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[3493] アッシュに憑依したらしいとある日本人の日記帳(現実→TOA・多重クロスオーバー)
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2009/02/22 20:51
いい加減作品が混迷を極めてきたと思うので前書きを分離させていただきました。

この作品は、基本にゲーム「テイルズ オブ ジ アビス(TOA)」の二次創作があります。
長い間原作への案内が無く不親切なこととなっていたことをお詫びします。気が到りませんでした。
教えてくださった方、ありがとうございます。
アビスのほかに、テイルズオブファンタジア、魔法陣グルグル、ブギーポップなどの成分が混入しています。

この作品には、途中いくつか完とかエンドとかその類似品がありますが、一言で言えば思いついたからには書かずにはいられなかった、書いたからには出さないのも勿体無いという作者の“ドケチ”です。
孔明のでも作者の罠でありません。
流れとしてはIF、もしかしたら有り得たかもしれないコト、というつもりで書いていますが、次話に繋がっていない完及びそれに類似する表記は本筋では有り得ません。
表題が変わったときにも完やそれに類似する表記をしていますので、混乱することもあるかと思いますがどうぞご容赦下さい。

そして今まで読んでくださった方々、これからも読んでくださる方々、感想を残してくださった方々に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
時には厳しいお言葉を頂くこともありましたが、それでもこちらで楽しく投稿できたのは皆様方のおかげであると思っております。
ありがとうございました。



12月9日追記。
一度は【完結】の表記を入れたものの、終わったつもりで何話か書き足していくうちに読者の方にいい加減に【完結】表記を取ってほしい! といわれました。
終わったつもりではあるんだけどなぁ、と思いつつ、「つもり」という言葉が出ることにふと気が付く。
拘る事でもないので当分【完結】外します。
終わりだと思ったら、そのときにまた。

12月20追記。
クロスオーバーの数が増えたので書き上げてみました。
アビスを基本に据え、ファンタジア、グルグル、僅かにブギーポップ、それが絶妙にもうどうしようもない混ざり方をしています。

12月31日
前書き追加。



[3493] 一回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/12/31 00:59








 ある朝目覚めたら自分の部屋じゃなかった。

「……見慣れない天井。いや知らない天井だったっけ?」

 とにべもない事をつぶやいて見た。

 起き上がろうともぞりと動いてぎょっとした。

 髪が長かった。

 俺はマルガリータな頭をしたナイスガイ、というか木の葉の蒼い珍獣に似ていると言われたこともあるような男だ。

 こんな真っ赤な赤い髪など知らない。

 引っ張ってみてもズラじゃなかった。

 髪をひっぱたっ手のひらもあるはずの無いタコがいっぱいあってぎょっとした。

 俺の手にあるのは薬指のペンだこだけだった。あと足の裏の魚の目。

 何が起きたんだと呆然としていたらノックの音が響いた。

「アッシュ師団長」

 と声を掛けられたて俺は気絶したいと思った。



 それが朝の目覚めで、今俺は日記を書いている。

 何とか誤魔化してその時は出て行かなかった。

 音素灯、っていうやつか付け方が分らなくて四苦八苦して明るくなった室内で家捜しして改て愕然とした。

 クローゼットの中にはあの神託の盾騎士団の文様が入ったロングベストとかインナーとか本気でズボンじゃなくてタイツとか。

 そして俺は何故こんな事になっているのかじっくり考えてみた。

 じっくり、じーっくり……。

 一番最後の記憶は飛行機ん中で昼寝したことだ。

 隣の爺さんの歯軋りが煩くて耳栓貸してもらったんだ。

 そんでもって寝た。

 飛行機事故か?

 とっくの昔に死んでいるのかも知れない。

 良いとは言わないけどそれでも痛みとか恐怖とか知らずに死ねたのはいいかなぁ、とか思ったりもした。

 けどもしかしたらそういうのが自覚のない幽霊なのかもしれん。

 鏡が無いから確信に止めを刺すことは出来なかったんだが、それでも状況証拠が俺に囁きかける。

 もしかして俺ってばアッシュ・フォン・ファブレとかっつーガキになっているのか? とかな!

 そのあと俺は空きっ腹を抱えて家捜しをした。

 ちっくしょ。これがルークなら日記を書いているはずなのに。

 こいつも日記ぐらい書いとけよ!

 日記帳見つけたけど白紙だよ!

 今っていつだよ!

 つか朝アッシュ師団長とか言ってたよな?

 剣の使い方も分らなけりゃ俺は人の上に立ったこともねーぞ!

 とぐだぐだしてても腹が減りまくって正直辛くなってきたのでとりあえず俺の知る鮮血のアッシュスタイルで外に出てみた。

 食堂はどっちにあるんだか。

 そう思って左右を見るとそこに兵士がいた。

 近付くと敬礼をされる。

 ……死にたくなった。

 だがそうも行かないからとりあえず食堂の場所を聞いてついでに下っ端の習慣でにへら、と笑みを浮かべてみた。

 いや、下っ端の習慣と言うよりは人間的に必要な笑みだとは思わないか?

 と誰に向けて書いているのか。

 とにかくその瞬間に俺は見た。

 明らかにその兵士の足が後ろに引けるのを。



 何とか俺は食事にありついた。

 あいつを誤魔化すのに苦労した。

 笑え! もっと笑えよアッシュ!

 俺には無理だ。

 笑わない特務師団長なんてむりなんだよぉっ!

 事あるごとに反射的に笑おうとしてしまう。

 つか笑う。

 俺にはアッシュみたいに辛い過去なんてないしここで生き抜く決意とか笑っちゃいけない理由とかはあるかもしれないけどムリ!

 鮮血のアッシュを微笑みのアッシュに変えるくらいの心意気で明日から笑うことにする。

 とにかく疲れた。

 まだ混乱しているんだろう。

 書くことで整理できるって聞いたことがあるから見つけた白紙の日記帳にアッシュの替わりに書いてみているが後で読み返したら支離滅裂かもしれない。

 とにかく明日からの課題は、如何にして剣を使えない事を押し通すか、だ。

 だって俺剣道部一週間で挫折だもん。

 剣道一週間でも奇跡だよな。

 弓道一日、柔道三日、陸上はとりあえず半月。

 体育会系に力の入った高校で俺は文系。

 興味はあるけど長続きしない、にしても三日坊主より短いこともあった。

 なんにしても学生時代のことだからもう何年も前の話しだしな。

 もう開き直るっきゃないでしょ。

 絶対不信がられるだろうけど出来ないもんはできねぇし。

 とりあえずだな、折を見てこのタイツ、ズボンに取り替えさせよう。

 ぴったりくっ付くのってはいたことないからなんか変。






・   ・  ・ ・・…そういや慌てすぎてすっかり忘れてたけど、アッシュって最後に死ぬよな?

 うあー、マジどうしよう。

 とりあえず今日は寝る!










[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/14 11:08





 とりあえず日記も二回目になった。

 昨日の日を生き延びた俺に乾杯。また日記を書けることに万歳。

 日記って夜書かなきゃならないなんて誰も決めてないよな。

 まあいいや。とりあえず今日のこと。



 とりあえず起きて真っ先に思ったのはどうしてこんな時期に憑依トリップ? 見たいな事になったんだろうかと言う事。

 せめてもっと、もっと前の段階でさ。

 アッシュになる前だったり、アッシュになった直後だったり? 余裕がなさ過ぎるんだよ。

 しゃぁないから記憶喪失になってみた。

 ヴァンの事とかこの世界のこととかはそこそこ知ってるけどさ、やっぱり俺戦い方しらねぇもん。ムリ。

 昨日だって腹減ったから何とかアッシュっぽい格好して出て行ったけど、あれ着るのむずいわ。

 ちなみに自分の顔がアッシュだってことは確認してきた。

 真っ赤な髪に翠の目。

 もうだめだね。全体的にアニメじゃなくて生き物になっていたけど、それにしてもアッシュだった。

 嫉妬すべきほどには美形だ。

 ちょっと背が小さくても。まあ標準じゃないね?

 で、まあ見た目はアッシュ中身は俺! な訳だから神託の盾騎士団のしきたりもわからんし剣術も譜術もわからんし、何より俺はアッシュと違ってよく笑うしな!

 アッシュの真似なんてムリだって覚悟した。

 そこで登場するのが記憶喪失ってわけだ。

 ドラマなんかじゃ見たことがあるけど俺自身はもちろんなったこともない。

 実際に記憶を喪失することもあるんだろうがその大半が虚偽ではないかとの話も聞いた事がある。

 さてどう切り出したものかと考えていたらさっそくヴァンから呼び出しがあったので都合がいいやと行ってみた。

 常にアッシュらしくない笑いを顔に浮かべながら。

 たどり着いた先にはモッチのロンでヴァンがいて、場所は練兵場だった。

 久しぶりに剣の稽古を付けようではないか、だってさ。あははははは。

 すっげー。マジ良かった。直ぐ任務とかじゃなくて。

 俺は何も喋らずにただ剣を片手に握って立っていた。

 どうした、構えないのか、って言われたからめちゃめちゃ不恰好に構えてやった。

 素だがな。

 眉をしかめるヴァンに俺は言った。「ヴァン」ってな。

 次につ惑いつつ見えるように「俺はアッシュ」って続けた。

 ヴァンの眉間にできた皺が深くなっていく。怪訝そうな表情、ってのは実際はめったに見られないものだよな、とか思っていた。

「あんたはヴァン、俺はアッシュ。ここは神託の盾騎士団でパダミヤ大陸にある」

「一体どうしたのだアッシュ」

「分らない。それ以外分らないんだ。俺は、アッシュ。あんたは、ヴァン。ここが神託の盾騎士団で……分らない。それ以外分らないんだ」

 と悲壮感を籠めずにへらへら笑いながら言ってみた。

 いっそクレイジーなほうがいい気がして。

 昔は「お前は顔がお笑い、人生がお笑いだ」って言われた事もある。

 おれ自身にはユーモアはそんなにないと思うんだがどうやら外見がそうだったらしい。

 どんな顔してもそういわれるからなら何が何でも笑ってやろうと思って生きて来たんだ、今更悲壮な顔なんてできるか。

 とにかく何があっても分らない思い出せない知らないで通した。知らないは本当だしな。

 そして! 無事に記憶喪失認定ゲット!

 ヴァンに神託の盾騎士団内部を連れまわされて俺が知っているらしき顔を見せられるたびに思い出せそうな顔をしてみたり駄目だと首を振ったりしていた。

 今日は疲れた。

 ぐったりだ。

 今日やっと確信が持てたんだがアッシュはもう特務師団長だったらしい。

 顔合わせだって六神将にも会った。

 シンクがいたからイオンはもうレプリカなんだろう。

 もー訳わかんないですよ?

 つかさ、冷静に考えたら俺ってこの二年後には死亡フラグ満載だよね。

 何しても死ぬような気がする。

 マジでどうしよう。

 つか俺、明日からヴァンに剣の稽古付けられるらしい。

 俺を特務師団長から降ろす事はできないからって師団員の顔と名前覚えなおせって言われた。

 二年後の心配をするよりとりあえず今日明日を生き延びる心配をしたほうがいいのかもしれない。

 今日も教団内部を歩き回っていたらものっそい不審な目で見られていたような気がする。

 笑うアッシュはとんでもなく貴重品、というか不気味な生き物らしい、ここでは。

 ディストなんて俺の笑顔に発狂寸前に狂乱してたし、ラルゴも引き気味だった。

 リグレットは一見変化が無いようだったけどやっぱり内心じゃ何かあったんじゃないだろうかと思う。

 アリエッタは……なんか可愛かった。

 ロリコンー! 幼女ー! というよりはあれ妹萌だな。

 シンクもいた。めたくそ生意気だったからいつか教育しなおしてやると決意した。

 メッチャムカつく。

 俺は人生お笑いとまで言われたけどな、礼儀作法には厳しいんだよ!

 ヴァンの奴が頼りにならねぇなら俺がやってやる。アリエッタもシンクもまとめて何処に出しても恥ずかしくない紳士淑女にしてやらぁ!



 って、生意気なシンクに腹を立ててたときは思っていたんだけど、今の俺じゃ実力的にぼこぼこだな、と思って穏かに、穏便な関係を築けるように努力することに方向転換した。

 二年後どころか明日にも死亡フラグが見えるぜ。

 あー死にそう。









[3493] 三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/14 22:21





 日記って最初に日付を書くもんだと言う事をわすれていた。

 なんつっても一番最初の日記の時には日付なんて知らなかったし、あの独特の暦の数え方も苦手でまだ覚えられないからな。どうでもい言っちゃいいことだ。

 とにかくまたこの日記帳に日記、と言うか隔日記を書くことができる事が生きている実感になってきているような気がする。



 あの翌日から俺にはヴァンからの剣の稽古が付けられた。

 あのオッサンも忙しいから四六時中付いていられるわけでなし。

 オッサンがいないときには自己鍛錬せよ! って訓練メニューも置いてった。

 ここ近日の屈辱はヴァンからの訓練でぼっこぼこにされているところにわざわざ現れて笑っていくシンクだ。

 あれこそ嘲笑だ、という見事な嘲笑を見せてくれたぜあのやろう。

 筋肉痛になってぎこちなく歩いていたらまた笑われた。

 あの鼻から息を出すようなふっ、って感じの嫌味な笑い方だ。

 アッシュの体は俺の体と違って鍛えられているし、鍛錬がいつものことなら筋肉痛になんかならないだろう、って侮ってた。

 それがどっこい筋肉痛。

 俺がヘタレすぎるんだ。

 アッシュの体は確かに剣を握って動くために鍛えられているけど、剣を持つことに慣れているならやっぱり頻繁に使うのは特定の筋肉だと思う。

 そんで俺が全く無知なためにアッシュが剣を使い慣れることであまり使わなくなった筋肉が掘り起こされたんだろう。

 これが俺の持論。真実は知らん。

 マジで死ぬかと思ったし。

 俺が記憶喪失だってのは認めても、剣術に関しては体が覚えているかもしれない、とか思ったんだとよばーろぃ!

 真剣で訓練付けさせられて「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」って逃げ回りながら死ぬ死ぬ詐欺みたいに言い続けてた。一回テンパッて受け止めて手首傷めたら木刀に持ち替えてくれたけどそれまでに何度死ぬかと思ったことやら。

 俺は持ち方も使い方も避け方も知らないど素人なんだよ。

 しかも手首傷めたから訓練終わるかと思ったら第七音素譜術で癒されて訓練続行。

 こんな世界嫌いだ。

 本読んだりアニメやゲームしているときは回復魔法って便利でいいよなぁって思っていたけどもう思わない。

 傷ついた時には人はじっくり休んだ方がいいんだよぉ。

 もっとこう、元の世界の俺は本当に死んだんだろうか、とかアッシュになった俺とアッシュになる前の俺の自己同一性とか色々と悩むもんだと思っていたけど生き抜くのに必死すぎて悩む暇なし。

 微笑のアッシュへ向けての目標もくったくたになって笑う余裕も無い。

 ここ数日で俺が笑ったのなんて打ちのめされた俺に人形を抱いたアリエッタが「だいじょうぶですか」ってたどたどしく言いに来てくれた時だけだ。

 あまりの可愛さに思わず手を伸ばして抱きしめたらちょっとびくってしたけど抱きしめさせてくれた。

 獣の匂いがするけどなんか癒されるー。アリエッタ、お兄ちゃんが守るよ、と言えるようになるまでちょっと待ってて。いまならおにいちゃんアリエッタに負けちゃうから。

 ……そういやもう一つあったな。笑ったの。

 アリエッタ抱きしめて癒されて力尽きて落ちたらアリエッタの御付のライガにべろんって顔なめられてくすぐったくてひっくり返ったら圧し掛かられてめっちゃくすぐったかった。

 あれは笑ったと言うより笑わせられたと言うほうが正しいかもしれないけどとりあえず笑いに含んでおく。

 犬には腹を見せるなって言うらしいけどライガはどうなんだろう。

 今日思いっきりライガの前で腹出して笑い転げていたし、もしかしてあれで下僕認定とかだったら、とか思うとガクガクブルブルだ。

 有る程度剣術に目処がついたら今度は譜術だとよ。

 そんで気が付いたんだが俺は字が読めなかった。

 マジ死ねると思わね?

 俺の癒しはアリエッちゃんだけだよ。

 昔の俺なら三回目の日記が書けたことを祝って祝杯だー! とか言ったかもしれないけど、ここには俺の飲む酒はなかった。

 次は早急にアッシュの給与体系を確認せにゃならんな。








[3493] 四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/15 21:31



 レッツ日記四回目!

 4日目って言えないのがちょっと悲しいかも。つか毎日書いているわけじゃないからもう日記でもないような気もするけど。

 気にしな~い。

 アリエッタが可愛くてライガもいい子だから俺はやっと積極的にアッシュのままで生きる気力がわいてきた。

 もしこれがただの異世界トリップだったら全力で元の世界に帰ってやろうとするところだけど、なんと言っても憑依トリップ。

 幽体離脱系と言うか、頑張ってもとの世界に帰っても俺はもう死んでいて帰る体がありませんでしたー、じゃしょうもない話だ。

 ライガもなぁ、俺がアリエッタに甘い、というか害が無い事がわかったらそこそこ気を許してくれているみたいであぶらでぺったりしたもっさもさの毛皮を時々楽しませてくれる。

 べろべろなめるのはかんべんしてくれ。笑い死にする。

 けどもともとの体じゃ動物アレルギーだったからちょっと……いやかなり幸せ。

 ライガはアリエッタの兄弟だけど、アリエッタのお友達には大きいのから小さいのまでいるし、プチプリとかグレムリンとか、意外だったけど結構可愛い。

 そういやアリエッタのお友達と一緒にお空を飛んだりもしたな。

 あれ、トラウマ物だよな。

 憧れ~なんて言っていた俺の馬鹿。でも任務が入るようになったら否が応でもってヴァンが言ってた。俺、あいつ嫌い。

 人間は空を飛ぶようには出来てねぇんだよ! と切実に思った。



 剣術に字の練習に時々譜術の講習に。そんななかでふと思ったのがヴァンが妙に生優しい。

 優しいんじゃなくて、こう、ぬる~い感じに優しい。

 うげー、気持ちわるー、と俺は思うわけなのだが、その一方でこれがルークを垂らしこんだ手腕か! とも思う。

 死ぬ気じゃないけど死にそうになりながら日々をこなしていく中で近頃やっとヴァンの思惑、見たいなのが読めて来た。ような気がする。

 どうやら記憶喪失はむしろ好都合みたいだ。

 ルークミタイニトリコメルトオモッタンダローナー。

 自分の名前を覚えていても? 生まれも覚えていないし、ヴァンに誘拐されたことも覚えてないし、レプリカのことも覚えてないし?

 自分に都合のいいよーに、なんか色々吹き込む事ができるチャンスだもんね。

 疑ったって記憶喪失じゃ何を疑っていいのかも分らない。保護者を信じるしかないじゃんね?

 実際何も知らなかったならともかく結構な事前情報を持っている身としてはヴァンの言う事はかなり不自然だった。

 うんうんと頷いてはいる。だがヴァン! お前は俺様の自我の強さをあんたはまだ知らないだろう!

 ここの所生きるのに精一杯で、というかやる事覚えることが多すぎてまだまだ発揮されてないけどな!

 まあ、下手に反発して生きにくくなるのも面倒だし、当分はおとなしくしているつもりだ。

 ここ出てったってどこ行っていいのか判らないし。

 家出するのもせめて読み書きと自分自身の護身を手に入れてからだ。

 どうやら給与体系を調べたところアッシュにはそこそこ蓄えが有るみたいだった。

 ゲームで倒した時にはかなり貧乏だと思ったけど、神託の盾騎士団の部屋に置きっぱなし、と思えば不自然でもない。



 台所にスパイスのある独身男と家に友人を呼んだときに随分からかわれた実績を利用してこっちの材料で料理をしてみた。

 日本の味はこっちの世界の人たちの口に合うのか! って思ってアリエッタに試食を頼んだんだが、アリエッタが一口食べた直後にふと思った。

 そもそも幼少期を野生で過ごしてきたアリエッタにこっちの世界の人たちの普通の味覚、と言うものがあるのだろうか、と。

 なんでもいいけどな。結局旨いって言ってくれたし。

 次はこれもってシンクのところに押しかけた。

 ほぼ無理やりに近いけど何とか食わせて感想も聞いた。

 旨いってさ! ひゃっほー!

 俺が、というかアッシュがいきなり変わってしまって戸惑っているうちが付け入る隙だろう。

 弟欲しかったんだよなぁ、と俺は浮かれた。

 そのせいでその後からは一日中顔が笑いっぱなし。

 今までの笑わないアッシュしか知らない人たちからは引かれっぱなし。

 記憶喪失なんです、って事情も話すなって言われてるしね。笑うなっては言われてないしね!

 微笑のアッシュに向けて一歩前進かもしれない。

























Thank you.
感想嬉しかったです。



[3493] 五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/17 00:56




 五回目の日記だ。

 一月以上経ってるよ。しかもこっちの一月50日もあるし。

 長いようで短かったなぁ。

 アリエッタが懐いてくれるから嬉しくってにっこにこしながら士官食堂に行ったら、相変わらず微笑みのアッシュを見慣れない奴等には引かれたけどもう俺を見慣れた奴も多い。

 字ではかけないけど俺の部隊、というか特務師団員の名前は根性で覚えた。

 時々間違っても鮮血のアッシュなら出来なかった必殺技、あ、まちがっちゃったごめんごめん、が微笑みのアッシュならできる!

 一応部下になる奴等とはそこそこ良好な関係を築けていると思う。

 鮮血のアッシュと微笑みのアッシュのギャップがいい感じ?

 あーアッシュって疲れる。

 一気に五十人の部下なんて要らない。

 俺には可愛い妹のアリエッタと生意気な弟のシンクがいればそれでいいんだ。

 シンクってなんか過激な中二病とかいうのっぽくないかな。

 そう思うとなんだかあの生意気な態度にも余裕の微笑を返せる。

 鍛錬は厳しいけどアッシュの基礎を継承した形になるからおかげさまで筋肉痛は克服した。

 なれてくると剣を使うのも楽しい。

 適度にサボるこつも覚えた。

 生活に余裕が出てきたわけだ。

 余裕さえあれば微笑のアッシュにだってなんだってなれる!

 んだが、もうなんか今までが鮮血のアッシュだったからな。これを覆すのは結構大変だ。

 薔薇のディストの如く鮮血の……とか聞こえるとわざわざ微笑みながら「微笑みのアッシュだ!」って言い返していこうと思ってる。



 ディストと言えばそういえば、食堂で会ったことがあった。

 アニスとディストの出会いストーリーを生半可に思い出して食事を載せたお盆抱えてディスと探してみたら見事混んでいる席の中でディストの前だけ開いていたから行ってみた。

 まあどんだけ混んでいても六神将の俺が近付けば席を譲ってくれるのは結構いるんだが俺は「構わなくてもいいよ」とかアッシュの顔でアッシュでは考えられないような事を言いながらディストを目指した。

 前に座ってにっこり笑いかけて「よっ、久しぶりだなディスト」って言ってやったときのディストの間抜けづらはきっと生涯忘れない。

 ただ問題は――その時からなぜか友達認定されてしまった事だ。

 そこまでするつもりは全く無かった。

 ウザイだけだし?

 クレイジーにイっちゃってるけど目的意識がめちゃくちゃはっきりしているやつで、俺はあいつの興味を引けるものはとりあえずない。

 回数を重ねるごとに分るのは、アニスの言う悪いやつじゃないけどいい奴でもない、みたいな台詞だった。

 ほんと、よく分らんやつだ。いや分りすぎるといえば分りすぎるやつなんだけど。

 俺が生き抜くためのダシにはならんかね?

 何とかしてネビリムとやらのレプリカデータ手に入らないだろうか。

 ほら、ネビリム先生も第七音素で作れば暴走しないだろうし、そうすればディストも現実を見るんじゃないかなぁ~とか。



 生活に余裕が出て生き残るための算段を真剣にしようと考え始めてあちゃらこちゃらと嗅ぎ回っているんだけど、成果はない感じだ。

 俺が持っている事前知識以上に役に立ちそうな知識は今のところない。

 というか、このボディ、中身が俺でもちゃんとローレライと通信できるんだろうか。

 俺が入ったことで音素構成に変化が生まれたりしちゃったりしてないかな。

 頭痛、とか頭に響く声、とか何にもないし超振動も発動した事が無い。

 あーったく色々不安だわぁん。



 俺が勝手に使っちゃってるこの体の本当に持ち主のこととか、余裕が生まれると結構考えちゃったりしていたけど今はもう考えるのはやめた。

 無駄だしな。

 もしまだアッシュがいるなら、いつかこの体の支配権を取り戻すなら、やっぱり既に死んでいる人間としては未来ある人間の体を奪うような事は出来ない、じゃなくてしたくない。

 めっちゃしたいけど、自分の罪悪感と折り合いをつける自信が無い。

 そのときはしかたが無い。

 微笑みのアッシュとして俺が築いた土台の上でせいぜいギャップに苦しむがいいわ! はははははは! と高笑いしながら消えてやるつもりではいる。

 乗り移ったのが女じゃなくて良かったなアッシュ!

 培われた女っぽい仕草っていうのはちょっとやそっとでぬけるもんじゃないぜ、多分。

 そしたらきっと、自分の体を取り戻した時には理不尽にオカマのアッシュ、とか呼ばれるようになっていたかもしれない。

 それと比べりゃ微笑みのアッシュのほうが大分マシだろ?

 今なら弟妹付だぜ?

 父親の居ない妹の為に父親代わりになって妹の彼氏にガン付けてやるんだ。

 よし。当分目標が決まったな。アリエッタのウェディングドレス姿を見る!

 これに尽きる。

 そのためにもお兄ちゃん強くならないとな。

 せっかく第七音素使えるらしいんだから譜術じゃ攻撃系だけじゃなくて回復系統の譜術も教わりたいところだ。

 アリエッタの怪我は俺が癒してやるんだ。









[3493] 六回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/18 00:59
 ……こんなにこっちで生活しているのに、まだ日記は六回目か。

 やっぱり日記じゃなくて月記かせいぜいでも週記って言わないと詐欺だな。



 あー、にしても憂鬱だ。

 才能が無いのか根性が無いのか両方が無いのか。

 ……最後だな。間違いない。

 ぜんっぜん剣術が上達しねぇ。

 まいっちんぐ。

 ヴァンもなー。俺、っていうかアッシュがこんなに変貌したのにまだどっか夢見てるところあるみたいだしな。

 おれはアッシュだけどアッシュじゃねぇんだ。

 だけど外見だけはアッシュだからアッシュが今まで背負っていた物や積んできた経験を持っていることを前提にしちまうのも仕方がねぇ、とは思う。

 思っていることと実際にそれがかぶさってきた場合の対応は別だ。

 俺には背負いきれねぇし。

 高々二ヶ月、三ヶ月? とは言え、逃げるコツばーっかり覚えてまーったく剣術の腕が上達しないのは俺の気力を限りなくこそげ落としていく。

 もうさ、剣なんて握らなくてもよくない?

 なんといっても俺って剣道部一週間の男だしさ。

 今までよく持ったほうだよ。

 俺は体育会系の学校に文系で入った男だ。

 そこそこ読み書きもできるようになったし、ここは一つ剣は諦めて譜術特化タイプに成長を遂げるんだ! と夢見た時期もありました。

 譜術も、アッシュみたいに気合をこめてエクスプロォォオオド! って叫んで何が出るってマッチの火だ。

 煙草に火をつけようと顔を近付け手いる間に消えるような火だ。

 どっちも役にたたねぇぇぇええ!!

 ゼロから初めて二、三ヶ月でここまで出きれば上出来だ、ってヴァンは言ってたような気がしたんだが、俺にとっては五、六ヶ月の体感時間だ。

 半年やってマッチの火から上達無し、って言うのも虚しい現実だよな。

 俺のやる気が穴の開いた風船のように抜けていく。

 第七音素譜術なんてユメノマタユメヨー。

 超振動の挑戦ももっと音素を制御する術を身につけてからじゃなきゃ駄目だってサー。

 そりゃね。神託の盾騎士団やローレライ教団ごとぶっ飛ばしちゃう可能性だってあるわけだ。

 いっそぶっ飛ばしてしまえって時々思う。

 めっちゃスッキリしそうじゃねぇ?



 俺は改めてつくづく才能が無い、と再確認しているところだがヴァンにしてみりゃアッシュの延長線上だからなんで上達しないのか、って思うところもあるんだろうな。

 記憶がなくなったからって才能までは普通なくなりゃしないだろ。

 ところがどっこい、つーわけだ。

 アッシュの中身はアッシュじゃねぇ。でもまてよ? 人格はともかく憑依つーことは脳みそは共有しているはずだよな? 才能って脳みそにあるんじゃないのか? じゃなんで俺には才能が無いんだ?

 やっぱりアッシュじゃないからか?

 哲学なんて嫌いだ。

 こんな時でも微笑を絶やさない俺って凄くない? って自分で自分を慰める。

 つか一度どよ~んと落ち込んでいたら、アリエッタに心配かけちまった。

 アリエッタに心配してもらえて嬉しいやら心配させちまって悔しいやら、でもアリエッタは可愛かった。

 うん、そうだよね。俺お兄ちゃんだもんな! まだお兄ちゃん、って呼んでくれないけどさ!

 いつまでもアリエッタより弱いままじゃいられねぇ! 気合入れていくぞ!

 そういや最近あんまり鮮血の、って言われなくなったな。

 微笑の、って言ってくれるやつもまだいないけどな。



 そーいや、なんで俺あの日に日記書かなかったんだろう。

 アリエッタのお友達のライガルをもふもふしたんだ。

 レモンイエローのライガル。いいよな、まるで犬だった。

 しかもまだ大人になっていないライガルだ。親を亡くしたところをアリエッタが拾ってきた奴だった。

 もっふもふぬっくぬくしながら「ああ、連れて帰りてぇー……」って幸せに沈んでたらアリエッタが「連れて帰っても、いいです」って言ってくれたんだぜ?

 ペットだ! 熱帯魚以外の初めてのペットだ!

 今まで犬も猫もハムスターもフェレットもこれでもかと言うほど全般的に駄目だった俺が、ペットだ!

 天にも上る気持ちってのはああいうのを言うんだと確信した。

 動物好きのペットアレルギー。最悪に虚しい。

「可愛がってあげてください」って、だってだって!

 ああ、アリエッタ、君は俺の天使だ。

 君のウェディングドレスを見るためにもいいお婿さんを無つけなければならない。

 だがヒジョーに難しいとは思わないだろうか。なあ俺。

 あのライガクイーンに向かって「お嬢さんを俺に下さい!」って言える根性のある男。

 ……ここは素直にシンクでもあてがっておくべきだろうか。

 アリエッタの婿、と言ったら翠の髪のレプリカ三人組しか思い浮かばない俺の頭のバカ。

 ラルゴやディスト、ヴァンは論外。

 ガイ、とか? ホドとフェレスだしいいかも、って。ガイはそういや女性恐怖将か。

 くぁーっ! 思いつかねぇ!

 よし、保留だ!



 仕事については、俺自身にはまだなくても、部下にこういう指示を出せ、仕事をさせろって指示はされた。

 俺自信はまだ書類仕事も満足に出来ないからな。

 ひゃっほー、楽できるぜ! つー訳でもないのが虚しい。

 一体一日に何回あー、死ぬ死ぬ死ぬ! って思いをしている事やら。しかも神託の盾騎士団の中で。

 脅威の名前はディストの譜業やラルゴの試合やヴァンの鍛錬だ。

 あー、死ぬ。

 マジ死ぬ。

 どうして俺はまだ生きているんだろう。本当にそう思った。

 いま一番脅威に思っていることは、もう少し剣術か譜術が上達したら、俺にも実働で任務に出ろってヴァンが言っていることだ。

 書類が出来ないなら体を動かせってあの鬼畜野郎め。







[3493] な・な・か・い・め
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/18 22:11




 な・な・か・い・め。

 七回目にして初の連日日記だ。やっぱりこれは月記だろう? って思うけど日記だ日記。



 ある朝目覚めたら「知らない天丼だ」と言うこと二回目。

 今回はべつに飛行機事故とかまた違う人間に憑依した、と言うわけじゃない。単純に俺の不注意だ。

 浮かれて稽古に挑んで打ち所が悪くて気絶。けど回復術でたんこぶもない。

 理不尽だよなぁ。

 まあとにかくこの喜びを記しておこうと思う。



 まずは。



 やった、やった! やったよーー!

 今日、アリエッタが、俺のこと、お兄ちゃんて! お兄ちゃんて呼んでくれた! お兄ちゃんって呼ばれたぜイェアーーー!

 苦節えーっと三ヶ月? 俺にとっては約六ヶ月か。

 二ヶ月くらいでアリエッタがあのヌイグルミを時々手放すようになった時も感無量だった。

 ゲームだといつでも握っているあの人形が、まだイオンがオリジナルだった頃のマンガじゃアリエッタは持っていなかったはずなんだ。

 イオンが死んだ後に代償行為として持ち始めた人形、それを忘れる。

 それが俺のせいだとしたらこれ以上嬉しい事が他にあるかって話だ。

 まあそのまま浮かれて稽古にいって「知らない天丼」をやった俺はバカなわけだが。



 ああアリエッタ、アリエッタ!

 あの子はどうしてこうも触れ合えば触れ合うほど可愛いんだろう。

 俺の飢えた心が癒されていくぜ。



 アリエッタはあんっなに可愛いのに、六神将以外の人たちは積極的に近付こうとしない。

 魔物と馴れ合う妖獣のアリエッタを倦厭しているのは内部にいるからむしろよく分る。

 アリエッタ付の二十人の師団員だって、本当はアリエッタの世話係なんだろうにアリエッタを人間扱いしていない時がある。

 分らなくはないんだが、ヴァンだって人の中に返すつもりがあるならもっと積極的に触れ合いをだな、持たせにゃならんのではないかい?

 アリエッタはイオンにべったり、六神将そこそこ、そして結局それ以外からは隔絶しちまってる。

 それじゃいかんと思うのだよ、俺は。

 まあ俺の感覚が異端なのは分かっちゃいるがね。

 そもそも存在自体が俺って異質だからな。俺の常識が通じねぇ。居づらいったらねぇぜ。

 預言を詠まれてなにか拙い事がばれちまったらやばいんで預言からどころか預言師からすら遠ざかっているんだがそれが周囲の目にはおかしく映る、と。

 初めから俺だったならともかくアッシュの前歴の上に俺がいきなり現れた現状じゃどう生きたってどうせ変人を地でいってるような物だ。気にしない。

 あとは落とすはシンクのみ!

 日々が充実しているような気がする。

 これであとヴァンの鍛錬さえなけりゃ最高なんだがな。

 俺、武官じゃなくて文官になりたい。

 まじで神託の盾騎士団退団したいぜ。

 アリエッタとシンクさえいなけりゃとっくに退団してたかも、半強制的に、と最近じゃ思う。



 読み書きが上達しないから日本語対応表みたいな代物を作ってみた。

 水のスペルはこうこうで、火のスペルはこうかいて、自分の名前、アッシュのスペルはああやって、って日本語の単語とフォニック文字の単語の対応表だ。

 字なんてものはな、万人に共通性を持たせた絵なんだよ! と言ってみても覚えられない物は覚えらんねぇ。

 でも覚えなきゃ満足に家でも出来ねぇ。

 ジレンマだな。

 だがこのジレンマのおかげで何を書いても、日記帳を盗み見されても理解できる奴がいねぇ。その事実って大きいよなぁ。

 何を書いても最高の暗号文だ。

 ヴァンのアホバカトンマ、って書いてもラルゴのヘタレって書いてもディストの洟垂れ、って書いても俺以外には読めない。

 そして! 俺が知っているこの世界の歴史って奴を一通り並べてみてもやっぱり誰も読めない!

 いつかこの知識を総動員してヴァンを叩きのめしてやる。

 俺の可愛いアリエッタとこれから可愛くなるはずのシンクをあそこまでヤサグレさせた罪は重いぜ? ヴァン。

 ただ問題は。



 俺が俺でもあの歴史を辿れるか、つーことだな。

 そのためにも強くならにゃならんのだろうけど、逃げるのばっかりうまくなって。

 後方支援か指揮系統になりたいなぁ……、と思うが指揮を取るための戦術書を読んで勉強するためにもフォニック文字が読めなければならない。

 ……ジレンマだなぁ。



 つーか、嬉しい報告を書いていたはずなのになんだこれ。

 書けば書くほど憂鬱になる日記ってなんだよ。

 ライガルの世話して、もう寝るかな、俺。







[3493] 八回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/21 00:03



 八回目、かな?

 うん、八回目だな。もっと頻繁に書けよ俺。日記帳全然うまらねぇよ。



 日々之平穏、といかないのがなぁ。

 アッシュ、お前苦労してたんだなぁ。

 俺、ここんとこしみじみ思うぜ。

 今までも思っていたけどいまもっと、というか。

 今日日記を開いて何を書こうかな~~って考えているうちにこう、今までの苦労が身に染みてくるようだった。

 日記は何のためにつけるのか。

 今なら俺が俺であるために、だろうか。

 あるいはアリエッタの可愛さを余す事無く記すため、だろうか。



 俺は今日、初めて知った事がある。

 名前がだな、ついたみたいだ。

 俺に。

 目標、微笑みのアッシュ。現実、真紅のクレイジー。

 二つ名からアッシュが消えちまったぜぃ。

 クレイジーを日本語にすると、かの富樫も幽白で使えなかったと噂であるとある言葉になる。

 もうイヤ。

 俺もういや。

 俺の何処がクレイジーなのか教えてください。

 俺ってばこっちきてから人間関係の構築には結構頑張ったんだぜ?

 部下と一緒に飯食って、アリエッタを愛でて、部下と一緒に風呂入って、シンクのところに突撃して、部下のところに自腹切って差し入れして、ライガルを可愛がって。

 微笑のアッシュ目指して疲れたときでもずーっと笑っていたっつーのになーんでクレイジーなんだよ!

 ぶちぶち言ってたらシンクが嘲笑と一緒に真実を教えてくれた。

 いつもぶっちょづらのアッシュがいきなりいっつも薄笑いを浮かべながら妖獣のアリエッタを溺愛したり魔物のライガルを飼育したり、いきなりの豹変のせいで俺の渾身の微笑みも薄気味悪い微笑みに見ている、らしい。

 オーマイゴッツ! 何てことだ!!

 自分の部下からはそこそこ評判がいいと思っていたのになんでだろう、と思っていたらそういうことだった。

 ディストと親交があるのもその一因らしい。

 つか、六神将の二つ名ってディストが付けた、とかっつー話どっかに無かった?

 もしそうだったとしても、俺のは明らかに違いそうな気がするけどな。

 マジ、落ち込むぜ。



 アッシュの未来を覆して生き残るための算段をしようにも、俺には神託の盾騎士団の外での自由は無い。

 アリエッタやシンクにここまで絡むのも訓練と字を覚えるのと生きていくの意外にそれしか楽しみが無いからでもある。

 シンク陥落まで後一歩、のような気がするんだけどなぁ。

 近頃じゃアリエッタと一緒になってシンクの邪魔をしに行ってるし、シンクもシンクでこっちから絡むと反応せずにいられない青さがあるから面白い。

 いや、かわゆいかわゆい。



 アリエッタやシンクを溺愛しつつ絡んでいるのはそれが本心であると同時に、今の俺には未来に対して打てる手がそれしかない、と言うのもある。

 だから余った時間の殆どはアリエッタとシンクに対して注ぎ込んでいるのが現状だ。

 あとはライガルと一緒にお昼寝。

 俺の生活はそれで出来ている。

 日本語とフォニック語の対応表みたいなのも作り終わっちまった。単語そのものはそこそことして、あとは文法とかそんな奴だな。

 つーか、俺なんで喋れるんだろうってつくづく不思議に思う。

 字が読めねぇのになんで? 楽だからありがたいけどさ。



 でも時々何も分らなかったらなぁ、と思う日もある。

 よりによってクレイジー。シンクのクレイジーだとよばーろぃ。

 あ、違った。真紅のクレイジーだ。でもなんか音だけ聞くとシンクとペアでかっこよさげ?

 ……ちょっと、というかかなり情けないな。



 近頃の俺スペック。

 一対一ならアリエッタに勝てそう。

 ライガ対俺、俺完敗。

 シンク対俺、俺ずたぼろ。

 譜術力。

 エクスプロードでコンロの火。

 アイシルクレインでグラスの氷。



 未来は絶望的だ。

 今の俺はきっとルークにも負けると思う。全力で。



 俺さー、やっぱり前線に立つべきじゃないと思うんだ。

 部下がいるんだしさ、普通師団長って指揮官でよくね?

 特務師団だけどさ。

 部下より弱い上司ってどうよ。しかも軍隊で。いや、ほかの軍隊の規律とか知らないけど。

 あー、めちゃくちゃ神託の盾騎士団抜けたい。

 今頃ルークどうしてるんだろなぁ。

 どうか出会ったときに怯えて攻撃されたりしませんように。

 俺勝てないもん。








[3493] 九回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/21 17:21




 九回目。

 俺ぼっこぼこ。

 今任務に出ていて居ない特務師団の第七音素譜術師が帰ってくるまで部屋の外に出ない覚悟だ。

 なんつってもぼこぼこ。

 顔がじんじんがんがんしていてぼわーっと熱くて痛い。

 めちゃめちゃ殴られた後だ。

 顔だけじゃなくて体もたぶん青あざだらけ。確認して冷やすなり圧迫するなりしたほうがいいんだろうけど気力が無い。

 殴られたのも俺のせいなんだけどさー。

 今日、シンクにシンクの生い立ちを俺が知っている、ってことを打ち明けてきた。

 聞かれたら困るから密室で二人で、だ。

 だから襲われても助けを呼ぶことも出来なかった。

 殴られながら俺もいろいろ言ったんだぜ? なんかもう頭もうろうでよく覚えてねぇけどな。

 シンクにはきれいごとに聞こえたんだろうなぁ。

 あー、体中イテェ。

 めっちゃイテェ。熱持ってぼあんとしてる。

 内臓は大丈夫だと思うけど、そういや人間って全身打撲でも死ねるよな。

 なんかこー、ベッドに入って眠ったら、そのまま目が覚めませんでした、とかになりそうで怖くて寝れん。

 寝たほうがいいんだろうな、とは分かっちゃいるが。

 朝になったらベッドの上で冷たくなっている自分が想像できる。俺の想像力の馬鹿。

 これってシンクに受け入れられるか徹底的に敵対されるか究極だよな。

 もっとシンクに構ってから決行するんだったぜ。

 シンクの根源みたいなコンプレックス突っつきまくったわけだから、嫌われるような事をした自覚はあるが嫌われたらオイラ悲しい。

 眠たい。

 あー、シンクシンク俺はお前が大好きだぞ!

 でもとりあえず明日死んでいたら悔しいからシンクのせいだって遺書を書いて





 シンクが来た。

 相変わらず仮面をかぶっていてつんつんしていたけど、俺にグミをくれた。

 そういやこっちじゃグミでも回復できるんだったな、って思い出した。

 自然回復と第七音素術しか思いつかった俺。

「酷い顔してるね」

 って言われたけどおまえのせいだとは言わない。つか、顔が腫れ上がりすぎて喋れねぇよ。

「これでも使って回復したら? 明日はそんな醜い顔で出歩かないでよね」

 つってグミをくれた。

 押し付けるだけ押し付けてさっさと去っちまったんだが……もしや、ツンデレ!!

 すっげー! 初めて見た! なにこれ、萌える!!

 何グミか知らないけど喰ったらあっという間に顔の腫れが見る見る引いていった。

 リアルツンデレも見れて、明日からもシンクとはいい関係でいられそうで、すっげー今日の俺最強。





 ――疲れた。

 寝る。








[3493] 十回目=完
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/21 22:11





 十分の一も埋まっていない日記よ、今日でさらばだ。

 そういやすっかり忘れていた、というか自分でやっといて関連性をつけるのを忘れていたんだが、俺は確かに日本語とフォニック語の対応表を作った。

 そして放置した。

 その対応表も見られていたらこの日記も解読できるじゃん。

 喋り言葉ばっかりだから全部が全部分るとはおもわねぇけど、ある程度の理解は出来るだろう。

 俺やばいくらい超バカ。

 日記はできるだけ、どんなことがあっても、基本的にお気楽に書いてきたけど俺がどうしてアッシュなのかとかそんな事書いているし、日記帳の逆のページから書いてきている日記より長大なページ数がある原作を知る人間のトリップの利点、という原作知識の膨大な、俺にとっては膨大なメモも危うい。

 ぜ~んぶ! 書いてるよ!

 危機管理能力無さすぎじゃね?

 日記よ、お前は無生物だったが俺の心をよく慰めてくれたと思う。

 ありがとう。そして、さらばだ。









 渾身の思いをこめて日記帳を閉じた。

 ふぅ、と溜息が出る。

 正直日記っつー名称が詐欺なくらい録に日記らしいことなんて書いたことのねぇ日記帳だったが、まあなぁ。いざとなれば感慨もあるというか。

 読み返してみれば少ないけどアリエッタの可愛さとかシンクのツンデレとか聞いたが最後一月くらい余裕で引き篭もりになりたいようなイヤ~ンな名前とかいろんなことが思い出された。

 気が付きゃ俺がこっちに来てからそろそろ半年、か。

 地球の時間に換算して平均値を取れば一月に一回も書いていない計算になる。

 やっぱ詐欺だな。



「こいつどーしよ」



 処分する事は決めたんだが、どう処分するかは決めていなかった。

 一、水没。
 インクが滲んで読めなくなる、と思うんだが根詰めてみれば書くために紙を引っかいたあととか滲みきらない書いたラインのインクとか見れないこともない、んじゃないか? と思うと決めかねる。

 二、燃やす。

 やっぱこれかな。

 跡形もなーし。とりあえず原作知識を書いた部分を何とかして違う形で残したいと思う。んだが、発見されて解読される危険とどっちが上だろうか迷う。

 日本語対応表なんてカンペ作らないで素直に勉強がんばっときゃ良かったぜ。おかげで余計な事にまで考えを回さなきゃならない。

 めんどくさいったらねーぜ。



 俺は日記帳を真ん中から真っ二つに引き裂いた。

 原作知識を書いている方はまぁ? 俺にとっても後回し。

 で、俺が日記として使っていたほうは処分する。直ぐに。だってこっちには俺がどんな奴で何処から来たとか原作知識以上の事書いちまったからな。

 日記の裏から書いている方は俺が仕入れていた原作知識しか書いてない筈だ。

 日記のほうを解読されたら原作知識以上に言い訳できねぇ。

 破った日記のほうを手に乗せる。



「さって、と。……エクスプぅ」



 とんとん。



「誰だ」



 精神を集中させいざ! という段階で扉がノックされた。

 不発だ。なんかスッキリしねぇ。



「……アリエッタ、です」

「アリエッタ!」



 もやっとした気分も吹っ飛んだ。

 アリエッタ!



「どうしたんだアリエッタ。もう随分遅い時間だろ」

「アッシュに、渡したい物があってきました」

「今開けるからちょっと待ってろ」



 燃やし損ねたノートを机に置いていそいそと扉に向かうとあるかなしかの簡易な鍵を開けてアリエッタを迎え入れた。



「俺に渡したい物って、何くれるんだアリエッタ。アリエッタがくれるんなら俺なんでも嬉しいぜ?」

「あ、の……これ、です」



 後ろ手に隠していた物を俺の前に差し出すアリエッタ。

 俺はそれを見下ろして――不本意だったけど数秒確かに絶句した。



「あの、アッシュは嫌い、だったですか?」

「あ、いや、ライガルが喜びそうだな」



 好きっていえなくてごめん。

 でも確かに受け取ったから。

 ぐんにゃりとした冷たい灰色のねずみの死骸を。



「神託の盾騎士団本部にいたのか?」

「はい、です。アリエッタが捕まえました」

「そうかそうか。アリエッタはえらいなぁ」



 と言って頭を撫でてやれば嬉しそうに笑うんだけどちょっと人間らしい教育をしてやらなくちゃと改めて思った。

 昔うちにいた飼い猫みたいだ。

 ネズミとか鳥とか捕まえてきちゃ褒めろって見せに来るんだよな。

 お袋は悲鳴を上げて逃げ出すし親父もひっそりといなくなるし。



「ありがとな、アリエッタ」

「どういたしまして、です」

「今日はもう遅いから、まっすぐ部屋に帰るんだぞ? ちゃんと眠ること。いいな?」

「はい、です」



 それから二言三言言葉を交わして去っていくアリエッタを見送って、手の中で俺の体温を吸って生ぬるくなったネズミを部屋の隅で丸まっていたライガルの鼻先に突き出してみた。



「おまえ、食うか?」



 くんくん、と鼻を鳴らしてからライガルはそのネズミをぱくっと銜えた。

 俺はほっと安心した。

 これでアリエッタからのプレゼントを無駄にしないですむ。

 しかしアリエッタ。俺に負けるのにどうして俺より素早くて生意気なネズミを捕まえられるんだ?

 野性の本能だろうか。



「はぁー、なんか、疲れたな」



 どっかりとイスに腰を下ろして机の上から切り裂いた日記帳の半分を取り手のひらに載せた。

 そしてまた精神を集中させて呟く。



「エクスプロード」



 ぼう、と火を上げて燃え出す日記帳を俺はぼんやりと眺めていた。








 燃え尽きた日記帳の半分を水をかけて始末して残りの日記帳を開く。

 違和感があった。

 文字がさかさま、だ。

 何でだ? と思ってひっくり返して読んでみたら、そこには俺がかいた日記があった。

 どういうことだ? いや、単純な事だ。

 この日記帳は真っ赤なノートで何処にも日記、とかダイアリー、とか書いていないのっぺりとしたつくりだ。

 一見しただけじゃ裏も表も上も下も分らないつくりになっている。

 つまり、アリエッタが来た時に置いた後、間違えて原作知識ノートを燃やした、と。そういうことなんだろうな。



「……間違った」



 何でだ。









 仕方が無いから日記のほうも燃やして証拠を隠滅して、新しく手に入れたノートを厳重に隠しながらひっそりとまた原作知識を書きまとめ始めた時だった。

 俺がヴァンから呼ばれたのは。

 そろそろ外の任務に出れ、ってことなんだろうかとげんなりする。



「特務師団長アッシュ、来ましたよー、ヴァン主席総長」



 ものすっごくかったるく反抗的な気分でヴァンの執務室で声を上げた。

 カリカリとペンを動かしていた手を止めて顔を上げるとわざわざ「来たか」なんていいやがる。

 ぜったいに! もっと前から俺が来ていたのに気付いていただろ、そう思うけど俺も優しくないからそんな事言わない。



「それで、何の用ですか? 俺忙しいんですけど」



 シンクのところに行って一緒に昼飯くわねぇ? って誘って、そのあとはライガルを連れてアリエッタのところに行って、まあ時間に余裕があればディストでもからかいにいくかなーっと、ほら俺忙しいじゃん。



「まずは座れ」



 はいはいっと。

 反抗しすぎてもいかんと思うから座った後は黙って待つ。

 ヴァンの執務室は広いんだぜ?

 対面ソファーが設置されている。

 俺の対面にヴァンが座ってじっと俺を見た。なんだよ気持ち悪いなぁ。



「……」

「なんですか? ヴァン主席総長」



 堪えられなくなって俺から話を持ちかけた。

 ふぅ、っておもた~い息をついてからヴァンはやっと話し始めた。



「アッシュ」

「だからなんですか」

「お前が書いていた日記帳、悪いと思ったが読ませてもらった」



 あれ?



「あれについて話がある」



 せっかく燃やしたのに、もう手遅れだったの?

 つか、無駄?

 俺の間違って燃やした原作知識もかよ!!!!!!






                          ―完―
















Very many thanks.

読んでくれた方々、そして感想コメントをくれた方々。
ありがとう、嬉しいです。



[3493] 神託の盾騎士団員の一瞬
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/25 00:10




 ある日を境に、俺たちの師団長が豹変した。

 いつ変わったのか正確なことは知らない。

 ある日からいくつかの任務が長期的にキャンセルされて、そして対面した時には既に変わっていた。



 実力はあるが常にイライラしているようでトゲの有る態度、そして17歳と言う若さもあって反感を抱かれるほうが多かった人だと思う。

 反感か、あるいは心酔か。

 どちらにしても単独行動を好み、あまり協調性のない人間だった、と思う。

 それが一体全体どんな奇想天外な心境の変化があったのだろうか。

 ある日を境に師団長は一変した。

 その日俺は食堂に向かって居た。



 同僚達と飯を食いながら雑談をする日常の為に食堂に向かっていた俺はふと足を止めた。

 なぜなら目の前にとても良く目立つ赤い髪があったからだ。

 俺の上司である特務師団師団長、アッシュ。家名は知らない。

 だから反射的に敬礼をした。

 普段なら特に用件がなければ鷹揚に頷いて通り過ぎるだけの師団長がいつもとは違う雰囲気で俺に近付いてくる。

 その時俺は何が違うのか分らなかった。



「なあ、あんた」



 そう話しかけられてやっと気が付く。

 そうだ。

 表情が違うんだ。

 いつも不機嫌に他人を威嚇するような眉間の皺が無い。

 何てことだ。アッシュ師団長が戸惑ったような微笑を浮かべているなんて!



「違う奴に聞いてこっちまで来たんだけどさ、複雑でここ何処かわかんなくなっちまって。なあ、食堂どっちか教えてくれねぇ?」



 俺は震える腕を押さえるように最後の理性を振り絞って廊下の先を指差した。

 これから俺が向かおうとしていた場所、食堂へ。



「サンキュ! 助かったぜ。じゃあな!」



 いっそ朗らかと言えるほどの笑顔を浮かべながら手を振って去っていくアッシュ師団長。

 しばらく呆然と突っ立っていたらその現場を目撃したほかの師団の団員がそっと俺の方に手を置いた。



「俺、さ」

「なんだよ」



 そいつとは名前と顔は知っていてもそれほど親しいわけじゃない。

 それでも今そいつが何を言おうとしているのか分かったような気がした。



「アッシュ特務師団長のあんな爽やかな笑顔なんて始めてみたよ」

「ああ、俺もだ」



 初めて見たよ。

 なんでだろな。

 いい笑顔なのになんで俺たちはこんなところで呆然と突っ立っているのだろうか。

 そうだ、歩こう。

 そう思ってまだ見えるアッシュ師団長の背中を追うように歩き始める。

 俺の肩をはたいた兵士も一緒についてきていた。

 食堂の喧騒が聞こえてくる。

 一旦立ち止ったアッシュ師団長が全くらしくもないことに漂ってくる匂いに鼻を鳴らすとさっきより少し早足で歩いて行った。

 食堂の入り口を通り過ぎそうになって一歩戻って中に入る。



「……静かだな」

「ああ」



 俺たちは見なかった。

 だが食堂の喧騒がさっと引いていく音を確かに聞いた。

 そーっと、首だけで覗き込むように食堂の様子を確認する。



「あ! ラッキー、アリエッタじゃん。なあなあ、一緒に飯食わねぇ? 一人じゃ退屈だしさ」

「はい、です」

「やった! じゃとなり座るな。さって、今日のランチはなんだろな?」



 静りかえった食堂で、アッシュ師団長の話し声とアリエッタ師団長の時々相槌をうつ声だけが嫌に大きく聞こえてきた。

 あんなに嬉しそうにしているアッシュ師団長なんてはじめてみた。

 一体ここ最近のあいだにあのむっつりとした師団長に何の変化があったのだろうか。



 あれから一月ほどもたつだろうか。

 あまりに突然で脈絡のないアッシュ師団長の豹変振りをまだ受け入れられない奴も多い。

 ディスト師団長に変な薬でも飲まされたんじゃないのか? ディスト師団長にへんな譜業にでも掛けられたのだろうか。ディスト師団長に……としばらくの間そんな噂が静かに静かに広がって行った。

 結局だれも事の真相を尋ねる勇気は無かったのだが。



 自分の師団の兵士すら実験に使った事があるという噂の有るディスト師団長にはもちろんの事、突然の豹変を遂げたアッシュ師団長にもだ。



 この豹変を受け入れていないのは概ね特にあのむっつりしている、すこしかっこよく言うなら一匹狼的なところに心酔していた奴等だ。

 反発を抱いていた人間達は時間は掛かったもののこの変化を概ね好意的に受け止めているようだった。

 俺もその変化を好意的に受け止めているほうの人間だ。

 もともとのアッシュ師団長はどうでもいい人間だったが今の師団長は面白みのある人間だった。

 アリエッタ師団長を溺愛しシンク師団長に邪険にされながらも突撃し、なぜかどうやらディスト師団長にお友達認定されたらしい。

 以前はお堅いだけの人間だと思っていたが、あの変化からこっち師団長は俺たちと下世話な話でも盛り上がるようになった。

 俺は今の師団長のほうが好感が持てる。

 だが、今でも笑うアッシュ師団長を見て引いている奴等の気持ちのほうも分るのだ。



 一体アッシュ師団長に何があったのだろうか。

 俺はしらない。

 同僚達に聞いても知らなかった。

 俺はあのアッシュ師団長に食堂の場所を尋ねられた時のショックと食堂の静寂を当分忘れられないと、そう思う。


 そうして俺たちの師団長が豹変してから結構な時間が経った今、やっと俺はわかった事がある。

 今の師団長の事はもちろん好きだ。

 人間的にはああいう人間のほうが俺は受け入れやすい。

 けど、以前の師団長の事も好きだったんだ。

 常に自分を追い詰めているようなあの危うさに目を惹かれていたような気がする。

 歪な、高潔な精神。

 無関心だ、と思っていたのも、決して自分がなれないものに対する歪んだ憧れだったんだろう。


 何故俺は以前のアッシュ師団長ともっと話しをしなかったんだろう、もっと理解しようと思わなかったんだろうかと、少なからず悔やんでいた。

 まさか消えるものだとは思わなかった、なんていうのは言い訳にもならなかった。














後書きっぽいもの。

Thank you very much.
まずは読んでくださった多くの方々と感想欄に書き込みを下さり、私に勇気を下さった方々に深く御礼申し上げます。
皆さんのおかげで楽しく投稿することができました。

アッシュに憑依したらしいとある日本人の日記帳はひとまずこれで終わりとなります。
ただ、ピリオドを打った上で気を楽にして続きのような物を書いていこう、という気持ちはあります。
というか、皆さんの感想を読ませていただいて未来予知のできる方々の多さに驚きました。
それとも私の行動がそれほど読みやすいのでしょうか。

このあとがきと言う形であっても作者が出てくるつもりは無かったのですが、皆さんのコメントを見ていて出て来たくてうずうずしてしまいました。
本当にありがとうございます。

続きを書く気はありましたが、その上でも期待してくださる方々が居る、と言うのは大きな励みになりました。
これからも気負わずに、細々とやって行こうと思っていますので、どうぞひとつよろしくお願いします。






[3493] 神託の盾騎士団員の二瞬
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/24 12:50





 我等が師団長殿は真紅のクレイジーと二つ名が付いている。

 以前は鮮血のアッシュであり、一時期本人は微笑みのアッシュとしたかったようだがもう諦めたようだった。



 クレイジーと呼ばれるのは最初の頃は師団長の豹変についてだったようだがそのうちに違う理由が付属するようになった。

 今は師団長の部屋に積極的に入りたがる者は居ない。

 なぜなら。





 師団長の部屋には、歯形の付いた動物の頭骨が延々と並べられているからだ。





 いい人なのは師団の人間なら誰でも知っている。

 いい人だから、だからこそのあの動物の頭骨なのだろう事もわかっている。

 妖獣のアリエッタからのプレゼントだから捨てられないのだ。



 胴体と中身はアッシュ師団長の飼育しているライガルが食べ、その頭骨を受け取った証として師団長が部屋に並べる。

 ウサギの頭骨、ネズミの頭骨、ブウサギの頭骨、様々だ。

 俺たち特務師団の人間ならあれがなんだか分かっている。分かっていてさえ部屋にずらりと並ぶ頭骨は不気味に感じるのにそれがあまり事情を知らないほかの師団員たちから見たらどう見えるだろうか。

 そんな人間から見ればアッシュ師団長の陽気な微笑みもシンク師団長やアリエッタ師団長に向ける慈愛のある笑みもどれもこれも不気味に映るんだろう。

 俺もアッシュ師団長のことを慕ってはいるがクレイジーと言う奴等の気持ちも分らないわけじゃない。

 ライガルが丁寧に残した頭骨を丁寧に水洗いして日陰に干しているときのアッシュ師団長は確かになんだか怖いし気持ち悪いような気がしないでもない。



 そういえばアッシュ師団長が豹変して、アリエッタ師団長やシンク師団長を殊更に可愛がるようになってから、その様子をよく見るようになった俺たち特務師団の団員の中にはアリエッタ師団長のファンになった人間も結構いた。

 彼らにとってはアリエッタ師団長は妖獣のアリエッタ、ではなく幼獣のアリエッタになるらしい。

 確かに可愛いと思う。

 アッシュ師団長がかなり無茶なかかわり方をしたときでもライガは彼を襲わなかった。

 アリエッタ師団長が是としなければ、あのライガはここで人を襲わない。

 知ってはいたこと、だったけどあまり感覚が伴わなかった事にアッシュ師団長が豹変して以来感覚が追随してきていた。

 ここではライガは恐怖ではないんだ、と。



「あ~……可愛いなぁ」



 俺の横を歩いているうっとおしいくらいのアリエッタ師団長のファンがライガに乗って廊下の先を通り過ぎていく彼女を見てうっとりと呟く。



「師団長がさ、アリエッタ師団長を見て萌え~、って言ってることがあるけど、ああいうのをいうのかもな。俺、なんだかわかる気がするよ」



 ……俺も、確かに、少しだけ。

 ライガの背中でうつらうつらと舟をこぐアリエッタ師団長は可愛いかもしれない、とそんな事を思った。

 そのアリエッタ師団長に近付く黒い影。

 シンク師団長だった。

 ちょっときつい態度でアリエッタ師団長を起こし、彼女の部屋まで連れて行く。



「ああいうのをツンデレ、っていうらしいな。よくわかんないけどそういわれると可愛いような気がしてくるから不思議だよな」

「……」



 これ以上付き合うと未知の世界に突入してしまうような気がして俺はそっと口をつぐんだ。









[3493] アッシュに憑依したとある日本人の回想(仮)
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/22 22:10



 仕方が無いから日記のほうも燃やして証拠を隠滅して、新しく手に入れたノートを厳重に隠しながらひっそりとまた原作知識を書きまとめ始めた。

 間違って燃やしたのが虚しい。

 あの時には思い出せても今は思い出せない原作知識がどれだけあるだろうかと思うと息苦しくなるような後悔に襲われる。

 けどアリエッタを責めることはできない。

 全ては俺の!! 不注意だ……。



 そんなこんなで悔しさに歯を食いしばりながら新しくもうちょっと暗号的に原作ノートを書いていた。

 今の書き方ならもうあの日本語対応表があっても読めないと思う。

 あの日本語対応表は俺の勉強の意味も含めて書いていたからかなりイケてるつくりだった。

 水=みず=ミズ=ウォータ=そんでフォニック語、みたいな。

 漢字平仮名カタカナ英語読み、知る限り全部網羅させた馬鹿なつくりだった。

 渾身の力をこめた! ……今思えば馬鹿だったよなぁ。

 あれ作るのにどれくらい時間かけたもんだか。

 俺の努力は無駄になる、とか法則があったら絶望してもいいよな?



 そんなふうに過去を回想しながらまた頑張って時だった。

 ヴァンから呼び出しを喰らったのは。

 そろそろ外の任務に出れ、ってことなんだろうかとげんなりする。

 あ、それとももしかしてとっくにノート見られた後だった、とか?

 もしかそてそれデッドエンドフラグ?

 ヴァンの部屋に行った後姿が俺を見た最後だった、とかになっちまうのか?

 しゃーね。そんときゃ全力でまだ制御できない、つーか使ったことのない存在するかどうかも怪しい超振動を解放してヴァンもろともぶっ飛ばしてやるぜ!

 幸いにか今日はシンクもアリエッタもいないはずだしな。

 アリエッタはお袋さんの所に里帰り、シンクは任務だったっけ?



「特務師団長アッシュ、来ましたよー、ヴァン主席総長」



 ものすっごくかったるく反抗的な気分でヴァンの執務室で声を上げた。

 気分は反抗的、態度はこんなもんだが表面上は記憶喪失の後ヴァンしか頼れる人間が居なくて従順、みたいにしている、つもりだ。

 内心がにじみ出ている可能性も否定できないけどいーじゃんもう。これ以上芝居なんて出来ねぇよ。

 カリカリとペンを動かしていた手を止めて顔を上げるとわざわざ「来たか」なんていいやがる。

 ぜったいに! もっと前から俺が来ていたのに気付いていただろ、そう思うけど俺も優しくないからそんな事言わない。



「それで、何の用ですか? 俺忙しいんですけど」



 無事に日記のこととかに触れられないできちんと切り抜けられたらシンクのところに行って一緒に昼飯くわねぇ? って誘って、そのあとはライガルを連れてアリエッタのところに行って、まあ時間に余裕があればディストでもからかいにいくかなーっと、ほら俺忙しいじゃん。

 って、そういやシンクもアリエッタも居なかったっけ。んじゃ部下ん所だな。

 気もそぞろでヴァンの机の前に立っていたらヴァンに見つめられた。

 多分きっとヴァンはこの眼差しで数々の人間の信頼を勝ち取り上り詰めてついでに世界崩壊なんて企んじゃったんだろうとおもう。

 何も知らない世界にいきなり憑依トリップしてそこにヴァンみたいな男が居たら、俺もきっと色んな不安の中で心酔していた、と思うから。

 でも今の俺にとってはキモイだけ。



「アッシュ。そろそろお前も外に出てみてもいい頃だと思う」

「それは任務で、ということで?」

「そうだ」



 げー、と思ったけどそういえばチャンスじゃん、とも思い直す。



「それで、どこに?」

「ケテルブルクのロニール雪山だ」



 ……意味ナッシング!!









 あれから一年半くらいたった、か。

 もう原作時代に突入だぜ? 誘拐された導師を追って俺いまアリエッタの魔物にのってお空の旅だぜ?



 日記帳を燃やした数日後にヴァンに呼ばれたときはふてくされながらもドキドキしたもんだったんだが、普通にはじめての神託の盾騎士団本部以外への任務だった。

 ロニール雪山のな。

 死ぬほど寒くて死ぬほど魔物が強くて本気で死ぬかと思った。

 ヴァンの野郎何考えてやがる、消極的な俺の殺害か?

 せめてキムラスカかグランコクマだったらなぁ、って強く思った。

 あれからもいちっども俺自身にはキムラスカに行く任務もグランコクマにいく任務も無い。

 阻止されているんじゃないかとそろそろ確信できる不自然さだった。

 グランコクマは何でだか知らんけど、キムラスカなら俺が記憶喪失であるという事前提にした場合どれだけ言い聞かせたとしても本来のアッシュほどキムラスカに危機意識を持たない可能性が高いから阻止されても不思議じゃない、んだがキムラスカ行きたいなー。

 俺が現れたら絶対にキムラスカ中枢数日は機能停止にしてやるのに。



 なんにしてもあの時もあれからも日記については一言も言及されたことは無かった。

 まだ誰の目にも留まっていなかったんだろう、とポジティブに考えることにしている。



 今から俺、俺たちは導師の乗っているはずのタルタロスに襲撃をかけるわけなんだが、俺はアリエッタに頼んでものすっごく急いでもらっている。

 任務は導師の確保、でしょー? なら確保してしまえばこっちの物、別にタルタロス襲わなくてもよくなーい? つーことで。

 今の俺に出きる原作改変なんてたいしたことは無い、出来ない。

 でも何もやらずにゃ居られない。

 アリエッタとシンクのためにも。

 むしろ俺の生きる目的だよな。

 いつごろからだろうなぁ、俺がシンクとアリエッタくっつけてシンクのタキシード? とアリエッタのウェディングドレスを見ようと画策し始めたのって。

 アリエッタも人形を手放せるぐらいの精神状態になってから、随分イオンとイオンの違いとかにちゃんと気が付いて、そこそこ自分で自分の心に整理を付けられるようになっているみたいだけど、イオンに重ねる面影、ってのがゼロじゃないわけで、そうなるとシンクの仮面を外した顔にも色々思うんだろうし、そうなった時にイオンが生きていないと、あの今の導師イオンの口からオリジナルでは無いって言ってもらって、きちんとアリエッタのオリジナルイオンへの思いに止めを刺してもらわないと、シンクときちんと恋愛? 出来なさそうだし。

 二人を見ているとまんざらでもなさそうなんだよね。

 うまく行ってほしい、とは本当に思うよ。

 恋愛じゃないかもしれないけどさ。



 アリエッタのお友達の中でも最速の子に先に進んでもらっている。

 俺はその後を最速の二番目の子に捕まってついて行っている。

 飛行タイプの魔物も、一匹二匹程度なら戦艦も相手にしない。

 普段からそこらに普通に存在するから相手にする意味がないし、それこそアリエッタにお願いでもされていなけりゃ魔物が積極的に戦艦を襲うことも普通は無いからだ。

 だから一匹二匹程度で高高度を移動していれば目をつけられる事も無い――か少ない。

 そうしてタルタロスを目指す。

 作戦行動開始時間より早く出てきて単独行動だぜ? 俺。帰ったら首切られるか減俸かな~。

 それで済めばいい話し、ってか?



 お、見えたぜタルタロス。

 タイミングもバーッチリ!

 全員が甲板に出てきて談笑している。

 談笑、つーにはちょっと雰囲気があれだけど俺には関係ないぜ!

 にしてもほんと良かったぜこの展開になってて。

 アリエッタのライガママとルーク達との戦闘は後の遺恨のためにも、何よりアリエッタの為に避けなきゃならねぇ。

 んで、数日前から何とか説得してキノコロード辺りにご招待していたんだが、功を奏したようだった。

 キノコロードって特にこれといった強力な縄張りを持つ魔物が居ないんだよな。

 そんな訳で展開が変わっているかも、って思ってドッキドキしてたんだけど、途中経過はしらねぇけど最終的にはいい感じ?

 グッジョブ! 俺。



 飛びながら俺は犬笛を吹いた。

 ばさり、と一旦上昇した前を行く飛行型の魔物が目標を狙い定めて急降下する。

 便宜上犬笛っていっているが正確には知らない。

 人間には感知できない音域を出している、つーだけは知ってる。

 俺の目の前で合図を受けたアリエッタのお友達で一番速く空を飛べる仔は見事にイオンを引っ掴んで死霊使いが譜術を唱えるより早く、コンタミで槍を取り出すより迅速に誘拐して見せた。

 華麗なる、これこそ誘拐。

 ルークたちが上を見てギャースカワースカ言ってるが俺キコエナーイ。

 小さなナイフに括りつけた手紙を甲板に投げつけてついでにディストの作った封印術もジェイドの頭上に発動させて落としてきた。

 そんでもってイオンを掴んだアリエッタのお友達と一緒に撤退した。

 俺、戦闘は得意じゃないから。

 アリエッタをライガ込みで考えると俺六神将中最弱になる。

 ばったり死霊使いと出くわしたりなんかしたら未来が無い。

 戦わない方法=生き残るため、なら多少は頭も使うさ。

 帰りにさあこれからタルタロスを襲うぞ! って駆けている魔物たちの群と出あってドッキリだったけどな。








[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/27 01:59




 原作知識を活かして無事に? 誘拐も成功した。

 誘拐、つか拉致はスピードが命だろう。見つかって邪魔されるようじゃ二流だぜ!

 つーのは冗談だ。俺はそんなのを誇るほど落ちぶれちゃ居ないつもりだ。

 気持ちだけはな。もう俺の体は穢れてるんだ! だって実行犯じゃねーかよ!

 しかも成功して戻ったらリグレットにしこたま怒られた。

 フライングスタートとは言え任務成功じゃん。なんで怒られるんだよ。

 理不尽だよなぁ。

 被害は最小、つかこっち側には何も無し。あっちにも無し。

 皆殺しー、が証拠証人を残さないためならそもそも俺、見つかってないはずだし。

 それじゃもちろん証拠もないよな? 魔物が連れ去ったからってアリエッタの仕業に安直につなげるのもやっぱしょーこねーし。

 いいじゃねーか、なー? といかないのが組織なのかなー。

 あーやだやだ。ったくやってられっか。



 こっちもヤだけど、あっちもヤだよな。

 きっとさー、今頃ジェイドとかアニスとかすっげー怒ってるぜ?

 歯軋りしてジェイドなんて音素が帯電したりなんかするかも。パリパリっつって。

 これってば俺一人悪役じゃん。

 やってらんねー。

 多分きっと顔は見られてないと思うけどさ。命懸けだぜ。



 なんかつくづく虚しいよな。

 俺なんでアッシュになんか憑依したんだろう。

 ヴァンにとってのキーパーソンだろ? それに突然の変異が起こればそうそう自由になんてなれるわきゃないよな。

 日記がばれて都合が悪いとなってりゃきっと死にはしなくても俺は居なくなっていたと思うし。

 ほら、俺って最初から反抗心満タンの使えない手駒じゃんね。けどヴァンの計画のためにゃ使わにゃならんわけで、そうなると自我が邪魔だと思うわけだ。

 ヴァンはヴァン自身の精神の為にローレライの分身みたいなアッシュと言う存在を落とし込むことも意識的か無意識か知らんけど目的としていたと思うわけだよ。

 でもそんな事言ってらんなくなったらヴァンはその過程を捨てると思うし。

 そうなると弱い俺は自我の存亡の危機、だったと思うわけだ。

 人間から自我を奪う方法なんてそれこそいくらでもある。

 心臓が動いていても俺と言う存在は殺されていた可能性が高いだろうな。



 ルークにしたって憑依したら軟禁だろ。

 しかもルークだからキムラスカ中枢に近いぜイェイ! つー訳にゃいかんだろうしな。

 七年前に記憶喪失になったのがもう一回記憶喪失になって、その上訳の判らないこと言い始めた、なんて誰が信じるつーんだ。

 いっそインゴベルドかアスランあたりにでも憑依したかったよなぁ。

 ジェイドとピオニーは駄目だ。

 俺にはキムラスカほど血統とその結果である色を重視しない場所じゃ反抗勢力にぽろっと殺られちまいそうだし、ジェイドにばれた場合ジェイドに殺られるかもしれない。

 そんな場所じゃ政治は出来ないしな。

 ジェイドが俺になっちまったら世界が崩壊しちまう。

 俺の思考回路じゃジェイドの思考の代用はできねぇ。俺は凡庸回路だ。

 そうだ! いっそヴァンになりゃいいんだよな! そうすりゃ万々歳じゃね?

 万事解決じゃねーの?

 惜しーよなー、ほんと。



 拉致軟禁したイオンにはとりあえずシュレーの丘の封咒を解除してもらった。筈だ。

 俺はそっちには関わってねぇけど。

 連れて帰ったらもう俺の管轄外。

 イオンの体調は気になったけど、ヴァンたちだって必要なだけのパッセージリングを解放するまではイオンのことにも最低限は気遣うだろうと高を括る。

 そうでもしてないと心理的にやってられない。



 ジェイドたちに投げつけた手紙にはイオンを解放して欲しくばタルタロスを放棄せよ、って書いといた。

 その間にタルタロスは手に入れて、んでイオンに関してはどっかで護衛にライガルでも付けて送り出そうと思っている。

 俺は基本的に手を出すべきところじゃないところなら傍観者であろうと思っている。

 それが一番、生き抜くためには賢いやり方じゃないかと思っているからだ。

 そんな俺にもタルタロス襲撃には手を出さなければならない理由があった。

 タルタロスは一人殺したら百人殺さなきゃならない泥沼の上に、俺の立場上その戦闘に参加しない訳にはいかないから、だ。

 死亡フラグ満載。



 アリエッタの魔物が空から観察している様子じゃルグニカ平野のど真ん中でタルタロスの乗組員は順調に解散しているらしい。

 もうちっと数が減ったら今度はイオンの引渡し地点を指定する予定だ。

 あの手紙にちゃんとタルタロスを放棄してジェイドとルークとアニスとティアと、場合によっては使用人一人で行動すること、って書いといたもんね。

 時間によっちゃ先読みになるからやばいかもしれないと思ったけど、ジェイドとルークとティアまでは揃っててくれないよヤバイからな。

 いやまてまて、アニスも必要だよな? イオンがご執心だし。

 まあ全員が退去しなくても少なくなりゃ占拠は簡単だろ。アリエッタの魔物につれてもらって空から乗り込むのもありだしな。

 あっちにとっちゃ素直に受け取れる言葉じゃないと思うけど、出てけって言ったしな、俺。後はシラネ。



 こうなりゃ俺の出番は当分ない。

 筈だ。

 今回こそタルタロス襲撃、つーか導師イオンの奪還に連れ出されたけどさ、俺が弱いのは周知の事実、ってやつで殆ど俺は単独行動はしない。

 神将を名乗る力量が無い、つことだな。そんでもヴァンの部下の師団長、つことで六神将にカウントされてっけど。俺は一騎当千の役には立たない。

 ただし、俺には萌えで心を一つにした強力な団結力を持つ部下達が居る!

 ヴァンの野郎にはもち萌えないからヴァンの居る前じゃ普通の特務師団だけどな。

 行くぜ! 俺と心を一つにした部下達よ。



萌えの名の下に!!



 次のルークとアッシュのすれ違いは原作じゃカイツールでのはずだけどどうすべ。













誤字の指摘を下さった方へ。
Thank you.



[3493] 三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/30 22:24




 今、俺はタルタロスに居る。

 いやタルタロスっておもしれーわ。今まで音機関になんて興味なかったんだけど、俺も偏執狂になりそうだ。

 音素灯とか、テレビみたいに使い方は知ってるけど構造は知らない、でもそれでいいじゃん使えるんならって感じだったんだけど、このタルタロスの機関部を見ていたらこう、なぁ?

 大型の部品がガンガン音を立てながら動いているのを見ていると感動つーか、ぶわぁってなにか胸の奥からロマンが溢れてくるような気がしたんだよ!

 ま、それでも手をつけないのが俺クオリティ。

 技術を持ってりゃ役に立つのかもしれないけどな。



 カイツールはパスすることにした。

 前からそうしようとは思っていたけど決断が付かなかったのがいきなりどうでもよくなった。

 ばっくれたとも言う。

 ほんとはルークに顔を覚えてもらいたかったんだけどな。

 本物のアッシュみたいに切りかかったらヴァンに阻止されるんだろうけど、友好的に近付いていったらヴァンだって下手な理由じゃ止められないと思うんだがどうよ。

「あれ! 俺のそっくりさんですか! いやぁ世界には似た人間が三人入るって話ですけど、ここまで似た人間が居るんですね!」とか言って近付いてさ。

 ってこりゃダメか。一応俺ヴァンにオリジナルとレプリカの関係だってこと知らされてるもんな。

「会って見たかったんだぜ俺のレプリカ!」……これも問題があるよな。

 俺のほうは友好的だけどあっちが絶対ムリ。俺だってこんなこと言って近付かれたら絶対イヤだね。

 元の世界の感覚でいくと多分、「はじめまして俺様のクローン」見たいなもんだろ。

 絶対反発するぜ。



 あんまり考えすぎはよくないぜ。せっかくの麗しのストレートヘアに十円禿げが出来ちまう。

 実は俺はこのストレートヘアが好きじゃないんだが、邪魔臭いし、洗うのも面倒だし手入れも面倒だし。

 でもアリエッタが好きなもんだから我慢している。

 すっかり玩具だぜ。



 カイツールでルークに襲い掛かるイベントをパスつーことはカイツール軍港を襲うイベントももちろんパスパス!

 アリエッタを悪者にゃできねぇからな。

 そもそもあれだあれ、なんつったか便利連絡網? 違う、同調フォンスロットだ。たしかちょっと前にディストの奴がそんな事を言っていたような気がするあれだ。

 あれを開く気が俺には無い。イコールでそれらに関するイベントぜーんぶいらない事になる。

 ディストの奴には開け開けって言われているけど俺が知るか。

 データ寄越せってうるせぇのなんのって俺にはお前の研究に協力する義務は無い! つったらまたギャースカ喚くし。

 そのうち興奮しすぎて本当に鼻水がたれてきたし。

 あいつには死神でも勿体無いぜ。洟垂れディストでいいじゃん。

 研究者としての面ならカッコイイんだけどな、あいつも。

 人間一つや二つとりえは有るつーことだな。



 ジェイドにはローレライの音素振動数がとかナンチャラカンチャラ気が付かせたい気もするけど、あいつなら俺とルークの顔を見て、ルークの誘拐とかなんたらの経歴とか聞けば、勝手に気が付くだろうし。

 レプリカとオリジナルの関係だって気が付くのにローレライの音素振動数はヒントにはなっても関係ないからな。



 かったるく欠伸をしてから無駄だと承知でまだ微笑みのアッシュを目指してにっかり力いっぱい笑ってから緩めて微笑みにしてみる。

 とりあえず俺の部屋からアリエッタからプレゼントされた動物の骨が無くなれば随分印象もよくなると思うんだがアリエッター、俺男でも花とか嬉しいよ?

 自分の部屋なのに入ったらぎょっとするもんな。



 イオンはなんとかリグレット達の目を誤魔化して逃げた風に偽装工作して、ルークたちの所に返したし。

 あれで親睦を深めてくれりゃいいよな。

 ついでにイオン辺りが「アッシュは僕を逃がしてくれました。いい人です」とか言ってくれたら最高なんだけどこりゃ夢の見すぎだな。

 アリエッタが寂しがったけどすまねぇ、我慢してくれ!

 俺頑張って説得したからな。



「ほら、な? アリエッタにはシンクが居るじゃねーか。シンクにもアリエッタが居るだろ? それに比べて、イオンはこれから、もう? どっちにせよルークがはじめてのお友達になるんだ。な?」



 って。

 アリエッタはシンクもイオンも多分フローリアンも大好きだ。

 イオンとの接触はほとんどないけどそれでも多分今のイオンのことも好きになると思う。

 フローリアンはまだ居場所がつかめねぇけどそれでもきっと出会えば好きになる。んじゃね?

 んでもってシンクの事が大好きなのは言うまでもねぇことだ。

 ついでに~、俺がシンクのあの仮面をアリエッタの前で外さしたためにアリエッタももうイロイロ知ってる。

 あのときのアリエッタは荒れたな~。んでシンクも荒れに荒れた。

 んでもってその間はライガも人こそ襲わなかったけど気性が荒くなって大変だった。

 しかし小気味いいことにその間ヴァンの野郎はバチカルに長期主張でな~んも知らんでやんの!

 ディストは自分から首突っ込んできたりそんな些細な事報告しないし、リグレットは誰かさんに特別講習とか付けに行くので忙しいしラルゴはそのせいで実務が忙しいし。

 おかげでばれないのは良かったんだがその間俺が一人で集団ハリケーンみたいなアリエッタとシンクを宥めてすかしていた日々を思い返すと笑いがこみ上げるぜ。

 イライラの感染したライガに噛み付かれた青あざが腕に有る。

 いやさすがにもう青くないし黒くもないんだが、妙に色素沈着しちまった感じでいつまでたっても最後の色が抜けない。

 疲れて代謝落ちてたのかもしれん。

 噛んだ直後に気がついたらしくものっすごい反省していた。いけないことだから叱ったがその気持ち俺も分る。俺だってあの二人の間に居て誰かに噛み付きたかったもん。

 まあ、分厚いグローブの上からで噛んだ、と言っても力加減を誤った甘噛みみたいなもんだったしな。俺の腕は青たんだけですんだって訳だ。

 ライガルの噛み痣なんてまだまだいいほうだぜ。

 俺が六神将中いっちばんよわっちいのによぉっ!

 あいつらの八つ当たりは生半可じゃないんだぜ?



 タルタロスの甲板で風を浴びながら帰ってきたライガルを抱いてうつらうつらしていたら小さな足音が近付いてきた。

 よく走るがよく転び、んでもって二足歩行より四足歩行のほうが格段に速度持久力がある、つー不思議っ子アリエッタだ。



「アッシュ」

「お~、アリエッタか。どうしたんだ?」



 いつ見ても萌え~、だぜ。

 神託の盾騎士団の制服よくやった!

 アリエッタならきっと導師守護役の制服も似合うよな。俺の部隊にだれか裁縫が得意なの居なかったっけ。



「たいくつ、です」

「そうだな~」

「遊ぶ、です」

「それより昼寝しようぜ?」



 バチカル付くまで。

 つかバチカルで導師イオン誘拐しにいくまでさ。

 セントビナーで包囲網を張るお仕事、俺がリグレットに謹慎だー! とか言われている間に終わっちゃったもんね。

 まあそれだと二ヶ月近く昼寝するって事になるから冗談だけど、今は昼寝でもしようぜ?

 バチカルじゃルークと出会うかどうか、とかそういうことは後で考えようぜ?

 二ヶ月有るしな。

 どうせ俺の頭じゃ無闇に考えたってろくなことにゃならねぇし?

 俺は弱い。六神将中最弱だ。自信を持って言えることじゃねぇが自信を持って言う。

 俺は弱い。



 だけど俺だって二年間ただ萌え~、つってた訳じゃねぇ。

 なによりもそんなんじゃジェイドやヴァンやオリジナル導師イオンとかレプリカネビリムみたいな世界奇天烈大百科に乗るような変態的な強さの奴等ばかりじゃなくてそこらへんに普通にでてくる魔物や盗賊にもやられちまう。

 そんなんじゃ幾らなんでも、そうだな。いくら萌えがあっても部下たちを統率できねぇ。



「シンクも居ないからつまらないです」

「シンクは今大切なお仕事なーの。わかるよな?」



 言えばうー、と不満を洩らしながらもうん、と頷くアリエッタ。

 くーっ! かわええじゃないか!



「シンク、いつ帰って来るですか?」

「アリエッタのお友達に乗って行ったからあいつらがケセドニアに付くころまでには帰ってくると思うぜ?」



 グランコクマとの往復も。

 さすがに一人で行ったら不審だから何人かアリエッタ萌えとシンクのツンデレ萌えしている奴等から選んで共につけたけど。

 可愛らしい女性の兵士の人には導師守護役の制服を模倣したのを着せてみた。

 直ぐには気が付かれないだろうし、気が付いた時にはもうニセモノだってわかってもい頃合だろうしな。









[3493] 四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/07/31 22:45



 砂漠のど真ん中で日光浴☆

 と言う趣味は無い。

 アッシュは色白のほうではないから多少日焼けしても平気だろうけど制服の暑さが尋常じゃないので日陰に居る。

 甲板にパラソル開いて打ち水してアイシルクレインで氷だしてケセドニアで手に入れたフルーツでトロピカルドリンク。……完璧だ。

 いやぁいいねぇ。リグレットが居ないと随分のびのびできるぜ。

 ばっさばっさと羽音が聞こえて見上げればシンクのご帰還だった。

 ものすんごい不満そうな顔をしているけどマア無事に帰ってきたみたいでよかったよかった。



「おかえり、シンク。みんなもご苦労だったな」



 一緒に空中遊覧を終えて戻ってきた部下達に上司らしく労うと、みんなビシィ! と敬礼を返してくれた。

 導師守護役の服を模倣した制服もどきを着ている女性も。

 うむ、萌えだ。



「逐次解散して持ち場に着け。新たな命あるまで待機せよ!」

「御意」



 三ヶ月で慣れた、慣れざるを得なかった上司と部下らしいやり取りを経て部下達が解散する。

 けどどっかで萌えているだろう。なんといっても俺たちは萌えによって意思を統一した特務師団!

 この世に萌がある限り無敵だ。



 だがさすがに萌え対象本体の前でモエ~、なんていうようなことはしない。

 モエは秘めてこそ花! と言うわけでもないけど、やっぱり萌え対象には嫌われるより好かれる方がいいじゃん。

 きちんとした姿を見せる、というのもきちんとした出来る部下が好きなシンクに対するポイント稼ぎだ。

 派遣するときにはきちんと人格を考慮して派遣したからな。

 特務師団ってばたかだか五十人程度の師団だも~ん、俺だって全員の名前覚えられるぜ。



 立ち去っていく部下達の背中を見ていると、なんか感慨深いよな~。

 俺さー、アッシュになる前はぺーぺーのぺーぺーでむしろ使われる側だったからさ。

 命じるほう、じやなくて命じられるほう、つまり奴等の立場だったわけだ。

 それを思うとなんだかいい上司になりたくなってくるから不思議だな。



「おつかれさん、シンク」



 改めてシンクを労っても、ふんっ、と鼻で息をついてそっぽを向かれた。

 まあ、気持ちはわからんでもない。

 そっくりさんだからってたぶんこの世で一番嫌いな奴の真似事をさせられたんだもんな。

 まあさ、この世で一番嫌いな奴“だった”って、今ならいえるんじゃないかと思うけど、大嫌いと嫌いには大が付くか付かないかの違いはあっても嫌いは嫌いだもんな。



 でもさー、そんなにイヤならやんなくても良かったんだぜ?

 俺無理強いしてないはずだし。

 でも、何だかんだ言いつつも最後には、「べ、べつにあんたのためじゃないんだからね!」とか。

 すげー、ツンデレの真髄だ。

 これだよなぁ、萌えっ!!



「その様子じゃなかなかうまくいったみたいだな」

「あたりまえでしょ。僕を誰だと思っているのさ」

「もちろん神託の盾騎士団騎士団第二師団師団長にして天下の参謀総長様でございます」

「マルクトに話はつけてきたよ」

「助かったよ、シンク」

「あんたのためじゃないね」

「でも俺は嬉しいの! と。いやーでも二歳児なんだよな、シンク。なんでこんなに頭いいの?」

「二歳児っていうなって言ってるじゃないか!」

「でも二歳児だし」



 ぎり、とシンクが悔しそうに歯を噛み締めた。

 その隙を突いて俺はシンクの頭を撫で撫でする。



「シンク……」



 という小さな呟きが背後から聞こえて振り返る。

 そこには僅かに顔を俯けて頬をほんのり赤くしてもじもじしている非常に萌えるアリエッタが居た。



 うん、分かる。分かるぞー、アリエッタ。

 シンク、二歳=弟、だろ。

 分かるぞー、その思考回路。

 萌を知らないアリエッタすらも無意識に萌えさせるだろう。

 シンク二歳、天性のツンデレ。

 アリエッタ弟を欲しがっていたもんな。

 俺に弟ってどうやってできるのって聞くんだぜ?

 

「ライガたちはアリエッタの弟、です。でもライガママにもっと兄弟が欲しいって言ったら、弟の弟は産めてもアリエッタの弟は産めないって言われたです。アリエッタよくわかんないんだけど、ライガママにはアリエッタの弟は産めないんだって。アッシュ、アリエッタ弟欲しいです。弟どうしたら増えますか?」



 俺泣きたかった。

 男泣きに泣きたかった。

 野生児だからむしろこう、さ。性? に対して開放的、とは言わなくても特に秘める感じは無いんじゃないかと思っていたけど甘かった。

 ライガママが弟を産める事は分かってるのにどうしてそれを人間に置き換えられないのかな。

 だってほら、アリエッタママになりたがってたじゃん?

 つか母性に対する憧れだな。

 でもなんかそういう情報がアリエッタの中でイコールにならないらしい。



 キャベツ畑にしようかコウノトリにしようか本気で迷った。



 おしべとめしべにしようかミジンコの繁殖にしようか本当に困った。



 俺が答えを出せないで曖昧もこっとしていたときにあのダブルハリケーンな騒動があって、まあその結果としてシンク二歳、がアリエッタにばれて、アリエッタはできるか出来ないかもわからない弟よりシンクを弟にしたがったみたいだった。

 わかるさー、その気持ち。



だが、だが!!



 許すわけにはいかない。

 そこはかとなく惹かれるような気がしないでもない背徳的な禁断の香りがするがダメだったらだめだ!

 兄弟でだなんてっ!!



 俺の、俺のアリエッタとシンクのウェディング計画が!

 気が付けば部下たちとも共有していた明るい未来が!

 夢のある家族計画が!

 それじゃ、ダメなんだよ!



「アリエッタ。問題は年数じゃなくて中身なんじゃないの? どう見たって僕よりあんたのほうが子供だよ」

「……アリエッタが妹、ですか?」



 ……妹。

 妹萌。

 鼻血でそうだ。

 でもそれでもだめだ。兄弟はだめだ、ダメなんだよ! めっちゃ萌るけど!!



「あ、はは。シンクはさすがだなぁ。普段が普段だからちょっとやそっと不審な行動したって咎められねぇもんな」



 つっこみたいがなんてつっこんだらいいか分からなくて俺はスルーすることにした。

 次回までの課題だな。なんとかしてアリエッタに弟と妹の考えを破棄させにゃならねぇ。



「あんたが普段から不審者過ぎるだけだよ、アッシュ」

「それを言われちゃおしまいよ」

「アリエッタも、アッシュ普通の人と違うと思う、です」

「……」



 それ言ったらさぁ、特務師団みんなヘンタイだぜ。





















もっとゆっくりやろうと思っていたのにやる気がずんずんわいてくる。
感想ありがとう。ベリーThank you.



[3493] 五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/03 00:45






 俺は、開・眼・したっ!!








 とゆーか、自分のとんでもない思い込みに気が付いた。



 俺は二年間、アッシュになってからの二年間、ちゃんと大地を降下させて、地核の振動を止めて、俺がアッシュのままでも生きて行けるようにしたい、と思っていた。

 それはまあいいんだ。いいんだけど、もう一つ思っていた、と言うより思い込んでいたことがある。



 いつかアッシュを無事にキムラスカに帰さなきゃ行けないなぁ、と。



 ……気づけよ俺のバカ。

 アッシュは俺だっつの!

 んでもって俺は無理してキムラスカに帰りたいなんて思ってない。



 なんで二年もずっとこの思い込みをしてたもんだか。

 アッシュをキムラスカにちゃんと返そう、って言う考えさえなくなれば選べる道はもっと楽になるじゃん。



 つーことで、開・眼、した俺はイロイロと練っていた計画をまとめて放棄して新たな計画を立ち上げた。

 かっこいい作戦名は思いつかないからまた今度。

 頭にピッカーン! って電球がついたような気分だったぜ。



 幸いにも俺には心強い味方がいる。

 萌によって団結した俺の特務師団、上司命令絶対にシンクの第二師団、そしてアリエッタのお友達。

 第二師団のあの人数はシンクさえこっち側なら好きに使えるっつーことだ。

 やってやれねぇことはねぇ!!

 数の暴力バンザーイ。










 つーことで俺は今タルタロスに居る。

 タルタロスでの指揮官っぽい仕事、つか役目だな。

 俺は場合によっちゃ部下の特務師団の団員よりよわっちぃから実戦に出るより頭脳労働のほうがいい。

 そんなに頭良いわけじゃねぇが、それでも普通に出来ることは有るからな。



 まず第一段階としてモースの預言を詠んだ預言師をとっ捕まえてモースの聞ける限りの予定を聞きだす。

 預言師には秘匿義務があるけど、そんなの関係ねぇ! だって俺達特務師団☆ 非合法部隊だぜーいぇあーー。

 つーことでモースの動向をゲット。

 あいつ結構あっちこっち移動してるからさ、折を見て拉致監禁予定。

 予言には自分が拉致監禁される事は詠まれてないらしい。予定は未定、だぜ? モース。

 正直モースの居ない教団なんてどーにでもなるさー。

 それにナタリアの偽姫疑惑もモースが居なきゃ持ち上がらないだろ。

 インゴベルドの側からモース引き離してナタリアに反戦反戦言われりゃぐらっとするだろ、あの親ばか。

 それにキムラスカは王権神授の国だから教団の幅を利かせる割合も高い。

 ぐちゃぐちゃ言うようだったらイオンに何か言ってもらえばいいだろ。その頃にはモースも居ないし、レプリカだってばれてないルークと結婚すりゃ問題ない。



 次に旅についてきたナタリアは誘拐申しあげてキムラスカにご返却!

 廃工場は恰好の誘拐スポット! じゃなくてだな。

 あの姫さん、抜け出すためにルークたちより先に廃工場に行っちまうから、そもそもルークたちとは出会わないように小細工をした。

 これでモースあーんどナタリアインゴベルドはいいだろう。

 あとで預言は絶対ではない、ちゅー方針を持つイオン、に扮したシンクでも派遣すりゃころっと行きそうじゃん。



 さらにイオンを誘拐する事でラルゴをザオ遺跡におびき寄せる。

 任務と言う名目でシンクと俺とイオンの三人っきり☆

 部下達も何人か呼んでフルボッコ。

 数の暴力ってこわーいね。ラルゴとシンクじゃシンクが勝つって決まってっだろ。

 こうしときゃ頭をなくした部隊もしばらくは無力化、できなくても鈍くはできる。

 まだ真相を知らないリグレットやヴァンがシンクの下にでも付けりゃ万々歳。

 イオンはルークたちと合流するまで監視をつけてオアシスの町に置いてきた。

 つか、もうマルクトのほうからジェイドにつなぎつけてもらってるはずだからOKでしょ。

 ついでにイオンにも事情話しておいたし。




 んでもってシンクにリグレットがどうするのか聞いてもらったら、ラルゴの不在を不審に思いながらもデオ峠にティアの勧誘に行くつーからこっちも途中で包囲、シンクとアリエッタと師団精鋭の数の暴力でとっ捕まえた。

 俺達神託の盾騎士団の姿を見たら安心した顔してたから、そこを安心させるように近付いて行って近距離からね。

 俺の部下たちは俺より強いんだよばーろぃ、情けねぇぞ俺。



 とりあえずこれで預言絶対遵守のモースと神託の盾騎士団実働部隊のラルゴと、ヴァンの補佐官のリグレットを無効化できた。

 ヴァンは遠く離れていて、ヴァンが連絡に使っている魔物はアリエッタのお友達。

 つーことで新たな指令が届くことも無く部隊が二つ中に浮いた。

 と、そこでシンクが参謀総長の地位を利用してそれらの部隊を地方派遣して逆に地方に派遣されていたカンタビレを呼び戻す。

 どうだ、これで多少教団がぐらついてもなんとか抑える体制は整った。



 わぁ、ビックリ! つー感じだな、俺としても。

 ここまでうまくいくとは、つーやつだ。



 そんでもって俺はぜーったいにアクゼリュスに行かない。

 あそこはもうぼろぼろで直ぐ落ちるだろうけど、でもまだ持つ。

 まだ、な。

 ついでに俺のためにもレムの塔とアクゼリュスには近寄らない。

 アクゼリュスはどっちかってーと、まだ持つけどいつかは落ちろ、って感じだな。

 争いの種じゃん。

 両者不介入で、ついでに両者の間で証人になれるような人間の目の前で落ちると最高だよな。

 ま、そこまで求めちゃいねぇが。



 アクゼリュスにはマルクトから救助の手が出ているはずだし、後はヴァンだけなんだよな。

 で、だ。

 ヴァンをどうするか、なんだが……。

 俺じゃ力不足もいいところだしな。

 ヴァンてんてー強いよー? つーことで。まずは外道にも船を沈めてみた。

 アリエッタの魔物で。

 大海のど真ん中で。

 生きて帰れたらすげー、と思っていたんだが、生きて海岸線にたどり着いたよ。

 ただ、そんときには錘になる剣は手放していたし、疲労困憊、アリエッタの魔物が教えてくれたその場所に兵士を派遣して、飲み水に無味無臭だけど効力の弱い薬を入れて、更に鈍ったところを確保した。

 あんまり強い薬だと気付かれそうだったからそんな面倒な事したんだが、その時のヴァンだったら気が付かなかったんじゃないかともおもう。

 俺はそれを近くの高台から双眼鏡で見ていた。



 ヴァンの意識を取り戻させないようにしながら梱包して移動、ついでに保管。

 つかヴァンのレプリカ作ってみた。

 完全同位体でこそ無かったけど、シュレーの丘に連れてったらユリア式封咒解咒できたからOK? これでぶっちゃけヴァンの健康に気遣う必要が無くなった。

 今回のことで、俺、外道に落ちたなぁ……って気がめっちゃした。

 特務師団らしいやり方でヴァンには始末をつけて、つか部下に命じたからどんな事したのかシラネ。



 やつら言ってた。

 丸ごと言うと背筋が寒くなるんで短くする。



『今の特務師団のあり方を教えてくださったのはヴァンでした。師匠には精一杯教わったやり方でお返ししたいと思います』



 俺はぞっとしたぞ。

 まぁ、そんな訳で俺は知らん。

 ヴァンも仲間に背中から打たれると弱いんだな、とか思ったけど何千人単位から追い詰められればどれだけ個人の力が強くてもこんなもんだろうな。



 ディストは放浪の旅に出る前にとっ捕まえてマルクトに送還した。

 脱獄注意の張り紙つけて。

 ルークには実際にアクゼリュスの避難が終わっていようと終わってなかろうと、あ、もう避難完了みたいです! つーことをジェイドから言わせてだな、ご帰還願おうという。

 ナタリアが居なきゃキンキンカンカン言うのも居ねぇだろう。

 デオ峠の前に神託の盾騎士団の兵士も配置しといたしこれでティアもOKで、事前に事情を通しているイオンOK。



 すっげ、俺やるじゃん。



 あとはマルクトさんにお願いしてアスランでも使者に派遣してもらえたら好印象じゃね?

 ついでにセシル将軍との恋愛も始まったりしてな。

 大地の降下についてはルークに真実を告げないなら、俺が一人で頑張ることになるんだろうけど、まあな。

 ルークにはナタリアと一緒にキムラスカに居てもらって、反戦を唱えてもらわんとな。

 ヴァンに散々吹き込まれてるから、キムラスカに帰ったらもっと声高く言ってくれるだろ。

 レプリカだってばれたら、地位の低下が恐れられるし、俺キムラスカ行きたくないもん。



 大地を降下させる装置はいまフローリアンの探索とまとめてシンクが指示して教団内部をくまなく探させてる。

 俺には偉大なる教団権力がバックについてるぜ!









 俺ガンバッタ。



 ヴァンの横槍が無かったから、セフィロトは結構持って、俺は一年近くかけて外殻大地全部降下させた。

 まだどのセフィロトも超振動で強引に書き換えてないから第七音素が使えて譜業やプログラムに詳しい奴が何人か居ればどうにかできるんじゃないかと思ってたんだが、その条件に当てはまる奴がいねぇ。

 俺は第七音素は使えるが譜業に弱くプログラムなんて完全な門外漢だ。



 世の中うまくいかねぇな。



 俺は半端に訓練していた超振動で何とか大地を降下させた。



 結局アクゼリュスは俺の介入を待つまでも無く自然崩落した。

 やっぱまにあわねぇ~。

 大地の震動を停止させる装置はキムラスカと俺の間に面倒を起こしたくなかったから教団の資金から出した。

 ベルケントのせこそうな名前をした爺さん共には固く口止めした。

 もうヴァンもディストも居ないからな。後援者が居ないと違法な研究は怖いだろう。

 資金も出ないし。

 ヴァンの部屋とレプリカ研究の施設を俺が手配した神託の盾騎士団兵士の目の前でまっさらにさせて、ワイヨン鏡窟のほうはマルクトに任せた。

 つーか、ジェイドだな。



 アブソーブゲートで降下作業していたときにローレライから剣と宝珠を受け取って、降下を全部終わらせてから宝珠でゲートを拡散させてプラネットストームを閉じた。

 これに関しちゃキムラスカにもマルクトにも知らせていない。

 これからだんだん音素が地表から無くなっていって、どうなるかはわからねぇな。

 とりあえず、生産されなくなる第七音素は少なくなるだろう。



 俺はアブソーブゲートで人生で初めてローレライと通信をしたんだが、それ以来ローレライが煩い。

 解放しろ解放しろ解放しろ解放しろ!

 ヴァンに捕まってないから好き放題言いやがっていい加減にしやがれっつーんだ!

 しかも感度が半端じゃねぇ。まさに通信、俺からも言い返せる。

 ゲーム見る限りローレライの解放って解放者にも百害ありそうじゃねーかよ!!

 なんかその百害に値するような代償払えるのか、つったら黙りやがった。

 一週間ぐらい。

 静かでいいなぁ、って生活していたら、いまはディヴァイディングラインに押さえられているけどいつまた噴出するか分からない瘴気を浄化していくからさぁ、だとよ。

 すげぇ、こいつ俺の心判ってねぇ。

 仮にも完全同位体だろ。

 ゲームで見たアッシュとルークのほうが反発しながらも内心よく分かり合ってたと思うぞ、俺は。



 それって結局、俺死ぬよな?



 正直俺は俺とアリエッタとシンク、そんでもって萌で一致団結した俺の特務師団員、つまるところ俺たちの世代が無事に生きられるだけの期間世界が無事でありゃどーでもいい。

 どーでもいい、つーと正確じゃねぇが、一世代でできることなんて高が知れてるだろ?

 俺たちの世代の課題は壊れかけたセフィロトに頼ったフロートアース計画を脱出すること。

 これで時間稼ぎは出来た。

 瘴気問題は次の世代の課題、でいいよな? もう。









 そんなこんなで俺が脳内世迷言をないもののようにできるほどの歳月が経った。

 あーあー、キコエナーイ。

 具体的には一年ほどだ。

 意外と短いな。



 近頃じゃアリエッタもプレゼントに曰く“肉”を寄越さなくなって、俺の部屋の頭骨は増えていない。

 つーか、増えすぎたから倉庫に移した。

 そのあと増加が無いので俺の部屋はホラーじゃなくなった。

 あれだけの大量の頭骨の中にはもしかしたらスカルジョンも居たんじゃないかとドキドキしてる。

 いない、よな? うん。そうしとこう。

 とにかく俺はそのせいもあってかいつの間にか真紅のクレイジーじゃなくなっていた。

 泣きたいほどうれしい。

 嬉しくて顔から笑いが取れなくなっていたらいつの間にか微笑みのアッシュになっていた。



 俺はまだ導師直属の六神将になっている。

 俺とシンクとアリエッタとカンタビレ、それと後二人は新人。

 相変わらず六神将だけど俺ほど姿の知られていない六神将は居ないだろう。

 うっかりバチカルには近付きたくない。

 公式式典にはマルクトにもキムラスカにも出ない。六神将、と言われてる割には武勇も聞かない。



 六神将といえば、烈風のシンクはこんな人間で、妖獣のアリエッタはどんな人間で、ってふうに話になると思うが、じゃあ六神将微笑みのアッシュといえば? となると誰もが途端に口篭る。

 どんな人間なのか言えないんだよな。

 俺は面倒ごとが嫌いだから表にでない。ついでに相変わらず俺より部下のほうが強いからそういう仕事には部下を行かせるし。



 いつの間にか俺は部活の幽霊部員みたいになっていた。

 名前は知ってる。けど、だれ? みたいな。



 シンクとアリエッタの仲は見ていてもどかしい気がするほどだけぞ時間を書けたぶんだけ着実に深まっていると思う。

 二人にモエモエしてる特務師団員たちが事あるごとに二人を見守ってこっそり応援しよう! 的なものを神託の盾の中で広めていたものだからいつの間にか感染してた。



 トリトハイムが以前のモースのような地位にたって、そこはかとなく教団は暢気になった。










 そんなときだった。

 ローレライの奴がとんでもない一言を洩らしたのは。



『あ、なんだかもうディヴァイディングライン持ちそうにないよ?』



 とな!

 俺の口が悪いせいか人間社会の言葉に揉まれて萌まで理解して挙句荘厳な言葉遣いをどっかに投げ捨てちまったローレライがぽん、と暢気にそういった。

 俺はその言葉の意味を数十秒にわたって考えた。

 ここ最近じゃローレライの言葉は聴いていても抜けてくものだったからなおさら時間が掛かってしまった。



 その硬直時間の後に。

 俺は人目をはばからず奇声を上げていた。



「はぁ!!」



 いけねぇ、これじゃまた真紅のクレイジーになっちまう!?










[3493] 六回目=END
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/04 12:56




 アリエッタがライガママからのお土産といってキノコをくれた。

 これ、食えんのか? つーような赤くて白い丸い模様が付いた怪しいキノコだ。

 ちょっと育ったマッシュルームに……似てる?



 きのこ……ムクムク?

 なーんてな。



 スーファミになる前のファミコン時代の髭を生やした配管工のオヤジが食うとダメージになるキノコに似てるな。

 でかくなるキノコだ、つって思って飛びつくとやられちまうんだよなぁ、あれ。

 何回騙された事やら。俺んちテレビ画面の配色が悪くて色が分からんのよ。

 一言で言うと非常に毒々しく怪しい。

 怪しいがアリエッタのママがくれたプレゼント。

 食えるんだろうとは、思う。

 うーん……。



 迷って部屋に置いたままにして数日たったら干物になってた。

 粉末にしたら漢方薬になるかもしれん。そんな気がする。



 そんな事を考えながらも俺の手は職務の間に細工をする。

 ブーケだよブーケ、造花のブーケ。

 さすがにドレスは俺は縫えないからな。

 ブーケ作りくらいなら、少しくらいセンスが足りなくても何とかなるだろ。

 生の花じゃないのはいつか腐ってしまうからだ。

 俺はあいつらの結婚式を見られないかも、知れない。






 ずっと考えていたんだけどな。

 わかんねぇよなぁ。

 ローレライの言うもうちょっとっていつよ。

 具体的に何年何ヶ月何日何時間で何分何秒? オールドラントが何回回った時?

 言ったら黙りやがった。

 人間に話すときは人間の感覚で話せよばーろぃっ!

 なんだよその一年か十年かもわからねぇような感覚!



 とりあえず百年はないはずだ、とか十年未満? とか、いや、でもやっぱり一年ないかも、とか!

 つか、そんなフランクになるなよローレライ、あんた神様もどきだろ。

 かみさま“もどき”が『萌え……だ』とか、鼻の奥から鼻血でも噴きそうな妙に熱い声をアリエッタやシンク見ながら言うな!

 眼鏡っ子やロリショタ見ながら言うなよ。

 ナイスバディで一見できる子、けど実はドジっ子なの☆ みてモエモエ言うなよ!

 アーッシュ!

 こんなイキモノとの通信回線を持って生まれたお前を憎むぞ!!





 ふー……熱くなったぜ。

 マルクトには話通しといたし、教団、つか最高指導者である導師を通じてキムラスカにも告知した。

 導師がわざわざ、つーことで危機感あおれたらいいなとは思っている。



 それから俺はガンガンローレライを問い詰めた。

 もっとしゃきっとしさらせぇ!


 きちんと人間感覚の時間で答えるまで放置じゃ放置!

 つか自分も部屋に引き篭もって萌え要素との接触を最低限のアリエッタとシンクに絞ってやる、って宣言したら真剣になったらしい。

 ちょっ、おまっ、どこまで!



 だけど真剣になったならいいのか?

 アリエッタとシンクまで含めて萌え断ちしたら俺がもたねぇ。



 そんでまた一週間ぐらいだな。

 こいつ、人間の感覚はわからねぇとか言いやがる割には萌えとか共有するし、一週間、つー単位については割りと律儀だ。

 萌えについてはどうして理解してるのかしらんが、一週間については俺が眠って起きた回数を数えているらしい。

 それが一月を過ぎると面倒になるんだとよ。

 気持ちは分かるがいい加減にしろよ。



 そんでもって一週間後だ。

 考えに考えまくったらしいローレライが答えを出したのが。



『一ヶ月くらい、かも?』



 それくらいの思考回路を惜しむなっつーんだよ!










 つーことで俺はブーケを編んでいる。

 生花は腐るからな。できるならドレスを用意したかったんだが俺には縫えねぇ。

 手縫いじゃないならあいつらが買っても問題ないだろ。

 それにドレスは無駄になった場合の相手側に対する心理的プレッシャーが高いと見る。

 俺の希望じゃあるが押し付けたいわけじゃないしな。



 瘴気を浄化した挙句のローレライ解放じゃないから生き残れる可能性もあるかもしれないが死ぬかもしれん事も確かだ。

 憂いはなくしておくべきだろう。

 どーせほっといたら俺共々世界は死ぬんだ。

 だったら俺一人の犠牲で助かるならいいじゃねぇ? なんつっても俺ってば元死人だしな。

 アッシュがどうしたのかはシラネェけど、本当の俺の体はたぶん飛行機を最後に死んでいる。

 はず。

 んでもって何故だか知らんがアッシュに乗り移った。

 イキモノでもなくシニモノでもないようなビミョウなナマモノだった。

 俺は自己犠牲は嫌いだ。

 でもどうしようもない時つーのはあると思う。



 誰かが犠牲にならなきゃならない。

 それは俺じゃなくちゃ行けないのか?



 もし俺が何の力も無い一般人だったら怯えて怯えて震えて引き篭もってても良かったかもしれないけど、幸か不幸か俺は今アッシュだ。

 一般人じゃない。

 アッシュにとっては多くは不幸だっただろうと思う第七音素の力とか、ローレライの同位体とか、単独で起こせる超振動の力とか、そんでもって王族に生まれてそれらの力のせいで実験体にされたり誘拐されたり……おー、すげぇ、並べ立てるとほんとにろくな人生じゃねぇぞ。



 俺にとっても平穏とは言いがたかったけど、アッシュのおかげで楽しかったぜ?

 サンキューな、アッシュ。

 後は、ただもしかしたらアッシュにもどれたかも知れないおまえの体も、俺が考えて行動することで殺してしまう、その可能性が高い事だけは、謝らせてくれよな。

 謝ったってしゃーねーんだけど。

 それにしてもどうしてお前はここから居なくなっちまったんだろうな。









 ローレライが1ヵ月、と言ったから俺は一ヶ月をめいっぱい生きてみる事にした。

 まず最初に悪辣なまでに仕事をサボる。

 部下達との追いかけっこは生きている実感だったぜ。



 次にアリエッタとシンクと眼鏡っ子とロリっ子とドジっ子と、この神託の盾におけるあらゆる萌え要素を目に焼き付けた。

 じっと見てたらシンクはツンデレらしく文句をつけながらも様子がおかしいことを心配してくれるし、アリエッタはじっと見てると恥ずかしがりながら顔を俯けてそれでも近付いてきて「どうしたですか? アッシュ」って言ってくれる。

 うむ、萌え。



 そんでもって未来への展望をこめてブーケ作り。

 ケテルブルクに任務を入れて、今まで蓄えてきた物を全部つぎ込む勢いで消費する。

 生き残るかもしれないけどさ、死んだら無駄じゃん。

 おけらになっても生き残ればその先に俺には仕事があるし、まだ若いし? 給料出るかもだし。



 最後にせっかく歪でもまぁるく収めたこの世界を揺らがしたかないから俺の後釜の決定。



 特務師団は、いまこわぁい師団だ。

 裏の実権握ってるんだぜ? 俺凄くない?



 そんなこんなで一ヶ月が過ぎた。

 余裕を持って五十日だ。

 散々散財してシンクに心配されて、飲み食いしすぎて吐いてアリエッタに怒られて、萌を目に焼き付けてローレライの戯言は無視して濃縮一ヶ月を過ごした気がした。

 それでも俺の後悔が全部なくなるわけじゃないが……もう、いいさ。



 ブーケに手紙を添えて箱にしまって俺は昼間にどうどうと教団を出た。

 堂々としすぎて誰も不審におもわねぇ。

 付いて来いと言った覚えもないのにライガルが付いてきた。忠犬振りには泣けてくるぜ。

 前から狙ってた貨物船に乗ってケセドニアに行って、パッセージリングに行った時以来尋ねた事の無かったタタル渓谷に足を踏み入れる。



 なんとなく、ここだな、って思ってた。



 時間は深夜だ。

 赴きもあるじゃねぇか。



「なあ、アッシュ? そう思わね?」



 自分じゃない自分に話しかける。



「お前もな。付いてこなくても良かったんだぜ?」



 なぜか今日は俺の側を片時も離れようとしなかったライガル。

 そういや名前付けないでずっとライガルって呼んでたな。



「わりぃ。でも俺嬉しいわ」



 一人じゃないのが。

 少し腰をかがめてライガルの頭を撫でる。

 そして俺は腰の剣に手をかけた。



 ローレライの剣に。



 深呼吸をして覚悟を決める。

 掲げた高さで手が止まった。

 振り下ろす前に呟く。



「じゃあな、シンク、アリエッタ。楽しかったぜ?」



 強がり、かもしれない。

 俺の顔に笑みが浮かんだ。



「それ、ちょっと勝手すぎるんじゃないの? アッシュ」

「アッシュ、一人で行くの、酷い、です」

「し、シンク! アリエッタ!?」



 ちょっ、もう止まんねぇよ!









 俺を中心として、シンクとアリエッタも巻き込んで、純白の光が辺りに広がった。



『僅かでも未来を変えるとは……驚嘆に値する』



 ローレライ! 今更でてきてかっこつけんじゃねぇよ!!!!

 無我夢中で、俺はそのローレライらしき影を一発殴りつけた。



『プペロッ』



 拳にまとわり付く第七音素、つか超振動。

 ぶっ飛ばされていくローレライ。

 とたんにぐにゃりと第七音素の本流が歪む。

 マズッたか!? と思ったときにはもう俺は意識を失っていた。













































 緑の香りに鼻腔を擽られて俺は目が覚めた。

 目を開いた先には空を覆い尽くす木の枝がある。

 そして驚異的なほどの巨大な、樹木が。

 屋久杉超えてんじゃねぇ?



 ぼーっとそんな事を考えてハッと気が付く。



「アリエッタ、シンク!!」



 慌てて周囲を見渡せば、シンクとアリエッタとライガルが付近に転がっていた。

 俺ほど濃度の高い第七音素に耐性が無かったからだろう。

 見てみれば特に外傷などは無いみたいで安心した。

 ほっとすれば疑問が浮かぶ。



「ここ、どこだよ」



 どう見てもタタル渓谷ではない事は確かだ。

 なら、どこだ?

 こんなに大きな木があるのはセントビナーかチーグルの森くらいなもんだが、そこらの木とは一線を画している。

 そもそも両方の場所を知っている俺としてはそこじゃないと言うのは断言できる事だった。



 がさ、っと音が聞こえて振り向けば、そこには小さなウリボウがいた。

 ウリボウ=イノシシの子供。つまり。付近には親イノシシが居る可能性大。



「プギャーー」

「って、出たーっ!」



 でた、でた親イノシシ!

 起きろシンク! 奴をやっつけるのだ!

 目覚めろアリエッタ! 奴とお友達になるのだ!

 目覚めてライガル! 熊に牙向く北海道犬のように!!

 誰も目覚めねー! 俺一人ならなんとでもするけどこいつ等まで守る自信はねぇぞ!!



「こっちだクレス! 人が襲われてるぞ!」

「今行くチェスター! 先に行っててくれ!」



 助っ人!

 マジ? つか、どっかで聞いた名前???









                           ―THE END―



[3493] アッシュに憑依しちゃったある日本人の希望? END
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/25 00:16



 助っ人が来たみたいだがどう見てもまにあわねぇ。

 そこで俺は小さなウリボウたちを全く無視することにした。

 突撃されても踏まれても、小さなウリボウなら直ぐに命に関わらない。

 だがこの巨体を誇る親イノシシに突撃されたら内臓破裂じゃすまない話だ。



「うおぉおーー!! 来たくても来るなーー!!」



 とイノシシに声を張り上げて剣を抜く。

 来たならば今晩の晩飯にしてくれる!

 その意気込みだっ!



 お、俺だってた、戦えるもんね!

 だって神託の盾六神将だったんだぜ? 六神将中最弱でも、殆ど指揮官でも、それでも戦わなかったわけじゃない。

 ケテルブルクの奥地に入り込んだときには俺だってあそこの変態的強さの魔物たちと渡り合ったんだ!

 たかだかボア程度に負けるほどの修羅場じゃねぇんだよ!



 なのに、どうしてなの?

 この不安に高まる胸の鼓動?

 どうしてなの? と思って俺は気付いた。

 実験の意味もこめて叫んでみる。



「絞牙鳴衝斬!」



 叫んでも、間抜けな沈黙が落ちる。

 後ろ足で地面を掻くイノシシ。

 多分ボア。

 ……チョウシンドー、俺の超振動どこいったー。

 ここさー、音素ないんだね。あっちの世界なら音素のほかにも隠れてマナとかありそうだったけど、ここって本気で音素ないんだね。

 体内の第七音素に反応を返してくれる第七音素が何にも無い。

 自分の中の第七音素消費すれば回復術ぐらい使えそうだけど、外部の音素を取り込む事がぜーんぜん出来ない。



 その事実に一瞬心が真っ白に漂白されて、気が付いた時には目の前にボアが居た。

 とっさに剣を掲げて防御をするが――



「あーれー!」



 すごい力で跳ね飛ばされた。

 腕が、痺れる!

 受身を取って標的ボアを睨み付けなおした時、目の前を一本の矢が飛んでいった。



「はぁぁぁあ!」



 とか叫んで矢の後ろから駆け込んでくる白い鎧の少年が居る。

 ……俺の気合からまわり。

 俺の出番無し。

 せいぜい彼等がボアをタコ殴りにしている間にウリボウたちでも片付けておこうと俺は痺れる手に剣を握りなおした。

 FOF使えないんだここってー、てそう思うと溜息しきりだぜ、ほんとに。










 ボアを倒した直後に半鐘の音が響いた。

 何事かと振り返れば木々の向こうにも見える立ち昇る黒煙があった。

 そっか、そういう時期だったのかと思う。

 獲物も取り落として村に帰ろうとする二人がこっちを気にしていたけど、いいから行けって俺は二人を促した。

 俺はこいつ等が目を覚ますまで、当分移動できないからな。

 守護方陣とか、フォンパワーが無いと全然使えないから何もかもが不便だった。

 腹が減ったらあいつらが落として言ったイノシシでも食えばいい、と思っていたんだけどそういやここには音素が無い。

 つまり。

 火を起こせない。



 俺はどこに行っても音素力で火を起こせたから火を起こす為の道具を持ち歩いた事が無い。

 マッチ、ライター、火打石、何もない。

 ……生肉?

 どうすべ。



 迷っているうちに空から雨が落ちてきた。

 風邪を引くといかんからアリエッタとシンクとライガを順番に大樹の下、多分ユグドラシルだろうこれ。……多分。

 その下に運ぶ。

 樹を見上げて俺は声を掛けた。



「しばらく世話になるぜ?」



 死にかけてろくに姿を見せることができなくても、ここに居るはずだからな。










 そうしてユグドラシルの根元に避難して何日たったかわからんけど少なくともチェスターが村人全員分の墓を作り終わったくらいの時間は流れているはずだ。

 俺は今トリニクス・D・モリスンの家にいる。

 本人が挨拶に来たからそれは知ってる。

 その時隣にチェスターも居た。改めて自己紹介して、これでやっと相手の名前を呼べる事になった。

 あの森で隣に居たクレスの名前もちゃんと不自然が無いように聞き出しといた。

 OK.

 大丈夫。



 どうやら俺は雨上がりを待っている間に意識を失ったらしい。

 気がついたら雨にぬれるユグドラシルの枝葉から見知らぬ天井に見えるものが変わっていて、自分はぬっくぬくのベッドの中に居た。

 服も着替えさせられて。



 意識喪失については心当たりがある。

 疲労がまず第一原因だろう。

 ローレライの解放も体力を使った事に間違いはない。

 ただ俺が他の二人より耐性があったから、大丈夫な気がしていただけだ。

 自覚症状が薄い疲労は溜め込みやすくていかん。ただ興奮気味で気がつかなかっただけかもしれないが。

 しかも解放途中に超振動でローレライぶん殴った気がするし。



 次に実験、だ。

 絞牙鳴衝斬が使えなかった。

 使えばボアなんて跡形も無くなるような必殺技だ。

 今回のボア戦にでそれが使えなくても別に戦局的に差異はない。俺が勝つ。

 だが使えなかった、と言うことには大きすぎる意味があった。

 予測してしかるべきことで実戦で実験するな、つーことだが、音素力を使用する技を使って発動しない、ということは共鳴する音素力が無いということを意味する。

 これは大きな戦力ダウンだ。



 そして。



 譜術として利用しなくても、俺たちの体は常に僅かずつ音素を取り入れては排出している事が観測されている。

 体は音素と元素で出来ている、のは常識だ。

 その音素と元素の音素が無くなったら。

 取り入れる物がなくなったらこいつ等、まあ俺も含めてどうなるだろうか。

 音素を取り込めないために音素に対して餓死するんじゃないかって不安を抱えている。

 まあなるようになって見なけりゃわからんことだけどな。



 それで話がずれたが、音素が無いならイコールで譜術が使えない。

 それはほんとのほんとに何にも使えないのか? つーところが俺の研究ポイントだ。

 人々が発見してないないだけで音素あるかも知れねぇじゃん。

 その量がごく僅か程度で、少なすぎて超振動発動しなかったのかもしれないじゃん?

 つーことで。

 片っ端から譜術とか使ってみていた。

 その意味とかを理解できてないから発動しないだろうって思いながらも譜歌も歌ってみた。



 発動はしなかったけどな。

 けどその度に体内の音素かき回したから疲れた。



 ……結局理由は違っても疲労って事は一緒じゃねぇか。

 そう、俺は疲れて意識を失った! でいいよな。

 ついでにボアからの打撃も付け加えとこう。

 そういや腕の打撲傷、跡形もなくなってたな。

 ……やだなぁ、こっちにも回復術あるんだよな。

 法術、だっけ? たしかモリスンさんもそうだった気がする。

 ありがた迷惑だよなぁ。痛いのは速く直って欲しいけど、病人けが人独特のちやほや扱ってもらえるあれがなくなるじゃん。

 仮病じゃなくても職務休む理由もなくなるじゃん。

 人には休養が必要なんだよ!!



 まーでもぶっちゃけ実験のほうは何とかして火をつけてボアの肉に火を通せないかな、って思っていたのが大きな理由だ。

 オールドラントの人間には音素も必要だけどそれよりももっとずっと、やっぱり元素のほうが大切だからな。

 腹が減っては戦はなんとやら。

 成果は特に無し! こっちの世界のマナとやらを音素の変わりに利用できないかは検討しどころだろう、とは思う。



 無理かな?

 無理かもなぁ。

 そもそも今のユグドラシルの状態を思い出せばありゃ枯れかけ、つまりこの世界のマナは枯渇しているつーことだしな。



 まあとにかく、俺たちはモリスンさんに保護されて彼の屋敷に居るわけだが、相変わらず俺以外目が覚めない。

 魔物であるライガルも目が覚めない。

 ライガルまできちんと保護されたのは、俺が意識の無いライガルを湯たんぽ代わりに抱きしめた状態で居たからだろう。

 右にアリエッタ左にシンクで三人+一匹を寄せ集めて樹の根元に非難していた。



 意識不明、っていうと重大そうだけど見た目だけなら俺を中心にして寄り添うミドピン+ペット。

 幸せな光景だよなぁ、とか思っていた。



 周囲について行けなくて回想ばかりが思い浮かぶ。

 いつの間にか増えていたクレスとミント。

 けどそう、あいつらは事態が深刻なんだよな。

 俺だって深刻だけど深刻ぶるには人数が足りねぇし、なによりあいつらの深刻とは性質が違う。

 まとめていろんな物を失った奴等の深刻には付いていけねぇし、はっきり言って蚊帳の外だ。



 あの時、黒煙が上がっていたとき、一緒に行って何が出来たとは全く以って思わないが、それでも行っていたらこの深刻にちょっとは首を突っ込めたんじゃないかと思う。

 わかって、いる。

 こんな深刻いらねぇってことは。

 羨む事じゃない。けど、仲間はずれはちびっと寂しい。



 おーい、速く目覚めろよー。

 ほら、そんな事してあんなことして、モリスンさんが出かけていった。

 ぼーっと見てたらクレスとチェスターとミントも出て行った。

 ダオスとの、対面か。

 そんな事をぼんやりと思う。

 手出しできる余地は、ないな。音素が使えない今の状態じゃ。

 手出しするにしてもしないにしても、こいつ等の目が覚めるのを俺は待たなきゃならん。

 置いていくことは絶対にできない。

 それに目が覚めたらイロイロ聞かなくちゃならないしからな。

 せっかく命懸けでローレライ解放したのに存続させた世界で要の一つである神託の盾から将が三人も一気に抜けて大丈夫なのか? とか。

 俺の場合は根回ししてきたけど、こいつ等がどうなのかは気になる。

 アリエッタのライガも付いてきていない、つことはあっちの世界にアリエッタの兄弟たちは居るんだろうし。

 それも気になるな。



 と思いつつ目が覚めなかったらどうしよう、と気を揉みながら俺は心を静めるために中庭に下りた。

 もうあいつらが出て行ってから結構な時間が経っている。

 ふと空を見上げたとき、その空が白くかすんだ。

 目の錯覚か? と思って目をこすり、見上げる。

 青い空だった。

 ほっと安心したその時、また空が白くかすんだ。

 気のせいじゃない。目の錯覚でもない。



「なにが、起こってるんだ」



 呟いた俺の言葉も、霞に飲み込まれて消えていく。

 その瞬間に、思い出した。



 ここはユグドラシルが枯れマナも枯渇した世界。

 クレスの先祖とモリスンの先祖とミントの先祖と後誰だったかがダオスを封印した世界。

 ダオスの封じられた洞窟の奥で、復活したダオスを倒すために、彼にダメージを与えられるこの時代では滅んでしまった魔法を求めてクレスたちは過去へ送られる。

 そして、彼らは戻ってこなかった。

 彼等が戻ったのはここ“ダオスを倒すために魔法の復活を求めた魔法の滅んだ世界”ではなくクレスたちが過去に赴く事で歴史を変えた“ダオスを倒すために最強の魔法インディグネイションを求めた世界”なのだ。

 ここにはクレスたちは帰ってこない。



 この世界にダオスに対抗しうる力を持つ奴等はもう居ないんだ。

 この歴史の枝葉は崩壊の末路として抹消される。



 霞んでいった空と霞んで行った自分自身に、そのことを悟った。



 時間そのものが刈り取られ、無かったことにされる。

 俺たちは、消えるんだって。

 クレスたちに付いていって時間移動をしなきゃ、俺たちに未来は無かったんだ……









                            ~~Dead End~~
























後書きっぽいもの。 つー

読んで下さった方々、そして感想を下さった方々に深く感謝申し上げます。
頂いたコメントを読み返すたびにパワーを頂きました。
正直あそこまで連載するとは思って居らず、皆さんの言葉のおかげで続いた連載でした。
感想一つで十万馬力!
書き手になるまで感想の持つ力と言うものを知らなかったです。
皆さんのおかげでとても楽しく書くことができました。

アッシュに憑依したとある日本人の回想(仮)もひとまずの終わりを迎えました。
アッシュに憑依したらしいとある日本人の日記帳にピリオドを付けたときから後はもうゆっくりと、一月に一回ペースくらいで書けたらいいなと思いながら気がつけば二日三日にいっぺんは投稿しているというありさま。
そのようなペースでかけたのも、書く事を楽しいと思えたからに他なりません。

本当にありがとうございました。

アッシュに憑依したとある日本人の回想(仮)では、皆さんの意表を付くエンドに出来たようで、それもまた嬉しいことでした。
そういう、予想外だった! と言っていただけてにんまりとしてしまいました。
繰り返しとなりますが、この場で楽しく書くことができたことに、皆さんに感謝します。

感想で頂いた疑問などにはできるだけ作中で答えて行こうと思っていましたがどうだったでしょうか。
作中で答えて行きたい、そう思っていましたが自覚する中で唯一つ答えられていないものがあります。
アッシュはきのこを食べていません。
彼はアリエッタからもらったきのこを全て、部屋で干物にしてしまいました。

一つ残らず。

でもスーパーアッシュブラザーズとかいいなぁ、って思いました。
それ行けスーパーアッシュブラザーズ。
弟はもちろんルークで。




[3493] アッシュに憑依したある日本人の願望。
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/22 23:24
今までのエンド。
これは孔明のでも作者の罠でもなくただ単に思いついて書いたからには発表しないと勿体無い、と言うだけの作者のドケチです。
でもドケチ故の行動でもY⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!
になるんだったら私も嬉しいです。
みんなY⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!! にな~れ!!
では下、本編でーす。













 ローレライをぶん殴って気がつけば知らない場所に居た。

 アリエッタとシンクとライガルの無事を確認してほっと一息ついて、改めて周囲を見回して疑問を深めた。

 ものすっげーでっかい樹の下に俺達は居た。

 樹齢を計るのもばかばかしいようなサイズの巨木だった。

 瑞々しい緑の葉から木漏れ日が差してきてすっげぇ気持ちよかった。

 ここが何処だか分かっていて危険が無いのさえわかれば絶対昼寝する。

 間違いない。



「タタル渓谷、じゃないよなぁ」



 それは見るからに、とか明らかに、と言った具合に違う。

 まるで違う。

 だがかといって俺にはこんな巨木があるような場所の心当たりも他に無かった。



「こんなでかい樹があるのはセントビナーかチーグルの森くらいなもんだが、そいつ等でもないしなぁ」



 あの樹を見た時にも神秘的だ、とか感じなかったわけじゃないが、こっちのほうがもっと、こう、力がある、つか安らげる気がする。

 とにかくこの樹の下は気持ちよかった。

 これなら魔物なんて居ないんじゃないのか? とか思いたいけど何事も例外があるもんだ。

 それに、この樹が神秘的な代物なら逆に魔物じゃなくてガーディアン的な存在が居る、かも知れないしな。



「うっし!」



 と気を引き締める。

 いまこいつ等を守れるのは、俺しか居ないんだ。

 やれるだけやってやるさ。

 そう思ったその時、かさ、と草を踏む音がして振り返った。

 そこには小さなウリボウが居た。

 ライガルの飯に丁度よさそうなサイズの。

 うむ、狩るか。

 そう思って腰の剣に手を伸ばし――のばし……



「な、ないぃぃいいい!!」



 無かった。

 腰にあるのは鞘だけだ。

 剣が無い。

 ローレライの剣が。

 俺それしか剣持ってなかったし?

 え? もしかしてローレライ解放するときに分解しちゃった?

 あれも第七音素だよな?

 うわ、やべぇ。



 たらり、と冷汗が出る。

 ここにウリボウがいる、つーことは、近くに親が居る、つーことだ。

 多分。



「プギャーー」

「って、出たーっ!」


 でた、でた親イノシシ!

 起きろシンク! 奴をやっつけるのだ!

 目覚めろアリエッタ! 奴とお友達になるのだ!

 目覚めてライガル! 熊に牙向く北海道犬のように!!

 誰も目覚めねー! 俺一人ならなんとでもするけどこいつ等まで守る自信はねぇぞ!!

 しかもなんかウリボウがわらわら増えていくしこいつ一体何匹こどもいるんだよ!



 くっ、こうなったら!

 剣が使えなくても譜術なら!



「エクスプロード!」



 ……へ?



「あ、アイシクルレイン!」



 ……はい?

 な、なんで発動しないの?

 こ、こうなったらっ!

 あれしか、ないか!

 と、俺は自分の中の第七音素を振るわせた。



「絞牙鳴衝斬!!」



 しーん、とか音が聞こえてきそうだ。

 爽やかな風が吹いて葉がざわめいた。

 きらめく木漏れ日が気持ちいい。

 そして親イノシシが地面を掻いた。



「うっそーん! ちょ、おま、まてよ! てめぇ何やってんだよローレライ! アフター! アフターケアは万全に? しとけよ!」



 思わず喚いちまう。

 そんなんで解決したらいいよなぁ、とか。


「プギャー!」



 もんのすごい勢いで俺めがけて一直線で走ってくるイノシシに唇の端がひくひくした。

 やっべぇ。

 イノシシを見たままずりずりと可能な限りの最速で後ろに下がる。



「こっちだクレス! 人が襲われてるぞ!」

「今行くチェスター! 先に行っててくれ!」



 わーい助っ人!!

 てかおせぇよ!

 つか、どっかで聞いた名前???



 なんかイロイロいっぺんに思ったけどはっきりしている事が一つ有る。

 間に合わないって確信がな。

 目前に迫るイノシシ。

 俺の背後は巨大な樹。

 俺は自分の生命をかけてカウントした。



 1、2、3!



 三まで数えて思いっきり体を横に転がした。

 ズドン、と凄まじい音を立ててイノシシが俺の背にしていた樹に頭から衝突した。

 やべぇ、やべぇよ。

 ほんとは四まで数えられるはずだったのに3,5のタイミングだよ外しかけたぁ~~っ!!



 ギリギリで生き延びた実感に魂が抜けた。

 思わず座り込んでイノシシを見た。

 動いたら後が無い。

 早鐘を打つ心臓の音を聞きながらじっと観察していたら人間二人文の足音が聞こえてきた。

 助っ人だ。



「いたぞクレス! 多分無事だ!」



 ……多分、大丈夫だろう。

 今晩は猪鍋かぁ。










 聞いたこと有る名前だなぁ、と思っていたらガチだった。

 なんだよ今度はファンタジアかよ。

 これでチェスター憑依とかダオス憑依とかなら無かっただけマシなんだろうか。

 悩むな。

 俺たちはヴォルトの洞窟帰りに偶然立ち寄ったクレスたちに保護されていた。

 つまりあの樹はユグドラシルで、ここはゲーム中では未来に位置する場所、つーことだった。

 生き生きとしたユグドラシルと未来、っつー位置関係にほっとする。

 これが過去だったりしたら。

 いや、過去だったらまだましだ。歴史を変えに来たクレスたちが居るかもしれない。

 けど現代だったら、それもユグドラシルが枯れかけている所に来たりしたら後も先もないところだっただろう。

 ダオスの攻撃に晒されながら都合よく時空転移なんてそうそうできねーっつーの。



 チェスターがアリエッタを背負って、クレスがシンクを背負って、俺がライガルを抱えてミゲールの町を目指している。

 この隊列前衛が誰も居ないんだがどうなんだろうなぁ、と思っていたから俺が前衛を買って出た。

 クレスから予備の剣を貰って。

 いい剣だよなぁ、これ。

 神託の盾の支給品とは格が違う。この格が違ういい剣ですらクレスたちにとって見ればもう使わない剣つー話だから勿体無いぜ。

 ま、前衛買って出てもここらの敵じゃクレスたちの敵じゃないから正直俺の出番はない。

 マジで無い。

 もうアーチェもミントもクラースもつえぇつえぇ。後方支援回復担当なんて嘘だろ。

 その錫上でタコ殴りだろ。

 こうしてみてると強いけど、なら前衛のクレスはドンだけ強いんだろうと思う。



 俺だって強いけどな!



 ……普段だったら多分ミントかクラースくらい?

 まあそれもここに音素が無いからの話だな。

 ここに音素があればシンクと俺とアリエッタが揃って負ける道理がない。

 俺だって音素さえあれば及ばずとも遠からず、つーところだろう。

 ヒジョーに残念な事にアッシュボディには才能があるけど中身の俺には才が無い。

 少なくとも剣術の才能は無い、と強がってみる。

 まだ挑戦したことの無い分野にはあるかも知れねぇじゃん。



 多分俺がここに来たのだって俺がローレライをぶん殴ったせいだろうし、俺のせいでこんなことになったのにローレライにアフターケア! つーのも図々しいはなしなんだろうけど、それにしてもローレライ、アフター!

 せめてローレライの剣置いてけよな。森の中で無手で放置された俺はどうなる。

 まっ、ここはまだユグドラシルのお膝元なせいか魔物たちも多少おとなしい感じだったけどな。

 イノシシ、あのボアだってウリボウが居なけりゃ俺たちに突っかかってくることも無かっただろうし。



「ん?」



 と声を上げたのは多分チェスター。



「お、起きたのか?」



 つったから多分背中のアリエッタが目覚めたんだろう。

 俺も立ち止って振り返る。

 チェスターの背中でもぞもぞしていたピンクの髪の毛がむっくりと起き上がった。

 同じピンク髪のアーチェがぐるりんって箒からさかさまになって寝ぼけ眼のアリエッタの顔を覗き込んだ。



「あ、おっはよー!」
「……アッシュ?」



 いきなりさかさまに目の前に飛び込んできた陽気な顔に一瞬ビクッと怯えて、それから真っ先に俺の名前を呼ぶなんて可愛いやつだよな、ほんと。



「ほいよ。俺はここに居るぜ?」

「アッシュ!」



 チェスターの背中でもいっかい叫ぶと転げるようにして背中を降りて俺のところに駆けてくる。

 俺は抱えていたライガルを地面に下ろしてアリエッタを迎える準備をした。

 ライガルを地面に下ろしたときに丁度こいつも目が覚めたみたいだけどな。

 すまねぇライガル。いまはちょっとアリエッタのほうを優先させてくれ。



「アッシュ、アッシュ!」

「ほいほい、ほら、落ち着けって」

「あー、女の子泣かせたな~、アッシュ」

「いけませんわ、アッシュさん。こんな小さな子を不安にさせては」



 世の女性は容赦ないなと思う。

 つかアリエッタ見た目ほど年齢的には小さくない、んだが。

 本人はコンプレックスかもしれないが傍から見れば小さいって得だな。



「アッシュ、アリエッタ、いや、です。一人で居なくならないで」

「ごめん、ごめん」

「イオン様みたいに、居なくなっちゃ、いやです!」

「もう居なくならない。約束するから、さ」



 泣くアリエッタにぽこすか殴られてる。

 つーかたたかれてる。

 うーん……ああ。服で顔をぬぐわないで欲しいな、とか思ったけど俺男だから言わない。

 女の涙は黙って受け止める! ……オヤジ、俺、あんたの人生見ていたぜ。

 とかどっかに居るかもしれないオヤジに呟く。

 母さん泣き虫だったからなぁ。オヤジはよくこうやって泣いたおふくろを受け止めていたっけ。

 アリエッタを宥めている俺の足元にライガルが擦り寄ってきて俺も一緒に泣きたくなった。



 そんでもって女性陣+α男どもの視線も突き刺さる。

 今の俺はきっとこんないたいけな少女をひとり置いてどっか行こうとするハクジョーな男に見えてるんだろうなぁ。

 本意じゃないし、致し方ない理由はあったけど、こいつらの知るところじゃないしな。

 しかたねぇとは言えイテェー。



「でもなぁアリエッタ。あっちじゃシンクもいたし、ライガママもいただろ? 神託の盾なら、俺の部下達も五十人、みんなアリエッタとシンクの味方だ。アリエッタとシンクが大好きだ」

「50人の部下って……俺おまえのことなおさら訳わかんなくなったぞ」



 チェスターに謎の生き物を見る目で見られた。

 俺だって五十人の部下を持つような人間じゃない事はわぁっとるわい。



「ほっとけ。……とにかく、だから……俺なんかに付いてくる事は無かったんだ」

「だってアッシュ! 死ぬつもり、だった!」



 いや、まあ? だからこそ、なんだけどな。

 周囲の眼差しがさらにきつくなった気がするぜ。やむ終えなかったんだっつの! 俺だって好きで自己犠牲なんてするかよこの小心者がだぞ!!

 ああ、もうわかったよ!

 俺が悪者なんだろ?

 こんな可愛い子を泣かせた俺が悪者になりゃ万事解決なんだろ?

 オーケーオーケー、俺、ワルモノ。



「悪かった、悪かったアリエッタ。もう置いていったりしないから」



 ぽんぽんと頭をなでるとアリエッタはぐずぐずと俺に抱き付いて泣いていた。

 離さないー、つか逃がさないー、つー具合に抱きしめると言うには過剰な力が加えられていてちーっと苦しかったけど自業自得ってことにしてけってことだろう。



 ちなみにこの後俺は起きてきたシンクに一発分殴られた。

 いいんだいんだ~。だって俺ワルモノだもんね。













[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/23 20:17









 ま~だほっぺたがヒリヒリするぜ。

 逆の頬はずきずきするしな。

 一発ぶん殴ったと思うと逆の手で今度は引っ叩きやがったシンクのやろう、俺に何の恨みが有る。

 ……ある、んだろうなぁ。

 しかたなかった(と今でも俺は思っている)とは言え、ぶっちゃけシンクとアリエッタへの裏切りだもんな。

 し方ねぇ、か。

 オレ、ワルモノ、だから。

 イイモノにはなれねぇよなぁ。小心者だし。

 だからさぁ、あっちでヴァンの野郎をたたみ込んで、モースもぶっ潰して、とんとん拍子にアリエッタとシンクとそこそこ平和に暮らせそうな風に世界が流れていくのを感じてるの、幸せだったんだよな。

 ちくしょー、ローレライめっ!

 お前の解放なんかで終わらせていい幸せじゃなかったんだよ!

 瘴気さえなけりゃオレの寿命のギリギリまで引き伸ばしてやった物を。

 別に解放しない、つってる訳じゃねぇんだ。

 いつかは解放する、ただ今じゃない。それだけだろ? 二千年地核に居たローレライに、人間の時間感覚を理解しないローレライに、今更数年数十年関係ないだろ? な?

 とまぁそういう感じだったんだけどな。



 俺たちは今ミゲールの町に居る。

 文無しだって伝えたらしばらく逗留して居られるだけのガルドも貸してくれた。

 本人たちはくれるつったんだが、借りだ借り。ぜってー返す。

 本来、つーのもへんな話だけど、俺はもらえるものは貰っとけ、っつー人間だ。そんな人間からしてみればここでくれるつーんならありがたく貰っとくもんだろう? と思う。

 思うんだが……今回はダメだ。

 臆病な俺の理屈付け、だな。また機会があればクレスたちと関わるための、な。

 クレスたちはまたダオス討伐の為に旅立っていった。



 ちなみにライガルはこっちじゃ魔物として一般的じゃないせいと、あとアリエッタのおかげでしつけが行き届いていてヒジョーにおとなしい事からペットとして町に入ることを許されていた。

 そういやライガルを魔物だって知ってる人間はいないんだよな、とその時今更俺は思ったものだった。

 どうりでクレスたちが何も聞いてこないはずだ。

 しかもライガル、ってのが種族名じゃなくてきっと俺のライガルに付けられた名前だって思ってるぞありゃ。



「それで? これからどうするのさ」

「そうだな~」



 ベッドに腰掛けてもう仮面をつける必要の無いシンクが腕を組んで俺を見ている。

 いつも仮面をつけていたからシンクの視線をまともに浴びる機会なんてめったに無かった。

 ちょっとドキドキするぜ。

 冗談は言えない雰囲気だしな。



「やりたい事、つか願望だな。それはある」

「へぇ」



 関心があるのかないのかいまいちわかんない返事だ。

 俺困っちゃう?

 な~んてふざけて流したら俺また殴られそう。

 いやん、ドメスティックバイオレンス? いや、ドメスティックは余計かな

 シンクも仮面を外して歩くようになるまで三日かかったし。

 異世界、って言うのは割りとあっさり信じてくれたんだけど、それでもシンクは三日の間仮面を外せなかった。

 コンプレックスと言うのは恐ろしいね。









 今ここにアリエッタは居ない。

 ユグドラシルのある森にライガルを連れて遊びにいってる。

 世界は違ってももともとの俺の世界の神話じゃバベルの塔で失った共通言語でも持っているのかアリエッタは魔物たちとお友達になった。

 お友達になれない魔物も居るみたいだけどな。



 俺が心配していた教団内部の人事、つーか、師団長クラスがいっぺんに三人も抜けることに対してはシンクが前々から俺の不審な行動に勘付いていて手回ししていたらしい。

 隠せている、と思っていた俺としては全く立場が無い話だな。

 これでとうとう神託の盾も元ヴァン配下の六神将みんな居なくなった事になる。

 ま、これでこそ新しい時代の夜明けかもしれんな。老兵は死なず、ただ去るのみってな。

 俺まだ若いけど!!



 とにかくこっちに来て向こうのことを心配したってどうにもならないのは確かだけどせっかく頑張って作って来たそこそこの平和がそこそこの形で残っているらしいことが分かったならそれはそれで一安心だった。

 こういうのを後顧の憂い無しとか言うんだろうかね?

 とにかく俺は何の心配もなくこっちでとりあえず生き抜いてストーリーを知っちゃってるから感傷的に手出ししたいことに手出しするかどうか悩んで、最終的にはなんとかあっちの世界に帰れないもんだろうかと頑張ってみることにした。

 こっちの世界で過ごすのもなんの束縛とかも無くていいかもしれないとか思ってきちゃって危ない感じ?



 だってなぁ~。

 こっちならイオンの顔は有名じゃないからシンクは気兼ねなく仮面を外して外を歩ける。

 アリエッタも六神将妖獣のアリエッタなんていってもナニソレ? ってなもんだからやっぱりただの動物と仲がいい可愛い奴、だ。

 今のところはな。

 ダオスが出てきて魔物が凶暴化している今じゃ魔物と仲むつまじ~くしてたらそのうち白い目で見られるかもしれないけど、ぶっちゃけ今はダオスの支配が強いせいかアリエッタがお友達になれる魔物なんてウリボウとか、まあチミっこいのだけだ。

 実は実力ためしにヴォルトの洞窟に行ったけど、ダオスの支配を受けているらしい魔物はアリエッタの共通言語も通用しなかったからな。



 そもそも忍者とか侍とか魔物じゃなくね?

 そもそも忍者の里はあるけど侍の里ってなくね?

 つーか忍者って死んでも死体残さないってマジかよ!



 せっかく音素分解して死ねば勝手に消えちまう、残したくても何も残せないことの多いレプリカと違って死んだ証を残せるのに、な。

 俺も切なくなったけどそれを見ていたシンクの姿が尚切なかった。



 とにかく、だ。

 俺は戻ろうとする一方でこのままこっちの世界に居たほうがアリエッタやシンクのためになるんじゃないかと言うことを考えて迷ってる、つーわけだ。



「それで結局あんたは何がしたいのさ」

「したいことはある。んだが、しないほうがいいんじゃないかっても思っちまってなぁ」



 そうも思っちゃうから困っちゃう。

 何もかも見てみぬ振りすれば? ってね。

 だってこのままいけばクレスたちはちゃんと勝って、世界は一応の平和を見た、とかエンディングになるんだろう? って。



「元の世界に帰ろうっても思ってたんだけど、帰るってのもどうかなぁとか思うようになっちまったし」



 ぎゅってシンクが眉根を寄せた。



「僕達のこと気にしてるの?」

「そりゃしないわけ無いでしょ。こっちでのほうが平穏に幸せそうに暮らせるならこっちに残ったほうがいい、とも思う。俺にはもともとあっちの世界にさしたる未練は無いしな」



 シンクとアリエッタが居てライガルまでついて着たならそれこそ俺には後ろ髪引かれるものなんてありゃしない。

 せいぜいあるとすれば50人の部下達程度の話だが奴等だっていい大人だ。

 年下の隊長なんて居なくてもちゃんとやってくだろうし。



「俺自身にはあっちのせかいになぁんも無い。んだが、アリエッタのママには会えないままでいいんだろうかとかまあそういったことは考えるな。……おお、そういえばフローリアンがどうなったのかとか、ちょっとは知りたいかもしれん。まあどうにかなってるだろうとは思うが……」

「それさ、今すぐ決める必要あるの?」

「ん?」



 どういうことん? って聞いたら組んでいた腕を解いてシンクは溜息をついた。

 いやん、俺なんかすっごく馬鹿にされた気分。



「あのさ」

「うん」

「まだあっちに帰る方法も分かってないんだよね?」

「まあ、そうだな」

「当てはあるの?」

「有るっちゃー有るが無いっちゃー無い」



 当ての一つのローレライはうんともすんとも、ローレライ通信もないしローレライの剣も無いし?

 もう一つのあてはオリジンとかマクスウェルとかだけどあれこそ俺たちに手を貸してくれる保障は皆無だ。



「見つかるか見つからないかも分からないってこと?」

「ま、そういうこったな」

「だったらさ、急ぐ事ないんじゃないの?」



 ……………。



「あるかもしれない、無いかもしれない。ない事で悩んでいたらバカじゃ無いのさ。……見つかってから結論出してもいいんじゃないの? 別に」

「……そう、かもなぁ」



 俺が心配していたはずの当の本人であるシンクからそういわれると何をあせってたんだろうなぁ、って気がして来た。

 そうなんだよなぁ。

 見つかるか見つからないかも分からないんだし。



「それに」

「それに?」



 続きがあるみたいだから耳をそばだてた。



「アリエッタのことならアリエッタに聞けばいいし、僕のことなら僕に聞けばいい。勝手に思い悩んで勝手に思い込んで、勝手に決めないでよね。迷惑だよ」



 なんか、じ~んときたな。

 今の言葉の裏には

『あんた一人で悩まないで自分たちにも相談してよね! べ、別に心配なんてしてないんだからね! な、仲間なんだから当たり前でしょ!』

 つーことか! そうだな? そうなんだな!!



「それで、向こうに帰ること以外には何したかったのさ」

「んー……いらぬおせっかい、かなぁ」

「好きにしたら?」

「って、相談しろっつっといてそれは無いんじゃないの?」

「どうせアッシュのすることなんて、誰かのため、って名目の、自分のため、でしょ」



 うわ……、見抜かれてる。俺って虚しいイキモノかもしれない。

 アビスの世界でもそうだったけど、結局あれだ、全部知ってるのに自分は何もしなくていいのか? っていうあれだ、あれ。罪悪感?

 そうそれ。そういうのがあって、行動の大半は自分が生き残るためと、そんでもってその罪悪感から逃げたくってだった。

 誰かのためって、それなら言い訳も立つからな。

 俺は今シンクに『あんたって底が浅いね』って言われたような気がしたぞ。

 希望的観測として被害妄想だったらいいな。



「どうせあんたなんて」



 うわ、すっげー続き聞きたくない。

 シンクの言葉は辛いからなぁ。



「あんたみたいな小心者が何したってワルモノになんてなれないんだから、好きにしたら?」



 この場を誤魔化そうと思って振り上げた手を俺はピタリと止めてしまった。

 そのまま手を下ろして息をつく。








 でもなー、シンク。

 世の中、小心者ゆえに悪者になっちゃう話なんて幾らでもあるんだぜ?


 










[3493] 三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/25 19:25
なぜか最後のほうがかなり損失してしまっているのに一晩ほど気が付いてませんでした。すみません。
修正済みです。どうぞ最後をご覧下さい。

修正二回目。修正ばかりでごめんなさい。
作中では答えられそうもないようなものが感想版に出ていたので修正ついでに答えておくと、なーやさんの『書き筋が銀凡伝っぽいな』と言うのは似たような形式で書いている、と言うのが答えになるかと思います。
感想読ませてもらっています。ノリのいい人が多くてほんとうに楽しいです。みんな大好き。













 たしかシンク現在16歳? アリエッタで17歳くらいのはず。

 むこうで有る程度外殻とかヴァンとかモースとかに片つけてから一年ぐらいは居たし。

 まあ正確な年齢、てのは結局誰のももうわからん訳だけど。

 おお、でもこうやって改めて年齢を比較してみるとどうみても実年齢と外見年齢が逆転してるな。

 しかもシンクのばあい16才っつーのもオリジナルイオンの頃から継続して数えた外見年齢で実際の年齢は三歳かそこらじゃなかったっけ?

 三歳かそこらのガキンチョに説教される俺成人。

 なっさけないなぁ。



 シンクとアリエッタにはここが異世界であることと俺がここの知識を持っていることを話した。

 その際にどうして俺がそんな事を知ってるのか、つー事に話が及んで俺は大ピンチになったわけだが、まあ、うん。

 ヴァンにするならともかくシンクたちには今更嘘もつけないんで『秘密秘密秘密ー!』の連呼で乗り切った。

 言わない、言えない、でも嘘はつかない。

 すまない、とは思うけど俺にとっての妥協点だった。

 これがヴァン相手なら喜んで嘘八百でっち上げるんだがなぁ、ヴァン相手なら。



 シンクに『あんた一人で悩まないで自分たちにも相談してよね! べ、別に心配なんてしてないんだからね! な、仲間なんだから当たり前でしょ!』って言われたからとりあえず相談してみた。

 アリエッタに向こうに帰りたいかって。



「ママにも、ちゃんと挨拶してきました。だから、いいです」



 これで俺の一人空回りが確定した。



「それに、アリエッタもそろそろ巣を出て新しい自分の巣を作って新しい家族を作る年頃だって言われました」

「巣……?」

「ママが巣を作っていた場所みたいないい場所が見つかるといいです」



 なんかそれ、違う気がする。



「なあアリエッタ」

「はい?」

「アリエッタのママはライガだよな?」

「そう、です」

「アリエッタは?」

「……? 人間?」

「そう、人間だ」



 よく出来ました、と頭を撫でる。

 嬉しそうに照れたように少し顔を俯ける仕草は前から変わらないけど、俺は知ってるぞー!!

 近頃は俺よりシンクのほうが嬉しいだろう!!

 くっ……くやしいっ!

 ふぅ、いけねぇ、理性が飛ぶところだったぜ。とにかくだ。



「アリエッタ。ライガママはライガだから巣だけど、アリエッタは人間だから巣じゃなくて家って言うんだよ」

「……そうだった」



 しゅん、と項垂れるアリエッタもまたかわゆし。

 だがしかし、アリエッタ本当に分かってるんだろうか。

 いつか木の洞にわらを敷き詰めてマイホームご招待されそうな気がひしひしとして来たぞ。

 別に相手共々納得済みなら巣でもいいような気がしてきたから危ない。

 おっかしーなー、ちゃんと教育してきたはずなのに。

 アリエッタも神託の盾に居たんだから人間が建物を作るってことは理解できる、筈なんだけど。

 いや、理解してるのかも知らんけど。

 でもそういえばアリエッタもシンクも神託の盾じゃある意味完全寮制だったし、家っつー物を知らんのは確かかもしれない。



 家を知らないアリエッタとシンク……。

 そ、そうか! 俺は家を造るんだ! そしてアリエッタとシンクとライガルと三人+一匹のほのぼのアットホームな生活を!!



「シンク、アリエッタ!」



 感極まって声を掛ければベッドに横たわっていたシンクが上半身を持ち上げ、ライガルと遊んでいたアリエッタがその手を休めて俺を見る。



「ヴェネツィアにいこう!」

「ヴェネツィア? それどこなのさ」

「水の都ヴェネツィア! 街中に流れる運河、噴水、白いハト!」



 そしてヴェネツィアといえば結婚式!

 ヴェネツィアで一軒家を構えそしてやがてはあのヴェネツィアで純白のウェディングの結婚式を!

 新郎新婦はもちろんシンクとアリエッタ!

 そして俺はアリエッタの父親代わりにアリエッタの手を引いて進むんだ。



「アッシュ、顔、気持ち悪い、です」



 ……ががーん。



「また妙な事考えてるんでしょ」



 素気無く切り捨てられた。

 寂しいぜ。

 俺のあしらい方もしっかり覚えちまって。

 そういやもう出会ってから三年か四年ほどにもなるんだよな。

 そりゃもう覚えられるか。シンクはさすがの参謀総長だけあって頭いいからな。

 そういや身長も大きくなったよなぁ。アリエッタは大して変わらんけど。

 鋭さをもつ精悍な感じ? 猛禽類、とか?

 かっこいーよなー。あれー、おっかしーなー。外見だけなら俺だってアッシュなんだからかっこいいのにかっこいいって言われた事ないぞ。

 それになにより。



身長もあまり伸びなかったしな!!



 くっそー、もう直ぐシンクに抜かれるぞ!

 シンク、いつまで成長期しているつもりだ!



 布団にうつぶせになってジト目でシンクを見ていたらシンクからはしろーい目で見つめられた。

 実際問題として、シンクとアリエッタは見ていると微笑ましいつーよりかは見ているとじりじりするっ! って位だ。

 俺が一人でウェディングドレスだのバージンロードだの言ってみたり思ってみたりしたところで確実に後数年は掛かるだろうと思う。

 もどかしいったらないぜ。

 しかも、だ。

 たぶんきっと俺が内心で思っているこれらの事を言ったりしたら、絶対シンクなら言うだろうね。



『僕たちのことより先に自分のこと心配したらどうなのさ。アッシュは僕達より“年上”なんだからさ』



 とかそういったことを辛らつに。

 今のは俺の脳内妄想、ってことで表現をやぁらかくしてるからな。

 本当のシンク節が炸裂したら俺のグラスハートは粉々だぜ。



「はぁ……」



 と息をつく。

 とりあえず、だ。

 もう直ぐクレスたちが立て替えてくれた宿代も無くなる。

 なんとか稼がなならねぇ。

 となると基本武闘派の俺たちにできることなんて高が知れてる。

 まあシンクは頭脳はかもしれないけど、もうすこしこっちの知識と常識とエトセトラが身に付くまでは武闘派分類でかまわんだろうし。



「とりあえずユークリッドまで行ってみよう」

「それってここより大きい町なの?」

「でかいはずだ。それにたしかクレスたちに見せてもらった地図でならヴェネツィアまでの道の途中にある町のはずだしな」

「へぇ」



 昔にプレイしたことが有るとは言え俺の脳内地図はもう役に立たないほど劣化していた。

 まあそこでクレスたちの地図をみせてもらってからおぼろげながらにいろいろと思い出したけどな。

 勉強覚えられなくてもどうしてゲームのことならすらすら覚えたんだよな。



「その間にでるだろう魔物を倒して、それである程度生計立てられそうだったらしばらくそういうのもやって見ようや。ユークリッドには闘技場も有るしな。知名度上げることができればなにか仕事もあるかもしれないし」

「とりあえず、それには賛成だね。それに、魔物を倒しながらこっちでの戦い方も見つけたいしね」



 と言ってシンクは拳を握ったり開いたりする。



「そうだな」



 それは俺も同意するところだった。

 こっちの世界には音素が無かった。

 皆無ではないのかもしれない、けど少なくとも感じられるほどの濃度には無い。

 それはつまり無いのも一緒だ。

 となると俺たちは皆奥義や技なんかの多くが使い物にならなくなる。

 物理的な威力なら今までどおりにあるだろうがそれに付加されていた音素力がまるでなくなると今までとも違う技になる。

 一つ一つ試して、実感して、今の自分がどれほど戦えるのかを確認して。

 そうじゃないと危ないからな。

 街の中に居る分には多分平気だろうけど、今の俺たちに街中だけで過ごせってのも無理な話だ。



 街中だけで、暮らしていこうと思って出来ないことはないだろうと思う。

 けど、せっかく仮面も必要なくなって、誰の目も憚る事無く思う存分世界を見に行けるようになったシンクを俺は一箇所に留めておくつもりはなかった。

 視界に仮面の映らない世界を見せたい。

 仮面を外した状態で誰の足音にも気兼ねなく深呼吸させたかった。



「さてシンク」

「なにさ」

「ここに後一日分の宿代がある」



 まとめ払いじゃなくて一日ずつ払ってるからな。



「今晩を野宿にする覚悟があれば多少の消耗品と食材くらいなら買えると思うんだがどうしようか」



 時間はもうまもなく昼ごろだ。

 この宿でも昼飯の用意を始めているのかいい匂いが漂ってくる。

 ちなみに俺たちの昼はない。注文してないからだ。

 宿泊費とは別払い、朝食サービスとかもなかった。ケチ。



「いまさら野宿程度でどうこういうような生活してないよ」

「アリエッタは?」

「私もいい。今日はライガルと寝る、です」

「そっか」



 まあ聞くまでもない答えだったかなぁ、とかちょっと思ったけどだってシンクに『あんた一人で悩まないで自分たちにも相談してよね! べ、別に心配なんてしてないんだからね! な、仲間なんだから当たり前でしょ!』って言われたからな、うん。

 相談してみた。



「んじゃいくか!」

「ああ」

「うん」



 そうして俺たちはうだうだとしていた宿屋のベッドを旅立った。

 時間的にはもう二、三時間宿を使っていられたけど、遅くなるまえに見知らぬ世界で野宿するのにいい場所を見つけておきたかったからな。



「食べられそうな魔物が居るといいよな」



 ボアとか、ボアとか、ウリボウとか?



「食費が浮くしね」



 しっかりとこういうところは俺色教育。















その頃のクレスたち。



「ムーングロムさん!」

「おお、クレスではないか」



 アルヴァニスタ城内で現代をぶっ飛ばした150年ぶりの再会を果たしていた。

 クレスにとっては今しがたのことであろうし、ルーングロムにとっても五十年間で何度か時間跳躍をしていないクレスには出会っているだろうが、それにしても百五十年、その程度では皺一つ増えない恐ろしきハーフエルフの寿命を妙に体感しているクレスたちだった。




[3493] 四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/28 21:59
前回の更新分が一番ほどの間尻切れトンボになっていました。
先に読んだ方、ごめんなさい。
現在は修正済みです。









 ユークリッドに行くまでにも何度か戦闘をした。

 戦い方を知らなきゃな、とか思っていたんだがこりゃ杞憂だったかもしれない。

 正直ヴォルトの洞窟のほうが魔物が強かった。

 あんま意味ねー。

 しかもうっぱらうのもヴォルトの洞窟で倒した魔物のオトシモノのほうが高かった。

 狩りをするならヴォルトの洞窟のほうが効率的だったかもしれない、んだが町から遠いのがネックだよな。

 なんだかんだ言ってみても、俺はやっぱりやぁらかいベッドのほうが好きだ。

 まあとかくこの通り、ろくな成果は無かったんだが、一つだけ異変があったとすれば俺達はその道中で奇妙な拾い物をしていた。一つ、というか一人?



 ユークリッドに行く途中の峠みたいなところを進んでいたら俺たちの目の前でチュンチュンに背後から頭を急襲されてあっという間に気絶した男だった。

 擬音をつけるならスコーン! って聞こえるだろうな。実際そんな音が聞こえたような錯覚を覚える光景だった。

 しかもヒット&アウェイ? みたなにその男の頭に突撃かまして逃げたチュンチュンのくちばしには見事な赤毛が咥えられていた。

 ……巣材にでもされるのかもな。

 思わず口から素直な感想が出てしまう。



「これなんてドリフ?」

「いや、わかんないからアッシュ」



 通じないってさみしぃ。



「アッシュ」

「なんだアリエッタ」

「襲われてる、です」



 アリエッタに示されて現実逃避から帰って来た先にはチュンチュンに頭突きかまされて目を回してぶっ倒れているそいつの頭に群がるチュンチュンの群だった。

 おおう、あいつ禿になっちまうぞ。



「シンク、アリエッタ、とりあえず助けるぞ」

「何で僕が」

「わかりました、です」



 アリエッタは俺に追随しているだけ、シンクは本気。

 あーくそ、ヴァンの奴憎い、憎いぞー。

 困っている人が居たら助けましょう、って凄く大事なことだと思ってるのってこのメンバーの中で俺だけ。

 情けは人のためならず、って言ったら俺は人に掛けた情けは巡りめぐって自分のところに帰って来るんだよ、だから困った人は助けてあげましょうね、って言うけどこいつ等ならきっと「情けは人のためにならないから掛けるなって意味だよ」とか言うんだぜ言うんだぜ、きっと。


 ヴァ~ンっ!

 情操教育とか道徳教育とか~。

 ……言うだけ無駄だと分かっちゃ居るけど殺伐とした考えを持つ若者って俺寂しい。

 俺も年取ったかな。

 とりあえず放っておくわけにもいかないからチュンチュンを追い散らしてそいつを保護した。

 そんでもってやっぱり放置するわけにも行かないから連れて行く。

 連れて行くっつっても宿じゃぁない。

 今は金を溜めている最中だからな。

 やぁらかいベッドがすきでも節約中。

 だから峠の上に作った簡易宿泊施設、はっきり言えばテントですらない、野宿している場所だ。

 それでも俺たちがこの世界で生きていくための足場を築く最前線基地だ! 侮るなよ!!

 雨降ったら撤退だけどな。








 一応今のところ俺が一番体格がいいから俺がこいつを背負って行く事になった。

 おもてぇ。

 しかも峠道だぞ。俺は野営地点を間違ったような気がしてならない。

 気絶、なんだろうけど途中から睡眠に移行したみたいに俺の背中でぐーすか寝息立てやがって。

 ムカついたからちょっと乱暴におろしたけど目覚めないなら知るか。



「アッシュと同じ髪の色、です」

「ん? おお、そうだな」



 地面に降ろしたそいつの頭のところに屈みこんで髪の毛を引っ張っているアリエッタ。

 そういえばここでぶっ倒れているこいつの髪の毛は俺の赤毛と負けず劣らず、と言った感じだった。

 ルークのように燃え立つような赤で無し、赤と言うより濃いピンク? といった色でも無し、レックスセンセーみたいな赤毛、だけど茶よりの赤毛、と言ったわけでもなし。

 染めてんのか? とか言いたくなるような真紅だった。

 俺としてはもともと今の髪の色は俺のもんじゃないし別に感慨もないんだがアリエッタにはなにかあるようだった。

 ちょっと憎憎しげにそいつの髪の毛を引っ張ってる。

 せっかく保護したのに禿げるぞ。



「アッシュと一緒……ズルイ、です」

「お、おいおい、ずるいってなぁ」

「シンクもそう思う、です」

「まっさかぁ」



 と振り返れば、ふんっ、と鼻を鳴らして居心地悪そうに身じろぎしているシンクの姿があった。

 マジ可愛いんだけど。

 ……おれどうやって反応したらいいのかわからん。



「アッシュ、アッシュ!」

「な、なんだ」

「これ、みるです」



 アリエッタに呼びかけられてちょっと助かった気分で彼女の指差す物を見れば、何で今まで気が付かなかったのかそいつの耳はとんがっていた。

 あれだ、ファンタジー、に出てくるエルフ耳だ。

 どうしてエルフの耳はとんがってるんだろうなぁ。

 とにかくエルフ耳だった。



「エルフ! ……のわけないか。んじゃハーフエルフ?」

「エルフって御伽噺のイキモノでしょ?」

「いや、ここじゃ現実だぞシンク。つーか、あのときのピンクの髪の子もハーフエルフだったぞ?」

「会ってないよ」

「そだっけ?」

「僕が起きたのは宿屋のベッドの上で、その時にはアッシュとアリエッタしか居なかったよ」

「そっか。んじゃはじめてみるのか」

「そういうことになるね」



 腕を組んだシンクが眼差しで説明しろと訴えてくる。

 あの魔女っ子を見てないんじゃ説明するしかないだろう。

 なんか俺の中じゃファンタジアと言えばエルフっていうのが当たり前すぎてすっかりシンクにとっては当たり前じゃないってことを忘れていた。



「エルフっつーのはまあシンクの知る御伽噺とかわらないだろうな。寿命が長くて、魔法が使える。音素を使う譜術じゃなくて、マナ、魔力を使う魔法だ。これはエルフとエルフの血を引くハーフエルフ以下クウォーターエルフエトセトラしか使えない血による魔術だな」

「人間には全く魔法は使えないの?」

「そういうことになってる。確かに魔法は使えないけどかわりに召喚術を会得した人間も居るな」

「召喚……」

「俺たちで言うところの音素意識集合体みたいな、それぞれの属性のマナを司る存在を召喚する技術だ」

「へぇ」



 シンクは心なしかまじまじと目の前のエルフ耳を見ているような気がする。



「ローレライが召喚できればいいのにね」

「そうだなぁ。あいつには色々迷惑かけられたからな」



 最後の最後でそれかよ! って衝動的に力をこめて一発ぶん殴ったらこれだしな。

 ファンタジアの世界にご招待! ってな。

 自由に呼び出せるならもう一発ぐらいいっとくってのに。

 相手が不定形のナマモノでもあっちの世界なら超振動で殴れる事は証明されている。

 俺がやった。



「だけど現在エルフは種族全員を集めて森の中に引き篭もってる。だから外の世界に出ている、ってだけでもう完全なエルフのはずはないんだ」

「またエルフって言うのもめんどくさい事してるよね」

「ちなみにエルフの里に入ったハーフエルフは例外なく死刑だそうだぞ」

「最悪」



 吐き捨てるようにシンクは言った。

 それぞれの事情、って言うのがあるんだろうが、理解されようとしなければ理解されない。

 世間的にはエルフの隠棲は突然の事、と言うことになってるらしいしな。



「しかしな。俺たちには法術は使えないから回復も出来ないし、魔術も使えないし」

「音素も駄目だしね」

「そうなんだよなぁ。音素さえ使えれば俺もシンクも一応第七音素使えるんだけどな」

「僕は回復術は知らないよ?」

「俺が知ってる。俺が教えればOKでしょ」



 言いながら赤毛のエルフ耳男の頭を持ち上げて髪にこびりついた血を流すために水をかける。

 これで目が覚めないかなー、と言う思惑も有るが寝汚い男だ。

 唸ってこそ居るが目覚めやしない。

 見た目は俺たちと同じくらいかちょっと若いくらいの男だけどエルフの血を引いてる、ってことは年齢など分かった物じゃない、ってことだ。

 この外見でじつはつい先日ひ孫が生まれてねぇ、とか言いかねない。



「ところでさ、こいつどうするの? この、ハーフエルフ」

「違う……」

「え?」



 なんか男の幽霊みたいな声が聞こえた。

 なんだ、と思えば直ぐにその声はもう一度聞こえてきた。

 もうすこし鮮明な響きをもって。



「ハーフエルフじゃない。俺はクォーターだ」

「あ、起きたのか。驚かすなよな」



 ナイスタイミングと言うべきかバッドタイミングと言うべきか。

 何処から起きて聞いていたのかね。



「あんた達だれだ? 俺はどうしてここに居るんだ」



 あれだけ見事に頭打っていてここは何処~? 私は誰~? とか言い出さないだけまだいいほうかもな。

 だがチュンチュンに襲われた記憶は無いみたいで水に濡れた頭と触ればまだ流しきれて居ない血液が手についてぎょっとしていた。

 自覚してから痛み出したんだろう。頭を抱えている。まあ、そんなもんだよな。



「あんたが峠でチュンチュンに襲われて気絶していたのを見つけたから保護して連れて来た。ここは俺たちの野営地。俺がアッシュであっちの生意気そうなのがシンクでこっちの可愛い子がアリエッタ。旅をしている。さて、俺たちは親切にも自己紹介までしてやったぞ。それで、あんたは何処のどなたさん?」

「俺は……」



 なぜか言い躊躇う本人曰くクォーターエルフ。



「言わないんなら勝手に呼ぶぞ。ドリフメンバーその1」



 あれは見事なドリフだった。



「なんか分からないがそれは嫌だ」

「だったら名乗れ」

「俺は……ムーングロム」

「ムーン、グロム? どっかで聞いたような気がしないでもないような……」



 押し黙るムーングロムを見る。

 誰かに似てる、何ていえるほどこっちの世界に知人居ないからなぁ。

 俺が一方的に知ってる人、って言うのもメインメンバーを除けばだいたいがドット絵の二頭身だし区別が付かん。



「ムーングロム、ムーングロム……ルーングロム?」

「……そいつは俺の曾祖父だ」

「ってことは、曾孫?」

「そうだ」

「あれ? でも曾孫なら八分の一じゃないの? いやまて、なんかもっと複雑じゃないか?」

「爺の勤めてる研究所はハーフエルフばっかりだ。あんたの言うとおりいろいろ複雑だけど計算上は4分の一になるはずだ」

「へぇ……」



 なんか良く分からないけど、いまならへぇボタンがたくさん押せそうな気分だった。



「ちょっと聞くけど、何歳?」

「15だ」



 見た目どおりの青少年らしい。

 へえボタン追加。






















Spcial Thanks 限限米さん



[3493] 五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/08/31 01:14






 へー、あのオッサン曾孫まで居るんだ。
 へーへーへー、とルーングロム本人のこともろくに知らないのに妙に感心していたらムーングロムの奴がふてくされた。
 きっと複雑な家庭事情があるのだろうと勝手に納得しておく。
 何があったのか知らないがムーングロムからは『あのクソジジィっ!』って気迫のような物が伝わってくる気がするんだよな。

 なんでアルヴァニスタ高官の親族が船も使えなくなって分断されたこっちの大陸のこんな田舎道にいるのか知らないけど。

 それが不思議であればあるほど不可思議な事情がある、ということだろう。

 聞いたりはしないけどそう思っておく。

 うん。



 法術も音素も使えない――まあ後者に関しては使いたくない、だな。

 シンクも俺も、外には無くても体の中には音素がある。

 いつもの調子で外部から音素を集めて譜術を発動させようとするから失敗するけど内部の音素を使えば使えないこともない、んだろう。

 実験もしたくないけどな。

 確実に音素乖離するだろうし。



 だから正確性を求めるなら使えない、じゃなくって使いたくないになるんだろう。

 ま、俺にとってはこっちじゃシンクとアリエッタ以外に命を掛けて回復術を使ってもいいと思えるような相手は居ないし。

 シンクはそもそも回復術をまだ知らないしな。



 超振動はそもそも二つの第七音素を共鳴させて使うから俺単独じゃ無理だけど。

 あっちの世界で俺が単独で超振動を使えたのは俺自身の第七音素が第七音素振動数と一致していたからだ。

 まあそれもシンクが居るから二人で超振動、とかもできるかもしれない。ティアとルークみたいに。



 とくにかく法術も音素も使えないから回復術が使えないので物理的にガーゼと包帯で治療されているムーングロム。

 そのせいで見た目がかなり憐れだった。

 一度山から下りてユークリッドまで行って、わざわざ包帯とガーゼを買い求めた。

 まあそのガルドはムーングロムと言う名前のドリフメンバーその1の懐から出ているけどな。

 俺たちもここ最近の狩りの成果を売りに行くには丁度良かったし。



 その道中、俺には一つ期待していたことがあった。

 このクォーターエルフのルーン……じゃなかった。こいつちょっとでもルーンとか言いかけると途端に機嫌が悪くなるんだよな。

 とにかく俺はムーングロムに期待していたことがある。



 それが、魔術だ。



 俺たちは今現状として譜術が使えない。

 その上で魔術も使えない。

 FOFも発生しないし、Cコアも効力を失ったからその分身体能力も下がる。

 下がった、つってもこの辺りの魔物にどうにかされるほどじゃないけど。

 向こうの世界だったらヴォルトの洞窟の魔物ぐらいFOFとCコアの力を借りている状態なら何の苦もなかっただろう。

 大変、って程じゃなくても、向こうと比べるとちょっときつかった。



 何より怪我をしても回復の手段が無い、って言うのが大きかった。

 向こうなら死なない程度の相打ちなら覚悟して突っ込む事もあったんだが、こっちじゃそれをやったら後がなくなるからな。

 そうなると近接攻撃の手段しか持たない俺たちは非常に苦しい。

 そこで出番となるのがウォーターエルフのムーングロムだった。



 クォーター=ハーフの更に半分、と言うことで単純にアーチェの半分程度でも魔術が使えればいいよな、楽になるし、と考えていた。

 俺たちには今特に何処かに定住しようと言う意思は無かったから、ムーングロムが何処かに行く途中ならそれについていく形で魔術の助けの有る旅が出来ないかな、とか甘い事考えていた。

 それがいきなり道中で覆された。



 数匹の魔物に囲まれている。

 俺はクレスから譲りうけた剣を構える、シンクは拳を構える。アリエッタはライガルと待機。

 正直もうちょっと強力なお友達が増えてくれないとアリエッタは戦力外だ。

 譜術が使えるならともかく、そうじゃないなら肉弾戦はほぼ無理。狩りならできるけど。

 そんな状態で残る一人のムーングロムがどうするのか。

 普通に考えれば牽制のための魔術を唱えるだろう。

 威力の高低は関係ない。一瞬でもたじろがせて安全に的の懐に飛び込める隙を作り出しさえすればいいんだ。

 そして実際、彼の呪文を唱える声がする。なんかザコ戦とは思えないものすごい意気込みだ。

 発動した瞬間に飛び出そう、と俺は剣を握る手に力をこめた。

 そして、呪文は朗々と唱えられる――



「ファイアーボール!」



 ……ぷすん。



「はぁ……?」



 な、なんだったんだ今のは。



「……悪い。本当に悪い。俺、本当は殆ど魔術扱えないんだ」



 な、なんだってー!

 と問い詰める時間も無い。

 不発の魔術に気を良くしたかのように魔物たちが次々と襲い掛かってきていた。










 後で分かった事だったんだが、こいつは殆ど魔術の使えないクォーターエルフである事と研究者になれるほどにはおつむが良くない事、その上で曽祖父が有名すぎることとが相まってアルヴァニスタには居づらかったってこと。

 まあその際に曽祖父ルーングロムとも何か確執があったらしい。



 それでアルヴァニスタを飛び出して、まだダオスの支配が強くないころに大陸を渡ってきたらしい。

 で、今度は帰れなくなった、と。

 長く居ればガルドだって尽きてくる。

 しょうがないから仕事を探そうとする物の、ダオスのせいでめっちゃ不景気。

 しょうがないから魔物を倒そうと出てったものの、武術も得意じゃないし、魔術に関してはあれだ。

 まごまごしているうちにチュンチュンに襲われて、と。



 そんな裏があったなら。

 言いづらかったにしてもバトル前には一言言って置いて欲しかったぜ。

 俺のあまぁ~い計画もおじゃん。

 二進も三進もいかなくなったこいつにとって、俺たちがユークリッドに行くって言うのは渡りに船だったわけだ。

 そんでもって包帯とガーゼで所持金はほぼオケラ。



「ここで放り出したら俺たち鬼じゃないか?」

「放っとけば? こんな奴」

「シンクは、私たち三人の間に、誰か入って来るのに、嫉妬しているだけ、です」

「べ、別になんで僕がこんな奴に嫉妬なんてし無くちゃいけないのさ! 勝手なこと言わないでよねアリエッタ」



 ……これもツンデレ?



「あ、の……それで、俺は結局……」



 どうなるの? とまで言えない気持ちも分かるにはわかるが、俺たちも荷物を抱えていられるほど余裕のある旅じゃない。

 さてどうした物か。



「つれてく、か」

「どうしてさ、こんなお荷物」

「ルーングロムのところに連れて行けばなんかいいことありそうじゃん。相手はアルヴァニスタの高官だし」

「何であんな糞ジジイのところになんか――!」

「じゃあ置いてく」

「なん……か………っ」



 悔しそうにするけどがくんと肩の落ちるムーングロム。



「実際問題としちゃさ、アリエッタと一緒に庇っておけばいいっしょ。殆ど野営だから宿代もたいした違いがでないし、ルーングロムがドケチでも、曾孫のために使った宿泊費や食費くらい出してくれるだろうし。べつにルーングロムじゃなくてもこいつの両親でもいいわけじゃん」

「……べつに」

「拗ねるなよシンク。まあいいじゃないのさ。どうせ大陸渡ろうとしていたしね」



 と言うことで一応の決着を見た。

 シンクはそれでも不満そうだったけど、実はそのあとおれはムーングロムに強く言い含めていたことがある。

 戦力にならないなら。

 俺になにかあったときにはシンクとアリエッタをつれて逃げろ、って。

 それだけは頷かせた。

 まあ、そんな事ないに尽きるし、可能な限り起こさせないつもりだ。

 保険だ保険。

 なんだかんだ言って忌み嫌ってみても、ムーングロムには俺たちと違っていざとなれば逃げ込める場所がある。

 ルーングロムお所に逃げ込めば、アリエッタもシンクも大なり小なり保護を受けられるだろうと言う下心だ。



 そんなこんなで俺たちは新しい旅の仲間を一人加えてとりあえず大陸を脱出して新天地を目指すことにした。

 何処に定住するかは全部の都市を見てからでも遅くないよね、ということで。

 ミゲールの町とユークリッドにいったから、あとはアルヴァニスタとアーリィと、後何処だったっけ。

 アーリィは寒そうだけどなんか雪国っていいよな、っていう気持ちも有る。

 アルヴァニスタはあんまりとかいっぽかったらやめようかな、って気持ちも有る。

 煩いのは好きじゃない。

 けど大都会なら仕事はたくさんありそうな気もする。

 俺もそろそろ普通の暮らしがしてみたいなー、とか?



「よっし、いくぞ!」



 おれはユークリッドの城門から外に向かって腕を振り上げる。

 闘技場はなー、まだ俺たちが出会ったときにクレスたちの仲間にすずちゃんが居なかったってことはなにかが凄く危ない予感がするから後回し。


「まずは海の仲間とお友達になろう大作戦だ!」


「だから、分からないってアッシュ」



 べつに元ネタがあるわけじゃなくて率直な作戦名なんだけどなー。

 ま、いいや。

 それよりも。



「それよりも、だ。ムーングロム。あんたの名前は呼びにくい。俺もなんどもルーングロムと呼び間違えそうになった」

「……うるさい」



 ものすごい勢いで威勢を失っていくムーングロム。

 今までにも呼び間違えられるなんて事はざらにあったのだろう。

 ルーングロムという名前の曽祖父が先にあるから仕方のないこととは言えお年頃のココロには色々とかなり複雑だろうとは思う。

 思うが実際呼びにくいし間違えるたびに機嫌が降下するんじゃ俺も付き合いきれない。



「だから呼び名を変えようと思う。愛称だ愛称」

「変えるって何を勝手に――」

「ドリフとムンムンとグロウ、どれがいい?」

「前の二つなんなんだよ。ムンムンなんて俺絶対嫌だぞ」



 そりゃそうだろう。

 俺だってもし呼ばれたら絶対嫌だが強制ではないし。

 だがもし本人がこれが良いと言ってもむしろ呼びたくない。

 ドリフはまあ、それが変だって事がわかるのは俺一人だから逆に問題ないと言えるかもしれない。

 アビスの世界に憑依トリップして萌えとツンデレが通じなかった時のようなカルチャーショックで。

 最後のグロウだが、まあ。



「なら最後のな」

「……なあ、どうしてグロウなんだよ」

「ただのスペル変化だ」



 LとRを区別しない日本人特有の感性で。

 個人的にはCとKも怪しい。



「後は、まあ育つ、とか成長する、とかいう意味もあったような気がしないでもないな」



 俺にしては今回はかなりまともな意見だと思うんだが。

 とうの本人は俯いてしまっていて気に入っているんだが気にいらないんだか全く分からない。

 だが本人が不服を唱えないならまあいいだろう。

 これで呼び間違いも減るしな。



 俺と不機嫌そうに早足で歩くシンクとなぜかご機嫌のアリエッとライガルの後ろにもう一人新入りが肩を落として付いてくる。

 世界はダオスで混乱していても、俺たちにとっては世は並べてことも無し。

 誰の視線も気にする事無く風を受けて歩ける場所。



 最初はシンクのため、って思っていた。

 だけど、俺にとってもここち良かった。

 イオンレプリカのシンク、六神将妖獣のアリエッタの二つ名を持つアリエッタ、そしてかつて六神将の一員として数えられ、また見る人が見れば分かってしまうオリジナルルークとしての顔を持つ俺。

 あの世界が狭くて息苦しいのは、俺も――俺たちみんな、一緒だった。









 













その頃のクレスたち。



「すずちゃん……なんであんな事に」

「悲しい出来事、でしたね」

「そうだな」



 クレスの呟きにミントが答え、クラースがぼやく。

 たった今ユークリッドの闘技場で起こった出来事だった。

 幼い少女とその両親の物語がひとつ終わりを告げた時。



「ねえクレスさん。ユミルの森に行きませんか? 忍者の里に行って、もう一度すずさんと会ってみませんか?」

「そう、だな。……行ってみよう」



 意気消沈して闘技場から出て行くクレスたち。

 彼らと彼らはすれ違う事も無く同じ町から出て行った。






[3493] 六回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/09/03 01:23





 いっそのこと混血ももっと進めばそのうちエルフと人間の確執なんて言ってられなくなるだろう。

 人間の繁殖力はエルフと比べると短命だから増えるが、エルフと人が交じり合う事で長命で繁殖力の強い生物になるかもしれないし。

 それって最強?

 ハーフエルフやクォーターエルフがその寿命の分だけ子供を生めば確執だなんだっていってられ無い事態になるのは確かだろうな。



 魔術の使えないクォーターエルフとはなにか。

 それはただ耳が長くて寿命も長いだけの人間である。

 おわり。



 そんなムーングロム愛称グロウを仲間に加えて俺たちの新しい旅は始まった。

 グロウも何だかんだ言ったところでいつかはアルヴァニスタに帰らなきゃならないって事はわかっていたみたいで、シンクに邪険にされながらもしおらしく一緒についてくる。
 
 俺たちの中でのヒエラルキーが低いせいかライガルにも下僕認定されてしまったみたいだった。

 休憩時にはグロウはよくライガルの毛づくろい……毛を梳いている。

 ライガルは威張る相手が出来たのが嬉しいみたいだ。

 一途に俺についてきていたライガルだ。そろそろ子分が出来てもいいだろう。

 俺ちょっと寂しいけど。



 それにしてもグロウがグロウと言う愛称を受け入れてくれたのは良かった。

 俺はムーングロムとルーングロムに冗談じゃなく混乱していた。

 グロウって言う音には確かに成長、って意味があったけどローマ字読みにしてguromuからmを抜いてgurouにしただけだった。

 英語のグロウとはスペルももちろん違うし、本人には言っていないけど、m抜きは本名でなら曾孫と曽祖父の関係である二人のグロムは重なっているけどグロムになるには一つ足りない、っていうただの俺なりの皮肉だった。

 実戦になってからいきなり魔術が使えない事を暴露したやり方に俺は結構腹が立っていた。

 敵が弱かったから良かったものの、場合によっては致命傷にもなるあのやり方は裏切りにも等しい。

 だからグロウって呼ぶのはお前は曽祖父には及ばない、って暗に言っているのともっと成長しろよこのやろう、と言う意味の両方がある。



 俺たちは一応一路アルヴァニスタを目指している。

 魔術が使えない上に武術も使えないってことは、荷物に等しいわけだ。

 今はシンクや俺に暇を見ては手解きを受けているけど使い物になるにはまだ掛かるだろうし。

 守る手間はそう変わらないとは言え守らずに戦えるならその方がいい。

だからとりあえずアルヴァニスタを目指す事で荷物を片付けて、その上で定住するなら何処がいいか各都市を巡ろうと思った。

 すっかり定住前提になっているのは、こっちに来た直後と比べると格段に帰還しなければ、という意思が薄くなったせいだった。

 生活費とかは大変だけど、もんのすごいのびのびくらせる。

 あっちに無理して帰る意味あるの? ってなもんだった。


 
 一路アルヴァニスタを目指すからには大陸を越えなけりゃならんわけで、大陸越えと言えば一応船だ。

 レアバードが使えればいいんだけどこの際贅沢は言えない。
 俺たちなんぞに貸し出すレアバードはないだろうし、あったとしてもヴォルトが居ないから無理だろうし。

 だからまずユークリッドからアルヴァニスタ航路の船が出ている港に向かった。

 船が出ていないのは知っている。クレスたちはだからレアバードを求めたんだからな。

 だからこその「海の仲間とお友達になろう!」計画だ。

 ちょっと無理をしてでもとりあえず船を出してもらってそこで襲われたらそいつを倒して力関係とか上下関係とか分からせた上でアリエッタに説得させてそいつに陸まで運ばせる!

 何て完璧な計画なんだ俺天才!?



 とか思っていた時期が俺にもありました。



 船に乗れない船乗り達や商品を運べない商人が腐っていたり実際に航海に出れない船が腐っていたり。

 港は蟹の独擅場だった。

 あの、蟹の。

 たかが蟹の癖して異様に強くダメージはほぼ一、そしてその体の向こうに宝場をを見えるように置いていると言うあの蟹の。

 まあかには置いといて、その港で俺は一人のおやっさんに目をつけた。



「なあおっちゃん、この海の魔物って何が出るの?」

「ああ? 何ってそりゃ……」



 交渉の前段階として尋ねた俺に怪訝そうな顔をしたおっちゃんはそれでも素直に答えてくれる。



「クラーケンに決まってるだろ」

「クラーケンって……」

「烏賊だよ、烏賊。十メートルはあるんじゃないかってでっけぇ烏賊な」



 海竜さ、とか言われたら嬉々としてその海域に乗り込んでいこうと思っていたけど、イカか。

 十メートルあったとしても、一体烏賊にどれくらいの思考能力があるんだろうか。

 そもそも十メートルも有る烏賊なんて倒せないだろう?

 足切ったら逃げられそうだし。烏賊焼か塩辛か松前漬けかは迷うところだが調教できる気はしないな。

 そーかー、クラーケンってほんとに居るんだ。



 ここまで来た時点で俺が何も言わなくてもどうやらシンクには俺が何をしたかったのかが分かったらしく深くふか~く、冷めた溜息を疲れた。

『アッシュって馬鹿でしょ』とか幻聴が聞こえてきそうだ。



「アッシュってさ、馬鹿でしょ」



 ……もっとしみじみ言われてしまったぜ。









 しかたが無いので今度は山に行った。

 グロウに何やってんだ? こいつ。見たいな目で見られながら。

 ゲーム中じゃ入れないマップだな。だけど俺たち今三次元! バッチリ登山だってできるんだぜ?

 ダオスの支配が及んでいる、とは言え理性の強い魔物以外は結構話せるところもある。

 んでもって逆に本当に理性の強い魔物はダオスの支配を認めるかどうかを自分で考えている。

 受け入れるか、忠誠するか、拒むか。



 アリエッタの話じゃダオスは人間以外には結構優しいらしい。

 そりゃそうだよな。ダオスは人間に絶望してるんだ。

 港じゃ船は出せないって言うのにどうやって海を渡るんだ? って何度も聞かれたけど、手段が確定するまで話す気は無い。

 シンクはもちろんのことアリエッタも気が付いていてきょろきょろと周囲を見渡している。

 フレスベルクみたいなカッコイイ奴とは言わないから俺たちを運んで飛べる奴出て来い!

 ってなもんだった。









 ……ちょっと大物過ぎたかも。



「どうする? アッシュ」

「勝てると思うか?」

「……五分、かな」



 あんなの相手に五分って言えるあんたはすごい。



「な、なぁ、早く逃げようぜ?」



 盛大に顔を引きつらせながら服を引っ張って後ろに行こうとする君の気持ちもよく分かるよグロウ。



「『侵入者はお前たちか。わが縄張りに侵入するからにはそれなりの覚悟はあるのだろう?』だって、言ってる、です」

「翻訳ありがとうアリエッタ。それでさ、何とか説得できない?」

「わかった。してみる、です」



 アリエッタは気合を入れて頷くと牙をむいて威嚇する飛竜に向き直った。

 海に行った時は確かに竜狙いだった。海を脅かす魔物と言えば竜、見たいなみょうな先入観があったからだ。

 正直烏賊のことは頭に無かった。

 俺の読んだ本の中ではことごとくクラーケンは船を襲っては足を切られて撤退した上に残した足は美味しく調理されていたからだ。

 だったんだが……実際の脅威となると違うな。おらビックリだぞ。



 俺たちは頼もしいアリエッタの背中を見る。

 頼もしく見てるのは俺だけかもしれないけど。

 グロウは事情がわかってないし、シンクは牙をむく飛竜にいつでも飛びかかれるように準備している。

 俺だっていつでも剣を抜けるようにはしている。

 けどシンクが五分だって言うなら、いざ開戦となったなら逃げるが勝ちだろう。

 空を飛べる飛竜相手に何処まで逃げられるかは疑問だがな。





「むむっ!」



 アリエッタは仲間にして欲しそうに飛竜を見つめた。



「シャァァァァーッ!」



 飛竜は牙を向いた。



「って……俺は今何を考えた……?」

「どうしたのさアッシュ」



 自分の思考に驚愕して思わず口を突いて出た言葉に返答があって困る。



「いや、独り言だ」



 シンクはふぅ、っと息をつくと、



「ったく、しっかりしてよね、アッシュ。あんたみたいのでも一応最年長者なんだからね?」

「おう。……?」



 褒められている気がしない言葉、だけどこれは期待されてるってことでいいんだろうか。

 あっちの世界に居たときからシンクは別に年上だからって相手を敬ったりした事が無いし。



「アッシュ、アッシュ!」



 そのことについて深く考えようと思ったときにアリエッタに可愛らしく呼ばれて雑多な思考は空の彼方に、星にもならずに大気圏摩擦で消し飛んだ。



「どうしたアリエッ――」



 振り返った目の前にせまる黄ばんだ鋭い牙と赤く暗い口腔。

 喉の置くまでバッチリだ。



「ぎゃあ」



 ああああああぁぁぁぁっっ!!



 口で叫べなくても心の中で叫び続けた。

 迫ってきたのはもちろん竜の口で、俺はがっぷり頭からマルカジリにされていた。

 俺の頭を咥えた口にぐっと力が入る。

 ああ、死んだな、と思った。








 ら。

 その口はべろん、とそのなんともいえない舌触りを残す舌で顔面を一舐めするとゆっくりと離れて行った。



 し、心臓が壊れる。

 死ぬかと思った! 死んだと思ったよビックリだよおい!!



「この子が、私たちを運んでくれるって、言ってました」

「今のは?」

「……味を確かめたらいいって」



 もじもじとしながらアリエッタが言った。



「……マジで!?」



 俺味見されたの!?!?
 
 一瞬思考が停止した。

 うそ、マジで? こんな立派な飛竜も思考はどっかずれてんの?

 でも確かに牙も引っ込めて唸り声もやんでいる。

 味見したらOKってマジ?

 首をアリエッタに近づけて、アリエッタがうんうん頷いているのはまるで会話をしているみたいだ。

 つか、してる?

 まさか海の上まで運んでおいて落っことすつもりじゃないだろうか。いやいやいやプライドが高そうな竜だしまさかそんな事。



「ど、どうしてとか、理由聞いてもいいか?」



 尋ねるとなぜかアリエッタはキョドる。

 うむ、久方ぶりに極大の萌えだ。

 だが味わっている余裕はなかった。それにも勝る不快感が俺を襲っている。

 髪までべっとりの唾液まみれだ。

 アリエッタは俺を見てシンク見てライガルを見て飛竜を見て、俺を見てシンク見てライガルを見ておまけ感たっぷりにグロウを見てその見られ方の明らかなオマケ感にグロウが凹んで竜を見て、そしてなぜかアリエッタは頬を染めて恥しげに俯いた。

 な、なんだこの萌えは!

 不快感すら上回る!

 巨大な竜を背後に従えて照れる外見幼女の17歳! 日本国憲法ならもう結婚できる年齢なんて嘘だろう!



「……秘密、です」



 一言呟いたアリエッタの言葉に彼女の背後で飛竜が頷いたように見えた。

 幸先はいい、んだろうと思う。

 現実にはいいんだろうけどなんだか良いんだか悪いんだか良くわからん気持ちになったえーっと、季節はいつだろう。












[3493] 七回目=The Final.
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/09/11 01:02





 俺はもちろん竜となんて会話できないしアリエッタは口を割らないしなんで俺が味見されたのかさっぱり分からん。

 それですんだなら良かったんじゃないの? ってシンクには言われたが納得いかない物はいかないぞ。



 一応全部洗ったんだがまだ生臭いような気がしてならない。

 シンクもグロウもアリエッタでさえも別に臭わないと言うから多分気のせいなんだろう、けどなんか臭う気がする。

 だがあによりあの巨大でぬめっとしたべろにべろんとされた感触がぞわっとして忘れられん。

 なんだかあの竜、また俺を味見する機会を狙っているように思えて俺は気が気じゃない。



 俺たちは今空の上に居た。

 アリエッタとシンクが飛竜の首筋に、俺は飛竜の首にぶら下げられているコンテナの中に居る。

 廃材のコンテナを半分にぶった切って紐を通して飛竜の首に括りつけて飛んでもらっていた。



 最初は俺もグロウのやつも含めて飛竜の首筋や足に捕まって移動しようかって事だったんだが……グロウってほんと使えねぇ。

 エルフの血が入っているのに魔術は使えないしチュンチュンに気絶させられて毛髪を採取されるくらいに武術もダメだし実はこいつ空もダメだった。

 アリエッタ曰く、あの飛竜は三人くらいだったら背中側に乗せられるって言うから、そっちのほうが安全だろうって思ってアリエッタとシンクとグロウを乗せて俺が足に掴まるって言う構造だったんだが。

 見上げていた時までは興味津々だったグロウが背中側に上がったとたんに無口になって飛び上がったとたんにガタガタ震えて身も世も無いっつーような悲鳴を上げて直ぐ隣に居たアリエッタに掴まった。

 直ぐに振り払われたわけだが更に逆のシンクに掴みにいって掴まる前に避けられて転げ落ちた。

 低い位置だったからそんな害も無かったんだが……。



 そんな訳で俺とグロウがコンテナもどきの中に居る。

 アリエッタもシンクもこいつと同乗しねぇんだもん。

 グロウもグロウで不安定な足場の上に居ると怯えまくった挙句に転がり落ちるかもしれないから背中側に俺と乗る、つー選択肢も無い。

 コンテナ改造なんて手間暇かけずに無理やりこいつを俺と一緒に背中側に乗っけてしまおうかと思ったこともある。

 正直俺たちだけだったらどれほど楽だったか、とか思わなくも無い。

 無いんだが――コンテナには一つだけ利点がある。



「……静かって、いいよな」



 遠くを見ながらそう呟く俺の傍らにはぐったりと意識を失っているグロウが居た。

 あんまり煩いから当身を食らわせて強制的に黙ってもらった。

 これだよな、コンテナの利点って。

 飛竜の背中側じゃ気を失った人間なんて乗せて置けないもんな。



「あー……、いい天気だぜ」



 とりあえずあっちの大陸に着いたら自分の変わりに狩りををしろって言われてるからな。

 飛流の口に合う獲物を求めて大立ちまわり、ってことになるんだろうが。

 それにしても今は穏かな時間だよなぁ。

 シンクもアリエッタも煩いのと乗るのは嫌だ何ていわずに一緒に乗れば良かったのにさ。

 だって今は静かなもんじゃん。











 途中何度か目覚めたグロウを何度か気絶させているうちにグロウも学習したらしく最後には一応喚かなくなった。

 ガッチガチに震えて固くなってコンテナの隅に座りこんで景色も空も見ないような有様だったけどな。

 そんなでも時々突然恐慌状態に陥るから侮れねぇぜ。

 そんな訳で今もグロウは気絶中。

 しかしなんだろう。

 俺自身不思議なんだがこのグロウのヒエラルキーの低さ。

 どうしてグロウはこんなに扱いが低いんだろうか。

 いっそ不思議なほど低い。



 この調子じゃ一日足らずで付くだろうなと思う短い工程の間に当身を食らって何度も起き上がるグロウはゾンビ並みにタフだな。

 もしかしたらそのギャグ属性がグロウの扱いを軽くするのか!?

 そういえばチュンチュンに襲われていたときも結局あれだ、狙いは毛髪って辺り命に関わらないし。



「う、うぅぅん……」

「おー、また目が覚めたか?」



 空に流していた目を転がっていたグロウに落とす。

 目が覚めたんじゃなくて魘されているだけか? と思ってみていたらしばらくして薄目を開けた。



「おはようグロウ。今日もいい天気だ」



 わざとらしく清々しい台詞の挨拶をする。



「ここ……はぁあっ!!」



 寝ぼけ眼を擦る途中で突風が吹いた。

 黙っていればやり過ごせるだろう、と俺は思うが、



「うわぁあああああああ」



 何処で息継ぎしてるんだ? ってくらいに叫び続けるグロウ。



「おい、暴れるなって!」

「おおお落ちるっ!」

「暴れなきゃ落ちないっつの!」

「うわぁ、うわぁぁああ」

「っち」



 言って聞かせても聞く余裕の無いグロウ。

 正直今だけでもおとなしくしていて欲しかった。

 この揺れじゃ当身も食らわせられないとは言えこのままじゃ一緒に落ちる。

 おろしてくれー、と言える陸地も無い。

 俺は揺れに耐えながらグロウの肩を掴むと無理やり振り向かせながらどん、と……あれ? ぐら?



「うわぁあ!」



 投げ出された。



「シンク、アリエッタ!!」



 気絶したグロウの襟首を捕まえてまっさかさまに落ちる。

 体勢を入れ替えて上を見れば急いで飛竜が降りてきているのが見えるが首のコンテナと上に居るシンクとアリエッタを気遣って最高速をたたき出すことは出来ない。

 俺の叫び声も聞こえていないだろう。

 下は海だ。

 水だからといって侮れない。着水時の衝撃は詳しい数値をは知らないがコンクリートといい勝負らしい。



「くそっ、譜術さえ使えたら!」



 落下自体は止められなくても風の譜術で衝撃を緩和するくらいの手は打てたかもしれないのに。



「くそっ」



 ごうごうと耳元を風が過ぎる。

 風はあるのに、ここのは風の音素じゃなくて風のマナなんだ。

 どうする、どうする、どうする?

 譜術は使えない、もしかしたら危機的状況で能力が目覚める奇跡が針の先ほど、砂漠の砂ほどの可能性で期待できたかもしれないグロウも気絶したまんまだ。

 どうする、どうする?



 何度も自分に対して問いを重ねた。

 だけど混乱した頭はいい答えなんて出してくれない。

 マジどうしよ。そう思ったとき一つの可能性に思い当たった。



 譜術。

 それも、外部からフォニムを取り込む譜術じゃなくて自分の中から音素を搾り出して使う譜術だ。

 向こうの世界で四属性の譜術が使えたって事は俺は殆ど第七音素に近い体とは言え外部の音素に共鳴する内部の音素もあったってことだ。



 だから乖離の危険があるとしても、もしかしたら使えるかも知れない。

 えーっと、風の譜術風の譜術……サンダーブレードとか使えねぇし。

 俺にはファジー回路付いてねぇんだよ! どうせ画一的な使いか確かできねょ!

 ああっ、もうわかんねぇよ! 海だぞ海! 目の前だっての!


 とにかく間接的にでも一度衝撃を殺せばいいんだろ!!



「超振動ーーーーーっ!!」








 目の前の海に体内の第七音素だけで超振動をぶっ放したことは分かっている。

 俺だけじゃ共鳴する音素が無いはずなんだが、とっさに回復術を組み立ててそれように纏めた第七音素とそれ以外の自分の第七音素で共鳴させた俺って実は天才かもしれない。

 極限状態のなせる業だな。

 もうムリ。



 そんでその超振動を海に向かってぶっ放して、凄すぎて音にもならない爆発音と水しぶきとにもみくちゃにされて、落下の衝撃はそれで殺せたんだろうけど無理な超振動を使った脱力感に俺は目を閉じた。

 せっかく助かったのに、乖離して死ぬのか、ってのが多分最後に考えていたことだ。

 強制的な脱力感にはとても抗えなかった。

 乖離して無くてもあれじゃ浮かび上がることも出来なかっただろうと思う。

 けどまあ乖離しなかったならアリエッタやシンクやあの飛竜にひろってもらえた可能性もゼロじゃないが多分きっとこれは違うだろうと思う。



「……空が綺麗だなー」



 と呟く。

 塩辛い唇がひび割れてるから多分あれは夢じゃない。

 つーか全身の服が塩噴いてなんかざらざら。気持ち悪いし。



「よっこらせ」



 と上半身を起こせば目に入るのは一面の花畑だった。

 冗談抜きで。

 ピンクとか白とか黄色とか、でもやっぱりメインはピンク?

 ちょうちょが舞っていて風が吹けば花びらが空を飛んで。

 邪魔な前髪を掻き揚げようと手を持ち上げて気が付く。



「無事、だったのか? こいつも」



 掴んだままの俺と同じく塩まみれのグロウが居た。

 すげぇ根性。あんな事があっても手放さなかったんだな、俺。

 俺グッジョブ?



「おーい……だめか」



 まだ気絶しているみたいだったけど息があるから別にいいや。



「にしてもここ、何処だ?」



 海岸に流れ着いた、っていうならまだ分からなくもない。

 だがここは花畑の真っ只中。

 つことは陸のほうに入っているってことだ。

 こんな塩まみれの俺たちが。誰が運んだんだ? 衝撃でぶっ飛ばされてここに落ちたって割には怪我一つない。

 体を触って点検してみたが打撲傷も、落ちたって言うほどの物はない。



 目を凝らすと遠くには海が見えた。

 荒れた海だ。

 そして灯台。



「花畑と灯台って言うと、あれみたいだよなー」



 さてどうやってあの二人を探した物かと考えている俺の背後から近付いてくる足音が聞こえた。

 花畑を踏み分けてやってくる。

 俺は振り返ってそいつを見てぎょっとした。


 そいつはざくざくと花畑に踏み入ってきてある程度俺に近付くと目を細めて俺を観察した。



 うっそーん。



 それが今の俺の嘘偽らざる内心だ。

 まだ夢見てるのかな、それともマジで死んだかなこれは。

 と言う感じだ。

 そいつはじっと俺を見る。

 俺はそっと自分の足を自分で踏んだ。

 痛い。



 うっそーん。

 え、マジ?



「あんた――」



 そいつが口を開く。

 俺はやっぱり信じられなくて足元に居たグロウをそっと踏んでみた。



「う、うぅーーん」



 グロウは痛みに顔をしかめて唸る。

 他人も居るからやっぱり夢じゃない?



「あんた誰だ?」

「お前こそ誰だよ」



 誰か俺のこの口閉じて。

 分かってる。分かってるからあいつが誰かってことくらい。

 ここが花畑で遠くに灯台があって、そいつの額には斜めに走った特徴的な傷があって、首元にはグリーヴァのペンダントがあって、腰にはガンブレード吊るしてるんだぜ?

 条件オールコンプリート。後は名前を聞くだけだ。

 聞きたくないけど。



 そいつが黙ったのをいいことに、聞きたくない俺は言ってみた。

 自分で決着をつけるといえばカッコイイがある意味自虐だよな。



「なあ、あんたスコール・レオンハート?」



 そいつの顔が不機嫌に歪んだ。











                                      The Final.



[3493] 八回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/09/17 13:28




 あはは、あはははははは、お花畑が見えるよなあ爺さん。

 なんで爺さんそんなところに居るんだ? そんな深い川があっちゃ俺渡れないだろ、久しぶりに会うのにさぁ。

 そういえば爺さん、最後に見取ったのは俺だったっけ。

 末期の水にって高級焼酎空けやがって、じいさんそのせいで死んだんじゃねぇの?

 まあいい年だったし、あの年であんなに幸せそうに逝きゃ大往生だろ。いいけどさ。

 ちょっとまってろよ爺さん。渡る自信ないから船でも捜してくるからさ。

 え? 何? 来るなって? 違う? 後ろ?



 久しぶりに見る懐かしい爺さんの拙いジェスチャーを何とか理解して、言われたとおりに後ろを見てみる。

 その途端にふとチャンネルが切り替わるような奇妙な感覚を覚えて、ああ、そういえば俺瞼を閉じていたんだ、って感覚で分かる。

 瞼閉じてても物が見れるんだ、と思ったけど、瞼を閉じてみるのは夢に決まってるよな。

 なんかかったるかったけど、爺さんが見れって言ったから見なきゃなって思って俺は瞼に力をこめた。



 ぱちり、と開いた俺の視界に真っ先に映り込んだのは、黄ばんだギザギザの鋭い歯列とひらひらうごめく舌、そしてその向こうには真っ暗な口腔があった。

 はっきり言おう。

 今俺はあんぐりと何か巨大な口に頭部を覆われていた。

 ……のどちんこと目が合った気がした。



 パクリ。



「あんぎゃーーーーー!!」











「お、おおおおおお、おおおおおぅおぅおぅ」



 ぱっくりやられてもう一回お花畑に招待されかけて、茫然自失の時間が過ぎて俺は今嘆いている。

 いや、嘆いているのか?

 まだ茫然自失かもしれない。

 良く分からん。分かりたくない。



 俺は涎ででろんでろんでそばでアリエッタがすすり泣いてるし遠くではグロウがプスプス煙上げて正座したまま白目剥いてるし、倒木に腰掛けたシンクは腕と足を組んでものすっごく不機嫌そうだし逆に俺をぱっくりやって涎でべろんべろんにしくさった飛竜のやつはものすっごい満足そうだし状況がカオスだ。訳分からん。



 しばらくおぅおぅやっていたがそうしていてもしかたが無いんで自分自身を立て直す。

 しばらくおぅおぅやっているうちに正気に返った。



「おぉぅ、涎でベタベタだぜ」

「ひぐ、……ぐすんアッシュ……」



 くそう、アリエッタの泣き声が俺のグラスハートを粉々にするぜ!

 よしよしってやってやりたいが今回は涎まみれは髪の毛だけじゃすまなかった。

 味見しすぎだ飛竜のバーロー。

 上半身は涎まみれ、下半身は、なんかかさかさしながらべったりしてる。

 まるであれだ、服のまま海で泳いでそのまま乾かしたような感じだ。



 そういや俺、海に落ちたんだっけ。

 グロウのせいで。

 そんで超振動ぶっ放して、そして……わからん。お花畑を見た後は直ぐにバカ飛流の口の中だ。



「泣くなよ、アリエッタ」

「アッシュ……死んじゃ嫌、です」

「今生きてっから勘弁してくれねぇ?」



 そういう問題じゃないんだよなぁ、とは思いつつ悪あがきをする。



「おーいシンク!」

「なに!」



 うへぇ、こっちもこえぇよ。

 時には大胆に、でも基本的には姑息にこそこそと必要とあらばどんな奴にだって立ち向かうつもりだし、そうしてきたつもりだ。

 例えばヴァン相手とかに。

 けど俺もこのちびっ子達にだけは勝てん。

 まあ勝つ気が無いとも言えるがそもそもタイマン張ったら俺のほうが弱いし。

 あー、でももうちびっ子って言うほど小さくないよな。



「一体何があってこうなってるのかわかんねぇんだけど、教えてくれねぇ?」



 生きてるってことは、多分拾ってくれたんだろうけど。









 海水で体を洗うってのは洗うことになるんだろうかと思いつつも涎よりマシ、っつーことでざぶざぶ洗っている。

 大まかな事はシンクに聞いた。

 いまアリエッタは泣きつかれて飛流の腹のところでライガル抱きしめて眠っている。



「世話掛けたな、シンク」

「ほんとだよ。同じように落ちたのにさ、あいつは目覚めたのに。息はあるのにあんたが目覚めないからアリエッタがいきり立って、宥めるのがどんなに大変だったか」



 あのアリエッタが飛竜から事情を聞いて真相を知って随分、というかそれこそグロウを殺しかけたらしい。

 俺愛されてるねぇ。……痛いほどに。

 俺も泣いてしがみ付くアリエッタにもう一回花畑みせられかけたし。

 実際グロウに外傷が無いからシンクが止めたのだろうことは容易に想像がつく。

 シンクが止めたって言わなくても。

 そんでもってグロウのやつが煙上げてるのはシンクに正座で長時間耐久罵詈雑言+aのフルコースを受けたかららしい。

 シンクのあの舌鋒で耐久レースなんて俺なら耐えられん。

 いやいや、耐えられなかったから白目剥いたまま正座してるのか?



「とにかくありがとうな、シンク。なんだかんだあっても無事に全員生き残れたからまあ良しとしようや。物騒な世のなか渡り歩こうって言うんだ。絶対は無いなかちゃんと生きてるんだから」



 日本にいる時ならなんとなく明日は絶対来るもんだと信じて疑わなかった。

 素晴らしいほどの平和ボケだったんだが、アビスの世界に行ってそうはいかなくなった。

 アッシュにさえ憑依してなければグランコクマかキムラスカか、作中でとくに戦禍に巻き込まれていなかった場所にでもなんとか住み着いてしまえばとも思うんだが、アッシュだったらだめだからな。

 主人公グループに対しては脇役の身でありながらキーパーソンという遣る瀬無さ。

 俺ってば第七音素の化身だったからヴァンには大層憎まれていただろうし、ガイには命を狙われていたし、神託の盾じゃなんか尻も狙われていたような気がするし、任務に出れば危険がいっぱい。

 平和ボケなんてしていられなかったからな。

 そうして知る平和ボケの素晴らしさ。



 海から上がって服を絞ると岩の上に並べて広げる。

 岩浜だから砂が付かなくていいよな。石は太陽の光をめいっぱい浴びて火傷しそうなほど熱くなってるし、何回か場所変えて並べておけばそのうち乾くだろう。



「なあシンク」

「なに?」

「ところでここ、どこだか分かるか?」



 言えばシンクは黙って地平線を指差した。

 指したって事はなにかあるんだろう。シンクは無駄を好まない。

 だからじっと見つめるとまあ何か見えた。

 町、とか城? ここからじゃ良く分からん。



「あれがアルヴァニスタだって」

「あれが?」

「グロウのバカの言う事が本当ならね」

「じゃあ無事に大陸越えは出来たんだな」

「無事って言うのかどうか知らないけどね」



 全くその通り。

 返す言葉もございません。









 道中まだ上の空気味のグロウのヒエラルキーの低さに再び思いを馳せながらあほな質問をしてみた。



「そういえばグロウ。君は綺麗なお姉さんは好きか?」

「はぁ? ……そりゃ、好きか嫌い歌って言われたら、好きだ」

「君は横島か?」

「誰だよそれ」

「通じねぇよなぁ~~」



 今日から俺はゴーストスイーパー! って。

 俺もいっそアッシュよりピート位に憑依したかったぜ。

 そもそも違う世界だけどな。



 無事とは言いがたいが大陸越えはできたんで飛竜にお礼の獲物を食わせてから俺たちは都市アルヴァニスタを目指した。

 あの竜はさすがにダオスが魔物の支配権を強めている昨今都市部に近付いたら恐慌状態になるだろうって事で遠くで待機してもらっている。

 また乗せてくれるってさ。

 何気に入ったんだか知らないけど、ありがたいことだよな。



 アルヴァニスタの中をおのぼりさんよろしくきょろきょろと見て回る俺。

 宿にも目星をつけておく。

 塩まみれの体洗いたいからな。髪の毛とかギシギシでごわごわ。弄れないとアリエッタが悲しむからな。

 本当は城に行く前に洗っていきたかったんだが、グロウに変な有余を与えないほうがいいだろうと言う判断から先にルーングロムに会いに行くことにした。



 グロウは一歩進むごとに不機嫌さが増していく。

 でももう逃げられないのは分かっているだろう。

 飛竜が居なければ実質グロウには大陸を出られる手段が無いし、一人で外に出るには奴は弱すぎた。

 ミッドガルズのほうはとっくに滅んじまってるし、ダオスの手勢が押しかけたせいであの一体は魔物が強いらしいってユークリッド付近で聞いてきた。

 グロウ一人で行けるわけが無いし、庸兵を雇うにしてもこいつはほぼ一文無しだ。



 城に着けばルーングロムに遇うための手続きはグロウがしてくれた。

 手間暇省けてラッキー。

 できるだけルーングロムに遇うのを遅くするためにそういった手続き全部投げ出した可能性もある事を思えば素直なもんだろう。

 地下のあの研究所にいくのかとおもえばちゃんとした来賓室に案内された。

 多くの人の妙な眼差しで見られながら。

 城に来るのに俺みたいなかっこでくるやつぁそう居ないだろう。

 途中で掃除中のメイドを見かけて申し訳ない気持ちになった。

 俺の通った後には磯の香りが置いてけ堀にされている。



 今は来賓室でルーングロムを待ちつつ出された紅茶を飲んでいる。

 俺はソファには座っていない。座ったらソファーを汚してしまうからな。

 でもすわり心地のよさそうなソファーなんだ。乗っかったライガルがものすっごい気持ちよさそうにしている。



 嫉妬しそうだから気にしないようにし紅茶を飲む。

 さすが美味いな。

 雰囲気も丸ごと合わせて味だよ味。

 これが本物のアッシュなら作法とか何とかもそこそこ詳しいんだろうけど、俺はからっきしだからな。神託の盾じゃそんな事教わらないしそもそも関係ないし。

 アリエッタはちょっと良し悪しは分からんみたいだが嫌いではないらしい。

 シンクもそこそこ満足しているようだった。

 ここは茶菓子も美味いなぁ。



 ぼーっと待っていたらいきなり扉が開けられて見覚えのある顔がやって来た。

 どうして見覚えがあるのかと思ったらそうだ、グロウに似てるんだ。

 まだ名前は聞いていないが、この相似具合ならおそらくルーングロム本人で間違いないだろう。



 クォーターエルフとして考えるには複雑な計算が必要らしいことをいっていたがそれにしてもルーングロム本人からしてみれば曾孫である、その程度しか離れていないことには変わりないだろうし。

 しかも普通に人間の孫、曾孫なら若いのと爺さんになったのとでけっこう似ても似つかなくなっていたりすることも有るが、エルフの混血なら話は別だ。

 グロウとルーングロム(仮)の外見は親子より近く見えた。

 ちょっと年の離れた兄弟? エルフの血ってば面白いことさせるよなぁ。

 血の濃さと継承した特性によっては親より先に子供や子孫のほうが老化で老衰する事態もありえるわけだ。

 ……エルフの血って因果だなぁ。



 入ってきたルーングロム(仮)とグロウは黙ってにらみ合う。

 まあ一方的にグロウの負けだな。

 ルーングロムのほうは胸を張ってどうどうと上から睥睨しているのに対してグロウはしたから恨めしそうに半眼で睨めている。

 にらめっこなら勝負ありだ。



「糞ジジイ……」

「糞ジジイとはなんだこの糞ひ孫が」



 なんか想像以上にバイオレンスな曾孫と曽祖父だった。



「糞なんていうなよいつもそういう言葉をやめれって言ってるのは爺さんだろ!」

「なんだ? 負け惜しみの一つも言うかと思えばそれを言わないだけの分別はあるようだな」

「うるせぇうるせぇうるせぇ!」

「叫ぶしか能が無いのか? 私の曾孫ならもっと賢いはずなんだがな」

「うるせぇっての! あんた自分の曾孫が何人いるかわかってんのかよ! 孫の孫までいる癖しやがって!」

「惜しいな。つい先日お前がいない間に孫の孫の子供も生まれたぞ」

「何人の大家族作るつもりなんだよ!」

「私の子供は息子一人なんだがな。どうやら息子が頑張っているみたいだ。それ以下になれば何があるのかなどもう知らんわ。結婚した生まれたという報告を聞くだけで殆ど関与していないからな」

「そんなに……そんなに孫も曾孫もその下まで増えているのにどうして」



 珍しく、グロウにしては実に珍しくそれは血を吐くような叫びに聞こえた。

 思わず真剣に聞き入ってしまう。

 いいんだろうかこの身内の深刻な話をこんな場所で聞いていても、と思いつつ耳をそばだててしまった。



「爺の癖に俺の彼女をたぶらかすなよな!!」



 叫んだ、な。

 実にどうでもいいことを。

 真剣になっていた空気がいきなりしらけた物のように感じられた。

 シンクなんて唇引きつってるし。俺も眦が引きつりそうだ。

 切実なんだろうけど、なんかあれだ。前置きがあれだったからこう、なんか?

 なんだよ彼女を自分の爺に取られて嫉妬して家出したのかよ、とか。



「たぶらかすとは言いがかりだ。私は今でも妻一人を思っている。私の思いに他の女性が入る隙間は無い」

「ルーングロムとムーングロムと名前は似ているのに全然似てないのね、とかあなたよりルーングロムさんのほうが好きになっちゃったみたい、とか言われて何度も振られる俺の気持ちが爺にわかるか!」

「分かるわけなかろうこの愚か者が。何故振られるのかも考えもしないで」



 そう、だよな。

 うん、ルーングロム(仮)の言い分も分かるぞ、グロウの優柔不断さとかは情けないところとかは身近にしっかりしすぎた爺さんがいるからなおさら際立って見えるだろうし。

 実際年齢はともかく見た目はかなりいいからな。グロウほど若すぎもせず、かといって年喰った爺でもない。

 だが俺はグロウの言い分もちょっと分かるぞ。

 別れの台詞が毎回あんたより爺さんのほうがいいの、じゃやりきれないよな。

 中も外も充実したいい男の爺さんと外側しかないグロウと、これからもずっと比べられ続けるんだろうし。

 エルフの寿命じゃハーフとクォーターという関係から見てもどっちが先に死ぬか分かったもんじゃないし。



「だいたいだな、お前に私を糞ジジイと罵る資格があると思っているのか? 長い間両親を心配させてからに。私の息子も孫が出てったきり帰ってこない、まさかダオスの軍勢にやられたんじゃと心配のあまりボケが始まるかと思うほどの憔悴振りだっったぞ」

「……あんたは、どうなんだよ」

「ん? 私か?」



 ルーングロムに目をのぞきこまれてグロウはたじろいだ。

 それでも後ろに下がろうとする体を押し留めてルーングロムの目を見返す根性はあるようだった。

 そもそも情けない話だけどちょっとは見直したぞ? ちょっとな。



「私は……そうだな。少しは心配したか」

「少しだけ、かよ」

「少し、だな。なぜなら私はお前がこうして無事に帰ってくることを知っていたからだ。なぁグロウ?」

「なん……っで」

「この愛称を知っているのか、と言いたいんだろう? もちろん、聞いたからだよ。私の友人に」



 そう言ってルーングロム(仮だけどやり取りからほぼ確定)は凛とした笑みを浮かべながら俺たちを見た。



「こちらでははじめましてになるのだろうな。それもまた妙な気分だが……」



 顎をさすりならが彼は言う。



「私がルーングロムだ。随分と孫が世話になったな」

「ええまあ世話しました。随分酷い目にも合わされましたし」



 お世辞を言う気にもなれない本気ぐあい。

 酷い目に合ったから。



「最初は経費ぐらいでるだろうって下心ありだったんですがそのうちそんな事言っていられないくらい命懸けになりましたね」

「すまなかった。世話を掛けた。経費も含めて私から謝礼を払わせて欲しい」

「ありがたくちょうだいします」



 慈善事業じゃないんだよー、こっちにも生活とかなんとかまあ色々あるからなぁ。

 これで「いえ、お金なんて結構ですよ。やりたくてやったんですから」とかいえるくらい余裕があればそれはそれでかっこいいような気もするけど切実だからムリ。



「ところでアッシュ、シンク、アリエッタ」



 あれぇ? と違和感を感じた。

 なにが違和感か、ちょっと考えてぱっと思いつく。

 あんまりナチュラルに呼ばれなれた感じで呼ばれたから忘れそうだったけどそういや俺たち名乗ってないぞ。

 そう思ってもう一度ルーングロムを見ればにやりと楽しそうに笑っている。



「私の友人から、あなたたちに手紙を預かっている」

「あなたの友人から?」



 こっちに交友関係なんてないに等しいのに妙な話だ。



「50年前の手紙だ」



 へぇ、五十年。

 って、おかしくないか?

 俺たちがこっちに来たのはちょっと前の話で、それより過去、50年前に俺たちは居ないはず。

 そのルーングロムの友人は居もしない人間に宛てて手紙を書いたのか?

 なんかこう、気が付きたくない真実に近付いた気がするぞ、めちゃくちゃ。



「私の友人の名前はアッシュ。手紙の差出人名義はこの通り、アッシュ・フォン・ファブレだ」



 目の前に差し出されたかすかに黄ばんだ封筒には確かに俺のきたない字でアッシュ・フォン・ファブレと書かれていて、差出人と受取人の名義が同じだった。

 アッシュ・フォン・ファブレからアッシュ・フォン・ファブレへの手紙。



 のびのびと生きているアリエッタやシンクを見る事ができるこの世界。

 おせっかいを焼く気もなくなって、クレスたちから借りたガルドも今となっては素直に貰っておけば良かったと思うほど彼らと関わる気も無くなっていたのに、これはどうしても彼らと関わらなければならないらしい。

 オーマイガーット!

 神は我を見捨てたもうた!

 なんつって信じていない神様だけど。











[3493] 九回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:4e99c181
Date: 2008/09/24 22:22



 道中宿に目星をつけていたのだが必要が無くなった。

 至れり尽くせりで風呂借りて部屋借りて食事でて間食でて。

 俺ここに入り浸りたくなってきたぜ。めっちゃやばい。なんだこの快適さは!!



 俺のアッシュ人生は平和ボケしていた俺にはキビシーイ神託の盾から始まった。

 そんでもし上手く王族復帰しても何やかやと小難しい問題を抱えて右往左往する生活だっただろう。

 俺は王族を羨ましいとは思わない。

 飢える事はない、生活は豊かかも試練が、俺は独裁者にはなれんからな。

 贅を満喫する前にストレスで禿げる。



 まあそんなわけで一人一部屋与えられて風呂入って腹もくちて満足じゃー、ってソファで寛いでいた。

 なぜか一人一部屋あるのに気がつけばライガルまで含めて全員で俺の部屋で寛ぎながら。

 まあいいけどよ。

 一人じゃ寂しいよな。お手たち家族だよな?



 そんなときだった。

 タイミングを見計らったかのようにルーングロムが来たのは。



「酷い有様だったなアッシュ。どうだ、少しはさっぱり出来ただろうか」



 ひどいっていうか……そんな恰好で城の中を歩くなって言う城中の人たちの視線を感じまくっていたぜ。

 やっぱ海水浴じゃなぁ。

 うん。








 ソファーに腰掛けてメイドの紅茶が運ばれて開口一番でグロウは両親に引き渡されたと伝えられた。

 それがいいよな。

 もう爺と比べられないように自分を磨きなおせ。

 どっかの英霊みたいに磨耗なんていわないでさー、針みたいに鋭く光り輝けよ。



 剣はレイピアに、レイピアは手裏剣にー、手裏剣は……針治療用の針とか?

 鋼は打ち直せば何度でも使えるんだいっ。



 まあ冗長はこのくらいにして、聞くところによるとグロウのやつ、昔は随分と爺さんっこだったそうだ。

 生まれたことをルーングロムに報告にしに行ったときにはそれまで母親の腕の中でぐずっていたのがルーングロムの顔を見たとたんににぱっと笑ってルーングロムの髪を掴んで離さなくなったらしい。

 その後もギャン泣きしててもルーングロムの腕に収まればすやすやと眠り歩くようになればルーングロムの後をよちよちとあぶなっかく付いて回っていたそうだ。

 ルーングロムの血縁はグロウの父親のほうらしいのだが、親、子、そしてグロウの父親である孫までそろって研究者でこの城で勤務しているらしく、グロウも昔からここに出入りしていたらしい。

 その上極度の爺さんっ子。

 こりゃもしかしなくても研究者になるんじゃないだろうかと周囲は期待したそうだ。

 主にルーングロムの息子と孫が。

 ルーングロム自身はグロウが研究者になってもならなくても構わなかったらしい。

 期待を押し付ける気は無かった、と語ったそうだがルーングロムから期待をしなくてもその周囲は彼に大いなる期待をしたらしい。



 そんでお年頃になると反発が始まる、と。



 まあそれだけじゃないんだろうな。

 さっきのやり取りを見ていると、あれでもなんだかんだ言ってグロウは爺の事が好きみたいだし。

 あんたは心配しなかったのかよ、って聞いて、ちょっとしかしなかったぞ、って答えられた時のあのガーン、とした顔。

 爺さん以外の周囲からはめちゃくちゃ期待されるのに、肝心要の爺さんからは全く期待されなかったから拗ねたんだろう。

 上手い拗ね方じゃなかったみたいだがな。

 そんで研究や勉強から遠ざかってバカ一人ご誕生~~、っつ訳か。


 親も研究者、爺さんも研究者、曾爺さんも研究者。

 血統としては頭は悪くないはずなんだが、使い方が悪いのかね。

 まあいいや。もう送り届けたんだし、俺たちとグロウの人生が交差する事ももうそんなに無いだろうしな。



「それで、なんとなく理解した気はするけど出来ればもう一度あんたの口から事情が聞きたい」



 俺は受け取った俺から俺宛の手紙をひらひらさせながらルーングロムにそう告げた。

 内容の割りに薄っぺらい。

 面倒くさがって言葉をケチっている癖してさすが俺から俺への手紙だ。言いたいことはだいたい伝わった。

 それでももう一度、こいつの口から聞かなきゃならない。

 信じる信じないとかの問題じゃなくて、だ。



「私がお前に出会ったのは、その手紙の通り、五十年まえだ」



 俺たちとは違う洗練された優雅な仕草で紅茶を口に含みながらゆったりと話を始めた。

 話については、まあ割愛させてもらう。

 ながぁぁぁぁああああい話だったがまあ要約すれば50年前にいきなり俺たちがルーングロムとであったという物証をもってやってきてそのまま済し崩し的に友人になりまあグロウのことなどもちょいちょい先のことながら酔っ払って零したりしていつの間にか会わなくなったなぁ、と言う事らしい。



 たったこれっぽっちの話がながーーーーーく、なった部分については、まあ曰くバカ話だな。

 思い出話とでも言うか。

 ルーングロムは饒舌だった。

 過去を懐かしむ男の目をしていた。



 今目の前にアッシュはいるが、今の俺は思い出を共有した男ではない。

 話して聞かせていても、ちょっと寂しそうだった。

 しかたないだろう人間相手じゃ。

 いつか自分より先にいなくなるのは定めだ。



 長い長い思い出話の間にアリエッタが退屈して、シンクがそれを連れ出してからは広い室内に二人っきり。

 未成年者がいなくなったので俺たちは酒に手を出した。

 こっちじゃ成人年齢が日本より低いらしい。

 老いては子に従え、じゃなくて、郷に入っては郷に従え、ということで俺も久しぶりに酒を飲んだ。



 これでもアッシュになる前は成人で、酒飲みだった。

 アッシュになってからも酒が飲みたいと思ったことはあるんだが、俺は我慢した。

 いつか返すことになるかもしれない体を不良品にするわけにはいかない、そう思っていた。



 それももう、解禁でいいよな?

 体の成長もだいたい止まっちまったし、こっちじゃもう堂々と酒の飲める年齢らしいし。

 久しぶりの酒は五臓六腑に染み渡る。

 口当たりがいいからぱかぱかあけていたらあっという間に泥酔しちまった。

 翌日二日酔いで目が覚めてぐらぐらしているところにルーングロムが現れて、俺の様子を楽しそうに笑ってくれた。

 ルーングロムの友人だった俺も、よくこうして泥酔した挙句二日酔いになっていたらしい。

 自制しろよ、どっかの俺。








 二日酔いを押してその日、俺たちは怠惰な生活とさよならする事にした。

 あんまり長居すると体が鈍る。

 美味い料理食って、美味い酒飲んで、美味い紅茶を飲んで。

 久しぶりに体を休めて。



 グロウに使った金はもちろん補填してもらえたし、それ以外の資金でも餞別っつーことでかなりたくさんもらえたから懐は豊かだ。

 これならあの雪国アーリィに行っても宿代が無いと凍えることは無いだろう。

 俺たちはアルヴァニスタの町の門のところに立ってムーングロムに見送られながらこれから最後の別れをするところだ。



「忘れ物は無いかー、アリエッタ、シンク」

「アッシュじゃあるまいし、僕がするわけ無いじゃない」

「アリエッタ、荷物、ない、です」



 ……俺ちょっと切ない。



「まあ達者で暮らしてくれ。過去の私にもよろしくな」

「ああ。友人になれるといいな、ルーングロム」

「私もそう願うよ」



 アリエッタやシンク、ましてグロウの奴あいてじゃ出来るわけも無い久しぶりの大人のやり取りになんだかジーンと来る。

 いいな、大人の付き合いもたまには。



 よっし、いくぞ!

 と号令をかければ出鼻を挫くようにルーングロムに止められた。



「ちょっと待ってくれアッシュ」

「なんだ?」

「これを私に渡してくれないだろうか」

「なんだ? これは」



 手渡されたのは手の平に乗るほどの小さな箱だった。

 この程度なら荷物入れの中でもそう邪魔にはならないだろう。

 だがなんだ?



「私に渡せばわかるだろう。できれば、中身は見ないで欲しい」

「OK. 中身は見ないであんたに渡す。50年前で。それでいいんだろう?」

「ああ、頼む」



 相手の目を見て力強く頷いた。

 そうしてまたやっと旅に出ようとしたんだが、うまくいかないときは何もかも駄目なもんだ。

 またしても俺は待てって呼ばれて足を止めた。

 声は似ているが……こりゃ別人だな。ルーングロムじゃない。なら――



「なんだよ、グロウ」



 俺は振り返りつつ思わず溜息をついていた。

 そこには息を切らせつつ走って駆けつけるグロウのやつがいた。



 呼吸は乱れてほおは真っ赤。

 もっと運動しとけといいたくなるがこういう運動不足はアッシュになる前の俺そのまんまだな、とも思う。

 デスクワーク日本人!

 別に誇れる事じゃねぇぞ。

 アッシュになってから日本の書類流儀も通じないしな。



「ま、まってくれよ。一言もなしに出て行くなんて酷いだろう!」

「酷くねぇよ。俺の仕事は終わり。報酬貰ってまた旅に出る。庸兵もどきなんだよ、今は」



 定住したかったんだが、今はダメだからな。



「だからって!」

「いったろグロウ、お前にも。旅に連れて行くのは下心ありだって。挨拶するような間柄でもないし、なによりお前、ちゃんと両親と話しはしたのか?」

「……した」

「浮かない顔だな」

「………蹴り出された」

「なんでぇ?」

「…………爺さんに嫉妬して家出したって言ったら」

「そりゃぁ」



 俺は返す言葉をなくした。

 背後ではシンクが呆れた溜息をついている。

 アリエッタにはよく分からんらしいがルーングロムは必死に笑いを噛み殺している。



「でも、でも俺、あんた達みたいなの、初めてだったんだ」



 いやん、なにその台詞。



「ずっとずっと研究所にいて、糞ジジイのやってる研究のことしか興味が無くて、なのに魔法が使えないから俺……家出したけどなにもわかんなくてあんなことになって、俺……」



 まだ髪の生え揃わないグロウ。

 髪が長いから目立たないけど頭皮の傷もまだまだあるのだろう。

 そのあたまが情けなく項垂れている。

 その髪色は間違いなく糞ジジイ呼ばわりしているくせに大好きな曽祖父、ルーングロムの髪色だった。



 そうか。

 バカなんじゃなくて研究しか知らない世間知らずだったのか。

 そうかそうか。

 ってー、だからどうしたのさー。

 ほら、だんだんシンクとアリエッタの機嫌が悪くなってくるだろ?

 俺べつにお前のこと嫌いじゃないけどやっぱり優先はアリエッタとシンクにあるわけで。



「俺、俺!」



 となぜかイントネーションが高くなっていっていたグロウがピタリと急に黙り込んだ。

 不自然な間だった。

 閉じられた口がゆるくだらしなく開く。



「はぁ」



 溜息とも感嘆とも違う。

 なんだなんだなにが言いたい?



「はぁ、はぁっ」



 なんか、ヤバげな気がするぞ?

 これは何か言いたいとか溜息とかじゃなくてもしや――



「ハァックシュン!!」



 ばふぅ! とくしゃみと同時に大量の炎が俺の眼前を掠め通った。

 ちりちりと髪の毛が焼けて焦げ臭いにおいがする。

 しーん、っていうあの擬音が聞こえてきそうだった。

 何処かで小鳥が鳴いたなぁ……、って。



「使えるんじゃないかよ魔法!」



 そうだ。

 今のは魔法じゃないのか?

 こいつが火炎放射器なんて持ってるとは思えないしそもそも魔法使いってぶっちゃけ人間火炎放射器だろ!?



「魔法……魔法? 俺が、俺が使えた! マジ? 嘘だろ、俺が魔法!!」



 グロウのテンションが急上昇する。

 逆に俺は冷めた。

 何だよこいつ。



「くしゃみで魔法がぶっとぶなんてお前はどこのエロ魔法先生だってんだ」



 額に手を置いて俺は深々と溜息をついた。

 だがすまん、実はそれより先に「ただし、魔法は尻から出る」っつーのを思い出してた。

 良かったなグロウ。

 屁と一緒に魔法が出なくてよ。









[3493] 十回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/10/20 21:08






 蹴り出された、っつーのは誇張でも冗長でもなんでもなく本気の話だったようだ。

 本気でけりだされたんだとよ、しばらく帰って来るなって。

 おいおい、つれて帰った俺の苦労は?

 お花畑を見ただけ損かよ。まあしっかり貰う物はもらったけどな。



 で、まあ、だな。

 なんでだかそのグロウ、いま俺たちと一緒に新しく誂えてもらったコンテナの中に乗っている。

 マジなんでだろうな。俺も訳わかんねぇよ。

 ほんとうならこいつを連れて行けるような旅じゃないのにな。

 それが飛竜のおかげで一っ飛び。

 クレスたちみたいに契約だのなんだの面倒な事をしながらの旅でもないから危険なこともない。

 そのせいでグロウも付いてくる旅になってしまっていた。



 いくつかの小島を渡りながら休憩を入れつつアーリィを目指している。

 んだが、だんだんと気温が低くなっているのを実感するところだ。

 飛竜って爬虫類だよな? 爬虫類って変温動物だよな? 大丈夫なのか? と心配になる。

 ときどきアリエッタに通訳してもらっても、大丈夫だ、大丈夫だっつって飛んでくれるんだが……。

 暖をとるっつったってグロウのくしゃみファイアーしかないからなぁ。



 悩み多き年頃の俺としては一人物思いにふけりたかったりするのだがグロウの監視のため、といって今回は全員で同じコンテナに乗っているからあまりアリエッタやシンクを心配させるようなそぶりも出来ない。

 その肝心のグロウも二の轍は踏むまいとそれなりに努力はしているようだった。

 空飛んでる間はコンテナの隅で蹲りながらずっと「見ない見ない見ないみないみないみないみないみない見ない見ない見ない見ないみないみないみないみないみないみない」って呟いている。

 正直不気味だ。不気味だが恐慌状態に陥られるよりずっとマシだろ。

 時々突風が吹いてあおられたりするとビクッ! と跳ね上がるのもご愛嬌。

 俺たちはだいたい夜になる前に適当に休憩できそうな島を見つけては一夜を明かしているんだが、グロウの奴なんだかんだで役立たずなのは自覚しているみたいで夜に休憩の為にどっか陸地に降り立つと頑張って魔術の練習をしている。

 使えないわけじゃないのはあのときのくしゃみファイアーで分かった。

 となれば後はコントロールなんだが……。

 今は何よりもくしゃみでファイアーが出ないようにするのが命題だな。

 グロウのやつ、寒くなってくるとやたらと火を噴くんだよ。危なっかしくて近くにゃ居られねぇぞ。



 そんで今回降り立った島じゃ蟹が大量発生していたので蟹狩りとなった。

 蟹は強敵だ。

 強靭無比な面の皮、じゃなくてあの甲羅と信じられない素早さと鋭さを持つ爪で応戦してくる。

 それを何とか倒しに倒して俺たちは飛竜の前に山積みにして、残りを鍋に入れて真水で薄めた海水で煮て食った。

 喰っても食っても蟹だった。

 後ろではバリバリと蟹じゃなくてなにかイケナイものを食べているとしか思えないような咀嚼音が聞こえてくる。

 美味いって言ってるってときどきアリエッタが通訳してくれるのが唯一だな。



 ちなみにその日にはグロウは火打石よりは何とか役に立つようになった。

 ライターにはまだ足りない、マッチみたいなもので直ぐに消えるけど火花から火を起こさなきゃならない火打石と比べると月とすっぽん。

 だがまだくしゃみファイアーは治らない。

 夜に火の周辺で暖を取っていたら、グロウのやつ、くしゃみファイアーでぶっ飛ばしやがった!!

 信じられねーよあいつのくしゃみ!!



 ものすんごく落ち込んでたからそれ以上追い詰めるようなことは一応しなかったが、視線が冷たくなるのは仕方ないだろう?

 しかたがないんだ。



 まあそんなドタバタ劇みたいな感じの毎日で気が付けばアーリィにまでたどり着いていた。

 最後はさすがに歩きだったがな。

 なんつっても、やっぱり竜は竜、爬虫類は爬虫類。飛竜も変温動物だったみたいでアーリィの有る大陸の端っこに来たあたりでノックダウン。

 泣く泣く帰っていった。

 いや、むしろ帰ってもらった。

 こうなったらもうダオスを何とかして海上交通を復活させるしか他の大陸に渡る手段が無い。

 ダオスが倒されてることによってダオスによって奪われていた光がこの大陸に再び降り注げばもうすこしは暖かくなるだろうが、どっちにせよここは永年雪の大地だろうし、俺は観光ならいいけど住むならもっと暖かいところがいい。



 なんでアーリィを目指したかと言うと、まあそれは俺から俺に当てられた手紙に重要事項が書いてあったからだ。

 どうやってか50年前に移り住んだ俺は、今の時代のダオスの城に重要な物を見つけたのだそうだ。



 その名も、ローレライの剣。



 重要すぎだろ。

 とにもかくにもあって不便は無いって言う事でそれを手に入れるために俺たちは遠路はるばるアーリィにまで脚を運んできていた。

 何とかして俺たちはダオスの城に行かなきゃならない。

 だがダオスの城はただ空高くにあるわけじゃなくて、俺の記憶によればたしかエターナルソードによって開かれる次元の狭間に隠されていたような気がするのだ。

 実際そこに繋がる坑道? とやらに行ってみても道は途切れていたし。

 ダオスが倒される前に回収しないとダオスの城はダオスが倒されると共に消滅する、んじゃないかと思っている。

 膳は急げなのだが手段が無い。

 と言うわけで。



「待ちぼうけかよー」



 ぼんやりと暗闇の中の雪像を見つめながらぼやくと返事が返ってきた。



「遅れるよりいいんじゃないの?」

「まあそりゃそうなんだけどさ。俺寒いの嫌い」



 といえば、シンクが呆れて肩をすくめる。



「雪かー」



 と何処かキラキラしたまなざしでこの暗闇の町を見ているのはグロウだ。



「雪見るのは初めて……だよなぁ」

「ああ。……おれ、爺も含めて親戚はだいたいエルフの混血だから冷たいものは知ってるんだ。氷とかさ。でもこんなふわふわって降って来る氷なんて初めてだ」



 見上げる眼差しにきらめく……ま、なんとやら。

 まあいいや。俺もう付き合ってらんねぇ。

 アリエッタはライガルと一緒になって雪の中を駆け回っているし、シンクはなんだかんだ言ってアリエッタが戻るまで付き合ってるんだろうし。

 俺はもう雪なんて見飽きたしな。

 ロニール雪山あたりで。



「ま、飽きるまで見てろよ。俺もう入るなーー」



 言って一人でさっさと宿に向かう。



「あ、ちょ、ちょっとまてよ!!」



 と言ったグロウが、次の瞬間はぁ、っとものすっごくヤバげな呼吸をした。

 いつでも何処でも聞き覚えの有るこれはまさに――



「ハァックシュン!!」



 くしゃみの前兆!

 って、もうしちゃったよこいつ。



「あ……」

「あーあ、溶かしちゃったよ」



 俺の目の前で結構大降りの雪だるまを溶かしちまう。

 呆然としているグロウの背後から、ギシリ、と雪を踏む音が聞こえた。

 複数。

 あー、雪鳴り懐かしいなー、と俺は他人のふりをする。

 グロウはたちまちこども達に追い掛け回されていた。

 なんか叫びながら逃げてるけど俺シラネ。

 あ、転んで捕まった。

 まあ本家雪国育ちの子供たちに雪を知らないグロウが勝てるわけも無いよな。


 こりゃ当分もどるどころじゃないだろ。

 しばらく遊んでな。



 そうして俺はやっと宿に戻ってきた。

 ちらっとカーテンの隙間から外を見れば、グロウは子供たちと一緒に溶かしてしまった雪だるまの代わりを作らされている。

 こういうシーンだけを切り取ってみれば、平和だよな。

 俺はカーテンを戻すとベッドに向かう。

 そのまま倒れこむようにベッドに乗っかって、深く沈みこむように息を吐いた。



 手袋を外して直に手を見る。

 剣ダコだらけの綺麗とは絶対いえない手だ。

 ただいつでも手袋の下にあるせいか色だけは白い。

 なまっちろい。

 その手を握って、開いて、溜息をついた。



 隠しているつもりだけど、隠しきれているのかどうかは自信が無い。

 だが多分シンクが何も言わないってことは隠しきれているんじゃないかと思う。



 あの日、飛竜のコンテナからグロウのせいで落ちて無理やり超振動をぶっ放したあの日から、なんだか体がだるい。

 やっぱ、無理はたたってるんだろうな。

 音素乖離しているのかとも思う。

 向こうの世界ならある程度の音素の減少なら自然に補うことが出来る。

 だけどこっちには補える音素が全くねぇ。

 減った音素は減ったまま。

 一度外部に流出する口が開いたら、完全に止めることができない。

 宇宙に打ち上げたロケットのパッキンがちょっとイカれて、真空中にじっとりと空気が抜き取られていくようなそんな感覚だ。

 制御とかそういうもんじゃねえ。修理しなきゃならねぇのに、修理するには音素が必要だ、見たいな感じだ。

 どうしようもなく毎日少しずつ何かが足りなくなっていく。

 対処のしようも無くじわじわと空気が薄くなっていくのを感じるような恐怖が有る。



 気が付けばなくなっているそれに、俺は時々息すら止めたくなる。

 吐き出す息にすら第七音素が含まれていて、吐き出すごとに目減りしていくような錯覚、っていうか気分だな。

 吐いた息をそのまま吸いなおしたくなる。



 俺はこの事実を、まだシンクにもアリエッタにも話していなかった。

 話してもどうしようも無いから言わない、とか言うわけじゃねぇ。

 話すのが怖いから、隠しているだけだ。

 臆病すぎていやんなっちまうよな。

 これで一体何回目のシンクたちへの裏切りになるのかわかったもんじゃねぇ。



 何やってんだ俺、と時々だけど思う。

 時々しか思わないのは俺が薄情だからかもしれない。

 シンクにはアリエッタが居るし、アリエッタにはシンクが居る。

 俺は保護者の立場だった。

 保護者ってのはいつか居なくなる。

 俺には昔から生死の順番みたいな意識があって、親は子より先に死ぬ物、っていう認識がある。

 正しい順番、っていうのか、そんな意識が。

 そしてその俺の認識に基づいて考えてみると、俺が先に死ぬ分にはなんら問題が無い話になってしまう。

 話さずに居るのには、そういう俺の認識も関係しているんだろう。

 親、のところを保護者に変えたらまんまじゃん。



 だってさー、親より先に死ぬと三途の川で石積みなんだぜ?

 もうそろそろ積みあがる、成仏できる! と思ったら馬頭鬼や牛頭鬼がやってきてもとの木阿弥、壊しちまう。

 多分そういう昔聞いた地獄とか三途の川とかそういう話も影響しているんだろうけど。



 まあそんな訳で俺はあの時以来けっこう切実に近付いてくるタイムリミットを感じていた。

 特にまだアルヴァニスタに行って手紙を貰う前までは。



 アルヴァニスタに全ての元凶であるグロウを送り届けて、そこで俺は希望を見つけた。

 ローレライの剣と言う希望を。



 正直グロウと落ちてからアルヴァニスタに付くまでは、俺はなんとかしてグロウにきつく当たらないように、シンクとアリエッタに気が付かれないようにと必死だった。

 アリエッタが居て、シンクが居て、シンクが誰憚る事も無く素顔を晒して歩ける環境に居て。

 そういう今の幸せだけをみて考えないようにしていた。

 シンク辺りには最初の頃は激烈に疑われていたような気がするんだが、このごろやっと安心してきた頃だろうな。

 俺があの事が原因で乖離して消えたりしない、って。

 さっきも言った様な『順番』の認識があるせいだろうけど、何とかばれずにすんでいると思う。

 それに、グロウを連れて行くと決めたのは結局俺だったから、そのことで降りかかる災禍は結局俺が引き込んだような物だ。

 シンクでもアリエッタでも、当人のグロウでも、「お前のせいでこうなった!」とかはかっこ悪いし、言いたくなかった。

 でも俺があれが原因の音素乖離で死んだりしたら結局、シンクかアリエッタがグロウの事を責めてしまうだろうと思うと、それもジレンマだった。



 そんな折に知らされたのがローレライの剣の在りかだった。

 俺は強く希望を持った。

 ローレライの剣の特徴である収束と拡散。

 俺の命はまだ繋がるかもしれない。



 50年前の世界には、おそらくこの時代から移動して言った、命を繋いで向こうで生きている俺が居る。

 俺が生きている可能性が確かに50年前の世界に存在している。



 そんなもんだから飛竜に乗ってばっさばっさとこっちにやって来ちまった訳なんだが……早すぎたような気がしないでもない。

 でも気はあせるんだよなぁ。

 いつかこうやって見ている手が、ゲーム中のルークみたく透き通るんじゃないかって思うとぞっとする。

 俺は透明人間じゃねぇぞ。



 早く来いよクレス。

 早く、はやく早く!



 タイムリミットが来る前に。

 強がる相手が居なくなると、俺は怖さに折れそうになる。

 俺が折れる前に、早く、来てくれ。

 あんたは、あんた達は世界の希望だったんだろうけど、今は個人的にも俺の希望だ。



 一度は死んだ物と諦めた、こっちの世界に来るきっかけとなったあっちの世界でローレライを解放したときとは違う。

 随分生汚くなったものだ、と思うが、そんな今は嫌いじゃない。

 俺はもう諦めたくない。

 覚悟はみんなあの時使い果たしちまったんだよ、たぶんな。











[3493] 十一回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/02 16:23




 クレスたちが来るまで1ヵ月少々掛かった。

 その間に一番消耗したのはやっぱり俺だ。



 アリエッタはライガ共々雪国の子どもと化してるしシンクもそれに付き合ってそこそこ寒さ耐性が付いたみたいだった。

 グロウはなんでだかしらんが子ども達に好かれて遊んでいる間にアーリィのみんなのお兄さん! 見たいな扱いになってなんでだか知らんがムダに自信をつけている。

 対して俺は、悪夢の足音を聞くとか、カウントダウン、とか。そういう心境でまんじりともできない。

 譜術が使えないのはもう日常だが、譜術が使えなくても音素が減っていく。

 弁は開いたんじゃなくて壊れたんだ、って実感しちまう。

 誤魔化せる時間はもうそう多くないだろうな。

 これ以上、もう後一月もしたら多分、体を動かすのが億劫になる。

 今でもかったるいけど、そんな比じゃない。初動の鈍さなんかはシンクに誤魔化せなくなるだろう。



 しんしんと雪の降る深夜、俺はベッドの上でごろごろごろごろとひたすら転がっていた。

 何しているかなんて俺にもわかんねぇ。

 今頃外じゃクレスやミントがい~い雰囲気になって、チェスターやアーチェが覗き見して、違う部屋じゃクラースがミラルド、ミランダ? とにかくミラがつく過去に置いてきた女の様子をエターナルソードで覗き見しているんだろう。

 はっはっはっ、悪趣味だなクラース。

 すずちゃんがどうしているかは忘れた。

 多分何処かの屋根か天井裏あたりで、父と母に思いを馳せているんじゃないかと思うんだがどうだろう。



 とうとう、明日出発だ。

 あとはクレスたちより早く行動を始めて鉱山跡の出口付近でクレスたちを待ち伏せようとしているからさっさと眠るだけなんだが。



 あー、くそ眠れねーーーよ!










「おはようアッシュ。……大丈夫?」

「おはよう、です。……だいじょぶですか? アッシュ」

「おはようー、って、アッシュお前だいじょぶなのか?」



 朝飯食いに食堂に顔を出せば挨拶の次には必ず“だいじょうぶ?”といわれた。

 三人が三人共に。

 そんな酷い顔してるのかと思うがあえて鏡は見なかったためわからん。

 結局いつもにましてまんじりともせず、眠いどころか徹夜でハイ状態だ。

 なんか出ちゃいけない脳内麻薬とか出てそうな感じだ。

 目のした隈とかできてんだろうな。

 女性なら化粧で誤魔化すんだろうが……俺も化粧するか?

 は……はは、全然眠たくないのがむしろヤバイな。



「だいじょーぶ……じゃなくても今日行かないと後が無いからな。さっさと飯食って鉱山跡行くぞー」



 大丈夫じゃないっ! つったところで、しょうもないからなぁ~。










 と言うわけで、鉱山跡、頂上一歩手前。

 頂上の吹きさらしに出ちまうと寒いからその前の洞窟の中に居る。

 洞窟に扉は無いがそれでも吹き曝しよりはあったかいからな。



 さむいさむいってガタガタ震えながら足踏みしていると下のほうから複数人の足音と話し声が聞こえてきた。

 これでやっと本命のご登場、ってわけだ。



 クレスの姿が光の下に現れるころ、俺は声を掛けた。

 タイミングはバッチリ見計らって虚を付くように。



「クレス!」

「え? あ、アッシュ!?」

「やっと来たか。とりあえず借りた金、返すな」



 混乱するクレスに俺はニンマリと笑いかけた。

 まさかラスボスに挑みに行く途中でとりあえず借りた金返す何ていう不意打ちがあるとは思わないだろう。



「どうしてここに?」

「まあまあとりあえずこれ。助かった。サンキューな」

「え、まさかそのためだけにとか?」

「それこそまさかだっつの」

「だったら、何のために君たちはここにいるんだ」



 大人代表クラースが出張ってきた。

 そうそう、さっさと交渉終わらせて、こんな寒いところからはおさらばしたい。










 なぜこんなところに居るのかについてはそこそこの事情を添えて説明する。

 ぶっちゃけ剣の事話しただけなんだけどな。

 グロウにもクレスたちを待つ一ヶ月の間さんざん残るなら今がチャンスって言い続けてきたけどここまで来たならもう何もいわん。



 クレスたちに説明したのは、俺たちの探しているその剣が何でかダオスの城にあること。

 その剣の有無は主にシンクと俺の存続に関わる事。

 だったら自分たちが探してくるから俺たちには待ってろ、って言ったがそれも予想のうち。

 その剣は個人、主に俺に反応する特殊な剣である事と、か割りと切羽詰っている事とか、シンクに真相を悟られない程度の嘘を交えて説明した。

 その場所にここ、ダオス城まで後一歩の場所を選んだのにも訳がある。

 ちゃんと。

 別に考え無しだった訳じゃない。

 ここでなら、必殺『ここまで来たのに帰れって言うのかよ』っていう精神的圧迫が使えるからだ!!



 うむ。

 使った。

 むしろトドメだな。

 クレスは甘いからな。

 クラースも最後には諦めた。



 そんな訳で俺たちは結構な大所帯でダオスの城へと続く次元の門を潜っていった。










 つーっても譜術使えないからバトルメンバーは殆どクレスたち。

 俺たちはその合間合間に買っておいたグミを使ったり戦利品の回収してたりするだけ。

 マジに。

 クレスたちの闘いを見ていても、手出しできない闘いだとは全く思わない。

 思わないが手出しする必要があるとも思えない。

 なんか、ビミョウだな。

 ユグドラシルの根元で拾われた時とは印象が違うような?

 まあ強い事には変わりないけどよ。



 幾つもの強敵、はいいとしてどうしてダオスだけとは言え誰かの住む場所にこんな罠? と思うような数々の罠も蹴散らしながらクレスたちは快進撃を続けた。

 そう、あっという間にダオスのところにたどり着いたわけだ。

 そしてそのダオスの手には、捜し求めていたローレライの剣。

 俺たち、俺とシンクとアリエッタとグロウは眼差しを交し合った。

 今はまだ何も言わずに黙っている。

 あいつの、ダオスの手の中で反応を示していても何も言わない。

 ダオスが俺たちが増えたせいでかなりの大所帯がやってきたことについて皮肉ったりしたけど沈黙する。



 俺たちが口出しをしなければ――始まった。

 クレスとダオスたちの最後の戦いが。








 激闘、と呼ぶに相応しかったと思う。

 クレスたちのあの強さを前にしてたった一人で立ち向かって引けを取るわけでもないということは、ダオスはそれほどに強いという事だ。

 最初こそ互角に見えてい闘いもだんだんと数の優位が見えてくる。

 ぶっちゃけ数の暴力だよな?

 ダオスのほうにそれを受けて立てるだけの実力があったけど、やっぱ一対多数の公式だよな?

 ……だめだ。

 考え始めたら何も出来なくなるぞ。

 そうだ。睡眠不足で頭沸いてるんだ、そうだそうだそうにちがいない。

 …………眠い。



 こんなところでかよ!



 あー、くそ、ここじゃカフェインの摂取もできねーよ。

 コーヒー、コーチャー、緑茶にむしろ栄養ドリンク。

 あー、眠たい。

 クレスたちの戦いは俺たちの介入を全く必要としないままに勝利を迎えようとしていた。







「今度こそ、やったか?」



 クレスの奥義に吹き飛ばされて倒れこんでいるダオスの姿にクレスがいっそ願いすらこめてそういった。

 だがダオスは幾度か身を震わせると、むくりとその半身を起こし膝をついて立ち上がろうとする。



「ま、まだ立つのか!?」



 執念ともいえるその様子にクレスは驚愕する。

 クラースが様子が変だ、と言ったその時、するりとミントがダオスの元に近付いて行った。



「だめだ、ミント! 危ない!」

「いいえ……この人は……、この人は、もう……」



 クレスの制止の声に彼女はゆるゆると首を振った。



「く、わ、私は、死ぬのか……」



 答えるものはだれも居ない。



「我が10億の民の未来はこれで閉ざされた……」



 力なき己を嘲笑うように、ダオスは言った。



「教えてください。あなたが何のために戦っていたのか」

「今さら、意味の無い事だ……」

「それでも、真実が知りたいのです」



 今、聞く事ができなければ永久に闇の中に葬られる問いだろう。

 尋ねるミントの真摯な眼差しと、この戦局ゆえにかダオスは膝を突いたまま、立ち上がることをやめてわずかばかり皮肉げな笑みを浮かべると彼らに向かって話し始めた。






 彼の母星デリス・カーラーン。

 そこでは星が魔科学によりマナが枯渇し滅びかけていた。

 魔科学は大量のマナを消費し、星の大樹を枯らしてしまう。

 そのためにダオスは魔科学を研究していたミッドガルズを滅ぼしたのだという。

 ダオスの母星、デリス・カーラーンを救うために必要なのは、他の星の豊かなマナを持つ星の大樹が育んだマナの固まりであり「大いなる実り」
 それを探してたどり着いたこの星で、豊かなマナに恵まれながら魔科学によってそれを枯らそうとしている人類の姿に、ダオスは結局絶望したのだった。

 話し合いの余地を持とうとしなかったことは、そうじゃなくても似た様な事だろう。

 彼には「大いなる実り」が必要だった。

 だがミッドガルズは魔科学によって大樹を枯らし、その結果として実るはずの「大いなる実り」をも枯らしてしまう。

 だからダオスはミッドガルズを滅ぼして、人の世界に宣戦した。



 だがそれはダオスの理論であり、この星に根を持たない異星人の意思だ。

 そのために手段を選ばず多くの人を傷つけたのは許されることではない。



 そう、許される事では、ない。



 許せない、許せないが――と。

 クレスたちの中に感情の揺らぎが生まれる。

 結局こいつらどいつもこいつもいい意味で、あまちゃんなのだ。



「ふっ。……はは、はははははははは! まだだ、まだ立てる。まだ私は立てるぞ」



 全てを話してしまったダオスが、揺らぐクレスたちの前に再び立ち上がった。

 だがそれは見るからに、灯火が消える直前の蝋燭のような、そんな命の炎だった。

 だが立ち上がったからには立ち向かわなければならない。

 再び最後の激突が始まろうとする、その――時。



「いけぇグロウ!」



 この場に着てから一言も喋らないで空気になっていた俺が号令を挙げた。















[3493] 十二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/02 22:48





 いきなりのあいつらにとってもう完全に第三者、傍観者になっていただろう俺からの号令に一瞬やつらの視線が集まる。

 その先には紙縒り片手に待機していたグロウがいた。



 タイミングを見計らってそのこよりで鼻をこちょこちょしていたグロウははぁー、と大量の息を吸い込むと、



「ハックショーン!」



 持てるありったけの魔力を籠めた盛大な火炎放射くしゃみを、ダオスとクレスたちの間に割って入るように吹き込んだ。



「いくぞシンク」

「アッシュこそ遅れないでよね」



 疾風の名に恥じず炎を追うように飛び出したシンクが弱ったダオスの前に飛び出した。

 力も早さも格段に落ちたとっさの斬撃をかるくかわすととん、と軽くダオスが剣を握る手を叩く。

 するとするりとダオスの手からダオスが使っていたローレライの剣が抜け出して宙に浮く。

 それを確保する俺。



 うん、なんかめちゃめちゃ手に馴染む。

 音素の交換ができてる気がする。

 たちまちのうちに実感として音素が満ちていくのを感じられた。



 まあなんちゅーか俺が来たせいかそもそもの特性か、ローレライの剣活性化していたからな。

 ダオスが最後に立ち上がったのだってたぶん活性化した第七音素にほんの少しでも癒されたからだろう。

 なんでこんな所にきてたのか、なんでダオスが持っていたのか知らないが、やっと、やっと手に入れた。

 あーもう嬉しくてうれしくて仕方ねーよ。

 ローレライは嫌いだがローレライの剣、つーか第七音素は無くちゃ生きて生けないからな。

 他の音素元素も持っているとは言え俺の体は地上のローレライ。

 構成の殆どは第七音素!

 レッツハイテンション!!



「サービスしろよー、ローレライ! 極大回復譜術、エンジェルブレスッ!」



 普通はFOFじゃなきゃ発動しない譜術なんだが、今ならOK?

 だってここ、剣以外にマジモンのローレライが居るからな。

 サービスサービス?



 極光が立ち昇り、降り注いでくる。

 その光はほぼ死に体のダオスも勝利を得た物の満身創痍のクレスたちも、区別する事無く等しく癒して行った。

 やわらなく暖かな第七音素の光はローレライと言う人格……音素格? さえなければこの世で最高の恵みだと俺は思う。



 なんでか知らんが居るローレライと俺をつなぎとめられるローレライの剣。

 イコールで外部の第七音素で環境はどんだけ全力で超振動放っても星そのものには微塵も影響しない空の上。

 も一つイコール制御しない超振動の力。

 多分俺今最強。

 最強の事実を誰も知らないけど最強。

 完全自爆技だけど最強。



「ダオス、お前にはクレスたちの協力があればユグドラシルの「大いなる実り」が手に入る事を先に言っておく。んでさ、喧嘩両成敗ってことで決着しないか?」



 ここで戦いをやめればどちらももう傷付くことは無く、ダオスは実りを手に入れて、クレスたちは10億の民を見殺しにした罪悪感を背負わないで済む。

 俺とシンクを間に挟んで戦局は硬直した。






 ダオスとクレスたちの闘いが始まる前に介入して止めなかったのは、その激突が必要だと思ったからだ。

 勝つにしても負けるにしても全力で戦って、ぶつかり合って、ギリギリまで消耗して、そういう過程が必要だと思ったからだった。



 喧嘩両成敗ってさ、一見聞こえはいいけどそもそも不公平で不平等な物なんだよな。

 そう思うよ。

 結局このばあいこっちの世界で失われた人々の命は戻らない。

 クレスの両親とか、ミントの母親とか、チェスターの妹とか。
 アーチェの親友とか、すずちゃんの両親とか、彼らの村のみんなとか。

 でも、ダオスの事情と10億の民、人々の話を聞いてしまえば、もうあまちゃんの彼らは積極的にダオスを攻撃することができない。

 刃を向けても葛藤が生まれる。

 そしてダオスには大いなる実りの入手法。



 ダオスには対立の理由が無くなって、クレスたちには対立しにくい理由ができた。

 奪った命は戻らない。

 許せないと叫んでも。








 俺がユグドラシルの保存法と大いなる実りの入手法と、どういった点でクレスたち、主にミントの助力が必要なのかを説明し終わった時だった。

 いきなり弾けたような激情とぎりぎりと弓を引く音がする。



「だからって、だからって許せるかよ!」



 妹を、アミィを失ったチェスターのやり場の無い思いが彼に弓を引かせていた。

 狙う先にいるのはダオス。

 止める暇も有らばこその早撃ちだった。

 だが体力が全快しているはずのダオスもなぜか避けようとしない。

 その矢を享受するかのように見えた。



 放たれた矢はダオスの腕をかすり服を引き裂き、一筋だけ、彼に赤い血を流させた。

 それだけ、だった。



「ちくしょっ……ちくしょーーーーっ!!」



 四肢を床に叩きつけ、チェスターは吼えるように悔しさを叫んだ。

 彼ほどの名手が動かぬ的に放った矢が外れたと言うことは、それは外れるべくして外れたと言うことだ。

 当てるつもりも無く、だが放たずには居られない。

 敵であることに代わりはないだろう。でも、もうチェスターにもダオスは討てないのだ。

 シビアに見えるけど、チェスターもりっぱにクレスの友人だ。

 根本が優しい――いや、甘いんだ。








 なんつーか、必要なんだけどなし崩し的感覚で俺たちはユグドラシルの前まで来ていた。

 これからミントがダオスも一緒にユグドラシルにマナ流出を防ぐバリアーをかけるのだ。

 なんか昨日の敵と書いて友と呼ぶ、みたいな会話を交わしながら一人ひとり別れを告げていくダオス。

 クレスたちで止めときゃいいものを俺にも話しかけてきた。



「おまえ達がいなければ私は我が母星の行く末を見ることは叶わなかったのだろう。感謝する」

「くれるっつーなら貰っとくけど、べつにいらねーよ。俺たちは結局俺たちのためにしか動いていないからな」

「ふっ、そうか」

「そうなの」

「ならば、そういうことにしておこう」



 マジそうなんだっつの、謙遜じゃねーっつの!

 あー、でも理解してなさそうだ。



「その、剣も」



 そこはかとなく優しい眼差しでダオスは俺の腰に吊るされている剣を見ていた。

 そんな大層な物じゃないぞ、この剣の構成音素の大本ローレライはただのヘンタイだ。



「不思議な剣だった。常に僅かだが暖かな癒しを感じていたように思う。お前たちが来た時に脈動が増したのでどうしたのかと思っていたのだが……そうか。お前が持ち主だったのか」

「そういやおまえって意外とすごい奴だったのな。あのときの回復とかよ」

「ち、チェスター! お前に褒められると槍が降りそうじゃないかー!」

「んだとこらぁ! 人が珍しく褒めてみれば」

「珍しい自覚はあるんだな」

「くっ」



 返す言葉のなくなったチェスターをクレスが宥める。



「ですが本当に素晴らしかったです。私の法力もまだあれほどの癒しが行えるまでには達していません」

「ま、とりあえずサンキュな」



 すごいのは俺じゃなくて嫌でもどーでもローレライなんだが説明するとこじれそうなので俺の功績にしておく。

 そこで俺は手紙を受け取ってからの積年の疑問をぶつけてみた。



「なあダオス。あんたこの剣、何処で見つけたんだ? 俺たちずっと探していたんだけどさ」

「それか。いつのまにか我が城に突き刺さっていたのだ。引き抜いてい見れば以外に心地よく……手放す事無く使っていた」

「……そっか」



 ローレライのあほんだら。



「では私も、マナの実りができるまで暫しの間眠るとしよう」

「どーぞどーぞ、さっさと眠っちまえよ。……そのほうが、時間が短いだろ」



 「大いなる実り」を待つ時間は、一刻でも早い帰還を望む彼にはおそらく耐え難くもどかしい時間になるだろう。

 眠ってしまえば、目覚めるまでのほんのすこしだ。

 睡眠ってのはいいシステムだよな。

 いや、この場合封印か?



 キザったらしい事をまたいくつか言ってダオスはユグドラシルに寄り添った。

 それにミントがバリアーをかける。

 これで全ては、終わったんだ。



「帰らなければならないな」



 そうクラースが言った。








 目の前ですずちゃんとクレスたちの別れが繰り広げられている。

 泣いたり笑ったりしながらすずちゃんは忍法木の葉がくれ? の術を使ってクレスたちの前から立ち去った。

 健気だー。



「いい子だったな」

「別れと言うのは、やはり悲しいものですね」

「ずっと一緒に居られたらいいのに……」



 チェスターがいう。

 ミントがいう。

 アーチェがいう。



「私たちも、戻るとしよう」



 そしてクラースがそういった。



「なあ、あんたたちはどうするんだ?」



 チェスターが俺たちに話を振った。

 待ってました!



「それがさ、帰り方わかんないんだよね」

「はぁ、帰り方がわかんない?」

「そうそう」



 あきれた、って表情を浮かべるのと大丈夫なのか? って心配性な表情を浮かべるの、綺麗に二つに分かれたもんだ。

 誰がどの表情を浮かべているかはなんとなくわかるだろ。



「実はさ、トールの遺跡使ってここに来たんだけど、トールの遺跡使えなくなっちゃってたし、で、途方にくれてなんとなく付いてきただけなんだよね」



 確かトールの遺跡は仕えなくなっていたはず、うん。

 確認してないけどストーリー的に。



「おま、そういうことは早く言えよ!」



 よし、信じたな、信じたなチェスター!

 途方にくれた感じに笑ってみたらクレスも食いついてきた。

 シンクとアリエッタももう少し危機感出してくれると嬉しいんだが。



「だったら僕らと一緒に行こうよ。何年ぐらい前なのかな、年号とか、わかるかな」

「アセリア暦4304年、だったと思う」



 思うと言うよりは忘れている俺の為に帰る年号が手紙に書かれていた。

 さすが俺、俺のことわかってる~。



「4304年って……僕らの帰る年と同じじゃないか!」

「え、ほんと! いや~助かったなー」

「じゃあ行こう。……あ」



 この期に及んで何を思いついたのかねクレス君。



「君たち、別れを行って来る人とか、大丈夫かな。それくらいなら多分待てると思うけど」

「はい、ユグドラシルは封じましたがまだ大気に残るマナがありますから、レアバードを使うくらいは出来ますし」

「気にしてくれてサンキュ。でも大丈夫だ。な? シンク、アリエッタ」

「はい、です」

「べつに」



 シンクには特に別れを告げる相手が居ない。

 アリエッタ、と俺はここに来るまでをあの飛竜に頼んだからついでに別れもきっちり済ませている。

 俺ならルーングロムは? と思うかもしれないが、ルーングロムとの別れはあの城を出た日に済ませてある。

 心残りはわりと無い。



「だからさっそく頼むよ」

「分かった」



 そうして俺たちはクレスを中心にした円陣に身を寄せ合う。

 ライガルを抱えたアリエッタがぎゅーっと押してくるのがめっちゃ可愛いっ!

 ちょっときつくて困り顔なのがなおグッド!

 あー、久しぶりに萌える、ってか癒される~~。

 一番最後にシンクが入って、これで全員集合。

 そこに、グロウを残して。



「あれ?」



 とクレスが言った。

 グロウも一緒に行くと思ったのだろう。

 だがグロウはその場を動かずにじっと俺たちのことを、いや、主に俺を見つめるってより睨みつけていた。



「じゃあな。さよならだ、グロウ」

「アッシュ……」



 両親に蹴り出されたグロウの大冒険もこれで終わりだ。

 彼には彼の日常が戻ってくる。

 いや、日常に戻る。



「ちゃんと爺さんところ帰れよ」

「アッシュ、俺」

「なんだ?」

「俺、あんたと出会って、少しはマシな俺になれたような気がする」



 突然のその言葉に、俺はらしくもなくきょとんと目を見開いた。

 ついで気恥ずかしさを誤魔化すように笑みがのぼってくる。



「しっかりやれよ、グロウ。いや、ムーングロム」

「ああ」



 初めて会ったときとは随分違う、よわっちくて自信が無くて、どこか丸まっていた背中とは見違えるような背中を見せて、グロウは――いや、ムーングロムは去っていく。

 あ、ちゅんちゅんにつつかれた。

 あ、逃げ出した!



 となりからシンクの深くて長~~いため息が聞こえてくる。

 ま、その気持ちも分かるけどな。

 かわんねぇな~。



「ムーングロムって、何処かで聞いた名前のような……」

「そういえばあの容姿にも見覚えがあるような気がするな」

「誰かに似てる?」



 クレスにクラースにアーチェと今頃になってようやく何か気が付いたらしい。



「アルヴァニスタのルーングロムって知ってるか?」

「ああ、知人だが」

「あいつ、そのルーングロムのひ孫だってさ」

『ええっ!』



 耳が痛いほどの驚愕の声が重なった。

 なんとなくここでは見納めだと思って封印されたユグドラシルを見る。

 姿の見えないダオスと目があったような気がした。












[3493] 十三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/03 18:09



 俺たちは次元転移をして無事にアセリア暦4304年にたどり着いた。

 レッツ主人公補正!

 これでクレスたちと同じ歴史の中に居る事になる。

 分岐世界の収束に巻き込まれることも多分ない! ここは正史だ!



 と思う。



 まあそうでも思わなけりゃやってられないしな。

 違ったとしてももうエターナルソードもないし、どうしようもない話だ。

 せいぜい精一杯生きていくっきゃない。

 音素乖離で死ぬ危険性は回避できた。

 これだけでも僥倖だ。



 俺たちはここ、アセリア暦4304年でクラースとアーチェとも別れ、クレスたちはなくなってしまった村の復興に励むことになった。

 そこで俺たちはどうするのか、と言うことなんだが。

 アルヴァニスタに行ってさっそくルーングロムと親交を深めようかと思ったが、いまのところまだ橋が落ちていてアルヴァニスタへの船が出ているヴェネツィアにたどり着けなかったような気がする。

 アリエッタの魔物情報網でもそうらしい。

 当分はアルヴァニスタに赴くことは出来ない、と言うことになる。



 と、なると。

 やる事やれる事と言えばこの村の復興を手伝うぐらいしかない。

 ユークリッドにいって生活するって手も無きにしも非ずだがそっちの生活に強い魅力があるわけでもなし。

 ライガルが自由気ままに生活できる環境としてはむしろこっちのほうが好ましいしOKじゃね?

 つーことだな。



 俺はそうして生活しながらある日、数日分の飯確保してくると言ってユグドラシルのある森にいった。

 大人のボア一匹居れば俺たち分なら本気で数日もつからな。

 クレスたちはモリスンさんやユークリッドや、ユークリッド経由でなんとかして早期にアルヴァニスタに連絡つけて、と色々忙しい。

 復興には資金と人が必要だ。

 クレスたちにはそういう人脈も大いに活用してもらって、そういう人脈の全くない俺たちは積極的に雑用に回る事で彼らに時間を作る。

 いい協力体制だと思わないか?

 俺は思うぞ。



 そうして行ったユグドラシルのある森で、マーテルの居る、だがまだダオスの居ない樹の前で、俺は鞘に納まったローレライの剣を引き抜いた。

 周囲に人が居ないのは確かめてある。

 問題は確実に一人っきりになれるタイミングが少なかった事が問題だった。



「おい、そこにいるんだろローレライ」



 剣に向けて俺は話しかけた。

 こっちの世界で見つけてからローレライの剣がもつ濃密な第七音素の気配は、ただのローレライの剣の比じゃない。

 ローレライの剣と言う要素以外にもここには第七音素があり、それがローレライ自身だと俺は確信していた。

 ダオスの城でエンジェルブレスが使えたことから確信を深めた。

 ローレライは必ずここにいる、ってな。



 案の定。

 俺の呼びかけからしばらくしてローレライの剣の周りに第七音素の輝きが見え始める。

 やがて集まったそれは人型を取ろうとして失敗したようなまるで焔の塊に見えた。

 ローレライ、だ。

 あの時、タタル渓谷で見たような。

 ただ、一点妙なところがある。

 このローレライ、ひじょーーーーーーに、



「ミニマムだな、おまえ」



 俺の言葉に抗議するかのように、そのミニマムな焔もどきの第七音素意識集合体は出来損ないの体を震わせた。



『そなたが私を殴ったりなどするからだ。構成音素が拡散してしまった』

「へえへえ、そりゃ悪うござんした」

『反省して居ないだろう』

「してない」



 正直な俺の言葉にローレライは黙って身を震わせた。



『私を構成する大部分は向こうの世界に置き去りだ。どうしてくれる』

「向こうに戻ればいいだろ。あんたのせいでこっちに来たんだ。向こうにもどせるのもあんたしかいない」

『確かにそのとおりだ。だが、直ぐには無理だ』

「だろうなー。おまえ、ちっさいもんな」

『うるさい! 誰のせいだと思っている!』

「へぇへぇ、俺のせいですね俺の」

『そのとおり、わかっているならいい』



 心なしかそのミニマムな焔はふんぞり返ったような気がした。



『具体的には五年ほどだな』

「そっか。五年か……俺もだいたい25歳か~」

『違うぞ』

「なんで?」

『こちらの暦で五年だ。ここの暦は我々の世界の約半分、おまえもせいぜいで2、3年程度のものだろう』

「え、マジで? ……そういやそうじゃん」



 アーリィでクレスたちを待っていたときの一ヶ月は30日だった。



「うわ、なんか得した気分」

『そうだろうそうだろう』



 ローレライ……あんたの功績じゃないっつの。



『私はこちらの世界で五年ほどこの剣と共に眠るだろう』

「そうか」

『お前やシンクの体を維持する程度なら問題ない。私が眠っていても力をかそう』

「サンキュ」



 戻らないのもいいかな、と思っていたけど、無理だ。

 五年十年、その程度ならローレライの助力があれば音素のない世界にも居られるだろう。

 だけど今回のことで良くわかった。

 それ以上は無理だ。

 あらゆる音素の代用が出来る第七音素だけどそもそも第七音素の塊であるローレライがここでは音素の補給が出来ない。

 いずれ尽きるのは見えている。

 五年も経てばなおさら音素が減るような気がするんだがそれであっちに帰れるのは何故だろうか、ローレライ理論だと思って追求はしない。

 めんどくさいから。帰れるっていうならそれでいいさ。



『あまり譜術の発動はするな』

「あいよ」

『五年もシンクやアリエッタの萌えを見る事ができないのは残念だが――』

「お前いつからそんなヘンタイ音素意識集合体になっちまったんだろうな」

『そなたの影響に決まっているだろう』



 何処にも否定の言葉が転がっていなかった。

 俺のせいだよなー、俺の。

 開放しろしろって煩いローレライと視界共有とかしてたし。

 だめだ俺! ここんとこわりとシリアスな気がしていたけど根本が結局ダメダメじゃん!



『せっかくまたそなたの視界で可愛い可愛いアリエッタとシンクを見られるかと思ったのに残念だが私は眠る。時が来るまで、すきに生きるがいい』

「ああ、そうさせてもらうさ」



 ぼう、っと型崩れした焔もどきの輝きが強まる。

 このミニマムサイズならこいつも可愛いんじゃないかと不覚にも思ってしまった。

 だがどんなサイズでもこいつは第七音素変態意識集合体だぞ!

 消えようとする、いや、眠りに付こうとするローレライに俺は一つ不思議に思っていたことを尋ねてみた。



「なあ、ローレライ」

『なんだ?』

「どうしてお前はそうも俺たちに力を貸してくれるんだ?」



 どうしてなのか、ずっと気になってはいた。

 ローレライご執心のユリア・ジュエはもう居ない。

 他の音素意識集合体は人に関心なんてない。

 ただ音譜帯に居るだけで下界のことに関心なんてない。

 大地が浮かぼうが沈もうが星が滅びそうでも無関心だ。

 それなのにどうしてこいつはこんなにも人間に関わるんだろうかと思う。

 人間の感覚で物を考えるのが苦手、というか出来てるようでできていない。

 なのに人間に関わろうとする。



 しばらくの間沈黙が続いた。

 揺らめいているローレライの体はその場に留まったまま、何か考えている風に見えなくもないが表情が無いのでわからない。

 いい加減短気な俺が待つのをやめようかと思ったときだった。



『それは……』

「それは?」

『に、人間が好きだからに決まっているではないか!』



 怒鳴るような口調でぱぱっと言い終えるとぽん、と焔は消えてしまった。

 情緒もなにもあったもんじゃないがもしかして今のって、恥しがってたのか?



「ま、まさかこれはローレライ萌えの予告編っ――!」



 そんなバカな。









 あ、しまった。

 ローレライ本人にどうしてダオス城なんかに居たのか聞きそびれた。

 まあ、いいか。

 何処か抜けてるからな、ローレライ。









[3493] 十四回目=完
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/07 14:30




 新しくこれから命名されるミゲールの町の復興を手伝っていたある時、アリエッタが卵を拾ってきた。

 生半可じゃなくでっかい卵だ。

 どれだけでかいかというと、軽く一抱えはある。

 夏の4Lスイカよりでかいことは確かだった。



「アリエッタ。これは何処で拾ってきたんだ?」

「? あの大きな木がある森で拾ってきました」

「ほんとーに拾い物なんだな?」

「そう、です。木の根元に転がってました」



 そうかそうか。

 転がってたか。

 どこかの巣から取ってきたんじゃないかと思ったが違うらしい。

 これだけ大きな卵を産む魔物が卵を奪われた! って復讐に来たらたまんないよなぁ、と思っていたが落し物ならまあ……って、ユグドラシルのある森だよな。

 あの森、こんなでかい卵を産むような魔物が居るのか?

 ちょっとまて、ここは人間が住んで手平気なのか? ほんとに。



「それでアリエッタ。この卵どうするんだ? でかい目玉焼きが出来そうだな」

「食べません!!」



 あと少しで泣き出しそうな涙目になりながら卵を庇ってアリエッタは叫んだ。

 ビックリだ。めちゃビックリだ驚いた。

 あの、あのアリエッタが!

 食べる目的以外に、他の生命体の卵と言う高栄養食品を、もってくる日がくるなんて!



「この卵は、アリエッタが育てます!」



 俺、泣くかと思った。










 その日からアリエッタは四六時中卵を抱えているようになった。

 卵がでかすぎて一人じゃ温められなくてライガルも一緒になって卵を抱いてる。

 まあ抱くだけじゃやっぱり隙間が大きすぎるんで布団の中に入り込んで抱いているんだが、時々眠ってしまって毛布がはがれていることがある。

 その時のかわいいこと萌える事!

 あどけない寝顔に半開きの口、真ん中に卵を挟んで反対側にはこちらもうたた寝のライガル。

 眠ったアリエッタと卵とライガルと言う構図のあーもう!

 カメラさえあれば帰った後で俺の師団員だった奴等に見せてやりたいくらいだぜ。



 時々耳を当てて中で命が育っている事を実感しては嬉しそうに俺に報告してくる。

 そしてライガルがいないときにはアリエッタの奴シンクを連れてきて一緒に布団に潜るのだ!

 間に卵が入っているとは言え、首まで毛布を引き上げていればまるで一つの布団で眠りこけているみたいではないか!

 おおおおーーー、俺は、俺は!

 寝相の悪いアリエッタがときどき毛布を剥がしちまうけど、それはそれででっかい卵を間に挟んで二人で寝ているその構図!

 ああ、ライガルとアリエッタもいいけどアリエッタとシンクはもっといい!

 萌えるぜ。



 ほんとうは復興途中のミゲールにまだなっていないこの町で、こんな事をしている余裕はないんだが、三人まとめてこの村の食料拠点となることでなんとかこの幸せを保っていた。

 このためなら俺は何だって出来る!

 きっと!



 と言う訳で俺たちはどこからかアリエッタが拾ってきた卵を育てながらそれなりに過ごしていた。

 孵卵器なんて上等な物はない。

 あったとしてもこんなでかい卵が入るような孵卵器は無い。

 アリエッタも親になる気満々とは言え、出来るだけアリエッタが卵のそばに居られるように俺もシンクも配慮してるし、クレスたちすら気にしてくれているがそれでも完全に24時間体制とはいかない。

 そんな時には俺もその卵の面倒をみるようになっていた。



 卵を抱いて、あったかい布団の中で昼寝する。

 すんげー幸せ。

 だが、だが。

 事件が起きたのはそんなときだった、とかナレーションが入りそうな具合にあるとき俺が卵を抱いて眠っていて、なんとなく身じろぎした時、べったりと顔に張り付くものがあってぎょっとして目が覚めた。

 その俺の目に映ったのは――もうあれっきゃないよな。

 割れた卵とその中身。

 俺の寝ている間に俺の全く感知しないところでひとりでに孵化してしまったらしい。



 うわ、これどうしよう、アリエッタが残念がるだろうな~、と思いながらもそいつを見る。

 見たくないけど見る。

 見なきゃならん。

 一抱えもある卵から孵ったその中身は、どうみても、どこから見ても竜の幼生のようだった。

 べったりと顔に張り付いたのは、その竜の幼生が俺の長い赤い髪の毛を口にくわえて涎でべとべとにしていたせいだった。

 ああ、なんかデジャブ。



「オーマイガッ」



 お手上げだ。








「アッシュ、アッシュ酷いですっ! あ、アリエッタ、楽しみにしていたのに!」

「ごめん、ほんっとゴメンな、アリエッタ」



 ぐずぐずとアリエッタは半泣き状態になっていた。

 それでも完全に泣こうとしない。

 強情だ。その方が困った。

 俺がどうしようかと途方にくれてシンクを見ると、シンクは呆れたように肩をすくめて、でも助けてくれる気はあるようだった。



「アリエッタ」



 ただ名前を呼んだだけだった、んだが。

 どんな効果か呼ばれてシンクを見たアリエッタはじーっとシンクの顔を見ると、やがてひときわ大きく顔をゆがめて俺のほうに向き直った。



「もう、いいです」

「そ、そうか?」



 何が作用したのか分からない。

 シンクの何がアリエッタの琴線に触れたのか。

 なんにしても正直助かった。










 産まれた竜の幼生は案の定、俺のことを親だと思い込んだ。

 刷り込みだ。

 俺は親ではないし親になりたがったのは俺ではなくてアリエッタなのだが……なんともならん。

 卵が孵ったので時間に余裕の出来まくった二人に俺の仕事を譲って俺はこの竜の食事を調達しに出かけることが多くなった。

 チュンチュン何て一呑み。まだ足りないとあまり可愛くない声で鳴く。

 休んでいると寄り添ってくるのはいいとして、こいつなんでだか知らないが俺の髪に拘る。

 寝ているときなんかも口に含んだまま、朝起きたらべったりと……ああ、なんかデジャブだな。

 竜の成長は早い。

 一週間後には生まれたときには退化した飾りかと思っていた翼が成長して竜は空を飛び始めていた。

 今までの飯が全部翼に回ったような成長具合で、竜自身の大きさは変わらない中で翼だけが成長している。

 そうして飛び回っている。



 そうか。

 こいつは飛竜だったのか、と俺はようやく理解した。

 ああ、これもなんかデジャブ。



 翼が熟成するとこんどは日増しに飛竜は大きくなっていく。

 俺は近頃じゃこの村の復興の為に近隣の港で船の往来が増えてきたこと、ようやく橋も繋がってそのためにさらに人が増えてきたこと、そしてユグドラシルのある森じゃこいつの胃袋を近いうちに満たしきれなくなるだろうという予測からこの村を出ることにした。



 クレスたちには引き止められたが、あんなデジャブやこんなデジャブを感じまくっていたことと、この日竜にアリエッタが執心しているから俺たちにはこの竜の飼育を放り出すという選択肢はない。

 竜もアリエッタの言葉を理解しているみたいだし、大きくなっても危険性は無いだろう。



 こいつもなんちゅーか、50年後に生きている事はある意味確認済みだった。

 たぶん、こいつが50年後の未来で俺たちを乗せてくれた飛竜だったんだろう。

 なんであの巨体を誇る竜がおとなしく俺たちなんぞ乗せてくれたものだと思ったんだが……こんなところにカラクリがあるなんてな。

 と言うことは、だ。

 あの旅の中で俺がこいつの為に狩りをしていたのって、久しぶりのママご飯、ってことなのか!?



 ちょっと、ちょっとだけショックだ。







 村を出た俺たちは魔物を倒して飛竜に与えながらミゲール近隣の船着場を目指した。

 ドワーフの遺跡付近への直通航路があるらしい。

 そこから徒歩でアルヴァニスタを目指そうという道程を予定として立てていた。

 飛竜は梱包して荷物扱いで船に乗せようとしたんだが、たった数日とは言えこの生き物を隠して載せるのは無理だと判断した。

 ついでにそうなるとライガルも障害になる。

 片っ端からその航路の船長に交渉してとある船の船長に許可を貰うまでに数日を要した。

 その間に周辺は魔物が一掃された、と言えるほど魔物が居なくなっていた。

 つまり、飛竜が喰った。



 俺たちの世界の貿易船キャッツベルトとかとは比べ物にならないとろい船で、予想以上の日数をかけて俺たちはドワーフの遺跡付近の船着場に到着する事がで来た。

 そこから俺たちは一路アルヴァニスタを目指す。

 出会う魔物と言う魔物を飛竜の胃袋に収めながら。



 アルヴァニスタでは飛竜を一時アリエッタとシンクに預けて俺は街に入った。

 さすがにここまであのでかさの飛竜をつれてくることは出来なかった。

 三人四人、とかコンテナぶら下げて、とかは無理だろうが、もう一の一人位なら乗せて飛べるほどまでに大きく育っていたからだ。



 アルヴァニスタの城で俺はルーングロムに面会を申し込んだ。

 来賓室で待ちながら、やがてやって来たルーングロムに俺は言った。



「久しぶりだな、ルーングロム」



 いわれたルーングロムは不愉快そうに眉根を寄せる。

 そりゃそうだろう。



「失礼だが、私は君とあった覚えが無いのだが」

「そりゃないでしょう。私はあなたを知っていましたが、貴方と私は初対面だ」

「では何故?」



 不愉快と疑問が交じり合った表情で彼は尋ねた。



「これをどうぞ」



 と言って俺はルーングロムから預かった小箱を彼に向かって差し出した。



「未来のあなたから今のあなたに、お届け物を届けに来ました」



 不信がりながらもそれを受け取ったルーングロムは、小箱の封を切り、中身を見て顔をしかめて同封されていたのだろう手紙を読んで顔色を真っ青に変化させた。



「これは、本当に、未来の私からの物なのか?」

「ほんとうです」

「中身は、見て居ないだろうね」

「未来のあなたと約束しましたから、見ては居ません」

「そ、そうか。なら、いいんだ……」



 そこまで反応されると何がかいてあったのか非常に気になる。









 俺たちは基本的にアルヴァニスタから少しはなれた、旅人もめったに通らない場所にちいさな家を構えた。

 魔物は多いが、飛竜ももう一匹で狩りをする事をおぼえたので楽っちゃ楽だ。

 年に二回ほどミッドガルズ手前のルナが居るはずの12星座の塔付近まで出張してみる。

 ちょっと物騒な家族旅行だ。



 俺とルーングロムは未来ので知ったとおりに友好を結んだ。

 時には酒を飲み交わす、親しい友と書けるくらいの間柄だとは思う。

 彼に子どもが生まれたときには見せてもらった。

 萌え、とは違う可愛らしさで、これはこれででれでれになる。

 三年後、彼が拙い言葉で俺に向かって「お、じ、たん」と言った時にはまだお兄さんだ! と思っていたはずなのにもうおじさんでもいいやと思った。

 俺ヤバイ。



 アーチェにもであったが、見事、チェスターと喧嘩して出て行った。

 追いかけるチェスター、戻ってくるアーチェ、喧嘩する二人。

 見事なループ、これでどうしてと思わずに居られないがうーん。



 ちなみに俺はクレスたちの復興している村にいてクレスの手が空いているときはクレスにアルベイン流の剣術を教えてもらってみた。

 んだが、盾を使うのって性に合わん。

 でも無駄ではなかったと思うのでまあ良し。



 とにかくそういう風に竜を育てたりルーングロムと親交を結んだり、年二回の12星座の塔まで家族旅行に出かけたりクレスたちに会いにいったり。

 なりきりダンジョンだったか、あの精霊ヴォルトに負け続けてプレイをやめたゲームボーイソフトのメルとかディオとかももしかしたらその間に何処かですれ違ったのかも知れないが、出合っては居ない。

 ネットで後略情報集めているうちにエンディングの内容とか知って満足してプレイ自体はどうでもよくなったんだよな、あれ。

 とにかくそうこうしているうちに、5年なんてたちまち過ぎてしまった。

 そろそろローレライが目覚める。

 近頃ローレライの剣がむやみやたらと力強い気がするのはたぶんきっと気のせいじゃないはずだ。



 シンクやアリエッタに別れとか済ませておけ、と伝えて数日。

 とうとう、ローレライの眠りが終わる日がやってきた。









『では、行くぞ』



 アリエッタとシンクの前にも現れてからこっちローレライがキザと言うか古風な口調と言うか偉そうと言うか、二人に自分をかっこよく見せようとしているような気がする。

 というか確信する。

 「やだー、何この変態音素意識集合体! キラーイ」とか言われないための策だろうけど今回は口を出さずにおとなしくしておく。

 前回は思わずぶん殴っちまってこの事態だからな。



「ちゃんと間違えずに返してくれよ」

『当たり前だ。私は癒しと時間を司る音素意識集合体だぞ』



 時間と癒しじゃ異世界に行っちまう事と全然関係ねぇじゃん。

 そう思ったけど気分良くローレライに元の世界に返してもらうために俺は何も言わないで置いた。



『そなた等……決して手を放すのではないぞ』

「OK」



 俺は右手に握ったアリエッタの手と、左手に握ったシンクの手をぎゅっと握りなおした。

 素直にもじもじと恥しげな様子を見せるアリエッタとそっぽを向くことで遠回りに気恥ずかしさを現しているシンクと双対象な二人に萌える。

 そんでもって俺の肩に巻き付いているライガル重い。



 仮住まいの前と言う場所が場所なんで雰囲気は出ないが、周囲を暖かな第七音素の光が包み始めるとそんなのは見えなくなるのでどうでもいい。

 視界のすべてが第七音素に塗りつぶされる前に、俺は寂しげに声をあげている飛竜に向かって眼差しを送った。

 俺達が居なくなったら人間に目を付けられないようにひっそりこっそり時にはアーチェなんか頼りながら生きなさい、とアリエッタを通じて言い聞かせてある。



 五十年後でもまだまだ若々しく見えたし、そうであるならこの竜の寿命に付き合えるのもハーフエルフのアーチェぐらいのものだろう。



 そうしてとうとう白い光に包まれて、その竜の姿も見えなくなった。

 その姿を最後まで、寂しそうにアリエッタは見つめていた。







                             ――完――



[3493] アッシュに憑依したとある日本人の絶望。END
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/11 21:37




 もう直ぐ、もうすぐ帰り着く。

 シンクにとってもアリエッタにとっても生きにくい世界だろう、あっちは。

 でも生きにくくても、あそこが俺たちの生きる場所だと実感した。

 俺たちは帰る。



 でも、なー。なんか引っかかるよな。

 癒しはいい。いいんだが、時間。時間?



 考えている間にも手を握っているアリエッタやシンクどころか自分の姿すら見えなくなるようなほどの膨大な光に包まれて足元を喪失する感覚を覚える。

 無重力、っていうのを擬似的に体感したかもしれないけど俺ムリ。気持ち悪い。

 やがて満ちていく時より格段に素早くそれは静まって行った。



 喪失した重力が再び俺たちの上に覆いかぶさる。

 上も下も分からなくなっていたのが背中から引き寄せられるように――



「おお、落ちるーーー!?」

「くっ」

「きゃぁ」

「失敗しやがったなローレライ!」



 ローレライの返事を聞く前に、俺は背中からなんか建物の屋根を突き破った。

 くそ、俺は錆び付いた英霊じゃねーぞ。俺は生身なんだっつの!

 あー、痛てーよ。

 いつの間にか俺の目の前に居たミニマムローレライは、心なしか背中を丸めて俯いているように見えた。

 俺はアリエッタとシンクの無事を確かめてからローレライに向き直る。



「正直にいえよ、な? ローレライ」



 宥めすかすようにそういえば、ローレライは更に丸く待っていく。



『すまぬ。失敗した』



 そうかそうか。

 俺は気絶したアリエッタをシンクに預けるとローレライからは死角になる位置で拳を握った。



「世界の果てまでぶっ飛んで行けーーーー!!」



 唸る拳、轟く雷鳴!

 ぶっ飛ばせ俺の超振動拳!



 の前に姿を消して逃走しやがった。

 こういうところだけ賢くなりやがって。

 ユリアと出会ってから二千年の間はろくなこと覚えなかったみたいなのに。



「くっ、逃がしたか」



 今度は悔しさに拳を握って歯噛みしているとふとまだ床と瓦礫の間に挟まったままの俺たちの上に影が差した。

 見上げれば銀髪美人のお姉さま。

 お姉さまの手に握られている杖の先端が俺たちに、つか主に俺に向けられている。

 ちょっと目を逸らせば特徴的なひらひらが付いた変な服を着たボーイ&金髪に白い服にタイツ姿のガール。

 そのほかにも銀髪お姉さまの弟らしき銀髪ボーイにエトセトラ、とにかく同じくらいの世代の子ども達が数人いた。

 うむ、黒板と教壇みたいな場所もある。

 そうか、学校か。



「最近は不審者も堂々とした物なのかしら、ねえ、あなたたち」

「い、いやぁ、参ったね、言い訳のしようが無いわ」



 美人のお姉さまの口から放たれる皮肉って強いね。



「それで、何が目的なのかしら」

「べつに間違って落ちてきただけだから目的なんてないよ。その物騒な物、どけてくれない?」

「喧嘩売るなよシンク」

「別に、喧嘩売るつもりなんてないけど、買うなら勝手に買えば?」

「その態度が喧嘩売ってるちゅーの」



 シンクの頭をぐっと押さえつけて俺はこの場になんて言い訳しようか必死に考えていた。



「俺がアッシュでこいつがシンクでこの子がアリエッタ」

「不審者の自己紹介なんていらないけど」

「いや、俺のほうが要る。武器も荷物も全部預けても構わない。とりあえずこうしてきたのは不慮の事態で悪意も害意も無いと言うことを話し合うために名前を教えていただけませんか?」



 下手に下手に願い出ればお姉さまは不満も露な表情をしながらも号令を出した。



「ジーニアス、ロイド、彼らから剣と荷物を取りなさい」



 ……あー、またこれもデジャブ?

 聞き覚えのあるようなやな感じ?



 俺がそんな事を思っている間にも号令を出された二人は俺たちから武器と荷物を剥ぎ取って行った。

 まあ武器持ちって俺しか居ないし、荷物っていってもグミやボトル程度だし、実質奪われてもそう大した戦力低下でもない。

 俺たちの主戦力たぶんシンクだし。

 ふところ探られていやん、くすぐったいわぁん。



 ローレライの剣を奪われて道具袋も剥がされて、暗器隠してないかってロングベスト剥がされて。

 あーあ、アルヴァニスタで買ったお気に入りのロングベストがばっさばさ叩かれてる。

 神託の盾騎士団支給だったあの服に似ていたからなんとなく買っただけでこだわりはないけどもちっと大切にしてくれや子供たち。

 いや、銀髪お姉さん。

 あんたの出す指示容赦なさすぎ。

 ブーツ脱がされてもいっちょ上着も脱がされて公衆の面前で俺もうすぐ下着です。

 疑り深いぜ、俺切ない。



「それで、名前は教えてくれるんで?」

「いいわ。悪意や害意が無いのは本当みたいだし」



 ここまでやっといてまだいうなら俺泣くよ?



「……私はリフィル。リフィル・セイジよ」



 あーあ、やな感じ?

 やな予感的中?

 空間じゃなくて時間転移かー、さっすがローレライ癒しと時間を司る音素意識集合体。

 やっるねー、今度はファンタジアの五千年前か。

 たしかシンフォニアだよな。

 買おうかどうしようか迷って前情報集めてたけど、結局プレイしてないよなー、あはは……。



 ローレライのばっかやろーーーーーっ!!!!!!












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あとかき
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ちょっと整理。

アッシュに憑依したとある日本人の日記帳

神託の盾騎士団員の一瞬
神託の盾騎士団員の二瞬
これらが
九回目までのどこかに入る。

九回目

アッシュに憑依したとある日本人の回想(仮)

六回目 ローレライをぶん殴るところまで本筋、それ以降がアフター

アッシュに憑依したとある日本人の願望。
TOPでの時代は未来。

七回目=The Final.
で超振動をぶっ放すまでが本筋。それ以降アフター

八回目

十四回目=完・二
特に反れる事も無く本筋

ここ
わからん。


それ以外はアフターエンドとか分岐です。
いつか書くかもしれない、書かないかも知れないもしかして。


まあ、なんとなくフィーリングで感じてください。






[3493] アッシュに憑依したとある日本人の悪夢。
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/07 18:36





 あはははははははは。

 ローレライの奴、これ一体何の嫌がらせ?

 シンフォニアってさー、この危機一つ乗り越えても二年後にまたまたアーっというまに危機がやってくるあぶなっかしー、世界だよねー。

 しかもシンフォって、俺たちに出来ることって特になさそうじゃん。

 マジどうしょうも無いじゃん。

 別にファンタジアでだって俺たち何かやったわけじゃねーけど。

 ラスボスで割り込みかけてローレライの剣回収するついでにちょっとわがまま通してみたりしただけだし?



 べっつにぃ?

 音素の無い世界で無茶する気なんてないけど。

 音素があったって無茶するきないけど。

 どこに居ても安全じゃないよね? って感じが凄くイヤン!



「さて、それじゃ自己紹介も終わった事だし、どうしてあなたたちがここにいるのか詳しく説明してもらいましょうか?」



 と言ったときだった。

 それはそれは奇妙な音が聞こえてきて俺たちはみんな首を傾げた。

 奇妙な音なのは確かだが俺たちには何処かきこ覚えがあるような……なんつーか、あの飛竜の幼生と戯れていて間違って足を踏んだときのような切ない鳴き声にそっくり……って!



「まさか!」



 跳ね起きるようにして立ち上がると、今まで俺の居た場所に、つまり俺の下敷きになって、あの飛竜の奴が伸びていた。



「オーマイガッ!」



 第二弾!

 飛竜の奴までついてきてるよ!

 何の悪夢だこれは!



























 と言う夢を見ました。


 
「……ゆ、夢だ、よな?」



 ひんやりと体の熱を奪ってゆく冷たさに目が覚めた俺はそう呟いた。

 白い光に包まれて、あの飛竜とお別れして、気がつけば意識を失ってここにいたる、って言うのが正しいはずだ。

 そのはずだ。

 なんつっても、あの第七音素の光に包まれて飛竜と分かれてからここまでの間、俺の記憶はない。

 そのシーンからいきなりこの冷たいシーンに繋がっているっつーことはそういうことだよな?

 うん、そうさな。



 と納得しておいて俺は自分の状態を確認した。



 体から熱を奪ってゆく冷たい石造りの床と壁と天井。

 両手にはちゃんと、手放さなかったアリエッタとシンク。

 目が覚めるのが遅いのは、ファンタジアの世界に行ったときと同じ理屈だろう。

 第七音素への親和性。

 まあ、シンクの場合全身第七音素だから影響が大きいと見ることも出来るだろうし。

 真相は分からんが。



 俺の肩から転げ落ちているライガルもちゃんと呼吸がある。

 名犬だよなぁ、ライガルって。

 ここが元の世界なら、俺ライガルの家畜化の研究とかしてみようかな。

 絶対犬より賢いと思うんだよな。



 俺は寒さに震えながらも自分のロングベストを脱ぐと床に敷いてその上にアリエッタとシンクとライガを乗せた。

 その間にライガは目が覚めたんだが、ライガにはアリエッタとシンクの湯たんぽになっていなさいと言い聞かせる。

 これで多分石の床に直接座っているよりゃ多少マシだろ。



 さて、全員無事に転移を終えたようだった。

 周囲に満ちる音素の気配を強く感じる。

 こっちに居た時には良く分からなかった音素だが、それが一度向こうの世界、音素のまったくない世界に行くことで強く実感できるようになっていた。

 今ならきっと、以前よりも精密に音素を扱える気がする。

 死霊使いにも負けない音素使いが出来そうだ。



 ならここがどこかと言う事が問題になるな。

 ローレライの姿が見えないのが気になるっちゃ気になるが……ローレライの剣はあるな。



 この馬鹿げた旅のきっかけ、というか始まりの場所になったタタル渓谷、では無いのは確実だ。

 なーんつーか、黴臭い。



 かすかに波の音が聞こえる気がする。



「ライガル」



 と呼びかければアリエッタとシンクの上で丸まっていたライガルが首だけ動かして俺を見た。



「シンクとアリエッタのこと、ちゃんと守っていろよ」



 と言えば頷いたように見えた。

 ライガルはまたくるりと二人の上で丸まって二人の湯たんぽになる。

 くっ~~~う!!

 萌えるぜ!

 ああ、動物とミドピン、めっちゃ萌え!

 これで背景が無機質な石壁じゃなかったら最高なんだけどなぁ。



 っとと、そんな事より、だ。

 俺は今のうちにここが何処なのか調べるためにその場を離れることにした。

 幸いにも魔物の気配はあまり感じられない。

 皆無じゃないが、あのライガルなら退けられるだろうし、ホーリーボトルも二人の周囲に撒いてきた。

 なんとかなるだろ。

 それにしたところで不安はあるから早く帰るつもりだが、状況把握も大切ってことで。



 俺は一室ずつ扉を開けて中を確かめながら歩いていた。

 開ければ開けるほどなんだか見覚えがあるような。

 そう、それは懐かしき――訳でもないがどうやらコーラル城っぽい。



 ちゃんと帰りつけているならファンタジア終了時点で俺だいたい20歳で、ファンタジアに居たころの5年をだいたい三年くらいに換算して、23才?

 アビスのゲーム本編でなら、ほぼエンディングでルークが帰還してから三年くらいの頃合になるんだろうか。

 それくらいの時間に帰ってきていれば正しいし、それくらいの時間かいっそのこともっと先の時間に居れば俺たちきっと平和だよな。



 音素の存在を強く感じる事と全員が無事に居るらしい事に俺はうきうきしていた。

 嬉しかった。

 確実に嬉しかった。

 だからそれは落とし穴にはまったような、そんな気分だった。



「……嘘だろ」



 それが、ソレを見つけたときの俺の第一声だった。



「……冗談だろ」



 床に散らばる朱金の髪。

 転がって天井を見ている虚ろな目。

 10歳程度の小さな体。



 見覚えなんてありゃしないが心当たりはありすぎた。



「オーマイゴッ!」



 夢の中と合わせて第三段!

 ローレライの奴失敗しやがった!

 くそ、目が覚めた時居なかったのは逃げたからだなあの野郎!!!!!!!!














[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/13 00:25
まえかき
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 そろそろエンドマークを真にして、サイトに引き取ろう。
 続きの発想もあるけど、まあいい、これで終わりにするんだ。
 そう、思っているのに!

 感想と言うのは作者にとっては麻薬みたいな物ですね。
 魔力に取り付かれてあらよっと。
 と、そういう部分もありますが、それだけで発想が生まれるわけでもないのも確かな事で。
 妄想だけは降って沸いて来るのですが。
 それを字に書き起こす気力と喜びをいつも頂いています。

 このSSは、番号が振ってあってもいつだって一話読みきりの心意気です!
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 うあーー……、これって結局一体全体なんなんだ?

 ファンタジアみたいな歴史の小枝、見たいな扱いになるのかソレとも純然たる過去の扱いなのか。

 世界樹の歴史の小枝、見たいな扱いだったらパラレルワールド増殖の扱いかもしれんが、これが過去の扱いだったら手出ししたら拙いよなぁ?

 だって俺が居た歴史じゃ俺の存在なんて影も形も感じなかったぞ。

 憂鬱になるくらい微妙に小心者でいろんなことに罪悪感とか感じまくりの俺が影も形も出ないってどうよ。

 それについてはまあシンクとアリエッタ優先主義だからわからなくも無いとしても、未来の俺が過去の俺に接触しなかった理由は全くもって思い当たらない。

 つまり、今から始まる俺と、時間的には五年後か? だいたいアッシュが15歳の時だったよな、俺がアッシュに憑依したのって。

 その時の俺と接触してあーだこーだのしなかった理由が全く思いつかない。

 実際ファンタジアでは俺自身は時間の都合上直接会うことは出来なかったが未来に居るくせに時系列的には過去の俺という妙な存在に手紙と言う形やルーングロムを介する形で接触している。

 もう訳わかんないよ? 俺。



 だがしかし、時間はあまり残されていない。

 あとどれくらいかは正確に知るところじゃないが、ルークが放置されていて他に人気が無いとなるとこれはヴァンたちが迎えに来るフラグだ。

 なんつー時に来たんだ俺たち。あんまり考える時間は無いだろう。

 決断の時だ俺。



 ここが厳密に過去なのか、歴史の小枝の一つなのか。

 あー、っちくしょう! ローレライ! こんな時こそおまえだろう!

 つか、ローレライも二体になるのか? ここ。

 でも固体じゃなくて気体っぽく大気に充満しているもの音素意識集合体、って特性からして音素が交じり合う環境ならこっちのローレライと一緒になっちまうようなきがするけどな。

 それでも地下資源のローレライが解放されるまでは地上部分のローレライかもしれないが。

 いやまて、でもその前にもう一つ可能性あるだろ。

 この転移、にフォニムを使いすぎて音素意識集合体としての集合を保てないほどに霧散した、とか。

 いっそその方がいいよなー、あのバカ。









 結局放置する事もできなくて拾って帰ったら、シンクが目覚めていてぎろりと睨まれた。

 こわいよ、シンク。

 シンクも俺が17歳だった頃から比べれば格段に育った。

 身長なんかのびのび。

 俺がだいたい23歳つことは、シンクもあのヴァンの騒動があったときで14歳から5歳プラスして、19歳。

 俺がシンクにもまだ萌え~、と思うのはもはや単に俺の色眼鏡フィルターかもしれん。

 アリエッタの方はあんまり変わらなかったんだがな。



 いや、色眼鏡なんてそんな事あるもんか!

 育ったシンクが慈しみの眼差しでアリエッタを見てたり、その様子を見られてツンデレっぽく恥しがったり、アリエッタにせがまれて一緒に飛竜の卵抱いていたり、ライガルと一緒に二人と一匹で寝息を立てていたりする様子が萌えないはずが無いっ!!



 ふぅ、熱くなったが、とにかく、だ。

 そのすらりとした猛禽のように育ったシンクが不機嫌そうにぎろりと俺を睨んでいる。

 こえぇよ。

 シンクってばますます強くなってるし、俺ますます立場無い?

 いやん。



 そういやシンクとアリエッタもこれで二人ずつになるんだよな。

 すげぇ。萌え二倍? いやまて、シンクが誕生するまでにもやっぱり後五年くらいあるはずだ。

 俺がアッシュに憑依した時点でたしかもうシンクがいたから。

 だがしかし!

 ここでは俺とであったときよりなお幼いアリエッタが居るはず!!



 シンクは睨んでくるがアリエッタは安らかに寝息を立てている。

 こっちにはちびっ子アリエッタも居るんだな。

 思い出すぜ。

 あの部屋に動物の頭骨を並べていた日々を。



 初めてネズミ貰った時には思い出したよな、家の飼い猫が褒めろって仕留めたネズミとか小鳥とか持ち込んできたことを、さ。

 俺の動物アレルギーってあれのせいで酷くなったんじゃないのか?

 なんか家に居ると目が痒くなったり鼻水が出ると思っていたんだよな。

 そんで飼い猫が居なくなっちまったのと引越しとが重なって家が変わるとピタリと収まってさ。

 それからしばらくペットを飼おうどころか動物を飼う気すら湧かなかったのが猫でも飼おうかって久しぶりにペットショップに行ったら、くしゃみ鼻水鼻づまり、目からは涙で痒いの何の


 とにかく思い出したくも無いような典型的な動物アレルギーがかなり強力になって来襲した。



 ……現実逃避もここまでにすっか。

 シンクが怖いからな。



「ソレ、なに? アッシュ」

「おまえな、わかってて言ってるだろ」



 俺が手に抱えているまだルークじゃないルークをシンクは顎で示してソレ呼ばわり。

 言い返した俺にシンクは否定を返さなかった。

 まあもともとシンクってもともとの時間軸でのレプリカルークの事はアクゼリュス前でも後でも好きじゃなかったみたいだしな。

 ソレ呼ばわりもわからなくは無いがちょっと酷くない?



「拾った」



 取得物扱いする俺もちょっと酷いかもしれない。










 結局はそのルーク未満のルークを放置することができなかった。

 小難しい時間のなんたらとかはローレライに任せて俺たちは精一杯これからのためにこれからも生きていく。

 なんだったか忘れたがあれだ、どっかにあっただろ? テイルズ世界は背解咒で繋がってるってアレが。

 この世界に世界樹があるのかどうか知らないがここもテイルズ世界なら世界樹があってここもその世界樹の歴史の小枝の一部かもしれない。

 そう思っておくことにする。

 個人的にはセントビナーとチーグルの森なんかにあるソイルの樹とか、怪しくないか? と思っているんだがどうだろうな。

 とにかく俺にはマナを感知する能力はないし、たとえマナがあったとしてもここでの主流は音素だった。



 俺たちはルーク未満のルークを拾ってアリエッタを起こしてとりあえずコーラル城を去った。

 そしてすぐさま俺は、このコーラル城に、二度とフォミクリーが使えないように――超振動を放った。



 崩れ落ちていく、と言う表現も生ぬるい、第二超振動じゃないから消滅はしないが崩壊はした。

 その威力にそって粉々に。

 いま崩れていっているのは城そのものじゃなくて城があった突端の台地だろう。



 確認は出来ないが。

 いつヴァン達が来るかもわからないのでおれたちはすたこらさっさと逃げ出している。

 道からは最も外れた海岸沿いを遠回りしながら、アリエッタがさっそくこっちでもお友達になった空飛ぶお友達に偵察してもらいながら。

 空飛ぶお友達は残念ながら俺たちを運んで飛べるほどでかくなかった。

 あーあ、こっちにもファンタジアで出会った並みの竜が居ればいいんだけどな。

 居たとしても、まあ無理だろうけどな。

 あっちの竜は俺自身が知らない間にあの竜の親になっていたから起きた偶然、だし。

 いやいや、必然かもしれん。



 とにかく三人と一匹+俺に抱えられた一人未満は逃避行を続けていた。

 連れ出して逃げ出したものの、どうするべし。

 灯台下暗し、ってことでキムラスカに行くのもいいかもしれないけどやっぱり下暗しって言うよりサーチライトで照らされているくらいの探索網がありそうな気がするからパス。



 マルクトー!

 は行きたい所だけどパス。

 ピオニーが帝位に付く前なら、まかり間違って俺たちの事がばれたら絶対戦争とか政治に利用される。

 俺のボディはアッシュだから、キムラスカの特徴が出すぎている。

 赤い髪だけなら、翡翠の目だけなら、居ないわけじゃないんだが両方揃うとなると多くない。

 どころかめっちゃ少ない。

 パス、パース!!



 となると、中立都市ケセドニア、とか?

 これも面倒だよなぁ……。

 中立ではあるけれど、非武装地帯、というか非戦等地帯的なだけでしっかり両陣の勢力入り込んでいるし、混ざり合っちゃ居るが国境を挟んでしっかりばっちりある程度文化も違っている。

 まあこれは俺が15歳からファンタジアに行く前までの知識だが、たかだか五年程度の過去じゃそんなに変わっちゃ居ないだろ。

 むしろ、にらみ合いは厳しい可能性がある。

 なんつってもたしかこの時代のマルクト皇帝は好戦的なはずだった。



 まあこれも俺が以前のこの世界を去る前の認識だからここでもそうかどうかはわからないんだが。

 もしかしたら今の皇帝はなんか二つ名が付きそうなくらい慈悲に溢れた皇帝かもしれないし、もしかしたら俺の知っている時系列とは違って若くしてピオニーが帝位についているかもしれないし、もしかしたらピオニーが女帝のパラレルワールドって可能性もあるだろう。



 俺、事前情報でピオニーの名前聞いた時絶対女だと思ったからな。

 女帝だ、女帝だ!

 女帝萌え! って。

 だってピオニーだぞ、牡丹の花だぞ?

 だってウパラだぞ、ウパラと言えばウパーラでウパーラと言えばオパールの語源とも言われているじゃないか!!



 牡丹とオパール、絶対女帝!

 そう思った日々も懐かしい……。



 まあ、とにかくわからないことだらけだし、情報収集しなきゃならんな。

 連れて来たのがレプリカルークなら、オリジナルルークのことも気になるし、もちろんこっちに居るちっこいアリエッタのことも気になるし、まだシンクは生まれていないからしょうがないとしても、まあ誕生できるのかどうかはきになる。

 誕生しないほうがいい、って、シンクなら言っちゃいそうだけどな。



 まあ、レプリカなんて――なんて、なんて言い方しちゃ悪いがレプリカなんて、生まれないほうがいいのは確かなんだろう。

 でも、今俺がそもそも妙な存在であるせいか、時々考える。

 生まれなかったことと死ぬ事と、消滅する事との境目を。



 ……俺もここのところすっかり自分が自分ではないんだって事を忘れちまっていたけどな。

 俺は、アッシュじゃなかったんだ。

 完全な、第三者。

 何一つ関わる事のできない究極の第三者だった。

 それがどうして。

 俺がアッシュに憑依してから、自分がアッシュに憑依しているんだって事は忘れた事が無い。

 無いんだが、第三者の視点はすっかり失っちまったと思う。

 傍観者に離れないし、傍観者じゃいられなかった。

 憑依した中身は別物でも、外側は当事者アッシュの姿をしていて、中身が入れ替わった事に気がつかない奴等は俺にその外側の姿で対峙する。


 仕方ない事とは言え、なぁ。



「それで、結局どこに行くか、当てはあるの?」



 シンクに声を掛けられて正気に戻った。



「アリエッタ、おなか減ったです」



 事情が理解しきれてないのか、理解した上でこの態度なのか。

 アリエッタ、おなかを抱えてしゃがみこむなって。



「あー、うーん……一番近いのはカイツールの軍港か」

「アレがコーラル城だったならそうなんだろうね」

「今も民間船でてるのかなぁ」

「行って見ればわかるんじゃないの?」

「行って見なけりゃわからんよなぁ」



 たしか俺の記憶によれば、カイツール軍港からでている民間船はダアトとベルケンドとシェリダン。

 朧な記憶の中じゃルークたちはケセドニアに行っていたが、あれは特例だ。

 カイツール軍港の位置からしてケセドニアに乗り入れるならマルクト側しかない。

 だからカイツール軍港からケセドニア直通の海路はない。

 まあこれに関してはゲーム中でも触れられていたよな、たしか。



 というわけでつるっと回ってキムラスカ領土のシェリダンかベルケンドの港か。

 あるいは中立の宗教都市ダアトのあるパダミヤ大陸のダアト港。



 どうすべ。

 シェリダンとベルケンドは行ってもしゃあないしな。

 やっぱり攫われてまだそれほどたって居なさそうなスモールアッシュとミニアリエッタが気になる。

 よし。



「ダアトに行こう」

「その前に船代、稼がなきゃならないんじゃないの?」

「何でもいいからとりあえずご飯です」

「俺も腹減ったなぁ……って、あ、あああ………」



 とりあえずこの辺で食えるもの、と思いをめぐらせているとふとルークを抱えた腕にあったか~い感触が流れて冷たくなっていく……。

 ああ、切ない。



「お漏らし……」



 言うなアリエッタっ!

 泣き崩れようとシンクに寄ったら素早く身を引いて避けられた。



「……近寄らないでくれる?」



 せつなっ!!










あとかき
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このままアビスをやろうか。
それともアビスに戻ってきた夢を見たシンフォニアを続けようか。
迷っていたのですがアビスに。
シンフォニアは夢オチのままにしてENDマーク。
一話読みきりの心意気で。
奮闘記か騒動記か迷うところ。

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間違い修正。
教えてくれた人サンクス。



[3493] 三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/22 01:04


まえかき
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感想ありがとうございます。
のぼせるような心地で読み返してます。
心のビタミン剤です。
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 天にまします我等が父とか母とか主に昔死んだ愛猫とか。

 父と母に関しちゃ天にいるのかどうかも知らないし、愛猫に関しちゃ確実に同じ天じゃないんだろうが突っ込みは無用。



 魔物倒してお金ためて、船に乗ってから気がついたんだが、ダアトってヴァンのお膝元、だよな。

 レプリカルーク作ったって事は、そういう暗躍を公権力の下に出来るお年頃、って奴だ。

 まだ権力全盛期じゃないはずだがそれでもあのヴァカンの居住地で、話にしか聞いた事のないオリジナル導師イオンがまだ生きているころあい、ってコトだよな。

 何考えてたんだろ俺。

 浅はか過ぎて泣けてくる。

 俺が泣こうと思ったら、俺の精神的不安を感じ取ったレプリカルークが先に泣き出すしよ。



 あーあ。

 今のところ俺とこいつが似ていることを利用して年の離れた病気の弟ってことにして船に乗ったんだが、今後どうしようかね?

 乗る前なら進路変更も出来たが乗って出発しちまったらどう考えても行動のし様が無い。

 こうなったらもう可愛いかわいい9歳のアリエッタを見に行くしかないだろ!



 と言うことで、俺は船の個室に篭ってアリエッタとシンクとアリエッタに抱えられてご満悦のライガルとに懇々と説明していた。

 レプリカルークは寝ていて聞いてない。

 やっぱ大枚叩いて個室とってよかったよな。何処で聞かれているかわからない環境じゃさすがにこういう話はしづらいし。でもお財布オケラだけどな!

 ダアトに着いたら教団じゃなくてむしろ俺たちに寄進してくれ、って言いたいくらいだぜ。

 まあ素直にいえば貧乏、と。

 ダアトは魔物すら貧乏臭いイメージがあるんだがどうなんだろう。



 うん、まあとにかくだ。

 俺はアリエッタに向かって言った。



「アリエッタ、君はこれからお姉ちゃんになるんだ」


「アリエッタ、おねえちゃん?」



 きらきら、キラキラ、キラリンッ!



 そんな目の輝きが見えるかのようだった。

 つーか見た気がした。





 アリエッタとシンクと三人で、船ん中で改めて現在の状況を整理して説明した。

 シンクはもちろん理解したし、アリエッタも頷いたんだがこっちは本当に何処まで分かっているのが疑いたくなる心境が少し。

 アリエッタだってバカじゃないんだ。

 それにここんところずっと俺たちと一緒に行動して色んなこと教え込んできたからそこそこ教養高いはず! なんだが……。

 難しい話に対する理解力も向上している確信はある。あるんだが何でだろうな、昔の感覚が抜けない。

 中身がどんなに向上していっても喋り方が、な。昔とあんまり変わらないからかな。

 舌っ足らずな感じは多少抜けたが、接続語の使用がビミョウにへんだ。



 まあいいや。

 アリエッタを信じてアリエッタが理解していると前提して話をする。

 わかって無くても、きっとシンクがフォローしてくれるさ!

 お兄ちゃんだもんね! ……って、兄じゃダメじゃん!

 俺は、そんな禁断の関係を望んでいるんじゃないんだ! ただ、健やかに! シンクとアリエッタがくっ付けばいいなーって――!!



「アッシュ」

「はい?」

「何考えてるのさ」

「いやべつになにも」



 不埒な考えをしている事に勘付かれたみたいだ。

 シンクにちょこっと睨まれた。



 えー気を取り直して。

 時間の悪戯、もといローレライのおバカによって引き起こされたこの現象によって、実質同一存在が居る事になる。

 出会っても、タイムリープ系統のSFによくある出会っちゃいけなかったんだー、的な何かはおそらく無い物と思われる。

 だってタヌキ型ロボットのタイムマシーンは過去の自分に会えるんだぜ! で解決した事にしておく。

 同じ理屈で世界があるとは思っちゃ居ないがまあいいんだほっとけ、なるときゃなる。



 とにかく、ここにもアリエッタが居て時間が変になっていることによってここにいるアリエッタの方が年上だ。

 どっちもアリエッタなら、血が繋がっているといって嘘じゃない。

 なら、アリエッタに初めて本当に血が繋がっている人間の兄弟が出来るのだ!



 と言うことを懇々と説明した。

 アリエッタの目の輝きが増していく。

 なんかもうキラキラ、と言うよりギラギラ。



「アッシュ! 早くダアトに行く、です!」

「いやいや、行きたくても船次第だから、な?」



 宥めるけど興奮冷めやらぬ、ってな感じで鼻息が荒い。

 あー、うー、どうすべ。

 しかしアリエッタに兄弟、つーなら俺とアッシュも実質兄弟? でもなー、アリエッタみたいに出自不明とか出来ないから、兄弟です! って名乗り出たら拙いよな。

 気が重いぜ。

 そしてアリエッタもだ。

 アリエッタはアリエッタのままでいいのか!

 でもなー、偽名っつーのもなー。アリエッタはアリエッタだし、あっちだってアリエッタだし。



 アリエッタの更なる情操の発育と、とかまあ妹が出来てお姉ちゃんになるって言うのは成功しても失敗しても悪いことは無いと思うんだけどそこにヴァンとイオンが居るのが問題だよな。

 アリエッタとアリエッタ(小)が初遭遇を果たすところは是非目撃したいんだが、俺の赤髪と翠の眼の色も、他の奴等は気にしていなくてもアッシュを誘拐してそのうえレプリカが喪失した今となってはヴァンやオリジナルイオンやヴァンの計画に携わった人間は過敏症とも言えるくらい敏感になっているだろうし。

 一応ケセドニアからきた人間なら怪しくも変でもないターバンあたりで頭巻いて髪は隠していくつもりだけど、眼の色はなー。

 こっちじゃサングラスとか貴重品だし不自然だしなにより今俺のサイフ、オケラだから手に入れらんないし。



 純粋に鼻血吹くほど萌えるだろうな~、っていう光景を是非とも見たい! って欲望のしめる割合も大きいけど、出会いにはオリジナルイオンやヴァンとか変態ディストとかそのたもろもろに邪魔されないところでさせたいという思いがある。

 そういうタイミングの設定をするならダアトに行かなきゃならんのだろうが……髪かくしても見る奴が見りゃわかる、俺の骨格はバチカル中枢貴族にしっかり似ている。

 しかもそのうえ俺も23。しっかり年取ったから、子供のころよりなおさらファブレ公爵やキムラスカ現国王の面影を感じやすいだろう。

 まさかこういう弊害があるとはなー、って感じでまいっちんぐ?



 なんて。



 俺の、俺が、俺も! 見たかったアリエッタとアリエッタ(小)の出会いの瞬間を見ることを、泣く泣く、泣く泣くっ、泣く泣く! 諦めて、シンクにそれを頼むってのも……。

 教団にはオリジナルイオンが居るし、それを考えるとそのレプリカと言うことでいろいろあったシンクには頼みづらい。

 それくらいなら俺が行く。とも思うがあー、どうしたもんか。

 もっと、こう、スパッと切れる灰色の脳みそが欲しい。



 うんうん悩んでいたらひらっとシンクが手を持ち上げて注意を引いた。

 その動きに目を惹かれてシンクを見ると思いがけず真剣にシンクに見られていてドキッとする。



「僕が行くよ」

「え?」

「だから、僕が行く」



 ……え?



 って間抜けな返しを二度することはなんとかさけた。



「あんたが見つかると面倒だ」

「それはわかるが」



 もしばれたら、どこの非嫡出子だって騒動になる可能性もある。

 俺の持つ色と体型や骨格の雰囲気を利用しようとするやからも現れないとは限らない。

 そのうえファンダム? で知ったんだがどうやらこっちにも親子関係を証明する、できる検査があるみたいだし、騒動になったら挙句、ファブレ公爵との親子関係やファブレ婦人との親子関係が証明されてしまうかもしれない。

 とかく面倒なのは目に見えている。



「あんたに比べれば僕のほうがはるかに面倒が少ない。まだ僕は作られていないし、レプリカ自体もそう数はいない。それに、もし導師のレプリカを作っていたとしても、オリジナルの年齢以上の固体は作れない」



 レプリカ情報の制限で、確かにそれはありえない。

 もし、シンクが音素振動数を採取されて、それが偶然にもオリジナルイオンとほぼ近いと確認されたとしても、外見の年齢からしてもありえるはずがない存在だ。

 俺よりは騒動になる確率が低い。



「でも……うーん………」



 それでも迷っているとシンクがわざとらしくせいだいにためいきをついた。

 絶対、俺に聞かせるための溜息だと確信する。



「僕のことより、アッシュも自分の事、考えてみたら?」

「自分の事?」

「そう。だって、こっちにもアッシュ居るんでしょ? 記憶喪失になる前の」



 ……そう、なんだが。

 中身も俺だったらいっそ話が早いんだが、そうは行かないだろうしなー。



「いや、でも今のアッシュがどこに居るか知らないし」



 とそう逃げの手を打てばすかさずシンクに塞がれた。



「僕が知っている」



 え゛?








 つー訳で。




 天にまします我等が父とか母とか主に昔死んだ愛猫とか。

 父と母に関しちゃ天にいるのかどうかも知らないし、愛猫に関しちゃ確実に同じ天じゃないんだろうが突っ込みは無用。



 おれ、とうとう愉快犯に会っちゃったよ!

 じゃなくて誘拐犯になっちゃったよ! だっ!

 いけねぇいけねぇ、錯乱してる。



 と、言う訳で。

 誘拐犯になって見ました。

 ダアトに着いてまずは深呼吸。

 ゆれない足元を堪能してから俺たちはさっそく行動に出た。



 アリエッタの方はシンクに任せて俺は俺でなぜかシンクが知っていた俺の、というかアッシュの当時の監禁場所に入り込んでアッシュを誘拐するための計画をねっていた。

 その間にシンクは手早くアリエッタとアリエッタ(小)の対面を果たしアリエッタは俺が悔し泣きしたいくらい毎日生き生きうきうきしている。

 このときのアリエッタはオリジナルイオンお気に入りとは言え導師守護役。シンクの灰色の脳細胞と風邪のような身のこなしと隠密性をもってすれば!

 容易くはないかもしれないが結果としてシンクは無事にアリエッタとアリエッタ(小)の出会いをお膳立てした。



 アリエッタに今日は何があったんだ? とか聞いても、えへへへへへ、って照れ笑いして「えへ、秘密、です」って言って教えてくれないんだぜ?

 「アリエッタとアリエッタだけの秘密です」って、はにかみながら言われた日にはなんだそりゃ! 萌え死ねる!



 と転げまわりながらもなんとかアッシュのところに行けそうな計画立て終わって、レプリカルークをアリエッタに一時期預けて監禁場所を襲撃した。

 まずはアリエッタの魔物で上空から偵察。

 これは数日かけて警備パターンをゲット。

 その上でまずは相手を挑発したり油断させたりする意味も含めてピコハンで攻撃。



 ピコハンってさ、やられるとむっちゃ腹が立つよな。

 虚しさの反動、っつーか、さ。

 こんなピコピコに意識刈り取られたりしているのかと思うと泣けてくるし。



 それからシンク先鋒で突撃。

 俺はア・ト・シ・マ・ツ。

 いやべつにさ、ここらの兵士なら全員に囲まれたって突破できると思うよ? 俺だって毎日戦ってるし毎日魔物に勝ってるし毎日シンクに負けてるし。

 でもシンクが行ったほうが効率いいし、シンクだったらほとんど、目撃証言を残さずに制圧できる。



 てゆーかシンク!

 お前強くなりすぎ!

 六神将の時だっていやんなる程強かったのにさ、ここ数年でまたまた力つけちゃって。

 俺だって毎日鍛錬欠かさずに生きているのに差は開くばっかりだ。

 俺成長期過ぎちゃったし。

 シンクは今くらいまでがまだ成長期だし?



 基本スペックが違うよな!

 つか俺だってアッシュなんだから基本スペック高いはずなのになんで発現されないんだ!?





 とまあ自問自答の海に沈みこみそうになったがなんとかアッシュをゲット。

 ヴァンの鼻を明かしてやったぜ! っていうので俺もシンクもそこそこ満足。

 でもこれでレプリカルークもオリジナルルークもヴァンの目が届くところから居なくなって、しかもこれからレプリカを作ったとしても安定した完全同位体なんて意図してできるものじゃない。

 その結果としてヴァンがどう行動に出るかわからないので牽制球を放つ。



 というかごめんなさい。

 子育てできませんでした。



 とにかく子育てを放棄した俺をお許しくださらなくてもいいけど出来れば許して。

 ほんとの赤ん坊なら育てられなくも無いんじゃないかと思わなくも無いんだが無理だろ。

 体はしっかり十才なんだぜ?

 子育てどころか保育すらしたことが無い上に定住する地もなかった俺には手の施しようが、じゃなくて完璧に手に余る生き物だった。



 これが何処かに定住して、安定した生活をしたうえでなら話は違ったんだろう。

 俺だって最初はルークのこと育てるつもりだったしな。

 それに関しちゃ間違いなかったんだが、こと半逃亡生活じゃガタイのでかいゼロ歳児は半端じゃない足手まといだった。

 戦ってても泣くし喚くしお漏らしするし、隠れてても騒ぐし叫ぶし暴れるし。

 寝てたり遊んでたりするときはいいんだがな。



 限界を感じた。

 このままではレプリカルークの育成にも悪いと思うので、バチカルの屋敷に送り込んじゃった!!



 ブレーンにシンクをつけて。



 これもヴァンへの牽制球だな。

 ヴァンがルークを見つけた、と言う形じゃなくてシンクがルークを見つけたといって直接バチカルに乗り込めばヴァンの出鼻をくじけるし、なによりオリジナルが誘拐されていたとしてもレプリカが、完全同位体のレプリカが無事ならもう一体直ぐにでもレプリカを作る意味は無くなる。

 そのあいだにルークが生長すれば、アッシュのレプリカデータも古くなるから、そのころにルークの手綱を完全に取れなくなっていたとしても、そのときに即したレプリカは作れない。

 アッシュがこっちに居る限り、新しいレプリカ情報の採取は出来ない。



 シンクだってこれでファブレと王家に恩を売ったことになる。

 それにアリエッタと違ってシンクに関してはまだ生まれても居ない。

 だからシンクを名乗って不都合もないし、導師イオンに似ているな、と思っても、何処かの血族の一人だろうくらいにしか思われないだろう。

 イオン自身に兄弟が居なかったとしても、イオンの両親には兄弟が居たかもしれない。

 それなら従兄弟とかもう少し離れた血縁なら可能性はいくらでもある。

 オリジナルイオンとは年齢も随分違うからそこらへんでごまかせるだろう。





 で、肝心のアッシュなんだが。





 やっぱり中身は俺じゃなかった。

 だが誘拐してつれてきちまったからにはもう全部話して一から十まで懇々と説明して理解してもらうくらいしか思い当たる手立てが無かったからそうすることにした。

 話したり話さなかったりしたところはそこそこあるけど。



 まあ結果としては。



 問い詰めて真意を確かめる!

 つって出て行こうとするもんだから、さ。



 出て行きたくば俺を倒していけ!

 ってことで毎日剣で勝負してます。

 俺に勝ったら出した上にヴァンのところまでつれてってやった挙句全部教えてやるよって。



 だが!



 あはは、あはは、あははーははははははははは!!!

 勝てる、勝てる、勝てるぞーー!!



 俺はアッシュを転がしまくる。

 つついて引っ掛けてど突き倒して勝利を重ねてゆく!



 あはは、あははー! はは……は、ははっ――。

 俺、めっちゃ情けなくね?

 幾らなんでもさ、嫌でもどうでも実戦含めて十年弱剣術稽古してきた人間が十歳児に勝って内心高笑いって、めっちゃ情けなくね?



 ま、いいけどさ。

 悔しくなんてないもんね!

 と自分に言ってアッシュにもいう。



「あのなぁ、そんなもん真正面から聞きにいったってはぐらかされたり丸め込まれたりするに決まってんじゃん」

「そんなことは」

「無いって言えるのか? 実際アッシュ、おまえヴァンの奴を信頼していたんだろ? でも結果は誘拐とレプリカ製作、そして上っ面の綺麗な言葉。しっかりはぐらかされて丸め込まれてるんじゃねーの?」



 くっ、とアッシュは歯噛みする。

 理想は遠いね。



 ちなみにアッシュとはもう名前で一悶着おこしてる。

 俺もアッシュであいつもアッシュ。

 だからどっちかが名前を変えよう、ってことで提案した。



 どっちもルークとアッシュの半端者だからな。

 ライガルはライガル、飛竜は飛竜って呼ぶ俺にスタイリッシュな名前なんて求めるなって話だ。

 混ざり物で半端ものだから両方の名前からちょこっとずつとって“ルーア”って。

 そんだけだ。

 ちょっとずつとるならアシュルクとかルクアシュでもいいかと思ったが、なんか違うモノ連想させるのでヤメ。

 ルークのほうでルーまで取るならアッシュのほうもアッまで取りたかったんだがこれも繋げるとなんか変だからアッシュはアだけだ。



 まあ結果としては。



「ルーア」



 とアリエッタが俺を呼ぶ。

 まあ、そういうことだな。

















[3493] 烈風と妖獣の知らせざる現の夢。
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/22 01:05



まえかき
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さて。感想欄でた~~~っぷり言い訳したので、よしゃ、いくでー!
と気合を入れつつ改訂版。

アッシュ視点の本編と比べるとちょっとグロ系かもしれない。
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“その日、僕は少し弱くなった”









 あいつが来たのは、容赦を知らない、残虐非道で冷酷な六神将として僕の名前が認識され始めた頃だった。

 アッシュじゃない“アッシュ”

 そいつと出会ってから、どうしてそうなったのかわからないうちに気がつけばそうなっていた。

 反発して、追い払って、時には実力で黙らせた。

 それでも僕に構う事を辞めなかったあいつ。

 なんであいつが、アッシュじゃなくなった“アッシュ”がそうまでして、そこまでされてもなお僕に構おうとするのか、僕には今でもわからない。

 べつに、ほだされたとか言うわけじゃない。

 めんどくさくなっただけだよ。

 冷たくあしらっても全く懲りないからめんどくさくなっただけさ。



 あまっちょろいバカに。



 それでもそれは僕が“アッシュ”を認めたと言えるんだろう。

 僕はアッシュじゃない“アッシュ”の存在を、認めていた。




 “アッシュ”の事を認めたその日、僕は少し弱くなった。










 最初は本当にただのバカだと思った。

 ヴァンから事情は聞いていたけど信じられないほどの変わりようだと思った。

 あのアッシュが、ここまでなるなんて。

 アッシュを――ニセモノに墜とされたアッシュを見ることで、ニセモノの僕は自分の劣等感を少し埋める事ができて、少しだけ優越感も持っていたような気がする。

 歪んだ心の安寧は僕の残虐非道で冷酷な六神将という名前を高めていった。



 それがある日を境にその対象であったアッシュ豹変した。

 ヴァンの話じゃ記憶喪失らしいけど、まさかと思った。



 あのアッシュが、ニヤニヤ笑ってばかりいて剣も譜術もろくに使えなくなった。

 そのうえやたらアリエッタと僕に構ってくるし、おまけにあいつは――僕のこと、僕がなんなのかを、知っていた。

 何でさ。

 記憶喪失だったんじゃないの?

 以前のアッシュなら、知っていても何も言わなかったはずだ。

 なんで。

 戦い方も殺し方も忘れてしまったのに、そんなことばかりっ。



 わざわざ二人っきりの状況を用意して打ち明けられたその話に僕が激高した。

 急所とか、戦い方とか、そういうのを全く考えないでただひたすらアッシュのことを殴った。

 殴られながらもずっとアッシュは……僕のことを言っていた。

 あいつ、天性のバカだ。

 殴った僕の拳すら痛めたデタラメな殴り方だった。

 あんなやり方なら、いくらもとのアッシュより弱くなったって言ってもやり返せなかったはずが無いって、後で冷静になってから気がついた。

 あいつは、とうとう一発も殴り返そうとするそぶりすら見せなかった。




 満足に動けないどころか下手したら死にかねないほど痛めつけた自覚はあった。

 僕は迷った挙句、結局アッシュの自室までグミを届けに行った。





 記憶喪失の“アッシュ”が僕を知っている事を許して、僕はまた弱くなった。








 アッシュは僕を弟のように扱って嬉しそうにしていた。

 アリエッタは妹。

 六神将烈風のシンクと妖獣のアリエッタを兄弟扱いしてあんなに――本当に幸せそうにしていた。

 正直、悪くない、と思った。



 気がつけば僕に弱みが増えていく。

 冷酷非道、残虐無比。そうとまで言われた烈風のシンクは少しずつ鳴りを潜めていった。

 意識しなくてもそうであったはずなのに、僕はあせった。

 冷酷で残酷な、そうでなければ、強くなければ、誰が僕みたいなニセモノの餓鬼に付き従うって言うんだ。

 幾つもの段階を飛び越えてぽっと出で師団長の座に着いた子どもなんかに。

 実力で師団員の誰かに負けるなんて少しも思っちゃ居なかったけど、それでも僕に与えられた師団員たちを纏めるのに恐怖は必要だった。



 だった、はずなのに。



 そのうち神託の盾騎士団の内部になんだか妙な風潮……はっきりいえないけど、僕とアリエッタの事を周囲が見る目がなんか変わったように思う。

 僕たちが近付くと黙ってしまうから内容は良くわからないけど――そういうのが不快だと思う。

 アリエッタはそういうのどうでもいいらしい。

 不思議だけど悪意じゃないみたいだし、僕もだんだんどうでもよくなっていった。

 いや、いっそ悪意であったほうが言いと思ったこともあるけどね。だったら遠慮なくぶちのめせるし。



 そんな事があるうちにアッシュが変貌してから二年くらい経っていた。

 それは、ヴァンがあの計画を実行しようとする時だった。

 僕は驚いた。

 ヴァンがまだあの計画をあのまま実行しようとしている事に。

 このままで実行できると思い込んでいることに。



 僕は変わってからのアッシュのことをノーテンキなただのアホだと思っていたけどそれだけでもなかったらしい。

 アッシュは、すっかり僕たちにヴァンの計画の邪魔をすることを手伝って欲しいと打ち明けていた。

 僕達は、僕とアリエッタはそれを了承した。

 そのときにアッシュは言ったんだ。



「いやー、ヴァンの野郎に計画の路線変更させないようにするのにゃ苦労したぜ」



 って。

 その時やっと僕はこいつがただの甘ちゃんじゃないって思った。




 やっと。



 甘チャンなのは否定しようが無いと思うけど、それだけじゃない。

 バカだと思っているけどそれだけじゃない。

 そんな当たり前のことを、僕は見ていただけで気がついていなかった。

 弟のように扱われることを受け入れて抵抗もしなかったけど、僕はその時まで心のそこからアッシュが変わったことを受けいれていなかったと思う。

 アッシュが変わったことを、認めたくない思いがまだ何処かで燻っていたと思う。

 それが、その時とうとう覆された、ような気がする。

 気がするだけさ。



 やっと、アッシュが甘ちゃんだって事を知るだけでなくて、それを認められたと思う。

 今までずっと甘ちゃんなアッシュに苛立っていたけど、そのときから不思議と苛立ちは無くなった。

 それが今のアッシュなんだって、記憶喪失になる前とは別物なんだって、思うのに二年掛かったってことなんだろう。



 途中でアッシュ自身の思惑の変更とかあったみたいだけど、無事にヴァンの奴を叩きのめして僕もスッキリしたところがある。

 利用しているつもりで、利用されていた。

 そんな関係だってことは知っていたけど、それでもスッキリしていなかったのも確かで、うん、まあとにかく、スッキリしたね。



 アッシュはこのあとバチカルに帰るものだと僕はずっと思っていたけど、何も変わらずにアッシュはダアトに居続けた。

 途中までは自分がバチカルに戻れるように巧妙に手を打っていたように見えたけど……どんな心境の変化なんだろうね。

 でもこのほうが――僕は嬉しかった。



 ああ、否定はしないよ、もう。

 確かに僕は、アッシュが残ってくれて嬉しかった。



 ヴァンやモースを排除して、それでもアッシュはバカだった。

 そして甘かった。

 ヴァンたちを排除したやり方は僕から見てもえげつないと思うところがあったし、ヴァンのレプリカを作ってユリア式封咒を解咒させて使い捨てにした――持たなくて消滅しただけだけど。

 そういう風な事もやっているからただの甘ちゃんではないんだろう。

 でも甘い。

 でもバカだ。

 誰も傷つけたくない、誰とも戦いたくない。



『俺痛いの嫌だもん。俺はされて嫌だった。そしてこれはきっと相手も嫌だろうと俺は想像するわけだ。投影は大切な社会性だぞ、シンク』



 とか、そう言いながら、あいつは僕たちのためなら傷つく事も厭わない。

 誰よりも、痛いの嫌だって言いながら痛みを負って自分よりも僕たちを優先する。

 僕達に戦うなって、傷ついて欲しくないし傷つけて欲しくないって。



 矛盾してる。



 今更だよね。

 僕もアリエッタもそんなこと、今さらだ。

 それでもあいつは申し訳なさそうに俺たちに言う。

 時々、ね。

 言う事事態が僕たちの負担になると思っているみたいだ。

 だから大概はいうより僕達より先に行動することで僕達にそれをやらせない。



 ムカつく。

 腹が立つよ。

 記憶喪失になったって言う割にはやたらしっかりした観念持っているみたいだけど、その観念に縛られてそういうことをすると一番苦しがっているのはアッシュなのに。

 そういうのは、僕みたいな“冷酷で残虐な”人間や“獣に育てられた獣の感情を持つ”と思われているアリエッタに任せておけばいいんだ。

 わざわざ苦しむ事なんてないんだ。

 あんたは、僕たちの弱みなんだからさ。

 後ろで守られていればいいんだよ。

 僕よりずっと弱いくせに、意地張って――バカだよ。



 でも、そうやって守られている事が心地よくて、嬉しいと感じる僕も、相当なバカだ。




 戦う時に守りたいもの、っていう制限が出来た事を認識した。

 僕はまた弱くなった。










 ヴァンたちを排除して、そのあと大地降下をスムーズに行えるようにアッシュと僕達は教団の権力を支配した。

 アッシュが一人で大地を降下させることに僕は不安を覚えて詰問したけど、アッシュは大丈夫だの一点張りで結局一人でやってしまった。

 これに関しては僕に手伝える事はなかったから悔しくてもしかたが無い。



 僕に出来るのは――戦う事だけ。

 弱くなったアッシュを守る事。それだけしかない。





 なのに。




 大地の降下も上手くいって――二年、弱かな。アッシュの様子がおかしくなったのは。

 トドメはあの決定的な日から一ヶ月くらい前だった。

 居なくなろうとしているんだって、直感的に感じた。










 ふと気がつけば話していたのに視線がどっかに飛んでいる。

 僕とアリエッタを見る眼差しが、なんだか変化した。

 何に使うつもりなのか造花のブーケなんて作り始めるし、最悪なほど仕事をサボる。

 アポなし行動、ドタキャンはまだまだ生ぬるいほうで、その手口は悪辣なまでの物だった。

 アッシュの部下達と僕も含めて追いかけっこは毎日のようになっていた。

 ものすごく生き生きと逃げ回るのに腹が立った。

 いい年して大真面目に真剣に鬼ごっこなんてしているなんて。



 有名無実の存在になっていた有給を押し通してたぶんアッシュの全財産抱えてケテルブルクにいって豪遊。

 アリエッタは付いて行ったけど、僕は付いて行けなかった。

 アッシュが抜けたしわ寄せが残りの師団長に圧し掛かっていたからだ。



 帰って来たら、覚えてな、アッシュ。



 と、思ったものの。正直な話、アッシュの世間的な知名度は低い。

 過去は六陣将に名を連ねて、今でも六神将と呼ばれることはあっても実質六神将は解散したに等しい。

 そんな今でも、ただの師団長としてもその認知度はとても低いと思う。

 だからその一人が仕事を投げ出して豪遊している、と聞いても、そんな奴の一人くらい、って思う人間も多い。

 神託の盾騎士団に所属している兵士からしてそうだ。

 アッシュが握っているいろんなものの本当の重要性を知っているのは上層部の全体から見れば極小数に限られた。



 不思議でならないのはあれほどクレイジーとか微笑のアッシュとか、特に微笑みのなんて本人を知らなきゃ付かないような二つ名が付いているのに『名前は聞いたことあるけどどんな人?』って言わしめる知名度の低さだ。

 名前だけが一人歩きしていて、アッシュの実態が殆ど広まっていない。

 だから師団長ではあってもそれほど重要な師団長ではないって外部の人間は思いがちだった。



 けど、裏を握っていたのはアッシュだ。

 良くやったと思うよ。あの甘っちょろいアッシュがそこまでの事をしてのけるなんて僕は思っていなかった。



 最終的な決裁権はアッシュにあってもこの期間に特務師団の副師団長が事務能力的に急成長した。

 近ごろ急いで後進を育てているみたいだった。

 ケテルブルクからやっと帰って来たと思えばやっぱり何処かまともじゃないし。

 アッシュは有給消化して後進育てて無用な財産使い果たして隠遁してエンゲーブで農業するって言っていたけど、絶対嘘だね。



 居なくなろうとしているんだって感じていたけど、それはそういう意味じゃない。

 そういう意味で居なくなるって言うのとは違うんだ、って。

 これも直感だったけどね。

 普段の僕ならこんなあやふやな感覚をここまで信じたりしない。

 けど今回のその感覚は、僕の感じた物は、疑って居るうちに現実になって居そうで怖かった。



 アッシュは隠せる人間だ。

 実際ヴァンには徹底的に叛旗の意志を隠し通した。

 徹底的に真意を隠し通して使える手駒だと思わせておいて最後に絡め取ってヴァンを破滅に落とし込んだ。



 けど、アッシュは隠せない人間だ。

 親しい人、アッシュが心を許した人間には隠しているつもりになっているだけだ。

 隠しているつもりになっているだけでこっちにはその異変や隠し事をしているって言うのがばればれなのに――それを言わせる事ができない。

 悔しかったから僕も黙って行動を起こした。



 混乱と争いをアッシュは嫌っていたから、ちゃんと始末は付けていくつもりだ。

 アッシュに倣って、ね。

 密かに後任を決めて、いつアッシュが行動を起こしても大丈夫なように神託の盾騎士団の内部を固めておく。

 おそらくこの短期間に師団長が三人も抜けたらその穴を埋めるのはただ事じゃないだろうけど、最悪の事態にならないように手は打っておいた。

 だからきっと何とかなるよ。

 いや、してもらわなきゃ困る。



 案の定と言うか、その日、決定的なアッシュの異変が始まってから一月弱かな。

 ライガルと共に堂々とダアトを出て行った。

 それこそ今までと違ってちょっとライガルと散歩にでもいくかって言うような風情で暢気に出て行く。

 ずっと気を張ってアッシュを見張っていたはずなのに危うく僕も騙されるところだった。

 いや、騙された。



 まさかあんな軽装で出て行くとは思わなかったから見過ごした。

 ライガルとの散歩も日常だったから見過ごした。

 なんとなく出て行くのを見送って、しばらくして戻ってこないのを不信に思ってアッシュの部屋に言ってみれば……そこにはデスクの上に堂々と置かれた大きな造花のブーケの収まった箱と、その上の手紙。



 それを読んで直ぐ、僕はそれを握りつぶした。

 さっきのタイミングならもう船に乗っただろう。

 出航の時間で見ればケセドニアとキムラスカとマルクト、どれでもありえる。



 大またでずんずん歩いていたら、通路にぼけっとたっているアリエッタを見つけたので巻き込むことにした。

 反対しないだろう。

 アッシュへのこだわりなら、多分僕よりアリエッタのほうが強い。



「アリエッタ、行くよ」

「どこ、ですか? シンク」

「アッシュが逃げた。捕まえに行くよ」

「はい、です!」



 アリエッタが居れば話は早い。

 港で聞き込みをしてもどの船に乗ったのかがわからなかったのはさすがと言ってもいいけどそれがなおさらムカついた。

 そんなところばっかり小賢しくなって。
 でも全部の船に監視をつけてしまえば同じ事だ。

 アリエッタなら直ぐにでもそれが出来る。

 頼もうと思って振り返ったら、アリエッタのつれているライガが臭いを辿ってどの埠頭から出た船に乗ったのか突き止めた。

 よくやったねアリエッタ。

 アリエッタは誇らしげに胸を張っていた。



 それは、ケセドニア行きの船だった。

 何をやるつもりなのか知らないけど、甘いよ、アッシュ。



「いくです、シンク」



 ダアトの市街を出たところでそう僕を呼ぶアリエッタはすでに二匹のフレスベルクを従えていた。


 






 タタル渓谷で剣を振り上げたアッシュの台詞からアッシュが死にに行こうとしている確信が持てた。

 割って入ったけど間に合わなくて、アッシュとついて言ったライガルだけを包むはずだった白い光が僕たちにも絡みつく。

 あとは、わからない。

 気が付いたら全く知らない場所に居た。



 アッシュ曰く異世界、らしい。

 ローレライを一発ぶん殴って、そのせいで異世界に来たんだろうってアッシュは言ってた。

 そんな事どうでも良かった。

 重要なのはそんな事じゃなくて、アッシュが僕達に隠し事をしていたってことだ。

 わかっていてはぐらかそうとする。

 腹が立った。



 どうしてアッシュが死にに行こうとしていたのか力づくで吐かせて、真相を知ってからやっぱりは兄据えかねてアッシュにキツイの一発お見舞いした。

 拳で一回、逆の手は平手で。

 これでやめとくけど、僕の気が晴れたと思わないことだね、アッシュ。



 ……腫れた顔で僕たちを巻き込んだことを謝っていた。

 そんなこと、必要ないのに。



 アッシュは気を許した人間には隠しきれない人間だけど、気を許しているからこそ喋らないことが結構ある。

 そういうのが、僕は悔しかった。

 アッシュに対して何もかもが後手に回る。

 アッシュが後手に回らせる。



 この異世界にきても、アッシュはなんでここが異世界だと知っていて、それについて知識があるのか、話してくれなかったし。

 あのバカグロウのせいでアッシュが落ちて超振動を使った後は、音素の無い世界で超振動を使うなんてただじゃすまいないと思って吐かせようとしたけど結局それについても何も聞き出せなかった。

 ただ、大丈夫だって、何も心配要らないって笑っていう。



 ムカつく。









 闇に閉ざされたアーリィとか言う町で、この世界の時間で一月くらい過ごしたあと、僕達は魔王の居城に多分、後から勇者とか言われるようになるんだろう人間達と行った。

 なんでもそこにローレライの剣があるらしく、その剣がある魔王の居城にいくには同行したクレスとかいう男の持つ特殊な剣が必要だったらしい。

 そんな訳で僕達はドサクサ紛れで魔王と戦って、ドサクサ紛れにアッシュが勇者と魔王の仲を取り持った。

 魔王が生きている、なんて、きっと後世には語られない事だろう。

 そして僕たちがそこに居た事も。


 
 僕はそのままその時代で過ごしてもいいと思っていたけど、アッシュにはなにかその時代でそのまま過ごす事に懸念が有ったらしく、時代を超えてやってきた男と一緒に僕達は時空転移をした。

 何を危ぶんでいたのか知らないけど、アッシュはその男と同じ時代に行く事に拘っていた。





 村の復興をしながら、アリエッタが竜の卵を見つけてきて孵った飛竜も一緒にアルヴァニスタ近郊に住み始めてからが、一番穏かな時間だったんじゃないかと思う。

 こっちに来てから僕は仮面が必要ないし、アッシュも生まれに関わる色を気にしないでどこにでもいける。

 アリエッタの事を妖獣のアリエッタと呼ぶ人間もいない。



 いつまでも浸かっていたい、ぬるま湯みたいな日々だった。





 そんな日々は僕をただのシンクに、アリエッタをただのアリエッタにしてしまう。

 僕達は弱くなった。









 アッシュが『ちょっとスリリングな家族旅行だ!』とかいって張り切っている。

 今は年に二回の飛竜の餌を確保するという目的のちょっとした旅をしていた。

 目指しているのは12星座の塔とかいう場所の近くだ。

 12星座の塔自体には興味が無い。たとえ入ったところでこの飛竜には食えない魔物ばっかりだ。



 今は一時間くらい前に僕がアッシュから不寝番を交代したところだった。

 ぱちぱちと爆ぜる火の光は魔物を避けるけど人を呼ぶ。

 賊、って言われる悪質な人間を。



 アッシュと同じく眠っているアリエッタを揺り起こすと僕は黙ってその場所を立ち去った。

 僕が目覚めていたのは幸運だった。

 こんなめぐり合わせはめったに無い。



 アッシュが近くに居ると、僕もアリエッタも眠りが深くなってしまう。

 それに、アッシュが目覚めていても結局コレは出来ない。

 足音を消して風の様に走り、僕はそいつ等の背後を取った。



 僕らの様子伺いをしてひそひそと喋っている。

 アッシュは眠っているし、アリエッタは女だし、一人は今彼らの目の前で抜け出したばかりだ。

 くみし易いと思っただろう。

 今背後に居る僕に気が付かないで。



「何してるの?」



 と問いかけるでもなくそういえば、一斉にこっちを振り向く賊の姿。

 驚いて見せたのも一瞬で、直ぐにニタリと笑う。



「まさかテメェみたいなガキに気が付かれるなんてよ」

「ガキだと思って甘く見ると痛い目に合うよ?」

「へっ、ガキがいきがりやがって」

「黙って俺たちに搾取されてりゃいいんだよっ!」



 誰が好き好んでそんな事。

 武器を手に振り上げてくる賊に向かって、僕は踏み込んだ。



 バカだね、ほんと。

 自分たちに都合のいい状況だと思い込んでいるんだろうけど、違うよ。

 あんた達は僕に、この状況を作らされたんだ。

 なんの枷も無く僕が思う存分戦える場所を。



 出来るだけ汚れないようにしなきゃ、血でも付いたらアッシュに気付かれる。

 そうしないためにこの状況を作ったんだ。



 ただのシンクになれた僕が、冷酷な六神将“烈風のシンク”になるところを見せないために。



 踏み込んで拳を振るった。

 烈風の二つ名は伊達じゃない。

 賊崩れには捉えることもできなかっただろう速さでまずは目の前の賊に一撃を叩き込んだ。

 ボディーブローから顎へ。

 回し蹴りを首に叩き込んで骨の折れる音を感じた。

 その勢いのまま右に移って逆の脚でわき腹に蹴りを入れる。

 なんとか相手は腕を入れて防御したけど、その腕を僕は砕いた。

 あの程度の賊なら腕を砕かれた痛みにしばらく動けないだろうと次ぎに移る。

 一瞬だって止まったりしない。



 出来るだけ残虐に、冷酷に――戦いながら僕は自分に言葉を投げる。






『忘れるな、思い出せ、僕は烈風のシンク』






 怯える相手を見て自分を戒める。






『僕はこうして敵対する相手に恐怖を与えるモノだった』






 僕は弱くなった。

 アッシュが記憶喪失になってから。アッシュが“アッシュ”になってから、僕はずっと弱くなり続けた。

 それでもいいかと思う日もある。

 そのままで居たいと思う日も、ある。

 でも、ダメだ。

 それだと必要な時にアッシュのことを守れない。



 弱くなった僕よりも、アッシュのほうがずっと弱い。





 僕はまだ四つんばいで逃げる途中だった無傷で居た最後の一人の前に立ちふさがった。

 あっという間に仲間たちを倒された恐怖から、だろう。

 信じられる? こいつが、統率者だったんだよ?



 僕は部下を恐怖で統治した。

 こいつは部下を、奪う事の快楽を与える事で統治したんだろう。

 そんな奴なら、こんなものかな?



「あっ……ああ、あっ」

「どうしたの? 逃げないの?」



 なんて、逃げ道は塞いでいるけどね。

 逃がしたりしないよ。

 ただのシンクなら見逃した。アッシュがいるし、何よりめんどくさいし?

 でも今の僕は“烈風のシンク”だ。

 冷酷な師団長として名を馳せた“烈風のシンク”には、自分たちを襲おうとした賊に対する慈悲なんて存在しないし、あってはならない。



 攻撃するための拳を握る、以外の理由で手に力が入って拳ができた。

 それをそのまま相手に打ち付けるための拳に転用する。


 僕はにやりと見せ付けるように、相手の恐怖を煽る様に嗤う。

 アッシュに出会う以前の“烈風のシンク”のように。あのころの“烈風のシンク”なら、相手の恐怖すら利用する。



 嗤って震えるそいつにゆっくりと歩み寄っていく。

 今の僕に仮面は無い。

 けれど暗闇に制限された視界が、あの頃の仮面に制限されていた視界を思い出させた。



 僕はまだ、あの“烈風のシンク”を忘れていない。

 必要としたら直ぐにでもあのころの“烈風のシンク”を思い出せる。

 守るものも弱みも無かった、僕が一番強かったころを。



「た、助け……」

「こんなはずじゃなかった、って? バカじゃないの」



 転がる男の足の甲を踏み抜いた。

 転がった体を支えている腕に足を乗せて体重をかける。

 歪な音がして骨が折れた。

 これでもう這いずっていくことも出来ないだろう。



「覚悟もなしにこんなことしていて、いつか反撃されるとは思わなかったの?」



 逆の足も打ち砕く。

 別に答えを求めているわけじゃない。

 実際男は痛みにあえいでいるだけで答えられなかったし。



「今まで何人襲ってどれだけ奪って、どれだけ殺したの?」

「ひぃっ、い、いた……っ」

「無様に泣き喚いて命乞すれば見逃してあげるかもしれないよ?」

「た、たの……む………、た、たす――け」

「あんたが今まで殺して奪ってきた人間も、そうやって命乞いしたんじゃないの?」



 そう言って僕は男の最後に残っていた無事な腕も圧し折った。



「でもさ、聞いた事、ないよね」



 僕が六神将だった頃にもいたよ、こんな賊。

 こうやって聞いてみれば一度だって命乞いを受け入れた事のないような奴等ばっかりだった。

 僕には――烈風のシンクにはその程度の命乞いを受け入れてやる理由が思い当たらない。



「じゃ、ばいばい」



 薄笑いを浮かべて、僕はのた打ち回る男の首をへし折った。

 他と比べればまだまだ優しい最後だろうさ。










 一滴の血も流せなかった骸に囲まれて立っていた。

 もしもっと強かったら、相手の血を流させないで終わらせるっていう制限を破らなければならなかったかもしれない。

 けど、残念な事にそれだけの実力は無かったみたいだ。

 もし、返り血の少しでも僕に浴びせる事ができたなら、せめてアッシュにはあんた達が居たってこと、気付いてもらえたかもしれないのにね。



「シンク」

「アリエッタか」



 呼ばれて振り返ればそこにはこっちで出来たどう見ても肉食のお友達を複数従えたアリエッタがいる。



「遠くでやってよね。近いとアッシュに気付かれる」

「はい、です」



 答えたアリエッタはお友達と一緒にあたりの骸を引き摺って闇の中に消えていった。



 アッシュに秘密が有るのなら、僕たちにだって秘密はあるっていうことだ。

 アッシュは僕とアリエッタがこういうことをしている事を、知らない。

 たぶん。



 アッシュは僕たちがこういう事をしていると悲しそうにする。

 させたくないって言う。

 コウイウコトに、“敵”を倒す事に別に何か感じたりなんてしない。

 魔物も人も、僕たちを傷つけようとするならみんな敵でしかない。

 そんな僕らと違ってアッシュは“敵”を倒す事にすら信じられないほど繊細にいろんなことを感じて思って、苦しんでいるのに僕達にやらせるくらいなら、って自分がやろうとする。



 だから僕達は表面上アッシュの前ではこういうことをやらなくなった。

 悲しい顔にはさせたくない。

 それでも、今のアッシュに出会う前の冷酷無比な烈風のシンクを忘れないように、妖獣のアリエッタである事を忘れないように、僕達はこうして隠れて牙を研ぐ。

 あの頃の僕らが一番強かった。



 アッシュは甘っちょろい思考回路をした馬鹿で、記憶喪失になる前と比べると格段に戦う力が落ちた。

 訓練は真面目につんでいるようだけど、伸び代が少ない。

 アッシュは――弱くなった。








 だから代わりに僕らが強くなる。








 アッシュに秘密が有るように、僕らにだって秘密はある。

 アッシュが僕らを守りたいと思うなら、僕たちだってアッシュを守りたいと思ってる。

 今のアッシュと出会ってから、弱くなり続けている僕たちだけど、僕らは僕らのやり方で、アッシュを守る爪を研ぐ。



 いま僕らは何より怖いのは、烈風のシンクに戻る事でも妖獣のアリエッタとして人に拒絶されて生きる事でもない。

 アッシュが失われる事を何よりも恐れている。

 もしかしたら僕たちがコウイウコトをしているのがいつの日かアッシュにばれて、今度こそ見放されるかもしれない。

 それでも、力が足りなくて守れなくて失うよりはずっといい。


 

 ふぅ、と息をついて掌を顔に押し付けた。

 そこにはもう“烈風のシンク”のシンボルマークだった仮面は無い。

 存在しない仮面を外すように僕は掌を外した。

























あとかき
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私の中のシンクはいつもごちゃごちゃしてる人。
ゲーム中でもいつもシンクには突っ込み満載。何処が空っぽ?
ほかにも突っ込んだ人居ると私は思っているのですがどうでしょう。

互いが互いを思いやるあまりのデススパイラル。
何か救えたのか。
何も救えてないのか。
誰かの手を取れただろうか。



[3493] 四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/22 18:53
まえかき
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基本、のりと勢いなのであまり深く考えずに読んだほうがいいと思います。
萌えー!と言うためだけに始まった連載がここまで続く摩訶不思議。
いつの間にかシリアスになったりもした奇妙奇天烈。
お付き合いくださりありがとうございます。
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 ここにも庶民に手軽に手に入るデジカメとかあればいいのになー、と思う。

 俺のもとの世界じゃ鈍器にでもいきゃすぐ手に入ったのに。品質はシラネーけど。



 あれだ、子どもの時からのデジタルヒストリーを作ってだな、親戚一同集まるとそれを引っ張り出して鑑賞して、なつかしーと言ったり、失敗談を思い出して笑いものにしたり、何歳までオネショしてたかとか暴露されたりするんだよな。

 アッシュにもそういうのが出来りゃ良かったのにさ。



 アッシュとルーアで名前を選べといった時のあのアッシュとか。

 きっと後々見たら身悶えると思うんだ。



 俺の拘束下にあって、監視はアリエッタのお友達による多数の魔物たち。

 死角のない状況で逃げるに逃げられず。

 自由の身ならともかく、そんな状況では押し通してルークを名乗る事も出来ない。

 つか、俺が名乗らせないわけだが。



 そんな中で選ばせられるルーアとアッシュ。

 それならまだいきなり現れた俺みたいな人間に付けられる名前より信じていたし、まだ信じる気持ちのあるヴァンから与えられた名前のほうがまだましだ、って程度の選び方だったんだろうと思う。

 アッシュはもちろんそんな事言わないけど、いらだった態度とかそういう行動からどうやって選んだのか透けて見えた。

 二つの名前を提示したときの苦々しい表情とか、眉間の皺とか考えた間とか。



 度重なるストレスで表面を取り繕う事ができなくなってるんだろうな。

 すっげー読みやすい。

 んでもって短絡的になってる。

 何とかしてケアしないとラスボスアッシュの世界が到来しそうだ。

 ヤバイ。



 なので俺は賭けに出ることにした。

 今の状態の俺はアッシュにとって《自分を誘拐して居場所を奪った人物第二段、ヴァンより怪しいバージョン》だろう。

 何とかしてそれを覆さなければならない。

 それにはどうすればいいのか。

 情報を与えればいい。

 俺がなんなのかと、そしてアッシュを誘拐した目的も。








 アッシュを誘拐する目的はただ一つ!

 なんつって、んなわけじゃないけどちょっと名探偵を気取ってみたかっただけだ。



 ただ一つじゃなく、複数の目的の一つにアッシュの真意を知りたいと言うのがある。

 手に負えなくてシンク付きでレプリカルークは先にファブレの屋敷にやったけど、コレははっきり言って間繋ぎだ。

 ヴァンが余計なレプリカルークを作ったりしない、させないための牽制球だ。

 まあ、以前のアビス世界のようにアッシュが正体を現さずに雲隠れし続ける事で本命球になることもあるかもしれないけど。



 で、肝心の俺のアッシュに対する目的だが、それはアッシュに聞きたいのだ。

 それは本心か、と。



 バチカルでよい貴族になりよい統治をすること。

 アッシュは疑っていなかっただろうしまっすぐそれを目指していただろう。

 ヴァンに誘拐されてからも一心にそこに帰り着くことを目指していた。

 それを嘘だと思うわけじゃないが――とくにヴァンに誘拐されてから、自分の居場所だったのに、っていう思いが強すぎて妄執になっているんじゃないかと思うところが少しある。

 せっかくって言うのも変かもしれないけど、奪われたら取り返したいけど自分から手放すんだったら惜しくない、ってコトも世の中にはママある。



 たぶん、きっと、絶対、アッシュはバチカルに戻る事を選ぶだろうな~と思いつつもそれを俺は聞いてみたかった。



 ただ、その尋ね方は今でも変わらないか、と聞くものではない。

 俺がこの先でまた尋ねる時、その時もその想いは変わらないのか、と、そう聞きたい。






 二つ目。

 俺の最終的なオールドラント像に欠かせないものの一つとしてレプリカイオンがある。

 世の中平和で世は並べてこともなし、という状況を作り出して心置きなくアリエッタとシンクの少しずつ近付いていく様子を観察し、アリエッタ(小)とシンクともしかしたら生まれるかもしれないシンク(小)をを愛でて愛でて愛で倒すために。



 オリジナルイオンは、元の世界じゃ病気だった。

 俺があの世界に現れたのは導師イオンが死んでから大分経ったころだったけど、聞いて回ればそこそこの情報は手に入った。

 一つずつは細切れの情報だからその情報の所持者達にとっても意味を成さないものが多い。

 だがそれを寄せ集めるとちゃんと一つの形になる。

 それらの情報と、アリエッタからの話とを総合して俺はイオンは病死だったと判断した。



 緩やかな毒殺とかだったら手に負えないけど、この可能性は低そうかな、って思っている。

 だったら死預言に毒殺だとまで詠まれているはずだ。

 安い預言師とは違う。導師の預言はある程度以上の精度を持つ。例え自分で自分の預言を読んだとしても変わらない。

 そして毒殺だって言うなら、あの導師イオンが行動しないはずが無い。



 俺はオリジナルイオンを直接には知らないが、預言に詠まれていなくても、死は明らかに見えている様子だったと判断した。

 そんでもっておそらく確実に、こっちのオリジナル導師イオンも現在病気か、そうじゃなくてもおそらく既に自分の死預言を詠んだ後だろう。

 その死預言こそが、オリジナル導師イオンにヴァンへの関与を決意させた物だろうと推測している。

 そこで必要とするのが導師イオンのレプリカだ。



 オリジナルイオン亡き後の第三勢力ダアトの安定のためと、ダアト式封咒の解咒のためと、ほかエトセトラ。



 レプリカをただ作ると言うだけならマルクトにでも行って協力を仰げば何とかなる気はする。

 バチカルでもいい。

 暴露すれば第一音機関研究所が使えなくも無いだろう気はするから。

 でもおそらくそれじゃイオンのレプリカデータを採取できない。

 あれはヴァンだからこそ手に入れられたイオンのレプリカデータだと思うのだ。



 正直、俺はオリジナルイオンを説得してレプリカデータを採取できるとは思わない。

 それはバチカルでもマルクトでも一緒だろう。

 ヴァンが居たからこそ、死に向かうオリジナルイオンはレプリカ情報の採取を許した。

 そう思っている。



 ダアト式封咒を開くだけでも頼んでやってくれればいいんだが、もうヴァンに接触を受けて、ルーク誘拐が出来るくらいまでオリジナルイオンを取り込んだヴァン色に染められて破滅願望満載だろうから、世界を救う手段に手を貸してくれるとは思えない。

 頼んで見なけりゃわからないだろ!

 と心の隅っこの荒野で誰かが一人で叫んでいるけど失敗したときはイコールでヴァンにヴァンの計画を覆す俺と言う存在がばれる時だ。

 そんな危なっかしい事はできない。



 誰かの死を待つって言うのは気に入らないが――仕方ない。

 あの導師イオンが七番目のレプリカイオンなら彼が生まれるまで六人のイオンズが生まれると言うそれも好ましくは無いんだが――仕方ない。

 あーあ、やだやだ。仕方ない仕方ないってそればっかり。でもほんと、仕方ないんだよなぁ。

 ローレライのバカのせいでまだ始まる前の世界に来ちまったんだ。

 せっかく一度は丸く収めて見たってのさ。

 また一から生きる世界を確保しなきゃならん。



 地球にいた頃は当たり前の大地だと思っていました、って。

 別にあっちでもよく考えりゃ当たり前じゃないんだがそれにしてもこっちほどの不安定さは感じさせない。

 フロートアースなんて誰が考えたんだよそんなもん。

 技術的には憧れかも知れんが、ろくなもんじゃないっての。



 つー訳で。

 レプリカイオンを確実にヴァンに作らせるための、五年、か。

 アッシュ誘拐とかレプリカルーク誘拐とか、もう色々やっちまった後だけど、それでも後五年、ヴァンがレプリカイオンを作る計画を立てるように誘導しなきゃならん。

 あの大地を落として破壊する計画を持っているならイオンが死ぬ前には作るだろうと思っているけど、ここでアッシュまでバチカル邸に帰ってヴァンがどーたらこーたら話してしまったら、イオンのレプリカが生まれなくなる。

 多分。



 俺は別に未来を変えちゃ行けないとかそんな事考えているわけじゃない。

 だいたい俺はさんざっぱらそれを壊してきたほうであるし、未来が不変の物なら夢も希望もあったもんじゃない。

 こうして預言によって未来が断片的にでもわかってしまう世界に居ると、パンドラの箱の話を思い出す。



 箱に閉じ込められた多くの災厄が詰まった箱がパンドラと言う女の手で開かれて、慌てて蓋を閉めたが全て災いは野に放たれてしまった。

 そして最後に残った希望の名前は希望。

 なんで災いの全て詰まった箱に希望が一緒に詰まっていて、それが箱に残った事を良しとしたのだろうか、って考えた事がある。

 希望が箱に残ったままじゃ多くの災厄に襲われる世界で希望無く生きていかなきゃならない。

 そんなのありかよって。

 でも希望って言うのがあるいは未来だって言う説を見て、なんだか納得した。

 全ての未来がわかってしまう、わかっていた、という、それがここの世界でも多くの絶望や悲しみを生み出した。

 未来がわかってしまっているから、そこに俺たちで言うところの希望も抱けない。

 それだけが箱に残りそれだけが人類に与えられなかった。だから人は今日も生きている。

 ここは、そのパンドラの箱が完全に開かれた世界なんじゃないかって。



 まあそんな戯言は置いといて。

 とにかく俺は未来を変えちゃならないとか思っているわけじゃなくて結果としてその過程を欲しがっているわけだ。

 細部の変化なんてどうでもいい。

 それが俺の望む結果を変えない変化なら。

 イオンレプリカが作られると言うその結果さえあれば。

 いや、最低でもイオンのレプリカデータを採取できると言う結果まで導ければ。



 レプリカデータくれ、レプリカ作ってくれ、っていって作ってくれるわけでなし。

 むしろ言ったら反発してそうな人がたくさん居る現状では勝手に作り出してくれるまでは相手の心理を維持しなきゃならん。

 まあ今となっちゃそれが難しいんだが。

 いろいろと複雑な物が絡み合いすぎてるし。



 アッシュに関しては一つ目に関しては包み隠さず伝えている。

 ただし二つ目の情報に関しては一気に全部を教える気は無い。

 少しは自分で考えろって。

 情報は小出しに、それを基に考えて、当たっていても外れていても俺に伝えてみればいい。

 その結果としてアッシュは俺から更に情報を得る。



 情報が無さ過ぎてもただ猜疑をあおるだけだが、与えすぎても毒になる。

 アッシュが疑問に思って尋ねた事に答える、と言う形で情報量を制御した。

 考えるがいい若造! というメッセージ、と言うわけでもないけど似たようなもんかな。



「俺の地元じゃ古い哲学者が言ったのさ。



多すぎる酒、少なすぎる酒は同じ。

与えすぎても与えずに居ても真実にたどり着くことは出来ない。



 ってな」

「なんだそれは。聞いた事が無いぞ。それに、あんたの地元もバチカルじゃないのか?」



 アッシュが怪訝そうに眉をしかめる。

 地球です☆

 なんて言えるか!しまった。あーっと……



「俺の心のふるさとだ! とにかく、そういう言葉がある。だから、と言うのも変かもしれないけど一度に全部話す気は無い。ただし、アッシュ。おまえから出てきた疑問に関しては俺の答えられる限り嘘もごまかしも無く答えることを誓おう」

「本当だな?」

「ああ」



 最初っから全部教えた挙句コレだけ知ってれば何とか説得できるんじゃないか? とか思われても困るし。

 これはなー、たしか……パスカルのパンセ! だったかな。

 まあ酒を情報に入れ替えただけだけどな。

 コレを思い出すと一緒に昔の倫理の先生を思い出すんだよ。

 なんで倫理なんだろな。

 近ごろハッキリした顔が思い出せなくなってきたんで特徴的だったところだけが印象に残っていて顔がカエルになってる。

 白衣の上にカエルの顔が乗ってるのが倫理の先生のイメージ、ってーのはカオスだな。

 でも体が小太りだったからなんだかぴったりなんだよ。







 まあそんな事はおいとくとして。

 もし、今アッシュが、この二つ目の情報をもって実家に帰って全部伝えたら、レプリカルークが既に存在している事もあってその真実性は増してバチカルは動くやもしれん。

 ただそれでも、欲に取り付かれた国家がマルクトに殲滅戦を仕掛ける危険性は高い。

 その状態だとキムラスカは身に迫る危機を知らずに終わってしまう。

 それでは危機に対する認識が高まらないだろう。



 それに、だ。

 それだとイオンレプリカ情報は、多分無いな。

 オリジナルイオンにレプリカ情報の提供を迫ったら、それが何に使われるのか早熟なオリジナルイオンなら考える。

 結果として俺と一緒に世界も滅びろ見たいな感じで投身自殺でもしそう。

 そういうイメージを確実に抱かせるオリジナルイオン像を俺はアリエッタから聞いていた。



 アリエッタはイオンに心酔していた、とは思えないほどエゲツナイ・オリジナル・イオンの生態系も話してくれた。

 自分には優しかった! って、さ。

 いうけど、さ。

 うん、おれちょっと切なかったよ、その話。



 とにかくそんな訳でおれは何とかヴァンの目を掻い潜りつつヴァンにイオンレプリカを作らせなければならないと考えている。

 そのために必要な時間が今からだと約五年。

 もしオリジナルイオンの病状が深刻ならもっと早まるかもしれないし、それについてはあとあともっと詳しく情報を手に入れるつもりだ。

 それまでアッシュをバチカルの屋敷に戻す事はできないし、今から俺がアッシュに選ばせる可能性があるとすれば、それはヴァンのところに戻るか俺と一緒に行くかの二つだけだ。



 俺は、アッシュが一から十まで納得して考えた結果としてヴァンのところに戻るなら、もう反対しない。

 もてる限りの情報を話してしまったけど、それを持ち帰って喋ったって構わない。

 ただし、その場合は早急にアッシュ含めて始末をつけるつもりだった。

 勝手につれてきて言う事聞かなかったら始末するって最悪ぅー、じゃなくてその始末じゃなくて、イオンのレプリカ情報を諦めてヴァンに本当のところの始末をつけて、アッシュには無理やりにでもバチカルに帰ってもらう、ってパターンだ。

 この場合でも結局ヴァンと共には居られない事になる。

 このパターンだと色々弊害が出てくるし最終的にどこまで対処できるかわからんが。

 まあどうにもならなかった時は皆纏めて死ぬだけとも言える。



 ものすっげー身勝手な、悪意無き悪っていう最悪だけど、俺はあのままの状態でアッシュをヴァンのところに置きっぱなしにする事はできなかった。

 シンクやアリエッタがこっちの世界ででも俺の可能性としてのアッシュとしてアッシュを見ていることと、俺自身がアッシュに負い目があったからだ。

 アッシュの監禁場所に実際飛び込んでみて思ったこととしてこの環境にはおいて置けないってこと。

 そして、また五年後にはもしかしたらアッシュも俺になってしまう可能性がゼロではない、ってことだ。

 実際俺の辿った歴史とは今からして違うから、ない事だろうと思う。

 いや、無い事であってほしいな、と思う。

 思うがゼロとはいえないその負い目、だった。









 ちなみにアッシュに話すのに真っ先に省略した話は俺の中身が異世界人と言うこととファンタジアでの旅だ。

 それをばっさり省略して、まあ後はぼちぼち。

 それ以外の俺のことに関しては適当に思い出したこととその場でアッシュに聞かれたことを話してある。

 質疑応答を重ねていくうちにアッシュも少しずつ冷静な思考を取り戻してきたようだったが、それでもまだ話し忘れていること、聞き忘れているところがたくさんある予感。

 まあ俺のほうにも聞かれなくても話さなきゃ行けない事が他にも二、三あったような気がしたけどそこはアッシュに聞かれるまで思い出さない程度ってことだろう、と言うことにしておく。



 話している最中のアッシュも色々と反応を示してくれて、若いなぁ、と思ったり。

 俺、つまりあっちでのアッシュがそもそもバチカルに帰らないで正体も現さないでナタリアとも結婚しないで、レプリカに奪われたとこっちのアッシュが思っている居場所とやらについても拘りなく放棄してシンクとアリエッタと放浪していると言うたぶんアッシュから見るとこの世の七不思議。

 アッシュにとっては考えても見なかった可能性ってやつだろう。

 そういうのを一つ一つ提示していきたい。

 そしてその果てに、いつか俺は尋ねたい。



 今でも想いは変わらないか、って。





 最初は俺の容姿が明らかにバチカル貴族である事から疑問とか不信とか抱きながらも自分を助けに来てくれたのか! 見たいに思っていたみたいなんだがごめん違うんだ。

 だって俺、そのまま誘拐犯になっちゃうんだもん☆

 俺が未来から来たアッシュなんだ! って言ったら、こいつ頭大丈夫なのか? かわいそうに。っていう眼差しで見られた、

 いっそ口に出さないことが憎らしい。



 それについてはローレライの剣を見せること、触れさせる事で信じさせた。

 ローレライ、第七音素。

 小さい時からそれと戯れていたアッシュならその剣がどれほど多くの第七音素を持ってして作られているのか、気が付かないはずが無いことだった。

 そして第七音素が持つ特性は、癒しと時間。

 そして、俺が顕現したローレライをあんまり腹が立ったから一発殴ったために時間が狂った、と言うことでだいたい納得してもらった。



 それでも自分がこんな、俺みたいな人間になるのか? と言うのが信じられないって言うような目で見ていたけどな。

 そりゃそうだよなぁ。

 アッシュと俺じゃ、中身が似ても似つかない。

 だけど、まぁ……アッシュボディを別人格が使ってます、とはさすがに言えなかった。

 言えないよなぁ、言えないよなぁ? シンクとアリエッタにすら話してないのに。



 それに。

 じゃあ“アッシュ”はどうしたんだ、と聞かれたら、それにも俺は答える事ができない。

 俺には、このアッシュがどうしたのか全く訳がわからないままだ。

 ローレライだったらなんか知ってるんじゃないかと思ったこともあったけど、あのローレライもまるで何事も無いかのように俺に接触してきた。

 俺をアッシュとして扱った。



 聞けなくなったんだよなぁ、だから。

 そこでローレライがなんかそれらしきことでも言ったら聞けたような気がする。

 けどローレライはマジでなんにも言わなかった。

 わざわざその疑問を掘り返してみてローレライが知らなかったらまだいい。

 だけどもし、だ。

 俺に追いやられてアッシュの意識は片隅に居る、とか俺が現れたからアッシュは死んだ、とか言われたなら俺は耐えられる気がしない。

 それが真実であるならなおさらだ。

 だから、聞けないし、聞けないから誰にも言えない。



 つか、なんで俺あそこで自分の名前名乗らなかったんだろう。

 ルーアなんて発案しないでさっさと自分の魂の名前――つーと、どっかの暑苦しいバカを思い出してちょっとヤナ感じ? でもそれを名乗っておきゃ良かったのに。



 って、ちょっとマテや。

 俺の名前なんだった?

 誕生日は西暦19……下二桁が、思い出せない……。



 天にましま――じゃなくて何処かで多分生きていて欲しいなー、と思っている父と母と本当に天にいる愛猫、は今回関係ないか。

 すまねぇ、父、母!

 俺あんたたちから貰った名前忘れちまった!!

 かあちゃん、かあちゃんの味噌汁が飲みたいよおいら。



「おまえ……何やってるんだ?」

「気にするな、アッシュ」



 突然ぐったりとした俺にアッシュが不信そうに声を掛けてくる。

 気にするなと言いながら俺はシェリダン行きの船の中で項垂れ続けた。



 はじめに逃げようとし、俺が未来人だと話したところで頭のかわいそうな人を見るような目で見て、そのために逃げる行動が止まったアッシュは未来のアッシュ、つまり今のルーアであるところの俺と他にも紆余曲折した挙句いまシェリダン行きの船にアリエッタと一緒に乗り込んでいる。



 ダアトで聞いた話、次ぎの漆黒の翼の興行がシェリダンなんだそうな。

 元の世界でなら俺にも師団員が居たから手駒に関しては何とかなったがこっちじゃそうもいかない。

 早急に人手を確保しなきゃならん。それもある程度以上情勢に詳しい集団が好ましい

 このローカルな世界で情報戦を繰り広げられるだけの素地のある人員が。

 ただではやってくれないだろう。

 見返りを用意できるか、あるいはどんな見返りを要求されるのか。



 ま、やってみなけりゃわかんねーよな。

 これは。

 でもやってみなけりゃわからない、って言えるのはいいよなぁ。

 やってみる前からわかっちまってるヴァンやイオンみたいなパンドラはもう沢山だぜ。

















あとかき
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誤字を教えてくださってありがとうございました。
アールは某召喚騎士3のやんちゃ生徒の召喚獣を思い浮かべるので悪しからず。
たぶん女性のルーアを見すぎているだけでルーアって響き自体はたぶんそれほど女性的でもない、はず?
うーん……。



[3493] 五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/26 00:11







「やーきゅーうーすーるならー……」

「なんだそれは?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」



 大人のお色気溢れるノワールを見つめながら一人こっそりと野球拳を呟いていたら。

 アッシュに聞かれていた。



 オーマイガッ!!









 無事に暗闇の夢の興行とかち合せて漆黒の翼と連絡が取れた昨今。

 よいお日柄でございます。

 目にも麗しいつややかな肢体が今日も目の前でくねくねと……。



「何見てるんだい?」

「いえ、滅相もございません」

「あんた、そりゃ自分でばらしちまってるようなもんだろ?」

「いやぁノワール様、今日も美しい!!」



 そう言えばノワールは肩をすくめて去っていった。



 俺はこっちに来てからやることはやれども抜け殻みたいに過ごしていた。

 だって、ここにはシンクが居ない!

 だって、ここにはアリエッタが居るけど居ないんだもん!!



 シンクはバチカル。

 アリエッタは妹に会いに頻繁にこの秘密基地抜けていくし!

 しかもアリエッタ、俺がアッシュ的外見を持っているためにめったにバチカル行けないからって言ったら、寂しいシンクを慰めるデス!

 つって結構頻繁にシンクに会ってる、って今日はどいうだったきのうはどうだったって聞かせてくれるし、それはいいんだけど、俺が会えない嫉妬する俺切ない。

 それにダアトのほうじゃさっそくヴァンに見つかりました、とか言うし、オリジナルイオンに会いました、とか言うしヴァンの『私の仲間になればもっと頻繁にアリエッタ(小)と会えるぞ』的な甘言に釣られて六神将入りしちゃいました! 特務師団でーす! 的なす・て・き(怒)な伝言を空飛ぶお友達に預けてめったに帰って来なくなっちゃったし。



 あーあああーーーーーーー、モ・エ・が・た・り・な・い!!



 やり始めた当初は、モエモエするのは生き残り確定するまでお預け!

 と思っていたのにお預けできてない俺情けない。

 シンクとアリエッタの為の世界だ! とまで思っているのに俺の世界にシンクとアリエッタが居ないよ……。

 ぐぬぬ、ここは新たなる萌を発掘するしかないのか?

 と思ってとりあえず身近な萌え要素になりそうなアッシュを見てみる。



 じーっと、じとーっと、見続ける。

 見る。

 見る見る。

 睨む。



「……さっきからずっと見られている気がするんだが、何をしているんだ?」

「気にするな」

「気にするなといわれても気になるんだが……」

「だから気にするなって言ってるだろーー!!」



 と叫んで俺は逃げた。

 だめだ!

 ダメだ駄目だだめだ!!!!!



 俺は、アッシュには萌えられない!

 アッシュに萌えるって、中身は違っても外見的には究極の自己愛っぽくない?

 自己愛大切だけどこれ違うよね? 違うよね?

 俺はナルシストじゃなーーーーーーーーーい!!



 モエ、萌え、と呟きながら生ける屍のように俺はナム孤島の中を歩いていた。

 そんな俺の目に映りこむ白黒の小さな生き物……。



「も、え?」



 小さなうしにんに、萌えは出来なくても癒された。














五年後。









「それ行けー! お兄ちゃんが帰ってきたぞーーー!」



 といって俺は今年で三歳になる小さな女の子をアッシュに向かって追い立てる。



「きゃー! おにいたん! お、おかーりないーー!!」



 舌っ足らずに叫んでキャーキャー喜びながらアッシュに駆けていく三歳児。

 まっすぐ前ばかり見ていて足元が疎かになりでこぼこに躓いて転びかける。

 そこをふわりと紳士らしくアッシュが救い上げて抱き上げた。



「ただいま、アーサー。だめだぞ、ちゃんと足元に気をつけないと」

「うん。あーちゃんきおつけゆ。あんね、アーにーたん、あたしね――」



 と、あのねそれでね、とアッシュの腕の中で捲くし立てる赤い髪に翡翠の目を持つ三歳児。

 ついでに女児。

 名前はアーサーだけど女の子。

 事実は違えども遺伝的には親子になるだろう楽しそうな二人を俺は微笑ましそうに見つめる。

 そんな俺の横に静かに並び立った女性がいた。



「誰に似たんだか、あの子も随分と口達者だねぇ」

「そりゃノワール、あんたに決まってるだろ」

「ふん、そういう口の事だよっ」



 ぎりぎりと踵で足を踏まれる。

 痛いがここはあいつらの手前! ちょっとはかっこつけていたい俺は引きつりながらも何とか叫ぶことは堪えとおした。

 今俺の足を踏む女性こそ、一子儲けてなお妖艶さを増したようなノワール女史、もとい俺の妻である。

 そして今アッシュの中で喋り捲っているのが俺の子供、と言うことは。



 俺、結婚しました!










                          






[3493] 六回目=END
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/27 00:03
まえかき
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完の付け所間違っちゃった☆てへっ☆

といっても星をつけてももう可愛くもない年なんだよなぁ、と墓穴。
もう編集したので無いですが、五回目の――完――は、間違いです。
かわりにここにEND付けときます。
最後ぐらいはしっとりいきたいもんだね。
-------------------------














萌えは、世界を塗り変える―――!

















 と、俺は確信してやまない訳だがそこんとこどーよ。

 え?

 ムリ?










 そんなことあるかーーー!

 見てみよ!

 世界は萌えに塗り変えられた!

 世界を変えるのに劇薬なんて必要ないんだ!

 ただ、萌えさえあればいい――。






 世の中不測の事態ばっかりだ。

 そうさ!

 俺の思い通りになることのほうが少ないものさ!



 返してくれ!

 俺の、暗闇の夢の興行に合わせて移動して世界各地で萌えの布教をしていた日々を!

 萌えに人生が変わったと俺の手を握った人々の熱を!



 アリエッタは六神将入りしちまうしアッシュは誘拐二年後には自分でヴァンのところに行くしもうイオンのレプリカデータは採取されたしアッシュはバチカル帰ってみたりシンクもダアトで六神将になってみたりオマケにヴァンの心変わり促せる人物まで出現するし俺もうグダグダ。





 うん、ちょっとゆっくり整理しようか。



 まず、そうだ。

 俺がノワールを口説いて口説き落としたってのはわりとどうでもいい出来事だろう。

 凄く平穏無事に幸せでとりたてて妙な事ではないからだ。

 可愛いかわいいアーサーも生まれたし。

 この幸せは別に奇異なことじゃないと思う。



 だから奇異なことをあげていくとすれば、まず何が不測の事態ってアリエッタが六神将に入ったことだけどまあいいや。

 聞いた直後はまさにムンクの叫びになったけどな!

 アリエッタがアリエッタ(小)に出会って、なし崩し的にヴァンに会って、必然的にオリジナルイオンに会って、そんでもってアリエッタ(小)にあって、お姉ちゃんとしていろいろ教えたらしい。

 そんな事もまあいいよね。

 イオンと深くふかーくお話したっていうのもまあいいや。

 結果としてイオンのレプリカデータ、早いうちに手に入ったし。



 アッシュがヴァンのところに行ったって言うのもまあいい。

 シンクも一緒だったし、アリエッタも一緒だったし? プラスαで奇天烈大百科も一緒だったし!

 俺はだいたいノワールのあのきゅっと引き締まった腹のなかで俺の子どもが息づいているって事を知らされて有頂天だった。

 そんな時だったなぁ~、それを知らされたのは。



 ムンクの叫びどころじゃない天変地異だった。

 いや、人のこと言えないけど。


 そいつが、そいつこそがヴァンの硬い、岩盤のような決意を翻させた奴だった。



 レプリカルーク。

 ただし、これには上にもう一つ単語がつくほうが正確だ。



“逆行”レプリカルーク。



 ありえると思う? 思う? 思わんよな~、けどあるんだよ。

 「どんだけ~~」ってとりあえず叫んだ。

 俺もうやだよ説明すんのメンドクサ。

 こいつが出てきただけで最終兵器。

 あのバチカルに連れ込んだレプリカルークが“逆行”レプリカルークだった。

 ルークが逆行ルークになるまで一年そこそこ掛かりましたという間抜けな話。

 うふ☆ もっと早く気がつけばもっと平穏無事だったのになー、と思わなくも無いけどその事実に比べればささやか過ぎてどうでもいいよな。

 とりあえずみんな平和だよな、そこそこたぶん。



 大地だって俺頑張って下ろしたし、ユリア式封咒解咒したのヴァンなんだぜ?

 オリジナルイオンがダアト式封咒解咒して、ヴァンがユリア式封咒解咒して、俺がラジエイトゲート、アッシュとルークでアブソーブゲートでいっぺんに大地の降下。

 俺の持っていたローレライの剣に触発されてローレライ出現、俺のローレライの剣分の第七音素を使用して勝手に解放されやがった。

 まあ瘴気を何とかして行ったからそこんところは許してもいい。

 俺が十日ばかり身動きできなくなったりしたことについては不問にしよう。

 そんでもってトドメにオリジナルイオンが偽りの預言発動。

 ローレライ協賛の下本来の預言には無い預言を乱発してそれなりに世界をまとめて行った。

 さすが強いぜオリジナルイオン。



 ちなみにいつからかは知らないけどいつの間にかこっちのローレライは俺たちと一緒に来ていたローレライの残滓と交じり合っていたみたいだった。



 くそっ、こっちのローレライはまともかと思ったのにこのローレライも『モエー』とか言う変態に!

 変態は加速度的に増殖する!

 萌えは構わん、萌えは世界を塗り変えると信じている!

 だが、アリエッタとシンクに萌えていいのは、萌えていいのはっ!



 俺だけだというには勿体無さ過ぎるがローレライには言わせたくない!!



 ……ふっ、熱くなったぜ。

 まあ……いいや?

 色々有りすぎて俺バーンアウト気味。



 まあいいやがここんところの口癖。



 とにかく自由になったローレライと、正確にこっちの世界のローレライの剣が手元に残り、オリジナルイオンはローレライの力を借りた偽りの預言を駆使して当面の戦争を回避させ、モースを慈善事業に従事させる名目で地方に追いやった。



 とにかく紆余曲折あってだな、アッシュはヴァンとイオンの口ぞえでちゃんとバチカル戻れたし“逆行”レプリカルークもヴァンとイオンの口ぞえでちゃんとファブレ家の養子に入れたし。

 シンク呼び戻してアリエッタとシンクのレッツ・ウェディングな計画を進行させながらノワールと子どもを愛して萌えの布教をしながら細々と暮らそうとしていた矢先に俺がとっ捕まった。



 オリジナルイオンに。



 俺はレプリカイオンにダアト式封咒を解咒してもらおうと思ってイオンのレプリカデータに拘っていたんだが、ローレライ解放時にそういやローレライは癒しの属性を持っていたなと言うことを思い出したんでオリジナルイオンの治療を頼んでみたところまあ、成し遂げた? みたいな?

 おかげでレプリカデータは採取した物の、レプリカイオンズは増えなかったけど。

 まあこれはこれでめでたし、なのか?

 シンクなんかはあからさまに良かったって思っているみたいだけどな。



 死から遠ざかったオリジナルイオンは今日も黒々とした内心を笑顔に隠して暗躍してる。



 その一環としてとっ捕まった俺は理不尽だとせつせつと訴えよう。

 偽りの預言を駆使したオリジナルイオン、まあもうイオン一人しかいないし、イオンでいいか。

 そのイオンにとっ捕まった俺は検査でファブレ公爵と王妹シュザンヌ婦人との親子関係が確定的に晒されてしまった。

 これがオリジナルイオンの狙いだったらしい。



 つまり、あるはずのない王家との血縁関係が晒されてしまったわけだ。

 イオンの奴どうするつもりだと思っていたら、またしても偽りの預言を発動して俺を王族に仕立て上げた。



 俺を養子にすればバチカルに繁栄が訪れるだろう、系統の嘘っぱち。

 戦争で繁栄が訪れるより一人養子にとって繁栄が訪れるほうが平和だからいいけど、俺のことでさえなければ。

 血縁関係的にはある意味申し分なし。

 王家の養子で王位継承権はアッシュの下、ルークの上。

 名目上王位継承権は持っていても、実質王位継承権は無いというビミョウな立ち居地。

 そんでもって色々理由つけて爵位貰ってナム孤島とシェリダンの領主になったりとか、ね。



 すげー、これが本家本元イオンぱわーなのか。

 全然癒されない。

 負の方向の腹黒さと合わせれば名前だけはマイナスイオンな感じなのにぜんぜん癒されない。



 公に認められて喜ぶべきなのかどうか。

 当時は随分ノワールに踏みつけられたり踏みにじられたりしたなぁ、と思い出す。



 まあ、もうプラネットストームは停止した。

 俺の周囲の騒動を省みなければ世界もそこそこ平和らしい。

 イオンの偽りの預言乱発も、もう二、三年後に最後の預言をして終わりになるだろう。







 そうして俺は、シェリダン港でアッシュを迎えて俺の娘をけしかける。

 お兄ちゃんだよー、と教えて。

 アッシュもまんざらじゃなさそうだし。ナタリアとの婚約は順調に進んでいるそうだ。








 ちなみに俺はイオンの企みによって王家に養子入りする時に姓つけた。

 ペンドラゴン。

 竜の頭、ドラゴンヘッド。かっこよくない?

 今まではただのルーアだったのが威厳をつけて長くしてみて“ルーアッシュ・フォン・ペンドラゴン”に改名。

 ノワールは俺の妻だから“ノワール・フォン・ペンドラゴン”で、そうなると俺の娘はもちろん!!



“アーサー・A・ペンドラゴン”



 Aが何かって?

 そりゃ秘密さ!

 将来はアルバート流剣術を教えるつもりでいる。

 似てるじゃん?

 まあ俺とノワールの娘じゃどう頑張っても赤毛だけどな。















 更に4年後――ダアトの礼拝堂にて。





 俺は父親代わりとしてアリエッタの手を引いて進んでいる。

 純白のウェディング姿の、アリエッタだ。

 かすかに頬を染め俯いているアリエッタ。

 足を止め、見つめるその先には――シンクがいた。



 俺は、つないでいた手をシンクにわたす。



 そうしてあの腹黒イオンのところに二人で身を寄せ合いながら進んでいくのを見送っていた。



 ここまで来るのに長い時間が掛かったと思う。

 二人のウェディングと言う他人の結婚ばっかり気にしていた俺のほうが先に結婚しちまったし。

 それでも見れて、良かったかな。



 これが7、8年前の俺なら、これで俺の役目は終わった、っ的なバーンアウト、燃え尽き症候群になったかもしれないが、今の俺にはまた掴む手が出来た。

 前を歩く二人の、更に前を、金色に輝く剣を持って騎士の如く今二人に降りかかるあらゆる災厄から守り通さんとするかのように立つ俺たちの娘。



 その手をまた今みたいに誰かに受け渡すまで。

 燃え尽きてなんかいられないよな。



 そっと離れた俺の隣に並ぶ女性は、やはりノワール。

 彼女は右手で俺と腕を組み、左の手には三つになる男の子を連れていた。

 やっぱり俺によく似た、赤毛の子どもを。










                                        ――END――







[3493] ×××に憑依したとある×××の絶叫。
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/27 00:06







「う、ううんん……」



 自分の唸り声に意識が覚醒した。

 強い日差しに皮膚がちりちりと焼けていく感覚を感じる。

 ここはどこだろう、とやけにかったるい体を動かして上半身を持ち上げた。

 海にでも落ちたみたいに服がかぴかぴで砂を巻き込んでじゃりじゃりだ。



「……どこだ?」



 見上げれば一面に南海風の青い空。

 絵に描いた見ないな白い雲とかもめ。

 椰子の木とか~、白い砂浜とか~。

 ぜんっぜん、覚えが無い。

 何とかして直前の記憶を思い出そうとするけど、そこにあるのは明日彼氏を連れてくるといったアーサーに、彼氏が来たら一発ぶん殴ってやる! って息巻く俺と、宥めるわけでもなく俺を踏みつけるノワールの姿だった。



 いやまてまて、それは直前の更に前だ。

 直前は、そのあと尋ねてきたシンクとアリエッタと一緒にメジオラ高原の高台からシェリダンを見下ろしている景色だ。

 こんなハンモックで昼寝したい南海景色とはなんら関係ない。

 関係なさ過ぎて何を疑えばいいのかもわからん。



 忘我の人のように何気なく掌を見ればなんか掌も違う。

 俺のじゃない。

 服も普段俺が着ないようななんか白い服だし、材質も、無理やり王家に養子入りさせられてからはめったに着られなくなった安物だ。



 なんかこういう安い奴のほうが落ち着く俺って貧乏性?



 頭に手を突っ込んで髪を二・三本引っこ抜いてみれば赤毛だった。

 赤毛だったんだが、微妙に色合いが違う?

 なんつーか、この感覚、以前にも覚えがあるような気がしないでもない。



 ふと気がついて俺は掌から顔を上げた。



 直前の記憶ではシンクとアリエッタと一緒だった。

 一緒だったという事は、だ。

 もしかしたらいるかもしれない!



「シンク、アリエッタ! アリエッター、シーンークー!!」



 叫んで走り出した。

 なんかいつもより視界が高い気がするけど気にしない。

 少しして聞こえてくるぼこすか殴る戦闘音、それに続いて聞こえてくるのは懐かしい罵声。



「弱いんならおとなしく出てこないで欲しいね」

「じゃま、です!」



 なんか声質違うけど言ってる内容はまるでシンクとアリエッタだよな?



「シンク! アリエッ……た?」



 呼びかけた声は途中で疑問形に変わってしまう。

 ゼリーみたいなイキモノと戦う姿、その攻撃方法とか癖とかは、まるでシンクとアリエッタだった。

 けど外見が、外見がまるで別人だ。



 緑の服を着た黒髪で神経質そうな子どもと、ピンクの髪は似ているかもしれないけどツインテールでアリエッタの子ども時代より健康そうな子ども。



「ぼーっと突っ立ってないで、動けるなら手伝ってよ! 外見はともかく、中身はあんたなんだろ? ルーアッシュ」

「じゃ、じゃあ……」

「僕は、シンク」

「そっちは」

「アリエッタ、です」



 言いながらもボコスカ殴っているけど、あまり鍛えられていない子どもの膂力とグローブもつけていないまさに無手と言う状態、そして相手が不定形のゼリー状であるという事が災いしてあまりダメージは耐えられていないようだった。

 相手が誰でも一応助けるつもりは有るが、外見はともかく中身がシンクとアリエッタなら俺が助ける事を戸惑う理由は無い。

 俺も剣は無くしていたけど、それでも今の状態なら子どもと大人の差と言うだけでシンクとアリエッタに群がる魔物を退けられるだろう。



 飛び出そうとしたその時。

 俺の中で声が響いた。






 力が欲しいか――






 掠れたような、まるでマシンボイスが聞こえ、俺の中に黒い水面から純白の剣が浮かび上がるイメージが持ち上げる。

 って、ちょっと待てよ?

 なんか俺の琴線に引っかかったぞ?

 青い空白い雲、南国の海の風。

 いきなり短くなった赤毛と伸びた身長、シンクとアリエッタが入っているらしい二人の子ども。

 戦っているゼリーみたいな魔物とこの状況。

 ついでに俺に話しかけてきた声と剣のイメージ。



 俺の無駄なことにばっかり発揮されている頭脳はこの状況に一つの解をはじき出した。



「サモンナイトスリーーーーー!」



 ただの赤毛つながりかよ!



「そんな力いらねーーーーっ!!!!!」

「うるさいっ! 叫んでないで手伝ってよ!」



 俺には苦悩の時間も無いらしい。
























------------------------------------------------
たとえ完結表記が釣りだったとしても後悔しない――


と、なんとも素敵に無敵なおことばを頂いたので。
そうとなれば釣り針を垂らさぬのも人道に悖る!
餌はミジンコ、めだかでもつれればいいな。



ついでなので後書き兼、覚えている限りのQ&A

まずは後書き。
感想を下さった方々、ありがとうございました。
とても嬉しかったです。
乙コールとか、昔意味がわからなかったのですが、ここで貰うようになってニュアンスで感じ取りました!

皆さんから頂いた感想を見れば見るほどわかっている! を実感する、書けば書くほど残念になっていった感じはぬぐえません。
一定のテンションを保つのが難しかった。
気軽にさらっと難しい事考えないでだらー……、とサクサク読める暇つぶし的なものを一応目指していたのですが。
シリアス、というか無駄に小難しく理論にもならない理論を展開するほうに寄って寄っていきがちに。
初期のコンセプトとしては萌を叫びながらヌルーく書く、というものだったのですが。
難しいです。

でも残念になっていきながらも面白いといってくださったり、楽しみにしているといってくださった方々がいたおかげで、目標としていたシンクとアリエッタのレッツ・ウェディング!!
までこぎつける事ができました。
読者の方々には助けられてばかりです。


そしてQ&A、と思ったのですが、答えられるAをもつQが一つしかありませんでした。
ペンネームは創竜伝ではなく、読んで音の如く“後の祭り”です。
やっちまったぜ! 的な心の叫びを代弁するPNでした。




[3493] 二回目?=おしまい
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/11/30 03:01





そのころ、付近の似たような浜辺でも同じような景色が繰り広げられていた。



「きゃあっ! ……、あれ? ここ、何処なのかしら」



 悪夢に魘されていた赤毛の女性が自分の叫び声に目を覚まし起き上がると身を捩る。

 クルリと周囲を観察して、全く見覚えの無い場所に首を傾げた。



「せんせぇ! 目が覚めたのか! しっかりしてくれよ!」

「先生? せんせい、って……私のこと?」

「先生以外に誰が居るって言うんだよアティ先生」

「違うわ! 私はティア」

「まあ、ティア、あなたティアですの!」



 名乗った彼女に金髪の女の子が掴みかかる勢いで詰め寄った。



「え? そういうあなたは?」

「ナタリアですわ」

「アティ先生もベルフラウももう勘弁してくれよ! 一体どうしちまったって言うんだよ……



 教師と兄弟の変貌に一人男の子が肩を落とし。








「あら~ん? ここ、一体何処なのかねぇ」



 と十分前に呟いた黒髪の女性は今、全く覚えが無いがどうやら自分のテントらしいと案内された場所でこれもまた全く覚えが無いが自分の物といわれた荷物からみつけた鏡を見て呟いた。



「それよりも、この場合私は誰、とか言うべきなのかしらん?」



 胸は以前の物より格段にぺったんこになったが、しなを作る仕草の艶っぽさはどんな外見でもかわらない。

 そんな彼女のいるテントの外では彼女を案内してきた帝国軍の兵士である岩で出来たような体格のいい大男が隊長の突然の変貌に涙し。


「すまんが、ここが何処だか教えてもらえればありがたいんだが……」

「ビジューーー! お前までどうしたというのだ!!」

「すまんがビジュと言う者に心当たりは無い。俺はラルゴという」

「ああ、あああぁぁぁあ!」



 顔に刺青のあるひょろっとした男の襟首を掴みあげると雄たけびを上げながらがくがくと揺さぶり。







「てーか……ここ、どこ?」



 金髪の、女性と言うにはまだ青い少女が難破した船の甲板の上で呟いた。

 そこには先客が三人。

 少女の呟きに気がついた金髪の男が答えた。



「さあな。俺も知らん」

「てかさ、あんただれ?」

「俺か? 俺はピオニーだ」



 鍛え上げられた体をそり返して天に告げるかのように金髪の男は名乗った。

 その名乗りに反応したのは先客三人のうち一人、灰色のローブに同じような灰色の髪をした細身の男だった。



「ピオニー? ちなみにフルネームは?」

「聞いて驚け、ピオニー・ウパラ・マルクトだ!」

「ええーっ! それって、マルクト帝国の皇帝の名前だよねー?」



 驚愕に叫ぶ少女に対して細身の男はふむ、と顔の前に手を持って行き、そこにあるはずのものが無かったことにようやく気がついたような仕草はっとすると、呆れたように緩く首を振る。



「あなたがピオニーでしたか」

「そういうお前達はだれなんだ?」

「私ですか? ジェイドですよ、ピオニー」

「私はー、神託の盾騎士団所属アニス・タトリン唱師で~す☆」

「ちょっとちょっと、あなたたちいったいどうしたのよ!」



 おねぇ言葉を駆使する暗殺技能もちの麗人が戸惑いも露に声を張り上げ。








「はっ……!」

「なんだ?」

「おいおい、何が起きたんだ?」

「ム……? ドウシタノダ」



 集いの泉で会議中にいきなり白昼夢から冷めたような反応を見せる三人の守人に鎧の守人が戸惑いの声をあげ。








「ず、ズラー! だれか助けるズラー」



 瓦礫のしたで、鋼鉄の機械兵士が叫びだし。








「お、と、わ、うわぁ!」



 ハスの葉の上で遊んでいる時にいきなりそうなった少年は、地面がいきなりは酢に変わるという現象に対処しきれずに水に沈み毛むくじゃらのイヌ科の少年に引き上げられた。



「うわぁ、また随分派手に落ちたね、スバル」

「スバル? って、誰だよ」

「え? スバルはすばるでしょ?」

「違う、俺はルークだ!」



 と言って、イヌ科少年の目を零れ落ちそうに見開かせ、その頃同じ里にある日本家屋風の民家の中では老人が一人、己の身に起きた非常事態に、いつもの癖で髭を撫でつけ。








「うわぁ! い……つつぅ。 いったい何が……これは、翼?」



 飛び立とうとした天使が落ちた先ではふわふわと空を飛ぶ花の妖精が困惑気味に呟いていた。



「みゅう~~~、ここはどこですの~~」







 異変は島の各所で起きていた。

 こんな条理の狂った島でどんな物語が繰り広げられるのか。

 誰も――知らない。








                                               
   おしまい

















あとかき
-----------------------------
いやー、大漁ですね!
大漁大漁、うれしいなー。
めだかは水槽に、しゃけとアザラシは薫製にして保存食がいいでしょう。
クマも居るようですし、クマ鍋ですか。
ごちそうさまでした。

真面目に完結です。
外伝とか書く事があるかもしれませんが、あとは皆さんのご想像にお任せします。
というかものすごいカオスですね。
ある意味簡単に結末が想像出来すぎる。
ちなみに、誰が誰に憑依しているのかノーヒントが何人かいます。
当ててみてください。

思い返してみれば書いているのはもちろん一人でしたが、作っているのは皆さんと一緒だったような、そんな気がする作品でした。
ちょっと不思議な書き方でした。
これもまた楽し。
釣果良好。

ああ、どこからかエンジン音が聞こえる……。
もう、もう行かなきゃ――!



[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/09 21:45









 そんな力いらねー!

 と叫んだからには自力で何とかする!

 つーことで俺がんばった。

 具体的には俺たち。

 ゼリーは柔らかくて殴ってもあんまりこうかが無かった。

 正直めちゃくちゃ剣がほしかった。

 ローレライの剣も案の定持ってないし、もってるとしたら緑の賢帝、シャルトスなんだろう。

 あんな人を乗っ取ろうとするような糞剣いらねーけど。

 んだがまあ、そこはやりよう。

 俺はベルトを引き抜くとそれを鞭のようにしてゼリーに叩き付けた。



「ははーーはははは! 吹き飛べぇ!」



 といいながら実際は切り裂くにも近い。

 鞭でしばかれると裂傷が出来るのだ。

 それは切り裂いているよりもたちが悪い。

 これは子供の体になっているシンクとアリエッタには無理なことだろう。

 あの体で偽鞭であるベルトで、というには腕力が足りない。

 その代わりと言うか、俺の参戦によって余裕を得たシンクとアリエッタはゼリーから離れると投石をはじめた。

 自分を傷つけないことは出来るとは言え、俺の熟達したとは言えない鞭捌きを邪魔せずにゼリーの邪魔は出来る恰好のポジションだ。

 一対一にならざるを得ないから、俺が他のゼリーに構っている間に他のゼリーの注意を引き寄せておく事もできる。


 まさに絶好のポジション。



 なんかゼリーじゃない召喚獣が二匹おろおろしているんだが、たぶんサモスリーでシンクとアリエッタがあの子どもととあの子どもならマヨネーズのキ○ーピー見たいな名前の天使とたしか転びそうな名前を付けられていた猫っぽい召喚獣だろう。

 ああ、思い出した。キューって鳴くからキユピーともう一匹はテコテコ歩くからテコだな。

 確かにそんな鳴き声と歩き方をしている。

 まだ名前付けられてないからテコでもキユピーでもないんだろうがまあいいや。

 多分俺もうキユピーとかテコとか呼んじまうだろうし、斬新な呼び名も思いつかんしな。

 アリエッタとシンクに任せても猫とか天使とかきっとそんなレベルだろうし。

 それこそテコテコ歩くからテコ、とか多分そんな感じだろう。



 いちおうシンクとアリエッタがそいつ等を守っていたようなので俺も守るようにポジションを取りながら戦うんだが、煩いのが一人、一体? いる。

 主に俺の頭の中で。

 こいつ、ぜったいローレライより悪性だ。

 名前を忘れた誰かの意思を象っているディエルゴ。

 エルゴの反逆。



「行け! 俺! やれ! 俺! 負けるな! 俺!!」

「ちょっとは静かに戦ってくれない? 集中できないんだよ!」

「ごめん、俺!」

「だから!」



 一匹また一匹と、確実に数を減らしていく。

 そうすることで軽口を叩く余裕まで出てきた。

 やがて相当数減らしたと時点でやっと、不味そうなゼリーは撤退を始めた。

 逃げるものを追うつもりは無い。

 その撤退を見届けて、やっと俺は一息ついた。

 脅威が無くなった、つまり出番がなくなったと見たんだろう。

 頭の中の声も静かになったし。



 なんつーか、途中からは声ってよりノイズだったんだが、それでも言葉にならない意思みたいなのを感じて久しぶりに怖かった。

 ローレライの奴なら超常存在でもフランクだったからなぁ。つーか、半ば変態だったし。

 勝手が違いすぎる。



「ふぅ……やっと撤退したよ。まったく、なんなのさ!」

「アリエッタも、わからないです。アッシュはわかりますか?」

「……わかんね」

「本当に?」

「本気で」



 前科有りなせいか俺を疑わしく見るシンクに、俺はちょっと戸惑いながらも分からないと答えた。

 ここがどこだかは分かる。

 たぶん、あってる。

 あってるんだが、何でこうなったのかはさっぱり分からん。

 まじわからん。

 今回に限ってはたぶんローレライの干渉じゃないだろうし、そもそもシンクとアリエッタも一緒ってのはどうよ。



「ところでシンクとアリエッタにとても重要なお知らせがある」

「なに」

「なんです、か?」

「それはだな」

「それは?」

「なんなのか、には答えられないがここが何処なのか、なら知っている」

「……また異世界、とか?」

「YES」



 できるだけノーテンキに答えたら、シンクが沈黙した。

 というかアリエッタも沈黙している。



「じゃあ聞くけど、この体の持ち主の名前は?」

「ウェル……ウィル?」

「どっちなのさ」

「確かウィルだ」

「じゃあアリエッタのは」

「アミーゴ、サリーナ、サリーゼ? いや、確か始まりはアだった。そんでサリーゼが響き的に近く感じるから多分アリーゼ」



 たしか。

 もう一人のベルを振るような名前の子はもっと高飛車そうな子どもながらにゴージャスな外見だったはず。

 確信が持てるものが出てくるまで随分と時間がかかって、シンクは深く溜息だ。

 といってもその姿はウィルなのだが。

 せっかく成長したのになぁ、シンク。

 またチビになっちまって。



「ちなみに俺はレックス」

「いやにするっと出てきたみたいだけど?」

「だってほら、マントの端に刺繍してあるんだよ」



 そう言って俺は白い外套の端をつまんでシンクに見せた。

 自分で入れた刺繍だろうか、下手糞な縫い取り文字が躍ってる。



「……何処まで知ってるの? アッシュ」



 シンクの目に宿る剣呑な光に俺は逆らえない物を感じたりしたけど頑張って逆らう。

 つーか、冷静に見えててんぱってるな。

 俺の呼び方がアッシュに戻ってる。

 いっそここにアッシュが居ないなら俺もアッシュに戻ろうかなぁ、とか考えてるから別に構わんけど。

 しかし喋っていいのはどのくらいだろうか。

 ファンタジアの時くらいの情報は喋るべきだろうか。

 いやそれよりもまず今があの時とは違ってみんな揃って憑依状態ってことを何とか解説しなきゃならんのだろうか。



「ここにもあっちじゃオールドラントって呼んだような世界の名前があったような気がするがソレについては忘れた。まあ、とにかくな? 俺たち纏めて憑依状態でのトリップ、で憑依とリップとか言うような状況ではないかと思うのだがどうだろうワトソン君」

「時々意味の分からない冗談言うのやめてよね」



 事態が事態ゆえか、いつも以上にシンクが刺々しい。

 俺だって説明できるもんなら説明したいっつーのー。









 その夜はまあぼちぼち喋りながら魚を釣って飯を食った。

 拾い物はなべやかん、じゃなくて鍋とか鍋のふたとか役に立たなさそうな物ばかりだ。

 召喚術が使えれば触媒に使ったり出来たのかも知れんが、俺は召喚術に関しては実践的理論はなんも知らん。

 サモナイト石、だったか? それもないしな。

 それでも拾った針金と木の棒で簡単に釣竿を作って海にたらす。

 餌は磯なら石をひっくり返せばそこそこ居るし、問題ない。

 俺のサバイバルスキルは神託の盾騎士団時代に鍛えられている。



 ここに来て何よりの問題なのは、俺がこっちでのストーリーをもう、ろくにに覚えていないってことだ。

 シャルトスの対の剣の持ち主の名前がイスラだったかイクラだったかもハッキリしないのだ。

 多分語感からしてイクラは有り得んだろうとおもうが、もしかしたらイスラクかも知れないとは思っている。

 ヤバイ。



 確かこの世界のを四つの世界が取り囲んでいるような記憶はしているが、だからといってそれぞれの特徴とかも良く重いだせん。

 シンクとアリエッタがそれぞれ懐かれた召喚獣を見てなんとなく思い出したのも有るが、どっちにせよ情報として危なっかしすぎる。



 シンクに説明を迫られたんだが説明しようにもし様が無い。

 アビスの世界に行って長かったからなぁ。

 異世界トリップなんて、しかも憑依トリップなんて人生で一度やりゃ十分だろ。

 二度とないと思っていたし、アビスの世界の事は気に留めてゲーム内容とか書き溜めていたけど、アビスの世界に行ってまで他のゲーム、つーか他の世界の内容まで書き留めて置こう何て思わんしな。

 二回目のファンタジアは憑依が無いし、原因がローレライだってわかっているから上記には含めない。

 全く原理の分からんこれと、ローレライのアレとは別だろう。



 丸焼き用の魚を俺たち三人と手元に残った召喚獣二匹のの為の分と、釣りまくる。

 未開の海ってな感じで人間をあまり知らない海の魚は警戒心が薄いのか良く釣れた。

 大漁ーー!

 釣りっていいなぁ、心が洗われるようだ!!



 ある程度喋ったらあまりおしゃべりも進まない雰囲気の中で、もぐもぐとひたすらに魚を食う。

 塩気は海があるからある程度ある。

 味付けもできて万々歳。

 雰囲気を除けば美味い。



 俺は食べ終わった骨を砂浜に投げてあぶらの付いた指を舐め取った。

 そうして溜息をつく。

 幸せが~、逃げる~~、って、こんな程度で逃げる幸せなんかもう残っちゃ居ないだろうな。

 残ってたら、こんな事あるかっつーの。



「……明日、この島の中を巡ってみよう。確か、少なくとも何か居たはず」



 人じゃないものがわんさかと人が少し。

 協力をを得られるかどうかは、別の話だが。



 























--------------------------------
 終わる終わる詐欺らしいので。








ちなみに上の二回目? に正解者が居なかったのでの答え合わせ。
では、まずノーヒントもヒント込みもとにかく全部含含めて対応表。

レックス    ルーアッシュ
アリーゼ    アリエッタ
ウィル     シンク

アズリア    ノワール
ビジュ     ラルゴ

アティ     ティア
ベルフラウ   ナタリア

ソノラ     アニス
カイル     ピオニー
ヤード     ジェイド

アルディラ   ジョゼット
キュウマ    アッシュ
ヤッファ    ガイ

ヴァルゼルド  タルロウX

スバル     ルーク
ゲンジ     ヴァングランツ

フレイズ    アスラン

マルルゥ    ミュウ


他にもいたかもしれないけど続かない。



[3493] 三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2009/02/02 12:45




 朝から釣りをして飯食って、それから島内探索に出かけたところがっつり海賊達に出会った。

 たしかそうだったよなぁ、と思い出す。

 赤い髪のスカーの変態とソラっぽい名前の女海賊。

 こっちとしては別に戦う気も無かったがなし崩し的に戦闘に突入、まあ勝った。

 戦力比が違うぜー。

 召喚術こそ使えないが俺は浜辺で安っぽくても剣を拾っていたし、ウィルの体で身体能力こそ落ちているものの技術力に関しては衰えても居ないシンクが居る。

 アリエッタはまあ、肉弾戦向きじゃないがシンクのサポートとして一人前になっている。

 そんなわけで割りと無難に勝ちを収めてスカーが「煮るなり焼くなり好きになさい」と言ったときだった。



 どどどどどどどどど……



 と遠くから地響きが聞こえてくる。

 なんだ、援軍でも来たのか? と振り返ればまるでギャグ漫画のような土煙が上がっていた。

 その土煙を巻き上げている人物は影になって見えない。

 が、だんだんとその姿が近付いてくることによって鮮明に見えてくる。



「ご無事ですか海賊殿ーーーっ!」



 響いてくる男の声。

 禿げた頭に蔦の冠、殆ど裸身で纏っているのは大切なところを隠す腰蓑のみ。

 そしてなぜかインパクトのあるす、すす、スネ毛。



「キタ、キタ、キタァ!」



 どん、どん、どどん! とスネ毛、腰蓑、額飾りつきの髭を蓄えたおやじの顔がじゅんにアップになる。

 なんなんだいったいこの漫画的な演出は、これは小説じゃないのか? おかしい、俺までメタになってる!?



「なんなの? あのオヤジ」

「変態、です」



 アリエッタがぎゅっとキユピーを抱えて、見ちゃだめです、と囁きかける。

 シンクのそばに居るテコも猫とは思えない豊かな表情でそのオヤジを見ていた。

 その一見変態こしみのオヤジをみて慌てたのが海賊達だった。



「ちょ、ちょっとあなた、こんなところに何しにきたのよ!」

「船で待っててって言ったじゃない」



 善意なのだろうと思う、思うがこの場合むしろ人目から隠したいのではと思ってしまう。



「助けに来たのにつれないですなぁ、海賊殿」

「助けに来たって、あんたに何が出来るのよ」



 そう、ただの腰みのオヤジに何が出来るのか。

 その足は濃いスネ毛に覆われて、胸は贅肉が無いことをあらわすように肋骨が浮いているがどちらかといえば痩せすぎだ。

 そうだ。

 濃いスネ毛と腰みのしか纏っていない痩せた男に何が出来るのか。

 本来ならそう思うのだろう。

 海賊達もそう思ったに違いない。

 だがそれに反してそのオヤジは自信満々に言い切った。



「なんの! キタキタ踊りに不可能はありませんぞ!!」



 ビシィ!



 と効果音つきでそのおやじはポーズを取った。



 不可能は無いって……所詮踊りだろ?

 俺はそう思ったし、おそらく相手もそう思ったはずだ。

 だが俺の背中に走るこの悪寒がぬぐえない。



 すう、っと横目でその裸身に腰蓑のおやじが俺たちをみる。

 なんか、いまやな予感した。



「海賊殿に代わって今度は私がお相手いたしますぞ」

「やっ、別に戦いたいわけじゃないんだが……やるっつんならなぁ」



 と俺も消極的に剣を構えた。

 後ろでシンクとアリエッタがちゃんと構えるのを見届けるあたりあのオヤジ、見た目に反して紳士的なようだ。

 緊張の一瞬、そして――





 ピ~ピ~ひゃらら~、と何処からともなく聞こえてくる音楽と共におやじは怪しい踊りを踊った。

 なんだ、なんだなんなんだこのおやじ!

 そしてこの精神を根こそぎ奪い取っていく踊りは!

 人とも思えないような不可解な動きで瞬く間に近付いてくる!



「キタァ!」



 と叫んだ手でビシィ! とアリエッタが飛ばされた。

「きゃぁぁ~~~」と言う悲鳴が尾を引いているがその飛ばされ方もなぜか漫画チック!

 思わず俺は叫んだ。



「アリエッター!」

「キタァ!」



 と叫んだ腰がビシィ! とシンクを突き飛ばす。

「あ~れ~」なんて全然お前らしくない悲鳴だぞシンク! シンク! お前までこのオヤジに汚染されてしまったのか!

 腰みのアタック、強し!!



「シンクーー!」



 叫ぶ俺の前にキタ、キタ、キタ~~ッ! と叫びながら腰みの姿のオヤジが迫ってきた。

 切れのいい腕の動きと腰の動きがクイ、クイ、ビシィ! と存分に踊りを見せ付けながら獲物を狙う目で俺を見ている。

 俺は怖くなって親父に向かって全力で剣を振り下ろした。



「キタァっ!!」



 バシィ! と叫んで俺の剣を弾き飛ばすとキタキタ言う親父――もうキタキタおやじでいい――はトドメ! といわんばかりにスネ毛だらけの足を振り上げた。



「キタキタァっ!」

「あ、あ、あああーーーーーー!!」



 したくも無いのに漫画チックな悲鳴を上げようとするのを必死で堪えて叫んだ。

 飛んでいく中眼下では、いい汗をかきましたぞ、といわんばかりに満足げなキタキタおやじが額をぬぐってほっと息をついている。



「NG!!」



 俺は叫んだ。魂の限りに。



「NGNGNGーーー!!! やり直しを要求するーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」



































「アッシュ!!」


「はぁっ! ……シン、ク?」



 呼ばれてカッと目を見開いた。

 目の前にあるのはウィルだからシンクの顔だ。

 あの妙な腰蓑おやじのおどりではない。

 ほっとして息をつく。

 いつの間に息が上がっていた。

 ふと額に手を置くとじっとりと冷汗が滲んでいる。



「アッシュ、だいじょうぶですか?」



 アリーゼの姿をしたアリエッタが俺を覗き込んで心配していた。



「いきなりNGーー! って叫んでたよ」

「ゆ、め……だったんだ。とびっきりの悪夢だった」





 あんな夢を見た後じゃもう一度眠る気にもなれなくて、まだかなり早い時間だったんだが俺はもう起きてしまう事にした。

 二人は二度寝に突入。

 成人している俺の体と違って子どもである二人の体は以前の荒事に見合った休息を必要としていた。



 釣りをして、改めて起こした二人と二匹と飯食って、俺たちは島の探索に向かった。

 そこで出会った盗賊二人はスカーの暗殺者とソラだったかの女海賊。

 夢と重なるその二人を見た時にヒヤッとしたその警戒心を感じ取られたのか戦闘になった。

 案の定と言うか勝った。

 んだが捉えてどうと言う事もないし、できれば協力体制を敷きたい人物等でもあるので解放すると、船に招待された。

 その彼らの自己紹介の間も俺はきょろきょろし続けた。

 スカーレルとソノラ。

 ああ、言われて見ればそんな名前だ。

 それでたしかソノラの兄はイルカだったような気がする。



「どうしたの? さっきからきょろきょろして、なにかくるのかしらぁ?」



 というスカーレル。



「いや、多分何もこないはずだ。気にしないでくれ」



 と言うくらいしかできなかった。





 案内されて船に向かう間もアレは出てこない。

 ここまで違ってくれば! と、パァっとみらいが開けたような気分だった。

 向かう先の船が野良召喚獣に襲撃されていると聞いておれは率先して助けに飛び出した。

 テンションはマックス。



「いくぞシンク、アリエッタ!」



 アレがいない。

 それだけで俺は、生きて行けるかもしれない。



 そのテンションのまま勝ちを収めて俺たちはいま破損した船の中で部屋を貰うことができた。

 なんというか屋根があるだけで、アレが居ないだけでこれからの未来に希望が持てる気がしないだろうか。

 俺はする。

 しかし、だ。

 夢に出てきたアレはいったいなんだったんだろうか……















































---------------------------------
 頂いた感想を読んでいたらアドバーグ・エルドルを彷彿としました。
 彼はスネ毛で呼吸できるらしい。果たして彼は、まだ人間なのだろうか……。



[3493] 四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/12 23:39






 あまりにキタキタの威力が強くて思考停止、省略してしまったが、ここで改めて俺たちが屋根のある部屋をゲットするまでの道のりを語ろうと思う。

 まずはスカーレルとソノラを紹介しよう!

 誰にって? 聞くな。

 ……まだあの夢の中のメタな思考が残っているのかもしれん。



 スカーレルは海賊カイル一家のご意見番で、一番の特徴は首に縫い付けたあとのような装飾をしている。

 刺青、か? とりあえず本物の縫い傷ではない。

 おねぇ言葉を駆使するが不思議とオカマとかそういう印象は持たない人物だ。

 経歴としては元暗殺者。男物の服も女物の服も自在に着こなすお洒落な人だ。



 ソノラは太陽のような、とか向日葵のような、とかいう例えが多いだろうと思う少女だ。

 まだ少女の域から脱皮しきらないショートカットにされた癖毛の金髪が活動的な、ホットパンツと被っているのを見たことが無いでっかい……あれ、なにハットって言うんだ?

 イメージとして近いのはテンガロンハットのような気もするがあれなら15ガロンぐらい入りそうだ。

 とにかくその帽子を手放さない少女だ。

 船が難破したとき無くしてしまったそうだが、腕前としては一流のガンマン。



 そしてこの二人が所属しているのが、スカーレルのときに名前が出てきた海賊カイル一家だ。

 カイルはソノラの兄にして海賊カイル一家の親分。

 そしてもう一人、ヤードと言う男が流れ着いていて、彼はカイル一家の客分と言うことだった。

 それがこの島に流れ着いた海賊一家の全容だ。



 カイルは剛毅な男だし、ヤードのイメージは着ている服と頭髪のイメージから灰色だ。

 確かカイルはストラとか言う気の術が使えたはずだった。

 俺も召喚術の前にストラでも習ってみようかとちょっと思う。







 あの、俺が飛びっきりの悪夢を見た後、島の探索に出た俺たちがであったのはスカーレルとソノラだった。

 俺が夢で見たとおりの展開に酷く警戒しているのが気に障ったのか、戦闘になり、俺たちはやっぱり夢のとおりに勝った。

 それがなおさら俺の恐怖をあおったわけだが。



 その後は、航海こそ出来ないとは言えまだ居住施設などとしては十分に使える事が予測される船と言う施設を俺が使いたかったこともあって誠意を尽くして和解した。

 そして新しい客分としてカイル一家の船まで案内されて――それが見える高台まで来たときだった。

 そこに見えたのは、半魚人っポイような鱗に包まれた魔物……こっち風に言えば召喚獣だった。



 上述したカイルとヤード、戦力的に見れば前衛カイルと後衛ヤードでナイスバランス! かも知れないが数が違った。

 多勢に無勢、ここの実力なら負けることは無いんだろうが、明らかに追い詰められているのがカイル達だった。

 兄貴の危機に、勇んで飛び出していこうとするソノラを宥めるスカーレル。



「今ここであんたが飛び出して言ってどうするのよ」

「だって!」

「今のあんたは銃も持ってない、ちょっとすばしっこいだけのただの小娘なのよ?」

「でも、兄貴がっ!」



 とソノラはスカーレルの腕を強く掴んだ。

 まあ、確かに。

 今更火力に乏しいソノラとスカーレル二人が飛び込んで言ったくらいでどうにかなるような群ではない。

 ソノラには得意の銃が無いし、スカーレルは元暗殺者でその得意分野は毒、だったような気がするから、この状況下では二人とも決定力に欠ける。

 しかもこの高台、落ちたら怪我して助っ人どころじゃないな。

 気が急くばかりにここから飛び降りようとするもんなぁ、ソノラ。

 そりゃ止められもするわ。



「いけそうか? シンク」

「これくらいの高さ、なんてことも無いよ」

「じゃあ頼んだわ。俺はちょっと遅れると思う。いくぞアリエッター」

「はい、です!」



 とん、とシンクはその高台から下に向かって踏み切って、冗談抜きで駆け下りていく。

 壁は登るより降りるほうが楽だとはシンク談。俺には真似できない。

 真似できないから次善の手段でちょっと遠回りになるが俺も走り出す。



「ちょ、ちょっとあなたたち!?!」

「先行ってるわぁ~」



 驚愕して叫んだスカーレルに叫び返して走る走る。

 こういうシーンで最もスピーディーかつ大胆に役に立つはずのアリエッタはまだそういった類のお友達が居ないから俺といっしょに遠回り組み。

 カイルたちだって弱くは無いはずだし、シンクがそこそこ時間稼いでくれるだろうし。

 足りないパワーは技術でカバー!

 シンク頑張れ!!



 まあ、直ぐに後ろのほうから二つ分足音聞こえてきたし、たどり着きさえすれば数的には殆どイーブンだろ。

 アリエッタとシンクに懐いた召喚獣たちも協力してくれる気であるみたいだしな。



 たどり着いたら「助っ人か! 助かったぜぇ!」ってなノリで共闘。

 ヤードが使う召喚術で初めて召喚術なるものを見たのだが、本当に召喚されてる……鍋とかダンベルとかが。

 あれは確か無色の石のごくごく初級の召喚術、だったはず……、面白いな、召喚術って。



 ここに来てからまた俺の頭の中で声が煩い。

 自分を使え、使え、使えって。



 煩い、俺は無力じゃない――。



 歯を食いしばってその声を叩き潰した。









 見た時には結構強そうな敵だな、と思った半魚人だったが、戦ってみるとそうでもなくて、俺たちは数の暴力と言う勝利を得た。

 数さえ揃えば半魚人とは個々のスペックが違うからな。

 戦う中でシンクも俺もアリエッタも、どんどん感を取り戻して行った。



 一匹二匹と倒していけばその分だけ有利になるわけで、最終的には圧勝。

 俺たちは本当の意味で海賊達と和解して、客分として迎え入れられた。

 壊れて動かない海賊船でも屋根がある風を防げる、雨を凌げる。

 これが意外と快適と言うか……。

 勝負に勝ったのにソノラとスカーレルを解放したりとか、今もこうしてカイルとヤードを助けたりとか、結構初っ端からでっかい恩売れたんじゃないのか? と思う。

 とりあえず船が直ったらどっか大陸まで連れて行ってくれって頼んだのだ、俺達は。



 シンクとアリエッタには、二人の体が大陸の有力者の子どものものだと伝えてある。

 それでどうしろと言うわけでもないが……調べればあの遭難した船に乗っていた有名貴族の子どもの名前も分かるだろうけど、今の時点じゃ姓が分からんから大陸に送ってもらっても体の両親に会う、とかそういうことも直ぐにはできないしな。

 でもぶっちゃけ、この島がどんなにいい所でも今までが刺激的過ぎたシンクたちとしては長く居れば退屈だろうし、この島に留まるのも出て行くのも、たまに帰って来る家になるのかもしれなくても、それを決めるのも外の世界を知ってからでもいいだろうと思う。

 だから、必要になるかならないかはともかくとして、保険、だな。



 そもそもアリエッタとシンクが、ついでに俺がどういった経緯でこうなった、ウィルとアリーゼに憑依したのか。

 これが完全上書きなのかそれとも、と言うのも考えなきゃならないんだろうが……。

 とりあえず今は先送りする。

 シンクがこれをわかっていないはずが無いし、その上で今言わないのなら。




 そんな事をシリアスっぽく考えながら甲板に出たとき、俺は見つけてしまった。

 船の舳先に引っかかる、あの夢で見たキタキタおやじの額飾りを。

 キラリ! と光る禿げ頭と独特の濃ゆい顔が思い出される。



 ま、まさか夢じゃなかったの……か?

 本人は居ないのに、どこからかあの不思議な音楽が耳に聞こえたような気がした。



 そう思ってぞっとした時、ひゅ、と強く風が吹いて、それは攫われて海に落ちる。

 俺はそれを見なかったことにした。









 一晩寝て起きて、そして俺たちは会議をしていた。

 船を直して島を出る。

 そのためには資材が必要だ。

 それが何とかならないか、といった時に海賊達が言ったのだ。

 この島にたどり着く時に、四つの光を見た、と。

 そのどれかに行けば、多分人が居るんじゃね? と。



 そこまで言われて俺はやっと思い出す。

 あれだ、この島の四界の属性の光だったはずだと。



 見ていれば三人の海賊と一人の客分、でも十把一絡げに四人の海賊一味は見事ばらばらに四つの光を主張する。

 そうしてぐるん、と俺に振り返った。



「あなたが決めてちょうだい」

「あんたが決めてくれ」

「あなたが決めてください」

「あなたが決めてよ」



 ちょっ、勘弁してください。











[3493] 五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/18 00:28
 なんかもう一日あの光を探しにいくまでの猶予ができた。

 なんとなく緑っぽい光が見えたところに行こう、って事になった。

 たしか獣人達が居る村だったともう。

 穏かそうでいいなぁ、って思ったからそこを推薦したんだが、その後がな。

 ごちゃごちゃしちまって。



 なんとなく解散の流れになって俺たちは今別行動をしている。

 シンクとアリエッタもどっか行っちまったし、俺もソノラに聞いて船室に備えられていたまだ新品の釣竿を借りて釣り場に向かって歩いていた。

 やっぱ即席の釣竿よりつるために作られた釣竿のほうが良く釣れるからな。



 夕陽に向かって釣竿を振り上げようかと思ったとき、小さな話し声が聞こえた。

 ふと振り返ってみれば、アリエッタとシンクが居る。

 まだ見慣れない姿で。

 俺だってそうなんだろうが。



 顔を付き寄せて、なんか話している。

 仲睦まじい、てか、二人ともそういえば結婚してるんだよなぁ。

 こっちに来てからまた外見子どもになったもんだからすっかり忘れてたけど。



 あれはウィルとアリーゼじゃなくて、シンクとアリエッタ。

 俺はレックス。

 レックスといえば、物語の主人公だよな。

 中身は違うけど。

 けど主人公?

 あれ?

 中身違っても剣に取り付かれてるよな。

 中身が主人公じゃなくてもポジション的に主人公だよな。



 思うにサモンナイト3はレックスだから出来た物語であって、俺じゃだめだと思うんだがどうよ。

 俺の中身はレックスほど純情でもなければ頑固な一途さも無い。

 シンクとアリエッタと言う心強い味方は居るが、レックスじゃなくて俺が、レックスのように、あるいはレックス以上に海賊達や守人たちと強い絆で結ばれる事が可能かどうか。



 そう考えてみれば、だ。

 俺は憑依先がレックスなら安泰だ! と思っていたがそういえば主人公ってのはそれを乗り切る力が無かった場合騒動の中心点、最も危ない位置に居るんだ。

 脇役みたいに気が付いたら死んでいた、ってことは無かろうが、乗り越えられなかった場合の死亡フラグの数は脇役以上に盛りだくさんだ。

 ……実は俺ってやばくない?



 まあ、この島に元のレックスやウィルやアリーゼを知る人間がいないのがありがたいよな。

 誤魔化せるとは思えん。

 とりあえず、出来うる限りの死亡フラグ叩き折っていかんと、レックスじゃない俺は俺らしく死にかねんし、ちょうどいいや。

 いつまでも楽しそうに話している二人に妬む心も沸いて来たし、邪魔するついでにちょっと話し合いでもするか、とと俺はあいつらのほうに一歩踏み出す、いや、踏み出そうとした。

 まさにその瞬間だった。



 ふっ、と二人を包んでいる空気が変わる。

 空気の読める俺はその変化を敏感に感じてしまった。



 見つめ合う瞳、絡み合う二人の眼差し。

 語る言葉のなくなった唇がゆっくりと近付いてゆき、やがてどちらからとも無く瞼を下ろす。

 そしてそっと口付けがかわされた。

 ついばむような可愛い口付けを一回二回と繰り返して、あ、これは長くなる、と感じた瞬間俺ははだしで逃げ出した。

 いや、靴は履いているが気分的にはだし、負け犬。



 その長い夕陽が沈まないうちに俺は一人で船のマストに登った。

 膝を丸めて風に吹かれていようと思ったときにふと気が付く。

 船の甲板からは見えなかったんだがこの場所からだと逆に二人の様子が丸見えだった。

 俺が逃げ出している間にチューは終わったみたいだがまだ余韻を感じさせる雰囲気を感じる。



 ……ノワール。

 アーサー……。



 座り込んで落日まで風に吹かれていた。

 本当は夜明けまで、とかやりたかったんだが、暖かい島とは言え夜の、そのうえマストの上は風が堪えた。

 三階連続くしゃみをしたところでもぞもぞと引き返す。



 ノワール……。

 そう呟く声が出てこない。

 レックスだとあっちにもこっちにも恋愛フラグたてまくるけど、俺浮気しないからな、ノワール。

 でも俺さみしーぞーーーっ。



「あれ? どうしたのアッシュこんなところでさ」



 甲板に立って仁王立ちでぐっと心の中で涙をぬぐった俺に話しかけてきたのはソノラだった。

 夜に会話とは何のフラグだと思うが俺のココロはノワール一筋!



「ちょっと夜風を浴びに来ただけさ」

「ふーん、そうなんだ」



 なんつーか、会話が続かない気まずさを感じるので話しを繋ぐ。



「そういうソノラはどうしたんだよ」

「あたし? あたしも……そんなものだよ」



 うむ、いかん。

 そのうちフラグが立ちそうななんか好感度会話。

 これは――あれが目覚めないうちに、強制的に決着を付けるべきかもしれない。



 その日は二人に何事も無かったように接するのが辛かった。

 ある意味、シンクとアリエッタが正しくシンクとアリエッタだった頃は当たり前でもあったしなんつーことも無かったんだが……。

 あのシンクとアリエッタが、となるとなんかまた心境が違うっつーか、端的にいうとずるいだろ! とか?









 と思った翌日俺は風邪を引いた。

 イベントのある日に風邪を引いてノックダウンとはこれって主人公失格ではないだろうか。

 かわりにシンクとアリエッタが俺の名代として海賊三人、ヤードとスカーレルとカイルと連れ立って獣人たちの村に行った。

 俺は残ったソノラに看病されながら留守番だ。

 俺は熱に魘される中で世代交代の波をひしひしと感じてみたりしていた。



 自分と言う物語の主人公になるんだ! シンク!!



 熱が下がるのに三日掛かった俺。

 三日たったら綺麗さっぱり熱の引いた俺。

 多分、海賊四人と対面したときの、あの魚人と戦っていた時には期待の新人に見えただろう俺もこの三日は全くの足手まといだった。

 アリエッタからユクレス村の話を聞いた。

 なんかしらん間に守人たちとの会議も終わって、マルルゥという妖精が迎えに来てそれぞれの集落を見て歩いたんだってさ。

 俺の乗り遅れ感が一際強くなる。



 そんでまぁ、毎度恒例というか。

 アリエッタが特に言葉の通じない系統の召喚獣たちにモテモテだったそうな。

 機界の召喚獣はムリだったけど、鬼界と幻獣界では特に顕著で、その人気振りとその人気ぶりに嫉妬するシンクと言う組み合わせを見てそれぞれの集落の人たちが警戒を緩めたという逸話をあとからスカーレルに聞いた。



 レックス、魔剣、主人公!

 って意識がどっかにあったんだが、まるで関係ないよな。

 ていうか、俺レックスじゃないしな。

 レックスが魔剣の主になった時点ではしっかりきっちり魔剣の主で主人公だったんだろうが、この島に流れ着いた時点から中身が俺だ。

 もしかしたら、つーか多分きっと、今の俺には魔剣の主たる資格が無いのではなかろうか。

 そう思う。



 しかし、だ。

 俺に俺が寝込んでいた三日の間の事を話しに来る人みんなが皆、シンクを以ってして子どもとは思えない、って言っていく。

 子どもじゃないしな。



 しかし俺としてはあのシンクが、一体どんな交渉をしたのか。

 それが気になるところだった。



 まあ、気にしてもしょうがないんだが。



 しょうがないから、主人公失格気味で世代交代の波をひしひしと感じる俺は新しいビッグウェーブの可能性を求めて森の中に踏み出した。

 というか、メイメイさんの店を探しに。

 新しい武器の調達と、メイメイさんに召喚術を教われないかと思ってだ。

 やっぱり召喚術あると便利だと思うんだよな。

 こっち譜術ないし、使えなかったし?

 やっぱり魔法的なものがなにかあると何かと便利だと思うんだよな。

 戦力アップにも。

 今の状態じゃ島の住人、特に召喚術がつかえる守人たちが教えてくれるとは全く以って思えないしな。



 海賊達に出会って、主人公ウェーブに乗り遅れを感じながらもこの島の住人たちともぽつぽつ出会って、少しずつ思い出し始めた俺の記憶によれば、今の状態じゃたしか船直しても島から出られない筈だ。

 そのうえ出られないのにプラスして出られずに居る間にほら、帝国軍とかが襲ってきたり、無職の派閥が襲ってきたり、あ、違う無色の派閥が襲ってきたり、するわけだ。

 即席インスタントでも手数は多いほうがいいと思うんだよね。

 俺ってば主人公じゃないみたいだけどそれでも現在魔剣の主だし。

 いつ資格を失うか分からんけど。



 そんな訳で何処かにいるはずのメイメイさんを探している。

 酒瓶片手に。

 行き倒れていたらいいなー、とか?

 いやいやそんなこと。

 でもストーリー的に狙っていた感じがあるよね、あれ。



 そんな事を考えながらざくざくと草を踏み分けて進んでいく。

 戦力増強戦力増強。

 一人で出歩くのはじつは結構危ないから早く帰りたいなー、と思っているときだった。



 突然足の下に広がるビミョーな感覚。

 あ、踏んだ、と思った。



「きゅー」



 と謎の声をあげてぶっ倒れているメイメイさん。

 美味しい酒を飲むために、断水の行をした挙句脱水症状で行き倒れ、だったような気がするつわものだ。

 あまりのバカさ加減に印象的だった人、メイメイ。

 まあ見つかりさえすれば、偶然か必然化なんて関係ないのだ。



「おお、行き倒れ」

「キュー」

「飲むか? 酒精、竜殺し」



 海賊達の貯蔵庫から頂いてきた焼酎だ。











[3493] 六回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/18 20:33






「いやー助かっちゃったわ」



 と言う訳で俺は無事メイメイさんの店に案内された。

 そうしてお礼に、と言われて何が出てくるのかとドキドキしたのだが。



「こ……腰みの?」

「そうよー? なんとLUC+10の一品よ? あなたLUC低そうだからぴったりなんじゃない?」



 LUC低そうは余計なお世話だ。

 なんとなくわかっとるわい。



「ねぇ。ところでちょっと聞きたいんだけど……」

「うん? なんだ」



 腰みのは触りたくないがLUC+10は酷く魅力的だと究極の選択を始めてしまった俺にメイメイさんは本当に何気なく尋ねてきた。



「ところであなた、何者?」



 その時俺が思ったのは、うわーメイメイさんすげー、とそれだった。

 ローレライよりメイメイさんのほうがすごいんじゃないのか? とも思った。

 ローレライがアッシュの中身についてとうとうなんにも言わなかったのにメイメイさんは初っ端から言及してきた。

 ローレライより感度が高いんじゃないのか? とか?

 まあローレライはあれでも超常現象だからな。中身がどうだろうと殻さえあれば同でも良かったのかもしれないが。



「何者って、どういう意味だ?」



 とりあえず空っとぼけてみる。



「あなたの、中身よ」



 言い逃れは出来ないわよ? ってことか。

 そういえばメイメイさん、どこまで別ってるんだろうなぁ。

 あの頭のお団子二つの隙間からはみ出している東洋の竜っぽい角の形からして多分鬼界の召喚獣なんだろうけど。



「一応アッシュって名乗ってる。何かについては、分からん。俺としてはメイメイさんのほうが詳しいんじゃないかって期待しているところもあるんだが……」



 そう告げるとメイメイさんはむーん、と唸って眉間に皺を寄せながらしばらくじっと俺を見て、やがてはぁ、とずっしり重いものを吐き出したような溜息をついた。

 俺、そんなに重いのか?

 いや、軽くは無いかもしれないが。







 その後俺はメイメイさんと軽く話をして腰みの片手に店を出た。

 LUC+10の魔力だ。

 装備する気にはなれないが、LUC+10は捨てるには惜しい。

 だれかに付けさせられないだろうか。



 剣も借金でだけど新調できたし、召喚術についてもざっくり教わってきた。

 メイメイさん曰く、青の派閥や金の派閥、無色の派閥がもつような複雑な術式なんかは、ちょっと使おうとするだけなら必要でもないらしい。

 難しい事をしようと思えば必要だが、難しくないなら誰でも出来る。

 のだそうだ。

 簡単なほうがいいので大歓迎だ。

 難しい事は難しい事がで切る人に任せることにする。

 ヤードとかアルディラとか。

 あの辺が強そうなイメージだ。



 アルディラ姉さん、スタイル抜群、美人だったなぁ……。

 こう、あの出るところは出て引っ込むところは引っ込む感じがノワールを思い出させて泣けてくる。

 ノワールにベタぼれなのは間違いなく俺だ。

 帰りたいよー、おかーちゃーん。









 その帰り道だった。

 俺を探しに着たと言うシンクとアリエッタと出会い、アリエッタの腕の中に居るのがキユピーではなくタケシーになっている理由は如何に、と尋ねた時だった。

 爆音めいた闘いの音に俺たちは揃って顔を上げる。

 見つめる方向は同じだった。



「いくぞ、シンク、アリエッタ」



 頷く二人を確認して、俺たちはその戦いの場に向かって走り出した。







『オオオオオオオオオッッッ!!!!』



 と気合の声が響く。



「ヒャーハッハッハッハッハッハッハッ!」



 と狂気めいた高笑いも響く。

 名前を忘れた帝国兵の男。

 たしかあの男にもこんな狂気めいた笑いを上げるような思考回路になるまで何か悲痛な出来事があったような気がするがやっぱりこの場に置いては同情できんな。

 自分の悲劇が他人を苦しめてもいい免罪符になんてなっていいわけが無い。



「その不愉快な笑い声をやめろ!」



 俺はメイメイさんにサンプルとしてもらった手の中の無色の召喚石を握りしめて叫んだ。



「召喚!」



 とまで叫んでからふと気が付く。

 触媒はなんだ? って。

 俺めぼしい物持ってないぞ、と思ったとき、手に握っていた"腰みの”が反応した。



 そ、そういえばこれも触媒になるのか!?

 と自分で起こした現象にパニックになる。

 思い浮かぶのはあの悪夢だ。

 だけどもう半ば発動しているしまだ距離があるこの現状じゃ他に有効な手段も無い。

 シンクも肉体的限界値。ウィルの体はまだ未熟だ。

 ええい、侭よ! と俺はその石に意思を渡らせる。



「ていうか召喚の言葉ってなんかいたっけ!」



 と、それが俺の初召喚時のまっこと間抜けな台詞だった。



 そんな俺にも石は、世界は応えた。

 無色の石だったからなにか無機物が送られてくるんだろうと思った。

 いまさらハズレを弾いたらどうしようかと思った。

 あんな啖呵切っといて自滅とか情けなさ過ぎる。

 けど、うん、多分大丈夫だ。

 細く天に上った光は俺の前方に収束していった。



 無色の世界は確か、俺の、レックスになる前の、アッシュになる前の、日本人って言えた俺の世界に繋がっているはず!

 そう思うと錨でもダンベルでもいいと期待する。

 そして現れたのは――どこからか笛の音が聞こえた。



「キタ!」



 ぷぃ~~、という怪しい笛の音と共に、禿げ頭に額飾り、体は腰みの一つの変態おやじが登場した。

 そのあまりの変態さ加減に周囲のあらゆる視線を掻っ攫っていくおやじ。

 一体多数、しかもファルゼンには守る物アリという絶対的不利な戦場に不似合いな音とおやじ。

 凍りつく戦場を笛の音と共におやじは縦横無尽に走りぬけた。



ピィ~ヒャラ ピィヒャラ ヒヒラリラ~♪



「キタ!」



 鍛えられた手の振りが帝国軍の召喚師を叩きのめした。



「キタキタ!」



 鍛え抜かれた腰の振りが帝国軍の剣士を吹き飛ばす。



「キタ、キタ、キタァ!!」



 と叫びながら一人また一人、抵抗する事を思い出して切りかかってもバシィ! とおやじの、キタキタ親父のキタキタ踊りに抵抗も虚しく伸されて行った。



「な、なんだこの変態は!」



 あの狂気めいた高笑いをあげていた男がそう叫んだとき、ぴたり、と動きを止めたキタキタ親父が流し目でそいつを見た。

 腰に手を当てて仁王立ちでえらそうに言う。



「弱いものいじめとはまったく感心しませんな」

「う、うるせぇ! 死ねぇ!」



 と切りかかる男に、キタキタ親父は仕方がありませんなぁ、とでも言うかのようにふぅ、と余裕を見せて溜息をつくとキタキタ踊りを構えた。



「キタキタ踊りをみて改心するのですぞ!」



 出来るか。

 そう思う俺の目は多分虚ろだったと思う。

 目の前で帝国兵のあの男が飛ばされて行った。



「脅威は去りましたな。やはりキタキタ踊りは福を呼ぶのです!」



 くどい顔で親父はそう叫ぶとキタキタァ! と叫びながら森の中に消えていった。

 もうやだ。

 なんでさ。

 俺が使ったの無色の石だろ?

 無色の石は俺の世界に繋がってるんじゃないのかよ。



 そう思って見つめ直すと石の表面に何か文様が刻まれていた。

 メイメイさん曰く召喚に成功すると石の表面に召喚獣の名前が刻まれるらしい。

 これがあの親父の名前? と思って目を凝らすと、それはあの額飾りの模様だった。



 もうヤダ。

 出番無いじゃん。

 俺のシリアス返せ。
































-----------------------
詐欺なしにそろそろ終わってサイトにもどろう!
と思う。
本気で終わりにしようかと思う今日この頃。
これ以上多重クロスオーバーにしてもしょうがないしなー、とか。
でもグルグルエッセンスは幸せ。

スペシャルさんくす感想をくれる皆さん。



[3493] 七回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/20 22:58



ハァ~、サッパリサッパリ。





 何か不可解な物が通り過ぎたような気がして俺は、いや俺たちはやっと再起動した。



「ビ、ビジュまでやられたぞ! 撤退だ!!」



 正気に返った兵士の一人がそう叫んだ。

 そうか、あの男はビジュと言うのか。

 聞き覚えが無きにしも非ず。

 残った兵士達は倒れた兵士達を担いだり引き摺ったり抱えたりしながら可及的速やかに撤退していく。

 後ろからトドメ刺しちゃおっかなー、とか思ったけどそれはやめてアリエッタにぼそぼそととあるお願い事を囁いた。

 二秒くらい考えて頷いたアリエッタはシンクと連れ立ってちょっと離れた森の中に入っていく。



「危ないところだったな、ファルゼン」

『ア、アア。助カッタ。礼ヲイウ』



 物理的ダメージの上にキタキタと言う精神的ダメージも重なってまだ呆然としていたファルゼンに声を掛けた。

 確かこの鎧中身幽霊だったような気がするから、もしかしたら物理ダメージより精神ダメージのほうが効くのかも知れない。



「いや、当然の事だろ? 仲間じゃないか!」


『……ソウ、カ』



 これぞ秘儀、突然の仲間認定!

 善良な心の持ち主ならここで仲間じゃない! なんていい出せないはずだ!

 という裏心下心も僅かにありだが九割九分九厘本心だから許して。

 しかし、だ。

 結局あのキタキタおやじの猛威に関しては極自然と見なかったことになったみたいだ。

 俺も思い出したくないけど。



「しかし、帝国軍かぁ。厄介なのが増えていくよな。まあファルゼンたちにしてみれば俺たちもそうなんだろうけど」



 そう言って苦笑する。



『今ハ、仲間デハナイカ』

「ファルゼン……」

『ドウカシタノカ』



 ちょっと感極まった俺にファルゼンが不思議そうに尋ねた。



「いや、さ。俺は仲間だって思っていたけど、仲間って言われて迷惑だったらどうしようかってちょっと思っていたから、そう言ってもらえて嬉しくなっちまってさ」

『ムゥ』

「サンキューな! ファルゼン。愛してるぜー!!」



 そう言って有頂天で走り出す。

 そうして10メートルほど走ってからふと気が付いた。

 そうだ、俺はメイメイさんのところに行かなければならない。



 暗闇で方向が怪しくなりながらも俺は走った。

 メイメイさんのあの東洋建築もどきの朱塗りの建物を見つけて俺はそのドアを叩く。



「メイメイさん、メイメイさん!!」



 叩いて呼んでしばらくすると中から物音が聞こえてきた。

 この時間、もしかしたら寝ていたのか酔い潰れていたのか俺は後者だと思う。

 案の定、出てきたメイメイさんの息はものすっごく酒臭かった。

 このアル中め。



「ちょっとぉ、なによ、こんな時間に~」

「何ってちょっと聞きにきたのは俺だっての! あんたから貰った無色の石がなんか変なところに繋がっているんだけどそこんとこどうよ!」

「にゃ~にをいうかと思えば、変なのは石じゃなくて、あなたのほうよ」

「お、俺!」

「そう、そうなの! ほら、分かったらさっさと帰る! 私は眠いんだからね~」



 と言って有無を言わせず目の前で扉は閉められた。

 というか、眠いって言いつつ中から「さぁ~て、飲みなおすとしますかね~~」なんて聞こえて来るんだが。



 ……え?

 変なの俺?

 俺が変なのか?



 ショック状態のまま船にたどり着いたら皆寝ていた。

 シンクもアリエッタも寝ていた。

 え、なんで? 夜会話とか無し?



 かすかな期待を持て夜の浜辺で一人寂しく召喚の練習をしていた。

 触媒は腰みの。

 サモナイト石は浜辺のはぐれ召喚獣ゼリーを倒したり拾ったりして手に入れた。

 とりあえず召喚してみた結果としては、バンダナ、目玉模様の付いた杖、ふんどし、ガラガラ。

 これが四界のサモナイト石で召喚できた物だ。

 そして無色の石では知っての通り、キタキタおやじ。

 なんちゅーか、ガラクタだよな。特にふんどし。



 そしてまあ、結局誰も来なかったという。









 少し時間は巻き戻ってビジュ達との先頭のあった場所では、アッシュが去った後からもファルゼンはじっと立ち尽くしていた。

 それをじっと見上げるタケシーが一匹。

 アリエッタに抱えられて居たものとは別の固体である。



「え、え? あ、愛してるってそんな! で、でもでも、私はファルゼンだし! あの人だって、きっと私にじゃなくてファルゼンに言ったのよね?」



 ごつい鎧から聞こえてくるのは可愛らしい少女の声。

 押し潰したマシンボイスで喋るような巨大な鎧の中身の、幽霊の少女ファリエルだった。

 タケシーはじっと見つめる。

 その視線にふと気が付く少女。

 一匹は何も考えて居ないだろうが一人は気まずく思い、見詰め合ったまま時が止まった。



ストップ・ザ・ワールド!!














召喚解説



召喚獣キタキタ親父

本名、アドバーグ・エルドル、52歳。
髪が無く、口元に蓄えられた髭も真っ白だがまだ52歳。


元・キタの町の町長で、代々町に伝わる神聖な女性の舞踊「キタキタ踊り」を一般公開することで町を繁栄させたたが、神聖な踊りを見世物にした祟りなのか町に女の子が生まれなくなり、踊り手が絶え、どうにかしてこの踊りを後世に伝えなければと考えた末に出した結論が「自分が踊る」というものだった。
本来は女性の踊りを男性が、しかも腰みののみのほぼ裸体で踊っていると言う事もあって当然の如く大失敗、キタの町は寂れた。
紆余曲折を経て勇者の旅に同行したり、その踊り、尻の動きから魔神召喚の魔法陣が判明したりする。
魔物めいたオヤジだがその踊りは本物。
見すぎると吐き気、めまい、幻覚作用を引き起こす。
長年踊り続けて鍛えられたキタキタ踊りは多少の魔物など物ともしない。
現在もキタキタ踊りの後継者を探すため世界を旅している。
魔物の群の中に平然と紛れ込めたり、魔物を自動追尾する魔法に魔物と認識されたり『踊勇伝キタキタ』ではとうとうスネ毛で呼吸するまでに到った、まだ人間なのかどうかも怪しい。











[3493] 八回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/26 16:14




 なんとなく、な。

 どういった形で決着しようかとかは考えているんだが、そうしようにも必要な物がそろわん。

 人も、物も。

 たしかこの後随分したらイクラだったかイスラクだったかが流れ着いてきて、もっとしたら無色の派閥がなだれ込んできて、エルゴの反逆、ディエルゴが復活したりとか、でもまああれだぁな。

 ディエルゴは抜剣召喚してないから多分今の時点ならまだ封印されているんじゃなかろうかと思うんだが。



 抜剣召喚。

 それは変身の言葉。

 サモンナイトスリーって変身ヒーローなんだぜ! って。

 ちゃんと敵方にも変身ダークヒーロー、あとから味方になるんじゃないかと幾度も思わせる演出が光っていたのがいたし。

 ムリだったけど。

 いや、分岐の選び方によっては仲間になったと言えなくもないのかもしれないけどやっぱちがうべぇ。



 んで、そのディエルゴがまだ自分の力を発揮できないうちに核の所に乗り込んで、ボッコボコにしてやるぜ! と言う具合で目標を立てているんだが。

 そのためにはもう少し島を探索しなければならんな。

 そういえばあのとき、ビジュの襲撃があったときにアリエッタに頼んだのもしっかり果たされたみたいだし。

 多少あっちの緊張も解けただろうから今日くらいシンクに相談してみようかと思う。



 はぐれ召喚獣たちとそこそこ戦闘してメイメイさんに借金を返して、シンクシンクと船に歩いていたらナイスグラマー、アルディラねぇさんがいた。

 何か、カイルたちと話している。

 こそこそと近付いていくとなにやら討伐とか物騒な言葉が聞こえてきた。



「何を倒すんだ?」

「あら、丁度いいところに来たわね」



 こういうときに丁度いいとか言われるとろくな事が無いと思う。



「あなたも手伝ってちょうだい」

「手伝いは構わないんだが、何を討伐するんだ?」

「泥棒よ。人間の、ね」



 ああ、なんか濃い顔をした海賊が泥棒とか何とかしていたような、そんな気が今して来た。









 で、討伐隊編成だ。



 俺とシンク。

 守人たちはアルディラねぇさんに挙動不審のファルゼンに忍びのキュウマ。

 海賊達はカイルとソノラとスカーレル。



 そんな組み合わせで守人たちの案内によって食料泥棒のいるだろうと頃に踏み入っていった。

 そして聞こえてくる魂の雄たけび。



「だから陸はイヤだったんじゃああぁぁぁぁあああああああっっっっ!!!!」



 それに続くのは



「「「へい、船長!!」」」



 という斉唱。

 ものすごい一致率だ。

 これならかなりの統率力があるんじゃないかと思わせるが話を聞いていくと――



「食べる物がおまへんなら、魚つって食べればええんじゃ――」

「魚は嫌いじゃー!」

「「「へい、船長!!」」」



 何から何まで「へい、船長!!」

 もう統率とかそういった問題じゃないような気がするんだが。



 その叫び声を聞いて眉根を寄せたカイルは、もっと近付いて行って難破した船の海賊旗の模様、カイル曰く悪趣味な口ひげアイパッチスカルを確認して深く、ふかぁぁぁぁぁぁく溜息をついた。



「知り合いなの?」



 と尋ねるアルディラに、曰く「腐れ縁」と。

 俺もそういや合間にこんな間抜けな海賊がいたことをすっかり忘れていた。

 こいつらいなくても、いや居たほうがおもろいけど、いなくてもべつにかまへんしなぁ。

 あ、いけね。



 海賊一味の料理番の口癖がうつった!








「召喚!」



 俺は叫んだ。

 機界のサモナイト石と触媒は目玉模様の杖でとりあえず挑戦する。

 ひゅーー、と何か空気を切り裂く音がして、かぁん! とタライが頭に直撃した。

 クッ、くらくらする。

 召喚失敗したみたいだ。

 この前はたしかスパナが落ちてきたからその時点で召喚の練習やめちまったんだよな。

 タライならギャグですむがスパナはだめだろ、人命的に。



「ぐあぁぁ!」



 と負けてるジャキーニ一家よりよっぽど瀕死っぽいやられ役のうめき声を上げて俺は気合を入れた。

 よし、もう一回!

 と今度は霊属性の石を握る物の、やる気が起きん。

 こんどこそスパナかと思うとヘルメットが必要かと思う。

 しかし、だ。

 本来戦闘本番中に何が呼べるか分からない触媒で実験するなど愚の骨頂! なんだが……



「あいつら、弱いな」



 俺は一人で呟いた。

 カイル曰くのジャキーニ一家は結構な数がいるのだが、弱い。

 一人ひとりも決して弱くはないはずなのだが、なぜか弱い。

 ギャグ体質的に弱い。

 負けるが致命傷は負わない。

 ある意味すごい。



 こんな場所に来ても事あるごとに因縁吹っかけてくるジャキーニ一家とであったことに何かこみ上げてくる物があったようでカイルは普段の1.5馬力、ってな感じだ。

 ほっといても決着付くのが目に見えている。

 シンクもいるし、守人二人もいるし、カイルはもちろん海賊一家でソノラとスカーレルも居るし。

 ゲームのバトルシステムみたいに出撃者制限があったりもしないし。

 万事OK、俺出番なし。



 召喚術でも使えばいいんだろうが、今俺が確実にこれが呼べると分かっているのはキタキタだけだった。

 アレを呼べば勝負は決まると思うが呼びたくないので実験だ。

 慢心と油断は強者の醍醐味、だということにして。



「召喚!」



 と、石に意思をめぐらせて、今度こそ手ごたえを感じた。

 ハズレではない手ごたえを。



 召喚する属性が違うからキタキタ親父ではないだろうと、そう思いつつ、あの押しの強いでしゃばりなオヤジなら何処の世界からきてもおかしくは無い、と一瞬戦慄した。

 だが実際に呼ばれて出てきたのは二つの三つ編みお下げが可愛らしい、ローブ姿の少女だった。



「せ、せいこう!」



 思わず叫ぶ俺には感知せずに少女はきょとんと瞬きした。

 このあたりがあの自己主張の強いオヤジとは違うと涙が出そうになる。



「ククリ行きまーす!」



 と可愛らしく宣言すると、くるり、と回りながら踊りながら指先で絵を描いていく。

 くるり、くるり、と指先で輝く線を描いていくその踊りは人を魅了した。

 この戦場に居る全ての人の目を釘付けにした。



 キタキタ親父の踊りとは違う。

 本物の感動がそこにあった。





 そして完成した絵は、大きな円の中に一つ目の猫を想像させる単純な図形。



「完成!」



 と可愛らしく、こう、てへっ! って感じで言うと、少女はとん、とかるくその真ん中を指で押した。

 とたんにぼぅん! と煙を上げてその陣は消え去って、代わりに現れたのは三角錐の天辺にくどい顔の猫の頭を乗せたこけしのなりそこないのような巨大な何かだった。

 な、何が起こる、と衆目の目を集める中、それはゆっくりと、ひじょうーーーーにゆっくりと鳴き声をあげた。



「オア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」



 終わらない。



「ア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」



 終わらない。



「ア~~~~~~~~~~~」



 な、長い!

 声が長い!

 そのうえめちゃくちゃ力が、ちからがぬけるぅぅぅうう、ううう。



「な、なんだおこれ、ち、力がはいらねぇぞ」



 と力なくカイルが言う。

 カイル以外にも、力が入らないわ、とか、ちからがぬけるぅ、とか「へい、せんちょおぉぉう」とかの脱力系も聞こえてきた。

 なんか、とんでもないもの呼んだ気がする。



 だめだー、力がはいらねぇ。

 立ち上がる気力もねぇ。



 戦闘中だってーのに俺たちはみんな座り込んでいた。

 俺も座り込んで今使ったサモナイト石を見た。

 彫りこまれているのは円陣に目玉模様。

 なんつーか、迫力があるな。










 それからしばらくして、もともと最も気力が無かったたに抜ける力も少なかったのか、連中の中で一番早く俺から復活して手っ取り早くジャキーニ一味を無力化した。

 具体的にはふん縛った。

 あの少女も長い声のネコもいつの間にか消えていた。



 とりあえずジャキーニ一家の処遇をどうするか、と言うことになった。

 一応俺もジャキーニたちを縛り上げた功労者として意見を求められたので言ってみる。



「畑でも作らせたらどうだ?」

「はたけ?」

「そう。自分で食べた物は自分で作って弁償する。作る苦労を知れば少しはありがたみも分かるだろうし」

「いいの? そんな罰で」

「シンクはどうおもう?」

「いいんじゃないの? それで」

「そう、あなたがそういうのなら」



 シンクはただ処分が面倒くさいだけだろうけどな。



「俺はあんたに従うぜ」

「私もー。別にこれと言って意見もないし」

「私も、腐れ縁とはいえ、一応知人だし、音は悪くない奴だと思うのよね」



 と最後にスカーレル。

 まあ、こんな島の中で食料泥棒程度に厳罰なんてやってられないところがあるしな。

 守人たちも、ここで俺たちの反応を見ることで俺たちがどういった人物なのかを改めて観察しようとする意図があるのだろう、と思う。



 まあ、そんな訳で。




「だから陸はイヤだったんじゃーーーーーーーーーっ!!!」

「「「へい、船長!!」」」




 獣界の集落、ユクレス村から今日も声が響いてくる。










 あ、いけね。

 気がつけば一日終わってるじゃん。
























召喚解説。
召喚獣ククリ
召喚されると魔法陣を描いて魔法を使う。
描かれる魔法陣の内容は唯一つの例外を除いて完全ランダム、失敗するかも。
闇魔法の一族ミグミグ族の一人。
踊りながら魔法陣を描いて魔法を使う闇魔法グルグルを使う。
勇者と旅をしている地上でただ一人のミグミグ族にしてグルグル使い。
魔神を召喚する事も有るが失敗する事もある。
よく使うのは長い声のネコなど。魔神を呼ぶには感情の高まりが必要である。
特技は踊りと料理。
チョコレートが好きで辛い物が苦手。
辛い物を食べるとウニョラー化(野生化)し、ウニョラー語を使うようになる。
回復するにはヒッポロ系ニャポーンか大地の治療が効果的。





[3493] 九回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/26 18:35





 間抜けな一騒動を片付けて夜のうちにちょっとした実験もして翌朝、俺はメイメイさんのところに足を向けた。

 さすがに朝だし、まだ呑んだくれちゃ居ないだろうと淡い期待を持つ。

 それに、今の俺には心強い手土産、酒精・龍殺しがある。

 竜殺しとは別物だ。

 こちらは竜ならぬ龍、日本酒である。

 それを片手に俺はメイメイさんの店を訪ねた。



「メイメイさーん、龍殺しのみますかー」

「いらっしゃーい! 待っていたわよ~ん? りゅ・う・ご・ろ・し!」



 竜殺しの名前が出てきたと単に疾風の如く扉は開かれ手にした竜殺しは掻っ攫われていた。









「それで、何を聞きたいわけ~?」

「聞きたがっているのは分かるんだな」

「それだけ、よ。それで?」

「昨日の晩なんだがな。俺が召喚したサモナイト石でシンクやアリエッタ、ヤードなんかにも召喚を試してもらったんだが、シンクとアリエッタは出来たがヤードは出来なかった。この違いを聞きたくてな」



 相手が呑んだくれているので俺は出来るだけ、可能な限り真剣な表情を作ってメイメイさんと向かい合う。

 芳醇な日本酒の香りが漂ってきてそばが食べたくなってきた。

 たしか、サモンナイトシリーズの一番目ならそばを作るシノビがいたような気がする。

 このサモンナイト3の時間からならあと20年後か。

 遠いよなぁ。

 でもたしか鬼界の里に居るゲンジ爺さんのところに行けば緑茶はあっちょな。

 今度ご馳走になりに行きたい。



 それにしてもリンカーが誕生したら帰れないかと僅かに期待してるんだが。



「う~ん、それは……」

「それは?」

「ラインが違う、んだと思うわ」

「ライン?」

「そう。何ていっていいかわからないんだけど、あなたたちは繋がりが無いのよ、このリィンバウムとそれを取り巻く四つの――無色の世界を入れると五つの世界に」

「それは、あんたが最初に聞いたとおり、俺の中身が、違うからか?」

「端的に言えばそうね」



 そういわれれば、納得するしかない。

 するしかないのなら出来る問題だがそれなら更なる疑問が生まれる。

 なぜ、なぜ繋がる世界がアビスの、あの世界じゃないのか。



「なら聞きたい。ラインが繋がるにしても、どうして俺が来た世界じゃないんだ」

「簡単に言えば混線ね」



 ぐいーっと一気にコップをあおりながらテキトーに言ってくれるこの呑んだくれの竜め。



「混線って……」

「あなたのもと居た世界とあなたのつながりは、確かにある。あるけどとても、薄いのよ」

「帰れるあては」

「無いわね」

「リンカーが生まれても、か?」

「……何を知ってるのか知らないけど、多分ムリよ。だって、たぶんあっちは」



 言いかけて気まずそうに言葉を切って顔を逸らした。

 なにか、言いあぐねるような事がある。

 それは、俺に、俺たちにとっておそらく歓迎し得ないこと、なのだろう。



「教えてくれないか、メイメイさん」



 これでもか、と真剣にメイメイさんを見つめ続けた。

 う~、とか、あ~、とか、あ゛~~とか唸りながらもしばらくして静かになった。

 その顔には鎮痛な決意が見え隠れ。

 決断してくれたのだろう。

 まあ、内容についてはなんとなく想像はついているんだが。



「聞いても、後悔しない?」

「と言われてしないと言えるほどの覚悟は多分無いが」

「だったら言いたくないな~」

「でも多分何を言われるか分かってるから、さ。確信が欲しいんだ」

「……たぶん、あなたたち死んでるわ」



 予想していると思っていてもショックだった。



「じゃあ、もう一つ。俺が今使っているこの体の、このレックスの体の持ち主は、ウィルやアリーゼの体の持ち主は――」



 どうしたんだ、と尋ねる前に俺の言葉も途切れてしまった。

 途切れた言葉を継ぐようにメイメイさんが事実を重ねる。



「それは間違いなく死んでるわ」



 わぁお。

 なんつーか、すんげーデンジャラスでヘビーなお話ですよ?










 そのあとメイメイさんがあのうにゃー、という奇妙な口癖をなんども披露してくれながら語ってくれたところによると、たしかいこの世界では俺レックス、及びアリエッタとシンクであるアリーゼとウィルは死んだのだそうだ。

 船が嵐に巻き込まれた時に。

 レックスは剣と契約した物の間に合わず。

 核識となったファリエルの兄の、魔剣によって三つに断たれた意識、その中でも善に近いところに位置する緑の賢帝シャルトスの支配力は弱いほうだ。

 その支配力では、レックスをレックスのままつなぎ止めるには、弱かったのだ。



 イスラの場合は剣のほかにも不死の呪いがあるので別の話と言うことだろう。

 それにしても、あるていどというか、状況が進むにつれてそうじゃないかと思ってはいたんだが……あらためてショックだった。



 メイメイさんに言われたのだが、「ねえあなた、どうしてこっちで言葉が分かると思う?」と。

 たしかに、これは疑問だ。

 言われて見れば確かにおかしい。

 言葉が違う。なのに分かる。

 こっちの世界で誰かに意思疎通をしようと思って字を書く機会が全く無かったから気がつかずに書く分に関してはアビスの文字や日本語を使っていたけど、読む分にはこっちの世界の言葉ばかりだ。

 なのに何故、読めるのか。



 俺たちは、死んだレックス達に魂を憑依召喚したようなものらしい。

 そのうち定着するそうだがそれまでは乖離しないように気を付けろだってさ。

 これなんてデウス・エクス・マキナ? と呟いてその皮肉に気がついた。

 この島の真の支配者、そして俺たちのまだ姿を現さない敵対者、俺が剣を使わないことで揺り起こさないように気を使っている存在は、人が作り出した人工の神様、核識に宿る機械仕掛けの神。



 シンクとアリエッタにもどう話していいものか迷う。

 それに、やっぱあっちじゃ俺の葬儀とか、してるのかなぁ。

 泣かせちまっただろうな、きっと。俺はこっちでまた誰かの体で生きてるのに。

 ノワール、アーサー、アシュレイ……。



 まあ、とにかくそんな訳で俺は俺が居た世界よりももっと妙な世界と繋がっているらしい。

 ちょっとぞっとする話でもある。

 繋がりが強い、と言うことはもしも、だ。もしもここにきていなかったらあっちに行って居たのか? と思うと。

 キタキタ親父を呼ぶサモナイト石は封印してある。

 使わない決意、と言う意味でだが。



 ものすごく恐ろしい事がもう一つ実験で判明したのだが、俺は、実はこっちのでかいで普通に言う召喚を全く出来なかった。

 俺がサモナイト石で繋げられる世界はあの妙な世界だけ。

 リンカーの手助けがあれば帰ることは出来なくてもアビスの世界に召喚の門をつなげることは出来るだろうってメイメイさんは言っていたが。

 普段は何が何でもあの世界だそうだ。



 なぜだ。

 どうしてだ?

 シンクとアリエッタは霊界と獣界にそれぞれ適正があるのに。

 魔剣の主である俺はゲーム的には全ての属性の召喚術が使えるはずなのに!



 理不尽な思いを抱えながら俺は帰途に付いた。









 一人になった店内で、ぷはぁ~、と酒臭い息を吐き出しながらメイメイさんはまだまだ飲む。

 退屈そうにテーブルに顎を付いてしばらくの間ぼうっとして、それからニタァ、と不気味に笑った。



「面白いことしてくれるわよねー、まったく」



 と言ってぐびーっとまた飲んだ。



「レックス先生も死んじゃって、ほかに魔剣の主になれる可能性のある生徒も一緒に死んじゃって、この世界はもうおわるかと思って居たのに……あの人なら、なにか突拍子も無い方法で解決してくれそうよね~。あ~、面白いわ」



 観測者は独り言を呟く。

 聞かせる相手こそこの場に居はしなかったが、聞かせたい相手はどこかには居たかもしれない。

 今は亡きエルゴの王へ。

 制約の観測者として。














 悩み事は増えたが幸運な事にここ数日は平穏な日々が続いていた。

 島から出られないこと以外は四つの里との交流も深めて行き、船も再建の目処が立っている。

 唯一つ島から出られないことを除けば。



 イスラだったら躊躇い無くばばーんと島の結界解いちゃったりするのかなぁ、と思いつつ、そんな真似は俺には出来ない。

 剣の支配を強くするのは避けなきゃならん。

 可能な限り魔剣は行使するなって話だ。

 そろそろ帝国軍とか来ると思うし、剣を渡せって言われたら目の前で砕いてもいいかも。

 っていうか、俺が剣の所有者であるって知ってる奴、居ないよな?

 イスラが超常現象的能力で気がつくかも知れないけど、確信は持てないだろうし。

 あ、なんか久しぶりに俺立場有利じゃないか? とか思ってきた。



 よし、ここは一つ景気づけにマネマネ師匠に勝負でも挑みに行くか。

 勝ち負けはともかく見ていて面白いからな、マネマネ師匠は。





 そう思って赴いた森で、俺は妙なものを目撃した。

 ゲレレ~~、と喋る黄色いタケシーとエンジェル伝説、じゃなくて種族天使のフレイズ。

 霊界の里の守人ファルゼンの副官みたいな立場の頭の固い天使だ。

 ゲレレ~、で何を喋っているのか分かっているあたりアリエッタを髣髴とさせる。が、アリエッタと違ってフレイズは霊界の召喚獣たちの言葉しかわからない。



 なにか真剣な顔ではいはいうんと話し合っていたかと思うと空を飛んで行っちまった。

 なにかイベントがあったような気がするんだが、空飛んでっちまったら追いつくのもよういじゃないぞ。



「お~いマネマネ師匠!」

『なんじゃ若造』



 今日はなぜかゲンジ爺さんの姿をしているマネマネ師匠に呼びかけた。

 何故ゲンジ爺さんなのかと思えばあの爺さん、今日は霊界の里まで出張してきていたみたいだ。

 左右対称で同じ恰好で湯飲みを持ってマッタリしている。

 シュールな光景だが、ちょっと羨ましい。



「どうしたんじゃ若造」

「ゲンジ爺さん」



 姿は真似ても声は真似ないマネマネ師匠。

 変身していない時のマネマネ師匠の本体を誰も知らないのと同様に、声真似はできないのか、それとも声真似はしないのか。

 それも誰も知らない。



「フレイズがどこに行ったか知らないか?」

「あいつか。さっき飛んで言ったのは見たが」

『どこに行ったかは知らんのぅ』



 これはきっと字面だけじゃどっちの台詞かわからんだろうな。



「そっか。サンキュ。俺ちょっとフレイズが飛んで行った方に言ってみるわ。誰か俺探しに来たらあっちのほうに行ったって伝えてくれないか?」

『任されよう』

「任された」

「頼みます」



 意外と内面までにてるんじゃないかと思う二人に見送られて俺は走り出した。

 空と陸じゃ基本的に速さ違うよな、と思う。

 けっこうあいつ一人じゃ危機感の強いイベントだった気がするし、あいつ、まだ生きてりゃいいけど。








 迷子の不安を覚えた俺がたどり着いた場所で見たのは、あからさまに追い詰められているフレイズだった。

 牙の生えたキノコたちに追い詰められている。たしかプチトードス。

 意思疎通が出来ないレベルの召喚獣だ。

 あたりに散らばる白い羽が鶏を絞めて捌いた後のようでなんだかシュール。

 今日は焼き天使? まさかな。



 ちょっと、つーかかなりぼろぼろになっていたがフレイズは生きていた。

 生きてさえ居れば霊界の生き物、マナがあれば回復するだろう。

 俺は機界の灰色の石を手にバンダナで機界属性召喚をしたときに出てきた魔雷砲とかいうアイテムを逆の手に握る。

 何が出るかはお楽しみー、三回くらい失敗してもなんとか大丈夫だろうフレイズ。

 これが本物レックス先生だったらまず間違いなくこの時点で飛び出していってるだろうな~と思いつつ。俺には、出来ない。

 俺はこっそりと草葉の陰から召喚術を発動させる。



「召喚、魔雷砲!!」



 魔雷砲を触媒にした召喚が魔雷砲とはこれ如何に。

 細かい事気にしちゃいけない。

 この魔雷砲、解説に寄れば弾が無い。

 この魔雷砲を触媒に弾を召喚するのだそうな。なんか間抜けだよな。



 とにかく召喚は成功したみたいで、ひゅーと音を立ててプチトードスの群に何かが落ちていく。

 なんだ、なんだ! と期待をすれば……



「野菜を食べよう!!」



 両手に根菜を持った小人が一回プチトードスを踏みつけて何処かに跳んで行った。

 たちまち姿が見えなくなる。



 ……もしかしなくてもハズレ?



 呆然とする俺。

 唖然とするフレイズ。


「げ」

「うわー、く、くるな!」



 フレイズ大ピンチ。

 すまん、フレイズ。今のは見なかったことにしてくれ。



「今助けるフレイズ!」









 結果としては、間に合った。

 俺が飛び出していって5分も断たずにシンクとアリエッタが飛び込んできた。

 続くようにファルゼンとアルディラとカイルやソノラも。

 もう組み合わせが良くわからんな。でもそれだけ揃えばプチトードスくらい敵ではない!

 とちょっと大きく出てみる。

 しかもフレイズ、あの「野菜を食べよう!!」の犯人が俺だとは気付いていなかったみたいでいやぁ、良かった。

 思わず信頼度も上昇したみたいな?

 ファルゼンからも副官であるフレイズを助けてくれてありがとう、みたいな、ソノラからはかっこいいじゃん? みたいな? アルディラからもやるわね、あなた、み・たい・い・な!!!



 みんなにちやほやされながら俺は考えていた。

 なんだか俺の召喚術ランダム要素高すぎて使えないなぁ、と。

 まだまだ実験の余地は有るんだろうが、どんなもんか。

 ちょいとはぐれ召喚獣相手にもっと真剣に実験しなけりゃならないかもしれないと思う。









召喚解説
魔雷砲

キタの町出身の魔技師トマの作品。
弾を詰め替えることで様々な属性の弾を発射できる。たまには失敗もあり。
本来なら魔技師トマが出てきてその場に応じて様々な開発した道具を使用しどかーんとやるところなのだがとにかく地味なので本人省略。
解説も省略。
何処からか悲しげな泣き声が聞こえてくる。

 







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勇者はまだ来ない。
『DE SU ZO』いいなー、見てみたい。

勇者やククリ、キタキタ親父やジュジュとかはすぐにぴったりな召喚触媒を思いついたのにトマにぴったりな触媒が思いつかない。
さすがトマ、地味です。
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[3493] 十回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2008/12/31 00:59







 実験しなきゃなー、と思った帰り、砂浜でイクラを見つけた。

 違う、イスラクか?

 イスラクとイクラの共通性を図ればたぶんイスラ辺りが正解じゃないかと思う。



 波間に漂う黒い影、つーか、イスラの黒髪。

 波のあいだにぶわぁーって広がっていて不気味だ。

 服だって黒や灰色しか使ってないし、装飾品は意味不明なでんでん太鼓みたいな模様だし。

 一見すると男か女か分からんような華奢で繊細な女顔、の男。



 物語が大きく加速する漂流物ゲット、したくなかったけど放置しとくのも鬼畜の所業だと思うので拾っておく。

 こいつの本当の願いを知っている身としては、放置するのも寝覚めが悪い。



 よっこらせ、と呟きながら半分波に浸かっていた体を引き上げる。

 冷え切っているし、脈を確かめればほとんど無いし、呼吸もあるかなしか。

 めちゃくちゃ死に掛けてる。

 ここで本当なら慌てふためいて機界の里に運び込むんだろう。

 機界の里ラトリクスには、優秀な医療設備があるからだ。

 でもこいつが死にたくてすら死ねないことを知っている俺はひょろっちくて軽い体を背中に担ぎ上げるとラトリクスではなくて船に向かう。



 ラトリクスに行っても何か出来るわけじゃないし、どうせ状況が変わらんのなら機械より人の温みのほうがよかろう、とか?

 たしかこいつの過去はけっこう孤独っぽかった気がするし。

 まあそれも俺の独りよがりだろうけど、レックスボディの年齢はともかく、その中の人である俺の年齢にしてみればこいつなんてガキみたいなもんだしなぁ。

 昔のシンクを髣髴とさせるかんじがいけんのだ、きっと。



 理由も違うし経過も違う。

 けど世界を斜めに見まくって居るところとかはそっくりだとか思ったりした。



 中途半端な感傷は誰のためにもならない。

 分かっちゃいるが。

 捨てられない。



 背中でだんだんと体温を取り戻していくイスラ。

 すっかり力の抜けた様子と伝わってくる鼓動に、昔子供たちをおんぶした時の事を思い出す。

 感傷にはまだ早い。








 シンクとアリエッタに友好的に監視するようにと言う訳の分からん矛盾していることを頼んでおいて、その回りをアリエッタがこっちでお友達になったプニムの大群がむにむにと押し潰すように取り囲む。

 たぶんきっと羽毛布団より暖かかろう。

 暖を取るならこれが一番だよなぁ。



 ミュウの住む森に行った時より癒される。

 不思議とミュウだとちょこっと腹が立つんだが、プニムだと腹が立たないこの理不尽。

 まあいいや。

 その中に一匹テコが混ざっているのがシュールだ。

 プニム布団の上でずれてもいない眼鏡をあの陰険鬼畜眼鏡の如く直しながら本を読む。

 ……なんとも言いかねる。



 と、そうしてから俺は外に出た。



 俺がこっちに来てから暇を見つけては霞の奥に隠遁してしまった記憶に拝み倒して思い出してきていた儚げな記憶に寄れば、そろそろゲーム本編だと生徒たるウィルかアリーゼ、この場合のシンクとアリエッタが帝国軍のあの狂気的な笑い方をするビジュとやらに人質になっているはずである。

 何故そんなストーリーになったのかは思い出せないが、こっちではそもそも帝国軍とあの子らが単独で出会う理由が無いし、出会ったところでビジュ一人くらい一人で殲滅しかねない。

 つまり、よっぽど不意でもつかない限り、そんな人質的シチュエーションは有り得んわけだ。

 シンクやアリエッタの代わりにこの島の子ども達が人質になる可能性も有るが、そんな芽は今のうちに摘んでおけ、ってことで走る。



 巨大な竜骨の化石がむき出しになっている、竜骨の断層と呼ばれる場所に帝国軍が進軍の拠点を引いているのを確かめて、俺はそれに背を向けた。

 今のところ人質とか取っている気配はないし、俺が出会いたくない第一候補、俺ではなくてレックスを知っている唯一の人間になるだろう、イスラの姉、アズリアがいるので出来れば後回し。

 そしてあそこに陣を張っているために人の少なくなっているだろうアズリアたちの本陣、というか拠点になっているのだろう難破してたどり着いているはずの船を目指した。



 以前のあの、ファルゼンがビジュに襲われていてキタキタを召喚してしまった時に、アリエッタに頼んで帝国軍の拠点である漂着した船の場所を特定していたのだ。

 船まで完全に破壊してしまったら背水の陣が如く、ヤケッパチになって襲い掛かってくる危険があるからそれは出来ないが、まあちょっとばっかり小細工は。



 それに、壊すも壊さないも。

 カイルの船みたいなそこそこサイズの船ではないし、巨大な客船&運搬船。

 はっきり言って乗りあげてしまっている現在としては、海へ戻す方法が無いはずだった。

 まあそのほかにも遭難時の為に備え付けられている小型船があるから、それと船に積み込まれている食料さえ無事ならヤケッパチにはならんだろうと踏んでいる。



 そこに行って俺が何をしようとしているか、と言えば。

 大砲の破壊は出来ないかと思っている。

 せっかくこっちが有利な状況を作り出してもと奥から大砲で襲撃などやられてはそんなもの吹っ飛んでしまう。

 あっちはこっちと違って人数があるから、大砲の移動なども可能だろうしな。

 実際ゲームの史実じゃ何話か忘れたけど大砲で有利を逆転させられていたような気がする。



 物資の補給がままならない現状では、ひっそりと使用不能にしておけば実践までばれないだろうと踏んでいる。

 どうかなー、と思うところも少なからずあるには有るが、現状そういうところからちまちまと、やっていくしかないだろう。

 この島を自分たちが出て行くか相手が出て行くまで。



 と思ったんだが。



「ふねでけー……」



 隠れ潜んだ木陰から俺は呟く。

 アリエッタから伝え聞いていたよりずっと船はでかかった。

 さっすが豪華客船! じゃねーよ。

 海賊が出るとは言え豪華客船にこの砲門数はどんなもんよ。

 隠密で使用不能にするには隠密に向きそうなシンクやスカーレル、キュウマの強力を借りたってちょっとやそっとじゃない感じだ。



 甲板のど真ん中に移動砲台らしき代物が数基集まっていたからアレだけでも何とかできりゃいいんだろうが……。

 俺は手の中の召喚石を見た。

 未誓約のものも誓約済みのものもごちゃまぜだ。

 未誓約のここではぐれ召喚獣と呼ばれる知能の低いタイプのスライムみたいな召喚獣とか倒していると以外に手軽に手に入るものだ。

 駄目元で何か召喚してみようかと思う。

 イスラ見つけたのに時間を取られて実験も出来なかったし、ついでだと獣界に繋がるサモナイト石と目玉模様の杖、名前はグルグルの杖って言うらしいのを手にした。

 霊界のサモナイト石だと召喚獣ククリが呼ばれたんだが、獣界のサモナイト石だと何が呼ばれるか。



 船から全ての兵士が引き上げたわけじゃないからな。

 巡回している兵士に見つからないように可能な限り船体に近付いて、移動砲台の付近まで近付く。

 そして周囲から人の気配が遠ざかった瞬間を狙う。



「召喚」



 全ての視線が離れた、そのときが来たから呟く。

 大声上げて見つかるわけにも行かない。

 異界の門への接続が正常に行われた感触は手に入れた。

 僅かな光が登った。俺は見ていた。

 ぽん、とお気楽な音を立てて立ち昇った煙の中から出てきたのは――やっぱり妙なイキモノだった。

 大きさはタケシーやキユピーと変わらない程度。

 どちらかと言えばカワイイに分類されるだろう姿。なんかこう、草の匂いを感じるようなそんな感じだ。



 先に確認していた逃走経理を走り去りながら「オープン・ザ……」とか聞こえたが遠くなったので最後のほうは聞こえなかった。

 何を言ったか知らないが、効果は抜群、甲板からするすると伸びる淡い光は草の蔦のようだった。

 木の上に登ってみていたら伸びた蔦は移動砲台に巻きついて入り込んで、鋼鉄の部品を押しのけて縛りつけて固まった。

 木質化したのだ。

 こりゃちょっとやそっとじゃ除去できねぇぞ。

 まさに雁字搦め、砲台の原型も見えん。



「……まあいいか?」



 良くないか?

 もう訳がわからんがまあいいことにする。








 帰りに竜骨の断層によって見れば、そこに布陣を終えて第二の拠点とする雰囲気だったので遠くから魔雷砲を何発か討ってみた。

 はっきり言って嫌がらせだな。

 他のカイルの船の一行――スカーレル以外――や守人の連中が一緒じゃとても使えない卑怯な手段、って奴だ。

 なんでかあいつらどこまで言っても公明正大な部分持ってるんだよなぁ。



 とにかく一人なのをいいことに遠くから魔雷砲を打ちまくった。

 それが打てども打てどもなぜか出てくるのは雨と雷。

 豪雨と言うべきか雷雨と言うべきか、ものすごい土砂降りである。

 意地になって精神力が尽き果てるまで打ちまくったが「やさいを食べよう!」と突然の雷雨の割合が1:9くらいと言う理不尽さ。

 弾の種類はもう少しあるらしい解説だったんだが……これが俺の運と言う事だろうか。

 LUCの補正がどのあたりに効いているのか切実に聞きたい。



 天候を召喚する召喚術など普通は無いせいか、帝国軍も自然現象だと思っているらしく、そんな場を混乱させる豪雨の中では「やさいを食べよう!」なんて全く目にも留まらない。



 そろそろ精神力切れで撤退しようと思ったそのときだった。

 ずずず、と地の底からわきあがる妙な音がする。

 腹の底に響く気味の悪さを感じさせるそれは確かに振動だ。

 なんの振動か――?



 小さな石が転がり出して気がついたのは一秒後、俺はわき目も振らず逃げ出した。

 その背後に轟音が響く。



 突然の豪雨による土砂崩れ、土石流。

 巨大で象徴的だった竜骨はもはや跡形もなし。











 …………………やべ






















召喚解説
召喚獣・草の精霊モゲル
きりなしの塔に住む草の精霊。冗談や例えの通じない性格。
比喩表現も真面目に受け取り事あるごとに「大地の治療」を施そうとする。
が、その大地の治療は対象を地面に埋め木の葉を山と被せ首だけを出した形にした上で呪いめいた怪しい道具で飾り立てる(責め立てる?)奇妙な方法。
だがククリのウニョラー化を始め様々な病気や病を癒す。
彼(?)の前で「胸をうたれた」「ほっぺが落ちる」などとは間違っても言ってはいけない。
大地の治療を受けるだろう。
「オープン・ザ――」の言葉と共に回復の泉を作り出したり蔦の梯子を作り出したり草の精霊らしいことをしてくれる。
融通が利かない生真面目かと思えば意外とノーテンキだ。










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立地によっては雨最強。
そしてアッシュ(仮)はおバカ。
ヨンヨンはきっと彼のLUC補正で振り落とされる。
グルグル6巻、表紙の紙を外した表紙参照。
そしてそもそも誤魔化しきれない人とは出会わない罠。
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[3493] 十一回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2009/01/01 00:00





 俺は異常気象として処理されたあの豪雨と地すべりを蒸し返さないために、魔雷砲を封印した。

 動物の悪霊を集めて作ったと言うわんわんの呪いとかは勝手がいいのだが、俺が地形変動までさせて島田と言う事実を隠蔽するためにはしかたが無いのだ。

 そして俺は今日も今日とて島民達、この島に居る召喚獣たちとの好感度アップの為に鬼界の里と獣界の里に行く。

 風雷の里とユクレス村と呼ばれている両村で、俺は新しく見つけた召喚獣を呼ぶのだ。

 今日も鬼界の里に声が響く。



「バーニング・フィンガー・アタック!」



 と。

 男の掌から炎のような物が放たれて老人を背後から襲った。

 だがその老人は苦しむでも痛みに叫ぶでもなく、はぁ~極楽極楽、と今にも呟きそうにとろける表情をしている。

 グルグルの杖無色の石で召喚したグルグルの経典で呼ばれた召喚獣が放った魔法だった。

 召喚獣レイド。

 彼は目の幅で涙を流しながら今日も老人達のアイドルとして声を張り上げる。



「バーニング・フィンガー・アタック!」



 魔法の効能は肩こり腰痛だった。

 この魔法を使える召喚獣をゲットしてから俺はユクレス村と風雷の里のアイドルだ。

 婦人病的腰痛にも効くらしいので、アッチからもこっちからも引っ張りだこ。

 そして何故鬼界の風雷の里と獣界のユクレス村だけかと言えば、機界は生きているのがアルディラだけのほぼ完全な機械都市であるから腰痛と肩こりもちなんて居ないため。

 そして霊界はその名の如く、幽霊だったり天使だったりドッペルゲンガーだったりと、肩こり腰痛になるような肉体を持つ者が居ないため、だった。











 そういえば教師のお誘いがなかったな、と思いつつ、そういえば俺は教師だなんて一言も言っていないと思い直す。

 そもそもレックスは教師だったが自分は教師ではない。

 だったら教師の誘いがくるわけもない。

 レックスの知識継承などは行われていないのだ。



 原作ではそろそろレックスに島の子供たちの教師になってくれないか、と言うお誘いが会ったはずだがそれが無いのなら、ちっとはゆっくり出来るだろうか。

 そう思いながら俺は戦う。



 船室でククリを召喚したら、回復する魔法陣を書き残していってくれたのでそのうえにイスラを安置したところ彼は目覚めた。

 正直もうちょっと掛かるかと思っていたけど目覚めた。

 それ以来シンクとアリエッタには実年齢に見合わないことをさせて申し訳ないと思いつつこの島の子供たちと一緒になってイスラに触れ合いさりげなく監視して欲しいと頼んでいる。



 まだ大丈夫だとは思っている、が、イスラはストーリー中の何処かで島に火を放つはずなんだがそれがどのあたりなのか俺には確信が無い。

 島に火を放つ、それしか覚えていないのだ。

 正直な話をすればイスラの寝返りや情報の漏洩などどうでもいいのだが、それだけは困る。

 困る。

 もし無事に初期消火できなかったらこの島は萌えるモノ――じゃなくて燃えるものがいっぱいだ。

 まあ、萌えるものも有るが。



 生きながら煙に巻かれて、とか、助かったもののなんとやら、という事態になるのがすっごくイヤだ。

 だからいまシンクとアリエッタは主戦力ではない。

 どちらかを殆ど必ずイスラのそばに置いているからだ。

 逆に言えばかたっぽだけなら俺たちと一緒に戦う事もあるのだが。



 イスラに関しては今は記憶喪失をよそおっている事と、大変華奢な青年であり、今俺がこのタイミングで守人やカイルたちに『こいつはいつか火付けする無色のスパイなんです!』などと叫んだところで悪者になるのは俺だろう。

 実際のイスラが記憶喪失が嘘であって帝国軍の情報部所属の無色の派閥と言う世間でも嫌われ者の暴力やテロなどで活発に活動している召喚師の派閥のスパイであっても。

 それくらい目に見えているくらいイスラは華奢で儚げで繊細そうで遊んでいる時には楽しげに笑い、時に陰のある表情を見せてもそれは今は記憶が無いことを憂えているのだ、と人々に誤解させる。

 そういう青年だ。



 その生い立ちは生まれたときから無色の派閥の生かさず殺さずの、苦痛は与えるが決して死ぬ事はないという病魔の呪いに苛まされてきてつらく苦しく孤独だっただろう、不幸だっただろうと思う。

 思うが、なにかあれば「何悪巧みしてるのさ、アッシュ」と言われる俺と違って、そういうところだけならば、得だろうと思う。

 お得な外見、シンクにすら俺が伝えたなら「冗談」と一度は言った。



 今は信じてくれているけどな。



 そこのあたり普段の俺が以下に信用のないかという。

 し似たがりのつもりはないが、もしかしたらシンクやアリエッタには俺が死にたがりに見えているのかもしれない。



 そんな事を思いながらカイルと連携、ちょっとのあいだ守ってもらって召喚する。

 召喚にも慣れてきたなー、と思う。

 主にあの竜骨の断崖で雨を呼びまくっていた辺りから。











『ははははははははははははははははは』



『ははははははははははははははははは』



 うっとおしいくらいに清々しく巨大な顔のついた花が笑っている。

 グネグネと伸びた茎にわざとらしいほど葉っぱらしい肉厚の葉っぱ。

 そのうえには向日葵をデフォルメしたような輪郭の花が咲いており、だがその真ん中にはやはり人の顔を単純にデフォルメしたような顔があった。



 顔が。



 読んで字の如くの悪行召喚獣を実力行使でしつけしているときに、カイルと連携する中で召喚した召喚獣ククリの置き土産だった。

 呼ばれた彼女はクルリと周囲を見渡して不機嫌そうに杖でがりがりと地面に絵を書いた。

 あれ? 以前は指先で書いてなかったか?

 と思うが呼び出し発動したもんは止められねぇ。

 ククリが杖の先でとん、とその落書き、魔法陣をつついたときに出てきたのは……まあ、その花だった。



 そしてククリは言ったのだ。

 ぷぅ、っと可愛らしく頬を膨らませてかすかに潤んだ目でそれを見上げて、小さな声で。



「しっぱい、しちゃった……」



 勇者さまー、って叫びながら消えちまったい。

 ……嘘だろう!






 結局、戦いに勝ったが何かに負けた気がした。



『ははははははははははははははははは』



『ははははははははははははははははは』



 今日もうっとおしく笑ってやがる。

 あと何日居るもんだか、グルグルの性質上魔力がなくなるか円陣がなくなれば消えるらしいが、円陣は完全にあの花の根の下だ。

 あの花は近付いても危害はないが、消す事もできん。



 初めのころこそスバルやパナシェ、鬼界の里のお姫様のやんちゃ息子やその友達で獣界の里の犬の獣人、バウナスのパナシェ、花の精霊のマルルゥなどが面白がって近付いてつついたりしていたがそれも三日も経てば飽きられた。

 なんといってもこの花、何が何でも笑っているだけだ。



「なあアッシュ。こいつどうにかならねぇのか?」

「すまん、ムリだ」



 目の下に隈を作ったカイルにそう問いかけられたが俺には謝る事しかできなかった。

 たしかに、あの花は笑っているだけだ。

 ただし、夜でも、昼でも。


















召喚解説
召喚獣レイド

闇魔法使いにして魔界のプリンス。ナルシスト。お化けが怖い。
クサイ台詞をよく口にする。
地上の魔技師のライバルであるがレイド自身は全く意に介していない。
多くの魔法を使いこなす彼は実力はあるのだが報われない特性を持つ。
おそらくLUCが低い。
そしてなにより彼を彼たらしめるのは、強力でありながら究極の“カッコワルイ魔法”の使い手であると言う事だろう。
かなりの恥しい魔法の使い手である彼は、ナルシストであることも相まってそれを気にしており、かっこいい魔法を求めた結果習得した魔法「バーニング・フィンガー・アタック」は攻撃的な外見ながら効能は肩こり・腰痛。
もし現代日本にこの魔法があれば大変重宝されたことは間違いない。
だが魔界では、また魔族の貴公子の魔法としては涙がちょちょぎれる。







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昨年は皆様のお力添え、お引き立てを賜り感謝感激の極み、ありがとうございました。
ア・ハッピー・ニューイヤー!!
本年が皆様にとってよい年となりますように!!
心よりお祈り申し上げます。

0時00分00秒更新! とか狙ってみたけど無理だった!
予告しよう!
サイトでは二日に更新すると!

大丈夫、不慮の事態で一度もパソコンの前に座らない、などがなければ掲載できる。
もう出来ているから。
二日中に出てこなかった場合不慮の事態があったのだとお思いください。
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[3493] 十二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2009/01/02 21:53











 巨体、高い防御力、自己再生能力、自ら動くことは出来ないが俺たちを射程に近づけさせない遠近両用の攻撃手段。

 四拍子揃った強敵、巨大な蜂模様のアリのような昆虫ジルコーダの女王。

 対峙するのはそいつにどう対処した物かと、なにかいい召喚獣は居ないかと俺が新しく誓約してみた召喚獣だった。



「Gyagyagyagyagyagyagyagyagyagyagyagyagya!!!!!!」


「はっはっはっはっはっはっはっはっ」



 洞窟を埋め尽くさんばかりに巨大な、人間。

 サイズさえ除けばまだ少年のようだった。

 巨大だ。

 そして非常に気の抜ける顔で高笑いしている。



 金髪にバンダナをしているその召喚獣の名前は、ニケと言った。

 おかしい。

 普通の少年のはずなのに何故こうも巨大なのだ。

 そして何故首からバナナをぶら下げている?



「Gyashaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」



 俺たちなんて目にも入らず威嚇して声をあげる女王ジルコーダ。

 そしてその少年はキラン☆ と目を光らせると本当の意味で目を光らせた。



「サニーサイドアップ(目玉焼き)!!」



 Tyudooooon!!



「嘘、だっろ??」



 ニケの目から飛び出したレーザー光線が女王ジルコーダを中までこんがり丸焼きにした。








「あなたね、洞窟であんな召喚獣使うなんて何を考えてるの! もしかしたら崩れ落ちてみんなで生き埋めになっていたかもしれないのよ!!」



 そうして俺はアルディラ姉さんに叱られていた。

 確かに、あの目玉焼きが発動した瞬間は結構洞窟もゆれたから文句の返しようが無い。



「でもさ。アルディラ、何とか召喚術叩き込もうとすっごい近付こうとしてたじゃないか。アルディラが危ないと思ったら、黙っていられなかったんだ」



 ご機嫌取り4割、本音6割。

 こんな割合計算が出てくる自分がちょっといやだ。

 でもまさかあんなふうになるとは思わなかったというか……。

 一言で言うなら俺もビックリ。

 なんだよ目玉焼きって。



「あ……アルディラ?」



 なんか静かだ、と思って見上げたら、俺のことをギンギンに睨みつけながら顔を赤くしてぷるぷるとちょっと震えてた。

 どうしたんだ?



「きょ、今日のところは勘弁してあげるわ。次は気を付けなさい」

「ああ、気をつける。助けたいと思ったのに、崩落なんか起こしたら本末転倒だもんな」

「そうよ」



 そんな事があったあるジルコーダ退治の一日。


















「ええ……はい、それは……残念ながら、まだ」



 シンクとアリエッタに監視の目を緩めてもらえば案の定、一人抜けだすイスラがいた。

 誰も居ない甲板の中央でイスラは囁く。

 まるで独り言のように聞こえるが、小型の通信機に向かって喋っているだけだ。

 相手が帝国か無色かは知らないが。

 おそらく無色だろう。



「では……わかりました」



 シンクとアリエッタを側につけていても、時々抜け出していたイスラ。

 一人になれたと勘違いして、シンクの気配を悟れずに一人になったつもりで通信を晒していた。

 シンクには、それは止める必要はないと言ってある。

 情報の漏洩は恐れない。

 漏洩するほどの情報が今のところあまりないことと、情報を隠しすぎる事で無色の派閥の上陸が遅れることを俺は懸念している。



「そう、ですか。……」



 無色など、来ないならこないほうがいいのだろう。

 だが、ただひとり、あいつは来てくれないと俺が困る。

 ウィゼルと言う名の、稀代の刀匠。



「了解しま……た。それでは任務を続行します」

「よ、イスラ」

「あ、アッシュ――!?」



 通信をきった直後に声を掛けた。

 呼ばれたイスラは慌てふためいて通信機を隠す。



 直ぐに近付いてくる人を発見できる利点を取って甲板の中央にいたのだろうが、俺の隠密行動スキルを舐めるなよ?

 なんて、な。

 なんてことは無い、ただどちらが船の構造をより深く知っていたかと言うだけの違いだ。



「こんな夜更けに船に向かって独り言か?」

「アッシュ、どうしてここに?」

「ただの夜散歩だよ。……それにしても」

「な、なんだよアッシュ」



 俺は悔しそうに目を伏せて拳を握る。

 それを訝しがるイスラに近付き、その肩をがっしりと掴んだ。



「すまないっ! そんなに精神に変調を来たすほど追い詰められていたんだな、イスラ」

「ちょ、ちょっと何言ってるのさ! 僕を病気みたいに!!」

「島を出たらいいお医者を探そうな? な?」

「そんなかわいそうな人を見るような目で見ないでよね! 僕は変になんかなってないの!」

「じゃあさっきの船に話す独り言はなんだったんだ?」

「それは」

「まるでそこに相手が居るみたいに話していたけど」

「それは……」



 言葉に詰まるイスラに追い討ちをかける。

 力の限り哀れみを籠めてイスラを見つめる。



「大丈夫だって、俺は味方だから! な? そこに誰か見えていただけだよな? イスラだけの友達がさ」

「違うって言ってるのに!」



 息切れするほど力の限り、イスラは叫んだ。

 ダブルスパイも台無しだよな。

 イスラは本物の悪意や害意には晒され慣れているんだが、こういった害意無き悪意には弱いと思う。



「だったら、なんなんだ?」

「そ、れは――」



 結局イスラは言葉に詰まった。



「記憶喪失、嘘なんだろ」

「なぜ、そう思うんだい?」

「見てれば分かるよ。イスラ・レヴィノス」



 以前に竜骨の断層を俺による土砂災害で流してしまったときに、そこに布陣していた中に居たかもしれないイスラの姉、アズリア・レヴィノスの無事はまだ確認していない。

 こわいじゃん?



「なんで、それを知っている」



 今にも切りかかってきそうなほどにイスラの表情は歪んだ。

 それを俺は真っ向から受け止める。

 “見捨てられた子ども”を見ると、どうにも胸が騒ぐ。

 もはや悪い癖だろう。



「俺は、お前の味方だ」



 一歩、イスラに近付いて、そのぶんだけイスラが退いていく。



「自分を捨てるにはまだ早いぞ。まだ、取り返しがつくところにおまえはいる」

「何を言ってるかわからないね」

「抜けよ、お前の剣を」

「何を、言ってるんだ? 剣って、なんだよ」

「俺に誤魔化す必要は無い。呼べよ、キルスレス(紅の暴君)を」



 永い沈黙があたりを支配した。










 いつまでも、いつまででも俺たちは甲板の上で対峙する。

 時間はたっぷりとある。

 今日は船の乗組員は全て、ユクレス村で開催されるパーティーに呼ばれているからだ。

 ジルコーダを倒した、戦勝記念パーティーだ。

 だからと言って、朝までこのままと言うわけにも行かない。

 ならば、無理やりにでも引き出すしかない。



 ずっと倦厭してきたが、ここに来ては晒すしかないだろう。

 俺はずっと俺の中で闘いの度に、傷つくたびに自分を使えと煩かった剣に、初めて自分からアクセスを試みた。

 やっと応えたか、と歓喜する剣に嫌悪しても。



 脳裏にイメージが浮かぶ。

 暗い水辺。滴り落ちる一滴の水。

 広がる波紋の中央から、それは出てくる。

 シャルトス(緑の賢帝)と呼ばれる淡い緑の光が、純白のサモナイト石で練成された剣にまとわりつく。

 いや、剣自体がその光を発する。

 まだ現にはないそのイメージの剣を掴むように、俺は現実でも天に向かって腕を掲げた。



「来い、シャルトス!!」



 自分が変わっていく。

 隅々まで通るマナの力に変容していく。

 変身ヒーローなんて子供のころにあこがれたっきりだ。

 そんなものに今更なるなんて笑いがこみ上げる。



 まあ、ヒーローじゃないかもしれないけどな。

 「まさか」というイスラの呟きを聞いた。



 右手と一体化したような剣を、俺はイスラに突きつけた。



「まだ、抜かないのか?」



 抜かないなら抜かせるまで、と俺は間合いを詰める。



「まさか、君がシャルトスの持ち主だったなんてね」

「持ちたくて持ったわけじゃないさ。感謝もしない。だが憎みもしない」

「持ちたくて持ったわけじゃない……か。それで? 君は僕にキルスレスを抜かせてどうしたいのさ」

「そうさな。……どちらの心がより強いか勝負でもするか? イスラが勝ったらお前の願いをかなえてやるよ。ただ、俺が勝ったら」

「勝ったら?」



 そういったイスラの体からは淡い紅い光が溢れてくる。



「俺の願いでも聞いてもらおうか!!!」



 踏み込んだ瞬間に、イスラの体は眩い光に包まれてイスラもまた抜剣覚醒、変身を終えていた。



「うらぁ!!」



 叫びながら切りかかり、ギィイン! とシャルトスとキルスレスがぶつかり合う。

 弾かれて飛び出す前より距離が出来、俺は握っていたサモナイト石で召喚をした。

 イスラがたどり着く前に、俺は召喚を終える。



「来い、召喚獣ククリ!」



 空に上るマナの光、そして光が消えれば現れる召喚獣ククリは、楽しげに踊るように杖を持って魔法陣を書いていく。

 書く場所は空中だったが。



「できた!」



 と言ったなら、ぽん、とコミカルな音を立てて煙が立ち昇り、テントと四体のウサギのきぐるみっポイ等身大動くヌイグルミが現れた。

 魔法陣を使ったククリの衣装も、ローブのようなものから、セクシーより可愛らしいを優先したようなバニーに変わる。

 ウサ耳もバッチリだ。

 その衣装が恥しいのか、ぽっとククリの顔が赤くなる。



 うむ、かわいい。



 ククリは気を取り直すと、ウサギからカンペをわたされて朗々と台詞を読み上げた。



「みなさんお待たせしました! これより楽しい楽しいミグミグ劇場「どうぶつ大作戦」が始まりま~~~~す!」



 後ろでウサギ達が「はじまりま~~す!」とはやし立てる。

 さあさあどうぞ、とウサギ達はイスラをテントの前に押しやって、自分たちでわーわーと声をあげパチパチと手を叩く。



「な、なんなんだ一体」



 抜剣覚醒した姿のまま、イスラは有無を言わさずテントの前に突き出された。

 ブーーーーーー、と開幕の合図が鳴りテントが少しだけ開く。

 少しだけ。

 めちゃくちゃもったいぶった開き方をする。

 そしてその隙間から、豹のマスクを被った人のような、魔物のような、よく分からないが不細工なイキモノが僅かに顔を覗かせた。

 覗かせてピタリととまる。

 ぴたり、と。



 イスラはそれを見る。

 見る。

 見てしまった。



 じっと、じっと見る。

 そしてぎゅっと眉根を寄せたかと思うと忍耐しかねて声を張り上げた。



「ああ、もう! 早く出てきて劇を初めてよ!」

「やりました!」



 直後ウサギが歓喜した。



「魔法にかかりました。今のうちに攻撃するなりにげるなり」

「なんだって!」



 ウサギの説明口調に真実に気がついたときにはもう遅い。



「どういうこと!? くっ、異様に気になって、動けない!!」



 イスラは体を震わせてその場から動こうとするが、その視線をテントの隙間から覗く動物から離す事はできず、また移動する事もできない呪縛に掛かっていた。

 にっこり笑って召喚獣ククリだけが消えていく。

 魔法陣はもうしばらく持つだろう。



「グルグルレベル3の魔法、ミグミグ劇場。敵の意識をひきつけ足止めする魔法、だそうだ」



 俺もククリに負けず劣らずのカンペを読み上げた。



「最初から……このつもりだったのかい?」

「まあな。……俺は一応剣士だけど、実力はたいしたことないんでな」



 折れぬ心には自信がある。

 だけど、動きに関しては連携無しじゃはっきり自信ありとは言い切れないうえに、イスラは苦手なタイプだった。



 俺は睨みつけてくるイスラに苦笑を返しながら、悠然と歩み寄ると全力の力が籠められるように大きく剣を振り上げた。

 苦々しい表情をするイスラと目が合う。

 真上まで持ち上げた剣を、振り下ろした。



 イスラと一体となっているキルスレスに向かって。









「うわぁぁああああああああああああっ!!」








 魂切る叫び声が響き渡った。



「うわぁ……ぁあ、あああ――ああああああああああっ!」



 頭を抱えてのた打ち回るイスラの足元には、砕け散ったキルスレスがあった。

 心の剣、とも言う二本の剣。

 その強さは心の強さというらしい。

 その二つがぶつかり合って、俺の剣が勝った。

 俺の心のほうが、今は迷い無く強かった。そういう、ことなのだろう。



「あ、ああ……」



 心を砕かれて、最初こそ酷く暴れたものの、だんだんと沈静化していく。

 頭を抱えてのた打ち回っていたイスラは、今度は違う苦しみに、体を抱えてうめき出した。



「い、痛いよ……苦しいよ、ねぇさん――」



 剣が砕け、その力を失って。

 イスラに施された呪い、生かさず殺さずの病魔の呪いが復活した。

 息も絶え絶えにイスラは呟くように唸る。



 痛いよ、苦しいよ、姉さん。



「……ごめんな、イスラ。もうちょっとだけ、我慢してくれ」



 イスラを見下ろす俺の手の中には、一つの誓約済みのサモナイト石があった。

 獣界の緑の石が。

 ジルコーダを退治したときにも使って、そのときにこの効果を知った。

 イスラにも、効くかどうか。

 賭けだ。

 もしこれでだめだったら俺はイスラにただ悪戯に病魔の苦しみを与えるだけになるのだが……賭けには、きっと勝つ。



「召喚、ニケ」



 現れたのは金髪のノーテンキそうな少年だった。

 初めてこいつを呼んだときに触媒にした大きなバンダナを頭に締めている。

 その彼は、ざっ、と立つような埃もないのに踏み出した足に映像的な砂埃を巻き上げさせて一歩踏み出すと叫んだ。



「光魔法、カッコいいポーズ!!」



 彼の体が眩く光る。

 光ながら彼は確実に宙に浮いていた。

 意味は特に無いけどとにかくかっこよく見える、昔俺が産まれた世界にいたときに見ていた少年マンガの表紙のようなポーズで空中に止まりると、ますますその輝きは強くなった。



 イスラも俺も、思わず見てしまう。

 意味も無いのにひたすらにカッコいいポーズを。

 何もない虚空を見つめる、カッコいいポーズの少年を。

 美化120%



 やがてイスラが呟いた。



「あ、れ? ……痛くない。苦しくない。まさか、呪いが――」

「無事に解けたか」

「アッシュ……? まさか!!」



 召喚解説にのろいを解く効果もあり、とあったので多分行けるだろうと思っていたのだが。

 いやほんと良かった。

 マジで。



 目を見開いて俺を見ていたイスラは、やがて頭を抱えて俯いた。

 まだ、痛むのか? まだのろいは解けてないのか? と心配した俺の考えは杞憂に終わった。



 痛くも苦しくもないと彼は泣いていた。

 目的をなくした人間の泣き方をしていた。



 俺は空を見上げて地面を見て、また空を見上げて息をつく。

 決まりが悪い。

 のっそりとした足取りでイスラに近付くとその傍らにしゃがみこんでイスラの頭に手を載せた。

 そのままぐしゃぐしゃとかき回す。



 シンクに似ていることも、気になる一つの要因だろう。それは確かだと思う。

 だけどもう一つは、おそらく置いてきてしまった俺の子ども、アーサーと似たような年代だからだろうと思う。

 男と女と言う違いは有れど、似た年頃の子を見ているとやはり心に影響を齎す。



 身代わりにするつもりは無い。

 無いが、身代わりにしないように気をつけなければならないだろう、と俺は強く戒めた。









 泣き疲れたイスラを抱えて船に帰る。

 そのイスラをククリの残して行った回復の魔法陣の上に乗せた。

 こうして眠っていれば、あどけない顔をしている。





 







 








召喚解説

召喚獣・ニケ
勇者のバンダナを触媒に呼ばれる。

「勇者マニア」を父に持ったがために、魔王ギリ復活の際むりやり勇者に仕立て上げられたもののそれなりに勇者をしていた少年。

自然界のあらゆるエネルギーを剣にして使う光魔法の最高峰である「キラキラ」を使う事ができるが、レベルが低い。
ただ強烈な運がある。勇者でありながら職業盗賊。
怖がりな魔界のプリンス・レイドには、ラッキースターと呼ばれているが、それはピンクボムと彼が呼ぶククリの心を手に入れた、幸運の星と言う意味らしい。
バナナムーンを手に入れたときには目から「サニー・サイド・アップ(目玉焼き)」光線を発射し、敵を丸焼きにする。
魔物の動きを止め、弱い魔物ならその光で消し去ってしまえる光魔法カッコいいポーズを習得している。
またこのカッコいいポーズには、呪いを解く効果もある。








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カッコいいポーズで思い出すのは漢のメリーゴーランド。
本当はカッコいいポーズの光の元でゆっくと美しく羽化する感動のシーンだったんだろう、と思うが、あれは凄かった。
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[3493] 十三回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:03ba5ada
Date: 2009/01/10 01:39




 イスラの寝顔を眺めながら俺は、ちょーっと失敗したかなー? と僅かに後悔していた。

 イスラの剣を叩き折ったり、病魔の呪いを解いたりしたことは後悔していない、が。

 なんか、イスラの剣を折ってから、剣からの干渉が強くなってきている気がする。



 今はディエルゴとして封印されたファルゼンもといファリエルの兄名前忘れたは、確かゲーム中じゃ剣によって封印され、剣を通じて支配力を増し、抜剣覚醒させる事によって封印された力を少しずつ取り戻していたような気がした。

 だから剣がなくなれば、勢力拡大が出来なくなるんじゃ? と予想していたんだが……よく考えりゃ剣って封印の楔だよな。

 これで封印されたんだ。楔が壊れりゃ封印だって緩くなるだろ。



 あったりまえだよなー、ハッハッハッ。



 と笑ってがっくりと項垂れた。

 早計過ぎる、俺。

 ディエルゴの姿なんて見ないで決着しようと思っていたのに。

 俺の剣も、帝国軍や無色の目の前でさっさとばっきばきに折ってしまおうと思っていたのに、もしかして折ったらディエルゴ復活の事態?

 と言う気がして来た。



 イスラの剣を折った直後は特に何も感じなかったんだが、じわじわとしたかすかな違和感は、今になって俺の心を圧迫し始める。

 痛み、嘆き、憂い、怒り。

 そういった、曰く不の感情が俺の心を侵食しようとする。



 もっとじっくり考えりゃ良かった。

 これで、封印の剣は後一本か。

 俺の剣もやすやすくれてやる訳にも、折らせるわけにもいかなくなった。

 折るわけにもな。

 俺の心を砕こうとするディエルゴの意思にも、負けるわけにはいかない。



 俺にはシンクが居て、アリエッタが居て、二人を何があっても絶対に味方だって信じる事がで来て、置いてきてしまったノワールやアーサー、アシュレイのことを思う事ができる。

 大丈夫だ。

 俺は、折れない。



「ねえ、顔色悪いけど、なにかあったの? アッシュ」



 イスラを見ながら考え事をしているとシンクがそばまでやってきた。

 子どもだからって理由をつけてアリエッタと二人で早々とふけてきたそうだ。



「シンクか……。今までありがとうな。大変だったろ、子供たちの相手は」

「別に。……殆どアリエッタのお友達も含めていたから、たいしたことはなかったよ」

「そう、か」

「それよりどうしたんだよ、アッシュ」

「ん~~……ちょっとしくじったみたいな?」



 すっとシンクの表情が引き締まる。

 シンクinウィルヴァージョンももう結構見慣れたからもはや違和感は無い。

 けど、厳しい表情ならイオンボディだった時のほうがしまりがあったかもとそう思う。

 ま、結局慣れの問題だろうな。

 慣れたといっても、まだシンクが完全にシンクだった年月と比較すれば短いもんだ。

 俺の顔だって、シンクやアリエッタたちからすれば違和感だったんだろうしな。

 慣れってすごいなー、と思いつつ慣れって恐ろしい。



「大丈夫だって、心配するほどのことじゃない」

「アッシュは信用ならないんだよ。分かってるの? 自分がして来たことをさ」

「すまん。正直悪いなとは思ってるんだが……前科有りすぎるな」

「わかってるなら、それなりの行動をしてよね」

「ああ」

「しくじったってことは、状況が変わったんでしょ? ちゃんと僕とアリエッタに説明してくれるよね?」



 そう言って俺に凄むシンクに俺は気圧された。

 全面的に俺が悪い。

 すまん。



「わかった。明日の昼な。飯の後俺の部屋に来てくれ」

「分かった」

「それと――」

「それと?」



 立ち去ろうとしていたシンクが立ち止り振り帰る。



「こいつの監視はもう必要ない。今までほんとありがとうな」



 そう告げれば、シンクは照れ隠しにふん、と鼻を鳴らして去っていった。

 ああいうところがかわいい奴で萌えなんだよなぁ。

 アビスの世界じゃでっかくなっちまって、萌え、ってな感じじゃなくなったんだが、こっちに来てから姿こそ変わったがちっこくなったし、ああいった仕草はまだまだ残ってるからな。

 萌え感復活だ。



 さて、心の折れて眠り込んでいるイスラはいつごろ目を覚ますだろうか。

 挫折っていう心の傷は、治らない傷じゃない。

 しっかり休んでしっかり食って、しっかり眠れば周囲の手を借りたりしながら自分で克服できる傷だ。



「俺は信じてるぞ、イスラ。お前がいつか、立ち直る事を」



 手助けなら、俺がする。

 俺たちがする。

 イスラの姉だって手を貸すだろうし、俺も貸す。シンクやアリエッタだって、貸してくれる。

 だが、貸すだけだ。

 借りたら後は自分次第だ。



 寝顔の頭にぽん、と手を置いて立ち上がる。

 無色かディエルゴか、どっちかかあるいは両方か相手にしなきゃならんしな。

 最悪帝国軍もだが。

 みんな強いとは言えやっぱりだんだん心もとなくなってくるよなぁ。

 俺も護衛獣召喚しようかね。

 強くてカッコいい奴。















 目の下に隈を作って交渉中。



 召喚に成功したなら強制力が働いて、召喚主に逆らえば酷い痛みが召喚獣を襲うという。

 だからよほどの事が無い限り召喚獣は召喚主に逆らえない、そうなのだが。

 そういう痛みによる支配関係以外の関係が築けたほうが俺の精神的にいいので交渉中。

 召喚術ってのは究極、奴隷労働を強いるような物。

 そんなんでは俺の精神の安寧が保てない。



 戦力としてはバッチリ。

 口は悪いが巨乳。

 ちょっと露出も多い、見た目は目の保養、中身は唐辛子。

 ノーテンキと言うか、浮かれた奴の事を頭に花の咲いている、と言うがこいつの場合本当に頭に花が咲いている。



 名前はプラナノ。

 花の女王、だそうだ。

 花の女王、って名前のイメージからは程遠い、かなりの攻撃的な女王様だ。

 まさに女王様。

 いろんな意味で。



「ま、いいけど。面白そうだし?」

「え、いいの? そんな簡単に?」



 言うなら今までかけた時間と目の下のクマさんは一体何のために……。



「魔王ギリもお母さんに封印されて取り立てて脅威もないし、退屈なのよね」

「退屈って……そんなんで自分の国、って言うか、世界全ての植物放り出してきていいのか?」

「いいわけないじゃん」

「じゃんって、なら」

「よーく見てみなって」



 と言って、プラナノは自分の頭を指差した。

 花が咲いている。



「花じゃなくて、そこから蔓が繋がってるでしょ」

「ああ」

「この蔓、こっちに呼ばれてもちゃんとあっちにも繋がってるみたいだし、問題ないでしょ」

「もんだい、ないのか?」

「私が無いって言ったら無いの。それに、こっちの植物もあんたと話、してる間に支配しちゃったしね」



 と、プラナノは悪戯っぽく笑った。



「二つ世界分も管理するのはめんどくさいからいつか帰るけどね。植物の永遠と比べたら、人の命なんてあっという間でしょ。あんた面白そうだから付き合うわ」



 そう言ってプラナノは足を組んだ。

 俺の上で。

 まじ、俺の上で。

 植物に吊り上げられていつの間にか俺の背中に乗っかって足を組んでいる。



 ノワールに見られたら絶対引っ叩かれる。

 アーサーやアシュレイに見つかったら――『お父さん不潔』とか、『お父さんなんか嫌いだ!!』とか、言われるんだろうか。



 つーか、まず真っ先にシンクやアリエッタに見つかったらなんと言われるか。

 ここは穏便に、かつ可及的速やかに降りて欲しいと懇願する。



 ノワールや子ども達。シンクやアリエッタにそんな事言われたら、俺の精神は誰と戦うまでもなく間違いなく砕け散る。

 シャルトスも道連れに。
















 気がつけばイスラがぼんやりと目を開けていた。

 時間は深夜を通り越して早朝帯である。

 東の空がうっすら、うーっすらと明るみ始め、この暗さの中でもう鳥が鳴いている。



 ちなみに部屋には俺とイスラしかいない。

 プラナノは外に植物の品種改良に向かっている。

 この島には嗜好品があんまりないんだって言ったら、以前プラナノの母さんのために作ったチョコレートの木を作って驚かせてやるってにやりと笑って出て行った。

 面倒くさがりやだが子どもは嫌いではないらしい。

 ついでにコーヒーの木とかそういったものを作ってくれと頼んでみた。

 お茶は鬼界の里に行けばあるが、コーヒーの類は似たものはあれど、本家本元は船に積み込んだ分がなくなればなくなってしまう。



「おはよう、イスラ」



 はっきり目が覚めているかどうかも分からないがとりあえず声を掛けた。

 おはようって言うか、俺はお休みって言いたい。



「イスラ?」



 イスラは応えなかった。

 そしてそのままゆっくりと目を閉じてしまう。

 そしてすぅっと寝息を立てる。

 目じりからは落涙しながら。器用な奴だ。

 仕方ないので俺も隣に眠ることにした。

 イスラの寝ている場所にはあの回復の魔法陣があるから、ちょうどいいだろう。







 目が覚めたらイスラに腕枕していた。



 な ん だ こ れ は !!



 誰と間違えた俺!

 ノワールか? アーサーか? アシュレイは無いだろう、ないはずだ。

 腕枕は10歳のときに卒業したよな? アシュレイ。

 アーサーだってこのくらいの年齢の時にはもう腕枕なんてしなかったよな。

 ならノワールか? ノワールなのか!?!?!?!?!?



 訳がわからなくなって硬直してたらイスラも目を覚ましてしまった。

 ごまかしに空いた手でイスラの頭に手を置いて撫でる。

 ごまかしに挨拶して見る。



「目が覚めたか? イスラ」

「……アッシュ」



 かすれるような声で、イスラは俺の名前を呼んだ。

 そんな、停止したような時間が流れる。

 腕枕を解いて(イスラが名残惜しそうにしたような気がした)俺は立ち上がると拾い集めておいたイスラのキルスレスの破片をイスラに握らせる。



「これは?」

「キルスレスだ」

「こんなもの……」

「剣は折れたが、お前の心は折れていない」



 剣が折れたくらいで心まで折れてたまるか。

 剣は確かに心に通じているだろう。

 折れれば心は痛むだろう。

 だが“それだけ”だ。

 心と剣は通じていても、剣は心じゃないし、心は剣じゃない。



「立ち上がって来いよ。待ってるぜ?」



 言ってにやりとわらう、その時だった。

 廊下がドタバタと煩くなる。

 廊下に顔を出すと、丁度いいところに、とカイルに襟首をつかまれた。

 島中で亡霊たちが復活しているらしい。



 やっべー……。



 本当のことは言えないので、直ぐに準備して駆けつける!

 と言ってみてイスラに向き直る。



「ちっとばっかし亡霊退治に行って来るわ」

「亡霊?」

「無色とも繋がってたんなら知ってるだろ? この島の歴史。死んだものの、縛られて成仏できないで居る亡霊たちが、キルスレスぶっ壊したせいで封印の緩んだ島の中枢の意思に操られているんだろうな。あ、ちなみに今の俺が言ったって秘密な。他の奴等俺がこれを知ってることを知らないはずだし」

「……どう、して」



 なんとなく反応の薄いイスラが、その薄い反応のまま、ぼーっと天井を見ながら問いかけてくる。



「どうして、アッシュはそんなに色々、しってるの」

「俺だからだ」



 チートプレイみたいな記憶のせいだが、説明は出来ないしな。



「卑怯だよ、アッシュ」

「すまんがそれは承知のうえだ」



 キルスレスぶっ壊した方法なんて、卑怯中の卑怯だろうし。

 っていうか、俺って基本的に真っ向勝負したことないよな。

 そりゃ悪行召喚獣とか相手には召喚術とか卑怯な事とかと平行しながらもちゃんと剣術も体術も使ってる。

 使ってるんだが目立たないんだよなぁ。

 俺には華が無いんだろうか。



 ちゃんと年月の分だけ強くなってるし、そこらの並み居る兵士なんかと比べたらバリバリ最高クラスに強いはずなんだが。

 まあ、何が弱いのかはなんとなく分かる。

 思考回路が弱いんだ。

 真っ向勝負したら負ける、っていう認識がぬぐえない。

 きっとシンクが強すぎるのがいけないんだ。

 劣化したレプリカでアレだけ強かったって、オリジナルイオンのスペックは異常だ。



 きっと成長したフルスペックイオンなら、ヴァンだってディエルゴだって一撃だ!

 とか思いながら外に出るともう闘いは始まっていた、見たいな?



「はっはははははは、弱い弱いっちゅーの! 植物の力なめるなよ?」



 と言いながらプラナノが蔓で亡霊縛りあげた上に種マシンガンでめっちゃくちゃ標的にしていた。



「ぷ、プラナノ?」

「あ、今頃のきたの? アッシュ。大丈夫、それぞれの里とやらもちゃんと守ってるからさ」



 イェーイ! とか言いながらぶっ放す。

  ……つえぇ、すげぇ、俺たち要らなくないか?

























召喚解説
護衛獣プラナノ
異世界で世界中の植物を司る女王。植物なら魔物であっても自在に操ることができる。というか調教する。
自然界の王の一人だが、火水風地の四属性とは趣を変える。
以前は容姿端麗、礼儀正しく一見完全無欠の慈悲の女王、のようだったが些細な事で驚いては人をばったに変える傍迷惑な側面を持っていた。
バッタに変える魔法は自然界のおきてに反するので大きな力が必要であり、一度使うと彼女は赤ん坊に戻ってしまう。
そのときに勇者ニケとグルグル使いククリに育てられ、今のように過激に育つ。
勇者の教育方針に、一に強くなれ、二に勇者を尊敬せよ、三に巨乳であれ、と言うものがあり、強く、勇者には逆らえず、巨乳の女王となった。
蕾になるのにふんどしを見て、花開く直前に目が腐るほど素晴らしい命の神秘、グルグル史上最低の光景「漢のメリーゴーランド」に当てられてこんがらがった。
こんがらがりたくなるのも良くわかる。







[3493] 十四回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:27c2f5ef
Date: 2009/01/10 01:39







 海賊達にやんやの喝采を受けながら種マシンガンで亡霊たちを攻撃するプラナノ。

 素晴らしい女王様っぷりだ。

 植物を使っての緊縛、鞭打ちどんと来い。

 そんな事を思わず洩らしたら殴られた。



「何言ってるのよ!!」



 顔を紅くして怒鳴るプラナノは結構かわいい。












 この島そのものであるディエルゴ。

 そして確か、本作の過去回想部分では、ディエルゴの元となったファリエルの兄は、無色と戦う際には植物すら操ったと言う記述があったようなないような。

 もしそうなら、プラナノの植物への支配と競合してるんじゃないか、大丈夫なのかと聞いてみた。



「と言う訳で大丈夫なのか?」

「何がど言うわけなのかしらないけど、あんたの話、聞いててやっと分かったよ。あたしの植物達を奪おうとしている奴が」

「やっぱ居るのか」

「そうね。……まだ大丈夫だけど、もっと強くなったらそのうちだめかも。同じ植物ではあるけどさ、やっぱり私が本当に繋がっているのはあっちの植物達なんだよね」

「そうか。なら早いうちに何とかしなきゃならないな」



 あの亡霊たち、成仏しない限り何度でも復活するんだろうが、それでも一度は鎮めて猶予を得なきゃならん。

 プラナノの力も、もう後どれくらい持つものか。

 俺の辛抱次第なのかもしれないと思うと責任重大だよな。



 なんか、ふらぁ、っと眩暈がしてくらっとしたら後ろから支えてくれた人がいた。

 小さい。



「ソノラ?」

「ねえ、あんた大丈夫なの? 顔色、わるいよ?」

「あー……なんだかんだで忙しかったからかもしれん。まあ、大丈夫だろ」

「そう……?」



 と心配そうに覗き込んでくる。

 結構きわどいところで露出しているのに色気より食い気に見えるのは、あっちとこっちに成長が足りないためだろう。

 すまん、ソノラ。

 俺はお前がそこの成長が足りない事を気にして自分で揉んでるところを目撃してしまった。









 プラナノが単独で守ってくれている間に船の住人は四つの里に直走った。

 それぞれの守人に話を通し、それぞれの里の住人を獣界の里ユクレス村に移住させるためだ。

 プラナノ曰く、ユクレスの大木は強いんだそうだ。

 なんとなくわかる。

 あれはナウシカとかラピュタとか、もののけ姫とか、そういったのをイメージさせた。

 食料に関してはプラナノが何とかしてくれる。ディエルゴとの植物の支配権争いも、範囲を狭めれば効果が強まるから、出来れば守る対象は狭い範囲に居るほうがいい、のだそうだ。

 植物の女王と植物が共同戦線を張る。

 すごいね。



 守人たちは直ぐに集まった。

 住人たちもまたぞろつどいつつある。

 そもそもこの島、それほど住人らしい住人は多くないしな。



 さすがに越すべき住人が二人しかいない機界は直ぐに来た。

 あそこはクノンとアルディラしかいない。

 ユクレスはそもそも集合場所だからモーマンタイ。

 後は鬼界と霊界だが、鬼界はたくさんの住人が移動してきたが、霊界は姿を消せる召喚獣たちはわりとその場に残るのも多いそうだ。

 それでも天使や悪魔、そのほかの召喚術たちが次々と移住してきている。

 まねまね師匠もその中に居た。なぜかブラック・フレイズの姿で。

 めっちゃ堕天使的でかっこいいんだが……



『まったくの~。今更狭間の領域を離れるとはなー。年寄りにはきついのー』



 中身はこれだ。

 分かっちゃいたが……なんとなく幻滅した俺は悪くないと思う。

 イメージと中身のギャップが、ギャップが――っ!!



 守人たちを含めた四つの勢力のほかに、かなり少ないが帝国軍の兵士達も居る。

 見殺しにはしたくないし、しょうがないから呼んだ。

 アズリアとギャレオと兵士が五人。

 居ればムカつくと確信するが、ビジュは居なかった。



 彼らへの伝令にはシンクとアリエッタに頼んだ。

 アズリアが居れば俺の事でひと悶着あるのは間違いない。

 いつか悶着が起きるのは仕方が無いとしても、迎えに言ったその先で起きてもらっては時間の無駄だ。

 と言う訳でシンクとアリエッタに頼んでいた。



 俺はもう一度召喚獣ククリを呼んで、船に書いたのより大きな回復の魔法陣を書いてもらった。

 その上には人が、召喚獣が絶える事が無い。



 そして案の定、俺を見つけたアズリアは「レックス! お前――」と叫んで飛び掛ってきた。



「こんなところで何をしているのだ!」



 と襟首をつかまれる。

 凛としていて美しい女性なのだが、追い込まれているな、と思う。

 いや、追い込んだのの一人は多分俺だけど。



 剣を運ぶという任務が達成できない事はもとより、あの崩落で結構な部下を失ったみたいだからなぁ……。

 罪悪感は感じている。

 感じているんだが、倒し方、排除の方法が違っただけだと思う心もどこかにある。

 俺はレックスほど優しくない。

 そしてアズリアが出てきてもレックスになれるとは思って居ない。

 姿が似ているだけの別人として振舞うだろう。

 アズリアと俺の間につながりは無くなって、俺とアズリアは分りあうところの無い敵として出会っただろう。



 この島を省みない帝国軍として俺はアズリアたちを見る。

 アズリアたちもこの島を省みずに剣を運ぶ任務を優先する。

 俺は剣を呼ぶ気など無かったが、何の拍子でばれるとも限らない。

 仲間で居られるのは、真実を知らなかった間だけだ。

 俺がレックスでないのなら、アズリアは容赦しまい。



 しかも、剣を叩き折ってもうその任務に意味が無いと示すにしても、一つ折ってみて分かった事だがタイミングも重要だ。

 剣のことを秘密に出来たままこんな事態になったから今なら共闘の可能性がある。

 だがそうでなかったなら、敵対は免れないだろう。



 他人の体、と言うなら元祖アッシュでも今のレックスボディでも俺には変わらないわけで、若返った事にちょっとハッスルしながらもノワールが居ない事に落胆したりしたのも懐かしい。

 でも、アズリアと言う厄介な人間が居るのなら、すっかり自分のものとして使っているアッシュボディのままこっちに来たかった。

 例え中年でも。



 何よりも、最愛のノワールと過ごした時間を刻む身体だった。

 縁側で(無いので仕方なくテラスで)お茶を飲みながら(希望としては緑茶だけど仕方ないので紅茶で)俺が皺皺の爺になっても愛してると言った、おまえが皺皺の婆になっても愛していると言った!



 俺は噛み付かんばかりのアズリアの手を解きながら言う。



「ごめん、レックスって誰?」



 なんつーか、俺サイテー。









 意気消沈して座り込んだところにイスラ登場。

 なんか美しい兄弟劇が繰り広げられる。

 ちょっと皮肉って劇などといったが、まあ今のイスラなら芝居じゃないだろうと思う。

 歪に歪んでいただけで、姉を思う心は本物だろうし。

 だってイスラ、寝言が「ねえさん……」だぞ。

 立派なシスコンだと俺は思う。



 しばらくして強制的に自分を立ち直らせたアズリアは、島の四界の里の代表、漂流した海賊の代表、そのほかの第三勢力、といっても大分衰退したようだが、その代表として話し合いの席に着いた。

 守人と俺たちはプラナノが片手間に造った夢の植物、あらゆる物が生る樹からゲットした果物を前にして顔を付き合わせた。

 植物の女王すごい、じゃなくて作戦会議。

 どうすれば亡霊が止まるか。









「ここで問題なのは、この亡霊たちは何処から来たのか、ということなんだが……俺たちはこの島についてあまり知らないからな。あんたたちに心当たりはないのか?」



 と話を振ると、あたりはしんと静まった。

 話すべきか、話さざるべきかともぞもぞしているのを感じる。

 やがて一際大きい肺活量の溜息が聞こえた。

 獣界の守人、ヤッファの溜息だった。



「ハイネルだ」

「ヤッファ!!」



 言ったヤッファにアルディラは咎めるように声を荒あげた。

 鬼界の守人である鬼忍のキュウマも、声こそあげなかったが鋭い眼差しでヤッファを睨んだ。

 ファルゼンだけが、鎧に憑依している関係上表情が無いのでどう思っているのかさっぱり読めない。

 と思ったら次に言葉を口にしたのはファルゼンだった。

 あの一度聞いたら忘れられないようなマシンヴォイスが場を沈める。



『話ソウ』

「ファルゼン……あなたまで」



 すがるようにアルディラは言った。



『事態ハ、動イタ。今モコウシテアッシュ達ノ力を借リナケレバ、我々ハ里人スラ満足ニ守ル事ガ出来ズニイル』



 そう言ってファルゼンは、目の無い鎧でぐるりと守人たちを見回した。

 ヤッファは完全に腹を据えたようであったし、キュウマもそういわれればもはや異存は無い様だった。

 冷静沈着な彼女らしくもなく、拳を握って歯を食いしばっていたアルディラだったが、彼女もやがて諦めたように息を付く。



「ファルゼンの言うとおりよ。……ラトリクスには命在るものは無い。けど――私だって」



 彼女は、住む人間のいない都市を作り、修理し続ける憐れな機械たちをずっと見てきた。

 無機物だからと言って見捨てられる物ではないのだろう。

 実際のところ一番早期に解決しなければならないのはおそらく機界であろるだろうし。

 機界は、プラナノの植物の女王としての力が及びにくい場所だ。

 だから、ラトリクスでは機械たちを防衛線に駆り出しているそうだ。



「時間が無いから重要じゃない場所は省かせてもらうが、この島の成り立ちから話そうと思う」



 面倒くさがりのヤッファから、そうきりだした。











 守人たちがかわるがわる当時の話をした。

 懐かしむように、苦しむように。悲しむように、いたわるように過去を話す。



 無色の派閥によって作られた実験島であったこと。

 やがてハイネルなる男によって反乱が起きた事。

 無色が実験していた。人工のエルゴになるための核識に男がなったために、闘いに傷つけられたあらゆる者たちの痛みや苦しみ、怒りや恨みによって男はだんだんと狂っていき、最後には無色が用意した二本の剣、シャルトス(碧の賢帝)とキルスレス(紅の暴君)によって、核識本体と二本の剣の三つに意識を分断されて封印された事。

 その男の名はハイネル。

 二本の剣は無色によって持ち出され、今この島には無いということ。

 亡霊たちが暴れているのは、元は優しかったが狂気に捕らわれた男、ハイネルの封印が緩んでいるせいだろう、と。



 重い、空気の重ささえ変えてしまうようなその話を聞き終えて沈黙が落ちる。

 それを最初に破ったのは、歯軋りするような小さな呟きだった。



「無色――」



 暗い影を含んだその声。

 ふりかえればそこに居るのは、ヤード。



「……皆さんに聞いていただきたい話があります」



 守人の話を聞いた彼は、随分と躊躇ってから己のことを話し始めた。

 スカーレルの複雑な色を宿す眼差しに見つめられながら。



「私はかつて、無色の派閥で、オルドレイク・セルボルトという男の下に居ました」



 守人たちの中に驚愕と敵意が迸る。

 四対の目が今まで向けたことも無い感情を乗せてヤードを見た。



「それで」



 余計な緊張が高まる前に、俺はそれを遮るように続きを促す。

 俺を見て頷いたヤードは、それでも躊躇いがちに話し出す。

 守人たちの話の中に出てきた、二本の剣について。









 ヤードが師匠であるオルドレイクを裏切って件を持ち出して逃げた、と。

 短縮するとそうなる。

 短縮しすぎた。

 付け加えるなら、その剣は運ぶ途中に嵐に巻き込まれて喪失した、となる。



 海賊達の手元には無く、そしてまたアズリアたちの手元にも無い事は今照明された。



 ヤードの話を聞いて守人たちからなにか出てくるかと思ったがそういうこともなく。

 むしろ何か出てきたのは海賊達のほうからだった。



「ヤード! おっまえなぁ、そういう重大な事があるならもっと早く言えっつの!」

「すみません。なにぶんあの嵐の時に剣は失われてしまいましたし、この島の由来も知らなかったので」



 とは言うもののヤードの顔には納得の表情が浮かんでいる。



「ですが、私たちがここに流されたのも偶然ではなかったという事になります。私たちはあの時、剣の最も近くに居た」

「剣の封印が緩んだ理由は分からないけど、ここまで一気に来たという事は、剣が破壊されたかあるいは――」



 ベイガーらしく冷静で理論的な話し方を取り戻したアルディラに視線が集まる。



「遺跡が剣にまで支配を伸ばしたか」



 またしてもしんとなる。

 これはぶっちゃて敵の本拠地に乗り込む以外に解決策が無いといっている。

 剣にまで狂ったハイネル、このさいディエルゴの意思が伸びているなら、それを支配しているのなら、剣ももはや封印の役には立たないということだ。

 そして俺はまだ剣を持っていると明かすつもりは無いが、それでもこの剣がもはや封印の役には立たないだろうことは身をもって体感している。

 だからこそ、イヤイヤながらも無色の上陸を望んでいたのだ。



 オルドレイクの側にはウィゼルが居る。

 稀代の刀匠が。



「ねえ」



 ふいに今まで姉の側で傍観していたイスラが声をあげた。



「その剣ってさ、もしかしてこんなのだった?」



 と言って、砕けた剣が入った包みを、テーブルの上で開く。

 そこには砕けていながらも組み合わせたらおそらく一本分になるだろう白い刀身の剣の残骸が存在していた。



「これは、キルスレス!!」



 どうして一発で見分けがつくのか。

 ベイガーの記憶能力なのかもしれない。

 もしくは認識タグみたいなのがはいっているとか?



「へえ、これがキルスレスなんだ。……砕けて落ちていたのを拾ってきたんだけど」



 ふとイスラと目が合った。

 自分が持っていた、とは言わないつもりだろう。

 それでいいと思う。

 イスラも、どうやら俺がもう一本の剣の使い手であることは言わないつもりのようだった。

 もう立って居るのか、とイスラの強さに思わず柔らかい笑みが出る。

 顔を逸らしたイスラにそれは通じなかったかもしれないが。



 部屋がキルスレスの不意の出現に大騒ぎになっている中、しゅるりと蔦が一本テーブルの上に生えてきて、孫疎遠単にラッパのような花を作る。

 と言っても中身は空洞、伝声管のようだった。



『ねえアッシュ。なんか、あの亡霊たち、ネタ切れみたいよ?』

「はぁ?」



 と俺は間抜けに返す。



『だ・か・ら』



 とプラナノは強調する。

 無限増殖のように思われていた亡霊たちの新たな出現が止まった、と。









 ならばとりあえず今出現している分だけでも倒して、とりあえず避難して来た人たちも含めて安心しようか、と言ったような結論が出た。

 ディエルゴの本体に突入するにしてももう少し時間が欲しいのは確かだ。

 時間稼ぎにしかならないだろうが、と思いつつ俺たちは戦いの為に外に出た。



 ユクレスの周辺から島中の植物達と意思を交わすプラナノに導かれて、共闘しながら、周辺の亡霊たちを退治していく。

 俺も剣を振って戦っているんだが、正直辛い。

 勝てるには勝てる。

 勝てるが、広範囲の攻撃力が欲しいとひしひしと感じる。


 プラナノも攻勢を弱めているようだし。



 俺たちに出来る事なら俺たちにやらせるんだとよ。

 まあ確かに、植物ってのは本来それほど攻撃的なものではないしな。

 プラナノ自身は過激でも、植物達はそうでもないだろうし、プラナノも言っていた。

 休ませてやりたいってな。



 俺たちの眼の代わりに何処に亡霊が居るのか教えてくれるだけでありがたいってもんだ。

 それでももどかしい思いはするわけで。

 俺はデザインのかわいいローブめいた服、ミウチャの服というアイテムを着ているアリエッタの肩に手を乗せて、霊属性のサモナイト石に意思を通わせる。



「召喚!」



 と叫べば光と共に一人の少女が現れた。

 眼鏡をかけた黒髪の、ククリに似ている……。



「ヘアーッ」



 少女はいきなり哀愁の涙を流しながら叫んだ。

 頭から大砲を生やしてどんこどんことぶっ放す。



 ……なんか、かわいそうになってきたから帰ってもらおうか。








 気を取り直して俺は装備している勇者のバンダナというアイテムを媒介に召喚術を企む。

 石はまたしても霊属性。



 受ける攻撃の合間を縫って、俺は石に意思を通わせる。



「召喚!」



 叫びに応えるように石は輝く。

 召喚の門が開きその向こうから何かがやってくる。



 その正体を感知した時、俺は僅かに硬直した。

 呼べば素晴らしい戦力になるのは分かっている。

 分かっているが――どうして!!



 メイメイさん曰くの俺の繋がっている世界とやらはこうもデタラメに強かったりデタラメな存在だったりっていうかデタラメならまだいいが揃いもそろってイロモノばっかりなんだ!



 ほろり、と心の汗が目からこぼれる。

 それでも俺は召喚した。

 たぶん、キタキタと比べればなんであろうともマシだろうから。

 気を取り直して再び叫ぶ。



「召喚、爺ファンタジー!」



 バババ~~ン♪

 とアニメのオープニングのような勇ましいイントロが流れてくる。

 どこだ、スピーカーは何処だ!

 爺ファンタジー、と謎の歌詞が流れてくる。

 それと共に現れる四人のジジイたち。

 ジジイ、ジジイ、ジジイッ!

 と虚空からじいさんたちが飛び出してくる!



 爺を見るときは部屋を明るくして離れて見てねv



 という謎の情報が脳裏を流れた。

 え、どこにテレビあんの!?


 じじいたちはかわるがわる虚空であのニケも使っていたカッコいいポーズを決め続けた。

 一人が終わればまた一人。

 それが終われば次ぎ、一周したらまた最初から。




♪空に輝くディスティニー
 あなたの瞳はEメール

♪完結しない超大作
 おさまりきれない
 外伝(むかしばなし)

♪ああ 経験値の高いあなたが好き
 ああ のぞいてみたいの知恵袋

♪超高齢 超高齢
 超超超超 超高齢



 流れる意味不明の歌詞に乗って爺たちは亡霊たちを葬っていく。

 カッコいいポーズで。

 一人だけじゃなく、二人や三人でポーズを決める事もあった。

 カッコいい。

 爺たちなのにカッコいい。

 意味も訳も無くカッコいい!



「なんだこりゃ」



 カイルの呟きが聞こえる。



「良く分からん。が、カッコいい奴等、だそうだ」

「はぁーっ。あんたの呼ぶ召喚獣は変り種ばっかりだな」

「俺だっていっそのこと普通の召喚獣をよびたいよ」



 たぶん、こいつ等を呼ぶより格段に苦労する事になるんだろうけどな。

 みんなみんな反則級の力をもってるんだが、こう、なんつーか、力を貸してくれてありがとうなんだが、うわーーーーっ! って感じの気分にさせられるのも結構多いよな。

 今のこれだって。



 俺たちが見上げる中で、その光に当てられた亡霊たちは次々に光の粒子になって消えていく。

 邪悪な者たちにとっては絶対なほどの、自然の有り方に戻そうとする力。

 自然に全く逆らう事になる亡霊たちは、その光に当てられて自然の姿に戻っていく。

 結界に閉ざされたこの島の中でも、もうあの亡霊たちは復活する事はできないだろう。

 それが光魔法カッコいいポーズとその進化系、カッコいい奴等の効果だからだ。



 仕事を奪われてぼーっと見上げていると最後に訳の分からないアナウンスが入った。







 このじじいたち――デンジャラス(危険)につき。







 ビシィ!

 と最後に四人そろってポーズを決めるじじい達の背後に




爺ファンタジー2



 でかでかとタイトルが現れる。芸も細かく“こいくち”の字が後からやってきてわりに慎ましく“2”の下あたりに張り付いた。

 そしてフェードアウト。

 じじいたちは元の世界に送還されて行った。

 もう何にも言えねぇ。



 見るな、見るな見るな見るな!

 俺をそんな目で見るな!!



 仲間たちに向かってそんな事を叫びたくなった。















召喚解説

召喚獣・わからん戦士ナゾ職業ラー
眼鏡を外すとククリに似ている、占いも戦闘も服飾もこなす。
彼女の魔法が預言者ガルニエ直伝ダジャレ魔法。
年頃の乙女にとってはかなり恥しいが勝手に発動するので止める事はできない。
預言者ガルニエより占いも習っているがその解読方法はかなり難解、意味不明。
最終的には服職人となるが、ここでは……語るまい。





召喚獣・爺ファンタジー2 こいくち
あまりに強すぎて無敗のまま60年。
運命に導かれすぎた4人の男たち!!
ひと呼んで“爺ファンタジー”

このじじいたち――デンジャラス(危険)につき。


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引用魔法陣グルグル15巻37~39ページ。
手元にグルグルがあるのなら、もう一度読み返そう!!
爺ファンタジーの活躍をこの目で見よう!
語る言葉は、無い。


ところで何か忘れているような気がするんだが……なんだろう?
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[3493] 十五回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/01/11 23:20





 なーんか、ゲーム本編みたいに和気藹々とした時間がかなーり少なかったような気がする。

 本家本元レックスは、もっと守人たちと親交を深めていたよなぁ、とか。

 今俺たちは和気藹々と親しくなったと言うより、危険が俺たちを一つにした、ってな状況だ。



 共通の敵を持つことによって擬似的に一つになるというか。

 まあその敵がなくなった後の解体が怖いが、それこそ順番が逆だが親密になっていく時間は幾らでもあるよな、と思っておく。



 俺はこの襲撃がやんだ今にメイメイさんのところに行って一つの決意を固めてきたところだった。

 メイメイさんはユクレスに避難していない。

 まあ彼女は例外って言うか、たぶん本気になりゃ反則的存在だろうし。

 どこで見たか聞いたか忘れたんだが、たしか初代エルゴの王の護衛獣、だったか?

 見るからに鬼界の護衛獣なんだが、あと三界の護衛獣はいないんだろうか。



 メイメイさんのところからユクレスに向かうルート上には、鬼界の集落と霊界の集落がある。

 鬼界の集落は人気が無くて寂しかったが、霊界の集落はまだ残っている召喚獣たちがちらほらと姿を見せてなんとなくほっとした。

 姿を消せる召喚獣、と言っても、あまり高位の召喚獣はこの里にはいなかったみたいで、姿を消せるというのも、ちょっと存在があやふやである、と言い換えられる場合もある。

 だから、残ってるやつらが居ると言っても、高度な会話が出来るわけではない。

 アリエッタやフレイズが居れば別だけどな。



 俺はマネマネ師匠の居なくなった大きな水晶のステージに大の字で寝そべった。

 なんか、マナに関して特殊な効果のある霊界特産の水晶だった気がするが覚えていない。

 覚えていなくても、なんとなく落ち着く。

 寝るにはちっと固いけどな。



 頭が痛い。

 眩暈がする。

 なんつーか、ゲームやっていたときにレックスをカルマルートに行かせた時に出た症状と似ているような……。

 剣なんて一度しか呼んでないし、カルマ値増えるようなこともした覚えが無いんだが。

 あれか? 徳が低いです、見たいなRPGみたいな?



 なーんつってな。

 単純に封印が一つ壊れたからただ支配力を増やしているだけだろうな。

 もし俺が、この支配に屈服したら、ディエルゴ肉体を持って復活、とかいうパターン?



 アルディラルートでゲームをしていたときに、たしかアルディラがそれでハイネルが蘇る! とかって暴走していたような気がする。

 やべー。

 つーか、今回は誰ルートで話が進んでいたんだろう。

 俺、肝心要のときに寝込んでたからシラネェぞ。

 ファルゼンもアルディラも違いそうに見える、けど、ヤッファやキュウマでもなさそうだしな。



 つーかもう、ぜんぜんゲームのストーリーと関係ないことになってないか?

 もう役にたたねぇっつの。

 あーあ、っちっくしょ。ゲームストーリーどおりに進められりゃなんとか最後はハッピーエンドなのに。

 俺忍耐ないなぁ。



 ……ノワール。

 俺、寂しい。

 なんか訳わからんくらい急に哀愁がこみ上げてきた。

 帰りてー。

 霊界集落ってなんか、帰郷の念を増幅させる、っていうか里自体が寂しげでものがなしい気がしていかんな。



 よっこいせ、と中年らしい掛け声で起き上がる。

 のんびりしている時間は実は無い。

 さあ行け! 我等が砦ユクレスへ!!



 俺がメイメイさんのところに行ったのは、この猶予がどれほどの間のものだろうかと尋ねにいったのだ。

 メイメイさん一応占い師だし、剣の所有者である俺としては結構どれくらいか感じるところはあるんだが、確信がほしかった。



 まあ、本命の相談は別だけど。



 この猶予の時間については俺の感じているとおりと殆ど誤差が無かった。

 そして本命の相談である、俺が来た世界とのつながりについてメイメイさんは言った。



 混線していて妙な世界にラインを繋いでいるが、俺が居たアビスの世界にもまだラインは繋がって居ると。

 だが帰る事は出来ないとも。

 でも、帰ることは出来なくてもなら呼ぶ事ならどうだろうか。

 召喚術と送還術はセットだ。召喚主が生きていれば、呼んでも返す事ができる。

 なら、せめて呼ぶことは出来ないだろうか。

 できるならこっちで一緒に暮らしたい。それがムリでも、ならせめて別れを告げたい。



 しばらく考え込んでいたメイメイさんは、あるいは、とそう言った。



 可能性は二つ。

 一つは、エルゴの王が出現するのを待つこと。

 これは正直あと何年掛かるかわからん。

 たしかゲーム中の時間計算だとあと20年くらいだったと思うが、ここでのオルドレイクのあしらい方によっては20年後に魔王召喚をするかどうか。



 もう一つは俺がここのディエルゴを逆に支配して、エルゴとしての機能を手に入れること。



 まあ、正直むりじゃないか? と思う。

 思う、が……20年待った上に出現しない可能性を思うと、擬似的なエルゴになっちゃおうかな? とかちょっと思う。

 愚かに過ぎるだろ、俺。



 いっちゃん最初の核識ならともかく、いまならもれなく狂ったハイネルの狂気もセットだ。

 耐えられる自信は無い。

 無いんだがっ!!!! と、惑う。

 むりだべー? と思っちゃ居るが、20年経ってもまだ、と思うとアブナイトコロに手を出しそうだ。



 そんな事を考えながら草を踏み分けていると、遠くからかすかに人の気配を感じて俺は隠れた。

 しばらくじっとしていて気のせいか? と思った頃にやっと足音が聞こえてくる。

 もしかしたらアレは五感じゃなくて第六感、シックスセンスのお知らせだったのかもしれん。



「穏かな島だな」



 そう声が聞こえた。

 聞き覚えの無い重厚な、退屈そうな声だ。



「だが穏か過ぎてつまらんな。そうは思わんかツェリーヌ」

「はい」



 と相槌をうつ従順な女性の声。

 確信した。

 オルドレイクだ。



 この島を覆う結界が解けたのを合図にして勝手に乗り込んでくるだろうってイスラは言っていたが……はええよ。

 だけど、まあちょうどいいかな。

 なるようになれ。

 ノワールに会うにも、会って別れを告げるにも、それから一緒に暮らすにも。

 まずは生き残らなきゃならんからな。



「退屈もたまには必要だと思うけどな。……骨やすめだよ骨休め」

「誰だ」



 草葉の陰から、と言うとアレだが、そのあたりから声を出した俺に低い誰何の声が投げ掛けられる。

 ツェリーヌや赤い服を着た気だるい目をした女性とかが臨戦態勢に入って背中がひやぁっとする。

 おお、たぶんウィゼルだと思うオッサンも居るぞ。

 全然俺を敵視してねぇ。そうかい実力不足かい。

 それとも、俺がたいして敵意を持ってないことを見透かされているのか。



 いざ闘いが始まればフルボッコフラグだな、と重いながらも俺は強い俺は強い!!

 と言い聞かせて俺はそいつ等の前に姿を現した。

 実際けっこう強いと思うんだが、俺の中には正攻法=勝利のイメージが無い。

 嫌な手段だがまあシャルトスを使うって手もあるしな。

 保険として手に握っているサモナイト石がじっとりと汗ばんでくるが表情だけは怯えを気取られないように気をつける。



「罠を承知で乗り込んでくるたぁな。さすがは無色の総帥」

「お前は誰だと聞いている」

「イスラの呪いが解けたことは感知してるんだろ」



 沈黙と高まる緊張が答えか。

 おそらくイスラから何を伝えられてもこれでばれてるだろうなと思っていたが。



「それやったの、俺だから」

「お前が……?」



 いぶかしむ眼差しには慣れている。

 つーか、俺がそれほど実力を持っているように見えないんだろうな。

 あれはイスラに聞いたところ金の派閥でも青の派閥でもどっちの派閥でも解咒できなかったって話だからな。

 アズリアの実家は軍閥の名門だし、どっちの派閥にも話を持ちかけていて不思議は無い。

 しかもイスラ、跡取りだったはずだし。

 それを利用しイスラを取り込んだ、のがやすやす俺みたいな男に解咒させられたではそんな顔をしたくなるのも分からない話ではない。



「あんたらのも、よく出来た枷だったと思うよ。でも、俺の勝ちだ」



 何がって自分に突っ込みたいがここは雰囲気で。



「ふん……役に立たぬか。クズが」

「うっせぇこのつるっぱげ」



 になるかどうか知らないが、サモナイ無印バージョンのこいつの頭はかなり後退していた筈。

 完全に嘘じゃなかろう。

 今はふさふさだがな。

 むっとした顔をするオルドレイクに向かってニタァ、と笑った。

 ロンゲにしてるから負担掛かるんだよバーカ。



 そんな奴等に向かって俺はおもむろに懐に手を入れる。

 高まる緊張、だが俺は逆に緊張が解けていた。

 ちょっと離れた右手と左手の方向に、いつの間にかシンクとアリエッタが居た。

 100倍、1000倍心強い。



 何が起きても大丈夫、と一気にそんな心地になって俺は懐からそれを取り出した。



「それはっ……!」



 とまず目を剥いたのはウィゼルのオッサンだった。



「キルスレス……か?」



 どうして折れた状態で見て分かるのかが分からん。

 分からんがオルドレイクはそれを判断した。



「ピンポーン、正解。……俺が、折った」

「ふん……お前のような男に折られるとは、その剣も話に聞くほどたいしたものではないようだな。興味がうせた」

「どんな話かシラネーけど。うせたんならおとなしくかえってくれないかな」

「ククク……。確かに、剣に興味は薄れたが、この島は興味深い。我々の実験島として相応しい、そうは思わんか?」

「はい」

「いや、全く思わんけど」



 従順に応えるツェリーヌと俺の言葉が重なって、俺はバチバチの敵意を籠めた眼差しでツェリーヌに睨まれた。

 俺は思わず溜息を零す。



「ここにある石くらいなら土産にしてっていいからさ」

「確かに、ここの石が研究の素材として使えそうでは有るが……私を無色を総帥と知ってなお手土産まで持たせて早く帰らせようとする。その理由が気になるな」

「俺たち今あんたらの相手してる余裕ないわけで」



 ケッ。人の足元見やがって。

 見せる俺も俺かもしれんが、交渉ごとは苦手なんだよ。



「剣が折れたのは見せただろう。封印が緩んでる」



 そこまで言えば無色の総帥、わからぬはずは無い、と思うんだが、すぅっと細められた目で睨まれた時にはぞっとした。



「じゃ、そういうことで」



 と勝手に話を切り上げると、追え! とオルドレイクが叫ぶ前に煙玉をぶちまけた。

 指差し確認てきに俺を指差して、追え、っていう風に口を開くところまではバッチリ目撃していたんだが、コショウたっぷりの煙玉の威力にはオルドレイクも勝てなかったようだった。



 最後にちょっと振り返ったときにウィゼルと目が合ったのが気になる。

 ちゃっかり煙玉の効力圏外にいたけどな、あいつ。









 シンクとアリエッタに陽気に声を掛けながら合流した直後にシンクにしこたまおこられた。



「アッシュ! また一人で勝手に無茶なことして! 僕たちにも相談してっていつもいってるじゃないか!」

「いや、すまん。今回の事はマジで突発的な事故的遭遇だからさ、許して?」

「だめだね。許さないよ」



 アリエッタもシンクの言葉にこくんと頷いた。

 はい、すみませんでした。



 まあ、なんだかんだで説明するとか言いつつそんな時間も取れずにいたし、と丁度いいからこの機会に喋れるだけ喋っておいた。

 説明おばさんカモーン! とかいいたくなるくらい説明した。



 理解を得られたか、というとビミョウなんだが、あれだ。俺がやろうとしていることは理解してもらえたと思う。

 ごめんな、シンク、アリエッタ。

 いつまでも心配ばかりかけている不甲斐ない兄貴分で。

 そんな俺を、許してくれて、認めてくれてありがとな。















[3493] 十六回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/01/15 19:47





 俺たちは無色の蹂躙をただ黙ってみていたわけではない。

 それは本音でもタテマエでも許されないからだ。



 あの霊界の石を手に入れたら無色は帰るっていうなら俺としては是非ほうっておきたいが、興味を見せたそれを船に積み込んだら次ぎはきっとこの島そのものに興味は向かうだろう、というか向かっている。

 プラナノのチート的な能力によって俺たちは実に的確に無色の派閥をゲリラ的に襲っていたが、そんな俺たちから見てもあっちもチートに見えた。

 さすが本命の暗殺者集団は一味蓋味違っている。



 プラナノ居れば殲滅か撤退まで何とかならんかとおもっていたんだが、これが意外と無色も強い。

 無色が、と言うよりやつらの連れて来た暗殺者達だな。

 えー、なんでそんなちっちゃなナイフで木質化した植物ぶった切れるの! と。

 すぱぁん、とか嘘だろ! って。

 奴等火も使うし。

 プラナノは火程度に負けたりしないけどな。



 それでも燃やされればムカツクそうだ。

 そりゃそうだろ。



 今のところ他の里には人は居ないし、決死の努力でユクレスには近づけていないし。

 奴等を本格的に叩こうにも、奴等こっちを適当に責めたら直ぐ船に戻っちまう。

 さすがに水の上はプラナノの管轄外だ。

 植物の女王、っていうから昆布とか海草は? と聞いたら、海は自分の管轄じゃないとか何とか。

 海まで制覇していたら無色の船なんかすぐにでも沈めてやるのにってギリギリと悔しがっていた。



 そんなある日の上陸劇。

 俺はプラナノに頼んで何とか奴等を核識のある施設の側に誘導してもらっていた。

 奴等がそれを見かけ、敵対したのを確認したあとからタイミングを見計らって本格的に追いにかかる、って予定だ。

 なぜならあの周辺には、ゾンビは出ないがゲームのラストバトルと番外編で見たような謎の球体が新たな敵として出現してきているからだ。

 ゾンビたちはあの爺たちが光魔法カッコいいポーズとやらで消しとばしちまったから使えなくなったんだろう。

 ついでに言えば無色が上陸している=で島の結界が解けているってことだから、結界に阻まれて成仏出来ていなかったのだとしても関係ねぇはなしだ。

 成仏しちまえば再利用はできねぇしな。



 俺はそれを奴等に見せたかった。

 自分で見てくれ、何と敵対しようとしているのかその愚かさを、と。



 まあ、追ったり追われたり。

 俺たちにも無色の派閥を追い出すだけの決定打は無く、無色の派閥もここを放棄する決定打は無い。

 正面衝突を互いにしていないからだ。

 無色の派閥が連れて来た兵士達を少しずつそぎ落としてはいるが、人を道具としか見ないあの連中にとってはそれほど痛手ではないだろう。

 あっちも技巧が高いから、一気に決定打となるほどそぎ落とせないのだ、こっちも。



 今から俺たちは、ゾンビの代わりにディエルゴが使役し出した無限に増殖するナニカと戦う事になる。

 横槍は欲しくない。

 俺たちがソレをたおした直後に漁夫の利を狙うのだとしても、その間だけは二つも同時に敵にしてたら身が持たない。

 というか、ディエルゴをぶったおしたら島が崩壊する、と思われるわけで、だったらやっぱり封印か。

 だけど封印するならどうやって? と疑問は尽きない。



 というか、守人たちと海賊達と俺たちと、話し合いを続けているが結論が出ないのだ。

 ひとえにそれは俺が今もって剣の事を隠し続けている事が大きい。

 んだが、明かすタイミングを見失ったというか、出来れば俺のシャルトスに関してもイスラのキルスレスみたいに壊れて落ちて他の拾ったよ、という演出をまだ捨てきれない。



 たぶんむりだろ? と思いつつ。

 その欠片からウィゼルが勝手に剣を作っちまったよー、とか、ムリだろ。

 分かっちゃ居るが、俺は主人公じゃないんだ。

 もう一本のシャルトスが折れちまった以上、残ったもう一本の剣がこの剣と楽園を巡る物語の主人公にならざるを得ない。

 そんなまさか!!








 俺は夜の樹上に出ていた。

 ユクレスの大木はツリーハウスのようになっている。

 その上に立って空を見てた。



 戦える奴等も戦えない奴等もみんな酷く疲れている。

 安息の時が無いのだ。

 そりゃ疲れもするだろうが事は結構深刻だった。



 たった数日の事がまるで数ヶ月も不眠不休のような重たい疲労を背負う事になっていた。

 シンクも、アリエッタも、俺も、守人たちも、海賊も島民達も。

 プラナノの力をもってしても“絶対に安全”とはいえない。

 こちらもゲリラ戦を仕掛けるがあちらもゲリラ戦を仕掛けてくる。

 何よりあっちは暗殺者。あっちのほうが数段そういった影の戦闘には長けていた。



 互いに脅かし脅かされながら、あちらもこちらを攻めている。

 いつでもその喉首掻き切れると脅しつける。

 俺たちはいい。だがそれに一番にまいるのは、戦えない島民達だった。



 剣のことを隠す隠さないを別にしても、例え俺が今剣を持っている事がわかったとしても、それで事態は進展しない。

 一本の封印が折れた剣は、今俺を深く侵食しようとしている。

 封印の剣は、俺と繋がりすぎていた。

 今は最後の封印の一つで有るが、同時に新たな封印にはなり得ない代物に成り下がっている。



 俺はそれを感じている。



 月を見上げる。

 俺はこの世界のマナを感じない。

 だが剣は感じている。

 この同じ樹上に居る、強いマナの存在を剣は指し示す。



 喰ラエ



 とナニカが囁いた。

 頭がぐらぐらする。






 ふらりと近付く俺に、くるりと少女は振り返る。



「あれ? アッシュさん?」



 淡い光を放つマナのかたまりでもある幽霊の少女。



「どうしたんですか? こんな時間に。って、あれ? きゃぁ!!」



 少女は今更自分が鎧をまとってないことに気が付いたらしく悲鳴を上げた。

 そんな事も忘れさせてしまうほど、無色が上陸してからの生活は忙しさと重圧の彼方に様々な物を忘れさせた。

 誰もが追い詰められていて、誰もが疲れ果てている。

 誰も誰かの助けになれない。そんな余裕は何処にも無い。



 戦えれば戦えるだけ前線に出なくてはならず、戦えねば戦えぬで歯噛みしてあせり悪循環を生む。

 まったく戦えない物ならまだしも、多少なりとも戦える、そして戦えなければならないと志を持つ者ならなおの事、追い詰められる。

 まったく、どうしようもない。



「あせらなくてもいいぞ、ファルゼン」

「え、なんで……」



 そこで言葉を切るな言葉を。

 めんどくさいだろうが。



「鎧の中身だろ? 結構地がもれてたぞ」

「そんなぁ、私って」



 ドジッこ、とかいうにはちょっと見た目以上に年食ってるはずだよな、と思う。

 まあファルゼンの重厚なイメージからは想像もつかない中身だろう。

 実際俺が言ったようなドジは無かったわけだが今更知らない振りするのも面倒くさい。



「いくら肉体の無い霊体だって疲れてるだろ。休んだらどうなんだ? ファルゼン」



 話を振るとファリエルはきょと、と目を見開いた。



「月の光を浴びてるほうが、マナの回復にはいいんですよ」

「それないらいいんだが」

「アッシュさんこそ、休まれなくていいんですか?」

「たまには息抜き、夜の散歩さ」



 木の葉のざわめきの音だけが聞こえる沈黙が、しばらく続いた。

 先にそれを破ったのはファリエルだった。



「この姿のときは、ファリエルって、呼んで下さい」

「いいのか?」

「ばれちゃいましたから」

「他の守人たちは知ってるのか?」



 尋ねるのも痛いことだと思うが、尋ねないのも変だと思うので聞いてみる。



「……いいえ」

「いいえ、って……いいのか? 事情はあるんだろうが、いいのか?」

「私は……言えません。アッシュさんも、秘密にしておいてくださいませんか」

「まあ、かまわねぇけどさ。……いつか、ばれるぜ?」



 ファリエルは痛ましげに表情をゆがめて俯いた。



「いつかなんとなくばれたりするより、自分から話して貰ったほうが印象よかったりするもんだぜ?」

「はい……わかってます。いつか、いつかは、話したいです。でも……今は」



 眼差しを遠くへやるファリエルの姿におれはやりきれなくなってがりがりと頭をかいた。

 プライベートに突っ込みすぎだろ。



「もう休むわ。じゃあなファリエル」

「あ、はい」

「また明日もよろしく頼むわ」



 ひらひらと手を振りながら夜の樹上を立ち去る。

 その俺の中でナニカが囁く。



 喰ラエ
 アノマナノ塊ヲ



 自室にたどり着いた俺はどっと脂汗をかいた。

 眩暈が吐き気に繋がっている。

 心臓の鼓動が大きく響き、それが狂っていく。

 がくん、と膝から力が抜けた。



 床に体を打ち付けて、搾り出すように息をする。



 ノワール。

 俺、どうなっちまったんだろう。

 どうなっちまうんだろう。



 ノワール、ノワ-ルノワール。

 ノワー……ル。

 会いたい。

 お前に会いたい。

 なんとしても、何をしても、会いたい。



 なあ、俺のこの心は、まだ正常なんだろうか。
































 キルスレスの一部は証拠品としてアズリアが持ち帰ることで決まった。

 と言っても小さな破片だし、そもそも脱出するための船の確保から彼女達は考えなければならないわけだが、この戦いが終わったら海賊達は確実にいつか出港する。

 どうしようもなくなればそれに共に乗っていくのも悪くは無いだろうと俺は思っている。

 海賊と海軍が共にと言うのは、あっちにしてみれば笑えない話だろうが。

 残りの破片を前に溜息が聞こえる。

 これどうするの? と。ちなみに俺がパクったことはばれてないみたいだった。

 ただの破片じゃ使えないし、となったそこで俺が提案する。残りの破片で刀鍛冶に新しく剣を打ってもらったらどうだろうかと。

 それを新しい封印の剣にすることでなんとかこの場を凌げないかと。



 話し合いは紛糾したが、それで一応の決着を見た。

 なら今度は誰に打ってもらうかと言う事が問題になるのだが、俺は言う。

 メイメイさんの店の奥に鍛冶場があったと。メイメイさんに繋げばなんとかなるかもしれない、と。

 それで一応の面は立つ。



 ウィゼルはメイメイさんの店に居た。

 折れた剣に興味を示したが、俺たちのところにそのままやってきても無色のそばに居た自分がまともに話し合いが出来る、あるいは信じてもらえるとは思っていない、なのでメイメイさんを間に挟んでなんとか折れた剣を、と言うことらしかった。

 ちっ、だったらもっと足しげくメイメイさんのところに通っとくんだった。



 ウィゼルは剣馬鹿だ。

 ここでキルスレスの残骸を鍛え直すことも、これから作るもっともっと高みを見る剣を作るための過程にしか過ぎない。

 作った剣には執着を示さない。

 だから安心してキルスレスの残骸を頼む事ができた。



 他の守人たちにとっては無色の総帥と共に居るウィゼルが打った剣、ではなくメイメイさんの知り合いが打った剣、となるから揉め事は起きない。

 ウィゼルもさすがに無色の総帥の隣に立った後に守人たちの前に出て行く気はないようだった。



 で、打つとなると誰が剣の主になるのかが問題になる。

 この剣はただの鋼の剣ではなく、想いと共に有る剣だ。

 なら誰の想いと共にあるのか。



 選ぶのは刀鍛冶ウィゼルか、それとも剣か、あるいは所有者になろうとする人間か。



 ぶっちゃけ成り行きだっただろう。

 守人たちは四人のうち一人が特出した力を手に入れることを避け、海賊達はそもそも厄介ごとを招くだけの力に興味が無く、守人たちや海賊達にはひた隠しにしている物の、その剣を求めているのは俺だけだった。



 なんとなく俺以外の誰もが、なんとなく遠慮しているがソレが許されないほど事態は切迫している。

 ように見える。

 そこで白羽の矢が立ったのは俺だった。



 本家本元レックスなら全会一致であんただけだ! と言われたんだろうが残念ながら俺は多少の難色を示された。

 そりゃそうだろなぁ、と思いつつも結局俺が使えるんだからよしとする。

 ただ、普段の生活態度をもう少し改めようかとは思った。

 すこしだけな。



 剣は俺の思いを練りこまれて打ち直される。

 シンクやアリエッタへの想いを、短い間この島で育んだ想いを、そしてなにより強いノワールへの――想いを。










 汗だらけになってその剣を鍛えるのを手伝った。

 やっと打ちあがったその剣に、歓喜の念を隠せない。

 喜びが湧き上がる。

 やっと、やっと、やっと!



「完成だ」



 そう言ってウィゼルはその新たな命を与えられたサモナイトソードを俺に手渡す。

 俺はこわごわとしながらもそれを受け取った。

 俺の、未来。



「名はなんとつける」



 それならもう決まっていた。



「フォイアルディア」

「ふむ。してその意味は?」

「知らない」

「しらないのにそう名付けるのか?」

「キルスレスが生まれかかわったら、フォイアルディアだって、決まってるんだよ」

「ふむ、そんなものかの」

「そんなものなんだって」



 生まれなおしたキルスレス、今はフォイアルディアを俺は握る。

 白磁のようなしっとりとした手触りと、シャルトスとは違う無垢な意思。

 これが新しい俺になる。

 俺をシャルトスが通じる向こう側にいかせないための。



 島の人々の希望になる。

 ディエルゴの意思を封じて平穏を取り戻すための。



 俺はその無垢なサモナイトソードに、いやフォイアルディアに意思を通わせた。

 みなぎるマナが、俺の体を作り変えてく。

 剣から、俺から、あふれ出ていく。



 一度砕けてまた生まれ変わった紅は死んでまた生まれなおす不死鳥の炎のようにも思えた。



 新しい俺の心が産声を上げた。


















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広げた風呂敷は畳むほうが大変なんだとサザンアイズを読んで知りました。


予告。
作者は水戸黄門が好きです。

投稿12/15
同日修正
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[3493] じゅうななかいめ=完
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/01/26 18:02






 核識の間に突入する組みを決めて、せめて一夜休息をとろうと言う事になった。

 そのメンバーに全力を出してもらうために、だ。

 もちろんそのメンバーの中に俺も居る。

 俺が、フォイアルディアをもって核識の座にたどり着く事が最優先だからだ。



 そんな夜だった。

 俺は一人で寝付けずにいた。

 他の仲間たちはもう皆疲れ果てて深い眠りについている。

 起きているのは寝ずの番についている人たちくらいだ。



 俺も寝なければならない。

 それは分かっているんだが……眠れない。



 心がざわめいていた。

 どうしようもないほどぐらついていた。

 いくらノワールを思っても埋められない。収められない。

 ノワールを思う気持ちがすこしずつ何かに浸食されていく。



 あの時、俺に“喰ラエ”と言ったナニカが――いや、違う。ナニカじゃないな。

 その正体ならもう分かってる。



 ディエルゴ。

 ハイネルのディエルゴ。



 寝付けずに外に出てきた俺の目に、大規模な攻勢をし掛けようと準備をしている無色の姿が目に映った。

 まだプラナノから報告は入っていない。

 だいたいはプラナノが真っ先に気がついて第一報、となるのだがプラナノが気がつかないことも侭有る。

 植物は情報に関してアクティブじゃないからだ。

 プラナノから求めない限り、植物のほうは身近で人間が動いているくらいのこと伝えたりはしない。

 火薬のにおいがしても、煌々と明かりが照らされても、切り倒されても。

 プラナノから求めない限り植物の言葉はハッキリしない。

 だから、その目を掻い潜る事もできる。



 無色の派閥。

 やつらさえ、居なければ。



力が欲しいか



 欲しい、欲しくない。



奴等を倒せる力が、欲しくないか



 欲しくない、欲しい?



望め、倒せ、我がその力をくれてやろう



 ち、から――



打ち倒し、そしてたどり着け、我が元へ――



 いって、どうなる。俺は、行けない。シンクとアリエッタを困らせる。



会いたいのだろう。愛しい者と



 ノワール…………








 俺は立ち上がった。

 倒す。邪魔者を。

 無色の派閥を倒して、オルドレイクを倒して、俺は行く。



 剣を呼んだ。

 シャルトスも、フォイアルディアも。

 新しい紅も、まるでキルスレスのように染まっていた。



 俺の力。



 白く染まった肌と白く染まった髪。

 両手に剣を引っさげて、俺は強化された体を頼りに木の上から飛び降りた。

 まだ、まだ気が付かれるには早い。

 高揚する気分に叫び声をあげたいのを堪えて俺は無色の陣営にたった一人で奇襲をかけた。



 負けない、死なない。

 傷つく側から剣の魔力がそれに最適化して変異した俺の体を癒していく。



 叫び声が聞こえる。

 うめき声が聞こえる。

 全ては俺が齎したものだった。



 俺を呪う声がする。

 目の前に居た人間を切り飛ばした。

 足元に転がってきたのは長い髪をした男のクビ。



「あなたーーーーっ!!」



 叫ぶ女も切り殺した。

 そのとき。








 俺は越えてはならない境界線を、越えてしまった。








 歓喜にむせぶような、くぐもった声が思考を漂白するかのような膨大なマナと共に俺の中に溢れかえった。

 そのマナの衝撃が、俺を正気に帰す。

 だけど、もう遅い。間に合わない。俺は――取り返しがつかない。



 俺は駆け出した。

 今までは俺の邪魔をするどころか路を明けるようにすらしていた島が俺に牙を剥き始めた。

 俺の邪魔をしないように、俺の通り過ぎる道を塞ぐように生まれた怨嗟の球体が、俺の前にもたちふさがり始める。

 俺はそれを一刀の元に切り捨てる。



 それは俺の脚を止めさせるほどの力ではなかった。

 ディエルゴは大分力を取り戻している、けどその主体はまだ俺に有る。

 だからあせっているのだ。



 俺に正気に返られたことに。



 だけどよくやったよディエルゴ。

 意識だけは正気に返った。

 それでも俺は、もう戻れない。

 戻れないところまできてしまった。

 惜しかったな、ディエルゴ。



 俺はそう嘲笑う。

 一刻でも早く、あいつらが来る前に、俺は決着を付けてやるよディエルゴ。



 走った。

 あらゆる敵を跳ね除け、切り崩し、走った。



 まだ違う、けど戻れないほどにはディエルゴに近付いた俺はナカマたちが起き出して俺を探しに迫っている事を感じていた。

 俺が壊滅させた無色の派閥の陣営を発見して滴るほどに浴びた返り血が続く方向に正確に俺を追ってくる。

 だけど間に合わない。

 俺のほうが先にたどり着く。



 薄暗い階段を抜け、頑なに閉まったままの扉を強引に開かせる。

 その向こうに見える、猛り狂った核識。

 ディエルゴ。



 見上げれば声にならない唸りが俺を威嚇する。

 愚かで、そしてかわいい奴だ。

 後一秒、後一分、俺が境界を越え自分のものになる喜びを抑えていたなら、俺はお前の端末に成り下がっていただろう。

 生きた肉の人形としてディエルゴの名乗りを上げたんだろう。



 その僅かの忍耐が出来なかったかわいい奴。

 俺は、許さない。

 何よりも許せないのは、俺のノワールへの想いを――利用した事だ。



「お望みどおり来てやったぜ? ディエルゴ」



 ただし。



「あんたの端末じゃなくて、あんたの終わりとしてだけどな」



 部屋の中には腐ったマナの臭いが充満していた。

 ごめん、ノワール。

 そう心の中で呟いて、俺は最後の抵抗を試みるディエルゴに、最後の戦いを挑みにいった。













 いつの間にか居なくなっていたアッシュを追ってユクレスを出た彼らは、そう遠くない場所で壊滅した無色の派閥の残骸を発見した。

 人の業とも思えない残虐な現場で、ソノラなどは駆け出したかと思うと嘔吐してしまっていた。



 ふと何かを見つけ歩み出したヤードが立ち止る。

 その足元には怨嗟の表情を浮かべた黒髪の男のクビがあった。



「オルドレイクです」

「こりゃ、壊滅だな」



 苦々しい表情でヤッファが言った。

 彼の獣の嗅覚にはこの場所はきついだろう。



「……これを、アッシュが」

「状況的にそれしか考えられないわね」



 呆然とするかのように立ち尽くすキュウマにアルディラは可能な限り平静をよそおってそう返した。

 そんな彼女の内心も、一皮向けばキュウマとそう変わりは無い。



「あのすっとぼけた男が、こんなことを……?」

「あれしか方法が無いのは確かだったわ。でも、想像以上に危険だだったわね。……彼は、魔剣の魔力に呑まれたのよ」

「そんな、そんなことがよっ――!」



 アルディラの冷静な言葉にカイルの心に火が付いた。

 その声があまりに冷静に聞こえたから逆にカイルの心は猛ったのだ。



 そしてアッシュと一番親しかった二人の子ども達は、ただ黙ってその現場を見つめていたが、誰よりも早くそれを感じ取り戦闘体制に入った。

 それを見て他の人々も気付き出す。

 自分たちが囲まれている事に。



 するりと延びてきた蔓が、彼らを取り囲んだ球体を鞭のようい弾き飛ばした。

 現れた花が種を飛ばして攻撃する。

 それでも、その球体は際限が無いかのようだった。



「いこう、早く捕まえなきゃ」



 少女が血痕の続く方角に顔を向け言った。



「ああ、じゃないと」



 少年も言う。







 こんどこそ一人で行ってしまう。


















 もうすぐ夜明けも近くなるだろうという頃合だった。

 不意に彼らの行く手をふさいでいた球体が次々と姿を消していく。



「消えた?」



 誰かがそう呟いた。

 その途端に二人の子ども達は弾丸のように飛び出していた。



 走って、走って、走った。



 激しい戦闘の痕跡のある森の中を。

 薄暗い階段を。

 こじ開けた痕跡のある扉を潜って彼らは行った。

 一部崩れ落ちた天井から、昇りはじめたばかりの朝日が差し込んでくる。

 その光が、鮮明にその光景を彼らの目に映し出した。



 いった、いった! いってしまった!

 こんどこそ、間違いなく自分たちを置いて。

 間に合わなかった、間に合わなかったっ!!



『アーーーッシュッーー!!!』



 悲痛な叫び声が島を覆った。



 光を失った核識と、二本の剣でまるで昆虫標本のようにそれに磔られた――アッシュの姿を。

 自分でやったことを示すように、刺さった一本の剣には逆手で添えられた手が載せられたままであった。



 駆け寄り、剣に手を載せてどれだけ引っ張ってもそれは抜けなかった。

 なのに磔になっている彼の表情には、自嘲めいているがかすかに納得したような表情が浮かび、鼓動は感じられないのにその体はいつまでも熱を失う事は無かった。



 生きていない、死んでいない。

 その狭間に彼は居る。

 けれど、誰もそれを生の側に引き戻す事も出来なかった。



 無色の派閥の総帥は死に、ディエルゴは封印された。

 無色も当分はこの島を思い出しもしないだろうし、ディエルゴもまたそこにアッシュの体温が残る限り復活する事は無いだろう。

 だがこの島は、真実に近しい者たちは今までとはまた違う一つの枷をその身に繋ぐ事になる。










 観測者は遠く呟いた。

「また、お酒の量が増えるわねぇ」

 呟く彼女の前にはすでに数え切れない酒瓶が転がっていた。










副題・カルマの坂を転がり落ちる――完――




[3493] 十七回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/01/26 18:06







 核識の間に突入する組みを決めて、せめて一夜休息をとろうと言う事になった。

 そのメンバーに全力を出してもらうために、だ。

 もちろんそのメンバーの中に俺も居る。

 俺が、フォイアルディアをもって核識の座にたどり着く事が最優先だからだ。



 そんな夜だった。

 俺は一人で寝付けずにいた。

 他の仲間たちはもう皆疲れ果てて深い眠りについている。

 起きているのは寝ずの番についている人たちくらいだ。



 俺も寝なければならない。

 それは分かっているんだが……眠れない。



 心がざわめいていた。

 どうしようもないほどぐらついていた。

 いくらノワールを思っても埋められない。収められない。

 ノワールを思う気持ちがすこしずつ何かに浸食されていく。



 あの時、俺に“喰ラエ”と言ったナニカが――いや、違う。ナニカじゃないな。

 その正体ならもう分かってる。



 ディエルゴ。

 ハイネルのディエルゴ。



 ふぅ、と俺は息を付く。

 陥落するもんか、と決意を固めなおして。

 ……極限の眠気とうたた寝の如くちょっとばかり自分が信じられなかったりもするが何回でもそうやっていくしかしかたが無い。



 寝付けずに外に出てしまったのが運のつき。

 余計に目が冴えたぜ俺のバカヤロウ。



 そんな俺の目に、不意に大規模な攻勢をし掛けようと準備をしている無色の姿が目に映った。

 まだプラナノから報告は入っていない。

 だいたいはプラナノが真っ先に気がついて第一報、となるのだがプラナノが気がつかないことも侭有る。

 植物は情報に関してアクティブじゃないからだ。

 プラナノから求めない限り、植物のほうは身近で人間が動いているくらいのこと伝えたりはしない。

 火薬のにおいがしても、煌々と明かりが照らされても、切り倒されても。

 プラナノから求めない限り植物の言葉はハッキリしない。

 だから、その目を掻い潜る事もできる。



 夜討ち朝駆け基本だろうがもうすこしゆっくりさせてくれっつーの。



 ったく、無色の派閥。

 やつらさえ、居なければ。



力が欲しいか



 どくん、と一際強く魔力が注がれた。

 視界を埋め尽くし、心を埋め尽くし、考えを埋め尽くしていく。



力が欲しいか



 欲しい、欲しくない。



奴等を倒せる力が、欲しくないか



 欲しくない、欲しい?



望め、倒せ、我がその力をくれてやろう



 ち、から――



打ち倒し、そしてたどり着け、我が元へ――



 いって、どうなる。俺は、行けない。シンクとアリエッタを困らせる。



会いたいのだろう。愛しい者と



 ノワール…………









 会いたい、逢いたい――

 ノワール――







 俺は立ち上がった。

 邪魔者、無色を倒す。

 倒して、そして――



「こんな時間になにしてるのさ、アッシュ」



 腕組みして立つシンクの声にふと視界のに色が戻ってきた。

 どこか遠くで忌々しげな舌打ちが聞こえたような気がして俺はにやりと笑ってしまう。

 ザマァ見晒せディエルゴめ。



 覚えて居やがれクソッタレディエルゴ。

 人様の純情もてあそびやがって。

 神様気取りがタダで済むと思うなよ。

 神様どころか、出来損ないの怪物だ。

 昔っからな、怪物ってのは最後には人に負けるって決まってるんだよ!!!








「アッシュ?」



 内心でディエルゴにべろを出しているとシンクに再び声を掛けられた。

 不信さをにじませて。



「ま、ちょっとな。進退かけた闘いだと思うと感傷に浸ってただけさ」

「いいけどさ、ほどほどにしておきなよ?」

「もちろん、次に影響させるつもりは無い」



 と舌の根も乾かぬうちにのたまう俺はかなり性悪だな。



「感傷に負けて明日を潰しちゃ元も子もないからな」

「わかってるなら」

「さっさと寝るよ」



 目を見合わせた俺たちは、同じタイミングで肩をすくめてまた同じように苦笑した。

 そして肩を並べて寝床に帰る。

 シンクの肩は小さくなった。

 そして俺の肩は大きくなった。

 明らかにアッシュのものより上背の有るレックス。

 こうやってまた肩を並べられるなら、まあ色々理不尽を嘆いたりもしたが全部が悪でもないだろう。

 今更一つや二つと言う話だな。



 と、美しく切り上げようとしてふと気がつく。

 ……忘れてたぜ、無色の派閥を。

 俺は立ち止って呼びかけた。



「シンク」

「なに?」

「そういや下に無色が来てるんだよ」



 ほんのすこしの間抜けな空白のあと、シンクは深々と溜息をついた。



「そういうのは先に言ってよね」



 と。

 実に全くな言葉だ。



「そこでだ、シンク」



 俺は最終決戦ならディエルゴだけじゃなくて無色も蹴散らしてやろうと提案する。

 俺はシャルトスから知ったわけだが、フォイアルディアの主となり、魔力の根源であるクリプスに接続する事が出来るようになったから、とシンクとアリエッタ以外には誤魔化して話した。

 が、明日以降はもうディエルゴの封印が完全に解けるだろうとは話している。

 だからの最終決戦。

 なのだが、ディエルゴはともかく無色はまだ止めを刺しかねていた。



 無色と戦っているとディエルゴの端末が出てきて気がつけば三つ巴、決定打の無いまま解散、てきな流れがここのところパターンだった。

 敵の敵は味方とは簡単にはいかず、無色も俺たちもディエルゴとは絶対に相容れない

 それだけを見れば共通の敵、なんだが俺たちのとっては平和の天敵、無色にとっては実験機材に屈するなど有り得ない、的な意味で、敵する中身が違ってくる。

 そのうえ俺たちと無色もまた相容れない。



 昔、あの不気味な泡の物語を読んだ時に、世界の敵の敵、って、世界の味方ではないんだろうな、となんとなく感じたあれみたいな。

 結局どうなったのかしらねーけど。



 まあとにかくそんな訳でしょーも無かったわけなんだが。

 向こうも奇襲を掛けるつもりだったんだろうが、その奇襲にこっちが先に気がついた。

 だったら奇襲してトドメさして清々しくディエルゴ討伐にいこうじゃないかと。



「プラナノー」



 と呼びかければにょっきりと床から花が咲く。

 伝声官みたいなもんだろうか、ラッパ型の花の先からプラナノの声が響く。



『なに? アッシュ』

「たぶんディエルゴも全力でここを落としに来ると思う。んだが、プラナノは守れるか?」



 尋ねれば沈黙が落ちる。

 声の向こうで考えているのだろう、この質問の真意を。



「守れるなら、俺たちは心置きなく戦える。無色も、ディエルゴもまとめて」



 無色もディエルゴも、しんそこ痛いのは手勢を分散させてくる事だ。

 守るべき、守りたい者たちがいるこの場所を奴等は共に脅かしてくる。

 それさえ守れるなら、俺たちは心置きなく一点突破、奴等を壊滅させて見せる。



『出来る、けどそれをやるとあんた達の手助けは出来なくなるよ? こっちも植物の勢力争いが激しくなってきてるから』



 プラナノ自身が力を発揮できる範囲も、ディエルゴが勢力を取り戻すに取れて減少していた。

 ディエルゴの復活も近いが、それも含めて二重三重の意味で、もう最終決戦にしなければならない。



「ああ、それだけでいい」



 それだけで心置きなくあいつらを叩ける。



「中の奴等叩き起こしてくれ。ディエルゴのところまで行かない奴も無色戦には突入させよう。この場所に対する守り手は必要ないって伝えてくれ。プラナノ、頼りにしてるぞ」



 そういえば答えの代わりなのか目の前ににょきにょきと蔓が伸びてきて葉が茂って花が咲いた。

 薄桃色で肉厚の花弁が五枚、掌に乗るほどの大きさがあるしっかりとした花だ。

 少女が髪飾りにするような、そんな花だ。

 さっぱり意味が分からん。



『リコの花よ。身につけてると一度だけ身を守ってくれるわ』

「そっか。サンキュ」



 俺とシンクはその花を一厘ずつ手に取ると、それぞれ胸に戴いた。

 そして、これから起き出してくる奴等に先駆けて、まずは無色の本陣へと、奇襲を掛けに飛び出していった。



 プラナノが食べると魔力回復する実、と言うのも開発してくれたので心置きなくまずは牽制に召喚術を使うことにした。

 呼ぶのは毎度の事、召喚獣ククリだが、その召喚魔法は何が起こるか分からない部分に期待する。

 「失敗しちゃった!」とか言う召喚獣だから、その効果が期待するほどあるかどうかは分からないのが玉にキズ。

 だからこそ一か八かの賭け、か。

 だがまあまずは、効果のわかっている魔法陣から使ってもらおうっ!



 こそこそと近寄って警戒に当たっている赤き手袋の暗殺者達に気が付かれないギリギリの位置で召喚した。

 ま、召喚すればさすがに気付かれるわけだがそこはそれ、ククリはすごいぞー?

 ぐるぐる回って踊って魔法陣を描いて敵の目を釘付け、声もあげさせずに



「できた」



 とにっこり魔法陣をトンと叩く。

 と。



『オア~~~~~~~~~~~~~~~』



 呼ばれたのは長い声のネコ!

 くどい顔からながーーーーーーーーーい、声で鳴き声を出す。

 これでまずは敵の戦意を著しく削ぐ。

 といっても暗殺者たちはこの程度じゃ堪えもしないから第二段。



「敵襲だ!」



 と叫び声が聞こえるけどククリは描く。

 今度は俺、効果知らないかだどきどきだ。

 とりあえずあとは中間達と合流しようと呼び逃げした。



 すぽーん、と効果音が後ろから聞こえる。

 なんかまぬけだな。

 ま、何が出るか知らないがとりあえず少しの時間稼ぎにはなるだろう。



 と思っていたら……。



 なんだ?

 なんか、叫び声の種類が違うぞ。

 不審に思って奴等が見える位置に移動して観察すると、剣の変わりに牛蒡を抜いて、伝令はとんでもない内容に改変されて、召喚すれば必ずタライ。ドリフかよ。

 走り出せば躓いて、犬の糞を踏む。

 ……なんというか、とてもサッパリだった。

 何をやってもサッパリ、と言うか。

 頭の上を渦巻き模様の扇子を持った妙な奴等がクルクルと踊っている。

 そいつ等が扇子を振りながら『ハァ~、サッパリサッパリ』とか言っている気がするぞ。



 なんか、見ていて憐れになってきた。



「あれは一体なんなんですか」



 さすがキュウマ、シノビだ。いつの間に俺の隣にきやがった。



「召喚魔法の効果らしい。どうにも何もかもサッパリになるようだぞ」

「あれならすぐにでも倒せそうですが……なんだか」



 といって口篭るキュウマ。

 言っていいものか悪いものか。

 悪くないんだろうが、仇敵に対してそんな言い方は納得しかねるところがあるのだろうか。

 きっと思いは同じだろう。



「なんか、あそこまでサッパリだと憐れだよな」

「……ええ」



 ものものしいフル装備のキュウマは重々しく頷いた。



「なんか、思ったより楽に行けそうだな」

「そうですね。暗殺者の最も恐ろしいところが、あなたの召喚魔法によって削がれてしまっています」

「じゃあ、とっとと終わらせて次ぎにいこう」

「ですね。ユクレスにはもう、ディエルゴの魔の手が伸びていますから」



 気が早いディエルゴだ。

 そうとなったらなおさら決着は急がなけりゃならない。



「俺がもう一度召喚するから、その効果が切れた後に突入してくれ」

「了解しました。ご武運を」

「お互いにな」



 今度は渋く決意を滲ませて頷くと、キュウマは後方に今の言葉を伝えるべく駆けて行った。

 俺はぺろりと唇を舐めて気合を入れる。

 さあ、もう一度召喚に答えてくれグルグル使いククリ。

 あんた最高だ!

 次は何が出るのか。

 安全策をとるなら、もう既に知っている召喚を頼んだほうがいいのだろう。

 だけど、この期に及んで俺の心はもう留まらない。

 何を、しでかしてくれるグルグル使い。



「召喚、ククリ!」



 もうはばからずに声をあげて喚んだ。

 こっちに気がついた暗殺者がとっさにナイフを投げるがそれがハトになって空を飛んでいく。

 いつの間に手品まで身につけたんだ!

 すげぇ、サッパリ妖精。



 喚ばれたククリがこっちを見る。



「最終決戦なんででかいの一発頼むわ」



 その言葉が通じるのかどうかは、分からない。

 ただ、この闘いで何が出るのか、俺は楽しくすらなってきていた。



 杖を使い、陣を描くククリ。

 いつものようにとん、と出来上がった陣に杖を乗せるとき、ククリは呟いた。



「おねがい、来て!」



 ……俺も逃げるべきか? と思った。








 時にはもう遅く、足元が盛り上がっていく。





 ズズズ……ズズ…ズズズズズズズズズ――ズン。



 で、でけぇ。

 なんだこれ。

 これはあれか? ここでムスカをやれというお告げか?

 人が○○のようだ!

 高けぇー!



 微振動するこの召喚生物の上で、俺はそんな事を思っていた。

 にじり寄るように端に寄って下を覗きこむと、ぎょろりとしたでっかい目玉と目がかち合った。



「や、やあこんにちは……」



 目玉は知らんとそっぽを向いた。

 目を逸らされたのにほっとしてぐるりと見てみれば、その目玉はこのぐるりと取り囲むようにずっとあるようだった。

 でかい。

 でかさは力だと、誰かが言ったし俺もそう思う。

 が、もしかしてこれってこのまま移動して"新鮮なミートソース作製大作戦!”とかになるわけか?

 だとしたら、ちょっといや~、っていうか、うーん……。



 と、悩む暇もなかったらしい。



「やっちゃえー!!」



 とククリが号令を出しやがった。

 いや、責めてるわけじゃないんだがっておわっ!!



 俺は耳をふさいでその場に伏せた。

 すげけ、雷だ! 電気だ!

 バリバリだーーー!



 空気中を無理やり電気が通る時の轟音がする。

 すっごい、腹の底にずんずんくるぞ!

 なんだか気分が爽快になってくる!



 雷光にかき消されて地上の様子は全く見えない。

 ただ、このククリの呼んだ何かの独擅場だろうというのは簡単に想像できた。

 俺は気分爽快だが地上の仲間たちが心配になってくる。



「ありがとう、ベームベーム。もういいよ」



 ククリがベームベームと言うらしい足元の巨大なナニカにそう告げると、それは来た時の逆回転のように再び大地に沈んで行った。

 なんか物理法則を無視してるよな。

 ベームベームが地上の到着するかしないかのころにククリも送還されて帰っていった。

 そして俺の目に映る……惨状。

 すげぇ。

 全滅とか壊滅とか、そんな感じだ。



「おーい、皆無事かー!」

「こちらに被害はありません」

「どうやら、指向性の有る攻撃だったみたいね」

「驚いたぜ」

「今までの苦労がばかばかしくなるね」



 叫んでみると、次々に声が返ってきた。

 よかった、みんな無事だ!

 喜びを分かち合おうと駆け出すちょくぜんに、それは聞こえた。



「くっ」



 と苦しげな息が聞こえてそっちを向いた。

 そこにはまだサッパリ妖精を頭の上で躍らせているオルドレイクがいた。

 さすが魔力耐性が高かったんだろうか。



「ふはは、霊石も手に入れたしこの島の調査もした。剣も折れたとあってはもうこの島に興味は無い」



 すげぇ、サッパリの威力に逆らって普通に台詞言ってるぞ!

 だけどまるっきり負け犬の遠吠えだよな?



「だが覚えておけ、我々無色が世界を変えたあかつきには世界中の犬の糞を踏みつくしてくれる――!」



 俺は唖然とした。

 いま、こいつ何を言った?

 やっぱり逆らえているように見えてサッパリの威力には逆らいきれていなかったんだ。

 それにしても衝撃の台詞だった。



「プッ」



 と噴きだすとオルドレイクは悔しそうにギリギリと歯軋りした。


 あっちからもこっちからも、ぷぷっ、くすくす、と堪えきれない笑い声が漏れている。



「撤退だ!」



 と叫ぶと、オルドレイクは足元のおぼつかないツェリーヌを抱えて率先して去っていく。

 意識ある者、動けるものが残りの者を抱えて去っていく。

 追撃をかけるつもりは無い。

 この島に関わろうとさえしなければ、それでいいんだ。



 俺はぐっと拳を握った。

 やった。

 やった!



「やったぜ無色を倒したぞー!!」



 空に拳を突き上げて俺は叫んだ。

 










[3493] 十八回目=終わり
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/02/02 18:52






 実質殆ど戦闘なし。

 損害無しの最良の一方的な闘いだった。

 減ったのは俺の魔力だけ。

 マナの回復ならプラナノが作ってくれた実があるから問題ない。



「あんたならできるオルドレイク! きっと世界中の犬の糞を踏みつくしてくれるさ!」



HAHAHAHAHAHAHAHA!



 と俺たちはだれかれと無く手を打ち合わせて大笑いしながら騒いでいた。

 この勝利は劇的だった。

 最高だった、あのオルドレイクは。

 と騒いでいたら、がぶりと足にナニカが噛み付いて飛び上がった。



「な、なんだこれは!」



ガチガチ草だ



 ……なんか、テロップが入ったような?

 叫び声が複数聞こえて見てみれば、周囲で仲間達がみんな噛み付かれていた。

 驚いただけでたいして痛くは無いんだが……とうとう植物の支配権もディエルゴに? と思えば目の前ににゅーっとプラカードが伸びてきた。

 なんだ、と思えばプラナノからのメッセージ。



『やばいからさ、はやくしてくんない?』



 俺たちはピタリと騒ぐのをやめた。

 耳を澄ませば聞こえるドンパチ。

 集落のほうだろう。

 ディエルゴの手駒は疲労を知らない無限の軍だ。

 プラナノ一人の手には余るだろう。



 ガチガチ草とやらが離れたので俺たちはそれぞれの役目を決めて次ぎへ臨む事にした。



 ディエルゴのところに突っ込むメンバーを残して、他はユクレスへの増援と、ここで倒れている中で生きている奴を縛りあげて連れ帰る役とに分けた。

 そしてディエルゴへ向かうメンバーはである俺は、次ぎの闘いに向けてプラナノ謹製のマナ回復の実を食べた。

 た、べた……。



「どうしたんですかアッシュ」



 俺がそのまま動かなくなっちまったからアリエッタが困ったように呼びかけてくる。

 俺はぎこちなく振り向いた。



「……アッシュ、顔、壊れてます」

「苦くてからくて酸っぱくてマズイ……」



 やべぇーよこの味。

 唾液が止まらん。














 それでも魔力は回復したので口の中になんとも言えないあとひくマズサを残しながらも俺たちはディエルゴのいるその場所へ向かって直走る。

 メンバーは俺、シンク、アリエッタ、守人たちの中でも強力な召喚術に期待と言うことで頭脳派アルディラとその従者的なクノン、ヤード、壁役で期待と言う事でカイルとヤッファ。

 機動力にキュマとスカーレルをセレクト。

 遊撃部隊がシンクとか俺とかアリエッタで。

 ソノラの銃はいかんせん、頭とか心臓とかそういう意味での弱点をもたない無生物には攻撃力が低すぎるし、それを補うために大口径の銃を使うにはソノラは華奢だった。

 それに混戦になれば射線上に仲間がいることも多くなる。

 なので今回はパス、里で牽制約としてがんばってもらう。

 ファルゼンは、マナの汚染により単純に体調が悪い。

 幽霊に体調不良とかあり? とか思ったけど幽霊だから仕方あるまい。

 いまのディエルゴの悪意に満ちたマナは辛いんだそうだ。



 元はあんたの兄だろー、とかちょっと思ったがもはや別物だよな、とすぐに考え直す。

 そういやゲームでは時々姿を現していた本家ハイネルはどうなったんだべ。

 こっちに来てから見た記憶が無い。



 や、別にあいたか無いが、ちょっとは考えたりもする。

 いま覚醒してディエルゴ押し留めてくれたりしたらかなりありがたいなぁ、とか?

 まあムリだろうがな。

 そもそも自分にムリだから何とかしてくれって出てきた奴だったような気がするし。



 と考えている間にも足はずんずん進んでいく。

 正直壁役が要らなかったんじゃないか? ってなくらいの強力召喚術連打だ。



「来なさい、機神ゼルカノン!」



 とアルディラが言えばそれにクノンが同調する。

 そして放たれるのは強力な協力召喚「神剣イクセリオン」

 その直後にはヤードが召喚術を使い敵を蹴散らす。



「来なさい、聖鎧竜スヴェルグ」



 どの技使うの? って一個しかねぇよな。



「断罪の無限牢!!」



 一面の敵が消滅する。

 その隙を踏破すればまた湧き出てくるわけだが、それも隙なくアルディラが召喚する召喚獣によって蹴散らされる。



「ヴァルハラ!」



 呼び出された機界最強の召喚獣が、破滅の引き金を引く。

 機界の召喚獣は当たり一帯の敵を一掃しまくった。



 グルグルも反則だな、と思ったがこっちも反則だよな。

 魔力切れ気にしなくていい召喚師、ってのは反則だよなぁ、とか?

 召喚から召喚まで、召喚時のタイムラグも、二人の召喚師が交互に召喚する事でほとんど無い物としてしまえてる。

 そうして強力な召喚獣を召喚した奴等はガリリとあのクソ不味い魔力回復用の実を食べる。



 一応前衛後衛機動力、と戦力揃えてきたはずなのに、なんなのこのハメプレイ。

 ディエルゴ形無し。

 プラナノ強えぇ。



 あっという間に識幹の間にたどり着き、踏破し現識の間を蹂躙し、核識の座にたどり着く。

 満ち満ちる腐ったマナの臭いがする。

 核識は言葉なく唸り声を上げると痛み、嘆き、憂い、怒りを呼び出した。



 俺は口角を吊り上げる。

 まだ最後の封印は俺が握っている確信が持てた。

 ディエルゴはあの球体を呼び出して応戦する。

 そこまではできる。

 だが最後のところ、世界に名乗りを上げることはまだ出来ない。

 俺が、握っている。



 ディエルゴは全力になれない。

 俺が持っているシャルトスを破壊しない限り。

 俺はフォイアルディアを喚ぶ。

 抜剣覚醒をして、ディエルゴを挑発する。



「いくぞー、最終決戦だー!!」

『おおーっ』



 叫べば頼もしい声が返ってきた。

 最初のあの世界の頼もしい50人の部下もいなければ、逆行もどきを体験したあの世界での漆黒の翼を初めとした頼もしい仲間たちもここにはいない。

 それでも、また何処へでも行けるような気分にさせてくれる人たちがいる。



 俺はシンクに眼差しを向ける。

 こくん、と頷き返してくれる。

 アリエッタと眼差しを交す。

 こくり、と頷いてくれる。



 何処へでも行けるような、そんな高揚感を与えてくれた仲間たちを、俺たちは一つ裏切るのだろう。

 表向きは彼らと同じくディエルゴを封印するため。

 だけどその裏向きには、ディエルゴの支配権を完全にこちらが手に入れようという思惑がある。

 それは、多分でもなんでもなく彼らに対する裏切りだ。

 胸が痛んだりしないわけではないが、それでも、諦められない。



 何処までも行けるような気分にさせてくれる仲間が出来た。

 そして裏切りを共に抱いてくれる、何処までも共に落ちてくれる仲間もいた。



 この剣が、心で強くなれるなら。

 多分今、俺最強。



ゴォォォオオオォォォオオ



 とディエルゴが唸る。

 言葉にならない言葉で俺たちを罵り、怒りをぶつけ、痛みを知れという。

 そんなもんとっくに知っている。

 お前なんかに与えられなくても世界には溢れている。

 だからこそ、と言うわけではないが、どんな些細な幸せも、お前のようなものに奪われていい代物じゃない!



 新しい俺、フォイアルディアと言う楔をディエルゴに打ち込もうと俺は先陣を切って踏み出した。












 さすがディエルゴの勢力圏内、というか半端なかった。

 呼ぶは呼ぶは呼びまくる。

 そのうえアレだ、ここに来るまでは主戦力だった召喚師二人が広範囲召喚術使えないせいで単体撃破と体力回復に移ったから爽快感が少ない。

 まあその分その時には活躍の場が無かった前衛のカイルたちが大活躍しているわけだが、それでも呼ばれる数に叶わないというか。



 俺も隙を見て召喚しているんだが……ニケのカッコいいポーズ! で一度は消滅させてもすぐに復活するし、戦意喪失を狙って長い声のネコを呼んでもあの丸いの、感情の名前こそついてるが無機物に近いんじゃねぇの? とか思う。

 あるいは、純粋はその感情であるが為にそれ以外を知らないから効果が無いか。

 鳴いた次の瞬間には叩き潰されるし。



 トーラとかトカゲのシッポとか、その辺は単体だから召喚の時間をかけるぐらいなら俺が直に突っ込んだほうがいいし、よし、それならベームベームでディエルゴごと! と考えるのは自然な事だろう。



「召喚、ククリ!」



 と闘いの隙間を縫って呼び出せば



「失敗しちゃった……」



 しょんぼりいう様子はかわいいが今は勘弁してくれーっ!



 失った時間を取り戻そうと駆け出そうとすれば、ふいに一斉に球体の攻撃が止まる。

 空気の色さえも一瞬にして塗り変えられた、そんな気がした。

 錯覚ではない。

 空間が明滅する。

 ディエルゴが身震いする。



 ドォォオン



 と震えたのは、この場所か、それとも自分の魂か。

 パリン、とリコの花が俺を、装備する俺たちを守って砕け散った。

 全ての存在を否定する意思を感じた。



 だめだ、じっくりなんてやってらんねぇ。

 何が起こるかわからない、その最高峰、挑戦してやろう。



「シンク、アリエッタ!」



 呼びかければこちらを振り向いて、その場の戦闘を強引に放棄して駆けつけてくる。

 何? 何の用? といわせる暇もなく、俺は二人の手をとり重ねあわさせた。

 シンクと、アリエッタの手を。

 その中に一つの召喚石を握らせて。



「露払いは俺がする。これで協力召喚をしてみてくれ」

「それで勝てるの?」

「わからん、賭けだ」

「でもやるしかない、アッシュはそう思った」



 アリエッタが俺を見上げてそういった。

 俺はただ頷いた。



 ふぅ、とシンクの息をつく音がする。

 余裕がなくなっていると思ったが、どうやらなんとなくいつものペースを取り戻しているらしい。

 早くしてくれー、と向こうから声も聞こえている。



「たのんだ」

「わかった」



 そして俺も乱戦の中に身を投げ込んだ。

 この後ろに、何一つの怒りも憂いも嘆きも痛みも通さない心で。



「それで、アッシュさんよー、なんかまた切り札なのかい?」

「分からんが、条件的に俺には呼べないからな。多分かなり協力なんじゃないかとは思うぞ」



 そろそろと近付いてきたカイルと剣戟の合間に言葉を交わしてまた離れる。

 切り倒す、復活する、また切り倒す。

 フォイアルディアによって強化された体でも疲れを感じてきているなら、ただの生身であるカイルたちはどれほど疲れているだろうか。

 一人で二人分も三人分も頑張らなければならないと気合を入れなおした。

 まあ、すっげー不味いからそっちの意味で精神力を削る気はするがマナの回復に関してだけは心配要らないから、持久戦も出来なくは無い、があっちは時間が経てばたつほど有利、こっちは精神がもたなくなる。



 はやく、早く、と背後に守る二人の召喚術の成功を、それだけを心に願った。






 影が差し始めた心に、ふと光が灯った気がした。

 守っていた背後から光が溢れてくる。

 そして、その光に耐え切れぬとばかりに身を震わせるディエルゴ。



 それがなんなのか、俺は振り返った。



 核識の痛みや嘆き、憂いや怒りが次々と消滅していく。

 ふわり、ふわりと湧き上がるなにか暖かい気持ち。

 ディエルゴが齎そうとしたものとは全く正反対の、それは闇であっても心地よい休息を齎す側面のような、夜空の月や星のような喜びのような。

 むず痒くなるほどの誰かを思う気持ち。



 空中でククリが指先で魔法陣を描いていく。

 その中に居るのはククリのほかにもう一人、ニケ。

 その二人を包み込むように魔法陣は作り上げられていく。

 ククリが指を滑らせるたびに完成されていく魔法陣。

 眩いばかりに輝くハート。



「これは……」



 俺は思わず溜息をついた。

 無理なわけだ。

 俺に、今の俺に呼べるはずが無い。

 愛する二人が協力して召喚、なんてそんな条件。

 俺には、ノワールがいなきゃ。



 誰かが誰かを思う心。

 そんな魔法が目の前にあった。

 拒絶するディエルゴとはまったく逆の心のベクトル。

 たしかに、これは最強だ。

 そしてこれを呼び出せた二人の絆も、また本物と言うことだろう。

 手を繋いだまま、シンクとアリエッタがその魔法陣を見上げていた。



 もう機会は無いほうがいいんだが、俺とノワールとでも呼び出せる本物だったらいいなと思う。

 いや、本物だ、そうに決まってるさ。

 そう確信させる心が目の前にあった。



 心そのもの。

 そんな魔法。







バンッ!







 とでっかい音を立てて核識の座にやっぱりでっかい絆創膏が貼られた。

 でかでかとしたテープの上に魔法陣は浮かび眩く輝く。

 紫の闇のような空間に淡く優しい光が降り注ぎ、光そのもののような花びらが舞い落ちた。



 俺たちは勝った。

 ディエルゴを封印したのだ。



 無色の派閥を追い払った時とは違う優しい気持ちでそれを確信し、それを享受した。



 ディエルゴにフォイアルディアをブッ差せなかったのは残念だが、これの前ではしかたが無いだろう。

 なんといっても、最強のハートだ。






















召喚解説
協力召喚・恋するハート

互いに思いあう二人にのみ召喚可能な召喚魔法。
もはや説明は要らない最強のハート。


























-------------------------------
あとかき
と言う名のいい訳。
一晩終わりを付け忘れた。

これがやりたかっただけなので後は一直線に燃え尽きようと思う。


修正/初出忘れたのでスマヌ
何度もあげてゴメンナサイ。ただ、またやっちまったあの誤字だけは、すぐに直さずに居れず。



[3493] アッシュとして生きるかつて日本人だった男の外伝
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:200c7b22
Date: 2009/02/22 16:36




 何がなんでもハッピーと言うか、なんつー“浮かれたバカ”を量産する魔法なんだろうと思ったがハッピーで悪い事なんて無いと思うのでいいだろう。

 誰かが誰かを思う気持ちってのはこんなにも強いんだと思う。

 俺のノワールを思う気持ちも負けはしない!



「なんて馬鹿げた魔法……」



 シンクが呆れた風にそういう傍らでは、手を繋いだままのアリエッタが恥しげに眼差しを落として頬を染めていた。

 そしてシンクよ。

 おまえもそのツンデレはいい加減にせい。

 耳の赤さと体温の上昇は隠せてないっての。










 無事にディエルゴを封印して、それで気分がハッピーになって、ユクレスで食料庫を干上がらせる勢いで大宴会をしても、その後にはきちっと後始末が待っていた。

 例えば捕縛した赤い手袋の暗殺者。

 その中の一人を、なーんか見た事があるなぁ、と思っていたら、スカーレルが薔薇だか茨だかと呼びかけていて、ああ、ヘイゼルも置いてきぼりを食らったのかと思ってみたり。

 俺たちの目から見ればまだまだ回復可能ではあるんだが、赤き手袋の連中から見れば暗殺者としてはもう使えないと見られたのだろう、と思う。

 そういう後始末が、と言ってみるが、後始末の本命はむしろ大宴会の後に会ったのかも知れんとも思う。



「う~ん、メイメイさんし・あ・わ・せ」



 と呼んだ記憶もないのに幸せそうに酒を飲むメイメイさんが片っ端から人を酔い潰してあるいていた。

 あれ、たしか原作ではディエルゴ戦に突入する前に転移だかなんだかで島からいなくなってなかったか? 思ったがまあいいや。

 ヘイゼルが残ってたから、もうちょっと心理状態が良くなったらメイメイさんに預けてしまおう、とか。



 とにかくそのメイメイさんが片っ端から人を潰していくせいで翌日のシシルイルイは恐ろしい事になっていた。

 ユクレスに積み上げられる屍の山、と思えば時々唸り声を上げて鈍く動くならゾンビの山か。

 というような有様で、そんな中この体がアルコールに強かったのかそれともシャルトスとフォイアルディアの主になったせいで新陳代謝が良くなったのか。

 いち早く目覚めた上にとくに後遺症もなかった俺は必然的にその後始末に回る事になった。



 俺の最後の記憶はメイメイさんの被害にあってべろんべろん、宴会芸やりまーす! なんて言ってフォイアルディアで抜剣覚醒。

 膨大な魔力を迸らせてこう、キラキラー、とさ。

 暖かいのに雪見みたいだよなぁ、と思っていたのが最後の記憶だ。

 目が覚めて、屍やゾンビや宴会の始末をして、それからやっと思い返せば重大な事実だったりする。

 核識が封印されたのに抜剣覚醒が出来る。

 つまり境界線から魔力を引き出せる、という意味だ。



 よく思い返せば原作でも、シャルトス・キルスレスはディエルゴというか、この島の核識の座と繋がって境界線に接続、そのうえでの魔力行使だったように思う。

 んだが、シャルトスが折れた後でウィゼルによって打ち直されたウィスタリア(果てしなき蒼)は、核識の座とは隔絶されていた。

 その上でまだ抜剣覚醒できたということはよっく考えれば今俺がフォイアルディアで抜剣覚醒できたのも当たり前の話なんだが……思いつかなかった。

 あとの問題はまだ折れてないシャルトスがまだ魔剣として使えるかどうかの確認だろう。



 そのうち海岸に流れ着いていた、とでも言って持ち出してみようかと思う。



 ひと時は擬似的なディエルゴになってでもノワールに会いたいと思っていた。

 今でもノワールには会いたいし、その思いはもっと強くなったような気さえする。

 だけど他の何もかもを犠牲にする可能性の大きさに、ディエルゴが封印されてようやっと気が付けたような気がした。

 思っていた以上にずっとディエルゴは俺の精神を侵食していたようだった。

 手いうかディエルゴの思う壺じゃないかと言う。



 ゆっくり待つさ、20年後を。

 この島ではそれを待つ事ができる時間が有る。

 とくに魔力を引き出す境界線、クリプスと接続している守人たちの老いが他の島人たちと比べてもほぼ皆無に近いほど遅いことを考えれば、多分俺も似たようなものだと思うしな。

 憶測だが。

 まあ老いたら老いたで20年後なら40代か。

 むしろその方がいいような気がして来たぞ。

 だって向こうじゃ俺たち中年だったしな。



 海賊船の修理が終わって、アズリアたちがそれに乗ってカイルたちと共に島を出て行った。

 フォイアルディアにならなかったキルスレスの小さな欠片を持って。

 やろうと思えばまだ新しくフォイアルディアが出来たわけだから闘争出来なくも無いんだが、大量の部下を失って、イスラに説得されて。

 ついでにまだフォイアルディアを求めるのなら、アズリアは俺たちと争わなければならないわけだが、そうなるとアズリアたちに今はもう勝ち目は無い。

 そうなると、だ。

 生き残った部下達をすら故郷に返してやれなくなるわけだ。

 さすがアズリア人情家、とは本人の前では言わないが。

 彼女もいろいろと、この島を出て行くまでの間のここでの生活の中で折り合いをつけたようだった。

 任務達成の意思もあっただろうけど、いろんなものがガラガラと崩されて、同僚は失って、戦意喪失して、そうして穏かな時間が流れて、そうして残ったのは望郷の念、とそういうことでいいだろう。



 ちなみにイスラも出て行った。

 『また、くるよ』とか言いつつあの顔はよっぽどのことが無いと二度と来ない顔だったな、と俺は思っている。

 姉さんと協力してうんたらかんたらと言っていたが、マジに生きる気になったなら、好きに生きるといい。



 帰るといえばプラナノもだ。

 飽きたんだそうだ。

 やっぱり自分の管轄世界の植物達のほうがいいと言ってさっさと帰っていった。

 むしろ俺は度々俺が呼ぶ、プラナノにとっては母らしいククリに望郷の念を覚えたのでは中と邪推するが言わないで置く。

 この島も大分恩恵を受けたしな。

 つーか、植物の女王をへべれけにしちまうメイメイさんってすごい。

 とうとう酔ったプラナノに酒の生る木まで作らせたぞあの人は。



 帝国軍に、プラナノに、カイル一家もジャキーニ一家も出て行って、俺たちには穏かですこし物寂しい時間が訪れた。

 今までが騒がしすぎた反動だろう。

 なんというか物寂しい。

 気がするんだがそうでもないかもしれない。



 というかオウキーニはやっぱりシアリィと結ばれているし、いつ結婚式をやるんだ? と浮かれている者もいる。

 というかその幸せ空気の中で、他人の感情を自分のものとして感じやすい花の妖精マルルゥが浮かれまくってものすごい。

 マルルゥがあっちこっちと飛び回って宣伝している事と、あのディエルゴの事件があって島中からユクレスに人が集まって共同生活したという実績からか、各里間での交流も活発になっている。



 俺はそういえば余裕が無かったのとすっかり忘れていたのと両方で、機械兵士のことをすっかり忘れていたんだがまだ動いているだろうかと機界の里ラトリクスのスクラップ置き場に通い始めていた。

 まずは全体を練り歩き、適当に掘り返し積み重ねる。

 ま、こんなんじゃ無理かと思った三ヵ月後、めぼしいスクラップを拾い集めながら島の、せめて四つの里には無線機の配備が出来ないかと思いながら彷徨っている時になんとなく、それは聞こえてきた。



ジ……ジジジ…ジ――もし、もしそこ…ジジ…そこのお方……



 俺はビクッと跳ねて慎重に周囲を窺った。

 まあ、ぶっちゃけアレが出たかと思ったりした。

 日本じゃ柳の下で有名なアレが。



 だがその直後にふっと、そういえば俺は最初は何を目的にしてここに来ていたのかを思い出した。

 そうだヴァルゼルドだ。

 ヴァルゼルドだと思えば不自然ではない。

 んだが、ちっと弱弱しすぎやしないだろうか。



「おーい、どこだ」



 呼びかけてたっぷり10秒以上、ようやく何処からとも無くそれが聞こえてくる。

 ていうかその直前に聞こえてきたパヒュン、とかっていうヒューズが飛んだような音はやばくないだろうか。



『こちらです、こちらです』



 より雑音の少ない言語になっているあたり、出力上げてたりするんだろうか。

 バッテリー持ってくるまで持つんだろうかこいつ、と思いつつおれはヴァルゼルドの発掘にとりかかった。








 結論から言おう。

 ヴァルゼルドは面白い奴だった。



 じゃなくて、バッテリーを頼まれてすぐにアルディラに救援をもとめた。

 俺じゃしょうもない話しだし、餅は餅屋、機械はベイガー(機融人)と言うわけだ。



「面白い機械兵士ね」



 俺は回路のイかれてるヴァルゼルドを興味深そうに見ているアルディラに言う。



「こいつのこれ、どうもバグらしいんだが」

「バグ?」

「そう、バグ。だから自己修復機能だかなんだかでも修復されちまえば消えるんだとおもう」

「そう……」

「それでアルディラに頼みがある」

「あなたのことだし、なんとなく想像がつくけど」

「まあな。こいつの、このバグの性格を残したまま修理する事は出来ないかとおもってな」

『マ、マスター……感激であります!』



 ぼうっと目を緑色に輝かせる機械兵士、司式名称も自己紹介されたがつるっと忘れた通称ヴァルゼルド。

 その電力を大切にしろよ、止まるぞー。



「面白そうじゃない?」



 と呟いたアルディラはじっとヴァルゼルドを観察する。

 自動修復機能を停止させて、コアを隔離して、えーまあ、そこから先は俺には理解できなかった。

 アルディラならやってくれるさ、そう思ってヴァルゼルドに笑いかける。

 が、ヴァルゼルドからは恐怖を含んだ焦りが返ってきたような気がしが気のせいだよな。

 すぐにアルディラの号令でたくさんの機械がやってきて埋もれたヴァルゼルドを掘り出して連れて行ってしまった。

 まあ、そのうち戻ってくるだろう。



 ちなみにあいつが俺をマスターと呼ぶのは、プラナノが居なくなったからじゃあ護衛獣契約しようか、と俺が持ちかけたからだった。

 まだ具体的に契約はしてないんだが、あいつはもうマスターと呼んでいる。

 あの愉快な奴がそのままで帰ってくればいいと俺は割りと真剣に願っていた。



 ゲームでも愉快な奴だな、とおもって居たが……想像以上に愉快な奴だった。

 忠誠心とかは疑うまでも無い感じだが、おっちょこちょいと言うよりは間抜けか?

 まあ、復帰したらあっと言うまに人気者になりそうな感じはするな。

 あの抜け具合がいい。



 三ヶ月の間にヘイゼルもいい具合に暗殺者としては腑抜けになったし。

 たしかサモ2では名前を変えて出演していたような気がするから、先を見るものとしてのメイメイさんがこの後彼女をどうするのかが気に成るところだ。

 気になったら相談にいこうそうしよう、と思い立った俺はすぐさま行動に移してメイメイさんの店に足を向けた。

 その進む先に、頭の上にプニムを乗せて、後ろから近付く俺にも気が付かないヘイゼルが居たりした。



 まだ表情筋の活発ではない女性の頭上にプニム。

 これはこれでまた萌えるな。



「おーい、ヘイゼル」



 ここでもう一つの本当の名前を呼べたらかっこよくないか? と思うが実はもう一つの名前がはっきりと思い出せない。

 アイゼルだったかパヒュームだったか、パフェ? 間違ったら悲惨だろうということで安全策だ。



 こっちを振り返ったヘイゼルはじっと俺のことを見ていた。

 なんつーか、話しかけにくい雰囲気だ。

 どうすべ。

 そうしているうちに、といっても数秒も無いのだが、ヘイゼルはくるりと振り返ってまたザクザクと歩いていってしまう。

 ……なに考えてるんだかわからん。

 もしかして嫌われたか?

 原作レックスせんせーには人格的に及ばないだろうなぁ、と思いつつも手を尽くしては来たんだが……。

 だめだ、わからん。



 とりあえず、メイメイさんところに行って見るかな。

 あの人そろそろ島を出て行く雰囲気だし、早いうちに話しておかないとドロンと消えかねないきがする。

 少なくとも一つは確実に聞いておきたい事がある。

 ヘイゼルみたいに呼んだノワールを若返らせる事はできるかどうかっ!!

 愛だの恋だのに年齢は関係ないと言ってもけっこう切実だと思うんだがどーよ。

 むしろ俺が気にしなくても、ノワールが気にするんじゃないかと思ったりもする。

 あれでも、って言い方をしたら殴られそうだが、女だもんな。



 ぼーっと空を見ながら歩いていたら、蹴躓いて転んだ。

 口に土が入ってじゃりじゃりする。

 ……まずい。

 そのままごろんと寝返りを打って息をつく。

 なんつーか、平和だ。

 起き上がって泥を払ってまた息をついた。




 洗濯、しなきゃな。








-------------------------
ノワールに逢うまではやめられませんがな。

初出2009/02/06 14:41
第一回修正同日




[3493] 二回目=終幕
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:27c2f5ef
Date: 2009/02/22 16:37






 なんでも上手くいくなんて、到底思っちゃいないさ。

 ただ、ここまで世界は有り得ないだろうって叫びたくなるようないろいろを俺に用意してくれた。

 大抵始まりはいいことなんかじゃないが、それと何とか折り合いをつけてきたのはおれ自身の努力だと俺は絶対思ってる。

 男なら大志を抱け! と言った人も居るが、俺はそんな大きな物を望んじゃいない。

 俺が欲しいのは、ただ近しい人たちの平和で愛おしい生活だけだ。

 ただ、いままでただそれだけの事を得るのが生半じゃなく大変だっただけで。



 どこに行っても俺は頑張ってきたと思う。

 周囲の人には認められたり認められなかったり、悔し涙を飲んだり地団太踏んだり、逆に喜んだり笑ったり、色々してきた。

 自分の身に起こる事、周囲の出来事は普通じゃなくても、溜息で自分を誤魔化しながらでも、精一杯やってきたはずなんだ。

 それは間違いじゃないと思う。

 そうじゃなきゃ、シンクやアリエッタが、ノワールたちが、俺の事を見続けてくれたはずが無い。

 俺は、そう思ってる。



 それでもやっぱり俺はもはや異物でしかなくて、世界に認められてなんかいなかったんだ。












 平和すぎて腐ってきたので、さっさと島を出て大冒険を繰り広げていたカイルたちが島に戻ってきた時に俺も大冒険に同行することにした。

 こんな俺でも残ってくれって声はあったが、やることないしな。

 やっている事と言えば平和な時の原作レックス程度のことだし。

 物語の順番が入れ替わっただけのような気もする。

 平和なのにこしたことはないんだが、それにしても刺激が無い。

 ここには漫画もゲームもどころか本もろくにないのだ。

 大ボスが封印されてしまった今、ささやかな島民達のトラブルを仲介して回って、そこそこ普通に釣りや畑仕事をして他にも仕事はしているが、アビスの世界に初めて行ったときのような毎日命を懸けて猛稽古とか、二度目に行った時のように政治的な仕事があるわけでもない。

 とくにこの島、外交らしい外交があるわけでもないし。



 いままで刺激のど真ん中にいた身としては退屈すぎた。

 メイメイさんはヘイゼルのことでとんでもない事後報告かましてくれたし。

 『ありがとう、って言っていたわ』とか『今はまだ、まっすぐにあなたたちを見て言えないから』とか言っていたとか、いや、いわれてもねぇ。

 暗殺者としての道以外で生きる覚悟がついたんなら喜ぶが、心配事のネタが一つなくなったことでまたやる事がなくなったと言うか……。

 いかん、このままぼーっとしてたら確実にボケる! と確信した。



 ボケ防止には刺激だ、と言うことでカイルたちの船に乗って大陸に進出する事にしたんだが、したさきで何をするかもかいるたちを待つ時間が長すぎて考えすぎた。

 結果として俺は未知の分野、商売に手を出してみることを決意する。

 政治と経済は背中合わせ、政治をやったなら今度は経済をやろう、とかそういう思考回路だが。



 ボケ防止の刺激は欲しいが無理はしないを基本に置いて、よし、じゃあ島中に増えているリコの花を輸出しようと決意する。

 売れるだろこれ、絶対。

 ここがサモンナイトの世界と言う事は、外に出ればはぐれ召喚中に夜盗にエトセトラの危険がいっぱい。

 そんな中で、一個につき一回身を守ってくれる花だぞ?

 売れないわけが無いよな~。

 プラナノがそう作ったのか、島の気候や土に合ったのかしらないが、リコの花はこの平和な島の島民達にとってはもはや観賞用だし。



 旅にはシンクとアリエッタも誘ったが、そんな予感はしていた物の今回は島に留まるってことだった。

 まあ、理由は俺にとってもあいつらにとってもわからなくは無いんだが。

 外の世界じゃウィルとアリーゼである彼らの両親が血眼になって探しているだろうし。

 小難しく言わずに単純に言えば、そんな時期だよなぁ、という。

 ちくせう、イチャイチャしやがって。

 いや、いいんだけどさ。

 めでたいんだけどさ。

 実際は兄弟だけどさ。

 まあいいよね?

 どう見てもきっと異母兄弟だよね。

 母が違えば婚姻できた歴史を持つ国だって沢山あるし。



 そんな訳でカイルたちの船の客人は俺一人だった。

 収穫したリコの花が大量に積まれているこの船は、今だけに限って言えばむしろ貿易船だ。

 目指せ外の世界!

 といいつつ俺が外の世界に対して覚えている地名なんてサイジェントくらいしかない。

 というわけで、なんだかよくわからんがサイジェントを見てみよう、と言うのが当面の目標でもあった。



 世界に羽ばたけ! 俺!!











 月が波間に揺れる夜、ゆったりのんびり穏かな航海の中で、誰も居ない甲板に立つ。

 昼間から思うにリアルタイタニックをやるにはやはりノワールがいなければ。

 そんな切ない思いを抱きながら船のへさきに立っていた。

 空の月と海の月と。

 二つの月を鑑賞できる最高の場所だ。



 いつか必ずこれをノワールと見る。

 そう心で呟いて、俺は明日への決意を固める。

 なあヴァン。誰かのためにしか生きられなくてもそれでもいいじゃん。俺はノワールとシンクとアリエッタと、アッシュとかウルシーとかいつの間にか背負う事になった領民達とか、名前もあげきれないたくさんの人たちのために生きて来た。

 そいつ等が俺を明日に繋いでくれたんだ。

 そういうのだって、いいじゃねーか。



 あんたが言っていたのはこういう意味じゃなかったのかもしれないが。

 そう思いながら苦笑して、俺はそこに背を向けた。

 二つの月を背に船室へと戻る。

 夜更かしは響くからな。

 そうして歩を進めてふと何かを感じて足を止めた。



 口笛が、聞こえたような気がした。

 まさか、こんなところで聞くはずが無いような、珍妙な曲だ。

 俺だって正確には覚えちゃ居ない。

 なんてったってそれを聞いたのははるか遠い昔のことだ。


 それでも、流れてきたならなんとなく、脳裏に曲名が思い浮かぶ。



 口笛にはまるで似合わない。

 ワーグナーの“ニュルンベルクのマイスタージンガー”だったか?

 まあ、違っても指摘できる奴なんかこっちには居ないが。

 ……いや、居るな。

 一人だけ。

 いまコノ口笛を吹いている奴が。




俺はこの時、止まらずにいるべきだったのかもしれない。





 既に航海に出た船だ。

 途中乗車も途中下車もできないこの船で一体誰がこの口笛を吹くのか。

 この世界の、誰も知らないはずの口笛を!!





俺はこの時、振り返らずに居るべきだったのかもしれない。





 期待は二割、恐怖は八割。

 俺と同種の人間が居るのか?

 居たとして、それがどうやってこの世界で生きてそして今こうやって、誰も居なかったはずの、そして通り抜けるには俺の視界に入らなければ無理なはずの俺の背後で口笛を服に到っているのか。

 何が目的で、今更その音を聞かせるのか。

 望郷の念を擽る音を。

 その期待と恐怖。





 振り返って目にしたのはまるで黒い筒のように見えた。

 さっきまで俺が立っていた場所に伸びる溶け込むようなシルエットは、やがて目が慣れてくると筒のような帽子を被り、マントを羽織った人だとわかる。

 帽子とマントに付けられた鋲のような黒い金属製の飾りが辛うじて光を反射してそれを黒い影ではなく見せた。

 奇妙な恰好だ。

 とてもこの船の上で合理的な恰好ではないし、船から下りても変人確定だ。

 マントなどの装備がこの世界ではある程度普遍的だとしても、あれはきっと、何かが違う。

 理性ではない根源が俺に告げる。




 
 あれは死神だ。







 白い顔に黒いルージュの唇が見える。

 その唇の片方だけが僅かにつりあがった。

 そいつが僅かに顔を上げると、防止に隠れていた目元が見えた。

 とぼけたような微笑みかけているような、左右非対称の奇妙な表情が月明かりに浮かんでみえた。



「久しぶりに聞いたよ、向こうの曲は」



 何もかもが消えてなくなる瞬間を感じた気がした。

 誰と尋ねるのもなんなんだと叫ぶのもやめて、懐かしさに身を任せた。

 いつの間にか細いワイヤーのような物で手足を拘束されていて動けない。

 なぜ、こうなったのか。



「そうか。ならばよかった、と言うべきなのだろうかね」



 よく通るボーイソプラノが呆けたように言葉を返す。

 意外とこいつは喋れるらしい。



「さてな。良く分からん」



 懐かしく感じても、もう帰るならノワールの胸の中って決めてるからな。



「まさかこの歳になって死神なんかにお目にかかるなんてな」

「死神、ね。そう呼ばれることも有る」

「じゃあお前はなんなんだ?」



 われながら可笑しくなってくる。

 結局聞いちまったよ。



「僕は世界の敵の敵」

「世界の敵の敵、ってことで、俺を殺しに来たんなら、俺は世界の敵ってことか?」

「どうやら今回はそうらしい」



 ははっ、と喉からかすれたような笑いが漏れた。

 世界の敵とはこれまたご大層な。



「僕は自動的(オートマチック)なんだよ。世界に異変を感じた時、泡のように浮かび上がってくる。そうして異変がなくなったら、弾けて消える。だから名を、不気味な泡(ブギーポップ)と言う」

「自分でつけたのか? それ」



 俺の言葉にどうやらその死神はマントの中で肩をすくめたようだった。



「なあブギーポップ、世界の敵の敵。俺は結局異物でしかないってことなのか?」

「さあね。僕は自動的だから、必ず君の質問に答えられるわけでもないよ」

「なんだよそれ。答えになってねぇし」



 答えないのがもしかしたら奴なりの優しさなのかもしれないとふと思う。

 今更それを断言されたら。

 それを思えば。



 ブギーポップ。

 世界の敵の敵。

 決して世界の味方とは言わないその歪な存在に対して俺は苦笑する。

 俺もあいつも、根源では似たようなものだろう。

 俺はあいつが世界の敵に回る前に世界に敵と認識された。

 決して世界の味方とは言わない微妙なその言い回しに苦笑する。



 すまんノワール。

 どうやら死神に見初められたらしい。

 これならきっと、次とやらはないだろう。



 次があって、さらにその次まであって。

 それなら次ぎの次ぎも、さらにその次ぎの次ぎもあるんじゃないかと、俺はそれを恐れていたから、すこし、少しだけほっとしてるんだ。




目の前の死神は、絶対の終わりだ。



 俺はそう感じたから。










 甲板に倒れ付し事切れた赤毛の男を筒のようなシルエットが見下ろしていた。

 その白い顔に黒いルージュの引かれた顔にはに浮かぶ左右非対称の微笑みのようなほうけているような、微妙な表情。

 月が雲に隠れその表情も影に沈む。



 すこしして、まるで弔うかのように歪んだ“ニュルンベルクのマイスタージンガー”が甲板に響き、やがて消えて行った。






















---------------------------
またやっちゃったよ。



[3493] 二回目
Name: 後野茉莉◆654b3d74 ID:27c2f5ef
Date: 2009/05/02 20:00






 え~、島は今日も平和です。

 と。



 ディエルゴの影響で張られていた外界と隔絶する結界はもう解けたはずなのだが、潮流の関係と今までここに島がある事が知られていなかったせいもあるのだろうが、普通に、全く、船らしい船とか人とかは来ない。

 やってくるのはカイルたちの海賊船のみ。

 あの暑苦しいアイパッチのオッサン達もこの島には来ないしな。

 こないのはそれなりにあいつらの気遣いなんだろうが、さみしくもある。



 この島で20年過ごしてノワールと会えるのを待つ、大陸のほうでリンカーが生まれるのを待とう、と思っていたんだが。

 平和で退屈すぎて腐ってきた。



 平和の大切さとかは知ってるつもりなので争いを望むわけじゃないんだが、娯楽もマンネリ化してるというか。

 本読みてーし、珍しい食いもんとか食いてーし。

 なんつーか、もうちょっと日々に広がりがほしい感じだ。



 ぶっちゃけ一人やもめが見ているには目の毒がこの島には多すぎる。



 ので、さっさと島を出て大冒険を繰り広げていたカイルたちが島に戻ってきた時に俺も大冒険に同行することにした。

 こんな俺でも残ってくれって声はあったが、やることないしな。

 やっている事と言えば平和な時の原作レックス程度のことだし。

 それ以下だと自信を持って宣言できるぞ。



 いままで刺激のど真ん中にいた身としては退屈すぎた。

 メイメイさんはヘイゼルのことでとんでもない事後報告かましてくれたし。

 『ありがとう、って言っていたわ』とか『今はまだ、まっすぐにあなたたちを見て言えないから』とか言っていたとか、いや、いわれてもねぇ。

 暗殺者としての道以外で生きる覚悟がついたんなら喜ぶが、心配事のネタが一つなくなったことでまたやる事がなくなったと言うか……。

 いかん、このままぼーっとしてたら確実にボケる! と確信した。



 旅ってのはいいな。

 でも無一文で旅できるほどの自信は無いんだな。

 つーことで手っ取り早く資金を手にするにはどうすればいいか考えた。

 そうだ、リコの花を売ろう。

 そう思いつくまでにたいした時間は掛からなかった。



 売れるだろこれ、絶対。

 ここがサモンナイトの世界と言う事は、外に出ればはぐれ召喚中に夜盗にエトセトラの危険がいっぱい。

 そんな中で、一個につき一回身を守ってくれる花だぞ?

 売れないわけが無いよな~。

 プラナノがそう作ったのか、島の気候や土に合ったのかしらないが、リコの花はこの平和な島の島民達にとってはもはや観賞用だし。



 旅には一応シンクとアリエッタも誘った。

 がまあ、来るわけねぇよな。

 そんな予感はしていた物の今回は島に留まるってことだった。

 カイルたちの話によればマルティーニ家が賞金までかけて探索しているんだそうな。

 ちなみにその賞金というか探索の内容にレックスの事は含まれてないらしい。

 そりゃそうだ、と思いつつまあいろいろ思ったり思わなかったり?

 レックスの生まれ故郷もレックスじゃないから俺にはわからんわけだが、ゲームストーリー的には親兄弟は居ない感じだ。

 心配掛ける相手も、少ないだろう。



 アリエッタとシンクはいろいろあった障害が無くなってここぞとばかりにイチャイチャしてる。

 それがまた俺の目の毒だ。

 幸せそうなのはいいんだけどな~。

 

 いや、いいんだけどさ。

 めでたいんだけどさ。

 実際は兄弟だけどさ。

 まあいいよね?

 どう見てもきっと異母兄弟だよね。

 母が違えば婚姻できた歴史を持つ国だって沢山あるし。



 そんな訳でカイルたちの船の客人は俺一人だった。

 どこで回収したのかカイル一家は下っ端海賊達もいつの間にか復活してる。

 正しい海賊船の雰囲気、なんてもんはしらないが、コレが多分海賊船? なんだろうか。

 収穫したリコの花が大量に積まれているこの船は、今だけに限って言えばむしろ貿易船だ。

 目指せ外の世界!

 といいつつ俺が外の世界に対して覚えている地名なんてサイジェントくらいしかない。

 というわけで、なんだかよくわからんがサイジェントを見てみよう、と言うのが当面の目標でもあった。



 世界に羽ばたけ! 俺!!













 えーっと。

 到着したぜサイジェント!

 じゃなくてファナンだな。



 貿易都市なんだと。

 俺はもう一度地図を勉強しなおす決心をした。

 すこしだけな。

 カイルたちも一般の旅客船のように偽装して入港する。

 部下の荒くれどもも人夫として偽装している。

 んだが、港の労働者達と海賊たちの区別が俺にはつかなかったという笑い話だな。



 似たような気のいい荒くれどもだ。



 彼等が船に積み込んだ荷物を運び出してくれている。

 大量のリコの花を。



 露天の出し方はスカーレルが教えてくれた。

 露天にも管理者がいるんだと。

 ショバ代払わないと追い払われるんだよさ。

 実演販売で二・三個壊して見せればたちまち売り切れた。



 俺のささやかな旅の資金くらいカイルたちが出してくれるっていってくれたんだが、それじゃ情けねぇ、ってこととで。

 俺の目論みは大当たりだった。

 コレを資金に俺は旅に出る!








 の前にファナン滞在一週間。

 なんだかもう腰を落ち着けてもいいんじゃないかと思うくらいファナンの魚は美味い。


 磯の香りも鼻が慣れてしまってもう何も感じないのが残念だが。

 これはあれだ、世界を見る! じゃなくて俺はもう美食ハンターになろうかとか思いかねない。

 そうか。

 世界は広かったのか、と味に酔って思い知るかんじだ。

 忙しく立ち働く男たちのためにファーストフードといえるんだろう食べ物を売る店も多い。

 理屈ではなく雰囲気が気に入った気がする。

 こう、なんつーか発展途上の活気つーかそんな感じが。



 俺も適当にそんな買い食いできる食い物を買って観光がてらそこらを歩く。

 いや、ファーストフードと侮るな、という。

 ファーストフードといいながらジャンクフードとも言われていたあっちのファーストフードとは物が違うぜ。



 ほくほくのフィッシュフライを食べながら歩き、次の十字路で右に曲がろうか左に間がどうか、それともまっすぐ行こうか迷いながらふと横の雑貨屋のアクセサリが気になって振り返る。

 ノワールに似合いそうだと思ったからだ。



 似合いそうだと思う。

 思うが、視線は釘付けだがスルー、スルー、と言い聞かせて足だけを進める。

 と。



 どん



 と衝撃が走って俺は誰かにぶつかった。

 何とか踏みとどまってみれば、そこには俺の肩ぐらいの背丈の少女がびっくりした面持ちで立っていた。

 そして足元に落ちるフィッシュフライ。



 目を丸くした少女はすぐに正気に返ったみたいにはっとして俺の脇を駆け抜けて言ってしまう。



「あ、おいちょっと」

「ごめんおにーさん! 今急いでるんだ~!!」

「いそいでるんだ~、って……まあ、いいけどよ」



 あの少女のように、女性たちの威勢のよさもこの港町の雰囲気を作り出している一環だと思う。

 だからあの元気のよさはむしろいいと思っているし、ぶつかったことを別にとがめるつもりもないぞ。

 不注意は俺もだしな。

 ただ、俺の足元に落ちたフィッシュフライを見る目に哀愁がこもるのも仕方がないだろう。

 そう、仕方がないはずだ。



 ノワールがいるから他には目もくれない!

 が、それにしても辻で出会いがしらにばったりぶつかって出会いに、なんていうのはやっぱり物語の中だけかと再認識した。

 うん。

 仕方がないのであきらめてまた何かうまそうなものでも買おうかと懐に手を伸ばし、伸ばし……伸ばし?



 あ、あれ。



「……ない?」



 擦られた、みたいだった。












 とりあえずここでの警察組織みたいなところに行ってみたが、被害届のようなものを出してぽん、と肩を叩かれた。

 終わった。

 それだけだった。

 そうだろうなとは思ったがむなしい。



 所持金ゼロで俺は途方にくれた。

 カイルたちの船ももうはるか遠洋にでてしまっているだろう。

 携帯電話なんて便利なものは無い。

 遠く島から切り離されて、俺は途方にくれた。



 突っ立つ俺の目に浮かぶのは心の汗、なんかじゃない。

 涙だ。

 強がりもできん。

 銭が無い、掏られた、宿を追い出されたのコンボで無性に心に寂しさが沸きあがる。



 銭が無くてもサバイバル的に生きることは出来る。

 そのうちはぐれ召喚獣や盗賊狩りで資金稼ぎも出来るだろう。

 こっちじゃその手の手合いに掛けられた賞金には事欠かないからな。

 生きるあてはある。

 あるが……無性に切ない、というかむなしさが押し寄せてきて俺は夕日を見上げた。

 下を向いたら涙がこぼれちまうよな。うん。



 その俺の目の前に広がる夕日に染まる海。

 海に浮かぶ幾多の船。

 船乗りたちも港で働く人夫たちも、日が沈む前に出来るだけの仕事を終わらせようと発破を掛けて働いている。

 その喧騒がここまで届いてきて、なんというか、微妙に励まされた。



 そうだ、あそこにいこう。

 と脈絡も無く思う。

 そして足はふらふらとそこへ向かって歩いていく。



 気がつくと手続きを終わらせていた。

 手続きというほどの手続きも無い。

 とにかく明日から新人人夫としてこの港町で働くことが決定した。

 ひょろっちぃ新人が持つのか? といったような目で見られたがそれはここにくる新人たちへの通過儀礼のようなものだろう。

 昼間に俺も見ていたからな。

 今日から働き始めました! みたいな少年も居たのを。

 厳しい仕事である分だけ給金もいい。

 ただ、体を痛めつけるので長く出来る仕事ではない。

 若いうちだけの、というやつだ。



 俺も、明日から海の男だっ!








 と希望に満ちたような気持ちで居たのがもう遠い過去のようだ。

 気を失いそうになるまで働いて一杯やって寝て、のサイクルにはまりこんでなんか、よくわからんうちにあというまに半年近くたっていた。

 白かった俺の肌も真っ黒。

 髪は潮風と太陽の光にぱさぱさ。

 からかわれたひょろっとした薄い体もがっちり筋肉質に変化した。

 一目で別人だろ、という風貌だ。

 なじんでしまえば周囲は気の良いやつらばっかりなんだが。

 死ぬかと思った筋肉痛にうめいているときに忘れて寝ちまえと酒をくれたやつのことを俺は一生忘れない。

 火を噴くような火酒でそのせいで翌日寝坊した俺は現場監督にこっぴどく怒鳴られた。

 今となっちゃ笑い話だがな。

 当初の予定ではあと一月くらいでカイルたちがこの港に寄港する。



 俺は決意してた。

 やめる。

 カイルたちが来たら、絶対この仕事をやめる、と。



 ……もたねぇ~よ。












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あとかき

久しぶりすぎて、パスを忘れてしまったかと思いました。
ドキドキ



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