1999年8月9日横浜ハイヴF層
国連軍カラー蒼色の不知火が9機で坑道内部を進んでいる
――デルタリーダーよりCP、現在深度1250m。
中央区画に到着した。
これより担当区域の探索を開始する。
――CPよりデルタリーダー、任務内容の変更だ。
万が一の場合は記録の回収を最優先とする。
――デルタリーダー了解
坑道内部の大きな空間
床全体が光を放ち
青白く幻想的な光景に9機はやって来た。
「すげえ……」
Code991
幻想的な光景に不釣合いな警報が
デルタ中隊を襲う
――デルタリーダーよりCP、レーダーにBETAの小型種を5匹ほど確認。
これより排除に移る。
――CPよりデルタリーダー、了解した。
「デルタ1より各機、食い残しのBETAの処理だ、さっさと片付けるぞ」
全機が突撃銃を構え小型種のBETAに向かおうとしたその時
「中尉!」
「あ、どうした?」
「あれ……なんでしょうか?」
――CPよりデルタリーダー、状況を報告せよ
「各機BETAへの警戒を怠らず待機」
――こちらデルタリーダー……BETAの奥のホールのど真ん中に
何か……ある
「あれは柱ではないでしょうか……」
――こちらデルタリーダー。
何か細い柱ようなものが天井から床まで1本だけ伸びいて、
その中央部に透明の部分がある……
――こちらデルタリーダー。
今、最大望遠で確認する……
――CPよりデルタリーダー、状況を報告せよ。
メンタリティが極度の興奮状態を示している
「……なんだと、人?」
――CPよりデルタリーダー、生存者か?
状況を報告せよ。
繰り返す! 状況を報告せよ!
――デルタリーダーよりCP、生存は不明だが
柱の中に人間を発見した!
「中尉、BETAがこちらに気づきました!」
――CPよりデルタリーダー、BETA排除後
詳細を報告せよ。
――デルタリーダー了解
「各機へ、後ろの物を攻撃するわけにはいかん。
BETA1匹1匹にしっかりあてろ!」
1999年10月22日横浜ハイブF層
2ヶ月前にG弾によって制圧されたこの地に、魔女と呼ばれる女が居た。
彼女の目の前には透明な柱、その中に浮かんでいるのは人。
今回の横浜ハイヴ制圧は予想外の戦果をあげた。
一つは生きた人間の脳、もう一つは生きた人間。
更にはBETAが人間を調査していたという事実。
これらの欠片を集めて天才とも呼ばれる彼女の思考は加速する……
Alternative planIV
1995年より彼女を中心に始まった計画、彼女は聖女となるべく考えを纏めていく。
「博士」
彼女が思考に漬かりきる直前に、幼さを残す少女の声が彼女に届く。
彼女は一端考えを停止さえ、背後にいる少女に向き合う。
「社、結果は?」
社と呼ばれた少女は魔女に臆することなく淡々と答える。
「名前と誰かを呼ぶ声だけが聞こえました」
「誰かを?」
腕を組みながら指を口元に持っていき、魔女は少女に尋ねる。
「たけるちゃん……と呼ぶ声が聞こえます」
「そう」
少女の答えが期待外れだったのか、さしたる反応も示さずに魔女は正面の人を見つめる。
「こっちは?」
正面の柱の中に浮かぶ脳では無く、人が入った柱を見つめながら少女に魔女は問う。
「……何も聞こえません。深い眠りについてるような、真っ暗です」
「そう」
こちらも期待外れだったのか、魔女は正面の人を見つめる。
「あ……目が覚めます」
唐突な少女の発言に魔女は正面の人を睨むように見つめる。
――― Masato Side ―――
自分は眠っている
実際に眠っているのであれば、この様な考えには至らないはずだ。
考え改め目を開けようとしてみる。
「あれ?」
思わず声を上げてしまって気がつく。
水の中に自分がいる。
通常では有り得ない。水の中で呼吸は出来ないし、昨晩は自宅の布団で……
記憶が曖昧で思い出せない。
思い出せないのであればこのままで居ても仕方ない。
思い切って目を開けて現状を把握しよう。
最初に視界に入ってきたのは蒼い世界だった。
深海の様に暗く、ぼんやりとした視野。
肌から感じる冷たい水。
そこで意識が覚醒している事に気がつく。
そう自分は起きているのだ、だが現実は最初に確認したとおり自分は水の中にいる。
鼻の奥が妙に痛い事から、これは現実だと呼びかけられているような錯覚を覚える。
薄暗さに目が慣れてきて、自分がどういった状況下に置かれているかに気がついた。
「裸……水中……お風呂?」
どうやら自分は裸で水の中にいる。
自分で言っておきながらお風呂は無いと考えを改めようと、首を左右に振って意識の覚醒を促そう。
そう考え正面を見つめると、そこには白衣を着た美人がこちらをじっくりと観察していた。
「……!?………?」
白衣の人と勝手に命名しておきながら、その人の動作を見ていると白衣の人はこちらに向けていた視線を外し
後ろに振り返り何かを言っている様である。
聞こえない、そう自分は水の中にいるのである。
そして相手は水の外、間に壁があるのに気がついたのは時間にして1分ほどたってからだった。
そして白衣の人が再度こちらを見つめると同時に、白衣の人の後ろに少女が居ることに気がつく。
白衣の美女と小学校高学年位の少女、アンバランスだなあーと思考を回していると。
{…こ………か?}
脳内に直接届く声。それに驚き発生源であろう少女を見つめてしまった。
相手はさして気にする事も無くこちらを見つめている。
意味が分からない、どう答えていいかもわからない、困ったので首を傾げてみる。
すると少女は白衣の人と言葉を交わして再度こちらを向く。
{聞……ま……?……えて…ま……か…}
脳内に響く途切れの途切れの声意味は一切わからない、
聖徳太子は10人以上相手に会話したと聞くが、10分の1の言葉では会話は自分には出来ない等と関係ない事を考えていると、
じっと少女を見ていると視界がぼやけていく。
ああ駄目だ……これは落ちる。
意識が暗闇に沈んだ。
――― Masato Side End ―――
唐突に目を覚ました男の事を魔女は観察する。
時間にしては数分、医学的に生きている事は元より分かっていた事だったが、男が実際に動いたというのは大きい。
BETAのハイブ内部に入って生き残った人類は皆無といってよい。
ましてやなんらかの実験等を受けた人間等、元より見つかってなど居ないのだから。
自身が中心となる計画の鍵を握る、彼女の実験の被験者となるべきために存在してるいるようなニンゲンが目の前にいる。
思わず口元に笑みが浮かんでしまうのを自覚しつつ魔女は観察する。
男は自分が水の中に裸で居ることに慌てているのかあたふたとしている。
そして落ち着いたのかふとこちらを見つめて視線が絡み合う。
男の焦点が合っていくのを感じながら、相手が落ち着いたのであれば意思疎通をしようと振り返り一言。
「社、彼に話しかけてみなさい」
少女はこくりと頷き正面の男に視線を向ける。
{聞こえますか?}
男はビクリと反応を示すと困ったように首を傾げる。
「博士声が聞こえていない様です」
少女の発言に彼女は眉を顰める。
自分の考えの通りで有れば彼とは社の能力で意思疎通ができるはずだ。
だが出来ない、出来ないのであれば現状対策は無い。
「繰り返して話しかけてみて」
少女は頷き再度男を見つめる。
{聞こえますか?聞こえていませんか?}
幾度と無く問いかけていると、男の瞼が閉じていく。
そして閉じたのを確認し問いかけるのを中断する。
「プロジェクションで過負荷という事は候補生としてのランクは低い……」
口に出しながら思考を少しずつ纏めていく。
「社、聞こえたこと感じた事を全部言いなさい」
少女は無表情のまま首を左右に振って言葉を発する。
「起きる直前に少しだけ白くなった以外は、最初と同じ真っ暗でした」
「それは何も分からなかったということ?」
魔女は少女に問いかけつつ思考を再度纏め上げる。
少女のESP能力は相手の思考を色として認識して、それを言葉などに置き換えるものだ。
相手は柱の中に居る。
つまりこの能力が作用しないのであれば彼女の欲している情報は一切手に入らない事になる。
それは論外だ、ハイヴを制圧したおまけとして手に入れたものとはいえ、その価値は彼女にとってはハイヴを上回る。
考え再度纏めよう、そこでここより更に奥にもう一人生きている存在が居ることを思い出す。
状態はお世辞にはこちらより良いとは言えないが、確かに生きている。
そして少女の能力も通用した。
どちらにしても彼女の実験の被験者と成るのであればどちらでも構わない。
第一に生きている事、そして第二に少女の能力が通用すること。
男は第一条件を脳は第二条件を確実にクリアしている。
男と脳は彼女の中では等価値にへと変更された。
現状に置いて取れる手段は少ない。
成らばとる手段はこれしかない。
彼女は思考を完了し少女に向かって大きめの声で命令した。
「予備も居ることだし、出しましょうか。
社、ピアティフを呼んできて頂戴」