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[37350] 母であることA's(リリカルなのは プレシア憑依もの・TS・憑依・多重クロス要素有り)
Name: Toygun◆68ea96da ID:1895f008
Date: 2020/11/21 12:40
 Toygunです。母であること A'sです、A's編開始です。

無印は前スレの母であること(リリカルなのは プレシア憑依もの A's Pre終了)ですので、前スレを読んでない方はそちらからどうぞ。

注意書き:

 本作はタイトルの注意書きどおり、憑依TSものです。TSものが嫌いな方や、また憑依ものが嫌いな方は読むのはやめておいた方がいいと思われます。また、多重クロスオーバー要素も含んでいますので、その辺もご注意ください。現状だと確実にクロスオーバーしてるのは.hackとらきすた、それ以外は要素として少しです。大丈夫だと言う方は、どうぞ以降の本編をお読みください。

2013/4/22 0:50 注意書きと母であることA's1を投稿

2013/8/11 14:40 母であることA's2を投稿

2017/7/22 21:30 母であることA's3を投稿

2017/7/23 14:19 母であることA's4を投稿

2017/9/12 1:00 母であることA's4の気付いた分の誤字等を修正

2018/4/18 22:48 母であることA's5を投稿

2020/11/21 12:36 活動再開のつもりだけど、続きを出せるかは未だに微妙。とりあえず機会を見てハーメルンにも置いてく感じで。タイトル入力のバグ忘れてた・・・



[37350] 母であること A's 1
Name: Toygun◆68ea96da ID:1895f008
Date: 2013/08/11 14:38
1.その夜、少女は運命と出会った

―プレシア達の出港から、時間は遡る。200X年6月3日、海鳴市中丘町にて


 「The World」に接続していたのは、夕食後の午後8時から9時まで。はやて本人の生活に対する生真面目さと、「友人達」のお節介さもあって、彼女の生活のリズムは規則正しく守られていた。ログオフしてからPCの電源を落とし、すぐに風呂に入る。上がって「はやての」部屋に戻ったのは午後9時40分。かくして彼女は夢の国の住人に、というのがいつものパターンだった。

 しかしながら、夜更かししたい時もあるのが人というもの。特に今日のような―自分の誕生日の前夜、などという日は。石田先生のメッセージで気付くまでは、そんなことさえ忘れていた。「The World」において、konakonaに言われてさらに自分の誕生日を強く認識する。だから、余計に独りであることが重くのしかかってくる。

―先生に電話をしたい。

当直かもしれない。だからやめておこう。

―The Worldのみんなに会いたい

こんな遅くまでログインしていては駄目だ、と言われるだろう。

                       世界
だからはやては我慢した。でも、代わりに違う「The World」で冒険することにした。

 ゆえに、午後11時半を過ぎた現在、はやては未だ夢の国の住人ではなく、本の世界の住人だった。今日のタイトルは「アーサー王と円卓の騎士」だ。はやてのお気に入りである。最近の問題は、最初に読んだ頃はアーサー王がちゃんと威厳ある王様の姿で頭に浮かんでいたものが、今では「Fate/stay night」のセイバーで再生されてしまうことだ。おかげで円卓の騎士たちも、あの作品のイメージに近い姿になってしまっている。公式に円卓の騎士たちのデザインが発表されたならば、そちらもそうなってしまうだろう、というのが最近のはやての思考である。

「サーヴァントがおったらなぁ」

聖杯戦争など勘弁して欲しいが、広い家に自分1人、というのはさびしいことこの上ない。かの作品の衛宮の家は、寝るときは士郎1人でも、最低人数で実質3人だったのだ。しかし、自分は1人だ。どっちがさびしいかと言ったら、自分の方に決まっとる、とはやては愚痴をこぼす。

「やっぱりセイバーがええかな」

料理をする人間にとって、それをおいしいと感じてくれる人間がいることはとてもうれしい事だ。しかしながら、セイバーの食事量は洒落にならない。思わず唸って考え込んでしまうはやて。手にしていた本を置いて頭を抱えようとしたとき、開かれたページの上に、いや自分も含むまわりにおかしな光が差していることに気が付いた。

「なんや?」

顔を上げると時計の時刻が目に飛び込んでくる。もう12時。konakonaの言葉が思い起こされる。いわく、12時になったら飛び切りのプレゼントがあるかもね、である。そして、光源は背中側だった。振り向いた先には、1冊の本。

 本が、浮かんでいた。

「Ich entferne eine Versiegelung(封印を解除します)」

誰とも知れぬ声が本から聞こえるとともに、本を縛る鎖が弾け飛ぶ。同時に、その余波のように揺れをはやては感じた。だが、未知へのおびえよりも好奇心が勝った。開かれた書のページがひとりでにめくられる続ける。はやての目からも、それが全て空白で、何の意味があるかは分からなかった。そして、再び閉じられた本が、彼女の目線の高さまで降りてくる。

「Anfang(起動)」

「凛」と同じ呪文とともに、書は、いや、己が胸より浮かんだ光点が光を放った。あまりに強い光に目を閉じてしまったが、直後に本が自分の手に飛び込んできたのが分かる。目を開く。眼前に、魔法陣を背にした4人の男女。全員が、自分に対して臣下の礼を取っていることは分かった。

炎のごとき赤き髪の女が告げる。

「闇の書の起動を確認しました」

金の髪の女が己の存在を示す。

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」

鍛え上げた体の男が引き継ぎ、

「夜天の主の下に集いし雲」

それにそぐわぬ童が名乗りを上げた。

「ヴォルケンリッター、なんなりと御命令を」

『12時になったらとびっきりのプレゼントがあるかもね』

konakonaの言葉が、再びはやての頭の中で再生されていた。



ヴォルケンリッターの出現からはやての復帰は早かった。矢継ぎ早の質問、それに対する必要量とは言いがたいが最低限の回答。それでもはやては理解した、4人が自分の「サーヴァント」であることを。

「つまりわたしがこの魔導書のマスターで、みんなはこれにしたがう存在であるために同時にまたわたしがマスターである、ということになるんやな」

「時として素質はあれどまだ無力なる方が選ばれることもあります故、また蒐集において主の手を煩わせないため、我らがおります」

はやての現状の一部に関する再確認に、シグナムが先ほどと同様の回答を返す。はやては思った、なんと見事なおっぱいかー

「さあ、主はやて、蒐集をお命じください、さすれば私たちは魔力を集めて闇の書へと捧げ、主に絶大なる力をもたらしましょう」

金の髪のシャマルが似合わない言葉を吐く。はやては気付いた。冷徹に徹しているのではなく、ただ、無表情なのだと。だから思う、その本当の顔を見たいと。

「われらヴォルケンリッター、かならずや魔力を集めきり、主のねがいを叶えてごらんにいれます」

命じられるか、そんなん! 幼子にそんな言葉を吐かせるシステムそのものに、怒りを覚えた。

「・・・いかなる敵も我らの前では塵芥に同じ、勝利を主に捧げましょうぞ」

ただ1人、鋼のような男がわずかに逡巡した後、同様の言葉を吐く。何かは分からないが、はやては奇妙な安心感を覚えた。だから考える、自分が命じるべき内容を。命令に令呪のような制限回数もないのは確認済み、それ故に絶対的な効果などないかもしれなかったが、それでもこれは言わなければならない。

「夜天の主、八神はやての名をもって命じる―」

所詮子ども、命令者としての威厳などない。だから言葉を知る限りの格式ばったものにしたのがせめてもの抵抗。ヴォルケンリッターは再び頭を下げ、少なくとも静粛に下知を待つ態勢を取った。はやては覚悟する。その目的のために存在するなら、これから言うことは彼らの否定だ、場合によっては自分の命など―

「わがしもべたるヴォルケンリッターよ、他者より魔力を奪うことを禁ずる」

「な!」

はやての言葉にシグナムが頭を上げた。表情は無表情に近くありながらも驚愕に目を見開いている。続けて他の3人が顔を上げる。三者三様に無表情ながらも、何がしかの困惑を告げる視線を感じた。だが―だけど、わたしの首はまだつながっとるな、なら―とはやては畳み掛けた。

「重ねて命ずる、蒐集を禁じ、ヴォルケンリッターがその力、自衛と人助け以外に使うことを禁ずる」

ここまで来ると、威厳などなくても主が本気であることは伝わると言うもの。

「わるいけど、今夜はここまでや。つづきは・・・またこんどやな」

というとぴしゃ、と両手で頬を叩いて少しだけ眠気を追い出すはやて。

「主はやて?」

問いに視線だけ投げ返すと、彼女は車椅子に体を移動させる。

「もう時間おそいで。騎士というなら体を休めるんも仕事のうち・・・やな」

ぞろぞろと騎士たちをひき連れてついた部屋。少しだけ、入るのに勇気が必要だった。

「とりあえずまずここやな。シグナムとシャマルはここで寝てや」

2つ置かれたベッド。今は使う人がいなくなってしまった部屋だった。

「んで、ザフィーラはこっちやな」

その隣の空き部屋は、収納の多い八神家では来客用の部屋として使われていた。今では訪ねてくる人もいないが。

「んで、ヴィータはあたしといっしょや」

「ほな、また朝にな」

そのままヴィータを引き連れてはやては行ってしまい、寝る以外やることのなくなってしまった3人はとりあえず不寝番の順序を決めると、めいめい行動を開始した。





 東側のベランダにて、昇り始める朝日をザフィーラは見ていた。近づく足音には気付いている。

「ヴィータか、眠れたか?」

「よくわかんねーよ。休めたっていっちゃ休めたけどな」

目覚めると抱きつかれていたため、起こさないように抜け出てくるのに苦労した彼女であった。町並みをぐるりと見回してヴィータは悪態をつく。

「せまっくるしい町だなぁ・・・魔法のにおいもしねえ」 

「少なくとも、騒乱や戦が渦巻く土地ではないようだ。それだけに少し厄介だがな」

「なんだよ」

「夜中にここに近づく者がいたが、各家を回っているようだった。おそらくは配達というやつだな。下手に屋根の上で見張りも出来んぞ」

「夜に荷物もって配達か、えらくぬるいとこだな、夜盗の類もいねぇのか」

「少なくとも夜の間は見なかったな」

「・・・今度のあるじ、どうだろうな」

「型破りではあるな」

「あの命令、本当かな・・・」

ザフィーラは答えなかった。

「蒐集するなってよ、何すりゃいいのかわかんねーよ」

今度は男も言葉を返した。

「いずれ分かろう。続きは、と主自ら仰せだ」

「期待はしねーで待つか」

『ヴィータちゃん、ザフィーラ、戻って』

シャマルの念話に、2人は即座に反応する。戻る直前にザフィーラが再び口を開く。

「俺は少しだけ期待してもいいように思うがな」

彼が普段使わない言葉に、ヴィータが何も気付かなかったことを責めることは出来ないだろう。そのような些事に気をかける余裕は、誰も持っていなかったから。



―暖かい何かが逃げていってしまった

そんな感覚とともに目覚めたはやてが、目を向けた先には2人が―シグナムとシャマルが控えていた。

「夢やなかったか・・・」

ふと自分の手を見る。表、裏。ひょいとシャツの襟元を指で広げて覗き見る。

「首の後ろにある場合は星のアザやから話がちゃうな」

「主はやて?」

「なんでもない、ちょーとした確認や。まあ、お話と現実はちがうことの確認やな」

さすがに令呪はあらへんな、とはやては呟く。そして己の臣下が―そういうのは嫌いだったが、4人全員そろったところで戦闘開始だった。

「それじゃまず、服からいってみよーか」

亡き両親の服、数年前の己の服でまずは間に合わせる。でなければ時折こなたが言うジョーク、「服を買いに行く服がないでござる」になってしまう。

「着ながら聞いてぇな。わたしがみんなの主や」

「「「「はい」」」」

いちいちこちらを向いてしまうので手で続けるように促しながら言葉を続ける。

「だからわたしは守護騎士みんなの衣食住、きっちり面倒みなあかんいうことや」

えっと驚愕に騎士たちが再びはやての方を向く。

「さいわい住むところはあるし、料理は得意や。あとは、お洋服やから」

そんなはやての言葉をシグナムがさえぎる。

「いえ、今賜りしものだけで十分でございます」

「そういうわけにはいかん、そないな怠慢は主のすることやない。えーとそう、ご恩と奉公、やったかな?」

そう言ったところではやての耳に目覚まし時計の音が聞こえてくる。ドア越しの音、発生源ははやての部屋である。ふと時計を見ると時刻は7時30分。

「しもた! 今日は検査の日やった。ええと、予約は9時で1時まではかかるから・・・」

移動時間に検査時間を考えると朝食を作る暇はなく、昼食はどう考えても外食である。のっけから己が腕を振るえないという大失態だ。しかしながら

―なら、夕食で挽回や!

逆に考えるんだ、外食にしちゃっていいと。朝食は大学病院の購買のパンあたりで済まさざるを得ないが、大量生産のパン→ファミレス→手料理とグレードアップさせることで己の腕を見せ付ける機会である。夕食作りに取り掛かる時間を考えると服を揃える時間をある程度削らざるを得ないが、4人が自分の臣下―いや、家族だ、家族であると言うのなら、いくらでも買いに行く時間はある。着替え終わったシグナムとザフィーラを引き連れると必要な物を揃え始める。自分の財布に携帯、鍵。確実に諭吉さんズが必要なので通帳にカード。適当な小銭入れ、なければ小型のポーチで、さらに遺品のうちの無事な財布も引っ張り出すと、手持ちの現金をそれらに分配する。それをエコバッグに放り込むと再びリビングまで戻った。どうにかシャマルとヴィータも着替え終わったところであった。

「えらいすまん、これから出かけなあかんかったわ」

「では、護衛と拠点防衛にわけますので」

「そういうわけにはいかんで、みんなで行くんや。服も買わなあかんしな、仲間はずれはなしや」

「ですが」

「泥棒さんが入っても、苦もなく追い出せるやろ? それに金目のもんは今わたしが持っとる」

そう言って手元の布製エコバッグを示す。

「分かりました、全員で護衛を務めさせていただきます」

「ほな、行くで」



人ばっかりだ

病院―野戦病院の類ではなく、きちんと機能している都市部の病院である。平日の昼間からまったくもって混んでいた。ヴィータはふと手元を、手元のパンとパックの「ミルクコーヒー」なるものを見る。ビニールの包装の上からでも随分と柔らかいようだ。パンといえば、ヴィータの知識にあったのは日持ちさせるために堅く焼き占めたパンとかだったりする。グラーフアイゼンの保存領域に入れておけばもっと長期間保存できたはずだが、そこに入れるは敵将の首であったり、取ってこいと言われた魔獣の臓器や、あとは予備のカートリッジとかだ。そもそも魔力さえあれば活動できる存在だ、パン自体目にしなかった時も多かったのではないか? 包みを開け、一口かじる。予想通り柔らかい上に、急に違う食感と甘みが広がった。

「なんだこれ」

見るとパン生地の中に黒い何かが入っている。市販のごくありふれたあんぱんだった。但し、ありふれているのは日本においてであるが。2口目はかぶりついた。

あまいぞ、なんてあまいんだ!

そのまま詰め込む勢いでほおばった。噛むこと、味わうことが唐突に思い出された空腹にブレンドされ、飲み込むという動作につながり、そのまま喉に詰めるという失態を招く。

「~~~!」

無意味に左手で喉をおさえ、どんどんと右手で胸をたたくが状況は改善しない。と、浅黒い手がヴィータの頭をぐいと掴み、もう片方の手でその口元に開けられた紙パックを持っていく。意図を理解したヴィータは両手でそれを掴むと一気にミルクコーヒーをあおった。

ああ、これもあまい

頭を上へとそらしながらごきゅごきゅと500mlのそれを飲み干す。量が減るごとに彼女の顔はより天を向き、空になった時には完全に真上を向いていた。すでにこぼれ落ちるしずくしか甘露は残っておらず、こぼれるそれを未練がましく舌で受ける。

「すげえあまい!」

真正面に向きなおして彼女はまさに叫んだ。

「そうか。だがもう少し落ち着いて食べられんのか?」

シグナムのたしなめる言葉に、猛然と言葉を返す。

「いーからてめーも食ってみろ!まじで世界がちがうから!」

「大げさな物言いだなまったく」

そういってシグナムがミルクコーヒーの口を開けようと、パックを持ち替えたところで突然声をかけられる。

「これこれ外人さんや」

「なにかな?ご老人」

突然近づいた老婆に、つい警戒を声にのせてしまったが、老婆は意に介さず言葉を続けた。

「年頃の娘さんがそんな飲み方をするもんじゃないよ。ほれ、パックの背中にストローがついてるじゃないか、それを使いなさい」

「ストロー?」

見るとパックの横に何か付いている。はて、ストローとはこんな物であったかと、記憶の中の瀟洒なグラスに挿されていた物と比較する。

「そいつを取り出して伸ばしゃいいんだよ、で、斜めになってるここに挿し口があるから、そこに挿すのさ」

言われたとおりにやってみると、確かにストローだ、とシグナムは思った。伸縮機構付きとまるで機械のようではあるが。

「ラッパ飲みなんてのははしたないことさ、年頃のお嬢さんがやるもんじゃないよ」

酔った兵士がよくやる事に思い当たり、納得するシグナム。

「ラッパ飲み・・・ああ、なるほど、ラッパ飲みだな。忠告、かたじけない。して、ご老人はいったい?」

ずれたシグナムの言葉使いに思わず呆気にとられてしまう老婆。と、かっかっかと笑って言葉を返す。

「しけた駄菓子屋やってる婆さんだよ。ちりめん問屋じゃあないから、その辺勘違いしないようにね、将軍様、いや盗賊改め方かねぇ?」

そう言うと婆さんは笑いながら去っていった。今度はシグナムの方が呆気に取られてしまった。

「いったいなんだというのだ?」

わけが分からないまま、ストローに口をつける。

「・・・甘い」

彼女でもそう言うしかなかった。




 あんぱんに口をつけたあたりで、流石にシグナムも視線が鬱陶しくなってきた。

「気持ちは分からんでもないが、いい加減やめろ」

そう窘めると、ヴィータはぷいっとそっぽを向いてしまった。主から賜りし「三つ目の品々」を半分ふいにしたようなものであるため、気持ちは分からなくもないシグナムではあったが、ヴィータの普段よりも子どもっぽい行動に先が思いやられる、と感じていた。ちなみに一つ目は今着ている服、二つ目は各々持たされた財布である。

「ヴィータ、食うか?」

まだ食べていなかったザフィーラが突然にそう言った。

「いーのか?」

「やたら甘いのは好かん。そこで違うものを買おうと思ってな」

そういうと先ほどはやてがこれらを購入した購買を指差す。

「・・・ありがとよ」

仲間内でさえ滅多に使わなかった言葉を出すと、ヴィータは追加の食事に取り掛かった。

「大丈夫か?」

「見たところ、それほど高価なものでもないようでな」

これ1枚で随分と物が買えるようだ、と言うとシグナムに促すようにザフィーラはぐるりと周りを見回す。缶コーヒーやペットボトルのジュースなどで喉を潤す人々が目に付く。千円札をまさに自動販売機に投入しているマスクをした若者などいて、シグナムは納得した。




「なぁ、シャマル、なんも食べんでええのか?」

「主が何も食べないというのに自分だけ食べるわけにはいきませんよ」

「いや、わたしの方は検査があるから食べるわけにいかんのやで。レントゲンとかMRIとかこまったことになるからな」

「守護騎士の私たちは魔力だけで活動できます、なんの問題もありません」

強情やなーとはやては愚痴るかのように呟いた。

「ま、そんならしゃーない、検査終了までつきおうてもらうで」

はい、とシャマルは短く返答した。短い口論が終わったところで八神はやてさん、と呼び出しの声がかかる。さ、いくでとのはやての言葉に、シャマルは車椅子を押し歩き始めた。


「おはよう、はやてちゃん」

「おはようございます、石田せんせ」

「そちらの方は?」

「グレアム叔父さんがスカウトして来てくれたヘルパーさんで、シャマルさんいいます」

行きのバス内で4人についてどう説明するか、悩んだ末の言葉であった。完全な即興ではないため、中途半端にリアルである。

「シャマルと言います、今後ともよろしくお願いします」

「担当の石田です。こちらこそよろしくお願いしますね」

またグレアム叔父さんか、と幸恵は思ったが、そこには踏み込まずに説明を始める。今日はやっと臨床に回ってきた新型が使えるのだ、今度こそ原因を特定したい彼女としては少々のことで水を差されたくなかった。採血にレントゲンに筋電図、MRI、投与中の薬の副作用等がないかのチェック。麻痺の進行具合。やることはいっぱいだ。しかしながら、彼女の決意はやはりもろくも崩れ去る。採血結果は投薬の分も含めて異常なし(ウィルスでも細菌でもないのは今までで分かっていたが)、レントゲン・MRIについても別に神経を圧迫する腫瘍があったわけでもなく、そのくせ麻痺の進行具合ときたら、

「ここは?」

少し強めに押してみたくるぶしの少し上。

「んー、押されてるのはわかります」

「痛みは?」

「いえ、ないです」

痛覚の反応がない部分が微妙に広がっている次第である。ここまでの唯一の救いは、ヘルパー・シャマルの助力であった。軽い子どもの体とはいえ、的確な態勢と保持で軽々と車椅子からはやてを検査台に移動させる手際は病院の方で雇いたいぐらいであり、たまたま居合わせた事務方が打診するほど。幸恵が聞いてみれば実はあと2人いると言うのでパートでもいいからと事務方が頼み込むが、実際は資格の問題で「お手伝いさん」なのであるということに幸恵ともどもがっくりである。とはいえ今後、力仕事担当の看護師を配置しなくてもよいというのは有り難いのである。

「残念ね。とはいってもはやてちゃんからお手伝いさんを取っちゃうわけもいかないことだし・・・資格関連のツテぐらいは紹介しますよ」

「ええ、まあ折を見て」

「ところで、それはなんですか」

「脳波検査用の機器です。新型ですよ」

幸恵及び検査技師が胸を張って答えたそれは、

「VRMMOのHMD?」

とはやてが形容するに足る物であった。

「形状はそうだけれど、元々こっちが本家なのよ。ゲーム用は脳波というより動作のための意思を把握するのだけれど、こっちは脳の動きそのものを把握するの。これは今までの物よりももっと細かく見れるって触れ込みの新型ね」

はやてが使用しているものよりまず頭部を覆う範囲が多く、よりごつい。何より、接続されたケーブルの数は非常に多く、その行き先も大型の分析用マシン―分析用に演算強化でセッティングされたタワー型PCだった。TVでたまに見る脳に電極を貼り付ける物よりも随分規模が大きく見える。えらい大事になってきたなぁ、というのがはやての感想であった。



「脳波レベルは正常、MRIで見たとおり血栓もなし、運動野の動きもデータと比較してなんの問題なし」

これまでの検査結果と現在リアルタイムで送られてくる内容を見て、2人組の技師の片方がそう判断を下す。ガラス越しの視線の先でははやてが首を回したり、手を動かしたりと忙しく体を動かしている。足もまだ動くももやひざは、画面上のデータと比較しても、機器が正常だと言うことを裏付ける。だが、すねから下はあらゆるデータに合致しない。脳もきちんと命令を出し、他の検査結果からも神経を途中で圧迫する腫瘍や分泌異常、怪我の痕もなし。

「脳はまったくの異常なしですよ。こうなると生検かな」

「妙な症例ですけど、新宿のあの患者によりはましかなぁ」

「ああ、昏睡なのに脳が変なレベルで活動してた子か」

異常がないのに異常が起きている、という状態である。精神的なものか、という話にもつながりかねないが、本人は完全に無気力と言うわけでもない。現に、動く部位は積極的に動かそうとしているのである。すね付近からが本人の意思に対してストを起こしているかのようであった。はやての視界の外であったために、石田幸恵はがっくりと肩を落としてしまった。

「石田さん、ちょっと入れ込みすぎじゃないですか」

「それは自分でもそうは思ってますが・・・」

何というか、引継ぎとか交代とかではなく、最初から全部担当している、と言える患者が八神はやてであった。それ故に石田幸恵は単純に仕事として割り切れない。またあまりそういう気質でもない幸恵でも、研究者の部分で「難病」に負けたくない、との思考があり結果として担当を変わることもなく踏みとどまっているのである。

「しかし生検は避けたいですね」

「足側なら比較的あとの影響は少ないとはいえ、神経系はちょっと。まずは筋生検が検討対象で、その前にまだやれる手は・・・」

打てる手はいくつあるかと幸恵は独り言に近いレベルで薬や治療方法をリストアップしていく。この経験により数年後には海鳴大学病院にとどまらず腕利きの神経科医として名が知られることになるのだが、そのため大人になっても回復の理由をはやては告げられなかった。六課結成時、たまたま昔の話になったときにそれはひどいと指摘したなのはにはやては真顔で答えた。

「いや流石にな、体の方はまったくの健康体でしたなんて言えんよ。石田せんせのやったことは物理的には健康な体を検査してた、やなんて」

言ったあとが怖すぎる、となまじ色々と察してしまう人間に成長したために、隠しておこうという選択肢しか取れなかったはやてであった。それもちょっとしたきっかけで話す羽目になり、ひと騒動起きるわけだが。




 
 どさどさととリビングの床に荷物が投げ出される。量はこれでも手加減した方だ、とははやての弁だ。

「服を買うのにこんなにも時間がかかるとはな」

「これでも少ない方というのが信じられん」

食材の詰まった袋を台所側に持って行きながら、ザフィーラがシグナムの言葉を肯定した。

「追加の服はまたの機会や。まだまだおしゃれさんになれるで」

検査後にファミレスにて昼食、それから服選びと時間が足りなかったため、量的にはやてとしては不満である。最低限の着替えしか購入していない状態だが、食材も買い出した上に調理もせねばならないので仕方なかった。

「それじゃ、皆とりあえず着替えやな。私はその間にやることやらなあかんのでな」

そういうとキッチン側に車椅子を進めるはやて。この先は、まだはやてのみの戦場である。

「主はやて、わたしたちもお手伝いを・・・」

「まだや、まだここはわたしの仕事場やで。おいおい教えるから今日はゆっくりしててな」

食材を分けつつ今日使う分以外は迅速に冷蔵庫にしまっていくはやての手際に、シグナムもその言葉に従う。

「シグナム、今日着ない分はしまうなりなんなりした方がいいと思うけれど」

衣服を選別していたシャマルがそう進言する。

「クローゼットに入れればいいだろうな。とりあえず着替えるとするか」

そう言ってそそくさと今着ている服の裾に手をやるシグナム。と、ザフィーラが機敏にカーテンを閉めると、自分の分の服を持ってリビングから出て行ってしまった。

「「「?」」」

どれを着るか、などという「贅沢」に未だ迷っていたヴィータ、及び着替えようとしていたシグナムはその行動に戸惑う。

「いってーどうしたんだ、あいつ」

「わからん・・・」

一緒に呆けていたシャマルを見やる。視線に気付いたシャマルは少し考えると、ポンと己の手を拳で叩いた。

「分かったか?」

「ほら、そんなに塀も生垣も高くないわ」

そう言って少しカーテンを開けてその先を示す。そう低いわけでもないのだが、彼女たちの塀・壁といえば城壁レベルが常識なので十分低い。

「・・・ああ、そうだな」

まだ日も高く、歩行者の頭くらいこちらからも見える生垣だ。

「しかし、何故あいつだけ出て行ったのだ?」

『・・・私はオスで、お前たちは女だということだ』

廊下で待っていたザフィーラが、呆れたように念話を送ってくるまで戦時モードから抜けられなかったシグナムだった。



 いただきます、とはやてが手を合わせながら食事の挨拶をする。ヴォルケンリッターたちも神妙な顔をしてその行動を真似た。並んでいる料理は全てはやての手作りとはいかなかったが、大皿小皿にのったお刺身以外は、ほぼ彼女の作である。ご飯に味噌汁に茶碗蒸し、色としては偏るもののこれまた大皿に盛られた各種の煮物。箸の使い方を教えられながらの食事ではあったが、そこそこ彼らの適応も早かった。

「お刺身は出来合いやし、煮物は作り置き分もまじっとるんでちょっと手抜きなんやけどな」

箸をどうにか使いながら、刺身を口にしてみるシグナム。これは素材の味を楽しむものか、と彼女は思った。日中、ファミレスでの遅い昼食では調味料をふんだんに使用したものを口にし、今度はその逆である。此度の主はずいぶんと太っ腹だとは感じたが、昼の食堂の人の多さを思い出し、むしろ自分たちが不運過ぎたのでは、との考えもよぎる。そんな微妙な心持で煮物に箸を伸ばす。

これは酒が欲しくなるな、スピリタスあたりか?

小芋の煮っ転がしの、少し濃い目の味付けに、飲んだことがあるかも定かでない酒を思う。いや、酒は大分付き合わされたはずだ、と思い出そうとするが、結局記憶は曖昧なままだった。ふと、目を上げるとしかめっ面のザフィーラが視界に入る。

「どうした、ザフィーラ」

「・・・少し量を間違えただけだ。シャマルは盛大に間違えたようだが」

彼が促した先ではシャマルが顔を押さえて悶絶していた。

「あー、注意するのわすれとった」

刺身用に出されていたわさびである。ザフィーラ、シャマル両名ともわさび単独で口にするという挑戦をしてしまっていた。はやてが追加説明をして両名とも再び挑戦する。今度は気に入ったようである。ザフィーラはその後刺身単独で食べる方に切り替えてはいたが。

「?」

茶碗蒸しを口にしたヴィータが首を傾げる。

「ヴィータちゃん、デザートは最後じゃない?」

「いーじゃねーか。でもこれ、デザートなのかな?」

「それはデザートやないで、茶碗蒸しいう日本料理や」

まあ作り方はプリンと似たようなもんやけどな、とはやては付け加える。デザートではないので甘くはない事に納得するヴィータは、再びもくもくと食事を続ける。というよりはやてを除く全員が黙々と食べ続けていた。その状況にはやてはよっしゃと小声で呟く。守護騎士たちが気付くと、料理はすべて自分たちの胃の中であった。

はやての言葉に従って「ごちそうさま」と挨拶をし、食事を終える。




 後片付けも済んでの、食後のお茶の時間である。和気あいあいと団らんの時間となるところだが、今日はまだその時ではなかった。

「主はやて」

シグナムの呼びかけにはやてがうなづく。昨晩の続きである。

「蒐集を禁じたところからやったな」

その言葉に、シャマルが翻意を促すかのように言葉を紡ぐ。

「主はやて、闇の書を完成させたなら、その足を直すことも可能であるかと」

だがはやては揺るがない。

「なかなかに魅力的な提案やな、シャマル。でもな、対価がつりあわんわ」

「わたしはな、戦いなんてのぞまへん」

主の願いに騎士一同は頭を下げる。それを自分の言葉に対する了解と取ったはやては、皆に顔を上げさせると闇の書を掲げた。

「わたしだって人並みに願いもある、足だって直したいし、お金だってまああるに越したことはない」

「でもな、たかだか足を直すぐらいの願いごときで、666ページもうめるような魔力を、人様からうばうようなことはしたくあらへん。人様の血と命、苦痛と憎悪で染まった魔力なんぞでこの本をいっぱいにするなんて、ごめんや」

はっと理解の声を返す騎士たち。

「それにな、願いならもうかなっとる」

その言葉には流石にみな困惑の色を浮べた。

「まあ、言わんとわからんやろうから、きっちり宣言しようとおもう。まあ、聞いてぇな」

まるで説教でもするかのように、はやては闇の書を左手で抱えると、右手を軽く上げて告げた。

「夜天の主、八神はやてが願う。ヴォルケンリッターがわが家族とならんことを」

そのようなことを願われたことがあったのかは、ヴォルケンリッターも分からない。その先のはやての言葉は、誰に向けたものか。

「親を亡くした。気付けば足も動かなくなってもうた。引き取ってくれるような親せきもおらん」

右手はすでにおろされている。

「いや、いたはずの親せきもどこへ行ったやら。見た覚えのある年賀状も、なんか届かんようになったわ」

恨みごとで物事など解決はしない、そう頭で理解していても、心は納得などしない。

「グレアム叔父さんにぐちるのは筋ちがいやろうけど、言いたくなるときあるわ。「どうか一度だけでいいですから、会いきてくれませんか」って」

宣言のために上げていた顔も既にうつむいている。

「話す相手が、おらん、わけでもない。電話、ごしでも話はできる、けどな、」

つかえながら、はやては言葉を止めない。

「起きるのも、食べるのも、どこに、行っても、家に帰っても、わたしだけや」

今まで言わなかった弱音だった。いや、言う相手がいなかっただけ。

「わがまま、なんはわかっとる」

「勝手なこというとるのもわかっとる」

「でも、もうひとりはいやなんや、だから、」

わたしの家族になってくれませんか、ともう一度、はやてが問い掛けた。

「我らごときで良ければ、喜んで」

「大歓迎や」





「主はやては?」

既に同日の夜10時を回った時間。

「もうお眠りよ。やっぱり大分疲れてたみたい」

答えたシャマルに、また違う話題をシグナムは振る。

「ところで、シャマル・・・家族とやらについて、覚えているか?」

「知っているか、と聞くところではなくて? それがどうしたの」

「答えてみたものの、どう振舞ったものかと思ってな。そうだな、何故覚えているかなどと聞いたのだろうな」

なんとなく違和感を覚えたシグナムだったが、答えは出ない。

「やってみるしかないわ。でも、きっと剣を振るよりも簡単で、とても難しいことよ」

「随分と自信がありげだな」

その指摘にシャマルは肩をすくめて答える。

「別に自信があるわけじゃないわ。そうね、私としてはいつもより楽かも、って思っただけ」




 翌日、AM1時。

「交代だぜ」

不寝番である。が、ザフィーラはヴィータを見咎めて言う。

「お前は主の護衛のみで良い、と決めたはずだが」

「そーいうズルをしてちゃ騎士らしくねーだろ。あるじはやてにはちゃんと言ってある」

ま、朝いないのはかんべんしてくれって言われたけどな、とヴィータは続けた。

「だから、あたしは朝にはきちんとベッドに戻って寝てりゃいいんだ。シグナムとシャマルにももう話はつけてあるぜ」

「話が通っているならまあ良いが」

「ところでさ、」

戻りかけのザフィーラに彼女が話を振った。

「なんだ?」

「家族って、なんだっけな」

「いずれ分かることだ」

「おめーは知ってるのかよ」

「あいにくと「つがい」はいなかったが、群れではあったからな。おぼろげには覚えている」

「そっか」

それで終わり、とばかりにザフィーラはベランダから室内に戻ってしまった。次に来るのはシャマルの予定だ。

―あなたは今、幸せですか

何か聞いたような気がして、ヴィータは周囲を見回したが、ただ、月が綺麗なだけだった。



後書き:
 母親が1人だと誰が言った? というのは冗談として・・・

医療系とか神経系とかDrハウスで聞いた言葉やグーグル先生で適当に並べてみる。神経系の生検、オソロシス。はやての麻痺ってそのままの症状で止まってても、異常が見つからないだけに医療面では検査の方で深刻な事態になってたのでは・・・と思ってしまう次第です(ハウスでも生検強行してなんかちょっと困ったことになってたし)。多分、検査の順序とかはめちゃくちゃだと思いますが。脳波関係はなんか現在でも大分進んでるみたいです。

 ザフィーラにはあえて一人称を使い分けさせてみた。代わりになんかヴィータのイメージが安定しない。シャマルに至っては表裏がある感じに仕上がってる。大分先(Strikers)にならないと回収できない伏線も仕込んだ。わかりにくいオマージュもあります。うん、八神家づくしで終わった第一話だな。



[37350] 母であること A's 2
Name: Toygun◆68ea96da ID:5a5be337
Date: 2013/08/11 22:34
2.黒き御手は嬰児の、安らかなるを守りたもう


 楽しい日々だった。便利な道具、色とりどりの服、おいしい食事、ふかふかのベッド。物は少し下がっても地方貴族レベル(と彼らは認識する)の生活がそこにあった。主が貴族であってもそんな生活はなかったように思う。あと欲しいのは少々の刺激―などと思うのはシグナムくらいであったが、それさえ完備だ。

 子どもたちが剣を振る。竹を組み合わせて作られた剣、竹刀である。

「ああ、手がそろっているぞ、右手と左手は離して」

シグナムの注意にこどもの一人が柄の持ち方を直す。

「右手に力が入りすぎだ。だから剣筋がぶれる。脇ももっとしめたほうがいい」

右利きと左利きで差が大きい子どもならではの失敗である。左手のみでの片手素振りを集中的にやれば良いのではあるが、子どもの頃からそれはどうかとも思う。騎士とはいえ盾なしの一刀使いであるシグナムだから対応できてはいるが、やはり違う流派は色々と大変だ。基礎は似たようなものだが。

「きちんと振りかぶれ、小手先では相手は・・・一本にはならんぞ」

相手は斬れん、と言いかけて言葉を直す。ここの道場は古い剣術もやっているようだが、今子どもたちに教えているのはより競技にかたむいた、剣道である。血なまぐさいことはなしだ。

「なかなか堂に入っているじゃないですか、シグナムさん」

遅れて入ってきた青年がシグナムを褒める。

「勝手が違う部分も多くてなかなかに厄介ですよ、赤星殿」

敬語はいらないって言ったじゃないですか、と青年―赤星勇吾が笑い顔で不平に聞こえない不平を言った。半分勘ではあっても、格上に敬語を使われることをよしとしない赤星と、外様ゆえに敬語なしはどうかと思うシグナムのいつものやりとりだ。

「ところで、このあと一本手合わせ願えますか?」

大学の練習のあとに道場に来ているので、あまり赤星が訪れる回数は多くなかったが、ここ最近はずいぶんと増えている。

「いいですね。あなた相手だとつい本気になってしまうので、まあほどほどで」

内容だけなら色っぽい話ともとれなくもないが、浮いた話にもならないのがこの二名のクオリティだ。彼の剣はある意味正統派の剣である。シグナムは知らないが、彼の友人にして立会い仲間の高町恭也は、自分の剣を邪剣と形容してはばからない。そしてちょうどその間に位置する剣の使い手が、シグナムであった。シグナムとしては平時でそれだけの緊張感を得られる立合いが楽しく、勇吾としても経験を積むにはもってこいの相手である。とはいえ、

「今日は観客も多い、剣道にしましょう」

居並ぶ子どもたち、ちょっとジト目で見ている道場主の師範代―赤星の叔父の一人である―に、シグナムは半分たしなめるように提案した。




 ザフィーラは最近は狼形態のことが多い。というのも、はやてが犬を飼いたかったこともあるのだが、造作もない事とはいえ、獣人形態で耳と尻尾を隠しているのは微妙に気を使う、という側面もあるためだ。それはそれで人のザフィーラと狼(対外的に大型犬)のザフィーラがいるということになるが、その件については彼いわく

「出身地域の風習ということでいいだろう。魔よけの身代わり等いくらでも前例があるしな」

とのことである。また、別の意味で外出の制約が格段に下がるというのも利点の一つだ。成人男性の一人歩きは、時間帯によってはかなり不審に思われるのである。どうせ同伴者が必要というのなら気が楽な方がいい。人形態で歩くと何かと面倒で、シャマルやシグナムと歩けば冷やかされ、今でこそ微笑ましく見られるもののヴィータと歩けば色々と誤解されたものである。逆に、はやてと出かけるときは誤解されることもなかった。その筋肉質な体つきもあって、近所では力自慢の若者で通っていた。はやてを車椅子ごと建物のエントランス階段の上まで運べば、そう認識されるというものだが。


人型をとらない利点はもう一つあった。

「ねえザフィーラ、その座り方はどうかと思うんだけれど」

言われたザフィーラは己の姿勢を見なおす。椅子は引き気味、片足はテーブルの外で体も食卓にたいして斜め気味に向けている。

「何か問題が?」

出先のレストランでのことである。

「お行儀が悪いって言ってるのよ」

見晴らしなんて気にしないけれど、席の場所も悪いし、とシャマルが愚痴る。出入り口の様子が見られて場所としては良いはずなのだが、とザフィーラは正反対の意見であった。狼形態ならこういったことはない。代わりに店の外で待つことにはなるが、そちらの方が出入り客の監視がしやすいので、彼としては願ったり叶ったりである。ところで海鳴市には、同様の癖をもつ人間があと2人いたりする。

「あなた」

「ん?ああごめんごめん」

つい現役の時の癖がね、といって士郎が妻に謝った。自分の店での、空き時間の軽い食事でもやってしまうのだから、「プロの習慣」というのはなかなか消せないものである。




「んで、騎士甲冑やな?」

「はい、形さえお決めいただければ、魔力で編むことができます」

シグナムの言葉に、

「んーそやなー」

と呟くと考え込むはやて。考えているのか、考えていないのか、さて甲冑と言えば剣やろか、いや金ぴかか、と聞く人が聞けば既製品か!と突込みが入りそうな呟きが聞こえる。ああ、クロスもええな、でも仮面まではなぁといったところで・・・

「・・・しゃーない、あれをひっぱりだすか」

「?」

「ちょお、シグナム、手伝ってや」

「はい、主」

リビングから、はやてに乞われるままに車椅子を押して2階へと上がる。着いた先予想するまでもなくはやての部屋(兼、はやてとヴィータの寝室)。早速とばかりにはやては自室の色々な引き出しを探し始める。

「あの、主?」

自室にも関わらず家捜し、といっていい行動である。

「物が物だけにな、かなり奥にしまったんや。何分、大事やけど危険なものだからなぁ」

「危険、なのですか?」

「うん、危険や。それでもみな作りたがるんや。わたしもたまに作成をつづけたくなってさがすんや」

だからできるだけ奥にしまっとる、との言葉とともに本やノート、よく分からない箱などを取り出し続けるはやて。途中、ん、と赤い箱を手にして

「そういやこなちゃんにもらってから、おっかなくって飾りもしとらんかった。参考にしよか」

と箱を別によけて彼女は作業を続行する。

「どういった危険なのですか?」

はやての言葉では、誰でも作れるように聞こえる。ならば対策が必要である、と意気込むシグナムだったが、

「実害はないで。効果もぜんぶ自分にかえってくるだけやし」

ますます疑問だけがつのる返答がもどってくる。

「お、あった。どれどれ」

ノート、だったはず、とはやてが取り出した物を注視するシグナム。ぱらぱらとはやては中身を確認しているが、シグナムからはその内容は見えない。

「んーまだ害はないようや」

「どういう条件で害があるのですか?」

「受け売りやからなんともいえんな。たとえば、表紙にベルカ語で書の名前を書くとかすると、威力は増すやろう」

書くなら闇の書に対抗して黒の書やな、とはやては言葉を続けた。

「まだ実感できへんから、受け売りの言葉しか返せんのや」

「はあ・・・中をお見せいただいても?」

「さすがにそれはできへん。他人に見せたちゅうこと自体がダメージになるとかいう話や」

「どういう術なのかはかりかねます」

「みなの間では「黒歴史」と呼ばれとる」

その後、はやてはシグナムに退出させると部屋にこもって騎士甲冑のデザインを考え始めた。途中、まだ騎士たちの武器を見ていなかったことに気づき、その日はシグナムを呼び、また違う日はヴィータを、シャマルを、ザフィーラを、と皆の装備を確認しながらデザインを考え出したわけではあるが、そのためにはやての言う「危険物」は2冊目が作成されたと言うことである。ところで、ザフィーラの騎士甲冑についてだが、

「やっぱりパクリはあかんか」

「これは・・・あの戦士像の甲冑ですか?」

「紅い」衣装を着込んだザフィーラを見て、シグナムが指摘する。

「にあうことはにあうんやけどな、ちょっとイメージからずれるわ。うん、やっぱり先に考えといたやつのほうがええやろ」

結局、新たに考え出した方の青い胴衣のごときデザインに落ち着いたのであった。





 楽しい日々だった。本当に、楽しい日々だった。こんな日がずっと続けば。その望みこそが罪だと言うのなら、その罰は私たちだけにお与えください。


そのことを知らされたのは、8月の暑い日のことだ。

「命の、危険?」

「はやてちゃんが」

「ええ」

幸恵が言葉を続ける。

「はやてちゃんの足の病状について、原因不明の神経性の麻痺だとお伝えしましたが、ここ2ヶ月で麻痺が少しずつ上に進んでいるんです」

6月始めは足首より上だった。7月半ばですねの半ばまで。そして今日は―感覚の麻痺はほぼひざにまで及んでいた。シグナムも、シャマルも気づけなかった。リハビリと称して足の動かせる部分を頻繁に動かしていたはやての姿。まだひざは動かせていたから。そう、感覚の麻痺をはやては家族に伝えていなかった。

「麻痺の進行速度も速くなっています。このままでは、内臓機能の麻痺にまで発展する危険があります」

理解はしていても理解が追いつかない。その後のことは、記憶にはあるがそれを為しているのが自分たちだという実感がなかった。






「何故!何故気づかなかった!」

腹立ち紛れに壁を殴りつけるシグナム。

「ごめん、ごめんなさい、わたし・・・」

泣きじゃくりながら謝罪の言葉さえまともに声に出せていないシャマル。ヴォルケンリッターの「冷血なる参謀」など、影も形もない。

「お前にじゃない、自分に言っている・・・」

あまりにも単純な事実に気づけなかった己の愚かさに苛立つ。闇の書の呪い、という分かっていて当然の事実を今まで意識していなかったという失態。いや、そもそも強力な使い魔を4体も抱えて人が平然としていられるのかという根本的な問題。並の魔導師では、ヴォルケンリッターを抱えればそれだけで魔導師として戦うことなど考えられない状況に陥るのは明白である。では未だその資質が未成熟な子どもであったならば。

―そして今、八神はやては闇の書とヴォルケンリッターを同時に抱えている―

シャマルの力を以ってしても、闇の書からの侵食を止める手段はなかった。いや、ひょっとすると持っているかもしれなかったが、彼らにその手段を意識することは出来なかった。何故なら彼らはそのように制限されていたから。外見年齢相応のヴィータの詰問にも、シャマルはただ首を振るだけ。諦めることに慣れてしまったかのごとき顔。


「シグナム」

狼が問いかける。すでに、取れる方法など一つしかないのは分かっている。だがそれは裏切りである。狼は言った。

「決断は将の仕事だ。だが、裏切りの対価は我ら全員が負うことだ」

ザフィーラの確認に、シグナムを肯定を返す。

「ああ、我等に出来ることは、あまりに少ない。だが、やり方は分かっている」

狼も将も、もっとも親しんだやり方でしかはやてを救うことは出来ない、と判断していた。たった一つの、とても愚かで冴えたやり方。



同日、午後7時。海鳴市オフィス街、某ビル屋上に、ヴォルケンリッターは集結していた。

「主はやての体を蝕む闇の書の呪い」

はやてにはいまだに一度しか見せていない愛剣、レヴァンティンを顕現させ、シグナムは此度の原因を告げた。

「闇の書をページを埋め、はやてちゃんを真の主として覚醒させれば」

引き継いだシャマルは方法を示した。

「病は消える。少なくとも進みは止まる」

得られるはずの結果をザフィーラが述べる。

「はやての未来を血で汚したくはないから、人殺しはしない。だけどそれ以外だったらなんだってする!」

ヴィータは制約を誓う。そして己が鎚を本来の用途で使うことを決意した。

「申し訳ありません、我が主。あなたとの誓いを、ただ一度だけ破ります」

そして、将は告げること叶わぬ謝罪を口にする。そして騎士甲冑―いや、騎士服を皆が身にまとう。はやてが作り上げてくれたそれは、見目麗しい彼らを引き立てるであろう代物だ。ただ、その顔を覆う仮面さえなければ。はやてが作った物ではなく、彼らが追加したものだ。仮面など、誰も付けたくはなかった、だがはやてを救うまでは、その正体を隠さなくてはならない。顔をさらすなどもっての他である。

「我らの不義理を、お許しください」

夜天に光が昇り、四方へと散っていった。11年の時を経て、蒐集が開始された瞬間であった。





祈るように魔力をこめる。また一つ、己の力を削りながら

続けてまた一つ、魔力をこめる。主の魔力を削りながら

「お願いだから」

卓上に並んだカートリッジ。現在でも基本とされる規格は変わっておらず、入手は容易であった。そして、シャマルは魔力を込めてそれを完成させる。しかし、守護

騎士たちの魔力は、大元を辿ればはやての魔力だ。はやての命のために、はやての命を削る矛盾。

「もう、置いていかないで」
 
知ってしまった・・・いや、覚えている、とシャマルは思った。失うということを。誰とも知れない顔がいくつも思い浮かぶ。が、それも軽い頭痛のようなものとともに霧散し、思考がクリアになる。これは何らかの思考制御だ、と冷静なシャマルが警告するが、かまわず臆病なシャマルは作業を続行する。迷い、立ち止まってしまえば自分は進めなくなる。記憶とも直感ともつかない閃きが、この枷を受け入れることで戦い続けられると判断していた。自分が自分でなくともかまわない。

「もう・・・失くしはしない」

その声に感情はない。その顔はほぼ無表情であった。ここに「冷血なる参謀」は、その姿を取り戻した。だが、その心は?それはシャマル自身にも分からない。ただ、戦えればいい。失わないために。



 のろいうさぎ。はやてに買ってもらった、ヴィータのお気に入りのぬいぐるみだ。名称からして製作者が何を考えて付けたものか、背景も不明なぬいぐるみの一つである。しかしながらバートン監督の作品が既に存在していたこともあり、時期は大分ずれていたが何らかの便乗を狙っての商品であったのだろう。いわゆるキモカワ系キャラクターである。「といざるす」で最後の一羽の展示品、それがヴィータの手に渡ったのはあくまで偶然ではあるが、一部の人間にとっては必然である。特にわざわざ海鳴まで遠征しながら購入しなかった埼玉の少女にとっては。

「リリカルな番組がなければ入手は容易、そう考えていた時期がありました。まさかああまでプレミアが付くとは・・・」

繰り返すが、背景その他特に設定されていない、奇怪なウサギである。ヴィータのお気に入りである彼だが、彼女とともにある時間はそう多いわけではない。一番よくいるのが寝室。次が居間である。外にもたまにお供することがあったのだが、公園でうるさいちびっこ達が迫ってくることがあって以来、いっしょに連れて行ってもらえなかったりする。また、ヴィータがアイスクリームを食べる時などは放り出されることもしばしば。それでも彼は不平も不満も言わない、紳士であるからだ。首の蝶ネクタイは伊達ではない。その後ミッドチルダで同デザインのぬいぐるみが売り出されるが、それはJS事件よりあとのことである。


 10月末、寒い風の吹く日のこと。午後3時も回った、公園の一角。今日も新しい方の相棒は連れずに、ヴィータはアリバイ作りに公園を闊歩する。「狩り」の前のためだろう、妙に警戒心が強くなっていて、そんな些細なことに気づけたのは。

「おい、そこの」

びくりと幼児2人が振り返る。声をかけたのも幼児だが。

「さっきからなにごちゃごちゃやってんだ」

声をかけた幼児、ヴィータの問いに、同様に幼児である女の子の1人が木の上を指差す。そこそこの高さの場所に小洒落た帽子がひとつ。帽子を被っているのも1人だけ。

「そういうことか、あたしにまかせな」

「あぶないよ!」

よく見れば双子のようである。ちらりと周囲を見回すが、離れたところにいる数人の大人たちも気づいていないようであるし、ついでに言うとこの二人に特徴の似た大人も見当たらない。ならばうるさいことを言われる前にやってしまった方が得策である。

「あの枝じゃ大人でも無理だし、下からつつくってのもな。その点あたしは軽いし、こういうのには慣れてんだ」

ま、まかせときな、と言って木を登り始めるヴィータである。願わくば、こっちに大人たちが気づかないことを祈りながら。万が一落ちた場合の保険があるからこその行動でもあるためだ。目撃者が子どもだけなら、言い包めるのも楽である。

「人助けも仕事のうち・・・」

そう言いながらも心のうちでは自嘲が混じる。目的の枝まで登りきる。あとは枝を少し揺らすだけ、と思ったが意外にしぶとい。複数の枝が引っかかっているのか揺らした程度では落ちてくれない。

「しゃーねーな」

危険度は増すが身を枝に乗せて、手を伸ばす。指先で帽子のつばを掴んだところで天地が反転した。視界にまず飛び込んできたのは自分の靴だった。そういやあの頃ははだしで登ってたな、などといつのことかも分からない思考をどこかに追いやり、目だけで周囲を見回す。目端でこちらに気づいた大人が一人、こちらに駆け出し―速い?

『けどまにあわねーな、アイゼン』

『Jawohl』

高度30cmで飛行魔法を発動、コンマ数秒だけ滞空して飛行をカット、落下する。これで2.8mからの落下が30cmからの落下に摩り替えられた。しかしながら、

「いってー!」

わざと大仰に叫んではいるが、実際に痛い。受身を取っていないし、全身で着地してしまったためだ。これくらいでどうにかなるヴィータではないが、痛いものは痛いのである。

「ちょっと君、」

「いてて、と、まってくれよ」

話しかけてきた女性を制止して、確かに掴んだはずと周囲を見回す。あった、と声に出しながら帽子を拾い上げると、土を手で払い落とす。

「ほらよ、風の強い日はあごひもをかけとけよ」

「うん、おねえちゃん」

「じゃあな、あたしはもう行くぜ」

目だけで周囲を見回せば、だいぶ注目を浴びている。三十六計逃げるに・・・なんだっけなと思考してヴィータはとっとと退散することにした。

「待って、病院に・・・」

女性の制止は無視して走り去る。守護騎士はやわではないし、こういう騒ぎに巻き込まれるのは面倒なものである。それに、もう「狩りの時間」であった。森に駆け込んで5分も走ったところで足を止めるヴィータ。追ってくる足音もない。そういえば、

「そういや、ガキどもに似てたな。Mutterか」

『es ist wahrscheinlich so(おそらくは)』

「まったくちゃんと見とけっての」

愚痴りながら騎士甲冑を展開し、そのまま飛び立つ。足音をさせずに追ってきた者に気づかぬまま。




 ほんの少しだけ場面を巻き戻してみよう。ヴィータの予想通り、声をかけてきた女性は双子の母親であった。暇で公園にいる人間も多い、ちょっとした騒ぎになっているとも言えるので、公園に来ているご近所さんが集まってくる。当然本来駆け寄るはずの人間もいる。

「流風、どうしたんだ?」

双子の父親である。

「あなた、流水と流衣を見てて!今の子を探してくる!」

そう言って流風と呼ばれた女性も森の方へ駆け出してしまった。おい、と声をかけるが妻の足の速さはよく知っていたし、娘たちをほうっておくわけにもいかないのでその場に残る。

「それで、流水、流衣。何があったんだい」

「ルミのぼうしがかぜでとばされたの」

そう言って少女は木を指差す。

「あかいかみのおねえちゃんがとってくれた」

「流水、その子にお礼は言ったかい?」

少女は首を振る。

「じゃあ、次会ったときにちゃんと言うんだ。ありがとうって」

うん、と少女は父親に頷いた。ただ、少女はまだ一つだけ告げていない。





完全なる蛇足・または有意で無意味なクロスオーバー:

 森に入り込んだ流風はすぐに少女の姿を認めたが、その走り去る速度に、離れすぎている、と思った。少しの逡巡ののち、足を地から離す。浮いている―浮いたままスライドするかのように移動し始める。それも、すべてを突っ切ってである。

「くっ」

木を通り過ぎる―己が幻であるかのようにすり抜ける際に、不快さに声を上げる。何故ここまでして追いかけるのだろう、と彼女は疑問に思った。と、

「いた」

降りてから声を、と思ったところで

『es ist wahrscheinlich so(おそらくは)』

「まったくちゃんと見とけっての」

もう一人いる?だが離れ気味の位置ではその姿は見えないようである。

「じゃ、アイゼン、あたしの甲冑を」

『yahwol』

光とともに魔法陣、と流風の目ではそうとしか取れないものが少女の足元に広がり、少女の姿が変わる。

「とっとと片付けて早いとこかえらねーとな」

そんな言葉を残して、少女―ヴィータという名前であることを、流風はすぐ知ることになる―は行ってしまった。空を飛んで。

「能・・・力者?」

彼女の知る「何か」とはどうも違うように見えて、でも能力面ではやっぱり似ているような何かに、彼女はしばらく立ち尽くしていたのだった。




後書き:
 この後のシーンにつながる伏線を仕込んでみた。まあやりたいシーンは公式で似たようなシーンが出てきちゃったんで、二番煎じになってしまいますが。クロス部分は蛇足にしてもいいし伏線にしてもいいし、というとこで。削ろうかと思ったけどそのままにしました。あとは本編側優先して書くか、番外を書くか・・・本編側ならヴィータのバトル開始の予定。



[37350] 母であること A's 3
Name: Toygun◆68ea96da ID:ddd4f597
Date: 2017/07/22 21:28
3.かくて戦いの夜が来る

再び情景は前後する。9月のある日のことだ。リビングにて緊張した面持ちで、4人がそれを見つめている。対して、その輪からやや外れたところにいるはやては気楽なものだ。

「シャマル?」

将の問い掛けに、彼女は答えた。

「結論として、このペンダント、いえ「デバイス」はミッドチルダ式のデバイスです」

「ミッドチルダ式?」

聞きなれない言葉にはやてが聞き返した。

「魔法の形式の名称です。我らの使用しているのはベルカ式、特徴として個別の対人戦に優れています」

シグナムがそれに答え、続きをシャマルがつなげた。

「ミッドチルダ式は汎用性に富む魔法形式です。近接格闘戦においてはベルカ式が有利なのですが、これが中・遠距離戦になると、射撃・砲撃の術式が豊富なミッドチルダ式の方が有利、という話が一般的です」

ほうほう、と頷くはやて。

「そして、このデバイスは戦闘用ではなく、はやてちゃんの聞いたとおり、特殊結界専用のデバイスらしいことは確かです。ミッドチルダ式とはいえ術式の構成は似たようなものになりますが、結界用の術式と、緊急用の通信プログラム程度しか入っていません」

「むしろ容量からすると、結界が重過ぎてそれ以上入れられない、というところです」

それでもそれなりに空きはあるが、戦闘用魔法をセットで入れられるほどではない、といったところだとシャマルは追加した。

「そか。で、問題がひとつあるんやけど」

「なんでありましょう、主はやて」

「わたしがこれを身につけている間、みんなはどうなるんや?」

ラインが切れるに近いレベルになる、のである。どこぞのへっぽこマスターとサーヴァントの関係に近いものになるのは明白だ。

「すぐには問題にならねーよ、はやて」

「主からの魔力だけでなく、通常の生物同様、周囲の空間からも魔力を吸収しておりますので」

ヴィータ、ザフィーラと立て続けに答えを返してくる。

「現状を考えますと、このデバイスは確かに理想的です。その魔導師の指摘どおり、魔力漏出を抑制できれば、はやてちゃんの病状になんらかの改善も見られる可能性だってあります」

「そか。問題は」

「文字通り魔法的には外界とほぼ切り離されますので、こちらからの念話も通りません。魔力感知にも引っかからないくらいです。唯一通りそうなのはこの緊急通信用プログラムですが、製作者の暗号パターンをクラックするのも大分手間ですね。いつも通り携帯電話の方が早いです」

「魔導師から聞いたとおり、一週間は様子見でしょう」


「入っていたマニュアルも訳しておきますので、あとで読んで下さい」

「なんや至れり尽くせりやな。あとがこわいわ」

「あたしもだぜ。なんか、きつねにつつまれてるような・・・」

「それは狐につままれた、だろう」

間違った言い回しをザフィーラが指摘した。



はやてとヴィータが眠りに就いた頃、3人が再び集まっていた。

「で、実際のところはどうなのだ、シャマル」

シグナムの問いにシャマルが懸念事項込みで答えた。

「物は現状では理想的、ただし闇の書の干渉がなければ、といったところよ」

「結界の再起動時、妙な揺らぎがあったように感じたが、それか?」

結界はともすれば盾でもある。シャマルの次に結界に詳しいのはザフィーラであろう。

「多分。そう洗練されている術式でもないけれど、あんな揺らぎが出るような不完全な物でもないわ」

「多少、余裕が出来た、といったところか」

「魔力面で足枷付きだけれど」

シャマルの言葉に不適に笑うシグナムが言葉を返した。

「なに、AMF下での仕事だと思えばよいだけだ」

斬るしか能が無い騎士だからな、と彼女が自嘲したところで、その話し合いは終わった。







―そして、今


支えも無き空に、一人と一匹が集う。

「どうだ?」

「いるような、いないような」

仮面で顔全体を隠しているがため、少女の声は若干くぐもっていた。

「こないだから時々でてくる妙にでかい魔力反応。あいつがつかまればいっきに20ページくらいいきそうなんだけどな」

丸い仮面―良く見れば帽子の側面についているうさぎの顔をそのまま拡大した物―をつけた少女がそう呟いた。

「しかし、罠ではないのか」

「たぶん、そうだろうな」

それぐらいの予測は誰でも思いつくものだ。もっとも、実態は違ったのだが。
不敵な顔でヴィータが笑う。

「いいかげん、足元でうろつかれるのもいやになってきたし」

しばしの思考ののち、ザフィーラは返答する。

「そうだな、管理局の探知網も近い。むしろ、ここで事を起こす方が目くらましにもなるか・・・分かれて探そう。ヴィータ、闇の書は預けておく」

「オッケー。手早くやろう」

「まだ時間はある、無理はするな」

必要性がわからない、目から鼻にかけての仮面を着けた狼―ザフィーラが言葉とともに飛び去った。それを横目で見送ると、ヴィータはグラーフアイゼンを地に向ける。

「封鎖領域、展開」

『Gefangnis der Magie(魔力封鎖)』

「そういや、あのガキどももちっとはあった感じだったな」

足しにもなんねーけどな、先の独り言を否定するかのように呟く。と、同時に、広がり続ける結界にそれが反応した。

「魔力反応、獲物みっけ!行くよ、グラーフアイゼン」

『Jawohl』

停止状態から、加速。少なくとも鳥では追いつけない領域へとヴィータは加速した。






『Caution. Emergency(緊急事態です)』

突然のレイジングハートの警告に、なのはがそちらに振り向いた瞬間、その「境界」が通り過ぎた。

「え?結界!」

『Communications down(通信断絶)』

紅い宝玉の周りに投影されたウインドウが、全て「Connection Error」を表示する。

『It apploaches at a high speed(対象、高速で接近中)』

「こっちに近づいてくる?」

状況に頭が追いついてこない。が、

「ううん、封鎖結界なら、気配とか気にしなくていいよね。行こう、レイジングハート」

『Yes,Sir』

先手を打たれているから、行動しないとだめ―小学生では考えないような思考で、なのはは行動を開始した。





『Gegenstand kommt an(対象、接近中)』

「んだと?」

反応が早い、魔導師か?との考えがよぎるヴィータだったが、

『Zu Fus wird fur eine niedrige Geschwindigkeit gemutmast.(低速のため徒歩と推測)』

パニくって外に出たか?魔導師ならば即座に臨戦態勢を整えるはずだが、

『Ein Gegenstand wird uberpruft(対象を確認)』

「ああ、あたしにも見えた」

ガキかよ、とヴィータは自分のことを棚にあげて呟く。いつもどおりに手元にシュワルベフリーゲンを出そうとして、やめた。代わりに、歩道を走ってくる子どもの前にヴィータは降りる。

「え、ウサギ?」

突然、人が「空から降りてきたって」というのに、子どもは足を止めただけだった。むしろその仮面と飾り(のろいうさぎ)に言及するほどである。


―本当にただのガキだ。平和な国で、のほほんと暮らしてるだけの。年は多分、はやてとおんなじくらいだろ。

こんなガキを襲わなきゃならねーなんて、ヴォルケンリッターも堕ちたもんだ、と思ってから彼女は気が付いた。

―堕ちた?とっくの昔に堕ち切って、底を這いずり回ってたじゃねーか。こないだまで、ちょっとだけはやてに引き上げてもらってただけ。

「これからあたしがすることは、おめーには何の理由もねぇことだ」

―もういい、もう十分だ。また底を這いずり回ってりゃいい。

「全部あたしの身勝手のせいだ」

―はやてが一緒に堕ちないように支えてりゃいい。

「恨むんならあたしだけを恨め」

「だから」

「その魔力、貰い受ける!」



言葉とともに己が得物を振り上げる。ここまでくれば、どんなに勘の鈍い人間でも防ごうとする。ただし、その防御はヴィータの想定外だった。いや、そうであったら良かったとも思っていた反応。



―グラーフアイゼンは、少女のシールドによってその動きを止められた―



「魔導師か!」

なら、幾分心は楽だ。

「いきなりおそいかかられる覚えはないんだけど!」

障壁越しの会話だが、すでにヴィータは次撃を振りかぶっている。

「言ったろ!全部あたしのせいだってな!」

わずかに一歩下がったなのはは更に多重に盾を用意する、足元でフライアーフィンを生成しながらだ。

「どこの子!いったいなんでこんなことするの?!」

追加の打撃に顔をしかめながらの問いに、

「いうかっての、アイゼン!」

ヴィータはここで初めてまともに魔法を行使した。

「テートリヒシュラーク!」

コマンドワードとともに強烈な打撃がなのはのプロテクションを襲う。だが、なのはは完成させた飛行魔法でいち早く離脱を開始していた。




 空へ、空へ。高度は力だが、まだ高度自体は上げられない。飛行方向は中心街、結界がすでに展開されているため、障害物が多い場所の方がいい。まだバリアジャケットさえ展開していないのだから。

「レイジングハート!」

『Standby Ready. Setup』

危険を承知で飛行姿勢のままセットアップ。撒いたとは言いがたいがビルの陰に入っている、チャンスは今しかなかった。そしてそれは正しかった。バリアジャケットの生成、レイジングハートの変形完了と同時にレイジングハートが警告を上げる。

『Incoming』

赤い敵影がなのはの視界にも入る。まずいと思ってなのはは急上昇に転じた。

「アイゼン!」

『Schwalbefliegen』

実体を持った誘導弾が放たれる。ループできない、と判断したなのはは降下と旋回を同時に行い、別の建物の影へと入り込むと、今度こそフルパワーで上昇に転じた。

「いい判断だが、あめえ!」

なのはの機動に、すでに誘導制御を放棄したヴィータは同様に上昇を開始していた。それと同時に

「アイゼン、カートリッジ!」
『Explosion』

ただのハンマーにはない機構がスライドし、撃発音が響き渡る。

『Raketenform』

変形を行ったハンマー部の片側が轟音を上げ始めた。

「ええ!」

サイズこそ違うが別の意味の「ロケット兵器」を目にしたなのはは、さらに速度を増した。

「逃がすかぁ!」

魔法のロケットモーターにより、さらなる加速を得たヴィータがなのはに急接近する。既に防御しかなのはに選択肢はなかった。

「おらぁ!」

構成の甘くなってしまったプロテクションがあっけなく破られ、なのはは弾き飛ばされる。だが、直後にヴィータは舌打ちをする。吹き飛ばされた先で盛大に粉塵を上げている対象と、そこから飛び出してくる6つの光弾のためだ。

「かってぇうえに、反応もいいぜ」

まだ唸りをあげていたラケーテンハンマーの力を借りて、囲むように飛来した誘導弾を振り切る。と、わずかだけ目を放してしまった敵が、己に照準を合わせていることに気が付いた。誘導しやがったな、とヴィータが悪態をついたのと使用済みのカートリッジが排出されたのは同時。

「ディバイーン」

誘導弾程度で仕留められないだろうことはなのはにとっては予想済み、

「バスター!」
『DivineBuster』

なのはは切り札を一つ切った。桃色のビームが加速を失った相手に届く。シールド展開が間に合ったのは、熟練の技のためか。だが、

「ち、重い」

シールドが崩れるギリギリで身を捻るが、砲撃の威力はヴィータの想定を上回っていた。余波に翻弄され体勢の立て直しに手間取る。かすったために左頬から頭にかけて熱い。その熱さに攻撃が非殺傷設定であったことに気付く。

「は、甘ちゃんが」

殺傷設定なら左耳ごとごっそり持っていかれているところだ。

「ない・・・?」

騎士甲冑の帽子が無い。仮面自体も破損して、その分広くなった視界に落ちていく赤い帽子が映る。

「やるじゃねーか、アイゼン!」

『Explosion』

「シュワルベフリーゲン!」

カートリッジ排出と同時に即座に形成された実体弾が高速で飛翔する、その数、3。



「さっきより速い!?」

再度上昇に転じようとしていたなのはの頭を抑えるかのように、シュワルベフリーゲンが分散しながら迫る。たまらず高度を下げたなのはは、逃げ込んだはずのビル群に「捕らえられ」、赤い影に追いつかれた。

「ラケーテンハンマー!」

撃発とほぼ同時にロケットモーターに再点火、本来の射程圏内でグラーフアイゼンが唸りを上げる。砲撃魔導師を開放空間で相手にするのは馬鹿のすること、特に接近戦を主体とする者の場合は。ここにいたって相手が自分に高度を下げさせた理由を、なのはは理解した。

「ぶちぬけぇぇ!」

とっさに張られたシールドにぶち当たるハンマー、わずか1秒でシールドが砕け散る。多重展開の暇さえない。その先端が「レイジングハート」に当たった時、なのははひるみ、手を引いてしまった。

「かっとべ!」

巧みに前進してきたヴィータが、ハンマーの支柱全体でなのはを叩き伏せる。

「きゃあぁぁ」

悲鳴とともに吹き飛ばされるなのは。レイジングハートにより即座に展開されたバリアも落下先のビルで壊れ、バリアジャケットの表層を消費してダメージを軽減するが、焼け石に水だった。医師でないなのはには明確な負傷状況など分かりはしないが、全身を打った痛みによる短期的な麻痺で、戦闘行動が取れる状況ではない。そして、気づけば相手の領域である限定空間・・・無人のビルのワンフロアだった。

「甘ちゃんが!武器をかばってどうするつもりだよ!」

遅れて来たヴィータがこの新兵(ルーキー)め、と毒づく。デバイスは相棒。しかしデバイスの破損を恐れて自身の防御を放棄するのはそれ以前の問題だ。ガコン、という動作音とともに使用済みのカートリッジが排出される。ここまでで都合3発。

「全弾使わせたことはほめてやるよ」

ポシェットから取り出したカートリッジを、アイゼンに装填する。杖を向けてくる相手の目の前ですることではない。が、杖を持つ手が震えていては牽制にもなりはしない。

「いいからもう寝とけ。おめーはよく戦った」

衝撃と痛みで、なのはは視界さえ定まらない。でも、彼女はあきらめられない。

―これで終わりなんていやだ、もっと色々なやり方だってある。

そんな思考のままなのははレイジングハートを構え続ける。そんななのはの様子に、しかたねぇな、とヴィータがグラーフアイゼンを一閃させた。張りかけたプロテクションごと打ち抜かれ、ジャケットをさらに一層消費し壁に叩き付けられるなのは。

「あ・・・く・・・」

立ち上がることも出来ず、それでもレイジングハートを掲げようとすることをやめないなのは。そして明滅を繰り返し、動作可能だと主張するデバイスに、ヴィータは諭すように語り掛ける。

「殺しはしねー、だからおまえら、もうおとなしくしてくれ」

「な・・・んで、」

「最初にいったろ、全部あたしのせいだってな」

「ないて・・・る、の?」


―泣いている?誰がだ?


つい、空気に晒されている左目のあたりを撫でる。そこに涙などありはしなかった、あるはずがないのだ。混乱した新兵の戯言、そうヴィータは決めつける。

「もう、ねろよ」

もう一度グラーフアイゼンを振り上げる。意識がない方が、蒐集の痛みも幾分ましというもの。これ以上こいつを痛めつけると、心が鈍る。だからヴィータにとってその閃光は想定外であり、救いだった。

激突音が響く。黒い戦斧が、黒鉄の伯爵を阻んでいた。

「・・・仲間か!」

赤の少女の問いに、金の少女は、静かに答えた。

「ちがう、友だちだ」

その目に怒りを湛えながら。



後書き:
 大分早く書き上げたにも関わらずなんかしっくり来なくて投稿を迷い続けた部分です(2年も迷うとは思わなかった)。描写を我流に書き換えただけで大筋本編のままですし。あとなんか影響受けすぎてFate系台詞。まあ後は後半戦の描写で迷いまくってたのもありますが。

アニメ同様区切りはこの辺でいいのかも実は迷ってた。ついでに投稿操作もなんか忘れてた上にプレビューが機能しない?(IE。FireFoxは投稿自体出来なかったような)

P.S.硬いバリア欲しいです(MMO)。無効化系バリア2枚抜かれた上に防御効果重ね掛けも気休めで体力全損。シャマルポジだから視認されると真っ先に転がされるし、チンク・クアットロ系に背後から刺されるorz



[37350] 母であること A's 4
Name: Toygun◆68ea96da ID:fa694c89
Date: 2017/09/12 00:49
4.Shuttered Skies/Shattered skies

『シグナム、聞こえる?』

シグナムが隔離捕獲結界を認識したのは帰宅中のことであった。

『…聞こえている、ついでにこちらからも見えている』

シャマルからの通信に間を置いたのは、気持ちを切り替えるためだった。こんな近くで事を起こすとは随分焦っているな、とも思考する。

『ヴィータちゃん、大分手間取ってるみたい。それと、いくつか通信を感知したわ』

感知システムだけではなく、管理局も手を広げてきている、と分割された思考が分析する。

『ついていないな』

右腕をさする。気でも抜けていたか、道場で随分といい一撃をもらってしまったためだ。

『シャマル、今のうちに撤退の経路を決めておいてくれ。どうにも嫌な感じだ』

『了解。今、ザフィーラも向かってる』

「さて、レヴァンティン」

『Jawhol!』

「始めるとするか」





 侵入位置がずれた。敵性結界相手では侵入できないパターンの他によくあるタイプだ。ランダムで結界内での出現位置が変化し、隊列を崩される。当然、中から出るのはもっと難しい。視界のはしに見えた閃光はおそらくフェイト達だ。魔力反応を追ってビルの谷間に降りていったようだ。となると、

「増援を足止めするのが仕事になるわね」

本来なら嘱託とは言え管理局員であるこちらがするべき仕事を、娘たちにも割り振らなければならないのは腹立たしいが止むを得ない。Sランクの騎士を相手にしなければならないのだから。来た、青と赤の光点。

『上方から敵よ、回避しなさい』

上方、の時点で上昇中だった3つの光点のうち、金とオレンジが散開する。もう一つの赤はそのまま上昇を続けた。スフィア形成とともに加速を開始する。

狭まる視界に散開する3名のアンノウンが見えた。手始めに3発、フォトンランサーを射出。剣の騎士はあっさっりとかわし、こちらに向き直る。抜き打ちで魔力刃を形成した。邂逅一閃。衝撃音、直刀状に形成したアークセイバーはあっけなく砕け散ったが想定済み、そのまま上昇に転じる。

「大物がかかった!」

叫びとともにシグナム―シグナム?仮面に若干人物特定に疑問を持つ―も追撃に移ってくれる。

『ごめんなさい、一人ひきつけるので手一杯になると思うから、皆無茶はしないように!』

短く肯定の返事がそれぞれからきた。さて、ここからが正念場だ。





「こちらを分散させるのが狙いか」

目元を覆う道化の面の下、ザフィーラは眉をしかめた。最初の一合が挑発の意図を持っていたのなら、ヴォルケンリッターにとっては厄介な事態である。今までの襲撃からある程度手の内(最低でも、烈火の将の傾向)が割れているものとして行動しなければならないからだ。実際のところプレシアの行動は、知識によるダメもとの挑発ではあったのだが。

『シャマル、一人姿が見えなくなった。注意しろ』

相手方の守護獣をいなしながら念話で呼びかける。

『結界の境界部にいるわ。大丈夫、十分対処できる』

「おおおぉぉ」

叫びながら突進してきた守護獣―アルフの正拳突きを左腕でそらすとそのまま右膝を上げる。腹をかばうように相手の左手がそれを阻む直前、体を後ろへとそらしながら強引に右足を振り上げた。

「くそっ!」

上方に押し退けられた形のアルフが悪態をつく。すぐさま拳や蹴撃の応酬となる。必死、の形相のアルフに対し、ザフィーラは表情を崩すことなく対応する。

―技の一つ一つはそれなりだが、経験が浅いか?

とザフィーラは推測する。と、

「くらえ!」

間合いがわずかに離れたところでオレンジの光弾がザフィーラを襲う。

「ふむ」

かわし、弾きながら体当たりをしかける。

『罠か?』

念話での彼の問いに、参謀は即座に答えた。

『そうとは思えないわ。投入戦力の質はともかく、数が少なすぎる。手を出しあぐねているといったところかしら?』

わざと弾き飛ばされたようなアルフの動きに、これはてこずりそうだ、とザフィーラは思った。



―アースラ、ブリッジ内

「くっ、内部の状態がわからない」

高速で操作パネルをタイプしていくが、埒が明かない、とクロノは思う。

「方式が違う上にジャミング自体がきついよ、クロノ君。さっき同様通信も通らない!」

「アレックス!」

「やってます!解析完了まであと少し」

「この術式・・・ベルカ式?」

解析の補助をしているリニスの横でリンディが通信を開く。

「こちらアースラ、ギャレット、聞こえる?」

『先行中のギャレット以下20名、第90管理外世界での探索任務準備中です』

「現時刻をもって先の命令による任務を破棄、至急第97管理外世界に急行してください。連続魔導師襲撃事件と思われる案件が進行中です」

『!・・・了解、半数なら何とか即座に送れます』

「かまいません」

『了解しました』

おい、長距離転送陣だ、との声が聞こえたあと通信ウィンドウが閉じられる。

「リニスさん、予備戦力の当ても出来ました、現場に急行してください」

クロノとリニスが残っていたのは敵性結界の解析のためもあるが、事態の急変に対応するためでもあった。半数とはいえ専属武装隊を呼び戻せるなら、さらに現場に戦力を上乗せしても問題は無い。

「了解しました」

リニスは席を立つと左手首の「ミニッツメイド」から呼び出したパネルを一時操作する。が、「遠隔起動処理開始」の表示に諦め、転送ポートへと急行した。




―再び結界内に戻る

 馬鹿なことをやっているのは分かっている、烈火の将相手に「斬り合い」だ。

 戦闘スタイルは相変わらず定まらず、フェンシングのように保持したままのアークセイバーで突きを繰り出す。レヴァンティンで軽く弾かれ空いたところに即座に斬撃が叩きこまれそうになるが、突きの引き戻しに左のバックラーの「打ち出し」を重ねて防御を敢行、結果右斜め後ろに弾かれるように移動する。数ヶ月の訓練でもさまにはなるものだ。さまにはなる、程度なのだが。

打ち合い後の仕切りなおしでシグナム?が仮面に覆われていない口元を緩ませる。こっちはそんな余裕もないのだが。右手のミョルニルと、形成した「バックラー」でどうにかしのいでいる状態だ。再度の打ち合いを仕掛けようとする相手に対し、「撃ち合い」へと保持状態のスフィアを前面に出す。

「無粋だな」

弾体形成と相手の刀身が「伸びる」のが同時だったが、反応は想定済み。直線に伸びる「突き」を弾きながら魔力弾を矢継ぎ早に撃ち出す。途端にたわんだ蛇腹剣は複雑にうねり始め、こちらの魔力弾を打ち消し始めた。わずかに抜けたフォトンランサーも、ほんの少しの体の動きでかわされ、魔力の無駄となる。まずい、千日手の類だ。距離を引き離そうにも彼女は「速い」

「アークセイバー」

相変わらず魔力刀身を射出手前で保持したまま。数パターンの手を考えてはいるが、ゼストに仕掛けたのと同様のペテンが通用するだろうか?それはそうと、色の合っていない仮面が気になる。シグナムはピンクと白なのに、仮面はくすんだような紅にところどころに金だ。短い触覚というか角のような意匠さえある。既視感のあるデザインではあるが思い出せない。



 魔力面はともかく、腕前では格下であることは明らかな相手だ、本来は射撃戦主体の典型的なミッドチルダ魔導師だろう、とシグナムはあたりをつける。

「となると、まんまと挑発に乗ってしまったか」

無粋と評した射撃スフィアの追加が眼前で行われる。離脱は難しいだろう、戦力の分散と時間稼ぎが目的と見るべきだ。かといって接近戦で押し切るのも難しい。盾を攻撃の手段としても用いる手練れ―というにはやや技量に問題はあるが、そういう手合いは久しぶりであり、また、右腕の鈍痛は若干の枷ともなっていたためだ。

「とはいえ、押し通る」

己が突撃と同時に光弾が殺到する。回避することなくそのすべてを斬り払い進む。ただ近づいて斬る、それこそがシグナムにとっての戦いだ。気迫とともに上段からの斬り落としに、紫の魔導師は突き上げるように魔力刀身にて応じる。なんとも付き合いの良い相手だ、だが終わりにする!

 刀身はレヴァンティンの刃の前にあっけなく砕け、苦し紛れに掲げられた杖も弾き飛ばした。あと一振りのはずだった。

「バックラー!」

空手のはずのその右手に2枚目の盾が形成される。突き出された盾と剣撃の衝突に、シグナムは顔をしかめる。そして問題は

「ブースト!」

相手の右手から弾き飛ばした杖は相手の左手に収まっていたことだ。噴出する魔力の轟音とともに予備動作なしに下から振り上げられた杖が、右腕を掠る。

幸い掠っただけである。ここにきてやっと魔導師が口を開いた。

「く、外したわね」

仕切り直しのために会話に引き込む。

「ラケーテンハンマーとはな」

にこりと笑って魔導師は答えた。

「非力な魔導師としてはズルの一つや二つないと、騎士様には追いつけないわ」

「ふ、よく言う。それだけの魔力をもってして非力とはな」

どう見てもSランクの大物だ。

「さて、順番が逆になったけれどこちら時空管理局嘱託魔導師、プレシア・テスタロッサよ。あなた―あなたたちには魔導師襲撃事件について色々と聞きたいことがあるので投降を勧めたいところなのだけれど」

ふ、と笑って答えてやる。痛みも治まってきたきたところだ。

「愚問だな」

「よね。せめて仮面の下は拝みたいところだけれど…時間切れね」

急激な魔力の高まりが結界中心部側で発生した。

「何だ!?」

「救援に来て助けられてりゃ世話ないわね」

直後、桃色の閃光が天へと伸びた。それが結界を破壊するものであることは一目瞭然だった。

「この勝負、預けておくとしよう」

「期待しないでおくわ」




 すれ違いざまに互いにデバイスを交わす。魔力刃は3度目で砕け散った。やっぱり実体があるベルカ式の方が打ち合いには便利だ、とフェイトは思う。とはいえ再度の打ち合いに備えアークセイバーを再形成、同時にフォトンスフィアも形成した。相手が鉄球を生成したのも同時だった。鉄球の射出を確認してからフェイトはスタートを切る。遅れて曳航するスフィアから弾体を射出し始めた。

 3発の鉄球のうち2発を打ち消し、最後の一発を回避してからのすれ違い。これは互いに空振りに終わった。「視界外の視界」で赤い幼女と鉄球が左右に散開するのを「視認」する。

「誘導弾のわりにはやい。ちょっとめんどう」

得物については長さの面では同様だが、そのもので打撃を行える相手と、魔力刃の大鎌として打ち合う自分とでは取り回しの面で不利だった。相手の身の小ささもあって懐に入られると厄介である。

「でも、やりようはある」

加速を含め、速度はフェイトの方が上だった。高速でのすれ違いを繰り返しながら並行して術を「ばらまく」。軌道をずらし、戻して5度目。

「な!バインド!」

再加速前の相手の左腕をリングバインドが捉えた。ばらまいた残りの6つを即座に破棄し、遠隔でバインドを投射する。追加でさらに3つ。これで拘束は完了した。

「武装を解除して投降して」

10分ほど前ならそのままアークセイバーで斬りつけていたかもしれないが、速度で劣っていても互角の空中戦を繰り広げるヴィータに、フェイトの頭は冷えていた。

「は、だれがするかよ!」

「警告はしたよ」
『Caution!』

バルディッシュを構え斬りかかる直前、戦斧そのものが警告を上げる。視界内に挿入されたマーカーが手の甲をこちらに向けた相手の左手をチェック。直後に速度を稼いだ鉄球がヴィータの右手の先から姿を現した。苦し紛れの抵抗、そう判断して高速で旋回してくる鉄球を避けるが、それが悪手だった。

「そんな!」

回避行動でヴィータから距離を離してしまったために対応は完全に後手に回った。外れたはずの鉄球がさらに方向を変えヴィータの右手首わずか上を通過したのだ。自由になった右腕―デバイスがさらに鉄球を形成する。

「まずい!」

別々の軌道で向かってくる3発の鉄球を反射的に迎撃して、フェイトは完全に鉄槌の騎士の術中に嵌った。わずかに軌道をずらした鉄球がフォトンランサーを躱してフェイトとはまったく違う方向へそれていく事に疑問を覚えた直後、フォトンランサーが相手の左腕、右足、左足へ突き進みリングバインドへと着弾。慌てて逃がすまいと接近するが、相手の姿が轟音とともに消える。

『Above!』

バルディッシュの警告に上昇をかけるが、追いつけない。

『Unknown's Device transformed』

飛行魔法以外にデバイスが魔力を推進力に変換して速度を強化している事実に気が付く。追いすがるのは却って不利、と判断したフェイトは身をそらすように逆方向にループを開始した。






曇天をさらに覆う「雲」。その「閉じられた空」の下、光が行き交い、ぶつかり合う。
彼女はその光景を、結界による複製ビルの屋上から見上げていた。ユーノがくれた優しい光が彼女を癒し続けるが、その光のドームから踏み出せば冷たい天球が皆と同様に彼女を閉じ込め続けることは分かっていた。


―助けなきゃ

歪んだ決意。

しかしレイジングハートの観測から戦況は膠着状態なのは明らかだ。ならば自分しか事態を変えられる人間はいない。

「わたしがみんなを助けなきゃ」

声に出された決意に、従者は答える。

『Master』

「レイジングハート?」

コアまわりににさえ損傷を抱えながら、「主たるものの力」たる杖はその形態を変化させる。

『Shooting Mode, acceleration』

結界相手ならば奥の手があるでしょう、と翼を広げて杖は告げた。

『Let's shoot it, Star Light Breaker』

「そんな・・・むりだよ、そんな状態じゃ!」

『We can be shot,Master.Trust Me,we can be shot』

数瞬ためらった、だが一つの情景が心を決めさせた

「・・・あの子、ないてた」

『Sure, she can break me, but didn't do so』

杖の肯定に、なのははレイジングハートを構える。

「話、きかなきゃ」

『Program start, cout down 』

『 9 』

「いたいよ」

『 8 』

「でも」

『 7 』

「なにもしらないで」

『 6 』

「うらむなんてできない」

『 5 』

「だからきくの」

『 4 』

『 3 』

「あの子の名前も!」

『 2 』

『 1 』

カウントゼロ、なのははそれを口にする。

「スターライト!」

『Starlight・・・Starlight・・・Star・・・light・・・』

「レイジングハート?」

やっぱりだめなの?と思った直後、『Breaker』とレイジングハートは命令を「実行」した。諦めかけ、力が抜けかけたなのはにとってそのタイミングは悪かったと言っていい。

「っ、ブレーカー!」

コマンドワードとともに暴発のように噴出する光の奔流。反動に体勢は崩れかける。なんとか立て直そうと足掻いて、1歩、また1歩と後退する。そんな時だった。背筋に、寒気が。鼓動が、止まるような感覚。いや、止まった。心臓ではなく、その「器官」が。

 ぞぶり、と背中から貫かれた。「戦場」には似つかわしくない綺麗な手。人を貫くなんて、到底思えない手が、自分の胸から生えていたた。その指先に、小さな光球を伴って。

これは何?

答えはすぐにやってきた。何かを吸い上げられる感覚。いつの間にか開かれた「手」の先で、急速に光を失っていく光球。

「あああああああああぁぁぁぁぁ」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

20以上に分割された思考のほとんどが「痛み」に支配される。それでも残った冷静な意識は、術式を放棄しない。まだ、まだ足りない。結界はまだ破れていない。無意識のうちに、また1歩、後退。

見ることさえも止めたくなる痛みの中、光の奔流の勢いが失われつつあることに気付き、なのはは何をされているのか理解した。

魔力を吸い取られてる!だめ、まだだめ!

そこからの彼女の行為は自殺行為と言っていい。急速に減少していく己の魔力さえも術式を駆使して魔力収束の維持を続けたのだ。2つの術式による暴虐的な収奪に、光球は輝きを失っていく。

みんなを助けるの!

その皆が、何のためにここに来たか、と言うことを、既になのはは失念していた。なのはは何十秒も己の最大の術を維持していたかのように感じた。すぐに限界が訪れることは分かっていた。「手」に魔力を吸い尽くされるか、それとも自分自身で使い尽くすか。だが、破滅の予感が首をもたげてくる直前に、片方の収奪がいきなり停止した。「手」が閉じられ、逆回しのように胸の中へと引き戻されていく。直後、いきなり威力を増した光線の為に姿勢を崩し、後ろに倒れこむ。光の奔流の前に砕け散る結界を前に、なのはは術式を杖ごと放棄する。スターライトブレーカー開始から、ここまで25秒。発動時間は7秒だった。問題は、倒れこむ「先」がなかったこと。彼女はそれに気が付くことなく、意識を失った。









「砲撃!?」

上空に向かって放たれる一撃は結界境界部のユーノからも視認できた。直後に位相のズレが戻り始めるのを感知。

「いけない!」

戦闘開始時の時間帯からするとこのまま通常空間に戻るのはまずい、そう判断したユーノは即座に隔離結界を展開する。直ちに同じ範囲が緑色の結界に覆われる。完了するやいなやユーノは砲撃地点に飛び立つ。砲撃がスターライトブレイカーだったから。なのはが砲撃を行わなければならなかった時点でまずい事態に違いない、そう確信したが故の行動だった。




「結界の再展開を確認!ミッドチルダ式、通常の隔離結界です」

「ユーノだな、助かった」

一般人が多数外出している時間帯で結界なしは色々とまずい。コンソールを高速で操作しながらクロノはそんな考えを並列思考の片隅においやる。目的のものはまだ目にしていない。複数の現在進行形の映像がサーチャーより送られてくる。まだだ。

「医療班!負傷者の受け入れ態勢は!?」







 すごい魔力の奔流に、思わず手を止めてしまう。それは相手も同じだった。

「なんて砲撃だ。」

「これで終わりだね。すぐに結界は破れる。あとは・・・」

「そう簡単に行くと思って・・・」

赤い魔導師の目がこちらから逸れた。わたしの後ろ、ずっと下の方へ。なのはのいる筈のビルの屋上。

振り向いたわたしの目に映ったのは、杖から手を放して「屋上の外へ」と倒れこむなのは。

「なのは!」
「ばっかやろぉ!」

スタートは同時。一気に最大速度に引っ張り上げた。赤い魔導師も並行して急降下していく。それでも、わたしの方が速い。速い、でも。

20階建て、45m、落下までの時間を計算したバルディッシュが冷酷な結果を思考へと挿入する。0.3秒。0.3秒、間に合わない。

「カートリッジ、リロード!」

高速で繰り返された撃発音と一緒に、赤い魔導師は赤熱しているかのように赤い魔力を撒き散らしながらわたしを追い抜いていった。既にわたしも、ビルの向こう側に落ちたなのはを目に捕らえている、きっと赤い魔導師も。

 なのはをいじめたのに、なんで、あなたが助けに行くの?

そんな問いをかけたくなった。でも、わたしでは間に合わない。それでも落ちていくことをわたしはやめなかった。既に地上まで数m、減速もなしに赤い魔導師は突っ込んでいく。飛行角度の修正もせずに!だめ、それじゃ助からない!赤い魔導師がなのはを捕まえる。減速は間に合わない。角度も駄目。そんな状況に、彼女が取った行動は、力技。

  シールドの多重展開

くるりと姿勢を入れ替えて、なのはを抱えたまま背中から自分の展開したシールドに突っ込んでいく。その勢いと衝撃に耐えられなかったシールドが彼女に突き破られる。結果、減速。それでも足りなくて、結局はアスファルトに激突。瞬間的に展開されたシールドで、さらに衝撃を緩和?バウンド。2度バウンドを繰り返して、格子の下ろされたショーウィンドウに突っ込んだ。


「なのは!」


犯人の生死なんてどうでもいい、なのはが無事かどうかだけが、そのとき、わたしにとって重要だった。そして、着地したわたしは、一歩も進めなくなった。こわかったのだ、『なのはの生死』を確かめなければいけないということが。


 あまりにも身近に『死』が迫ってきていたと言うことが


動けなくなったわたしの耳に、ガラスを踏みしめる音が入ってくる。それは、ひどくゆっくりだった。めちゃくちゃになったショーウィンドウから、眠ったままのなのはが顔を出した。その寝顔はなんだかとてもきれいで、少なくとも、直前に頭によぎった、『地上に激突したなのは』じゃなかった。

『Master,confirmed the biological reaction. She is safe(マスター、生体反応を確認しました。無事です。)』

バルディシュの報告に、へたりこんでしまった。勇気も気力も、とっくに使い果たしてしまったから。でも、休んでいられなかった。

「おい!とっとこっちにきてこいつを受け取れ!重いんだよ!」

姿の見えなかった赤い魔導師がどなる。ああ、なのはに隠れて見えなかったのか。





 高空から流星よろしく降下したギャレットたちは散開する4つの光を目にしたが、直後に消えていく光に転送反応の記録のみに留め、隔離結界へと突入する。ほぼ同時刻にアースラにてクロノ・ハラオウンはサーチャーから甲冑の騎士が手にする闇の書を存在を確認した。わずかに早く突入していたリニスも、残念ながら守護騎士と目される相手との邂逅はならず、先に突入した人員の安否確認を行うことになった。

「プレシア?」

『ストレッチャーを持ってきてくれない?』

戦闘の残滓に各員の位置を特定しきれず、念話で問いかけての返答がこれだった。直後に信号弾よろしくビル群の一角からフォトンランサーが打ち上げられた。ギャレット他数人とリニスが急行すると、地べたに横たえられたなのは、そばに座り込んだフェイト、そしてメディカルプログラムのコンソールを左手で操作しているプレシアを確認した。

「呼吸・脈拍は正常。複数個所に打撲。幸い頭部は打っていないし、骨折もないけれど。あとは、魔力の枯渇とまではいかないけれど、彼女のランクからすると危険域レベルまで魔力が減少しているわね」

その言葉に同行していた衛生担当達がストレッチャーを取り出す。再チェックののち、ゆっくりとなのはをストレッチャーに載せ固定する。

「ユーノ君にアルフさんは?」

ギャレットが尋ねる。

「隔離結界の維持にまわってるわ。結界破壊の砲撃直後だったから、外縁部に不安定な箇所が多いそうよ。で、フェイト?」

「はい・・・」

「立てる?」

「ちょっと・・・むり」

その言葉を聞くとコンソールを閉じてプレシアがフェイトの方へと歩みを進める。

「リニスも手伝って」

左腕をフェイトに差し伸べるプレシアに、反対側からフェイトを引き上げながらリニスが問いかけた。

「プレシア、右腕を負傷しているのですか?」

「騎士級と打ち合ったせいで、まともに筋力が残ってないのよ」

デバイスを待機形態にしているのもそのせいである。どうにか立たせるものの、運ばれていくなのはを目にしてまたよろけるフェイトに、プレシアは自分の身に掴まらせることにして飛行魔法を発動した。2人も先に戻らせる事にしてギャレットは残りの隊員及びリニスと現場検証を開始する。ふと、焼けたような金属の匂いに、視線動かすリニス。

「ギャレット隊長」

リニスの呼びかけにギャレットが振り向く。リニスがミニッツメイドで撮影した先を見ると、

「・・・それは、ベルカ式の?」

「ええ、カートリッジですね」

撃発後のカートリッジは余剰魔力で一度高温になりやすい。アルフほどではないものの、その嗅覚がその臭いに反応した。開拓されていない世界で使用されたなら発見に苦労しただろうが、都市部・隔離結界内と言うのが幸いした。すぐさま貴重な証拠品を回収するものの、それを少し眺めた隊員がため息をついた。

「メーカーロゴ・規格の刻印も無し、ノーブランドですね。素材の解析から追ってくしかなさそうですが」

「工場自体残ってるかも微妙か」

はるか昔からの統一規格製品である。次元世界規格の工作機械なら工作室レベルの設備で製造が可能だ。あえて手がかりとして使うなら、工作機械自体の特定だが。

「長引きそうだな、この案件」

ギャレットの感想に隊員一同、同じ気持であった。





グギギギギ

およそXX染色体の存在があげてはいけないような声を上げつつうずくまるヴィータである。

「シャマルを待て。それはそうと黙ってはいられんか?」

そういうシグナムも、右腕を2、3度動かし、顔をしかめる。この場で五体満足なのはザフィーラくらいであった。

「あいつ・・・おせ、え、な!」

「苦しいならあまりしゃべるな。見ていて痛々しい」

息も絶え絶えに悪態をつくヴィータに、ザフィーラが苦言を呈する。その声も暗い森の中、響くことなく消えていく。本来なら命あふれる森なのであるが、殺気の漏れ気味な3人に、動物たちは息をひそめていた。そんな中、カシャンと音が響く。

「!」

左腕で音源に剣を向けるシグナム。が、ザフィーラは動かないままだ。

「私よ」

カシャカシャと金属音をさせて現れたシャマルは、偽装のレベルが高すぎた。

「おい、ずいぶんと洒落た鎧じゃないか」

シグナムのからかいに不機嫌そうな声でシャマルが答える。

「冗談は良して」

漆黒のスーツアーマー―男性用を無理やり作り変えたような甲冑に頭頂部に飾りのついたフルヘルムである。胴部のラインから辛うじて女性であることが分かる程度。

「その鎧」

ザフィーラの問いにシャマルが答える。

「私だと偽装優先で装甲としてはあまり意味ないわ。本当に装甲化したら動きが鈍り過ぎるし。で、一番重症なのはヴィータちゃんみたいね。でも、助かったわ」

「あ、たりめえだ!あの、ばか」

状況的に「落下事故」はシャマルの失態とも言えた。もっとも、それ以上にヴィータはなのはの自分を省みない行動に怒りを覚えていたが。

「はいはい、しゃべらないで。今治療するから」

解ける様に黒い鎧が消え去ると、即座にシャマルは治癒魔法を発動させる。視認可能な傷は文字通り消えるかの如く治ったものの、

「しかしヴィータ、お前のそのざまをどう説明したものか」

単純な傷に比べ、打撲の類は治癒魔法を使ってもしばらく痛みが残る場合が多い。神経系が簡単には「痛み」という危険信号を消さないためだ。あらゆる動きがぎこちないヴィータに、はやてにどう説明したものかとシグナムが思案する。

「木か…おち…」

「はい?」

「だ、から!木からおちた!」

と叫んでから痛みで七転八倒するヴィータ。芯の痛みは数日は残るだろう。

『体に響くなら念話を使え』

ザフィーラの指摘に転がったままのヴィータが返す。

『木からおちた。ガキの帽子が飛ばされてひっかかってさ・・・』

「おせっかいにも取りに行ってしくじったと」

シグナムの指摘に結果は出したとばかりにヴィータが反論する。

『きっちり木から取り返してやったぜ』

「そういうことなら言い訳も立ちそうね…落ちたけどやせ我慢して帰ってきた、って感じかしら」

「大事を取って少し様子を見た、という形で良いな」

「大分時間押しているしな。戻るとするか」





 やや遅くなった八神家の夕食であったが、突発的なアクシデント、という説明にならしゃーない、とはやては機嫌を悪くすることはなかった。が、ヴィータにつきっきりである。もちろんそうなる前に非常に心配されたのではあるが、シャマルの「痛み以外はほぼ問題なし」という説明にある意味はやては開き直った。まあ無茶をしたヴィータに罰を与えるという側面もあるが、

「はい、あーん」

正直なところヴィータとしては食べるのも億劫であったが、魔力供給が絞られている以上食事でも取り返さないことには話にならない。しかし、

(この状況、うれしいけどギガはずい!)

はやて手ずからのお世話である。断る選択肢などないが、対面に座ったシグナムの視線にヴィータは非常にむかついた。だが、

「む」

そのシグナムもいきなり箸を取り落とすというポカをやらかす。

「シグナム?」

不具合部分をかばった動作と言うのものは、気付かれやすい。ごまかしは効かないと見て彼女は理由をそのまま告げた。

「昼間に師範代から籠手のいいのをいただきまして。竹刀といえど、単純な打撃で見れば侮れませんね」

「みな無茶しすぎやで。もっと体をだいじにせな」

「肝に命じます」

「それじゃ反省も済んだことだし、シグナム。はい」

隣からから突き出された唐揚げに、とまどうシグナム。

「いや、シャマル、とりあえず治療をな『待て、腕の負傷の話でヴィータの負傷具合をごまかすだけではなかったのか!』」

「もうしたわよ?感覚が戻るまでのタイムラグがあるんだから、あきらめて世話されなさい『これもその一環だけど?大体強化無しとはいえ一般人に遅れをとった上に魔導師に同じ場所に打撃を受けるとか鈍ってるんじゃない?でもなんかいいわ、こういうの』」

『いやだからといってこれは。待て、貴様この状況を楽しんでいるだろう!』

『騒がしいぞ、烈火の。食事時は念話の出力を抑えろ』

抗議を続けようとするシグナムに狼形態のザフィーラが苦情を入れる。

「なんかえーな、こういうの。あ、そやザフィーラ。こっちの皿の、ちょっと味付けおさえめにしてみたんや。たべてみん?」

薄味にしたという里芋の煮っ転がしにザフィーラは床から身を起こす。

「頂きましょう」

主はやてが楽しんでいるのである。守護騎士であるならば文句を言う状況ではなかった。


後書き:
 手こずりまくった後半部分。こっちがまともに出来なくて前半部の投稿自体控えてた次第です。タイトルのShutteredは意図的な誤用もどき。閉じられた空ならclosedやshutなどになるようで、Shutteredだと「シャッターで閉まった状態」と限定されるのだとか。エースコンバットのはShattered skiesで「砕かれた空」だそうで。調べるまで知らなかったorz

 大分前に書いた部分と最近書いた部分とで差が出てると思います。場面転換も頻繁でsideとか使わなかったんで多分大分読みにくい。まあ「母であること A's 2」の伏線は回収したしいいかな。ヴィータはミスもあるけど本質的に戦上手。シグナムの行動がちょっと間抜けすぎたかなーと。最後もポンコツ化してシャマルの手のひらの上で踊ってるし。

 仮面というか偽装についてはネタに走った。反省はしない。

P.S.プレシアさんがなんか動いてくれない?いや、他のキャラの自己主張が激しいのか。



[37350] 母であること A's 5
Name: Toygun◆68ea96da ID:ab7a3fba
Date: 2018/04/18 22:46
5.命の価値は?


 時空管理局本局にて。現在時刻は地球・日本時間にして午後7時10分である。なのはは既に病室にて治療を受けたとのことである。打撲のレベルは重度ではなかったが、どこまで治療しただろう?

 空間に浮かんだホロキーボードをタイプする。思考入力というのもいいが並列処理で誤動作すると二つの文書が混ざるなどざらで、文書作成では実際にタイプする人間の方が多い。まあ頻繁に使用する文をキーに思考で目まぐるしく変更して割り当てたりと刻一刻とカスタマイズ自由なため、ハードウェアとしてのキーボードでは太刀打ち出来ないのであるが。

 正直言って今回の戦闘は期待されている結果を出していない、と言われても仕方ないだろう。とはいえただ数値的にニアSランクを投入したからと言って簡単に結果が出るなどと言う考えをされても困る。ただし、個人的な目的もあったわけだが。

「暗躍していると言われても文句は言えないか」

それはそうと戦闘映像を見直して気付いたが、どうもシグナムは片腕に不調を抱えていた節がある。戦闘中に気付けなかったのがプロとアマチュアの違いか。本業ではない、と言い訳しても仕方ないが。

「この程度が烈火の将の強さと思われても困るし、注釈でも入れておかないと」

甘く見て武装隊全滅、とか洒落にならない。報告書の下書きまでは書きあげて、少し頭を切り替える。戦闘データ自体は解析プログラムに放り込んで放置だ。端末のモードをチェック、勤務中につき艦内ネットワーク限定なのを見て理由込みで外部接続の許可を申請する。接続先は第32管理世界「アリア」、及び地球だ。しばらくして通信が入る。どうも他にも用事があるらしい。

『プレシア?』

「申請は見たでしょ?宿泊予定先にキャンセル入れておきたいのよ。忘れて大事になっても困るし」

今度は向こうからも捜索の船が出されかねない。

『ああ、そうね』

「それに桃子に連絡入れておかないと。正直今からでも遅いくらいね」

『そちらは既に済ませたわ』

おや、仕事が速い。しかしリンディから連絡ということは、フェレットの飼い主としてのクロノを口実に使ったのかな?

『ひと段落ついたらブリッジまで来てくれる?ちょっと厄介な事がね』

「了解」

 アースラのネットワークを介して私物の携帯端末を接続する。まずはオンラインでのキャンセル処理をし(まだ日はあったもののキャンセル料も発生した)、続いてホテル「カニグラ」をコールする。他愛もない挨拶に世間話をすること数分。またの機会に、との言葉を担当者と交わして接続を切る。

「無事片が付いたら、他のみんなも招待するのもいいか?」

あれ、口調が崩れてる。ストレスかな?少々懐に痛い思い付きでもあるし、家族旅行が連続でふいになってるのもあるせいかも―そんな思考をしつつ、報告書の体裁だけ整え、艦内ネットワークにアップロードする。細部についてはチェックを入れてもらうとしよう。




「えーと、ダグラス・ボニー、14歳。無許可渡航の件で2週間の奉仕活動、と」

担当官の言葉に頷くダグ。

「そんなに恐縮することはないよ、ダグラス君。まあ、若い頃は色々あるもんだ。かくいう私も息子には大分手を焼かされてね。とはいえ、今回はちょっとついてないかな?」

年配の担当官の言葉に思わず口を開く。

「何がついていないのかよく分からないんですが」

少なくとも自業自得の話である。

「今回は無限書庫での書籍整理しか残ってなくてね。実のところこれが一番きつい」

「はぁ」

まったく実感がわかずにダグラスは生返事を返すが、担当官はいたってマイペースに続けた。

「うちのバカ息子も無限書庫行きになってからは馬鹿が鳴りを潜めるようになったんで、身に染みると言う点ではついてる、とも言えるかな」

事務所で足踏みしていても仕方がない、とばかりに現場に行ってみる。ダグの目から見るとそこは最低でも演習場であった。バリアジャケットで完全武装状態の魔導師、正確に言うとベルカの騎士と武装シスター達が本に圧倒されているのである。それも0G空間で。


「騎士スターム、エノク書ってどのジャンルになりますかぁ!」

見つけた本を片手に修道服の少女が叫ぶ。

「シスターレイン!検索に引っかかったんなら類似書に振り分けてくれ!」

対する騎士は中年と言うには若いが、中間管理職的に疲れた顔をした男だ。アッシュグレイの髪をぐしゃぐしゃとかき乱しながら直後に登録の上がった「エノク書」の概要をチェックする。



「なんだよ、この闇の書100の秘密ってのは・・・」

うんざりしたような顔で元あった場所へ、与太話しかない本を投げつける騎士ホーク。代わりに検索魔法に引っかかった本をアルケミックチェーンを投射して引き寄せる。どれも人を殴り殺せそうな凶悪な本ばかりで、引き寄せのコントロールを間違えれば自滅しそうである。空いた片手でシガレットを取り出すと、口にくわえたところで受付で預けさせられた輸入物のライターに思い当たる。

「あ、くそっ。もちっとマシな情報はねえのか?」

火のない煙草をくわえたまま、彼は検索魔法を再使用した。


その隣、とはいえ20mは離れた空間ではその同僚ラウロが羊皮紙に埋もれていた。無造作に検索対象を引き寄せた結果である。

「このプログラムリストはなんだ・・・どうやって羊皮紙に出力したんだ!」

データメディアではないどころかプリントアウトさえ困難としか思えない羊皮紙の山に印刷されたコード群である。リーディング系の術式がなければ確実に投げ出すかいっそ燃やしてなかったことにしてしまったかもしれない代物だ。片っ端から術式で取りこもうと術式を起動しかけたところに警告が飛ぶ。

「コード類はあっちの専用デバイスにぶちこめ!自前のデバイスに取り込んで暴走なんぞさせたら丸一日練兵場走らせるぞ!」

大小種類を問わず集めて来たのか、記録用端末も多岐にわたって浮かんでいた。動作状態の確認のためか、各機器のセーフティが魔法陣状態で展開されていたりと、通常ではやらないような処置もされている。ベルカ式のためダグには読み取りづらくはあったが、部外者にも「実行権限をロック中」と分かるレベルには表示されていた。


などの喧騒に唖然としていると、

「ああ、奉仕活動の子だね、こっち来て。向こうは別件だから」

にこやかな表情をした常駐の司書に声をかけられる。思考が再起動したダグは思わず聞いてしまうが、司書は親切にも答えた。

「あれ、なんなんです?」

「聖王教会から派遣されてきたチームだよ、闇の書関係の資料を探しに来たとか」

「闇の書・・・」

ここでもか、とダグは因縁の深さに愕然とする。

「すいません、お願いがあります」

ダグの言葉に、担当官も司書も、怪訝そうな表情を向ける。

「俺にもあっちの仕事、やらせてください」

思いの外、大きな声で言ってしまったらしい。目の前の大人たちだけではなく、騎士たちも自分を見ていた。担当官が慌ててダグの経歴ファイルの付帯事項を見る。特徴的な記載を見て彼は難色を示した。

「んー、気持ちは分かるがね、あっちはそれなりに」

「坊主、ミッド式か?」

いつの間にかこちらに近づいて来ていた騎士ホークが尋ねた。通常はベルカ式かと尋ねるところだろうが、今回は事情が違うらしい。

「最近はサボり気味だけど、前に親父に叩きこまれた。手伝いくらいはなんとかできると思う」

「俺は両方かじってるんだが、他の連中は近代ベルカとはいえベルカオンリーだ。ミッド式でプロテクトのかかった書物も多くてな、手こずってる」

近代ベルカとはいえ書式の癖などはミッド式とは大分違う。

「オレ、ちょうどプロテクト破り込みで馬鹿やったところで」

片道だったとしてもトランスポーターのセキュリティをごまかさなければ無許可渡航など出来はしないのである。そんなダグにホークは逆立てた髪を揺らしながら笑い、ダグの肩をたたく。

「ちょうどいいじゃねえか。悪い、こいつ借りてくぜ」

ええ!と担当官が声を上げるがくたびれた表情で後から来たスタームがその場で仕上げた申請書を提示した。本人もやる気、受け入れ先も拒否せず、その上奉仕活動の中身はあまり制限されていない。助けを求めるように担当官は司書を見るが、

「彼の安全に留意するなら、こちらからは何も言うことはないですよ」

とのことである。持ち込まれた機材のセキュリティの固さ、騎士たちの慎重な仕事ぶりからすると司書としては素人の一人や二人、放り込んでも問題はないとの判断だった。

「多少の無理はさせるかもしれんが、無茶はさせねえ」

むしろやろうとしたら殴るからな、とホークは付け加える。

「レッド・ホークだ。レッドでもホークでも好きなように呼んでくれ」

「ダグラス・ボニーです。ダグでいいですよ、ホークさん」

「それじゃダグ、ついてこい」

はい、とどこかうれしそうについて行くダグに、担当官と騎士スタームはどうしてこうなった、と言わんばかりにため息をついた。




記録映像―ああ、まいったな、これは。

「まいったわね」

「事情を全部話すしかないわね。通常レベルの負傷ならともかく、これじゃあね」

先ほどからリプレイされているのは、バルディッシュが記録していた映像である。なのはが屋上の外に倒れ込み、直後になのはを追うように急激に視界がズーム、ではなく視界の持ち主であるフェイトが急加速している。

「現場責任者として私は当然として、指揮者としてクロノ、総指揮官としてあなた、最低でも3人で行くのが筋よね」

「ええ、そうね」

「土下座で済めばいいけど」

お役所的な補償問題は既に発生していてエイミィが申請書類を作成済みだ。あとは誰が殴られ役をやるかの問題といったところだ。そこまで血の気の多い面々でもはないだろうが、高町家は武闘派である。特に恭也は読めない。

「それと、今回の捜査、彼女はもう戦力としてカウント出来ないかも」

あの家族のことだ。しばらくはなのはは外出も出来ないかもしれない。

「やっぱり?」

日本びいきのリンディなら関連資料などとっくにチェック済みだろうが、出来れば違う意見が欲しかったのだろう。

「地球ではあの子の権利は、その安全が重視されるなら制限されるのが普通よ。そもそも仕事が出来ることにはなっていないわね」

翠屋でのお手伝いは稀な例外の類であって、正式な就職などありえない話だ。

ああ、それにしても

「プレシア?」

苛立つ私にリンディが問いかけた

「フェイトに話を聞きもしなかった自分に腹が立ったのよ」

そもそもビルの屋上ではなく、道路上で合流した時点で異常に気付くべきだったとも言える。任務と言う面で見れば襲撃者=闇の書の守護騎士という確定情報がない時点で要救助者の優先度が上がる以上、なのはの位置を確認しなかったのも落ち度だ。自分だけが知っている情報に振り回されていると言っても過言ではあるまい。



 地球・日本時間にして午後8時半。小学生の帰宅時間としては遅い。リンディが呼び鈴を鳴らす直前にガラガラと士郎と恭也が戸を開けて顔を出す。一瞬面食らうものの彼女はすぐさま口を開いた。

「夜分まで娘さんを引き留めてしまい申し訳ありません」

しかしながら、リンディにクロノ、プレシアにアレックスと大所帯での訪問である。当然、これだけでは終わらないだろうことは高町家もすぐにわかった。

「何やらそれ以外の話もありそうですね」

「夜分の訪問の上にこの人数ですみませんが、報告しなければならないことが多くありまして、出来ましたらお時間をいただけると嬉しいのですが」

何やら重大そうな雰囲気に、高町家リビングに全員集合、からの

「この度は娘さんを危険な目に遭わせる結果となってしまい、申し訳ありませんでした」

全員土下座である。

「事態が飲み込めないんだが、説明はしていただけるんですね」

肝心の娘がどこからどう見ても無事にしか見えず、何が起きたのかまったく把握できないのだ。実際のところは自然治癒に任せる部分もあったため、打撲の影響はなのはに残ってはいたのだが、普段の動きの鈍さからかろうじて高町家の武芸者連中に気付かれないレベルであった。さて、その桃子の問いに、リンディはアレックスに合図を送る。

「少々長いですが、問題の部分込みの映像です」

空間に映像が投影される。この時点で少しだけ驚くで済むのが高町家である。月村家との付き合いは伊達ではないというより、そういうものかとまず区切りを付けて対処法を考える人間ばかりが集まっているためである。

「空中戦か・・・フェイトちゃんまでいるじゃないか」

「アルフは粗削りだな。大分手玉に取られてる」

「きょーちゃん、プレシアさん相手ならわたし勝てるよね?」

「甘いな、お前は御神の割にまだ剣筋が素直すぎるからな。どっかでペテンに引っかかるぞ」

「美由希はなぁ・・・筋はいいが、経験不足だ。同じ土俵に立たせてもらったとしても、紅い子相手でもやばいと思うぞ」

士郎にまで駄目出しをくらい肩を落とす美由季であった。

「すみません、前振りが長すぎました」

「いえ、大体は把握できましたし。最初の時点で娘が参加しているのは分かりましたし」

「それも問題となるはずですが、問題はそこではありません」

アレックスの言葉にちょうどそのシーンとなった。砲撃、落ちていくなのは。流石にこの時点で桃子と美由季は顔面蒼白、士郎と恭也も無表情と化す。

「この通り、我々は対応できませんでした。あまつさえ娘さんを助けたのは、相手方です」

この時点で、高町家も半分フリーズした。

「すまない、リンディさん。娘が死ぬところだったのは分かる。それ以外が全く分からん。掻い摘んででもいいので、説明してくれないか」

「分かりました」

そして説明は約30分に及び、

「発端はなのはが襲われたことで、同様の事件が多発していたためパトロール中だったリンディさんたちが現場に急行した、と」

美由季の言葉を恭也が引き継ぐ。

「非番だったプレシアさんも近場まで来ていたため同様に現場に急行し、犯人グループと交戦。フェイトちゃんたちまで参加してるのはいささか納得がいかないがまあそれはさておき、」

それを士郎がまとめる。

「なのはが手を出して自滅、リンディさんたちは対応できず、犯人に何故か助けられてなのはは無事、と」

アレックスが士郎の言葉に肯定を示す。

「経緯としてはそうなります」

ここで高町家はうーんとうなってしまう。なまじ自分たちも治安機関の知り合いがいたり、その依頼で動いたりとかで、なのはが危険にさらされたのは確かであっても責める相手がいない、という心境になってしまっているのだ。高町の大人にとっては責めるとしては犯人たち、というのが結論となる。ただし、怒るべき相手はいるのだが。

「とりあえず、あれは無茶だったんですよね」

何がとは言わないが、士郎の問いにアレックスはすぐに答えた。

「・・・解析の結果ですが、攻撃を受けながらの砲撃です。士官学校時代、色々な事例を見せられましたけど、当然無茶の部類ですね」

「恭也、なのはを叱るのはお前に任せる。お前なら良くわかってるだろう?」

無茶をやった馬鹿、ということである。叱るの言葉にびくっとなのはが震えるが、それ以上は動かない。

「良くわかってるよ、とーさん。それとやっぱりなのはは俺の妹だな」

笑ってるともなんともつかない表情で感慨深げに恭也が言った。それに士郎も続く。

「俺も昔はやらかしたしなぁ」

「私も加わるわよ、士郎さん」

「かーさんもか。まあ当然だろうな。実のところ俺や恭也だとちゃんと叱れるかわからないんだ」

桃子の参戦になのははびくりと震え顔を上げた。実のところ、桃子に叱られた記憶がないのだ。だから、考えが、

「なんで・・・」

なのはの考えがずれていく前に、声が響いた。

「プレシア?」

その声がプレシアのものと気付き、リンディが声をかけるが、

「なんで、そんなに平静でいられるのよ」

『彼らの知る普段のプレシア』とは、それはまるで違って見えた。

「分かってるの、「娘が死ぬ」ところだったのよ、それなのにあなたたち、なんで」

正座していたアースラグループの中で、いつの間にか一人立ち上がって、絞り出すように声を上げていた。なのはなどは呆然とそれを見上げて、同時に

「なんでそんなに、わたしのときは」

震えて自身を掻き抱くプレシアをどこかで見たように思い、

「あの子のときは・・・」

なのはは今、自分は叱られているのだと感じてしまった。

「・・・ごめんなさい、少し混乱したみたい」

急にいつものような声で、プレシアは謝罪する。混乱というよりは糾弾、それもお門違いか逆切れの類の筈なのだが、クロノがそれに助け舟を出す。

「戦闘後の興奮が遅れてやってくる場合もあります。僕も経験がありますので」

「でも困ったわね」

思案気味に首をかしげる桃子に、リンディは問いかける。

「桃子さん?」

「言いたいことは大体言われちゃったようなものだから」

「んーまあそうだなぁ。プレシアさんの方が普通寄りってわけか」

同様に頭をかかえている士郎。と、すくっと立ち上がった恭也が顔を上げたままのなのはにデコピンをかました。

「イタっ」

「今夜は略式で説明もかねてすますぞ、この馬鹿妹が」

「お兄ちゃん?」

こういった時の恭也はとても毒舌だ。色々とグサグサと刺さる言葉を放ってくる。

「いいか、俺もとーさんも、ひいては美由季もどっちかというと今のリンディさんみたいな物事に首をつっこんだりしてる人間だ、だからお前のことを危険なことに首を突っ込んで死にかけた、と普通には叱ってやれん。というのもそれが必要な事だったと理解してしまうからだ。ここまではいいか?」

「あ、うん」

「あえて叱るとしたら実力を超えた事をやって死にかけた部分だ、そういうのは俺もとーさんも経験があるから、多分やれる、しかしそれでは駄目だ」

「なん・・・イタっ」

ここで再びデコピンである。

「まったく理解力のない妹だ、さすが国語2のことはある」

「それは今かんけいないの!」

「大ありだ馬鹿め、国語力が低いと言うことは相手の言葉を理解していない場合があると言うことだ、少しは改善せんか。まあ横道にずれたが続けるぞ。そう言ったずれた叱り方ではなく、本来あるべき『子供が危険なことに首を突っ込んだ』、この点を叱れるのがうちだと桃子かーさんだけだ、ということがなのはにわかるか?」

「たぶん、わかるの」

「ふん、さっき叱っても分からなかっただろう」

「そんなこと」

なのはの否定を続けさせず、恭也は畳みかけた。

「さっきのプレシアさんの顔を見て分かるようになった、だろう、なのは?」

「え」

「さっきみたいな顔をしたかーさんを、なのはは見たいか?」

「あ」

気付いてしまった。先ほどのプレシアの顔をどこで見たか。病室で、目を覚まさない父の横で待つ母の顔と同じだった。

「ごめんなさい」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

土下座からのテープレコーダー状態である。多分顔を上げたらハイライトはない。

「恭ちゃん、やりすぎ」

「多分足りない」

「は?」

美由季の突っ込みに恭也が返した言葉に、士郎が気の抜けた声を上げた。

「運動神経がないくせに首を突っ込んだあげく、相手が撤退するほどの決め手をぶち込む才能のある馬鹿が、この程度で足りる訳ないだろう、とーさん」

あげく現場を離れて耄碌したな、と士郎に追い打ちをかける始末である。

「ああ、うん、そうだなぁ。皆そんな奴らばかりだった」

剣の才能はないのになのはもか、と士郎はぼやき、

「かーさん、ごめん。きっちり教えとかないと、なのはは駄目みたいだ」

「士郎さん?」

にこやかに笑っているが、怒り心頭の桃子である。連れ子の恭也のケガ、実は実の子ではない上に厳しい修行で色々あった美由季、仕事の関係で一時期昏睡状態にあった士郎、etc。恭也は向こう側に未だに首を突っ込んでいる上に、ここに来てなのはもである。待つことしか選べない人間としては、それは正当な怒りだ。

「かーさんの言いたいことは分かる、でもこれは無理だ。何よりやばいのが、俺たちが分からない才能をなのはが持っちまってる」

言葉では理解できる、だが感情は否である。だから、一縷の望みをかけて桃子は問いかける。

「ねえ、なのは」

びくっとなのはが震えた。

「今日は大変な目にあったのよね」

ゆっくりと顔を上げたなのはが首を縦に振った。

「じゃあ、もうやめにしましょう、危ないことは」

リンディはこの時点でため息を飲み込んだ。これは桃子にとって当然の権利であるし、友人としてならば当然賛成するべきことだからだ。リンディ自身、可能ならばクロノを前線から引かせたいのであるし。だがしかし、

「ごめんなさい、おかーさん」

「なのは、それはいったい」

どういうごめんなさいなのか、という問いをなのはは遮った。

「わたし、あの子とお話ししてない」

その目は、据わっていた。

「あの子?」

「わたしをおそった子」

「話って・・・」

クロノさえもこれには呆れる他はない。自分を襲ってきた相手と何を話そうというのか。しかし、それが彼女のたった一つのやり方である。

「なあ、なのは、相手は犯罪者なんだろう?いったい何を聞こうというんだ?」

一応無駄だと思いつつも、士郎が穏やかに聞いた。返答は、一歩も引かないという意思表明でしかなかった。

「そんなことどうでもいいの、あの子、ずっとないてたから」

「?」

リンディが疑問を持った。

「泣いてた、か」

プレシアは疑問にさえ思いもしないのだが。

「すみません、なのはさん、泣いてたって、守護騎士が?」

「うらめなんて言われてもうらめない!あんななきそうな顔で自分だけうらめなんて・・・だから話をきくの!」

恭也はやれやれと首を振って、美由季の方を見た。美由季は眼鏡いっぱいに広がるかのように目を見開いていたわけだが。

「わかったろう、一番始末に負えない馬鹿ってやつが」

なお、翌日もお説教であったことは言うまでもない。







数日後のことである。穏やかな日差しの中、公園で子供たちが遊んでいる。

「なんや、ヴィータはいかんのか」

「恩着せがましいのは嫌いなんだよ」

ベンチの横に止められた車椅子と、それに座るはやて。そのベンチに、両手を背もたれに広げるように少々行儀悪く、ヴィータは腰かけていた。口に加えたアイスキャンディーが更に行儀の悪さを物語っている。これが煙草をくわえた背広の中年で、隣のはやても妙齢の美女となればどこぞのハードボイルド作品だったろうが、残念ながらどちらも幼女の類である。

「まあ助けて名乗らず、とかかっこええわな」

「面倒は少ない方がいいだろ」

なお、ザフィーラははやての足元に伏せている。何もしていないように見える彼は

『けっこうページを稼げた、と言いたいところなんだけど、あの子から蒐集出来たのは17ページってところね。むちゃくちゃよ、あの子』

井戸端会議に参加しているシャマルと念話にて会話していた。

『「魔力を吸い取られている」て分かっていながら、あの砲撃に魔力をさらに注ぎ込んだのよ!仕方ないから蒐集は中断したわ』

『殺すわけにはいかんからな』

同じ相手からは蒐集出来ないとはいえ、不殺をつらぬく以上、諦めも肝心である。

『向こうの戦力の多さが少し気になるな』

『やっぱり近場は駄目よね』

「ねえ、君」

「あ?」

突然声をかけられたヴィータは、キャンディーを手にすると返事とは言えないような声を返した。

「ヴィータ、ひとさまに返事するのにそれはないと思うで」

「わるい、ちょっとぼーっとしてた」

「あ、おねーちゃんだ」
「うん、そうだね」

「ああ、お前らか」

この間の、飛んで行った帽子を回収してやった双子である。名乗らずとかかっこいいとか早くも崩れていた。

「やっぱり、きみ、っ」

急に女性がはやてのそばから飛びのいた。

「うん?どないしました」

「ごめんなさい、大型犬、苦手なの」

その言葉に、ザフィーラはゆっくりと立ち上がると、ベンチの裏側に歩いて行ってしまう。

「え」

「うちのザフィーラは賢いですから」

「そうみたいね。昔、すごい頭のいい子がいて、その子なら平気になったんだけどね。きっと同じくらい賢いみたいだね」

そんな会話の横で、双子と話を続けるヴィータである。

「お前らまた帽子とばされるんじゃねーぞ」

「うん、このあいだはありがとう。わたし、ルミだよ」
「ありがとう、わたしはルイだよ」

「・・・あたしはヴィータだ」

調子狂うな、と言わんばかりにため息をつくヴィータに、

「ためいきをつくとしあわせがにげちゃうよ?」

双子の片割れが言うものの、

「ひとつふたつのため息で逃げるようなのは幸せじゃねーよ」

と彼女は意味不明に言い返す。

「けがはない?」

女性の問いにも

「ちょっと着地をしくじっただけだって、問題ねーって」

という有様である。

「やせ我慢やなぁ」

「やっぱり。どれくらいのけがだったの?」

「そっちは問題ありませんでした。うちは腕のいい看護師さんがおりますし」

「あたしは頑丈なんだよ」

「本人、素直じゃないですけど、まあ悪い子じゃないんで」

「ほんと、何かあったらうちにも言ってね?」

という女性と、はやては連絡先をやり取りする。

「はい、その時はよろしゅうお願いします」

「じゃーね」
「またね」

手を振りながらの双子とともに女性は去っていった。途中、こちらに戻って来るシャマルとすれ違い、軽く会釈などしている。

「お帰り、シャマル」

「先ほどの方は?」

「ご近所の当麻さんや。この間、ヴィータが帽子を木から取り戻したちゅーあれや」

「ああ、なるほど」

『今の女性』

「あ?」

『魔力、結構あるわね』

「!」

「ヴィータ?どないしたん」

「・・・なんでもねーよ」

ろくでもない話に、彼女は主にはすっとぼけることにした。ついでに参謀に釘をさす。

『やめてくれよ、そーいうのは』

『ヴィータ?』

突撃思考のヴィータのまるで逆な返答に、ザフィーラも訝しむ。

『近すぎるだろう、いくらなんでもよ。そりゃあたしがミスったのはあるけどよ』

ヴィータの指摘に、車椅子を押し始めたシャマルがはっと息をのむ。

「シャマル?」

「あ、なんか忘れ物したかと、一瞬考えちゃいまして」

はやての問いにとっさに言葉を返しながら、ヴィータにも念話を返す。

『ごめんなさい、ヴィータちゃん。今度はわたしが焦り過ぎたみたい』

『ほんとやめようぜ、そーいうのは』

がう、と同意するようにザフィーラがうなる。

ほんとろくでもないからよ、と口だけ動かしたヴィータの言葉は、誰の耳にも届かなかった。



後書き:

 前前話あたりから泣いてたとかが繰り返し出てきて少々くどいかな? ついでにこれ、ヴィータヒロインじゃね?みたいな。

脇役が増える増える。新規で出た連中で性格設定が大体出来てるのはレッドとスタームだけ(未発表のやつのキャラの流用)。レッドは以前出たバロウズとキャラ被りしてる感じに見えますが、特に問題なし。実際の違いを書けるかは・・・またあとで出せそうなんで書けそうです。

羊皮紙へのプログラムコードの出力方法:現代ミッドに住んでいるとベルカ系でもミッド的思考になりがちです。規格化されていない紙にはそれに対応できるプリンターを、みたいに考えてしまうでしょう。一方古代ベルカは、傀儡兵を使いました。完成された機械の速度と耐久性で手書きする機械出力方式。


最後に、古いネタだけど、車椅子の少女に犬、飛んでくる鉄球、腕だけ出現するって、全部遭遇させたらトラウマえぐり過ぎだと思った。



[37350] 母であること A's 番外(NG ver)
Name: Toygun◆68ea96da ID:ab7a3fba
Date: 2018/04/19 01:26
番外:和平の使者は槍を持たない・NG ver


「あのさ…ベルカの諺にこう言うのがあんだよ、「和平の使者なら槍は持たない」。話し合いをするのに武器を持ってくるヤツがいるかって」

「おそってきた子がそれをいう?!」

おもわず声を荒げるなのは。

「紅の、それは諺ではなく小噺のオチだ」

「ああ、そうだったな」

「ええ、そうでしたねぇ、いつの間にやらオチ扱いでしたね・・・」

ザフィーラの指摘に、シグナムもシャマルも同調している。

「な、なんだよ、みんなして、こまけーことはいいだろ」

ここで全身甲冑のシャマルが、ヘルムの奥からでも突き刺さるような眼光をヴィータに向けた。

「細かいですか、言うに欠いて細かいことですか。槍くらいあってもいいじゃないですか、こっちは準備万端だったんですよ」

その剣幕に仮面を被ったシグナムがかぶりを振る。

「湖の騎士よ、頼むからあのことは忘れてほしいのだが。槍を持てと言っても、私には無理な相談だ」

「紅の、この話はあまり吹聴するな。これは大人向けの小噺のオチだ。しかも当事者がそこにいるらしい」

「なんだよ、盾!あたしはガキじゃねーぞ」


「あんなにさっそうと現れて、決闘だって優雅に勝っておいて、それで槍がない?!詐欺よ、いくらなんでもひどすぎるわ!わたしのときめきを返しなさいよ!」


『あの甲冑、女性ですか・・・』

エイミィの指摘に、プレシアが答える。

「小噺の内容も大体わかったわ、宝塚系をバレ話に改変したような類ね」

シグナムがシャマルの抗議に反論を返す。

「確かに使者に志願したのは私だがな、私を勝手に男だと勘違いして舞い上がったのはそちらだぞ。湖にもお前の父君にも無理だと何度も言ったではないか」

「おまけにお前の弟は決闘を仕掛けてくるし、ひどい目にあったのは私の方だ。大体兄上たちはもう婚約者がいたから無理だったが、弟なら紹介できると言ったではないか」

「あなたの弟って、まだ5歳だったじゃないですか!成人を待っていたら行き遅れ確定でしょう!人でなし!」

「今でこそお前の方が上に見えるが、あの時お前は12だろう。7歳差くらい、どうということもないだろう。一つ上の兄もそんな感じで結婚していたぞ」

「ちがうんです!烈火はなんでそんなにデリカシーがないんですか!槍がないのに男前で変なところでデリカシーがないとか今でも詐欺じゃないですか!そうやってまたどこかで哀れな犠牲者を生み出してるのよ!この女たらし!」

「おい待て、言うに事欠いて女の私に向って女たらしとは何だ!」

「お隣のグラニアに向かいのグウェン、3つ飛んだ先のデライラもみーんな惚れさせておいて袖にしたあなたが女たらしでなくてなんだというの!」

ここでシグナムガチで焦る。3人のおそらく女性の名前が出たが、本当に記憶にない。いや、そういうことではあればその場で断ったはずだ。

「みんなあなたに恋文を出して、すげなく断られて私のところに相談に来たのよ!グウェンなんて国境向こう側なのにうちに来てこう言ったのよ。『あの方を射止めるにはどうすればよいのでしょう』って」

「思わず目と耳を疑ったわよ、父上のところに引きずっていったわ、そしたらよりにもよって」

「どうしたの?」

思わず身を乗り出して聞いてしまうなのはに、真顔で聞き耳を立てているフェイトである。

「『色恋沙汰に国境を持ち出す野暮は我がベンウィックにも、好敵手たるオディオンにもおらんよ。まあ話くらい聞いてやれ』ですって、あのクソおやじ!あれは絶対楽しんでいたわ!」

「そういう状況だから単騎で私が使者としてたどり着けた訳なんだが・・・あと、あれはただの女同士の文通だったはずだ。恋文などもらったことはないぞ」

「だからデリカシーがないっ」

真後ろから首元に打撃を加えられて沈黙するシャマルと、それを抱えるザフィーラであった。

「すまんが、後日に仕切り直す。それと烈火よ」

「なんだ」

「もう少し周りを見ないと、今生では女人に刺されるぞ。そういうのを大分見て来たのでな」

「すまんが、本当に分からないのだ」

「・・・引き上げるか、この話はそれからにしよう」




翌日、聖祥屋上にて

「ねー、アリサちゃん、女の人なのに女たらしって人、見たことある?」

いきなりのろくでもない問いに、牛乳を噴き出すアリサであった。



後書き:ほのぼの日常系禁断症状からシグ×シャマギャグが出来上がったので投稿。いずれ小噺自体を書きたいが、ありがちな話だし誰か書いてもいいんやで?


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