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[40398] 【ネタ】リリカル☆銀英伝(銀英伝×リリなの)
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/10/08 00:08



皆様、お久しぶりです。
ボストークです。

このたびは【リリ☆銀】を読んでくださりありがとうございます。

現在、ボストークは本気で酷いスランプです(汗)
従来作品だけでなく長い文章が妙に書けなくなってしまい、なので気分転換に今までと違った作品を執筆したいと思い立ち、試しに勢いだけで書いてみました。

我ながら、リリカル☆なのは(主にStS)と、銀河英雄伝説のクロスなんてイロモノ過ぎる様な気もしますが(^^

真面目な銀英伝ファン&リリなのファンの皆様にはとことん向かないクロス作品となっているような気もしますが、失笑&苦笑混じりにでも読んでくだされば幸いです。



***



8/30
前書き追加。メインタイトルを改め、プロローグを独立した章にして追加すると同時に、第1話を微修正。


9/2
第2話を投稿しました。


9/7
第3話を投稿しました。


9/19
第4話を投稿しました。初の同盟サイド描写です。


9/23
第5話を投稿しました。新キャラ登場です。

9/25
第6話を投稿しました。艦隊や戦艦の話がメインです。
また第5話も誤字修正しました。

9/30
第7話を投稿しました。いよいよ”あのキャラ”が登場します。

10/7
第8話を投稿しました。今回は色気のない回です。





[40398] プロローグ ハヤテ「星々の海がウチを呼んどるでぇ~。あとオパーイもな♪」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/08/30 07:49



その宇宙に漂うのは、奇妙に情報が入り混じった混沌……

あるいは、行き場の失った未練や選ばれなかった可能性かもしれない。

全ては混沌より生まれ混沌へと還るのが摂理なれど……

出会うはずのない情報が結合し、ありえない物語を紡ぎだす……その物語は、果たしてどんな輝きを放つのだろうか?







**************************************



それはとある銀河、その一角で始まる物語。
しかし悠久の歴史を誇る星々の世界においては、1ページにも満たない出来事なのかもしれない。

銀河に広がる二つの多重星団国家である【神聖ベルカ帝国】と【自由チルダ同盟】……

”アルハザード”と呼ばれる超古代文明を起源としながら、政治/経済/国家構造に隔たりが汎銀河国家同士が衝突するのは、むしろ必然だったのだろう。

そして二国が最悪の文明衝突……即ち戦争という手段を選択してから、既に1世紀以上が経過していた。



***



統一新暦(チルダ同盟暦)75年/ベルカ帝国暦487年
アスターテ星域付近

それは宇宙(そら)に浮かぶ白亜の宮殿を思わせる、全長1.188mの巨大な船……
配下2万隻超の戦闘艦を従えた【神聖ベルカ帝国(Heilige BELKA Reich)】が誇る最新鋭”魔導戦艦(Magie Schlachtschiff)”の【ブリュンヒルデ】は、白を基調にバランスよく黒を配色した流線型の優雅な船体を、全てを睥睨するようにアスターテ近海に浮かべていた。

全ての物語は、この戦艦の一室としては破格の、しかしこの船には相応しい豪奢さで飾られた展望ラウンジより始まるのだった。



「マスター、星を見ておいでですか?」

展望室の豪奢な椅子にただ一人座る人物に問いかけるのは長い銀髪に女性としては長身で、そしてグラマラスさとシャープさが共存する、漆黒の軍服(と呼ぶには少々華美過ぎるが)がよく似合う妙齢の女性だった。
強いて言うなら”銀髪のノッポさん”と表現すべきだろうか?

「まあ、半分は正解やな」

そう答えたのは、展望室に添えつけられた豪華な椅子に座る人物。
こげ茶色の髪を女性にしては短く……肩に届くか届かないか程度で切りそろえ、表情はまだどことなくあどけなさを残している。
くりくりと好奇心旺盛によく動く大きな愛らしい瞳はどことなく子供っぽい印象を与えるが、それ以前にこの時代の女性の平均身長を大きく下回る背丈に、なんというか……胸は辛うじてつつましくも自己主張こそしているが、なんとも脱いだら凄いのではなく服の上からでもそこはかとなく幼児体形であることを連想させる。
それになんというか……どことなく”タヌキ”を連想させるのは、何故だろうか?
それも、リアルなそれでなくぬいぐるみチックにデフォルメされたそれだ。
理由はどうあれ、それも”彼女”の魅力ではあるのだろうが。

実際、身近な人々から【宇宙(そら)のちびダヌキ】と揶揄される彼女……そう、彼女こそがこの大艦隊を率いる神聖ベルカ帝国軍上級大将、史上最年少で上級大将へ上り詰めた

【ハヤテ・デア・ケーニッヒ・フォン・ナハトヒンメル(Hayate Der Konig des Nachthimmel)】

である。
”Konig des Nachthimmel”とは即ち”夜天の王”という意味であり、それは彼女こそが古代ベルカの超級古代遺失物(ハイエイシェント・ロストロギア)の正統継承者であり、同時にこの時代では数少ない即位している”ベルカの王”の一人であることを意味していた。

「半分とは?」

銀髪のノッポ美女が聞くと、

「星をオパーイに見立ててたんや」

何故かドヤ顔でハヤテは返した。

「はぁ?」

「ええか”リィン”。銀河を彩る恒星には色も大きさも様々や」

「は、はぁ……」

明らかに戸惑う銀髪にタヌキっぽい王様はグッと目力を入れ、

「オパーイにも様々な大きさや色や形、それに感度がある。かつてウチは大きさこそ正義であり、唯一の基準やとおもっていたんやけどヴィータ達を見てるうちにそれが誤りやと気が付いた。そう……」

我らが”夜天の王”はグッと拳を握り、

「輝く星々に貴賎がないようにオパーイにも貴賎はない! あるのはただ個性だけや!!」

まるでこの世の真理の様に高々と宣言するハヤテに対し、銀髪のノッポ美女……”リィン”、正式名称”リィンフォース・アインス(一世)”は、完璧なただし体温を感じぬ微笑と共に、

「マスター、リテイクです」

「んがっ! 副官に冷静にダメ出しされた!」

そして体温を感じない声で続けた。

「誤解なさらないように。私はマスターの副官待遇ですが、基本的にマスターのデバイスであり”ブリュンヒルデ(このふね)”のコア・ユニゾン・コントロール・システムであり、同時にお守りでもあります。主に言動と胸回りと体形などをはじめ、何かと残念なマスターがせめてベルカの王の端くれらしく振舞えるようにすることが使命だと思ってます」

「しかも回答がセメントや!?」

ハヤテは知らない。
人造系銀髪ヒロインは、セメントの回答がデフォ設定されているということに。



***



「うう~……ええやんええやん。戦争よりオパーイが好きな夜天の王がいたかて。リィンのいけずぅ」

立場から考えたら珍妙な光景だが、ともかくあからさまに拗ねる幸か不幸か夜天の王を継いでしまった少女に、リィンはクールな微笑みと共に、

「そんなことよりマスター、”皆様”がお待ちです」

「軽く流された!? ん? 皆様……ああ、分艦隊のおっちゃん達かいな。というかうちの”居候”も混じってんねんけど」

リィンは軽く頷き、、

「ええ。皆様、既にブリッジへ集まっています」

「わざわざ忠信に来たってわけか。ご苦労なことやな」

苦笑するハヤテだったが、

「皆様、不安なのですよ。何しろ行く手……アスターテには、当艦隊の倍に及ぶ戦力が三方から待ち構えているのですから。下手をしなくても”ダゴン星域会戦”の再現になりかねません」

「フン。ダゴンの再現が怖くてダンゴが食えるかい」

そう息巻いてはみるが、ハヤテは少し考え直し、

「でも、確かに気をつけるべきやな……予定通りに来るのが第6艦隊、”猪ムーア”やったら、煮るなり焼くなり料理の方法はいくらでもあるんやけど」

彼女が頭を悩ますのは、進軍中に入ったとある報告。
本来なら敵国……【自由チルダ同盟】が、ハヤテを迎撃するために用意したのは、第2/4/6の計3個艦隊。
だが、ここで誰もが予期せぬことが起きた。

(ムーア提督が取り巻きと一緒に宇宙の塵に……か)

同盟の軍艦は帝国の艦と違い、艦自体の大気圏への降下/離脱能力はない。
だからこそ地上から往復航宙機(シャトル)で行うのだが、

(ムーア座乗のシャトルが、デブリに衝突して木っ端微塵……これはどう判断すべきやろか?)

今回の出兵直前に、その事故が起きた。

(イマイチ釈然としないタイミングなんやけど……問題なのはそこじゃない)

そう問題なのは、ムーア提督の代打として抜擢された人物……

「”緑の宇宙女狐”は、決してナメてかかっていい相手やないからね」











*************************************



皆様、こんばんわー。
現在、長文リハビリ中(?)のボストークです。
この【リリ☆銀】も不安定ながら連載できそうなので、思い切って加筆修正をメインに改定してみました。
エピソードとして少しは完成度が上がっていれば、幸いです。



オマケの簡易キャラ設定

原作名:八神はやて → ハヤテ・デア・ケーニッヒ・フォン・ナハトヒンメル(Hayate Der Konig des Nachthimmel)
この作品においては地球人じゃなくてベルカ人。先祖が地球の日本人だった可能性はある。現在19歳のタヌキっ娘。
原作同様に9歳までは平民だったが、誕生日にエンカウントした”夜天の書”に『汝、我のマスターか?』と問われ、肯定したことにより運命は一転。
今や神聖ベルカ帝国においては皇帝に次ぐ権威であり武威でもある”王”の一人。
身も蓋もない言い方をすれば、原作の金髪さんの立ち位置にある娘。
お陰で総合戦闘力はかなり高そう。
ちなみに一人称が”ウチ”なのは仕様です。
実は意外にモテるらしい……?

原作名:リィンフォース・アインス → リィンフォース・アインス
原作と同じく”夜天の書”の管制人格(司書)だが、どうやらハヤテの愛艦【ブリュンヒルデ】のコントロールにも深く関与してるようだ。
言ってしまえばハヤテやブリュンヒルデとの関係は、【騎士/ファティマ/MH】みたいなものだろうか?
赤毛のノッポさんのコンバート要員で、銀髪のノッポ美人。
性格はセメントで、初代夜天の王から英々脈々と続く多くの戦闘データを保有してるらしい。いわゆる『生きる戦争辞典』みたいな感じ。
妹(娘?)がいるかは、現時点では不明。







[40398] 第1話 夜天王「まあいわゆるチュートリアルってやつやな」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/08/30 02:36



ハヤテ SIDE

ウチの愛艦である”魔導”戦艦【ブリュンヒルデ(Brunhild)】には、普通の戦艦にはない様々な装備やらアメニティやらが整っておる。
ウチの許可がなければ側近……リィンをはじめとするウチの家族、古代魔導書”夜天の書”に集いし円卓の守護騎士【ヴォルケンリッター(Wolkenritter)】しか入れないプライベートスペースとか、今ウチがいる展望ラウンジなんかがそうやろな。
そんな設備の一つに、今まさにウチが向かっている艦橋(ブリッジ)に併設された”謁見の間(Der Thronsaal)”というもんがあるんや。

あ、今「豆ダヌキのくせにえらそーな」とか思ったやろ?
仕方ないやん。
ウチは別に贅沢したいなんて思うてはおらへんけど、これでも神聖ベルカ帝国(Heilige BELKA Reich)を代表する”王(Konig:ケーニッヒ)”の一人なんやから、それなりに体面とかなんとかゆー七面倒くさいこともせなあかんのや。

基本的に神聖ベルカ帝国ゆうんは、尚武(武威を尊ぶ)の気風が遥か太古……今の国名になるずっと昔から継承されてきた土地柄に生まれた帝国やねんな。
そんな国やさかい、今のベルカは最強の存在たる”皇帝(Kaiser:カイザー)”を頂点あるいは核として崇めるのが基本となる。

そんでもってウチら”王”いうんは、その皇帝に次ぐ”武”を持つ者と定義される存在で、近衛や親衛隊みたいな立ち位置になるんかな?
まあ、直参って意味やったら大身旗本とかでもそう間違ってないかもしれへんね。

ちなみにこの場合の”武”いうんは、”個人の武”のことや。
宇宙戦艦が万単位飛び交い、みょーにSFチックな武器つこおて光秒単位の距離で艦隊が撃ち合う時代に、個人の武威などどう役立つかと思うかもしれへんけど……

とぉ~ころがぎっちょん!!
実はこれが結構、意味があるんや。
帝国/同盟問わず【魔法や魔力を機械的に増幅する技術】が多々あるんよ。
基本は、個人の術式や魔法を人工魔力供給装置、例えば魔導炉なんかで増幅するって感じのシステムなんやけど、これが魔力資質やら術式適合やら相性問題における増幅率の変動やらってややこしい法則やら定義やらがあるんやけど、それは割愛させてもらうな?

ともかく、そんなシステムがあるお陰でやろうと思えば個人の武を、天文単位にまで拡大することも不可能やない。



***



少しずれるけど、少しこの話を掘り下げてみよか?
今のベルカの皇帝は450年以上続く”聖(Heilige)”王朝で、聖帝(Heilige Kaiser)や聖皇家(せいおうけ)とも言われておる。

事の発端は約500年前に始まったベルカって区域やら民族やらが定まってから何度も起きた、ある意味名物や風物詩になりかねない”大戦乱”や。
王朝の終わりにベルカなら必ず起きる騒乱祭り、その末期に勝者になったのが、当時の”聖王”。
そう、現神聖ベルカ帝国皇帝家も、また当時は王家の一つにすぎなかったんよ。

『汝、祈るなかれ。神へ傅く前に拳を握り、なれば天へと突きださん。それこそが至高の奉納なりや』って碑文が古代神殿の遺跡にのこっとる我が国だけあって、

『力を失いし皇家が滅びるは必定。力により新たな皇になったものこそ正統。それは簒奪に非ず。衰えた古き力がより強い新たな力に飲み込まれるは摂理。力を媒介として行われる禅譲に他ならぬ』

なんとも寝ぼけた言い回しに聞こえるかもしれへんけど、ベルカ王朝/帝位継承の慣わしとして伝わってるこんな言葉があるんやよね~。

さて、その騒乱の時代を制した聖王……いや、戦乱の覇者たる神聖ベルカ帝国初代皇帝【聖帝”オリヴィエ”】には、”聖王の鎧(Rustung des Heiligen Konig)”っていう固有魔法を持ってた。
その性質は”あらゆる攻撃からの絶対防御”って身も蓋もない力だって話や。

そして、この力は言うまでもなく現在の聖皇家にも脈々と受け継がれているんや。
流石に初代に匹敵すると評される力の顕現をするものは、止血帝や晴眼帝なんか片手の指で数えられるほどしかおらへんけど、特に近年においてキャラが濃い……もとい。傑物とされるのが、先代の聖帝【フリードリヒ4世(Friedrich von Heilige IV)】や。



***



フリードリヒ4世は別命、”拳闘士帝(Der Friedrich von Kampfer)”という二つ名で知られるほどに武勇の優れた人物で、若い頃は帝国どころか同盟にまで『余より強い者と拳を交えにいく』ってノリでお忍びで入り込んで武者修行をしたって逸話が残ってるほどや。
また、それに似つかわしいハチャメチャで出鱈目な武勇伝も数多い。
実際、フリードリヒ4世が若い頃は皇帝に即位できないと周囲から思われて兄や弟が次期皇帝に有力視されていたんは、その破天荒すぎる行動で、絶対に早死にすると考えられていたからなんよ。

そして皇帝に即位したフリードリヒ4世は、歴代聖帝愛用の御召艦(おめしかん)……規格外の巨大戦艦というより、むしろ超巨大戦艦型デバイスのロスト・ロギア、【聖王のゆりかご(Wiege der Heiligen Kaiser)】に乗り込み、今度は帝国の宇宙(そら)を所狭しと暴れまわった。
【聖王のゆりかご】は、聖帝(聖王)が座乗する全長6kmを超える桁外れの巨大高度戦闘艦であると同時に、専用の増幅型魔導デバイスなんや。

そしてフリードリヒ4世、この”聖王のゆりかご”を相棒にあるときは100隻を超える海賊船を1隻でフルボッコの末にアジトごと叩き潰したり、あるいはとある有力貴族の叛乱では敵艦隊のど真ん中に空間転移して、

『余は未だ負けを知らぬは帝國不敗よ! 我が力恐れぬというなら、存分にかかってこんかぁっっっ!!』

なんて台詞と同時に、ブリッジで腕を組んで漢立ちしたまま”聖王の鎧”をゆりかごで増幅展開しながら首謀者貴族が乗る敵艦に体当たり、盾艦ごと宇宙の藻屑に変えたらしいで?
無論、ゆりかごには傷一つついておらん。
ウチのブリュンヒルデも【物理/魔法の四重防護】が売り文句の非筒の頑丈さも自信ある船やけど、流石にゆりかご相手に勝てる気はせーへんわ。

ともかく、先代聖帝のエピソードは一見すると眉唾な滅茶苦茶なモンが多いから、あんま参考にならへんけど、魔法やらなんやらって個人の武が、宇宙戦争の時代でも一定の効果や意味があるってことは、理解してもらえたんやないかな?
特に機動兵器はそれが顕著で、せやから未だ人型が主流なんやけど……これはまた別の話やな。



***



そんな時代であり世界であるからこそ、皇帝に次ぐ武威の王いうんは価値があるし、特にベルカにおいては、なんの後ろ盾がなくても優遇される。
何よりベルカで尊敬や権力、あるいは権勢を掴もう思うたら武威は避けて通れん話や。
王の下には【公・候・伯・子・男】の爵位で決められる貴族ってのもあるんやけど、彼らの場合は『経済力もまた力』って概念で特権階級にいるだけやし、基本的に爵位は納税額で決められるのが基本やさかい、チルダ的な言い方をするなら裕福な地方領主や星持ち地主、あるいは鉱物資源惑星や大企業のオーナーなんかになるかな?

せやけど、彼らはやはり圧倒的な……それこそ増幅すれば星すら砕きかねない武勇を誇る王ほどの権威や尊敬を集めることは絶対にあらへん。
また、ベルカの価値観も”王は皇帝の下に、貴族は王の下に”というのが不文律や。
そないなわけで、いつの間にやら『王を経済的に支えるのが貴族の役割』なんて風潮が出来て、有力貴族であるほど王のパトロンになりたがる。
少し生臭い言い方をするなら、ベルカにおいては王の後援者であることが大貴族のまたとないステイタスであり、同時に権威を得る絶好の機会やってことやな。

それ以外にも特に領地/領民持ちの貴族やったら、無闇に叛乱を起こされないためにも王に居て欲しいと思うのが普通ちゃうんかな?
ベルカは尚武の国や。
つまり平民でも力があるなら貴族、あるいは王や皇帝になりあがるチャンスはあるとされている。
領民が貧困にあえいで領主に反旗を翻し武力で訴えるような圧政を敷く貴族なんか滅多におらんへんくせに、そのわりには叛乱が多いのはそのあたりも理由やろ。
なんたって下克上は、ベルカにとってデフォ社会概念やしな。
そんな腕に覚えのある平民でも、金が力の貴族なら歯向かえても権威も武威もある王に歯向かおうなんて輩は、よっぽどの実力者やあるいはよっぽどの阿呆だけや。

それ以外にも、”騎士(リッター)”いう王に次ぐ武威を誇る、『地上では生身で、宇宙では機械仕掛けの魔導甲冑で武を存分にふるう存在』もあるんやけど、これもまた長いんでまた別の機会にな?



まあ、駆け足だったけど大体ウチが、あるいは”ベルカの王”がおかれた情況や立ち位置、それを取り巻く世界をわかってくれたかな?

さて、そろそろ現実に回帰せーへんとな。
ウチは、妙にクラシカルな謁見の間の扉をあけて、

「待たせたな、みんな!」












************************************



こんばんわ、ボストークです。
何故か続いてしまった”リリ☆銀”です(^^
今回は銀英伝キャラが出てくる前に、ハヤテの口から世界観のチュートリアルってわけで。
それにしても……話的に既に故人のフリードリヒ4世は、一体どんな人物だったんだろか?(汗)

8/30、微修正しました。





[40398] 第2話 夜天王「まだおさわり程度やけど、一応面子は揃ったで♪」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/09/04 20:25



ハヤテ SIDE


「みんな、またせたな!」

そうウチは景気よく扉を開けて……ってこの扉自動やったな。見かけはクラシカルなんやけど。
その扉の先にあったのは、ブリッジに併設された”謁見の間(Der Thronsaal)”……まあ、ホンマの王宮にあるようなそれに比べればスケール的にみみっちいゆーか、いかにもなんちゃっていう雰囲気や。

(それにしても……)

部屋の周囲を囲むように立ってるパチモン大理石の柱群は、どうにかならんものかいな?
どこぞの古代神殿をモチーフにしてるらしいやねんけど、何かの拍子で倒れてきそうで怖いわ。
まあ、謁見の間なんて滅多に使わへんし、ウチらが常駐しとるブリッジは、逆に合理的でシンプルな構造にしてあるからえーねんけどさ。



それはともかくとして、ウチは一段と高いところにしつらえられた玉座に腰掛ける。
別にウチは立ち話でもえーねんけど、これもまた慣わしゆーやつらしい。
要するに他の者達が立ってる中で、一人だけ高いところの椅子に座って見下ろすように睥睨する……なんゆーか、権威主義もここに極まれリやな。

さて、ウチにとっては提督席よりずっと座り心地の悪い玉座、けどその左右を固めてウチを待っていたのは、安心印の夜天の王(Hayate Der Konig des Nachthimmel)の誇る円卓の守護騎士にしてウチの大事な家族、
【ヴォルケンリッター(Wolkenritter)】や。

ヴォルケンリッターを構成するのは四人。
騎士として卓越した能力だけじゃなく、高い戦況判断力や指揮能力から唯一の帝国正規軍の将官の階級を持つ【烈火の猛将】こと”シグナム”。

直接的な戦闘力より回復系や転移術等の豊富なサポート魔法を駆使しての後方支援が大得意な【湖の賢者】こと”シャマル”。

特に一発の威力が折り紙付きで、硬さと速さを生かした突破力と突進力は随一のハードヒッター【鉄槌の騎士】こと”ヴィータ”。

そしてマッチョな肉体に見合った鉄壁の防御力が持ち味の【盾の守護獣】こと”ザフィーラ”。

生身での戦闘力は、特にコンビネーション・バトルさせたら反則気味なぐらい無類の強さを発揮するんやけど、それだけじゃないのがヴォルケンリッターや。
得意とする戦場は地上だけでなく、宇宙版の騎士甲冑とか機械仕掛けの巨人兵とも言える【機甲騎士(カンプフ・パンツァー・リッター:Kampf Panzer Ritter)】……それぞれの特性に合わせた専用騎に乗り込むことにより、宇宙(そら)でも無双の強さを発揮するっちゅうこっちゃ。

他にもシグナムはウチの直轄艦隊の艦載機動兵器部隊の指揮官を務めてもらっていたり、ヴィータは選抜切り込み隊(?)率いてもろうたり、ザフィーラはここぞという時に最強の盾の本領発揮って感じや。
シャマルは、実際には【ブリュンヒルデ】に留まってもろうてサポートに徹してもらう場合が多いけど、いざ戦わせたらかなりの曲者やで?



***



そんなウチ自慢の円卓の騎士の紹介は、今回はここまでにしとこな。
ヴォルケンリッターのことを語りだしたら、一晩でも二晩でも話せてまうし。

(さてと……)

ウチは今度は玉座の前へと視線を移す。
女の子主体のヴォルケンリッターに比べて、目の前(正確には眼下なんやけど)の風景はなんゆーか……一言で言えば”渋い”。
色合いは微妙に違うねんけど、ロマンスグレー(灰色)の頭だらけやな。
一人、歳若い……ウチとあんま歳が変わらん顔馴染みがおるけど、それも銀髪やさかい妙に髪色的に違和感ないなぁ~。

そう、ウチの前に居並ぶのは、今回のアスターテ遠征に同行してもろうてる五人の分艦隊司令官、平たく言えばベルカの提督さんやな。

何やらやり手の老執事らしき風格漂う初老の男性は、ウチの艦隊戦のおししょーさまで今回の遠征の副官的(あるいはお目付け役かいな?)な立ち位置で燻し銀の実力が光る”ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ(Wilibard Joachim von Merkatz )”大将や。
それに参謀役のシュターデン中将ともう一人の中将のフォーゲルはん。
少将のエルラッハはんに、いやもう飽きるほど顔を見ている『アー君♪』こと”アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト (Adalbert von Fahrenheit) ”少将やね。
ああ言っておくけど、別にアー君の顔は本当に見飽きてはないで?
ええ加減10年来の付き合いやし、幼馴染言うても間違いないねんから♪

とりあえず見回すふりしておししょーとアー君に小さくウインク。
おししょー、なんで溜息ついてんねんな?
それにアー君、判り易く笑いかみ殺すのやめい。
そりゃウチかて、こないな瀟洒な仕草は似合わへん自覚はあるけどさ。








**************************************



さて、いよいよ謁見モードや。
一番最初にシュターデン中将やった。
シュターデン中将は別命”理屈倒れのシュターデン(Staaden von Theorie gefallen)”とか呼ばれているらしいけど、彼の発言の長さをかんがえるとそれも頷けるな。

長話を要約すれば『二倍の敵に挑むなんて無謀。いっそ、さっさと撤退すべき』ということなんやろうけど……

(流石にいつまでも戦術論の独演会を聞いてるわけにもいかんなぁ~)

「あいやわかった。シュターデン中将、もう充分や」

と適当なとこでぶつ切りカウンターを発動させといて、

「せやけど、シュターデン中将……自分、ホンマにこのまま素直に撤退してええと、本気で思ってるん?」

ウチの切り返しに、中将はグッと言葉を詰まらせた。
まあ実際、今回の遠征には色々と理由があるんよ。
それも不健全ゆーか、政治的な理由がな。

「合計22.000隻の艦隊を動かすのは、それだけで膨大な金がかかる。逆に言えば既に帝国臣民の血税がこれでもかと投入されとるんや。なんの成果もなく尻尾を巻いて逃げ出して、それで誰が納得するねんな?」

先ずは軽く金の話でジャブやな。
なんとなくウチのキャラにもあってる気がするし。

「しかし我らが全滅すれば余計に帝国の損失となります! それに今回の作戦目標を『アスターテへの威力偵察』とすれば、現時点でも言い訳は立ちます」

そう反論する中将やけど、

「あかんな。そんな言い訳はきかへんよ」

ウチはバッサリ切り捨てた。

「今回の作戦に必要なのは”勝利”や」



***



「勝利……ですか?」

疑問形の中将にウチは頷いて、

「中将、今回の出兵に対しての公的な理由はなんや?」

「【ヴィヴィオ(Vivio der Heilige)】陛下の生誕5周年と即位3周年の慶事に花を添えるためです」

「せやな」

確かに表向きはそうや。
我らが神聖ベルカ帝国の今上皇帝である聖帝ヴィヴィオは未だ5歳で、しかも先代のフリードリヒ4世が崩御し、聖帝に即位したのは僅か2歳の時や。
女帝ヴィヴィオは、生まれながらに”聖王の鎧(Rustung des Heiligen Konig)”を顕現し、かの拳闘士帝と名高い父のフリードリヒ4世にして『余を凌ぐ天賦の才』と言わしめたほどの天才らしいんやけど、所詮は5歳児。
当たり前やけど、未だ目立った武威の発動や内政の成果はない。

(そこでその権威にハク付けするための出兵が、今回の遠征ってわけや)

ただし、コレは表向きのカバーストーリーにすぎへん。
ちなみに誤解して欲しくないんやけど、ヴィヴィオ帝はフリードリヒ4世の孫ではなく子供や。
皇太子の”ルードヴィヒ”殿下が、当時先帝唯一の寵姫で最強の外威やった”ベーメミュンデ”侯爵夫人との命を懸けた一騎打ちの果てに相打ちとなって倒れ、更に二人の妃殿下が嫁いで、それからさらに数十年して生まれたフリードリヒ4世の末っ子で最後の子供がヴィヴィオ帝や。

『老いてなお盛ん』と評されることの多い先帝やけど、これに関してはウチはあまり多くは語れへんのや。

(なんせヴィヴィオ帝の母親ってのは……)

これまた最後の寵姫だったその……ウチの”姉貴分”みたいな人や。
これに関しても色々裏話があるんやけど、それはそのうちにな?

ただ、ウチは個人的に先帝の死因は閨の上での肉体ぶつけ合う近接戦でエキサイティングしすぎたせいやと思ってる。
ヴィヴィオは70歳近くで生まれた子やしな~。
というか歳の差半世紀ってどんなカップルやねん!?
犯罪臭がするどころの騒ぎやないでホンマに……



***



さて、話を元にもどそ。

「シュターデン中将、それはあくまで表向きの理由や。それの裏の理由……いや、今回の遠征の”真の理由”に気がついておるか?」

怪訝そうな表情を向ける中将に、ウチはこう言い切る。

「今、帝国が近年稀に見る”危機的状況”にあるいうこと……ちゃんと認識しとるかと聞いておるんや」














**************************************



皆様、こんばんわ。
ボストークです。
主に執筆時間の制約で今回も短いですがなんとか書き上げました。

短いなりにも台詞こそないですがヴォルケンリッターの四人や原作の提督×5を出せてよかったんぁ~と(^^

何より、ハヤテとファーレンハイトやメルカッツとの関係や、ヴィヴィオが実はフリードリヒ4世の孫ではなく娘だとか、あるいは今は亡き皇太子や寵姫の熱血バトルとかまたしてもネタというよりツッコミ所満載です(笑)

一体、ヴィヴィオのおかんって誰だろうなー(棒読み)



9/3、微修正しました。







[40398] 第3話 夜天王「戦争はあくまで政治の一形態なんやと、遠い昔に誰かが言ってた気がすんで」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/09/07 17:06



ハヤテ SIDE



「シュターデン中将、それはあくまで表向きの理由や。それの裏の理由……いや、今回の遠征の”真の理由”に気がついておるか?」

「今、帝国が近年稀に見る”危機的状況”にあるいうこと……ちゃんと認識しとるかと聞いておるんや」

積極的な撤退を進言するシュターデン中将に、ウチはそう切り返した。

「……どういう意味ですか?」

やはりわかっておらんかったか。
純軍事、あるいは戦術的に考えれば、中将の考え方は悪うない。
現状、ウチら【アスターテ遠征特別艦隊】は、三方向から迫る倍の艦数を誇る敵艦隊に迫られつつある。
言うなれば、敵……自由チルダ同盟が狙っておるんは、我ら神聖ベルカ帝国にとって屈辱以外の何物でもあらへん”ダゴン星域会戦”の歴史再現やろう。

(しかし……)

ウチの見立てやと、問題はもっと根深い。

「ヴァンフリート星域会戦に第6次イゼルローン攻防戦、第3次と第4次のティアマト会戦……これだけの大規模な会戦が、ここ3年以内に集中しとる。自由チルダ同盟との戦争が始まってはや1世紀以上……その中でも、こないに大規模戦が集中したことはなかった。はっきり言って異常事態や。無論、偶然ともちゃう……この意味、わかるか?」

「……まさか、まだ幼く即位して日が浅いヴィヴィオ陛下治世を狙っての侵攻……?」

ウチは首を横に振り、

「不十分やな」

そう、それもあるねんけどそれだけやない。

「根深い言うたやろ? 同盟がここまで攻撃的になってる理由……多分、選挙が近いからとか寝ぼけたこと言ってるやつもおるかもしれへんが、そんな与太を真に受けたらあかんで? 三年も続く選挙キャンペーンはあらへんからな」

ウチは苦笑と共に台詞を一度切って、やおら真剣な顔で続ける。

「同盟が積極的な攻勢に切り替えた理由……それは、帝も王も含めた『ベルカ帝国の歴史的にも稀なほどの”弱体化”』や」



***



「ふ、不敬ですぞっ!!」

ヒステリックにシュターデン中将は騒ぐねんけど、

「何が不敬であるもんかい。単なる事実や」

ウチはにべもなく返す。

「ええか? 不敬いうんは、事実と異なる言葉で誹謗中傷することや。むしろ本当のことを覆い隠し、事実を捻じ曲げることこそ不敬やねんな」

だからこそ、ウチら戦場で人の命を預かるものは、その事実から目を逸らせたらあかん。
前提や原点が狂えば、決して正しい解へは辿り着けん。
間違った答えの代償は、屍の山で払わなあかんのやから

「シューターデン中将、帝国の強さの本質はなんや? 経済力か? 人口か? 宇宙艦隊の質や数か? ちゃうな。宇宙艦隊はともかく経済力も人口も、残念やけど帝国は同盟に劣ってるのが現状や」

お互い複数星団規模の汎銀河国家とはいえ、神聖ベルカ帝国の人口は1.800億人。対してかつての”時空管理局”体制の発展的解消により生まれ、管理世界のみならず数々の管理外世界や非管理世界を取り込んで発足した自由チルダ同盟の人口は2.400億人。
経済力比率は、ベルカ:チルダで5:6や。
人口比率ほど経済力格差が広がってへんのは、同盟発足時にあまり経済的な発展が望めない世界(基本的に主に惑星/星系、大きくとも星団単位の国家を”世界”と呼んでおったらしい)も取り込んだからのようや。

どっちにしろ、大きく水をあけられたわけやないけど、人口も経済も明らかに国力的に劣ってるのはウチらベルカの方や。

「でも、この1世紀以上続く戦争では、ベルカの方が分のええ戦況の推移を示してきた。それは何故や?」

押し黙る中将。
まあ、答えられるんやったら、そもそも撤退なんて事は言い出さんわな。

「ウチはな、それを尚武を好むベルカ人の気風に裏打ちされた”最強の武威を誇る帝”を頂点とし王達が脇を固め、貴族や騎士達に軍人に平民店…帝国臣民一人一人がその役割を果たす専制主義帝国、すなわち『神聖ベルカ帝国という社会システム』その物がウチらの強みやと思っておるんよ」



***



別に根拠のない推論やない。
神聖ベルカ帝国は、圧倒的な強さを誇る皇帝を力への憧憬ゆえに武威を尊ぶ臣民が、熱狂的に支持してるからこそ成立する社会システムや。
そんな気風やから、国民は上から下まで戦争には肯定的で、労せずに国家は常に挙国一致体制になる。
同盟のように文民統制(シビリアン・コントロール)やら加盟国国民の支持や意思の反映なんかを気にせんで、素早く効率よく戦争資源を戦場に送り出すことが出来る。
つまり同盟よりあらゆる意味で戦争がやりやすい国家システムを最初から持っているのが、神聖ベルカ帝国や。

「せやけど、その国家としての根幹が、近年かつてないほど揺らいでおる。その理由は中将の言うとおり、幼く即位して間もないヴィヴィオ陛下ってのも理由の一つではあるんやけど……」

今上聖帝のヴィヴィオ帝(Vivio der Heilige)は現在5歳、先帝の急逝(崩御)で即位したのは3年前……その時は僅か2歳や。

無論、そんな自意識すら芽生えてないような、ともすれば乳幼児に政(まつりごと)なんてできるはずもない。
せやけど帝国の政治に極端の齟齬が、少なくとも民生やら民事レベルで起きなかったんは、偏に国務尚書”リヒター爺ちゃん”とウチの姉貴分の”カリム姉”とかが頑張ったかさかい。
無論、それだけやのうて帝国経団連の重鎮たるヴィヴィオ帝の実姉&義兄夫婦のブラウンのおっちゃんやリッテンのおっちゃんが気張ってくれたし、『公式には存在しない組織』……情報という意味で帝国の裏や暗部を取り仕切っていたグリンじーちゃんが、文字通りの裏方として身体を張ってたからや。

(でも、それも限界にきとる……)

「問題は陛下だけやない。ベルカの長い歴史において、幼帝が即位するなんて聖帝家の統治下時代以前からぎょーさんあった。せやけど、その時代には必ず帝が元服し、その力を十全に発揮できるようになるまで支える守護者……”武威の代行者”がおったんよ」

それは即ち、

「そう。帝に忠誠を誓う”王”の存在や」



***



「今のベルカは、皇帝だけやのうて帝を支える王もまた弱体化しとる」

認めとうないけど、それが事実や。

「聖帝統治時代、神聖ベルカ帝国になってから最盛期には、”八大竜王”やの”ヤマタノオロチ”だのって同盟に恐れられた八人もの王を有していたベルカやけど、今現在で”顕現”した王はウチ、夜天王以外では”覇王”と”冥王”の二人しかおらん。その二人とてまだ元服どころか、10歳にも満たないのが実情や」

聖帝もかつての王の一人であり、その中で勝ち残り皇帝となったのは前出のとおりやけど、そもそもベルカにとって”王”というのはなんぞや?って疑問も当然あると思う。

色々な定義はあるんやろうけど、一言で言うなら『科学や魔法の境界を越えた不条理なほどの”固有異能”の持ち主』ってとこやろか?
ウチなら”夜天の書”、覇王なら”覇道拳(カイザーアーツ)”、冥王なら”死人兵(マリアージュ)”とかがそれにあたるな。

『顕現』というんは、この【王の力=強力な固有異能】の顕現のことや。
せやけど、顕現したかてすぐに王として君臨できるかといえばそうはならへん。
顕現した王の力を使いこなせるようになるまで、相応の修練がいる。
つまり王の力の顕現はまだ資質に過ぎず、その力が王とよばれるまで成長/拡大させることが肝要なんや。

ウチ、夜天の書のように『王位を受け継いだ時点で、歴代の力と記憶を全て継承できる』ほうが特例中の特例や。

(もっとも夜天の書は、その素養を持つ者以外の場所には決して現れへんけど)

「言い方を変えれば帝も残る二人の王もまだ幼く、将来はともかく今はまだ帝や王に相応しい力にはいたっておらん」

チルダ人から『血腥い武闘派ロマンチスト』なんて皮肉られるうちらベルカ人やけど、その実際はひどく現金でリアリストな側面もあるんよ。
例えば、ベルカの格言にこんなのがあるんや。曰く、

『明日生まれる英雄に、今日の戦場を変える力はない』

とのことや。
そうなれば、

「つまりやな……現在の神聖ベルカ帝国において、『戦場で王の力という武威を発揮できる王』はウチ一人しかおらんというここっちゃ」



***



「帝が力を振るうには幼すぎ、また戦場に立てる王はウチ一人だけ……あと10年もすれば、帝も二人の幼い王も存分に力を振るえるようになるやろうし、今上帝がどこまで先帝に迫れるかわからんけど、きっと磐石な国家体制になるやろう」

ベルカ国民の力への信奉を後ろ盾とするなら、逆に内政がいくらかしくじったとしてもその権力構造や社会体制に大きな反動が出ないのもベルカや。
よほど都合の悪い無能でもない限り、ベルカ人は政治に強い帝より、武に強い帝を選ぶもんやさかいな。

「そして同盟もそれがよくわかってるんや」

そう、

「今上帝や残る王が”帝国の力”として、虚像やなくて実像となるまでが勝負やってな」

「しかし。我々には十分過ぎる宇宙戦力があります! 例え陛下が幼くとも、王が幼くとも同盟など容易に一蹴できるはずです!! 現にこの3年間の戦は全て勝ってるではありませんか!!」

何か縋るような声で絶叫するシュターデン中将……正直、哀れやなとも思う。

「ヴァンフリートではわやくちゃの乱戦続きで、とても勝利とは呼べへんものや。勝敗があったんは艦隊戦よりむしろ陸戦やったしな。第三次ティアマトは敵に突出して暴走したダボがおったさかい楽に勝てたが、第四次は辛うじて判定勝ちって雰囲気。第6次イゼルローンは、自分でいうのもなんやけどウチの艦隊がミサイル艇群沈めなかったら、大分ヤバかったんちゃう?」

正直に言えば、どれもが薄氷を踏むような勝利やったと思う。
特にヴァンフリートは最悪やったな。
お互いに敵艦隊ロストしまくりで反対に近距離での遭遇戦が頻発、宇宙空間でCQB/CQCやっとる気分やった。

(まあ、地上はもっと酷かったねんけどな……)

まさかウチも【剣十字(シュベルト・クロイツ)】を鈍器代わりに殴りあうことになるとは思わへんかった。
生身の戦いに備えて相応に鍛えておってホンマによかったわ。

ぎょーさん「戦力があったところで、付入る隙があると思われてる以上、同盟は戦力が続く限り切り込んでくるんやない?」

しつこいようやけど、経済力や人口……大雑把に言えば国力は同盟のほうが上や。
帝国が勝るのが動員力や決断や戦力投入の早さやな。

(せやけど、そのシステムが揺らいでる……少なくとも同盟にはそう判断されとる)

「今の同盟に消極策を取る理由はない。せやからこそ、積極的攻勢を諦めさせることが必要なんよ」

そして導き出された答えが、

「先ずは勝ち続けることや。どんな内情があろうと、帝国の国防は磐石であり、攻め時も付入る隙もないと同盟が悟るまで」

だからこそ、

「今回の戦いは、逃げることが許されへん。倍を有する艦隊を用いてなお勝利できないとなれば、同盟もどうあろうと慎重にならざるえないのよからな。そう、劣勢なウチらに敗北すれば、敵さんとてただではすまへんのやし」

大国たる自由チルダ同盟の弱点、いや泣き所かいな?
それは、

「なまじシビリアン・コントロールなんて謳ってるやさかいな。同盟の国家首脳部は、帝国の艦隊より”世論”ちゅー目に見えない上に不安定でそのくせ巨大な、”形のない化物”の方がよっぽど怖いねんな」













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皆様、こんばんわー。
今回はいつもより少し長めの文章になってしまいました。
さて、

い・い・わ・け♪
ベルカとチルダの人口が、銀英伝の原作に比べて10倍以上多いのは、現実的に考えてあの人口で双方20万隻近い宇宙戦闘艦艇を製造/維持するのは不可能かなぁ~と。
いや、なんせ銀英伝に出てくる宇宙船艦よりずっと小さく水上艦のイージス艦ですら、調達価格で1隻1.000億円以上で年間維持費が40億円以上……
とても人口130億人程度の国家で10万隻以上そろえられる代物ではないので?はと(^^

チルダの方が人口が多いのは、やはり管理世界に加えて非管理や管理外世界を『ベルカとの戦争に勝つため』に取り込んだからだと思われます。











[40398] 第4話 甘党提督「柔軟な戦術的発想の転換って、場合によっては必要よね~」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/09/23 01:12



「今回の戦いは、逃げることが許されへん。倍を有する艦隊を用いてなお勝利できないとなれば、同盟もどうあろうと慎重にならざるえないのやからな。そう、劣勢なウチらに敗北すれば、敵さんとてただではすまへんのやし」

それはつまり、

「なまじシビリアン・コントロールなんて謳ってるやさかいな。同盟の国家首脳部は、帝国の艦隊より”世論”ちゅー目に見えない上に不安定でそのくせ巨大な、”形のない化物”の方がよっぽど怖いねんな」



***



「まあでも、ウチも無策でこの情況を打破できるとは思うておらんよ」

三方から迫る倍の艦隊……それがどんだけヤバイ相手なのかということぐらいわかってる。
しかし、この情況見方を変えれば、

「見方によっちゃあ、ウチらは三方から包囲されてるんやのうて、ウチらが分断するまでもなくわざわざ敵さんが、自分から三つに分散してくれてるとも言える」

こっちの倍の敵が集結していたら、正直もっと面倒だったかもしれへん。

「つまり現状ならまだ”各個撃破”が狙えるんちゃう?」



「その戦術を行う上での肝は、”速さ”やろうな」

ウチがそう続けようとするけど、

「それは無謀というもの! 机上の空論というものですぞ!!」

そう遮ったのは毎度おなじみのシュターデン中将やった。
まあ、予想の範疇内の反応やね。
ここで反論せな、”理屈倒れのシュターデン(Staaden von Theorie gefallen)”の二つ名が廃るゆーもんや。

(もっとも理屈倒れに机上の空論とか言われるウチも大概やけどな)

なんや微妙な気分やけど、それはそれや。
せやけど、

「参謀長、失礼ながらその発言は些か卿の立場をわきまえてないのでは?」

そう援護射撃をくれたのは、ウチとシュターデン中将のやり取りを黙って見守ってくれていたおししょー……本当にウチの艦隊戦のお師匠様の一人、メルカッツ大将やった。

「まあ、その通りでしょうな。参謀長とはいえ、本質的にはスタッフに過ぎない。意見具申は職務として当然としても、決定権は艦隊司令官にのみにある」

続いて二発目を放り込んだのはアー君ことファーレンハイト家のアーダルベルト君や。
いや、まあとっくに家を出て居候(?)なんやけど。

「そういわれればそうですな」

「シュターデン中将、お気持ちはわかりますが確かに少々口が過ぎるのでは?」

さらなる援護は、エルラッハ少将はんにフォーゲル中将はんや。
おししょーにアー君はわかるんやけど……援護してくれるんは嬉しいけど、なんでやろ?

残る四人に反航砲戦されて押し黙る中将やけど、このまま顔を潰したままにするのは後々禍根を残しそうやな。

(少しフォローしとこか)

「まあでも、シュターデン中将の心配ももっともと言えばもっともや。それにウチが事前に考えていた戦術プラン……各個撃破シナリオに少々、修正もいるやろうしな」

「閣下、どういう意味ですかな?」

そう聞いてきたのはシュターデン選手に代わっておししょーや。

「ウチのプランは、実は第6艦隊の提督がムーア中将ってのが前提やったんよ」

そう、あの猪やったら手っ取り早く牡丹鍋にできたもんやのに、

「せやけどそのムーアは、シャトル事故で幕僚(とりまき)と一緒に宇宙の藻屑となってもうたようや」

ウチらのアスターテ出兵に前後する頃やったらしい。
少なくとも【フェザーン】からの情報では、そうなっておるな。

そして代わりに急遽、第6艦隊の提督に就任したのは、

「現在の第6艦隊の提督は、つい先日まで【ハラオウン特務艦隊】を率いていた”緑の女狐”……【リンディ・ハラオウン】中将や」

そう、帝国軍が勝利の中にも何度も煮え湯を飲まされた、煮ても焼いても食えなさそうな……

「あるいは【星界のローレライ】とも言われとるな」














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さて、その頃アスターテ近海……迫り来る神聖ベルカ帝国の遠征艦隊を迎え撃つ位置には威風堂々たる艦隊が遊弋していた。

その数、実に15.000隻。
自由チルダ同盟が誇る、そして自信満々に夜天の王を屠るためにアスターテへと送り出した艦隊の一つにして単体としては最大の戦力を誇る”第6艦隊”だった。

その艦隊を従える位置にあるのは、一隻の”双胴艦”だった。
その名は【アースラ】。
前期アイアース級(あるいはパトロクロス級)の1隻である”ペルガモン”に代わり、第6艦隊の旗艦を勤める実戦投入可能なレベルにある【試作魔導戦艦】だった。

それにしても奇妙な船である。
パトロクロス級以前の旗艦型大型戦艦であるマソサイト級(あるいは”改アコンカグア級”とも呼ばれる)2隻を、艀(はしけ)で横につなげたようなデザインだ。
だが、この全長420m×全幅100mに過ぎない艀の部分こそ、【本来のアースラ】と呼べる部分だった。



”アースラ”は元々、通常増幅と術者の魔法術式増幅を切り替えられる新型魔導炉と、それを制御する膨大な複数並列魔導量子演算を可能とする新型艦載デバイス、そしてこの二つがあって初めて可能となる『大規模空間爆砕術式の投射装置』こそが、魔砲【アルカンシェル】と呼ばれていた。
この魔導炉/デバイス/魔砲の三位一体の【コア・ユニット】を宇宙艦に仕立てた船の名が、アースラ……そう、アースラは最初は『純粋な実験艦』として誕生したのだった。

当時のアースラは、コア・ユニットの左右に通常動力(非魔導機関)とバリアシステム、そして船として……いや軍艦として最低限の自衛が出来る巡航艦に毛が生えた程度の武装と、こっちがむしろメインのアルカンシェルの誘導加速力場派生装置と多くの観測/計測 を搭載した船体、どちらかと言えば流線型の”サポート・ブロック”を接続させるという構造だった。

しかし、アースラは実に数奇な運命を辿ることになる。



***



全ては第三次ティアマト会戦の前哨戦と定義される船団護衛戦における突発的な遭遇戦、いわゆる【グランド・カナルの奇跡】に端を発する。

予想外の参戦となったこの戦いで無事に船団の護衛を果たしたアースラは、本当ならやがて実験艦の役目を終えて解体を待つ筈だったのだが……運命は、流転する。

肝心のティアマトでの大敗を糊塗するために、アースラは武勲艦として、そしてその現役に復帰したばかりで、軍人というよりもっと根本的な船乗りとして勘を取り戻すため、階級からすれば低すぎる地位に居た艦長を英雄にするしかなかった。

そして、主に政治的な理由で武勲艦、つまりは現役軍艦とされてしまったアースラは、左右のサポート・ブロックを、前出の通り第一線からは外されモスボール(早期戦力化可能な状態)保存されていたマソサイト級2隻を急造の間に合わせとは思えないほど改造した本格的な戦闘に耐えられる”アームド・ブロック”に換装し、実戦艦としての体裁を整えたようだ。

お陰で中々堂々とした……いや、むしろイカツくなってしまった感があるが、お陰で全長950m/全幅240mの巨体にマソサイト級2隻分の主砲、口径22cmと一世代前であるが故に現用の25cm口径中性子ビーム砲に比べれば一門あたりの威力は低いが40門×2=80門という通常火力を誇っていた。
これは標準的な前期アイアース級の火力を凌ぎ、最新の試作艦である”アガートラム級(22cm中性子ビーム砲×64)”すらも上回る。
これに加え、魔導殲滅兵器のアルカンシェルを搭載するというトンデモ戦艦になっていた。
オマケに防御スクリーンも物理防御がマソサイト2隻分に加え、魔導炉と艦長兼提督自身の能力の生み出す『物理防御属性すらも持つ強力で多種多様な防御系魔力結界』という強烈な防御力を誇っていたりする。

ただ、大幅に戦闘力を強化されて見た目も変わりまくったアースラだが、それでも変わらないものがある。
それは魔砲アルカンシェルだけでなく、それを操る”魔法使い”ならびに艦で一番偉い人だった。
まあ、魔法使いも一番エロ……エラい人も同一人物ではあるのだが。



そして、そのエラい人はアスターテ会戦を望みながら提督席に座りながら、こう呟いていたという。

「星が綺麗ね。ラップ君」

何かどこかで聞いたような言い回しだが、それを傍らで聞いていた中佐の階級章をつけた金髪の青年将校は、

「お言葉ですが、艦橋からは直に星は見えませんよ? それより、貴女の方がよほど綺麗です」

と中々にジゴロ的な切り返しを見せた。

「あら? 青臭い少年と呼んでも差し支えなかった軍人の卵も、随分と大人の返し方が出来るようになったじゃない?」

「それはもう”教官”が良かったですから」

そう再びラップ、自由チルダ同盟軍中佐”ジャン・ロベール・ラップ”が切り返すと、教え子の成長を実感した”彼女”は、嬉しそうに微笑んだ。

そう、”彼女”である。
彼女こそが現役復帰したばかりだというのにアースラが実験艦だった時代より艦長を務め、ついこの間まで”ハラオウン特務艦隊”と呼ばれる試作艦やまだバトル・プルーフされてない新型艦を中心に配備され、それらの船が戦場での効果や欠点を洗い出すのを目的として主に国内や国境線の『国籍を記さない不埒者(デスペラード)相手に戦い、戦訓を得る』ことを目的とした、同盟で最も血腥い分艦隊と評される3000隻の艦隊を率い、今は前任者の事故死で、第6艦隊を束ねる女傑……

同盟軍の誇る烈将の一人、自由チルダ同盟宇宙軍中将【リンディ・ハラオウン】だった。



***



その物騒すぎる二つ名の羅列に反して、リンディ自身は長く美しい緑の髪が印象的な、女性という生物の熟成した美貌を詰め込んだような美女だ。
しかし美しい人間が持ちがちなどこか無機的な……あるいは作り物じみた冷たさはなく、むしろ愛嬌のある母性と慈愛に満ちた表情に溢れていた。
極端の甘党なのが珠に瑕だが、それもリンディの魅力として捉えるのも吝かではないと思わせてしまう。

しかも実年齢は40歳をとっくに過ぎているし、更に元服を超えた息子を持つ一児の母でもあるのだが、とてもそうは見えないほど若々しい。
一説にはリンディは”不老長命種(メトセラ)”ではないか?と疑う向きもあるほどだ。

実はラップにとりリンディは士官学校時代の教官であり、さらには初恋の人であったりする。
ついでに言っておけばつい先日、某黒が好きなハラオウン姓を持つ同盟の若きエースパイロットの一人に、『新しいお父さんはいらないか?』と聞き、非殺傷設定のブレイズキャノン・エクステンションの零距離砲撃の直撃を食らって昏倒したらしい。

ジェシカ・エドワーズ?
はてさて、一体それは誰のことだろう?



さて、そんなリンディはふと真顔になり、自分の現役軍人復帰とほぼ同時期に病気療養より復帰し、復帰後初任務であるアースラより副長を務めてもらっている、そして彼女が頼れるまで成長したラップに問いかける。

「敵はどう出るかしら?」

シンプルな質問にラップは敬愛する女性に微笑み、

「現代の”ヘルベルト大公”……ダゴン会戦の負け役を引き受けてくれるほど、夜天の王はお人好しではないでしょう。それに大公爵と同じ轍を王が踏むとは思えません」

「そのココロは?」

「必ず今は三つに分かれた我が方の艦隊戦力、その各個撃破撃破を狙ってきます」

その回答に満足そうな笑みを浮かべたリンディは、実に楽しそうに、そして少女のような茶目っ気たっぷりのウインクと共にこう告げたという。

「じゃあ、こっちも作戦変更しちゃおっか♪」













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皆様、こんばんわ~。
最近、執筆時間のやりくりに苦慮しまくりのボストークです。

さてさて、今回はある意味ブリュンヒルデより魔改造されたアースラと、リンディ&ラップコンビの登場でした(^^

しかも、どうやらラップだけでなくリンディもハヤテのたくらみに気付いてる様子……果たしてアスターテはどう流れるのか?
そして、ラップは恋愛成就できるのか……(えっ?)











[40398] 第5話 金髪幼女「まっ、この手の仕事はどぉ~んとお姉ちゃんに任せなさいって♪」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/09/25 22:40



ハヤテ SIDE



「緑の女狐……リンディ・ハラオウン提督なら、ウチが各個撃破を狙うことくらいすぐに気が付くやろう。まあ、気が付きそうなんが第2艦隊に最低もう一人くらいはおるんやけど」

(ただし、まだあの”がしんたれ”は、未だ参謀あたりで三味線弾いてるはずや)

諜報部のデータが正しいとすれば、第2艦隊のパエッタ中将とは上手くいってないらしい。
まったく難儀な話や。
レグニッツァ上空でその機転で命を救われたいうんに、その実力を認められへんとは存外にパエッタ中将とやらはケツの穴が小さい御仁のようやな。

(もっとも、ウチにとってはそっちの方が間違いなく好都合やねんけど)

その具申が聞き遂げられない参謀なんて無害や。
少なくとも15.000隻の艦隊を率いてアスターテに陣取っとる、どこぞの熟女提督に比べたら、ナンボかましや。

「せやから今回の作戦は単に各個撃破を狙うんやのうて、その順番が重要な意味を持つんや。せやから、」

ぶっちゃけてまうと、

「ちゃっちゃっと弱い艦隊から潰してまおうって腹積もりや」



***



「第2/4/6艦隊の中で真っ先に潰すべきは、第4艦隊やな」

ウチは断定的な口調で言い切った。

「その根拠は?」

そう訊ねたのは、おししょーことメルカッツ大将や。
生涯の過半数年を戦場で過ごし、戦争の生き字引みたいなメルカッツ大将が判らないわけない。
要するに、この場にいる五人の提督に対する情報の共有化と周知を徹底させるための確認作業や。
ウチの脳裏に、なんとなく”通過儀礼”という言葉が浮かんだ。

「理由は至極単純や。第4艦隊は最も規模が小さく、また提督のパストーレ中将は攻勢には強いねんけど反面、守勢には疎い側面がある。また柔軟性に欠け、臨機応変な対応が苦手や」

第4艦隊は13.000隻、第2艦隊は14.000隻、そして元は12.000隻と最も小兵勢だった第6艦隊は、リンディ提督が率いていたハラオウン特務艦隊の3.000隻を加えた15.000隻に拡大しておる。

(しかも、その3.000隻も通常編成やないからなぁ~)

色々な理由があって、その戦闘力はほぼ同規模の分艦隊の倍以上、つまり半個艦隊に匹敵するとかって噂や。

(それがホンマやとするなら、第6艦隊の戦闘力は実質18.000隻相当になるってことになってまう)

今回のウチが率いてる特別編成艦隊も、通常編成の22.000隻より戦闘力はあると自負しとるけど……正直、正面からは殺り合いたくない相手や。

「それは艦隊の編成にも表れとる。件の提督は頑迷な大艦巨砲主義者で艦隊砲撃戦を重んじるばかりで、艦載機による広域索敵や機動兵器によるアウトレンジ攻撃を軽視しがちなんや。お陰で艦隊哨戒範囲は狭い上に、艦隊交戦距離で警戒すべきは砲戦可能距離に入ってからってオチがつくねん」

そんな訳で、各個撃破狙うんなら手早く片付けられる一番弱い敵から叩くいうんが定石や。
多分やけどパストーレ中将の艦載機動兵器の認識は、彼が若い頃……帝国ならワルキューレ、同盟ならスパルタニアンが花形だった時代で止まってるんやと思う。

きっと、わざわざ人の姿を模し、騎士や魔導師の生身での力を機械的に増幅して真空で振るわれる現代の機動兵器の意味や恐ろしさを本質では理解してないねんな。

手前味噌やけど、ウチの臣下にして家族、ヴォルケンリッターのうち二人は『一騎当千や一騎沈艦』を比喩や洒落でなくできる。

(まあ、ウチですら出来なくはないしな)

それはウチの操縦技量ゆーより、夜天の書に封印術式により量子状態で格納されていた”騎体”の性能のおかげというべきなんやろうけど。


「要するに先制奇襲攻撃を叩き込むには最適のカモやゆーとこや。そして第4艦隊をボコにした後に狙うんは、」

ウチは提督たちを見回し、

「第2艦隊や」
















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再び舞台は自由チルダ同盟軍サイドに移る。
そう、試作双胴型魔導戦艦の”アースラ”のブリッジだ。

「件の”夜天の王”が各個撃破を狙ってくるとして……ラップ君、どこから狙ってくると思う?」

そうどこか楽しげに聞いてくる麗しくも愛しい緑髪が映える妙齢の美女に、彼女の副官たる同盟軍中佐ジャン・ロベール・ラップは少し考えるふりをしてから、

「奇襲を前提にするなら間違いなく第4艦隊でしょう。勢力が最も小さく、率いる提督は防戦が得意と評価されたことはありません」

すると緑髪の熟れた美女であるリンディ・ハラオウン中将は『続けて』と目線で促す。
どうやら正解を言い当てたことに、ラップは表情に出さないように胸を撫で下ろした。
教官時代からのクセで、リンディは時折このような”突発小問”を行うことがある。
答えられないからっといって現役軍人となった今では、”ささやかなペナルティ”を喰らうこともないだろうが、リンディの評価が気になるラップとしては中々油断ならない一瞬ではあった。

「次いで狙うのは第2艦隊でしょう。我が艦隊に比べれば戦力は小さく、そして提督は凡庸です」

「その評価は、決して他所で言っては駄目よ?」

リンディは、ラップの率直過ぎる評価にクスクス苦笑しながら軽くたしなめたが、でも否定はしなかった。

「私も同じ意見よ。”エイミィ”、現在の敵味方予想艦隊配置情況を戦況表示ディスプレイに出してくれる?」

「はい。提督♪」

そう明るく答えたのは、チーフオペレーターの”エイミィ・ミリエッタ”同盟大佐だ。
間違ってもエイミィ・ハラオウンでないことに着目して欲しい。

それはともかく、空間展張投影された三次元ディスプレイを見てリンディは少し考え込み、

「私の予測だと……彼我の相対距離から考えて、今から第4艦隊の救援は間に合わないわね」

リンディはいくつかのコマンドや数値を打ち込んだシミュレーションデータを見ながら、そう独りごちる。
そのシミレーションは、『戦力差から第4艦隊が最短時間で殲滅される』ことが条件として入力されていた。

「戦術変更は、『第4艦隊の壊滅を想定した第2艦隊との合流』というのが現実的ね」

それは第4艦隊を捨て駒にする結論であるが、それを否定するあるいは非難する声は上がらなかった。
その代わりラップの口から出たのは、

「第4艦隊の壊滅と、敵艦隊の動向を正確に計測する必要がありそうですね」

という台詞だ。
尤もな意見だった。
第4艦隊の壊滅を予想しての作戦変更というのは、結局は『本当に第4艦隊が壊滅』しなければ、勝手な判断で事前の作戦を変更したとして厳罰に処される可能性がある。

第一、リンディはこのアスターテ防衛(迎撃)計画、秘匿名称『ダゴン・アゲイン』の立案には係っていない。
係っていたのは、第6艦隊前任提督の故ムーア中将と第4艦隊のパストーレ中将、それに第2艦隊提督のパエッタ中将、そしてそのお抱え参謀団だ。
リンディがムーアの不慮の事故で代打が決まった時は、既に作戦は立案ではなく準備段階に入っていた。
リンディもその決断を無能と表する気はないが、

『相手がヘルベルト大公並の戦争の素人で、率いてるのも大差ないボンクラ貴族提督ばかり。そしてこっちの提督がリン・パオやユースフ・トパロウル並みの能力があれば勝てるかもね』

と些か辛辣なコメントをしていた。
そんな理由で、リンディはパストーレやパエッタのように、この作戦にこだわる気は最初からなかった。

「とりあえず、敵潜伏箇所の特定は難しいでしょう。やはり第4艦隊にコッチの偵察機を貼り付けておく必要がありそうね……」

『もちろん、第4艦隊にも気付かれないように』という台詞をリンディは飲み込む。
例えリンディとて、別に味方を囮や噛ませ犬扱いすることを好んでいるわけではないのだから。

「念のために、第2艦隊にも同様の処置をすべきでしょう」

幸い、返しから予想する限り、副官はあえて剣呑な言葉を口にしなくても察してくれる程度の付き合いがあるのが救いだった。

「いずれにせよ長距離哨戒は必要だわね」

さて、誰を送り出そうかしら?と悩んでいたところに、まるでタイミングを見計らったように……いや、実際にタイミングを見計らっていたんではないのだろうか?

「その役目、私にやらせてもらうわ!」

と名乗りを上げたのは、いつの間にかアースラのブリッジに入り込んでいた幼女だった。


***



そう少なくとも見かけは問答無用の幼女、いや美幼女である。
長い金色の髪を翡翠色のリボンで飾り、今にも可愛いパンツが見えそうなコケティッシュなチェックのミニスカートとブラウスを組み合わせ、平たい胸元をリボンタイでワンポイントとしているが、その上に羽織る白衣がなんともミスマッチだ。
顔立ちはまるで、お人形さんのように整っていた。

見た目からすると、現代日本で言えば幼稚園の年長さんくらいだろうか?
どうにも就学前に見えてならない。

とにもかくにも、白衣以上に戦艦のブリッジには不似合いな幼女だった。

「”アリシア”ちゃん!?」

いきなりの登場に驚くリンディだったが、アリシアと呼ばれた幼女は、

「リンディ提督、いつも言ってるけどこう見えても私今年25歳だからね? 結婚適齢期かもしれないけど、少なくともいい加減”ちゃん付け”されるような歳じゃないから!」

と主張した。
その言葉が事実とするなら、彼女は実年齢より二十歳は若く見られていることになる。
それとも、見た目の5倍の年齢と言うべきか?

「【テスタロッサ”技術大佐”】、僭越ながら小官も提督の心情は痛いほど理解できます」

アリシアは今度こそ深く溜息を突きながら、

「返す返すも魔力線被爆が恨めしいわね」

と思わずぼやいてしまう。



アリシア・テスタロッサ
階級は自由チルダ同盟軍大佐で、技官(技術将校)。
見た目からは信じられないけど現在25歳。
家族構成は母と妹。
5歳のときに実験魔導炉の暴発事故で高強度の魔力線被爆に合う。
一命は取り留めたが、その後遺症で成長も老化もしなくなってしまう。
幼い頃から同じく技術者である母親の助手を勤めるほどの天才っぷりを見せつけ、現在もその天才の肩書きに翳りは見えない模様。



「そんなことよりも、その長距離哨戒は宇宙最速を目指す”私の機体”が請け負うわよ」

と平たい胸を張り、『おねーちゃんにまかせないさい!』と言いたげにフンスと鼻をならした。

「その任務、”アステリオンAX”の任せなさいって♪」















***************************************



皆様、こんばんわ~。
休みの前の夜更かし可能タイムになるべく書き溜めてるボストークです(^^

銀英伝の二次なのに、中々戦闘が始まらないこの物語ですが、原作に沿いながら乖離させるために色々と仕込んでいる最中とご納得いただければ嬉しいな~と。

そしてまたしてもリリ☆なの系のキャラ登場。
ロリBB……ではなく成長不良気味のアリシアちゃんでした。
原作同様に魔力線被爆はしてるようですが幸い命は取り留めたようです。
というかかなりタフに生きてる予感が(笑)

9/25、誤字修正しました。








[40398] 第6話 金髪幼女「時には硬派な話をしようか? 無機物的な意味でだけど」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/09/25 22:42



母娘揃って自由チルダ同盟の誇る稀代の天才科学者と評されるテスタロッサ親子。
その娘の方であり、かつては魔法学的な見地からの遺伝子操作で「わたしのかんがえたさいきょーのいもうと」を幼いながらも生み出し、今は同じ人型でもより大きく無機質(金属質?)の分野に興味津々のアリシア・テスタロッサが第6艦隊、いやリンディ・ハラオウン提督の下に居るのは、無論色々とある。

もっとも原初なのは、アリシアがこの世に生を受ける遥か前の因縁で、リンディとアリシアの母である”プレシア・テスタロッサ”、ついでに書いておけば今や同盟軍後方の重鎮の一人で、同盟軍随一の大酒豪と目されてる”レティ・ロウラン”中将の三人が幼馴染であり、更には現在の同盟軍で「女傑三羽烏」と裏で言われるほど今でも変わらぬ友情を持つ大親友であるということであろう。

リンディ中将が第6艦隊提督を半ばなし崩し的に引き受ける前に任官していたのは、【ハラオウン特別任務艦隊(ハラオウン特務艦隊)】の提督だった。

同盟軍としては個人名が艦隊名称に付くのは珍しいが、件の艦隊の性質を考えるとそれも頷ける。
名称からすぐにわかるのは現在12艦隊が整備されていて、計画では15艦隊まで整備される予定の正規艦隊ではないということだろうか?

そう、ハラオウン特務艦隊は、表向きは自由チルダ同盟の対高度武装犯罪勢力掃討のための治安活動専門の艦隊、悪い言い方をすれば国内弾圧戦力であり、そういう意味では同盟結成前の【管理局体制】時代における”時空管理局”の治安艦隊に近い立ち位置のそれであった
要するに同盟領内をパトロールしつつ、並の地方自治政府や治安組織、警備機関では手出しできない凶悪武装集団を問答無用に片っ端から潰す役目を担っていた。
そのためにハラオウン特務艦隊は、同盟軍最高司令部直轄の艦隊とはいえ、同盟内治安組織としてはあらゆる意味で破格の権限を持っていた。

例えばそう、同盟国内においては自由捜査権こそないが、最高評議会を頂点とする自由チルダ同盟が排除指定団体に指定した非政府系反動的武装勢力に対して、ハラオウン特務艦隊は自由交戦権が補償されていた。
建前はどうあれ、その権限は各自治政府より優先されていた。
つまりAという自治政府があったとして、A政府自治圏内に排除指定を受けたBという犯罪結社が存在していたとしよう。
ハラオウン特務艦隊は、A政府の許可なく結社Bに対して自由に戦闘を仕掛けられるのだ。
そう、その権限の大きさや強さは、こと国内弾圧組織としての権限を考えるならナチス時代の武装親衛隊や、あるいは宇宙世紀のティターンズに匹敵するかもしれない。

もっとも、少なくともリンディはハイドリヒやジャミトフのように政治的な関心は少なくとも表面的にはなく、またシビリアン・コントロールの原則まで狂わすつまりはなかったようだった。
そう、彼女は軍とは別個の組織になったり、あるいは軍の内部の実権を握るようなまねはせず、あくまで”軍の一機関”としての原理原則を重視していた。

もっともそれは、リンディが政治的駆け引きを好まないという意味ではないのを留意して欲しい。
実際、ハラオウン特務艦隊の活躍により、また最近対帝国戦績で芳しくない評価が付きがちな同盟政府の過剰なまでのプロパガンダでその活躍をことさら持ち上げたために、一度退役しての復帰にも係らずリンディ提督の実権が本人の好む好まざるに関係なく急速に拡大してるのは事実であり、また一部には彼女と彼女と手を組む人員や勢力、いわゆる”ハラオウン派”を同盟の軍事的黄金期を築いたブルース・アッシュビーとその一党、いわゆる【アッシュビー・マフィア】になぞらえて、【ハラオウン・マフィア】と呼ぶ向きもあるようだ。



***



しかし、ここで奇妙な部分がある。
そう、問題なのはハラオウン特務艦隊の戦力だ。
まず艦数、その数は実に3.000隻、ついでに書いておけば総兵力は艦隊規模から考えれば多い90万人だった。
正規艦隊を基準にするなら、『ちょっと多目の分艦隊(分艦隊は普通2.000~2.500隻くらい)』だが、こと海賊や星間犯罪組織を相手にするには過剰すぎる戦力だ。

3.000隻というのは、大半の同盟加盟国自治政府が独自保有する警備艦隊や、同盟軍の地方艦隊/方面艦隊の規模を凌いでいるのだった。
つまり、ハラオウン特務艦隊は、犯罪結社やテロ組織、海賊どころか同盟加盟の小国程度なら単独で消し去るほどの戦力を持っていた。

いや、その3.000隻ですら、当時の彼女の階級……一度、退役してるために低い”少将”という地位に当てはめた結果かもしれない。



だが、これはハラオウン特務艦隊設立の”真の目的”を考えれば比較的に説明が付け易い。
そう、ハラオウン特務艦隊が治安任務についてるのはあくまで表向きの理由であり、真の目的は『試作艦/兵器やまだバトル・プルーフの終えてない新装備を戦場で実地評価し、欠点を洗い出す』ことにあった。

例えば、である。
その代表格が、リンディ自身が座乗する実験艦から試作魔導戦艦にクラスチェンジした”アースラ”である。
それだけではない、同じ試作艦というならアイアース級をベースに次世代コンセプトモデル&新装備実験艦として建造された【アガートラム級】のアガートラムにヌアザ、さらに”ポスト・アイアース級”として次世代戦艦の雛形として試作建造された【トリグラフ級】のトリグラフ/トロヤン/トリムルティ/トリニティの4隻が現時点で配備されている。

無論、コレだけではない。
アイアース級は厳密には、別名”パトロクロス級”とも呼ばれる前期アイアース級と、それの抜本的な改良型である”アキレウス級”と呼ばれる後期アイアース型に区分される。
ハラオウン特務艦隊には、その先行量産が始まったばかり後期アイアース型のアキレウス級が、20隻も集中配備されているのだ。
配備されてる20隻全てが微妙な装備の差異を与えられて、その差異の設けられた各種装備の効果測定、そして何より重要な『実戦評価(バトル・プルーフ)』が行われていた。

無論、比較評価の為に種々様々なパトロクロス級やバリエーションモデルも持ち込まれている。



さて、ここで原作からの乖離に驚く人も多いだろう。
原作では資料により多少の差異はあれど、アイアース級は前期後期あわせて25隻程度しか建造されなかった筈だ。
だが、ここは原作同盟に比べるなら20倍近い人口を誇る自由チルダ同盟、しかも財政はずっと健全で一人あたりのGDPはより高い。
艦船保有数は原作と大差ないが、艦種によっての生産数は全く違う。

その代表格がアイアース級で、前期モデルのパトロクロス級だけでさえもバリエーションを含めれば2.000隻を超えるまで大量生産されていた。



***



少し蛇足になってしまうが、パトロクロス級(前期アイアース級)とそのバリエーションについて語ってみたいと思う。

アイアース級は、そもそもアコンカグア級の失敗と反省から生まれたと言っていい。
アコンカグア級の失敗は、小ぶりな船体と反応炉出力という組み合わせのわりに22cm中性子ビーム砲×40という過大な武装を無理に搭載した為に戦艦としてのバランスを欠いた……というのが最も知られている理由だが、実際にはその欠点を是正するだけの発展的な余地や改良するだけの拡張性を持っていなかったことが理由だった。
つまりアコンカグア級は、『失敗作として設計が完成されすぎていた』のだった。

その反省を踏まえつつアコンカグア級を徹底的に簡易化/拡大化し、更にユニット構造の概念を取り入れて再設計したのが、既に名前がでてきてる”マソサイト級(改アコンカグア級)”だ。
実際、マソサイト級は暫定的ながら成功作とされ、最近でも”ヒューベリオン級”という近代改修モデルまで派生されてるのだから、それも納得できる。

だが、この結果を踏まえて、より大規模にユニット構造を取り入れる……むしろ船体そのものを大胆なユニット構造化し、また製造をユニットごとのセル・コンポーネント・ブロックとして行うという試みがなされた。

噛み砕いて言えば、船を主兵装を搭載する武装ブロック/艦橋を含むメインブロック/動力炉や推進器を積むエンジンブロックの三つのコンポーネント・ブロックと考えて別個に生産、その三つのブロックを比喩的な意味でボルトオン接続し、一つのマルチ・コンポーネント・ユニットを持つ”基本船体”として成立するという構造になっていた。
また、補修や強化をブロックごとに交換するという方式を取り、また追加装備も同じく基本船体にコンポーネント接続するという方法だ。

ちなみにこの外部接続を容易たらしめるために、各ブロックには共通規格化されたハードポイント、もしくはレール・インターフェースと呼ばれる拡張端子が随所に取り付けられていた。



これらの利点は言うまでもないだろう。
まるでケーソンのようにブロックごとに別々に作れるために生産効率が高く、また新装備が開発されるためにブロック単位での交換や外部搭載の容易さから生み出される発展性や拡張性の高さや自由度は、それこそマソサイト級の比ではない。
また、基準さえクリアできれば同一規格で様々な工廠で製造できるため、どこかコスト度外視の側面が見え隠れする軍艦でありながら、競争原理や大量生産の原理が働き、大幅なコストダウンが可能となった。
驚くべきことに純粋な調達コストは、物価上昇を加味しても標準装備のパトロクロス級とアコンカグア級に大きな開きはない。
物価上昇や彼我の性能差(パトロクロス級の総合戦闘力は、一説にはアコンカグア級の3倍以上とされている)を考えれば、これは驚くべき数字だ。

そうであるが故に、アイアース級は前期シリーズのパトロクロス級だけで2.000隻以上生産される大ベストセラー大型戦艦となったのだった。



***



パトロクロス級は、素の性能は攻撃能力やチルダお得意の様々なデバイス技術が惜しげなく詰め込まれた演算処理能力を除けば、ブリュンヒルト(ブリュンヒルデの誤植に非ず)以降に生み出された帝国旗艦級戦艦に比べれば凡庸なものだろう。
だが、その拡張性や発展性は帝国のどんな戦艦も持っているものではなく、だからこそ多くのバリエーションが生まれ、また陳腐化することも遅れた……つまり抜群のコストパフォーマンスを誇る、息の長い戦艦になったのだ。

今更だが、戦争においては数は最大の力である。
帝国と同盟の現用艦艇数には大きな隔たりはない。
しかしながら、パトロクロス級は2.000隻以上既に生産されている。
また将来的にトリグラフ級と同じ戦列に並ぶであろうアキレウス級(後期アイアース級)は、どんなに少なくとも既に調達予算が成立している500隻は確実に生産される予定だ。

つまり、こうも考えることも出来る。
パトロクロス級とそのバリエーションは、『艦隊旗艦も務められる高機能大型戦艦』に過ぎず、決して旗艦級戦艦ではない。
そして、総合性能でパトロクロス級を上回る帝国旗艦級戦艦の数は未だ少なく、これに明らかに性能の劣る標準戦艦を加えて、ようやく帝国はパトロクロス級を数的に上回れるのだった。

更に恐れるべきはこのアイアース級の原設計を行ったのは、当時軍にスカウトされたばかりの一介の佐官に過ぎなかった一人の女性……同盟軍の女性技術将校だったということだ。

元々は魔導炉の研究者だった彼女、その名を【プレシア・テスタロッサ】という。
そう、言うまでもなく【アリシア・テスタロッサ】の母である。










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さて、大分話がそれてしまったが、ハラオウン特務艦隊とは突き詰めてしまえば『実験兵器やまだ得体の知れない新装備を、公共の敵相手に容赦なく使い、その実戦データを収集する』ことを最大の目的とする艦隊だった。

そのような性質の艦隊であればこそ、未だ試作兵器というよりコンセプトモデルと言いたくなる”アステリオンAX”とその開発者である【アリシア・テスタロッサ】が居てもおかしくはない。

より詳しく言うなら、アリシア・テスタロッサが提唱する【TD計画(Project Terrestrial Direction=遠距離の方向性)】の公的なスポンサーが同盟軍であった。
本来、”TD”は別の単語の頭文字ではあるのだが、膨大な開発予算や設備を得るためにアリシアも色々と妥協(?)したようだ。

少なくとも今のTD計画は、『従来のそれを遥かに凌駕する航続距離を誇る戦略級の高速偵察機やちょっとした巡視艦並みの作戦行動半径を誇る哨戒機』を開発を目指す計画と、軍には認識されており、実際に”アステリオンAX”は、それにしっかりと適合したモデルに仕上がっていた。



***



さて、アリシアはその計画を実戦テストするために選んだ場が、ハラオウン特務艦隊なのは当然の成り行きだろう。
そもそも前出の通り、リンディとプレシアの間には個人的な強い友誼が結ばれていたし、リンディは戦場の実力者で、アイアース級を驚くほど短時間で設計したプレシアは今となっては同盟軍技術方面(特に艦政本部)の重鎮、この背景があればアリシアを特務艦隊に放り込むなど造作もないだろう。
無論、後方で『もっとも怒らせてはならない女』と目される二人の共通の親友であるレティまで入れば、言わずもがなだ。

そしてハラオウン特務艦隊が首脳部が事故で消滅した第6艦隊に編入され、同時にリンディ一派がそのまま第6艦隊を率いることとなった現在、アリシアが主任を務めるプロジェクト・チームもまた第6艦隊と行動を共にしていた。



さてそのアリシアは、半ば強引だったが出撃許可をリンディ提督に取り付けることに成功したようだ。
艦橋から出た彼女を待っていた少年? いやそれとも青年か?
見ようによっては女性にも見えるミルクティー色の髪の存在に、アリシアはかすかに微笑み、

「”ユーノ”、待たせたかしら?」

「それほどでもないさ。その様子だと、上手く出撃許可を?ぎ取ったみたいだね?」

ユーノという名らしい少年に、アリシアは満面の笑みで、

「まっかせてよ!」

愛らしくサムズ・アップするのだった。















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皆様、こんばんわ~。
驚くほど早く第6話が完成したことに自分でも驚いてるボストークです(^^
冗談抜きに皆様のご感想がモチベーションの源になってるのは間違いないです♪

さて、今回は今までにないほど色気がないというか……特務艦隊とアイアース級戦艦の解説だけで終わってしまったような?(汗)

それでもこの先、登場回数はわかりませんが間違いなくリンディ共々物語に影響を及ぼしそうなプレシアにレティが名前だけとはいえ出てきました。

そして最後に出てきたのは……スクライアさん家のユーノ君?
何故、彼がここにいるのか?
色々と伏線が混じって、アスターテはさらに混迷を極めそうです。








[40398] 第7話 紅茶スキー「ホーランド・スペシャルとかティアマト・ナイトメア・ポケットとか、原作には出てこない単語が多い気がするなぁ」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/10/01 19:34



ハヤテ SIDE



「リンディ提督ならウチらの各個撃破を読むことくらい当たり前やろ。おそらく、第4艦隊を真っ先に狙うのもお見通しのはずや」

ウチの言葉に五人全員が沈黙した。
もっともおししょー(メルカッツ)とアー君(ファーレンハイト)は堂々と落ち着いたもんや。

「それを前提にすれば、リンディ提督はどうすると思う? まず自分ならどうするか考えて答えて欲しいんや」

ウチの問いかけに、真っ先に答えたのは不謹慎なほど愉快そうな笑みを浮かべたアー君やった。

「いっそ、事前に決めた”ダゴンの再現”作戦を遵守してほしいものですな」

アー君、判ってて言っとるやろ?

「却下。今回の迎撃プランは、リンディ提督の第6艦隊司令官就任までの期間を考えれば係ってはおらんのは明白や。パエッタやパストーレならともかく、リンディ提督は自分と部下の命を危機に晒してまでプランを遵守するとは思えへんよ」

その程度の思考しかしてない相手なら、ウチらは第四次ティアマトで完全勝利……は言い過ぎにしても、しっかり勝ちきることが出来たはずやし。

(あん時はウチの擬似突出見抜かれて、ガチな殴り合いなったからなぁ……)

あの時は、ウチが血気盛んな若い王らしく振る舞い、蛮勇にかまけた突出……したように見せかけて、ウチを狙いに来た艦隊を誘引しつつ”ミュッケンおとん”の主力が回り込んで半包囲で敵艦隊を磨り潰す予定やったんや。
まあ、宇宙版の斜線陣に見せかけた機動釣り野伏せみたいな戦法やったんやけど、擬似突出があっさり見抜かれて、敵はウチの艦隊を半ば無視して主力本隊を直接狙うガチな火力戦に持ち込まれたんよ。

無視されたままなのも癪やさかい、今度は横っ面から張り倒したろ思うて側面に回り込もうとしたら、それをしつこく邪魔してきたんが、会戦のときは臨時編成で半個艦隊規模まで増強(再編中の第11艦隊を補充に当てたらしい)されていたハラオウン特務艦隊やったんや。

そのせいで戦線は乱戦の連続で荒れに荒れ、ついには無意味な消耗戦になりかけた。
お陰でウチらは勝利や敗北がひどく曖昧なまま、ティアマトから帰還するしかなかったんや。

(だけど、その基点になったウチの擬似突出を見破ったんがリンディ提督と、”もう一人”おったらしい)

無論、フェザーンからの情報が正しければという前提がついてまうが。



***



「ダゴンの再現という作戦趣旨を無視するならば、真っ先に第6艦隊が第4艦隊を救援に向かうというのが最もありえそうですな」

そうドヤ顔で言うのはシュターデン中将やった。

「戦力消耗を抑える観点から言っても、直ちに第6艦隊は第4艦隊に合流すべく進路を変えるべきです。上手く合流するなら合計28.000隻……このたった2艦隊で我らが艦隊を数で上回れます」

どうやら言外に『だから。我らは直ちに撤退すべき』と滲ませてるようやな。
まあ、自然な発想やねんけど、

「だが、それは無理やな」

「何故です!?」

中将、なんや肝心なとこが抜け落ちてあらへん?

「物理的に無理なんよ。いわゆる”距離の暴虐”ゆーやつや」

その理由はこうや。

「リィン、ウチらの艦隊と第4艦隊の会敵予想時間と、予想戦場に第6艦隊が到着するまでの間に、理論値でナンボくらいの時間差ができる?」

「最大8時間、最短でも6時間です」

そう、第6艦隊とウチらアスターテ攻略艦隊、第4艦隊からの相対距離を比べた場合、ウチらのほうがダントツに近い。

「そして、6時間もあればウチらは苦もなく第4艦隊を捻り潰せんで?」



「バカな! いくらなんでもそのような簡単に……」

なんや真っ向から否定されてもうたけど、

「中将、ウチかてその程度の戦法やら戦術やらあるで?」

何も船並べてダラダラ撃ち合うだけが艦隊戦じゃあらへんわい。

「では、第2艦隊が第4艦隊の救援に向かうという方針はどうですかな? 距離関係でも、これならば我々が第4艦隊を強襲するタイミングと、そう時を違わずに合流できるのではないですかな?」

とはおししょーのメルカッツ大将の弁。

「もし、第2艦隊が”パエッタ艦隊”やのうて”ヤン艦隊”やったら、ウチもその危険性は考えるとこなんやけどな」

「”ヤン”……?」

名前に聞き覚えがないんやろう。
顔を見合わせたのはフォーゲルはんにエルラッハはんやった。

「そや。フルネームやと”ヤン・ウェンリー(楊文里)”……どちらかと言えば、”魔術師”やら”魔法使い”やらって二つ名のほうが有名かいな? それとも”エル・ファシルの英雄”いうたほーがわかりやすいか?」



***



ヤン・ウェンリー……
そうさっきの言うた、第四次ティアマトでウチの擬似突出を見破った”もう一人”や。
ともかく戦術眼が凄まじいらしゅーて、正攻法から搦め手に謀略まで自在に使う。
例えば、エル・ファシルにおいては、味方の艦隊を囮にして住民脱出を行うなんて奇手を打ってきた。

ウチの見立てやけど、敵の【思考の盲点】を突くことを得意としていて、ウチも【ちびダヌキ】なんて呼ばれとるけど、正直ヤン・ウェンリーとだけは”戦場の化かし合い”をする気は起きひんな。
どっちにしろ、

(性格悪いんは、確かやろな~)

「せやけど、その魔術師は今のところは第2艦隊のスタッフに過ぎん。しかもパエッタ提督と折り合いが悪いゆーんも救いやな」

お陰で”ヤン提督”と直接戦うという事態は避けられそうやな。

「ああ、それといい忘れてたけど、ヤン・ウェンリーの魔術師や魔法使いなんて呼び名の由来は、その戦術的奇術もあるんやけど……」

まさか戦艦同士の一騎打ちなんて浪漫溢れるシチュエーションはありえへんやろうけど。

「ホンマの”チルダ魔導師”やからな? それもかなりの高ランクだった筈や」



***



「ともかくヤン・ウェンリーは色んな意味で厄介なんやけど、現状の”扱いにくい参謀”って立ち位置なら、特に脅威はあらへんよ。さっきも言った通りパエッタ提督とは折り合い悪うて、おそらくパエッタ提督も素直にヤンの進言を受け入れたりせんやろからな」

一応、根拠はあんで。
ヤンの欠点とされてるのは『率直過ぎる物言い』らしいからな。
それにウチも人のこと言えひんけど、若くしてとんとん拍子に出世したら、そりゃ妬みも買うねんな。

(それに高レベルの魔導師ってのが、早い出世の理由の一つやから余計やろ)

チルダの【魔導師偏重主義】は、今は管理局体制時代よりマシになったとはいえ、根強いもんがある。
それに生粋の同盟人やないのに、同盟軍で異例の出世しとるゆーんも面白くない人も多いんかもな。
ちなみにパエッタ提督は、非魔導師でミッド・チルダの出身やったなぁ~と。

「そしてパエッタ提督は、パストーレ提督や先に逝ったムーア提督と共に今回の迎撃プランを練ったんやから、そう簡単に破棄はせんやろからな」

さて、前置きはこのくらいでええやろ。
ウチは眼前の五提督を見回し、

「まあ、もうウチの戦術プランの真意を気付いたん提督もいるやろうけど……そろそろ開示しようか」

「ウチの戦術は……」















***************************************



「えっ!? 敵艦隊の目的は、第4艦隊の殲滅と俺達第2艦隊の強襲と可能な限り交戦、その上での離脱ですか!?」

「ああ。”夜天艦隊”の戦力から考えて、そのあたりが落としどころだろうね。おそらく”教官の艦隊”との正面切っての激突は望んではいないはずさ」

驚く短くそろえた青灰色のクセっ毛と雀斑(そばかす)がトレードマークのまだ少年っぽさが抜け切れないような青年に、同じくクセっ毛ながら、少しだけ年長の青年と呼ぶか男性と呼ぶか悩む年頃の男が答えた。
二人の共通項は、同じデザインの【自由チルダ同盟】の軍服を着ていること、そして襟元には魔導師を示す”魔法の杖”を意匠としたバッヂを付けていることだろうか?
それを肯定するように青年には紅い宝玉を仕込んだブレスレット形状、男性には瑠璃球を埋め込んだペンダント形状の待機状態(ディアクティブ・モード)のデバイスが輝いていた。

ここが街角であるなら、魔導師軍人が二人並んでいては違和感もあるだろうが、幸いにして……いや本人達にしては『不幸にして』だろうが、ここは作戦行動中の軍艦の中、それも第2艦隊旗艦の”パトロクロス”ときていた。

もう皆さんもお気づきであろう。
青年の名は【ダスティ・アッテンボロー】、男性の名は既に名前が出てきた……そう彼こそが噂の【ヤン・ウェンリー】である!!
いや、なんというかようやく”原作の主役”の片割れを書けたことで、テンションがあがってしまった。
失礼。



それはともかく……
今のヤンとアッテンボローが置かれた情況は、原作とそう立場の差がないように思える。
つまりは理解のある上官に恵まれずに、参謀としても軍人としても”干された”情況であるということだ。
違うとすれば、所属組織が自由惑星同盟ではなく【自由チルダ同盟】であるということと、二人が魔導師であるということぐらいだろうか?

お陰でブリッジの外で敵の手管をネタに、楽しく雑談中という有様である。
蛇足ながら、先ほどハヤテが『性格悪いんは、確かやろな~』とか思ってたときに思わずクシャミしながら、「風邪かな? 今日は身体を温めるために紅茶に入れるブランデーの分量を多めにするか……」とか呟いていたらしい。


「第6次イゼルローンやら第三次/第四次ティアマトの圧倒的な戦果のせいで、彼女は派手な攻撃を好むように思われてるけどね、実際の彼女は嫌になるほど堅実な手段を好むと私は思ってるんだ」

「先輩、どういうことです? 彼女は奇策にて大勝をもぎ取ったって評価が一般的みたいですが?」

「それは彼女に対する明確な認識の誤りだね」

疑問顔のアッテンボローにヤンはむしろ楽しげに答えた。

「いいかい? 夜天の王は全ての戦績で奇策に頼ったことはないんだ。むしろ常道を知るからこそ奇道を使いこなす……例えるなら、そんなタイプさ」

「その根拠とかあるんですか?」

「ああ。無論、彼女に艦隊戦のイロハを教えたのが、堅実な戦いこそが真骨頂のメルカッツ大将というのもあるけどね……今のところ『夜天の王、最大の勝利』とされる第三次ティアマトが、その代表例さ」

ヤンは、その知性に一切の疑いを持たせぬ鋭い光を瞳に宿しながら、

「あの時のホーランド提督は、常識と常軌を無視して奇策に頼った。例の”芸術的艦隊運動”だね」

「ああ、あの”人呼んでホーランド・スペシャル”ですか」

アッテンボローの言葉にヤンは苦笑しながら、

「だが、あの時の夜天の王はどうだった? 常道、いや常識に従いそのホーランド・スペシャルとやらが程なく運動限界点に達するのを見抜き、冷静に計算してその地点を予測した。そして、それだけじゃない」

ヤンは見えぬはずの敵艦隊を睨むような表情で続ける、

「味方艦隊、ミュッケンベルガー元帥率いる主力艦隊に擬似壊走を進言し、また自艦隊でアッテンボローも得意な偽装撤退を行い、自ら囮となった……この意味はわかるね?」

「第11艦隊を自らの懐に深く引きずり込む為ですか?」

「そうだ。そして、より早く第11艦隊を限界に到達させるためでもあるね。更に同時に擬似壊走した味方艦隊を第11艦隊の退路を遮断する方向へ誘導した上に、機雷散布さえ依頼してるんだ。無論、限界に達した11艦隊に艦隊一斉射撃を加える前に全て終わらせてね」

この時、討伐艦隊最高司令官である【グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー(Gregor von Muckenberger)】元帥は、『”我が娘”の艦隊戦デビューは喜ばしいし誇らしいが、我が艦隊に妙なクセがつかなければ良いが』と苦笑したとかしないとか。

「かくて世に言う我らが同盟戦史に残るワンサイドゲーム、【ティアマト艦隊包囲殲滅戦(ティアマト・ナイトメア・ポケット。直訳は”ティアマトの悪夢の包囲戦”)】は完成したのさ。まったく……一見すると奇策に見えるのに、実は嫌になるほど常識的な戦術を独創的に組み合わせたもんだよ。そりゃあ、世間が彼女の戦術的嗜好を見誤るわけだ」

そしてヤンはやおら真剣な瞳で告げる。

「アッテンボロー、私達がこれから戦うのはそういう相手なのさ」
















**************************************



皆様、こんばんわ。
明日も早朝から仕事なのに、危険な時間帯(笑)にアップを試みるボストークです(^^

さてさて、ハヤテの基礎戦術とか明らかになってきましたが……いよいよ魔術師が登場しました♪
原作同様に不遇な扱いを受けてるようですが(苦笑)

中々、戦闘シーンに発展リーチしませんが、”原作と異なる戦場風景”を出現させるために色々と仕込みも必要とご理解いただければ幸いです。

それでは、また次回お会いできることを祈りつつ。









[40398] 第8話 紅茶スキー「大抵の事柄は、歴史の紐を解けばいくらでも似たような事例が転がってるものさ」
Name: ボストーク◆8f6bcd46 ID:53288154
Date: 2014/10/08 00:07



「それにしても、先輩……かの”夜天の王”が、常道で常識的な戦術を好むってのは意外な感じですね」

「そうかい? ただ、常識的な戦術を好むからと言って、それを常識的に運用するとは限らないさ。先人達が気付き、戦場で敵や己の血で磨き上げた戦術、それの組み合わせにおいて独創的なアレンジにより、新たな戦術を構築することは十分に可能だからね」

ここは自由チルダ同盟軍第2艦隊の旗艦”パトロクロス”、つまり夜天の王とその艦隊にアスターテ宙域において真っ向から対峙しようとしている艦隊旗艦のブリッジ……の外側にある喫茶ラウンジであった。

青灰色のクセっ毛が印象的な青年は、パトロクロスの砲術士官であるダスティ・アッテンボロー自由チルダ同盟軍”大佐”、片や同じクセっ毛ながら黒髪でやや年嵩な男性はヤン・ウェンリー同盟軍”少将”だ。

ただでさえ原作でも出世の早かった二人だが、さらにその平行世界より出世してるのは、二人揃って【チルダ魔導師】であることも無関係ではないだろう。
アッテンボローは紅玉を仕込んだブレスレット型、ヤンは瑠璃球を仕込んだペンダント型のそれぞれフルオーダー/フルカスタム臭い専用デバイスから考えて、おそらくそれなりに高ランクの魔導師ではないのだろうか?

「単純な原理原則の組み合わせによる刻一刻と変化する複雑な現実への適応……私の見立てだと、”夜天の王”はその手の能力に秀でてるようだ」

「そりゃまた厄介なことで」

茶化すようなアッテンボローの口調だったが、ヤンはあえてそれを冗談とは取らなかったようで、苦い顔をしながら、

「まったくだね。お陰でコッチは、倍の兵力を生かせないままに殲滅させられる可能性が出てきたんだから」

ヤンは制帽を指先に引っ掛けくるくると回し、

「もっとも、ウチの提督はともかくとして、”教官”が私でも見抜けることを見抜いていないとは思えない。だから……」

そしてニヤリと笑うと、

「おそらく、もう動いてるだろうね」



***



「それがつまり、我々との合流……可能ならば挟撃を図ると?」

アッテンボローの言葉にヤンは頷き、

「ああ。今更ながらに、第6艦隊の提督が教官に代わったことだけが今回の戦いの勝機だと思う。あの人なら、ラップも十全に能力を発揮できるだろうし」

「リンディさんやラップ先輩の優秀さは、今更語るつもりはありませんが……それまで持ちこたえられますかね? 第4艦隊と我々は」

「さあね。実際、微妙なところじゃないかな?」

それは希望的観測を排除した冷徹な分析だった。

「まあでも、夜天の王にもいくつか付入る隙はあるからね」

「例えば、どんなです?」

「今回のアスターテへの出兵は、多分に政治的側面があるってことさ。ヴィヴィオ帝が即位してから三年……今上帝の現体制は、未だどうにも手の出しようがなかった先帝ほど強固なものでも磐石なものでもない。だから我々はこの三年、毎年のように猛烈な攻勢をしかけているんだけど」

「でも、そのたびに負けて帰ってりゃ世話ないでしょーが」

士官学校時代からの後輩の容赦ない言葉に、ヤンは微苦笑を浮かべ、

「その通り。我々同盟は猛攻によりまだ不安定なヴィヴィオ帝体制に対して揺さぶりをかけようとしたんだけど、逆に勝利を献上して体制の安定化に貢献してるってわけさ。皮肉なことにね」

だが、ヤンは表情をやや真剣なものにし、こう続けた。

「この三年間の中で、もっとも勝ち星をあげているのは夜天の王……【ハヤテ・デア・ケーニッヒ・フォン・ナハトヒンメル(Hayate Der Konig des Nachthimmel)】さ。いや、現実はどうあれ同盟軍の愛すべき紳士淑女諸君は、夜天の王一人にいいように捻られてる錯覚に陥ってるんじゃないかな? 上から下までね」

一旦台詞を切り、

「だからこそ今回、倍の戦力を用意して”ダゴン会戦の二番煎じ”まで画策した……多分、こんなところだろう」

ヤンは自分達が置かれた現状を適当に要約し、

「だけど、夜天の王とてアキレス腱がないわけじゃない。彼女は『常に勝利を期待される』……これが彼女にとって最大の足枷なのさ」

「……どういう意味です?」

「別に難しい話じゃない。さっきも言ったように我々はこの三年、『夜天の王一人にいいようにしてやられてる』ように感じている。アッテンボロー、それは何故だい?」

「え~と……ほかに大きく明確な戦果を挙げた提督がいないから、ですか?」

ヤンは肯定の表情で、

「その通り。他に戦果を挙げたとしたミュッケンベルガー元帥くらいだ。しかも彼は帝国宇宙軍最高司令官、いくら前線に出て来てると言っても正面から艦隊戦で殴りあうって印象は薄い」

『もっともそれは、夜天の王があまりにも鮮やかに派手に勝利を飾る印象が強すぎるせいでもあるんだ』とヤンは付け加えた。

(それはそれで危険な兆候なんだけどね……夜天の王ばかりが目立つようにミスリードされてるような気がする。実際に落とされた船は、ミュッケンベルガー元帥麾下の方が多いはずなんだし)

これは事実である。
今のところ夜天の王最大の勝利とされる第三次ティアマト会戦でも、夜天の王が命じた”艦隊統制射撃の主砲斉射三連二回”で沈んだ艦艇よりも、その後の退路を遮断する形でいつの間にか布陣していたミュッケンベルガー艦隊の半包囲殲滅戦で沈められた艦艇の方が多かった。
これは、古今東西を問わず軍隊が最も被害を被るのは撤退戦であり、何より斉射で旗艦を潰され第11艦隊は壊走状態だったので尚更だったと言える。

(夜天の王以外を目立たせないように報道してるのは、帝国側なら意図的な情報操作はありえるね)

もっとも同盟の場合は、そういう理由ではないだろう。
十中八九は、『歴戦の渋いオッサンより、うら若い乙女提督の方がセンセーショナルで紙面が映え、視聴数や購読数が増えるから』ということだろう。
表現の自由が建前でも保障されてるのでマスコミの力が強い同盟ならでは事情だが、その煽りを受けて夜天の王関連のグッズが飛ぶように同盟内で売れてるんだから、呆れるやら嘆かわしいやらだ。

「逆説的に言えば、今や【夜天の王の敗北=帝国の戦術的敗北】って図式が、戦場では醸成されつつあるってことさ。特に同盟/帝国問わず市民の間には、ね」

そしてヤンは小さく笑い、

「だから『夜天の王は負けられない』のさ。いやむしろ不利な情況でも勝ちに行くしかない。故に彼女の戦法や戦術は作戦的なフリーハンドが与えられた場合、必然的に攻勢面が強くなる。だからこそ、彼女の打つ手はある程度限られるし、それを読むこともできるんだけどね……」

顔を曇らせた。

「だけど、我らが提督はそれを読むことができなさそうですね……」

敬愛する先輩の表情からアッテンボローは、改めて自分達が置かれた情況を思い知るのだった。



***



「今から第4艦隊の救援に駆けつければ、間に合わないこともないと思うけど」

「ダゴン・アゲインだかダゴン・リバイバルだかを提唱した張本人が、率先してそれを崩すとは思えませんし」

ヤンは『まあね』と頭を掻くと、

「提督たちも少しは歴史……戦史ってのを学んでくれればいいんだけどね。ダゴン会戦の再現ばかりを重んじてるようじゃ、この先の戦闘を想像するだけで頭が痛いよ。歴史的に見ても、包囲殲滅しようとして逆に各個撃破されたケースは珍しくないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。歴史や戦争は宇宙航海時代に始まったわけじゃないだろ? 例えば今回の戦いは、地球史における”ガルダ湖畔の戦い”に酷似してるんだ」

”ガルダ湖畔の戦い”とは?
西暦1796年8月5日、北イタリアのカスティリオーネ・デッレ・スティヴィエーレで勃発した戦闘。その為に”カスティリオーネの戦い”と呼ばれることも多い。
ガルダ湖はこの地にある湖。
参戦したのはかの有名なナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍と、それを打ち破らんとこの地に進軍してきたオーストリア軍。
この時、オーストリア軍はガルダ湖南、自軍の1万の兵が立てこもるマントバ要塞を包囲しながら布陣していたナポレオン軍に対し、ガルダ湖東西湖畔(右翼群、中央群)とさらにその東から進撃する別働隊(左翼群)の三方向から分離合撃を行うべく進軍していた。
その時の戦力は、ナポレオンが3万に対して、オーストリア軍の総数は5万。

ナポレオンは要塞の中の敵兵を包囲するだけの最低限の兵力を残し、自軍のほとんどを率いてまずは兵力2万の右翼を全力で迎撃/壊滅させ、更に右翼の異変に気付いて駆けつけた中央群2万5千を待ち伏せにて迎撃、痛打を与え壊走させた。



「でも、それじゃあ駆けつけても返り討ちに合うだけなんじゃないですか?」

しかしヤンは首を横に振り、

「この時、オーストリア中央群を率いていたヴルムザー将軍のミスは右翼群の異変に気付くことに遅れてしまったこと……つまり、ナポレオンに待ち伏せ布陣をさせるだけの時間的余裕を与えてしまったこと。また、進軍の際にナポレオン軍が待ち伏せする可能性を考慮し切れなかったことさ」

「では、逆に言えばパエ……ヴルムザー将軍にも勝機はあったということですか?」

アッテンボローは、現状で自分達を率いる”将軍”の名を呼びそうになったことを慌てて訂正する。

「あったよ。例えば積極的に斥候を出してナポレオン軍の動向を確認。ナポレオン軍と右翼群が戦ってる最中に背面から襲い掛かり、右翼と中央で挟み撃ちして包囲殲滅とかね。逆に救援が間に合わないなら、むしろ本来の目的どおりにマントバ要塞に向かい、包囲していたナポレオンの残存兵力を駆逐して要塞を解放、中の勢力と合流してそこで戻ってくるだろうナポレオン軍を迎撃する用意をするってのも悪くない。何しろナポレオンの本来の目的は、オーストリア軍の殲滅ではなくマントバ要塞の陥落であり、またオーストリア軍の本来の目的は要塞の救援なんだから、むしろこっちの戦術の方が本来の戦術達成目的には適ってるのさ」

そして、現在の自分達に置換してヤンは言葉を紡いだ。

「現状においては、ダゴンの二番煎じの作戦プランを見破られたことを前提に破棄し、可能な限り迅速に戦力を結集させることが条件なのさ。だけどね、」

ヤンは表情を曇らせ、

「生憎と我らが提督は、よほど今回の作戦とその作戦を一緒に立案したご友人の提督に自信がおありらしい。作戦は事前にばれずに分離合撃は必ず成功し、また孤立した艦隊は単独でも優勢な夜天の王艦隊を打ち破れるんだろう。少なくとも第2艦隊と第4艦隊の一番エライ人はそう考えてるらしい」

珍しく皮肉げに唇の端で笑みを作った。

「それじゃあ、我々の勝ち目は……」

「まあでも、そう悲観したものでもないさ」

そろそろ悲壮感の出てきた後輩に

「例え二人の提督が気付かない……いや、考え付かないとしても、」

ヤンはにんまりと笑い、

「さっきも言ったけど……アスターテに集う同盟提督の最後の一人、我らが”教官”が私達程度でも気付くことを気付かないとでも思うかい? きっと既に手を打ってるさ」

(それも私の予想通りなら、きっと今頃はもう……)

「例えば、もう”WAS(ワイド・エリア・サーチ)”くらいは飛ばしてると思うよ?」











*************************************



皆様、こんばんわ。
明日、仕事だというのにこの時間アップで戦々恐々としてるボストークです。

今回はヤンとアッテンボローしか出てこないという色気も何もあったもんじゃないエピソードでした(~~

さて、次回は再び帝国サイドに戻る予定です。







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