今はその性別を越えた無頓着さに、中学の頃からの腐れ縁でアクユウの、男女の枠を越えた友情に癒されたかった。

「あんたが気づいてないだけ」

 なので肩透かし。

 特に怒るようなこともなくそれだけを言って薫は、恵子を伴って純一の席から少し離れたテーブルに座った。

 麺を啜る。

 たぶん身体には優しい味。

 さっきよりもさらに味のしなくなってるラーメンは、湯気が立っているのにひどく冷たかった。

 おかげで猫舌だったとしても苦にならない。

 スピーディに食べ終わって席を立つ。

 気にしてないふりをしながら、視界の端でチラッと薫を見たが、恵子とのおしゃべりに夢中になっていてまったく気づいてなかった。

 純一の演技とは違う。

 ふりをしているのではなくナチュラルに、眼中に入ってないようだった。

 木枯らしが吹いたみたいに、何だか妙に切なくて淋しい。

 ここに居たくなかった。

 ランチの時間が思ってもみなかった形で思いのほか、余ってしまったのでチャイムが鳴るまで暇を潰さなくてはならない。

 今頃グラビアアイドルのお宝本鑑賞会をしてる梅原と、合流しようかとも考えたが即座に却下した。

 ひやかし半分で快く送り出された手前、のこのこ仲間に加えてもらうのは些か格好悪い。

 こんなときは幼馴染みだ。

 扱いはゆるキャラ。

 桜井梨穂子ののんびりしてる顔でも、わざわざこちらから訪ねて、拝んでやるかなと茶道部に足を向ける。

 ふっくらしたぽちゃり体型をイジるのは定番。

 失敗続きのダイエットに嘆く梨穂子を思い浮かべて、自然と純一の頬の筋肉も緩んでいた。

 もちろん口角も上がっている。

 うっかり顔を出すと茶道部の先輩二人に、入部の催促をされてマイてしまうが、梨穂子も合わせたコントのノリを今は欲していた。

 ……あ?

 しかしどうやら茶道部には、純一より先客が居たようである。

 ナイキのスニーカー。

 校内を忙しく動き回っている蓮実教諭が、履いていたのと同じものだった。

「純一」

「そっちからわざわざこうして来てくれるってことは、や~っと入部する気になってくれたんだね?」

「感謝歓迎」

 梨穂子の手作りだろう。

 腕前はプロ級。

 茶道部の三人が三者三様、シュークリームを手にして挨拶を寄越す。

 そして。

「早くしないと誰かに、食べられちゃうぞ?」

 言ってから目だけで梨穂子を見た。

 卓袱台の四隅の一角を占める蓮実の手にも、白いクリームを溢れさせたお菓子が載っている。

「先生は甘いものだったりとか、食べたりするんですか?」

「食べるよ」

 こんなに美味しいんなら。

 蓮実は隣りにちょこんっと座ってお手製のシュークリームを、口いっぱいに頬ばっている梨穂子の頭をくしゃくしゃにした。

 まるで餌付けされた仔犬みたいである。

 幼馴染みの少女は気持ち良さそうに、至福の表情をして目を細めていた。

 梨穂子のキャラもあって微笑ましさすらある光景だが、眺めていると純一は胸にもやっとしたものを感じる。

 明るくて行動力があり、生徒思いのいい先生。

 リーダーシップを発揮して様々な問題をてきぱきと解決していく、頼りになる大人に懐くのは仕方ないといえば仕方ない。

 本人的には自然なつもりでも他人からは不自然に、意識と無意識が混ざった状態で顔を背けると、困ったように苦笑している蓮実と目が合った。

「そうだ。おめでとう」

「僕、ですか?」

「選挙のことだよ。新生徒会長が綾辻にすんなり決まったのは、橘の作った映像の効果も、俺はけっこう高かったんじゃないかと思ってるんだ」

「ありがとうございます」

 なるほど。

 こういうマメなところなのかも。

 嫉妬したばかりの相手に現金なものだが、自分の仕事を褒められた純一は不覚にも嬉しくなった。

 プロモーションビデオには、密かな自信があったのである。

 昨年務めた創設祭実行委員の実績や、新しい生徒会の掲げるスローガン、なにより綾辻詞のやる気と魅力を伝えられた自信があった。

 彼女の当選に微力ながら、陰ながら支えて、貢献できたと自負している。

「あ? そうだっ!! 純一、おめでとうっ!!」

「おおっ!! そういやそうだったねぇ」

「そうだったそう……だった?」

 そして遅ればせながらでも女の子に褒められるのは、何だかんだでどんな状況でも男としてやっぱり嬉しい。

「う~ん。生徒会長綾辻詞、なんかこう響きがエロいねぇ」

「茶道部部長桜井梨穂子、っていうのも負けてない」

 危険で怪しい話題に先輩二人が移行してるが、それでも嬉しいものはとにかく嬉しい。

「で、橘、悪い」

「え?」

「たぶんおまえに残してたのも、俺と桜井で食べちゃったかも」

「……え?」

「惜しいけどおわびに、ハーレムは譲るから勘弁な。俺はそろそろ校内のパトロールに戻るから」

 お茶をひと息で飲み干すと蓮実は、純一の肩をぽんぽんと叩いてから、女子生徒三人それぞれの「もう行っちゃうの?」的な声に、笑顔で手を振り

ながら部室を去っていく。

 タッチされたバトンが重い。

 役者不足。

 これぞという感じで、妙にしっくりきた。

「本当にごめんねぇ、純一。今度はもっと作ってくるから」

 しゅんとする梨穂子。

 だけど口のまわりにクリームをつけた状態では、反省にいまいちどころかぜんぜん説得力がなかった。

「そんなのどうせもっと作ったって、梨穂っちがもっと食べちゃうだけでしょ」

「糖分過多かも」

「せ、先、ちょ、あぶぶっ!?」

「でもそういやハスミンは、マシュマロみたいでイイって言ってたね」

「……梨穂っち良かった? とりあえず柔らかボディに需要あり」

 両サイドから先輩二人の指先が伸びて、梨穂子のほっぺをぷにぷにと小突きまわす。

 輪に入れなかった。

 どこに行ってもみんな結局、ハスミンハスミンか。

 居心地が悪い。

「あれぇ?」

「僕、急に用事を思い出した」

 なのでここも純一は足早に退散する。

 幼馴染みの残念そうな優しい声も、義務や義理でそうしてるように聞こえた。

 だから仕方がないだろう。

「にぃ、お兄ちゃん」

「美也」

「みゃーたちハスミン探してるんだけど見なかった?」

「知らないよ」

 咄嗟に嘘まで吐いてしまうおまけ付きで、ついぶすっとぶっきらぼうになってしまうのは。

 廊下で偶然会って話しかけてきた妹は、そんな兄の反応にまずびっくりしてから、負けないくらいぶすっとした顔をした。

 そこは兄妹なのでよく似てる。

 そしてさほど美也との身長に差はないのに、中多紗江はびくっとして、小さな背中に怯えた顔で隠れていた。

 そのおどおどした姿は、恥ずかしいというか情けない。

 純一は自分に呆れた。

 年下に八つ当たりしてどうするんだよっ!!

 猛省。

 頬の筋肉は痙攣しそうなはど強張っているし、口角は無理やりのリフトアップだが、不自然であってもどうにか笑顔らしきものを作る。

 夜道の不審者一歩手前の優しい声で、ぶんむくれてる妹の友人に話しかける。

「選挙戦、中多さん、凄い頑張ったね」

「ありが、と……、ござい……」

 帰り道で知らない人に話しかけられた女児のように、親の言いつけを守り警戒は解かないが、紗江はぎこちない笑顔を浮かべて先輩に頭を下げた。

 後半はよく聞き取れなかったが、親友の兄に対する礼をきっちり施す。

 育ちが違った。

「な~んか頑張ったねって、凄い上から目線に聞こえるのは、みゃーだけじゃないよね?」

 兄に噛みつく妹とは、女の子としての完成度が違う。

 すぐにでも見習ってほしかった。

「別にそういう意味なんじゃないってば」

「行こ。紗江ちゃん」

「う、うん」

「じゃあねぇ。バカにぃにっ!!」

「……なんなんだよもう」

 ぷんぷんという可愛い擬音をさせながら、こっちもぺこぺこという可愛い音の紗江を引き連れ、生意気な妹は再びハスミン捜索の旅に出た。

 廊下を曲がるとき目が合って、美也はぷいっと顔を背けてから、わざわざもう一回顔を戻し、あっかんべぇをして去っていく。

 完璧だったはずの歯車が、徐々に狂っっていくような感覚。

 最近の美也とは、些細なことで衝突することが多かった。

 ハスミンハスミンハスミン。

 特にやることがなかったからかもしれない。

 昼休みの校内をぶらつきながら、いつの間にか純一も蓮実を探していた。

 十分近く歩き回ったが見つからない。

 蓮実の周りにはいつも、女子を中心に人だかりができている。

 とても目立つ。

 けれど捉まえようとすると、これがなかなか神出鬼没。

 アポなしで蓮実とコンタクトを取るのは、簡単そうだがいざとなると意外に難しい。

 根拠もなくこれ以上うろついても、おいそれとは見つかりそうにもなかった。

 確かパトロールとか言っていたから、あまり人の目のないところに、重点を置くのではないかとふと思いつく。

 ……あそこはなぁ。

 とはいえここでポンプ小屋に行く気にはならない。

 女子専用のプールの裏まで足を運んだのは、今は独りになりたいという、そんなセンチメンタルな理由もあったからだった。

 おっと。

 だからなのかもしれない。

 曲がった奥から誰かの気配を感じて、ぴたりと純一の足が止まった。

 咄嗟に身を隠す。

 気づかれないように、建物の陰からそっと覗き込んだ。

 蓮実教諭。

 予想してここに来てはみたものの、意外なところで見つかった人物は一人じゃなかった。

 生徒の間では公然の秘密。

 学校には内緒で飼っている黒猫を入れれば三人。

 妹の美也と同級生。

 七咲逢と黒猫を挟んで座り込み、小声で何か話しこんでいる。

 ひどく打ち解けた様子だった。

 そういえば蓮実は顧問ではないが水泳部に、特別コーチのような形で頻繁に出入りしている。

 なんとなく話を邪魔するのも気が引けたので、気配を殺してしばらく待つことにした。

 蓮実教諭が逢に近づく。

 小柄な美也とそれほど変わらない逢と、177ほどありそうな蓮実とでは、遠目からでもかなり身長差があるのがわかる。

 え? 嘘だろ。

 逢の肩に手をかけて抱き寄せると、蓮実教諭は顔を傾けながら前に屈みこんだ。

 ……キス、してる。

 最初はてっきり蓮実教諭が、セクハラをしているのだと思ったが、抵抗らしい抵抗をしたのはそれこそ最初だけ。

 驚きに大きく見開かれていた双眸はすぐに、とろんとした焦点の定まらないものになって、うっとりと瞼が閉じられるのに時間は掛からなかった。

 黒猫がにぁ~にぁ~自分をアピールしてるが、蓮実と逢の二人はもう二人だけの世界に入っている。

 そして世界の外側にいるのは、純一にしても一緒だった。

 呆気に取られて一部始終を見守る。

 掌が汗ばんで心臓がどきどきしていた。

 漫画みたい。

 男性教師と女生徒のラブシーンもそうなら、妖しく蠢いて踊っていた二人の唇が、離れるのを待ってたみたいに純一は物音を立てた。

 蓮実の視線がこちらに向く。

 ショートカットの髪を梳くように撫でながら、蓮実のシャツをぎゅっと掴んで、身体を支える逢の耳元で何か囁いていた。

 素直にこくんっとしおらしく頷く、後輩のキュートな仕草が合図。

 もしかしたら人生で、最高のスタートが切れたかもしれない。

 その場から脇目も振らず純一は駆け出していた。

 プレイしていたゲームがいつの間にか、ジャンルも主人公も書き換えられたような気分で……。







[41992] アクガミ 第八話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/05/03 17:53



 二連式の散弾銃を所持してても難しかったろう。

 感心するいい逃げっぷりだった。

 躊躇ってしまうと返って危険なものだが、思い切って突っ走れば案外走りきれる。

 おかげではっきりした確認はできなかったが、しかし不思議と蓮実には純一だろうという確信があった。

 迂闊だったと思う。

 ……とはいえもうすでに、起こってしまったことは今更仕方ない。

 このまま放置しておいていいわけがないが、さいわいにも純一は善良で優しい生徒だった。

 脅迫者になることは希望的観測を排除し、冷静に推し量った結果としてないと判断している。

 火急の問題にはならない。

 女生徒と不適切な関係になった教師を告発するよりも、教師と不適切な関係になった女生徒への配慮の方を優先するからだった。

 おそらく身内に害が及びでもしなければ、消極的な部分を積極的に発揮して、純一が自分から動くようなことはない。

 美也への扱いは、これまで以上に注意するとしよう。

 いったいどこで、誰が見てるかわからない。

 もっともやれると確信さえできれば、X‐sportsの愛好家と同じで、どんなことでも最後までやりきるつもりである。

 十四、五人の生徒が真剣な表情で、朝早くからプールの水面に向かっていた。

 七時を少し過ぎたくらいだが、清々しく爽やかな活気がある。

 期待のホープである逢に触発されたのか、一年生二年生に関わらず、自主練に励む部員が多くなっていた。

 選手としてはもうすでに引退している三年生も、部長だからと響ばかりに任せずに、遅まきながらも率先して後輩の指導にあたっている。

 蓮実の登場にややざわついたが、そんな浮ついた空気も一瞬で引き締められた。

 響が両手を打ち鳴らす。

「集中してないと怪我するわよっ!!」

 さすがの部長のそのひと声で、意識が泳ぎより蓮実に向きかけた部員に、たちどころにぴしっとした緊張感が戻っていた。

 唯一ではなく唯二の例外は、この朝錬の切欠となったホープと、締めるところは締めたはずのその部長だった。

 泳いでいる逢のフォームは微妙に崩れていたし、監督する響は見ているようで見ておらず散漫。

 意識は両者とも、完全に蓮実に向いていた。

 視線を水面から動かさない響の隣りに、いつもみたいに並び立ちはしたものの、倣うように視線は水面で特に話しかけたりもしない。

 自分から何か話しかけようか、それとも話しかけられるのを待とうか、ポーカーフェイスを装いながら、一生懸命に思案してる様子が面白かった。

 もっとも蓮実は蓮実で必死である。

 うっかり油断してしまうと、今にも笑い声が漏れそうだった。

 逆にどれだけ息をこらえられるか競う子供みたいに、ぶくぶくしながら水面に顔をつけている逢には苦笑を浮かべる。

 臨界学校などでなくベッドで、上からのしかかりたい可愛らしさだった。

 しかしそれ以上あえて二人とは、視線すらも合わせないようにして、コミュニケーションを取るのを避ける。

 他の部員にてきぱきと的確にアドバイスをすると、そのまま何事もなかったようにプールをあとにした。

「あ……」

 背中越しに聞こえる声にならない声が耳に、距離があっても感じる熱い視線が肌に心地よい。

 後ろ髪を引かれつつ職員室へ。

 同じ生徒指導部である麻耶はもちろん、発足したばかりの生徒会のメンバーも、校門での頭髪や服装、持ち物検査をするために集まっていた。

 輝日東高校は公立校のような風紀の乱れもなく、前任校のようなこれといった問題児も特にいない。

 ほとんど指導らしい指導をしたことはないが、選挙戦などの反動もありダレ始める時期である。

 少し手綱を引き締めておいた方がいいかもしれない。

 まずは生徒会のメンバーを観察してみた。

 会長の綾辻詞には、変わったところは見られない。

 いつものように優等生の仮面を被り、自信と不安を程よい割合でブレンドした表情、良い緊張感のある顔をさり気なくアピールしている。

 薫や恵子も新たな生徒会の初めての活動なので、それなりに意気込んではいるものの、詞と比べるとやる気が欠けてるように見えた。

 どうしても蓮実に頼ろうとする部分が目立ち、纏わりついているようになってしまって、その印象はさらに強いものになっている。

 計算なら大したものだ。

 おかげで詞の元から高かった株は、二人と対比することで順調に上がっていた。

 また対照的な男子二人のメンバーも、優美で優秀な理想の生徒会長、綾辻詞を際立たせる装置として機能している。

 さっきまで居なかったのに、ちゃっかり梅原は列に加わっていた。

 正門の脇に置いてある鞄の中身は持ち物検査をすれば、女性陣が眉をひそめるお宝本の類が普通に出てきそう。

 梅原は歳に似合わぬ粋なところがあり、憎めないキャラなので、妬まれることはなさそうだが、明らかに取り締まるより取り締まられる側だ。

 では相棒の純一はどうかというと、残念ながら梅原ほど要領はよくない。

 蓮実を見ながら狐に摘まれたような、戸惑いを隠せてない不思議そうな顔をしていた。

「どうした。ぼーっとして?」

「……え、あ、いえ」

「しっかり朝メシ喰ってきたか。気合入れてシャキッとしようぜ」

「は、はい」

 あまりに蓮実が普通だからだろう。

 とても女生徒と校内で密会していた教師のようには、とてもキスまでしていた教師のようには見えないのだろう。

 あれはもしかしたら、自分の勘違いだったのかもしれない。

 そうそう都合よく楽観視はできないが、純一の雰囲気はあれが錯覚だったと、何だか錯覚でもしてくれそうな感じがあった。

 このまま状態に大きな変化がないのであれば、こっちからわざわざ寝た子を起こすこともないだろう。

 教え子をシデムシの餌にすることはない。

 まだ今のところは……。

 可愛さの微妙なタイワンリスの群れみたいにして、ぞろぞろ連れ立って登校してくる生徒達。

 日頃はこれといった接点がないので、遠巻きにしてるしかない生徒などをメインに、アイドルばりのファンサービスをしつつ査定していく。

 そうやっているうちに、やっとお目当ての生徒、その一人が登校してきた。

 異性の前では可愛っ子ぶってはいるが、それでも隠しきれてない強気な態度は、ここ最近ではすっかりなりを潜めている。

 陰があった。

 顔が強ばっている。

 間違いなく黒沢典子には、校門指導にいい思い出はないだろう。

 学校の上位グループから無実の罪で弾かれた。

 そこから転がり落ちた典子にとって、忌々しいイベントになっていてもおかしくない。

 まして待ち構えているのは詞だ。

「あら。おはよう。黒沢さん」

「……おはよう」

 余裕たっぷりでにこやかに挨拶などされてしまえば、一日の始まりは惨めなものに成らざるを得ない。

 終わってしまえばノー・サイド。

 だからこれからは黒沢さん、わたしたち仲良くしましょうよのメッセージ。

 傍から見ればそんな美しい光景に取れなくもなかった。

 しかし勝者から、敗者にかける言葉は残酷である。

 両者の力関係が浮き彫り。

 詞に悪気がないように見えるのも、えげつなくて始末にを得ないところだった。

 いじめられっ子寸前の状態から、蓮実の手厚い保護もあって、何となく戻ってきた偽りの友人達はほっとしている。

 典子だけが無力で孤独だった。

 学んだろう。

 真に友人と呼べるような人間の存在は、長くもあり短くもある人生で本当に希少だということに。

 蓮実にも友達は少ない。

 食べることに興味がないシリアル・キラー。

 毎日が充実していたアメリカ時代の、最後は儚く燃え尽きた男を入れてもそう多くはない。

「黒沢」

「蓮実先生」

 おかげで典子はどんな細い糸でも敏感に察知して、その先に何が待っているか考えもせず救いを求め掴んでくれる。

 いまわの際が訪れても、浮かぶのは悲しみだけだろう。

 沈んでいた顔が蓮実の声に、花が咲くみたいにぱっと輝いた。

 いい子だ。

 悪いようにしない。

 セットされた髪の毛をシャンプーするみたいに、恒例の愛情表現でくしゃくしゃにしてから送り出してやる。

 周囲の羨望の眼差しを浴び、典子の一日の始まりは誇らしくリスタートできたはずだ。

 これでさらに蓮実という蜘蛛に、典子はがんじがらめにされることになる。

 ふんっと小さく鼻を鳴らして、面白くなさそうにしている生徒が、会長が若干名いるものの気にしない。

「……あ」

 無意識に思わず漏れでたのだろう純一の声に、来たかと内心でほくそ笑みながら、蓮実は反射のふりをしてそちらに視線を向ける。

 恐怖の臭い。

 精一杯に何気ない風を装ってはいるものの、蓮実の目には明白な怯えのオーラが感じられた。

 学校のマドンナは先週まで親しかった後輩男子をひどく警戒している。

 貫かれたアナルがむずむずしているのを想像して、咥え込ませた蓮実の牡器官もむずむずしていた。

「おはようございます。ハスミン先生」

 ぎこちなく固いが、笑顔を浮かべて通り過ぎる。

 純一とは間に蓮実を挟むように、さり気なくはあるが露骨に距離を取りながら、校門の奥にそそくさと消えていった。

 脱兎の如く逃げていく。

「大将」

「……なんだよ」

「肉食が増えただの何だの言われても、女ってぇやつはいつだって、男からの押しの一手を待ってるもんなんだぜ」

 はたしてボーイズトークというのが、あるのかどうかは定かではない。

 女性陣に聞こえないひそひそ声。

 雲行きの怪しくなってきた親友の恋愛模様を察知して、梅原が自信満々で訳知り顔のアドバイスを披露する。

 棚に上げてないで、自分にも適用しろ。

 そう思わなくはないのだが、なるほどと頷けて正鵠を射ていた。

 イニシアティブの権利の確保は、いつ如何なる場合でも必要不可欠である。

 もっとも意図しての待ちであるならば、それはそれで有効ではあるが。

「もしかして、森島狙い?」

 面白くなりそうだと、蓮実もトークに加わった。

「いや~。そうなんっすよ。ウチの大将こう見えて、なかなかチャレンジャーでしょ? でも女心と秋の秋刀魚っていうんですかねぇ。けっこう上

手くいってたつもりだったんですけど、免許なしで河豚でも料理したみたいに、急におかしくなっちまったみたいなんですよ」

 ちなみに無理やり魚ネタを織り交ぜてるのは、たぶん梅原の実家が寿司屋だからだろう。

「ちょ!? お、おい。梅原」

「大将」

「な、なんだよ?」

 漫画ならきりっという、擬音でもしそうな真剣なトーン。

 親友の変化に戸惑いつつ、相槌を返す純一。

「魚の目利きでもなんでもそう。経験っていうのは大事なもんだぜ。どう考えても俺たちより、ハスミン先生は釣るのも捌くのも上手い」

「そりゃあ……、まあ」

 言い淀みながらもはっきり認めて、蓮実の方をもの問いたげな視線で見る。

 純一の脳裏にはビデオグラフィック・メモリー、とまでいかないが、フォトグラフィック・メモリーくらいで、人気教師HSと水泳部の一年生NA

との公けにできない深い関係を、きっと思い出しているに違いない。

「いい機会だからモテモテな恋愛海人、ハスミン大先生のご意見ってのを、ここは聞かせてもらおうぜ?」

「……うん」

 淫行条例や児童福祉法といったワードはチラつくだろうが、現役の女子高生とそういった行為に及んでいる蓮実の説得力は充分だ。

 少なくとも彼女の居ない梅原よりは、損のないアドバイスが聞けると判断したらしい。

「是非お願いします」

 悩める思春期青少年の声。

 応えてやらないのは、教師失格であろう。

「参考になるかわからないけど、それでも別にいいのなら。うーん。そうだなぁ。梅原の言うことは一理あるんじゃないかな」

「え?」

「女の子が待ってるかどうかはともかくとしても、男子の方は多少アクティブくらいで丁度いいよ」

「でもそういうのって、ウザがられたりしませんか?」

「そりゃあするかもしれないけど、何もしないと何もなくなっちゃうぞ」

「そう、……ですね」

 確実にどこかで聞いたような誰にでも言える回答であっても、それを口にする人間に自信と実績さえあれば重みは自然と付いてくる。

 まして迷っている若者なら尚更だ。

 操るのはわけもない。

「直接のアプローチが厳しいっていうんなら、手紙とか書いてみるのはどうだ」

「手紙?」

「文字っていうのは気持ちが伝わるよ。二人にしかわからない符丁で、森島先輩の魅力をまた僕に、是非撮らせてくださいとか書いてみれば」

「な、なんで知ってるんですか? 僕が森島先輩を撮ったことがあるって」

「やっぱりか。まあ。あのくらい撮れるんだったら、好きな子を撮るだろうと思ってたよ。……二人だけの映画にしましょうとか、入れといても良い

かもな」

 もう手紙を書くのが、規定路線のような言い方をする。

 教師として心から教え子を案じて蓮実は、できるなら検閲したいくらいの気持ちになっていた。

 ちゃんと書けるのかなぁ。

 ワンワン。

「それでいこうぜっ!!」

 いいじゃんいいじゃんと梅原が、自分のことのように興奮して勝手に頷いている。

 往々にして悪意より、善意の方が断りにくい。

 ただ今回は親友の出したGOサインに、さいわい純一も乗り気のようだった。

「僕、森島先輩に、手紙書きます」

「そっか。まあ。書くんならなるだけ早い方がいいぞ。あんまり余計なことは書かずに、先輩を撮りたいって気持ちを全面的にアピールな」

 自分を呼ぶ声に振り返る。

 とりあえず納得したらしい兄から、小走りに駆けてくる妹にチェンジ。

「にっしっし~。ハスミーン。おっはようっ!!」

 足がもつれそうになっている紗江の手を引きながら、抱きついてきそうな勢いの美也を笑顔で出迎えてやる。

 お気に召したようで美也のテンションはさらに上がって、かまってほしいときの仔猫みたいにしてじゃれついてきた。

 幼児体型の身体を擦りつけそう。

 さすがにそれをここで実行されては困るので、蓮実は美也の機嫌を損ねないようにしながら紗江に視線を移した。

「おはよう」

「……お、おはよう、んッ、ございます」

 挨拶の声がドモり上ずっていても、紗江なら不自然ではない。

 むしろ自然。

 白い肌がほんのり桜色に染まっているのも、恥ずかしがり屋の少女の反応としてめずらしくない。

 テンパり挙動不審になるのは、それほど違和感のある光景ではなかった。

 おかげでうっすら汗が滲んでいるのも、媚を含んだ微かな喘ぎも、これといって注目を集めず誰にも気づかれてなかった。

 蓮実を見つめる瞳が熱っぽく、妖しく潤んでいるのも。

 まして朝露のようにぬめってるだろう淡い色の粘膜から響く、卑猥で小さなモータ音を聴きつけてる耳ざとい者はまさか居まい。

 悪戯な風が吹いてスカートが捲くれれば、パンチラのラッキーにドキッとするより、想像を超えたものが飛び込んできてポカ~ンッとするだろう。

 ショーツのウエストに挟んだ携帯ぐらいの箱から、コードが伸びて脇から侵入していた。

 股布の辺りが、うずらの卵大にこんもりしてる。

 小刻みに振動していた。

 真っ赤な顔をしている紗江と一緒に選んで、ネット通販で買ったピンク色の可愛いやつである。

 ローターを挿れて登校するように。

「せ、先生……」

 羞恥に塗れながら紗江は、それでも蓮実の命令を健気に守っている。

 きめ細かいスキンシップもあり、紗江は苦痛と屈従の後には、必ず最上の快感が得られるのを学習していた。

 もっとも紗江が倒錯的な今のこの状況を、苦痛はともかくとして、屈従を感じてるかどうかは疑わしい。

 昼休みの化学準備室を想像しているのか、涙が零れそうなほど瞳はうるうる潤み、呼吸はマラソンでもしてるみたいに荒くなっている。

 蓮実を前にして、パブロフの犬のようになっていた。

 さすがにその変化には気づいて美也は、自分も相手も女の子である配慮から、周囲には聞こえないよう声を小さくして親友を心配していた。

 唇を読む。

「もしかしてお腹痛い? ……それとも生理?」

 それはだいじょうぶだ。

 紗江は今日は、安全な日である。

「んッ、うん、平気、だから」

「……ホントに?」

「本当だよ。ん、ぁッ。本当に平気、はぅんッ、だ、だから」

 これではいそうですかという友人は居ないだろうし、居たら居たらでそれはもう友人じゃないだろう。

 しかし後でちゃんと言っておかなければ。

 たぶん紗江はローターの振動レベルを、故意なのか誤ってなのか強にしている。

 見る者が見れば、欲情しているのは丸わかりだ。

「ハスミン」

「どうも中多は体調が悪いみたいだな。SHRに遅れても構わないから、橘はこのまま保健室まで、中多を連れてってやってくれ」

「うん。わかったよ」

 大役を仰せつかったとばかり、ほぼほぼフラットな胸を張る美也と、切ない視線を去り際に送った紗江も校門の奥に消える。

 ところで。

「橘」

「えっ? あ、な、何ですか?」

「妹と喧嘩してるか?」

「ちょっと……」

 あれだけ仲の良かった兄妹だったのに、お互いの存在を無視するみたいに目も合わせない。

 まあ、喧嘩するほど仲が良いとも言うし、兄は妹離れを、妹は兄離れを、そろそろ始めてもいい年頃だろう。

 教育者としては協力したい。

 是非とも。

 そうこうするうちに登校ラッシュもひと段落して、人の流れが徐々に徐々にまばらになってきた。

 チャイムが鳴る。

「よしっ。お疲れさん。また次の生徒会活動も、この調子で頼むな」

 職員室に戻って散会した。

 生徒会のメンバーは、全員、ほっとした顔をしている。

 詞だけは安堵の表情がわざとらしかったが。

 どこかふふんっという感じだった。

 受け持ちのクラスがある教員は、朝のSHRがあるのでもう席を立っている。

 そうでない者にはまだ、どこかだらけた雰囲気があった。

 二人に注目している者は、職員室には居ない。

「高橋先生」

 誘うのならこのタイミングだ。

 口元に手を当てて、ひそひそ話をしたい合図を送る。

 男はアクティブに攻めろと、純一に指南していたときに、麻耶が聞き耳を立てていたのに気づいていた。

 自分を見つめる意味ありげな視線にも……。

 期待と不安を絶妙にブレンドさせ、緊張で身体を固くしてそっと寄せてくる。

 いつもながら。

 噛み付きたくなる可愛い耳をしていた。






[41992] アクガミ 第九話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/05/14 17:10




 体育館と北校舎の間にあるスペースで、女子二人がダンスに打ち込んでいた。

 広い中庭でやったらよさそうなものだが、まわり中の視線に晒されるのが嫌なのだろう。

 ダイエットが目的だと尚更だ。

 とはいえ制服のまま踊る女子高生のヒップホップは、喩え動機はあれで技術は未熟であっても、そこには若さに裏打ちされた熱気と迫力があった。

「は、はやいよぉ」

「遅いぞぉ」

 もっともそういう注釈が必要なのは、ぽっちゃり気味な片方だけで、もう一人は軽やかなステップを踏んでいる。

 バテバテになっている親友の桜井梨穂子と異なり、伊藤香苗はどうということのない涼しい顔をしていた。

 タイリボンではなくネクタイ。

 ボーイッシュな雰囲気のある香苗のダンスは、華麗でどこかセンセーショナルですらあった。

 短パンなりスパッツなりを、穿いているのかもしれない。

 スカートが捲くれそうでダイナミックだ。

「ほら桜井。さぼるな」

「ふ、ふぁ~い」

 さすがに呼吸の乱れは若干あるものの、青息吐息になっているのが隣りにいるので、対比すると随分余裕があるように見える。

 ノッてきたのかダンスのキレと、身体の躍動感が増してきた。

 少しずつ少しずつ、自然とテンポが上がっていく。

 盆踊りとフラダンスをミックスしたような、酔っ払いよりも千鳥足な梨穂子には、とてもではないが香苗の速いペースについていけない。

「もう、だ、駄目~っ!!」

 付き合ってくれる親友に律儀にギブアップ宣言をしながら、よろめきのけぞってそのまま仰向けに転倒しそうになる。

 ちょっと離れて蓮実は二人を眺めていた。

 もしこれがヒステリックでジェンダーフリーな小太りのおばさんなら、身体はまったく反応せずにモニタリングを続けていただけだったろう。

 だがこのときは持ち前の鋭い反射神経を発揮し、その場からすばやく飛び出し抱きかかえて、女子高生のむっちりなやわらかボディの急を救った。

「きゃっ!?」

 腕にずっしりした重みがある。

 過信した。

 蓮実は常日頃から地道に鍛えているのもあってか、逆に梨穂子のウエイトをやや舐めていたかもしれない。

 もっと軽々支えるつもりだったのだが、社交ダンスのキメポーズみたいな大胆な体勢になっていた。

 お姫様抱っこでベッドに運ぼうとする際には、それなりの気合が必要になるだろう。

 ……まあ。そうやって苦労するだけの甲斐、メリットは充分ありそうだけどな。

 制服越しでもわかる若い牝肉の弾けるようなボリュームと、歯で噛んだときの蕩けそうな触感が予想できて期待もできる。

「だいじょうぶか?」

 このままここで覆いかぶさりたくなる欲求を抑えつつ、下心など微塵もないような何気ない動作で起こしてやった。

 名残惜しいが男女間の、適切な距離まで離れる。

 親しい男は幼馴染の純一くらい。

 そしてその純一は梨穂子の想いに気づいた様子もなく、過去は知らないが今は憧れの森島はるかにご執心だった。

 あまりこういうシチュエーションに、慣れていないんだろう。

「えっへへ」

 愛くるしい誤魔化し笑い。

 ダンス以外の理由でも血がアップしたようで、梨穂子の人懐こそうな顔は赤らんでいた。

「おおーっ!! ナイスキャッチ。さっすがハスミン先生。わたしだったら一緒に倒れてましたよ。……しっかし橘くんもこれができたらなぁ」

 反応が蓮実より僅かに遅れたものの、速かったら本人もそう言ったように、二次被害が発生していただろう香苗が褒め称え憂いている。

 準備さえしていれば女子が一人分加算された程度、リフトアップできないことはないのだが、いきなりだとその限りではないので、今回は遅れてく

れて、タッチの差で速く反応できて助かった。

 三人でくんずほぐれつ揉みあうなら、是非ともベッドでを希望したいものである。

 とはいえそんな甘い未来予想図は、梨穂子の声で一旦中断された。

「――ぁ痛っ!?」

 不意に来たらしい感覚に、うずくまって足首を押さえてる。

「桜井?」

 それを見て今度は蓮実よりも速く反応した香苗が、慌ててしゃがみ込んで心配そうに寄り添った。

 そういえばここは、まだそうだったな……。

 私立の学校は理事長が強い。

 伝統を守るという大雑把で適当な建前でも、趣味をごり押しすることはけっこう可能だ。

 たぶん公立の学校では絶滅しかけている。

 教職員でもなければいい大人は、風俗店に行かなければ目にする機会はそうそうない。

 スカートが捲くれそうで捲くれない際どいダンスを披露してくれた二人は、それはそれでそういう目線でも見れるブルマを穿いていた。

 確認してから蓮実もしゃがみ込む。

「捻ってるなぁ」

 こういうとき下手に、躊躇ったりするのは禁物だった。

 痛くもない腹を探られる。

 尻もちを突いている梨穂子の足首を、心から案じて蓮実は手に取った。

 下心など皆無なほんの少しの、善意からの些細な接触であっても、セクハラが声高に騒いだ者勝ちで叫ばれてる昨今。

 たとえ教師であっても教え子の身体に触れるのは、ましてそれが女生徒であれば、余程でないかぎりNGが暗黙のタブーで常識になっている。

 だが思い出す。

 全身全霊で教育に打ち込んでいた亡き恩師であれば、自分を完成型に導いてくれた亡き恩師であればきっとこうするはずだ。

「一応保健室行っとくか」

 こうするのが当たり前というように、蓮実は女生徒への邪さを、まるで感じさせない背中をくるりと向ける。

 声は落ち着いていて静かではあったが、口調は有無を言わせない強いものがあった。

 一人の教師として生徒を思う一生懸命さが、そこからはあざとく露骨にはならないものの、けっして無視できない絶妙なバランスで滲み出ている。

 完璧な出来に蓮実は心中で、自画自賛しほくそ笑んでいた。

「う、うぇあ!? あ、え、えーっ!! せ、先生」

 それでも梨穂子は渋っていたが、もともと押しに弱い性格である。

 ありがたいことに、親友からの後押しもあった。

「桜井、おんぶしてもらいなよ」

「香苗ちゃん?」

「ここであんたが恥ずかしがってちゃ、ハスミン先生はもっと恥ずかしいでしょ」

「ううっ!! ……で、でも、でもわたし、ちょ、ちょっと、お、重いし」

「そんなの今更じゃないの。だからダイエットしてるんでしょうが。隠したって仕方ないし隠れてないし」

「ひ、ひどいよぉ!?」

「いいから早くしろ。エネルギーを持て余してるおまえら相手にしてるんだ。別に桜井の体重くらいどうってことないよ」

「だってさ」

「で、でもでも」

「そろそろ本当に恥ずかしくなってきたから早くな」

 断られることがないのはわかっているが、もしここで断られたらかなり間抜けだ。

 なるほどと思う。

 想像してみると香苗の言ったとおり、たしかに恥ずかしいかもしれない。

「ほれ」

「ほら」

「……し、失礼しまぁす」

 ようやく梨穂子も観念しようで、肩にそっと手が置かれた。

 それでも往生際悪くもたもたしていたものの、やわらかな身体をふわっと押しつけてくる。

 大きくて形の良いものが当たっていた。

 役得だが時間はかけられない。

 あまり他の生徒に見られたくはないので、なるだけ目立たない人気のないルートで、猫のように足音を殺してひたひたと保健室へ疾走する。

「何て曲ですか?」

「モリタートだよ」

 知らず知らずいつの間にか、口笛を吹いていたようだ。

 おんぶされながら暢気なもので、上機嫌の梨穂子は蓮実を真似して、しかしかなりクオリティの低い口笛を吹いている。

 そういえば梨穂子はよく、自作の鼻歌を歌っているのを蓮実は思い出した。

「すみません。生徒が足首を――」

 そう言って保健室の扉を開けたが誰も居ない。

 三つあるベッド。

 奥にあるカーテンを引かれた一つを除いて空だった。

「勝手にやっちゃってもいいもんかな」

 梨穂子を椅子に座らせると、蓮実はもう勝手に棚を探っていた。

 怪我というほどのことでもないので、とりあえず湿布でも貼っておけばいいだろう。

 人体の構造についてはある意味、学校の養護教諭などよりずっと詳しい。

 どのくらい引っ張れば腕は伸びるかだとか、何回転くらいでねじ切れるかだとか、教えられた知識としてでなく経験でわかっている。

 なのでこの程度の応急処置はお手のもの。

 肉感的なくせしてほんわかしたキャラのせいか、いまいち梨穂子には縁遠かったエロティシズム。

 あくまで治療のためにしたことだが、足を持ち上げるとどうしても、短い制服のスカートが捲くれてしまう。

 見えるか見えないかのギリギリ。

 そして見た目はほどんど、下着と変わらない。

「あ……」

「うん? どうした? どっか痛むか?」

「……あ、いえ、その、別に、だいじょうぶ……、です」

 ブルマでも恥ずかしいものは恥ずかしいだろうし、蓮実を頼れる教師としてでなく、一人の男として意識しないわけがなかった。

 真っ赤に染まっている表情には確かに、初々しく可愛らしいが女の色気がある。

 さり気ない触診を繰り返しつつ、それが楽しめるくらいに治療は、そつなく片手間でこなせた。

「こんなもんだろ」

 つい興奮してテンションが上がってきてしまったが、観察している香苗の存在を忘れたわけではない。

 折角ここまで上手にできているのに、わざわざ自分から下手なことをする必要はない。

 これも得意だ。

 何気ない動作で後退。

 ダンスをしていたときより、体温の高くなった梨穂子から離れる。

「まあ夢中になれるのはいいことなんだけど、いきなり飛ばしすぎて無理はしすぎないようにな」

「はぁ~い……」

「……ごめんね。わたし一人でテンション上がっちゃって」

 蓮実の言葉に梨穂子ではなく香苗がしゅんとした。

 親友の様子に慌ててフォロー。

「い、いいよいいよっ!? そんな香苗ちゃんが謝らなくてもいいよっ!!」

「でも」

「あのぐらいハードにやらないと、ぜんぜんダイエットにならないし」

「本当に?」

「もちろんだよ」

「よしっ。わかった」

「へ?」

「怪我はさせない程度に、けどもっとハードにいくよっ!!」

「……い、いや、も、もっと、その、ソフトな方が、い、いいんじゃないかなぁ~?」

 過剰に気合を入れてガッツポーズする香苗と、乾いた笑い声であさっての方向を見る梨穂子。

 コントみたいだった。

 どちらのキャラによるものなのか、重苦しい空気は一瞬で吹き晴らされ、カラッとした和やかなものになっている。

「桜井はそんなに、ダイエットしたいのか?」

「なんせ恋のライバルが、雲の上の人ですからねぇ」

「香苗ちゃんっ!!」

 暖かい日差し。

 ほのかにつんっと香る薬品の臭い。

 そういった保健室特有の空気が、香苗の口を軽くしているのかもしれなかった。

「青春してるなぁ」

「ですねぇ」

「いや、おまえもしろよ」

「わたしは桜井の恋を見届けるまでは、そういう青春はしないと心に決めてますからっっ!!」

「……なんなんだその、無駄に固そうな信念わ」

 香苗はどうやら尽くしたい性質というか、自分よりも他人のことで燃えるタイプらしい。

 今はそのベクトルが異性との愛情より、同性との友情に偏っているようだが、そういう青春もこれぞ思春期らしくて美しかった。

 まるで納得はできないが、そんなものかと理解はできる。

「そんなにダイエットしたいんなら、とりあえず水泳部とか入ってみれば? 茶道部と掛け持ちすればいいじゃん」

 蓮実としてもそうしてくれると、何かとナニをするにしても把握がしやすい。

 茶道部の存続危機が、ますます現実味を帯びるが。

「う~ん。でも、やっぱり水泳部はちょっと、わたしなんかが入ったりしたら、まじめにやってる人にわるいかなぁって」

「思っきし体育会系してるもんね。桜井のノリとは百パー真逆だ」

「二年の途中からどうして入ろうと思ったのって聞かれたら、ダイエットですとか言えそうにないハイレベル」

「まあ。そうだな」

 溺れそうになってる梨穂子(周回遅れ)を、もの凄いスピードで追い抜いていく逢。

 あまりにレベルの違いすぎる後輩二人に対して、同じテンションで指導していいものなのか、見つめながらプールサイドで戸惑う響。

 外から眺めている分には面白い。

 しかし当事者はなかなか大変そうだった。

「でもぶっちゃけちゃうと、どんなもんなんですかねぇ?」

「何が?」

 空いているベッドにぽふんっと腰を下ろして、香苗が窺うような目を蓮実に向けてくる。

「男の人のホントですよ」

「ホントって?」

「結局スリムなのがいいのか、それともぽっちゃりなのがいいのか。どっちの方が好きなんですか?」

「そんなの好みだからなぁ。ヘップバーンが好きなのもいれば、モンローが好きなのもいるだろうし、結局その質問には人によるとしか言えないよ」

 今の子にヘップバーンやモンローが、喩えとして適切かどうかというと怪しい。

 だがどちらの女優もオシャレ映画の先駆けなので、女の子ならなんとなくではあっても観たことがあるだろう。

「それじゃハスミン先生は、どっちが好みですか?」

「俺はストライクゾーンが広いんだ」

「はぁ」

「どっちも好みだよ」

「……うわぁ。節操ないなぁ」

 香苗は退き笑いのような、変な表情になっていた。

 蓮実としてはおまえら全員が恋人と、普段から言っている手前、分け隔てないのをアピールしたのだが、どうも思いは伝わらなかったらしい。

「ほっとしない」

「え?」

 不意に香苗の首がぐるんっと回る。

 その状態がむしろデフォルトで、完全に弛緩し切っていた梨穂子は、急に矛先が向いてびっくりした顔をしていた。

「痩せなくてもいいんだぁ~、とかどうせ考えてたでしょ?」

「そんなことないよぉ!?」

「どうだかなぁ。さっきのはあくまでも、ハスミン先生の意見だからね」

「ああ。でもだから、ちょっと嬉しいのかも……」

「え?」

「あ、う、ううん。な、なんでもない、よ」

「……ほとんど大多数の男の子は、たぶんスリムな方がいいんじゃないの?」

「桜井はこのままが可愛いぞ」

「先生っ!!」

「ほらぁほらぁ。えっへへ」

 ここでチャイムが鳴ったので、二人の頭をくしゃくしゃにして、授業に遅れないよう保健室から送り出した。

 蓮実は次の五限目は、コマが空きになっている。

 緊急だったので止むを得なかったのだが、備品を無断で使用した報告もしなければならない。

 そういう理由をこさえて蓮実は、備品のコーヒーを無断で淹れてブラックで味わう。

 職員室に戻るのが面倒になっていた。

 ベッドも空いていることだし、寝ちゃおうかなと思っていた。

 しかしそうするよりも先に、微かに震えているか細い声がかけられる。

「ハスミン先生……」

 当然それは一つだけ埋まっているベッドからだった。

 カーテン越しであっても、不安でいっぱいな感情と表情は容易に読み取れる。

「先生にちょっと……、その、相談したいことが……、あ、あるんですけど。……い、いいですか?」

 はるかにしては歯切れが悪い。

 とはいえそれも、仕方がないことだろう。

 蓮実が把握している中で現在のところ、輝日東高校に置いてもっとも、深刻な悩みに直面している生徒なのだから。

「ああ。俺でいいなら」

「……ありがとうございます」

 そこから沈黙の時間は長かった。

 もちろんそんなにすんなりぺらぺら、まして教師とはいえ男を相手にして、話せるようなことではないだろう。

 レイプ被害。

 容易く一瀉千里というわけにはいかなかった。

 心理的抵抗を取り除く必要がある。

 壁掛けの時計を見た。

 五限目が始まっているので、ここから生徒に邪魔される恐れはない。

 それにしても養護教諭は持ち場を離れ、どこまで油を売りに行ってるんだろうか。

「ナニがあっても、俺は森島の味方だ。それだけは信じてくれ」

「……はい」

「信頼して打ち明けてくれるか?」

 アナルを犯されたのを。

「あの、これ、この話、と、友達のこと、なんですけど」

 塚原のアナルはまだヴァージンなんだけどなぁ。

 などと思いつつ耳を傾ける。

 はるかはポツリポツリと話し始めた。

 ずっと胸に溜めていたものを吐き出していく。

「誰に?」

「橘くんです……」

「二人はもしかして、付き合ってるのかな?」

「……いえ、そういう関係じゃ、ありませんでした」

「そっか」

「でもそうなってたかも、しれません。年下の気になる男の子って感じでした」

「そっか」

 危ない危ない。

 純一だけでなくはるかも、けっこうその気になってたみたいだ

 手紙でポンプ小屋に呼び出された件は、わざわざ改めて聞くまでもない。

 それでも蓮実はカーテン越しに、はるかへ向けて神妙な顔を作った。

 でないと笑いそうになってしまう。

「それは間違いないんだね?」

「間違いなくとはいえませんけど。あれは同じものでした」

 だいじょうぶ。

 間違いなく同じものだ。

 扉を開けた暗がりの中ではるかを待っていたのは、録画を示す赤い光点を灯らせたカメラ。

 何度か撮られたハンディカム。

 記憶と直結したろう。

 そうやって純一のものと誤解するように、同じ機種のものを購入したんだから。

「お腹がチクッとした瞬間、頭が真っ白になって、わたし気づいたら……」

 友達のこと。

 そういう前提ではるかは話していたのだが、話が進むごとに気持ちが入って設定がブレだしている。

「し、縛られてて」

「うん」

「……い、いやらしいことを……され……ました」

「わかった。もういい」

 天然女王とまで称されているはるかが、声を押し殺すようにしてすすり泣いていた。

 いやらしいことをされたって、例えばどんなことをされたの?

 尋ねたいところだが、ひとまずここでは止めておく。

 別に可哀想だからじゃない。

 愉しみを後にゆっくり取っておくだけだ。

「ツラいのによく信じて話してくれた。とにかくこれ以上、森島にふざけたまねはさせない」

「先生……」

「それから橘は今も、ちょっかい掛けたりしてるのか?」

 状況証拠は純一がクロだと告げてるが、目隠しされていたはるかは犯人を、直接自分の目で見て確認できたわけではない。

 推定である。

 もしかしたら違うかも。

 そういう想いがはるかの中に、どこかあったかもしれない。

 蓮実は完全にそうに決まっているという口ぶりで、誰がレイプ犯なのかを断定し補強し確定してやった。

 自分だけでなく蓮実もそう考えてるのなら、もうこれは純一が卑劣な犯人で間違いではないだろう。

「また、て、手紙を」

「その手紙はどんな内容だった?」

「……二人だけの……映画を……、と、撮りましょうって……」

 心地よい嗚咽が響く。

 どうやら純一は言いつけをちゃんと守ったようで、余計なことは書かずにはるかへの熱意だけを伝えたようだ。

「ハスミン、先、生、わ、わたし、わたしどう、したら」

「毅然とした態度できっぱり撥ね付けろ。近づくなって強い口調で言ってやれ。そのあとはまかせろ。俺がちゃんと話をつけてやる」

「ビデオ、は?」

「絶対に取り返してみせるさ」

 実際は家に取りに帰るだけだが。

 とはいえ蓮実が映り込んでいる画もあるので、編集に割く時間はそれなりに貰っておきたい。

 コツを純一にでも習いたいところだが、さすがにそういうわけにはいかないだろう。

 以前の教え子が学年一の美少女をイベントごとに撮り溜め、ちょっとしたアイドルばりの、イメージDVDっぽいようなものを製作していた。

 隠し撮りで、商売にまでしている。

 世の中いったい何が、功を奏すかわからない。

 こんなことがあると予見してたわけではないが没収しておいて良かった。

 参考にさせてもらおう。

「だけどどうする? 森島がそうしたいなら、橘を学校から追い出すことだってできるんだぞ?」

 専門は企業法務だが、日本でも五本の指に入る大手の、弁護士事務所に知り合いがいる。

 少年Aに対して法の裁きを下し、迅速に処理してくれるだろう。

 蓮実もその際は沈鬱な表情を浮かべつつ、しかし不良債権を排除するための、労を惜しまないつもりだった。

 普段は生徒を擁護することが多い蓮実の証言だけに、二人の教え子の未来に与える影響は少なくない。

 仕留められる。

「……そこまではしなくていいです。卒業まで半年もないですから」

 はずだったので残念。

 はるかにしては後ろ向きな、随分尻込みした意見だった。

「わかった」

 けれどレイプ被害者というのは概ね、ほとんどのケースでこんなものである。

 一刻も早く忘れてしまいたい。

 裏切られ傷ついた少女が、そう考えるのは当然だ。

「森島がそれでいいなら」

 煽ってもいいが、ここはやめておこう。

 忘れた頃に抉る方が、より効果的だ。

 そして必要があればそうすることを躊躇ったりはしないが、必要もないのに必要以上に可愛い教え子を傷つけたくはない。

 教育者としての蓮実なりの、そのモットーは純一にも当てはまる。

 あまり拙速に構いすぎて、またクラスを丸ごと消すのは、できれば避けたいところだった。

「ただ橘がしつこく付き纏うようなら、そのときは俺にちゃんと言ってくれよ?」

「はい」

「それじゃもう今だけは、何もかもぜんぶ忘れておやすみ」

「……はい」

 蓮実はコーヒーを飲み干し、そっと静かにはるかを残して保健室を出る。

 一人にならないと、悶えることができないだろう。

 言葉と優しさが意識にゆっくり浸透して、脳髄を麻薬のように痺れさせながら。

 Lotus.

 浮き世の憂さを忘れる蓮の実の、甘い毒に犯されて眠るといい。






[41992] アクガミ 第十話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/05/21 12:57




 喫茶店。

 おばけ屋敷。

 ビデオ上映会。

 研究発表。

 どこもそんなに変わらない。

 休憩室は生徒会の管轄になっているのでないが、あればほぼコンプリートであろう。

 黒板に並んで縦書きされているのは、高校の学園祭の催し物として、捻りのない定番のものばかりだった。

 そして1年B組は喫茶店になりそうである。

「それじゃ次はメニューをどうするかなんだけど――」

「クレープとかぁ」

 手も上げずに答える。

 ウエイトレスになってみたい美也が推し、それに追随する形で紗江と逢が続くと話は早い。

 こうなるともうトントン拍子で、すんなり物事が決まっていく。

 担任としても喫茶店になってくれると、準備も前日だけで済むので監督も楽だ。

 当日の手間もそんなにかからない。

 ビデオ上映はさらに楽で手間もかからず、只今編集中の入魂の作品もあるのだが、その他大勢の前で披露できないのが残念。

 監督・蓮実聖司、主演・森島はるかの大作だが、ここは諦めるしかない。

 紅茶にする?

 それともやっぱコーヒー?

 甘ければどっちでも。

 ミルクたっぷりなのがいいよ。

 ウサ耳とかネコ耳とか付けたら可愛くない?

 ラビットパンチで借りられないかなぁ。

 堰を切ったようにアイディアが、さほどオリジナリティはないが溢れてる。

 生徒が自主性を発揮してくれるのは、教育者として嬉しい光景だった。

「期待しちゃっていいんだな?」

 あまり突拍子もない意見に流れない限りは、なるだけオブザーバーとして黙っていようとした蓮実が、苦笑交じり冗談めかして言うと、

「まっかせてっ!!」

 満面の笑みをにっしししと浮かべた美也が、満場一致とばかりに親指をぐっと立てて締めくくる。

 そうやって帰宅前のSHRが終わると、蓮実は部活に行こうとしてる逢を呼び止めた。

「何ですか?」

 少し声が堅い。

 どことなく表情も不安そうである。

 ちらりと蓮実を見たものの、逃げるみたいにすぐに視線を外した。

「逢ちゃんに何か用事?」

 子供っぽい独占欲なのか、それとも女の本能なのか、蓮実のことは全て把握してないと気が済まないようで、呼ばれてもいないのに例によって美也

がしゃしゃり出てくる。

 猫と一緒だ。

 きまぐれで我侭な甘えん坊にじゃれられて悪い気はしないが、さすがにいつもいつもでは辟易してしまう。

「まあちょっとね。部活前だけど七咲、相談室いいかな?」

 蓮実が相談室に生徒を誘うのは、男女問わずで頻繁ではないが珍しくもない。

 昔の家庭教師のおかげ。

 芽は早めに摘む。

 本人が周りに悟られまいと平気を装っても、蓮実はすぐにそのことに気づいて指導している。

 女生徒と二人だけの空間を作ろうとしてるのを、大勢が聞いてはいるが、それに眉をひそめ鼻白むような雰囲気はまったくなかった。

 うなずいて了承を伝える逢の背中を、軽く押しながら教室を出るとき、振り返ってふくれっ面の美也と羨ましそうな紗江を見る。

「二人はまた今度な」

「えーっ!!」

「……、ぇぇ」

 ハモったというには微妙ではあったが、息の合った二人にウインクしてきびすを返す。

 もちろん廊下を歩いている間も、蓮実と逢を奇異の目で見る者はいない。

 輝日東高校にはスクールカウンセラーは常駐してないので、たとえ受け持ちのクラスではなくとも、相談を持ち掛けてくる生徒は多かった。

 部屋で向かい合ってソファに座ると、蓮実はわざとじっくり間を開け、もじもじしている逢の様子を観察する。

 あきらかに落ち着きがなかった。

 校舎の陰でキスをしてからというもの、逢とは面と向かっては満足に話してない。

 蓮実の方からもその機会を、積極的には作らなかった。

 忘れようとしてるみたい。

 何もなかった。

 努めて他の生徒と同じラインに置こうとしている。

 可愛いがどこまでいっても教え子は教え子。

 けっして越えてはいけない一線を引く。

 キスまでしておいて今更のように、そんなやきもきさせる微妙な態度を、この数日というものあえて蓮実は取っていた。

 瞬時に話のプランを組み立てる。

「七咲」

「は、はい!?」

「勉強の方は、その、ちゃんと、してるのか?」

「はい?」

「どうやら英語は問題ないみたいだけど、七咲は数学が、……苦手みたいだからさ。公式を丸暗記じゃなくて、基礎から覚えないとだめだぞ」

「……はい」

「それから……、あ、水泳は、どうなんだ? 最近タイムは伸びてるか? 代表には選ばれそう?」

 どうでもいいような話を、そうやってしばらく続けた。

 心の奥に秘めている本当にしたい話を、口にするべきか迷っているような素振りで。

 そしてまた沈黙。

 教師と教え子という関係性であればともかく、男と女という関係性で一対一になる状況には慣れてないのだろ。

 まして鍵は掛かっていなくとも、密室は密室で閉鎖された空間だ。

 ソファに浅く腰かけて背筋をぴんっと伸ばしているものの、膝の上に置いてある拳はぎゅっと力いっぱい握られている。

 動揺をわかり易く物語っていた。

 たっぷり時間を使う。

「七咲……」

 こころが頃合だろうというところで、ようやく蓮実は意を決したように、真剣な声音で教え子に一方的な想いを告げようとした。

 葛藤があったのを匂わす、迫真の演技をしながら。

「……どうしても七咲に、言っておきたいことがあるんだ」

「なん、ですか?」

「七咲はまだ子供で俺はもう大人で、七咲は生徒で俺は先生なんだ……」

「はい」

「わかるだろ?」

「わかりません」

 即答だった。

 少し怒っている。

「いいじゃないですか」

「うん?」

「べつに生徒と先生だって、いいじゃないですか」

 つい最近どこかで聞いたような台詞に、思わず笑いそうになってしまう。

「そうはいかないよ。よく考えてみてくれ」

 相手の思考を停止させる魔法のフレーズを呟きながら、これで話は終わりというように、鍵の掛かってないドアの方を見る。

 ゆっくり立ち上がろうとした。

「わ、わたし、生徒ですけど、それは、どうしょもないですけど」

 やっぱり電話か何かでつい最近告白めいた、非常に似たようなやり取りをした気がする。

 しかしなんにしても、それは期待通りの反応。

 いい子だ。

 振り切るように目を逸らし、ドアノブを回そうとするのと、タックルするみたいに背中に抱きつかれたのは同時。

 そうした方がドラマチックになるだろうという計算はあったが、我ながらベストなタイミングだったと、蓮実はほくそ笑みそうになるのを我慢しつ

つ心中で自画自賛した。

 ベストなタイミングといえば、猫が吐いて倒れてくれたときも捨てがたいが。

 小さな生命が魅せたファインプレイ。

 せっせとカカオたっぷりの、チョコレートを与えてきた甲斐があった。

 カフェインも欠かさない。

 タマネギに含まれる有機チオ硫酸化合物は、犬だけでなく猫にとっても赤血球を破壊する猛毒だが、断末魔のショッキングな映像を演出するには、

こちらの方が確実性が高く相応しいだろう。

 とはいえ間一髪。

 本当にぎりぎりだった。

 死んだらペットの置き土産のペットを、押しつけてしまえという案もあったが、救って逢の信頼を補強する方がよりメリットがある。

 善意であれ悪意であれ劇的な共同作業を経て、人間関係の仲が深まらないわけがない。

 死の予感。

 生々しく小刻みに痙攣までしてくれたおかげもあって、慌てることなく素早い処置で助けた蓮実の好感度は恋愛にまで昇華した。

「……子供じゃ……、ありません」

 その台詞を臆面もなく言えてしまうのは、まさしく子供の証明な気もするが、本人が大人だというのなら、何もここで否定することもない。

 子供じゃないというのなら、大人の女性の扱いをすることに、なんら障碍がなくなるのだから。

「ほっとした」

「え?」

「俺はずるいな。七咲がそう言ってくれるのを、心のどこかで待ってたのかもしれない」

 まあどこかも何もないが。

 少女のナイーブな心が決壊するのを、今か今かと全面的に待ち構えていた。

「あ……」

 腰に必死としがみついている逢の手を、とっておきのスマイルをセットしながら、そっと外して覆いかぶさるみたいに抱きしめる。

 ショートにした髪の毛から漂う、仄かな甘い芳香を吸い込んだ。

 逢は身体を硬くしたが、それは悪い緊張じゃない。

 二度目のキスも自然な流れの、目論見通りのキスだった。

 瞳を閉じて、逢はされるがままになっている。

 何度口にしても、美味な唇だった。

 自分の中でどんどんテンションが上がっていき、性衝動が危険な速度で膨らんでいくのがわかる。

「……逢」

 だが寸ででどうにか冷静に、ここで事に及んでしまうのはさすがにまずいと、腹立たしいが理性が働いてしまった。

 蓮実はこれ以上に名残惜しいという感情を、表現するためのストックを持ち合わせていない。

 逢の身体から渋々離れる。

 輝日東高校の女子は全般的に、キスには弱いのかもしれない。

 教え子の双眸は校長のつまらない長話で、うつらうつらしている生徒よりも、とろんっとしており焦点が定まってなかった。

 保健室のドアに鍵をかけようともせず、白昼堂々と生徒とHして、スリルを愉しんでいた養護教諭もいるが、ここはリスクを犯すことこともない。

 聞き耳を立てるところまでは、いくらなんでもさすがにしないだろう。

 しかし子供という生き物は、基本的にしつこいものだ。

 かまってもらおうとアピールしてくる美也が、相談室の周囲をこの瞬間うろついている可能性もある。

「今日のレッスンはここまでにしよう」

 耳元でそう囁いた。

 告白しました即セックスでは、少々妙味にも乏しいだろう。

 恋愛ごっこを愉しんでみるのも、待っている未来は一緒だがそんなに悪くもない。

 最後にちょんちょんと、初々しい唇を味わった。

「この続きは、また次の機会にね。誰にも邪魔されないところで。OK.Now.is that clear? Miss Nanasaki」

 言葉を理解しているのか怪しいが、それでも逢は何とかこくんっとうなずく。

「部活、頑張っておいで」

 廊下に出て髪をシャンプーしてやると、顔面の毛細血管を全開にしてそれを受け入れ、終わると逃げるみたいに駆けていった。

 角を曲がるまで見送ってから、蓮実も職員室に戻ろうと思ったが、どうせなのでこのまま巡回することにする。

 これといって目に付くものはなかったが、普段は人気のない四階にある資材置き場のドアが、開きっ放しになっているのが気になった。

 サムターンの調子がもう恒久的に悪いので、うっかり閉めてしまうと内側からは開けられない。

 たしか創設際といったイベントで使用する、イルミネーションなどが雑多に置いてある。

 そっと中を覗いて見た。

 純一と詞が二人で、物品のチェックをしている。

 ポジションが逆のような気もするが、初参加の純一が見てもわからないからだろう。

 去年も創設際実行委員だった詞が、脚立に上がって棚をごそごそ探り、純一が押さえながらシートに書き込んでいた。

 目が合った。

 笑顔で親しげに軽く手を上げる。

 それに応えて純一もぺこりと、軽く頭を下げて会釈した。

 あまり元気がない。

 どことなく憂鬱に映るその表情は遠目でも、相談室に呼び出す前の逢のものに似ていた。

 いや、もっとひどいかもしれない。

 深刻さというか、悲惨さが違う。

 純一は蓮実が担任する生徒ではないが、可愛い教え子であるのは変わりなく、失恋の痛みに耐えているのを、見て見ぬふりなどはとてもできない。

 ほんの少しの間だけでも痛みを忘れさせてやり、ほんの少しの間だけでも癒し元気づけてやりたい。

 蓮実はある方向を指す。

 ……いい子だ。

 その指示通りに素直に純一は首をねじったが、デス・ロールできそうなくらい凄い勢いで逆サイドにまた首をねじった。

 詞はまだ蓮実の存在にも、すぐ逸らされはしたが、純一の視線にも気づいてない。

 バランスが悪く狭い足場で、よちよち爪先立ち。

 ときにはヒップを突き出すようにして、短いスカートを揺らしながら右に左に、青少年のリビドーを刺激しつつ仕事に取り組んでいた。

 Good!!

 ヒロインになるために必要なスキルはいろいろあるが、その一つはポイントポイントで間が抜けてるところだろう。

 めずらしくこれは演技ではなく、ごくごく自然でナチュラルな油断だった。

 あざとく拙い仮面優等生も嫌いじゃない。

 むしろ好みである。

 とはいえやはり正統派の可愛らしさ、隙だらけの隙は蓮実も好きで、それを愛でるのに否応があるわけもない。

 モルタルの床を見ている純一にしても、思春期の潔癖さで抗ってはいる。

 しかしちょっとでも油断してしまうと、英語教諭の唇だけを動かした声なき悪魔の囁き。

 同級生女子のスカートを揺らめかせた天使の誘惑に、潔癖な思春期だからこそ抗えるわけもなかった。

 そろそろとそろそろと、ゆっくり慎重に首が回転していく。

「あ?」

「ん?」

 目が合った。

 ぎょっと怯んだ純一とは対照的に、気づいてない詞は反応にきょとんとしている。

「二人とも随分頑張ってるな」

 蓮実はさも今通りかかったようなふりをして、にこにこしながら純一に助け舟を出してやった。

 恩に着てほしい。

 蓮実の指示で行ったことでも。

「イベントのときしか動かさないんですけど、それでも数が合わなくなるのが多すぎるんですよね。蓮実先生と去年、あれだけ頑張ったのに、もう完

全に元に戻っちゃってます」

「今年はべつに何にもしてないのに、聞いた瞬間どっと疲れがきたな」

 もっともわざわざ家から持ってきたのか、詞のエプロン姿を見れるのはけっこう得した気分になれる。

 そこに計算はなかった。

 下手なコスプレをされるよりも、余程くるものがある。

 1年B組の喫茶店で着るコスチュームは、捻らずシンプルにいこうと提案してみようか。

 女子高生の制服。

 それはもうそれだけでエロティシズムの塊。

 トッピングはほどほどでいい。

「でももしかしたら来年も、蓮実先生とはこんな話をまたここで、こうやってリピートしているのかもしれないですね」

「そうやって考えると悪くないか。どれ、このあとは予定もなくて暇だし、綾辻との思い出作りに俺も手伝うよ」

「ありがとうございます」

 苦笑と苦笑が交錯していい感じだった。

 この学校での蓮実は、どんなブランド品よりもブランドである。

 自分に向けられる親近感と信頼感に、詞の優越感は相当の高みに達したはずだ。

 ついでに話に入ることができずに、淋しそうにしている純一の疎外感も。

「橘」

「は、はい?」

 だからびっくりしたろう。

 いきなり振られて。

「可愛い生徒会長に頼られちゃってるのに、力になれないんじゃ男が廃るってもんだよな?」

「そうです、ね」

 人見知りの小学生の手を引くように、詞と二人だけで描いていた話の輪に入れてやる。

 むしろ純一と詞の輪に割り込んできたのは蓮実なのに、悪びれるどころか自然な流れで主導権を握っていた。

 資材置き場の雰囲気を、コントロール下に置き支配している。

「橘くんも手伝ってくれるの?」

 ただそれを無意識とはいえ、認めたのは詞だった。

 女という生き物は上下の関係を、はっきりさせねば気が済まない。

 絶対ルール。

 自分にも他人にも主観的に客観視して、あらゆる人間関係に分け隔てなく平等に適用される。

 残酷なくらい価値の優先順位を、瞬間ではなく刹那であっさり決めてしまう。

「……う、うん」

 純一は蓮実のおまけになっていた。

 詞は手帳を愛用している。

 定期的にこっそり、蓮実はチェックしていた。

 埋め尽くさないと気が済まない性質なのか、スケジュールがびっしり書き込まれているが、注目すべきポイントはそこではない。

 生徒だけでなく教師も含めた何人かの名前が、オリジナルの採点法で記されている。

 七十二点。

 それが現在の橘純一の点数で、八十八点の蓮実聖司には及ばないが、男子生徒としてはかなりの高評価。

 選挙戦でのイメージビデオの貢献で、二位のポジションを確立していた。

 優等生の仮面の奥で、詞はある程度の好意を抱いている。

 看過できない。

「ちゃちゃとやって終わらせよう」

 そんな内心のさざ波をおくびにも出さず、自分と比較させることによって、地味に上がってきた純一の株を下げておく。

 要領の良さと去年も一緒にやっていることでの、二人のさり気なく息の合った作業スピードに、手伝いどころか純一はお荷物になりつつあった。

 右往左往しおろおろするシーンが増えている。

 適宜フォローをしてやりながら、随時エラーを誘発することも、もちろん怠ったりはしなかった。

 狙い通り純一が何回目かのミスをして、予定通り蓮実が何回目かのリカバーをしたとき。

「橘くん」

「なに? 綾辻さん」

「蓮実先生も手伝ってくれてるから、ここはもういいわ。きっと棚町さんたちが苦戦してるだろうから、そっちのヘルプに回ってくれる?」

「……わかった」

 気遣いのある言い方を心がけているので、詞に悪感情を持たれることはない。

 ただ言われた純一の方はどうなのかというと、自分の不甲斐なさを感じずにはいられない、それはそんな無意識に無慈悲な宣告だった。

 仕向けておいてなんだが、蓮実はほんのちょっとだけ同情した。

 ご愁傷様。

 しょんぼりした純一の背中を見送る。

 けれど蓮実が悪趣味な好奇心、点数はどう変動したろうと、想像を膨らませていた時間は短かった。

「先生」

「どうした?」

 詞が急に声を潜めて、真剣みを増した顔を寄せてくる。

 勇気が相当量、必要らしい。

 ちらりと廊下の方を窺ってから、死角になっているのを確認して、ごくりと唾を鳴らしてから切り出した。

「信じられないと思いますけど」

「なに?」

「……この学校、盗聴がされてます」

「なんだって?」

「まだ電波を捉まえただけで、盗聴器そのものは見つかってないですけど」

 不意打ちだったので蓮実は衝撃を受けたが、あえてそのショックをそのまま顔に出してやる。

「本当か?」

「はい。……その、これで、わかるんです」

 それを蓮実はよく知っていた。

 ごそごそとポケットから出して詞が手にしているのは、携帯電話とトランシーバーの中間のような機械。

 同じものを持ってる。

 ずっと借りパクのような状態になっているので、いいかげん返さなくてはいけないとは思っているのだが、前任校の教え子が眠っている場所に行く

のには、けっこうな遠出になってガソリン代も馬鹿にはならない。

 なにせ今月は出費が嵩んでいる。

 穴掘りまでしなくてはいけないので、なかなか返しに行く気にならなかった。

 まあ教え子にはどうせもう使うことができないので、バタフライナイフ共々このまま自分が有効利用してやった方がいいだろう。

 けれど二つはいらないな。

 そう考えながら蓮実は、初見のような態度で尋ねてやる。

「なんだそれ?」

「盗聴発見器、です」

 今度は心の準備ができていたため、蓮実は驚いた顔をしたものの、まったく動揺はしていなかった。

 ここでドアを閉めてしまうかどうかを、冷静に検討するだけの余裕がちゃんとある。

 細い首。

 小枝みたいにへし折れる。

「なんだってこんなもの、綾辻は持ってるんだ?」

 とりあえず疑問をぶつけてみた。

 今の子供は感受性が弱いといわれているが、教壇に立つ蓮実の経験からするとそんなことはない。

 それは現場を知らない人間の戯言だ。

 どの学校にも勘のいい生徒というのは必ずいて、僅かな綻びから論理を構築し真実に辿り着いてしまう者までいる。

 侮ってはいけない。

 軽んじてしまったせいで幾たびも、足元をすくわれそうになっているのだから。

 本当に。

 幾たびも。

「……2年A組から少し前に、転校していった生徒が、同時に二人もでたの憶えてますか?」

「ああ。あの二人だろ?」

 金八気分を味合わせてくれた上に、亡き恩師を思い出させてくれた。

 それなりに蓮実は二人に感謝している。

 もう顔と名前の一致が、怪しくなってきているが……。

「直接の理由まで生徒は教えてもらえませんでしたけど、たぶんあの件が関わってるんだろうなって察しは付きます」

「あの件って?」

「もちろん棚町さんたちと、モメてた件です」

「うん」

「あることないこと誹謗中傷合戦みたいになってて、それをみんなも何だかんだ面白がってた例の件」

「なるほど」

「馬鹿で下らない話でした。高橋先生は気づいてなかったみたいでしたから、そろそろどうにかしなきゃと思ってたら、二人がいきなり転校しちゃっ

たんですけど、あのときからどこかおかしいっていうか違和感があって」

「……違和感ってどんな?」

 詞は深刻な表情をしている。

 怯えもあるその顔は、とてもキュートだった。

 いつもの優等生然としたのもいいが、高校生らしいあどけない素顔はより魅力的に映る。

「みんながちょっと飽きてきたなって雰囲気になると、棚町さんたちをわざと逆撫でするみたいな、もっと過激でもっと低俗な噂が広まるんです」

「そりゃ誹謗中傷し合ってるんだから、お互いに逆撫でするのは当然じゃないのか」

「わたしが観ていた限りでは、もうどっちも半分戦意喪失してたっていうか、これ以上傷つきたくない空気は何度も出してました」

「痛み分けに、なりかけてたってわけか」

 恵子もそうだが男二人もナイーブで繊細。

 ファイティングポーズを取り続けてたのは薫だけだが、その薫にしても心では泣きながらというのが実態だった。

 タオルの投入を全員が期待していたが、それはジャッジの蓮実が許さない。

 膠着しそうになるごとに、中学時代の失敗や個人情報などで、ファイトと盛んに続行を促したものである。

「そのうち二人は、転校しちゃいましたけど……」

「ふむ」

「少し時間が経って振り返ってみると、裏で煽っていた人間がいて、四人は踊らされてただけのような」

「たったそれだけで盗聴を疑って、自前で発見器まで用意したのか?」

「妄想だって思われるかもしれませんけど、そう考え始めたら生徒会長選挙も、何だか不思議っていうか気持ち悪さがあったんです」

 Excellent!!

 蓮実は心中で惜しみない喝采を叫ぶ。

 これまでの印象深い生徒と同じように、直感と論理によって詞も見事に非凡さを証明してくれた。

 盗聴という発想。

 そういうラジオライフみたいなアイディアがすぐ浮かぶだけでも、1年B組の生徒の何倍もオリジナリティに溢れている。

 だからこそ、悲しい。

「こんなことまでして、わたしこそどうかしてるのかなって、そう思ったりもしましたけどこれで確信しました」

 詞の才能に目を細めながらも、蓮実は満足だけでなく切なさも覚えていた。

 せっかく芽吹いた才能だが、開花することはないだろう。

 もしかしたら詞はクラスメイトよりも早くに、独りで卒業することになるかもしれない。

 こういうのをフラグが立ったというのだろうか。

「この学校には、怪物がいます」

 優等生の仮面を被った少女は、ブラックボックスに触れようとしていた。






[41992] アクガミ 十一話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/06/03 09:42




 押し売りモーニング・コールのおかげで、朝はほぼ毎回の一番乗りである。

 蓮実はハイゼットを学校の駐車場に止めると、エンジンを切ってしばし物思いに耽った。

 殺害するのは容易いことである。

 処理も難しくなかった。

 動機も充分にある。

 真面目な生徒ほど人には言えない悩みを抱えており、自分で自分の命を絶ったとしてもおかしなところはない。

 毎日のニュースで当たり前のこととして聞かされるような、異論なく納得できるシナリオだった。

 だが待て。

 まだ電波を何度か捉えられただけであり、バグ本体が見つかったわけでもないのに、卒業させてしまうのは少し短絡的過ぎやしないか?

 オーバー・キルだったとは思わない。

 とはいえ解決法は、本当にあれしかなかっただろうか?

 臨機応変といえば非常に聞こえはいいのだが、とはいえ前任校ではやや場当たりすぎたのを、後悔はしていないが反省はしていた。

 選択の幅を狭める気はないが、拙速に選択してしまうのもどうか。

 そろそろ三桁の大台になろうとしているのに、常に司直の追求をかいくぐることができたのは、特定のパターンを残さなかったからだろう。

 しかしそれは殺害の方法という点でのことであり、殺害という選択肢それ自体はパターン化してやしないだろうか?

 これぞ腐れ縁であろう。

 蓮実を疑っているどころか、生徒たちの無念を晴らそうとでもいうのか、クロだと断定して執念を燃やしている刑事もいる。

 相当手痛い目に遭わされているのに懲りない。

 狂気を感じる。

 自分に関わることに臆病になっててもいいはずなのに、しつこく町田から付いて来たのはムニンだけではなかった。

 絶対に個人プレイが許されない警察で、爪弾きになってまでご苦労である。

 何とも鬱陶しいことだ。

 生活安全課なのでどうということもないが、それでも警察の注意喚起をわざわざ促すことはない。

 どうせやるしかない状況にでもなれば、あまり考えずにさっさと済ませてしまうが、まだ詞への対処計画には検討の余地と猶予がある。

 コンコンと、ハイゼットの窓をノックする音がした。

「おはようございます」

 うっすら瞑っていた瞼を開けてそちらを見ると、優等生らしい完璧な角度で腰を折って頭を下げてる。

 キューティクルもばっちりで、髪の毛には天使の輪ができていた。

 長くもなく短くもない時間、可愛いつむじを眺めさせてから、静かに上げた顔にはもちろん、朝にふさわしい爽やかなスマイルが浮かんでいる。

 もっとも緊張はしているようで、清々しい笑顔ではあったものの若干強張ってはいた。

 というよりも顔面蒼白になっている。

 元気な少女もいいが、弱っている少女も美しい。

 頑張った甲斐があった。

「早いな」

「はい」

「じゃ、やるか」

「はい」

「無理はしなくていいからな」

「はい」

「で?」

「はい」

「何かあったのか?」

「……はい」

 車から降りる蓮実に声のトーンを落としながら、おそるおそる一枚のDVDを差し出してくる。

 何点だったのか聞きたい。

 今までのイメージを、根底から覆すほど身体を張ってる。

 いつものナチュラルなキャラではない。

 アダルトな媚態で魅せてくれた主演女優よりも、先行して観れるという贅沢なプレミアム映像だったのだ。

 監督を努めた身としてはやはり、初の作品でもあるので評価は気になる。

「なんだこれ?」

「あの、昨日、家に帰って、カ、カバンの中を見てみたら、そ、それが、入ってて」

「それでどんな内容だったんだ? その口ぶりだとこのDVDを、絢辻はもう観てて知ってるんだろ?」

 ならば是非ともアナルを無残に犯された先輩が、恥を曝した渾身の処女作の感想を、どこが良かったか具体的に聞きたいところだ。

 盗聴器の存在を打ち明けられた翌日から、朝や放課後などなるだけ人の少ない時間に、詞と二人で蓮実は探索を行っている。

 当然だが見つかるわけもない。

 必要がなければスイッチは切ってあるので、バグからの電波を捉えられるわけがなかった。

 受信機を構えてアンテナを振り回している姿が、滑稽ではあるが堪らなくいじらしくて可愛らしい。

 小さな子供の面倒を見ている気分。

 けっこう悪くない。

 しかしそろそろ詞には、脅しという名の警告が必要であろう。

 これ以上首を突っ込むと、こうなるぞと教えるための。

 展開がなさ過ぎると偶々の偶然で野良電波を拾っただけだったかもと、勘違いでしたで終わりかねないがそれは勿体ない。

 今回のピンチは、同時にチャンスでもある。

 ひたすら守りに入るより、ここは一歩前に出るべきではないのか。

 どうせならこの際は詞の提供してくれたこの状況を、せいぜい無駄なく有効活用させてもらうとしよう。

 正義感と使命感を刺激して、逃げられない泥沼に引き込んでしまいたい。

 善は急げ。

 なに、ちょっと怖い思いをしてもらうだけのことだし、命まで取るとは言わないから安心してくれ。

 だけどもしそれで、心が壊れてしまったら勘弁だけどな。

「……、その」

 打てば響くで返す優等生には珍しく、頬を朱に染めて口ごもり言いよどんでいた。

 何の変哲もない平々凡々な、どこにでもいる初心な女子高生の反応。

 まだまだ希少ではあるものの、最近見れる頻度が急激に高まってきた仮面の下の素顔は、やっぱりとてもチャーミングでキュートである。

 この調子でもっともっと、綾辻詞を暴いていきたい。

「わたし、まだ、それ、……み、観てないんです」

 嘘だ。

 言葉はどうでもいい。

 声にかかっているストレスが重要なのだ。

 さらに無意識のボディ・ランゲージ。

 身体を守るように交差した腕や、絡み合わせた脚などが、真実を隠しているのを告げている。

 まったく隠れてないけどな。

 蓮実には丸わかりであったものの、ここはあえて気づかないふりをしておく。

「そうなのか。よし、ならこれから確認しよう」

「え?」

「このタイミングで綾辻のカバンに入ってるってことは、犯人からの可能性がある。どういう意図なのかわからないが、とりあえず観ておくべきだ」

「は、蓮実先生と!?」

「ほら、行くぞ」

 生徒会室にならパソコンがある。

 そして何よりも時間と空間の両方の点において、今なら誰にも邪魔されないで、詞と二人だけで作品を愉しむことができるはずだ。

 手放したくて仕方ないジョーカーのようなDVDを受け取らず、相手が付いてくるのをまるで疑わない足取りで歩きだす。

「……あ」

 こうなると詞はその背中に、黙って従うしかなかった。

 朝の静寂に包まれた人気のない校舎を、今にも口笛を吹きそうな上機嫌で蓮実は歩く。

 耳を澄ませば遠くから部活に励む声が聞こえるが、生徒会室に着くまで誰とも接触することはなかった。

 漫画やアニメではないので、生徒会室といっても特に豪華なわけではない。

 折り畳みの長机とパイプ椅子に、パソコンや書棚がある程度。

 あとは無駄に大きいテレビ。

「部外者には見られたくない内容かもしれない。女子と二人きりなのにデリカシーがないけど、……できれば部屋の鍵をかけさせてくれないか?」

「は、はい!?」

 本来であればセクハラと取られかねず、詞も蓮実に多少の警戒はしたであろうが、何の疑念もないどころか慌てて鍵をかけていた。

 これから観ようとしているDVDの中身が、迂闊に知られてはいけない内容なのを、過激なのを明らかに知っているので素直なものである。

 蓮実がカーテンまで閉めたことにも、詞は不自然さを感じていないようだった。

 どうせならと型落ちはかなりのものだが、大きさだけはあるテレビの画面に、映るようセッティングしていることにも。

「始めよう。そこ座って」

「……失礼します」

 起動したパソコンにDVDが、妙なほど滑らかに飲み込まれていく。

 詞が耳まで真っ赤になっているのが、朝の光を遮られた暗がりの中であってもはっきりわかった。

 昨今のアイドルよりも、浮いた話は聞かない。

 おそらくではなくほぼ確実に、詞は不純異性交遊どころか清純異性交遊さえ、まともにしたことはないであろう。

 男と二人で映画を観たこともないはずだ。

 それがいきなりぶっつけ本番のR-18……、では収まらないだろう怪しいDVDである。

 経験のない色んな緊張に、戸惑う少女の心境を想像すると、監督としての評価も非常に気になるが、教師としても教え子が非情に気になっていた。

「ポンプ小屋、かな?」

「……みたいです」

 ドアが開かれ主演女優が姿を現す。

 光よりも眩しい。

 本物だけが持っている、それは天然のスポットライト。

 有名人というのは特にこれといって説明がなくとも、誰だかわかるのでこういうときは何かと便利だった。

 女王の存在を知らない者など、輝日東高校にはまさかいない。

 学校関係者以外に視聴させるときには、補足説明のテロップが必要かもしれないが、ハーフ系美少女というのがわかるだけでも充分だろう。

「橘くん、ごめ~ん。待たせちゃったかなぁ?」

 第一声もなかなか秀逸だ。

 おかげで姿は全編通して見えずとも、もう一人の登場人物の存在を印象付けられる。

 またしても純一の与り知らぬところで、濡れ衣が増えてしまったが、こうなれば一枚も二枚も変わらないので被ってもらおう。

 若いうちの苦労は、買ってでもしろって言うしな。

 請求書の額にきっと驚くだろう。

 毎度のお得意様。

 勝手に無実の罪を教え子に売りつけた蓮実は、顔は動かさずにちらりと視線だけで詞の様子を窺った。

 優等生の少女が脳裏に描いているのは、想像でもなければ妄想でもない。

 これから画面の中で、女王の身に起こることがわかっている。

 スカートの裾を握り締めた手の甲が、モニターの淡い光だけでも白くなっているのが確認できた。

 棒状のものが画面の外からにゅっと伸びて、女王のわき腹に触れると他愛無く崩れ落ちる。

 意識を手放したのを表現するため、一瞬画面が暗転してシーンが切り替わった。

「ね、ねえ、た、橘くん? 橘くんなんでしょっ!! こ、こら、黙ってたら、こ、怖いじゃないの!!」

 目隠しをされて腕を縛られた女王が、後輩男子の名を連呼しながら不安を叫んでいる。

 後の展開は暗中模索した編集の際、何度も何度も観てきた通りだが、それでも蓮実の胸はこの悦びを、他者と共有できることに躍っていた。

「先生、も、もうこれ以上は観なくても……」

「つらいだろうけど我慢してくれ。男の俺だけに観られたっていうんじゃ可哀想だ。女の子の絢辻も観たっていうなら慰めにもなる」

 自分で言っておきながら、よく訳のわからない理由だとは思うが、ちっともなくならないオレオレ詐欺がそうであるように、舞台の雰囲気に呑み込

んでさえしまえば、どんなむちゃくちゃな屁理屈であっても通ってしまう。

 役者がたったひと言の台詞が出てこなくなるように、混乱すれば真っ白になった脳に意味ある言葉が浮かぶことはない。

「それにこんなことは言いたくないけど、杞憂で終わるっていうパターンもあるんだ」

「杞憂?」

「刺激を求める恋人同士のごっこ遊びっていうか、おふざけだったりすることがあるんだよ」

「で、でも、これは……」

 そうだったらそうだったで、これは流出動画という問題がある。

 けれど蓮実はそちらの方はまったく問題視することなく、目の前で行われる交尾の光景だけに集中する態度を明らかにした。

「とにかく最後まで観てみよう」

「……は、はい」

 しかしパニックになっている詞は、とてもではないがそこまで頭が回らないようだ。

 仮にシチュエーションに酔っているだけにしても、本気でレイプの愉悦に溺れているだけにしても、

「あひッ!?」

 処女であろう詞に判別が付くわけもない。

 涎を垂らしながら甘い悲鳴を迸らせる学校のマドンナに、艶かしく密かに生唾を飲み込んで、妖しく喉を上下させながらただただ圧倒されていた。

 人間も所詮はケモノ。

 思春期などと耳障りの良い言葉にしているが、所詮それは発情期でしかなく、真っ盛りの年頃で交尾に興味がないわけがない。

「んぁッ………ひッ……あ、ンぁッ……ひぁッ!!」

 自分の膝の上に置かれた拳だけを見ていた瞳は、もう画面の中の痴態に魅入られたようになっている。

 Good!!

 手痛い出費ではあったものの、購入したのはやはり正解だったようだ。

 正面にカメラが一台だけではどうしても、犯している蓮実の姿まで映り込んでしまう。

 アングルも固定では飽きる。

「ひぁうッ……は……ああッ……あッ……、ぅああッ……ふぅ……うぅ……」

 横からや斜めなどの映像もあると、バリエーションで目先を変えることによって、素人の拙い技術でもより迫力が伝わりやすい。

 腰の位置の微妙な違いなどもよくわかる。

 純一のものと思わせるための正面のカメラより、使い勝手がよく機能も多彩な、高解像度のカメラを揃えた甲斐はあった。

 今にも零れんばかりに目を大きく見開いて、吐き出しそうな悲鳴を口元を手で覆い殺しながら、詞は荒れ狂う驚愕に身体をがくがく震わせている。

 慄いている。

「あひいッ!? やっ、お尻、ひいッ……やめ……くううッ!!」

 どうやら全編観ていたわけではなかったようだ。

 おそらく同じ女性として見るに耐えなく、好奇心よりも潔癖さが勝ったのだろう。

 ただのノーマルなレイプ映像というだけでも、それはそれで初心な女子高生にショッキングなはずだから。

「い、痛いのっ、お願い、お願いします、あくっううッ、あ、はぁああ、お、お尻の穴ひろがっちゃうからぁ!!」

 ましてアナルでのプレイ。

 優等生の詞には想像の外である。

 知ってはいるかもしれないが、そのような変態的な行為、排泄器官でするセックスなど考えられない。

「ひっ、あひッ、い、いいッ、ひああッ、お尻、お尻、お尻、そ、そんなにしたらダメ、も、もうわたし、わたしのお尻ダメになっちゃうッ!!」

 画面の中で繰り広げられている淫靡な光景は、詞の知る性の許容範囲を完全に逸脱していた。

 ケモノの所業。

 自分もこうなるかもしれないって想像、マンツーマンで授業を受ける覚悟を、俺の可愛い生徒会長はちゃんとできてるのかな?

 笑みの形になろうとする頬の筋肉を、悲痛に耐えるふりをして抑える。

 蓮実は三島由紀夫の心理分析を扱った本を読んで以来の、堪えられない大爆笑をうっかりしてしまいそうでひやひやした。

「ダメ、ホントにダメ、ダメなんだから、お尻の穴、お尻の穴が灼けちゃうッ。灼けちゃうッ。ひいッ、ひいッ、きひいいィィィッ!?」

 薄暗いポンプ小屋の室内に、裏返った嬌声が響き渡る。

 アナルを貫かれてイッたときだけの、空気を切り裂くようなそれはよがり啼きだった。

 女王に犬のように圧し掛かり、好き放題に犯していた影がすっとどく。

 わざわざズームアップして映し出されたのは、獣欲のまま無残に荒らされたひくついているアナル。

 ブピュッ。

 下品な音をさせて可憐な肛門からは、大量に注ぎ込まれた白濁液が逆流し、ぶくぶく泡立たせながら溢れさせていた。

 そして痙攣する桃尻が徐々に薄くなっていきフェードアウト。

 ここで蓮実は昔のジャッキー・チェンの映画みたいに、撮影の裏側などメイキングを入れたかったのだがカットしている。

 リハにリハを重ねたカメラ位置のセッティングや、女王の散らされたアナルの後始末は、それはそれで見応えはあるのだが蛇足感は否めない。

 ディレクターズカット版に回すしかないだろう。

 名前は二人分しか出てこないが。

 スタッフロールも流すわけにはいかず、それでもぎりぎりまで迷った結果として、画面に何も映ってない不自然な間ができてしまった。

 ならこれも蛇足ということになるのだが、最近の映画だとスタッフロールまで根気よく観ると、次回作に続く思わせぶりなシーンがあったりする。

「ひッ!?」

 絶息しそうな声が漏れた。

 昼休みの学校の中庭。

 キレイなストレートの黒髪が風に舞う。

 大勢の生徒に少女は囲まれていた。

 政治家も見習った方がいい。

 有権者とはこう接しろの、まるでお手本のようだった。

 嫌な顔せず一人ひとり丁寧に分け隔てなく、飛びっきりのスマイルで握手を繰り返してる。

「高校生活の素敵な思い出作りのお手伝い、どうかわたしにもさせてください。みなさんの清き一票を、絢辻詞に入れてくれたら嬉しいです」

 純一が生徒会長選挙で作ったイメージPRビデオを、眠らせるには惜しいとラストの引きとして借用させてもらった。

 そのときの記憶が、まざまざ呼び覚まされたろう。

 おそらく二人だけの時間もあったはずだ。

 この頃から純一の点数はぐんぐん上がっており、どうやら詞もある程度は信頼していたのが窺える。

 もちろん愛だの恋だのという感情を語るには遠いかもしれない。

 しかし少なくとも握手を交わしたその他大勢の生徒よりは、部屋で二人きりになって作業しても、気にしないくらいの親しみを感じていただろう。

「だいじょうぶか?」

 そんなわけないのがわかっていて、ぽんっと蓮実は詞の肩に優しく手を置いた。

 セットのスマイルも忘れない。

 カタカタ震えている。

 呼吸が荒い。

 もしかしたらこのDVDに映っていたのは、自分だったのかもしれないと想像して、うるうる潤んだ濡れた瞳を縋るように向けてくる。

「……せ、先生」

 そそられる声だ。

 このままいけるだろうか?

 蓮実はお手本のようなスマイルを操れる詞に、お手本にしてもらいたいぐらいのスマイルを浮かべつつ冷静に計算する。

 愉しむ時間は充分とはいえないものの、最低限は確保されていた。

 所謂フラグ立ても充分ではないが、抵抗されたら抵抗されたで、暴力で征服するのも燃えるものがある。

 牝を陵辱するのは、DNAに刻まれた牡の本能だ。

 従うのは吝かではない。

 よし。

 犯してやろうと蓮実が決断したのは、そうするだけの判断材料を用意できたからではなかった。

 動物としての根源欲求を優先させただけである。

 自分が製作した作品なので、映し出されていた動画は、隅から隅まで知り尽くしているが、女子高生と密室での鑑賞となるとまた格別の味わいだ。

 性衝動が昂ぶっていて、とてもではないが抑えきれない。

 犯さない方がもうどうかしてる。

 蓮実は巨大な顎を開いて、心の底からの安堵を求め、涙を滲ませている獲物に、無慈悲に襲い掛かろうとした。

 なのでこのタイミングで水を差されて、冷たい怒りに支配されそうになる。

 こういう事態を想定して鍵を掛けていたのだが……。

 ガチャッ。

 万引き犯が後ろから肩を叩かれたように、驚きで身体を飛び上がらんばかりにさせた詞は、弾かれたように音のした方に視線を向ける。

 瞬間、蓮実はパソコンの電源を落とし、テレビに結んだプラグを引っこ抜いていた。

 カーテンを開ける。

 無駄がない常習犯の動き。

 常態に復旧させるまでそれほど時間は掛からなかったが、その間も苛立ったように何度も何度もドアノブが回されていた。

 居留守は使えない。

 どこの誰だか知らないがどうやらこの傍迷惑な相手は、二人の存在を確信してドアノブを回している。

 諦めてくれそうな気配はなく、開き直って観念するしかなさそうだ。

 とりあえず立ち上がりはしたものの、おろおろしているだけの詞の復旧を、暢気に眺めていてはピンチになっていく一方である。

「ごめんごめん。すぐに開けるよ」

 まさか教師ではあるまい。

 ノックひとつできない社会人。

 この学校には居ないだろうと信じてる。

 鍵が掛かっていたのをたった今気づいたような、軽いノリでそう言いながらドアを開けた。

 再会を果たした最愛の恋人の胸にでも飛び込むように、あるいはヤクザを家宅捜索する刑事みたいに踏み込んでくる。

 即座に標的を捉えた。

 もし薫が魔眼の持ち主であり、視線で人が殺せるのなら、詞は軽く三回は死んでたかもしれない。

 生徒会長に立候補するだけあって芯も強いが、気も相当に強いところがある。

 いつもなら不敵な笑みで真っ向勝負受けて立つ詞だったが、今回は薫の迫力に完全に気圧されて視線を逸らした。

 嫉妬でパワーアップしている相手に、気まずさのペナルティがあってはお話にならない。

 ふんっ。

 鼻息ひとつ。

 詞とのメンチ切りを制した薫がお次は、蓮実を問い質すために視線を向けてくる。

「おまえの考えてるようなことは、なんにもしてないよ」

 しかし蓮実は鋭い眼光にも何食わぬ顔をして、薫に面倒な質問をされる前に、機先を制してぽんっと頭に手を置くと優しく撫でた。

 見た感じは一緒だが、撫でられるとわかる。

 その撫で方はけっして教え子にするものではなく、もっと特別な意味を感じさせる撫で方をしていた。

「……べつにヘンなこと、考えてない」

 不機嫌な顔はそのままである。

 けれどその声からは尖りがなくなり、幼い子どもが拗ねたような響きと、艶かしい女の媚を帯びた甘いものになっていた。

 借りてきた猫みたいに大人しく撫でられつつ、薫はちらっと所在無げにしている詞を見やる。

 瞳はふふんとばかりに、勝ち誇り優越感で満たされていた。

 そんな視線に晒されている詞はどうか。

 まだまだだな。

 触れられたくないところに触れられたときほど、もっとしっかり演技しておくべき。

 無意識に膝が外側を向いており、早くこの場を離れたい様子が見えた。

 とはいえ優等生の仮面から覗く素顔の詞は、やはり飛び切りキュートでありチャーミングで抱きしめたくなる。

 モノにするのが愉しみ。

 そしてそれは詞だけに抱いたものではなかった。

「棚町は今日は随分早いけど、いったいどうしたんだ?」

「二人が最近ずっと一緒だから、……何してるのかなって思って」

「わざわざこんな時間に登校してきたのか?」

 どれだけ暇なんだ。

 危うく心の中のぼやきが、口をついて出そうになる。

「だって」

 さっきまでの剣幕が嘘みたいに、親に叱られた子供みたいに薫はしゅんとした。

「どこに居るんだろうって、ハスミンをあちこち探してたら、生徒会室のカーテン閉まってるし、ドアには鍵まで掛かってるし」

 ミス。

 まさかこんな時間に部活もないのに登校し、そのうえ生徒会室に注目する生徒がいるとは想定外だった。

 邪な展開を妄想してもおかしくはない。

 却って目立ったようだ。

 恋に恋してるアクティブな女子高生の目には。

「俺のことを心配してくれたんだな? ありがとう。でも安心していいよ。詳しい話はいくら棚町にでもできないけど、絢辻とはそういうことは一切

してないから。な?」

 そういうことをする予定はある。

「え、あ、はい。あの、た、棚町さん、わたしと蓮実先生は、その、えっと、大事な話はしてたけど、べつにヘンなことは何にもないのよ」

 息の合った否定の言葉。

 むしろ二人の親密度をアピールしているみたいになっていた。

 上手くいかないものである。

 けっきょく貴重な朝の時間は疑いを向けてくる薫を、詞と二人で宥めすかしより疑いを深めるだけの時間になった。






[41992] アクガミ 十二話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/06/25 17:30




「おいおい」

「……いいから。ちょっとこっち来て」

 そう言って蓮実の腕を取り、引っ張るようにして薫は歩き出す。

 放課後の廊下に人気はなかったが、校内なのでいつ誰に見られるかわからない。

 すぐ振り払うべきだ。

 わかっちゃいるけどなぁ。

 しかし薫の腕はしっかり絡み付いてロックしており、離されまいと身体をぴったり密着させてホールドしている。

 もちろんどうにかできないことはなかったが、女子高生のやわらかさは無碍にしてしまうには魅力的過ぎた。

 どうせ逆らえないのだったら、ここでぐずぐずしているより、どこに行く気なのか知らないが、従ってしまった方が危険は少なくて済むだろう。

 さいわいというべきか、その辺りは心得ているようで、生徒に出くわさないよう薫も足早だった。

「って、待て待て。まずいんじゃないか?」

「だいじょうぶ」

 躊躇する蓮実に構うことなく、薫は図書室に駆け込む。

 セーフ。

 テスト前だと利用している生徒もけっこう多いが、創設際間近の浮かれている時期に、わざわざ来ようという熱心な生徒は然程多くない。

 そういえば保健室の養護教諭もそうだった。

 どうやらここ輝日東高校では、あまり職務意識は浸透してないみたいだ。

 座っているだけの退屈な仕事なのはわかるが、係りの生徒は持ち場を放棄していなくなってる。

 ただ今回に限ってはそれを責める気にはならない。

 おかげで部屋は無人だ。

「図書委員の貸し出し係の当番、うちのクラスの子なんだけど、わたしがやってあげるって言ってあるから」

「ああ。それでか」

「……うん」

 ヘマはしないと電話で威勢よく宣言した割には、教師という蓮実の立場を考慮せずに、やたら思い切りよく部屋に突入したわけだ。

 鍵を掛ける音が、ひどく鼓膜を震わせる。

 恋慕を告白した相手を、強引に連れ込んで二人きり。

 このような過激な行動に出た薫の心理状態は容易に察しは付くが、とはいえ妙に直裁というかストレートで大胆な気がする。

「どうした?」

 それには答えず薫はぐいぐい無言のまま、書棚の奥へ奥へと蓮実の背中を押していく。

 静かな図書室でも、そこはまた別世界だった。

 侵食するみたいに差し込んでくる西日の赤い色は、最奥をひっそりゆっくり淫靡な雰囲気で包み込んでいた。

 男として期待せざるを得ない。

「――ハスミンっ!!」

 蓮実の邪な思惑を裏切ることなく、むしゃぶりつくように胸に飛び込んできた。

 書棚を背にして女子高生のやわらかな、そして心地よい重みが信頼とともに預けられる。

 堰を切ったように、いきなり泣き始めた。

「おいおい」

 違うらしい。

 今朝の詞との密会発覚騒動に嫉妬して、無人の図書室に連れ込まれたのかと思ったが、どうやら理由はそれだけではないようだった。

 とりあえず慰謝を求めている薫の心のケアと、どうしてそうなったのかの事情聴取が必要だろう。

 特に二番目は即座に取り掛かりたいところだったが、ひとまず我慢して蓮実は薫が泣きやむのを根気よく待った。

 こうなった女と子供を急かしても碌なことがない。

 ワイシャツの胸に顔を埋めて嗚咽し、涙で濡らす教え子の少女の背中を、何も言わず寝かしつけるみたいに優しく叩いてやる。

 しっかしまいったなぁ。こりゃ服を替える必要があるか? でも今日はこのまま家に帰るだけだしなぁ。

 などとぼんやり考えている間に、どうやら気が済んでくれたみたいだ。

「ほら。もうい――」

「わたし昼休みに絢辻さんを、生徒会室に呼び出して……」

 蓮実の言葉を遮って、薫がしゃべりだす。

 トーンが低い。

 声には顕著なストレスがあった。

 怯えてる。

 詞から感じたものに、それは酷似していた。

「ハスミンのこと問い詰めたら初めは、誤魔化そうとしてたんだけど……」

 なるほどそれでか。

 震えてるのに合点がいった。

 けっきょく例の、DVDを観たらしい。

 まったく困ったものだ。

 女同士だとしばしば、とんでもないことまで打ち明けてしまうものだが、あれで詞も意外に口が軽いというか心が脆い。

 まあいくら信頼していても異性の蓮実とだけでなく、やはり同性の薫とも共有したい類の悩みではあるだろうが。

 何だか登場人物というか関係者が、地味に多くなってきた。

 ウェルテル効果。

 俗に言われる岡田有紀子現象。

 四人までなら説得力があるのは立証済みだった。

 すべての自殺現場を学校で統一できると、オカルトネタとしておもしろおかしく、マスコミが取り上げてくれて真相が有耶無耶になるのも。

 まず純一。

 惜しくはあるがはるか。

 詞に薫もそう。

 ケース・バイ・ケースではあるが、紗江と逢も候補になるかもしれない。

 しかしそこまでやってしまうのなら、もっと大胆に盛大にやってしまった方がいいのかも。

「う~ん」

「ハスミン?」

「……いや、なんでもないよ」

 とはいえそうなったらネックになるのは、そうするためのツールの確保であろう。

 これが日本ではなく、アメリカだったら難しくないのだが。

 たとえ純一の趣味がクレー射撃だったとしても、散弾銃の所持には許可が要るのでさすがに不自然過ぎる。

 残念だ。

 創設祭で乱射というのはとても画になるが、このプランはあまりにも無理があるので諦めるしかない。

 ではどうするか。

 刃物。

 梅原は剣道部で実家は寿司屋。

 有段者の腕前と凶器となる柳刃包丁には、リアリティとインパクトが兼ね備わっている。

 こう考えると体力面でも精神面でも、あんなこと本当に純一にできるのか? という疑問符を他人に抱かれそうだが、梅原であれば完遂しても然程

怪しまれず、蓮実は適任のような気がしてきた。

 残る課題は至るまでのストーリー。

 人生をリセットした十四歳のあの夜のような、自分の身を切るだけの覚悟、ではなく身を刺す覚悟が必要になるかもしれない。

「あれってやっぱり犯人は、じゅ――」

「それを言葉にしたら駄目だ。それを言葉にしたら嘘も本当になる」

「……うん」

 そんなわけはないが、そういう印象は本当に強く付く。

 あえて実名を伏せさせたことにより、クラスメイトへの犯人疑惑の真実味はかなり増したはずだ。

 男子生徒では一位の好感度にしてた詞もだが、中学から親しい付き合いをしてきた薫はさらに、受けたショックに生々しさがあるのかもしれない。

 これまで何の警戒もすることなく、ずっと自分の近くに自然といた男友達。

 すぐ隣りのレイプ魔。

「ハ、ハスミン……、わたし……こ、怖いの……、怖くて怖くて……もうしょうがないの……」

 そう言って蓮実を見上げる教え子の瞳の奥には、女としての本能の恐怖だけではなく、女としての本能の媚でうるうる潤んでもいた。

 艶々した唇。

 ほんのり桜色に染まっている目もとが、妖しく蟲惑的で妙に色っぽい。

 くすぐる熱い吐息は、牡が狂うのに充分であろう。

 無造作で自然で冷静な動きだった。

 重なった。

 蓮実にはこれ以上ないくらい完璧に、思わずしてしまったを表現できた自信がある。

「すまん……」

 教師にあるまじき行為。

 禁忌に触れたことへの背徳を、プラスして表現するのも忘れない。

 薫の反応はどうか。

「……良かった」

「うん?」

「ハスミンにファースト・キスをあげられて」

 そっと胸に添えられていた教え子の手が、締めようとするみたいに首筋に伸びてくる。

「わたしね……ホントに怖かったんだ。ハスミンに初めてを、あげられなかったらどうしようって。他の人に奪われちゃったらどうしようって……」

 緊張で冷たくなっている指先は、頚動脈を圧迫するようなことはなく、延髄の後ろでしっかりクロスされてしがみついてきた。

 爪先立ちなのが、堪らなく可愛い。

 蓮実はいつの間にか腰に回した手で支えてやりながら、隙間なくぴったり密着するよう薫を力強く引き寄せる。

 若々しく瑞々しい乳房が、胸板でぐにゃりと歪み潰れた。

 一瞬だけ身体をびくんっと強張らせたものの、けっして拒んだりするようなことはなく、緊張を解すためかすりすり頬を擦り付けてくる。

 短いプリーツ・スカートを纏いつかせた下腹部に、勃起しかかっている牡器官が触れても逃げない。

 劣情まじりの血液が急速に流れ込んでいき、どくどくと脈打ちながら体積を増していった。

「俺だって怖かったよ。薫があんなふうに、もし誰かに奪われたらって考えたら」

 そんなヘマはしないが。

「だったら……、ハスミン」

「教師だとか生徒だとか、年の差だとか、もうどうでもいいって、あのDVDを観て思い知らされたよ」

 ちなみに今は据え膳食わぬは男の、という都合のいい諺を思い出してる。

 いや、飛んで火に入るの方が、しっくりくるかもしれない。

 とにかく、

「うう……ん」

 蓮実と薫の唇は、二度目の接触をした。

 このまま唇だけでなく、色んなものを奪ってやろう。

 朝、邪魔をされた鬱憤を晴らそうと、歯を押し割って舌を口内に侵入させた。

「んンッ!?」

 唇に続いて舌も初めての接触を果たした少女は、電流に打たれたように全身をびくりと震わせる。

 痙攣しているそのさまは、感電するカラスの断末魔を連想させた。

 薫は驚きに双眸を見開いている。

 顔を傾けてさらに深く深く潜り込ませながら、初めてに怯える舌を絡め捕り翻弄した。

「あンッ!? ま、んッ!! ハス、ハスミ、ンっ、ま、ハス、んぅッ!!」

 喉奥から呻き声が漏れていたが気にせずに、歯茎から口蓋と舌の触れられるポイントすべてに触れて、牡の欲望のまま初心な牝の口内を蹂躙する。

 ひとつ残らず所有物。

 豊富に湧きだしてくる少女のトロリとした唾液まで啜って、そのハチミツのような甘さを堪能しつつ呼吸の合間に飲み下した。

「………ン………ぅ、んふぁッ……うふぅッ……、ううッ……むぅ……んッ……んぅッ……ぐぅッ……、ふ……くんッ……んッ……」

 舌を千切れそうなほど強く吸いつつ、あやすように背中を撫でていた指先を、ゆっくり下降させて尻に這わせる。

 曲線をトレースでもするみたいに手を動かすと、尻たぶがきゅっと引き締まるのがわかって可愛い。

 それは収穫したばかりの、まだ青い果実のようだった。

 桃の薄皮を剥くかのように、慎重にスカートの中へ手を侵入させ、布地越しのぬくもりをしばし堪能する。

「ちょちょ、え、あ、ハ、ハスミン!?」

 ディープなキスで酔っ払ったみたいにうっとりしていた薫だったが、尻をまさぐられた驚きと羞恥で覚醒したようだった。

「ごめん。こんなことするのは、やっぱり嫌だったか?」

「そ、そんなこと、な、ないけど、さ」

「嫌だったなら嫌だって、無理せず言ってくれよ」

「……う、うん」

 おそらくではなくほぼ確実に、もう薫の想定していた初めてのラインを、蓮実は余裕で越えてしまっているのだろう。

 だが恋愛初心者の女子高生では、嫌だとは言い出しにくいよう、優しいふりをしてさり気なくブロックした。

 これで蓮実の不埒な行為を、言質を取られた薫は、簡単に掣肘することはできない。

 やりたい放題だ。

 ショーツのウエストに指を引っ掛けると、ワンタッチで桃尻を外気に曝し露にしてしまう。

 短くない時間、スカートを捲った手を止め視姦して愉しんだ。

 ふるふるしている様が、小動物チックで可愛い。

 当然。

 シミひとつないなどというのは、若さと瑞々しさが売りの女子高生にとって、褒め言葉ではないのだろうが綺麗に真っ白だった。

 ベースとなる白がしっかりしているからこそ、夕焼けと羞恥のコラボレーションで染められた赤がよく映える。

 首のロックを解いて軽く押した。

 太腿に中途半端に脱がされたショーツを絡みつかせたまま、よろよろと薫は後ずさりながら力なく書棚にもたれかかる。

 はしたない。

 電車内などでよく見る女子高生のあるあるネタだが、こういう慎みのなさはいただけない。

 ライムグリーン。

 伸びたショーツが妙にいやらしかった。

 意図したわけではないのだろうが、ゆるくだらしなく太腿は開かれている。

 甘い匂いに誘われるように、祈りを捧げるように蓮実は跪いていた。

 ヘソよりも下にあるキスしたい部位、香りの発生源をじっと凝視する。

 適度なところで上目遣い。

 二人の視線と視線が、正面からぶつかり合う。

 しばらくすると教え子の少女は、そこにある欲望の強さに気圧されて目を逸らした。

 そのまま古いパソコンみたいに、フリーズしてしまう。

「薫……」

 だがそうやって名前を読んだだけで、ぴくりと再起動を果たし、そろそろとそろそろと蓮実に視線を戻した。

 勇気づけるように頷いてやる。

 ……ハァ~。

 少女は腹を決めたような、芳しくも長いため息をしてから、震える手でスカートの裾を掴んでいた。

 羞恥からくる迷いを断ち切るためなのか、気合を入れて「えいやっ」とばかりに、勢いをつけて腰の高さまで一気に潔く捲り上げてしまう。

 そうでもしないとおそらくこのような、ふしだらで破廉恥な行いを花も恥らう女子高生で、ヴァージンの薫にはきっとできやしない。

 十七年間大切に守ってきた初めてが、またひとつ蓮実の手により奪われる。

 まだ誰にも踏み荒らされていないシンプルなスリット。

 肌が透けて見えるほど薄い繊毛に彩られた秘裂が、思春期を迎えてから初めて、欲望を湛えた異性の視線に曝されていた。

 蓮実の熱すぎる吐息がかかり、薫の身体がひくんと震える。

「ハスミン」

「なに?」

「そ、そんなに、じっと、み、見ないでよ」

「無茶言わないでくれ」

 これぞ苦笑い。

 不可能なことを言う教え子のアソコに、蓮実はゆっくり顔を近づけてそっとキスをした。

「あ、やンッ!?」

 過敏なくらいに敏感な部位に口づけされて、スカートの裾を頭にすっぽり被せるように前屈みになる。

 真一文字に刻まれたクレヴァス。

 微かにピンク色を覗かせる美麗で可憐な花唇は、ここに男を迎えられるとはとても思えないほど、拒絶するみたいにぴったり閉じ合わされていた。

 愛しさと嗜虐欲という、本来なら相反するはずの感情が入り混じる。

 蓮実は唾液を滴らせた舌を伸ばして授業のように熱心に、わかるまで教え子の花唇を丁寧に執拗に舐めはじめた。

 裂け目の上端から下端まで。

 舌が閃くたび身体をびくんびくんと震わせる薫の、穢れのない媚肉に唾液を塗り込むみたいに、何度も何度もしつこいほど根気よく往復させる。

「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……うぁッ!!」

 いったいどれくらいの時間、そうしていただろうか。

 愉しい時間を計るのは、いつだって難しい。

 けれどそうやって愉しいんだという気持ちで接していれば、愛撫と拷問の区別もつかない処女であっても必ず応えてくれる。

 ラヴィアを舐り。

 膣穴を引っかき。

 尿道を突っつく。

 粘膜が少しずつ確実に潤んできた。

 それがどんなことであっても、目に見える評価というのはやる気に繋がる。

「……くぅんッ……んンッ………ん………、んぅッ……はぁ……んぁッ……、ふぅ……ぅあッ……は……ぅああッ!!」

 抑えようとしても抑えられない喘ぎを紡ぐ教え子の声に、女の悦びをレクチャーする蓮実の舌も激しさを増していった。

 口の周りはもう透明な粘液でベトベトになっていたが、気にもせず夢中になって舌を蠢かせる。

 支えていなければ尻餅を突いて、座り込んでいたかもしれない。

 膝はガクガクしっ放しだった。

 十本の指を食い込ませた処女の滑らかな生尻は、もとから小ぶりなのに緊張でさらに引き締められている。

「ひッ!? ひッ……ひッ……あッ……あふぁッ!!」

 包皮にくるまれた陰核を指も使わず器用につるりと剥いて、露わにされたうぶな快楽器官に吸い付いた。

 強過ぎる刺激が痛みに変換されないよう、軽いタッチを心がけてはいるものの、唇の粘膜に充血した真珠が揉み込まれるたびに、高圧電流に打たれ

て断末魔を迎えるカラスみたいに、全身を戦慄かせて痙攣させている。

「だめッ!! あ……だ、め、ハスミン、そ、そんな、とこっ……、こ、怖いの、んあぁッ!!」

 淫声を抑えられない。

 後頭部をぶつけるほど首を仰け反らせ、上履きの中で爪先をぎゅっと折り曲げて、薫は牡を挑発するみたいに腰を躍動させている。

 スカートの中で無心に吸い上げる蓮実は、目の前の牝を味わい尽くそうと、薄闇に包まれながら爛々と目を輝かせていた。

 じゅるる~ッ!!

 マナーを咎められるくらいの、恥ずかしく卑猥な音を大きく響かせ、刻々と粘度の増していく愛液を啜る。

 蓮実は舌はほんの僅かな傷口から、内部に潜り込もうとする軟体動物のように、本能のまま貪欲にくねらせて柔らかい処女肉を抉った。

 おそらくではなく、絶対に超えている。

 蓮実には拙い自慰行為では得られない快楽を、愛しい教え子に与えている自信があった。

 股間に突っ込んだ鼻面に、ぐいぐい恥丘が押し付けられる。

 どちらかというと勉強の苦手な薫が、自分から積極的に授業に参加しようとしているのが証拠だ。

 そうなれば教鞭を振るう蓮実にも熱が入り、さらに舌を粘膜の狭間の奥に深くねじ込んで、温かいハチミツみたいにトロトロの内部を掻き回す。

「……そこ、んンッ……くぅううッ……そんなと……はぁ……だ……ッ……、め……ハ……うくッ……、ふぅ……ううッ……ああッ!!」

 味蕾に粒々が感じられた。

 そのポイントに集中的なピストンを繰り返すと、薫の腰は面白いほどびくんびくんと跳ねる。

 処女肉が未知の感覚に翻弄され昂ぶっていくのを、蓮実はざらざらした舌ではっきりと捉えていた。

 この分であれば追試することなく、イカせることができるかもしれない。

 拙い自習では得られない快楽を、教師としてここで与えてやろうと、蓮実はより気合を入れて舌を粘膜に沈ませる。

 心地よい抵抗を押し分けて、ぬめらかな粘膜を存分に蹂躙した。

「アヒィィイイッ!?」

 高々と叫ばれる淫らなエクスタシー。

 鼻腔をくすぐっている甘酸っぱい匂いが、激しい締め付けとともにひと際強くなる。

 薫はまるで窒息でもさせようとするみたいに、抱え込んだ蓮実の頭を秘裂に密着させて、静かなはずの図書室に艶やかなよがり啼きを響かせた。

 初心な欲望が弾ける。

 潮を噴いていた。

 避けようもない距離だが、そもそも避ける気もない。

 受け止める。

 マラソンランナー並みの速度をキープして、毎朝日課のように走っているので、ちょっとやそっとで息切れすることはない。

 密閉されたスカートの中であっても、簡単には乱れないだけの鍛え方をしている自信がある。

 蓮実は顔面に教え子の迸る愛液を浴びながら、酸素不足だけでは説明できない理由でくらくらしていた。

「…ッ……ぁんッ……あ、あ、ああ……ぁっ、あ……ん……、あ……ッ……ぁ、ああ……」

 尾を引くように快楽の余韻に浸りつつ、ガクンッと膝の折れてしまった薫を、優しく座らせてやってから口元を拭う。

 いつもであればこのあとの流れは、怒張したものに奉仕させてからだが、最初の授業の課題としては、ハードルが高いので今回は免除だ。

 スラックスのジッパーを下ろす。

 血液が収束し布地を突き破りそうなほど勃起した牡器官を、トランクスの前開きからおもむろに取り出した。

 解放された勃起は己の硬さを、誇示するようにそそり立っている。

 凶悪な形状になっていた。

 グロテスク。

 太い血管を這わせた赤黒いモノを表現するには、それしかないような禍々しいフォルムをしていた。

 初めて目にする処女であるなら、本能的に恐れて当然の危険な代物である。

 チッ。

 しかし蓮実は見上げたまま静止している薫に満足しつつ、同時に気づけなかった自分の迂闊さに心中で舌打ちしていた。

 輝日東高校があまりに平和すぎて、どこか感覚がボケているというか鈍っているのかもしれない。

 前任校では部屋に入った瞬間、怪しいのが野生の勘らしきものでわかったものだが。

 とはいえショック状態の処女みたいに、感覚がフリーズしているわけではない。

 これまでじっと息を潜めていたようだが、不意に襲ってきた衝撃に、身じろぎし音を立ててしまったみたいだ。

 サスペンス映画であれば主人公はまったく音を立てずに、やり過ごすこともできるだろうが、フィクションではなく現実でならこんなものだろう。

 目線を動かさず、誰なのかを確認した。

 やっぱり兄妹だな。

 ヘンなところで似ていて、何だか妙に可笑しかった。

 座り込んだままローアングルで牡器官を見上げている薫の、ふらふら人形みたいに意思と力のない身体を持ち上げ立たせる。

 膝の裏に手を入れて、左脚を高く掲げさせた。

 犬が小便するときのポーズ。

 もっとも牝はしないのだろうが。

 ぱっくり開いてぬめる桃色の粘膜を曝された淫らで可憐な花弁に、鈴口から溢れさせた先走りでぬめっている勃起をぴたり宛がう。

「奪うよ」

「……ハスミン」

「薫の初めて」

 教え子は答えの代わりに、瞳を潤ませて首にしがみついてきた。

 なので近すぎて見えなかっただろう。

 二列向こうの本と本の隙間から、固唾を呑んで熱心に覗いている教え子にも、邪悪な笑みは角度的に見咎められることはない。

 少しだけ亀頭を、濡れた媚肉にめり込ませる。

 だがすぐに壁にぶつかった。

 乙女の証である膜が行く手を阻んでいる。

 大切に守ってきた純潔を捧げる決意と怯えで、痛いくらいの力で抱きついてくる薫に、微塵の躊躇いもなく欲望の塊で抉るように挿し貫いた。

 悦びを揺り起こす拷問具を、根元まで一気に埋め込む。

「ぐ、ぅううッ!?」

 ならばお返しというわけではないだろうが、激痛に耐える教え子の爪が蓮実の背中に食い込んだ。

 悲鳴は上げない。

 健気だ。

 喉の奥で殺している。

 そんな教え子にさらに愛おしさが募り、舌で感じたものよりも熱くてキツい締め付けに、容赦も遠慮もなくゆっくり腰を動かし始めた。

 愛液とは微妙に異なる粘つきは、へばりつく処女膜の残滓と清らかな血であろう。

 踏み荒らしている征服感があった。

 子供っぽいとは自分でも蓮実は自覚していたが、それで腰の動きが止まるようなことはない。

 教え子の痛みに共感するようなこともない。

 温かなぬかるみにぐっぷりと呑み込まれていた勃起が、カリ首のところまで力ずくで引きずり出され、再び根元まで一気に無理やり押し込まれる。

「うッ!! ……、うぅうッ!! …………んぐぅッ!?」

 その先端は女体のいちばん深いところにまで届き、もっとも神聖であるべき場所を貪欲なまでに穢していた。

 じゅむッ……じゅむッ……じゅむッ……。

 勃起のサイズを思い知らせるように、蓮実は大きく腰を振っていたが、しばらくすると小刻みなものに変化させる。

 何でもそうだ。

 単調なリズムでは飽きる。

 膣口から少し中に入った辺りで、軽いジャブのように連続して、畳み掛けるように叩き込んでいく。

「……あ……んぁッ……ふぁッ……くぅんッ……んンッ……ん……んぅッ……、はぁ……んぁッ……、ふぅ……ぅあッ……は……ぅああッ!!」

 上々だ。

 薫の反応もいい。

 嬌声やよがり声というには遠いが、喉を震わせ訴えているのは痛みだけではなかった。

 これが若さというものなのか、愛の成せる業なのか、早くも順応してきている。

「はひッ!?」

 もともと始めからまったくしてないが、これならもう容赦も遠慮もする必要はないだろう。

 ジャブで様子を見る必要はない。

 というよりこのままでは蓮実が、我慢も満足もできそうにない。

 鍛えられ引き締まった足腰から力強い抽送が、膜を裂かれ破かれたばかりの処女粘膜に、牡の欲望のまま立て続けに繰り出される。

 薫の分泌するおびただしい愛液に濡れた勃起は、オイルサーディンのように卑猥にぬらついていた。

「……やっ……ンッ……やはぁッ……、あ……んぅッ……あ、ンぁッ……はぁ……んぁッ……、はふぁ……ぅあッ……は……んぅッ!!」

 肉の凶器で子宮口を強烈に突かれるたび、ただ甲高いだけの声が徐々に喘ぎ声として完成されていくのがわかる。

 どんなことでもやはり、好きなこととなると呑み込みが早いようだった。

 教え子の目に見える変化、耳に聞こえる変化に、教鞭を振るう蓮実にもいっそう気合が入った。

「あふぁッ!!」

 ともすれば薫はより深い挿入を求めて、腰が淫らにくねろうとしているようで、それが自分でもわかり恥じているのか堪えようとしている。

 しかしこちらを立てればあちらが立たずで、情熱的にくねる腰の動きを制御しようとすると、今度は扇情的に溢れる声が留まるところをしらない。

 だが教師としては、ひと言申しておくべきだろう。

「こらこら。女の子がそんな慎みのないことでどうする?」

「だ、だって、んンッ、ハ、ハスミンが、あッ、ハス、ミンが、あッ、あッ、あッ、ハ、ハスミンが、あぁぁああッ!!」

「そうやって人のせいにしてちゃ、進歩もしなけりゃ成長はないぞ」

「ひゃぅッ!? ご、ごめんなさいッ、あ、ひッ!? ……あッ……ぁんッ……、ごめんなさいッ……ひッ……あッ……あふぁッ!」

 マッチポンプの悪循環に陥ってしまった薫は、己で油を注いだ結果になってしまい、さらなる羞恥の炎に灼かれて身悶えしていた。

 そして冷静なようでいながらも、そして羞恥からではないものの、悶えているのは蓮実とて同じである。

 忙しなく出し入れされる肉茎の表皮は、膣内粘膜と強く擦れあうことで、欲望を凝縮するみたいに血の色を濃くさせていた。

 童貞じゃあるまいし。

 蓮実は俺もまだまだ若いなと、自分で自分を笑いそうになってしまう。

 気づけばケモノのように腰を動かし、射精に向けて遮二無二なって疾走していた。

 抽送のリズムが狂ったようになっている。

 何かが迫っているのを牝の本能で感じたのか、早く早くとせがむかのように薫の膣は収縮して、しっかり咥え込んでいる勃起をキツく締め上げた。

「薫は今日は、安全な日か?」

「ンあぁッ……はぅッ……んンッ……はぁ……んンッ、ひッ、あ…あぁんッ……ふぁッ、あッ……んぅッ!!」

 耳朶を甘噛みしながら優しく囁く蓮実の問いかけに、薫はガクガクと頷いてはいるものの、本当に言っていることを理解しているかは怪しい。

 それでもとりあえず、言質は取った。

 たぶん平気だろう。

 バグから得た情報でお気に入りの生徒の周期は、おおよそではあるが掴んでおり合致していた。

 最後の一突きを叩き込んで、粘膜の奥に思いのまま精を放つ。

「あ? ――ぁぁぁうぁッああ!!」

 ドクッ・ドクッ・ドクンッ……。

 熱くぬめる柔らかな処女肉に取り巻かれた勃起は、スペルマを撃ち出すのに合わせて何度も何度もしゃくりあげていた。

 貪欲な秘裂はまるでそれを歓迎するように、脈打つシャフトを尚も強く締め上げている。

「は……はぁッ………ぁ、……んぅッ……はぁ……はぁ……」

 初体験で身体の最奥まで陵辱された薫は、快楽と羞恥の入り混じる陶酔した貌を曝し、夢うつつの甘い忘我の世界を彷徨っているようだった。

 ずるりと牡勃起を引き抜く。

 弛緩しぐったりしていた薫の身体が、カリ首に膣口の浅瀬を擦られ、可愛らしく敏感にぴくんっと反応した。

 ヴァージン・ホールに栓をしていた勃起が抜き取られたことで、粘膜の狭間の奥から注ぎ込まれたばかりの白濁液が、鮮やかな赤と一緒に逆流しな

がら、痙攣する内腿に生々しく艶やかな航跡を曳いている。

 本棚に寄りかかりながらずるずる、崩れるみたいに薫は尻餅を突いて座り込んだ。

 しどけなくだらしなく、両脚は開かれている。

 短い制服のスカートの裏地が、ねっとり粘つくもので汚れていた。

 ……まあもうこうなったら仕方ない。ジャージーで帰ってもらうしかないな。

 娘は疑っているようだが、恋愛に夢中になっている母親は今日、どうやら仕事で帰りが遅くなるらしい。

 補修決定だ。

 怖いほど逞しい牡勃起は硬度を失うことなく、瀕死の獲物に牙を突き立てようと見下ろしている。

 やはり抑えがたい。

 最初の授業の課題ノルマとしては、ハードルが高いのでやめようかと思ったが、薫の処女が想像以上に美味だったのでテンションがあがっている。

 ここだと踏んだのだろうか。

 蓮実の耳はぱたぱたというゴム底の、上履き特有の足音を捉えていた。

 自分の受け持つ教室で見慣れた二人の女生徒が、まさに脱兎の如き勢いで駆け去っていく。

 ふとしたところで血は争えないというか、紗江の手を引いて躊躇いなく走る後姿は、兄の純一とどことなくだがよく似ていた。






[41992] アクガミ 十三話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/07/16 16:48





 喫茶店に入ってきたはるかは、すぐに蓮実に気づいたようだった。

 軽く会釈をすると、小走りに駆けてくる。

「コーヒーでいいかな」

 蓮実は注文をしながら、改めてはるかを観察した。

 大人っぽく洗練されたデザインの、ウエストで絞った裾の長いワンピース。

 いつもは制服しか見てない。

 普段着は新鮮だ。

 どうやら微笑もうとしたようだったが、わずかに口角が上がっただけで、顔色は優れずかなり憔悴している。

 これも日々の努力の賜物だ。

 わざわざ公衆電話から匿名の電話をかけて、ポンプ小屋を思い起こさせる卑猥な下ネタを、マメにコツコツ毎夜毎夜聞かせてきた甲斐がある。

 その際はこちらの声を隠すためにボイス・チェンジャーを使っただけでなく、バックグラウンド・ノイズとして、録音した美也や梅原の声を流して

いた。

 こういう細かい小技というかちょっとした芸が、リアリティを持たせ真実味を増させるのである。

 帰宅するときは響と一緒にするよう言ってあるし、校内でも蓮実が傍に居ないときは、三十メートル以内に近づくなと伝えてあった。

 その安心が不安になる瞬間の落差。

 ときには響と別れ一人になった夜道を付かず離れず、あからさまに尾けてみたりと、ストーキングに励んだ成果も見事に出ていた。

 自分で自分を褒めてやりたい。

 偶然とはいえ店のチョイスをミスったのを、ひとまず帳消しにするぐらいには。

 いくらなんでも急な欠勤による他店へのヘルプまでは、さすがに神様ではないので蓮実には予想のしようがない。

 運が悪かった。

「……お待たせしました」

 ウエイトレスが静かにコーヒーの入ったカップを置いた。

 ちらりとはるかを見る。

 憐憫があった。

 同性に対する同情がそこには確かにある。

「ごゆっくりどうぞ」

 はるかとはまた異なる意味で、口角は上がっているが笑ってない。

 ほんの一瞬だけどこか陰のある寂しそうな、悲しそうな表情をしてから、すぐにささっと逃げるように顔を背けて薫は去っていく。

 追いかけて抱きしめたくなる後姿をしていた。

「今の棚町さん、ですよね?」

「そうみたいだな」

「わたしたちを見て、なんだか怒ってるみたいでしたね」

 たぶん憤慨が正しいだろう。

 犯人への。

「ヘンな勘違いしてなきゃいいけど」

「え?」

「俺と森島が不適切な関係じゃないかって。女の子は恋愛に結びつけるの好きだから」

 冗談めかして答える。

 自分の立場がまさにそれなので、薫がそう考えるのはもっともなのだが。

 蓮実が女生徒に手を出せる男だというのを、ややガニ股になって帰ったあの日に、嬉しさと恥ずかしさとともに痛感しただろう。

 その夜の風呂は、心にも身体にも沁みたはずだ。

「……本当ならいいのに」

 忘れてしまった笑い方を思い出そうとでもするように、頑張って口角を上げていたはるかの顔から、不意に一切の表情が消えて能面のようになる。

 それに対して蓮実はあえて眉間にしわを寄せ、心から教え子を心配してそうな表情を作り応えた。

 純一とはるかが付き合っている。

 まだまだ怪しい噂レベルの信憑性ではあったものの、輝日東高校のほとんどの生徒の認識だ。

 どうやらそれも別れたらしいという噂に変化しているが、はるかにとってはそれすら苦痛でしかないのだろう。

 アナルレイプ。

 どうしたって思い出す。

 まあ人の噂も七十五日っていうからな。

 それだけ晒し者にされて、平然としていられる神経を、はるかが持っているかは別問題だが、それははるかの問題なので蓮実は気にしてない。

 共感しない。

「昨日の夜、電話で話したとおり、例のものは取り返したよ」

 頼まれてたことがとりあえず解決したので、その顛末について早いうちに説明しておきたい。

 学校ではし辛いことなので、できれば明日にでも、よかったら外で会えないかと、休みの日のアポイントメントを取り付けたのだ。

 多少強引な誘いではあったが、誰に聞かれるかわからない学校で、あまりしたくない話なのも事実である。

 いや、聞かれる聞かれないの部分を差し引いたとしても、忌まわしいポンプ小屋のある敷地内では触れたくない話だ。

 無残に傷つけられたはるかは快く、蓮実のデートの誘いを了承してくれた。

 計算外というかイレギュラーだったのは、こちらをちらちら窺っているウエイトレスの存在くらい。

「……どこに、あるんですか?」

「もう全て処分した。ネットとかも心配いらない」

「ネット? ああ、……そっか。そういうのも、あるんですもんね」

 脅迫といえばネットという発想が、即座に出てこないところからして疎いようだ。

 少女を縛る永遠の鎖。

 はるかほどのハーフ美少女であれば、いい意味でも悪い意味でも目立つ。

 流れてしまえば日本はもとより、イギリスに移り住んだとしても、好奇と蔑視の目から逃れられないだろう。

 しかし怖さは知ってくれているようなので、ぎりぎりを助けてやたんだと、強調したい蓮実の思いは通じたようで安心する。

 これまでしていた最悪に、さらに最悪を上書きしたのか、はるかは顔面蒼白になっていた。

「先生はビデオを、観たんですか?」

 眉宇に深い悲しみを滲ませて尋ねてくる。

「……すまない。中身を確認する必要があったからね。そこで偽物を掴まされるわけにはいかない。森島は観られたくはなかったろうけど、目を背け

るわけにはいかなかったんだ」

 蓮実はふと思った。

 この状況を事情を知らない第三者が見たら、果たしてどういうふうに映っているんだろうかと。

 相応しいしタイトルを付けるのなら、シンプルに破綻といったところか。

 別れ話を切り出したのは、蓮実に見えるかもしれない。

 ちょっと優越感がある。

「そうですか」

 はるかは終わったという顔をした。

 ミドルネームの如くラブリー。

 生徒を絶望から救ってやることほど、教師として喜びを感じることはない。

「だけど、もう忘れたよ。だってそんなものは最初から、どこにもなかったんだからな」

 実際には今もババ抜きのババみたいに詞の手にあり、さながら呪われたアイテムのように、気味悪がられながらも大事に保管されているのだが。

 蓮実ははるかを見て、安心させるように微笑む。

「そうだろう?」

「はい。……そうです、ね」

 もちろん心のわだかまりがこれだけで、すべてがきれいさっぱり解けるわけもない。

 しかし蓮実の言葉にはるかは、信じ頼るくせが付いていた。

 思考を丸投げすることが多くなっている。

 微かだが本物。

 ぎこちない笑顔をはるかは見せた。

「あ、そうだ。先生のアドバイス通りちゃんと、わたし言ってやりましたから」

「うん?」

「犯人がしつこく声をかけてきたから毅然と、わたしにはハスミン先生が付いてるんだからって、だから近寄らないでって言ってやりましたから」

「……そうか」

 嬉しい反面複雑である。

 せっかくの純一との蜜月とまではいかないまでも、良好な関係に陰が差してしまったかもしれない。

 目の前のはるかのように蓮実の言葉に疑いなく盲目的に、信じてくれるというわけにはいかなくなるだろう。

「迷惑、でしたか?」

 しかしこの場合デメリットよりも、やはりメリットの方が大きい。

 どちらかを切り捨てなければならないのなら、(仮)だが排除する予定の純一に決まっていた。

 それがなくとも毎年恒例の創設際イベント、ミスサンタ連覇中の可愛い女生徒と、可もなく不可もなくの平凡な男子生徒である。

 馬鹿馬鹿しい。

 評価というのはどうしても、相対的なものになる。

 躊躇うまでもなく天秤の秤は、学園の女王に断然傾いていた。

「迷惑だなんてそんなこと、あるはずがないだろ。どころか嬉しいくらいだ。どうやらちゃんと俺を頼ってくれたみたいで」

 蓮実の当然だと言わんばかりの答えに、はるかはほっとしたようで胸を撫で下ろす。

 安堵の大きさを表してるみたいだった。

 重たげにゆさりと揺れる。

「でもこれ以上、犯人を刺激しないようにな。こんなことを森島に言うことじゃないけど、たちば、あいつだって心の傷を負ってないわけじゃない。

 腹を割って男同士、真剣に話し合ったおかげで、それ相応の罰を受ける反省と覚悟をさせることができた。

 でもあれは森島を好きって気持ちが、歪な欲望になって暴走した結果だろ?

 ちょっとした切欠でまたいつ凶行に走るかは、本人にだってきっとわからないはずだ。

 俺に向かう分にはかまわないが、また森島にそれが向かったら、今度は俺が犯人に対して、理性的な行動ができなくなるだろうから……」

「先生……」

 はるかは激しい幸福感に包まれているみたいだった。

 ハスミンはこんなわたしをこんなにも、一生懸命になって心配してくれている。

 汚れてしまったわたしにも、すべてを知りながら変わらず優しい。

 最低でもこのぐらいは思っててくれると、純一からの株価を下げられた蓮実としては非常に助かる。

「さてとそれじゃもうこれで、つまらない話は終わりにしようか。森島は今日はこのあと、何か予定とかあったりする? ないんなら寂しい独り身の

俺と、良ければデートしてくれないか?」

 白い歯を見せながら爽やかに微笑みつつ、蓮実はさり気なくレシートを取って立ち上がった。

 蓮実には我ながら、完璧なスマイルができた自信がある。

 自画自賛が許されるレベルだ。

 断られる可能性を一ミリも考えることなく、相談という建前を取り払って、はるかに休日を捧げさせようとしていた。

「喜んで」

 花が咲いたよう。

 たぶん他の誰より蓮実は愉しめてる。

 散ったときの美しさもまざまざと目にしているので、そのキュートな笑顔はさらにチャーミングに映っていた。

「……ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」

 そして会計を済ます際にしたウエイトレスの、仲良さげな蓮実とはるかに向けての、複雑というか微妙な表情も可愛らしかった。

「ヤキモチ焼いてる?」

「バカ」

 店を出る間際にそう囁くと、薫は肘で蓮実の脇腹を小突く。

 けっこう威力があった。

 かなり痛い。

「ハスミン先生。これから、どこへ行くんですか?」

「ドライブで遠出っていうのはどう?」

「え、あの軽トラ、です、か?」

 例外はなかった。

 何かと重宝する便利な奴なんだがなぁ。

 深夜の住宅街で怪しまれず、灯油のポリタンクを運んだりとか。

 ほとほと蓮実お気に入りのハイゼットは、どこに行っても女子高生には不評らしい。

 はるかは退き笑いのような、薫に劣らない複雑で微妙な表情を作る。

「だいじょうぶ。今日はハイゼットじゃない」

 十分ほど歩いて駐車場に辿り着く。

「あれだよ」

 停めてある車を見て、はるかは唖然とした様子だった。

「これって?」

「俺がポルシェなんかに乗ってて、ちょっとびっくりしたろ?」

「え、あ、は、はい」

 社交辞令よりも、正直な驚きが勝ったようである。

 苦笑しながら蓮実は漆黒の、ポルシェ・ケイマンの助手席のドアを開けた。

 信じられないという顔で、はるかは乗り込む。

「さあ、行こう」

 駐車場を出ると蓮実は、シャツの袖をまくってハンドルを握ると、ポルシェを急発進させた。

 軽トラックとは比べものにならない加速性能で、身体がシートに深く押し付けられる。

「……この車、先生のですか?」

「残念だけど借り物だ」

「誰から?」

「パパからだよ」

「お父さんって? ハスミン先生の? お金持ちなんですか?」

 ちなみに森島家は、なかなかの資産家でお金持ち。

「いやいや。それこそ残念だけど、まさかだよ。違う違う。俺のじゃなくって知り合いのパパだ」

「知り合いの、パパ、ですか?」

「うん。知り合いのパパ」

 蓮実の父は内科の開業医で、ポルシェを所有しててもおかしくはなかったが、興味はもっぱら車ではなくオーディオに注がれていた。

 運転してたのはファミリータイプの車で、デートでイイカッコするのに、どう考えても活躍するような車ではない。

 ふと思ったがもしかしたら今、息子が実用性重視のハイゼットに乗っているのは、そういったところを受け継いだ結果だろうか?

 それはともかく中多家にしても、黒沢家にしても、出版社の社長と市議会議員なだけあって羽振りがいい。

 両家とも娘に甘かった。

 頭の回転も悪くないので、資本主義の世の中では何かを得たいと思ったら、代償を払わなければならないのも、すぐに理解してくれている。

 時間は有限なのも心得ており、交渉はスムーズに進んで、WinWinの良好な関係を築いていた。

 おかげで目に入れても痛くない娘の痴態が、メディアの目に触れることは避けられている。

 ついでに会社や所属する団体の機密情報、及び秘密にしておきたい趣味の情報も、この関係が壊れない限りは守られるだろう。

「パパ、ですか……」

 はるかの方はというといまいち理解、というか納得してないようだが、上機嫌なのは表情をいちいち観なくともわかった。

 その日は晴天のドライブ日和。

 高速道路に入ると蓮実は、たらたら走っている車を、ごぼう抜きにしていった。

 速いのはもちろんポルシェなので、道を譲られる特権も享受できる。

「Wow!!]

 盛んに歓声を上げて、はるかははしゃいでいる。

 海が見えてくるとさらに、テンションがヒートアップした。

 多少意識して高めにしていたのだろうが、そうする必要があったのは最初だけで、無邪気まではいかないがナチュラルな笑顔になっている。

 波打ち際での水遊びをするには、もうさすがに寒い季節になっていた。

 砂浜をのんびり散策する。

 いい雰囲気だ。

「あ、ワンチャン」

 この近くに住んでいるのだろう。

 髪も眉も真っ白だが、やたら血色の良さそうな老人が、雑種だろう犬を連れていた。

 はるかの声に気づいたのか、自己流っぽい変な体操をやめて、わざわざこちらに歩いてくる。

 どうも犬好きは犬好きを、引き寄せるらしい。

 これぞ好々爺の、にこやかな笑みを浮かべていた。

 飼い犬も尻尾を激しく振って、とてもフレンドリーである。

「可愛らしいワンチャンですね」

「ありがとう。可愛らしいお嬢さん。っと、こら。唸るんじゃない。すみませんね。他の人には、こういうことはないんだが……」

「いえ、慣れてますから」

 ただどうも蓮実は昔から犬とは相性が悪いようで、ご隠居の方はともかく、初対面なのにペットには敵愾心を燃やされていた。

 タマネギたっぷりのハンバーグを賄賂にでもしなければ、はるかのように気に入られるのは難しそうである。

 こいつ、オスだな。

 ハァハァ息を荒くさせながら、はるかの周りを盛んにぐるぐる回りつつ、隙あらばお尻の匂いを嗅ごうとしている。

 種は異なれ蓮実も牡として、その気持ちはわからなくもないが……。

「ワンチャンと一緒に、遊んでもいいですか?」

 嬉しそうにご隠居が頷く。

 まるで幼い少女に戻ったように、はるかはオス犬と戯れていた。

 すっかり明るさを取り戻している。

 ように見える。

「やっぱりわたしみたいな年寄りの爺さんより、若くて可愛い女の子が好きなんですかねぇ?」

「人間であろうが犬であろうが、男はどこまでも男ですから。ですがまだまだ年寄りの爺さんだなんて、仰るような御年にはとても見えませんよ?」

「はははは、蓮実さんは、お口が上手いですなぁ」

 蓮実は蓮実で思いのほかご隠居との、お互いの飼っているペット談義で盛り上がって、何だかんだで気づけばもう小一時間は経っていた。

 楽しい時間は過ぎるのが早いようで、あっという間に夕方になっている。

「またね、ワンチャン」

 ……クゥ~ン。

 犬は未練たらしく何度も何度もはるかを振り返りながら、ドナドナでも掛かりそうなしょんぼりした表情でご主人と去っていった。

 そしてそれを笑顔で見送っていたはるかも、蓮実の言葉でトレースするみたいに同じ表情になる。

「それじゃ俺たちも、そろそろ帰るとしようか。家まで送っていくよ」

 帰り道。

 車の中で黙って流れる景色に見入っていたのは、けっして遊び疲れたためだけではない。

 沈んでいく夕日に合わせるように、はるかの表情はどんどん暗くなっていく。

 あ、しまった。

 それを気づかぬふりで観察しているのが愉しくて、一度も行ったことがないはずの森島家の近く、目と鼻の先まで気づかぬうちに蓮実は来ていた。

 推理小説などで犯人がするミスである。

「ワンチャン、可愛かったですね」

 だがさいわいなことに、はるかはそれどころではないようだ。

 いつの間にかぽつぽつと降り出していた雨。

 フロントガラスを叩くのを、アンニュイな表情で眺めながら呟いた。

「そうだな」

 などと蓮実は適当に応じながら、はるかに名探偵の才能がなさそうでほっとする。

 あとになって思うところがあるかもしれないが、それはあとになってから考えても遅くはないだろう。

 今は今しかない今に傾注だ。

「夕日、綺麗でした」

「ああ。すごかったな」

 真っ赤な夕日が海の水面に映えて、鮮やかな血のように異様な美しさだった。

 前任校での最後の授業、あの夜を思い出す。

「雨が降ってるけど、家の前にまで車を着けたら、やっぱりまずいかなぁ? 教師が黒いポルシェで送ってきたのを見たら、ご両親びっくりするかも

しれないし」

 最悪の場合この天職ともいえる教師という立場を、失うことも蓮実は覚悟しなければならない。

 とはいえさすがに傘を貸すから、ここからは歩いて帰ってくれ、とは言わないし言えるわけもなかったが……。

 さてどうするか?

 ワイパーを作動させながら、どのように切り抜けるか考える。

「先生」

 そんなときはるかの声が、雨粒のようにぽつり落ちた。

 下唇を噛んでいる。

 目に涙を滲ませていた。

 蓮実はミラー越しにそれを確認して、愛おしさに心を高鳴らせる。

 その苦しみから救ってやりたい。

「……汚れてる。わたしは汚されちゃってる。先生のおかげでビデオはなくなったけど、あんなことされた記憶は一生消えたりしませんっ!!」

 だろうな。

 とは思ったもののもちろん、蓮実は口にしたりしない。

 あんなことをされてしまった少女、汚されてしまったはるかの慟哭をただ静かに見守る。

 なにわともあれ心のメモリーに、しっかり刻み込めたみたいで、感無量というか蓮実は誇らしい気持ちになっていた。

「ハスミン先生は……、観たんですよね? 知ってますよね? わたしが……、わたしがどんないやらしいことをされたのかっ!!」

 当たり前だ。

 むしろはるかより、いや、誰より熟知している。

「どうしても忘れられないんです。……言葉だけじゃ……ダメなんです……」

 これも劇的なイベントをこなした成果。

 テンポよくステップが踏める。

 何事も最初が肝心。

 こつこつ好感度を上げた甲斐もあり、無理やりに奪った身体を、今度はすすんで捧げさせることができそうだ。

「……先生……、お願いします。……忘れさせて……ください……」

 勢いを増す雨を見つめて、顔は前を向いたままだが、意を決したようにはるかはすっと瞼を閉じる。

 白い肌は熱病に罹ったみたいに紅潮して、若く瑞々しい唇は寒さに耐えるように震えていた。

「あんまり自暴自棄になっちゃいけない。どんなにつらい出来事だって、きっといつか癒えるときがくるはずだよ」

「先生に、先生に癒してほしいんです」

「あんなことがあったから、混乱してるだけだ。落ち着け。冷静になってみるんだ。それは本当に森島が望んでることなのか?」

「……望んでる……ことです」

 既視感のあるやり取りの応酬。

 結末はわかり切っていた。

 そんな予定調和の空虚なラリーをしばしくり返す。

「森島を癒すのは、俺じゃなきゃダメなのか?」

「ハスミン先生しか、この傷は癒せない」

 教師としてはたしなめるべきだが、もちろんすでに蓮実の中の牡はいつも通り、抑えようがないくらい高まっている。

 なので襲い掛かる絶好のタイミングを計った。

 促すため適当なところでラリーを切り上げ、困ったような顔でひたすら沈黙を続ける。

「先生……」

 蓮実の意図は即座に伝わってくれた。

 苦悩の表情は浮かべているものの、言葉を返してこなくなった蓮実に、深い衝撃を受けているらしいはるかは、その身体を小刻みに震わせている。

 降りしきる冷たい雨に、立ち尽くし濡れているみたいだった。

 段ボール箱の入れられて、捨てられた子犬を連想させる。

 イギリスはアブノーマルだけでなく、さすが動物愛護の本場だけはあった。

 くすぐるコツを心得てる。

 ここは拾って飼ってやるのが、間違いなく男としての正しい姿だと、蓮実は心中でほくそ笑んでいた。

「……馬鹿なこと言いました。忘れてください。今日はありがとうございました」

 クルか?

 革張りのハンドルを抱え込むみたいにして、蓮実は顔を伏せながらそのときに備えて身構える。

「ハスミン先生、さよならっ!!」

 別れの言葉を口にして、うるうる潤ませていた瞳から、頬を滴る涙を隠すように、はるかは雨の中に飛び出そうとした。

 はい、キャッチ。

 しかしそれに先んじて一瞬早く、蓮実は持ち前の反射神経で腕を掴む。

 力強く引き寄せた。

 驚きの声を上げる暇は与えず、柔らかなはるかの口唇を奪う。

「ンッ!?」

 刹那だけ身体を堅くした。

 するとそれを解してやるために蓮実は、はるかの肩を優しく抱いてやりながら、閉じ損ねた歯列の隙間に素早く舌を潜り込ませる。

 唇を重ねたまま僅かに顔を傾げつつ、伸ばした舌を奥へと挿し入れていく。

 舌は綺麗な歯並びを裏側から辿り、意外に敏感な上顎をくすぐりつつ、口の中で怯えた子猫みたいに縮こまっているはるかの舌に触れた。

 最初は反応を観るようにそっと。

 それではるかが抗わないのを確認するや、いよいよ本格的に蓮実は舌を絡ませてくる。

 滝のように降り注ぐ、雨のせいかもしれない。

 鼻だけで呼吸をしているのもあり、蓮実には車内を満たす女の匂いが、さっきよりもずっと濃厚に感じられた。

 舌と一緒に口の中に入ってきたはるかの唾液は、ワインみたいにほんのりと甘くて、天然の媚薬のように蓮実を激しく興奮させ蕩けさせていた。

 こちらイギリス産クォーターの十八年ものになります。

 ソムリエみたいにコメントしたい。

 緊張で強張っていた肩からもいつしか力が抜けて、はるかは完全に蓮実の施すキスの虜になっている。

「んン……」

 長く続いたアダルティな口づけ。

 ヴィジュアルと比べ幼い中身と経験しかなさそうなはるかの、息が苦しくなったみたいなのでようやく蓮実は唇を離した。

 はるかは糸の切れたマリオネットみたいに、ぐったりして蓮実の胸に柔らかな身体を預けている。

「わ、わたし……こんなの……は、初めて……です……」

 男殺しの天然女王。

 などという異名がはるかにはあるらしいのだが、こういう台詞をさらっと言ってしまう辺り、なるほどと大いに頷けてしまいわからなくない。

 一生に一度は男として、誰しも言われてみたい台詞だろう。

 感慨深い。

 ただそうした一方で蓮実は、

 そうだっけ?

 とも思っていた。

 ありがたいことに一生に何度も言われている蓮実は、失礼だがはるかとはもうポンプ小屋で、すでにキスを済ませたような気になっていた。

 謝罪しつつ蓮実は覆いかぶさるように、精悍な笑みを浮かべながらまたゆっくり顔を近づける。

 初めてを経験したばかりの唇を再び奪った。

 今度は唇と唇を触れ合わせるだけの、小鳥が啄ばむような軽いキス。

 遠くで、稲妻が光った。

 数秒して、雷が鳴る。

 やはり可愛い。

 小動物のようにはるかは目の前の体感と、これからの予感に身体を震わせた。

「知り合いのパパがえらく感謝してくれてね。娘の問題を解決してやったら、この車だけじゃなくマンションも貸してくれたんだ」

 社長業にしても代議士業にしても、教師の薄給と比べれば生活は優雅なものだった。

 蓮実を雇ったのだと考えれば、もちろん二人には内緒だが、分割されてるのもあってそんなに高くない。

 この程度の対価であれば、追い詰めすぎることはないだろう。

 娘と自身の醜聞を揉み消す飴を期待して、ときおりお願いする鞭の痛みにも耐えられる。

「これからそこに行って、今日はそのまま泊まろう」

 癒しを懇願し自分から誘いはしたものの、蓮実の予期せぬいきなりの提案に、さすがにはるかは驚いたようだった。

「朝までたっぷり癒したい」

「……Wow」

 いくら天然でも言っている意味が、このシチュエーションでわからないわけもない。

 エンジンキーを回す。

 シートを心地よく振動させる重低音。

 ここがはるかにとってのポイント・オブ・ノー・リターン、引き返し不能点だったかもしれない。

 森島家の前を通り過ぎる。

 漆黒のポルシェ・ケイマンのエンジン音はまるで、怪物がその腹に獲物を収めて嗤っているようだった。






[41992] アクガミ 十四話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/07/30 18:34




『準備はできたか?』

 何度読み返しても笑えてたのに、何度読み返してみても面白くない。

 三国志をモチーフにしたビーバーの、シュールな群像活劇は、純一の頭にはまったく響かない。

 ページはただ機械的に捲られているだけ……。

 純一はため息をついて、マンガ本をベッドに放り投げた。

 さっき夕飯を食べたばかりなので、低血糖に陥っていることはないはずだが、内容がどうしても脳に浸透してこない。

 わたしにはハスミンがついてるんだから。

 だからもう近寄らないでっ!!

 浮かぶのは、そのことばかりだった。

 蓮実教諭――、蓮実がついているというのは、いったいあれはどういう意味なんだ?

 恋が醒めたのかもしれない。

 あるいは我に返ったのかもしれないが、とにかくなぜ二人の間のことに、何の脈絡もなくいきなり、どうして蓮実の名前が割り込んでくる?

 何かとアドバイスは貰っていたが、もしかしたらはるかも、蓮実に相談していたのだろうか?

 しかしだとしても、あんな責めるような言葉を、鋭い目で睨みながら、吐き捨てるみたいに投げつけられたのがわからない。

 ああ、ダメだダメだ。

 忘れろ忘れろ。

 純一は問題から逃避しようと、必死になって頭を振り、改めてマンガ本に手を伸ばし集中しようとした。

 現実から逃げねば。

 するとそのタイミングで、ノックもせずに部屋のドアが開かれる

「もうにぃに、梨穂ちゃん帰っちゃったよ」

 両親はギックリ腰になった叔父を見舞うため、週末は家を留守にしており、純一は美也と二人だけで過ごす予定になっていた。

 兄はもちろん、妹も家事は不得意。

 なので必然として食生活が質素、どころではなくみすぼらしいもの、またはコンビニ・オン・パレードは覚悟していた。

 というよりもべつに、なんでもよかったのだ。

 食欲がない。

 その理由まではわからないし聞く気力も湧かないが、どうやら美也の方もあんまりなさそうである。

 そしてそんな状況をどこからか聞きつけたようで、おそらく兄か妹のどちらかがぽろり零したのであろうが、近所に住む幼馴染の梨穂子がわざわざ

出張デリバリーを、物好きなことに自分から買って出ていた。

 昔からそうだ。

 梨穂子はいつも気づかないふりをして気遣ってくれる。

 二年前のクリスマスにふられたときも、思い返してみればそうだったかもしれない。

 だがそれが鬱陶しい。

 見透かされているようで気に入らない。

 セコくてちっぽけなプライド。
 
 常に自分が梨穂子をリードしてると勘違いしている純一は、苛立ちが甘えからきていのに気づいてはいなかった。

「家まで送ってかなくてよかったの?」

「平気だろ」

 時刻はそろそろ九時になろうとしている。

 礼儀としても男としても、本来ならここは送っていくべきだった。

 火事になったらお互い様で、もらい火するような距離であったとしても。

「なわけないじゃん」

「……いいんだよ。ほっとけば」

 ずっとこんな感じである。

 小さな子供みたいに無意識のかまってオーラを出しつつ、素っ気無いを通り越して邪険な態度を取り続け、手早いが手の込んだメニューを黙々と口

に運び、どうにか重く気まずい空気を打開しなければと、梨穂子が不自然なくらい明るくしてても会話に参加しようとしない。

 ぞんざいに箸をつけてテキトーに食い散らかし、何も言わずさっさと部屋に引き篭もってしまう。

 自分が世界でいちばん不幸だという顔をして、純一はぐるぐるぐるぐるぐるぐる思考の海を彷徨っていた。

「ねぇ」

 だからもう終わりにして、早く部屋から出て行ってほしい。

 一人になりたいが独りは嫌。

 どこにも行かず家には居てもらいたいが、部屋には長居せずどこかに行ってほしい。

「なんだよ?」

 うるさそうにしてベッドに寝転がったままの純一に、美也は目線を合わせるようにぺたんっと床に座り込んだ。

 真剣な面持ちである。

 最近は微妙に仲がぎくしゃくしているものの、そこはやっぱり同じ血を分けた兄妹だった。

 ベッドからのっそり身体を起こして、純一は美也の話を聞く態勢を作る。

「ちょっとにぃに、相談したいことがあるんだけど、……いい?」

「相談? ……ああ、まあ、いい、けど」

 純一はマンガなどよりもよっぽど、生意気な妹の様子に興味がそそられた。

 美也のことなら生まれたときから知っているが、記憶のどこを探っても耳にしたことのない声のトーン。

「あのさ。にぃには……」

「うん」

 妹の声が不思議なくらい新鮮だった。

 憂い戸惑うドキッとする表情と、相談されたそのテーマを含めて。

「好きな人、いる?」

 何となく予期していた。

 しかしそれでも意外な質問に虚を衝かれ、答えるまでに一秒近くの時間を要してしまう。

 即座に思い浮かべた年上の女の子はいたものの、純一はそれをそのまま口にすることはできなかった。

「いないけど」

「そっか。でも今までに好きな人、いたことはあるでしょ?」

「……そりゃまあ、いたけど」

 いくらなんでも不自然。

 さすがにそこは事実を事実として言うしかない。

「いっつもその人のことばかり考えて、眠れない夜とかやっぱりあったりした?」

「たぶん」

 ではなくあった。

 確実に。

 もちろん過去の恋愛にもそれはあったし、どころか昨日もそれはあったし、おそらくきっと今日の夜もそれはあるのだろう。

 ずっと憧れていた年上の女の子、好きだった女の子を想って、そして信じていた頼れる教師、理想としていた男のことを考えて眠れない。

「そうなんだぁ。……ふ~ん。にぃににもあったんだ」

 とても嫌な予感がした。

 妹は絨毯を意味もなく撫でながら無意識に誇らしそうに、兄に自慢げに「わたしもあるよ」とアピールしている。

 もじもじしていて恥ずかしそうだ。

 でもそれ以上に嬉しそうだ。

 美也にそうさせているのが誰なのかを、純一は聞きたいような聞きたくないような、とにかく眠れなくなる理由が増えたのだけは間違いない。

「それで、ね」

 身内の評価というのは、良くも悪くも難しい。

 テレというか謙遜の部分もあるが、周囲とは大概ズレがあるものだ。

 だがやっと見解が一致したかもしれない。

 成長を心配してしまうちいさな胸は、不安でいっぱいになっているんだろう。

 泣きそうになっていた。

 ――可愛い。

 兄から見た妹としてではなく。

 親友の梅原が美少女と言っていたのを、認識を等しくして素直にすんなり受け入れられた。

 切なそうにしている妹はどうやら、疑う余地のない美少女らしい。

「もしにぃにの好きな人に好きな人がいたら、それでも好きを停められなかったら、……そのときにぃにだったらどうする?」

 好きな人に好きな人。

 美也が指しているのは、蓮実と七咲のことだろう。

 校舎裏でのキス。

 情景を鮮明に思い出せた。

 あの衝撃は簡単には忘れられない。

「諦めるしか……、ないんじゃないの?」

 ミーハーなアイドルのファンが、キャーキャー騒いでいるのと同程度。

 妹の蓮実への気持ちを、兄はそのくらいに考えていた。

「そんなのできっこないよっ!!」

 違かったらしい。

 じゃあ初めから人に訊くなよ。

 相談しておいてもうすでに、自分の中で答えが出てるという、ほとんどの女性が保有する理不尽スキルを発動させ、美也は激高しつつ立ち上がる。

 沸点が低い。

 低いにも程がある。

 どうやらそれだけ年頃になった妹は、デリケートでナイーブな状態になってるらしい。

 零れそうなほどぶわっと刹那で涙をチャージして、今にも噛み付いてきそうな目をしながら純一を睨んでいた。

 ほんの少し否定的な意見をほのめかしただけなのに、恋に熱狂している妹は烈火の如く怒っている。

「でも」

「でも、なに?」

「いや、だから、好きな人に、その、好きな人が、いるんだろ?」

「だから?」

「……それは、だから、さ」

 自信なさげでたどたどしい純一の歯切れの悪さがさらに、不安と悲しみを怒りに変換した美也の心の火に油を注いでいた。

 けっきょく兄と不毛な問答を何度か繰り返してから、

「もういいっ!!」

 妹は軋むほどドアを荒く開閉して、ヒステリックに部屋を出て行ってしまう。

 悔しそうに廊下をドンドン踏み鳴らしながら、隣りにある自分の部屋に引っ込んでしまった。

 いったいなんなんだよ。

 ぼくはおまえのために言ってるんだろ。

 おまえとおまえの友だちが、傷つかないために言ってるんだからな。

 釈然としない。

 そんな溜まったもやもやが臨界点になったときに、純一が逃げ込むセーフ・ハウスは決まっていた。

 風邪でもこじらせたみたいに、気だるそうに立ち上がると、押し入れをガラリと開ける。

 如何にも重そうに、のそりと入って閉めた。

 そのままごろんと寝転がる。

 目に映るのは満天の星空、というのはさすがにおこがましい。

 ただお手製にしてはなかなか高い完成度だと、このポツポツとした光点だけのプラネタリウムを、純一自身はけっこう悪くない出来と思っている。

 このチープさが癒しには遠くとも、酷くざらつきざわついてる感情に、幾分かの落ち着きを与えてくれる。

 ……はずだった。

 時間は限られている。

 考えてもすぐに解けない問題であれば、後回しにするのがテストの鉄則だ。

 しかし難題は山積しているものの、今は時間だけには余裕があり、ああでもないこうでもないと、無駄に頭を悩ませることができる。

 色々な考えが湧き上がるのにまかせていると、程よく薄暗いのもあって純一は、いつの間にかうとうとしていた。

 こんなときに見てしまうような夢は、どうせろくなものではないだろうと覚悟する。

 眠りに落ちる寸前、純一はそう思ったが、実際に見た夢は、想像したよりさらに酷いものだった。

 目の前で、ゆっくりと扉が開く。

 扉の向こうは真っ暗だった。

 人影が見える。

 闇の中に佇んでいるのは、男のシルエットだった。

 誰だろうと思って目を凝らすと、男が微笑を浮かべているのがわかる。

 なぜか、背筋が寒くなる。

 無意識に純一は後ずさろうとした。

 近づいてくる男が、何とも言えず恐ろしい。

 ひっ!?

 やがてその顔がはっきりと見えたとき、人のようで人ではない得体の知れない怪物に、純一は喉の奥で引き攣ったような悲鳴を上げていた。

 はっと目を開ける。

 それでも変わらぬ暗闇に一瞬身体が竦むが、人間に巧妙に擬態した怪物の姿は消えていた。

 深い安堵のため息を漏らす。

 寝汗が凄い。

 フルマラソンでもしたときみたいに、心臓が煩いほど激しく早鐘を打っていた。

 震えが治まるのを待つ。

 ハンド・メイドの星空の下でしばらくは、自分の息遣いと心音しか聞こえなかった。

 そうして身体が少しずつ静寂と平穏を取り戻していくと、殊更良くもなかったはずの耳が微かな、自分の発したものではない音を拾いはじめる。

「……ん……ゥ……」

 もちろん橘家の防音は完璧ではない。

 例えばテレビのボリュームなど、互いの生活音で喧嘩になるときもある。

 けれど部屋の壁はボロい安アパートみたいに、押し入れなのを差し引いてもそんなに薄くない。

 一定量を超えなければ、音が漏れ聞こえることはない。

「はッ、ぁ、ンゥ、んンッ」

 こんなクリアーには聴こえたことは今までない。

 視覚をセーブされたことによって、聴覚がアップしているという、そんな理屈では説得力に欠ける。

 幻聴を疑うべきだ。

「あンッ!?」

 隣りからの声は生々しすぎる。

 梅原と貸し借りするお宝ビデオがとても、お粗末なものに感じられた。

 やはり本物には敵わない。

 純一はゆっくり静かに、仰向けになっていた身体を起こした。

 橘家は中流よりも、ちょっと上のランキングだろう。

 豪邸ではないが、そこそこ良い家に住んでいる。

 するとこれは、奇跡のような欠陥だった。

 プラネタリウムを製作する過程で、それは見つかり広がり塞いだものである。

 穴。

 その存在を知っているのは純一だけ。

 音を立てないようにしながら、密かにした封印をまた密かに解く。

 同じ家で暮らしていれば注意していても、ハプニングはどうしても避けられないもので、風呂場やトイレなどで気まずい遭遇をすることはあった。

 だがそれがどんなケースであれ、慌てたことはあっても、それ以上の感情もそれ以下の感情もない。

 兄として当然。

 だから純一は自分がいったい何をしようとているのか、まったく理解することができなかった。

 落ち着いた心臓にまた激しい負担を掛けながら、手元は自分のものではないみたいに、クールに的確に作業を続けている。

 さして時間も掛からず、再び禁断の穴は現れた。

 偶然ではなく目的を持って。

 さっきまでのスムーズさが嘘だったみたいに、身体の動きは急に緩慢になり重くなったが、それは躊躇いというより言い訳のようだった。

 結局することは同じ。

 体勢が絶妙に苦しくなる位置にある『ノゾキ穴』に、好奇心だけでは説明不十分な感情に衝き動かされて、左目をつぶって壁に右目を押し当てた。

 純一の視界に正面を向いた姿勢で、ベッドに寝転がっている美也が映る。

 あッ!?

 声を上げそうになった。

 手で口元を覆う。

 仰向けになっている美也はゆるく足を開いて、湯上りのように肌を上気させていた。

「……んゥ……、ハッ……はふッ……」

 まだまだ未成熟な妹の肢体が、淫らにくねっている。

 パジャマのズボンとショーツは、一緒くたくにしてベッドの隅に脱ぎ捨てられて、何ひとつ遮るものはなく下半身は剥きだしになっていた。

 上半身も似たような有様で、パジャマは大きくはだけられ、手のひらサイズのふくらみは、蛍光灯の白々した光に曝されている。

 くちゅくちゅくちゅ……。

 十六歳になる高校一年生の妹の秘裂はつるりとした無毛で、ほとんどシンプルな一本のタテ線にすぎなかった。

 視覚のサポートによってよりクリアーになった聴覚が、卑猥でしかない粘着音をはっきり捉えている。

 まだ覚えたばかりなのかもしれない。

 透明なシロップの滲むスリットで、忙しなく蠢いている妹の指は、どこか初々しくぎこちないものだった。

 そうやって見てみると乳房、と呼ぶには他の部位より、皮下脂肪が少し厚い程度の、可憐なふくらみへの愛撫も拙い。

 愛撫というよりはむしろ、優しくマッサージでもしてるみたいである。

 強くすると痛みを感じるのか、揉み方も非常にソフトに思えた。

 どうやら気持ちの昂ぶりに、身体の成長が追いついてない。

 時折加減を間違えてしまうようで、美也は眉根を寄せて顔をしかめたりしている。

 だというのに淡い桜色をした乳首が、その身を一生懸命に尖らせているのは、いじらしく健気であり――堪らなくいやらしかった。

「んクッ!?」

 夢中になって摘んだりしごいたりしている。

 負けじとホールの入り口付近を弄くっていた指先も、大胆に内部の粘膜へ侵入させると、潤滑油を利用して小刻みなピストンを開始していた。

 肉色のぬかるみから可愛らしくも、激しさを増した粘着音が漏れてくる。

 そしてそれに妹の舌足らずな、切ない喘ぎが見事に重なっていた。

「あ……ふぁッ……あふ……」

 美也は身体の奥から込み上げる快感に、小ぶりなヒップが落ち着かなげにもじもじと動き、シーツのしわが複雑に乱暴に形を変えていく。

 狭い膣内では蓄えきれなくなった愛液が外にあふれ、すべらかな内腿を妙に妖しく濡らしていた。

 それだけでなくぬらぬらと会陰部を伝って、ヒップの谷間の方にまではしたなく垂れている。

 下手に純一に決断力が備わっていたなら、どんなときでも優柔不断でなければ、倫理観をねじ伏せていたかもしれない。

 隣りの部屋のドアをこじ開けて、愛する妹に襲い掛かっていただろう。

 ということはいくらなんでもないだろうが、絶対にないとは言い切れないだけの状態に兄はなっていた。

 こんなになったことはない。

 せめて義理だったら。

 血が繋がっているのを生まれてはじめて後悔した。

 想いの強さを体現するように、海綿体に劣情交じりの血液が大量に流れ込んでいる。

 感度の良すぎる牡器官は間違いなく人生で、いちばんの硬度と大きさになって力強く勃起していた。

 ちゅくちゅくちゅく……。

 激しく出し入れされる妹の指先。

 あの折れそうに細い指の代わりに、自分の分身を突き立てられたらと、ケダモノじみた欲求が危険なほどグングン高まっている。

 まさか禁忌を犯すわけにはいかない。

 純一の中では仕方がなくやむを得ない処置。

 パジャマ代わりのジャージーのズボンをパンツごと引き降ろし、病気みたいに健全に腫れた肉塊を露わにする。

 右手でシャフトを握った。

 いきなりのトップスピードで、狂ったみたいに上下に擦る。

 オナニーとしてここで昇華してしまわなければ、美也を悲しませ傷つけて、罪は生涯赦されることなく、憎悪され続けるのがわかっていたからだ。

 といったロジックを純一は脳の片隅で瞬時に構築すると、もっと即物的な本能の欲求を満たすために手の動きを加速させる。

 慣れたもので童貞をポイント・オブ・ノー・リターン、引き返し不能点に追い詰めるのはとてもお手軽で簡単だった。

 しかし当然なのかもしれない。

 エレクトした記憶を遠い過去のものにした老人でも、失った機能が蘇り快楽の階段を勢いよく駆け上がるだろう。

 み、美也!?

 まさか今この瞬間に、兄のノゾキが妹にバレているわけがない。

 それなのに美也は両足を踏ん張って、汗ばんだヒップをぶるぶるさせながら浮かせて、純一に見せつけるように股間を突き出した。

 ブリッジするみたいに肩と後頭部で体重を支え、愛液まみれの中指を根元近くまで埋没させる。

 純一のいまいち偏った知識だと、処女膜を破いてしまわないか心配になってしまうが、そこまでヤワではないようですんなり呑み込んでしまった。

 にちッ・ぬむッ・ちゅぷッ……。

「はッ……う……ンあッ……」

 キツそうな処女孔に短い間隔で出し入れされる指に合わせ、美也がヒップを目を血走らせ興奮した暴れ馬のように振り立てる。

 可憐なふくらみもきつく握られたことで歪に形を変え、淡いピンクの乳首をひしゃげさせている。

 勃起を擦る速度も止まるとことを知らなかった。

 イクときは一緒。

 言葉ほど容易ではない。

「あッ、あッ、ああ、あァ――ッ!!」

 壁一枚を隔てた別々の部屋で、兄妹のエクスタシーの叫びが、完璧なリンクを果たして精液と愛液をしぶかせた。

 仲良く揃って性の嵐に翻弄されていなければ、お互いの耳に届くのを阻止することはできなかったろう。

 密閉された空間に充満する濃厚な青臭さ。

 情けなさを煽る不快なスメルが暗闇の中を漂ってなければ、荒い息遣いでぐったりしている美也のようになっていたかもしれない。

 悦楽の余韻に身を任せていただろう。

「ハスミン……」

 これがアヘ顔ってやつか。

 妹がさらした表情と漏らした囁きを耳にしなければ。

 くそっ。

 純一は泣きそうになっていた。

 轢かれたカエルのようにだらしなく足を開いたまま、未練がましくひくついている媚肉に釘付けになりながら。






[41992] アクガミ 十五話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:8fa79941
Date: 2016/09/09 10:10




「うん。うん。……うん。今日は響の家に、お泊りしたことにしてほしいの。……うん。いきなりごめんね。ありがとう」

 はるかもその親友も、品行方正ないい子だ。

 大人からの信頼度は高い。

 アリバイはこれだけで十分だろう。

 ポルシェ・ケイマンはこじんまりとしたマンションの、地下駐車場に滑るようにして入った。

 客用駐車スペースに、ハイゼットが止めてあるのが、何とも場違いな感じではある。

 駐車場からエレベーターに乗って、降りると目の前はすぐドアだった。

 各部屋はワンフロアーを占有しており、他者との共用の部分はなく、プライバシー重視の造りになっている。

 ICチップ付きの鍵を差し込んでドアを開け、さっきから落ち着かない様子のはるかを招じ入れた。

「お邪魔しまーす」

 はるかは興味津々という顔で、マンションの中を見回してる。

 玄関は天然の大理石張りで、間接照明を受けて、ぴかぴかと輝いている。

 長い廊下を歩いてドアを開けると、そこは軽く四十畳はありそうなリビングだった。

「Wow!!」

 はるかは赤い革張りのソファに腰を下ろした。

 詰めれば十人は座れそうだ。

 床には風景画の柄のペルシャ絨毯が敷かれており、壁には65インチの液晶テレビが掛かっていて、その手前にはB&O社製の洗練されたデザイン

のオーディオセットが鎮座している。

「ハスミン先生の知り合いのパパさんって、よっぽどお金持ちなんですね」

「みたいだな」

「クリスマスにイギリスのお祖母ちゃんを呼んで、パーティーするホテルの部屋よりも凄いです」

 マンションの中を探検しながら、豪華な内装を見るたび、はるかはいちいち驚いていた。

 レストランの厨房のように銅色の鍋がいくつも掛けられたキッチンには、大型の業務用冷蔵庫とワインセラーが並んでいる。

「汗かいたろ。シャワーでも浴びておいで」

「えっ? あ、ああ、そ、そうですね」

 このシチュエーションでシャワーを浴びる意味に、はるかは顔を耳まで真っ赤にして慌てた様子だった。

「覗いたりしたら、……だ、ダメですよ」

 逃げるようにそそくさと、バスルームのある方に消えていく。

 蓮実はその初々しくて可愛らしい生徒の後姿を、微笑みながら見送るとワインセラーを物色する。

 どうせどれもこれも仲良くなったパパの奢りなので、ビンテージだろうワインを無造作に選んでコルクを開けた。

 一息に流し込んで喉を潤す。

 頃合になったところで蓮実は服を脱ぐと、静かにバスルームに侵入した。

 濡れた黒髪が張り付いて妙に色っぽい。

 うなじから尻の丸みを弾きながら滑り落ち滴っていく様は、健康なエロティシズムと生命力に満ちていた。

 白かった肌は湯を浴びて淡いピンクに染まり、初々しくて可愛らしい後姿には、ほんの少しの間に艶かしさが加味されている。

 気配を感じたのか、びっくりしてはるかは振り返った。

「先生!?」

 誘ったくせに。

 べつに熱心にチェックしているわけではないが、生徒とのコミュニケーションのネタとして、偶にはバラエティ番組を観ることだってある。

 押すなよが押せの、合図くらいは知っていた。

 それがなくとも『覗くな』と言われれば、当然のように覗くのが男というものだろう。

「一緒に浴びようか」

「は、恥ずかしい、です」

 露出する面積を僅かでも減らそうとして、腕を胸でクロスして後ろを向き、背後に立った蓮実をはるかは見ようとはしない。

 しかしたとえ刹那であっても網膜に、脳裏に灼きついたはずだ。

 逞しい牡器官はそそり勃っている。

 隠し切れない期待と興奮で、グロテスクに脈打っていた。

「背中を流してやるよ。生徒とのスキンシップは大事だからな。裸の付き合いってやつだ」

 はるかの手から浴用のスポンジを取ると、首筋から肩、背中の順で、緊張しされるがままの身体を優しく擦る。

「強すぎないか?」

「……はい」

 丹念に丁寧に少女からオンナになりつつある身体を、チェックでもするみたいにしながら泡塗れにした。

 程なくして蓮実の手が前に回っても、その手にスポンジがなくなっても、背中を流すという行為から逸脱してても拒もうとはしない。

 産毛すらなさそうなつるつるの腋の下から、目隠しでもするように左右同時だった。

 今がまさに旬の果実のような、瑞々しい乳房をねっとりと揉みあげる。

 蕩けそうなほど柔らかい。

 指が沈み込んいくような感触を愉しみながら、熱さと硬さを伝えるみたいに、びくんびくん小刻みに反応する勃起を押し付けた。

 教え子の張りのある大きなふくらみを、好き放題に蓮実は蹂躙し思うが侭心ゆくまで堪能する。

 薄く開かれた唇から漏れる吐息は甘く熱い。

 そして徐々に荒くなっていく。

 たっぷりした量感を鷲掴んでいる手のひらの下で、すでに乳首は突き刺すようにして、ぴんぴんに尖り硬くしこっていた。

 勃起した乳首を摘んだ指に力を入れる。

「ひぁッ!?」

 叱られた小さな子供みたいに竦んでいた身体が、怒鳴られるよりも大きくびくんっと跳ねた。

 思ってた以上の反応は、蓮実にとって嬉しい驚きだった。

「森島は敏感なんだな」

 困ったふりで愉しそうな含み笑い。

 すでに確認済みのことをわざわざ呟いて、はるかが快楽と羞恥に身悶えしている隙を突き、ガードの緩くなった太腿の間にするりと手を忍ばせる。

「あ、ダメ!?」

 本能に刻まれた牡の獣性を、煽る効果しかないか弱き制止の声。

 狩りというクリーチャーの特権を行使する悦びに、蓮実の浮かべている笑みはより深く獰猛なものになる。

 頭のサイズさえあれば十分な猫のように、易々と侵入を果たし伸ばした中指を、濡れた繊毛を纏った秘裂に浅く喰い込ませた。

「はンッ!?」

 甲高い悲鳴を上げて、白い喉をさらし仰け反る。

 艶やかな嬌声が止まらない。

 蓮実は指先にも目があるような正確さで、ぷっくりと膨れた陰核を探り当てた。

 マウスをクリックするみたいにして、チョンチョンと刺激を繰り返す。

「うッ……、ンゥ、くッ、あ、ダメ、ダメで、ああッ、ひッ、……あひッ、だ、ダメ、うああッ、もうダメぇええッ!!」

 敏感な突起から快楽のパルスが撃ち込まれるたびに、はるかは身体を痙攣させていた。

 そんな教え子の反応を面白がるように、蓮実は軽快なリズムでクリトリスを愛撫し、もう一方の手は肉感的な胸のふくらみを揉み続けていた。

「あひいッ、や、やン、あ、ああッ、ひッ、ひぃいいいッ!?」

 全身を熱く火照らせた吐息には、はるかの懊悩を表すように荒さと、哀れなほど切なそうな甘さがどんどん増していく。

 乳首もクリトリスも痛々しいほど勃起して、秘裂から滲む愛液もねっとりしたものになってきた。

 蓮実の指が軟膏を塗り込むようにクリトリスをこねると、はるかの喘ぎはいっそうの切なさと甘さを帯びてくる。

 とてもではないが、じっとしていられないようだった。

 身体の奥から込み上げてくる淫らなうねりに、水面に浮かぶ花びらみたいに弄ばれている。

 目に見えない何かを振り解こうとするみたいに、あるいは駄々をこねる幼子みたいに、身悶えをしながらイヤイヤをくり返していた。

 その様子をつぶさに赤裸々に観察しつつ蕩けた媚肉の中に、牝の本能で密かに期待しているだろう異物をにゅぷりと侵入させる。

 凱旋する兵士のように、歓喜の声で迎えられた。

「うぁああッ!?」

 未踏のホールがキュッと収縮し、挿し入れられた指をきつく締め付ける。

 蓮実はそれににこやかな笑みとともに抗って、愛液まみれの指をぬかるみにゆっくりと出し入れさせた。

 そうしながら耳に囁く。

 クォーターであるはるかにすれば、とくにこれといって難しい問題ではない。

 いや問題ですらないだろう。

 だから口ごもってしまう理由は、けっして語学力などではなかった。

「わたしは先生のお気に入りですって、英語で言ってごらん」

 悦楽という名の毒が脳の機能を犯して、容易に日本語と英語の変換をさせてくれない。

 羞恥がそれに拍車を掛けていた。

 それでも教師として問題の回答を再度促すと、教え子はたどたどしくはあるものの告げてくる。

「I am ……ま……あッ、my ンッ、teacher’s は、んンッ、 fav、あ、ひッ、orite stud、ent.」

 文章的な間違いはない。

 さすがという賞賛の必要もないほど、はるかには簡単な問題であり当然の答え。

 しかし蓮実からするといまいち情緒に欠けており、これではどうやっても「Good!!」止まりだった。

 残念だが「Excellent!!」はあげられない。

「Not too bad!! でも正解は I am my teacher’s pet. さあ言ってごらん」

「ティ、ティーチャーズ・ペ、ペット?」

「All right. Miss Morisima.Say it again!! I am my teacher’s pet!!」

「I am あッ アイアム ……my てぃ んッ ぅあッ てぃ、teacher’s ……petッ!!」

 はるかは息も絶え絶えで、蓮実の答えをリピートしてくり返す。

 今にも崩れ落ちそうだった。

 乳房を揉みしだかれ粘膜を掻きまわされながら、意図したものではないにせよ蓮実の隆起した股間に、滑らかなラインを描く尻をぐりぐり押し付け

てくる。

 はっとなって離れようとするものの、理性が本能を制御できているのは一瞬だった。

 すぐにまた美臀の柔らかさを誇示するように、熱した鉄のようになっている欲望の塊に押し付ける。

 何度も何度も「pet」と口にしながら、撫でられるのをおねだりする愛玩犬のように、盛りがついたみたいに盛んにくり返していた。

「あ、I am あィッ ア ……ま、my てぃ んッ ぅあッ てぃ、ちゃあ、ああッ、cher’s ……petッ!!」

 愛らしい唇から振り撒かれるはるかの淫らな声に煽られて、ピンクの襞を嬲る蓮実の指先にも自然と力が篭る。

 乳首はクリトリスと競うかのように硬く尖り、荒々しく揉みしだかれる乳房は、蓮実の手のひらで落ち着きなく形を変えていた。

 はるかの喘ぎは切迫したものになっていく。

「もう……も、ダ、ダメ、で、ンッ、ああッ、そ、それ以上された……うぁああッ、それ以上されたら……わたし……ダメになっちゃう!!」

 我慢していた尿意が限界に達しようとするときみたいに、滑稽なほど内股になって教え子の少女は必死に耐えていた。

 しかしここはトイレなどではなくバスルームであり、蓮実はやめることもなければ駆け込むことも許さない。

 お漏らしを誘発するため、ぬめる指先の動きを速める。

「あッ、あッ、ああッ!?」

 浴室に甘い喘ぎを反響させながら、はるかは不意に身体を硬直させた。

 スリットに深々と突き入れられた指が、キュッと心地よく締め付けられる。

 喰い千切られそうだ。

 長いような短いような微妙な時間が過ぎ去って、はるかが詰めていた息を吐き出すと同時に、小刻みに震えていた膝がカクンッと落ちた。

 強張っていたセクシーなクォーター・ボディから力が抜ける。

 にゅぽ……。

 蓮実は処女粘膜から指をゆっくり引き抜いた。

 愛液でねとねとになった指が、クリトリスを掠めたのに反応して、はるかがひくんっと身体を震わせる。

 ポンプ小屋以来の自信があった。

 激しい快楽の嵐。

 自習。

 オナニーでは味わえない。

 教え子に与えられている自信があった。

 抱きしめるようにして支えてやりながら、会心のレッスンで痙攣したはるかの回復を待つ。

「交代しようか。今度は森島が俺の背中を流してくれ」

 クリーム色のねっとりした液体は、ぬるぬるしていて何だかとても卑猥だった。

 まだ完全とはいかずふらふらはしているものの、はるかの手を取ってソープを垂らすと、前と後ろをポジションチェンジする。

 夢遊病者のような状態ではあるが、それでも察してくれたみたいで、ぬるぬるした手で筋肉質の身体を擦りはじめた。

 背中が泡だらけになる。

「こっちも」

 恐る恐るで腰というよりはもう、尻の辺りを撫でていた手を、蓮実はノー・ルックで掴まえると前の方に導いた。

 滾っているモノをしっかり握らせる。

 太さ。

 硬さ。

 熱さ。

 はるかは果たして憶えているのだろうか?

 無理やり自分の直腸粘膜を貫いて、アナルヴァージンを奪った牡器官を。

 いつか思い出すかもしれない。

 そんな日が来るのを想像して密かにほくそ笑みながら、海綿体に新たな血液が注がれ体積の増した勃起を握る手が動くのを待った。

 教え子の自主性が育つのを、教育者として信じて見守る。

 甲斐があった。

 バラエティ番組の箱の中には「いったい何が入ってるのかな?」のコーナーみたい。

 じれったいほどゆっくりではあるが、フォルムから情報を得ようとするように、噛み付かないかびくびくしてるみたいに、しかしそのくせ大胆に淫

らに、おっかなびっくりの裏側に好奇心を潜ませて弄ってくる。

 先端を硬く尖らせた乳房を背中に密着させつつ、しなやかな指で泡まみれのシャフトを撫で擦っていた。

 ゆるゆると優しくしごいていたが石鹸の補助もあり、スピードアップはとてもスムーズである。

 静脈の浮いたシャフトをリズミカルに、そして少女の興奮を表すみたいに、忙しないほど性急に上下させはじめた。

「ンッ……ンッ……、硬いし、あンンッ……、こんな太いなんて……、ンううッ……それに……あ……熱い……」

 もしかしたらトラウマになり掛けている記憶との、すり合わせが行われてるのかもしれない。

 独り言のように呟いている。

 けれど勃起への奉仕に手抜きはない。

 鈴口から溢れたカウパー腺液が裏筋を伝って、はるかの手指を濡らしている。

 それは口の中で弄んだ唾液のように、妖しくねっとりしたものだった。

 お返しとばかりにはるかも、腰をダンスでもするみたいに揺らめかせて、沸騰したように熱い剥き出しの秘唇を押し付けている。

 肌と肌で攪拌されて粘度の増した愛液で、鍛えられた蓮実の身体をしとどに濡らしていた。

 はるかの息が羞恥で弾んでいる。

 自分のしている行為に、興奮し欲情しているのだ。

「あ……あぁ……」

 言葉にならないうめきが、教え子の少女の口から漏れる。

 しなやかな手指で執拗にしごき立てられた勃起は、粘つく吐液でぬらついてさらに昂ぶっていた。

 一心不乱に蓮実を背後から抱きしめる形で、同じ部位ばかり洗い続けるはるかの身体も、共鳴し呼応するみたいに熱く火照っている。

 執拗に奉仕され続ける牡器官は鬱血して、太い血管を不気味にのたくらせていた。

 その付け根では皺深い陰嚢がずっしり重くなっており、放出のときを間近にして堅く引き絞られている。

 限界だった。

 猥褻そのものにぐぐっと湾曲した勃起、その縦割れの唇から漂うカウパー腺液の青臭い匂いが、石鹸の芳香を上回りひと際強くなった気がする。

 このまま可愛い教え子に射精させられるのも、なかなか新鮮なカリキュラムで、それはそれでオツなのかもしれない。

 だがやはり出すのなら……。

「うん。もういいぞ」

 夢中になっているはるかの手を取り、打ち揚げられた活魚のように、びくんびくんしている勃起から離させた。

 またお互いの身体の位置を入れ替える。

「壁に手をついて。脚を肩幅まで開いてくれ」

 突き出されたヒップのぷりっとした丸いふくらみの底には、充血し尖り勃った乳首と同じ色をした美麗な窄まりがあるはずだ。

 きっと誘うようにして淫らに、妖しくひくひく収縮している。

 脚だけではなく尻たぶも割り開いてしまいたい。

 肛門にふやけるまでむしゃぶりつき、欲望のままに刺し貫いてしまいたかった。

 だがどうしても未使用というのは、それだけでやはり付加価値が高まる。

 ヴァージンはヴァージンというだけで、牡の征服欲を刺激してしまい魅力的な存在だった。

 男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる。

 至言だ。

 アナルの味は「Excellent!!」だったが、もうひとつの可憐な穴の方はどうだろう。

 牝の匂い。

 綻んだ裂け目から漂ってくる。

 愛液に濡れ光るシェル・ピンクの果肉は食べ頃だった。

 木の葉型を形作った粘膜の真ん中から少し下、ねっとりジューシーな果汁を滴らせて、物欲しそうにひくついている。

「リラックスして」

「は、はい」

「どうしても痛かったら、やめられるんだからな?」

「……だいじょうぶ、です」

 はるかは身体を震わせながらも健気にそう答えるが、処女相手に無茶な注文なのは蓮実も承知していた。

 むしろその好ましく愛おしさの募る答えを、引き出したいがためだけの言葉である。

「ハスミン先生のことは誰よりも、わたし信じてますから。どんなに痛がっても、絶対に……や、やめたりしないでください」

 Excellent!!

 ほぼほぼ望んでいた完璧な答えだった。

 これで無茶ができる。

「ありがとう」

 蓮実はほくそ笑みながら急角度の勃起に手を添えて調節すると、敏感な先端部にぬっちりした粘膜が吸い付いてくるのを感じた。

 圧迫すると少しだけ埋没する。

「……ううッ……くッ……、あ……ああッ……」

 体重をかけて亀頭をめり込ませると、はるかの唇から嬌声が零れた。

 さらに押し進めると本能で牡を拒む可憐な、穢れのないヴァージンのヴェールを探り当てる。

「今まで森島がずっと大切にしてきたもの、……はるかの処女を、本当に俺がもらっちゃってもいいんだね

 もしも自分が素面で聞かされたら、何だかかなり気持ちの悪い台詞だな。

 言っている蓮実本人はそう思ったりしのだが、言われた教え子はさいわい素面ではなかったので、ふるふる身悶えしながら頷くだけである。

 舌なめずりをすると、じりじり剛根を押し込んだ。

 すぐには膜を破らないように注意しながら、弄ぶようにしてゆっくり体重をかけていく。

「あぐッ!?」

 ミシッと肉の軋むような感じがして、はるかの身体が痛みと恐怖に大きく震えた。

 眉間には悩ましい縦皺が刻まれている。

 蓮実はサディストではないので、相手の苦痛が悦びに変わるわけではない。

 だがいじましい様子を観ているともうちょっと、ヴァージンをロストするかしないかの、ぎりぎりの時間を愉しみたいところだ。

 苛む状況を長引かせたくなる。

 けれどどんなものにも、それがなんであれ永遠はない。

 あ、しまった。

 ブチッ。

 そんな音はもちろん聴こえないが、耳ではなく脳は確かに捉えている。

 境界を何気なく越えてしまったようだった。

 まだまだ余裕がありそうな手応え、いや、勃起応えだったのに、一気に抵抗がなくなり、ズブズブ根元まであっさり呑み込まれていく。

 ついに破れたのだ。

 ここまで耐えてきたはるかだったが、一生に一度だけする初体験の痛み、破瓜の激痛には耐えられなかったらしい。

「――――ッ!!」

 裏返った悲鳴を漏らし、形のいい顎を跳ね上げた。

 滑らかな背を打ち排水口に流れ込んでいく湯が、鮮やかな赤色を巻き込んで渦になっている。

 太い静脈を浮かばせた肉の楔が、膣口から少し入ったところでへばりつく、処女膜の残骸を踏みにじり聖域を蹂躙していた。

 乳房がユサリと揺れるのがいい。

 バスルームのタイルの壁を、背を反らせ掻き毟っているはるかは、年齢不相応なエロティシズムがある。

 やれやれ。

 蓮実は苦笑した。

 苦痛はともかくとして、苦悶はけっこう悦びかもしれない。

 サディストではないつもりだったが、意外にもそういう部分があるのかもしれなかった。

 生徒と接していると自分では、気づかない自分を発見することが多い。

 それは確かな喜びだった。

 ならそれを教えてくれたことへの、せめてもの感謝としてここは悦ばせてやりたい。

「うぎいィッ」

 勃起を初めて咥え込んだ媚肉の感触は当然ではあるが、ポンプ小屋で無理やり奪い犯したものと違っている。

 だがねっとりとした温かさと、力加減を知らないキツさは共通していた。

 我武者羅に咀嚼している。

 もう一度思い出させてやるべきだろう。

 苦しさのあとには悦びがあることを、最上の快楽を得られることを、アナルだけでなく膣内粘膜にも教えてやらねばならない。

「……あン……ン……ハッ……はふッ……、あ……あふッ……やン」

 甘い声が零れる。

 蓮実の手が小刻みに震えているヒップを撫でまわし、腰のくびれを爪の先で優しくくすぐった。

 指が柔肉に沈んでしまないよう気をつけながら、肋骨のラインを羽毛のようになぞって、脇腹にも性感が眠っていることを教えてやる。

「ンふぁッ!?」

 丁寧なレッスンの甲斐あって、はるかは逐一反応してくれた。

 抜き差しするたびに、大きな乳房がユサユサ揺れる。

 強いだけだった締め付けも徐々に、勃起の硬さや太さに馴染んできたようだった。

 ぬらぬら濡れ光る勃起をじわじわ引き出しては、スローペースでまた押し込むということを、暴走する欲望を制御して根気よく続けた甲斐がある。

「や、火傷しちゃう、ひ、ひぃいいいッ、そんなに、は、激しくお、お腹の中が、や、火傷、火傷しちゃいま、ああああッ!!」

 抽送スピードは軽快に上がっており、摩擦感はかなりのものになっているが、抗う言葉に真実はまるで含まれてない。

 蓮実のピストンに容赦はなくなってきたが、あられもない姿を曝す今のはるかにその必要はないだろう。

 普段の学校での様子からは、きっと親友の響でも想像できない乱れようだ。

「ああッ、ハスミン、ハスミン先生ッ、こ、怖い、ひぁッ、こんなの、あひぃッ!! こ、怖いのぉおおおッ!!」

 杭打ちのような激しさに、まだ痛みはあったとしても、悦びの侵食率の方が強烈みたいである。

 ただただ押し寄せてくる愉悦に、戸惑いながらも流されていた。

「やっぱり森島は、バックが大好きなのかな?」

 さすが犬派。

 ドッグ・スタイルがお気に召したらしい。

 からかうようにそう言って蓮実は、ポンプ小屋でしたのと同じように背中に覆い被さり、乳房を握り締めながら腰を振る。

 トップに入れた。

「子宮の奥にたっぷっかけてやる。俺がイッたら森島もイケるようになるんだぞ」

 いかにも下品で粗野な口調。

 男子生徒の性欲処理係りを好むという、知り合いの養護教諭をもう笑えない。

 いたいけな女子生徒をたぶらかして、性欲処理係りにする英語教諭という、古典的な悪どい役どころにノリノリだった。

 揺れている大きなふくらみの頂点。

 充血し硬くなった乳首をきつく摘みながら、腰を叩きつけるようにして最奥を抉った。

「あッ、あッ、あッ、ああッ、も、もうッ、もうッ!!」

 煮えたぎるスペルマが尿道を走り抜けて、淫液を浴びたことのない初心な粘膜に、貪り尽くすケモノの欲望のまま勢いよく噴きあがる。

「ひああっ、あ、熱い、お、おかしくなっちゃう、ひいいッ、お、おかしくなるぅうううッ!?」

 尻肉を押し潰すように、股間をぴったりと密着させた。

 溜めに溜めた大量のザーメン。

 ぴくんぴくんする勃起の力強い脈動に合わせ、処女粘膜の奥の奥にまで思う存分吐き出した。

 教え子の小さくて狭い可憐な膣口に、溢れるほどの夥しい精液を注いでいく。

「……ああ……いっぱいになってる……ハスミン先生で……、わたしのなか……いっぱいになってる」

 はるかは涎を垂らしながら、身体をガクガクと震わせていた。

 その揺れの発生源に包まれた勃起も激しく締め付けられ、登り詰めた絶頂の感触を生々しく教えてくれる。

 悪魔のような甘い愉悦に弄ばれて、のぼせたかのように頬を紅潮させ、歓喜の涙を零すその表情は微笑んでいるみたいだった。

 長い夜になりそうである。






[41992] アクガミ 十六話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/09/30 10:37




 ハイゼットを駐車場に止めると、辺りに誰もいないのを確認し荷台を叩く。

 はるかがブルーシートの下から這い出てきた。

 ひらりと飛び降りる。

「きゃッ!?」

 捲くれそうになった短い制服のスカートを、可愛い悲鳴とともに慌てて押さえた。

 赤い顔できょろきょろして、羞恥心いっぱいに周囲を窺う。

 その手間と危険をせっかく蓮実は省いてやったのだが、はるかにとっては校舎に駆け込む前に、しなくてはならない大切なイベントがあるらしい。

「……あの、ハスミン先生、えっと、ひ、退かないでくださいね」

「うん?」

「ご、ゴロニャ~ン。ニャンニャン!!」

 はるかはいきなり蓮実の首っ玉に抱きついていて、主人に甘える気まぐれな猫みたいにすりすりしていた。

 反射的に細い腰に腕を回してしまいそうになったが、残念ながらここでこの瞬間に盛り上がるわけにも行かない。

 人のあまり居ない早朝や放課後にうろうろするのは、犯人に狙ってくださいとばかり、こちらからわざわざ機会を与えるようなものである。

 宿直になったとき俺がするから。

 盗聴器探索は中止。

 そう詞や薫には言い含めてあるので、その点での心配をする必要はないものの、学校の敷地内では誰がいつ来るかわかったものではない。

 遠くからは部活動に勤しむ、元気な生徒の声が聞こえていた。

 スリルを愉しむにしても、さすがに駐車場はオープンスペース過ぎる。

 肩にそっと手を置いて、教え子の身体を離した。

「どうした?」

 今の子供は本当にいちいち面倒くさい。

 ガラス細工とはよく言ったもので、例外なく異常に傷つきやすいので、少しでもマイナスの兆候が見えたらフォローは絶対だった。

 不安そうな表情をするはるかに、拒絶したわけではないのを伝えるため、優しく柔らかな笑顔をチョイスして問いかける。

「こういうの、嫌でした?」

「そんなわけないけど、びっくりはしたかな」

「それとなく響に相談したら、男の人は甘えられるのが嬉しいって、だからそうしてみたんですけど、ごめんなさい。……やっぱり迷惑でしたか?」

「なわけないだろ」

 とはいえ何にでも時と場合というのがあるのを、アドバイスするならするで響には、できればちゃんと伝えておいてほしいとは思った。

 このままだらだら台詞の応酬をくり返すよりはと、蓮実は咄嗟に逆療法を施すことにする。

 ぐっと身体を抱き寄せ、恋人のように熱い抱擁をした。

 ペットの耳に囁く。

「もちろん嬉しいに決まってる」

 あえて唇でなく頬にキスをして、お約束のシャンプーをしてやった。

 とりあえずそれで安心してくれたのか、はるかは満面の笑顔で手を振りながら、ようやく校舎の中に消えてくれて見えなくなる。

 けっきょく土曜の午後から月曜の朝まで、寝て起きて食べて犯すサイクルで、はるかとはずっとマンションで一緒だった。

 日曜の昼頃、制服を取りに一度家に戻しはしたものの、そのとき以外は自分でも呆れるほどそれだけである。

 制服を取りに行くのはべつに、月曜の朝でもよかったのに、それでも日曜に取りに戻った理由は、男であれば誰であれ説明の必要はないだろう。

 ドロドロに汚してしまった。

 備え付けのドラム式洗濯機には乾燥機能もあったが、はたしてそれだけで落ちるものか心配になるほど派手に……。

 タンパク質の除去には入れ歯の洗浄剤がピカ一と、骨格標本マニアが言っていたのをふと思い出し、あちこち探ってみたがパパは二人ともまだ自前

の歯らしい。

 さいわい落ちてくれたのでほっとした。

 もうクォーターの少女の身体に、蓮実の触れてないところはどこにもない。

 二日もお泊りさせるつもりはなかったのだが、それでもまだまだ教え子の身体を味わい足りなかった。

 連続で週末お泊りはまずいよなぁ。

 独り苦笑しながら蓮実は、さてこれからどうしようか考える。

 水泳部でも覗くか。

 はるかもこんな朝早くの登校ではやることがないだろう。

 別れたばかりなのに顔を合わせるかもしれないが、職員室で黙々とデスクワークに励む気分にもなれない。

 プールは華やいでいた。

 自分の選択が間違ってなかったのを確信する。

 蓮実の存在に一瞬ざわついたが、浮つきそうになる空気を持ち直して集中する。

 前回の部長の叱責を思い出したようで、ふらりと現れた英語教諭を意識しながらも意識しないようにしていた。

 青春を謳歌する若者の姿というのは、誰しもがやはり輝いていて美しい。

 具体的にはスタートの際に前屈みになり、真剣な表情でヒップを突き出しているときとかだ。

 もっともそうしなくとも、輝いていて美しい水泳部員もいる。

 二人も。

 胸が高鳴る。

 ストップウォッチを手にして、厳しい顔をしている響にも、ゴールし乱れた呼吸を整えつつ、水面から見上げている逢にもときめいた。

「あ……」

 仲の良い先輩後輩の声が綺麗にハモる。

 他の部員のようにふりではなく、本当に蓮実に気づかなかったらしい。

 反応が薄く控え目に驚いているのが、二人のリアルを感じさせた。

 響の隣りに並んでストップウォッチの液晶を見る。

「七咲、もう一本」

「はいっ!!」

 顧問でも何でもないのにプールに出入りして、当たり前の顔をして指示をする蓮実に、完璧なターンを決めて当然のように逢は従っていた。

 やはりモノが違う。

 フォームや泳ぎのスピードもそうなのだが、小ぶりなヒップの魅力は、水準以上の他の部員と比べても群を抜いていた。

 まさに青い果実である。

 できればそろそろ収穫したい。

 おや?

 気のせいか若干水着のサイズが合ってないような。

 もともと競泳用の水着というのは、身体のラインにフィットしているものだが、それにしてもパツパツな気がする。

「そういえば次の部長、塚原の中では決まってたりするのか?」

「一年生ですけど、七咲にしようかと」

「大丈夫か?」

「あの子だったら上級生も、文句は言わないと思います。何でも率先してやるし面倒見はいいし、可愛がられるのに頼られるタイプですから」

「まあそうだな」

 なるほど頷ける。

 蓮実の七咲逢への評価もほぼ同じだ。

 そしてよく似てるなとも思った。

 貫禄だったりに差はあるが、それも年齢分の経験で埋められる範囲。

 普段はポーカーフェイスで口数も少なくクール。

 けれど実際は温和で、人情深く面倒見が良い。

 人知れずしているはずの努力が誰かに見られていたり、何かと仲の良い先輩後輩には共通点が多かった。

「うん。きっと七咲なら、上手くいきそうな気がするよ」

「蓮実先生が正式に顧問になってくれたら、完璧なんですけどね」

「ははっ。考えとく」

 ああそういえば、そんな話もあったなぁ。

 響にこうやって言われるまで蓮実は、茶道部のことをすっかり忘れていた。

 梨穂子は梨穂子で部長になったら、周りが支えてやらねばと奮起して、それはそれで上手くいきそうな気がする。

 周りが居ればだが……。

「先生」

「なに?」

「……あの……休みの日……、何をしてましたか?」

「これといってナニも。寝て食べて起きて、合間にナニかしてって感じだったよ。それしか犯ることないのかってくらいそれだけ」

「そうですか」

「塚原は休みの日は、何してたんだ?」

「わたしは……、はるかと一緒に、映画を観に行ったりしてました」

「そう」

 水着の食い込みを蓮実の視線がないのを確認しつつ、くいっとささっと素早く直す逢を、視界の端で捉えながら響とのトークで朝は時間を潰した。

 担任する1年B組でSHR。

 これといって目立った表情の変化こそないものの、見る人が見れば明らかに機嫌が良さそうな逢。

 伏目がちだが何かを期待して、瞳を潤ませている紗江。

「…………」

 どこか不安そうにチラチラしつつ、物憂げに蓮実を窺っている美也。

 三人を中心にクラスの様子を観察してみたが、とりあえず想定内で予想通りだ。

 午前中に授業を行った三年A組の教室でも、普通の教師とは違う視点で注意深く観察する。

 昨日の夜は一睡もしてないので、頑張ってはいるが時折舟をこいでおり、はるかはさすがに眠そうだった。

「…………」

 後輩よりさらにポーカーフェイスだが、響は何か悩みがありそうでちょっと気になる。

 そして昼休みを挟んで2年A組。

 関心を惹く事柄があった。

「Pin-point. ここが受験の急所っ!!」

 今の子たちを退屈させないためにはCMのように短く、記憶に残るようなフレーズを多用するだけでなく、バラエティ番組のようにミニコーナーを

たくさん設けて、目先を変えてやらなくてはならない。

 梅原みたいに家業を継ぐためだったりと、全員が進学するわけではないが、それでも受験に関心のある生徒が大半のはずだ。

 なので『受験の急所』は前任校でのノウハウを基にして、生徒の意識を一気に引き戻すことを意図したコーナーである。

 ほとんどの生徒が、卒業できればそれでOKな、梅原ですら注目した。

 顔を上げてないのは純一だけである。

 教科書は広げているものの、ノートを取っている素振りもない。

 授業の開始から熱心にしていることといえば、スムーズなようで微妙なペン回しくらいだった。

 悩みごとでもあるのか、純一は窓の外を見ながら、心ここにあらずでぼ~っとしている。

「Mr.Tatibana!!」

 だからいきなり呼ばれてびっくりしていた。

「は、はいっ!?」

 ドモりながらバネ仕掛けみたいに、ガタリと大きな音をさせて立ち上がる。

 ベタなリアクション。

 蓮実に集まっていた視線が、一斉にベクトルを変える。

 さしてユーモラスなわけでもないが、プライベートが制限される授業中なので、軽い笑いくらいなら発生してもいいシーンだ。

 生徒の頬の筋肉が緩みかける。

 自分で招いたこととはいえ予期せぬハプニングに、赤っ恥を掻いた純一の頬は紅潮しかけていた。

「やッ!?」

 ただ蓮実の不意打ちによる指名の被害者になったのは、呆けていたところを指名された純一だけではない。

 可愛い悲鳴だ。

 短く小さいものの鋭い。

 弛緩しかけた教室の空気が、それによってまた一瞬で緊張する。

 後ろの席。

 前の席に座る疑惑の人物、警戒するクラスメイトの不意の動きに、気が強いキャラで認識されてるだろう女子生徒が身体を竦ませていた。

 驚いただけでは説明が付かない。

 そこにはもっと何か、違う感情が存在していた。

「……え」

 それがはっきり伝わってしまったようで、純一からは小さく間の抜けた声が漏れる。

 共感性に優れているのかもしれない。

 純一は他人の心を推し量ることのできる人間のようだった。

 鈍感力が足りない。

 生粋の被害者。

 脆い。

 察しなくていいことを、正確に察したみたいである。

 薫から向けられた剥きだしの感情の正体に……。

 感受性が無駄に強すぎる。

 中学からの女友だちの反応に純一は余程ショックだったのか、校長の長い話に貧血を起こす生徒みたいによろけていた。

 力というより魂が抜けたみたいな指先から、ペンが滑り落ちてころころと床を転がっていく。

 まるで狙ったみたいにして右斜め前、二つ離れた席の女生徒のところでぴたり止まった。

 レストランでフォークを落とした人みたいに、詞はそれをじっと見ていた。

 ここは拾ってやるのが自然であろう。

 いつものこれぞ優等生の鑑みたいな詞なら、スマイルをセットにして迷うことなく行動するはずだ。

 しかし動けない。

 困ったように目を泳がせている。

 近くに座っている生徒もペンがあるのはわかっているようだが、『そこは絢辻さんのエリアだろ』という感じで誰も拾おうとはしない。

 先に動いたら負ける。

 どこにでもありそうだが、不思議で馬鹿馬鹿しい状態に陥っていた。

 だがそれはまたしても、可愛い悲鳴によってあっさり終わる。

「くッ!?」

 今度は薫ではない。

 嫌悪感を露わにして首をねじるみたいに顔を背けた詞の、桜の花びらのような可憐な口唇から零れたものだった。

 常に凛としている完璧少女というのが、クラスのみならず学校中のイメージである。

 たとえ相手が男子生徒であってもけっして怯まずに、毅然とした態度を崩さないのが生徒会長絢辻詞だ。

 こんな弱々しい姿は、とても想像できない。

 何がそうさせたのだろう?

 野次馬根性が特別旺盛でなくとも、興味津々そそられるのは当然だった。

 多数の生徒が反射的に、詞の視線を逆トレースする。

 被っていた仮面が外れたことで、本人が苦心して隠していた素顔、その一端が曝されたことに、愉悦を昂ぶらせながら蓮実も視線を追った。

 あれ?

 べつにおかしくはない。

 この年頃であれば、まったくそうならないのも返って問題だ。

 だが男として正常で健康な生理現象であっても、年頃の異性に理解させるのは難しいというか不可能。

 ……おいおい。こいつ、勃ってるな。

 親しくしていたはずの女生徒二人の好ましくない反応に、ショックだったのか歓んでいるのかぴくぴく痙攣していた。

 股間の分身が制服のスラックスを突き上げ、なかなか立派なテントをこんもり作っている。

 授業中にどんな妄想を弄んでいたのか知らないが、純一が現段階ではとりあえずEDと無縁なのはわかった。

 ざわり。

 それに気づいた女生徒が詞に倣うように、次々と雪崩を打って顔を背けていく。

 男子生徒はにやにやしながら『めっちゃボッキしてね?』、早くも聞こえなさそうで聞こえる声で揶揄し始めていた。

 角度的には見えない後ろの席に座る生徒にも、瞬く間に情報が伝播して全員の意思が共有される。

 2年B組が成立して以来最大かもしれない。

 生まれる一体感。

「大将、おまえってやつは漢だぜ」

 梅原はぼそりと小さく呟いたつもりなのかもしれない。

 気の回る粋な男だ。

 あるいは冗談にしてこの宜しくない空気から、親友を助けてやる算段だったのかもしれない。

 ボリュームは抑えられていたがよく通り、台詞だけではわからないはずだが、男も漢に共通認識として変換され、全員の耳にするりと滑り込む。

 どっ!!

 教室中が大爆笑に包まれた。

 もっとも笑っているのは男子ばかりで、ほとんどの女子は顔をしかめたままだが……。

 そのなかでも詞と薫は輪を掛けて厳しい顔、屈辱を噛み殺すような表情をしている。

 笑いにされて誤魔化されるのも不愉快みたいだ。

 怒りで滾っている。

「おわぁッ!?」

 そして遅まきながらの今更になって、自身の身体の変化に思い至り、テンパリながら慌てて純一は前屈みになった。

 滑稽ではあるがこんなときに、スマートなやつはいない。

 武士の情け。

 放置されっぱなしのペンを拾ってやる。

 その際に詞の肩を軽くぽんっと、安心させるように叩いてやった。

 前の席に座って丸くなっている男子生徒の背中を、睨むことすら嫌そうにしてる薫にも小さく頷く。

 二人の女子生徒の憤慨で強張っていた顔が、それでほんの少しだけ柔らかくなった。

 もっとも元の木阿弥というか、あちこちから火に注がれる油が止まらない。

「やっぱ森島先輩と、そいつでヤッてんのか?」

「そりゃ当然ヤルでしょ」

「あれれ? もうとっくにその格差カップルの二人って、別れてるんじゃなかったけ?」

「ってか橘がふられたんだろ?」

「でもいいじゃん。短い間だけどそれでも、一応付き合ってたんだろ? ……ってことはだよ。あのパーフェクトなボディと」

「うん。ヤッてるな」

「ヤルしかねぇ」

「もうヤリまくるしかないっしょ」

 どこまで事情を正確に知っているのか怪しいが、はるかと純一のニュースにはだいぶニーズがあるらしい。

 まあ主に輝日東の憧れの的であるはるかに、ということなのだろうが、かなり広い範囲で噂は蔓延しているようだ。

 思春期は発情期。

 無闇な若さと数の力で、男子の下ネタが勢いづく。

 ニワトリの群れでいうところのつつきの順位、ペッキング・オーダーも関係しているのかもしれない。

 これが彼らなりの示威行為なのだろう。

 真偽は定かでない武勇伝を誇らしげに語るようなもので、女子が居てもオープンに下ネタを披露する豪快な自分を演じていた。

 いつの時代も男女間には大概、男らしいという概念に隔たりがある。

 何人かの男子はこの好ましくない教室の空気に、どうやら気づいてるっぽかった。

 けれど気づいても遅い。

 女子にどんなに退かれてても、男子はすでに後には引けない。

 チキンレース。

 数人の利口な男子がここで黙ったところで、女子の男子への印象はほとんど変わらないだろう。

「橘ってカメラ持ってたろ?」

「ハメ撮り」

「あるんなら是非とも貸してく、いや、売ってくれっ!! 俺のバイト代半年分でどうだ?」

「アホか。そんなんじゃぜ~んぜん足んねぇよ。テレビで観るアイドルよりも、森島先輩は輝日東じゃ断然アイドルなんだぜ?」

「ここは有志を募って共同購入するしか……」

 一財産になりそうだ。

 しかし蓮実には不特定多数の人間に、はるかの痴態を安売りする気はない。

 自分と娘に優しくて甘いパパのおかげで、財布には目先のお金に惑わされないだけの余裕もある。

 詞と薫の二人だけではなく、徐々に男子を汚いものを見るような目で見だした女子の、好感度の方が余程プライス・レスでいい買い物だ。

 潮時かな。

 そろそろストップさせようかと思ったが、

「そういやこのチャンスだから、橘に訊いちゃうんだけどさぁ」

 気になる。

 いや、ピンチだろ?

 そういうツッコミはなし。

 この問題の解答を、得られてからにすることにした。

「B組の桜井がメシ作りに、夜な夜な家に来てるとかってマジっすか?」

 こいつらよく知ってるなぁ。

 蓮実は感心していた。

 その情報をバグによって仕入れたのは、先週の木曜日の夜になってからである。

「あの幼馴染の?」

「……し、シビれるぜぇ。橘さん、ハンパねぇリア充っ!!」

「まさかラインナップが天然系校内アイドルと、ドジっ子幼馴染の二本立てとは何とも品揃え豊富だなぁ」

「裸エプロンでレッツ・クッキングッ!!」

「金がいくらあっても足りないぜ」

 ここまででもかなりの地雷を踏んでいるが、調子に乗っていると踏んでるのも気づかない。

 むっつりがこうやって、時たまオープンになると大ケガをする。

 自分のキャラにないことを、ノリと勢いにまかせてするもんじゃない。

「設定っていうかシチュエーションでこだわるんなら、中学からの女友だちとかもけっこう悪くないんじゃない?」

「だったら選挙戦で仲良くなった生徒会長とかもなかなかだと……」

 内心の動揺を悟られないよう、さらりと言ったつもりなのかもしれないが、口にした男子は明らかに特定の女子を意識していた。

 これはこれでアピールなのだろうか。

 はるかみたいに全校規模の人気ではないものの、二人ともクラス内に限定すれば匹敵するアイドルである。

 より近い存在で現実味があるので、もしかしたら女王より上かもしれない。

 できれば購入した映像越しなどではなくて、二人きりの放課後の教室でそういうことをしたいという、遠回しすぎて伝わりそうにない願望の吐露。

 教師であり男であり年上である蓮実には気持ちがわかる。

 しかし童貞のそういう繊細な心の機微を、同じ年頃の女の子にわかれというのは些か無茶だった。

 自分とは異なる生き物なのを、純一もそうだが理解した方がいい。

 キッ!!

 二人はえらくロングレンジなアプローチをした男子生徒を、それぞれ正確に探し出して射殺すような目で睨んだ。

 淡いというのは生々しいが、儚い恋がとりあえず玉砕した瞬間である。

 それが恋だったのだと、気づかれることもなく……。

「な~んてな」

 蓮実はバレないように苦笑して、口の中だけで小さく呟いた。

 失恋は多くのことを学ばせてくれる。

 特に自分のことを。

 ドラマならその他大勢のエキストラが精々の価値では、主演女優級の詞や薫の相手役として、釣り合わないことが徹底的にわかったろう。

 夢は夢として高望みするのは大いにけっこうだが、しばらくは右手を恋人にして自分磨きをして欲しい。

 アップテンポだったテンションが、見る影もなくダウンした男子生徒だけでなく、女子の侮蔑の視線に集中砲火されているその他も。

「おまえら。いいかげん、そこまでにしておけよ」

 蓮実の声は静かだったし顔は穏やかだったが、教室中が気圧されたようにぴたりと黙った。

 ときに厳しい指導をすることもあるが、恐怖を喚起させるような手法は取らない。

 そんな生徒思いの蓮実教諭が裏に隠した怒りを感じて、黙祷を捧げたときみたいにシーンとなる。

 まあ実際には怒ってないのだが、演技が成功したようで心中ほくそ笑んだ。

「俺も男だから下ネタは嫌いじゃないけど、女の子の前でするには笑えるラインを越えてるぞ」

 この機会を捉えて蓮実は生徒たちに『Love to hate』というイディオムを解説したくなってきた。

 しかしそれはまた次の機会。

 おどけた仕草。

 眉根を寄せると人差し指を立てて、チッチッチと振ってみせる。

「それじゃ先生みたいにモテない」

 笑顔の蓮実にほっとした空気が流れた。

 アメとムチ。

 やはり緊張と緩和を交互に適度に与えるのが、支配の効率としては最もパフォーマンスがいい。

 蓮実には畏怖と羨望の視線が浴びせられていた。

 女子のものには男子のものよりも、狂信的で熱っぽいものが含まれている。

 口笛を吹きたくなった。

 曲はもちろんモリダートである。

 ペンをくるくるっと鮮やかに回しながら、約一名だけうつむいたまま顔を上げない生徒に、蓮実はあくまで優しく言葉をかけた。

 ちなみにこれは蓮実本人も、肝に銘じておくべきなのかもしれない。

「時と場合は選べ」

 教室はまたしても大爆笑に包まれた。







[41992] アクガミ 十七話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/10/14 10:13




 体質なのかいくら飲んでも、蓮実は微酔以上にはならない。

 絶妙なアルデンテになったスパゲティを食べながら、ワインをもうすでに一本空けていた。

 まだ飲み足りないのでウイスキーの水割りを、ツマミなしでちびちびやっていると、テーブルに置いてあった携帯が軽快なメロディを奏でる。

 曲はもちろん殺人物語大道歌。

 誰だろうと液晶を見ると、逢からだった。

 けっこう意外である。

 あまり遅い時間にかけてくることはないが、頻繁な薫やはるかと異なり、遠慮しているのか逢からの電話は初めてだった。

「もしもし」

「あ、先生。今、だいじょうぶですか?」

「べつに七咲からの電話なら、いつだって構わないよ」

 歯の浮くような台詞がすらすら出てくる。

 こういうときに自信なさげな態度をしてみたり、下手に照れてしまい誤魔化すような中途半端は禁物だ。

 言葉を理解でもしているみたいに、ペットのペットが小さな口をいっぱいに開けて威嚇する。

 さっきまでは蓮実が何かツマミを食べやしないかと、おこぼれを狙って愛想を振りまいていたのに、鼠をロックオンしたみたいに牙を剥いていた。

 もっともすぐに興味を失ったようで、ようやくツマミも諦めたのかどこかに歩いていく。

「気軽にかけて」

「ありがとうございます」

「うん。で、どうしたんだよ? 声を聞きたいだけってのでもいいけど、どうやらその感じだと、それだけってわけじゃないんだろ?」

「……はい。あの、相談が」

 内容は予想通りといえば予想通り。

 響から水泳部の部長になってくれるよう、部活終わりに正式に指名されたらしい。

 先輩もいるからと断ったみたいだが、どうしてもと頼まれ迷ってるみたいだ。

 いや、そうじゃない。

 答えはもう決まっている。

 よく考えてみて。

 魔法の言葉。

 思考停止させるのに『考えて――』ほど効果のあるフレーズはそうない。

 べつに響は意図したわけではなく、心の底からの気遣いなのだろう。

 なのだろうが就任コース一拓に絞られた。

 あとは背中を押してもらうだけの状態である。

「七咲にならできるさ」

 責任を取らなくてもいい約束ならば、いくらしたっていい。

 それで相手が気持ち良くなって、のちのち蓮実を気持ち良くしてくれるなら安いものだ。

「部員のみんなだって七咲だったら、きっと部長として大賛成してくれるだろうし、俺も可能な限りのバックアップはするからさ」

 自分の懐が痛まないので、気前の方も自然と良くなる。

 最初から答えが決まり切っていた相談だったので、ついついというかいつも通り蓮実の口を軽くさせた。

「でもそうするとひとつだけ、とっても大きな問題が出てくるな」

「問題?」

「部長が不純異性交遊っていうのは、やっぱりマズいんじゃないか?」

「そ、それは」

「水泳部に恋愛禁止ってルールはないけど、みんなが青春を水泳に賭けて打ち込んでいるっていうのに、部長がそういうことをしてるのは少しなぁ」

「でも、せ、先生が……」

「しかもそれがうちの学校の教師っていうんじゃ、最悪のケースでは廃部もあるかもしれない」

 まず先に懲戒解雇になるだろうが。

 いや最悪のケースというのなら、そのまま刑事事件にまでなって、過去の罪まで芋づる式に暴かれてしまうパターン……。

 前任校では一人の生徒の遺体を隠すために、クラスを丸ごと消すはめになった。

 築いた王国をまた自分の手で壊すのは、新天地で始めからと考えると可能な限り避けたい。

「……いじわるです」

「ははは、ごめんごめん。けど俺と七咲との関係は、卒業するまでは二人だけの秘密だ。バレたらクビになって、七咲とはもう会えなくなる」

「い、嫌です」

「俺だってそんなの嫌だよ」

「わたし絶対にバレないように、しますから。先生との関係は絶対に、絶対にバレないようにしますから――」

 会えなくなるなんて、絶対に言わないでください。

 涙ぐんでいた。

「すまん」

 我ながら悪い顔をしてるんだろうなぁ。

 蓮実は教え子の心の底からの訴えに、苦笑しながらウイスキーのグラスを傾けた。

 飲んでいるのは同じ酒なのに、さっきまでより格段に美味しい。

「あ、でも、その、もしかしたら……、もしかしたら、なんですけど、あの、先生、ご、ごめんなさい」

「どうしたんだ?」

 不意に逢の声に穏やかでないものが混ざる。

 後悔と反省が感じられた。

「蓮実先生と一緒にいるところを、美也ちゃんのお兄さんに、見られちゃったかもしれません」

「橘の?」

 身内に緊張が走る。

「部活に行くときに待ち伏せしてたのか呼び止められて、しばらく言うのを迷ってたみたいですけど、喋りだしたと思ったらいきなり酷いんです」

 憤慨しているみたいだった。

 怒りモードに火がついたみたいで、興奮のまま逢はやや声を大きくさせて、めずらしく矢継ぎ早に言葉を捲くし立てる。

「もう先生には近づくなだとか、あいつの裏の顔は悪魔だとか、じょ、女生徒と深い関係になってるだとか……」

「えらい言われようだな」

 憶測や願望を並べているだけだろうが、まったく的外れじゃないのが面白かった。

 とはいえ事実を穿っているので、暢気に笑ってばかりもいられない。

 あまりぶんぶん五月蝿く飛び回るようなら、純一には殺虫剤を撒く必要があるかもしれなかった。

 メリットとデメリットを比べてみる。

 いくら考えても何人かの欲しい女生徒とは異なり、リスクを犯すだけの価値を純一に見出すのは難しかった。

 日本の警察は優秀だ。

 四十人もの教え子が卒業したあの忌まわしい惨劇の夜。

 あれだけの事件になると、本人に責任があるなしに関わらず、動向はそれとなくマークされているだろう。

 下手に外科手術的攻撃を行うと、払った嫌疑を蒸し返しされるかもしれない。

 機会さえあれば、そうしたい刑事はいるのだ。

 しかし一度ならず二度までも、蓮実に嫌疑を掛けて逃げられている。

 またしても行き過ぎた誤認捜査として、正義のマスコミに袋叩きにされたくあるまい。

 一部の現場で燃えている刑事はともかくとしても、上層部は世間のバッシングに晒されるのは懲り懲りのはずだ。

 余程のことがなければ、蓮実にちょっかいをかけてはこない。

 お互い基本無干渉。

 蓮実の周囲で人死にでもなければ、そっとしといてくれる。

 純一への対処は様々な政治的駆け引きと、妥協の産物でしかなかった。

「どうする?」

「どうする?」

「橘の兄貴が言ってるように、裏の顔が悪魔みたいな淫行教師には、もう近づくのはやめておく?」

「……先生はそうしてほしいんですか」

「まさか。そんなわけないだろ」

「わたしが信じてるのは、美也ちゃんのお兄さんなんかじゃなくって、校内に迷い込んだ可愛い捨て猫を、一生懸命に助けてくれた優しい先生です」

「うん。ありがとな」

 そういえばここのところあの猫を見てない。猫は死期を悟ると姿を消すというが……。

 蓮実はちらっと部屋の隅を見た。ペットの置き土産のペットは、まだまだ死にそうにはない。

「でも先生とそういうことするのは、やっぱり誰に見られてるかわからないし、校内ではやめといた方がいいのかもしれません」

 自分で提案しておきながら、逢の声はあからさまに残念そうだ。

 可愛い。

 悪戯心が湧く。

「七咲」

「はい?」

「そういうことって、どういうことだ?」

「え、あ、そ、それは……」

「誰も見てなければそういうこと、校内じゃなければそういうこと、やめなくてもいいってことだよな?」

「……それはその、あの、そ、その、だから、えっと」

 うろたえてみたりはするものの逢は、自分の言葉を撤回も否定もしない。

 けっして頭の回転は遅い方ではないが、真実を咄嗟に誤魔化せる器用さはなかった。

「いじわる」

 恥ずかしそうに小さくそう言うのが精いっぱい。

 熱があるみたいに頬を紅潮させている少女を、蓮実は容易く鮮明に思い浮かべることができた。

「えっちな先生です」

「七咲みたいな可愛い女の子には、男はみ~んなえっちなんだよ」

 まだ出会った頃であれば、好感度がガタ落ちになるトーク。

 逢は人に対して潔癖症気味だ。

 けれど今の逢にはもう逆に、好感度を獲得するための、これは有効な手段になっている。

 それだけの深い関係を、この数ヶ月で構築できた自信があった。

 だからこういう流れにも自然となる。

 逢の方から振ってきた。

「あ、そうだ。あの、そのえっちな先生に、ちょっと、し、質問なんですけど」

「なに?」

「……男の人って、男の子って、みんな……、え、えっちなんですか?」

「まあそりゃそうだろうけど。どうしたんだいきなり?」

「小学校一年生になる弟がいるんですけど、そのぐらいの年頃でもやっぱり、男の子は、え、えっちなものですか?」

「そうじゃないかなぁ」

 蓮実が同級生の女子二人に、卑猥な行為をしていたのは、小学校四年生のときである。

 今時の子供の進み具合を考えれば、小学校一年生は完全にえっちだ。

 断定できる。

「好きな子ができたとかはわかるんです」

「もちろんできるだろうな」

 その当時から蓮実もいっぱいいた。

 思い返してみると、いなかったことがない。

「えっちなアニメとかマンガとか、興味を持っちゃうのもわかるんです」

「うん」

「そういうのをまだ見つけたことはありませんけど、掃除中に弟の部屋で見つけちゃっても、見なかったふりしてあげようって」

「男の子としては助かる」

 机にきれいに並べたりするお母さんには、是非参考にしてもらいたい気遣いだ。

 蓮実も父親が書斎に隠していた日記を見つけたときに、特殊な趣味の本もついでに発見してしまったことがある。

 何も見なかったことにして、医学書の裏に戻しておいた。

「……だけどこれは、どうなのかなってものを、洗濯機から取り出してるの、わたし見たくなかったけど、偶然、み、見ちゃったんです」

「洗濯機から?」

 様相が若干変わってくる。

「わたしが部活から帰ってきて、お風呂に入ってるとき、こっそり水着を抜き出してるの、わたし……、見ちゃったんです」

 こそこそと部屋に持って帰って、シコシコとナニをしているかは、男なら考えるまでもないだろう。

 そして姉は弟の行為を想像したくもないだろう。

 共働きの両親も部活のある姉も朝は早く、日付が変わる前にはもう寝静まっており、弟は夜中にびくびくしながら洗濯機を回してるらしい。

 弟は姉の水着をナニかの目的に、しっかり使用してるということらしい。

 鑑みるとこれまで、下着がなくなっていたこともあったそうだ。

 あ、それでか。

 タンパク質の除去ができなかったのかもしれない。

 もしくは返却が惜しくなったのか。

 この間の朝錬のとき逢の水着がパツパツのものだったのは、成長期ですぐサイズが変わるのに、昔のものを引っ張り出したからだろう。

「男の子って……、そういうものですか?」

「うーん」

 こういうものと言えば、こういうものではあるのだが、そういうものと言っていいかどうかは判断が微妙に難しい。

 男としてわからなくはないが、七咲家の長男の前途が有望なのか、それとも多難なのかは悩むところだ。

 しかし逢には即座のレスポンス、答えを求められている。

「心も身体も不安定な、思春期にはよくあることだよ。身近な異性をまず、異性として意識するのは」

 それで姉に欲情してしまうのはアレだが、たぶん心よりも身体の成熟度がかなり早いんだろう。

 年上の蓮実の視点からは少女の逢も、年下の弟からは立派な大人の女。

 同級生の女の子はまだ自分と、全裸にでもなってみなければ、股間に付いているものを比べてみなければ、残念ながら差異はほとんどない身体だ。

 対象にするには物足りない。

 蓮実も同級生がそういう対象になったのは、おそらく初潮を迎えたことで、自分とはあきらかに違う成長ルートに入ってからである。

「安心していいよ」

 同級生がオンナとして認識されるまで、弟に押し倒されないだけの腕力を逢が維持できれば。

 水泳で鍛えている。

 なのでそこは心配しなくともいいだろう。

「で」

「はい?」

「弟くんはそれでいいとして、お姉ちゃんの方はどうなんだ?」

「……え?」

 携帯電話の向こうから、教え子の動揺が伝わってきた。

 勉強はいまいちなものの、頭の回転は悪くない。

 逢は主語のない質問の意図を、的確に受け取ってくれたようだった。

「いろいろ細かい問題はあるにしても、弟くんは思春期らしい真っ当で正常な成長してる」

 人間だってアニマル。

 第一次の成長期としてはややアブノーマルな部分もあるが、発情期の牡はどんな動物であってもこんなものだろう。

 そうなるとより欲求の強くなる第二次の、発情期になっているだろう牝の状態が、担任教師として蓮実はとても気になっていた。

「お姉ちゃんは、心も身体も成長してる?」

「……えっちです」

 Excellent!!

 やはり逢の頭の回転は相当いい。

 投げたボールが構えたミットに正確に、取りやすいタイミングで返ってくる。

「うーん。困ったもんだなぁ。担任教師としては、生徒のすべてを知っておく必要があるんだよ」

「で、でも」

「さっきは七咲の質問に俺が答えたんだから、今度は俺の質問に七咲が答えて欲しい」

 有無を言わせないとはこのことだった。

 あるいは無理が通れば、道理が引っ込むでもいいだろう。

「七咲は身体が、変な感じになったことはあるの?」

「それは……」

 いい子だ。

 許した相手のリクエストを断れない。

「お腹の内側から熱くなるような、切ない感じっていうのかな」

「た、偶になら、……あ、あります」

「そういうときどうしてる?」

 だいぶ間があってからの返球。

「……そ、そんなこと、そんなこと言えません」

 心地よかった。

 バサッ。

 鬱々とした羽音と圧倒的な禍々しい気配に縁側を見る。

 ひさしぶりにその姿を確認したが、左目の白濁したカラスは不気味だった。

 なぜだか感慨深い。

 いつか相棒のように処刑してやろうと常々思っているが、自分の知らないところでくたばられるのは釈然としない存在。

 感電し絶命するフギンをフラッシュバックさせながら、蓮実はほくそ笑みウイスキーのグラスを煽った。

 アルコールで血の巡りが良くなっているのもあって、うなだれていた牡器官は体積を増してすっかり漲っている。

「言えないようなことしてる?」

「……言えません」

 言ってるようなものだ。

 オナニーしてますと宣言しているようなものだ。

「七咲は自分の部屋で、一人なんだろ?」

「はい」

「それなら校内じゃないし誰も見てないな。ナニをしているか言わなくていいから、しているナニかをやってみてくれないか」

「こ、ここでっ!? い、今ですか」

「そういうことをしている七咲を、俺にだけは見せて欲しいんだ」

「先生に、だけ……」

 教え子のか細い声には微かではあるが、あきらかな湿り気を帯びている。

 酒を飲んでいる蓮実よりも、よっぽど酔っているみたいだ。

 年上としてここは、優しく介抱してやるべきだろう。

「七咲は今、パジャマ?」

「そう、ですけど」

「前を留めているボタンを、外してみてくれないか」

「……え?」

「何だか声が苦しそうだからさ。楽にしてあげようかと思ってね」

 いい子だ。

 頭の回転もキャラも。

 頼みを断れない。

「そ、そんなに、そんなにわたし、く、苦しそうですか?」

「うん。楽にしてあげたいな」

 少女はひとつ息を呑む。

 微妙な間は逡巡ではなくて恥じらい。

 受話器を通しているために、幾分くぐもってはいるが、パジャマのボタンを上から外す音が聴こえてくる。

「開いてみて」

 逢からの了承の返事はなかったが、すんなり従ってパジャマを肌蹴たのがわかった。

 谷間と形容するには些か物足りないものの、ちょうど手のひらを伏せたような、キュートなふくらみが蓮実にははっきり見える。

 セクシャルな匂いを嗅ぎつけたからか、ただ布地に擦れたせいなのか、淡いリングの中心にある桜色の蕾は、その身を一生懸命に尖らせていた。

「下も脱いじゃおう」

 携帯電話を顔と肩で挟みながら、腰を浮かせパジャマのズボンをずり下げる。

 篭っていた少女の熱気が、ほわりと宙に放たれた。

 とはいえ最も濃密であるだろう部分には、未だ熱の解放を邪魔しているコットンの布地がある。

「それも」

「こ、これも、ですか?」

「脱がないでそのまましちゃうと、いろいろ後片付けが大変になるからさ」

 人殺しをしてから穴を掘るな。

 少年時代からの蓮実のモットーだった。

 何事にも入念な準備が肝要である。

 あらかじめ事前に服を脱いでおけば、べったり愛液の付いた下着にあたふたすることはない。

 姉の濡れたショーツ。

 プレゼントしてやれば弟は狂喜乱舞するのだろうが、たとえクリスマスだったとしても、そこまでのサプライズはさすがに必要ないだろう。

「夜中に洗濯機を回すのが、怪しいのは七咲もわかってるだろ?」

「……わかります」

 これ以上はないというほど肌を紅潮させ、逢は震える指先をウエストのゴムにかけて、薄皮を剥くようにヒップの丸みを滑らせた。

 纏わりつく少女らしい純白の下着を素早く足から抜き取る。

 曝された秘部は一本の縦溝が刻まれただけの、下着の色よりもさらに少女らしいシンプルなもので、ほんのちょっぴり新鮮な媚肉を覗かせていた。

 翳りや繁みというには頼りない繊毛がひとつまみ、スリットの上端に申しわけ程度に添えられている。

 って俺の妄想なんだけどな。

 シュールリアリストだったゲイ術家を馬鹿にはできないかもしれない。

 教え子をこうして電話で犯すのには、背徳的であり倒錯的な興奮を刺激していた。

 犯されている逢もそうなのかもしれない。

「いつもしてるみたいに、好きなようにしてごらん」

「ん……」

 艶っぽい声はすぐに電話を通り、蓮実の耳をくすぐった。

 逢は間違いなく担任教師に欲情しており、まだ幼さの残る可憐なふくらみに、初々しい割れ目に指先を触れさせている。

「くぅ、はぅッ、ンンッ」

 唇から断続的に零れる淫猥な嬌声が、クールなキャラで認知されている教え子の理性を、神経毒のようにじりじり灼きながら侵食していた。

 蓮実の股間も炙られたみたいに熱くなっており、ジャージーの生地を内側から、突き破ってしまいそうなほど力強く持ち上げている。

 誘惑に駆られた。

 このまま教え子と二人で共感し合いながら、蓮実も勃起を擦ってしまいたい欲求が高まる。

「……ン……ふぁッ……、あふッ……はンッ……」

 しかしそれはそれで悪くもないが、ここで空撃ちするのは勿体ない気がした。

 やはり弾は標的に直接ぶち込みたい。

「どこを触ってるんだ?」

「そ、そんなこと、あンッ、くッ……い、言えま、やッ、んンッ、い、言えませ……」

「言えないようなところを触ってるんだな?」

「ああッ……い、言えない、あッ……あふぁッ……、そんな、の、ン、……言えない、言えない……」

「それじゃYesかNoにしよう。七咲が触ってるのは、乳首をいやらしく尖らせたおっぱい?」

「い、イエス、で、あッ、ハ、い、イエスですッ」

「でもそこだけじゃないだろ? 左手はおっぱいを触ってるとして、七咲の右手はいったいどこを触ってるんだ?」

「言えないッ、んああッ、それは本当に、あッ、あッ、あんッ、い、言えないんですッ!!」

「どうしても?」

「それは……ダメ……ダメなんですッ、……先生の、ハスミン先生のお願いでも、教えたりしたら、あッ、ひッ、んクゥ、だ、ダメなんですッ!!」

 拒絶されたことに、蓮実は深い満足感を覚えていた。

 どれだけ担任教師に隷属したとしても、恥じらいを失わないのが最高のペットである。

 ねじ伏せて従わせるのが愉しいのであって、完成形としてそう仕上げるにしても、この段階で羞恥心のない淫乱な露出狂では面白くない。

「なら答えなくてもいいから、俺にせめてヒントをくれないか」

「ひッ、んッ、ヒン、ト、です、か?」

「触ってる教えられないところに、電話を近づけて音を聞かせてくれ」

「え、ええっ!?」

「あれもダメこれもダメって、そんなわけにはいかないよ」

 ため息をひとつする。

 蓮実は逢のわがままに付き合って、大幅な譲歩をしたような態度を取った。

 無茶苦茶な理屈で罪悪感を植え付けながら、生真面目な教え子をグラス片手に追い詰めていく。

 結果は見えていた。

 それでも逢の乙女のプライドのために、ウイスキーを喉に流しつつ、形式美のように何回かの問答をくり返してやる。

 くちゅッ。

 雨水の染み込んだスニーカーで足踏みしてるような、ガムを噛んでいるような粘ついた音を蓮実の耳は捉えた。

 七咲家の壁の厚さは、どの程度なのだろう?

 しっかりした造りだといいのだが。

「お願いだから教えてくれよ。七咲はどこを弄くってるんだ?」

「あ、アソコですッ、うぁああッ、アソコ、アソコを触ってますッ、んァッ、あッ、あッ、アソコ、アソコを、い、弄くってますぅッ!!」

「アソコって?」

「……お、ああ……やっぱり、やっぱりそんなの、そんなの、い、言えない……言えないッ!!」

「七咲はオマ○コを弄くってるんだろ? 七咲はオマン○が気持ちいいんだろ?」

「あンンッ、……あああ……そ、そうです……はぁッ、わ、わたしが弄くってるのは、お、オ○ンコですぅうううッ!!」

 隣りの部屋だったら、弟は今夜眠れないかもしれない。

 大好きなお姉ちゃんの溢れる愉悦の声。

 恥辱の声。

 おそらく精通を迎えたばかりだろう少年の心と鼓膜を、生涯忘れることのない甘美な音色として打つはず。

 ハァハァハァ――。

 絶頂に達したのだろう。

 しばらくは遠くから聞こえてくる、少女の荒い呼吸音だけになった。

 整うのを待つ。

 酔象亭どころかどこにも置いてない最高の酒の肴。

 くいくい飲み干してしまう。

「おやすみ」

「……お、おやすみ……なさい……」

 消え入りたいような少女の余韻を愉しみながら、蓮実は思いがけず長くなった電話を切った。

 しかし間を空けず、モリダートが奏でられる。

 液晶には教え子の女生徒の名前。

 新たな肴である。

「ハシゴっていうのも、偶にはいいかもな」

 その言葉を聞いて呆れたのか付き合い切れないとばかり、ムニンは大きく一声鳴いて夜の闇に飛び立っていた。






[41992] アクガミ 十八話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/10/28 09:38




「塚原」

 ちょうど部室の前を通り過ぎようとしたタイミング。

 カチャリとドアが開いて響が出てきた。

 水泳部は来年の部長を快く、逢が引き受けてくれたこともあり、三年生の追い出しが始まっている。

 なので水着を目当てにプールを覗いても、均整の取れたプロポーションを必ずしも拝めるわけではない。

 顔出し程度で退散してしまうので、放課後に響と会えたのは偶然だった。

 はるかとセットでいることが多いので、こうして独りでいることはけっこうなレアである。

「こんにちは」

 響は笑顔を見せたが、どこか雰囲気は固かった。

 踏まえて観察してみると、複雑そうな表情をしている。

「もう帰るのか?」

「さっきプールに行ったんですけど、七咲もわたしがいるとやり辛いでしょうから」

 警戒していた。

 微かに怯えがある。

「森島から休みの日にかかってきた電話、そのときアドバイスを求めた森島とどこまで喋ったんだい?」

「えっ?」

「いったい昼休みに橘からは、何を吹き込まれた?」

 表情を変えず笑みを浮かべたままの、蓮実の平坂な口調でする詰問に、響は顔を蒼白にさせて生唾を飲み込んだ。

 逢とはちがって響には、判断の材料が多い。

 決定的なものはないにしても、生徒思いの英語教諭に疑いを持つだけの、パズルのピースがここ数日で一気に集まっている。

 このまま放置はできない。

「きゃっ!?」

 もっともそれは後付けの理由でしかなかった。

 危険を感じ身震いした水泳部の前部長に、目も眩むような性的興奮を覚えたからである。

 興が乗ってしてしまった昨夜のテレフォン・セックスでのハシゴも、二軒三軒と続いてしまい蓮実の欲望を抑えがたいものにしていた。

 蓮実は弾かれたように床を蹴り、一足飛びで至近距離に迫り響の腕を掴む。

 肉食獣のようなしなやかな動きで、抱きしめるみたいに拘束しながら、素早く部室のドアを開けて侵入し鍵を掛けた。

 獲物が呆然としている間に、躊躇なくカーテンも閉めてしまう。

 檻が完成した。

 ――ガシャンッ!!

「ひッ」

 響の喉から引き攣った音が漏れる。

 壁ドンしたロッカーが予想外にけたたましく鳴って、クールな水泳部先代部長の身体を震わせた。

「塚原は森島と、……はるかと、俺の話をしたりするのかな?」

「はる、か?」

「そう呼んでも差し支えない関係だよ。ある意味では塚原よりも、親しくて深い関係になれた自信はある」

「……週末の、お、お泊りで、ですか?」

「どうしてわかったんだ? はるかが俺とお泊りしてるって。浮かれたはるかがきみと喋ってるとき、うっかり口を滑らせちゃったのかな?」

 蓮実は授業中と変わらない優しい口調だったが、内心では苦々しく思っている。

 女同士だとしばしば、とんでもないことまで打ち明けてしまうことは、これまでの経験でよく知っているつもりだったが。

 もしそうであるならはるかには、教育という名の躾が必要になる。

 ペットの不始末は、主人の責任なのだから。

「はるかの周りにいる男の人は、今までは橘くんくらいでした。その橘くんとの関係がおかしくなったら、急にハスミン先生ハスミン先生って……」

「たったそれだけで俺を怪しんだのか? 塚原はずいぶん勘がいいんだなぁ」

 これだから女の直感てやつは始末に終えないのだ。

「街中で蓮実先生を見かけました。誰だかわかりませんでしたけど、助手席に女性を座らせてポルシェに乗ってるのを」

「それだけで?」

「はるかが電話ではしゃいでましたから。ポルシェですごいマンションに連れて来てもらったって」

「ああ」

 それを聞いて安心する。

 なんだ。

 いつものように自分で蒔いたタネじゃないか。

 蓮実は自分はどんなミスをしても、リカバーできるという自信がある。

 根拠はあった。

 あの夜に卒業した四十人の命が、その根拠の裏付けである。

 そうでないと理不尽に未来を奪われた、可愛い教え子たちの魂が救われない。

 などと自分の直りそうもないうっかりぐせを、最近の蓮実はポジティブに考えるようにしていた。

 もうこれはオリジナリティ、自分の個性として割り切るしかない。

「橘とはどんな話を?」

 これからの生徒指導の参考のために、純一がどこまで情報を得ているのかの確認をしておく。

 純一の身の安全は一応プロテクトされているが、越えてはならない一線を越えているようならその限りではない。

 死にはしないが、心が壊れたら勘弁だ。

 そのくらいのレベルの処置を、やはり検討するべきであろう。

「は、蓮実先生は……、はるかを狙ってるって、だから自分を悪者に仕立てて、はるかから遠ざけたんだって」

 間違ってはいない。

 というよりも、ほぼその通り。

 あえて修正があるとすれば、すでにビフォアーかアフターかくらいである。

「それだけか?」

「蓮実のやつは七咲にも手を出してるみたいだから、絶対あのロリコン犯罪者を信じたりしないようにと」

 あいつ……。

 人が聞いてないと思って、無茶苦茶言ってやがるなぁ。

 裏の顔があるのは、おまえの方なんじゃないか?

 いずれにせよ純一への対処は、多少刺激の強いものでいいだろう。

「どうする?」

 顔をぐっと覗き込むみたいにして近づけると、蓮実は微笑して白い歯を無闇に光らせる。

 響の漏らす吐息が、誘うかのように甘い。

「橘の言ってることが事実だったら、はるかを狙ってるのも七咲に手を出してるのも、真実だったら塚原はそのときどうする?」

「わ、わた、し、は……」

 やっぱりか。

 瞳に被虐の炎を宿している。

 そうじゃないかと、何とはなしに漠然とだが思ってた。

 Excellent!!

「好き?」

「え?」

「悪い男」

「そ、そんな、わけ」

「めちゃくちゃにされたいんだろ?」

「んンッ!?」

 蓮実はピンク色に上気した教え子の唇を奪うと、半開きになった口腔にすかさず舌を差し入れる。

 貪るようなキス。

 欲望を純粋に高めていく。

 侵入と同時に瞬時に捕まえ、絡めた柔らかな舌を離すことができない。

 舌だけではなく歯茎や口蓋まで満遍なく、教え子のすべてを執拗に舐めまわし、あふれる唾液をときには啜りときには流し込んだ。

「んッ……むッ……んーッ……」

 蓮実は顔を傾け唇と唇をさらに密着させると、よりディープにフレンチに舌を潜り込ませる。

 繊細な身体を壊れそうなほど荒々しく、きつく抱きしめながら下品一歩手前、派手な音をさせて口づけを続けた。

「……うッ……ふ……」

 息継ぎができない先代水泳部部長が、苦しげなうめきを漏らしたところで、ようやく蓮実は薄い気品のある唇を解放した。

 蓮実はふと『嬌として力無し』という長恨歌の一節を思い出す。

 噛みたくなる耳に、染み込ませるように囁いた。

「どいつもこいつもはるかはるか、男はみ~んなはるかが好き……」

 びくんっ。

 脊髄反射みたいに震えが走る。

「わたしのことなんて誰も見やしない。女としてわたしなんて誰も見たりしない」

 止まらない。

 教え子の震えは小刻みに大きくなっていく。

 冷たい雨に打たれながら、立ち尽くしているみたいだった。

「保護者? それって雑用係のこと? 親友? 引き立て役じゃなくて? わたしは所詮、はるかあっての存在。塚原響は森島はるかのオマケ」

 アイデンティティを、根こそぎ剥ぎ獲りにかかる。

 秘めたる寒さを凌ぐための衣、偽りのあたたかさを暴いていく。

「わたしを慕ってくれる人もいるけど、でもそれは女としてのわたしなんかじゃない」

 そんなことを口にしながらも、蓮実の見解は響とは異なるものだった。

 べつに塚原響は女として、評価されてないわけではない

 羨望や憧れの感情を持っている生徒は、男女ともに相当数の隠れファンがいる。

 それよりもっと粘ついた目で視姦している者も、隠れファンの中にさらに息を潜ませて隠れている。

 ただ響は高校生にしてはかなり大人びており、子供っぽさが抜け切らない同世代では、ある意味ではるかよりもずっとハードルが高い。

 悪い言い方をするなら可愛げがない。

 女子ならそれはカッコいいものとして映るのだろうが、男子は自分の未熟さが浮き彫りになって気後れしてしまう。

 隙がない。

 まだ大人になれてない高校生男子が安心するための、良い意味での幼稚な馬鹿っぽさが響には足りなかった。

「だけど俺だけはちゃんと知ってる。塚原がはるかにも負けない、チャーミングな女の子なんだってこと」

 さっきとは違う。

 いきなり奪ったりはしない。

 ゆっくりだ。

 顔を背けて拒絶するというのはもちろん、抱きしめている腕の力も緩めているので、突っぱねるという選択肢も取れるだろう。

「あ……」

 しかし響は抵抗することもなく、素直に蓮実の口づけを受け入れた。

 薄いのに心地よい柔らかさと弾力があり、唾液のしっとりしたぬめりが感じられた。

 同世代より二歩も三歩も早く内面が成熟してしまった少女の、細身のようで凹凸のメリハリがしっかりした身体が震える。

 果実に似た甘酸っぱい匂いが、鼻腔を刺激してきた。

 響は涙を湛えた切れ長の目をそっと瞑ってみせると、抵抗することもなく蓮実のされるがままになっている。

 舌を口腔に挿し入れる。

「んン」

 今度は響も小さく声を洩らしながら、おっかなびっくりではあるが積極的に舌を蠢かせていた。

 お互いにお互いを舐めしゃぶり、唾液と吐息がどちらのものか、わからなくなるほど交じり合わせる。

「は、ぁ……」

 唇は離れても銀色に光る糸が二人を妖しく淫らに結び、この分野においては年相応な教え子を色っぽく喘がせた。

 友人にコンプレックスを孕んでいた少女は、もう立っていられないほどふらついている。

「平気?」

 蓮実はにやけそうになるのを堪えながら、身体を支えてやり床に座らせた。

 丁度いい頭の高さ。

 息を呑む。

 とろんとしていた響の瞳が、驚愕で大きく見開かれていた。

 目の前でチャックを下げられて、無視できるような処女はいない。

 熱さと硬さは抱きしめられながら感じていたろうが、視覚から飛び込んでくる情報は、質にしても量にしても膨大で圧倒的だった。

 魅入られたように逸らすことができない。

 ボクサーブリーフを掻き分け引っ張り出された勃起は、すでに血液を収束させて欲望を漲らせている。

 急角度で反って丸く尖った肉の槍の、グロテスクな裏側をこれでもかと曝していた。

 先端の鈴口からは涎が垂れており、卑猥な印象をさらに強いものにしている。

「塚原が可愛い女の子だから、女として見てるから、俺のはこんなになっちゃってるんだ」

 蓮実がナニを要求しているのか、いつの時代も耳年増な女子高生なら、聡明な響ならわからないわけもない。

 とはいえここは教育者として、最初の一歩を踏み出せるよう、背中を押してやるべきであろう。

「男をこんなにした責任、女として取ってくれるよな」

 ゆさりと腰を揺すり催促する。

 透明な雫が飛沫となってカーテン越しに、夕陽の色に染まった教え子の顔にぶつかった。

「頼むよ」

 それが切欠になったのかどうなのか、その辺りは定かではない。

 しかし何にしても、響が行動を起こしてくれた。

 渇き切った喉を潤そうとする犬のようにして、響は粘膜の接触を待ち望む勃起に顔を近づける。

 獣臭に一瞬怯んだのが可愛らしい。

 餌を前にして主人を窺うペットみたいに、おずおず上目遣いになって蓮実を見た。

 頷いてやる。

 薄い唇の隙間から控えめに、艶かしく舌が伸ばされた。

 蓮実はぎらぎら輝く牡の眼差しを、牝そのものの響の口元に向ける。

 凛々しい先輩という後輩少女たちの持ってるだろうイメージを、壊すかのようにピンク色の舌が勃起にぴたっと押し付けられた。

 妖しいぬくもりとともに唾液を塗りたくり、密かに新境地を開いた少女はペニスの裏筋に沿って丁寧に舐めあげていく。

 もちろんタッチは稚拙なものだったが、同性人気ならNo.1の少女にさせてるのかと思うとざわざわした。

「そろそろ咥えてみて」

 慣れてきたのか多少大胆になってきた頃合で、次のアクションをお願いという形にしてリクエストする。

 ぬむむむむッ……。

 響の気品のある理知的な口唇に、浅黒い男根が呑み込まれていく様は、背筋を粟立てるほどの淫猥なものだった。

「もっと奥までいけそうか」

 口内に迎え入れたことでよりエグ味を増しただろう青臭さに、またしても怯んでしまった響の後頭部をさり気なく押さえる。

 腰をぐっと突き出した。

「んぶぅッ!?」

 フェラチ初体験の教え子の喉から呻き声が漏れる。

 苦しそうに眉が寄っていた。

 後退させる。

 埋まった勃起はまだ半分ほどで、ディープスロートというには物足りないが、後輩が部活で汗を流している瞬間に、こうして涙を流しているのだ。

 ここでこれ以上の指導は、フェラチオ・ビギナーには酷だろう。

 だからこれは事故だ。

 廊下から物音がしてドアノブが回される。

 はっとなった。

 敵のない小さな池に慣れて、勘が鈍ってるのかもしれない。

 人の気配にまったく気づかなかった。

「おごぉッ!?」

 だがリカバー能力は衰えてない。

 ガムを詰め込んでおけばよかったかと後悔しつつも、鍵穴に鍵を差し込まれた音に鋭く反応して、勃起を咥えたままの響を一本釣りのようにしなが

ら、入り口から死角となるロッカーの陰に素早く隠れる。

 誰かが入ってきた。

 いや、入ってきたのが誰かだなんて、わざわざ考えるまでもない。

 部室の鍵の管理はどこの部も原則として、代表者である部長がすることになっている。

「ンむぉ……ぶぷぅ……」

 美人はどうなっても美人。

 滑稽ではあるがエロティックな顔を晒して、水泳部の前部長はここに跪いている。

 ならそこにいるのは、先頃就任したばかりの現部長だろう。

 忘れ物でもあるのかごそごそしていた。

「……んン」

 部長をバトンタッチした可愛がっている後輩の不意打ち。

 咽そうになるのを必死になって堪えながら、響は瞳をうるる泣きそうに潤ませて固まっている。

 蓮実は口元に人差し指を立てて、静かにというジェスチャーをにこやかなスマイルでする。

 面白くなってきた。

 ほんの数メートルの距離。

 今も何やら探し物をしている逢に、見つかる可能性はけっして低くはない。

 サスペンス映画では、主人公はまったく音を立てずに敵をやり過ごすが、現実では人は人の気配に意外に敏感だ。

 そうなったらそうなったで先輩後輩、二人まとめて仲良く犯してやるのもいいだろう。

 ほくそ笑む。

 隠れているロッカーの陰から少しだけ顔を出して、逢の様子を窺いつつまた蓮実は腰を前後に揺すり始めた。

「ン、むぅ、ん、んんッ」

 できる範囲で首を横に振る。

 響は拒絶の意思を瞳で懸命に訴えているが、蓮実はまったく聞く耳を持たない。

 二十センチ近くあるペニスを、遠慮なくぐいぐい押し込んでいく。

「……んんッ……、ンんんッ……」

 もしもここで派手に咽てしまえば一発アウトで、新部長に気づかれてしまうことは請け合いだった。

 響はベストを諦め、ベターを選択したようである。

 いい子だ。

 勝手気ままに蓮実のペースでされるよりは、まだ強弱を自分でコントロールできる分、こうした方がいくらかましだと思ったのだろう。

 目をぎゅっと瞑ると、響は率先して首を振りはじめた。

「んッ、んッ、んッ……」

 唾液とカウパー腺液が潤滑油となって、唇のスライドはとても滑らかである。

 もう喉を突かれたくないのか、勃起の長さと口内の奥行きを測るみたいに、ちょっとずつちょっとずつ慎重に、しごくエリアを広げていった。

 クールな教え子の温かな粘膜の奥へ奥へと、じわじわ呑み込まれていく感覚が堪らない。

 膨れあがった切っ先が喉につかえたところで一旦ストップ。

 含むときと同じようにあくまで自分のリズムを守り、そろそろした臆病なくらいのスローペースで折り返していく。

 おっかなびっくりな往復を幾度かしたおかげで、コツを掴んできたのか一定のテンポが生まれていた。

 じゅぷじゅぷ卑猥な粘着音がしている。

 さいわい逢は自分のだろうロッカーに頭を突っ込んで、水着を食い込ませたヒップを挑発するように振りながら探し物を継続中だ。

「もっと奥まで咥えて。それでもっと速くして」

 まるで催眠術に掛けられたように言われるがまま、響はぬらつき脈打つペニスを深く含むと、口唇がシャフトをスライドするテンポを速くする。

 いやらしい。

 溢れた唾液がシャープな顎のラインを伝い、喉元にまで滴り垂れてきている様は扇情的だった。

 それでいながら床に跪いて一心不乱、勃起をしごきたてる姿には可愛らしさもある。

 蓮実の「もっと」の声に従って、巨大な肉塊を根元まで咥えようとしていた。

 アルコールで酔う体質ではないが、この口唇愛撫の愉悦には酔わずにいられない。

 ――ちゅぶッ・ぴちゅッ・じゅぷッ……。

 極限にまでエレクトした牡器官はズキズキと疼き、射精のときが目前にまで迫っていた。

 陰嚢の付け根近くを通る輸精管が込み上げてきたスペルマで、ぷっくりと膨らんで痛みを感じるまでになってきている。

 放出への狂おしい欲求。

 バタンッ。

 ようやくお目当ての物が見つかったみたいで、少し古い型のストップウオッチを手に、こちらに気づくことなく逢は元気に部室を出て行った。

 これで響の願望を叶えてやれる。

「う、うう、うぅうッ!? おごッ、うぶぁぁッ!?」

 めちゃくちゃにされたい想いを秘めていた教え子の、花びらのような上の口を下の口に見立て、いきなり剛根を勢いよく突き刺した。

 腰を振りたくる。

 亀頭で喉奥を連続して叩かれ、涙を流しているが緩めない。

「全部飲んで」

 それだけを告げて蓮実の腰がびくんっと撥ねた。

 驚愕で目を見開いた響の口に、濃厚な白濁液がぶちまけられる。

 反射で逃げようとしたがそうはさせない。

 がっちりと後頭部を掴んで阻止すると、必死にもがいている教え子の口内で、来年度の水泳部顧問を熱望される牡の欲望の嵐が荒れ狂う。

 びゅくッ・びゅくッ・どくンッ……。

 無慈悲な勃起は無抵抗な粘膜を穢し、何度も何度もしつこくしゃくりあげる。

 鼻から逆流するほどの、多量の精液を注ぎ込んだ。

 息苦しさのあまり浴びせかけられる精液を、喉を艶かしく生々しく蠕動させて嚥下していく。

 うんうん。

 満足そうに頷きながらズルリと、やや力を失った勃起を引き抜いた。

 未練がましくねっとり卑猥に粘ついて、二人を結んでいた白い糸がフツリと切れる。

 絡むのか眉を八の字にして、響は時折むせかえりながら、口をもごもごさせてザーメンを飲んでいた。

 さすがにここで最後までというのは、またいつ誰がくるかわからないので難しいだろう。

 出すものを出して、蓮実はちょっと冷静になってきた。

 補習授業はまたにしよう。

 その際には一緒にレッスンを受ける学友も居た方が、お互いの存在が刺激になって身が入り良いかもしれない。

 サプライズで二人を会わせたら、どんな顔をするんだろう?

 海綿体に新たな血液を流し込まれ、響を眺めながら微笑む蓮実の勃起は、グロテスクな本来の姿を取り戻そうとしていた。






[41992] アクガミ 十九話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/11/12 14:47




 自画自賛。

 見様見真似だがなかなか堂に入ってる。

 ぼぉーっと眺めている梨穂子よりも、上手く淹れられる自信があった。

 基本的な作法も問題はないが、そちらの方は今はいいだろう。

「どうぞ」

 副部長である愛歌が所有している怪しい茶器を、勝手に棚から出して蓮実は傷心の教え子に振舞った。

 そう。

 傷心の教え子に……。

 純一らしくない。

 おまえがいったいぼくの、何をわかってるっていうんだ。

 ひどい、よ。

 如何にも青春してますという甘酸っぱい会話が、放課後の渡り廊下で交わされていたので、バグで捉えた蓮実は宿直室から急いで駆けつけた。

 グッドタイミング。

 振り返りたいのに振り返れない背中、角を曲がって純一の後姿が消えたところだった。

 幼馴染に冷たく突き放されて、独りポツンと取り残されている。

 泣くか泣かないかという、まさにぎりぎりの分水嶺。

 顔をうつむかせうるうると潤んでいる瞳から、涙が零れそうになる寸前に、偶然ここを通りかかった風を装って声を掛けた。

「こんなところに突っ立って何してるんだ?」

 にこやかに話しかける。

 頭にぽんっと優しく手を置いた。

 そうされてからようやく蓮実に気づいたみたいで、のろのろと億劫そうに梨穂子は顔を上げる。

「先、生」

「……顔色悪いぞ」

 蓮実も蓮実で梨穂子の只ならぬ様子に、今になって気づいたというように、元気のない教え子を心配するふりをした。

 月並みな表現をしてしまえば、捨てられた子犬のような目をしている。

 もちろん拾わない手はない。

 すんっ。

 可愛く鼻が鳴った。

 目頭の方も相当熱くなってるだろう。

「ちょっと一服しようか。茶道部の部室に行こう」

 梨穂子はコクリと素直に頷くと、促されるまま蓮実の後ろについて歩きはじめた。

 もう迷子になりたくない。

 独りは嫌。

 そんな気持ちの表れ。

 不意にシャツの裾を掴まれてしまい、蓮実は一瞬動きを止めたものの、されるがまましたいようにさせておく。

「鍵は?」

 部室になっている日本家屋に着いて尋ねると、梨穂子は子供っぽい仕草でふるふる首を振る。

 部そのものが来年、どうなってるのかもわからない状態だ。

 当然といえば当然なのかもしれないが、茶道部はまだ部長の交代がされてないらしい。

 蓮実は内ポケットからキーリングを出すと、校内のほぼ全ての開錠が可能な、独断であり無断で作った合い鍵を差し込んだ。

 どうして部室を開けられるのか、疑問の湧く余裕のない梨穂子を座らせ、確かここにあったはずと棚をごそごそする。

 部長の琉璃子秘蔵の、危険な香りのする茶葉を発見。

 所詮人の物なので、惜しげもなく使用する。

「……あ、なんだかわたしの淹れたのより、ハスミン先生の淹れたお茶の方がすごく美味しいかも」

「結構なお手前?」

「はい。結構なお手前です」

 やはり多少無理をしているが、ほにゃと梨穂子は柔らかく笑った。

 美味しいと言ってくれたのは本心だろうが、そこには蓮実までいなくなってしまったらという、無意識下の根源的な媚びも垣間見える。

 ひとしきりお茶談義。

 場が解れて徐々に切り出し易い空気になってくる。

「何があった?」

 労わるような慈愛の眼差しは必須。

 背中を押すようにして、やさしく言葉を掛けた。

 効果覿面。

 もともと誰かに、訊いてもらいたいのだ。

「せ、先生……」

 決壊寸前だった涙腺は早くも、あっさり緩んでしまい可愛い泣き顔になる。

 笑い顔が可愛い子は、泣き顔も可愛いが蓮実の持論だ。

「わた、わたし……、どうしたら……わたしが……わたしがやっぱり、わ、悪いのかな……」

 ドモり上ずりしゃくりあげる。

 梨穂子はたどたどしく事情を説明しているが、そこはむしろ梨穂子よりも詳しいのでどうでもいい。

 辛抱強く聞いているように装いながら、お茶のデザートとして教え子を、美味しくいただくための頃合を窺う。

 お嬢さん座りしたスカートから覗く太腿はむっちりしていた。

 学校指定のセーターを内側から押し上げる乳房は、瑞々しく実っており果肉が詰まっいて重そうである。

 かぶりつきたい。

「おまえに……、ぼ、ぼくの気持ちがわからないって、ふられたことない奴が、え、えらそうなこと、い、言うなって……」

 そんなことえらそうに、幼馴染の女の子に言うことじゃないだろ。

 橘も屈折してきてるなぁ。

 真剣に耳を傾けている演技をしながら、蓮実は迷える思春期男子の心境をほくそ笑んだ。

 また恋愛イップスになってるらしい。

 しかも重度の。

 幼馴染。

 お互いにお互いを、何となく感じる部分はあるはず。

 まして純一がふられたばかりという、わかり易いシチュエーションである。

 二次元のキャラじゃないのだ。

 梨穂子が自分に友だち以上の想いを抱いているのではと、ちらりとでも考えなかったというのはあまりにも考えづらい。

 弱っているときに優しくされてしまうと、簡単にころっとイってしまうのは男女ともに同じだ。

 はるかという存在を失った穴を、梨穂子で埋めようとしても、然程おかしくないどころかとても自然である。

 告白すればかなりの高確率で、望み通りの結果が得られる。

「どうせ……お、お気楽な……、お、おまえには、……い、今まで……す、好きな奴なんて、い、いたことないんだろって……」

 ただそれだけの好条件が揃っていても、不可解な失恋を経験してしまった純一は、成功が約束された百パーセントの確率じゃないと動けない。

 いや、たぶん、それでも駄目だろう。

「いるんだったら……、い、言ってみろって。……い、いないおまえがぼくの気持ちを、り、理解したようなこと、い、言うなって」

 だから梨穂子にさせたいのはわかるが、余裕がないのも誰よりわかるが、――言葉が強い。

 萎縮させるだけだ。

 すぐ傍でずっと秘めていた想いを、告白なんてとてもとてもできるムードじゃない。

 蓮実もそう仕向けることはあるものの、行為のディティールは似ているが、純一とはスタンスが大きく明らかに異なる。

「……あのとき言わなきゃ、い、いけなかったのに……、わたし……、わたし何にも言えなくて……」

 空になった器に傷心の少女の、悲しげな視線が注がれている。

 憂いを帯びた表情をぞくぞくしつつ眺めながら、蓮実は瞬時に話のプランを組み立てた。

「それは本当に桜井が、言わなきゃいけなかったのか?」

「え?」

「桜井が言ってほしかった相手は、今も橘のままで本当にいいのか? 初恋の思い出に引っ張られてやしないか?」

「それは――」

 何かを言いかけたものの、梨穂子は口をつぐんだ。

 初志貫徹で片想いを続ける自分をよそに、華やかとは言い難いが恋愛遍歴を積み重ねていく純一。

 上手くいっていれば惚気られ。

 ふられれば八つ当たり。

 落ち込んでいるようならさり気なく慰める。

 都合のいい女だ。

「このままじゃお互いがお互いを、ダメにするかもしれない」

 明確なイメージはなくとも漠然とは、自分が幼馴染にそういうポジションに、置かれているのは梨穂子もわかっていだろう。

 だが許容できるのはそこまでだ。

 蓮実はこの何ヶ月かで初恋の賞味期限を、だいぶ削って消費期限ぎりぎりにした自信がある。

 明るく爽やかな頼れる教師としてだけではなく、一人の男として気になる存在になれた絶対の確信があった。

 どっちが好きなんだろう?

 揺れる想い。

 なのに淡い初恋を人質にして、弱味に付け込むような告白の強要は、梨穂子にはショックだったはずだ。

 女子は敏感である。

 イヤホン越しに聞いてて蓮実も「おや?」と思ったのだが、迫る純一の声にねっとりして生々しいモノが含まれていた。

 精神的な結びつきよりも肉体的な欲求が優先されるのは、この年頃の男子とし当たり前といえば当たり前である。

 しかしそれがそれしかないと思わせるぐらい、純一の声は粘りがあり露骨だった。

 デリケートでナイーブなのは何も、純一のメンタルだけじゃない。

 ひびを入れるには十分過ぎる。

 さあ。

 このまま初恋粉砕だ。

「それは……」

 梨穂子は続く言葉が出てこない。

 けれど沈黙は何より雄弁に肯定したのと同じである。

「ごめんな」

「え?」

「いい歳して意地の悪いことをしたみたいだ。言ったことはすべて忘れてくれ」

「……えっ? え、え、え!? そんな、そ、それって、どういう?」

「情けないけど、橘に嫉妬したのかな」

「純一、に?」

 これで比べただろう。

 気遣いのある大人な英語教諭と自分勝手で子供な幼馴染を、梨穂子は女の目線で冷静に計算し男として比べていた。

 純一のスペックは、実はなかなかのものである。

 どれも突出したものはないが、その代わりどこにも弱点がない。

 勉強にしてもスポーツにしても、ルックスにしても客観的に判断して平均以上だろう。

 性格も女の子に敬遠されるような、男らしさを勘違いした粗暴な部分はない。

 全体の評価として清潔感がある。

 この間までは。

 人知れず広報活動をした甲斐がある。

 すでに2年A組だけではなく学校中に、花園の『はなぢ王子』を凌駕する渾名は轟いていた。

 どちらかというと目立たないキャラだったが、今や純一は『ボッキ王子』として広く認識されている。

 ゴシップに尾ひれは付き物で、大小のサイズはもとより、先端が濡れていただとか、ズボンの中で暴発させただとか、事実でないことが真実として

定着しつつあった。

 ああいう人畜無害で普通そうに見える奴が、いきなりヤバい事件起こしたりするんだよ。

 カメラが趣味なんだって。

 なんでもスタンガンを持ってるらしいぜ。

 やっぱそれってそういうこと?

 かもな。

 などとあっちこっちで囁かれている人気者になっていた。

 梨穂子がそれら噂を鵜呑みにしたとは思えないが、純一の粘りのある欲望が垣間見えた告白強要と、噂を結び付けなかったとは考えづらい。

 唯一といっていい武器だった清潔感は、残念ながらもうなくなっていた。

 孤立無援とまではいかないものの、男子の冗談めかしたおおぴらな揶揄と、女子の陰からの非難で味方をだいぶ失っている。

 周囲はそういうつもりではなくとも、ヒエラルキーの暴落した純一にすれば、イジメに類似した状況かもしれない。

 いつそれが現実のものになってもおかしくないが、梅原という粋な親友の存在がぎりぎり食い止めていた。

 スクールカーストの上位である詞と薫が嫌っているので、敏感にRead the air,した女子からはほぼほぼハブられている。

 純一にとって女子は、梨穂子が最後の砦だった。

 もっとも近日中に親友ロス、そしてこれから幼馴染ロスしてもらうわけだが……。

「あいつは俺にないものを、たくさん持ってるからな」

「は、ハスミン先生の方が純一より、たくさんたくさん持ってます」

 わかってる。

 言われるまでもない。

 しかしそれを蓮実の口からではなく、梨穂子に言わせたのは大きかった。

「年齢とか立場とかどんなに欲しくても、もう俺には手に入らないものを橘は持ってる」

「……そ、そんなの関係ないです」

「残念だけどそれがあるんだよ。俺には橘とちがって、告白する権利がないんだ」

 心無い幼馴染の言葉に傷つけられた女の子を、慰めるという話が完全に別物にすり替わっている。

 やさぐれた純一の扱いは、いつの間にかもうすでにオマケ。

 主題は蓮実と梨穂子の告白になっていた。

 ごくっ。

 お茶で喉を潤したはずなのに、苦労して梨穂子が唾を呑み込む。

 さっきまで寂しげに下ばかりに落ちていた視線は、身体をしきりにもじもじさせながら、真っ赤な顔でまっすぐ蓮実にだけ向けられていた。

「もう一服するか?」

 だが切なそうに微笑みながらあえて蓮実は、これでこの話は終わりだという雰囲気を出す。

 梨穂子の前にある器を取るふりをして、設置したカメラのベストアングルになるよう、計算された自然な動作で距離を詰める。

「ハス……ミン……、せ、先……生……」

 けれど蓮実は不自然に動きを止めた。

 顔と顔が近い。

 この距離が男女で自然なものとして映るのは、おそらく唇と唇のコミュニケーションだけであろう。

 お年頃の女子高生に、いつだって興味津々の女子高生に、キスに憧れる女子高生に、それがわからないわけがない。

「イエスなら目を閉じて、ノーなら首を振ってくれ」

 さあここは重要な選択だぞ。

 目を閉じればなるだけ優しく奪ってやろう。

 でも首を振れば可哀想だが少々乱暴な、初体験にならざるを得ない。

 蓮実はどちらでも愉しめるのだが、できれば梨穂子にも愉しんでほしかった。

 最終的には無理やりレイプされたことも、愉しい思い出として昇華させるつもりだが、梨穂子が望んで捧げたという方がショックな気がする。

 自分じゃない誰かに恋をしている幼馴染に、純一もきっと新たな魅力を感じて萌えるはずだ。

 Excellent!!

 いい子だ。

 ゆっくり閉じられる。

 ずっと密かに想い続けていた幼馴染とは違う男との、ファーストキスの期待と不安で唇がふるふる揺れていた。

 熟れたリンゴみたいに真っ赤になって、熱くなっている柔らかな頬に手を触れさせる。

 びくっ。

 初々しく身体が震えたが、それでも目は閉じられたままだ。

 瞼が小刻みにぴくぴくしている。

 チュッ。

 小鳥が啄ばむみたいな、軽い挨拶のようなキスをした。

「え……」

 刹那の感触を捉えきれなかったのか、驚きと戸惑いでぱっと目が開けられる。

 キョトンとした小動物ちっくな顔をした。

 その無防備な可愛らしさに胸をときめかせながら、さあここからが本番だぞと唇を強く押しつける。

「んンッ!?」

 中途半端に開いたままになっている唇を割って、自分の舌しか存在したことのない口内に、蓮実は生まれて初めて他人の舌を感じさせていた。

 舌を絡めとり優しく吸うと、梨穂子は子犬のような声を漏らした。

 初恋に別れを告げたばかりの少女の、とろみのある唾液と一緒に熱い吐息が流れ込んでくる。

 少し渋いタンニンの味がした。

 だがそれもすぐにまろやかな甘味に変わり、啜っても啜っても飽きることがなく病みつきになりそうである。

 反対に蓮実の方から唾液を送り込むと、一瞬びっくりした顔をしたものの、すぐに目を閉じ喉を鳴らして嚥下してくれた。

 口づけを交わしたまま、カメラのレンズを確認しつつ、梨穂子の背筋を撫であげる。

「……ふぅッ……んッ、んッ……はッ、んッ……んんッ」

 腰からうなじまで何度も何度もじりじり往復させ、少女の未熟な性感を揺り起こすように這わせていく。

 かゆさやくすぐったさとはまた異なる未知の感覚に、焦れたように梨穂子は身をよじらせていた。

「はンンッ」

 唇を離すとそのときを待っていたみたいに、キャラにはない色っぽい声を梨穂子は漏らす。

 自分でもそれがよくわかっているのか、もうこれ以上はないと思ってた顔を、梨穂子はさらに真っ赤にさせていた。

 その様子にはこの年頃にしかない未熟な色気がある。

「あッ、ンッ、そんなとこまで、き、キスするんで、あンッ」

 こうやって普段は見られない生徒の、隠れた才能を引き出してやるのも、教師としてのやり甲斐を感じるときであり醍醐味だ。

 痕跡が残るほど首筋にも吸いつき、唾液を塗りこめるように舌を這わせる。

 耳たぶを噛んだ。

「ひゃッ!?」

 物心ついたころからずっと一緒だった純一でも、まるで知らない梨穂子がカメラのレンズに曝されている。

 愉しんでくれたら嬉しい。

 蓮実は肘で身体を支えて仰け反るような格好の梨穂子から、いったん離れてぷにぷにしたふくらはぎをそっと手に取った。

「あ?」

 仄かなピンク。

 スカートが捲くれシンプルなデザインのショーツが露わになったが、その恥ずかしさより蓮実の行動に驚き梨穂子はフリーズする。

 失恋した少女は蒸れた匂いすら芳しい。

 白いソックスを爪先から抜き取ると、唇や首筋にそうしたように足裏にも舌を這わせた。

 縮こまった指も一本一本丁寧に、股の間まで執拗に舐めしゃぶる。

「んッ……クッ……んンッ……」

 倒錯的な行為に翻弄される梨穂子の痴態に目を細めつつ、蓮実は両足とも綺麗に穢し貪り尽くすと、やがて不埒な範囲を内腿にまで拡げていった。

 皮下脂肪の乗った肉は若い張りに満ちており、欲望のまま牙を突き立てたくなる。

 だがここは我慢。

 さらに奥で息づく処女の媚肉に突き立てるのを、痛いほど勃起したモノで挿し貫くのを想像しつつ身体を起こした。

 抜け目なく開かれた両足の間に割り込むと、しどけなく横たわる教え子の制服の裾に手をかける。

 ぷにっと柔らかそうだが、可愛らしくて見苦しさはない。

 顔を埋めたくなるお腹が現れ、しかし制服がスルスル滑ったのはそこまでで、ショーツとお揃いのピンクのブラに包まれた乳房に阻まれる。

 まだ裾野しか見えない。

 ぐぐぐっ……。

 だが蓮実はそのささやかな抵抗をむしろ歓迎しながら、零れそうで零れないバランスをしばし愉しむ。

「あ、だ、ダメッ」

 梨穂子が制止の声を上げるが、淫行教師がそんなのを聞くわけがない。

 ミルクプリンのように甘そうな美巨乳が、ぷるるんっと勢いよくまろび出る。

 丘陵の曲線と頂点で揺れる淡い色の乳首が、白々とした蛍光灯に鮮明に儚く照らされていた。






[41992] アクガミ 二十話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/11/26 17:16




 急によそよそしくなるのは構ってのサイン。

 猫は追い掛け回しても駄目。

 我慢できずに向こうから、寄ってくるのを待った方がいい。

「ハスミン……」

 遠回しだが露骨なお誘いだった。

 勉強を教えてほしい。

 誰もいない放課後の廊下で、美也に呼び止められた。

 ショックは立て続けの方がより効果的である。

 幼馴染だけでなく妹もロック・オンしていたが、撃ってくれとターゲットから飛び込んでくれたのはあり難い。

 昨日の今日でイベントが連続してる。

 蓮実は不安そうにしている美也に、心からのスマイルで応えた。

「それじゃこれから、橘の家に行こうか」

「え?」

「普段どんなところで勉強してるのか、いい機会だから担任として見ておきたいんだよ。……それにな、ちょっと問題になっててね」

「問題って、ど、どんな?」

「特定の生徒ばかりを優遇するのはどうかってな。俺と橘の仲の良さは職員室じゃ、けっこう有名な話だったりするんだ」

「そ、そう?」

 美也は何でもないような口ぶりで満更でもない顔をする。

 ただすぐに曇った。

「でもハスミンのホントのイチバンは……」

「図書室とかでもいいけど、学校じゃ誰がどこで見ているかわからない。いつも勉強している部屋なら、誰にも邪魔されないし橘も落ち着くだろ?」

「……う、うん」

 薫との行為をピーピング・トムされていたのは、奥で一緒に創設際の準備をしていたという紗江からも聞いていた。

 覗きをしていたというやましさがあるのか、美也は一瞬ぴくんっと身体を震わせて、それを取り繕おうとするみたいに慌てて頷く。

 けっきょく蓮実に押し切られてしまう形で美也は、不意打ちで家庭訪問を受ける羽目になった。

 橘家は学校から歩いて十五分、ないし二十分ぐらいのところにある。

「けどいきなり担任が訪ねたりしたら、お母さんも迷惑だよなぁ」

「今は誰もいないから、え、遠慮しなくていいよ。にぃ、お、お兄ちゃんも、生徒会で遅くなるみたいだし」

「そっか」

 もちろん承知していた。

 極度に緊張して鍵がなかなか見つからず、見つかっても差し込み回すのにてこずる美也に、さらにプレッシャーを与えてから橘家に侵入する。

 捕食者を知らないうちに招き入れたことで、自分の家なのに美也がリラックスできる場所ではなくなっていた。

「へぇ~。ここが美也の部屋かぁ」

 憐れな獲物は最もプライベートな空間にまで通してしまう。

 唐突に下の名前が呼ばれたことで、暢気にドキッとさえしていた。

 美也の部屋は女の子の部屋というよりは、子供っぽい部屋という方がしっくりくる。

 たぶん小学校くらいから大きな変化はないだろう。

 ピンクのカーテン。

 おしゃれな出窓にはポプリの鉢植え。

 壁に貼られたポスターは、蓮実にもお馴染みになったビーバー三国志。

 床には毛足の短いカーペット。

 入ってすぐの右の壁に沿って洋服ダンスがあり、その隣りにテレビを載せたマンガ本でぎっちりになってる書棚がある。

 そしてそのさらに奥には部屋の角にはめ込むようにして、ランドセルが引っかかっていそうな古めかしい学習机が置いてあった。

 真ん中には背の低いガラス張りのテーブル。

 左手には枕元に多数のぬいぐるみが所狭しとひしめく、シングル・サイズのベッドが鎮座している。

 脱ぎ散らかされたパジャマや乱れたシーツなどが、生の少女のリアリティを感じさせた。

「わわわっ!?」

 美也は慌ててばかりだ。

 パジャマを洋服ダンスに放り込むと、シーツをとにかく手早く雑に整える。

 蓮実はそんな可愛らしい様子に苦笑しつつ、肩にかけていたショルダーバッグをさり気なく、ベストポジションに設置して腰を下ろした。

「着替えるなら、後ろ向いてるからどうぞ」

「……え?」

 何でもないことのように、さっさっと背中を見せてしまう。

 当然のようにフリーズしている気配があったものの、蓮実も負けじと当然のように無視して背中を見せ続けた。

 そして当然のように、この根比べに蓮実は勝った。

 衣擦れの音が聞こえてくる。

 さっきから美也はいちいち媚を売り、蓮実の機嫌を損ねないよう関心を買おうとしていた。

 これが男と女の違いなのかもしれない。

 橘兄妹は似ている部分もあるが、まるで似ていない部分も多々ある。

 純一なら諦めモードになる展開も、初体験ゆえの怖いもの知らず、逆に美也には火がついたようだった。

 奪ってやる。

 そこまで明確なものではないかもしれないが、半ば強引に蓮実が押しかけたとはいえ、誰もいない家に男を連れ込むのだから、漠然とはいえ美也に

そういう思惑がないとは考えづらいし、そうであってくれた方がこちらも都合がいい。

 制服から着替えるだけにしては、随分時間がかかっている。

 それは処女の少女が、覚悟するための時間。

「も、もういいよ」

 隠すのにさして苦労はなさそうだ。

 乳房というのにはなんともボリューム不足で躊躇してしまう胸と、どけても肌色しかないのが容易に想像できる股間を手で覆っている。

 一糸纏わぬ全裸だった。

 極端でストレートな対抗策。

「……み、美也」

 振り返った蓮実は巧妙に、あまりにも予想外だというように、唖然とした顔をしてみせる。

 その反応に美也は不安を喚起されたようだったが、弱気になる自分を叱咤しぐっと堪えてむしろ前に出た。

「みゃーね……み、見ちゃったんだ。棚町先輩とハスミンが図書室で……え、エッチなことしてるの」

 知ってるよ。

 とは言えない。

 紗江からはわんわん泣いて、落ち込んでいたと聞いている。

「ハスミンは棚町先輩が好きなの?」

「……ああ」

「みゃーよりも?」

「それは……」

 ひと昔前のラブコメの主人公みたいな、意志が弱く煮え切らない態度をあえて取った。

「迷うってことはみゃーにもまだ、希望があるってことなんだよね? ハスミンの恋人になれるかもしれないってことだよね?」

 何とももの凄い三段論法もあったものである。

 しかし否定はしない。

 どころか沈黙で肯定してやる。

「してもいいよ」

 橘、いや、ここは親しみを篭めて純一と呼ばせてもらおうかな。

 迫真の演技を続けながら、蓮実は心中でほくそ笑んだ。

「棚町先輩にしたようなこと、それよりももっとエッチなことだって、ハスミンならみゃーにしてもいいんだよ」

 純一。

 美也はけっこう大人だ。

 おまえは子供だと思ってるんだろうけど、おまえの妹は処女のくせして、先輩から女の武器で男を寝取ろうとしてるんだからな。

 この分野では兄貴よりアダルトなのは間違いない。

「何を言ってるかわかってるのか?」

 今になってわからないと言われても困るので、そうなったら徹底的にわからせてやるまでだが。

「わかってる、よ」

 改めて問われたことによって、自分の言葉の意味を再認識したみたいで、美也は目元に恥じらいの色を濃く浮かべる。

 身体全体もほんのり赤く染まっていた。

 Excellent!!

 声にならない声で叫びつつ、これぞ苦悩という表情を作りながら、ゆっくり立ち上がって美也に背を向ける。

 それこそ後ろから声にならない声の、乙女の悲しみの慟哭が心地よく聞こえてくる。

 最高のバックグラウンド・ミュージックの効果もあって、蓮実は背中で語るという難しい演技を完璧にできた自信があった。

 こんなことしちゃいけないけど、教え子を諦めさせるためには仕方がない。

 そんな感じの演技。

「あ……」

 か細い美也の声を無視して、蓮実の足が向かったのはドアではない。

 カーテンを温かな外界から閉ざすように勢いよく閉める。

 薄暗くなる室内。

 微かな闇が程よい緊張感を煽る。

「すまない。美也の本気を……、試してもいいか?」

 なかなかのレベルのゲス発言をしていた。

 愛想を尽かしてくれ。

 心がばらばらになり身が裂けるほどつらいけど、教え子のために教え子にわざと嫌われようとしている。

 できればそういう風に受け取ってほしかった。

「うん」

 いい子だ。

 にやにやしそうになる頬の筋肉をどうにか、なぜわからないんだという顔に構築しながら、重々しく振り返りもとの位置に戻って座る。

 喜んでいいのかどうか、混乱している教え子と向き合った。

「立って」

 蓮実は冷淡にも聞こえる平坦な声で、ガラス張りのテーブルの上を示す。

 美也ははっきり息を呑んだ。

 頑丈な材質でできたガラスではあるが、まさかピョンッと飛び乗るわけにはいかない。

 ゆっくりそ~っと乗る必要がある。

 足を開いて。

「ううッ」

 花も恥らう女子高生には、やはり高いハードルだろう。

 はいそうですかと、すぐさまできるものではない。

 なので蓮実は言葉と態度で尻を叩いた。

「無理なようなら――」

 腰を浮かせかけた蓮実に連動するみたいに、美也の脂質の薄い足が持ち上がる。

 ほんの一瞬。

 直射日光を浴びたことはないだろう白い下腹に、シェルピンクの花が咲き綻んだのを見逃さなかった。

 品定めされる奴隷みたいに、十六歳の少女が舞台に立ってる。

「気をつけをしてごらん」

 数秒間の攻防。

 ぷるぷる手を震わせて羞恥心が抵抗するが、どんな形でも恋を成就させようとする少女の、克己心の方がどうやら勝ったみたいだった。

 バラの花びらのような可憐でささやかな胸のふくらみも、無毛だが不毛ではない股間に刻まれたスリットも露わになる。

 見下ろしているのに上目遣いという器用なことをしながら、美也は今にも涙を零しそうなほど瞳を潤ませていた。

「そのまま手を後ろで組んで、足を肩幅に開いて」

 たぶん美也は小さな頃から小さくて、背の順で並べばおそらく常に最前列だっただろう。

 慣れた姿勢のはずだ。

「あ、ああ」

 けれどそのポーズを取るまでに、美也はかなりの時間がかかった。

 理由は単純な乙女の恥じらいだけではない。

 いや、恥らう理由を自覚していることで、またより恥らっていたからこそ、フリーズの解凍に時間がかかってしまった。

 喰い入るような視線に晒されるのを想像したからか、覗いた粘膜は触れてもいないのに淫らなぬめりを帯びている。

 教え子は幼い身体を濡らしていた。

 そしてその一因一助には、蓮実の反応も関わっていた。

 身体をくねらせながら喰い入るように、ある部位に美也も熱い視線を注いでいる。

 担任の力強く隆々と勃起した股間を、つぶらな瞳ははっきり捉えていた。

 初々しいストリップショー。

 表情こそ教育者というスタンスを崩してないが、身体の方は牡そのもののリアクションで応えていた。

「いやらしいな」

 蓮実はポツリと呟く。

 即座に起こるAs Soon As.

 粘膜の中心に穿たれた小さな穴から、透明な粘液が滲みだしてくる。

 ツツゥ――ッ。

 しっとりした肉色のぬかるみから溢れたソレは、少女のスッキリとした脚線を滑り、やがてテーブルに小さな水溜りを作るまでになっていた。

「乳首も」

 同世代の女の子よりも美也の場合、意識して顎を引かねば確認できない。

 言われてハッとなる。

 胸を見た。

 発展途上なはずのふくらみの頂点で、サクランボのような蕾はボリュームを、補おうとするみたいに硬くしこっていた。

 ここまでしてくれれば、チキンの純一でもトライできるだろう。

 たとえそれが恋愛イップスの童貞でもわかるからだ。

 欲情のバロメーターが出揃っている。

 教え子は犯されたがっていた。

「やン……」

 顔を逸らすがそれすらサインだと、牡であるなら気づかないわけがない。

 どれだけ乱暴に押し倒しても拒絶はされない。

 美味しい獲物だ。

「手を頭の後ろで組んでくれ」

 だが蓮実はそこで仕留めにはいかない。

 蓮実の狩りは生きるためでなく、あくまで趣味のハンティングだ。

 嗜虐の癖はないはずだが、嬲られずにもいられない。

 慈悲の一撃はなかった。

「……恥ずかしい」

 成人女性が目にすれば羨むだろう。

 何の処理もしてないのにツルツルな腋の窪みが、担任教師の指示によって晒されていた。

 昨日までの美也ならきっと意識してなかったはずの部位だが、初めて生々しい牡の視線を浴びたことよって牝を意識させられている。

 僅かな差異。

 しかしひとつ頷いて立ち上がった蓮実に、びくんっと身体を震わせたのは、明らかに子供としてでなく女としてだった。

「は、あッ、んクゥ」

 あるかないかの微かな少女の体臭を嗅ごうとするみたいに、息がかかるほど顔を接近されてしまい身悶えている。

 普段の美也を知っていれば知っているほど、衝撃を受けずにはいられないだろう。

 その仕草には幼いながらも、確かなエロティシズムが存在していた。

「あッ……、ふッ、うぁああッ……あッ、あンッ、あ、ンぅッ」

 回り込んで首筋から背中、可愛いヒップの割れ目にまで、優しく意地の悪いブレスを吹きかける。

 腋の下やうっすら肋骨を透かせた脇腹などにも、ボイス・トレーニングで鍛えた呼吸から、蓮実は執拗なくらい吐息での愛撫を美也に施していた。

 膝がガクガクしている。

 ちょっとしたお遊びで始めたことだったが、このまま吐息だけで絶頂に導きないものだろかと、蓮実はゲーム感覚で未熟な性感を苛めていた。

「はぁンッ!?」

 痛々しいまでに尖った乳首は、触れれば血を噴きそうなほど勃起している。

 儚げですらあったピンク色は紅く染まっていた。

 北風よりも冷たく生温かい吐息に、待ち望んでいた妖しい刺激に、堪えていた膝があっさり折れそうになっている。

 とはいえ堪えられそうか不安なのは、舐めたい衝動に襲われている蓮実も同じだった。

 噛みつきたい。

 この段階になって対戦相手のいるゲームだったことに、そして意外にいい勝負をしていることに気づいて蓮実は苦笑した。

 だが敗者はもう決まっている。

「――あふぁッ!?」

 ようやくゴールに辿り着いたと思ったら、トイレに先客が居てまだまだバトルが続きそうな状態だ。

 漏らすのを我慢するみたいに内腿になって、泣きそうな顔で腰をくねらせている美也には、そこから耐え切るような余裕はないだろう。

 トロトロになっている処女粘膜に、トドメのブレスを吹きかけた。

 プシャアアアアッ。

 はしたなく潤んでいるヴァージン・ホールは、淫らにひくつきながら盛大に潮を撒き散らす。

 陥落。

 折れそうで折れなかった膝が、カクンッと折れて美也の身体が崩れてくる。

 予想していた蓮実は、余裕を持って抱き止めた。

 快楽の荒波に翻弄された教え子は、担任教師にしがみつき、電流に撃たれたように身体を痙攣させている。

「あッ、あッ、あァ――ッ!!」

 高々とエクスタシーの叫びを上げると、強張っていた四肢から力が抜け、美也はぐったりとなった。

 上気した顔を蓮実の胸に押しつけながら、少女の唇から色っぽい吐息が漏れている。

 汗ばんだ肌から、濃厚なミルクのような匂いがした。

 蓮実は自分の胸に安心しきって預けられる少女の心地よい重みに、保護欲と征服欲の両方が満たされていくのを感じる。

「美也……」

 荒い呼吸が整いだしたのを見計らって、可愛い耳に優しく囁くように声を掛けた。

 うっすらと目を開いた美也が、寝ぼけてるみたいに顔を上げる。

 勝者の特権。

 戦利品をゲットした。

 もう何人目かわからないほど教え子の唇を奪ってきたが、この瞬間はいつも新鮮で胸がときめく。

 柔らかいのは共通しているものの、千差万別それぞれ異なる味わいがあった。

「んンッ……ん……んふ……、んッ……むッ……んーッ……」

 朦朧としているのか舌をねじ込むと、拙いながらも自分から絡みつかせ、担任教師を手本にいやらしく蠢かせる。

 唾液を啜るとすぐさま啜り返し、師弟の共同作業で完成させたカクテルを、こくんこくんっと艶かしく喉を鳴らし嚥下していた。

 唇を解放し二人を結ぶ銀の糸が切れても、美也は焦点の合わない目で蓮実を見つめながら、熱病に浮かされたみたいにぼーっとしている。

 お姫様抱っこされてもされるがままだ。

 覚醒したのは羽のようにふわりと、ベッドに寝かされた穢れのない清らかな身体に、屍肉に群がるカラスのように蓮実が舞い降りたときである。

 嬉しそうに舌なめずりし、浅い角度で立てた膝を割り開いて、そこに身体を入れて占領した。

 美也の股間にむしゃぶりつく。

 虚脱していた肉体に、新たな快感を吹き込んだ。

 異質な感覚を不審に思ったのか、美也は後ろに肘をついて上体を起こす。

「ヒッ」

 意外なところに担任教師の顔を見いだして、教え子は喉の奥で引き攣った声を漏らした。

 慌てて腿を閉じようとしたが、両膝に置かれた手がそれを阻む。

 たっぷりと蜜をたたえた小さな花に、蓮実の唇が上の口より熱烈に吸い付いた。

「ふぁッ!?」

 吐息だけで感じた悦楽と、それはは比べものにならない。

 これ以上ない気つけになった。

 蓮実の舌が粘膜の合わせ目に差し入れられて、蕩けている媚肉をさらに蕩けさせようと掻きまわす。

「あッ……やンッ……、あふぁ……」

 唇と恥丘の接合部から舌鼓に似た音が漏れ、美也の羞恥心を盛んに煽っているようだった。

 もう潤滑させる必要はないはずなのに、淫らな涎が次から次へ溢れてくる。

 蓮実はその大半を喉を鳴らして飲み下したものの、飲み切れない分が口元から零れ、顎を伝ってしたたり落ちシーツにシミを生んでいた。

 年頃の女の子らしく丸みはあるが、幾分硬さを残しているヒップが、じっとしていられないのか、いやらしくくねっている。

「あひぃッ!?」

 教え子の二度目の絶頂はあっという間だった。

 浴びることそれ自体が快感で、光栄ですらある大量の飛沫が、微笑む担任教師の顔面をまたしても襲う。

 とんでもない粗相だった。

 けれど未熟な年下の粗相をときに受け止めてやるのも、人生の先輩である年上の努めである。

 まして蓮実聖司は教師なのだ。

 こうして教え子が粗相を曝してくれたのは誇らしくすらある。

 教師冥利に尽きた。

「はぁ……ん……」

 またしても美也は死んだようにくったりしている。

 しかし素人がいきなり死体のふりをしようとしても土台無理な話だ。

 ささやかな胸は激しく動いていた。

 蓮実は美也の身体に覆い被さり、乳房の先端を口に含む。

 痛々しくぴんぴんに硬くしこっている乳首を、舌先でチロチロくすぐり軽く歯を立てた。

「んッ」

 さっきよりはやんわりした起こし方だが、それでもクンニリングスの経験皆無な、処女の少女には刺激が強過ぎるようである。

 だが甘やかすだけでは生徒のためにならないし、生徒のためになら心を鬼にして厳しくするのも教師の仕事だ。

「は、ハスミン、だ、ダメ、み、みゃー敏感に、敏感になり過ぎてるから、あッ、ん、んンッ、だ、ダメ、だ、って」

「こんなにしてるなんて、俺が思ってたよりずっと、美也は大人だったんだな」

「ふぁッ!? あッ、あッ、くぅんッ、ん、んッ、み、みゃー、お、おと、んゥ、お、と、あンッ」

「凄く大人だよ」

 乳首の勃起具合とか、粘膜の濡れ具合とか。

 子供っぽい自分にコンプレックスを持っている生徒に対しての、定番になっている殺し文句を口にしながら、あどけなく幼く淫らな身体を責める。

 噛んだ乳首に唾液をねっとり塗り込み、また噛んでしゃぶるをくり返す。

 まずはファーストステップだ。

 苦痛と屈従のあとには、必ず最上の快感が得られることを、きめ細かく心と身体に教え込む。

 ツンと生意気な乳首だけではない。

「あひゃぁッ!?」

 蓮実は大量に分泌された愛液で、溺れそうになっている陰核にも吸い付いた。

 本人が自己申告した通り敏感になり過ぎてる身体でも、クリトリスはまた格別なようで、蓮実を弾き飛ばしそうにヒップをバウンドさせる。

 乳首に劣らず勃起しているソコはツルツルしていて、少しでも気を緩めると口の中から逃げそうだった。

 そうはさせじと蓮実は唇の間で挟み、舌先で執拗に小突き回す。

「ひッ、ひッ、ひッ、……あッ……あふぁッ!!」

 甘く甲高い悲鳴のような喘ぎ声を撒き散らし、美也は短いサイクルで三度目の絶頂を迎えていた。

 小さな肢体で受け止めるには大き過ぎる快感に、救いを求めるように少女はしがみつく。

 まさにそれこそが悪魔だと知らずに。

 どうやらオルガスムスのピークが去ったのか、深い縦シワを刻んでいた美也の眉間がふっと緩んだ。

 しかめられていた顔から強張りが解ける。

 それと同時にぶるぶる震えながら、蓮実の頭を抱きかかえていた細い腕からも、締め付けるようにしていた内腿からも力が抜けた。

 やれやれ。

 蓮実からもほっと力が抜ける。

 そんなわけはないが一瞬、命の危機を感じてしまった。

 人間の骨や間接は、直線的な圧力には耐えられても、捻られればひとたまりもない。

 ジュルル~。

 零距離から今日二度目の顔射をされた蓮実は、苦笑しつつ教え子の甘い蜜を啜り喉を潤した。

 ホールドを解くとベトベトになった口元を拭う。

 無残にも車に轢かれた哀れなカエルみたいに、だらしなく開脚したままの美也を見下ろしながら、早くもなければ遅くもないスピードで全裸になっ

た。

 急角度でそそり立つ肉茎には脈打つ血管が絡みつき、鈴口から滲む前触れの雫で亀頭をぬめ光らせている。

 グロテスク。

 拷問器具のようなソレは、そういう表現しかできないシロモノだった。

 反り返ったシャフトに右手を添えて、適切な位置になるようぐいっと押しさげる。

 左手で処女の淫靡な粘膜を、愛液を滴らせ歪な形に割り開いた。

 物欲しげひくつくホールに先端を宛がう。

 貞操の危機に瀕して、夢うつつで呆けていた美也は、ハッと身体を堅くした。

 亀頭がめり込む。

「ああッ!?」

 美也は蓮実にしがみつき、弓なりに背を反らした。

 穢れのないピンクの花弁を押しひろげ、無垢な媚肉をひしぐようにして最奥に押し入る。

 充分に濡れているとはいえ、破瓜の苦痛は避けられない。

「い、いぎぃいいいッ!!」

 人間だってアニマル。

 美少女らしからぬ叫び声を上げながら、美也が爪を蓮実の肩に食い込ませてくる。

「痛ッ、は、ハスミン、い、痛いよぉおおぉ!!」

「ちょっとだけ我慢しなさい。すぐに良くなるからね」

 美也の涙ながらの訴えに構わず、蓮実は根元まで勃起を挿し込んで、隙間なくぴったり腰と腰を密着させてやった。

 初めて牡の侵入を許してしまった処女粘膜。

 女子高生の収縮はいつ味わっても新鮮で、何度味わってもやはり飽きることはなく堪らない。

 勃起に纏わりつくようにして感じる、煮えたぎるような熱いものは、美也が純潔であった証の鮮血であろう。

 観てるか。

 妹を女にしてやったぞ。

 まだそうするかどうか予定は未定だが、視聴する純一にアピールするように、カメラのレンズに向けて蓮実は微笑んだ。

 映らないが男ならわかるはずだった。

 美也の最奥で誇示するように、びくんびくんっと勃起を脈動させた。

 しかしとりあえず、兄へのサービスはそこまで。

 AVのような激しく性急な腰使いを期待していれば、のんびりしていて物足りなく映るかもしれない。

 だが蓮実はゆっくり焦らず、ねっちこいほど丹念に責めて、妹のあどけない性感を開発していく。

「ああンッ!!」

 辛抱強く緩慢な抽送を続けた甲斐があった。

 美也が喘ぎはじめる。

 遠慮はいらない。

 こうなればもう蓮実も、牡の本能に従うだけでよかった。

「ひッ……あッ……はひッ!!」

 勢いよく突き込まれる亀頭で子宮を抉られるたび、美也の口からは舌っ足らずで切ない嬌声が甘く迸る。

 もちろん蓮実も呼応した。

 犯りたい盛りの男子高校生が好みそうな、激しくスピーディなモードにチェンジする。

 きまぐれ我侭甘えん坊の少女が、壊れてしまいそうなほどの凶暴さだった。

「んゥッ、うぁッ、やッ、あッ、あッ、あッ……」

 ヴァージンでなくなったばかりとは思えない扇情的な声が、数珠つなぎになって次々と美也の口から溢れてくる。

 ともすればより深い挿入を求めて、腰が淫らにくねろうとさえしていた。

 膣内の媚肉はもっと正直に、はっきりうねっている

 どうやら絶頂が近い。

「やっぱり美也は、最高の女だよ」

 などと言いつつ蓮実は蓮実で、ぎりぎりまで発射を堪えようと、尻を引き締め括約筋をフル稼働させていた。

 回数のハンデはあるものの、教え子より先にイッては沽券に関わる。

 蓮実は獣の本性を剥きだしにして腰を振った。

「もうイキそう?」

「い、イキ、イキそ、う、あッ、あッ、ああッ、は、ハスミン、も、もう、い、イキそうッ!!」

 耳に囁くと美也は覚えたばかりの言葉を、衝動と愉悦の波に呑み込まれながら、大声で連呼して汗まみれの裸身をわななかせる。

 知識としてはあったものの、経験としてはなかったものが、まだあどけなささえ残る幼い少女の身体のなかで合致した。

 初恋が成就した幸福感と、奪ってやったという優越感が、もしかしたら作用してるのかもしれない。

 自分からも貪るようにして、美也は腰を淫らに動かしていた。

 もともと素質もあるのか、ヴァージンだったくせに、初体験で順調に昇りつめていく。

「イクッ!! もうイッちゃううッ!!」

 美也の全身に痙攣が走った。

 担任教師の熱心な指導によって、真のエクスタシーを叩き込まれた少女は、腰を卑猥にガクンガクンさせている。

 教え子のアクメ顔を見つめながら蓮実も、幼い女体のいちばん深いところで勃起を弾けさせた。

「ひッ、あッ、ああぁッ!?」

 子宮の奥の奥まで犯すように、穢し尽くすように熱い迸りを浴びせる。

 ドクッ・ドクッ・ドクンッ……。

 処女肉に取り巻かれた勃起は精子を撃ちだすのに合わせ、何度も何度もしつこいほど執拗にしゃくりあげた。

 初々しい秘裂はそれを歓迎するように、脈打つシャフトをきつく締め付けている。

「良かったよ」

 チュッ。

 キャラに似合わない恍惚とした貌をしている美也の、前髪をかきあげておでこにキスすると、蓮実はカメラに視線を送り飛び切りのスマイル。

 いい画が撮れた自信があった。

 だが妥協はしない。

 満足したらそこで終わる。

「あひィッ!?」

 驚きと歓喜の声。

 そしてまたしても愉悦の声が室内に響いた。

 けっきょく蓮実はそれから数時間、テイク2どころかテイク3、テイク4と撮影を続行、美也が気を失ってようやくクランク・アップした。

 手応えあり。

 蓮実も心地よい疲労感に襲われていた。

 とはいえスタッフが一人なので、女優のケアだったり後始末をしなければならない。

 セックスの匂いが充満した部屋を蓮実が退去したのは、それからさらに一時間後のことだった。

 シーツを掛けられた教え子は、夢うつつで見つめている。

「ゆっくりおやすみ」

 完璧なベッドメイクを施されて、身体も綺麗に拭かれているが、微かにザーメン臭のする美也の頬をひと撫でしてドアを閉めた。

 すっかり日が暮れている。

 ファースト・レッスンから張り切りすぎてしまった。

「おかえり」

 蓮実は教師としてPTAなどからも信頼されているが、ここで両親とばったりというのはさすがにマズい。

 注意せねば。

「は、蓮実……、先生」

 もっとも玄関でナイキのスニーカーをじっと睨んでいた純一と、ここでこうして会えたのは僥倖だ。

 血の気が引いたように顔面を蒼白にしている。

 短い言葉にある微かな怯えを、蓮実の耳は確かに聴き取っていた。

「お邪魔し、いや、ご馳走様でしたかな?」

 間違いではない。

 純一の妹は時間の経過を忘れそうになるくらい美味だった。

 美也の兄の肩をポンポンと叩く。

 そのまま動けずにいる純一を置いて、蓮実は橘家をお暇しようとしたが、そこでふと思い出したように振り返った。

「ああ。そうだ」

「……な、なんです、か?」

 たったそれだけで純一の恐怖のボルテージが、急激に上がったのがわかって笑いそうになる。

 危なかったがどうにか生徒を気遣うような、裏などなさそうな優しい教師の顔を作った。

「美也は今日は初めての体験で疲れてるだろうから、そっとしといてやってくれ」

「えっ?」

「あとこれ貸してやるよ。観たら感想を聞かせてほしい」

 USBメモリーの方が持ち運びには便利だったりするが、やはりこういうのはDVDの方がソレっぽい。

 さらに言えばテープの方がソレっぽいが、今時ビデオデッキのような骨董品を所持しているのは、アマチュア無線のオタク並みに希少だろう。

 ただジャケットには遊び心というか、ちょっとだけ凝ってみた。

 茶道部をバックに、Vol.2『ず~っと 見てるからね』と、ソレっぽいタイトルを入れてある。

「返すのはいつでもいいからな」

 しばらくどころかもう、親友とのお宝の貸し借りは、できないかもしれないのだから。

 あるいは形見として、全部もらえるかもしれない。

 それでもこのDVDのできが、それらをどうでもいいものにしてしまう自信が、なかなか返してもらえなくなる確信が蓮実にはあった。

「じゃ、また明日、学校で」







[41992] アクガミ 二十一話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2016/12/17 14:24




 純一はベッドの上で、輾転反側していた。

 どちらかというと枕が替わったら寝られないというタイプだが、ここは自分の部屋でいつもの自分の枕である。

 しかしどうしても、眠りに落ちることができない。

 何度も何度も寝返りを打つ。

 目を瞑った純一の脳裏に、蓮実の言葉がリフレインしていた。

 ――観たら感想聞かせてくれ――。

 机には蓮実から無理やり貸し出されたDVD。

 理由はこれだ。

 頭からずっと離れない。

 引き篭もって夕食も摂らなかった美也が、こそこそと風呂に入った辺りで半ば諦めている。

 ため息を吐いて純一が目を開けると、時刻は午前の一時を回ったところだった。

 きっと後悔する。

 それがわかっているのに純一はむくりと身体を起こすと、借りた『ず~っと 見てるからね』をプレーヤーに吸い込ませた。

 あっと思い立つと部屋の鍵を掛け、慌ててヘッドホンをセットする。

 何故そうしようとしたのかは、予感としかいいようがなかった。

 そして嫌な予感ほどよく当たる。

 映ったものは悪夢。

「Yesなら目を閉じて、Noなら首を振ってくれ」

 顔が近い。

 恋人同士でしか許されない距離で蓮実と、幼馴染の少女が見つめ合っている。

 閉じたりしないよな、梨穂子。

 そう純一は心の底から願ったものの、その願いが叶わない確信があった。

 目が閉じられる。

 誰これ?

 幼馴染の少女のことは何でも知っているはずだったのに、まるで知らない恋する乙女の貌がそこには映っていた。

 いや、もしかしたらこれまで梨穂子は、自分にもこんな貌を、見せてくれていたのかもしれない。

 薄々は気づいていた。

 幼馴染の少女が自分に幼馴染に持つ以上の好意を、おそらくずっと抱いてくれているんだろうことはわかっていたのだ。

 だけど隣りにいるのが当たり前の、まるで空気のような関係で、そういう対象として意識したことはない。

 しかしどこかで純一は、都合のいいことも考えていた。

「はぁッ……ぁ、んッ……はッ、んッ……んんッ」

 梨穂子ならずっと待っていてくれると、梨穂子ならずっと傍に居てくれると、そんな独りよがりなことをずっと想っていなかったか?

 強烈なしっぺ返し。

 もちろん悪いのは自分だ。

 純一にもそれは痛いほどわかってる。

 でも神様。

 罰にしても度が過ぎてません?
 
 たぶんファースト・キスで、小動物みたいにキョトンとするのも。

 すぐさまセカンド・キスを奪われてしまうのも。

 唇だけでなく首筋や、足の指まで舐められ、戸惑いながら羞恥に震えるのも。

 押し倒されて制服を捲りあげられるのも。

 銃の台尻で頚椎を砕かれるより、純一にとっては衝撃だった。

 ずっと。

 抵抗らしい抵抗がないのが、なによりも痺れさせる。

「あ、だ、ダメッ」

 梨穂子が制止の声を上げるが、淫行教師がそんなのを聞くわけがない。

 ミルクプリンのように甘そうな美巨乳が、ぷるるんっと勢いよくまろび出る。

 丘陵の曲線と頂点で揺れる淡い色の乳首が、白々とした蛍光灯に鮮明に儚く照らされていた。

 あいつのは大きいんじゃなくって、ただ単純に太っているだけだよ。

 などと言っていた過去の自分を、鼻で笑ってやりたい。

 梨穂子は常々自分の体型を気にしていたが、ぽっちゃりだって全然いいじゃないか。

 露わにされた乳房。

 純一も親友の梅原と貸し借りしているお宝本や、ネットなどで観たことは年頃の男子なので無論あるが、今まででもっともそそられた乳房だった。

 知り合いのモノというのも、幼馴染のモノというのも作用しているのだろう。

 こうして思い出してみると梨穂子は、純一が自分の男を意識する前の、小さな頃からいっぱしの女の子をしていたみたいだ。

 幼稚園当時からあまり一緒に風呂に入っただとか、裸を見せあってお互いの身体の差異を確認したことはない。

 ……成長による変化も。

 画面を通してもわかる柔らかそうな肉は、思春期男子なら見たくて見たくて仕方ない『おっぱい』である。

 贅肉じゃない。

 どんなに肥え太ろうが男には、絶対に出ないまろやかさがあった。

 まして同じ男なら乳房の大きさに反して小さな乳輪や、鮮やかなピンク色の乳首に心惹かれるようなことはないだろう。

 カメラは固定みたいで引きのアングルだけだが、梅原と益体なく語り合った歴代の、あらゆるお宝本お宝ビデオをすでに凌駕していた。

「んッ……あッ、あぅんッ」

 下乳に手を添えられ、ねっとり揉みあげられている。

 指が沈み込んでいくようでありながら、反発する瑞々しい張りまで感じられた。

 焦らすように玩弄する蓮実の指先からそれが、釘付けになっている純一にも残酷なほど伝ってくる。

「はぁッ……ぅッ……んッ……ンッ、……んンッ……ふぅ……ああッ……」

 じっくり嬲るつもりらしい。

 執拗なほど丹念に揉まれまくった幼馴染の乳房は、血行が良くなってきたのかじんわり桜色に染まっている。

 頃合いと見たようだ。

 肌の表面をくすぐるようにして裾野から、頂点に向かってゆっくりと指先を滑らせる。

「せ、先生、あンッ、は、ハスミン先生……んふッ、せ、先生……、先生、ハスミン先生……」

 まるで熱に浮かされたみたいに、梨穂子は蓮実の名を連呼していた。

 自分の身に起きていることの不安を、その人なら打ち消してくれるという、絶対の信頼がそこからは感じられた。

 胸がぐっとなる。

 馬鹿、そいつが元凶なんだぞっ!!

 純一は心の中で梨穂子を強く叱ったものの、自分自身すらそれで諭せないのはわかっていた。

 スエットの股間がさっきから、激しく盛り上がっている。

 蓮実にDVDを渡されたときから疼いていた。

 映ったモノは予想通りではなかったが予想以上で、そして期待通りでもなかったが期待以上のモノ。

 くそっ!!

 時折カメラ目線になる蓮実を罵倒しつつ、引っかかりのあるズボンをパンツごと下ろして、幼馴染の痴態に力強く湾曲した勃起を取り出していた。

 仮面を被ったこの最悪のロリコン淫行教師なら、きっと自分の中にわだかまるもやもやしたモノを打ち消してくれる。

 純一は無意識に漠然とではあるが、蓮実をどこかで絶対視し信頼もしていた。

 愛する妹のオナニーを壁の穴からノゾキ見て、オナニーしたときと同じくらい勃起した牡器官を、鬱屈とした気持ちなのに胸躍らせて握り込む。

「あ、ン、ん、あ、ああッ、せ、先生、は、ハスミン先生……んゥッ、ハスミン先生……」

 蓮実の指先はようやく、頂に辿り着くところまで這い上がっていたが、それでもまだ焦らすように乳輪の周囲をぐるぐる回っていた。

 今にも触れそうになってはぎりぎりで遠のき、過剰に敏感になっているはずの部位を執拗に刺激している。

「怖くないから緊張しないで、リラックスしてごらん」

 そうやって無茶なことを言いながら、しつこく蓮実は幼馴染の初々しい乳房を弄ぶ。

 見たことがない。

 こくこくと健気に頷く梨穂子は、これまででイチバン可愛かった。

 蓮実も可愛いと思ったらしい。

 しかしさらに引き出したくなったのか、悪戯っぽく微笑むといきなり、先端で揺れる蕾をキュッと摘みあげる。

「ひぅッ!?」

 裏返った声が漏れた。

 こよりを作るようにクニクニと乳首を愛撫されている。

 すると瞬く間に尖り勃ち、淡かった色を濃くして震えていた。

 血液が流れ込んで乳輪もぷっくり膨らんでいく。

 舌を伸ばしぺろりと唇を舐めると、蓮実は硬くなったソコにむしゃぶりついた。

 見せつけるようにいやらしく転がしながら、唾液を塗り込めたり軽く歯を立てたりして、未成熟な授乳器官を嬲りものにしている。

「ン……ふぁッ……やンッ……あはッ……」

 初めて目にし耳にする幼馴染の淫らな媚態と甘い喘ぎ声に、勃起を握った純一が夢中になっていると、蓮実が身体をずらし添い寝の体勢になった。

 たぶん気を利かせたつもりなのだろう。

 カメラは固定のようなので、斜め上からの背中越しのアングルしかない。

 両足の間に陣取る蓮実が邪魔だ。

 そのままでは蠢くさまがわからない。

「ああッ、は、ハス、ミン、ン、は、ハスミン先生、やッ、んンッ、だ、ダメ、ダメで、やンッ」

 口ではたしなめるようなことを言うものの、それが幼馴染の本心なわけはなく抵抗は形だけだった。

 そうでなければピンクの可愛いデザインをしたショーツの中で、少女が守らなくてはならない聖域を淫行教師に好き放題させるわけがない。

 下着の隙間からチラチラと覗いている繊毛が、妙なリアリティを持たせてやたら卑猥である。

「はぅンッ!?」

 肉付きのいいむっちりしたヒップが奔放に撥ねていた。

 純一の目が牡の本性を露わにぎらつく。

 梨穂子。

 どんな風に触られてる?

 もしかして、く、クリトリスを弄くられてるから、そんなに悶えまくってるのか?

 咥えさせられてるのは、いったいどの指で何本なんだろう?

 どのくらいの太さだったり深さだったら、処女膜を傷つけずに済むんだ?

 まだ梨穂子のやつは、ヴァージンなんだよなぁ?

 でももうすぐそうじゃなくなるかも……。

 考えてはいけない考えが、ぐるぐると純一の脳内を駆け巡っている。

 同時にこれまで紡いできた想い出も、走馬灯のようにして鮮やかに蘇っていた。

 出逢ったのは幼稚園のとき。

 よく美也と三人で遊んだりした。

 小学校の入学式のとき校門で、一緒に写真を撮ったのが懐かしい。

 バレンタインでチョコをもらったのは、母親以外では梨穂子が初めてである。

 美也がみゃーもにぃにに渡すと言い出して、そのときから純一は毎年の二月十四日、三個はチョコが食べられるようになった。

 クラス替えでバラバラになって、泣かれたこともある。

 また一緒になれたと、泣かれたこともある。

 初めて彼女ができたと報告したときの、目を大きく見開いてびっくりしてた顔が忘れられない。

 おめでとうと祝福してくれた顔も。

 彼女に渡すクリスマスプレゼントを選ぶときも、面倒がらずに自分のことのように付き合ってくれた。

 その彼女に唐突にふられてしまったときにも、自分のことのように悲しんでもくれた。

 いつも笑顔で支えてくれた。

 慰めてくれた。

 そしてそんな幼馴染に甘えて甘えて、甘え切って梨穂子を酷く傷つけてしまった。

 ず~っと見ていてくれると、自分勝手に思い込んでいた。

 後悔が襲う。

「そ、そんな……そんなこ……な……ン……ゥ……、ないで……わたし……あッ……ああッ!!」

 耳孔に何事かを囁かれながら、背中から回した手で乳房を揉みしだかれ、ショーツからはくちゅくちゅと音が漏れ聴こえてきた。

 二人の共有している大切な思い出のどこかで、自分が幼馴染に応えてさえいれば、こうはならなかったのだろうか。

「先生、んンッ、ふゥッ、ハスミン先生……」

 すがるように梨穂子が抱きつき、唇を求めている相手は蓮実ではなく、暗闇から見つめている自分だったのかもしれない。

 幼馴染の柔らかそうな身体ではなく、硬い勃起を握っている自分だったのかもしれない。

 ヒップを浮かせて協力している。

 水分を大量に吸ってすっかり重くなったショーツは、糊のようにへばりついて肌に張り付いていた。

 ネチャリと糸を引きながらずり下ろされる。

 ぜんぜん違う。

 純一はまたしても衝撃を受けていた。

 慎ましく控えめな秘毛に彩られた恥丘の下には、色素沈着のまったくないピンクの裂け目が剥きだしになっている。

 数々のお宝本やお宝ビデオで観てきたアソコとは、到底比べものにならない綺麗さだった。

 そのくせに媚唇の狭間からは、懇々と透明な粘液が溢れており、紙面越し画面越しで観たどんな女優のアソコよりも卑猥である。

 視線を感じているのか、ひくひく淫らにひくついていた。

 蓮実はさすが教師というべきで、高校生男子の心がわかっている。

「梨穂子はいやらしいんだな。こんなに奥の奥まで、ぐちょぐちょに濡らしてる」

 馴れ馴れしいけどさり気ない。

 下の名前を呼びつつ、淫猥な言葉を囁いてのサービスカット。

 処女の可憐な花弁を大きく剥きくつろげて、甘蜜を滴らせた幼馴染の媚肉の内部まで、目を血走らせて見つめている幼馴染に晒してくれた。

 そうしてから改めて復習するみたいに、立てられれば外人は激怒する指が蠢く。

 ジュプッ。

 中指が呑み込まれる。

 旬の瑞々しいフルーツにかぶりついたときのように、『まだ』処女の少女の果汁が茶道部の畳にシミを生んでいた。

 バイブレーションさせるような小刻みな抽送に、ヌチャヌチャという粘つく音がリンクする。

 器用なもので蓮実はそうしながら、快楽中枢のカタマリとでもいう部位、勃起したクリトリスの包皮を剥いたり被せたりさせている。

 サイズこそヴォリューム充分ではあるものの、今のところ未発達で未成熟な授乳器官。

 でるわけもないミルクを吸うみたいに、蓮実は尖った乳首まで虐めの対象にして、過剰に敏感な女体の三点を同時に責め立てる。

「先生、わたし、は、ハスミン先生、あッ、ン、ハスミ、ふぁッ、わ、わたし、なんだかオカシ、あふッ、はンッ……」

「イキそう?」

「……んふッッ……、も、もう、……くぅンッ……やンッ……、あはッ……い、イキそう、ああッ、い、イッちゃう、イッちゃうよぉおおッ!?」

 似合わない言葉をリピートさせられながら、幼馴染の肢体がヒップを高々と突き上げアーチ状に反り返った。

 凄まじい快楽のうねりに翻弄されて、全身をガクガクと震わせている。

 目を細めている蓮実に強く抱きつきながら、まるで間欠泉のように秘裂から盛大に潮を噴いていた。

 何度も何度も。

 しつこいほど噴き上げる。

 ひとしきりしぶかせてから、釣り糸が切れたように崩れ落ちた。

 涙と涎を垂らしてだらしなくみっともないが、それでも梨穂子は可愛らしく幸せそうな、初めてだろう絶頂に恍惚とした顔をしている。

 これまで梨穂子のあらゆる表情を、あらゆる場面で見てきたつもりだったが、思い出のどこを探しても純一には見たことのない貌をしていた。

 握っている右手が酷く熱い。

 そこからドクドクと、マグマのような鼓動を感じていた。

 尾を引いて立て続けに白濁液が迸る。

 幼馴染の痴態によってエレクトした若い牡器官は、何度も何度もしつこくしゃくり上げて、多量のスペルマを虚空へ向かってぶちまけた。

 暗い室内に青臭いニオイが漂う。

 苦しそうなのに純一の表情は、どこか忘我の境地を晒す梨穂子のモノと似ていた。

 解放感と罪悪感で、心と身体から力が抜ける。

 ……けれど勃起は熱さと硬さを維持したままだった。

 悪夢には続きがある。

 終わってない。

 それを牡の本能でわかっているからだ。

 ぬるぬるしている右手を、ゆるゆると上下に動かしながら、淫行教師のアクションをドキドキしつつ待つ。

 荒い息を整えている梨穂子の髪を、梳くように撫でていた蓮実は、唇を寄せて耳孔に何事かを囁いた。

 目をぎゅっと瞑って頷く。

 またしても身体は、新たな羞恥で震えていた。

 蓮実にもたれかかるようにして、ふらつきながらも梨穂子は立ち上がる。

 隠したりしては駄目とでも、言われているのかもしれない。

 歯型の跡が残る唾液に濡れた乳房を、勃起したままの乳首を晒し続け、食い入るように見つめる純一を愉しませていた。

 僅かな準備時間でさえ、暇を与えず退屈させない。

 モニターする純一に背中を向けて、蓮実が躊躇のない動きで素早く服を脱いでいる。

 細いが獰猛な身体。

 誰かがそう評していたらしい。

 なるほど。

 頷けた。

 この捕食動物に襲われてしまったら、とてもではないが逃げられそうにない。

 正面に立っている梨穂子なら、尚更それを強く感じているだろう。

 大きく見開かれた目が、ただ一点のみを凝視している。

 畏怖していた。

 おそらく見慣れないモノに驚きはするが、自分のでは梨穂子からこの反応は引き出せない。

 見てもいないのに打ちのめされる。

 いっそう膨張率を高めたが握っているコレでは、期待に浅ましく震えているコレでは到底勝てない。

 男の価値がソコだけで決まるわけでないが、蓮実のソコに女が価値を認めているのはわかったし、他の部分で蓮実より価値のあるモノがはたして自

分にはあるのかと考えたが、純一は何も思い浮かばなかった。

 寝技に誘うように、ごろんっと転がる。

 しばしもじもじしていたものの、そういくらもしないで梨穂子は、待ち構える蓮実の腰を大胆にがばりと跨いだ。

 胸がゆさりと揺れる。

 そこからは本当に時間がかかったが、勃起を握って鼻息を荒くする純一とは異なり、学校の授業でも面倒見のいい蓮実は根気よく待っていた。

 蓮実が小さく力強く頷いてやると梨穂子は、スローモーションのようにそろそろと腰を落としていく。

 徐々にガニ股になっていき、遮るもののない秘裂がぱっくり純一の目に映った。

 甘酸っぱい匂い。

 人間の脳というのは素晴らしく適当だった。

 どんなに嗅覚が優れていても、どんなに技術が進歩していても、画面越しに匂いが伝わるわけがないのに……。

 純一の鼻腔は幼馴染の芳醇な香りで満たされていた。

 夕暮れに染められた媚肉のピンク色が、妙に生々しくて目に眩しい。

 ラヴィアの内側に溜め込まれていた透明な粘液が、とろりと会陰を滴り蓮実の勃起へ落水する。

 幾度も剥かれながらまた包皮にくるまっているクリトリスが、牝の欲望でパンパンに膨らみ弾けそうになっていた。

 腹筋に力強く張り付いている牡器官に、恐る恐る手を伸ばしてシャフトに指を絡める。

 蓮実の指示を逐一仰ぎつつ、自分は従っているだけという体で、羞恥を殺しながら勃起を直立させた。

 使い込まれている。

 それがひと目でわかった。

 大きさやフォルムだけではなく、禍々しさが純一のモノとは歴然とした差がある。

 男なら誰でも同じ用途のため、備わっている器官とは思えない。

 自分を穿つための杭打ち機を、梨穂子は自分で完成させて、身体をゆらゆらさせてヒップの位置を調節する。

 何度か安定しないホバーリングをくり返した。

 チュッチュッと粘膜が軽く触れ合う。

「そうそう。うん。そこでいい……」

 いよいよ幼馴染のヴァージンの割れ目に、淫行教師の亀頭が宛がわれた。

 下の唇の初めてまで奪われた衝撃と、奥の奥にまで侵入されてしまう焦燥に、しかし何故か純一の胸は激しく高鳴ってしまう。

「あッ、は、入っちゃう、んンッ、やッ、は、ハスミン、せ、あッ、うぁああッ、入っちゃ……」

 ここにキテ梨穂子も本能で恐怖を感じたみたいで、腰を逃そうとくねくね身悶えるものの、それは飢えた二匹の牡の興奮を煽るだけだった。

 少しでいい。

 すでにもう膝はガクガクしていたので、ほんのちょっと引き寄せてやるだけでよかった。

 梨穂子自身のウエイトもある。

 ズズッ。

「かはぁッ!?」

 和式便器で用を足すときみたいに、梨穂子はペタンっと蓮実の下腹部に股間を密着させていた。

 処女の粘膜を無残にも挿し貫いた肉の槍は、ぐっぷり根元まで体内に納められている

 あ、血だ……。

 17年間大切に守ってきた純潔の証で、グロテスクに脈打つ勃起を濡らしながら。

「は、あ、ああッ、か、ああッ」

 蓮実の鍛えられた逞しい胸板に手を突き、串刺しにされたカエルさながら、梨穂子は口をぱくぱくさせていた。

 双つのふくらみが小刻みに、ぷるぷる震えている。

 喉に牙を突きたてられて、絶命のときを待つバンビみたいだった。

 純一が胸にぽっかり大きな穴が空いたみたいな、埋めることのできない喪失を感じてたのは間違いない。

 ……それなのに。

 思春期高校生男子の青臭い欲望が、一回や二回吐き出した程度で萎えるわけはないが、一回目よりも二回目の今の方が明らかに漲っている。

 陰嚢の付け根がずっしり重くなっていた。

 堪らない。

「先生、あぐぅッ!? う、うう、動かないでぇええッ!!」

 どうやらそれは純一だけではなくて、腰をがっしり掴んだ蓮実もそうみたいだった。

 苦悶の表情で涙ながらに訴える梨穂子の声を無視して、下から抉るように粘膜をグッと突き上げる。

 キャパシティーがどれほどか、サンプル・ゼロの純一にはわからない。

 しかし隆々と屹立した剛根の先端が、子宮にまで到達しているのは確信を持ってわかった。

「あッ、んゥッ、痛ッ、先生、あッ、ハスミン、あッ、い、痛ッ、ン、ふぁッ、先生、ハスミン先、あッ、んンッ、ひィッ!?」

 授業でもそうだがグイグイ進んでいるようでいて、蓮実はちゃんと教え子が付いて来れているかを見ている。

 置いてけぼりにしない。

「んぁああッ、あッ、うはぁッ、あン、ああああッ!!」

 梨穂子の漏らす声には段々と痛みより、甘い成分の方が多くなってきていた。

 腰を叩きつけられるたびにたぷたぷ揺れる乳房。

 魅惑のふくらみに魔の手が及ぶと、甘やかな嬌声のオクターブが、面白いほど簡単に跳ね上がっていく。

「あひッ!?」

 充血して硬くなっている乳首を摘まれると、背を仰け反らせて享受する快楽を表現していた。

 いつしか不器用ではあるものの、梨穂子の腰もバウンドをし始めている。

 蓮実はそのたどたどしい上下運動に合わせて、寝そべった状態から腹筋だけを使い、一気に身体を起こすと対面座位に移行した。

 自然な流れで梨穂子は抱きつく。

「ンッ、ンッ、ンッ……、ぅああッ……、……ああッ……んンッ……ひぁッ!!」

 胡坐をかいて膝を揺する蓮実の肩に顎を乗せて、梨穂子はまたしても悦楽に毒されている貌を純一に晒していた。

 まるでペットが主人にするみたいに、すりすりと頬を擦り付ける仕草が、梨穂子の蓮実への信頼を何よりも物語っている。

 ――びゅくんッ!!

 幼馴染に顔射するみたいに、耐性の低い純一の勃起が爆ぜた。

 画面にまで勢いよく飛び散りぶち当たる。

 ねっとりした粘液で梨穂子が汚れた。

 ハァハァハァハァ……。

 だがそうやって純一が画面の外で独りでイッてしまっても、画面の中の二人の嬌態は終わる気配すらなく続いている。

 しかも新たな展開だ。

 火照った梨穂子の耳をしゃぶりながら、またしても蓮実はひそひそ何かしら囁いている。

 梨穂子はこくこくと頷いてから、腕だけでなく左右の足も腰に巻きつけた。

 蓮実は背中に回していた手でむっちりしたヒップを掴み、そのまま教え子に挿入した状態で立ち上がる。

 純一にはできない芸当だった。

 駅弁ファック。

 AVやフィクションの世界でしかありえない。

「んふッ……ぁ……、あッ、あッ、あッ、くぅん……うぁああッ!?」

 そう考えていたモノが目の前にあって、そう考えていたモノで幼馴染が喘いでいた。

 滑稽。

 そもそも学校の部室で全裸になっているのも間抜けだが、教え子を駅弁ファックで抱えてぐるぐる歩き回るのも間抜けだ。

 とはいえそれでもコミカルではなく、圧倒的にエロティックが勝る光景である。

 ふくよかな尻肉を割り広げるようにして、ジュプジュプと幼馴染の愛液を撒き散らしながら、凱旋を見せつけるかのように部室を闊歩していた。

 処女粘膜のぬかるみにぐっぷりと呑み込まれている勃起が、雁首のところまで引きずり出されて再び根元まで一気に押し込まれる。

「……ひッ……あ、ンぁッ……ひッ……あ、ンぁッ……はぁ……んぁッ……うぁあッ!!」

 体位の性質上どうしても緩慢な動作しかできないが、トリッキーなスタイルが三人のカンフル剤になっていた。

 初めて蹂躙する勃起のサイズを思い知らせるかのように、蓮実はパワフルに女体のいちばん深いところを抉っているみたいだ。

「はひッ!?」

 子宮をこれでもかと突き上げられて、梨穂子の口から甲高い悲鳴が迸る。

 もちろんそれはもう苦痛のためのものなど、一ミリグラムもない純度百パーセントの歓喜だった。

 作り変えられていく。

 急速に幼馴染が自分の理解できない存在になっていく。

 普段はのんびりしているくせに駆け足で、梨穂子はエクスタシーの階段を登っていった。

 じゅぷ・じゅぷ・じゅぷ・じゅぷ・じゅぷ……。

 さすがに蓮実も限界が近いのか、汗だくで身体を揺すりながら、いよいよフィニッシュに向けて、ラスト・スパートに入ったようである。

 わかっているのかいないのか、

「あッ、あッ、あッ、ン、は、ハスミン、ハスミン先生、わ、わたし、あッ、んンンッ、へ、ヘンなんで、うはぁああッ!!」

 梨穂子も尖った乳首を胸板に擦り付けるようにして、健気に淫らにぽちゃり気味の身体をくねらせて協力していた。

 おかげでタイミングがバッチリ重なる。

 画面の中と外の違いはあるものの、三人の迎えた絶頂の瞬間は違わず同時だった。

 まさか梨穂子があらかじめ知っていたとは思えないので、きっとついさっき蓮実に耳孔に囁かれて教えられたばかりなのだろう。

「い、イクッ……イクッ……い、イッちゃう……イッちゃうぅッ!!」

 感電したみたいにぶるぶる痙攣するヒップを、蓮実は握り潰すようにして押さえ込みながら、溜めに溜めた煮え滾る欲望を粘膜の奥へ放っていた。

 筋肉質な身体に二度、三度と悦びの震えが走る。

 蓮実と梨穂子の隙間なく密着した結合部から、白と赤のミックスされた液体がぬるりと溢れ漏れていた。

 大変だろうなぁ。

 欲望がたっぷり染み込んだ畳の後始末……。

 青臭い。

 そうやって純一は自分も部屋をどうするか考えながら、ぼんやりとした意識でもっとべつのことを考えていた。

「あひッ!?」

 また幼馴染を旺盛に犯し始めた淫行教師を眺めつつ。

 観ているのはVol.2だ。

 すると少なくともVol.1がある?

 そしてもしかしたらVol.3も、存在しているのだろうか?

 ぬるぬるしたままの勃起をしごく。

 蓮実は最悪かもしれないが自分は最低だった。

 目から涙が零れる。

 なのに純一の勃起はさっきよりもさらに硬くなっていた。







[41992] アクガミ 二十二話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/01/14 12:27




 蓮実はヤクルトスワローズの帽子を目深に被ると、軍手を嵌めた手でハイゼットのエンジンをかけた。

 時計を見ると、午前一時を回ったところだった。

 日の出までまだ余裕があるが、寿司屋の朝は早いので急いだ方がいいだろう。

 慎重に運転して、坂道を下っていく。

 警察の職質を万が一でも受けて、積荷を調べられたら厄介なことになる。

 いつも以上に、安全運転を心がけなくてはならない。

 軽トラックは日中ほとんど人の注意を引かないが、夜明け前に走っていてもあまり不審がられないというメリットもある。

 昔ながらの言葉がぴったりな下町風情漂う、東寿司に着くのに三十分もかからなかった。

 低速でいったん通り過ぎる。

 夜しか営業してないような店であれば、まだ従業員が働いているかもしれないが、地域密着の東寿司は昼間も開いているので閉店も早い。

 もうすでに明かりは消えており、人の動いている気配はなかった。

 寝静まっている。

 危険な兆候があれば引き返すつもりだったが、これならなんの問題もなく決行できそうだった。

 だがここで蓮実は当初の予定だった火事を、運転事故に変更することにする。

 梅原は担任の生徒ではないが、できればやはり蓮実の身近での人死には避けたい。

 灯油やガソリンも高くなる一方である。

 パパの財布ならそんなの余裕だが、光熱費まで払ってもらうのは、大人として些か見っともない。

 店を残すことにした。

 守るものがあった方が、枷になっていいだろう。

 父から受け継いだものがあればそちらにてんてこ舞いで、面倒な親友の心のケアをしている暇はなくなる。

 相当改造費が掛かってそうだ。

 真っ赤なポンティアック・フィエロGT――の隣り。

 カーポートには年季の入ったワンボックスが停まっていた。

 サイドに東寿司とペイントされている。

 企業努力。

 来てくれるお客様に安心の価格で楽しんでもらうために、東寿司では毎朝欠かさず市場まで出向いて新鮮なネタを買い付けていた。

 梅原の父親はこれぞという粋な大将だが、周囲から心配されている悪癖を持っている。

 鮮度を少しでも落とさないためなのか、ただせっかちなだけなのか微妙だが、高速道路でスピードを出し過ぎることがあった。

 寿司屋ジョーク。

 親父の車の運転はサンマよりも、足が早くて困ると梅原がぼやいていた。

 いつ事故が起きてもおかしくない。

 気配を殺し警戒しながら、できるだけ静かに素早く敷地内に入る。

 近所に犬がいないのはつくづく幸運だった。

 左の後輪に釘を刺す。

 釘は一般道を走っている間も、遠心力で抜けようとするが、接地するたびにタイヤの中に押し込まれる。

 ところが高速で走行していると接地する前に釘が吹っ飛んで、穴から一気に空気が噴出してタイヤのバーストという最悪の事態を招くのだ。

 蓮実も何度か東寿司を訪れたことがあり、親父さんの腕が名人級なのは知っているが仕方ない。

 あの味が食べられなくなるのは大変惜しいもののしばらくの間、もしくは永遠になるかもしれないが休養してもらおう。

 可能な限りすみやかに、東寿司から遠ざかった。

 朝のニュースを楽しみにしながら、陽気に『モリタート』を吹きつつ帰宅する。

 軽トラックを敷地内に駐車したとき、奇妙な気配を感じて蓮実は頭上を見た。

 黒い影。

 カラスのようだ。

 人の生活習慣が夜型に変わったことに適応したのか、最近のカラスは夜明け前でも平気で活動することが多い。

 街灯の光が反射して、左目が白濁しているのが見える。

 どう聞いても阿呆と聴こえる鳴き声。

 ムニンの出迎えに石を投げることで応えてから、飛び去るのを確認すると家に入って床に就いた。

 梅原という懸案事項に、とりあえずは目処が付いたからだろう。

 ひさしぶりにアメリカ時代の夢を見た。

 最後は焼死させられた間の悪い男だったが、蓮実の数少ない友人といってもいいシリアル・キラーの夢を。

 二人で射撃場に通って、ライフルとハンドガンの扱いに習熟したのも、遠くなった今となっては懐かしい思い出である。

 アメリカには二人のサイコパスが出会い意気投合した場合、その後は協力して犯行を重ねるという麗しいフラタニティ――友愛の伝統があった。

 自分と同じ魂を持った友だち、と少なくとも向こうは思ってたかもしれない。

 蓮実も数少ない友だちだと一応ではあるが、失ってから思うくらいの存在ではあった。

 大人になればなるほど友人は作りづらく、学生のときの友人というのは本当に貴重なものである。

 夢の中でため息を吐いた。

 梅原が下手な孝行で修行の前倒しなどをして、助手席に乗ってないことを心から祈っておく。

 生徒会も創設際が迫ったこの時期に、男手を失ってしまうがそれも仕方がない。

 純一は昨日貸してやったDVDを、もう観てくれただろうか。

 今日は校門で生徒指導及び生活指導を行う日だ。

 第一報を事務的で無味乾燥な職員会議などでなく、麻耶の口から悲痛な声で聞けるのはなんとなく嬉しい。

 はっと目が覚めた。

 勤勉さにはまったく頭が下がる。

 何だかんだでぐっすり眠れはしたものの、ひと仕事終えたばっかりだったので、できればもう少しだけでもゆっくりしておきたい。

 ご苦労なことにムニンは今日早くも二度目の登場で、しっかり日課のモーニング・コールも欠かさなかった。

 やれやれ。

 蓮実はう~んと大きく伸びをして、布団から起き上がると両肩と首をぐるぐる回した。

 毎朝きちんと起こすムニンの律儀さは、ある意味では賞賛に値する。

 おかげで規則正しい生活ができていた。

 べつに感謝はしないが。

 歯を磨き顔を洗って頭をすっきりさせると、さっきの夢が妙に気になってくる。

 何だか暗示めいている気が、しないでもなかった。

 もっとも考えたところで、どうせ答えなんてでないだろう。

 さっさと切り替えるべくジョギングしてから、シャワーを浴びて今日二度目のドライブに洒落込む。

 ついこの間まではあちらこちらで紅葉が楽しめたが、日本の秋は年々短くなっていく一方でもう跡形もなく散っていた。

 閉まっている校門を開けて、職員用の駐車スペースにハイゼットを止める。

 今日は地味にいつもより、早く起こされているので尚更だった。

 レクサスというライバルが不在のせいもあるが、輝日東では一番乗りの栄誉が得られることが比較的多い。

 とはいえやることも特にない。

 なので麻耶なり生徒会のメンバーが登校してくるまで、暇つぶしがてら校内をぶらつく。

 蓮実はこうやって誰も居ない校内を、黙々とパトロールするのが嫌いじゃない。

 宿直などで深夜に巡回するときもそうだが、普段は大勢の生徒でごった返している空間は、見慣れて珍しくもないはずだが違ったものに見える。

 中学校とさほど代わり映えのない施設なのに、その一つ一つにいちいち感嘆しては、はしゃいでいた家庭教師の少女を思い出していた。

 あれは高校一年生の京都での夏休み。

 後悔が残った夜。

 お願いやの。聖司くん。聖司くんに……わたしを殺してほしい。

 なぜあのとき首を絞められなかったのか、どうしてなのかは今になってもわからない。

 苦笑する。

 だからというわけではないのだが蓮実の足は何とはなしに、少女を最後に見た場所となった屋上に向かっていた。

 すると廊下で、よく知る二人の生徒の姿を捉える。

 今となってはレアなツーショットだ。

 同じ2年A組というカテゴリーで同じ生徒会というグループに属しているので、突発的にそうなることはあるが意識的にそうなることはまずない。

 蓮実は柱の陰に隠れた。

 びくびく何度も振り返りながら前を歩く純一に、無表情かつ毅然とした態度で詞が黙って付いて行く。

 お互いがお互いを警戒していて、結果お互いがお互いしか見えてない。

 されたところでというのはあるが、ストーキングは楽だった。

 どうやら二人の目的地も、蓮実と同じみたいである。

 退屈な朝がなかなか面白くなってきた。

 この取り合わせに一瞬どきっとしたものの、こうなったらこうなったで興味深いペアだった。

 あることないこと吹聴されるのは困りものだが、どのような触れ回り方をしているのかを、実際に聞けるこれはチャンスなのかもしれない。

 詞が諭されてしまったら、という心配はしていなかった。

 純一の憶測の入り混じった警告に耳を傾けた教え子は、これまで一人もいないどころか純一本人がむしろ疑われる始末。

 DVDを観てくれたのなら、確信を持った警告ができるはずだが、とりあえず純一のお手並み拝見である。

 まずい展開になりそうであれば、強引にでも途中参戦してしまえばいい。

 密談に使用されることは多いので、あらかじめ屋上にバグは仕掛けてあった。

 なので受信機を取りに急いで職員室に戻ろうかとも思ったが、別ルートで二人を追い越し屋上に出ると階段室の裏に身を潜める。

 いくらもせず緊張した二人も屋上に出てきた。

 カチャッ。

 ドアが施錠される。

「セクハラだってわかってる?」

 腕を組んだ詞は純一の背中を睨みながら、できるだけ平坦な口調を心がけてそう言った。

 詞の視線から逃げるようにフェンスに移動して、見てもいない外の景色を見ているふりをする純一だけでなく、背後を取られないよう注意しつつ、

不快さを隠そうともせず露わにして、苛立った声で威嚇する詞も極度に緊張している。

 レイプ犯と二人きりなのだから、当たり前といえば当たり前なのだが……。

 女の敵とでもいうべき卑劣なクラスメイトに対し、弱みを見せるのを高潔で幼稚なプライドが許さなかったのかもしれない。

 しかしそれにしても純一を、男の腕力を舐めていた気がする。

 今になってびびってきたのか、厳しい声にはストレスが感じられた。

「……ごめん。誰にも聞かれたくない話だったから」

 フェイクのない純一の気弱な本音の言葉にも、恐怖を喚起されたのか後ずさりそうになっている。

 視線がちらりとドアに向けられた。

 自分の方が近いが開けるのには、ほんの僅かな時間ではあるものの、襲い掛かる犯人に無防備な背中を晒すことになってしまう。

 純一にもし仮にそのつもりがあるのならば、屋上に出るまで詞が想定していたより、けっこう焦る不利な状況に陥っているかもしれない。

「話って?」

「うん。蓮実のことなんだけど」

「蓮実?」

「あいつは――」

 だいじょうぶそうだな。

 ほっと蓮実は胸を撫で下ろし一安心する。

 先生という敬称を付けなかっただけで、詞の声音に微かな怒りが滲んだが、純一がそのことに気づいた様子はなかった。

 生徒が教師の居ないところで呼び捨てにするのは、自然といえばごくごく自然である。

 けれど女子は耳聡い。

 そこにマイナスの感情が付加されているかどうかがわかる。

 その教師に好意を抱いているのなら簡単に……。

 呼び捨てにした男子生徒に詞が、プラスの印象を持つわけがなかった。

 とっくに破綻していたので、これこそ今さらではあるのだが、心理学でいうところのラポール――信頼関係の構築に純一は初太刀で失敗している。

 こうなればどんな説得力のある話も説得力がなくなり、受け入れさせるための難度はぐんっと跳ね上がるはずだ。

 可能にする話術だったり弁術だったりが、どうやっても純一に備わっているとは到底思えない。

 酒でも飲ませなければ、蓮実でもちょっと無理だろう。

 悪魔。

 ロリコン。

 裏の顔。

 仮面を被った淫行教師などなど。

 逢から情報提供された通りのレパートリーで糾弾、というより蓮実への罵詈雑言を純一は延々羅列している。

 大概の人間は褒めるよりも貶す方が得意だ。

 語彙は少ないが私怨の支援もあって、やや口下手な純一でもテンポ良く悪口が出てくる。

 イキイキしてるなぁ。

 苦笑した。

 そして安心する。

 これならマスターベーションと一緒で、本人は気持ち良いだろうが周りはただただ冷めるだけだ。

 余程気が長いかお人好しでなければ、いつまでも聞いていられるものではない。

 くっくっくっ……、あ~っははははははっ。

 まるで悪役みたいだった。

 沸々とした怒りで仮面が外れたのかもしれない。

 優等生なら絶対しない笑い方だ。

 オナニーに自家中毒していた純一も、ぎょっとした顔をして振り返る。

 そこにはこうだろうと蓮実が想定していた絢辻詞と、純一がまったく想像していなかった絢辻詞がいた。

「馬鹿じゃないの?」

 クラスメイトに向けるときには巧妙に隠していたが、今はその素振りすらなく黒いモノを宿した冷たい眼をしている。

 けっして純一は馬鹿じゃない。

 そのひと言だけで自分の独りよがりな演説が、詞になんの感銘も与えていないことを悟ったようだ。

「さっきから黙って聞いてあげてれば、ごちゃごちゃごちゃごちゃくっだらない。根も葉もない妄想を垂れ流してるだけじゃない」

 可愛らしい小作りな顔を少し上向けて、呆然とする純一を見下すように鼻で笑う。

 品行方正な優等生の面影はどこにもない。

「何かしら証拠があるんだったら、あんたが言う蓮実先生の裏の顔ってやつ、信じてあげないこともないけど……」

 笑みを深くする。

 意地の悪いスマイルだった。

 そんな証拠なんてどうせ、どこにもありはしないんでしょ?

 言葉に詰まり悔しそうにする純一に、詞の瞳の奥にある冷たさが増していく。

 蓮実は純一に同情した。

 酷な質問だ。

 提示するわけにはいかないだけで、純一はちゃんと蓮実を断罪できるだけの証拠を持っている。

 しかしそれをすると、幼馴染の恥を曝さなくてはならない。

 その方法で詞の信頼を得るわけにはいかなかった。

 偏見もあるだろうがやはり男は女より、口が堅くて義理堅い生き物なのかもしれない。

 純一は群を抜いてかもしれないが、自分から離れた幼馴染すら守ろうとしている。

 蓮実の中で純一の評価が地味に上がった。

「もしかして橘くん、蓮実先生に嫉妬してる?」

 だがその辺りの事情を知る由もない詞は、レイプ犯を野放しにしているという、忸怩たる想いの鬱憤を晴らそうと皮肉をたっぷりぶつける。

 男子高校生のデリケートでナイーブな、触れられたくない柔らかい部分を無造作に抉った。

「誰かさんと違って人気者だもんねぇ」

 それはクラスで孤立しつつある純一にとっては、喉から手が出るほど欲しいがもう手に入らないもの。

 首尾よく早朝の高速道路で、事故が発生した場合さらに苦しくなる。

 そうなったとき親友の大きさが、純一は切実にわかるはずだ。

「大人で爽やかでユーモアがあって、女の子にちゃんとした気遣いができて、いっつも近くでさり気なくあたしたちを見ていてくれる」

 そう映るように仕向けてきた甲斐がある。

 ほんの微かであるが、蓮実を評する声のトーンが高い。

 本人は意識してなかったのだろう。

 優等生の仮面を外して、頬をほんのり上気させた教え子の声は弾んでいた。

 嫌味を言うための引き合いに出しただけだったのが、言葉にすることによって意識してしまったのかもしれない。

 いい子だ。

「と、とにかく、ハスミン、は、蓮実先生は、あんたみたいな卑劣な男と、比べるような人なんかじゃない」

「……卑劣な男?」

 詞の豹変に気圧されていた純一だったが、またそれとは異なる女の子らしい豹変に、やや余裕を取り戻した純一は卑劣という言葉を聞き咎めた。

 さすがにそこまで言われて黙っていられない。

 むっとした顔をする。

 たぶんこれでも純一としては精一杯、強く出ているつもりなのだろう。

 だがこれで怯んでくれるほど、詞は気の弱い女の子じゃない。

「なに? 図星を指されたら逆ギレ? この際だから言ってあげるけどあたしね、選挙のときあんたが作ったPRビデオに感謝してたの」

 蓮実もあれには感心していた。

 誰にでも思いも拠らない才能ってのはあるもんだ。

「だけどあのカメラはあんなことするために、あんなDVDを作るためにあったなんてね――」

 突きつけた人差し指で、純一の胸をとんとんっと叩く。

 力はそれほど入ってないのだろうが、突かれている純一は痛そうな顔をしていた。

 恥を知りなさいっ!!

 一喝する。

 拍手をしたくなるくらいぴしゃりとキマッた。

 うん。

 退屈な朝の見世物としてはもう充分。

 元は取った。

 このあと職員室に戻れば、梅原のイベントもあるので、やや飽きてもきたことだし、蓮実としてはそろそろお開きにしておきたい。

 詞も言いたいことは、もちろん本当に言いたいことは言えてないが、ひとまず言ったみたいなので、これで話は終わりとばかり踵を返そうとする。

 屋上にいるキャストは三人。

 三分の二が閉幕と判断した舞台。

 しかし残りの三分の一は違ったみたいで、この茶番というべき舞台で演技を続けようとしている。

 尚も食い下がる。

「DVD?」

 ぽつりとした呟きだったが、詞の耳に届いたようだ。

 苛立たしげに首だけで振り返り、憤怒に燃えていても可愛らしい顔で睨む。

「自分でやっておきながら白々しいっ。あんたがあたしのカバンに、あんな酷いDVDを入れたんでしょっ」

「酷いDVDって、ど、どんな?」

 詞がかっとなったのが、表情だけではっきり、見ればおそらく誰にでもわかった

「……こ、この」

「え?」

「ゲス野郎っ!!」

 パァンッ。

 朝の屋上に乾いた音が響く。

 思いっきり振りかぶった詞の右手が、躊躇なくフルスイングされて純一の頬を打っていた。

「あんたがイチバンよく知ってるはずじゃないっ。森島先輩にしたことを、あたしが忘れたなんて絶対に言わせないっ!!」

「森島、先輩? ……え、DVD?」

「そうやって惚けてられるのも今のうちだから。ハスミン先生がきっとあんたに、オトシマエをつけさせるからね」

「も、森島先輩のDVDも、あ、あるの? ……蓮実ってどういう?」

 詞はそれには応えず、同じ空気を吸うのも嫌とばかり、足早に屋上から去ろうとする。

 だが純一としてはここで貴重なパズルのピースを、蓮実への手がかりをすんなり逃がすわけにはいかない。

 身をかわそうとした肩を掴んだ。

 純一にしては強引ではあるが、素早く的確な対応である。

「痛ッ!?」

 とはいえ草食系だ何だといっても、男は男でそれなりに腕力はある。

 詞が顔をしかめた。

 いつもの純一ならここで怯んで手を離すところだが、追い詰められた人間はその程度では止まらない。

 クラスメイトの肩がたとえ、発砲直後の銃身みたいな熱さでも離さないだろう。

 まずいなと蓮実は思った。

「は、離して」

「お願いだから話を聞いてくれっ!!」

「嫌っ!!」

 まさか幼馴染の恥を曝すようなことを、自分のものじゃなくても純一がすることはないだろう。

 これといって形のある証拠を示せない以上は、尻尾を掴まれることはないにしても、具体的な疑惑を口にされることはできれば避けたい。

 ならここだ。

 この早朝の予期せぬ屋上での舞台で蓮実は、あくまで観客であり役者としての自分の出番はないと思っていた。

 しかし豹変してエキサイトした純一は黙りそうにもない。

 チョークを投げてもコルク弾を装填したライフルで撃っても、平べったい影絵になって奈落に転げ落ちることもなさそうだ。

「……おはよう。随分早いんだな二人とも」

 いきなり声を掛けられて純一も詞も、心臓が止まったかのようなはっとした顔をする。

 けれどそのあとの反応は対照的だった。

 純一はぽかんっとしたが、詞はほっとした顔をする。

 手招き。

 逃がさないようにがっちり掴んでいた肩を、蓮実の登場によって離してしまった純一から、蒼白になった詞は慌てて逃げるとその背中に隠れた。

 庇護を求めて寄り添ってくる。

 牝の本能だろう。

 子宮で感じる危機はきっと牡には、理解できない恐怖のはずだ。

 吊り橋効果というのが本当にあるのなら、そういえば薫のときもそうだったが、やはりこのシチュエーションよりベストはない。

 純一は突如としてその場に現れたような蓮実に、たじろいだみたいによろめき立ち尽くしている。

 怪しさ満載の登場にツッコまれることはなさそうだ。

 このまま詞の肩を抱いて去っても、まさか追っては来ないだろう。

 ただこうなってくるとここで終わらせるのは、何だかそれはそれでちょっと勿体無い気がしてきていた。

 もうひと盛り上がりのため、純一にはスイッチを入れてもらうとしよう。

 そういう意図があって付けたタイトルではなかったが、何がどこで幸いしどう功を奏するかわからないものだった。

「橘」

「は、はい」

 キーワードを詞が聞いても、威嚇であり警告にしか思えない。

 けれど純一がDVDを観てくれてれば、蓮実の本当に伝えたい真意が伝わる。

「ず~っと見てるからな」

 ブチッ。

 そんな音が聴こえた気がした。

「おまえッ!!」

 まともに人を殴ったことがないのだろう。

 激高しダッシュで襲い掛かる純一は、これぞテレフォンという風に振りかぶっている。

 空手有段者の羆を相手取ったことのある蓮実からすると、欠伸が出るほどの大きくてゆっくりなモーションだ。

 少年法まで計算して平気で刺してくる生徒や、陸上部のやり投げのやりを、殺意で血走った眼で投擲してくる生徒に比べれば可愛い。

 軌道を読む余裕がある。

 このままだとあまり見栄えの良くない位置に当たって、ヘンな空気になって場がしらけるというか、蓮実ごと巻き込んでスベってしまいそうだ。

 修正する。

 鼻が折れるような打撃は勘弁だが、唇くらいならここは切ってやってもいい。

 ――ペシッ。

 たぶん人生で初めてだろう、力みすぎのパンチがヒットする。

 勢いよくぶつかられた蓮実はよろけたふりをして、身体の泳いでいる純一の左足をさり気なく引っ掛けた。

「きゃあッ!?」

 息を呑んで身体を竦ませたクラスメイトに倒れ込む。

 目を血走らせた必死の形相で。

 こんなとこかな。

 純一の姿が詞の網膜に焼きついたのを横目に、蓮実は右手首を掴んで内側に捻り動きを制した。

 下手くそなパンチでもダメージはあって、殴られたところがずきり痛む。

 中学のとき近所の合気道の道場に通い、一通りの関節技は習得していたが、蓮実の技は相手に障害が残っても構わないアレンジをしてある。

 最大限のダメージを与えてやろうかと刹那思った。

「痛い痛い痛い痛い……っ!!」

 まあここは詞の前でタイタイ喚いて、情けなさを晒していることで、同じ男として同情し許してやることにする。

 入り口のドアに向かって、突き放すみたいに拘束を解いてやった。

「少し頭を冷やして考えるんだな。暴力では何も解決しない」

 いけしゃあしゃあと蓮実は、空虚な戯言をのたまう。

 力で敵う相手でないのはわかっただろう。

 それはもう嫌というほど。

 屈辱で身体がぶるぶる震えていた。

「……し、失礼します」

 そう口にしたのは、プライドなのかもしれない。

 声も負けないくらいか細く震わせて、打ちひしがれた純一は屋上を去っていった。

「先生、ち、血が」

 詞がさっきよりもさらに慌てて、さらに顔を蒼白になって駆け寄ってくる。

 痛みのある唇を触れてみると、狙った通り血が出ていた。

 焦っているのか詞にしては珍しく手際悪く、ポケットから苦労して真っ白いハンカチを取り出す。

 切れた唇に優しくそっと触れさせると、触れさせた部分がすぐに鮮やかな赤に染まった。

「こんなの平気だよ」

「で、でも」

「だいじょうぶだって。このくらい舐めときゃ治るさ」

 些か露骨だっただろうか。

「なら……」

 だが顔の毛細血管を全開にした教え子の手は、屈辱ではなく羞恥で震えながら蓮実の頬に伸びてくる。

 身長差があるので蓮実は少し腰を折った。

「あたし、治します」

 ピンクの舌。

 ねろりと血の滲む唇を舐めた。

 そのうち恐怖がぶり返したのだろう。

 舌を這わせながら、詞は頬を濡らし泣いていた。

 なのでこうなったらこうするのは、ごくごく自然な流れである。

「んンッ」

 一心不乱に唇を舐めまわす教え子の舌を、身体を抱き寄せながら口を開いてパクリと捕まえた。

 魂まで引きずり出すみたいにして強く吸う。

 詞の唾液は甘かった。

 美味。

 音を立てて啜る。

 寒さが肌に沁みるようになってきた早朝の人気のない屋上で、蓮実は可愛い生徒会長の口内を心ゆくまで味わい蹂躙した。






[41992] アクガミ 二十三話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/02/11 14:25




 困ったものだ。

 けっきょくあのまま純一は、家に帰ってしまったらしい。

 生徒会の活動はいいとしても、梅原のニュースは聞いていってもらいたかった。

 あとで忘れずメールしておこう。

 事故の規模はほぼ蓮実が期待した通り。

 予想よりも上手くいった。

 車は道路で派手に横転したものの爆発はせず、しかも人を巻き込まない犠牲者ゼロの物損だけときている。

 これといって命に別状はないそうで、親父さんの全治は三ヶ月とのことだ。

 期間は一年と少しになった高校生活を続けるのか、それとも修行に専念し退学するのかの、進路を悩むのには丁度いいアクシデントである。

 手を打ち鳴らした。

「しっかり俺たちは俺たちのやることを梅原の分もやって、これ以上の心配のタネを増やさないようにしてやろう」

 朝の職員室で麻耶の口から第一報に触れた生徒会のメンバーは、これといって梅原家に思うところはないみたいで揃って頷く。

 誰しも神妙な顔をしているが、ただそれだけだった。

 切欠にして慰めるという展開は、ちょっと無理みたいである。

 詞の目が赤くなっているのは違った理由だ。

 悲しいからじゃない。

 視線がほんの一瞬交錯しただけで顔を紅潮させているのも、もちろん蓮実の唇を見つめてそうなったのも違った理由だ。

 知らない大人の生き死により、可愛い生徒会長の脳内はついさっき、ファーストを奪われたことで占められている。

 クラスメイトの父親の交通事故という、これぞ対岸の火事では涙の必要性を感じなかったようだ。

 そして必要性に迫られれば涙腺を緩められるのが、総じて女という生き物なのである。

 見下していたクラスメイトの葬儀でさえ、ひどく落ち込み泣けるのだ。

 おそらく梅原本人が首でも吊れば、ここにいる全員が等しく頬を濡らすのだろう。

 ……純一でもそうかは微妙だが。

 放課後になったら様子を見に行こうかと、放課後まで覚えていたらそうしようかと思いつつ、ハーレム気分で蓮実は朝の校門指導に立った。

 刹那の攻防。

 さり気なく先手を打ったものの、異性を意識した乙女だからこその距離、羞恥で開けてしまった数センチに割り込まれた。

 制した薫が蓮実の隣りのポジションをドヤ顔で確保すると、弾き出された詞がむっとするのが微笑ましい。

 これまでに見られなかった光景である。

 反対には何食わぬ顔でしれっと恵子が立っていた。

「馬鹿」

「いいじゃない」

「止せって」

 調子に乗った薫は腕を組んでこようとしたが、さすがにそれは丁重にお断りして引き剥がす。

 などとやっているうちに、生徒たちの第一波が登校してきた。

 仮面を被った詞ほどではないものの、輝日東の生徒は基本として優等生ばかり。

 たまに手が掛かることはあっても、手を焼かされることはあまりない。

「おはようございます」

 何かと大人に反発したい年頃なので斜に構えてたり、逆に年頃なのに疲れたサラリーマンみたいなのも居る。

 だがほとんどの生徒は、しっかり挨拶までできた。

 気持ちは良いが、歯応えはない。

 お目当ての生徒が登校して来るまでは、眠気と戦わなくてはならないほど退屈である。

 こうなってくると、ムニンの存在が恨めしい。

 処刑したくなる。

「どうしたの、ハスミン?」

「冬も近いし乾燥してるのかな。唇が切れてるみたいなんだ」

「良かったらクリーム貸してあげようか?」

「平気だよ。『また』舐めれば治る」

 登校してくる生徒たちをチェックしていた詞は肩を、びくんっと跳ねさせてから蓮実を振り返った。

 素知らぬ顔で気づかないふりをする。

 とはいえこれはこれで楽しいが、テンションを上げ過ぎるわけにはいかない。

 職場放棄してでも教え子と、二人っきりになりたくなってしまう。

 そんなこんなでようやく、指導のし甲斐がある生徒が登校してくれた。

「蓮実先生。おはようございます」

「……お、おはよう」

 これもレアで珍しい構図かもしれない。

 紗江が美也の手を引っ張って登校していた。

 しおらしい美也は新鮮。

 どことなく仕草が女っぽい気がするのは、自分が女にしたのだという征服感からであろう。

 目配せした。

 それだけでぴんっときたのか、紗江は小さく頷く。

 わかっていますとでも言うかのように、なんとなくだが自信に満ちたものに見えた。

 さすがに紗江は学習時間が違う。

 この学校に赴任してから最初に指導した生徒だけあって、他のペットよりもずっと蓮実の意図を汲むのに長けていた。

 担任教師を喜ばせるための存在だという、意識漬けがしっかりしている。

 もともと傾向が強い。

 紗江が内気でおどおどしているのは、小動物のように外界を恐れるサインもあるが、誰かの支配を求めている本質の現われだった。

 1年B組の発足とほぼ同時に、簡単な心理テストを行っている。

 自由に木の絵を描かせるバウムテスト。

 創始者であるコッホは樹冠のサイズを基準にしたときの幹の長さが、描いた人物の精神的な発達を示すものだと提唱している。

 紗江はそれこそ絵に描いたような、内向的で意志力に欠ける性格を表していた。

 ハンティングのリハビリの獲物としては最適である。

 餌は隷属しているという、実感を与えてやるだけでいい。

 そして自分だけは特別だという優越感。

 せっせと純一が吹聴して回っていた蓮実の裏の顔、それを知る数少ない教え子の一人だった。

 もちろん全てを把握しているわけではないが、自分は悪事の片棒を担いでいるというのも、箱入り娘の良い子な紗江には憧れであり快感らしい。

 いくら新参のペットが後から後から増えようとも、先生の共犯者の愉悦を味わえるのはわたしだけなんだ。

 実際はそうでもないのだが、紗江がそれで気持ち良くなるならそうしておこう。

「元気か?」

「……みゃーはいつだって元気だよ」

「ならいいんだ」

 心なし潤んでいる瞳で、ちらちらと上目遣い。

 ぽんっと小さな頭に手を置いて、髪をくしゃくしゃにしてやった。

 単純。

 本物の猫みたいに喉を鳴らしそうなほどご機嫌で、熱っぽい視線を担任教師に浴びせてからその隣りを見やる。

 にっししし。

 いったいどうして狙い撃ちでそうされたわからないだろうが、とにかく後輩のそんな不遜な態度は正確に伝わったようで、純一の妹だとというのも

知っているのか加味されて、むっと顔を険しくさせた薫は瞬間で怒りモードになっている。

 しかしそれを美也は正面から堂々と、微塵も臆することなく受け止めた。

 むしろ余裕がある。

 ハスミンはもう先輩なんかじゃなくって、みゃーのモノになったんだからね。

 とでも言いたいのかもしれない。

 いやいや。

 おまえらが勝手に勘違いするのは自由だけどな……。

 どこかで躾として正してやった方がいいだろう。

 俺はおまえら、どっちのモノでもない。

 おまえらがどっちも、俺のモノなんだ。

 どっちも俺を悦ばせるための、ペットでしかないんだぞ。

「行こ。紗江ちゃん」

「うん」

 何故だか薫に対してすでに勝ち誇っている美也は、いつものように紗江の手を引き校舎に消えていく。

 その尻尾があったらぶんぶん振ってるだろう後ろ姿は、今にも飛び跳ねスキップしそうだった。

 美也はずいぶんと薫に上から目線で得意げになっているが、親友がさらに得意げになっているのには気づいてない。

「な、なんなの、あの子?」

「あの子。橘くんの妹さんでしょ?」

「……兄貴はともかく妹に含むところはないけど、とりあえず後輩のくせして生意気」

「可愛い子だったね」

「そうかしら。可愛いっちゃ可愛いけど、まあまあなんじゃないの?」

 薫と恵子がそんなことを話している間に、登校する生徒の第二波がぞろぞろやって来る。

 美也のときもそうだがまたしても、純一が帰ってしまったのが悔やまれる。

「お、おはようございます……」

 ぽっちゃりな幼馴染も妹に負けず劣らずで、色気には縁のないキャラクターだったのだが、そこはかとなく漂っているような気がしなくもない。

 異性への羞恥心が芽吹かせたものだ。

 それが特定の異性なら尚更、綺麗な花が咲くこと請け合いだ。

 蓮実が学生の頃にも夏休み明けになったりすると、様変わりしている女子がクラスに居たのを思い出す。

 勘のいい人間なら何かあったのかもと、経験のある人間ならナニがあったのだろうと、心配からの想像も邪推交じりの妄想もできる状態だ。

 はにかんでいる梨穂子からはもう安らぎだけではなく、牡の本能を呼び覚ますフェロモン的なものが香っているかもしれない。

 上でなく下でしか物事が考えられなくなりそう。

 童貞を一刻も早く卒業したい男子はもとより、結婚するまではなどと考える潔癖男子でも、密室で二人きりになったら危険な魅力が備わっていた。

 たとえば茶道部の部室でそうなったら、畳には伊草ではない匂いが染み込むだろう。

 梨穂子の肌にもたっぷり。

「桜井、どした急に。身体の調子でも悪いの?」

「そ、そんことないよ。ちゃんと元気だよ。わたしはすごく元気だよ」

「だってあんた顔真っ赤じゃない」

「平気だよ」

「……ならいいけど」

 香苗はたぶん勘の冴えないタイプではないと思うが、何かあったの何かが具体的にナニとは、経験もなさそうなのでわからないみたいだった。

 一緒に登校してきた友人の、唐突な発熱に訝しげな顔をしている。

 とはいえ体調不良というわけではなさそうなので、納得してなさそうだがそれ以上はこれといって突っ込まない。

 ぎくしゃくした動作で蓮実の前を通り過ぎる梨穂子を追って、小走りしながら軽くぺこり会釈して校舎の中に入っていった。

 純一にも見せてやりたかったなぁ。

 やや残念に思いながら蓮実は、朝の校門指導を終えて職員室に戻ってきた。

 今日は珍しく三時限目からの授業なので、そこまではしばらくフリーで時間に余裕がある。

 最近はツキもあった。

 これといって学校を当てもなくぶらついているだけでも、何らかのイベントに遭遇できそうな自信はある。

 アポなしで橘家を、突撃訪問するのもいい。

 父親の詳しい容態確認と心配する息子への恩を売りに、病院を見舞いに行くというのも悪くない。

 さてどうする。

 などと考えたのは一瞬だった。

 病院に行くことにする。

 ここはシンパにしてしまうチャンスだ。

 事故発生ほやほやな今日の今日で駆けつけてやれば、ネガティブ思考の親友の戯言を、すんなり受け入れて蓮実に悪感情を持つこともないだろう。

 朝のニュースをちゃんと聞いて知っていれば、純一も即座に何らかの気遣いを見せたのかもしれないが……。

 事故を知らないんだから仕方がない。

 ただ蓮実は純一が今いったいナニをしているかを、わざわざ聞くまでもなくちゃんと知っていた。

 清々しく爽やかな朝に鬱々とした気分で早々に家に帰ってくれば、まして極上のネタがあれば高校生男子のやることは決まっている。

 夢中になっている最中だったら邪魔しては悪い。

 搬送された病院は市外だが、ナビなしでも迷うことなくハイゼットを走らせる。

 梅原の父親は元気そうだったが、大腿骨と骨盤が折れていた。

 復帰するのは早くても半年先。

 キレイに折れたようなので完治はするのだろうが、しばらく東寿司は開店休業を余儀なくされそうである。

 あまり長居すると怪我に響きますので、そう言うと早々に病室を後にした。

 追いかけてきた梅原が相談があるというので、なら1Fのロビーでコーヒーでもと誘って二人になる。

「大変だったな」

「まあ、そうすっね。電話掛かってきたときはさすがに、俺もテンパちまいましたけど、男があたふたすんなって、親父に怒鳴られちまいました」

「おまえも粋だ粋だって言われてるみたいだけど、親父さんにはまだまだ敵わないな」

「っすね」

 輝日東高校の制服以外だと店に行った際、修行のための割烹着姿を見たことはあるが、私服になった梅原を目にしたのは初めてだった。

 もっとも男子のファッションに、それほど興味があるわけではない。

 気取らず何ということのないラフな着こなしだったが、梅原という生徒のキャラクター込みのスタイルにマッチしていた。

「俺、学校辞めようかなって、ちょっと考えてるんですよね」

「辞めてどうするんだ?」

「そりゃ親父を少しでも手伝うんですよ。まだ修業中の身なんで、返って足手まといになる方が多いだろうけど……」

 苦い顔をしてコーヒーを啜る。

「寿司職人に学歴なんて必要ないっすからね。俺の高校生活ってのは道楽みたいなもんです」

 確かに。

 蓮実は心の中で同意を示し頷いた。

 家業を継ぐことを中学卒業時点で父親だけでなく、本人も望んでいたので高校の三年間は蛇足の要素が強い。

 オマケと言っていい。

 ただ正鵠は射ているものの、こうして相談してくるということは、覚悟を決めたつもりでも、梅原にまだまだ迷いがあるということだ。

 思案する。

 このまま背中をもうひと押ししてやるのもいい。

 しかし待てよ。

 それだとやることがはっきりした分、頭が整理されてすっきりされてしまう。

 中途半端な状態でもやもやしててくれた方が、親友のお悩みに付き合う余裕はなくなるはずだ。

「おまえの気持ちは息子として立派だけど、それを言われたらたぶん親父さんとしては、嬉しいってだけじゃなくて悔しくもなるんじゃないかな?」

「悔しい?」

「道楽だって言うけど、その道楽をさせてやるのが親の甲斐性だよ」

「甲斐性っすか?」

 考え込む。

 そこまでは考えなかったという風にして考え込んでいる。

 蓮実も喋りながら考えていた。

 亡き恩師であればおそらくこう言うだろうと、シミュレーションしつつ教え子を諭す。

「暢気に高校生をやってるのも親孝行だぞ。どっちにしたって一年くらいで卒業するんだから。それから職人修業を始めたって遅くはないだろ」

「まあ」

「もちろんおまえの覚悟は尊重されるべきだ。俺の言ってるのはあくまで、こういう考え方もあるってだけに過ぎない」

「うっす」

「相談されたのにこんなアドバイスで申し訳ないけど、けっきょく最後におまえの人生を決めるのはおまえだぞ」

「ためになりました」

「とにかく慌てないで、よく考えてから答えを出せ。……っと、すまん。そろそろ学校に戻らないと」

「あ、すいません。今日はどうもわざわざ、見舞いありがとうございました」

「落ち着いたら、また学校でな」

 幽霊とはいえ剣道部員なだけはある。ついでに職人の世界も礼儀には厳しい。

 目上の者への心からの敬意を表し、深々と腰を折った梅原に見送られながら車を走らせる。

 ふと思った。

 純一にメールするのは、やっぱりやめておこう。

 いずれは知られるにしても、タイミングは遅ければ遅い方ほどいい。

 その方が親友二人の距離も開くだろう。

 たとえ開かなかったとしても純一が勝手に疎外だったり、罪悪だったりを感じてくれれば儲けものだ。

 ぎりぎりセーフで学校に戻る。

 そして予期せぬイベントは、起こるべくして放課後に起こった。

 一気にドアを引き開け踏み込むと同時に、鋭い声を上げたのは機先を制するためだろう。

「あなたたちッ!!」

 生徒指導部は蓮実だけではない。

 校内の巡回パトロールを、高橋麻耶教諭だってするだろう。

 生物及び化学準備室の周辺をこうして、偶に放課後にうろついてたとしても別段おかしくない。

 なかなか仕事熱心な先生だと褒められはしても、どうしてここにいるんだと責められるのはお門違いというものだ。

 ドア越しに耳を押し当てて、微かに漏れる音を盗み聞いたのかもしれない。

 不純異性交遊の現場に遭遇したとでも思って、注意せねばとテンパり気味に突入してきたようである。

 しかし情報不足。

 おそらく麻耶は学生同士を想定したはずだ。

 覚えたばかりのセックスの味に耽る、自分が牡であり牝であるのを自覚した二人を、まだ初々しい高校生同士を想像してたはずだ。

「えっ!?」

 なので固まってしまった。

 純情なふかふかボディを机の上に解剖されるみたいに組み敷かれて、幼い秘裂に逞しい勃起をねじ込まれている少女。

 心苦しく気まずい光景であっても、これはある意味で想定の範囲内だ。

 勇んでいた麻耶をフリーズさせるほど驚かせたのは、教え子の小さな身体に圧し掛かっているのが、仲の良い尊敬する同僚だったのが原因だろう。

 蓮実は自分の迂闊さに、どれくらいぶりか久々に腹が立った。

 鍵くらいは掛けておくべきところを、紗江が苛めてくれとばかりびくびくするのに、呼応しぞくぞくして調子に乗り過ぎたみたいである。

 どうやらリスクより、スリルを優遇しすぎた。

 折角ここまで教師としても異性としても、頼れる男を演じてきたというのに、どうやっても言い訳のしようがない。

 またこんなときに謝ったところで、無意味なばかりか逆効果でしかないだろう。

 紗江を犯している太い勃起には、百の言葉を費やすよりも雄弁で明瞭な一があった。

 となればアクションが必要になるのは口じゃない。

 いっぱいに広げられていた粘膜の狭間から、根元まで埋めていた牡器官をずるりと引き抜く。

「んゥッ……」

 張り出したカリがキツイ膣口を通る際、紗江は顔を顰めはしたものの、その表情はあどけないくせに妙にエロティックだった。

 目の端でそれを捉えながら、二人を結ぶ銀色の粘液の糸を振り切り飛び掛る。

 猛々しい勃起を目にして、心奪われたように停止した同僚に。

「い、イヤッ!!」

 蓮実は機先を制してあっさり麻耶を捕まえると、教え子たちにはない成熟した身体を、抱きしめるようにして拘束して、紗江の横たわる隣りに押し

倒した。

 傷だらけの天板にアダルトとロリータな身体を並べてみると、それはそれだけでなかなかに壮観なものがある。

 どちらも犯すのに適した格好にされていた。

 視線と視線が上と下から交錯する。

 激しい怒りの陰に深い悲しみを滲ませた瞳を、蓮実は正面から受け止めながら苦笑した。

「残念です」

「――むぐッ!?」

 尚も叫ぼうとする口元を、素早く手で覆い命令する。

 麻耶は必死に暴れるが、こうなってしまえば慣れたパターンだ。

「ドアを閉めて鍵を掛けてくれ」

 言葉が脳に浸透するのに時間を要したが、やはりここで犯されて純潔を散らされた少女は、のろのろと身体を起こすとドアを閉めて鍵を掛ける。

 組み敷いた同僚の熟れた身体が、命令に素直に従う教え子を見て、瞬時に堅くなるのがわかった。

 この内気な教え子を戦力に数えてはいなかっただろうが、まさかこういう二対一の構図になるとは思わなかったのだろう。

「ううッ!?」

 自分のバンザイさせられた両手を、一生懸命になって押さえるなどとは、麻耶からすれば夢にもというやつだ。

 ただ紗江に押さえ込まれているのは腕力ではなく、押さえ込まれたという行為のショックゆえであろう。

 蓮実に対してもそうだが、裏切られたという顔をしている。

 散弾銃を突きつけられたような、何ともそそられるイイ貌をしていた。

 とはいえ立ち直られたら面倒なので、やはり機先を制してブロックしておこう。

「くれぐれも勘違いしないでくださいよ」

 どこか冗談めかした軽い口調とは裏腹に、蓮実は冷酷な目で射すくめながら、恐怖で揺れる同僚の目をぐっと覗き込んだ。

 ある程度は愉しい遊びのスパイスとしても、下手な抵抗をされないようお互いの彼我の力関係を、ここではっきり認識させておいた方がいい。

「中多は脅迫されてるんです。恥ずかしい写真やビデオを撮られている。だから命令に従うのは仕方がないんですよ」

 実際には紗江は自分の意思で喜々としてやっていることなのだが、それをわざわざ麻耶に教えてやるのは些か酷というものだろう。

 教え子のために身の危険を顧みず、乗り込んできたのにそれでは立場がない。

 真実をありのまま伝えられてしまっては、これからの自分の処遇を受け入れるのは、生徒のためという大義名分を掲げるのは難しくなる。

「バラまかれたくなかったら、わかりますよね?」

 生徒には手を出さないで。

 わたしが身代わりになりますから。

 このお約束を知らない教師など存在しないのを、飛び切りのスマイルを浮かべる蓮実は確信していた。

 麻耶がそのシチュエーションの信奉者であり、殉教者になる覚悟と勇気があることも。






[41992] アクガミ 二十四話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:647e812e
Date: 2017/03/03 12:17





 けっきょくまたすぐ引っ張り出すのだが、ビジュアル的に間が抜けているので、勃起したままのペニスを苦労して仕舞う。

 やれやれだ。

 大好物ではあるが生徒ばかりを相手にしていたので、久々の成熟した牝の身体を持つ、麻耶への期待と興奮は否応もなく昂ぶっている。

「ここでズームとかできるから。うん。RECになってるかだけ注意してくれ。アングルは中多のセンスに任せるよ」

 紗江にカメラの操作法をレクチャーしながらも、視線は同僚教師から片時も離れなかった。

 恥辱と屈辱で背中がぶるぶる震えている。

 臀部の曲線がセクシー。

 机に手を突いているだけなのに、その後ろ姿は妙に色っぽかった。

 麻耶には教師として、相手の話を聞く態度が身についている。

 自分の考えを話せるだけの言葉も持っていたが、今は唇を固く真一文字に結んでいた。

 ようやくウイルスソフトやファイアーウォールなしに、闇サイトに接続するような危うさに気づいたのかもしれない。

 さっきまでは涙ぐましくも意味のない説得をしていたが、無駄どころか愉しませるだけだと判りだんまりを決め込んでいる。

「お待たせしました」

 肩がぴくんっと跳ねた。

 蓮実は少し前屈みになっている麻耶に寄り添うように立つと、生徒に補習でもしてるような気分で可愛い耳に囁く。

「高橋先生。先生の全身全霊で生徒に向き合う、自己犠牲すら厭わないその熱意に打たれました。わたしからは中多に一切の手を出しません」

 裏を返せばこの契約を麻耶が自分可愛さに反故にした場合、紗江の身に債務が降りかかるということだった。

 もっともそうなったらそうなったで、それは元の状態に戻るだけのことであり、これで麻耶に契約不履行を言い立てる輩は居ないだろう。

 貞操の危機に瀕した女性に対して、職場放棄を責める者も居ないはずだ。

 麻耶本人以外は。

 教師という職業に強い誇りを持っており、心奥で無意識に陶酔すらしていた麻耶には、ここで紗江を置いて逃げるという選択肢はない。

 身を捧げるという解答一択だった。

「本当に高橋先生はご立派です」

 ――色んな意味で。

 タイトスカートを張り付かせた形のいいヒップに、蓮実は広げた手のひらを優しく被せ、柔肉に指が沈み込まないようにしながらスライドさせる。

 こそばゆくも甘い感覚に、

「あっ……んッ」

 乱暴されるのではと身構えていた麻耶の喉は、あっけないほどの拍子抜けであっさり開いた。

 無理もない。

 何度か呑みに行ったときアルコールの援護を受けて、恋人不在でもう五年が経過しているのを聞き及んでいる。

 秘蔵するにはすでに熟しすぎていた。

 ひさしぶりの男の愛撫を如才なく拾ってしまう自分の身体の、あまりの慎みのなさに表情は厳しくなるが麻耶の耳は真っ赤になっている。

 犯されるために女性が登場する官能小説じゃあるまいし、レイプで感じるなんてまさかという思いがあったかもしれない。

 完全に麻耶は油断していた。

 そして覚束ない手でカメラを回しているもう一人も油断していたのを、

 ごくっ。

 蓮実は生唾を飲み込む大きな音で確認し苦笑する。

 女の子がはしたない。

 教師として注意すべきかもしれないが、とりあえず男として気づかないふりをした。

 誰が言い始めたか知らないしそもそも興味もないが、なるほど可愛いは正義とはよく言ったものである。

 ただ思春期というフレーズで自分を飾れる生徒はともかく、眠っていた発情期を起こされた同僚は嗜めないわけにはいかない。

「あまりがっかないでくださいよ。まだまだこれからなんですから」

 そう言ってうつむかせた顔を無遠慮に覗き込んでくる蓮実を、至近から麻耶は一射絶命の鋭さでキッと睨んでくる。

 しかしそこに迫力は微塵もない。

 もはや遠い記憶になりつつあるのだろうが、男の味を知っている二十九歳の身体である。

 思い出してしまった刺激にもう抗えない。

 牡の欲望に応えたことのある成熟した牝なら仕方がないことだ。

 それなりに経験のありそうな身体は急速に蝕まれていく。

 穿いている理由は単純に寒いからだ。

 オールシーズンを惜しげもなく生足で活動できる女子高生とは異なり、男子生徒の憧れと欲望の視線を集めて止まない脚線美を彩っているものの、

そうしたものは本人の意図してないところで、偶発的に発生した二次的な望まぬ副産物に過ぎない。

 そしてさらにこの瞬間、

「んンッ……」

 ただの防寒着でしかなかったものが、三次的ともいえる妖しい変化を遂げる。

 パンティーストッキング特有の滑らかさは蓮実の繊細な手つきと相まって、放置されてきた女盛りの身体を歓喜させるための淫具に化けていた。

「……んッ……ン……んふッ……」

 喉の奥で押し殺されたうめきが熱い吐息となって、眉根を色っぽく八の字にさせた麻耶の形のいい鼻孔から漏れる。

 堅く引き結ばれていたはずの唇からも、小さな穴から強固なダムが決壊するみたいに、甘い喘ぎが堰を切ったように零れていた。

 尻の震えもどんどん大きなものになっていく。

 グイッ。

 蓮実はその谷間にフィットさせるように、露骨なまでの欲情の証を押し付け喰い込ませた。

 芯に骨が通っているのではと思わせるこわばりの異常な硬さが、同僚を犯さんとして渦巻く欲望の強さを何より物語っている。

 ズボンのジッパーを今にも弾き飛ばしそうだった。

「よく考えてみてください。物事というのは考えようですよ」

 魔法のフレーズ。

 身体を密着させるように圧し掛かると、瀕死の獲物に思考停止の毒を浸透させる。

 苦悩する麻耶に蜘蛛の糸を垂らすような甘言を囁きつつ、ブラウスの胸元を誇らしげに持ち上げている双球を鷲掴んだ。

「高橋先生は身を呈して中多を救いましたが、それは中多の代わりに苦しむことを意味してるんじゃない。中多の代わりに愉しむ権利を得たんです」

 たっぷりとした巨乳を揉みしだく。

 手のひらで持ち上げられた乳肉は自重だけで潰れるほどの、卑猥すぎる重量感と満足感を蓮実に与えていた。

 同時に自分と教え子を、過小評価していることを笑う。

 なるだけ目立たない地味な印象のファッションを心がけているようだが、熟れた身体と思春期の視線はこの程度で誤魔化せるものではない。

 進学や就職という人生の岐路にいる若者を、図らずも大いに惑わせている罪作りなふくらみだった。

 やはりここは先輩教師として、後輩を指導しないわけにもいかない。

「ン……ぅ……ふッ……、クゥ……んン……」

 抗わないのをいいことに右の乳房を揉みしだいていた手を、光沢のあるナイロンの生地で滑らせながら内腿へと伸ばす。

 麻耶の腿は反射的に閉じかけたものの、それを辛くも踏みとどまり肩幅の距離を保った。

 視界に映ったからだろう。

 苦痛だけではないモノで歪んでいる自分の顔に、今にも泣きそうな目をしながらも、一生懸命になってカメラを構えている教え子を。

 はたしていったい女教師にどのような葛藤があったのか、想像するのはどんな受験問題を解くよりも容易である。

 脅されているという名目で裏切り行為を働いている紗江だったが、麻耶にとっては可愛い教え子であることは変わらないらしい。

 いい子だ。

 心中でそう口走りほくそ笑む。

 ついに蓮実の手はスカートの中に潜り込み、女盛りのゴールデンタイムといえる五年もの間、誰の侵入も許さなかった秘められた部位に触れた。

 教え子のの撮影するカメラの無機質なレンズと、同僚の不躾なアプローチに僅かに麻耶が身じろぎする。

 蓮実は揃えた指先でストッキングとショーツ、薄い布地二枚にガードされたデルタ地帯を撫でた。

 恥丘の曲面をさすりながら徐々に徐々に、秘裂に宛がわれた中指が喰い込んでいく。

「……はぁッ……あッ……んふッ……」

 もう呻きというよりは、喘ぎと表現した方が適切で正しい。

 そして呼応するようにピンポイントでうなじに掛かる蓮実の吐息も、異様なまでに熱くなっており獣の昂ぶりを如実に伝えていた。

 もっとも尻の割れ目にぴったりフィットしているモノは、さらに即物的で欲望剥きだしの露骨なモノだった。

 間を隔てる布地を突き破りそうな勢いである。

 ほんの微かに指先に感じる湿りっ気も、硬度を増す大きな要因になっていた。

「準備はできてます?」

 授業中のときのような優しい口調で、付いてこれない生徒にするみたいに質問してやる。

 とはいえこれはわざわざ訊くまでもないことではあった。

「続けた方がいいでしょうか?」

 ナイロンの繊維を擦った摩擦だけで生じているものと、異なる恥ずかしい熱を帯びているのはわかり切っている。

 麻耶の熟した身体がナニを欲しているのか、我が物顔で弄くっている蓮実にはわかり切っていた。

 でも言わせたい。

 それは日頃から生徒たちの自主性を促すためにも、挙手を推奨している教師としての習性であり性分でもあるのだろう。

「あぁン……ゥ……んンッ……、ふぅッ……あッ、あッ……ハッ……」

 しかしいつもは溌剌としたスポーツ少女のようなイメージなのに、こんなときの麻耶は文学少女みたいに引っ込み思案のようだった。

 この期に及んでも口を割ろうとしない。

 きつく噛み締めていたはずの唇は、ほとんどの瞬間で悩ましく開放状態になっており、腰が無意識に自然と蓮実の指先を追いかけているくせに。

 やれやれ。

 けれどこういう生徒は少なからず居るわけで、やはりこれはこれで個性として認めてやるべきであろう。

 せっかくだから女教師を犯す際には、言ってみたかった台詞もあることだし。

「仕方ありませんね。――身体に訊くことにしましょう」

 まったく世話が焼ける。

 そんな態度をあえて取りつつ蓮実は苦笑しながら身体を離すと、タイトスカートを捲り上げてハート型のヒップを露わにした。

 女なら誰しもが持っていてほしい、天性のタレントというものがある。

 そそられるかどうかには年齢や個人の趣味もあるが、できれば骨になるどころか灰になるまで失ってほしくないもの。

 羞恥に衝き動かされた麻耶は考えるよりも速く、咄嗟に蓮実の手を払いのけそうになるが、自分の立場を寸でで思い出してくれたようだった。

 おどおどしながらもカメラを回し続けている少女の存在が、気高い職業意識とともに女教師の身体を見えない鎖となって縛っている。

 派手でないオフホワイトのショーツが、薄いストッキングから透けて覗いていた。

「ダメですよ先生。男子の夢を壊しちゃいけません。先生みたいに色っぽい女性はガーターベルトに、黒いセクシーな下着を穿いててくれないとね」

 そうやってからかいながら蓮実は果実の皮を剥くかのようにして、外気と視線から白い肌をガードしている二枚の布地を引きずり降ろす。

 ネチャッ

 粘りのある淫らな音を、蓮実の耳ははっきり捉えた。

 腿のなかばで絡まり左右に伸ばされたショーツの股布の底には、だらしなくべっとりヨダレを垂らしたようなシミができている。

 銀色に光るその妖しい航跡を上へ上へゆっくり辿っていくと、濡れた黒い秘毛が張り付いている源泉が見えた。

 奥にある口を開いた裂け目から、ひくひく震える粘膜までもが覗いていた。

 台詞を言う前に笑いそうになってしまう。

「身体は正直ですね」

 どんなに上の口を引き結んだところで、弄くれば下の口がだらしくなるのが女という生き物だ。

 無論その事実をそのまま口にしても、女は素直にそれが真実だと認めたりはしないだろう。

 だがこうまで愛液を溢れさせ濡らしてしまえば、それが生理的な反応でしかなくとも、自分は感じてないなどと言い張ることはできない。

「ンぅ……」

 切ない吐息が後ろから聴こえる。

 内股になってもじもじしている少女にも記憶され、淡々と残酷にRECし続けるカメラにも、女教師の堕ちていく様は克明に記録されていた。

 麻耶は忘れかけていたが身体はしっかり覚えていた愛撫に、ぬらぬらぬめった大陰唇は誘い込むように綻んでいる。

 蓮実はじっくりとその様子を視姦してから、さらに顔をぎりぎりまで近づけると、敏感過ぎる粘膜に向けて息をフゥーと吹きかけた。

「ひゃッ!?」

 間抜けな声とともに、麻耶は背後を振り返る。

 視線と視線が絡み合った。

 表情を凍りつかせる麻耶とは対照的に、笑みを深くした蓮実は躊躇うことなく秘裂に顔を埋めた。

 舌先がもの欲しそうにしながら、刺激を待ち望む媚肉で踊る。

「な、なに考えて、ぃひッ!! そ、そんなところ、舐めるなんて、はぅッ、くぅううッ、は、蓮実先生、変態、んふッ、変態で、ああああッ!!」

「もういい大人だっていうのにもしかして、高橋先生はこういう愛され方をされるのは初めてですか?」

「愛し方って、こ、んンッ、こんなのが、こん、あンッ、う、ンァッ、こんなのが愛なわけ、な、ないで、あッ、はンンッ……」

「高橋先生。愛ってやつには、色々な形があるんです。何事も経験ですよ。いくつになっても遅いってことはありませんので堪能してください」

「そんな、んゥッ、あッ、アヒッ!?」

 前の男はあまり探究心が、旺盛でなかったらしい。

 少女が大人の女として成長するための貴重な学習な時間を、面白味のないつまらない男に費やしていたみたいである。

 おそらく付き合った人数は多くないだろうと思っていたが、どうやらセックスの経験値も麻耶にはほとんどないようだった。

 やはりここは一匹の牡として、牝の悦びを教えてやらねばなるまい。

 蓮実の舌は軟体動物みたいに滑らかに蠢き、淫らにぷっくり膨らんでいるクリトリスにまで食指を伸ばした。

 潤沢にある愛液を塗りたくっては、コリッとした肉の芽を丹念に転がしてやる。

「へ、変態、あ、ああッ、蓮実先、あッ、あな、あなたは、変態で、です、あッ、あッ、あッ、うぁッ、ひッ……あッ……はひッ!?」

「この授業が終わるときには、高橋先生にもきっと、ご理解いただけると思いますよ」

 そう言って蓮実はとびっきりのスマイルを浮かべて見せると、赤ワインにミルクを溶かし込んだような突起にチュッと吸い付いた。

 まるでよくしなる鞭で打たれでもしたかのように、身体を弓なりに反らして麻耶が鋭い悲鳴を上げる。

「あふぁッ!?」

 ツルツルしたクリトリスの表面は少しでも気を緩めると、滑って口の中から逃げようとするので、蓮実は唇で挟んで固定すると舌先でくすぐった。

 もっとも敏感なパーツを責められて、麻耶は膝をガクガクさせて狂ったみたいに身悶える。

「ひッ、あッ、あッ、あッ、んぅふあああッ、あッ!? そ、んンゥッ、そこ、だ、ダメぇええッ!! 汚い、汚いからぁああああッ!!」

「愛し合う男女に汚いところなんてありませんよ。こっちもちょっとだけ、いい機会ですから学習しちゃいましょう」

 崩れそうになる腰を抱え込んだ蓮実の舌は、ついに禁断の窄まり――アナルにまで侵入して蹂躙を始めていた。

 排泄器官を舐められるなど、もちろん初めての経験だろう。

 クンニリングス・ビギナーの麻耶は、理解の追いつかない行為に絶叫していた。

 しかし愉悦のボルテージを上げた蓮実に、初心な少女に戻ってしまった同僚へ一切の容赦はない。

 舌先で粘つく愛液をすくって器用に尻穴に塗りつけると、優しく解すようにしながらねろねろと執拗に舐めまわす。

「ああッ……やッ……うぁあああッ!!」

 肛門から陰唇に再び舌の責めがシフトすると、まだ快楽を快楽として変換できるのか、麻耶は愛撫をねだり腰を突き出していた。

 尖らせた舌が粘膜の奥の奥まで、犯し尽くさんと蠢きうねっている。

「やあンッ、そ、そっちは、そっちはダメ、あはぁッ、あッ、んぁああッ、ダメ、そっちはダメ、ダメになっちゃううッ!!」

 そっちがダメなら、こっちはイイということだろうか?

 とはいえ得意分野はそのまま伸ばしつつも、同時に苦手分野を克服していくのが、受験だけだはなくナニに置いても肝要なテクニックである。

 容赦なく散々舐めまわされてふやけたアナルに、ぴんっと立てた中指をそっと押し当ててズブリと挿入した。

「あひぃいいッ!? やッ、やッ、やぁッ、こ、こんなのダメッ、お、お尻、お尻はダメぇッ、ひッ、ひッ、ダメ、お尻は、はひッ!!」

 膣を舌で穿たれながらアナルを猛烈にピストンされ、机の天板をカリカリと引っ掻いて二十九歳の日本史教諭はよがり泣いている。

 股間から漏らしたみたいに潮を盛大に撒き散らしつつ、柳腰を澄ました人間としての理性ではなく、動物としての本能に従って振りたくっていた。

 ごくっ。

 背後から聴こえてくる生唾を呑む音は、さっきよりずっと大きなものだったが、はしたないと教え子を咎めることはもうできそうもない。

「ひッ、い、いや、あッ、あッ、あッ、んンッ、ンああッ、ぬ、抜いて、も、もう、こんなの、ひぃいいッ、お、おかしくなっちゃうからぁッ!!」

 同僚がこの有様ではいくら蓮実の言葉でも、説得力を持たせることは不可能に近いだろう。

 蓮実は淫水を浴びながらも、秘裂をしゃぶり続けていた。

 ようやく悪魔の拷問のようなクンニリングスから解放したのは、鮮烈なアクメの波が去って麻耶がぐったりしてからである。

「今のがイクってやつです」

 ベルトをカチャカチャさせてズボンを降ろす。

 時代劇の殺陣などで、刀の鍔を鳴らすようなものかもしれない。

 ハァハァハァ……。

 喘息のような荒い呼吸をくり返している麻耶に聞こえたかどうかは怪しいが、紗江の手によって撮影中の作品のためにそれっぽい音を立てた。

 こういう些細かもしれないこだわりが、作品全体のクオリティを高める。

 無断帰宅の生徒も画面の前で唸るはずだ。

 自分のクラスの担任というだけでも充分興奮するだろうが、より臨場感を増してエレクトしてくれるだろう。

 銃身が熱い。

 またしても露わになった牡器官は獲物の温かな肉を渇望しており、獣性剥きだしの悪魔のような人格を隠そうともしていなかった。

 突っ伏している麻耶を、ごろんと仰向けに転がす。

 身に着けているものをこのまま引き裂いてしまいたい衝動と戦いつつ、ブラウスのボタンを外して豊満な胸を包むブラジャーを毟り取った。

 柔らかなふくらみの頂点に鎮座する乳首は、血のように濃い紅色をしていて何とも卑猥である。

 当然のように尖り勃っていた。

 悦楽の余韻に麻耶が身じろぎするたびに、儚げにふるふる震えて牡を誘っている。

 乗らない手はなかった。

 邪魔なものを取り払った乳房を揉む。

 突きたての餅みたいな柔らかくも吸い付くような感触を、年若いペットたちと異なる双乳を堪能しながら捏ねまわした。

「あッ……あン」

 すぐに麻耶の唇から羞恥こそ帯びているものの、どこか媚びているような甘い声が漏れる。

 蓮実が両手の指先で乳首を摘むと、堪らなそうに腰をくねらせた。

「はンンッ、や、やめて」

 訴える声はどこまでも弱々しい。

 カッコいい大人の女性というイメージのある生徒たちには、きっと想像もしてなかった意外さと、妄想していた以上の可愛らしさがあるだろう。

 麻耶は乳房を好き放題にまさぐる蓮実の手首を掴んでいるが、その抵抗は如何にも形だけのもので力はまったく入っていなかった。

 しかしもうち少し本能と蓮実に忠実な、素直さがほしいところである。

 紗江とカメラの存在があるからかもしれない。

 なければ麻耶も牝であるのをもっと素直に受け入れて、牡から与えられる快楽を愉しめているだろう。

 だがそれがどんな生徒であれ教師であれ、必ず素直になる瞬間はあるものだ。

「……も、もう……お……お願いだから……許して……」

「許すというのは?」

「やめて……もう本当に……やめて……」

「本当にやめてもいいんですか?」

「んンッ!!」

 乳房から脇腹へと手のひらを滑らせて、趣味のヨガで鍛えた成果なのか、見事にくびれた腰のラインを撫でまわす。

 爪の先でスーッとくすぐってやるだけで、生徒に対して厳しくも優しい色気十分の同僚は、懊悩する身体をぶるりと妖しく震わせた。

 勃起しっぱなしのペニスの先端を膣口に宛がうと、快楽によるバイブレーションはいっそう激しいものになる。

 麻耶は首を振りたくり、両手を伸ばして蓮実の胸を押し返そうと、しているふりをしているが、ふりがふりでしかないのは誰の目にも明らか。

 蓮実にはもちろん紗江にも、カメラにも麻耶の本心は筒抜けである。

 凛々しい顔は今にも泣き出しそうになっていた。

「もう一度訊きますよ?」

「ぁ、んぅッ、あッ、ハッ、くぅ、ううッ、あッ、ああンッ!!」

「高橋先生。……こんなになってるのに、本当にやめちゃってもいいんですね?」

 硬くぴんぴんに尖らせた乳首を摘みながら、やはり硬くしているクリトリスを硬く熱いペニスで擦る。

 中途半端な快楽を根気よく送り込み、麻耶が素直になるのを蓮実は驚異的な精神力で待った。

 限界が迫っているという意味では実際、まだまだ余裕があるように見えて、焦らしている蓮実にしても似たようなものである。

「ハッ……、あ、んふッ、ン、やン……」

 だがそこは一日の長があった。

 蓮実は飼っているペットたちを可愛がることに日々余念がない。

 経験の差は雲泥である。

 それでなくともいやらしく熟れた二十九歳の身体は、五年もの長き間禁欲を強いられていたのだ。

 欲求不満をこじらせた女教師を嬲り、苛めて陥落させるのは苦もない。

 左右の膝の裏を支える状態で持ち上げて、猛っている勃起と潤んでいる秘裂の位置を調節する。

 両足が宙に浮いており爪先がゆらゆら揺れるそれだけで、麻耶は無自覚にナチュラル・ボーンな淫靡さを演出していた。

 反比例して蓮実は腰の動きを止める。

 麻耶の唇から何度目かの、色っぽい艶のある声が零れた。

 ここまで微笑を絶やさなかった蓮実だったが、表情の一切を消すと可愛らしい耳に囁く。

「本当にやめていいんですか? ……欲しくないんですか?」

 じりじりとミリ単位で粘膜を圧迫しながら、答えのわかり切った答えを偽る同僚の、心を覗き込むようにして瞳を見つめて問いかけた。

 窓から差し込んでくる放課後の夕焼けを反射して、ほとんど瞬かない蓮実の双眸は不気味に輝いている。

「すべては教え子のためなんですよ。嘘でもいいから高橋先生がただひと言、欲しいというだけで中多は救われるんですよ?」

 ここまできたら焦ることはない。

 毒を含ませた言葉が麻耶の意識に浸透し、ゆっくり脳髄を痺れさせるのを待った。

「お、教え子の?」

 教師であろうとしていた二十九歳の理性が、女であることを思い出した二十九歳の本能に屈しようとしている。

 気づいているのだろうか。

 傷だらけの天板から尻を浮かせて、円を描くように腰をくねらせているのを。

 熱くなった粘膜と粘膜が触れ合って互いを求める牡と牝であれば、クチュクチュとけっして聞き逃すはずのない音が鳴っている。

 勃起の先端がほんの少しだけ沈み込んでいた。

 それだけで膣口は肉が裂けそうなほど引き伸ばされており、愛液でぬらつく粘膜は歓迎するように収縮をくり返している。

「高橋先生……」

 いい子だ。

 Excellent!!

 あとでたっぷり可愛がってやろう。

 振り返らなくともわかった。

 紗江がぽろぽろと真珠のような大粒の涙を流して、教師を志した者であれば抗えない声で懇願する。

 手間が省けた。

「……ほ、欲しい」

 ついに麻耶は自ら快楽を求める言葉を、紗江とシンクロするみたいに涙を流し口にした。

 蓮実は唇の端を吊り上げ腰をググッと押しつけていく。

 満たしていく暴力的な存在感に、麻耶の涙に濡れた両目が見開かれた。

「んンゥッ、あ、ああああッ!!」

 すでに準備万端だった膣口は、いとも簡単に勃起を迎え入れる。

 媚肉の襞がいっせいに蠢き、太い血管を這わせた牡器官に纏わりついてきた。

「い、いきなり、そんな、お、奥まで、あンッ、奥、お、奥までなんて、あううッ、お、奥、ダメッ……、あひッ!!」

 大きなふくらみが逞しい胸板に押しつけられて、むにゅりと柔らかく卑猥にひしゃげている。

 欲しかったモノをずぶりと一気に根元まで叩き込まれ、二十九歳の熟れた女体が弓なりになって仰け反った。

 挿入されただけで軽く絶頂に達したのか、抱え込まれ宙に浮いていた両足の爪先が、痙攣したみたいに跳ねてピーンッと伸びきる。

 二人がぴったりと隙間なく密着したことで、秘裂から溢れた愛液がズボンを濡らしたが、蓮実はそれを気にした様子もない。

 同僚の飢えた身体に夢中になっていた。

 本物の挿入はひさしびりのせいか、いっぱいに頬ばった勃起を貪欲に咀嚼している。

「先生、動きますよ」

 絶頂の余韻に浸る麻耶を抱きしめると耳元で、わざわざ蓮実はこれからすることを宣言すると腰を動かし始めた。

 最初それは具合をみるように小刻みな動きだった。

 だがすぐに腰の振りは大きなものになっていき、粘膜を掻き分けゆっくり後退させた勃起を、力強く突き入れる動作が何度も連続でくり返される。

 女体の反応を細かにチェックしながら、スピードも段々とアップさせていった。

「ひぁッ!?」

 どうやら弱いところを抉られたみたいで、甲高い悲鳴を上げた麻耶は自分を犯す陵辱者にしがみつく。

 腰までしゃくりあげていた。

 蓮実の髪を掻き毟り背中に爪を立てる。

 いつしか同僚二人の呼吸は完璧なシンクロを果たしていた。

 絶頂の階段を駆け上がるための理想的なピストンを、輝日東高校の教師二人はカメラのレンズと教え子の眼に曝している。

「ダメッ、こんなのダメッ、ああッ、わたしもう、だ、ダメになるからぁッ!!」

「だけど高橋先生は、これが好きなんでしょ?」

「こ、こんな、は、激しい、激しすぎるッ、ンゥ、うぁあッ、ん……ンッ……ふぅ……、あッ、あヒィィィッ!!」

「イクって言ってみてください。好きなら大きな声で言えるはずですから」

 耳たぶを優しく甘噛みしつつ蓮実は、場違いなほど穏やかな口調で語りかけるが、ケモノのように荒い息遣いが過不足なく昂ぶりを表していた。

 その証拠に腰の動きが制御できなくなってきたようで、ピストンのリズムが狂ったみたいに激しいものになっていく。

 身体で覚えたことというのは、何年経っても忘れないものらしい。

 蓮実の放出が迫っているのを察した麻耶の、淫らな熟粘膜は勃起をキツく締め上げていた。

 円運動を加えながら麻耶の好きな、内圧で下がった子宮口を突きまくる。

「……高橋先生、イクって言ってみてください」

「ああああッ、い、イク、も、もう、い、いいッ、イクッ、イクッ、イクうううッ!!」

 乱れに乱れる女教師は、訳もわからず叫んでいた。

 じゅむッ・じゅむッ・じゅむッ……。

 ねっとりと卑猥に纏わりついてくる媚肉の蠢きに、しっかり咥え込まれた勃起が不意にぶるりと震えて爆ぜる。

 夥しい精液を熟成された二十九歳の、女体の最奥にこれでもかと浴びせた。

 どうやら麻耶は内部で射精されたのは初めてだったらしい。

「ひいいッ、あ、熱い、火傷しちゃうッ、あひいいッ、だ、ダメッ、こんなの、こんなの知らないッ、初めてだからぁッ、あひィああああッ!!」

 本人が言ってるんだから間違いないだろう。

 経験したことのない荒々しい愉悦の嵐に、教え子の身代わりになった女教師は、涎を垂らしたアクメ顔で身体をガクガクさせていた。

 三十路が目前となった二十九歳で、初体験する本物のエクスタシー。

 たとえいくつになっても新しい発見だったり、新しい挑戦だったりはできるものだ。

 遅いということはない。

 教師の鑑だ。

 カメラを構えた教え子に身を持って教えている。

 立ち会えたことに蓮実は一人の教師として、また一匹の牡として激しい感動を覚えていた。

 麻耶も同じ気持ちなのだろう。

「むうッ、んンッ、はンンンンッ!!」

 唇を奪い舌を侵入させると、テクニックはお粗末だが積極的に絡めてきた。

 自分を組み敷き犯した男の首に両腕を巻きつけ、さらに両脚まで腰の後ろでクロスさせて快楽を享受しようとしている。

 めった突きにされて殺害された父親は、息子の著しい共感能力の欠如に、おおいに悩み嘆いていたようだったが心配いらない。

 残念ながら分野は限られるが、麻耶の波動をびんびん感じている。

「あむううッ、ううッ、うむうううッ!!」

 そして堕ちていく女教師を視聴するかもしれない誰かが、より深く愉しく共感できるよう蓮実は、硬さを失ってない牡器官でピストンを再開した。






[41992] アクガミ 二十五話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:e3a4959f
Date: 2017/03/17 10:50




 学校を純一が無断でボイコットしてから三日。

 今時の高校生なので騒ぐほどではない。

 よくあるといえばよくある。

 しかしそろそろ、気になるくらいの時間は経っていた。

「ハスミン」

 蓮実の周りには自然と人だかりができるが、薫としゃべっているときにはほとんど邪魔されない。

 特に女子は遠巻きに眺めるだけで、話に割って入ることはまずなかった。

 怖がられているというわけではないが、序列による格差は男子よりシビアなところがある。

 そしてそういう序列の適用に、あまり先輩後輩は関係なかった。

 三年生でも声かけを躊躇してしまう。

「また勉強を教えて欲しいんだけど……」

 不遜だった

 美也に臆するところはない。

 どころか親しげに腕を絡める薫に対抗するみたいに、ささやかな自己主張をする胸に押し付け、空いている逆の腕を抱きしめるように引き寄せる。

 お互いに異性同性問わずコミュニケーションのツールとして、ボディコンタクト・スキンシップを多用するがそれは無意識でだ。

 こうやって意識して媚を売ることは両者ともない。

 ついこの間まで。

 自分の寵愛を巡り教え子が睨み合っている。

 蓮実は心地よい気分を味わっていたが、今はとりあえずうろたえる演技をしてみせた。

「ま、また、お、教えて欲しいのか?」

「うん」

 にっししし。

 担任教師の慌てっぷりと、先輩の素がそのまま出たお冠に、してやったりと美也はご満悦である。

 ちょっと蓮実の演技は大根ぽくて、やり過ぎたきらいがあったが、教え子二人は二人とも、蓮実よりお互いが気になるみたいだった。

 これなら少々あざといというか、露骨なアピールをしてもいいだろう。

「すまん。か、あ、いや、その……、棚町、棚町とはまた今度な」

 下の名前を思わずを装いつつ呼びかけ、咄嗟に気づいたように慌てて訂正しながら、ぽんっとウェーブした髪に手を置いた。

 羨ましそうな視線があちらこちらから飛んでくるが、もうすでに周囲の者も見慣れているいつものシャンプーである。

 少なくとも見た目は。

 無意識でそうしているよう意識しながら撫で方を、薫にだけわかるくらいのほんの微かな変化をさせている。

「ちょ、ハスミン、そ、それホント止めてって、いつも言ってるじゃないっ」

 頬を染めた薫は嬉しそうだった。

 そしてその様子と反比例するみたいに、美也の頬は可愛くぷくっと膨らんでいる。

「行こっ!!」

 蓮実はぐいぐい腕を引っ張られながら名残惜しげに、あるいは未練がましくちらちら後ろを振り返った。

 心苦しそうにしている英語教諭に薫は満面の笑みを浮かべ、美也への当てつけのように手をぶんぶん振って見送ってくれている。

 一刻も早く先輩女子を視界から消したいみたいだ。

 小さな身体なのでどうしても小さな歩幅だが、美也は大胆なストライドで距離を稼ぎ廊下を曲がる。

 目障りな先輩の姿が完全に見えなくなった。

 それでも周囲にはまだ視線があるものの、その他大勢の視線にはこれといって、何らも思うところはないみたいである。

「ハスミン」

 しかしどうやら目的地は設定してなかったみたいだ。

 人目がなくなった頃合いで、ぴたりと教え子の少女の歩みが止まる。

「……どこで勉強する?」

 カリキュラムが何かの説明は、わざわざ言葉にする必要はない。

 また誰かが聞き耳を立てているというわけでも、まさかバグが仕掛けてあるわけでもないのだが、神聖な学び舎でおおぴらにしていい話でもない。

 慎ましさは大胆さとともに、花も恥らう乙女にとって必須のチャームポイント。

 行われる秘密のレッスンは主に言葉でなく、淫靡な雰囲気こそがもっとも重要なのだから。

「美也の家は?」

「だけどたぶん今は、みゃーの家にはにぃ、……お兄ちゃんが居るから」

「そこは静かにしてれば大丈夫だろ?」

「……うん」

 ここであまりごねて蓮実の気が変わってしまうのを、美也は心配しているのだろう。

 さっきの楽しげな二人の様子を、無理やり割り込み邪魔をした二人の空気を、思い出したのかもしれない。

 どうだとばかり得意げにしていたが薫に対して、美也にはそれほどのアドバンテージはないのだ。

 そして蓮実に言わせればどっちにも、平等にアドバンテージなんてものはない。

 教え子への愛に差はなかった。

 そのときそのときのスポット的なお気に入りはいるものの、なるだけ愛すべきペットたちに序列は付けたくない。

 おまえらは余計なことを考えず、主人である俺に尻尾を振ってろ。

 橘家までの道すがら、純一の近況を聞く。

 身体の調子が悪い。

 その一点張りで休んでいる兄は、どうやらほとんど部屋に篭り切りのようだ。

 何か悩みがあるのなら、そっとしておいてやろう。

 熱があるわけでもないので両親はとりあえず、温かく見守るというスタンスを取ったみたいだった。

「でも……、ちょっとにぃ、お兄ちゃんヘンな感じなんだよね」

「ヘンってどんな風に変なんだよ?」

「トイレとかで部屋から出てくるんだけど、廊下ですれ違ったとき何となく振り返ったら、みゃーのことジーッと見てたりとか……」

「ふうん」

 そうやって休学中の兄の変化を語りながら、妹は肩を抱くようにして身体をぶるりと震わせる。

 寒さが原因でないのは明白だった。

 そんなこんなで二度目の訪問。

 橘家の玄関前に到着。

「ただいま……」

 ドアを開けると美也は小さなか細い声で帰宅を告げ、おそらく家の中に居るであろう人間の気配を窺う。

 蓮実も二階に照準を合わせて耳を澄ませた。

 いる。

 息を潜めてというより殺して、妹と淫行教師を窺っていた。

 ねっとりしている。

 どうせまたムニンのものだろうと放置していたのだが、橘家に入る前から視線はずっと感じていた。

 窓に降ろした分厚いカーテンの隙間から、オコボレを狙うカラスのような視線を……。

「お邪魔します」

「ちょ、は、ハスミン。声が大きいよ」

「おどおどしてると返って注意を引きつけるぞ。悪いことをしようってんじゃない。勉強するだけなんだから、普通にしてればいいんだよ普通に」

「ふ、普通にって……」

「普通でいるの、無理っぽい?」

「……頑張る」

「ならその気持ちが消えないうちに、早速レッスン・ワンといこう」

 階段を上がって廊下の突き当たりにある美也の部屋に入ると、ドアを閉めるか閉めないかのタイミングで小さな身体を抱きしめる。

 くせっ毛の黒髪に鼻を埋めるとまだ乳臭いような匂いが、それでいて牝のフェロモンを備えた匂いが鼻腔をくすぐっていた。

 顎に手をかけ顔を上げさせる。

 そのまま唇を奪った。

 シチュエーションに興奮しているのは、何も蓮実だけというわけではないらしい。

 強引に侵入させた舌を絡ませる。

「うンッ……む……、ん……ンン……んゥッ」

 美也は子供とは思えない色っぽい吐息を漏らした。

 この分野でのテイスティングなら、蓮実はソムリエになれる自信がある。

 どの味も基本フルーティ。

 けれど品種だったり産地だったり年数だったりによって、ワインの一本一本に個性があるように、ペットの唾液にも皆それぞれ異なった趣がある。

 さすがに厳選しただけあってどのペットも、その味わいは若さを残しつつも芳醇だった。

「ン……ううッ……んー……」

 そして美也は美也で初めての男である蓮実の唾液を、全体重を預けるように密着しながら必死になって啜っている。

 担任教師はそうやって互いの唾液のやり取りをたっぷり愉しむと、酸素を求める教え子の切羽詰った肺の要求に応えようやく唇を離した。

 それでも銀色に煌く唾液の糸がツゥーとのびて、未練がましく二人の唇をエロティックに結んでいる。

「ああ……」

 衝撃に立っていられないほどふらつく美也を、子猫にするように軽々ひょいっとお姫様だっこで抱きかかえた。

 嫉妬に駆られた突発的なものではなく、今日は初めからそのつもりだったのかもしれない。

 それとも蓮実が部屋にいつ来てもいいように、いつ蓮実を誘ってもOKなように、あらかじめスタンバイしてたのだろうか。

 前回の訪問では乱れていたベッドは、不自然なほどキレイに整えられていた。

 苦笑しつつ横たえる。

 涙が零れそうなほどうるうる潤んでいる瞳を見つめながら、幼い子供にしてやるみたいにブラウスのボタンを手早く外していった。

 大きく肌蹴ると成長期の予定はまだ未定の、その必要性が疑わしいブラジャーを押し上げる。

「はゥんッ!?」

 カップの内側に乳首が擦れたのか、教え子の身体がぴくんっと跳ねた。

 そしてその微かなバウンドは、すぐに連続した大きなものになる。

 蓮実は露わになった可憐な乳房の先端ではなく、まずは震える白い首筋に吸いついて柔肌に舌を這わせた。

 器用にブラウスだけを抜き取る。

 ブラウスだけだ。

 チョーカーのように巻かれたままのリボン。

 あるいはペットの飼い猫の首輪みたいに、巻かれたままのリボンの下に舌を這わせて、烙印を刻むようにいくつものキスマークを付けていく。

「ンッ、くぅん、んンッ、ぁ、あンッ」

 美也はくすぐったそうにして可愛らしく身悶えしながら、もっとしてとおねだりするように蓮実の頭を掻き抱いていた。

 首筋から鎖骨と徐々に徐々に唾液の航跡を引きつつ、ご褒美の範囲を拡げていき少女の未熟な官能を揺り起こす。

「ううンッ、ふッ、ン、んンッ、ハッ、あッ、ぅあッ、んふ……ッ」

 頃は良し。

 どうやら機は熟したようだ。

 思春期の妄想が炸裂し暴走しているのかもしれない。

 卑猥なほど尖っている。

 触れられてもいないのに想像だけで充血し、ぴんぴんに勃起している乳首にむしゃぶりついた。

「ひいッ!! あ、ああンッ!?」

 蓮実はささやかなふくらみの先端を舌先で転がしながら、ときに小突いたり弾いたりを丁寧に丹念に乱暴にくり返す。

 右に左にと交互に苛めながら、生意気盛りの乳首に甘噛みした。

「あ……ああッ……い、いや、そ、そんなとこ、くううッ……だ、ダメ、ダメだってば、……は、ハスミンッ!!」

 舌は縦横に教え子の粟立った肌を踊り、唾液とともに淫らな感覚を染み込ませる。

 あらゆる部位に。

 バンザイするようにして晒されたツルツルの腋にも、玉の汗を滲ませたお腹やヘソの窪みにまで、前回のレッスンの復習をするみたいにウブな性感

帯を刺激した。

「やッ……やンッ……やはぁッ!!」

 熱心な担任教師の指導はたしかに根付いていたようで、翻弄される我侭きまぐれ甘えん坊はしなやかな肢体を妖しくくねらせる。

 壁一枚だけしか隔てない兄にも届くほど伸びやかに喘ぎ声を響かせているが、すでに頭にないのか美也は蹂躙されることに夢中になっていた。

 指導を受けるのにとても積極的である。

 スカートの中に手を差し込んで、ショーツのウエストのゴムを引っ張ると、下ろしやすいよう率先して尻を持ち上げ協力さえしていた。

 ブラジャーもそうだったが、キャラにそぐわない大人びたデザイン。

 蓮実のために精一杯の背伸びをしたのだろう下着をするり、肉付きの薄い太腿を滑らせて足首から抜き取る。

 制服を中途半端に纏いつかせて虚脱している姿は、まるでレイプされたばかりのように映った。

 実際には現在進行形でされている最中なのだが。

 絶妙に隠れているプリーツの襞をほんの少しでも捲れば、つい何日か前に処女でなくなった少女の花弁が覗けるだろう。

「美也は社会科は得意な方か?」

「え?」

「資本主義の世の中では、何か望む結果を得ようと思ったら、それ相応の代償ってものを払わなくてはならないんだよ」

 理解できてなさそうな教え子の手を取り立たせると、身体の向きを180度くるり変えさせ、蓮実はそのままベッドに寝転がった自分を跨がせた。

 見えそうで見えない薄闇にぼんやり、すでに一度穢された少女の聖域が視認できる。

 牡を咥え込んだことがあるとは思えない。

 脚を開いているのでちょっと綻んでいるものの、欲望のまま陵辱されたことなどなかったかの様な可憐さだった。

「舐めっこしよう」

「……え? ええっ!?」

「大人同士の付き合いっているのはすべからく、ギブ・アンド・テイクってやつで成り立っているんだ」

「ギブ・アンド、……て、テイ、ク?」

「俺は美也と子供をただあやすみたいな、甘いものを与えるだけの関係は続けたくない。お互いが高めあえる大人の関係になりたいんだ」

「ハスミンは、み、みゃーを、お、大人として扱ってくれるって、こと?」

「まだ早かったかな? 美也がまだだって言うなら、俺は焦らないから気にしなくていいよ」

 この大事な場面で不覚にも蓮実は、爆笑しそうになってしまった。

 支離滅裂な問答を随分と、奇妙な恰好で教え子としている。

 真面目な顔して。

「みゃーは、……お、大人だよ」

 美也にはふと、脳裏を掠めた人物がいたかもしれない。

 あの先輩はハスミンにしてるんだろうか?

 思春期の豊かなイマジネーションに、独りよがりの危機感を勝手に喚起されたのか、羞恥心で錆びていた膝をそろそろと折っていく。

 アップになった美也の割れ目は、キスを待ちわびるかのように綻び、うっすらとではあるが妖しく濡れ光っていた。

 そして上だけでなく、下もしっかり勃起してる。

 小指の先ほどに肥大したクリトリスが、包皮からツルリ淫らに露出しており、さらに大陰唇から垣間見える粘膜からは、発情した牝の匂いが漂って

いた。

 しかし美也はそこまで可憐な秘裂をズームさせておきながら、往生際悪くゆらゆらホバーリングしてなかなか着地をしない。

 蓮実は教え子が恥じらいを失ってないことに満足しつつ、ここはひとつ性の専属教師として、自分が一押ししてやるべきだろうと決意する。

 大人らしいくびれはまだないものの、ソレはソレでそそる腰をぐっと掴むと力ずくで引き寄せた。

 ぺたんっと粘膜と粘膜が接触する。

「ひゃぅッ!?」

 感電でもしたみたいにヒップが跳ねるが、心を鬼にしてねじ伏せて逃がさない。

 笑みの形にした唇を、喉元に食いつくように吸い付かせた。

 尖らせた舌先で決壊寸前のピンクの膣内粘膜を抉る。

 トロトロした愛液が口の中に流れ込んできて、いっぱいに教え子のいやらしい味が溢れた。

 ぢゅッ・ちゅずッ・ちゅるるるる……。

 何かといえばグローバルスタンダードが声高に騒がれている昨今、外国人は啜るという行為に不快になるのかもしれないが、蓮実は国籍だ人種だど

うこう関係なく、誰に責められようが、牡としてやめるつもりはなかった。

「お、音、だ、あンッ、音出しちゃ、だ、んふッ、だ、ダメ、やンッ、ダメッ、ダメッ、あはッ、ダメだってばぁッ!!」

 粘膜のくぼみにたっぷり溜まっていたラブ・ジュース。

 つまらないマナーやエチケットなどに縛られて、この極上の甘露の味を僅かであっても損ないたくなかった。

 柔らかな媚肉に包まれて踊る舌に親しげに、透明な分泌液の中でそよぐラヴィアが絡み付いてくる。

 どこもかしこも可愛いペットだった。

 とはいえ可愛い可愛いばっかりで、ただただひたすら甘やかすだけ甘やかし、躾をしないのは主人としてやはり失格であろう。

「美也も俺のを」

 芸がちゃんとできたら褒めてやるのは当然として、そうでなければ優しくも厳しく接することが必要だ。

 眼前でひくひくと物欲しげに震える秘裂を凝視しながら、たっぷりの果汁で濡れた唇を舐めて再度の指導をする。

 教育の現場でもしばしば、体罰は一切禁止ということになっているが、それで今の子供たちが言うことを聞くことは残念ながらない。

 一時的な感情の発露ではなく、心底、子供たちのことを案じて加える体罰は愛の鞭だ。

 ふぅーッ。

「……ああッ……あッ……ン……あふぁッ……」

 吐息をピンポイントで敏感すぎる部位に吹きかけつつ、蓮実は辛抱強く美也の自主性が発揮されるのを待った。

 剥きだしのクリトリスには、そよ風であっても拷問と変わらない。

 初々しい官能をじりじり炙りはしても、けっして燃やし尽くしてくれない炎。

 簡単に快楽の階段を駆け上がってしまう身体を計算して、ブレスが強くなり過ぎないよう弱過ぎないよう、コントロールしながら教え子を待った。

 尊敬する恩師のように、全身全霊で打ち込めば愛は伝わる。

 この瞬間こそ教育者の醍醐味だ。

 膨らんでいる股間にのろのろと恐る恐るで指先を伸ばし、危険物でも扱うようにゆっくり慎重に美也はジッパーを降ろす。

 スラックスのチャックを開けると些か苦労して、熱く脈打つ牡器官を引きずり出すのに成功した。

 窮屈なボクサーブリーフから解放されて、その反動で勢いよく美也の鼻先を掠めていく。

 可愛いものしか映してはいけない少女の目に、鍛えられた腹筋をコミカルにびたんっと打って、逞しくもグロテスクな裏側を見せつけていた。

 美也が嘆息を漏らす。

「すごい……」

 見たのはこれが初めてではないはずなのに、思わずといった感じで畏怖の言葉まで零していた。

 こういうリアクションは、何度経験してもくすぐったい。

「こんなのがみゃーのに、は、入っちゃったんだね」

 たぶん下の口でもう咥えていたからだろう。

 いろいろネットなりで知識を集め、シミュレーションもしてたのかもしれない。

 指先に触れた禍々しく獰猛な熱さに、びっくりしたようだったが、引っ込められた手はすぐにリトライされる。

 血管を浮かせた野太いペニスの幹を掴んで起こすと、苦手なものを口にする子供みたいに、ごくりと喉を鳴らすと勢いで美也はむしゃぶりついた。

「ぐもぉぉッ!?」

 優柔不断な兄とはひと味違う。

 思い切りがいいのが美也のいいところだが、温かな口中にいきなり亀頭を含まれたことで、蓮実はつい本能のまま腰を突き出してしまった。

 不意打ちはお互い様だが、喉の奥を圧迫された教え子が苦しげに呻く。

「あっと。ごめんごめん」

 蓮実は大して反省した素振りもなく、どころか笑って腰を引いた。

 美也の小さな口には半分も収まりそうもない勃起が、昭和の古風な手品のようにずるり吐き出される。

 甘いものしか受け付けないような唇から、グロテスクな器官が現れる様は背徳的だった。

 ひどく淫ら。

 この辺りだろうというぎりぎりのラインで腰を止めて、初心者がどうにか自由に動けるだけの余裕を確保してやる。

「ん……むぅ……ゥ……んンッ」

 ただ美也はとりあえず咥えてはみたもののしばらくの間、さてここからどうすればいいのだろうと思案している顔をしていた。

 事前に予習してただろう所謂シックスナインの映像を思い出し、見様見真似でまずは亀頭をきつく締め付けながら頭を振ってみる。

 気持ちいいことは気持ちいいが、単調な刺激だった。

 担任する教え子にさせているというだけで少なくない興奮はあるものの、それだけでどうにかなるほど蓮実の生徒指導の経験は少なくない。

 けれど一生懸命に奉仕する美也のいじらしさと、ビギナーゆえの拙さは新鮮でこれはこれで悪くなかった。

「ンうぅぅッ!?」

 ご褒美に蓮実も美也を愉しませてやる。

 身長差があるので上体を浮かせた苦しい体勢を取らねばならないが、鍛えている蓮実にはこの程度なら何ほどのこともない。

 可愛らしく踊っている小さなヒップを抱え込んで、濡れたピンクの菱形を尖らせた舌先で抉った。

 教え子の秘裂はもっと太いモノをもうすでに受け入れたことがあるせいか、舌をあっさり呑み込んで柔らかな粘膜を卑猥に纏いつかせる。

 溢れてくる甘ったるい愛液を、わざと大きく下品な音を立てて啜った。

 ぢゅッ……ちゅぢゅッ……ぢゅずずッ……。

「むふぅッ!! ン、ううッ、ぅ、んむぅッ、んゥ、んンッ!?」

 羞恥で顔を真っ赤にしながらも煽られるように、静脈の浮いたシャフトに沿って頭を忙しく上下にスライドさせる。

 派手な音をさせる担任に負けじと口元から溢れた唾液を啜り、卑猥な行為に没頭することで少しでも羞恥を忘れようとしているみたいだった。

 どんどん昂ぶり身悶えを激しいものにさせていく。

「ぶぁッ、あッ、ああンッ、も、もうダメ、は、ハスミン、も、やめ、うぁああッ、やめ、て、みゃー、みゃー、おかしくなっちゃうッ!!」

 愛おしそうに舐めしゃぶっていたペニスから口を離し、許して欲しいと心にもない懇願をしてくるが無論許すはずがない。

 美也は破裂しそうにぷっくり勃起しているクリトリスに吸い付かれて、悦楽の雷に打ち据えられ歓喜の悲鳴を迸らせて絶頂に達した。

「――――ッ!!」

 一瞬の静寂。

 身体をガクガクさせながら弓なりに反らし、抗えないエクスタシーに襲われる少女。

 担任教師の凶悪な勃起を握ったまま、けっして可憐さを失わない秘裂から、大量の愛液をしぶかせて崩れ落ちた。

 さすがに年頃の女の子らしく、幾分丸みを帯びてはいるものの、まだまだ青い固さのあるヒップは、余韻を愉しむかのようにぶるぶる震えている。

 蓮実は未練がましく締め付ける粘膜から、ぬちゃりと舌を引き抜くと手の甲で口元を拭った。

「こらこら。二人でって言ったろ」

 快楽に屈して突っ伏している教え子の小さな身体を、笑顔でひょいっと持ち上げてどかすと背後に陣取る。

 ケモノのような四つん這い

 朱に染まった青いヒップを高々掲げさせた。

 リンゴを割るような手つきで愛液に濡れた大陰唇に親指を引っかけ、トロトロになっている食べ頃に熟した果肉を露わにする。

 赤ワインにミルクを混ぜたようなまろやかな色が、愉しそうに微笑む担任教師の視線と外気に曝された。

 膣内に蓄えられていたひと際ねっとりとした愛液が、粘度を増し太い糸になってヨダレみたいに垂れてくる。

 きつくて狭い小さなホールは、物欲しそうにひくついていた。

「……ここからがレッスンの本番だよ」

 蓮実は教え子の唾液でぬらつく勃起を右手で押し下げ、猛りを現すみたいに反った角度を調節すると可憐な膣口に宛がう。

 脱力しぐったりしていた美也だが、本能なのか身体をぴくんっと跳ねさせた。

 犯されることへの根源的な期待と不安で緊張が走る。

 そんな少女の葛藤を嘲笑うように、蓮実は一気に滾る勃起を侵入させた。

「あふぁッ!?」

 うたた寝をしていた猫が、伸びをするみたいに美也は背を反らす。

 しかしこの時点で少女の膣内に収まっていたのは、赤黒くなった勃起全体のまだ八割に過ぎず、蓮実は腰に力を入れて残りをぐいっと押し込んだ。

「んあッ!!」

 悲鳴と同時に円らな左右の瞳を大きく見開くと、次の瞬間、美也は仰け反らせていた頭をガクリと伏せた。

 自分を襲った快楽を噛み締めるみたいに、枕に顔を押し付けてぶるぶる震えている。

 挿れただけでイッたのかもしれない。

 剛根を根元まで穿ちこみ、股間をぴったり密着させる。

 心地よいぬくもりのキツキツな媚肉に包まれて、先端の縦割れの唇からは嬉し涙のように、先走りのカウパー氏腺液が漏れていた。

 美也の初々しさを失わない蕩けるような蜜穴はときにぐいぐいと強く、ときにやんわりと纏わりつくように吸い付いてくる。

 ついこの間まで誰の侵入も許したことのない膣内粘膜だったが、今はもう担任教師のペニスの形になっていた。

 枕に押し付けられて表情は見えないものの、顔が苦悶で歪んでいるということはないだろう。

 遠慮する気は微塵もないが、そもそも遠慮する必要もない。

「あッ、くぁッ、ン、あッ、あッ、あッ、はぁ、ゥ、ああああッ!!」

 蓮実は美也の両腕を背後から、手綱のように掴むとお構いなしに抽送を始めた。

 繊細な少女の身体を壊しそうなほどのピストン。

 技術もなにもないただただ純粋なパワーで、内臓ごと押し上げるような強烈な圧迫感で、すっかり快楽の味を覚えたペットを滅茶苦茶にしてやる。

「静かにしてないと隣りにいる兄貴に、美也のエッチな声が聞こえちゃうぞ」

 言葉責めをしながら意外に奥行きのある教え子の青いが旬な粘膜を、突き刺すように抉りひたすら欲望にゆだねて思うがまま蹂躙した。

 快楽の粒が蓮実の中でも弾ける。

「だ、だって、ひッ、だって、うぁッ、こんな、こんなの、静かに、ハッ、静かになんて、あンッ、で、できないよぉおおッ!!」

 担任教師との結合部から淫らな水音をさせつつ、首を振りながら喘ぎ泣いている美也の痴態に、心ならずも限界はさらに早められそうだった。

 もっとじっくり愉しむつもりだったが、凶暴性に火がついてしまって消せそうもない。

 お漏らししたみたいに大量の蜜液が分泌されてぬめる媚肉を、拷問器具のように鋭角に張り出した雁首で削るように擦る。

 断末魔のような痙攣が走り、ついに蹂躙に狂っていた勃起は爆ぜた。

「あヒィイイイイッ!?」

 快楽を貪るように媚肉を悦びで収縮させながら、理性を跡形もなく霧散させた少女の叫びとともに……。

 幼い教え子の子宮に二度、三度と精を吐き出し撃ち込む。

 最奥で存分にペニスを脈打たせていた。

 勢いよく逆流してきたスペルマが、ねっとりと師弟二人の結合部を濡らす。

 拘束していた美也の手を離すと、すっかり乱れたシーツに、糸が切れたみたいにぽとりと落ちた。

 死んだように動かない。

 ヒップを掲げたままの状態で美也は停止していた。

 再起動を待つ。

 硬い勃起を柔らかな粘膜に突き挿したまま、草陰に潜む捕食者のように蓮実もフリーズした。

 長いのか短いのかよくわからない。

 しかし待った甲斐はあって、教え子はやわやわと蠢きはじめる。

 眠ったみたいに弛緩したはずの粘膜だったが、貪るようにまた勃起に絡み付いてきた。

 背中に覆い被さり耳元で囁く。

「もっとして欲しい?」

 ……残酷なほどに優しく腰をねっとり回転させながら。

 枕に伏せた顔を振り向かせずともわかる。

 わかっていた。

 肌を興奮と羞恥で朱に染めた少女が、沈黙したままこくんっと雄弁に頷くのは。

 後始末をして美也の部屋を辞したのは、完全に日が暮れてからだった。

「それじゃ、また明日学校で」

 焦点の合ってない夢うつつな目で見送る美也に、先輩少女にしたのと同じ種類のシャンプーをしてやってドアを閉める。

 苦笑。

 教師という職業は改めて自分の天職だなと実感する。

 こんなに美也に時間を割くつもりはなかったが、ついつい求めに応じてレッスンに熱が入ってしまった。

 美也には悪いが美也よりも、取り急ぎ指導が必要な生徒は他にいる。

 登録したばかりの番号に電話をかけた。

 まるで蓮実からかかってくるのがわかっていたみたいに、ワンコールもしないうちに繋がる。

「開けてくれ」

 電話とは違ってレスポンスに、開けられるまでにしばらく時間がかかった。

 蓮実はしかし疑ってない。

 社会科も得意というほどではないものの、これといって苦手にしていなかった記憶がある。

 きっと自分を受け入れてくれると、等価交換を理解してくれてると、心の底からの確信を持って信じていた。

 カチャッ。

 閉ざされていた美也の隣りの部屋が、はっきりとした開錠の音をさせて僅かに開く。

 そこからはラフレシアのような腐臭がした。

「貸したDVDはどうだった? ここにVol.1があるんだけど、良かったらコッチも観てみるかい?」






[41992] アクガミ 二十六話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/04/02 14:03




 小さな公園だった。

 あるのは錆びたブランコと砂場と古びたベンチのみ。

 管理が行き届いてないのか周囲は野放図に、隔絶するような植え込みで高く覆われている。

 住宅街のデッド・スペース。

「ハスミン」

 ファーのあるフードをすっぽり被って、手にはビニール袋を持っていた。

 裾が脛まであるロングコートを着た薫が、蓮実を見つけて弾んだ声で入ってくる。

 どうやらバイトが終わってから、急いでここまで来たらしい。

 今時の子はレスポンスの速さが大事。

 美也に構ったその日のフォローはやはり正解みたいだ。

 白い吐息。

 飼い主を見つけた犬のように飛び込んできた薫を、両手を広げて受け止めてやると熱い抱擁を交わす。

 長いキスをした。

 それだけで薫の身体から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。

 全幅の信頼で委ねてくる教え子を支えながら、植え込みの蔭にある赤い光点に視線を走らせた。

 姦しい女友だちの見せるオンナの貌を観てしまったことで、少なくない戸惑いを感じているかもしれない。

 しかしカメラのピントに、ブレはなさそうだった。

 すでにこの段階で蓮実や紗江よりも、裏方仕事に向いているのがよくわかる。

 これなら手ブレを恐れる必要はない。

 どれだけ気を配っていてもアングルが固定の場合、ペットの様子が録画されてるかどうかに、運次第という不確定要素がどうしても残ってしまう。

 それに素人臭さのある映像というのはソレはソレで、真に迫るものがあって悪くはないが、何作か撮ってみてもあまり進歩がなかった。

 自分の撮った映像だけを観ていたときは、それほど気にならないどころか、いい出来だと思っていたのだが、他人のものと比べて観るとわかる。

 紗江の映像は紗江の映像で粗いのだが、何作か撮っている蓮実の映像もそう大差ない。

 カメラの存在を忘れてしまう自分にはこの分野に措いて、今カメラを回している教え子ほど才能というものがないのだろう。

 流れを呼び込んだ要因の生徒会選挙でのPRビデオは、誰にでも取り得があるもんだと思わせる素晴らしい出来だ。

 ならば餅は餅屋で任せた方がいい。

 蓮実は余計なことは考えず、目の前の教え子に集中することにした。

「着てきてくれたか?」

「だってハスミンがそうしろって。けっこう寒いんだからね」

「温めてやるよ」

「何か言い方がいやらしい」

「見せて」

「あ~も~う。これだからおじさんはイヤなの」

 設備の定期点検をしているのか怪しい、薄ぼんやりとした淡く儚げな切れかけの水銀灯。

 心許ない光は返って、倒錯した淫靡さを演出していた。

 ヘッドドレスもちゃんと付けてる。

 頬を染めながらコートを左右に開いた薫の格好は、ついさっきまでバイト先でしてただろうウエイトレス姿のままだった。

 ニーソックスを穿いているが、防寒よりも可愛さのためが強い。

 デザインとしては特に奇抜なところもなく抑え目だが、スカートの丈はけっこう短くて大胆なものである。

 露骨でないだけに気をつけないと、意図してない瞬間にサービスショットを振り撒きかねない。

 テーブルを拭くときヒップを突き出したりだったり、客の落としたスプーンを拾おうとしたりだったり、ウエイトレスは何かと注意が必要だろう。

 しかしそれはそれとしても。

「夜の人気のない公園にウエイトレスって、改めて考えてみればシュールだな」

「そういうこと自分でリクエストしといて言う? 何度も言うけどメチャクチャ寒いし、メチャクチャ恥ずかしいんだからね」

「そんなに恥ずかしいのに、その恰好で来てくれたんだから嬉しいよ」

「……だからハスミンが、着て来いって言うからでしょ」

 お願いというカタチで命令すれば、何でも言うことを利いてくれそうだ。

 薫は早くも瞳をうるうる潤ませており、まだ女に成りたての青い媚を盛んに売っている。

 恋愛なんて興味ない。

 わたしにとっては友情がこの世界でイチバン大事だし。

 そう言っていた同じ口で甘えた声を出す。

 友達としてなら性別の分け隔てなくサバサバしているのに、自分の男となったら途端にコロッと変わるタイプがいるがそれらしい。

 デレデレだ。

「でもちょっと悔しくなってきたかも」

「え?」

「普段この可愛い恰好をして薫が、俺じゃない男にサービスしてるなんてさ」

「し、仕事だもん」

「わかってるよ。だけど悔しいもんは悔しいんだ。っておじさんが子供みたいな嫉妬してるなぁ」

「ならハスミンだけにはお客さんには絶対しないような、仕事じゃないスペシャルなサービスしてあげよっか?」

「スペシャルなサービス? お客にはしないような?」

「な~に想像してるの、おじさん? ホントもうファンの子が知ったらがっかりだよね。ハスミンの正体がこんなエロい淫行教師だってわかったら」

「待て待て。おまえこそいったいどんな想像してるんだよ? それとおじさんおじさん連呼するな。自分で言うのはいいけど地味に傷つく」

「おっと。ごめんごめん。おわびにサービスするから。……スペシャルなの」

「スペシャルなの?」

「恥ずかしいから連呼すんな」

 中学からの付き合いになるカメラマンも、見たことのない新鮮な一面であろう。

 それにしても蓮実は監督も兼任する教え子に感心していた。

 ウエイトレスのコスで。

 タッグを組んで臨む最初の作品になるので、なるだけ教え子の意向に沿うつもりだったが、なかなかグッとくる画になってアリかもしれない。

 彼氏の頼みだからもの凄く恥ずかしいんだけど、本当はこんなことやりたくないんだけど仕方なくやっている。

 けれど断り切れないふりをしながら満更でもない。

 という設定。

 説明不要のワンカットでわかる。

 公園でのウエイトレス姿はそれだけで、そんな女優の心境を端的にとてもよく表現できていた。

 さすが日々悶々としている童貞の妄想力。

 蓮実にはない発想だった。

 脱がせば一緒。

 とそこまで野暮なことは言わないが、女子高生なら制服だろうという、ひねりのない安直さがあったのは否定できない。

 目からウロコで猛省しきりだ。

 制服というアイテムがあろうとなかろうと、女子高生が女子高生であるという価値は失わないし隠せない。

 単なる記号ではない。

 その辺りが二十歳を過ぎたニセモノの、なんちゃって女子校生との違いだ。

 もっとも制服のエロティシズムは、女子高生でも女子校生でもホンモノではある。

 もちろん夜の公園にいるウエイトレスも……。

「で?」

「え?」

「俺の可愛いウエイトレスさんは、どんなサービスしてくれるんだ?」

「ならご主人様。こんなサービスとか……ど、どう、かなぁ?」

 ベンチに腰を下ろした蓮実を見つめる、ウエイトレスの瞳は妖しく濡れていた。

 ビニール袋からミネラルウォーターを取り出して、キャップを開けると中身を口に含む。

 そのまま隣りに座った。

 薫のバイト先はファミレスだったはずだが、普段からこういう接客をしているなら、蓮実も立ち入りの調査をしなくてはならないだろう。

 当然のように客と相席するのは、水商売のサービスくらいのものだ。

 蓮実も男性なので、嫌いではないサービスだが……。

 御触り厳禁なクラブのグレーゾーンよりも大胆に、昭和の場末なピンサロよりは卑猥にならないよう肩を抱く。

 逆の手は太腿に乗せられていた。

 セクハラかセクハラじゃないかの境界線は、相手が嫌がっているかどうかで、薫はというと嫌がるどころかむしろ喜んでいる。

 甘える子猫みたいに逞しい胸板にすりすりしてから、濡れた口唇を「はい」と突き出してきた。

 この店はグラスにもこだわってるらしい。

 何を入れてもこれならきっと、最高にフルーティーになって、極上のカクテルになるに決まっている。

 触れた瞬間だ。

「むうぅッ……ンンンッ!?」

 有無を言わせぬいきなりのディープキス。

 獲物の血を貪るケモノのように、深く深く唇を重ねた。

 捕まえたウエイトレスの舌をしごくみたいにして、唾液と混ざったことで甘露となったミネラルウォーターを啜る。

 じゅッ・じゅるるッ・じゅじゅッ・じゅちゅッ……。

 無作法。

 若者を導かなければならない一人の教育者として、下品な音を立てているのは承知しているが、それでも止めることはできそうにもない。

 しかしこの味がフリードリンクで飲めるのなら、まだ枯れていない男であれば誰しも意地汚くなるだろう。

 だがそうやってガブ飲みをしたことで返って、顎を伝ってポタポタと水滴が流れ落ちていた。

「ン……ふ……んンッ……、う、う、ううッ!!」

 二枚の舌は交尾する軟体動物のように、ぬるぬるぬめり絡み合って淫らに蕩け合う。

 抱き寄せた教え子の身体が、慄くみたいに震えるまで続いた。

 時間にしておそらく二分か三分。

 ようやく唇が離れる。

 けれどもうその頃には股間の辺りにすっかり、ぱっと見では勘違いされそうなシミができていた。

 自分はどうやら思いのほか、様式美というのが好きらしい。

 教え子と自分を結んでいる銀色の糸が、ふつりと切れるのを視界に映しながら、蓮実は心中で密かに苦笑を漏らしていた。

 この状況はあくまで狙ったものでなく、偶然の産物だったのだが、こうなったらどうせなので、先人の築いてきたパターンを実行することにする。

「ウエイトレスさん」

 荒い息を整えている薫に穏やかな声で呼びかけると、蓮実はちょんちょんっと濡れている股間を指し示した。

 足を広げる。

「この始末どうしてくれるの?」

 クレーマーみたいなことを言い出した。

 理不尽。

 それでもお客様は神様で、ご主人様はご主人様である。

「も、申し訳ありません。……すぐお拭きします」

 薫もこのシチュエーションプレイを察っし、ノリよく付き合ってくれるみたいだった。

 ポケットからハンカチを取り出すと、乙女の恥じらいで刹那躊躇ったものの、こんもり膨らんでいる股間にそっと触れてくる。

 布地の上からでもクッキリ輪郭を浮かばせている牡器官を、キレイに爪を切り揃えた指先が柔らかく掴んでいた。

 やわやわ優しく揉み擦る。

 硬さと熱さを確認してくる可愛いウエイトレスの執拗なタッチ。

 健気な奉仕に蓮実は、堪らない興奮を覚えていた。

 学校では男子を足蹴にしたりしており、どちらかというとS的なキャラで通っているが、本質の部分で薫が支配を望むMなのは疑いない。

 寒空の下で身体をぶるりと震わせたものの、それが気温のせいだけには蓮実には見えなかった。

 さっき落ち着かせたはずの息遣いが、また荒いものになってきている。

 二人の興奮が、共感していた。

 もっともっとさらなる波動を共有したい。

「……ウエイトレスさん」

「は、はいっ!?」

「パンツまで染みてるみたいなんだ、できれば直接キレイにしてくれないか?」

「ちょ、直接ですか?」

「誠意ってもんが本当にあるなら、できないわけはないよな」

 横柄な態度。

 モデルになったのは前任校での教え子の父親、忙殺が謀殺になったモンスターペアレントの困った男だ。

 あそこまで品のないことはしないが、とりあえず参考にさせてもらうとしよう。

 蓮実は授業ではしないような、いつになく静かな調子で言った。

 唇を火照った耳たぶの縁に、軽く触れながら囁く。

「期待してるぞ。薫のスペシャルなサービス」

 肩を抱いていた手は二の腕を撫でながら、するりと滑り降りて腋の下から乳房を掴んだ。

 揉みしだかれ捏ねまわされて、棚町と表記されたネームプレートが踊る。

 大人に反発することがアイディンティを確立する年頃らしく、指先を押し返してくる瑞々しい感触が心地よい。

 ドッドッドッドッ……。

 教え子の胸は激しい鼓動で生きていることを伝えてくる。

 その必要はないがそれでも蓮実は、心臓マッサージでもするみたいに、幾分固さを残しているふくらみを、揉み解すように指先を動かし続けた。

 太腿を撫でまわしていた手も、膝からスカートの際どい部分までを、何度も何度もスローペースで往復する。

 どちらともなく薫はうるうる瞳を潤ませながら、期待に満ち満ちた視線でじーっと見つめて、英語教諭の左右の手の行方を追いかけていた。

 羞恥によって内腿になっていた足が、また徐々に荒くなってきた息遣いと、上下に揺れる肩に連動するように開いていく。

 するりと滑り込んだ。

「あンッ」

 自分が乙女であることを思い出し、薫が慌てて股を閉じたときには、もうすでに蓮実の指は大事な部分に触れている。

 篭った熱気の中にある、確かな湿りっ気を感じた。

 蓮実の股間よりも余程はっきり、粗相と勘違いされそうな、大きなシミがショーツにできている。

 滲みでた愛液が、指先を濡らしていた。

 布地に透けてそうな秘唇のフォルムを縁取るみたいにして、少しずつ少しずつ面積を拡げていきながらクルクルと円を描く。

「……ヤッ……ダメッ……」

 薫は蓮実の焦らすようなというより、嬲るかのような酷薄なタッチに、言葉とは裏腹の甘ったるい声を漏らした。

 微笑しながら蓮実の中指がショーツの脇から、瞳に負けないほど潤む粘膜に侵入する。

 まるで抵抗はされなかった。

 どころかウエイトレス姿の教え子の粘膜に歓迎すらされている。

 にゅるッ。

 溢れるシロップは過剰なほどだったものの、牡であれば胸焼けするようなことはけっしてない。

 肉のフォークでぶすりと突き刺して、この旬なスイーツをいただきたくなる。

 疼いて仕方がない。

 だがもっとこのふっくらしたスイーツを美味しく食べるには、もう少しぐちゃぐちゃにした方がいいだろう。

 蓮実は指を二本に増やして根元近くまで挿入すると、底の知れないぬかるみを探るように、粘膜のぬめりを愉しむように掻きまわし始めた。

「あンッ!?」

 快楽のパルスに若い肢体が撥ねる。

 鉤形に曲げた指先で膣腔の天井を軽く引っ掻いたときが、特に反応がいいようなので、小刻みにねちっこく重点的にそこを責めた。

 そうしながら恥丘の上半分を隠すように置かれた手のひらで、その下にあるクリトリスを優しく転がし圧迫してやる。

「あッ、あッ、それ、ダメ、あッ、それ、んあッ、あッ、あッ、ん、ふッ、ンンッ、だ、ああッ……」

 撫でて撫でてとリクエストしてくる猫を連想させた。

 こんもりとした恥丘が主人の手を追いかけ、愛液でぐっしょり粘つくショーツ越しに、手のひらに過剰に敏感な突起を擦りつけてくる。

 弄られるスカートの奥からは、ガムを噛むみたいなクチャクチャとした音が漏れ聴こえ、いっそう薫を興奮させて身体を淫らなモノにしていた。

 締め付けられる二本の指の強弱から、そろそろなのを悟った蓮実は、火照った耳に定番の台詞を言うように囁く。

「ダメ、ホントに、も、もう、だ、あッ、んぅッ、んンッ、ぅううッ、はぁッ、あッ、イクッ、もう、い、イッちゃうからッ!!」

 広くはない公園の敷地内に嬌声を響かせて、薫はぶるぶると震わせながら、蓮実のシャツを掴んで身体を硬直させていた。

 スリットに深々と突き入れられた指が、きゅうッと食い千切られそうに締め付けられる。

 数瞬だった時間が止まり、薫が詰めていた息を吐き出すと同時に、ヘッドドレスを付けた頭がガクリと垂れた。

「……サービスする側が、サービスされてどうするんだよ」

 揶揄する言葉を聞きながらご主人様よりも先に、フライングで絶頂を味わった肢体から力が抜ける。

 にゅぽッ

 きつい締め付けから解放された指を、蓮実も膣から笑顔と一緒に抜き取った。

 可愛いウエイトレスの愛液で、ねとねとになった指をぺろりと舐める。

 もちろん甘かった。

 それをぼんやりと焦点の合ってない瞳で眺めていた薫の表情は、もうすっかりだらしのない女そのものの牝の貌になっている。

「そろそろ俺にもサービスしてくれないか。……スペシャルなサービスってやつをさ」

 蓮実は薫の髪を掴んでぐいっと股間に引き寄せる。

 こんもり盛り上がっているそこは、発火でもしたみたいに熱く、鍛えられた鉄のように硬くなっていた。

「薫」

「うん……」

 小さく呟くとウエイトレスは、股間に密着した状態のままもそもそして、手を使わずチャックのジッパーを口で咥えて引き降ろす。

 篭った熱気と牡の体臭ががもわっと、ダイレクトに浴びせられたが、嫌がるどころか薫はどこかうっとりしていた。

 ボクサーブリーフを突き破らんばかりに、牡の欲望をチャージした勃起を、苦労して取り出すことに成功する。

「わたしだけじゃないね」

「うん?」

「ハスミンのも……、濡れてるね」

 太くて長くて逞しい醜悪な牡器官は、大量のカウパー腺を鈴口から垂らし、水銀灯の下で妖しく卑猥にぬめ光っていた。

 教え子の少女の艶っぽい吐息を至近から感じて、歓喜にひくんひくんとグロテスクに脈動する。

 つやつやした唇はそんなモノに、今にも触れてしまいそうだった。

 牡であれば誰しもこの興奮を、抑えることなどできない。

 首筋の産毛が逆立つ感覚を愉しみつつ、蓮実はぎらつく眼差しを薫の口元に向けていた。

 そういえばほんの数時間前、この勃起は不遜な態度の後輩がしゃぶっている。

 チュッ。

 自分の身体の部位を介しての、ライバル視し合う少女たちの間接キス。

 蓮実の胸は躍った。

 ピンク色の舌が勃起に押し付けられる。

 とっくに後輩の塗りたくった唾液は乾いているが、新たにマーキングしようとするみたいに薫は、分泌させた自分の唾液を丁寧に塗りたくった。

 技術らしい技術はなく稚拙なのだが、夢中になって一生懸命に舌を這わせている。

 しばらくすると慣れてきたのか、動きは段々と滑らかになってきていた。

 愛は偉大でフェラチという行為をすることに、おそらく蓮実限定なのだろうが抵抗はないらしい。

 忌避するどころか薫は蓮実の反応を窺いながら、根元から先端に向けて何度も舌を滑らせ、とりわけ敏感な亀頭の裏もしっかり責めてくる。

「咥えてくれ」

 お願いという名の命令にも、躊躇うことなく従って、唇をはしたないO字型に開くと、パンパンに膨れた牡器官を口に含んだ。

 こうやって教え子の口内に勃起が呑み込まれていく様は、いつ見ても背筋を粟立てるほど淫猥なものがある。

「ううッ……んッ……うぶッ……」

 肉の幹を半分ほどを口の中に埋めたところで、薫の喉からはくぐもった呻き声が漏れるが、苦しそうに眉を寄せてもけっして止めようとはしない。

 健気だ。

 我が身を省みずご主人様に奉仕しようとしている。

「おごぉッ!?」

 ペットの忠誠心に深い共感を覚えた蓮実は、腰を突きだし薫の口腔に猛る穂先をねじ込んだ。

 むせそうになっているのを、必死に堪えている表情が色っぽい。

 それとは逆に鼻をすぴすぴさせて、陰毛をそよがせ息を整える姿は妙に可愛い。

「んッ、う、んンッ……」

 恨みがましい目で蓮実を見てくるが、唇を滑らせ勃起のすべてをどうにか収めた。

 呼吸が落ち着いたところで、ウェーブした髪を優しく撫でる。

 あっさり機嫌が直ったらしい。

 心地良さそうに目を細めながら、薫は呑み込んだのと同じスピードで、血管の這った勃起からゆっくり唇を後退させた。

 ちゅぶッ……ちゅ……ちゅ、ちゅるるんッ……ちゅくッ……じゅるるッ……。

 しかし半分もいかない辺りでまた折り返し、やはり同じくらいのスピードで戻ってくる。

 何度か往復させるとぎこちなくはあるものの、いくらかコツを掴んだのか一定のリズムが生じてきていた。

 卑猥な粘着音を速いテンポで奏でつつ、ときおり唾液を啜るのをアクセントにして、太い勃起を柔らかな唇でひたむきにしごきたてている。

 若さに任せた我武者羅な勢いだけで、技術はなく単調ではあったが、まるで口を犯しているような、恥骨が震える嗜虐感がそれをカバーしていた。

 できればこうしていつまでも、淫らなウエイトレスを犯していたい。

 だが残念なことに、終わりは唐突に訪れた。

「出すぞ」

 短くそう告げると蓮実は、揺れる薫の頭を押さえつける。

 間髪入れず濃厚な白く濁ったホイップクリームが、喉の奥で乱暴にトッピングされてぶちまけられた。

 温かな口内にあっという間に広がる。

「――ぅぐぷッ!? う、ううッ、くむぅふッ!!」

 射精されたのに気づいた薫は眼を白黒させるが、えずきながらも撥ねる勃起を頬張り、あまつさえ唇を収縮させてさえしていた。

 たぶん始めそうするつもりで、すでに覚悟を完了させてたのだろう。

 最後の一滴まで吐き出すと、ようやく蓮実は頭の拘束を解き、ずるりと醜悪な肉塊を可憐な唇から引き抜いた。

 たっぷりのクリームを零してしまわぬよう、薫は口元を両手で覆いながら、眉間にしわを寄せて、

 こくんっ。

 喉を鳴らして嚥下する。

 度を越して濃厚なスペルマはしつこく絡みつき、飲み下すのもひと苦労みたいだった。

 粗相をしないよう涙目になりながら、ウエイトレスの恰好をした可愛いペットは、口をしきりにもごもごさせている。

 どうにかすべてを処理し終えて、薫が青臭いため息を吐いたときは、もうすっかり蓮実の勃起は硬さを取り戻し、萎える気配もなく起立していた。

 むしろ暴力的な威容はそのままに、卑猥でしかないぬめりを帯びた牡器官は、むしろ邪さと禍々しさを浅ましいほど露骨に増している。

「……後ろを向いて、そこに立ってごらん」

 欲情の炎を瞳に妖しく灯して、もちろん薫は素直に言うとおりにした。

 ちょっと前屈みというお願いにも。

 スカートの裾がするりと肌を滑って少しずり上がる。

 なるほどと思った。

 絶対領域。

 今時の子もなかなか上手いことを言う。

 露出の範囲はかなり大きくなったはずなのだが、見えてもいい下着はチラリとも覗いていない。

 穿いてないというのもあるらしいが、穿いているのはついさっき確認している。

 これならバイト中のハプニングは、期待してる男性客には申し訳ないが、どうやら心配する必要はなさそうだ。

 とはいえ浮いた下着のラインと、ヒップの曲線を眺めているだけでも、外でなく内により興味のある男なら充分以上愉しめる。

 じっくり鑑賞だけで。

 無論、

「もっとお尻を突き出して」

 ウエイトレスからそれ以上を許されている蓮実が、それ以下で充分な満足をするわけもない。

 どうぞ……。

 薫は声にしては何も言わなかったが、蓮実はたしかにそんな言葉を受け取っていた。

 モデルみたいに形のいい小さな、くりんっとしたヒップが差し出される。

 蓮実は当然のように手を伸ばすと、当然のようにウエイトレスの、教え子の少女の尻に手を添えていた。

 自分の所有物であるのを、確認するみたいにゆっくり撫でる。

「んッ」

 手が右に左に痴漢でもしてるみたいに動くのに合わせ、上ずった声を漏らしながら薫の身体も、右に左にゆらりゆらりと揺れていた。

 Good!!

 蓮実は口笛を吹きそうになるのを堪えながら、スカートの中へ手を侵入させると、しっとり汗を浮かべた太腿をまさぐる。

 ショーツの両サイドのウエストに指先を引っ掛け、糊付けしたみたいに張り付いているのを、笑みを深くして焦らすように時間を掛けて降ろした。

 水分を含んで重くなっている。

 ぬとつき足首に落とされ絡まっている様は、逃げられないようにするための枷みたいだった。

 スカートを捲くる。

 水銀灯の儚く淡い光りの下で、白い肌の火照ったがよく映えた。

 なかなかそそる扇情的な光景である。

「あ……」

 蓮実は薫のヒップを引き寄せた。

 脚の間に膝を入れると、大股で跨ぐような姿勢を取らせる。

「そのままぺたんって、腰を下ろしてごらん」

 などと自分でそう言っておきながら蓮実は腰を掴むと、滾る勃起で串刺しにしてやろうと腕に力を篭めた。

 ぷるぷると乙女の本能で抵抗しているが、それをねじ伏せるのもまた愉しい。

「くぅ……、ううッ……」

 後ろから覗き込んで耐えるウエイトレスの表情と、然程咥え込んだ経験のない秘裂の位置を調節しつつ、僅か数メートルの距離に光点があるのに気

づく。

 やれやれ。

 たいしたもんだと感心しながらも、この変わりようには呆れてしまう。

 腹を決めて肝が据わっているというよりは、単にタガが外れたという印象は否めない。

 いくら暗がりとはいえ視認できる近さで、この場にいるもう一人の教え子は女友達の痴態に、しっかりとピントを合わせてカメラを構えていた。

 余すところなく舐めるようにパーンさせながら、見たことのない艶かしい貌や、爛れたみたいに潤んだ秘裂を撮影している。

 公園に入ってからここまでの、一部始終が記録されていた。

 キスも。

 悪戯されているのも。

 技術はまるで拙いものの、愛情という熱の篭った初フェラチの模様も。

 そして今まさに、

「あ……、ああ……、んゥッ、うぁああああッ!?」

 勃起を粘膜に呑み込もうとしているのも。

 夜の公園に切なげな声が響く。

 柔らかなヒップを膝の上に座らせたときには、媚肉の中に根元までぐっぷり嵌まり込んでいた。

 おそらくこの味は何度味わってみても、きっと飽きることはないのだろう。

 ねっとりとした温かさに包まれている自分の分身に、思わず嫉妬をしてしまうくらい堪らなく気持ちがいい。

 薫の膝の裏に手をまわし、腰をゆさゆさと動かし始める。

「ああンッ、ゆ、揺らしちゃ、だ、ダメ、こんな、……こんなカッコ、んあッ!! ふぁッ、あ、ああッ、んッ、んッ、んッ、んゥウウウッ!!」

 幼女がおしっこさせられるようなポーズは、いくら蓮実のお願いとはいえさすがに、年頃の少女として恥ずかしいみたいだった。

 しかしこういったサービスカットは、出演者も監督も視聴者も、男という生き物であれば是が非でも欲しくなる。

 録画を示す赤い光点に向けて、息を荒げ血走った眼で女友達を見つめる教え子に向けて、ガバッとM字開脚にして腰を揺すり立てる。

 甲斐あってカメラを回す教え子の股間は、びんびんになっており爆発しそうだった。

「か、薫……」

 中学からの女ともだち。

 たぶんもうすでに『元』と付けるべきだろうが、数メートルの距離を置いて二人の教え子の視線が、夜の公園でたしかに交錯し絡まり合う。

 けれど名前を呼ぶ小さな呟きは、耳に届いても聞こえない。

 鼓膜は震わせても心に響かない。

 網膜は捉えていても、瞳には映ってない。

 心に何も映らない。

「やはぁンッ!? あッ、あッ、んあッ……ゥああああッ!! す、すごいッ、ハスミン、す、凄すぎるからぁッ!! 怖い、怖いのぉおおッ!!」

 蓮実によって絶頂に導かれることしか、真っ白にしてもらうことしか、千々に乱れている薫には考えられなくなっていた。

 牝の本能が激しく訴えてくる望みを、ただただ叶えて貰うことだけである。

 カメラを回している教え子の存在はこのとき、棚町薫という可愛いペットの世界から完全に消えていた。

 その証拠に、

「ならここでやめるか?」

 舌でねぶり耳朶を甘噛みしながら蓮実が熱く囁くと、

「だ、ダメッ、あッ、ンッ、ダメッ!! ダメッ、ああッ、も、もう、ダメだからぁ!! あッ、ああッ、は、ハスミン、ダメぇえええッ!!」

「OK.Miss Tanamati Good!! Good!! Excellent!!」

 悦びの絶叫を公園の小さな敷地内に、昼間は無邪気に子供が遊んでるだろう空間に迸らせる。

 教え子の奔放な嬌声に煽られボルテージの上がった蓮実は、身体全体をしならせて粘膜の最奥を何度も何度も連続で叩いた。

 動物的な荒々しさで深く貫かれるそのたびに、快楽の電流が走っているみたいで薫は、よがり啼き秘裂から透明な飛沫を撒き散らす。

 悦びと苦痛の違いもわからなくなるほど絶え間なく嬲られ、淫らで可愛いウエイトレスは早々に絶頂に達していた。

 咀嚼するみたいに纏わりつき、粘膜が勃起を締め付けている。

「ひッ、ひッ、ひッ、ひぐぅううッ!?」

 自分では制御できない甘美な力が、ウエイトレスの身体をガクガク揺さぶっていた。

 危険な領域といっていい。

 それでも蓮実は抽送を続行する。

 休むことなく突き入れられる勃起が、最初のエクスタシーの波が引かないうちに、新たなさらに大きい爆発を誕生させた。

 連続して炸裂したエクスタシーの相乗効果に薫は、まるで命尽きる瀕死のケダモノのような痙攣をくり返す。

「またイク?」

「あ、イク、また、イッちゃう、また……また、イッちゃう、あッ、あッ、もう、もうイク、イク、イッちゃう、またイッちゃうぅううッ」

「それじゃ一緒にイこうか。薫がイッたら俺もイクからな」

「ああッ!? イクッ、イクッ、もうイッちゃうッ、ハスミン、わ、わたしと一緒に、一緒にイッてッ、わたしとイッて、あ、あヒィイイイッ!!」

 ――びゅッ・びゅッ・びゅぐんッ!!

 媚肉が収縮するのにタイミングを合わせて、粘膜を壊しそうな勢いで蓮実はひと際深く勃起を突き入れた。

 傷口を抉るように子宮にめり込んだ亀頭が弾け、薫の体内に煮えたぎるスペルマがぶちまけられる。

 強烈で鮮烈な甘美感。

 共有できた。

 膣が弛緩するのと同時に蓮実の身体に信頼し切って倒れ込み、気を失ったのか死んだようにほとんど反応がなくなった薫だけではない。

 カメラのレンズから眼を離さないまま尻餅を突き、内側からズボンを濡らしている純一とも……。






[41992] アクガミ 二十七話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/05/03 09:49




「塚原」

 背後から突然声を掛けられて、響はぴくんっと身体を震わせた。

 ハッとして振り向く。

「せ、先生……」

 水泳部はボランティアで海辺のゴミ拾いを行っており、前部長は暇なときなど率先して自主的に足を運んでいた。

 部活動もすでに引退してしまったので、精をだす機会は格段に多くなっている。

 サプライズで捉まえるのに都合が良かった。

 秘めていた願望をもう蓮実に暴かれているくせに、認められないのか往生際悪く逃げ回っている。

 露骨に避けられていた。

 もっともそれはポーズだけで、呼び出せば応じるのはわかっている。

 視線が合ったときの無意識に媚びるような表情だけでも、蓮実にとっては充分なサインであり、本人はそのつもりでも隠したことにならない。

 笑顔に乏しい強面の優等生と見られがちな少女の、めちゃくちゃに陵辱されたいという想いを正確に読み取っていた。

 なのでこれまで避けられているふりをしながら、避けて焦らしていたのだがそろそろもう頃合いであろう。

 響だけでなく蓮実も限界だった。

「あっちに車を停めてある」

 ここまでくればまどろっこしい迂遠な言葉は必要ない。

 蓮実は相手が自分の後ろを着いて来るのを、まったく疑うことのない足取りで歩き出す。

 逡巡は一瞬。

 捕まることも逃げることもできる。

 くっつき過ぎず離れ過ぎずの微妙な距離を置いて、不安を上回る期待を滲ませた足取りで従った。

「え、これ」

「ポルシェじゃないか。見たことないのか?」

 車に興味のなさそうな女子高生にでも、世界的なブランド・カーの威力は絶大で、初めて見たときの親友と似たような驚き方をする。

 助手席のドアを開けてエスコートしてやると、信じられないという表情をして恐々と響は乗り込んだ。

 週末くらいしか運転してないが、借りている間にすっかりお馴染みになった、ポルシェ・ケイマンの心地よいエンジン音。

 制服の女子高生を助手席に座らせているというのが、いつも以上にさらに蓮実のテンションを上げさせている。

 マンションには三十分は掛るところなのだが、二十分も掛らずに到着してしまった。

 思わず苦笑する。

 まだまだ自分も若いなとほっとする反面で、もし仮にスピード違反などで捕まっていたなら、いろいろ厄介なことになっていたなとひやっとする。

 こういうときこそ安全運転を心がけなくてはならない。

 積み荷はある意味で灯油の入ったペットボトルより犯罪を連想させる。

 堪らなく背徳的な連想を……。

 口笛を吹きそうになりながらドアを開け、ずっと緊張状態なままの響を部屋に招き入れる。

 リビングに通した。

 響を確認したからだろう。

 ペットが隠れているクローゼットからがたんと音がした。

 俺が帰って来てもいいと言うまで、ここで静かにしているんだよ。

 ちゃんと約束を守ろうとしているみたいだが、夢にも見ない親友のまさかの登場は、さすがにインパクトが強かったようだった。

 大きな驚愕の気配が感じられる。

 そしてその対面にあるクローゼットからの、ねっとり粘つきぎらつくレンズ越しの視線も……。

 可愛い教え子の期待に応えるとしよう。

 もちろんクローゼットに身を潜める二人だけでなく、人見知りする幼女のようにそわそわしながら、所在無げに落ち着かない様子の響の期待にも。

「何か飲む?」

「……いえ、いいです」

「そう」

 着ていたコートを放り投げて革張りのソファに座ると、おはようと挨拶するような何気ない口調で蓮実は言った。

「じゃあ脱いで」

「え?」

「聞こえなかった?」

「そ、そんな、こと……」

「裸になれ」

 にこやかな笑顔で告げられた破廉恥な命令に、白い頬がサァーッと鮮やかに紅く染まる。

 心の奥底で欲し望んでいた言葉に、抱きしめた身体がぶるりと震えた。

 涙を零しそうにうるうる瞳を潤ませている。

 漏れる寸前のトイレを我慢するみたいに、もじもじして太腿を擦り合わせていた。

「できないならべつに無理しなくたっていいけど、塚原の願いを叶えてやることはたぶん難しくなるよ」

 拒絶を仄めかす。

 いつもはクールな魅力を放つ瞳はそれだけでどこか、憂いを帯びた色っぽく艶っぽいものになった。

「帰るんなら送ってやる」

「そんな、こと……」

 たとえば紗江のような誰にでもわかり易い典型なタイプもいるが、それはそれこれはこれで性格と性癖はまったくの別物である。

 攻撃的な性格だからSとは限らないし、内向的な性格だからMとも限らない。

 人間はそんなにシンプルじゃない。

 しかし蓮実は自罰的で自虐的な傾向のある、響の本質的なマゾ性をひと目で見抜いていた。

 小刻みに震えながらゆっくり、ブレザーから手が抜かれる。

 襟元を飾る紺色のリボンがしゅるりと解かれて、ブラウスのボタンをひとつひとつまごつきながら外していった。

 まずは肩を露わにする。

 水泳で鍛えているはずなのに、女らしさを失ってない。

 むしろ華奢だ。

 だが純白のブラジャーに支えられた乳房の方は、水泳の恩恵をしっかり受けているみたいで、発達した大胸筋が素晴らしい隆起を作り上げている。

 さらにスカートが床にパサリと落ちると、こちらも清楚な印象の白いショーツを蓮実の目に晒した。

 上下とも持ち主の性格を反映しており、ささやかなレースにも派手ではないフリルにも、どことなく気品があってセンスが感じられる。

 高い位置から伸びる長い足の太腿は、如何にもバネがありそうに引き締まっていて、そういったところはやはりアスリートだった。

 あ、それはそのままでいい。

 そう言おうとしてた蓮実よりも僅かに早く、響は履いていたソックスを抜き取る。

 思い切りがいい。

 けれどそんな躊躇いのない動きは、躊躇わないための動きだった。

 泣きたいような恥ずかしさに、しゃがみ込みそうになってしまうのを、考えないようにして何とか堪えている。

 露出している面積こそほぼほぼ一緒だが、それでも水着と下着は完全に似て非なるもの。

 同性でなく異性の視線に触れさせる意味には、まるで違う特別な論理と倫理を用意しとく必要がある。

 そもそも響は競泳水着ですらあまり、男の前で披露したことはないだろう。

 授業は体育全般が男女で別々だし、放課後のプールは水泳部の専用。

 いやらしく淫らな視線には慣れてない。

 ここまででもおそらく相当、響的には頑張っているのだろう。

 女性が男性の視線から隠さねばならない魅惑のパーツを、ぞくりとさせる被虐の光りを瞳に篭めながら左右それぞれの手で隠した。

 これでもう許して……。

 そんな無言の哀願が見て取れるが、さらにその裏に隠れているものを、読み取ってやるのが教師という職業である。

 なので蓮実はその頑張りを、響の期待した通り認めない。

「まだ残ってるよ」

 表面はクールでも内面はホット。

 読み取ってくれたことに、自分を誰よりもわかってくれたことに、うるうる潤み濡れた瞳が妖しく揺れる。

 絶対の命令者の愛情溢れる無情な言葉に、支配されたがっている少女は乳房を覆った腕を下ろすと、背中のホックに手を回し震える指先で外した。

 女子は器用。

 小学校の低学年まで教室で当たり前に行われていた光景が、微笑ましさとともに蓮実の脳裏に不意にフラッシュバックする。

 きっとピンクなはずの先端は、可憐なはずの先っぽはまったく見えない。

 余裕のできた両肩からストラップを抜き取ると、交互に抱くようにしていた腕を入れ替えながら、胸のふくらみを窮屈な拘束から解放する。

 ボリュームの点ではイギリスにルーツのある親友に譲るものの、美麗さという点ではけっして負けておらず甲乙付け難い。

 どちらの乳房がいいかのはもう、主に好みの問題になるのだろう。

 蓮実はどっちも好きだ。

 ただ目の前にあるずっしり重たげな乳房にケチを付けるとするのなら、流体力学に真っ向から歯向かっており水泳には些か適してない。

「下も」

 そう言われるのがわかっていたというより、そう命令されたくてチラッと蓮実を、泣き顔で窺う響に期待通りクールに告げてやる。

 そして苦笑した。

 先生……。

 こうやって教え子の声にならない声を拾ってやれた瞬間はいつも、教育者としてほんの少し恩師に近づけた気がする。

 他人の感情を推し量れることで、支配は容易になるということを気づかせてくれた恩師。

 あれから日々ずっと、実践を続けている。

「早く」

 前屈みになるとバランスを取るのが大変そうだ。

 蓮実という牡にに見られていることを充分意識しながら、左腕で乳房を押さえつつ股間の小さな布地を引き伸ばす。

 片足立ちで、右脚を抜きに掛かった。

 危なっかしい。

 後輩たちから慕われている凛々しい普段の姿からは、とても見るべくもないマヌケなコミカルさがある。

 だがやってる響本人は、冗談でもなんでもなく至って真剣だった。

 もっとも秘密にしておかねばならない部位を、無防備に晒さぬようにするため、足首に布地を絡ませ不安定な体勢でふらふらしている。

 ゴムのように弛まぬ努力の甲斐あってかようやく、ショーツを限界まで引き伸ばして抜き取ることに成功した。

 もちろんその際は恥毛が目に触れぬよう、内股を擦り合わせることも忘れてない。

 見た目の滑稽な姿に反して、実に繊細なアクションである。

「きゃッ!?」

 しかし最後の最後で努力と幸運、何より三半規管と足腰は響を裏切った。

 悲鳴を上げて倒れる。

 成す術もなく床に転がった少女は、土下座をする寸前みたいな四つん這いになっていた。

「Stop!!」

 羞恥心に胸を焼かれて立ち上がろうとするが、それよりも一瞬早く蓮実の鋭い制止の声が掛かる。

 それだけであっさり響は凍りついた。

 美しくも卑猥な彫像になる。

 蓮実はそんなエロティックなオブジェと化している教え子の肢体に、カメラのレンズ越しと同様の舐めるような視線を浴びせた。

 牝犬みたいな浅ましい恰好を取らされたおかげで、重力に誘われた若いふくらみが妖しくゆさりと揺れる。

 見えそうで見えなかった魅惑の先端、先っぽの儚いまでに淡い色も確認できた。

 本人も自覚していたのだろう。

 もともと響の性格が慎み深いにしても、乙女として当然の対応だとしても、だからあれほどガードが固かったようだ。

 めちゃくちゃにされる予感に心が歓喜したものか、それに連動したらしく女体の一部が顕著な変化を見せている。

 可憐な欲情のバロメーターは硬くしこっていた。

 意地悪く焦らされはしても、期待を裏切ったりしない蓮実への期待に、触れられる前から激しく淫らに身体が昂ぶっている。

「動かないでくれ」

 言ってそのまましばらく、嬲るようにじっくり観察した。

 上目遣いに被虐の貌を浮かべ響が見つめる正面からだけでなく、引き篭もりになり掛けていた監督の提案で用意した姿見に映る背後からもである。

 クローゼットからの限られた狭い視野の確保のためとしか思ってなかったが、こういう光景を創るための仕込みだったとしたなら慧眼だ。

 ところどころがつくづく水泳に適さない。

 全体としては同年代の女子が羨むスレンダーなボディなのだが、バストと同様にヒップも美味そうな脂肪が乗っている。

 ビジュアルではなくあくまで、機能を追及した結果なのだが、競泳水着の切れ込みはえぐい。

 剃刀の使用は必須。

 とはいえ現役ではないので入念に処理しているわけではないだろうから、どうやらサボり気味みたいで割かし濃い恥毛がもっさり繁っていた。

 肛門から会陰のラインがくっきり、クリアーな映像で鮮明に曝されている。

 どちらも清楚でありながら、どこか牡を疼かせる初な佇まいだった。

 もっとも響の秘裂はすでにもうすっかり、一人前の女のような潤みを帯びていた。

 軽く絞っただけで簡単に、淫らな果汁が滴りそうなほど……。

 そして排泄器官であるはずなのに、おちょぼ口の可愛らしい肛門にも、一切の不快を感じる生々しさはなかった。

「それじゃまずは、この間のレッスンの復習といこうか」

 何にしても眺めるだけで愉しむのは限界である。

 蓮実は組んでいた脚を解いた。

 大股になる。

 教え子の身体の入れるスペースを作った。

「さあ」

 とびきりのスマイルとセットにして、おもむろにジッパーを下ろすと、凶悪な形状に膨張している勃起を取り出してみせる。

 ごくっ。

 生唾を呑んで喉が鳴った。

 ふりふりされるヒップが、とてもキュートでプリティ。

 ペットの心得というのがわかっているみたいで、立ち上がることなく四つん這いのまま近づいてくる。

 狡猾な罠に嵌った憐れな獲物のように、すっぽり脚の間に収まって勃起を仰ぎ見た。

「やってごらん」

 お許しを得られたペットはおそるおそるゆっくり、口唇の間から控えめに覗かせた舌で、牝を苦しめ悦ばせるための拷問具を舐めはじめる。

 まずは静脈の浮いた幹の裏側に、唾液をねっとりと塗り込めた。

 下から上にねろりねろり何度も何度もスライドさせて、卑猥に濡れ光るぬめりの面積を健気に妖しく拡げていく。

 舌の表面の微かなざらつきが、くすぐったくて気持ちいい。

 しばらくはそのこそばゆい感触と、甲斐甲斐しく揺れるポニーテールを愉しむ。

 亀頭の表面に満遍なく唾液を塗り込めると、次に響は雁首のでっぱりの裏へ舌を這わせた。

 汚れが溜まりやすい部分なのに、臭いがきつい部位のはずなのに、むしろ鼻をすんすん鳴らしてうっとりさえしている。

 もしかしたら飼っているペットたちの中でも、ナチュラルにイチバンのドスケベは、お堅いイメージのおまえなのかもしれないな。

 蓮実は苦笑しつつ髪を撫でた。

 するとそれを合図と受け取ったのか、単に気を良くしただけなのか、反り返った牡器官を手前に引く。

 あむッ。

 響はおもむろに亀頭を口に含んだ。

 教え子の温かでぬめらかな粘膜に包まれて、蓮実の背筋にぞくりとしたものが走る。

「う、ううッ、んゥッ、ぶううッ、ぐッ、んンッ……」

 美しい顔を股間に深く埋め、苦しげな声を漏らしながらも、響はどうにか勃起を喉の奥にまで呑み込んだ。

 前回レッスンでの予期せぬディープスロートで、そういうものだとインプットされたようである。

 しかしいきなりガンガン突かれるのは、どうやらさすがに勘弁らしい。

 丸く唇を窄めながら慎重に響が頭を後退させると、唾液にコーティングされたグロテスクなシャフトが姿を現した。

 抜け落ちないよう雁首のところでストップさせると、じれったくなるようなもどかしさでゆっくり、また柔らかな喉の奥に牡の勃起を迎え入れる。

 技術と経験のなさをカバーする一生懸命な口唇愛撫だった。

 勃起をしごくスピードも遅々とするほど徐々にだが、主人に奉仕しているという悦びがそうさせるのか確実にアップしていく。

 ぬちゅッ・ぬむッ・ぬむッ・ぬるるッ……。

 順調で軽快に出し入れがくり返されるたびに、互いの粘膜と粘膜が淫らに摩擦し刺激し合う。

 甘く浸りながら蓮実は、蕩けそうになっていた。

 おしゃぶりに夢中になっている教え子に夢中になりすぎ、蓮実は危うく声を掛けるタイミングを逸しそうになってしまう。

「もういいよ」

 抑揚のない平坦な声でそう言うと、ぴたりと動きが止まった。

 逞しい勃起を咥えたまま上目遣いで、響はとても悲しそうな顔をしてみせる。

 ……ダメですか?

 憂いを滲ませた潤んだ瞳で、頬張った口よりもモノを語っていた。

「いやいや。違う違う。そうじゃない。……おいで」

 安心させるよう宥めすかすように微笑みながら、泣きそうな響の髪を撫でつつクローゼットに声を掛けた。

 一瞬、馬鹿な考えが頭に浮かぶ。

 声を掛けたのと逆側のクローゼットが開いて、後輩男子が出てきたらどんな反応をするだろうと、ほんのチラリとではあるが興味をそそられた。

 さいわい蓮実の軽はずみな思いつきに、クローゼットに潜む教え子は両サイドとも、無闇に感化されることはなかったようである。

 二人ともRead the air.してくれたようだ。

 目先の面白さよりも、期待通りのいやらしさ。

 扉が開く。

 ずるりと野太い勃起を吐き出した響が、気配を感じてそちらを振り向くのと同時だった。

 親友を迎えに行く前にすでに剥いていたので、全裸なのは当然なのだが、命じられてもいないのに四つん這い。

 散々弄くられ嬲られはしたものの、絶頂までには導かれずに、中途半端なところで放置されていた。

 さらに予想のしようもない親友の媚態に、主人の帰りを待ち焦がれていたペットは、準備万端で若い身体を火照らせている。

「え、は、はる、か?」

「響……」

 親友二人のご対面だった。

 ベタな演出ではあるがドラマチック。

 驚愕に目を見開いている響と、瞳をトロ~ンとさせているはるかの、ある意味で対照的な視線と視線が交錯する。

 フルヌードなのもケモノポーズなのも忘れて、しばしお互い見つめ合っていた。

 現実味のないシュールなタッチの画で、高みから眺めるとちょっと面白い。

「やッ!?」

 そしてこの想像してなかったろう突飛な状況を理解し、先に動いたのはやはりというべきか、普段から理解者だ保護者だと言われている響だった。

 裸の身体を抱きながら、胎児のように丸まって蹲る。

 今更のリアクションではあるものの、頭隠して隠れてない部分も含めてキュートだ。

 鏡に映るヴィジュアルはより悩ましく、いやらしいものになっている。

 Good!!

 クールが売りな凛々しい親友の珍しい反応に、悪戯が見つかった子供みたいな表情をするはるかも。

 本当に土下座するみたいになってしまった響ともども、輝日東の三年生コンビは揃いも揃ってエロティックだった。

「おいで」

 手招きするとはるかはおずおずと近づいてくるが、絶賛反省中の響が邪魔をしているので、戸惑った顔をしてこちらを窺っている。

 にこにこ微笑みながら蓮実は、無言で手招きをくり返した。

 仕方なくはるかは裸の肩を触れ合わせて、親友を押しのけるみたいにしてスペースを確保する。

 勃起の熱さとニオイを、強烈に感じられる距離だった。

「言いつけを守って、大人しくしてた?」

 手を伸ばし髪を撫でながら、静かに優しく問いかけてやると、はるかは可愛らしくこくんっと頷いてみせる。

 長く細いキレイな指先を見た。

 うん。

 濡れてない。

 秘裂は内腿から滴らせるほど溢れ潤んでいるが、自分で弄くったりはしていないようだ。

 息遣いはどんどん荒くなっていくが、主人の命令に従わなければというペットの、本能なのか理性なのかよくわからない衝動で耐えている。

 風呂で洗うときしか、これまでの人生で触れたことがない。

 はるかが輝日東の男子生徒全員の憧れの存在に成り得ているのも、わかるくらい夢のように夢よりファンタジーな告白をされている。

 オナニーを手取り足取り教え込んだのはついこの間のことで、覚え立てだけにこのシチュエーションは苦しかったはずだ。

 それでも蓮実の命令を遵守したようである。

 可愛いやつだった。

「いいよ」

 よく躾けられた犬のようにお預けの待てを解除してやると、一瞬ちらっと蹲る親友を見てから、何かを振り切るみたいにむしゃぶりついてくる。

 チュッ。

 鈴口に挨拶代わりのキスをすると、いきなり亀頭を温かな粘膜で包み込んだ。

 ぬめらかな感触に思わずというか危うく、風呂に浸かったときのような、至福のうめき声が漏れそうになる。

 はるかのディープスロートは親友よりもスマートで、若干苦しそうではあるものの、レッスンの甲斐あってすんなり喉奥まで呑み込んだ。

 頭の振りもばらつきなく安定しており、勃起のしごき方もスムーズ。

 雁首に偶に歯が当たるのは、ご愛嬌というものだろう。

 ぴっちりと巻き付いた口唇が、弓なりに反った肉柱を絞りあげてゆき、教え子の奉仕のテクニックの確かな上達を実感させてくれた。

 口に含んだままの状態で勃起の先端を、時折ぐるりとローリングさせるなど、拙さはあるが初心者の響にはない技巧である。

 舌先が尿道周辺を掠めるたびに、そこから生じる甘美な衝撃で腰が跳ね回りそうだった。

 ずずずッ。

 唾液を啜る様子も以前は止むに止まれずといった風情だったが、今は蓮実を意識してわざとやっているようにも映り妙にエロい。

 間違いなく強く逞しい牡に媚びている。

 ただだからといって羞恥心を棄て去ったわけではなく、日本人よりも幾分白いクォーターの肌は、まるで茹でたように上気し真っ赤になっていた。

 自分のしているはしたない行為と、微笑みながらじっと口元を見下ろす蓮実の視線、そしてバレてないつもりで盗み見る親友の視線によって。

 にゅぽんッ。

 唇と亀頭の間に妖しく、ねっとりとした糸が引いている。

 響の丹念にコーティングを施した成果だったり、蓮実の先走りのカウパー液だったりが混ざり合って、はるかの唾液は粘っこいものになっており、

唇と亀頭を結んでいる懸け橋は、未練がましくなかなか途切れてくれない。

 見方を変えれば幻想的な光景にも、見えないこともないこともないかもしれない。

 ……いや、まあ、さすがに、ちょっと無理か。

 蓮実は苦笑する。

 まだ青い果実の少女たちを魅了するのには、けっして過激ではないものの些かえげつない画になっていた。

 伏せていた顔はすっかり上げられており、ぼんやりとだがまじまじと、唇を艶かしくぺろりと舐めて、糸を断ち切る親友を見つめている。

「響」

 しかし不意に下の名前を呼ばれ、ぎょっとした顔をして蓮実を見た。

 普段は周囲に表情が乏しいと思われがちの響だが、さっきからそれなりにバラエティに富んでいる。

 可愛くてレアな顔を、いくつも無防備に曝していた。

「してくれよ。響の唇でもさ」

「そ、そんなこと……」

「なら響はそこで見てるだけであとは、もうはるかだけにさせておくかい?」

「それは……、でも……」

 男はたとえ屁でも理屈が必要だが、女には必ずしも必要ない。

 根拠を示さなくとも自信さえ示せれば、簡単にコントロールできるが蓮実の持論だ。

 とはいえそうするための仕掛け、ロジックはやはり必要になるであろう。

 異常な事態で判断力の低下している状況では、無茶苦茶な説明でもとにかく言い切ってしまった方がいい。

 けっこう通用する。

「はるかも一緒にしたいだろ?」

 二人は仲良し。

 ここで自分に話が振られるとは思わなかったのか、先程の響のリプレイ映像みたいに、はるかはぎょっとした顔をして蓮実を見た。

 大安売りの微笑みで、いったん落ち着かせる。

 蓮実は『一緒』という言葉を使うことで、ダブル・フェラを望んでいるのはむしろ、はるかであるという印象を響に与えた。

「どうだ?」

「でも……、それは……」

 一言一句同じというわけにいかず、接続詞の順序が多少違うが、ここでも二人は気の合うところを披露し、煮詰まってるのに煮え切らない態度で、

逡巡しているふりをくり返している。

 もっともはるかにしても響にしても優柔不断な態度は、きっぱりと否定しない曖昧な言葉は肯定と同じ意味しかない。

 二人とも正直ないい子だ。

 馬鹿が付くぐらいの。

 そしてペットは無駄に利口なのより馬鹿な方が可愛い。

 だからついつい苛めたくなる。

 隙だらけの響。

 狭い面積に密生している恥毛の奥で、綻び透明な蜜を湛えた秘裂に、蓮実は靴下を履いた爪先を伸ばした。

 優しく柔らかく踏みつける。

 すぐに布地を通して濡れた感触が、いやらしいぬめりが伝わってきた。

「どうやらはるかは、響と一緒にしたいみたいだけど、響だってはるかと一緒にしたいだろ?」

「わ、わたしは……」

「したいだろ?」

「んンッ」

 蓮実は足の裏で、触り心地のいい繁みを撫でた。

 勃起しているクリトリスが擦れて、響は鼻にかかった声を漏らす。

「響もしたいんだよな?」

 僅かであからさまな反応を見逃さず、蓮実は敏感な突起に足の裏を強く擦りつけ、ふっくらした恥丘全体を捏ねるようにした。

 愛撫というにはあまりにも無作法。

「あぁッ……」

 しかし響は拒まない。

 蓮実の足を掴みはするものの、それは抵抗ではなくもっともっとと、誰の目にもせがんでいるようにしか見えない。

「どうだ?」

 さらに蓮実は繁みを踏んでいた右足を下にずらすと、愛液を滲ませた秘裂に親指を喰い込ませた。

 たっぷりの蜜を含んだぬかるみの浅い部分を、にゅぐにゅぐと刺激する。

「ン……んふぁッ……、あッ、あッ、あぁッ……」

 明らかに歓迎するややハスキーな嬌声。

 蓮実はぬらつく媚肉にめり込ませた爪先を、器用に動かしながら再度のquestion.を投げかけた。

「どうするんだ? してくれる? それともしてくれない?」

 ハァハァハァハァ……。

 本当にお預けされている犬みたい。

 質問されているのは響だが、はるかの息遣いもシンクロして荒くなっている。

 主人が待ての解除をくれるのを今か今かと、切ない瞳で親友を見つめながら待っていた。

 ただそれもそろそろ、限界が近いみたいである。

 どんなに躾けられたペットでも、永遠にはさすがに待てない。

 ここまで堪えた方だろう。

「ひッ……ひッ……、ひぅうううッ!?」

 粘膜に侵入させた爪先をピンクローターのように小刻みに震わせると、響は足を抱え込んで親友に魅せつけるように身悶えた。

 少なくともはるかには、そう見えたようだ。

「響」

「ああああッ、はる、んゥッ、は、はる、はひッ、……んふッ、ぁ、は、ああッ、んあぁああッ……」

 輝日東でベストカップルの投票を行えば、おそらくかなりの圧勝でこの二人が選ばれるだろう。

 そういう趣味のある女子には、きっと垂涎で騒然の夢のような光景だ。

 吐息と吐息が交じり合うほど二人の顔は接近し、このまま口づけでもしそうなほどの距離になっている。

 友達以上恋人未満。

 思春期の少年少女の琴線に何かと触れる言葉だが、この二人よりもしっくりとくる二人を、べつにどうでもいいがとりあえず蓮実は知らなかった。

「……しよ」

 どうして零れないのか不思議なくらいの、うるうる潤んだ瞳で響を見つめながら、はるかは発熱したときのうわ言のようにポツリと囁く。

 Excellent!!

 とてもいいタイミングでお願いしてくれた。

「あっ!?」

 押してダメなら引いてみろ。

 はるかは親友であり理解者であり保護者である響に、悪びれることもなく純粋に素直に、こうやってお願いするのに慣れている。

 ここは任せてみよう。

 蓮実は悲しそうな声を漏らす響を尻目に、床に小さな液だまりをつくるほど、洪水状態になっている股間から足をどけた。

 ただ黙って酷薄そうに微笑みながら、教え子二人の睦言めいたやり取りを眺めつつ、抜き身の刀のように反り返った逞しい勃起を魅せつける。

 圧倒的な存在感を意識しての、可愛いペット二匹による問答が始まった。

「ねぇ。しようよ。わたしと一緒に」

「し、しよって、だ、ダメに、そんなの、ダメに決まって――」

「どうしてダメなの?」

「そんなの、あ、当たり前でしょ。こ、こういうのは、二人っきりで、好きな人と、す、するものだからよ」

「……どうして、三人じゃダメなの?」

「どうしてって……」

「わたし……、響ちゃんのこと、ものすご~く大好きだよ」

「え?」

「響ちゃんはわたしのこと、……好き? それとも……、嫌いなの?」

「それはもちろん、わたしだってはるかのことは、す、好きよ」

「ならハスミン先生は?」

「は、蓮実先生のことは……」

「好き?」

「……それは」

「嫌い?」

「嫌いじゃ、な、ないけど……」

 するかしないかという問題だったはずなのに、するりと好きか嫌いかという問題にすり替わっている。

 こうやってこれまでも、響に無理を通してきたのかもしれない。

 手を合わされ困った顔をされれば、一生に一度のお願いを何度もされてしまうタイプ。

 自分では厳しく接しているつもりでも、本質を本能で見抜かれているというか、最後にはけっきょく子供に甘い母親みたいだった。

「響」

「はるか」

「ね。……しよ」

 そういう声が堪らなく艶っぽく色っぽい。

 身体の位置をずらす。

 親友のためにスペースを空けた。

 蓮実も仲良し二人が並んでご奉仕できるように、開いていた脚をさらに広げておいでおいでと手招きする。

「響」

「はるか」

 刹那で何らかの共感が、どうやら共有されたらしい。

 理性でなく本能による会話。

 濡れた瞳でアイコンタクトをすると、少女たちは決意を篭めて頷き合った。






[41992] アクガミ 二十八話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/06/09 12:12




 ちゅ・ちゅる・ちゅ・ちゅるるる……。

 卑猥な競演だった。

 目元を赤くし肩を寄せ合いながら、ペットたちは夢中になってしゃぶっている。

 野太い血管の浮いた脈打つシャフトの左右から、所狭しと二枚の舌が甲斐甲斐しく這い回っていた。

 勃起はひっきりなしにびくんびくんっと跳ねている。

 先端からとろとろしたカウパー液を垂れ流しては、唾液と混ざることで濃度を増した牡のニオイを振り撒いていた。

「……むぅ……、んゥッ……ンッ……」

 はるかが亀頭のくびれに沿って舌を走らせる。

「んンッ……ふ……、ん……」

 そのすぐ隣りでは響が根元付近から舌で、ツーッと舐めて上げて淫行教師を追い詰めていた。

 親友同士の息はぴったり。

 リハーサルなしのぶっつけ本番。

 それでもしっかり、阿吽の呼吸でコントロールされている。

 羞恥に拠ってなのだろうが遅めのスピードで丁寧に、神経にじっくり吸着していくように、ゆっくり快感は勃起に浸透し沈殿していった。

 ついには二匹の口唇奉仕はキュッと固くなっている陰嚢にまで及んで、アメでも転がすみたいにして清浄な唾液で洗ってくれる。

 左右で微妙に異なる感触をもたらす教え子の口中で、ずっしり重くなっている睾丸は温かさに包まれ執拗に弄ばれていた。

 もし今ここで奉仕に耽っているはるかと響に、不義理ともいえる蓮実を害する気持ちがあるのなら、極めてイージーに行うことができるだろう。

 細い顎だがさして力はいらないので、おそらくグミを噛み潰すよりも簡単。

 そうやって急所を押さえられている瀬戸際を味わいつつ、絶対にそうはならない自信と信頼の基にして髪を撫でる。

「ふぅ……ん、んぅ……、んンッ……」

「ン、ハッ……む……んゥッ……、ぅ、んふぅ……」

 すると二人はくすぐったそうにしながらも主人の意図を察したようで、放置されかけたひくつく肉の幹に再び寵愛が戻り、蓮実の肛門をぞくぞくす

る快楽とともに引き締めさせた。

 輝日東の誇るベストカップルのダブルフェラに、生々しくぬらつく勃起は着実に昂ぶり高まっていく。

 できるならことならこのまま教え子二人がもたらす極上の愉悦に、何もかも忘れていつまでもどっぷりと浸かっていたい。

 とそう思っているのにまったくの逆ベクトルなはずの、欲望を放つことを同時に考えられてしまうのだから……。

 人の身体というのは不思議というより、やはり適当というかイイ加減だった。

「もうすぐ出るよ」

 蓮実が告げるとまるではるかと響は事前に示し合わせていたように、雁首のでっぱりの裏を尖らせた舌先で舐めまくってくる。

 イチバン感じるところを二人掛りで責められて、ひとたまりもなく絶頂に達していた。

 びくンッ!!

 内側から破裂しそうだった勃起が撥ねて、マグマの如く煮え滾っていたスペルマを、勃起を美味しそうに貪っていたペットの顔面にぶちまける。

 断続的だが途切れることのない射精の勢いは激しかった。

 青臭さがはるかと響に、容赦なく浴びせられる。

 ねっとりした白くて熱い粘つく牡のシャワーによって、可憐で端正な教え子の顔は瞬く間にザーメン塗れになった。

 しかしそれでもめげず二人は、ひくつく勃起から口唇を離そうとしない。

 舌を蠢かせ蟻の門渡りを上下になぞる。

 めくるめく甘美の波が蓮実の身体の中を吹き荒れ、ソファのクッションに両の手の爪を強く突き立てさせた。

 勃起がしゃくりあげるたび、濃い牡の粘液が撒き散らされる。

 三人でするプレイは久しぶりなのもあってか、どうやら快感はひと際大きかったみたいで、スペルマの量はびっくりするほど多かった。

 びゅッ・びゅくッ・びゅッ・びゅくんッ!!

 激しい放出がようやく終わる。

 それでも牝の媚肉の味に常に飢える勃起は硬さを失ってはおらず、先端の切れ込みからは未練がましく精液がじんわり滲み出ていた。

 生々しい牡のフェロモンの匂いが、部屋いっぱいにむせるほど漂っている。

 輝日東の英語教諭の穢れた劣情が具現化したモノで、輝日東の女子高生二人はドロドロに汚されていた。

 ねっとりした欲望のジェルが顔だけでなく、身体中に付着して白い肌にこびりついている。

 しばらくはるかも響も呆然としていたが、やがてどちらからともなく互いの肌に、可憐な唇を寄せ合って粘液を舐めはじめた。

「ン……」

 はるかの方がどうやら幾分アクティブなようで、積極的に響の目元や小鼻の脇などを拭っていく。

 親友の舌が刹那でも唇を掠めると、そのたびに響はドキッとしたうぶな表情をして、まだキスを知らない少女みたいに身体を固くしていた。

 そんな仔猫のじゃれ合いのような戯れを、面白そうにして眺めているうちに、蓮実の牡器官は完全に凶悪さを取り返す。

「え?」

「きゃッ!?」

 加減はもちろんちゃんとしていた。

 添えてからのプッシュ。

 立ち上がると今にも押し倒そうとしているはるかを引き剥がし、響をいきなり足蹴にしてごろんっと仰向けにさせた。

 踏み潰されたカエルのように無様な恰好になる。

 はしたなく開かれた両脚が閉じるのよりも僅かに早く、持ち前の反射神経を発揮して足首を掴むと二つ折りにした。

 水泳部は怪我の防止のためと手足の可動域を広げるために、特にストレッチをみっちり念入りに行っている。

 さすが元部長だった。

「やッ!?」

 抗う声はけっして物理的な苦しさのせいではなく、乙女が異性の前でするべきでないポーズと、認識している自覚ゆえの羞恥からくるものである。

 隠しておかなくてはならないあらゆる部位が、あまりにも無防備に剥き出しにされて、蓮実とはるかの熱い視線に晒されていた。

 特別な存在となった二人に、穴という穴が覗かれている。

 濡れ光る秘裂も。

 針で開けたみたいな小さな尿道口や、収縮する肛門まで網膜とレンズに映されていた。

「……すごく……いやらし……、あっ!?」

 その呟きは囁くように密やかだったものの、蓮実とはるかを見上げる響の耳に、はっきり届いたみたいでさらに一層肌を赤く染めていく。

 言ってしまってからハッとしたように口を手で覆われたのも、むしろ晒し者にされている居た堪れなさを煽るだけの効果しかなかった。

「はるか」

「は、はいっ!?」

「これからもっといやらしくなる響を、親友としてちゃんと見ててあげるんだ」

 毎度無茶苦茶な理由である。

 けれど蓮実はいつも通り自信と唾液をたっぷり乗せた舌を伸ばし、割れ目をぺろりと舐めてから綻ぶ唇に吸い付いた。

「――ひぃいいいッ!!」

 普段はクールな教え子の、甲高い悲鳴が耳に心地よい。

 過剰に敏感なゾーンを舐めまわされて、窮屈な体勢から暴れ馬のように肢体が跳ねる。

「あうううッ、そ、そこ、そこは、だ、ダメ、……ああッ、ダメになっちゃ、あひぃいいいッ!?」

 快楽が最も集中しているポッチを責められると、送り込まれた甘美な電流に怯えるみたいにおののいた。

 ぐっしょり濡れた恥毛で溺れないように、爪先立ちするみたいになっている陰核の包皮を、くるんっと器用に舌だけで剥くとさらなる絶叫が迸る。

 蓮実は口内の粘膜に、少女の真珠のカタチを灼つけんと揉み解した。

 天井に向けられたヒップに痙攣が走る。

 乳首を勃起させたふくらみも、妖しくぷるぷると揺れていた。

「キヒィイイイイーッ!!」

 そこから休む暇も容赦も与えずに二度三度と、悦楽と苦痛の境がなくなるほど、絶え間なく連続して教え子の身体に絶頂を導く。

 ぬちゃッ。

 やっと舌が媚肉から離れたときにはもう、響は死んだように動かなくなっていた。

 だがもちろんそんな安息を、蓮実は許すわけもない。

「ひぅッ!?」

 響の性の知識では心構えも身構えも、まったくしていなかった部位に、ぬるりと這う感触を感じて裏返った声を漏らす。

 排泄器官を襲う舌のぬめりに、忘我の境地からの蘇りが、無理やり行われて腰を激しく捩じらせた。

「き、汚い、そこは汚いで、ああッ、き、きた、あッ、んンッ、うぁああッ、ああああッ!?」

 平成生まれの二十一世紀の高校生であればまさか、ウォシュレットを使ったことがないということはあるまい。

 そして使い続けている以上、不快とは感じていないだろう。

 しかしわかってない。

 きっと響は考えたことすらない。

「あひぃいいッ!!」

 トイレで誰しもが行う生理的欲求の解消が、性的快感とイコールで結びつくとは、堅物な女子高生には想像したこともすることもできないはずだ。

 仮に響にそういう知識としてあったとしても、まず真っ向から軽蔑し全面的に否定するだろう。

 世の中には経験してみなければわからないことが、自分の身を持って味わってみなければ、わからないということことがたしかにあるのだ。

 蓮実の隣りで親友が堕ちていく様を、固唾を呑んで凝視している少女のように……。

 可憐な肛門に舌が及ぶと、息が掛かりそうなほど身を乗り出した。

 確認したいのかもしれない。

 響もそうだと安心したいのかもしれない。

 そんなところに悦楽が潜んでいるのは、自分だけでないというのを教えて欲しい。

 切なくも淫らな願いの篭った視線が、ピンクのアナルに注がれていた。

「あッ、ンッ、ンッ、ンッ、くぅッ、あッ、んぁッ……!?」

 シワの一本一本までしっとりと、濡れた舌で丁寧に舐めていく。

 不浄なはずなのに清楚な排泄器官を唾液塗れにされ、水泳の賜物の双臀がぴくぴくと痙攣していた。

 いつしか響の全身はもうすでに引退したというのに、部活終わりみたいな汗だくになっている。

 機械のようでありながら動物のようにしなやかに、蓮実は的確に教え子の性感帯を探り当てて責め立てた。

 肛門がふやけるほど舐めしゃぶると、舌先を尖らせていよいよ直腸に挿入する。

「ひぁッ!?」

 さらにオクターブを一段階上げて、響の悲鳴が絹を裂くように裏返った。

 異物を押し出そうとする括約筋を解すみたいに、ゆっくりピストンさせながらうぶな女体に、おぞましさと紙一重な倒錯の魔悦を教え込んでいく。

「ひッ、ひッ、ひッ、ひぐぅううッ、や、やめ、あッ、んぁあああッ、は、ああああッ!!」

 迫りくる新たな絶頂の予感に、新たな自分を認めてしまう恐怖に、響は戦慄き気が狂わんばかりになっていた。

 腰が妖しくうねる。

 禁断の悦楽に秘裂の奥からは粘りのある愛液が溢れて、腹部を滴り小刻みに揺れるふくらみを伝って、艶めく唇を濡らすまでになっていた。

「……ひ、響……、気持ちいい……の?」

 是非そうであって欲しい。

 そんな浅ましいが切実な願望が、透けて見える問いだった。

 ほぼ零距離から発せられる親友の、はるかの熱い視線と熱い吐息も、あってはいけないエクスタシーを増幅させる。

 存在自体が響を追い詰めるブースターになっていた。

「ひッ、ううッ、あくぁッ、あッ、ン、ン、ン、あ、……はぁ、あッ、あひゃッ!?」

 はるかの問いへの答えが決まってはいても、はるかの問いに答えている余裕はとても響にはない。

 これが答えというように、激しく身悶えする。

 舌でアナルを執拗に嬲られるだけでなく、淫らな愛液を源泉のように湧かせ、蕩け切った秘裂に指を挿されて、充血したクリトリスまで玩弄されて

は堪らなかった。

「あヒィイイイッ!!」

 泣き叫びながら勢いよく潮を噴く。

 教え子をまたひとつ大人のオンナとして成長させられた悦びに、蓮実は満足そうに目を細め教育者の顔をして誇らしげにそれを受けた。

 そしてはるかはというと、

「……ああ……響ちゃん……」

 親友から至近距離で浴びせられる顔射を、まるで避けようともせず恍惚としている。

 絶頂の余韻にぶるぶる腰を震わせる響にリンクするみたいに、ぴんぴんに勃起させた乳首を震わせながら腿を擦り合わせていた。

 そんな昂ぶっているもう一人の教え子の成長にもやはり満足すると、抱え込んでいた尻をフローリングの床に落とす。

 チュッ。

 ベトベトになっている口元を手で拭おうとすると、潤んだ瞳をしたはるかがすっと顔を寄せてきてキスをした。

 そのまま子犬が甘えるみたいに舐めてくる。

 羞恥に身体中を燃え上がらせながらも、蓮実の機嫌と反比例の怒ったみたいな勃起をしごいていた。

 健気にアピールする。

 しかし残念ながらはるかには悪いが、今の蓮実にはまずは響を喰らうことしか考えられない。

「後でな」

 飛び切りのスマイルを浮かべつつ髪を撫でると、哀しそうにしながらもはるかは、ぬらつく唇を離して主人からのご褒美を親友に譲った。

 可愛いやつ。

 期待に応えてたっぷり苛めてやろうと内心でほくそ笑みつつ、だらしなく開かれたままの白い太腿の間に膝立ちになる。

 湯気が立ちそうなほど熱く潤んだ処女の秘裂に、急角度でそそり立つ勃起を右手で押し下げて、先端をシェル・ピンクのぬかるみにめり込ませた。

「ぅッ!?」

 アナルでイクことを知ったばかりの、どこか遠くを見つめている霞がかかった視線。

 映しているのは蓮実だけだった。

 シャフトに添えた手で亀頭の位置を調節して、浅ましく物欲しげにひくついている膣口にセットする。

 ぬっちりとした媚粘膜が吸い付いてくるのを感じながら、蓮実は悪魔の人格を宿した勃起から手を離して一気に腰を沈めた。

 極太の杭がうぶな媚肉を割り開いたかと思えば、瞬く間に湿り気の奥までぎっちり埋め尽くす。

「――あふぁッ!!」

 初めてのことなので恐怖は無論あったろうがそれでも、牝の本能で待ち焦がれていた勃起の侵入に、響は大きく弓なりに背を反らし打ち震えた。

 勢いよく突き出された乳房がふるるんっと揺れて、その頂で硬くしこった乳首の残像が儚いピンクの軌跡を描く。

 居場所を奪われた愛液が狭い膣から押し出され、床に広がっている淫らな水溜りを大きなものにしていた。

 ここで親友からクエスチョン。

「え、響、ちゃん、あ、け、経験、あ、あったの?」

「うくぅッ、あ、ううッ……ち、ちが、……わ、わたし、け、経験なんて……、そんなの、な、な、経験……んンッ、ああ……」

「ない、の? え、でも、だ、だけど……わたしのときは……もっと……」

 根元までぐっぷり咥え込まされた秘裂から、鮮やかな血が滴らなかったからかもしれない。

 親友が蓮実の強引な挿入を未踏地になんなく受け入れたことが、はるかには余程意外だったらしく天然ぶりを発揮して場違いな質問をする。

 自分がヴァージンをロストしたときと比較しているみたいだ。

 響にそういう経験がという驚きだけではなく、そうでないなら自分の身体は、どこかおかしいんだろうか? そういった可愛い不安が表れている。

 だが蓮実には真相が、即座にわかった。

 処女の生き血を啜るのにこれといって拘りはないものの、響の粘膜がまだ他の誰にも穢されていないのは間違いない。

 目を付けていたペットのヴァージンをどこの馬の骨ともわからない奴に、むざむざ掻っ攫われる間抜けをした覚えはなかった。

 デビューでも出血しないのは、単純に体質なのだろう。

 都市伝説じゃない。

 水泳部でさらに専門が平泳ぎだったりした場合、アスリートとして熱心なら熱心なほど、童貞の夢が詰まったロマンチックなヴェールがリアルに裂

けてしまうというパターンは充分考えられた。

「響は初めてだよ」

 けれどそういう理屈がわからなくとも、絶対の自信を持ってびっくりしているはるかの驚愕も、誤解されたかもという響の不安も否定できる。

 自分の目で見たものしか信じない。

 などという経験不足の若者とは、自慢する気にもならないがさすがに違う。

 強弱の加減がない我武者羅にただキツいだけの締め付けは、過剰なほど敏感に怯える捨て猫みたいなもので処女特有の反応だ。

 こなれてないのがわかる。

 このうぶな媚粘膜はまだ誰からも、教育を受けたことがないとはっきりわかる。

 男であれば誰しもあるはずの、嗜虐性を刺激せずにはいられない。

 残酷になれる。

「ありがとな。俺に捧げてくれて……」

 蓮実の言葉に二人が、ほっとしたのもつかの間だった。

 引き裂くような鋭い痛みは免れたようだが、内部に初めて太い異物を迎え入れた違和感はあるだろう媚粘膜から、くちゅっという淫らな音を響かせ

つつ、神経を逆撫でるみたいにじりじりと勃起を後退させる。

「はンンッ!?」

 羞恥と愉悦に教え子の体が震えていた。

 キツく勃起を咥え込んだ膣がまた一段と収縮して、逃がすまいとするかのように喰い締めてしまう。

 処女の粘膜を削るみたいにして雁首まで露わにすると、抜けそうになるぎりぎりで再び根元まで押し込むということをくり返した。

「うぁッ、あッ、ふぅう……う、んッ、……あッ、はああ……、あくぅッ……」

 打ち寄せる波のような静かなのに荒々しいリズムで、新たな華蜜を分泌し続ける教え子を、焦らすように興奮と快楽を共有しプールしていく。

 そうやって嬲ることが目的の拷問みたいなスローペースを維持しながら、蓮実は辛抱強く腰を振ってテンポを徐々に徐々に上げていった。

 蕩けそうな甘美な摩擦感。

 どうやら響も共有してくれているみたいで、より深い結合を求めて恥丘が自然とせり上がっている。

 するとはぐらかすように蓮実は腰振りのスピードを緩め、じっくりと快楽という毒を処女の身体に染み込ませていった。

 教育には熱意だけでなくクールな根気も必要である。

 ねちねちと責めた。

 緩急を自在に使い分けながら、蕾のような青い官能を開花させていく。

「I am my teacher’s pet.」

「えっ? ティーチャーズ・ペ、ペット?」

「All right. Miss Morisima.Say it again!! I am my teacher’s pet!!」

 聞き覚えのあるフレーズのやり取り。

 叩きつけられ密着する股間を前のめりになって、瞬きもせず凝視していたはるかの身体がぴくんっと跳ねた。

 切ない吐息を吹きかけながら蓮実を見やる。

 親友と共感することで経験がフェードバックしたのか、火照らせた身体を歓喜でぶるりと震わせた。

 そんなはるかのリアクションに気を良くして微笑みつつ、身をくねらせ悶え響の左足首を掴むと、Lの字にするみたいにして高々と抱えあげる。

 所謂松葉崩しの体位になった。

「ひイッ……んゥ、あッ、ああッ、……あッ、ハァ、あッ、ン、くぅッ、ぁ、あはああッ!?」

 うぶな粘膜を抉る角度が変化したことで、そもそも快楽に慣れていない身体はさらに戸惑い翻弄される。

 セックスのためだけに存在しているようなポーズは、厳しく自分を律してきた女子高生をしたたかに辱めていた。

「Miss Tukahara.Say it again!!」

「うはぁ!? あ、I am あッ アイアム ……my てぃ んッ ぅあッ てぃ、teacher’s ……petッ!!」

「Great!!」

 しなやかな脚を担いでいた肩から下ろすと、蓮実は響の両手を引いて対面座位に移行する。

 無意識に自然に首にしがみついてきた。

「あ……」

「響」

 羨ましそうなはるかと目が合うと、今更のように顔を伏せるのが可愛らしい。

 愛おしさが募る。

 ドッ・ドッ・ドッ・ドッ・ドッ・ドッ・ドッ……。

 胸板に潰されてひしゃげた乳房から伝わってくる速い鼓動が、いっそう蓮実の中にあるそういった想いを強いものにさせていた。

 胡坐の上に乗せたぷりっとした尻たぶを掴んで、硬く起立した先端を感じつつ膝を揺らし始める。

「あッ、あッ、あッ、あッ、あッ」

 薄い唇から小刻みなスタッカートで、溢れるように嬌声が漏れた。

 些か痛い。

 まるで雑巾でも絞るみたいに、膣がギュウギュウ収縮する。

 とはいえこれはヴァージンを奪った者の、甘んじて受けねばならない痛みだった。

 なのでとても心地いい。

 これはこれで今しか味わえない特権である。

 ただただ性の衝動のまま貪るように絡みつく媚肉も、いずれは緩急を身につけてこなれてくるはずだ。

 蓮実は成長を愉しみにしながら、処女にしかない締め付けに対抗するように、膝を揺らすスピードを少しだけアップさせる。

「んふぅ、んンッ、ぅ、……はああッ!!」

 すると響も遠慮がちではあるが腰を揺すってきた。

 たとえ拙くはあってもいじらしさが、牡の官能を激しく揺さぶってくる。

 耳に響く甘い声におねだりされるみたいに、瑞々しい柔らかな双つの乳房に手を添えながら、床に仰向けになって今度は騎乗位の体勢になった。

 もちろんこれも経験である。

 なにせ教える蓮実にしても愉しいので自然と、教わる生徒のレッスンへの吸収率もかなり高くなっていた。

「あひッ!?」

 互いの秘毛を絡ませた結合部からの、ズンッとした衝撃は大きな愉悦となって犯し、水着跡のある白い身体をあっさり絶頂へと導く。

 しかし蓮実はそれに構うことなくぶるぶる震えている身体を、真下から暴れ馬のようにさらにグイッと突き上げた。

「あンッ、は、激し、そん、……あッ、そんな、あッ、ンゥ、ひッ!? ……くぅんッ、ふぁああッ!!」

 激しく子宮口を叩かれた響の眉が、情けない八の字になって不安と歓喜を訴える。

 異なる二つの感情のカクテルに、少女の顔は怯えていた。

「素直になるだけでいいんだ。怖がらなくていい。まあ。そうだなぁ。考えるな感じろってやつさ」

「そ、それって、どう、あッ、んふッ、ン、あ――」

「ブルース・リーを知らないのか?」

 蓮実としては教え子もちゃんと愉しめるよう、ユーモラスを披露したつもりだったのだが、響はいまいちピンとキテないみたいで反応は鈍い。

 今時の女子高生は偉大な香港スターを知らないみたいで、妙なところで男女差と世代差を感じて苦笑せざるを得なかった。

「とにかく気持ち良ければ、それでいいってことさ」

 そうやって蓮実は適当なことを言うと、強烈な締め付け具合を味わいながら、より深くえぐり若く瑞々しいふくらみを揉みしだく。

 張りがあるのに柔らかいという、矛盾しているような相反する感触は、常に飽きさせずいつも蓮実の心を躍らせた。

 充血し硬く尖っている先端のポッチを、キュッキュッとリズムを取るように摘む。

「ハッ、あッ、んンッ、んああ……ああああッ」

 乙女のマナーとして言葉だけは抗いながらも、腰はクイックイッとしゃくりあげていた。

 バウンドが浅ましいほど激しく大きなものになるのに、スピードが貪欲にアップしていくのに、それほど時間は要さずともテンポ良く弾んでいる。

「……ああッ……ふぁッ……ンッ……はふッ……、あッ、あッ、あんッ、や、あはンッ……」

 女の子座りをして床につけていた膝をいつの間にか立て、和式便器で用を足すみたいな恰好で尻を振っていた。

 膿んだ傷口からするようなジュクジュクとした湿った音が、粘膜で磨かれるように黒光りする剛根が出し入れされるたびに耳を打つ。

「んふぁッ!?」

 心は抗っていても身体は、というやつなのかもしれない。

 もっとも心の方も抗っているように見えないが、急速に開花しつつある身体は完全に快楽に溺れていた。

 耳をくすぐる吐息だけでなく仄かに香る体臭さえも、はるかのあらゆるところが甘ったるい。

 発情した牝のフェロモンが漂っている。

 欲望のまま教師にレイプされるのを、羨望の眼差しで親友に見つめられるという、目も眩むような異常なシチュエーション。

 そして目には映らずとも肌は捉えているかもしれない無機質な瞳が、普段はクールな少女の性感をホットに高めているのは間違いなかった。

 期せずしての三人がかり。

 スリー・マンセル。

 寄って集って群がる生々しい欲望に、なす術もなく快楽に呑み込まれていく。

 だからとても気づく余裕はない。

 蓮実の左右の手が乳房から離れて背中に廻ったのをいいことに、視線から逃れるために身体を伏せしがみついては尚更だった。

 目配せされ背後にそっと陣取った親友に、喘ぎ声を抑えるのに必死な響が気づけるわけがない。

 勃起を咥え込んだ秘裂を凝視されているなど、蓮実によって割り開かれた双臀の奥に息づく、可憐なアナルに興味津々なのに気づいていない。

 ぷっくりと膨らんでひくひく収縮しているのを、まるで憑かれたように熱心に観察されているのを……。

 やり易いように引き締まっているが柔らかな尻肉に、がっちりと指を喰い込ませてホールドした。

 物欲しそうに潤んだ上目遣いをしてくるはるかに、期待通りの首肯をひとつ返してやる。

 躊躇することなく結合部にむしゃぶりついた。

「ひゃんッ!?」

 素っ頓狂な声が上がる。

 これ以上はない完全な不意打ちの驚きに、首がねじ切れそうな勢いで響は振り返った。

「……ひィッ、は、はるか!? ちょ、な、なにをして、あッ、ああッ……」

 見慣れたはずの親友の顔が、見慣れない部分に埋まっている。

 しかも勃起と秘裂に、ねろねろと舌を這わせている。

 絡み付く襞に突き刺さる凶器もろとも、蓮実と響を同時に味わおうとしていた。

 舌鼓を打つ。

 大好物のミルクを口にした子猫のように、はしたなくも微笑ましくがっついていた。

 使い込まれた勃起と親友のうぶな粘膜の狭間に、尖らせた舌を潜り込ませ盛んにくすぐっている。

 ちゅ・ちゅるる・ちゅく……。

 だがどうやらもっと食指をそそられている部分が、哀願動物でなく獲物を狙う捕食者のように、瞳を爛々と輝かせているはるかにはあるらしい。

「あひッ!?」」

 裏返った声の音程がさらに狂う。

 ふやけるほど嬲りねぶった蓮実の舌に続いて、響の誘うようにひくつく不浄の窄まりに、はるかの舌も妖しく踊って襲い掛かってきた。

 秘裂に施したものよりも、明らかに丁寧であり執拗である。

 粘着だ。

「や、やめ、あッ、ひッ、ぅ、ンッ、んンッ、んふぁッ、あッ、くぅんッ、やンッ、あはッ……」

 哀願する響の言葉が聞こえていないかのように、卑猥に蠢くアナルを弄り続けてけっして離れようとしない。

 それはさっき見たばかりの蓮実の卑猥な舌の動きを、そして以前ポンプ小屋で教え込まれた舌の動きを真似ているみたいだった。

「あッ……やン……だ、ダメ……ダメ……、ダメだって言ってるのに……あふぁッ!!」

「くっ!!」

 親友が肛門に吸い付くと直腸を振動させられた響だけでなく、さらに強く勃起を締められて蓮実を思わず呻かせる。

 もうとても余裕ぶって、じっとしていられない。

 蓮実の性感も制御ができないくらいに、危険なほど昂ぶってきていた。

 容赦なくアナルを親友に責め立てられている少女を、下からも突き上げるようにして激しく腰を振る。

「あぁッ……あッ……あーッ……」

 前から後ろから二人掛りで苛められ、慄くように震え快楽を訴える響の声は悲鳴に近い。

 いや、それはもう、悲鳴そのものだった。

「む……んぅ……、ふむぅん……んンッ……んゥ……」

 排泄器官にフレンチでディープなキスをしているはるかの唇からも、負けじとばかりにくぐもった甘い声が、悩ましくひっきりなしに漏れている。

 可愛いペットたちの嬌態の競艶に、バットで殴られたみたいに、蓮実の脳内では火花がしきりに散っていた。

 見た目は悲惨な死に様であったもののあれはあれで、意外にもけっこう幸せだったのかもしれない。

 相棒に看取られながら白く灼かれて処刑されたフギンを、甚だ場違いな気がしなくもないが蓮実は感慨深く思い出していた。

 尿道が焦げたように熱くなる。

「ひィイイッ!!」

 全身の毛を逆立てるように膨らんだ欲望は輸精管を伝わって、まだ誰にも穢されたことのない教え子の身体の最奥にぶちまけられていた。







[41992] アクガミ 二十九話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/06/30 09:14



 ホザンナ。ホザンナ。

 あなたの愛で、わたしを包んで。

 いと高きところで。

 天のいと高きところで。

 ホザンナ。

 ああ、ぎゅっと抱きしめて。

 純一がチープというかシュールなこの歌を、ネットで知ったのはつい最近のことだ。

 稲田耀子というB級というのもアレな、所謂地下アイドルの歌である。

 耳に残らない微妙なメロディと意味不明な歌詞のため、まったくといっていいほどヒットせず、本人も芸能界を数年前にひっそり引退したらしい。

 だがなぜだか純一は初めて聴いたときから、このアレな歌に説明のできない不思議なパワーを感じていた。

 今やプラネタリウムを凌ぐパーソナルな信仰であり、どんな願いも叶えてくれる絶対のジンクスにまでなりつつある。

 精神が昂ぶると口笛を吹くかのように自然に、心の中で呪文みたいにしてエンドレスで唱えていた。

 笑顔で仁王立ちしている蓮実に、上目遣いでうっとり跪いているはるか。

 寄せられた乳房は魅惑の深い谷間を作っており、凶悪に膨張した勃起を愛しげに挟んでいる。

 何度かしたことがあるのかもしれない。

 イギリスをルーツに持つ白い肌を朱に染めて火照らせながらも、にちゃにちゃ音をさせながら身体を揺することに躊躇いは見られなかった。

 こうして玩具として奉仕することに、むしろ悦びすら感じているのかもしれない。

 潤んだ瞳と蕩けた表情が、如実に物語っている。

 クローゼット越しの僅かな距離で繰り広げられているのは、誰が何と言おうとも誰がどう見てもアレだった。

 パイズリ。

「ん……、どう、ですか? もっと……つ、強くした方が、い、いいですか?」

 下品なネーミング。

 しかしこの行為にそう命名したのがどこの誰かは知らないが、なんにせよ物の本質を捉えるセンスがあるのだけは疑いない。

 男ならきっと理解し、牡なら想いを共感できるだろう。

 快楽を貪るためだけにある浅ましい行為だが、互いの協力がなければ成立しないその行為には尊さすらあった。

 などという恋のホザンナ以上に訳のわからないフレーズを、ズキズキする脳のどこかで無駄に器用に作成しつつも、胸の奥から発生するドキドキに

従って瞬きすらも忘れ凝視する。

「……わたし、これするの……す、好きなんです。ハスミン先生が……よ、喜んでくれるから」

 惚れてた女性は英語教諭を満足させるための、淫らな性の道具に成り下がっていた。

 死体のように転がされているもう一人のクールな先輩女子を嬲り、生々しく濡れ光るペニスのサイズは純一とわざわざ比べるまでもない。

 はるかの美巨乳を相手にしてもかろうじてだが、雁首から上は露出して艶のある唇を狙っている。

 小刻みな身体の揺れに合わせながら、亀頭は乳房の狭間に沈んでは顔を出し、また沈んでは顔を出しということをくり返していた。

 まるで白い泥にひとが溺れているようである。

 ふと思った。

 こんな死に様も悪くない。

 チュッ。

 啄ばむようなキス。

 胸のドキドキとはまた異なる感覚が、純一の背筋をゾクゾクと這い登る。

 二人の態勢からすでにそうなるだろうと予想していたものの、その行為は童貞にとってやはり衝撃的で刺激的だった。

 パイズリの方がプレイとしてハードルが高い気もするが、ファンタジーであるのはどちらでも変わらず、自分でできやしないかと試してみた分だけ

リアリティがより近くに感じられる。

 はるかは自分の胸の谷間を覗き込むように深く顎を引いて、尿道口へ躊躇うことなくピンクの舌を伸ばした。

 前触れの雫を舐め取るようにくすぐる。

「んッ」

 フェラチオには童貞の、切実な夢が詰まっていた。

 馬鹿馬鹿しいがリアルな。

 時間にすればほんの数秒にも満たなかったのかもしれないが、薄暗いクローゼットでカメラを構える純一にはとても長かった。

 聖なるかな。

 二人の愛は。

 聖なるかな。

 ピュアな恋心。

 聖なるかな……。

 純一は経文を唱える耳なし芳一のように、一心に歌詞を繰り返しながら、しかし眼を目いっぱい見開いてその瞬間を待つ。

 息を詰めすべての感覚を総動員して、ひたすら歌詞を唱え二人を凝視していた。

 より正確には勃起の先端と艶めく唇を……。

 ぬむッ。

 そしてついに悪意の詰まった毒々しい果実のような亀頭が、純一に負けないくらい目いっぱい開かれたはるかの口内に呑み込まれる。

 せ、先輩。

 口内の温かさを想像して純一の、敏感すぎる牡器官が熱くなる。

 いや、さっきからずっと途切れることなく熱いが、ズボンの布地を燃やすのではないかというほど、さらに疼いて沸き立ように熱くなっていた。

「……ホザンナ。ホザンナ……」

 受験のときにこれほどのものがあったのなら、純一は輝東日より2ランクは上の学校に進学してたろう。

 謎フレーズを声に出して呟いているのも、気づかないくらいの集中力を見せていた。

「ンッ……ンッ……」

「上手だよ」

 百万遍の言葉を費やすより雄弁に物語っている。

 蓮実だって興奮しているのは猛る勃起の状態からして明らかなのだが、ぴくりともしなくなったクールな先輩女子を散々嬲ったのもあってなのか、

裏返り上ずる純一とは対照的に、その声音は妙なくらい落ち着いたものだった。

 慣れた手つきでもう純一は触れたくとも触れられない髪を、目を細めペットをあやす主人みたいにして愛しげに何度も何度も優しく撫でる。

 心を抉られた。

 パイズリやフェラチオといったプレイも、もちろんショッキング。

 しかしそれよりもショッキングなのは、全幅の信頼でうっとりしているはるかの表情だった。

 振り返れば勘違いも甚だしい。

 ちょっと親しくなっただけで有頂天になり、もしかしたらが現実になるかもしれないと、夢を見ていたあの頃でさえ欠片すら見たことはない。

 はるかとの関係が仮に続いて進展していたとしても、純一にはとてもこんな恍惚とした貌を引き出せなかったろう。

「むぅッ……ンふッ……、はむッ……むふンッ……」

 根元まで咥えると喉を突かれるのか、ときおりする苦しそうな表情の中にさえ、蓮実に尽くせることへの悦びが見受けられた。

 男殺しの天然女王と一部で囁かれる学校のマドンナは、人気NO.1の教師に奉仕できる歓喜でぶるぶる身を震わせている。

 抜けるような白い肌の太腿の内側をゆっくり、妖しくぬめらせ滴り落ちる液体の存在は、旺盛すぎる童貞の妄想による見間違いでは絶対なかった。

 淫らな行為をすることで、はるかも昂ぶり興奮している。

 乳房に挟まれ鬱血したように赤みの増した牡勃起が、優しくしごかれるさまが一人の少女を牝に変えていた。

 たいした運動量でもないはずなのだが、はるかは息を弾ませて可愛らしくすぴすぴと、鼻呼吸をして蓮実の陰毛を盛んにそよがせている。

 ひどくマヌケであるが可愛いその健気さに、堪らないいやらしさを感じてしまってショックを受ける。

「んッ、んッ、んッ――」

 男の生態をわかっているのもショックだった。

 サンプルはおそらく蓮実だけ。

 射精が間近に迫ったのを察したのか、頭の振りを鋭く速いものにチェンジさせる。

 乳房を捧げ持つようにしていた左右の手は、縋るみたいに蓮実の腰にしっかり廻されていた。

 大いに悩むところである。

 人それぞれの好みだったりその日の気分だったり、顔にかけるか呑んでもらうかは永遠のテーマだ。

 どうやら今日の蓮実の選択は、後者になったみたいである。

 顔射ももちろんイイが童貞にはやはり、内側まで汚してしまう罪悪感もあって、牡であるのをより堪能できるごっくんの方が憧れは強かった。

「無理しなくてもいいんだからな」

「むぅッ?」

「ありがとう」

 たぶん必要ない。

「んン……」

 それでも蓮実がそうしたのはエチケット、のようなものなのかもしれない。

 本当のところどうなのかはフェラチオどころか、そもそも童貞の純一にわかるわけもないが、頭をがっちり押さえ込むのは牡として納得できた。

 本能で。

 そうやって純一が心からの理解とともに頷くと同時に、電流でも通されたみたいに蓮実の腰がびくんっと撥ねる。

 口内に深々と挿し入れられていたペニスの先端は、はるかの喉の奥で暴れて濃厚な牡の精をぶちまけていた。

「んぶぉッ!? ぐぅんんッ!!」

 わかっていても少女の目を驚愕で見開かせ白黒させるのに、充分な多量の熱いほとばしりが欲望の嵐となって荒れ狂う。

 何度も何度も蓮実は腰をしゃくりあげていた。

 ぶるるッ。

 水から上がった犬のように身体を大きく震わせていたが、ようやくスペルマを出し切ったみたいで手をどける。

 喉の奥にぶちまけられた熱い牡の欲望に、しばしはるかは動きを止めていたが、勢いが収まったのを確認してずるりと勃起を引き抜いた。

 これがそうなのかもしれない。

 純一はまたしても深く納得してしまう。

「は、ああ……」

 苦しそうな表情をはるかはしていたものの、勃起をしゃぶっていた表情には悦びがあった。

 被虐美というのはおそらく、ああいう貌のことをいうのだろう。

 備えあれば憂いなし。

 薄暗がりの中でズボンとパンツを下ろし、こうなるだろうと情けない予想をしていた純一は、はるかに見蕩れながら若い精を暴発させていた。

 改めて思う。

 自分は森島はるかという先輩女性に惚れてたんだなぁと、淡い恋をぶち壊す生々しい青臭さに包まれながら想った。

 こんなのは今更ではある。

 もう本当に二人の関係は終わってしまったんだなぁ。

 そうやって冬の寒空に放り出されたような寂しさを感じつつも、けれど新しい関係に眼を血走らせながら興奮がどんどん高まっていく。

 こくっ。

 蓮実のモノは余程、喉に粘つき絡むみたいだ。

 味わうようにゆっくり艶かしく上下させ、自分から望んで内側まで犯されている。

 ン……んく……んン~、……ほふーッ。

 舌先で頬の粘膜にへばりついたスペルマをこそげ落として、唇に残った残滓まで舐め取ってからにっこり微笑むはるか。

 吐く息がクローゼットの中と同じように青臭かったとしても、不快さはなくむしろコケティッシュさが増している。

 髪を撫でられ恥ずかしがる姿は、色っぽくもあり可愛らしくもあった。

 またこの貌か……。

 幼馴染も。

 妹も。

 女友だちも。

 そして憧れだった女性までもこうして、自分には見せてこなかった貌を蓮実には晒し、大きな喪失感とともに激しく魅了してくる。

 いくつかのハッピーエンドが存在してたのかもしれない。

 それはそれは幸せで甘いエンディング。

 ゲームやマンガやラノベの主人公みたいに、不自然なくらい恵まれていた奇跡のポジション。

 何もかもが完全に奪われた。

 自分の新しいポジションは物陰からカメラを構えて、淫行教師の供物となった彼女たちを、勃起しながら記録し続けるという情けない役どころ。

「ホザンナ。ホザンナ。ああ……恋のホザンナ」

 虚ろな声小さくで呟く。

 海綿体には破裂してしまいそうなほどの血液が流れ込んで、危険領域を警告するみたいにムラサキに変色していた。

 耳に囁かれるお願いというカタチをした命令。

 悪魔の誘惑。

 もちろん大人しく従って細腕を背中に廻し、縄を打たれるはるかの肢体が拍車を掛ける。

 蓮実には緊縛の心得もあるのか、乳房も淫らにくびりだされていた。

「きついか?」

「だ、大丈夫です」

「まあ跡が残るようなことはないから、その点は安心してくれていいからな」

「それも……、だ、大丈夫です」

「ん?」

「先生のほかに見る人なんて、い、いませんから」

 言いつつ蓮実に支えられて立つはるかは、どこをどう見てもどこか嬉しそうだった。

 ただほんの微かにではあるものの、どこか不安というか緊張も見え隠れしている。

 縛られるのに慣れている女子高生など、そんなにいるわけもないだろうから、当然といえば当然の反応なのだが、はるかの蓮実への信頼度を鑑みる

に少し意外というか、引っかかるものを純一は感じていた。

 怯えている。

 歓喜の表情の裏に潜むものに、純一の胸はまたしても高鳴った。

「……思い出しちゃう?」

「え?」

 蓮実の笑いを含んだ言葉に、はるかの身体がぎくりと跳ねる。

 そのままクローゼットに押し付けられた。

 網目状の隙間。

 あっちからは見えないが、こっちからは見える。

 息も掛かるほどというのがけっして、比喩ではない距離に媚態があった。

 むんっとした甘い香りがする。

 牝の匂い。

 屈んだ体勢からの舐めるようなアングルから、先端を硬くさせた乳房をぐにゃりと歪め、黒い翳りをべったりと濡らしたはるかをレンズに収める。

 刹那だけ純一は迷った。

 目線の高さにあるひと際濃厚なフェロモンを発散している部位。

 ぴたり構えているカメラを置いてこのまま、鼻面を近づけて犬のようにくんくんしたくなる。

 ――橘くん、ワンチャンみたい。

 脳裏にはるかとの遠くなった淡い思い出が浮き上がっていた。

 あのときは戸惑いながらも嬉しかったものだが、今となってはペット扱いをされることに戸惑いはない。

 むしろ主人公から転げ落ちた自分には、駄犬みたいな役どころこそお似合いだ。

 しかしここはぐっと堪えて、カメラマンであることを優先し撮影に専念する。

 あとから編集でどうにでもできてしまうものの、やはりそれはそれでライブ感を大事にしたかった。

 よく考えたらどうせ同じことだしな。

 自嘲の笑みとともに純一は、カメラのレンズを舐めるようにズームする。

 便利。

 すると嗅覚の機能まで拡張されたみたいに、牝のカルマなアロマが強くなった気がした。

 カメラを置いてトリガーに手をかける必要もない。

 わざわざ手を使って一生懸命シコらずとも、呆れれるほどナイーブなペニスは勝手に、情けないくらい勢いよく暴発するのだから。

 羞恥と悦楽が責めぎ合っている貌。

 卑猥過ぎる豊かで柔らかな、牡を惹きつけて止まない乳房。

 視線を下に落とせば、秘裂に咲く大輪の淫らな花……。

「あ、ああンッ、ぅあッ、あッ、んッ、んふッ、せ、先生、あッ、は、ハスミン、せ、ああああッ」

 そしてしゃがんで背後にぴたり顔を張り付かせた蓮実に、排泄器官を執拗に舐めしゃぶられて身悶えている。

 ガニ股の恰好になっているのが妙にエロい。

 蓮実の舌が踊るたびに、ポールダンスでもするようにアップダウンをくり返し、鏡越しに握った手をグーパーをしているのがまたエロい。

「ぐりぐり、ソコ、あンッ、ソコ、ソコ、ぐりぐり、あはぁッ、あッ、あッ、ぐりぐり、し、しちゃ、ンゥッ、あッ、だ、だめ、だめぇええッ!!」

 はるかだってヒューマンだ。

 大もすれば小もする。

 いくらなんでもまったく無菌の、清潔であるということはありえない。

 けれどソコが汚いという感情は一切湧かなかった。

 どんなに変態チックであったとしても。

「ひィィィッ!? ンゥウウ、あッ、くぅああ、お尻、ああッ、お尻ばっかり、ハゥッ、んンッ、お尻ぃいいッ!?」

 羨ましい。

 純一は我知らず舌を蠢かせて、ぬろりと不気味に唇を舐めていた。

「はるかは初めてのときから、お尻が好きだったもんな」

 顔を上げた蓮実がにやりと笑う。

 あちらからこちらがわかるわけはないのだが、カメラのレンズにドンピシャのスマイルだった。

 天井からの照明に反射して、白い歯がきらりと光っている。

 それは常日頃から授業のときにしているモノで、やる気のある生徒などに対して、何気なく自然に浮かべるモノに似ていた。

 先生はちゃんと俺たちを見ててくれてる。わたしたちのことを見ててくれてる。

 他の教師にはない視点に、モチベーションを高められるのは間違いなかった。

 そしてそういうとき生徒の熱意にさらに応えるように、蓮実の授業は加速し心を鋭い爪で鷲掴んで離さない。

「ホントに憶えてない? そろそろ思い出してくれないとショックだなぁ。はるかの温かい直腸を、ポンプ小屋で初めて抉ったこの舌の感触をさ」

 ……ど、どういうことだ? ポンプ小屋って?

 このまま付き合えるかもと夢見ていた時分、純一も何度かドキドキしながらはるかと、人気のないポンプ小屋で密会に及んだことがある。

 その際主人がペットにするようにそっと優しく眉にキスされたり、ペットが主人に戯れるみたいに膝の裏などにキスしたことはあった。

 が。

 短いスカートの奥を覗きそうになったことはあっても、もっと奥に息づく秘めやかなアナルにキスしたことなどない。

 蓮実からカメラマン代のご褒美として貸してもらったDVDで、はるかの痴態はそれこそ穴が空くほど飽きることなく観ている。

 好きな映画を語るマニアのように、目を瞑れば細部までリプレイすることができた。

 お尻の穴が好きで敏感なのは知っている。

 責められるといつも顕著な、牝剥き出しの反応を示していた。

 けれどはるかが弄ばれ嬲られているのは、どのシーンを再生してもこの部屋でのものばかりで、ポンプ小屋で犯されている映像はどこにもない。

 現場はいつもこの部屋。

 玄関だったりバスルームだったり、キッチンだったりベランダだったり、シチュエーションは色々でも全てこの部屋である。

「なんならスタンガンで痺れさせてから、目隠しもしてやれば思い出してくれるかな?」

「は、ハスミン先せ、ぅッ、そ、それ、は、うぁああッ、はン、ど、どういう、あッ、んンッ、ど、どういう、い、意味で、あッ、ンあああッ!!」

 舌は引き抜かれたが代わりにすぐさま、指をぬぷりと挿入されているはるかより、蓮実の言葉を理解するスピードはさすがに早かった。

 足りなかったパズルのピースが急速に集まっていく。

 残念ながら自分の手で集めたわけではなかったが、これまで漠然とあった違和感がようやく完成した絵になった。

 はるかとは上手くいっているはずだったのに、青天の霹靂で切り出された唐突な別れ――、というより憎しみすら篭っていた拒絶も。

 可愛く甘えてくる兄離れできなかった妹の、興味が失せたかのようなあっさりし過ぎな巣立ちも。

 甘えだったのに気づかず傷つけ続けた幼馴染との間に、もう永遠に埋まることのない大きな溝ができたのも。

 腐れ縁という心地よい距離だった女友だちがある日から、嫌悪の視線で睨んでくるようになったのも。

 蓮実……。

 やっぱりそうだった。

 全ては蓮実が善人顔でみんなを騙し裏で糸を引いて、こうなるように虎視眈々と企て仕組んでいたのだ。

 ちくしょう。

 純一はなぜか涙を流していた。

 掌の上で踊らされていたのがはっきりしたのに、怒りや悲しみの感情だけではなく、踏みにじられた思い出まで悉く欲情に変換され勃起している。

「こっちのヴァージンを奪ったのも、純、橘じゃなく俺ってことだよ」

 蓮実は折れそうに細いくびれた腰を、ぐいっと掴んで後方に引き寄せた。

 自然と背中が反り返り、ヒップを突き出すような恰好になる。

 凄惨な笑みが浮かんでいた。

 バックから勃起を押し付けようとしている腰の位置が、童貞の純一でもわかるくらい秘裂を狙ってるにしては少し高い。

 ロックされているのがどこか想像しただけで、心臓と勃起がぴくんっと跳ねて高鳴った。

 血液のほとんどが、二つの器官にしか流れてない。

 心臓と海綿体の蜜月。

 ドクンッ・ドクンッ・ドクンッ・ドクンッ……。

 企業に喩えるのなら間違いなく、ブラックなオーバーワークだろう。

 このまま上半身と下半身の、それぞれシンボル的な重要パーツが爆発して、死んでしまうのではないかと本気で心配し本気で期待した。

 そしてはるかの唇から零れた言葉が、恍惚へと誘うより激しい負荷を掛ける。

「嬉しい……」

 涙声ではあったが、喜びに溢れていた。

 双臀を撫で回されてぶるぶる震えながらも、首を後ろに曲げて真珠のように綺麗な白い歯を見せる。

 振り返った表情はフル稼働しているはずの心臓のボルテージを、またもう一段階ペースアップさせるほどドキッとさせて艶かしい。

「……わたし、は、ハスミン先生に、……そ、ソコも、橘くんなんかじゃなくって、は、ハスミン先生に……奪って……も、もらえたんですね……」

 道化もここに極まれりだ。

 最早蓮実はレイプ犯であったことすら赦されてしまうのに、自分は救済どころか断罪される価値すらない存在に貶められている。

 だがそれも似合いの配役だと、純一は深く理解し納得できた。

 身体だけでなく心まで穢されてしまった憧れの女性。

 こうやってクールにカメラを構えて撮影しながら、ガチガチに勃起してるような奴の価値はそんなものだろう。

 否。

 あるだけマシだ。

 ホザンナ。ホザンナ。ああ、恋のホザンナ。

「……そうだよ。はるかのアナルが咥え込んだことのある勃起は俺のだけだ。だから気持ちが良ければ、好きなだけイちゃえばイイんだ」

 我慢なんてしなくってもいい。

 解放しろ。

 悪魔が囁いている。

 汗でぬめる肌のあちこちを気味が悪いほど優しく撫でつつ、尻肉をがっちり掴んで蓮実は腰を前進させようとしていた。

 割り開かれた谷間の奥で可憐でありながら淫らに息づく、ピンクのアナルに野太い勃起を押し込もうとしている。

 女体がぞくりと粟立ち、緊張したのがわかった。

 水飴を零したように半透明の愛液が、幾筋もゆっくり内腿を滴っていく。

「え? ちょ、は、はるか? そこ、そこって、え、えっと、は、ハスミン先生、そ、そこは違うんじゃ?」

 どうやらいつの間にか、意識を取り戻していたらしい。

 たぶん寝ぼけたように二人のやり取りを、見るとはなしにぼーっと眺めていたのだろう。

 夢うつつで。

 なのでアナルというワードが、実際キーになったかは定かでない。

 だがとにかく響の意識が完全に覚醒したのは、信じられないものを見るようにして、目を見開き身体を起こした今みたいだった。

 勃起を迎え入れる角度のおかしさにも、自分もさっき初めて迎え入れたばかりなので、過剰なほど敏感に気づいたようである。

「目が覚めたのなら丁度いい。もっとこっちにおいで。そこじゃわかり辛いだろ? 響も後学のためによく見ておくんだ」

 おまえのアナルも犯す。

 それはそう宣言したのと同じだった。

 ……同じなのに。

 後ろのヴァージンも奪うと宣言されたのに。

 ごくっ。

 不安がないわけではないだろうが、上回る期待で思いのほか唾を呑む音が大きく響く。

「ほら。早く」

 急かされるとふらふらしながら、アナルを穿たれようとしている親友が、つぶさに観察しやすい位置に陣取った。

 こういうのも攻守入れ替えてというのか、十数分前は親友の肛門を至近から観察していたが、十数分後は自分の肛門を親友に観察されていた。

 どこまでも仲が良い。

「み、見ないで」

 はるかは女子高生らしからぬ婀娜っぽい吐息を漏らした。

 響の熱心過ぎる視線を感じているみたいで、泣き顔で親友に懇願しながらも、先端を尖らせた乳房を妖しく揺らしている。

 もともと落ち着きを失っていた呼吸が、発情した犬みたいに乱れていた。

 ハァハァハァハァ……。

 釣られたのか響の息遣いまで荒くなっている。

「ちゃ~んと見てるんだぞ」

 残念ながら純一のポジションからのアングルでは、アナルの様子をカメラに収めることはできない。

 畳一畳もないスペースに所狭しと、四人もの男女が群がっていると、計算し尽くして置いたはずの鏡でも視界は確保できなかった。

 だからといってそれで、画がツマラなくなるわけではない。

 たとえ目には映らなくとも、心に訴えることはいくらでもできる。

 蓮実や響の視線や表情が、アナルがどうなっているのかを教えてくれていた。

 脳裏に描くのはそんなに難しくない。

「……あ、ああ……、み、見ないで、ハスミン先生……響、ちゃん……、ン、ぐぅううッ!!」

 はるかの切ない吐息と相まって、シワが勃起に圧迫されて引き伸ばされ、キレイなリングをカタチ作られているのを……。

 侵食するようにじわりじわり、焦らすかのように少しずつ、慄く身体に馴染ませるみたいに、いや、思い出させるみたいに押し込んでいく。

 男ならきっと蓮実の悦楽を、理解し共感できるはずだった。

 そして嫉妬するだろう。

「うぁああ!?」

 根元まで密着され悲鳴を上げた乙女の直腸から、蓮実がどれほどのモノを感じているのかを、想像し共感はできても経験し実感はできないことに。

 自分で自分の勃起をシゴくしかないことに、空しさを覚えながらも興奮を抑えきれないことに。

 甘く危険な刺激を感じてしまうのは疑いない。

 ハンドフリーな状態で勃起をびくんびくんさせつつ、いつでも暴発寸前の純一は揺るぎない絶対の確信をしていた。

 もちろんそのスリリングな刺激を、英語教諭と共感できているのも。

 アナルを犯す蓮実の腰の動きは、ゆったりとしたものだったが、尻たぶが歪むほどの圧で複雑な円を描いている。

「は……、ぁ、ふぁ……、あッ、ああああッ!!」

 それによって可憐な口唇から漏れるのは、明らかに快楽を享受する牝の声だった。

 牡に媚びている卑しくも美しい貌と、網目状の格子越しにぴたり目が合う。

 ブルーの瞳には、欲情の炎がめらめら燃えていた。

「んぁッ、うくぅッ、あッ、あッ、あッ、ああ、あふぁッ、くぅンッ、ふ、深いッ、あンッ、深すぎますッ、そんなに、そん、あひぃいいッ!?」

 蓮実のピストンは相変わらずスローペースを保っていたが、急所を知り尽くし的確に捉えているのか、はるかは一突きごとに歓喜で狂い黒髪を宙に

舞わす。

「ひッ、ひッ、ひぅッ!!」

 けっして慌てることのない焦れるような抽送が、はるかを容赦なく執拗に追い詰めていた。

 腰を振っているのがティーンであり童貞である純一であれば、速いだけが売りの単調で独りよがりなピストンに終始していただろう。

「ああンッ、ぅ……は、んぅ、あ、ああ、くぅんんッ、、アアッ、んあッ、は、ハスミン、せ、んぅッ、ン、あはぁッ!!」

 憧れだった先輩が感じれば感じるほどに、純一の胸に敗北感とどうしょもない興奮が広がっていく。

 悔しくてならないが、それでも撮影するのをやめられない。

 はるかの浅ましく堕ちていく魅惑の痴態を欠片であっても残さず、カメラで克明に記憶し美しく記録したくて堪らなかった。

 AV業界とかに、向いてるのかも。

 思わぬところで将来の進路を決定しそうになりながら、純一は何度目になるか数えるのも馬鹿らしく射精していた。

 そしてもうこちらも、数えるのが馬鹿らしい。

 またボッチで空しく先にイッてしまった。

 情けない。

 というより見っともない。

「あンッ、んゥッ、ぅ、うぁああッ、は、はひッ、ひッ、ひッ、ひッ、いひぃいいいッ!?」

 好きだった人がこうして犯されるのを、こっそり覗いてくり返される現象は、男ならではあったが男として最低で消えてなくなりたい。

 だがそうだとわかっていながらも、若さの証明のように再び海綿体に、ほとんど間を空けずに血液がリチャージされていく。

 クローゼットはもうすっかりぐちゃぐちゃだった。

 何度も嗅いでいるはずなのに、今日はやけに鼻に吐いて酷く生臭い。

 けれどそんな汚泥に包まれてするエレクトは、気持ち悪さとともに気持ち良さが潜んでいる。

 最高の勃起だ。

 蓮実には恨みもあれば憎みもあるが、この悦楽を捨てることはできそうもない。

「ん……、んンッ」

 抽送のペースを上げながら背中に覆い被さった蓮実に振り返ると、はるかはごく自然に舌を伸ばして唇を重ねている。

 嬲られ続けるアナルに負けじと音をさせ、くちゅくちゅといやらしく唾液を攪拌させると、当たり前のように喉をこくんっと蠢かせた。

「むうッ、んッ、ふぅんッ、あッ、ンぁああッ!!」

 ディープキスをしたことで増幅されたみたいに、唇が離れるとさらに大きくなった喘ぎ声が迸る。

 乳房を揉みしだかれながら、悶え方をいっそ激しくさせていた。

「ああンッ」

「どっちがイイ? お尻とこっち?」

「そんな、そんなの言え、あッ、んくぁッ、あッ、言えない、あッ、はああンッ、言えな、言えませんッ、そんなの、……そんなの言えないッ!!」

 十代の少女としては当然の言い分である。

 ――そして当然許されない。

 許すはずがない。

「言えないってことはないだろ。どっちの方が好きなのか、どっちが気持ちイイのか、イエスかノーで答えよ」

 蓮実はぴんぴんの苛めていた乳首をキツく摘んだ。

「ひぅッ!?」

「こっち?」

「イッ、ぅくぁッ、い、イエス、ッ、い、ああッ、イエスですッ」

「それならじゃこっちは?」

「そ、そっち、そっちも、ど、どっちも、あくぅッ、イエス、んぅううッ、い、イエスですッ!!」

「はるかはけっこう欲張りだなぁ。響もそう思うだろ?」

「え、あ、は、はい」

 油断というか不意を突かれたというか、とにかくオフっていたらしい。

 いや、ある方面への関心のみが、高まりすぎたというべきか。

 熟した果肉のように濡れた秘裂も弄くられて、恥ずかしい質問のアンサーを求められた親友に、どうやら心奪われていたみたいである。

 挙動不審。

 本来なら排泄するだけの器官に挿入される勃起を、切れ長の目を見開いて凝視していた響は、万引きがバレたみたいに驚いてコクコク頷いていた。

 気持ちはわかる。

 純一もカメラさえなければ、普段の大人っぽい雰囲気とのギャップが可愛い先輩みたいに、蓮実の質問に間抜けにコクコク頷いていただろう。

「ああッ、お、お願い、ひ、響、んあッ、ハゥッ、んンッ、み、あッ、見ないで、あッ、あッ、あッ、み、見な、あッ、はぁンンッ」

 はるかは欲張りだった。

 そのくせカマトトぶって嘘つき。

 延長に延長を重ねレンタルし続けたDVDで、穴が開くほどたっぷり観ている。

 太い勃起をあれだけ咥え込まされたのに、未だにキツそうにファックする蓮実の中指を締め付けていた。

 そしてアナルの方も、相当な締め付けなのだろう。

 学校内で散々披露していた見慣れた笑顔こそ崩れてないものの、はるかの括約筋の素晴らしさに余裕がなくなってきたみたいだ。

 ねちっこくゆったりしたスローペースの責めが、固い岩盤をボーリングする掘削機のように、パンッパンッと軽快に尻肉を打つ音を響かせている。

 単調なテンポだがそれだけに、耳を傾けずにはいられない。

 ホザンナ。

 わたしを救って。

 切ない祈りを聞き届けて。

 脳内に流れている微妙な不思議ソングと、奇跡のような絶妙のコラボを果たしていた。

「んぁッ、あッ、ン、んンッ、あンッ!? あ、ひッ、あひぃッ、ひッ、ひッ、ひッ、あ、ああッ、あひぃいいッ!!」

 背筋を反らし美しい媚貌を晒したはるかも、ビブラートを利かせた甘い悲鳴を奏でて参加する。

 蓮実のワイルドでパワフルな腰振りのリズムラインと絡んで、二人はそれぞれのサウンドを自己主張しながら極上の音楽を創り出していた。

 本能の趣くまま快楽を一心不乱に貪っている。

「はひぃツ、ひッ、ひッ、う、うぁああッ、あッ、いひぃいいッ!?」

 はるかのまるで理性をかなぐり捨てたかのようなその貌は、これまででもっとも純一をゾクリとさせる妖艶なモノだった。

 ああ。

 恋のホザンナ。

 神様、お願い……。

 びゅ、びゅ、びゅぐんッ!!

「ひゃぅッ!!」

「うぐぅッ!!」

 ジンクスのご利益があったのか、純一とはるかは同時に絶頂に達していた。






[41992] アクガミ 三十話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/08/11 10:04




 上崎裡沙は教室に戻ろうとして立ち止まった。

 胸がドキッとする。

 向こうからやってくるのは、二年A組の橘純一だった。

 独り。

 家庭の事情で梅原正吉が休みがちになってからは、あまり誰かと連れ立っているのを見たことはない。

 ボッキ王子という通り名がすっかり広まり、女子の間では好感度がしっかり急落している。

 気の毒ではあったが裡沙としては、ちょっと安心した面もあった。

 おかしな虫が付くことも、これで当分の間はないだろう。

 この人の魅力は、自分だけがわかっていればいい。

 彼のことはわたしがきっと守る。

 それが二年前のクリスマス・イブに、傷ついた純一にした裡沙の誓いだった。

 自分以外の女の子は近づけさせるもんか。

 そう裡沙は意気込んでいたのだが、どうやらまたしばらくは、心配する必要はないようである。

 ミス輝東日と言っていい森島はるかと、付き合っているという噂を耳にしたときも。

 非の打ち所のない優等生で、才色兼備な絢辻詞と生徒会長選挙を通して、親しげにしていたのを見たときも。

 男女を問わず人気があり、知り合った時期は自分の方がずっと早いはずなのに、自分よりもずっと仲がいい棚町薫がそばにいたときも。

 自分よりもずっと前に知り合っているものの、おっとりした癒し系なので、進展はないと油断してノーマークだった桜井梨穂子にも。

 見るたびに小さな胸の奥がざわざわとざわついた。

 だけど期待させるだけ期待させて彼女たちも、どうせ最悪のタイミングでこっぴどく純一を裏切るに決まっている。

 姑息なのは自覚しているが、それでも行動せねばと裡沙は、都合のいい決意をしていたのだが……。

 手間が省けた。

 今はもう純一の周囲に女の子の影はない。

 詞や薫などの一部の女子には、なぜだかひどく嫌われているようだが、全体としては距離を置かれている状態みたいだ。

 勃起。

 高校生の男子の生理現象くらいは、高校生の女子なら理解している。

 なので些か不思議だった。

 もちろん好意的に受け取られるわけはないし、瞬間的な拒否反応は仕方がないが、いつまでも敬遠されているというのは違和感がある。

 小中高をトータルすれば九年間。

 トイレが間に合わなくて漏らしてしまうとかだったり、その後リカバリーが困難な黒歴史というのはあるものだ。

 たとえ数十年ぶりの同窓会であったとしても瞬時に、鮮明に当時の思い出が蘇ること請け合いである。

 学校生活での格であるとかランクであるとかが、著しくダウンしてしまうのは仕方ない。

 とはいえもっと露骨な下ネタやセクハラをする生徒や教師が居るのに、純一だけがやたらクローズアップされていた。

 異常かもしれない。

 しかしそこは自分に都合がいいように、おかしなところは無意識に見ないようにしていた。

 裡沙にとってなによりも重要なのは、純一に女の子が近づかないことだから。

 密かにチラ見しつつ、軽く頭を下げてすれ違おうとした。

 思いがけず、はっと身体が固くなる。

 ほんの刹那だけ目が合った。

 淡い期待をする。

 もしかしたら……。

 だが純一は視線をすぐに、顔ごと窓の外に向ける。

 ズキリとした胸の痛みとともに、裡沙も釣られて窓の外を見た。

 創設祭のオブジェなのだろう。

 マニアが制作に関わっているのかもしれない。

 もの凄く凝った造りの巨大ロボットの足組みの下でなにやら、ファイルを手にした詞とそれを覗き込む高橋麻耶教諭が話し込んでいる。

 裡沙とは格とかランクが違う二人だった。

 麻耶は学生ではないが、学生だったときも格やランクは、それこそ普通に裡沙より上位だっただろう。

 ただ話し込んでいるだけで二人とも、きっちり画になるというかキマッているのだった。

 詞からも麻耶からも男に媚びない、デキる女ですオーラが出ている。

 カッコよく凛々しい。

 清く正しい学校案内のポスターにでも、そのまましたら良さそうな二人だった。

 年頃の男の子ならどうしたって、考えるまでもなく目を奪われてしまうのもわかる。

 まして、

「やンッ!?」

 純一が大人な紳士であったとしても、この重力から視線を逃がすのは不可能。

 心のフォトに消えないメモリーとして、きっと鮮やかなフルカラーでばっちり収められたはずだ。

 イタズラな風に制服のスカートの裾がふわりと捲れ、刹那であったが白い下着を網膜に灼きつけるのに、たぶん男の子だったら苦労しないだろう。

 なんせ同じ女の子である、裡沙でさえそうなのだから。

 もっとも感想は異なるかもしれない。

 絢辻さんって……、やっぱり穿いてるパンツ……、白かぁ……。

 さすが隙がない。

 いつ誰に見られてもいいようにというわけではないだろうが、いつ誰にどこを見られても詞は天下無敵の優等生だった。

 判別できる距離ではないが、大人が求めている高校生というか、おじさんが喜ぶ女子高生というか、生地は綿100パーセントであろう。

 断じてシルクだったりの、夢を壊してしまうような素材ではない。

 そのくせ女の子もサボってないのは天晴れ。

 派手にならないレースがあざとくなく自己主張しており、絶妙なバランスで控えめな可愛らしさを演出してる。

 まあティーンの男の子からすれば、パンツはどれも所詮はパンツで、その細部に興味はないだろうけど。

 同年代の女の子のするリアクションの方が、当然といえば当然でより関心があるのは必然だ。

 顔を真っ赤にし慌ててスカートの裾を押さえる仕草にも、同性の裡沙でさえドキッとする堪らないギャップがある。

 純一の目が眩しいものでも見るように細められた。

 口角が僅かに確実に上がる。

 嬉しそう。

 そこへさらにさらにだ。

 追い討ち。

「あ、大丈夫?」

 散らばったファイルを麻耶が拾おうとする。

 タイトスカートなので風がちょっと吹いたくらいで捲れることはないが、お尻を突き出すみたいに前屈みの姿勢を取ったことでずり上がった。

 下着まで覗くことはなかったが、それでもチラッと目に映ったモノがある。

 高橋先生……、大人の女性だなぁ……。

 穿いているパンツがどんなものなのかにも興味があったが、むっちりした太腿に装着されているものにも大いに興味があった。

 もしかしたらテレビや雑誌以外では、初めて見るかもしれない。

 ガーターベルト。

 ここまで色気が漂ってくるような妖しく黒いやつだった。

 エロい。

 詞の可愛いショーツと一緒で、目に映ったのはコンマ何秒の世界だったが、鮮烈な記憶として若い脳に灼きつくのに充分の威力。

 純一はもう顔どころか身体ごと乗り出して、穴が空くほど熱心にじっと二人を観察していた。

 はっきりした笑みが浮かんでいる。

 ぞっとした。

 純一が自分を知っているかどうかは、かなり怪しいところではあるが、自分は純一を知っていると自信を持って言える。

 いつまでも牛乳が飲めず泣きそうになっていた自分を、何も言わず純一が助けてくれた小学生のときから、いつだって目は純一を追いかけてきた。

 とはいえ知らないことは沢山あるだろうが、こんな顔をして笑うなんてことは想像すらしてない。

 片想いというフィルターがあってさえ、それは薄気味悪いものを感じさせる笑みだった。

 不安な気持ちを抱えながら、後ろを通り過ぎようとする。

「……ホザンナ。ホザンナ」

 何か呪文のようなフレーズをぶつぶつ呟いていた。

 振り返るが熱心に観察を続けている。

 予鈴のチャイムが鳴ったがまったく反応せず、窓の外を眺めたまま佇んでいた。

 教室に戻り席に着く。

 自分はたぶん卒業してしまったら、記憶に残らないタイプだろう。

 存在感は驚くほど希薄だった。

 仲の良い友だちどころか、イジメの対象にすらならない。

 ずんっとそれで落ち込むことも度々あるが、何にでも役に立つ場面というのはある。

 けっこう傍に居るのに気づかれないので、意図してないのに内緒話を耳にすることが多い。

「……橘くんとはその、あー、もう、いいの?」

「うん」

 伊藤香苗は眉間にシワを寄せて心配そうに尋ねたが、それに対する梨穂子の回答は簡潔なものだった。

 硬い声ではあったが、きっぱり言い切る。

 何か些細でもいいから切欠さえあれば、そうなるのもそう難しくない。

 裡沙は友だちというわけではないが、梨穂子にはシンパシーを感じていた。

 今までも何度かこうやって、ナイショ話を盗み聞きしている。

 片想いの同志だ。

 裡沙も小学生の頃からなのでなかなかこじらせているが、梨穂子は幼稚園の頃からで年季という意味では先輩である。

 どうせ自分以外の女の子は、最後は純一を裏切るもの。

 強迫観念のように裡沙は信じているものの、梨穂子ならだいじょうぶかもしれないと、認めたくないが認めざるを得ないと思っていた。

 ほんの少しだけだが。

「ホントに?」

「うん」

「最近の橘くんはちょっと評判が芳しくないけど、逆にチャンスっていやチャンスなんだよ? ……それでも桜井は諦めちゃうの?」

「うん」

 なので梨穂子のリタイア宣言には、強力なライバルが消えた嬉しさもあるが、仲間が去っていく寂しさもあって衝撃だった。

 それこそ裏切られた気分である。

「あ、でも、純一を諦めたっていうよりも、えっと、その、あ、新しい恋を、み、見つけたというか、他に好きな人、で、できちゃったかなぁ、て」

 淡くほんのり顔を赤くさせて、照れたように微笑みながら、梨穂子はちらっと教室の入り口を見やった。

 誰も居なかったが誰を意識しているのかは、言葉にしなくとも香苗に伝わったようである。

 もちろん裡沙にも伝わった。

 ただこれといって二人の察しがいいわけではなく、この手の反応をする輝東日の女子は別に珍しくもない。

 思わせぶりに聞いて欲しそうにしつつ、誰しもどこか誇らしそうな顔をするからだ。

「あー、ええっと、そう、なん、だ? ああ、おめでとう、でいいんだよね?」

「ありがとう、かな?」

 命短し恋せよ乙女という名言もあるので、新しい恋を見つけることそれ自体は、裡沙本人は一途派だが責められることではない。

 ……ないのだが同じ派閥だと思っていた梨穂子が随分あっさり、幼馴染から英語教諭に乗り換えたのが気になった。

「香苗ちゃん。わたしを応援してくれるよね?」

 未練はなさそう。

 流行りモノみたいに目移りしたわけではないにしても、ここまでスムーズに心変わりしたのは些か意外である。

 授業開始のチャイムが鳴ってしばらく、見慣れているのに見飽きない爽やかを振り撒き、今日もにこやかな笑顔で蓮実が教室に入ってきた。

 雑談を交わしていた生徒たちも、ぴたりと口を閉ざして注目している。

 女子の視線はほとんどが熱に浮かされたような、所謂不治の病に罹っている者特有のものだった。

 二年B組も他のクラスの例に漏れず、英語だけは他の教科よりも群を抜いて平均点が高い。

「No rest for the wicked!!」

 立て板に水の流暢な弁舌に、皆が耳を傾けて聴き入っている。

 教壇でいつもの調子で、蓮実は授業を進めていた。

 けれど裡沙の頭には入ってこない。

 窓の外は別世界のようである。

 たまに米軍機が横切っているのを除けば、わくわくするような景色で抜けるように青かった。

 高校生。

 それは大人でも子供でもない年頃。

 人生で二度とは来ない貴重で大切な時間である。

 命短し恋せよ乙女。

 自分も梨穂子を見倣ってもうそろそろ、片想いにピリオドを打つべきかもしれない。

 他の女の子の邪魔ばかりしても、虚しくなるばかりだ。

 二年前のクリスマス・イブ。

 純一を笑い者にするそのためだけに、その気もないのに思わせぶりに、付き合っているふりをした女子がいた。

 その気があったが叶わなかった裡沙は、付き合っていると最初に知ったとき、哀しくもあったがそれで純一が幸せなのならと、誰にも知られず想い

を封印して祝福しようとまでしてたのに……。

 冗談交じりに女子数人で集まって晒そうというイベントを、偶然立ち聞きした裡沙は純一が少しでも傷つかないようにしたつもりだった。

 結果は裏目。

 女子たちに当日の待ち合わせ場所が変わったと告げ、純一は放っておいたのだが諦めなかったらしい。

 何時間も何時間も来るわけのないカノジョを、もしかしたらもしかしたらと純一は、雪の降る公園で独りぽつんっと待ち続けていた。

 裡沙としては純一を想ってしたことである。

 だが結果からいえば純一の心に、トラウマという深い爪痕を残しただけ。

 そして振り返り自分の真意を測ってみればあのとき、醜い嫉妬は無かったかと問われれば、無かったと言い切ることは裡沙にはできなかった。

 恋愛に萎縮している純一を気づかれないまま見守りつつ、誰にも気づかれないよう密かに贖罪を行う日々だったのだが……

 もう解禁してもいいのではないか?

 梨穂子のように新しい恋を見つけるのもひとつの選択肢だし、トライしして玉砕するのも踏ん切りがついていいのかもしれない。

 純一は過去の恋愛に前ほど囚われてないみたいなので、禊は終わったと判断してもいいだろう。

 このもやもやした心をどうにかするために、純一に対して何らかのアクションをしても、いいかげん許されてもいいのではないだろうか?

 とそんなことをぼんやりと、いつもなら考えていたかもしれない。

 しかし、今、裡沙の頭を占めているのは、それとはまったく別のことだった。

 いや、けっきょくのところ純一のことを考えているのだが、片想いだとか新しい恋だとかいうことではない。

 その豹変ぶりだった。

 好きな子にふられて落ち込んでいるだとか、大多数の女子にハブられて憂鬱だとか、そういうレベルでのモデルチェンジじゃない。

 とてつもなく深い絶望の淵に囚われている気がする。

 だからあれだけ憑かれたような、無機質なのに粘着のある笑顔を浮かべられるのだろう。

 裡沙のさっき見た純一のイメージは、泥に塗れながらじっと目を閉じて、死んだように動かない巨大なワニだった。

 周囲を飛び回るハエに対しては無関心だが、誰にも予測できないタイミングで激怒した瞬間、獰猛な顎を開いて獲物に襲いかかる……。

 もちろんそれは、自分が勝手に描いている妄想に過ぎない。

 昔から想像力が有り余って過多であることは、もう嫌になるほど裡沙自身も重々自覚している。

 慣れっこ。

 暴走してしまうのはいつものことだ。

 なのでよくはないがよくあることなのだが、それがよりにもよってまさか純一に、こういうカタチで適用されるとは考えたこともなかった。

「状況によって、いろんな訳が可能ですね。悪事を働くと心は晴れない。巨悪は眠らせない……and so on and so forth.」

 そんなわけでつい聴き入ってしまう耳障りのいい蓮実教諭の声も、今日はなぜか聞くだけでむかむかしてきてとても不快である。

 純一のイメージがより危険なものにならぬよう、痛みを堪えるみたいにして、ふるふる頭を振り無理やりのシャットダウン。

 どうにか意識を純一からも蓮実からも逸らそうと、校庭でドッジボールしている女子の体育の授業に目を向ける。

 一年生なのはすぐわかった。

 美也がいる。

 向こうが覚えているかは定かでないが、純一の妹として裡沙の方はよく知っていた。

 チームメイトはどうやら全滅してしまったみたいで孤軍奮闘。

 まさしく猫のように軽やかにひらりひらり、前から後ろから右から左から飛んでくるボールを、余裕の笑顔で危なげなく避けている。

 ジャージーになっている女子ばかりだが、上下脱いでのブルマ姿で、体操服から可愛いオヘソを覗かせて駆け回っていた。

 心から楽しんでいる。

 キャッチまではさすがにちょっと難しそうだが、時間いっぱい逃げ切るのは簡単そうだった。

「ここで大事なのは、the wickedです。覚えてますね? the+形容詞は、形容詞+peopleと同じだということを。つまり――」

 ネイティブのような発音で英文を読み聞かせ、ジョークを交えて興味をつなぎ、正しい解答には賞賛を惜しまない。

 授業はさくさく進んでいた。

 うわの空の裡沙を置き去りにして。

 このまま永遠に逃げ切れるのではないか?

「にゃッ!?」

 そう思ってぼーっと眺めていた美也が、勝手にバランスを崩してあっさり被弾したのは、授業終了のチャイムが鳴り響くのとぴったり同時。

 どうやら顔面狙いはなしのルールだったようだが、髪をツインテールにした子の、遠目にも力のないボールに直撃されていた。

 ダメージはないみたいだが、鼻を押さえて恥ずかしそうにしている。

 そんな美也に土下座せんばかりの勢いで、ツインテールの子がペコペコ頭を下げて謝っていた。

 いいっていいって。

 ここにまで声は聞こえないものの、そう言っているのは間違いないだろう。

 何でもないかのように手をパタパタ振って、安心させるみたいに殊更元気に立ち上がる。

 そのとき不意にチラッとショートカットの子が、美也に脱いだジャージーを渡しながらこちらを見た。

 おそらくこの教室の生徒でただ一人英語の授業でなく、校庭で行われている体育の授業に集中していたからかもしれない。

 ほんの刹那だけ走った視線を追えた。

 終着点。

 蓮実教諭が目立たないように、さり気なくその子に頷いてる。

 確か水泳部の、そう、七咲逢だ。

 一年生なのに来期の部長に指名されたことで、校内ではちょっとした有名人になっている。

 これといって別段、おかしなことはない。

 逢は自分が担任している1年B組の生徒である。

 教え子の声を聞きつけて、蓮実が窓の外に目を向けたのは、必然とまでは言えなくとも、当然とは言えなくもない。

 が。

 ……なんだろう?

 裡沙にはそれでも漠然とではあったが、どこか引っかかるというか違和感があった。

 しかしひとまずそれはそれとして、疑問は抱きつつも昼休みである。

 人間だってアニマルでしかないので、どんなに思い悩んでいてもお腹は減るのだ。

 さて。

 いくらなんでも見える人にしか見えない幽霊ではない。

 二年B組は梨穂子を代表格に、比較的優しいクラスメイトが多いので、教室でぽつんっと座っていても、独り寂しくお弁当をつつかなくとも済む。

 ステルス機能のある忍者でも、見つからないのは至難だし、見つけてくれれば声を掛けてくれる。

 けれど裡沙は巾着袋を持って教室を後にした。

 気を遣われると気疲れする。

 ぼっちゴハンは好きで苦にならない。

 壁を作っているのは、他人ではなく自分なのかも。

 と。

 反省するがそれはそれ。

 校内一人旅は慣れたものなので、静かな場所の心当たりはいくつかあった。

 体育用具室周辺は、意外に狙い目である。

 授業終わりこそバタバタしていて騒がしいものの、早く着替えや昼食にしたいのもあって、準備は遅いが片付けはどのクラスもスピーディー。

 だいたい四、五分もずらせば、きれいさっぱり人気はなくなる。

 放課後までは誰でもフリーパスで施錠はされてない。

 急ぐ理由もないので六、七分待ってから、裡沙は慎重に体育用具室の扉を開けた。

「お邪魔しま~す」

 一応そう断りを入れてから、誰も居るはずのない部屋に入る。

 なので心底驚いた。

「……先生?」

 すでに先客が居たことに。

 ジャージー姿。

 さっきまで校庭でドッジボールをしていた1年B組の生徒だろう。

 五時限目の体育の授業のためにあらかじめ、事前に着替えている生徒ではない。

 柑橘系のスプレーを使ったみたいだが、ほんの微かにではあるものの仄かに汗のニオイがした。

 混ざったことで甘い香りがする。

 ドキッとした。

 70cm。

 女の子同士だったがいろんな意味で、控え目なバストサイズの胸が高鳴る。

「あっ!?」

 そして裡沙も予想外のことにびっくりしたが、逢の方はもっとびっくりしたみたいだった。

 二人の少女の声がハモる。

 何となく気まずい雰囲気になっていた。

 こんなところでお弁当を独りで食べようとしている自分も大概だが、そういえばこんなところに一人で逢は何をしてるんだろう?

 微妙な空気が流れる中で見詰め合ったまま、そんな疑問をどうすることもできず立ち尽くしながら思った。

 裡沙が部屋の扉を開けて入ろうとしたときに逢は、先生と言っていたので蓮実と待ち合わせていたのかもしれない。

 蓮実は担任なのでこれといっておかしなことは、……ないこともないがやはり些か不自然な気がする。

 挙動不審。

 人見知りのアガリ症が大きな舞台に立ったみたいに、顔を赤くさせながらキョロキョロしだした。

 あんなにぴったり合っていた視線が、まったく交わることがなくなり定まらなくなる。

 段々と落ち着きのなくなってきた逢の様子は、教師に厄介事を頼まれて昼休みが削られたとか、そういったマイナスの要素はまったくない。

 真っ先に想像したのはデートの待ち合わせをしているみたいな、期待と不安でアップダウンをくり返すジェットコースター状態の乙女。

 ではなく純一だった。

 こうやって二年前のクリスマス・イブの夜、弄ばれているのも知らずに待ち続けたのだろうか……。

 居た堪れなくなって裡沙も、視線をあちこち彷徨わせ始めた。

 だからだろう。

 え?

 跳び箱の段と段の隙間に無機質な眼を見つけられたのは。

 あるいは見つけてしまったのは。

 録画を示す赤い光点を灯らせたカメラのレンズに収められながら、狭い薄暗がりの中で構えている人間を想像して裡沙は固まってしまう。

「七咲、見つかったか? って、あれ? 上崎は昼休みだっていうのにどうした?」

 静止画みたいに動けなくなっていた裡沙は、さっきまで散々耳にしていた声にぎくりとして振り返った。

 立っていたのは蓮実教諭。

 あまりにも異常過ぎるものを発見してしまったために、普段より勘が鋭くなったのかもしれない。

 蓮実は何食わぬ顔をしているが見逃さなかった。

 授業をしていたときみたいに口元に微笑を浮かべているが、裡沙の存在を認めて一瞬だが表情筋がこわばる。

 どうしてこんなところにという疑問を口にしたというよりは、こちらに質問される前に機先を制してきたような感じだった。

「別に……」

 ぎこちなく答える。

 裡沙のキャラクターだったら、これくらい素っ気無くとも不自然はない。

「ここはちょっとホコリっぽいだろ? お弁当を食べるんだったら、中庭とかで食べた方が美味しいんじゃないか?」

 冗談交じりでにこやかにそう薦めてくるが、さっさとここから追い払いたいようだった。

 ――というのはいくらなんでも、思考が羽ばたき過ぎている。

 気づきたくもない異常に気づいてしまった裡沙に、これ以上触れさせたくないからというのは、さすがにいくらなんでも妄想が加速し過ぎてる。

「失礼します」

 裡沙は一礼すると足早にその場を後にした。






[41992] アクガミ 三十一話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/09/02 10:09




 午後の授業二コマのうち、最後の一コマは二年A組だった。

「All right. everybody!! それではこの"Lotus eater"というexpressionですが――」

 それじゃ誰を当ててやろうかと、生徒の様子を観察しながら蓮実は教室を見渡す。

 さっと手が挙がった。

 まあ予想通り。

「Miss ayatuzi!!」

「はい。『安逸を貪る人』という意味だと思います」

 背筋をぴんっとキレイに伸ばして立ち上がった詞が、露骨ではないものの遠慮のない自信を覗かせて答える。

 相変わらずの優等生っぷりだ。

 もっとも蓮実にいいところを見せられたからか、形のいい小鼻の穴をほんのちょっとだけだが、得意そうに膨らませてぴくぴくっとさせている。

 これぞドヤ顔一歩手前という感じだった。

 ぐぬぬッ。

 シャーペンを握り締めながら悔しそうにしている薫も含め、そのくすぐったく微笑ましい光景は実に教師冥利にも男冥利にも尽きる。

「Good!! Good!! Lotusというのは、食べると浮き世の憂さを忘れるという、麻薬的な作用のある食べ物ですが日本語では――」

 だがそうやって二人を観察しつつも、蓮実は男子生徒に注目するのも忘れてなかった。

 授業はうわの空で窓の外をぼーっと眺めている純一は、ぱっと見ただけではこれといって感情らしい感情は窺えない。

 しかし蓮実の目には純一が、残念そうにしているのがよくわかった。

 せっかく四コマの授業をサボってまで、狭い跳び箱の中に隠れていたのに、思わぬサプライズというかハプニングでだいなしになっている。

 昼休みの撮影が中止になってしまったことに、だいぶ意気込んで望んだだけに未練たらたららしい。

 苦笑する。

 昨今の高校生の精神年齢を鑑みれば妥当かもしれないが、お菓子を買ってもらえなかった低学年みたいな幼稚な反応だった。

 もっともそうなる純一の気持ちがわからなくもない。

 ジャージーの上下をすばやく捩って、手枷足枷にするのは生徒を陵辱する際の蓮実の得意技だ。

 宴会芸でやれば拍手喝采だろう。

 他人に披露する機会はなかなかないだけに、それこそ幼稚かもしれないが、チャンスだと愉しみにしていたのだ。

 けれど待てよと思う。

 校内などでの短い空き時間を利用して犯すのに最適のスキルなのだが、そもそもそんな短い時間であっさり犯してしまうのは勿体ない。

 芸のための芸になっては本末転倒だ。

 拘束スキルを披露する機会は、きっとまたどこかであるだろう。

 なのでそれはそれとして。

 ふむ。

 心ここにあらずで窓の外を眺めている純一を観察しながら、蓮実は似たような授業態度だった女生徒のことを思い出していた。

 残念ながら陰が薄くて華こそないものの、充分及第点以上の美少女であろう。

 そういった文句のない評価をしてても、これまではなぜかあまり食指が動かなかったが、昼休みの出来事は蓮実の認識を改めさせる契機になった。

 欲しい。

 それは玩具を目にしたような子供っぽい衝動だった。

 本能が囁く。

 微かではあったが匂いも嗅ぎ取っていた。

 上崎裡沙からは前々任校の園部祥子や前任校の片桐怜花と、蓮実の正体に肉薄し追い詰めた数少ない生徒と似通ったものを感じる。

 まだ自分がテリトリーに踏み込んだことに気づいてないみたいだが、ならばこちらから率先して罠を仕掛け狩ってしまうべきかもしれない。

 なんにしても獲物として裡沙を見定めたからには、自分の王国から逃がすつもりは蓮実には欠片もなかった。

 まずは情報収集。

 とりあえず犯してしまうというのも悪くないが、拙速に事を運ぶのは勿体無いと肝に銘じたばかり。

 焦ることもないのでここは、巧遅を選択した方がいいだろう。

 授業終了と同時に群がってくる生徒たちを引き剥がし、獲物をどう料理してやろうかと考えながら職員室に戻った。

 席に座ると隣りの麻耶が身体をびくっと震わせるが、あえてそれには気づかないふりをして、溜まっていた書類に取り掛かり手早く片付けていく。

 担任する一年B組は当然として、蓮実の担当する生徒にこれといって、成績にしても素行にしても問題のある生徒は居ない。

 ある程度の量なら放置しておいても、処理するのは煩わしくはあっても簡単だった。

 途中からは如何にも仕事に集中している風を装いながら、これまででバグなどから得ている裡沙の情報を精査してみる。

 とはいえこれといって裡沙については、これまでノーマークだったのもあり、トラップとして機能してくれそうな有益な情報がない。

 友だちらしい友だちと言えるのも、麻耶のクラスの田中恵子くらいである。

 二人とも物静かでタイプが割かし近いからなのか、蓮実からすると馬鹿馬鹿しい恋バナで意気投合したみたいだ。

 そういえば……。

 本当に中身のないくだらない内容だったので、二人の話はほとんどうろ覚えだが、裡沙には小学生の頃からの好きな人がいるとかどうとか。

 充分なヒントである。

 調べればそれが誰なのか、すぐに判明するだろう。

 世界の中心を自分の恋愛と捉えている未熟なティーンなら、片想いの相手はウィークポイントとして役に立ってくれそうだった。

「こっちは一段落着いたので、ちょっと見回りに行ってきますね」

 そこまでする必要はないだろうが、裡沙の場合あまりバグからの情報は期待できない。

 校長室にあるパソコンのデータベースから、他の生徒でも目新しい発見があるかもしれないので、ひさしぶりにサルベージしてみることにした。

 うん?

 しかしその予定は何気なく拾った物音で、あっさり狂うことになる。

 トイレからだ。

 無視できない音がする。

 部活動をしている生徒以外はほとんど帰宅しているので、周りに人気はないが踏み込むかどうかは躊躇した。

 悲鳴でも聞こえてくれば迷わず飛び込めるが、何となくでそれをするのに女子トイレはリスクが高い。

 とはいってもX‐sportsの愛好家と同じで、やれるという確信ができれば最後までやりきることができるものだ。

 解決しなければならない問題に直面したときの、蓮実の選択肢の幅は普通の人間よりずっと広い。

 野生の勘のようなものを根拠に、焦ることなくゆっくりと室内に侵入する。

 ガタゴトと音がしているのは、最奥の個室からだった。

 正確にはその上にある、天井の換気口からである。

 便器を踏み台にしてよじ登ったのだろうが、個室の壁は薄く足場として不安定で覚束ない。

 盗撮というのは異性よりも同性を注意した方がいいそうだが、まさかそういう目的でこういうことをしているわけではないだろう。

 バレ難いが位置的に向かない。

 ただ目的が盗撮ではなく盗聴であった場合には、偶然に見つかることは業者の工事でもなければ、絶対にありえないはずのベストの配置だった。

 高性能のマイクを仕掛けたりすれば、トイレ内で交わされる会話をすべて拾うことも充分可能である。

 それはすでに実績として証明されていた。

 もっとも現在は職員を主なターゲットとして、とっくにバグの再配置を完了させているので、いくら探してもそこからは何も見つからない。

 身体を斜めにして換気口に頭を突っ込んでいる詞には悪いが、結果は制服を埃まみれにしただけで終わりである。

 それにしてもあれだけ大人しくしていろと厳命したのに、やれやれ行動力が旺盛な生徒会長さんにはまったく困ったものだ。

 そろそろ躾が必要な時期らしい。

 キツめの。

 さて。

 どうしてくれよう。

 若くて瑞々しい張りのある脚線美を愛でつつ、とりあえずシャッター音を消した携帯で写真を撮ってみた。

 さらに抜き足差し足ででそっと近づくと、真下からも連射でシャッターを切る。

 純一ははるかの膝の裏にご執心だったようだが、どうして詞の膝の裏だってなかなかチャーミングだ。

 そこから舐めるみたいに映像はパーンして、覗けとばかりに短いスカートの中身を捉えている。

 詞の穿いている飾り気のないショーツは、優等生の清廉なイメージを壊さない白だった。

 少し陰りがあってやや見づらいのが逆に生々しい。

 そしてご苦労なことに長い間無理な体勢で、探索にトライし続けたためなのだろう。

 よじれたショーツが小ぶりなお尻に食い込むのが艶かしかった。

 もぞもぞ蠢くたびにその妖しさは増していき、タッチしてみたくなる誘惑を堪えるのが、思ったよりも大変で自分の青さに苦笑してしまう。

 これならSNSにアップでもすれば、『いいね』が沢山貰えそうだった。

 顔も映ってないのでネットに載せる際の、プライバシーの保護もバッチリである。

 制服でどこの学校なのかは簡単に判別は付くし、見る人が見れば誰なのかも一目瞭然だろうが、わざわざ不特定多数の好奇の目に晒す趣味はない。

 ひとまず愉しむのは、自分以外は一人でいいだろう。

 あとで詞にメールするのを心のメモ帳に書いて、襲い掛からないうちに魅惑の現場を去ることにした。

 当初の予定通り校長室に向かう。

 一応ドアをノックしてみるが、校長がとっくに帰っているのはわかっていた。

 校長は毎日必ず定時に帰るのを金科玉条としており、余分な残業も必要な残業も一切しない。

 私立の学校らしく理事長との縁故のみで採用されているみたいで、面倒を回避するのが大原則な最悪の部類の『でもしか』教師だった。

 蓮実はポケットからキーリングを取り出すと、校内の誰にも存在を知られていないマスターキーでドアを解錠する。

 校長室に入るとパソコンを起動した。

 生徒指導及び生活指導の校務の際やクラス編成のときなど、生徒の個人情報に関するデータに触れる機会はそれなりにある。

 なので誰と誰が同じ小学校かを調べる程度は造作もないのだが、何せ今まで裡沙にまったく興味がなかったので調べるという発想もなかった。

 画面に映っている裡沙のビジュアルは文句なく美少女であり、どうしてこれまでチェックしてこなかったのか後悔するほどである。

 ただ蓮実の選択肢の幅は性的な好みにも適用されてるというのに、目に留まらなかったのは自身の失態を通り越して不思議ですらあった。

 もっとも後悔は後悔として即座に切り替え、反省にしっかり昇華させて次のアクションに活かせばいい。

 ビンゴ。

 早速その心がけの効果があったようで、裡沙の片想いの相手はあっさり目星が付いた。

 梅原など何人か同じ小学校出身の生徒がいる。

 どうやら歩いて来れるというのが、けっこうポイントが高いみたいで、上級生や下級生を含めれば、それなりの人数が輝日東に通っていた。

 けれど断定できる。

 裡沙の片想いの相手というのは、まず間違いなく純一のことだ。

 何だ……。

 いろいろとあれこれ考えるまでもなかったみたいである。

 すでに半分手中に収めたようなものだ。

 カモがネギを背負っている。

 All I had to do was to tighten the noose.

 あとはただ純一を生き餌にして誘き出し、輪を引き絞る瞬間を待つだけでいい。

 蓮実は満足して校長室を出た。

 お馴染みのメロディ。

 ご機嫌で廊下を歩きながら蓮実は、自然とモリタートを吹いていた。

 忘れないうちに先程の画像をメールをしておく。

 ああそうだ。

 詞には送ってやりたいネタが他にもある。

 天下無敵の優等生を皆勤賞で演じ続けるのは、本人は無自覚なのかもしれないが相当量の、ストレスを抱え込んでいることだろう。

 現実の脅威としても自分が在籍しているクラスに、のうのうと学校生活を謳歌しているレイプ犯も存在している。

 魔が差すのはむしろ当然だった。

 ほんの出来心。

 常習性がないのはひと目でわかった。

 軒下に死体が埋まっているわけでもあるまいし。

 学校が終わっても自宅恐怖症めいたものでもあるのか、これといって用がなくとも詞はなかなか素直に家には帰らない。

 どこかで遊び呆けているのかというとそんなこともなく、人気のない川原や寂しい神社で独りで時間を潰している。

 いっそここで襲ってやろうかと考えたのは、一度や二度ではとても済まない。

 そういうときである。

 ドラッグストアに立ち寄るなんて珍しいと思っていた。

 やたら店内をぐるぐる回り、やたら周囲をキョロキョロしている。

 こういう客こそ常に警戒しているはずの店員も、あまりの初々しさで逆に見逃してしまったのかもしれない。

 お買い得な化粧品。

 万引きする優等生の決定的瞬間を捉えたのは、何かが起きると待ち受けていた蓮実の携帯だけだった。

 送信。

 気分がいい。

 蓮実に気づかず前を歩いている女生徒が、携帯を確認したタイミングで声を掛けた。

「絢辻」

 夜道で不意に呼び止められたみたいに、身体をぎくっとさせて詞が振り返る。

「あっ!?」

 見ていた携帯を宝物を隠す子供みたいにして、あるいは証拠を隠蔽する犯人みたいにして、露骨に怪しい動きで挙動不審に後ろ手に隠した。

 絵に描いたような才色兼備の優等生。

 ――というキャラクター設定を詞本人はしていたはずだが、最近の詞は蓮実の前では年相応に無防備で可愛らしかった。

 自然と口角が持ち上がり笑みの形になりそうになる。

 危なかった。

 振り返った詞の顔は蒼白になっており、微笑ましい茶化してもいいような雰囲気はない。

 ほっとしたのかはっとしたのか、潤んだ瞳から涙が溢れそうになっている。

 このままどこか空き教室にでも連れ込んで、レイプしたらさぞ愉しいのだろうが、まだここではどうにか自重しておくことにした。

 どのペットにも当て嵌まるが、じっくり愉しまないと勿体無い。

 極上の獲物だった。

 特にひと口目はがつがつしないで、グルメばりにちゃんと味わってあげたい。

 風俗店で金を出せば気軽に買える肉とは違うのだ。

 入学した頃は幼さのみが際立っていたが、日に日に女らしくなっていく青い身体を、注視しながら機を熟すのをせっかく待っていたのである。

 生徒それぞれ旬となる肉の成熟度は異なるので、高校生活三年間のどこで牙を刺すかは悩むところだった。

「は、ハスミン……、先生」

 絢辻詞は今が旬である。

 こんなに美味しい素材なのに、胃袋を満杯にできればOKな、肥満児みたいな早食いはしたくない。

「どうした?」

 声を落として即座に気遣わしげな顔を作る。

 配慮が足りなかった。

 蓮実の感覚からすればあまりにも些細なことだったので、忘れていたわけではないが思い出すこともあまりない。

 だが詞的には喉元過ぎればとは、どうやらいかなかったようだ。

 考えていたよりも強いインパクトで、思っていたよりもディープな出来事だったみたいである。

 レイプというのは被害者がたとえ自分でなくとも、これだけ身近で起こっていればトラウマになるみたいだ。

 残念。

 結果として愉しませた自信が蓮実にはあるのだが、やはり映像越しでしかない詞には、過程の恐怖しか伝わらなかったみたいである。

 拒絶の悲鳴が歓喜の嬌声に変わっていく様子は、実体験が伴わなければ理解するのは難しいようだった。

「何があったか?」

「……先、生」

 弱っている少女のメンタルがじんわり、ウイルスみたいな偽りの優しさに侵食されていく。

 きっと生徒会室で観たショックが、フラッシュバックしているはずだ。

 これなら無理してまで襲わなくともこのまますんなり、フリースペースに時化込んでたっぷり愉しめそうである。

「いつでも俺を頼ってくれって言っただろ?」

 すぐアクションに移さなかったのは、学校内で充分なオシオキができるかどうかの、やれるという確信が持てなくて迷ってしまったからだった。

 こういうときは大概失敗する。

「お、ハスミン」

「奇遇」

 ほらな。

 蓮実は今日何度目かになる苦笑をしつつ、自分の考えの正しさを諦めとともに認めて振り返った。

 暇だなぁと思う。

 二人ともやることがないのなら、とっとと家に帰ればいいのに。

 別れ話でもされたみたいに泣きそうになっている詞を視界に収めながら、にやにや悪戯っぽい笑みを浮かべてずんずんこちらに歩いてくる。

 ようやく後輩に役職を譲れた茶道部の、前部長と副部長のコンビはえらく上機嫌だった。

 顧問を引き受けてやったというのに恩知らずめ。

 挨拶だけして去るような感じじゃない。

「あの、ハスミン先生、わ、わたし、これで失礼します……」

「また今晩にでも連絡するよ」

「……はい」

 あるかないかの仄かな体臭と柑橘系のシャンプーが、絶妙にミックスされた少女の甘い匂いを堪能しつつ、耳に囁いてやると詞は頬を紅潮させなが

ら、幼い仕草でこくんっと黙って頷いた。

 瑠璃子と愛歌に軽く会釈すると足早に去っていく。

「蓮実先生。いくら人気のない廊下だからって、女生徒を口説くのはどうかと思うんですけど?」

「TPOを弁えない淫行教師は、ファンだらけのPTAでも許さない」

 詞の後姿を見送りつつ、二人は皮肉げな口調でそうのたまわった。

 ちなみに懇親会という建前の飲み会で、蓮実はアイドルのような扱いになっている。

 高校生ぐらいの子供を持つ母親は、守備範囲内ではあるが節度は守っていた。

 どこでネタを仕入れたんだと、ソースが気になるところではある。

「そんなんじゃないよ」

 蓮実はテレたように笑ってみた。

 白々しい。

 だがどうせどんな嘘の名手であったとしても、こういう状況で女性の目を誤魔化すのは不可能に近い。

「ちょいとハスミン。前にも言っただろ? 純真な子をひどい目に遭わせたら、あたしらが承知しないってさ」

「オンナになった女の子は、わたしたちは見たらすぐにわかる」

「歩き方とか座り方とか、なんとな~く違ってくるんだ」

「びびっとキタ」

 瑠璃子と愛歌の笑みの奥には、ひやりとするような刃が潜んでいるようだった。

 純真な子というのが生徒会長ではなく、二人が可愛がっている後輩のことを指しているのは明らかである。

「偶にはわたしたちのことも、可愛がっておくれよ」

「散々焦らした責任を火急に取るべき」

 二人は左右からキャラに似合わない甘えた声で、しな垂れかかるみたいにして腕を絡めてきた。

 ボリュームこそ物足りないものの、やはり柔らかい女の子の身体で、これはこれで悪くないどころかリビドーを激しく刺激する。

 誘いは渡りに船だった。

「今の子は本当に堪え性がなくって困ったもんだな。とはいえ教師としては見過ごせない。ここはみっちり補習とイこうか」

 ここで引き剥がしてもどうせこの二人なら、また無理やりにでも腕を組まれてしまうだろう。

 なのでさせたいようにさせてやる。

 問答するより早い。

 とはいえ仮に腕を組んでいるのを目撃されたとしても、この二人ならスキャンダラスなことになりそうもなかった。

 日頃のキャラ設定は大事。

 他の女生徒だとあらぬ誤解を受けてしまうかもしれないが、瑠璃子と愛歌だとその手の色っぽい受け取られ方はされないので助かる。

 茶道部の畳張りの部室に上がるのとほぼ同時に、二人は蓮実の前にしゃがみ込んだ。

 森島・塚原ペアと甲乙付け難いコンビネーション。

 いそいそというかうきうきというべきか、スラックスのベルトを外しファスナーを降ろし始める。

 時折する上目遣いには、二人とも隠せない媚びがあった。

 雄々しい起立がボクサーブリーフのゴムに引っかかり、先走りが眼鏡のレンズや長い黒髪にぴっと飛ぶがそれすらもご褒美。

 蓮実に見下ろされながら、瑠璃子と愛歌の制服の肩がぶつかり合う。

 酔ったように瞳をトロ~ンとさせて、犬みたいに息遣いを荒くさせていた。

「こらこら二人とも。女の子がはしたないぞ」

 久しぶりにご主人に遊んでもらえることが余程嬉しいみたいで、二匹とも我先にと襲い掛かるみたいにむしゃぶりついてくる。

 瑠璃子の方が普段は積極的でアクティブなのだが、こういうときは愛歌の方が上回るらしく素早かった。

「ンッ……ンンッ……」

 いつもはコケティッシュな笑みを浮かべている小さな口を大きく開けて、いきなり喉の奥にまで呑み込むようにして逞しい勃起を頬張る。

 うっとりと瞼を閉じて、牡のえぐみを味わっていた。

「ちょちょ、も、もういいだろ? そろそろ代わっとくれよ」

 そんな親友の懇願に勃起を咥えたまま、チラッと流し目する愛歌の笑みは年不相応に妖艶である。

 ずずずずッと下品な吸引音を立てて、ひとまず欲求を満足させて瑠璃子にバトンタッチ。

 唾液に濡れた勃起を譲った。

 てんきゅね。

 そう礼を言うとぱくりと口内に迎え入れる。

 人間だってアニマル。

 どんな美少女であったとしても、ヒューマンである以上臭いがあるのは仕方ない。

 それが自分の分泌物であってさえ、顔をしかめたくなるときがある。

 ただ二人は蓮実を共有しているうちに、そういうことはほとんど気にならなくなったみたいだった。

 愛歌の施したぬめりのおかげで滑りが良くなっているようで、太い勃起を柔らかな口唇でリズミカルにしごき立てる。

「はむッ……ふ……ンふぅッ」

 眼鏡のレンズを熱気で曇らせながら、健気に甲斐甲斐しく小刻みに頭を前後させていた。

 勢いづいてどんどん唇がシャフトを往復するスピードは速くなって行く。

 しかし蓮実があと少しでイキそうという段階になると、至近からじっと観察していた愛歌がぽんぽんっと瑠璃子の肩を叩いた。

「チェンジ」

 相変わらず感情の抑揚が判りづらいが、それでも濡れたような響きがあるのは発情した牝特有のものである。

 名残惜しそうにしながらもちゅるんっと、瑠璃子は猛々しく凶悪な勃起を口内の粘膜から吐き出した。

 絶妙なタイミングでご奉仕リレーをくり返す。

 これまで蓮実に放置されてきた鬱憤を晴らすように、貪るように乱暴なくせにテクニックに富んだ口唇愛撫で執拗に焦らし続けた。

「ねえ。もういいでしょ?」

「もうちょっと」

 もっとも瑠璃子と愛歌の二人も内股になってもじもじしており、徐々に交代の間隔も忙しく短いものになってきている。

 ドラッグ中毒者みたいに瞳は妖しく爛々と輝きだしていた。

 勝気で男前な言動の多い瑠璃子は、羞恥に震えながら声を殺して啜り泣く。

 無口でミステリアスな雰囲気のある愛歌は、愛歌を知っていれば知っているほど、信じられないようなあられもない大きな悲鳴を上げる。

 また二人を並んで四つん這いにさせ、ヒップを高く掲げさせて犯すのを想像しつつ、蓮実の脳裏の片隅では過去の映像が蘇っていた。

「んッ……んゥううッ……は、ハスミン、出していいんだよ……いつだって……ンンッ……」

「……うぶッ……んふぅッ……ガマン、は、ンンッ、……むぅううッ、か、身体に……良くない……」

 跪く瑠璃子と愛歌の姿が記憶の中の教え子たち、いらぬことをして若い命を散らした少女たちと重なる。

 そこからさらに詞になり裡沙になった。

 今度は間違えない。

 びゅッ!!

 心の内で決意を新たにした蓮実は、瑠璃子と愛歌の顔面に精を放った。






[41992] アクガミ 三十二話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/09/29 09:11




「静かなところですね」

 アカリスの子供にヒマワリの種を投げてやりながら、妙に感慨深そうに詞がぽつりと言う。

 明るい色のスエット・パーカーにタータン・チェックのスカート。

 足元はニューバランスのスニーカー。

 これがわたしの普段着ですよと、オシャレしてきましたの丁度中間ぐらい。

 手は抜いてないが気合もそんなに入れてない。

 そう主張する微妙なラインを攻めていた。

 あくまで自然体。

 なのを詞は完璧に装えているつもりなのだろうが、蓮実からするとあれこれ思案したのが窺えて微笑ましい。

 けっきょく女子高生のファッションは制服がイチバンだが、自分のために頭を悩ませてくれたという事実が愛しさを募らせる。

「ここはほとんど家族連れしか来ないところだし、うちの学校の関係者に見つかる心配がない穴場なんだ」

 俺は絢辻とのデートを、スクープされてもいいんだけどな。

 蓮実は白い歯を光らせた。

「……デートだなんて」

 詞の肌がじんわり耳まで赤くなる。

 どうやら今日は愉しいデートになりそうだった。

 町田周辺は輝日東からふらりと来るには些か離れているものの、アクセスはそれほど不便ではなく意外にお手軽なスポットである。

 数年前まですぐ近くに住んでいたので土地勘も残っており、人生で初のデートに浮かれる女生徒を飽きさせることもない。

 リス園のあとにはぼたん園に行って、その次はダリア園のラインナップだが、たぶんおそらくだいじょうぶだろう。

 何よりもポイントが高いのは、偶然知り合いに会うというのがまずないことだった。

 輝日東の関係者はもちろんだが、以前の職場関係の知り合いには絶対に遭わない。

 呪われた場所だから。

 わざわざ思い出したくもない過去を思い出さずにはいられない土地に、休日を利用してまで自分から舞い戻ってくる馬鹿は知り合いに居ない。

 一生癒えることのない傷を、誰しもが大なり小なり負っただろう。

「動物と触れ合っていると癒されるだろ? 絢辻に妙なこだわりがないんなら、リスだけじゃなくてあっちにはカメもいる」

「はあ」

 詞の返事は少し間延びしていた。

 緊張でガチガチだった表情も、やや鼻白だものになっている。

「掘り出し物のご当地キティも売ってるよ。猫のくせにリスの着ぐるみっていう、プライドのなさを絢辻が許せるんなら買ってやるけど?」

「ハスミン先生は妙なこだわりがあるんですね」

 少年のような。

 男性に求めるものは?

 といった質問をされて答えを濁すときの、よく聞く抽象的な常套句ではあるが、これが満更ではないという女性はそれなりの数が存在する。

 求めているのは大人の中にある少年ぽさであり、我侭で幼稚な子供ではないというところがミソ。

 ここを誤ると教室ではしゃいでいる十代の男子と、忽ち同列にカウントされてしまい好感度が下がる。

 どうやら巧くいったみたいで、作り物でない表情で詞はくすりと笑った。

 それから十五分ほどぶらぶら歩き、ギフトショップで初デートの土産を買ってリス園を出る。

 町田ぼたん園の数百株の牡丹は残念ながらまだ時期が早いこともあり、咲いている花はほとんどなかったが癒しの雰囲気はあった。

 相談し易い空間を提供してくれている。

 ちらりと後ろを確認した。

 よし。

 ちゃんといた。

 あまり人の混み合っているところに行くと、意図せず相棒を撒いてしまう恐れがある。

 カメラ片手というのもそんなに、このデートコースなら不自然はない。

 マンションの鍵は貸してあるので、最悪の場合は先回りしてもらって待機させればいいだろう。

「何があった?」

 ゆっくり詞に視線を向けると、単刀直入に切り出した。

 力づけるように微笑む。

「まだ今も絢辻が俺を信頼してくれてるのなら、あったこと全部ぶっちゃけて話してくれないかな?」

 ストーリーはどうでもいい恋人が死ぬのが前提の、映画やドラマと同じ法則。

 取調室のカツ丼などもそう。

 たとえ技術だとわかっていても、この技術に逆らうのはなかなか難しい。

 ましてや弱っているメンタルでは、わかっていなければ尚更、心を蹂躙されるしかないだろう。

 母親とはぐれた幼子を諭すみたいに優しく穏やかな、感情よりも反応として涙腺が緩むような声で背中をそっと押した。

 概要は電話で粗方聞きだしているものの、詳しい内容まではあえて触れないでおいて、それをダシにして今日のデートを取り付けている。

 詞が口にできたのはまだ、橘と脅しというワードだけだった。

「せ、先生……」

 あれだけ蓮実に止められていたというのに、言いつけを守らずに盗聴器探しを続けていたことをまずは謝る。

 そこから搾り出させるのにさらに時間は掛かった。

 だが急かさず根気よく待って白状させる。

 自分の築いてきたアイディンティが崩れるのを恐怖しながら、ほんの出来心で万引きしてしまったことも洗いざらい口にさせた。

 盗聴器を探していたことについては、ちょっと深いため息を吐いて憤慨を露わにする。

 そして万引きについては、考えるようなふりをして焦らしてから、何かやったという証拠はあるのかと問い質した。

 ないのなら何の脅しにもならないと笑顔で付け加えてやる。

 店に一緒に謝りに行ってやるとも。

 実態がなければ脅しは無意味。

 ただしあとでたっぷりお説教だから覚悟しておけよと、この世の終わりみたいに表情を凍らせている詞の肩を、冗談めかしてぽんっと軽く叩いた。

「あの……」

 しかし詞の表情は晴れない。

 それはそうだ。

 詞と純一に対して周囲が下している評価は、もともと隔絶しておりその差は雲泥のものがある。

 仮に罪の告白を録音されていたとしてもICレコーダーのデジタル情報を、純一が改竄したのではと真っ先に疑われるほどだった。

 今やそのくらい二人の校内でのランク、というより純一のヒエラルキーは低い。

 それこそ冗談だったと言えば済んでしまうだろう。

 音声では脅しとしての説得力はないに等しい。

 パワーが足りない。

 けれどそれが画像だったなら、説明の必要はなく問答無用である。

 百聞は一見にしかずというやつだ。

 同じ改竄が容易なデジタル情報であっても、目と耳ではインパクトがまるで異なる。

 雲泥だ。

「こ、こんなものが……」

 日頃のあらゆる評価を凌駕し駆逐する。

 視覚からの情報というのは、それぐらい衝撃で理不尽だ。

 もしかしたらと考えさせてしまうのに充分で、もうそうなったらそうなった時点で、詞の学校生活は癒えないダメージを負うことになる。

 学校のカバンにセールの化粧品を入れる決定的瞬間が、携帯に映る画像にはバッチリ収められていた。

 我ながらいい出来である。

 そこからは紛い物には出せないノンフィクションの、緊迫したリアルなリアリティがあった。

 嘘じゃない。

 これはホンモノの万引き写真だと、見た者はきっと直感で断定するだろう。

 液晶画面の中の怯えたみたいな詞の表情が何よりも、犯罪に及ぶ少女の後ろ暗さを過不足なくびんびんに伝えていた。

「……送られてきたってわけか?」

 蓮実は目を見開いて、さも驚いたような顔を作る。

 詞はそうした蓮実の反応に蒼白だった顔を改めて青くさせ、零れそうになる涙を堪えるみたいに目を伏せた。

 被告席に立った罪人の気分だろう。

 弁護人はどこにも居らず、審判が下るのをただ待つことしかできない。

「これの他は?」

「え?」

「純、橘から送られてきた写真はこれだけなのか? これだけなら店に謝りに行けば、まだなかったことにもできるかもしれない」

 というのはまず無理だ。

 事実は不要である。

 スキャンダルというのはそういうもので、ある程度のラインを越えれば雪崩を打ったように、真実よりひたすら面白さのみが際限なく優先される。

「こういうことを教師の立場で軽々しく口にしちゃいけないんだけど、絢辻と橘じゃ日頃の評判が違うからな」

 そんなものはあっけないほど簡単に、すぐひっくり返ってしまうものだが。

 むしろ才色兼備で絵に描いたような優等生である詞の、無様に転落していく有様を心のどこかでは、誰しもが見たいと思っているはずだった。

「送られてきた画像は、これだけなんだろ?」

 もう観念してとっとと出せ。

 蓮実は勇気付けるような笑顔を向けて、顔を上げられなくなった優等生にプレッシャーを掛ける。

 盗聴器の捜索を秘密裏に独断で継続していたことは、もうすでに白状してはいるものの、それを写真に撮られたことを詞はまだ告げてない。

 トイレの個室の壁をよじ登って天板を外し、そこに上半身を突っ込んでいる写真。

 何の説明もされなければ、とりあえず怪しい画である。

 流出させるタイミング次第では、これだけでこれまでの印象を、逆転してしまうほど怪しかった。

 そしてとりあえず、教育上よろしくない。

 如何わしい。

 舐めるみたいなローアングルで撮った写真で、清廉な女子高生のエロさを際立たせていた。

 蓮実のことをいくら信頼していても、それとこれとは別問題。

 下着までバッチリ映っている画像を見られるのは、抵抗があるだろうし抵抗があって欲しいところだった。

 羞恥心のなくなった女子高生に価値はないから。

「いつまでも不安な顔するなよ。ここまで信頼して包み隠さずぶっちゃけてくれたんだ。絢辻のことはきっと俺が守ってみせる」

 辛抱強く待つ。

 詞は聡い。

 盗聴器の捜索からさして間もないタイミングで送られてきた画像。

 おまえのことはいつも見てるぞ。

 犯人のメッセージはちゃんと伝わっているだろう。

 自分を信頼している蓮実を信頼しているのなら、これが開示すべき情報だというのを、小賢しい詞だったら理解してくれるはずだ。

「……あんまり……、見ないでください」

 できないお願いをしつつ、詞は羞恥を押し殺すように目を伏せ、画像を指先ですっとスライドさせる。

 待ち受けにしたいくらいだ。

 こうして他人の携帯で改めて画像を観ると、自分の携帯で見るのとはまた異なる趣があっていい。

 秀逸。

 隙だらけで穴に身体を突っ込んでいる女子高生というシュールな構図は、何かエロティックな中に風刺が隠れているような気さえしてくる。

 もちろん久々にカメラマンになりシャッターを切った本人に、そのような狙いはこれっぽっちもなかったが、いい作品ができるときとは得てしてこ

ういうものなのだろうと、蓮実はいつも通りの自然な流れで自画自賛していた。

「これは?」

 もっと時間を掛けてじっくり眺めていたいところだが、こちらを窺う詞の手前もあるので神妙な顔をして携帯を返す。

 インスピレーションは掻き立てられたので、ここではこれでとりあえず満足することにした。

 正直に言えばもちろん消化不良の部分はあるが、それは後々の作品に反映させればいい。

 息を潜めてストーキングしている監督も、きっと同じ気持ちのはずだ。

「部室棟近くにある女子トイレで、盗聴器を探しているところを撮られたみたいです」

 まるで危険物でも扱うみたいに慎重に、けれど汚染物を扱うように素早く、蓮実の目から逃がすように携帯をポケットに仕舞う。

 顔が真っ赤になっていた。

 蓮実に下着を晒してしまった恥ずかしさだけでなく、どうやら犯人への怒りもプラスして身体を熱くさせている。

 そろそろ寒空というワードがしっくりくる季節になってきたが、抱き締めたら女子高生はカイロ要らずで温かそうだった。

 ――粘膜も。

 想像してしまい口元が緩みそうになる。

 処女のキツキツの媚肉に倣って、蓮実は表情筋を引き締めた。

 なので攣りそうになる。

「蓮実先生」

 聞いた瞬間知っている声なのは判別できたのだが、まさかここでと油断していたのもあり、考えなしに何気なくそちらに振り向いてしまった。

 年の頃はもう四十五、六になっているだろう。

 前頭部は遺伝なのかストレスなのか、以前よりもだいぶ薄くなっていて、色黒のこけしのような印象を強めていた。

 相も変わらずぺらぺらの素材のウィンドブレーカーを着ている。

 昔のままだ。

 目が笑ってないというのを説明するのに、これほどわかり易いサンプルもそうはないだろう。

 憑かれたように、蓮実を睨んでいた。

「下鶴さん。どうも、たいへんご無沙汰しています」

 気にした風もなく修正した笑顔を浮かべて、蓮実は頭を深々と下げる。

 まったくこいつも学習しない。

 あれだけこてんぱんにやられたのに性懲りもなく、まだここらをテリトリーにうろうろしているのか?

 日本の秘境といってもいいような僻地に、交番勤務として飛ばされたはずだが……。

 もう二度と遭いたくないという人間が、誰でも一人はいるだろうが、蓮実の場合はこの出世コースから外れた冴えない刑事である。

 ちなみに会いたいのは巨大投資銀行モルゲンシュテルン、瞬かないグレーの目をした最高経営責任者だった。

「四十人でも物足りないみたいですね」

「は?」

「今度はその子ですか?」

「何がです?」

「とぼけないでくださいよ。今度はその子を殺すんでしょ?」

 蓮実の陰に隠れるようにしていた詞が、ぎょっとしたのが背中越しでも感じられた。

 余計なことを……。

 詞は今はまだ自分の聞いたことを、初対面の怪しい中年がした戯言として、デートを邪魔され不快になるだけかもしれない。

 だがファーストコンタクトにインパクトがあったのは間違いないわけで、ふとした切欠で下鶴の言ったことを調べられる可能性は大いにある。

 四十人殺し。

 そう打ち込むだけで、簡単にヒットしてしまう。

 晨光学院町田高校であの夜起こった惨劇は、日本犯罪史上に燦然と輝いており、詳しく詳細を記したサイトがいくつも存在していた。

 いつでも重要なのは真実でなく事実。

 全貌が知られることはなくとも、輪郭を知るだけならそれで事足りる。

「蓮実先生はどうです?」

「何がです?」

「二人の生徒が相談に来たとき何故もっと早く手を打たなかったのか、あんたに尻尾を巻いちまった自己嫌悪で眠れない夜が続いてましてね」

「……誰だって同じですよ。未来を奪われたあの子たちを見れば」

 教師は体力勝負。

 何もなければ毎日ぐっすり眠っているのだが、それを正直に申告するのは野暮というものだろう。

 下鶴の目尻には慢性的なものと思われる隈があった。

 もしかしたら永遠に醒めない悪夢の中にいるのかもしれない。

 だとしたらご愁傷様である。

 いいかげん過去から這い出てきたゾンビは、眠らせてやるべきなのかもしれない。

 墓の中で。

 蓮実の服を背後からぎゅっと掴む震えた手の感触。

 やはり怯えるヒロインを救ってこそ、ヒーローというものだろう。

 それから数十分、蓮実は忍の一字で応対した。

 途中から下鶴の顔がフギンに見えてくる。

 不吉な羽音。

 わざわざ確認しなくともわかった。

 ムニン。

 こいつも電流を流して処刑されたおまえの相棒みたいに、いつか白目を剥かせて絶命させられたらいいのにな。

 その様子を想像しているうちに口笛が吹きたくなってきたが、我慢して適当に相槌を打っていると徐々に下鶴の様相が変わってくる。

「子供たちのためなら、いつだって身体張れんだよ!! いざとなりゃあなあ、やるんだよ!! いつだってやってやんぞ? ……この野郎!!」

 かなり病んでるようだ。

 酒の臭いもしていないのに途中から支離滅裂な自分の言葉に興奮して、元々はこけしみたいに色黒の顔を真っ赤にしている。

 たぶん数年で培ったストレスで脳細胞が壊れ、どうやらアルコール発酵しているらしい。

 もっともあの地獄の光景を灼きつけられて、その後の人格に何の影響も及ぼさないのなら、それはもう人間ではなくて心のない怪物だろう。

「ちっ。まったく埒があかねぇ。どうしょもねぇな、あんた? イカれたサイコ野郎のまんまだぜ!!」

 咲いてない牡丹より、余程見応えがあるようだ。

 こんなに賑わってたんだと驚くほど、周囲に沢山の人が集まってくる。

 遠巻きにしてこちらを見てないふりをしているものの、ちらちらした視線とわくわくした意識は、確実に牡丹ではなく蓮実たちに向けられていた。

「さすがに三回目だ。今度の学校じゃおとなしくしてるだろうと、薮蛇にならないよう、ここまでは静観の構えだったが、……限界だ」

 蓮実としても女生徒と一緒のところを、あまり不特定多数に目撃されたくないので丁度いい。

 すでに少なくない人間の目に留まっているが、それでも抑えられたとここは思うしかなさそうだった。

 刑事なのにチンピラみたいに喚いていた下鶴は、どうやらようやく捨て台詞のパートに入ってくれたみたいだ。

「あんたには人の心ってもんがまるでねぇ!!

 基本マヌケな顔の造詣なのだが、至近距離で睨まれると職業柄、どうしてどうしてなかなかの迫力がある。

 庇護を求める詞の身体は竦んでいた。

 しかし蓮実は動じない。

 が。

 一計を案じた。

 接触している詞にだけわかるようにして、怯みそうになる身体と心に必死になって、生徒を守るための活を込めている教師の演技をした。

 長年に渡って人間を演じてきただけに、咄嗟であってもその辺りの抜かりはない。

 熊谷先生と優美には感謝しきりだ。

 蓮実をブレイクスルーさせ完成させた二人も、教えた甲斐があったときっと、草葉の陰で喜んでくれているだろう。

 このまま○○園をもういくつか巡り、定番だが鉄板のポルシェ・ケイマンでドライブ、そこからマンションへのお持ち帰りを予定していたのだが、

残念ながら今日はプランを変更するしかない。

 カラんできた輩みたいな刑事が、頭から離れないだろう。

 甘い雰囲気にするのは困難。

 四十人殺し。

 これを有耶無耶にして躾をしようとしてみても、どこまで調教できるかは疑問だった。

 早急に記憶の上書きをしたいところだが、ここで焦って対処を誤ってしまえば、最悪のシナリオの芽はより深く根を張ってしまう。

 ポルシェはどうしたって目立つ。

 そして蓮実と詞もだいぶ、悪目立ちしてしまったみたいだ。

 聞き取りをすればさして苦労しなくとも、あっさり情報が下鶴の耳に届いてしまうだろう。

 止むをなしだ。

 こうなったらこうなったでここは切り替えて、心酔させるための次の布石の機会と考えるしかない。

 この野郎。

 碌なことをしない奴だ。

 そういえば詞も自分のプランを妨げられるのを嫌っているみたいだが、大概の人間は嫌いだろうし蓮実ももちろん好きではない。

 だがそこはさすがに、蓮実は詞よりも大人だった。

 経験から臨機応変という言葉が、どれだけの意味を持つかわかっている。

 行き当たりばったりだとか、出たとこ勝負だとかの言葉は、意識するまでもなく蓮実は自然に無視していた。

「こうなったら徹底的にやってやるぞ!! 俺はなぁ、しつこい人間なんだよ。絶対に退かねぇからな。――覚悟しとけ!!」

 まだまだ奥底にはドロドロと溜まっているものはあるのだろうが、とりあえず言いたいことを言い終えたようである。

 やっと下鶴はきびすを返してくれた。

 肩を怒らせて去っていく。

 蓮実は背骨の左側を眺めながら、こちらを気遣う可愛い声がかかるのを待った。

「先生……」

 はっとしてみせる。

 振り向いて心配する生徒を安心させるような、しかし繕ったのがありありわかる笑顔を披露した。

 悲哀の陰を演出するのがポイントである。

「行こう」

 ずかずか大股で歩く足取りは、内心の苛立ちを表すように慌しい。

 二人には身長差もあれば、歩幅にもけっこう差がある。

 いつもの蓮実ならしないことだ。

 一緒に居る相手のことをまったく考えてないような、けれど息を切らし小走りなら付いて来れるスピードで歩く。

 蓮実の背中を追うことだけに、詞が夢中になった頃合いを見計らって、ぶつかるしかないタイミングで急にぴたりと止まった。

「きゃッ!?」

 心地よい衝突事故が起こる。

 振り返ると詞が、鼻を押さえ赤い顔をしていた。

「あ、っと……すまん」

 謝罪にぶつかったこと以外の意味が篭められているのを、小賢しい教え子ならわかってくれるだろう。

 蓮実の只ならぬ表情をちゃんと察し、しっかり忖度して神妙なものに変えた。

 噂やゴシップなら何でも大好物のお喋りな女子高生とは違って、きちんと真摯に相手の話を聞くという習慣ができているみたいである。

 これから大きく重い告白をされるための、それを受け止め耐えられるような態勢を取っていた。

「とりあえずそこのベンチに座ろう」

 長い話になるのをさり気なく示唆する。

 詞は黙って蓮実の隣りに、45センチもない位置に腰を下ろした。

 どころかもう互いが互いの、体温を感じられる距離である。

「さっきのあの人な、あれでも刑事さんなんだよ」

 忌々しい。

 その想いが思わず口を突いてしまったのか、珍しく蓮実に毒を吐かせる。

「絢辻の件はいざとなったときは、相談するのもいいかもしれないな」

 そう言いつつも心中では、ため息を漏らしていた。

 もしもそんなことをすれば最悪の場合、残念だが処分しなければならないので、できることならやめて欲しいところである。

 一も二もなく下鶴は飛びつき、ここぞとばかり蓮実の周囲を、根掘り葉掘り掘り返し騒がしいものにするだろう。

 もっともあの調子ではすでに引き返し不能点――ポイント・オブ・ノー・リターンを越えていた。

 どこまで切り取るのかはともかくとしても、そろそろメスを入れなければならない段階、外科手術的攻撃――サージカル・ストライクを行うべき段

階に入っている。

「……あんな人が刑事さんでだいじょうぶなんですか? あんな常軌を逸した尋常じゃない人で、いきなり罵声を浴びせてくるような人で?」

 蓮実への接し方に憤慨していた。

 ひとまず安心しておく。

 詞から信頼関係を築くのに必要な一定量の好意は感じられず、むしろ蓮実を悪し様にしたことへの敵意が読み取れた。

「あの人も昔はあんなんじゃなかった……」

 虚構にならないよう留意しながら、ところどころ誇張を織り交ぜつつ、凄惨さと自分が生き残りであることを語って聞かせる。

 声には自然と過去への後悔が滲んでいた。

 あのときああしていればだとか、このときこうしていればだとか、今更考えたところで後の祭りだが、していれば王国を破棄することはなかった。

 新しい王国では同じ轍は踏まないよう、卒業した教え子のためにも生かさなくてはならない。

「がっかりしたろ?」

「え?」

「絢辻には随分えらそうなこと言ってきたけど、俺は俺を信じてくれた教え子たちを、あの狂った夜から守ってやれなかったダメ教師だ」

 即座にフォローされるのを確信している自虐ネタを、身体の奥底から搾り出すみたいに苦しそうに口にする。

 すると期待通り詞は、きっぱりと反論してくれた。

「いいえ。わたしはハスミン先生みたいな先生の、教え子になれて良かったって思ってます。……亡くなった人たちだって同じ気持ちですよ」

「いや、それは……」

 否定しようとした蓮実に、詞は首を振って否定を返す。

「ほとんどの先生は生徒のことを、先生ほど大切には考えていないと思います」

「そんなことはないんじゃないか?」

「ありますよ」

 これにも詞は首を振る。

「言葉は不適切かもしれませんけど、『善良な管理者の注意』をもって接していれば、それ以上の責任を問われることがないと思ってるような――」

 そういう先生がほとんどです。

 と。

 教師に対する本音を全て言い終えてから、詞ははっとなって口を押さえた。

 あまりにも遅い。

 しかし曝け出すだけ曝け出しておいてからの、そうした仕草は普段見ることがなくチャーミングだった。

 ご褒美に蓮実は勇気付けるような、とっておきの微笑を披露してやる。

「絢辻の言いたいことはよくわかるが、そういう教師を糾弾しても始まらない。他の先生の前じゃお口チャックな。それと……ありがとう」

 あらゆる出来事はマイナスの面ばかりではない。

 今までも詞は蓮実に好意を抱いていた。

 でなければまだ誰にも許したことのないヴァージンの唇を、吊り橋効果で高められ感極まったとはいえ簡単に捧げはしないだろう。

 だがこれで完遂に向けて、大きく前進したといっていい。

 この望んでいなかったサプライズによって、好意を心酔というステージにまで、一気に引き上げるのが可能になった。

 ここまでくればもう身体では及んでなくとも、絢辻詞は篭絡したも同然だった。

「その変わらない信頼にちゃんと応えていけるように、何としても橘の件は俺が解決してみせるから任せてくれ」

 次は絶対に犯してやろう。

 どうやら少しは自分も蓮実の助けになれたと、自分に都合よく信じたいことだけを信じて誤解したらしい。

 可愛かった。

 馬鹿な子ほど可愛い。

 ハニカミ微笑む詞を視界に捉えつつ蓮実は、このままなら処分せずに済みそうだとほっとしていた。

 このままなら……。






[41992] アクガミ 三十三話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/10/20 10:27




「内線、三番です」

 たったそれだけを伝えるだけでも、微かに緊張しているのが窺える麻耶を、さり気なく視界の端で愛でながらボタンを押す。

「もしもし。お電話代わりました」

「あ、蓮実先生。たいへんご無沙汰してます」

 このパターンも連チャンだ。

 心構えはできてる。

 受話器から聞こえてきた声は、蓮実にとってはけっして感慨を呼び起こすものではなかった。

 ただちょっとだけ気になったのは、少しは肥満が解消されたのかくらいである。

 晨光学院町田高校で生徒がつけた綽名はヘビメタだったのだが、それは昔ロックをやっていたという話を覚えていたからではない。

「こうして電話を差し上げるべきかどうか迷ったんですが、蓮実先生には随分とお世話になってましたし、やはりお耳に入れておこうと思いまして」

 その割には迷いの感じられない口調である。

「いったい何でしょう?」

 また厄介事か。

 立て続けの問題にげんなりしながらも蓮実は、以前は毎朝のように職員室でしてたみたいに、高塚陽二教諭の『ここだけの話』に耳を傾けた。

 適当に調子を合わせながら、期待通りの合いの手を入れてやる。

 さっさと切り上げて電話を切りたいところだが、嘘か本当かわからない情報も意外に役に立つので仕方ない。

 が。

 あの事件から一切の連絡を取り合ってなかったのに、こうしてわざわざ教えてもいない再就職先の学校に電話を掛けてくるくらいだ。

 持ってきたネタの予想はついている。

「昨日、ぼくの勤めてる学校に、ある人が訪ねて来ましてね。蓮実先生もご存知の方なんですが、誰のことだと思います?」

「さあ誰でしょう?」

 もうこの時点でわかったが、茶番に付き合ってやる。

 こういうとき空気を読まず無神経な発言で、お喋り好きの機嫌を損ねてもあまりいいことはない。

「下鶴っていう刑事さんなんですけど、やたら蓮実先生にカラんできた」

「……ああ」

「先日お会いしたらしいですね」

「偶然ですけど……」

 今も当時もあまり良い印象は持ってないというのを、隠そうとしても隠し切れないという感じで言外に滲ませる。

 事情聴取の際に犯人みたいな扱いで取り調べされた蓮実が、高塚の脳裏にも蘇っているかもしれない。

 捜査課でもないのに何度も何度も執拗に質問をくり返し、周囲の警察官に越権行為を散々睨まれても追求の手を緩めない。

 おまえなんだろ? おまえがあの子たちを、あの子たちを殺したんだっ!!

 暴言を吐いて蓮実に掴みかかろうとしたところを、羽交い絞めにされて連れ出されたのを忘れてないだろう。

 電話越しでも神妙な顔をしつつ、うんうんと頷いている高塚が透けて見えた。

「いきなり学校にまで訪ねてきて最近、蓮実先生とは会ってるのかだとか、あの事件のとき蓮実先生はどうしてただとか、何でもいいから教えてほし

いということでした。知っていることはあのとき、全部お話したと伝えときましたが、どうもあの人の様子が普通じゃなかったので」

「普通じゃなかったとは、どんな様子だったんでしょう?」

「どう言えばいいんでしょ。その、あまり故人を貶めたくはないんですが、釣井先生と対峙しているみたいな感じがしましたね」

 その台詞が故人を貶めている気がする。

 しかし腑に落ちた。

 あの痰が絡んだみたいな粘っこい不快さは、電車内で自死した教師と通じるところがある。

「心の病ということでしょうか?」

「そうですね。少なくとも尋常ではなかったです」

 ……だろうな。

 誰が見てもそれは明らかだ。

 久々に蓮実と遭遇したことで最後のネジが飛んでしまったのか、とにかくあれはもうマトモじゃない。

「情緒不安定みたいで聞いてもいないのに、蓮実先生の勤め先の電話番号を教えてくれたりして、だからこうしてお電話差し上げることもできたんで

すが、一方通行で会話が成り立たないんで困りました」

 高塚教諭が男のおばさんという表現がしっくりくるタイプの、噂好きのお喋り好きな野次馬気質なのは当然分かっているはずだ。

 牽制――脅迫――あるいは宣戦布告だろうか。

 こうやって自分に知られるのも、もしかしたら計算済みなのかもしれない。

 ステージ4だ。

 いずれにせよオペをするのはすでに確定しており、あとは日時を決定するだけの段階に達しているのは了解した。

 変更の余地はない。

 気がかりなのは警察に組織立って動かれることだったが、

「それと言葉を濁してましたけどあの人どうも、もうとっくに警察を辞めているみたいなんですよ」

 挙動を不審に思った高塚教諭が、手帳の提示を求めても頑なに応じなかったばかりか、警察に電話を入れようとするとそそくさ退散したそうだ。

 情報の裏を取る必要はあるが、事実なら躊躇する理由はなくなった。

 あとはやれるかやれないか。

 それからしばらくはどうということのない近況報告や、これといって当たり障りのない世間話をして蓮実は電話を切った。

「先生」

 終わるタイミングを待っててくれたらしい。

 詞だった。

 アーモンド型の大きな目が、真っ直ぐこちらを見つめてくる。

 ちょっと緊張しているみたいだ。

「何? どうしたの?」

 自分が担任するクラスの生徒なのだから、自分を訪ねてきたんだとまずは考えても、不思議はないというかそれが普通だろう。

 机を一つ挟んでという若干の違和感はあるにしても、麻耶がそう誤解するのはおかしくはないし仕方ない。

「えっと、その、ハスミン、蓮実先生に」

「ああ、そう、なんだ」

 これまでも呼ばれてないのに職員室に来る生徒の大半は、蓮実が目当ての女子がほとんどで、担任がスルーされるのもめずしい光景ではなかった。

 二年A組でも薫などを筆頭にして、麻耶にもひと声は掛けるがそれはとりあえず、蓮実行脚に精を出している女生徒が圧倒的である。

 だから慣れたものといえば、慣れたもののはずだ。

 しかし天下無敵の優等生である詞だけは、これまでそのグループに含まれてなかった。

 蔑ろにすることはない。

 蓮実を気にはしている素振りはあってもあくまでサブ、麻耶は次いでであっても担任である顔を立ててメインにしていた。

 配慮していた。

 なくなってしまったのは地味ではあるものの、考えていたよりダメージがあってけっこうショックだろう。

 背後から寂しげな雰囲気が、同情するほどびんびん伝わってきた。

 可哀そうなので慕っている生徒を、近々紹介してあげよう。

 だがひとまずそれはそれとして、

「で、どうしたんだ?」

 いつものように蓮実は笑顔で応じた。

 それで詞は緊張の度合いを幾分やわらかいものにしたが、身体を前屈みにして口に手を添える。

 ナイショ話のポーズをした。

 逆に緊張を深めた麻耶を視界の端に映しながら、蓮実は耳を可憐な唇に寄せる。

 残念ながら気分が良かったのは、そこまでだった。

「……この間の変な人が、校門の辺りでうろうろしています」

 身内に緊張が走る。

 周囲に人の目があるのも忘れ、思わず蓮実は舌打ちしたくなった。

 あのゾンビが。

 町田だけでなくこんなところにまで、懲りもせず徘徊するようになったか。

「高橋先生」

「え、あ、は、はい」

「どうも不審者が校門に居るみたいなんです。とりあえず一声かけて様子を見てきます」

 現在の下鶴の精神状態からすると最悪の場合、迂闊な接触をすると騒がれてしまう可能性は大いにある。

 けれどここで颯爽と出ていかなければ、これまでの努力が水の泡になりかねない。

 助けを求めても頼りにならないと判断されてしまえば、これからの王国の運営に何かと支障が生じる。

 いざというとき役に立たない。

 この評価は致命的だ。

 これまでのあらゆる好意のベクトルが、逆方向に一気にシフトしてしまう。

「行こう」

 しかしピンチは見せ場とも言えた。

 マイナスばかりではない。

 知らないところであることないこと喚かれるよりも、幾分マシというプラスの考え方もできるし、最終的な排除のためへの環境作りもし易くなる。

 メディアをチラつかせて警察にアピールしてもいいし、教育委員会や黒沢典子の父親を通して輝日東の議会を動かしてもいい。

 まずは社会的に抹殺してしまってからゆっくりと、生物的な抹殺をひっそり与えてやるのも悪くない選択肢だろう。

 方針が決まったことで余裕ができた蓮実は、むしろ緊張しながら付いてくる詞を従えて校門に向かった。

 創設祭が間近に迫ってきたのもあって、いつもより放課後の風景は賑やかである。

 途中で全員がエプロンをした水泳部と出くわした。

 何人かが荷台に載せた寸胴を、がらがら音をさせて押している。

「……あ」

 目敏く蓮実を見つけた逢の小さな呟きを、耳聡く拾った部員たちが姦しく騒ぎながら話しかけてくる。

「あ、先生」

「ハスミン先生」

「今年のおでんの試作ができたから、良かったら食べに来てくださいよ」

「部長の大根がお勧め」

「塚原先輩の至高の昆布巻きと、甲乙付け難いできです」

「究極の大根」

 空港でファンに囲まれるスターみたいに、瞬く間に蓮実を中心に人の輪が形成されていく。

 ところにカットイン。

「水泳部の皆さん、ごめんなさいね。今、ハスミン先生はとても急いでいるの」

 詞がやんわり待ったを掛けた。

 もっともそれは取り繕った表面だけで、煩わしく舞い飛ぶ羽虫を睨むみたいな視線、笑顔の裏にあるイラつきが微かに声から漏れていた。

 次の瞬間には殺虫剤を、無言のまま躊躇なく撒きそうである。

 生徒会長の静かなプレッシャーにたじろいで、水泳部員たちは無意識に全員が一歩下がっていた。

「先輩も良かったらどうぞ」

 だが逢は圧にさらされても退かない。

 さすが部長と妙なところで、部員の尊敬を獲得していた。

 刹那。

 視線を交錯させた微笑む生徒会長との間に、火花がバチッと散ったように見えたのは、蓮実の自惚れでも思い過ごしでもないだろう。

「早く行きましょう」

 けれど詞はそれを気にした風もなく、しかしわざわざ蓮実の腕を取って先を促す。

 急いでいるというのは事実なので、背中に感じる多数の視線を、心地よく浴びながらその場を後にした。

 そんな水泳部の妬み嫉みの気配は詞も感じていたようで、オンナの本能の成せる業か無意識に、必要以上に腕を抱え込んで身体を密着させてくる。

 水泳部の気配がなくなると、素っ気無いくらいパッと離れるのが、乙女の初々しさを醸し出しておりキュートだ。

 口笛を吹きそうになりながらも、蓮実は歩くスピードを少し速める。

 巨大ロボットのオブジェの熱の入り方は群を抜いているが、その他の展示物もどうやらなかなかの力作揃いのようだった。

 高校生にしては、本格的でよくできている。

 これだけ楽しみにしてるんだから中止にならないよう、これからするセッションには注意を心掛けなくてはならない。

 などということを考えつついざ駆けつけてみれば、校門の前には改造したサスマタを手にして、言葉を選ばなくてはいけない相手は居なかった。

 タバコの吸い殻という痕跡はあるが、姿はざっと見た限りどこにもない。

「帰っちゃたみたいだな」

 消えてくれたなら消えてくれたで有難いが、勇んで来ただけに肩透かしもいいところだ。

 この激情をどうしてくれる。

 どうせあんたに、あの子たちは守れない。

 二度あることは三度あるもんだよ。

 また見殺しだ。

 軽く挑発でもして衆人環視の中で殴らせてみようかと、その程度の覚悟は決めていただけに、尻つぼみになってしまって締まらない。

「……みたいですね」

 そしてそれは詞も同じみたいだ。

 ほっとしつつも、といった感じである。

 このままでは二人とも、もやもやするだけで消化不良だ。

「その辺にまだ居るかもしれない。とりあえず周りを見回っておこうか」

 発散させとくべきだろう。

 あまり溜め過ぎるのは、心にも身体にもよくない。

 創設祭の準備があちこちで行われているので、どのようなルートを選択したとしても、生徒と遭遇してしまう可能性は非常に高い。

 蓮実も節度ある大人――のはずだ。

 そうなったらそうなったで、仕方ないなと諦めもたぶんつく。

 だが誰にもエンカウントしなければそのときは……。

 衝動を抑えるつもりはない。

 考えてみれば学校の敷地内は安全だ。

 性善説に基づくシステムによって、治外法権が確立しているエリアである。

 たとえ本物の警察官であっても、異分子はおいそれと入国できない。

 ひとまず学校の周囲をぐるりと廻ってから、ほとんど人の姿がない裏門を通って敷地内に再び戻る。

「居ませんね」

「もしかしたら校内に入り込んでるかもしれない。あの人が普通じゃないってのは、もう一回会っただけでわかるだろ?」

「……はい」

 そうやって詞の不安を言葉巧みに煽りながら、今の下鶴だったらやりかねないと思ったが、実際にそうしてくれるのならシメたものだった。

 問答無用で排除できる。

 通常の不審者であれば厳重注意くらいで済んでしまうだろうが、どんな些細なミスでも大きな失敗としてアピールするのは得意だ。

 任せてほしい。

 未成年の性を狙う危険人物の前科者として、蔑視されるように仕立て上げる自信がある。

 とはいえ来るなら来いという心境だったのはさっきまで。

 もうすでに狩りの対象となっているのは、冴えない風貌の病んだ不審者ではなく、仮面越しの素顔が透けるチャーミングな生徒会長になっている。

 もっとも狩れたらいいなぁという程度。

 それなりに本気ではあるものの、初デートでホテルを探すぐらいのレベル。

 いや、待てよ。

 ならマジなんじゃないか?

 蓮実は苦笑した。

 なるほど。

 ここはまさしく学び舎である。

 生徒たちから蓮実も若さというカリキュラムを、もしかしたら教えられているのかもしれない。

「どうやらこの辺りには居ないみたいだな。むこうの方も見ておこう」

 詞が優等生というキャラクターを認知させているのと、生徒会長という肩書きを持っているおかげで、二人で歩いていてもあまり不自然ではない。

 不自然ではないので自然に静かな場所へ静かな場所へと、緻密な計算でホテル街に偶然入り込んだみたいに奥へと誘う。

 隣りから緊張した気配が、びんびん伝わってきた。

 どんどん高まっていく。

 意外なところが空室になっていた。

 2年A組。

 催し物はビデオ上映会なので、当日のセッティングだけで済む。

 所属する部や他所の手伝いに借り出されたり、プライベートを優先してさっさと帰ってしまう者がほとんどだった。

 これはべつに詞のクラスが手を抜いたというわけでなく、創設祭が初めての一年生と最後の三年生に妙に気合が入ったみたいで、定番のお化け屋敷

と喫茶店がこれでもかと乱立したために、去年やったのと来年もある二年生でバランスを取った結果である。

 A組に限らず今年はどのクラスも、大人しめで控えめな催し物に統一していた。

 その代わり事前の準備はどれも簡単なので、生徒としてイベントを楽しんではいるものの、学年としての盛り上がりはやはりイマイチない。

 好都合だった。

 イケる。

 その確信さえあれば、いつだって問題はない。

 が。

「……いくらなんでも無理だろうな」

「え?」

「無茶と違うってことだ」

 何食わぬ顔をして教室を通り過ぎる。

 だからここ。

 蓮実の学生の頃と比べると、だいぶ様変わりしていた。

 学校によっては生徒には一切させず、業者を雇って清掃させているところも珍しくないらしい。

 輝日東は理事長の教育方針で、というより小金をケチって採用してないが、それでも昔みたいに汚らしいという印象はない。

 払拭されていた。

 数年前から見違えるほどキレイになっている。

「トイレ?」

「俺と一緒に入れば平気だよ。ほら。そんなとこでぼやぼやしてると、返って怪しまれるぞ」

 戸惑う詞の折れそうに細い腰に手を廻し、ホテルの入口でリードする紳士みたいに、さり気なく盗聴器疑惑のあった男子トイレに連れ込んだ。

 最奥の個室の鍵を掛ける。

 ここならなかなかセーフティと、スリリングのバランスがいい。

 しっぽりと洒落込むのは時間的余裕がないので難しいが、本番前のアイドリングとしてなら充分愉しめそうだ。

 ――もっともアドリングで終わるかどうかは、極めて不透明で臨機応変になるだろう。

「詞」

「あ……」

 ここまでノコノコ来ておきながらここからの、展開が予想できないほどこの子は馬鹿ではない。

 抵抗はなかった。

 ファーストネームを呼ばれたのがスイッチになったみたいに、背後から抱きすくめられた身体からすとんっと力が抜けた。

 心地よい重みが圧し掛かる。

 教え子の髪の毛からは、ふんわりと少女の匂いがした。

 香水を纏った大人の成熟した香りも好みだったが、シャンプーの香りと合わさった思春期の匂いもまた大好物である。

 うなじに鼻先を突っ込み、清純な空気で肺を満たした。

 アロマにして売ったら必ずヒットするだろう。

 ただどんなに正確に成分を調べたところで、このフレグランスを再現できないのが残念だ。

「先生」

 廻した左右の腕に力を篭める。

 密着度を深めた。

 むにゅッ。

 さして大きくはないものの、乳房はやはりどこまでいっても乳房。

 肌で感じる。

 教師の両腕で教え子のキレイな半球を形作っていたモノが、間にある布地という緩衝材がないかのように妖しく容易くいやらしく潰された。

 跳ね返るような弾力がある。

 そのくせにしっかり、青い硬さも残していた。

 そんな生意気で可愛いふくらみをもうすぐ、思う存分揉みほぐせるのかと興奮してしまう。

「は、ハスミン先生……」

 耳をくすぐる少しだけ苦しそうな、それでいてもっと強くとせがんでいるような、吐息交じりの声が理性を痺れさせて悩ましい。

 リクエストに応える。

 獲物を身体全体で捕食する大蛇みたいにして、媚びてくる教え子をさらにしなやかに抱き締めた。

 ただ肉を削ぎ落としただけの鶏がらボディではない。

 スレンダーという言葉の意味が、貧相というのとは異なるとわかっている身体。

 それでも若さ故なのかムチムチしている。

 もちろん萎んでもいなかった。

 瑞々しい。

 うっすらついた脂肪はしっかりと、女性特有の柔らかさを獲得している。

 食べ頃の旬な肉だった。

「え、あ、は、ハスミン先生っ!?」

 硬くなった牡器官が柔らかな少女の尻とぶつかる。

 制服のスカート越しであってもわかってしまう、小さくってぷりっと引き締まった感触が勃起に拡がった。

 少女の持つ温かなぬくもりが、じんわり牡の獣欲をそそってやまない。

 蓮実はヒップの丸みに沿って焦らすみたいにそっと、痴漢でもしてるかのようにゆっくり卑猥に腰を擦り付けてみた。

 これが本当に朝の通勤電車でしていれば、手首でも捻られ車掌室に直行かもしれない。

 もしくは凍てつくような醒めた冷たい眼差しで、無言のままクールに睨まれる空しい気分にさせられるかだ。

 だが詞と気づいた信頼関係を、蓮実は欠片すらも疑わない。

 教え子の魅惑の谷間に熱く硬くなっているモノを、あつらえたかのようにぴったりと挟んでみる。

「ん……ッ」

 期待通り動きを封じることに成功した。

 おかげで拘束していた腕の片方がフリーになり、本能の衝動が趣くままに滑り落ちていく。

 肌理の細かいティーンの太腿を、わざとねっちっこく撫で擦った。

 不躾なタッチをされ続ける詞のリアクションは、内気で大人しい何も言えなければ何もできない少女のそれである。

 恥ずかしい行為にもただされるがまま、従順に悪戯されるしかない美しい獲物。

 いや、ペットか。

 教師を悦ばせるためだけに存在する愛玩動物。

「あ、せ、先生、だ、ダメ、ダメです!!」

 さすがにスカートが捲くられて、指先が侵入を開始すると、乙女の羞恥で身じろぎをするが、無論それは淫行教師を愉しませる効果しかない。

 いい子だ。

「先生……ダメで……、あッ、ほ、ホントに、だ、ダメ、んンンッ!!」

 抱き締められながら上目遣いで訴えてくる潤んだ瞳を見つめつつ、つやつやと艶めく可憐な唇を覆い被さるようにして貪り奪う。

 太腿をぴったり閉じ合わせてガードしようとしたみたいだが、それこそタッチの差で僅かに蓮実の指先の方が速い。

 緩やかなふくらみを撫でる。

「んふぅッ!?」

 怯える舌を乱暴に絡め取り蹂躙しながら、フィットする丸みに掌を宛がいつつ、人差し指と中指を揃えてヴァージンの秘裂を責め始めた。

 こういうとき繊細なフィンガー・テクニックが生きる。

 ドレッド・シアターとかいったか?

 前任校の晨光町田の生徒が組んでいたコピーバンド、紅一点であるキーボードなんてたぶん目じゃない。

 徐々に徐々に秘密の丘に深く刻まれた裂け目の、奥へ奥へとコットンの布地ごと沈めていく。

 初々しい媚肉が次第に熱を帯びてきた。

「ンゥううッ……、ゥ、ッ、はむンンッ……、んッ……んッ……」

 口唇を自由にしたいなら、詞はただ首を振ればいい。

 ブラウスのボタンを片手で器用に瞬く間に外し、ブラジャーに包まれたBカップを守りたいなら、手を添えているだけでなく本気の抵抗が必要だ。

 弄られ続けるスカートの中の陵辱も然りで、教育熱心な蓮実を愉しませるだけである。

 今にも漏れそうなのを、寸でで我慢してるみたい。

 情けないへっぴり腰の内股になって、詞は細い脚をひくひくさせていた。

 揃えられた二本の指先が割れ目を押し広げるみたいにしながら、生徒の反応を窺いつつショーツの食い込みを快楽曲線とともに登っていく。

「ひぅッ!?」

 甘美な悦びが一瞬にして全身に拡がったのか、腰は自然に前へ突き出て口内では堪えられない絶叫が響いた。

 蓮実の指先は遂に薄い布地越しに、女体の最も敏感な部位を捉える。

「……んッ……ふうう……、ンんんッ……」

 至近距離で見つめてくる詞の瞳は、大粒の涙が零れそうにうるうるしていた。

 にっと目だけで蓮実は笑うと、幼い肉蕾を爪で引っ掻く。

「むふぅッ!?」

 教え子の身体は鼻息も荒く、のたうつように弓なりに反った。

 もちろん一度の衝撃では終わらせない。

 繊細且つ微妙なタッチで強弱を付けながら二度三度と、崩折れそうになる身体を支えつつ快楽を送り込む。

 いつの間にか肌蹴たブラウスから、少女らしいデザインのブラが露わになっていた。

 蓮実の学生の頃と比べ見違えたのは、何もトイレの清潔さだけではない。

 女子の胸の平均サイズも、大きく変わっていた。

 すると詞のバストのサイズは下回るものの、揉みごたえがないのかというとそうではない。

 優劣はサイズで左右されない。

 どの乳房もやはり乳房は乳房であって、揉んでも揉んでも飽きることなく愉しかった。

 皆違って皆いい。

 梨穂子の乳房と美也の乳房でさえ、等しく同列の扱いをして蓮実は愛でられる。

 また成熟した大人の身体の蕩けるような柔らかさも良いが、若さを誇示するかのようなプリッとした弾力もまた良し。

 これこそ十代でしか味わえない半熟の魅力だった。

 そろそろくぐもってない艶やかな嬌声を耳にしたくなった蓮実は、散々に嬲られて苛められていた舌をぬるりと解放してやる。

「あはぁッ!!」

 銀色に煌く未練がましい唾液の糸を断ち切るように、男子トイレに生徒会長の甲高い歓喜の悲鳴が響いた。

 捏ねまわされているうちにずり下がったブラジャーから、小さく可憐なピンクのリングが覗いて、硬く儚げに勃起した乳首まで露わになっている。

 蓮実はふるふる震えて尖っている先端を摘み、下腹部からだけではなく上半身からも、鮮烈な快楽の波紋を起こして少女の官能を揺さぶった。

「は、ああッ、ハスミン……ハスミン先生、んゥッ、あッ、うぁああッ、いや、アッ、アッ、アッ、……んはぁあああッ!?」

 全身の性感帯が連動しているらしい。

 湿りっ気という可愛い段階は、もうとっくに突破している。

 真っ白な太腿を流れ落ちたのは、汗よりもずっとネットリしたものだった。

 執拗にイタズラされたせいで、フォルムがすっかり浮き上がっている。

 妖しく淫らにひくつく裂け目も溺れそうな陰核も、ぐっしょり濡れたショーツを脱がすまでもなく確認できた。

 ……まあ脱がすけどな。

 そうやって心中でほくそ笑みながら蓮実は、痛いくらい疼いているだろうクリトリスを、乳首を捻るのと同時に人差し指でぴんっと弾いた。

 恍惚という名の豪雷が教え子の身体を、理性を消し飛ばして残酷なほど激しく撃つ。

 快楽中枢を直撃したエクスタシーに、極刑に処されたカラスみたいにぶるぶる震えていた。

 そして、

「きひィイイッ!!」

 インテリジェンスの欠片も感じさせない悲鳴。

 あの優等生の生徒会長の喉から発せられたのだとは、たとえ鼓膜が捉えていも心がそうだと捉えるのに、詞を知っていれば知っているほど困難で信

じられないだろう。

 不意に膝がカクンッと崩折れた。

 ショートしたみたいに、四肢から力の一切が抜ける。

 ハァハァハァ……ハァ……。

 幼い子供が親にするような全幅の信頼で、蓮実にぐったり寄りかかって荒い息遣いを詞はくり返した。

 腕の中に抱きとめた教え子の甘酸っぱい体臭が、下半身に集中した血潮を否が応でもざわつかせる。

 逞しいペニスはすでに目いっぱい勃起して、スラックスの前を突き破らんばかりの勢いだった。

 優しく優しく。

 異様なほど優しく、カバーを降ろした便座に抱きつかせる。

 腰を掴んでグイッと後方に引き寄せた。

 自然と背中が反り返って、ヒップを突き出すような恰好になる。

 絶頂の忘我から回復してないのかされるがまま、呼吸を整える教え子の短い制服のスカートをぴらりと捲くった。

 大量に水分を含まされたショーツは、びちゃびちゃで如何にも重そうである。

 笑みを深くしながら蓮実は、ゴムの部分にそっと指を掛けた。

 濡れた秘所と股布とが離れる瞬間、ネチャッという生々しい音をさせつつ、コットンの下着はあっけなく腰からずらされてしまう。

 ぬめり光る航跡に彩られた太腿を滑り落ちて、唾液よりも淫らに粘つく糸を引きながら膝に絡まった。

 視線が釘付けになる。

 薄い恥毛が張りついたその奥では少しだけ口を開いた秘密の裂け目が、小刻みにひくひく蠢動しつつ剥き出しになった淡い媚肉の色を晒していた。

 ぷっくり膨らんで充血したクリトリスまで、余すところなくはっきり教師の目に曝されている。

 淫行教師の眼に。

 ごくっ。

 大人気なく喉が鳴ったことに苦笑い。

 少々照れ臭くもあるが、未熟な自分を思い出すのも偶には悪くない気分。

 だから本気で凍結中の殺意が再起動しそうになる。

 ストーカーがストーキングされるという、有り得ない失態だけでは飽き足らないらしい。

 後から蓮実が指摘するまで、ちっとも気づかなかったというのだから、カメラなど才能がないわけではないが才能が偏っている。

 おかげで情報を与えたくない相手に、またいらない情報を与えてしまった。

 火急の対処がこちらにも必要。

 サイコだのなんだのと、好奇心を喚起するキーワードは、片想いの少女の耳に残ったろうから。

 喉だけでなく相棒との専用携帯も鳴っていた。

 こちらから連絡はあっても、あちらからというのはまずない。

 その辺りの躾はしてあるつもりだった。

 なので無視できない。

 チッ。

 舌打ちしつつ蓮実は電話に出ることにする。

 とその前に、

 カシャッ。

 しどけない詞の痴態の写真をとりあえず一枚撮って、どうにか怒りを押し殺して通話ボタンをタップする。

「……どうした?」

 これでもしもどうでもいい用だったら、ブラックジャックで教育的指導が必要だ。

 そのままドラム缶に放り込んで、火の色を愉しんでもいいくらい。

 命拾いした。

 どころか、

「Excellent!!」

 うろついていた変質者と接触できそうという報告である。

 ひとまず体罰は先送りにすることにした。







[41992] アクガミ 三十四話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/11/11 15:14





 その男の姿が目に入り、上崎裡沙ははっとした。

 喫煙スペースであっても関係ない。

 昨今はタバコを吸っているというだけで、どこであろうが白い目で見られてしまう。

 ましてそれが学校の、正門前ともなれば尚更だった。

 地面はすっかり、にじり消した吸い殻で一杯になっている。

 薄くなった頭髪は遠目でも、脂でギトギトしてるのがわかって気持ち悪かった。

 生徒を物色しながらイライラしてるみたいに、盛んに貧乏揺すりをくり返しているのがまた不快である。

 絵に描いたような変質者だ。

 どうせ誰かの父親だろうと、安易な顔をしている生徒は居ない。

 ただ興味はあっても関わり合いにはなりたくないので、みんなちらりと視線を走らせはするが、気づかないふりか足早に通り過ぎるかどちらかだ。

 何人かは危険を感じて、先生を呼びに行った生徒も居るかもしれない。

 ハスミン先生。

 こういうときでもどういうときでも、異常なほど周囲に常に頼られている一人の教師の姿が、裡沙の脳裏にも例外なくすぐに浮かんでいた。

 ただ裡沙の場合は蓮実のイメージだけではなく、また新しいタバコに火を付けようとしている男もセットである。

 話の内容までわからなかったが、町田のぼたん園で蓮実に絡んでいる様子は衝撃だった。

 裡沙にバイオレンスの耐性がないのを差し引いても、教師と生徒のスキャンダラスな関係を目撃してしまったのを差し引いても、熱心に尾行し監視

し盗撮している純一の背中越しの光景は刺激が強い。

 鮮烈。

 本当に奇跡のような偶然で見かけた純一を、ついつい衝動的に追いかけてしまった裡沙だったが、まさか蓮実と詞のデートを目撃してしまうとは、

夢にも思わなかった。

 そこへ『サイコ野郎』だの『殺ってやる』だのと叫ぶ男と、因縁浅からぬとなればその関係が気になるのは仕方ない。

 二人をストーキングしている純一を、さらにストーキングするという妙な構図。

 ショッキングなシーンの連続。

 忘れ難い休日になったのは間違いなかった。

 勘でしかない。

 直感というのさえおこがましいだろう。

 しかしそれでもここ最近のもやもやを払うためには、どうやら全部吸ってしまってタバコの箱をクシャッと、腹立たしく潰して地面に叩きつけてい

る男と接触するのは、根拠らしい根拠は何もないのに必要な気がしていた。

「ううッ」

 だがコミュ障をこじらせている裡沙にとっては、見ず知らずのおじさんに声を掛けるのはハードルが高い。

 無意識に膝が外側を向いていた。

 足は勝手に回れ右をして、校舎に引き返そうとしている。

「上崎さん」

 声を掛けられたタイミングと、振り返ったタイミングがバツグンにぴったりだった。

 痛いくらいの驚きで、裡沙の心臓を飛び跳ねさせる。

「ッ!?」

 人間そういうものらしい。

 声も出なかった。

 妄想したことはあっても予想したことはないので、純一からのコンタクトはサプライズが過ぎる。

 確実に寿命が縮まったのが感じられた。

 ……死んでもいいかもしんない。

「た、橘くん」

 などと思いつつ上ずりドモってしまったものの、噛まないで言えて良かったと同時に思った。

 百点満点にはまったく足りてないが、赤点ではなかったのでオーケーだよね、という低いハードルをクリアーしたことでどうにか笑顔を作る。

 どうして突然コンタクトを取ってきたのか。

 当然のように先週の公園のでの怪しい光景がリンクするが、そういった疑問はあってもひとまず棚上げして恋する乙女の感情を優先した。

 クエスチョンがあっちからもこっちからも飛び交い乱舞しすぎて、脳が面白くもないマイナスを考えるのを拒否したらしい。

 もっともこれで自分に甘いと断じるのは、初恋の相手に不気味さを抱きつつある裡沙に些か酷かもしれなかった。

 多幸感に違和感を駆逐させる。

 とはいえ騒動の影響が、欠片もなかったわけではない。

 奇妙なスマイルはチック症みたいに頬が、ぴくぴく引き攣っていてぎりぎりである。

「何してるの?」

 しかし純一にはそんな不審な表情筋の動きにもとくに、これといって思うところはないらしく無味乾燥な無表情だった。

 裡沙とは異なり緊張している様子は少しもない。

 そして二人には、交流らしい交流もない。

 小学校から同級生というそれなりに長い縁も、裡沙だけが覚えている薄い一方的なもので、実際は精々が隣りのクラスの女の子という認識だろう。

 ナンパをするようなタイプでもない。

 裡沙ほどではないにしても、どちらかといえば人見知りの方かもしれない。

 だが純一にはほぼ接点のない初めて声をかける女の子にも、慣れているというのとはまた違うが気負ったところがまるでなかった。

 笑顔さえ浮かべている。

 浮かべているが――、甘酸っぱい想いにノイズが走る。

 ちょっと頼りないけれど繊細で優しい笑顔が、ただただ不気味なモノとして映ってしまった。

「あ、うん」

 なんとかは盲目状態の裡沙でも、見ないことにするのは難しいレベル。

 人が変わるのに時間は必要ないのかもしれないが、イメージチェンジ程度だと言葉として適切でなく足りてない。

 怖い。

「……あそこに変な人がいる」

「変な奴? 痴漢?」

 ちらりと校門に向けた裡沙の視線を追って、純一も新しいタバコを探しているのか身体中、忙しなく神経質にあちこち叩いている男を見た。

 確認すると納得したみたいに大きく頷く。

「町田のぼたん園で、怒鳴ってた人だよねぇ?」

「そう、だね」

「休みだからって家でごろごろしてるのもアレだからさ。目的もなく出かけたら蓮実先生を見かけてさ。何となく付いて行ったらびっくりしたよ」

「うん……」

「上崎さんもやっぱり居たんだ」

「……うん」

 あの場に裡沙が居た経緯は、だいたい純一と同じ理由である。

 違うのは見かけたのが蓮実ではなくて、付いて行ったのが純一だったということくらいだ。

 あらかじめ考えていた台本みたいな説明台詞だが、それだけに理路整然として特におかしなところはない。

 褒められた行為ではないにしても、休みの日に知り合いを見つけたとき、好奇心を刺激されるのを裡沙には否定できなかった。

「気にならない?」

「え?」

「こんなところにまでわざわざ来るんだよ? たぶん過去にあの人と先生には、相当な因縁めいたものがあるんじゃない?」

「それは……まあ……」

 ならないと言ったら嘘になるだろう。

 ワイドショーのゴシップネタを無責任に楽しんでいるような感覚だけでなく、漠然として曖昧ではあるが触れておかなくてはならない情報に触れる

チャンスだという確信もあった。

「良かった」

「え?」

「裡沙ちゃんも一緒なんだ」

「……え」

「さすがにぼくだけじゃ話しかけるの怖かったんだけど、二人でだったらどうにか勇気が持てそうだ」

「ええっ!?」

 ふっ飛んだ。

 純一に抱きつつあったマイナスの印象はまったく予期せず、下の名前を不意に呼ばれたことと、唐突に握られた手の温かさでプラス変換される。

 というよりも振り幅が大き過ぎてショートする。

 これまでろくに話したこともなかったのに、いきなりのドキドキなイベントが発生した。

 恋愛においてのいくつかの段階。

 こういうのがあるという知識だけは人並み以上に豊富なのだが、こういうことをしたという経験はまったくの皆無である。

 そんな裡沙にしてみれば、純一の取ったアクションはとても刺激的だった。

 ほんの僅かの距離を歩くだけなのに、デートなのかと錯覚してしまう。

 もっともそんな甘すぎる夢からは、すぐに醒めてしまったが。

「すいません」

 裡沙ほどではないにしても、純一とてコミュニケーション能力が、これといって高い方とは思えない。

 どちらかといえば人見知りの部類だ。

 しかし周囲の目を気にしてなのか、新しいタバコを補充しに行くだけなのか、学び舎の正門をすっかりヤニ臭くした男の背中に、わざわざ少し離れ

てから声をかけるという、怪しまれないための配慮というか慎重さが垣間見える。

 躊躇はなかった。

 やっぱり……この人が好き。

 いろいろな意味で裡沙が緊張しているのが、繋いだままの手を通して伝わったようで、勇気付けるみたいにクッと力が篭められたのが嬉しい。

 もの凄く恥ずかしいけど、――それ以上に嬉しい。

 揺らいでも揺らいでも復活する。

 やや線の細い感じのある純一の背中が、恋愛補正のおかげもあってか、裡沙には頼り甲斐のあるものに映っていた。

「うん? なんだい?」

 だからというわけではないだろうが、声をかけられた変質者然とした男は意外にも、どこか憎めない人の良さそうな笑顔で振り返る。

 ただそれも英語教諭の名前を、さらっと口にするまでだった。

 雰囲気が切り変わる。

 バイオレンスとまるで縁のなかった裡沙が、それにさらされるのは初めての体験だ。

 でもこれがきっと殺意というものだろうと確信できる。

 身体が竦んだ。

 未だ繋いだままの手に力を篭めると、安心させるように握り返してくれる。

「下鶴さん?」

「……そう、だけど?」

「ぼくたち見ちゃったんですよ。あなたが蓮実先生とモメているのを」

 男に問いかける声も感情がないのかというくらい堂々として、微かな震えさえも抑揚さえもなかった。

 あきらかに異常な反応である。

 しかし慣れない空気に萎縮している裡沙にも、同じく異常が常態になりつつある下鶴にも、動じない純一に対してそれぞれ思うところは異なるが、

高校生男子としてイレギュラーなものをとくに感じてはいなかった。

 よりわかり易い例を示されたのもあって有耶無耶になる。

「それでスパイを命じられたってわけか?」

「スパイ?」

「あいつは生徒を操る術に異様に長けてるからな。だからこうやって追いかけてきてまで、俺みたいなおじさんに話しかけてくれたんだろ?」

 裡沙にしても純一にしても、以前の男がどんな風だったのかは、当然のことながら知らない。

 でも男がかなりやさぐれているのはわかった。

「むしろそれは逆ですよ。大人が考えるほど子供だって馬鹿じゃない。……ぼくらは蓮実を疑ってるんです」

 心臓が高鳴る。

 ぼくら。

 その響きはとても魅力的で心地よく、裡沙の鼓動を自然と速いものにさせた。

「みんながみんな蓮実の、信者ってわけじゃありません。仮面の下に隠されている裏の顔に、気づいている生徒だっているんです」

 今日の純一はいつのも増して頼もしい。

 まるで舞台一筋の役者みたいに、言葉が淀みなくスラスラ出てくる。

「晨光町田や都立北原の生徒と、同じ道を辿るかもしれない。お願いします、刑事さん。蓮実のことを教えてください」

 表情もこれが演技なら、迫真といっていいものだった。

 おそらくこれがそうなのだろう。

 惚れ直す。

 手を握られたままチラリと盗み見る裡沙の目元は、熱に浮かされたようにポーッと赤くなっており、涙を零しそうに瞳はうるうると潤んでいた。

「どこか店に入ろう」

 すげなく断るつもりだったのかもしれないが、純一が口にした裡沙には覚えのない学校名が、男の興味を抗えないほど惹いたみたいである。

 こちらへの警戒は解いてない。

 どころか荒れ狂う激情も去った様子はなかったが、話だけでも聞こうという冷静さは戻ったみたいだ。

 危険だと感じても何もできないこの状況を進展させるために、一歩踏み出す取っ掛かりを必要としているのはどちらも同じ。

 たとえ罠だったとしても、アクションを起こす契機になったのは確かなのだ。

「それと俺はもう刑事なんかじゃないぜ。刑事やってていい資格は失くしちまったんだ」

 そういって男は自嘲と自虐の、終着点のような笑みを浮かべる。

 重いものを背負った背中がそこにはあった。

 眼を背ける。

 恋だ愛にだと浮かれている自分が、裡沙は何だか悪いことをしている気がしてしまった。

「奢ってやるけど領収書は切れないから、あんまり高いのは勘弁してくれよな」

 とはいえそれらは裡沙の勝手な思い込みでしかなく、学校周辺を徘徊するただ怪しい無職の変質者なのかもしれない。

 純一の台詞をそのまま素直に理解しようとすれば、何らかの事件の真相に迫っている気もする。

 映画や小説だったら主役級の、犯人を窮地に落とす探偵カップルだ。

 想像だけで嬉しい役どころである。

 肌が熱く火照った。

 だがそういったことはひとまず置いておいて、客観的に判断すればこれといって根拠のない怪しい話の羅列だ。

 すべてがすべてそれぞれの、勘違いな可能性が一番高い。

「それじゃ二人とも好きなモノを、なけなしの貯金を切り崩して生活する俺の、財布を気遣いながらの範囲で飲み食いしてくれ」

 店の中は暖房が効いているが、たぶんそのせいではないだろう。

 汗っかきなのかさっきから男はしきりに、ハンカチで首や額の辺りを拭っていた。

 裡沙と純一が揃ってドリンクバーを注文すると、うんうんと頷いて自分はビールを頼んで懐から、ここまでの道すがら購入したタバコを取り出す。

 喫煙席を選んだときからタバコを吸うのはわかっていたが、当然のようにアルコールまでというのはちょっと予想を越えていた。

 不安になる。

 想像してたよりさらにアレな人と、同席しているのではなかろうか?

「昼間からすまないね。素面じゃやってられないんだ」

 安っぽい百円ライターで火を付ける。

 止まらない貧乏揺すり。

 バイトのウエイトレスが嫌そうな顔をしている。

 さして待たされてもいないのに、イライラしながら受け取ると、ビールを不味そうに喉に流し込んだ。

 大ジョッキに満たされた液体を半分以上、一気に飲み干してから酒臭い息をふーっと吐く。

 そこまで済んでからようやく、アルコールのせいだけではない濁った目で、蓮実との因縁を男――下鶴は話し始めた。

 都立北原での連続自殺から、晨光町田の四十人殺しまで。

 蓮実が如何に狡猾に巧妙に暗躍したのかを、主観と私情を剥き出しにして捲くし立てた。

「どいつもこいつも、蓮実の外面に騙されているが、あいつは身勝手な目的のために、大量殺人ができる連続殺人犯なんだっ!!」

 他者の強い感情というのは、ときに伝染しときに沈静化をもたらす。

 この場合の裡沙の反応は、どうやら後者みたいだった。

 というより下鶴の怒りのテンションが余りに高過ぎ、そのエネルギー量の差を咄嗟にはとても埋められない。

 重ね重ねバイオレンスに耐性のない裡沙は、クールダウンどころかあっさりフリーズしてしまった。

「失礼ですけど……」

 純一が一緒にいてくれなかったら、最後まで下鶴の独演会になっていただろう。

 元刑事だけあってプレッシャーが凄い。

 取調室にいるような気がした。

 罪を犯していなくとも『どうもすみませんでした』と、これなら百パーセントの確率で裡沙なら自主的に自白する。

「蓮実をクロだと断定する、これだって根拠とかあるんですか?」

 ビジュアルはもちろん性格も草食系ではあるが、純一はこういう肉食系の状況に慣れているみたいだ。

 もっと追い込まれ追い詰められた経験でもあるかのように、微かに緊張こそしているものの乱れるところまで動じてはいない。

 入念に何度もシミュレーションをくり返し、すでにリハーサルまで行っていたみたいに、主導権を渡したままにすることはなかった。

「根拠?」

「ぼくらも蓮実に裏の顔があると思ってますけど、……下鶴さんの言ってることは、ぼくらの想像してたよりも、ずっと突拍子もないことですよ?」

「まあそうだろうね。名誉毀損で訴えられたら、絶対に勝てないだろうな」

「じゃあ証拠らしい証拠は何も……」

「そんなもんあったらとっくに死刑台に送ってるさ」

 四十人+αに撃ち漏らしはなし。

 遺書を残して屋上から飛び降りた女生徒も、あの夜の虐殺とは無関係と警察は結論付けている。

 物的証拠は学校に備え付けられた防犯カメラはもちろん、生徒の持ち込んだハンディカムカメラやAEDの自動録音機能まで壊されていた。

 死んだと思われていた生徒がよく似た友人の遺体を身代わりにして、窮地を脱出してたというようなトリックもなかった。

 下鶴は椅子の背にもたれ、天井を見上げるようにして言う。

 眼を瞑って積もりに積もった諦念を滲ませた。

「おまけに当時のメディアもそうだけど、今もある事件のサイトでも、生徒を守れず生き残った悲劇の教師として、あいつは同情までされる始末だ」

 テーブルの蔭で素早く検索をかける。

 これまで出てきた『四十人殺し』などのキーワードで、事件に関する虚実入り混じったたくさんのサイトがヒットした。

 例のないセンセーショナルな事件だったのもあって、世間の受けた狂騒ともいえる様相をかなり鮮明に憶えている。

 そしてサイトの内容はどれも、面白おかしく脚色はしてあるが、それ以上でもそれ以下でもない。

 全体をざっくり大雑把に総括してみると、励ましの拍手さえ聴こえてきそうな教師への応援、警察の初動の悪さを批判するものがほとんどだった。

 名こそ伏せられてイニシャルになっているが、アイドル扱いで蓮実のファンサイトと言っていいモノまである。

 グラスのアイスコーヒーを飲み干すと、裡沙は口に含んだ氷をガリッと噛み砕いた。

「あ、ご、ごめんなさい!?」

 思ってた以上に音は大きく響いて、二人の視線を瞬間で引き寄せる。

 望まぬ注目に裡沙は、応えるように反射で謝った。

「それでどうだい? きみたちから見て、あの野郎を敵とする仲間として、俺は合格点は貰えそうかい?」

 ただ下鶴はそれで少し沈静化されたのか、熱を帯びてきた声のトーンを落とし、しかしその分を補うように眼の光りを強くする。

 むしろアブなさの密度が、裡沙には増してしまった気がした。

 話も飛躍しすぎていて、いまいち展開についていけない。

 蓮実に疑いを持っているというのは同じでも、殺しだの何だのというワードが出ると、現実味というかリアリティはなくなってしまう。

「……まあ信じられないのもわかるが、俺の今した話は全て真実だし事実だぜ」

 二人の表情に気づいたらしい。

 期待外れかもしれないという顔をしつつ、それでもまだ裡沙と純一に期待している顔をしている。

「晨光町田の事件からいろいろあってね。縁も縁もない京都に飛ばされたんだけど、縁も縁もどっこいしっかりあったみたいでな」

 蓮実の出身地だった。

 都立北原の連続死から調書を読んでそのことを知っていた下鶴は、非番の日まで足を使って独自に洗い直したらしい。

 悪魔のルーツ。

 それは知れば知るほどに背筋が寒くなる。

 幼少の頃から蓮実の周囲では、あまりにも人死にが多い。

 消息不明の者を入れると、かなりの人数に上るだろう。

 学校の教師やクラスメイトはもちろん、そこには強盗に襲われた両親も含まれている。

 まだ小学生になる前に、精神鑑定を受けていることもわかった。

 令状どころかあくまでも単独の捜査だったので、さすがに詳細まではわかりようもなかったが、定番のロールシャッハテストだけでなく、芝居の場

面を切り取った絵からストーリーを作るTAT、自由に木を描かせるバウムテストなどにもおかしなところはない。

 結果はシロ。

 だが本当にそうか?

 芽のうちに摘むチャンスをふいにしたしたのでは?

 京都に左遷される前から自分の推論に、下鶴は確たるものを持っていたようだが、蓮実の生い立ちに触れることでさらに補強されたみたいである。

 間違いなく奴はクロだ。

 それからは上司に具申し同僚に訴えるものの、なしにつぶてで鬱々と過ごす日々。

 警察は藪に手を突っ込んで、すでに二度も手痛く噛まれている。

 何より大事な組織の規律に従わず、すっかりはみ出し者になっている下鶴に、耳を貸してくれるような人間はいなかった。

 辞表を提出したときのほっとした職場の空気を、今でも苦々しさとともに思い出すことがあるらしい。

「でもまだ俺にも、ツキはあったみたいだ」

 町田に戻ってきたその日である。

 蓮実と再会したのは……。

 いい年になっても、男のヒーロー願望というのはなくならないらしい。

「これはきっとあの悪魔を裁けって、天から与えられた俺の使命なんだっ!!」

 たぶん、いや、絶対に、そのためだけに俺は生きている。

 ……ってそんなこと真顔で言われても。

 唐突にしらけた。

 妄想の領域。

 裡沙も学校の人気英語教諭が怪しいという疑いを持ってはいるが、殺しだのなんだのというワードを連発されると、おちおち憧れ夢にまで見た甘い

夢にも浸っていられない。

 純一のカノジョ気分でこうやって隣りに座っていられるから、どうにかこうにかこの飛躍し過ぎて胡散臭い話に付き合っていたものの……。

 開演からずっとノッてなかったというのもあるが、ここらが裡沙が観てられる限界のようである。

「是非ぼくらも協力させてください」

「危険だぜ?」

「もちろんわかってます。でもこのままにはしておけません」

 自分が女だからだろうか?

 どれだけ血が湧こうが肉が踊ろうが、バイオレンスはノーサンキュー。

 どころか友情・努力・勝利の少年漫画ノリでさえ、恋愛至上主義で少女漫画大好きな裡沙にはピンッと来ない。

 瞳に炎でも宿してそうな勢いで盛り上がっている二人には悪いが、酷く詰まらない舞台を見せられているかのような感覚になる。

 あ、これ。

 蓮実の吹く口笛の曲名を裡沙は知っていた。

 三文オペラ。

 どこからともなく『モリタート』の、親しみ易く軽快なメロディが聴こえてくる。

 ぎくりとして反射的に英語教諭を探しそうになったが、音源の正体は無論わかっていて有線放送だ。

 馬鹿馬鹿しい。

 まあ、いいいかな。

 名前どころか存在を知られているかも定かでなかった純一と、無職のおじさんというオマケはあるが恋人みたいな扱いで喫茶店に居られる。

「なら俺たちは歳は離れてるけど、あの野郎を倒す同志ってわけだ」

「はいっ!!」

 白熱していく男二人の話を右から左に流しながら、裡沙は自信作なオリジナルジュースをいつもより甘く味わった。






[41992] アクガミ 三十五話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2017/12/09 17:12




 体調管理に配慮してやるのも教師の務めだ。

 穿いたままだと風邪を引くかもしれないので、詞は大層恥ずかしがり渋っていたが脱がせている。

 濡れた部位を丁寧に拭ったようだったが、それでもひんやりスースーしたのかもしれない。

 刺激的な散歩になったみたいである。

 宿直室に逃げ込むまでの道中では、男子だろうが女子だろうがすれ違うたびびくつき、挙動不審にスカートの裾を押さえていた。

 可愛らしい。

 颯爽とした凛々しい生徒会長の面影はそこにはなく、おどおどしている姿は可愛らしく保護欲をそそられる。

 頬杖を突いてぼーっとしてると不意に蘇ってきた。

 スカート捲りは少年時代のノスタルジーでありロマン。

 しかし今のご時勢でそれをやってしまえば、小学校の低学年であっても許されない。

 学級会どころかPTAまで、勇んで出張ってきそうなテーマになっていた。

 おそらくそれが文化としてリアルに息づいていたのは、年号が平成に変わるか変わらないかくらいがたぶんぎりぎり。

 表向きのオフィシャルなキャラクターを、蓮実は幼稚園の頃にはすでにもう確定させている。

 女子の人気を獲得するには寧ろ、適度に男子を窘める必要があった。

 バカな男子も聖司くんの言うことなら聞く。

 捨てがたい評価だ。

 無邪気を大義名分にはしゃぐクラスメイトに混じり、一緒になって女子の下着の色を楽しむわけにもいかない。

 もっともプライベートは下着の下の色まで愉しんだが、稚気に溢れたあの年頃しか許されない行為とは残念ながら無縁である。

 なのでどこか憧れてもいた。

 ひらひらとスカートの襞が揺らめくたびに、あのときの羨ましいという幼い気持ちがぶり返って、ちょっと蓮実をセンチメンタルにさせ苦笑する。

「本当に友だちの家よ。え、誰って? ……だ、誰でもいいでしょ。いいから言われたこと、言われたまま伝えておいて」

 詞は輝日東の生徒の例に漏れず、というよりも模範のような生徒である。

 手順さえちゃんとしていれば、いきなりでも外泊の許可を取るのは難しくなかった。

 ウチの子に限って。

 どこの親もそう思っている部分はあるだろうが、詞クラスになるとどうやらその信頼も絶大らしい。

 真面目な子がある日突然やらかすのは、思春期ならあるあるのイベントだろう。

 不良だヤンキーだと日頃から問題視されている子の方が、親としてはそのときに備えての心構えもし易い。

 ある程度予期してるので然程、問題にならないのかもしれない。

 前任校で蓮実の受け持っていたクラスにも、遊び呆けている間に家が火事になって、犯人の容疑がかかった生徒が居たが、そういう案件が発生して

いなければ、クレーマーの父親が焼け死んでなければ、取るに足らない日常で終わってただろう。

 そして優等生とて今時の女子高生。

 ステップさえ踏めば割と簡単に、オールナイトで遊ぶ許可は下りる。

 何の通告もなしで行えば厳しいどころか、下手をすれば警察沙汰の騒ぎにまで発展しかねないが、電話を一本入れておくだけで問題なくクリアだ。

 相手は親ではなく苦手としている姉みたいだったが、すんなりとオーケーが出たようである。

 絢辻家に関する情報も抜かりなく事前に調べてあった。

 おっとりした天然キャラの姉は姉で、優等生の妹とはまた一味違う信頼が親にあるらしく、口添えがあればまさか教師と密会とは思われない。

「か、彼氏!? ちょ、だから、そ、そんなんじゃないってばっ!!」

 理解のある姉で助かる。

 もしかしたら本人は未だ小声で話しているつもりかもしれないが、興奮してどんどん大きくなっており内容は筒抜けだった。

 こうなると唇の動きを読むまでもない。

 夜の宿直室で制服姿の女子高生が、教師との逢瀬を誤魔化している様子は、ノーパンなのを抜きにしてもエロティックなものがある。

 ざわついた。

 後ろから抱き締めてイタズラしたくなってくるが、まだ巡回もあるのであとの愉しみとして自重しておくことにする。

 とはいえこれぐらいの茶目っ気は許してほしかった。

 にやにやしながら、そ~っと背後に忍び寄る。

 モデルにしたのはいつも周囲に笑顔の絶えなかった人気者、小学校六年生のときの同級生である飯野竜也の所作だった。

 当時の蓮実が調子に乗って同じようにしていたら、ドミノ崩しみたいに女子の人気を失っただろう。

 竜也は不思議とスカート捲りをしても、逆に好感が上がる得なキャラをしていた。

 今もときどきだが思う。

 水中で鼻と口から泡を吹き出している様はひょうきんでユーモアがあった。

 最後の最後まで笑わせてくれる面白い奴で気も合ったし、遊んでいるときはとても楽しかった。

 竜也からはこうしてみると学ぶことも多く、たいした理由もなかったので殺さなくてもよかった気がする。

 蓮実少年を抑えての不動の人気一位でさえなければ、その頃に聖司が関心を持っていた美菜ちゃんという女の子が、竜也を好きだという噂さえなけ

れば、臨海学校での不幸な事故はおそらく起こらなかった。

 若気の至りというのは怖い。

 肝心の美菜ちゃんへの関心にしても、ライバルが亡くなったことで無くなってしまので、貴重なサンプルを失ってまですることじゃなかった。

 後悔はしてないが短い人生だった竜也のために、反省くらいはしておいてやるべきだ。

「じゃあね。――きゃあッ!?」

 電話を切ったか切ってないかのタイミングを見計らい、無防備にしてる教え子のバックからスカートの裾を跳ね上げる。

 慌てて押さえようとした詞の反応は速かったが、それでも可愛らしいヒップの丸みがチラリと覗く。

 一瞬だけ露わにされたお尻を手で隠しつつ、キッと睨むがもちろん迫力があるわけもない。

 大きな羞恥とちょっとの怒りで、少女の顔面は朱に染まっていた。

「それじゃ行こうか」

「……はい」

 珍しく子供っぽい仕草。

 拗ねたみたいにして付いて来るのが可愛い。

 目新しさのなくなっている校内の巡回も、お気に入りの女生徒を同伴させているのと、創設祭の飾り付けなど廊下が賑やかなのもあり新鮮だ。

 夜の遊園地を歩いているみたいな、独特の寂しさもあってなかなか趣がある。

 というか怖いかも。

 昼間ならメルヘンチックに映るんだろうアレだったりコレだったりが、暗がりの中にボゥーッと浮かんでホラーテイストになっていた。

 蓮実は異様に夜目が利くのでまったく苦にならないが、ライトなしは学校というシチュエーションもあって雰囲気が出るだろう。

 距離が近い。

 詞は寄り添うようにして身体が触れそうなほど、置いて行かれるのを危惧してるのか、ぴったり蓮実をマークして尾いてくる。

 週明けのクリスマス・イブはいよいよ創設祭だった。

 先送りに先送りを重ねて土日返上になったクラスもあるみたいだが、それでもほとんどの教室では喫茶店やお化け屋敷などの内装が完成している。

 喫茶店は各クラスともコスチュームには気合が入っているが、そのほかは小学生のお誕生日会を彷彿とさせる出来だった。

 お化け屋敷もこれといって、オリジナリティがあるわけでもない。

 凄惨な生首を表現したらしいマネキンも、赤い縞のフェイス・ペイントをしたサッカーのサポーターみたいだ。

 当たり前だが軒並み学生クオリティで、けれどそれが不思議とらしさになっていて悪くない。

 程よいスパイス。

「疲れた?」

「いえ、別に」

 それはそうだろう。

 校舎を適当に一周しただけだ。

 教え子の若くて瑞々しい健康的な肢体に、心地よく疲れてもらうのはこれからである。

「まだまだ夜は長いんだから、無理することはない。ここで休んでいこう」

「え、あ!? ……は、はい」

 昼間にトイレで奪ってやってもよかった。

 しかし初めては、誰でも一回しかない。

 仮にもう詞の膜が誰かにすでに破られており、ヴァージンでなかったとしても、忘れられない思い出はなるだけ素敵にしてやりたい。

 家に唐突な泊まりの電話を入れさせられてまで、夜の巡回に付き合わされているのだ。

 2年A組。

 わざわざこの教室で休んでいこうというサインを、取り違えるような苛立つタイプの天然ではないだろう。

 毎日のようにここで授業を受け、家にいる時間よりも長く過ごす場所なのに、確信のある予感で詞は身体を固くさせていた。

 教師としても大人の男としても、ここは教え子を解してやらねば。

 パーティーでエスコートでもしているみたいにして、少しおどけたように緊張する少女を室内に誘った。

 微かな星明りと街灯のみが差し込む風景は、夜の学校というシチュエーションもあって、なかなかどうしてロマンチックを演出している。

「これが見せたかったんだ」

 根も葉もないことを、さらりと蓮実は口にしていた。

 この手の台詞は考えなくとも自然に出てくる。

「キレイですね……」

 ただ今回に限ってなら、それは詞も同じかもしれない。

 こういう状況なら誰でも口にするだろう、何のひねりもないマニュアル通りの定型文。

 窓の外の景色に魅入っているようだが、意識は蓮実にのみ向けられていた。

 ゆっくりと肩に廻されようとしている腕の動きも、気づかないふりをしつつ目の端でしっかり捉えている。

 その点について疑いはなかった。

 そっと優しく抱き寄せて、わざわざそうする必要もないだろうが、逃げられないように拘束する。

 真っ直ぐ蓮実だけを見つめてくる瞳は、媚びるみたいにうるうると潤んでおり、DNAに刻まれた牝としての本能で牡を誘っていた。

 こうなればもうシメたもので、まどろっこしい駆け引きはいらない。

 欲求も抑えがたかった。

「んッ」

 唇を重ねる。

 美味。

 甘い唾液を貪るようにして堪能する。

 絡ませた舌を強く締め付け、弄いくすぐってやりながら、教え子の上口蓋や歯茎、頬の裏までこそぐようにして陵辱した。

「うう……ん」

 詞は普段被っている生真面目な優等生の仮面からでは、とても想像できない悩ましく色っぽい吐息を漏らしている。

 いい傾向だった。

 身体がぶるぶると震えている。

 まださすがに絶頂とまではいかないようだが、身も心も支配されているという意識が、悦びに転化するまでそう時間は掛からないだろう。

 蓮実にはこの教え子を自分の理想通りの優等生にする、そんな胸躍る未来像がはっきり浮かんでいた。

「んゥ、ンッ、ンッ、……」

 腰を支えながらさらに舌を奥まで穿ち、身体だけでなく心まで侵食するように密着を深める。

 滾りに滾り凶悪な熱を帯びた股間を、処女の少女のお腹にぴたり押し当てた。

「う、うぅんッ……ぁ、んぁッ、くぅんッ!?」

 背中を撫でていた手はするすると滑り降り、暖簾も同然にスカートをあっさり捲くって、勃起に劣らずやはり熱くなっている生尻を揉みしだく。

 全体的に皮下脂肪の薄い身体ではあるが、そこはそれで大人の女への発展途上真っ只中な、旬な思春期の女子高生らしくぷりっとしていた。

 ぎゅっと握ると反発してくるのが、未熟な魅力を内包しており小生意気で愛おしい。

 堪らなく苛めたくなる。

 そしてそうしてやる時間はたっぷりあった。

「ンふぅうッ!!」

 こらこら。

 苦笑交じりにがっつくなと、自分を叱咤するが止まれそうもない。

 大前提で停まる気もさらさらない。

 少女の持つ温かなぬくもりが、じんわり牡の獣欲をそそる。

 蓮実はヒップの丸みに沿って焦らすみたいにそっと、痴漢でもしてるかのようにゆっくり卑猥に弄り手を動かした。

 これが本当に朝の通勤電車でしていれば、蠢く手は捻られ車掌室に直行かもしれない。

 もしくは凍てつくような醒めた冷たい眼差しで、無言のまま睨まれる空しい気分にさせられるかだ。

「ん……ッ」

 けれど不躾なタッチをされ続ける詞のリアクションは、内気で大人しい何も言えなければ何もできない少女のそれだった。

 恥ずかしい行為にもただされるがまま、従順に悪戯されるしかない美しい獲物。

 いや、ペットか。

 教師を悦ばせるためだけに存在する愛玩動物。

「はぁ、あ、ああ……」

 どの子もよく懐いていた。

 たぶんそれは甘やかすだけではなく、躾けもしっかりしてきたからだろう。

 やわらかな唇を解放してやると、所在無さげにしていた手を取った。

 露骨に自己主張している劣情の証へと誘う。

「あッ!?」

 徐々に解れてきた身体だったが驚きの声とともに、むしろ数分前よりも一層緊張させてしまったみたいで堅くなった。

「俺が詞をどんなに欲しいのか、どうしても教えたかったんだ」

「……は、はい。あの、え、えっと、そそ、その――」

「半端な気持ちじゃないってこと、ちゃんと詞に伝わってるのなら、それを言葉でなく行動で示してくれ」

 教え子の手に自分の手を重ねて股間の隆起を握らせると、使い捨てのカイロを発熱させるときみたいに揉み込みまさぐらせる。

 布地越しでも隠せない激しい牡のシャフトの脈動を、耳の先まで真っ赤にしている初な女子高生に否が応でも意識させた。

「んぅううッ……」

 そうしながら再び濡れた唇を奪う。

 勃起の昂ぶりを表現するようにさっきよりも、荒々しく生々しい過激なモノになっていた。

 口内にヴァージンの象徴がもしあれば、きっと破られただろう舌でするセックス。

 クチュックチュッ……。

 淫らな粘着音。

 交換される唾液はトロトロ混ざり合って極上の媚薬になっていく。

「ぅふンンッ!!」

 まだキスに慣れておらず作法を知らない詞が、苦しげに鼻で息をしだしたところでまた解放した。

 うっすら開いた瞼の奥の瞳は霞がかかったようになっていて、身体は糸の切れたマリオネットみたいにぐったりしている。

 蓮実は子供の頃は天使のようと評判だった笑みを浮かべた。

「可愛いよ」

 胸中だけで『馬鹿な子ほど』という言葉を呟きつつ、覆い被さるみたいに顔を近づけてさらに口唇を犯す。

 三度目のアプローチ。

 にゅるりと舌を侵入させる。

 味蕾のざらつきがわずかに感じられる舌の表面と、ぬめらかな舌の裏側が擦れ合うのが気持ちがいい。

 温かな口内で二匹の軟体生物が絡み合う。

 蕩けるように甘く官能的な口づけが終わったときには、恍惚とした貌をしてここではないどこか、甘い夢の中を彷徨っているみたいだった。

「ンゥ……」

 唇と唇の間に築かれた銀色のアーチは、刹那だけきらめいてから儚く切れる。

 隙間なくぴったり密着していた二人の間で温められた空気が、火照った肌をふわっと撫でて逃げていった。

 蓮実はその光景に満足したように目を細めると、撫でていた柔らかで美しい曲線から手を下降させ、膝の裏に入れるとひょいっと軽々持ち上げる。

 ぬいぐるみみたいに机に置いた。

「落ちないようにな」

 あるいは体質的にアルコールを受け付けない下戸かもしれない。

 酔ったみたいに肌を真っ赤にしている詞の耳に唇を寄せ、からかうように囁くと制服のジャケットを脱がしブラウスのリボンを解く。

 流れるようにボタンを爪弾く指先を詞は、低血圧の寝起きみたいにぼんやり眺めていた。

 シンプルなデザインのブラジャーに指先がかかる。

 押し下げた。

 小ぶりだが形のいいぷりっとした乳房が剥きだしになる。

 雪のように白い肌の頂点では、淡いピンク色の乳首がツンッと上を向いていた。

 硬くしこっている。

 恥ずかしそうにふるふる揺れていた。

「Excellent!!」

 そうやって惜しまぬ賞賛を教え子に送りつつ、蓮実はおもむろに人差し指の先を口に含む。

 唾液をたっぷり纏ったその指を、詞の視線を感じつつ乳首に近づけた。

 にちゃッ……。

「あンッ!?」

 可憐な嬌声と小さくとも無視できない音をさせて、教え子の右の乳首に英語教諭の唾液が移植される。

 乙女の汗との絶妙なブレンド。

 そのままデリケートな器官の上で「の」の字を描くようにして、ぷっくり膨らみながらさらに硬度を増していく乳首を存分に愛でる。

 頃合いと見たところで、

「ひゃぅッ!?」

 不意を突いて左の乳首にむしゃぶりついた。

 反射でなく本能というべきだろう。

 まるで歓迎するかのように、白い腕が蓮実の頭を掻き抱いた。

 瑞々しく柔らかな青い果肉に、強く押し付けられる。

「あ、ンッ、ンッ、ンッ、ああッ、ゥ、うふッ、……ああッ、や、ン、んんッ、やはぁッ!!」

 甘やかすばかりでは良くないのはわかっているが、ご希望通り小生意気で寂しがり屋な突起を苛めてやった。

 ふくらみを頬張ったまま舌先でくすぐると、まだ大人に成り切ってない半熟の女体が淫らにくねる。

「はンッ、あッ、あッ、あッ、ン、ああッ……」

 どうやらアマガミされるのが、生徒会長のお気に入りみたいだった。

 舐めしゃぶり歯を立てる。

 卑猥なサイクルを飽きさせぬようリズムを変えつつくり返し、決定的に発達条件の整ってない乳腺を執拗に刺激した。

 もっともこれでミルクの味がしたら、残念だが処分の必要性に迫られたかもしれない。

 とはいえこれまで散々あちこちに種をバラ蒔いてきたが、実らせるようなヘマをしたことはしなかった。

 だいたい処女の少女に、その危険があるわけもない。

「ひぅッ!?」

 心置きなく味のしない教え子の味を味わう。

 透明感のあったピンク色がすっかりと、今にも血の噴きだしそうな紅色になって、ようやく蓮実は乳首への咬みつき行為をやめた。

 教え子が羞恥に身悶えしつつ内腿を擦り合わせていたのを、歯形をマーキングするのに夢中になりながらも見逃してはいない。

 そろそろスカートの奥の疼きにも、かまってやった方がいいだろう。

 少し身体を離した。

「あ、あ……」

 不安そうであり未練がましくもある声が耳に心地いい。

 しかしあえてそれには応えずに、蓮実は穏やかな笑みを絶やさぬまま、スカートの布地が透けているかのように、詞の下腹部に熱い視線を注いだ。

「そのまま膝を立ててごらん」

 指図する蓮実の意図が即座に読めたのだろう。

 その証拠にうるうる潤んでいた瞳は、次にされる要求も的確に予測しているみたいで、ぞくぞくする憂いを含んだ涙が零れそうになっていた。

 きっとしゃがみ込み泣きたくなるような、激しい羞恥に襲われているみたいである。

 乙女はそうでなくては、

「早く」

 弄くる面白さも半減し興醒めだ。

 焦れるほどじりじりと持ち上がっていく脚を動かすのに、詞がどれだけの勇気を動員しているのかと考えると心が震える。

 契約を取り付け清らかな魂を奪う悪魔の気分とは、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。

「もうちょっとだ」

 蓮実のほくそ笑みながらの声援に、詞の両脚の踵はようやく机に乗った。

 なんとも器用なものである。

 体育座りみたいな姿勢になった詞は左右の足を絡めるようにして、匠の技と言いたくなるよな見事さで股間をガードしていた。

 今どきのアイドルの写真集みたいで、なかなかどうして際どい。

 あらゆる方向とまではいかないまでも、正面から詞の秘密を覗くのは難しいはずだ。

 ただ蓮実の場合は、

「開いて」

 簡潔に命じるだけでいい。

 それだけで視線を遮る脆そうなのに鉄壁なガードは消えて、望む望まぬに関わらず露わにさせることができた。

 ハァ……。

 やたら色っぽい諦念の吐息を漏らしながら、けれどどこか艶やかな媚のある悦びを滲ませて、焦らすみたいにじりじりと左右の脚を開いていく。

 詞にそういう狙いはないのだろうが、『Excellent!!』と褒めたくなる魅せ方だった。

 脚の形がM字になり、覆う物のない股間が露わになる。

 剥きだしの秘裂が曝されていた。

 開脚のせいばかりじゃない。

 淡く微かではあるが確かに花びらは綻んでいる。

 粘り気のある蜜でしっとり濡れていた。

「は、ぁ、ああ……」

 長い睫毛を小刻みに震わせながら目を逸らす仕草には、牡の嗜虐性を喚起せずにはいられないエロスがある。

 真夏の炎天下でアイスクリームがゆっくり溶けていくかのように、うぶな粘膜は這い回る視線を感じて生々しく蕩けひくついていた。

 ポタッと垂れてしまう前に舌を伸ばして、男なら誰しもペロリと舐め取りたくなる。

 だが我慢。

 ここは童貞の高校生男子とは違うというところを、大人の男の余裕というものを見せておきたい。

 詞を載せ上げた机が詞本人のものなのは必然だったものの、何となく引っ掴んだ椅子が純一のものだったのは偶然だった。

 なんだかなぁ。

 たったそれだけのことなのに、妙にツボで笑いを誘わてしまう。

 予想外に堪えるものを増やしつつ、持ち主から奪うようにして腰を下ろした。

「女の子がはしたないぞ」

「え?」

「手で隠しなさい」

「……はい」

 電車であっても教室であっても、ベッドであってもそこはブレない。

 全開のフルオープン。

 どこだろうが大股開きの恥知らずな子みたいな扱いに、詞は恥辱にぶるぶる打ち震えながらも素直に従った。

 そして股間を隠そうとする右手が恐る恐るなのは、ソコが恥知らずな状態なのをわかっているからだろう。

 蓮実の望みを的確に忖度することによって、いつもより感度も上がっているのかもしれない。

 秘裂を透かすほど薄い陰毛をべったり張り付かせた恥丘に、掌をそっと重ねて中指を物欲しそうな粘膜に触れさせる。

「はンンッ!?」

 白い喉をさらし仰け反る身体。

 電流を浴びたみたいに、お尻を浮かせぐっと迫り出す。

 濡れた媚肉に中指がめり込んでいた。

「続けて」

 自分の身体の過剰に敏感な反応に驚いたのか、けれど手をどけることなく股間を覗き込む教え子に、蓮実は授業でもしているみたいに先を促す。

 英文では滅多に詰まったことのない詞ではあるが、どうやらこういう方面ではそうもいかないらしい。

 しかし蓮実は昼間の授業でもそうであるように、夜の授業でも生徒を急かさず辛抱強く、にこやかなスマイルを絶やさず待ってやった。

 許してほしい。

 瞳をうるうるさせながら哀願の篭められた視線で見つめてくるが、わかっているからというように蓮実はただ頷くのみだった。

 その教育姿勢に間違いはなかったみたいで、遅々としたスローモーションではあるものの、命じられたという大義名分を得て中指が鉤型に曲がる。

 ほんの刹那だけ味わっただけで、けっして忘れられない快楽を求めて。

「ンッ……んふッ、ァ……ああッ……」

 思春期の女子高生に自慰の経験がないというのは、世の大人が抱く理想の優等生でもさすがに有り得ないだろう。

 が。

 教室でクラスメイトの話を小耳にしたり、各メディアから収集した情報などにより、漠然としたイメージは共有していても同じものは皆無。

 誰に習うものでもないので、誰しもにオリジナリティがある。

 これこそ唯一無二の個性。

 個性個性とやたら騒ぐくせに流行にはすぐさま乗る少年少女たちが、欲してやまないものは毎夜のようにひっそり磨かれているのだ。

 いったい詞はどのような個性を披露してくれるのか。

 蓮実は年甲斐もなくわくわくしてしまう。

「んううッ……あッ……あンッ……、は、ンああああッ……ンゥッ、ンゥッ、ンゥッ……」

 くちゅくちゅくちゅ……くちゅ……。

 けっこう激しい。

 そして大胆な指遣いだった。

 裂け目にぐっぷり呑まれた中指の第一関節が、ぷにぷにした大陰唇のすぐ内側の粘膜を擦り、そこから生み出されるピンクの悦楽は指が上下をくり

返すたびに、幾重にも積み重ねられて少女の内面を濃厚な性愛で染めていく。

 内腿の筋がぴーんと張っているのがキュートでセクシー。

 いけない遊びに耽る指先はもうとっくに、ハチミツみたいにねっとりした透明な粘液に塗れている。

 蓮実の視線をなるだけ意識しないよう意識しているためか、媚肉の狭間から湧き出すぬめりは次から次に分泌され、机にお漏らしみたいな水溜りを

こさえるのに、それほどの時間は掛からなかった。

 アクティブに拍車が掛かるのも。

 たっぷりの華蜜でぬるぬるしている指先を、ぴんぴんになっているクリトリスに塗りつける。

 触れるか触れないかという、軽く撫でただけの優しいタッチだったが、教え子の四肢を痺れさせるのに充分だったみたいだ。

「……んくぅツ……、あ……ああッ……」

 溢れる声を懸命に抑えようとしているみたいだが、肉芽は際限なく敏感になって乙女の儚い抵抗を嘲笑い続ける。

 触れるか触れないかのソフトなタッチなのに、快楽はどうしょもなく膨らんで詞を打ちのめしていた。

「ひぅッ!?」

 さもそれが自然であるかの如くスムーズに、慣れた動きで中指は膣口に押し当てられ、熟れた果実に突き刺したときのようにズブズブ沈み込む。

 蕩け切った女陰は貪るように、指を頬張りクチュリと咀嚼していた。

 居場所を奪われた華蜜が溜め込んでいた涎みたいに、普段は教科書を広げノートを綴っている机をぐっしょり濡らしながら溢れ出す。

「ン、ン、ン、……あッ、あッ、あッ、ぅはああッ……」

 潤んだ秘裂に指がリズミカルに出し入れされ、雨水の染み込んだスニーカーで足踏みしているみたいな、すこぶる卑猥な粘っこい音を奏でていた。

 愛液を滲ませる粘膜の合わせ目を掻き回すたびに、獣欲をざわつかせる淫らなサウンドはボリュームを大きしていく。

「こんな……あッ……くぅんッ……、こんな……こんなの……あッ、んクゥ……あはぁああッ……」

 エクスタシーの階段を昇り詰めるまであと一歩なのは、詞が蓮実に恥を曝そうとしているのは誰の目から見ても明らかだった。

 だからこそその言葉が残酷なのは、思春期という発情期を迎えていれば、誰が耳にしてもわかるだろう。

「ストップ」

 うぶな媚肉をトドメとばかりに抉ろうとした指先を、手首を掴んでそのまま『ずにゅり』と、エロティックな熱を内包した粘膜から引き抜いた。

 唇を結んだ唾液よりも妖しく煌いている。

 ……なんで?

 快楽の享受を寸前で邪魔された教え子の瞳は、哀願するみたいな涙を浮かべて揺らめいていた。

「どうなってるかよく見せて」

「……そ、そんな……こと……」

「可愛い詞のすべてを、俺だけに見せてほしいんだ」

「で、でも」

 蓮実が命じると詞は一瞬、悦んだオンナの貌を見せてから、すぐに恥じらいを捨ててはいけない少女でもあることを思い出したらしい。

 肌を染めながら、蓮実の視線を避けるように顔を伏せた。

 けれど詞は世の大人の望む理想的な、いや、蓮実の望む理想的な優等生になりつつある。

「ん……」

 羞恥でその身を灼きながらも手を後ろに突き、身体を反らして最も秘密にしなければいけない大切な部分を露わにした。

 太腿の付け根にささやかに繁る恥毛に彩られたヴァージンの割れ目は、すっかり可憐な花びらを綻ばせて奥にあるピンクの粘膜を覗かせている。

 どころかねっとりした華蜜の侵食は深いところにまで及んでおり、蟻の門渡りまで伝ってすでにアナルにまで達してそうだった。

 椅子から立ち上がり床に跪く。

 過敏に敏感な部分に蓮実の息がかかり、詞がひくんっと身体を震わせた。

 鼻ではなく牡器官の先端でだけ嗅ぎ取ることが可能な芳香に、惹き寄せられるようにして顔を近づけ妖しくぬめ光る媚肉に口づける。

 教え子の秘裂にむしゃぶりついた。

「あひぃッ!?」

 詞の爪が机を引っ掻いて、ブリッジするみたいに身体を反らす。

 舌を蠢かせると口の中いっぱいに愛液の味が広がり、瞬く間に甘く透明な粘液でベトベトになった。

 もじもじと身悶えし、詞が可愛い声で喘ぐ。

「あッ……や……ンッ……、ああン……、あッ……ふぁッ……、ああッ……、やッ……んふぅ……」

 この反応に気を良くしたのか、蓮実は舌を挿し込んだ。

 尖らせた舌先に力を篭めてスリットの奥を探り、牡に媚びるためにトロトロに蕩けている処女肉を抉る。

「んぁッ、し、舌、ああッ、せ、先生、んッ、はああああッ……あッ……ハスミン先生ッ!!」

 か細い肢体が電流を流したみたいに緊張して、剥きだしの小さなお尻がキュッと引き締められた。

 微かな残尿臭と、それをはるかに上回る牝の匂い。

 ラブジュースがじゅわりと溢れ、柔肉の狭間を伝って割れ目の外へと垂れていく。

 にゅちゅ・ちゅく・ぢゅちゅッ……。

 蓮実は躊躇うことなく喜々として、下品なほどはしたない音を立てながら、とめどなく分泌される教え子の性愛の証を喉の奥に落とした。

「だ、ダメ……あッ、ンッ、ンッ、ンッ……だ、ダメ、も、もう、ああッ……こんなの……ダメッ、……あッ、アアアアッ!!」

 不一致。

 言葉と態度がリンクしない。

 恥ずかしがってはいるがそれ以上に悦んでいて、もっともっとと無言のアピールで腰を前に迫り出す。

 股間に突っ込まれた蓮実の鼻面にグイグイ、自分の卑しさも浅ましさを隠そうともせず、粘膜に押し付けて掻き回すことをリクエストしていた。

 物足りないらしい。

 詞はけっこうな欲張りで贅沢で、自分に対してすこぶる素直だった。

 腰の後ろに置かれていた左右の手が蓮実の頭を抱え込んで、爪を立てながらこうして欲しいと髪の毛を激しく掻き回している。

 普段は聞き分けのいい我侭を言わない子が、ストレートに甘えてきてくれると教師としても男としても嬉しいものだ。

 ならばと舌を軟体動物みたいにくねらせ、穴という穴から侵入し内部から喰い散らかすように、教え子の粘膜を希望通り存分に嬲り貪り犯す。

「ひッ、ひぃいいッ!?」

 そうやって要望に応えてやりながら、包皮にくるまれた快楽器官をつるりと剥き上げた。

 あくまで優しくソフトに、肉の真珠にちゅっと吸い付く。

「は、ハスミ、あッ、んぅううッ、そ、あッ、ハスミン、あはぁああああッ!!」

 唇の粘膜に充血した粒が丹念に執拗に揉み込まれるたびに、詞の身体に悦楽という電流を強制的に走らせていた。

 首を仰け反らせ爪先をぎゅっと折り曲げながら、牡を挑発するように腰を何度も上下させている。

 蓮実は牝を味わいつくそうと、粘度を増していく液体で舌鼓を打ちながら、神聖な学び舎での陵辱をエスカーレートさせていった。

「出ちゃうッ、で、出ちゃうッ、ハスミン、せ、先生、ああッ、ご、ごめ、ごめんなさいッ!!」

 ぴしゅッ・ぴしゅしゅッ……。

 溜め込まれていた熱がマグマのように一気に爆発して、謝罪の言葉とともにヴァージンホールから勢いよく液体が迸る。

 至近距離から笑顔でソレを浴びつつ、これは長い授業になりそうだと蓮実は思った。







[41992] アクガミ 三十六話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2018/01/21 13:29




 絶頂のピークが過ぎたらしい。

 蓮実の頭を抱え込んでいたか細い腕から、電池が切れたみたいにふっと力が抜けた。

 ふらっとなった教え子が机から落ちないよう支えてやりながら、ゆっくり粘つく糸を引く股間から顔を起こす。

 未練がましく粘膜がひくついていた。

 媚びている。

 やはり処女な少女であっても、女は女で牝は牝だった。

 見上げる詞の表情はトロンとしていて、ゆるく開かれた脚同様にだらしない。

 しかし舐めしゃぶられて唾液塗れ、愛液塗れになってひくつく秘裂同様、曝された牝の貌は色っぽく牡の獣欲を刺激していた。

 今度はこっちのターン。

 夜の教室で吐息を白くさせて呼吸を整えている詞を、ぐったりしている詞を机から降ろして床に座らせる。

 軽く目を閉じて頬を紅潮させながら、先端をぴんぴんに勃起させた乳房を、教え子は剥きだしにしたまま上下させていた。

 ここらが頃合いとみたところで、

「詞……」

 そんなに大きくはないものの、ボイス・トレーニングで鍛えた甲斐もあって、けっして無視できない声で注意を引く。

 エクスタシーの余韻に浸っていた詞はいまいち、焦点の定まらないぼんやりした目を向けた。

「次は俺に頼むよ」

 純一の椅子に腰かけた股間の高さは丁度、何気なく上げた詞の視線と同じ高さである。

 スラックスの布地を突き破りそうなほど勃起した牡器官は、すでにその熱を外気に撒き散らしており、凶悪な存在感をこれでもかと誇示していた。

 まどろんでいたような目が、大きく見開かれて釘付けになっている。

 何を意味しているのか、経験がなくともわからないわけはない。

「嫌じゃなかったら、しゃぶってくれないか?」

 だがあえてストレートに言ってみる。

 行動してみる。

 蓮実はスラックスのジッパーを下ろすと、トランクの前開きからおもむろにペニスを取り出した。

 窮屈な下着の中から解放されて、太い血管を浮かべた威容を露わにする。

「……やっぱり無理かな? こういう愛し方もあるんだけど、詞みたいな年頃の女の子には、ただ汚いだけのモノに映っているだろうし」

 背中を押しつつ退路を断った。

 知識はあっても経験がなければどうしても、排尿器官に口を付けるのはハードルが高い。

 なかなか踏ん切りがつかない教え子のジレンマを、もうしばらく鑑賞し愉しんでいてもよかったのだが、蓮実は蓮実で余裕がなくなってキテいる。

 膨らんだ欲望を、ひとまずリセットしておきたい。

「や、やりますっ!! 是非、あ、あたしに、やらせてください」

「本当にいいのか? しゃぶってもらっても?」

「はい。……先生のを、しゃ、しゃぶらせて、く、ください。お願い……します……」

「わかった」

 蓮実がどうしてもしゃぶってもらいたいというよりも、詞がどうしてもしゃぶりたいというカタチにするりとすり替わる。

 ここで中途半端に時間を掛けると、それで決意が鈍ってしまうとでも思ったのか、グッと顔を近づけてグロテスクな肉塊に唇を触れさせた。

 チュッ。

 小鳥が啄ばむようなほんの一瞬だけの、可愛らしいキスだったが蓮実の身体にぶるりと走ったものがある。

 これまで何人の教え子にこうしてフェラチオをさせたか、詳しい人数は定かではないがまったく飽きることがない。

 暴発寸前の状態でパンパンに張り詰めた亀頭への、ねっとりとした舌の感触を期待してしまう。

「ん……」

 目を瞑り刹那だけ触れた牡の味を、眉間にシワを寄せて詞は確認していた。

 どうやら考えていたよりも、勃起は不味くなかったらしい。

 幾度かキスの雨を降らせてから、控えめに覗かせた舌で亀頭の裏筋を舐め始めた。

 勃起は透明な唾液に濡れたことによって、さらに血の色を濃くしながらぐぐぐっと体積を増していく。

 詞は亀頭の表面に満遍なく唾液を塗り込めると、汚れが溜まりやすいカリの溝にまで甲斐甲斐しく舌を這わせた。

 いくらか味に慣れてきたのだろう。

 けっこうアクティブだ。

 蓮実が股を広げたのにあっさり誘導されて、腿と勃起の間にまで怯むことなく首を差し入れ、肉茎の側面へと大胆に舌を滑らせる。

「ぅ……ンンッ……」

 太い静脈の浮いたシャフトにねっとり、教え子の唾液が航跡を引いていた。

 さすがは優等生。

 こんなところでも物覚えの良さを十全に発揮していた。

「……は……、んゥッ……、うふぅ……ン、ン、ン」

 本人にもその自覚があるのか、顔を羞恥でまたしても紅潮さていく。

 茹でられたように白い肌は赤くなっていた。

 勃起への奉仕に没頭することで、初めてしていることなのに、巧みに勃起をねぶてしまう自分を見ないようにしている。

 だからこそ何も考えずに思い切りもよく、迂闊に簡単に油断してくれたのかもしれない。

「咥えてくれ」

 蓮実に請われると躊躇しないために躊躇することなく、鼻先にそびえている勃起に細い指をそっとからめた。

 軽く握られた硬直が詞の掌の中で、またひと回り大きくなりエグいほど反り返る。

「こんなに……すごい……」

 いつ耳にしてもいいものだった。

 男の価値がペニスだけで決まるわけでないものの、己の価値をペニスだけに求めてないものの、素直な賞賛の声を浴びるのはやっぱり気分がいい。

 にゅるッ。

 尿道に溜まっていたカウパー腺液が押し出され、先端部の縦割れの切れ込みに透明な雫が宿った。

 それを蓮実の再度の催促と取ったのか、バナナみたいに反り返ったペニスを手前に引いて、亀頭を口元に寄せるとチロリと舌を伸ばす。

 まずはキラキラ光る露の玉を舐め取ってテイスティング。

 そして顎が外れそうなほど大きく口を開けて、ぱくりとぬめるペニスを口唇に含んだ。

「うぶッ……、んむむむッ」

 不味くないという印象を持っていただけに、先汁の濃厚なフェロモンの味はさぞかし強烈だったろう。

 目を白黒させていた。

「むぅううッ!?」

 吐き気を催したみたいで、えづきそうになっている。

「ふッ……ぅ……ううッ……、ふぐううッ……、ンゥウウッ……」

 ちゅぶ……ちゅぶ……にゅちゅ……。

 だが愛だ恋だで衝き動かされているティーンは、何かと我慢が足りないと言われている世代だが我慢強かった。

 苦しそうな表情をしながらも、口内粘膜に迎えた亀頭をねぶり始める。

 しばしの時間そうしているとカウパー腺液の青臭さにも、若さゆえなのか情熱ゆえなのか、生来が淫乱なのか早くも慣れてきたみたらしい。

 唾液塗れのシャフトに沿っての口唇の動きも、もちろん拙くぎこちないところはあるが、これからの花咲くような才能を感じさせた。

 ぬむッ・ぬむッ・ぬむむッ……。

 男の生理を知り尽くした前任校の養護教諭、田浦潤子のようなテクニックは望むべくもなく、現在進行形で調教中の輝日東のペットの誰と比べても

稚拙だったが、これならそう時間を掛けずに牡を悦ばせる術を身に付けるだろう。

 ぢゅッ……ぢゅぢゅッ……ぢゅずずッ……。

 口元から溢れた唾液が肉の幹を伝って、前後する唇の動きに伴いちゅぶちゅぶと卑猥な音が立つ。

「ごふッ!? ……んンッ」

 調子に乗りやすい性質なのか丸く尖った槍の穂先に、たびたび喉の奥を突かれているがスライドもスムーズになってきた。

 さらさらの黒髪をそっと撫でてやると、それだけでフェラチオが加速する。

 たっぷりのシロップに漬けた果実のように、全身をぬめ光らせた牡器官が少女の口に出入りする様は、堪らなく愉悦を誘う淫猥な光景だった。

「もっと奥まで咥えてごらん。それでもっと速くしてみて」

「んゥッ、んゥッ、んゥッ……」

 じゅちゅッ・じゅちゅッ・じゅちゅッ……。

 詞は言われるままにペニスを深く含み、唇がシャフトを往復するテンポを速くした。

 太い勃起をしごき立てる。

「上手いぞ」

 うっとりとした響のある蓮実の声に、口唇愛撫の愉悦に酔った少女のピッチを、危険な領域にまで押し上げていった。

 じゅぶッ・じゅちゅッ・じゅじゅるるるッ……。

 永遠に続けばいい淫らな単純作業。

 それはそれで地獄ではあるが、天国のような時間も終わりみたいだ。

 学校には体育会系の部活動のために、シャワーもあれば洗濯機もあるので、何とかはなるがそれを言う必要もない。

 真実というのはときに興を削ぐもので、物事を円滑に進めるには優しいうそが必要だ。

「制服が汚れちゃうから、全部呑むんだよ」

 そう告げると蓮実は両手で、揺れる詞の頭を押さえつける。

 喉を貫かんばかりに、深く深く挿し込んだ。

「おごッ!?」

 驚愕に目を見開いて美少女らしからぬ、屠殺される家畜のような声を上げる教え子の口内に、青臭く濃厚な白濁液がぶちまけられる。

 詞は息苦しさに反射で吐き出そうとするものの、がっちりと押さえ込んだ蓮実の両腕が力強く阻んだ。

 たとえボクシング経験者の不良が、死に物狂いで銃を奪おうとしてもびくともしない。

 華奢な女生徒がどれだけ必死にもがいてみたところで、後頭部を掴んでいる手が微かでも動くわけがなかった。

 びゅくッ・びゅくッ・どくんッ!!

 無慈悲な牡器官は詞の口内で何度もしゃくりあげ、これでもかというほど多量の精液を注ぎ込む。

 プレデターに牙を突き立てられ、命を放棄した憐れな獲物のようだった。

「……ン……ムゥ、ぅんんんッ……、うむむッ……んンッ……」

 無力な少女は無駄な抵抗をするのを諦めたみたいで、口の中で荒れ狂う欲望の嵐が過ぎ去るのを待っている。

 ぶるるッ……。

 水から上がった犬のように大きく身体を震わせ、蓮実がスペルマをすべて出し切ると、ようやく詞の頭から手がどけられた。

 教え子の狭い口中からずるりと、野太く長い勃起が吐き出されるシーンは、いつ見てもちょっとしたマジックである。

 どうやって収まっていたのか不思議だった。

 だがそんな手品のネタよりも、

「ンッ、うンンッ……ううッ……んンッ」

 蓮実の興味の対象は、絢辻詞という少女自身である。

 フェラチオ初体験で粘つく精液を呑むというのは、やはりハードルが高くそうそうできることではない。

 拘束が緩んだ瞬間すぐさま、詞はエスケープしようとしたが、結果としてそれがよくなかった。

 収まったと安心し切っていた地震に、忘れた頃になって余震があるみたいに、射精にも終わったとほっとしてからもうひと波がある。

 びゅッ・びゅるるッ・びゅくびゅくッ……。

 男の生理を知らない少女の顔面に、狙いすました白いつぶてが何発もヒットした。

 逞しい勃起からの射出は途切れることなく続き、可愛らしい詞の顔は瞬く間にスペルマ塗れになる。

 シャープな輪郭は聡明さが際立つだけに、ドロリとした牡のエキスの白さがよく映えた。

「ケヘッ、カハッ」

 四つん這いになって激しく咳き込んでいる詞の唇の端から、唾液混じりのスペルマが生々しくでろりと太い糸を引いている。

 2年A組の教室の床にジェル状の白濁液が垂れた。

「ん……ふ……、う、んんッ……」

 喉にしつこく絡むみたいで、すぐには吐き出すことも飲み下すこともできない。

 上顎や歯茎の裏にへばりついたものを舌でこそぎ落としては、苦労しつつヨダレと一緒に口から垂らしていた。

 それでも頬をモゴモゴさせて粘つく口内粘膜を舐めまわし、蓮実の言葉に従おうと必死になって、何度も唾を飲み込もうとする健気さが堪らない。

 スクールカーストの下位に位置している者が、生徒会長の這い蹲るこの姿を目にすれば、きっと飛びっ切りの卑しい優越感に浸れるだろう。

 蔑みながら愉悦を噛み締めるはずだ。

「こっちに来て」

 えずくような咳き込みがようやく治まったところで、詞の腕を取って立たせると窓を開け放ち、縁に両手を置かせて細い腰を掴み背後に陣取る。

 背中を反らしヒップを後方に掲げた恥ずかしいポーズだった。

 けれど残念ながらやや足りてない。

 セックス。

 交合。

 契り。

 まぐわい。

 呼称はなんでもいいだろう。

 霊長類などと偉そうに名乗っていてもそんなものだ。

 人間だってアニマル。

 こういうときは他の動物と大差なく一緒である。

 蓮実と詞も教師であり教え子ではあるが、それよりも何よりもまず牡と牝でしかない。

 震える左右の足を肩より少し、目的がそれだけしか想像できない幅に開かせた。

「は、ハスミン先生……」

 これから始まる未知の経験への怯えと、異性に一方的に見られていることへの羞じらいが、いつもは自信に満ち溢れた生徒会長の不安を煽る。

 詞の牝としてのか弱さが色濃く滲んでおり、蓮実の牡としての征服欲をひどく刺激していた。

「昼間だったらえらいことになってるだろうな。俺と詞がこんな関係でこんなことしてるって知れたら」

 もちろん夜のグラウンドには誰も居ない。

 しかし生徒会長という見られることの多い立場なだけに、全校生徒が整列しこちらに注目している風景を想像するのは容易いようだ。

 あるいは創設祭でのキャンプ・ファイヤーが映ってるのかもしれない。

 緊張で身体を固くする。

 アルコールをイッキ飲みでもしたみたいに詞の肌は、またカーッと危険なスピードで急激に赤くなっていった。

「もしそうなったら俺はクビだろうけど、詞との関係だったらバレちゃうのもいいかもね」

 無論そんなつもりは毛頭ないので、仮にグラウンドに人が居たとしても、蓮実を確認することはできないポジションである。

 プリーツスカートの裾をぺろりと捲り上げて、羞恥で赤くなったノーパンの生尻を剥き出しにした。

 教え子のぷりっとした瑞々しい肉を、内包された熱を感じながら撫でさする。

 すべすべした感覚に思わず口元が緩んだ。

「はぁん……、んふッ……、ンッ、ンッ、ンッ、はぁあああ……」

 火照ったヒップが切なげにくねる。

 ソフトなタッチを少しずつハードなものにしつつ、薄く脂の乗った臀部をゆっくりと揉みしだき、ときおり尻たぶを左右に裂くようにして弄んだ。

 谷間の奥で息づく菊座に、吐息を感じたのかもしれない。

 生温かい風を無視できない部位に浴びた詞が、振り返ろうとしたタイミングを見計らって、たっぷり唾液を乗せた舌を潜り込ませた。

「あひゃッ!?」

 裏返った嬌声が迸る。

 例外はない。

 どこに触れても処女の少女にはサプライズだろうが、肛門を舐められてマヌケな一面を曝さないペットはいなかった。

「は、ハスミン先生、ああッ、クゥッ、んッ、そ、そこは、いや、ンッ、あ、ああッ、ダメ、だ、ああああッ!!」

「若いうちはできるだけ何でも経験しておきなさい。食わず嫌いで苦手だと思ってたのが、食べてみたらけっこう好きだったってことあるだろ?」

「でも、で、でも、き、汚、そんな、アッ、アッ、アッ、き、汚いから、ソコ、だ、やぁンッ!!」

 反応にも台詞にもこれといって、他のペットと変わらずオリジナリティがない。

 しかしだからこそ王道や定番といったものの、美しさや素晴らしさというものを改めて再認識した。

 惚れ直したといってもいい。

 全身の皮膚に鳥肌を立てている教え子のアナルを、蓮実は双臀に指を食い込ませながら執拗に舐めしゃぶる。

 独自の意思があるかの如く不浄の窄まりを這い回った。

「ひぃぃいいいッ!?」

 さらにオクターブを上げて裏返った悲鳴が、蠢く舌によって面白いように夜の教室に響き渡る。

 いくらもしないでぷっくりと膨らみ、優等生のアナルはぬるぬるにされていた。

 詞は泣く寸前のような八の字に眉根を寄せて腰を捩り立てるが、蓮実はそうした反応を愉しむ様に舌を尖らせ直腸粘膜を穿つ。

「あッ、あひッ、いや、……ああッ、ン、ああああッ」

 排泄器官を嬲られながら甘く悶え狂っていた。

 アナルを初めて責められた少女は涙声で懇願しながらも、抗いようのない妖しい感覚に疼かせているのは明らかである。

 ――身体は正直だった。

 内腿をツツーッと滴るものがある。

 採れたてのフルーツのように、ジューシーな果汁が溢れていた。

 ぬめらかな花びらが淫らに収斂する魅惑の秘裂では、めしべではなく膣口が物欲しげにひくひくひくつている。

 何度目かのご満悦な笑みを浮かべつつ、蓮実は中腰の姿勢から立ち上がると、急角度の勃起に手を添えて、ヴァージンのホールに狙いを定めた。

 小刻みにぶるぶる震えている尻肉を左手で掴み、谷間に掛けた親指をぐにゅっと外側に引く。

 周辺の柔らかな部分がひしゃげて、慎ましい秘裂が歪な形に割り開かれた。

 粘膜に押し当てる。

 ぬちゃっと泥濘に浸かったような音をさせながら、欲望でパンパンになっている亀頭の先っぽを受け入れた。

「ンッ……」

 これまでこうして幾人もの教え子の処女を奪ってきたが、おそらくこの瞬間に慣れることはこれからもきっとないだろう。

 ぞくぞくしたものが走り、首筋の産毛が逆立っていた。

 右手で熱した鉄のようになっている勃起を握ると、蓮実はじっくり教え子を味わおうと、殊更ゆっくりとしたスローペースで腰を突き出していく。

 かつて恩師である熊谷信二郎教諭に、共感能力の未発達を指摘されたことがあった。

 あれは中学一年生のときだ。

 まったく感情の欠落した人間がいたとしても、きわめて高い倫理能力を持ち合わせていれば、感情をエミュレートすることは可能である。

 もう今は亡き熊谷教諭こそまさに、それを気づかせ現在の完成形へと、蓮実を導いてくれた恩師にほかならない。

 だが叶うものなら、教え子である自分の成長を報告したかった。

 沸々と湧き出る感情は、たぶん模倣じゃない。

 優しく優しくという気遣いのふりをしながら、行為を長引かせより教え子に苦痛を与えることに、快楽のようなものを心の奥底から感じている。

 教師という天職ともいえる職業に、こうして就いたからかもしれない。

 学校は社会の縮図。

 この世界からイジメはなくならない。

 嗜虐欲。

 やはり環境が人を作るということなのか、感情らしきものが蓮実にもようやく芽生えていた。

「あ……ン……んンッ……」

 初めて与えられる痛みに健気に耐えようとする苦しげな声と一緒に、めり込んでいく亀頭にざわざわと粘膜が纏わりついてきた。

 蓮実はすぐに破ってしまわないよう注意しつつ、詞の様子をチェックしながら徐々に腰を押し進めた。

「グゥウウッ、んッ、う、ううッ」

 噛み縛った唇から、微かに漏れる呻き声。

 もう字面からして痛そうだ。

 本性を隠し天下無敵の仮面優等生として振舞ってきた詞であっても、処女の少女が破瓜に対する不安を包み隠すというのは不可能らしい。

 身体が快楽に拠るものとは異なる種類の震えで、奪われるべきでないものを奪われようとする本能的な恐怖で小刻みに揺れていた

 真っ赤になっている教え子の可愛い耳に唇を寄せて、優しさしか感じられない声で囁いてやる。

「初めてを捧げてくれて、ありがとう。詞のことはこれからも、大切にするからな」

 ペットとして。

 天使みたいな悪魔のスマイルを満面に浮かべながら、舌なめずりしてじわじわ剛根を最奥に押し込んでいった。

「俺を信じて力を抜くんだ。だいじょうぶだから。絶対に詞のロスト・ヴァージン、一生忘れられない素敵な思い出にしてやるからな」

「は、はい……、あくッ、先生、うあッ、……は、ハスミン、せ、んくぅッ、し、信じて、せ、うッ、あ……くぁああああッ!!」

 教え子のいじましい苦悶の声をBGMにしながら、破れるか破れないかのミリ単位なスリルを愉しむ。

 しかし終わりはいつもあっけない。

 ブチッ。

 などという音を耳が拾うことはなかったが、心が捉えた音を脳はスムーズに変換する。

 急激に抵抗感がなくなって、長大な肉柱が根元までズブブッと呑み込まれた。

「あふぁッ!?」

 ここまで耐えに耐えてきた詞も、生涯でただ一度だろう鮮烈な痛みに、窓の縁をぎゅっと掴んで形のいい顎を跳ねあげる。

 可憐なヒップがたわむほど腰を強く押しつけた。

 初な媚肉に余すところなく満たされる深い挿入感は格別である。

 処女の血のぬめりが堪らない。

 無理やり拡張された狭い膣道には微妙な突起があり、歯のない生き物が咀嚼でもしているみたいに、くちゃくちゃと蠢き勃起に纏わりついていた。

「お、奥まで、先生で、い、いっぱい……、んくッ……あッ、いっぱいで、ぅんゥッ……い、いっぱいで、す……」

 口を餌を貰う鯉みたいにパクパクさせつつも、牝としての業が牡を誘う言葉を自然と紡がせる。

 教え子のストレートな気持ちの吐露に嬉しくなった蓮実は、凸凹した凹凸のある襞をパンパンに張ったカリで撫で擦ってやった。

 じわりじわり腰を前後させる。

「ぐうッ、うッ、ンんぅッ、はあッ、あ、ああッ、くぅんッ、ゥ、んンッ、ぁ、はあンッ」

 それでもやはり詞は辛そうに眉間のシワを深くするが、どうにかして破瓜の痛みを堪え忍ぼうと努力していた。

 とはいえそれはより牡の獣欲を刺激して、嗜虐の本能を揺り動かすだけである。

 蓮実は抉るように腰をしゃくりあげた。

「やっぱり痛いか? 俺が下手なばっかりにごめんな」

「……平気、です。先生は、は、ハスミン先生は、う、上手いです」

 そんな可愛らしいペットへのご褒美としてできることなら、この夜の授業で詞に女の悦びを是非ともレクチャーしたい。

 快楽の階段を昇りやすいように、ここは教育者としてフォローしてやろう。

 交尾しか頭にない発情期のケモノみたいに覆い被さり、ねっとりとした唾液としっとりした汗に塗れた乳房を弄った。

 唇を寄せて耳に囁く。

「ありがとう」

 熱い吐息を脳にまで侵食すさせるみたいに吹き込みながら、控え目だが美しいラインのふくらみを、乳首の周囲に円を描くように指先を這わせた。

 未成熟な乳腺をマッサージする。

「……あッ……ぅふッ……やン……ンン、んッ……ふぁッ……ああッ……」

 可愛いペットではあるのでどうしても贔屓目はあるが、それでも詞のボディをグラマラスとはさすがに言い難い。

 しかしこの恰好だとさすがにささやかなふくらみも、お世辞抜きでたわわに実っているように見えた。

 両手で乳房を掬って鷲づかみにすると、たぷたぷと普段は感じない重みを計ってみる。

 まあ、な。

 蓮実は胸の内だけでくすりと笑うだけに留め、ボリュームに付いてのコメントは差し控えた。

 もっとも詞の微乳が均整の取れた美乳なのは疑いなく、大きかろうが小さかろうがチャーミングでキュートなのは変わらない。

 シフォンケーキのように繊細で、甘く柔らかな感触を堪能する。

「ンぁッ……はンンッ……、あぅッ……くンッ……ひいッ……、うくッ……ン……ン……むぅぅッ……」

 肌を粟立てた双乳の表面をくすぐりながら、教え子のぞくぞくとシンクロさせつつ、指先を尖った頂点に向かってそろそろと滑らせた。

 血を噴きそうにぷっくり勃起しており、儚いほど妖しく小刻みに震えている。

「あひィッ!?」

 キツめに摘んでくりくり弄ってやると待ち望んだ痛みに、剛根に裂かれたばかりの粘膜がきゅっと締まった。

 言わずもがな優等生。

 互いに補い合い全身の性感帯を連動させている。

「少しは気持ち良くなってきた?」

「わ、あッ、んゥッ、わか、ぁ、ンンッ、わ、ふぅ、ン、ううッ、わかり、ま、アッ、アッ、アッ、わ、わかりませんッ!!」

 そうやって言葉でも責めながら、反応を窺いつつゆったり腰を使った。

 じれったくなるほどのスローモーションで、じっくり『の』の字を描くみたいに回転させる。

 腰をへこへこさせるだけが能じゃない。

 蓮実は焦らず詞のウィーク・ポイントを探していった。

「こういうのとかどう?」

 可憐な乳房への執拗なまでの愛撫と相まってか、痛みを訴える分量の多かった詞の声にも、完全に甘える成分の方が明らかに増してきている。

 悦びに溺れそうな女の声だった。

「これがいい?」

 パシンッ・パシンッ・パシンッ・パシンッ……。

 いつの間にか粘膜の奥に腰を抽送するスピードが上がっており、往復ビンタするような音をさせて蓮実は勃起を叩きつける。

 それでも遅いペースではあるのだが、力強くハードな挿入が勃起を濡らし、月明かりの下で日本刀のようにヌラリと勃起を光らせた。

 鮮血の赤が混じった愛液が内腿を伝って、女子高生のトレードアークの紺色のハイソックスを濡らす。

「そ、それ……うああッ……、ひッ、ひッ、だ、ダメ、激し、ン、あッ、こんな、あ、ン、んんッ、ひぃいいいいッ!?」

 エロティックであるものの同時にコミカルでもある音が響くたび、詞は顎を跳ね上げて切れ切れの喘ぎ声を振り撒いた。

 創設祭の時期になると生徒が大挙して泊り込み、夜中まで学校で馬鹿騒ぎするのはもう毎年のことである。

 蓮実主導による事前の根回しもあって、これといってクレームらしいクレームは幸い毎年なかった。

「あッ、あッ、ああッ!!」

 ただ今年の学生は悪ふざけが過ぎるのではと、もしかしたら眉を顰められたかもしれない。

 来年の輝日東の受験者数に影響がでそうな、由々しきも淫らな嬌声だった。

 さらにペニスを根元まで子宮の奥深くまで捻じ込んで、またしても腰をネットリねちっこく捏ねるようにローリングさせる。

 年齢差が顕著に現れるのはどこかといえば、いろいろあるだろうが成長スピードというはその代表格であろう。

 寝れば一晩で育つという年齢はもう過ぎているだろうが、やはり人間が新しいことを覚えるのに遅いということはない。

 女体の反応がまたしても一段階レベルアップしたみたいで、ヒップがぶるぶると何度目かの小刻みな痙攣を起こしていた。

 男でありもっと言えば牡であると同時に、教師である誇らしさを胸いっぱい感じながら、それでも焦らずスローペースで優等生を責め嬲っていく。

「ここがいい?」

「そ、んゥッ、そ、そんなの、そんなの、い、言えませ、あンッ、ゥ、はぁああッ、ン、ン、ン、んンウウウッ!!」

「言ってくれないとわからないぞ? 話せば必ず解るってわけじゃないが、話すのは相互理解の第一歩だ」

「ぁンッ、やぁんッ、だ、ダメ、ゆ、許し、許して、もう、ひぅッ、んんんッ、お、お願い……」

「こらこら。簡単に諦めるんじゃない。はっきりちゃんと言ってくれないと、詞の気持ちイイところがどこなのかわからないじゃないか」 

「ひィンンンッ!?」

 ぴんぴんにしこりきった乳首を指の股に摘みながら、慎ましくも清らかに育ったふくらみをあくまででソフトに揉みしだいた。

 うなじに舌を這わせて、官能に弄ばれる少女の汗を味わう。

 髪を掻きわけて生え際に啄ばむようなキスした。

 毛づくろいするみたいに舐める。

「詞」

「ああッ、せ、先生、あッ、ンッ、ンッ、ンッ、は、ハスミン先生……」

 瞳に欲情の炎を妖しく揺らめかせ、酔ったような貌で振り返った教え子の唇を、貪るようにして奪いながら舌を絡め唾液を交換した。

 そしてそうやってディープキスを交わしながらも、蓮実はゆったり腰をピストンさせ続ける。

 手のひらで硬く尖った乳首を転がしつつ、柔肉に好き放題に指を食い込ませていた。

 うっかりしてると握り潰すそうになってしまうのを、意思の力を総動員して蓮実はどうにか堪える。

 抽送のスピードも苦笑しつつ落とした。

 何事も緩急。

 アップ・ダウンが効く。

「あッ、あンッ、……ああンッ……んぅッ……はぁンッ」

 その甲斐あってか詞がうぶな性感を、蕩けさせているのは明らかだった。

 ならいいだろう。

 もう蓮実もさすがに限界だ。

 かぷりと耳たぶを甘噛みしたのをゴーサインにして、腰振りのスピードを速めると粘膜の奥の奥に、串刺しにするくらいの気持ちで突き込む。

「あ……ン……ふぁああッ!!」

 遠吠えする犬みたいに詞は背中を仰け反らせ、立ちバックで犯される女体に走り抜ける快感に打ち据えられていた。

 子宮の奥にしっかり届いているのか、尻肉が絶え間なく震えている。

 尿道が燻されたように熱くなり、睾丸が縮み上がったようになっていくのがわかった。

 蓮実の性感も教え子に負けず劣らずで、制御できないくらい昂ぶってきている。

 ねっとりゆったりとした腰使いが、蠢く媚肉に煽られ牡の本能の命ずるまま、ひどく性急で荒々しいものに変わっていた。

「はンンッ!?」

 少女らしさを残しつつも細いくびれた腰を両手で掴み、ともすれば強い突き入れから逃げようとするヒップに、壊しかねない勢いで勃起を激しく撃

ちつける。

 明日登校した思春期なクラスメイトはきっと、嗅ぎ慣れた匂いに鼻をひくつかせること請け合い。

 濃厚な性のフレーバー。

 結合部からはクチャクチャと粘っこい音がするたび、2年A組の教室には淫らな匂いが充満していった。

「もうッ……ああッ……も、もう、ゆ、許してください」

 息も絶え絶え。

 この部屋で規範となるべきクラス委員長の膝が、校内で模範となるべき生徒会長の膝が、絶頂への予兆で危険なほどガクガク震えている。

 蓮実は蓮実で腰の動きはもうすでにピストンというより、いっそ掘削機のような単純で野蛮だが強烈なモノだった。

 受験も女体も責めるのなら、Pin-point.で急所を抉るのがイチバン。

 観察眼は教師には必須の能力だ。

 詞の弱いところを、集中的に突きまくる。

 ずちゅ・ずちゅ・ずちゅ・ずちゅ・ずちゅ・ずちゅ…………。

 ヴァージンの教え子を時間を掛けて嬲ったことで、蓮実の興奮もすっかり煽られて、欲望は吐き出される寸前になっていた。

「ひぃッ、ダメ……ダメッ……あうぅッ……ぅ、いひいッ、ひッ、ひッ、ひィイイイッ!!」

 身体の奥から感じる激しすぎるエクスタシーの荒波に、詞は教室どころか校内中に響けとばかり絶叫を迸らせる。

 周囲から望まれている何者も演じていない素顔が、仮面など存在していないありのままの貌がそこにはあった。

 犯される牝でしかない。

 牡を初めて咥え込まされたばかりの収縮する処女の膣壁に、ダメ押しのひと突きをぶち込むと、蓮実も詞のあとを追うようにして絶頂に達した。

 びゅくんッ!!

「あ……あ……あ――――ッ!!」

 子宮口にめり込んだ亀頭がひくつき、鈴口から煮詰めに煮詰めた濃厚なスペルマが吐き出される。

 自分の勃起でまた一人の教え子を、立派な女にしたのだという達成感。

 雑巾でも絞るような、痛いくらいの締めつけ。

 蕩けた媚肉に包まれながら勃起を思う存分に暴れさせ、穢れのない新雪のような粘膜を蹂躙し尽くした。

 始まったばかりの今はまだこれでイイし、今しか味わえないこれはこれで良い。

 体重を掛けてしまわないよう注意しながら、荒い息で突っ伏す詞と折り重なり耳に囁く。

「これからだよ」

 緩急。

 いずれは覚えてもらいたい。

 もちろん詞ならそう時間は掛からずに会得するだろうが、この未熟な蠢きの初々しさは初々しさで得難いものがある。

 たっぷりの精液を注ぎ込んで引き抜いた。

「ン……あ、あんッ」

 張り出したカリが膣口を通過する瞬間、ぐったりとしていた詞の身体がひくっと痙攣する。

 裂かれ破かれたばかりの教え子のぽっかり開いた可憐なホールから、白いものに赤いものがミックスされた粘液がどろりと逆流してきた。

 明日は男二人で少しばかり遠出して、肉体労働をしなければならない。

 創設祭までは過密スケジュール。

 穢れなき教え子の処女。

 穴掘り程度で多少贅沢なのかもしれないが、前倒しでこれくらいのご褒美があってもいいだろう。

「授業は今日の深夜から、明日の朝までだからね」

 ヴァージンの秘孔から溢れるほど欲望を吐き出しておきながら、蓮実の勃起はすでに血管が浮き上がるほどの威容を取り戻していた。

 大きく窓を開け放ったままなので、教室は寒いはずなのだが湯気が立っている。

 そしてそれはついさっき初めてを散らされた教え子の、まだまだ初々しくも淫らにひくついている媚粘膜も同じだった。

 容赦なく突き荒らされた秘裂を、牝であることを教え込んだ媚粘膜を、またしても犯してやろうと勃起を宛がう。

 ぬちゅり……。

 まどろみの中に意識を漂わせていた詞の、閉じていた目が侵入者の再びの来訪を感じてハッと開かれた。

 振り返ろうとする。

 そのタイミングに合わせて、一気に勃起を呑み込ませた。






[41992] アクガミ 三十七話
Name: 青色◆ec0575d6 ID:247064e9
Date: 2018/03/27 11:00




「……何かすみません。こんなところしかなくて」

 保健室のベッドの下に潜り込む下鶴に、酷く後ろめたさを感じて純一は謝った。

 もっともそういった気分とは裏腹に、身体の方は機械的に動いており、淡々と小型のダンボールを並べて、元刑事の姿が見えないよう隠している。

「これくらい問題ないさ。けっこう張り込みは得意だったんだぜ。あいつをどうにかできるなら、多少窮屈な程度何時間でも耐える自信はある」

「そうですか。あの、じゃ、これ。……頑張ってください」

 この肌寒い季節に暑っ苦しいほど燃えている下鶴の言葉に、純一の罪悪感は最高潮に刺激され居た堪れなくなる。

 修学旅行で買った金閣寺の厄除けのお守りを渡すと、その場から逃げるようにしてそそくさと退散した。

 廊下を足早に歩く。

 そこかしこが非日常の景色に染まりつつあった。

 創設祭がもう明後日なのもあって学校内には、出店を設置する業者など部外者が多数いる。

 下鶴を誘引するのは難しくなかった。

 堂々としていれば平気。

 そう蓮実に指示された通り昨日持ち出したスコップも、こっそり戻しておいたがたぶん誰にも気づかれてはいないだろう。

 真昼の幽霊。

 この数ヶ月ですっかり浮き気味のポジションになった純一の存在感は、和気藹々としたお祭りムードの中ではかなり希薄なものになっていた。

 今もこうして一人帰ろうと校門に向かっているのに、目に映ってないかのように誰からも声を掛けられない。

 無表情で校門に向かう途中、ジャージー姿の薫を見かけた。

 創設祭実行委員も兼ねる生徒会のメンバーとして、率先してというのもあるだろうが、それを差し引いても楽しそうに作業している。

 そして純一も生徒会のメンバーから、とりあえずまだ籍を外されてはいなかった。

 が。

 突き出されたヒップの下着のラインに、熱すぎる視線をじーっと浴びせながらも立ち止まらない。

 そのまま何事もなかったように学校の敷地内を、速くもなければ遅くもない絶妙に微妙な、不自然なくらいに自然な足取りで出て行こうとする。

 仲間とともにあるこの瞬間こそ、色あせることのない一生の宝物。

 きっと卒業し枯れて疲れ果てた大人になったときに、昔をそうやって美化し振り返る者もいるのだろう。

 それを否定はしない。

 だが学生時代にしか経験のできない催し物も、思い出を彩ってくれるはずのイベントも、帰路に着く純一の歩みを阻害するものではなかった。

 なので停止したのは同級生たちの、背後からの姦しい賑わいなどではない。

 詞だ。

 雪の降りだしそうな寒空の下で白い息を吐きながら、買い物でもしてきたのかビニール袋を両手に持って前から歩いてくる。

 どうやらあちらも純一に気づいたみたいで、視線を鋭いものに変えてこちらを睨んだ。

 しかしそんな視線も馬耳東風と受け流す。

 何の痛痒も感じなかった。

 ……あれ?

 ただ視線の変化には何も感じなかった純一だったものの、詞のちょっとした雰囲気の変化は鋭敏に察知し反応していた。

 妄想だけは豊かで逞しい童貞の思い過ごしなのかもしれないが、品行方正な優等生のクラスメイトの色気が増しているような気がする。

 これまでの詞にも、キュートな魅力はあった。

 堅苦しいところがあるが洒落もわかり、クラス全員から頼りにされる詞の支持率は高い。

 そのビジュアルも相まって、男子にも当然人気がある。

 2年A組では薫と双璧の美少女だ。

 おそらく夜のオカズとしても、二人揃って大活躍しているだろう。

 けれどそれは薫にも言えることではあるのだが、やりたい盛りの思春期のイマジネーションあってこそで、リアルの詞には生々しく性と結びついて

しまうような、即物的で実用的なエロティック成分はイマイチ足りてなかった。

「こっち見ないで」

「ごめん」

「さっさとソコどいてよ」

「あ、ごめん」

 どこがどうとは言えないがちょっとしたところに、女としてのフェロモンが滲み出している気がする。

 とはいえもちろんキスの経験すらない童貞の純一に、そんなことがまさか自信を持ってわかるわけもなかった。

 あらかじめ教え子を毒牙にかける淫行教師に、ハンティングの獲物だと教えられていなければ。

 蓮実はもうすでに犯しているのかもしれないが、いずれは犯されるのは決定しているが、残念なことに純一が確信を抱くまでには至ってない。

 オファーが一刻も早く欲しかった。

 脳内でどのように撮影しどのように編集しようか考えながら、スカートを揺らめかせ去っていく詞の背中を熱視線で追いかける。

 愉しみだ。

 ここのところ連日のように徹夜が続いているので、さすがにオーバー・ワーク気味なのを自覚しているがツラくはない。

 画面の少女たちの痴態は、どれだけ観ても飽きることがなかった。

 おかげで運動不足。

 イッ。

 不意の痛みに耐えかね、純一は腰を押さえた。

 あちこちキテる。

 夜通しさせられた慣れない穴掘りに、インドア派の身体が悲鳴をあげていた。

 最低でも1.5メートル。

 涼しい顔でスコップを振るう蓮実と一緒に、額から滝のような汗を流して穴を掘った代償に、純一はクリスマスプレゼントを貰う約束をしていた。

 苦痛と屈従のあとには必ず最上の快感が得られるのを、骨の髄どころか魂にまで教え込まされている。

 事あるごとに自分との、彼我の力関係を叩き込まれていた。

 蓮実に逆らおうとする意志は、とっくのとうで芽のうちに摘まれている。

 リスクよりもリターンを選択していた。

 良く言って子分の、奴隷も同然のポジションなのだが、自分でも不思議なほど立場に不満はない。

 意外というか歪な形で、蓮実とは上手くいっている。

 県外の山中へのドライブ。

 車内という密室に二人きりなのもあってか、道すがらの会話はかなり盛り上がった。

 蓮実はほとんど聞き役に回っていて、話していたのはほぼ純一だけだったが、あんなに自分を語ったのはこれまでの人生でない。

 すっかり連絡を取らなくなった親友の梅原にも、あれだけパーソナルな部分を曝け出したことはないだろう。

 今はもう純一の欲しているものを、蓮実は純一より知っているかもしれない。

 絵に描いたような青春を謳歌しているクラスメイトたちを尻目に、校門の前で勃起しそうになりながら家路を急いだ。

「ただいま」

 誰からの返事もない。

 居ないのを確認する『ただいま』を言ってから、制服のネクタイを緩めつつ足音を忍ばせて階段を上る。

 自分の部屋のドアを開けると、ノー・ルックでブレザーをベッドに投げ捨てた。

 もうダミーでしかなくなっている元お宝を乱雑に掻き分けて、無期限でレンタルさせてもらっているDVDを押し入れから取り出す。

 プレーヤーにセットしヘッドホンをすると、ティッシュ諸々万端準備して定位置に腰かけた。

 蓮実のコレクションに外れはない。

 フィクションの世界では、ポピュラーなジャンルだった。

 痴漢電車。

 最近のお気に入りジャンル。

 厳密には痴漢というわけではなく痴女モノなのだが、非合法なシチュエーションで行われているのは間違いない。

 演技一切なしのリアルでガチな作品なのも。

 しかも知り合いの少女たちが出演している作品をこうして観れるのは、純一の欲望を叶えてくれる蓮実という庇護者を得たからこそだ。

 感謝している。

 おかげで誰をセレクトしても美少女な女子高生の、平凡に高校生をして普通に青春をしていたら、魅せられることは叶わなかった貌を観られた。

 特にキラリ光ったのは黒沢典子。

 企画にドハマりした。

 もしも恋愛シミュレーションゲームのキャラクターだったなら、たぶんメインの攻略対象にはなることはないサブキャラだろう。

 それさえ微妙だ。

 純一の印象としてはせいぜいが生徒会長選挙での立候補者、詞の数あるライバルの一人『だった』という認識しかない。

 美少女という範疇に充分収まるビジュアルなのに、いまいち陰が薄いというか華がないというか、それこそインパクトが足りてないところがある。

 思い込みが激しいマイナス思考の、そのくせ純情なイジメっ子タイプ。

 蓮実に本性はそうだと聞かされてなかったなら、典子はこれといってイメージの湧くような女の子ではなかった。

 他にも何かあるかといわれれば、隣りのクラスなのによく目が合うなという程度。

 もう少し純一が自分に自信のあるナルシストだったら、惚れられてるのかもと勘違いしてしまうだろう。

 そのくらい目が合う。

 あとはオデコが可愛いなというくらいか。

 とにかくそういったデータが、まったくなかったのもあって、典子という少女は新鮮でありこの企画ではイチ推しである。

 忘年会のシーズンではあるが京王線の橋本駅付近は閑散としており、終電ともなるとほとんど車両に人が乗り込んで来ない。

 数少ない乗客も疲れているのか酔っ払っているのか、顔を俯かせ深くシートに腰かけて眠っている。

 恋人みたいに身体を寄せ合い座っている蓮実にも典子にも、車両の端っこでカメラを構えている純一にも関心を示す者はいなかった。

「できるね?」

 襟元にマイクが仕込まれている。

 蓮実の私物だ。

 ハァハァハァハァ……。

 崩れ落ちそうになりながら淫行教師の胸板に縋りつく典子の、この距離でも熱くなっているのがわかる荒い息遣いを明瞭に拾ってくる。

 感度は良好みたいだった。

「やってごらん」

 羞恥で紅潮し真っ赤になっている典子の耳朶に、正常な思考回路を蕩かすみたいに甘く囁く。

 こんなところも蓮実との、圧倒的な力の差を感じる部分だ。

 セクハラになるかならないかの分水嶺は微妙だが、同じことをしても許される人間と許されない人間は確実に分かれる。

 純一が同じような言葉を同じような語り口で囁いても、下手をすれば前科が付くだけの結果に終わるかもしれない。

 とてもうるうる潤んだ瞳でこくんっと頷かせ、従わせることはできないだろう。

 ふらつきながら覚束ない足取りで、くたびれたスーツを着た髪の毛の薄さに比例して、内面まで薄そうな男のパーソナル・スペースに入った。

 ぐっすりと眠りこけていたようだったが、45センチもない目の前に立たれさすがに気づいたらしい。

 顔を上げる。

「うん?」

 輝日東は地元ではそこそこ有名だが、どう贔屓してみても全国区というには程遠い。

 ちょっと離れると制服だけで、どこの学校かと特定するのは難しくなる。

 ましてコートまで着られてしまえばわからない。

 それでも、だ。

 女子高生なのは一目瞭然でわかる。

 もしかしてこれが噂のオヤジ狩りというやつなのかと、小動物のように男が身構えたのはコンマ何秒の時間でしかない。

 キッと睨んでいるみたいに視線は鋭いものの、それは怯えている仔猫のようであり可愛らしかった。

 見つめていると、自然とぞくぞくしてくる。

 男と共感できている自信が、シンクロできている自信があった。

 この冴えないリーマンがどんな職業に就いているのか、あるいは無職なのかもわからないが、自分の保身しか考えてない教頭キャラっぽい。

 愛車はレクサスIS。

 純一の妄想力がより愉しめるよう、男の背景を自分勝手にスムーズに補完して、作品のクオリティをいっそう高めていく。

「お、おおっ!?」

 寝ぼけて焦点の合ってなかった目を何度もシパシパさせると、ようやく意識が覚醒してコートをゆっくり開く女子高生の姿を認めた。

 いくら車内には暖房が利いているとはいっても、十二月にこの子はこんな恰好をしていても寒くはないのか?

 若さとは素晴らしい。

 なんて益体のないことを目を血走らせながら、まさか思っているわけではきっとないだろう。

 いや、若さが素晴らしいというのは、老いた脳内で実際思っているかもしれない。

 乱れた制服。

 ブラウスから大胆に覗く肌には黒ずんだ縄が這っており、所謂亀甲縛りというものが施されていた。

 これまで純一はSMというジャンルに、それほどの興味はなかったものの、こうして観せられるとやはり男としてそそられる。

 何が自分の琴線に触れたのか、純一本人もよくわかってなかったが、なんにせよ牡の嗜好に説明は要らなかった。

 ただ素直に愉しめばいい。

 縄にくびりだされてカップがBからCになった可憐なバストを、充血してぴんぴんに勃起している淡い紅色の蕾をありのまま愛でればいい。

 汗が伝う様が妙に艶めいて色っぽい、お腹とおへそを慈しめばよかった。

「……最近の若い者は、け、けしからんな」

 典子の首につけたチョーカーにもマイクが仕込まれている。

 こちらも感度は良好だ。

 呻くような声が漏れ聴こえてくる。

 悩むことはない。

 考えるな感じろと昔の偉い人も言っている。

 男のように動物的な性衝動の命じるまま欲望を解放し、犯すみたいにして同級生の少女を卑猥に見ればいいだけだった。

 唐突に訪れたあまりにもなラッキーに、おそらくパニックにもなっているだろうが、同時に牡だからこそのもの凄い集中力も発揮しているだろう。

 きっとこの瞬間淫靡な妄想が老いた脳にも無闇に力強く、思春期を迎えた中学生のように羽ばたいているはずだ。

 ウエスト部分が内側に織り込まれていて、スカートはいつもより丈が極端に短い。

 イタズラなそよ風が吹いただけでも、女子高生の下着の色がわかってしまう。

 けれど待て。

 ――薄いピンクだ。

 大人びたデザインではあるがどこか子供が背伸びしたような、精緻なレースとフリルで飾られたショーツが晒されている。

 なぜ?

 どうしてローアングルから覗いているわけでもないのに、こうして女子高生の下着が愉しめてしまうのだ。

「まったく持って、は、ハレンチな」

 そんな疑問が解決したのは、男のにやけた表情を観れば即座にわかる。

 張りのある太腿は緩やかに左右に開かれてはいるが、普通はまだそのくらいでは下着は目に入らない。

 もっと腰を深く落とさなくては残念ながら、女子高生のショーツを堪能することはできない。

 男の目が好色な光を浮かべて、さらにいやらしく細められる。

 ショーツの股布が不自然に盛り上がっており、咥えている物の存在をアピールしていた。

「くぅンッ!?」

 まるで蹴られた仔犬のように媚びた悲鳴。

 舐めるしゃぶるみたいな男の視線に気を利かせたのか、ブブブブッという低いモーター音を響かせながら、膨らんでいる部分が妖しく蠢き震える。

 バイブレーターという発想がこの時点ででてこないような奴と、話すことは何もないと思いつつ純一はごくりと唾を呑み込んだ。

「はあああッ、あ、ぅ、んンッ、ぁ、んふッ、ン、ン、ン、あはぁッ、あッ、やぁンンッ!!」

 苦しそうだがどこか嬉しそうに、ガクガクと膝を笑わせている。

 何事もアップ・ダウン。

 緩急だ。

 蓮実は絶妙なタイミングで強弱を織り交ぜながら、淫具のずっぽり嵌った典子の膣壁を掻きまわしていた。

 そういえばリモコン式を探すのは、当初考えていたより大変だったらしい。

 携帯電波を妨害するようなジャミングに遭うと、あっさりその機能を停止させてしまうのが、こだわりなのか蓮実的には不満みたいだった。

 もっとも三万円以上もする安価でない玩具を即決で購入したのは、複数の意味でブラックな他人のクレジット・カードだからだろう。

 ただ、

「んふぁッ、あッ、あッ、あッ、うくぁああッ――」

 どうやら娘も愉しんでくれているみたいだ。

 けっして無駄な買い物じゃない。

 これなら父親も身に覚えのない領収書を渡されても、まさか面と向かって蓮実に文句を言ってくることはないだろう。

「下着を降ろして」

 そんなお愉しみの典子の耳に、イヤホンからの指示が飛ぶ。

 純一の耳にも届いた。

「……あ」

 いやらしく震えていたバイブレーターが振動を停止し、典子の口から『どうして?』とでもいうような哀しそうな声が漏れる。

 視線がほんの一瞬ではあったが蓮実の方を、媚びを帯びた濡れた瞳でちらりと盗み見ようとした。

「こっちじゃないよ。典子が見なきゃいけないのは、前に座ってるお客さんだろ?」

 典子はびくっと首を竦める。

 主人の言葉を何よりも第一にという徹底した調教の成果が、蓮実流に言うなら教育の成果が行き届いているようだった。

 憐憫を誘う視線が最前列でエロティックなショーを見物するお客さん、小悪党キャラのこれぞ教頭なバーコード・ヘアーの男に向けられる。

 品性の下劣さが一回り二回りでは利かない年の差の、女子高生でも瞬時に見抜けるほどかぶりつきだった。

「くッ」

 悔しい。

 でも感じちゃう。

 びくびく。

 エロ業界では笑いのネタになるくらいのテンプレだが、今の典子の状態はそのものズバリで当て嵌まっていた。

 老いて生臭さの増している視線に晒され、若く瑞々しい肌の紅潮も増している。

 スカートの中に差し入れられた手が、蓮実の命令に従って下着を掴んだ。

「……ううッ」

 にちゃッ。

 絡みつくみたいに粘っこい音をさせながらゆっくりと、ねっとりとした糸を引きながらゆっくりと滑り落ちていく。

 ぬるぬる太腿を這って、妖しくぬめる愛液。

 辿っていくと黒く禍々しい疑似男根と結ばれていた。

 浅ましい涎のように垂れている。

「ちゃ~んと脚を開く」

 やはりゆっくりではあったものの主人の命令に逆らうことなく、ペットのぐっしょり濡れたショーツのゴムが膝下で卑猥に伸びた。

 典子のアソコの締まりは、ヴァージンでなくなって間もないのもあり余程いいのだろう。

「あッ、クッ、んぁああッ、あッ、あッ、あッ、んふぅああぁッ!!」

 跳ね回るイキのいい魚のようにまたバイブが暴れだしたが、根元まで呑み込んだ媚肉はしっかり咥え込んで離そうとしない。

 品はないが美味しそうにくちゅくちゅ音をさせて、貪るみたいに牡器官を模った玩具を咀嚼していた。

 しかしそうやって牝としての性の悦びをどれだけ享受していても、こびりつく乙女としてのプライドがどうしてもソレを受け付けないらしい。

 生理的に無理という、どうしょうもないやつだ。

 断固拒否。

 いつ折れてもおかしくない膝だったが、前のめりになってかぶりつきで凝視する男を避けるため、なけなしの力で踏ん張り典子は後ろに倒れ込む。

「きゃッ!?」

 よろよろとしたバックステップで、対面のシートにドスンッと尻餅を突いた。

 その拍子にはしたなく、少女の内腿が大股になって開かれる。

 甘酸っぱい匂い。

 数日が経ってさすがに残り香も、薄くなってきている。

 なのであのとき嗅いだ芳醇なフレーバーを脳裏で鮮明に蘇らせつつ、純一は回収しそのままになっているグロテスクな張形に顔を寄せた。

 くん……くんくん……。

 どこかチーズのような淫臭を感じるのは、絶対に妄想の産物なんかじゃない。

 餌を漁る野良犬のように鼻を鳴らしながら、長時間に渡るバイブ責めで丸く広がっている陰唇を見つめ続ける。

 よもや時間と空間を越えて、熱すぎる視線を感じたわけではあるまい。

 けれど典子が刺激を受けたことは間違いなく、媚肉がまたしても淫らな収縮をして牡共をギラつかせた。

 シリコン樹脂のペニスは意思を持ったように蠢き、我が物顔で女子高生の秘裂を蹂躙している。

 そんな作り物の剛根に嫉妬しつつ、純一は自分のモノを息を荒げて擦りはじめた。

 男もスラックスからモノを取り出したりまではしないが、年齢不相応にこんもりさせている股間を、年齢相応にねっとりねちっこく擦りだしてる。

「典子の好きにしていいよ」

「で、でも」

「でもじゃないだろ?」

「あひッ!? んッ、うぁああッ、あッ、あッ、あッ、んンッ」

「いつものいやらしい典子をもっともっと、俺にもお客さんにも見せてくれるんだよな?」

「でも、あンッ、だ、だけど、ひぅッ、んぅううッ、あ、ああッ、んクゥああッ――」

 マイクから蓮実の命令する優しい声はもちろん、耳にイヤホンをしている典子にも、気配を殺し傍受している純一にも聴こえていた。

 編集された画面越しに観る純一には、

 ヴィーーン!!

 少女の理性を切り刻むように、緩急をつけて蠢き鳴動する音まで。

 羞恥に灼かれながら典子の手が、バイブの根元をしっかり掴み、狭い膣道に出し入れされるのも、網膜や鼓膜だけでなく身体中で捉えていた。

 ぬむぅッ・ぬちゃッ・ちゅッ・ぐちゅッ――。

 シェルピンクのぬかるみが荒らされるたび、居場所を奪われた淫らなシロップが溢れ、煽られるみたいに少女の喉からも嬌声が溢れている。

 あの狼狽ぶりはナニ?

「んんぅう……あッ……はあッ……、うんッ……あッあッあッ……、んんぅ……はんッ……」

 典子はバイブレーターの雁首を抜ける際まで後退させると、裂け目の奥の奥にある子宮を狙って一気に突き刺す。

 抽送のテンポはとても性急でパワフルなものだった。

 壊しそうな勢いだ。

 牡どもの視線を四方八方から浴びせられ、すっかり劣情の虜になっている女子高生の、公開オナニーのスピードをさらにアップさせる。

 熱こそない。

 しかしグロテスクなディティールをリアルに、忠実に再現している疑似ペニスはいじましく纏わりつく、柔らかな牝襞を容赦なく嬲り抉っていた。

 ぢゅむぢゅむぢゅむぢゅむ……。

 そして度重なる力強い掘削のおかげで、典子の肉によりすっかり温められていた。

 熱い。

 十二月とはいっても必要以上に温められている車内に、泥濘で足掻くような途絶えることのない粘着音が撒き散らされる。

「ふ、ふしだらな……、ふしだらな……、まったく……ふ、ふしだらな……ふしだらな」

 左右の足を大きく開いて、ふんぞり返るみたいに深く腰かけていたシートから、ずり落ちそうなほど男はかぶりつきになっていた。

 歯と本性を剥き出して、涎を垂らしている。

 医者に診せたら即入院レベル。

 バイアグラを何粒飲めばそうなるのかというくらいの、ぎらぎらした眼球は異様な血走り方をしていた。

 きっと自分も似たような、ケダモノ丸出しの貌をしてるんだろう。

 純一はこいつと同類なのかと複雑な感情になりながらも、シンクロするみたいに息の合った動きで、浅ましくも同じように牡器官を擦っていた。

「う……ううぅうッ……、んひぃああああッ!?」

 もちろん男とだけシンクロを重ねてみたところで、どんなにその完成度が高かろうとも、空しくなるだけで悦びに還元されたりはしない。

 深窓の令嬢が目にすれば腰を抜かすような、太いバイブレーターをしっかり握って、壊すみたいに抉り続けているのとは反対の手も、ぴんぴんに勃

起して包皮から剥けている紅い真珠を、中指の腹で苛めるみたいにして擦りたてている。

「あはあッ!? あッ! ああッ!! やッあッあッあッあッあッあッあッあッ……い……やああッッッ!!」

 快楽の波に揉まれて身悶えする同級生の痴態に、二匹のケダモノのマスターベーションもエスカレートしていた。

 ……いや、縛られての露出オナニーに耽る典子を入れれば、理性を捨て去ったケダモノは三匹か。

 だが典子とどこかのスケベなおっさんは、所詮は等しくただの獲物でしかない。

 小さな池で戯れるナマズやカエルだ。

 けれど自分は違う。

 獲物を狙う蓮実という巨大なホホジロサメに張り付いて、オコボレに預かる矮小なコバンザメこそ橘純一という人間なのだ。

 もはやそれを恥とも思わない。

「くぅ……んんん……」

 本当の自分をこうして見つけてくれた蓮実になら、蓮実先生にならどれだけへりくだっても、そうするのが当然だとしか思えなくなっている。

 発砲直後の銃身みたいに熱くなっている勃起を、さらに勢いよく擦りながら畏怖と畏敬の念を強くしていた。

 この狂おしいまでの飛びっきりの快楽を提供してくれるのは、蓮実聖司というイカレた英語教諭しか居ないのだから。

 しゅこしゅこしゅこしゅこしゅこ……。

 あまりの摩擦スピードで、もう今にも火が付きそう。

 無論そうであったところで困らないし構わない。

 本望。

 脳内でパチパチとショッキング・ピンクの閃光がスパークしている。

 もう何度も何度もくり返し観ているので、典子のそのタイミングはわかっているが、それでも純一は無言で叫ばずにはいられなかった。

 早くイッてくれっ!!

 限界が近い。

 せめて女の子よりも先に独りでイカないのが、純一に残っている最後のプライドだった。

「あッ、あッ……」

 画面の中の典子が切羽詰ったように喘ぐ。

 この苦しみから解放されることを願いつつ、この悦びをもっと味わっていたいという、相反する思考の渦も目の奥で弾ける火花ですぐに霧散した。

 ぎりぎりセーフ。

 どうにか同着になった。

「イクぅッ!!」

 以前は耳にするだけで真っ赤にしていた台詞を、典子は口から自然と溢れさせて、収縮する粘膜に指が白くなるほどグリップしたバイブを、ぬかる

みの奥の奥に『ぐちゅり』と叩きつけるように突き挿す。

 反対の手の指ではぷっくり膨らんだクリトリスを、つねるみたいにきつく摘んで捻りながら押し潰していた。

 見て。

 とでも言わんばかりブリッジするみたいに腰を突き出して、ひきつき妖しく蠢く媚肉を曝しながら透明な潮をしぶかせる。

 びゅッ!! びゅッ!! びゅるるッ!!

 純一の勃起からも断末魔のような白濁液が迸り虚空へとぶちまけられた。

 危ない。

 あと少し男の年齢が若ければ、典子の身体にかかっていただろう。

 対面のシートから飛ばされたスペルマは、瑞々しい肌を汚すのに僅か数センチ足りなかった。

 もっともそんなことになっていれば、こんなことでは済まなかったかもしれない。

 ――ゴトンッ。

 重い音をさせてバイブレーターが床に落ちた。

 ハチミツを塗りたくったような疑似男根が、誘っているみたいに絶妙なラインで転がる。

 プツンッと何かが切れた。

「もう堪らんっ!!」

 未練がましく牡器官を擦りながら、男は立ち上がり脱力した典子ににじり寄る。

 針金みたいに痩せている貧相な身体が、イメージを生々しいほど補強して、リアリティな説得力を持たせていた。

 まるで餓鬼。

 瑞々しい女子高生の肢体に、涎を垂らして襲い掛かろうとした。

 でもそのような分を弁えない暴挙が、許されるわけも赦すわけもない。

「お客さん」

 すかさずカットイン。

 地獄の審判が無慈悲に下される。

「お触りは厳禁です」

 強くもなければ弱くもない絶妙な加減の手練の技で、音もなく近づいた蓮実の声に振り返り、ギョッとした顔をした男のこめかみに、五枚重ねにし

たポリエチレンのゴミ袋に、細かい砂を入れて作製したブラックジャックの、重量から発生した運動量を余すところなく伝えていた。

 うッ!!

 首筋への手刀くらいウソっぽい。

 フィクションの定番みたいな、お決まりの王道リアクション。

 小さく呻いて顔面から床に崩れ落ちた。

 自分の撒き散らしたザーメンにダイブした男を、蓮実はちらっとだけ一瞥してから、未だに恍惚とした貌のままの典子を介抱し抱き起こす。

 長年の鬱憤が晴れたような顔をしたのは、たぶん純一の気のせいだろうが、とにかく教え子を連れて素早くその場を後にした。

 前戯は終了。

 これからいくつかあるマンションの一つに泊まって、典子は翌朝まで本格的に嬲られることになる。

 残念ながら純一には部屋の鍵までは渡されていないので、ここまでで御役御免の空しいクランク・アップをしていた。

 蓮実からあらかじめタクシー代を貰っており、終電を過ぎても家に帰ることはできるが、すぐさまこの撮り立てホヤホヤの作品を観賞したい。

 駅前にマンガ喫茶に、大急ぎで飛び込んだ。

 勃起したまま。

 朝まで個室でシコり続けた。

 撮影だったら何日徹夜でも問題ないんだけどなぁ……。

 あの穴はなんのために掘ったんだろう?

 刹那と言ってもいい短い時間だけ、そんなことをぼんやり漠然と純一は考えた。

 けれどやはり瞬く間の刹那で消えて、また頭から始まった画面を見つめつつ、ゆるゆるとシゴいていた勃起に力を篭める。

 泥濘の底にずぶずぶ埋まっていくみたいに、純一はただただ心地よい摩擦に何もかも委ねた。






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