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[4089] 裏目裏目に狼狽皇子様(コードギアス)
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2009/12/02 18:04


ルルーシュに殺された。




いや、うん、あの子の言い分はわかる。
実際あのマリアンヌ様を殺された直後に盲目となってしまった妹と共にエリア11に向かって父上に捨てられたのだ。自暴自棄になってしまうのは当然だろう。

いわば、ブリタニアから見捨てられた皇子だ。
それは、初めから身分のなかったものが恨む以上にブリタニアを恨んでいただろう。


だから、母国ブリタニアを憎む気持ちは十分理解できるし、父上やその息子である私を殺そう、とまで思いつめていると言うこともわからないではない。

正直言ってあのマリアンヌ様が殺された、と聞いたときは自分だってショックだったのだ。実子の彼なら言うまでもないだろう……いや、まさか戦渦に巻き込まれたはずの彼が生きているとは思っていなかったし、テロリストになっているなんてさらに想定の範囲外だったが。



まあ、とにかくそんなわけで彼がブリタニアを憎んでいると言うことは重々理解できるし、それが間違いだ、ということも自分には出来はしない。


だが……何も私を殺すことはないじゃないか、とも思うのだ。

誓って言うが、私はマリアンヌ様の事件とは無関係だ。むしろ、それを聞いて悲しんだ側だった。
庶民出だとか、そういったことなど関係ない。
あの方は美しく、そして強かった。私の求める美の実現だった。

その遺伝子を確実に受け継いでいることを幼きころより十分に証明していたルルーシュのことは、本当に可愛く思っていた。
勿論、あの純真なナナリーのことも大好きだったさ。そもそも私はシュナイゼル兄上のような打算と計算の類は得意ではないのだ。
マリアンヌ様を殺すような策を練ることも、ルルーシュたちを僻地に飛ばすようなことも考えもしなかった。


二人を今ではエリア11になっている日本にやるなどという父上の横暴を聞いて、側近達にルルーシュたちを引き取りたい、などという今思えば子供っぽいこと極まりないことをいって側近どもを困らせた覚えすらあるのだ。



八年もたってエリア11の赴任にも慣れたころになるとそういった彼らに対する純粋な気持ちも随分薄れたが、それでもなくなったわけではない。彼らを偲んで庭を造るぐらいのことはやってのけたし、間接的とはいえルルーシュたちを殺したイレブンどもに甘い顔を見せるつもりはない。。


芸術こそが私の生きがいだが、その範囲で出来る限りの事はしたつもりだった。
と言うか、疑うならまずシュナイゼル兄上だろうと思う……
コーネリア姉上となんだかんだ事件後にごちゃごちゃしていたし、どう考えてもあの事件はシュナイゼル兄上がこのままではルルーシュが皇位継承において障害があるとして排除したか、オデュッセウス兄上陣営の貴族の誰かが平民出の皇妃と言う存在が気に入らないから排除したとしか思えない。

ちなみに私は、多分シュナイゼル兄上がやったんだろうと思っている……あの人は、やるときはやる人だ。数万を殺す爆弾を投下することも、実の妹を人質にすることも、それが必要と思うならば全く持って躊躇無しに行うことが出来る人だ。

……何故だか知らないが、そのうち父である皇帝陛下に反旗を翻したり、皇宮に巨大爆弾を落としたりするイメージが容易に浮かび上がる。





まあ、とにかく私は本気でマリアンヌ様の事件とは無関係だった。
側近が勝手に企んだ可能性は完全には否定しきれないが、時期的なものを考えるとその可能性は限りなく低いといっていいだろう。





だが、私は殺された。
ごくごくあっさりと、何の価値すら認められずに。


弱肉強食を国是にするブリタニアの皇族なのだから、鏡台に殺されるなぞと言う一般家庭なら有り得ないこともまあそれなりの覚悟をしているつもりだったが、正直言って母の血統が良く、また「あの」シュナイゼル兄上と争ってまで皇位を継承するつもりなんてさらさらなかった私は、まさかこんなことに巻き込まれるなんて、と言う気持ちのほうが強いまま死んでいった。
恐怖に塗れたままで。


冷静になってみれば、そういった態度もまたルルーシュの怒りを買ったのではないか、と思う。
彼は母の身分が低かったばっかりに、あれほど優れた能力の片鱗を幼きころから見せ付けていたにもかかわらず、さげすまれ続けていたのだから、母の身分の高く、大貴族であるその父母たちが今だ健在であったが故に私はそういった覚悟が足りなかった麺は確かにあるだろう。

血筋に乗っかって楽してきたことに対するちょっとした反省でも見せれば、もうちょっと余裕を持っていれば殺すことまではしないでくれたかもしれない。
彼は幼いころより芸術に対する高い感性を持ちながらも、それを楽しむような余裕の類を持っていなかったのだから、もうちょっと私が落ち着いて話を聞いてあげるべきだったのかもしれない。
なんといってもあの子はまだ子供なのだから。



とはいえ、まあ幼いころからその行為に利用価値、すなわち私を殺すことにあの子が意味を見出していたのであれば、躊躇なく殺す性格だったような気はするし、はっきりいって殺す気になったルルーシュを私を止めることが出来ないのは、幼少のころチェスで二十連敗を喫したときに十分理解している。

と、言うわけで私はルルーシュに殺されたことにたいして、「それはないだろう」と言うような気持ちはあっても、「そんなまさか」と言うような驚きの気持ちや「おのれっ!」というような強い憎しみの気持ちはない。
むしろ、どうやったのかは知らないが第三皇子という帝国でも上位にいる私を裸一貫で殺したことに対して、賞賛にも似た気持ちを持っている。


だから、ルルーシュが私を殺したことに対する恨みはない。これも皇室に生まれたものの宿命だ。
愚痴は言うまい。

このクロヴィス・ラ・ブリタニアの名に誓ってそう言おう。









だが………いくらなんでも、これはないだろう、と私は自分の頭部に鎮座する巻き巻き巻き巻きロールとでも言うべきであろうわが父のものであったはずの髪型を見るたびに思うのだ。



そう、気がつけば私は何故か神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアになっていた。
このくどい顔と深い声とがっしりした体格もそう証明している。

今までの私の美しい顔が、父上の顔に変わっているのだ……不遜なのは判っているが、正直死んだ方がましだった。




正直言って、最初は信じられなかった。

ルルーシュに殺されたはずの私が何故か生きていることにまず驚き、何だ夢か、と言うことですべてを片付けようとして見覚えのない部屋の鏡台の前に立ったときに私の美しい顔が、父上の威厳たっぷりでありながらもくどい顔に取って代わられたことにさらに驚いた。

さらに言うならあわてて出て行った先でごくごく普通に神聖ブリタニア皇帝として扱われたことにも驚いたし、なんか気合を入れると眼に変な模様が浮かんだことにも驚いた。



が、三日たっても治らないどころか、周囲のものからいぶかしがられすぎたので、最後に頬をつねっても眼が覚める様子がないことで、呆然となりながらもようやく認めることにした。



どうやら私は父上―――第98代神聖ブリタニア皇帝 シャルル・ジ・ブリタニアになっているらしい。




そういえば、CCという女はなにやら不思議な力を他人に与えることが出来たと聞く。
ルルーシュもその女と同じような人間に会い、ひょっとすると私をブリタニア皇帝に変える、という力でも授かったのではないだろうか、ということを自分が父上になっている、と言うことを認めてから十日ほどたってからようやく思いついた私は、正直言って殺されたとき以上にルルーシュを恨んだ。
髪のこしがなくなっているのでセットがなかなか決まらない、巻き舌口調が難しい、体の節々が時々痛む、股間の立ちが悪い、その他もろもろ。

考えても見るがいい。
ルルーシュに殺されるまで皇族として人生を謳歌していた二十代だった私が、突如皇帝とはいえ老人といっても差し支えのない体にぶち込まれているのだ。
人生の一番楽しい時期をなくした挙句に、一番苦しい時期だけを味合わされる。
……死んだ方が、ましだったかもしれない。



原因はなんとなくわかる。
私が実験体としていたCCとやらには触ってみても、私には大した変化が起きなかったが、他人に相手の精神を移し変えるとまではいかないまでも、相手の体感時間をとめるとか、相手の意思に反してその体を操るとか、はたまたほんの数秒とはいえ未来予知が出来るとか、そういった常識から考えて有り得ないような能力をもつ者がひそかに存在する、ということは高順位の王位継承者なら知っていることだ。

ひょっとすると私が研究で手に入れようとしていた力をルルーシュが何処か別ルートで手に入れたのかもしれないが、それにしてもこう思うのを私は止められなかった。





すなわち、いくらなんでも実の兄に対してこれはあんまりじゃないか、ルルーシュ、と。



皇帝である父上自らが弱きものは罪であるとして、兄弟姉妹間での殺し合いさえまあ有り得ることであり、確かにあのまま死ぬもあれだったが、だからと言ってこれはないだろう!

なんか以前研究対象にしていたCCとかいう女の額に浮かんでいた模様が瞳に浮かぶようになっているし、さらにその女と同じような模様を額に浮かべたVVとかいうのが親しげに語りかけてくるし(皇帝である自分にタメ口を聞いてくるので思わず敬語で返してしまったが、彼の態度を見るとどうやら正解らしい。一体父上とどんな関係だったのだろうか?)、そもそも寿命でもうすぐぽっくり逝きそうな体になっているし、毎朝髪のセットに二時間も掛かるし…………あのまま死んでいた方がましだった、とは断言できないが、結構惨い状況だ。



私はそもそも芸術に身をささげたかったのだ。
一応第三皇子ということでエリアを一つ任されていた身だが、それはあくまででお飾り。皇族の仕事とは、下々のものをきちんと働かせるためのお飾りであるべきだ。

統治だとか、会議だとかそういった難しいことなどできるはずがない。今まですべて武勲に対してはさほどでもないがそういったことに対しては極めて優秀な我が騎士にすべて任せてきた。


それがいきなり、やれEU諸国の軍事的脅威に対する対策やら、やれ中華連邦の天子に対する恫喝込みの講和文章の作成やら、無理に決まっているだろう。
にもかかわらず、できないとほうり投げることはなんだか周囲の目からは出来ないし(ナイトオブシックスなど露骨に不審げな目を向けてきた)、あのVVとかいう奴は段々剣呑な視線を向けてくるようになってくるし、はっきりいってせっかく生き返ったのに生きた心地がしなかった。



そこまで私はルルーシュに恨まれていたのだろうか? 
子供のころはそれなりに仲良くやっていたつもりだったのだが。




そんな折に皇帝である私の元に届くエリア11での反乱と、首謀者であるであろう謎の怪人物、「ゼロ」の報告。
そのものは華奢な体格を紫の衣装とマントで覆い、仮面を被っていた。父上であれば誰であろうとかまわずに押しつぶすことを命じたであろうが、私にはその正体が瞬時にわかった…………十中八九、ルルーシュだろう。

その時感じた恐怖は、臣下に悟られなかったのを褒めて欲しいぐらいだ。



いかん、このままではまたもや殺される、と私が思っても無理はないだろう。

どういうわけか異常に恨みを買っているらしい私をルルーシュが再び殺そうとするのは明らかだ。兄であるはずの私を何の感情も見せずに殺して見せたルルーシュの笑い顔は今も目に焼きついている。はっきり言って、私はルルーシュが恐ろしい。

かといって、私にはシュナイゼル兄上のような謀略の才はないし、コーネリア姉上のような武の才もない。彼らに助けてもらおうかとも思ったが、どちらかと言うと、オデュッセウス兄上の方に親しくさせていただいていた私にとって、兄上とは違う派閥に属する二人はルルーシュとは別の意味、宮廷内での権力紛争と言う意味で恐ろしい相手だ。


CCのような特殊能力者の研究を使って一発逆転を狙いはしても、基本的には母の血統頼りに皇位継承レースを半ば放棄して生き残ることを考えている我々のような皇族にとっては、わが国ブリタニアの国是「弱肉強食」を体現するかのごとく虎視眈々と帝位を狙うあの派閥は脅威以外の何者でもない。

少しでも弱みなどを見せればすぐに食い尽くされてしまうだろう、身内でありながらもっとも恐ろしい敵だ。はっきり言ってユフィだけだ、あの派閥で安心できるのは。


かといって、オデュッセウス兄上に頼るのも不安がある。私が言うのはあれだが、どう考えても兄上がシュナイゼル兄上やルルーシュに勝てる気がしない。
対等の条件で争えば、王位継承第一位はシュナイゼル兄上が奪い取るであろう、と言うのはおそらくブリタニア貴族の誰もが認めるところであろうし。


そういった状況下で皇帝になってしまっている私は、頼れるものは己のみ、と言う状態でこの超大国ブリタニアを運営し、臣下の不審の目をかわし、さらに正体が知られた場合送られてくるであろうシュナイゼル兄上らからの刺客と憎悪に燃えたルルーシュの刃を防がねばならないわけだ、はっはっは。
ああ、あのVVとか言うのも危険かもしれないなあ。


…………無理だ。
この時点でもう私が自力で生き残る道はない。


とりあえず、すぐにでもエリア11にいるであろうバトレーを召喚するように臣下に命じて、私はベッドについた。
いつのまにやら誰かが気を聞かせてベッドルームに呼んだらしい義理の母上をどうやって追い返そうか考えながら。


父上、まだ現役だったんですね……まあ、母上でなかっただけましであったと思うべきか。

これで実の母上が自分に向かってしなだれかかったりすれば、今度こそ私は正気を保っていられなかったであろう。いや、今でも発狂できるならばしてみたいものだ、ふふふふふ。





………………頼む、我が騎士バトレーよ。
頼れるのはお前だけだ。一刻も早くそばに来て、どうか私を助けてくれ。

今の私には、ベッドにて薄着で横たわる稀代の美妃よりも、お前の頼りがいのある背中が恋しい。




[4089] つぎの話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/08 22:10


「おお、バトレーよ、良くぞきてくれたっ!」
「…恐悦……至極に存じます」


つい先日死亡した神聖ブリタニア帝国第三皇子クロヴィスの騎士でもあった禿頭の将軍、バトレー・アスプリウスは正直言って困惑していた。
直接の主君であるクロヴィスを自らのミスによってテロリストに殺害されて、彼はどれほど後悔してもし足りないほど悔いていた。死してすぐなえるものであればすぐに自ら命を立つ所存ではあったが、今だ犯人が捕まっていない現状ではそんなことなどできるはずがない。

皇帝からの勅命としての召喚命令を受けたときもそれは同じ。自らが処刑されるのはまだしも、主の敵を取れないことに対する後悔は、誇り高きブリタニア貴族であり騎士である彼をして、このブリタニアにおいて自らが犯した失敗は大きすぎ、無駄だと理解しながらも地に頭を擦り付けてでもクロヴィスの敵をとるまではおのれの助命を嘆願しようとまで決心させていた。
彼は心底クロヴィスに忠誠を誓う、忠実な騎士だったのだから。


だが、そこまで決心しての処刑されるためのはずの皇居に到着してからの展開は彼の予想をはるかに凌駕していた。


「お前たち、下がってよい」
「し、しかし陛下。このものはクロヴィス殿下をお守りできないような無能…」
「下がれといっておる」
「はっ!」


自らを断罪のために召喚したはずの皇帝は上機嫌で自らを迎えたばかりか、処刑のしょの字も浮かばせずに自らを近くに寄せた挙句、己のみを残して側近達を周囲から遠ざけたのだ。


そしていまや、この場にはおのれと皇帝の二人っきり。
護衛の親衛隊すら周囲にいない。

確かに弱肉強食を唱えるだけあって強靭な肉体を持つ皇帝ではあるが、だからといって自分のような信ずるに値しないもののみをその御身に近づけるとは。
断じて違うが、自分は今やクロヴィス殿下殺害の手引きをしたもの、とすら思われているのに。

はっきり言って、この場におけるすべての状況がバトレーにとっては訳のわからない展開である。


なんと言っても皇帝にしてみれば自らは皇帝の実子をたかが無名のテロリストから守ることも出来なかった無能である。弱肉強食を常に唱えている普段の皇帝から考えれば、間違ってもこのような対応をするべき相手ではない。
即刻処刑を命じるどころか、皇帝が命令を下して殺させる価値すらないもののはずだ。それをわざわざの召喚、ということでよほどの怒りを覚えられたのか、と思ってみればこの始末。


それとも、それほどまで自らの主であるクロヴィスは嫌われている息子だったのだろうか、死んだことを父親が喜ぶほどに。


いや、そんなはずはないはずだ、とバトレーは自らその疑問を否定する。
確かに第二皇子や第三皇女のように統治能力や指揮能力に長けていたわけではなかったが、それを部下に任せる度量は持っていたし、芸術方面に関する才能は他の追随を許さないほどの才能もあった。

血筋も、才も、度量もある、クロヴィスはれっきとした第三皇子にふさわしい皇子だったと彼の騎士となって十年以上、恐れ多くもある意味自分がクロヴィスを育て上げたとすら思っているこの中年の将軍は、そこだけは主を殺された間抜けな騎士であろうと自信を持って言うことが出来ると思っていた。


では、クロヴィス殿下に問題があったわけでもないにもかかわらず、何故皇帝陛下ともあろうモノが自分なんぞにこれほどまでに親しげに接してくださるのか……これではまるで十年来の忠臣に対するような態度ではないか、とまで考えたところで皇帝がこれまたバトレーにとっては意味不明な一言を発せられた。


「我が騎士バトレーよ、私だ、クロヴィスだ!」
「…………は?」




皇帝陛下、ご乱心。
バトレーは思わずそう思った。それが普通である。








その後なんだかんだあって、ようやくバトレーがクロヴィスのことを認識したはいいが、そこからが問題だった。
坊ちゃん育ちのクロヴィスが、心細いたった一人の裸の王室で、ようやく唯一の味方を手に入れてまともに精神を立て直せるはずがない。

ここ数日皇帝に成り代わってしまったばっかりにそれがばれた際の暗殺の恐怖におびえて誰にも自分の素性を話せなかったストレスよ今ここに消え去れ! とばかりにクロヴィスはバトレーに向かって現状に対する不満を一気にまくし立てていた。


「絶対にこんなことになったのはルルーシュのせいだ! ああ、ルルーシュ、一体私に何の恨みがあると言うのだ。あれか、こっそりタルトの苺を奪っていたのがバレていたのか? それともうっかりナナリーを抱き落としてしまったことが悪かったのか? だが、あのことについてはもうさんざん謝ったじゃないかっ!」
「殿下、殿下、落ち着いてください……」
「あ、ああ。すまない。とにかく、ルルーシュによってこんなことになったのは間違いない」
「しかし、あのCCがやすやすと他人に力を与えるとは思えませんが……そもそもそのような非現実的な力がこの世に存在するのですか?」


普通に考えて、死人が生者に乗り移って乗っ取らさせる、なんていうことが出来る力が有り得るはずがない、とバトレーはこれまたごく真っ当な正論を言う。
彼らはCCや遺跡の調査を行ってはいたが、とても全容を解明できているとは言えず、せいぜいCCが不老不死である、程度のレベルでしか研究が進んでいなかった。


既存の物理法則とは全く持ってかけ離れた法則を持つ『力』を、独自に研究解明するほどの力はクロヴィス保有の研究所にはなかったということだ。

故にバトレーはこのような事態をルルーシュというたった一人の人間が引き起こした、というクロヴィスの説明に対しては否定的だった。
彼が配下のものにCCの研究をさせていたのは、あくまで彼女の持つ不老不死の力を主君にささげよう、とすることがメインだった。

まあ、真っ当な研究者であれば他人を操ったり人の心を読んだり記憶を書き換えたりするような超能力が存在するはずがない、と思うだろう。
ネコ庇ってトラックに轢かれたら何故かゲームの世界に入り込んでいた、ぐらい有り得ない。


「じゃあこの状況をどうやって説明すると言うのだ! 私は間違いなく、クロヴィス・ラ・ブリタニアなんだぞっ!!」
「いえ、そこはもう私も疑ってはおりませんよ、殿下」


とはいえ、見た目はもはや初老のロールケーキ頭に成り下がっているが、このかんしゃくの起こしようや身振り手振り、どうみても幼きころより見守ってきた自らの主君だ。
どれほど姿かたちが変わっていようと、そこを騎士たる自分が見間違うはずがない。
というかそもそも、こんな取り乱す皇帝など有り得ないし。

そう結論付けたバトレーは、いつも通りこの芸術家肌ですぐに冷静さを欠く主君に向かってなだめるように声をかけた。


「とりあえず、そのルルーシュ殿……いえ、ルルーシュのことはおいておきましょう。今後の方針を固めた後に原因についてはゆっくりと」


原因を探すのは後回しだ。
今はとにかく皇帝の偽者として誰かに暗殺されないように対策を練ることのほうが大切である、と言い聞かせるようにクロヴィスに伝えていくと、先の見えない未来に対してようやく誰かが光明をかざしてくれた、と今までと同じような雰囲気で主君は喜んだ。


ああ、単純で、適当で、紛れもなく自分が十年以上育ててきたいとおしい我が主君。
相手が誰であろうと、二度と殺させるものか、


「あ、ああ……そうだな。そうしよう……とりあえずお前は後で正式に皇帝直属の秘書にでも任命しておく」
「おお、ありがとうございます。一度はお守りできなかった私をまだ使っていただけるとは……」
「私を殺させたのは確かに許せないことであるが、あのルルーシュが相手ではな」


自らの忠節が変わらぬように、大失態を犯したにもかかわらずクロヴィスがおのれをまだ一番の臣下として認めてくれていることが、バトレーにはうれしかった。
たとえそれが今は自分しか頼ることが出来ないがゆえだったとしても、今度こそはこの主君を守り抜いてみせる、と誓いを新たにするほどに。


そんな下々の気持ちなど気付かずに、気軽にクロヴィスは自身の死について「無理もない」と答えを返す。
ようやくこの宮廷にて自分の素性を知る味方が出来たことがよほどうれしいのであろう。


それゆえ、今までどおり幾度となく対処法の検討を配下に任せる。
皇族とはいい意味でのお飾りであれ、と言うことをある種の信念としているクロヴィスにとって、それは自分ではどうにも出来ない問題に対する最上の対処法なのだ。


「二度もルルーシュに殺されるなんて真っ平ゴメンだし、だからといって兄上に殺されるのもいやだ。今度こそは本当に頼むぞ」
「イエス・ユア・ハイネス」
「…………今はもうお前だけが頼りだ」


そしてその信頼に、最近やたらとクロヴィスが耳にするようになった皇帝に対する呼称、『マジェスティ』ではなく、皇子皇女に対する呼称である『ハイネス』という返事をするバトレー。
久々に聞くことが出来たおのれの騎士からの皇帝に対するものでない返事に、思わずクロヴィスは笑み崩れた。


「な~んか、シャルルの様子が変なのよね。また、VVが何かしたのかしら」



……以前の耽美な姿ならばさておき今の姿でやってもキモイことこの上なかったし、その笑みのまま会議に出たりしたので、いきなりばれてはいけないような人にばれていたが。




[4089] も一つつぎの話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/08 22:11


「あの純血派の……なんといったか、そう、ジェレミアだ。あのものがイレブンを逃したのは、きっとルルーシュの力のせいに違いない」
「殿下、それはいくらなんでも……」
「いや、間違いない。きっとルルーシュの力に操られていたのだ」
「……先日、ナイトオブスリーのヴァインベルク卿によって捕らえられた殿下暗殺の首謀者は、EUからの刺客でした。その前の帝都に対する自爆テロについても、中華連邦の手の者によるものだという調査があがっております」
「今度こそは本当だっ! 間違いない、あのゼロとか言う姿に扮したルルーシュが、ジェレミアを操っていたに決まっている」
「すべてをルルーシュのせいにしていては、調査員が足りませんぞ、殿下!」


バトレーを近くに寄せてしばらく。
クロヴィスは、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、太陽が西に沈むのも、空から雨が降ってくることもすべてルルーシュの仕業だ、と言い出しかねないほど怯えていた。

必死こいて指揮したルルーシュ殺害命令がことごとく失敗し、それどころかルルーシュが黒の騎士団とか言う私兵まで手に入れたからだ。

いかに最強国家ブリタニアの力をもってしても、自国民の住まう地域で起こるテロに対してすべてを爆撃して終わらせるわけにはいかない。
だから、事件が起こるたびに膨大な人員を配備して包囲網を形成させていたのだが、それがことごとく破られる。EUの動きが動きなのでシュナイゼルは動かせず、皇帝の権限で今動かせる最強のコマ、コーネリアを送り込んでいるにもかかわらず、いまだにゼロはぴんぴんしているのだ。

はっきりいって、コーネリアの指揮能力でもなおゼロを倒せないとなると、もうこれはどうしようもない。
どんな手を使ってもルルーシュであろうゼロを殺害することは不可能なのだろう、と昔昔に二人で打ったあのチェスの盤面の絶望的さを思い出したクロヴィスは、もうルルーシュと対峙する心が折れていた。


加えて、シュナイゼルの探るような視線、『ナイトオブワン』ビスマルクが覚えているであろう不審、さも今までどおりであるという態度で接さなければならない配下、義理の母であるはずの皇紀たちとの生活、髪のセット、巻き舌の使い方。
クロヴィスの処理能力を超えた案件がいくつもいくつもなだれ込んでくる。


「クロヴィス」に対してではなく「ブリタニア皇帝」に対しての、今までの第三皇子に加えられていたものとは桁違いのさまざまな悪意に、にわか皇帝であるクロヴィスはびびりまくっていた。
そんな彼に頼れるものなど、バトレーと……


「そうだっ! マリアンヌ様にルルーシュを説得していただくのはどうだろうか? マリアンヌ様を殺したのは私ではないのだからな!」


ひょっこり現れた、死んだはずのルルーシュの母親だけだった。
なんか生きて…………性格には、人格のみ死んではいなかったらしい。
元々マリアンヌのことが好きだったクロヴィスは、皇族らしい猜疑心から疑いながらも、やはり喜んでマリアンヌ――性格にはその人格を内に収めていると言うナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムを頼っていた。
その言葉を聴いてバトレーが渋い顔をする。


「……殿下、どうかあのアールストレイム卿を重用するのはおやめください。かの者の言葉が真実である保障などありませんし、よしんば本当だったとしても、マリアンヌ様が願っておられることはブリタニア貴族としての誇りを捨てることと同じです」


主であるシュナイゼルとは違い、バトレーはアーニャを、マリアンヌを信用していない。
皇帝と行おうとしていた嘘のない世界――――すごく分かりやすい言い方をするなら、要するに全人類が隠し事が出来なくなって心の内まで一つになれば平和になるだろう、という「人類補完計画」である――――しかり、シャルル・ジ・ブリタニアがある意味で死亡したと言うにもかかわらずすぐさまクロヴィスを変わりのキーパーソンにしようとしているその性格しかり、彼女自身が語った能力があまりにクロヴィスの現状に似通ってしまっていることしかり。
ナイトオブシックスが皇帝に取り入ろうとしているにしては現状を知りすぎているため、その点については気にすることをやめたが、その他の面で不審が多すぎる。



きけば、あの研究素材だったCCとも知りあいと聞く。信用できるはずがない。



「なあに、バトレー。わかっているさ。私はマリアンヌ様のことは尊敬しているが、ナンバーズごときなどと同一存在になるとかいう計画に賛同するつもりなどない」
「でしたら……」
「だが、とりあえずはルルーシュへの対策が必要だ。何か好物でもないか聞いてきてくれ!」
「はあ、わかりました、殿下」


にもかかわらず、お気楽な主君はこちらの苦慮を考えてくれていないことに内心ため息を吐きながらも、バトレーは主君の命をかなえるべく、ナイトオブシックスを呼びにいった。







その結果として、ある作戦が実行されることとなった。







珍しいこともあるものだ、と黒の騎士団の面々はあっけに取られたかのようにモニターを見たまま微動だにしないリーダーの姿を、何か妙なものでもみるかのような視線で見た。

そのリーダー、仮面の怪人ゼロの視線の先にあるのは、誰がみるともなしにつけっぱなしにされていたテレビのモニター。
写っているのは今朝から繰り返し放送されているブリタニアが支配エリア全土に向けて発信した特別番組「マリアンヌ后妃の死の真実」という番組だ。


主な内容は実に滑稽無等なモノで、何やらVVとかいう現ブリタニア皇帝の兄が「一人テロ」によってブリタニアの后妃を殺害した、と言うものだ。
ブリタニアが政府見解として発表するものにしては珍しく随所随所に謝罪の文面が盛り込まれていて、その点についてはある程度の驚きを巻き起こしたが、ほとんど純粋な日本人のみで構成されている黒の騎士団メンバーにとってそれは大して興味をそそるものではなかった。

と言うか、何であんな昔の話を今やるんだ、という感想の方が主流であった。




が、ゼロは食い入るような視線でそれを見つめている(仮面で表情まではよくわからないけど)。
一部では人間ではなくロボではないか、と言われるほど徹底しておのれの感情を殺して冷徹な指揮を取っているように見えるゼロが、明らかに動揺している。


ブリタニアは八年前に行方不明になっている二人の皇族を探しているだの、そのうちの一人の目と足が不自由な皇族を治療する方法が見つかったなどということがそれほどまでに重要なのだろうか、などと皆が番組を真剣に見始めてそんなことを思い始めたころに、ようやくゼロは再起動を果たした。


『ど、どういうことだっ! 何故今頃……』
「どうしましたか、ゼロ! 何か今の番組に問題でもありましたか?」


ゼロが突然叫び声をあげたことをきっかけに、さっきからゼロの一挙一動にそわそわしていた赤髪の少女、カレンがすぐさま声をかける。
回りのものも声こそ出さないものの一体全体どうしたんだ、と言う興味津々の視線は消えない。


だがこのゼロ、話など聞いちゃいない。
実は中身が別人に入れ替わっているんじゃなかろうか、などと思ってしまうほど狼狽し続けている。


『馬鹿な、どうしてあの男がいまさら!』
「ゼロ、しっかりしてください、ゼロっ!」
「落ち着けよ、馬鹿に見えるぞ」
「CC!」


誰もがそんなゼロに驚く中、たった一人だけがまともにゼロの混乱を無視して中の人に意識を取り戻させることが出来た。そんな魔女と魔王との絆に赤犬は臍をかんだが、まあ正直この話の主役は彼女ではないのでその辺の葛藤とか嫉妬とかはばっさりと省略する。

とにかく、緑髪の魔女がそういったとたん、ゼロは正気を取り戻した。
かと思えば、今度は常の冷静さらしからぬ態度でCCに食って掛かった。


『おい、CC! あのVVと言う奴は』
「……もう一度言うぞ、落ち着け。ここじゃ拙いんじゃないのか?」
『っ! 来い!』


そしてそれをたしなめられた挙句、あわただしくCCを引き連れて自室に篭ったゼロを、最後まで周囲の騎士団のものは最後まであっけに取られた表情で見つめていた。
そういった些細なことにも二人の絆があるように見えてカレンがいろいろ考えたが以下略。









自室に入るや否や仮面を投げ捨て、CCに詰め寄るルルーシュ。
彼の事情からすれば無理はないとは思うが、裏切りを疑われるのはあまり気分の良いものではないな、とCCは思った。


「くそっ、一体全体どういうことだ、これは」
「私にだってわからんさ」
「CC! VVと言うのはお前の仲間ではないのかっ!」


ルルーシュの言葉は名前からの単なるあてずっぽうだが、VVがおのれと同じ不老不死となり名前を捨てた件に確かにCCはかかわっているため、そう言おうと思えば不可能ではない。

さて、どう答えたものか、とCCは悩んだ。
CCの望みは、おのれを永遠にこの世に縛り付けている不死の体を失うことだ。
それを求めて、ルルーシュにギアスを与える代わりにその望みをかなえてもらおうとして契約を結んだ。


だが、その契約とはまた別に、ずっと前からシャルル・マリアンヌ・VVと自分でたくらんでいる計画もある。
それをルルーシュに知られれば反発されることは必死なのだから、サブの契約者であるルルーシュに対して自分とVVとのつながりを知られることはあまり好ましくない。



だが、それを言うならこのシャルルらの行動の方が意味不明だ。

シャルルもマリアンヌもルルーシュの生死についてはそれほど重要視してはいないが、それはたとえ死んだとしてもCの世界で再び対面できるからであって、愛情を持っていないわけではない。
あの二人は二人なりにルルーシュに対して愛を注いでいたはずだ……傍から見れば明らかに歪みきった愛情であるとは魔女である自分ですら思うが。


そのため、計画に支障がない限りは好きにさせるはずだった。
少なくとも、以前マリアンヌと接触したときはそう言っていた。
直接は言ってはいないが、おそらくシャルルだってルルーシュ=ゼロと言うことも気付いていながらの放置のはずだ。

そうである以上、四者の上で結ばれている計画の上ではここでわざわざVVの存在を明らかにするメリットがない。
世界中に散らばるCの遺跡をすべてブリタニアの勢力圏に入れ、確保されるまであいつと私のことは出来るだけ世間から隠し通すことこそが上策だ、と言う話だったのではなかったのだろうか。
いや、クロヴィスなんていう無能者につかまっていた自分が言えることではないのかもしれないが。



今回の放送は明らかにルルーシュを皇族に復帰させようとするものだった。
果たしてそれが好意によるものかそれとも悪意によるものかは不明だが、どう考えてもあれはルルーシュの生存を知っているものによる揺さぶりだった。



自分の不老不死の源であるCのコードを奪ってもらうのは、強い意志が必要不可欠だ。
かつて、奴隷の少女が必死で愛されたい、とまるで飢え死にしかけの人間が必死に食料を求めるように願い続けたように。
目的を持たないものにギアスを与えても意味がない。


そうでなければ中国に置き去りにしてしまったあの少年のように力に飲み込まれてしまう。


今ルルーシュに対してマリアンヌの事件の真相とナナリーの身の安全が保障されてしまうなら、この誰よりも優しい男はひょっとすると歩くのをやめてしまうかもしれない。
むしろ、今までやってきたことに対する自責の念から自ら命を絶ってしまうかもしれない




それは拙い。
自分にとっては拙すぎる。




自らの同盟者であり願いをかなえてくれるはずの皇帝の突然の心変わりの理由がわからない以上、CCにとってもっとも確実な手段はルルーシュがギアスを使いこなして自分からコードを奪い取ることだ。
最悪シャルルやマリアンヌが自分を裏切った可能性すらあるのだから。


そうである以上、CCはここでルルーシュの歩みを止めるような答えを返してやることは出来なかった。
ちくり、と胸が痛んだが、それをCCはあっさり押し殺す。そんなものなどこの数百年よくあるものだったのだから。


「知り合いということは確かだが、仲間ではないな」
「何故言わなかった!」
「聞かれなかったからな」
「CC!」
「そう怒るな。お前の母をVVが殺したなんて私だって知らなかったさ」


ゆっくりと、嘘は吐かず、しかし真実も言わずにルルーシュの思考を誘導していく。
確かにルルーシュは超絶的な知力を持っているが、その本質は実に感情的だ。

求めるものがわかっているのであれば、その考えの方向性を揺さぶるのは齢数百歳の魔女にとっては決して難しくはない。


「良かったじゃないか、本当の仇がわかったんだから」
「あの男の言葉を信じろと言うのか!」
「VVがあの皇帝の兄と言うのは本当だぞ? 今までは庇っていたけど、仲たがいでもしたんじゃないのか」


本当にシャルルはどうしてしまったのだろう。
直接会ったのはもう随分前になるが、どういうわけか距離と関係なく自分と会話できるマリアンヌを通して話は聞いていた。

あの傲慢で、それでも身内に対する愛情は忘れなかった、ある意味ルルーシュに非常に良く似た男が突然どうしたというのか。

まさか、突然父性愛にでも目覚めたのか、と言うことを思いついてくすっ、とCCは笑った。
有り得ないし、もし有り得たとしてもおかしすぎる。


「っ! …………まあいい。あの話が丸々本当だったとしても、あの男に聞かなければならないことが一つ減り、殺さなければならないものが一人増えただけだ。計画に変更はない」


その笑いを自分への嘲りだとでも思ったのか、ルルーシュが顔を真っ赤にして早口で言い募る。


ほら、すごく面白いことに万が一シャルルがルルーシュに対する真っ当な愛情を抱いたのだとしても、その思いは届いていない。
ルルーシュは今でもこんなにお前のことを殺したいと思っているぞ?
どうせ憎まれるなら方針転換なんてするべきじゃなかったんだよ、シャルル。
それも私に相談もしないで。


「ふふ、そういいながらもさっきの動揺はひどかったぞ。お前は本当に突発的な変化に弱いな」
「黙れ。貴様がすべてを語っていればこんなことにはならなかったんだ。いや。今からでもいい、知っていることはすべて言え」
「断る。どうして私がそんなことをしなければならない」
「この、魔女めっ!」
「そうさ、わたしはCCだからな」


あの男の計画に自分は必要でも、自分の望みのための手段はあの男だけではないのだ。

どうせ自分は不老不死。


どんな窮地に陥っても問題なんてありはしない。ルルーシュだけ最後まで守り抜けば望みはかなうのだ。


(先に裏切ったのはお前たちだからな……シャルル、マリアンヌ)


いつも通りのやり取りをルルーシュと行いながらも、不死の魔女はそうやって「突発的な変化」に対する対応策を瞬時に練った。





そんなことを思われているとは皇帝側は露知らず。


「こ、これでいいのか、バトレー。ここまで譲歩したんだ、ルルーシュだってきっと私を許してくれるよなぁ」
「ええ、おそらく大丈夫でしょう。きっとルルーシュ殿下も殿下に感謝されることでしょう」


それどころか、ようやく一つ問題が片付いた、と一息入れていた。





[4089] 一杯飲む間に一話を目安に作成中~な話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/08 22:11

バトレーはクロヴィスの騎士ではあるが、コーネリアの騎士ギルフォードやつい最近就任したユーフェミアの騎士、枢木スザクのように近接戦闘やKMFの操縦に長けていると言うわけではない。
おそらく戦場で相対すれば、さほど運動神経が良くないルルーシュにすら一蹴されるだろう。



だが、それはすなわち無能、と言うことを意味するのではない。

むしろ間逆、そういった護衛としての戦闘能力を持たないにもかかわらず騎士になりえるほど極めて有能である。
事務処理能力や政務等、戦いにかかわらない分野については本当に優秀なのだ……将軍という肩書きをもって、エリア11のほぼすべての戦力を預かっていたわりには指揮能力等は凡庸そのものでしかないが。
とにかく、シュナイゼルからの引き抜きの話すらあったほど有能である。
クロヴィスが芸術以外の分野では全くのごく潰しであるにもかかわらず、第三皇子という高位の位にとどまっていられたのはほとんど彼のおかげである。


その彼が第三皇子と位的にはシュナイゼルに次ぐ地位に立っているものの政務に全く興味を持たない主、クロヴィスを守るためにとった手段、それはブリタニアの法で厳格に禁じられているはずの兵器 、生体兵器の開発であった。




今現在、ブリタニアの軍部において主力を占めているのは、KMFこと人型ロボットの関係者である。
ここを抑えておけば、皇位継承においても随分有利になるのだ。


だが、KMF開発の優秀な技術者は、閃光のマリアンヌの活躍を見ていち早くその有用性に気付いたシュナイゼルの青田買いによってほぼ独占されている。
ブリタニアの気質上、ナンバーズ出身の技術者は確かにあまりいないが、そういったものは当然ながらEUや中華連邦に取られてしまっている。

また、KMF操縦に長けるものは閃光と呼ばれてその技術のみで平民でありながら后妃まで上り詰めていったマリアンヌにあこがれていたためか多くがヴィ家の配下となっており、その結果として八年前にその大半が没落しているか、あるいは自身もKMF操者として名高い第二皇女コーネリアの配下となっている。


日本との戦いにおいてその有用性を証明したKMFは、これからの軍事を担う重要なものであり、クロヴィスが皇族としての地位を保つためにも有用になりえるものであったが、この二人の優秀な皇族と対するに当たり、出遅れたクロヴィス陣営がこの分野でのアドバンテージを奪えるはずもない。


そもそも、あの二人は本人自体が元々優秀なのだ……自らの主であるクロヴィスと違って。
その彼らに心酔しているであろう技術者達を引き剥がし、今からクロヴィスの配下とするのは無理がある。
主をけなすわけではないがバトレーがそこそこ優秀な頭脳で出したその結論に実際間違いはなかった。引き抜きは、ほとんど成功しなかった。




にもかかわらず主クロヴィスは自らエリア11の総督を願い出て、野心をあらわにしてしまった…………本人はかの地で散って言ったルルーシュとナナリーの敵討ちとばかりに全くもって善意でやったことに過ぎないが、それは単なるお飾り皇族でいるつもりはないとシュナイゼルらに宣言してしまったに等しい。

すなわち、たとえルルーシュに殺されなかったとしてもこのままいけばいずれシュナイゼルかコーネリアのどちらかが帝位を継いだときに排除されかねない状況だったのだ。
げに恐ろしき、「弱肉強食」を家訓にするブリタニア皇族よ。




それでも何とかクロヴィスのため、と願ったバトレーは、逆にこの二人に選ばれなかった分野、機械工学ではなく生物学の分野の技術者を集めに集めて研究を始めた。
同分野であれば勝ち目はない、かといってオデュッセウスほどの血統の正しさも持ちえていない。
ならば、違う分野で圧倒的なアドバンテージを奪い取るのだ。


KMFだって、アッシュフォード家がフレームと言う福祉用ロボットの開発に乗り出したとき、そしてそれを軍事に組み入れようとしたときなぞ誰もが笑ったではないか。
人型のロボットを軍事に用いようなぞと言うのはばかげている、と。

それが変わったのは、閃光のマリアンヌによるあまりに鮮やかな活躍と、超高性能燃料となりうるサクラダイトによる充電池であるエネルギーパック、通称エナジーフィラーの開発によるものであり、今ではKMF無しの軍事など考えられない。
EUや中華連邦、そしてなにより日本との戦いで世界の三分の一を支配するとはいえたった一国であるブリタニアが優位に立ち回っているのは、まさにKMFのおかげである。


ならば、こちらがそれに代わる技術を開発しさえすれば……


研究対象は、生体と機械の融合、そして偶然手に入れた不老不死の少女、CCの研究による新たな技術と派遣先の日本にあった極秘遺跡の調査であった。



それらの事柄は今代の皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが定めた法に違反するものばかりであり、皇帝にばれれば第三皇子とはいえ廃嫡間違い無しの重罪であった。
しかし、それしか生き残る手段がないと考えたバトレーによってそれは具申され、クロヴィスもそれを受け入れた。

なんといっても他の皇位継承者が誰も持っていないと思われる研究素材CCの存在は、それほどまでに大きかったのだ。



今思えば皇帝であったシャルルがこのCの分野での研究を独占するために法で禁じていたのであろうが、そんなこととは露知らず研究を行っていたバトレーは、主が皇帝になった際にもその身を守るために一層その分野に力を注いでいった。

皇帝直属としての一気に増えた権力に極秘資料、そして何より資金と人材をふんだんに使って推し進められた計画は、そのCCの力を手に入れる、といったものとは別の、しかしそれから派生したものとしてあるひとつの技術を完成させた。



すなわち、非人型機動兵器 ナイトギガフォートレスである。



皇帝として得たシュナイゼル以上のKMFの権限と、今まで研究を続けてきた生体科学の融合したことにより、汎用性を追及したKMFとは異なり操縦者自身の体を改造し、肉体の耐久性や反応伝達速度等を引き上げることで、今まで研究を重ねてきた「特派」に勝てるもの、と言うことで研究を重ねられていた機動兵器は、劇的に機体性能そのものの引き上げにも成功した。
それこそがKMFとは完全に別種の機動兵器、KGF試作第一号機「ジークフリート」と、そのテストパイロットにして改造人間一号、「ジェレミア・ゴットバルト」である。


フロートシステムで宙を縦横無尽に駆け抜け、あらゆる攻撃を弾き、周囲を覆うようにつけられたとげ、円錐型スラッシュハーケンによってすべてを破壊する機体と、神経伝達と言う手法によって今まで以上の操作性と正確さ、そして周囲360度すべての情報を瞬時に受け取り、それを元に人間の脳を使わせて相手の機動予想、すなわち擬似的な未来予知すら可能とするうえに、白兵戦でも優れた性能を発揮する操縦者。
KMFとは別種の完璧な戦闘機械である。


まだ制御は完璧ではなく、言語感覚とか思考回路とかが微妙におかしく、知性が不安定になっているっぽいので完成したとはいえないが、それも時間の問題であろう。

これさえあれば大丈夫、いかにコーネリアが超絶的な技量を持つKMFの使い手であろうと、いかにシュナイゼルの持つ技術者集団通称「特派」が保有するランスロットであろうと、世界で真っ先に飛行する機動兵器であり、強力な装甲をもつこのジークフリートさえ完成すれば十分対抗できる。
スペック上は、これ一体で軍団一つ分ぐらいに相当するはずである。
バトレーが精魂込めて指揮して作り上げた、まさに自信作だ。






その期待に満ちた試作一号機のパイロットをみたマリアンヌの一言。


「あら、ジェレミアじゃない」
「……は?」


ポットの中の溶液に浮かんでいる半裸の男を見たとたん、マリアンヌはぽろっとその名前を呼んだ。
尊敬するマリアンヌに自身の研究の成果と成長を自慢するために彼女を呼んだクロヴィスは目を見張り、マリアンヌにできれば見せたくはないのだが、とさんざん止めたにもかかわらず結局は主に押し切られてため息を吐いていたバトレーは恐る恐る彼女に尋ねた。


「そ、その……マリアンヌ様はこの者のことをご存知なのですか?」


辺境伯という高い地位に相応しい皇族への忠誠心と優れたKMF操縦の腕前を持ちながら、オレンジ事件とその後に続く失態により、ほとんどすべてのブリタニア人に見捨てられた形でたまたま道端に落ちていたというお買い得な一実験体にすぎないジェレミアを、なぜ皇族であるはずのマリアンヌが知っているのか。
そんな疑問にマリアンヌは何をそんなに驚いているの、とアーニャのものである整った幼い顔であっさりと答えた。


「確か昔、アニエス宮の護衛をしていたはずよ。ルルーシュも知っているんじゃない?」
「「っ!!」」


それだけ言って興味を失ったかのようにマリアンヌはさっさと次の目的地に歩いていったが、氷像と化したクロヴィスとバトレーはその場から動けなかった。
ちなみにマリアンヌは二人を無視してジークフリートのほうを見に行った。

基本的にマリアンヌは自分勝手で性格が悪いのだ。さすがCCの友人なだけはある。




完全にマリアンヌの気配が消えたあたりで、ようやく二人が解凍された。


「な、なんですと! アニエス宮の、ルルーシュ殿下の部下だったと」
「ど、ど、ど、どうするんだ、バトレー! 忘れていたならまだいいが、万が一ルルーシュがこいつのことを気に入っていたり、はたまたひょっとするとグルだったりしたらっ!」


ゼロに対する恨みを持っているっぽかったから被検体第一号にしたのだが、ルルーシュと顔見知りであったとなれば話は別だ。一応経歴は調べたのだが、まさかそんな昔にルルーシュと顔見知りであったというならば、今現在においても見捨てられたというのは単なるカモフラージュであり、現在もゼロと繋がっている可能性がはるかに飛躍する。

と、いうか、あのオレンジ事件の茶番はそういうことだったのか、といまさらながらに得心を得たバトレー。




二人の背筋をだらだらと冷や汗がリットル単位で流れ落ちる。

これは拙い、とんでもなく拙い。
ルルーシュにも対応するための兵器を開発しはするものの、基本的に主の意向によりルルーシュとは出来るだけ仲良くしよう、という方針を採っている(なんといってもコーネリアすら彼を殺せなかったことはあまりに大きい)にもかかわらず、彼直属の部下っぽいのを勝手に改造してしまったのだ。
今まで以上に嫌われるのは間違いない。

この間のマリアンヌ后妃殺害事件の真相はどうやらルルーシュのお気に召さなかったようで、いまだに彼は黒の騎士団を率いて今日も元気にテロっている。
コーネリアすらルルーシュを捕まえることが出来ない以上、なんとかして怒りを納めてもらわねば、と思って必死に悩んでいたにもかかわらず、この始末。

昔いたずら心を起こしてルルーシュとナナリーのショートケーキに乗っていた苺を奪ったときは、一週間ほど口を利いてくれなかったことを思い出して真っ青になるクロヴィス。
いくらなんでも十六にもなってあの年頃のように拗ねるのは有り得ないのだが、やはり兄であったクロヴィスからすればルルーシュといえば一瞬だけ会った自分を殺したときの成長した姿ではなく、小さいころ共に遊んだときの姿が重い浮かぶ。

いや、どっちの姿にしても腹心の部下を改造したなんてことがばれたら世にも恐ろしい仕返しをされるイメージは容易に浮かぶのだが。
慌てていつも通りの対処方法――すなわち、部下に丸投げするクロヴィス。


「な、なんとかしろ、バトレー! 一刻も早く元に戻せっ!!」
「む、無理です。いくらなんでも今機械化部分を取り除けば死んでしまいます」
「じゃあ、どうしろっていうんだ、私はもうルルーシュに殺されたくないっ!! 早く戻せ!!」
「だからそんなことをしたら死んでしまって、余計に恨まれます!」


クロヴィスも涙目だが、主君のためを思ってせっかく完成近くまでこぎつけた研究成果がこんな理由で駄目になるなんて、とバトレーも泣きたい気分だった。

だが、自身が泣くわけにはいかない。
この身は騎士、一度間抜けにも主君を殺されるといった大失態を犯したにもかかわらず、再び騎士として仕えることを許された、クロヴィス・ラ・ブリタニアの騎士なのだ!




そうだ、対策としてはまず…………


送り返す……無理に決まっている。いろいろと機密の塊だぞ。
治す…………それが無理だから困っている。機械部分と融合してしまっている生体部品の摘出はあまりに難しい。
殺す…………余計に怒りを買うこと必死。
捨てる………駄目だ、記憶を操作したとしても、万が一ばれたときに一層イメージが悪くなる。


…………もう詰んでいる気がしないか?


「と、とにかく落ち着いてください、殿下。何とかします、何か別の方法でルルーシュ殿下にお許しいただけるような方法を考えますから、しばしお待ちください!」
「た、頼んだぞ、バトレー!!」
「イエス・ユア・ハイネス!」




そして、バトレーの三日三晩に及ぶ検討の末、勝手にルルーシュの腹心っぽいものを改造してしまったお詫びの結果として…………








ナナリーが皇族に復帰した。


「ナナリィーーー! おのれ、おのれ、あの男めーー!!!」
「(ふぅ、本当にシャルルは何をたくらんでいるんだ? 全く読めなくなったぞ)」


基本的にクロヴィスは皇族を尊いものだと思っているし、バトレーも純血派の台頭を抑えるために名誉ブリタニア人制度を活用したりはしたものの、日本人なんかに価値を見出していない。
当然、平民の身に落ちているルルーシュを気の毒には思っている。

そのため、なんかルルーシュは反抗期で怖いからせめてようやく見つけたナナリーだけでも早く皇族に戻して保護してあげよう、と言う百パーセント善意で行ったその措置だったが、いっそ見事なまでにルルーシュの怒りを買っていることに、皇帝とその側近は全く持って気付いていなかった。


ちなみにルルーシュ、この時点では当然ながらジェレミアのことはオレンジとしか覚えていないので、気にもかけていなかったりする。



[4089] もうタイトルはこれでいくことにした話の続き
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/08 22:12

連れてきたナナリーのまぶたを開けさせてぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~と「能力」をかけた次の瞬間、今まで何をしても治らなかったナナリーの足がぴくりと動き始めたではないか!


そして数日後……そこには元気に走り回るナナリーの姿が!
今では彼女が健常人、なぜなら彼女はクロヴィスにとって特別な存在だったのですヴェルターズオリジナル。


とまあ、そんな感じでナナリーの足と目は、なんか適当にファジーな感じで以前掛かっていた母親の死に目を直接見てしまったというトラウマの捏造記憶を、皇帝が持っており、今はクロヴィスが受け継いでいる「記憶を改変する」能力で掛けなおしたら、元に戻った。

この能力は相手の目を見なければ発動しない、つまり視神経から入っていくので盲目のナナリーには通じないかな、とも思ったのだが、マリアンヌの死の真相の報道が真実だと繰り返し告げ、ガン見しながら何回もかけたらうまくいった。
光情報なので相手の目が見えないと効果がないこの能力ではあるが、物理的に神経が断裂していなかったから助かったようなものである。

皇帝はルルーシュとは比べ物にならないレベルでこの「能力」を使いこなしていたので、その中の人になっているクロヴィスも結構この能力を使えるようになっている。
まさに皇帝様様、縦ロール万歳であった。



そんなこんなでナナリーの目と足の障害も元々怪我がどうこうとか言うものではなく、心因性のものが原因だったので、今までろくに使っていなかったため筋肉のついていない足はもう少しリハビリを必要とするであろうが、目は二、三日もすればすぐにでも見えるようになった。

結構可愛がっていた妹が美しく成長した上に障害も治った+これで確実にルルーシュの機嫌も直るだろうと思ったクロヴィスは大フィーバー、元々皇帝とはいえ中の人が派手好きなので、ナナリーのお披露目もかねて一大パーティーを開いた。
そしてその様子を嬉々としてエリア11に流すバトレー。今度こそルルーシュも機嫌を直してくれるだろう、と思ったのだ。

なんといってもあれほど幼いころ可愛がっていた妹が元気になって父と共にいるのだ。
いつのまにやら妹と大喧嘩でもしていない限りその回復を喜んでくれ、父である自分に対して感謝しているだろう、と。





この瞬間、今度こそクロヴィスはルルーシュの怒りを納められると確信していた。





「でも、本当にナナリーが元気になってよかったわ。生きていてくれた上にちゃんと目と足まで治って……本当に神様に感謝しなくちゃいけませんね」
「まあ、ユフィ姉さまったら」
「(ああ、癒される。なんて二人ともまともなんだ。これで私が元の体であれば言うことないのだが、そこまでは望むまい。後は、早くルルーシュが帰ってきてくれれば、二人も喜ぶのだし言うことがないのだが)」


その結果として今、クロヴィスは彼の妹であり、現時点では娘でもある異母姉妹、ユフィとナナリーと共に暢気にまったりとお茶の時間を過ごしていた。
生前の彼の母と仲がよく、クロヴィスと親交の深かったなんかドラクエとかにでてきそうな外見のレ家の異母姉妹、カリーヌはごくごく一般的なブリタニア皇族だったのでお茶をするにしても結局のところ腹の探り合いになってしまい、こんなほにゃほにゃな雰囲気にはならないため、久しぶりに再開した妹達は肯定となってからのもろもろの事情によりささくれ立っていたクロヴィスの心に実に良く働いた。

二人と同じ和み系とはいえ、流石に第一皇子オデュッセウスはクロヴィスとお茶をしてくれるほど暇ではないことだし。



他はほとんどシュナイゼルの劣化版、良くてコーネリアの派生系しかいないブリタニア皇族。
あくまで、コーネリアの力によって今まで政務からも軍務からも遠ざけられ、お花畑で育ったようなユーフェミアと、ルルーシュの尽力によって優しく優しく育てられたナナリーだけが別格なのである。
今現在クロヴィスの命を脅かすものの筆頭のうちの二人、ルルーシュとコーネリアの妹とは思えないほどに。


「はっはっは、きっとルルーシュの願いが天に届いたんだろう。ルルーシュのことだ、きっとよほどナナリーに過保護にしていたんじゃないかい」
「ええ……本当にお兄様は今どこにいらっしゃるのでしょう」


そんなクロヴィス(外見シャルル)の声に、ナナリーは血の繋がった兄のことでも思い出したのか、落ち込んだ声を出す。
ナナリーを保護した直後から、ルルーシュの行方は全くわからなくなっている。




まあ、普通に考えて逃亡中な訳だが、現在の皇族の中でトップ5にはいるぐらいのお人よしトリオは、その原因がさっぱりわからない。

クロヴィスなど自分が理由にもかかわらず、ナナリーの目と足が治ったのだし、ルルーシュの身分だって保証するんだからゼロなんてやめてさっさと戻ってこればよいのに、と本気で思っている。




ちなみに、クロヴィスはこの二人の前でまであの口調で話すのは面倒なので、あれは演説用に作っている声なのだ、ということにしている。

あの幼いころより聡明だったルルーシュならばさておき、日本に行ったときはまだ物心がついたかつかないか程度の年だったナナリーはもともとのシャルルのことなどほとんど知らないし、今までそれほどシャルルと語ったこともなく、また頭の中もほとんどお花畑で出来ているユフィもそれに疑問を持つことはなかった(コーネリアには内緒と釘をさしている)。


まあ、バトレーに守られ続けてきたクロヴィスが人のことは言えないのだが。



「きっとすぐに見つかりますわよ、だから元気を出して、ナナリー」
「うん、ユフィの言うとおりだ。それに医者の許可が出たらナナリーも探しに行けばいいじゃないか」
「そう……ですね。今まで私がお兄様に頼りっきりだったんですから、今度は私が探しに行かなくては。ありがとうございます、ユフィ姉さま、お父様」
「早く見つかるといいわね、ナナリー」
「はい」



その雰囲気に呑まれて、クロヴィスも早くルルーシュが見つかって、自分と仲直りしてくれればうれしいなあ、などと思っていた。
自分が殺されたことなど棚に上げて、もういっそ王位はシュナイゼル兄上に任せて兄弟―――というか、今は親子だが―――で仲良くアニエス宮の隅で過ごそうではないか、など思ってしまうほどに。
基本的にクロヴィスはどこまでいっても善良なのだ。

ルルーシュに殺されたことで彼に対しておびえてはいても、それでもルルーシュが謝罪すればあっさりと受け入れるだろう。
シュナイゼルやコーネリアのような権力欲バリバリの人間とは、明らかに感覚が違うのだ。


ある意味優しい世界がここにはあった。















だが、登場人物のすべてに死の危険が付きまとっているといわれているこの世界は、そんなにあっさりと兄弟の和解を許すほど優しくない。
ここは、いつ今までさんざん頼ってきたはずの配下たちが裏切って自分を売ったり、最近仲良くなってきたはずの義理の弟がいつのまにやら自分の友人の少女を殺したり、はたまた最愛の妹が敵に回ったりするかわからない殺伐とした世界なのだ。



元々の印象が悪ければ、どんだけ善意によるいいことをしても、早々認めてもらえないのが世の常である。
クロヴィスが三人で幸せ家族計画を行っている最中、ルルーシュはナナリーが五体満足で皇族に復帰したという放送を見て怒りに怒り狂っていた。



「ふ、ふざけるなっ! 糞、あの男め。ナナリーを、よくもナナリーを皇室なぞに……」
「おい、落ち着け。シスコンもそこまで行くとちょっと引くぞ」
「黙れ、ナナリーが、ナナリーがあんなところにっ!」
「これがあっちの挑発なのは自分でもわかっているだろう? だから、ピザでも食って少しは落ち着け。契約を果たされる前に死なれては困るんだ」



ナナリーが皇族=兄であるルルーシュが皇族、と言うことになるのでアッシュフォードにも戻れず、ここ黒の騎士団の本部である移動式トレーラーの中でルルーシュはひたすらぶつぶつと呟いていた。

今までさんざん世話になってきたアッシュフォード家は今回のナナリー発見によって皇帝の手が入りに入っている(=爵位復活&領地獲得&補助出まくり)ため、もはやミレイに一目会うことすら出来ずにあせりまくっているルルーシュに、ここに来て駄目押しの皇室で儚げに笑うナナリーの映像。
普段はルルーシュの行動に干渉しないCCが思わず口を出してしまうほど、ルルーシュはやばい状態になっていた。



「妹命!」なルルーシュにとって見ればナナリーの目と足が治ったことは何よりも喜ぶべきことだが、それがあの皇帝のとなりで、となればもはや悪夢に近い。

自身がもっとも危惧した、「自分らがブリタニア皇族であると見つかり、再び政治の駒にされる」ということが、自分がテロ活動なんてものをしたばっかりにナナリーの身に降りかかってしまったのだ。
そこにきて、周りを皇族や貴族に囲まれた状態で自分の助けもなくあの父の横ではかなげに微笑むナナリーの絵。




実際は、せっかく目が見えるようになったのにお兄様がいないから落ち込んでいるわけだが、ルルーシュからしてみればせっかく目が治ったナナリーが自分をおびき出すために無理やりおとりにされているようにしか見えなかった。


自虐に陥りがちなルルーシュは勿論自分を責めたが、それ以上にこんな事態を引き起こした皇帝を恨んだ。
クロヴィスの思惑とは裏腹に、今回のナナリー皇族復帰の件は、本気でゼロ=ルルーシュということを何らかの方法で知った皇帝が、ルルーシュを引っ張り出すために張った罠だ、と思ったのだ。


「ゼロを引きずり出すために、ナナリーを利用するとは、これだからブリタニア皇族は!」
「今ならそのナナリーだってそのブリタニア皇族だぞ」
「ナナリーは違うっ! ………………違うんだ、俺はっ……ナナリーだけはあんな男に利用されたりしない、優しい世界を作ろうと戦ってきた………なのに、なのにっ!」


本当にこいつはナナリーのことになるといつもの冷静さがどっかに行くなあ、とは思いつつも、この契約者のまっすぐさはCCにとって心地よい。



CCからしてもこれは予想外のことだった。
全くもってシャルルとマリアンヌの狙いが読めない。




こんな挑発をして、ルルーシュの憎しみを買うことが一体なんの役に立つのか?


妹を奪われたルルーシュは一層ブリタニアを憎み、その憎しみをギアスを成長させる糧とするだろう。
ギアスを使う回数が多くなり、それを使いこなそうとする意志が強ければ強いほど、王の力の侵食は強くなる。


今はルルーシュは左目に自在に王の紋章を浮かべたり消したりできるが、やがて消すことが出来なくなったり、両目に発現したりするだろう。
そしてそのたびにギアスは、強制力が強くなったり、射程距離が伸びたり、一人につき一回という回数制限が取り払われたりして、CCの持つ不死の力、Cの力に近づいてくる。



その結果としてやがてルルーシュはCCの力を奪ってくれるかもしれないが、それがシャルルとマリアンヌに対して何の益がある?
自分にとっては万々歳だが、CCから能力が移って、自分たちに非協力的なルルーシュがこの力を持つのは、連中がたくらむ「みんなみんな心のうちをさらけ出せば世の中に嘘と駆け引きとか邪悪なものはなくなるよね」計画にとって、不都合なはずだ。


まさか、マリアンヌが姿を現せばルルーシュがあっさりと言うことを聞くとでも思っているのだろうか?
だが、それならばここでルルーシュとナナリーを引き離してルルーシュの恨みを買う意味がない。


いくらなんでも中の人がクロヴィスになってテンパリまくっているなんて予想できるはずもないので、CCにはあの二人の考えていることが全くわからない。
VVを切り捨てた、ということはすでに皇帝は不老不死に成っているのかもしれないが、計画にはどうしてもCCの力が必要だ、ということは二人にはわかっているはずだ。いまだに不死の力を保持している自分をルルーシュごと切り捨てる意味がわからない、などと中の人の浅慮など全く考えもせずにひたすらに深読みしていく。

とにかく、ルルーシュの怒りを買うようなことばかりをしたその上で、さらにCCの力よルルーシュに移れ、とばかりにルルーシュに一層のギアスを使わせようとする意図がまったくわからないCCは、とにかくひたすら思案をめぐらす。
その中には、危惧もあった。




万が一、ルルーシュがぶちきれて本国に乗り込んだらどうするつもりなのだろうか。






はっきり言って、ルルーシュが「ギアス」と名づけた力、それも彼に与えられたものは絶大だ。
桁違いといってもいい。

それはどんな相手にでも、たった一度だけ命令を下せる「絶対遵守」の力。
すべてのギアスの中でもおそらく最強の能力だろう。
「体感時間を止める」「未来を読める」「他人の心が読める」「記憶を改変する」それらの力のどれもが児戯に見えるほど強力な力だ。


枢木スザクはゼロの、ルルーシュのやっていることを「間違った行為によって結果を得ようとしている」と評したが、CCはそれは違うと思っている。

本気でルルーシュが皇帝を下し、ナナリーに対して安全な世界だけを作りたいというのであれば、こんな黒の騎士団なんていう迂遠な手段なんてとる必要はないのだ。
もっと簡単で、もっと間違った手段が存在している。




そう、すべて支配してしまえばいい。




出会ったものすべてに対してギアスをかけ、「俺に従え」と一言かけるだけでいい。
それで終わりだ。
それだけで地球上のほとんどの勢力がルルーシュの手に落ちる。
無限の人材に支えられた人海戦術は、皇帝側にギアスの性質を防ぐバイザーなどの対策を取られる前にあっという間に数百万、数千万の単位で死をも恐れぬ兵隊を作ることになるだろう。
あの力の前には、民間人、軍人の区別など意味を成さない。



確かに、「自分に従え」などというあまりに広範囲で、自分の意に反する強力な強制力を掛けられれば、そのものは常時ギアスの効力に捕らえられることとなり、すぐに現実とギアスとの間に挟まれて、脳組織を酷使することとなり、死んでしまうだろう。

だが、それがどうした?
弾などいくらでも補充が利く。



出会った兵を片っ端から奴隷へと変え、内部から、外部からブリタニアを崩壊させる。

死をも恐れぬ狂信者に加え、いつ自分たちの身内が敵に回るか判らない疑心暗鬼感。
敵にしてみれば悪夢に近い。


いかに世界の三分の一を占めるブリタニアとはいえ、あっという間に瓦解するだろう。




だが、ルルーシュはそんな手段を取ろうとはしなかった。

軍人に対してならいくらでも残酷になれるのに、一般人を戦いに巻き込むことを嫌っている。
殺すならばまだしも、その心を奪い取り、ゆっくりと滅んでいくことは許さない。
使い勝手の悪い愚鈍なコマであるはずの黒の騎士団に対しては、ギアスをかけようともしない。



ただただ、正当に、ブリタニア王家に対する反逆者としてごくごく真っ当な手段、支配地域の国民を指揮することによる武力による反乱、という植民地における「もっとも正しい」手段を選択している。




それは、とても迂遠な方法で……どこまでも、皇帝のような他者の意思を無視した行為に対して反発した方法だった。

結局こいつは、ナナリーの求める「優しい世界」の実現のために戦っているのだ。

その過程で卑劣な行為もとるだろう。
その中には他者を殺される手段も選ばれるだろう。

それでも、その根底には他人にも、自分にも優しい世界を実現したい、と言う「正義」がある、とCCは思っている。



「だから、とりあえずそのブリタニア本国での無差別テロ活動計画をやめろ。優しい世界を作るんじゃなかったのか」
「ナナリーがいてこその優しい世界、ナナリーがあってこその黒の騎士団だったんだ!!」
「そんなことしたらナナリーは一生お尋ね者だぞ、少しは落ち着け」



だが、それらもすべてナナリーのため。
もし彼女がいなければ、ルルーシュは手段なぞ選ばないだろう。



(おい、本気でどうするんだ、シャルル。このままでは本気でブリタニアという国が瓦解するぞ)


ナナリーを奪われたと本気で思っているルルーシュは、怒り心頭のあまり無差別にその怒りを撒き散らそうとしている。それほどまで、ナナリーの存在は大きかったのだ。




そして、それを止めようとしているCCも、何故自分がそんなことをしているのか理解していなかった。
彼女からすればルルーシュがそういった手段を取った方がよっぽど都合がいいのに。


結局、不死の魔女は優しすぎたのだ。

ルルーシュのことを単に契約者とだけ見ることは、数百年を生きるにしてはあまりに人間味のある彼女には出来なかった。






そして、そんなこんなでCCがルルーシュを止めているうちにそこそこの月日が流れ。












結果、お兄様を探しに、エリア11にてナナリー副提督が爆誕した。



その出発を、手を振って見送ったクロヴィスは今度のお茶会はルルーシュも込みで和やかな雰囲気になることを願ってやまなかった。





[4089] 公式を見て涙目で書き直した話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/08 22:13


CCのある意味同僚であり、同盟者であるVVは、シャルル・ジ・ブリタニアの実兄であり、その中の人クロヴィスからすれば伯父に当たる。れっきとした皇室の生まれであり、世が世ならばシャルルを差し置いて神聖ブリタニア帝国の皇帝になっていたかもしれない身分だ。
しかし、マリアンヌに聞くまでクロヴィスが全く知らなかったように、基本的にその存在は今まで抹消されてきた。


なんといっても、幼いころにVVとしての力を手に入れてしまったばっかりに、体が十歳程度で成長を止めてしまっているのだ。それをシャルルの兄であるなどと公表してしまえば、大混乱が起こる。
ありとあらゆるものにVVはその身柄を狙われるだろう。

また、VV自身の持つ望み、嘘のない世界を作るためにも、皇族としての地位はないほうが都合が良く、また王宮から離れて嚮団という王の力を研究している集団のリーダーの座をCCから受け継いで運営していく上でも便利だった。




求めるものは「嘘のない、優しい世界」。
要するに、すべてがLCLに帰って一つになってしまえば、戦争も、生死も、不幸も、すべてなくなるんじゃね? という人類補完計画。
求めているのはそれだけなのだから、他者とのふれあいも、皇族としての娯楽も、VVには必要なかった。
すべてを目的のために費やし、それを他人にも強制した。



肉体の停止が精神の成長を止めたのか、VVは実に純粋に嘘のない世界を求めている。いわば、子供が遊園地に行きたい、と駄々をこね続けている状態で固定されているのだ。それに夢中になっている間は、もうそれしか見えていない。
そして、弟であるシャルルも当然同じように思っていると思い込んでいる。

自分がシャルルのことを愛しているのだから、シャルルも自分のことを愛しているはずだ。
計画にはない「他人との距離が徐々に縮んでいく楽しさ」など覚えていかずに、「一足飛びに他人との垣根がなくなる世界」だけを求めないと、嘘のない世界は作れない。
すべては、自分たちの信じる「優しい世界」のために。


それはある意味妄信に近いものであったが、だからこそ純粋なものでもあった。
そのため、嚮団に引きこもっていた状態から最近どうにもシャルルの様子がおかしいから見にいこうとして久しぶりに世間様に戻ったとき、自分がマリアンヌ殺害の犯人にされていることに心底VVは驚いた。











「シャルル、いったいこれはどういうことなんだい?」
「V……兄ぃさん、これは、その」


VV襲来、VV襲来!


最近嚮団とか言うところに引きこもっていたので半ば忘れていたのだが、考えてみればこやつも危険なのだ。
なんといっても、最近なんだか思っていた以上に黒いところが垣間見られて少々引いているがあのマリアンヌ様を殺したような相手なのだ。
自分が、シャルルではない、と気付かれた場合始末される可能性が高い、と血の気を引かせるクロヴィス。

出来れば遠ざけたいのであるが、どうしたわけかこの者はどれほど警護を厳しくしても容易く近づいてくる。
にわか皇帝のクロヴィスとは異なり、何十年もこの皇宮でも最も警備の厳しい奥の間に住み着いているだけはある、と言うことだろうか。



かといって、暗殺を企もうにも無理っぽい。

額に浮かぶ鳥が翼を広げる様を極限まで簡略化したようなマーク。
VVと言う名前。
この体――壮年を超えたシャルルの兄だと言うにもかかわらず、その幼い容姿。


そろそろ、クロヴィスも彼がCCと同類ではないか、と言うことに気付き始めてきた。
万が一暗殺をおこなったとしても、CCと同じ不老不死ならば、無駄に終わるどころか此方に死亡フラグが立つ。


いまさらながらに、マリアンヌの口車に乗ってVVをマリアンヌ殺害犯に仕立て上げたことを後悔する。
あの時はルルーシュの怒りを納めることだけしか考えていなかったが、考えてみればそんなことをすればVVの不信を買うのは当たり前のことだし、そもそもろくすっぽルルーシュの機嫌も取れていないのだから、あれは明らかに失策だった。

が、いまさらそれを言っても何ともならない。
周囲を見渡すが、運悪くこういった場合そばにいなければならないバトレーは今は研究所にてジークフリートの改修を進めているから、ここにはいない。
自分だけで何とかしなければならない事態に、クロヴィスは心底びびっていた。

が、この程度で何も出来なくなるようでは、皇帝家業は勤まらない。
ここ数ヶ月の王宮での皇帝生活は、今までのクロヴィスが持っていなかったハングリー精神を彼に持たせた……まあ、ルルーシュとかに比べれば冗談のようなレベルではあるが、今までのんべんたらりと日々を過ごしていたことを思えば格段の進歩である。



「兄ぃさん、ぬぁぜ、マリアンヌさ……マリアンヌを殺したのですぅっ!」



もうここは、勢いに乗ってしまおう、とクロヴィスは思った。
なんと言っても殺された本人が、自分はVVに殺された、と言っているのだ。
マリアンヌが嘘をついていなければ、犯人がVVであることは間違いないことだし、それを公表しなかった今までがおかしいのであって、犯人をしっかりと追及するのは近代国家の常識であろう。

と、いうわけでとりあえず、事件の犯人がお前だ、と世間に向かって公表した自分が悪いのではなく、そんなことをした弁解をまずしてみろやコラ、と言う口調でVVを問い詰めたのだが、答えは実にあっさりしたものだった。



「邪魔だったからだよ」
「…………は?」


思わず素に戻ってしまうクロヴィス。
仮にも弟の嫁を、まるで、「エリア11でレジスタンス活動するには、派手なデビューが必要だから、とりあえず総督でも殺しておくか、腹違いとはいえ実の兄だけど」ぐらいのノリで答えられて、思わず硬直する。

だが、そんなクロヴィス(外見シャルル)の反応なぞ意にも介さず、VVは続ける。


「いい? アーカーシャの剣を使えば、すべての人間は平等になるんだ。それなのに、マリアンヌなんかにかまっている時間がもったいないじゃないか」
「それだけの……理由で?」
「そうさ。シャルルだって本当は分かっていたんだろう?」


なんか最近ちょっとおかしいものの、いまだに皇帝の座に住まうのが実の弟であると思っていたVVは、そうこともなげに言ってクロヴィスに近づいてきた。警護の兵は、いつの間にかすべて遠ざけられている。

ルルーシュのような他者を強制的に従える特異な力があるわけではないが、皇族として数十年間無事に生き抜いてきた、というのはそれだけで力になる。
玉座であろうと、VVにしてみれば単なる弟が座っている椅子にしか見えないということだろう。

実の弟であるシャルルですらついていけなかったその理想に、今までほとんど交流のなかったクロヴィスがああ、そうですか、と納得できるはずもない。



話には聞いていたものの、想像以上にイカレタ様子の伯父の姿を見て、すっかり腰の引けているクロヴィスは、親しげにVVがおのれの手を取ることも、それによって雑多な記憶のフラッシュバック、不死の能力を持つものによって引き起こされるあまりに捩れきった記憶や現状の混雑であるショックイメージに巻き込まれることも止めることが出来なかった。


いろいろと皇室に生まれたごくごく普通の皇族としてのイメージや皇帝になってからのいろいろな苦難の歴史がそのイメージには現れたが、もっとも重要にして影響の大きい一つをあげるとするなら、こういうことが出来るだろう。


すなわち、皇帝の体をクロヴィスが乗っ取っていることがVVにバレた、と。
ギアスを与える側のプロフェッショなるであるVVは、今までビスマルクやシャルルといった面々にさんざんギアスを与えてきた。
当然、ギアスに関するノウハウはクロヴィス以上に所有しており、当然ながらギアスに掛かったものがどういった反応を示すのか、ということも熟知していた。

すなわち、最近様子がおかしい弟がひょっとすると誰かにその精神を操られているかもしれない、ということにVVは瞬時に気付いた。


「っ!!」
「どーしたのです、兄ぃさん」


それからすると、確かにクロヴィスは無防備すぎた。
今まで世界すべてを巻き込む陰謀の真っ只中にあって、マリアンヌが適当ぶっこいたばっかりに正確な内容を知らなかったクロヴィスは、VVに対してもそれほどの警戒心を抱かなかったばっかりに、最愛の弟を何者かのギアスによって奪われた、と瞬時に悟ったVVに対抗する事はそう簡単ではない。



「お前…………シャルルをどうしたんだ!!」
「げっ!!」


いきなり服の内側からマシンガンを取り出してくるVVにたいして、肉体は完全無比な皇帝であり、一定の護身術を身につけているものの、中身はヘタレであるクロヴィスが取れる手段はそう多くはなかった。

至近距離、しかも相手は銃器を持っているということで後ろに逃げるわけにはいかなかったクロヴィスは、前に進むしかなかった。


だが、それはどちらにとっても最悪の結果しか生まなかった。



「お、落ち着いてください、伯父上っ!!」
「うぁあ、や、やめろっ! やめるんだ、この偽者め!」




VVの体を抱きしめるような形でしか、その凶弾を避ける手段がなかった男は、結果として二人でダンスを踊るかのような体勢に押し込まれ……やがて、二人は一つになった。



得体の知れない感覚が徐々に自分の体の中に入ってくるのを、可能な限りの意思で拒絶しながらも、しかしクロヴィスはそれを止めることは出来なかった。

VVにしてみてもこれは予想外のことだったのだろう。
苦しげに表情をゆがめるが、そもそもVVの体格は子供だ。
かつてはVV自身もギアスという超常の力を持っていたのであろうが、それはもはや失われている。
今になってみれば不死の体を持つとはいえ、単なる子供に過ぎない。
当然、その腕力もその体格に相応しい程度でしかなかった。

皇帝シャルルのそれを奪ったが故に成人男子として恵まれた体格を持っているクロヴィスに抱きすくめられてしまえば、一切の抵抗が無に返し、せっかく持っていた唯一クロヴィスを殺すことが出来たマシンガンも取り落としてしまう。





そして何より、VVはCCと同様のCの力、不老不死と他者に「力」を与える能力を持っており、シャルルの体に入ったクロヴィスはそれを受け継ぐに足りる十分なほど「力」を使いこなしていた。

CCの望みは、不老不死である己の体を、その源であるCの力を誰かに奪ってもらって死ねる体を手に入れることである。
そのためには、一定以上ギアスを使いこなしている人物が必要なので、今現在はそれを育てている最中だ。




つまり、一定以上のギアスの制御能力さえあれば、不死の力は奪えるのである。














結果、当然のようにVVから不死の力がシャルルボディに入っているクロヴィスに受け継がれた。


不死皇帝、クロヴィスの誕生である。






「なっ………いいのか、こんなことをすれば、お前の力、『死んだときに最も血縁に近いものの精神を奪う』ギアスだって、使えなくなるんだぞ!」
「何ぃいい――――!」


いきなりVVから告げられた、おのれの能力を知って思わずクロヴィスが悲鳴を上げる。
彼からしてみれば、そんな能力があることなんて今まで知らなかったのに、いきなり言われても、見たいな感じである。



クロヴィスは他者にギアスを与えることが出来る能力を持つ少女、CCを捕獲していた親玉である。つまり、ルルーシュなぞよりよっぽどCCと付き合ってきた時間は長い。
CCにいろいろな実験を行った結果、本人に自覚がないまでも、いつの間にかその力『ギアス』が瞳に宿っていた。



とはいえ、それに気付かなかったのも無理はない。

CCによって中華連邦に置き去りにされた少年、マオの『他者の心を読む』ギアスは、常時発動型であり、意図せずとも発動しっぱなしで、常に彼の体には他人の思考が流れ込んでくる。
ナイトオブワンの持つギアス、『他人の思考における未来を読む』ギアスも、これに似た性質、ギアスの宿る瞳を縫い付けておかないと勝手に発動してしまう、という性質がある。
これらのギアスは常時発動型であるため、常に使用者の脳に負担を掛け続ける非常に不便なものであり、力に心が振り回されがちになってしまうという欠点をもっているため、VVやCCのような能力者からしてみれば、失敗作である。


逆に、成功作であるシャルルやルルーシュの力を考えれば、これらの能力―――『記憶を書き換える』『一度だけならいかなる命令も刻める』ギアスは、本人が望んだときにしか発動しない、使用者に負担をかけないものだ。このようなものの方が、ギアスの力の大きさに飲み込まれず、長生きをする可能性は高い。
ギアスを使いこなすことを望むCCのような存在にしてみれば、こういった存在こそがギアスの使い手として望ましい。

ただし、これらの能力は対象の瞳を見つめなければ発動できない、という致命的な欠陥がある。

現在ギアス嚮団に存在する実験体の中にはこれらの条件をクリアしたものもいないではないが、その代わりに「使用中自己の心臓も止まってしまう」などといった余計な条件が換わりにつく以上、失敗といわざるを得ないだろう。
つまり、相手の目を見る必要があるが必要なときのみに発動する、これがギアスの完成系である。


すなわち、ギアスの発現条件は、大きく分けて「常時」か、「任意」かの二つに分けられる。他者の意識に干渉するものは相手の目を見なければ発動せずに、自己の意識に他人とは違う能力を与えるものは、常に発動しっぱなしになりやすい。
ルルーシュやビスマルク、そしてシャルルはそれらを念頭に置いて、対ギアス対策を練っていた。





だが、これらの能力とはまた違った派生系がこの能力には存在する。
すなわち、「死の直前にのみ」に発現する、マリアンヌの持つ「自己の人格を他人に複写する」ギアスのような、特殊条件が存在する代わりにルルーシュたちとはまた違った、非常に強力な効果をもたらすギアスだ。



実験中のCCから偶然にクロヴィスから取得したギアスも、この「死の直前にのみ」しか発動しないタイプのギアスだった。
それは、マリアンヌの持つギアスに非常に良く似た性質を持つものであった。


すなわち、クロヴィスのギアスは、『死の間際にのみ発現するギアス。もっとも近い血縁関係のものとそっくりそのまま精神を入れ替えて成り代わるという、いわばマリアンヌのギアスの亜種であり、相手の目を見なくても死ねばオートで発動する』と、いうものだ。

ちなみに有効距離、実に二万キロメートル。
地球上にいる限り、ほぼ全土をカバーしているから、地球の裏側からでも誰かを乗っ取れる。


ショックイメージからクロヴィスのギアスの詳細を読み取ったVVは思わずそれを叫んだが、その内容はクロヴィスにとって見れば予想外の内容であった。


クロヴィスからしてみれば、自分が父であるシャルル・ジ・ブリタニアの中に入っているのは、てっきりルルーシュの力によるものだと思っていたのだ。
彼は、ルルーシュがギアスを使って自分を父の体に閉じ込めたのだ、と勘違いしていた。故に、よほどおのれがルルーシュに恨まれていたのだ、とびくびくしていた。
まさかそれが、自分の死を契機として自力で発動した能力だなどと思ってもいなかった。

自分にそんな能力があること、そしてこの厭で厭でたまらない体を抜け出すためには、自分が死ねばいいだけだった、などということは完全に予想外のことであった。


しかも、知った瞬間にはすでにおのれは不死の体。
不死ボディだとギアス能力が消える、とか以前の問題として、「自己の死」が発動のトリガーになっている以上、他人に乗り移ることなどできるはずがない。



「さっさと死んでいればよかったーーー!!」



ようやくこの似非皇帝姿から逃れられる手段を知ったにもかかわらず、実行不可能になったことを知ったクロヴィスは、自分がVVに命を狙われていたことも忘れて、思わず呪いの言葉を宙に吐いた。









そんな中、ルルーシュは最愛の実の妹より、「お兄様は私の敵です」宣言をされて、完全にへこんでいた。




[4089] 登場人物のほとんどが故人だったと今頃気付いた話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/09/13 23:51



ぽこん……………………ぽこん…………………



皇帝になってしまったばっかりに、生き残るためには仕事をしなければならなくなってしまったクロヴィスの執務室の中に、断続的な軽い音が鳴り響く。

いや、不死となってしまった今、たとえシュナイゼル相手であろうと殺される心配はしなくて良くなったのだが、権力すべてを奪われてこの王宮の一室に幽閉されるとかいう可能性はむしろ高まったので、結局のところ中の人がクロヴィスだとばれるわけにはいかないのだが。


ぽこん…………ぽこん…………


そのため、いやいやながら仕事をしているクロヴィスだったが、その一生懸命さに比例するかのように、音は止まないどころか、そのテンポを上げてくる。
それでも、クロヴィスは耐え忍んで、そのまま執務を続けていく。だが、そのこめかみには井桁が浮かんでいた。


ぽこん……ぽこん……ぽこん……


だが、音の主は一向に気にすることがなく、それどころか調子に乗ったのか、一層激しくテンポアップしてきた。
クロヴィスの書類に行わなければならないサインが歪んでしまうぐらいの振動も伴って。


弱みがあるが故に、クロヴィスは耐えた。
耐え忍んだ。


だが………



ぽんぽんぽこぽんぽんぽここん



ついにはその自分から発生している音がラップを奏で出したことで我慢にも限界が来て、思わずその音源に向かって叫んでしまった。




「地味な嫌がらせはやめてください、伯父上!!」
「黙れ、偽者め」











さっきから自らの背中を使ってそのちっちゃい手で、ボカボカと殴りつけていた自分よりはるかに年上(中の人年齢で)のはずのVVに溜まりかねて苦情を言うクロヴィスだったが、VVは微塵の躊躇も見せずに、拒絶の言葉を言い放つ。

彼からしてみれば、クロヴィスは自分の弟の体を乗っ取った侵略者である。
にもかかわらず、不死の力を奪われてしまった以上、もはやVVには何も出来やしない。
何をやっても死にはしない簒奪者が、最愛の弟の姿をしながらも、彼が持っていた威厳や意志の強さをカケラも見せずにただ安穏と日々を過ごしているのをただただ眺めるだけである。
基本的に子供の体格しか持たないVVは不死の力を失ってしまえばどうすることも出来ないのだ。

その苛立ちが、こんな子供じみた嫌がらせに繋がっているのだろう。




ルルーシュのせいならばさておき、自分の不思議能力で父親を乗っ取ってしまったクロヴィスからすれば、この伯父に対してなんとなく引け目のようなものを感じてしまっている以上、そういわれてしまえば何もいえなくなる―――外見はどう見てもナナリー以上に幼く見えることだし。

だが、だからといってこのまま放置していては仕事が進まないのだ。


「嚮団とやらにでも行ってこればいいじゃないですか!」
「非常に不本意ながら、今の教主は僕じゃなくてお前になっている」


そういって殴るのはやめたものの、今度は瞳をピカピカさせて威嚇してくるVV。
両目に浮かぶは、かつてクロヴィスの瞳にも浮かんでいた紋章。

ギアスだ。



すでに不死ボディであるクロヴィスにギアスは効かないのだが、それでも他者の行動を制限させる力を持つ赤光に見つめられるのは気分が良くない。
VVがいればマリアンヌはこないし、その上いきなり教主とか言う立場を押し付けられても、正直困る。

とりあえず、ルルーシュが自分に対して恨みを抱いているのではない、と分かった以上、一刻も早く和解して、何とかシュナイゼルから助けてもらわねばならないのだ。






戦場では現在、シュナイゼルが所有する技術者集団通称『特派』が作り上げた第七世代KMFが大活躍していると聞いている。


性能は抜群であり、KGF計画が頓挫した今、クロヴィス陣営ではかのナイトメアに対抗できる機体はないし、コーネリア陣営のようにそれができるような錬度の高い操縦者による軍団もいない。

急いで対策を練ってはいるものの、ナイトオブラウンズ用に作っている同世代のKMFが完成するころには、相手はさらに進歩しているだろう。


そのKMFの名はランスロット
アーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の一人。
円卓の騎士の中でも最強と謳われ、湖の騎士とも称えられた者だが、その行く末は主君の妻を寝取った挙句、同僚をことごとく打ち倒した、裏切りの騎士。
ガウェインという騎士などは弟をほぼ皆殺しにされた挙句に、自分も結果的には彼によって破られた。


そんな不吉な名を関したKMFを、シュナイゼルが作っている……
もう、名前からして反乱起こすつもりバリバリではないか。

アーサー王を直接殺したモルドレッドの名前をつけないところがまた厭らしい。










では、VVから奪ったもう一つの力、嚮団に頼るか、とも思ったのだが、まず前教主のVVが非常に非協力的であるため、ほとんどこちらの言うことを聞かない。
引継ぎ無しで何百人もいる組織を動かせるノウハウがこのクロヴィスにあるはずがない。

VVはこっちが教主だ、見たいなことを言ってはいても、数十年にもわたって嚮団を運営してきたのはまぎれもなくVVであり、その地位を簒奪した形になるクロヴィスにとって、「相手に自由に言うことを聞かせる」様な能力も持っていない以上、そう簡単に操れるはずがない。

王位にせよ、教主位にせよ、地位の簒奪というのは、奪うまでよりも、奪ってからの方が大変なのだ。
他者を操るような特別なショートカット手段を持っていないクロヴィスにとって、シュナイゼルの蜂起より先に嚮団を纏め上げることなどできそうになかった。


そのため、一応嚮団の技術を使ってジェレミアをもうちょっとだけまともに戻せるよう再改造するためにバトレーを送り込んだりもしたが、やはりナナリーの話などから総合するに、王位など望んでいないっぽいルルーシュとの和解こそが最良の道だった。

と、いうかそれしか生き残る道がない。



不死ボディを得た代わりに、死んでも死んでも他者に成り代われる能力を失ってしまったクロヴィスでは確実に敗北して、死なないまでもあまりよろしくない結果になってしまうであろう。
VVを見れば分かるとおり、死なないだけで常人並の力しか持っていない、というのはメリットだけではなくディメリットだって相応に大きいのだ。


と、いうか、正体がばれた場合、自分がCCにやったようなことが跳ね返ってくる可能性が最も高い。

クロヴィスは、自分でやっておきながらも、それは嫌だ、と思ってしまうような無責任な人間だった。
まあ、イレブンをさんざん虐殺しているのだから、あの国での古い言葉で言うところの、因果応報と言えなくもないだろうが、それは一回死んだことでチャラにして欲しいなあ、と思っている。




故に、シュナイゼルの蜂起を知っている以上、ルルーシュに頼ってかの第二皇子を何とか排除した挙句に、オデュッセウスかコーネリアあたりに皇位を譲って隠居することしか、今のクロヴィスの頭の中にはなかった。



そして、そんな中。


「陛下、大変です! ユーフェミア皇女殿下が!」
「ユフィがどうかしたのか!」



吉兆のような、凶兆のような、報告が襲い掛かってくることとなる。











「どうして分かってくれないのです、お兄様……お父様は後悔しておいでです」
「ナナリー、いくらお前の頼みでもそれだけは……」
「お願いです、お兄様……」
「うぅ……」


行政特区日本の成立式典に立ち会った後に、いろいろとすったもんだはあったがそれでも外見上は堂々と総督府へと赴いたルルーシュは、ギアスを使って何とか最愛の妹の元へとたどり着いていたが、そこでの話し合いは平行線をたどっていた。
中の人クロヴィスの雰囲気に当てられて、何とか親子仲良く、それが出来ないまでもせめて一目だけでも父親にあってもらいたい、と思っているナナリーに対して、この場にナナリーを救出するために来たつもりだったルルーシュは答えることが出来なかった。

自分が実はテロリストのリーダーをやっていて、今回のナナリーの件だってそれを引きずり出そうとする皇帝の罠なんだ、などといえるはずがないからだ。

故に言葉を濁しながらも何とかナナリーを説得しようとするが、それがナナリーにはもどかしい。
皇帝と、そして異母姉であるユーフェミアと共に過ごした時間は、紛れもない彼女の望んだ優しい世界であり、彼女はそれを兄にも上げたかった。
だが、ユーフェミアは、もう、あのゼロに…………だからせめて、




そんな状態でも、ルルーシュはナナリーほど父であるシャルルを信じ切れなかった。
このようなナナリーの言い分も、自身も策を弄するのを得意とするだけに、それを利用した皇帝の策だと本気で思っていた。

かつて母の死んだ日に父より弱者として拒絶されたこともそうであるし、なによりナナリーがこのように他人を信じられるように育った背景には、ルルーシュがその分世界の悪意を受けて育ったという裏があるのだ。


誰一人庇護するものを持たぬままこの激戦区で生き抜き、ナナリーを守るためには、ルルーシュは彼女の何倍も他人を疑わなければ生きていけなかったのだ。






故に平行線。

今回の件だけを言えば、クロヴィスにはそんなつもりが全くないだけにナナリーの言うことのほうが正しい。
ナナリー自身もじかに皇帝の姿を見てそれを確信しているのは、兄に大切に大切に育てられた彼女に人を見る目があった、ということであり、その彼女からしてみれば優しい世界の実現が出来そうであるにもかかわらず、それを拒絶する兄の意図が分からなかった。
今まで自分の望みはすべてかなえてくれた大好きな兄が、これだけは許してくれない。

それさえ出来れば、父はエリア11を日本に戻してもいい、と言っていたのに。
自分は、兄にこそ「優しい世界」にいてもらいたいのに。



目が治り、足も治り、徐々に本来の活発さを取り戻しつつあったナナリーにとって、その兄の態度はどうにも煮え切らないものに見えた。ましてや、異母姉であるユーフェミアがあんなことになっているのだから、いっそう協力してあげないといけないのに。
目が見えない状態であれば儚げに笑って兄の意に従ったかもしれないが、ナイトメアでオブなナナリーに近づいていたこのナナリーにとって、どうして分かってくれないの、という感情はかんしゃくのように爆発する。

そしてそれは、目と足の障害によって押しとどめられていたナナリーの精神の成長、すなわち第二次反抗期を促した。


「お兄様の、お兄様なんて…………嫌い!」
「っ!!!! ナ、ナナリー…………」


衝動的にそういって駆け出していってしまったナナリーを、ルルーシュは追いかけることが出来なかった。
それが一時的な衝動によるものなどと思いもせずに、ナナリーの足が治ってほぉらあんなに元気に走ってるよ、良かった良かったあはははは~などと思いながら。






最愛の妹から拒絶され、思わず膝を突くルルーシュ。
分かりやすくいうと、orzの体勢になる。


幼いころに母を失ったルルーシュにとって、ナナリーが世界のすべてだった……いや、まあ基本的に甘いので最近ユフィ分とかスザク分とかも増えてきていたが、それでもやはり彼の世界はナナリーのためにあった。
彼女がいてくれさえすればおのれがどんな目にあっても納得できたし、優しすぎる彼が他者を殺さなければならないという巨大な罪悪感にも耐えられた。
ナナリーのためにギアスと言う力を手に入れ、ナナリーのために黒の騎士団を結成し、ナナリーのためにスザクと戦う覚悟も出来たし、ナナリーのためにクロヴィスも殺して見せた。
偶発とはいえ、もう一人の妹にギアスをかけさえした。


すべてはナナリーのためだった。
今回の件だって、ナナリーのために皇帝の魔の手から彼女を守るつもりでこんな敵地真っ只中のブリタニアの総督府にたった一人で忍び込んできたのに。
肝心の彼女に拒絶されるなんて、ルルーシュは思ってもいなかった。

いや、ぶっちゃけナナリーだって今は勢いで言っただけでいまだにお兄様スキスキ状態であることには代わりがないのだが、基本的に打たれ弱いルルーシュがそう簡単にそんな可能性に思い当たるはずがない。
もう完全に、彼女に心底嫌われたと思い込んでいた。













だが、彼はどこまでもナナリーのためなら強くなれた。


「あるいはこんなことになるんじゃないかと思っていたよ……」
「ああ、CCか……」


どういうルートを使ってかは不明だが、どういうわけかたいした騒ぎも起こさずに今現在ルルーシュがいる場所、エリア11の総督府副総督室にCCがついたころには、ルルーシュは覚悟を決めていた。
自分が考える上で最もナナリーのためとなるであろう行動、皇帝暗殺を。


「……ナナリーがいったことは予定外だったが、いいんだ。
ユフィとの関係が昔と同じであるというのであれば、俺がいなくてもコーネリアは特区日本を、そしてナナリーを排除できまい。あの女の庇護さえあれば、皇族に復帰したナナリーを守ることは、大貴族どもにギアスをかけてこの特区日本を保護させれば、そう難しいことではないはずなんだ」
「……」
「どの道これはゼロを引きずり出すための皇帝が仕組んだ策だ。後は、あの男さえ排除してしまえば、ここまで大事になってしまった特区日本を排除することは、シュナイゼルら他の皇族にとっても無理だろう……ナナリーの傍にはスザクもいるだろうしな」


確かに、ブリタニアの国是である弱肉強食を否定してしまった特区日本という存在は、ユフィの皇女としての地位を否定するぐらいではつりあわないほど大きな罪だ。
いかにユフィが相続を放棄したとしても、おそらくあの男は認めないだろうし、ゼロを確保できればすぐに潰すだろう。

だが、皇帝であるあの男自身を排除してしまえば、話は別だ。
ユフィが行った失態を取り戻さなければならないコーネリアの立場からすれば特区日本の解体は不可能なことであり、いかにナンバーズ嫌いな彼女とはいえ擁護の立場に回るだろう。


そうであるならば、他の貴族を操ってコーネリアの援護をさせれば、シュナイゼルをもってしてもあの箱庭の宣言は壊せない。
いかに今回の件でコーネリアの株が下がったといっても、やはりこの二人が皇位継承の本命なのだから、シュナイゼルといえど容易には崩せまい。



ああ、いっそシュナイゼルも操ってしまえばいいかもしれない。
あの男は確実にナナリーと自分にとっての災いとなる予感がする。

そうすれば、ナナリーを害そうとするものなどもはやいまい。


ナナリーに嫌われるぐらいならばいっそ皇帝の策に乗っかってみようか、とも思わなかったわけではないが、やはり母の死の真相を聞きだすまで(正確には現在の報道の裏づけ)は、そのようなことなどできるはずはない。
ナナリーの安全の確保さえ出来れば、己の身などどうでも良い、と思っている以上、ここは皇帝を排除して自分が消えるのが、ナナリーにとっての最善であろう。




そんなエンペラーっぽい思案を続けていたルルーシュだったが、CCの一言がそれを止めさせた。



「確かにナナリーはそれでいいだろう……だが、お前はどうするんだ、ルルーシュ」
「…………ブリタニア皇族となったナナリーにとって、ゼロであったという過去を持つ俺はもはや敵でしか有り得ない。皇帝さえ排除すればナナリーにとっての優しい世界は完成する以上、俺はもう…………ナナリーにとって、必要ないんだ」


……基本的にルルーシュはこういう奴である。
自己の幸せより他人の幸せを求めるものであり、世界すべてが敵ではなければきっとナナリーのようにすべてを愛せたであろう、純粋な少年だ。
世俗の塵に塗れながらも、自分に可能な限りで世界にやさしくあろうとした少年に対して、CCは惨いことと知っていながらもう一度だけ、確認をした。


「お前は本当にそれでいいのか?」
「いいんだ! …………いいんだ」


そういって、もはや抑えることも出来なくなったギアスのある左目を覆っている眼帯を左手で覆いながら、顔を垂れる。




彼は気付いているのだろうか?
いや、きっと気付いていないだろう。

その眼帯と、それに覆われていないもう片方の瞳がしずくをこぼしていることを。





衝撃の大きさと、それをどうにかして理性で割り切って合理的に自分という駒を進めようとして、それでもなお心が大きすぎる傷によって一時の休息を求めてその場を動けなくなっているルルーシュを、CCはそっとその胸元に抱きしめた。


「お前は私の共犯者だ。私の願いを叶えるまで、潰れるんじゃないぞ」
「ああ、わかっている。わかっているさ、CC」
「(私だけは……最後までそばにいてやるさ)」


与えることは、愛することは知っていても…………与えられること、愛されることは知らなかった黒の皇子に。
魔女だけは、最後まで傍にいた。

そしてそれを知ってルルーシュは、自分を抱きしめている少女の腰に回していた手にほんの少しだけ力を込めて、最愛の妹に贈る兄としての最後の仕事をするための決心を固めた。












そこに乱入者が一人。















ブリタニア皇族の一員でれっきとした皇位継承者の一人が、たった一人で皇帝を殺そうとたくらんでいるこのゼロのいる部屋へと乱入してきた。


「ルル、いえ、ゼロ! 見つけましたわ、さあ、結婚しましょう!」
「ユフィ! それは、その、違うんだ」


テロリストである我らがゼロに結婚を迫る第三皇女殿下が登場した。
あわててCCを抱きしめていた手を離してぱっとはなれてユフィをなだめる、仮面をつけていないゼロことルルーシュ。


「……やれやれ、女を抱きしめるときは、他の女のことは片をつけてからにするべきだぞ、ルルーシュ」
「黙れ! 逃げるぞ、この魔女めっ!」
「まちなさい! スザク、どこにいるのです。早くゼロを……ルルーシュを捕らえなさい!!」


そう、兄を殺し、シャーリーの父までも巻き込んでしまい、カレンの裸を見て、スザクと敵対し、姉に殺されかけ、CCには前から後ろから純潔を奪われ、ギアスによりユフィに結婚を迫られたあげくに、最愛の妹であるナナリーを失った男には、もはや怖いものなど何もなかった。

そのため、手段を選ぶつもりもまたなかった。




[4089] いまさら続けてみた話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2008/12/12 11:57


「では、心臓あたりのこちらはこのように」
「それではここに不都合が」
「しかし、バイパス関係で言えば、できる限り人体への影響を減らすとすれば、こうせざるを得ないのではないか?」


クロヴィス陣営に改造されたジェレミアは、今現在嚮団にて調整をうけていた。
殺すことも捨てることも出来ない以上、ルルーシュに返すしかないので出来る限り誠意を見せよ、と現教主ということとなるクロヴィスが命じたからだ。
少なくとも言語機能だけでもまともにしないと、言い訳の伝言をすることも出来ない。

だが、しかし。


「回廊への道が閉ざされつつある」
「VV様とは違い、今の教主様はCの世界を何を通してみておられるのか?」
「VV様は自らの将来すら捨てて挑まれておられたものの」
「われらの未来、いとかなしけり」
「あにはからんや」
「威厳なき教主にはたして統べる資格ありか?」


嚮団の技術者達の間でジェレミアを再改造が進められながらそんな会話がもれ聞こえてくる。途中で平安貴族が混じっているような気がしないでもないが、基本的に芝居がかった彼らの言葉をわかりやすく要約すると、要するにこうなる。


『現在の教主のシャルルウザクねー?』
『だよなだよな、俺らのことなんだと思ってんだよ』
『ショタロリ教主様を返せー!!』
『一応教主だから従わなけりゃならんのが一層ムカつく』


まあ、自分たちのボスが美女、幼児と続いていきなりジジイになってしまって、しかも訳のわからない命令ばっかり下るとなればしかたあるまい。
今までCの世界に確実に近づいていたはずのCC、VVときて、ここに来てテンパリまくったクロヴィスによる意味不明の命令乱舞であれば、普通に考えて反乱とか起こしても仕方がないぐらいの勢いだ。

だが、嚮団において教主は絶対であり、その位は禅譲のみならず、簒奪も認められている以上、クロヴィスは間違いなく教主だ。
CCの決定に対して異を唱えられなかったように、彼らは教主に従うことこそ自身の理想への一番の近道だと信じきっているのだ。故に、答えは従う、以外の選択肢が取れるはずもない。

その結果。


『だよなー……そうだ! なら、命令に反しない限りでこいつ改造してやれ』
『ソレダ! なんかうまくいかなかったら教主困るらしいけど、俺らまともに喋れるようにしろ、としか言われてないし』
『よしわかった。つまり、喋れるようにするためにはこう改造するしかなかったんです、といえば何してもオッケーってことだな』
『リアル仮面ラ○ダーか……よし、まずはサクラダイトを動力源に』
『かっこいい仮面もつけて、っと』
『いやいやまてまて、腕に剣をつけるほうが先だ』
『皇帝の以前かけたギアス妨害するため、キャンセラーもつけてやろうぜ!』


それでも、わずかばかりに生じた不満は、結果としてクロヴィスの意に反することを生じさせた。確かにまともに喋れるようにしろ、という命令だったのだがそれはあくまで「出来る限りもとの人間に近づけて」という暗黙の了解があったにもかかわらず、かれらはそれをおもっくそ無視をしていった。


結果的にこれが嚮団自身の首を絞めることになるのだが、このとき彼らはノリノリでジェレミア本人の同意も取らずに好き勝手に改造を始めた。

常人よりもはるかに強靭な筋力、刃どころかKMFの自爆すら通さぬ鋼の体。武器と一体化した腕に超絶的な反射神経、さらにはオートでギアスを封じるキャンセラーまで、無節操なことこの上ない感じでさまざまな技術がジェレミアの体に無理やり、しかしそれなりの秩序を持って組み込まれていく。

斯くして、しっちゃかめっちゃかな『僕の考えた最強のギアスユーザー』のノリで作られたジェレミア=ゴッドバルト(改)であるが、きちんと完成したあたりが嚮団の技術力の高さを証明していた。うまくいったのが奇跡のようなたまたまの連続によるものだったとしても。









「ここでいいんだな、」
「ええ! こっちですわ」
「ありがとう、ユフィ」


ルルーシュは、幼少のころに日本に対して人質として出された。故に、現在の王宮の状況に詳しいわけではない。さらに言うなら現在の王宮は、権威は誇示してこそと信ずるシャルルがいろいろ建てた上に、元々派手好きの芸術家肌のクロヴィスが好き勝手に改装させているので、ルルーシュがいたころとは随分情勢が変わってきている。

結論として、ルルーシュはシャルルがどこに住んでいるのかまったく持って分かっていなかった。

勿論適当な相手にギアスをかけて聞き出してしまえばすむのであるが、暗殺というスピードが勝負である今では、その適当な相手を捜し当てる時間が惜しい。
そこで皇帝へと暗殺のために進むルルーシュの前に登場するのが、ユーフェミアだった。
コーネリアのおかげで割りと高位にあった上に、最近シャルル(というか中の人のクロヴィス)と仲が良いので皇帝の居住地域にも詳しい彼女は、ルルーシュがひそかに皇帝の下へと忍び込むのにうってつけの役だった。
身分的にメットを被った従者を引き連れていてもおかしくないし。

ちなみに、特区日本なんていうブリタニアの国是に真っ向から反対する政策を取っていながら、ユフィの身分は剥奪されていなかったりする。なぜなら、ユフィ=副総督であるが、同時にナナリー=副総督でもあるからだ。さらにいうなら、ナナリーも特区日本に賛成である以上、国是に逆らった罪はナナリーも同罪。

どう考えてもいまさらナナリーの身分を剥奪することなんてクロヴィスには不可能なので、結果としてユフィも無事だった。というか、これでゼロの活動が収まってくれるならば、エリア11ぐらい安いものだとクロヴィスは思っていた。
日本が開放されたらすべてのエリアで反乱が起こることに思い当たっていないほど、クロヴィスはルルーシュを恐れていたのだ。



まあ、それはさておき、ユフィは驚くほどスムーズに皇帝暗殺の協力を行っていた。
それは、ルルーシュが父に会う目的をいっていないこともあるのだが、それ以上に…………


「ありがとう。ユフィはここで待っていてくれ」
「ええ、わかったわ。これが終わったら結婚してくれるのでしょう?」
「もちろんだよ。いくぞ、CC」
「…………」
「いってらっしゃいね、ルルーシュ。コカ・コーラ……じゃなくて、CCさんも」
「…………」


結婚してやるからこれをやってくれ、の一言ですべての矛盾を今のユーフェミアは忘れてしまうのだ。
ギアス、恐るべし!

斯くしてユフィは、どう見ても愛人ポジションのCCを牽制しながら彼女らの父であるシャルルを暗殺するために進んでいくルルーシュを、きゅっとハグして送り出した。そしてその耳元でダンディに囁いていっそう垂らしこむルルーシュは、颯爽と立ち去った。





角を曲がって手を振っていたユフィが見えなくなっても、さっさと進んでいくルルーシュと、その後ろに何かいいたげについていくCC。しばらくは無言で順調に進む二人(出会ったものは問答無用でギアス)だったが、ついにその沈黙に耐え切れず、ルルーシュが声をかけた。


「…………言いたい事があるのなら言ってみろ」
「いや…………今まで長生きしてるだけあっていろんな犯罪の片棒を担いできたが、まさか結婚詐欺師の共犯者になるとはな、と思ってな」
「黙れ!」


CCに怒鳴りつけながらも、ルルーシュはある意味納得していた。
まあ確かにルルーシュ自身に自覚はないものの、ギアスを使って大掛かりなことをやっているように見せて、やっていることはいつもの女生徒への扱いとそう大差がない。割と大事にしている本名をユーフェミアに清涼飲料水呼ばわりされたCCがいやみの一つぐらい言ってもおかしくない、とは好意に対する鈍感さとは裏腹の深層意識で気付いていた。

というか、さっきまでのCCはなんだか妙におとなしすぎる気がしていたので、こんなものでちょうどいいとルルーシュは思い始めていた。なんだか順調にCCに調教されている感がないでもないが、会話を続けながらも静かなる侵攻はさらに続く。

かつ、かつ、と二人の足音だけをBGMに朗々たる二人の声が通路に響き渡る。
しかし、超常の力に支配されたこの場所には、邪魔者は入らない。


「それで、本当に結婚するつもりなのか?」
「…………ああ。ユフィに償うのは、それしかないだろう」


ユフィのギアスを解く方法を見つけるまで、ルルーシュは真剣にユフィと結婚するつもりだった。女性として愛することは出来なくても、妹として愛して結婚することは出来るはずだ、と彼女の心を捻じ曲げたことに最大の後悔を感じながら、コーネリアに土下座しても結婚させてもらうつもりだった。
それこそが、彼女の意思を捻じ曲げた自分に出来る償いだ、と。


だが、契約者であり、ある意味ルルーシュの先輩でもあるCCはそんなことを許すつもりなど毛頭なかった。


「お笑いだな、それで仮にあの女はいいとしても、他にギアスを使った人間がいないとでもいうつもりか?」
「っ!!」


考えまい、と思っていたことをずばり言われて思わず口ごもるルルーシュに、CCはさらに追い討ちをかける。その言葉は、かつて同じようにギアスで他者の意思を捻じ曲げた己に対する断罪にも似ていた。


「枢木スザクからは死という自由を奪い、マオからは言葉を奪った。片瀬やクロヴィスからは結果的に命すら奪った。ああ、あのオレンジとかもそうだな。そいつらにはどうやって償うつもりだ? 一人一人に求婚してまわるつもりか? 死後婚でもするか?」
「CC……」
「だからといって、死ぬなんてなおさら無意味だがな。お前が人々のために死んだところで、さっきの連中が喜ぶわけないだろう。もう死んでいるならなおさらな」


からかうような口調ではあるが、そこには長年生き続けた、罪に塗れながらも生き続けてしまったCCの苦い思いを感じて、反論は封じられた。
ナナリーさえ無事であればと贖罪か、それとも死か、という精神状態だったルルーシュに、CCは容赦なく追い討ちをかけていく。
だがそれは、迷いを生む結果にしかならない。
長い長い、皇族専用通路を進みながらも、二人の議論は一向に進まない。


「ならば、どうしろというのだ! ブリタニア皇帝を倒せば、ナナリーの安全さえ確保できるのなら、今まで弄んで来たすべての犠牲者に「ふう、お前はそういう奴だったよな。わかった、じゃあそれでいい……だが、何か忘れていないか?」? …………ああ、お前との契約か」


このままでは到着するまでに結論は出ない、とルルーシュが興奮して気付いていない廊下の終わりが見えてきたことで、CCは説得の路線を変えた。

聡明なルルーシュは、すぐにCCの指していることが何かに気付いて、苦笑した。
確かにそちらの方が、先約だ。
自分は今までの犠牲者達に命をささげる前に、この魔女に魂すらささげる義務がある。

この女が何を望んでいるのかは知らないが、今までこれほどまで恩義を受けた以上、ナナリーを不幸にすること以外であればたとえ奴隷になれといわれても従うつもりである。

そしてルルーシュは、ここに来る前にCの世界経由でマリアンヌから暴露されたシャルル=クロヴィスということを受けてCCが、どう考えてもまともな敵討ちになるはずがないからもうここまで来たなら思いっきりかき回せるだけかき回してやれ、とやけになっていることに全く気付いていなかった。


「そうだ。あの女に償いをする前に、まず私との契約を果たせ。それこそが、お前の贖罪の第一歩だ…………そう、するならまず私と結婚しろ」













「…………は?」


故に、この願いは予想外にもほどがあった。
それよりほんの僅かだけ時を早くして、皇族専用通路が終了して扉が開き、そこに自身の敵が存在したこととあいまって、ルルーシュは完全にその聡明な頭脳を停止させた。


荘厳なる神聖ブリタニア帝国の玉座前にて突然のプロポーズ。
皇帝の前で求婚される、一生の思い出です。
「まあ、なんてロマンチック♪」などという余裕もなかった。



当然、乱入された側であるクロヴィスとバトレーもそれは同じだった。


「「は?」」


思わず聞き返すが、自身の研究対象だったはずのCCが中身はルルーシュと思われる顔の見えないメットを被った男に対して求婚したことだけを切り取ってみて、一体全体どうしてこんなことになっているのかわからない。

だが、とりあえずルルーシュの機嫌を取らねばならない、と思っている二人は、反射的に呟いた。


「…………ルルーシュ。結婚、おめでとう?」
「殿下、おめでとうございます?」


ルルーシュにしてみれば、これからナナリーのために相打ちすら可能性の上に入れて皇帝の命を取りに華麗に登場するつもりだったのに、ごくごく普通に入ってきて呆けてしまった。
あまつさえ、目下最大の敵に祝福されるというこの屈辱。


「良かったな、ルルーシュ。これで親公認だ」
「ふ、ふざけるなぁ!!」


とりあえず、こんなことは想定の範囲外もいいところだった。





[4089] こっそりと続く話
Name: 基森◆c8832415 ID:674f23f4
Date: 2009/12/02 18:04


仕切りなおしとでもいうかのようにことさらこちらを無視して皇帝を睨みつける共犯者を見ながら、CCはもう一度考える。
マリアンヌが述べた、「シャルルがクロヴィスに上書きされて消えた」という言葉の真贋を。


CCにとってクロヴィスとは、かつて自分を監禁していた連中の親玉ではあるが、正直なところもうすでに終わっている人物だ。
だからいまさら名前が出てきたところでなんだというのだ、という印象しか持っていないが、それが「計画」に支障をきたすというのであれば、話は別だ。












CCは考える。
ルルーシュが『ギアス』と名づけたこの力は、人によって発現する力を大きく変える。
例えば、自分がかつて手に入れたのは、他人の心を捻じ曲げ、不特定多数から常に愛されるという力だった。
だが、そんなキャリアを持っていた自分が与えた力だけでも、読心から未来予知、記憶改竄と全くもって統一性なく、かなり幅広い効果を持っている。


だからこそ、なんとなくわかるのだ。
自らが力を与えたものの中に、死を回避することのみを望んだ男がいたとしたならば、いかなる能力を発現させるのか。
そしてそれゆえに、かつて自分が与えた力によって一人の少女の心の中に逃げ込んだルルーシュの母、マリアンヌが述べたこと、「すでに皇帝シャルルはギアスによってクロヴィスに乗っ取られている」ということが真実である、ということが。



主にシャルルが主体となって行っていた、アーカーシャの剣を使って全人類の意識を統一する、という計画には、様々な必要とされるものがある。

ブリタニアが覇権主義を唱えて各国に戦争をいどんだのも各地にあるアーカーシャ関係の遺跡を手中に収める為であるように、自分も含むこの計画の賛同者はルルーシュが生まれるずっと前から、このために動いてきていた。
マリアンヌとシャルルとの出会いをきっかけにVVとシャルルが若干方針を違えた、といったこともあったが、基本的にはこの発案者らは今までの人生がクソ長い為に数十年ぐらい頑張ったところで今までの分を取り返せないCCを覗いて、ほぼそのためだけに人生を賭けてきていた、といえるだろう。

計画の為、息子や娘すらも駒として扱ってきていた彼らとは、正直目的が違う為そりが合わないところもあったが、それでも数十年にも及ぶ付き合いだ。
彼らが何を考え、何を企み、どういった手段を取ってきたのかは手に取るように分かる。

ゆえに、今現在アーカーシャの遺跡関係をすべて抑えたとしてもコードの継承者としようとしていたシャルルがある意味クロヴィスという全くもって使命感もないごくごく普通の人間に上書きされて消えた以上、計画を実行する為には新たな候補者がギアスを使いこなすまでまたこの茶番を続けなければならないということは、マリアンヌ以上に理解していた。


計画には、遺跡、自分に宿る不死の要因であるCのコード、そのコピー的なVVに宿って今はクロヴィスに奪われているコードの三つが必要不可欠なのだ。
その一個が、ものすごく欠けた。

すべてはクロヴィスという要因が入ったことが原因であるが、今それを語ったとしても何にもなりはしない。
その要因がいかにシャルル陣営にとって致命的であり……よくよく自分一人だけのことを考えてみれば、その計画が頓挫したとしてもあらかじめかけておいたルルーシュという保険さえいればなんら問題がない、ということこそが重要だ。


もっと分かりやすく言ってしまうならば、シャルルが消えた今、己の「不死のコードを誰かギアスを使いこなしているやつに押し付けたい」という望みは、残った殺したVV、殺されたマリアンヌ(幼女ボディin)、協力するかどうかも不明なクロヴィス(シャルルボディin)という非常に脆弱な連合に協力することで実現を目指すよりも、貸しが一杯ある上に本人結構操りやすいし多分ギアスを使いこなす才能もあるルルーシュについた方が叶えやすいということである。


元々自分は、すべての人間の個を混ぜ合わせる、ということは余りいい気分はしていなかった。
なんとな~く、人間がやるにはおこがましいことじゃないかな? と中世あたりの生まれによるものか、シャルルたちのような世界全部のためだ! 見たいな考え方とはジェネレーションギャップを感じていた。

加えて、結構からかいがいがあって可愛くて母性本能くすぐる感じのルルーシュに付き合ってきて情が湧いてきたころに、マリアンヌの泣き言だ。
多少罪悪感を覚えたとしても、乗り換えざるを得ないだろう。


「ねえ、CC……確かに面白いことになっているけれど、結局計画の方はどうするの?」
「ああ、お前か。さて、な」


そしてそのためには、しれっと他人の体を乗っ取った挙句にそのあふれんばかりの戦闘系の才能を生かしてクロヴィスの隣からこちら側へとルルーシュに気付かれぬうちに移動してきたマリアンヌが邪魔だったりする。
だが、正直ギアスを失い、自身の体すら持っていない彼女を切り捨てることは、実はツンデレ気味で優しすぎるCCにとって心理的な躊躇はあっても物理的にはそう難しいことではなかった。
というか、なんとなく自分が手を下さなくてもサイコ・クラッシャーでもしながら足元から消えていきそうな気がするので、もはや成り行きに任せてみるだけでいいか、などと思い始めていた。



故にこの場で行うべきことはたった一つ……ルルーシュが完全にギアスを使いこなすまで面白おかしく時間を稼ぐことである。


「ふふんっ、ひさしぶりだなぁ、シャルル……いや、クロヴィスといったほうがいいか?」
「ひぃぃぃぃぃぃ、CC!!」


実験体扱いしていた不死の女が、自分の下へ超絶最高の知力を持つ弟(自分を恨んでいるかもしれない)をつれて、やってきたのだ。
目的などいうまでもなかろう……復讐に違いない。
ぎぎぎ、とぎこちない動きでバトレーとともに首を回してみると、その隣には当然のように仮面の男が立っていた。


クロヴィスが殺されたときにはまだ、ゼロという仮面の男は存在していなかった。彼の活動が公式に始めて確認されたのは、クロヴィス殺害を悼むパレードの最中であったのだから、その前に死亡した彼は本来であればそんな存在すら知らずに死んでいくはずであったが、現状においてもまあ正体がわかっていない、ということに変わりはない。
そして、その後もクロヴィスの命により必死の捜索をしているユフィの姉、コーネリアの尽力むなしく、その仮面の男の正体は未だに公表されていない。
クロヴィスも、ある程度の予想はしていてもひょっとしたらただ単にブリタニアを恨んでいるイレブンであればいいなあ、などと祈っていた。


だが、そんな願いはどうやら神には届かなかったようだ。

もちろん、未だにゼロは仮面を被ったままだ。
黒の騎士団員すら知らぬ素顔をその仮面のまま読み取ることなど、クロヴィスにできるはずもないのだから、今までどおり祈り続けておけばいいようにも思えるが、クロヴィスはもうすでに一片の疑いもなく確信していた。
あれは間違いなく、ルルーシュだ、と。

だって、仮面がシュゴ! と開いた挙句にその隙間から覗いているその憎悪と激情を移すかのように紫紺の大きな瞳の奥を真っ赤に光らせた目が、どう考えてもG-1ベースにて笑いながら腹違いとはいえ実の兄に向かって引き金を落とした弟のものにしか見えなかったんだもん。





「とりあえず……死ね!」
「とりあえず!?」


Cの力を受け継ぎ、不死の体となったものにはギアスは効かない。
故に、ルルーシュが激情を込めて放った必殺の宣言だったが、それを受けたクロヴィスからすると、久々に会った異母弟にいきなりこんなことを言われるなんて、という単なる家庭内言葉の暴力にしか思えなかった。
父であるシャルルを恨んでいるとは思っていたし、実際に自分も一度殺されているわけであるが、それならば一度目のように拳銃を取り出せばいい。

にもかかわらず、ルルーシュはさも当然のようにこちらに対して死ねと命じるのみ。
自分はそんなことを言われても死ぬつもりなんてさらさらないが、なんというかこう皇帝という地位についている自分に対してこうも当然のように命を落とせと上から目線で命令してくるなんて、直接行動に移されるよりもねっとりとしたものを感じてきつい。

ちなみにクロヴィス。
当然ながら、ルルーシュの持つ『絶対遵守』の力など知りはしなかった。


「っ! 何故死なない!」
「い、いくらなんでもあんまりだぞ、ルルーシュ」


故に現時点でのルルーシュへの評価は口に出したことが何故か現実になると思い込んでいる誇大妄想狂である。
そりゃ死ねといわれても死なないよ、とは思っているが、そんなこっちの事情の方がおかしいといわんばかりに睨みつけられて、思わずどもる。

久々に会話した異母弟―――いや、今は実子か―――からそんなことを言われて、それでもなんとか引きつった表情で反論するクロヴィスだが、ルルーシュはそんな声を聞きもせずに身構える。
絶対遵守を無効化することはVVとやらが傍にいるらしい現状では決してありえない未来ではないと思っていたと瞬時に対抗策を考えまくって、今度は物理的に死を与えてやる、などと思っていた。

その結果としてその手は、物理的な凶器――銃器へと一直線に伸びた。




その普段の綿密な行動とは裏腹な、余りに短絡的な行動には、さすがに共犯者からも突込みが入る。


「……おい、ルルーシュ。いきなりギアスかけて死ねと命じる前に、母親の死の真相はよかったのか?」


おそらく、視聴者の誰もが思ったその疑問をCCが呟く。

殺すだけならば今までも手はいくらでもあった。
にもかかわらず、わざわざ面倒な手段を取っていたのは優しい世界を目指していたこともあるのだろうが、「母の死の真相が知りたい」というその一点の影響が大きいと今までCCは思っていた。
あの放送の内容が本当に真実かどうかの確証を取らねば母のために、ナナリーの為に、そして何より自分のために殺すに殺せない、というスタンスを今まで取っていたはずだ。

にもかかわらず、いきなり「死ね」はないだろうし、その直後に銃撃しようとするのはどうだろうか、とCCは控えめに突っ込んだ。


だが、もはやルルーシュにはそんな共犯者の声を聞き届ける余裕はない。
それゆえ、CCの横に今まさに母(ただし精神のみ)がいる事にも気付かず、ギアスが効かないのならば俺の手で、といわんばかりに道中の衛兵から取り上げた小銃を、その重さにふらつきながら構えた。

青ざめるクロヴィスと、そのちょっと離れた場所にいたバトレー。
このときほど年のせいか腰が重いからと護身用の銃の一つも携帯していないことを呪ったことはなかった。


バトレーは多分どれほど乱射したとしても当たらない位置にいたし、クロヴィスはVVから奪った力ですでに不死になっているから、例えルルーシュがその細腕で一生懸命撃ったとしても実害はなかったのだが、それと目の前に凶器が突きつけられたときの動揺は全く関係なかった。
というか、正直ギアスとかいう力のことすら半信半疑なクロヴィス主従にとって、「コードを継承しているから撃たれても死なないよ!」というのはイマイチ実感が薄い。


それゆえ、実際には何の脅威もないにもかかわらず大慌てで助けを求めてみた。


「だ、誰かーー!! 私を助けろ!」
「衛兵―! 衛兵―! 出会え、出会えぇぇ!!」
「いまさら無駄だっ!!」


だが、突発的な予想外の事態が生じたときになかなか立て直せない精神的な脆さはさておき、舞台を作ることには誰よりも長けているルルーシュにとって、当然予想の範疇でしかないそれらの行為はほとんど無駄だった。

今現在護衛はほぼすべてが、ルルーシュのギアスによって遠ざけられている。
それゆえに、例えルルーシュがこの場にて怒りの衝動に押し負かされて銃を乱射したとしても、ここに入ってこられる者は限られている。



「うう、シャルル~~」


例えば、数十年以上もの間非公式にでは有るものの王兄として生活していたのみならず、ブリタニアの暗部としての役割も担っていた嚮団のトップであった為に王宮中の抜け穴抜け道を熟知している、現在傷心の余り弟を思い出しながらお昼寝中のショタ伯父様だったり。


「ユフィ、君はあのゼロに騙されているんだ! あんな怪しい男と結婚するだなんて」
「いやですわ、スザク。ルルーシュはあなたにとっても親友なのに、そんな怪しい男なんて。あの仮面だってよく見れば可愛くないですか?」
「……ル、ルルーシュ?」


皇帝となったクロヴィスの癒し相手としてナナリー共々いろいろな面で優遇されており、さらにすでに一度ギアスをかけられているが故に『しばらくここでの異常をすべて見逃せ』というルルーシュの命令が効かないけど、結婚詐欺の内情を暴露されて副総督室で本国でのテロ所じゃないピンク主従だったり。


精々このくらいだけだ。
そしてその数少ない二人(+1)は、各々の事情でクロヴィスの声など届いていなかったが故に全く持って助けなど来はしない。
だからこそ叫びを上げた中年主従は絶望し、自分の策により誰も来ないことはわかっていてもいつもなんだかんだで邪魔されていたので自信たっぷりに「無駄だ!」などといいはしたもののこっそり誰も来ないことを祈っていたルルーシュは、ほっと一息をついて再び引き金に指をかける。


そして、それをいざ悲観、とした瞬間、二人はほぼ同時に叫んだ。


「母さんとナナリーを弄んだ罪、あの世で悔いろ!」
「マリアンヌ様、ルルーシュを宥めてください!」
「皇帝陛下、今すぐこの私が全力を持ってお助けいたします!」


……訂正。三人だった。
窓を破り、突如オレンジ色の仮面を被り、オレンジのヘタ色の髪をした影が防弾のはずの皇帝の間の窓を突き破って乱入してくるかと思いきや、ゼロの仮面を被ったルルーシュから皇帝を庇うかのごとく刃を向ける。

そう、ルルーシュの絶対遵守の能力は一度使ったものには効果がない。
それゆえ、クロヴィスを助けられる位置にいたその男は、ルルーシュが反射的に放った「動くな」という命令を全く効かないものであるとして端から無視して、一瞬で間合いを詰めたのだ。
一瞬に完成した三竦みと、そのそれぞれが叫んだ余りに驚愕の内容に、声を上げた三人は三人とも硬直する。



クロヴィスは、何故かマリアンヌが何も言っていないのにルルーシュの行動が止まったことと、にもかかわらず自分を恨んでいるであろうルルーシュ配下(のはず)の改造人間が何故か自分を守ろうとしている現状の不可解さにより。

ルルーシュは、父である皇帝(だとまだ思っている)が突然自らの母を様付けで、すぐ傍にいるかのごとくCCの隣にいつの間にかいた少女に向かって叫んだ挙句に、すでに利用価値がなくなり捨て去ったはずの盤上の駒が突如乱入してきたことに対する動揺で。

そして、たまたまその人よりもはるかに良い聴覚でクロヴィスの悲鳴をキャッチして飛び込んできた仮面の男―――嚮団によって再改造が終了したジェレミア=ゴットバルトは、このブリタニア帝国の頂点に立つ男がひょっとすると自らの忠義の対象かもしれないにっくき仮面の男に殺されそうになっていた挙句に、自らが尊敬して止まないその仮面の男の母かもしれない名がまるで生きているかのごとく呼ばれたことに対する驚愕で。


三者三様に、それなりに長い時間硬直していた。
ちなみにCCはやる気なさげに、マリアンヌは面白そうにただそれらを見つめているだけだった。
ひゅ~~っと玉座の間をジェレミアの破った窓から流れてきた風が突っ走り、それに伴って割られたガラスが僅かな音を立ててもなお、三人とも動かない。
それほどまで、それぞれにとってそれぞれが取った行動は想定外の出来事だった。



が、基本的に突発的な事態の対処にルルーシュが劣ることは今まで散々記述してきたことであり、肉体的にはさておき中の人としてはありとあらゆる能力値でルルーシュに劣っているクロヴィスがそれよりも復帰が早いはずもない。
結果として再起動したのは、高級軍人として厳しく鍛えられており、経験も豊かなジェレミアが一番最初だった。



ただ、ブリタニアに対するゼロの憎悪と、それに伴う行動、そして本国におけるマリアンヌの死に対する報道やナナリーの皇族復帰から、ゼロ=日本との戦争において生贄にされたマリアンヌの遺児である可能性が僅かなりとも頭をよぎっていたジェレミアは、単なる不埒者に対してならばさておき、主君の子とでも言うべき存在に刃を向けることを心の奥底では避けたかったのやも知れない。


「マリアンヌ様ですと!」


ブリタニア貴族としてあろうことか、皇帝を守るよりも先に守れなかったはずの主君のことが口について出たのだ。
クロヴィスが言ったマリアンヌの名を受けてその視線を動かしたゼロを模すかのように、周りを見渡すジェレミアの視界の先に、可笑しげに三人を見守るピンク色の服を着た露出の多い少女の姿が。




と、ここで唐突だが、とある重大な事実をお伝えしなければならない。
この場に颯爽と現れたマリアンヌをこの上なく信奉し、それゆえにその子であるルルーシュやナナリーへの忠誠心をも持ち合わせている忠臣、辺境伯ジェレミア=ゴットバルトは…………実は改造人間だったのだ!


その肌は苦無をも通さず、大量の爆薬すら無効化する。
右腕部には剣が仕込まれているし、その反射神経はもはや人間としての域を飛び越えたところにすらある。
当然、それらを駆使すれば嚮団の「時よ止まれ!」な暗殺者と京都六家から送り込まれたクノイチが組んできたとしても撃退できるほどの戦闘能力を持っている。

まさに、体力的にひ弱なルルーシュに、長年の車椅子生活による筋力の衰えから未だ若干足の不自由なナナリー、そして他人の体をギアスを使って間借りしているだけ故に四六時中意識を保っていられるわけではないマリアンヌらのような、皇族としては余りに防御能力の薄いヴィ家にとって、喉から手が出るほど欲しい人材である。


ましてやその能力は、白兵戦だけにとどまらずKMF戦においてすら発揮される。
ただでさえ騎士(ここでいう騎士とは地位ではなくパイロットとしての能力を指す)として、ラウンズ並の腕前を持っていたジェレミアであるが、嚮団の改造を受けてさらにパワーアップ! 
専用機さえあれば今すぐにでもオレンジ無双が出来るほどの操縦能力は、決してコーネリアの騎士ギルフォードやユフィの実質騎士、枢木スザクに劣らないどころか寧ろ勝っている……ちなみに、クロヴィスの騎士であるバトレーとはもはや比べること自体が間違っている。

さらにさらに、貴族としての地位も辺境伯なので皇族を除けばほとんど最高位に近いのだ。
例えばKMF開発者として名高いロイド=アスプルンド伯爵よりも上である。
ヴィ家の配下となるのであれば、これらの長所を打ち消すほどの汚点であったオレンジ事件すら消え去ることを考えれば、もはやお買い得物件どころの話ではない。


そして、何より特筆すべきなのは、彼の左目に仕込まれた能力だ!
自身にかけられそうになったものは愚か、他人にかけられたものであってもありとあらゆるギアス能力を無効化する……ギアス…キャンセラー……って、あっ!


シャコン! キィーン!


「「「あ」」」



マリアンヌ は じょれい された!




[4089] 展開が微塵も進まない話
Name: 基森◆3591bdf7 ID:674f23f4
Date: 2009/12/13 08:55


出番はないキャラクター達も、別に死んでいるわけではない。
出番がないならないなりに生きている。

というわけで現在ゼロことルルーシュの邪魔をするたびにウザクウザク言われている枢木スザクとても、きちんと処刑されかけ、ランスロットに乗って張り切ってテロリストを殲滅し、ユフィに会っていろいろあって騎士に抜擢されたりもしていた。
勿論基本的に彼は兵卒、すなわち下っ端なので上の立場であるクロヴィスのビビリの結果としてナナリー副総督就任等の様々な影響をルルーシュ以上にもろに受け、その経緯は微妙に違っていたりもしたが、まあ基本的な流れは変わっていない。

すなわち、

ルルーシュ登場
→作戦成功、高笑い
→ロイド「アラタナ 装備ガ 完成シタ! タダチニ 装備シタマエ」
→「うわー、なんてあのKMFは強いんだー!」
→ゼロ「チチィ、撤退だ」
→視聴者「ウザク死ね」

というループを毎回のように繰り返していた彼は、当然ながら行政特区日本がえらいことになり、その結果として東京租界が黒の騎士団に侵入されている現場にもシナリオどおりにたどり着いていた。
一度ユフィにゼロの正体を暴露されて大混乱するも、軍命によりそれ以上に混乱しているエリア11を収める為に彼女と別れて必死に戦っているさなかに入った通信。
それは彼の堪忍袋の尾を切るのに相応しいだけの威力を備え持っていた。



『僕は今、憎しみに支配されようとしている』



だから、ニヒルにこんな台詞を呟いたりするのも同じだった。
結果も大切だが、それは過程あってこそだ、と主張していた彼も、ゼロによる過程を全く無視した圧倒的な結果を見せ付けられてしまえば、宗旨替えをせざるを得ない。

ゼロの、否、ルルーシュの『凶弾』によってユフィが倒れた以上、自分がその仇をとらねばならない。
通信先に映った相手は、それを強く強く彼に訴えかける。



『スザク、早く来て! 
ルルーシュのところにいきたいんですけど、何故かシュナイゼルお兄様直属の騎士団が邪魔をして入れてくれないのです』



ルルーシュの放った魔弾は、余りにユフィの致命的なところを穿ったようにしか彼には思えなかった。


先ほどまで自分と共にエリア11にいたはずなのに今はブリタニア本国の宮殿前にて、そんな暢気な声を送ってくる主人の映像を見て、そのこめかみあたりに血管が浮かぶスザク。

ユフィはもはや、完全にゼロの……ルルーシュの手駒と化してしまっている。
その性で行政特区日本は大フィーバーして日本中のブリタニア人の混乱がすごい事になっているし、コーネリアは嫉妬に狂って今にも暴れだしそうだし、ギルフォードには同じ騎士として主の軽率をなぜ止められなかったと怒られるし、ダールトンは不敬にもある意味娘のように思っていた主君の妹の突然の結婚に硬直しているし……とにかく、すべてがスザクにとって悪夢にしか思えない。

ちなみに今回、彼は別に突如入ってきたショタ男にギアスとか言う超常の力の話をされたりなどということは微塵もなかったので、それが心を操る魔の力によるものだということは全く気付いていない。
だから、何がそれほどまでに気に食わないのかまでははっきりと言葉に出していえるようなものではなかったが、その心のどこかに不快感がよどんでいくのは否めない。



しかも、それによって日本の独立という手段を真っ当かつ人道的に成功させているようにも見えるからスザクにはさらに気に食わない。


彼の目的は戦場で戦果を挙げ、ナイト・オブ・ラウンズに叙せられ、ナイト・オブ・ワンまで上がり詰めてそのワンの特権である一部エリアの統治権の譲渡を皇帝から得る事で、平和裏に日本の独立を果たす事である。その過程として彼は、まさに運命というしかない経緯で彼と出会い、忠誠を捧げる事となったユフィとのロマンスもあればなーと考えた事もあった。

そしてそれは、要するにゼロとして名を馳せたルルーシュが行政特区日本なんて物をぶち上げたユフィと結婚して皇帝に認めさせるルートと、ほとんど同じである。




『どうして真面目にテロやってたかと思うと、いきなりこんな結婚詐欺みたいなまねに手を染めたんだ、ルルーシュ!』


ぶっちゃけそれは俺がやるはずのことだったのに何でお前がやってんだよー! という醜い男の嫉妬と、こんな事が出来るんだったらテロなんてやらないで最初っからこれやれよ! というなんともいえない混然とした想いは、おきらく極楽な惚気を延々と通信してくるユフィへのいらっと感ともあいまって、彼に衝動的な感情を呼び起こした。

具体的には、盗んだバイクで走り出した。




「ルルーシュ……僕達は友達だ。だから、まずは君の話を聞こうじゃないか。
でも、ただ聞くだけなら口の上手い君に誤魔化されるかもしれないからね」


だからとりあえず、ランスロットで迎えにいくよ。


自分の大事な作品を私事に使おうとする事を止めようとしたロイドを殴りつけた挙句に、大量にかっぱいだエナジーフィラーを担いで、スザクの余りに力の入った手に握られた発信棹により飛び立つランスロット。
その背に光る緑色の羽根は、スザクの人間離れした身体能力からなるデバイサーとしての余りの優秀者ぶりとあいまって、まるで鬼神のごとき迫力をかもし出していた。
お互い会い争っていたにもかかわらず、その余りの圧倒的な存在感に思わず道を開ける、ブリタニア、黒の騎士団両軍。

ちなみに彼らは、両軍入り混じって「主君、リーダーの言う事は絶対に守るべきだ」派と「ゼロ様とユフィ皇女が結婚するなんてイヤイヤ」派、「とりあえずお祭り騒ぎだぜひゃっほー」派、「仮面と皇女なんて絵面的に怪しすぎるだろ」派「そこがいいんじゃないか」派に分かれて陣営関係なく戦争していたりする。
ユフィにギアスをうっかりかけてしまってから自棄になっていたルルーシュが、あえて放置した事で元々一枚岩ではない黒の騎士団は内部分裂しまくっており、そこにコーネリアがいまだ放心状態ゆえに主君の妹、ユーフェミアの婚約という事実をどう受け止めればいいのか喧々諤々の議論をしていたブリタニア軍の一部が先走って、地区司令官単位で勝手に同盟したり襲撃した事によって、混乱はさらに深まった。

クロヴィスの薦めていた『両副総督露出多くしてルルーシュに謝罪の意思を伝えよう』計画によって、ある程度温和派と思われていたユーフェミアは日本人にもそこそこ支持されていたことも影響した。
特区日本である程度保護されるのであればブリタニアによる支配を認めようという勢力と気に食わないが皇女殿下の言う事ならばとしぶしぶ納得した軍の一部が結びつく。
かとおもえば、特区なんて認められるか、ゼロ様お考え直し下さいと思っていた連中がそこらかしこでイレブンと同等の特区なんて端から気に食わなかったんだよ! という軍の一部と激突する。


コーネリア、ルルーシュという極めて有能な指揮官を抱いていたはずの両組織は、もはや指揮も取れないほど混乱のさなかにある。
あえて言うなら、ブラックをチームカラーとする黒の騎士団とパープルを基調とした編成を行っているのブリタニア軍が無法則に混ざった、『マーブルリベリオン』状態だった。

その醜い争いの場に出来た道をまるで切り裂くがごとく、スザクは発進した。


出会いが余りに運命的であり、それからもコツコツとフラグを立ててラブラブいちゃいちゃをある種胸の奥で抱いていた主人を寝取られて嫉妬に狂った枢木スザクは、こうして一路空からこの混乱に乗じて皇帝暗殺をたくらんでいるであろうルルーシュをとりあえずランスロットで踏みつけて身動きできなくしてから「お話」するべく、ブリタニアを目指した。
そんなことされれば操縦者の彼以外の人間であれば一瞬で死ぬ、という事は頭のどこかではわかっていたかもしれない。









「マ、マリアンヌ様~~!!」
「で、陛下、どうか落ち着いてください!」


ジェレミアのギアスキャンセラーの効果を受け、くたりとその場に倒れ落ちたマリアンヌ―――否、今ではもう完全にただのアーニャか―――に向かって半泣きで駆け寄る皇帝を目にして、彼に銃を突きつけていたルルーシュは全く動く事が出来なかった。
そしてそれは、その現状を作ったものであるジェレミアにしても同じ。

余りに予想外な展開に動揺を隠せない二人は、殺そうとすることもそれを守ろうとする事も忘れてただ呆然と立ち尽くすしか出来ない。
ただ、それはギアスキャンセラーによって自らの母、主君が永久に消え去った事に対する動揺からではない。


(マリアンヌ―――どう見ても、まだナナリーぐらいの子供じゃないか!)
(不敬ながらもいくらなんでも、刺客を前にしてその態度はないのではないでしょうか、陛下)


二人に共通する感情、それは皇帝に対するどん引きだった。
当然ながら、二人とも、マリアンヌのギアスのことなど知っているわけもないのだから、実際本当につい先ほどまで彼らの母と主君がその場にいた事などわかるはずもない。




それゆえに、それに向かって「唯一のルルーシュとの架け橋が!」と動揺の余り半泣きで駆け寄るクロヴィスを見ても、よもやそれが命の危険から発したものだとなぞ想像も付かない。
だから、外見的に見える、「成人した子供を何人も抱える爺が、自分の孫のような娘にかつて死んだ妻の名前を付けて甘えた声を出していた」という事実から判断するしかないのだが……


(そもそもマリアンヌ様とはどう見ても似ても似つかぬぞ! どういう目をしておられるのですか、陛下!)
(まさかあんな幼女に母さんの名前を付けて愛人にするなんて、何を考えているんだ、あの男は!!)


状況証拠的には陪審員全員一致で有罪といわざるを得ない光景がそこにはあった。

単なる一庶民出の后妃であるマリアンヌへの、シャルルの愛情は見るものが見ればよくわかるほど深いものではあったが、それはマリアンヌが全く貴族の血が入っていないとはいえジェレミアのような高級軍人、貴族にまで敬意を抱かせるほどにまで容姿、KMF操縦の腕前の実力、気品、知性、スタイル、その他もろもろが極めて優れていたからだ。
皇帝の横に並んでも相応しいだけの風格を醸し出す彼女だったからこそ、庶民ででありながらも皇帝と過ごす事を『許された』のだ。




翻って、今皇帝がすがり付いているアーニャ=アールストレイムはどうか?

彼女は由緒正しいアールステレイム家の令嬢だ。
身分はブリタニア人ではあったとはいえ庶民出のマリアンヌとは比べ物にならない。


だが、その他の面で彼女がマリアンヌに匹敵する何かを持ち合わせていたか?
少女然とした容姿やスタイルは、ルルーシュやジェレミアに対して幼かったころの妹を思い起こさせこそすれ、父や主君の妻としては余りに未熟。
性格や人当たりとて、当代のナイト・オブ・シックスの人当たりに対するよい噂はほとんど聞かず、携帯機にて延々とひとり遊びにいそしんでいるという噂の方が強い。
操縦の腕も、ラウンズに選ばれるだけあって決して凡庸ではなかろうが、貴族出ゆえにそもそもスザクほど当初からの風当たりが強くない。
その上に、専用機が出来ていないという理由で戦場にそれほど出ることのなかった彼女の腕前が、果たして『閃光』とまで呼ばれた皇紀に匹敵するほどのモノとは到底思えない(この世界、未だにハドロン砲は実験段階だ)。


結論として、彼女は余りにも『幼すぎ』た。
その今だ目を覚まさずにその床に崩れ落ちたままの姿を衆目に晒し続けるアーニャ=アールストレイムは、皇帝が寝所にてひそやかに弄ぶ程度ならばシャルルの王者としての嗜みとしてさておき、彼が心底頼りその隣に立つには余りに器量不足に彼ら二人に見えた。


そんな彼女のロリバディに、涙声で皇帝が縋りつく。
全体的にいろいろとふにふにつるぺったんとしている幼女の胸に向かって、筋骨隆々の巨漢白髪縦ロール爺が縋りつく絵面を想像してみるがいい……そこはさながら地獄絵図の一面を切り取ったに等しい。
未だにクロヴィスinシャルルボディのことを知らない二人にとって、それはあまりに見苦しい光景だった。

彼女が帝国最高の騎士であるラウンズの地位にいるのも、こうなってしまえば実力なんて疑わしい事この上なく、ただ皇帝の歪んだ人形遊びの結果としか思えなかった。





          ((この、ロリコン皇帝め!!))



そして、一度誤解が発生すればそれがなかなか解けないのが、この世界における冷たい方程式である。


思わず目線を合わせて今後の対応を考えていたルルーシュ、ジェレミアの考えがちょうど一致した。
すなわち、「皇帝は(性癖的な意味で)もう駄目だ」という考えの元二人は意思の一致を見、その結果としてかつての仇敵同士は分かり合えたのである。
ジェレミア、その強化された超直感でいつのまにやら主君の息子を判別したのか、ゼロを見てももはや憎悪をたたきつける事もなく、その瞳には何処か忠誠が宿っている。


微妙となってしまった空気を振りはらわんとばかりに、突如ルルーシュがマントを翻していつも通り格好を付けると、ジェレミアは実に自然な感じでその前に跪いた。
それは、ルルーシュがゼロマスクというチューリップにも似た奇妙な仮面を付けており、ジェレミアの顔の半分も妙なものに覆われている、という事情さえ無視すれば、実に絵になる主従の姿であった……まあ、先に挙げた問題点がそれをすべて台無しにしている感はあったが。

だが、やっている当人達は大真面目。
とりあえず倒さなきゃならないラスボスを格好よくドラマチックに倒す為に、相手が立ち直るまで間を持たせる意味もあったのかやけに大仰にそれは続けられる。
ジェレミアの口から懺悔のような呟きが漏れる。


「私はかつて、アニエス宮にて勤務しておりましたが、敬愛するマリアンヌ皇女殿下とそのご子息らさえ守れなかった……だからこそ、クロヴィス殿下をはじめととする皇族の方々を守りたかった。しかし、あの皇帝陛下は!」
「そうか……我が名はルルーシュ=ヴィ=ブリタニア。皇帝という運命に弄ばれた皇紀マリアンヌが第一子にして世界に対する反逆者である!」


実の父が実は自分の妹程度の年の者に縋りつく事を好むようなロリコンであり、そんな相手に忠誠を誓っていたという苦い過去を振り払うかのように、厳かな宣誓は進んでいく。

バックミュージックにクロヴィスの泣き声が入ったりしたが。


「やはり、あなたはマリアンヌ様のために……オレンジと呼ばれた事を憎んだ事もありましたが、それがわかれば私は満足です」
「思えば、お前ほどの忠義のものに酷いことをした……だが、その上であえて私は命じよう。ジェレミア=ゴッドバルトよ、私に従え!」
「イエス・ユア・マジェスティ!!」


こうして、おいおい、マリアンヌ死んじゃったよ。どうやってこの後誤魔化せばいいんだ、と呆然とするCCの横で、自分たちという存在がある意味求めてやまないマリアンヌという人物をこの世界から消去した事もわかっていない二人の間に、突然主従契約が結ばれた。
ちなみに、マリアンヌがジェレミアの性で消えた事を理解しているのは、ジェレミアの能力とマリアンヌのギアスのことを知っていたクロヴィス主従と、ジェレミアについても知っていたマリアンヌ本人、そして彼女からそれらのことをCの世界経由で聞いたCCだけなので、いまなんか横で演劇じみた事をやっている二人は知りもしないのだ。

すべてを知る者からすれば、実に滑稽である。






「マリアンヌ様~~、せめて、せめてルルーシュの誤解を!」
「いけません、殿下、そんな事をいっている間があれば早くお逃げください」


が、巻き込まれたある意味もう一人の悲劇の皇子は、それらすべてを知っていて突っ込みを入れられる立場であるにもかかわらず、未だに現状から立ち直っていなかった。




[4089] いろんな意味で急展開な話
Name: 基森◆8cb04620 ID:674f23f4
Date: 2010/05/26 20:22





立ち直り、冷静に考えてみると、マリアンヌがアーニャの体からいなくなった、ということがどれほど恐るべき自体なのか、という事がクロヴィスにはあっという間に理解できた。
人間、命の危機に直面すると頭の回転も普段よりも活発になるものである。


本人から断片的に伝え聞いたものでしかないが、マリアンヌの「自己の人格を複写する」ギアスは、死の間際にしか発動できない失敗作といってもいいものであったが、それでも相当強力なものだった。
普通の人間のみならず、ギアスを使うものにとってすらもCの力を継承しなければ超えられない絶対の壁、『死』を乗り越える事が出来るその力は、ルルーシュの母らしくありとあらゆる分野に対して豊かな才能を示したマリアンヌにはまさに相応しいものであったといえよう。

常時発動できるわけではないが、それでもある程度までは宿主であるアーニャの意思や記憶にも干渉して自由に動ける上に、一度死のふちを除いているからかなんか離れた場所のCCとも会話できたりもするらしい。
たまたま死の間際に目があったのがアーニャだけだったが、あと二三人その場にいればラウンズ並みの運動神経とルルーシュ母の思考能力を持つ恐怖の若作りアイドルグループ「ザ・マリアンヌ」が結成できる可能性すらあったのだ。
VVから伝え聞いたクロヴィスの持つ「血縁者にオートで憑依する」ギアスとか言う訳の分からないものと比べても遜色のないわけの分からなさであるが、クロヴィスの持つもの同様、極めて優れた能力である。


が、その絶対の力も嚮団の改造によってジェレミアに与えられたっぽい「ありとあらゆるギアスの効果を消去する」ギアス、ギアスキャンセラーの前では全くの無力に成り下がる。
あれほどの知や力を持ちながらも、一切の抵抗さえ許されずにマリアンヌはCの世界へと帰っていったっぽいのだ。

今度こそさようなら、マリアンヌ様、とかクロヴィスが再びの別れに一言かける暇すらなく、彼女は無へと帰った。



そこで振り返るのが、己が身。

「ギアスをつかって実の父に取り付いている」自分の存在について思い至ったクロヴィスは、心底震え上がった。
VVが極めて非協力的なため、未だにCの力の継承者はギアスが効かないという事実をはっきりとは自覚していなかったクロヴィスにとって、マリアンヌを除霊したその目はルルーシュが狙う拳銃と同じような自身に対する凶器にしか見えない。
自分も消されると恐れることは、自己保身が九割を越える今の彼の思考の中ではごくごく当然のことだった。


そんなのが、混乱のさなかから我に帰ってみるや否や今や自身の最大の敵であるルルーシュと手を組んでいたのだ。
何やってもチェスで負けていたルルーシュの知力+せっかく死んでも生まれ変われるようになった自分すら殺せるっぽいジェレミア=死




絶望には底がないことを、クロヴィスは知った。


『ふっふっふ、助けてやろうか、クロヴィス』


だからこそ、虚空から聞こえたこんな怪しげな声に思わずすがってしまいそうになった。








CCは再び考える。


現状は、長年の付き合いがありそこそこ気心も知れていた盟友とも言うべき対象、マリアンヌが突然事故によりお亡くなりになってしまったのだ。
多分あの性格からすると天国にはいっていないだろうな、などと考えつつもちょっとびっくりしたCCの感想。


(まあ、仕方がないか。安心して成仏しろよ、マリアンヌ。ルルーシュは私が面倒を見ておいてやるよ)


戦闘以外では衣食住すべてを実質ルルーシュにおんぶに抱っこのニート生活をしているくせにやたらと態度のでかいCCは、たったそれだけで長年の盟友の死を受け入れた。

長く生きているといろいろとあるのだ。

ぶっちゃけもはやマリアンヌいないほうが、自分がCの力を継承してもらうにも、ママンがいなくなったルルーシュを甘やかすのにも好都合だし。
勝手な女である。


だが、とりあえずマリアンヌと組んで面白おかしくルルーシュを弄繰り回してギアスを成長させてもらおう計画が頓挫した事だけは少々痛手に感じる。
マリアンヌらがたくらんでいた『Cの世界にすべてを溶け込まそう』計画は、もはや童貞ではないにもかかわらずあいも変わらず潔癖症なルルーシュにたぶん受け入れられる事はなかっただろうから、自分が不参加決め込む事で失敗確実なその計画は結果としてルルーシュを育てるよい試練となったであろうに……

だがまあ、自分が計画に賛同しないのであれば敵となりそうなシャルル・マリアンヌ・VV連合がもはや完全に破綻したという事で、これからのんびりとルルーシュ育てればいっかーとか思っていたCCに隙はなかった。
ルルーシュと肌を交わした事は、結構CCの内面にも影響を与えていたりする。


『ド、ドウスレバイインダ! ルルーシュガ、ジェレミアト……』
(……は?)


だから、突如頭の中に伝わってくる謎の通信。
突然声にならない声が聞こえるなぞと、普通の人であれば発狂してもおかしくない事態であるが、ぶっちゃけもう数百年ぐらい生きているCCの神経の太さは、ルルーシュにピザ代をタカっても微塵も罪悪感を覚えないほどぶっといがゆえに、別に取り乱しもしなかった。
さて果て、今度は一体全体何が起こったのか、という感じで興味深げにそのまましばし待つと、とにかくひたすら『ルルーシュに殺されちゃうよ! ピンチだよ!』という声が聞こえてくる。


(ほう、クロヴィスか……マリアンヌが消えた事でこんな影響までが出るなんてな)


Cの世界経由でマリアンヌから伝わってくる声に似ていたそれの内容から、現在この通信を送ってくるのがクロヴィスであろうと当たりをつけるCC。
原理はわからないがこれも謎パワーでマリアンヌが出来た事だ。
彼女の亜種っぽいギアスを持っているらしいクロヴィスならば、と考えたそれは全くもって正しかった。

どうも、一人分の通信回線だったCの世界経由のCCホットラインが、使用者が倒れた事で次の継承者に相続されたっぽい。



ただ、その原因となればさっぱりだった。
未だにギアスは謎がいっぱいで、授ける側のCCにもわからないことだらけだった……そもそもCC、学校に通っていた事すらないので学歴上は『修道院幼年舎中退』となるので、Cの世界の研究とかろくにした事がないし。
もっとも、わからないからといって使用をためらうような育ちは、中世生まれのCCにはない。それゆえマリアンヌとは原因がわからぬもののそれなりに有効活用していたその通信が、クロヴィスと繋がったという事実さえ分かればいい。


だが、マリアンヌならばさておきこんなのと繋がっても何の意味もないしなあ、とか考えてた…………まさにそのとき、歴史は動いた!
CCの頭に天啓が宿る!


『ふっふっふ、助けてやろうか、クロヴィス』
『!! ダ、ダレダ!』
『まあ落ち着け、私が誰か詮索するよりも今は自分が助かる事の方が大切じゃないのか』
『ソ、ソレハ……』


これが、「マリアンヌよりも頭が悪いであろうクロヴィスを操って、ルルーシュを育ててもらおう計画」の始まりだった。

ぶっちゃけてしまえば、すべての元凶であるシャルルとマリアンヌさえ消えてしまえば、世界にとって危機はなく、ブリタニア本国とルルーシュを同一サイドに並べる事も不可能はない。
ルルーシュの望みは『ブリタニアをぶっ壊す』というものであったが、これはあくまで『ナナリーのために安全な場所を作る』という事が前提だったからだ。
ナナリーがブリタニアサイドについた以上、ルルーシュの踏ん切りさえつけばこの望みは、枢木スザクのように『ブリタニア内部から悪いところを変えていく』という事にも変更可能なはずだ。



『助けて欲しければとりあえず、私の前にチーズ君限定版バージョンを用意してもらおうか。皇帝なんだからできるだろう?』


とんでもなく俗っぽいものを脅迫の対価として要求するCC。
彼女は一体どこに行くのであろうか……だが、命の危機がマックスで迫っているクロヴィスはそれをただただ聞くしかない。


『チーズ君? ナンダソレハ!』
『……』


が、当然ながら宮廷料理漬けでピザなど食べない皇帝のクロヴィス、チーズ君など知らない。
思わず反射的に通信を打ち切ろうとしたCCの不穏な雰囲気を察したのか、慌ててクロヴィスは言葉を続ける。


『わかった、それでいい、それでいいから助けてくれ!』
『最初っからそういえばいいんだよ……これは契約。お前の望みかなえる代わりに、私の願いを一つだけじゃなく叶えて貰う』



こうして、神聖にして絶対の契約は結ばれた。
世界すべての悪意を一身に受けて世のため人のために死んでやろう、とか思わない限り解除されない契約により、世界はまた一つ美しく生まれ変わったのである。


ああ、なんと自分はいいことをしたのだ、などとCCが自己中なことを考えまくってとりあえずクロヴィスやシャルルのやったことを全部シュナイゼルに押し付けてやるか、などと思案を練りつつルルーシュとジェレミアの主従の方へと視線をやると……


(……は?)


そこには今まさに落ちてくる巨大な鋼の拳があった。



この状態で乱入してくるようなものなど、話の流れからして限られてくる。
その拳を打ち下ろした機体は、全体的に白い塗装が施されていた。



『ゼロオォォォォォォォォォ!!』


突如現れるランスロット。
本当に彼は空気読めていない。

それでも能力だけは確かなので、もうマジ殺すつもりとしか思えないほどの勢いで宮殿を幾重にも取り囲んでいた衛兵のKMFさえもたった一人で蹴散らして、ゼロに向かってその断罪の拳を落としたのはそう、寝取られ男の枢木スザクである。

ぶっちゃけ事態というか、彼とユーフェミアの出番は第一期でほとんど終わっていて今はCの世界の因縁とかの方が主題になりつつあるというのに。


『(チィ! スザクが何故ここに!) ぐぁぁあ!』
「ゼロ様、お下がりください!」


何とか繰り出されたランスロットの拳は交わそうとするルルーシュ。

だが、それは余りにも緩慢に過ぎた。
生身でKMFの拳をかわすなんてこと、もやしボーイの彼にできるはずもないことだったのだ。
ましてや、殺すつもりはないとか言っていたスザクの乗るランスロットから繰り出された嫉妬拳は、どう考えてもルルーシュの殺害を狙っていたものにしか見えないものであった。
それでも、人知を超えた反射神経を手に入れたジェレミアによる助力があったこそ何とかその場を退いたゼロであったが、やはり完全には回避できなかったのか、いい感じにその仮面に地面の破片が結構な速度で吹っ飛んで迫る。

かくして、「何俺の皇女さま誑かしてんだよ、コラ」という嫉妬を載せた嫉妬弾は、その余波とはいえ見事な感じで仮面に直撃したのだ。



かくして、ブリタニア王宮にて捨てられた皇子、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアの姿がこうして現れたのである。
母の消滅と引き換えたかのようにその場に立ったその姿は、仮面を除いたゼロスーツという怪しげな格好をしていてもなお、優美なものであった。


『やはり』
「やっぱり!」
「『ルルーシュゥゥゥ!!』」


だからこそ、その親友と義理の兄は、悲鳴にも似た絶叫を上げることとなる。
片一方は殺意を向ける側で。
そして、もう片方は殺意を向けられている側として。





[4089] 原作通りな話
Name: 基森◆8cb04620 ID:0593a267
Date: 2013/04/28 10:27


ギアスだとか、Cのコードだとかいうことについて、クロヴィスはイマイチその内容を理解していない。なんといっても、ギアスを得たのも、そののちにコードを継承したのも、ほとんど事故みたいなものだったのだ。
シャルル本人のように望んで手に入れたわけでも、VVのように禅譲を受けたわけでもない彼にとってみれば、ギアス関係について把握している知識と言うものはあの用心深いシャルルが僅かに残した覚書程度のものを見て確認した程度に過ぎない。

が、かといって誰かに教えてもらおうにも、VVは完全に拗ねているのでほとんど協力してくれないし、マリアンヌはマリアンヌで自分に面白いようにいろいろ都合よく捻じ曲げた挙句適当なことをいうだけだったので、結果的にほとんど彼はそれらのことを理解していなかった。


とはいえ、彼が奪ったシャルルボディはその年齢にもかかわらず不断の鍛錬と弱肉強食を是とする強靭な信念により人間としてほぼ限界近くまで鍛え上げられていた上に、ギアス能力者としてもトップクラスに磨き上げられていた。
シャルルに与えられた能力は記憶の改竄という余り強力ではないものであったが、彼はそれを自在に使いこなし、皇帝の座までのし上がったのだが、それにもかかわらずとある読心能力者のように能力に飲み込まれることもなく完全に制御しきっていた。
クロヴィス自身の能力は死の間際に人を乗っ取るだけなので大して彼が使いこなせていたとはいえないが、それでもその体であるシャルルボディはギアス能力者として成熟していたものであり、だからこそVVのコードも奪えた。

で、彼らの目的は、VVとCCのコードの統合である。

その上でVVのコードによって不死となったクロヴィスの存在を考えてもらうと、ある事実が忽然と浮かび上がる。
そのあまりにばかばかしい現状がゆえにはっきりと気付いているものは正直皆無といっていい状況であるが、実際テロ活動のリーダーがテンパっているのでそこまで抵抗運動が完全に機能しているとは言いがたい以上遺跡の収集は結構順調であり、この場にはCCだってちゃんといる。


よって、VVのコードをクロヴィスが奪い取った現状において、すでにオレンジのギアスキャンセラーにより消滅したマリアンヌとクロヴィスに体を乗っ取られているシャルル、そしてコードを奪われギアスがあるだけのほぼ無力な幼児と化してしまったVVの目的であったコードの統合をするためにクロヴィスに必要なのは、あとCCのコードだけだ、ということを頭においていただきたい。








ぶつかった岩によってぱかりと、おばあさんに拾われたイレブンの民話の桃のようにみごとに二つに割れたゼロのマスク。
まあ、その民話でも主人公は正義の味方、弱者の味方を名乗って鬼退治と称して一方的に戦闘を仕掛けて略奪していくし、実態は似ていないこともなかったが、鬼が島の鬼の大将であるクロヴィスからすればもう恐怖以外のいかなる感情も生じ得ない。

黒いチューリップにも似たそこからは、世で噂されているように大きな火傷跡を残した醜い素顔でも、エリア11の総力を挙げて作られたロボットらしい機械が入っているわけでもなかった。
そこから現れたのは、先のような変な想像をしたことが恥ずかしくなるほどの美しい顔だった。
線は細く、瞳は澄んで、髪はつややかに。男であるにもかかわらずその唇さえも美しいその美貌は、ともすれば女性的とさえいっていいものであった。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
その母と同じく、天に愛された造形美の持ち主だ……例え本人が、どれほどその目立つ容姿を疎ましく思っていたとしても。


「ひぃぃぃぃ!!」


が、そんなものに見とれる余裕など、クロヴィスにあるわけがなかった。
いままで、嫌な予感―――というよりも、確信に近いものがあったとはいえ、彼はまだ「ひょっとするとゼロはただ単にブリタニアに恨みを持っているイレブンなんじゃないかな」という一抹の期待を抱いていた。
例えその中身がかつての戦いで局地戦とはいえKMFもなしに唯一ブリタニアに勝利した奇跡の藤堂だとか、日本の天子的な存在である皇なんちゃらなどというエリア11支配の為には極めてめんどくさいことになるようなやつが中身であっても、クロヴィス的には大歓迎だった。

それならば、まだ形式の面では至極真っ当なブリタニア対旧日本という形になるのだから、普通に超大国ブリタニアの君主として挑めばいいだけの話である。
いかにヘタレっぷりしかさらしていないクロヴィスであろうと、れっきとした生まれながらの皇族だ。支配階級であるナンバーズの挑戦としての抵抗運動であれば、王者としての態度で受けるだけの度胸は持ち合わせている。
曲がりなりにも弱肉強食を是とするブリタニアにおいて高位で生き残ってきたのは伊達ではない。少なくとも、彼とて決して無能ではないのだから。


だが、現実は非情である。
もう、とにかく、自分が頭に思い描いていた彼以外だったら誰でもよかったのに、やっぱりゼロの中身はよりにもよってあのルルーシュだった。
それにもかかわらず頼みの綱のマリアンヌが成仏したという現状だけでもいっぱいいっぱいなのに、よりにもよって反逆企てているであろうシュナイゼルの配下が第七世代KMFに乗ってこちらに乗り込んできやがるなんて、いくらなんでもひどすぎる、と彼はいつも以上に天を怨んで嘆いてその上で一周回ってむしろ祈っていた。
ルルーシュ、超怖い、誰か助けて、と。


「くっ、スザク! お前はどこまで俺の邪魔を」
「お下がりください、ルルーシュ様!」
『どうしてユフィにあんなことをしたんだ、ルルーシュ!』


今のところ、彼はあのランスロットとか言うのに釘付けになっているっぽいのでこっちに対してスルーしているが、ゼロの正体がわかったところで素顔が割れたとおとなしくするような相手ではないのは明らかだ。
ナナリーを皇族に復帰させてからはナナリーの身を気遣ってか若干ながら公共施設に対してのテロ行為を控えていたように見えた彼であるが、正体を知られたとなればもはや遠慮もせずに堂々と正面から攻撃してくる可能性は、十分にある。

というか、ここまで乗り込んできている時点でもう完全に一人テロである。
クロヴィスの思考能力ではどうやってもこのかつての反省を元に作り上げられた幾重もの防衛網をたった一人で潜り抜ける方法など思いつかないが、この幼少の頃よりその超絶知力の片鱗を見せ付けていた異母弟にはそれができてしまうことに、クロヴィスは戦慄する。
どういう手段を使ったのかはいまだに不明であるが、あの可愛くも聡明であった義母弟はあのイカレタ伯父上(VV)の系譜としてふさわしく、ずんばらりんな手法で乗り込んできた挙句に実の父の体に入った腹違いとはいえ実の兄に対して銃を突きつけるような男になってしまったのだ。
いくらなんでも嫌な方向で成長しすぎであろう……まあ、前も一回シンジュクゲットーでしてるけど。


「こい、我がKGF、ジークフリート!!」
「(何で!)」


そして飛び込んでくる橙色で緑の棘を持ったオレンジ型の機体。
主が主ならばその部下は部下で、地下にある格納庫から掛け声一つで突如ジークフリートを呼び出す始末。
思わずバトレーは心の中で突っ込みを入れてしまった。

つけていない。
そんな機能はつけていない。

クロヴィス軍団虎の子の最新最強のKGFであるが、基本的にKMFからの派生技術から生み出されたものである以上は音声認識なんて機能はなく、当然ながらそれを聞いていきなり起動してここに突っ込んでくる、などという機能も一応の開発に関わっているバトレーには一切覚えがなかった。
ここはあくまでコードでギアスな世界観であって、Gなガンダムな世界ではないのだ。

にもかかわらず、目の前では普通にKMF対KGF戦が唐突に始まってしまう現状に、クロヴィスとバトレーはほとんどついていけていなかった。


『くっ、なんだ、この機体は!』
「……いいぞ、やってしまえ、我が騎士ジェレミア! ここでスザクを断てるのならば、それに越した事は無い、フハ、フハハハハハハ!」


そしてそんな連中も今は反目しあっているように見えるが、だからといってなぜか双方から共通の敵とみなされているっぽい以上、シュナイゼルと手を結んで二人でこちらに対して攻め寄せてこないとも限らない。
不安と恐怖にクロヴィスは発狂しそうになった。

とりあえず、逃げたい。
だが、どこに逃げるというのか。

皇帝であるクロヴィスが必死こいて様々な防犯対策をした―――まあ、部下に丸投げしたわけだが―――玉座以上に、彼にとって安全な場所なんて多分地上においてもはやどこにもない。
すなわち、逆説的にここにこうも容易く何人にも侵入されるようでは、地球上のどこに逃げても同じであることの証明となってしまう。
まあ彼は知らないが、どのようなシステムであろうともその一部でも人間が関わっているのであればルルーシュの侵入を防げるような建造物はほとんどない。何せたった一人でも関係者が見つかってしまえば、後は芋づる式にルルーシュの手駒にひっくり返ってしまうのだから。
それこそ宮殿ごと天空に舞い上がらせてバリア張ってさらに原爆で威嚇することで物理的に近づけないみたいな馬鹿なことやらない限りほとんど不可能なわけであるが、それを改めてクロヴィスは自覚したのである。

どこに逃げようとも、待っているのは恐怖の上での死。
だが、先ほどからどれほど声を張り上げても護衛であるはずの近衛兵や膨大な金銭や地位を使って味方につけたはずのナイト・オブ・ラウンズたちが来る気配はさっぱりない。
いったいどうしたというのだろうか?


例)
ワン  →マリアンヌにいい含まれて外していた。ぶっちゃけ彼にとってはマリアンヌ>皇帝。成仏には気付いていない。
スリー →専用機未開発のため、ヨーロッパのテロ鎮圧の責任者となって手一杯。そもそもかませだし。
シックス→気絶中。背後霊が消えたよ。やったね、あにゃちゃん。
テンさん→情報が届いていないので領地で究極のトマトジュースを配下に作らせている。ほら、一応貴族だし。
その他 →モブを脱出しようと必死。が、このせっかくの見せ場に出てこないあたり、所詮モブ。


流石にこの場に音声認識でロボット呼べるだけの人材がいれば、クロヴィスの立場ももっと前段階で楽になっていたはずである。
極めて優秀とはいえ普通の騎士であるラウンズにはそれぞれの事情があり、彼らからそれをすべてすっ飛ばして皇帝の前に駆けつけるだけの忠義を得るには、いろんな意味でクロヴィスの能力が足りない。
そんな現状を知らぬクロヴィスにとってもはや頼れるのははたにいる忠臣バトレーだけなのだが……


「で、殿下……」


ぶっちゃけ彼の能力はさほど高くない。勿論、決して低くもないのであり皇族の側近を務めるには十分なほどにそこそこ優秀であるのだが、その方向性は極めて主君によく似た有能さだ……すなわち、天才には勝てない程度の優秀さ。
ギアスだとかいう超常の存在を抜きにしても指揮や運営能力では到底ルルーシュには叶わず、運動能力ではスザクに遥かに劣る。

それゆえ、クロヴィスの縋るような視線を受けたとしても、即座に妙案が浮かぶはずも無い。
それでも彼は考えた。たとえどれほど他の皇族と比べて能力不足を詰め寄られようとも、それでも彼にとっては幼少のみぎりより仕え、見守ってきた唯一無二の主。
たとえ外見が縦ロールおっさんになっていたとしても、見捨てられるはずなど無かった。

それゆえ、その優秀な、しかし凡才の彼が頭をフル回転させた結果として彼の視界にとある少女の姿が写った。
思わず主君に目配せをやると、彼も彼女の存在を思い出したのか、わずかばかりに顔色に光が差す。


視線の先には緑髪の少女、CCの姿があった。



バトレーは人質、と思った。ちょっと優秀程度の頭脳ではそれは普通の事だった。彼はCCを捕獲していた事により、いくら不死の少女とはいえ感情も痛みもあること、そして彼女自身の生身での戦闘能力というもの自体は決して低くはないものの、体格や男女差というものを完全に無視できるほどでないことを知っていたのだから。
前線を離れて久しいとはいえ、それでも今なお軍人としてそれなりの力を持つバトレー一人では敵わなくても、クロヴィスだって王族としてのたしなみとしてある程度の格闘能力はあることを考えれば十分だ。
二対一で不意打ちを仕掛けてもなお一方的に叩きのめされるほどに実力差があるとは、かつての捕虜時代の彼女を見知っているだけにどうしても思えなかった。
そして、彼はクロヴィスとCCがCの世界ホットラインでつい先ほど契約を交わしたことを知らなかった。

クロヴィスは仲介役、と考えた。
バトレーの考えたCCの戦闘能力等のことは紙の上での報告としてしか知らないクロヴィスだったが、それとは別に彼と彼女はつい先ほど「契約」をした。あとで「チーズ君」なる未知なるモノを捧げねばならないだけに不安は残るが、しかし同時にその約束はクロヴィスがそれを手に入れるまでCCも彼を必要としていることの裏づけであろう。
捕獲して実験動物に近い扱いをしていたことで恨みを買っている恐れはあれども、今この場において明確に彼を助けると確約した者はバトレーのほかには彼女しかいない。
とにかく時間さえ稼げれば、あのランスロットとジークフリートの争いを見ての救援も来るはずだ。それまでにルルーシュがとち狂わないように、ある程度の説得をしてもらえれば御の字だ。
そして、彼はバトレーが自分が声も出さずに行ったCCとの取引を知らない事に気付いていなかった。


「(流石は我が騎士、バトレーだ。私の気持ちをよく理解している。よし、一緒になってCCに頼み込むぞ)」
「(おお、敬愛すべき我が主君よ。そうです、あなたはここで終わってしまってよいような器ではございません。たとえこの身を犠牲にしてでも、彼らと取引が出来るだけの材料を!)」


だからこそ主従はアイコンタクトの末、行動に移った。
目配せだけで互いの心が通ったと信じきって。
バトレーは捕獲を目的としており、クロヴィスはすがり付いてでも助けを求めようと思っているという違いはあれども、方向性としてはある程度に通っていたがために、二人そろってダッシュでCCに駆け寄ったのだった。

命の危機に心底おびえていた主君と従者、そして気絶中のアニャちゃん以外の二人が目の前のスーパーロボット大戦に目を取られている隙に、千載一遇のチャンスとばかりにかけよった二人の男の姿は、もちろんルルーシュとCCにもすぐに気取られた。


「お前たち、一体何を!」
「貴様ァ!」


だが、初動の違いによって命の危機がかかっている(と思っている)不死皇帝と中年将軍の決死のダッシュは、彼らに行動を起こさせる前に目的の接近を果たす事を許した。
方針の違いゆえに腕を引いてねじ倒さんとするバトレーと縋りつくようにその背に隠れようとするクロヴィスという行動の一貫性のなさに、CCは反撃しようとする足を止めて一瞬あっけに取られ、ルルーシュはその手に持った銃を向け損ねる。


「頼む、CC。さっきの契約どおり命だけは! ……って、バトレー、何をやっている!」「動くなぁ! ……って、殿下!?」


が、それはクロヴィスとバトレーにとっても同じ事。機嫌をとって許してもらわなければならない相手と、一気に制圧して次の相手への交渉材料としなければならない敵。
両者の認識の違いは当然ながら動きの違いとなり、三人は団子のようになってその場に倒れた。


「お前たち、このっ、離せ!」
「CC!」


中年男性二人にのしかかられて嫌悪感から思わず罵声を上げて張ったおそうとするCCと、いくら悪ぶっている上に今までの経緯から少女が死なないと分かっているとはいえ三人まとめて打ち抜いてしまうだけの悪辣さを持たないがゆえに皇帝を殺そうと銃を放つのではなく彼女に駆け寄る事を優先したルルーシュ。
そしてそうはさせじとルルーシュが一瞬向けた電磁銃に体を硬直させながらもCCを盾にして何とか防ごうとするクロヴィスと、ルルーシュが近付く前に何とかCCの命を握ってしまいたいバトレー。

全員が全員の都合で動く事を求めた結果としてすなわち、CCとクロヴィスのある程度の接触がなった。
「Cの力の保持者」と「ギアス能力者」の接触が。


「くっ、あああぁ!!」
「うぉ!」「ぐぇ!」
「CCゥゥゥゥ!!」


突如苦悶の声を上げ火事場の馬鹿力的な何かを発揮して成人男性二人をふっ飛ばすCCの力にクロヴィスらは抵抗できずにせっかくの団子状態を解除してしまう。
すわ、打たれる、と思い体を丸めるクロヴィスと、それに覆いかぶさるかのようにしてその身を盾にして主君を守ろうとするバトレーだったが、追撃は来なかった。

ルルーシュは必要の為ならばいくらでも悪ぶってやると決心している少年であったが、目の前の少女の苦悶を見殺しにしてまで復讐を優先するような男ではない。
CCに対する多種多様な不満はあれどもそれでも肌を交わし抱きしめあった少女が苦しんでいるのを見て、にっくき皇帝を始末する前にその下へと向かい、声をかけることを優先したのだ。


「CC,しっかりしろ! CC!」
「う、うう……」


いくら並外れて聡明とはいえいまだギアスなる力のことを完全には解明しきっていないルルーシュにはCの力が移ったことによるダメージの本質は理解できない。
だが、倒れたときに頭でも打ったかと抱き寄せる彼の瞳には、復讐者とは思えないほどの心底の心配の色が宿っていた。

彼にとってCCは決して完全無欠のパートナーではない。
彼女は未だに全てを語ろうとしないし、口は悪いし、性格も歪んでいるし、ピザばかり食べるし、部屋は汚すわ、服は脱ぎ散らすわ、勝手に人のベッドに入り込んでくるし、暇さえあれば弄んでくるしで不満は山ほどある。
だが、契約を結び、力を与えてくれ、ゼロとなり失ってしまうはずのたわいも無い会話をかわし、計略の見込み違いにより追い詰められた際にも命を助けられ、KMF戦があまり得意ではない自分を戦闘で守り、最愛の妹に決別を叫ばれたときにも抱きしめられ、孤独を突きつけられたときにも側にいてくれ、涙を流したときも慰められ、全てを失った際にも癒された。
ナナリーを失い、全てを清算する為にこの場に赴いた彼にとっては、CCは自分の最後までいるべきものであって、自分より先に倒れるなど考えたくも無いものであった。
だからこそ、倒れた少女を前にして復讐さえも忘れて、必死になって呼びかける。
その鬼気迫る姿に、クロヴィスやバトレーは銃を向けることさえ出来ていなかった。


それをうけて、緑髪の少女はゆっくりと瞳を開く。


「CC! っ、心配を掛けさせるな、この馬鹿!」


ただ、彼を認めて呟いた言葉は。


「え……あなたは? あ、新しい御主人様ですか?」


かつての彼女のそれとはまるで違う響きを持った言葉だった。


「っ!! 何を……言っている……? 悪い冗談はよせ、CC!!」
「す、すみませんすみません。すぐに起きますから打たないで下さい」


生れ落ちたときは無力な奴隷少女だった彼女は、しかしギアスに出会い、人の心を操り、そしてその力に半ば飲み込まれ、そしてギアスを与える側となった。
その中でいくつもの死を乗り越え、死を見取ってきた彼女とともにCの力があり続けた期間はあまりにも長かったのだ。
CCは中世のころより今の今までCの力の保有者であり、それは彼女の人格とさえ影響を及ぼしていた。

そして、ついに彼女がその力を受け取ったときにも行われた前提条件、成熟したギアス能力者とCCが肉体的接触が行われた。
その結果は、誰もが予想もしなかった方向へと向かっていてルルーシュを今までにないほど戸惑わせ。


「C……CC……」
「(なんかさらにやばそうな事になったーー!!)」


そして、クロヴィスの内心の叫びだけはいつもと一緒だった。



『Cの力』
CC→クロヴィス










おまけ

Q:ニーナ、どうなったの?


『日本人の皆さん、私、ゼロと結婚します!』
「そ、そんな、ユーフェミア様、どうして、どうしてそんなことを!」


イレブンはあまり好かないが、それでも敬愛するユーフェミア皇女殿下がおっしゃる事なら、と一応設けられたブリタニア側の席で特区日本の開催式典を見ていたニーナは思わず悲鳴を上げて立ち上がってしまった。


「はっ、まさか政略結婚……そんなの、そんなの!!」


いきなりあの慈愛に満ちた皇女がそんなことを言い出した背景を考えた挙句、ニーナの頭に多種多様の化学式が駆け巡る。
だって、普通に考えて仮面と結婚なんてありえない。
直接的な戦闘能力が皆無であれども、間違いなく天才の一人であるニーナ・アインシュタインの頭脳は、憧れるあまり同性愛の方向に行こうとさえしていた彼女の怒りを喰らってユーフェミアの貞操の危機を前に急速に回転する。
望むのは、テロの撲滅……ではない。ゼロなどという空虚な植民地の英雄を生み出したイレブンの反抗心を根こそぎ奪うような、強大な力。
それを今だれよりも真摯に、ニーナは願った。

が、今はまだ単なる無力な少女でしかない彼女の思惑は事態を収拾するには何一つ役に立たない。
彼女の思いをおいて、舞台上のモニターでアップ写されているユーフェミアと彼女の姉の会話は続いていく。


『ユフィ! 何を言い出している、そんなこと許さんぞ! そんなどこの馬の骨ともわからぬ男と結婚するなぞと』
『いえ、殿下、問題はそこではありません』
「そう、そうよ! ユーフェミア様が犠牲になるなんて!!」


最愛の妹の唐突な結婚報告に頭に血が上ったのか、超大国ブリタニアの第三皇女がエリア11のテロリストの首魁と結婚する、という意味とはまるで違った意味で捉えた言葉がコーネリアの口から発せられ、慌てて側近から訂正される。
それは提督としてはまるで相応しい言葉ではなかったが、兎にも角にも結婚に反対している、という事実のみで、「化粧濃いしリップも髪も紫だし可憐なユーフェミアの姉には似合わない、そのぐらいならばむしろ自分のほうが。嫌でもむしろ姉より妹として甘やかされたい」とか思っていたニーナの好感度を稼ぐ事に成功する。

が、そんな些細なことなど次に続いたユーフェミアの爆弾発言に完全に吹き飛ばされた。


『お姉さま、何が問題なんです? こんな仮面を被っているから正直びっくりしましたけど、彼は昔から料理も上手だったし、頭も良くて優しかったじゃないですか』
『ユ、ユフィ? 誰のことを言っているんだ?』
「……え?」


天才であるニーナの中で今まで培ってきた多種多様の学問がこねくり回され、ひっくり返された上で180度のオーブンに入れて10分たった結果としてそのすべてが一つの大量破壊兵器の結晶として固まってきて全四文字のうち「フ」と「レ」と「イ」まで理論体系が出てきたところで、ユーフェミアの発言で彼女の思考は止まる。
彼女の中でゼロはテロを人質にとって至高の存在であるユーフェミアの身を汚らわしい欲望のはけ口としようとする悪の化身だったはずである。


『私、小さい頃は彼の妹と本気でどっちが結婚するかで喧嘩だってしたことあるんですよ? お父様……皇帝陛下だってきっと事情を話せば認めてくださるに違いません』
『だから、誰のことを言っているんだ、ユフィ!』
『彼に秘密、って言われたからまだ言えません。でも、そのうちお姉さまにも紹介しますわ。フフ、きっとびっくりすると思いますよ?』
「そんな……嘘、嘘よ、こんなの……」


しかし、そんな男に無理やり結婚を強いられているはずの皇女殿下が、目の前にいる瞳を輝かせ、頬を桃色に染めてその桜色の唇で笑顔を絶やさないようにするその様はまるで恋する少女がその成就を祈るようで。
彼女に恋をしており、誰よりも彼女を愛していると思っている少女の頭の中の「イレブン虐殺する大規模爆弾作ってテロを潰してその手柄で第三皇女殿下とXXX」計画を完全に凍結させるに相応しいだけの破壊力を持っていた。


『だから皆さんにも今はナイショです! でも、そのうち紹介しますね、フフフ』
「……そうか。ユーフェミア様は幼いころからの夢を叶えるんだよね。だったら私、応援、しなきゃ、いけないんだよね」


デビューからずっと見守ってきたアイドルが結婚すると聞いて無理やり自分で自分を納得させる親衛隊員のような気持ちで、ニーナは呟き涙を流しながら歪んだ、されどどこか吹っ切れたような顔でモニターを見ながら微笑んで見せた。
相手が腹違いとはいえ実の兄であるという重要なことを知りもしないで、もはや祝福するしかないと思い込むニーナ。ある意味盲目的に偶像崇拝していた彼女にとっては、ユーフェミアの言葉だけが真実だったのだ。


「ユーフェミア様、お幸せに!」


そんな彼女に、いや、そもそもお前は舞台に上がれていないから、と突っ込んでくれる人は誰もいなかった。



A:のちにかつてイレブンとさげすんでいた日本人の青年と結婚し、二児の母となった。しかし自室の写真立てには家族の写真とともに今もユーフェミアの肖像画が……


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