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[36851] 【チラシ裏から】機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2015/09/14 05:22
3年間00劇場版の空白の50年間を想像して、習作として書きました。
このサイト最初の投稿なのでよろしくお願いします。

注意点
1・長編ではなく一話完結のオムニバス形式
2・人間より兵器が主役
3・上記1と2の通り、機動戦士ガンダム00V戦記を参考にしました
4・なるべく原作の設定に準拠しましたが、二次創作故どこかで矛盾するかもしれません
5・4の通りなので厳しい評価を受ける覚悟をしています

追加・小説投稿サイト「ハーメルン」にも本作品の投稿を開始しました

現時点での予定している大まかな流れはこの通りです。

部   時代     出来事     機体
第1部 2317年  旧人類軍決起 ELS戦時と同じ
第2部 2324年頃 紛争拡大   擬似太陽炉普及 世代交代
第3部 2344年頃 全面戦争   ツインドライブ普及と連邦最初の純正太陽炉

習作で完結できるかわかりませんが、知識とあるかもしれない応援を糧に頑張ります!


3月3日より更新履歴を設置
2013/3/1から3/3まで各話誤字と文章の列を修正
2013/3/3の昼に第2話と更新履歴の文章を修正
2013/3/6に第4話の文章を修正、各話のメカ設定を編纂、世界設定を削除(後に編纂予定)
2013/3/7に兵器設定にフェラータの意味を追加
2013/3/24に第6話題名の誤字削除
2013/3/26に兵器設定1の題名に追加
2013/3/27に時代設定の題名を修正
2013/3/31にその他板に板変更、タイトル修正
2013/4/22に兵器設定3の文章追加
2013/5/1に更新履歴の修正と第13話文章追記
2013/5/28に第9話タイトル追記
2013/6/16に第2部兵器設定1の一部修正と追記
2013/7/27に第18話加筆
2013/8/7に第18話設定年代変更
2013/9/17に第20話加筆、第2部兵器設定2修正と順序整理
2013/9/26に第21話加筆
2014/1/2に第2部兵器設定集を修正
2014/2/22に第2部第31話の文章誤字修正
2014/2/28に第2部第32話の文章誤字修正
2014/2/28に第2部第33話の文章誤字修正
2014/3/8に第2部第31、2話のガンダムの形式番号修正
2014/4/5に第2部第12、35話文章誤字修正、18話タイトル追記
2014/4/7に第2部構成を整理
2014/6/28に第2部兵器設定6の誤字修正
2014/7/26に第2部兵器設定6のペルセウス説明に追記
2014/11/17に第2部38話の文章修正
2015/5/20に第2部42話を加筆修正
2015/7/5に第2部43話文章修正
2015/8/10に第2部兵器設定8を文章修正・追記
2015/8/11に第2部44話加筆修正
2015/9/14に第2部44話修正



[36851] 第1部 第1話 GN-XIII無人型
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/06 22:37
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第1話 GN-XIII無人型

得体の知れない恐怖というのは、一度感じればそれをすぐに拭えないものである。
人がこの世に生を受けて存在し朽ち果てる過程で、多くの恐怖を感じる。
苦痛、不安がほとんどだが、細かく分けると本が出来る程の内容に仕上がるだろう。
遥か昔、木から草原に移り、世界中に広がり、そして宇宙に飛び立っても、
人の身体に刻み込まれた感情から恐怖はなくならない。
恐怖は思考と行動を阻む足かせであると共に、己の身を守る為の心なのだ。



黒一色の宇宙空間に幾束のビームが何度も飛んだ。
それらは、その先より突き進む物質の塊を、圧縮されたGN粒子の凄まじい熱で瞬時に蒸発させる。

「こちらフェイロンリーダー。デブリ粉砕を完了。」
「フェイロンチームよりこちらアマゾンタワー基地司令部。状況を確認した。
 四散した破片の3%はオービタルリングに直撃するが、質量共に粉砕の必要はない。引き続き哨戒を継続せよ。」
「フェイロンリーダー、了解」

報告を済ませるとモニターより司令部とのテレビ通信を切った。
Eセンサーに異常な反応は見られない。あるのは部下達の乗る2機のGN-XIVのみだ。

これで12度目のデブリ粉砕となる。スクランブルも、となると17度も増える。
最初の4度目までの哨戒では、絶え間なくデブリが地球の重力に引き寄せられ、
うんざりするほどビームで撃ち落し、時には薙ぎ払ったものだった。
3回もあったスクランブル出撃は全てこの頃に行ってきた。

大抵のデブリはMSや艦艇の破片でビームで落とせる程度の大きさだが、
時には艦船まるごとの残骸やその一部、果てはGNミサイルやらまで降って来た。
そうした突如出現したデブリは、1ヶ月前の金属生命体ELSとの戦いのせいだ。

「てめぇらのせいで・・・・・・」

正面モニターに視線を戻した先に浮かぶ、巨大な花びらに俺は睨みつけた。
忌々しいそいつに毒づく。

木星探査船エウロパの地球圏接近から始まった人類未曾有の危機。それがELS戦だ。
そいつらは地球に降り立ち次第あちこちで市民に被害を与え、
続けさまに木星から何万何億もの凄まじい大群がこの地球に押し寄せてきた。

あの時、オレはオービタルリング上に展開した最終防衛線に配属された。
L2のソレスタルビーイング号を中核に、宇宙艦隊からなる絶対防衛線とは別で、
こっちは地球からかき集めた連邦軍、それも予備役とかPMCの連中までもそこに送り込んだ。
地上や予備の3大国の旧式MSと数少ないGN-X系、新造の戦闘艦にありとあらゆる試作兵器と、
持てる限りの、集められる限りの大戦力は、MSだけでも1500機を超える大規模なものだ。

だがいざ迎え撃った連邦軍は壊滅状態になり果てた。
たった30分足らずで50%も戦力を失い、絶対防衛線の方じゃ80%以上という凄惨な有様だった。

無論俺達は手を抜いた訳ではない。ましてや棒立ちでいたなんて馬鹿はやっちゃいない。
地球を、市民の命を、彼らの生活を支える軌道エレベーターを守るため、
俺達は敵を道連れにするつもりで、粉骨砕身の覚悟で、侵略者に立ち向かった。
そんなこっちの死に物狂いの思いを嘲笑うように、奴らは必死の攻撃をものとせずに押し寄せた。
撃ち落しても焼き払っても後から次々押し寄せ、俺達を飲み込もうとしたのだ。
その怪物は俺達のMSや兵器を真似て触れれば取り込まれるという反則ものだ。
これ以上行かせまいと阻む同胞達を、
奴らは次々四方八方からビームで撃ち落し、あるいは突進で取り込む。

極寒と灼熱の宇宙空間に耐えられるパイロットスーツを纏っているのに寒気がする。
鳥肌が立つ。汗が滲み出て肌と下着、スーツとの着心地を悪くしていく。

オレはあの悪夢を思い出す。
金属でできたオブジェはとても生き物とは思えない。

絶対防衛線は突破され、最終防衛線の突破は寸前の時、
ELSは侵略をやめて惑星サイズの本体に全部集まっていった。
その際に形を変えたのが、今オレが睨んでるでかい宇宙の花びらなのだ。

次々思い浮かんでくる押し寄せるELSの大群で、オレはもうひとつ思い出した。
スクランブルで出た時にも同じ恐怖を感じたんだった。
あれはGNX-607T/NP GN-XIII無人型の部隊を始めてお目にかかった時の事だ。
オレは愛機のGN-XIVで降り注ぐデブリを落としながら、部下にあれこれ「避けろ」だの指示していた。
あの時の部下達はMS操縦に慣れただけの、20歳前後の新人パイロットだった。
ELS戦で大半が失われ今や貴重になった熟練パイロットの一員にあたるオレだが、
あの戦いの時は訓練を終えたばかりのひよっこだった。こいつらと同じく・・・・・・。
厳しくも導いてくれた隊長の大尉はオレを庇ってビームに焼かれた。
少尉は戦ってる内に誤って小型ELSの群れに飛び込み、そのまま金属に塊にされた。

一人だけ生き残っただけで熟練兵扱いされ、すぐ隊長にされたオレが指揮に苦労している横で、
あの無人のGN-XIII達は無駄なく破砕に回る姿が奴らと重なって見えた。

一秒の狂いもなく揃いに揃ってGNロングビームライフルを横隊で一斉発射する姿・・・、
彼我の物量差が10倍多いデブリを全て一機で正確に撃ち落す姿・・・・・・。

決して死を恐れず迷うこと無く、状況に対応できる姿は、ほとんど駒そのものである。
人間のように長い年月をかけて大切に育てる必要はなく、
作って稼動テストに合格すればすぐに戦いに出せて、
しかもエースパイロットと同じくらいの強さを誇る即席の兵士がそれらだ。

これだけ立ち回れるのなら俺達がいらなくなるのではないか?
オレ達はこの先どうやって戦っていけば良いのか?
どこでどう食い扶持を得て生きていけば良いのか?
もしそうなったら戦争はどうなるのか?

パイロットがいらなくなったとしても、良い未来が来るようには思えない。
良い方に思いたくない事はないが、一瞬の悪い予想が希望を楽観に錯覚させる。
全く良い気分しない。不快でそうなってほしくないが、冷徹な予測はそうなるかもしれないと下す。
不測の事態に備えるのが軍人の義務であるオレ達にとって、希望的観測など気を弛ませる邪魔者なのだ。
冷徹な思考から導き出された答えは、どれも自分達の存在意義が揺らぐものばかり。
脳裏での動揺はやがて本能的に防衛の感情が湧き上がった。

こちらを一日足らずで滅ぼせる金属のエイリアンが目の前に、己の立場を脅かす存在が隣にいる。
どっちも恐怖を感じさせるそいつらと隣り合わせのオレは、
ただひたすら後ろにいる市民の為に地球防衛の志でどうにか存在意義を保つ。

おっと考え事をまたしちまった。
上官としてオレはまだ未熟だなこりゃ。

「あと3時間で帰還だ!気の緩みなく警戒に尽力しろ!
 デブリの回収は進んでるとはいえ、まだ残ってるんだからな!」

毎度だが軍人に必要な喝を飛ばし、部隊全員の引き締めを図る。

「了解!」
「了解!」

オレとそう変わらない若者達の元気な声が返ってくる。
ELS戦を見て地球防衛に燃える若き鷲達の、可能性のあるそんな声だ。



[36851]      第2話 ドニエプル級防空巡洋艦
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/06 22:38
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2話 ドニエプル級防空巡洋艦

24世紀は人類の革新の世紀である。
革新といえば、農業、産業革命、宇宙進出などいくらでもあるように思える。
だが種としてのそれは、この時が、人は文明を発達させて始めてだった。
大小の程度はあれ変革には必ず反動が来るものだ。
農業は文明を生み出したが、貧富の差と戦争、犯罪を生み出した。
産業革命は生活を豊かにしたが、地球規模の環境破壊と先進国と後進国の摩擦、戦争の激化を生んだ。
そして人類の変革は、理解と無理解、統合と分離を生む事になる。
しかし忘れてはならない。
反動は革新を遂げる過程で避けては通れない痛みだという事を。



最新鋭の防空巡洋艦ドニエプルが、政府の要人を護衛対象に乗せて目的地のコロニーに向かう最中の事だった。
金属異星体ELS襲来とイノベイター増加が重なって以来、
戦乱から開放されたばかりの地球に再び暗雲が立ち込めた。
宇宙開発の進行による人類の進出は、宇宙犯罪の発生へと繋がった。

資材と財産を狙った宇宙海賊の襲撃、イノベイターを狙ったテロなどがこの所増加の一途を辿っている。
地球から上がった宇宙移民の第一波の安全を守るのに、連邦軍が直々に動かなければならない状況だ。
とはいえ、連邦政府の要人をわざわざ巡洋艦に乗せるなど、護衛戦力が過剰に強力すぎる。
これほど厳重にしたのは、イノベイターとELSの融合体、対話の窓口である唯一の要人なのだ。

「所属不明勢力、ヘリオン系6機で構成」

オペレーターの状況報告に、席に腰を掛けていた艦長はカメラから映し出されたモニターに睨み付ける。

「本艦への応答はどうだ?」
「未だにありません。・・・ミサイル発射を確認!弾数6発!」
「迎撃せよ!これより敵性勢力と認定する!」

先程から前方よりセンサーに反応したMS群に、何度もコンタクトをかけ所属を明かしに呼びかけてきた。
だがそれらの試みを無視され、こちらに攻撃をかけてきたのだ。
相手は恐らくテロリスト達の集まりか、宇宙海賊なのだろう。
コンタクトを拒み攻撃を仕掛けたならば、こちらが武力でねじ伏せるのが当然の道理だ。

「GN対艦ミサイル2発発射!全弾近接信管に設定!ミサイル群を一網打尽にしろ!」
「左発射機よりミサイル2発発射!近接信管に設定完了!」

サイドスラスター前方の前方より、オレンジ色のGN粒子を噴出しながら2発ミサイルが飛び放たれた。
粒子の筋を描いた遥か先に火球が6つ、近距離炸裂で全てのミサイルを撃墜させた。
その矢先、火の玉から白い煙があがり、たちまち艦の先に壁のように立ちふさがった。

このスモークで敵は何がしたいのか?嫌がらせか?次の策を隠す為か?

「取り舵一杯!スモークの中に入るな!」

民間の船ではない、完全武装の巡洋艦を相手にしている敵だ。
ただの犯罪者達が正規軍に正面から殴り込む辺り、ただの特攻でも自殺願望でもない。
こちらを沈める為の策があるだろう。

「第2MS小隊、左舷より展開しろ!右舷は警戒を厳にして、展開が終わり次第GNフィールドを張れ!」

艦長の命令はまずブリッジのクルーによって全クルーに伝えられる。
指揮官より下された命令に、個々はその担当の中で遂行し始めた。
脅威が確認されない左舷より、艦載機のGN-XIVコアファイター搭載型3機が一斉に宇宙に放たれた。
臨機応変に動けるMS小隊とGNフィールドで身を固めたドニエプル。
スモークの脇を通りながら様子を伺っていると、新たな動きが起こった。

「敵ヘリオン全機、右113度よりスモークから出現!」

オペレーターが叫んだ直後、ヘリオンがそれぞれ2機ずつ担いでいた巨大な箱から、ミサイル6発がこちらに向けて放たれた。
攻撃を仕掛けた直後、ヘリオン6機全て護衛のMS小隊に撃墜された。
だが問題はその後だ。撃ってきたミサイルは全てオレンジ色の粒子を振りまいていたのだ。

「GNミサイルだと!?」

いかなる状況でもクールだった艦長は、この時ばかりは絶句した。
GN粒子で推進するミサイルは、目標に接触と同時にGN粒子を注入し内部より炸裂させる。
どんなに厚い装甲も歯が立たない上、GNフィールドを張っても弾頭に纏ったGNフィールドで突き破れると来ている。
発射されたGNミサイル6発は、クルーの反応より先にドニエプルの船尾に殺到した。
GNフィールドを激突するもそのまま貫通、1秒で船体を貫けるのはほぼ確実だった。

だが最悪のシナリオは回避された。
艦船の強固な防御の壁を突き破るのに少しでも時間を浪費したGNミサイルに、
サイドスラスター部より無数のビームが一斉に放たれたのである。
全てのミサイルがGNフィールドを突き破るまでに、粒子ビームに焼き払われた。

4連装GNビーム機銃という、サイドスラスターに搭載された兵器は、指向性が高くどんな方向の目標も撃ち落せる。
更に粒子を偏向させて主砲と同じ威力で撃つ事もできる優れものだ。
先の不意打ちに放たれたGNミサイルを瞬時に撃墜できたのも、本級が防空の肩書きがある所以だ。

「敵全弾撃墜!敵に第2波の気配はなし!」
「GNフィールド発生停止!艦の進路方向を航路に修正!MS小隊、本艦は警戒をそのまま維持せよ!」

こちらの損害はいっさい無し。MSも敵にダメージを受けていない。

「艦を停止させろ!先の奴らを残骸でも回収しろ!
 粒子兵器を持っている辺り、ただのテロリストではないぞ!」

あの敵はなんだったのか?
テロリストや宇宙海賊で粒子兵器を装備しているとは思っていなかった。
それを現実に持っていて使っていたならば、一体どこで仕入れたか?
艦長は予測に思考を張り巡らせた。
正規軍の輸送艦から奪ったか?だがそんな話は今まで聞いていない。
では軍事企業から奪ったか?それでは通信痕跡や金銭と商品の流通に不自然な点があったはずだ。
ヴェーダを確保した連邦すら、確認しきれない動きがあるという事なのか?
憶測が幾らか上がっても結論に至らない。

真相はわからないが、ただわかる事が一つある。
強力なGN粒子兵器が民間に広がり始めた事だ。
このままいけば地球連邦は内紛状態となり、統一政体の危機と平和の崩壊を招こう。

まず残骸を調査し、報告書を作成して対策を上に仰いどいて、こっちも出来るだけ情報収集に当たろう。
軍人である俺ができる事は限られているのだから。



その後俺は、休憩時間を利用して端末を操作し、これまでの宇宙の動きを整理した。
宇宙犯罪が起こったのはここ1年前の宇宙移民の開始からだ。
従来の研究拠点としてではない、市民の生活の為の大型コロニーが遂に建った事で、
移民者の財産と建設用資材を狙った犯罪から始まった。
そうした者達はMSの中でもかなり旧式のヘリオンやティエレンを使っている。

だが今回の襲撃では、MSこそ同じ機体だが粒子兵器を使用していたのが問題だった。
GN粒子を生成する擬似太陽炉は、正規軍とコロニー公社の警備隊しか扱っていない事になっていた。
その粒子関連の装備を犯罪者が使っている事は、裏に連邦の構成員、それも位の高い者が絡んでいるはずだ。
そしてこれだけの攻撃をこちらに仕掛けたならば、
こちらがハイブリッドイノベイターを乗せていると知っていなければおかしい。

・・・・・・・・・・・・艦内にスパイが紛れ込んでいるのか?
可能性がある以上、対策を講じねばならない。

あのイノベイターを狙っているならば、連邦に報告を出しても動いてくれないならば、
俺は今後あのテロリストらの背後を突き止められなくなる。
最悪の場合、反逆者覚悟でこの艦を動かしてでも、奴らを探らなければならない。

「今の連邦は腐っている・・・・・・」

3年間、俺が思ってきた不信は決定的なものになりつつある。
ELSとの戦いで大打撃を受けた事で、人類は地球外生命体の脅威に目覚めた。
だが当の連邦政府は今まで通りの宥和政策と軍縮を推し進めた。
ハイブリッドイノベイターを通した対話で、ELSに敵意はないと真意を理解したという。
だがあまりに相手を信用しすぎると思う。まるでお人好しのようだ。

向こうが人間を観察して、こちらの醜さまで理解したらどう動くのか・・・?
地球に来るまで争った事のなかった種族の事だ。
動転するなり絶望するだろう。まるで清楚な子供が、親の痴態を見た時のように。

イノベイターによる相互理解も好きになれない。
分かり合えないと困る場面は確かにあろうが、完全に分かり合えたら不気味だ。
まずもって分かり合える前提に相手に関われば、相互の意思が噛み合わなかった場合の対処が面倒になる。
それならばいっそ、完全に分かり合えないと割り切れば、理解できなくとも打算と損得で妥協できる。
完全に相互理解を果たせば、支配の正当性が失うだろう。
支配は組織の骨組みだ。支配できなくなればこの惑星規模の文明は成り立たなくなる。
文明がなくなれば、あとは相互理解出来る人間の無数の平和な集団からなる、大自然に支えられた狩猟採取時代に逆戻りだ。
これでは宇宙進出は永遠に叶わない夢となってしまう。

「対話は所詮妥協でしかない。対話が効かない敵は叩きのめすのみ・・・・・・」

俺はぼそりと呟き、その次に眠気覚ましのコーヒーを口にした。

奴らの影を見つけ出すか、任務を忠実にこなし問題を先送りするか、
どっちを選んでも地球連邦に待っているのは新たなる内戦だ。
外宇宙進出をいかなる形で行うか、人類の未来を決める岐路はいよいよ近い。



[36851]      第3話 ガゼイン
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/03 18:51
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第3話 GNW-20004 ガゼイン

ソレスタルビーイングに対抗しての3大国の統合から地球連邦が発足して以来、
アロウズによる苛烈な治安維持を経て、大いなる歪みを克服した世界は遂に安定を迎えるはずだった。

だが金属異星体ELSの飛来とイノベイターの出現がほぼ同時期に起こったのが、新たな歪みを生む種となった。
イノベイター自体は少し前に出現していたが、かねてより連邦政府がいまだに社会に公表していなかった事、
ELSの出現がもともといたイノベイターの因子を持つ者達を革新させた事が悪い方向に作用したのだ。
人々がELSによって「人の姿をした何か」を発生させている、と思い始めるのは程なくして起こった。

最後の戦争が始まるまでの3年間、それは戦いの準備を進める仮初めの平和だった。



この3年間、イノベイターの急増に対応しているのは政府だけではない。
正規軍でもそういった存在になる将兵の為の様々な処置が進められていた。
だが人間とはあまりに異なる力を持つ彼らを、周囲はいつも通りの対応などできなかった。
忌避する者、戸惑う者、今まで通りに接する者と様々だ。
常人の倍以上の戦果を上げるイノベイター兵に、現時点では精鋭部隊に回すか一般兵と同じノルマに勤務を固定させている。
彼らをかつての非人道的な実験に送る事はせず本人の意思を最大限に尊重し、普段と変わらない生活を送っていた。
それでも超人たる存在に対する嫌悪は消えることがない。むしろそっちが増すばかりだ。
嫌悪はやがて恐怖へと変わる。恐怖は身と心を狂わせ相手に敵意を向け、殺意の炎が心の奥底から上がっていく。

革新者を恐れる者達は程なく集い、彼らの抹殺の計画を練り始めた。
3年間の準備を経て、反発者達は武力行使に出始める。

「アレらの状態はどうだ?」
「はっ!精神状態は安定、MSにスタンバイさせて大丈夫です」
「うむ。そいつらを出撃準備させろ」

これから小さな、だが極めて重要な攻撃目標が居るコロニーへ、
ウラル級大型輸送艦で侵攻中のブリッジの中での事だった。

やりとりしているのは二人。
一人目は艦の指揮がやっと身に付いた30代程度の若い艦長。
二人目はその隣で席からはみ出んばかりに贅肉を付けた壮年の将軍だ。
たるんだ肉を身を纏い、不快な加齢臭を撒き散らしながら踏ん反り返る作戦司令官に、
新任の艦長は不快感を抑えながらその後始める戦いの最終準備をしていた。

この3年間の内、組織結成をしたのはつい最近の半年前の事だ。
ほとんどの間は我々をバックアップする、巨大な量子コンピューターの開発に費やされた。
5年前に接収したヴェーダに匹敵するそれは、
我々の結成から軍事行動に至るまでの全ての動きをヴェーダから隠す為にある。

ヴェーダは長い間ソレスタルビーイングの武力介入を支えた情報源だ。
あれがあってこそ世界中から情報を全て集められたのだ。

どんな場所での行動も通信も電子機器を使う限り、ヴェーダの眼は決して見逃さない。
打倒連邦政権を掲げるにあたって最初の障害を、情報網を掻い潜るのが我々旧人類軍の最初の関門だった。
やっとの事で完成した量子コンピューターがヴェーダの情報収集を抑えているおかげで、
あらかじめ準備していた組織の結成から軍隊としての機能を持つまでに至ったのだった。

「ガゼインの最終点検で異常は見られません。見られませんが・・・」
「んんんん~~~~??」

口が詰まりかける艦長に対し、将軍はガマガエルのような醜い瞳で睨み付けた。

「あの機体・・・スローネ系を使うとあっては・・・、味方にすべき市民の支持に差し支えがあると思います・・・」
「機体はただの機体だろうがボケが。ガンダムだろうがスローネだろうが戦力ならなんでも良いだろぉ。
 イメージなんぞ、後でいくらでも挽回できるじゃねぇか青二才よぉ」

身体だけでなく口からも同じくらい悪臭を放ちながら、気弱そうで生意気な部下を目上から説教する。

(こいつは艦の指揮に期待できるが、上官にいつも口を利いては減点だな。)

難色の顔を浮かべる艦長を見て彼は密かに採点した。

ガゼインはかつて9年前のソレスタルビーイングの武力介入の後半にて、
突如出現したガンダムスローネ系の発展型にあたる。
問題なのはその機体が過激で残虐な武力介入を行ったからである。
基地の破壊に敵部隊の殲滅はまだしも、兵器工場を民間人もろともの無差別爆撃に軍と関係ない結婚式場に攻撃など。
これまで世界に被害を多少ながらも与え、同時に紛争の火種を次々潰した、
紛争根絶としてのソレスタルビーイングのイメージが一転して、世界の敵としてのイメージに塗り替えたのだ。
その後アロウズの打倒、ELSとの対話を経てイメージが好転したものの、
スローネ系は未だに武力介入の暗黒面として忌み嫌われている。

モニターに表示されたガゼインのデータ。
外観はガンダムスローネに似ており、名前こそガンダムではないが頭部のクラピカルアンテナはそのままガンダムだ。
この機体は本来は4年前のソレスタルビーイング号接収で得たスローネ系を改修した機体で、
イメージの問題もあるがイノベイター専用試験機として世界に公表されていない。

「まあいいさ。最初の獲物は半身金属のミュータントだ。そいつを片付ければ人類の脅威を一つ潰せるさ」

その為に敵たるイノベイターを殺さずに戦力にした矛盾を、将軍は何の欠片も思わなかった。
生かすのではない。道具として、兵器として使うだけなのだ。
使いに使って用が済めば後は殺処分すれば良いだけの事だ。
その為に、ヴェーダの干渉を防いだ中でイノベイターを拉致し、洗脳させてガゼイン部隊に組み込んだ。

「それにだ・・・・・・」
「はい?」
「これは人類の存亡を賭けた戦いなんだ。まずは揺さぶりをかけて味方集めから行くべきだ。
 ミュータントの小娘を葬って、その正当性を口いっぱい喧伝すれば市民の中に賛成が上がるだろ」

側にいるだけでストレスの発生源である将軍だが、その言い分には艦長は納得したし大方間違っていなかった。
ELSと共存した地球連邦だが市民の間では賛否の声が入り乱れている。
その中で多くがハイブリッドイノベイターを忌み嫌う傾向がある。
人類がELSの力を手に入れれば、人から進化しただけのイノベイター以上に脅威だ、と。

今の旧人類軍は反イノベイター/ELS派の議員と軍と政府の高官を中心に、
世界中に散らばる賛同者達と部隊の寄せ集めでしかない。
金儲けの為に軍事産業が支援してくれているとはいえ、連邦軍に対抗出来ても打ち倒せない弱小勢力だ。
だが今の地球連邦の弱みを上手く付け込めば、ドミノ倒しのように内部崩壊を始める。
宥和政策の限界、理想に溺れて腐敗した政府、イノベイター至上主義、弱腰外交・・・・・・。
そんなイメージを市民にじっくり与えれば疑惑を混乱、失望を生み、現政権はバッシングを受けて身を退かざる得なくなる。
現実に思惑が当たればこちらに勝機が見えてくる。

「確かに地球連邦はでっかいムキムキの巨人だ。だがな、その実はいろいろな病巣に犯されてんだ。
 正面から喧嘩売らねぇで朝も夜も毎日嫌がらせすりゃ、くたばる道理じゃねぇかよ」

口調は乱暴で粗暴な指揮官だが、実に丁寧でわかりやすい例えを入れた説明だった。

「はっ、確かにです」
「だから今のイメージと評価に惑わされんな。気にすんな。
 上手く行けばガゼインは救国のシンボルになるだろう」

どんな兵器も、使うのはパイロットだ。パイロットの判断で兵器は英雄にも虐殺者にもなれる。
だからスローネには何の罪もない。ガンダムがイメージを良くし直せたように、スローネも良くしてみせよう。
人類の脅威たるイノベイター、人類を変革の名の下に汚染するELS、
そしてハイブリッドイノベイターを、腐敗した地球連邦政府を打ち破る、救世主に生まれ変わらせてやろう。

「この作戦がそのイメージアップでもあるから・・・な!」
「司令の仰るとおりです!」

不満を垂らし続ける艦長が遂に納得した様子だ。

「司令、コロニー「プリームムポリス」を視認」

オペレーターの手で示された大型モニターにブリッジクルー一同は身構えた。
待ちに待ったこの時が来た。
興奮と緊張に顔を険しく強張らせ、人類の脅威が潜むコロニーに睨み付ける。

最初の都市という意味のスペースコロニーには何となく運命のいたずらを感じる。
宇宙都市として最初のコロニーにいる,最初のハイブリッドイノベイターを、最初の作戦で最初に葬る。
なんとも上手く出来たシナリオではないか。

「よく聞け諸君!今日という日は偉大なる一歩となる。
 貴官らの目の前に浮かぶコロニーの中には、凶悪な半身金属のミュータントが我が物顔でのし歩いている。
 その傲慢な、恥知らずな化け物の首をはねるのが人類の存続の為の一歩だ。
 連邦政府は宥和にこだわり、眼と鼻の先に忌々しい金属異星体を居座らせている。
 理想に溺れ、自覚無く悪政を執り行う現政権は、来る人類の危機の種であり、打ち倒さねばならん!
 これは人類の未来を賭けた聖戦だ!敵を撃ち滅ぼし勝つ以外に道がない事を、貴官らは忘れないで頂きたい!
 そしてもう一つ、これから始まる戦いで、その後続く戦いで、生き残ろうと死のうと、将兵共に救世主に仲間入りする事を!
 つまり、我々旧人類軍の下で戦う限り、貴官らは栄誉を飾る事になるのだ!
 これから始まる戦いは、人類の新たな独立の始まりとなるであろう!!」

記念すべき戦いの幕開けと言うべきか、普段使われない普通の口調で演説が行われた。
その直後ブリッジで、通路で、ハンガーデッキで、あらゆる区間に配置したクルーは歓声を上げた。
司令はだらしない中年で臭くて粗暴だが、指揮官として優秀だから完全に嫌われないでいられるのだった。

「よーしっ!・・・・・・では、そのままプリームムポリスへ前進だ。
 手順どおり、港に入れてガゼインを出すんだぞてめぇら」

長きに渡る最後の戦争はこうして始まったのだった。



[36851]      第4話 フェラータGN-X
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/06 22:09
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第4話 GNX-613T フェラータGN-X

人類最初の民間居住用の大型コロニー「プリームムポリス」で発生した反乱。
それは連邦軍の駐屯部隊丸ごとによるものであり、このコロニーに訪れる政府の要人に張った抹殺の罠だった。
内部と外は完全に反乱軍の手中に置かれ、要人とその護衛達は絶体絶命の危機に陥った。
だがそれを潜り抜けた彼らは、追跡の目をかわしながら逃走を続けていた。



反乱軍の最大目標として命を狙われた地球連邦の要人アーミア・リーは、一瞬少し過去を振り返った。
コロニーで講演会を開く予定が崩され、自分を執拗に狙い四方八方から押し寄せる反乱兵の手から必死に逃げた。
逃げに逃げ、敵の死角に潜るつもりだった駐屯基地で、色々訳あってGN-XIVに乗ってしまった。
そのまま反乱軍のMS部隊と戦いになり、ELSとイノベイターの学習能力に助けられ、今このドニエプルに乗っている。
ただの要人ではなく義勇兵という肩書きでだ。

「例の敵MSはイノベイター機を基幹に置いている、となれば我々も対抗しなければならない。
 GN-XIVはガンダム並の性能だが、量産機故敵に対して力不足だ」

説明がなされているにも関わらず、回想しながらその内容を把握していた。
これはイノベイターが持つ常人を超える同時情報処理能力の恩恵だ。

「貴様が次回より搭乗してもらう機体がこれだ」

ここはブリーフィングルーム。艦長と上官のMS小隊長との3人だけでの打ち合わせだ。
隊長が端末に操作しモニターにデータが表示された。

GN-Xのフレームをそのまま流用しながらも、パーツが所々異なっている。
装甲と一体化した胸部のクラピカルアンテナが2倍に大型化し、頭部アンテナは金色のがもう二本追加されている。
そして目に引くのは両肩の巨大なシールドだ。
GN-XIVのよりも2倍くらいある上、武装まで施されている。
5年前に活躍した2個付きのガンダムにそっくりな姿が、全面と側面、背部に分かれてモニターに移っていた。

「機体名GNX-613T、機体コードはフェラータGN-X。
 対イノベイター機として突貫作業で貴様の機体を改造した」
「両方のシールドだけど・・・ただのシールドじゃありませんね・・・・・・」
「GNマルチブルシールド。GN-Xと同じ擬似太陽炉を内蔵、
 シールドとしての防御の他、GNビームガンによる全方位牽制射撃、収束ビーム砲にも推進も出来る。
 今までのシングルドライブからトリプルドライブに改造したという訳だ」
「あ、でも擬似太陽炉のセッティングが普通じゃありません!」

彼女が声を荒げたのはそこである。
それぞれの擬似太陽炉の粒子出力がトランザム時の3倍以上、オーバーロード寸前に当たる。
ELS戦で自爆による敵の道連れが頻発し、戦後パイロットの生存性向上に同機能が除去されたという。
3年間守り続けた自爆防止を艦長が破った事実が彼女に動揺を与えた。

「それが何だ?訓練なしですぐに乗れた貴様なら出来るはずだろ?
 それとも根を上げた振りでもするか?」

隊長の前を遮って艦長が受け答えした。
こちらを見下した傲慢不遜な態度で睨み付けてきた。

「う・・・・・・。ただ・・・流石に危険かと」
「貴様の腕なら上手く乗り回せると知った上で言っているんだ!
 イノベイターなら情報処理がこっちを上回る!すぐに学習できる!すぐに強くなれる!
 おまけに半身ELSという最強女ではないか!!」

最強女という表現にアーミアは全然気に入らなかった。
彼女は強くなりたくて人間から変革したのではない。
偶然と必然が重なり合った結果、今のELSとの共存体に至っただけなのだ。
賞賛ではないただ自分の特異性を強調しているだけで、自分をこき使おうという算段なのだろう。

隊長は顔を俯き気味で苦そうに歪めている。
内心は躊躇している様子だが口にしないのは、自分の立場と軍務を心得ているからか。
一個人としては少し優しくしたい所だが軍人として毅然としていなければならない。
表情がその意思を表していたのをアーミアは読み取った。

「貴官は本来の職務を後回しし、反乱軍調査という危険な作戦に自ら志願した。
 その実力と資質を考慮し、戦闘部門に配属させたのだ。
 貴様はその軍務を死んでも果たさねばならん!兵士ならばそれが基本だ!」

少し間を置いてから再び口から放たれる説教。
そこに慣れない環境下の自分の苦労に対する同情も共感、理解も微塵もなかった。

「説教はそこまでだ。まず今日1日こいつに慣れろ!解散!」



軍というのは、理不尽な事ばかりなのが入ってから身に染みた。
相手が子供でも誰でも殺せと言えばその通りにしなければならない。
逆らえばどんな言い分でも上官反逆として罪に問われる。
こちらに求められるのは命令に忠実に遂行する事であり、悪い世の中を正す事ではない。
一個の自立した人間であるより組織の駒として在らなければならないのだ。

「これで30回目の戦死・・・・・・。なによこの機体調整は!?」

艦長の命令の通りフェラータGN-Xのコックピットで、
戦闘シミュレーションで機体に慣れさせようとするアーミアだが、その成果は未だに実らなかった。
こんな機体を乗せる艦長が冗談抜きで悪魔か魔王と思えてきた。
いざ自爆したら呪うか何か仕返ししなければ、死のうにも死に切れない。
艦長への呪詛を胸に秘めつつこれまでの結果を振り返った。

スロットルを普段の調子で引けば擬似太陽炉の粒子生成に負荷が掛かり、オーバーロードを起こして自爆する。
これだけで20回以上もの戦死の要因であり、第1位に悪い意味で輝いている。

他には機体の粒子生成が想像以上に早く切れて動けなくなったり、
負荷に機体が耐え切れず脚や腕など繊細な部分が捻じ切れて戦えなくなった所で撃墜されるなど。

擬似太陽炉一基につき通常の3倍の出力で合計3基につき6機分の出力と負荷を持っている。
これはつまり、機体フレームの損耗と戦闘機動で伴う強烈なGが想像を絶する様だという事なのだ。
しかも粒子生成の出力はオーバーロード一歩手前に調整されている為、
粒子切れがトランザム時よりも早くに起こってしまう。

以上の問題を仮に解決してもまだ険しい関門が残っている。
GN粒子による慣性制御すら省かれたせいで、普通の人間なら即死する程のGが直接身体に降りかかる。
自分の身体が半身ELSのハイブリッドイノベイターとはいえ、
十分に操縦に慣れて鍛えていなければ無事に乗りこなせる確証が何一つもない。

「粒子生成量を抑えめに調整したいところだけど、艦長から禁止されているしね・・・」

2個付きに次いで強力だが兵器として欠陥を抱えすぎたそれは、
無論調整で出力を落とせばGN-XIVに近い安定性に落ち着かせられる。
実戦では戦闘継続時間を考慮して半分の出力で戦う予定となっている。
だがいつでもフルの性能で戦えるよう、この調整で慣れていかなければならない。

「これで31回目・・・!」

開始ボタン入力と共にスクリーンは宇宙空間を映し出した。
設定した敵機はGN-XIVコアファイター搭載型が3機。機体に慣れ次第少しずつ機体数を増やすつもりだ。
これまでの操縦と何度もの自爆の教訓を基に、右手で握るスロットルを僅かに引いた。

「っ!!!」

これだけで急速に加速。最大加速時のMSに匹敵する速さだ。
1秒以下数十コンマの内に敵編隊と通り抜けてしまう。
その一瞬の内に彼女は如何なる行動に移るか考え、それを実行に移った。
GNショートビームライフルを真横に向け、通り過ぎる所で一機目を撃ち抜き火球に変えた。

「まず一機目・・・!」

機体は敵を中央突破し後方にいる。
出力を抑えていたがあまりの出力のせいで遠く離れてしまった。
すると後方から粒子ビームが通り過ぎた。
味方の損失に反撃に移ったのだろう、だがあまりに離れていて自機に照準が定まっていない。

「粒子による機体制御は緊急回避に留め、移動には慣性を利用する!」

MSの基本操縦と少しでもある戦闘経験、苦労して練ったコツを今ここで生かす。
機体の旋回させ慣性に任せて接近、敵の弾幕には僅かな粒子噴射とAMBACできめ細かに回避した。
これで機体の機動性に振り回される危険は多少減った。

「あと2機・・・・・・!」

これまでの3倍以上あるビームが飛んできた。
周回するこっちに敵が接近しながら、GNビームライフルを連射モードで牽制射撃してきたのだ。
これ以上今の機動では避け切れない!
今まで抑えていた粒子生成を回避にあえて向けず、GNフィールドによる防御で反撃までの時間を稼ぐ。
トリプルドライブに支えられた鉄壁の防御に無力と悟った敵機が射撃をやめた隙に、
GNシールド内蔵のGNビームガンの連射で2機の周囲にビームをばら撒いた。
もちろん敵にも当てるがこれはGNフィールドを展開させる為の囮だ。

「本命は・・・こっちだよ!」

相手がGNフィールドで防御に回ると、自機のGNショートビームライフルとGNビームガンに同時使用移った。
正確には左右のGNビームガンを最高出力で収束させ、ビームライフルの最高出力と掛け合わせて極太のビームを放ったのだ、
ドニエプルの主砲以上のビームは残る2機の防御壁を物とせずに突き破り、そのまま跡形も残さず焼き尽くした。

31回目の練習で掴み取った勝利。これまでの失敗は機体制御によるものだった。

シミュレーションを終了させて一息ついたアーミアは、待ちに待った休憩に入った。
やっと機体を使いこなせた事に喜びが沸いてきた。だが理性が歓喜に歯止めをかけた。
完全に乗りこなせなければ次の戦いで生き残れない。正念場はまだこれからなのだ。



[36851]      兵器設定1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/26 23:42
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第1部 兵器設定1

GNX-609T/NP GN-XIII無人戦闘型
装備
GNランス、GNショートビームライフル、GNロングビームライフル、NGNバズーカ、GNシールド
固定装備
GNバルカン2基、GNビームサーベル2基、GNクロー2基

地球連邦軍で最も多く配備されたGN機の改修型。
装備はGNランス以外がGN-XIVの装備に更新され、火力と防御面では最新鋭機と同程度に向上。

2年前の西暦2312年より対CB戦を目的に開発され、
ELS戦の頃には政権から存在に疑問されながらも運用試験の段階まで進んだ。
最終防衛線の拠点となった各タワーにそれぞれ50機が補助戦力に配備され、帰還率は40%だった。

ELS戦で熟練兵の多くが失われこれ以上の損害が許されない状況に、
損失分の補欠として拠点防衛MSとして正式採用、地球圏各地のGN機整備可能な拠点に配備された。

最大の特徴はコックピットユニットがAIユニットに換装された点であり、パイロットなしでの戦闘が可能になった。



ドニエプル級防空巡洋艦

装備
連装GNビーム砲6基 船首船底側2基横1列 中心部2基横1列 船尾2基横1列
対艦GNミサイル発射機16基(192セル) 左右8基ずつ(96セル)
防空GNミサイル発射機20基(400セル) 中心部左右上下に5基ずつ(100セル)
4連装GNビーム機銃32基 サイドスラスター上部上面、側面と下部裏面、側面に4基ずつ
GNフィールド発生機2基 サイドスラスター側面に1基ずつ

搭載MS 6機

大気圏内から地球圏より離れた火星、木星まで全領域を視野に入れた地球連邦軍の新型巡洋艦。
アロウズ時代に設計され、ELS戦直前には試験運用された。
最大の特徴は全領域運用と共にGN粒子兵器に統一された高い防空能力である。
レーザー兵器から粒子兵器に変更した事で大火力を実現し、
前級では40基以上も装備していたレーザー機銃が、GNビーム機銃では40基以下の数で防空を賄える。

主力のバイカル級の船体を流用しながらも、船体に追加ユニットを組み込んだだけのヴォルガ級とは違い、
設備から武装に至るまで一新、全面を改修した艦である。
カタパルトは船首に固定され、MSはハンガーデッキから直接射出され、収容には側面のハッチが使用される。
これは前級のエレベーターと併用した射出方法では、配線や機構が複雑で船底部の防御に難があった為である。
同級は複雑な折り畳み機構を省き、固定型にする事で装甲を増やして防御を向上させた。

またこれまでのロケットエンジンから擬似太陽炉に統一した事で、
急造のヴォルガ級よりも幅広い移動範囲と機動力を実現できた。
防御もGNフィールド発生器の装備で、ある程度の大型ビーム砲撃を正面から受け止められる。

次世代主力艦の名に恥ずかしくない強力な性能を誇る本級だが、
擬似太陽炉を大量に搭載した事で補給、整備設備が限られ、運用コストが跳ね上がるのが欠点。

運用試験で、極めて強力だが高価な本級とユニット追加で改修が済むヴォルガ級と比較されたが、
宥和政策を進める連邦政府と軍縮を推し進める連邦軍の治安維持の用途にそぐわず、暫定主力艦に選ばれなかった。

ELS戦では最終防衛線の軌道エレベーターに新造を含む3隻が配備され、押し寄せるELSの大群に奮戦し、3隻中1隻が撃沈された。
バイカル級とヴォルガ級のレーザー砲では撃沈に手間が掛かった中型ELSを、
本級のGNビーム砲では通常出力の2発程度であっさり撃沈できたという。
火力はヴォルガ級をも上回り、ナイル級より使い回しが利いた事で再評価され、
戦後の軍の再建で防空巡洋艦として正式採用、軌道上に重点的に配備された。
それまで大気圏内の主力艦だったギアナ級とは、遊撃としての大気圏内運用と住み分けられる。

現時点では艦隊防空と緊急展開用の少数運用だが、
将来は集めたノウハウを基に問題点を洗い出した上で、主力艦として大量配備する予定となっている。

余談だが本級は早い内から高性能だが、長い間少数運用されてから主力艦にやっと選ばれた事で、
後に「早すぎた名艦」としてバイカル級の余裕のある設計と共に称えられた。



GNW-20004 ガゼイン
装備
GNバスターソード2基、大型GNファング4基(小型GNファング40基~GNミサイル40発など)
パイロット
旧人類軍イノベイター、擬似イノベイター兵

ELS戦より1年前に開発された、地球連邦軍のイノベイター専用試作MS。
接収したソレスタルビーイング号内のデータとアルケーガンダムの予備パーツを基に、対多数戦を用途に設計された。
外見はアルケーガンダムと基本的に同じ。

背部と腰部に2連結したクワドルプルドライブ型の擬似太陽炉の出力はあまりに高く、
一般パイロットでは到底扱いきれないほどの劣悪な操縦性を誇る。

後に同用途を突き詰めて開発した試作MAガデラーザのプロトタイプでもある。

同じ用途のヤークトアルケーガンダムと違うのは、装備を集約、数を省略した点である。
GNバスターソードはマニピュレーターよりGN粒子が直接送られ、斬撃と砲撃の威力が飛躍的に上がり、
腰部に大量装備する大型GNファングは、用途に応じて子機を選択できる。

パイロットは連邦最初のイノベイターであるデカルト・シャーマン大尉で、ガデラーザに乗り換えるまで本機でデータ収集が行われた。
ELS戦では火星で戦死したデカルトの代わりにイノベイド兵が操縦したが、ELSの大群に押され撃墜された。
戦後勃発した統合戦争では旧人類軍の手でイノベイター部隊用に少数生産された。



GNX-613T フェラータGN-X
装備
GNショートビームライフル、GNロングビームライフル、NGNバズーカ
固定装備
擬似太陽炉直結GNシールド2基(GNビームガン、GNフィールド発生機搭載)、GNビームサーベル2基、GNバルカン2基、GNクロー2基
パイロット
アーミア・リー

地球連邦軍所属艦ドニエプルMSハンガー内で突貫で改修したGN-XIV。フェラータは鉄騎をラテン語で意味する。
量産機ではなく現地改修機である意味を込めて形式番号は600ナンバーに戻されている。

追加装備のGNシールドは攻防に推進まで機能を併せ持ち、内蔵する擬似太陽炉は本体と同じでトリプルドライブ型でなる。
内蔵するGNビームガンと収束すれば巨大な粒子ビームを発射できる高火力と、
鉄壁のGNフィールド、どのGN機をも圧倒する機動性を誇り、00ライザーに次ぐ機体性能に引上げられている。

反乱軍のイノベイター機の対抗処置と連邦の兵器開発の時間繋ぎに改修した機体なので、
粒子生成は通常の3倍以上でピーキーな調整が施され、追加の大型クラピカルアンテナでも制御仕切れず操縦性は最悪。
しかもスロットルを普通に引けばオーバーロードを起こし自爆してしまい、
機体の負担がかなり掛かり出撃の度にオーバーホールしなければならないなど、兵器として欠陥を多く抱える。
一般パイロットではリミッターを掛けて性能を若干落としてでも操縦性を取り戻すか、、
そのままではハイブリッド・イノベイターであるアーミア・リーでなければ操縦できない。



[36851]      第5話 旧型MS
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/11 19:04
機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記

第5話 旧型MS

擬似太陽炉の普及は世界の統合と兵器の革新を起こした。
それを主動力とするGN-Xの力はかつてのガンダムに匹敵する物であり、
圧倒的な力を得た旧3大国は地球連邦に名を変え、領域国家から惑星国家へと変わろうとしたのだった。
だが革新的な技術を得たとはいえ、兵器はすぐに一新されなかった。
擬似太陽炉は大量の電力をGN粒子に変換するという、強力だが稼動時間の限界など多くの制約がある。
既存の兵器と新兵器がそれぞれの得意分野を担当し、共存した時代は数十年も長く続いた。



西暦2314年にELSの影響でイノベイターへ変革した者達が急増してから3年間、地球連邦政府は彼らの対応に追われてきた。
突然相手の心が読めてこれまでの人間関係がこじれる者、恐怖した周囲から差別される者のみならず、
中には殺害される者まで出ている切迫した状況に手を打たなければならなかった。
彼らの保護に加えて教育による偏見と差別の解消、戸籍調査によるイノベイター予備軍たる因子保持者の保護など、
相互宥和を呼びかけるプロダカンダなど多方面の政策が次々打ち出された。
それでも政策を疑問視する者達は増えるばかりで、ついに反発者達が動き出す日が来た。



「避難が全然進んでないじゃないかよ!!」

旧式のユニオンフラッグに乗るゲーリー中尉は、足元で逃げ惑う市民の濁流に毒づいた。
ユニオン領ニューヨークは現在、テロリスト集団の乱射行為による混乱の真っ只中にあった。

19世紀以来長きに渡って戦火と無縁だったこの世界有数の大都市は、
いくつかのテロが起こった程度でモビルスーツを使うほどの破壊活動は今回が初めてだったのだ。
それに相まってこれまで平和に暮らしていた市民の驚愕と混乱は大きく、戦火からの逃れ方がわからずうろたえるばかりだ。
防衛部隊が鎮圧に出たので、流石の市民もMSに踏まれないよう、道を塞がぬよう道を開けようとしているようだが。
それにしても遅い。平和過ぎたから戦火に晒された事がないからだろうが、このまま右往左往していては戦いに巻き込まれてしまう。

「地下鉄に逃げるんだよ!そこら中にあるだろう!」

スピーカー越しで市民に呼びかける一方、視認できたテロリストのMSに注意を払う。
相手はGN-XIIIが2機、高度50メートルで高層ビル群を縫うようにのんびり飛んでいる。
テロをこれから仕掛けるにしては、無駄に豪華で最悪な機体だ。
擬似太陽炉の恩恵で空を飛べたり実弾を寄せ付けないMSに、この都市防衛用のフラッグで勝てるとは思えない。

「市民よ立ち上がれ、腐敗した連邦政府は革新者と騙る怪物を保護し、人類の破滅を推し進めようとしている。
 3年前、奴らはELSによって汚染され、徐々に世界中に汚染を広めつつある。」

さっきこちらを頭上で通り過ぎたGN-XIIIからの声を集音機が拾ったらしい。
街を混乱させながら、その行為を棚に上げて他者を批判する独りよがりな宣伝だ。
彼らは一応低空飛行していて街に直接被害を及ぼしていないが、粒子兵器を持っている以上被害の可能性は必ずある。
混乱している今の内に穏便に事を収めんと、オープンチャンネルでテロリストに呼びかけた。

「こちら地球連邦平和維持軍第45都市防衛MS小隊。所属不明機よ応答せよ。ただちに投降し我々の指示に従え。」

テロリストがほいほい言う事を聞いてくれるとは期待していないが、警告なりしなければ何も始まらない。
やはりと言うべきか、敵は止まる事無くこちらに目もくれずに飛び去っていった。

「テロリストに応答なし!依然、飛行を止めず!」

食い止めたいところだが、2つの理由でそうはいかない。
1つ目は彼我の機体性能差が絶望的である事。
このフラッグだけでなく旧MS全て近代改修が図られ、
Eセンサーと超小型GNコンデンサーによるパイロット限定の慣性制御に、GN弾による火力強化などだ。
ただしGN機と戦えるようになっただけで対抗というレベルに届いていなかった。

2つ目は現時点の状況だ。
周りは高層ビルが立つ巨大都市で大勢の市民がいる。
ここで戦えばビルが崩れるわ市民が100人どころか、1万人も犠牲になる大惨事になるだろう。
しかも経済にも打撃が加えられ世界中の景気が一気に悪化する。
そうなれば今日の夕刊から3ページ以上詳細に書かれてしまう一大バッドニュースになってしまう。

「たっ・・・隊長・・・・・・!」

モニターに部下達が不安を浮かべながらゲーリーを伺っている。
このままテロを許してしまうのか?軍人として、人間としてそれは許しておけない。

「奴らの進路から目的地を割り出せるか?」
「ハッ、我々のいる通りより先は港湾区です!想定目標より・・・少し反対にズレています!」
「ズレているだと?!えぇい、そいつらは囮か・・・!」

イノベイターが狙いと知って基地経由でイノベイターの所在地を把握したのだが、肩透かしを食らった気分に襲われた。
となると本当の狙いはなんなのか脳裏で逡巡した。ただの囮なら一体どういう手を使うのか。
現時点のテロリストは先の2機のGN-XIIIの他に同機種4機が2機1組ずつ散らばっている。
どれもイノベイターを狙わずにただひたすら飛び回って、周囲の混乱を招かせているだけだ。

街の被害を考慮して攻撃に出なかったが、いつまでも敵の好きにさせる訳にはいかない。
沿岸域へ向かう今が鎮圧のチャンスだ。

「全機、粒子撹乱ミサイルにライフルで一斉発射の後に突撃だ!敵機を海上に引きずり込んで撃墜させる!」

僚機の同じフラッグとの3機、その主翼下のパイロンよりまず粒子撹乱ミサイルが、その次にGNミサイルの順で発射した。
GN-XIIIを撹乱幕で包むようにして周辺のビーム被害を抑えた所に、リニアライフルの青い弾が襲い掛かった。
一機は背部にダメージを受けて飛ぶのがやっとの状態になったが、もう一機はこれを全て避け切り撹乱幕から突破を図ろうとした。
3機のフラッグはGN機に劣らぬ機動性で正面より突破する。

「市街地に当たらんよう上から撃て!当てた奴は帰還してすぐぶん殴る!」

追撃してくるテロリストのビーム射撃が2発側面をよぎった。
それはスロットルを左に傾けて回避したからだが、ゲーリーは急回避に伴う強烈なGに苦しんでいなかった。
GNコンデンサーから少しずつ放出されるGN粒子の恩恵で、パイロットを苦しめるGの軽減に貢献している。

「こちら第45都市都市防衛MS中隊!テロリスト機を海上に陽動!応援を要請する!」
「こちら基地本部。一番近い予備部隊でも現場到着まで2分かかる」
「了解!なるべく迅速に願います!」

10年前には無効化されたGN粒子散布下を克服した通信機のおかげで、こうして防衛隊の旧型MSでも通信できるようになったのだ。
こちらの対抗可能になったフラッグ3機に対するは、健全のと損傷を受けたGN-XIII2機。
現時点で倒すのは難しいが、応援が来れば戦況はこちらが有利になる。
だが次の凶報で彼らの期待は焦慮に変わった。

「市街地各地で爆破テロが発生した!MSはただの囮だ!」
「やはり・・・!思ったとおりか!!」

基地からの凶報に、自分の予想が当たった事に、ゲーリーは動揺と焦り、怒りが沸いた。
モビルスーツは対人戦も出来るが、市街地での、それも建物内でのテロまで対応などできない。
臍を噛む思いが身を焦がしそうになるが、向こうの事は地上部隊に任せてもらうしかない。
目の前の敵を釘付けにしないと被害が更に波及する事になるのだから。

「各機弾切れ承知で乱射しろ!奴を釘付けにするんだ!
 ただし殺すな!無力化して捕まえるんだ!」

残り3発のGNミサイルの一斉発射を準備、スロットルのスイッチで近接信管に設定する。
部下達の連射モードの弾幕に押される敵は、高濃度粒子の雨をダイレクトに浴びて火達磨になった。
続け様に四肢や頭部などにリニアライフルの弾が命中、そのまま装甲をもぎ取り四散させた。
これ程の装備をしたテロリストなのだ。極めて怪しいので殺さずに捕まえなければならない。

相手は今やほぼ大破状態になった機体と戦うのがやっとの機体。
勝機はこちらにあるが、特攻する危険があるので迂闊に手をまだ出せない状態である。
地上ではどうなっているのか?テロリストは見つかったのか?
何とかしたいがまずは自分の今の仕事を済ませるのが先だ。

だが彼らは知らない。同時期各地で、コロニーで、宇宙で、反イノベイター勢力が一斉蜂起した事を。



[36851]      第6話 ブレイヴ
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/24 16:46
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第6話 GNX-903T/D2ブレイヴ

かつて世界の警察と呼ばれたユニオンと、諸国の一定の自立と統合を両立したAEU。
彼らの特徴的な細身の機体とセンサー素子群で埋め尽くされた顔を持つ可変MS達は、
地球連邦の下で統合が図られる中、彼らの系譜は途絶えるかに見えた。
しかし技術者達の地道な試作機の度重なる開発を経て、対ガンダムMSとして再び表舞台に現れた。
その後アロウズの失脚とMS開発の整理によって、念願の量産可変MSの配備が決定された。



西暦2317年、地球圏の至る所で反乱やテロが同時多発で起こった。
その鎮圧に乗り出した連邦軍の中には、ソルブレイヴス隊の生き残りもいた。

「こいつら、闇雲な反乱じゃないな!」

L4方面に位置するプリームムポリス近辺にて。
GN-XIVコアファイター搭載型6機とGN-X無人型6機からなる、混成部隊の集中砲火を避けながら独り言を言ったのはアキラ・タケイ大尉。
3年前のELS戦で連邦屈指のエースパイロット「グラハム・エーカー」の指揮下で戦った彼は、
生還を果たし正式結成された独立機動部隊の一MS隊長に就任した。

次々降りかかる粒子ビームの雨をMS形態で避け続けていると、正面から巨大なビームがこちらに襲い掛かってきた。

「チッ・・・!」

形態を高速巡航形態に切り替えると、機体の各フレームが急激に動き始めた。
両手、胸部、腹部、脚部だった部位が折りたたまれ、変形を終えた時には機体は上に向いていた。
粒子生成を最大出力で前進。

「ぐッ」

粒子で慣性制御出来ているとはいえ、少なくないGが身体を圧迫させる。
機体が巨大ビームから逃れたのは遅い来る直前、まさしく間一髪の回避だった。
先のビームを放った主、GN-XIII無人型6機の横隊が、続けさまに手持ちのGNメガランチャーを撃ち放ってきた。
対艦、要塞戦を想定した巨大粒子ビーム、逃げ場を奪うよう回避想定先に撃ち込んでくる普通サイズのビームが進行方向先に撃ち込んで来る。
いかにこの高機動戦向けのブレイヴとはいえど、少しでも当たれば一巻の終わりだ。

「隊長!!」

自分の窮地に部下の狼狽の声が上がった。部下を鎮めたい所だが今はそれ所ではない。
ビームを掻い潜ると同時にサイドバインダー内蔵のGNビームキャノンの弾幕で、牽制と共に敵機の注意を引き付ける。
ダブルドライブ型のこの機体はGNフィールドも出来るが、巨大粒子砲撃の集中砲火を全て受け止め切れる訳ではなかった。
可能な限り防御は嫌がらせ攻撃に対してだけ行い、敵の本命の攻撃には回避で対処する。
サイドスラスターの可動が、その内部に搭載された擬似太陽炉から放たれる粒子の推進力が、
敵機の射線に機体を入れさせず、降り注ぐ粒子ビームを次々かわしていく。

すると別方向、本機より左から巨大粒子ビームが2発こちらの背後をよぎった。
トライパニッシャーと呼ばれるブレイヴ最強の収束ビームが、そのままこちらを攻撃していた敵部隊を飲み込んだ。
まだ数割生き残っているようだが、最早部隊は壊滅し組織的な行動は不可能だろう。

2発撃ってくれたという事は部下は全員無事の証拠だ。
先程相手していた敵を突破したのだろう、僚機の背後からビームが走っている。

「全機、戦闘宙域を一度離脱する!」

今回の任務は威力偵察であり、本格的な鎮圧部隊が来るまで敵戦力の内容を探るのが目的となっている。
当然正面から戦う事になるが敵戦力の撃滅までは行わない。
GNビームキャノンによる牽制射撃の後、チャクラグレネード投下しての粒子撹乱幕を張り、
クルーズモードの全速力で残りの敵部隊から距離を一気に引き離した。

「隊長、後方より通常の4倍の速さで追撃する機影を確認!数は2機です!」

Eセンサーからも同じ反応が出ている。
カメラから映し出されたのはこれまでのMSと全く異なる機体だった。
カラーは銀色でGN-Xと同じGNドライブ(T)をメインフレームとしているが、両腕が以上に長く腰には4つの大きな装備を取り付けている。
その手には巨大なGNバスターソードを携えており、あの忌まわしきガンダムスローネを彷彿させていたのだった。

「ガンダムだと!?」
「敵2機、4つの何かを展開!ファングのようです!」

ファングにしては大きいそれらから、更に小さなファングが飛び出てきた事で合計44機のファングが後ろより迫って来た。
これだけの数を遠隔操作できるとなれば、イノベイターがパイロットである可能性がある。

「全機、斉射の後、散開して応戦しろ!」

アキラが指示を下したのとGNファング群が火を噴いたのは同時だった。
ミサイル並みのスピードで変則的な機動でビームを撃って来る大小のファングと、
回避行動を取りながら応戦するブレイヴという形で再び戦闘が再開した。

人型に変形して向きを逆転させて、後退しながら敵と鉢合わせになる形にした。
何十もの火線と数倍太い火線をGNフィールドと織り交ぜて回避し、
一瞬のチャージ時間の間隙を突いてトライパニッシャーを3機同時に斉射。
小型ファングをいくつか薙ぎ払い、回避した生き残りをも高圧縮粒子の噴流に飲み込んでいく。
それでも押し寄せるファングの大群にそれぞれ散開した。

背後からしつこく追いすがるファングを、迎撃しながら距離を取って振り切らんとするブレイヴ。
3年前の火星の戦いと似ているが、違うのは相手がビームを撃ってくる点だ。
基本的に回避で対処するが、どうしても当たる場合はGNフィールドの後方展開で防ぐ。
左右に大ぶり小ぶりに旋回し、弧を描く僚機の追っ手を薙ぎ払い、周囲に注意しつつ互いに援護し合う。
が、部下―――ライニー少尉の機体が、
ファング群の射線を掻い潜っている内にガンダム系に近寄ってしまっていた。

(早い!いくらこっちが迎撃に入ってるとはいえ、すぐに追いつくとは!)

ファングを迎え撃ちつつ戦域から離れようとしているこちらを、簡単に追い付いてしまうとはどれ程の機体か。
ダブルドライブ型のブレイヴに追い付けるとなると、向こうも同じダブルドライブか、それ以上に擬似太陽炉を積んでいるかもしれない。

「目の前に敵機がいるぞ!早くかわせ!!」

指示が耳に入るより先か、敵の方が早かったか。ライニーの機体がGNバスターソードに横に真っ二つにされた。
先端の機首を成すGNビームライフルからコックピットまで、正確に切り裂いたのだ。脱出の間もなく彼は則しした。

「らっ、ライニー・・・!!ライニーがやられた!!」

GNファングで撹乱させて関心を引き付けた所を母機が叩く。
相手に空間認識力と同時情報処理能力、人の心が読めなければ、熟練パイロットの裏を掻く戦術は一人では難しい。

アキラが遠くより敵を分析していると、もう一機のガンダム系が剣からビームを放ちつつ肉薄してきた。
可変なしでこれほどの機動力と加速力を持つそれが、巨大な得物を振り上げて来た。
ビームサーベルに換装して応戦するか?だがあのような対GNフィールド用の実体剣に、ダブルドライブ型といえども細身のブレイヴでは分が悪い。
仮に鍔迫り合いに持ち込んだ場合でも、10年前のようにファングの串刺しに遭うのは目に見えている。

「うぉおおおおおおおお・・・!!」

生き残れる可能性が少しでもあるなら、ないよりある方に選んだ。
GNビームライフルを右脚の脛部に引っ掛け、サイドバインダーからGNビームサーベルを取り出し右手に持つ。
降りかかってくる実体剣に粒子の刃が下から振り上げられ、ぶつかり合い鍔迫り合いに繋がった。
だが機体フレームの差は非情にも敵に分があり、ブレイヴのビームサーベルがすぐに押されてしまう。

「だが・・・しかし・・・!」

スロットルの操作で機体の右半身を背後の空間に少し旋回、GNバスターソードを受け流した。
襲い掛かるだろうGNファングに備えてGNフィールドを展開、同時に敵ガンダム系から離脱を図る。
だがこちらの策を既に読んだか、実体剣を振り下ろしから撫で斬りに、向きを横に直してきた。
ファング対策のGNフィールドを打ち切り全速離脱に切り替えるが、多数の擬似太陽炉による瞬発力ですぐに追いつかれる。
今度こそやられると思った矢先、敵が突然後退し味方の援護射撃を回避した。

「たっ、隊長!」
「俺は無事だ!だが現状はこちらに不利だ!何としても離脱せねばならん!」

機体に損傷はなし。右腕部は先の鍔迫り合いで負担がかかったが、戦闘に支障はない。
粒子残量もまだ充分残っており、帰還までに尽きる心配はなかった。
だがこちらは一機損失して2機で、対する敵は2機でGNファングが沢山控えている。
しかもイノベイターが相手となっては勝ち目はない。

「了解!!」
「撹乱幕を形成、その中に入ってビームを凌ぐぞ!!」

全機クルーズモードで離脱。
脚部の粒子撹乱ミサイルを発射し撹乱フィールドを形成、2機はその中に突入した。
追いすがるファングだが、あの中では粒子ビームは撃てなくなる。
それまで撃ち続けていたビームを止めざる得なくなったまま、撹乱幕に突っ込んででも追撃に当たった。
ファングに続いて2機の銀色のガンダムも、背部と腰部の2基連結の擬似太陽炉から粒子の輪を放ちながら後を追う。

反乱軍が追撃を諦めたのは3分後、母艦のアルトリウスと緊急発進したブレイヴ小隊の有効射程内に入った時だった。
イノベイターパイロットによる人間以上の計算と正確無比で猛烈な攻撃から、2機のブレイヴは無事に母艦への帰投を果たした。
それだけ彼らブレイブのパイロット達が、連邦で選ばれた精鋭の技量と錬度なのだった。

指揮官のアキラ・タケイの小隊3機中、僚機1機を喪失。
厳しい訓練と演習を経てやっと登り詰めた若き熟練パイロットを失うという、手痛い形で威力偵察は幕を閉じた。
プリームムポリスを占拠した反乱軍は想定以上の大戦力を保有、しかも内部では政府の要人の護衛部隊と睨み合いが続いている。
これを放置すれば居住区の市民に被害が拡大、最悪の場合コロニー自体が崩壊する危険性がある。
一刻も早く鎮圧部隊と合流した上で、コロニー解放に打って出なければならなかった。



[36851]      第7話 GN-XIVフォルティス
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/20 20:51
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第7話 GNX-803T/CF/Fol GN-XIVフォルティス

軍人はヒーローではないものだ。
与えられた仕事をこなし、上の者からの命令には如何なる事でも従わねばならない。
相手の為に、周りの為に自分でなんとかしたくても、そこまでの力はなく他人を信じるしかない。
戦場の後方にいる兵士の場合では、敵が目の前に来ても抵抗も何も出来ない場合がある。
自分がどれだけ任務を遂行していた所で、味方もろとも攻撃に巻き込まれてしまうかもしれない。
それでも兵士達は、相手と部隊、指揮官を信じて、自分に下された任務という戦場の下で戦わなければならなかった。
たとえ死んで未来を掴めなくても、誰かがその意志を受け継いでくれる事を期待しなければ、
この地獄のような場所に心が保てなかっただろう。



プリームムポリスで起きた反イノベイター部隊の反乱から1ヶ月、
アーミア・リーの護衛部隊であるドニエプル隊独自の調査により旧人類軍の存在が明らかになった。
彼らの目的は増えつつあるイノベイターの抹殺。世界各地で頻発するテロや反乱の大方を、背後で支援しているという。
当の連邦政府はアロウズ時代の二の舞を恐れており、鎮圧部隊を派遣しても地域規模の反乱には正面衝突を躊躇っていた。

ドニエプル隊は戦争に消極的な連邦政府を見限り、代わって旧人類軍と正面衝突を辞さない構えを取った。
独自に戦力と協力者、スポンサーを集め、L5方面のコロニー「カルト・ハダシュト」を拠点に艦隊を結成。
地球連邦軍部隊を中核にPMCや傭兵、予備役連邦兵から構成、一拠点なら攻略可能な戦力の確保した。
来たる旧人類軍との決戦に備えて、部隊規模の戦闘が出来るよう訓練と演習が始まった。



白いレーザー光線が3本、機体の右を掠める。
攻撃から避けようと横に避ければ、その方向へ急加速で行ってしまう。
GN-XIVを越える速度で動くのでは、これは回避を通り越して移動ではないだろうか。
動きが過敏で通常の倍の速さについていくのはやっとだった。

「フェイロン3、敵中に入り込んでいる!応射、来るぞ!」

無線より指揮官ベガ・ハッシュマン大尉の怒声が鳴り響く。
モニターからは敵機担当のMSが6機を確認。左右とも斜線陣形をとり、こちらを両翼包囲しようとしていた。
左右からレーザー光線が発射。それらの火線をロールとループなどを駆使して避けながら後退に移行するが、機動を終えた直後に右肩部装甲に被弾した。
訓練なので無威力のレーザーガンが使われるが、被弾すると火器に応じてダメージとして被弾箇所が稼動不能になる。
この一撃で武器を取り扱う右腕部が丸ごと失われ、残る装備は敵襲時のGNバルカンとビームサーベルしかなくなった。

「動きが早すぎる!?」

これまで乗ってきたGN-XIVと今回搭乗する改修機は、動作の面で取り扱いに難があった。
通称GN-XIVフォルティスは、肩部に小型擬似GNドライヴもしくは粒子貯蔵タンク内蔵の小型GNシールド2基を装備、武装も一新されている。
来たるべき旧人類軍との決戦の為に改修した、一般パイロット向けのGN-XIVの総合性能強化型である。
操縦性はフェラータGN-Xより数段マシなだけであって、従来機に乗り慣れた一般パイロットには少し扱い辛い機体であった。
パイロットの操作で組み合わせた回避機動を早く済ませてしまい、慣性制御の一瞬を突かれてしまったのだ。

「っくっ、こちらフェイロン3!肩がやられた!戦闘不能!」
「じゃあ敵から奪え!俺とアーミアが突貫する!フェイロン2は3を援護だ!アーミア、俺に続け!」 
「了解です!」
「了解!」
「りょ、了解しました・・・!」

2機の改修GN-XIVが、擬似GNドライヴよりそれぞれ大小の輪とオレンジ色のGN粒子を放ちながら、敵部隊に突っ込む。
相手はPMC出身パイロット達が乗る、こちらと同型機のGN-Xフォルティス。
たちまち撃ち合うレーザー光線と弧を描く粒子の筋で、黒い宇宙空間に絵画を描き始めた。

こちらが旧人類軍役を担当し、自軍役を多数相手に戦うのは実に骨の折れる仕事だ。
それでもお互い役を取り替えながら、これからの戦いに体を機体に馴染ませる必要がある。

「あっ、あれは?!」
「おいおい、なんだ今のは!?」

このレン少尉ことフェイロン3と、彼と見かた2機の援護射撃に当たっていたフェイロン2は、目に映ったモニターに凝視した。
アーミアが操縦するフェラータGN-Xが敵機に正面衝突したと思いきや、
寸前の所で両脚を後ろに、胸部を前に折り曲げ、AMBACで逆反転と同時に機体を敵に向けつつ急上昇。
その次に蹴りを相手の右肩部に加えて、その衝撃で一時行動不能になった相手をレーザーガンを胸部に一発。撃墜判定を出す。

「ほらっ、代わりのレーザーガン、確かに手に入れました!」
「本当にあの小娘、やりやがったか!」
「あの敵中にかよ!?」

敵機のレーザーガンをひったくって、レンの乗る損傷機に放り投げる彼女に、二人は呆然となった。
味方の撃墜に反応した敵部隊の反撃に、フェラータGN-Xは離脱に移行。
ベガとアーミアの二機は、相手が2機失うも数的に未だに優勢な敵四機を相手に、互角に戦っている。
数的不利を覆す技量というものに、部下の二人はただ感心するしかなかった。
しかし今は演習中だ。すぐに意識を現実に戻し、前進して前衛2機と合流、反撃に転じた。



今日も艦隊挙げての慣熟訓練が終わり、帰投したMSがドニエプルの側面ハッチに着艦してきた。

「第1小隊、アーミア機着艦!お出迎えだ!」

整備長の叫びに整備士達が、担当の機体へメンテナンスの為に魚のように群がった。
宇宙服を纏い工具を携えた者、作業用パワードスーツをその上に装備した者が、作業用オートマトンが、
無重力空間の格納庫に詰め所から押し寄せてくる。

「GNドライヴと固定アームの接続に異常なし!」
「強制冷却急げ!」

機体の固定箇所の確認、整備の下準備に取り掛かる中、コックピットハッチからパイロットが降りてきた。
アーミア機以外の3機はフェラータGN-Xを参考に、一般パイロット向けに改修したGN-XIVだ。

「おいチェリオ!機体の挙動がまだ早すぎる!小型GNドライヴの粒子生成を20%抑えといてくれ!」

降りてくるなり第1MS小隊のレン少尉が自機担当の整備士チェリオに怒鳴り上げた。
出撃前の機体調整が不満だったか。一刻も早く高揚した気を鎮めたいのか、焦っている様子だった。

「5分の1も?!それじゃあ作戦通りに動けなくなりますよ!?アーミア機の援護ができる程度のスピードが出せなくなります!」
「リミッターかければ良い!普段からあの出力じゃあ、神経が機体に付いて来れん!
 それと、コンピューターの動作プログラムに緊急回避の種類を増やしてくれないか!」
「駆け付ける時に全開で行けば良いですね?!了解しました!
 緊急回避の方はアーミア機と隊長機のデータとリンクさせるよう、整備長と隊長に取り計らいます!」
「じゃあ頼んだぞ!」

量産機には、それぞれのパイロットの適正に合うよう、機体の出力や挙動の強弱が調整されている。
この24世紀の高度に発達した、機体制御コンピューターがそれぞれのパイロットの特性に適合しても、
常に人間の癖を機体に馴染ませるには整備班の熟練した技術がなくてはならない。

「あっ!あと、アーミアのお嬢ちゃんから差し入れのアイスクリームが来てるんで!」
「おう!そいつは嬉しいニュースだぜ!」

主力機として更新したGN-XIVフォルティスは、ドニエプルの整備班の基本設計図を基に軍事産業が開発した改修機である。
最前線での急造品より品質が良く信頼性はあり公式にテストが済んでいる。
しかしテスト済みなのは確かだが、戦時体制で時間があまりないので、誰でも無難に使える最低限の確認しか成されていない。
あとはパイロットと整備班がそれぞれ機体を調整しなければならなかった。

「アイスなら待機ブースの冷蔵庫にあるんで!味はバニラ、チョコ、ストロベリーなので」
「わかった!もしあの娘に会ったら礼を言ってくる!」

愛機を蹴った勢いと足による方向転換で、廊下へと飛んでいく。

「ありったけのGN-XIII無人型とガラクタでやりくりした頃と別のハードさだぜ・・・」

真空状態で汗が滲み出ても手で掻けないのを恨みながらも、黙って部下と共に冷却されたMS装甲を端末で開放。
フレームや機器、GNコンデンサーなどの不具合の確認に取り込んだ。
パイロットには出来ない戦いは整備士達が受け持つ。
この整備がパイロットの技量を機体に、100%に近くに反映させれる、屋台骨を成す仕事なのだから。
自分達が手入れしたMSが無事に帰ってくれれば、努力と汗が報われた勝利を得られるのだから。



[36851]      第8話 ホワイトスネイクGN-X
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/26 23:38
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第8話 GNX-609T/WS ホワイトスネイクGN-X


西暦2312年、アロウズのスキャンダル以来、地球連邦の軍隊による武力行使は慎重になった。
無論それに乗じてこれまで押え付けられた反連邦活動を、再び巻き返す動きが各地で起こった。
これに対し新政権は前政権の二の轍を踏まぬよう、時間がかかっても相手に歩み寄り、対話を重ね続けた。
すぐに武力行使を起こせない宥和政策の裏を掻いて、軍備増強という形で真正面から逆らう非加盟国に、
世界の秩序の為にやむなく軍隊による封鎖という形で威嚇せざる得ない時もあった。
それでも話し合いで解決を目指す新政権に、世界の国々は次第に手を取り合い、それまで各地で続いていた紛争は静まりつつあった。
だが世界はまもなく再び動乱の時代に入る事になる。
金属異星体ELSの飛来と相互の誤解から起こった戦争、その三年後より何十年も続く内戦の時代へ。
変革を遂げた新人類イノベイターの存否を巡る、人類最後の戦争「統合戦争」である。



2年前に開業したPMCホワイトスネイクには裏の顔を持つ。
戦争根絶を掲げる私設武装組織ソレスタルビーイングの下部組織の一つで、
表立って行えない武力介入と更に重みを増す資金難の解決の為にあった。
警備を中心に偵察や狙撃など担当し、短期間で連邦政府御用達の傭兵にのし上がった。
今回の業務はL1、L5中間点で勃発した反乱軍同士の戦場の偵察。鎮圧部隊派遣に先駆けての情報収集だった。

「予定宙域まで一万を切った。全機、ガス逆噴射!」

トランザムでの急加速の後、宇宙空間を利用した慣性航行を続けて三時間経った。
GN粒子でセンサーを封じれるとはいえ、その粒子の色まで敵を欺瞞出来ない。
装甲表面のナノマシンで機体を周囲に溶け込んだ上に、GN粒子は最初の加速のみに留め、
ガスバーニアで姿勢制御してやっとカムフラージュを果たせたのだった。

このGN-XIIIホワイトスネイクのコーン型スラスターに装備する大型ガスバーニアが、肩越しに機体前方に逆噴射。
速度が次第に遅くなっていった。

「これより通信はワイヤー通信に限定。音声通信を切る」
「「了解」」

部下三人の返信の後、自分達三人のMSの通信は断ち切られる。
隊長の一番機はガンカメラ装備の偵察仕様、護衛はGNソード装備の白兵仕様が二、三番機、リニアマシンガン装備の四番機からなる。
それぞれ隠密作戦の為にガスバーニアとダミーバルーンポッドを装備していた。

目の前に広がるのは元連邦軍と思われる反乱軍同士の艦隊戦。
オレンジ色の粒子ビームの大小の何十もの束が飛んでは消え、爆発の火球が双方で生み合った。

「ウイング1よりトネ沈没!なんて極太ビームなんだ!!」
「うわっ・・・、コアファイターが・・・動かない!ひぃあああああああああ!!」
「ここでコロニー軍を一気に叩き付けろ!連邦軍が動く前にだ!」
「おいバカか!?敵を前にして脱出するな!後ろに向けろ!」

偵察用の傍聴機が集めた通信からは、飛び交う兵士達の怒号と悲鳴が溢れかえっていた。
何十何百の声が響き戦場の激しさが嫌でも感じさせられる。

「向こうドニエプル軍に雇われた方からの情報通りに戦ってるな・・・・・・。相手は旧人類軍か・・・。
 お互いヴェーダに察知されずにここまで軍事力を揃えてきたとは・・・・・・」

両軍の間で艦砲射撃の粒子ビームと粒子ミサイルが飛び交い、GN-XIII無人型がGNメガランチャーを遠距離で撃ち合う。
ドニエプル軍のGN-XIVフォルティスが、機体数がやや多い旧人類軍のGN-XIVを相手に互角に戦っている。
こちら連邦側のスパイを兼ねている、ホワイトスネイク社の部隊は遊撃戦力として各戦線の援護に回っていた。
狙撃機が敵艦の艦橋やエンジンを狙い撃ち、近接機が敵MSから狙撃機を守り、火力支援機がGN徹甲弾の弾幕を敵部隊に浴びせた。

「第一MS中隊、敵艦隊より砲撃に遭っている!援護砲撃を頼む!」
「補給済みの無人機を出す!」

艦船の側ではヘリオンやティエレンが火器用GNコンデンサーと予備の火器を味方に手渡したり、
損傷機を予備パーツで修理して部隊ごと戦場に舞い戻らせる。
ビームが貫けばすぐ爆散するMS、コアファイターで脱出するパイロットがいれば、
故障やタイミング違いで上手くいかずに爆発に巻き込まれてしまうパイロットもいる。

「ずいぶんな規模だな・・・・・・。まあ、それもGN機同士じゃそうなるわな」

最近2ヶ月の間、反イノベイター勢力の独自調査を行う勢力の存在を察知していた。
だが詳細が判明した時には一ヶ月前で、その時点で一個の軍隊にまで強大化していたとは予想外だった。
それは旧人類軍に対しても同じ事が言える。双方とも十隻以上の艦船と百機程のMSを揃えていて、ほとんどがGN機だ。
彼らが世界中に公開した反イノベイター勢力の詳細は、相次ぐテロと反乱で混乱した地球連邦の足並みを揃えてくれたのは吉報である。
現政権の推し進める宥和政策の限界を把握でき、有効な対策を考える重要な資料となったのだから。

「だからって好きには出来ないってもんだ。・・・このままじゃ紛争が次々起こる」

この地球圏に存在する軍隊は、超大国にしては軍縮で小規模な地球連邦平和維持軍か、
小国にしては大規模だが旧式兵器しかない非加盟国の軍だけだ。
地球連邦では現在軍隊は正規軍だけで、それ以外に軍隊を立ち上げてはいけない事になっている。
現状を許せば連邦内であちこち軍が乱立し、保たれてきた秩序が乱れる。
そして自衛の名の下に各地で争いが頻発、やがて統一された世界が瓦解してしまうのだ。

「止めたくても、戦えば泥沼の紛争になる・・・。政府は慎重に行きたいって訳だ・・・」

統一国家がすぐに軍を派遣すれば、ただでさえイノベイター賛否で混乱している現地から反発を受けてしまう。
旧人類軍は元より反イノベイター勢力であり、連邦に最初から反抗する姿勢を構えている。
対するドニエプル軍は、連邦の宥和政策に不満で離反した部隊が結成した勢力なので、すぐに従わないだろう。
まずは軍を直接鎮圧に送らずにPMCで偵察してから、状況を見極め次第、軍の軍事介入が決定された。
その偵察を担うのが、彼らホワイトスネイク社だったのだ。

「ウイング1前方に増援!敵ガンダム2機と護衛のGN-XIV6機!くっそ!」
「こちらウイング4モーデル!前方より敵増援を確認!例のスローネ系2機にGN-XIV6機!」
「両翼に切り札を出した!このまま敵を突き崩すぞ!」

集めた通信から旧人類軍がガンダム系の投入をしてきたという。
大体の場所は盗聴でわかるが戦場はかなり広い。一番粒子放出が多い機体から搾り出す事にした。

「ドニエプル軍はGN-XIVの改修機が主力・・・。旧人類軍はGN-XIVが主力、・・・連邦機と変わらんな.
 資料ではあいつらはイノベイター専用ガンダムを持ってるというが、どこにいるか・・・・・・?って、いた!まず2機発見!」

自機から見て右側に観測していたライフル型のガンカメラが、灰色のガンダム・・・ガゼインを発見。ついで左側にも同型畿2機を確認する。
ありったけのファングを飛ばしながら両手の得物で暴れ回っていた。事実、彼らの周囲の方が他の宙域より、戦火が激しく火球の密度が濃い。
それは2機が撃墜したMSの爆発だけではなかった。応戦する相手のミサイルの迎撃、必死の防空で撃ち落されるファング。
中には果敢にもファングの何十もの火線を突破し、ガゼインを怯ませるGN-XIVフォルティスの小隊までいる。

「ん?右翼に例のピーキーGN-Xがいる。となるとあの女が乗っているのか」

連邦政府の若きオブザーバーを勤めていたのだったが、コロニー「プリームムポリス」の反乱でドニエプル軍に加わった義勇兵。
人類とイノベイター、ELSの橋渡しを担う、ハイブリッド・イノベイターでもあるアーミア・リーが。

両肩に擬似GNドライヴを背負ったフェラータGN-Xが、オレンジ色の粒子の輪を何十も宇宙に生みながら縦横無尽に飛び回る。
全周囲を飛び交うGNファングを落とし、襲い来る敵GN-XIVを両断し、ガゼインとぶつかり合う。
その姿と光景は5年前の00ライザーと重なって見える。アロウズを打ち倒した二輪の天使に。

「連邦版00ライザーって奴か?これって」

彼はジョーク交じりで率直な感想を述べた。
当時乗っていたガンダムマイスターほどの技量はないが、イノベイターの力と機体の性能が彼女を助けている。

「では、左翼はどうか・・・?」

ガンカメラの軸を変えるとそこはそこで激戦区だった。

「撃って撃ちまくれ!」
「弾切れ、バレル加熱に気にするな!後方部隊、予備火器をどっと持って来い!持って来てくれなきゃ、みんなおしまいだぞ!!」
「こちらカザン!待機中の後方部隊は現在3個小隊!応援まで待て!」
「なるべく急いでくれ!」
「粒子の雨をお見舞いしてやる!おらおらぁぁ!!」

襲い来るファング群を、ビーム、小型GNミサイルの雨が出迎えている。
それも途切れ無く降り注ぐスコールというべき勢いで、ガゼインとファングをこちらに寄せ付けまいと釘付けにしていたのだ。
迎撃する最前線のGN-XIVフォルティスに続いて火力支援担当のGN-XIII無人型、更には艦砲射撃が加わる。
巨大な粒子ビームに近接信管設定のGN対艦ミサイルが迎撃のスコールに加わり、
濃密な火線を掻い潜るファングを一基、続いて5基と次々落としていく。

「イノベイター相手に飽和攻撃とは・・・。これほど撃ちまくるんだなぁ・・・・・・」

片方が切り札で戦線突破を図れば、反対側は切り札と戦術で押し留める。
ドニエプル軍と旧人類軍の艦隊戦は一進一退の様相を見せ始めた。

「全機、ここは撤退する!」

周囲に散開し警戒する部下に光通信、了解の返信を確認するとガスバーニアを投棄した。

「通信開け。トランザムで離脱だ!」

重いガスバーニアから開放され軽くなった機体でトランザム。四機は瞬く間に戦場から離れていった。

両軍の戦力はこの目で推し量った。後は軍が作戦を立てて紛争介入を行う。
その為に敵に見つかる事なく逃げ切ればこちらの最初の勝利だ。
地球連邦軍の戦いは始まったばかり。現時点でその戦いに彼らは未だに最初の勝利すら収めていない。



[36851]      兵器設定2
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/26 23:42
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第1部 兵器設定2



2317年の旧型MS

追加装備
超小型GNコンデンサー、Eセンサー、GN弾など

地球連邦に残存していた旧3大国時代のMSの近代改修型。
発展を続けるGN機だがコストと擬似太陽炉の生産制約から地球圏全ての配備は不可能だった。
そこで辺境防衛や支援に使われていた機体でも、積極的な支援と対抗が出来るよう改修された。

主力のGN機の支援と自衛能力の付与が図られており、火力では対抗可能になった。
また超小型GNコンデンサーで、パイロット限定ながらも慣性制御でGを軽減されている。

僅かな改修なので数ヶ月程度で全機体の更新を果たし、増加するテロや紛争の対応に当たった。
新規開発される機体は本機群の流れを汲みつつ、完全に粒子対応できる非GN機の予定である。



GNX-903T/D2 ブレイヴ

装備
GNビームライフル「ドレイクハウリング」、GNソード「コメートスパティオン」(両方ともトライパニッシャー可能)
固定装備
GNビームキャノン、GNビームマシンガン、GNビームサーベル、GNウイングソード2基、20ミリ機銃1基
オプション
大型GNコンデンサー、GNミサイル、チャクラグレネードなど

ELS戦で最前線を担ったMSの正式量産型。

哨戒、威力偵察用のD1(シングルドライヴ型)と、精鋭、特務部隊用のD2(ダブルドライヴ)からなる。
前者は元々操縦性が容易な事からGN-XIVに次ぐ機数が配備されている。
後者は2基の擬似GNドライヴから生成される大量の粒子を、
GNフィールドによる防御に充てるなど、試験機では扱い辛かった操縦性が改善された。



GNX-803T/CF-2 GN-XIVフォルティス
装備
GNソード、GNパイク、GNメガランチャー、NGNバズーカ、携行大型GNシールド、他
固定装備
肩部GNシールド(GNビームガン、GNフィールド発生機搭載)、GNバルカン、GNビームサーベル、GNクロー2基、

ドニエプル隊が軍へと再編するに当たって同時に、
工業コロニー「カルト・ハダシュト」のMS工場が開発した総合性能強化型GN-XIV。
フォルティスとはラテン語で「強い」を意味する。
極めて強力だが兵器としてあまりにピーキー過ぎるフェラータGN-Xの反省を生かし、
一般パイロット向けに小型擬似GNドライヴまたは粒子貯蔵タンクを肩部GNシールドに内蔵している。
肩部GNシールドは射撃、防御、機動の機能を併せ持ち、粒子収束で火力と防御を倍増出来る。
粒子貯蔵タンク搭載型の場合は形式番号の最後にA、小型擬似GNドライヴ搭載型はBが付く。

武装は一新され、対GNフィールド装備に実体武器を標準装備。
状況に応じて取り回しが利くGNソードや、リーチが長いGNパイクは共にビームライフルとして射撃可能。
威力の高い単射、弾幕を張れる連射、ファング/ミサイル撃墜に向く拡散に使い分けれる。
同装備は完成度と性能が高く、フェラータGN-Xにも採用された。

従来機に肩部GNシールドを装備するだけで改修が済むが、性能の発揮には機体の多少の調整が必要とする。
旧人類軍との戦いでは主力として活躍し、戦後連邦軍に接収されてからは全GN-XIVを同機に改修。
フェラータGN-Xと共に連邦軍の次期主力MS開発の貴重な参考機となった。



GNX-609T/WS ホワイトスネイクGN-X

装備
GNソード、GNパイク、GNシールド、スナイパーパッケージ、GNビームスナイパーライフル、
カメラガン、リニアマシンガン(GN実体弾)、GNバズーカ(擬似GNドライヴ直結型)
オプション装備
GNグレネード、6連装GNミサイルポッド、ガスバーニア、ダミーバルーンポッド

固定装備
GNバルカン、GNビームサーベル、GNクロー、肩部GNシールド(GNフィールド発生機)2基

PMC「ホワイトスネイク」が保有するGN-XIIIの改修機。
今や旧式になったGN-XIIIをソレスタルビーイングの技術陣が職員名義で改修を担当した為、
地球連邦軍の最新鋭機であるGN-XIV以上の性能に引き上げられている。
業務は拠点警備、要人警護、偵察、潜入、破壊工作までこなす。

肩部GNシールドは内部に粒子貯蔵タンクを備え、防御や機動、射撃の粒子供給に用いられる。
この攻守機動両立の用途はフェラータGN-Xと共通点が多い。
ドニエプル軍結成とホワイトスネイク社の協力で、
本機の運用データと設計をGN-XIVフォルティスの開発に生かされた。



[36851]      時代設定1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/27 19:04
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

時代設定1

NPMS ノンパイロットモビルスーツ
ノンパイロットすなわちパイロット要らずという意味の通り、コックピットの代わりにAIユニットを搭載したMS。
組み込まれた戦闘機動プログラムはもちろん、ヴェーダのバックアップで、
一般兵と変わらない臨機応変でGに影響されない機動と精密無比にして無駄の無い戦闘を両立させた。

従来は操縦にパイロットを充てられ、その人件費と遺族保障、訓練費に誕生から成人までの時間がかかるが、
無人機ではそれらが省かれ生産費と維持費のみしか掛からずコストが大幅に削減された。

欠点はまずプログラム通りの挙動しかとれず、
ヴェーダのバックアップとデータリンクが封じられると有人機の柔軟性に敵わなくなる。
動きに無駄がない分、行動パターンが読まれやすく、熟練パイロット相手では分が悪い。

最大の欠点は戦争がゲーム化する事である。
兵士の損害がなくなれば、両軍は戦争を支える経済を破壊し尽くすまで戦う事になり、
戦争が破滅的な総力戦を呈してしまう危険性が高くなる。

ELSによって大打撃を受けた連邦軍だったが、
上記の危険性を考慮して拠点防衛と火力支援に配備するに留められた。



2317年の地球連邦軍の宇宙戦力

前史
ソレスタルビーイングの脅威と地球圏の平和を名目に、連邦軍の宇宙戦力は3大国時代よりも増強された。
大量のエネルギーを得られるGN粒子とそれを生成する擬似太陽炉は、従来の艦のような燃料や冷却剤の搭載スペースを省略できた。
とはいえ擬似太陽炉のコストは高く、しかも大量の電力を消費する為、大量生産には難があった。
それでも戦力確保の視点から、まずは擬似太陽炉からロケットエンジンの燃料と電力に当てる事にした。
将来を見越して設計に余裕を持たせたバイカル級航宙巡洋艦とウラル級大型輸送艦から開発し、
電力源の確保と共に推進、兵器共にGN粒子対応の艦船を徐々に配備するようになった。
2312年のアロウズの専横、2314年のELS戦にて、軍縮や打撃に遭いながらも宇宙艦船の進歩は進んだ。

2317年の宇宙戦力構成
ELS戦で大打撃から軍縮の維持の形で再建された連邦軍だが、
宇宙進出の加速に伴う防衛の必要性から戦力を地上から宇宙にシフトさせた。
その結果3年前よりも宇宙戦力が増強された。
拠点防衛部隊と独立機動部隊などは省略し、ここでは主要戦力を挙げる。

第1軌道防衛艦隊   ナイル級戦艦1隻、ドニエプル級防空巡洋艦3隻、ヴォルガ級航宙巡洋艦2隻、
バージニア改級輸送艦3隻、GN-XIVコアファイター搭載型21機、GN-XIII無人型12機

第2軌道防衛艦隊   ナイル級戦艦1隻、ドニエプル級防空巡洋艦3隻、ヴォルガ級航宙巡洋艦2隻、
バージニア改級輸送艦3隻、GN-XIVコアファイター搭載型21機、GN-XIII無人型12機

第3軌道防衛艦隊   ナイル級戦艦1隻、ドニエプル級防空巡洋艦3隻、ヴォルガ級航宙巡洋艦2隻、
           バージニア改級輸送艦3隻、GN-XIVコアファイター搭載型21機、GN-XIII無人型12機

第4月面機動艦隊   ドニエプル級防空巡洋艦1隻、ヴォルガ級航宙巡洋艦3隻、ウラル級大型輸送艦2隻、
           バージニア改級輸送艦2隻、GN-XIVコアファイター搭載型12機、GN-XIII無人型6機

第5コロニー防衛艦隊 バイカル級航宙巡洋艦2隻、ラオホゥ改級輸送艦3隻、GN-XIII6機、旧型MS6機

第6コロニー防衛艦隊 バイカル級航宙巡洋艦2隻、ラオホゥ改級輸送艦3隻、GN-XIII6機、旧型MS6機

第7コロニー防衛艦隊 バイカル級航宙巡洋艦2隻、ラオホゥ改級輸送艦3隻、GN-XIII6機、旧型MS6機

第8哨戒艦隊     ヴォルガ級航宙巡洋艦2隻 ラオホゥ改級輸送艦3隻、GN-XIVコアファイター搭載型6機、旧型MS6機

第9哨戒艦隊     ヴォルガ級航宙巡洋艦2隻 ラオホゥ改級輸送艦3隻、GN-XIVコアファイター搭載型6機、旧型MS6機

第10火星艦隊    ドニエプル級防空巡洋艦1隻、ヴォルガ級航宙巡洋艦3隻、ウラル級大型輸送艦1隻、
           バージニア改級輸送艦2隻 GN-XIVコアファイター搭載型12機、GN-XIII無人型6機

総戦力  種別
67隻  戦闘艦36隻 輸送艦31隻
195機 有人GN機117機 無人GN機48機 非GN機30機



[36851] 第1部キャラ設定
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/03/27 19:03
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第1部メインキャラ設定

アーミア・リー 女性 20代前後 准尉待遇
登場話 第4話、第7話

三年前に金属異星体ELSと融合したハイブリッド・イノベイター。
ELSと通じ合える事から、若くして地球連邦のオブザーバーを務め、
人類とイノベイター、ELSの橋渡しと対話の為に働く。
コロニー「プリームムポリス」の講演会を実施予定だったが、
反乱軍に襲われMSで応戦し軍機密に触れた為、護衛部隊のドニエプルの義勇兵になる。



ベガ・ハッシュマン 男性 23歳 大尉
イメージCV 木村 昴   登場話 第1話、第4話、第7話

ドニエプル第一MS小隊の若き指揮官。アーミアの上官を兼任する。
ELS戦では最終防衛線に所属、自分以外の小隊が戦死し一人だけ生き延びた。
良き上官、パイロットであろうと日々努力を怠らないが、
若さゆえの精神の未熟さと過去の傷から来る自己評価の低さ、ELSへの敵対心が目立つ。
本人は自覚していないが、旧人類軍のイノベイター部隊と戦えるなどMS操縦技術はかなり高い。
レン少尉ら部下二名を持つがELS戦直後の部下達とは別人。



ドニエプル艦長 男性 38歳 中佐
イメージCV 梁田 清之   登場話 第2話、第4話

地球連邦軍の最新鋭巡洋艦ドニエプルの艦長。
1年前から頻発するテロと彼らの整った装備に警戒しており、政府の宥和政策に不満を持つ。
コロニー「プリームムポリス」の反乱で旧人類軍と戦い、
すぐに動けない連邦軍に代わって彼らの全貌を暴かんと独自に部隊を率いる。
アーミアには快く思っておらず常に高圧的な態度で接する。



旧人類軍作戦司令官 男性 40代後半 将官
イメージCV 小杉 十郎太   登場話 第3話

反イノベイター軍事組織「旧人類軍」の高級幹部。
元地球連邦軍人でアロウズに所属していた時もあった。体形は超肥満体でガマガエル顔。
海賊のような粗野な性格で、口臭も体臭もかなり臭いが部隊指揮は秀でているので、
部下からは人間としては嫌われているが上官としては信頼されている。



[36851]      第9話 バイカル改級航宙巡洋艦
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/05/28 21:24
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第9話 バイカル改級航宙巡洋艦

軌道エレベーター完成以前から続いた宇宙開発は、大型スペースコロニーによって遂に宇宙移民を可能にした。
ELS戦より一年後より始まった移民ラッシュから二年間、その数は瞬く間に五千万人を突破。
地球上では成し得ない金属精製から資源運送、人類の生命線である太陽光発電の拡大・・・、どれも大いなる経済成長を可能にする活動ばかりである。
だが急激な経済成長には必ず暗部が付きまとう。
大量に移動する物資や移民団、資産を狙う宇宙海賊が出没し始め、更には反イノベイター派のテロが各地で破壊活動を行うようになった。
対する連邦政府は、警戒を強め正規軍の戦力の大半を宇宙に傾け再編成、治安維持の為に鎮圧に乗り出し始めた。
そして三年後、軍縮を続ける地球連邦は新たな岐路を突き付けられる事になる。

西暦2317年、コロニー「プリームムポリス」の反乱から始まる旧人類軍の決起。
ただでさえ頻発していた世界各地のテロや暴動の頻度を更に上げさせ、中には公然と反乱を仕掛ける地域まで出てきた。
地球連邦は軍による鎮圧を試みるが、ただでさえ縮小した軍隊では全て対応し切れなかった。
日に日に増す攻撃に、各地の流通は圧迫され経済は締め上げられ市民の不満はそのまま連邦政府に向けられる。
この超大国を構成する州や参加国、コロニーは警備隊を増強、一部では再軍備でこの混乱の収拾を図った。
連邦が黙っていないだろうが、自らの治める地域を、市民の安全を守るために。



L4方面に位置する工業コロニー「カルト・ハダシュト」。
2315年に完成したこの大型のスペースコロニーは総人口600万人程で、重工業が主要産業の宇宙開発の重要拠点である。
近年出没するテロに対して、警備隊を拡充して連邦軍払い下げのMSと艦船を配備する事で対応を取った。
だが2317年に起きたL4のプリームムポリス反乱と旧人類軍決起をきっかけに、市長が防衛軍結成を決意。戦力の確保が急務となった。
編成され次第訓練を重ね来る戦いに備え、毎日のようにコロニー周辺で急造艦隊が訓練に明け暮れていた。

「こちらティべりス、戦闘配置完了しました!」
「2分32秒か。遅いぞ貴様ら!」

艦橋内、モニター越しでのやりとり。報告を行う艦長に艦隊司令兼務の玉木艦長が叱責を飛ばす。

「もっ申し訳ありません!」
「謝っている暇があるならさっさと命令を聞け!」

軍の設立に併せて増強される機動戦力には、MSはもちろん艦船も含まれている。
といっても多くは正規軍から払い下げの旧式機で、主力にGN-XIIIを20機で配備がやっとだった。
一方、艦船はバージニア級やラオホゥ級などの輸送艦と武装強化型を中心に、バイカル級航宙巡洋艦4隻を調達する。
その上巡洋艦4隻をコロニー内の軍事産業支社に改修させてもらった。
主砲はレーザー砲から粒子砲に換装させ、それに併せて機関の擬似GNドライヴを最新型に変更し戦闘力を向上。
防空艦ドニエプル級や主力艦ヴォルガ級程の改修コストを抑えつつ、最低限の変更で強化した。
宇宙海賊やテロリストにはこれらで十分な装備である。だが最新鋭機を揃える旧人類軍には歯が立たない。
それでも防衛に少しでも力を注がなければならないのが現状である。

その内4分の1は従来の警備隊やからの異動と元連邦軍駐留部隊からなる精鋭だが、残りは新規に募った志願兵が大半である。
だが彼らは新たに住む、カルト・ハダシュト防衛の志に燃える彼らは、未熟であっても決して無能ではない。
毎日の訓練で必死に学び、頭と体に叩き込み鍛え続ける新兵は将来優秀な将兵になるだろう。
玉木大佐は未来ある若人を厳しくも、しかし密かに将来に期待した。

「全艦に告ぐ!・・・横隊一列!間隔800メートル開けよ!」

玉木の号令の下、旗艦オロンデスからなるバイカル級4隻からなるコロニー艦隊が陣形を変化させる。

「微速前進!五秒後にサイドスラスター逆噴射、並びに側面スラスターで僚艦との間隔を均一に調整しろ!」
「左舷、ピナロスと200メートル近い!右舷に噴射するんだ!」

艦隊司令の命令が伝わった艦長が細かい艦の機動を、操舵手の手で艦船の進路方向を調整していく。
それは脳から指令が電流となって神経を通じて、身体四肢を動かす生物のように、乱れていた列を正していった。

「900メートルも横にずれた!」
「こちらハルハ移動完了!」

上手く隊列変更に対応できた艦の報告、できなかった艦の悲鳴が錯綜する。
多くの知識をどれ程取り込んでも多くの軍人達は、三ヶ月程度の速成訓練で一応仕上がっただけでしかなかった。
何年もかけて訓練してやっと一人前に仕上がる宇宙の軍人だが、事態は切羽詰っており最低限の機能を防衛軍に与えたいのだ。
クルーは元民間船乗組員なので最低限の機動はできるが、戦闘にはまだ駆り出す事などできない。

「これは学校の集会ではない!敵は待ってくれんぞ!!」

ほとんどが未熟であっても渇を常に飛ばさなければならないのが、鞭を振るい続けなければならない自分が全く腹立たしい。
元警備隊の玉木はそんな状況と厳しすぎる自分を自覚していたが、
それをこらえて一刻も早く彼らを一人前に仕上げて戦力にしなければならなかった。
艦隊訓練の最中、敵の襲撃に怠り無く警戒していた観測士が、

「Eセンサーに反応!3時方向に機影を確認、数は1つ、4つ・・・・・・!」

モニターに反応した機影に目を見開く。
数を数得るだけでサイズや種類を把握できないのは、光学カメラの有効視界内にそれらが入り込んでいないのだから。
今やテロや反乱が頻発するこのご時勢、いつどこで攻撃を受けるのかわからないのだ。
乗組員の報告に艦長以下艦橋にいる全員が神経を張り詰めた。

「視認できるか?」
「先頭はドニエプル級です。番号から一番艦ドニエプルと判明後続も同サイズ、同級もう一隻、ヴォルガ級二隻、最後はウラル級1隻。
 ナンバーから連邦宇宙軍第一軌道防衛艦隊を中核とする任務部隊の模様!」
「連邦艦隊か!どちらにせよ、全艦訓練中止だ!ヨドは本艦と共に警戒に当たれ!
 他ハルハ、タリムは港前まで後退し、コロニー最終防衛ラインに配置しろ!」

口ではそう言った玉木だったものの、必ずしもその通りとは限らない。
これ程整った戦力なら連邦軍の他に旧人類軍も持っているのだ。
連邦艦隊に偽装している可能性がある以上、安易な判断を下せなかった。

「こちらオロンデス、所属を明かされたし。応答せよ」

応答があれば相手がわかる。逆に何も返って来ずわからなければ旧人類軍の可能性がある。
しかしまずは手順通りに艦隊にオープンチャンネルで応答を試みる。

「応答が来ない。いや、あれは・・・・・・?解読しろ」

モニターの中でドニエプル級の表面より光の点滅が走ってきた。それも発光時間の伸縮を微妙に変えて。

「光通信です。ワレ、レンポウグン。ハナシアリ、コロニー二イカレタリ」
「しかもモールス信号とは・・・!?一体何を考えているのですか・・・・・・?!」
「普通に通信をせずにした辺り、何か裏が可能性がある・・・」
「連邦軍の鎮圧部隊かもしれん。戦って勝てる相手ではないぞ」
「だが今の連邦の姿勢にはもうこれ以上ついて来れない。退去を願うべきだ」
「艦長、これは敵性勢力と認定すべきです!」
「どうなさいますか艦長?」

直属の参謀達の憶測が飛び交う中、オペレーターが訊いて来る。

「通せばコロニーでの軍事行動が起きる可能性がある。それは国際条約違反だ。
 光信号で応対!キカンノネガイキケズ。ホンカン二マイラレタシ、だ」

こちらに連邦艦隊はどう応えるか。
戦っても一方的に蹴散らされるはずだ。追い払いもできなければ諦めて帰ってくれると思えない。
玉木は賭けた。戦いも相手に乗ろうとはせずに、まずお互い話し合ってでの解決を。



20分後経った。
コロニー艦隊は連邦艦隊の侵入を押さえ、
連邦指揮官を旗艦オロンデス内に交渉の席に着かせる事に成功した。
席に着くなりその指揮官ジョシュア・A・ジョンソン大佐は

「我々の反乱勢力鎮圧の為に協力を求めます」

前置きも自己紹介もなくぶっきらぼうに言い放った。

「正規軍がですか?遂に鎮圧に本腰を入れるというのですか」

テロと反乱で混乱しているのだ。鎮圧しようにも軍縮で戦力不足なら、各地の私設軍を取り込んで増強するのが狙いだろう。
だが連邦政府は鎮圧に乗り出すとまだ報じていないし情報が支持者達から届いていない。そこが気がかりだ。
地方の動きが分離主義と見なしたか、これ以上放置できないと判断したか。
性急な地方鎮圧の可能性があるからには警戒を続るべきだった。

「残念ながら連邦政府は宥和政策に固執し続けています。
 混乱状態の今、未だに動けぬ連邦軍から離れ、私は独自に反乱勢力を洗い出してきました。
 奴らの詳細は全てわかりました。鎮圧の為に君達コロニーの手が必要なのです」
「正規軍の貴官が・・・ですか」
「連邦が保有するヴェーダの目は、どんな通信も見逃さない。
 動きが知られぬよう、通信を最低限に、光通信で行った事は申し訳ありません」
「・・・・・・とはいえ連邦のフェイントの可能性がある以上、貴官の要求にはまだ受け入れられません。
 どうか、ここでお引取り願えますか?」

ジョンソンの鋭い眼は玉木の背後に向ける。その先には完全武装の警備兵二名が扉の両脇を固めるように立っている。

「カルト・ハダシュトが軍備を持ったのは、あくまで自衛の為であって叛意から来るものではありません。
 それに反連邦勢力についてヴェーダでも完全に把握できない状況。
 貴官の証言だけでは何の証拠にもなりません。
 外交官ではなく軍人である貴官が、大部隊を率いている辺り、敵意が感じられると言わざる得ません。
 どうかお引取りを――――――――――」
「その証拠がこちらです」

それは一台の携帯端末だ。玉木は目を身開き、無意識に唾を飲み込む。
彼ジョンソンの言う事は本気なのかもしれないようだ。
こちらの拒絶も無言の圧力も動じぬジョンソンという男は只者ではないと密かに悟った。



[36851]      第10話 GN-XIVフルミナータ
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/04/14 21:34
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第10話 GN-XIVフルミナータ

同じGN機でも、基幹を成すガンダムは圧倒的に強力だ。
それより分岐した連邦機は一部を除いて平凡で物量を優先する。
強い弱いでも連邦側が無能という訳ではない。
ガンダムを保有する私設武装組織ソレスタルビーイングが、世界より先んじて粒子技術を発達させた事もあろう。
だが彼らのGNドライヴは粒子生成は無制限で半永久的に稼動できるが、木星など高重力環境下でなければ作れないのが問題だ。
多くても二基から五基くらいが限界で、故にガンダムもGNドライヴの台数で機体数が制限されてしまう。
対する地球連邦は私設武装組織の裏切り者の提供から始まり、その技術を習熱するなどガンダムに追い付くには時間をかかった。
提供された太陽炉は電力供給を要する稼動有限だったが、
圧倒的多数の戦力を有する連邦軍では支援が期待されさほど問題ではなかった。
そうした環境が、両者のMSの方向性を位置づかせたのだ。
ガンダムは多数の敵相手の一騎当千というべき戦闘力を求められ、
連邦機はどのパイロットでも機体性能を引き出せる操縦性と、何百機も揃えられる生産性を要求されて。
それでも時として方向性が変わる時が来る。
逼迫した戦況や人員が足りない状況、敵がかなり強い場合に。
強い相手には戦術か性能向上か、それは火力か、機動力か、防御なのか、それとも索敵なのだろうか。
MSはその都度、環境に合わせてその姿を変えていく。


連邦軍より脱走したドニエプル部隊は各地で協力者を集め、
今や軍事産業や多くのコロニーを味方にする一艦隊に拡大、そしてドニエプル軍を名乗る。
作戦どおり旧人類軍が拠点を構えるL1に侵攻を開始。
それに対して艦隊を迎撃に出させ、両者はここL4、L1中間点で会敵し艦隊戦が開始された。
艦隊同士遠距離での撃ち合いから始まった戦いは、どちらも埒が開かないと判断。
次の段階、MSの展開による迎撃MSの駆逐、艦隊の直接攻撃が試みられた。

「第1特別砲撃MS小隊に告ぐ。戦況は想定どおりにあり、プランA1で出撃されたし」
「へぇ~、事は順調なんだなぁ」

オペレーターよりのアナウンスに呑気に返答。
このパイロット―――アレクサンドル・ウォルコフスキーは精鋭の一角を成すMS小隊長を務めている。
元々カルト・ハダシュト自衛軍所属だったが、
ドニエプル軍結成の際に彼の射撃の腕を見込まれコロニーより派遣された。
同じように最も射撃が得意なパイロットが、傭兵やPMC問わずこの二個特別砲撃小隊に構成されていた。
この部隊の任務はMS部隊の最初の射撃の後に予備戦力として待機、不利な戦線の支援を担当である。
火力支援でもGN-XIII無人型では柔軟性が欠け瞬間火力が欠ける。
そこでこの火力支援特化のGN-XIVが戦場で火消しに回るのだ。
最も対応が求めたれるのは敵イノベイター機の牽制もしくは撃破の二つ。
あれが装備する二十二基もの大小のGNファングとイノベイターの実力は、こちらにとって最大の脅威なのだ。
GN-XIVフルミナータは最大の脅威の排除の切り札であった。

機体最終調整は済んだがもう一度確認してみる。新型の大型粒子制御装置、各火器、フレーム全て異常なし。
シミュレーターと演習で短い間に、出来るだけありったけ動かしたが実戦はこれが始めてだ。
この火力支援の改修GN-XIVフルミーナータ。
マニピュレーターが持つGNメガランチャーの他にも、肩部の連装GNビームキャノンに対艦ミサイル発射機を装備。
更に同じ肩部にGN-X用擬似GNドライヴ2基搭載するトリプルドライヴで、
ただでさえ強力な火力を三倍に引き上げられ、フェラータGN-Xと同じ火力を長時間発揮できるように仕上がっている。
ラテン語で「落雷」を意味する機体は、敵たる旧人類軍にどれほど火力を発揮できるのか。

「まず盛大な雷を落とすんだ・・・!いっくぜ俺様!」

戦いの喜びと死の恐怖がない交ぜになって、脳内麻薬の分泌が促進される。
今までで最高の乗機でこれから戦いに赴く男の奮起の中、母艦の出撃準備が慌しく進んでいく。

「GNドライヴ点火!」

それまで背部のコーンと接続していたスターターが擬似GNドライヴを起動。

「ハッチ開放!全機、幸運を祈る!」
「了解!ウィル・ハミルトン、GN-XIVフルミナータ、出るぜ!」

スロットルを全開、粒子生成を最大に引き上げ、このウラル級輸送艦ナロードナヤから機体を飛翔させた。
続いて同型の二、三番機が出撃、アローフォーメーションを組み先頭に立つ。

「各機、メガランチャーのチャージ始めろ!」

前方の主力艦隊を飛び越えた先は粒子ビームとミサイルが飛び交う戦場である。
気が付けば自分達の周辺は火力支援担当のGN-XIII無人型が、GNメガランチャーを構え横隊を組み始めていた。
作戦通りに指揮官は

「各機、無人部隊と歩調合わせろ!」

と部下に指示を下し、第1小隊は第2小隊と共に二十機もの無人部隊の中央に加わっていった。
後続には主力MS部隊が、GN-XIVフォルティスが同じく横隊を組んで、こちらと距離を置いて前進している。

「こちらドニエプル。現在作戦は順調。プランA1を継続せよ」
「ドラゴン・アルファ、了解!全機チャージ完了!」
「ドラゴン・ベータ、了解!こちらも同じくチャージ完了です!」

旧人類軍艦隊はこちらに合わせてMS部隊を展開、いよいよぶつかり合い乱戦が始まる。

「全機チャージを確認!・・・撃ち方始めぃ!」

軍司令ジョンソンの号令の元、先陣がそれぞれの火器で一斉に発射した。
火を噴かせた二十機以上もの火力支援機の一斉砲撃は圧巻の一言に尽きるものだった。
粒子ビームがMSを軽く飲み込む太さで放たれ、敵艦隊の砲撃が当たっても物とせず敵軍に飛んでいく。
GN-XIII無人型はGNメガランチャーを撃つが、GN-XIVフルミナータは
やや遅れて敵の斉射が開始、遥か遠くからこちらを襲う。

「後退だ!次蜂に道を明けながらだぞ、いいな!!」
「「了解!」」

第一陣は反撃から小隊ごとの散開での回避に移行。
幾十もの火線からそれぞれ掻い潜るも、それでも敵の照準は甘くなく、見た限り四機の無人機が撃墜された。
砲撃部隊はそのまま後退し主力部隊の背後に回り、打撃から支援砲撃に当たった。
一方の特別砲撃部隊は彼らから離れ、更に後方の艦隊へ退いていく。

「牽制攻撃しながらだ!背を向けねぇで前に向きながらだ!」

敵の弾幕は激しく大小の粒子ビームが次から次へ飛び込んで来る。
戦場で背を向けば容易に撃たれやすくなるのは、過去から続く戦闘での原則だ。
後ろから来る味方の攻撃に巻き添えを喰らう危険性はあるが、
味方と識別されている以上敵に撃たれるほどの確立は少ないだろう。
艦隊に戻るまで特別砲撃部隊の被害は皆無だったが、戦いはまだ始まってまだ間もない。
予備戦力としてとんぼ返りしても、指示一つですぐに動かなければならないのだ。



MSの激突から30分経過した。
戦いは一進一退でドニエプル軍と旧人類軍は膠着状態に陥っていた。
損害は7%でまだ戦えるが戦況を好転させねば、消耗戦となって勝っても意味がなくなる。
母艦ナロードナヤで待機中の第一小隊は、帰還してから出撃命令がないまま待機を続けていた。

「第15MS小隊が帰還した。第2整備MS小隊が対応に当たれ!」
「43番機のコックピットハッチが開かない!壊してやるしかない!
 急げ!パイロットは負傷してるんだぞ!」
「担当のティエレンが来ました、班長!」
「おいバカ!MSが来てるんだ!ぶつかっちまう!」

オペレーターや整備班の怒号が飛び交っている。
何もしないで待機したいところだが待機が厳命されており、コックピットにいなければならなかった。
配給の栄養ゼリーを飲みながら心内不満を垂らしていると通信が入った。

「ドラゴン・アルファよりこちらナロードナヤ。ドニエプルより出撃命令が出た」
「了解!」

声はオペレーター、慌しく言う辺り戦況が変化しているだろう。・・・・・・悪い意味で。
再び宇宙に飛び出た第一小隊にドニエプルからの通信が来た。

「こちらドニエプル。両翼よりイノベイター部隊が侵攻して来た。現在防戦しているが撃退すら至っていない
 第一小隊は左翼へ、第二小隊は右翼へ火力支援に回り、戦線崩壊を阻止せよ」
「ドラゴン・アルファ了解!」
「ドラゴン・ベータ了解!」

予感はお見事に的中した。戦況は逼迫しかかっているが、いよいよ部隊の本領発揮の時が遂に来た。
アレクサンドルは改めて気合を入れ、旗艦よりデータ送信された指定座標へ急行。
向かった先、艦隊左翼は思った以上の戦火というべき火球が沢山生まれており、

「あれがイノベイター機・・・・・・ガゼインか・・・。まんまガンダムだろ!」

二機の灰色のガンダム系が大剣と大量のファングで味方部隊を押している所だった。
彼らの実力はドニエプル軍のジョンソン司令と義勇兵アーミアから聞いた通り、
死神を髣髴させる勢いで圧倒的多数のはずの相手に死の鎌で冥界に次々送り込んでいく。
火力強化されたGN-Xフォルティスすら防戦に精一杯で、既にファングの一部は戦線突破される有様にあった。
さすが新人類と言うイノベイターか。だが、かといってこうして攻撃に甘受されるわけにはいかない。

「前方より小型ファング六機!だが気をつけろよ!!各機、牽制射撃!」

増援に来たこちらを気づいたらしく、突破させたファング群を尖兵に差し向けてきた。
三機がGNビームキャノンを小威力で連射。
ファング群の周囲にばら撒いて、徐々に中心へと撃っていき進行方向を限定させる。

牽制射撃が絶え間なく続く中、肩部に装着した発射機より対艦GNミサイルが隊長機より一発撃ち放った。
艦船用と同じサイズの対艦ミサイルは輪を描く砲火の空白の中心に導かれていく。
ファングと接触するより前、数百メートル手前で炸裂。圧縮粒子が進行方向に拡散されファングへと降り注ぐ。
四機が圧縮粒子の雨に叩き付けられ撃墜。もう二機は避けるも攻撃第二派の粒子ビームを浴びて蒸発。

「全ファング撃墜!」

部下が喜びに声を上げる。

「何言ってやがるバカが!あんなのほんの一部だろうが!」

まだ三十機以上のファングが残っているのだ。今のはほんの序の口でしかない。
援軍に気付いた味方機は後退し始めている。そうなれば全周囲を飛び交っていたファングは追撃に正面に飛ぶはずだ。

「全機一斉発射だ!」

各機一発ずつの三発、その後にメガランチャー拡散モードとビームキャノン連射モードが続いた。
近接信管による炸裂で周囲に火達磨を生まれる。ファングが命中し爆発したのだ。
逃れたファングは火力特化機によるスコールとも言うべき猛烈な対空砲火で、回避想定位置に粒子ビームを叩き込む。
今度は先よりも猛烈で本気というべき弾幕は、掻い潜りながら押し寄せるファング群に損耗を強いらせていく。
いかに人の脳量子波を感じ取れるイノベイターとはいえども、一方方向からの集中砲火は読めても全部撥ね付けられないのだ。
そこへ三機のGNメガランチャー、それもバーストモードの砲火がファングを粒子の奔流に飲み込んだ。
粒子砲撃はまだ続く。射線を横にずらしていき、生き残りの分ごと面にある全ての物を焼き尽くす。
砲撃の最中、Eセンサーが機影を反応した。数は十二機で全て味方機だ。

「こちら第三MS中隊!戦線を押し戻しに来た!済まない、無人機連れてくのに時間食った!」
「こちら第一特別砲撃小隊、応援に感謝します!」

GN-XIVフォルティス九と機GN-XIII無人型三機のフルバースト砲撃が、
フルミナータと共に残存ファング群の駆逐に取り掛かる。
一度イノベイター部隊に押されたがまだ負けていない。今ここで形勢を逆転させるチャンスが転がり込んできたのだから。



[36851]      第11話 ガデラーザ
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/04/20 23:46
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第11話 ガデラーザ

西暦2312年、独立治安維持部隊アロウズとイノベイドの傀儡となった地球連邦と、
それらに反抗する反連邦組織カタロン、私設武装組織ソレスタルビーイングの間で争ったアロウズ紛争の終盤の事である。
連邦史上最初のイノベイターが出現、その後連邦政府の調査によってその存在が明らかになったのだ。
脳量子波による相互理解の可能性を秘めた存在に、将来のイノベイター増加に備えて研究とインフラ整備が急がれた。
この時点でそれを恐れる者は既に出現していた。
「心を平気で覗く存在」、「人の姿をした人外」と見なし排除を考えるのは、それから程なくだった。
更に二年後に外宇宙より飛来した、金属異星体ELSの脳量子波の干渉から、イノベイターの増加が始まる。
革新者を否定する者達は「ELSの汚染」の可能性を考え、異形の来訪者を恐れる者も彼らに加わるようになった。
イノベイターとELS・・・・・・。
革新者と来訪者が一度に現れ、その存在に困惑し混乱し、恐怖と憎悪から双方の排除に動き出し始める。
まず第一の目標は増え始めたイノベイター。その次に彼らという存在を増やしていると思われるELSだった。



地球と月及び宇宙を結ぶ中継地点L1方面に位置する、連邦軍所有コロニー基地「カストラ・アレクサンドリエンシス」。
基地司令アレクサンダーの名を取ったこのコロニーは別の顔を持っていた。
反イノベイター勢力最大規模を誇る旧人類軍の本部が、同じ反イノベイター派のアレクサンダー司令の手引きでこの内部に設置されているのだ。

「状況はどうか?」
「迎撃に出した第一艦隊は侵攻するドニエプル軍と、L1、l4中間点にて激突。交戦に入りました。
 地球連邦軍はソロモンタワーに艦隊が集結しており、こちらの鎮圧を目的としている模様です」
「ドニエプル軍には数はこちらが優位ですが、機体性能は向こうが上です。
 また連邦軍は物量的に優位で、両者を相手しては勝っても戦力は壊滅は必至であります」
「熟知している。・・・だから問題なのだ・・・・・・」

参謀団の報告に総司令官は逡巡する。
旧人類軍の戦力は連邦軍内部のシンパ達を主力に、
秘密裏に募った反イノベイター派義勇兵や軍務を条件に元テロリストや政治犯からなる。
装備はGN-XIVコアファイター搭載型など連邦軍でも最新装備を使用し、
それらの供給源と資金源は縮小から拡大に転じたい軍事産業から賄われていた。
ヴェーダによる情報漏洩対策に本機を参考に開発した大型量子コンピューター「パラディオン」で、
情報収集を妨害し旧人類軍の表立った軍事活動を可能にさせた。
こうして結成した組織はかつての反連邦組織カタロン以上の軍事力と、
多くの賛同者達、管制されたヴェーダ対策によって成し遂げられたのだった。

「現在確認の限りでは、集結中の連邦軍は第四月面機動艦隊を中核に二個軌道防衛艦隊と二個独立機動部隊。
 未だに動きが見えないので、恐らく鎮圧部隊は更に膨張する可能性が否定できません」
「指揮官は・・・カティ・マネキンかもしれん」

相手が最悪と言わんばかりに顔を苦く歪めた。冷静に振舞いたいものだが、状況が悪く転げば感情を抑えきれなくなるのだ。
戦力自体は申し分ない充実した内容だが、連邦軍に比べれば小規模でしかない。
ある程度戦えても勝利を収められないとあっては今の戦況は最悪だろう。

総司令官は大型モニターが表示する艦隊からの映像や情報に目を通していく。
L1、L4中間点の戦いは互角。やや少数のドニエプル軍がこちらのイノベイター部隊を釘付けにしているとは厄介な事態だ。
あの切り札が封じられれば勝とうが負けようが、どう転んでも大損害から決して免れられない。
双方ともGN-XIVが主力機だが、こちら旧人類軍は戦力確保に傾斜し改修には手掛けなかった。
対するドニエプル軍は全体性能向上型や火力特化などの改修機を大量配備し、少ない戦力を少しでも強化している。
それは組織の優劣、指揮官の資質から由来する訳ではなかった。
旧人類軍は連邦軍との戦争の為にまず戦力を確保しなければならないのに対し、
ドニエプル軍はあくまで反連邦行為鎮圧が目的で連邦が敵はなかったのだった。
テロや反乱に苦しむコロニーや連邦内部と多くの味方を付けたおかげで、
連邦という後顧の憂いを断ち、戦力確保だけでなく強化にも労力を傾けられたからである。

「第一特別MA小隊はどうしている?」
「はっ。現在、単独での破壊活動を継続中です。まさか、呼び戻しなさりますか?」
「連邦軍鎮圧部隊に攻撃を仕掛けるのだ!壊滅させなくても作戦不可能にさせねば、二面作戦は自殺行為なのだ!」

その部隊は拉致したイノベイターと薬物投与で彼らを再現した擬似イノベイターからなる、超巨大MAガデラーザ二機で構成される。
かつてELSに見せ付けた圧倒的火力と機動力を誇る性能引き出すのには、敵視するイノベイター達を使うしかない。
彼らを引き入れれば組織の理念が揺らぎ根絶の意味が成さなくなる。
だがイノベイターを人間としてではなく兵器として扱えば、目的の歪曲は避けられるだろう。

「作戦行動を中断するよう、部隊に通知しろ!」

イノベイターを拒む者達がいるかぎり旧人類軍は滅びない。
だが戦力を集めるのは難しい以上、できるだけ自軍の損害を抑えなければならなかった。



その男が人間でなくなったのは三年前の事だった。
ELSの出現で脳量子波遮断施設へ避難を余儀なくされ、戦後は周囲から白い目で見られ、
社会から拒まれ職というものにはどこにも就けなかった。
放浪している所を男達に無理やり連れられ、
どこかわからない地下施設で脳にナノマシンが仕掛けられ自我を失い、自分が自分でなくなった。
毎日餌と言うべきただの栄養バーだけを食べさせられ、料理という物を食べた事は一度もない。
上官や周りの罵声や暴力が苦痛とも何も感じなくなり、どんな命令も従い子供でも誰でも残虐に殺せる。
どんなに膨大な情報も脳内ナノマシンによってすぐに収集でき、戦闘行動も情報が入ればその通りに動けるようになった。

短期間の訓練を経てすぐに今乗っている青いMA「ガデラーザ」に乗せさせられ、たった今のこの瞬間も破壊と殺戮の限りを尽くした。
百基以上もの大小のGNファングを一度に操り縦横無尽に飛ばし、機首部のGNブラスターが射線内の敵を薙ぎ払う。
四本のクローアームからGNバズーカ級の粒子ビームを連射で周囲に弾幕を張る。
それを相手したパイロットは誰もが恐怖した。あれは悪夢だと。あれには勝ち目はないと。

「脆い」

乗機の機首に衝突した宇宙旅客船に呟いたのがたった一言だった。
衝突の勢いのまま船の表面を突き破り真っ二つにしていく瞬間が目に入るが、別になんとも感じないでいた。
あの時乗客と乗組員を跡形もなく潰していくのも、乗客に善良な家族や市民、子供達がいたとしても。
彼らの断末魔が脳量子波を通じてこちらに伝わっても、そんな事は彼の知った事ではない。
もっとも今着込んでいるパイロットスーツは、イノベイター用に外部の脳量子波を遮断できるので男に彼らの声が届く事はないが。

後方より粒子ビームが飛来、装甲表面に直撃した。だがそのまま貫く事なく周囲に拡散し焦げ目を付ける事にしかならなかった。
撃ってきたのは連邦軍のGN-XIVコアファイター搭載型。ほかにも五機ほど残っている。
ガデラーザはGNフィールドを展開できないが、装甲は厚い上にGNフィールドでコーティングされている。

「鬱陶しい。蹴散らす」

三基連結型擬似GNドライヴを全開させ急加速。
だが、機体を翻す事無くこの宙域を、旅客船と護衛部隊を放置してそのまま去っていった。
・・・・・・・・・もっとも機体だけは。
本機で直接大打撃を与えれば後は散開中のファング群で片付ければ良いのだ。

間もなく駆け付けたファング群による何十もの火線と火球が広がる。
あそこにいた連邦軍部隊と護衛の旅客船は残さず殲滅を一分足らずで完遂した。
この一方的な攻撃に直接意味はないし、連邦軍には戦術的打撃を与えたに過ぎない。
それでも宇宙の流通に打撃を与え、市民に破壊活動の恐怖を染み込ませればこの作戦は成功だ。
小型GNファングは大型機に、そして機体ファングコンテナにと収納する。

「こちらカストラ・アレクサンドリエンシス。グレートソード1、作戦行動を中止せよ。
 僚機との合流ポイントをそちらに転送する」

本部からの通信からもたらされたのは作戦中止だった。
単機の通商破壊を中止するとは何かあったのか、パイロットは疑問に思わなかった。
ただ命令を遂行するのみ。作戦は上層部が決める事なのだ。
湧き上がるだろう疑念と不安はナノマシンにすぐにかき消されていく。
兵器の生体コンピューターであるからには、余計な感情は邪魔で作戦遂行を阻むからである。

「合流後はアフリカタワーの連邦艦隊に攻撃をかけよ」
「こちらグレートソード1、了解」

感情はなく無機質に答えた。
合流ポイントはL5、L1中間点。戦いは続くとの事だがこれは上官命令である。
彼は進路方向を左に変更させ合流ポイントに向かった。



[36851]      兵器設定3
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/04/22 19:01
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第1部 兵器設定3、キャラ設定2、第1部あとがき



バイカル改級航宙巡洋艦

変更装備
連装GNビーム主砲2基

連邦軍の払い下げの巡洋艦の改修型。
各コロニー軍の限られた資金で火力向上を目指しドニエプル級のと同じ主砲を、レーザー主砲と取り替えられた。
周辺宙域の哨戒を目的としテロリストと宇宙海賊に対し優位に立ち、反乱軍や旧人類軍には対抗できる。



GNX-803T/Lul GN-XIVフルミナータ

装備
GNメガランチャー、その他

固定装備
連装GNビームキャノン、対艦GNミサイル二連装発射機、GNビームサーベル、GNバルカン、GNクロー2基

ドニエプル軍が使用するGN-XIVの火力特化型改修機。
フルミナータとはラテン語で「雷鳴」を意味する。
GN-XIIキャノンと主力機GN-XIVフォルティスを参考に、
両肩に武装と共に擬似GNドライヴを搭載するトリプルドライヴにした事で、
フェラータGN-Xと同じ大火力を長時間発揮できる。
改修コストは高く、ドニエプル軍では対イノベイター用切り札として、特別砲撃部隊に八機しか配備できなかった。
連邦軍に接収されてからは配備されているGN-XIVの一部を、本機に改修し火力支援に充てられた。



GNMA-0002ガデラーザ

装備
GNブラスター1基、GNバルカン、GNミサイル発射機2基、大型GNファング14機、小型GNファング140機

ELS戦で活躍したイノベイター専用試作型MAの正式量産型。
3基連結擬似GNドライヴ2基による圧倒的な性能と引き換えにコストが極めて高く、
旧人類軍では二機、連邦軍でも四機の配備が限界だった。



[36851]      キャラ設定2(第1部終了時)、第1部あとがき
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2013/04/21 00:33
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

キャラ設定2(第1部終了時)

ジョシュア・A・ジョンソン 男性 38歳 中佐
イメージCV 梁田 清之   登場話 第2話、第4話

地球連邦軍の最新鋭巡洋艦ドニエプルの艦長。
1年前から頻発するテロと彼らの整った装備に警戒しており、政府の宥和政策に不満を持つ。
コロニー「プリームムポリス」の反乱で旧人類軍と戦い、
すぐに動けない連邦軍に代わって彼らの全貌を暴かんと独自に動く。
各コロニーと軍事産業の支援を得て私設軍ドニエプル軍を結成、旧人類軍と全面対決を仕掛けた。
アーミアには快く思っておらず常に高圧的な態度で接する。



第1部あとがき
どうも11話まで書き上げたハヌマーンといいます。
最初の予定の8話よりも長く書いてしまい、話があまり進んでいないような気がします。
また大型コロニーを多めにして本編より宇宙開発を進めて、早速矛盾が出来上がって申し訳なく思います。
設定や文章に注意しいて矛盾を無くして映画のラストに上手く辿り着けるよう気をつけます。
謝罪文になりましたが、次回は第2部に入りますのでお楽しみください!



[36851] 第2部 第12話 アシガル
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:c27904d6
Date: 2014/04/05 01:01
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第12話 アシガル

私設軍事組織ドニエプル軍の活躍により、旧人類軍の攻勢は未然に阻止された。
だが未だに世界中で渦巻く反イノベイターの気運は留まる事を知らず、
彼らの決起から7年経った2324年の今も各地でテロや反乱を起こし続けた。
その活動は軽くてデモ活動、過激さが加われば暴動や迫害、リンチが。
大規模になれば軍隊や政党が地方国家の政権を掌握した上での、迫害や虐殺を行うようになっている。
市民から国家に至るまで、イノベイターをこの世界から一人も残さず根絶すべくあらゆる手段を行使してきた。
収まる事を知らないこの連邦未曾有の内乱に、既存の兵器では次第に対応し切れなくなりつつあった。
更に強力で用途が広い新世代の機体が台頭するようになったのだった。




人類の歴史は何百億もの人間達の人生の集大成である。これは歴史に名を残さぬ人間達の、とある一日の事だった。
時代は内乱が始まって5年経った西暦2324年。位置はオーストラリア大陸、シェルガー地球連邦軍基地。

「やっと待機ルームだぜぇ」
「今回は何事もなくて何よりでした。中尉殿」
「まずはお前ら、ストレッチだろう」

定期哨戒から帰還したMSパイロット達三人が揃って進み行く。
隊長アイフマン・ドーガ中尉は数少ないELS戦以前のMSパイロットで、部下二人は戦後に入隊した20代半ばの男性仕官である。
彼らが乗るMSはこれまで配備されたユニオンリアルドともフラッグにも似た造形だった。
直線を多用したボディーに、リニアライフルを機首に装着し、四枚の翼を装備しているその姿はユニオン系可変MSである事を示している。
SVMS-05アシガルという名のMSは、純粋なユニオン系MSではフラッグ以来の主力可変機だった。

「隊長。アシガルっというMS、凄い機体でしたね」
「戦闘中でも簡単に変形できますし、Gは感じないわ粒子ビームを撃てるわで」
「ああ。これで戦いが多少楽になるな。確か、性能はGN-XIIIと同じ位だそうだからな」

ユニオンが地球連邦に統合されて以来、対人革連の最前線だったこの拠点は地方基地に降格され、規模の縮小を余儀なくされる。
GN機はコンデンサー機すらも配備されず、旧式のリアルドを中心にフラッグ十機程度でこの大陸防衛の一翼を担わされた。
それは旧人類軍や反イノベイター勢力が蜂起以降も、ささやかな改良を施したのみの、これらの旧式機で対応を強いられてきた。
イノベイターを狙ったテロや暴動、銃撃などがオーストラリア各地でも毎年毎月、当たり前の如く発生。
その相手がGN機を持ち込まれた場合には、一機につきこちらは六機二個小隊でやっと撃破に持ち込める有様だったという。
だが先月より配備された新型MSアシガルによって、この困難な状況に好転の兆しを見せた。

「兵器開発が再開されたおかげでこの機体が作られたんだ。全くありがたい話だ」
「あいつらGN機をわんさか出して来た時なんか、応援のGN-X部隊が来るまで抑えろ、
 なんて言われてどうなるかと思いましたからね。これで互角に戦えますよ」
「これも新政権の軍備増強のおかげです。でなければ私達は今頃地獄行きでした」

GN機が配備されて十年以上経った今も、地球圏全体に完全に行き渡っていなかった。
機体の主動力である擬似GNドライヴの粒子生成に大量の必要とし、それが性能向上しているとはいえ稼動時間に制限があるのだ。
軍事脅威が強く防衛価値が高い地域や精鋭部隊にGN機が優先的に配備され、
当基地のような辺境の軍事脅威の弱い地域は旧三大国時代の旧式機が未だに現役であり続けたという。
彼らが新しく操縦するアシガルは、主力のGN機の補助や後方支援が主な運用用途となっている。
とはいえその性能はかつての主力機GN-XIIIと同じ性能まで向上しており、非GN機の戦闘力向上の面ではこれは大きな飛躍であった。
これはMS技術の向上から来る物で、余計な擬似GNドライヴの生産による軍事費の膨張を抑えられた事になる。

基地に配置されたMS格納庫は、その面積の大きさ故にMSパイロットの待機室は一定範囲に点在する。
軍の主要戦力を成すMSを操縦するパイロット達は、重要性と人材の希少性から出来るだけ休める時は休むよう義務付けられている。
据え置きのテレビはもちろん、自動販売機が用意され、余裕があれば食堂や売店にまで出向く事も時々ある。
帰還したドーガ達はスクランブルに備え、訓練や就寝、食事以外はこの建物に待機していた。
それはどの部隊の、どの地域のMSパイロットでも同じなのだった。

「この七年間、我ながら連邦は情けないものだったな。
 鎮圧の為に軍備増強すべきだっていうのに、あの頃の政府は及び腰で」
「確か、世界中の反イノベイター勢力が動き出すのは時間の問題で、どう施しても止められなかった。
 イノベイターによる革新は起こるべくして起きた事なので、根気強く説得しなければならない。・・・・・・だったな?
 あんなのお偉い方々だからあんな呑気な事ほざけるんだ。こっちは命がけで鎮圧をし続けてるというのにさ」
「対策しても出てしまう犠牲はどうしようもないけど、ただただ市民に犠牲を強いらせるとか、
 全くあれはふざけているとしか私は言いようがないぞ」
「強硬派が政権を取れた時は、穏健派めざまあみろだったぜ。
 こっちは鎮圧に戦力がほしいし市民の安全を守りたいんだ。未来の平和よりまず毎日の安全だろうが」

部下達はリクライニングシートを満喫し、ニュースを見ながら地球連邦政府の悪口をまくし立てる。
アロウズの暴走の反省に宥和政策を掲げる穏健派政権に当時の市民は誰もが賛同してきた。
性急な世界統合と過度の弾圧に大量虐殺。それらの蛮行を周囲に漏らさなかった情報統制に反発したからだ。
緩やかながらも対話による平和の構築を誰もが期待した。二年後までは。
地球外生命体ELSとイノベイターの増加をきっかけに、地球連邦は再び動揺が走るようになる。
政府の軍縮継続、兵器開発凍結、イノベイター受容政策は市民の間で賛否の声が走った。
人類から進化した者達、宇宙からの来訪者を脅威に感じるのは、程度はどうあれ誰もが思う事なのである。
反発者達が立ち上がるのは時間の問題だった。
だが人類の革新を垣間見た政府はそのまま夢想に憑かれたらしく、鎮圧はしてもその為の軍備増強を頑なまでに断行しなかった。
反乱は直接地球連邦を崩壊させるに至らない散発的な規模だったが、
GN機を揃えるようになった敵は通商破壊やテロ、扇動などで経済と流通、治安に対して確実に圧迫をかけてきた。
逼迫していく地方経済は市民の生活を脅かし、その困窮は政権とその政策に不満を募らせる。
そして治安回復の為に軍備増強と政権交代を求め、強硬派への支持率を年々増加させていったのだった。

「弟とオフクロの話じゃあ段々食品の値段が高くなって貯金切り崩してる有様なんだぜ。
 このままじゃ、弟も入隊しないと生活できないってよ。でも弟まで戦場に行かせたくないなぁ」

缶のコーラを口いっぱい喉に注ぎ込む。
甘みと炭酸の爽快感が口内を支配するが気分は未だに晴れなかった。
これは市民達の税金で賄われた食料品なのだからだ。

「それじゃあ普通の市民だと更に苦しい生活なのだよな。
 我々がなんとか出来ないのが悔しいな。国家の枠組みの中で軍隊に出来るのはまず戦う事か。
 一人じゃ何も出来ない。みんな息を合わせて国が成り立つって訳だ」

地元の市民の事を話に取り上げると、どうしても気分が沈んでしまう。
近くの街に羽を伸ばしに行く度に商品の値段の高さが気になり、行き交う市民の顔は暗く見える。

「俺たちが出来る事してるからには政府もしっかりしてくれよ。
 せっかく成し遂げた地球統一が全部おじゃんになっちまう」

民間の貨物船や客船、旅客機、トラックなぞを狙った通商破壊は、農業など第一次産業が貧弱な地域では致命的だ。
封じられるのが工業だけならまだ配給などで食い繋いでいけるが、食料が絶たれれば餓死がこの先に待ち構えている。
現時点では流通が完全に絶たれる事態に陥っていないものの、攻撃に遭うリスクから価格が高騰し続けていた。
オーストラリア大陸は軌道エレベーター「ソロモンタワー」に近いので、流通の危険性が少ないのは幸運だろう。
他の地域では物資不足から反連邦感情が高まり、独立もしくは反乱が起こっている。
生活の保障が出来ない政府には統治の資格はない。反乱や暴動はその声無きサインなのだった。

「確かにここでなら食事も生活も保障されてるが、軍隊だし命令通りに動かなければならないからな。
 父さんも母さんもそっちと同じ状況だ。早くなんとかならないものか。
 暴徒とはいえ市民の鎮圧にも駆り出される軍隊に気安く入ってもらいたくない・・・・・・」

国家公務員である軍人でも民間人の親達が数多く暮らしている。
彼らは会社員として、職人として、農家として、稼いだ財産の一部を国家に税金を納め続けてきた。
もし市民の生活が苦しくなれば親達も共に苦しんでしまう事になる。
自分達軍人の不甲斐なさのせいで彼ら市民が困窮に喘ぐのは、全員ともああなってほしくない光景だった。

「だろ?大体政府の対応がまずいんだ。
 未来の為にあえて戦わないなんてよ、それでオーストラリアでも再軍備だの起きて、
 地方が連邦から抜けそうになった時なんか、本当に連邦滅ぶかと思ったよ」
「この隊長ドーガも入れてくれよ。で、あの騒ぎではドニエプル軍が解散してくれたからみんな引いたのが幸いした」
「はっ、その通りです。彼らが地方で最大規模で最強でしたからね。
 旧人類軍に打撃を与えてから連邦に降伏してくれまして。
 それで反イノベイター達を沈めてくれて、ほんの一時でも情勢が落ち着いて良かったです」
「地方の分離阻止に正規軍の増強で妥協して、アーミアが引退してくれて政権交代できて、これで鎮圧に本腰を入れられる訳だ。
 彼女が穏健派の主力でえこひいきしてきた奴だからな。ELSとの架け橋というが、そいつの言う事は信用できないだろう。
 奴も元は人間だったし、事を都合よく脚色なり捻じ曲げているかもしれんな」
「あの相互理解だの人類の為だの言うあのメタル女は鬱陶しかったものでした。
 学生がELSと融合したからって。飛び級で連邦政府のオブザーバーになってふんぞり返りまして。
 あれはむかついてたから、引退してくれてせいせいしましたよ」

社会でのアーミア・リーの評判は決して良くはない。
かつて地球壊滅の危機に陥れたELSと半身融合している上に、連邦政府を言いなりにしているよう見えるからだ。
ELSが人類を理解したものの、人類は個で構成される種族故に思想や理解の度合いが違ってしまう。
しかも攻め込まれたという記憶が彼らに態度を硬化せざるを得ず、飛来から十年経った今も市民の多くは警戒を続けていたのだった。
余談だが、宇宙人の地球侵略がストーリーの映画が乱立し続けており、人類の対ELS感情が如何なる程か良い判断材料になっていた。

「だが彼女は軍に入隊したではないか。また足を引っ張ってくれなければ良いけどな」
「そう祈りたい物です、本当にあの小娘には」
「聞いた話では今士官学校にいて佐官を目指していて、色々論文を出して周りを驚かしていると聞きます。
 イノベイター兵と非イノベイター兵のコミニュケーションとか、軍と理解とかですね」
「また面倒な事をやらかしたか、あの女は」

この所の世界情勢を話し合う内にうんざりになる三人。
だがそれらを知っておかなければ戦場の状況判断などに支障が出てしまうだろう。
嫌でも知り話し合って知識を蓄えなければならないのもあるが、言論の自由がある民主主義社会で生まれ育ったからでもあった。

パイロット達の議論中に突如アラートが待機室中に鳴り響いた。
即座に駆け出しMSハンガーへと走り出して行く。スクランブル出撃の警報が出た事で素早くMS搭乗に動き出したのだ。
乗り込むのは新たな愛機アシガル。整備班から機体整備の終了を聞き次第、パイロットシートに座りコックピットへと収納される。
コックピット起動、モニター、機器、操縦機器を一通り確認を終了。

「全システム、オールグリーン!」

隊長機を先頭に部下機が一機ずつ続いて、誘導に従って滑走路へと移動していく。
現在航空形態のアシガルはユニオン、AEU系可変MSと同じように、この形態で離着陸するのだ。
GNコンデンサーがあるので一時間は戦えるとはいえ、有限なので決して無駄に出来ない。
長距離航行には信頼性と燃費が良い水素プラズマジェットエンジンが、今でも未だに役に立った。

「第232戦術飛行隊、離陸を許可する!」

航空管制塔よりコールサインが出た。
いよいよ大空へと飛び立つ青紫色の巨大な新兵達。
緊急発進で状況はわからないが、それは基地司令部の方が把握する事である。
自分達は彼らの力を信じて戦うのみだ。

「よーし、行くぞお前ら!アシガルに乗ったばかりなんだ!気を引き締めろよ!」
「「了解!」」

スロットルを上げた事で水素プラズマジェットが点火、機体の加速を促す。

「全機、離陸を確認!高度2000を維持せよ!」

改めて状況を見回す。
シェルガー基地を発った部隊はドーガ達第231航空戦術飛行隊のみ、他に友軍が後に続く事はなかった。
どうやら大した襲撃ではないらしいが、緊急で発進したのだ。
毎日常に気を緩めず状況に対応しなければならない。
テロと反乱はオーストラリアでも起こっている。
いつそれらが起きるかわからない状況の下、可能な限り反連邦行為を少しでも抑えて治安を守らなければならない。

彼らパイロット達の戦いはこれからも続く。
退役するまでかもしれなければ、どこぞやの場所でか何らかの故に命を失うだろう。
それでもその瞬間まで、己に課せられた軍務をどれだけ果たす事が、最も大事なのだった。



[36851]      第13話 ヘラクレス
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:e97867fe
Date: 2013/05/01 22:34
機動戦士ガンダム00 統合戦争諸戦記

第2部 13話 ヘラクレス

人が分かり合えないのは何故なのか?
それともどこかでわかり合えなくなったのか?元々わかり合えなかったのか?
理由は何千年もの歴史に埋もれ今となってはわからないが、ヒントになりうる判断材料に人類の歴史がある。

猿が森林から草原に旅立つこと人の歴史の大半を成す何百万年もの間、
大した力も牙も何もない体で、跋扈する恐るべき猛獣達や過酷さを増す自然の猛威から、
生き残りの為に頭脳を発達させ心と会話で原始的な社会を発達させていった事だ。
無数の先祖達の屍の山を積み上げた人類は遂に言葉を手に入れ、同属間のネットワークは生き残りに有利にした。
複雑な言語が相手と心と思いを通じ合わせる架け橋となり、
自然を生きる為の知恵を次世代に、従来以上に効率よく受け継がせらるようになった。
長きに渡って続いた狩猟採取社会は、植物を計画的に育て、それらの実を糧にする農耕社会を一万年前に生み出す。
農耕社会は如何に効率よく植物から食料を得るかに知恵が費やされ、
既に狩りの為に編み出した集団の支配を、より大規模に、より強固で徹底的にしていった。
指導者が多数を縛りつけて得られる食料の余裕が、人口さらに増やし文明を築き上げた。
文明は国を作り、王や神官は地位の正当化に神を掲げ、民衆となった人間達を権力で支配した。
言葉は最早、相互理解よりも国家機構の情報や命令の伝達としての性格を強め、
人類の大半は支配者の為に働き、その命令を果たす存在となった。
相互理解は身内の関係の円滑や利害調整の為でしか、文明社会において存在意義を示せなくなった。

狩猟採取時代に求められる進化を果たした身体と心が、高度に複雑化する文明社会に追い付けなくなったのか?
ならば、この24世紀の統合戦争の火種となったイノベイター。
閉塞した人間社会に変革をもたらす存在と、相互理解を果たせる存在と、
未知の可能性を持つ彼らの存在意義は決して否定できない。



カリフォルニア近郊の上空に展開する反乱軍と地球連邦軍。
連邦側の、それぞれカラーが異なりガンダムに似たMS二機が先頭に立ち、
反乱軍のGN-XIVフォルティス六機で構成された前線部隊と対峙していた。
正式には連邦軍第20独立試験部隊「ソウルズ」と呼称され、本部隊所属のMSは反乱軍の説得役を担当している。
将兵間、同僚間でのコミュニケーション研究を目的とし、前線部隊から得た情報を基にそれの向上を試みる。
部隊設立には前大統領を含む穏健派の後押しのおかげで今も支援を受け続けているという。
現在以上のコミュニケーション技術で、将兵間の相互理解を深める術を探るのが同部隊の編成目的なのだった。

「こちら地球連邦軍第20独立試験部隊指揮官、アーミア・リー少佐です。
 政府の最後通牒の提示に、小官がその代表としてオープンチャンネルで連邦、反乱軍問わず送ります。
 あなた方反乱軍は連邦政府の勧告を拒否し、今も徹底抗戦の崩さない姿勢なのは承知の上です。
 しかし、それでも我々地球連邦は旧人類決起から七年間、有効な対策を講じ続けてきました。」

かつての地球連邦政府オブザーバー。
十年前の偶然によって、女子高生から飛び級で政界の有名人になった女性。
前政権と穏健派最大の擁護者にして、人類とELS、イノベイターの架け橋を成すハイブリッド・イノベイター。
彼女は第20独立試験部隊を率いる地球連邦平和維持軍少佐となっていた。

「連邦政府はあなた方との争いを求めていません。同じ、市民の安全を思う者同士です。
 過去の混乱期で身を守る為に独立した事は悪いことではありません。
 ただ、お互いの不要な諍いを終わらせ、わかり合う事で誤解と不信を解かなくてはなりません」

オレンジ色の粒子ビーム一発、隊長機の右脇を横切る。
誤射ではない、照準を定めた上での射線をかわしたからだ。
続けて僚機五機より五発もの粒子ビームが撃ち放たれる。
相手の無理解が、彼女宛ての返答として斉射されたのだ。
長い説得の果ての理不尽な結果に憤りは感じても、怒りと憎しみは湧かなかった。
ただ悲しい。悔しい。人と歩み寄らない傲慢な心が、それを変えられない自分の無力さが。

「お願いです!これ以上の諍いは無意味です!!どうか降伏を・・・!」

アーミアの悲痛なる叫びは反乱軍には何一つ心に響かなかった。

「我々は腐敗した地球連邦に徹底抗戦する」

GN粒子の影響のノイズ混じりの返信。感情もなく淡々とした声色で、人の思いを汲み取る姿勢が見られない。
彼女の言葉を最初から聞く耳を持たない、およそ事務的な返答だった。

四年前北米カリフォルニアで起こった連邦軍部隊の反乱は、世界中でありふれたニュースの中で有名な件だった。
きっかけは反乱、テロの独自対策にカリフォルニア州が再軍備した事から始まる。
今ほど規制されていない当時、地方の再軍備は地球圏のどこにでも行われた政策だった。
問題なのは州の軍戦力が一国レベルで、GN機など最新鋭装備を大量配備されている点である。
統一政体分裂の危機に政府は警告を発し軍縮を求めたが、州はこれを聞かなかった事で反乱軍に認定されたのだ。
東太平洋の大規模な経済拠点であるこの一帯の戦略的価値は大きく、これ以上の反乱の放置は許されなかった。
今に至るまで戦火の拡大の懸念から後手に回していた連邦だが、政権交代から軍制改革、軍備増強を遂げた事で正面からの鎮圧に動き出した。
その先鋒にアーミアは立っていた。

「隊長!敵はもう覚悟が出来ている!対話はもう無駄だぞ!」

指揮官に敬語なしで呼びかけるのはベガ・ハッシュマン少佐。
アーミアの副官で、古参兵である彼が士官学校を出て間もない彼女の補佐を勤めている。
旧人類軍決起の際、義勇兵となった彼女にMS戦の基本を教え、
共に戦ったパイロットで、今や歳は30代、「妖精の片腕」と呼ばれるエースパイロットとなっていた。
年上で長年共にした戦友である彼は、飛び級で栄達したアーミアにタメ口で気安く話せる数少ない存在だった。

「ベガ・・・・・・!私はまだわかり合えないなんて・・・!」
「こいつらはもう連邦を信用していない!歩み寄る気が全くないんだ!」

20代後半の爛熟しつつある美貌にそぐわぬ、悲しげな視線がベガに突き刺さる。
だが事態がこの事態だ。説得が失敗したならば嫌でも武力による鎮圧に乗り出すしかない。
強硬派による連邦の改革で地方との結束を強めたが、このカリフォルニア反乱軍のように従わない地域はまだ存在している。
そういった地域は地球連邦不信の他に、首脳部と軍部の自己保身、
更には拡張された組織の削減に伴う金銭損害も関わっている。地域一つでも話し合いだけでは解決は難しい。
アーミアの今の悲しみをどうすればいいのか、考えている間にも反乱軍のGN-XIVフォルティスの攻勢が続く。
自分達の乗る最新鋭MSヘラクレスは濃密な火線を前に難なく掻い潜っているが、
いつまでも敵に押されては事態の収拾が果たされない。

「隊長!迎撃許可を出さないのか!待ってんだぞ!」

連邦議会のオブザーバーをあえて辞退し正規軍に入隊したアーミア・リーは、
機体の左半身が銀色に染まっている事から、「半銀の妖精」と呼ばれるエースパイロットになっていた。
周囲が反発するほどの飛び級で昇進した彼女の実力は、
七年前の義勇兵時代の実戦経験と士官学校で学んだ知識と合わさって、連邦軍最強と謳われるようになる。
それでも性格は変わっておらず、敵にも共感してしまうのが欠点だった。
一般人からすれば十秒程度の逡巡。
だがハイブリッド・イノベイター故に、並の十倍以上の半端ではない数の同時思考をした上で、

「・・・本部よりこちら第20独立試験部隊。ミッションプランC02実行許可を願いします!」
「こちら作戦本部、状況を確認した。全軍プランC02を実行せよ」

上層部より作戦中の戦況に沿った様々な戦術の一つが発動された。

「・・・・・・了解!」
「了解っす!」

防御に回っていた二機は、方向を敵に反転させ迎撃を開始した。
ベガ機の右手装備のGNソード、それをライフル形態に変形させ連射モードに設定。
大量の粒子ビームを敵部隊ごと前方空域にばら撒かれる。
敵六機とも回避に散開、各機独自の判断で味方間を開け散り散りになる。
連邦の反撃に反応した間隙を突き、アーミア機がGNソード・ライフル形態で攻撃開始した。
イノベイターの情報処理力は全ての敵機の特性と機動を読み取り、攻撃の順番を決めトリガーを引く。
六本の火線はそれぞれの敵機に、それも胸部の擬似GNドライヴのレンズを突き刺した。
通常出力ではなく半分程度で撃ったのは彼女のささやかな情けだろうか、
撃たれたGN-XIVフォルティスは爆散する事はなく、痙攣し戦闘不能に。
それでも遅れて爆発する恐れから、腰部コアファイターが起動。
機体から射出され一目散に後方へと敗走して行った。
ヘラクレス二機はその後をおうように前進し、反乱軍の防衛線を突破した。

「全部隊、敗残兵には目もくれるな。繰り返す。敗残兵には目もくれるな」

選択された作戦プランは機動力重視。敵の殲滅よりも敵中枢を叩く事による無力化を狙った内容だ。
アーミア達より後方、といっても包囲部隊自体が前進し作戦が開始された。
ギアナ級地上戦艦と宇宙軍派遣のドニエプル級防空巡洋艦の援護の元、
先鋒に可変MS部隊が、その後に五十機以上のMS部隊が続いて敵軍へ突き進む。
待ち構える反乱軍の粒子ビーム砲台やレーザー砲台、ミサイル発射機などが一斉に砲門を開け、
作戦計画通りに押し寄せる連邦軍に対して遠距離砲撃で応戦し始めた。

「聞いたかお前ら!そのまま俺達と合流するぞ!」

ベガが怒鳴った相手は自分達第一小隊の残り二機と第二小隊。
彼らのほとんどは、ニュースでもてはやされている連邦の精鋭部隊のエリート兵とは程遠い、
落第当然の落ちこぼれと前科持ちのろくでなしのパイロットばかり。
課せられた遊激戦はアーミアとベガだけでも遂行できるが、作戦本部より実験部隊全戦力の投入が命じられた。
未だに部隊として機能を果たしていない状態で戦うなど全く馬鹿げている。
事前に二人は反対を何度も上げたが、作戦本部は聞く耳を持たず受け入れられなかった。
それはそうだ。この第20独立試験部隊は相互理解を含むコミュニケーション研究を目的に編成されているのだ。
結果が出るかわからない部隊を軍部からは疎まれ、嫌がらせに編成途中でメンバーの半数に落ちこぼれとろくでなしを組み込まれてしまった。
作戦本部もそういった連中の一部で、この全戦力投入激戦地に送り続けて使い潰して解散させようという思惑があるだろう。

火を噴く壁の如く敵の進軍を阻む砲台群に少し遅れて、主力MS部隊が出撃。
最前線から後退する前衛MS部隊と合流し、反撃に一転させ防衛線の押し戻しを図る。
連邦の可変MS部隊が防衛ラインを突破。後続の主力部隊は敵部隊との激突が始まった。

「アラン!手筈通り手綱を引いてくれよ!」
「了解!妖精の片腕殿!後は頼みました半銀の妖精殿!」
「こちらこそね!」

第二小隊長アランは未熟で暴走しやすい部下達の臨時指揮官を担当する。
捨て駒扱いの部隊の維持に任務失敗でごまかしてでも、無理に彼女達の追従はしないよう命じられている。
命令違反を疑われても責任はアーミアが全て負う。そのつもりなのだから。

アーミア達が急加速。後続部隊と距離を一気に離し友軍と戦闘中の反乱軍前衛に側面から突きに掛かる。
ヘラクレスに搭載された擬似GNドライヴ二基ダブルドライヴの性能は、
七年前のフェラータGN-Xのトリプルドライヴと同じで、安全性は量産機並に良好に仕上がりだった。
奇襲攻撃に晒された反乱軍前衛部隊は次々とGNソードの刃で切り裂かれ、粒子ビームの熱に打ち抜かれていく。
体勢をやっと立て直し反撃に火線を浴びせて来るのを、ダブルドライヴの推力でかわしGNフィールドで弾き返す。
反乱軍のGN-XIVフォルティスは七年前の機体ながら依然として強力だが、
一世代上でエース機であるヘラクレスの前では敵ではなかった。

(本当は戦いたくない・・・!でも今は戦うしかないの・・・・・・!)

アーミア機の機動は妖精の舞踊と言うべきものであった。
軌道ではなく機体のみのターンと逆ターン、直立での防御と合わせての高速機動、宙吊り状態・・・。
地上を歩く人間の感覚でではなく、MSの機動性能を最大限生かした戦闘機動を繰り出す。

(・・・ごめん・・・ね・・・・・・!)

だが目の前の戦闘以上に彼女は懺悔と敵の痛み、思いに涙無き涙を密かに流した。

(私は敵も味方もわかりあえるようにしたい。でも時代はそれをまだ許してくれない!)

人間同士わかり合えるのは極めて難しい。そこには利害と個々の違いがあるのだからだ。
それでも種が革新を経験したからにはその可能性を追い求めなければならない。
相互理解は無理だと、目先の結果を求めていては人類はいつまでも前に進めない。
今はわかり合えなくてもわかり合える時はいつの日か来るだろう。
その時が来るまで彼女は可能性を追い求め続け次世代に受け継がせると、
軍属になる以前連邦政府のオブザーバーを勤める時から覚悟していた。



[36851]      第14話 チェンシー
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:12e7fe02
Date: 2013/05/31 01:03
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第14話 チェンシー

人類の生命線にして地上と宇宙を結ぶ一大経済拠点、アフリカ大陸に位置する軌道エレベーター―――通称アフリカタワー。
かつての旧AEUでは「ラ・トゥール」と命名された巨大建造物。
その重要性からそれ自体への攻撃は国際条約で禁止され、統合戦争が七年経た今も通用していた。
仮に破壊しても軌道エレベーターの巨大さから破片を撒き散らす範囲が大きくなり、
敵対する地球連邦どころか自らが住む地上そのものが死の星となってしまう。
極めて重要で破壊に割が合わない存在に反政府勢力すらも攻撃の標的にしてこなかったものの、
その周辺都市とハイウェイなど経済の動脈には絶えず攻撃にさらされていた。
よく起きる爆破テロによる交通マヒから、大規模な場合には武装勢力の略奪に旧人類軍の通商破壊など。
それらは敵の直接の打撃をあえて狙わず、場所も時間帯も規模も毎回変えながら攻撃が行われる。
かつて紛争と無関係だった、超大国の平和な地域は今や紛争地帯と化したのだった。
西暦2324年、世界に平和な場所など存在しなかった。



アフリカ大陸は中東と同じく多くの民族と宗教が入り乱れ、24世紀になっても紛争を繰り返していた。
そんな最中、私設武装組織ソレスタルビーイングの武力介入と地球連邦の樹立は、この状況を変えかけた。
ガンダムの力と連邦の圧倒的な軍事力によって、紛争の沈静化を促したのだ。
独立治安維持部隊アロウズの苛烈な弾圧と、その反省に宥和政策に方向転換させた穏健派政権が、各地の平和は確立されるかに見えた。
そんな最中に起こった地球外生命体ELSの飛来とイノベイターの増加が、積み上げてきたこれまでの努力が水の泡に帰された。
本来なら緩やかな増加に見込まれたイノベイター達がELS戦前後に爆発的に増え、人類との軋轢が予想以上に早く表面化したのだ。
彼らの存否を巡る対立はほどなく武力衝突に発展し、その余波はこのアフリカ大陸にも伝播していった。
世界の変革からしばらく身を潜めていた武装勢力はこの混乱に生じて各地で紛争を再発させ、
戦場以外に居場所がない少年兵、大人に成長した元少年兵達が戦場に身を投じたのだった。


「3、2、1、行けぇ!」

大地から空へ舞い上がると同時にナノマシン迷彩を解除する。
全身をカーキー色の重装甲で纏った機体が、外界に晒しGNビームライフルより粒子ビームを遥か地平の先へと撃ち放つ。
その数は二本、撃ちだした四機の内半分に当たり二機からのであり、残りは200ミリ滑腔砲装備機となる。
強力な粒子ビーム兵器の使用が可能になっても実弾は未だに現役の身にある。
多様な弾薬による使い勝手の良さ、GN弾で相手のGNフィールドを貫通できるのが、利用され続けている理由だ。
オレンジ色の火線は連邦軍MS部隊へと走り行き、機体を貫かんと襲う。
一発はホバーで回避され、もう一発は肩部シールド―――表面にコーティングされたGNフィールドで弾かれた。

「ちっ」

15歳にすら経ていない幼い顔立ちのMSパイロット達は、相手に打撃を与えられず舌打ちした。
その男アンママは現在十三歳。八年間ずっと武装勢力の下で戦い続けた少年兵である。
一瞬の不機嫌はすぐ戦場の興奮に打ち消され、アンママはスクリーン越しに敵に睨みつける。
あっさり倒すのは物足りない。暴れ回って敵をいたぶってから倒すのに、ある程度てこずらなきゃ楽しめない。
四機のMSが先頭に、背後のNGNバズーカ装備のAEUヘリオン四機が続き、全軍が正面突撃を仕掛けた。

彼らは中央アフリカの武装勢力「正義の剣」の構成員で、全員十五歳未満の少年兵である。
MSパイロットに少年兵を充てるのは、MSが普及して以来紛争地帯でよく行われている事である。
一人前に仕上げるには多大な経費と長い教育、操縦時間をかけなければならない。
身体的にほぼ完璧な大人になるまで生まれてから二十年くらいと時間が掛かる。
ならば早い内にパイロットとして教育を少年兵に叩き込み、従順さと残虐さで未熟な身体を補えば良い。
そうして仕上がった少年MSパイロットは、死を恐れない有力な戦力として戦場に投入されるのだった。

隊長のアンママは家の水汲みの行路で拉致されてから八年経つ。
部下の少年達も似たようなもので、貧しさから志願したり勧誘に乗ったり徴集されたりして組織に加わっている。
洗脳教育と何度も掻い潜った戦場によって、死を恐れない戦闘機械に仕上がった。
大人達の気まぐれの暴力に晒され、生贄や仲間の殺害を命じられ、挙句の果てには故郷の親と住人の虐殺を命じられ、
少年達の居場所はこの組織だけとなり、自ら幼くも未来の紛争を生む厄介極まりない火種と化した。

今日の攻撃は、アフリカのそこら中のゲリラや民兵がよく仕掛ける襲撃戦で、
少し手を込んで襲撃に見せかけた陽動を行っている。
作戦の本命は、歩兵部隊によるハイウェイ襲撃であり、民間人から略奪を仕掛ける事。
陽動だと敵に悟られぬよう、派手に暴れまわらなければ、正義の剣の作戦成功は有り得なかった。

脚部スラスターよりGN粒子を放出させ、得た浮力と推力によるホバーで急加速。
機体越しに反撃の実弾が横切った。
続けて肩部より衝撃が走りコックピットを一瞬だけシェイクさせた。
二発目の弾が当たってしまったからだ。
砲撃の衝撃で少し相殺された機体をもう一度加速し直す。
これまでの旧型機のように体を押し潰し操縦と思考を阻害するGは、GN粒子の慣性制御のおかげで全く感じられないでいられる。
込み上がる興奮の炎が叫びに昇華させ、思いを言葉に、口から外に張り上げる。

「いやっほおおおおおぉぉぉぅっ!」

ビームを二発発射、だが敵機は射線より外れビームは虚空に消えていった。
次にバーストで横向き大地を巻き添えに薙ぎ払う。
今度は命中した。怯んだ所を逃さず、続け様にこの長距離、高威力の粒子ビームをお見舞いさせ、
遂に胸部装甲を貫通させコックピットを焼き払った。
あそこには人が乗っているだろう。だが少年には知った話ではない。
―――「敵なら一人残さず殺せ。」―――
―――「暴力と殺人を楽しめ。」―――
子供の頃から戦場にいたという教官から教えられてきた言葉だ。

「はっはー!今日はてめえらの命日だな!同情するぜ!」

慰めでも共感でもない、軽蔑と嘲笑の言葉を投げつける。
一般人なら感じるだろう罪悪感は全くない。
自分を楽しませてくれた相手を、玩具に飽きた子供のように切り捨て葬り去ったまでの事だ。
これで残り三機。相対戦力が足りない向こうはここにおいて不利を悟ったか、抵抗を続けながら後退を始めた。

両軍がぶつかり合っている機体はチェンシー(中国語で剣士)という。
旧人革連軍のティエレン譲りの重装甲とモノアイが特徴で、粒子対応という現代対応の、準GN機というべき新型機である。
老朽化したアンフやティエレンを代替するMSとして、地球連邦の正規軍や地方軍はおろか、
警察やPMC、挙句の果てには武装勢力や旧人類軍にも普及しているベストセラー機だ。
前機よりやや小柄な体躯に見合わない重装甲高機動性は、対人/MAには一方的な猛威を振え、GN機には密集近接戦で対抗できる。
しかも汎用性とコストパフォーマンスは高く、配備するならGN機一機より本機の方が全体戦力の向上と増強が容易だ。
連邦軍ではGN機の支援に、地方軍などでは主力としてうってつけのMSなのだった。
2320年よりロールアウトした本機は、この四年間の短い内に全世界に普及し、
多様な派生機を生み出しながらも後継機の開発も既に行われているという。

「隊長、敵さん退いていきまっす!」

部下オセが訊ねてくる。
上官に向けて言葉遣いが正しくなく馴れ馴れしい口調で。
ここは武装組織であって軍隊ではない。
常に睨みを効かせる大人達にさせ気をつければ、仲間内でさえあればくだけた口調で一向に構わないのが彼らだった。

「へっ!決まってるだろう・・・!」

そんなもの、答えはとうに知れている。
アンママは戦場のありきたりな報告を鼻で笑いながら、張り上げた声で命令を放った。

「このまま押せ!みんな殺しちまえ!」
「「了解!!」」
「俺達は二手に分かれて袋にしろ!後ろは撃ちまくれ!」

後続のヘリオン小隊のNGNバズーカによる火力支援を受けながら、前衛は二手に分かれ両翼より包囲を仕掛けた。
もっと戦いたいところだが陽動である以上、本隊の存在を察知させてはならず逆に彼らの撤退を支援しなければならない。
それにこのまま敵を残せば援軍と加わった時、連携されては厄介になる。
早い所片付けて本隊のサポートも可能にしなければならないのだ。

両軍ともホバーで滑るように大地を走りながら、撃てる物を撃ちまくり交差し合う。
18メートル前後のMSが突き進む事で、目標から逸れた弾が地面に激突して巻き上げられた粉塵が、
鉄の巨人達が通り過ぎた後に降り注ぎ戦場の傷跡を残していく。
二分隊はあえて左右対称に揃えずに前後百メートルずらしながら、敵部隊の左右を囲み目標に三方向より弾を撃ち込む。
お互い誤射をされぬ位置からの十字砲火に敵残存機はたちまち沈黙した。
一機目は右脚と左胸部をGN徹甲弾に貫かれ、続けて放たれたGNミサイル一発で爆散し果てた。
二機目は左爪先をビームで焼き払われ、防御姿勢が崩れ飛翔しようという所をGNミサイルとGN徹甲弾に蜂の巣となり墜落した。
これで当面の敵の排除は完遂された。
間もなく駆けつけるだろう増援の対応と本隊の援護に当たろう。

「みんな片付いたな?」
「おう!」
「あんまり大した程じゃなかったな。やっぱGN-X乗りの方が歯ごたえあんぜ!」

全員口々に言う。
前衛小隊の部下三人生きている。後衛小隊は気がつけば二機に半減していた。
恐らく最後の抵抗のビームをまともに食らったからか。


「ケツ持ちは散々みてぇだな。二人くたばっちまった」
「その程度の奴らだって事だ」
「しょうがねえさ。誰だって死んじゃあ、もうそこまでさ」

まあいいだろう。大人らがまたどこかから補欠を集めてくれる。
村落相手でも武器を持って脅せば大抵素直になって、幼い子供を差し出してくれるなり簡単に手に入る。
死んだ奴は運が悪かったか自分の不手際が招いた結果だ。
アンママにとって、少年兵にとって、死など故郷でもどこでもありふれた存在にある。

「ヘリオンじゃやられちまうか」
「軽くて使い勝手良くても二十年経てばこれか」
「死んだ奴らなんざ放っておいて、次の事があるだろうが」

死んだ仲間の事など露知らず、ただ戦力を確認するだけだった。
この戦いで彼らアンママ達はもしかしたら死ぬだろう。
だがそんな事は問題ではない。
死ぬのは誰でも人生の最後にある事。
それが今日かもしれなければ、そうではないかもしれない。
ただそれだけなのだから。



[36851]      第15話 ヘラクレス・ウォールズ
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:12e7fe02
Date: 2013/06/06 22:22
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第15話 ヘラクレス・ウォールズ

統合戦争が中期に差し掛かった2324年。
地球連邦は混乱から態勢を立て直しつつあった。
開戦当初、反イノベイター勢力の決起に政府は適切な対応がとれず、後手に回るという有様にあった。
ELS戦とその後の対話で、相互理解の理想に憑かれたのか、軍縮と対話の宥和政策にこだわり続けたのか。
イノベイター増加に伴う軋轢はかねてより予想していたが、それ以上に大規模に早く勃発したからか。
更に構成国はそんな連邦を見限り、独自に事態の対応を図り再軍備するなど、分離を動きを見せ統一政体は崩壊の危機に陥る。
幸い反イノベイター勢力は義勇軍による打撃で活動は鳴りを潜め、
各地の分離勢力は外交努力によって多くは帰順し一応の安定を取り戻した。
だが問題は全て解決していない。
反イノベイター勢力は滅んではおらず、隙あらば反撃せんと機を伺っている。
分離勢力もわずかだが残っており、対連邦の不信から独立国家の体裁を貫き続けている。
また不安定になった情勢に便乗した武装勢力や一部の国家が、紛争を再発させていた。
イノベイターと人類の軋轢は未だに続き、地球連邦でも例外ではなく対イノベイター政策の効果は未だに見えていない。
学校や職場での彼らの差別、影での肉体及び精神的な苦痛を与えるなどの迫害は止まる事なく起き、
市民の反イノベイターデモや暴徒・テロリスト化、果ては一部州政府の専用居住区による事実上の隔離政策が問題になっていた。



敵襲のサイレンが鳴り響き鼓膜を貫かん程の大音量に、誰もが苦痛と共に迫り来る死の恐怖に恐れおののく。
戦乱の時代、連邦政府の要人が移動中に敵襲を受ける事態は珍しくない。
そんな要人飛行機の窓から覗かせた視線は、一機の護衛機に釘付けとなった。
ガンダムを思わせる四本の頭部アンテナと左半身のメタリックカラーの他、
背部に装備した十基の十メートルもある装備が印象に残る。
老婦人は目に映えるMSについて男性秘書官に訪ねた。
顔に刻まれたしわは歳の加齢を物語るが、
疲れを知らない凛とした瞳、そして全身から滲ませるオーラからは威厳が感じさせられる。

「エース専用機ヘラクレスのGNビット装備型・・・。彼女達は交代なしでもう丸一日飛んでいますか・・・・・・」
「恐らく最後までずっと休みなしで私達を護衛するのでしょう」

これ以上話そうとはしなかった。
簡潔な返答と感想を述べただけで済ませて。

六十代初頭の老婦人の名はブリューエット・ボナリー。地球連邦前政権の大統領を務めた穏健派議員。
アロウズが残した数々の禍根の解決に努力し宥和政策を終始貫いた女傑。
ELS襲来という未曾有の危機に可能な限り対応を取り、イノベイター政策にもいち早く打ち出した二代目大統領。
だが輝かしい名声は今や過去の経歴と化して久しい。
選挙敗北後、穏健派のトップをクラウスに譲り、一議員に立ち戻っていたのだった。
それでもELS戦と内乱勃発の危機から連邦を守った彼女の政界での影響力は強く、
今回のように各地への会談やトップへの助言で活躍を続けている。
彼女が最も恐れていた、反イノベイター勢力の決起。
戦いが始まって七年経った今、市民は長引く戦争による経済打撃から回復を求めて、武力による鎮圧を求めるようになった。
連邦政府は強硬派が政権を握り戦争に積極的に方向転換させ、穏健派の影響力は退潮していた。
しかも彼らが政治の主導権を掌握できたのは選挙という正規の手続きであり、多くの市民からの票で当選したからだ。
この統一政体が言論の自由と民主主義を掲げている以上、クーデターでも起こしていない限り、
政権に反発できても否定したり国家権力で取り締まる筋合いはない。

「これ以上顔を窓にお近づけては・・・、揺れで怪我をなさいます・・・」
「彼女なら専用機に傷を一つもつけさせません。あの様子を見る限りは」

窓際より外を伺っていたブリューエット議員は、気をかける秘書官に優しく答えた。
空中で繰り広げられるMS戦に秘書官は

「あれが・・・半銀の妖精・・・・・・」

信じられないと言いたげにぼそり呟く。
背部より分離させた大型ビット群が要人機を覆い、GNフィールドで空の彼方より襲いかかる巨大な粒子ビームを弾かせた。
続けて横から二射目、下後方より三射目。
立て続けの攻撃をたった一機で防ぎ続け、部下達三機の同型機が要人機の進路の安全を確保させている。
あの太さは対艦・要塞用の高威力設定の粒子ビームではないか。
GN-XIVすら防ぐのに一回が限界の砲撃の連続を物としない機体は、これまでの防御性を明らかに超えていた。

「GNドライヴの提供から十七年、MSはここまで進化したというのか・・・」

秘書の口より感嘆の言葉が漏れた。

GNX-808T/Wヘラクレス・ウォールズ。
地球連邦平和維持軍のエース専用機、MSのトップハイに位置する機体である。
攻守両立の性能向上に十基のGNビットを背部に装備、
GNフィールドによる防御とGNビームキャノンの弾幕を張る事の両方が可能だ。
その上に粒子を収束させた巨大な粒子ビームの発射や全周囲防御も出来ると来ている。
ベテランパイロットでも操縦できるが、最も本領を発揮できるのはイノベイターパイロットである。
後者の能力はコンピューターのプログラム以上に柔軟なGNビット制御を可能にするのだからだ。
ソレスタルビーイングの保有する二個付き以外の、どのガンダムをも凌駕する性能と言われており、
ネーミングと相まって天上の天使に対抗する英雄にふさわしかった。

波状攻撃が止むや遠くよりGN機の姿が見えてきた。
擬似GNドライヴ特有のオレンジ色のGN粒子を放出しながら、その姿を点から人型へと視界の中で変化していく。
二人が覗く窓から見える四機の敵の他、反対側も四機接近。こちらの包囲殲滅を仕掛けるつもりだ。
その最初の手か、粒子ビームの火線が八発一斉射撃、いやそれ以上もの数が飛んできた。
要人機目当てのビームはGNビットの防壁にことごとく弾かれ、続けて襲い来るGNミサイルをビット内蔵のビームキャノンの弾幕で全て撃ち落とす。

「これで二度目の襲撃・・・」
「所属は未だに不明ですが、周囲に分離勢力の勢力が存在していないので、別の・・・旧人類軍辺りの部隊によるものらしいです」
「もしくはテロリストか、分離勢力の可能性も考えられます。
 敵が不明な以上早合算はいけませんわ」
「は」

なんとか肉眼でも敵機の姿を垣間見た。
連邦軍のみならず今や地方軍やPMCなどにも出回っている、GN-X系のシルエットではないか。
頭部のクラピカルアンテナと両肩の大型武装からGN-XIVフォルティスという機体と判明。
合計八機の敵GN-XIVフォルティスと護衛のヘラクレス・ウォールズ四機が接敵したようだ。
陣形なり秩序を保っていたそれぞれのMSが、バラバラに散らばり大空を縦横無尽に乱舞する。

今回彼女達はソロモン州政府との会談の為に、シンガポールへ移動途中にあった。
地球連邦政府の交渉に応じず、今なお独立を維持し続ける分離勢力との対話を目的とする。
その初段階に、かつて分離勢力の中で地上最大規模を誇ったというソロモン州を、
彼らとの仲立ち役にさせてもらう意見調整に穏健派が赴いたのだ。
強硬派が握った現政権の下、野党となったとはいえ穏健派の影響力は今でも無視できず、
分離勢力や反イノベイター勢力対策や外交、議会内での過激論の抑制にて重要な勢力だった。
また、大統領も強硬派だが意見調整に長け、宥和政策に一定の理解を持っていたのも、穏健派にとって幸運だった。
「今内乱の背景は根深く解決まで長期を要する」と見解したブリューエット元大統領に引き継ぎながら、
「市民の安全確保に軍備増強、防衛戦争の強化を図る」事で議会の意見一致を果たしたのだ。
でなければ現在陥っている、統一政体たる地球連邦の瓦解の危機を前にして、
アロウズと変わらぬ苛烈な弾圧策や無謀な対外宇宙戦争などの過激論が声高に掲げられ、政策に採り入れられるだろう。
連邦内でも燻っている反イノベイター派が増大し、機あらば政権掌握に向けて蠕動する可能性も否定できない。
内乱の火種でもあり終結の切り札たるイノベイター政策は中止されず、前政権時代と変わらず継続できた恩恵は大きかった。

「人は変革まで血を流し続けなければならないのですか・・・」

統合戦争勃発以来続く彼女の悲嘆を今日ここで漏れた。
ELSとの対話から、戦闘という手段の愚かさを再認識したブリューエット元大統領は、宥和の為に政務という戦いに身を捧げてきた。
だがイノベイターとELSに人類全体は完全に理解出来ておらず、肯定と先入観と恐怖による拒否で入り乱れ、内乱という形で両者はせめぎ合いに陥った。

「護衛部隊は敵部隊と交戦開始。本機は二機の護衛の下、当空域より離脱を図ります」

マイクかかった男の声のアナウンスだ。
見る見るヘラクレス・ウォールズから離れていき、双方のオレンジの粒子ビームの火線だけしか見えなくなった。

「アーミア達を残して離脱するというのですか?」
「二機で当たれると彼女は判断したのでしょう。七年前義勇兵にもなった彼女の実力なら」

表向きエリート部隊として公私ともに有名な第20独立試験部隊「ソウルズ」だが、
その実態は使い捨て可能な愚連隊という存在だった。
本来二年前の選挙前に、「軍隊内での相互理解の研究」を目的に前政権によって設立が決定され、半ばまで進んだ時の事だった。
強硬派政権の平和維持軍再編の折、同じ派に属する軍高官によって残り半分の人員が、
問題児や元アロウズ兵、士官学校と訓練キャンプの落伍者といった配属予定にない将兵に変更されたのだ。
これは明らかに「相互理解という夢想へどこまで現実に足掻けるか試す」という、アーミア・リーへの声なき嫌がらせである。

「研究自体は続けられたとはいえ、前途無難なのは変わらないですね。
 ・・・まあ相互理解の実現まで時間が掛かりましょうし、人類全体がそこまで変革に付いて来れません・・・」
「連邦軍では彼女を快く思わない幹部が上層部で多数を占めています。
 戦力を反乱軍に回してそちらに無理難題を押し付けて、護衛を果たせば会談相成って良し。
 失敗すれば相互理解の研究の無意味さと部下掌握の失敗に、追求できて切り捨てられる。という算段でしょう。
 その上私達の追い落としを掛けられると・・・・・・」
「やはりそういう企てですか・・・・・・。
 我々人類が理解に達するまでまだ時間がかかるようね」

ブリューエットは人知れず溜め息を密かについた。

「あの方が政界引退さえしなければ・・・。今ここで助けて頂いたのは引退なさった彼女でもありますが」

秘書の呟きの前半は現在の穏健派の共通意思だった。

ELSと融合したハイブリットイノベイターの彼女を架け橋に、ELSの真意を知り相互理解を果たした。
アーミア・リーは人類の未来を指し示す平和の女神というべき存在。
世界にあまねく光をもたらす太陽だった。
半身ELSに融合された当時、ELS戦直後の混乱の最中にあり市民の迫害の可能性から、
政府は家族ごと保護し家庭教師を付ける事で学習面の保証を提供した。
そんな特殊な事情から女子高生から連邦議会のオブザーバーに飛び級で上り詰め、政府に人類と未来の可能性を見せてくれたのだ。
だが世界は再び人類同士の戦争へと向かうと、アーミアもその渦中に晒される事になる。
成り行きで義勇兵になった後オブザーバーに復帰するものの、三年前の2320年に引退し代わりに連邦軍に入隊した。
社会人に、対話の架け橋になって間もない彼女の引退に、穏健派を中心に反対の声は大きかった。

「人類とELSの架け橋である貴女が、その役を、責任を放棄するとは無責任甚だしい」
「今強硬派が優勢になっているのだ。この時期に入隊すればどんな目に遭うか」

が、彼女の意思は固かった。
「人類同士の相互理解」を求めて、相互理解まで年月を要している間に軍に身を置き、戦争根絶の可能性を探る。
その為にあえて一人になったアーミアが戦いやすいよう、第20独立試験部隊指揮官のポストを与え、
少しでも味方になれるベガ・ハッシュマン少佐ら義勇兵時代のドニエプルMS隊員をバックアップに付けてあげたのだ。
だが人類の、連邦軍の大半は彼女の存在が目障りな者で占めている。
半身金属生命体のイノベイターを誰もが恐れ疎んじ、仮にELSを許せても彼女だけは許せない。
上層部の理不尽な命令に振り回され、敵から恐れられ味方から白眼視されながらの戦いは過酷極まりないだろう。

「あの方の行っている事を否定なさってはいけません。
 ・・・可能性を探っているのです。どの道強硬派が実権を握るのは時間の問題でした。
 それにオブザーバーとして安全な議会に居座るのは、義勇兵として戦争を見てからではあの人は耐えられなかったのでしょう。
 理想を声高に叫ぶだけではいけない。戦争という愚かな行いを間近で理解しなければならないと。
 アーミアは前、私にそう仰っていました。
 今は、彼女を陰から見守っている時期です。」
「ブリューエット議員・・・・・・」

人を直接殺めない。が、大勢の運命を決める者の政務は戦いと言える。
少しでも平和へと世界を動かす会談へ彼女達は進み行く。



[36851]      兵器設定1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:ab09edcd
Date: 2013/06/16 22:11
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定1

SVMS-02アシガル
全高     本体重量
17メートル 40トン
装備
155ミリNGNライフル リニア加速で発射する実弾ライフル。マガジンをGNコンデンサーに換えると粒子ビームを撃てる。
固定装備
GNビームサーベル2基、20ミリ機銃1基
オプション装備
GNミサイル、対艦GNミサイル、GNディフェンスロッド、その他

これまで配備されていた三大国可変MSを置換、統合する可変量産型MS。
ユニオン系で直線を多用した外観と左右非対称のクラピカルアンテナはユニオンフラッグに似る。
性能はGN-XIIIと同じ。ただし擬似GNドライヴ搭載ではないので、より大量配備ができる。

世界規模の治安維持と擬似GN機の補助という用途から、地上航空部隊と緊急展開部隊に配備が進められている。
同時に本機をテストヘッドとした様々な局地戦MSの開発も行われている。

機動性向上に新Eカーボンで防御力維持と飛躍的な軽量化を成功した。
飛行形態時には腕部が肩と共に後方に折り畳まれるなど、変形機構が以前より洗練されている。
主動力と姿勢制御、補助推進用のGNコンデンサーと、
推進用の水素プラズマジェットの併用でコストが高い擬似GNドライヴの節約と性能の両立を成功した。

こうした粒子完全対応、動力併用機は準GN機と呼称されている。

本機は地球連邦軍と地方軍にのみ配備され売り込みは行われていない。



MSJ-09Aチェンシー
全高       本体重量
15.1メートル 73トン
装備
GNビームライフル、200ミリ×25口径長滑腔砲、GNソード、その他
固定装備
30ミリ機銃1基

GN機の補佐と共に老朽化したティエレンを代替する準GN機。
強力だがコストがかかるGN機の数合わせと補助戦力として開発され、拠点防衛や市街地戦を主用途とする。

地上戦を重視した設計思想にモノアイと重装甲に加えて、
GNコンデンサーと粒子制御器を搭載した事で粒子兵器の装備を可能にした。
貯蔵された粒子飛行できるが、粒子量の制約から地上では普段はホバー走行と歩行で移動を行う。

対MSには近接密集戦や拠点防衛、対人・MAには体躯に似合わぬ重装甲高火力による駆逐が、連邦軍での運用思想である。
ただし性能と揃えやすさから、地方軍や反乱軍、武装勢力などでは主力MSとして運用されている。

粒子装備が使えるようになったが、従来の実弾は使い勝手が良いので後者の方が使用頻度が多い
性能はGN-XIIIと同じだが低コスト、インフラ流用可能な事から、開発から瞬く間に世界中に普及していった。
ただしその機体数から旧人類軍にも行き渡り、本機のデッドコピー機が闇市場を通じて武装勢力やテロリストに輸出されている。

通常型の他様々なバリーエションを生み出している一方、本機の成功に味をしめた人革連系技術陣は新型機開発を急加速させた。



GNX-805T ヘラクレス
全高
20.2メートル
装備
GNソード、GNパイク、GNシールド、その他
固定装備
GNバルカン2基、GNビームサーベル2基、GNクロー2基
多目的粒子制御器 肩部に搭載された攻防補助装備。
         バーニアやGNフィールド発生機、高指向性GNビームガンとして使用可能。
         主装備と連動し粒子集束させ巨大粒子ビームを発射できる。

旧人類軍など反連邦勢力の高性能機との正面戦闘を前提に開発した熟練パイロット向け高性能MS。
従来のGN-X系は高性能だが汎用機故に、粒子技術を手にした反連邦勢力のゲリラ戦と高性能機に苦戦する事が多く、
精鋭部隊用のブレイヴ系もまた高性能機との白兵戦に不利で、一対一の白兵戦に耐えられるMSが求められるようになった。
前線部隊の要望から出た案の一つ「性能追求の新規開発機」から作り出されたのが本機だった。

機体命名に神話の有名な英雄の名前が付けられている。
天上の天使の名を頂くガンダムに対して、地球連邦軍は神に立ち向かう人間の英雄の名で対抗するという意味合いが込められている。

設計と基本機器は人革連系技術者、装備と外装はユニオンが担当。
技術発展した擬似GNドライヴ二基ダブルドライヴ式と肩部粒子貯蔵タンク二基に支えられた性能は、
七年前最強フェラータGN-Xと同程度で操縦性も一般兵向けに改善された。
GN-XIVフォルティスから続く汎用性の追求を引き継ぎ、多目的粒子制御装備を固定装備として搭載。
擬似GNドライヴ二基搭載のコア・ファイターを中心とする設計で、
MS部分には粒子タンクのみ装備する事で脱出時の生存性と航続距離の延長を実現している。

熟練パイロット向けのA型と、脳量子波コントロールシステム搭載したイノベイターパイロット向けのB型からなる。

12年前のアヘッドと同じく高性能量産機であると同時にテストヘッド機でもあり、その成果は次期主力機開発に生かされた。



GNX-805T/W ヘラクレス・ウォールズ
専用装備
GNシールドビット10基 背部に搭載する攻守補助の遠隔操作兵器。それぞれ擬似GNドライヴ一基ずつ搭載、遠隔操作下の継戦能力が向上した。
             高指向性GNビームガン1基とGNフィールド発生機を搭載し、主装備と連動させ集束ビームを撃てる。

数あるヘラクレスベース機の中で最も完成された成功作。正式名称はヘラクレス外部強化型と呼ばれる。
機体そのものではなくビット兵器で総合性能の底上げが図られ、装備追加だけで改修を済ませられるのが大きな強み。
性能は更に向上し、計算上ではCBの二個付き以外どのガンダムを圧倒する程強力になったと言われる。
ただし代償に擬似GNドライヴを10基追加した故に電力チャージ量が増え、コストが通常型より3倍以上跳ね上がってしまった。

旧人類軍との戦いで量産機は火力向上し対ビット戦法と装備が発達し、従来のGNファングが無力化される場面が増えてきていた。
そこで操作テクニックを要する割に損耗しやすいGNファングの攻撃志向から、GNシールドビットの防御と補助志向に方向転換させる。
結果、一般パイロットでも容易に操作できるようなり、従来機と同じく正面の戦闘に専念できるようになった。



[36851]      第16話 00クアンタR1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:ab09edcd
Date: 2013/06/22 11:57
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第16話 00クアンタR1

組織復活までに約十年!
ELSとの対話から戦乱に突入して、私設武装組織ソレスタルビーイングが本格的に動き出せるようになるまでの年月である。
当時既にスポンサーは亡くられ、資金は乏しく、太陽炉は相次ぐ戦いで減り、切り札は対話の旅に出た。
そんな困窮の極みに、組織は紛争根絶の為に立て直しに歳月を費やされたのだ。
幸い世界のガンダムに対する評価はアロウズ介入とELS戦の功績で好転しており、少しずつだが新たな賛同者が集ってきた。
資金源に民間企業を傘下に治め新たなスポンサー達を得て今に至る。

それまでの苦しい十年間も天上者達は解散していた訳ではなかった。
それでも統合戦争の局所―――最悪な場面へ発展を予想される戦場の武力介入を最低限ながら行い続け、
戦火の拡大と民間人、イノベイターの被害をなるべく抑えてきた。
だが次第に進歩していく連邦と反イノベイター勢力などの両者のMSに、ガンダムとてやがて対抗できなくなるだろう。
天才技術者の知恵をどれだけ振り絞っても。
シングルドライヴ式の機体をコンデンサー技術で補おうとも。
ビット兵器で外付け強化を図っても。だ。
加えて地球連邦政府は穏健派から代わって強硬派が政権を握り、宥和政策を改め強硬路線に転じさせ、
かねてより続いていた内乱を激化に向かわせようとしていた。
反イノベイター政策こそ行っていないが右傾するとあっては、紛争幇助対象として連邦を看過する訳にはいかない。

来る大々的な武力介入再開まで、後残るは新世代ガンダムの運用試験のみ。
力の源である太陽炉が次々揃い機体が造られ、全ての準備が整った。



「GNドライヴ出力40%突破!異常なしです!」
「00クアンタR1、安定領域突破までおよそ20秒と予測!」
「これが新型太陽炉の力・・・。なんという力だ・・・・・・!」

地球どころか火星より向こうの、小惑星帯にソレスタルビーイングの秘密基地が存在する。
以前に引き続き小惑星をくり抜いた構造は、表面のステルス迷彩と相まって肉眼ではただの自然物しか見えない。
ただ違うのは、地球連邦の勢力が介入当時より飛躍的に拡大した為に、
組織の活動が制限され拠点を地球圏外より遠く離さなければなくなった点だ。

「50%突破!」
「安定領域まで残り10秒!」

基地内の薄暗い管制室。
彼らはオペレーター達が端末を操りモニターを見遣りながら、基地内の管理に勤しむ。
格納庫で機体より放出されるGN粒子の圧倒的な量に、目の当たりにした老人は絶句した。
しわが刻み込まれた顔には驚愕と歓喜と共に浮かび上がる。
彼の名はイアン・ヴァスティ。歳は七十代に達しつつある六十九の総合整備士。
ソレスタルビーイングのガンダムの発展に貢献した、一世一代の天才ある。

「30%の時点で初期型の限界を超えている・・・!それがこいつだと・・・!」

言葉が続けられない程の興奮が込み上がってくる。
それはそうなって当然だ。

(これまでスポンサーがおらず、資金が無く、俺の腕で上げてきた技術・・・。
新しいスポンサーの資金のおかげで、十年前の機体がこれ程に仕上がるとは・・・・・・!)

純正太陽炉は粒子生成に制限がない、半永久的な稼働を可能にする。
だが一度に生成できる量は限られ、これ以上増やせられない事。
そして製造に高重力を必要とし、生産性が低いのが問題点だった。

新ガンダムマイスターの顔がモニターに映し出された。
二十代前半なもののスキンヘッドで既にヒゲを生やした男だ。

「100%突破!システムオールグリーン!」
「こちら管制室、機体良好を確認!これよりハッチ開放します!」
「どうだい、アサネル?この00クアンタR1の調子は?!」

彼、アサネル・コープはソレスタルビーイングが十二年振りに外界よりスカウトした、新ガンダムマイスターの一人。
連邦軍所属の非イノベイターの中堅パイロットだが、彼の堅実な性格と実力をヴェーダが評価し、メンバーに指名したという。
その新ガンダムマイスターに、イアンは早速訊きだす。

「素晴らしいに尽きます。これぞ新世代の先駆けに相応しい機体です。」

落ち着いた声色で、それでも笑顔を微かに浮かべる顔で返事された。

「もっと喜んで良いんだぜ?ここは」

GN-0000Q/RI 00クアンタR(リペア)1は、
00クアンタ二号機に最新技術と三世代太陽炉を盛り込んだテスト機である。
来る武力介入に用いる新世代ガンダム開発の為に、
粒子制御と量子ワープを利用した戦法や装備の模索するなど、実働データ収集を目的としている。
その性能は最初のイノベイターの操縦する一号機を上回る。
とはいえ

「お言葉ですが、それは介入用のに乗った時に置いておきます」
「謙遜すんなよぉ・・・おい」

アサネルが何事も冷静なのは承知の上である。
苦笑いするイアンをよそに、指揮官はアサネルに指示を下した。

「準備は出来ているな?ではハッチ開放せよ!」
「了解!」

元より真空状態の格納庫のハッチが開かれていく。
次第に外が、宇宙が見えていく。

「ハッチ開放。アサネル・コープ、発進を許可する」
「アサネル・コープ、00クアンタR1、出る!」

同調された新型太陽炉二基の粒子による圧倒的な初速は、機体をハッチより遥か二キロまで突き進んだ。
これほどの急加速がもたらす強烈なGは、GN粒子の慣性制御によって緩和され、ガンダムマイスターの肉体を軽く軋ませる程度だった。

「00クアンタR1、テスト宙域まで三十秒と推測」

彼らのいる、地球や火星より遠くの小惑星帯の秘密基地から、テスト宙域まで四百キロ程遠く離れている。
それ程の距離を軽く走破するツインドライヴ機の恐るべき移動速度。
量子ワープなしですら可変MSをも上回る速さではないか。

「テスト宙域到着しました。いつでも行動を開始できます」
「メニュー通りに進めるぞ」
「了解」

00クアンタR1の目前に突進するGN-XIII無人型が八機。
それらは四機一個小隊の横隊が縦二列に組んでおり、
前衛小隊はGNランス装備、後衛小隊はGNメガランチャーとNGNバズーカの混成となっている。
敵役のそのMSは地球圏で民間用に出回っており、なおかつGN機と、テストの標的としてこれ程ふさわしい物はない。

「小手調べに・・・良いな!」

前衛は前進から散開に切り替え、ガンダムに粒子ビームの雨を浴びせながら両面包囲を仕掛ける。
だがアサネルは操縦桿をどこにも動かさずに回避させようとはしなかった。
機体はそのまま微動たにせず、敵の射撃に蜂の巣となろうとした。このままならば。
ところ粒子の火線が機体に届く直前に全て散らばっていき、その衝撃で濃縮状態から目に見えない粒子に拡散され宇宙空間の果てまで飛んでいった。

(複合GNフィールドがビームを無効化にする・・・。
一層目のGNフィールドは機体表面に展開され、粒子対流で粒子ビームを外側に弾かせる)
「粒子ビームの貫通はなく機体にダメージなし」
「そんじゃあ、全標的をフルにするぞ!」

後衛二機のGNメガランチャー。
対艦・要塞用高威力の圧縮粒子の束が、00クアンタR1にめがけて放たれる。

(ここは・・・多めに張るか!)
「GNソードV、GNフィールド展開!」

機体表面のGNフィールドの粒子量を増大させ圧縮率を高め、同時に主装備がここで使用された。
新世代に向けた技術研究に、新機能を数多く盛り込んだ複合装備、GNソードVという装備が。
マニピュレーターより居給される粒子が切っ先へと流れていき、そこから円状に放射して緑色の膜を張る。
切っ先より展開された防壁はGNメガランチャーの砲撃を容易く弾いていった。

「アサネル、両翼よりミサイル群だ!」

続けてGNミサイルがこちらを襲い来る。片翼につき四発、全部で八発。

(両方の対処は難しい・・・。ならば!)

GNソードVの切っ先を右に少しずらし、なお放ち続けられるGNメガランチャーの砲火を本機より逸らした。
鉄壁の防御に火線を曲げられそれ自体が盾と化した粒子ビームの奔流に、そのまま右翼のミサイル群が突っ込み炸裂する前に蒸発していく。
もう一方のミサイル群に対しては、左に掲げられたGNシールドで受け止め、注入してくる圧縮粒子より機体本体を守る。

(ここで反撃に出る!)

ミサイルを全て防いだ今、唯一の脅威に当たるGNメガランチャーは撃ち尽くしてチャージ中にある。
緑色の粒子の輪を放つと共に、00クアンタR1が攻勢に切り替え、白い天使の乱舞を宇宙に描き始めた。
襲い来るビームもミサイルもこのMSの機動に補足しきれず、いとも用意に振り切られてしまう。
猛烈なはずの砲火をすべて掻い潜り抜けて、膨大なGN粒子を微細な機動から急激な加速へ切り替え敵に突撃する。
前衛一機目を剣で肩から腰へと袈裟斬り。
続いて前衛小隊を突破した勢いで二機目のGNメガランチャー装備の後衛機を、
ライフルモードに切り替えたGNソードVで二発、腰と胸部のGNドライヴカバーを撃ち抜く。
勢いを落とさないまま機体を後衛に肉薄し、ソードモードに戻して同装備の三機目を両断。

「三機も・・・・!一分足らずで三機撃墜しました!」
「その調子だぜ!ガンダム!アサネル・・・!」
「これが・・・00クアンタR1・・・・・・」

前半では防御力抜群と改めて確認できた。
そして反撃に切り替えた今、一対六と圧倒的物量差で押しているはずの敵を、
逆に機動力で翻弄し攻めかかれば次々敵を落としていっている。

「00クアンタR1、前衛小隊に再襲撃!あっ三機撃墜!」

続けて管制室に届けられる戦果に彼らは圧倒された。
モニターには宙を駆け抜ける、00クアンタR1の雄姿がそこにあった。
格闘戦にて、質量がこちらより大きいGNランスを逆に圧しやり、刃が表面に食い込み機体ごと断ち切る。
これで最後の六機目を落とし全機撃墜を果たしたのだった。

「二分経つ前に・・・」
「すごい・・・・・・」

オペレーターが絶句している。あのガンダムの力を目の当たりにして。

「んなもんまだ序の口だろ。これは運用テストの始めに過ぎねぇんだぞ。
 ・・・基本装備と基本性能のな。いちいち驚くな!」
「はっ、はい!」
「申し訳ありません」

イアンはそれでも満足していない。
日に日に進歩を続ける擬似GN機に、それも何百機もの大軍と対するには、依然として性能差が開いていないのだ。
それにGN粒子の可能性はまだまだ沢山残っているし、解明されている量子ワープを利用した戦術と装備は未開発にある。
テストを重ね続ける事に新ガンダムの開発ノウハウを溜める意味があるのだ。

「00クアンタR1はテスト機なんだ。新ガンダムを作る為のな・・・」

その道は途中までしか達していないが、準備は全て整っている。
資金も、資材も、人材も全て。

「こちらアサネル。機体損傷0%、全システム異常なし」
「こちら管制室。テスト継続せよ」

西暦2324年。
私設武装組織ソレスタル・ビーイングは未だに動き出していなかった。
だが活動まで日は近い事は間違いなかった。



[36851]      第17話 レヌス級主力戦艦
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:ab09edcd
Date: 2013/06/29 22:05
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第17話 レヌス級主力戦艦

地球連邦艦隊の存在意義は治安維持にある。
より詳細には太陽系に広がる人類の活動圏の治安維持、活動拠点の防衛と説明できる。

遡れば連邦の前身なる三大国がそれぞれ宇宙軍を設立したのが22世紀後半、
軌道エレベーターとスペースコロニーの防衛、宇宙輸送を主任務としていたのが始まりだった。
23世紀初頭の国家統合とGN技術の提供によって戦力増強を遂げ、
多数の巡洋艦など強力な新型艦船が建造され本格的な艦隊が初めて結成。
続いてイノベイドの技術から、トランザムによる超長距離高速移動を可能にし、太陽系の半分まで軍事行動を可能にした。
一方、軍事的脅威はテロリストや反連邦勢力、ソレスタルビーイングと、どれも小規模で強力か貧弱かの両極端な敵であった。
テロリストは立ち向かえば正面からでは粉砕され、反連邦を掲げたカタロンは政権交代後に解散、
ソレスタルビーイングは組織縮小と資金難で活動を控えている。
2314年のELS戦では圧倒的物量差から壊滅を喫したが、これは想定外の事態で最初から勝ち目の無い戦いであり、
人類側がELSを理解できていなかったのが原因であり、装備の劣悪さや機能不全による物ではなかった。

2317年より勃発した統合戦争という内乱は、連邦艦隊の方向性に変化をもたらした。
戦いは大規模ではないが、連邦より離反した反乱軍の中には艦隊を持ち、彼らと武力衝突するようになったからだ。
ほぼ同じ装備を持つ勢力の争いは、互いに相手を出し抜かんと兵器開発を促すようになる。
そして移り行く政局が、世界情勢が、艦隊編成と装備に一新をもたらしたのだった。



「こう話している間にも、連邦内ではテロと襲撃に晒されているのです!
 構成国はいつ分離するかわかりませんし、分離勢力も反イノベイター勢力も少なくありません!
 そうした不穏分子と敵性分子を黙らせる為にも、この戦艦A案の有用性を唱えます!」

会議の序盤から、こうも熱く叫ぶ男性高級将校は強硬派に属する技術士官である。
忌むべきELS戦直後の連邦軍再建会議から耐え忍ぶこと八年。
内乱にもなお継続される軍縮に警鐘を鳴らし続け、兵器開発の許可を求めるも当時の政権は拒み続けてきた。
何年も続く内乱に既存戦力での状況対応に限界を迎え、情勢不安から市民は軍備増強を求め、強硬派が遂に政権の座に着くに至った。
待ちに待った艦隊再編の会議で艦隊増強を成し遂げ、強硬派の地盤を磐石にする、これとない千載一遇の機会だ。
はやる気持ちを抑えながら両手で端末を操り、全ての参加者のモニターに戦艦のデータを転送する。

「これが戦艦A案の詳細です!
 艦隊決戦と拠点攻撃、そして地球から木星に至る宇宙の活動圏全域の作戦運用を想定!
 全兵装を粒子系に統一させる事で、脆弱なレーザー砲を超えた大火力を可能にします!」

外観はナイル級大型戦艦と同じ、長い艦首と宇宙空間を考慮した三箇所のサブエンジン。
ただし主砲は固定式ではなく旋回可能な砲塔となっており、より大口径の固定粒子ビーム砲が艦首に装備されている。
副砲や対空機銃も全体にハリネズミのように設置。より戦艦というべき設計に仕上がっていた。
ただしその代償に搭載MSは十機に減り、前級よりMS運用能力が落ちてしまっている。

「全兵装のシミュレートの結果ですが、どれも良好な結果にあり!
 たったこの一隻でコロニー群の破壊は可能!
 よって治安維持というドクトリンの観点から見ても、抑止力として機能を果たせます!
 以上、小官ルードウィヒ・ハインツ大佐の挙げるA案です!」

多少の欠点は押し隠して長所を全面に押し出し、治安維持の効果を強調された。
参加している誰もが情報を読み上げ、画像を見回し、しばしの思案する。
一人から始まり二人、六人・・・と意見を述べ始め、

「いくらなんでも過剰なのでは・・・」
「全艦隊に配備するとなると、とんでもない建造費が掛かりますぞ」
「これで本当に・・・果たして、宇宙の抑止力になりましょうか・・・?」
「むしろ連邦の強権と見てますます反発するのではないでしょうか!?」

やがてそれは室内に響き渡るざわめきと化した。
派閥の主義に基づく反発や費用対効果を見越しての論理的な反論、漠然とした躊躇の声。
主に前政権を牛耳っていた穏健派議員達だが、一部の強硬派議員と軍人も混じっている。
だが提案者は数々の反発に冷めたとも見下したともいえる視線で一瞥した。

(ふん。臆病者の穏健派共め・・・。こっちがどれほど内乱の対応に追われてきたかわかるまい。
ここで少しでも情勢を抑えねば困るのは貴様らだろうが!)
「今揺らいでいる連邦軍の優位を取り戻す!
 でなければ、今はなんとか統合に向かった統一国家は崩壊し、
 無数の国家の利害がぶつかり合う戦乱の時代を迎えるでしょう!
 戦艦A案は連邦軍の威信を取り戻す、布石の一つにあります!」

ルートヴィヒの言葉が参加者の反発心に逆撫でさせようとという矢先、

「静粛に!軍人及び議員諸君、静粛に!」

会議の開幕宣言以外押し黙ってい大統領が、ここで再び声を上げた。
私語は収まる気配を見せないが、無闇に反論を上げずにいる冷静な者は彼に注目した。

「案は今のだけではなく、いくつか出ている。意見ならば全ての案を挙げてからいくらでも言えよう」

決して声は大きくなく怒鳴っている訳ではない。
だがその男の存在感と論理的で説得力のある言葉に、それまで参黙らなかった加者達が静まった。
彼ドナルド・マシューズ大統領が強硬派でありながらも、派閥間の意見調整にも長けた政治家だからだ。
でなければ両派の論争を早期に鎮静できるはずはない。
ドナルド大統領の傍らに立つ議事進行役の幹部が口をマイクに近づけ、

「次、B案の説明をお願い頂きたい」
「は」

参加者の中から次期戦闘艦設計者に起立を促した。
ルードウィヒと代わって演壇に別の高級将校が立つ。
終始ヒートアップだった前者と対照的に、理知的で厳格な雰囲気を漂わせる五十代の男が、周囲を見据える。

「宇宙技術本部所属コンスタンス・アナクトリオン大佐です。
 本官が設計したB案は艦隊決戦ではなく対艦戦向けの、いわば主力戦艦に当たります」

背後の大型モニターにその設計図を表示させ、続けてそのデータを参加者に送る。
船体の軸に沿って主砲が並び、周囲にミサイル発射機や副砲、機銃がくまなく配置されている。
外観はナイル級の左右に広がった区間を縮め寸胴にし、サイズはバイカル級航宙巡洋艦より少し大きい程度だった。
A案に比べて火力が劣るが小柄でコンパクトな分、用途は明確で生産性は高まっているのが長所だった。

「戦艦としての性能を突き詰めず量産性を優先した設計がまず特徴で、
 大気圏内から宇宙、果ては木星に至るまでの作戦行動が可能です。
 火力はスペースコロニーの破壊が可能な投射量を持ち、巡洋艦を上回るので用途の混合は避けられます。
 こちらもA案と同じくMS運用は限定しており、巡洋艦などとの混成運用を前提に用いられます」
「戦艦にしては性能は控えめではなかろうか?」
「艦隊決戦などは起きる可能性が低いと判断した上で、敵艦を寄せ付けない事を主眼に置かれています。
 主戦力はMSとMAで、それらを運用する空母の護衛や対艦戦がB案の用途なのです」
「戦艦というにはサイズも火力も中途半端な気が・・・・・・」
「だが使い惜しみしてしまうより、こっちはまだ使い道ありますぞ」
「確かに艦隊決戦はありえませんね。それより火力支援とかにはこの案が現実的でしょう・・・」
「うーむ・・・・・・。それでもなあ・・・・・」

前案と同じく何十もの声。
今度は賛否が入り混じり採用を困難にしていく。

「引き続きC案の説明を願います。」

こうして次々と様々な新造戦艦の案が発表されていった。
C案は前級と同じMS運用に長けており、艦首に固定式の大口径超長距離砲を二基備える。
用途をより先鋭化させ遠距離砲撃しながらMS部隊を投入する、いわば航宙戦艦になる。

D案はこれまでのAEUでもユニオンでもなく人革連系技術者が設計担当した、潜水艦のように飾り気のない外観だった。
主砲も副砲も全て高指向性の固定式という思い切った設計が目玉で、
粒子ビームを湾曲させる事で誘導性を付与させ砲門をこれまでの案より半分に削減されていた。
逆に欠点として粒子制御技術が高度なレベルでなければならず、
何かしらの理由で機能不全に陥れば目視での砲撃すらも出来なくなるという。

どの設計案も一長一短で、誰もが情勢と軍のドクトリンと折り合わなければならなかった。

「揺らいでいる地球連邦の威信を取り戻す為にも、A案で各地に睨みを利かせるべきです!
 敵はカタロンと違ってGN機を保有しておりまして、そうでなくとも粒子兵器ならば持っています。
 そういった相手を圧倒する力を持つべきです!」

強硬派議員の一人が声高らかに主張した。

「この内戦の問題点の多くはイノベイター絡みではないですか。
 武力だけで解決できる問題ではありません。
 抑えたとしても一時の事であって、軋轢自体を止められず長引くだけです。」

それに対して穏健派議員が、内戦の要因を引き出して軍拡の歯止めを図る

「そうして戦火を止めず、内戦を長引かせたのは君達穏健派らではありませんかな?
 敵の良心に期待し恭順を呼びかけるだけに済ませようなど、
 利敵行為でもあり連邦のますます脅かす反逆行為ではありませんでしょうか?」
「イノベイターは今後も増加の一途にあると、既に予測済みにあります。
 反連邦勢力内でもイノベイターに覚醒する者が出続ければ、反イノベイターの意義は崩壊に繋がるではないですか。
 今強硬路線に歩めば各地から反感を買いましょう。
 仮に殲滅でも掲げれば、抗戦以外選択肢無しと見なして死兵となって徹底抗戦する事になります」

二人の論争に触発された両派の議員と軍人が、我もとばかりに口を開き意見をぶつけ合い始めた。
軍拡による国家威信の回復と防衛力強化による治安回復を求める強硬派。
対話を根気よく続け戦争の回避を求める穏健派。
両派の求める先が同じく平和だとしても、その為の手段は決して相容れなかったのだった。

「お前達はそこまで戦争をお求めなのか!?」
「大戦争にさせない為なら多少の戦争はやむを得んではないか!
 A案ならば少ない犠牲と時間で敵を打ち破れる!」
「それでは反イノベイター勢力と分離勢力の態度が硬くなってしまいますわ!
 過度の軍備増強はアロウズの二の舞に繋がるのでは?」
「相手は妥協も対話も余地のないテロリストです!情けを掛けてはなりません!」
「人類の未来を巡る内乱であってただの反乱ではないぞ。
 常に対話のテーブルを用意して絶えず宥和のチャンスを与えるべきだ
 戦艦そのものの建造はすべきではない」

反論を受け付けず批判をまくし立てる強硬派に、痺れを切らした穏健派の一部が怒鳴り返すようになった。
怒鳴られてはこちらも黙っていられない、と相手もますます熱くなり更にヒートアップしていく。
一見艦船建造と関係のない話題で意見対立になっているように見えよう。
だが艦隊の要である主力艦の建造には、政治的事情や世界情勢が嫌でも絡むものである。
そんな騒然とした状況下、議論を続ける大勢とは別に行動する一派が現れた。
ドナルド大統領を筆頭に参謀総長、各軍事企業の代表達ら二十人からなる。

「ま、どう転んでもどの道強硬派の思惑通り地球連邦は戦争に突き進みますな。
 勝てば当然の成り行きで。負けても市民は更に軍備増強を求めて、穏健派は折れざる得なくなりますからね」

誰も彼も、両派を遠くから見守りながら状況分析が行われる。

「十年前まで地球連邦が平和だったのはこちらが一方的に強大だったからだ。
 粒子技術が各地に広まった今では我々と戦力差が縮まっている。今有利なのは物量と組織力だけだろう。
 市民は連邦の平和を重みを知りつつある。この戦乱によって・・・。
 かけがえのない平和を取り戻す為に、市民は我々の政策を、公約を支持した」

ドナルド大統領が現状と過去の要点を整理した。

「なので我々軍事産業はこの開発計画をなんとしても、推進していかなければなりません。
 ・・・・・・何せ・・・統一国家の危機ですからね」

(国家同士の戦争ではない、内戦でしかない現状だ。
戦艦の用途は限られよう・・・・・・。艦隊決戦はまずありえん。
相手は反乱軍だ。旧人類軍は艦隊を持っているが艦隊戦の可能性は低い。
分離勢力は戦艦を持たない、巡洋艦と輸送艦しかないから、A案ではあまりに強力すぎる )

熟慮の末、大統領は席より立ち上がった。

「諸君」

論議で熱くなっている中、怒鳴らずだが大きく声を上げた。

「この私ドナルド・マシューズ大統領は、強硬派として本計画の推進を求めている。
 しかしここで、私より案を上げさせて頂きたい」

参加者の誰もが、それまでの意見対立を即座にやめて大統領に注視していった。

「諸君らも知っての通り、地球連邦は内乱の窮地に置かれている。
 しかし敵はけっして強大ではないが強靭で決して滅びる事はない。
 全ての案は戦艦として実に完成されていると断言しよう。
 だが、どれも連邦の政情に見合った性能ではない。
 一種だけの単独採用では現状の絶え間無い変化に対応できなくなる。
 そこで二種運用を、B案を艦隊主力に、AかC案を艦隊旗艦か独立部隊母艦に充てるべきと考えている。

冷水をかけられたように全員口を閉ざし黙り込む。
尤も動揺したのではなく深い思案に切り替えただけだが。

「まずA案は強力すぎて宝の持ち腐れになる。B案は一番小柄で大型戦艦には敵わないだろう。
 C案はMS運用をより上げていて戦艦として中途半端にある。
 最後のD案は火器慣性の機能不全に脆弱である。
 このように素晴らしい性能には必ず弱点が潜んでいる事を、決して忘れないでほしい。」

未だに沈黙が続いている。
その中で穏健派議員がようやく、一番先に切り返しに出た。

「しかし大統領。仮に状況変化に応じれるよう二種運用を採用すれば、コストがかさむではないですか」

続けて同派議員と軍人達が意見を返す。

「C案だけでも現状では十分事足りるのではないでしょうか?
 既存のナイル級は艦隊戦より旗艦や独立運用に長けていますし、C案はそれの直系の後継艦に当たります。
 無理に採用する必要は無いかと思います」
「あなた方の主張にも一理ある。
 極論だが戦艦が無くても採用した宇宙空母を揃えて機動部隊を作れば、ほとんどの戦況に対応できる。
 しかし情勢不安定で先が読めぬ今、連邦艦隊には決定的な打撃力の必要性があるのだ。
 MAより持続した火力を発揮できる戦力を」

艦隊再編計画はこれより一週間にも渡る熟慮と妥協の末、大統領の二種運用案が採用された。
軍に採用されたのは比較的小柄なB案とナイル級直系のC案。
艦名も艦種も決まり、B案にはレヌス級主力戦艦、C案はインダス級航宙戦艦と命名。
この時をもって、地球連邦軍宇宙艦隊の再編は最終段階を向かえ、建造と配備へと進んでいった。
来る対異星人戦争にも視野を据えて・・・・・・。



[36851]      第18話 GN-XV(前編)
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:f67f55c9
Date: 2014/04/05 00:59
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第18話 GNX-810T GN-XV(前編)

地球外生命体との邂逅。
長年人類が夢見た歴史的瞬間は、西暦2314年にて破滅的な形で現実となった。
人類の前に現れたそれは木星より飛来した地球外変異性金属体―――通称ELS―――。
言葉を発さず脳量子波と同化を対話手段とする、遠い遥か彼方の宇宙で人類と全く異なる進化を遂げた生命体の真意は、
当時の連邦政府が総力を挙げても全く判明できなかった。
ただわかった事は、同化によって対象は取り込まれ死亡する事。
そして彼らがイノベイターやその因子を持つ者達に引き寄せられる事のみ。
対応が困難を極めている間にELSの対話から人類側に被害が及び、そして木星よりELSの何億もの大群が地球に押し寄せてきた。
連邦政府の調査隊派遣も、火星圏での接触から全滅に至った事態に、軍総力を挙げた地球防衛を決断。
戦力差一万対一以上という絶望的な状況の上、人類の兵器に模倣させるELSの学習能力に圧倒され、連邦軍一時間足らずで壊滅。
地上まで大気圏突入寸前の所まで突破を許してしまう。
その直後、ELSはガンダムで駆る一人のイノベイターの男の対話から、
人類を理解し全ての大群を大型個体に集結させ、宇宙に浮かぶ一輪の花に変化させた。
突如の奇跡より三年後、人類は内乱の時代に突入する。
イノベイターと旧人類の軋轢から世界中に暗雲が立ち込め、反イノベイター派は地球連邦にいつまでも屈する事無く抗い続けた。
また身内の諍いよりも頭上からの来訪者に脅威視する者達も世界の裏で着々と勢力を広げていた。



外宇宙航行船ソレスタルビーイング号は月と目と鼻の先のL2に浮かんでいる。
十五年前に連邦軍に接収され十三年前のELS戦争では絶対防衛線の大本営として機能していたこの巨大宇宙船は、
半分以上がELSに侵食され一大拠点として使い物にならなくなってしまった。
だが巨大量子演算コンピューター”ヴェーダ”の設置場所として、月面二個艦隊の強固な守備を受けながら今も存在していた。
この小さいながらも重要な宇宙拠点にて、地球連邦の一大イベントが始まろうとしていた。

「諸君。我々外宇宙友の会は現政権の多大な協力の下、ヴェーダによるシミュレーションの許可を頂けました。
 ここまでに連邦議員や軍人、軍事産業、財団等の援助と、メンバーの志、多くの連邦市民の支持の下、
 世界中に外宇宙の脅威を十年間訴え続けた、地道で苦難に満ちた活動があったのです。
 その労苦は今回の形で報われた事は、感謝の念が消えません」

このシミュレーションに立ち会っているのは外宇宙友の会幹部と一部の連邦高官、ヴェーダ管制担当の連邦兵、現場視察のドナルド大統領からなる。
誰もが緊張した面立ちで演説を聞き、ある者は今に至るまでの回想に耽り、独自にシミュレーションを試みる。

ELS飛来して以来、人類は外宇宙生命体の脅威を覚えたはずだった。
だが当時の連邦政府はイノベイターによる対話以外の何も対策を講じず、従来通りの宥和政策と軍縮を推進させた。
そうした状況に危機感を募った学生達の手で外宇宙友の会が年内に立ち上げられ、外宇宙対策を促すデモ行進や対外宇宙政策の考察を活動内容としてきた。
政権の座に就いていた穏健派はあくまで政策転換しなかったものの、
次第に宇宙研究者や強硬派連邦議員と軍人もメンバーに加わって行き、市民の親睦目的の下部組織を含めれば世界規模の研究組織と化する。
統合戦争に終わりが見えなくなった西暦2020年の時点で、政府にとって無視できない国際組織になっていた。

余談だが外宇宙友の会が一年前に連邦軍の協力を得て教材”西暦2314年 30分間の悪夢”を作成した。
これはELS戦の連邦軍とELSの戦力、戦闘の推移など詳細な分析集で、題名はELS迎撃から短時間で壊滅に陥った二十分間から由来している。
本教材は短時間の内に本来の納品先の連邦軍の研究所や士官学校だけでなく、対象外のはずの民間にも広く流通したという。
今回のシミュレーションには”西暦2314年 30分間の悪夢”が参考資料として大いに重用されていたのだった。



演説が終わると本命のシミュレーションが開始された。
ヴェーダを用いて設定した仮想空間は、現在の地球軌道上の全てを再現した。
そこには連邦政府が登録したコロニーや宇宙建造物、月面基地など、地球圏全面の戦闘を見据えられている。
勝利条件は敵勢力の撃退もしくは殲滅で、逆に敗北条件は自軍の殲滅か地球到達と設定された。
仮想空間での敵はL2に留まり続けている金属異星体ELS。
現在地球連邦はELS以外に地球外生命体を確認できていない。
強力無比で広大な外宇宙を自由に行き来できる勢力として、彼らを仮想敵に選択したのだ。
迎撃に当たる地球連邦軍の戦力は地球軌道上の五個、火星に二個、およそ七個もの基幹艦隊百十二隻と七個警備艦隊三十五隻。
合計百四十七隻という十年前の連邦軍全宇宙艦隊の四倍近くの大艦隊である。
それに加えてオービタルリング全周囲には防衛隊と地上からも掻き集めた増援部隊で、最終防衛線を構築する。
連邦軍が軍備増強で変わったのは増大した物量だけではない。
MSの内GN機は更なる性能向上の上に一部は新世代機に更新しており、大きく削減された非GN機は完全に第一線から外し、
GN機の不足分を準GN機で補完し千単位で揃えている。
艦船も半分以上が擬似GNドライヴ航行型で、大規模な反乱鎮圧に視野を入れた戦艦や空母、強襲揚陸艦が基幹艦隊に配備されている。
戦力差が依然として大きすぎるのだがもう一世代分進歩した装備と軍制改革を受けた連邦軍ならば、
最終的には壊滅となってしまっても地球到達まで時間稼ぎを長くできるはずだろう。

「MSの・・・GN機の大半は強化されたとはいえ、基本的には十年前の機体の改修型だな。
 新型機は未だに2割程度しかない・・・・・・」

MS部隊の中核たるGN機は千六百機。
主力機のGN-XIVフォルティス四百機、火力支援機GN-XIVフルミナータ百機、GN-XIII無人型三百機、ブレイヴI二百機。
どの機体もELS戦争時より基本性能、火力、防御、全てにおいて向上を果たし、
中でもGN-XIVフルミナータはユニット交換のみの改修機ながらも、デカぶつのガンダムを凌駕する火力を持つまでに至っている。

一方新型機は配備数が少ないもののその性能はこれまでを上回る。
精鋭機のヘラクレス系百機、次期主力機GN-XV二百機、ブレイヴII百機。
コアファイター搭載を前提とする設計と粒子制御技術向上による高汎用性が特徴の機体群だ。

最後にアシガル系とチェンシー系の準GN機四千機が艦隊護衛や、非GN機千機と共に補給や整備など後方支援を担当。
主力機ではないが粒子制御により粒子兵器を使用できる上に、
性能はGN-XIII並でアシガル系の機動力とチェンシー系の装甲と火力はそれを上回る。

これらはELS襲来の対応に地上からも根こそぎ集めたという設定で、
艦隊の直属機と派遣機を含めて八百機以上、最終防衛線に防衛隊と地上派遣部隊など三千機以上を配置する。
GN機とそれ以外の比率は十三年前と大体同じだが、機体更新とGN機に匹敵する準GN機の大量配備によって、
実質戦力と投射火力は組織の計算上では十倍以上に跳ね上がっているという。

「第一回目のシミュレーションは、まず全戦力による正面会戦で試すとしよう」

地球のすぐ側にELSがいる現時点で全戦力をつぎ込んだ決戦は難しい。
とはいえ西暦2327年の連邦軍の総戦力でどれ程戦えるか、正確に知るにはこれが丁度良い。
現実にありうるいくつかの想定ならば、一回目以降いくらでもシミュレーション出来る。

「予定通り作戦はプランAで実行する。
 ・・・・・・大事な事なので言っておくが、現在の連邦軍でELSに勝てる確率は無い。
 それでも毎年何度も検証し続ける事に、将来の宇宙戦争に役に立てる事を忘れないで頂きたい」



グリニッジ標準時十五時、第一回シミュレーションを開始。

開戦直後。
月面に布陣した全連邦艦隊は、ELSの射程距離内侵入と共に艦砲射撃とMS、MA部隊第一波による漸撃が開始。
十三年前より延長された射程距離なので五分位早く開戦する事になった。
戦艦粒子主砲はELSの密集部分を薙ぎ払い、粒子砲は中型ELSを狙い撃ち、湯水の如く撃ち放たれる粒子ミサイルは小型ELSを掃討していく中、
漸撃の可変MS部隊はブレイヴ系の高機動力を生かした一撃離脱戦法で、繰り返し帯のように連なるELSの大群を焼き払う。
同じ担当のMA部隊は全機ガデラーザ系でからなり、対ELS戦を想定して本体まるごと覆われたビームカッターで殺到するELSを逆に焼却しながら、
粒子ミサイルや機体各所のGNバルカン、隠し腕の全周囲射撃、時にはGNブラスターで行く先の敵勢を蹴散らしていった。
対するELSの一部―――それでも万単位―――が次々と過去に取り込んだGN-XIVやバイカル級航宙巡洋艦に擬態し、
こちらの何百倍もの粒子ビームの弾幕で応戦してきた。

「この時点で既に十年前近くの撃墜数を挙げている!ソレスタルビーイング号の大型粒子砲なしで・・・!」
「それでもELSからすれば総戦力中たった一%前後の損耗でしかない。
 後方の大群が次々と喪失分を埋め合わせて着実に艦隊に近づいていくぞ」

粒子を損耗した第一波が第二派と交替し宇宙空母に帰還。補給を受け、次の出撃に備え待機した。
こうした主力を温存しての漸撃にもELSは屈する事無く地球へと押し寄せ続けている。

開戦より五分後。
連邦軍の戦力中損耗分は二%と極めて軽微にあった。
だがELSが無数の屍を踏み越え着実に距離を詰められる中、ここで遂に温存のMS部隊を出撃させた。
彼らの任務は艦砲射撃とMS、MA部隊第一、二波の漸撃をすり抜けた敵の掃討だ。
宇宙空母と護衛艦より次々展開したMSの内、前者の主力部隊はELSへ前進し後者は艦隊護衛部隊として艦隊周囲に防衛線を張る。
無人MS部隊の砲撃支援の下、GN機からなる主力部隊はELSと激突。
宇宙は爆炎と共に自軍のオレンジ色の粒子ビームと敵の紫色の粒子ビームによって一面を覆い尽くされた。
改修機ながらもGN-XIVフォルティスはELSGN-XIVの猛攻に怯む事なく、粒子ビームを弾き反撃の巨大粒子ビームで薙ぎ払う。
GN-XIVフルミナータとGN-XIII無人型の猛烈な砲撃の嵐に、何百もの小型ELSが焼き払われ、中型ELSが一撃で爆散していく。
戦力を一気に戦場に展開した事によって、損耗が一挙に増えすぐに五%に跳ね上がり消耗のペースが早くなってきた。
それと共にこちらの撃墜数が増え一万を超えたが・・・・・・。

「空母のおかげでMSが中隊単位で補給と修理を受けられるのは助かる。ずっと前線に張り付いて消耗するのを抑えられるからな」
「一隻でも沈められると戦力低下が深刻なものだ。だがその事態を防ぐ為に護衛艦は出来る限り完備させている。
 見ろよ。ドニエプル級が押し寄せるELSのことごとくを撃ち落していっている」
「艦艇もMSも全て火力が上がっているからな。それでも大型粒子砲とか戦略兵器がないのが痛い」

仮想空間での戦況を目の当たりにしての参加者達の感想。
一新しつつある軍の力に感心し希望を抱きつつある者、冷静に彼我の戦力を分析する者など色々いる。

開戦より三十分後。
連邦艦隊はELSに万単位の損害と引き換えにこちらは三十%戦力を失っている。
十三年前なら自軍が壊滅した時間だ。
連邦艦隊の奮戦は続くがELSの圧倒的物量の前に損耗を強いられ、各戦線で突破を許してしまっていた。
艦隊護衛部隊と可変MS部隊がその火消しに回るのだが、全ての突破を防ぎきれなくなりつつある。
MSの補給拠点にして機動橋頭堡である空母が二隻撃沈され、機動戦力の維持に支障をきたしつつあった。
形勢はELS有利、連邦軍不利に傾いた。
ここで自軍の損害ペースが一段と速くなっていった。

「ELS戦争の時より沢山叩いたがやはりこちらが負ける。か・・・・・・」
「十万位は薙ぎ払ったようだな。それでも勝利にはまだ程遠い」」

開戦より一時間後。
十三年前より長く戦い続けた連邦艦隊の損失は七十%に昇っていた。
既に戦線は崩壊状態で残存戦力は死兵と化し、ELSの大群の隙間を縫うようにしてその場に踏み止まり、
粒子ビームで墜とされるか取り込まれるか、その時まで抵抗を続けている。
これまでに戦線突破したELSの内、その先陣は地球軌道上の最終防衛部隊と砲火を交え、人類の最後の抵抗を思う存分味わっていた。
最終防衛線のMSの八割が準GN機なものの、GN機以上の物量でこれ以上の侵攻を阻んだのだ。

開戦より一時間十分後。
連邦艦隊はELSの物量を前に遂に消滅、全ての戦力を失った。
一方の最終防衛線では懸命の抵抗が続いているが、触手を伸ばすようにあらゆる方向より押し寄せる敵の大群になす術が失われた。
数が十万ならまだ良い。だが何百何千何億ものELSとあっては、一方を阻んでも二方八方に戦線を突破されるのだ。
程なくELSの一群が大気圏を突入、地表に到達し侵食を始めていく。
地球連邦は地球丸ごとのELSと同化という形で敗北を喫した。

注意点はまずコロニーや連邦地上構成国の地方軍やPMC、義勇兵は戦力に入れていない事。
またELSは外宇宙の個体群の増援の可能性を入れておらず、
人類側の攻撃を模倣しただけの行動パターンと戦闘力、数などをELS戦争当時のままで設定されている事。
十年間地球を見続け人類を理解した現在のELSが相手ではなく、敵として攻撃を仕掛けた場合を考慮していない事。
以上の点を留意しなければならない。



研究員も観衆も、誰もが戦闘の推移に声を失った。

「「「・・・・・・」」」
「一時間以上も・・・。二倍以上連邦軍はELS相手に持ちこたえられたとは・・・・・・」
「だが結局負けた・・・・・・」
「「「・・・・・・」」」」

ELS戦争より今に至る技術革新を以ってしてもこちらを叩き潰せるELSの力。
その絶望的実力差を今ここで改めて思い知らされたのだった。
最大支援者のドナルド大統領と外宇宙友の会のアレクサンドル会長以外は。

「思った通りの流れだね。連邦が軍備増強と軍制改革してもこれ程の様だ」
「やはり奴らの学習能力と同化能力、そして物量が問題です。
 個体は倒せるが束になると恐ろしい敵。しかもすぐに学習できると来ていますからね」
「GN機を二個付き並にでも性能を上げねば、やはり勝てない・・・か。
 まあ、奴らを倒すのに同じ位の学習能力と変身がなければならんとしたら、
 最早怪獣同士の戦争になるだろうがな・・・・・・」

予想通りとばかりに冷静に分析する二人の表情に、剥き出しの怒りと動揺は見られない。
救国と杞憂の念、無敵当然の存在への恐怖はあっても敵意を抱いていない。

「ELSは人類を理解し真の共存の為に、今は中立で地球に留まっている。
 穏健派とアーミアの言う事はまず信じよう。だが将来の為に戦いの備えをすべきだ。
 たとえ意味がなくなってしまってもな」
「大統領の仰る通りです。
 将来たとえ武力の必要が無くなったとしても、いつかの危機の為に想定しなければなりません。
 イノベイターによる対話でも効かない、凶暴でどうしようもない存在が現れた時の為に」

その後も繰り返されたこの研究の結果、膨大な戦技データが政府と軍、軍事産業に広まり、
今後の戦術戦略、兵器開発の参考データとして活用された。



[36851]      第19話 GN-XV(後編)
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:44
お詫びの言葉
本小説は主役機体の話を一話きりの予定でしたが去年投稿した同機の話に違和感があり、機体が全然活躍していなかった事に発覚しました。
書き上げて間もなく気がつきましたが修正のタイミングを見定められずズルズル長引いてしまい、前編後編という組み合わせでGN-XVをもう一度取り上げました。
他にアシガルもMS主役の方針からかけ離れていますが、この連邦軍次期主力機を描く方が見栄えがあるではないかという理由からです。
文章を気にしていましたが編集の仕方にも粗があり、作者としてまだ未熟で申し訳ありません。



機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第19話 GNX-810T GN-XV(後編)

地球連邦軍主力であるGN-XIVを代替する次期主力MS開発計画の勝者は、正当後継機であるGNX-810T GN-XVに決定された。
10年間醸成されたアイデアを開花した、多種多様な候補機に比して本機は全体的に高性能だが保守的で平凡な作りであった
軍備増強に並行して進行する軍制改革、旧人類軍の動向、軍の指針を成すドクトリン、慢性的な人材不足・・・・・・。
このような複雑な状況がライバル機を差し置いてGN-XVに勝利をもたらしたのだった。
ELS戦後より続く少数精鋭志向に適応したGN-XIVフォルティスに比べると、火力も防御力もほぼ同レベルであり基本性能は若干向上した程度。
その程度の設計と言われるこのMSだが、西暦2325年より配備されると最前線のパイロットの間では意外にも好評であった。



アフリカ大地構帯にまたがるように繰り広げられる連邦軍と反乱軍の戦いは、宇宙に並ぶ統合戦争有数の紛争地帯である。
かねてより続く戦力不足にある連邦軍は中央アフリカを根城とする武装勢力やテロリスト、旧人類軍を含む反イノベイター勢力に苦戦し、敵に領内侵入を許す事態は珍しくなかった。
それは軍備増強が進み組織変革を遂げた西暦2326年の時点でも状況はさほど変わっていない。
国境を越えてくる敵軍を追い返し、経済及び連絡の動脈たる都市間アクセスを回復させ、来たる反攻に備え防衛線を築く。それが連邦軍の当面の目標だった。
今日もケニア地区にて、反乱軍の侵入に迎撃にMSが打って出る。

「敵機撃墜!」

二番機の火力支援装備NGNマシンガンが噴く火線の先、肉眼では見えない距離を飛ぶレギオンがビームライフル並の威力の粒子ビームに次々貫かれ爆発四散していった。
ルッキオ・ガザニアーノ大尉率いる小隊が最新鋭機GNX-810T GN-XVで撃墜した敵MSはレギオン四機。
全て地平線の彼方1000キロ先に先行したアシガルからなる飛行隊より突破してきた。
火力は同等かやや下、紙装甲当然の装甲、だが機動力に限ればこちら以上もの航空可変MSなのだ。射程に入らぬよう迂回したり正面突破を図る事は容易な事。
捕捉次第、速攻で撃ち放ち相手の離脱のチャンスを奪う。それが非可変MSで可能な対抗手段だった。

(本当に突っ込んでくるとは・・・・・・)

敵の意図は決して伊達や酔狂などではない。
可変機の機動力を生かして突撃或いは特攻を掛けトランザム自爆を仕掛け、軍だけでなく市民や都市など目標を選ばず平気で巻き込む。
かつての対カタロン戦のように容易に撃破出来る相手ではないのだ。今や戦力差は相対化してしまっている。

「レッドブル1より全機へ。第122戦術戦闘飛行隊の情報が正しければ、あと二分後に敵GN-Xが小隊規模で侵入してくる。各機異常はないな?」
「レッドブル2異常なし!」
「レッドブル3異常なし!
「レッドブル4異常なし!」

小モニター越しに部下の様子を確認。副官は平静だが新兵の三、四番機は若干興奮状態にあるらしく、声音は荒く顔は心なしか赤くなっている。

(異常なし、というがやはりあるじゃないか)

彼らは士官学校で猛訓練を受けGNーXVに乗れるだけの能力と成績の持ち主といっても、この実戦が初陣であり所詮新兵は新兵でしかない。
尤もガザニアーノはELS戦後のMSパイロット補充に予備役より復員されたが、昨年まで辺境基地のティエレンパイロットだった身で実戦は片手の指で数える程度。
副官は元海兵隊からの転属組で実戦経験はあるがMS戦は新兵当然。かつて小隊長勤務で指揮能力を身につけ、三十を越さない歳から補佐に当てられるという理由で選抜された。
能力は高く選ばれたパイロットだがMS戦が不足している事に関しては彼らの共通点だ。
軍備増強とは聞えが良いが、軍縮から方向転換がもたらした結果、将兵の大半が新兵で占められるとは皮肉と言えよう。

「隊長」

副官が訊ねてきた。

「三番機と四番機が」
「わかっている。だが敵が来る以上死守しなければならない」

実戦経験がなく精神に若干乱れがあり不安要素があるが戦場で贅沢を言えまい。
GN-XVは固定装備に攻防両立の多目的粒子制御装置を省かれ火力が若干落ちた分、GN-X系本来の抜群な操縦性とシンプルな構造に回帰。
戦闘能力は平凡でコアファイターで生存性が前主力機以上、どんなパイロットでも最大限に性能発揮できる。
しかも機体制御システムは最新型、千単位もの戦闘機動が戦技プログラムに組み込まれ、ヴェーダよりバックアップを受けている。
聞いた話では実験部隊とは名ばかりの愚連隊が集めた実戦データが活用されているらしい。
酷かもしれないが、ここは自分と機体を信じて頑張ってもらうしかなかろう。
・・・・・・といっても新米パイロットなのだ。すぐ効果が出るとは思えないが。

「各機二機一組での戦闘行動を厳守。連携を終始維持せよ!二番機、三番機は隊長と副官に付いて離れるなよ!お前達は初陣だから無理せず支援に徹すれば良い!」
「りょ、了解!」
「了解です!」

二十代前半のひよっこ達、二人を決して死なせはしない。
人としての良心が、愛情が突き動かす。人材不足にあり未だに余裕がない懐事情からそう求められる。
刹那、アラートが鳴り響いた。

「敵粒子ビームが来る!全機回避だ!」
「何!?」
「え!?」
「ビーム!?」

副官は軽く、残り二人は絶叫という形で動揺が走った。
想像でも実感できない粒子ビームの直撃、機体と共に一瞬で焼き尽くされる自分が脳裏によぎる。
隊長のガザニアーノがそうならば三、四番機の方はより強い恐怖に陥っているはずだ。
四機が無秩序に散開、敵の予測を困難にさせんと最大限の努力で回避運動を取る。
空が歪み、大地が下でなくなり、視点が目ざましく変わる。操縦桿に力を込め捻った事によって。
そして五秒後―――それでも各GN-XVの間隔が一キロ程距離を置いて―――十以上もの光柱が彼方遥かより走ってきた。
相手が避けるだろう先に粒子ビームが撃ち込まれ、目標を飲み込む事無く空しく空に消えていく。

(今のは拡散ビーム・・・!三機は・・・皆無事か!)

一番機のコックピット各センサー、スクリーンに部下機が映され無事を示している。
それだけのタイムラグがありかなりの距離から、恐らく有効射程外より撃ってきたのだろう。恐らく準備砲撃だ。

(出力、距離からGN-XIVフォルティスか!)

コンピューターが提示した予測でしかないが確率は決して低くない。
その擬似太陽炉搭載機は今や旧式だが、前政権時代の少数精鋭志向から充分第一線に使える程の性能を持っているのだから。

(他にありうるなら重火力のGN-XIVフルミナータか新型のネオGN-Xか・・・・・・)

先の発射元らしき機影がセンサー反応、三つの目標が赤マーカーで映し出された。予測通り敵は全てGN-XIVフォルティス。
軍制改革前の小隊編成と同じ、打撃担当の隊長機と補佐の二機からなる攻撃重視の組み合わせ。こちらへ正面より接近してくる。

「全機、指示通り二組散開!」

言うや否や、隊長機背後に付いていた二機が粒子ビームを連発しながら突貫を仕掛けた。
最初の二発は回避するが三発からはGNシールドで受け止めざる得なくなった。
三発目は予測射撃に追従出来ずそのまま盾で弾き返し、四発目は左に傾斜させ粒子ビームを射線外に逸らす。

(流石だな・・・!)

向こうはこちらより単純火力が高い分、同じGNパイク装備でも一発一発の射撃が若干強力だ。
シールドの残存粒子量は相応分に減っており、これ以上の防御となると振り分けなければならない。
良い腕をしている。実戦経験豊富なベテランパイロットが乗っている、反乱軍の精鋭部隊と断定した。

(近づかれるか!?)

出来れば接近戦は極力避けたい。
四機中三機は接近戦装備のGNパイクを装備しているが、リーチの長さで敵機の肉薄を阻みつつ射撃可能だからである。

「こっ、こいつ・・・!」

隊長機に随伴する四番機はガザニアーノの予想通り狼狽してしまっていた。
恐怖のあまり狂乱になる事なく、指揮通り敵に撃ち返し攻撃ポジションを取らせないよう立ち回っている。新兵として素晴らしいが本人にとって災難だろう。

「くそ!くそ!当たらない!当てようとしてるのに!」

訓練通りロックオンしてライフルモードのGNパイクで撃っても避けられ、連射でやっと当たるも盾や粒子の防壁で防がれる。
コンピューターの予測射撃だけではパイロットが操るMSの機動を全て読み切れないのだ。ましてや思考、心理など機械の予測範囲外だ。

「落ち着け!俺達が懸命に避けてるように、敵も同じなんだ!まず近付かせなくすれば良い!」
「はっ・・・!りょりょ、了解しました!」

これだけでは部下は命令に従えても心情的納得し切れない。
ガザニアーノはもう一言付け加えた。

「それと、お前は充分支援が出来ている!こんな感じで後は冷静に状況対応するんだ!」
「了解!」

言い終えるとGNパイクの粒子消費リミッターを解除、拡散連射モードに切り替え火を噴かせる。
凄まじい弾幕に敵機がたまりかねたらしく後退していった。
現時点、戦いは拮抗している。
連邦軍のGN-XVは攻勢を挫いたきり戦力打撃を与えるに至らず、反乱軍のGN-XIVフォルティスは部下機の牽制攻撃が思うように進まず隊長機の切り込みが出来ない状況。
どちらにも勝機がある。互いの有利不利はことごとく相殺、後は時の運で決着を付ける事のみかもしれない。



ガザニアーノ達四人はいつもの軍服姿で夕食をとりに食堂へ向かっていた。
結局GN-X系同士の迎撃戦は膠着し自力で打開できないまま友軍の接近に反乱軍側が退却という形で幕を閉じた。
無論、MS戦で相手を次々落とし全滅させるのはエースパイロットの話であり、大抵のMS戦はある程度ダメージを受けたらどちらかが退く事が多いという。
損害を最も多く被るのは敵に無防備な背を向けて敗走した時で、ぶつかり合ったときではないのだ。
ベテラン相手に全員生き残れたのは連携か、機体性能か、それともシステムだろうか?誰もはっきりした答えを見つけられないままでいる。

「!」

金髪で角切り頭が特徴の士官と鉢合わせになった。
「妖精の片腕」と呼ばれるエースパイロットで、独立試験部隊「ソウルズ」―――実際は落ちこぼれと不良が多い、使い捨ての独立愚連隊だが―――の副官ベガ・ハッシュマン少佐。
軍人として甘さを拭えず上層部と現場と衝突が絶えない女指揮官の緩衝材として、最前線では彼女以上に評判が高い男である。
悠然と歩き五秒後にはそのまま横切ってしまう。
目を見開くもすぐさま敬礼。
次に一瞥する。
十年程最前線勤務してきた男の気迫、指揮官の貫禄を前に、気を抜けばすごすむ所だった。

「少佐!ベガ・ハッシュマン少佐!独立試験部隊ソウルズの実戦データ、今日の戦闘で大いに助けられました!」

エースパイロットの視線がこちらに向いた。視線が重なる。
一瞬の呆然が苦笑に変化した。

「・・・そうか・・・・・・」

表情を引き締め真剣に、そして静かに語り始めた。

「だが、判断を下し、機体を動かしたのはお前達パイロットだ。MSとシステムのおかげじゃない。あれはサポートでしかないんだ。
 良いか、そういった事実を胸によく刻み込んでおけ」

期待を幾分か裏切る、だが厳しくかつ優しさを含む発言。少佐は四人に振り返る事も踵を返す事もなく立ち去っていった。
褒め言葉ではない叱咤でもない激励にも似た言葉に、ガザニアーノは答えをやっと見つけ出した。



[36851]      第20話 ブレイヴII
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:edbe743c
Date: 2014/04/07 20:41
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第20話 GNX-906T ブレイヴII

時は今や西暦2317年。
強硬派のドナルド当選以来続いた軍制改革は目処が立ちつつあった。
地球圏には千機以上のMS、五十機以上のMA、百隻前後の軍艦が控え、
中でも空母と戦艦を保有する基幹艦隊は未だ続く内乱のこれ以上の激化の抑止力を成した。
またかつて乱立した地方軍は縮小し警備と治安維持担当にまで格下げされ、
対称的に増強された正規軍が防衛の全てを引き受けた事で軍事力の統一を実現、
あらゆる事態の迅速の対応と軍事力の伸縮自在な展開を可能にした。
これまで以上に厳重な防衛力は内乱で混乱する地球連邦の秩序に一定の安定をもたらした。
だが争いは未だに消えていなかった。



地球連邦軍第四独立機動部隊「リンドルブム」第1小隊のパイロット四人は、目の前の状況に思わず息を呑んだ。
彼らは紛争地帯への緊急展開や対旧人類軍あるいは対CB戦闘、強行偵察など機動力を最大限生かした即応部隊出身であり、
老朽化したGNX-903T/D2ブレイヴIダブルドライヴ型から、
今年より更新した最新鋭機GNX-906TブレイヴIIの操縦が許されるだけの実力の持ち主である。
それでも戦闘の次々変わり行く状況は頭脳でもコンピューターでも全て予想できなかった。

「隊長!敵機、L1方面の哨戒部隊と交戦しました!」

小隊副官スコノビッチ中尉が叫ぶ。

「これで挟み撃ちになった!急げ!敵に突破される前に!喰らい付け!!」

ドラム型コックピットより前方モニターに光点とオレンジ色の粒子ビームの交錯が広がる
あの向こうでは味方と敵の激戦が繰り広げられており、モニターの別枠に味方の状況が文章に映し出されていた。
友軍の哨戒任務中のブレイヴI八機の三個小隊が、たった一機の敵MAに有効なダメージを与えられないでいる。
無論、実戦配備して一三年経った旧型機とはいえ、擬似GNドライヴ搭載型の長距離航行可能な高機動高火力可変MSである。
年々更新されるOSとプログラム、センサーなどの精密機器、GNコンデンサー、粒子変換用バッテリーのおかげで、
同じ機体でも初期仕様より総合性能は向上されている。
だが相手が悪かったのか戦況は芳しくない。
相手の濃密な火線を潜り抜けるのがやっとの状態で、十二機から今では三割程も失う打撃を受けていた。

「有効射程距離まで残り百キロを切った。リンドルブム全機トランザム解除せよ」
「了解!」

地球より送られる地球連邦軍総司令本部の指示に従い、
擬似GNドライヴの粒子生成量を通常出力に下げ機体を通常航行に戻す。
機体表面が粒子放出による朱色から連邦機を表すメタリックブルーカラーへ変わる。

「さっきの青いMAは真正面からL2と月を突っ切った。
 このまま行けばL1にぶつかるし、奥にはオービタルリングと軌道エレベーター、地球が控えている。
 市民が巻き込まれる前に何としても奴を食い止めるぞ!」

三十分前、月の裏側のL2の哨戒線より旧人類軍の大型MAの機影を確認した。
監視衛星と哨戒機の長距離カメラの記録から、九十%の確立でイノベイター専用超大型MAガデラーザと判定。
すぐさま迎撃部隊が打って出たが相手はトランザム航行後の超高速慣性飛行で正面突破、そのまま月も突き抜けL1へと向かおうとしている。
その直前、月に待機していた第四独立機動部隊は司令部より追撃命令を受け、敵MAをトランザムで後を付け回したのだった。
L2のソレスタルビーイング号にも連邦軍月面基地にも、攻撃を仕掛ける事無く自勢力内に突き進み続ける敵の真意は、
威力偵察なのか経済拠点なのか、イノベイターの市民を狙った強襲作戦なのか?
真意はわからないが敵の侵入は断固として許さない事態。
執拗な妨害で進路を変えて追い返すか、この最新鋭機でダメージを与えて撃墜しなければならない。

「ビームだ!」

けたたましいアラートと共に敵攻撃警告の文字。

「阻止攻撃が来るぞ!二分隊に散開して前進!」

小隊長安部大尉と部下モレッティ少尉が右へ、小隊長副官スコノビッチ中尉と部下キーリン中尉が左へと分かれる。
左右に軌道を変えた矢先、戦場よりGNバズーカ級の粒子ビームが散開前の軌道に二発、左右にそれぞれ四発ずつ前方より降り注いだ。
艦砲射撃と見違える濃密な火線。だがそれはただのガデラーザのクローアーム先端のGNバルカンから放たれる物。
単純に巨大MAの装備故に口径が巨大なのだ。
四人は対イノベイター戦の戦技プログラムとヴェーダのバックアップで、
小隊長と副官はそれらに加えて実戦経験で培った勘で、粒子ビームの暴風に対して前進回避を続ける。
時にGNフィールドで受け逸らし防御を最小限に抑えていった。

「もっ、物凄い攻撃だ・・・!」
「なんと激しい!」

二人の部下がこの段階で弱音を吐き出してきた。
モレッティ少尉は士官学校と訓練所で何年も訓練を受け、高い成績から卒業後すぐ独立機動部隊に配属されたエリートに当たる。
キーリン中尉は準GN機アシガルのパイロット出で、地上での活躍から今年よりこちらに転属してきたという。
どちらも20代前半若く将来有望の資質の持ち主だが、宇宙での実戦経験がほとんどない新米パイロットなのは変わらなかった。

「ガデラーザは、まだ全力じゃない!」

斉射の後は回数の少ない応射が続く。
背後の追手をすぐに落とせないと判断するや全周囲の防衛に切り替えたからか。
だが厄介にも一発一発の狙いが的確で、全追撃部隊の進路方向にビームを撃ち込み接近を許そうとしない。
避ければ敵より反対の進路に逸らされ攻撃のタイミングを奪われ、押し進めばGNバルカンの逃げ場が無い位の弾幕を正面より受けよう。
こちらが脳量子波遮断機能付の最新パイロットスーツを着用していても覆せないイノベイターとの差。
向こうの持つ情報処理能力は機体より送られる膨大な情報を全て対処し尽くしており、
追いすがる連邦機の挙動に至るまでの行動を全て把握している。

「とはいえ、この最新鋭機がすぐ墜ちる訳ない事を見せ付けてやる!」

こちらより一足先に駆け付けていたブレイヴIはガデラーザにこれ以上近寄れずにいる一方、
ブレイヴIIの方は牽制を受けながらも着実に距離を詰めていっていた。
最新型擬似GNドライヴ二基が機動力、GNフィールドの防御力の向上という恩恵がもたらされたおかげだ。
上手く事が進めばダメージを与えて撃墜のチャンスを得られるだろう。

「まさか・・・墜とすのでは・・・?!」

モレッティが上ずった声で安部隊長に訊く

「そこまで考えてない!まずはダメージ与える事だ!」

ガデラーザは統合戦争が始まって十年間、連邦軍に辛酸を味あわせ続けたMAである。
対多数戦できる火力と性能を突き詰めた機体にイノベイターパイロットの力と合わされば、
一個MS中隊と三隻程度の巡洋艦では歯が立たず、ブレイヴでなければあの巨体に似合わぬ高機動力に追従できなかった。
しかも機体正面のGNブラスターとGNバルカン装備のクローアームとGNクラスターミサイルに加えて、
百五十四基もの大小の大量のGNファングを装備しており圧倒的な火力はELS戦から十三年経っても健在だった。
もし撃墜するならば最低でも三十機以上ものGN-X系とブレイヴ系と数個艦隊の緻密な連携を組んでの物量戦を仕掛けるか、
或いは自軍の同型機をぶつけるしかなく、ファング対策に火力強化を果たした現在でも対処法は変わらなかった。

「隊長!こちらも目標まで半分まで切りました!」

ハミルトンより通信報告が出た。
副官分隊も隊長分隊に続いて有効射程距離の半分まで敵に喰らい付いたという。
これでガデラーザに小隊最大限の火力を投射できるようになった。

「よし!リンドルブム全機、武装全門開け!・・・っ!ファングが来る!気をつけろ!」

専用GNソード「スパタ・トゥルマエ」装備の小隊長の分隊が収束ビーム「トライパニッシャー」を斉射。
続けて副官分隊の専用NGNライフル「コメーテス・ドゥアエ」が、二百五十ミリ徹甲弾を電磁加速で撃ち出す。
GNバルカンの暴風を潜り抜けるとGNファングの暴風がその次に吹き荒れ、四方八方より恐るべき牙がこちらを襲いかかった。
十三年前と機種が別の、射撃型ではない実体剣型の遠隔操作兵器がGNフィールドを帯びた鋭角な切っ先を以ってして。
宇宙空間の慣性に従ったターンやロールといった航空機繋がりの機動、
粒子の斥力による急加速や急停止、方向急転換を交えて追いすがる連邦機の接近を阻み、機あらば討ち取りに掛かる。
対するブレイヴIIは背部のGNビームキャノンで全周囲に粒子ビーム散弾をばら撒きながら、
それと同時にファングと同様の複雑な機動を駆使して接近していく。

「なんて・・・でかくて速い奴だ!」

自分隊僚機の、ただ独り言なのだが安部大尉は内心気に入らなかった。
その表現の仕方が、場を間違えれば全く別の卑猥な意味に聞こえるから。
だがモレッティの言う通りガデラーザは巨体を縦横無尽に弧を描いており、大量の擬似GNドライヴの出力の凄まじさを実感される。
前機を超える火器管制と火力のトライパニッシャーとMSクラスのGNフィールドならば易々貫通できる徹甲弾が一発も当たらず、
補助装備のGNビームキャノンではGNフィールドコーティングの機体表面に焦げ目を付けるのが精々だった。

「もっと間合いを詰めろ!奴の火力を封じるんだ!」

火力が大きくとも懐に潜り込めば、相手は駆逐しようにも自分に火器を向けては自滅になるので応戦し辛くなる。
それにMS形態で敵機に張り付けば死角を突いた至近距離攻撃が可能だ。
不可能でも今以上に近づきさえすれば砲撃の命中性が上がり撃破の確立を上げられる。
だが相手は単独とてイノベイターパイロット。
機体本体の急ブレーキで追っ手と衝突させる手や、トランザムで一気にこちらと一気に距離を離す手を用いる可能性があるのだ。
そんな中、トライパニッシャーの一発がガデラーザの右翼先端に命中した。
粒子ビームの濁流を浴び爆発を上げ、煙と共に装甲や機材の破片を後方に撒き散らす。

「当たった!だがほんの一部だけ・・・!」

安部の渾身の攻撃を受けるも敵に動揺がないのか機動の乱れが見られない。
機体一部の爆発の反動を粒子制御で無理矢理押さえ付けたからだろう。

旧人類軍イノベイターパイロットの高度な思考と情報処理で勝つか、
地球連邦軍非イノベイターパイロット達のチームワークと機体制御、進歩した戦技プログラムが勝つのか。
L1まで中間地点を越えてもなお、両者のせめぎ合いは続いた。



[36851]     兵器設定2
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2013/09/17 22:24
機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定2

GN-0000Q/RE1 00クアンタR1
装備
GNソードV 新たなる粒子運用の模索に開発した主兵装。
       射撃と白兵戦の他に、剣先よりGNフィールドの展開が可能で戦闘と防御を両立させた。
複合GNフィールド 一層目は機体各部の発生器で全身を覆い、
          二層目以降は従来通り機体周囲に張るが何層にも出来るのでGNミサイルすら防げる。

来る武力介入に向けた粒子運用試験機。
量子ワープや意識共有などのGN粒子の特性の最大限の利用の模索が目的だが、
機器と装甲、フレーム材質、太陽炉は新調で、戦闘用ではないが1号機より更に性能向上した。
新スポンサー確保後も資金節約に既存の00クアンタを汎用型に改修、
その過程で腰部スカートアーマー、粒子制御装置とクラピカルアンテナが大型化されている。
試験機故に今後外装や装備のグレードアップが何度も図られる予定である。



レヌス級主力戦艦
全長
569メートル
装備
連想GNビーム主砲5基、連想GNビーム副砲、8基、4連想GNビーム機銃60基、
対艦GNミサイル発射機二基、防空GNミサイル発射機 16基、GNフィールド発生機 小型二基 大型二基
(1ー8セル 計360セル) (24セル 計768セル)
搭載機
MS6機、脱出艇2隻

統合戦争における敵勢力は旧人類軍などの反乱軍から始まって次第に武装勢力に粒子兵器が行き渡り、
連邦軍すら苦戦するようになったのは艦隊戦でも例外ではなかった。
2320年から始まった軍備増強と共に兵器開発を急ピッチで進め、新たに大型宇宙戦闘艦が建造された。

本級は反乱軍の鎮圧や艦隊戦、地方の威圧が主任務で、大気圏から宇宙に至るまで幅広い軍事行動が可能である。
ナイル級大型戦艦より小型だが、より高まった生産性と改善された主要兵器の取り回しが特徴。
主砲は固定式から砲塔型に変更され若干口径が小さく低威力になったが、その分火線の変更が容易になり状況対応が利く。

単独で運用せず護衛の巡洋艦数隻と部隊を組むのが前提で、純粋な戦艦故にMS運用は支援、哨戒に限定された。



GNX-805T GN-XV
頭頂高
17.2メートル
装備
GNソード GN-XIVフォルティスから続く主装備。
GNパイク 本機向けに若干小型化しているが機能は従来と変わらない。
      GNランスと違い突くだけでなく叩いても振っても目標切断可能。
NGNマシンガン 火力支援、長距離戦用装備。マガジン交換で200ミリ実弾と粒子ビームを使い分ける。
GNシールド    
固定装備
GNフィールド発生機 頭部、胸部、肩部、腰部に分散分散する小型粒子防御装備。
           標準装備として局所防御、集中及び全周囲防御を行える。

GN-X系の直系の後継機にしてコアファイター搭載を前提に新規設計された次期主力MS。
西暦2324年の次期主力開発競争に打ち勝ち、2年後の2326年には200機配備されている。。
性能は前代機と同じ程度だが新規設計の為に改修の余裕があり小型化している。
ガンダムプロトーネと同じくコックピットのある機首と擬似GNドライヴ、背部のバックパックでコアファイターを構成する。
コアファイターありきの機体設計である以外は至って保守的であり、
これまでの多目的粒子制御装置省略され、複雑化する路線から一転してGN-XIVまでのシンプルな粒子制御方式に戻った。
火力コントロールはマニピュレーター部粒子供給口と装備の接続で対応する。
多発するGN機同士の戦闘と相対化する連邦軍の優位性を鑑みて、
生存性向上と共に量産性向上に小型化する事で物量での対抗に方向転換されたという背景がある。



GNX-906T ブレイヴII
全高
20.2メートル
装備
GNソード「スパタ・トゥルマエ」 グリップの回転で射撃と斬撃に対応する実体剣。
                 主に大型目標のGNフィールド突破の上での至近距離攻撃が主用途にある。
NGNライフル「コメーテス・ドゥアエ」 250ミリ口径の大型リニアライフル。
                    マガジンの交換で実弾と粒子ビームを使い分け射撃戦の使い勝手が利く。
固定装備
GNビームキャノン 左右のサイドバインダーに搭載。
          連射可能と使い勝手が良い中近距離射撃兵装で、大威力の主装備の補助が用途。
          主装備(粒子使用で)、GNウイングとの連動で収束ビーム「トライパニッシャー」を発射可能。
GNウイング 多目的粒子制御機の発展型。
       大気圏での機体制御や推進、GNフィールド発生機、指向性GNビームマシンガンを兼用する。
GNフィールド発生機 頭部、肩部、胸部、腰部に分散搭載する小型粒子防御装備。
           それぞれの局所防御や集中及び全周囲防御が可能。
脚部ウェポンベイ 左右の脛部内側の武装搭載区間。
         それぞれGNミサイル2発もしくはGNファング4基を格納する場合が多い。
腕部ウェポンベイ 左右の上腕内側の武装搭載区間。GNビームサーベルまたはGNショートソードを搭載する。
20ミリ機関砲 ドラム型腹部左右に搭載する実弾兵装。

西暦2326年時の地球連邦軍の可変量産MS。
ヘラクレス系をベースにブレイヴIと同じ用途で設計され、
こちらは機能を発展強化させた分小型化が進む主力機とは対照的に大型のサイズを維持している。
単純なMS戦に特化した対精鋭戦向けのヘラクレスとは別に、前機を引き継ぐ緊急展開や対大型MA戦、機動打撃が主用途。
シングルドライヴ搭載型の廉価版による次期主力機売り込みが一時期検討されたが、
高機動系精鋭機の下手な簡易量産化は次期主力機としての性能が中途半端になる恐れから中止された。
本機は左右のサイドバインダーに擬似太陽炉一基ずつ搭載したダブルドライヴを基幹に、
装備充填用に両腕部に小型擬似太陽炉2基も搭載する事で細身のままベース機以上の火力と防御力を付与した。
長距離移動時には増槽型GNコンデンサーを背部擬似太陽炉2基に接続して使用する。
背部バインダーはコアファイターとして使用可能で、その場合サイドバインダーの火器を装備する小型戦闘機としても機能する。
その生存性と航続距離は従来コアファイターを上回る。



[36851]      第21話 ユニオン
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:870cb58e
Date: 2014/04/07 20:42
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第21話「GNX-904Tユニオン」

ワークローダーを起源とする大型人型兵器「モビルスーツ」が生まれて以来、
2300年代の間に統廃合を繰り返しながら適応放散してきた。
太陽光紛争終結後の三大国の冷戦の多様化したMSは、
ソレスタルビーイングの武力介入開始と裏切り者のGN機GN-X提供で一変する。
それに伴って各大国が地球連邦に統合され、MSは圧倒的な性能と汎用性を誇るGN-Xが主力となったのだった。
対する従来機はGNドライヴ対応の精鋭機や試作機を開発し続ける事で、細々と命脈を保ち勢力挽回の機を窺い続けた。
地球外生命体襲来とその後に続く人類革新を巡る内乱の中、
MSはこの変容した世界情勢に対応すべく統合から多様化へと転じた。




「全機、機体に異常はないな?」

返ってきた三機とも返事に、乗機である試作機の不具合について一言もなかった。
アマゾンタワー低軌道部より出撃した彼らは、独力で大気圏に突入し成層圏に抜け出した所である。

「こちらスカイ1。全機大気圏突破。目標地点まで高度40」

眼下には南米パタゴニアの広大な平原が雲より下に広っている。
テスト先の演習場はこの平原の中の民間人立ち入り禁止区域内にある。

「同伴のB小隊は低軌道にて中間点を通過。かなり遅れているがテストに支障はない」
「了解。A小隊、任務を継続します」

管制室の状況説明に小隊長はさしたる動揺なく受け入れる。
彼らの操縦する試作機GNX-904Tユニオンは、
直線を多用した細身軽量の旧ユニオンの流れを汲む可変機にして、地球連邦軍次期主力機候補の一つ。
性能比較にB小隊に宛がわれたGN-XIVフォルティスは現主力機なので、ユニオンの良し悪しを知るにはうってつけなのだ。
現在スペック通りの機動力で友軍を大きく追い越しており、本機の迅速な戦力展開能力がここで実証された。
今回のミッションは敵基地制圧という設定になっている。
防備を固めた拠点を正面から攻め掛けるという出血を強いられる戦闘は主力機に求められる局面の一つ。
しかもGN機はもちろん粒子兵器が世界中に行き渡った現在、それらで固めた拠点攻略に可変機を投入するとは大胆と言うべきか。
だがMS運用テストである以上は、機体の弱点を受け入れた上で性能を最大限発揮できるよう操縦に当たらなければならない。

「雲を突き抜けたと同時に各自の判断で攻撃開始!
 先制攻撃の後、空中機動でドッグファイトに挑め!間違って足を地面に着けるな!」

粒子兵器が普及した現在のMS戦において被害を被りやすいのは、自機の用途から外れた戦闘はもちろん、
歩兵やジープ、モビルワーカーから放たれる携行GNミサイルである。
歩兵部隊やオートマトンの援護がなければ、物陰に潜む敵兵の対MS攻撃の餌食になりやすい。
MSとして陸戦能力、低速機動力がアシガル以上とはいえ、基本設計が従来と変わらぬユニオンでは荷が重いだろう。

「まずは予定通り制空権確保し、制圧は遅れてくるB小隊と共同で行う!
 このユニオンで陸戦がどこまでできるかわからないからな!」

白い雲を抜けると、平原に立てられた基地に見立てたテスト用敷地より、敵機が迎撃に空に上がってきた。
連邦軍のどこでも使用している標的用のGN-XIII無人型ではなく、
次世代機テスト用にわざわざ前線から引っ張り出して改修したGN-XIVフォルティス無人型八機だ。
ユニオン小隊のNGNライフルの斉射に対して、敵は目前に振りかざしたGNシールドでGN徹甲弾を受け止める。
ただ防いだだけではなく、全ての着弾予測点に盾を合わせながら全身を弾道から逸らして、で。
横隊を組む二個NPMS小隊に四機は正面より突撃をかけ、
各機が相手の孤立もしくは間隙の時を突かんとドッグファイトに移行した。



次期主力機候補ユニオンの運用試験はアマゾンタワー低軌道部地球連邦軍基地にて統括している。
この機体は可変による多様な戦況の対応に加え、幾度もの軌道エレベーターなしの大気圏の行き来も要求されており、
あらゆる環境での運用データを集めるにはここのような宇宙と地上の中継地点の方が、他の開発陣のようにテストの度に拠点を移す必要がない。
日に日に移り行く戦況に迅速に臨機応変に対応出来るというのが、数多いライバル機では持ち得ないユニオン最大のウリである。
かつてない激しい主力MS開発競争の下、その要素が正式採用の切り札だった。

これほど開発競走が激しいのは開発陣が五つもいる事も事実だが、次期主力機に求められる軍の要求が多岐に渡るのが原因にある。
まず要約だが、世界規模で多発する対GN機戦闘及び地上と宇宙の紛争の対応。
一つ目は地上と宇宙にまたがる多様な環境下で一定の戦闘能力の発揮。
二つ目は従来GN機相手の優位性確保。
火力、防御、機動力、機体制御、生産性、生存性、全ての面で高レベルが求められ、対イノベイター戦の想定は必須である。
三つ目は粒子制御による攻守、機動両立装備標準装備と共に最低限の装備での高汎用性。
四つ目は機体の頭頂高は19メートル以下に制限。
その上、ヘラクレス系の運用データと有用と見なされた新技術を、各陣営に平等に提供される。
平等な条件での兵器開発を進める方策だが、同時に技術格差によって要求より逸脱した機体開発を防止し、
旧国家系開発陣の縄張り意識増幅による対立再燃の阻止の狙いもある。

「スカイ小隊は良い動きだな」

初の模擬戦にアイリス社所属の開発陣とビリー・カタギリ地球連邦軍技術顧問が立ち会っていた。
その中でまず口を開いたのは同社出向の開発主任だった。

「旧型機相手とはいえ一対二の戦いで優勢に持ち込んでいる。
 ユニオンの空戦能力はスペック通り、GN-Xを凌駕していて予想通りだな」
「従来のGN機は粒子制御による機動性と火力、防御で、空より非GN機を圧倒するという戦法でした。
 このGNX-904Tユニオンは機動力優先で従来戦法に上手く適応できています」

管制室のいくつものモニターには、テスト先の無数のカメラより送られるユニオンの姿が全て映し出されていた。
その数え切れない挙動、戦闘を見通し続ける開発陣の面々は緊張による不安と満足を繰り返し浮かべる。
GN-XIVフォルティス無人型は高機動系の目標にセオリー通り大火力を叩き付けていた。
粒子ビームの散弾に収束モード、連射、大小のダメージを与えんとばかりの怒涛の勢い。
対するユニオンは着弾予測点にGNフィールドを発生させてある程度対処し、巨大粒子ビームには回避で対処する。
相手の攻撃は全て演習仕様の超低出力粒子ビームであり、見た目だけ通常出力と変わらなく工夫されている。
それでも装甲表面のナノマシン塗装が焼け落ちる程の、人間なら焼け死ぬだけの熱量を持つ。
当たると被弾判定を受けるので、当たり所が悪ければ演習プログラムによって機能不全に、
大出力装備でコックピットに命中となれば戦死としてテスト終了まで待機しなければならなくなる。
テストパイロット達は実戦同様の張り詰めた神経で、実戦さながらの運用試験に当たっているのだった。

「我がアイリス社もここまで巻き返せたのは僥倖に尽きる。あの屈辱の日々からな・・・」

今から十五年前に遡って西暦2007年。
ガンダムスローネの武力介入によって工場の一つが破壊され、多くの優秀な技術者を失って以来、
アイリス社はフラッグやリアルドの予備機材と装備生産、試作機の開発程度にまで経営縮小せざる得なくなったのだった。
地球連邦による世界統合、イノベイドの暗躍、ELS戦争、
そして統合戦争勃発を経て世界の情勢は統合から分裂の危機に転じ行く。
ELS戦直後より凍結された兵器開発は再燃し、準GN可変機アシガルの大成功のおかげで大量の運用データがもたらされた。
そして今アイリス社は、人類最大の軍隊である地球連邦平和維持軍の次期主力機開発競争に参加できる立場になったのだった。

「ユニオンはあのアシガルGNドライヴ搭載型の発展型・・・、
 正確には次期主力機向けに改修を重ねて新規設計した機体でしたよね?」

これまで静観していたカタギリ顧問が口を開く。
彼は次期主力機開発を統括、各開発陣を監視する立場として候補機を評価を始めた。

「まず従来通りの空中戦では従来機を凌駕しています。
 アシガルで培われた高レベル粒子制御技術と従来の剛性を維持したままより軽量の最新Eカーボンのフレーム、
 二つのおかげで少ない粒子生成による高機動力を実現。
 細身軽量故の撃たれ弱さは、重要箇所の装甲集中とGNシールドの標準装備である程度解決。
 GN機に対しては機動力で、準GN機には全ての面で圧倒する、という基本用途でしょう。
 現在の地球連邦軍の早期兵力展開というドクトリンに合致できています」
「これはこれはカタギリ顧問」

開発主任が満足げに口を吊り上げた。
だがカタギリは評価を続ける。

「しかし発展性と防御力、陸戦能力の若干の低さが問題点ですね。
 ユニオン系を引き継いで軽量細身した事でこれ以上の性能向上は望めません。
 防御ですが射撃にはGNシールドで十分でも、
 陸戦では装甲のムラから携帯GNミサイルの待ち伏せ攻撃に弱い。
 機体自体はアシガル以上に地上戦にも対応出来ているとはいえ。
 オートマトンや歩兵部隊・・・、場合に寄っては準GN機のチェンシー系の援護も必要です」

挙げられた機体の欠点を耳にした開発主任は特に気を損ねる事無く切り返す。

「そこは折り込み済みです顧問。地球連邦は超大国で今は国内はある程度の所まで安定している。
 旧ユニオンに似た情勢でそれ以上の領土を抱えているとあっては、可変機の重要性はおわかりだろう?
 軍備増強に乗り出しているとはいえ、無駄にMSを揃えては維持に手間がかかる。
 可変機ならば少数で現戦力の打撃力を維持したまま広範囲をカバーできるし、
 不足分とか制圧ならば準GN機で事足りるではないかね?」

少し俯き逡巡する。・・・確かに一理ある。
旧ユニオンとの共通点が多い連邦軍なら主力のGN機は空軍的運用で、
拠点防衛や支援、陸軍的運用に準GN機を充てても別におかしい事ではない。

「可能性はありますね。
 しかし他の開発陣もドクトリンと要求の合致に貴方方に負けていません。
 旧AEU系のネクスト、旧人革系のジャーズゥ、GN-Xを引き継ぐGN-XVとネオGN-Xも。
 特に旧国家系ですと脱CB系MS、打倒GN-Xに燃えているので、コンペでは恐らくユニオン優位にはならないでしょう」
「・・・・・・結構ではないか。カタギリ顧問?
 勝てば良しに尽きる。負けても緊急展開部隊などに採用出来ればそれも良しだ。
 世界の警察たる連邦は、旧ユニオンのドクトリンをも引き継ぐべきである事を、我々が示さねばならんのだからな」

モニターには機動力と火力で分断されたNPMSと、攻勢に打って出るユニオンの姿が。
四機目のGN-XIVフォルティス無人型に突進したスカイ3の機体が、
出迎えに斬りかかってくるのをGNシールドでいなし、返す刀で敵の右肩より袈裟切りで両断する。

「自社の挽回のお気持ちは、元所属として十分に察知できます。
 しかし・・・、あまり旧国家意識を持ち出しては開発競争どころか、連邦の政治状況にも悪影響を及ぼします
 最悪の場合、分裂の可能性も・・・・・・」

問題なのは旧国家系のMS開発の意気込みが強すぎて相互対立感情を促進している状況だ。
ユニオン系は元世界の警察の自負から。
AEU系は遅れをきたしているMS開発の挽回の為に。
人革系もアロウズ時代の主導権挽回の為に。
統一政体設立の自負とELSの見えない圧力を前に今のところ一丸になって結束しているが、
彼ら開発陣の競走が対立へとエスカレートすれば状況が変わるだろう。

「今のお言葉はマスコミや公人の面目では、どうか控えてください」

死んだ旧友が現状を見ればどう思うのか・・・。
今や五一歳の加齢をようやく見せた顔は渋い表情に少し歪む。
ビリー・カタギリ連邦軍技術顧問は各開発陣を見回って、今後激しくなるだろう対立に対策を立てなければならない。



[36851]      第22話 ネクスト
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:42
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第22話 GNX-Y806T ネクスト

AEU系MSの発展の背景には軌道エレベーター防衛という事情が常に絡む。
それは対するユニオン系とは機体設計と武装に至るまで共通点が多く、
独特なのはせいぜいブロック化されていない機体構造と曲線を多用したデザインぐらいだろう。
国家協議制の体制ゆえに他国より軌道エレベーター建造を含む、
あらゆる発展の遅れを取ったAEUだったが独自の開発路線を築く。
西暦2307年のAEUイナクトの完璧な太陽光発電受信体制、他国をリードするビーム研究がそれだ。
その直後のガンダムの武力介入と世界統合は、遂に打ち出した独自路線を頓挫させる事態となった。
GN-X系が主力に幅を利かせた十七年が経った西暦2324年、
歴史の闇に消えたかに見えたAEU系MSは内乱を機に再び世界に姿を現す。



地球連邦軍次期主力機開発はどの陣営も順風満帆に進行にあり、運用試験から相互比較評価へ最終段階に移行した。
候補機同士の性能や操縦性、整備性を、カタログスペックと模擬戦を通して比較評価し、
総合的に優れて連邦軍の要求を満たしたMSが次期主力機の採用されるという。
それだけに各開発陣はこれまでの試験以上に気勢を上げ、積み上げた運用データを基に各候補機の最終アップデートを図った。
今日模擬戦はサハラ砂漠演習場。
ぶつかり合うのは連邦第一開発陣のGNX-Y810TGN-XVと、旧AEU系開発陣のGNX-Y806Tネクストである。

「出すぎだパトリック少佐!追撃を中止し相手の出方を伺え!」
「了解、大佐!!」

半ドラム型コックピットメインモニター片隅に、常に開いているサブウインドゥからの上官の怒声が飛ぶ。
「不死身の~」「幸せの~」果ては「無敵の~」と異名を冠される、
連邦軍きっての歴戦のエースパイロットは軽い苛立ちを押さえ命令に従う。
戦況は膠着状態なのは把握できていて、上官命令でそれに理があると瞬時に理解したから。

(マネキン中将だったら怒られた所だったな・・・・・・。
 別の奴が今回の上官で良かったようで寂しい)

無論、彼らヤークト試験小隊の乗る候補機GN-XVを駆って、
遥か上空を突き抜け宇宙にまで上がったライバル機に追い付けない事はない。
軍制改革で十年ぶりに高速巡航のみ限定解禁されたトランザムでならば。
だが搭載するGNドライヴは初期型より高性能な最新型とはいえ、粒子生成は有限なので無駄遣いは出来ない。
戦闘開始から二十分経って残り時間四十分となった今も、一機も撃墜できずに敵小隊を取り逃がしてしまった。
制限時間を超えても電力供給がある限りずっと戦い続けられるネクストと違い、
GN-XVは帰還用の粒子を残さなければならないハンデが課せられている。
形勢はヤークト小隊が若干不利、打開策を見出せず焦りを見せ始めた。

「くっそぉ・・・。なんだよあいつら。」
「小さくて早いのはわかるけど、そのくせ堅いとか反則だろ!」
「このままじゃ良くて引き分けです少佐・・・」

部下達の悪態には今回の模擬戦の激烈ぶりが物語っていた。
かつての母国AEU、その開発陣が繰り出したネクストを駆るフェアリー試験小隊とは互角。
GN-XVはバランスと汎用性、生存性重視の機体で、前後に脱出できるコアファイター以外はさしたる特徴はない。
強いて言えばシステムと機構が複雑な多目的粒子制御機がオミットされ、
火力及び防御強化は本体から粒子を得る方法に変わったぐらいの、悪く言えば平凡な出来だ。
対するネクストはAEU系でありながら非可変MSで、頭頂高15メートルと前者より2メートル低い。
候補機の中では最小の小型機でありながらGN-XVと同じ基本性能のまま、
太陽光発電太陽型として外部より電力を享受できる利点は大きい。
パトリック率いるヤークト小隊が粒子消費を常に考慮しながら戦うが、
フェアリー小隊はその必要も負担もなくバッテリーに溜めた電力を湯水のように粒子変換できるからだ。
精鋭部隊配属を拒否し前線勤務に固辞する少佐に鍛えられた、
優秀なテストパイロット達の顔に疲労に加えて恐怖と敗北の不安が浮かび上がる。
このままでは士気の低下に繋がる戦いに若干の支障が出る、と感じた隊長は即座に渇を入れた。

「諦めんじゃねぇよ!ただ互角なだけなんだ!
 こっちはまだ敵を墜としていないが、それは向こうも同じだろうが!そうだろ!」
「そっ、その通りです!全機健在です!」

四番機が慌てて応答する。

「そうだローラン、俺達はみんな生き残っている!
 ではお前ら、通常生成で稼動時間はいくつ残っている?俺はあと五八分だ!」
「ヤークト2、五四分間です!」
「ヤークト3、残り一時一分!」
「ヤークト4、五六分間ぐらいです!」
「まだ時間が充分残ってるな。俺達はまだ踏ん張れるぞ!」

次の確認へ移行。

「各機、損傷具合は?俺はどこも大丈夫だ!」
「ヤークト2、全箇所被弾なし!」
「ヤークト3、左マニピュレーターと腰部が被弾!戦闘維持可能です!」
「ヤークト4、右脚脛部及び爪先被弾!戦闘に支障なし!」
「敵さんも疲れてる頃だ!もう一踏ん張りすれば俺達は勝てる!
 勝ったら俺の自腹でパーティー開いてやる!良いな!?」
「「「了解!!」」」

激励は成功した。部下全員とも闘志を取り戻し緊張を取り戻してきた。
稼動制限のある擬似太陽炉の性能向上は進んでおり、バッテリーの進歩は粒子生成の倍増をもたらしている。
GN粒子を溜めるGNコンデンサーも、今ではそれだけで軍事行動が可能なまでに進歩している。

「フェアリー小隊、大気圏再突入を開始!」
「また来るぞ!」

男性オペレーターの報告とパトリックの警告。
程なく再突入した相手小隊が二手に分かれ、内二機が降下を継続し残りは上空に待機する。
あらかじめブリーフィングでライバル機についてレクチャーを受けた彼は相手の取るだろう手段を考えた。
次期主力機候補に共通するのは対GN機戦闘能力と多彩な武装を必要としない汎用性、
ネクストの場合は太陽光発電対応型で際立って高い粒子制御能力が特徴である。
攻守、機動両用の粒子制御機GNウイングは、近距離射撃時には粒子ビーム誘導できる高度な粒子制御に、
遠距離射撃ではGNビームライフルの圧縮粒子加速補助に用いられる装備となれば・・・・・・!

「俺の突撃より十秒後にお前達も続け!釘付けにした所を両翼包囲だぞ!」
「え!?」
「行ってくるぜ!」

三番機の張中尉の動揺に見向きせずに隊長機が頭上より迫る敵に突進をかけた。
その矢先、成層圏よりオレンジ色の槍が降り注いできた。

「一番いやな超高速加速ビーム来たぁぁぁぁぁぁ!」

発射から目標まで早く飛んでくる貫通ビーム四発。
従来のビームライフルでは成し得ない発射速度は、近距離射撃戦と同じタイムラグで遥か下方の目標を襲う。
パトリック隊長はこの後衛と前衛の火線を、回避とGNフィールドの防御を織り交ぜて潜る。
たった単機でフェアリー小隊前衛に肉薄し食い付いた。
高高度から降り注ぐ高速の貫通ビームと前衛二機より放たれる誘導ビームを物とせずに。

「さあ撃って来い撃って来いや!俺様無敵のコーラサワーが目の前にいるんだぜぇぇ!!」

十年前のELS戦後にイノベイターに革新した彼は、
未だに老けない肉体と向上した情報処理力を以ってネクスト二機を相手取る。
今着ているパイロットスーツの脳量子波遮断機能で相手の考えは読めないのだが。
だがパトリックにとってそれは瑣末な事だった。
次世代機を決める相互評価試験は読心など卑怯な手段を取らず、お互いフェアに戦うのが一番だから。
それにイノベイターだろうが自分を貫くのに読心など余分な力でしかない。

(ネクストか・・・。姿形といい、イナクトと瓜二つだなぁ。
 イナクトのテストパイロットだった俺が、あいつの息子と戦うとか変な気分だぜ)

頭上より警告のアラートに反応。
一瞬モニターに表示されたウインドゥを目にして敵情を把握した。
前面に展開したGNウイングに渦巻く圧縮粒子のトルネードは、
制御板によって回転する事で十分な貫通力を得るまで加速距離を稼ぐ為にある。
照準で定めた目標GN-XV隊長機に、GNウイングより発射された粒子ビームをGNビームライフルに収束させ発射。
今度はGN粒子をチャージしたか。前より多い十発以上も撃ってきた。
二方迫る誘導ビームを胸部と腰部のGNフィールドで弾き、
遥か上空より降り注ぐ高速ビームに対しては、傾斜させたGNシールドを着弾予測点に掲げて防ぐ。
実戦仕様の圧縮粒子でならば現主力機のGNフィールドを容易に貫く遠射設定の粒子ビームは、
大盾を突き破れず軌道を逸らされ拡散していった。

「お返しぃぃぃ!」

貫通ビームをやり過ごすや受身から反撃へ。
得物のGNパイクを振り回し、前衛機をGNフィールド展開し受け止めざる得なくさせんと、二機のネクストを追い回す。
そうしている内に上官命令に従って三機が急上昇。防戦しながら相手小隊を釘付けにする隊長機に駆け付ける。
まず二番機のNGNマシンガン(圧縮粒子マガジン装着)が火を噴いた。
長大なバレルよりビームライフル以上の加速を得た、粒子ビームの弾幕がフェアリー前衛に奔流の如く襲いかかる。
防御と回避機動を交えて挑発攻撃を繰り返す隊長は一転して反撃へ。
突進で突き掛かるが、GNパイクは前方集中のGNフィールドに阻まれ、刃先は防壁に半ば食い込む程度にしかならなかった。

「こうなるのはわかってんよ!その上・・・!」

手強い相手だがレクチャーで学び、何分も戦っていれば手札は最低1つはわかる。
倒し辛いが決して倒せなくはない。
連射モードの敵機の防御集中に誘引、そして釘付けにする。
敵より左へと内回転で滑り込み、引き抜いたビームサーベル側面の胸部から背部へ両断した。
演習仕様の弱出力なので装甲表面の塗装を焦がしただけだが、演習プログラムの判定よりネクストは大破。
これで一機目の撃墜判定を打ち出した。

「今だ!張、ローラン!!」

追い討ちを掛けんとばかりに、GNパイク装備の三、四番機が両翼包囲せんと急襲。
現在一般機では高速巡航と緊急離脱以外は禁じられているトランザムにならない程度に、
粒子生成を上げた急加速で引き下がらんとするネクストに肉薄する。
更に上空より妨害もとい前衛の後退援護射撃には、
隊長機と火力支援の二番機が引き受けているが叩けるタイミングは少ない。

「殺った!」

ローランが一機目をやっと撃墜。
振り下ろしたGNパイクが相手のGNフィールドの防壁をも通り抜け、腹部コックピットに突いたのだ。
パトリックは撃墜判定により泣く泣く地上基地へと去るネクストを軽く一瞥すると、一番槍の功を挙げた四番機に労いの一言かけた。

「やった!手前の一機を落とした!この調子だヤークト4!」

模擬戦を三十分以上続けていてヤークト戦績は芳しくない
撃墜数二機の内無敵の隊長すら一機撃墜でもう一機は部下達の連携で撃墜したに留まっているのだ。
ネクストパイロットの技量もさる事ながら、バックアップのオペレーターと機体ソフトウェアの優秀さが伺える。

「フェアリーは合流を始めている。そうなる前に一機でも撃破するんだ!」
「聞いたかお前ら!また取り逃がしたら俺達はまた振り出しに戻っちまう!」

長期戦になればこちらがますます不利に陥る。
敵を叩ける時は叩く。ヤークト試験小隊はそれを半分成し遂げた。



[36851]      第23話 ジャーズゥ
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:44
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第23話 GNX-Y807Tジャーズゥ

人が過去に引きずるようになったのはいつ頃だったのか?
少なくとも、野原を駆け回ってきた石器時代の頃ならば、
関心は腹を満たす事と食料になる獲物を探す事に尽きるだろう。
そこに人間関係のしがらみや時に起こる狩りなどの失敗が後に尾を引く事があっても、
生きる為の手段が狩猟か採集に限られている以上、過ぎ去った過去の事に縛られる暇はそこまでないからだ。
だが農耕を始めやがて文明を築いた結果、人類は豊かな生活と引き換えに大いなる苦しみを背負う事になる。
過去の記憶と言葉を半永久的に遺す文字は技術向上と共に、より文明と過去に縛られるというジレンマに陥ったのだ。
生きようという本能と平和を求める共通意思からかけ離れた現実は矛盾に尽きる。
文明を築いた以上、先人の叡智と共に所業も受け継がなければならない人の苦悩は、
宇宙進出と来るべき対話を果たした地球連邦の時代に至るまで続く。



ロン(竜)試験小隊最初のブリーフィングで、その試作MSが小隊指揮官より提示された時の事だった。

「諸君の連邦軍次期主力MS試験対象がこれだ」
(まさかあのアヘッド由来の機体なのかよ?)

テストパイロット達は最初は目を疑った。
全員地球連邦人革連領出身で固められている上、宛がわれた次期主力候補機は人革連系だという事に。
いかにもアロウズスキャンダル以降立場が悪くなった開発陣の勢力回復を、という意地があからさまに見える。
そこへ追い討ちの如く、その機体を連邦軍の次期主力機に売り込もうというのだ。
ELS戦後より軍の人材が一新された頃に入隊した新世代連邦軍人の彼らは、
当然アロウズを暴虐、弾圧の組織として悪いイメージしか抱いていない。

(虐殺の象徴をまたこの世に蘇らせるのか?)

小隊の一人イワンはそう思った。開発主任と指揮官の説明が続く中で。
開発主任はティエレン、アヘッド系MS開発全体を携わった人革連技術者、
ケンズィー・テラオカノフの長男ユゥージー・テラオカノフ。
一方のロン試験小隊指揮官であるアレクセイ・コーノノフ大尉は、今年で四十代半ばになる万年大尉だ。
当時アロウズ兵として、中東弾圧の折にある都市を無差別爆撃を行った経歴から、
少佐から二階級降格されて以来現在に至るまで周囲から白目で見られ続けているという。
経歴故に敵には徹底的に冷酷な性格だが軍人としての能力は折り紙付きで、
彼のアヘッドパイロットの経験はこれから自分達にとって頼りになるだろう。

(ま、元アロウズ兵が上官なのが外れなんだが・・・・・・。
 あの非道の軍勢の手先じゃな・・・・・・)

性能は現主力のGN-XIVより少し上、外見はティエレンとアヘッドの折衷で、技術と設計は前代機を継承されている。
ややスマートの体型と頭部モノアイのおかげで、なんとか前代機とデザインに独自色が保たれている。
強固なフレームのおかげで発展余裕を富む機体の汎用性と胸部や腰など重要部に装甲を集中させた防御性、
背部の可動バインダ二基を中心に各部に配置されたスラスターによる低速高機動性が特徴的だ。
それでも性能がどれ程良くてもイメージはそう簡単に覆せる事ではない。
人革連系技術陣が一昨年のチェンシー開発で勢いを取り戻せても、主力機となるとアヘッドの前科が絡んでくる。

「ジャーズゥのスペック概要と慣熟訓練内容は以上だ。何か質問はあるか?」
(このMS・・・ジャーズゥは、果たしてアヘッドの二の舞にならないだろうね?)
(それは、俺達パイロットのMS性能の引き出し具合だな・・・)

一見する限り部下達から声が出てこない。
いや、聞いてこないだけで実際はひそひそと私語を交し合っている。
耳では何も聞こえないが口は何度も動かしている限り、恐らく不平不満を呟いていると見える。
MSパイロットは上官、更に突き詰めれば軍上層部の命令に従わなければならない身分故、
軍を左右しうる兵器開発計画に反発するという行為は、決して許されない軍規違反に当たる。
だがアレクセイ小隊長はあえてそれに一喝も注意もしなかった。

「では慣熟訓練を二時間後に開始とする。
 それまでに出撃準備、0940までに臨戦態勢でハンガーに集合せよ。」

最後に解散号令が下される。
そう直感したパイロット達は緊張感を取り戻し顔を険しくさせる。
だが、

「かいさ・・・・っと」

上官の話はまだ続くようだ。

「諸君らはこの人革連系MSと、上官である元アロウズ兵のこの私に対して。
 イメージ的に不安を抱いている事を、私は既に承知済みである。
 だがジャーズゥはアヘッドとは違う。外観も、運用思想も。
 アロウズスキャンダルから十二年経つ現在、
 かつてのような圧倒的優位を保てない状況を考慮して開発したMSなのだ。
 あの非人道的組織の象徴にして精鋭機であるアヘッドとは別であるよ頭に入れてもらいたい。
 次期主力MS開発計画である以上、個人的感情は置いて任務に全うしてもらう。
 以上でブリーフィングは解散とする!」

開発陣の渾身の期待と試験小隊の不安からこの運用試験が開始された。



模擬戦を含む幾度ものジャーズゥ運用試験は、気が付けばその大詰めである相互比較評価に突入した。
三人の部下達の不満と不安は押し並べば枚挙に遑がない。
行き着けばアヘッド系機体と元アロウズ所属の上官の拒否反応と、予想できない次期主力MS採用の不安である。
そんなメンタリティにあるのだが、初操縦の時点で予想外に良好な機体性能に評価を改めた。
機体スペック自体は次期主力機にふさわしく、デザインにアヘッドの面影が少しあるのが唯一の欠点だと。
この日の相互模擬戦はユニオン担当のスカイ試験小隊が相手の、アフリカタワー近郊連邦軍演習場内市街区間で。
アフリカの紛争地帯の主要戦場である、市街地戦闘の想定で双方の陸戦能力の優劣を評価する。
ルールにGN粒子による飛行は禁じ機体の馬力によるジャンプやダッシュに制限されたこの地上完全限定戦は、
ジャーズゥとユニオンにとって次期主力に要求される陸戦を限界まで試せる晴れ舞台と言えた。

「ロン4!方位二五四度より敵機!回り込まれたぞ!」

ジャーズゥ四番機の反撃の刃の一振り。
主装備二百ミリ×五十口径長滑腔砲の砲口部に取り付けられた砲剣は、空しくビル屋上の縁を切り裂くだけだった。
またしても敵可変MSがこちらの行動を乱された。

「くそ・・・!飛びさえ出来れば・・・!」
「ユニオンに月まで吹っ飛ばされたきゃな!だがまだ待たんか!」

頭上から、右に密集するビルの間隙から、前方から、後方から・・・。
あらゆる方面より飛んで来るだろう敵火線と共に味方機の位置を常に把握しなければならない。

「了解・・・!」

アレクセイは、ジャーズゥのスペックと運用思想を、今模擬戦と照らし合わせながら考える。
陸戦評価にジャンプとダッシュしか出来ないよう、GM粒子使用が制限されているのが痛い。
アシガルを引き継ぐユニオンとは、高速巡航能力と軽量を生かした不整地並びに不安定地盤上の走行力はそちらより劣る。
ビル群を軽快に飛び移り攻撃の素振りを見せては引き返して、時に仕掛ける死角からの攻撃の機会を探りにかかる。
ライバル機ユニオンは決して真正面より攻めず、中距離砲撃と機動性を生かした攪乱を織り交ぜて終始こちらを翻弄し続けた。
NGNライフルのフルチャージされたGN徹甲弾で、着実にジャーズゥに消耗を与えていった。
これは連邦が生まれる以前、三大国ユニオンが対人革連の為に編み出した戦術である。
ユニオンの可変MSを上回る重装甲の地上MS相手に卓越した機動性で翻弄するという、
その戦法はMS技術発展によって推進機なしでの複雑な地上戦闘機動をライバル機は手にしたのだった。

(かつての想定がここで生きてきたのは嬉しいが、打開策は見つからんのか・・・・・・!
 ユニオンは速いわ防御の手が増えてる!ジャーズゥは防御と低高機動性を突き詰めている!
 となったら、どう敵の足を挫くか・・・・・・!!)

フラッグやアシガルと同じ軽装甲可変機として付きまとう、防御力の問題はGNシールド標準装備である程度解決。
従来のディフェンスロッドのように敵弾を弾くだけでなく受け止められ、
それで防御力が劇的に向上していなくても、その手段が増えれば以前ほど撃破に容易でなくなる。

「お前らまだ戦えるな?」
「ロン2、左肩の基部が被弾判定、ですが戦闘継続できます!」
「ロン3、右脚部被弾しましたが戦闘に支障なし!」
「ロン4、頭部カメラがやられましたが戦えます!」

隊長機はGNシールドが被弾を重ねて使用不能判定にある。
部下機もそれぞれ被弾ダメージ判定を受けているが大丈夫のようだ。
ロン4機の頭部喪失判定は痛いが、ジャーズゥの設計のおかげで戦闘に支障がないのが幸いである。
模擬戦のダメージ判定は被弾した装甲の強弱からダメージを計算、実戦に置き換え機体プログラムが判定を下す。
演習用弱出力とはいえ粒子ビームに当たれば、大抵のMSの装甲でならば紙切れのように貫かれ大破認定を受ける。
このジャーズゥは重装甲と大量のスラスターを生かした接近密集戦闘もだが、
ノーヘッドと同じセンサー対策がある程度計られているのも特徴にある。
被弾しやすい頭部の機能を最低限に、他の機器を胸部に集中させたことで、
頭部被弾時の戦闘力喪失のリスクがノーヘッド程でないが下がり、被弾時の継戦能力が改善されている。

「全員生き残っているか。大したものだ!」

機体性能が優れているからだろうがそれは相手とほぼ同じ条件下で大した意味を成さない。
残るは個々の操縦技量、MS戦経験、運、そして冷静さが求められる精神状態で戦場の生死が左右される。
老獪な元アロウズ兵のアレクセイも、十歳以上若いエリートの部下達も、戦い抜ける上述の要素を持ち合わせていた。

「各機、十m間隔の横隊を組んで前進!遮蔽物・・・特にビルの基部を少し壊しながらだ!」

市街地戦で障害物にも遮蔽物にもなる建造物を、崩さず基部だけ壊す狙いが察知できたか

「「「了解!」」」

部下達は何も疑いなく上官命令を受け入れた。
それぞれ散開していた四機が前進。立ち塞がるビルに重点的に蹴りと拳を入れながら突き進む。
ユニオンの脅威になるのは機動性ただ一つ。
火力は次期主力機として平均レベルでGNフィールドを前方に向ければ問題ない。
防御は見るからに次期GN-X系よりボリュームが控えめで、ユニオン系の焼き直しと言わざる得ない。

「いいか!決して崩すんじゃないぞ!数箇所穴を開ければ上出来だ!」

ターザンか忍者のように素早くビル間を駆け回るユニオンの撃破の為には、まず動きを封じなければならない
半壊させたビルは敵の意表を衝くための罠なのだ。
だがユニオンとて頭上のビルより攻めかけるだけのワンパターンで戦うとは限らないのも承知だ。
一つでも撃破の為の手段を見つけ出し実行に移さなければならないのだから。



旧三大国の因縁を受け継ぐロン試験小隊のジャーズゥとスカイ試験小隊のユニオンの模擬戦は、熾烈を極めた末に前者が勝利を収めた。
ロン試験小隊がスカイ試験小隊を全機撃墜判定を撃ち出すまでに、
二、三番機が大破、一、四番機は中破判定が下されどちらが勝ってもおかしくなかったと誰もが言う。
ここで注意しなければならないのは次期主力機に圧倒的戦闘力は求められていない事だ。
アヘッドの悪印象を引きずり、スラスターなしではやや鈍重なジャーズゥだが、接近密集戦に秀で大規模戦闘向けであるように。
ユニオンはアシガルの欠点をある程度改善され、追加装甲である程度防御性を改善出来るように。
大量配備が利くジャーズゥと迅速な軍事展開が容易なユニオン。
地球連邦軍にとってどのMSが世界中の紛争にどれ程対応できるか、頭を悩ませる選考であり当面は相互評価試験は継続されるだろう。



[36851]      第24話 ネオGN-X
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:45
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第24話 GNX-Y809T ネオGN-X

西暦2324年より白熱した次期主力MS開発計画は、これまでのMS発展に転換期をもたらした。
長い間連邦軍主力機として不動の立場にGN-X系と共に旧三大国系MSも主力候補に名を上げ、
GN-X系を中軸にした統合から多様化へ方向転換した事。
これは各開発陣が準GN機から運用データを地道に集め、試作を重ねて技術を研磨していった成果でもあり、
連邦軍から粒子技術と兵器を持ち出した反連邦及び反イノベイター勢力の圧力、
その結果相対化した彼我の戦力差に応じた時代の要求でもある。
変化した戦局を引き金に起こったMSの多様化と運用の模索の裏には、
多くの人間の思惑と利害が絡んでいた・・・・・・。



それは地球連邦最大の軍事産業AI(アース・インダストリー)社長から下された指示から始まった。
前置きのない直球すぎる一言で。

「君ジョージ・E・ジョーストンには、地球連邦軍の次期主力MS開発計画の当社側顧問として出向、
 当社の次期主力MS候補GN-XV担当第一開発チーム及びネオGN-Xの第二開発チームより運用データ収集して頂きたい」
「はい?」
「連邦軍と政府の根回しは済んでいる。仮に見識ある者の証言によって、戦犯として逮捕されても釈放できるようになっている。心配ない」
「・・・・・・・・・・・・。相変わらず手早く打ち合わせをしたものですな。」
「ま、向こうも君がいないと困っていますので」

二人は向かい合ったまま沈黙。
社長が深呼吸すると再び喋りだす。

「現在MSはGN機同士の戦闘頻発にあり、事態に憂慮した連邦軍は圧倒的優位を挽回すべく、
 本計画の下で幾種もの次期主力機候補から技術的発展と共に模索を試みている。
 君がデータ収集する例の二機だけでなくライバル機の方も探れる、そうなればMS技術と運用思想を発展できるだろう」
「向こうでくまなく集めたデータと技術、そして機体を、当社が支援する旧人類軍に提供。
 連邦との戦力均衡によって世界を冷戦状態にする事で秩序ある戦乱を構築。兵器開発による際限なき利益と技術発展を得る」
「はははははは・・・!見事だ!その通りだぞジョージ・・・いやジョシュア・A・ジョンソン君!」

肺活量の限りに高笑いを上げながら部下を、その本当の名で社長は絶賛する。

「・・・・・・」

次々自分の業績を持ち上げる上司に高級幹部は何も答えず仏頂面を崩さない。

「七年前から変わらず的確すぎる推測力だ!流石このアース・インダストリー社と旧人類軍の癒着を見抜いた男だな。
 順調に出世すればそのまま艦隊司令どころか軍司令にのし上がれる、という逸材を死刑で無駄になる位だからな」
「・・・・・・」
「世界秩序の為に、その一歩であるMSデータ収集に期待しているぞ」

その名はジョージア・E・ジョーストン。
かつては本名ジョシュア・A・ジョンソンと呼ばれた元地球連邦の軍人である。
計画の各書類の山の頂、一枚の通達書に彼は印鑑を押した。



(やれやれ。こんな形で連邦軍に戻るとはな・・・・・・)

今や五十代手前となるその男の本名ジョシュア・A・ジョンソンは、自らの奇妙な境遇を呆れ可笑しく思った。
十年前ドニエプル艦長として所属を離れて旧人類軍と戦ったあの時からだった。
旧人類軍によるテロの暗躍を世界に白日に晒した後、
連邦反逆の罪と責任を全員分背負い、軍法会議で間違いなく判決される死刑で祖国に罪を償う覚悟でいた。
だが、今はどうだ。
敵である旧人類軍に助けられあの会社へ連れられ、紛争を起こす側を助ける立場になっているではないか。
かつて守ろうとしていた地球連邦に密かに歯向かう者である自分を、死んででも否定する気は不思議と起きなかった

(あの時AI社の裏も旧人類軍と一緒に白日に晒せるはずだった。だが俺はそれをしなかった・・・。)

連邦から最初に己を匿った前代社長からこうも的確に指摘された。

「貴官は連邦の存亡だけでなく世界の混乱も恐れているからだ。
 連邦お得意先である当社を潰せば関連企業や産業までも巻き込まれ、
 経済が大打撃を受け戦乱が取り返しの付かない方向に向かっててしまうのが目に見えている」
 
まさしくその通りだ。
全部当たっている。

(連邦がどう対応しようともこの内戦は長く続く。イノベイターを受け入れるか、根絶やしにするまで。
 だから私は全ての悪を引きずり出さなかった。
 良いも悪いも構わん。全人類が妥協を選ぶまでの時間が得られればそれで良い!)

けたたましくつんざくような高い音が管制室に響く。
これは模擬戦の制限時間が切れた事を伝えるサイレンである。
任務と同時に思案してしまったが、オペレーターの状況報告に現実に戻る。
小隊指揮官がすかさずテストパイロット達に命令を下す。

「時間切れにつき状況を終了する。全機、作戦開始位置まで後退せよ」

ネオGN-X担当のブラザー試験小隊がGN-XV担当のヤークト試験小隊に一被機撃墜の敗北判定。
自小隊の時間切れまで諦めずに尽くした善戦。
パイロット全員とも腕利きとはいえELS戦後に入隊した新世代軍人。
そして相手小隊側にイノベイターにして不死身のエースパイロットがいる事を鑑みれば、
あと一歩という惜しい新型GN-X同士の模擬戦であった。

「流石にV(ファイブ)の名が付けられれば、ネオでは流石に敵いませんかな?ジョージア顧問?」

ブラザー試験小隊指揮官が開発顧問に皮肉を言い軽く睨み付ける。
その視線には勝利を求める兵士として不満が滲み出ていた。

「方向性の違いであって機体とパイロットは互角ですね。
 第一のは最新技術を注ぎ込んだ新規設計ですが、
 第二の方は駆動部とフレームのみ変更でしかもその型は旧型から全く変わらず。
 むしろそれだけで最新鋭機並に仕上がった事の方が特筆に当たります」
「技術を惜しみさえしなければ、ネオGN-Xは最強に仕上がるというのに。これは勿体無い事です」

最前線から召集された叩き上げである指揮官パウエル大尉は、複雑な感情とは別に理解はしていた。
連邦軍が軍備増強に舵を切ったとはいえ、MS性能の向上まで要求されていないと。
そして自らは所詮一試験小隊の指揮官であってMS開発に口を挟める立場ではないのも。

「機体の致命的欠陥がない限り兵器として通用するならば良いでしょう」
「次期主力機になければならないのは信頼性と発展性の二つです。
 ネオGN-Xはフレームを一新、それで既存パーツを全て流用出来る一方で更なる発展を望めます。
 最低限の開発で先の要求をクリアできる事は、すなわち旧型GN-Xの代替を最低限のコストで済ませる事を意味します」

ジョンソンは指揮官とオペレーター達に

「失礼」

一言断って手元の端末で小隊に回線を繋ぐ。
目の前に一斉に映し出される画面。その中の四つの枠内にテストパイロット達の顔。

「こちら開発主任ジョージア。惨敗の辛酸を舐めなければならぬ所失礼する」

間を置いて四人の様子を受かってみた。
一時間も戦った疲労と無念に顔を引きつらせた、敗残兵さながらの負の表情だ。

「GN-XVとの相互比較試験、その模擬戦は確かに諸君達の敗北に終わったが、
 まだ主力採用に向けた試験は終わっていない」

この試験本部の都合から前置きは手短に抑えておく。

「これまで操縦し経験を積ませ続けたこのネオGN-Xについて感想を君達から聞きたい。
 これは主力機としてフレームのみの最低限の開発で性能向上させ軍の要求のマッチングを目指した物だ。
 だが同じ候補機同時で戦って、次世代機としての性能は果たしてどうだったのか?」
「は。フォルティスに比べて火器管制と粒子制御がシンプルになって、
 機体性能も上がっていて操縦性が良くなっていますし、基本系統が同じなのが助かります」
「ほう。それは良い事だ。では悪い所は?」

まずこちらに答えたのはブラザー1のヴァレンタイン大尉。
利点を聞いたからには今後の為にジョンソンは欠点を念入りに訊く。

「・・・・・・ユニオンとネクスト、ジャーズゥとは、相手の得意分野にそれぞれ敵いません。
 ユニオンの機動力、ネクストの粒子制御と無限の電力供給、ジャーズゥの正面戦闘などに。
 Vは新規設計のおかげかネオより素早く運動性は向こうが上です」
「・・・・・・問題だな。私の思った通りだ」
「このフレームがあまりに軽くて、粒子低生成時には特にパーツと装甲の重みに接続部の負担がかなり掛かってきまして・・・。
 常に整備を万全にしなければパーツ分解を起こし戦闘不能になるでしょう」
「最前線でしかも整備が満足に出来なかったら、パーツが剥がれて戦えなくなってしまいます」
「パーツ接続の為に余分な粒子を慣性制御に振り分けるなんて勿体無いかと思います」
「このネオの稼動の為に予備パーツを他のより多く食っているなんて話が広まってきていますよ」

ブラザー1が詳細に説明したのを皮切りに部下三人も口々に感想を述べてきた。
開発陣として現場の不満はいつ聞いても良い気分にならない。
が、MSの欠陥を見つけ出すのに、相手から直接聞かなければ数値だけでは判明出来ない時があるのだ。
目先の利益は眼を瞑り長期運用を視野に入れてMSを仕上げる為には、
彼らテストパイロットと整備班ら試作機を直接触れる者達の声を常に汲み取る必要があった。

「パーツ負担の軽減に、なるべく既存生産設備を八十%以上は流用できるよう努力したが、
 我々はまだ努力不足だったという事だな・・・」

部下達を傍聴していたパウエルもここで話に入ってきた。

「開発顧問。自社の方針をここはあえて貫きますか?
 採用させるには機体の完成度を上げなければ、現状では難しいかと思います。
 パーツを新素材に一新させるのにそこまで時間は掛からないかと」
「最低限で最新鋭機に仕上げるにも、これでは実戦にあまり使えません」

数々の意見に思案を重ねる。

(まず全ての意見を今日の報告書に入れ、本社に開発計画の修正を求めるか。
 最低限の改修というネオGN-Xの謳い文句が犠牲になる、が・・・。
 現場の意見・・・それも運用面の欠陥を無視しては完成度が低くなる・・・・・・)

長期運用性、信頼性、整備性、開発コストなど。
次期主力機の必要要素と現在の出来と照らし合わせて、逡巡した末ジョンソンは決意した。

「テストパイロット諸君。貴官達の意見は今後の開発の参考になった事に感謝する」

四人の入ったモニターを切り指揮官に向き直して告げた。

「パウエル大尉。ネオGN-Xの欠陥について報告書に入れ、再改修の許可を本社に上申します。
 全ては兵器としての完成度を上げる為に尽力致します」

これでこのMSの開発計画が他陣営より遅れをきたす事になる。
とはいえユニオン系ユニオンと人革連系ジャーズゥの競走が激しく、恐らく機体選考は長くかかるだろう。
幸い新素材でパーツ仕上げるのに既存の生産設備だけで半月までには済ませられるはずだ。
選考まで遅れを挽回できるか、計画の長期化を恐れて開発競走から脱落されるか、状況は微妙な所だが。
指揮官は、この由々しき事態にも眉一つも動かさない冷徹な壮年の開発顧問の、そうした考えの裏を図りかねていた。

一方のジョージアもといジョンソンは計画を俯瞰して思う。
これまで彼が見てきた様々な候補機だが、GN-XV以外の旧三国家系で主力機に採用される可能性は低いと読んでいる。
それぞれユニークな発想で設計されている一方では、数多くの問題を招いてきた事が根拠にある
対立レベルまで発展した旧ユニオン及び人革連陣の開発競走、要求と不一致の運用思想で仕上がった一部MSなど。
そうした不採用であぶれた開発陣は、最新鋭機の情報を無料で得られる絶好の機会となる。
旧人類軍のネットワークは連邦軍は勿論、政府や大企業にも根を張り巡らせており、
彼らから情報を受け取れるルートは一本に留まらず十も超えているのだ。

(ユニオンはアシガルを引きずる凡庸な出来だ。
 ネクストは粒子制御力が興味深いが無駄を削ぎ過ぎた機体などより技術を手に入れれば良い。
 ジャーズゥは旧人類軍には微妙な性能だが扱いやすく改造すればかなり使える。
 あと・・・最後にネオGN-Xだ。
 重量とパーツの問題を解決すれば、他のような新規設計をせずに現在でも通用する機体に仕上がる。)

たとえ連邦軍に採用されなくても別に支障はない。
地方に売り込むなり改修キットをばら撒けば、反連邦勢力はより連邦軍と同等の戦力を簡単に得られる。
その実現の為にジョンソンはジョージアという偽りの名で、
一箇所も何本もルートを張ったネットワークを最大限生かし連邦軍から最新技術を根こそぎ流す。
戦力均衡と秩序ある戦争で恒久平和の時間猶予を長く稼がなければ、人類は内部崩壊を起こし今度こそ滅亡に陥るのだから。



[36851]      兵器設定3
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/02/27 20:13
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定3

GNX-Y904Tユニオン
頭頂高    本体重量
17メートル 42.5トン  
装備
NGNライフル アシガルと同型の155ミリ口径で実弾か粒子にマガジンを選択できる。
GNシールド ユニオン系初の大型防御装備。弾を受け止める事はもちろんディフェンスロッドと同じく弾く事も可能。
       GNフィールドの全周囲展開が可能。
固定装備
GNビームキャノン 主装備の補助用途の射撃副装備。
          連射可能の上に両肩部に装着するので、ほぼ全周囲を射界に収められる。
          NGNライフル(粒子マガジン装着時のみ)と連動でトライパニッシャー
GNショートソード 腕部パイロンに搭載する近接戦闘装備。
          柄と刃と分かれた折りたたみ式なのはブレイヴIIと共通。
GNビームサーベル GNブレイドの刃先より展開する。
その他装備はアシガルと同じ。

アシガルの可変機構と運用思想を受け継ぐ、旧ユニオン開発陣が開発した次期主力MS候補。
開発陣の威信に懸けて旧母国名にちなんだのが名前の由来である。

MSとしての戦闘力を重視しGN-X系に代わる主力機として装甲が追加されたが、
擬似GNドライヴと軽量堅固な新装甲材のおかげで機動力はむしろ向上している。
主力機として正面きっての陸戦も出来るがアシガルと同じく空中戦が得意で、地上戦の大半はチェンシー系に依存する。

当初はSVMS-02Dアシガル擬似太陽炉搭載型をベースに装甲倍増、フレーム追加などを施したが、
ユニオン系特有の細身でコンパクトな設計が災いに改修に限界が見えた事で方向転換。
これまでの運用データを基に新規設計で一から開発し直された結果、巡航時の翼部分となるサイドバインダーがブレイヴ系と同じ可動型に、
構造も堅牢性の為にモノコックから内部フレームに、空中での機関異常対策に小型擬似GNドライヴ二基に、と数多く変更された。
ユニオンを含む旧三国家系候補機はコアファイターについては、
量産機としてのコストと物量志向の観点で搭載されていない。

同時開発のブレイヴIIと特徴が多少重なるが、こちらは主力機として生産性と堅牢性重視と用途は区別されている。
精鋭のブレイヴIIが打撃を与えた敵を、主力の本機が立ち直らせる暇を与えずに制圧するという、迅速な軍事作戦がユニオンの理想だと言われる。

同候補にしてライバル関係にある人革連系MSジャーズゥと熾烈な相互評価試験を繰り広げるが、双方の対立の激しさから主力機から不採用になる。
海兵隊や空挺部隊など緊急展開部隊用MSとして配備、アシガル譲りの高機動力高展開力にGN機と正面戦闘できる戦闘力から現場では重宝された。



GNX-Y806Tネクスト
頭頂高    本体重量
15メートル 35.3トン   
装備
NGNライフル 旧AEU開発陣が手がけた主装備。
        先端部のGNブレイドと左右のサブグリップと独自の設計が特徴。
固定装備
GNビームサーベル 腕部パイロンから取り出す近接戦闘装備。
          表面粒子をチェーンソーのような激しい対流で切断力と貫通力が向上された。
GNウイング 次期主力機候補の中では最も制御能力が高い翼型多目的粒子制御機。
       主装備と連動してトライパニッシャーを撃てる他、遠距離では圧縮粒子を高速回転させた貫通ビーム、
       近距離では敵を捕捉する誘導ビームを発射できるなど非常に高度な制御能力が特徴。

小型化と汎用性と高性能化を両立させた旧AEU系次期主力機候補。名前は英語で次を意味する。
AEUイナクトを引き継ぎマイクロウェーブ受信装置を搭載した事で、受信範囲内でならば無尽蔵の電力供給を獲得した。
その恩恵でバッテリーとGNコンデンサーは最低限に切り詰められ、
代わりに無尽蔵の粒子使用と機体小型化と共に、大型粒子制御装置による変幻自在な粒子制御と比類なき火力、防御を可能にした。

マイクロウェーブがジャミングや後方撹乱によって阻害された場合には、ごく短い間しか稼動できなくなるというリスクを持つ。
またGN-XVと同じ程の性能で小型化を果たしたが、粒子制御が高度過ぎた事でコストがやや高くなったのも難点であり、
主力機にふさわしくない迎撃機としての運用思想から主力機には不採用となってしまった。



GNX-Y807Tジャーズゥ
頭頂高       本体重量
17メートル    70トン
装備
200ミリ×50口径長滑腔砲 チェンシーの装備をより長口径化させ、砲口部に接近戦用の砲剣を装着しており槍として扱える。
               未だに炸薬式と設計的に時代遅れになりつつあるが、その分信頼性はビーム、リニア系を上回る。
               中隊規模で横隊を組んでの砲撃やマケドニア・ファランクスのように槍衾を同時にこなせる。
               森林や市街地での使用を想定した25ミリ口径の短砲身型も存在する。
NGNアサルトライフル 上部の300ミリNGNバズーカと下部の150ミリNGNライフルで構成する複合射撃装備。
            いずれも電磁銃身型でマガジンの交換で実弾と粒子ビームを使い分ける。
            実用性が高くGN-XVの主装備にも採用された。
GNソード 進行するMS装備の多機能化から外れて単機能の信頼性を追求した実体剣。
      刀身は厚く重く、その重量で相手を叩き切るのが主用途であるが、軽装甲には尖った切っ先で突く事も可能。
GNシールド 上の面が広く下に向かって細長くなるカイトシールド型で、その重量で下部で打突すれば装甲をへこませられる。
固定装備
GNバルカン 頭部左右に搭載された牽制用装備。
GNスパイク 肩とつま先、肘、膝、マニピュレーター部の打突武器。近接密集戦で威力を発揮する。

旧人革連開発陣が繰り出した次期主力MS候補。名前は中国語で家族を意味する。
対MS戦の追求と共にアヘッドの悪印象の払底から、これまでより比較的スリムで人型に一層近づいた。

モノアイカメラなど機能最低限の小さな頭部と上半身中心に分散されたセンサーとカメラが特徴で、
ノーヘッド程徹底的ではないが頭部破損時の戦闘力ダウンが抑制されている。
背部の擬似GNドライヴは性能維持しつつ従来型より半分に小型化され、
余剰区間は増設したバッテリーのおかげで稼働時間はユニオンに次いで長い。
低い粒子生成の欠点は駆動系統を含むシステムで埋め合わされ、特に陸戦での機動性は良好。
小隊単位での連携による密集戦が本機の性能発揮を最も発揮する。
連携を前提とした運用思想から粒子制御の必要性はあまり無く、
粒子集束すら出来ないなど次期主力機候補の中では最低域になる。

高可動性と要所を中心に全身に固めた重装甲を両立させ、
GNフィールドを含めた防御性はマイクロウェーブ受信なしなら全候補中最高レベル。
その新Eカーボンの装甲とフレームは軽量化を進める他候補機のと違い、重量維持のまま硬度と剛性が向上している。

GN-X系候補機と互角の総合性能の本機とユニオンの比較試験は拮抗し、
旧ユニオンと旧人革連の長年のライバル関係から日に日に対立感情を募らせ、連邦構成国の対立の危険性から主力機に採用されなかった。
低コストで砲撃戦から密集戦まで一通りの戦局に対応できるが、
あまりの物量志向の運用思想が連邦軍の要求にそぐわなかったのも要因の一つにある。

ELS戦より50年後のモビルワーカー「サキブレ」の最古の原型機であり、
フレームを含む基本構造は同一で、無骨な外装と重装甲にして攻撃的な印象だが若干類似している。



GNX-Y809TネオGN-X
本体重
61.1トン

固定装備
GNビームガン 両肩に装備する高指向性火器。
        粒子制御機により集束ビーム発射もGNフィールド展開も可能。

AI社がGN-XVと同時に開発したGN-X系の次期主力MS候補。
発電施設と専用整備施設が充実してきているとはいえ、
擬似太陽炉は未だに高コストで希少であり大量生産によるMSのGN機統一は困難であった。
そこでGN-XIVで迎えた発展限界の克服及び最低限の改修による近代化というコンセプトの下で開発する。

当初は低コストを目指した新型Eカーボン製フレームのみ換装だったが、相互評価試験の段階で試験小隊の意見に基づき急慮再開発した。
装甲全体と一部機材も新素材製に変更した事で、
若干のコスト上昇と引き換えにベース機と同程度の安定性と性能向上、更なる発展性を獲得した。
装備は従来機と同じだが粒子制御機がコンパクトになり、操作が複雑な両肩の多目的粒子制御機は新フレームに内蔵されている。
擬似GNドライヴも新型になり、性能をそのままに小型化、粒子変換用のバッテリーの容量が増え、以前より長時間稼動できるようになった。

GN-XIVフォルティスより容易な火器管制に一部新規設計とやや高い基本性能だが、
完全な新規設計のGN-XVと比べると大型機故に機動性は低い。



[36851]      第25話 レギオン
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:45
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第25話 AEU-10レギオン

統合戦争の勃発から七年後、西暦2324年でも世界は未だに戦乱の渦中にある。
地球連邦の積極的防衛への方向転換が、再軍備した各地の帰順へ導き、統一政体の崩壊はなんとか回避された。
だが統合を拒む者達も存在し、再び手にした武力を捨てきれずにいた。
そうした勢力は過去の遺恨や防衛方針の相違もしくは国民感情から、或いは反イノベイター派に転化して。
トルコを中心とする中東連合は未だに連邦に逆らい続ける分離勢力の一つだった。


アザディスタン王国との国境に近い、中東連合軍コーカサス方面前線基地。
十月に入ったここの夜明けは早くも吐息が白くなる程凍える。
起床から呼び出され格納庫前に集まってのブリーフィングは、聞いていてうんざりするものだった。

「政府は正気ですか?大体戦って勝てる相手ではありませんよ」
「君達の良いたい事はわかるが、既に軍上層部の決定事項なんだよ」

E小隊長オルハン・コルテュルク中尉が、基地司令官を前にして思わず不満を口にした。
そうなった元凶である任務内容は、目前の連邦領アザディスタン王国の威力偵察だ。
かねてより続く政治的軋轢が近頃悪化しているとはいえ、まさか直接対決を仕掛けようとは・・・。
どうにもできない無力感とやり場のない怒りに脳が沸騰しそうになる。

(このトルコは連邦に降らないで、逆らい続けて中東連合を立ち上げて・・・。
 政府は自分の立場を守る為に戦争を仕掛けるのか・・・?!)

今年で三五になるオルハンは連邦領時代から続く古参兵にある。
統一政体にさからう行為が何に値するか、当時受けた愛連邦教育で答えは明快だ。
―――宇宙進出に乗り出す人類の発展を阻害する分離主義―――である、と。
これから出撃するパイロット達の顔はどれも不安と不満ばかり。
E小隊の面々も、F小隊でも。
命令なら人殺しをしなければならない軍人は、戦いの必要が失われれば士気を落としてしまう職柄だ。
司令官は部下達を見回してその心情を理解しているが、一士官の立場故に現状をどうにもできない。
四十代半ばの加齢皺と若干たるんだ顔を、苦々しく歪めながら説明を続ける。

「幸いにも直接指揮は各国境担当の司令部に一任されている。
 ここコーカサス国境線では、司令部より予備部隊でいつでも君達の救援に出せるよう用意なされた」

連邦領侵入後、E小隊はカスピ海方面へ、F小隊はアラビア海方面へと、
国境を縫うように進攻するよう、ルートが設定されている。
偵察部隊の撤退援護にそれぞれ二個MS小隊ずつ用意、圧倒的物量の連邦軍からこちらを救出できる戦力だ、

「可能な限り諸君らの損失を最低限に留められるよう尽くした努力だ。
 有効に活用し無事任務を全うとせよ」

部下を一瞥。
納得したらしく気が引き締まった軍人の顔に戻ってきた。



統合戦争勃発時、トルコを含む連邦領中東地域は、近年の目まぐるしい経済発展から取り残された後進地帯である。
最初はテロの被害から軍縮にこだわる連邦を見限り、自衛目的に一時的に独立しただけだった。
だが以前より続く困窮や貧困、ブレイクピラーの被害に軍縮を背景に、元々反連邦感情があった民衆は一層悪化。
未だに帰順を拒む分離勢力の一つとして連邦の政権交代後も反抗を続け、近隣のシリアやエジプトなどと結託、中東連合を設立する。
地球連邦との対立関係はこうして決定的なものとなった・・・・・・。



出撃した中東連合軍は新型の準GN可変MS、AEU-10レギオン六機からなる。
現在航空形態にあり大小四枚の翼を広げたその姿は戦闘機を思わせる。
かつての旧AEU主力機ヘリオンにかなり似た、曲線を多用した外装と細長い手足が際立つ。
AEU系技術陣が開発したこの可変機はイナクト以上GN-XIII未満の基本性能と、
GN機以下の安値、前代機を引き継いだ汎用性など。
第一線に通用する性能と強欲な開発社の活発な第三国への輸出と相まって、今やチェンシーと並ぶベストセラー機として有名だ。
その少ない数が中東連合にも設立前の配備分とデッドコピー機が用いられており、
GN-X系以上の信頼性と十分な性能から前線パイロットの間ではGN機以上の好評だった。

「中東連合軍機に告ぐ!中東連合機に告ぐ!」

やかましい連邦軍の警告には無視する。
少し間を置けば打ち上げられた迎撃ミサイルと緊急発進したMS部隊には、
粒子増槽によるトランザムで難なく強行突破した。

「E小隊、防衛線突破!」
「F小隊よりE小隊、こちらからも確認」

この威力偵察は連邦軍と対峙する国境各地で同時に仕掛ける大規模なもので、
コーカサスだけでなくシリアでも、エジプトでも、トラキア地方でも同様だった。
政府の姿勢が如何なるものか、一兵卒の誰でもこの作戦を理解できる。
それ故、各パイロットも緊張した面立ちで状況を報告し合いながら周囲を厳しく警戒した。

「こちらタウロス。作戦は順調につき、現ミッションプランを維持せよ」

当地域作戦管制を担う、ギアナ級地上戦艦タウロスより指示通信が届く。
独立前にトルコに配備されたこの数少ない地上艦船は、その高い防備から今回では空中管制に代用されている。

「F小隊了解。」
「E小隊了解。我々が袋のネズミにならないよう、オペレートお願いしますよ」
「貴官こそ、敵を見てすぐ尻尾を巻くではないぞオルハン君」

十歳年上の四十代男性士官から憎まれ口を叩かれた。だが不快な気分にはならない。
敵情を探る者として厳戒を皮肉の形で促してくれたのだから。
トランザムで強行突破した二小隊は手はず通り南北へ二手に分かれた。

「タウロスよりE小隊、正面1000より敵MS一個小隊規模がそちらに向けて反転。
 高速で迎撃を仕掛けてくる。接敵まで二分と推定!」

敵情報が転送。コンソロールに表示される。
MSは準GN可変MSアシガルが四機。
この期に軍制改革が進んでいたとすれば、定員割れしていないれっきとした一個小隊の編成となる。
対する我が方はAEU-10レギオン三機一個小隊である。
こちらは旧来の連邦の軍制を踏襲している状況だ。

「各機に告ぐ。敵はこちらよりやや優勢にあるが、決して臆病風に吹かれるな。
 向こうは各地の寄せ集めだが俺達は実戦経験のある熟練兵だ。冷静にいけば負ける事はない。いいな?!」

部下機に呼びかける内に航空形態のレギオンは十キロ以上進行し、アシガルと距離を縮めていく。
まず威嚇の有効射程外からの粒子ビームが走った。
だがはるか遠くからだ。センサー反応と司令部のオペレートで射線から機体を逸らせば問題ない。
続けて牽制射撃が断続的に降りかかってきた。

「向こうのライフルは、っ・・・射程距離がこっちのより長いぞ!」

本隊のレギオンの主装備はヘリオンから流用したリニアライフルではなく、
中東連合軍では満足に普及されていない最新装備のNGNライフルだ。
それでもアシガルは治安維持を前提としているのか、こちらの主装備はこちらより遠くから更に高速で大量に撃ち込んでくる。
脚部内蔵分と主翼搭載分の各種ミサイルは退却時に備えて温存したい。
GNバルカン以上に高威力なのはNGNライフルだけ。
敵が有効射程に入るまでに向こうはいくらでも攻撃を仕掛けられ、E小隊が一方的なビーム弾幕に晒されてしまう。

「シャマル1より各機、GNフィールドミサイルを一発発射用意!炸裂三十秒に設定だ!」

早い内にこれを使う羽目になるとは思っていなかった。だが敵戦力を測る為ならばやむを得ないだろう。
前方より敵と鉢合わせになっているが現状だが、背後より先のMS部隊が迫っている。
まとめて二部隊を相手するのは自殺行為、ならばここは正面から速攻に撃破する以外にない。
でなければ軍に恥を晒してでも退却だ。

「撹乱幕を盾に距離を詰めて、敵が幕を潜った所を叩け!」
「シャマル2了解!」
「シャマル3了解!」

放たれたミサイル三発、敵よりほんの少し外して飛んでいく。
一発が程なく敵弾に当たってしまったが、残りは二発は設定通りの時間で炸裂し撹乱幕を形成した。
あの中に飛び込んだ粒子ビームは四方に散らばり無力と化する。
状況を悟ったかアシガルの編隊はGNミサイルを四発発射、
本隊をチャフなど撹乱を交えた回避運動に誘発させ、盾にしてきた撹乱幕より四方へ散開を強いらせた。

「やってくれるじゃないか!あいつら!」

見事な対処法だ、と言いたいがそう剣呑に褒め言葉をかけたい場面ではない。
が、ある程度連邦軍と距離を縮められた。ビーム無力化は多少の効果はあった事だ。
追いすがるGNミサイルの恐怖と、粒子による慣性制御でも抑えられないGをこらえつつ変形。
人型になると垂直急上昇、ミサイルの旋回限界角度を飛び越えやり過ごす。
そして再変形、前進した。

「二番機も三番機もミサイルを巻いたか!」

肉体疲労が堰を切り思考が乱れるのを瞬時に振り払い、コンソロールの友軍情報を確認した。
部下機は全員健在。ミサイルの点もない。敵との距離は更に縮まっている。

「ドッグファイトに移行する!吶喊用意!!」

双方の砲が火を吹き粒子ビームが交錯したのは五秒も満たない。
それからは相手の尻尾を狙うようにそれぞれ散らばり、敵機の背後に喰い付かんと追いかけ合いとなった。
最終近代改修仕様の旧世代機以上の粒子慣性制御能力すら超えるGに耐え、スロットルから手も指も離さず機体を操る。
自力で粒子生成できず多用できないとはいえ、イナクト以上の複雑な空戦機動で戦っている以上、
これは彼らに当然降りかかってきた試練といえよう。
MS形態ならば航空形態以上に複雑な戦闘機動をこなせる。だが彼らはその手段をとらない。
互いが機動力に長けたMS同士であり、乱戦下での変形は撃墜のリスクが孕む。
変形は反撃を前提とした回避運動の一種であり、
可変機同士ぶつかり合う空中戦は飛行形態で繰り広げるのが基本だった。

「ヒット・・・っ!」

NGNライフルの連射がアシガルに命中。
しかしオーバーシュートしてきた二機目のせいで攻撃中断せざる得無くなり、相手機の片足を奪う戦果しか手に入らなかった。

「手強いな・・・・・・!」

二機編隊を決して崩さない敵の連携に、オルハンは焦燥に愚痴をこぼす。
連邦軍の軍制改革から二機を最小単位に、四機で一個小隊と編成されている。
三機一個小隊の従来編成に比べれば攻撃力を発揮できないが、いかなる戦況でも一定の戦闘力を発揮できる利点がある。
軽く俯瞰しても敵小隊の方が物量が若干ある、とあっては中東連合軍側が不利になるのは確実だ。

(判断力・・・機転・・・それはこっちに分がある。我が隊はパイロット暦十年くらいになるからな。
 連邦軍の準GN機パイロットは弱く、恐らく新兵の可能性あり・・・。
 ロングレンジでは的確に狙い撃ちしてくるが、ドッグファイトになると単機の実力より連携で立ち向かうようだ)

MSパイロットの技量差は挙動から粗方ながら把握できた。

(アシガルはレギオンとほぼ互角の空戦能力だな・・・。
 長距離志向で、格闘戦志向のレギオンと方向性は違うが)

前者は治安維持を主用途に単機の汎用性と巡航性能が重視されている。
その為サイズは若干大型で、バリエーションは機関と追加パーツの十種類未満と少ない。
当然連邦軍の配備が前提に量産され、他国へ輸出される事はなかった。
一方、後者は劣悪な環境下の最前線での運用を第一に、生産性や信頼性、整備性、操縦性、追従性に優れる。
GNコンデンサーもアシガル以上に節約している事から、
可動装甲と挙動によって機体制御となど独自機構が特徴だ。
逆に発展性は乏しく機体改良による多彩なバリエーションで揃え、部隊単位による戦況対応する。
同じ可変型準GN機でも、機種ごとに設計思想は全く異なっていた。

(このままでは消耗戦だな・・・・・・!
 もう引き上げるか?敵軍の実力を測れたから・・・ここで潮時かな?!)

味方は損害軽微、二番機のみ左腕破損。
敵の方がダメージは大きく半数脚や主翼などやられ小破している。
戦場で最も困難な退却戦、どのタイミングで敢行するか・・・・・・。
オルハンに与えられた時間猶予は少ない。
生死の岐路は、今、目の前に立っていた。



[36851]      第26話 チェンシー歩兵戦闘型
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:45
機動戦士ガンダム00 統合戦争諸戦記

26話 チェンシー歩兵戦闘型

我々の訪れたその星―――その知性体は地球と呼ばれる―――に留まって十年経つ。
意識が芽生えて生きてきた百億年に比べれば一瞬以上の一瞬、だが人類という存在の多くを理解してきた。
驚く事に、人類が我々と同じ知性体であり、高度なネットワークを築いていながらも、
彼らの概念と歴史、価値観、特徴も、何もかもが異なっていた。
全てが一つに意思が繋がっておらず何十億もの意思を持つ個から社会が成り立っている。
我々にとっての平和を全く過ごしていない。
毎日欠かさず意思と意思との衝突が世界中満ち溢れており、同種族でありながら常に傷つけ合う。
少しでも異なれば排除したがる一方で平和と繁栄を求める矛盾した心。
全てが正解を求めず互いに引っ張り合い、一個体が己だけの利益追求にも走れる不合理甚だしい思考。
種族全体より自らの属する社会を第一に、他の者達の苦しみすら目を逸らせるとはあまりに視野が狭すぎる。
ある時まで百億年近く平和に過ごしたのが我々ならば、対する人類は利益を巡る争いが絶えない歴史であった。
だが我々は人類という存在を絶望も危険視もしない。既に彼らの中から革新が始まっているから。
この星最初の先駆者と対話を重ね過ちに気付き、ここの知性体について理解できたように、
人類全体が愚かさを乗り越え我々と対話に行き着く時まで見守ろう。



(宇宙にいる主は人間の動向に介入せず拒絶もせず、中立を貫かれている。
 その意志に従いなるべく不必要な刺激なしに理解を深めるのだ)

人間世界ではフリージャーナリストという肩書きの「一体」―――ヤーゲル・フロークマン―――が、
取材の為に訪れたイノベイター居住区は個々の感情が入り乱れる混沌の坩堝だった。
あらかじめ取材を現地事務所に申し込んだ所、職員達から露骨な嫌悪を向けられたがなんとか許可を得たのだ。
イノベイターと人類の軋轢について情報を集めるには、短い二時間だったけれど最低一つだけは記事に出来るだろう。

「パンだけじゃダメだ!仕事がほしい!」
「俺達の仕事を返せ!こいつらのせいで一家崩壊するわ、ホームレスに転げ落ちたんだ!」
「化け物を宇宙コロニーに放り出せ!」
「「「仕事をくれ!仕事をくれ!仕事をくれ!」」」

西欧ベルリン郊外に置かれたイノベイター居住区ゲート前は、朝から晩までデモ隊と居住区警備の憲兵隊が睨み合うのがここの日常だった。
増加するイノベイターとの軋轢は深刻にあり、彼らのあまりに優れた能力に職を奪われた失業者が詰め掛けるのだ。
安住の地を求めず、騒いで与えられる事に期待する者達。
片や、守るべき者達の一部の苦しみから目を逸らし、命令ならば無力な者すら傷つけられる者達。
これま世界中に散らばった同胞達と融合体からもたらされた、
己が観察し目の当たりにした、世界中で同じように繰り広げられる人類の日常である。

(歩み寄ろうとせず、分かり合う気もなく、そこまで人間は目先の事しか頭にないのか)

旧AEU基地跡敷地を再建設したこの一区は全周コンクリート塀に有刺鉄線が張り巡らされており、
更に銃とMSまで装備した兵士達が守りを固め内外の警備は過剰なほどだった。
それはイノベイター達の犯罪や暴動、市民からの迫害、そして彼らを狙ったテロに備え、
住民の安全な生活を保障するというのが居住区の存在意義だという。

(共に人類発展の為に手を取り合うのが一番だというのに・・・・・・。
 なぜ自分の利益を最優先するのか?)

「民間人保護」という名目で憲兵が居住区ゲートとデモ隊の眼前を立ち塞がる。
殺気立つ憲兵隊の人垣ギリギリ迫った所で、鬱屈とした風景をカメラに収めた。

「さっさと下がれ!貴様ら!!」

様相に変化が。デモ隊が市街地側に振り向き、兵士が怒鳴り盾でヤーゲルら野次馬を押し退く。
時計の針は午後六時。高緯度に近いベルリン近辺は冬で既に暗い。
大型車両が見えてきた。
一輌だけではない。二輌。それらが縦列でこちらに接近。
よくよく見ればキャタピラこそ付いているが手足がある。
準GN機チェンシーの歩兵戦闘型と呼ばれる機体二機を前衛に、
最低限の窓だけの大型車八台が四列、先と同じタイプのMS二機の後衛と続く。
200ミリ滑腔砲を中心に機関砲、グレネードランチャーなど対歩兵装備と腰部歩兵輸送コンテナを装備、
タンク形態に変形する事でゲリラが潜む市街地や森林での戦闘に対応していると言われている。

(あれだけで人間は恐怖という拒否反応を起こす。
 我々とここまで精神が異なる・・・・・・。衝突で自分を失う事を何より恐れているからか?)

近隣で話に聞くイノベイター用送迎バスは、厳重な守りを固めた車列の中心にいるのがそれらしい。
暴徒襲撃に備えているのか運転席辺りだけの窓しかない、護送車にしか見えない外装でバス扱いとは・・・。
ひたすらわかり合おうとせず、気に入らなければ力を振るうのを、平和とは理解に苦しむ。
争いを対話と誤解し人類を滅ぼしかけたので人間の行為を非難する資格はない。
だが人類の他者を平気で傷つけ殺しすらも出来る事には恐怖を感じる。

(路頭ニュースによると、連邦政府は帰順地域の一斉調査を行うという。
 この相互理解に至っていない状況を改善できるのだろうか?)

ゲートよりサイレンとアナウンス。

「デモ隊に告ぐ。直ちにデモ活動を中止し退去せよ。指示に従わなかった者は十分後に強制排除する」

その後も「繰り返す―――」と最初に加えて勧告を出される。
連邦政府の調査団に備え周辺騒動を鎮めたいからか?
デモの中にテロリストが潜んでいるのか?
ヤーゲルは一人思案に耽る。
どれだけ考えても正しい答えが浮かび上がらない。
そんな所お構いなく憲兵隊に突き飛ばされ、前進する盾の列に野次馬もメディアもヤーゲルと共にゲートより引き離された。

「こんなの聞いていませんよ。どうなっているんです?」

事情を聞いても返ってくるのは返事ではなく警棒と盾の威嚇だけ。

「我々より越えるな!取り押さえるぞ!!」

二回三回も繰り返せば今度は怒号と来た。
これ以上聞けば関係がより悪化する。
人間を観察し得た情報から適切な判断を探り、服従を選び憲兵より引き下がる事にした。
盾で固めた陣列より向こう。
送迎バスがゲートを潜り行く中チェンシー部隊はデモ隊の前に屹立、
どうやら目前の集団に威圧をかけているようだ。
二機が砲を空に発射。周りに大音響が響き渡った。
情報によると鎮圧にまず空砲で威嚇し、二発目からゴム弾か催涙弾で強制排除するという。
威嚇砲撃で立ち退かなければ次は容赦しないと込めたメッセージだそうだ。
完全武装した相手の威嚇に、デモ隊が動揺し悲鳴が上がった。

「あれは?!」
「人が飛んだ!」
「何なんだ!?」

少し立ち退かれても諦めず留まるメディアと野次馬の間で驚きの声が上がる。
チェンシー系より兵士達が降りて来るや否や、次々宙に浮かびデモ隊の頭上を覆っていったのだ。
ヤーゲルの目には見えていた。彼らのバックパックから放出されるオレンジ色のGN粒子が。
最近連邦軍が世に送った最新鋭装備の部隊。。
GNコンデンサーに備蓄した粒子で三次元移動が可能な、軽パワードスーツを身に纏った次世代歩兵。
本格的な侵攻に先駆けてチェンシー歩兵戦闘型と共にゲリラ撃滅を行うという、
地上戦で最も危険な任務を主眼に置かれているが、こうした暴徒鎮圧にも威力を発揮している。
続け様にかけられる威圧に恐れを成し、逃げ始めたたらしく悲鳴と共に足音がしてきた。

(ここで下がってくれれば良い・・・。そして新しい職を探して暮らせば、ひとまず事が収まるだろう
 傷付き合うのはみんな望んでいない。ただ平和に生きる事が本当の望みでは・・・・・・)

カメラをズーム。状況を伺えば現場はなんという事か。
時間が経ってもデモ隊が全て退き下がっていなかったか、憲兵隊が遂に実力行使に出た。
それは一方的な暴力だった。
MS形態に立ち上がったチェンシーが催涙ガスを浴びせながら、何列も連なった横隊が棍棒と盾で相手を叩きのめす。
殴り倒された市民を殴る、蹴る、踏む。抵抗以前に動かなくなるまで繰り返す情け容赦ない応酬。
今やデモ隊が居座っていた区間は、白いガスが漂いプラカードが四散する蹂躙の跡と化した。
期待はことごとく裏切られた。
対話も何もなく、力によって相手を捻じ伏せたのだ。

(・・・・・・。)

ヤーゲルは主より与えられし使命から、静観という行動を選択した事で巻き込まれずに済んでいる。
だが・・・・・・。

(私も我々も、人間の言う悲しみが感じられない・・・。だがこれは間違っている・・・・・・。
 平和とは彼らにとって、相互の妥協であって血を流さない争いなのか?
 我々からすればそれは平和とは言えない・・・・・・。
 個で成り立つ彼らはどうすれば平和と理解を果たせるのか・・・?)

周囲は暴力を振るわれた哀れなデモ隊に同情を寄せたか、嘆き悲しんだり義憤から憲兵に非難し始めた。
意思が繋がっている訳ではないが、感情の中の共感が働き出したからか。
六時経ってからも騒乱はまだ終わらないと、それだけは確かに言える事だった。



これは取材中、休憩中にある一部の憲兵隊からのコメントである。
連日デモ隊と睨み合う最前線に張り付いていたか、何度も断られた末やっとこぎつけたものだ。

「イノベイターも今までの人間も、同じ平和を望んでいるのにです。何故こんな矛盾を招いてしまいますか?」

一瞬放心したように顔を緩めた隊員が切り返す。

「人間はみんなそれぞれの組織とか集団にいるに決まってるだろ。
 そんな、生まれてすぐ世界の事を考えられるほど俺たちもみんな賢くねぇよ。あんな神様みたいにいられたら苦労してないさ。
 イノベイターがこの十年で何十万人も増えたんだ。あんな地域住人分の数にだぞ。
 あんなにいてビビる奴は、いない方が考えられないぜ」
「命の危険を感じるとか・・・?」
「まずは仕事を取られて、でだな。そんで野垂れ死ぬパターンがみんな怖いのさ。
 そんな市民の為に、テロにまとめてやられないよう、この居住区を立てたんだ。
 何万何億の市民の安全と、それをもたらす秩序を保つのが俺達だ。
 どう叩こうとそんなの理由にならない」

何故幾度も訊くのに追い払わなかったかわからない。
だが話し終えた時には少し表情が緩んだように見えた・・・。



相互理解の為、世界を歩き続けて十年も経つ。
地球連邦は政権交代し各地の再統合が進んでいるが、人類同士の争いは未だに続く
これまで同化しか知らなかった我々は視覚や言葉による対話で、これからも彼らを理解し続ける。
取り込むだけでは得られない膨大な情報が人間には秘められている為。
その知り得ない何かを、なんとしても知らなければならない。
でなければ人類全体と手を取り合えないのは目に見えている。



[36851]      第27話 カレドニア級大型宇宙空母
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:46
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第27話 カレドニア級大型宇宙空母

20世紀前半の第二次世界大戦より空母が戦場の主役となって三百年、
地球連邦樹立後も空母は建造され続けていた。
だがそれは海上戦力のみであり、宇宙開発が進んでいない当時はそれで充分だったのだ。
ELS戦より十一年後経った頃になると状況が一変する。
地球圏はおろか、火星にも数多くのコロニーが建設され人類が数多く住みつくようになっていた。
戦後まもなく勃発した内乱は終わる気配がなく、戦火から脆弱なコロニー防衛強化の必要性が出てくるのは当然の理である。
その頃連邦政府は政権交代し穏健派の軍縮から一転、強硬派による軍備増強へと方向転換。
大きな体制変革の中、宇宙軍にも空母が配備開始された。



地球連邦軍宇宙艦隊は西暦2325年の現在、七個基幹艦隊と同数個の警備艦隊に再編された。
従来の艦隊は任務に応じた多様な編成だったのを二種に統一、それに合わせて艦船と人員の大幅な増強が行われる。
政権交代前より軍部の間で綿密に計画を練った事もあってスムーズに進んだが、
あまりにも急激な膨張は戦力の質を低下を招いてしまった。
毎日訓練と演習を繰り返し少しでも能力向上させねば、今の内乱に対応不可能になる。
ソロモンタワー周辺に展開した第二基幹艦隊は、他の艦隊もそうであるように今日も演習を実施していた。
艦隊旗艦にして大型宇宙空母カレドニア級二番艦ミッチェルは、はるか前から現状報告と命令が飛び交う戦場だった。

「第五艦上戦術MS中隊の展開完了。MS隊第一波は横陣に形成、第二波及び第三波は配置途上にあり」
「第三MA小隊、突撃開始!セクターM1の敵戦力20%消滅!続けてM2、3の敵が7%消滅!」

艦隊より遥か彼方で戦端が開かれた。
オペレーターの報告直後に火球が無数に生まれ、横に広がっていく。
本隊より先行したMAが自前の火力を思う存分撒き散らしている証拠だ。
だがアルケリオン・ラーボス提督は不機嫌に顔を歪め、

「ガデラーザIIに遅れているぞ!配置を一分で済ませろ!」

配属どころか入隊まもない娑婆っ気のある新米クルーに怒鳴り上げる。

「第七小隊がウイング2-5と6の間に挟まっており、配置変更に三分程要するとの事です!」

何という事だ。
主力投入という重要な局面において部隊編成を間違うとは!
ラーボスの脳が理不尽によって沸騰するのをなんとか鎮めながら指示を下す。

「一分を目指せ!一分で済ませる気でなんとしても全部隊動けと言え!」
「いっ、イエッサー!」

宇宙艦隊に大量の新兵がひしめいているのは確かだが、十年前からの古参兵もいる。
だが彼らは教官や各部署の担当、新艦長などに振り分けられ、残りは警備艦隊に再編されてしまった。
無論、新政権は無策でなく戦時と同じ緊急体制で、各艦隊は猛訓練を重ねているが。
だが地球圏防衛を担当する第二基幹艦隊が置かれている状況は、
少しでも鍛えなければ失策次第で内乱を拡大させかねない、という緊迫した状況だった。

(こんなド素人だらけなのはELS戦直後の十年振りだ。
 いや、あの時は異星体の脅威に誰もが未熟でも軍務にかなり熱心だった。
 今の連中の心構えはあの頃の彼らに遠く及ばない・・・・・・)

ラーボスも当時巡洋艦の一幕僚だったのが戦後より艦長に、そして再編時には艦隊司令と、短期間に昇進した軍人の一人。
大きくなっていく責任を必死にこなしていく内により多く負う事に。
そうして予想外のスピードで昇り詰める自分も、今の新兵と本質的に同じではないだろうか。
人生経験も士気も志もお互い違おうと、いきなり大きな負担を受ける境遇は一緒だろうか。
全く可笑しな話だ。

「繰り返し言うぞ諸君!この演習は明日も明後日も、毎日繰り返し行うものだ。
 実戦配備される来年までに身体に叩き込むんだ!・・・全戦闘艦、牽制射用意!」
「「「イエッサー!!」」」

レヌス級主力戦艦二隻、ヴォルガ改級航宙巡洋艦六隻、ドニエプル級防空巡洋艦艦四隻の粒子ビーム。
有効射程より外に放たれたそれらは、命中するまでに拡散しかけ隊伍を乱すだけに留まった。

(予定より五分早まったが・・・まあ良い。
 イレギュラーは戦いに付き物だから、折込済みさ・・・・・・!)

軍隊は敵と戦う為の組織だ。
いつ来るわからない出番が来るまで、あらゆる想定に常に対応できるよう訓練を惜しみなく行う。
その為なら軍予算が許す限り将兵の錬度維持に力を傾けられる。
今回の演習には艦船に見立てた廃棄小惑星、MSにティエレン及びAEUヘリオンの標的型、
時にはGN-XIIIまでもが敵軍に見立てる、という大盤振る舞いで廃棄兵器を投入されている。
その数、隕石100、MS300、標的MA700。総数1100という大規模なもの。
こちらのMSは最新鋭機が満足に配備されていないので、GN-XIV系以外はチェンシーとアシガル標準型で代用。
突如地球に押し寄せてきたELS一群の迎撃という筋立てで演習が進み行く。

「機動中隊A及びB小隊は敵左翼側中間点を突破!」
「第一波の有効射程まであと10!」
「敵前衛、セクターF1からO1までの3%消滅!」
「第三MA小隊、敵軍左翼の突破に成功!敵左翼、戦力52%に低下しました!」
「参謀、これは主力展開までの時間はなんとか稼がれた。片翼包囲を仕掛けられる、という事でよろしいかな?」
「仰る通りです司令」
「うむ」
(ここからが本番だ!)
「MS隊先頭が敵と接触!交戦に入りました!」

無数の粒子ビームが更に多くの爆光を生み出す。
敵からのレーザー光線―――演習用弱出力だが―――がすぐさま返され、双方の火線が閃光の壁に加わった。
これが実戦ならば、次々生じる光の数だけ命が散っている事だろう。
それが将来の自分の姿であると、しかし新兵達にそんな実感が持てないかもしれない。
士官学校で軍人に仕上がり訓練校で科目を極めようと、戦場で敵と、流れ弾と向かい合わなければ。

「第10小隊、敵に突き出ている!後退し友軍と合流を!」
「第14小隊三機喪失、壊滅!残存機は空母に至急帰投せよ!」
「第1機動群、攻撃開始!」

戦端を開いて十分経つ。状況は芳しくなく早々と味方の損害判定が出ている。
こちらより五倍の物量で押し寄せる敵に、誰も彼もが恐慌状態に陥ってしまった事に起因する。
撃っても減る様子が見えず、怯む者や戦いに集中しすぎて連携が疎かになる者、的確な砲撃が出来なくなる者。
パイロットも艦のクルーも艦長も、戦力の多くが新兵ばかりならば。
いくら最新鋭MSと軍艦が割り当てられても、それらを取り扱う者が未熟ではあまり意味がない。
せいぜい従来機を乗せられるより生存性が微妙に上がる程度だろう・・・。

「我が戦力は85%に低下。空母航宙部隊70%に・・・。
 今、予備部隊を投入しなければ戦線が崩壊してしまいます」
「では撤退機の方はどれ程残っている?」

戦況分析モニターと艦橋より戦場に直視しながら、提督と幕僚団のやり取りが指揮の合間になされていた。
部隊が半分以上損害すれば壊滅として戦力から外される。
生き残りが無事母艦に帰還した場合、ある程度集まった所で臨時に再編され予備戦力として扱う。
15%もの戦力が喪失判定が出され戦死として遥か後方の集結ポイントに移動、
演習終了まで待機するのが軍隊の基本となる。
やられた本人は悔しいかもしれないが、実戦と違い死なない贅沢な欲求不満に等しい。

「現在二十機が本艦に待機。内十六機を臨時混成中隊に再編完了しました」
「後部ハッチより臨時混成中隊を展開、母艦警護に当たれ!
 間違ってもカタパルトに導くな!あそこは前線部隊専用なんだからな!」

ミッチェル格納庫は弾や粒子補給に戻ってきた味方機と共に、生き残りのMSが出撃に備えている。
空母が配備された今、残存部隊の再編と前線部隊の補給などが、大隊規模で容易に行えるようになった。
これまでならば各艦に小隊ごとに散らばって補給整備を受け、出撃してもまず集結してから進軍しなければならない。
だが現在はそんなタイムロスなどなく、大規模な部隊運用を単艦で一括して出来るようになったのだ。
以前ならば連邦軍の仮想的はソレスタルビーイングで自然と少数精鋭による運用に、
艦隊も戦闘とMS運用が両方出来る巡洋艦で構成される。
現在は大きく状況が変わってきた。
分離主義が完全に下った訳ではなく、粒子兵器とGN機がテロリストにまでも行き渡り、
兵器の性能と共に物量面においても敵に圧倒させる必要性が生じた。
そこで登場した答えが、空母による多様な状況対応、
MSとMA併せて百機以上もの大部隊の早期展開である。

「各艦はMS部隊展開!至急、敵軍突破に備えよ!
 第二機動群出撃を!展開し次第正面より突撃せよ!
 第八艦上戦術中隊及び重火力小隊、全無人部隊は艦隊より手前、横隊で展開!
 敵の包囲運動に警戒、これを迎え撃て!

戦いはやや第二艦隊が押されつつあるが、こちらより二倍以上の損害を敵にもたらしている。
ここでもし正面より抑え続ければ敵は陣形を乱し、突破せんと無理な攻勢を仕掛けよう。
そういう局面を切り抜け見事敵を挫けば、後は包囲殲滅に持ち込めるという算段だ。

(こんなにありったけの標的機を相手に出来る機会はあまりない・・・。
 総力戦が出来る時に徹底的にやり込む!少しでも鍛える!
 だから30%以上やられた所で演習を終わらせは出来んのだ!
 ELS戦で撤退だのは甘ったれ以下!ただの破滅願望者だ!)

戦闘の基本である損害判定に従わず、全滅に近づいても無理に戦わせる、という無茶。
だがアルケリオン・ラーボス提督は別に鬼畜でもサディストでもなかった。
実戦などなく軍務も短い若者を短い内に鍛えるには、
一度は限界まで戦わせ経験を積ませなければ戦力に値しない、という現在の苦しい事情から来る必要悪だ。
どれだけMSを乗り回せようと、シミュレーションで撃墜を重ねても、
本当に実機を殺戮の光が飛び交う世界に放り込ませ、その中で戦い抜くとはどういう感覚か。
それは本当に戦場にいかなければわからない。
今回の大演習は、そうした感覚に慣れる為の予行練習でもあるのだった。

(艦隊こぞっての演習は月に二、三回。あとは小隊か中隊の演習に模擬戦、それ以上の訓練ばかり。
 だが今のペースじゃ練度を満たすまで一年以上かかるかもしれん・・・・・・。
 休憩時間と休暇、睡眠時間は規定に逆らえんし、切り詰めれば将兵の戦闘能力も健康も損なう。
 有給休暇自粛を促して訓練時間を最大限引き上げたのだ・・・。あとは私達古参兵の指揮次第だ!
 地球圏を守れるだけの戦力に仕上げられるかどうか・・・・・・!)

艦隊戦が将来起きるかもしれないが、起きないかもしれない。
だが混迷の時代に更なる危機と来たるだろう恒星間戦争に備え、中堅と司令部は部下に憎まれてでも戦う。



[36851]      第28話 サラトガ級駆逐艦
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:caca656b
Date: 2014/04/07 20:46
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第28話 サラトガ級駆逐艦

人類のほとんどが住む地球と、最大規模の資源供給源である小惑星帯の間に位置する惑星、火星。
宇宙開発が始まった23世紀頃はその星に目を向けられず、資源衛星運搬と労働者輸送ルート上にあるだけの存在だった。
地球ほどでなくても重力のある火星に進出出来るだけの経済力は不足していた事、
そして軌道エレベーター建造に精一杯であり、その為の資源確保に小惑星帯進出する方が無難だったのだ。
だが24世紀初頭の地球連邦樹立による国力一元化、GN粒子関連技術から大きく変革を遂げる。
西暦2314年までに連邦軍基地が建設。
三年後の2317年の統合戦争勃発までに居住用大型コロニー建設が開始。
それより十年後、2324年には十基ものコロニー群が築かれ、
小惑星帯のみならず木星などガス惑星進出の橋頭堡が火星にて完成する。
太陽系全域へ進出しつつある中、かねてより続く統合戦争は地球外でも波及するようになった。



イノベイターの弾圧はなくとも差別は地球連邦でも普通にある。
人類を上回る能力に多くが嫉妬や恐怖を呼び起こし、自己利益の為に利用しようという者も現れるのは当然の成り行きだ。
なぜなら彼らは軽くこれまで十人分の情報処理を容易にこなせる上、肉体能力も人類を上回っているという。
宇宙開発を広げる企業にとって少人数で働けるイノベイターは、人件費節約しながらも利益を上げられる垂涎の戦力以外何者でもない。
積極的なイノベイター登用の影で切り捨てられた大勢の労働者が貧困に喘ぎ、それが新旧の人類間軋轢を酷くしていく西暦2325年。
欲望に駆られた一部企業は革新者達をことごとく搾取に精を出すようになっていた。

「全MS隊よりこちらホレイショ・ゲイツ。輸送艦の入港を確認。警戒を維持せよ」

火星圏に浮かぶ最新発電所で、とある軍事行動が行われた日の事だった。
新型戦闘艦サラトガ級駆逐艦十六番艦、火星治安維持担当の第六警備艦隊所属である、
本艦の指揮官オズワルド・ジョンソン少佐が甲高い声で命じた。
オズワルド少佐は三十ちょうどの新任艦長。
操舵から砲撃や整備に至る全科目を合格、前線では巡洋艦MSオペレーターとして実戦経験のある青年士官である。
この艦は巡洋艦同様の用途を低コストで運用から建造され、バイカル級よりも一回り小さい。
当然火力が劣るが機動力は良好なので、哨戒や船団護衛、今回のような臨検にうってつけの艦種であった。

「こちら第101戦術機動MS小隊、周囲に異常見られず」
「第128戦術機動MS小隊、マーズ・ワン発電所に到着!哨戒に移行します!」
「港内の輸送艦クックが海兵隊を上陸!マーズ・ワン発電所職員とのトラブルはあらず!」

ブレイヴI/D1からなる派遣部隊とオペレーター達の報告を処理しながら状況をうかがう。

(果たして大丈夫だろうか・・・?原子力発電所を査察するんだ・・・。
 GN粒子でやっと放射能を出さない核融合を実現したが、それでも戦闘に巻き込まれれば大爆発の被害は半端ない・・・)
「オズワルド艦長、いかがなされましたか?」

考えに耽りすぎて副長に訊かれた。

「いや、大丈夫だ・・・。発電所側の出方が気になっただけだ」
「マーズ・ワン発電所の、原子炉を盾にした反撃の可能性をお考えで?
 本隊の火器使用は対空砲と機関砲、撹乱ミサイルのみ、と基本方針は定まっています。
 向こうが軍備放棄も削減もしない現状、我が軍が出来る最大限の努力なのですぞ」

マーズ・ワン原子力発電所は太陽光発電が主流の地球圏と違い、ヘリウム3による核融合発電で火星圏の電力を賄っている。
時代錯誤に見える原子力発電が堂々と行われているのは、地球以上に遠く太陽光が弱く発電するには足りない事情にある。
その発電所で先日、労働者の暴動が起こり鎮圧した、と火星電力会社より報告を受けた。
かねてより自衛に大規模な警備隊を保有し、イノベイターを積極登用しながら従来より少数で管理しているという現状に軍は熟慮。
超過勤務の可能性を疑い暴動の事後処理及び最終勧告などを兼ねて、火星方面第6警備艦隊分遣隊の派遣を決定したのだ。

「それにしては直接投入戦力にしては少ない。警備員が多すぎる調査隊に見えるだろう。
 発電所の警備隊の一割くらいしかこちらは戦力を用意していない」

この時代、大企業ならば警備員といえどMSを配備するのが常識となっている。
統合戦争勃発して政権交代するまでの間、地球連邦は反イノベイター派の反乱やテロの中でも軍備増強に消極的にあった。
そんな中動乱による被害から警備会社どころか大企業すら、自前の警備力増強を名目に重武装化。
連邦政府にとって今や反乱勢力に並ぶ危険分子となったのだった。

(オートマトンはアロウズアレルギーと過剰武装を理由に投入は取り下げに。
 代わりに海兵隊の精鋭で対処する事になった。
 基地とのデータリンクは万全。
 状況次第で周辺の哨戒部隊と本隊が現場急行してくれるが、それまでの間少ない戦力の我々が事に当たらねばならない。
 企業と紛争するなどとんでもないのはわかる。悪く行けば戦力の逐次投入による戦火拡大を招くだろうが・・・。
 いくら武装化した発電所とはいえど、連邦軍にそう簡単に逆らえないだろう・・・・・・。
 ・・・・・・まあ、よほどの事情が無い限りはな)
「本任務に疑いをおかけですか?」

あっさり見抜かれた。副官の洞察が恐ろしい位当たっている。

「我々クルーと部隊の腕にご期待ください。基幹艦隊のひよっ子揃いとは別格ですので」

艦長をサポートするホレイショ・ゲイツクルーの多くはELS戦直後より入隊したベテラン、
一部はそれ以前連邦樹立以前まで遡るという古参兵揃いだ。
治安維持担当故に小規模の警備艦隊だが、旧編成時と変わらぬ治安任務から実戦経験豊富。
基幹艦隊が編成と訓練途上にある現在、彼らが宇宙軍唯一の戦力だった。

「うむ・・・。そうだな・・・・・・」

副官の言葉に艦長は口を挟む余地なし、として納得した。
戦場に出た事はあるが政治的判断が求められる艦船指揮官の役務が、これまで以上の重みがずっしりオズワルドにのしかかる。

(艦長も艦長だ。作戦の疑問はわかるが、政治的背景があって実行に移されたのだ。
 我々はそうした事情から最善の手段で作戦を進めねばならんというのに、いつまでも躊躇してどうするか)

副長はこれまでのやりとりと、上官オズワルドの今に至る様子から評価していく。
彼は若くオペレーター時代から情報処理に長けるなど優秀だが政治的判断が未熟で、
今回のように作戦に口出しする越権行為がよく見られる。
指揮はできても政治的事情を把握した上で命令を遂行できず、つい立場を踏み越えてしまう、佐官になり切れない男だった。

「発電所に不穏な動向はないな?」
「未だに見られません」

オペレーターに状況確認。
もう一度思考を巡らせる。

(連邦政府は政権交代後もイノベイター受け入れを進めているが、
 個人レベルではまだ軋轢が続いているからな・・・。
 まだ数に劣る彼らを今の内に手懐けようと考えるのも無理はない。
 が、火星圏のライフラインを担う発電所が超過勤務を本当に強いていて、
 それがあの暴動に結びついている。・・・となると調べざる得ないな)

艦よりリンクした発電所内の各映像に異変が起こった。
鳴り響くサイレン、それを表す赤ランプ、混乱する職員と警戒する海兵隊の姿で占められる。

「これは・・・一体!?」

事態の予想は出来たが言葉にならず絶句してしまう。

「トラブルか反乱だな!」
「マーズ・ワンに異常事態発生!
 所内に不穏な動向、今に至るまでなし!突然の警報です!」
「良からぬ動きの前兆かもしれん!警戒を厳にせよ!MS隊にも伝えろ!」

指示を矢継ぎ早に下している所で、オペレーターの報告が悲鳴交じりで返ってきた。

「巨大粒子ビーム発射!本艦直撃コース!!」
「な!?防御を!GNフィールド、最大出力展開!」
「全速垂直下降を同時にだ!」

オズワルド艦長の指揮に加え、副官も一言補足し対ビーム戦法を実行開始。
押し寄せる圧縮粒子の奔流は無慈悲にも、ホレイショ・ゲイツが回避行動をとるまで怒涛の如く押し寄せてくる。
下降し始めた所をビームが障壁に直撃。貫通に至らずそのまま射線が逸れ、第一撃をなんとかやり過ごす。
直接損害は皆無、だがまともに粒子ビームに直撃した反動により方角が大きく変わってしまった。

「食堂、倉庫などに被害!艦に直接被害なし、されど艦内は物資が散乱し深刻な被害にあります!」
「防空ミサイルにより粒子撹乱幕を周囲散布完了!」
「敵に動きは!?」
「マーズ・ワンよりMS二機確認!機体照合、全機GN-XIII無人型砲撃仕様と判定!
 二機とも本艦に砲口を向けています!」

敵は対艦、要塞戦のGNメガランチャー装備。
最初の持ち主であるGNZ-003ガデッサ程の大火力ではないが、物量と一発の威力は無視できない。

「二射目来るぞ!撹乱幕再散布と同時に左ヨーを!」
「お待ちを!艦長!」

そう言っている内に敵機が両断され火球に。

「MS隊、敵MS二機撃墜!」
「態勢維持でよろしいでしょう」

目先の脅威は消えた。
ならば回避行動も防御も必要ないだろう。

「艦長!発電所内保冷タンクから輸送艦三隻出現!バージニア級と思われし!
 っ、トランザム発動!全速離脱します!」
「!?進路方向はどこだ?!」
「小惑星帯側、ですが標準航路より外れています!目的地まで56倍程!」

宇宙航行技術が急発展したとはいえども、
太陽系を自由に動き回るにはGN粒子と電力、物資がいくらあっても足りない。
その為、星間航行には一直線に進むのが鉄則であり常識でもある。
セオリーに従わず航路から星の海に飛び込む船は、それは間違いなく・・・・・・、

「あれは旧人類軍かもしれんぞ!」
「既に状況は本隊に届いています。こちらは発電所の警戒を続行すべきです!」

このまま見逃せば敵の意図を読む機会を逃す憂き目に遭う。
追撃すれば査察の海兵隊と母艦が孤立する。

「うむ・・・!引き続き本艦は警戒を維持する!」
「艦長、マーズ・ワンより通信が。最高責任者ベクトン所長からです」
「こんな時に?」

伏兵潜伏の可能性が高い現状に一体何用か。
場違いな横槍に、張り詰めていた神経に要らぬ乱れが発生。
わずかに加齢を見せ始めた顔を渋く歪める。

「マーズ・ワン各所よりMS出現!GN-XIII無人型、砲撃装備三機、標準装備六機!」
「迎撃だ!機関全速、後方に取り舷一杯!射線上に発電所が入らなくなるまで一時離脱するんだ!」
「応答は後で?」
「そう伝えろ!以後、発電所からの通信を切れ!」

発電所側の押し並べるだろう苦し紛れの言い訳は聞きたくない。
それよりいかに火器制限の不利から勝利を得るべきか。
でなければ、駆逐艦の快速も対空能力も発揮できずに轟沈される運命だ。



[36851]      兵器設定4
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/06/23 23:06
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定4

AEU-10レギオン
頭頂高       本体重量
15メートル    38トン
装備
NGNライフル マガジンで実弾、粒子ビームを選択できる射撃兵器。
        配備が十分でなく大半はAEUヘリオンのリニアライフルを代用している。
GNスパイク  肩、膝に装備する打突武器。混戦時に挙動一つで敵機に損傷を与えられる。
GNボンベ   バイザー下の口部にある防御装備。GNフィールドを発生させ頭部ダメージを防ぐ。

旧AEU系軍事産業開発の可変MS。
曲線を多用した外観やヘルメット型頭部装甲などAEU-05/00ヘリオンメディウムに酷似した外観が特徴。
SVMS-02アシガルとの連邦軍準GN可変MSコンペに敗れる。
その後海外輸出用として大量生産され、連邦加盟国やPMCに留まらずテロリストを含む反連邦勢力にも流通し、
MS-09Jチェンシーに次いで世界中に2000機以上も運用されている。

小型軽快ながらアシガル以上の防御性と近接戦闘力を持ち、同時に高速飛行可能な巡航形態に戦闘機動中の変形が可能など、コンパクトと性能を両立させた。
粒子節約と機動性維持に、全身の可動装甲と四肢の挙動による慣性で機体制御される。
また、ヘリオンとアグリッサと同じく本機も各種大型MAとドッキングさせ、MSサイズでは対応できない戦況対応に図っている。
単機の発展性と汎用性より堅牢性や整備性、信頼性、操縦性などに重点を置き、設備の乏しい最前線での運用に想定するなどアシガルと開発思想が異なる。

GNコンデンサー、水素プラズマジェットエンジン併用の標準型の他、
水素プラズマジェットエンジンのみの簡素型、擬似太陽炉搭載型などを基本に、多種多様なバリエーション機が存在する。



MSJ-09Iチェンシー歩兵戦闘型
頭頂高       本体重量  搭乗歩兵
15.1メートル  80トン  通常装備16名 パワードスーツ6名
装備
グレネードランチャー 両肩部にそれぞれ20連装で装備。榴弾の他、閃光弾、催涙弾など発射する。
30ミリ機関砲    胸部の対歩兵、車両用火器。

腰部歩兵輸送コンテナなど各所を改修した、歩兵支援仕様のチェンシー。通称「チェンシー・ムーチン(母親)」。
歩兵輸送と同時に拠点制圧の火力支援や威力偵察、ゲリラを駆逐するのが主用途。
飛行可能な最新パワードスーツ部隊との連携が本機の威力を発揮でき、軍と特殊部隊だけでなく機動隊と憲兵隊にも暴徒鎮圧用途に配備されている。

統合戦争の間、粒子兵器が反連邦勢力にも大量に用いられるようになり、歩兵の持つ携行GNミサイルの餌食になるMSが急増していた。
そうした歩兵の潜む敵地に強襲したり少数の武装勢力掃討など、頻発する小規模戦闘に対応する必要性が浮上した。

歩兵展開により柔軟性が増大した分、コストが歩兵戦闘MAの倍以上に跳ね上がったのが難点であり、
コマンド部隊や特務部隊、海兵隊などの精鋭に優先して配備されているのが現状である。



カレドニア級大型宇宙空母
全長
729メートル
搭載機
MSのみ時250機以上 100メートル級MAのみ時4機
部隊編成
空母MS戦闘部隊(2326年以降 MS80機、MA2機)
1個戦術MS大隊(GN-XIV32機、GN-XIII無人型8機)、2個重火力MS小隊(GN-XIVフルミナータ8機)
1個武装偵察MS中隊(ユニオン16機)、2個早期警戒MS小隊(アシガルAEW型8機)、2個粒子戦闘MS小隊(アシガル粒子戦型8機)
1個歩兵戦闘MS中隊(チェンシー歩兵戦闘型16機)、戦闘機動MA小隊(ガデラーザII2機)
装備
4連装GNビーム機銃20基 近接迎撃装備でコンテナ部に分散配置されている。
小型GNミサイル発射機4基 コンテナ部上下に配置、ピケット艦をもすり抜けた敵に対する最終迎撃線を構築する。

MS及びMAを搭載、補給、整備を一括して行える巨大母艦にして地球連邦軍初の宇宙空母。
作戦規模の戦闘を行える最小戦略単位の部隊を運用可能で、最新兵器からなるその投射火力は一国の全MS部隊に匹敵する。
基本設計はバージニア級輸送艦と同じだが、MS展開は艦首下の左右カタパルトより横倒し状態で発進され、MA展開はサイドコンテナ両端前後ハッチからである。
戦闘艦に追従できるだけの機動力と巡洋艦の砲撃すら耐えられる防御力を兼ね備え、
ELS船で地方拠点に転落した地球外航行船ソレスタル・ビーイング号に代わる戦略拠点として役割をなす。

これまで5隻前後の艦隊を地球圏に何個も分散配置し、旧型兵器しか持たない反連邦勢力と少数精鋭のソレスタルビーイングに対応してきた。
金属異星体ELS飛来による地球外生命体の存在とGN兵器流失による優位差の相対化、宇宙人類居住域拡大から、多くの反対を受けるも空母開発に踏み切る。
ELS戦時に匹敵するMS展開能力に過剰戦力として疑問視されるが、反乱の早期鎮圧に威力を大きく発揮し、レヌス級主力戦艦に守られた本級は地球圏安定化に貢献していった。



サラトガ級駆逐艦
全長
236メートル
搭載機
MS2機 チェンシー通常型や歩兵戦闘型、アシガル中心
装備
連装GNビーム砲4基    対艦もしくは要塞が主用途だが拡散モードで遠距離のミサイル群やMSを対処できる。
4連装GNビーム機銃20基 艦首とサイドコンテナに配置された、対MS、ミサイル近接迎撃装備。
大型GNミサイル発射機4基 サイドコンテナ部に配置され、対艦GNミサイルを発射可能。
        (96セル)
小型GNミサイル発射機6基 サイドコンテナに配置。ビーム機銃と同じ用途で用いられる。
       (200セル)
GNフィールド発生機    中心部より粒子障壁を張り、巡洋艦レベルの砲撃に耐えられる防御力を持つ。

2320年より開発された連邦軍宇宙戦闘艦。
反イノベイター勢力の活動と地方各地の武装化による不安定な情勢を前に、
数を揃えにくい航宙巡洋艦と脆弱な武装輸送艦に代わる治安維持及び通商護衛担当の小型戦闘艦として進宙した。
全て警備艦隊に配備され護衛の他、臨検や偵察、航宙警戒管制などにも性能を発揮している。

トランザムによる星間巡航、GNフィールドの防御性は通常機動力と共に高い。
基本構造はバージニア級輸送艦を踏襲し特務試験艦アルトリウスを参考に設計されているが、艦首部分が縦長になり戦闘艦然した外観に変わっている。
MS運用能力はあるが直接戦闘より宇宙作業や偵察、艦の射撃観測、救難など支援に用いられ、戦闘時には大型艦の護衛や別働隊に宛てられる事が多い。



[36851]      第29話 ヘラクレス・インペラートル
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:47
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 29話 GNX-805T/IMヘラクレス・インペラートル

革新者が現れた以上旧人類との軋轢は将来起きると、西暦2314年当時より地球連邦政府は懸念してきた。
その懸念が3年も早く戦争という形で現実になってしまった。
問題は人種どころか種族レベルと根深いものである以上、反発者達と妥協するまで争いが長く続く事は誰にでも容易に予想できる。
長引くだろう戦争に備え、凍結していた兵器開発計画を再開させ、これより花開くMS開発の足がかりを築こうとしていた。
これは地球連邦政府が強硬派に主導権が移る2年前である西暦2322年、連邦軍の中での一つの出来事である。



広大な格納庫を所狭しに鎮座する連邦軍最新鋭MS、GNX-805ヘラクレス系MS群。
連邦軍次期主力機に必要な技術開発と試験並びに精鋭部隊の為に開発された、かつてのGNX-704Tアヘッドを継ぐ機体。
当時試作機程度しか作れなかったユニオン系MSが今や人革系を差し押さえているとは歴史の皮肉と言うべきか。

「世界中のエースが集まるなんて何年ぶりなんだろうなぁ~」

MSの足元に集うパイロット達の張り詰めた雰囲気と場違いな軽い口調で過去を懐かしむのは、連邦軍のエースパイロット「鋼鉄のカウボーイ」エイミー・ジンバリスト上級大尉。
十五年前より撃墜王の一人に名を馳せた男は今や四十過ぎの中年になる。
だが女ったらしで軽い性格、おしゃれを決めた容姿はあの頃とまったく変わらない。

「フォーリン・エンジェルス作戦以来・・・、ね。万年大尉」

上官デボラ・ガリエナ少佐が端的に返す。
今年で三十九になる彼女の美貌は健在。
指揮官に昇進しても部下兼腐れ縁エイミーのアプローチに悩まされているという。
この歳でやっとあの男と別の相手と結婚が決まったというのに・・・・・・。

「あ!それだそれ!」
「・・・・・・」

今回の任務はヘラクレス系機体による大規模な運用評価試験。
次世代主力機に必要な技術ノウハウ収集の為に各地よりかき集められた臨時テストパイロットは、予備を含め約四十名。
エイミー達やパトリック・マネキン少佐、アキラ・タケイ大尉などELS戦を生き抜いた伝説級エース。
ベガ・ハッシュマン大尉など統合戦争で頭角を現した若き新世代エース。
本計画専属テストパイロット達や教導隊所属、士官学校の教官までもこうして一堂に会している。

(普通ならここまでテストに前線から徴集する事ない。それだけ一旦凍結したMS開発を急いでる証拠ね・・・)

地球連邦軍ではMS開発計画を二系統で同時進行している。
とうの昔に旧式化した三国家系MS群の後継機開発による補助戦力の一新。
そしてデボラ達も参加させられている、次期主力MS開発に先駆けた技術研究である。
連邦樹立時には一方的な猛威を振るった擬似太陽炉搭載機が今や反乱軍に流出し、敵との優位性が絶対から相対に転落したこの状況下。
かつての優位性にいかに近づけるか、もしくはそれを取り戻せるか。
ヘラクレスによる運用試験はアヘッドを上回る規模で実施されていた。

「GN-Xの次はフラッグの孫なんてな、なんとも運命みたいな巡り合わせだな。デボラ少佐ちゃんと同じくね」
「・・・はいはい・・・・・・」

どういう引き合わせなんだ。
それに少佐「ちゃん」は馴れ馴れしいすら足りないくらい引いてしまう。
相手したくない。
デボラは腐れ縁に聞かれぬよう口だけ動かし「あんたにうんざり」と抗議しておく。
これより始まる運用試験を前に痴話など目を瞑らなければならないから。



今日の試験は敵ジャミング下でのGN-XIII無人型二十機と大型粒子制御機の破壊が達成目標。
敵役は演習用低出力ビームを撃つだけで計二十機十ペアもの各ヘラクレス部隊は実戦装備で思う存分戦える。
それぞれのペアの乗る機体はバリエーションの中から事前に決め、各ペアに最適なMSを充てられていた。
最初に生産され尚且つ数多く前線配備されており基本仕様機GNX-805Tヘラクレス。
放たれた火線を変幻自在に変えられる射撃試験機GNX-Y805T/GNヘラクレス・マジシャンズ。
MSの次元を超えた演算力を持つ小型量子コンピューターを搭載した量子制御試験機GNX-Y805T/GCヘラクレス・ブレーンズ。
近接戦闘時の運動性を高めた格闘戦試験機GNX-Y805T/GLグラディアートル。
性能向上を模索したクワットル・ドライヴ型の擬似太陽路試験機GNX-Y805T/D4ヘラクレス・スペシャルズなど。
テスト機の豊富さはアヘッド以来でそこに粒子制御研究も加わり、研究内容はかつてより進歩していた。
数多くの仕様機の中、エイミーとデボラの乗機である粒子制御試験機GNX-Y805Tヘラクレス・インペラートルは、
語源である「命令する」の通り周辺のGN粒子を制御下に置ける電子戦ならぬ粒子戦MSである。
基本型以上の初代GN-X並に巨大なクラピカルアンテナがその用途を可能たらしめた。
こうした最新鋭機に乗ったエースパイロット達だが、運用試験という戦いは激烈な様相となった。

「だっ、駄目なのか!?」
「そんな!あれだけの出力でも打ち破れないのか!!?」

臨時パイロットのMS教官が、らしくない悲鳴を上げた。
自慢のGNメガランチャーとライフルビットの、トランザム込み最高出力集束砲撃すら最大目標に届かず射線から逸らされたのだ。
その威力は山を軽く抉れる代物の砲撃装備すら無力化できる能力が、あのビル一個分のサイズの大型粒子制御機は持っている。
半径十キロ範囲内ならば粒子を自由に制御可能であり、粒子ビームならば戦艦の主砲すら拡散させ、
GNミサイルも表面のGNフィールドを剥ぎ取り、直撃でも自前の装甲とGNフィールドで容易に耐えられるという鬼畜染みた機能。
基本的にはGNフィールドと同じく周囲に粒子を対流させ制御するのだが、今やその技術は桁外れな姿に発展していったのだった。

「トランザムで飛び込んでも動けなくされる!GNフィールドは剥ぎ取られる!ビームを逸らされる!敵だけ自由に動ける!」
「お手上げか?だがこの制御範囲を打ち破るよう上からお達しが出てるんだ!」
「これで残り五十分。任務失敗したら今日中に二度目のやり直しですな・・・・・・。強壮剤の出番ですぞ・・・」

大空を舞いながら地上より放たれる敵弾をかわし、時に受け止めていく。
自軍の損害は皆無だがパイロット達の心労は想像以上に降り積もる。
味方機の陽動に制御範囲外に引きずり出された無人機をNGNマシンガンで撃ち抜くのはヘラクレス。
制御を失ったGN-XIII無人機が擬似太陽炉の暴走によって爆散し破片が地上に散らばった。
これで五機撃墜、残存機十五機になるが戦局は敵に傾いたままである。
続けてヘラクレス・インペラートルがGNソードより発生させた巨大ビームサーベルで六機目を両断する。

「ファング2敵機撃墜!残り十四機だ!」

先の攻撃成功に嬉嬉として声を上げたのはエイミーだった。
友軍機から通信が。
相手は第8試験小隊「カタナ」指揮官ベガ・ハッシュマン大尉。

「こんな戦況なのに、六機撃墜ごときに喜ばれおめでたく思いますな鋼鉄のカウボーイ殿。それとも策をお考えでしょうか?」

年配相手に慇懃無礼に尋ねるのは苛立ちを募っているからか。
普段ならばそれは上官侮辱にあたるが、恐怖と混乱が付き物の戦場ではよくある事。
エイミーは大して気にせず機嫌をそのままにして、

「この分だとあいつらを一網打尽に出来るかもしれねぇぜ!」
「は??いえ・・・失礼しました上級大尉、それは本当ですか?どういう方法で、ですか?」

勝利の秘策の公開したがベガは心底エースである彼を疑った。

「デボラ少佐ちゃんと攻撃を色々試して、な。じゃあ作戦考えるから一旦切るな!待ってろよベガ!」
「上級大尉!?」

三十過ぎという若きエースの返事を待たず通信を切る。
その男ベガはヘラクレス基本型で一機の敵機を自力でおびき寄せて撃ち落した辺り、パイロットとして優秀だがまだ場数が足りていないらしい。
血気にはやっているベガを巧い事あしらったので次はどう作戦として考えるか。

「デボラ少佐ちゃん!」
「デボラ少佐、よ!エイミー!」
「あいつらを一網打尽に出来る策を見つけた!データを送るぞ!」

それは何度も失敗を繰り返しては工夫した末、やっと編み出した戦法だった。

「なるほどね・・・・・・。でも危険な賭けよ?」
「危ない賭けさ。でもやってやる価値はあるじゃねぇか」

ヘラクレス・インペラートルの粒子制御範囲は大型目標のに比べれば直径一キロしかない。
クラピアルアンテナの性能もサイズ相応程度だが通常機より遥かに制御範囲が広く、
先のように敵の影響外ギリギリからの攻撃程度ならこちらの粒子粒子が制御下に置かれる事がなかった。
つまり、本機の粒子制御と拮抗し合えるわずかな時間猶予内に決着を付けようというのが、エイミーが練った最後の策なのだ。

「それでも向こうの粒子制御に圧倒されるわね・・・・・・。もっとクッションがないと」
「取り込み中失礼しますデボラ少佐。私は」
「ベガじゃないの!」

エイミーの横槍が入る。
だがベガは目もくれずに用件を話す。

「ベガ・ハッシュマンの提案でこちらの粒子をそっちに送るのは如何なものでしょうか?
 カタログスペックによると、その仕様はGN粒子でGNステルスフィールドを展開できるとありますが」

かつて三国家合同で行われたガンダム鹵獲作戦を最終的に頓挫させた、GNW-003ガンダムスローネドライのジャミング機能。
それを一段発展させたGNW-2003アルケーガンダムドライの運用思想を引き継ぐヘラクレス・インペラートルだが、生憎と今回は専用のGNミサイルを装備していない状況。
電力のマイクロウェーブ受信と同じような粒子送信は余程近距離でないと難しく、敵MSの攻撃が続く今はなおさらだ。

「味方がみんなトランザムで粒子をばらまくなんてのは?」
「敵粒子範囲に近づいて?出来ない事はないわね」
「失敗すれば我々は敗北判定ですエイミー上級大尉」

そこへ味方機より通信。
一人どころではない二人三人も。

「こちらドラゴン小隊。ちょっと聞いてみてたら悪くない手じゃないか。作戦に入れてもらいたい」
「我々ブラボー小隊も加わらせて頂きます!勝つ手はあまりないでしょうから!」
「ファングよりこちらブラック。どういう作戦か聞かせてもらえませんか?」
「イエーガーリーダー、不死身のパトリック・マネキンも賛成するぜ!」

次々と援護に名乗り出るパイロット達に、デボラもベガも今更ノーとは言えないと観念した。
時間も粒子量も、精神の余裕もあまり残されていない現状の下、勝利を掴める可能性があるなら多少はどうあれ実行すべきだろう。

(ホント・・・、根は悪くないのがエイミーなのよね)
「貴官の助言を容れる。感謝するわ」
「よし!じゃあ勝ったら一緒に」
「全部隊にデータ、戦術予報プログラム送信!これよりこのデボラ・ガリエナ少佐が本作戦の指揮に当たる事に異存がなければ実行する!」

まさかMS隊を大々的に率いるとは彼女は予想していなかったが、それに全然心地よさが感じられた。
試験は達成できていない。
だが達成できる可能性が生まれた。
勝利の為に、次期MS開発研究の為に、この試験を果たしてみせよう。



[36851]      第30話 ガデラーザII
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:46
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第30話 GNMA-0003ガデラーザII

イノベイター専用巨大試作MA、GNMA-Y0002Vガデラーザから始まる系譜は地球連邦軍と旧人類軍に分岐している。
当初は両軍とも正式採用機が戦闘に用いられていたが、程なくして異なる運用思想に則って配備されるようになる。
単機で多数の敵を圧倒できる性能、戦艦を一撃で沈められる火力、巨体にして最速の機動力。
それらをそれぞれの事情下で如何にして効率的に運用できるか。
両軍の巨大MAは一半世紀近くかけて姿を変え、統合戦争の間互いに刃を交え続けた。



第四基幹艦所属の第四戦闘機動MA小隊は現在、西暦2325年9月2日の最も悪夢の渦中にあった。
ひっきりなしに鳴り響くアラームと、機体をよぎる粒子ビームが、彼らの恐怖を掻き立てる。
こちらに食らい付くのはブルーカラーの三百メートルを越す巨大MA。
厳しい選考の末、最新鋭機GNMA-0003ガデラーザII二機を宛がわれたパイロット達だが、前線配備に向けいつもの慣熟訓練中の敵襲を受けている状態。
相手は旧人類軍のGNMA-0002ガデラーザIと、この期も最も会いたくない敵に追い回されているのだ。

「まだ応答ないのか?!これで十分も経ってるんだ!」
「GNステルスフィールドのせいです!効果がかなり広い!半径百キロ内も!」

必死に操縦するMA小隊長ハイドルフ・ワーレン大尉にシステム担当手が怒鳴り返す。
L2外れ、それも火星方面の広大な演習宙域でだ。
元々遠い上、通信妨害に遭い救援要請も状況報告も全く出来なくされているのだ。
太陽炉搭載機が普及して十八年。その間に技術革新はしていき機体性能と操縦技量だけでなく粒子制御も勝利の鍵となっていた。
それらによって、粒子制御能力が強い機体ほど敵に無力される可能性が低くなり、撃破の可能性が上がるという道理であった。

「コンデンサー分を出しても難しいな・・・!」

備蓄粒子を全て放ちGNステルスフィールドを張ったとしても状況は変わらない。
敵味方共に、亜光速でドッグファイトを繰り広げており、そのような防衛手段は使用タイミングを定め辛いのだ。
小隊周辺に大型GNファングが群がり進路を妨害し、敵GNブラスターの射線上に引き寄せんとばかりに虎視眈々と狙らってくる。
狙いの獲物を確実に追い詰めんと、疲労と消耗を誘いながら。
それに一切の雑念はない、ただ破壊だけに追求した、知能が進化した知性体だけがこなせる、芸術的といえる戦闘機動と戦法で。

(これだけステルスフィールドを広く張られりゃ、周りも気付きやすくなるが・・・。
 駆けつけてくれるまで保つのか・・・・・・?!)

旧人類軍のガデラーザIパイロットは間違いなくイノベイターか擬似イノベイターだろう。
向こうの技量は連邦側非イノベイター操縦手二名とシステム担当手二名の計四名をも上回り、
少数戦略打撃もしくは単機戦術打撃を用途に小型化されたガデラーザIIなど、単機戦略打撃が用途のガデラーザIの敵ではないのだ。
武装はGNブラスターとGNバルカン搭載クローアーム、GNミサイル発射機を中心に、オプションでGNファングやGNコンデンサー、GNミサイル発射機など。
サイズ相応の火力の上、GNファングは一般パイロット向けに制御にリミッターが掛けられ、イノベイターパイロットでなければ本来の性能を発揮できない。
最新技術を投入された新規設計の本機は誰にでも扱えるよう操縦性が改善された引き換えに、かつての圧倒的な性能は三割程も低下してしまった。
パイロットは全員脳量子遮断ノーマルスーツを着込んでいる為、敵イノベイターに意図を察知される可能性は低い。
それでも総合的に考えて、一般兵向けMAで立ち向かう連邦側の不利は否めない。
対する敵機は旧人類軍の下で近代改修を重ね、配備当時に引き続き圧倒的優位性を維持している。
こちらは絶えずGNフィールドを張る事で粒子ビームの暴風を凌ぐしか出来ず、広大なステルスフィールド内にて火器は全て封じられ、
ひたすら捕食者に追われ続ける惨めな弱者というべき姿が今のガデラーザIIであった。

「トランザムで、ここから抜け出す!このままじゃジリ貧だ!」

二機のGNファングがシザーズしつつクロスファイア、先端GNブラスター計二門の砲火が防御壁表面を削り取る。
続けて後方より二機がトランザムで前方に飛んでいった。先回りしてステルスフィールドからの突破を阻むつもりだ。

「隊長、敵は先回りして逃げ先から撃ってきますが?!」

部下が反論してきた。
無理にあがけば不利を通り越して全滅を喫するだろうと。

「だが向こうは襲撃目的、こっちはひたすら逃げるだけだ!いけなくないだろ!?
 敵は帰りの分も考えなきゃならないからな・・・!」

そんな物は数ある可能性の内の一つでしかない。
ワーレン達を落としたらそのまま地球圏に強襲を仕掛ける可能性の方があり得る。
とはいえこの窮地にまやかしだとしても光明を欲したくなる。

「それは・・・・・・」

旧人類軍は内乱の折、当初の艦隊による大規模攻勢を断念し、ガデラーザIによる襲撃と通商破壊へと程なくシフトした。
惑星航路外に広がる宇宙空間から、MA自体の高機動力に上乗せしたトランザム航行と高ステルス性で、
時間選択と攻撃対象を自由に選択出来る旧人類軍の攻撃は、この八年間地球連邦に軍事的にも経済的にも打撃を与え続けてきた。
軍自体の打撃はとにかく民間船、それもイノベイター系の乗るそれらと経済を支える貨物船にも攻撃を仕掛けており、
防衛線を突破し低軌道からイノベイター密集地域を超高高度精密爆撃される事例まである。
連邦の被った損害は半分に分けて、分離勢力か旧人類軍のガデラーザI数機によってもたらされるとまでいう。

「粒子生成時間、五十%を切りました・・・!」

長く過酷な演習が終わった矢先に敵襲に合っているこの状況。
一方的防勢に追い込まれ敵が張ったGNステルスフィールドの中、攻撃をかわし続ければどんどん消耗するばかり。
拠点の多い地球圏とはいえ、広大な外縁部から母基地に落ち延びるには心ともなくなってきた。

「もう破れかぶれだ!このまま強行突破する!
 こちらワイバーン1が惹き付けた隙にワイバーン2はここか全力でら抜け出せ!
 そう信号で一分間伝えろ!」
「了解!ワレガオトリ二ナリタリ、キカンハトランザムデニゲヨ!」

同じファングに追い立てられる僚機に絶えずモールス信号で伝達する。
幾束もの火線を死に物狂いで潜り続ける最中に果たして伝わるか、本人らにも確証を持てないただの賭け。
それでも伝え切るとガデラーザIIが戦闘形態に変形した。
巨大な砲身が降り、サイドバインダーと頭がせり出し、それらを身に着けた後部ブロックが胴体として姿を現す。
下半身となったブロックから左右三連結の擬似太陽炉が脚としてロック解除される。
ガデラーザI以上に人型に近くなった機体が、両脚を振り上げ反動で垂直に。
斬りかかる敵のビームサーベルはGNフィールドで受け止め、弾かれた勢いのままガデラーザIの軌道から逆に方向転換を果たす。

「よしっ!!」

コンデンサー内の蓄積したGN粒子を全面開放、トランザム・システムを発動。
朱色に染まった百メートル近いMAが、オレンジ色の粒子幕から抜け出し月面基地を目指す。
トランザム解除するも速度維持で粒子を節約する。

「突破成功っ!ワイバーン2の生存確認!」
「こちらワイバーン2!しかし敵が急迫してきます!あっ、ステルスフィールドから出て来ました!!」

ジャミングから開放され反撃出来るようになっただけで、勝算はたいしたほど上がっていない。
味方の無事に一瞬安堵した後、現状を瞬時に把握するとワーレン達は失望してしまった。
背後から押し寄せてきたのは十束ものオレンジ色の粒子ビームだからだ。
GNブラスター、GNファング搭載GNブラスター、クロー先端部GNバルカンの艦砲級もある砲火の嵐が吹き荒れた。
こちらもGNクローアームを展開、恐るべき追っ手にGNバルカンで応戦し逃げながら撃ち合う。
敵の方が火線が濃密で強力だ。ではどうすれば勝てるのか?振り切れるのか?
スピードもガデラーザIIよりIの方が三倍あり、逃げてもすぐ追いつかれるのが目に見える。
オーバーシュートしGNブラスターで逆転勝利を図る・・・のは難しい。
ドッグファイトを仕掛け初代機以上の小回りの良さを生かして反撃もほぼ不可能だろう。
相手はイノベイター、演算力が従来人類より桁違いであり読心されなくても機動から読み取るのは難しくないのだ。

「こちら第四戦闘機動MA小隊、旧人類軍MAの攻撃を受け月へ逃走中!敵から振り切れず、救援を求む!!」

一番近いのは月面に位置する二人の母基地でもあり、第四基幹艦隊母港カストラ・ルネンシスだ。
ソレスタル・ビーイング号からもう既に月寄りに向かっており、救援に出せるMS隊の数もあまり期待できない。
地球連邦軍最初の月面基地より友軍が駆け付ければガデラーザIIと共に落ち延びれる。

「現速度でカストラ・ルネンシスまで残り五分です!」
「こちらバハムート1!敵はガデラーザI、ずっと食い付かれている!」

前方より巨大な粒子ビームがこちらとよぎった。
オレンジ色の束は敵MAとファングを落とせなかったが、その攻撃を緩めさせワーレン達の精神に余裕を与えるには十分だった。

「識別コード確認、GNMA-0002TガデラーザIカストラ・ルネンシス所属!友軍です!」
「来てくれたのか!」

試作機と同じ赤と紫に分けられたカラーの正式採用のそれが、巡航形態から戦闘形態へ変形、敵に突進する様がモニターに移る。
地球連邦軍は旧人類軍と違いイノベイターの軍事利用に消極的だが、慎重な軍備増強下から来る限られた戦力活用と、安全保障を理由に彼らの軍人として登用してきている。
そしてそれは当然、彼ら専用MAガデラーザIの運用を今も続けるという事になり、対旧人類軍戦の切り札として存在していた。
イノベイターに真正面から立ち向かえるのは同じイノベイターしかいない。
悔しいがそれが連邦軍人達の間での認識だった。

「連邦軍第1特務戦略機動小隊分遣隊オクトパス4である!貴官らは今の内に脱出に専念せよ!」

続けて大型GNファングを一斉射出、疲労はなく粒子残量を気にするまでもない、最高の援軍が切り込んでいく。
こちらも牽制射を維持、敵ガデラーザI

「了解!援護に感謝します!!」

生き残る可能性がこれで50%を超えた。
なんとしても追っ手を振り切り帰還すれば自分達の勝利だ。
地球圏で何年も繰り広げられる戦乱の時代では小さなレベルでしかないが。



[36851]      第31話 ガンダムハルートR1ファルコン
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:47
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第31話「GN-011RE1/FF-01ガンダムハルートR1ファルコン」

人類の相互理解という理想を胸に現実と向き合うとどうだ。
自分もみんな偏狭だったと、多くの人間が理想に懐疑的だというではないか。

(どれだけ顔を合わせても慣れない・・・。
 分かり合いたいというのに、みんないつまでも感情と狭い価値観に囚われている・・・・・・)

数多くの軽蔑、敵意、悪意を纏った見えない槍が、身体と脳に突き刺さり恐怖で縮み込みたくなってしまう。
彼女がELSの純粋な思いを理解できた分、今度は人の様々な感情に過敏になってしまっているのだ。

「仏のアーミア少佐さんよ、何固まってんだ?本当に仏像になっちまったかぁ?」
「おーい、さっさと始めろよ!みんな待ってんだぜ?

日頃トラブルを繰り返している問題児らの下品な野次が飛ぶ。
そうでなくても周囲―――アーミアの世話になっている落ちこぼれ組を除く―――のブーイングを加え、指揮官に更なるプレッシャーをかける。
上層部派遣の幕僚兼監視役達はこれをあえて、見てみぬ振りしそのまま上官を伺うだけだ。

(嫌な眼・・・・・・。私の統率力だけ見ていて部下の事を全部押し付ける・・・!)

思ってもいない愚連隊指揮に辟易し、これまで部隊再編申請を何度も図ってきた。
だが全て上層部に取り下げられ、ある時は前線を知らない後方勤務の軍人達から「相互理解で戦争を終わらせようというなら、これ位出来るだろう」と薄笑いで返された。
省みれば入隊を決心した政権交代の頃に自分専用の部隊設立を、コネで前政権に頼んだ自分は全く無責任なものだ。
まるで小遣いや駄菓子もしくは玩具をせびる子供みたいではないか。
それでも選択の皮肉な結果を、アーミアは味方が少ない中で一人背負わなければならないのだった。

「ピーピーからかうだけの馬鹿共が・・・!」

彼女が声を発するより早く副官ベガ・ハッシュマンが前に進み出た。
怒鳴ろうという所を差し伸べた手で静止、代わってアーミアが部下の前に立った。

「おぅ?説教か?アーミア・リー、てめぇの綺麗言なんぞ聞きたくねぇんだコラ!」
「早くここから出てけよ!辛いんだろ?隊長なんざやりたくねぇんだろ?」
「とっとと消え失せろエイリアン!ELSの手先が!」

侮蔑に加えてゴミやら空き缶を投げつけて挑発してくるが、これをアーミアは勇気を振り絞り、

「全員注目!」

部隊指揮官として、少佐として、透き通ったハスキーボイスで部下達に一喝。
あれだけやかましかった不良兵士の下品な罵声がすっかり静まり返り、部下全員が緊張した面立ちで女上官に注視した。

「地球連邦軍より先刻0500より通達がありました。
 私達第20独立試験部隊ソウルズは、地球連邦政府と上海臨時政府の交渉、その護衛に抜擢されました」

端末を操作し任務内容の文字と現状の画像をモニターに表示。
先々週より上海は反イノベイター派市長とその一党が私兵を率い独立、連邦軍と睨み合いながらその勢力圏を拡大していった。
新たなる反乱勢力の脅威とイノベイター迫害に危惧する連邦政府は、交渉の打診を繰り返しようやくこれに漕ぎ着けた。
これで騒乱が一つ収まるかどうかわからない。
だが元連邦オブザーバーであるアーミアが関わる以上、和平の成否を握る可能性はあるといえよう。



上海臨時政府と地球連邦使節団のいる市議会警護が、今のアーミア達の仕事のはずだった。
アーミアのGNX-805T/Wヘラクレス・ウォールズを筆頭に同機標準仕様三機からなる第一小隊が、上海派遣軍の命令により現場急行するまで市街地が襲撃に晒されていた。
議会はベガ率いる第二小隊に任せたのでテロに簡単にやられることはない。

「この羽付き・・・見た事ない!助けてぇぇ!」
「ひぃぃ・・・やられた!うっ、動かせない!」
「市民の避難はどうしてるんだ!?」

最初は街中で起こった爆発を、交渉妨害のテロか都市防衛隊の間での事故かと思った。
立て続けに上がる爆発と現場の大混乱を前に、その認識の誤りをすぐに悟る。
十年近く前のELS戦にて地球側として参戦したガンダム、その羽付きの系統らしい黄色の機体が市街地を縦横無尽に暴れまわっているのだ。
数少ない当時の記録映像に映っている機体と比較して、サイドバインダーが小さいが二本の大剣とバイザーフェイスに四本のクラピカルアンテナは全く同じである。
上海側の哨戒MSが巨大な鋏のような実体剣が振り下ろされては、次々と哀れな食用家畜のように屠られていく。
二機でいるとはいえバラバラに散開しておりまともな対応を取れぬまま堕とされ、スクランブルしてきた増援中隊すら一分足らずで壊滅されてしまう。羽付きのガンダムが市内を駆け回り軍基地を襲っては、迎え撃つMS五十機がことごとく沈黙されたのだった。
続け様にガンダムは襲い来る地対空GNミサイルを、その粒子の帯から発射元である市街地にビームでピンポイント爆撃、沈黙させていった。

「これは・・・一体!?」
「上海軍のMSが新型ガンダムに・・・、次々やられていってます!アーミア少佐ぁ!」

落ちこぼれ組からなる部下達が一方的な様相に狼狽した。
GN粒子によるセンサー妨害を受けている中、光学カメラで上空より襲撃者の機影を目の当たりにして。
操縦技術は高いが融通が利かない、隊員として上手くコミュニケーションと集団行動がとれない、根暗で気弱のMSオタクといった、士官学校ですぐ振るい落とされるべき落第生達。
アーミアの地道な指導で鍛えられた彼らだが、初めて見るガンダムの猛威と戦場の恐怖が脆弱な自信を打ち壊す。

「うろたえない!各機、戦術をプランZ-10で状況対応を!」

二機の広範囲索敵担当機が先行散開し、残るアーミア機と直掩索敵担当機が現場に直進する。

「相手はガンダム。イノベイター機と同じ位か、それ以上の危険度だから、前に出ずに索敵に徹しなさい!」
「「「了解!」」」

イノベイターなど最脅威の相手を指す戦術プログラムZ系統の十種目。
腕の立つ隊長機が単機で強敵と一騎打ちし、部下機三機は遠近を織り交ぜた索敵とデータリンクによる作戦本部のオペレートを強化させ、
防御を基本に味方の情報分析で隙を突く単機突出反撃の戦術だ。
万が一の形勢不利でもあらゆる距離からの援護を受けられる保障があるので、アーミアはこの戦術を好んでとっている。
ジャミングの制約下、迎撃の対空砲火の射線を頼りに急行した先は港湾地区だった。
旧式とはいえ高火力高防御を誇るGN-XIVフォルティス、火力支援のGN-XIII無人型、準GN機のチェンシー系などが、今や無残に四肢胴部頭部などが転がるばかりである。

(全て爆発せずコックピットは狙われていない・・・。パイロットは無事らしいね)

ここで羽付きガンダムを視認。
無人の倉庫を破壊しまわっているところだ。

(ガンダム・・・。確かにアロウズの蛮行を明るみにし、ELSとの対話に貢献してくれたけど・・・!)

牽制射を、といっても十基ものシールドビットによる斉射で。
逃げ場を塞ぐ程に濃密さで降り注ぐ、旧式のGN-XIII程度の小型GNフィールドなら貫通できる粒子ビームの雨。
ガンダムはそれぞれの腕で大剣を振り回してビームを弾き、容易く掻い潜って倉庫から離脱していった。

(この大事な交渉にも武力介入するなら・・・許さない!)

腰部サイドコンテナからハサミに似たビットを展開、大挙として押し寄せてきた。
こちらのシールビット及びGNソード拡散モードの弾幕で敵ビット群の拘束を図った。
拡散ビーム同士衝せぬよう調整された相互間の緻密な十字砲火にたちまち三基撃墜。
残る七基はビットの弾幕と隊伍の僅かなタイムラグを見逃さず、鋭利な機動で掻い潜り弾幕を突破される。

(早い!)

サイズにしては連邦側のファングより粒子散布量が少ない、しかしその機動性は同レベルのビットとは油断できない。
シールドビットを押し出し体当たりさせるも、敵ビットを七基中二基だけぶつけて破壊する程度だった。
あの敵のに比べるとこちらのはパワーと攻撃のリーチがあってもスピードで劣るのだ。

(あのビットに追い付けない!擬似太陽炉があってもシールドビットじゃあ!)

突破を許してしまった残り五基が周辺倉庫に襲い手当たり次第に破壊し回り始めた。
一帯の倉庫は市民の生活の為も資源や物資が収められる建物。このままでは上海は深刻な物資不足に、下手をすれば飢餓地獄に追い込まれる事になる。

(ガンダムの狙いは街の生活基盤破壊・・・!それを止められなかったなんて!)「してやられた!」

敵に一本取られた悔しさが込み上がってきた。
最新鋭機に乗っていながらほぼ十年前の旧型MSを相手に戦いの主導権を握られ、防衛対象の破壊を許しているではないか。

「これ以上はもう・・・!」

敵ビットは既に広範囲に散らばり、あの機動性から見て全撃墜まで時間の割りに合わない。
それよりもそれらを制御するMS本体を叩く方が時間的にも被害抑制も早いと読み、

「ガンダム!」

倉庫群を焼き払い続ける敵に肉薄、シールドビット4基で両翼を包囲した上で刃を振りかざす。
相手もハサミに似た大剣で受け止め、互い鍔迫り合いを交えた斬り合いに。
羽付きガンダムの、連邦側と別素材のエメラルドグリーンの美しい大剣がこちらの刃を少しずつ溶かし、逆にヘラクレスの潤沢な粒子供給を受けられるGNソードが敵の刃を損耗させていく。

「きっ、切れ味が良すぎる!?」

GN機同士の戦闘を十年以上重ね続けて進歩した実体剣すら、あの大剣の切れ味に磨耗してしまっているというのだ。
そこでアーミアは粒子供給を最大限に調整、刃の消耗を抑え逆に相手の刃の損耗を更に加速させる。

「あの剣は・・・切れ味で元々の低性能を補っているね・・・!」

敵の受け流しによるカウンターにはサイドバインダーで力任せに後退で、アクバティックな機動を交えた怒涛の連撃にはシールドビットと実体剣の受け流しで。
全身スパイクを生かした格闘など羽付きガンダムの攻撃手段は多彩でトリッキーだったが、ヘラクレスも基本性能の高さを生かし全て凌ぎ切る。
最新鋭にして高性能だが量産機のヘラクレス・ウォールズと、旧式だが羽付きガンダムの戦いは白兵戦でも拮抗していた。

「こうしている間にも!市街地が破壊されて・・・・・・!!」
「違う!」

声が聞こえた。青年の声だ。
否、耳に声が届いたのではない、脳に思いが伝わったのだ。

「通信じゃない!?これは・・・人の思い・・・?」

別に交信しあってはいないにも関わらずだ。

「君がアーミア・リーだね?時間がないけど君に伝えるよ」

テロリストが何を言う、と罵声を口から吐きそうになった。
いや、口に出さなかったのは脳に直接送られる情報と青年の心に触れたからだ。

「人類の未来の為に相互理解の可能性を探っているけど、その現実は厳しくて・・・苦しかったんだな。辛かったんだな・・・」
「あなたは・・・・・・ガンダムのパイロット・・・なの?私達を助けようとしているっていうの・・・??」

決して怒りで沸騰を通り越した何かになったのではない、己の半身を成すELSとの時と同じ対話だ。
刹那、彼女は自分のこれまでの言動に恥じ入った。
相互理解を求めていると言いながら敵に歩み寄ろうとせず、眼に見える行いだけで善悪を判断していた事を。
現実に揉まれてきたとはいえ、これでは不良の部下とも強硬派軍人達と何も変わらないではないか。

(交渉受け入れが罠?上海臨時政府は旧人類軍の地上降下部隊潜伏を受け入れている?それに大規模な戦力が港湾地帯と軍基地に隠されて・・・?)

上海と旧人類軍の動向、戦力、配置、計画について詳細な情報の、それらに偽りの気配が感じられない。
言葉としてではない感情が彼の真意を理解できたから。

(これが本当なら・・・上海軍は私達の暗殺を狙っている・・・!)
「少佐!破壊された倉庫に武器弾薬・・・MSが確認されました!どれも旧型ではない最新鋭でして!」
「ジャーズゥ・・・それにネオGN-X!?それに旧人類軍のマークまで・・・・・・!?」

どれも次期主力MS開発競争で脱落した数々の候補機。
脳に送られた情報と部下の報告の見事な一致にアーミアは驚愕した。

「僕達の出来る事はここまで。あとは君達に任せたよ」
「!?」

一瞬の邂逅を切り上げた羽付きガンダムが引き下がりこちらから離脱。
ビットを回収するや巨大な粒子膜を発生させその中に飛び込み、その姿形を視界から完全に消え去った。
あとは拡散した緑色の粒子だけが、アーミアのヘラクレス・ウォールズの眼中に残しただけだった。

「これって・・・ワープ・・・・・・?」

意識が通じ合えたりゲートのような空間に飛び込んだりする羽付きガンダム。
信じがたいが現実と認めるしかないだろう。



[36851]      第32話 ガルゼス
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:47
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 32話「GNW-20005 ガルゼス」

反イノベイター派最大の組織「旧人類軍」はその名の通り一国に匹敵する規模の軍事力を保有し、
同勢力のみならず敵であるイノベイター派の地球連邦内部にもネットワークを築き、統合戦争の間地球連邦に立ちはだかってきた。
ところが旧人類軍の組織規模とは裏腹に「人類の敵イノベイターの排斥」というスローガン故、彼らは終始内部崩壊の危機に置かれていた。
スローガンには様々な注約や解釈が入れられ、次々人類間でイノベイターに覚醒する現実に対しても「あくまで即座抹殺あるのみ」と叫ぶ原理主義過激派や、
人類より優れた能力から「生体兵器として生かしておくべき」と考える多数派、それを更に突き詰めて「優秀な個体のみ軍事利用しそれ以外は抹殺」と主張する者が現れる。
これまでにない変革の恐怖から始まった活動は論理で肉付けしても、時代の流れと相反する思想に矛盾が生まれてくる。
統一されない思想はやがて主導権と正当性を巡る派閥抗争となっていくのは必至だった。



西暦2324年、つまりELS戦より10年後になるとイノベイターに覚醒する者の増加に加え、彼らの間で生まれた二世代目も加わりその数を更に増やしていく。
あまりにも急激な変革を拒絶する者達も彼らが増えた分だけ増えていき、合法から非合法に至るあらゆる手段を以ってして人類の潮流に抵抗を続ける。
地球より遠く離れた、それも火星及び木星を結ぶ小惑星帯に位置する秘密基地で身内による諍いが起きていた。

「過激派艦隊、ゲート一帯の制圧を確認。引き続き待機せよ」
「ブラッド小隊、了解」

光学カメラから視覚情報を収集。
パイロットは一般のと違うパイロットスーツを着込み、首や胸など重要な部位に固定された爆弾が彼らの異様さを物語る。
彼らはイノベイター兵。人類と異なる存在として排斥を掲げながら、戦力として用いられる組織の生ける矛盾。

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

反イノベイター派最大組織である旧人類軍艦隊が自らの拠点カストロン・ヘブドモン、小惑星で構成される基地部分に隣接するコロニー型居住区ゲートに詰め掛けている。
自らの同胞に牙を剥く。それは反乱、もしくは内部抗争、内ゲバというべき行為。

(過激派は地球から上がったテロリストや民兵からなる・・・。装備は雑多で統率が取れていないが士気旺盛で勢いがある)

バイカル改級一隻、ラオホゥ改級武装輸送艦三隻の計四隻。二十機程のMSはGN-XIVフォルティスやチェンシー系を中心に、
配備されて三十年で売られて二十年も経っている骨董品レベルというべきAEUへリオンとティエレンが補助戦力という新旧雑多な陣容だ。
防衛部隊が迎撃に当たったが一分足らずの光芒を生んですぐ蹴散らされてしまった。
あまりの不甲斐なさを敵に晒しているというのに、ブラッド小隊と基地司令部の反応は至って冷静にあった。

(装備が良くても主導権を握られれば負けるか・・・)

予め過激派の動向を知った或いは予想し反撃の手段を考えていなけれ、ば淡々と監視するなど不可能な話である。
それを証明するようにパイロットも司令部も焦燥の気配はなく、民間人に受ける被害など無頓着だった。

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

乗機を外との有線接続に加えナノマシン迷彩の隠密態勢を維持させ、遠くより現場を静観し続ける。
たった今、過激派がコロニー内に雪崩れ込んでいる所だ。

(過激派切り札のGN-XIVフォルティス八機全部、チェンシー系八機が艦隊直掩に就いている。他はコロニー制圧に当たっているか。
 GN-Xとバイカル改が最大脅威、他は粒子装備に注意すれば充分だな。このガルゼスならば・・・・・・)

光学カメラを頼りに敵戦力を分析、乗機性能と照らし合わせ脅威度を推し量る。
無論、旧人類軍最強を誇る最新鋭機GNW-20005ガルゼスの獲物達から判定した評価に過ぎない。

(そろそろ頃合か)

パイロットスーツの脳量子波遮断機能と有線通信による情報制限からあくまで予測でしかない。
今頃コロニー内は寝耳に水の如く、混乱の惨禍にあるのは確かだろう。
非イノベイター民間人のみ優先的に避難が進められ、逆にイノベイターは隔離施設に押し込められたままにある。
それを好機とばかりに過激派部隊が粒子ビームやオートマトンの銃弾で彼らを血祭りに挙げる事は容易に考えられる。

「ブラッド小隊各機、ただちに前進し過激派を排除せよ!」

隊長機からの命令が飛ぶ。最後尾で司令部からの指示をこちらの伝達したのだ。

「了解」

ナノマシン迷彩を解除。真紅の機体を宇宙に姿を見せ、モノアイを赤く輝かせる。
四基二連結の擬似太陽炉の、オレンジ色のGN粒子が背と腰から迸りながら猛進を掛けた。
イノベイター専用機GNW-20004ガゼインの後継機の面目躍如。二機は一瞬の内に反逆者達の目前まで肉薄していった。

(第一目標、バイカル改)

コンマ秒という刹那の内、一キロを軽く突き進みながら右手のGNバスターソードを前に突き出す。
刀身が二つに分かれ巨大な銃身となった得物が粒子ビームを撃ち放った。
MS一機丸ごと飲み込む程の光柱が巡洋艦の艦尾をいとも容易く貫き、右へ撫で斬りのように砲口をずらし破壊範囲を広げる。
目標内部に食い込んだ圧縮粒子の炸裂が備蓄粒子にも連鎖爆発を起こしていく。
そして盛大な大爆発となり巨大な残骸として四散していった。
初撃をたったの一秒で完遂せしめる。
これで敵の火力の要を消した。後は脆弱な武装輸送艦と旧型MSと準GN機だけだ。

(続けてブラッド2が撹乱する!)

背後より付き従う四番機目のガルゼスが隊長機から散開、真上に急上昇し敵部隊を俯瞰するポジションに付く。
右腕部のウェポンコンテナより粒子撹乱ミサイルを四発全弾発射。
それぞれ四方に弧を外向きで描きながら過激派残存部隊を囲うように襲い掛かる。
ここに来て敵は味方艦の爆沈で敵襲に気付いて迎撃の弾幕を作り始めた。
しかし遅い。砲撃を済ませた一番機の接近を許してしまい、まずGN-XIVフォルティスを一機目に大剣の唐竹割りで粉砕していった。
同時にミサイルが急ぎごしらえの対空防衛網を嘲笑うようにすり抜け、指定座標の位置通りに爆発し薄緑色の粒子撹乱ガスを散布する。
包囲するように撹乱膜が敵を中央の僅かな安全域に押し込み、粒子膜突破と引き換えの戦力分散か包囲された上に良い鴨を甘んじるか選択に混乱をもたらす。

(やはり大半は練度が低い。すぐ混乱した)

精鋭のGN-XIVフォルティスは二機共同でGNフィールドを張り、撹乱膜突破しようとする残存艦を守る。
対照的にチェンシー部隊だが、拡大していく撹乱膜に恐慌状態に陥り陣形が瞬く間に崩れていったではないか。
各イノベイター兵はパイロットスーツに脳量子波遮断され敵の内情を察知できないが、座学や訓練に戦場で叩き込んだ敵のパターンから見抜けた。
パイロットの内、GN-XIVフォルティスを駆る方は間違いなく元連邦兵の旧人類軍正規部隊所属に当たる。
それ以外は反イノベイター感情だけ人一倍の烏合の衆でしかなく、組織の頭数合わせに引き入れた非正規部隊である。
彼らは兵器提供に関しては重要な顧客であり予備戦力でもあるのだが、軍人として訓練を仕込み辛く今回のように統率を失いやすい。

「こちらブラッドリーダー。分断された敵をブラッド3は二軍を、ブラッド4は一軍を掃討せよ」
「「了解!」」

ブラッド4が敵の懸命に放たれた粒子ビームを束を擦り抜け、粒子撹乱フィールドから顔を覗かせたラオホゥ改一隻を瞬時に撃ち抜く。
射撃の障壁に制限された射界にGN-XIVフォルティスは自慢の粒子兵装を思い通りに生かせず、牽制程度にしか貢献出来ず守勢を強いられている。

(あの辺りの濃度なら撃っても十分通用する!)

続けて三発連続発射。あえて撹乱膜に向けて走る火線がガスに減衰されながらも、最も薄い膜の外周を突き抜けていった。
膜の中でこちらも粒子ビームが撃ち辛いなら向こうも同じだろうと思っていた一機を固め撃ちで撃墜、二発もそれぞれ撹乱ガスに隠れていた機体を次々吹き飛ばす。
一方のブラッド3は暴風のような立ち回りで、チェンシー部隊に一方的な攻撃を繰り出していた。
唯一対抗出来る200ミリ×25口径長滑腔砲すら混乱状態にあってはまともな対抗が出来ず、次々とGNバスターソードGNクローの餌食となり、宇宙の藻屑に成り果てていった。

「ブラッドリーダーから各機、敵本隊はラオホゥ改一隻、GN-XIVフォルティス五機まで減少」

安全な後方に居座る指揮官より状況伝達が届く。
背中に巨大なGNメガランチャーを二基備える砲撃武装の隊長機と副官機は自慢なはずの高火力を全く見せ付けずに、近接装備のイノベイター機の戦闘をただひたすら傍観している。
そんな後方の怠慢に先鋒の2機は、だが当然の事のように何の逆撫でに起こさず任務を遂行するだけであった。

(敵の機動に鋭さが増した?)

命中するはずの光条が敵機を通り過ぎた。
一条だけではない。二条、三条目も射線から敵が外れてしまった。
GNバスターソードライフルモードの粒子ビームを拡散に変更、一発一発がGN-X系GNビームライフル標準出力並の拡散ビームを撃ち込むが回避されてしまう。

(イノベイター相手にこれほど動けるとは・・・・・・。まさか・・・)

先まで屠られる身にあったGN-XIVフォルティス部隊がここで戦力消耗率を半分近くで打ち止めになる。
ここから反抗へ切り替えるのはすぐに違いない。

「ブラッドリーダーへこちらブラッド3、敵パイロットは擬似イノベイターの可能性あり。トランザムの許可を頂きたい」

旧人類軍で大々的に運用され、起源を遡れば超兵波研究所で編み出された改造人間兵。
技術変革によってイノベイターと同等の能力を、因子の持ち主以外にも肉体改造する必要なくナノマシン投与のみで会得できる。
これが旧人類軍正規部隊全体に行き渡れば近い将来、数で圧倒的に劣る自軍が地球連邦軍に対して表立った攻勢を掛けられるといわれている。
事実、熟練兵の実力にイノベイターの能力が加味された総合戦闘力は、ガルゼスとの差を大きく縮め互角に近くなっていた。
粒子撹乱膜の最低限の回避機動だけでこちらの射撃を擦り抜け、収束ビームや拡散ビーム、肩部GNビームガンで反撃の弾幕を生み出す。
非イノベイターパイロットでも彼らの機動を封じられる大火力に加味された、頭脳と思考を含む総合能力強化による的確な射撃という猛威。
二機のガルゼスはそれら粒子ビームの光柱と暴風をことごとく潜り抜ける。だがこの先、損害なしで掃討できる見込みはこれで無くなった。
この時点で許可が降りないまま敵のトランザムを許せば瞬殺されるのはガルゼス3、4番機の方だ。

「全機、トランザムの発動を許可する」
「ブラッド3了解!」
「ブラッド4了解!」

多くの殺戮で血を浴びたように紅いMSは朱色の流星となり敵一機を光球に。
残存GN-XIVフォルティスも同じような流星になり、それらが複雑怪奇な機動を交え激突した。
GNバスターソードの薙ぎ払いが、GNパイクの刺突が、GNバルカンの弾幕が、ぶつかり合う度にあらゆる手で何十も繰り出される。
互いのカードを出し尽くす激戦は機体に損傷を生み、やがてどちらかが盛大に散っていくのは時間の問題だった。



「・・・これでよろしかったですか?」

モニターにブラッド2の顔が映し出された。
上官の指揮に疑問を浮かべているという口調で問うて来る。

「ん?トランザムさせなければ、敵にもけしかけられずに手札を温存させてしまい、こっちの意図が読まれるのだぞ?」
「過激派掃討の総仕上げ、ですか・・・」

この作戦の為に上層部が特別用意した擬似太陽炉直結型背部GNビームキャノンの使い道が見えてきた、と言わんばかりに部下の目が見開く。
巡洋艦と駆逐艦に搭載されている標準型の二連装GNビーム砲と管制装置をガルゼスに転用したあの装備の見せ場を。

「あの駒共が過激派にやられれば忌々しい化け物兵士が減らせるし、このまま掃討していけば過激派はしばらく黙ってくれる。
 どっちに転がろうと旧人類軍にとって損はあるまい・・・・・・!」

彼らは自体を本当に知っているのだろうか?
常に消えぬ不安要素に対する努力は無駄でしかないと。
内憂外患にある軍事組織の崩壊を告げる不吉な予兆であると。



[36851]      兵器設定5
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/02/27 20:14
機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定5

GNX-805T/IMヘラクレス・インペラートル
本体重量
68トン
固定装備
クラピカルアンテナ   頭部、胸部、肩部、背部及び腰部サイドバインダーに装備された大型粒子制御装置。
            GN-XI以上のボリュームに加えて最新技術を注ぎ込まれており、従来MSに比べてGN粒子制御能力が卓越している。
            一キロに及ぶ制御範囲内において濃密なGNフィールドの展開や粒子ビーム屈折など可能で、
            逆にGNビームライフル程度の敵粒子ビームなら霧散無効化に出来る。

正式名称は粒子制御試験機と呼ばれるヘラクレスのバリエーション機。
愛称のインペラートルとは古代ローマ公用語でもあるラテン語で皇帝、遡れば軍最高司令官、命令する者を意味し、名称にちなみGN粒子の完全支配を込められている。

マスラオやスサノオ、ブレイヴI以上の複雑な粒子制御の必要性から関連コントロールは量子制御に変更され、
粒子制御試験の延長にマイクロウェーブ受信アンテナを背部サイドバインダーに内臓し、長時間に渡るGN粒子の変幻自在な制御が試せるようになった。
GNステルスフィールドの影響下でも粒子制御範囲内では粒子兵装無効化を半減に留め、その高い戦闘力はIVまでのGN-X系ならば粒子兵装を封じ一方的に撃墜出来る。
本機の運用データは次期主力MS開発計画に生かされ、粒子制御技術は簡略化という形で旧AEU系のGNX-Y805Tネクストに受け継がれた。



GNMA-0003ガデラーザII
全長
101メートル
装備
GNブラスター    砲身を上下に粒子ビームを撃ち出す主兵装。強力無比だが一発ごとに強制冷却を強いられる単射モードと連発可能な速射モードに分かれている。
GNクロー      サイドウイング内に折り畳みで装備された隠し腕。掌の部分にGNバズーカ並の砲口のGNバルカンを搭載し、巨大なビームサーベルとして使用可能。
           機体サイズに比べて大きくクロー部分はガデラーザIとほぼ同じサイズ。
GNミサイル発射機  サイドウイング下のコンテナに四発ずつ搭載する、子弾八発のクラスター型。
GNバルカン     頭部に二基搭載した近接防御装備。口径も威力もGNクロー側と同一。
GNフィールド発生機 
オプション装備    擬似太陽炉基部脇のパイロンに懸架される。
大型GNファング   主兵装にGNブラスター、小型ファング八機搭載した大型ビット兵器。擬似太陽炉三基連結で推進する。最大四機搭載可能。
           通常パイロットでも入力で遠隔操作出来るがイノベイターでなければ性能を引き出せない。 
その他
圧倒的性能と引き換えにコストパフォーマンスが最悪のGNMA-0002ガデラーザIに代わる地球連邦軍主力大型MA。
ベース機から三分の一という小型化に伴い単機による敵軍撃破から対艦、要塞またはMA及び二機一個小隊による戦略打撃にシフト、
非イノベイターパイロット操縦を前提、近接防御装備の充実にサイドバインダー大型化、と大きく設計変更し新規開発された。

変形機構は簡略化させ頭部は後部に収納せず真下の隙間に顔が隠して固定、擬似太陽炉も左右二連結の四基に減らし脚として方向転換を容易にし機動性維持を図った。
コックピットが存在する頭部はコアファイターとして切り離し、擬似太陽炉二基の推進力で戦域から素早い離脱を図れる。

イノベイターパイロット用の単座型、非イノベイターパイロット用の複座型の二種類バリエーションを持つ。



GN-011R1/FF-01ガンダムハルートR1ファルコン
総重量
60.2トン
装備
GNソードライフルII   機能は十年前の使用と同じ白兵射撃両用装備。刃は新素材のみの構成となりライフルは左右二連装に変更された。
GNショートビームキャノン 口径をそのままに砲身を半分に切り下げ、飛行形態における機首から独立して射撃出来る。
              射程は短いが取り回しが利き高威力の単射とガトリングガン並みの弾幕を張れる連射で多数の敵に対応可能。
GNシザービット      GNコンデンサーを一新した改修型。サイドコンテナ一基につき五機搭載する。
パイロット
アレルヤ・ハプティズム(ハレルヤ・ハプティズム)、マリー・ハプティズム(ソーマ・ピーリス)

西暦2324年の技術で外見のみ再現したガンダムハルートの性能向上型。
形式番号のFF-01は「Fighting(格闘)Flight(飛行)一型」の略称であり、
その名の通り近接戦と格闘戦に適したサイドコンテナに換装されELS戦で大破した1号機よりシャープで軽快な外観になっている。

サイドコンテナを変更した恩恵で従来問題だった機動力が改善し格闘能力が改善され、なおかつ武装を減らさずにして戦闘力の向上を実現した。
しかし純正太陽炉はELS戦で失い新造分は新世代ガンダム運用試験に回され、GNコンデンサーを動力源にしており稼動時間は制限されている。
GNコンデンサーの度重なる改良と00クアンタからのフィールドバックで量子ワープが可能になったが、粒子備蓄量と戦闘時間を差し引いて二回しか出来ない。

よって一回ワープで敵防衛網をすり抜け飛行形態を交えて敵部隊を蹂躙し、二回目のワープで安全地帯に撤退が本機の基本戦法となる。
政治的にも最も危険で悪影響を及ぼす紛争の介入に、ソレスタルビーイング本隊によって運用された。



GNW-20005ガルゼス
頭頂高      本体重量
23.1メートル 75トン
装備
GNバスターソード ガゼインが流用してきたアルケーガンダム用から一新した大型実体剣。GNコンデンサーが鍔に内臓され一時的に威力を増大できる。
ウェポンコンテナ  マニピュレーターに装着する小型GNシールド兼用多用途装備。GNミサイルやGNファング、GNビームキャノンなどを選択可能。
GNシールド    ガルゼス専用の実体盾。機能も性能も量産型MSと大差ないものの、中央GNコンデンサーを擬似太陽炉に換装すれば防御が劇的に向上する。
          しかし直結型は余裕のない物資を問題に試験用として三基しか造れなかった。
固定装備
GNバルカン
GNビームサーベル
オプション装備
GNビームキャノン 巡洋艦の二連装主砲と管制装置を流用、肩部に装着する重火力装備。
          基本GNコンデンサーの圧縮粒子を発射に用いるが、一部特殊任務には火器用擬似太陽炉を直結する事がある。
GNファング    ガゼインからの流用しつつGNコンデンサーを新型に改め貯蔵量を増やした。

旧人類軍初の新造機にしてイノベイター専用機GNW-20004ガゼインの後継を兼ねるスローネ系MS。
精鋭機ガゼインのMSとしてあまりに異形のアルケー系のフレームとパーツが他MSと互換性がないのを長らく問題にしてきたが、
戦力を拡大させ反連邦最大の組織の体裁を整え余裕が少し出来た事で、代替を兼ね主力MS開発に先駆けた少数精鋭機として開発された。

二組のツインアイは健在だが中央部可動式モノアイと一対の大型クラピカルアンテナがガンダムらしさを抑えられている。
機体形状は四肢が極端に長いアルケー系からスローネ及びGN-X系(IからIVまで)に戻し整備性と互換性を改善を図り、
擬似太陽炉は四基二連結でそれぞれ胸部と腰部に搭載、更に軍事産業経由で地球連邦軍から盗んだ最新技術を惜しみなく投入された。
武装は比較的簡素で、対イノベイター戦術が両軍に浸透している事を考慮しビット兵器は補助装備に留まっているが、
基本性能は高く連邦軍より規模が劣る旧人類軍の事情と要求に合致し、連邦軍で本機に対抗できるMSはヘラクレス系の一部かブレイヴIIしかいない。

イノベイターパイロット用のイノベイター仕様と、エースパイロットや督戦担当でもある非イノベイター指揮官及び副官の乗る通常仕様で構成される。



[36851]      第33話 ガンダムサバーニャR1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:48
機動戦士ガンダム00統合戦争緒戦記

第2部 第33話 GN-010RE1 ガンダムサバーニャR1

統合戦争における私設武装組織ソレスタル・ビーイングの武力介入は、連邦政府公式記録では決して多くはない。
地球連邦軍と旧人類軍の武力衝突が最高潮に達した戦争後半に集中していたのも要因だが、彼らの介入が秘密裏に行われ隠匿性が高かった事も大きい。
これはガンダムと他MSに性能差がなく表立った介入は困難であり、統一政体を成す地球連邦が大半に渡って正常に機能し武力介入の余地などなかったのだ。
また組織の財政が好転したとはいえ万全ではなく、切り札のツインドライブ搭載ガンダムは運用試験中にあり、行動を開始するには尚早だった。
再台頭した強硬派政権の下軍備増強と国家再編を進める地球連邦と、不満分子を扇動しつつ勢力を拡大する旧人類軍が小競り合いを繰り広げる統合戦争中期。
ソレスタルビーイングの数多くの秘密裏の武力介入とは例外的に、ELS戦以来となる組織総力を挙げた武力介入が一回行われていたという。



私設武装組織ソレスタルビーイング本隊を成す戦闘艦―――数年後には新造艦に代替予定にある―――プトレマイオス2改、
ある日開かれたブリーフィングは緊張に張り詰めており事態の重大性を物語っていた。

「近ければ二週間、遅くても一ヵ月後くらい・・・・・・。
 中央アフリカに潜伏している旧人類軍第三次降下部隊が周辺武装勢力を統合した上、潜水艦や偽装商船で連邦領都市に無差別爆撃を仕掛ける。
 目標は首都ワシントン他ニューヨーク、モスクワ、北京、東京など地球連邦各地の大都市よ」

ソレスタルビーイング司令官「スメラギ・李・ノリエガ」、年齢44と役職に比して多少若くも歴戦の将が告げる。
端末で表示された大型スクリーンには敵の作戦、最も確率の高いミッションプランを順に提示され、現有戦力に見合った進路と必要時間まで入っていた。
各プランによって程度が違うが最悪の場面における犠牲者の数に、誰もが敵の行為に不快感を沸き起こした。

「敵さんは連邦市民に直接被害も勿論、初期型擬似GN粒子で大量の細胞障害患者を作るのさ。
 そうしてインフラ破壊で経済打撃に加えて大量の患者を抱えさせて財政を圧迫する」

MS隊長を務めるガンダムマイスター「ロックオン・ストラトス」が、ピストルに真似た右手を世界画像に指し目標都市攻撃を強調。
彼はアロウズ時代より戦ってきた今年42歳の壮年兵だが、加齢の皺にも勝る飄々とした性格は組織参加当時から全く変わっていない。
本来後方で前線指揮を執るが、今作戦では久しぶりに最前線復帰し指揮は戦術予報士フェルト・グレイスに兼任されている。
アレルヤとマリーらハプティズム夫妻を含むガンダムマイスター達とクルーは野次を飛ばさずに、モニターに表情を険しくさせて睨み付けるだけでいた。
旧人類軍の非道な作戦に怒りを感じながら、だが表に出さず黙々と。

「あのスローネの拡大版というべきな作戦、実施されれば連邦軍が対応するまで最長三十分の間に世界規模の被害を受ける事は間違いないわ」

西暦2325年より18年前の武力介入開始の年、組織の計画外に用意されたチーム・トリニティによる過激な武力介入。
民間人の巻き添えを厭わぬ攻撃に、ビーム用に圧縮された初期型擬似GN粒子の副作用で細胞障害に罹った者は千人近いという。
ナノマシン服用で生き永らえてきた者もいれば苦しみながら死んだ者もいる。
今回旧人類軍が作戦実行すれば何十何百倍の、死者100万人程と負傷者600万人というかつてない規模となる。

「我々ソレスタルビーイングは事態と紛争根絶の理念と照らし合わせ、最危険紛争幇助行為としてこれに武力介入します」



武力介入は量子ワープを実行する前に始まった。
はじめに小惑星帯のサポートチームとフェレシュテを至急呼び寄せ、人員物資から可能なミッションプランをヴェーダと考案という準備から。
実行部隊にプトレイマイオス2改の本隊ことトレミーチーム、支援にフェレシュテ、予備戦力に他チーム。
総力を挙げた戦力だがその内実は寒い限りで、トレミー及びフェレシュテには3、3.5世代ガンダムが、ツインドライヴ搭載の00クアンタR1二機は能力隠匿の都合で試験チームに回されているという。
00クアンタR1を前線に出せばたったの二機で敵軍を殲滅するなど何の造作もない。
だがこれまで試験途上にあり新技術もGN粒子の新用途もまだ完全に編み出されていない現状下、無闇に紛争介入に投入すれば両軍の軍拡競争を刺激させ逆効果になってしまうのだ。
よって不利な戦況にのみ投入という、時間的にも戦力的にも余裕のないというのが今武力介入の実情だった。



第一波を担うハプティズム夫妻のガンダムハルートR1ファルコンが出撃して五分後、第二波のガンダムサバーニャR1がカタパルトの加速に任せ量子ワープを実行。
二機のガンダムサバーニャR1が目標付近に転移した先は中央アフリカに位置するソマリア丘陵地帯、旧人類軍作戦司令部が置かれた野戦キャンプの真っ只中である。

「サジタリス・ブルースカイ、ガンダムサバーニャR1二号機!量子ワープ完了!これよりミッションファーストフェイズを開始する!」

スカウト前はイノベイター少年兵だった新ガンダムマイスターが、一番機のロックオンと反対側に転移し次第敵地の蹂躙を仕掛けた。
18歳のほぼ大人であるサジタリスは茶色の瞳で状況を俯瞰する。
基地司令部は既に第一波の爆撃に既に焼かれ、トップを失った駐屯兵は部隊ごとに事態対応していれば良い方で、ほとんどは混乱し状況把握だけで精一杯にあるようだ。
まずもって迎撃MSが上がる様子はなく哨戒MSは持ち場から離れられず、この時点で戦力空白が大きく生まれている。

「食らえ!安全な所から尻を叩きやがる糞野朗共め!」

ミッション通り憲兵隊の宿舎を補足、その区間にピストルビットを八機中六機差し向けて粒子ビームの雨で焼き払う。
敵軍中核の旧人類軍は精鋭部隊と憲兵隊で二分されており、その内後者は督戦用にMSが大量に用意されているという情報を得ている。
作戦では勇猛だが暴走しやすい武装勢力の督戦や監視を担当する憲兵隊を叩けば、連合軍の統率は大きく乱れ連携の支障をきたす事を意味する。
何より戦局を傾かせた際にて死兵になって抵抗してくる可能性が大幅に減り、一部の敗走による部隊瓦解の可能性が100%中50%以上を軽く上回るのだ。

「地獄で悪魔に裁かれやがりな!」

彼自身、過去キャンプで威張り散らす憲兵達の気まぐれな私刑と粗探しに晒され、戦場では逃げるどころか退きも縮こまりもすれば殺しに掛かる督戦隊の大人達を恨んできた。
その結果死ぬまいと銃弾飛び交う戦場で自分は山ほど殺してきたが、憲兵と督戦隊は大人で立場が上なのを良い事に自分達少年兵を使い潰してきたのだ。
安全な所から「死ね」「戦え」と怒鳴る腐った大人達と同類の連中を討ち滅ぼした事にサジタリスは罪悪感なく吐き捨て、すかさず次の目標にMS簡易格納庫に目を向ける。

「サジタリス・ブルースカイ、目標を焼き払うぜ!!」

各ビットの圧縮粒子を一箇所に収束、巨大な光柱として一区間まるごと消滅させた。
旧人類軍の主力機ネオGN-Xとジャーズゥが、火力支援機GN-XIVフルミナータが、無人機GN-XIII重火力装備が、等しく焼き尽くされ分子に回帰していく。
続けてピストルビット六機を全周囲に散開、広域焼却設定の粒子ビーム散弾を地上で恐慌状態の旧人類軍将兵に、物資集積地に無慈悲に撃ち込む。
焼かれ苦しみながら死んでいく人間達の怨嗟と絶望、恐怖が、脳量子波と共に彼に数百数千も伝わるが歯牙にも掛けない。

(奴らは戦争を拡大させるだけの存在だ!好き好んで参加した自業自得な奴らだ!どんどん潰して良いだろうが!!)
「憲兵共に、威張るだけの糞ったれ共にプレゼントだ!」

敵軍の中核を叩けば叩いた分だけ武装勢力の士気が落ちる。ここで徹底的に叩きのめして損などはある訳ない。

「サバーニャ二号機、攻撃が予定より二倍過剰になっているです!急ぎ予定ルート通りに進攻してくださいです!」
「ちぃっ・・・!」

主席戦況オペレーター「ミレイナ・ヴァスティ」より叱咤が飛んできた。

「時間切れか・・・!サジタリス・ブルースカイ、予定ルートに急ぎ戻り進攻を再開する!」

名残惜しいが熱中しすぎた故の過失だ。ロックオンと連携に支障をきたしてしまうではないか。
哨戒機が戻ってくる前に全ピストルビットを集結させ、機体を超低空飛行で進攻ルート通りキャンプの上を進み行く。
だが切っ先がこちらに届くほど距離を詰められていなくても遠距離より反撃が来る頃合いなので、ホルスタービットII四機を円陣に展開しておいた。
そこへアラートが飛ぶ。敵の反撃が遂に始まったのだ。
GN-X無人機のGNメガランチャーから盾兼ホルスター型兵装が火線を逸らしてくれた。
作戦に向けて設定される赤色の初期型擬似GN粒子ではなくオレンジ色の世界標準の擬似GN粒子だった。

「俺が調子乗ったせいか!」

凶報は一撃目とそれに続く反撃の粒子ビーム数発の威力が想定通り強力なせいで、ホルスタービットIIを正面からでは全て受け止め切れない事。
ガンダムとビットの位置取りを的確に決め、火器管制担当のハロ二機による跳弾と粒子制御フィールドによる屈折や拡散、盾の防御を組み合わせて初めて猛攻を受け止めている。
受け止め曲げ逸らし弾く度に全GNコンデンサーの備蓄粒子が少しずつ、されど確実に磨り減ってしまう。
逆に吉報は防御のおかげで機体にダメージはなく、ビットの損失もない事である。
お陰でサジタリスの乗るガンダムサバーニャR1はなんとか予定ルート通りに進攻出来ている状況だった。

「旧人類軍防衛MS隊、サバーニャ二号機担当区の前衛だけでも合計二十機!左射線陣形で包囲を仕掛けるです!
 プラン維持のまま防御のみの対応、一号機と交差地点へ急いでです!」

こちらの確認と転送情報分から、前衛はネオGN-X八機とGN-XIVフルミナータ四機、GN-XIII無人型重火力装備八機からなっている。
オレンジ色の粒子ビームの数が十を越えミサイルまで加わってきた。

「了解!!」

暴風のように強烈な反撃が鬱陶しいがミッションの為に耐えなければならない。
現装備で迎撃部隊を撃滅出来る火力を持っているしサジタリスがそれを可能にするだけのパイロット技量を持つ。
しかし彼とガンダムサバーニャR1二号機はその程度の戦力でしかなかった。。
地球連邦軍も旧人類軍のMSも基本性能では量産機すらこちらを上回り、精鋭機に対して00クアンタR1以外どのガンダムも太刀打ち出来ない。

「旧人類軍第二キャンプよりイノベイター部隊二個小隊のスクランブルを確認!接敵まで一分です!」
「トランザムで来るか!!」

伝達と共にモニターに敵情が表示される。
今度はクワドルプルドライブ機GNW-20005ガルゼス八機という、決して会いたくない最悪の敵だ。
このガンダムでは火力も防御も基本性能も全く太刀打ち出来ない。

「おい!サジタリス!お前派手にやらかしたな。その間にロックオン・ストラトスは予定交差地点より越えちまったぜ。だがミッションに支障はねぇ」
(おっさんなのになんて腕だ!アロウズとELSと戦った腕はこれ程なのか・・・・・・!余裕まである・・・・・・!)

こちらが敵の追撃を受け止めながら急ぎ進攻してきたが結局ミッション通りに進めなかった。
無念と先の過失の後悔がサジタリスの胸に突き刺さるも、すぐに振り切り機体を操縦に神経を傾ける。

「行くぜぇ、サジタリス!!」
「了解、ロックオン!!」

キャンプを蹂躙する二機のガンダムが全ライフルビットを一斉発射した。互い向かい合ったままで。
GNバーニア全力噴射、それぞれ左右にずらしガンダム同士距離を置いて交差していった。
サッチウィーブ戦法―――奇策を織り交ぜて―――を仕掛けたガンダムの射撃に、不意を突かれた二手の敵はあえなく粒子ビームの弾幕に直撃し、手足頭胴などが好き放題蹂躙され爆発四散した。
純正太陽炉不足と特性による性能向上の制約の中、粒子関連技術が研ぎ澄まされた火器は地球側MSのそれらを上回るのだ。

「敵部隊三十%消滅!ファーストフェイズ完了です!」
「ロックオン・ストラトス、これよりセカンドフェイズに移行するぜ!」
「サジタリス・ブルースカイ、こちらもセカンドフェイズに移行する!」

次はダメージを受けた敵部隊に正面より叩きのめし突破する。
・・・と、その最終目的は量子ワープでトレミーに帰還する為の前進退却なのだが。
今武力介入は時間制限下の状況からスピードが命、つまり量子ワープによる奇襲を掛け痛恨の一撃を加える事。
旧人類軍降下部隊の中枢に打撃を与えたら、その次に実働部隊たる武装勢力の攻撃が待っている。
これらが完遂すればアフリカ方面の反イノベイター派は主力と遠征用物資を失い守勢に回らざる得なくなる。
それまでソレスタルビーイングの武力介入は何日も続けられる。
ガンダムサバーニャR1二機の連携攻撃時に劣らぬ大爆発が敵側よりまた盛大に上がった。



[36851]      第34話 ペルセウス
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:48
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第34話  GNO-0001 ペルセウス

ELS戦争より3年後に勃発した統合戦争は、本質的には内戦にあり規模が太陽系レベルまで拡大しただけに過ぎない。
合い争った主要勢力の地球連邦と旧人類軍は終始内通者の楔に悩まされ、彼らのネットワークによる漏洩を防ぎ切れなかった。
双方の必死の努力にも関わらず敵に漏れてしまう、作戦情報、勢力状況、戦力、物資、兵器設計図、脱走兵、部隊脱走・・・・・・。
さながら致命であらずとも絶えず流れ続ける懐の血と言うべき様態にあり。
一方、連邦旧人類軍間技術流出の結果、兵器開発が活性化という一面を持っていたのだった。



西暦2322年、すなわち統合戦争五年目。
一斉蜂起とコロニー義勇軍と旧人類軍の衝突の後、小競り合いを繰り返す膠着状態の最中の事である。
地球連邦大企業アース・インダストリー顧問ジョージア・E・ジョーストン―――本名ジョシュア・A・ジョンソンの派遣先、
小惑星帯に位置する旧人類軍本部カストロン・マサダにて、当地将官達と共に納入品の数々を前にしていた。
厳重保管された兵器設計図が収められたアタッシュケースやサンプル品、連邦側試作MSの数々、レアメタルを含む資源と軍事資金の山が、
二隻のウラル改級大型輸送艦民間仕様から荷降ろしされる様子をエアロック内の安全な管制室で話し合いながら。

「地球連邦の兵器開発再開の恩恵は大きいな。ELS戦より前から計画を練り戦争に備え集積してきたアイデア・・・。
 一斉蜂起直後、ジョージア君が義勇軍を率いたおかげで開発がはかどり、今やっと連邦政府がそれを公認してくれた。
 戦争初期において我々の作戦を頓挫されてくれたのは気に入らんが、結果戦争を煽ったという功績は大きい」
「は」

かつての仇敵を前にしながら淡々と事実を述べる旧人類軍総司令官煉王道は、50代初頭と将軍として軍人として脂身が乗った元地球連邦軍、遡れば人革連軍出身の老将。
ジョンソンは煉総司令を含む連中の冷たい視線に微動だにせず応答して、

「連邦の、2つのMS開発計画は順調です。それに伴い不採用になった試作機は豊富。そのデータ、設計図をほとんど集められました。
 ・・・アース・インダストリー社の手引きはもちろん、こちらの旧AEU開発陣の協力のおかげです」

右手を振りかざし周囲の視線を別の集団へと促す。

「次期高性能量産機候補、GNX-Y804TイナクトII開発担当、の亡命者達か・・・・・・。
 スペックは充分高いのだが、を我々でも扱えるかどうかまだ不明だな」

煉総司令がチラリと技術者を品定めした。若干軽蔑を込めた視線で軽く睨み付ける。
AEU系軍事産業の貪欲さから来る悪評は世界でも有名である。
軌道エレベーター建造遅れと影響力の低さの埋め合わせに成り振り構わない兵器輸出を推し進め、途上国の紛争悪化とテロリストの重武装化を招いてきた。
このような気質は地球連邦によって政治的にも軍事的にも統一されても消える事なく、統合戦争勃発で再び活性化し出す始末である。
今回こちらに亡命した意図はあからさまにわかる。
ライバルの旧ユニオン系開発陣が造ったGNX-805Tヘラクレスの正式採用に対抗して、こちらに不採用機を売り込んできたに過ぎない。
だが統一政体が大金を注ぎ込んできた試作MSをここで無碍にするには、技術的価値があまりに高く調べずにはいられなかった。

「連邦軍の評価試験は良好との事です。性能は申し分なし、ヘラクレスより生産性が高いが拡張性が低いという結果とありますが」

ジョンソンの地球連邦視点評価を言うと旧AEU系開発陣が割り込んできた。

「我々のGNX-Y804TイナクトIIのコンセプトはGN-X系の後継及び拠点防衛であります。
 GNドライヴ(T)と機体数の制限下、多様な任務に対応でき、なおかつ長期戦が可能なように設計いたしました」
「カタロン以上の戦力にGN機を豊富に揃えているとはいえ我々にまだ余裕はない。
 こちらが求めているのは限られた装備で戦況対応出来る即応性と、乏しい戦力を使い回せる継戦能力だ。
 資金も物資も潤沢な連邦軍のドクトリンに則った兵器が、旧人類軍にすぐさまそぐう訳はないではないか。まして、拠点防衛とか信頼性を重視していてもだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あれの採用不採用は評価試験次第だ。だが技術と運用データは大いに生かせると断言しよう」

その脇で、ジョンソンは思案する。

(そっちこそガゼインの後継機の独自開発に勤しんでいるではないか。何も無理にMSを何種類も揃える事ないだろうがデータ収集ならば納得いく・・・・・・。
 程なく次期主力MS開発計画が始まるのだ。高性能試作機に加えて次期主力候補機をかき集めれば、それだけ技術ノウハウと運用データを次に生かしやすくなる・・・・・・)

端末に表示された、GNX-Y804TイナクトIIの設計図。
旧AEU最後の主力機AEU-09イナクトに酷似した曲線のデザインと顔面のセンサー素子に、イノベイドのガ系MS共通のフレームが組み合わさっている。
額左右に伸びるクラピカルアンテナとツインアイはガンダムを髣髴させる。
L2の外宇宙航行艦ソレスタルビーイング号にあったGNZ-001ガルムガンダムを元に建造されたそれは、
コアファイターと肩部大型GNコンデンサーもAEU系デザインである事を除けばベースと全く同じだった。

「ジョージア・E・ジョーストンもといジョシュア・A・ジョンソン顧問。物資提供に大いに感謝しているぞ。
 連邦系MSの評価試験でも我々は大いに期待している!・・・・・・連邦への見返りは、無条件で用意しているぞ・・・!」
「は!」



GNX-Y804TイナクトIIの評価試験は旧AEU開発陣の期待を裏切る、長く過酷な様相を呈するようになった。

「思った通りイナクトIIのマイクロウェーブ受信装置は、こちらでは全く使い道がない。
 ここでは太陽光が弱いし核発電所も燃料輸送ルートをすぐに増やせないから増設なんて出来やしないよ」
「専用パーツばかりでGN-X系とパーツの互換性がない!このままアルケー系のガゼインとGN-X系に加えてしまえば整備施設と生産ラインが複雑になってしまう!」
「顧問よ、確かに良い期体でしょうが旧人類軍で使うにはコストパフォーマンスが悪いですぞ。技術だけでもかっぱらうしか使い道ありませんぜ・・・」
「コアファイターは無くて良いのではないでしょうか?生存性を高めている割には拡張性が犠牲になっていて、かえって連邦より数に劣るこちらの損害率を下げられないかと。」
「四基のGNウイングは制御系統と粒子制御が複雑でいっそ省くべきです。」
「小型化されているのでGNドライヴ(T)の出力を20%抑えて操縦性を上げてはどうでしょうか?」

連日のように殺到してくる現場の意見に気圧され、余分と言われたパーツ除去と調整を重ねなければならない悪戦苦闘の日々。
それでも正式採用の為に彼らは奮闘し、改修に改修を重ねる内に機体は外装を残して内部が大きく変わっていった。



評価試験が始まって一年経ち翌年となった西暦2323年。
内部改修を重ねてきたGNX-Y804TイナクトIIは最早原型とかけ離れ、GNOー0001Tペルセウスという形式番号と名前が授かれた。
形式番号のXに代わるOは旧人類軍を意味する「Old man army」の頭文字から取った文字。
ギリシャ神話の英雄ペルセウスが怪物ゴーゴンを討ったエピソードにちなんだこの機体は、現代のゴーゴンたるイノベイターとELSの打倒の思いが込められている。
まさしく旧人類軍の為の機体として生まれ変わったのだった。

「スペックは原型機より十%向上。拡張性、稼働時間共に二倍に・・・。整備性も改善、GN-X系と七十%もパーツの互換性があります・・・・・・」

若い参謀の一人の呟きに、総司令部の誰もが驚愕のあまり沈黙した。
その独り言が全員の共通意見でもあり沈黙の原因でもあった。

「旧人類軍の皆様方、いかがなさいましたか?このペルセウスの仕上がりは?」
「彼ら開発陣の強い要望に従い評価試験が長引いた事実は隠しようなく、また私の力不足でもあり申し訳ありません」

宇宙を舞うペルセウスの映像の手前。満足面に開発主任が総司令部の面々に訊き、ジョンソンが補足を入れる。
数々のモニターの一つは模擬戦の場面。相手のGN-XIVフォルティス三機相手に互角に立ち回り、粒子ビームの火線を潜り抜け高機動力を見せ付けている。
時間は事を始まってから三時間経ち、その通り表示されているではないか。これは非可変量産MSの標準戦闘時間より倍以上戦い続けている事になる。
無論、パイロットの交代はあろうが擬似太陽炉の充電と冷却は省かれ、ほとんどの時間を模擬戦に充てているという。

「肩部。胸部、両膝部のGNコンデンサー、腰部側面後部の電力バッテリーとまで・・・・・・」
「外見はあまり変わっていないというのに最初の試験と大きく違うではないかね?どうやって冷却剤を増やさずに済んでいるというのか?」
「GNウイングをスラスターと放熱に機能限定したからでしょう。新規パーツをフレームに全て上手いこと組み込んだ事になります」
「よくよく見れば細かい所が変わっているな。見覚えのあるマニピュレーター・・・GN-Xのクローまであるわい」
「設計図によるとマニピュレーターと膝部胸部のコンデンサーなどユニットがGN-Xのと同じではないか」

将官の面々から声が沸き立つ。
既存MSの規格どころかパーツの多くが使い回しが利き、なおかつそれ以上の性能を発揮しているのだ。
別の画面には本機の整備光景が映し出されていた。
数十人の整備兵と四機の小型モビルワーカーがオーバーホールにMSの装甲が剥がされ、部品がユニットごとに取り外し、代わって新造品をフレームに次々装着していく。
その新品はペルセウス専用パーツのみであり、他は全て予備のGN-XIVフォルティスからの取り寄せで全て賄われていた。
実際、そのような流用はよほどの戦況悪化による物資不足などでなければありえないが、どれ程互換性が高いかが示す宣伝として格好のシーンだ。

「見事な機体だ!次期主力機とするには組織編制が充分成っていない今は早いが、有力候補にふさわしいMSと認めよう!
 全面改修を伴う運用試験の長期化の責任は不問とする!」
「ありがたきお言葉です・・・!煉総司令!」



この後行われた地球連邦次期主力MS開発計画で弾かれた、GNX-Y809TネオGN-X及びGNX-Y807Tジャーズゥが旧人類軍にもたらされた際、
次期主力MS候補機GNOー0001Tペルセウスは比較評価において二機相手にまさかの敗北を喫してしまった。
前者は本機を上回る従来機との互換性の上に既存生産設備を流用可能な点で差を付けられ、後者の信頼性と重装甲高機動などに及ばなかった点を挙げられる。
我が旧AEU系の芸術品というべき華美なデザインと複雑な設計を払拭しきれなかったのが欠点だったのだ。
だがあの二機は来る旧人類軍攻勢まで戦力を繋ぐ暫定主力機でしかない。
どれほど互換性と信頼性を上げたとしても、地上反イノベイター派との共用を意識してペルセウスを弾いただけの事である。
本当の主力機選考にはペルセウスの後継機という形でなんとしても採用を通させるよう、じっくりドクトリンと合致させ開発研究を進めるまでだ。
                       旧AEU系元GNX-Y804TイナクトII及びGNOー0001Tペルセウス現開発担当技術者日記より



[36851]      第35話 ガンダムエクシアR4
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:d6f7511a
Date: 2014/04/07 20:48
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第35話 GN-001RE4 ガンダムエクシアR4

統合戦争中期に突入した西暦2325年に私設武装組織ソレスタルビーイングが例外的な大規模武力介入を行ったという、
中央アフリカ一帯の武装勢力など反イノベイター派を統合した旧人類軍地上部隊の最初の攻勢。
この時地球連邦平和維持軍は軍備増強に伴う再編に追われており、紛争介入に戦力集中させたアフリカ派遣部隊を除く地上実働部隊は最低限しか配備されていなかった。
旧人類軍側に情報戦を一歩先んじられ、連邦側は偽装商船や潜水艦を利用した敵地潜入に察知に遅れた。
旧人類軍同時無差別爆撃に対し連邦軍がトラブル無く迎撃すればまだしも、先制攻撃に周辺基地が破壊され足並みを乱されれば、
各地の主要都市も国家機能も壊滅し、死者100万人以上で負傷者は最大1000万人に上るという。
直接被害だけでも大ダメージだがその後の食糧難と略奪といった大混乱を含む二次被害、
極め付けの作戦時の旧人類軍が使用する初期型GN粒子の細胞障害による後遺症で発生する死傷者は最悪1億に達すると言われている。
もしその爆撃が実行に移されれば連邦は人類史上最悪の大被害を被り、それによって増幅された憎悪が統合戦争を更に長引くのは必至である。
こうなれば百年も戦争が長引き凄惨な殲滅戦となり、人類の意思統一と紛争根絶は困難になるところだった。
西暦2364年の紛争根絶が果たされた世界を生きる我々人類は、旧人類軍の攻勢を阻止してくれたソレスタルビーイングの武力介入に感謝しなければならない。
たとえ彼らの過去の功罪があってもだ・・・・・・。



「作戦司令部はどうあっても爆撃にこだわるか・・・・・・」

遥々インド洋からマラッカ海峡に差し掛かった旧人類軍偽装商船クリマチウス。船橋を取り仕切るモートン船長が小言で愚痴をこぼす。
壊滅に陥った指揮系統を立て直したのは良いが、武装勢力や独裁国家からの選抜で補充してからというのも指揮が稚拙になってしまっている。
どうせ敗れるくらいならいっそ連邦に投降してしまいたいというのが本音だ。

「これは一体、何が言いたいのでしょうかな!?」

派遣の憲兵少尉が慇懃無礼に尋ねる・・・もとい怒鳴る。
これにモートン船長は思わず睨み返し、周囲のクルーも同様の反応をとる。
ガンダムの最初の攻撃から生き残ったその男は、船長を含む臨時徴用されたクルーにとって連邦軍以上に厄介な敵だからだ。
少尉を含む憲兵班は常に不服従の意が見られないか目を光らせ、船長と班長すら傲慢に接し度々口出ししてくる。

「船長の発言は如何なる意図を以って発言した事でしょうか!?発言内容次第では作戦後に軍法会議を開きますぞ!」
「連邦軍の地上戦力がアフリカに偏っている今、如何なる損害を払おうと実行せねば勝利は収められないという事だよ」
「ならば厳戒態勢を維持して頂かねばなりません!全ては忌まわしきイノベイターを滅ぼす為に!」
「・・・・・・・・・・・・」


準備の段階でガンダムの妨害を受け続けまともに戦力が揃わないまま、世界規模の作戦は実行に移された。
宇宙からは論外。軌道エレベーターは全て連邦所有であり、こちらは内通者の援助で地上降下するだけで精一杯だった。
精々ガデラーザIで宇宙からピンポイント爆撃するのが精々なので、作戦支援程度しか期待できない。
空路は連邦軍に握られ、百機単位のアシガル系と精鋭のブレイヴ系という可変MSが目を光らせている。
陸路は膠着した戦線のせいで突破困難だ。
唯一のユーラシア大陸へ繋がるエジプトを支配する中東連合は同じ反イノベイター派だが、彼らと中央アフリカの間に連邦地上部隊が封鎖されているのだ。
残る海路は比較的防備が薄いが向こうの航空戦力がこちらより充実しているので、やはり表立った進攻は不可能である。
幸い内通者ネットワークを利用して軍事行動を嗅ぎ取られないよう連邦内の根回しし、臨検と航海中の作戦秘匿を磐石にする事が出来た。
用意した偽装商船五十隻と潜水艦二十隻中半分がガンダムによって失われ、残存の偽装商船二十隻と潜水艦八隻を出港。
度重なる奇襲攻撃に作戦は不可能に近いが、このままでは連邦との国力差を日に日に開けられていくのは自明の理であった。

「船長、定期連絡がとれません!電波妨害です!」
「連邦軍に感知されたか?」
「お言葉ですが船長殿、データリンクした情報では連邦軍機は既にこちらを通過しましたぞ」

突然の衝撃、止んだと思いきや船体が傾いてきた。

「船首及び船尾が浸水!ダメコンも効きません!!」
「敵襲では・・・ガンダムです!!!」

クルーから次々と凶報が舞い込む。
狼狽する憲兵の傍ら、船の実戦部隊指揮官が指揮を下した。

「やはり現れたか!全MSを出せ!!」

突然ガンダムが何の前触れもなく現れ奇襲攻撃を必ず受けるのは今回のみならず、準備段階の所で最初の攻撃を受けた時より続くパターンだった。
入念に練った潜入ならば足跡や匂いなど痕跡まで残せない。敵味方識別コードを敵に譲られるにもGN粒子の残留と気配まで消されない。
だが敵は文字通り突然目の前に現れては蹂躙し、脱出せずに消えてしまう。
ワープ能力がなければそのような芸当は不可能だ。
結果、旧人類軍はガンダムの任意選択出来る奇襲によって司令部や物資など作戦行動のアキレス腱を叩かれ、攻勢の為に集結させた戦力を防衛に回す憂き目に遭ったのだった。
古代ローマ帝国軍がパルティア及びササン朝ペルシア軍の弓騎兵に終始翻弄されてきたのと同じ事態である。

「シンガポールまであと二十キロの所なんだ!ここは全機トランザムで強行突破しろ!」
「非戦闘員を優先に脱出は!?」

緩やかながらも沈み行く偽装商船を片隅に置き命令を下す武装勢力指揮官に船長が食ってかかる。

「黙れ!!貴様は反抗するつもりか!?船長に作戦決定権はない!」
「・・・・・・!」

銃を突き付けられてはこれ以上の反論は銃殺という末路に向かってしまう

(この期に及んでも作戦に執着しようというのか・・・・・・・・・・・・?!)

無差別爆撃はほぼ不可能という現実を理解しながら、乗組員の生命の為に軍の命令に従わざる得ないという矛盾。
連中の横暴に屈した自分も同罪であり心底嫌になった。
外ではコンテナから舞い上がった味方MS隊がガンダムと交戦となり、チェンシー一機が右腕をクリアグリーンの剣に断ち切られた。



敵は民兵ながら対応が早い。
船に傷を二つ入れ沈没確定にするもコンテナからMSが次々現れてきた。
AEUレギオン八機、続けてチェンシー八機、重火力型チェンシー無人型四機を確認した。
どれも紛争で武装勢力と反イノベイター国家の間で重用され、どんな環境でも問題なく稼動できる信頼性からGN-X系以上の人気MSである。
火力はGN-X系と同じ程度だが初期GN粒子を攻撃に用いる可能性があり油断できない

「行かせはしないよ!」

人類最初のイノベイターでもあるガンダムマイスターが乗ったといわれるガンダムの視線を、展開される敵MS隊へ向ける。
17の少女ガンダムマイスターの、サファイアの瞳が敵を見据え決め言葉を発した。

「ハヤテ・爽・ラファール、ガンダムエクシアR4!目標を妨害する!」

まず粒子ビームの弾幕を先手に浴びせAEUレギオン一機を撃墜。

「取り逃がした!けど乱した!」

太陽炉からもたらされるGN粒子の斥力場に任せ突進し敵の一群に飛び込む。
GNソード改後期型を振り被りチェンシーが迎撃する間もなく、重装甲の右腕ごと巨砲を斬り落とす。
上向きに弧を描きながら上昇していく同タイプ二機を瞬時に通過、振り向く事無くNPMS小隊に襲い掛かる。
刹那、エクシアR4の四肢―――手足、肩―――にマウントされたGNスパイクが、敵機の装甲など紙も当然の如くGNドライヴコーンスラスターごと切り裂いていった。
チェンシー無人型を撃ち抜くと同時に背後のチェンシーが制御を失い、スパークと小さな爆発を上げながらフラフラと飛行がままならなくなった。

(出来るだけ敵を殺さず・・・、派手に暴れ回って、特攻を食い止めて・・・・・・!)

戦術予報士フェルト・グレイスの言葉を反芻しながら、二機目に体当たりをかけ盾代わりのGNビームキャノンをスクラップにした。
背後よりアラートが鳴り響く。チェンシー隊の反撃か。
チェンシー無人型をすり抜け彼らと船を盾にしながら前進回避、共にGNソード改後期型ライフルモードで牽制射撃をかける。
こうしている間に残存AEUレギオンがシンガポールへ舞い上がってしまったではないか。
蒼を基調とするヘルメット内で、彼女に動揺の表情が浮かんだ。

「もうまずい!」

先発が戦域を離れるまで時間は一分程度だろう。取り逃がせばシンガポールが空襲を受け、無力な市民に犠牲が出てしまう。
ガンダムエクシアR4がフレームをボディーを残して最新技術で仕上げ、いかに効率の良いGNスラスターとGNコンデンサー、標準の量子ワープ機能を持っていようと限度がある。
元々太陽炉は希少で五基中四基は試験チームの00クアンタR1二機に、残りにして最後の一世代目でもある一基はトレミー2改に組み込まれている。
戦闘分以外の備蓄粒子は帰還用量子ワープ一回分だけ、トランザムは一分足らずの時間内しか発動できず博打以外何者でもない。
近接格闘戦向けに再調整されたガンダムエクシアR4の加速力すら、巡航中のAEUレギオンに追い付くまでにかなり粒子を費やすのだ。

「こうなったら・・・!!」

実弾が降り注ぐ中ハヤテは機体を操りそれらを回避、実体剣の余裕ある粒子残量を確認すると決心した。
GNスラスターを全開させ垂直急上昇、GNソード改後期型を振りかざし射線を目標と目先の敵に重ねるとライザーソードを放つ。
ピンク色の圧縮粒子の光柱が数機ものMSを飲み込み上空へ走っていく。遥か彼方、離脱していくAEUレギオン二機の爆発が確認できた。
これだけ戦えば連邦軍も異変に駆け付ける事は間違いない。
偽装商船と敵MSが未だに健在だが、これ以上戦う必要はないし仮に全滅させても生きて帰れる保障はないのだ。

「戦火は十分上がった!ハヤテ・爽・ラファール、ミッション完了!これより離脱する!」

上空方面にEセンサーの反応。
識別番号と光学カメラの情報から連邦軍低軌道方面の哨戒部隊、最新鋭機GNX-906TブレイヴII二機と判定。
宇宙から堂々と大気圏突破し海上にいるこちらへ急降下してくる。
擬似太陽炉ダブルドライヴ型を基軸にGNX-805Tヘラクレス以上の性能を誇る機体という、ガンダムエクシアR4では一対一でも勝ち目の無い相手のお出ましだ。

「対応が早い!フェルトの予測通りじゃないの・・・・・・!」

急ぎ量子ワープの準備にかかりつつ敵砲撃に対処するのが最優先だった。



「これがそうかね?」

ジョージア・E・ジョーストン顧問―――ジョルジュ・A・ジョンソン―――は端末の映像に見入った。

「はっ、内通ネットワーク経由で入手した第213哨戒小隊の光学カメラ映像では、ガンダムタイプが穴のような粒子の塊に入ったまま消えてしまったとの事で。
 新技術・・・・・・ワープ辺りに相当するものと思われますが、連邦内ではこの現象に疑いの声が上がっております」
「信じたい物しか信じない。見たい現実しか見ない。そんな無知の馬鹿はいつどこでもいる事だ。
 問題なのはこの現象がワープである可能性が高いという事、ソレスタルビーイングが復活しているという可能性は大である事実だ。
 それに地球連邦も旧人類軍も、我々人類はやつらに対抗措置を練らねばならん」
「現時点の戦力、MSの質はガンダムに決して劣っていませんが?更に強力な、それこそ惑星を破壊できる機体が必要なのでしょうか?」
「それは状況次第だ。今はソレスタルビーイングについて情報を集め、可能ならば接触出来るよう機会を伺うのが優先だ」
「は」
(奴らが表舞台に出れば双方の関心はそっちにも向ける。これで戦力拮抗の下、妥協出来る時間が稼がれる・・・・・・。
 我々のアース・インダストリー社の、こんな汚れ仕事も引き受けてくれれば良いがな)



[36851]      第36話 レギオン無人型
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2014/06/23 23:06
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第36話 AEU-10NPレギオン無人型

第20独立試験部隊ソウルズが地上で最も戦火が激しいアフリカ戦線に派遣されたのはプロバガンダという名目からだった。
人類の未来を背負う研究部隊とそれを率いる最若の天才軍人「半銀の妖精」ことアーミア・リー少佐。彼女を補佐するは「妖精の片腕」ベガ・ハッシュマン少佐。
そんな輝かしい異名を持つエースパイロットを祭り上げれば、10年続く内戦に鬱憤を溜めている市民を奮い立たせられると。そう上層部は読んでいたのだった。
しかし彼らが地球連邦軍司令部の意向に理解すれども嬉々として任務に遂行してはいなかった。

「第一小隊ベガ指揮官代行よりアーミア、敵部隊は迎撃ラインを突破した。あと一分でそちらと接触すると思われる。方位304、距離100」

アフリカタワー地上基地で指揮を執る女隊長より状況が伝えられる。
編成上では彼女が第20独立試験部隊と第一MS小隊の指揮官を務める形だが、ここ内戦の激しいアフリカに派遣されてからは緊迫した状況に対し後方より指揮する事で対応しているのだ。
侵入してきたのは航空可変準GN機AEUレギオン通常型が六機。友軍から送られた映像からオレンジ色のGN粒子とプラズマジェットの光で容易に判明できる。
どの反乱軍にも該当せずテロリスト集団の可能性が高く、勧告に何の返答もなく突破してきたという。

「話は聞いてるがアフリカは本当にテロと反乱だらけだぜ。全く気が抜けない」

目の前に迫って来たとあってはこれ以上進ませるわけにはいかない。
部下のヘラクレス慣熟飛行を兼ねた哨戒中に舞い込んだ災厄は、あらかじめ予測してきたが喜ぶべき事ではない。

「敵進路に最付近に位置する第一小隊が迎撃せよ、との上層部からお達しが来たわ。・・・交戦前の第二小隊との合流は間に合わない」

ここはもうアーミアのオペレートと機体性能、そして自らの力を信じて戦うしかないという事になる。
第一MSを動かせるだけの彼らでは戦闘など自殺行為だというのに、上の連中は知ってか知らずか無謀な命令を下し続けるのか。
それでも軍司令部から戦えとの命令が現に下されてはその通りに動くしかないのだから。

「あいつら何をやっているんだ?!レギオン如きに!」

最初に敵を捕捉したのはビクトリア哨戒区にて。それから迎撃にアシガルを差し向けたがそれを容易く突破されたという。
自分達の背後には、地球連邦の生命線たるアフリカタワーが控えている。直掩MSは何十もいるとはいえ攻撃を受ければただでは済まない。

「全機、方位301へ進路固定!二機横隊でクロスファイアを準備しておけ!」

とはいえ防衛網が突破された以上、備えなければならずまず部下達に指示を下す。
パイロット候補から下ろされた彼らでも数学の知識を持たないほど無知ではないと、ベガは埒もない事を一瞬思ってしまった。

「そのレギオンはイノベイター並の機動だったというわ。アシガルの物量と粒子ビームなどを掻い潜って戦わずにして突破した」

たかがAEU-10レギオンという三国家時代の焼き直しなどに・・・と訝しむ中、アーミアより送られる最前線の情報で認識を把握せざる得なくなった。
再生映像の中でも相手は友軍機の位置取りと射線などから意図を的確に読み回避し、ドッグファイトに持ち込まれないよう加速だけで振り切って見せたのだ。
中央アフリカに乱立する反乱軍や武装勢力、テロリストのような反連邦感情で我武者羅に攻めかけるのではない、敵の挙動を読みながら己の限界も知っているかのような老練な戦い振り。
旧人類軍のエースパイロットか、イノベイターパイロットか。準GN機に乗るには勿体ない程手練のパイロットが乗っているのだろうか?
どっちも同じだろう。どうせ最前線では手強い敵が如何なるかなど考えても埒が開かないのだから。

(嫌な予感がするな・・・・・・)
「こちらベガ指揮代行、了解した!」

ふと不吉な予感がしながらも、生意気な指揮官との応答の次に部下達へ通信を繋ぎ、

「我々はこれより敵迎撃に出るぞ!決して敵に背を向けなければ、このヘラクレスすぐに墜とされる事はない!!わかったか!!」
「ウイング2了解!」
「ウイング3了解!」
「ウイング4了解!」

アーミアを忌み嫌う上層部が送り込んできた、MSパイロット失格の落第生達に激を飛ばした。
正規パイロットに全然劣る、高性能機に乗っただけの飾りみたいな連中だが切り捨てればバッシングが降りかかる。ここは状況に善処するしかない。
ウイングリーダーのベガは三番機のウイングを引き連れA班として右翼に、残り二機のB班は左翼として展開。

「敵レギオンはAコースをトランザムで直進。八秒後に有効射程内に入るわ」
「有効射程内に入ったら各自対イノベイタープログラムで対空砲撃しろ!」

アーミアのオペレートから前線指揮官として最善の手段を導き出し指示として小隊を動かす。距離は30を切った。トランザムで来るなら数秒でこちらを突破するだろう。
部下達の駆るGNX-805Tヘラクレス三機の持つ、小隊支援火器NGNマシンガンと多目的粒子制御機射撃モードが火を噴いた。
後者は有効射程外へ自動で盲目撃ちなのだがスコールの如く間隙ない粒子ビームが、敵レギオン部隊の周囲にばら撒き、取られるだろう回避予測を絞り込む。
そこへ前者の対空榴弾が電磁加速で何十発も相手に叩き込み、航空可変MSの薄い装甲を破砕せんと目前より次々炸裂していく。
部下があまりに未熟なら火力支援にのみ徹すれば釘付けに出来ない事はなかろうと、あらかじめ用意した甲斐があったようだ。
敵機を表示する赤点が2つ消えた。だが残る四機はこちらの飽和攻撃と炸裂の壁の中でもマーカーに表示され続けていた。

「敵レギオンがトランザム解除と同時にMS形態に変形で回避していっている!初撃からすぐ立ち直ってる!機動に注意して!」

12年前のアロウズ時代の連邦軍主力機GN-XIII並の性能。粒子兵器使用可能。戦闘中の可変可能。信頼性万全。
というそれらポイントから世界中でチェンシーと共に用いられているレギオンの本気か。

「よっ、避けてやがる!?」

降り注ぐ粒子ビームと対空榴弾をいとも容易く避ける。GNスラスターで、水素プラズマジェットでGを何の物ともせず。
何百発もの弾幕のことごとくを全て対応するにはパイロットの判断とコンピューターの予測でも限度がある。回避機動に伴う強烈なGを伴うし防御も時に交える必要も。
だがこのレギオンはそうした制約から開放されているかのように、機体強度が許す限りの回避機動を行い炎のカーテンを次々と潜り抜けてきた。

「こちらアーミア、敵レギオンはイノベイターパイロットが搭乗、もしくは無人機の可能性があるわ」
「なんて厄介な敵がお出ましになった事か!」

彼女の情報通りレギオンの殺人的機動を顧みれば、イノベイターか、よく出来た戦闘プログラムを組み込んだ無人機でなければ成せない域である。
前者の可能性は低いだろう。人類を上回る能力を持つイノベイター兵は精鋭として擬似太陽炉搭載機に乗せるのが通例だからだ。
一方無人機だとハッキングとECM攻撃による無力化のリスクから砲撃や工作など支援が主流で、もし攻撃に使うとしても高性能ミサイルの代用など使い捨てぐらいだった。
これまで戦ってきたレギオン無人型は機動が精悍ではなく戦闘プログラムは他NP・MSと同レベルと、落ち着いて対処すれば手玉に取れる相手のはず。
むしろ今回のコンピューターすら予測出来ない程俊敏で巧みに動き、性能が圧倒的に上のヘラクレスを逆に押していっているのが異常すぎるのだ。

「散開した敵4機、二手に分かれて急迫してくると思われる!不利な白兵戦に持ち込まれないよう遠距離砲撃で釘付けにして距離を常に開けなさい!」

上官の指示は正しい事は正しい。だが敵はあれだけの対空攻撃でも避けて見せたのだ。
小隊ぐるみのクロスファイアですら三割しか叩けなかったなら二組がそれぞれ挑もうというのは先より撃破困難もある。。
こちらの挙動を、攻撃パターンを学習したらしく激突当初より一段と回避機動が磨かれ、散開してから三機目の損失をまだ出していない。
収束拡散ビームを、近接粒子ビームを、対空榴弾のフルオート射撃を避けながらじわじわ距離を詰めて来る。

「第一小隊、レギオンの最大射程距離に入った。リニアライフルとビームライフルなどの攻撃に注意!」

警告が入るや否や粒子ビームを撃ち放たれ、赤い光条が機体の横を一筋かすめた。
GN粒子の色は赤、条約違反と指定されている有毒の初期仕様である。
お互いの射程距離が重なればたちまち撃ち合いが始まった。敵の正確無比な粒子ビームが八割もの数で各ヘラクレスに被弾せしめる。
ヘラクレスの可動装甲が光条の弾道を逸らしシールドで受け止め、機体自体に損傷を与えさせていないが部下達に動揺をもたらした。

「く、来るな!」
「早すぎる!!」
「動きが読めない!」
「うろたえるな馬鹿共!!背を向けない限り簡単にやられないと言っただろう!!」

そう言うベガもレギオンの機動に追い付くのに精一杯であり、GNパイクのフルオート射撃で急速接近を阻むも撃墜にも撃退にも至っていない。
「妖精の片腕」との異名を持つベガ・ハッシュマンだが、統合戦争勃発時よりアーミア・リーを補佐してきたから有名になっただけでありエースパイロットにしては凡庸である。
イノベイター機相手に善戦出来ても一機も撃墜した事がなければ撃墜スコアも同年代のエース達に及ばないという。

「友軍は一体とうしてる?!増援がほしい!俺達だけじゃきつい!」
「敵戦闘力が予測通りならね・・・。しかし」
「第20独立試験部隊よりこちらアフリカタワー地上基地司令部、防衛に精一杯であり増援は出せない。現戦力を以って突破を阻止せよ」

アーミアとの間を司令部の通信が割って入ってきた。何を申すと思えば弱腰とも投げやりとも言える命令。
理想家の若き上官が臆面なく反論する。

「お言葉ですが司令部、敵レギオンの戦闘データと予測はそちらも把握かと思いますが」
「当基地はテロに警戒しており、レギオン程度の小隊相手に戦力を割けない。繰り返す、現戦力で対応せよ」

戦力不足といえばその通りだが、テロと反乱に苦しめられながら何という言い草か。

(あんな水際で呑気に構えるっていうのか!?)

常時50機以上ものMSを臨戦態勢に置いている連邦一大拠点がこの期に及んでも動かないとは。攻撃を受ければ大惨事になる軌道エレベーターと民間居住区が控えているというのに!
どうせこの第20独立試験部隊ソウルズは強硬派に疎まれているのだ。
突破を許せばバッシングの格好な材料に出来る。こちらが敵を阻めば援軍を送る必要なく戦力を温存できる、という公算だとベガは思った。

「レギオンは侵入ルートとこれまでの機動のから余剰粒子と水素は六三%減少!推定34秒後には駆動系の負担から弱体化、二分後に撤退の可能性がある!ここは諦めないで粘るように!」

敵MSの戦法を読み、戦闘機動から消耗の度合いを当てる上官にベガは戦慄が走った。冷や汗が滲み出てくるではないか。
これまで彼女は采配と振るう度に二手三手どころかそれより先まで読みそれらを見事に的中してきた。
ドニエプル軍義勇兵時代に才覚を発揮し士官学校主席から電撃スピードで昇進した異例の天才。
半分しか集められなかった正規メンバーと、強硬派より無理矢理送り込んできた軍の落伍者と不良兵士という、ゴミ箱のような存在の第20独立試験部隊を曲りなりにも統率している現実。
常識的な軍人のベガにとってアーミアは異色の存在であり、多くの同胞を殺してきた憎き金属生命体との融合体を素直に受け入れられなかった。
だが彼女の指揮は的確で、この窮状を乗り越えるには従うのがベストだ。もうそうするしかない。

「りょっ、了解!!」

最前線指揮官がすがるのは屈辱だがここはアーミアの采配を受け入れるしかない。
今や第20独立試験部隊ソウルズ内にて落ちこぼれ兵を中心に彼女のカリスマに惹かれ忠誠心を寄せ、毛嫌いする者達でも才能だけは認めている。
だがあのエリート士官のあまりある才能に魅入られ過ぎれば狂信、己の思考停止に繋がる可能性が高くなるのも事実だ。
せめてこのベガ・ハッシュマンは副官として、彼女と現場及び上層部の緩衝材や彼女と部下達のストッパー役を勤めなければならない。
善良な人柄と卓越した才能は認めても信頼を寄せ過ぎては上官の暴走を招く事になろう。
どうにもならない平凡さを逆に武器としソウルズをまとめる。それが自分の出来る事のはずだ。



[36851]      兵器設定6
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2014/07/26 13:29
あ機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定

GN-010RE1ガンダムサバーニャR1
本体重量
58.4トン
装備
GNピストルビットII/ライフルビットIII GNホルスタービットに収容された攻撃用ビット兵器。原型機に比べGNコンデンサーが換装され火力向上したのが特徴。
GNホルスタービットIII          盾と武器運搬を兼任する防御用ビット兵器。ホルスタービット同士で強大なGNフィールドを展開する事で艦砲射撃すら撥ね付けられる。
                       またGNピストルビット/ライフルビットとの連携で粒子ビームの拡散・収束などが可能。
GNマイクロミサイル             レイアウトは改修前のサバーニャと同じ。弾頭は最新型に変更したので威力は多少上がった。
パイロット
ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)、サジタリス・ブルースカイ

ELS戦争で活躍したガンダムサバーニャを2320年代の技術で改修した機体。
性能はベース機以上に向上し連邦のGN-XV並に仕上がった。ただし遡ればケルディムガンダムから改修を重ねてきた機体なので設計的に限界となっている。

長らく搭載していた太陽炉はこれまでの武力介入で残り一基までに減った為、母艦のプトレマイオス2改の動力に組み込まれた。
代わりにGN粒子貯蔵タンクを搭載し二機配備する事で、限られた粒子による運用制限をある程度補っている。
ガンダムハルートR1ファルコンと同じく量子ワープ機能を搭載し、使用は二回だけながら完全なる奇襲が可能。

同じ防御用ビット兵器を装備するヘラクレス・ウォールズと対多数戦向きの点では酷似するが、前者は正面突撃を想定した近接戦闘型であり本機は相手と距離を置く射撃型である。



GNO-0001ペルセウス
頭頂高    本体重量
17メートル 56トン
装備
GNビームライフル 単一装備での戦況対応が特徴の射撃兵装。ベース機のイナクトII専用装備からそのまま流用している。
          GNコンデンサーに加えマニピュレーターによる粒子供給で威力調節、またバレル交換でロングかショートと射程距離変更が可能。
          ショートバレルでは対MS戦に、ロングバレルは対艦火力支援に有効。最高出力はGNメガランチャーに匹敵する。
GNビームサーベル GN-X系と同種。

地球連邦軍から試作機を持ち出し旧人類軍本部カストロンで改修した、次期主力MS候補のAEU系試作機。
名前の由来は古代ギリシャ神話の英雄ペルセウスから。怪物ゴルゴンを倒した経緯をあやかり、人類の敵たるイノベイター及びELSの打倒を込めて命名された。
汎用性とGN-X系とのパーツ互換性が高く他GN機の倍に及ぶ稼働時間を誇り、GN-X系の装備ならば全て使い回せる。
外観は基本的にベース機のイナクトIIに似るが頭部クラピカルアンテナから、より一層ガンダムに近づいてきた。

かつては地球連邦軍精鋭用MS選考でGNX-805Tヘラクレスに敗れたGNX-Y804TイナクトIIだったが、
乏しい軍資金や戦力、整備施設など旧人類軍の苦しい台所事情に併せて調整を改修を重ねペルセウスとして変質していった。
コアファイターや擬似太陽炉二基中一基、マイクロウェーブ受信アンテナなどは撤去され、GNウイングは推進と放熱限定の簡易仕様に換装。
余剰スペースには肩部、胸部、両膝部にGNコンデンサー、腰部側面及び後部には擬似太陽炉の粒子供給時間向上に電力バッテリーが搭載された。
その結果、性能はイナクトIIより10%向上し拡張性と稼働時間は2倍に向上した。

高いスペックを誇るペルセウスは旧人類軍の要求を満たせるレベルだったが、後にもたらされたGNX-Y809TネオGN-X及びGNX-Y807Tジャーズゥにはあえなく破れ不採用になってしまった。
ネオGN-Xは本機以上の互換性に加え既存生産施設流用可能な点で、ジャーズゥは信頼性と重装甲高機動など堅実さに差を付けられた事に起因する。



GNX-Y804TイナクトII
頭頂高    本体重量
17メートル 62.6トン
固定装備
GNウイング 射撃、粒子制御、推進、GNフィールド発生をこなせる多目的粒子制御機。

次期高性能MSとして開発されたAEU系試作機。
センサー素子に覆われた顔表面とガ系のツインアイ及びセンサースリット、ガ系特有の狭い胴部と巨大な肩部GMコンデンサー、
AEU-09イナクトに似た頭部大型アンテナと左右マイクロウェーブ受信アンテナなど、AEU系とガ系のが組み合わさった外観が特徴。
GNZ-001ガルムガンダムをベースにしておりコアファイターシステムが組み込まれている。
拠点防衛及び次期主力を念頭に、制限される擬似太陽炉と機体数での柔軟に戦局対応が可能な汎用性と即応性、継戦能力などが高い。
またイナクトから受け継ぐマイクロウェーブ受信アンテナより電力を供給する事によって、受信範囲内の活動はほぼ無制限である。

代わりにユニオン系のライバル機GNX-805Tヘラクレスに比べ、機体が小柄でコンパクトな代わりに構造的余裕が少ないのが難点である。
次期主力MS開発テストヘッド機としては不十分だった為に評価試験の結果は不採用となり、
これに不満を持った開発陣に持ち出され旧人類軍の下でGN0-0001ペルセウスとして再開発、
一方連邦側に残った機体はデータと共に次期主力機候補GNX-Y806Tネクスト開発で生かされ、拠点防衛のコンセプトが受け継がれた。


GN-001RE4ガンダムエクシアR4
本体重量
47.5トン
装備
GNソードIII改 刀身全体をクリアグリーンの半透明新素材に統一する事で切れ味が向上した。
固定装備
GNスパイク    肘や膝、爪先などの四肢と肩部に取り付けられた近接戦闘装備。
          ボディー固定型の実体剣として、挙動一つで敵機に損傷を与えられる。刃はクリアグリーンの半透明素材で構成。
パイロット
ハヤテ・爽・ラファール

西暦2320年代の技術で4度目の改修を施したガンダムエクシア。
ソレスタルビーイングの活動再開に併せてこれまで地上で運用されたR3の遠近戦兼任から、エクシア本来の近接戦闘特化に用途回帰された。

特徴的なのは全身に固定装備されたGNスパイクである。
性能も火力も連邦系MSを圧倒できない制約下で高い機体柔軟性を生かした戦闘を追及した結果、敵部隊に突撃し密集格闘戦に持ち込む事でハンデの埋め合わせが図られた。
その際主装備で敵部隊を早期撃破し切れない可能性は高く、更にMSがひしめき合う中での機動制限なども考慮。
機動の近接攻撃兼用という答えから本装備によって密集格闘戦を実現した。

ガンダムサバーニャR1と同じく量子ワープが可能で、武力介入では狙撃や目標攻撃の近接援護を担当する。
太陽炉不足から依然としてGN粒子貯蔵タンクを動力源とするが技術革新の恩恵により全体性能は向上、地球側の主力MSと互角に渡り合えるレベルを実現した。



AEU-10NPレギオン無人型
本体重量
仕様によって異なる

AEU-10レギオン・バリエーションの一種。
本来は拠点防衛及び火力支援の補助を用途に一部機体を無人制御に改修されたが、世界中に出回る内に各バリエーション機にも同様の改修が加えられるようになった。
その為、命名は便宜上であり本機を保有する勢力の数だけバリエーションが存在する。

作中ベガ指揮代行の率いる第20独立試験部隊ソウルズA小隊が交戦したのは、旧人類軍がイノベイター兵の戦闘データを組み込み、データ収集の為アフリカのテロリストに提供した無人試験型。
動力源は基本型と同じ水素プラズマジェットエンジンとGNコンデンサー併用だが、性能をフルに発揮させ高反応性を生かした高G機動戦闘を実現。
擬似太陽炉二基ダブルドライブ型と圧倒的性能を誇るはずのヘラクレスをも苦戦に追い込んだ。



[36851]      キャラ設定
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2014/07/18 04:56
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 キャラ設定

ベガ・ハッシュマン 男 33歳(2324年時) 少佐 乗機:GNX-805Tヘラクレス
地球連邦軍第20独立試験部隊「ソウルズ」副官を務める中堅軍人にして、「妖精の片腕」という異名を持つエースパイロットの一人。。
上官とコンビを組む事が多くサポート役を務めてきたのでその名が付けられた。
パイロットとして全体的に能力が高いが特筆したスキルはなくエースにしては凡庸だが、命令を現状下において遂行する前線指揮官の能力はアーミア以上にある。
健全な思考と判断力、常識力を持ち合わせているので、上層部及び不良軍人の部下達とアーミアの軋轢を抑える緩衝材となっている。

アーミア・リー 女 20代後半(2324年時) 少佐 乗機:GNX-805Tヘラクレス、GNX-805T/Wヘラクレス・ウォールズ
地球連邦軍第20独立試験部隊「ソウルズ」指揮官のハイブリッドイノベイター。
同時にエースパイロットであり自身の半身がELSで乗機も半身が銀メッキなのにあやかり、「半銀の妖精」という異名で敵味方に轟かせる。
争いを好まない心優しく純粋な性格で、それ故に利害が絡み合う統合戦争と向き合い現実を前に苦悩する。
戦争勃発時のドニエプル義勇兵の経験を通してに己の未熟さと甘さ、旧人類とイノベイター間の相互理解の理想と現実の格差を痛感した。
自分の出来る事を見つける為に地球連邦政府のオブザーバーから連邦軍人に転向し、士官学校卒業後前線にて飛び級で異例の出世を遂げていった。
パイロットとしても軍人としても天才だが、政府のコネを持っている経歴故に最前線からも上層部(特に強硬派)からも疎まれ、穏健派の一部を除いて理想をあまり理解されない。

ジョシュア・A・ジョンソン(本名)=ジョージア・E・ジョーストン(偽名) 男 48歳(2324年時) 顧問
元地球連邦軍ドニエプル艦長にしてコロニー義勇軍司令官の男で、国家反逆者に処されるも旧人類軍経由でアース・インダストリー社の匿われた。
それ以降は偽名で軍事顧問として地球連邦軍と旧人類軍を行き来し、戦力拮抗による全面衝突回避と妥協の時間稼ぎの為に暗躍する。
冷静沈着な性格の切れ者で目的の為なら手段を選ばない非情そのものだが、それは法から外れてでも戦争の制御を成そうという信念の裏返しである。
独自に作戦行動を進め義勇軍を結成し旧人類軍の暗躍を探るなど戦略と政略に長ける。

ドナルド・マシューズ 男 大統領
地球連邦3代大統領を務める強硬派政治家。政治調整力が高く過激な極右派を抑えつつ前政権の穏健派とも妥協できる。
ただし信条はあくまで地球連邦による平和と人類発展であり、2324年の政権交代以降「強い連邦」をスローガンに軍備増強を推し進め旧人類軍と対決路線を取る。

ブリューエット・ボナリー 女
地球連邦穏健派所属議員でかつての2代目大統領。
強硬派が政権獲得など再台頭していく中でも軍属に転じたアーミアに最大限の便宜を図り、第20独立試験部隊「ソウルズ」の設立などを援助してきた。

パトリック・マネキン 男 47歳(2324年時) 少佐
「無敵のコーラサワー」という異名を持つ地球連邦軍最強のエースパイロット。
ガンダム武力介入、ELS戦争をも戦い抜いた希少な戦前世代として有名人になっている。
戦後直後にイノベイターに覚醒、当時の容姿を保っているが性格は以前と変わらずポジティブ思考。

ビリー・カタギリ 男 49歳(2324年時) 技術顧問
ブレイヴ系を含むユニオン系MS開発陣の最高責任者。
ミーナ・カタギリ(旧姓カーマイン)との間で息子をもうけ、家では妻に組み敷かれるという。

スメラギ・李・ノリエガ 女 44歳(2324年時)
私設武装組織ソレスタルビーイング司令官。
長年勤めていた戦術予報士を辞め、度重なる戦闘で機能不全に陥った組織を立て直し武力介入を開始する。

フェルト・グレイス 女 31歳(2324年時)
ソレスタルビーイングの戦術予報士兼本隊「トレミーチーム」のリーダー。

アサネル・コープ 男 27歳(2324年時) 乗機:GN-0000QRE 100クアンタR1
ソレスタルビーイングの新ガンダムマイスター。
ELS戦を生き抜いた連邦軍パイロットだったがスカウトされテストチームに配属、新型ガンダムの運用試験を担当する。

ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ) 男 42歳(2324年時) 乗機GN-011RE1ガンダムサバーニャR1
トレミーチームのガンダム指揮官。
加齢により普段は艦内よりガンダムマイスター達を指揮するが非常時には自らもガンダムを駆る。
早撃ちを得意とするが狙撃も格闘戦もこなせるオールラウンダー。

アレルヤ・ハプティズム 男 37歳(2324年時) 乗機:GN-011R1/FF-01ガンダムハルートR1ファルコン
トレミーチームのガンダム指揮指揮官補佐。前線に赴き辛いロックオンに代わって前線でチームを指揮する。
ELS戦直後にマリーと共にイノベイターに覚醒したので容姿は当時と変わらない。

マリー・ハプティズム 女 37歳(2324年時) 乗機:GN-011R1/FF-01ガンダムハルートR1ファルコン
アレルヤの妻にして元地球連邦軍だったガンダムマイスター。

サジタリス・ブルースカイ 男 18歳(2324年時) 乗機:GN-011RE1ガンダムサバーニャR1
黒人系の新ガンダムマイスター。
スカウト前は中央アフリカ武装勢力の少年兵で戦争を好んで行う大人達を憎む。

ハヤテ・爽・ラファール 女 17歳(2324年時) 乗機:GN-001RE4ガンダムエクシアR4
日本出身の新ガンダムマイスター。

イアン・ヴァスティ 男 69歳(2324年時)
ソレスタルビーイングのメカニック主任。



[36851]      時代設定1
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2014/07/18 05:05
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 時代設定1

世界状況(2324年時)
イノベイターの増加は続き総人口の5%を超え人類との軋轢が表面化し内乱は拡大の一途を辿る。
また反イノベイター活動がかねてより燻っていた反連邦勢力を再活発させ問題は複雑になっている。
連邦政府の穏健派政権による軍縮が招いた治安悪化などの悪影響から、各地の連邦構成国や大企業が自衛を名分に再軍備し連邦軍とは独自に防衛に乗り出す。
その後の政権交代と軍備増強後で自衛の必要性が消失した以降も、解体を拒み反抗するなど完全に問題を解決できていない。
一方、宇宙開発は一段と進み火星にも宇宙コロニー群を設置し、そこでは地球外の乏しい太陽光に代わって核融合による発電で需要を賄っている。

地球のMS開発史(2324年時)
ガンダムの登場とGN-Xによる機体統合化から多様化に転じている。
発展方向は3つに分かれ、従来機関とGNコンデンサー併用機による補助戦力代替、機能省略及び性能維持のまま小型化、技術革新と擬似太陽炉複数搭載による性能向上となる。
量産機による対イノベイター戦も想定され、GNX-804T/FolGN-XIVフォルティスを皮切りに多様化した擬似太陽炉搭載MSの性能は10年前のガンダム(00系以外)を圧倒する。
粒子制御機の発展は自機のみならず周囲をも範囲に収めるようになり、低性能機相手ならば攻撃無力化を可能にした。

準GN機
主動力の従来機関と戦闘機動用のGNコンデンサーを併用したMS群の総称。
高コストから配備しきれない擬似太陽炉搭載MSの補助と老朽化する三国家MS群の代替に開発され、粒子制御機の標準搭載のおかげで粒子装備が使用可能になりGNX-609T GN-XIIIと同格の性能を獲得した。
旧MSの直接発展故に信頼性と整備性が高く改修次第で主力機と張り合えるレベルに強化可能なので、最前線では大好評と想定外の評価を集め全世界中に普及するようになった。
ただしテロリストや武装勢力にも旧人類軍経由で流れ込み、死傷者の爆発的増加と紛争拡大など深刻な社会問題を招いている。

地球連邦
2324年の大統領選挙でドナルドが選出されて以降、強硬派が穏健派に代わって政権を握るようになった。
それに伴い軍縮から軍備増強に転換し構成国の私設軍を吸収させるなど反攻に転じる。
イノベイター政策は穏健派から引き継ぐが軋轢は深く、厳重な居住区による彼らの隔離や雇用、旧人類の失業者大量発生など問題は山積みで解決には程遠い。
地方の武装化は収まったがテロやデモ、私刑、差別など反イノベイター活動はむしろ激しくなり、政権交代以後も内情は未だ厳しい状態が続く。

地球連邦平和維持軍
通称「連邦軍」もしくは「正規軍」と呼ばれる地球圏最大規模の軍隊。
宥和政策の一環として軍縮されてきたが情勢不安定化と強硬派の再台頭により軍備増強に転換、戦力不足故の水際防衛から積極的攻勢に切り替えつつある。
主な戦場は宇宙やアフリカ、中東で、それ以外の地域でも頻発するテロや反乱にも対応する。

地球連邦地方軍
統合戦争初期に乱立した大企業、連邦構成国の私設軍や義勇軍を統合再編した軍隊。
規模と装備は各地によって差があり指揮権は構成国首脳部が握るが有事には正規軍に編入される。
ただし正規軍の拡張に併せて縮小傾向にあり、正規軍へ編入及び治安部隊や予備役に格下げになった事例が相次ぐ。

第20独立試験部隊ソウルズ
イノベイター増加による将来の軍の方向性の研究実証及び軍内部の相互理解研究を目的とする独立部隊。名称の由来は魂からとっている。
研究班が実戦部隊からコミュニケーションのデータを集め、今以上の兵士同士の衝突や不満防止を模索していくのが活動内容。
アーミア・リー発案、ブリューエット・ボナリー元大統領の援助で設立するが、政権掌握した強硬派がメンバーの半数を不良軍人と落ちこぼれに変更された。
その為に部下同士及び指揮官との衝突が絶えない愚連隊に成り果て、予定にないヘラクレス系MSを集中配備させられたせいで市民の抱く華々しいイメージとは裏腹に最前線から恨まれている。
これは彼女に対する上層部の強い反感と敵意、「相互理解を成し遂げようならやってみろ」という嫌味に起因する。

旧人類軍
反イノベイター派ネットワークの中核にして最大規模を誇る軍事組織。
自力でMS開発生産可能な設備と宇宙艦隊、大量の擬似太陽炉搭載MSを配備し、対抗できるのは地球連邦軍とソレスタルビーイングのみ。
小惑星帯にカストロン・マサダをはじめとする各小惑星基地を構え、地球及び宇宙の反イノベイター勢力領内にも基地が数多く置かれている。
2324年の時点では連邦と正面衝突は避け通商破壊と各地の反乱軍援助が活動の中心で、地上の攻勢作戦を一度試みられたがソレスタルビーイングの武力介入で頓挫した。
組織内におけるイノベイター覚醒は大問題であり、軍事利用のみを主張する主流派と即時抹殺を叫ぶ過激派が問題を巡って内部抗争に発展するようになった。
また地上降下部隊は中央アフリカに領土を置き反乱軍や武装勢力を率いるが、憲兵の組織が巨大で部隊に対する生殺与奪など権力が大きいので最前線から反感を買っている。

ソレスタルビーイング
17年前より世界を相手に武力介入してきた私設武装組織。
ELS戦以後かねてより続く資金難と戦力消耗から一度活動停止していたが、新スポンサーなど資金源確保し活動開始した。
それでも機体更新はあまり進んでおらず旧型機改修で武力介入を可能にしている状態で、活動は以前と違い最低限に留まる。



[36851]      第37話 ヘラクレス・プレデター
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2014/10/05 22:25
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 第37話 GNX-805T/Plヘラクレス・プレデター

軍隊が兵士に求められるのは命令への絶対服従、良心の呵責なき殺人の遂行である。
人間の殺人機械化の為にあらゆる手段―――人間性の剥奪や徹底的な条件反射、正義による正当化―――を以ってして洗脳教育を行い、何度もその試みは失敗してきた。
どれだけ罵声で自我を奪ったとしても人の心全て破壊しきれず、兵士達は戦場で殺人の瞬間、良心の呵責を呼び覚ましてしまうのだ。
ましてや人間という生物は戦争という、動物の一線を越えた凄惨な破壊と殺戮行為に適応できてなどいない。サイコパスや狂信者など例外を除いて。
だが安全な後方に居座る好戦主義の指導層は、自らの利益確保の為に事実から目を逸らし、国民の精神を付け入り戦争に駆り立てる愚行が何度も繰り返された。
人類最後の戦争の時代、地球連邦軍が長きに渡る矛盾が変革によって突き付けられるようになるまで。



西暦2325年のある日、ベガは女上官に代わって突然の取材に自ら応じていた。疑惑と困惑と胸に。
相手はフリージャーナリストのヤーゲル・フロークマンという銀髪で端正な面立ちだが無表情で不気味な男である。まるで人形を思わせる風貌だ。
有名人の彼女目当てに報道陣が取材に押し掛けて来るのは別に珍しくないが、何故か後ろ盾のないただのフリージャーナリストに異常な警戒せずにいられない。

(なんでアフリカタワー基地は、事務方はこんな奴を受け入れやがったんだ・・・・・・?厄介者の俺達への当て付けか?)

苦情を押し並べたいがそれは後回しにし、取材を前に一言をヤーゲルに入れておく。

「第20独立試験部隊ソウルズの指揮官アーミア・リー先任少佐殿は、現在上層部の命令により急遽国境の最前線へ出向なされている。詳細は機密に当たるので説明はお断りさせてもらう」

最前線とは聞こえが良いがこの連邦領アフリカに後方も何もない、いわば全域が戦場と言って良い。都市を出ればテロリストや民兵が潜伏しており小競り合いやテロが頻発するほど情勢不安定なのだ。
取材内容は地球連邦の有名人と連日もてはやされているあの上官の真意についてだという。
エースパイロットとして挙げて来た戦果やソウルズにおける八面六臂の活躍ばかり取り上げ、ニュースで戦意高揚に誇張したがる視聴率目当てのマスコミ達とは違う意味で物好きと見えた。

「まず軍隊は国家の一機関だ。相互理解は部隊や組織内の結束にのみ通用させるべきであって、組織の命令と服従を原則を崩したり敵にまで適用してはならない思想だ」
「それは地球連邦平和維持軍の見解でありますが、ベガ少佐も同じ一存ですか?」
「自分が連邦の軍人である以上、上層部の意向には従わねばならない。ましてや私はアーミア少佐の補佐を目的とする副官、彼女の理想に感化されている訳ではなく命令で配属されているだけでしかない。
 確かにイノベイターが増えた事で対話による相互理解の可能性が開かれたが、軍隊は政府に統制されるでき組織だから宥和政策に対しても反発していないだけであって、思想面では賛成という訳ではないんだ」

なんともミクロとマクロの視点を交えた質問なのか。自分は政治的判断を下せる佐官の上にあの女の下にいたおかげで、高レベルの話題でも冷静に付いて来られるようになったのが幸いした。
普通の佐官なら機嫌を損ね、最悪組織への侮辱と受け止められ速攻で基地から叩き出される運命になっただろう。

「もっとも俺は普通の軍人で普通の人間であるから、アーミア少佐の思想は受け入れられない上に相互理解も保守的な立場でしかいられない」
「世界が大きく変革しようとしている中でも貴方方連邦軍はあくまで現状を貫く、という事ですか。
 それですと新兵訓練がますます過激な手段で行われ、耐え難い副作用が程な跳ね返って来るという可能性が確実になりますが?」
(こいつ・・・!アーミアの士官学校時代の論文で返してきたか・・・・・・!)

それは隊長が出向する羽目になった、あの計画のきっかけになったという彼女の功績が脳裏をよぎった。
このヤーゲルという男、反感を買わぬよう空気を読もうなど何処吹く風という態度で、それなのに挙動言動には悪意も裏表など見られない。

(まるでアーミアとそっくりではないか)

ベガは目の前のフリージャーナリストが、生意気で小憎らしい女と重なって見えてしまい内心苛立ちを募らせていった。

「アーミア・リー少佐の挑戦に多くの反感を買う事は間違いありません。非難も誹謗中傷も何十年も続くでしょう。
 ですが彼女のやっている事は人類の変革の中であっては、大変価値ある事と私は思います」
「価値ある・・・か・・・・・・。その他大勢からは決して受け入れられないだろうがな」

変革がどのように進むかわからない以上、それしか答えられなかった。



「友軍部隊の機動効率4%ダウン、精神状態80%前後で安定し好調せず・・・・・・」

ドラムコックピット内。アーミアは頭上の砲火に注意しつついくつものサブウィンドウを端末で操作しながら次々転送される情報を処理していく。
ここは連邦領アフリカ北部に位置するエチオピアの山岳地帯、大地構帯沿いに地球連邦軍の哨戒部隊と反乱軍やゲリラが対峙する激戦区の一つである。
前方のチェンシーからなる小隊が岩陰より何度も砲撃を加えては迎撃から機体を敵から姿を隠しやり過ごし、前進や後退と移動を繰り返しながら敵地の威力偵察を行っていた。
彼女率いる第一小隊は岩山を盾に前線のMS部隊の真後ろに配置されている。無論、豪華な機体を見せびらかすという下種な目的ではない。
必要ならヘラクレス・ウォールズ四機による火力支援やGNシールドビットの防壁展開など援護を積極的に行う。尤も、最前線における将兵の心理データを収集し後方の研究チームに送るのが今回の任務だが。

「隊長、こちらの狙撃で敵陣地は10%沈黙。少し息を抜けるかと思います」
「二時間もかけてでしょう?リラックスは出来ないと思いなさい。・・・っ!ほらね」

そう言っている間にも粒子ビーム混じりの実弾の雨が降り注ぐ。二時間前に最前線に展開してから続く一斉砲撃はこれで13回目になる。

「「・・・・・・」」
(大変堅固な陣地も厄介だけど、周辺のMSと歩兵をなんとかしないと・・・・・・)

ケニア反乱軍の張る防衛陣地は決して多くないが、艦載GNフィールド発生機を用意しているらしく守りが固い。その上防衛MSが相当用意されており随伴歩兵と共に機動戦力としてこの要害を補強している。
宇宙艦隊と航空MS部隊の充実した火力支援でもそう簡単に沈黙できないのは明白だった。

「思ったより良いフォローしてくれるじゃないか。ソウルズの奴らは」
「でもあのMS部隊、ボンクラ共をエースが率いてるだけじゃないか。第一選考で落ちるような奴らばかりじゃ今の実力がどの程度か疑わしいなあ・・・。もしかして一人じゃ正規相手にも敵わないんじゃ?」
「有り得るんじゃねぇの?あちこち前線を回るようじゃ訓練もままならねぇしさ?どうせアーミア少佐「様」に頼ってばかりだろうな。ははは」
「え?各機とも的確に動いてたから、それは無いんじゃないか??」
「こちらドラゴン1、お前達の言いたい事はもっともだ。実力はどうあれ後方にいつでも帰れる試験部隊なのは事実、それにソウルズの目的は俺達前線部隊のデータ収集だからな。俺達だけでここを踏ん張る気で、任務を果たせよ!」

オープン回線から前線の声を捉えた。会話内容から感謝を抱く者もいるが多くは侮蔑や疑念、嘲笑が込められた罵倒で占められている。
敵歩兵の携行式GNミサイルを用いた肉薄攻撃阻止を担当する随伴歩兵からも同じような悪口ばかりがもたらされる。こちらの奮闘のおかげで反撃に乗り出し一段落したのが、かえって心理的に余裕が生じさせるとはなんとも皮肉な結果だ。
一瞬も聞き逃さず耳にしたそれらを全て心に留めつつ、アーミアは同時にリアルタイムで表示される将兵の心理データに目を通す。

(戦闘に伴う興奮、恐怖は平均値を維持。また敵に対する敵意や殺意、悪意も、私達に向ける感情も、同様に平均値を維持・・・・・・。・・・平均とはよく言えたものね)

サブウィンドウに表示される心理データと数値に溜息をつく。
地球連邦平和維持軍では統一政体の維持と人類及び地球防衛の為と、正義感と連邦に異を唱える不満分子に対する敵意を持つよう将兵に思想教育が施される。
軍人としてアイデンディティーをもたらす教育はかつての三国家軍、遡れば無数の元構成国軍から連綿と続くものであり、軍隊が存在する為になくてはならない大事と言われている。
だが彼女にとって問題なのは教育の内容が、あまりに過激で価値観や人道を侵害するレベルなのだ。仮に善良で無垢な市民が目の当たりにすれば絶句するだろう。

(あの穏健派のブリューエット政権すら軍の人格破壊教育まで改められなかった・・・・・・)

テロリストや反乱軍は悪魔だデモ隊も悪魔だ、敵は地上から消えるまで殺し尽くせ、地球連邦に心身捧げよ。
市民社会とかけ離れた価値観の刷り込みに先駆けて、入隊当初より鬼軍曹の罵声と精神衰弱など人格否定の仕打ちを受ける。
それらは全て無慈悲な殺戮者という軍の要望を最短時間で実現させる、最も効率的な洗脳教育なのだ。

(あの教えは士官学校でうんざりするくらい説かれたんだよね・・・。私はそんな教育に最後まで屈しなかった。あれは幸運だった)

膨大なデータも相手取るアーミア達と前線部隊の静かな軋轢は司令部の通信によって一旦中断された。

「こちら作戦本部。突入部隊が作戦空域に到達、これより降下し敵陣地に強襲を掛ける。総員攻撃準備」

これまで自分達に向けていた砲火の多く、そして火を吹かせていない分も加えて上空に放たれた。すると砲火の先、空の彼方からオレンジ色の帯が4つ現れ次第に大きくなってきた。

(通常の三倍の速度をトランザムなしで、通常出力のままで・・・!)
「突入部隊の精神状態は安定であります。平静にあり、ストレス反応から緊張はありますが迎撃に対する動揺も恐怖も感知されていません」
「そう・・・・・・。このまま全機とも心理データをくまなく回収しなさい。本任務の最優先データ収集対象の突入部隊が到着したんだからね」

猛烈な対空砲火に身じろぎせず前進回避で乗り切る突入部隊。地上部隊と敵情報をデータリンクが確立しているとはいえ、GNフィールドなしで潜り抜けられる部隊といえばイノベイター系しかいない。
光学カメラとデータ照合で彼らの乗るMSを即座に理解する。

(GNX-805T/Plヘラクレス・プレデター・・・。やはり上層部は私にイノベイター部隊の心理を見せ付けて、訓練の正当性を見せ付ける公算ね・・・・・・・!)

その機体は連邦軍精鋭用MSヘラクレス系の一つで、イノベイターパイロット専用の近接攻撃型として機体全体が改修されている。
特徴的なのは背部サイドバインダーに装備されたそれぞれ3基の大型GNファングと、全身に増設された大型GNコンデンサーとGNスラスターだ。
大気圏内でもトランザム並の爆発的な機動力を通常状態でも発揮するという、カタログスペック通りにイノベイターパイロットは見事性能を引き出していた。
セオリーも発砲もなしに敵勢力下の地上に肉薄、山の頂より高度100メートル前後の所で攻撃に移行する。四機のヘラクレス系が各機散開し二機で距離をかなり開けつつ連携をこなしていく。
実体剣より粒子ビーム発射と同時に背部の大型GNファングを六機全て展開、四機からファング24基が敵に差し向け数え切れない目標に牙を向く。

「突入成功!全部隊攻撃開始せよ!」

それからの様相は一方的な戦いだった。以前の4倍ほど大型の近接ビット兵器が山ごと陣地を貫き拡散モードの粒子ビームを内部に撒き散らし、中にいる人間を砲手から衛生兵に至るまで一人残らず焼き払う。
敵MSと山々を縫うように潜り実体剣で相手を切り伏せ、一度反撃態勢を許せば別方向へ攻撃に移行する。

「敵戦力63%撃破、陣地攻略50%に到達!」

観測部隊から報告が入る。

(敵MSだけでも四十機程。それを一機に付き十機相手するとして、一分で五機も落とした・・・・・・!)

無論立ち塞がるMSを完全に撃破できてはいないが、密集した敵中における巧みな一撃離脱が反乱軍を撹乱させ同士討ちを誘うには十分である。
全身のGNスラスターからもたらされる高機動力に、陣地防衛のGN-XIVフォルティスもGN-XIIIもチェンシーも翻弄されるばかりだった。
慌てふためいた一部MSが飛翔し距離を置いた所を連邦軍に狙撃される。恐慌状態に陥った一機がこれ以上近づかせまいと乱射したが避けられ、代わりに友軍の歩兵とMSに撃ち込んでしまう。

(あるガンダムのデータをヴェーダから引き出して造ったと言われるけれど、これ程爆発的な機動力を誇るとはね・・・・・・)

急激な形勢不利に随伴歩兵がヘラクレス・プレデターを間近で撃破を試みる。だがその賭けはいともたやすく見破られ多目的粒子制御装置・近接迎撃モード及びGNファングの対人拡散ビームの返り討ちを受けた。

(イノベイター兵は一体何を感じ、何を思ってるんだろう・・・・・・?)

GNシールドビットで仲間を友軍を守りながらアーミアは思う。

(イノベイター兵は周囲の脳量子波の遮断措置を受け、敵兵の心に影響されないよう心理トレーニングを受けている。ナノマシンによる精神操作ははハッキングのリスクと人道面から棄却だけどね。
 それはこれまでになく強い敵意と偏見を植え付けて良心の仮借なく殺せるようになるという事だ・・・・・・。市民を守る軍人というスミルノフ親子の精神は彼らには多分ないわね)

自分の研究はあくまでも軍の蓄積分と自力収集した心理データを、相互理解と戦争防止の面で検証し上層部に発表する事だ。軍の訓練や教育に助言は出来ても改革など少佐の身では不可能である。
思わず飛び出してきた敵MSに向けて発砲。しかし一発で撃破できるだろうが撃ち抜かず、あえて機体脇に射線を逸らし逃げるよう促す。

(時代は戦争に突き進んでいる。でも戦争機械を生み出すようじゃ平和になったとしても、元の市民に戻れない兵士と私欲にまみれた軍指導者がいるかぎり同じ繰り返しになるだけ・・・。
 いや、市民社会のイノベイターの受け入れと相互理解が進めばその分だけ軍の洗脳教育はますます酷くなる。このままでは戦争の火種が残ってしまう・・・・・・)

これまで連邦軍を受け付けなかった堅牢な陣地の多くは破壊され、兵器だった残骸と落石が斜面に無造作に散らばるようになった。
ヘラクレス・プレデターに後方まで蹂躙されたケニア反乱軍を攻勢の好機と捉えた友軍は攻勢に打って出た。チェンシー部隊は随伴歩兵と共に前進し突撃するGN-XIVフォルティス部隊を援護する。

(現在のイノベ部隊の精神状態は至って正常。歩兵も目視した上で次々焼き殺している辺り、彼らは相手を人間じゃなくて蛆虫程度にしか見ていないかもしれないわ)

演説以外に出来る事を探し求めるアーミアの見る現実はますます厳しくなっている。
変革を受け入れる者、受け入れぬ者の差は、軋轢は収まる様子を見せない。増え行く黒煙と戦火に彼女は憂うばかりだった。



[36851]      第38話 アシガル治安型
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:83063efd
Date: 2014/11/17 20:12
機動戦士ガンダム00 統合戦緒戦記

第38話 SVMS-02Pアシガル治安型

人は何度でも同じ道を繰り返す。
歴史は何度も繰り返される・・・・・・。
それは統合戦争に至るあらゆる所で、全ての代の人間が犯してきた過ちである。
過去の一方的な暴虐を反省したとしても、対話による平和に努力したとしても、突如降りかかる災いを前にすれば掌を返してかつて収めてきた刃に手を伸ばせる。
賢い者達が再び禁断の果実を口にした先を読み説き伏せようと、ほとんどの人は見たい現実しか見ようとせず、それしか見られず、賢明なる忠告に耳を貸さない。
これを愚行と呼ぶ以外にどう断言できようか。
しかしそれを行う者とて悪を以って行うより善意に基づくのが圧倒的に多いのが、人間の哀れな事実と知らねばならない。
そして高みより愚行と声高く断ずれば、その者もまた過ちの鎖に知らず知らずの内に囚われていく事も。
この世を生きる為に次々と犯していく過ち、だがそれでも人は生きたいと願う。
何度も繰り返す過ち・・・・・・。いつ終わりを迎えるかわからない。



ワシントン大行進2326は西暦2326年に勃発した地球連邦領内の市民運動である。
経緯は先月、統合戦争勃発以来、分離勢力として独立してきた北米テキサス共和国が連邦と和平を結び、再編入されようという時にまで遡る。
和平交渉に赴いた旧テキサス指導層が連邦保安局より暴行を受け、その内二人の幹部が射殺された。
ある幹部に証言によると、

「突然、宿泊先のホテルで十名もの保安局員が部屋に押し入り地面に伏せろと怒鳴ってきた。当初、彼らの不当さに抗議したが銃を突き付けられたので止む無く命令に従ったが、直後に共に手を挙げていた二人に向けて乱射してきた。
 辺りは血の海となりかつての同胞達は無残にも蜂の巣にされたのだ。発砲されなかった私達3人も殴る蹴るなど暴力を振るわれ、抵抗できなくなるまで痛めつけられてから連行された。」

一方の保安局員は、

「護送任務の為、入室すると連邦政府に対する侮蔑を浴びせてきたので強行手段に銃を突き付けざる得なかった。発砲したのは幹部二名(発砲後に死亡)が抵抗を止めず、銃を奪おうとしてきたからである」

と事を弁解し保安局広報官もまた、

「旧テキサス指導部は反乱軍という前科があり、可能な限り警戒しなければならなかった。不幸な結果となったが、手順通り行使した局員に不当性は見られない」

彼らの一見やりすぎに見える行いを擁護したのだった。
それぞれの食い違う証言は、保安局の過剰な権力行使に晒されていた連邦市民の不信感をここで爆発させた。
何万もの市民がそれぞれ連邦が設置したテキサス暫定州政庁と、事件を起こした保安局員のいるニューヨーク連邦最高裁判所に詰めかけ、事件の詳細な調査及び加害者者の謝罪賠償反省を求める抗議デモを実施。
これに対して連邦政府は「旧人類軍の潜入部隊に備えて」MSなど重武装の保安部隊を中心とする治安部隊を展開した。

「地球連邦の権力をあからさまに見せびらかし威圧する一連の弾圧行為に、市民は決して許す事はありません。
 秩序回復及び内戦収拾を名分にこれ以上の弾圧を続ければ、どんな理由があろうとアロウズ時代に逆戻りするでしょう。
 それは現政権の責任であり、内戦の対応が後手になり宥和政策及び組織改革を中途半端にし、組織の体質を抜本的に改められなかった私の責任でもあります」

2代目連邦大統領ブリューエット・ボナリー野党議員が、事件にそう述べた。

「私は貴方方、市民と連邦保安局の皆様に尋ねます。争えば、貴方の家族や恋人や友人は幸せになれますか?
 自分が目の前の事に、正しいと思っていらっしゃるのはわかります。しかし人が何を思って、何を求めているか考えたことはありますか?」

これは現アザディスタン女王マリナ・イスマイール氏の演説より抜粋した言葉だが、この事件とその後の抗議運動の中、市民と保安局に呼びかけたという。
そしてワシントン行進2326にて保安局の暴走が市民の衆目に露わにしたのだった・・・・・・。



ベガ率いる第20独立試験部隊MS小隊ソウルズは、ニューヨーク上空で哨戒し回り地上の動向を監視していた。
とはいえ彼らは保安局の応援はとにかく、連邦軍の力を市民にちらつかせる看板役という、最新鋭MS部隊にとってもったいない任務まで帯びている。

「貴様ら、無抵抗の市民が多いからといって油断するな!この中に旧人類軍が潜んでいるのかもしれんのだからな!」

随伴の二機、アシガル治安型よりリアルタイムでもたらされる数多くのカメラ映像に目を通しつつ、落第生ばかりのパイロット達に一括を入れた。

「現在、市街地の市民に異常は見られず。怪しい動きはまだありません!」
「武装している集団は保安局と連邦軍だけだな?」
「は、はい!ハッシュマン少佐!」

高層ビルの立ち並ぶ巨大都市は所々デモ隊が行進しつつ、連邦最高裁判所に集結しようとしている。
穏健派議員が率いているだけあって、この手によくある交通マヒやゴミ散乱などはなく住民との軋轢は見られない。
しかも公園や広場などには屋台や休憩所が立ち並び下手すればお祭りとも言えよう。それ程に今回の大規模デモは統率が取れており長期化を見越し計画的な様子だった。

(だが、政府は・・・・・・強硬派とかは黙っていないだろうが・・・・・・)

いくつものウインドウにはプラカードと垂れ幕をかざすデモ隊や道行く市民、道路を埋め尽くす車が写り、ベガは注意深く確認していく。
アシガル治安型は調査用に四機配備されたアシガルをこの任務の為に追加装備した機体である。
部隊主力のヘラクレス型と比べて性能は圧倒的に劣るが、使い勝手が良く追加装備をどれほど用意しても運用コストが安く済むのが魅力だ。
・・・・・・落ちこぼれ達の練習機代わりにもできるというのだから。

(旧人類軍は連邦の至る所に潜んでいるんだ。反連邦主義者や反イノベ派を取り込んであらゆるテロをしてきてるんだからな・・・!
爆破はもちろん暗殺、乱射、果ては作業もしくは軍用MSによる破壊活動・・・。彼らがこの時を利用して動き出すのはおかしくない!!)

この十年近い内戦で見てきたテロの数々を反芻した。
アーミア少佐は今、最高裁判所で進められている裁判にオブザーバーとして出席しており、自分達は裁判所などを狙ったテロに警戒しなければならぬ身だ。
いつどこで所属不明のMSが現れるか、どう動き出すのか。モニターや端末に表示されている、軍用民間を含む公式登録MSにも注意していく。

「今日もデモ隊は平和的ですね。衝突も挑発も何一つ見られません」
「バーク少尉、油断するなと言ってるだろ。デモ隊だって実は旧人類軍の扇動だった、てケースが何件もあるから簡単にあいつらに乗ると馬鹿を見ちまうぞ」
「穏健派の議員が率いておられて、手順通り保安局から許可をもらったデモでもですか?」

MSパイロット選考や教育から落ちた連中の一人なだけあって、将兵では矯正されるべき人格が恐しい事にまだ残っている。
ただの一般市民なら当たり前の善良な人間性と自由な考えは軍隊にとって不要だというのに、弾かれずに最前線部隊に送られシャバの価値権を持つ。ベガは話を聞いて不機嫌になった。

「流出動画では保安局は最初から銃で幹部達を脅してましたし大勢で押し入るわ、どう見てもやりすぎどころか敵扱いしているとわかるではないですか」
(ううむ・・・。後でどう教えようか、死んだ隊長の受け売りでも言おうか)

初めに正規ルートで教育を受けパイロットになったベガがひよっ子達の教育を考え始めた矢先、眼下で広がるデモの様相が大きく変わった。

「隊長!これは、国歌です・・・!」
「デモ警備の保安局が各地で一斉に動き出しています!これは一体・・・?!」

進み続けるデモ隊を完全武装の保安局員達が一斉に襲うではないか。
人垣に催涙スプレーやテーザー銃を問答無用に浴びせ、市民を引き剥がしては警棒で打ちのめす殴る蹴るの暴行を加えていく。
いきなり受ける仕打ちに耐えかね抗議を上げる彼らなど害虫の如きと言わんばかりに、保安局員は全員が国歌を鼻で歌いながらこれをお構いなしに叩きのめす。鼻歌での国歌はトーンが低くお世辞にも上手くないが統率の取れた合唱が不気味だ。

「各地のデモ隊にこれと同じ事を行っています!あっ!裁判所前、MS隊が発砲しました!!」
「なっ、何を考えてるんだ!?催涙散弾でデモ隊の退路を塞いで、ゴム散弾を次々撃ち込んできました!!」
「あいつら、市民を虐殺するつもりだぞ!アロウズ時代に逆戻りだぞこれは!!」

部下達が悲鳴を上げる間にも惨劇は続く。
最高裁判所に配備された保安局のMS隊、そのチェンシーがまるで事前に打ち合わせしていたのか淡々と砲を撃つ。
逃げようにも催涙弾で退路は塞がれ頭上からはゴム散弾による無慈悲な豪雨に晒され、そこへパワードスーツ装備の保安隊が無力な市民達に殴り込みをかける。
青年も、学生も、女性も、子供も、老人も、妊婦も、穏健派議員も、誰もが皆等しく保安局員の冷酷な蹂躙を受ける。それはまさしく阿鼻叫喚の、目を覆う地獄だった。

「対策本部、対策本部!状況の説明をどうかお願い致します!」
「連邦軍ソウルズMS隊、保安局デモ対策本部だ。デモ隊の中に旧人類軍工作員潜伏の疑いがあり一斉検挙を実行している。貴隊は任務を続行せよ。以後、そちらの通信は受け付けん」

ベガは訊くが本部は軽く答えたきりすぐ通信を切られてしまった。

「ど・・・どうしますか!?少佐・・・!なんとか止める手は、ございませんか・・・・・・?!」
「本部の命令に従うしかないだろうが馬鹿野郎!!上官命令は絶対だ、兵士は命令のその通りにやれというのがまだわからんのか!?
 ・・・今はアシガルで地上の映像を撮りまくれ!どっちが正しいか映像でわかるはずだ!」

すがるように尋ねる部下に怒鳴ると、間を置いて考える限りの対応策を命じた。
このアシガルは広大で複雑なな地上の中から暴徒やテロリストを把握できるよう、センサーやカメラが強化増設されている。
デモ隊と保安局の細かな挙動など発言などを見聞きそれらを集めらる事は不可能ではない。

「りょっ、了解・・・!」

その矢先、保安局所属の航空MS小隊がこちらに急接近。アシガル治安型で保安局仕様に調整されたミッドナイトブルーの機体が、肉眼で確認できる程までこちらに張り付く。
モニターに指揮官らしきパイロットのウインドウが加わり、相手を虫けらのように見る冷たい目で自分達の鎮圧行為を非難したベガ達を見据えた。

「・・・・・」

息を吐かせぬこの静寂。溜息をつく。
保安局とは対テロ作戦などを円滑に進めるべく連携を深めているが、共に大規模な治安維持部隊を抱えていたり現場では双方の権限重複などで意見が食い違うなど摩擦が絶えない。
特に市民に対する姿勢が両者では違う。
民衆ならば見境なく敵視する保安局に対し連邦軍では古参兵を中心に、故スミルノフ親子及び故ハーキュリー大佐の残した「市民を守る軍人」意識を持つ。
同じ統一政体の一員ながらもその僅かな意識差が、このような摩擦を生み出しているのだった。

「連邦軍機に告ぐ。保安局の意向に不服の様子ではないか。放っておけば自分勝手に振舞う民衆を、正しく導くのが地球連邦の使命と教わったはずだが?返答次第では正規軍だろうと反逆罪の疑いで発砲する!」
「お前達は手出しするな!!・・・こちら連邦軍第20独立試験部隊ソウルズ、第一小隊長代行ベガ・ハッシュマン少佐。地上のデモは全てあらかじめ許可を出した上、敵工作員の確認も万全に済ませたと聞く。
 それ故、保安局の突然の行動に我々が激しく動揺したのは事実、その非礼をお詫びする。しかし地上の監視をより厳かに、その中に旧人類軍が潜んでいないか警戒はさせてもらう」
「これはこれはベガ・ハッシュマン少佐。妖精の片腕たる英雄がまさか保安局まで監視しようとは心外ですな。それでは貴官は反逆したと見なしますぞ!」

連邦軍と保安局は未曾有の内戦対応に手を組まなければならない立場。ここで衝突しては共同作戦に支障をきたす。

(嫌な奴だなぁ・・・・・・。自分達こそ、属する組織こそ全て正しいと真面目に思ってやがる・・・)

慇懃無礼な態度を崩さない保安局パイロットに内心唾棄する。

「心外なのは、貴官らに疑われた私達もだ。そもそも旧人類軍の工作員がデモ隊に潜んでいたとそちらが疑っていたならば、彼らだけでなく身内にも疑うべきであろうが?
 それに証拠は保安局だけでなく我々も共に集めれば、収集効率が高まる上に視野が偏らずに公平性が増す。これを怠り一方だけ疑い他を疎かにし工作員を見逃せば。それこそ反逆罪と疑えるぞ・・・・・・?!」

ベガは落ち着いた口調でありつつも保安局の脅しに屈せずに言い返す。

「デモ隊の警戒は対策本部の命令であり我々の行動に問題はございません。それにデモ隊は我々連邦政府の政策に反発し内紛の混迷を深めかねない不穏分子。要求次第では取り締まるべきですぞ!」
(この内戦を、真面目に何もわかってないなこいつ・・・・・・)

生真面目でしかない。命令を生真面目に遂行し、無慈悲な弾圧を生真面目に行い、組織の不手際や不祥事を生真面目に無視し、そしてそれらを隠す。この男はただ生真面目なだけの人間でしかなかった。

「お言葉ですがハッシュマン少佐。かつてアロウズの暴虐を知った市民は、自分の無知を恥じて初代政権を糾弾し穏健派に恒久平和の期待を寄せましたが、この内戦で前政権に幻滅して強硬派に鞍替えしました。
 目の前のテロや内戦に彼らは自分の命惜しさに、軍備増強による治安回復を求めて、強い地球連邦の復活を求めて強硬派に再び支持したのですぞ」

ベガは彼のネチネチとした話を黙って聞く。

「ガンダム意識だって同じです。一時の過激な武力介入に憎んだというのにアロウズの件であっさり見直された。まったく市民というのはコロコロ移り変わりやすい、馬鹿で自分勝手な連中ですよ。
 貴殿とてそう思うでしょう?昔のあれだけの反省とか長年の苦労と努力を、奴らは目の前の事の為にあっさり掌を返して切り捨てて、民主主義と聞いて呆れますな??」
(そういう貴様も、真面目に馬鹿な市民と同類だろうが・・・・・・。俺も粗方の人間もみんな、だろうが・・・・・・。
 連中が人類唯一の統一政体の為、無理矢理まとめた人間達を手っ取り早く抑え付けるには、市民全員等しく敵と見なすしかないと考えるのは無理もない。しかしな・・・)

溜息を吐いてから間を置いてから、ベガは決心した上で口を開いた。

「保安局の正義感、意気込みは充分、我々は理解し感服もした。
 ところで我々連邦軍は保安局による治安維持の応援、それもテロカウンターを担当しているのでデモ隊だけ注意を向ける訳にはいかない。
 与えられた任務に則り、テロ防止すべくニューヨーク市内全てを監視させてもらう。デモ隊に構ってテロリストが暴れられては、そちらも大いに困るに違いないから、な?」
「・・・保安局の中にも工作員が潜んでいるとでもお考えか・・・・・・!」

よりにもよって痛い所を突かれたと言わんばかりに、保安局パイロットは渋面を浮かべる。

「不良品共の取りまとめ役の分際で!!」
「今のは向こうの言う通りだ!対テロ戦は連邦軍に任せておいて我々は任務を遂行すべきだ!では我々はここで失礼いたします」

部下の暴発を抑えさっさと去ろうという矢先、ベガは言葉を続ける。

「あと最後に忠告する。もし監視映像のレコーダーが飛行時間より半分以下だったり監視分が全部隊とリンク出来ていなければ、意図的な隠蔽工作とこちらは見なす。
 それが本当に隠蔽と発覚すればその時、貴官達の敬う栄光の地球連邦はバラバラに分解し全て台無しになるだろう。だかから、そこはしっかり気をつけるんだな!もし本当に不正を行ったらただでは済まんぞ!」
「・・・・・・了解しました」

口でそう告げると僚機を引率する形でアシガル治安型を翻す。

(市民は・・・あいつらの言ってる事はまず間違いじゃない。過去の痛みなど今の痛みですぐ忘れられる。
 それにアロウズが潰れてもどうせ同じ弾圧の役目を正規軍かどこかが引き受ける、と死んだ隊長は言っていた。その弾圧を現に連邦軍と保安局が行おうとしている。
 歴史は繰り返される、飽く事無く同じ道を繰り返すとはこの事だな・・・・・・)

滲み出てきた哀れみはすぐ振り払い現実に思考を傾ける。
血を流さぬ静かな戦いは未だ続く。生意気な部下達との応答や保安局との連携、そしてテロの警戒と課題は山積みなのだから。



[36851]      第39話 ガンダムデュナメスR2
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/01/10 18:50
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第39話 GN-002RE2 ガンダムデュナメスR2

西暦2326年、世界の混迷は深まるばかりである。
巨大演算量子コンピューターよりもたらされる膨大な情報の海の中、戦術予報士フェルト・グレイスは重要度からそれらを選りすぐっていく。

(イノベイターとの軋轢がきっかけなのに、人間同士でも軋轢が激しくなっている・・・・・・。矛盾を孕んだまま世界を統一させた代償がこれ・・・ね・・・・・・)

地球連邦はかつての強硬派が再台頭し軍備を増強させて、旧人類軍以下各地の反乱軍と全面対決に乗り出そうとしている。
だが強大化する一方で矛盾が大きくなり、市民から地域、経済に至るあらゆる場面で情勢はますます不安定になるばかりだ。

(肝心なのは内通者ネットワーク・・・・・・。地球連邦と旧人類軍間の反イノベイター派の人脈、アース・インダストリー社軍事顧問ジョシュア・A・ジョンソンの策謀が世界中に混乱の渦を作っている。
 その男を中心に彼らは双方の情報と技術を交換、戦争を操作し利益を得る・・・。最優先介入対象だけれど、この戦争の根源まで断ち切れない以上、今は監視するしかない・・・・・・)

あの男ジョンソンは狡猾にも地球の経済界から政界、軍に至るまで深くパイプを張り世界を動かしている以上、軽率に排除すれば世界のバランスが崩れ、内戦でも曲りなりにも保たれていた秩序が崩れてしまう。
複雑に張り巡らされた流通網が一つのダメージで経済バランスを崩し、会社の破産と資源供給の停止が局所から全体へと広がっていく。
人々は事欠くようになった資源を巡って衝突し合い争いを生む。こうして奈落の底に転がり落ちれば内戦の拡大という、戦果を塗りつぶす最悪の代償が待っている。
これでは武力介入の意味がなくなり本末転倒にしかならない。
師たるスメラギ・李・ノリエガ司令官の見解も、ヴェーダの演算も同じ答えだった。
おびただしい情報をヴェーダの補助で掻き分けていくと、フェルトは世界のとある動向に目が入った。重要度は、ヴェーダの推定では高いレベルにある。

(これは・・・・・・介入を検討しなければ・・・!)

地球連邦のイノベイター政策の詳細に、彼女は視線を鋭くさせた。
今では強硬派が握りつつも、ドナルド現大統領は良識ある方で穏健派のブレーキとアロウズの反省を汲んでいるので、政策自体はなんとか暴走に陥っていない。
しかし現場では一時はなりを潜めていた強硬派や旧アロウズメンバーなどが勢い付き、一部では恒久平和と世界統一を名目に再び弾圧を始めている。
親イノベイター派で統一政体とはいえどこれ以上の暴走を許せば世界は世界大戦に突き進む。
かねてより戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングにとってそれは到底受け入れられぬ事であり、争いに掣肘を加えるのに必要な力は今や揃っている。
フェルト・グレイスは武力介入の内容を練り始めた。



数週間後、地球連邦は市民の中から覚醒したイノベイター達の移住が開始された。
イノベイター同士で独自にコミュニティを築いたり構成国や反乱軍などに居住区に集められるなど、これまで自発的だったイノベイター政策を連邦政府主導で進められる事になったのだ。
かねてより彼らの増加は見込まれたがELS飛来の影響から、その勢いにより拍車がかかった。自分達を超えた存在に旧人類は彼らを恐れ、反感と利益に基づく軋轢は政府の整備してきたインフラでは対処できなかった。
この窮状に政府は、イノベイターを半分も専用居住区に移住させる事で衝突を軽減させようと試みた。
当然、穏健派を筆頭に反論を呼んだのだが、市民の多くはイノベイターに対して厳しい。たとえ人類の変革を理解しても、感情と目先の生活やこれまでの利益が脅かされるとあっては拒みたくなるのが人間だ。
ユダヤ人迫害の再来、隔離政策、ゲットー建設と揶揄され、「市民の不満感情をイノベイターに逸らしている」とやら「イノベイターを旧人類に人身御供」といった反対の声が多数派の一般市民に圧殺される中、
世界各地のイノベイター系市民は連邦軍に「守られ」ながら、次々とトラックや列車に乗り込んでいった・・・・・・。



地球の周り漂う廃棄惑星。その表面にダミーとナノマシン迷彩で溶け込む一機の機動兵器―――ガンダムが、巨大な得物を地球に銃口を向けて長い沈黙を送っていた。

(ハヤテの奴でもいりゃあなぁ・・・・・・。口うるさくてしょうがなかったけど、口げんかでも何時間も一人でいるんよりマシなもんだなぁ。もう二日経つぜ)

ガンダムマイスター・サジタリスは、本ミッションに割り当てられたガンダムデュナメスR2のコックピットに腰をかけていた。
戦争根絶の尖兵という役目がある故に数日を超える長期ミッションをこなすべく、あらかじめ訓練を受け食料―――といっても水や栄養ゼリーだが―――や生理用品など万全の準備をしてきた。
それでも狭いコックピットで任務以外にありつける事は食う寝る遊ぶぐらい。全身をほぐせるウォーミングアップをしたければ、パイロットスーツ着用して宇宙に出るしかない。

(ま、こういう長期単独任務こそ狙撃兵の真骨頂なんだけどな)

この狙撃型MSは最初の武力介入以来の残存機に二度目の近代改修を施した機体で、性能はGN-XVに対抗できるレベルに引き上げられている。
中でも際立つのは狙撃能力と情報収集能力など狙撃MSたるべき部分を最高レベルに仕上げた点だ。
武器のGNスナイパーライフルIIIは量子空間越しに視界外の目標を撃ち抜き、その正確無比な狙撃と複雑になったシステムの管制にヴェーダ・サブターミナルと独立AI式球状小型汎用ロボット「ハロ」二機の補佐を受ける。
こうして生まれ変わった狙撃ガンダムの狙撃テストは万全であり、このミッションには本機が最もふさわしいと言えた。

「移民団第一波が出港。連邦軍二動キ無シ、未ダ連邦軍ニ動キ無シ」
「へぇ。そうかいな」

ウィンドウは大きく分けて二つ、地上と宇宙に向けている。
地上では各軌道エレベーターに集結する移民団や地上居住区に移動する移民団が、宇宙ではオービタルリングから出港する移民船団がそれぞれ黙々と動く。
護衛の連邦軍は彼らを狙った攻撃に備えて目を光らせており、昼夜関わらず歩兵隊とMS隊が移民団の周りを固める。
本ミッションは移送されるイノベイターを発砲すると思われる連邦軍の一部の阻止で、その行動範囲はなんと地球圏全域に及んでいる。
サジタリスのガンダムデュナメスR2は障害物の少ない宇宙より「次世代」の超長距離狙撃を担当。
ハヤテのガンダムエクシアR4とハプティズム夫人のガンダムハルートR1は、不測の事態に備える遊撃を担当する。
後者はいつでもトレミー2より出撃、量子ワープ出来るようスクランブル待機している。

「あーあ。ELSから助かったと安心したらこれかよ。アロウズの時には中東の奴らを宇宙に移すと言ってたのを、イノベイターにやるなんてよ。人間って変わんねぇもんだなぁ」

サジタリスは一人ごちる。
アフリカも中東と同じく長きに渡る貧困と紛争に満ち溢れており、先進国は救いの手を差し伸べるよりその地の利益を吸ったり切り分け続けた。
今はイノベイターの想像を超えた能力に多くの人間が恐怖を抱き軋轢が大きくなっていっている。
同じ時間で何倍も働き稼ぎ、世の中を巧く渡っていける。彼らが増えるにつれて日常の至る場で自分達と差を付けられる場面が増え、今までの利益を奪われるのを恐れるようになる。
自分達もやがてイノベイターに変革するのは既成の事実にも、多くの人間達は目先の問題に視野を曇らせ変革に抗おうともがく。
一つ危機が去れば今度は自らが危機を作るとは。愚かとしか言い様がない。・・・・・・今の所は、だが。

「本当に連邦軍の中で暴走するっての、このタイミングなんだろうな?ミス・フェルトの読みはどうよ、ハロ?」

複雑な火器管制をすべく用意された二基のハロに訊く。黄色と青色の独立AI式球状小型汎用ロボットが左右のパーツをパタパタさせて応答した。

「確率67%。正シイカモシレナイシ正シクナイカモシレナイ」
「・・・・・・」
「サジタリス、メゲルナ。メゲルナ。明日ガアルサ」
「明日ガアル。明日ガアル」
「・・・・・・・・・・・・」

ヴェーダとて万能ではなく、情報収集対象のコンピューターといったネットワークではない、手紙や伝書といったアナログはイノベイドなくして把握は不可能である。
事実、世界はヴェーダを接収した連邦の監視をすり抜けるべく手段を練り続け、反政府活動のみならず軍や保安局、官僚、大企業といった連邦内の不正も、その動きを正確に読めなくなってきた。
そこで少しでも情報の精度を上げるべくリンクできる全組織の一挙一動に至るまで集め、どのように動き出すか未来予測した何万ものパターンから確率の高い方を見つけ出す。
もちろん予測から引き出しただけである以上、外れる事も頭に入れなければならないので、最低でもヴェーダに限って言えば四六時中監視し続けなければならない。

(反イノベイター派は連邦でも、軍でも数多い。・・・・・・旧人類軍とパイプが繋がっているっていうし・・・、このタイミングを狙って虐殺でも仕掛けるのは確かに有り得るなぁ・・・)

不毛な作戦だろうが武力介入で解決できる問題ではない以上、イノベイターと旧人類の軋轢は最低限の抑えに留めておく。問題の解決は地球圏の当事者に任せておくのが賢明だ。

(ここで止めても止められねぇ。けど放っておくと軋轢は最悪になるもんだよな・・・・・・)

ここでまさか。レッドアラートが鳴り響く。

「!!!」

あらゆる指で端末で対象を探す。発生場所はアマゾンタワー地上ハイウェイ。
一帯のある連邦軍MS部隊の動向に異変が見られたとヴェーダから緊急通信が送られてきた。
もっとも、まず護衛中のGN-XVからなる小隊が四方に散らばったのだが・・・・・・。続けてヴェーダから次々と対象の情報が送られる。

「連邦機が光通信で交信している・・・?っな!?・・・・・・こいつらがそうか!!」
「サジタリス、ソノ通リダ!」
「目標、アマゾン方面ノ移民団護衛MS四機!」
「サジタリス・ブルースカイ、これより狙撃準備に入る!ハロ、トレミーに緊急通信頼む!!」
「了解!サジタリス!」

あらかじめブリーフィングでフェルトに狙撃箇所を厳しく定められている。ポイントは主装備弾倉もしくはバレル、持ち手など。照準が間に合わない緊急時には頭部と。
パイロットを巻き込んでの撃墜はご法度で、連邦軍に燻るソレスタルビーイングに対する敵意を煽り立ててはならないと彼女は釘を刺す。
そうなれば、こちらの準備が万全でないまま圧倒的戦力を誇る彼らと全面対決を強いられる事になる。それでは内戦を泥沼にし、戦争根絶からむしろ遠のいてしまう。

「目標、GN-XV四機!GNスナイパーライフル、銃口に量子ゲート展開、座標設定完了!」
「・・・・・・全座標の誤差修正、敵四機ノ主装備GNコンデンサー及ビ弾倉部より高度一メートルニ座標固定!随時誤差修正準備モ万端!」

00クアンタは機体を空間移動させるがガンダムデュナメスR2は多くの目標に空間越しに狙い撃つ。
この芸当は既に10年前に00クアンタが完成させているので簡単に思われるが難易度が違う。
前者は量子空間という大海にいわゆる橋を架けて目的地に渡るのが用途だが、後者は絶えず動く目標を絶えず捉えていくつもの橋の向きと目的地を調整しなければならない。
そのようないくつもの細かい空間移動を可能にすべく、量子空間移動に関する技術はかつてより進歩したのだった。

「GNスナイパーライフル、量子空間全座標、完璧!周囲ハ敵機見ラレズ!イツデノ撃テル!」
「わかった!」

狙撃は冷静さと一瞬で事を決する判断力が命。かつては武装組織の教官と先輩から、ソレスタルビーイングではロックオン・ストラトスから叩き込まれた狙撃の基本である。
この一撃が地球圏の内戦を止められるにはいささか軽いのは承知の上だ。それでもイノベイターと旧人類、双方が取り返しの付かない対立に行き着くよりかはまだ良いとサジタリスは思う。

(何十年先だって構わねぇさ!どうせ変革できるってのなら、こんな内戦が何十年かかっても俺は戦い続けるさ!俺はこんな戦いと喧嘩が好きな馬鹿だからよぉ・・・、そういう人間は俺の世代までで充分さ!)

後ろより展開した精密射撃用スコープに覗き両手を掛けて態勢を整える。

「狙イ撃テ。狙イ撃テ」
「サジタリス・ブルースカイ、目標を狙い撃つぜ!!!」

紛争根絶の思いを込めた粒子ビームが、量子空間を越えてそれぞれの目標を撃ち抜いて見せた。
GN-XVの手に持つGNパイク二基の、GNソードのGNコンデンサーが、NGNマシンガンの弾倉が火球を生み部品の断片を飛び散らしていく。

「あとはあちらに全部任せるぜ。まだ虐殺を諦めねぇなら話は別だが!」

連邦軍も所属機の持ち場を勝手に離れるという不審な行動に気が付いていなかったとしても、今の攻撃ならあのパイロット達でもごまかしは効くまい。
後ほど被害調査やレコードから自分達の行動を洗い出されれば、彼らに加えて旧人類軍工作員といった反イノベイター派の摘発の可能性が見えてくるだろう。
まさかの奇襲かとパニックを起こし始めた遙か地上の連邦機はハロ達の監視に任せ、サジタリスは他の監視域に注意を向けた。
他のタワーでも、宇宙でも、同じような企てをする輩は一人でも潜んでいるのは間違いないのだから。



[36851]      第40話 ガウティス
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/01/22 18:28
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第40話 GNW-20006 ガウティス

地球周回軌道。
ちょうど赤道部分を覆うそこは、人類にとって無くてはならない要衝と成していた。
宇宙から地上を行き来する軌道エレベーター。赤道を囲うように配されたオービタルリング。
インフラの大半が消費する電力を賄う、何百もの太陽光発電衛星。
交通、経済流通、軍事防衛の要として存在し続けて今や西暦2326年、情勢が変わろうとその役割は常に揺らぐ事がなかった。



地球連邦軍に対する旧人類軍の襲撃は、決まって超巨大MAガデラーザIかイノベイター部隊という組み合わせになっている。
それぞれ最強の機動兵器に対して物量と火力で押せば追い払えるというのが結論だが、軍備増強を進めている2326年の時点においても効果は確実とはいえなかった。
この日は両軍のガデラーザI同士が軌道上でドッグファイトを繰り広げる中、敵MAがオービタルリングにMS隊を放ったのが戦いのきっかけだった。
近くには護送船団がアフリカタワーに詰め掛けており今も物資を下ろし続けている。彼らがやられればアフリカ一帯の軍民が飢えに苦しむ危険がある。生命線の為に死守しなければならない。
リング据え置きの対空陣地がミサイルと光条を放つ中、レン少佐率いるGN-XV六機、GN-XIVフルミナータ四機も迎撃に加わった。

「敵MS四機中、ガルゼス一機、残り三機は新型!ガルゼスの類似である!」
「各機、対イノベイタープログラムに従いつつ防御迎撃!!距離を常に十キロを確保しろ!!」

かねてよりアシガル粒子戦機がミサイルでばら撒いた、GNステルスフィールドのオレンジ色の膜のせいでぼやけて見えにくいが、光学カメラから敵MS隊をなんとか確認できる。
GNドライヴから手足が生えたような外観、旧人類軍特有の青い塗装。特徴的なセンサーラインとモノアイ、右手に持つ巨大な大剣。
ガルゼスはもちろん、残り三機も大体同じような外観をしているではないか。センサーラインはガルゼスより広く少し違うが。

(旧人類軍め。あのスローネ系を使うなんてよ・・・。機能を求めたらスローネそっくりになっちまったのか・・・?)

粒子戦で先手を取った所を、すかさず6機がGNパイクで粒子ビームの弾幕を浴びせた。後続の砲撃機から、陣地からもGNミサイルや粒子ビームの弾雨を敵に降り注ぐ。

「弾幕がまだ薄い!!火力支援と増援を請う!!」
「駆逐艦ベネディクト・アーノルド、第20海兵戦闘攻撃飛行隊が一分後に到着!・・・・続けて第5独立機動部隊もトランザム航行で三分後に到着する!なんとしても死守せよ!」

対イノベイター戦の決め手は卓越した機動力を如何に拘束するかにかかっている。
平凡なパイロットが多い連邦軍は火力でイノベイター機の道を阻む手を選び、GN-XIVフォルティスから主力汎用機にもかつての砲撃機並の火力を付与してきた。
その火力を更に発揮すべく軍備増強で戦力自体増やした上、宇宙艦隊なども充実させる事で機動力も上げ戦力集中が以前より容易になった。
しかし旧人類軍が必ず用いるガデラーザIは強力でしかも素早く地球圏を当たり前に飛び回れる、最も脅威的なMAである。
追いかけるのはもちろん、哨戒にも防衛にも戦力を割かなければならない連邦宇宙軍の戦力は広く分散せざる得ない。
機動力が上ったとはいえ対ガデラーザ戦において、通信のタイムラグなどで部隊同士の連携に隙が出来る事がある。一瞬のミスで戦力に穴が生じる危険性がある。
この時、連邦軍に生じた一瞬の隙が旧人類軍の好機となったのだった。

「こちら第3アフリカ軌道防衛基地、旧人類軍部隊はガデラーザIと一個小隊のみ確認。ガデラーザI、更なる展開見られず、此方に向かう様子なし。全力を以ってして撃破せよ!」
「・・・了解!!」

増援、早く来いと言いたい衝動を堪えてレン少佐は敵MSに注意を払いつつ、自ら率いる中隊にも同様の注意を払う。

「こちら第102戦闘攻撃MS中隊!第一小隊だけでは・・・現戦力では阻止できない!残る小隊の応援はまだか!」
「一小隊は到着まで三分程、一小隊は整備中に付き出撃まで十分!」

・・・つまり、すぐに来ないと暗に告げられた。
そうしている内にサラトガ級駆逐艦ベネディクト・アーノルドと第20海兵戦闘攻撃飛行隊が当宙域に到着。艦よりGNミサイルやビーム主砲が放たれ、配置に付くやGNビーム機銃を一斉発射した。
ドニエプル級防空巡洋艦ほどではないが―――サイズの割に―――豪雨のような光条を生み、それらを敵にいる辺りに降り注ぐ。
海兵隊所属の航空可変MSユニオンが四機、戦域に切り込むように入り戦列に加わった。

「全MS、艦隊と陣地の両翼より敵部隊を拘束。増援の時間を稼がれよ」

防壁ごと焼き払う大口径粒子ビーム、近接信管の近接起爆で圧縮粒子をばら撒くミサイル、それらの逃げ場を塞ぐおびただしい粒子ビーム。
軍艦一隻とMS十機、基地一個の教本通り濃密な対空砲火に、ガルゼスら敵MS隊の足が完全に止まった。
四機程度のMS隊に過剰すぎる戦力投入に見えるが、旧人類軍の精鋭イノベイター部隊が相手であっては速攻に撃破すべきだ。
ガルゼスはガデラーザIより遙かに小型―――MSとしては大型の分類も入る―――だが、擬似太陽炉四基二連結と火力も防御力も性能も変態染みたレベルである。
ヘラクレスは設計的に少し古いので、最新の性能向上型でないとまともに立ち向かえない。ダブルドライヴ+αのブレイヴIIは航空可変機のサガか、機動力は上でも格闘戦ではこちらに分が悪い。
増援を内心待ち焦がれる中、レンは敵のある異変に気が付いた。

「こちら四番機、敵新型機一機撃破!!」
(わざと攻撃を受けた・・・・・・?)

確かにGNフィールドを張り、シールドもかざしていた。

(今までの機動なら突破できなくても、避けられたのに、か?!)

最前線部隊を統括する中隊長として、レン少佐はドニエプル隊にいた頃から今に至る戦闘経験と記憶、勘で戦況を読む。

(今まで我々は圧倒的火力でイノベイター機に対抗してきた。その手はもうドニエプルにいた時に有効だと証明されてきた事だ・・・!)

自機の光学カメラで、データリンクしている基地の光学カメラで敵の挙動を調べてみる。たちまちサブウィンドウがずらりと、戦闘の邪魔にならない程度に並ぶ。
こちらのGNステルスフィールドで粒子装備を封じられていてもGNフィールドを張り続けられる粒子制御能力。
ただでさえ濃密なのに駆逐艦のおかげで倍増した弾幕すら、怯み後退せずに踏み止まり続けられる回避機動。

(ベガ隊長と・・・アーミアの小娘なら・・・・・・、どう考える・・・?!)

オレンジ色の粒子膜の中、四つ赤く輝く光が生まれた。
その赤い光がそれぞれ縦に、横に、弾雨の中を以前に増して精細な小刻みで動き回り・・・・・・、

「全機、トランザムで後退しろ!!!第二防衛ラインに集結!密集陣形を組め!!急げ!!!」

怒号混じりで傘下の小隊に後退命令を下した。
直後、GNステルスフィールドから赤く輝くMSが三機が飛び出してきた。トランザムを発動させ軌道を赤く描いて、こちらに肉薄して。

「ぐあっ・・・!!」
「うわああ・・・!!」

部下の誰かが鈍い悲鳴が上った。敵新型の一機が右翼に突っ込みそのまま真横に食い破るように突破していった。
ここで二機のGN-XVが体当たりで軌道から弾き飛ばされ、同型の一機が脱出の間もなく大剣で真っ二つにかち割られ爆発。
新型二機目の突撃は左翼から側面突撃。剣を射撃モードに変え収束ビームで三機薙ぎ払い、GN-XIVフルミナータ一機を上半身丸ごと横薙ぎで打ち壊す。そのパイロットはコアファイターの射出のおかげで爆発から逃れた。
そして三機目のガルゼスが拡散ビームとウェポンコンテナのGNミサイル、GNビームキャノンを乱射。残るGN-X部隊を足止めさせた隙に正面突破。

「なっ・・・・・・!?馬鹿な・・・・・・!!?」

序盤と比較にならない機動の様だった。
クワドプルドライブのガルゼスがシングルドライブのGN-XVを圧倒しているとしても、こちらはある程度ガルゼスの情報を掴んだしあらゆる支援を受けられた、にも関わらず。
ガゼインなら四機でも撃墜せしめただろう対イノベイター戦術を、あの新型とガルゼスは突破してみせた。

「基地ごと撃つな!追いかけろ、突破を許すな!!」

あの新型が何なのか?何故、途中から機動が更に鋭くなったか?それよりこれ以上の侵攻を阻止するのが先決だ。
残っている機体は自分を含めGN-XV5機、GN-XIVフルミナータ1機。内、GN-XV1機はパイロットが気絶したので戦闘不能にある。

「生き残りのGN-Xは俺に続け!!急げ!!」

部隊を全て立て直す間にも敵から距離を取られる。ここは食い付けるだけ食い付く方が被害受けるよりまだマシだ。
先は虚を突かれたユニオンだがすぐ我を取り戻して追撃に出た。トランザムなしで敵よりいち早く最終防衛ラインに着いてしまった。
そこへ明後日の方向から粒子ビームの雨が降り注ぎ、その火線は敵部隊の足を止めてみせた。なんと良い腕前か。

「第5独立機動部隊が到着した!残存MSは敵より後退しそれぞれ再編、彼らの援護に移れ!」

精鋭用航空可変MSブレイヴIIが四機、次々と紅色から元のカラーに戻る。巡航形態からMS形態へ機体を変形させながら二手に分かれて敵の包囲にかかった。
粒子ビームが、実弾が、ミサイルが、GNファングが赤く輝くMSの進撃を挫き、その足を止めさせる。
再び彼らが赤く発光、トランザムを発動させ、赤い機体同士ぶつかり合う。

「・・・・・・」

レンは決して無能ではない。ELS戦直後に入隊しMSパイロットとして厳しい訓練と選抜を受け、当時最新鋭機だったGN-XIVを任された優秀なパイロットである。
今やエースパイロットとなったベガ・ハッシュマンの下でイノベイター機と戦い、戦争を生き抜いて中隊長の少佐にまで出世してきた。
だがあのブレイヴパイロット達は、出世ではなくパイロットとして技術を磨き鍛え尽くしているではないか。
それは自分ら軍人と別の方向に極めた異質の存在。だからこそ表立って旧人類軍のイノベイター機と正面から戦っていけるのだ。

「全機、敵機によく注意しろ!!奴らにまだ何か余力があるか、策があるのかもしれないぞ!!」
「こちら第20海兵戦闘攻撃飛行隊、我が隊はリング下部で哨戒、旧人類軍を警戒する!」
「了解!!」

あの精鋭のように戦えないレンだが戦いそのものは出来る。
配下の小隊到着を祈りながら編隊を組み直し、新たな予測と対策を練り始めた。

(あのガルゼスに似た新型・・・、あのMSは一体なんなんだ?・・・あれは一体・・・・・・?!)



応援の駆け付けたブレイヴII対ガルゼスと新型の戦いは、ガルゼスが新型を盾にし大気圏突入して逃げられた事で幕を閉じた。
アフリカタワーと船団は守れた。オービタルリングも太陽光発電衛星も巻き込まれずに済んだ。
だが敵は全て撃破出来ぬまま、自らの勢力圏である中央アフリカに逃げ込んだ。これが何を意味するのか、後に何を起こすのか当事者には全てわからない。
わかるのは戦闘データなどを地上の味方、あわよくば宇宙の味方にも広げ、次の作戦か攻勢に生かすのではないか、だ。



[36851]      兵器設定7
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/01/22 18:57
GNX-805T/Plヘラクレス・プレデター
本体重量
70.7トン
専用装備
GNファング 肩部パイロンに四基ずつ、計八基が搭載されている。従来より大型化、擬似太陽炉とMSクラスの粒子制御機を組み込む事で、ジャミング下でも射程が限定されていながらも射撃が可能になった。
       攻撃手段にビームガンやスピア状のビームサーベルの他、ブレードにGNフィールドを纏い粒子障壁を突破する実体剣も加わっている。

ヘラクレスの各種テスト機を基にコンセプトを統合した正式近接格闘型。
敵味方で高度化する粒子装備の無力化とGN機同士の戦闘を念頭に置き、防御重視のウォールズとは逆に攻撃重視の機体に仕上がっている。

アヴァランチエクシアを参考に、機体各所にGNスラスターと大容量GNコンデンサーが追加されており、たったの十分間限定ながらブレイヴIIに並ぶ爆発的な加速力と最高レベルの機動力を発揮する。
その上に装甲も機体各所に追加され、近距離の対多数戦や乱戦に通用する防御力が加わった。
非イノベイターパイロットも操縦できるがイノベイターパイロットが本機の性能を最大限に発揮できる。



SVMS-02Pアシガル治安型
本体重量
44.7トン

準GN航空可変MSアシガルの治安維持仕様。遠距離でも素早く動ける展開力が評価され、連邦平和維持軍の他、連邦保安局や一部警察にも配備されている。
機体各所のカメラやセンサー、全関節部の装甲追加が施され、主用途の治安維持や暴徒鎮圧の他、市街地戦における対人戦闘もある程度対応出来るようになった。

多数の高精度カメラやセンサーを生かした上空より精密なテロリスト監視や犯人追跡、デモ隊の監視などで性能を発揮し、
遠方の暴動や武装蜂起、紛争やテロに対しても正規軍や地方軍、保安局の重武装部隊よりいち早く駆け付けて部隊展開する事で、敵に圧力を掛けられる。



GN-002RE2ガンダムデュナメスR2
本体重量
55.2トン
専用装備
GNスナイパーライフルIII 量子ワープ技術を狙撃に転用した新機軸の狙撃装備。バレル内の粒子制御機で銃口に量子ワープホールを展開し、機体からの制御で粒子ビームを量子空間越しに目標に撃ち込める。

武力介入以来、狙撃任務を中心に使用し続けてきたガンダムデュナメスの最新改修型。
装甲やセンサー、機材に至るまで全て最新型に交換され、連邦最新鋭機GN-XVと渡り合える性能に引き上げられた。
最大の特徴は量子ワープを利用した超長距離狙撃で、実現の為に独立AI式球状小型汎用ロボット「ハロ」二機と量子演算コンピューター「ヴェーダ」サブターミナルを搭載。
双方のバックアップで移動のみに留まらぬ量子空間の制御を可能にし、敵の攻撃が届かない距離で完全精密に限りなく近い狙撃を可能にした。



GNW-20006ガウティス
頭頂高      本体重量
23.1メートル 76.5トン

旧人類軍イノベイター/精鋭用MSガルゼスの無人化量産型。性能と装備はガルゼスと同じで擬似太陽炉四基二連結のクワドプルドライブである。
コントロールを受ける指揮機の護衛の他、偵察、情報収集も同時にこなせる。

フレームなど基礎はベース機と同じだが無人機として調整する内に、不要な機材や装甲の排除と機材追加で変貌したので形式番号を改められた。
特徴は頭部や胸部に集中するセンサーラインによる、索敵及び情報収集力と指揮機とのデータリンクである。
敵MSと対しその機動からパターンや映像など情報を集めて指揮機に送り、その情報を指揮機が基地に届けたり突破口を見つけ出す。
その指揮がイノベイター兵である場合には、本機をより的確に遠隔操縦したり、自らの戦闘技術を本機に絶えずプログラミングできる。

情報収集で絶えず戦闘プログラムを発展させ敵を学習する機能は、将来のイノベイター及びELS殲滅の為である。
将来、来るべき大攻勢に投入される主力無人MS開発に生かされる。そのMSはガウティスレベルの性能を維持しつつ簡易量産機として造られる予定だといわれる。



[36851]      第41話 オキナワ級強襲揚陸艦
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/04/08 21:50
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第41話 オキナワ級強襲揚陸艦

人類最大の軍隊と言われる地球連邦平和維持軍にはいくつもの組織から成り立っている
政府直轄の正規軍、かつての大混乱の折に各構成国が再軍備した名残である地方軍、最後に海兵隊。
3つ目の海兵隊は正規軍の切り込み役として各国から再編統合されるも、独立治安維持部隊アロウズの暴走と人類存亡を賭けたELS戦争においてさしたる活躍の場を得られず不運続きだった。
それが統合戦争の拡大で状況が大きく変わる。相次ぐ反乱に対応すべく、海兵隊はその存在意義を取り戻し脚光を浴びる事になったのだ。



「ベガ・ハッシュマン参謀中佐です!本日付でタダミチ・クリバヤシにて、作戦司令部の命令により前線視察に当たります!」

赴任先の新天地にて、新たな役職を得た彼は初めに凛々しく名乗りを上げた。
統合戦争が始まって12年目の西暦2326年、α任務部隊のオキナワ級強襲揚陸艦2番艦タダミチ・クリバヤシに足を踏み入れて。
・・・凛々しいのは士官として配下に不安を与えさせない断固たる態度を取るという義務からである。その心の内は決して穏やかなものではなかった。
第20独立試験部隊ソウルズの副官として上官のアーミア・リーと部下、更には上層部との間を取り持つ事3年。
やっと転属命令にベガは内心喜び、願いに願っていた最前線復帰を期待した。
それがよりにもよって後方勤務、しかも参謀は参謀でも末席参謀という望んでいない役職だったのだ。
取り下げを具申するベガに中央派遣の参謀は言う。

「貴官は最前線で多大な戦果を挙げ、指揮官としても有能なのだ。佐官ならば一度幕僚として指揮官の経験を生かすべきだ。何しろ軍備増強で士官不足なのだからな」
「あの金属の女を手綱に締めるだけに留まらず試験部隊の運営に尽したんだ。上層部としては士官として有望だぞ」

悔しいが上層部の意向は正しい。
新たな上官にして推薦人のα任務部隊指揮官カティ・マネキン中将は、

「貴官は上層部から高い評価を受けている。MSパイロットとして、指揮官として、士官としても。
 不本意だろうが地球連邦軍士官として、より一層の向上に邁進してもらいたい。」

「職務を果たせば特務部隊指揮官や精鋭部隊の道が開かれるだろう」と最後に付け加えて参謀勤務を勧めてきた。それならば受け入れよう。
たった一人を除いて・・・・・・。

「これまであなたは小さな世界だけに満足してきた。状況に流される事にも。でもそれはもう許されなくなった。」

最大の推薦人で、元上官にして元部下でもあるアーミア・リー現中佐には最後まで納得できなかったのだ。

「あなたは実は多くの人達から必要とされている事実を見ていない。世界の現実を見てきているのに、踏み込んできているのにあくまでも目を背けている。
 革新を前にして自分に何が出来るのか、あなたはこの目で見て考えるべきだわ。ベガなら出来るはず」

一軍人がどんなたわ言を抜かすのか。流石穏健派・・・もとい革新派をバックに繋がっているだけある。
こっちには出会ってきた数え切れない仲間達がいるのだ。最前線で戦う仲間達をよそに自分は安全な後方で椅子を暖めているなど、とても受け入れられる話ではない。
アーミアの意味深い言葉が頭から離れないまま、ベガは参謀としてタダミチ・クリバヤシのクルーや海兵隊と共に動く事になった。



α任務部隊が動き出したのはほぼ一週間後だった。
世界中で暴動や反乱、テロの火の手が上ったのだ。
始まりは西欧フランスにおいてイノベイター系市民を乗せた送迎バス隊を完全武装の暴徒達が襲撃するという事件が起きた。護衛部隊は尻尾を巻いて逃げ、見捨てられたイノベイター1000人は全員虐殺されたという。
敵前逃亡という重大な失態を犯したはずの憲兵隊は全員休職処分で済まされた事が、イノベイター系市民の怒りを爆発させ各居住区で暴動を起こす。
その中の一つ、パリ居住区が反乱を起こし「イノベイター絶対生存圏建設」をスローガンに掲げ、連邦政府に対して独立を宣言したのだった。
初めてとなる彼らの反乱が連邦内に点在するイノベイター居住区にも波及する危険を重く見た連邦政府は鎮圧を決定。
直接鎮圧には地方軍、そして連邦軍が合同で当たる傍ら、海兵隊は反連邦勢力の牽制を担う事になった。



オキナワ級強襲揚陸艦はカレドニア級大型空母に次いで巨大な軍艦である。
惑星間長期航海できるべく乗組員の居住施設と戦力維持に不可欠なトレーニングルームと訓練施設は空母と同じレベルに充実している。
そして海兵隊集合エリアは、たった今本部中隊が上陸態勢を崩さずにして航空部隊と上陸部隊第一波とやり取りを交わす、地味ながら重要な戦闘が繰り広げられていた。
ベガは視察の一環としてこのエリアで第3海兵遠征隊指揮官ガーランド・トムソン大佐と傍に立ち、最前線の状況把握と情報交換を交わしていた。

「間近での海兵隊の出撃は初めてではないかね、ハッシュマン少佐?」
「は。・・・現在の所各自が訓練通りの手順でトラブルもなく順調に動いております」

数あるモニターの一つは青い地球と暗い宇宙が広がり、周囲は大小のピケット艦が守りを固める。
4隻のレヌス主力戦艦の艦砲射撃が続く。GN-XVの収束ビーム以上の威力を誇る粒子ビーム主砲が中央アフリカに熱線を撃ち込む。

(連邦軍の主力戦艦・・・・・・。大和のように超弩級ではないが数を揃えやすく使い勝手が良いというが、その通りだな。)

海兵隊の航空可変MSユニオンが小隊を組んで大気圏に飛び込んでは敵地に突入し、中央アフリカの各地に爆撃を加えては補給に戻ってくる。
今頃旧人類軍と分離勢力は少なからぬ打撃を受けているだろう。
森林や岩山などにカムフラージュされた物資集積地も、トーチカに守られた地下工場も、地下基地もこちらに筒抜けにある。
それらが粒子ビームに焼き払われ、爆弾が軍事施設を吹き飛ばし貫通爆弾でトーチカを突き破っている最中だろう。

「この3年間、そちら海兵隊が送り込んできた降下部隊の戦果が見えてきておりますね。これで旧人類軍は当面攻勢に出られないでしょう」
「ふっ・・・。我々の戦果はこれだけではないさ」

海兵遠征隊長の顔に浮かんだ自嘲をベガは見逃さなかった。

「それにしても同胞はえらいふざけた真似をしてくれたものだな。よりにもよってイノベイターを怒らせるとは・・・」
「イノベイターと人類の軋轢はかねてより深刻な状態であり、それが爆発するのは時間の問題です。むしろ予測通りに起こるべき事が起きたというのが軍の見解ですよ、大佐」

彼が市民を見殺しにしたあの部隊の醜態を憤慨する気持ちはわかる。だが厭戦感情が周りに伝わっては士気に関わるのも事実。

「おかげで余計な仕事が・・・いや、定期爆撃が少々繰り上げされた、という訳だ」
「おっしゃる通りです」

ベガはトムソン大佐に客観的事実を述べる事で遠回しに宥めた。

「・・・連邦軍はイノベイターに対しても断固たる姿勢で貫いて、軍事力の差を見せつけなければ、旧人類軍は我々の無能に付け込むのは疑いありません。
 でなければこの件で反イノベイター派が彼らの排除を勢い付かせ、分離勢力もこの混乱に生じて次々立ち上がる。そんな最悪の展開に進んで統一政権を瓦解させるとあっては、人類は前世紀に逆戻りです」
「主戦場はここではないし、ここの担当である我々はただの補佐なんだがな。攻撃範囲はこっちの方が広くて規模も大きいというのに」

トムソン大佐が苦笑いする。その横顔はベガと同じ30半ばの青年以上壮年未満ながら、既に歴戦の勇士らしい冷静さが見られる。
少し間を置いてから話をまた続けた。

「知っての通りだがハッシュマン中佐、我が艦と第3、4海兵遠征隊は特務部隊の敵中降下を直接支援を主任務にアフリカ戦線を潜り抜けてきた。
 時には敵中降下しての後方撹乱に大規模威力偵察・・・・・・。希望的観測だが今回もこれからも彼らは任務を成功してみせてくれるはずだろう」

これまで解隊寸前だった海兵隊は軍制改革によって復活し正規軍の中で最も増強された軍組織である。
第3、4海兵遠征隊を例に挙げれば3年前の編成まもない頃、旧人類軍が各地の分離勢力を統合しアフリカタワーを奪おうと攻勢をかけたのに対し彼らは防衛を正規軍に任せ逆侵攻に打って出た。
防衛線より奥深く、特殊部隊であらかじめ特定した旧人類軍の補給拠点と補給路を敵中降下した海兵隊が次々と攻撃をかけて寸断。
後方をズタズタにされた旧人類軍を中心とする敵は攻勢を中止し撤退に切り替え、連邦軍の反撃によってあえなく敗走していったという。
こうして海兵隊の緊急展開能力と機動力の高さを世界中に知らしめたのだった。

「第3、第4遠征隊の経歴を鑑みても、現時点の装備も戦闘力も・・・。」
「問題点を無視すれば、もしくは正面戦闘に限れば、だろう?」

トムソン大佐はベガ中佐の含みある評価に顔をしかめず、落ち着いていながらもあくまで真剣な目で訊く。

「マネキン閣下は敵地での犯罪行為に対する対応を厳に求めておられます。これは閣下の赴任当初より何度も繰り返されておりますが、文書伝達対策が定まった以上徹底する必要があります」
「政府は遂にヴェーダの管制下に組み込むのに成功したのだな。これで高度の柔軟性と臨機応変な対処が難しくなったが時代の変化かもしれんな」
「高度の柔軟性と臨機応変な対処・・・ですか・・・。軍備増強が進んでいる以上、各自過大な負担を負う必要がなくなったというのですが」

ヴェーダに察知されぬよう編み出された文書伝達は反連邦活動を活発化させ、連邦軍も彼らの対処に緊急命令として用いられてきた、際立って自由裁量権が大きい情報伝達手段である。
これが強硬派とも呼ばれる保守派の盛り返しと軍備増強が始まってからは連邦軍の非常手段にマイナス面が浮き彫りになった。
連邦軍や保安局は反政府分子のみならずデモ隊にまで見境いのない弾圧を行いアロウズスキャンダルの怨念晴らしを働くなど、現場レベルとはいえ暴走が始まったのだ。
加えて軍隊特有の悪―――余りある敵意や虐待虐殺の正当化からトカゲの尻尾切りによる責任転嫁、情報隠蔽までも。
いかに罪のない無抵抗の人々が、しかも敵だけでなく自国の民ですら殺したとしても。
非を認めるより付随的損害など適当な理由で罪を軽く抑え身内を庇う事を選ぶ事などざらにあるものだ。

「第一戦闘攻撃飛行隊を確認!機動管制室が着艦を許可!あと120で着艦完了と予測されます!」

過去12年間の戦いを二人振り返る中、第一波のユニオンが艦に帰投してきた。
出撃時には4機だったのが3機に減っている。地上の対空砲火に遭ったのに間違いない。

「まあ、そうだな。・・・現に我が部隊でも地上で無差別虐殺や暴行など働く兵が出ている以上は。戦場では市民の巻き添えすら付随的損害で片付け正当化されるだろうが、この戦争が内乱である以上抑えねばならん」
「兵士達の心構えなどの問題ではなくこれは訓練内容の問題です。しかしその問題は軍隊の存在意義の根幹に関わるものなので、残念にして失礼ながら上層部への具申は無意味でございます。
 マネキン閣下の厳命を現場に伝え、民間人の巻き添えの回避を徹底するよう働きかける。今はそれを尽力しかございません」

海兵隊伝統の厳しい訓練は、善良の若者を見敵必殺の戦闘機械にする。
さすがに指揮官レベルになるとその負の部分を目の当たりせざる得ないがそれだけである。

「わかっている。だが向こうの民間人が宇宙から何度も降りては帰ってくる海兵隊を喜んで迎える訳がない。利口に逃げてくれるかわからん。むしろゲリラとして我々を脅かしてくる可能性の方が高い」
「軍隊は補充と訓練と配備の繰り返しで常に能力を発揮できるよう努力するものです。まだ不十分なのですか?」
「訓練で市街地戦と民間人の対処を学んでいようとな。市民か敵か見分けるにも限度がある。ゲリラやテロリスト相手じゃな・・・」
「・・・・・・」

海兵隊指揮官の嘆きに黙って聞く。

「そもそも兵士にかける負担が大きすぎるんだ」

ガーランド・トムソン大佐は海兵隊の組織犯罪を容認していない。部下の犯罪防止に、民間人との融和にも努力してきた連邦の軍人だ。
ただ、彼はいくら努力しても覆らない現実の非情さに、無力感に苛まれているのだ。

(海兵隊は切り込み担当だ。敵軍を前にして正規軍よりまず攻めかけ、足がかりを築くのが主任務だ。なのに今の敵はゲリラやテロリストの方が多い。果たして今の連邦軍に海兵隊は本当に必要なのか・・・・・・?)
「この問題は参謀でしかない小官では到底関わるべきではないかと・・・」
(兵士の犯罪に関して参謀ごときの俺に一体何が出来るというのか・・・・・・?俺はMSパイロットで良くてもMS中隊長までで満足だっていうのに・・・・・・)

あれこれと、トムソン大佐と最前線に関して情報交換している内にベガの胸の内に妙な思い当たりが感じられた。
年下の癖に達観していて生意気なアーミアと違う毎日最前線と向き合ってきた男の意見が心に響いたのだ。



降下は艦砲射撃と爆撃が終わる2時間後に始まった。
強襲揚陸艦から2隻の揚陸艇がユニオン部隊及び増援の空母MS部隊の援護の下、敵地である中央アフリカのコンゴ盆地に降下し一度に200以上の歩兵と陸上MAなどを降ろしていく。
やがて降下ポイント周辺の安全が確保されると海兵隊第二波が降下する。彼らはチェンシーからなるMS部隊の他、工兵や輸送部隊など数々の支援部隊も加わり前進基地の設営に乗り出す。
そして第三波が。遠征隊の残りと中隊規模の特殊部隊が地上に降り立ち前進基地が完全に機能を果たした時点で降下作戦は終了となる。
作戦の要は敵地の破壊工作に打って出る特殊部隊の安全にして確実な敵中降下であり、海兵隊はその護衛と旧人類軍に対する牽制役でしかない。
彼ら海兵隊は今回のような敵中降下作戦を何度も実施し、特殊部隊を送り込んでは回収してきたという。
今作戦において、カティ・マネキン中将のα任務部隊は第3、4海兵遠征隊を中央アフリカに敵中降下を成功。
爆撃と艦砲射撃で旧人類軍と分離勢力を妨害したおかげで無傷で海兵隊を展開し、連邦軍は本格的な反イノベイター活動の牽制に入った。



その夜、トムソン大佐と共に地上に降りたベガは部隊本部のテントで今後の作戦行動について盛んに論じ合った。

「では、爆撃の2%が目標に不命中だったと?ガンダムのらしい粒子ビームに妨害されたという証言も」
「報告書がまとまっておらんがな。不命中と申したパイロットの多くが民兵と思わしき一団を反撃予防の為に、とかインフラ破壊による組織機能阻害と弁明していてな」
「例の問題である虐殺行為の可能性があると?」

報告書を手にベガが鋭く訊く。
爆撃に投入されたMSは100機。用いられた爆弾千発以上もの数の、ごく一握りでしかない。
されどもその一握りでも、一度に何百人もの人を殺せる爆弾が虐殺に用いられたとあっては、連邦軍の残虐性を世界中に見せつけ悪い結果に転がり込む事になる。
ますます忌々しいはずのアロウズ時代に自ら戻ってしまうのだ。

「まだ確証は持てん。だが投下対象が敵とはいえ連邦の内戦とあっては、しかも無抵抗の市民を多く巻き添えするなど・・・・・・。
 更に憎しみを掻き立て報復に走って、内戦はより一層泥沼となる。だが兵士は目先の敵と憎しみと敵意に囚われ、考えが、認識が曇って事に及ぶ」

トムソンが表情を曇らせ溜め息を吐く。ここでベガは話を少し切り替えを図る。

「報告によれは爆撃時の照準も火器システムに異常はなく、対象物周囲の対空砲火も皆無であり命中確率は100%とあります。
 それにも関わらず不命中で、投下直後に爆発。あらゆる対地攻撃も正体不明の粒子ビームに焼かれた・・・。これは恐らくガンダムの武力介入の可能性があります、大佐殿」
「ううむ・・・・・・」
(散々愚痴をぶつけた参謀に俺がなっちまったんだが、あいつらから見た俺は大佐みたいな見えたのか・・・?)

2年前より飛び交うようになったガンダムの目撃情報や噂。
連邦軍の不祥事がまた積み重ならずに済むのは良いがあの私設武装組織ソレスタルビーイングが動き出したとあっては素直に喜べない。
この降下作戦の後も部隊の誰かが悪を企て事を起こすだろう。その時彼らは動き出すはずだ。
たとえ、それが阻止されようとこの事実で連邦軍が組織を改めるほど潔くなれないと思う。
むしろ面子が傷ついたと逆恨みする。新たな敵に内心喜び将兵の不満を逸らしもする。

(アーミア・リー・・・・・・。お前は世界の激しい変革に人は付いていけないでいると言ったな・・・・・。
 革新をこの目で見ろと、多くの人らに必要されると・・・・・・。それで俺は何を目指せって言うんだ?英雄になれっとでも?
 俺は連邦軍ヒーローのMSパイロットになって最前線で恒久平和の為に戦いたくて入隊したんだ。この参謀中佐ごときが軍隊の中で出来る事がどの程度か、全く知れている!)

だが目の前の現実である、最前線で戦いの指揮と人と物のやりくりに苦労する者達を見ると、参謀ごときの自分に罪悪感と義憤が何故か疼いてしまう。

(それより・・・!もう一箇所内戦を鎮めれば別の所で2箇所3箇所反乱が起きる。それ以上の暴動やらテロが起きる泥沼の極みだ・・・。
 人類が統一政体という物を打ち建てたという第一歩を守るべく、与えられた軍務をこなし連邦に尽くす。俺はそれを信じて戦っているんだ!
 アーミア、俺にそれだけの力があるとそこまで信じているのか・・・?!俺はわからない・・・・・・!)

かつてガンダムと戦い多くの犠牲の上にやっと世界統一の礎を築いた無数の戦士達。
彼らに憧れて入隊し、苦労の末に配属間もなく最新鋭MSを与えられ、ELS戦後にはすぐ隊長にさせられ奮闘してきたあの若き日々。
程なくエースパイロットとして頭角を現し数々の紛争を潜り抜けた統合戦争前半。
今振り返ると何もかもが輝かしい過去だ。
ベガ・ハッシュマン中佐は泥沼の戦争の中、理想と現実に悩むのだった。



[36851]      第42話 フォーロン
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/05/20 23:10
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第42話 GNW-006 フォーロン

沙慈・クロスロード及びルイス・ハレヴィ・クロスロード
私設武装組織ソレスタルビーイングと共にした事のある男性と、ガンダムによる悲惨な被害者と独立治安維持部隊アロウズのスポンサーという二つの面を持つ女性。
学生時代より交際関係にあり宇宙技術者を志したが西暦2305年のガンダム武力介入に彼女が巻き込まれ、後遺症である細胞障害を理由に結婚を断念し絶縁となる。
彼は宇宙技師となるも保安局よりカタロン関係者と疑われ逮捕、その後私設武装組織ソレスタルビーイングに救助され同行。以前より独立治安維持部隊アロウズ隊員となった彼女とその後再会、疑惑と衝突の末に関係を修復したという。
数奇な境遇を経ながら二人は学生時代以来の念願を果たし、数々の疑惑と汚名を被りながらも現在夫妻として第二の人生を送っている。

フリージャーナリスト・ヤーゲル・フロークマンの取材記録より抜粋



作業場はL5コロニー群に置かれた第34浮きドックである。そこの内外問わずコロニーから出勤してきた宇宙作業員らが、オートマトンと共に宇宙服やMW(モビルワーカー)で組み立てに勤しんでいた。
沙慈・クロスロードはMW(モビルワーカー)のコックピット内で、操縦桿を通して制御される指とそれで固定された20メートル以上の板に注意を払う。
手を離したらはもちろん押し出すなどすれば、堅固な100トン以上の物体が宇宙作業員など指先で潰すように容易く大惨事を起こせるのだ。
仕事の大詰めに少しは否応でも汗ばむ体に拭き取りたくなるのを堪える。

(両マニピュレーターは・・・全システム異常ないな)

彼の乗る最新大型MW「GNW-006フォーロン(火龍)」は信頼性と整備性に好評の人革連系の機体である。
MW初の擬似太陽炉標準搭載型であり、連邦軍次期主力機候補ジャーズゥを民間用に改修した事でスマートな体躯とシンプルな外観になった。
装甲が剥がされ露わになった胸のGNドライブ、顔全面を覆い尽くす程大きいゴーグルの中に隠れたツインアイ、白を基調とするカラーリング。
それはあの世界を大きく動かした機動兵器ガンダムという機体を彷彿させる。
旧式のティエレン以上の馬力に加えて作業能力は優秀で誤作動を起こしにくいのが強みだ。
といっても機体に注意していた方が良いに越したことはないが。

「よーし!・・・あとは僕とで本体に接続すれば、プレートNo30133は―――」
「了解です」
「・・・あっああ・・・。ではこちらに合わせろ」
「はい!・・・3番機、固定完了!いけます!」

口から外壁No20133は―――の次に完成だ、と言う前に部下から切り返されてしまった。
部下はイノベイターが二人、自分と監視役の非イノベイターが二人の計4人。イノベイターはいつも働き者なのだが優秀すぎるのが困る。
MWの取り扱いも操縦も、十年以上も身体に叩き込んできた自分より早くも上回っている。
イノベイターの部下達は20代にして、この現場に配属されて一年足らずで運搬作業を完全習熟している。それより前の内にMWを含む重機免許を高校卒業までにもらったという。
愛する妻ルイス・ハレヴィ・クロスロードと晴れて念願の宇宙技師になって10年間続く溜息を吐く。ちなみに回数は数え切れないが万は届く。
憂鬱はすかさず作業に切り替えられ、今度は簡潔な内容で指示を下す。

(脳量子波を汲み取ったりして・・・・・・。それだけで僕の指示が全部わかるのだろうか・・・・・・)
「班長、機体とパーツにご注意ください」
「ああ、すまない。行くぞ、「せーの!」」

彼は家族と共にL5方面コロニー「カルト・ハダシュト」内イノベイター居住区に移住して以来、イノベイターに囲まれながらずっと思ってきた事である。
伝えるべき用件を告げる前に返される。班長として部下に尽くすべきサポートがされる側に回る事が時にある。自分と同じ努力で倍の作業量で働き、倍の成果を挙げられる。
それは双方の間で避けては通れない摩擦なのでまだ良い。・・・それより悩ましい事があるのだが・・・・・・。
今の外壁を規定位置に運び別の作業班に手渡すとまた作業場に戻る。
宇宙空間とはいえ作業なので規定速度以上の推進は避難以外では厳禁である。これでは時間はかかるが規定内の速度でなら遅れても基本許されている。

「需要は高まるばかりだってのに、これ以上がんばってはいけないなんて。なんだかもったいないですなぁ」
「・・・・・・」
「あ、すみません!俺達イノベイターが働きたいだけ働いたらみんなの仕事奪ってしまうんでしたよね?自分は、3番機は依然良好です!」
「フォン・・・、いいから次に行くぞ」

新米の男性パイロットが口を滑らせる。すぐに謝ってくれたのは良いが気分はすぐれない。

「沙慈班長?あとプレート10枚で今日はおしまいですよ。・・・子供が家で帰りを待ってるんだからもう一踏ん張りしようね?」

モニターに表示される、部下達の顔。その中の一人、ルイスが上司兼旦那に声を掛けてきた。
40手前の皺が出始めた中年になった自分とは逆に15年前と変わらぬ若さを保つ妻が。

「るっルイス・・・。ああ、そうだね。・・・でも規定時間までまだ二時間あるんだ、安全に注意して確実に進めなさい」
「わかってま~す」

上司としてここは固い口調で応えておく。

「あと、休む時は確実に休んで、ね」
「はぁ~い」

返事に少し不満そうな態度が篭っていた。

(働き振りは良いんだ。働き振りは・・・・・・。でも倍の量でも簡単にこなせるのはなぁ・・・)

イノベイターの頭脳と体力は今までの人間の、最高記録をも上回る。
その上回る能力はどの仕事も倍以上に能率を上げより多くの利益をもたらす。
彼らに劣る多くの人間達との能力差から生じる軋轢は、イノベイターが増えるに連れてますます深くなった。
優れた者がより多くの利益を挙げ、そうでない者は無能と切り捨てられ今まで以上の不利益が降りかかるようになったのだ。
政府の政策でイノベイターの仕事量と収入は優秀な一部を除いて常人の2倍近くまでに制限、非イノベイターとの格差を固定させる事で軋轢を抑えようと打ち出した。
あのアーミア・リーはELSとハイブリッドなので能力が規格外。世界最初と言われるデカルト・シャーマンレベルでやっと仕事量の制限が解かれるが、今の所そのようなイノベイターは出ていない。
・・・・・・だがこれには抜け道があった。

(先週なんかルイスから日本へ実家帰りの誘いにびっくりしたけど、まさかルイスが株取引で稼いでいたなんて思って無かったよな。
 まあハレヴィ家の一握りの健康な生き残りだからなのはわかるけれどね)

ルイス・ハレヴィ・クロスロードに対する風当たりはアロウズ・スキャンダルの時に比べると、気にかけるまでない程にまで落ち着いているがまだ続いている。
「権力を盾に非道を限り尽くしたアロウズのスポンサー」「ガンダムの無差別攻撃に一族親族と日常を奪われた被害者」という二つの顔・・・。
彼女の複雑な過去が非難と同情に晒され、心に刻み付けられた深い傷は完全に癒えていない。

「ルイス、また働きながら株取引しているんでしょう?」
「あ、わかっちゃった?」

悪びれなく・・・いや、苦笑いで返してきた。

「今日はね、アース・インダストリー社とアイリス社に2万ドル投資してみたんだ。あそこ右肩上がりだしアイリス社なんか立て直したからね」
「あそこら辺、ねぇ・・・。戦争で儲けてるって話を聞くからこの辺にしなよ?」
「わかってま~す!他ん所にもしてるから大丈夫よ」

ルイスはアース・インダストリーの他にも40の会社とも株取引している。
イノベイターとはいえど副業にこんなに掛け持ちしていていかがなものか・・・・・・?

「・・・・・・」
「沙慈ったら・・・・・・!イノベイターなら周りから副業を勧められる世の中なんだよ?」

頬を膨らませてすねる妻だが機体を無駄なく動かし、ペアで自分らより早く作業を進めていく。
「行くよ」「はい」「良し」とほんの二言ちょっとの声かけだけで資材を運ぶ。
あまりに掛ける言葉が少ないので情報交換が出来ていないのか不安で怖くなるくらいだ。

「はいはい、ルイス」

あの過去が彼女を仕事熱心にしたのだろうか・・・・・・?と少し心配げに顔色を伺う。
仕事経験から班長に選ばれた自分と違い、ルイスを含むイノベイター系部下達は副業にも精を出している。
彼らの情報処理能力は本業のみならず他の事にも打ち込むだけの余裕を持つのだ。今のルイスのように株取引する者は珍しくない。

(イノベイターなら一度に沢山こなせる。それを仕事に生かしたいが法律で制限されている。
 ・・・なら副業をいくつも掛け持ちして稼がせる・・・・・・ってね・・・・・・)

宇宙開発の留まる事を知らない活気とは裏腹に、地球の情勢は日に日に混迷の度合いを増している。
イノベイター政策の効果は未だに見えず。彼らと人間達の軋轢はだんだん深まる一方。
あちこちで反乱や民族紛争が起きているのに戦争ではない、・・・・・・という事に片付けられている。
連邦軍が旧人類軍とぶつかり合ってもおかしくない状況なのに今の所そんな話は聞かない。ニュースでも政府放送でも、報じられていない。
世界のどこかで、彼ら―――ソレスタルビーイングが人々の知らない所で武力介入を続けているだろう。そうに違いないと沙慈は思い続けた。

それから運搬作業は規定の終了時間より1時間前に終わり、沙慈は副業に本腰を入れる部下に付き合わされる羽目になった。
彼らの今日副業で稼いだ資金は、2割が副業先とイノベイター副業税としてカルト・ハダシュトに納められ、残りは本人達の懐に残った。
それを元手に稼ぎを続けた先に何が待ち受けているか、その結果は今ここで語ることではない・・・・・・。



[36851]      第43話 ガッディアル
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/07/05 21:12
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第43話 GNW-20010 ガッディアル

地球外から飛来した金属異星体ELSという存在。
先の戦争で人類に見せ付けた、数々の能力は一時間足らずで総力をかき集めたはずの連邦軍に大打撃を与えた。
互いの誤解から発展した不幸は幸いにも対話によって、戦いはひとまず終わったが人々の記憶に、トラウマとして深く刻む事になった。
宇宙を埋め尽くさんばかりの圧倒的な物量。脳量子波で幾億もの個体をまとめられる一糸乱れぬ統率力。
連邦軍の戦術を瞬く間に学ぶ。相手を取り込む事でその力全てを自らの物にする。
ELSの持つ人智を越える力に人々は恐れ、一部では密かに自らの物にせんと企てるようになった。
その目論見が第一歩を踏みしめたのは戦争から15年経った未来の事だった。



この両の手で操るのは操縦桿と、それに配された数々のスイッチのみ。
最低限の操縦をできるべく端末が配されただけだが、イノベイターパイロットが脳量子波で機体制御の大半を担える故の事。
旧人類軍のガルゼス系MS、GNQ-20010ガッディアルを、永遠に闇が続く宇宙空間をも淡々と突き進ませていく。

「全システム異常なし。作戦は順調だ」
「了解。作戦フェイズ1を開始する」

複座式に配された縦長いコックピット上、イノベイターパイロットらは手短に応答する。
一瞬の脳量子波で、必要な情報を98%も伝えられたのだ。言葉で交わすのはその最終確認だけで事足りる。
モニターに各兵装が表示。GNバスターソードとウェポンコンテナをはじめ、中にも目に付くのは肩に2基、と腰に2基の計6基のGNビットである。
それぞれ擬似GNドライヴ二基を動力に、GNビームキャノンとGNソード、更にエグナーウィップで武装する攻守両用だ。
しかし、このビットの真価は搭載された機能にある。
来る全面戦争に向けて、・・・ELSの恐るべき力の一つたる同化能力を今の技術で一部再現させているのだ。
もっとも大量のコンピューターウイルスと、それで敵を数多く乗っ取り制御できるように量子コンピューターを積み込んだ、だけだが。
まだELSの再現に程遠いがこの機体を発展させ続ければ、未来には人類の科学技術で再現した上に制御下におけるだろう。
後席に腰をかける機体システム士官が端末を操り、GNビットのホログラムをモニターに現す。

「GNビット、第一波展開!」

まず腰部よりGNビットが二基同時に機体から接続を解除され、一瞬の漂流から転じ擬似GNドライヴより粒子を放出。
ただちにガッディアルより先を越していった。
あの先には敵軍―――地球連邦軍海兵隊のMS隊が横隊をなしている。

「敵十二波目まで距離100」

十六機ものユニオンと向かい合う事になる、たった一機のガッディアルだが、些かの動揺もなく整然と距離を詰めていく。
何故ならこちらには勝算があるのだ。作戦がある。味方が入るのだから。

「第二波展開!完全自動制御、索敵モードに切り替え!」

続けて腰部からGNビット二基を展開。今度は左右に分かれて翼を広げるように飛んでいった。



正面から襲い来る敵群に海兵隊のMSが迎え撃つ。
粒子ビームを、ミサイルを放ち、一発目の交錯と同時にユニオンが散らばりぶつかり合った。

「撃墜!」

ドッグファイトの末に最後のGNビットを火球に化せしめた。
初めてのビットと死の恐怖を勇気と燃えたぎる闘志でねじ伏せ、敵の射線から振り切った瞬間、航空形態からMSへ変形。
フレームの一斉可動に伴う急減速を以ってして敵ビットよりオーバーシュートに成功。
すかさずNGNライフルで撃ち落したのだった。
ワーグマン中尉はドラム型コックピットに腰を掛けたまま叫んだ。

「敵ビットを全て撃墜した!」

喜びからガッツポーズを取りたいのだが、生憎シートベルトなどで締められている身だ。
ここは心の中に留めておく。
そうこう心を整理しつつ愛機を所属小隊と編隊を立て直す。生き残った他の機体も同様に。

「全小隊、プランA通りに進攻を再開せよ!」
「お言葉ですが中隊長、こちら側の戦力を先の接触で知られた可能性が・・・」

別のパイロットから上官に進言が入ってきた。
慎重論だろうがワーグマンは眉間を微動だにせず、中隊長の顔色を伺う。
そして返ってきた答えは、彼の予想通りだった。

「今は前進あるのみ!反論は聞かん!」

これから向かう先は地球より遙か彼方、小惑星帯の旧人類軍宇宙基地カストロン・モネンバシア。
ただし今回は直接攻略ではない。それでも一大拠点に対し正面より威力偵察する以上、敵戦力を推し測るべき戦力は大規模になる。
粗暴だが勇猛果敢なる海兵隊はこの大規模な威力偵察にうってつけの戦力と言って良い。

「対空砲火が飛ぶまで後退は許さん!!良いな!?」
「「「了解、中隊長殿!!」」」

上官の一渇に気合ある返答。
パイロット全員のスピーカーに響き渡る。
耳につんざく程やかましいが訓練で慣らされた男達の、盛んに燃え上る闘志と士気、そして確固たる自信と、結束の再確認である。
目指すべきカストロン・モネンバシアまで目と鼻の先。
艦隊は何隻いるか?MSは?対空砲は?
推し量るにはこの目で確かめる他ない。
だからこそ海兵隊MS隊は行く。
だが、海兵隊は気付いていなかった。
交戦した相手の真の目的を。
こちらに襲い掛かった後、敵が何を仕掛けてきたかを。
5分後・・・・・・。
連邦海兵隊のユニオン部隊はカストロン・モネンバシア防空圏に侵入。
GN対艦ミサイル発射後に対空砲火の一射で反転、GNチャクラグレネードで粒子撹乱しつつ撤退していった。



「敵第十二波、基地防空圏より撤退。第十三波を確認、続けて第十四波・・・!」

機体システム士官の声が最後、緊張を滲ませて少し荒げた。

「ユニオン十六機、背後よりガデラーザII一機!恐らく同MAがもう一機、別方向より進攻の可能性高し!」
「波状攻撃をランダムにしたか・・・!」

後ろからの報告にパイロットは眉間にしわを寄せる。
電波も生半端な粒子攻撃はことごとく封じられる戦場でも、遠方のGNビットから送られる情報は90%以上も正確だった。
量子演算端末ヴェーダを参考に開発、小型化された量子コンピューターは、GN粒子の電波妨害を物とせず交信できるのだ。
ガンダムが現れた頃よりかなり改善された通信環境。だが送られる情報はいずれも、芳しくない状況ばかりであった。

「まずいな。だがしかし・・・」
「司令部からはまだ反撃許可が下りていない」

基地司令部からはかねてより、直接―――MSで殴り込み―――敵に反撃は厳しく咎められている。
例え友軍や基地が危機だとしても、独自に攻勢を仕掛ければどうなるか・・・。
朝から晩まで四六時中ずっと首に掛けられた爆弾が、こちらの命令違反に反応して起爆する。

「まだ見ているばかりか」
「そうだ」

今頃カストロン・モネンバシアは慌しく連邦軍を迎え撃っているだろう。
だが基地はMSも艦隊も差し向けずイノベイター部隊を偵察に送る事しかしていない。

「このガッディアルでもか」
「ガッディアルだから、だ」
「あのユニオン程度なら消し去るのは簡単なんだが・・・」

イノベイターパイロットの脳裏にはGNW-20010ガッディアルの猛攻が思い描かれていた。
MSサイズのGNビットがユニオン部隊の足並みを乱していく。そこへたった一機で敵の中に飛び込む。
その際、ビットが敵と接する度に送り込んだウイルスが、瞬く間に枝を伸ばし今や部隊中に感染していった。
感染したウイルスは全ての機体を蝕み尽くした時点で一斉に活動開始した。
くまなく伸びた枝がその機能を乗っ取り、連邦軍の情報を矢継ぎ早に引き出していく。
隙を与える間もなくウイルスを介して各ユニオンを文字通り動けなくし、GNドライヴをオーバーロード。全て自爆に仕向ける。
ウイルスのハッキング攻撃から一分足らず、その間にガッディアルはたった一機で敵一個MS中隊を屠ったのだ。

「まだ手の内を見せてはならないのだ。たとえすぐ片付けられてもな」
「・・・・・・わかっている」

ガッディアルのハッキング技術も運用思想も全て、旧人類軍が連邦軍から盗んだものだ。
たとえ戦況が不利であろうと切り札を投入すれば、敵に察知される可能性が大きくなり、一度でも知られれば程なく対策を立てられてしまう。
技術の大本を持つ連邦軍ならばガッディアルの対策など、時間さえあれば何の造作もなく打ち立てられる。
来る全面戦争に備える為にも、無闇に戦って勝利をその場凌ぎに留めてしまえば意味はない。

(連邦軍が本気で基地を攻めるのなら、ガッディアルを逆襲に使うはず・・・・・・。
 司令部もただ指をくわえて攻め落とされるのを待つ訳ない・・・!恐らく、艦隊が攻めて来た時こそチャンスがある!)
(今日で六日目・・・、三四個中隊分の敵にGNビットでウイルスを送ってきた。控えめに見ても三割は侵食できたはずだ。
 そこから感染を広げていけば今日中には艦隊全体に行き渡っているだろう。)

パイロットとシステム担当官は思案を重ねる。
無論、敵軍の動きに注意しながら。



翌日、地球連邦軍第6及び第7基幹艦隊が旧人類軍の守るカストロン・モネンバシア攻略を開始。
だが第一陣の第6基幹艦隊及び海兵隊は未知の新兵器によって行動不能となり、旧人類軍守備隊の反撃に抵抗できぬまま壊滅する。
後衛の第7基幹艦隊はこのあまりの惨状を前に、生存兵を救出すると攻略を諦め火星に撤退。
かくして連邦軍の攻勢は頓挫し内戦の長期化は確実となった。



旅人は地球圏の様相を見守っていた。
しかし、今ここにいるのは地球でも木星でもない。
太陽系より遙か彼方、・・・外宇宙である。
今から15年前の機材からなる、だがコックピットに古さを感じられない。
青年のホログラムが青年パイロットに現れた。

「やっと旧人類軍の情報を集め終えられた。例の決戦兵器、その試作型が実戦投入された」
「憎き敵を倒す為に、自らその敵と同じになる・・・。それが彼らの勝利条件か」

つやで光の輝きを放つそのパイロットは物憂いげな瞳でつぶやく。

「人類とイノベイターの争いは収まるどころかますます広がるばかり・・・・・・。まだわかりあえないのか・・・・・・」

報告の直接答えになっていない発言だが、その意図と気持ちが通じたのか青年は顔色を変えない。

「ELSはこれにどう思っている?流石に旧人類軍には黙っていられないのでは?」
「・・・・・・。まだ見守りたい。人間の未来を信じたい、とELSは言っている」

しばらく熟考に耽る二人。
そうしている間にも地球圏では一秒につき何百もの命が奪われ、無慈悲な戦火に血が流され続けている。
だが旅人は思い悩み、逡巡し続けた。

「そうか。だがせっかく奴らを探ったんだ。何か手を講じなければならないぞ?」

青年は表情を一つも変えずに、彼の顔色を伺う。

「わかっている。だが彼らの未来を彼らに決めてもらいたい。俺達が直接介入しては、地球圏にとって要らん混乱を招くだけだ。俺と同じ道を行く者達は戦い続けている。」
「僕達はソレスタルビーイングの、ガンダムマイスターだからな・・・・・・。
 ではとりあえず、ヴェーダの名で旧人類軍の情報をソレスタルビーイングに送る。間接的な武力介入はゆっくり考えるとしよう。」
「わかった。まずそれでいく」

旅人は無責任かもしれない。
高慢に見えるだろう。
彼らが地球圏の変革を信じているからこそ、あえて遠くから見守る事に徹しているのか。
それとも、己が如何ほどの力を持とうとも人類総体を変えるに至らないと認めているのか。
行動に矛盾を孕んでいるだろうが、複雑な気持ちに踊らされようとも。旅人はそれでも旅を止める訳にはいかなかった。



[36851]      第44話 ヘラクレス・ディアルキア3番機
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/08/11 20:50
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第44話 GNX-805T/TD03 ヘラクレス・ディアルキア3番機

長い付き合いだったベガ・ハッシュマンは異動となって1年経つ。
これまで彼の補佐でなんとか維持できた第20独立試験部隊ソウルズは、アーミア・リーにとって手に余る規模だった。
もっともこれは全てをこなそうと思い上がった故の自業自得である。
そこで軍上層部の意向を容れ中佐昇進を引き換えに部隊を縮小再編、半分ものメンバー―――押し付け配属された落第生と不良だが―――を名誉的に退役させるよう尽力して。
第89独立研究部隊「トローンズ」に改め、彼女の活動は一からやり直す事にしたのだった。
軍人達からは相変わらず冷たく扱われても以前ほど苦ではなくなった。プレッシャーもストレスも、人心掌握も、部隊管理も、トラブルも。
相互理解とイノベ・非イノベ対策の為に立ち上げた試験部隊をいざ振り出しに戻してみれば、喪失感はあれど重荷が取れて清清しい気分になれたのは予想外だった。
自分は今まで無理を重ねてきたのだ。再び理想に向けて歩みだしている所、話は舞い込んできた。

「用件が二つ?」

女性秘書からの報告にアーミアは訊く。相手の手には端末を携え、二つの画像から報告内容を表示されている。
アーミアは二つ一度に入ってきた話に訝しく思うが、表情を微動たにせず秘書を伺う。

「一件目はビリー・カタギリ教授のツインドライブ運用試験の参加依頼」
「で、二つ目は?」

一度に二つ依頼が来るのは怪しい。
勘を頼りに全容より大筋を選び、秘書が言葉を続ける一分の隙もなく問う。

「はっ、そちらは連邦軍上層部より直々の辞令で・・・。ツインドライブ運用試験の臨時編入です。
 これはなお、軍の最優先事項であり拒否権はございません」
「なら、後者を優先するしかないわね」

口ではあっけらかんとした調子で答えるが、内心思考を瞬時に幾重にも巡らす。

(軍はツインドライブ・システムの軍事利用の為だろうね・・・。
 カタギリ教授は粒子研究の一環としてそのツインドライブ・システムを編み出した。でもそれはGN粒子研究の為の手段。軍事利用なんかじゃない・・・・・・)

同じ試験でも送信先が異なればその意図もまた異なる。
かつてアロウズを打ち倒した2個付きという通称を持つガンダムがいた。そのガンダムの力の源たる、2基のGNドライブとそこからMSの次元を越えた量で生み出されるGN粒子。
2個付きと同じ技術を編み出したカタギリは粒子研究の為に協力を持ちかけてきた。連邦軍は兵器として使えるようにしたいと呼びかけてきた。
今ここでツインドライブを実用化させて戦争にどう対応しようというのか?アーミアは双方の思惑を報告書から勘ぐる。

「それでは中佐、早速出向の準備をなされるので?」
「今すぐよ!全メンバーが集まり次第出発の準備をする事。久しぶりの遠征だから気合を入れるように、ってね!」

出来れば戦争の為に、死人を増やす為に手を貸したくない。だが今のアーミアは連邦の軍人。同じ試験でも軍の命令に従う他に道はなかった。
連邦軍から滲む思惑に不安を感じる。その一方で研究活動の新たな一歩に期待を抱くもう一人の自分が確かにそこにいた。



「ツインドライブ・システムは、かつて独立治安維持部隊を打ち破った2個付きの力の源だという事は諸君らも承知済みだ。
 ビリー・カタギリ教授は粒子研究の末、同システムを5年前に基礎理論として組み立ててきた。
 そして1年前、技術的ハードルによる長い熟慮の結果、彼は地球連邦平和維持軍の協力要請を受け入れ遂に実用化の時を迎えたのだ。
 GNX-805T/TDヘラクレス・ディアルキアはツインドライブシステムの運用試験機だが、データ上の粒子生成及び放出量はベース機の10倍、推定だが2個付きの7、8倍とある。
 つまり我々は2個付きを越える機動兵器を独力で作り上げた事を意味する。天使を打ち破る英雄はこのヘラクレス・デカルキアにこそふさわしいのだ」

以上派遣参謀が参加メンバーに向けた演説の要約である。本来なら演説はこれの3倍も時間が長く、半分が2個付きの脅威と泥沼化した統合戦争の様相について語られていた。
それはアーミアとカタギリなどにとって聞くに堪えぬ自画自賛なのでここは割愛する。

(何が協力要請よ。カタギリ教授の研究を探って暴いて、脅しをかけてさせているだけじゃないの。
 本当はMSのパワーアップなんかじゃなくてもっと高みにある物を目指す為なのに)

昔カタギリから打ち明けられたGN粒子の可能性を、彼女の見る現実と照らし合わせて思う。
可能性を成し遂げうる真のGNドライブで膨大な粒子量を生み出す為のシステム。
それがよりにもよって何者かにリークされ、ツインドライブの存在意義は連邦軍の軍備増強の一環として歪められている。
内戦のこれまでを振り返れば、連邦軍が対抗策を見つければ敵にもすぐ伝わってしまっていた。
一方に大打撃を与える作戦は敵味方いずれも挫折に終わり、こちらの技術もMSも旧人類軍にすぐ漏出し戦争の膠着化を招いた。

(本当ならあれを世に送り出すのはもっと後、真のGNドライブを完成させた時なのに。
 このままではMSの超強化策として扱われる。旧人類軍にも広まるのは時間の問題・・・・・・)

それぞれの思惑はとにかく、ツインドライブ運用試験はウラル改級輸送艦を母艦に地球・火星中間点にて実施された。



「全周囲1万キロ以内に機影なし。周辺の哨戒部隊、平常通りに航行中」
「3番機、脚部負担24%軽減、フレーム負担が安定しつつあります」
「アーミア・リーめ、思ったより早く馴染んできたな。イノベイターでもそこまで習熟できまい」

ヘラクレス・ディアルキアの操縦はあらかじめシミュレーターで確認したつもりだが実機で習熟となると勝手が違った。
身体に圧し掛かるG、速度の出し加減、粒子から機体を含む全てのシステム制御、パワーに至る全てが。
同じバリエーション機に例えるなら、近接戦闘型のプレデター並みの加速力に防御型のウォールズ並の防御力を併せ持ちながら、大きく掛かるはずのGは通常型程度に抑えられているではないか。
Gだけで速度を、距離間を把握してはならない。ツインドライブシステムはこれまでの仕様とは明らかに操縦感覚が違うのだ。
・・・しかもこのヘラクレス・ディアルキアは、実は50%の出力しか性能を発揮できないでいながらも。本来引き出すべき100%にまで辿り着けず・・・・・・。

「こちら3番機、全システム異常なし。機体習熟は順調です」
「よし、その調子だ」

分刻みで、時に機体操縦の具合に応じてカタギリ教授に状況報告を入れる。

(こんなに心地良いのは久しぶりだわ・・・)

習熟訓練とはいえ隊長でもなくただのパイロットとして自分がいる。過去の記憶も恥も今は関係ない。
一人思いのままMSを動かすのはいつ頃だったか、もしかしたらパイロット訓練生以来だろう。
思えば自分はがむしゃらに走り続けた。アーミアは振り返って思う。
走った分だけ得た部隊も、部下も、年月も、研究も、気が付くと重荷になってしまっていた。現実を前に自分の出来る事は限りあると。

(思い切り捨てて出直しにして・・・、でも悪くない・・・・・・!)
「もう支障なく動かせているではないか。・・・・・・さてカタギリ教授、要望通りここで出力を全開してみてはいかがな物ですか?」
「1番機は遠隔試験で出力に耐え切れず自爆。3番機でもGNドライブの制御が残念ながら上手くいかず、50%でやっと安定化したと、報告したにも関わらずか?」
「あのアーミアを以ってしても?」
「彼女の手腕でもツインドライヴシステムの全性能を引き出すのは至難なんだよ」

母艦からカタギリと参謀の静かなせめぎ合いが始まっている。
だが通信からではない。耳に聞こえるのでもない。人の言葉が、心が、自分の中に響いてくる。

「搭載されているGNドライブの出力を落とさねば莫大な粒子量に機体が耐えられなくなる。
 かといって制御機を出力に対応すれば巨大化し、かのGN-XI以上になれば戦闘機動に支障をきたす。
 ツインドライブシステムの力は、ただのマルチドライブと違って未知数なんだ」
「未知数なら解明に努力を尽くすべきでしょうが。貴方のGNドライブとGN粒子の可能性を探る研究の趣旨と反しますな。
 試験ゆえの慎重はわかりますよ。しかし上層部は100%の結果を求めておいでなんです。
 前線は終わりの見えない泥沼。旧人類軍はもちろん分離勢力を鎮圧できず。これでは将兵の士気に悪影響を及ぼしかねません。
 敵に対してアドバンテージを確保し味方の被害を防ぐべく、ツインドライブシステムをなんとしても最高の仕様で実用化すべきなのです!」

アーミアが説明できるとすれば脳量子波を感じ取ったという事だろう。
だがそれにしては普段のような言葉と感情だけではない、奥底にある思いまで手に取るようにわかる位感じ取れるではないか。
・・・この機体には、これまでにない機能が、力が秘められているとでもいうのか・・・・・・?!

(みんな結局、ほとんどが正しいんだ・・・・・・!)

カタギリと参謀はいずれも人類の為に思い現状を憂い、正しさを成そうと物事を考え決めている。二人の心の底にある思いは野心ではなく平和だけである。
ただ、その正しさの尺度が、方向が一人一人違うだけに過ぎない。
ツインドライブでGN粒子の可能性を切り開くのも、兵器として地球連邦を優位に導かせるのも間違っていなかった。
長く続く内戦は全て解決しにくい問題から起きている。カタギリと参謀の意図はいずれも戦争を早く終わらせ問題解決させるには至らないはず。
それなら最良の選択を探すよりいくつもの選択肢を温存させても良いではないか。
今試験は少なくとも二つの意図が込められている。
戦争の早期終結は不可能だとしても、その糸口をいくつも見出せば、努力を諦めなければ、自分を信じれば、いつか思いが叶う。
たとえ血と涙が流れ続けようと更に増えようと、戦火を広げようとも。
耐え難い絶望の中に希望が隠れているのならそれを掴み取らんと進むべきだ。

(今は自分の出来る事を果たす・・・。希望を得る為に・・・生きねば・・・・・・!)



「グレイスさん、ヴェーダから定期報告です。ツインドライブ運用試験は予定通り終了したとの事です」
「・・・これで連邦製の方は50%の出力での運用が決まったわね・・・・・・」

女戦術予報士は安堵に顔を綻ばせる。

「でも地球側は一気にこっちのガンダムと差を縮めてきたですぅっ。カタギリさんの連絡とヴェーダがあったからまだ良かったけどです」
「それは紛争阻止の保険に過ぎないわ。どの道あのシステムは連邦独力で実用化できる物。それが10年くらい早くなっただけだからね」

地球連邦軍がツインドライブを実用化に漕ぎ着けた。それは彼らが持っていたアドバンテージが一つ失われた事を意味する衝撃である。
事実、カタギリからもたらされたヘラクレス・ディアルキアのデータは、は戦闘力と基本性能だけならこちらのツインドライブ機に並ぶ。
無論量子ジャンプなど高度な粒子制御は付与されていないが、実戦ではさほど問題ない差だろう。

「ところで色々ビックリニュースがあったです。擬似ツインドライブなんかでアーミアさん、より鋭く脳量子波を感じ取ったなんて。擬似太陽炉で、ですぅ」

まさかといわんばかりに戦況オペレーターが言葉をまくし立てた。彼女の顔はいかにも驚愕、思ってもなかったを絵に描いたように表れている。

「今まで意識共有まで出来たのはこっちのGNドライブだけだったのに、まさかねぇ・・・・・・」
(GN粒子の効果か・・・・・・。擬似太陽炉は確か、最初に開発された粒子生成装置。意識共有が出来てもおかしくないわね・・・)

愚痴をこぼす戦況オペレーターをよそに、戦術予報士は記憶を掘り起こし振り返った。
ヴェーダの推測では擬似太陽炉でも粒子が適量かつ脳量子波の持ち主がいれば、こちらと同じ効果を望めると言われてきた。
擬似太陽炉の真価が真に実証されたからには半永久に生成できる純正太陽炉のメリットが失われるだろう。
それでもこちらソレスタルビーイングは負けていられない。まだ粒子運用の年数はこちらが一日の長であるのだから。

「間もなく内通者達がツインドライブ流出に動き出す頃よ。「枝の反応」に注意しなさい」
「「「了解(です)!!」」」



第2部あとがき
ついに、遂に第2部の果たしましたァーーーー!!
とはいえ連載最初の数ヶ月以降は更新ペースが落ちて、それでいてMSアイデアは次々浮かび上がって・・・・・・。
読者からすればモチべ低のグダグダに感じられているとしたら申し訳ありません。
ですが仕事と沢山の趣味と上手く折り合わせられなくても、その間に戦争や人類史などの専門書を参考に読んで得た物は多かったです。
それをうまく生かせているなら喜ばしいですし、不充分ならば次に生かす糧にしていきます。

さて、この小説を書く事4年近くですが一つある事に気が付きました。
それは1、2部からなる前半が「旧人類の物語」で、第三部から始まる後半は「新人類の物語」という構成にしたいのではないかです。
劇中語られるイノベイターの増加に合わせたシナリオで、もしかしたら既に意図を読めている読者がいるかもしれません。
よって主人公格のベガもアーミアも彼らの物語に翻弄される立場にあります。
ベガは仲間思いの善人であっても一軍人の立場に留まり、アーミアは努力を尽くした末に挫折し振り出しに戻ってしまう所で第二部は幕を閉じます。
必ずしもヒーローとして世界を救えていません。
結局の所、善人が全てにおいて善ではなくイノベイターでも全てが善ではないのです。

グダグダに連載を続いている統合戦争緒戦記でしたが読者の期待と声を励みにやっと一つ区切りを付けられました。
こんなガンダム系処女連載作でも諦める事無く読んでくださった読者方には感謝に堪えません。
劇中語られる世界大戦寸前を取り上げる第3部をどうぞお楽しみください。



[36851]     兵器設定8
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/08/10 11:27
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第2部 兵器設定8



オキナワ級強襲揚陸艦
全長
577メートル
搭載機
MSのみ100機以上 MAのみ200機以上、上陸艇3隻
部隊編成
海兵遠征部隊 海兵隊最小戦略単位で15日間戦闘可能。本艦には2個配置され常時緊急展開に備えている。
1個歩兵大隊、1個砲兵中隊(155ミリ榴弾砲8門)、地上偵察MA中隊(戦車型4機、歩兵戦闘型16機)、強行偵察小隊(新型パワードスーツ)、各種支援部隊、各種兵站部隊
1個機甲MS小隊(チェンシー4機)、1個歩兵戦闘MS小隊(チェンシー歩兵戦闘型4機)、2個戦闘攻撃飛行隊(ユニオン8機)
海兵遠征旅団 海兵隊の戦略単位で師団より小規模だが遠征部隊の2倍と大規模。本艦には1個配置され常時緊急展開に備えている。

宇宙、地上への上陸部隊展開を主用途とする地球連邦軍の大型艦艇。
多発する紛争の介入において目標の早期制圧を実現する為、大規模な緊急展開部隊を常駐している。
また宇宙での長期航行と地上戦力の展開に対応すべく艦内には大規模な訓練施設と娯楽施設などを完備させ居住性はカレドニア級大型空母並に良好。
本艦はヴァージニア級輸送艦を受け継ぐ船体構造を持っているので、大気圏突破能力を持たず上陸艇で地上やコロニー等に海兵隊を展開する形になる。
海兵隊に宇宙活動も付与させた結果維持費や訓練費を急騰させたものの、宇宙から地上まで攻撃範囲と手段が増え紛争介入に貢献している。



GNW-006フォーロン
頭頂高      本体重量
17.8メートル 59.4トン

装備
レーザートーチ  重土木作業向けのレーザー装備。金属物や岩盤などの切断に用いられる。
GNナイフ    重土木作業や救命活動用の近接実体装備。粒子ビームを纏わせることで切断力を上げ、作業対象以上に硬い物体に対応できる。
その他      OSなど少しの改装で軍用装備も使用可能。

連邦軍次期主力機候補GNX-Y807Tジャーズゥの民間作業向けに改修した人革連系のMW(モビルワーカー)。
機体剛性と信頼性をそのまま引き継ぎながら民間作業用として余分な重装甲と分散式センサー・カメラは廃され、頭部にセンサーを集中させるなどベーシックな設計に立ち返っている。
外観は無骨なベース機と逆にスリムな人型であり、粒子対応を追及した結果ゴーグル内のツインアイと頭部クラピカルアンテナを装備し、GN-X以上にガンダムに近くなった。
人間に匹敵する可動性の高さはガンダムエクシアに匹敵する。

民間向けに改修されているが基本性能は軍用並に高く、小手先の改造だけでMS戦に対応できる民間警備やPMC用の警備型も存在する。
ただしその方面では多様な軍用MSが揃っているので配備数は全世界で100機未満と少ない。こうした機体はフォーロンの普及率が高い地域に偏在している。

ELS戦より50年後のMWサキブレに繋がる機体でありジャーズゥ以上に本機と類似点が増えている。



GNW-20010ガッディアル
頭頂高      本体重量
24メートル   90.3トン

専用装備
GNビット GNドライブ二基搭載する情報収集用大型ビット兵器。GNビームキャノン及びエグナーウィップを搭載する他表面にGNフィールドを纏いGNソードとして使える。
      最大の特徴はハッキング能力であり、搭載する量子コンピューターとコンピューターウイルスで目標の制御系等を乗っ取り遠隔操作はもちろん無力化が可能。
      ただしハッキングするにはGN粒子のジャミングを受けなくなるまで目標に1キロ以上接近しなければウイルスを送り込めない。
      なおそれより遠距離では敵のレーザー通信やセンサーを傍受程度ならできる。

威力偵察用に開発された高性能MSガルゼスのバリエーション機。情報収集の為コックピットは複座式に改められ、ヴェーダをベースにした量子演算コンピューターを搭載する。
ELSの持つ同化能力と学習能力を既存技術での再現が試みられ、それぞれウイルスによるハッキングと量子コンピューターの演算力で少しながら実現した。
単独での偵察行動を用途に置く為、頭部センサーラインが大型化し粒子撹乱に耐えられるよう大型粒子制御機を搭載する。

MSサイズで戦術規模とはいえ情報管制をこなすにはパイロットの負担が大きく、イノベイターパイロットしか乗りこなせない。



GNX-805T/TDヘラクレス・ディアルキア
頭頂高      本体重量
20.5メートル 72.7トン
パイロット
アーミア・リー

連邦製ツインドライブ・システムを搭載する最初のMS。
通称に付けられたディアルキアはラテン語で2頭政を意味し、ディオクレティアヌスら二人の共同皇帝が古代ローマ帝国を安定化させたようにツインドライブのGNドライブ同調の思いが込められている。
ツインドライブ試験機とも呼称され全部で4機開発され運用試験に用いられた。
スペック上は基本性能と戦闘力に限れば00クアンタ・フルセイバーと互角で、どのヘラクレスバリエーション機をも圧倒する。

コアファイターは本仕様に一新され、GNウイングはツインドライブ制御の為に大型化させ粒子制御装置と主翼に分割した。
それでも100%の出力ではオーバーロードの危険があり、本来の50%にまで擬似GNドライブが調整する事で解決された。

将来搭載される擬似GNドライブはツインドライブに対応した低出力ながら稼働時間が2倍に延長された新型を正式採用する予定である。


↓真相
ツインドライヴによる軍事利用を危険視するカタギリ教授が私設武装組織ソレスタルビーイングを介して、
ヴェーダのアクセスで出力50%以上でオーバーロードを起こし自爆するよう小細工が施された。
これによって更なる地球製MSの更なる高性能化を阻止し00系とのアドバンテージを確保に成功した





[36851] 第3部 世界設定
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/08/24 21:09
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第3部 時代設定

世界情勢(西暦2344年時点)
イノベイター・旧人類の軋轢から始まった紛争は民族及び地域間経済格差をはじめとする問題も加わり戦禍の拡大を招いた。
ところが10年経った2324年頃より私設武装組織ソレスタルビーイングが活動を再開させ、ガンダムの紛争への武力介入するようになった。
最小限で最大の効果を挙げるピンポイント攻撃に紛争は下火気味になり以降散発的なテロに留まる。
かねてより交戦状態にあった地球連邦と旧人類軍は武力介入に警戒して衝突を避け冷戦状態に入る。

地球連邦
人類最大規模を誇る統一国家。西暦2344年の時点では革新派のクラウス・グラードが大統領に就任し改革と問題解決を努めている。
軍備増強と軍制改革により体制を保っているが未だに紛争の根本的解決を果たしていない。
平和維持軍と保安局の体質は以前と変わらずアロウズ時代の気質を引きずり、独断での弾圧や虐殺が横行している上に司法とも癒着しているなど暴走傾向にある。
下火になった紛争で余裕が生じた為、イノベイター政策をはじめ教育などインフラ整備や敵勢力との対話など外交にシフトしている。
しかしイノベイターは増加し続け総人口の30%にも増え、旧人類との軋轢は深刻化し一部では独立の動きを見せ始める。

旧人類軍
反イノベイター派最大の軍事組織。西暦2344年の時点では小惑星帯の宇宙基地群と西アフリカ、中東などを勢力下に入れている。
地球連邦軍に次ぐ規模を誇り宇宙艦隊や大型MAなど保有する。地球連邦とはイノベイター問題を巡って敵対関係にあり何度も武力衝突を繰り返してきた。
かねてより続くイノベイター増加は組織に深刻な分裂の危機をもたらし内部抗争が絶えず、地球連邦の掌握を旗印になんとかまとめられている状況である。

内通者ネットワーク
文字通り地球連邦と旧人類軍の情報・技術・人員物資流出を目的とする秘密ネットワーク。
双方の内通者をはじめスパイや工作員の潜入及び脱走手引きや救出、もしくは片方への情報提供など支援を手がける。
実は軍産複合体「アース」の情報工作を担当する下部秘密組織である。

軍産複合体「ノストゥルム」
大企業トップからなる評議会を頂点とする国際複合ネットワーク。
アース・インダストリーやアイリス社などの軍事産業やコロニー公社などの大企業群を中心に構成する。
本来は3国家群にそれぞれ分立していたのが地球連邦樹立に併せて統合され、統合戦争において恐るべき肥大化を遂げた。
建前上は顧問としてメンバーを各地に送り込む事で地球連邦をはじめ世界各国も対し強い影響下に組み入れ、裏ではマフィアやテロ組織、旧人類軍などにも繋がりを持ち双方を支援している。
自らの利潤の為なら莫大な資金と人脈を武器に合法非合法手段を駆使して世界を操り、統合戦争においては紛争やテロ、政情不安定化を誘発させてきた。
また傘下企業や政府、軍による不正の一部を彼らの資金と手引きによって、司法取引で法外な微罪処分(虐殺しても休職、謹慎など)で済ませられた事件は少なくない。



[36851]      第45話 GN-XV後期型
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/09/14 05:22
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第3部45話 GNX-810T/TD GN-XIV後期型

西暦2344年。ELS戦から30年後。統合戦争27年目になるこの時、人類の転換点と言うべき激動が訪れた。
それは突如としてではない。これまで長い時間をかけて拡大していった矛盾や問題とそれを正そうという取り組みが、水面下での準備を経て表に現れたのに過ぎない。
人類の気高い理想を成し遂げようとすれば、異を唱え否定する者が現れる。それは人が辿ってきた歴史の常である。
だが目指す理想が高ければ高いほど反動が大きくなるもの。
相互理解、紛争根絶、恒久平和・・・・・・。その理想を掲げた30年前から、激動の到来は決定付けられたと言って良い。



地球連邦首都ワシントンDCは優しい春風が吹く快晴の陽気にあった。
休みを取っているなら家でのんびり過ごすか恋人とのデートするなり外出などにもってこいだろう。
だが作戦遂行中のシーモア・アントラクス・ビオリー中尉らMS小隊にとって関係のない事だった。
GNX-810T/TDGN-XV後期型の4機編隊を組み、GNパイクを中心にNGNマシンガンなどを手に携え首都の上空を進み行く。
次世代機の普及が進む中今や旧式となった本機だが、操縦しやすくコアファイター搭載に伴う生存性が高さが利点である。
第二線級に回されてからも扱いやすさから哨戒と練習などで好評を呼んでいるという。

(さて、機体は・・・と)

ツインドライヴ・システムは正常。GNドライブは同調率正常。オーバーロードの危険はない。
GNパイクもビームサーベルも、シールド、全装備は正常。安全装置は解除されいつでも敵を相手できる臨戦態勢にある。
今のMSには分が悪いが、そこは電撃作戦で巧い事ハンデを補っておこう。素早く作戦を進めていけば相手は混乱し応戦まで時間を延ばせるはずだ。

「こちら第466戦術戦闘MS小隊。ワシントンDC上空に到達、緊急連絡につき連邦最高裁判所への着陸許可を願う」
「第446戦術戦闘MS小隊よりこちら首都防衛本部。着陸場確保の為しばらく上空で待機せよ。保安隊が周辺一帯の交通整理にかかっている」

関門を無事突き抜けられた。これでより同士討ちを抑えその悲惨を生まずに済んだ事を、シーモアは密かに安堵する。
状況を揺るがす情報を得たので手続きを経ず傍受防止にMSでの伝言なら説得力を持てる。
もっとも緊急連絡は虚実であり基地司令より連邦政府の武力制圧を命じられていたからだが。
これはれっきとしたクーデター、つまり国家反逆行為に値する。クーデターがもし失敗すれば自分は国家反逆の罪を問われ死刑は確実。
今のクラウス政権なら今まで通用していた、司法取引による刑罰の軽減は難しいのだ。

(もっとも予定より繰り上げ決起したんだ。後はない・・・・・・)

シーモアは作戦を振り返り頬に冷や汗を流す。
本来なら来週クーデターを起こす事になっており、協力に取り付けた部隊がこちらに呼応してくれるか不安があるのだ。
今動いているのは自分らGN-XV後期型8機と、1個歩兵中隊を基幹とする地上部隊からなる一地方基地の駐屯部隊のみ。
しかもMSは二線級の旧式ばかりで首都防衛部隊と保安局のMS部隊を全て相手には出来ない。・・・ツインドライブの出力で収束ビームを撃てば首都を灰燼に帰せるが・・・。
裁判所を制圧した上、周囲が後に続いてくれなければクーデターは失敗確定となる。

「クラウス・グラード大統領は過去30年に渡る連邦内の不正を糾弾すべく、今日の10時よりまもなく再審が始まります。
 この紛争において連邦は鎮圧に努力を尽くしてきた一方、平和維持軍と保安局は反対派に対して弾圧を加え、これは未確認情報ですが暗殺や虐殺にも及んできたと言われております」

ウィンドウには裁判の現場中継をはじめ、ニュースがモニターの脇にいくつも映し出されている。

「訴訟は1万件以上、過去27年間連邦軍及び保安局が起こした犯罪事件の内無罪判決が下されています。それの再審でどう変わるのか見逃せません」

気を取られたり任務に集中し辛いのだが上官より状況把握の為に映像表示を厳命されているので消したくても消せない。

(あの大統領が、そんな・・・・・・。大粛清を考えていようなんて・・・!)

クラウス・グラードはこれまでの強硬的な革新派政権に代わる、革新派出身では二人目になる大統領だった。
イノベイター・旧人類間の問題や紛争などの解決を武力ではなく対話で進め、泥沼の戦争に浸かり込んでしまった地球連邦に新たな風をもたらした。
だがその認識は、期待は裏切られてしまった。あの宥和政策の実行者が・・・・・・。
基地司令の口から「改革の裏で、私兵を使い合法的手段を以ってして大粛清する疑い」を告げられ、次々とその証拠を挙げては悪の意図を強調していった。
無論それが正確かどうかは問題にしてはならなかった。もしも疑問を口にすればテロリストの烙印を押され最悪射殺されかねないからだ。
続けて基地司令は演説を続ける。

「我々連邦軍は統一政権による恒久平和という崇高なる大義の実現の為、決して難局に屈せず戦い続けた。
 しかし現大統領は個人的夢想実現に政府を私物化し市民と軍隊を欺くだけに飽き足らず、戦争の抑止力たる軍隊の解体に乗り出そうとしている。
 奴は対話による相互理解の名の下、官僚及び経済界、敵勢力を言葉巧みに骨抜きにし我が手中に収める。そのような卑劣な手でだ」

対話は誰でもする事では・・・・・・?貶めているだけかもしれないが、上の者が切羽詰った様子で語る以上受け入れた方が良いだろう。

「・・・地球連邦平和維持軍は3国家群から引き継いだ戦力のみならず財界・企業との協力体制をより一層強化させ、平和維持と抑止力としての存在意義を不動の物にした。
 企業は競い合いつつ軍隊に高度な軍事技術と兵器をもたらし、恒久平和の為の抑止力を支え続けた。・・・そのはずだった。
 奴はそれをことごとく破壊し、関係を引き裂き分断し、あらぬ疑いを掛け貶め、弱体させる。内戦という未曾有の国難下でそのような暴挙を許せるはずがない!政府は許せようと世界は許さない!!」

これまで旧人類軍をはじめ反乱軍や内通者による破壊工作に苦しめられているのだ。軍と議会にに彼らの枝が伸びているのだから政府を疑っても不自然ではない。
工作員は狡猾で巧くこちらに溶け込み、気付くまで奥深くに毒を染み込ませじわじわダメージを与えてくる。そうならない為には疑わしきに気付き次第対処に動く事のみ。
軍人として上に従い、彼らの思惑を自分なりに受け入れ割り切っておく。

(・・・あれが大粛清か・・・わからないけど、上がそう言うなら恐らくそうだ!)

首都防衛本部より着陸場確保の報が届き次第シーモアらは機体を下降。不正の抗議を叫ぶデモ隊も保安局員も立ち退きされている。
緊急連絡を理由にしているのさっさと降下し、あたかも空挺部隊のように裁判所の四方を囲むように着陸した。・・・空陸パワードスーツがMSから離れてから。
ウィンドウがもう一つ表示。向こうからの通信だ。
初老の男がアップで映し出された。今や髪の大半を白髪が占め髭を生やした初老―――歳は身体年齢以上だが―――が、精悍な目つきでこちらを見据える。

「MS隊、聞こえるか?私だ、クラウス・グラード大統領だ」
「こちら連邦軍第446戦術戦闘MS小隊長シーモア・アントラクス・ビオリー中尉。裁判の再審準備の所、大変失礼ながら緊急事態につき直接連絡の受け入れ感謝します」
「さて、緊急事態とはなんだね?再審は中止にしてあるから応対は万全だ」

遂に対決の時が来た。
相手は連邦の大統領、怖気付いて口ごもらせてはならない。

「それは・・・・・・地球連邦の存続を脅かす、極めて重大な情報です」

なんとか口に出せた一行目で10秒経過。
続けて・・・・・・

「貴殿クラウス・グラード大統領の国家反逆行為の疑惑が浮上しました。よって、貴殿の拘束致します・・・!」
「ッ!」
「~~~~ッ!!」

目を見開き口を開け絶句させた。誰かが、弁護士か傍聴人かその場にいる全員からか、ノイズのようなざわめきが上がった。

「逃げる者は裁判所ごと焼き払う!これは脅しではない!!」

右手に携えていたGNソードを足元に向け、切っ先より粒子ビームを撃ち放った。
一つの光条に地面を吹き飛ばし爆煙と共に轟音を上げる。今のは威嚇発砲だ。次に撃つ時は大出力で容赦なく裁判所を薙ぎ払う。

「・・・・・・・・・・・・」

捨て身のクーデターの上に虐殺すら辞さないこちらに震え上がったらしく、集音センサーからは悲鳴が飛び交っている。
そんな事態にも、当のクラウスは表情を険しくさせながらこちらに見つめ続けていた。
保安局と軍が鎮圧に来てくれるのを期待するのか?余裕でいられるのは今の内だ。

「・・・君達は結局、自らだけの利益の為だけに動いたか・・・・・・。残念だ」
「・・・・・・・」
(独裁者になろうとする男が言えた事か)

クラウスの言葉にシーモアは冷たく無視しておく。
上空から30人近い空陸パワードスーツがオレンジ色の帯を引きながら裁判所に降下、突入していった。
続けてジープや歩兵戦闘MAなど地上突入部隊が到着。歩兵達がうじゃうじゃと建物を取り囲み第一陣の後に続く。

「第一法廷制圧、クラウス・グラードを拘束!」
「こちら地上突入部隊、裁判所に突入する!」
「こちら首都防衛本部、全指揮系統の掌握に成功!これよりクーデター軍に加わる!繰り返す。我々はクーデター軍に加わる!!」
「統合参謀本部制圧完了!」
「保安局ワシントン支部、我々もクーデターを支持する!」

次々入ってくる通信から察するにクーデターは順風満帆に進んでくれている。ここで一息、安堵に顔を緩めた。
真意はとにかく、連邦を揺るがす可能性の芽をひとまず摘み取れたのだ。
この調子なら市民の巻き添えを抑え、首都を一日で掌握し無血クーデターを成し遂げられる事は間違いない。



だがシーモアを含めクーデター軍はこの時クラウスの真意を一つだけ読み違えていた。
軍隊と経済の癒着の破壊などではない。そのような安っぽいなレベルを遙かに上回る目的があった事を。
その誤解が後の世界大戦寸前の事態にまで陥れる事になると。



[36851]      第46話 GN-XVI(前編)
Name: ハヌマーン◆00eed1b7 ID:812a97c2
Date: 2015/09/10 21:33
機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記

第3部 46話 GNX-815T GN-XVI(前編)

イノベイターを巡る問題は統合戦争という内戦を招き、かねてより燻っていた民族対立や利害対立が再燃した事で戦火を拡大させた。
一時武力衝突が懸念されていたが、その折私設武装組織ソレスタルビーイングの武力介入再開によって辛くも免れた。
現在地球連邦はクラウス・グラード大統領の指導の下、宥和政策を推し進め紛争解決に努力してきているが地球圏の内戦は未だに続いていた。
旧人類軍を筆頭に反連邦勢力はその版図を保ち続け、テロリストや不満分子を煽る事で地球連邦に絶えず損害を与え続けている。
決して統一政体を滅ぼす程の脅威ではないとしても、市民に被害を与え続けているとあっては食と安全の保障を損なうならば看過できない。
平和維持と抑止力を司る連邦軍は情勢を前に、絶えず軍事力の強化を推し進めなければならないのだった。
その一環として実施されているのが、世界中に配備されている兵器―――GN-X系を中心とするMSなど―――の更新である。
これまで主力機として運用してきたGNX-810T/TD GN-XVは老朽化と改修の限界が迫り、これ以上長く前線で使う事が難しくなってきたのだ。
元々19年も前に開発されそのまま主力機として長らく用いられた。
GN-XIVすら主力であれたのは10年程しかない事を鑑みれば、GN-XVの息の長さは驚嘆に値する。
ここまで長期運用された要因は、当時擬似太陽炉がまだ貴重で準GN機による補助戦力更新が最優先された事、その補助戦力がかなり重用された上にツインドライブシステムの実用化といくつも挙げられる。
様々な事情によって長寿主力機となったGN-XVに代わる次世代機として採用されたのが、GNX-815T GN-XI、GN-XV直系の後継機だった。
GN-XVIは次期主力MS選考では前回と同じく多種多様な候補機が参加し熾烈な競争を繰り広げたが、本機は際立つ特徴はなく至って平凡すぎる程平凡だった。
コアファイターが再び廃止された事で機体フレームは頑強になり生産性が上がったが、それはGN-Xの備えている特徴を更に顕著にしただけに過ぎない。
火力は特別高くなく近接から砲撃まで多種多様な武装を状況に応じて使い分け、高性能汎用MSというポジションを未だに堅持されている。
コスト削減の為に生存性は切り下げられ性能は高レベルだが平凡。Vより頑強に仕上げ整備性を上げたという地味な点が特徴に挙げられるだろう。
紛争解決の糸口が見えたこの期に及んでコアファイター搭載による生存性向上より大量生産大量配備を目指したGN-XVIを採用させた。
そのように決定させた軍関係者達は「未だ勢力堅持する旧人類軍の対抗策」「紛争激化の対応」の為と説明し、本機採用の正当性を主張する。
ソレスタルビーイングの活動で内戦が下火になっている時期、それでも紛争拡大か、全面衝突の可能性は未だ消えていないのだ・・・。



「落ち着けよ!こっちもツインドライブ機なんだ!30年前と違って瞬殺される事はないぞ!」
「了解!」

連邦軍のMSパイロットに課せられる恒例行事と言えるイベントが存在する。
かつてアロウズを相手に獅子奮迅の活躍を誇ったガンダムタイプのMS「2個付き」を相手にした、MSシミュレーターを使った模擬戦がそれだ。
30年以上前にソレスタルビーイングの手で実用化させたツインドライブシステムを搭載した2個付きの力は、長い間こちらのMSを圧倒する性能を誇ってきた。
これほどの脅威だった故に格好の仮想敵に指定され、MSパイロットならば模擬戦で必ず挑むべき相手となったのだ
・・・士官学校と訓練基地を通った世間知らずのひよっこ達の出鼻を挫く意味合いもあるが。
小隊長の激励を受けたトゥーロフ准尉はそのまま先手と交代する。

「トゥーロフ准尉、出る!!」

士官学校を出て間もない新米パイロットがコックピットのシステムを起動させる。
今使用しているMSは最新鋭機GN-XVI。性能は2個付きとほぼ互角にあり差は新米とエース程の操縦技量のみだ。
こちらのGNパイクはリーチがありGNフィールドをより遠くから突破できるが、得物故に至近距離にまで詰められれば相手のGNソードに切り伏せられるというリスクが孕む。
トゥーロフは正直勝てるとは思っていない。相手はあの2個付きでパイロットはガンダムマイスターなのだから。
だが、もしかしすれば旧人類軍のイノベイター機と戦う可能性がある以上、仮想敵に立ち向かわなければならなかった。

「交戦!!」

設定場所はデブリも何もない宇宙空間。間もなく2個付きと鉢合わせになる。
ロックオンしたその後、相手は視界から消えた。
彼が敵のマーカーを追うより前に回避運動を取る。敵を追い過ぎて落とされないよう訓練生時代に叩き込まれた、MS戦でなくてはならない基本の一つ。
だがこちらが一方に動く間にガンダムは二回、時に三回も軌道を変え飛び回るではないか。
ピンク色の粒子ビームが一閃。ピンク色の光条が機体の真横に、続けて頭上をかすめる。

(っ!一体どこへどう・・・・・・!?)

次の動作が読めなくなる程の機動を見せ付けられ牽制射撃を浴びせられ、トゥーロフの選択肢を逃げのみに追い込まれた。

「当たらない!!」

すかさずGNパイクを敵に向け粒子ビームの弾幕を叩き込む。しかしそれらは当たらず宙に消えていく。
2回、3回、連射を浴びせるが全てが難なく掻い潜られてしまう。それも、読んでいたかのように鮮やかに舞いながら避けて。
シミュレーターに組み込まれているGN-XVIはELS戦時の戦闘データに設定され、それを絶対変えて戦闘機動を改善できないよう固定されている。
よって戦闘経験を積んだ今の戦闘データを機体プログラムに組み込めず、対ツインドライブ機戦闘を自分の感覚でこなさなければならないのだ。
襲い来る弾幕にGNシールドをかざすようになってくると、2個付きが粒子の双円を背に急迫。

「っ!」

刹那、人を模したツインアイがこちらを睨みつけ、緑色の刃を組み込む実体剣をこちらに突き付けて。
モニターの前方がシールドで視界を塞ぎ刃とスパークを上げる。迎撃に動作が間に合ったのだ。すかさずスラスターを全開、2個付きを圧し留めた。

(だが・・・すぐ防御崩されるな・・・!)

なんとか攻撃を凌いでいるが恐らく何らかの戦法でまた押されるのは間違いない。
あの実体剣は時代が古いからかこちらのより性能は低いが、特殊な素材が使用され同出力の粒子を纏っての切断力は向こうが上だという。
粒子生成量は同じでも有限の擬似太陽炉では必ずどこかで差が出るはずだ。GNパイクを振り下ろし叩きつけるかという矢先。

「!!?」

ガンダムが突然視界から消えた。
それまで押し返していたのが、その勢いのままバランスを崩し軌道がぐちゃぐちゃに乱れてしまう。
一体どこに?旋回していったか?後ろに回りこんだのか?

(懐に潜り込まれた!!)

いくつも考えながら機体を反転と同時に後退。敵の未来位置から距離を大きく開けた。

「2個付きは?!」

彼が消えた敵を追い始めたその時、前方には先の2個付きがモニター全体に映し出されていた。
実体剣を左から右へと振りクリアクリーンの刃が視界を埋め尽くす。手にしている得物を、盾を振りかざすには間に合わない。

「――――――ッ」

戦意を挫けず最後まで戦い抜こうと決心したトゥーロフはこれが最後と認識する間のないまま、非情な現実を理解できないまま・・・・・・。
途端、画面は時間が止まったように動かなくなり、正面には敗北、戦死などのマーカーが表示された。



模擬戦とはいえあっさりやられ続けるのはパイロットとして悔しいし名に傷が付く。
あれから何時間も―――2度の小休憩込みで―――彼らは2個付きを単機で挑んだが、ことごとく敗れてしまった。
一度も撃破できなかったペナルティーの歩兵戦フル装備で腹筋、腕立て、マラソンを消化した時には夜中だった。

「2個付き強すぎるわ・・・。MSの性能が同じなだけじゃダメだ。あんなのに挑んだアロウズのパイロットら、よく逃げなかったもんだぜ」

トゥーロフがモニターを観すぎて赤くなった目を細めながらコーラを口にする。

「もっと鍛えんと勝てんな・・・・・・」
「ああ。イノベイターとかエースレベルなら単機で2個付き倒したっていうからな。・・・何十時間も鍛えんとあいつらに追い付けないかもしれないよ」

トゥーロフ准尉をはじめとする新米3人、食堂でくつろぐ。話の内容は今日の模擬戦についてである。
MSパイロットとして数年間に及ぶ厳しい訓練と教育を受けても、最新鋭機GN-XVIを受領しても、なお2個付きとの差は歴然だった。
これがソレスタルビーイングの、ガンダムマイスターの力なのか。
どれ程腕を磨いて挑んでは常に打ち破られる高みの存在。敗れる度に彼らは痛感させられる。
4機と小隊がかりで立ち向かう以外に、現時点で2個付きを倒す術は見つけられなかった。

「そうだよな。俺達の乗るGN-XVIはソフト面では2個付きに勝ってるんだ。俺達でもきっと勝てる日が来るとも!」
「ああ!」
「そうだ!」

トゥーロフに続けて二人も目を輝かせて応えた。
確かに2個付きの実力はただのパイロットである自分達を越えている。一対一では勝てないのが現状だが、瞬殺されずある程度善戦出来ているのも事実。
死ぬ時など、生きている以上必ずいつの日か来る。その時来るまでどのように辿るのかはわからない。
ただ実戦に備えて最強の仮想敵で鍛えていく。どれだけ負けようと本当にビームや爆発に焼かれて、もがき苦しみながら死ぬより遥かにマシである。
今は休み明日に備え、部隊勤務の合間に模擬戦と自主練習であのMSに挑む。それがパイロットの生き残りに繋がるのだから。


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