奴隷融合騎リインフォース1
「やっぱり、難しいわね……」
顎先にペンの尻を宛てがい、シャマルは沈鬱な面持ちでテーブルの上の書類の山と、そして目の前に広げた空中投影ディスプレイを見やる。
そこに羅列するのは医療データ、および、肉体を構築する各種プログラムの状態である。
一人の女の体と魂の形、とでも言えば良いだろうか。
神ならぬ人の被造物と思えぬほど、細緻を極める複雑で難解な設計図だった。
シャマル、そして管理局本局の技術者達でもお手上げというのだから、やはり古代ベルカの魔導師の業はオーバーテクノロジーとしか形容できないだろう。
検査を終えた当人は、それまで診察の為に晒していた大き過ぎるほど大きな胸をセーターの中に押し込んで、微笑んだ。
寂寥と達観を湛えた笑み、既に自分の生の限界を見極めた顔だった。
「分かっていた事だ、覚悟はできている」
「でも、リインフォース」
何かを言おうとして、だが口ごもってその先を言えない。
シャマルはすまなそうな顔をするが、リインフォースは首を振った。
さらさらと流れる長い艶やかな銀髪、白い肌、豊かなプロポーション。
美貌に浮かぶ儚げな表情と、真紅の眼差しの淋しげな風情。
闇の書事件、そしてその後に続いたマテリアル達との事件を経て、季節は春を目前にして、遂にリインフォースの長くも短い生命は終末に差し掛かっていた。
近頃はとみに体調不良が続き、魔法の行使にも困難を感じている、往時の力の欠片もない。
それでもリインフォースは満足だった、ほんの少しの時間でも、守護騎士の皆や主と過ごせた事を幸運に思う。
「良いんだ」
「……」
シャマルは黙って、視線で訴えかける。
本人がそうと言い張れば、他人がどうこう傲慢な事を言える筋合いではない。
それは分かっているが、リインフォースの顔に翳る哀切の程を見逃すほど薄情でも鈍感でもなかった。
リインフォースの口ぶりは、まるで受け入れ難い事実を、無理やり自分に言い聞かせるようでもあったからだ。
□
「古代遺物特殊研究室?」
「はい」
確認して問い返すはやての言葉に頷くのは、美しい少年だった。
金髪に白い肌、それだけの要素を見ればユーノのようであるが、与えられる印象はまったく違う。
年の頃は十代の半ばくらいでクロノと同年代、切れ長の瞳、座っている佇まいからも漂う何とも言えぬ品、繊細な体に纏う上質な衣服。
ユーノの印象を素朴な子犬と形容するなら、彼の印象は名家で養われる典雅な血統の猫、といった具合だ。
事実、彼はやんごとなき血筋の者であった。
「ジャン・メルヴィルと言います。貴女達の事は、スクライア君から」
少年、ジャンはそう言って、隣に座るもう一人の少年を見る。
ユーノはこくりと頷いた。
「ごめんねはやて、君達の事をあまり無闇に口外するべきじゃないのは分かっているんだけど、でもメルヴィル博士は古代ベルカ文明の技術に詳しいんだ。たぶん今の次元世界で、一番」
八神家に訪れたユーノ、その連れとして共にやってきた少年の肩書に、守護騎士もはやても微かな光明を感じざるをえなかった。
ユーノ曰く、古代遺失文明研究の第一人者、若くして二つの博士号を持つ子供、天才。
管理局とはまた別の独立した研究所に所属しており、なんでも学会や研究会でユーノと顔見知りになったという。
彼に事情を明かし、八神家へ招いた理由は明白だった。
「リインフォースを救えるかもしれないと思って」
ユーノの言葉に、皆が声もなく頷いた。
問うまでもない、誰も彼女の死など望んでいはいなかった。
できるだけ、長く傍に居て欲しい、共に同じ時間を生きていたい。
「な、なあ! ほんとか、ほんとにあんた……」
それまで抑えていたヴィータが、ジャンに縋り付くように問うた。
他の守護騎士もはやても、八神家の全員が同じ心境だっただろう。
少年は微笑んだ、なんと優しく、人の心を惹きつける笑顔か。
元来のどこか冷たさすら感じさせる美貌に浮かぶ微笑には、見るものに救いと希望、恍惚さえ感じさせる風情があった。
「可能性はゼロではありません。僕も全力で事に取り組むつもりです」
はやて達は視線を見合わせ、色めき立つ。
最初はあまりの若さと、聞き覚えのない所属に、どこか半信半疑だった。
しかしユーノの紹介した肩書が真実ならば信用しても良いだろう、それでもしリインフォースが助かるというならば、どんなか細い希望にも縋りたい。
「お願いします! どうか……」
はやてが小さな体を曲げて、車椅子の上で頭を下げた。
少年博士は優しく高いソプラノの声で告げた。
「そんな畏まらないでください。人として当然の事をするだけですから」
八神家の皆が、同席したユーノが、端然とした少年の言葉に感銘した。
優しく賢く、白く美しい美貌、正に天使のような少年だった。
「あの……」
おずおずと、その場で押し黙って立っていた当事者である女が、ようやく声を出した。
麗しくも儚げな美貌、長い銀髪と豊満を極める女体。
リインフォースは、己を救いえる少年に深々と一礼した。
「よろしく、お願いします」
下げた頭を上げ、視線を向ける。
瞬間、リインフォースはぞくりとした。
細められた少年の眼差しが、一瞬だけ、鋭く酷薄なものに見えたからだ。
氷結したように青い瞳、針のように鋭く冷たく。
いや、見間違いだろう、と考えなおす。
事実既にジャンの目は優しい光を湛えていた。
「はい、こちらこそ。リインフォースさん」
□
広大な敷地を占めるのは、青々と茂る木々。
天から注ぐ日光、清水流れる小川、その中を貫く石畳の道は良く手入れされていた。
街から続く道の先、小さな森の中心には、大きな屋敷がそびえる。
ミッドチルダの地上本部で一度手続きを踏んでから、リインフォースは送迎車に乗せられて、この屋敷に訪れた。
門柱にはメルヴィル家の名と、ジャンの所属するという古代遺物特殊研究室の名が併せて刻まれていた。
「ここが僕の家兼、研究所です」
「立派ですね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
無人自動運転の車からジャンとリインフォースが降りた、車の中に乗っていたのは二人だけ。
はやても守護騎士も付き添いはない、これは少年博士の申し出でもあった。
彼の研究室にて、リインフォースの深刻なバグを除去改修する作業を行う際、リインフォース本人以外の来客は控えて欲しい、と。
集中力を保つ為と、研究所でもある屋敷は老朽化しているので満足に接待できない為だと。
目の当たりにした屋敷の壮麗さに、リインフォースは目を丸くした。
老朽化したという割には、貴族然とした屋敷の白さと丁寧に刈り込まれた芝や植木からは、朽ちた気配など微塵もない。
屋敷を見上げるリインフォースの前に、長身の人影が訪れた。
声もなく恭しい一礼をするのは細長い体にタキシード、手袋と磨き抜かれた革靴。
首から上は人間でなかった。
人の顔のあるべき場所にはカマキリの頭が乗っていた。
巨大な複眼に思わずぎょっとするリインフォースだが、すぐに相手がどういう存在であるかは理解できた。
「僕の使い魔、執事のピエールです」
「あ、えと、どうぞよろしくお願いします」
「――」
頭を下げて挨拶するリインフォースだが、カマキリは何も言わない。
発声器官そのものがないようだった。
リインフォースは視線を周囲に向ける。
迎えに出たのはピエールという使い魔ただ一人、それ以外には誰一人居ない。
彼女の疑問を察したジャンは説明を添えた。
「屋敷の雑事は全てピエールが行っています、もちろんあなたのお世話も彼がします」
「そうなんですか。ご家族は?」
「健在ですが、住まいは別です。研究にはその方が何かと都合が良くて」
「では研究室の方と一緒にここで?」
「いえ、僕一人です。研究室と言っても僕一人で設立し、僕一人で運営しているので」
家族恋しさより自身の知性と探究心を優先する、天才ゆえの早熟だろうか。
八神家の家族皆で一緒に過ごしたいと思うリインフォースには、想像もできない心境だった。
それとも、もっともっと長い生の時間を得れば、彼女にも孤独を求める心に共感できるのだろうか。
全てはこの少年の細い双肩に掛かっていた。
「ではどうぞ」
「はい」
促され、彼の後に続く。
手荷物は気付かぬうちにピエールが持っていた。
客室として宛てがわれた部屋は八神家の自室の倍はあった、それも埃一つとして落ちていない整然ぶりである。
荷物を置いた後は、長い廊下の先、屋敷本館の隣に建てられた別館へと案内された。
どうやらここが少年の仕事場らしく、古色蒼然たる本館に比べ、近代的な改修が施され、そこかしこに各種魔法術式を用いた計測機器が無機質な姿で屋敷の古雅を乱していた。
「そこへ」
指で示されたのは、広い研究フロアの中央にある円形のくぼみだった。
電気や魔力といったエネルギーを通すケーブルが張り巡らせてあるところを見ると、これが解析とプログラム干渉の機械なのだろう。
リインフォースは頷き、言われるままそこに立った。
「早速始めたいと思います」
輝く線が地面に幾重にも走り、複雑な紋様を刻んでいく、魔法陣だ。
古代文明、ひいては古代ベルカ式魔法や文化に造詣のあるジャンのマシンが生み出すのは、やはり三角形を中心に構築されるベルカ系だ。
彼の魔力光なのか鮮血の如き赤色が、薄暗い照明の研究室を下から照らしだす。
リインフォースは体を服の上から這うような、探査魔法の感覚を覚えた。
「まずは貴女の体をスキャンします。服を脱いでください」
「……え」
「どうかしましたか?」
唐突な、まったく予想していなかった言葉に、リインフォースは目を丸くして硬直した。
少年といえば、むしろ何の問題があるのか分からないといった風に、きょとんと首を傾げる。
「着衣があるとアウトフレームとして構築された貴女の体を通して、夜天の魔道書のプログラムへ深いアクセスが出来ないんです。お恥ずかしいかもしれませんが、お願いします」
金髪の美少年は、心底すまなそうに、その心地良いソプラノで囁く。
怜悧な子供の願いを前に、リインフォースは顔を真っ赤にする。
そうだ、これはあくまで自分の修復、治療行為だ。
それに相手はまだ少年ではないか。
羞恥心や貞節は捨てなければ。
「わ、わかりました……」
蚊の鳴くような声を出し、彼女は己の着衣に手をかけた。
まずは上。
白いセーターをめくり、肉付きと締りを両立させた下腹を晒す。
くびれた胴の上には凄まじい丘陵、いや、山岳が二つそびえていた。
釣鐘型の乳房のボリュームは爆発的であり、黒い下着が白雪の如き肌に良く映える。
次にリインフォースは下半身の脱衣へと移った。
ぴっちりと豊満なラインを包んでいたジーンズのベルトを外し、上から下へと剥いていく。
腰から尻への急激なカーブはそのまま腿と膝、くるぶしまで優美を極める曲線を魅せつけた。
正に女体の神秘だった。
元来の儚げな美貌と相まって、リインフォースは凄艶な色香に満ちている。
白い肌を強調する黒い下着がまたそれを引き立てるのだ。
「これで良いですか」
問いかける声は風が吹けば掻き消えるほどか細い。
下着姿ですら異性に晒す事に激しい羞恥心を駆り立てられる様子である。
居並ぶ機械類の隣で鎮座する椅子に腰掛けたジャンは、にこやかな笑顔で宣告した。
「下着もお願いします」
「し、下着もですか?」
「ええ」
「……」
かっと白い肌が満面赤く染まっていく。
リインフォースは震える指先で最後の薄布を外していった。
背中に手を回すと、自然と背を反る形になり、巨大な胸を前に突き出す。
ぷつんと微かな音を立て、ホックが外された、はらりと落ちる布切れの代わりにまろび出たのは究極的に男の願望を成就した胸である。
凄まじいサイズを誇りながら形は完璧な造形を保ち、肌は白く、潤いに満ち、薄桃色の乳輪と乳頭が鮮やかな色合を添える。
少しの身動ぎでも重々しい揺れを起こす様は、視線を吸い寄せる魔法でもあるようだった。
最後の一枚に手を付けるにはもうしばらく時間がかかった。
瀟洒なレースの生地の作る三角形を、両端から摘んで歪め、引きずり下ろす。
尻の巨大な質量を解き放ち、むっちりと肉付きの良い腿を、膝を、下腿を通り越し、ショーツは足首の先から消えた。
リインフォースはなんとか手で隠すが、それでも脱衣する諸々の動作の中で、髪と同じ色の茂みは確かに少年の目に焼き付いただろう。
「ありがとうございます、それで結構ですよ」
「はい……」
「それにしても、お綺麗だ」
「……ッ」
羞恥心に、リインフォースの白い肌が一気に紅潮し、乳首と茂みを必死に両手で隠し、もじもじと身をよじった。
体は成熟の極みだが恥じらう仕草はあまりに乙女だ。
美女を見つめる少年の眼差しは次第に鋭く、そして興奮の熱を帯びる。
探求の学士ではない、嗜虐的に獲物を追い詰める狩猟者の瞳だった。
ジャンは革靴の踵を鳴らしてリインフォースの周囲をぐるりと歩き、長身の肢体を上から下まで存分に観察した。
同時に探査魔法も走っているのか、彼女は白磁の肌にもどかしいこそばゆさを感じる。
「やはり美しい。本で見たより何倍も、比べ物にならないほど」
「え? あの……それはどういう」
ぽつりと零れた不可思議な言葉に疑問符が浮かぶ。
ジャンは答えるより先に白く細い指先を宙に踊らせた。
「より仔細に調べさせていただきましょうか」
魔力光が赤い輝きを生み出し、三角形の魔法陣が幾つも展開、出現する鎖の群が生ある大蛇の如く女の四肢に絡みつく。
あまりに突然かつ想像を超えた事態にリインフォースは怒りを感じたり自己防衛する事さえ忘れ、ただただ唖然と硬直した。
そんな彼女をよそに、少年は己の手の上に本を出す、淡い燐光に包まれた白染めの革表紙の本。
書に保管されていた魔法術式は正確に発動され、十重二十重の円形を織り成してリインフォースを囲んだ。
円を構築するのは綴られた古代文字で、それが無数に並び土星の輪のように一見して円形を作る。
ジャンの持つ本から魔力が流れ込み、古代語の魔法陣はリインフォースの肉体に作用し、毒蛇の如く牙を立てて侵食を開始した。
「くッ! あ、ぅああッ!」
肌から入り込むように感じる冷気、神経を伝わり、悪寒は肉体のみならず彼女と夜天の書、ひいてははやて達とを繋ぐシステムに強制介入してそのリンクを断ち切った。
リインフォースの白い肌は薄く汗を滲ませ、何度も小刻みに痙攣した。
荒くなった呼吸を整え、全てが終わるのに要したのは、時間にしてたった数十秒足らずである。
ようやく意識をはっきりさせたリインフォースは、乱れた長い髪を首を振って払い、少年を見た。
「何を……メルヴィル博士、私に……一体何をしたんです」
「白の書って言うんですよ、これ」
美女の問いかけに、少年、ジャン・メルヴィルは泰然と答える。
リインフォースの困惑も怯えも知らぬのか、それとも、知っていてもどうでも良いというのか。
指先でくるくると回る書の白表紙、薄く浮かぶのは古代ベルカ語だった。
「夜天の書、あるいはその系統にある古代ベルカ式魔道書のプログラムへの絶対アクセス権を持つ、まあロストロギアですね。我が家の秘宝です。といっても、これ自体に大した能力はないんですが」
宙に無造作に放り投げた白の書は消失、おそらくは待機状態と化したのだろう。
ジャンは両手を自由にすると、鎖で四肢を封じられ大の字を描くリインフォースへと歩み寄る。
あまりの事態に今まで思い至らなかったが、よくよく考えると自分は隠していた乳首も秘裂も、何もかも晒しているではないか。
「あ、や……み、見ないでください……」
消え入りそうな声で、リインフォースは自由にならない手足をもどかしく動かし、訴えかける。
目尻には羞恥のあまり涙まで浮かんでいた。
いくら子供とはいえ、異性に裸身をまじまじ見られるのは、耐え難い。
しかし少年はまるで気にする事もなく、感嘆とも恍惚とも言える眼差しで、リインフォースの体中の隅から隅までを見つめた。
魔法で抵抗しようにも、主との魔力リンクの一切を断たれたリインフォースには、鎖を破壊する力も出せない。
いや、そもそも、自分を救うという少年に、抵抗して良いものかどうか。
されど、彼は果たして、本当に自分を救うつもりなのかどうか。
「こんな事、治療に必要なのですか? 手足を縛る必要性なんて……」
「ないに決まってるじゃないですか」
「なッ」
リインフォースは絶句した、彼は悪びれる事もなく拘束など不要だと断言したのだ。
「貴女と夜天の書を切り離すのは、必要です。これから他の一切のシステムと隔絶してから、白の書で貴女という存在を形作るプログラム一つ一つに干渉し、修正していく」
「では、なぜ……」
「決まっているでしょう。助けてあげる対価ですよ。命を永らえるんだ、少しくらい僕にお返ししてくれたって良いでしょう?」
「それは、そうですが……」
「なら決まりだ。今日から貴女の治療が完了するまでの間、貴女には僕の言う事を聞いてもらいます、どんな命令でも、ね」
くつくつと少年が笑う。
それまで薄く微笑んでいた気品ある表情ではない、巣にかかった美しい蝶の翅を一枚ずつ引き毟る毒蜘蛛の笑みだった。
ジャンはリインフォースの周囲をまた歩き出す。
舐めるような視線で、今度は手で隠されていない秘所や乳首を、息がかかるほどの間近から観察した。
吐息がかかるだけでゾクゾクし、リインフォースは身震いして切なげに目を細める。
玉の汗の浮かぶ白い肌、たわわな乳房、くびれた腰、肉付きの良い尻と太腿。
そしてかぐわしい甘い香りのする髪と、真紅の瞳の美貌。
至高芸術を愛でる一流の愛好家のように少年はリインフォースの全身を見つめた。
「リインフォースさん。貴女の事は、今まで何度も見てきました、小さいころから何度も」
「どういう事ですか……」
先ほどの本で見たという言葉といい、妙だった。
ジャンは自分を知っている、だがおかしいのは、リインフォースははやて達の元で顕現するまでかなりの期間を実体化せずにいる事だ。
管理局の公式の記録にもそれはほとんど残っていない筈。
すると少年は手を掲げ、一冊の本を出す。
先ほどの白の書ではない、別の本だ。
魔道書の類ではなく、ただの物理書籍で、古代ベルカ語と思わしき文字が切れ切れに綴られている。
少年は手垢のついたページをめくり、ある部分で止めて、リインフォースへと掲げた。
そこに載っていたのは、紛れも無いリインフォース自身の姿だった。
髪の毛一筋まで繊細に描かれたリインフォースの絵、そして彼女についての仔細な紹介だった。
「これは、私!?」
「はい。どうも僕の先祖は古代ベルカ式魔道書の制作に携わっていたようだ、無限書庫にも保管されていない古代の文献が多くあります。これはその一冊だ」
ジャンはページをめくり、この日まで幾度も見返し、目と記憶とに焼き付けた箇所を、夢見るように見つめた。
「人間の細胞をベースに作られた夜天の書の管制人格、融合騎のアウトフレーム。僕の初恋の相手だ。僕はこの本に描かれた女性に恋し、そして愛しました。叶わないと知りながらもね」
氷蒼色の双眸に、今や狂おしい邪悪と熱情が揺らめく。
無垢な初恋と言えば聞こえは良いが、天才少年の早熟な知性と知識に芽生えた恋心は、常人のそれを遥かに逸脱していた。
「そんな貴女がどこぞの未開の世界で現出し、魔法文化もない蛮族の主に仕えていると知った時は驚きました、そして悔しかった……僕以外の人間が貴女の主人に収まるなんて。でも、もう良いんだ、今日から貴女は僕のものだ」
「ひゃッ、あ……や、あぁッ! だめ……んぅッ」
涼やかな声音に獰猛な欲望を秘めて囁く少年は、その白く細い手を目の前で戦慄く巨大な乳房へと寄せた。
釣鐘型の真っ白な胸を、谷間の入り口から乳首、下乳までねっとりと絡みつくように撫で回す。
女など知る筈もない年少者とは思えぬほど、愛撫の手管は淫靡を極めた。
下から重量級の果実を持ち上げ、指先を埋めていく。
当然ながらジャンの指では到底リインフォースの爆乳を全て掴みきれるわけがなく、指の間から盛大に柔らかな肉が零れた。
五指に従って肉を変形させる乳房の、なんと淫らな事か。
柔軟に弾み、揺れ、加えられる力に従って形を変える、しっとりと吸い付くような触り心地。
少年は夢中になって極上の爆乳を弄んだ。
リインフォースは慣れぬむず痒い快感に身をよじり、目尻に涙を溜めて切なげに震える。
「嗚呼、とても気持ちが良い、素晴らしい感触だ。柔らかくて触ればそっちから吸い付いてくる」
「やめ……や、やめてください……こんな、事……してはいけませんッ」
「別にやめても構いませんけど、その時は貴女を助けるという話もご破算ですよ」
「そんな……」
生き延びて、これからずっと主や守護騎士の皆と一緒に過ごしたい。
辱めを受け少年の玩具に甘んじるのに比べれば、確かに比較できぬほど格別の褒章ではある。
もしも誰かに、助かる為にどんな事でもするのか、と問われれば、迷わず頷いただろう。
だがしかし、実際に辱めを受ける羞恥心とは別だ。
それも、相手はこんなにも若く美しい少年である。
なまじ成人男性にされるよりも屈辱的かつ、背徳的な感慨があった。
押し黙るリインフォースの様子から、それが承諾と同義であると判断したジャンは、再び彼女の肢体を貪り始めた。
乳肉全体を揉みしだきつつ、次第に指先は頂上で咲く薄桃色の蕾へと至る。
乳頭はやや小さめだが乳輪全体は乳房のサイズに比例して少し大きく、それが余計にいやらしさに拍車をかけている。
縁から焦らすように撫で、つぅ、と指でくすぐるかと思えば、唐突に乳首を痛いほど摘む。
強弱の緩急にリインフォースは引きつった悲鳴を漏らした。
「あぁぁッ!」
悲鳴、されど響きに含まれる甘い音色は、彼女の肉体が紛れもない官能に痺れ始めた証左である。
硬くしこりだした乳首をコリコリと捏ねて、持ち上げると、ジャンは顔を寄せ、そっと口に含んだ。
小さな唇が吸い付き、舌と歯を器用に使って転がした。
頬をすぼめてしゃぶりつき、甘噛してコロコロと弄り、たっぷりと愛撫する。
たちまちリインフォースの顔はくしゃくしゃに歪み、切羽詰まった嬌声で喘いだ。
「む、むね……だめ、あッ! そんな、吸っちゃ……ひゃ、はぅうッ!」
銀髪を振り乱し、常よりも甲高い、上ずった声を上げるリインフォース。
必死に手足を動かし、拘束を逃れようとするが、鋼の縛鎖は決して緩まない。
ジャンは金髪を揺らして好き放題にリインフォースの乳房を味わう。
丁度彼の身長だと長身のリインフォースの胸に顔が当たる位置にあり、吸いやすいのだろうか、くびれた腰に片手を回し、もう一方の手で尻まで撫でる。
やがて散々吸って乳首を尖らせた片胸から口を離し、唾液の糸を淫らな銀糸と化して伸ばしながら、少年は今度は反対の胸へと吸いついた。
左右どちらもまんべんなく、執拗かつ熱烈な愛撫の洗礼に、生白い豊満な体が何度も跳ねた。
次第々々に白磁の肌に浮かぶ玉の汗、全身が紅潮し、感度の良さを主張するように艶やかに濡れた声音が静かな室内に反響、天上音楽の如く狩猟者と化した少年の耳を愉しませた。
時間をかけて乳首をねぶり尽くした時、ようやくジャンは口を離した。
「あぁ……はぁ、くぅッ……」
朱に染まる頬に涙の筋を作り、リインフォースは聞くも淫らな切ない吐息を零して胸を上下させた。
すっかり充血し、勃起した乳頭は少年の唾液に濡れ光り、元々の淫らさに拍車がかかっている。
ジャンは唇についた自身の唾液を、ぺろりと舌を伸ばして舐める。
その仕草は悪戯子猫のような茶目っ気さえあった、実際は邪悪なチェシャ猫の微笑に等しい。
すっかり火照ったリインフォースの姿に、少年は指を鳴らす、主の命に呼応して魔法陣より新たな鎖が出現、今度は両膝に巻き付いて捉えた。
「ひゃあッ」
上ずった声で悲鳴を上げ、リインフォースの体が持ち上げられる。
両手首と両足首の拘束、そして今度は両膝への拘束、都合六つの支点で以って体を支えられたリインフォースは大きく股を開く格好にさせられた。
まるで妊婦が分娩する時の、あるいは産婦人科医の診察を受けるような、女の秘すべき部分全てを晒す姿勢である。
当然ながら、見るのは医者ではなく、歪んだ愛と欲にまみれた若き天才学者の青い瞳。
薄く銀の恥毛の生えた部分を、汗と蜜で湿った豊満な肉の合間を、ジャンはかつてない程の興奮に燃えて見下ろした。
尋常の感動など感じない達観した少年が、この時ばかりは指先を震わせて触れる。
「ここが、貴女の……こんなに濡れて。とても綺麗ですね、ピンク色だ」
うっとりと恍惚の熱に美貌を染めた少年は、陰唇を広げ、陰核から尿道口、膣口に至るまでの全てを見つめた。
興味深そうにつつき、あるいは押し広げて粘膜のてかりと、溢れる愛液とを塗り込めて。
こそばゆい快感に身震いするリインフォースは、恥ずかしくて死んでしまいそうな心地である。
必死に手足をばたつかせるが、六つの鎖は無慈悲であり、緩む事は決してない。
「やだ……あぁ、やッ、見ないで……そこ、見ちゃ……あッッ!!」
一段と甲高い声が迸った。
細い少年の指が、強引に宝珠の皮を剥き、さらに膣口に第一関節まで挿し込んでいた。
胸への責めですっかり熱く、敏感になった体は、本人の意思とは無関係に快美の痺れを生み出した。
怖い、この時彼女は、未だかつて無い不安に駆られた。
こんな事はいけない、したいとも思わない、なのに女として熟れに熟れた我が身は、快楽の前にあまりに弱かった。
既に溢れた蜜は巨大な尻たぶまで伝って落ちて、床に点々と跡を残していた。
甘酸っぱい雌の香りが満ち、少年は鼻を鳴らして呼吸して吸い込んでいる。
嗜虐心に満ちた目が、彼女を見上げた。
「ほら、見てくださいよ。指の間で糸引いてますよ? 貴女も気持ち良いんでしょう。縛られて弄られて、こんなに感じて、いやらしい人だ」
「いわないで……違う、そんなの……私……んぅッ、くうううッ!」
リインフォースが感極まったように唇を噛み、身をよじって髪を振り乱す。
見れば、ジャンの指はこれでもかとクリトリスを摘んで、抓っていた。
細められた眼差しは鋭く強く、支配者の視線で眼前の雌を射抜く。
「嘘をつくな、玩具の分際で」
「あ、あああッ! いやぁああ!」
千切るかと思うほど、強烈な捻りを加えて陰核を責め立てるジャン。
リインフォースは何度も大きく跳ねて泣き叫んだ。
痛み、そして快感、相反する電撃が彼女の中を駆け巡り、より一層肉体を火照らせる。
もうそこは湯気が立つ程の熱気を帯びて、桃色の粘膜は充血してひくひくと蠢く。
すっかり準備はできていた。
彼女の様子に、ジャンはいよいよと理解したか、バックルを外し、ズボンを半分おろして己を取り出した。
支配者として振る舞っていてもさすがにそこはまだ少年、未成熟な男性器が顔を出す。
それでもしっかりと勃起して、硬く上を向いて、皮を被った先端をリインフォースへと突きつける。
「……まさか、うそ……うそ、ですよね……そんなの」
責めに戦慄いていたリインフォースが、ぴたりと添えられた熱い感触にはっと我に返り、見下ろす。
少年はその小さな体をむっちりとした太腿の間に割り込ませ、硬く屹立したものを、今正にリインフォースへ埋没させようとしていた。
恐怖、不安、倫理観の危機。
リインフォースは今度こそ泣き叫んだ。
「やだ、やだ! や、やめてくださいメルヴィル博士! そんな事、だめ……こわい、いや……助けて、みんな……主ぃッ!」
理知的で清楚、淋しげな大人びた雰囲気のあるリインフォースが、この時ばかりは子供のように助けを求めた。
だが都合のいい助けなど存在しない、鎖の感触は冷たく確かに彼女の四肢を拘束し、少年の屹立は熱く粘膜に触れてくる。
小さな手が太腿を挟み込み、少年はゆっくりと腰を前に突き出していった。
「僕の初めて、貴女に捧げますね」
恍惚に声を弾ませ、ジャンはリインフォースの豊満な肉体に抱きつく。
あっという間に、二つの肉体は繋がった。
滑りこむようにぬめる蜜壺へ吸い込まれる剛直。
肉棒は小さくも、しっかりとリインフォースの純潔を奪った。
「ああッ! い、いたいぃッ! いや……だめ、こんな……あああぁッ!」
少年に犯される背徳、強姦される悲痛、肉体に走る痛みと快感。
リインフォースは巨大な乳房を波打たせ、長い銀髪を乱して喘ぐ。
少年の腰が一心不乱に前後して、リインフォースのぬめる蜜壺を何度も押し広げる。
初めての性交に、ジャンは表情から余裕を失って溺れた。
大人顔負けの知性を持とうと、肉の悦を前には意味を持たないのだろう。
目の前でたぷたぷと揺れる爆乳の谷間に顔を埋め、むっちりと肉付きの良い太腿を両脇に抱き抱え、ジャンは腰を動かすだけの本能に取り憑かれる。
「すごい、あぁッ! こんな、気持ち良いなんて……リインフォースさん……もう、でる、出します!」
素早い腰使いが、一段と早くなった。
濡れた肉と肉のぶつかる淫猥な音色、少年と美女の甲高い鳴き声。
とうとうその瞬間は、訪れた。
あまりに呆気無く果てた彼は、ぎゅっと体を押し付け、出せる限りの精を解き放つ。
「ぅあああ!」
「ひゃううう!!」
熱い精が満ちていく。
恍惚の極みの声を上げるジャン、被虐に打ちひしがれて喘ぐリインフォース。
性徴を迎えた頃合いの少年の射精は凄まじく、あっという間に膣内を満たし、子宮口まで粘ったものがかけられる。
少年は童貞を喪失し、初めて女性の中で果てた感動に満ちて、潤んだ目でリインフォースの乳房の間に顔を埋め、深呼吸を繰り返す。
汗で湿った肌の匂いは天然の媚香と化して肺腑に満ちた。
未だ小刻みに震えては射精を繰り返す小さな肉棒に、リインフォースも痺れるような快感を覚えてしまう。
「こんな……こんなの……だめ……ゆるしてぇ」
赤い瞳に涙を滲ませ、首を横に振るリインフォース。
そんな彼女を離すまいと、小さな手が胸に埋まる。
指を沈み込ませ、乳房を揉みしだき、浮かんだ汗の雫をちろりと舐めるジャン。
感動に涙ぐんだ青い瞳は、嗜虐心に満ちて見上げた。
小さな暴君は、目の前の獲物を逃すまいと、柔らかな肉へこれでもかと指を食い込ませた。
痛みと快感に顔を歪めるリインフォース。
そんな反応さえも、彼をこの上なく悦ばせる。
「これからプログラムの異常を治すまでの間、たくさん遊んであげますからね。リインフォースさん」
甘美な程の少年の涼やかな声音が、優しく残酷に囁く。
嬲る者と、嬲られる者、細く小さな少年と、長身豊満の美女。
見守るのは一切の感慨を持たぬ、執事姿の無機質なカマキリの顔だけ。
これから始まる幾日もの陵辱の、最初の一日目だった。
続く