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[38241] (新)魔法騒動Lyrical Panic! 【フルメタ×なのは】
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/09/02 09:10
以前、POLYMERARTSにて執筆していた作品をプロットから再構成し直し、改稿しました。ですのでほぼ新作と思っていただければ、と思います。

フルメタル・パニック! と魔法少女リリカルなのはのクロスです。
(オリキャラも数名います)



ご批評お待ちしております。




【9/2】vol.2改稿

一番初期の頃の作品なので、一人称統一や句読点の打ち間違いなど、読んでいて恥ずかしくなる部分も多いのですが、改善できるところは改善しながら改稿を進めています。
ストーリーの簡略化に伴って、いくつか前の作品から仕様を変更しています。あらかじめご了承ください。



[38241] Preface code.01
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/08/11 12:02
 戦場の凪がおとずれた。飛び交っていた銃弾はなりを潜め、燃えさかる建物が砂漠の上に蜃気楼を作る。ゆらゆらと歪む空間は、まさにこの世界のありようを示していて、幻覚の上に成り立っている世界を暗示しているかのように嘲笑していた。

 熱とは別な要因で、他の空間が歪み始めた。青白い発光を残して、そこから金属でできた巨人が二つ現れる。他にそこにたたずんでいた赤いフォルムの巨人と合流しようと、灰色のそれらはあたりを警戒するようにして移動した。

 その巨人―AS(アーム・スレイブ)と呼ばれる兵器は、<ミスリル>という秘密軍事組織に所属するもので、第三世代型のM9〈ガーンズバック〉という。赤いフォルムの方は、M9の派生型であり、バニ・モラウタという研究者が開発したあるシステム、

斥力Λを駆動する装置(ラムダ・ドライバ)』―正式には、『オムニ・スフィア高速連鎖干渉炉』という、人間の精神波を物理的な力に変更するシステムを搭載した、ARX-8〈レーバテイン〉と呼ばれる機体である。

「……こちらウルズ2。残存する敵機はなし。この基地も空っぽのようね。ウルズ6、7、現況報告。」

 無線封鎖を解除したASの一機から、緊張を感じさせない口調で連絡が飛ぶ。戦場に慣れたもの特有の言葉だ。

「こちらウルズ6。まったくねーよ、姐さん。」

「ウルズ7だ。こちらのレーダーで把握できる限り、大丈夫だ。」

 狙撃砲を構えるASと、赤いASから連絡の返事が来る。二機は連絡をとりつつ同時に背を向けながら辺りを警戒し、ブレードアンテナを装着したASのもとへと向かう。

「ここでも大した情報は得られなかったわね…いったいどういうこと?」

 ウルズ2(メリッサ・マオ)は〈アマルガム〉の執拗なまでの隠匿性に驚愕しながらそう言った。これまで4度強襲を行っているのに、未だに具体的成果が上がらないことはこれまでマオが参加した作戦ではなかったことだ。

「やっぱ、テッサの言ってた…えーと、なんだっけ…『高機能のノード』とかいう…つまりだ、ボスキャラがいなくて中ボスばっかっていう組織だからじゃねーのか?」

 ウルズ6(クルツ・ウェーバー)がよく分かっていない単語を用いながらそう話す。

「その議論は後回しね。まずはこの場から脱出しないと…今、ゲーボ4に連絡を入れたから、数分以内にヘリが来るわ。さっさと乗って、ダナンに帰還するよ」

「了解」

 そう言ってマオは、ヘリパイであるゲーボ4を呼び出す。だが、無機質なノイズが耳障りな音をたてているだけだった。無線機はしっかりつながる範囲で動作しているはずなのに、なぜか交信できない。得体の知れない不安が増幅するなか、砂漠の上にたたずむ三巨人に、煌々たる太陽の光が降り注いでいた。





  -強襲揚陸潜水艦〈トゥアハー・デ・ダナン〉-



 あわただしい空気のなか、クルーが急いでキーを叩く音が響く。その横で、艦長席を立った少女が慌てた様子で中年男性の将校と話をしている。

「米軍の大陸間弾道弾(ICBM)の発射時間が大幅に変更された模様です。実験目標座標は例の基地です」

 中年男性―リチャード・マデューカス中佐は、少し顔を青ざめさせながら報告する。3分前、作戦行動中の基地を座標に核弾頭ミサイルの爆発実験を行うとの連絡が来たことが、今の騒然たる艦内の原因だ。ミサイル実験は、ソ連の水爆実験に対抗して行われるもので、大気圏から難しいコースを多弾頭でねらい打つものだ。

「それって…サガラさんたちが危ないじゃないですか!すぐに迎えを送って下さい!」

 半分悲鳴のような声を上げて、艦長のテッサが叫ぶ。

「無理です。こちらの解析も遅れたのですが、発射はあと数分なのです。今からヘリを送っても、爆発に巻き込まれるのは確実です。むしろ待機中のヘリを呼び戻さなければなりません」

 マデューカスがそう伝えると同時に、通信士がヘリを呼び戻す。犠牲者を少なくするためにも、急いで退避させなければならなかった。助けに向かわせたいが、それそのものを助けなければならないパラドックス。

「……分かりました。では、発射が予想されるミサイルは?」

 艦長席に悲しみをこらえて座ったテッサがそう言う。握られた拳はわなわな震えていたが、どこか毅然としているところが、将たる器なのだとマデューカスは思った。

「かなり旧式のサイロからの発射です。トライデント――MIRV弾頭かと」

 データを分析していた男がそう語る。少し考えた素振りを見せたテッサは、一度閉じた目を再び開いた。

「分かったわ。では垂直発射セル1番・2番・3番にSM-3を装填。これより本艦は浮上し、実験核ミサイル迎撃措置をとります。」

 有無を言わせぬ口調でテッサは言った。〈デ・ダナン〉には、ありとあらゆる状況に応じて作戦を行えるように、いろいろな兵装が用意されている。例えば、今挙げたSM-3――対空ミサイルや、ハープーンといった対艦ミサイル、マブロックといった対潜ミサイルなど、地空海どの戦域にも対応できるように準備されている。そして、SM-3とはミサイル防衛(MD)における迎撃ミサイルのことでもある。

「ミサイル発射予定時刻は?」

 艦長席に座ったテッサが言う。

「あと227秒です。ですが、艦長。米領海内の浮上は非常に危険が……」

「分かっています」

 マデューカスが言ったのは、浮上の危険性の危惧だった。トイ・ボックスと米海軍に呼ばれ、研究されてきたデ・ダナンは、今や米海軍の追尾対象であり、浮上することは非常に危険であった。

「でも、サガラさんたちが死んでしまっては、この後の作戦も遂行できないでしょう?」

 浮上することの危険性、それは艦長のテッサが一番よく分かっていた。再潜行までの準備時間、隠蔽できない情報。潜水艦は浮上してしまえば、監視衛星というものに補足される。妨害(ジャミング)はするが、完全に秘匿できるとは限らない。その情報からは、デ・ダナンの弱点が判明するかもしれない。あらゆることが不利にはたらく。

「分かりました。前進、3分の1、アップトリム5度!潜望鏡深度まで浮上」

 マデューカスは、それ以上いうことなく命令を復唱した。テッサは、やるといったらやる。そういう思い切りのよさは、戦場ではプラスにはたらくことが多い。

「前進、3分の1」

火気管制(FCO)。装填完了までの時間知らせ!」

「FCO。あと32秒」

「ソナー。周囲に潜水艦及び水上艦のキャピテーション・ノイズは確認できるか?」

「ソナー。確認できません」

 マデューカスと各員の間で密なやりとりが繰り返される。

「艦長、安全確認できました」

 安全を確認したマデューカスがそう告げる。ありとあらゆる情報が、一応の安全を示している。

「では、フローティーク・アンテナを射出。まずゲーボ4に退避命令。その後にウルズ2との交信を開いてください。」

 艦長の命令が伝わり、艦からアンテナが伸びる。ミサイル発射まで、あと150秒―無情なまでに短い時間が、モニターに映し出されていた。



「それで、さっきから連絡が取れなかったわけね」

 ため息混じりにマオは言った。

「ごめんなさい、メリッサ」

 テッサが申し訳なさそうに謝る。今から核ミサイルが飛んでくるというのだ。どんな謝罪も意味がないだろうが、それでもテッサは言った。

「大丈夫よ。まだこっちに核ミサイルが飛んでくるって決まった訳じゃないし、私たちにもやるべきことは残ってるしね」

 マオはそう言いながら、モニターとにらめっこしてミサイルの迎撃シミュレーションをしている。

「テッサ、もし撃ち漏らしたら、最速でデータを送ってちょうだい」

「メリッサ、一体何をする気なんですか?」

「もちろん迎撃準備よ。野郎ども、準備はいい?」

 困惑するテッサをよそに、マオは部下二人に声をかける。

「オッケーだ。今狙撃体勢に入った。ミサイル発射後、8秒で迎撃態勢に入れるぜ、姐さん」

「こちらウルズ7。最終防衛ラインについた」

 交信越しに、マオ、宗介、クルツが絶望していないことがテッサにもはっきりと分かった。これまでも幾多とあった困難をくぐり抜けてきた三人だ。今回も、きっとくぐり抜けるのではないか、いや、私たちが彼らを留めてみせる―テッサはそう思った。

「艦長、ミサイル発射まであと50秒です」

 マデューカスがテッサに告げる。

「では浮上します。すべての対電磁迷彩システム(ECCS)を最大効力」

「アイ・マム。ECCS最大効力。」

 最大出力でECSに対抗するためのあらゆる電子装備が活性化する。浮上したデ・ダナンはその巨体を踊らせ、水しぶきを上げながら鯨のように海上に現れた。

「FCO。迎撃ミサイル(SM-3)発射シークエンス第三段階終了。第四段階開始」

「ミサイル基地の発射管開きました。ミサイル、レーダーにかかりました」

監視対象(サブジェクト)アルファを(エネミー)に変更。全ての安全装置を解除。」

「安全装置解除」

 モニターに映る黄色いマーカーが、赤色に変更される。微かな緊張感がブリッジに漂い、一刻一刻が時の砂となって流れていく。

「カウントダウン開始」

「誘導システムを活性化。発射シークエンス最終段階」

「ten, eight, six…」

 カウントダウンを読み上げるAI〈ダーナ〉の合成音声が響き渡る。

「four, two, zero」

 ゼロアワーが訪れると同時に、レーダー上に輝点が付いた。発射されたミサイルは凄まじい速度で上昇する。ブースト・フェイズに入ったところで、デ・ダナンのレーダーがECSを発動させたミサイルを完全捕捉(ロックオン)した。

「1番から3番の発射管扉を開放」

「1番から3番の発射管扉を開け」

「1番から3番開きます」

 艦長、副長、FCOの順に命令が伝搬する。

「SM-3、全システム問題ありません」

「1番から3番発射」

「1番から3番撃て」

「発射します。」

 同様に命令が伝搬され、開かれた潜水艦の発射扉から轟音を上げてミサイルが飛び出す。すぐに音速に達したミサイルは、そのまま核ミサイルを追尾した。

 モニターに映し出された核ミサイルは、ミッドコース・フェイズに突入する目前で、輝点が二つに分かれた。一方を3本のSM-3が直撃し、その輝点は消えたが、もう一方は自由落下のコースで落ちてきている。

「……!?」

 命中率の低いミサイルがしっかりと核ミサイルを打ち落としたが、何かがそのミサイルから脱落した。そのまま落下していくだけのように思われたその物体は、何か意志があるかのように軌道を修正している。ブリッジ中が困惑する中、そのミサイルは自由落下で加速しながら、徐々に角度を変化させ――巡航体制に入った。

「こ、これって……新型ミサイル!?」

「MaRV弾頭とは……」



 即時にデ・ダナンから情報を得たマオは、即座に戦闘態勢(バトル・フェイズ)に入った。

「〈アマルガム〉の罠だった、って訳ね。いいわ、やってやろうじゃないの」

 最も優れた電子装備をもつマオが、クルツ、宗介に情報を伝える。

「こちらウルズ6!ミサイルだろうがなんだろうが、狙い打ってやるぜ!」

 狙撃体勢に入ったクルツが、レーダーの輝点であるミサイルを待つ。

「ウルズ7だ。クルツ、信頼しているぞ」

「誰に言ってんだ、タコ!」

 軽口を言いながら、クルツは待つ。精密な射撃、それに必要な緊張状態を求める。

警告(ワーニング)。目標接近中。接敵まであと18秒。》

 クルツ機のAIであるユーカリが告げる。その一方、宗介と宗介機のAIアルも独特のコミュニケーションを始める。

《軍曹。音楽でもかけましょうか》

「かけるな。」

《了解。しかし軍曹、過度の緊張はよくありません》

「俺は緊張などしていない」

《こうなった以上、神に祈るのみです》

「俺は無神論者だ。第一、機械が神に祈るというのはナンセンスだ」

 そういうやりとりが続く間にも、核ミサイルは接近してきている。

《確実な照準です》

 モニターにも点のようにして現れたミサイルをロックオンしてユーカリが告げる。

(まだだ……)

 バイラテラル角を最小設定にし、風向きを考慮し、クルツは―僅かにコンピュータが示した照準とは右側に撃った。

 狙撃砲が火を吹き、砲弾が空を切る。クルツの脳裏にぴったりあった軌道を描き―神のいたずらか、ミサイルの左方を突き抜けた。

「ちぃっ」

 次弾を放とうとしたクルツの前に、宗介が飛び立つ。ゆるやかに空を切り、しっかりと大地を踏みしめる。クルツ機・マオ機をかばうようにして、ミサイルの前に立ちはだかった。

「クルツ、下がれ!」

《ラムダ・ドライバの完全駆動を確認。カウント開始、5。3、2……》

 正面スクリーンにミサイルが飛び込んでくる。パシフィック・クリサリス号の時に魚雷を迎撃したときと同様、完璧にムードやテンポを合わせてカウントする。

 宗介は大きく息を吸った。

いま(ナウ)!」

 揺るぎない拳が、ミサイルにぶちあたる。同時に発した青い閃光が、何もかもかき消すようにして、凄まじい爆発を包み込んで飛散した。

「反応消失っ……核爆発の反応、コンマ3秒検出し、消失っ!」

 疑うような観測結果を読み上げ、振り向いたレーダー管制官は既に困惑しきった顔をしている。

「艦長、こ、これは……」

「……」

 いたって冷静なマデューカスさえも、この現象には驚きを露わにした。この状況を説明できる人間などそこにはおらず、ただ冷え切った空気のみが時間の残滓の面影を示していた。



[38241] Preface code.02
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/08/11 18:00
 小鳥のさえずりが、木々を伝って爽やかな風とともに吹きぬけ、人々に癒しをもたらす。厳しい夏の名残を吹き払うかのように、葉を揺らしながら森を過ぎ去ってゆく。豊かな自然に囲まれ、荘厳な煉瓦造りで独特の風貌を醸し出している建物は、ザンクト・ヒルデ魔法学校に並んで高い教育水準を誇るアルトセイム大学である。大自然を上手く生かしたこの大学には、森林に面した中庭があり、快晴ということもあってか大学生はもちろん、人々が憩いの場として集まっていた。

 大学構内にあるカフェレストランが、その中庭に面したテラスを有している。そしてその一角に、黒い時空管理局高等幹部の制服を着た私、クロノ・ハラオウンがいる。テーブルを挟んだところには、開襟タイプのワイシャツを着た、アッシュブロンドの髪色でとび色の目をした小柄な青年が座っている。

 近年まれに見る大事件が起きた後だからなのだろうか。予想以上に疲労が蓄積しているな、と僕は自覚した。アルトセイムの和やかな空気にずっと浸って、このまま自然と眠りたい―そんな思いにとらわれていた。

「それで、今や最新次元航行艦クラウディアの艦長であり、提督である超エリートのクロノ・ハラオウンが、こんな一田舎の大学に何の用だい?」

 テーブルの向こう側にいる男の声を聞き、はっと囚われていた思いから脱け出した。今日、このアルトセイム大学に来た理由は、こんな感情になるためではなく、例の大事件の後始末のためだ。そう思い直して私は、まずこの男の言葉に対応する。

「いきなりご挨拶だな」

 率直に思ったことを述べる。混んでいたからだろう、頼んでいた紅茶とサンドイッチを持ったウェイトレスがやってきて、僕はその紅茶を飲む。僕の相手はコーヒーとサンドイッチを頼んでいたようだ。彼もまた一口コーヒーをすすっている。こういう風に彼を見ると、やはりどこか他の学生とは違った知性あふれる気品を持っているようだから不思議だ。

「それで……クロノ。主砲を撃つような大事件後の初休暇、どこにも寄り道せずに僕のところにやってきた理由はなんだい?いつもだったら休暇の後に来るかどうかじゃないか。エイミィさんが泣いてるぞ?」

 この男は、いつでもこのように言ってくる男なのだ。皮肉めいた言葉で言ってくるから無性に腹が立つ。僕だって、妻のもとに一秒でも早く帰りたいところだというのに。

「お前はいつも痛いところを突いてくるな…シータ」

 シータ・オルフェン。彼と出会ったのは、僕が12歳の時だった。彼はその時6歳だったが、彼はその時すでに僕よりミッドチルダ方式の魔法知識を持っていた気がする。今は彼はアルトセイム大学の二回生であり、魔法物理学を専攻している。副専攻として、次元関係学とミッドチルダ戦術論を学んでいるらしい。どの学問においても優れた研究を行い、時空管理局にも多数の研究成果を提供しており、数々の障害となる法律を潜り抜けるために管理局が特例で、嘱託魔導士として大学生ながら研究チームに配属させている。教授顔負けと言うように、学会でも新星として注目されている。僕も一度彼の研究論を見に行ったが、まったく理解不能だった。一緒に行ったユーノ無限書庫司書長が「やっとついていけるレベル」といっていたから相当のものなのだろう。

 彼の両親は僕が執務官となってから三回目の事件で殺害されている。父親は地上部隊の副部隊長であり、母親はザンクト・ヒルデ魔法学校の教官だったはずだ。強盗と自宅で壮絶な戦闘を行って死んでいったと調査で分かった。彼には弟もいたが、その弟は事件で行方不明。僕の母親、リンディが身寄りのない彼を引き取ったのだ。その時既に僕は彼とある程度の交友を持っていた。

 母に言わせれば、彼の教育水準は群を抜けている、とのことだった。彼の両親が教育熱心だったようだ。母は彼を養子にしようとしたらしいが、彼は拒絶したそうだ。両親の子であることを貫き通そうとしていた、と母は言っていた。

 当初は僕も兄のように接していたが、だんだんと友のようになっていった。いつしか年の差を感じないような付き合いになっていたころ、僕と彼は親友といっていい関係になっていたと思う。

「まぁ、お前がこっちに来ることなら、だいたい察しがつくんだが…。」

 コーヒーを飲みながら、シータが話す。僕がシータの元を訪れることは殆どない。友に対して薄情、というのではなく、立場上なかなか会えないからだ。結局、メールでやり取りするくらいのことしかできず、彼の元に向かう時は公務に関係のある場合に限られてきていた。彼には悪いと思っている。

JSジェイル・スカリエッティ事件……そこで問題となった古代遺物ロストロギアの研究、だろ?」

 小鳥がさえずりながらシータの近くに寄ってきているのが見える。シータはパンを取り出し、食べやすいサイズにちぎって投げ与えてから言った。

「ロストロギアの研究はだいたい文献調査チーム…ユーノたちの研究から始めるが、ユーノはこのところ忙しいらしいからね。それで直接的に魔法物理学で調査してくれ、というのが君の来た理由だろう?」

 相変わらず鋭いと思う。だが、今回の事態はそう単純なものではない。

「いや、そういうわけではないんだ……」

 紅茶を一口飲んでから、僕は続けた。

「実は……ちょっと管理局のほうに出向してほしいんだ」

 躊躇いながらも僕は言う。シータは無言だ。傍らでパンくずをついばんでいた小鳥たちが飛び立つ。

「この間のJS事件。どうせ君はもう知っていると思う。管理局の第一級秘匿ファイルがかに無許可閲覧され、また連日のようにかに古代遺物管理部起動六課のある課員らの健康状態が同様の状況下――つまりもろばれな状態にある。遺憾なことではあるが、管理局のほうでもその閲覧者は追跡できなくてね」

 依然としてシータは無言を続ける。

「美しいくらいに綺麗に足跡を消していくそうだ。まぁ、そんなことができるのは僕が知る限りただ一人なんだが。」

 シータはコーヒーを飲み終えた。

「それで、……僕が彼女らを心配しているとでも?」

 シータが口を開く。当然、これは違法閲覧行為を認めることになるが、僕は別に検挙する気もない。彼も分かっているからこそ言ったのだろう。

 JS事件では、僕と彼の友人たちが壮絶な戦闘を演じた。シータはそれを見て、友人(彼女)らを心配した、と僕は推断している。

「残念だが、僕はそういう性格を持っていないんでね。マッド・サイエンティストさ。さすがにこの度のスカリエッティのように管理局の法を犯すことはしないけれども、ね。」

 シータはこういう「自分の優しさ」を認めようとはしない。若干ひねくれている節もある。僕に似たようなところで、一番改善してもらいたいところだ。

「だが、君の知らないこともあるんだ。」

 僕が話の核心に触れる。そう、たとえシータが違法閲覧ハッキングしていたとしても、絶対に知りえない情報。情報は「情報」として扱われるから他者の目に触れるのであって、記憶に留めておけば―人間の記憶媒体に留めておけば誰にも見られる心配はない。

「高町なのは一等空尉の健康状態、君が閲覧したのはダミーだ」

「なっ……」

 驚愕の面持ちになったシータが、僕の眼を覗き込む。

「ちょっと問題有りでね。第一級秘匿情報だから。のように違法閲覧されてはかなわないからな。一部の人間にしか本物の情報は渡っていない」

「……」

 シータは再び沈黙に入る。既に僕らは思念通話に入っている。周囲からは無言でサンドイッチを食べている二人に見えるだろう。

 シータとなのはの関係は中学時代に遡る。管理局で嘱託魔導士を続けていたなのはが瀕死の重傷を負って、リハビリを経て戻ってきたときに、僕の母がレティ提督を通じて無理やりなのはの援助として向かわせたのが彼だ。表面上はシータの第96管理外世界への他次元留学ということになっているのだが。

 数回の共同任務で、彼はなのはやフェイト、はやて達と友好関係を築いたらしい。フェイトの場合、僕の母つながりでその前から知り合いではあったのだけど。

 留学が終わった後もプライベートでよい関係を保っており、はやては一度六課に誘ったこともあった。また、シータはなのはを通じてユーノと知り合い、研究仲間として厚い信頼関係を持っている。毎週二回はシータは無限書庫を訪ね、楽しんでいる節がある。

「レイジングハート機構を研究している君のことだ。ブラスターモードの危険性は分かっているだろう? なのははあれを使ってしまった。それが、魔力最大値の8%減という結果をもたらした」

 僕は、なのはの真の情報をシータに伝える。シータも深刻な表情になっている。なぜならシータはブラスターモードの危険性を誰よりも知っているから。おそらく使用者であるなのはよりも知っているに違いない。

「本人は気丈に振る舞っているがな……昔の彼女も知っているだろう? 復帰後の任務のいくつかを補助した君ならな。」

 シータは基本は研究熱心な青年なのだが、他の一面として優秀な魔導士ということがある。免許自体はAなのだが、実質AAAクラスの力を持っている。本人が研究者の道を歩んだためスカウトはもうないのだが、以前は一日一日管理局の様々な部局のスカウト官を応対せねばならない日々もあったほどだ。

「前回みたいに、出向けってことかい? クロノ?」

 シータが口を開く。少し口調が厳しくなってきているのは、僕も仕方ないことだと認めざるを得ない。

「棘があるな。まぁ、そういうことだ。デスクワークでの支援を元に、色々な面で彼女らをサポートしてほしい。無理かな」

 思念通話ではなく、会話に戻った二人。再びパンを取り出し、寄ってきた小鳥に与えたシータは、場所を移そう、といい、僕はシータの誘いに応じて、席を立った。ちょうどその時、大学校舎の鐘が鳴り、人々の姿がまばらになる。

 アルトセイム大学の校舎は、随分古い割に頑丈だ。中庭からシータの研究室に行くまでに、いくつかの建物を抜けた。大学長の肖像画がずらりと並んだ通路を過ぎる頃、シータが口を開いた。

「この間のS2Uのメンテは終わってるんだ」

「ん。……あぁ」

 いきなり話しかけられ、不覚にも疑問符を投げかけてしまった。S2U――僕のサイド・アームズのことだが――のメンテナンスを担当しているのはシータだ。メイン・ウェポンのデュランダルも含め、僕はシータにメンテナンスを依頼している。友人の癖に結構高額をぶんどりやがる、と憤っている部分でもあるが。

 管理局のデバイスマイスターに任せてもいいのだが、なかなか管理局でも1、2を争う処理速度を誇るこのストレージデバイスを扱えるものはいない。一度、適当な所属の者に任せたときにS2Uが「原因不明の」故障し、それ以来シータに任せるようになっている。

 シータは受験制限が解除される16歳の時に、デバイスマイスターの資格を取った。年々デバイス「マニア」としての地位を固めているようで、一昨年・昨年と連続でミッドチルダのデバイスコンクールで最優秀賞を獲得している。雑誌の取材もたくさんあり、ミッドチルダで一番権威のあるデバイスマガジン『ギャラクシー年鑑』には毎月デバイス理論に関する論文を掲載している。最近では総合雑誌『エース・オブ・エース』でも掲載されているという話だ。(私が密かにこれらを愛読しているのは内緒だ。)

「S2Uの凍結魔法の処理速度が前回比で1.08倍になった。あと簡単な魔法処理を行う人工知能を新設してみた。防衛魔法とかが使えると思う」

「それは助かる。ありがとう」

「艦長職になってからは目立った損傷はないから、いろいろいじれて楽しいよ」

「なら、そのメンテナンスで金を稼ぐのはやめてほしいんだが」

 そう僕が言い、二人で笑った。

「また最近、雑誌の取材が多いんだろ?」

「あぁ。そろそろ、その選別もしていかなきゃいけない時期になってきてるかな」

「例の『エース・オブ・エース』にも、載ったとか聞いている。ちょうど、なのはの特集ページの隣だったとか」

 僕がそういうと、シータは苦笑しながら言った。

「その件か。あの記事の反響はすごかったよ。人工知能未搭載型の、ストレージ型のRH.Mk-2は売れに売れたね。なのはのファンクラブとやらからごっそり注文も受けてるし。個人制作だからすぐ売り切れなんだけどね。あの雑誌自体がなのは贔屓なところもあるみたいだったし」

 ちょうどその時、シータの研究室の前にきた。扉を開けて入ってみると、いつもの通り山ほどのデバイスにあふれかえっている空間がある。

 シータがコーヒーを入れてテーブルに着く。さっきカフェで飲んでいたのだけど、シータは来客時には必ずこうしているらしい。僕も着くと、シータは一転して神妙な面持ちで話し始めた。

「さっきの話なんだが……悪い、断ってもいいかな?」

 シータが僕の頼みを断ったのは初めてだった。なぜだろう、僕のほうになにか落ち度があったんだろうか――

「理由、聞かせてもらえるか?」

 僕は困惑しながら言った。

「簡単なことだよ。行く理由がない。」

 シータは颯爽と言い切った。

「何て言うんだい、クロノ? なのはが心配だったからやって来た、かい? 恥ずかしくてやってられないよ。僕ももうそういう年頃なんでね。そういうところは気にしたいんだ」

 予想していなかったことを言われ、僕は言い返せなかった。そう、僕も同じことを言ったかもしれない。初めて出会った時、「もしかして、クロノ君、優しい?」と瞳を覗かれた時はどぎまぎしたものだ。

「……そうか。すまない、まだそういうことは考えてなかった。気にしないでくれ」

 そう言いながら僕はシータの出したコーヒーを飲んだ。

「あぁ、そのコーヒー、さっきの店に劣らず美味しいだろ。リンディさんの甘すぎるのを飲んでる身としては、どうだい?」

 シータが話題を変える。

「ん…あぁ、そうだな。」

 微笑みを作りながら僕が言う。

「甘党はいまだに健在なんだろ? 僕はもう御免だよ。彼女の出すコーヒーはコーヒーじゃない」

 シータはその時の味を思い出したのか顔をしかめる。それを見て僕は、作り笑いじゃなく心の底から笑い出した。

「はは……実際、続いてるよ。この後、飲むハメになるだろうねぇ…」

「同情するよ」

 二人で笑い、いつものように雑談に入る。次元航行での話、本局への愚痴、研究費の問題、試作デバイスの話。それぞれ職種が違うこともあり、話題が尽きることがなかった。

 シータは好奇心旺盛なこともあり、僕に頼み込んで次元航行艦に乗り込んだことがある。職務上問題があると言った僕には、執務官補佐として参加するためにペーパーテストを楽々とクリアしあっさりとそれ以上の反論を潰してしまった。

 執務官補佐としてのシータは、新入りとは思えないほどの冷静さを誇り、時に僕を上回る戦術眼を披露した。一大次元犯罪組織の根拠地を潰すときは、シータが見事な策で一網打尽にしたこともあった。

「さて、クロノ。デュランダルを見せてもらって言いかい?」

「あぁ…」

 デバイスマニアのシータが、その一面を見せた。丹念に細部をチェックして、細かい傷を探す。デバイス検査用の魔法もあるにはあるが、シータは自分の目でしっかりと見ることを信条としている。シータの微調整のためにデュランダルの処理速度も、S2Uと同様さらに速くなってきている。

「うん、かなり摩耗が激しいね。最後にメンテ入れたの、僕が大学に入る前だから、2年前かな。そろそろ時期じゃないかな…。」

「そうか。そうだな、最近は艦長職になったから使う場面もそんなに無かったんだが…」

「さっき言ってたS2Uの新機構型、出来上がってるからメンテ中はそれ使ってみてよ。」

 僕は受け取り、古くからの相棒をしっかりと握りしめる。それを見てシータはほほ笑んだ。

「ありがとう。助かるよ」

「いやいや、こっちが楽しんでいるんだからね」

 シータが僕を見送ってくれた。

「エイミィさんにはよろしくな」

「あぁ」

 僕は扉を開けて行こうとしたところで、一度振り向く。

「六課の話……少しは考えておいてくれ」

「分かったよ。心配なのはあるからな。口実が出来たら行くかもしれないな。それから……」

 シータが僕をじっと見る。

「何だ」

「いや、……お前の制服姿、似合わないな、と思ってな」

「よく言われるよ」

 僕はそう言って、扉を閉めた。制服が似合わないと言われたのは、これで何回目だろうか―いっそ新調のものをそろえたほうがいいかもしれない、そう思いながら、僅かな休日を過ごすために僕は車に乗り込んだ。



[38241] Preface code.03
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/08/11 16:06
 廃棄都市区画という名にふさわしく、無人の建造物が並び、人を寄せ付けない場所。不思議なことに、人だけでなく他の動植物さえも寄せ付けそうにない無機質な残骸の集合体は、それ自体が意志を宿しているかのようにたたずんでいる。

 その一角―昔地下鉄が走っていたであろう、その駅に繋がるかに見えた通路は、ある研究施設に向かっていた。その通路には厳重な警備がかけられており、武装した魔導士が二十メートル間隔で立っている。地下であるその独特の暗さが、研究施設の雰囲気を大きくする。

 さらに奥へと進むと、厳重な扉に閉ざされた部屋があり、その中では五人の魔導士が研究を行っていた。

 その映像を、政府高官を思わせる人物が見守っている。

「例の古代遺産ロストロギア……研究成果は今のところどうなんだ?」

 政府高官は、やはり少し傲慢な口ぶりで尋ねる。隣にいた研究員―ファン・ソームが、慣れた様子で実直にすぐさま答える。

「今のところは、まだ何も。初の≪液体≫古代遺産ということもあり、慎重に慎重を期しておりますので」

 研究室から漏れてくる、プリズムを通したときに現れる虹色のように分化した光が映像に出る。幻想的な光であったが、それは研究室という独特の空間に映えては異質なものに感じられる。

「だが、急がねばならん。JS事件のおかげで、地上部隊りくへの風当たりは強くなるばかりだ。少しでもこちらの手札を作っておかねば、今後の対処が苦しくなる。だいたい、レジアスの馬鹿が手順を誤らなければここまで深刻な事態にはならなかっただろうが……」

 急にこの政府高官は、政治の話をしはじめた。聞きながら、ファンは政治家とはこのようなものか、と思った。JS事件では、あわやミッドチルダが壊滅しそうというところにまでなりそうなところで、例の特殊部隊によりなんとかなったというのに。その手痛い教訓は喉元過ぎればなんとやら、でまったく生かされていないらしい。その脳天気さには呆れるばかりだ。だが、その脳天気さこそが政治家の取り柄なのかもしれない―つくづく政治家にならなくてよかったとファンは思うと同時に、そのような人物の隣りにいる自分に吐き気がした。

 どうして一研究員でしかなかった自分がここにいるのか。ポスドクなんていう怪しい誘いなんて、蹴れば良かったのに。今更ながら自分の人生設計を後悔していると、じわりと汗を背中に感じた。

「JS事件で最高評議会が壊滅した今、ミッドチルダの実権は速やかに掌握しなければならない。その後が問題なのだ」

 高官はファンに目もくれずに独白を続ける。まったく、この空気はやめてほしい。

「最近はありとあらゆるロストロギアの研究が進まず、ただその流出を恐れているだけなのが地上りく次元うみも共通している。まったく、意味の分からんところで呉越同舟とは。悲しいことだ」

 そう、陸と海の仲は極度に悪い。今回の大事件―JS事件に関しても、原因は海のほうが腕の立つ優秀な魔導士を引っこ抜いていくことから始まっている。だが、結局は新設された海よりの機動六課や、海の方の戦艦群によって後始末を付けられている。海に頭の上がらない陸は、トップ層の不在もあって極度にフラストレーションが蓄積されつつある。それが、ミッドチルダ全体の治安悪化を招いているのではなかったか。

「ミッドチルダのある程度の自治を確保せねば、いずれ地上りく次元うみに乗っ取られるだろう。パワー・オブ・バランス……我々の安全保障、そのためには、示威的な武力も必要だ。我々は急がねばならん」

 徐々に高官の気持ちが高ぶってきたらしい。ファンの知ってよい範囲から会話が逸脱し始めている。プロジェクトF、戦闘機人計画に続く、新武力増強計画。ファンはそれら政治用語ジャーゴンの一部しか知らない。知らなくていい、と考えている。

「そのためには、ロストロギアの軍事転用がどうしても必要だ。先日の随分若い男だったが、アルトセイム大の生徒の理論が、爆発的に研究を前進させている。アルトセイムに莫大な補助金を与えてきた甲斐があったというものだ。それから二週間。そろそろ結果も出てもいい頃だと思うのだがな」

 じろりと高官が睨んでくる。そう僕を睨んだって始まるまい、とファンは思う。だいたい、ロストロギアの軍事転用なんてどれだけ先のことか分かっているのだろうか。安全確保のために少なくとも五年、臨床試験に三年、どう頑張っても八年はかかる。だがこの男が言っているのは八年後の未来ではあるまい。

 このような男が実権を握るミッドは、もう崩壊に向かいかけているのかもしれない――そんな不安をファンは抱いた。

「促進作用として、他のロストロギアとの混合において凄まじい魔力を引き出す。このロストロギアの特性――やっと実証段階に入るのだ。失敗は許されん」

 そう言う男を見て、夢ばかり追いかけて足元を見ていない愚か者だ、と思う。安全確認を疎かにして、失敗は許されないなどと、そんなことができるはずもない。

「第一回の調合は、JS事件で行方知れずとなったロストロギア〈ジュエルシード〉との混合です。管理部のに方も気づかれておらず、最適の実験材料と上が判断したようです」

 そう言ってからファンは、あぁ、この男と自分も同類なんだな、と思う。成り行きとはいえ、こういったミッドの闇の部分――まっとうな部隊とは異なる、違法行為も行う部隊で、こうして計画に加担しているのだから。

 その時、突然警報音が鳴り響いた。耳障りなアラームとともに、モニターに赤い文字が表示される。

「どうしたのだ!?」

 横にいた政府高官が、苛立った声を上げる。ファンは急いで状況を調べた。モニターに出てきたデータは、観測用の測定器具の限界測定値を大幅に超えている。

「これは……〈ジュエルシード〉が暴走している?」

「何だと!?」

 政府高官が驚きを露わにして叫ぶ。その叫び声をかき消すかのように、退避命令のアナウンスが鳴り響いた。退避命令―こんなものが出る避難訓練など、実施されたことがない。

「急いで転送ポートへ!」

 ファンが言う前に政府高官は動き出していた。こういう狡猾なところも嫌なところだ、と思いながら転送作業を実行していく。魔法陣が出現し、政府高官の姿が消え去ったところで、ファン自身も転送作業を行おうとした。機密処理が命より優先される――そんなお題目は糞くらえだ。処分しなければならない文書もたくさんあるだろうが、もし暴走したロストロギアがエネルギーを解放すれば、そんなものは一瞬で蒸発する。今は、まず自分の脱出が最優先だ。命があれば、なんだってできる。
 その時――となりの実験室から閃光が発し、ファンの網膜を焼いた。光を失ったことを知覚した瞬間、爆風がファンの体を吹き飛ばし、その意識がファンの感じた最後のものとなった。






「そろそろ機動六課の隊舎も復活っすねー」

「うん、そーだね」

 ヘリのコクピットにいるヴァイスが言うと、同乗していたなのはが応じた。ちら、とヘリの窓から機動六課のほうが見える風景に、ヴァイスは感慨深げだ。一瞬の光景だが、それは自分たちの故郷の着実な復活を知らせるもの。急ピッチで再建築が進められる隊舎は、疲れている機動六課のメンバーに確かな力を与えていた。人事異動も行われてはいるが、機動六課本来の威勢を保つ陣容はそのままだ。

「ごめんね、こんな私用に付き合わせちゃって」

「いーえ、アースラを使ってる間は移動手段もねーっすから。それに、コイツが、ヘリが俺を呼んでるんすよ。」

 ちらとコクピットから後ろを覗いたヴァイスに、なのはが微笑み返す。

「あのぉ……ちょっとよろしいですか?」

 ヘリに乗っていたもう一人、ティアナが言う。

「なーに?」

「なのはさんは今日はどんな用事で? アースラ掲示板には私用で休むって書いてありましたけど。なのはさんが有給取られるのって随分珍しいんで……」

「私が有給取ったらダメかな?」

 てへ、と笑って、ちょっと首を傾げたなのはに、ティアナがあわてて言う。それでも、なのはが有給を取ることは非常に珍しい。オフシフトとあっても、必ずどこかの部局を訪れ、「何か」をしている。機動六課の面々はみなそのような生活を行っており、人事部からも改善命令を何度か受けていると聞いている。

「いえっ、そんな……なのはさんはただでさえ休暇が少ないので、もっと休まれたほうがいいんじゃないかって思ってます」

「そーだぜ、まったく。俺からも言っときますよ、ワーカホリックはいけないって。いつか体ぶっこわしちゃいますからね」

「あははは……」

 なのはは笑ってごまかしたあと、話を続けた。

「今日はね、ちょっとした講演会。教導官だと、こういう仕事、というかボランティアも入ってくるんだよ」

「結局仕事なんじゃないすか」

 ヴァイスが苦笑いしている。なんとなく、もう諦めたような、そんな感じがその笑い顔にはあった。

「あ……ご苦労様です」

「うんうん、別にたいしたことないよ」

 たいしたことないって言っても、あの事件のあとなのに。どれだけ休養が必要な時期なのか、多分なのはさん自身が一番分かっているだろうのに。ティアナはそう思った。

「そういえば、ヴァイス陸曹となのはさんって、どういう関係なんですか?結構仲良さそうな感じですけど……」

「俺となのはさんか? そうだな…武装局でシグナム三尉の部下だったころから、遊んでもらってますよね」

「うん、そーだね。あの頃は『武装局の面白い人』で済ませちゃってたけど」

「いやぁ、それでもエース・オブ・エースに覚えてもらってりゃ光栄っすよ」

「機動六課はね、ティアナ以外はほとんど私やフェイト執務官、はやて部隊長と関係ある人なんだよ。スバルの場合は私が気づいてなかったけどね。だから、ティアナは純粋に実力で選ばれたって感じだね。もっと自信もってね」

 なのはが説明を兼ねてティアナを勇気づける。

「いえ……私はまだまだです。射撃系でも、この前のヴァイス陸曹の足元にも及ばないって感じで」

「いや、なかなかだと思うぜ。スナイピング技術じゃ負ける気はしないけどよ、連射と迎撃の精度だったら、俺もブランクあるしほとんど同じじゃねーっすかね。さすが、なのはさんの仕込みがあるって感じかな」

「あははは……ティアナもがんばってるもんね。ヴァイス君も、ブランク埋めるために訓練来てみる?」

「うへ、それだけはご勘弁。」

 そう言ってヴァイスがしかめっ面を覗かせ、なのはとティアナがクスクスと笑う。その時だった。不意にヘリの中でアラート音が鳴り響いた。長く三回、小さく、三回、そして長く三回。ツー、ツー。モールスでOSО。緊急信号。

 ヴァイスはヘッドホンを取り付け、マイクのスイッチを入れる。

「こちら<ストームレイダー>。回線開け。どうぞ」

「こちらロングアーチ、グリフィス・ロウランですっ!」

 グリフィスの言葉には、なにか急きたてるような、そんな焦りがあった。

「グリフィス君、落ち着いて」

 なのはがモニターをリンクさせて話す。

「す、すいません。状況報告です。廃棄都市区画B-3エリアで大規模な魔力反応感知。推定、ロストロギア級反応」

「何だってっ!? ロストロギア?」

 ロストロギア級の魔力反応がミッドで出現するのは、あの大事件後は初めてだった。言いようのない緊張感が、ヘリの中を満たしていく。

「はい。なお、現場は大規模な火災が発生、現在も延焼中の模様です。現在、八神部隊長と副隊長方々は聖王教会に、フェイト執務官とライトニングの二人は違う次元に、スバル二士は陸士108部隊に出向いているため、現場に向かえるのはそちらだけのようです。防災部が出動するようですが、それまでの救出任務を機動六課が引き受けることになりました。防災部の指揮官が到着するまで、私が指揮をしますので、なのはさんとティアナさんは、現場で救出活動を行ってください」

「了解、グリフィス君」

 なのははそう言うと、事務連絡だけで交信を絶った。

「ティアナ、休暇中だったけどごめん、出動だよ」

「了解です」

「〈ストームレイダー〉。火災反応を探知できるか?」

≪Searched a large-scale fire.≫

「よし、その場所まで最短飛行コースを割り出せ」

≪Searching. Complete.≫

 すぐさまコクピットにルートが表示される。管理局から許可された飛行ルートを、ぎりぎりの角度で切り抜けるコースだ。

「ティアナ、なのはさん、しっかりつかまってて下さい。今から超ハイテンションな運転っす!」

 そう言うや否や、ヴァイスは操縦桿を横に倒してヘリの高度を下げる。ピッチを急変化させて、角度を調整した後に、ヘリは地形追随飛行で目的地に一直線に向かった。

「ちょっと、ヴァイス君!?」

 見ると、後ろではヘリの突然の動きに耐えきれず、なのはとティアナが互いに頭をぶつけていた。

「なのはさん、災害救助が待ってるんでしょ? だったらそこまで最短で届けるのが俺の役目っす。まだなのはさんたちの飛行許可が出ていない以上、こっちが頑張らないと。そうだな、ストームレイダー?」

≪Aye, sir.≫






「どーなってるのよ、まったく!?」

 火災で爆発する建物を駆け抜けながら、マオが言った。マオはクルツ、宗介と共に逃走を開始していた。

「核ミサイルでもうダメって思ったら、ASは無いけど、代わりに燃え盛る建物があるし!」

「姐さん、とにかく落ち着けって。」

 クルツが走りながら言う。

「これで落ち着いてられる? ここは何処なのよっ!三途の河のあっち側?」

「アマルガムの施設かもしれないじゃん」

「敵だ!」

 宗介が短く叫ぶ。後ろの方向から何やら棒のようなものを持った男が出てきている。

「止まれ!」

 その男が棒を構えている。振り返りつつ、宗介は答えを銃弾で返した。連射で弾幕を張る。しっかりと狙うときは単発で撃つのがセオリーだが、走って逃げている最中とあってはそれもかなわず、腰だめでフル・オートで敵を牽制するしかない。

「止まれと言って止まるかよっ!」

 クルツが走りながら叫ぶ。瞬間、その頭上をレーザーのような光が通過する。

「何だよありゃっ!」

「対人セントリーガンか?」

 そう宗介は言い、手榴弾を取り出して後ろに投げる。ちょうど前方にドアがあり、そこに転がりざま、三人は衝撃を避ける。

 爆発。

 閃光と爆風が飛び交う中、敵の悲鳴が聞こえる。続けざま銃弾を撃ち込み、三人は逃亡を続行する。今度はセミ・オートで、着実に黒煙の中を撃つ。煙の中から悲鳴が聞こえたが、そんなことに構っている時間はない。敵の生死は確認せずに、そのまま三人は逃げ続けた。

「マオ、携行武器は何だ?」

「サブマシンガン一丁! 今調整中リローディングよっ!」

「クルツ、お前はなんだ?」

「ブローニングだけだ! 愛しのライフルもあるが、こんな狭い建物内じゃ使えねぇ」

 てきぱきと武器を調整しながら、基地を抜けていく。前方には壁。後方からは敵。だんだんと宗介たちも追い詰められてきていたが、三人にはそのような状況も打破できる経験があった。

「C4を使う。二人は後ろの敵を牽制してくれ」

「了解!」

 宗介は装備していたプラスチック爆弾を取り出し、壁に取り付け始める。壁を巧みに使いながら、マオとクルツは後方の敵に応戦し始めた。

 精確な射撃。

 後方の敵は慌てふためいて、無駄にレーザー光を乱射している。もちろん、当たるはずもなく、その光が混乱している味方をさらに恐怖させるものとなっている。

 雷管を作動させる。

「カウント始めるぞ!5、4、…」

「クルツ、スタングレネードっ!」

「はいよっ」

 混乱する敵を尻目に、宗介たちは見事な連携で追撃を阻む。

「…2、1、0っ!」

 プラスチック爆弾が起爆し、同時にクルツの投げたスタングレネード弾が大音響と閃光をまき散らかす。新たにできた穴を抜け、三人は逃走を続けた。







 時空管理局には、細分化されたいろいろな部局が存在する。それぞれがいがみ合い、微妙なしがらみの中で日々運用されているのが現実だが、中でも陸と海というように地上部隊と次元航行部隊は象徴的に敵対している。それはJS事件を経てさらに助長されてきている。 

「時空管理局、機動六課の高町なのは一等空尉です。捜査及び災害救助のため、進入許可をお願いします。」

 大至急向かった場所からは、なぜか管理局の制服を着た男が出てきた。訝しさを覚えながらも、なのははその男に形式的に話しかけた。

「情報部のケーン・ラウロス二尉です。そ、それが……当該場所は管理局ミッドチルダ情報部指定秘匿区域ですので、関係者以外立入禁止です。機動六課といえども、進入許可は出せません。」

 律儀に答える男。なのはとティアナは既にバリアジャケットを着用している。私服だとなにかと身分証明に厄介だからだ。

「ですが、つい先ほど、こちらの施設より大規模な……ロストロギア並の魔力を検出しました。ロストロギアに関しては、こちらに捜査の権限があると思われますが……」

「管理局法により、情報部の秘匿性は捜査に優先されます」

 こんな時、執務官のフェイトがいたら、となのはは思ってしまう。単に管理局法のしがらみだけでなく、海と陸の相互不信からおこってくる情報の隠蔽と改竄。これらを執務官はある程度威厳と権限で解消することができる。

 自分はただの『エース・オブ・エース』。戦術的に投入され、道具として使われる身――よく友人のはやてが漏らす愚痴を、知らず知らずのうちに自分も感じるようになっていた。

「火災の延焼も確認されています。今は法律うんぬんよりも、局員の救出を優先すべきでは?」

「情報部が防災対応を行っております。大丈夫、機動六課そちらの手は煩わせませんよ。この基地の安全装置は一級品ですから」

 そう男が鼻を鳴らした瞬間、施設の奥から爆発音が響いた。一瞬で男の顔色が曇る。

「……これでも安全と言うつもり? 私たちは行くよ。ティアナ、準備を」

 なのはは遂にしびれを切らし、男の制止を振り切ろうとした。

「駄目ですっ! もしどうしても行かれるというのであれば、私は実力行使であなた方を止めなくてはいけません!」

「止めてみる? レイジングハート」

≪Yes, my master. Accel mode, drive ignition.≫

 なのはは宝石状のデバイスを変形して男の喉元に突きつけた。大切な友人に、心の中で詫びながら。いつの時代も、権力というものは越え難い壁である。

 だが、男もバカではないようで、なのはの実力くらいは知っており、そして権力よりももっと身近な力――暴力を知っている。引きつった顔からは言いようのない憤怒が読み取れるが、かといって男は何も行動することができなかった。

「……後悔しますよ」

「そうかな?」

「させてやるよ」

 なんとか捨て台詞を吐いた男に、乾いた微笑みを返して、ティアナとなのはは施設内に突入した。

「行くよ、ティアナ!」





 施設の中に入るにつれて、火災だけではない、何かが起きていると感じさせるものが増えてきた。

 軽く、空気を切り裂くような音。それに続く人々の悲鳴。何か、尋常でないことが起きている――ティアナはそう思った。

 ふと、横を見ると、なのはさんが難しそうな顔をしている。どうしたんだろう。

「ティアナ、ちょっと、乾いた爆発音みたいのしない?」

 ふと、なのはさんが口を開く。

「えっと……何となく、聞こえます。」

 今も続く軽い、パン、パン、という音。

「これね、……私たちの世界の武器の音に似てるの。」

「……なのはさんの、世界?」

「そう。魔法文明のない、私たちの世界の、質量兵器。魔法と違って、すごく暴力的で、危ないから、ティアナも注意して」

 言葉と同じく、厳しい表情のなのはさんに、私も緊張する。そう、知っている、魔法でない力の危うさ、その暴力。一瞬で人の命を奪い、幾千もの悲しみの連鎖を引き起こす力。


「あ、あなた方は!?」

 走って進んでいくと、管理局の制服を着た魔導士が焦りをあらわにしてやってきた。焦りの中に、微妙に恐怖が浮かんでいるのは、気のせいではないようだ。ティアナが律儀に答える。

「機動六課のティアナ・ランスター二士です。火災の救出任務で参りました。」

「火災? あぁ、火災か。いや、そんなことより、今は……」

 そう、先ほどから感じている火災以上のなにか。それがこの魔導士の口からも出てくる。いったい、この先で何が起きているのか?

「何が起きているんです?」

 なのはが、優しい口調で語りかける。

「あ、高町一尉。お会いできて光栄です。で、その……実験の失敗に乗じて、何者かが侵入を図り、データの盗難を行っており、現在交戦中です。」

「で、その実験と言うのは?」

「それは我々末端の者には分かりません」

 申し訳なさそうに答える魔導士。なるほど、彼の手には戦闘用デバイスがあり、臨戦態勢を整えている。

 ロストロギア級の魔力反応、それを引き出したのはおそらくその実験だろう。出会ったものを不幸にする、忌まわしき力。それが解放されたに違いない、となのはは思った。

 すると、「侵入者」とは何なのか。今、その侵入者のデータが少しでも分かるのは、自分だけに違いない。あの独特の発砲音―映画とかでしか聞いたことがないけれど、そう、銃声。およそ魔法文明から離れたそれは、侵入者がデータの盗難という目的で入ってきたとは思わせなかった。

 むしろ、巻き込まれた? ――昔の、

「なのはちゃん? 応答できる?」

 急に連絡が入った。

「はやてちゃん?」

「八神部隊長!?」

 驚いた二人の声が、燃え盛る炎の中を突き抜ける。

「あぁ、驚かんでええよ。グリフィス君から連絡もらって、すぐにアースラに戻れたんや。ちょうどユーノ君が資料探査で教会におって、転送魔法でアースラまで送ってくれたんや。それでな、二人とももう突入しちゃってるんやな?」

「ごめん、はやて部隊長。上に止められたんだけど、いてもたってもいれなくなって、突っ込んじゃった」

 申し訳なさそうに言ったなのはの声に、はやてが慌てて言う。

「ええよええよ。ちょっと文句言われれば済む問題や、そんなんは。それよりな、そっちの状況、音声解析してみたら、うちらの世界の銃声と一致した音が検出されたんや」

 そう、銃声――音だけは聞いたことがあっても、まだ本物には出会ったことがない。

「うん、現場こっちでも聞こえたよ」

 移動品がら連絡を取る。施設の中は、炎の光で揺らめいている。防災部も到着して消火作業に当たっているらしい。だが、やはり到着が少し遅いかもしれない。

「でやな、多分こっちの世界にロストロギアのせいで紛れ込んじゃった人やと思うんや。地上はそういうの嫌ってるからなぁ。なんとか機動六課うちのほうで保護したいんや。できんかなぁ?」

「うん、そのつもり。ただ、銃持ってる人たちだから、ちょっと簡単にはいかないかも。いざとなったら魔力ダメージで叩いてから保護、って形になると思うから、シャマルさんに連絡いれといてくれる。それから、ヴァイス君に搬送のお願いも」

 そう言って、なのはは瞳を前に向けた。救いたい人がいるから、前へ、前へ。

「了解や。無理せんでな」

「はーい。それじゃ、スターズ01、任務開始します!」







「宗介、だんだん出口に近づいてきたわよ!新鮮な空気が少し入ってきてる」

 マオが、後ろに牽制射撃をしながら言う。徐々に、熱い空気に混じって冷たい心地よい風が吹き抜けてきていた。

「そのようだな」

「ってか、この暑いのなんとかしてくれ~ へばっちまうぜ」

 宗介とクルツがそれぞれ射撃しながら言う。

「もうすぐ天国よッ! へばったら置いてくよ!」

「へいへい」

 いつものようにクルツが外した調子で場を明るくしながら、先へ進む。角を曲がって、そして――

 そこには、2人の少女がいた。






 それは、ちょっとした油断だったのかもしれない。

 だけれど、そんな油断が、戦場では命取りになる。

 少し進んだところで、先の曲がり角から、侵入者が姿を現した。あちらも少し驚いているようだったが、次の瞬間、その中の一人が黒い筒のような―いや、私のデバイスのような形状のものをこちらに向けた。

 爆発音。

 刹那、右肩に鋭い痛みが走る。魔力光も、何の前触れもなく、訪れた痛み。

「ティアナ!?」

 なのはさんの声が聞こえる。混濁する意識の中で、訓練の通りに左手が敵に照準を向ける。

 さらなる爆発音。一度、二度。

 何かがデバイスにあたり、すさまじい衝撃でデバイスが手から離れて後ろに飛ぶ。侵入者は異なった方向へと進んでいこうとしているが、私はもう動けない。

 こんなところで終っちゃうんだろうか―

≪Buster mode. Drive ignition.≫

 後ろからレイジングハートの起動音が聞こえる。まだ、意識はあるのかな?

 それでも、痛みが自然と消えていってる気がする。

 どくどくと、心臓の音が耳に響く。

「ディバイン……バスタァーッッ!!」

 桜色の砲撃が、曲がり角を行こうとする侵入者を捉える。

 でも、その光景も、なぜか霞んで見える。

 兄さん、やっぱりだめだったのかな?わたし。

「ティアナっ。しっかりして!」

 なのはさんの声が聞こえて、心配そうな顔が瞳を通じて映し出される。

 でも、これも幻影なのかな?

 まだ、死にたくないのに……兄さんの、力の、証明も……

 涙が出てるのかな?それでぼやけてるの?

 だんだんと…なのはさんの顔も、ぼやけて……光が…………闇……に飲み……込…ま………………

  
 ティアナと異邦者をヴァイス君に預けたあと、私は防災部と協力して消火活動にあたった。尋常じゃない出血量だったティアナの容体も心配だったが、ユーノ君がもしも、という時のためにヘリに乗っていてくれたおかげで、応急処置の魔法をやってもらえた。治療魔法は私も苦手だから、ヘリに乗っていたって意味がないし、それにやらなくちゃいけないことはまだ残っていた。

 防災部がかなり動き方が迅速化されており、消火作業はすごく早く進んだ。異邦者の逃走のときに撃たれた魔導士も、幸いなことにバリアジャケットを着用していたこともあり死者・重傷者は出ていない。人命という観点からいえば、不幸中の幸いと言える。
 火災の鎮火中も続いた、局員の救出。実験現場に近づくにつれて、その爆発に巻き込まれた遺体も見つかってくる。血の臭いがあたりに立ちこめ、まだゆらゆらと熱で空気が揺らめく中を、必死に救出作業を進めた。

 おそらく、情報部はこの実験での死者を隠蔽するつもりだったのだろう。一時、防災部の立ち入りを拒む事態があったが、そこははやてちゃんのネットワークで解決できたみたいだった。

 そして今やっているのは、現場保存。これから始まる、第一次実況見分の立ち会い。執務官が一名やってくるはずなのだけれど―。

「お疲れ、なのは」

 いつも聞いている、大切な仲間の声。

 金色の髪をたなびかせ、バリアジャケットを身にまとった凛々しい姿。

「フェイトちゃん。何でここに?」

 戸惑いを含んで尋ねた。

「えっとね……他次元での事件が簡単に解決して、帰還していたんだけど、新しくミッドで事件が起きてたみたいだから、まっすぐアースラに帰ったの。そしたらはやてが、大変なことになってるって言ってたから……地上りくとの軋轢もあるから、執務官として行ってくれないって。」

 予期していなかった事態に、自然と頬が緩む。少しあった疲れも吹き飛んで、笑顔がこぼれた。

「今日は、はやてが手料理作って待ってくれてるよ。だから…ちょっとだけ、なのはも見分手伝ってくれる? そしたら、早く向かうことができるから。」

 答えは、聞かれる前から一つしかない。

「もちろん!」






 実況見分は素早く進んだ。出火の原因となった場所は、やはり実験場所だったようだ。最も施設の破損度が激しく、悲惨な感じだ。エネルギーは四方八方に拡散されていたため、施設自体の損害はそんなに大きくなかったが、これが一方向に集中されていたら施設の崩壊もありえたかもしれない。爆発の振動で、一時的な人工地震のようなものも多少生成されただろう。

 それにしても、何か、昔感じたことがあるような、何か「懐かしい」感じがする。でも、それは普通の懐かしいじゃなくて、そう、暖かみのない、冷えた懐かしさ。

「なんか、嫌な感じだね」

 フェイトちゃんもそう感じたみたいだった。忌まわしき記憶を呼び覚ますような、そんな空気が一面を支配している。

「あらかたの研究員は、緊急脱出で逃げたみたいだけど……それでも、死傷者は出てるみたいだね」

 沈痛な面持ちでいるフェイトちゃん。執務官は、こういう現場を何度も見ているんだ。自分の知らない仕事の一面を、今知った。教導しているだけでは、こんな現場は見ることはない。友人の苦しげな表情に、心が痛んだ。

 執務官―魔法世界の治安を守る、法の番人。最近では、例の事件のために資格試験もかなり厳しくなったと聞く、難関の職。フェイトちゃんも2度試験に失敗してるけど、それは私が心配をかけたため。

「あ、なのはは初めてだっけ……ごめんごめん」

 そういってこっちを気遣ってくれる優しさが、フェイトちゃんらしいと思う。

「あれ?」

 何か、灰の中にキラリと光るものを見つけ、取り出した。宝石のような形状のものが、3つ。これは……

「これって、……デバイス?」








「はやてちゃん、失礼します。」

 部隊長室に入ってきたのは、書類を持った医療担当のシャマルだった。

「あ、どうやったんや?」

 心配そうな顔で、シャマルに尋ねるのは、機動六課部隊長の八神はやて。JS事件での自分の指揮に問題があると思い込んでいるらしく、今回の部下の負傷にはものすごく傷心しているようだ。

「はい。ティアナさんのほうは、傷の応急処置をユーノさんが行ってくださっていたおかげで、大事には至りませんでした。明日にでも面会謝絶は解除できそうです。ただ……」

 ちょっと、自分の言うことに信じられないような口調で、シャマルが言う。

「ただ、なんや?」 

 はやてがそっと促す。

「はい。実は……運び込まれた異邦者たち、かなり高レベルなリンカーコア反応が検出されたんです」

 それを聞いた瞬間、はやての頭脳で素早く打算が行われる。

「リンカーコア反応……どういうことや?」

 計算と、疑問が飛び交う部隊長室。その部屋の窓に、日没後の月の光が優しく注ぎ込んでいた。



[38241] 第一部 vol.1 始まりの六課
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/08/11 20:58
ミッドチルダには、幾千、幾万の人たちがいて、
みんなそれぞれが、願いや思いを持っていて、
時にぶつかりあって、それでもきっと分かりあえて。
それでも分かりあえないこともあるかもしれないけれど、未来に向かってみんなが歩いて行って。
これから始まるのは、次元干渉がもたらした、とても大変な騒動のお話。

――魔法騒動Lyrical Panic! 、始まります。






11/7 6:30 機動六課演習場

 桜色の閃光が飛び交い、それに振り回されながらも、何とか避けたり防いだりする4つの影。妨害を受けながらも、チームとしての戦術をつないで、勝利のパズルのワンピースを埋める。

 訓練の任務は、ある物資の奪取。だがその物資には、護衛として無数の桜色の砲弾が取り巻いている。それを操っている白い影――なのはをなんとかしなければ、物資奪取は覚束ない。

 力ずくで持っていこうとすれば、あちらもフルパワーでこちらを落としにくるのは目に見えている。冷静に素早く考え、情熱的に行動することが瞬時に求められる。

 つまり、あちらの動きを一時的に妨害すればいい。

 一つの影が、拳を突き出して白い影に迫る。円状のシールドを展開して防がれるのは目に見えているが、あえてそのシールドを破壊しようとせず、シールドに拡散的に圧力を加える。

 シールドごと吹き飛ばした後に、追撃すればトラップにかかることはぎりぎりで分かった。案の定、桜色の砲弾が飛んできて、その時点で防戦一方になる。

 続いて、ピンク色の光を受けた青色の光が風となり白い影の横を駆ける。見事な接近戦の後、青い閃光が迫りくる桜色の砲弾を受け流して退避。同時にオレンジ色の砲弾が、数発円状にして白い影の足下に着弾する。

 雨が降っていたフィールド。一時的に泥が跳ねあがって視界が失われる。

 その隙に、誘導困難になった桜色の砲弾を潜り抜け、水色の道路が物資に迫る。

≪Master. Mission completed.(マスター。彼女らは任務を終了しました。)≫

「じゃぁ、いこっか、レイジングハート」

≪All right. To clear.(分かりました。視界妨害を削除します。)≫

 一瞬で泥の跳ねを薄い魔力結界で跳ねのけ、白い影が姿を現す。

「それじゃぁ、今朝はここまで。だいぶ皆強くなってきたね! 嬉しいかも」

 微笑みながら語りかける教官に、ぜぇぜぇと息を切らしながら向かうのは、4人の若い生徒たち。皆、一様に煤で汚れたバリアジャケットを身にまとっている。

「えっと、それで今日のスケジュールなんだけどね……実はね、今日から六課に新しいメンバーが来ることになってるの。えっと……3人だったかな。」

 そう言った、訓練教官のなのはは、自分でもよくわからない、といったような顔をして言う。それに対し、生徒が「え?」という驚きの声を漏らしたのも仕方ない。

「うーんと、実は私も誰が来るのかはよく知っていなくて……まぁ、とにかくそういうことなので、午前中はデスクワークになるね! じゃぁ、一度着替えて、ロビーに集合。そこで、今日の仕事リストを渡すね」

「はいっ!!」





 機動六課のフォワード陣は、平時は主に戦闘訓練、デスクワーク、そしてそれに加え臨時のロストロギア保護任務が仕事だ。六課のオフィスが再建築され、戦闘訓練も厳しさを増しており、少しずつデスクワークの量が溜まってきているのがここ最近の日々。というのは、戦闘訓練が厳しすぎるためということではなく、一か月前に起こったロストロギアの暴走事件(管理局本局では、その事件の真実を秘匿するため、十月「事故」という名称をつけたが)によって、デスクワークに優秀なティアナが療養で抜けたことが最大の原因。

 他のメンバーも、今の時期は引き継ぎなどでとても忙しく、他人の助けをするほどの余裕はなかった。とはいえ、管理局の中でも一二を争うワーカホリックがいろいろと動き回ってたりするのは、六課風物詩と言えそうだ。

 JS事件以降、機動六課はその運用をめぐり激しい論争の的となっている。地上のほうは、あまりに強すぎる戦力ゆえに解体を望むし、次元のほうは事件の功績もあり治安維持部隊として活用しようとしている。だが、事件で統治体制が一度抜本的に崩壊し、その再構成がまだ不十分なミッドチルダでの繰り返されるテロ事件、そしてその威厳の低下による付近の次元世界での管理局と、その他の集団の小さな紛争が、その解体論に今のところストップをかけている。

 混乱に拍車をかけているのは、地上と次元のさらなる対立であった。地上りくの騒乱がもとで、他次元での混乱という迷惑を被っていると主張する次元うみ、そもそも騒乱の根源は優秀な魔導士が次元うみにとられているからだ、と主張する地上りく。その議論も今や卵が先かニワトリが先か、という不毛なものになろうとしていて、平行線をたどるものとなっている。解決しようもない問題なのに、ただ構造的なストレスのはけ口として利用される、火種しか生まない無益な存在。それになろうとしていた。

「それでさ、ティア。新しいメンバーって、どんな人なのかな?」

 シャワーを終えたスバルが、興味深々といった顔つきでティアナに尋ねる。

「んなもん知らないわよ。たぶん、戦力増強なのは間違いないと思うんだけど……ほら、今、六課の対テロ運用とか騒がれてるじゃない」

 自分の持っている知識を動員して推測してみるティアナに、やっぱり少し大人らしいとスバルが感じるのは仕方ないことだろう。執務官志望ともあれば、多少の法務系の知識も必要だし、最近は時事関係の試験問題も出題されていることから、そのあたりの能力は高くて当たり前なのだ。

 今もテレビから、昨夜の爆破テロの話題が流れている。

<昨夜の爆破は、ラプラス・ギルドの幹部の一人を巻き込むものとなり、ここ一連のラプラスアソシエーションの新防衛システムとの関連性の調査が急がれます。現在、調査にあたっているのは局の災害担当部で、午後より執務官が到着するものと…>

「それにしても、ティアナさん、怪我の方は大丈夫なんですか? ほら、一か月前の」

 ふと、ティアナにエリオが尋ねた。一か月前――そう、あの人事不省に陥った戦闘。思い出したくないことだったが、はじめての実戦での大きな負傷は、あのように突然訪れるのだと「戦場」を実感した。そのことは、実際に体験した身じゃないと分からない。たとえ頭でわかっていても、体が分かっていない。今なら、なのはさんの教導にある「意味」も、ティアナは少し分かるようになっていた。

 負傷して、意識不明だったのは3日間。現場検証を終えたなのはさんは、そのあとずっと私を見てくれていた。初めて訓練を即日キャンセルして、見ていてくれたらしい。目が覚めた時、なのはさんは隣で泣いていた。あの涙が忘れられない。

 なのはさんだけじゃなかった。スバルも、ほとんど何も食べず眠れない3日間を過ごしたと聞いている。部隊長も、立て込んでいる予定をすべてキャンセルして、本局の医療施設までわざわざ足を運んでいたらしい。

 自分の命が、自分だけのものじゃないと、気付かされた瞬間だった。

 幸いにも、なのはさんのように後遺症を患うこともなく、10日間ほどの入院による休養を経て、自宅療養に戻ったのだけれど、自宅とはつまり六課だし、なのはさんを始めとする隊長組が頑なに魔法運用をさせてくれなかった。自分のことを差し置いて……とは思うのだけれど、六課新オフィスに移るまでに完治させることができたのは、そのおかげだった。

「うん、ほとんどもう全力出せるわよ。体力も、魔力も問題なし。今のところ、ブランクもそんなに感じないし、大丈夫。」

 言葉上だけじゃなく、本心からそう思う。

 そう思っていると、なのはさんがやってきた。

「お待たせー。」

 ちょっと駆け足気味でやってきたなのはさんは、脇にいくつかの書類を抱えている。なのはさんは、資料を配る時も、うまく区分けしてわかりやすいように調節してくれていて、気づきにくい気配りをしてくれている。

「えーと、そしたらこれが今日の仕事。ちょっと多めだけど、今日は時間も長いし、みんなで協力すればすぐ終わると思うよ。それから確認してきたんだけど、正午ちょうどにロビーに集合みたい。これには遅れないようにね。じゃぁ、みんな朝ご飯食べて、今日も一日、しっかり頑張ろう!」

 そう言ってほほ笑みを浮かべるなのはさんは、やっぱりみんなに元気を与えてくれる存在だ。

「それから、ティアナはちょっと残ってくれる?」
「え?」




        ※           ※





 清々しい空気を吸い込み、真正面にそびえ立つ隊舎を眺めると、なぜか威圧感を感じてしまった。タクシーに運賃を支払い、トランクから取り出したどでかいスーツケースを取り出すと、次の客があるといって出て行ったタクシーを見送っている自分がそこにはいた。ここを訪れるのは初めてではないが、工事中の喧噪のなか、ぽつねんと立ち尽くしている自分を自覚している。

 さて、こうして結局来てしまったのであるが、まずは部隊長に挨拶をせねばなるまい。表口から入ったが、人気がない。腕時計を見ると11時10分。30分に来いと言われていたから、大きく迷わない限り大丈夫だろう。時間的には人がいなくてもおかしくはないか。そんなことを考えながら通路を進んだ。

 部隊長室まで、結局誰一人と出会わなかった。事務連絡など、誰か居てもよさそうであるが、みな忙しいのだろうか。そう思って、部隊長室のドアをノックした。警戒システムが若干甘いな、そう感じたのは僕だけだろうか。

「どうぞー」

 まぁ、声を聞かずとも誰がいるかは分かっている。自動ドアが開いて、その者の姿を瞳に焼きつけながら、僕は結局一度は断った世界に立ち入っていた。溜息がでる思いだ。

「あぁ、シータ君やないか! 待っとんたんよー」

 独特のイントネーションで話してくるのが、このオフィスの部隊長、八神はやて二佐。かなりの出世コースをいっており、僕の友人ではユーノ、クロノに次いで三番目にハイキャリアだと思う。まぁ、キャリアだけが人生でないというのは僕の持論だけども、それでもちょっぴり羨ましいのは、人間の業だよね、仕方ないこと。

 とはいえ、本人は自分の現状に満足していないらしく、先任の方々に相談に行っているとの噂がある。まったくもったいないことをしている御仁だ。

「リインも待ってたですー♪」

 ふわふわと浮いてやってきたのが、驚くなかれデバイスのリインフォース・ツヴァイだ。研究者として、リインのようなユニゾン形態のデバイスは興味が尽きない。最も、マッドサイエンティストのようにデバイスとしてではなく、人格を宿した「生命体」としては考えているが、どうもこいつの場合は本当に人と思って接してしまうから不思議だ。親しみを込めてみんなリインと呼んでいる。

「やぁ、とも!」

 若干苦笑いしながら、部隊長の前に行って辞令書を手渡す。受け取って一瞥し、ニッコリ微笑んだはやてに向かって、久しぶりの敬礼を行った。

「シータ・オルフェン執務官補佐、三等空尉、本日付で機動六課に着任となります」

 そうやった僕に、はやても敬礼で応じてくれた。

「機動六課部隊長、八神はやて、貴官の着任を歓迎します。」

 形式ばった儀礼はここまでだ。同時に肩の力を抜いた僕らは、互いに見つめ合って、そして笑わずにはいられなくなる。

「にしてもシータ君、またクマを作って。寝てないやろ。」

「そうかな。引き継ぎ作業が大変だったのはあるけど、毎日と変わらないんだけど。リイン、そんなに顔色悪いか?」

「ですですー♪ 初対面で会った人が心配するですよ?」

 大学を一度休学し、そして公務に就くとあれば、提出しなければならない書類関係の雑務の数は莫大なものだ。そのあたり、察してほしいものだが。

 特に、液体古代遺物(アマルガム)の研究データをチームで次の学会に発表するつもりだったから、その方面を急ピッチで進めなければならず、それ故ここ二週間は相当な無理をした。「毎日と変わらない」というのは、毎日がそのような生活になっているという自分への皮肉アイロニー
 けれども書類仕事の甲斐もあってか、管理局において、研究職からの転職としては珍しい尉官スタートとなった。無論、自分をそのまま管理局の手ごまにしてしまいたい、という局の思惑が見え隠れするが、残念ながらそのようなもので左右される僕のキャリアではない。

 二人を適当にあしらっておいて、僕は手渡された制服を着ながらリインにネクタイの調節を任せている。初顔合わせとなる簡易式典が迫っているらしく、研究者用の白衣ではダメとのこと。散々、クロノに制服が似合わないとからかっていたが、いざ自分の身となると、自分も似合わないと実感するものだ。それと、ネクタイは締め付けがきつくて苦手。

「いやー、シータ君ちょっと似合わへんな」

「うーん、何がまずかったですかね?」

 二人して、考え込まなくてもいい。そんなことは分かっていることだ。

「リイン。僕は新入りだけど、一応階級上はお前の上司だ。言葉を慎め」

 そう言うとぷくー、とふくれっ面を見せた妖精がそっぽを向く。それを見て僕とはやては笑ってしまう。

「はやてちゃんまで笑うですか!?」

「冗談だよ、リイン。そう怒らないでよ」

 なだめながら、持ってきた契約書を取り出す。時計を見ると、部屋に到着してから10分たっていた。あまり時間もない。

「はやて、一応契約内容の確認をしておきたい」

 そう切り出す理由は、たとえ身内でも契約関係はきちんとしておいたほうがいいからだ。綱紀粛正を称して採用が厳しくなった局では、元からあった人材不足が深刻化して労働争議が多発しており、どんな相手だろうと残業の山を簡単に押し付けられるような契約にしたくはない。それに、労働団体が目をつけている機動六課のことだ。この狸、何をやらせてくるか分かったものではない。

「ライトニング分隊の補助―具体的には、分隊のデスクワークの補助……まぁ、フェイトの場合、シャーリー執務官補佐がいるからこれは問題ないだろう。」

 シャーリーの愛称で親しまれている、シャリオ・フィニーノ一等陸士。執務官補佐時代に個人的に知り合った仲だが、かなり自分と共通点が多いような気がする。ただ、彼女のデスクワーク能力には脱帽せざるを得ない。ハッキング能力ならば負ける気はしないが、実務資料の作成となると彼女の右に出るものはいないだろう。実際、自分がここのデスクワークを手助けするような事態が起きるとは思えない。

 どうやら前線に出ないことが仇となって中央に評価されず、僕とは違って士官だが、(最も、彼女の場合訓練校出であるから、僕のように甘い汁を局が準備しなかったということかもしれない)これはもったいないことだ。まぁ、指揮能力がなければ尉官には不向きなのだが。

「あぁシータ君のこと、シャーリーがすごく楽しみにしとったで。今をときめくスーパーデバイスマイスターって」

 そういえば、執務官補佐時代のときは、彼女にはデバイスマイスターの資格を見せたことはなかった。クロノから固く止められていたこともあり、あの頃はデバイスいじりを断念せざるをえなかったものだ。

「そうか。そのついでだが、デバイス調整が職務・・としてあるな。で、デスクワークだが、シグナムさんは暇だろうから手伝いの必要もなし。おそらくフェイトの保護している児童二名の手助けだろう。で、それをいいことに過剰な他のデスクワークの押し付けに関しては、ミッド労働法で固く禁じられているので、その点を理解してくれ」

「うっ……さすがはシータ君」

「労働組合の存在しない管理局だ。下手に仕事を押し付けてきたらブラック認定してやるからな」

 はやてが顔をしかめる。どうせ目論見があったのだろうが、そういうことは本当にやめてもらいたい。栄養ドリンクを毎日飲み続ける生活は、肝臓に負担がかかりすぎる。

「そういう性格なら、まぁ部隊長が向いているんだろうな」

 ふと思ったままに、口にしてみると、はやての表情が若干暗くなったように見えた。気のせいか? と少し心配したが、それは後ろから新たに入ってきた人物によって遮られた。

 自動ドアの機械音に続いて、室内に入ってきたのは管理局の衣服を纏った執務官―フェイト=T・ハラオウン。

「あ、お兄ちゃん。」

 振り返るのを止めた。声で分かったから。

「……まだ兄さんと呼ぶのはやめてくれ。僕はハラオウン家とは養子縁組していないぞ?」

 振り返らずに呟きながら、はやてに契約書のサインを迫る。もらった契約書を鞄にしまっている間に、はやてが口を開いていた。

「フェイトちゃん、もう時間?」

 はやてが聞くと、フェイトは言った。

「うん。みんなもうロビーに集まってるし、それに新メンバーさんたちも待機してもらってる」

 そう、聞いているところによれば、新たに六課に出向となったのはもう一人、そして非常勤扱いでもう一人いると聞いている。教導隊からの出向で、僕と同じように分隊補助―スターズ分隊の補助にあたるのが一人、新型ヘリのガンナーが一人。確かあっちのほうも僕と同じような特例扱いで尉官だったはずだ。

「ほんなら、フェイトちゃん、リイン、シータ君、行こか?」

「はいですー♪」

 なぜか陽気なリインが少々はしゃぎ気味で、三人で部隊長室を後にした。





「それからなんだけど、フェイト。今度ハラオウン家に行った時に、リンディさんに仕送りありがとう、と伝えておいてくれ。それから、砂糖類は余りすぎるほどありますので結構です、とも。あと、いつも訪れられなくてごめんなさい、と」

 僕を財政的に援助してくれているリンディ=ハラオウンさんへの感謝を伝えてくれとフェイトに頼む。先ほど、フェイトが「お兄ちゃん」と僕を呼んだ由来はこのあたりにある。実際、養子縁組をしてもいいと思いはするのだが、まだ踏ん切りがつかずにいる。

「分かったよ、お兄ちゃん」

「だからそう呼ぶのやめてよ……からかわないでよ、フェイト」

 こういうやりとりをしていると、中学時代から変わらずはやてが横で笑いを堪えている状況になる。失礼と思ったことはないのだろうが、不愉快極まりない。

「はやて。ついでにリインも。笑うのを止めろ」

「笑ってへんよ。ただおかしいだけや。」

「リインはついでですかー」

 実際、公務中もこういう付き合いをされてはたまったものではない。そういう時はデバイス調整と称してシャーリーのもとへ逃げればいいだけではあるが。だがそれだとリインから逃げられないのか。

「リンディさんは、甘党だから、仕方ないよ……」

 諦めたような口調で呟くフェイトには、同調できる。クロノともフェイトとも、彼女の甘党ぶりだけは苦手らしい。緑茶に砂糖とは、あきれさせてくれる。

「でな、今度シータ君は古代遺物ロストロギア関連の学会があるやろ? そん時に、ちょっとアースラ時代の同窓会をやろう、とおもっとるんや。あ、シータ君もおってええんやよ」

「いいね、はやて。皆で会う機会も、もうほとんどないし」
 
「ユーノ君も来るって言うてくれたしなー」

「本当?」

 学会、というと例の年末にある液体古代遺物アマルガムを発表するやつか。結局チームの方にはオブザーバーとして参加する形にして、質疑応答の際に学会に出ることになっている。発表する内容がほとんど僕の研究内容だから仕方ないことだが、ほとんど徹夜だと思っているから正直そんな同窓会とやらに参加できる体力が残っているか不安なのだけど……。

「あ、そうやそうや。その学会、なのはちゃんが講演せなあかんがやったわー。そんでな、なのはちゃんさすがに無理や、って言って、シータ君に全面的に任せる、なんて言うとったかな。」

 爆弾発言。

 ……ミッド労働法、と呟いてみる。無駄だとは分かっているが。

「もちろん強制的な仕事なんかじゃないよ。好きな時に手伝ってあげればいいんだから。私も手伝えるときは手伝おうって思ってるんだけど……」

 根回しの周到さに驚く。おそらく3人ですでに話し合い済みなのだろう。まぁ、彼女の補助も一応来た理由ではあるから、断ることもないが、自分が倒れないか心配だ。ワーカホリックだらけのこの職場だと、いつ自分を見失うか分からないところが怖い。

 そうこうしているうちに、ロビーに着いた。新築だけあってやはり美しい。僕が向かったのは、新しく六課に参加するメンバーのところ。すでに他の二人とも就いていて、一人は精悍な顔つきで生傷もある、僕より若そうな少年。むっつり顔でへの字を描いているのは少し滑稽だ。

 そして、もう一人。モデルとしてやっていけそうな顔と長髪。目つきがなんとなく鋭いように感じるのは何故だろうか。

 というより、この二人からは強烈な殺気が出ている気がしてならない。

 ふと横に目を転じると、見るからに僕より年下の子供たちがいる。これが多分、あのJS事件で戦い抜いた機動六課のフォワード陣なのだろう。意外と言えば意外だが、それなりに締まった顔つきをしている。

「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長を務める、八神はやてです」

 はやてが始めたらしい。あたりを見渡しながら、上の空でとりあえず拍手だけしておく。

「ここにいるたいていの人とはもう話してるけど、新隊舎が出来てからこうやって畏まったこと出来んかったから、ちょっとみんな時間貸してな」

 フォワード陣の隣は、バックヤード陣か。エプロン姿でここにいるということは、このあと食堂の仕事が待っているに違いない。結構職務服が多いと思う。

「JS事件という難局を、みんなの力で解決できて、本当に嬉しく思ってる。ゆりかごに突入したスターズのなのは隊長やヴィータ副隊長、スカリエッティ逮捕に尽力したフェイト隊長に、真実を知る騎士と渡り合ったシグナム副隊長……」

 その向こうにはロングアーチと呼ばれる後衛の指揮系統が存在する。そしてヘリ整備士と続くわけだが…皆、一様にはやての言葉で感傷ムードに入ってるな。

「……戦闘機人『ナンバーズ』と各個渡り合い、心を分かち合ったフォワード陣。……」

 そして、隣のチビたちもこの事件に大きく関わっている。相当厳しい教導だったのだろう。

「……怪我をした局員の救助にあたった医療スタッフのみんな、六課の誰もがこの事件の解決に全力を出して取り組んだ。こんな課の課長でいられて、私は本当にこの六課を誇りに思ってる。みんな、ありがとうな。」

 涙ぐみ始めた局員に、はやてがもらい泣きしそうになっている。こういうとき、外様は嫌だな、と思ってしまうのは仕方ないと思う。それだけ例の事件が強烈であり、そういうことを言える身分でもないのだが、とはいえ多少は寂しいと感じてしまう。妙に重い寂寥を抱きながら、僕は周りを見渡すのを止めた。ふと前を見れば、他の新入りはどこ風吹くだ。これではこちらが馬鹿馬鹿しくなる。

「……機動六課は、今後時空管理局の方針に従い、4月の試験運用終了まで最近頻発しているテロ事件の対策及び捜査にあたることになりました」

 民間軍事会社LGラプラス・ギルドを狙った、ここ最近頻発するテロ事件。軍事部門で急成長を遂げたこの会社は、時空管理局上層部と結託して巨大な軍産複合体となっている。ロビィ活動も活発で、小遣い稼ぎはこの会社の内部情報にハッキングしてインサイダー取引でやっているわけだが、(そうでもしないと研究費が足りないのだ。一度、フェイトに資金の不正さを把握されそうになった時は焦ったものだ。)例の兵器―ガシェット・ドローンとやらの部品はラプラス・アソシエーション(ギルドの上場企業名だ)製だったというのは事件担当者なら誰でも知っている事実だ。

 友人のユーノ・スクライアが追っている、ベルカ戦記時代の古代遺物(ロストロギア)。JS事件の最中、その混乱に乗じて何者かによって管理局本部から盗まれた正体不明で研究段階にあったそれが、まったく分からないレベルの微細さに分解され、LAラプラス・アソシエーションの最新兵器に使われている疑いがあることが分かっている。その研究者に関わる幹部の命を狙う犯行だが、極めて魔力運用に長けているものが行っているとしか思えないものだ。

 だが、ここに何か気になる、腑に落ちないことがある。それがなんだか、出てくるようで出てこない。まるで、心が底なし沼の泥であるかのようで全く見えないもののように――

「そして、新たな戦力増強の一環として、『局の意向で』機動六課に新加入するメンバーがいます。もちろん、一個部隊として扱える魔力総数などは、危険なテロ対策なのでオーバーSランクを除いて解除されます」

 はやての言葉で現実に引き戻された。そう、戦力の異常な集中で有名な機動六課だが、局は部隊同士のバランス・オブ・パワーという概念を捨てた。というのは、テロ集団がきわめて強力な組織であることがだんだんと明るみになってきており、より強固な対応組織が必要となったためだ。だがそれも陸と海の軋轢によって歪んだものになっているが――

「なら、新メンバーの紹介や。三人とも、挨拶してな。」

 またもや現実に引き戻された。というか、先ほど僕が見渡していたのとは立場が逆転している。局員の視線が刃のように喉元に突きつけられるのはなかなかきついものだ。

 結局壇上に新メンバーが上り、その視線はさらに厳しいものとなる。

「ほんなら、右の方から―」

 つまり僕は最後だ。こういうとき、一番最初になると結構苦しいのはだれもが思うことだが……

「サガラ・ソウスケ軍曹であります!」

 一瞬の沈黙。そして、遅れてやってくるざわめき。

 ……軍曹サージェント? 誰もがそう思ったはずだ。

「おいっ、バカソースケ!階級はそっちじゃねぇ。」

 もう一人の男が局員には聞こえないような小声で囁く。

「……そうだったな。」

 そういったサガラ――相良宗介というらしい――は、そのまま綺麗な起立姿勢を崩していない。なんて背筋がピンとしているんだろう。僕も見習わないと。

「み、みんな静かにっ!」

 慌ててはやてが事態の収拾に努める。当の本人は全く我関せずといった感じだが、当事者は君だぞ。

「申し訳ありません。相良宗介三等空尉であります。航空教導隊からの出向です。恐縮ですが、軍曹は忘れてください。以上!」

 簡潔さならば群を抜く自己紹介だ。しかしそれでは――

「それだけ?」

 はやてが催促する。

「はっ、それだけです!」

 律儀なのかふざけているのかもはや分からない。

「んー、仕方ないな、じゃぁ私から質問するわ。相良君の得意分野は?」

 はやてが沈んだ表情になりながら自己紹介を引き出す質問をする。さて、自分も考えておかなければ……

「はっ!偵察、爆破、そして最近できたのがデバイス戦です。」

 ……まるで局とは別の、むしろテロ組織に重宝されそうな人材だ。

「えーっと、相良君はスターズ分隊所属やな」

「その通りであります。コールサインはウルズ…失礼、スターズ7。正式名称は、スターズ分隊長首席護衛官であります!」

「んーと、趣味とかは何なん?」

「釣りと読書です。」

「どんな本読むんや?」

 はやてがなんとかサガラと局員の今後のコミュニケーションを円滑にするために頑張っている。ところで今気づいたが、先ほどのチビ達についているフォワードの、僕より年齢は低いだろう女の子が異様な殺気を放っている気がする。気付いているのは僕だけじゃないらしい、なのはも視線を送っている。

「主に専門書です。魔法世界に―いえ、魔法戦術論に関する雑誌はかなり読みます。ミッド書籍の『リリカル・ミリタリー』もそれなりに楽しめますし、リガーデ出版の『タクティクス・ソルジャー』は従来なかったミッド式とベルカ式の融合戦闘理論が掲載され、非常に面白いです。」

 ……その融合戦闘理論、一部が私の論文の盗作であることが判明している。現在訴訟中だが、まぁいくらか慰謝料は貰えるだろう。
「そうでした。最近は、『エース・オブ・エース』も購読しています。兵器デバイスの掲載も充実しており、こちらの世界の把握には非常に―いえ、とにかく興味深い一冊です。そういえば、こちらの局員の、私の上司に当たる人物が特集で組まれており、……」

 なのはを見れば顔を真っ赤にしている。まぁ、そりゃそうだろう。

「……最近は、ベルカ式一対一の戦闘方式について関心を持ち、聖王協会出版の新書を十冊ほど入手して、寝る前に……忘れてください」

 何かに気づいたようで、彼は慌ててそう言った。何を忘れればいいのか分からないが、とりあえず終わったらしい。

「次は俺だな。俺はクルツ・ウェーバー。階級は曹長だってなー。相良に抜かれたのが悔しいが、すぐ抜き返してやるよ。ロングアーチに所属で、ヘリのガンナーを任されることになってる。コールサインはロングアーチ6。美女がたくさんいる課に入れて嬉しいぜ。皆、よろしくな!」

 打って変って軽い調子の男だ。その割に女の子からはモテそうなタイプだ。神様も意地が悪いらしい。

 そして僕の自己紹介に移る。

「……シータ・オルフェン三等空尉です。一昨日までアルトセイム大学の学生でした。専門は魔法物理学です。こちらではライトニング分隊の補助をすることになっています。戦闘には向いていないので、もし有事の際には皆さんの支援に回ることが多いと思いますが、どうぞよろしく。コールサインはライトニング5です。趣味は……デバイスいじりですね」

 一応、ぱちぱちという拍手をもらうことができた。自己紹介というものは無駄に緊張するものだ。特に、自分の前にあのような紹介があったなら。

 ライトニング分隊のエンブレムを付けた茶色の制服は、やはり僕には似合ってない。そう自嘲しながら、僕は壇上を下りた。

 そのあとは、連絡事項を交えて、ロビーでは解散となる。

 皆が向かっていく先は、食堂だ。さて、どう動くべきか――誰に声をかければいい?

「あ、あの、オルフェン三等空尉さん?」

 ピンク色の髪をした、チビの一人が話しかけてきた。もう一人が後ろから心配そうに眺めている。

「……あぁ」

 そっけない返事を返しつつ、頭の中で検索をかける。確かこの女の子はフェイトが保護観察中の……

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です。あの、もしよければ……このあとお食事でもどうでしょうか。」

「僕たち、ライトニングのフォワードなんです。僕はエリオ・モンディアル三等陸士です。」

 この子たちが例のフォワードなのか。だんだん低年齢化している現場局員だが、この人材不足は酷いものだ。まぁそれでも、ここの教導のせいで(・・・)強くなってしまっているが、それが幸か不幸か僕にはまだ分からない。でも、声をかけてくれたのは嬉しいし、その勇気を尊敬したいのだけど……

「ちょっと待ってね、来たばかりだから――」

「あぁ、シータ君食べてきたらええよ。仕事はそのあと指示するから。」

 ちょうど通りかかったはやてが僕に言ってきた。一応書類で先行してもらっておいたここ数日の仕事の内容は、基本は慣れるためのオリエンテーションだったはずだ。確かに、未来に一緒に仕事をする者たちと親睦を深めておくことができるのは嬉しい。はやて、ありがとう。

「分かった。なら……エリオ君とキャロさん、行きましょうか」

「はいっ!!」

 微笑ましい二人だ。一緒に仕事をすることが楽しみかも。





 
 六課の食堂はビュッフェ形式で、激しい訓練のカロリーを補うよう工夫された料理が並ぶ。研究室でカップラーメンを食べあさっていた頃に比べれば、はるかに良い環境だ。

 一番色とりどりな定食をオーダーして、席に戻ると、驚くべき光景が待っていた。

「エリオ君……君、それ一人で食べるの?」

「あ、オルフェンさん、その……エリオ君はこれが普通なんです」

「いえ、これでもいつもの訓練後よりは減らしてますよ」

 どんと山盛りになったカルボナーラに、グリーンサラダの山。これは驚きを通り越してシュールな感じすらある。

「まぁ、いいけど……。驚いたよ、そんなに食べるなんて」

「そうですか?同じフォワードのスバルさんも同じくらい食べるんですけど……」

「それなら余裕があったら僕の分も食べてくれる? この定食、全部食べられないかもしれない」

 研究室生活で食事をしなかったら、なぜかあまり食べられなくなってしまった。そのためサプリメントや、トレーニング後のカロリーカプセルの接取は欠かせない。今やそれに加え栄養ドリンクも毎日飲んでいるわけだが。我ながら体に悪いと思う。

「オルフェンさん、私より食べなくて大丈夫ですか? 体力持ちませんよ?」

「そうですよ」

「大丈夫、これがあるから」

 にっと笑って懐からカロリーカプセルを取り出す。要はカロリーを凝縮したものの塊を飲むわけで、こんな生活を続けていたら拒食症になりかねないのだが、収縮した胃袋は食べ物を受け付けないのだ。

 けど、若い子の言うとおりだ。できるだけ食べるようにしよう。それに、そうしないとここの訓練でへばって倒れてしまいそう。
 どれだけカロリー摂取させる教導なんだろう。昔の仲間に、少し恐怖を覚える自分がいた。

 食事中はおしゃべりしないようだ。二人とも静かに食べ続け、僕も食べた。おいしかったので、結局エリオに分ける事無く完食できた。どうやら、胃袋の大きさと料理のおいしさには相関関係があるらしい。

 終わった後、コーヒーをいただいてきたところで、話が再開した。

「オルフェンさんは、どんな術式を使うんですか?」

 話しかけてきたのは男の子のほう――エリオだ。

「ミッド式と近代ベルカ式だよ。それから、オルフェンって呼ばれると堅苦しいかな。部隊長や分隊長たちから、名前でシータと呼ばれてるから、そう呼んでくれる?」

「はい。……えっと、シータさん、その、僕も近代ベルカベースで駆動系にミッドを使ってるんですけど、オルフェンさんのは……」

 なるほど、ミッド式と近代ベルカ式の両方を使うということはデバイスの調整が楽しみだ。多くの場合、この二つを両立させるには余計なメモリを使っていることが多いから、CケーブルとH回路をバイパスすることで一気に処理速度を大幅に上げ、それから……あとは現物を見てからだ。

 魔法術式の二大体系であるミッドチルダ式とベルカ式。ミッド式はオールラウンドな術式で、遠近どこからでも攻撃でき、集団戦闘に向いている。それに比べベルカ式は、近接型の一対一戦闘を重視している。古代ベルカ式と近代ベルカ式とあるが、両方ともその点では変わらない。古代ベルカ式は希少能力レアスキルを持っている必要があり、近代ベルカ式は必ずしもそうではないということ。簡単に言えば、であるが。

 ミッド式とベルカ式を併用することは、その体系がだいぶ違うことからあまり好まれない方法だ。その魔法陣の構築の仕方が全く異なるため、両方学ぶ時間があったら、どちらか片方をやったほうが確実に強くなれるからだ。そのため、ミッド式とベルカ式両方を使う使い手は、次の二者に限られる。

 まずは、一対一を中心とした近接型の攻撃が主な、機動力重視の使い手。機動系に関してはミッド式に一目の長があるため、攻撃力だけでない一対一を仕掛けるものはこういうパターンもいる。この場合、近代ベルカ式とミッド式の併用がメイン。

 次が、僕のように基本はミッド式だが、ある分野に限って強力なベルカ式の術式を保有しているもの。つまり……レアスキルとまでいかなくても、特殊な魔法を使用できる場合。

「僕は、フィールド系魔法が得意だから、それがベルカ式。残りの攻撃魔法とかはほとんどミッドかな。攻撃は射撃がほとんどだし。近接時はベルカに切り替えるけどね」

 最近ではミッド式の魔法術式を行使する魔導士もカードリッジシステムを組み込んでいるが、もともとあのシステムは魔力保有量の少ない者が一時的にパワーアップさせるためのものであり、まったく同じ理由から僕もシステムを組み込んでいる。もちろん、独特の改良を加えたうえであるが。

「それから、オルフェンなんて苗字で呼ばなくていいよ。シータで頼む。同僚になるわけだからね。こっちもエリオ君とキャロちゃんって呼んでるし」

 苗字で呼ばれると、年齢の差が壁になっているようで嫌だ。実際、そのような関係はあまり良好でないことが多い。

「あ、分かりました……」

「そんな畏まらなくてもいいよ。それとも何かな? 君たちの隊長はこういうことに厳しいのかな?」

 尉官バッチをちらつかせてそう言って、虐めてみる。こうでもしないと、小さな子供たちは心を開いてくれないからだ。

「いえっ! そんなことないです。」

「そうです。フェイトさんは僕たちにすっごく優しくしてくれてます!」

 むきになってつっかかってくるところが、子供らしくていいと思いながら、僕は心の中で苦笑した。フェイトの過保護とこの子らの過剰すぎるほどの純朴さ―逆説的に、この二つはマイナスに向かうこともあろう。マイナスにマイナスを掛けてプラスになるように、時にはプラスにプラスを掛けるとマイナスになることがあるものである。

「だったら、僕も同じように扱ってほしいなぁ。それとも、フェイトに比べて役不足かな?」

 実に意地悪な質問であるが、実際口に出して言ってみると自分が本当に役不足に思えるからやりきれない。これから、徐々に関係は作っていけばいいのだろうが。

「まぁ、これからだけどさ。とにかく、よろしくってことさ。」

「いえ、フェイトさんからもオルフェンさんのことをよく聞いてます。……その、優しいお兄さん、と。」

 エリオは確かに「お兄さん」と言った。耳から入ったその音が記号化され、無意識のうちに吹き出しそうになったコーヒーを慌てて飲み込んでから、フェイトめ、と心の中で呟く。

「エリオ君……お兄さんって、どういうことかな?」

 悪魔の微笑みを浮かべて僕が問う。今、温度計があったら僕の周りの温度は急降下しているだろう。

「えっと……フェイトさんがそう呼んでましたけど……オル…、シータさん?」

 ピンク色の髪をしたキャロがそう言った。キュクルー、と無く龍がそれに続く。純朴な子は嘘をつかないからいい。とりあえず事実誤認を改めなければと思ったので、フリーズしてひきつった顔を何とか動かした。

「僕はフェイトの兄じゃないよ。そこ、勘違いしないでね」

 語調が強張ったのは気のせいだろうか。打って変った僕の様子に、二人は自分が何をしたのか分からない、といった表情になっている。申し訳ないなぁ。

 食堂に入ったテレビに目を移すと、今朝のテロのニュースが続いている。ニュースキャスターのバストショットに続き、凄惨な焼け跡がビジョンとして映し出される。

<ラプラス・ギルドの会長が、この後2時より記者会見を行う模様です。続いて、天気予報です。クラナガンの今日の……>

 天気予報に入ったところで、黙っていた二人に問いかける。

「僕の仕事は、聞いていると思うけど二人のサポートなんだ。まだデスクワークに慣れてないって聞いてるから、主にそっちかな。君たちのスキルはデータで見せてもらってるけど、実戦ではだいたい僕も同じくらいの力だからね。」

「で、そのシータ君は、私のところにも来てもらうからね♪」

 急に現れたのは、紅茶をもって眼鏡をかけた、こちらでメカオタと呼ばれている可哀想な、人見知りという言葉を知らない女の子。

「シャーリーさん!? シータさんと知り合いなんですか?」

 エリオの言葉に、シャーリーがニヤッと笑う。

「うん♪ 昔、仕事の関係でね。でも、昔はシータ君がデバイスマイスターやってるなんて気がつかなかった~。」

「デバイスマイスター??」

 お子様が二人して大声を上げる。

「シャーリー。おまえ、こっちじゃ口が軽い女はダメだ、と言われてないのか?」

 揶揄しながら指摘する。

「うー。言われてるけど……?」

「シータさん、デバイスマイスターの資格持ってるんですか?」

 デバイスマイスター資格。C級からS級まであり、デバイスの製造・管理をできる資格である。年三回、ミッド西部のエルセアで試験があり、筆記試験・簡易製造試験で実力が測られる。管理局の情報通信士のデバイスマイスターとしての推薦採用基準は、B級を最低取得していることであるが、A級以降は非常に難関な試験となる。A級を持つことは非常に凄いステータスなのだが、もちろん僕もシャーリーも取得している。

「シータ君はこの間のデバイスコンクールでS級に更新したんだよね!見せて見せて~♪」

 ……この人懐っこさはやはり異常だ。そしていいとも言ってないのに僕の財布を取り上げるのも異常だ。

「あ、あったあった~。私も欲しいなぁ~。」

 勝手に人の免許を取り出して、エリオとキャロに見せびらかしている始末だ。

 S級とは、デバイスマイスターA級取得者に限り、何らかの条件を満たした時に時空管理局が栄誉として送る称号のこと。僕の場合は、コンクール二連覇とストレージデバイス高速化理論の実証によってJS事件が「ゆりかご飛翔」に発展する一か月前に受賞した。ここ最近では、ベルカ式カードリッジシステムの安定理論を提唱したり、局の武装隊が正式採用している「シグサワーMX」と呼ばれるデバイスを作り出したりした人物に贈られている。

「シータさんの趣味って……凄いですね。」

「本当にね、現場で働いていて羨ましくなっちゃうくらい。スバルのウイングロードをマッハキャリバーに刷り込むときにも、実はちょっと協力してもらっててね。」

「あのメールは君が送ったものだったのか」

 メールというのは、僕の研究室に届く質問状のこと。日に50通は来るので全てに目を通すことはできないが、半分くらいには返事を送っている産学連携の活動だ。たいていは参考文献を紹介するのが関の山のたわいもない質問なのだが、たまにシャーリーの質問のように実践的な場合もある。ウイングロードの場合は、解析データを組み替えるのに4時間かかる質問だった。正直、あれはなかなか難しい魔法だ。

「もう趣味ってレベルじゃないよね……」

 そう呟くシャーリーの言葉には、少なからず羨望が入っていた。

「うーん、大学でもそういう専門に進みそうだしね……でも、やっぱり仕事をしてるほうが偉いと思うな。エリオ君やキャロちゃんみたいに、若くから働いているミッドの人は多いから、そういうの考えると確かにねぇ……僕もちょっと後ろめたい。ユーノ君みたいなやり方もあるだろうし、研究と仕事二つできたらいいんだけど……ま、ここはその手始めって感じかな?」

 研究に明け暮れていると、自分より若い年代が仕事に就いているのに、と思うことは本当にある。デバイスの修理などでお金を稼いでいたわけだが、なんとなく正式な労働の対価ではないような気がして後ろめたいのだ。

「そうだね。でも、シータ君だって海……」

「シャーリー。人の過去をあまりばらすんじゃない。」

 うっかり大変なところに足を突っ込みそうになったシャーリーを窘める。

 で、やっぱりお子様二名が脅えたような目になる。……どうも僕の顔は過去の話題に触れるときは怖いらしい。

「……で、この子たちが使ってるデバイスが、えーと……」

 気まずい空気を一掃すべく、他の話題に移った。

「ストラーダとケリュケイオンです。」

 律儀なエリオが間をおかずつないだ。

「そうそう……。もしよかったら、六課で空いた時間に改良してみたりしたいんだけど、二人はどうかな。」

「えっと……」

 二人はキョロキョロして、シャーリーの方をチラチラ見ている。やはり彼女は絶大な信頼を勝ち得ているのだろう。僕の方が不安そうなのはしょうがないことだ。

「うん、シータ君の腕はすごいし、二人さえよければ大丈夫だよ。」

 爽やかに言い切ったシャーリーに、二人も安心したらしい。

「お願いします、シータさん!」

 同時に同じ言葉を言った二人に微笑みながら、コーヒーを口に含む。六課の昼休みは、仕事の部局間での話があったりするため長い。

 ちなみに、シャーリーは紅茶にミルクを注いでいるし、エリオとキャロはオレンジジュースを飲んでいる。食堂も、(部隊長が女性だからであろうか)洒落た構造なので、こうしてくつろいでいることができる。

「そういえば、シータさんのデバイスって……?」

 キャロがぼんやりした顔で考えながら言った。

「これから分かるよ。」

 後ろのほうから、よく聞いた声がした。

 長い髪をサイドポニーにしてまとめた、教導隊制服を着た人だ。

 ……そういえば、まだ挨拶していない。

 急いで立ち上がって振り返り、その人を向いて敬礼をした。一応上司だから。

「シータ・オルフェン三等空尉、六課に着任しました。よろしく」

「高町なのは一等空尉です。貴官の着任を歓迎します」

 そうして見つめ合い、はやての時と同様―二人同時に笑い出す。

「久しぶりだね」

「うん、久しぶり」

 今座席は、エリオとキャロ、シャーリーと僕が対面で座っているが、もともと六人席だったこともあり、なのははエリオの隣に座った。

「プライベートでいいのかな、ここじゃ。」

「もちろんいいよ。まだ昼休憩だし、律儀に話すこともないでしょ。」

「えっと……なのはさんもシータさんと知り合いなんですか?」

 親密そうな僕らに、エリオが問いかけてくる。

「うん、ちょっと一時期、シータ君に助けてもらってたことがあるの。」

 内容は伏せておいて、なのはが答えた。

「シータ君が今回エリオとキャロの手伝いをするのは、私たちとシータ君が親交あったからでもあるの」

 だが、こうして喜んでいるだけじゃいけないのが僕の立場。互いの無事を確認し合った後は、ちょっとお咎めムードになる。

「で、なのは……。前の事件で、ブラスターシステムを使ったとか」

「う、うん……」

 ブラスターシステム。使用者、デバイス双方の限界を超えた出力を叩き出すための、自己ブーストシステムのことだ。教導隊からの正式依頼により、レイジングハートを改修したときに僕がつけた新機能。以前のエクセリオンモードに比べればはるかに安定した使用法ができるとはいえ、本来ならば使ってほしくはない機能だ。

「まぁ、僕が言えることじゃないんだけど、……レイジングハートも止めなかっただろうし。なのはを心配する人はたくさんいるんだから、あまり……ね」

 他の局員がいるため、後遺症のことには触れられないが、どっちにしろこれだけは言っておかなくてはならない。このシステムの恐ろしいところは、作成者である僕が一番よく知っている。一度や二度の使用ではまだ本当の恐ろしさは発現しないが、使い続けるととんでもない作用が現れる可能性がある。

「……分かってる」

 そう呟いたなのはに微笑みながら、気まずそうにしていたシャーリーたちの方に向く。

「ならいいんだ。……それに、可愛い子供を助けるためだった、って聞いてるしね。まぁ、ロストロギアを完全消滅させるとは……さすがだね。なのは以外なら誰も考え付かないよ。」

「えへへ……」

「言っとくが、褒めてないぞ」

 釘を刺しておいて、例の問題にとりかかる。

「……そのことで次の学会で講演があるとか」

「うん。……でも学会なんて出たことないし、ユーノ君はユーノ君で忙しいし、……」

 で、僕にお鉢が回ってきたということか。

「僕も忙しいんだけどね。まぁ、ブラスターぶっ放した人の頼みを断るわけにもいかないでしょ。やってあげるよ」

「ほんと!?」

 キラキラと輝かせた瞳で覗きこまれたら、誰も断れまい。

「そりゃ、後ろから砲弾を撃ち込まれたくないからね」

「ちょ、ひどーい!」

 笑い声があたりに広がり、エリオとキャロも楽しそうにしている。小さい竜も楽しそうにキャロの頭の上で鳴き、シャーリーも紅茶を優雅に飲んでいる。

 どうやらここでの生活は充実したものになりそうだ。

「で、さっきの話はどういうこと?」

 これから分かる、と言ったなのはに問いかける。

「うん、あのね……ライトニングの方はもうこんなに仲がいいんだけど、スターズはね、ちょっと因縁があってまだ仲良くなれてないの。だから、明日シータ君たちの実力を測る意味もあって、模擬戦をやってみることになったの。」

 先ほどの言葉は撤回させて頂こう。ここでの生活は充実しそうだ。

「……どういうことさ。仲が悪いからって模擬戦って……??」

「ほら、言葉じゃ分かり合えないことだってあるでしょ。だから、そういう時は体でぶつかりあわないと、何も変わらない……。」

 いや、そう考えるのはなのはだけだと思うが。

「それに、最近はシータ君も運動不足でしょ。ちょうどいいと思うんだ。」

 確かに運動不足だが、そんないきなりハードなことをされたら死んでしまう。

「あと、シータ君の得意分野(フィールド系)、みんな見てみたいだろうし……対抗策も含めてね」

 最後に何かおかしな文脈があった。対抗策も含めて、だと…?

「ところで、この模擬戦、どんな組み合わせだい?」

「えっと、シータ君たち新しく来た人たちと、私とフェイトとティアナでやってみようと思ってる。」

 何言ってるんだ? ワンサイドゲームになってしまう、その模擬戦。

「なのはさん。そういえば、その新しく入ってきた面白い彼……相良三尉は?」

 シャーリーがなのはに問いかける。突っ込むタイミングを逸してしまった。

「うん、今ははやての方に行ってもらってる」

と、なのはが言った時だった。急いで走りこんできたその噂の彼―相良三尉が、早口にまくし立てた。

「なのは分隊長、こちらは危険です!」

 ……何を言ってるんだ、この男は。

「こちらの食堂は、外から狙撃される恐れがあります。壁に近い席に変更を……」

「大丈夫だって、一応ここの食堂は防弾仕様だよ?」

「ですが、憂いを断つ意味もあります! テロリストは、そうした安心を突いてくるのです!」

 護衛官の意味を何か勘違いしているようだ。

「あの、ちょっといいでしょうか。」

 若いスタッフが声をかけてきた。ダンボール箱を持って。

「シータ・オルフェン三尉のお荷物のようですが、どちらにお持ちすればよろしいでしょうか。」

 あとから送り出したデバイスのようだ。シャーリーの所に持っていってほしいと言おうとすると、相良がダンボールをじっと見ていた。

「この中身、金属品だな!? みんな離れろ、爆弾だ! さては貴様、テロリストの手先か!?」

 いきなり胸倉を掴まれた僕。訳が分からず、とにかくその中身を言った。

「その中身はデバイスだっ!」

「嘘をつけ!」

「相良君、シータ君はテロリストなんかじゃないよ。とにかく放してあげて。」

 なのはがそう言うと、相良は引き下がった。

「はっ、しかしこれは……」

「開けてみれば分かるよ」

 そう言ってなのはがダンボールを開けようとする。

「いけません、分隊長! 開けた瞬間に爆発する代物かもしれません―」

 その言葉が終わる前に、なのははダンボールを開けていた。中から出てきたのは、もちろんいくつかのデバイスとデバイス解体キットだ。

「ね、大丈夫だって。」

 憮然とした様子の僕に、一応の詫びを入れたこの青年は、それでも中身の精査をした。

 もはや何も言わないことにした僕は、この青年の精査が終わったらデバイス保管室に持っていってほしいとその局員に伝え、残っていたコーヒーを一口で飲みほした。

 穏やかな空気はどこに行ってしまったのだろう。急に慌ただしく走り始めた日常に飲み込まれまいとするかのように、僕は急いでコーヒーカップを片づけにいった。

 テレビからは、一時からの昼ドラマが始まっている。一瞥して目を他に移せば、あの殺気を放っていた少女が、例の相良を睨んでいる。

 私、シータ・オルフェンの日々が、秋風が吹き付けるここ六課にて始まろうとしていた。これは布石にすぎないのだけれど。



[38241] 第一部 vol.2 混迷の夜明けへ
Name: シエラ◆55721833 ID:e37d25e4
Date: 2013/09/02 09:08
11/7 14:15 時空管理局人事部執務官課

 時空管理局、人事部。情報部以外のあらゆる機関の人事を牛耳り、かつその責任を負っている部隊。その仕事は聞いただけでは分からない苦しみがあり、そのため局のキャリアの中でもかなり高い方に位置される。この日も、出入りする局員が慌ただしそうに走り回っており、オフィスは異様な殺気に包まれていた。

 その不穏な空気の中を、颯爽と現れた一人の女性は、暴力行為対策係長室に入ろうとカードキーを差し込む。コンマ5秒を経て、認証システムが作動する。

「認識番号、068J228。声紋認識開始。姓名、デバイス名を」

 無生物的な合成音声が響き、それに続いて女性が口を開く。

「フェイト=テスタロッサ・ハラオウン。使用デバイス、バルディッシュ」
「声紋照合完了」

 即座に響いた声と同時に、部屋の扉が開いた。

 JS事件以降、管理局では綱紀粛正の声とともに、さらなるセキュリティ体制の増強が叫ばれ、係長クラス以上の仕事部屋には声紋チェックなどを導入することとなった。そのため、以前よりも局内の命令伝達速度は遅くなり、随所で不満の声が上がっているが、最近鳴り響くテロの騒乱によってその声は掻き消されている。

「あぁ、フェイト君、座ってくれたまえ」
「失礼します」

 フェイトは、執務官の制服ではなく、機動六課の制服を着ており、金色の髪をたなびかせている。それに対するのは、時空管理局人事部執務官課・暴力行為対策係長室長という長い肩書きを持つデリ・ジャッキーという男だ。

 デリは、もともと執務官から官僚コースに入ったものではなく、人事部の方へ入ってきたエリートであり、そのため初期のころは現場をしらない者として執務官から嫌われていた。しかし、よく懇親会を開いて自ら現場のことを学ぼうとする姿勢や、階級を鼻に掛けない性格の良さから、徐々に執務官の支持を得ている。

「それにしても、JS事件での君の功績は素晴らしかったなぁ」
「いえ、そんな……」

 気軽に相手の功績を話し出して、場を和ませようとするデリ。それに対してフェイトは、少し顔を赤らめながら謙遜する。

「まぁ、長年の執念の勝利、という感じだろう。功績云々よりも、よかったな、スカリエッティをその手で逮捕できて」
「恐れ入ります」

 手元に置いてあった紅茶を手渡し、デリがフェイトを労う。その姿からは、相当な信頼関係が読み取れる。二人とも、紅茶に手をつけたところで、デリが本題に入った。

「まぁ、その続きっちゃぁ、聞こえは悪いんだが。JS事件以前の、ラプラス・ギルドの騒動、覚えてるか? 例の、地上部隊への導入が、世論の反対でオジャンになった兵器……」
「ロストロギアを使った爆弾でしたよね。A Lostlogia Hi-Activated, Zamberclus ARmy Destroyer、“アルハザード”の異名を持つ。」

 アルハザード―もともとは、次元世界の狭間に眠るとされていた、失われた秘術が眠るとされる伝説の都。だが、昨年度にラプラス・ギルドが開発した兵器がその名を帯びて以来、再びその名は恐怖の代名詞となっている。

「そうだ。イカれた開発者が面白半分でつけたのだろうが……何とも嫌な名称だ。一年前の騒動では、どこからか流出した爆発映像と、旧ベルカの崩壊映像を比較する特番のために、世論が急騰、地上本部も廃案の憂き目に合ったわけだが……一か月前、その研究をしたと思わせる痕跡のある研究所が、謎の爆発を起こした。―君が現場調査した事件だよ」

 廃棄事故と呼ばれる、一か月前の爆発。表向きは、管理局が封印していたロストロギアの暴走ということになっているが、実際は情報部の実験による暴走であり、数人の局員の死傷者を出し、またその救出に向かった六課のメンバーも重傷を負う「事件」であった。だが
、機動六課の希望した「巻き込まれた人員の保護」と、情報部の希望した「事件の隠蔽」の二者が一致して裏取引を行ったため、このような幕引きが行われていた。

「六課のチビ狸がなにやったか知らねーが、あんな幕引きは誰が認め……おっと、話が脱線しちまったな。……それでだ。アルハザードの研究は依然として続いているようだ。そして、最近のラプラス・ギルドの幹部を狙ったテロ事件の多発。JS事件の後の管理局の首脳部の覇権争いとも絡んで、危険に政治色をはらみつつある。どういうことか、分かるか?」

 そこまで言うと、デリはフェイトの顔を覗き込んで問うた。建前と本音、嘘と真が交錯する今のミッドに立ち込める、危険な匂いは、一執務官であるフェイトも感じ取っていた。

「ベルカ独立派と、ミッド右翼の、それぞれ過激派の衝突―そんなところでしょうか。」
「そうだ。今に始まったことじゃないが、友好関係にあるミッドとベルカは、水面下では一部の団体によって猛烈な批判合戦が繰り広げられている。ミッドの国粋主義者は、ベルカ自治領の完全消滅を叫ぶし、ベルカ独立派の過激派は、自治領からミッドへ侵攻を叫んでいる。どちらも馬鹿馬鹿しいとは思うが、今はそういう場合じゃない。つまりだ。アルハザード……あの強大な兵器を巡って、おそらくベルカ独立派のテロ組織が、ラプラス・ギルドに攻撃を加えているようなのだ。」

 ミッドとベルカ。二大魔法体系をもつこの二派は、それゆえに歴史的にもかなり衝突をしてきた。それぞれにアイデンティティがあり、譲れない思いが交錯し、交わった結果、今のミッドがある。ベルカ自治領として、ミッドの一部が使用され、さらに聖王教会の信教の自由がミッドを始め、基本的には局の管理する世界全てで保障されている。だが、そのことをよしとしないミッド内の勢力があるのもこれまた事実であり、それに反発してベルカの国としての管理局離脱という独立を目指す勢力があるのもこれまた事実である。

 憎しみが憎しみを呼ぶ、復讐の連鎖―そのスパイラルが、今始まろうとしている。

「ミッドの右翼過激派は、ここぞとばかりにアルハザード導入の動きを見せている。無論、レジアス容疑者の……証拠不十分と、事件の最中に死んだことから不起訴になったんだったな……で、奴の戦闘機人プロジェクトの失敗が、その火に油を注いだ。」

 デリが手元の紅茶に口をつける。ちょっと深みのある赤色の液体が、小刻みに波を立たせて、部屋の光を映えて怪しげな空気を醸し出している。

「皮肉な結果だな。ミッドの治安向上、安全保障を目指していて、結局、相対的にはリスクが高まったんだ。世の中は皮肉アイロニーでいっぱいだ。と、さて、俺も皮肉的なことを言わなくちゃいけねぇ。一応、拒否することもできるが……この一連のテロ事件、担当してくれないか?」

 唐突に、辞令書を手渡すデリ。ちらと見たところで、フェイトが口を開く。

「機動六課が、テロ対策に運用されることに、関わりがあるのですか?」

 元々、急ごしらえで作られていた六課だったが、JS事件の功績もあり、徐々にその力を認められつつあった。その機関を、テロ対策に充てようとするのは、時代の流れというものだろう。

「あぁ。それで、皮肉的といったのはそのことじゃない。実はな……例の裏取引、暴こうって連中がいてな、上からの命令で、機動六課を取り調べしなきゃならんようなんだ。情報七課、知っているか? 表舞台では「イプシロン」と呼ばれている会社だ。そこからやってくる情報官、つまりスパイを補佐する。それが君の影の任務になる」
「なっ……」

 あまりの内容に、フェイトは絶句した。つまりそれは、大切な友への背信行為である。

「上には、急進的に権限が成長している八神を叩いておきたいって連中もいるんだ。たぶん、そいつらのせいだろう。情報部のほうには介入せず、八神のみを潰す、って算段だろうな」
「そんな……友達を裏切ることなんて……そんな、私には……」

 聞こえるかどうか、という声で、フェイトは言う。

「それでもやってもらわなければならない。人事としても、跳ね除けられない命令でね……とはいっても、君をわざわざ着けるのは、君に八神をつぶしてほしいからじゃない。どちらかと言うと、守ってほしいからだな」
「え?」
「俺たちにも情報七課の存在は、この辞令で分かったことなんだ。陰に隠れている穢れ役だか何だか知らんが、法を越えた何かをやっとるのは間違いない。我々としても、どこかで叩かねばならん組織なのだ。そして……どうも今回やって来る情報官、周りが胡散臭くてね」
「というと?」
「六課に入り込んでいる新入りに近い存在なんだよ。きな臭いと思っていてね」

 フェイトは、自分の置かれている立ち位置が大きくぐらつき始めているのを感じていた。


       ※        ※


11/8 7:57
機動六課演習場

 どうしてこうなってしまったんだろうか――
 今、僕、シータ・オルフェンは、ここ機動六課の演習場にいる。

 冷静に考えよう。状況説明ブリーフィングを自分自身で行う。

 この状況の直接原因は、なのはが模擬戦を行うと言ったこと。彼女の思想はちょっと飛びぬけているところがあると言わざるを得ない。彼女の説得ネゴシエーションは酷い。力押しだからな。話を聞いて、と交渉に入り、相手が聞き入れなかったら力押しでは、自分の思想の押し付けに他ならないのだが……。その性格が災いしてか、あまり恋愛関係の話題が飛び交わないのは不幸中の幸運だろう。

 中間原因は、スターズ隊の不和。なのはの話から推測するに、あの殺気を放っていた少女――確かティアナ・ランスターといったか――と例の軍曹サガラ・ソウスケの間に因縁があるらしい。それを解消するのがこの模擬戦というが、本当に解消されるのか……悪化しないことを神に祈るだけだ。

 神に祈る、といえば、僕は一応聖王教会信者だ。全く教義なんかは覚えていないし、教会に行くことも稀と言っていい。昨日話した内容によれば、相良も同じ立場で、イスラム教なんぞを信仰しているとか。あちらも教典コーランは暗唱できても教義は守っていない、ということだったけど。

 深層原因は、JS事件以降の管理局の失態。これがなければ相良や僕はここに来る理由がなかった。そうなればこの模擬戦も行われることはなかっただろうに。歴史にifをつけることはご法度だけどね。

 模擬戦は、本来なら問題ない。レベルが同じ程度――たとえば例のフォワード連中くらいなら、戦い合う自信はある。だが、今回は隊長二名と、フォワードの中でもJS事件でナンバーズを三機撃墜した記録をもつ例の少女ティアナだ。つまり、なのは・フェイト・ティアナが敵である。

 若干、疲労が残っている。今までの徹夜生活があったから、昨日も夜まで戦略を練っていた。チームを組む相良はデバイスチェックを行っていたし、クルツは局の女の子に声をかけまくっていた。

 昨日と言えば、なかなか忙しい日だった。六課に着任、挨拶のあと、同じ分隊の子たちとおしゃべり。そのあとデバイスルームに道具を持ち込み、部隊長室で仕事の確認。結局エリオとキャロの支援だったので、早速溜まっていたデスクワークを片づける。シャーリーがデバイスの調整をしている間、フェイトの仕事もやっておいた。こういうとき、執務官補佐の権限は役に立つ。それがなければ閲覧できない資料が多いからだ。そういえば、フェイトは昨日どこに行ってたんだろう……。その後は、夕食時にスターズの子たち(といっても4歳しか変わらないし、見た目だと僕と大差ない)とも談話した。ちょっと因縁について探りを入れてみたが、途中で止めた。深入りしない方がいいと思ったからだ。夕食後は訓練。模擬戦があるのもあって、デバイス付きで久しぶりにやってみた。機動力は十分だ。その時にスターズの、殺意の子ティアナじゃない方の、スバルに会った。秋風がちょっと肌寒かったけれど、それも気にしないくらいに話をしたかな。ウイングロードのヒントをシャーリーに言っていて、どうもマッハキャリバーが本能的にそれを分かってたみたいだった。デバイスマイスター冥利に尽きるよ、そういうのは。その後は、男子寮で相良とクルツと模擬戦対策会議。意外と、相良はいい奴だった。根がまじめなようだ。

 そう、やるからには勝ちたい。今回の模擬戦は、どんな手段を使ってでも、のデスマッチ3対3戦。こちらが仕掛けるのは、1対1。連携戦だと、練習不足で確実にこちらがやられるからだ。

 だから既に始まる前から散開している。あと二分。さて、そろそろスタートだ。

≪マイスター≫

 僕の愛機デバイス、グレイプニルが話しかけてきた。待機モードなので、カード型になって内ポケットの中に入っている。それを取り出して、僕は言う。

「あぁ、いくぞ」

≪了解。久しぶりの戦闘、楽しみだね≫

 そして、僕は防護服バリアジャケットを纏っていく。ステルス性の高い素材で、空気抵抗が極力少ないようにしてある。基調となる色は白だ。グレイプニルも待機を解除させ、鎖のついた杖へとその姿を変える。

 グレイプニルは、昨今のデバイスの中でも傑作中の傑作と言える。魔力量の少ない僕をサポートするため、ミッド式の杖にベルカ式の鎖の2つのデバイスを融合させたものだから、一度に二回カードリッジをロードすることができる。この仕組みだけでも、おそらく何かのコンテストの賞は取れる。

≪マイスター。あと1分≫

「分かってる。……やるからには負けられないな」

≪もちろん。敵が敵だから、そう簡単にはいかないと思うけど≫

「あぁ。だが、全力でいくぞ。遅れるな」

≪どのデバイスに言ってるんだよ。あなたの最高傑作だよ、あたしは≫

「そうだったな」

 不敵に笑い、開始時刻を待つ。さぁ、戦闘だ。


       ※        ※


「アル、データリンクのテストをするぞ」

≪ラジャー。ADM、ON。PCL、コンタクト。403から412を開放。TAC、転送開始≫

「セカンダリーもだ」

≪ラジャー≫
 
 同時刻、相良宗介は、静かに戦闘開始を待っていた。

≪アラート・メッセージ。戦闘開始まで、あと2分≫

「分かってる。―それにしても、貴様がこんな形でこちらでも俺に関わるとはな」

≪同感です、軍曹殿≫

 宗介のデバイスのAI、アルは奇しくも、宗介が乗っていたアーム・スレイブ<レーバテイン>のAIである。同様にクルツもAI<ユーカリ>を使っている。どうやら次元跳躍のときに一緒に転送されてきたらしい。

≪というわけで軍曹殿。演習前です、以前のように音楽でもかけましょうか≫

「必要ない」

≪ラジャー。しかし、戦闘状態の前の緊張はほぐしておいた方がいいはずです。こちらの世界の、ベストヒットソングを数曲ダウンロードしてありますので、それを――≫

「俺は不要だ、と言ったんだ」

 アルは基本的におしゃべりである。そして宗介はそれが好きではないのだが、この二人、いや一人とAIは強烈な信頼関係で結ばれている。それは戦火を潜り抜けてきた戦友としての友情である。

「ソースケ。久しぶりの戦闘だな。」

 クルツが無線――こちらでは念話というらしい――で連絡してきた。

「なんだ」

 戦闘前だというのに、奴には緊張感が見られない。それもいつものことか。

「いや、ただ連絡しただけだよ。お前の援護、しっかりやってやるから、きっちり清算してこい」

「言われなくても分かってる」

 そう、以前ならどうって思わなかったにちがいない。だが、最近の宗介は、同僚に気をつかうことも、その大切さも分かってきていた。

≪アラートメッセージ。戦闘開始まであと30秒≫

「マスターモード2。ミリタリー・モードで戦闘駆動」

≪ラジャー≫

 宗介もまた、順調に、静かに戦闘開始を待っていた。


※        ※


「もうすぐやなー」

 機動六課の部隊長、八神はやてが呟く。周りにはシグナムやヴィータ、シャーリー、スバル、エリオにキャロ、ヴァイスなど六課の面々がそろっている。

「にしても、観衆ギャラリーがすげーな。勢ぞろいじゃねえか」

 ヴィータが辺りを見渡して言った。六課で手が空いているものはみんなこの戦闘を見に来ている。

「スバルは、どっちが勝つと思う?」

 はやてがスバルに問いかける。

「私は……やっぱりなのはさんたちだと思います」

「私もや。でも、面白いとこまでいくと思うで」

 はやてはここにいる人のなかで、唯一シータの実戦をその目でみた人物だった。だから、そのスタイルもある程度は分かる。簡単に負けるような戦い方はしない。

 少なくとも、六課のフォワード陣とならシータは勝つ。戦術構築においては、自分よりもシータが秀でているかもしれない、とはやては思っている。

「私もそう思います。シータは昨日、なのはの最大の脅威は……アクセルシューターだ、と言ってました。」

 そうシグナムが言うと、スバルが不思議そうに尋ねた。

「え、SLBスターライトブレイカーじゃないんですか?」

「素人はそう思う。だが、あの心躍る空戦――高町との戦いをやった私なら分かる。アクセルシューターは厄介だ。SLBは強力は強力だが、所詮はただの砲撃にすぎん。当たらなければ、な」

 血戦となった戦いを思い出しながら、シグナムが言う。

「ま、なのはも全力でいくだろーけどよ」

「そうだな。ところでヴァイス。おまえは何でいるんだ?」

 ヴィータの言葉に相槌を打ちながら、シグナムが問いかけた。

「んーと、あのクルツって男。俺と同種なんじゃないか、って思うんですよ」

「と言うと……狙撃手スナイパーか?」

「そうっス。あの鋭い目、間違いなさそうなんすけどね……。」

 ヴァイスがそう呟く。となりのスバルが、はやてに尋ねた。

「シータさんって、どれくらい強いんですか? 昨日、夜に練習見てたんですけど、機動性はかなり良かったみたいですけど……」

「そーやなぁ。得意分野はフィールド系やからあんまり前線は向かないんやけどね。パワーやったらスバルに負けるし、防御もそんなに堅くない。もちろん、例の魔法も使うけどな。その防御の代わりに機動性はまぁまぁや。魔力保有量も少ないしな……ただ、奴の戦術はあなどれへん。何しでかすか、楽しみやなぁ……」

「ザフィーラはどうした?」

 シグナムがヴィータに聞いた。

「知らねーよ。興味ねぇとか言ってた」

「残念だな……主、そろそろ時間です」

「さぁて、ギャラリーは静かに楽しませてもらおか」


※        ※


 始まって、最初に動いたのはシータだった。

 開始と同時に動き始めた他の5人とは違い、その場で詠唱を始める。

 まず、連携が取れる相手と、そうではない自分たちの戦力差を埋める方法。

 そして、絶対的制空権を取られないための方法。

 なのはのアクセルシューター。操作者によって自由自在に動くその光弾は、発射された瞬間制空権を握ってしまう。すぐに迎撃できたとしても、あっさりと第二波を打たれる上、そんな簡単に迎撃はできない。

 彼女の基本戦法は、アクセルシューターによって敵の動きを封じた上で、本命の主砲を打ち込むという単純なもの。エースと言われているが、戦法はあまりに単純であり、しかしその単純さゆえ攻略が難しい。「エース」というより、熟練のベテランに近い。

 海鳴市で彼女を助けていた間、シータはその戦い方をまじまじと見ていた。

「全てを乱す風よ、戦場を駈けよ―」

 シータは魔法の高速起動を得意とする。そのため詠唱魔法も相当なスピードで処理することが可能だ。

 グレイプニルも既に主が起こそうとしていることを理解していた。あとはプログラムの補助をするだけ。

「古に帰する力、今ここに集結せよ!」

 そして、全ての詠唱が終了する。グレイプニルの杖の部分の戦闘に魔力が充填され、怪しげに輝いている。シータの魔力光は藍色で、不気味な色になって辺りを威圧する。

妨害の息吹アイミシャン・アーテム!」

 シータがそう呟くと、集中していた魔力光が、弾けたように一気に四方八方に広がる。だんだん色が薄れていくが、やがてそれは演習場をすべて満たすほどのものになった。

≪Caution.(警告)≫

 その光がなのはを包み込んだとき、レイジングハートが警告を発した。

「うん……。この感じ、結界に近いね。たぶん、シータ君」

≪I think so, too.(同感です)≫

 早速念話を使って、フェイトやティアナに連絡を取る。フィールド系魔法の場合、最低3人がその魔法が到達した時間を測定すれば、使用者の位置が特定できる。

「フェイトちゃん、ティアナ、聞こえる?」

 何回も呼びかけるが、応えがない。

「おかしいな……レイジングハート、バルディッシュやクロスミラージュと連絡取れる?」

≪I couldn't.(出来ませんでした)≫

「まさか、ジャミングかな……?」

 そう口に出して、シータならまずやりかねないとなのはは思った。

≪The way he seem to think.(彼が考えそうなやり方です)≫

 どうやらレイジングハートもそう思ったようだ。これは大変、となのはは思った。念話が使えない、ということは誰がいつ襲われたか、という情報が入ってこない。つまり、敵が何人襲いかかってくるか分からない、ということだ。

「仕方ないね……レイジングハート」

≪All right. Wide Area Search.(分かってます)≫

 レイジングハートの先端から、たくさんの小型光球サーチャーが発生される。ジャミングでも、これからは逃れられない。しかし――

「嘘っ!? 操作不能!?」

 シータのジャミングは強力だった。小型光球サーチャーが操作不能となると、敵の捜索も厄介だ。

 仕方なくなのはは生み出した24の小型光球に直線移動、そして反応探知とともに自動追尾を命じて四方八方に飛び立たせた。

「もしかして、こうなるとアクセルシューターの操作もできないってことかな……?」

≪It thinks so though it is frightening.(恐ろしいですが、そうなるかと)≫

 早速戦況を有利に傾けたシータにちょっとした戦慄を抱きながら、なのはは敵を求めて高度を取った。

 確かに戦況は不利。だけど打開できないレベルじゃない。空戦なら、負けはない―そう確信している自分に、慢心はいけない、と諫めながら、一人のエースは空を飛んだ。


         ※         ※


≪Communication is defective.(通信不良です)≫

 そうクロスミラージュから報告を受けたティアナは、あたりを警戒しながら通路を進んでいた。

 通信ができないということは、この模擬戦の性格上、つまり開始時刻にチームはバラバラな状況で始まる形式だと、大変なことだった。仲間と出会えない。そのことに少し恐怖感を感じたが、ティアナは自分を奮い立たせた。自分にだって、3人と渡り合った自信はある。

 それに、自分はこのあと執務官を目指す身だ。一人で戦う、そんな戦場は数多と用意されているだろう。

 そう、怖がってなんかいられないんだ。

 そのために、これまでやってきた教導がある。なのはさんから受け継いだ、数多くのスキル。

 前に進まなければ。

 数多の思考を経て、ティアナが大きな通路に出ると――

 最初に出会ったのは宗介とティアナだった。アルがその位置を逐一クルツ機(ユーカリ)とシータ機(グレイプニル)に転送しながら、二人は相まみえる。

 先手を打ったのは、ティアナだった。16発のオレンジ色の光弾を出現させ、一気に宗介に向けて叩き込む。

 それを見た宗介は、自分の相棒に厳命した。

「手を出すな。特に例のは」

≪ラジャー。しかし、あなたの行為はナンセンスです≫

「やっぱりお前はただの機械だよ。学習命令。本戦術の利点をシミュレーションせよ。戦闘が終わったらな」

 その間にティアナの光弾は迫る。ティアナは第二波を撃つため、クロスミラージュを構えて宗介を狙いながら相手の襲撃に備える。

 宗介が防御魔法を展開、そしてその粉塵に紛れ移動、第二波を撃つだった。

 けれど、宗介は何もしなかった。

 光弾が宗介に一発も外れる事無く命中する。

 身じろぎひとつせず、真正面からそれを受け止めた宗介は、すさまじい力で吹き飛ばされていった。

 粉塵が巻き上がり、視界が無くなる。

 ティアナは警戒したまま足を進める。気を抜くことはできない。ダメージを食らったように見せかけて、一気に逆襲をしかけてくることもある。 特に、奴の今回のやり方は正直意味が分からない。あの時は、こちらを見るなり撃ってきた男なのに。

 煙が薄れ、宗介が現れた。

 その姿に、ティアナは絶句した。いや、それを指摘してはいけまい。たとえ歴戦の魔導士でもそうなっただろう。

 あたりの空気を完全に圧倒するその姿。血にまみれ、それでも眼に力を宿した宗介の、戦士としての顔。

 ティアナは硬直した。照準ポイントしたクロスミラージュの引き金トリガーを引くことができない。

 瞬間が永遠にティアナは感じられた。吹き抜ける風が、妙に寒々しく感じられる。本能的な恐怖を、ティアナは感じた。

 そして、宗介が口を開く。

「これで、おあいこだな――」

 刹那、ティアナは驚き、全てを理解した。この男のタフさに驚いたのではない。この男がとった、この無粋な行為に。 

 知らず知らずのうちに、自分が向けていた敵意。なのはさんに朝から言われていたのに、言葉じゃ分かっていたのに、受け止めきれなかった自分。

 この魔法は、人を傷つけないためのものなのに……

 兄さんから受け継いだ力は、こんなものじゃないはずなのに……

 どうして自分は受け止めきれなかったの?

 どうして?

 ティアナは自分の悔恨が全身を突き抜けるのを感じ、そしてその感情が怒りに変わったのを自覚した。

 こんなの、私は望んじゃないっ!

 気がつけば、宗介はもうその場を去り、移動していた。

「ふざけんじゃないわよっ!!!」

 再びクロスミラージュを宗介に照準ポイントし、光弾を生み出す。

 カードリッジが二発飛び出す。

≪Variable Barret≫

 その時、何か殺意を感じた。鋭いそれが去来し、ティアナはしゃがむことで避ける。頭上を鉛色の光弾が飛びぬける。

 そのまま体を道に寝かせ、回転することで照準を避ける。思ったとおり、次々と着弾する。そして、その後に発射音が聞こえた。

 この着弾と発射音の相違は……長距離狙撃!?


          ※        ※


「ソースケ、酷い格好だな」

「黙って狙撃を続けろ」

「へいへい」

 念話で語りかけてきたクルツに返答しながら、シータからもらったカードを使う。向こうからは、立て続けに発射音が聞こえるから、まだ命中していないのだろう。

「アル、損傷報告。」

≪デバイスに異常なし。全弾、軍曹殿に命中。なかなかの精度です≫

「減らず口をたたくな。カード解放(リリース・マジック)」

 藍色の光がカードから発し、癒しの風を宗介にもたらす。カードに詰め込まれた回復魔法が作動したのだ。

 魔力を詰め込んだこのカードは、シータがデバイスを応用して作ったもの。簡単な魔法しか詰め込むことができないが、このようにいつでも使うことのできるインスタンス性がある。

 徐々に止血し、傷が癒えていく宗介。

「……なのはとフェイトの位置を確認した。転送するぞ」

 シータが念話を割り込ませ、グレイプニルから転送された位置データが3Dレーダーとなって宗介・クルツの眼前に広がる。

 散発的に3つの赤点があった。地上にいるクルツを示す青点のそばにはティアナが、そしてそこから少し離れたところで宗介の赤点が、一気に離れたところにフェイトが、そしてそれに接近しているシータが見える。最も高度を取っているのはなのはだ。

「これからフェイトを襲う。宗介は傷が癒え次第、なのはにかかってくれ」

「了解」

 傷が治りかけた腕を見ながら、宗介は杖となった愛機アルを見つめた。空ではASモードは使えない。経験がそこまでない空戦だが、もうその機動には慣れきっている。

 同じスターズ分隊に所属した、スバルが出撃前に心配していた。「飛び始めて一か月なんて無理だよ――」そう言われたが、戦闘のいろははその月日で決まるのではない。「問題ない。俺は専門家プロフェッショナルだ」その言葉に嘘偽りはない、そう宗介は思っていた。これまでも、そしてこれからも。

 エースを落としに行く、そのことに高揚も恐怖もない。完全に修復した腕を見て、アルを握りしめた宗介は、道を踏む足に力を込め、空に飛んだ。


※        ※


「……サガラ君、無茶なことやりよるなぁ」

「ただの馬鹿だよ、あんなのは」

「だが、騎士の誇りに値する行為だ」

「しっかし、あいつクルツの狙撃力、すごいっすよ」

「うーん、どのデバイスもすごいよっ!」

「ティア……大丈夫かな」

 口々に観衆ギャラリーとして好き放題言う面々は、その周りで白熱している連中と変わらず興奮していた。シータの最初の一撃が、戦況を分からなくした。加えてシータは、強力なフィールド系探査魔法を出し、なのは、フェイトの位置をつかんでいることから、中にはシータらが勝つとさえ言いだした連中もいた。

「ほら、宗介君もう動き出した……タフやなぁ」

「主、彼といつかやり合いたいものです」

 はやてが自分が裏取引をしてまで戦力に加えた宗介に感動し、それにシグナムが続いた。

「結局、バトルマニアかよ……」

「何か言ったか?」

「いや」

 シグナムに嫌味を言いながら、宗介の動きに注視するヴィータ。なのはの戦術タクティクスは遠距離からの一撃必殺。敵の動きが分からず奇襲を受ければ。

 「奇襲」という単語を思い出して、ヴィータは顔をしかめた。あの日、最初になのはと出逢った時も、自分の奇襲が原因だった。あの日、自分の隣でエースが堕ちたのも奇襲だった。圧倒的な防御力の穴は、突然の敵の来襲。そう自分が気づいた時には、取り返しのつかない事態になってしまっている。どれだけ悔やんでも帰ってこない過去。だから、自分は守ると決めた。攻撃の力を、守る力に転嫁する自分に戸惑いながらも、これまで、ここまでやってきたんだ。けれど今、あいつの空には自分はいない。

「ヴィータ副隊長? 大丈夫ですか?」

 いつの間にか顔つきが変わっていたらしい。心配そうにのぞきこんできたスバルに「なんでもねぇ」と言いながら、くそっ、と心の中で呟いた。

「なるほど、そう来たか……」

 余裕が出来て、ヴァイスの言葉を聞くことができた。どれどれ、とモニターに目を移せば、ティアナが幻影を放出させている。

「フェイク・シルエットやな……クルツ君も、これならそう簡単に撃てへんくなるはずや」

「そうですが……おそらくティアナはまだ、クルツの狙撃位置を把握していない」

「クルツ君も冷静や。もう狙撃をやめて位置特定されへんようにしてる」

 はやての言葉に、ヴァイスはさもありなんというように頷く。同じ狙撃手として感じるものがあるらしく、さっきから他の戦場は見ずにクルツの動きを注視していた。

「シータのフィールドで空気が一変しましたね」

「そうやな。あーいうことができる指揮官になりたいわ」

 はやてが言ったのは、ある意味羨望だった。エースと同じく、戦場を味方に引き込む力をもつ指揮官の力は、そう簡単なものではない。フィールド系の力を増強させ、以前よりもさらに指揮官系へと力をつけてきているシータに、はやては憧れた。

 以前シータと一緒に闘っていた時は、ここまで強くなかった。「なのはの代わり」という感じにはならなく、正直言ってちょっと強い武装局員って感じだった。戦術はすごかったけれど。

 ただ民間で研究だけしとったわけじゃないんや、と思いながら、はやてはこの男も呼ぶことが出来てよかった、と思った。これからの対テロ戦、こういうことができる魔導士は正直喉から手が出るほど欲しい。自分の長距離魔法と合わせれば、最強の援護になるな、といつの間にか打算を始めている自分には嗤わざるをえないが、期待するで、と心の中でつぶやく。

「そろそろ、始まりそうやな」

 シータとフェイトの戦闘。二人とも早い戦いを好むけれども、なのはのように一撃ではなく、柔軟に戦うこともできる二人の戦いは、そのスピードに反して長くなるだろう。そして、宗介となのはの戦い。宗介の映像データを見る限り、その戦い方は若さの割に老獪なものだ。ベテラン対ベテランといった様相を見せるだろう。そして、今なお続くティアナ対クルツの行方。これは射撃型の真髄を見せる戦いとなるだろう。

 どちらにしても、ただ固唾をのんで行方を見守るエリオとキャロの今後の糧になるはずだ。

「主、フェイトは……」

 そうシグナムが言った時、シータが戦闘を始めた。第二の戦場が、開演した。

 
※        ※ 


 高速機動でフェイトから太陽の位置にあたる方向に回避する。バルディッシュが優秀だったのか、予想外に早く補足されてしまった。

 まともに戦っては落とされる。

≪マイスター。初撃で落とせそう?≫

「うーん、どうだろ。正直、そうは思えない。そうなったら最後、逃げの一手だね」

≪ったく……自信なさげだなぁ。そんなマイスター、あたしは好きだけど≫

「まぁ、逃げるときは本当に全力で頼むよ」

≪分かってる。その為のシステムだもん≫

 グレイプニルも、これから始まる戦いに静かに興奮している。僕もアドレナリンが体中に充満し、神経一本一本が燃え上がるような適度な興奮を覚えている。

「お前に最終審判キーを任せることになって、よかった。あとは、予定を進めていくだけだ」

≪まだ、マイスターが死ぬと決まったわけじゃないでしょ≫

「……優しいな。別れの時まで、付き合ってくれ」

 その言葉と同時に、グレイプニルをフェイトに向ける。

「カートリッジロード」

≪オッケーッ!≫ 

 妨害の息吹アイミシャン・アーテムを使っているために、常時僕の魔力はガス欠状態だ。

 魔力量や、実力で埋まらない差は、デバイスで埋めてやる。これがS級デバイスマイスターの戦い方だ。

「グレイプニル、“イージスシステム”起動!」

≪Activated Aegis System.≫

 さぁ、戦いは始まったばかりだ。

≪マイスター!≫

 早速警告をしてきた相棒から、鎖を放出させる。

 日光の方角にも関わらず突撃してきたフェイトの方向に鎖を展開させ、四角形を作る。その四角形に形成される、防御魔法。

 元々弱い僕の防御魔法だけれども、四方から魔力をたたきこむことでその強度を増す。

≪Square Guard≫

 角度を微妙に変えて敵の攻撃を止める。

 すでにバルディッシュの声が聞こえるところまでフェイトが来た。

≪Haken Slash≫

 カードリッジ一発をロードした刃が迫る。その力を流しながら、急降下してきた力を上昇に転じさせる。

 衝突。

 90度に力が変換され、互いにはじけ飛ぶ僕とフェイト。ここまで壁が抉られるとは思わなかった。

 やっぱり力で闘うのはまずい。

 いつの間にか接近していたのは、二の手のフェイトの射撃魔法、プラズマランサー。8発が接近してきていた。

≪Thunder move≫

 雷のようなジグザグ運動をしながら、プラズマランサーを回避する。ところが、雷の槍プラズマランサーは方向転換して、再度迫ってきた。

 こちらと同様、あちらも海鳴市の時とは違うということか。舌打ちしつつ、愛機に尋ねる。

≪イージスシステム、正常に作動。8発の敵砲撃、ついでに対象を完全に補足してるよ!≫

「よし、こっちも行くぞ!」

 カードリッジを2発ずつ、計6つロードする。扱いきれるぎりぎりの魔力がグレイプニルの先端に集中し、撃ち出すのは対空迎撃砲。

≪対空迎撃弾、発射≫

 12発の光弾が一気に敵の方向に駆ける。誘導は、なのはのように術者が行うのではなく、完全にデバイスの管制に従っている。4発が先行しすれ違い、残り8発が雷の槍プラズマランサーの迎撃に向かう。

「さぁ、全力で逃げるぞ」

≪マイスター、結局そうなるの?≫

「あぁ、逃げることも戦場では美徳の一つだ。だけど……その前に」

 僕は冷凍魔法を即時にグレイプニルにかける。グレイプニルの鎖の素材は特殊な金属で出来ていて、その金属は特殊状況下、つまりものすごい超低温のときに、電気抵抗がゼロになる。

 フェイトの最初の一撃の時に回収した電気をグレイプニルの鎖に流し込む。電気抵抗のないグレイプニルの鎖を、杖の部分から、その前方に伸びるように取り巻くように設置する。

 その動きは瞬間的だ。このスピードが、この魔法の活き死にを決める。

 カードリッジをさらに二発同時にロード。

 鎖はすでに磁力を生成した。これに乗せるのは、同じく静電気で磁力を持たせた砲弾。

「駈けよ、光弾」

≪Blaze Canon≫

 魔力自体は冷却魔法のみ。しかし、デバイス工学の応用で、弾速は極めて早い砲撃になる。これが対フェイト戦の隠し玉だ。

 まだまだ戦いが終わる気配は見せない。そう思いながら、シータは太陽の方角に向かってさらに上昇する。









妨害の息吹(Einmischung Atem)
効果範囲 SS 発動速度 C
念話・誘導弾操作を妨害するジャミング


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