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[3930] 緊急クエスト 帰還せよ! HR マホラ (モンスターハンターシリーズ×ネギま)
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/08/24 14:13

唐突だが自己紹介をさせてもらおう。
俺の名前はレイ。レイ・インバース。仲間からはゼロと呼ばれている。
どこがゼロかって? 俺に聞くな。とりあえず頭ではないぞ。むしろ良いほうだ。

んでもって職業はハンターだ。
え?ハンターって何かって? ハンターってのは町や村を凶暴なモンスターから守る者のことだ。
正確に言えばモンスターどもを増えすぎないように狩るのだ。
モンスターは繁殖力が強く狩っても狩っても一向に減らない。だからハンターは皆の命を預かっているとも言える誇りある仕事なのだ。

他にも、狩ったモンスターからとれる素材を町や村に売るという形で提供することで、人々の生活の役にも立っている。

年は17才。黒目黒髪の美男子 ってことはないが一応整っている方だと思っている。もっともハンターに顔は関係ないがな! 必要なのは腕と度胸だ。

趣味は読書。と言っても本は高価だし大きな町に行かないと手に入らないから、なかなか新しい本を読むことができないのが悩みだ。たまに村に来る商人に頼んでも重いしかさばるからいい返事をもらうのは難しい。

あとは鍛錬ぐらいだ。ハンターとしての修行でもあるから、訓練所に行くのが専らだ。
昔はいやいやだった気がするが、先輩でもある今の教官にさんざんしごかれた。感謝はしているが、楽しい幼少期を返せと言いたい。
まあ、狩りに早く出たいって言った自分のせいでもあるがな。

ちなみに俺は8歳の頃から狩場に出ていた。
つまり大ベテランってわけだ。まあ、8歳なんてまともに戦えるわけではないので正しく狩場に出ていただけ だが。おかげで10歳になるころにはモンスターを狩ることはできなくても、度胸はついたしどこで何が手に入るのかなど狩りには欠かせない知識をマスターすることができた。

昔はともかく今の俺は一流のハンターだ。
この前もぎりぎりとはいえモノブロスを一人で倒したし、あの超巨大龍ラオシャンロンを仲間とともに打ち倒したこともあるほどだ。


で、なぜこんなことを言うかというと俺は久々に困っていた。

大体のことは一人で出来るし仲間も多いからどんな事態もすぐ解決出来る自信はある。

だが、今 俺は困っていた。というより途方にくれていた。

周りは真っ暗、そしてこのなんともいえない浮遊感。

思考することが出来るほど長く光のない穴?の中を。もしかしたら上に上がっているのかもしれないし、穴と言うよりも空間のほうが正しいかもしれないが。

今まで落ちている時間からしてまず助からない気がするが、体感としてはあまり速くない。

こんなことは初めてだ。仲間からも聞いたことがない。

いったいこの後どうなるのか。そしてどうすればいいかもさっぱりわからない。

どうしてこんなことになったのだろうか。

まあ、要するに現実逃避ってやつだ。




~回想~


今日の始まりは何の予感もなくいつも通りの朝だった。

日が昇るころに起き、軽く鍛錬をしてから野菜を中心とした朝飯を食べる。
ベジタリアンではないが朝から肉を食べるやつの気がしれない。
狩り仲間には朝こそ肉だ!! ってやつもいるが。

さて、今日の予定だが、いつも通り仲間と狩へ というわけでなく、昨晩アイテムボックスの整理をしたところ、狩に必須な落とし穴の材料のネットが足りなかった。
よってネットに必要な蜘蛛の巣を探しに採取クエストを行うつもりだ。

荷物はモンスターを相手にするわけではないので回復薬、食料、研石を袋に入れ、力の爪、守りの爪を身につける。
爪は能力を大幅に上げてくれるものでわざわざ持つ必要はないがせっかくためた金をほとんど使って手に入れたのだから常に持つべきだと思わないか?

これだけでも十分すぎるが万が一に備え、他にもいくつかいくつか袋に入れる。

そして最後に蒼火竜の紅玉に穴を開け細い鎖を通したものを首にかける。
この紅玉は初めての火竜討伐でなぜか蒼火竜に出くわして、持っていた道具を使い果たし装備もボロボロになるまで戦いなんとか倒し、そのときに手に入れた記念すべきものだ。

本来亜種族ってのは普通種よりも大きく強いことが多いらしいが、不幸中の幸いと言うかその火竜はまだ若いものだったようで当時経験不足だったオレでも狩ることができた。
若い飛竜から大きな紅玉がでるはずもなく、純度は低く形も若干歪で大きさも小指程度のものだったので価値はあまりない。宝石とするにしても武具に用いるにしても純度が足りない。それに加工すればもっと小さくなる。もっとも価値があったとしてもオレにとっては何よりの宝物であり、お守りでもあるのだから売りに出すはずもない。

まあ、紅玉の話はこれくらいにして準備が出来たところで集会所に行く。
集会所ってのは俺たちハンターに仕事を斡旋してくれる所でそこで簡単な契約をしてから狩りに行くのだ。
ギルドを通さなくても狩りに出ることはできるが、支給品やモンスターの情報などもなくなによりアイルーの助けがないのはつらい。

アイルーとは獣人の一種で知能が高く会話もできギルドで働くアイルーもいて、ハンターがピンチになったときや気絶したときなどにキャンプ地まで運んでくれる。
当然アイルーたちの分け前として報酬は減るが何事も命あってこそだ。

他にも大きな町ではアイルーを狩場に連れて行ってハンターと協力して狩りをすることもあるらしい。もし今度町に行ったときに雇えるところがあったらぜひ雇ってみたい。

とか言っているうちに集会所についたみたいだ。

「こんにちは~」

「あら、今日も狩りいくの?」

「いや、今日は森丘に採取に行くつもりだ。とは言え、小物は狩ることになるだろうけどな」

森丘ってのは一般的な狩場「森と丘」のことで、特別強いモンスターや特殊なモンスターが出ることが少なく、初心者はここから始めることが多い場所だ。
とはいえ、べつにモンスターが弱いわけでも少ないわけでもないので油断はできない。

「わかったわ。あ、そういえば飛竜のリオレウスが出たって報告があったわ」

「レウスか~ まあ、平気だろ」

説明ばかりで申し訳ないが、リオレウスってのは代表的な飛竜の一種で赤い体に凶悪な瞳に鋭い牙と爪を持ち、高温の火の玉を吐く危険極まりない生物だがハンターからして見ればそこまで怖い相手ではない。
ただ雌のリオレイアと一緒にいた場合、危険度は跳ね上がる。ベテランでも大怪我をして運ばれてくることさえある。だがレウスだけなら、間違って出会ってもすぐにその場を離れれば問題ないだろう。

さっき話した紅玉はこのリオレウスの蒼い体色の亜種から採ったものだ。

・・・・・・ふと思ったのだが、オレは誰に対して説明しているのだろうか? まあ、どうでもいいことだが。

「じゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「ああ」

そんなわけでクエスト開始だ!

このとき俺は今日も何事もなくいつも通り一日を終わらせられると思っていた。
この後起こる悲劇(喜劇?)を知っていたなら部屋で一日寝ていただろう。後悔しても遅い。もう手遅れだからこそ後悔なのだ。






[3930] クエスト開始!!
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/08/24 14:14

村を出たオレは、とりあえず目的のものまで少し距離があるのでそこに着くまでに見つけたモンスター、青い狩人とも呼ばれる肉食竜 ランポスを狩り続けた。

村人が襲われるのを防ぐためもあるが、狩ったモンスターから素材となる部分を剥ぎ取り売ることで臨時収入となからだ。

このとき重要なのは素材となる皮や爪をなるべく傷つけないように殺す、つまり首を狙った一撃必殺がベストだ。
そうすれば剥ぎ取りも上手くできるし、全身の皮を傷付けずに売ると高く買い取ってくれる。

無理にする必要もないが、できるのならば必要最低限の動きで体力を使わないに越したことはない。
今回は採取クエストだから関係ないが、大物を狩ろうって時に小物で体力を使い果たしたら目も当てられない。

これらのことはハンターなら誰でも行っていることだが、ここまでさんざん狩り続ければ生態系のバランスを崩す、と考える人も出てくるだろう。
確かに大体の生き物はそれが当てはまる。

だがオレたちがモンスターと呼び、恐れ、狩り続ける生き物は例外だ。
狩っても狩っても湧いてくるように増える。
その理由は繁殖能力が異常にあるから、という見方が大半だ。だから人々はこの生き物をモンスターと呼び恐れる。

この広い世界にはハンター反対派などというどっかの金持ちの集団なんかもあり、その人たちはこの異常発生はオレたちハンターが狩り続けるからこそ種の存続のために進化した、訴えてくることがありかなり迷惑だ。

とにかく理由ははっきりとしないことは確かで、この世界の七不思議のひとつでもある。

七不思議は他に、剥ぎ取った大きな素材を持ったままどうやってクエストを続けるか、などがある。
これに関しては実はアイルーが持っていってくれるのが大半の実態だが、アイルーのいない地方もあるので正解ではない。

・・・・・・謎だ。

他の五つは機会があったら話そうと思う。
決して適当に言っているわけではない。

とにかくオレはランポスを狩り続け、20数匹目で滅多に上手く剥ぎ取れないランポスの頭を剥ぎ取ることができた。満足はしたのでそろそろ本来の目的のクモの巣を探しに行くことにした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




そのときオレは蜘蛛の巣を手に入れるため切り立った崖を蔦につかまり上っていた。何でわざわざと思うかもしれないがここが一番の近道だからしょうがない。

事が起きたのは、あと少しで上りきるとこまで来たときだった。
忘れもしない、あのにっくき巨大虫ランゴスタが襲ってきたのだ。

ハンターの中ではランゴスタは雑魚中の雑魚だが、蔦を上ったり剥ぎ取ったりをしているときには最悪の相手だ。

さっさと倒さないと何時までも腹についた大きな針、そして即効性の麻痺毒で邪魔をする。
大物を相手にしているときに麻痺になると確実に大きなのを食らう羽目になる厄介な虫だ。
ちなみに大きさは小型のものでも人の頭くらいある。大きい固体は1メートルを優に越す。

え?そんな虫の針に刺さったら穴が開くって?
それは気にしてはいけない。
きっと訓練の賜物だろう。
一般人は刺されたら大ケガは免れないだろうが。

そして、こいつらの親玉の女王虫は小型の飛竜並みの大きさを持つらしい。
まだ見たことはないが、おしりから毒液をだすことやその大きさはまさに悪夢とのことだ。

この女王虫が出てくると大型のランゴスタが大量発生し、農作物に多大な被害が出るし人間も襲われることが多くなる。
そんな時はランゴスタの素材が欲しいハンターたちの中でランゴスタ討伐隊が編成され、大人数で女王虫討伐に出かける。さすがにここまですれば討伐は難しくはないが、相対するランゴスタの数は数百とか言われる。誰が数えたのか知らないけど、最多では1000を超すとか。当然大けがをするハンターも少なくない。

そんなランゴスタに蔦を上っている最中に襲われたのだ。当然避けようもなく麻痺毒にやられ落ちて行った。

ここまでは、まあ うれしくないがよくある事だ。万が一 首から落ちても軽傷で済むのがハンターだからだ。
問題はこの後だった。
衝撃を受け蔦を離してしまった俺はあの独特な浮遊感を感じ・・・・・・ 

なぜか周りが真っ暗のなかを落ちていた。


~回想終了~




いいかげん終わらないのだろうか。
さすがにずっとこのままではないことを信じたい。それに考えに没頭している間に落ちるスピードが速くなっている気がする。
このまま加速していったら出られたとしても即死ではないだろうか・・・・・・

どれくらいたっただろうか。
ふと下?に目をやるとなんとなく明るい気がする。

やっと出口かと思いつつ死なないことを切に願いながら全身に力をこめる。
瞬間 周りが僅かながら明るくなる。闇の中を出てから数秒後、木々を吹き飛ばしながら着地する。

木の枝もかなり折り吹き飛ばしたが鎧のおかげでオレ自身には傷ひとつない。
着地の衝撃で足がめちゃくちゃ痛いがぎりぎり無事のようだ。

日ごろの鍛錬の賜物だな とか思いつつ回りを見渡す。

どうやら森の中のようだ。
落下時の衝撃のせいか自分の周りだけ木がなくなっている。
空を見ると星が瞬いていた。どうやら薄暗いのは夜だったからのようだ。

ここはどこだろうと考えていると、

「貴様、何者だ」

後ろからそんな言葉が投げかけられた。







武器 鬼斬破
   種類  太刀
   攻撃力 中
   切れ味 中
   属性   雷
   属性値 中   
   

頭 デスギアSゲヒル
胴 デスギアSムスケル
腕 デスギアSファオスト
腰 デスギアSナーベル
脚 デスギアSフェルゼ

スキル:状態異常攻撃強化・心眼・体力-20





[3930] ドクロ×ローブ=大男?
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/08/24 14:16
「貴様、何者だ」

後ろからそんな言葉が投げかけられたので振り向きつつ言う。

「見てわからないのか?」

「(顔は隠れて見えないが声からして以外と若いか・・・・・・ それにしてもドクロの仮面って変態か? まさかと思うが同業者?)お前のようなやつは見たことないが。やはりここの警備員か?」

「(警備員? ってことはここは誰かの私有地か?) いや、そんなんじゃない。オレは通りすがりのハンターだ」

声のした方を見ると、10メートルちょっと先に動きづらそうな全身を覆うタイプのローブに、口元までは隠れていない仮面をつけた 声からしてたぶん男がいた。

普通の人から見ればちょっと痛い人だが、ハンターのオレから見ればごく普通の格好だ。
動きづらそうなローブはマイナスだしオレたちが使うのは仮面ではなく兜だがそこは何も言わずスルーする。まあ、今オレが装備しているのも見ようによっては仮面に見えるしな。何たってドクロを模してるからな。
ローブについても防御力は低そうに見えるが特殊効果や属性の耐性が高いのかもしれない。金がなく安物を装備しているってことも考えられるが。

「ハンター? もしや噂の闇の福音狩りか?」

闇の福音狩り? 闇の福音というのが何なのかよくわからないが、とりあえず相手の勘違いに乗ることにする。

「ああ、そうだ。そういうお前は 何者だ?」

そう問いかけると男はニヤリと笑い、

「俺はフリーランスの魔法使いだ。こっちの狙いもお前同様、闇の福音だが・・・・・・ この俺様の獲物を横取りされるのは気に入らんな。変な格好をしているのが気になるが、邪魔をするならば・・・・・・
もとい邪魔になりそうなやつには消えてもらう! 俺様の輝かしい未来のために!!」

そういいながら何かを唱え、なぜかオレと男の間にいつの間にか大男が立っていた。

「え?」

「そいつを殺せ」

その一言が発せられると同時に大男は手に持った棍棒をオレに向かって振りぬいていた。
突然の出来事に呆然としていたオレは避けようと思ったときにはもう遅く、ガードも出来ず頭に直撃をくらった。

衝撃がオレを襲い一瞬頭が真っ白になる。

気がつくとローブの男から20メートル近く離れたところで木を背に倒れていた。
気絶しなかったのは常日頃の鍛錬のおかげか。

とりあえず起き上がりこちらも背の得物、太刀を握り構える。

オレが変な格好ならお前はもっと変な格好だとか、この大男はいったいどっから出てきたのかとか何で攻撃してくるのかとかいろいろ言いたいことがあったが、大男がこちらにやってきたので後回しにする。

大男が手に持つ棍棒をオレに向かって叩きつける瞬間、一歩前に出て相手の側面を取る。
相手が空振りをして隙だらけになった時を狙い、棍棒を持ったほうの腕に対し太刀を抜き放ち切り落とす。

切り落とした腕は一瞬ぼやけ目の前から消えうせた。
利き腕と思われるほうを使えなくし、一安心かと思ったが、

「何をしている。さっさと殺せこの役立たずが! くそ、所詮下級妖魔か。たかが一人に手こずるとは。
・・・・・・いや、相手は仮にも福音狩り。役不足は当然と考えるべきか。仕方ない。福音相手に使うつもりだったが、出し惜しみしても目的を果たせないのが一番痛いからな」

ローブ男が再び何かを唱えると、大男は苦しげに唸った後切り落とした腕が生え、体が一回り大きくなり前にも増した速さで襲いかかってきた。

腕が生える瞬間は正直気持ち悪かった。

大男の攻撃を何とかいなしてからいったん距離をとり、大男を警戒しつつローブの男に話しかける。

「おい、こいつに何をした。明らかに普通じゃない。このままだと死んでしまうぞ」

「知ったことか。これでこいつは上級妖魔並みの強さを得たはずだ。この妖魔は時間が経てば耐えられず自滅するだろうが、人間一人なら充分すぎる」

なにかぶつぶつと言っていたがその中で気になる単語があった。さっきも言っていた気がしたが気のせいではなかったようだ。
勘が当たっていれば、こいつを殺せないでいる要因が消えることになるのでダメ元で問いかける。

「妖魔? 見たことない種族だがモンスターなのかこいつ」

「そんな事もわからずにいたのか。とにかく今度こそ貴様は終わりだ。強化し凶暴化させたこいつにかなうはずがない! 行け! そしてやつを殺せ!!」

「ふぅ、まったくモンスターならさっさとそう言ってほしかったぜ。人だと思って手加減して損した」

「な、何!? 負け惜しみを言うな!」

「負け惜しみかどうか・・・・・・ 自分の目で確かめてみな!」

戦闘になってから今の間まで練り上げてきた気を解き放ち構えを取る。そして目の前の大男のみに集中する。

もし、この瞬間を気の達人が見ていたら全身から凄まじい量の気が立ち上っているのが見えただろう。

体勢を立て直し、またも向かってきたモンスターらしい大男に、

「ハァッ!」

太刀の間合いに入るかは入らないかの所で高速の三連撃、気刃斬りを放つ。

大男は異変を感じたのか間合いに入る前にぎりぎり踏みとどまるが、太刀から放たれた衝撃波が射程を延ばし大男の首と胴を切り離す。

瞬間大男はぼやけあっけなく消えていった。

放っていた気を納め、少し上がった息を整えてからローブ男を捜すが見つからない。
どうやら逃げたあとのようだった。

「まったく逃げ足の速いことだ。聞きたいことがたくさんあるってのに」

はぁ、とため息をつきつつ得物をしまった。
不思議なことに刃を見ても血も油もついてなく、どうやら大男が消えるのと同時に消えたようだ。

得物を鞘に納めその場に座り込みこの後どうしようかと考えていると、ッドォォン と明らかに普通じゃない音とバキバキッという木々の折れる音がしそれがしばらく続き、その後は不安になる静けさになった。

ちょっと心配になったが出来ることもないのでとりあえず寝てみることにした。野宿には慣れている。
太刀を背中からはずしごろん、と横になる。
周りは月明かりのおかげかだいぶ明るい。時間はわからないが夜だということは確かだ。さっきは気付かなかったが星の数かかなり少ない。
見えづらい地域なのだろうか。そんな場所聞いたこともないが。
そういえば、空気が濁っている気がする。意識するとよくわかる。うまく言えないが空気がまずいというか重いというか。
あとは・・・・・・ 体が重い。さっきの戦闘もそうだ。反応がいつもに比べ鈍かった気がする。予想外の出来事とは言え防御もできずに一撃をくらうなんていつもならまずないことだ。

物思いにふけっていると地面を伝って足音が聞こえた。

「・・・・・・」

さっきの男の仲間かもしれないので起き上がり横に置いた得物を握る。現れた男は30後半から40前半の渋い男だった。

男はこちらを見て一瞬息を呑んだように見えたが何事もなかったように近づいてきて言った。

「やあ、こんばんは。真夜中にこんなところにいる君は何者だい?」





[3930] 学園長は誰だ!?
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/08/26 14:26

「ついたのか」

「うん、ここが学園長の部屋だよ」

コンコン タカハタがドアを叩き開く。

「学園長、彼を連れてきたよ」


現在オレはこの町で一番偉いらしい学園長なる人の部屋の前まで来ていた。

高畑・T・タカミチと名乗った渋い男はここの警備員のようなものだと言った。
侵入者――ローブ男もそのひとりらしい――を捕まえにきていてその帰りにオレを見つけたらしい。
初めはかなり警戒していたようだが、頭装備を外してから敵対する気はないと伝えると一番偉い人に会ってほしいと言われ、オレは承諾した。

警戒していたといっても見た目や言動は普通に振舞っているように見えることからもこの男がプロだと判断できる。殺気とかはバンバン感じたけど。
この装備のオレを見ると誰もが不審者扱いなんだよ。悲しいことに。

ついて来るように言われ罠という可能性もあったが、オレのカンでは信用できると見た。これでも人を見る目はあるつもりだ。
最低限、いきなり攻撃してきたローブ男よりはましなのはわかる。

歩きながら軽く情報交換をした。こっちからすれば変なとこに飛ばされ五里霧中状態だ。ちなみに外した装備はわきに抱えている。

自分の素姓を話し合った後、さっきの音についてたずねてみるとどうもこの男がやったらしい。ハンターかと尋ねたが否定された。それどころかオレの言うハンターを知らないらしい。
あと、ここの警備員とのことだが、とりあえず見かけによらず危ない男だと思ったオレは間違ってないはずだ。
何をしたのか詳細を聞こうとしたが企業秘密だと言われた。
あの音からして木が折れていたのは確実。ハンマー装備のハンターなら簡単にできるだろう。しかし目の前の男は無手だった。得物なしで鬼人化でもしたのだろうか。
疑問は尽きない。

しばらく歩き森を抜けると、どこまでも人工的な町並みが広がっていた。

あまりの広さに驚いていると、すごいだろう?とタカハタが少し誇らしげに話してきた。

何でも都市ひとつがそのまま学校になっているらしい。
オレからしてみれば学校なんてものは、研究者を目指す一部だけが行っていればいいと思いそれを話すとなぜか苦笑された。
タカハタが言うにはここでは学校に行くことはごく普通のことらしい。
ちなみに今周りに人影はない。当たり前だ。聞くまでもなかったが今は夜中。月が昇り良い子は寝ている時間だ。

話を聞いて違和感があったが頭の隅に追いやり建物に入って行ったタカハタを追った。そして階段を上がりここまで来た。


部屋に入るとタカハタの言う学園長と思われる年老いた亜人と、なぜか学園長(仮)よりも良さそうな椅子に座った金髪の少女がこっちを見て固まっていた。
まさかとは思うがこの少女が学園長とやらなのだろうか。

「どう思うかの、エヴァンジェリン」

「どうもこうも…… 何だ。その怪しさ全開かつ気味の悪い格好は」

どうやら第一印象は良くないようだ。

「あははは。エヴァでもやっぱりそう思うかい。あまりにも平然としているからね。実はぼくも困っていたんだ」

タカハタ。お前もか……

「私でも、とはどういうことだ。私が驚いたら悪いか。まあそれはいいとして、いや良くないか。とにかく、そんな格好でうろついたら確実に捕まるだろ」

「まあね。現に今、僕たちに捕まっているわけだけど」

「あれ? オレって捕まってたの?」

「自覚がないのか。こいつは」

そんな風に 馬鹿かお前? みたいな眼で見ないでほしい。

「まあそこらへんはおいといて。自己紹介といこうかのぅ」

学園長(仮)がそう言った。
さり気にこの爺さんもひどいと思う。

「いや、そんなことこそ後回しだ。おい、貴様その格好は何だ?」

金髪幼女が言ってくるがどう答えるべきだろうか。

一言で言えば……

「鎧だ」

「「……」」

沈黙する学園長(仮)とタカハタ、どう返そうかと悩む少女。
沈黙が痛い。

「……それは見ればなんとなくわかる。そうではなく、なぜそんな物を着ているかということだ」

なんとか復活した少女が問いかけてくる。

「えーと、狩りの途中だから?」

「いや聞かれても困るんだがな」

「ふむ。狩りとな。どういうことか詳しく話してもらえんかの。自己紹介の後で」

いつの間にか復活していた学園長(仮)

「あー はい。わかりました。オレの名前はレイ・インバース。ハンターだ」

「わしは近衛近右衛門じゃ。聞いているかもしれんがここの学園長をやっておる。それにしてもハンターとはの。退魔師か賞金稼ぎのことかの」

どうやらこの亜人が学園長であっていたようだ。
賞金稼ぎはわかるが退魔師とはなんだろうか?
とりあえず違うと言っておく。
まあ、ハンターは賞金稼ぎと言えなくもないけど。

「違うのか。ではそれについても後で話してもらうことにしよう。わしからは以上じゃ。ほら、おぬしもせんか」

「フン エヴァンジェリンだ」

学園長に促されてしぶしぶと言った感じに少女が名乗る。
タカハタを見ると苦笑していた。どうやらこのエヴァンジェリンって子はいつもこんな態度のようだ。やたら態度がでかいが。

「ぼくはもう名乗ったからわかると思うけど高畑・T・タカミチだ。よろしく」

「ああ、こちらこそよろしくタカハタ」

「いや、さっきから思っていたけどタカミチでいいよ。こちらも名前で呼ばせてもらうから」

「そうか? わかった。改めてよろしくな。タカミチ」

さっき会ったばかりの人に馴れ馴れしいかなとは思ったが、初めから砕けた話し方をしていたので今更だ。

「話すべきことは多いが、もうずいぶんな時間じゃ。ちと早いかもしれんが明日の朝にでも来てもらうとするかの。残りの話もその時にするとしよう」

「わかった。起きたらここに来ればいいんだな。ところでオレはどこで寝ればいい? なければ野宿でも全然かまわはないが」

「フム、エヴァ」

「いやだ」

即答ですか。

「どうしてもだめかの」

「ああ。どうしてもだ。この私が何でわざわざこんな怪しいやつを泊まらせなければならんのだ」

確かに怪しいかもしれないが本人を前にしてそこまで露骨に言わなくても。

「面白い話が聞けるかも知れんぞ。部屋も余っているのだし1晩くらい泊めても良いではないか」

「しかしだな」

「彼の身につけているものの素材はあそこで見つかったアレによく似ておるし、背につけた得物もそうとうのモノのようじゃ。それに、おぬしは夜のもの。聞く時間はたっぷりとあるじゃろう?」

「……ジジイの言うことを聞くのは癪にさわるが確かにそのとおりだな。貸し一つだ。いいな」

「うむ。そうしてもらえると助かる。それと明日の朝、登校時間でいいから彼と一緒に来てもらえるかの」

「わかった。早めに来ることにしよう」

そう言って部屋から出ようとする。
どうやら無事交渉は終わったようだ。

「(ちょっといいかいエヴァ)」

と思ったら、今度はタカミチに引き止められ立ち止まるエヴァンジェリンちゃん。

「(彼は信用できると思っているが、一応気をつけてほしい)」

「(どうした、藪から棒に。警戒するのは当たり前だ。それで? わざわざ言うのはやはり何かあるのか?)」

「(うん、僕が捕まえた今日の侵入者が言っていたんだけど彼は福音狩りと名乗ったらしい)」

「(ほぅ、福音狩りとは。珍しい名が出てきたものだ)」

「(彼は適当に言っただけだと言ってたし平気だと思うけど)」

「(なるほど。気をつけよう)」

「えーと、行かないのか? エヴァンジェリンちゃん」

タカミチと何か小声で話しているエヴァンジェリンちゃんに声をかけと、

「!? ちゃん付けはやめろ! ほらぐずぐずするな。早く行くぞ」

そう言いながらさっさと部屋を出て行ってしまった。

「ぐずぐずってそっちが…… まあいいけどさ。」

オレはちょっとした諦めを早くも感じながら扉の取っ手を握ったのだった。





[3930]  正体を暴け!
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/08/29 00:56

side タカミチ


戸が閉まる音とともにエヴァと彼が視界からいなくなる。

「行ったかの」

「ええ。……彼、レイ君についてですが」

「わかっておる。魔法も使ってみたが嘘は言っておらんようじゃの」

「でしょうね。ここに来るまでの間、彼と話したのですが本当に困っているようでした。演技の可能性も考えてましたが、杞憂でしたね」

どうやら、学園長も僕と同じ印象を持ったようだ。彼は悪い人ではないと。

「ところでエヴァンジェリンに何か言っておったようじゃが」

「はい、今日捕まえた侵入者からの話では彼が闇の福音狩りと名乗ったそうです」

「闇の福音狩り…… それはまた珍しい名がでたの」

エヴァと全く同じことを言った学園長に、苦笑しながら話を続けた。

「もしもそれが本当ならエヴァと彼を一緒にするのはまずいのですが、僕は平気だと思っています」

「ふぅむ エヴァンジェリンに押し付けてしまったが大丈夫かのぅ。今更ながら少し心配になってきたぞい」

どうやら押しつけたという意識はあったようだ。
珍しく本当に心配そうな学園長に聞いてみる。

「それは彼が、ですか。それともエヴァが、ですか」

「どちらもじゃ。その話の真偽はともかく彼はかなりできるようじゃった。たしかに万が一の時、一対一では魔法の使えぬエヴァンジェリンには荷が重いかもしれん」

「そっちに関しても平気でしょう。仮にも僕の師匠です。魔法を使えなくても最強の一人だということに変わりまありません。
どちらかといえば僕は彼を心配してます。エヴァはやり過ぎる傾向がありますから。もしかしたら徹夜になるかもしれません」

「そうじゃの。エヴァンジェリンならあれこれ容赦なく聞くじゃろう」

「そうです。エヴァはああ言ってましたがあの鎧にかなり興味を持ったようですから」

「そう。その鎧じゃ。彼のあの格好について、何か聞いてるかね?」

「ええ。さっき彼が言っていたハンターについてから話しますが、モンスターと呼ばれる生き物を狩る人間のことをそう呼ぶようです。それであの装備はそのための防具といったところです」

「なるほどなるほど。で、そのモンスターというのは……」

「あの存在のことで間違いないと思います。
それから何であんな気味の悪い鎧を と言ったら彼に失礼かもしれませんが、装備をしてるのかは、趣味というかアレを気に入ってるから。一目惚れだそうです。僕には理解できませんが」

「たしかにの。アレを気に入っているとは。見た目は普通の好青年っぽいんじゃがの」

「それだけではありませんよ学園長。気づいたと思いますが彼がわきに抱えていたものは兜で、その形状がドクロなんです」

会ったときにドクロの仮面をつけていたのを見て思いっきり警戒してしまったよ。
あの仮面越しに見られた時正直冷や汗をかいた。

「ドクロ…… 彼の趣味はわからんの~」

「ええ、わかりたくもないです」

さすがの学園長もアレには共感出来ないようだ。

「話を戻すが、彼の鎧。あのドクロに布。この前見つかったものと似ておったと思わんかね」

「ええ、十中八九間違いないでしょう」

「ということはじゃ。彼が敵か味方かはともかく、今の話も含めると、例の存在について彼は何か知っている可能性は高いと考えられるわけじゃ。もしかすると解決の糸口が見つかったかも知れんの」

ふぉっふぉっふぉ と嬉しそうに笑う学園長。

「それでは彼のことについてはこれくらいにしようかの。君もはやく休みたいじゃろ。最近は忙しかったからの」

「そうですね。そうさせてもらいます。それでは学園長、失礼します」

礼とともに僕は学園長室を出た。


side out




オレは今、月明かりだけが頼りの暗い森の中を歩いていた。
なぜか。
答えは簡単。前を歩くエヴァンジェリンちゃんの家に行くためだ。


学園長室を出たオレは寮に行くのだとばかり思っていた。
なぜ寮を知っているかと言えば、学園の生徒が一時的に住む寮という建物があるのはタカミチから聞いていたためだ。だから学園長室に行く途中で見かけたその建物のところに行くのかと思いきや、森のほうに歩いていきそのまま行ってしまった。

初めは不思議に思ったが学園長の部屋が余ってる発言を思い出し一戸建なのかもと気づいた。
そういえば寮というのは学園に通う生徒が使う建物だと聞いた。
つまり生徒でもないオレは使えないってことだ。

エヴァンジェリンちゃんについて歩いていると、さっきまでは道なき道を歩いていたのが、気がつくと道っぽいところを歩いていることがわかった。
道の具合からしてもうそろそろ着くかな、と考えていると開けた場所に出て目の前になかなか立派なログハウスが建っていた。

普通の生徒にしては贅沢過ぎる気がしたが、考えてみればこんな時間に一番偉い人の部屋にいたのだから何かあるのかもしれない。


「ここが私の家だ。ついて来い」

「わかった」

ここまで来たのだから言われるまでもないが一応答えておいた。


エヴァンジェリンちゃんがドアを開けると待ち構えていたように一人の少女が立っていた。

「おかえりなさい。マスター」

「ああ」

「ところで後ろにいるのはどちらさまでしょうか」

エヴァンジェリンちゃんの後ろにいる人 つまりオレか

「えっと、オレは「こいつは今夜捕まえた不審者だ。一晩泊めることになった」……さすがにそれは酷くないかい? エヴァンジェリンちゃん」

「だから! ちゃん付けはやめろと言っただろうが! エヴァでいい」

また怒りだした。そんなにちゃん付けがいやなのだろうか。似合っていてかわいいのに。

「わ、わかった。エヴァ でいいんだろう? エヴァンジェリンちゃん」

「貴様。それはわざとか? わざとだな。私に喧嘩を売っていると判断してもいいよな?」

それにいちいち反応するところがまたかわいいと思う。

「そ、そんなことないぞ。落ち着いてくれエヴァ。それに大きな声を出したら近所迷惑だ」

「お前の眼は節穴か? ここのどこに他の家があると思ってるんだ?」

エヴァンジェリンちゃんとからかいのつもりで言い合いをしていると

「マスターが珍しく楽しそうです」

ボソリとつぶやく少女。ところでこの娘は誰だろうか。

「どこがだ!? このポンコツ!」

それを聞いたエヴァンジェリンちゃんがすかさず反応。

「八つ当たりりは良くないよ。エヴァちゃん」

ギロリ

「!?」

「ひねるぞ?」

「ナ、ナニヲデスカ?」

「聞きたいのか? ほんとうに ホントウニ キキタイノカ?」

「イイエ、ナンデモアリマセン」

「フン、初めからおとなしく従っていればいいものを」

はぁ、と怒りつつも疲れたような顔で溜息を吐くエヴァンジェリンちゃん。長いので以下エヴァちゃん。
無駄に器用だね。

「何か無駄に疲れた。とりあえず入れ。いつまでもここにいてもしょうがない。いろいろ聞きたいこともあるからな」

「そうさせてもらう。でも原因はやっぱりエヴァにあるとオレは思うぞ」

ギロリ

「な、何でもないよ。え、えーと お邪魔します」

怖い! 怖すぎだよエヴァちゃん。飛竜にも勝るとも劣らない眼力だ。
うーむ、将来が恐ろしいね。


そんなこんなでオレたちは家に入っていくのだった。





[3930]  迷子の戦士
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/02 01:17

「今までの話とこちらの持っている情報を総合するとだ」

「……」

オレは無言でエヴァちゃんの言葉に耳を傾ける。

「……」

エヴァの後ろにたたずんでいる茶々丸はもとから無言だ。表情に変化がないのがちょっと怖い。

「お前は……」

オレは? もったいぶらずにはやく言ってほしい。

「こことは異なった世界、つまり異世界から飛ばされて来たと考えられる」

……

……

……

「おい! 聞いてるのか!? 何か言ったらどうなんだ!?」

「ひとつ質問いいかなエヴァちゃん」

「だからちゃん付けはよせと「つまり どういうことだ?」……」

「お前がここに来る前にいたところに当分の間、最悪一生帰れないということだ」

「「……」」

「一生? 冗談だよな?」

「お前には悪いが冗談ではない」

ガーーーン!!!?

「だが、あくまで最悪の場合だ。そんなに落ちk ってもう聞いてないか」

固まったオレ
ため息をつくエヴァちゃん
無表情の茶々丸
ケケケケ と笑い声だけが聞こえるチャチャゼロ

とりあえずフリーズした脳みそを再起動するためにこの家に来てから話したことを思い返してみることにした(人はこれを現実逃避という)




 ~回想~


「適当に座れ。それから私の従者を紹介しておこう。茶々丸だ」

ログハウスに入るとエヴァちゃんはそう言った。

「絡繰茶々丸です。どうぞよろしく」

「こちらこそよろしく。レイ・インバースだ。茶々丸、でいいか?」

「はい」

「オレのことは好きなように呼んでくれ」

「わかりました。それではレイさんと呼ばせてもらいます」

「ああ」

礼儀正しくしっかりした感じの印象を受けるのだが、無表情ってどうなんだろう? もしかして嫌われてる? まだ何もしてないんだけど。

「気にするな。茶々丸はロボだからな」

エヴァちゃんからまるで心を読んだかのように口を出す。しかし、

「ろぼ?」

「そうだ。はいてくってやつだな」

ろぼ はいてく 何それ?

「オイ オレノ紹介ハネーノカヨ ソレニ 意味ワカッテテ使ッテルノカ御主人」

オレが首を傾げていると、どこからか声が聞こえた。
当然オレではない。目の前にいるエヴァちゃんでも茶々丸でもなさそうだ。

「ああ、こいつはもう一人の従者のチャチャゼロだ」

疑問を口に出すまでもなく先に言ってくれた。が、

「こいつ、と言われてもどこにいるんだ? 姿が見えないが」

「そこだ。お前の後ろ」 

といってオレの後ろのほうを指す。
後ろと言われ振り向くがあるのは人形ばかり。かなりの数がある。
人形集めが趣味なのだろうか。見た目相応だとは思う が、ここまで来ると視線を感じる気がして少し不気味だ。

「で? どこ? まさかこの人形とか言うんじゃないよな」

「そのまさかだ。チャチャゼロのことは気にするな。機会があったら紹介しよう」

「オイオイ ソレハネーヨ」

ケケケと何が楽しいのか笑う声。

声の主を探そうとしたが難しい。数が多すぎだ。

「それじゃまずお前の話から聞くことにしよう。っておい、こっち向けレイ」

「ん? ああ、すまん」

チャチャゼロ探しを中断してエヴァちゃんの方を向く。それにしてもこんな小さな女の子に呼び捨てにされるってどんだけだよ。

「何か言いたそうだな」

「何でもないよ。たいしたことじゃない。それで、何から話せばいいんだ?」

「そうだな。簡単にで構わないが、お前が住んでいたところやその周辺の地名や国名。国や町の規模。生活水準とかだ。深く考えなくていい。何かあればこちらで質問する」

そんなわけで簡単に話してみた。ハンターやモンスターのこと。人々の生活や村、王国のこと。あとあまり詳しくないが経済のことなどなど。

エヴァちゃんはしばらく考え込んでいたようだがやがて口を開いた。

「やはりどの地名も聞いたことないな。茶々丸。世界地図持って来い」

「わかりました」

そう言って茶々丸が奥に引っ込んでいく。

世界地図か。たしかにそれなら自分がどこにいるか容易にわかるだろう。
しかし、茶々丸が持ってきた地図は自分の知っている地図とは似ても似つかない、でたらめなものだった。

「何だ。この地図は」

「これがこの世界の地図だ。知っているとことはあるか」

「いやひとつもない。本当にこれが世界地図か?」

「信じられないかもしれないが事実だ。
こんな誰でも知っていることを知らないということはこの表の世界の人間ではないということだ」

おもて の?

「そう。表だ。そして表があるなら当然裏がある。
裏の世界。それは魔法の世界。この世界には魔法が存在する」

魔法? 正直そんなものは信じられない。

「信じられんだろうが…… 見ろ」

といってエヴァちゃんが指を立てると、そこに火か灯った。

!?

魔法なんてとても信じられるものではないが、こうまでハッキリとつきつけられると信じざるを得ない。

「わかってはいたが表の世界の人間ではなく、そして魔法も知らないお前は裏の世界の住人でもない」

「つまり……」


 ~回想終了~
 



こんな会話の後、冒頭の結論に至ったわけだ。

「そろそろ正気に戻らないか? 話を続けたいのだが」

ハッ っと気がつくとエヴァちゃんが退屈そうにこちらを見ていた。

「え? あ すまん。それで何の話だっけ?」

「ハァ ボケるにはまだ早い。おまえが異世界から来たのでは、というところだ。まあ、これについては薄々わかっていたことだ」

薄々わかっていた? どういうことだろうか。オレみたいのが頻繁に現れている、とか?
過去に例があったなら希望はあるかもしれない。
そこらへんのことを詳しく聞こうと思ったが、

「では本題に入る」

話は続くらしい。ってか本題? もう話すことはないんだが。

「最近現れるようになった強力な魔獣がいてな。
さっき言ったとおりこの世界には魔法が存在し、魔法の一つに召喚というものがある。この魔法はその名の通り妖魔や悪魔、魔獣、場合によっては人なんかを呼び寄せることができるわけだが、呼び寄せる存在は異世界からであることが多い。
この最近現れる魔獣だが、お前の話に出てくるモンスターと酷似してるものがいることからお前の世界から召喚されたのではと予想できる。
そしてこの魔獣が召喚されるとき誤ってお前が召喚されたのではないか、と私は考えているわけだ。
誰がどのように何の目的でしているのかまではわからんが、これが解決すればおまえも元の世界に戻ることができるかもしれない」


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「つまり、うまく原因を突き止められれば、召喚されたものを送り返す召還の魔法で元の世界に帰れるかもしれない。で、帰りたいなら解決のために手伝えと」

「そういうことだ。今話すことはこれくらいだな。この世界の詳しいことについては追い追い分かっていけばいいだろう。
ふぅ、少し疲れたな。そろそろ寝るか」

そう言って、うーん と伸びをするエヴァちゃん。
そこへ茶々丸がどうぞ、とお茶を置きつつ言い辛そうに声をかけた。

「マスター。申し訳ありませんがもう日が昇っています。登校時間まであと一時間ほどです」

「なに? もうそんな時間か。集中しすぎたようだな。しかたない。今寝るのは諦めるか」

「え、もう朝!? ちょっと待て! オレはここに寝に来たはずだぞ」

慌てて窓を見ると確かに日が差していた。

「うるさい。黙れ。気づかなかったお前が悪い」

「……急に眠くなってきたんだが」

元気そうなエヴァちゃんに対し、疲れが出てきたのか急に眠くなってきたオレ。

「だったらそこで寝てろ。時間になったら茶々丸が起こすだろう。私は学校で寝るからいい」

「学校で? 勉強はしなくていいのか」

「いいんだよ。私は」

「何で?」

「いいだろ どうでも。さっき眠いと言ってなかったか? さっさと寝ろ」

言い返そうとしたが

「どうぞ」

と茶々丸から毛布を差し出された。

「わかったよ。そうさせてもらう」

何言っても無駄そうなので素直に寝ることにした。
エヴァちゃんの言葉がショックだったのは確かだが、先のことを考えるのは後でいい。とにかく今は寝るのが先決だ。

おやすみ~と心の中で言いながら毛布をかぶった。

毛布がとても軽く暖かいことにちょっと幸せを感じたはどうでもいい話。





[3930]  小さな友情?
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/04 01:25

「ヒマだ~」

「ジャア、オレト死合イデモシヨウゼ」

「遠慮する~」

「ツマンネーヤツダナ」

「ハラ減った~」

「カッテニ アサッテ食ウノハドウダ」

「何もなかった~」

「……」

横に座るチャチャゼロとどうでもいい会話をする。
初めはともかく今は会話にすらなっていないが、どうせ時間をつぶすためだけのものなので中身なんてなくていい。

「ハァ オレこれからどうなるんだろ」

チャチャゼロが黙ってしまったので独り言が口からこぼれる。
昨日、というか寝る前にエヴァちゃんから言われた言葉が心にのしかかる。

「最悪一生帰れない、か」

解決できれば帰れるかも、とは言っていたが可能性はあくまで可能性にすぎない。

「別ニ死ヌワケジャネェンダカラヨ。元気ダセ」

「その言葉が心にしみるよ……」

「ハァ」

「それにしてもまだかな~」

時刻は太陽がてっぺんを過ぎてだいぶ経った頃。
当然お昼なんて食べてない。

カー カー カー

鳥の鳴き声が聞こえる。

腹が減っているせいか馬鹿にしているようにしか聞こえない。
捕って食ったらだめだろうか?




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




現在オレは戸の前に座っていた。隣にはしゃべる人形チャチャゼロ。
ちなみに鎧は脱いである。
もうすぐ夏という季節らしく朝でもそこそこ暑い。だからアンダーウェアでも寒くはなかった。
オレとしては着ていたかったが、

「たぶん来るのはタカミチだろうが、もし他の人間の場合、お前のその格好にはなれてないだろうから脱いでおけ」

と言われ素直に脱いで待つことにした。

そう。なぜこんなところにいるか。
オレは人を待っていた。

本当はエヴァちゃんや茶々丸と一緒に行くつもりだったのだが出る直前になって、

「お前、その格好で出歩くつもりか?」

「え? 問題あるのか?」

「当たり前だ。昨日も言ったとおりその格好ではただの変質者だ。
私や茶々丸を見ろ。この服装は制服といって学生が着る標準的な恰好だ。もちろん、男女やどこに通っているかなどで違いはあるが お前のそれとは比べるまでもない」

言われてみればハンターは鎧姿が常識だがそれ以外の人は薄い服を着ていることが多い。いや、ハンターだって鎧しか持ってないわけじゃないぞ。着る機会があまりないだけで。
たしかにハンターを知らない人から見ればそれは異常なのかもしれない。

「エヴァの言う通りだな。でもそうなると着ていくものがないぞ」

オレの一言でエヴァちゃんが一瞬固まった。

「しまったな。お前が寝ている間に茶々丸に行かせれば…… いやさすがに開いてないか」

頭が痛いと顔に手を当て唸るエヴァちゃん。

結局、学校に着いたら学園長に言って誰かに服を持ってこさせることに決まった。

「それではレイさん。行ってきます」

「おとなしくしてろよ」

こうしてオレ一人残されることになった。



しかし、しばらくしてもだれも来るようすがない。

暇になったオレはいったん家の中に戻り、エヴァちゃんの言っていたチャチャゼロを探すことにした。

わけあって動けないらしいが話し相手にはなるだろう。
オレとしては人形が話す時点で十分わけありだと思う。

あの人形の数から作業は困難を極めるかと思ったが、チャチャゼロ本人が声で誘導してくれたおかげで案外すぐに見つかった。どうやらチャチャゼロも暇だったらしい。

強力な助っ人(暇つぶしの)を手に入れたオレは再び戸の前で待つことにした。
しかし、待てども待てども人がやって来る気配はない。

チャチャゼロの話はどれも新鮮でとても面白かったが、しばらくすると主人であるエヴァちゃんの愚痴が増えてきた。
愚痴は聞き流し空を見上げ雲を数えてみたがそれももう飽きた。

「ヒマだ……」

「タシカニヒマダナー」

なんとなく心が一つになった気がした瞬間だった。


太陽は止まることなく動き続ける。

こうして大小二つの日時計が出来上がった。





side エヴァンジェリン


登校後、わたしは茶々丸を先に教室に行かせジジイのとこへ足を向けた。

「エヴァンジェリンや。ノックぐらいせいといつも言っておるじゃろ」

ジジイがうるさく言ってきたが無視する。
部屋を見回すとタカミチの他にガンドルフィーニや葛葉刀子など主な魔法先生たちがいた。

ジジイめ。これだけの人数を揃えるってことは一応警戒しているのか。
いや こいつの性格を考えれば、他の魔法先生との顔合わせの意味合いの方が強いかもしれん。

何人かはこちらを睨んでいるようだが相手にするのも面倒だ。
それにこの部屋にこの人数では狭苦しい。少しは考えろと言いたい。

ジジイは私が一人なのを見て首をかしげ、

「レイ君はどうしたのかの。一緒に来るように言っておいたはずじゃが」

「ああ、レイなら家に置いてきた」

「置いてきた? それまだどうしてじゃ」

「着るものがあれしかないらしい。気がついたのが家を出る直前だったのでな。さすがにあの格好で出歩くのは目立ち過ぎる」

「おお、そう言えばそうじゃったの。では誰かに服をとどけさせよう。おぬしの家にいるんじゃな?」

「そうだ」

「学園長。それなら僕が行きましょう」

その言葉に学園長は頷き、夕方頃に来るよう伝えることを指示した。

やはり思ったとおりタカミチが行くか。これなら気にするまでもなかったな。

「それでは学園長。紹介したいと言っていた人物は来られなくなった、ということでよろしいですか?」

集まっていた魔法先生の一人が言った。

「うぅむ みなすまんの。顔合わせは後日行うことにする。今日は解散じゃ」

ジジイの言葉とともに部屋を出ていく。

「エヴァ、途中まで一緒に行こうか」

「来なくていい。それに教室は出口と逆方向だろう?
レイが待っている。私に構わずさっさと行ってやれ」

「そうかい? じゃあそうさせてもらうよ」

私が一緒に行くのを嫌がるのはいつものことなのでタカミチはあっさり引き下がった。

「エヴァンジェリン。おぬしもちゃんと教室に戻るんじゃぞ」

「わかってる」

適当に返事して部屋を出た。

向かう先は屋上。もちろん寝るためだ。





[3930]  空腹の戦士
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/12 01:26

あれからさらにしばらく経って待ち人はやっと来た。
日が傾き、すでに夕方と言える時間帯。

来たのはエヴァちゃんの予想どおりタカミチだった。
大きめの袋を持っているのは服が入っているのだろう。

「待たせてしまってすまないね。とりあえずスーツ一式と君に似合いそうな服を適当に身繕ってきたよ」

「服を持ってきてくれたのは感謝しますが、さすがに時間かかり過ぎです。」

「ハハハ いろいろあったんだよ ほんとにいろいろと……」

なぜか遠い眼をするタカミチ。
何かたいへんなことがあったのかもしれない。

しかし朝ごはんを食べなかったばかりか昼ごはんまで逃し、しかももう少し来るのが遅ければ、晩御飯にも響くとこだった。
食べる当てがあるのかと聞かれたら答えられないが、とにかく食の恨みは恐ろしいのだ。

「そう簡単に許すわけにはいきませんね」

「しかたないね。非はこちらにあるわけだし。とりあえずスーツの方を着てくれるかい」

「スーツってこっちの方ですか」

「そうだよ。もしかして着かたが分からないかい」

「さすがに着るぐらいはできる、と思います」

「それはそうとエヴァたちは帰ってないのかな」

「ええ、まだ帰ってません」

そう言って服の入った袋を持って家の中に戻る。

思ったより手こずったがなんとか着ることはできた。

「じゃあ行こうか。学園長も待っているだろうしエヴァも一緒かもしれない」




歩きながらオレはずっと愚痴をこぼしていた。
しばらくオレの愚痴を聞いていたタカミチは苦笑いで 奢る と言ってきた。

当然のようにその申し出を受け入れると

「じゃあ少し遅れることになるけど、学園長のとこに行く前にいいところを紹介しよう。君も気に入ると思うよ」

そんなわけで学園長のとこに行く前に寄り道をすることになった。
現金なもので機嫌が悪かったのをきれいに忘れ、まだ見ぬ料理に期待に胸をふくらませながら前を歩くタカミチノ後について行った。
愚痴の中で奢るように言ったり仕向けたりはしていないと言っておく。



やってきたのは一つの屋台。
名前は超包子(チャオパオズ)と言うらしい。
何でもここの学生がこの屋台の店員をしていてかなり人気があるそうだ。
その言葉通り、それなりの数の人が席に座って食べている。

適当に席に着くと茶々丸がやってきた。

「ご注文は…… レイさん?」

オレを見て驚いている(気がする)茶々丸に何しているのか聞くと

「アルバイトです。レイさんこそ、学園長先生のところに行ったのでは? すでにマスターがお待ちになっていると思いますが」

そう言って高畑先生の方を見る。

「いろいろあって遅れてしまってね。レイ君、昼は何も食べてないそうだから」

「そうですか。一度家に戻るべきでした」

頭を下げすみませんと謝る茶々丸。

そうしていると店の中から語尾が変な女の子が現れて話しかけてきた。

「茶々丸の知り合いカ?」

「はい、マスターが連れてきた人でレイさんと言います」

いくつか茶々丸と言葉を交わし

「なるほど。ワタシ、この超包子のオーナーの超 鈴音と言うネ」

そう言ってから茶々丸の知り合いならおまけしておくと言い、白いものを皿の上に置いた。

「これはパン、か?」

微妙に変な匂いがするそれに戸惑っていると

「もしかして肉まんを知らないのかい」

「肉まん? 見た目より重いのは肉が入ってるのか」

「肉だけじゃないけどそんな感じかな」

肉まんは食べてみると思ったよりおいしく、他にも注文して出てきた料理は見たことないものばかりだったが満足する味だった。

食べている最中タカミチがまた謝ってきたのでもう気にしてないと言っておいた。
遅れた理由を後から聞くと店か臨時休業だったり前日閉店したりとかであっちこっち行くはめになり、しかも移動中に電車が止まって足止めを食らったり学生の乱闘に巻き込まれ鎮静したりなどなど。
さすがに同情した。


今後も超包子をごひいきに~
食べ終わった後、その言葉を背に受けながら今度こそ学園長のとこに行くことになった。



店を離れ5分もたたない内にまた知り合いに遭遇した。
と言ってもオレではなくタカミチの知り合いだが。

「高畑先生 こんにちはー!」

こちらに走りながら大声でのあいさつ 元気なのはいいが恥ずかしくないのだろうか? 
しかし、道のど真ん中でこれだけ大きな声を出せば注目をあびそうだが、誰も気にした様子はない。

タカミチに挨拶したのは明るいオレンジっぽい色の長い髪でツインテールの女の子。
しかもアンテナ(アホ毛)持ち。
エヴァや茶々丸の服と同じところを見ると同じ学校かな。

「アスナ~ あ、高畑せいせい こんにちは~」

その後を、名前?を言いながら追いかけて来る女の子。
こっちは対照的に黒髪でおっとりした感じ。

「ハハハ 相変わらず元気だね アスナ君」

「今日は急用ができたって話ですが何かあったんですか?」

「いやいや、大したことじゃないよ。彼についてちょっとね」

タカミチにそう言われて元気な女の子、アスナちゃん?はこちらに目を向けると今初めて気がついたって感じの反応をした。オレ影薄いのかな?

「えっと?」

「もしかして新任の先生なんか?」

「う~ん、どうだろうね。それは学園長しだいかな」

元気な方が窮しているとおっとりした方が聞き、タカミチが答えた。

そうか あの人しだいなのかー。考えてみたら一応オレって不審者なんだよね。
思考の泥沼にはまりそうになっているとおっとりした方が声をかけてきた。

「ウチ 高畑せんせいのクラスの生徒で近衛 木乃香って言います」

「ん? ああ、オレはレイ・インバース。好きなように呼んでくれ」

「じゃあレイさんって呼んでええ?」

「ああ」

「それにしても日本語上手やな~ ペラペラやないか。黒髪やし日本の人やと思ったで」

「そ、そうだな。えっと母が日本人なんだよ。うん」

「ハーフってやつやな。あ、そうや あっちで高畑せんせいと話しているのはアスナって言うんや。それでおじいちゃんしだいてどゆことなん?」

予想外のセリフにちょっと焦りながら答えたが気にしてないようで助かった。それにしても……

「おじいちゃん?」

「あ、ウチのおじいちゃんな、この学校の学園長やっとるんや」

……あれ? おかしいな。あの人は亜人じゃないのか? それともこのかちゃんはクォーターとか?

「なるほど。それについてはオレもどうなるかわからないんだ。一応それを決めに学園長のとこに行く途中」

考えても解は出そうにないのでとりあえず疑問は後回しにして答える。いずれ機会があったら聞いてみよう。

「もしかして邪魔やった?」

少し心配そうに聞いてくるこのかちゃんにそんなことはないと言ってからタカミチに声をかける。

「遅れてるんじゃなかったっけ。急がなくていいのか」

「ごめんごめん。今行くよ」

じゃあねアスナ君と言ってからこっちに来る。

「行こうか」

行くのはいいけど何か睨まれているんだが…… しかもかなりの眼力だ。

「アスナは高畑せんせいのことが好きなんよ」

このかちゃんに顔を向けるとそう答えてくれた。
似合わな過ぎだ。まあ、人の好みはそれぞれだけど。

またなーと手を振るこのかちゃんと別れ今度こそ学園長のところへ。


しかし二度あることは三度ある。
この後も何度かタカミチの教え子とやらに会い時間を喰った。

その中で特に印象に残ったのが当たりが出てダブったから、と言ってジュースを分けてくれた女の子。
前髪の長い女の子にやめた方がいいと言われたが、強くは言わなかったので平気だろうと思ったのが間違いだった。

……ペッパーマンゴジュースなる飲み物は何とも言えない味だったとここに記しておく。
彼女は同じものを普通に飲んでいたがこれを本気でおいしい、と思っているのならそれはそれで尊敬してしまう。いや、ここは味覚を心配するべきだろうか?

苦労して飲み終えた後、少し期待したような目をしてどうですか?と聞かれた。
さすがにまずかったとは言えず、悪くはなかったと言ったら今度お勧めの店を紹介するですと言われた。マジで勘弁してほしい……
彼女が少し嬉しそうな顔をしていた(気がする)のが唯一の救いだ。


結局 学園長のとこに着くのはだいぶ遅れ、タカミチ共々なぜかエヴァちゃんに怒られたのだった。





[3930]  突然の来客
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/22 01:38

この部屋にいるのは四人。学園長にタカミチ、エヴァ そしてオレ。
さっきまで怒っていたのが嘘のように真面目な顔をしてエヴァちゃんが声を発した。

「ジジイ、こいつの話を聞いて確信した。やはり異世界の人間のようだ。
ある程度のことは家で話したからさっさと本題に入れ」

「うむ。エヴァンジェリンからすでに聞いたかもしれんが……」

そう断ってから学園長は話し始めた。

五年ほど前からの誰も見たことがなく過去の記録にも載っていない魔獣が現れるようになった
その中には現在ではほとんど存在しないドラゴンによく似たものまでいて、ここだけでなく世界中の魔力濃度の高いところに現れている
しかも初めは現れる頻度も少なく年に数件だけだったのが最近では増えてきている
中でもこの麻帆良では頻度が高く多いときは週一で現れることすらある

おかしなことに結界が貼ってあるにもかかわらず反応もなく唐突に現れ、仕留められなくてもしばらくすると唐突に消える
しかし仕留め損なうと一週間しない内にまた現れる
見た目や傷跡などからそのとき現れるのは同じ固体だと分かっている

どの魔獣も厄介な相手だが、うまく倒せれば貴重な素材が手に入る
どこもそのこともあって撃退に力を入れている

それと仕留めてもしばらくすると死骸が消えてしまうため詳しいことも分かっていない
ただし死骸からはぎ取ったものは死骸を中心として、そこからある程度離れれば消えることはない

最近になってこの魔獣対策の魔法が作られ、手に負えないときは召還の魔法を応用したこの魔法によって別次元に飛ばしている


他にもいろいろとエヴァちゃんに聞けなかったことや魔法について聞いたりした。
それからエヴァちゃんの言っていたもしかしたら帰れるかもと言う発言について聞いてみたら、

「君たちが来る前にエヴァンジェリンにレイ君から聞いたことを話してもらったが確かに話に出てくる生物と謎の魔獣はよく似ておる。
この魔獣とお主が同じ世界から呼ばれてきたのではないかというエヴァンジェリンの考えにもうなずける。
そしてもしそうなら可能性はあるのぅ。ただし分かってないことばかりで いつになるかは何とも言えんがの。
なあに、住めば都とも言うじゃろ。初めはわからぬことばかりで戸惑うかもしれんが、慣れればお主もここを気に入るじゃろう」

「それで今後こいつはどうするんだ? いつまでも泊めておく気はないぞ」

「とりあえず警備員として雇うことにしよう。これがその証じゃ。常に持っているようにしておくれ」

口を挿んだエヴァちゃんにすでに用意していたのか一枚のカードを取り出しこちらに差し出した。

渡された小さなカードを見てみる。何やら細かい字がたくさん書いてあるようだが よ、読めない…… 
きっと許可するとか何とか書いてあるのだろう。
ふぅ、これでやっと不審者から脱出か

「それから、しばらくしたら今日行えんかったほかの関係者との顔合わせと君の力を見るための模擬試合をしてもらいたい。あの魔獣と戦う力を持っているのだから問題はないとは思うが一応の。
その結果次第で裏の仕事もしてもらうかもしれんが今は気にしなくてよいぞ」

「わかりました。警備員がすることはタカミチがやっていた見回りとかですよね」

「そうじゃ。今は形だけじゃからあまり張り切らなくてもよいがの。それからこれを渡しておこう」

そう言って渡された封筒の中を見てみると長方形の紙の束。

「お金、ですか?」

「そうじゃ。それだけあればしばらく生活には困らんじゃろうて。
あとは住む所じゃが……」

そう言って地図を広げる学園長。

「この寮の管理人室なんてどうじゃ?」

「管理人室って普通、管理人が使うものですよね。もしかして相部屋ですか?」

「そんなわけないじゃろう。おぬしに管理人もやってもらおうかと思っての」

「無理です! ここのこともよく分かってないのにできると思ってるんですか!?」

「そう言う前に話だけでも聞いてくれんかの。
実は前の管理人が少し前に退職してしまっての。さすがにいつまでもいないのは良くないので君にやってもらおうというんじゃ。
なに 管理人と言ってもすることはたいしてないぞい。重要なのは管理人がいる ということじゃからの。
形だけでよいんじゃよ 形だけで」

ふぉっふぉっふぉと無気味に笑う学園長。
昨日は変なのは形だけかと思ったが、どうやら中身もまともじゃなかったようだ。

「いやだと言ったら?」

「教員用の部屋は空いてないこともないが、来年のことも考えてある程度は残しておかなければならんのじゃ。
教員になるのはもっと嫌じゃろう?
エヴァn「いやだ」 ……エヴァンジェリンの家もだめじゃの。家主がこう言っとるからのぅ。
あとは少し離れた場所になるが部屋を借りるかホテルぐらいかの。
しかしそれだと渡した金はあっという間に尽きてしまうぞい」

「わかりましたよ。そこで 管理人室でいいです」

「そう言ってもらえると助かるの。警備員兼管理人と言うことで給料も上乗せしておこう」

「では今日からそこで?」

「いや、すぐに用意できるものでもないからの。
エヴァンジェリン もう一晩泊めてやってくれるかの」

「わかったよ。今日が最後だからな」

「うむ。それからこれを渡しておこう。携帯電話じゃ。代金はこちら持ちじゃから心配しなくてよい。使い方はエヴァンジェリンから聞いとくれ」

手のひらサイズの四角いものを渡された。小型の通信機か。

「あ、そうだ。もし帰る方法が見つかったら教えてくれ」

「あいわかった。何か手掛かりがあったら連絡しよう。
今日はこれでお開きじゃ。タカミチ君も帰ってよいぞ」




上弦の月の下 エヴァちゃんの家へ歩みを進める。
昨日と同じ道を行くことしばらくして

「なぁ レイ。お前は帰りたいか?」

「ん?」

「何、が帰れないかもしれないと言われたのに案外普通だなと不思議に思っただけだ。さすがに昨日は少し固まっていたが」

普通だろうか。これでも結構ショックを受けている方だが。
どちらにせよ自分のいた場所、いるべき場所へ帰りたいという感情は生まれの地を離れれば必ず出てくるものだ。

「帰りたいにきまってるだろ」

だからそう言ってやった。

「やはり家族、か?」

「いや、家族はいない。オレが小さい頃にモンスターにやられたらしい」

エヴァちゃんは前を歩いているため顔は見えない。何を考え何を想うのか。

「それでも育ててくれた人や仲間がいる。だから必ず帰るさ」

「そうか だが私には……」

「え?」

小さな声で言われたためよく聞き取れなかった。
聞き返したがエヴァちゃんは 何でもない。今のことは忘れろ と言ってもう話す気はないようだった。

結局、オレにはエヴァがなにを思ってそんなことを聞いてきたのかわからないまま家についた。



エヴァちゃんの家に着いてからはたわいもない会話をした。
タカミチが遅かったせいで昨日から今日の夕方まで何も食べなかったことや、学園長のとこに行く途中出会った生徒のこと。
その娘たちがエヴァちゃんのクラスメートだと知って驚くなど、どうでもいいやりとりをしてそろそろ寝ようかと思った矢先。
突然鳴り響く謎の音。

「え、エヴァ!?」

「うろたえるな、その携帯が鳴ってるだけだ」

そう言ってオレが学園長から受け取った携帯電話を指す。

エヴァちゃんが使い方のわからないオレに代わって携帯に出ると、何を聞いたのか眉がつりあがる。
そして携帯を耳から話すと同時に言い放った。

「おい 準備しろ! 魔獣が現れた!!」


あわただしく準備するオレたち。




「グオオオオオオォォォォォオオォォォォォォォォォォォォ」


森の中に響く咆哮。

夜は長い。さあ 狩りの時間の始まりだ……





[3930]  歪みより現れしモノ 其の名は……
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/28 22:31

其れは圧倒的な存在。
其の存在の前ではたとえ対抗しうる力を持っていたとしても、半端な覚悟では殺されに行くようなものだろう。

怒りに燃える双眸。肉どころか骨すらも簡単に砕く大顎に鋭い牙。一度掴んだら絶対に離さない強力な鉤爪。人間にはまねのできない空を支配するための双翼。森に紛れる緑の体色に圧倒的な存在感を放つ巨大な体躯。あらゆる攻撃を弾くだろう強固な鱗。
力、守り、速さ、大きさ。全てにおいて人間をはるかに凌駕する竜種。

其の者は天空の王者リオレウスと対をなす存在。

人々は畏怖をこめてこう呼ぶ。

大地の女王 リオレイアと……




学園長から連絡があった後オレはすぐに準備をした。
タカミチから受け取った服からいつもの鎧姿へ。
得物を背につけアイテム袋を腰につける。中身はこちらに来た時そのままだが、いつもの時間のかかる狩りではないので食料は置いて行く。

エヴァちゃんはマントをつけ帽子をかぶるだけの軽装だ。ほかにも液体の入ったガラス管のようなものを用意していたが、そんな格好では突進なんかされたらプチッ♪ とつぶされそうだ。
軽装とか以前にタカミチならまだしもエヴァちゃんのような小さい娘に何ができるのかと思い、待っているように言ったが魔法使いをバカにするなと一蹴された。そもそも場所はわかるのかと聞かれたので勘と答えたら蹴られた。
足を抑え少し悶えた後、魔法使いをなめるなと息巻いていたが涙目なので迫力は皆無、むしろ笑る。というか指さして笑ってやった。
そしたら顔を真っ赤にして怒りだしたがおかげで緊張が解けた、と言ってやったら今度は黙ったまま睨んできた。
いつもの(と言ってもまだ会って2日だが)クールな表情とのギャップにクラっときそうだ。そっちの趣味のおじさんにさらわれたりしないか少し心配だ。

冗談は置いといて、ぱっと見て準備しているのはオレたち二人だけ。茶々丸はさすがに留守番かと思ったら小型の結界弾とかを用意するために遅れるそうだ。よくわからないが足止めに使うそうでしびれ罠に似たようなものかな、と思っておくことにした。

家を出てからオレたちはすぐに走り出した。森の中は木々が茂っていていくら月明かりがあるといえ結構薄暗い。しかしハンターとして鍛えられたオレからしてみればこの程度大したことはない。
エヴァちゃんの場合は走るというよりも浮かんでる、もしくは飛んでるように見える。魔法なのだろうがこれなら転ぶ心配はないだろう。
指から火を出した時もそう思ったが魔法ってやつはつくづく便利だと思う。オレも練習したら使えるようになるだろうか。

まあ、そんなオレのことはどうでもいいとしてゆっくりする余裕もないので走りながら状況を聞くことにする。

「いったいどいつが出たんだ?」

「緑色の竜だ。たしかお前の話ではリオレイアと言ったか」

「緑ならレイアだな。もしかしたらオレの知らないモンスターの可能性もあるけど間違いだろう」

「それでやつの弱点とかはわかるか?」

「ああ。レイアの弱点は雷だ。部位で言うならありきたりだが頭と腹だな」

「頭や腹が弱いのはわかるが雷だと? つまり電気のことだろう? しかし正直言って魔法はあてにならんぞ?」

「ちょっと待て。魔法でどうにかならないのか?」

「本来なら雷なんぞ魔法でどうにでもなるんだがな……」

なぜか言いよどむエヴァちゃん。

「何かできない理由があると?」

「そうだ。細かい説明は端折るがやつらが現れるとどういう原理か知らんが周りに結界が貼られ、その結界の中では中位魔法や高位魔法がかなり使い辛くなっている。
しかもやつらはいくらか耐性を持っているらしく効きずらい。よってもっぱら戦うのはタカミチなどの気の遣い手になる。
ちっ たしか葛葉 刀子は出張中だとジジイが言っていたな。タイミング悪い」

「?」

「なんでもない。とにかくそう言うわけで魔法は補助程度に思っておけ。わかったな?」

「ああ」

「しかし魔法も使えないお前らハンターたちがどうやって電気を浴びさせるんだ? まさか雷が落ちるのを待つわけでもないだろう?」

「あたりまえだ。そんな悠長なことはやってられない。丁度良いことにオレの得物は斬破刀だからな。どうするかは見ればわかるよ」

そう言ったとき一瞬視界が歪んだように感じた。

「結界内に入った。注意しろ」

エヴァちゃんに目を向けると頷き返され結界の中に入ったことを告げられた。

その言葉を受けて耳を澄ますと、物をたたいた時のような鈍い音や木の折れるような音がたしかに聞こえる。

不思議なことに結界の中に入ってから気持ち程度だが体が軽くなったように思える。視界が歪んだのを感じたと同時に自分の体の何かがずれた、もしくははまったような感覚。
気にはなるが悪い状態ではないので考えるのは後回しにし、思考を狩りのときのものに移していった。





side ????


女王は怒っていた。
狩る者であるはずの自分が襲われ傷つけられたのだ。
相手は力や速さなど、何においても自分より圧倒的に劣っている小さき者。
ひ弱な体を守るため硬い鉱石やモンスターの鱗などでできたものを身にまとい、似たような鉱石や牙などでできた武器を構えた幾人かの集団。
逃げるなどという選択肢は狩る者である自分には存在せず、当然のように迎え撃った。
しかし結果は散々。
自慢の翼は切り裂かれ、獲物を捕らえる鋭い爪は叩き砕かれ、遠くまで見渡すことのできる目は突き潰され片目を失い、体の周りには小さな爆発物をばらまかれた。
なんとか追い返すことには成功したがダメージは大きい。
そして体以上にプライドを傷つけられたことが効いていた。
女王はすぐにでも報復をと考えたが何分 体がいうことをきかない。
仕方なく一声上げると傷ついた体を癒すために巣にむかって飛び立った。

巣の中で小さき者にやられた傷を癒しているとふいに引っ張られるような感覚を受けた。
一瞬後に視界が真っ白に染まり、気がつけば周りは暗く木の生い茂る場所にいた。
自分が何故巣から違うところにいるのはわからなかったが、白い光には覚えがあった。
強いその光によって目が眩んでいるうちに痛い目にあわされたのはつい先日のことだ。
少し混乱しつつも自分を傷つけ小さき者がまたやってきたのだろうと思い、女王は咆哮を発した。

「グオオオオオオォォォォォオオォォォォォォォォォォォォ」


side out





レイがエヴァンジェリンについていきこの結界の中心地、つまり竜のいる場所に到着したときには予想どおりすでに戦いは始まっていた。
見えるのは緑の鱗を持った竜、予想通りリオレイアのようだ。

リオレイアの正面には一人の男、今日からレイの同僚となった高畑・T・タカミチ。少し離れた所にはローブをかぶった者や杖を構えた者がちらほら見える。

しかし注目すべきはその竜の大きさ。
近づけばよくわかるが、レイが見たことのある最大のリオレイアをさらに一回りしたほどの滅多に見ることのできない巨大さ。
いわゆるキングサイズ級と呼ばれるものだった。

一般的にこういった飛竜の知能はそこまで高くなく、攻撃も単調なものが多い。ただしその大きさに比例して体力は非常に高く、同様に力も強い。はたしてその巨体から繰り出される力はどれほどのものか。

「グオオォォァァアアァァアァァァ」

レイたちが近づくとこちらに気がついたレイアが威嚇の咆哮を上げる。
暗い森に響き渡る声と同時にびりびりと空気が震える。

その衝撃に動きを止めたすきに突進してくるレイア。
突進のコースから左によけ背中から太刀を抜き放ち頭の上で一回転させ右上から斜めに切りつける。
少し距離があったことと多少の慣れ、そして狙われたのがオレでなかったら危なかったかも知れない。
倒れこんだレイアに向かって光の弾が飛ぶ。
たとえ一発の威力は低くてもその数はかなりのもので起き上ったレイアは少しふらついているようだった。エヴァちゃんは大して効かないと言っていたがさすがにあれだけ当たればダメージはあるようだ。

「援護よろしく。間違ってもオレには当てないでくれよ!」

そう言ってからレイアを見据え溜めていた気を太刀に通す。するとその刃はしだいに淡い光を放ち、さらには紫電をまとった。
それは暗いこの森の中ではまさしく光の剣だった。

オレはバヂバヂとうなる刃を構えレイアに向かって駆けて行った。





[3930]  久遠の女王
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2008/09/28 22:41
side ???


あれはハンターか?
招待した覚えはないがまさかこんなところにまでいるとは。いや、誤ってモンスターと一緒にこちらに呼ばれたのか。
しかもデスギア装備。あんな呪いの防具を使うとは、まったくもってもの好きなものだ。むしろもう呪われていると考えるべきか?

どちらにせよあの者が与える影響は微々たるものだろう。どうせできることは狩り続けることだけなのだから。

フム、予想外の出来事だが計画に支障はないだろう。むしろ……
まあ、せいぜいがんばってくれたまえ。魔法使い諸君とともに。
フフフ…。


side out





何回かの突進を避けレイアの足が止まったすきに一気に近寄り少し斜めの位置から翼の付け根に向かって切りつける。

その攻撃で翼を切り取れれば苦労はしないがそう簡単にいくものではない。雷をまとわせた刃の中心で切り付けても鱗とともに少量の血が飛ぶだけだ。
しかしこちらも弱点の属性の攻撃をしているのでじわじわと効いてくるはずだ。

硬い鱗をもっていることの多い飛竜種は牙獣種であるババコンガやドドブランゴとは違い刃が直接通らない。狩りの基本では、まず同じところを攻撃し硬い鱗を剥いでから攻撃するのが斬撃属性の武器のやり方となっている。
そして弱点の属性の武器で攻撃すれば当てるだけである程度ダメージが内側に入る。そのため複数の属性の武器を持つハンターも少なくはない。

そのまま切り下ろし、突き、切り払いを繰り返しているとこちらに振り向き頭を横にずらす。噛みつくときの体勢だ。
さすがにあの強力なあごにかみつかれてはただでは済まないので慌てて横っ跳びをする。
何とかやり過ごしレイアが体勢を崩したときにタカミチのほとんど見えない攻撃が降り注ぐ。
傷ついた体に連続的な攻撃を受け緑の鱗があたりに飛び散る。

何度見ても笑えない攻撃をするタカミチ。
オレには目の前のレイアよりあっちの方がバケモノに見える。
武器も持ってないのにヘビィボーガン並みの威力ってどう考えてもおかしすぎだ(これは後から聞いた話だがもっと威力の高い攻撃法も持っているらしい)。

痛みと怒り、どちらのせいかわからないが唸り声を上げつつ起き上がるレイア。
そして頭をそらせ……

「まずい! 火炎が来るぞ!!」

誰かが叫び、その言葉を肯定するように火球がレイアの口から吐き出された。
その数は三発。正面三方向に紅い球が走る。

木や地面に着弾した球は火の粉をまき散らし周りの木々に火を灯した
葉を燃やし成長した炎が木を舐めまわす。そして次の木へと手を伸ばそうとするがそれは待機していた魔法使いによってすぐさま消火された。

こんなやりとりを繰り返し、さらに二度三度と切りつけていくうちにレイアが一歩下がる。

ちっ こんどはムーンサルトか。

大きな盾を持つランスならともかく細い太刀では折られるだけなので避けるしか方法はない。
太刀を納めている暇もないのでそのまま飛び込む形で前転をする。
強風が体をあおるがすぐさま起き上がり行動を終えたレイアの足に向かって突きを繰り出す。そして浅く刺さった刃を引き抜き同じ場所を切り上げる。
さすがに効いたようで転倒するレイア。

レイは慌てず一歩距離をとり得物にさらに気を通し切れ味を上げた。
そしてレイアの頭に向かって力強く踏み込み上段から縦に斬り下ろし、のど元に突き、切り上げの連続攻撃をみまい、とどめとばかりに太刀遣いのハンターの十八番、気刃斬り――太刀を空中で大きく一回転させ速度を最大限にまで上げた斬り下ろしを右、左と行い太刀を頭上に掲げそのまま叩きつけるように切り下ろす――を繰り出した。

頭は血だらけでのど近くも大きく切り裂かれている。しかし、いまだ立ち上がるレイア。

次の一撃が最期になると感じ取り、さっきの攻撃で気を出しつくした太刀に再び気を通す。

そして踏み込み、衝撃を受け吹っ飛んだ。

「誰だ!? 今当てたやつ!」

ダメージはたいしてないとはいえ衝撃はそれなりにあった。

くそっ せっかく練り上げた気が霧散しちまったじゃねぇか!

慌てて起き上がり振り向くと目の前にはレイアの口が。
目の前いっぱいに広がる巨大な口、そして鋭い牙。

マジかよ……

最低限頭は守らなくてはと両腕を何とか前に ……出そうとした瞬間、再び衝撃を受けオレは吹っ飛んだ。





side エヴァンジェリン


あのモンスターどもを狩って生活していたというのは本当だったようだな。
タカミチでさえてこずる相手にあそこまでできるとは。
それにあの剣、神鳴流のような技から来ているのか。それともあの剣の特性だろうか。

目の前ではレイがリオレイアの相手をし、距離が開いたところでタカミチの居合拳が降り注いでいる。
たまに誰かが魔法の矢を放っているようだが大して成果を上げられているようには見えない。

「レイさん、問題なさそうですね」

「ああ、この調子なら私たちの出る幕はないな」

となりにはいつの間に来たのか茶々丸が立っていた。

「とは言え何があるかわからんからいつでも動けるようにしておけよ」

「はい、マスター」

そうは言ったもののタカミチもまだ余裕があるようだし何か、が起こることはないだろう。
あいつには悪いがこれからのあの魔獣の相手をするのがずいぶんと楽になりそうだ。

しばらく傍観しているとリオレイアが空中で一回転をした。たしかあの攻撃は本国で死人も出ている要注意の攻撃だったはずだ。
しかしレイは普通に避け、さらには着地のタイミングに合わせて切りつけていた。動きを知り尽くしているといった戦い方だ。

そしてもうリオレイアは虫の息。もう結果は見えているので家に帰ろうかと踵を返し何歩か進んだ時

「レイさんっ!?」

茶々丸から悲鳴に近い声が発せられ、慌てて振り向くとちょうどタカミチの居合拳が止めをさすところだった。

「? 何があった茶々丸」

「あ、いえ。その……」

要領を得ないので戦いの跡に目を向けるとリオレイアの死骸から離れたところでレイが倒れていた。そして何人かの魔法先生が慌てて駆けつけているようだった。

「何だ? 最後に油断でもして食らったのか?」

「いえ、倒れているのは高畑先生によるものです」

「タカミチが?」

「はい。しかしレイさんを助けるためだったので高畑先生に非はないと思われます。
状況を説明すると、最後に止めを刺そうしたのかわかりませんが誰かが魔法を放ち、それがレイさんに直撃しました。それによってレイさんは転倒、リオレイアの直撃を受けかけたところを高畑先生の攻撃によって回避しましました」

「回避って あいつ運ばれているぞ?」

「打ちどころがわるかったのかと思われます」

「……そうか。まあ、直撃よりはましだろう、きっと」



あの後医療室に運ばれたレイが目覚めたとき、少しの間記憶が飛んでいたため無駄に騒ぎになったがここでは割愛させてもらおう。








あとがき みたいなもの



戦闘シーン全然うまく書けない上に、雷属性まったく使えてない……
ちょっと自分にイラッとくる今日この頃

もしかしたら修正する かも しれません


えーと、そろそろ学校始まるので更新さらに遅くなります
どのくらい遅くなるかは不明です
とりあえずストックとしておいたものを投稿

気長に待ってもらえるとうれしいです





[3930]  とりあえず数日後
Name: アルテミア・フランシスカーナ◆e79aa73d ID:c8dab3aa
Date: 2009/02/14 23:40

朝になり鳥の鳴き声で目が覚めた。
どこかで聞いたことのあるような変な鳴き声だった。まさかイャンクックか? なわけないか。
バカなことを考えてないで起き上がると、まずは武具のチェックをすることにした。
毎日しているから問題ないだろうが。


剣の刃は寝る前も確認したがとくに問題なさそうだ。本来は血のり何かを良く拭き取り刃こぼれを確認するが、このまえの大男同様、脂や血なんかがまったく残っていなかった。たぶんこれもリオレイアが消滅したのと同時に消えたのだろうが実に不思議だ。楽と言えば楽だがいつもと違うというのは気持ちの良いものではない。

一通り確認を終えた刀を置いて鎧を手に取る。鎧は表面なんかよりも部品と部品のつなぎ目を入念に検査する。戦いの途中で鎧がバラバラになんてなったら大変だ。もっともそんなことはまずないだろうし、もしも一か所、酷くても二か所同時に壊れたとしてもすぐに問題が起きるほどやわなつくりはしていない。とは言えどんな時でも万が一を考えるのは大切なことだからな。



オレはレイアの戦闘から何日か経っても未だにエヴァちゃんの家にいた。

本来ならあの戦いの次の日には移動する予定だったのだが、いったい何が起こったのかその部屋でネズミだかなんだかが大繁殖していたらしい。現場には居合わせなかったが、前管理人がいなくなってから固く閉じていた扉を開けた途端、ネズミが何十匹と出てきて寮全体に逃げ出し、大混乱に陥ったらしい。しかも寮の住人は全員女の子のはずだからその混乱具合は考えるまでもない。

それをエヴァちゃんから聞いたオレは手伝いに行ったのだが、駆除の専門っぽい人のほかにエアガンらしき物や変な機械を背負った少女がうろついていて、これはこれでちょっとしたカオスだった。

学園長は整備が完璧なはずのこの麻帆良でそんなことが起きたのは初めてのことであり恥ずべきことだ、とかなんとか朝会だかで謝罪したらしい。
ちなみに新聞に載ることやテレビで放映されることは裏工作で止めたらしいが、学生新聞に載ってしまい今では街中の人が知っている。

結局、原因は分からずじまいで前管理人がペットとして持ち込んだのではないか、と言うことで落ち着いた。ついでに言うとその人とは連絡が取れないらしい。
おかげで全ての寮でペット禁止になったとか。

まあ、オレとしては寮の女の子とある程度 顔合わせができたし、新しい管理人になることも約一名を除いて了解を得られたのでうれしい出来事だった。
ネズミだらけだった部屋を使うのはちょっと気になるがたいした問題ではない。
そもそもいくら繁殖力の高いネズミとは言えたかだか前管理人のいなかった数か月でそんなに増えるはずはないと思うのだが。モンスター発生の影響だろうか? それとも誰かの陰謀とか?

とりあえず駆除は終わったがこの騒動の影響で引っ越しはしばらく延期となった。


そのままエヴァちゃんの家に泊まらせてもらってるわけだが会話の内容は専らオレたちハンターについて。またはハンターが使う武器防具のこと。

レイアと戦った次の日。はじめに聞かれたのは武器の属性についてだった。

「剣に電気をまとわせるとは原理は神明流と同じか?」

「シンメイ流?」

「ああ。妖専門の武道派集団だな 刀などに通した気を雷に変換したりするわけだが、特に奥義なんかは雷が落ちたような威力になる」

「それはすごいな。さすがにそこまでのものは聞いたことないな。でもオレたちの場合、雷だけでなく炎とかもできるぞ。ま、できると言っても武器しだい。正確には素材と鍛冶師しだいだけど」

「ほう ……ほかには何があるんだ」

オレたちの武器の属性に興味を持ったのか軽く身を乗り出してくる。

「オレが知ってるので他にあるのは火と氷だな。あと一応だが龍ってのがある」

「火、雷、氷はわかるが龍ってなんだ龍って。属性じゃないだろ」

「しらん」

「しらんだと? バカにしてるのか?」

「ちょ、ま、待ってくれ。とりあえずその手の光るものを消してくれるとありがたいんだが。ホントに知らないんだって。オレは見たことないが龍からとれる素材で作れるもので、龍としての存在が優れていれば優れているほどダメージを受けるらしい。あ、あとこれは噂だけど虫からとれる素材でもできることがあるらしいぞ」

オレの言葉に一応納得したのか手に出した光を消して腕を組む。

「うーむ、効果としてはドラゴンバスターみたいなものか。素材を考えれば龍の血を受けた剣が龍殺しの武器になることがあるのと同じ、か?
あとは虫? それは意味わからんな」

こんな感じでエヴァちゃんとの会話で一日が終わるのが常だった。
ここ数日の会話でわかったことはエヴァちゃんが思った以上に物知りで頭が良いということ。はじめて聞いた単語でもすぐに理解し覚える。まさに一を聞いて十を知るとか、そんな感じだった。


一通りチェックを終え、居間に行くとすでにエヴァちゃんは起きてテレビを見ていた。
昨日これを見た時は箱の中に人がいてものすごく驚いた。
エヴァちゃんに得意そうに説明されたがチャチャゼロに「予約モデキネェノニエラソウジャネェカ」とか「ドチラカト言エバ御主人ノ方ガ時代遅レダ」とかからかわれて?いたが。

「おはよう。そのテレビってやつ見ていて面白いか?」

「いや、つまらん。だが暇だからな」

そう言ってからテレビを消し、振り向いた。

「それにしても毎日ずいぶん早く起きるな。まだ日が昇ったばかりだぞ」

「こっちに来る前もこのくらいだったよ。むしろエヴァの方がまだ寝てる時間じゃないのか」

「私はあまり寝なくても平気だ」

「イワユル夜型ッテヤツダナ」

「姉さん、それは違います。マスターの場合、体質のせいかと」

「ケケケ、ソレハドウカナ」

? よくわからないが本人が言っているなら問題ないだろう。会ったばかりのオレが言うことでもないしな。
それよりも

「エヴァ。とりあえず今日はランニングに行ってくるけど良いよな」

エヴァちゃんの家に泊まるようになってからすぐ、未だ違和感のあるここの空気に慣れるため朝のトレーニングをすることにしたのだ。
昨日までは筋トレだったがある程度周辺の地理を教わったので確認も兼ねて今日はランニングをしながら一通り廻って見ることにした。

「ああ 行って来い。迷子になるなよ」

「たぶん大丈夫だ」

「あ、レイさん、ごはんはどうしますか? すぐに用意できますがいつも通り戻ってからにしますか」

「そうしてもらえると助かる。じゃあ、行って来る。エヴァたちが出る前には戻るようにするよ」



「モットぺーすヲ上ゲロヤ」

「無理言うなって。これ以上早くしたらすぐにバテるって」

「ソウ言イナガラゼンゼン余裕ソウジャネェカ」

「そりゃあ、鍛えてるしな」

オレが今話している相手はチャチャゼロだ。家を出ようとしたら呼び止められて一緒に行くことになってしまった。
連れていく気はなかったので一度は断ったのだがエヴァちゃんに

「迷子になっても困るだろうし、ついでに道案内してもらえ。万が一戻れなくなってもチャチャゼロの居場所はわかるから気が向いたらすぐに迎えに行ける」

たしかに周辺の地理を聞いているとはいえ完全に覚えたわけではないのでもしかしたら迷うかもしれない。それにそこまで言われては従うほかないので連れて行くことにしたのだ。



しばらく走っていると見覚えのある少女が走っているのが見えた。
親しいわけではないがせっかくだから話しかけてみることにした。

「よう」

「っ!? あ、あんたは! えーと? あんたは…… 名前なんだっけ?」

足を速めて追いついたオレが後ろから声をかけると、人がいるとは思ってなかったのか一瞬肩を震わせてから後ろを振り返った。

「レイだよ レイ・インバース。そっちはたしかアスナ、だったよな」

このツインテールの少女がオレが管理人になるのを反対した唯一の寮生だ。

「なんで私の名前知ってんのよ?」

そういってにらまれた。なんだか恨まれているみたいだし変質者扱いはされたくないので早々に答えることにする。

「このかちゃんから聞いた」

「あっそう」

「……」

「……」

沈黙が下りる。どうやら向こうから話しかける気はないようだ。

「ところでなにしてるんだ? こんな朝早くに」

「見て分かんない?」

「わからないから聞いているんだけど」

「バイトよ。新聞配達のアルバイト」

「働いてるわけか。大変だな」

「そうよ、大変なの。それじゃ、私は急いでるから」

そう言ってペースを上げたがこっちも少し足を早めそのまま横に並ぶ。

「今ランニングしてるんだけど持つの手伝おうか?」

「遠慮します。よく知らない人に手伝わせるわけにはいかないわ」

明らかにこっち来るな的な空気を発してるがオレは気にしない。
そのままあれこれ話しかけ結局手伝うことになった。

終わってからすごい棒読みでお礼を言われた。棒読みなのはアレだがちゃんとお礼を言うところから思ったより礼儀正しい子なのかもしれない。


アスナちゃんと別れてしばらくして

「オイ オレノコト忘レテネェカ」

チャチャマルが少し憮然とした調子で話しかけてきた。さすがに表情に変化は見られないけど。

「忘れてないって。一般人の前で人形がしゃべるのはまずいだろ」

「……マアナ。コノアトハドウスルンダ。モウ御主人ノトコニ帰ルノカ」

「いや、まだ時間はありそうだからちょっと寄り道しようかと。前から気になってたものがあるんだが機会がなくてな。この場所からだとそんなに遠くないだろうし」

そう言って再び走り出す。目的地はこの町の中心地、世界樹だ。








あとがき みたいなもの




更新が遅くなるかもとか言いつつ半年経ってしまいました
もしも楽しみにしていたという読者さんがいたら本当に申し訳ないです……

更新どころかSSを読むのも半年ぶり  掲示板リンクにゼロ魔が追加されていて驚きました

一応4月までは更新するつもりです




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