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[34621] 太陽の子、ゼウスの使い魔 (ゼロの使い魔×ヒーロー戦記、クロスオーバー)
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2014/01/30 15:58
この作品はゼロの使い魔とコンパチヒーローシリーズの一つヒーロー戦記のクロスオーバー作品となります。

ヒーロー戦記は1992年発売のSFCソフトで、以降スパロボOGシリーズ出てくる作品やキャラが幾つか最初に登場した作品でもあり、今と設定やキャラが若干違う部分がありますが、なるべく当時の物基準で書いていきますのでご了承ください。

なおヒーロー戦記の中には劇中で再現されていない物や、出てこないアイテムなどもあり、不足部分は原作の設定を使う事もありますのでご注意ください。


例 仮面ライダー作品はヒーロー戦記中にバイクの描写が一切ありません。


  とある人は俳優ネタレベルでの性格や格好に違いがあります。
  もうあれは、V〇に変身する、ズ〇ットです。


この作品はハーメルン様にも投稿しております。ハーメルン様の方には序盤の部分等を多少直して投稿しておりますが大筋は変わっておりません。




 



[34621] 太陽の子、ゼロに呼ばれる
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2013/04/01 02:22
ここは地球とは違う世界の大陸ハルケギニア、そこにある国の一つトリステイン王国にある王立魔法学院に在籍する一人の少女、
名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
今彼女は崖っぷちに立たされていた。



「宇宙の果ての何処かにいる私のシモベよ、神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ!!私は心より求め訴えるわ、 我が導きに答えなさい!!!」


彼女が全力を込めて呪文を叫びそれに比例するか用に大きな爆発が巻き起こる、
その光景に周りの人間はまたかと思う。


「おいおい、ヴァリエールまたかよ」

「もういい加減にしてくれよな」


周りの人間は口ぐちに爆発を起こした彼女に文句を言う、爆発を起こした彼女もまた失敗してしまったと思い挫けそうになる。

他の生徒は分かっていないし分かろうともしていないが彼女は誰よりも誇り高い貴族であろうとしていた、国の中でもトップと言ってもいい有力な貴族の家に生まれ、その名に恥じぬ貴族になろうという気高き理想を持っている。

その理想を理想で終わらそうとせずに彼女は人一倍努力していた、勉強ならばクラスの誰よりも多くやり魔法の練習も誰よりも真面目にやってきた、しかしそんな努力をあざ笑うかのように魔法の成功と言う求め続けた結果は一度たりとも彼女に訪れなかった。

成功しない努力をし続ける彼女の姿は生徒たちの目には無様に映り嘲笑の対象となる、さらに元々家柄が悪いのならいざ知らず、家名を出せば貴族の間では知らぬ者はいないほどの彼女の生まれがここでは皮肉にもさらに逆風となる。

あいつは名門の生まれなのに落ちこぼれ、そんな事を言われ続けるのだ。
生徒達は普通では絶対に超えることの出来ない【家】という差を埋めるように貴族のステータスである魔法の力量が全くない彼女を侮辱し続ける。

そんな中で今日は自身の一生のパートナーと言える使い魔を召喚する儀式が行われる、それによって自分の進路が決まると言ってもいい重要な儀式なのだ、汚名を返上する最大にして最後のチャンスとも言えるこの儀式を失敗してしまったのだ、彼女の受けた絶望は計り知れない物があっただろう。


誰もが失敗したと思っていたその時、爆発によって巻き起こった煙の中から何か音が聞こえる。

ブォオオオオンと聞いたことのないその音に何かいるのかと周りも彼女も思う、音はどんどん近くなっていきやがて爆音と呼べるような音になる。


「どぉわあぁあああああああ!!!!」


煙の中から何かが飛び出し悲鳴と共に転がり回る、その光景に周囲は唖然とし時が止まった様に押し黙るのだった。

しかしそれも数秒の事で再び彼らは笑い始める。

なぜなら飛び出してきた物と者は奇妙としか言えなかったからだ、それは青い色をしたバッタを思わせる様な物に車輪の様な物が2個付いている置き物、もう一つはまるで甲冑の頭の様な物を被っているが体には特に目立った鎧などは来ておらずこのあたりでは見ない服装だが普通の服を着ている。
普段嘲笑の対象としている者が召喚を成功させて驚たがやっぱり失敗だったのだと決めつけたのだ。
普通は相性の良い幻獣などが呼び出されるので人間がしかも平民と思われる者が出たのが失敗と断定した原因だった。


ルイズの方も最初は成功したと思ったが、やっぱり失敗だったのかと思い悲しみと怒りがこみ上げてくる。

それを隠さずに、ぶすっとした顔をしながら男に近づき


「あんた誰?」


と出てきた男に言うのだった。





彼の方は混乱していた、いきなり煙が出てきたと思ったらスリップしてこけてしまった、そこまではいいのだが起きて周りを見回れば景色は変わり大勢の人間が魔法使いの様な服装に身を包んで自分の周りに居たのだ、ローブやマントに身を包んでいるというと嫌なことしか思いださないが取りあえず敵意は無いというのは理解できる。
様々なトンデモ体験を彼は多く経験してきたが、流石にいきなりこんな事が起これば混乱するなと言う方が無理である。

するとその中の一人の女の子が自分に近づいて来きて


「あんた誰?」


と、ぶすっとした顔で質問されたのだ。

今がどういう状況なのかまだよく分からないが、目の前に美少女がいて自分の事を聞いて来たのなら答えなければならない、彼女を見て後4年くらい経てば口説き文句の一つでも言うところだけどな、と思ったが口には出さず質問に答える。


「お譲ちゃん、人に話すのに礼儀がなって無いんじゃないかな?まぁいいけど、俺の名前は光太郎、南光太郎」


そう言いながらヘルメットを外し自己紹介を続ける。


「見ての通りの好青年さ」


爽やかな笑顔をして自身満々にそう答えたのだった。



この回答にルイズは頭が痛くなってきたが、実は召喚の時に言っていた【宇宙の何処かに居る神聖で美しく強力な使い魔】という条件を大体クリアしている大当たりの使い魔が目の前の男だとはこの時はルイズも含め誰も気づく事は無かったのだった。



[34621] 南 光太郎 プロローグ 編 一話
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/08/28 04:20
「まったく、ルートがまた故障なんてめんどくせーよな」


愛機のバイクであるアクロバッターに跨り爆走する光太郎、市と市の間に設けられたルートと呼ばれる移動装置が故障して使えなくなっていたために丁度いいと思い久々に相棒とのツーリングを楽しむ事にしたのだ。

移動中に光太郎は世界中で暴れまわったテロリスト達との戦いを思い出していた、あの時もルートがよく故障して足止めを食らって大変だったものだ、一緒に戦っていた仲間の一人から後で聞いた話だとルートの修理代に「一億くらい寄付していただければなんとかなります」とか言われたりしたこともあったと言うから何かとルートには因縁がある。

しかし移動手段がルートだけかと言われればそうではない、普通に移動する事も決して不可能ではないのだが野生の怪獣や怪人もいるし山賊まがいの連中もいる普通の道は一般人には危険だというだけだ、数々の戦いを繰り広げた百戦錬磨の彼にとっては時間がかかる以外に特に困る事は無い。


「このところ特に大きな事件も無いし暇だからいいけどさ、なんで使いたい時に壊れるんだか」


ルートは工事中ですので使えません、現在は転送センターが占拠されてしまったので使えません、戦争が起こるかもしれないから簡単にルートを開けないよ、数え出せばキリが無いくらいに使いたい時に使えないルートである。


「なんか俺達が行こうとしている先々で不都合が起こるってひっでぇよなぁ、お前もそう思うだろ?」


アクロバッターに声をかける、するとアクロバッターは相槌を打つかのように目を光らせる、アクロバッターはタダのバイクでは無く意思を持った存在でこうして会話も出来る。

移動中の時間潰しの会話を楽しもうとした矢先に突如前に何かが浮かびそれに入ってしまったのだ。


「へ?うぉ!!どぉわあぁあああああああ!!!!」


そして盛大に滑り今に至るのだった。


〇〇〇〇〇〇〇


「見ての通りの好青年さ」


完璧(光太郎視点)な名乗りを披露しキャーキャー黄色い声援がくるだろうと思っていた光太郎だったが周りの反応は大笑いだった。


「ははは、ヴァリエールの奴平民を召喚したぞ」

「やっぱりゼロだな」


その反応を見て光太郎は首をかしげる、黄色い声援が百歩、いや千歩ほど譲ってこなかったとしても笑われる様な事は言って無いはずだと思っているからだ。

すると質問に答えたはずの目の前の少女はより一層不機嫌になり光太郎の元から去っていき、何やら頭の薄いおっさんと会話をし始めたのだ、それもかなり必死に。

数回問答があり会話が終わったらしく、かなり深いため息をついて光太郎のところに戻ってくる。


「か、感謝しなさいよね、普通は平民が貴族にこんなことしてもらうなんて絶対に無いんだからね!!」


平民?貴族?パープリンのジオンの坊ちゃんが言いそうな言葉が出てきて、ますます頭が混乱する光太郎にルイズは追撃を加えるように何やら言い出す。


「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」


ルイズがそう唱えると光太郎にキスしたのだった。


「い、いきなり何しやが…ん?…あだだだだだ!!」


美少女にキスされて悪い気はしないがいきなりやられては誰だって驚く、だがそれ以上問題だったのは光太郎の左手に突如として激痛が襲ったのだ。

何だ一体?ゴルゴムの仕業か?あ、いやゴルゴムはもう倒したんだっけ?など自分を襲った不可解なダメージのせいで混乱した頭は関係ない事を考える。


「大丈夫よ、使い魔のルーンが刻まれているだけだから」


とルイズは若干覚めた感じで光太郎を見ているが彼はそれどころじゃ無かったのだった。




〇〇〇〇〇〇〇


話は変わり少し時間も進むが光太郎が元に居た世界の事を話そう。


彼のいた世界の名前は惑星エルピス、三つの大陸が存在する青き惑星。

ライダー大陸、ウルトラ大陸、ガンダム大陸と呼ばれる三つの大陸はそれぞれの独自の文化を作り栄えていた。

ライダー大陸はサイボーグ技術などの遺伝子工学が発達し。

ウルトラ大陸は超能力者などの特異な能力を持った存在が多く生まれ。

ガンダム大陸はモビルスーツ等のロボット工学が発達していた。

しかし豊かな自然と豊富な資源があり、様々な文化が発達しているこの星でも人々は争いを捨てることは出来なかった。

紛争や世界征服と企む悪の組織や侵略宇宙人などの様々な脅威に人々は怯えていた。

この脅威を払しょくすべく三つの大陸の、エゥーゴ、光の国、ライダー連邦の3国が連盟共同で連盟特別大使と言う名の超法規的組織を作った。

その名はゼット・エクストラディナリィ・ユナイテッド・スペース、略してZ・E・U・S(ゼウス)

ゼウスは全ての権力に縛られず全ての国が彼らへの命令権を持たない、【平和を守る】という至上の目的のために有りとあらゆる権限を有し戦い抜く究極のチーム。

彼らは激化していく世界の混乱を阻止すべく激戦へと身を投じて行った。

そして混乱の最大の原因とされていたアポロンを打倒し世界は一応の安全を取り戻していた。

ゼウスに所属していたチームは一時解散したものの彼らの役目はまだ続いており、バラバラになりながらも世界の平和を守っていたのだ。

アポロンが倒れてから数か月が経ち戦火に見舞われた街なども復興が進んでいた、そんな矢先にゼウスの主力メンバーの一人で有った南 光太郎が行方不明になったとの知らせが入りこんだのだ、これが新たな戦乱の引き金に……はならないのだが心配な事には変わりは無い。



「と言うわけで光太郎さんの行方が分からなくなり、事件の可能性も捨てきれないため一度皆さんにお集まりいただいた訳です」


そう喋るのはゼウスの総指揮官である万能コンピューター、ハロ9000、彼は便宜上は指揮官という立場だが指揮官と言うよりは連絡係の様な物である、主な任務は情報収集、各国の救援要請の授与等を受け持ちメンバーに伝えるのが彼の主な任務である、ゼウスはその行動の特異性と設立の背景からハロ9000は命令では無くメンバーにお願いして行動をどうするのかはメンバーが決めるという形になっている。
実際はメンバーの全員が人の被害を見過ごせない様な奴の集まりなのだが形式は形式で必要なのだ。


「そうか、それで最後に光太郎が見つかったのはどこなんだ?」


ハロ9000に質問するのはモロボシ・ダン、ウルトラセブンに変身し主力チームの中でもリーダー的存在だった男である。


「ええ、通信機も発信機も何も感知出来なかったんですからまずは現場に行きませんと」


彼の名はアムロ・レイ、モビルスーツ、νガンダムを乗りこなし活躍したエゥーゴのエースパイロットであり若いながらに大尉という階級に恥じぬ実力者である。


「ナンちゃん大丈夫かな……」


「ダンナのことですから無事だとは思いやすが、あっしも心配でさぁ」


本部であるダカール市にある参謀ビルには、全員が集まった訳ではないが光太郎の消息を追って多くのメンバーが集まり会議とそうだんを続けるのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

話しは戻りゼウスのメンバーが光太郎の事を捜索し始める数日前の事。

惑星エルピスとは違う世界ハルケギニアにルイズによって呼び出された、光太郎は左手の痛みに悶絶していた。


「うむ、どうやらコントラクト・サーヴァントは上手く行った様ですな」


光太郎の左手を見てそう呟くのは頭の薄いおっさん事ジャン・コルベール、この使い魔召喚の儀式の監督責任者であり魔法学院の教師の一人でもある。
彼は光太郎の左手に刻まれたルーンを見て珍しいと思いスケッチをすると、全員の使い魔の召喚が取り合えず無事に済んだので生徒たちに教室へ帰るように指示するのだった。


「ヴァリエールは歩いて帰れよ~フライもレビテーションも使えないんだからな」


生徒達は杖を取り出しルーンを唱え飛び上がる、学院までは結構距離があるので大体の生徒は空を飛び帰ろうとする。

その光景を見て光太郎はどうやって空を飛んでいるんだろうと疑問に思うが、モビルスーツなどの兵器をコールすれば呼び出せるパーソナルなんたらの方がよっぽど不可解なのでそれほど気にはしなかった。

光太郎が空を眺めているとルイズが近づき着いてきなさいと声をかける。


「ん?なんでだ?」

「い・い・か・ら黙ってついてきなさい」

「んなこと言われてもな……あーえっと、お嬢ちゃん名前は?」

「口の利き方がなってないわね……まぁいいわ、私の名前はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

「ルイズ・レモンサワーズ・ルブランデー・ドラ焼きアリエール?変な名前だな」

「ルイズしかあってないわよ!!!!」


軽い漫才を披露し無駄な体力を使う、彼としてはそれなりに真面目に答えているのだが、ゼウスの適正訓練において体力テストは抜群だったが知力テストはドベだった彼ではこんなところである。


「ところで他の連中は空を飛んでいったけど、お嬢ちゃんは飛ばないのか?」


光太郎はふと気になった事を口にする、しかしこれが地雷だとは気づいていない。
この質問に対し明らかに不機嫌になるルイズであり回答は


「うるさいわね……」


で終わらされるのだった。

しかしよく見ると他の生徒達が向かって行った場所には結構な距離がある、これを歩いて行くとなるとそれなりに時間がかかる。


「あそこに行きたいのか?なら乗せてってやるよ、アクロバッター!!」


光太郎が声をかけるとアクロバッターは目を光らせ彼の前まで走ってくる。


「な、何これ!?マジックアイテムなの?」

「マジックアイテムってのが何なのか分からねーけど、アクロバッターは俺の相棒さ」


そう言ってヘルメットをルイズに渡して被るように言う。
ルイズは何がなんだか分からないが取り合えず言われた通りにする、そして光太郎がアクロバッターに跨り後ろに乗るように指示する。


「よし、しっかり捕まってろよ」

「え?きゃああああ!!」


光太郎はアクロバッターを走らせ学院で向かう、いきなり物凄い速度で走るバイクに初めて乗ったルイズは思わず声を上げてしまった。
それは無理も無いだろう、陸上を走る乗り物としては馬などが一般的だが普通のバイクでさえ全力で走る馬を容易に上回る速度を出すことが出来る。
当然フルスピードは出さないがアクロバッターは性能だけ聞けば自分の耳を疑うか話している奴の頭を疑うほどの性能を有しているのだ。

いきなりのことで驚いたが、慣れてくると非常に乗り心地の良いバイクにルイズは少し楽しくなってくる、馬よりも揺れは少ないのに走る速度はまるで竜にでも乗っているかのよう、吹きすさぶ風と走り抜ける感覚がいつもの景色ですら別物に見えてくる。

初めはハズレかと思ったけど、こんなすごいマジックアイテムを持っているのなら悪くは無いかも、と光太郎の評価を若干プラスに修正するのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

光太郎とルイズが学院に向かってから数時間後、もう辺りは暗くなり空には二つの月が輝きだしている。本来なら閲覧時間は過ぎているのだが、教員であるコルベールはどうしても光太郎に刻まれたルーンが気になり調べるべく、教師のみ閲覧が許された図書館の一角にある「フェニアのライブラリー」で調べ物をしていた。


「ふむ、確かこの辺りの資料で見た記憶が……こ、これは!?」


コルベールはとうとうルーンの資料を見つけたがあまりの事に驚愕する、これはすぐにでも学院長に知らせねばならないと思い急いでフェニアのライブラリーから出るのだった。

それからさらに数十分が経過し、見つけた資料の結果に学院長であるオールド・オスマンも事実を確認したいと思いルイズの使い魔の青年を呼ぶべく女子寮へコルベールを送るのだった。


「夜分遅くに失礼します、ミス・ヴァリエール起きていますかな?」


ノックをし部屋の主であるルイズを呼ぶ、中には入らずドアの前で取り合えずルイズからの返事を待つ、本来であれば教師といえど男性が夜に女子寮で行くのは少々問題がある気もするのだが、事が事なので秘書であるミス・ロングビルも使わず事実を知っているコルベールに任せたのだ。


「あ、ミ、ミスタ・コ、コ、コルベール、どどどどうしましゃたか!?」


明らかに動揺している声でルイズが返事をする、何かあったのだろうかと疑問に思うがまずはまずは用件を言う。


「起きていましたか、実は例の使い魔の青年のことで少々お聞きしたいことが有るのですが取り次いでもらえますかな?」


コルベールはドアの外からルイズに用件を伝える、しかしルイズからの返答は予想を遥かに超えるものだった。


「そ、それが……」

「それが?」

「何処かに走っていなくなってしまいました……」

「へ?」


と、夜中に間抜けな返事が木霊するのだった。



[34621] 二話
Name: バドー◆38e6d11a ID:70304542
Date: 2012/08/18 03:21
「オールド・オスマン大変ですぞ!!」

「なんじゃね?コッパゲール君、あんまりカリカリしてると頭にも胃にも悪いぞい」

「コルベールです!!いや、そんな事はどうでもいいですが、これを御覧ください!!」

ルイズの使い魔となった光太郎に刻まれたルーンを調べ上げたコルベールは学院長に報告する。
その内容は6000年前にこの地に光臨し今の魔法文明を作り上げたという始祖ブリミルが使役していたと言われる使い魔の一つ【ガンダールヴ】のルーンと酷似していたのだ。

伝わっている伝説によれば一騎で千を超える敵と戦い、始祖を守りぬいたと言われる強さを誇り神の左手と呼ばれていたという。

もしこれが本当にガンダールヴのルーンであったのならば色々と面倒なことが起こる、事態の重要性を理解したオールド・オスマンはまずは情報収集をするために使い魔とその主を呼ぶべくコルベールを使いに出したのだが。


「い、居なくなったとは?」


まさか使い魔本人が居なくなってしまっているとは想定すらしていなかったコルベールは頭が真っ白になってしまった。


事の顛末は、親切にもルイズを学院に送り届けた光太郎は良い事をしたと思いながらアクロバッターで走り去っただけの事である。

その時にルイズも止めようとしたのだが、ルイズを降ろしたアクロバッターはスピードを上げて走り去る、最高時速750キロを誇るアクロバッターがちょこっと本気を出せば声も届かない場所まで直ぐ離れることなど造作も無い事だった、そのあまりの速度にルイズは呆然とするしかなかったのだ。


「何処へ行くのか声をかけたのですけど……その、聞こえなかった様でして……」


ルイズは消え入りそうな声でコルベールに話す、コントラクト・サーヴァントをした使い魔が居なくなるなど人間を呼び出したのと同時に前代未聞だ、しかも春の使い魔の召喚は出来なければ進級する事が出来ないかもしれないほど重要な儀式なので、どうしようかと悩んでいる内に夜になってしまったのだ。


「あの……その……どうすればいいのでしょうか……」


「……そう……ですね……」


ルイズは使い魔が居なくては進級に差し支えるのではないかと心配しコルベールに話す、せっかく成功したと思っていたのに自分の元から消えてしまったので酷く落ち込んでいる。

コルベールも返事に困る、ガンダールヴかどうなのか調べに来たのにその本人が居ない上に別の問題まで浮上しては当然だろう。


「取りあえず、明日の朝にでも学院長と話すとしましょう」


私はこれから行かねばならないが……と思いながらルイズに話すのだった。

〇〇〇〇〇〇〇


「おい、機嫌治ったか?何をイライラしてたんだよ」


光太郎はアクロバッターに話しかける、先ほどルイズを降ろしたとたん急発進し爆走したのだ、他の人から見れば光太郎が急いで居なくなったように見えるが実はアクロバッターがあそこから離れたかったのだ。

ただ光太郎にいきなりキスしただけならばいくら何でもここまで怒らない、怒った理由は光太郎に激痛を与えたことと得体の知れない【何か】を仕掛けたからだ、大抵の事ならキングストーンと太陽の力でどうにか出来るが油断は禁物なのだ。
なのでルイズを送った後は真っ先に離れたかったと言うわけだ。

それに光太郎がゼウスに入ってからは自分が使われる機会も少なくなり一緒に行動する事が久しぶりだった、しかも普通のバイクに偽装する能力も使わず本来の姿で主を乗せるなどさらに機会が減っていた、そんな貴重で至福の時間を邪魔されて不機嫌になっているところにこれだ、ご主人は能天気に構えているが心配でしょうがないアクロバッターであった。


「しっかしここは何処なんだ、せめて何処かの市にたどり着ければなんとかなりそうなんだけどな」


光太郎はアクロバッターの気持ちを理解しきっていないで話を続ける、かれこれ数時間走っているというのに市はおろか人工物に全くお目にかかっていない、空も日が傾きかけて夜になろうとしているのにこれでは困る、元々ツーリングも兼ねていたので1日くらいなら野宿もいいかもしれないと思っていたがここまで何も無く道も無いとなると少々不安になってくる。


どうしたものかと悩んでいたら今まで走ってきたところから一面に綺麗な草原が広がる、光太郎の出身地のライダー大陸にも沢山の自然は有るがここまで美しい草原は滅多にない、光太郎は思わず見惚れてしまいった瞬間に


「きゃああああああああ!!!!!」


と言う悲鳴が聞こえてきた、職業と言うか今までの経験からしてこの悲鳴は痴漢にあったとか、そんなレベルの悲鳴じゃなく命の危機が迫ってるという感じの悲鳴だった。


「ッ!!今行くぜ!!!」


光太郎は悲鳴のした方へ向かうのだった。






彼女は命掛けで走っていた、普段こんなことろには居ないはずのオーク鬼を見てしまったからだ、本来であれば物音を立てずにゆっくり離れるべきなのだが思わず悲鳴を上げてしまったのが運の尽きだった。

オーク鬼は2メートル以上の体格を持ち人間の数倍の体重とそれに比例した力を持ちさらに人間を食らう事で有名だった、そんな奴を見て武器も魔法も使えないタダの平民である彼女が平常心でいられるわけ無かったのだ。

力の限り走る、だが体力も体格も何もかも違うオーク鬼が相手では追いつかれるのも時間の問題だった、
そして彼女は足を滑らせてしまいオーク鬼に追いつかれる。


「あっ!!……やだ……こないで!!!!」


必死に最後の抵抗を見せようと手を前に出し涙目になりながらオーク鬼に向かって叫ぶ、そんな光景を見ていたオーク鬼はニタァと邪悪な笑みを浮かべゆっくりと歩み寄ってくる。

その恐怖に彼女はガタガタ体は震えだす、もう駄目、食べられちゃう、そう諦めかけた時


「させるかぁあああああ!!!」


と爆音と共に何か彼女の後ろから飛び上がってきてオーク鬼にぶつかった。







光太郎は悲鳴のした方へアクロバッターを走らせると女の子が怪人に襲われそうになっているのを発見した、なぜ怪人と断定出来たかと言うとブタの顔に肥満体形というこれでもかと言うくらいに怪人してたからだ、しかも腰を抜かした様に地面に座り必死そうに手を前に出している女の子に向かってニタァと笑いながら近づく奴など怪人では無くてもやばい奴確定だ。


「させるかぁあああああ!!!」


光太郎はアクロバッターをそこから限界まで加速させて女の子の上を飛び越し怪人に体当たりをする、その体当たりは見事に顔面に命中しオーク鬼は吹っ飛ぶ。

光太郎はそのまま地面に着地しオーク鬼と女の子の間に入り盾になるようにし戦闘態勢に入る。


「そこまでだ!!これ以上やるってんなら俺が相手してや……へ?」


そこには見事に即死したオーク鬼がいた。
光太郎はあまりのあっけなさに呆然としているが時速数百キロで突っ込んで来たバイクをカウンター気味で顔面に受ければひとたまりも無い、むしろ化物スペックのマシンに引かれて痛いで済む怪人の方が異常なのだ。


「あーえっと大丈夫かなお譲さん?」


光太郎は気を取り直し後ろの女の子に近づき声をかける、女の子はまだ自分の置かれていた状況が完全に理解できておらず目をパチクリさせながら光太郎の方を見る。

「あ……助かったの……?」

「ああ、もう大丈夫さ」

光太郎は返事を返してきた女の子に親指を上げて爽やかに答えると、女の子は安心したのかボロボロと涙を流しながら光太郎に抱きつく、いつもならこういう場合はダンとかアムロとかに取られてしまうのだが今回は自分一人だったので素直に向かってきてくれて嬉しく思う、出来ることなら後数分はこうしていたいところだが仮にも正義の味方がいつまでも役特に浸っている訳にはいかない、普段お調子者の彼でもそういう空気は読める、それにもう日が暮れて夜だ、家に送るくらいはしなきゃなと思い空を見上げると。


「……月が二つ?」


彼は今ようやく自分がとんでもない場所にきてしまったのだと理解したのだった。

〇〇〇〇〇〇〇

話は変わりここは惑星エルピスのロズウェル市と呼ばれる都市、ライダー大陸にある光太郎が最後に発見された場所だ。


「はい、この人ですね、確かに何日か前にルートの事を聞きにきてましたよ」

「そうですか……他に何か……」

ルートを管理している役員に話を聞いているのはハヤタ・シン彼はウルトラマンに変身する事が出来るゼウスのメンバーの一人だ、元々は科学特捜隊と呼ばれるチームに所属していて主に怪獣退治を使命にしていた、しかし数ヶ月前の事件により世界中で多発する戦火を鎮めるためにゼウスに参加し活躍をした経緯を持つ。

「ハヤタ……何か進展はあったか?」

「本郷……駄目だなロズウェルを出てティエス方面に行ったとしか分からなかったよ」

彼の名前は本郷猛、仮面ライダー1号である、ゼウスはメンバーをなし崩し的にスカウトして人数を増やしたのが殆どなのだが彼は急遽選ばれたとはいえ元々正式にメンバーとしてスカウトされている。
彼は全ての仮面ライダーの先輩であり光太郎も彼と一緒におやっさんの特訓を受けたことも何度かあるのだ。

「ふむ、そうなるとティエス方面から調べているチームの連絡待ちになってしまうな……」

「ああ、カミーユが来たらもう一度そうだんしてみるか」

彼らは光太郎の捜索を開始していたが進展はつかめずにいたのだった。
それは無理もないだろう、なぜなら今彼は異世界にいるのだから……

〇〇〇〇〇〇〇


話は戻り光太郎は草原の近くにあった村に女の子を送り届ける、そしてもう日が完全に落ちていたので村人に泊っていったらいいと言われ好意に甘えることにしたのだった。

ここは一体どういう世界なのか、自分はこれからどうするべきなのか、異邦の存在である自分に対して深く考え……るのは大体ダンとかの役目なので彼は特に気にもせず眠りにつくのだった。

異次元に行ったりいきなり変な場所に転移させられる事はたまにあるので何とかなるだろう、そう結論をだしてしまえる辺り彼の神経の図太さは並みでは無かった。



そして翌日


「お世話になりました!」


「いやいや大した持て成しも出来ませんで、道中気を付けてくださいね」


光太郎は村人たちに別れを告げ旅立とうとしていた、一応今朝になり話を聞いてみたがここはトリステイン王国のラ・ロシェール地方と言われるところにある村だとか名産はブドウだとか、色々話してくれたものの惑星エルピスじゃない、という事しか光太郎には分からなかった。


「あっ、そうだせっかくなので名物があるんですけど見ていきませんか?」


「名物?」


「ええちょっと珍しいものなんですけどね」


何だろうと思いながら光太郎は村人に案内される、そこで光太郎は思わぬ物と出会うのだった。



[34621] 三話
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/08/21 20:57
今日一日ルイズは不機嫌の極みだった。

昨日は使い魔を呼び出すことに成功したもののその使い魔には逃げられた、しかも成功とは言ってもドラゴンやペガサスといった凄いと一発で分かる使い魔ではなく人間でしかも平民あった、自分は平民一人も満足に従わせる事も出来ないのかとみじめに思う。

そして今朝になってオールド・オスマンとミスタ・コルベールに相談しサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントには成功したので進級は出来るようにして貰ったのは良いのだが使い魔がいない事には変わりは無い。

新しい使い魔を呼ぼうにも、サモン・サーヴァントをもう一度唱えるには現在の使い魔が死亡している必要がありコントラクト・サーヴァントが成功してしまっているので使う事が出来ない。


「見ての通りの好青年さ」


と言っていた顔を思い出すと本気で殺してやろうか、と少し思ってしまうほど黒い考えが出てくるほどイラだっていた。
気に入らないし逃げてしまったとはいえ、流石にそんな理由で殺しはしないが彼女の置かれている境遇を考えれば少しくらい思ってしまうのも無理はないだろう。

朝食を取った後に出た最初の授業ではクラスメイト達に使い魔が居ない事を馬鹿にされた。

クラス中から飛んでくる罵詈雑言に反論するが実際に使い魔が逃げしまって居ないのだ、半端な反論は火に油を注ぐような物でさらに笑われるのだった。

授業の担当教員であるミセス・シュヴルーズがフォローに入り、それでも止めない生徒には錬金で作りあげた土でもって口を塞ぐという強硬策でようやく静かになったが、それは口をふさがれるのが嫌なだけであってルイズを馬鹿にするのを止めたわけではないのだ。

夜になり自室に戻り一人になるとじわりと涙が浮かぶ、プライドの高い彼女は人前で涙を流さなかったが一行に好転しない自分の状況に心は折れかかっていた。


「なんなのよ……ようやく成功したっていうのに……」


誰にも聞こえないような小さな声で彼女は呟く、日中の内には殺してやろうかと黒い事も思ったが一応の成功の証である光太郎に帰ってきて欲しいと思う、少ししか話さなかったし生意気な平民であったがそれでも自分に相性の良い生き物だから召喚されたわけで愚痴くらいは言えたかも知れない。


「勝手にどっか行っちゃうなんて……戻ってきなさいよ……バカ……」


そういいながらルイズは緑色をした丸い玉の様なものを弄りながら泣いていた。

誰かに頼ることも弱みも見せることも出来ない状況は思考をさらにマイナスの方向に加速させる、そのせいでもう少し先の事になるのだが彼女は無謀とも言える方法で汚名返上を図ろうとするのだった。



一方その頃、学院長室ではオールド・オスマンとコルベールが話し合っていた、内容はルイズの使い魔のことである、今朝にルイズと話したように取りあえずは進級に関しては問題ないようにはした、ルイズは非常に真面目で魔法の実技以外は優秀な生徒であり立派な貴族になろうと努力しているのは分かっている、なので何とか進級はさせてあげたかったのでそれについては問題ない。

問題は居なくなった使い魔自体のことである、あの後にガンダールヴについてもう一度よく調べ分かった事といえばやはりとんでもない事になりそうだという事だけである。

始祖ブリミルが使っていたとされる、火、水、土、風、とは違う系統の虚無と呼ばれる魔法はとてつもない威力を秘めている反面、発動するまでに時間がかかるのが欠点だという、そのために始祖ブリミルは4つの使い魔を率いて行動していたそうだ。

神の左手ガンダールブ

神の右手ヴェンダールヴ

神の頭脳ミョズニトニルン

そして語ることすら憚れる四つ目

この四つの使い魔はそれぞれに強力な能力を持っており始祖を補佐していたという、もしルイズの呼んだ使い魔が本物のガンダールヴであったのなら事態は【ルイズがすごい使い魔を召喚した】では済まない。

始祖の使い魔の復活という情報は争いの火種を生みかねない、今のトリステイン王国は王の不在で次代の王権は誰が持つのかで揉めている、王という絶対的な権力者による抑止が無い状態でそんなことが知られればヴァリエール家を祭り上げて内戦を仕掛けかねないバカな貴族も出てくるだろう。


このハルケギニアに置いて始祖ブリミルを信仰するブリミル教の影響力は非常に高い、それ故にそんなバカな貴族の声も強く聞こえ、権力、財力を手に入れようとするために便乗する者が増えればそれこそ洒落にならない事態になるだろう。
それほどまでにこの始祖関連の物はとんでもない威力を持っているのだ。

「しかし……なぜ彼は逃げてしまったのでしょうかね」

「まぁなんじゃ、冷静に考えて見ればいきなり知らぬ場所に飛ばされて使い魔にされれば逃げたくもなるかもしれんの」

「……そうですね、少々配慮が足りなかったのかもしれません、そういえばミナミコータローとか言う名前からして平民とは言えあまり聞かない名前と格好でしたし、もしかしたら東方出身なのかもしれません」


実際は東方どころか異世界なのだが二人には分からない、だがそれよりも問題は光太郎の所在だ、ルイズのためにもトリステインのためにも光太郎を探し出さねばならない。
しかし公に探し出すにも一人の平民を大々的に捜索させるわけにも行かない、正体をばらして王宮に言えば人員は確保出来るだろうがそれでは元も子も無い。

二人が何か良い案は無いかと頭を悩ませていると誰かが扉を開けようとするのが見えた。

今この部屋には消音の魔法であるサイレントが掛けられている、学院内に族は居ないだろうが万が一聞かれたら困る内容なので念には念をというやつだ。

二人は出してある資料をしまってサイレントを解き外の人物に声を掛ける。


「夜分遅く失礼します、ロングビルです」


それはオスマンの秘書のミス・ロングビルであった、彼女は秘書の仕事である書類が出来上がり学院長室の明かりがついていたので夜分だが書類を届けにきたという。


「やや、これはすまんのぉ、しかし相変わらず仕事が速いのミス・ロングビル」

「それが仕事ですので、それにしてもノックをしても反応が無かったので失礼なことをいたしました」


と軽く頭を下げる、さらにそう言えばと話をする。


「昨夜もお二人で何かお話なさっていたようですが、何か大変な事でも起きましたか?手伝える事があるのならば遠慮なくおっしゃってください」


その問いかけに二人は目で会話をし、ガンダールヴ辺りの事をぼかして協力を頼んだのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

「まったく、何を話しているのかと思えば使い魔が逃げたってか」

ミス・ロングビルはため息を吐きながら部屋を後にする、トリステイン魔法学院長の美人秘書とは仮の姿
その実態は今トリステイン王国を騒がせている盗賊、土くれのフーケ、である。

貴族から高価なマジック・アイテムを盗み、その後に自分の犯行の証である【〇〇は頂きました】というメッセージを残し、警備を強化してもことごとくそれを突破することから、普段威張りきった貴族を毛嫌いしている一部の平民の間では英雄扱いもされている盗賊である。

実際に彼女が盗みを働いているのにはそれ相応の理由があるのだが、それは置いておき今回のターゲットは学院内にあるとされている【破壊の杖】の入手である。

それを手に入れるためにわざわざ秘書としてこの学校に潜り込み念入りに準備をしていたのだが、保管場所である宝物庫の攻略に手を焼いていた。
メイジにはランクが存在し、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアの順に上がっていく、フーケはトライアングルのメイジでかなり強力なのだがそれでも宝物庫を突破するのは容易ではなかった。

まず固定化と呼ばれる物質をその状態に固定しあらゆる変化から防ぐ魔法が存在する、それを自分よりも高位のメイジが幾重にも掛け宝物庫を頑丈に守っている、それのせいで練金で壁の物質を変えて進入するといういつもの手口が使えない。
さらに唯一の弱点が物理的な攻撃だと言うが壁自体がかなり厚い、破壊する手段も無くは無いのだが目立つ上に失敗したらやり直しが効かない。

なので如何した物かと思っていたのだ、そんな時にオスマンとコルベールが重要そうな会話をしていたのだ。

この魔法学院は有力が貴族の跡継ぎが多く在籍することから時たま外に聞かれたくない話しも入ってくる、しかし最も機密性のある学院長室と言う場所で施錠ししかもサイレントを使うなどよっぽどの事だ、しかも二日連続で、ひょっとすると何か別のお宝の情報が手に入るかもしれないと思いダメ元で言ってみたのだが……


「そりゃあ人間が使い魔になるなんて珍しい……と言うより聞いたことも無いことだけどさ、そこまで隠して話すことかね」


オスマンはひょっとすると凄い力を持っているかもしれないと言っていたが、どう考えてもお宝には結びつかないので自分には関係が無い、それどころか協力すると言ってしまった手前何もしない訳にはいかず、表面上だけでも探すことをしなければならないので余計な仕事が増えたのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

そして惑星エルピスの方では……


「こうたろう、いなくなったほんとか!?」

「おい……いきなり窓から飛びこんでくるなドアから入れよ」

「わるいケイスケ、で、こうたろうどうなった?」

「ああ、今ゼウスのメンバーや一文字先輩達も捜索を手伝っているけど手がかりすらつかめていないそうだ」

「……ケイスケ、たのみある、どうぶつまもるやくめある、だから……」

「分かってるって、俺の方は復興作業もひと段落着いたしもう変身も出来るからな、お前の分までやってくるさ」

「ケイスケ!!ありがとう!!!」

「おわっ!!抱きつくなって……それに個人的にも光太郎には会っておかなきゃならないんでな」

「?」

と捜索隊も少しずつ増えていったのだった。

〇〇〇〇〇〇〇

そして自分が今非常にやっかいな事に巻き込まれているとも知らないこの男は……


「うん、以外にいけるなこれ」


川で魚を取って食べていた。


村を出てから数日が過ぎその間色々な事があった、まずエルピスとは違う異世界のため持っていた通貨が使えず、糧を得るために魚や獣を倒して食べていたのだった。

次に夜になって野宿をしていたところ誰かが近づいてきた、それは小さな女の子でこんなところで何をしているのかと聞いたら、帰れなくなったと泣きついてきたのだ。
しょうがないなと思い帰り道を一緒に探そうと隙を見せたら突如として首に噛み付いてきたのだ、数秒その状態のまま固まると女の子は苦しみだし悲鳴を上げて灰になったのだった、本当に不思議な事であった。

しかしそれ以上に不思議なことがあったのは突然イラっとしたり突然何か悲しくなったりしたのだ、別に何かされたわけでは無いし変な事を思い出したわけでもない、何か急に別の人間の感情が自分に入り込んだような感じがするのだ、さらにそんな現象の極めつけに不可解なことは昨夜に起こった、目をつぶって寝ようとしたらいきなり変な映像が右目に映りこんできたのだ、それは大きな石のような土のような大きな人の形をした物が建物を襲っている映像だった、余りのことに驚くがすぐにその映像は消えたのでなんだったのか結局分からずじまいであった。

せめて誰かと連絡が出来ればよかったのだが、どこかに通信端末を落としたらしく(恐らく繋がらないだろうが)状況は積む寸前であった。


「さて、飯も食ったしどっかに雨風しのげる場所でもないか……」

ここ数日は野宿ですごしてきたのでそろそろ家で眠りたい物である。

すると少し先にちょっとぼろいが家が見える、もしかしたら眠れるかも知れないと思い光太郎はその家へ向かうのだった。



[34621] 四話
Name: バドー◆38e6d11a ID:70304542
Date: 2012/08/24 15:43
「お邪魔しまーす……うへぇ結構汚れてんなぁ」


光太郎が小屋に入るとそこは何年も手入れがされていないのが分かるくらいに荒れていた、埃やクモの巣などが大量にありちょっと動くだけで咳こみそうになるほどだった。


「んーこのままだと眠れねぇよなぁ……よし、掃除すっか!!」


光太郎は寝床の確保のために小屋の掃除を開始した、本気で大掃除をするわけでは無いが寝るところを確保し寝てて喉が痛くならない程度には綺麗にしようと思ったのだ。

クモの巣を取り外し、くもを殺さないようにし埃をどけて行く。


「朝のクモは殺すな、仇でも逃がせってね~」


鼻歌交じりに掃除を続けていく、朝のクモは殺すな夜のクモは殺せ、と言われているのは迷信の一つだが彼が正しい意味で覚えているのかは疑問である。
以前に【虎穴に入らずんば虎子を得ず】と言った時に意味を聞かれ、虎の穴に入らなければタイガーマスクにはなれないって事だろ、と返答したのだ。
まぁタイガーマスクの話的には間違いとも言い切れないあたり微妙なところだが諺としては大いに間違えているのでもう少し勉強が必要なところである。

上機嫌で掃除をしていると何か箱の様な物が奥の方に置いてあるのを発見する、その箱には埃や汚れが付いておらず最近置かれた物らしい、しかもかなり厳かな箱であった。

光太郎は誰かの忘れものだと判断し手を触れずに置いた、こういう時にこの手の物に勝手に触れると余計なダメージを負ったり落とし穴に落ちたりするのが定番なのだ、触らぬ神に祟り無しと言うことである。


それから数時間かけて掃除を終わらせる、取りあえずの休憩所としては十分だろう、光太郎は少し疲れたのかベッドの上に横になり眠りにつくのだった。



〇〇〇〇〇〇〇


光太郎が掃除を終えて眠りについていると小屋に近付く集団があった。


「馬車でそろそろ四時間……あそこかしら」

「あそこですね、私は周りを偵察をしてきます」


その内の一人が馬車から離れていく、全員で五人であり残りの四人はどうやって小屋に突入するかを相談していた。


「小屋の中に誰かいるのか確認が必要」


一人がそう発言する、彼女らの任務は学院から盗まれた破壊の杖の奪還であり相手は最近騒がれている土くれのフーケと呼ばれる盗賊なのだ、有る程度慎重になるのは当然だろう。


「ならば、僕が適任だね」


とバラを掲げた少年が名乗りを上げた。

〇〇〇〇〇〇〇


「ぐぅ~むにゃむにゃ……ん?」


光太郎がいびきをかき寝ていると突如としてドアが蹴破られたのだ、何事だろうと思いドアの方に目をやるとそこには金属で出来た人形の様な物が武器を持ちこちらに向かってきた。


「なんだお前は……おわっ!!」


人形は聞く耳持たずと言ったように光太郎に襲いかかってきたのだ、いきなりの攻撃に光太郎は驚くが不意打ちでそのままやられるほど弱くは無い。

光太郎はひらりと攻撃を避けカウンター気味に腹に蹴りを入れる、人形には蹴り後が刻まれ盛大に後ろに吹っ飛ぶ、人形は小屋の外に弾き飛ばされ転がるがまだ動ける様だ、しかも外を見るとまだ数体いる。
光太郎は狭い小屋に入られる前に勝負を仕掛けるべく小屋から外に出る、向こうの人形も光太郎に攻撃をしようと思ったのか走って向かってくる。

人形は光太郎に蹴られた一体も含めて合計で七体いるようだ、人形達は槍を持ち光太郎に襲いかかる、しかし金属で体が構成されて武器を持っているだけでは光太郎を倒すのには少々戦力が足りない。

槍を捌き足を引っ掛け転がし時には腕をつかみ投げる、複数の敵を相手に囲まれ無いように動き回り確実に一体づつ潰して行く、普通の戦闘員ですら人間の数倍を超える身体能力を有していてそれを変身せずに素手で戦うこと等日常茶飯事、しかも数十人単位で毎度毎度相手をしていればこれくらいの芸当は彼らなら誰だって出来る。

順調に相手をしていると後ろから氷の矢と火の球が飛んできたのだ、何事かと思ったが焦らずに光太郎は人形の一体を蹴り飛ばし盾にしてそこから離れる、戦闘員の後に怪人が現れるのもこれまた定番なので元から油断はしていない、攻撃が飛んできた方をみると


「コータロー?」


と数日前に出会った少女が声をかけてきた。

〇〇〇〇〇〇〇

話は昨日に遡る

学院で土くれのフーケによる窃盗騒ぎが起こったのだ、フーケは大胆にも30メイルはあろうかというゴーレムを作り出し宝物庫を殴りつけ破壊するという手段をとったのだ。(実際にはもう一つ原因があるのだが)

その状況を見ていたのは、ルイズと他数名であり彼女達は事情の説明のため職員室に呼ばれる事となる、そしてミス・ロングビルがフーケの潜伏場所と思わしき所を発見したと報告をし捜索隊が組まれる事となった、しかし教員のほとんどが尻込みしたために業を煮やしたルイズが捜索隊に立候補したのだった。

最終的にルイズだけには任せておけないと言うことでもう一人の目撃者であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーとその友人であるタバサが捜索隊に出ることになった。

ミス・ロングビルが馬車を引きルイズ達が乗る、その時にもう一人捜索隊に名乗り出た男がいた。

それが彼、ギーシュ・ド・グラモンである、彼は数日前に二股していたのがばれてから汚名返上の機会を探していた、そんな中で盗賊が学院を襲うという事件が起こったのでチャンスだと思ったのだ。

ギーシュのランクはドットの上の方という戦力としてはどうなのかという話だが、同時に七体まで出せるワルキューレというゴーレムを操る魔法を有している、白兵戦になればそれなりに使える魔法であり掴む投げる等の動作も出来るため役には立ちそうなので同行を許可したのだった。

まぁキュルケは火のトライアングル、タバサは風のトライアングルなので居ないよりはまし程度に思われているのだろうが。

馬車で約四時間程度のところにフーケは居るとの情報だった、移動の最中に暇だったので軽い話しを持ちかけるキュルケ、彼女は女子寮でルイズの隣に住んでいるのだがお隣さんのルイズとはよく言い争いをしている。理由としては彼女はトリステイン王国の人間で無くゲルマニアという国の出身で実家であるツェルプストー家がヴァリエール家の恋敵だったり先祖から色々と揉め事を多くしている間柄なのだ、ルイズからしてみればいつも小馬鹿にしてくる嫌な奴認定だが、キュルケからしてみればからかい甲斐のあるクラスメートであり影で努力しているのは知っているので他の人格を否定するようなヤジを飛ばす連中とはちょっと違ったりする。


「ねぇミス、なんで貴方が馬車なんか引いているのかしら?誰かにさせればいいのに」

「ちょっと、失礼でしょツェルプストー!!」

「いや、良いんですよ、私は魔法は使えますけど貴族じゃありませんので」


そこのところ詳しく聞きたいと続けようとするのだが、周りに止められ渋々引き下がるキュルケであった、ギーシュがあまり深い事を聞きすぎるのはレディといえども良く無いんじゃないかな?とか言うセリフはともかく親友のタバサにまで止められては下がるしかあるまい。

このタバサという少女は小柄で青い髪が特徴の生徒で普段から無口かつ大人しい性格のためにあまり人つき合いは良いとは言えない、だがキュルケとは何故か中が良い、社交的で複数の恋人を持つキュルケと大人しく無口な少女がなぜ中が良いのかは周りには良く分からないが二人はよく一緒にいる。

タバサは友人を止めた後に読書にいそしんでいた、彼女は暇さえあれば本を読むという文字通り本の虫と言えるほどの読書好きであり、こんな任務の最中でも読むほどである。

話の話題は移りルイズが使い魔に逃げられた事を持ち出しちょっとからかう、どうせなら私が呼んだフレイムみたいなのが良いわよね、などちょっと突いただけで火のように怒りだすルイズがたまらなく面白い。

そんなことをやっている内に目的地に着いたのだ。


「あそこですね、私は周りを偵察をしてきます」


とミス・ロングビルが周りの偵察に行き。


「小屋の中に誰かいるのか確認が必要」


とタバサが発言する。


「ならば、僕が適任だね」


とバラを掲げたギーシュが魔法を唱える、すると合計で七体のワルキューレを生み出し小屋の前に配置する、そして近付きながら様子をうかがうと中に誰かいるようだ。


「どうする?」

「まず突撃、その後目標が出てきたらワルキューレで捕える、私達は後ろから魔法で援護」


と簡潔な作戦を伝える、メイジは魔法を唱えるから強力なのであって不意打ちと速攻で白兵戦に持っていけば理はこちらにあると考えたのだ、それに情報だと相手は土のメイジ、ゴーレムなどの強力な攻撃手段は有れど風や火のように素早い近接攻撃手段は余り得意では無いとの判断でもあった。


「分かった、それじゃあ合図で突撃するよ、3・2・1・0!!」


0の掛け声と共にワルキューレの一体がドアを蹴破り中に突入する、するといきなりワルキューレがすっ飛ばされて戻ってきたのだ、さらに続けて中から人が出てくる、一同はあれがフーケかと思い攻撃を続行するが結果は予想とは大きく違った物だった。

相手は見事な動きでワルキューレを屠っていき魔法を使う素振りは一切ない、しかしこのまま見ているだけという訳にも行かずタバサとキュルケは援護をすべく詠唱を開始する。

タバサは氷の矢の魔法、ウインディ・アイシクルを、キュルケは火の球である、フレイム・ボールを同時に発射する、相手は後ろを向いていたしタイミング的にも当たる、と思っていたのだが相手はそれほど甘い相手では無かった。

ちらりとこちらの魔法を確認すると相手視点で正面にいたワルキューレの後ろに回り込み蹴り飛ばして、二つの魔法の盾にして横に転がって距離をとったのだった、その一連の素早い動きと判断力に驚き冷や汗が出てくる。

三人がどうやって倒せばいいのかを考えていたらルイズが一人相手に向かって歩き出したのだ、慌てて止めようとしたその時ルイズは一言。


「コータロー?」


と話しかけるのだった。


〇〇〇〇〇〇〇


「……え~っと、ドラヤキアリエールさんだっけ?」

「何で唯一合ってた所を覚えて無いのよあんたは!!」


ルイズはもの凄い剣幕で光太郎に話す、色々たまっていたのだから仕方が無いと言えば仕方が無い。


「何?知り合いなの?」


「……私の使い魔よ」


ルイズはバツが悪そうにキュルケ達に話す、それを聞いて三人はぎょっとした顔をした後に問いかける。


「え?何?逃げ出した使い魔ってこれなの?」

「……美人に声を掛けられて悪い気はしないけどさ何のことなんだ?」


そう光太郎に言われてルイズは説明する、思えば使い魔になったという説明をしていなかったのでそこから話し始める、ついでに使い魔にその役割を自覚させるためにも色々と話す。


「で、俺はルイズの使い魔になるために呼ばれたと?」

「そう言うこと、で今度はこっちの質問なんだけどなんであんたはあの小屋にいたのよ」

「なんでも何も寝てただけなんだけどな」


こっちの世界に来てから何かと揉め事に巻き込まれるようだがゼウスの一番忙しかった時期に比べればどうという事は無い。
ルイズ達は今度は光太郎に目的を話す、土くれフーケという盗賊に学院が襲われて秘宝が盗まれたこと、そして潜伏先と思われし場所があの小屋であったということを伝える。


「破壊の杖?ああ、そういやなんか厳かな箱が中にあったぜ」


そう光太郎が言うとギーシュが調べに行く、すると光太郎の言った通りの箱が有った。


「これで間違い無いのかい?」

「ええ、間違いなくこれよ、私見たこと有るもの」

「じゃあこれで目的は達成ね、なんだかあっけないわね」

そうキュルケが行った瞬間にバキバキと木々をへし折る様な音が響き渡った、一同が何事だと思いそちらの方に向くと昨夜学院を襲ったゴーレムが居たのだった。


「ッツ!!やっぱり近くにフーケはいたのね!!!」


ギーシュ、タバサ、キュルケの三人は目的を達成したので撤退する方向に意識を向けているが、ルイズは違いゴーレムに向かい立つ。


「ちょ!!何やってるのよ!!!」


キュルケの制止も聞かずにルイズは魔法をゴーレムに放つ、しかし余りにも巨大なゴーレムにたいして小さな爆発では大した効果は現れずむしろ標的に選ばれるだけの結果になってしまう。
それでもルイズは詠唱を止めずに立ち向かう、しかし結果は一緒だった、するとルイズの前に光太郎が出てきたのだ。


「止めとけ、あのデカブツにはそれじゃあ効きめが薄そうだ」

「何よ!!邪魔しないでよ!!!」


若干ヒステリー気味にルイズが叫ぶ、彼女はようやく訪れた汚名返上のチャンスに必死だった、それに昔から家族に言われ続けた貴族らしく生きるという自信にある強い思いを捻じ曲げる事も出来なかったのだ。

光太郎にその一言でどれだけ伝わったのかは分からない、使い魔として主と繋がっているからなのか、今まで多くの人達を見続けてきた経験からなのか、光太郎にはルイズの真剣さと思いの強さが良く分かったのだった。


「安心しろよ、俺が代わりに相手してやるさ、主を守るのも使い魔の仕事なんだろ?」


光太郎は軽く笑みを浮かべルイズに言い放つ、しかしルイズは引き下がらなかった。


「無理よ!そりゃああんたが少しは強いのはさっき見て分かったけど……いくらなんでも」


ルイズが言いきる前に光太郎は気合を込めて何十回とやってきたポーズをとる。


「普段はイケメンの好青年だけどな、あんな奴が現れた時にはよ俺は正義の味方になるんだぜ」


光太郎は腕を振り力強く叫ぶ


「へん……しん!!」


その瞬間に眩い光が光太郎を包み込み姿を変える、黒い体に真っ赤な目、どことなく昆虫を思わせるフォルムをした姿、しかし不気味さは全く無く見る者に安心を与えるような強さも感じる。


「俺は太陽の子!!仮面ライダーブラックRX!!!」


幾度となく脅威から人を守ってきたゼウスの一人が今ここに現れたのだった。













「……かっこいい」

ついでに眼鏡をかけた少女がボソッと言ったのだった。



[34621] 五話 
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/08/28 04:22
「俺は太陽の子!!仮面ライダーブラックRX!!!」

高らかに名乗りを上げてRXはゴーレムの前に立つ、基本的には人より少し大きい程度の敵を相手しているのだが、αアジールやサイコガンダムなどの大型のMSやMA(モビルアーマー)などとも戦ったことがあり大きさの差などはRXには関係なかった。

「コータロー……あんたは……」

後方に居る三人の内二人は唖然とし一人は目をキラキラさせている中でルイズがRXに声をかける、するとRXはゴーレムを方を見ながら

「まぁ安心して見てなって、軽く捻ってやるからよ」

と答えてゴーレムに向かうのだった。



向かってきたRXを叩き潰すべくゴーレムはその大きな腕を振り下ろす、30メイルはあろうかというゴーレムの前ではRXの大きさなどまさに虫のようなサイズなのだ、

「トゥ!!」

RXは掛け声を上げると高くジャンプする、軽く飛んだように見えるのにゴーレムの頭よりも上に行きそのまま足を前に出す。

「RXキック!!」

RXの技の中ではあまり威力の高い技ではないが、普通ならば十分に必殺技と言えるキックをゴーレムの胸にめがけて放つ。

ゴーレムはRXキックをもろに食らい後ろに倒れるのだった、その光景を見ていた五人は驚愕していた、
それはそうだろう自分の十数倍はあろうという巨体を蹴り飛ばすなど常識では考えられないからだ、まぁ彼らを知っている人間ならば凄いで済むのだろうが初めてライダーの戦闘を見るのでは無理もないだろう。

「しぶといな……」

RXはそう言うとそのまま地面に着地しファイティングポーズをとる、するとゴーレムがヒビの入った胸をじょじょに修復しながら立ち上がってきたのだ。
ゴーレムにはいくつかパターンがあり例えばギーシュの様に金属を錬金して操る物もあれば、そこいらの土や石から作り出す物もある、このゴーレムは後者のパターンで破損しても周りから破損部分を補うことができるのだ、最も無限ではないのだが。

しかしRXはそう考えなかった、なぜならかつて戦った相手に無尽蔵に回復し続ける敵がいたのだ、そういう奴を相手にするのには最大火力でもってとっとと殲滅するに限るのだ。

「リボルケイン!!」

RXはベルトのバックル部分に手を当てそこから一本の剣を取り出すのだった。

〇〇〇〇〇〇〇

一方その頃、ルイズ達の居る方向とは反対側の茂みに潜んでいる、ミス・ロングビルことフーケは焦りまくっていた。
そもそもなぜルイズ達をこの場所へおびき寄せたのかというとせっかく盗んだ破壊の杖の使い方が分からなかったからだ、形状は杖というか筒というかそんな形をしているし魔法が掛かっているのか調べるディテクトマジックを使っても分からなかった。

どんなに高価で強力なマジック・アイテムでも使用方法が分からなければ濾胞の石に等しい、なので破壊の杖を持った連中を危険な目にあわせて使い方を調べるつもりだったのだが、予定が大いに狂いまくっていた。

まず小屋に誰か別の人間が居た、しかも背格好からして聞いていた逃げ出した使い魔のようだ、そこまでは別にいいのだがその後が問題だった、破壊の杖を手に入れた一同にゴーレムをけし掛けたらその使い魔が間に入ってきたのだ、それも変身して。

フーケはその時点でかなり混乱していたが気を取り直してゴーレムを操ったが使い魔がキックをかましただけで自慢のゴーレムが盛大に吹っ飛んだのだ、その瞬間に数日前にオールド・オスマンが言ってたことを思い出した。

「もしかしたら凄い力を持っているのかも知れない」

もしかしたら凄い力を持っているかも知れない、凄い力を持っているかも知れない…………

オスマンの言葉にエコーがかかり頭に響き渡る、数秒間固まったが頭を振りゴーレムを修復し再び向かわせるのだった。

〇〇〇〇〇〇〇

光子剣リボルケイン、ベルトのバックル部分であるサンライザーの力によって光を結晶化させ生成される剣状の杖、一部では抜けば勝利確定とまで言われた太陽の子を象徴する武器。

光輝く聖剣を抜き出し構えるRXを見てルイズは光太郎を召喚した日を思い出していた。

実はルイズの言っていた召喚の呪文は本来の物とは少々違う、本来は

【我が名は『名前』。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ】

という物なのだが、ルイズは今までの状況を覆したくて呪文に願いを込めて

「宇宙の果ての何処かにいる私のシモベよ、神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ!!私は心より求め訴えるわ、 我が導きに答えなさい!!!」

という物に少々変更して唱えたのだ。


RXは地面を叩く様な動きを見せて高く飛ぶ、そしてリボルケインでゴーレムを頭から縦に切り裂く、RXは着地しルイズ達の方に向きリボルケインをRの形を描くように振るとゴーレムは火花を散らし爆発するのだった。


神聖で美しく強力な使い魔、RXはまるでそれを具現化したような存在だった。


RXは変身を解き光太郎に戻ってルイズに近づき

「な、軽く捻ってやったぜ」

と笑顔で話しかけるのだった。

盗賊土くれのフーケの討伐、それがルイズ達の冒険の始まりだった

そしてこの日を境に物語は始まる、ハルケギニア全てを巻き込む大きな物語が…………






その頃ルイズの部屋にある緑色の小さな玉から

「・・・うた・・ろ・・・こ・う・・・た・・・さん・・・じ・・・か」


と声が出ていた。




南 光太郎 プロローグ 編 完

〇〇〇〇〇〇〇

ここでもう二人、物語の重要な参加者の話をしよう。

まずは最初の一人。

話は少々前に戻る、それは光太郎がルイズによってハルケギニアに呼ばれる前の話、場所はトリステイン王国とは違うガリア王国と呼ばれる地でのことである。

このガリア王国はハルケギニアで最も栄えた国であり人口も多く豊かな土地である、しかし王であるジョゼフ一世が政治にあまり興味が無く魔法の腕もたいしたことが無く【無能王】と言われている。

そのせいなのか国の支配体制が一枚岩でなく良からぬ企みを企てている者も多い。

そしてその中の一人がジョゼフの娘であるイザベラに暗殺者を仕向けたのだ、今のジョゼフには王妃がおらず血のつながりを持つ娘が一人居るだけなのだ、それが亡き者になれば色々と美味しい思いが出来ると考える者も居る。

ローブを被った一人の人間がゆっくりとイザベラの居城であるプチ・トロワに侵入する、この者は地下水と呼ばれる凄腕の暗殺者でありガリアの裏社会で恐れられている、名前の所以は地下で音もなく流れる地下水の如く誰にも気づかれず目的を果たすと消えてしまうことからそう呼ばれている。

地下水は事前に調べていた情報を元にイザベラの寝室に入る、しかし予定通り進入には成功したのだがイザベラの姿は無かった。



「暗殺者さんよ、目当てが外れたな」


突如として声が聞こえ地下水は振り返る、そこには帽子を被り背中にギターケースを背負った男がいた、
地下水は驚いていた、先ほどまでまったく人の気配がしなかったというのにその男はまるで瞬間移動でもしたかのように急に存在感をあらわにしたからだ。


「誰にも悟られずここまで来る腕、スマートに物事を済ませようとする姿勢、どれを取っても一流なのは間違いないな」


男はまるで舞台のワンシーンでも魅せるかのように語りだす、普通ならばこのような時にキザったらしいセリフにポーズまで付ければ陳腐に見えそうなものだが、不思議と様になっており地下水もそれに乗るように話す。


「お誉めくださって光栄ですね、私の行動を読んで待ち伏せするとは中々の使い手とお見受けしますが」


すると男は被っていた帽子を少し下げ


「ふっ、さっき誉めておいて何だが、あんたの腕は一流だがこの世界じゃあ二番目だ」

「ほぅ、では私以上のスキルを持った者が存在すると……それは誰ですかな?」


男は軽く口笛を吹き、顔の前で人さし指をたて、チッチッチッと指を振り親指で帽子をあげ「俺だよ」と言わんばかりに自身を指す。

その自信に満ちた行動に普通なら舐めやがってと思うところだろうが、地下水とて一流の暗殺者、目の前の男がタダのハッタリをかますだけには到底見えなかった。


「まぁここで証明してもいいんだが、ちょっと五月蝿くすると可愛いお姫様に何を言われるか分かったもんじゃないんでな、またの機会にさせてもらおうか」


そう言うと男はドアの方に向かって歩いていく。


「見逃すのですか?私が言うのもなんですが暗殺者に城内に侵入された上にそのまま放っておくのは普通はしないでしょう?」

「ああ、放っておく、見た感じであんたはこうなったらもう仕事はしないだろ?」


その言葉を聴き地下水は黙ってしまう、自身の目的で一番重要なのは報酬でも権力でも無く楽しむ事なのだ、行動を完璧に読まれた上に見逃してもらった状態で目標を始末しに行くなど興ざめもいいとこだ。

しかしやる気が無くなったので仕事を放棄しますなど出来るはずも無い、プライドがどうこうではなく信用が一度下がればそれだけ次の機会が減るのだ。


「諦める理由が欲しいならくれてやろうか?」


男は地下水に語りかける、彼が物語の表舞台に出てくるのはもう少し先の話である。

〇〇〇〇〇〇〇

最後にもう一人の参加者について話そう。

場所はガリアともトリステインとも違うもう一つの国、浮遊大陸アルビオン王国にある小さな村に現れる。


「私はいったい……助かったのか……」


男は自身に起こった事がまったく理解出来ていなかった、気がついたら森の中に出てきたのだから、それも人間の姿で。


「あ、あの……」


どうやら彼の目の前に誰かが居たようだ、彼も後に物語の重要な役割を持つのだが今はまだ己に起こった状況を理解しようとするので精一杯だった。



[34621] 南光太郎 幕間 学院編
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/09/01 09:46
「光太郎さん、光太郎さん……だめですね」

ダカール市にある参謀ビルの最上階にいる大型コンピューターハロ9000は電波の繋がった光太郎の通信機に会話を送っていた。
しかし繋がったのは一瞬だけであり、すぐに電波は途切れてしまったのだった。
ゼウスのメンバーに渡してある小型ハロタイプの通信機はコミカルな形とは裏腹に非常に高い性能を有しているのである、通常ならば携帯電話などはちょっと地下に入ったりすれば電波は悪くなるがこの通信機は海底都市の最深部に入っても電波の通じる優れ物でありしかも、電波は世界中どこへ行っても基本的に繋がるのだ、さらに少しだけとはいえ解析機能なども入っている小さいが非常に便利なツールなのだ。

光太郎が行方不明となったと同時にこの通信機の電波も途絶えたので当初は故障したものと判断したのだが突如として繋がったのだ、残念な事に光太郎とは会話出来なかったがそれでも繋がった事は事実なのでハロ9000は場所の特定を急ぐのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

「ふむ、それでフーケには逃げられてしまったのじゃな」


一同は魔法学院に戻ってオスマンに報告をする、ゴーレムを光太郎が倒した後にミス・ロングビルと合流し辺りを捜索したのだがフーケは見つかなかったのだ。
だが破壊の杖の奪還は出来たのだし最低限の目的は成功したので帰ってきたのだった。

「申し訳ありません……」

「なに、構わんよ、確かにフーケを逃がしたのは残念じゃったが破壊の杖は戻ってきたことだしの」

オスマンは顔に笑みを浮かべルイズ達に話しかける、自分も推奨したとはいえ教師の代わりにフーケの捜索に生徒たちを行かせる事になっただけに心配だったのだ、それが無事に帰ってきた上にちゃんと破壊の杖まで戻ってきたのだから褒めることはあっても叱る事は無いだろう。


「じゃあミス、それを宝物庫に戻しておいてくれんかの」

「……わかりました」


その言葉にピクッと反応するロングビルことフーケであった、光太郎のアレを見て倒すのは困難と思い色々と誤魔化して一緒に学院に戻ってきたのだがある意味もう一度盗めるチャンスが来たのでどうしようか悩んだのだ、だが結局破壊の杖の使用方法は分からずになってしまったし今盗めば確実に自分がフーケだとばれる、物品を盗んだ本人に元に戻させに行かせるのはちょっとシュールだが誰も知らないので仕方がない、少し……いや、かなりの葛藤の末にフーケは宝物庫へ行くのだった。


破壊の杖の事が済み次に話題は光太郎のことになる、召喚の日に逃げ出し行方が分からなくなっていた使い魔が見つかった、それはいいのだが問題は彼のルーンのことである、オスマンはタバサ、キュルケ、ギーシュの三人には退室を促しルイズと光太郎には話があると言って残したのだ。


ルイズによって既に使い魔のことに関しては大まかに聞いていたのでそれについての補足と光太郎自身の事だ、まず光太郎は呼ばれた事に関してはそんなに問い詰めなかった、相性の良い生き物が召喚されるというので自分が選ばれたのならば意図や悪意があった訳でなく事故の様な物なので別に怒りはしなかった、気がついたら棺桶に入れられてた経験があるのでそれよりはましだと光太郎は思っていた。

しかしそれ以上に自分の事を話すのがかなり難儀であった、いきなり別の世界の人間だと話しても理解してもらうのは難しい、それに光太郎もかなり説明が下手な人間なので話は一向に進まない、結果として光太郎はハルケギニアから非常に離れた場所から来た人間と言うことになり、彼にも彼の生活があるので元の場所に戻す方法も探すということで話は落ち着いたのだった。

そして最後にガンダールヴの事である。


「実はのコータロー君その左手のルーンなんじゃがの」

「ん?これのことか」

「うむ、ミス・ヴァリエールにもちゃんと聞いておいてほしい」


オスマンはガンダールヴについて話す、始祖が使役した使い魔、ありとあらゆる武器を使いこなしたと言われる伝説、そしてそれを公表せずにいてほしいと言うことだった。


「まぁいきなり伝説の使い魔と言われてもピンと来ないじゃろうがな」


とオスマンは言ったがルイズはRXの事を思い浮かべていた、光輝く剣にあの圧倒的な強さ、どれを取ってもオスマンが言っていた事に当てはまる。

ルイズが色々と思っているが光太郎本人は特に気にもせずに、へぇそんな伝説があるんだなぁ、程度に感じていた、まぁ彼らゼウスがやってきた事を物語にでもしたら売れそうな英雄譚になりそうだし、ゲームにしても需要がありそうだ、つまりそれくらい作り話のようなトンデモ体験を実際に行っていたのでそんな話をされても特に驚きもないのだ。

オスマンとの話も済み、光太郎は平民の宿舎があるのでそこで基本的に生活する事になり使い魔としてルイズを手伝うこととなったのだった。


「ねぇコータロー」

「どーした?」

「あの……さっきはありがとう……」


学院長室からの帰りにルイズは光太郎にお礼を言う、正直に言って光太郎がいなければフーケのゴーレムにも勝てなかっただろうしひょっとしたら命を落としていたかもしれない、それに他人に褒められたのが久し振り……いや親族以外なら初めてと言えるかも知れない、それをもたらしてくれた光太郎には感謝していたのだ。


普段の彼女を知る人間がいれば礼を言っている彼女を見て雨が降るかもと思うかもしれない、だが彼女は根っこの部分はとても優しい人間なのだ、他人から蔑まれることが多かったせいで人との距離が離れがちであり、そのために素直に礼を言うことに慣れていなかったのとプライドの高さで少しどもった言い方になってしまったのが少々おしいところだ。


「どうってことないぜ、仮面ライダーは人類の自由と平和を守るのが仕事だからな」


と光太郎は笑みを浮かべルイズの頭に手をおいて少々乱暴だが撫でるのだった。


「ちょ……やめなさいよ!!」


ルイズはいきなり頭を弄られムッっとしたがあまり悪い気はしなかった、優しく温かい撫で方をしてくれた姉がいたがそれとは別の安心感がそこにあった、それにハッと気づき顔を赤らめて光太郎の手を振り払う。


「と、とにかく宿舎に泊まる用意ができたら部屋にきなさいよね!!」


と言い放ちルイズは去る、何でドキドキしてるんだろう、と思いながらルイズは部屋に向かって行った、強い使い魔だから安心したのよね、そうよそうに決まってるいきなりだからビックリしたのよこのドキドキは、と色々と思い浮かぶ気持ちを整理しながら部屋に向かうのだった。


「……宿舎ってどこに行けばいいんだ?」

と光太郎は置いていかれて黄昏ていた。

〇〇〇〇〇〇〇

「皆さんに連絡します、先ほど数秒の事ですが光太郎さんの通信機と電波が繋がりました、それを踏まえて皆さんにお伝えしなければならない事が出来ましたので、一度ダカール市の本部までお集まりください」

ハロ9000から突然にゼウスのメンバー達に連絡が入る、先ほどまで場所の特定に急いでいたハロ9000はあまりの事に一度メンバーを集めることを決定したのだった。

それはゼウスにとって因縁の深い場所であった……


〇〇〇〇〇〇〇
置いて行かれた光太郎は学院内をウロウロしながら宿舎を探していた。


オスマンが元の世界に戻る方法は探してくれると約束してくれたが光太郎本人はそんなに焦ってはいなかった、もしこちらの世界で元の世界へ移動する魔法が見つからなくても惑星エルピスでは空間転移技術は限定的ながら実用化されているので、最悪2~3年程度こっちにいてもゼウスの皆が見つけてくれるだろうと思っていたのだ、実際には空間移動と次元の壁を超えるのにはとんでもない差が有るのだが光太郎は知らないのも無理はなかった、ヤプールの使った次元の壁などもさることながら異世界に渡るなどの強力な次元移動の手段など今のところXNガイストという兵器が有していたものくらいしかないのだ。

それにゼウスが最も忙しかった時期だったならば何が何でも戻る方法を探すところだが今は急いで戻る理由も特にはない、ライダー大陸に蔓延っていた悪の秘密結社は大まか倒したし、ガンダム大陸のエウーゴ軍も今回の一件で改革が進んでいるそうなのだ、これもアポロンを打倒したことが大きいと言える、フラスコの中の実験の失敗、未来に訪れる破滅、彼は不吉なことを言っていたがゼウスのメンバーが戦った事で闇は払われ明るい未来が見えるとも言っていた。
彼のやりかたは間違っていたと言いたかったが今の世界の安定は彼が世界中の悪意や敵を纏めて一つの巨大な組織にしたからだと言えるのかも知れない。

その彼のためにも自分たちが勝ち取った平和のためにも、これからは世界を救う戦いから世界の平和を維持する戦いをしなければならない、だからいつかは帰らねばならないのだが元の世界には頼りになる仲間も先輩達もいるのだ、事態は急速に悪化することもないだろう、ならば気長に待っていてもいいかも知れないと思っていたのだった。

しばらく歩いていると目の前に美人のメイドさんがいるのが見えた、これはチャンスと思い光太郎は急いで駆け寄る。


「そこのお嬢さん失礼」


光太郎は格好付けて話かける、彼はナンパ癖があり特に美人に目が無い、黙っていればハンサムな青年なのだがこの辺が少々残念なところである。


「はい、なんでしょう?」


黒髪のメイドさんは光太郎の格好付けを華麗にスルーし返事をする。


「ちょっと道を聞きたいんだけど宿舎ってどこにあるのかな?」


あっこれは手ごわいと思いとりあえず目的を先に話す、すると完璧なスマイルで持って


「平民用の宿舎でしたら、ここから右手に行ったところにありますよ」

と答えたのだった。

「おっありがとう」

「ところで……どちら様でしょうか?」


光太郎の格好は皮ジャンに指貫グローブにジーパンとどこからどう見ても貴族には見えない、かといって平民が着ている服なのかと言われても見たことも無い格好なので判断が付きにくい、少なくとも今まで学院にいた人間では無いのは確定なので彼女の疑問は当然だった。


「あーなんて言うかな……ルイズって知ってるかな?それの使い魔かな?」

「ひょっとしてミス・ヴァリエールの逃げ出した使い魔っていう……あっ失礼しました」

思わず無礼な事を言いそうになり謝る彼女であったが光太郎はつづけて話す。


「まぁその逃げ出した使い魔なんだけどな、ちょっと住む場所を確認したくて宿舎に行きたいんだ」

「それでしたら、私が案内しましょうか?お話も通しやすいでしょうし」

「おお、それだとありがたいな、おっと名乗ってなかったな、俺の名前は南 光太郎っていうんだ、よろしくな」

そう言って光太郎は手をさしだす、それに彼女は答えて

「私はシエスタと申します、よろしくお願いしますねコータローさん」

と名乗り返してくれたのだった。



[34621] 南光太郎 幕間 学院編2
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/09/03 07:59
光太郎が学院にやってきてから数日が経過しルイズの事をゼロとバカにする者は殆ど居なくなっていた。

まずフーケから破壊の杖の奪還に成功した事が皆に知れ渡った、それについてはトライアングルであるタバサとキュルケが主にやったことだろうと思っていたのだが、なんとルイズの使い魔が倒したというのだ。

タバサは元々あまり人付き合いが良い方では無いので話を聞くものは居なかったが、キュルケには取り巻きの男もかなり居たので情報はそれなりに入ってくる。

そして彼女らに同行したというギーシュからも話は聞けた、彼は派手好きであり、こんな武勇伝をひけらかせそうな話題であったら多少の脚色が入っても自分の活躍を話すだろう。だが彼はそこまで自分の活躍も言わず、トライアングルの二人の事も言わずにルイズの使い魔が大活躍したことを話したのだ。

元々名誉挽回のために参加したはずなのに自分の事よりも光太郎の事を言ったのには、RXの勇士を見てそれに憧れたせいでもあった、ギーシュは軍人の家系であり彼自身も将来はそちらの道に行くつもりである、それ故に多少なりとも戦いの教育は受けて育っている、その中には英雄と呼ばれたり勇者とする者はいることはいるがごく僅かな例であり、実際にはまずそんなものには成れないということも言われている。

だがRXという勇者の実物を見てすさまじい衝撃を受けたのだ、それを前にして中途半端な事は話せないと思い自分のことは自重して話したのだ。

結果として光太郎の活躍は事実ということで周りに知れ渡る事になったのだ。


だが事実として認知はされたもののやはり疑う者はいた、そしてそれを決定的にしたのは光太郎がルイズから逃げ回り爆破されたのを何回も目撃されたからだ。


「ちょ!!やめ……どわぁあああ!!」

「うるさい!!ツェルプストーには近づくなって言ったでしょ!!!」


と、この様に結構情けない姿をさらしていたのだ、前にも言ったが光太郎は美人に目が無くナンパだって結構やっている、そんな彼が美人でボン、キュ、ボンな彼女に言い寄られては付いて行くのも仕方ないだろう、そんな訳で光太郎はルイズの爆発を何度も喰らっていたのだった。

この光景を見て本当は強くないのではないか?と元々疑っていた連中もそうでない者もそう思うのは無理もなかった、何せ自分たちがゼロとバカにしていたルイズにボコボコにのされているからだ。

そしてその状況を利用しようとした者がいたのだ。

彼の名前はヴィリエ・ド・ロレーヌ、彼はそれなりに優秀な風のラインメイジであるのだが、ちょっとした事が原因で汚名返上の機会を探っていた。

簡単に言うと風のトライアングルメイジであるタバサに恥を掻かされたのだ、まぁ自業自得としか言えない内容なのだが、汚名を拭いたいのは人としてましてや貴族ならば当然と言えよう。

学院の生徒でもトップのトライアングルの二人であるタバサとキュルケが活躍できなかったフーケの討伐、それを成しえたという平民であるルイズの使い魔、それを倒せば汚名返上になると思ったのだ。

フーケの討伐を成しえたという話し、タバサ達よりも活躍したという話し、だがゼロのルイズに負けている事実、きっとタバサ達が謙遜してそう言ったに違いないと判断し行動に出るのだった。


まずはルイズに挑発を仕掛け、使い魔の活躍も嘘だろうといちゃもんをつける、そして


「嘘じゃ無いのを証明したければ、このヴィリエ・ド・ロレーヌが実力を測る相手になってやろうか?」


と大勢の生徒の前で言ったのだ、これは決闘を申し込んでいると言っているようなものだ、決闘は校則で禁止されているのだが、それは貴族の決闘が禁止されているのであって平民に戦いを挑むのは問題ないと思ったのだ。

実際には何の力の無い平民では魔法に太刀打ちすることは難しく、学院内の平民に手を挙げる奴などまず居ないのし逆らう者も居ないので書いていないだけなのだが、どこの世界にも書いてないからやってもいいと思う奴は居るのだ。

しかし断ろうにも大勢の人間の前で言われては断るのは難しい、しかも周りの生徒が煽りだし逃げるのはダメという空気を作り出す、野次馬というものは昔から刺激が欲しい生き物であり面白ければ善悪の判断は鈍ってくるものなのだ。さらには本当に光太郎の実力も知りたいと思っていた者が大半なのでせっかくの機会を逃す事はしなかったのだ。


周りの反応にルイズは困る、もし光太郎の強さを知らなかったら、憤慨しつつも大人しく引き下がる道を選んだだろう、だが光太郎の強さを知っている今では逆に相手の事を心配していた。


「リボルクラッシュ!!」

「ぎゃぁああああああ!!!」


という光景が頭に浮かぶ、もしそんな事になったら相手はまさに骨も残らず消え失せるだろう、そのリアルな場面を想像してしまい顔から血の気が失せる、それを見て弱気になっていると思ったヴィリエはさらにたたみ掛ける。


「どうした?やっぱり使い魔の事は嘘なのかな?」


何を言ってるのよこの馬鹿は!!自分で死刑台の階段を上っているのに気付いてないの!!!と心の中で叫ぶ、今は目の前のこいつに文句を言うよりも、光太郎と決闘させない方向に持っていかねばならない、そのためにルイズはドンドン続けて放たれるヤジと挑発を無視し頭をフル回転させていた。

だがそんなルイズの考えを無視するように光太郎が乗り出す。


「おい、クソガキ、俺の事だけでも頭にくるけどよ、こんなか弱い女の子虐めて楽しいのか?」


光太郎も頭に血が昇りやすく熱くなりやすい男であるが、子供に少し弄られたくらいでは怒ったりはしない、だが何かにつけてルイズまでバカにしているクソガキを見ては流石に黙っては居ない。

さならがイジメを見つけた近所のお兄さんといった心境であろうか、光太郎が挑発に乗ったと思いニヤリと笑みを浮かべるヴィリエ。


「ならば、どうすると言うのかな?」

「俺の実力が見たいんだろ?なら見せてやるよ」


その言葉に、おお、と歓声が巻き起こる、光太郎のセリフを聞きルイズは青ざめ観衆は沸き立つ。


「コ……コータロー……」


ルイズは光太郎の腕にしがみ付き懇願するように見つめる、それを見て光太郎は優しく頭に手を置いて


「安心しろよ、全力は出さないで軽く捻ってやるからさ」

と話すのだった、そしてさらに光太郎はヴィリエに話しかける。


「戦うのは別に良いけどよ……」


そう言うと近くにあった机に歩み寄り、腕を上にあげて振り下ろす、すると机はドゴォっとまるで重いハンマーを叩き下ろしたかの様な音をたてて圧し折れたのだった。


「怪我してもしらねぇぞ」


とギロリと睨みつけるのだった。

全ての仮面ライダーはおやっさんこと立花 藤兵衛の特訓を受けている、おやっさんの特訓はすさまじいを通り越して正気を疑うレベルの物まである、その一つとして2mを超える様な大岩を崖から落として拳で打ち砕く訓練があるのだが大体の仮面ライダーはこれをクリアしている、それに比べれば机を圧し折る事など造作も無いことだ。






結果として決闘は無事に終わった、光太郎の腕力を垣間見たヴィリエが近づけさせまいとして魔法を放つ、だが光太郎はそれを軽くよけて急接近し杖を奪うと軽くデコピンして気絶させたのだった。


「こいつが起きたら二度とバカはやるなよって言っといてくれ」


と実にあっさり片付けその場から立ち去る光太郎であった。

その光景に周囲は唖然としフーケの事は本当であったと悟るのだった、そして光太郎のこの活躍は思わぬ副産物を生む、こんなに強い使い魔を従えているルイズも実は凄いのでは?という物と、あんなに強い使い魔が逃げ回り負けているルイズは怒らせないようにしようと言う物だった。

前者は陰険なルイズへの行為を減らし、後者は直接的な罵倒を減らす、そしてルイズはダメな落ちこぼれという前提を見直そうと思う者まで出てくるのだった。

決闘騒ぎからまだ余り時間が経っていないためルイズは自覚出来ないが、光太郎はルイズの状況を劇的に改善させたのだ、主を守る神の盾の面目躍如というべきか、仮面ライダーの面目躍如というべきかはともかく、光太郎は見事に使い魔として主の役に立っているのだった。




そして光太郎自身にもこの決闘はプラスに働いた。

平民にとって貴族は絶対に逆らえない存在であるのだ、権力と純粋な力、その両方を備えた貴族は人間社会の支配者であり平民にとっては雲の上の存在と言える、そして逆らえ無い権力と暴力を持っていれば、それを持って横暴になる者も出てくるのは必然とも言える、無論そんな支配者ばかりでは無いし、ちょっと平民が無礼を働いたからと言ってすぐ処刑を行うような者など殆ど居ないが、それでも貴族が強権を使えば逆らえないというのは恐怖の対象になる。

なので貴族を毛嫌いしている平民は割と多く、この学院でもそんな者は結構いるのだ。

特に学院コックの料理長のマルトーなどは光太郎のことをべた誉めし「我等の勇者」とか呼ぶ始末である、その光景は光太郎が何か言えばそれを全て肯定的な意見として捉えて騒ぎ出す、そんな宴会じみた厨房であった。

そんなこんなで光太郎は学院での生活をそれなりに楽しんでいた、しかしもう少し先に途方もない困難が待ち受けているのだった。

〇〇〇〇〇〇〇


「アルビオンで異変が起こっているか……」

「この勢いならば、まず間違いなく王は落ちるかと思われますね」

「なぁちょいと臭く無いか?」

「そう思いますか……実を言うと上手く行き過ぎているのですよ」


二人の男が会話をしている、その内容は空に浮かぶ大陸にある国家、アルビオン王国で起こっている反乱についてだ、レコン・キスタと呼ばれる組織が起こした物で当初はすぐに終わると思われていたのだ。

しかし蓋を開けてみれば、レコン・キスタに参加する者はどんどん増えて行き勢力は増すばかりである、王家に不満を持つものが意外に多かったとかそんなレベルでは無く不自然なほどなのだ、何せ喧嘩を売ってるのは領主とかではなく国家なのだ、それも始祖の子が作ったと伝えられる由緒正しき国家の一つ、確かに完璧な政治をしていたのかと言われればそうでは無いし不満も決して無かった訳では無いだろう、大公の処刑などもあったがそれを踏まえてもここまで人が離れるものだろうか。


「調べてみる価値はありそうだな、もし俺の思った通りならば非常に不味い事になりそうだ」

「了解しました、しかし貴方と居ると本当に退屈しませんね、雇い主を変えて正解でしたよ」

「ふっお前の程の力を持った奴を飼いならすには器が足りなかっただけだろう」

「でも、私のスキルは二番目なんでしょう?」


軽口を言い笑みを二人は浮かべる、彼らもある意味で国に喧嘩を売ってる身であるのに余裕を持って話している。

「さて、お喋りはここまでにして動くぞ」

「ええ、行きますよシ……おっと今はハヤカワ様でしたね」

「コードネームと言う奴も馴れると案外悪くないな」

そして二人は深い闇へ消えて行った。



[34621] 南光太郎 幕間 学院編3
Name: バドー◆38e6d11a ID:fe00d42f
Date: 2012/09/06 22:23
ここは女子寮ルイズの部屋、基本的に寝泊まりは平民用の宿舎で済ませている光太郎だが、一応は使い魔なので大体はルイズの傍に居ることが多い。


「ねぇコータローあんた特技ある?」

「……変身?」

「それ以外で」


何を話しているのかと言うと、これから少し先に使い魔品評会という物が開かれるのだ、簡単に言えば使い魔の発表会のようなもので、各自で何かしらの芸をみせる、しかもそれに対して成績もつくのだ。

凄さだけならRXを見せれば良いのだろうが話はそう単純には行かない、一応RXについて光太郎に聞いてみたのだが【正義のヒーロー仮面ライダー】ということしか言われなかったために、RXがどんなものかは結局分からなかった。

どういう原理か分からない物を大々的に口外したとしたら、もしかすると異端審問を受けるかもしれないしアカデミーと呼ばれる研究機関に実験材料として連れて行かれるかもしれない。
なので光太郎にはRXをあまり口外しないように言ってある、ついでにRXを目撃したタバサ、キュルケ、ギーシュにも口裏を合わせてもらうようにしてもらっている。

だがRXを見せないとなると使い魔品評会のネタが無くなってしまうのだ、なので光太郎に特技はないか聞いて見たのだった。


ちなみにアカデミーの事について軽く説明した時に、

「なぁそのアカデミーってのはどこにあるんだ?」

「何するつもりなの?」

「叩き潰してくる」

と言う会話があった、ルイズの説明で少々誤解してしまった光太郎がかなり真面目に答えたのだ、【ひょっとしたら連れて行かれて実験材料にされちゃうかも】など聞くと彼等の中で該当する物はアレしかない。

ショッカー

デストロン

ゴッド

ゲドン

デルザー

バダン

ゴルゴム

などの悪の秘密結社の数々である、人を誘拐しては怪人に改造したり悪の限りを尽くしたライダー大陸のテロリスト達と同列に思ってしまい。

秘密結社アカデミー、どこの世界にもこういう悪の組織はいるものなんだな。

という判断の元にアカデミーを壊滅させに行こうとしたのだ。


光太郎の言葉を聞き慌てて追加の説明をするルイズ、アカデミーには実の姉が勤めているのだ、もし本当に光太郎が乗り込んで行ったら、ゆるさん!!とか言いながら壊滅する光景しか浮かばない。
確かに非人道的な事も多少はあるだろうが、彼の言っているような悪の組織な訳がないのだ。

ルイズの説明を受けて取りあえずは納得し引き下がる光太郎であった。

この時は何とか収まったが、もし品評会でRXを見せて、アカデミーの研究者が光太郎を連れて行こうとしようものなら想像が現実になりかねない、だがせっかく今までの評価を覆せそうな機会を逃すのは惜しい、なので何をするかを煮詰めるのだった。


「じゃあ、こんなのはどうだ?」

「そうね、それなら良いかも知れないわね」


光太郎が示した特技はこっちの世界ならば非常に珍しいものだし、それに誤魔化しも効くものだった、こんな調子で今日も楽しく学院生活を満喫している光太郎であった。







光太郎はルイズとの会話も終わり部屋を出て行く、向かう先は厨房の近くでマキ割りをやるのだ、一応ルイズの使い魔という立場なので別にこんな他の雑用などしなくてもいいのだが、賄いを食べさせもらっている以上何か手伝いをしないと悪いと思ったのだ、働かざるもの食うべからず、彼は結構律儀なのだ。


「全く、あいつを呼んでから苦労するわ……」


そんな事を言いつつもルイズの顔には笑みが浮かぶ、光太郎の軽い行動でちょくちょく腹が立っているのは事実だが、基本的に一緒の生活は楽しいのだ、光太郎は魔法を使えないことを馬鹿にしない、ルイズを落ちこぼれという目線で見ないで接してくれるのだ、いつも悪意を向けられて生活してきただけにそれは非常に心地の良い物であった。

同年代の女子とも殆ど話せなかったし、男子なんてもっと接点が無い、ルイズも年頃の女の子なので他者とのお喋りだってしたいし、恋愛だって人並みに興味はある、光太郎が恋愛対象になるのかと言われれはちょっと微妙なところだが、近くにいて安心感が持てる存在であることに間違いは無い。

まぁ光太郎が他の女性と話していてイラつくのは態度が違うからだ、例えばシエスタやキュルケなどと話す場合は女性と見なして話す感じなのだが、ルイズと話す場合はどちらかと言うと妹に話しかけるような態度で、女性として見られていない感じがするのだ。

同年代でこういう差を付けられたらそりゃあ少しはムッとするだろう、ずっと一緒にいて口説かれ続けたらそれはそれで嫌だろうが、何もされないというのもプライドが傷つく。

自分だって整った顔はしているという自覚はある、美少女と言う分類に入っているはずだと思う。

と色々考えが頭をよぎり、ハッと思い頭を振って、何を考えてるのよ私は!!という具合に考えを吹き飛ばすのだった。





「よっと、おりゃ!!」

「おお、相変わらず、すげぇな我らの勇者は」


光太郎は素手でマキを叩き割る、手伝いだが訓練も兼ねている、少しは体を動かしていないとすぐに鈍ってしまうものなのだ。


「まぁこれくらいは軽いさ」

「おー言うねぇ、なぁそんな腕をどうやって身に付けたんだい?」

「訓練……いや特訓?の賜物かな、まぁでもあれは人には進められないな」


前にも言ったが仮面ライダーの訓練は凄まじい、光太郎は比較的に優しい特訓しか受けて無いが、ゼウスのメンバーとは出会っていないスカイライダーこと筑波洋から聞いた話によると。

特訓を開始する、と本郷先輩の号令の元

いきなり変身している先輩達に殴られ

崖から転がり落ち

アマゾン先輩にガチで格闘戦を挑まれ

ストロンガー先輩が鉄球を振り回し近付いてきて

殺しに来ているとしか思えない様な技をV3先輩が大量に披露し

まさかのダブルライダーによる仕上げが待っていた


との事だ。


その時に顔を青くして話してくれたのできっと本当なんだろう、後輩は軽々しく特訓してくれと言わない方が良い、するなら覚悟を持って行くように、と言われたものだ。

自分はすごい勢いで回転させられたくらいなので運が良かったのだろう。


マルトーと軽く話しながらもマキ割りを済ませる、マキ割り以外にも力仕事なども手伝うことがあり、厨房の皆からも光太郎は好かれている。


そして今日はこれでいいと言われ宿舎に戻ろうとした、すると誰かに声をかけられたのだ。


「やぁコータロー」

「ん?あーギーシュだっけ?」

「ちょっと時間あるかい?」


と言われ光太郎は彼について行った。


「いやね、確かに僕も移り気なところは多いさ、でも少しは許してくれてもいいと思うんだよ」

「まぁなんだ、よく分かるぜ」


二人はすっかり出来上がっていた、愚痴を肴にした飲みである、少々貴族らしく無いと言えばそうだが鬱憤は誰だってたまる物なのだ、ギーシュは初対面の印象から少しずれて、光太郎は自分に近い物をが有ると思い話しかけたのだった。

話は二股がばれたことに始まり、モンモランシーという本命が話しすら聞いてくれなくなっていた事などだった。


「可愛い女の子が居たら声をかけるのは紳士……いや男子だったら当然じゃないか」

「だよなぁ、でも俺がやっても笑われる事が多いんだけど……」

「君の場合は少し黙っていたほうが効果があるのかもしれないけどね」


まぁ嫉妬している彼女もそれはそれで愛らしい、とか他人が聞けばこそばゆくなりそうな言葉が飛んでいるが飲み会などそんな物だ、後は時間があったら一緒に特訓しないか?とかそんな話をしつつ時間は過ぎていった。

ちなみに光太郎は20過ぎなので酒はちゃんと飲める、こっちの世界では未成年の飲酒という概念が無いために、酒なんか飲んでいいのか?と聞いたら、何を言っているの?という顔をされたのだった。

暫く彼と飲みあかし、いい時間になったところで一本の小さなワインをギーシュが取り出した。


「そりゃなんだ?」

「モンモランシーから前に貰った物でね、上物らしいからどうだい?」


最後の品と言うことで二人はそれを飲む、だがこれが珍事の引き金になるのだった。



〇〇〇〇〇〇〇

彼女モンモランシーこと、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは一応ギーシュの恋人という位置にいる。

なぜ一応なのかというと、二股をしていたギーシュに対して別れを告げたからだ、だがサヨナラと言って分かれても、実際にプッツリ縁を切ったわけでは無く機会があればよりは戻したいと思っているのだ。

それにギーシュは浮気性と言うよりも、美しい人には美しいと言うし、全ての女の子を大切にしようという気持ちが根底にある、そのため息をするように女性を口説いたりするのだが、嫌味はそこまで感じさせないのだ、まぁ本気でかまってくれる人は少ないが。

だが付き合っている恋人としては、自分がいるのに他人に声をかけられては好い気はしないだろう、何だかんだ言ってもギーシュを大切な恋人だと思っているのには変わりは無い、だからイライラするのは仕方が無い事だった。

だが余りにも彼が態度を改めないので強攻策に彼女はうって出る事にした、彼女は趣味で秘薬や香水を作っている、その知識を用いてある禁制の品物を作ったのだ。

それは何かというとずばり【惚れ薬】

これを飲んだものは最初に見た者にベタ惚れするという強力な秘薬、どれくらい凄いかというと、ツンもクールも即デレになるほどの物だ、しかもキャラが崩壊しようが周りの目があろうがお構いなしで入れ込むというトンでもない代物なのだ。

そして彼女はワインに細工し、栓を空けて最初に注いだ時に惚れ薬が混じるようにした物を彼に送ったのだ、だが問題はその後に起こった。

例の二股がばれた事件である、それのせいで彼女は激怒し、すっかり自分が仕込んだ物を忘れていたのだ、そして数日が経ち頭が冷えた事でようやくそれを思い出したのだ。


プレゼントしてから結構時間がたったが何も変化が無いと言うことは、まだワインを空けていないと言う事だ、だが悠長に構えているわけにはいかない。万が一飲んだ後に誰かを見ればその人にゾッコンになってしまうのだから。

モンモランシーは急いでギーシュの部屋に行ったが彼は見つからず学院を探し回った、そして見つけた先には、自分の送ったワインを飲んでいる、ギーシュとルイズの使い魔がいた。

〇〇〇〇〇〇〇

「ん~なんか変な味しないかこれ?」

「そうかね?僕は美味しいと思うけど?」

「いや、飲んでみろってほれ」

「じゃあ……ん?」

光太郎からグラスを貰い一口飲んだところで、モンモランシーが息を切らせながら走ってきたのだ。

「やぁモンモランシー!もしかして僕を」

「ちょっと黙ってて!!ねぇ今そのワインを飲んだ?」


かなりの剣幕で話してくる彼女に若干押されながらも光太郎は答える。


「ああ、飲んだけど?」

「……ちょっと目を閉じて机にふせて」

「え?なんで?」

「いいから早く!!」

そう言われて渋々言うとおりにする光太郎であった、惚れ薬は飲んでから最初に見た者に効果が表れる、だが飲んですぐ、という訳では無く飲んでから若干のタイムラグが存在するためにまずは人を見せないようにしたのだ。

「モンモランシー一体何をしているんだね?」

「ちょっと待ってて、今考えてるから」

モンモランシー必死になって頭を働かせた、関係無い人物に惚れ薬を飲ませてしまった以上は解除薬を作らねばならない、だが解除薬だってタダでは無いし何よりちょちょいっと作れる物ではない、作っている間ずっと彼に目隠しして生活して貰うのも気が引ける。

色々と考えているモンモランシーだったが、彼女は気付いていなかった、自分が飲ませようとしたターゲットも惚れ薬を飲んでいることに。


「いつまでこうしていれば良いんだよ?」

「まぁコータローちょっと待っててあげてくれよ、モンモランシーが……」


そう言って光太郎の方を見るギーシュ、すると胸に妙な高鳴りがするのが分かる、自分自身で解明できない感情がうごめいている。

何か恍惚とした表情で光太郎の方を見て固まっているギーシュが不自然だったのでモンモランシーが声をかける。


「ねぇ何固まってるのよ?」

「…………」

「ねぇちょっと何か言いなさいよ!!」

「美しい……」

「は?」

「モンモランシー、今僕は新たなる扉を開いたような気がするよ」

そう言って光太郎の方に歩み寄る、まさかこれはと嫌な予感が頭をよぎるのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

場所は再び女子寮のルイズの部屋、いつもは夜遅くなる場合は翌朝まで光太郎は来ないものなのだが、今日は違った。


「何よどうしたの?」

「ちょっとすまん、用が出来たから外出てくる、それで悪いんだが……」

「悪いんだが?」

「こいつを預かっててくれないか?」


と光太郎は簀巻きにされ猿轡をしたギーシュを取りだしたのだった。



[34621] 南光太郎 幕間 学院編 最終
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/09/11 12:38
猿轡をされ簀巻きになっているギーシュを部屋に入れた光太郎、どうやらギーシュは気を失っているようだ、いきなりこんな物を持ってこられては流石に混乱するが、何がどうしてこうなったのかは聞かねばならない。


「……どうしたのよこれ?」

「見ての通りギーシュ」

「じゃなくて!!どうしてこうなったのか聞いてるのよ!!!」


実はな…と先ほど起こった事を話すのだった。

〇〇〇〇〇〇〇

光太郎が飲んだワインを一口飲んだギーシュは少々遅くなったが、惚れ薬はその効力を発揮し、光太郎を見たギーシュは見事に光太郎にアタックを仕掛けたのだ。

いきなりギーシュに責めよられた光太郎は、酒癖でも悪いんだろうと思ったが、流石に男に言い寄られては気色が悪いので首に手刀を打ち気絶させたのだった。


「まったく急に何なんだよ、こういうのを絡み酒っていうのか」


疲れた顔で光太郎は言うが、その横にいるモンモランシーは唖然としていた。


「ねぇ貴方……貴方もワインを飲んだのよね?」

「ああ、さっきも言ったが飲んだぜ?」

光太郎からグラスを受け取り飲んだギーシュがおかしくなった、つまりは惚れ薬は失敗していた訳ではない、だが何で目の前のこの男は平気なのだろうか、とモンモランシーは不思議に思っていた。


ここで少し解説をするが、惑星エルピスにおいて戦う者に置けるステータスの表記に根性という数値がある。

気合が凄いとかそういう数値の事では無く、状態異常の耐性値の事を指すのだ、状態異常と一口に言っても様々だが例えば、盲目、マヒ、混乱、気絶、毒、など有るのだが根性が高ければ高いほど、その異常にかかり難いのだ。

そして光太郎の根性値はゼウスのメンバーの中でも群を抜いて高い、生で食べるとほぼ間違いなく食中毒を起こす、怪獣ツインテールの肉(ウルトラ大陸ではスーパーで売っている)を食っても平気だった元々の耐性力に、強化されたキングストーンの治癒能力を持ってすれば少々の毒や薬では彼に害を与えることはできない。
それにいざとなれば、もう一つ反則的な対処方法があるのだがそれは置いておく。

まぁ彼に限らず、致死性の猛毒を大量に噴射する怪人や怪獣が相手でも、アンチドーテあるから大丈夫だろう、で突っ込むゼウスのメンバーも十分おかしいのだが。




いきなりの事で気絶させてしまったが、目の前にいる金髪ロールの娘がギーシュの言っていた、彼女なのだろうと光太郎は思い、介抱を頼もうとしたのだが事態はそれで収まらなかった。

モンモランシーは惚れ薬の事を正直に光太郎に話したのだ。


「……つまり絡み酒じゃなくて、薬のせいで本気で告白してきたと?」

こくり、とうなずくモンモランシー。

「で……解除薬が無いと結構な時間このままだと?」


もう一度、うなずくモンモランシー。

「どどどどどーすんだよぉおおおお!!!」


光太郎はかつてモロボシ・ダンがウルトラセブンに変身するアイテムである【ウルトラアイ】を盗られた時よりも、ワンランク上の動揺っぷりを披露していた。

光太郎の苦悩も分からなくも無いが、モンモランシーも困っている、なぜならギーシュが自分だけを見るように仕掛けた惚れ薬で、他人にしかも男に向かわせてしまったのだから。

このままでは、自称【全ての女性を等しく愛でるバラ】に男色家疑惑を立ててしまう。

いやそれはそれで見てみたいような、と一瞬思ったがふざけてはいられない、こうなったら一分一秒でも速く解除薬を作らねばと思い直す。

モンモランシーは頭の中で作った惚れ薬の材料を思い出し、解除薬の材料をピックアップしていく、アレはある……これもある……と色々思い出していく、そして最も重要かつ最も入手が困難な物があった。


【水の精霊の涙】


と呼ばれる品物が無いのだ、これは水の精霊から直接譲り受ける必要のある秘薬であり、元々かなりの値が張るものだが、最近はさらに品揃えが悪い。
前までは水の精霊との交渉はモンモランシーの実家がやっていたのだが、彼女の父親が水の精霊の怒りをかってしまい、交渉役から降ろされてしまったのだ。
それ以降から精霊との交渉は誰がやっても難航する始末であるし、理由は知らないが最近はさらに大変になっているという。

幸いにも明日は地球で言う日曜日のような、虚無の曜日なので街に秘薬を買いに行く時間はある、だが行っても売っているかどうかは分からない。

こうなったら直接出向いて秘薬を譲り受けるしかない、とモンモランシーは決意したのだった。


〇〇〇〇〇〇〇

「で、あんたは秘薬を取りに行く手伝いをするってわけ?」

「ああ、ギーシュがこのままじゃあ洒落にならねぇ、それに馬車とかで行くよりも、アクロバッターを使えば速く着くからな」

それは確かにとルイズは思う、アクロバッターに一度乗った事がある身としては、アレの凄さは十分に知っている。


「まぁ分かったわよ、これの面倒を見ておけば良いのね」


普段だったら断ったりギャーギャー騒ぎたいところだが、流石に光太郎の状況を不憫に思い承諾したルイズであった。


「ありがとうなルイズ、じゃ行ってくるぜ」


光太郎はルイズに礼を言った後に部屋を出るのだった。



それから数時間後、モンモランシーを後ろに乗せた光太郎はアクロバッターを走らせ、水の精霊の住処である、ラグドリアン湖に到着したのだった。

ラグドリアン湖はガリアとトリステインとの国境を挟んだところに位置し、大きさは琵琶湖ほどの広さがある湖で、その美しさたるや、ハルケギニア全土を見回しても比較できる物はそうそう無いほどの物である。

「本当に速いのね、この乗り物」

「まーな、サンキューなアクロバッター」


光太郎の感謝を聞き、嬉しそうに目を光らせるアクロバッターであった。

余談だが、飲酒運転になりかねないが、走ってるアクロバッターの上に乗っているだけなので問題無い、と自分に言い聞かせる光太郎であった。


「じゃ、さっそく水の精霊を探さないとね」

とモンモランシーは自分の使い魔である、カエルのロビンに頼みこもうとした、ラグドリアン湖が水の精霊の住処とはいえ、この広大な湖の中では簡単には見つからない。

なのでまず使い魔に捜索を頼み、見つかったら自分の血をロビンに一滴かけて、精霊に自分のことを覚えているか話しかけ交渉しようとしたのだが、その時異変は起きた。

突如として目の前に大きな水柱が現れ、それから人の形のようなものが現れる、それは水の精霊であった。
いつもならば、穏やかとは言い難いが、そこまで威圧的でも無い水の精霊なのだが、今は素人でも分かるくらいの緊張感が漂っていた。
光を受ければ美しく輝くクリスタルのような幻想的な姿は、昔見た通りだがそのあまりの雰囲気の違いにモンモランシーは冷や汗が出る。

すると、水の精霊は光太郎に話かける。


「王の石を持つ者よ、何の目的でここに来たのだ」


返答しだいでは戦いになる、というくらいに敵意が滲み出ている。

光太郎は水の精霊の敵意よりも、【王の石】という言葉にピクっとした。


「なぁあんた……キングストーンの事を知っているのか?」


その光太郎の問いに対して水の精霊は静かに答える。


「その石の本来の名前は知らぬ、だがそれから感じる力から貴様はタダの単なる者では無いと判断した、太陽の力を持つ者よ」


さらに水の精霊は話を続ける。


「その上ガンダールヴとはな、貴様を何と呼んでいいのか最早我にも分からぬ」


その水の精霊の問いに光太郎はごくごく自然に答える。


「名前でいいんじゃねーのか?」

「ちょっと!!何言ってるのよ!!!」


光太郎としては普通に答えたのだが、モンモランシーは酷く取り乱し光太郎に話しかける、水の精霊は本来は人間の事を全て統一して【単なる者】と呼ぶのだ、精霊という高次元の存在からしてみれば、人間は全て同じに見えるのだろう、例えばアリの行進を見てその全てのアリが一つ一つ違う存在だと思わないのと同じことだ。

しかし、交わした契約などは覚えてくれているあたり、ちゃんと個別で認識はして貰っているのだろう、だがそれでも自分たちより高位の存在であるために、大体の人間は精霊の前では謙り会話をする。

それを光太郎は自分の事を名前で呼べと言ったのだ、はっきり言ってハルケギニアの基準からすれば暴言である。

そのためにモンモランシーは酷く取り乱しているのだが、次に水の精霊が発した言葉で彼女の平常心のHPは完全にゼロとなる。


「名か……何と言うのだ?」

「光太郎、南 光太郎だ」

「コウタロウか、ではそう呼ぶとしよう」


水の精霊が名前を呼んだ!?と恐らく彼女の今までも人生で最もありえない事が目の前で起こったのだ、そのあまりの事にモンモランシーは完全にフリーズしてしまった。


「してコウタロウよ、貴様は何の目的でここに来たのだ?」

「ああ、それなんだけど」


光太郎はフリーズしている彼女を軽く揺らして正気に戻させる、モンモランシーは何とか意識を取り戻し、目的である水の精霊の涙を譲って欲しいと願い出たのだ。


「……分かった、我が体の一部を譲ろう」

「え?いいの?」

あまりにもあっさり譲ってくれると言ってくれたので、モンモランシーは驚いている、今日だけで何回驚かされたことか、だがそれはまだ終わりでは無かった。


「本当にいいのか?」

「構わんコウタロウよ、貴様がその気になれば我を滅ぼす事すら出来るはず、その力で脅さずに交渉に来ただけで信用に足る」


水の精霊を滅ぼす?何を言っているのかもう完全にモンモランシーは理解出来なかった、目の前の男はヴィリエとの決闘騒ぎの事で知ったが、精霊が自ら負けるだろうと言い出すなんて、ともう彼女は深く考えるのを放棄した。


「だけど悪いな、何か出来ることがあるならやるぜ?」

「ふむ、ならば我が頼みたいことが出来たのならば頼むとしよう」


そう言うと今度はモンモランシーの方に精霊は話かける。


「単なる者よ、あの男は少々腹立たしいが、娘の貴様ならば交渉してやらぬ事も無い」

「え……それって……」

「その代わりにコウタロウに頼みごとが出来たのならば、我の頼みを伝える役を任せる」


つまりはモンモランシ家に交渉役を戻すと言われているのだ、それは没落しかかっている実家にとっても自分にとっても大きなプラスになる話だった。

こうして目的の品と思いがけない副産物を手に入れて、二人は学院への帰路に着くのだった。



[34621] 潜入アルビオン編 1
Name: バドー◆38e6d11a ID:fe00d42f
Date: 2012/09/13 03:38
光太郎とモンモランシーは無事に学院に到着すると、モンモランシーはすぐさま部屋に戻り解除薬の製作にかかった、水の精霊との交渉役についての連絡は後回しになるがギーシュを元に戻すために一秒でも無駄には出来ない。

光太郎は出来あがったら呼ぶと言われたので、取りあえずルイズの部屋に向かったのだがそこで彼が見た者は、酷く荒れた部屋に、すごく疲れた顔でがっくりと項垂れているルイズと黒焦げになっているギーシュだった。


「……何があったんだ?」

「コータロー……お帰りなさい……うん……聞かないで…………」


ルイズの周りからは怨霊でも沸いていそうなほどの暗いオーラが見える、いつもの気性の激しい彼女の姿は無く、まるで調子をこいて必殺技を連続で使いまくった後に、サイコガンダムをコールしたジェリド戦後の時のように覇気が全く無かった。

事の顛末は気絶から回復した、ギーシュが光太郎はどこだと騒ぎまくるので、対処に困ったルイズがギーシュを爆破するのだが何度も蘇り、爆発、復活、爆発、復活を延々と繰り返し今に至るのだった。

光太郎はどうなったのか非常に聞きたかったのだが、今聞いたら呪い殺されそうなほどルイズは憔悴しており、聞くのを仕方なく諦めた、一応ギーシュが心配だったので脈と呼吸を確かめたが無事だったのでホッと胸をなでおろした光太郎であった。

それから幾ばくか時間が経ち、モンモランシーが解除薬を作り終えてこの珍事は幕を下ろした。

なお一番の被害者のギーシュは、薬のせいとはいえ自分のやった珍行動(特に男に告白)が堪え、数日の間寝込むのだった。



学院の生活もすっかり慣れていた光太郎は交流も増えていた。


まず使い魔召喚の儀式に立ち会ったコルベールとも良く話していた、アクロバッターの原理やら持っている物の話だけでなく、オスマンの言っていた元の世界へ帰る方法も彼が探していたのだ。

残念な事だがかなりの蔵書量のある学院の図書館でもまだ成果は出なかった、そもそも呼び出した使い魔を帰すなど聞いたことも無い話なので、そう簡単には見つからないだろうと申し訳なさそうに光太郎に言ったのだった。

光太郎は特に気にもせずにコルベールと打ち解けて行った、ついでに図書館にも付き添ったが、確かに惑星エルピスにも中々無いような大きな図書館であったが、こちらの世界の文字が読めない、勉強する気が無い光太郎はちょっと見学しただけで終わってしまった。

コルベール以外にも、一緒にフーケの討伐に出向いたキュルケやタバサとも話す機会が何度かあった。

キュルケはともかくタバサが他の人間と居るのは非常に珍しかった、それは彼女の事情にもよるのだがそれは置いておき、タバサは光太郎自身の事を良く聞いていた。

それは仮面ライダーの戦いの話しとゼウスで戦った話しだ、初めはタバサが聞いてきた事に軽く話しただけだったのだが、ルイズもキュルケも興味が湧いて話に参加するようになった、今では夜のちょっとした娯楽の様になっている。

流石に人体実験されたとかそんな事は話さないが、悪の非道に立ち向かう正義の味方の話しなら自分を含め腐るほどネタが有る、余り話すのが上手では無いが、実体験を元にした光太郎の話しはそこいらの小説以上に空想的だが本当にあったと信じられる内容であり、非常に楽しい時間を提供出来ていたのだ。


そんな時間を過ごしながら使い魔品評会の日がやって来たのだった。


「準備は良いわねコータロー」

「おうよ、まぁ頑張るさ」


光太郎はアクロバッターに跨りヘルメットを被る、彼が披露するのはアクロバッターによる華麗なる走行だ。光太郎は遠い東方の地から呼ばれたという事になっている、そしてその東方の地にある珍しいマジック・アイテムであるバイクなる物を操る使い魔というのが今回のネタだ。


「しっかし結構な人が集まるもんだな」

「そうね……」

「やっぱりそのお姫様ってのが原因かね」


実は今日の使い魔品評会にはトリステインの王女、アンリエッタ姫殿下が見物なさるというのだ。
何でもゲルマニアからの訪問からの帰還の最中に寄ったとの事だ、物はついでという事なのか、それとも予定を合わせてここに来たのかは知らないが、とんでもないサプライズゲストの登場に学院は沸き立った。

光太郎も馬車から手を振る姫殿下を見て、周りがトリステインの誇る一輪の花とか言うのも分かる、姫とか言われて想像したのが、アムロを気にいっていた小さいお嬢ちゃんだったので良い意味で裏切られたと光太郎は思ったのだった。


「まぁ緊張すんのは分かるけどよ、芸を見せるのは俺なんだからよ」

「わ、わかってるわよ!!」

そう言われて少し元気が戻るルイズであった、そしていよいよルイズの番である。


「じゃあ行くわよコータロー」

「了解、じゃ派手に行くかご主人様よ!!」


そして光太郎は大勢の貴族達の前で走行を披露した、踏み台を使っての大ジャンプやウィリー走行などの魅せる技もいくつか披露し、中々の評判であった。

それから少々時間が経ち、夜となりルイズの部屋で光太郎とルイズは話し合っていた。


「まぁ惜しかったな」

「そうね、でもこれなら仕方ないわね」


光太郎の結果は三位であった、見た事の無い東方のマジック・アイテムという事で受けは良かったのだが、誰も見た事が無さ過ぎてどう評価すればいいのかが伸び悩んだところだった。

結果はタバサの使い魔である風竜であるシルフィードが一位であり、二位はキュルケのサラマンダーのフレイムであった、この辺は分かりやすい強力な使い魔という事で評価しやすかったのだろう、いつもならば仇敵であるツェルプストーに負けたとあっては憤慨するところなのだろうが、キュルケにはもう不思議と余り腹が立たなくなっていた、光太郎と一緒に良く話す仲になってしまったせいなのだろうが、付き合ってみると今まで自分を馬鹿にし続けた他の生徒とは違い、彼女のカラかい方にはちょっと優しさがあった、ルイズは明確には理解していないが、何となくそれを感じ取り【家】で無く【彼女】として見るのならばそんなに悪い奴では無いと考え方を変えていたのだった。

それに今までに比べたらドベから三位への昇格なのだ、それで光太郎に当たり散らしては貴族の礼を欠くと言うものだ。


「しっかり見ててくれたかしら……」


ボソッとルイズは呟く、光太郎を召喚してから随分と助けられている、フーケのゴーレムから守ってくれた事、自分への罵倒を止めてくれた事、そして今日の事、一人で悩んで出口の見えなかった少し前とは違い、今はとても明るい日々を過ごしている。

魔法が出来なくて悔しい思いをしてきた事を知っている、唯一の友人と言っても良かったあの人は自分の成功を見ていてくれたのかとちょっと思う。


「ん?なんか言ったか?」

「……なんでもないわよ」


でもいつかはこの初めての成功以外でもちゃんと魔法が使えるようになりたい、そしたら立派な貴族と言えるようになるわよね、と続けてルイズは思った。


「じゃあ俺はそろそろ宿舎に行く……」

「どうしたの?」

「誰か来たらしいな」

そう光太郎が言うと、ドアがノックされる、こんな時間に誰だろうと思いながらドアを開けるルイズであった。

するとローブで身を隠した誰かが部屋に入ってきてスグにドアを閉めて、杖を取りだしディテクト・マジックを唱えたのだった。

それを終えるとローブを外しながら、「誰が聞き耳を立てているのか分かりませんからね」と謎の人物は答える。

その顔を見た瞬間にルイズは目を丸くして答えた。

「ア、アンリエッタ姫殿下……」

それは先ほどまで思っていた、唯一の友であったアンリエッタであった。



ルイズとアンリエッタはまるで舞台の上の様な喋り方をしていたが、二人とも非常に嬉しそうに話していた、話から察するにどうやら二人は幼馴染であるのだが、立場がどーのこーのでこんなややこしい話し方になっているのだろうと光太郎は思い、めんどくさくなったので会話には参加しなかった。

しかしこのアンリエッタ姫殿下は遠くで見ても美人だと思ったが、近くで見るとより一層美しかった。
顔立ちは整っているし、スタイルも良い、完璧なボン、キュ、ボンだ、しかも何よりもこんなにはしゃいでいるのに、気品が溢れているというのが凄い。

いつもならば迷わず口説きにかかるところだが、こんなに喜んで話し合っている彼女を邪魔するのは悪い、それにもし自分が口説こうものならルイズによる恐怖の爆発が待っているだろう。

以前にあんまりにも理不尽な爆発だったので光太郎もムキになって変身したことがあった、当然攻撃するつもりは無いがRXの防御力の前には効くまいとタカを括っていたのだ、しかもさらに万全を期しロボライダーへのチェンジも行った。

ロボライダーはパワーと防御力に優れたRXの形態の一つで、黒と黄色のボディカラーをしており、しかも灼熱も無効化にし、火も吸収出来るという特性も持っている。

これで爆発など怖く無い、と高らかに笑っていたが予想外の事が発生した、ルイズの爆発で装甲には傷はつかなかったのだが、【痛かった】のだ。

痛い!?何で!?とかなりパニックを起こしたが、効かないぞあっはっは、とその場は誤魔化して光太郎は去っていった。

それ以降、なるべくルイズは怒らせないようにしようと光太郎は思ったのだった。


光太郎が過去の事を思い出していると、アンリエッタは部屋から出て行った、話は終わったのだろうかと思っていると、突如ルイズから声がかけられた。


「コータロー、アクロバッターの準備をなさい」

「え?」

「こうなったら少しでも早い方が良いわ、行くわよ!!」

「ちょっと待て!!どこに行くんだよ」

「何よ聞いて無かったの?」

「……ごめん全く」

「目指すのはアルビオンよ」

とルイズは高らかに宣言したのだった。





そしてまだ日も昇らぬ内に光太郎とルイズは、アルビオンを目指しアクロバッターを走らせていた。

急いで支度を済ませて出発したために光太郎はまだ、アルビオンに行く理由を聞いていなかったので道中で話を聞いていた。

「なるほど、つまりはそのウェールズとか言う王子様に送った手紙を持って帰ればいいんだな」

「そう言う事ね」

「……こりゃあ骨だな」

簡単に纏めると、今はトリステインとゲルマニアは同盟を組もうと動いているらしい、その同盟の証としてゲルマニアの皇帝とアンリエッタが結婚する事になったらしいのだが、実はその婚姻を妨害出来そうな品が有るそうなのだ、それはアンリエッタが数年前にアルビオンの王子のウェールズという男に送った恋文だ。
ただの恋文なら問題無かったのかも知れないが、始祖に誓って愛を~などと書いてあるらしく、それが非常に問題になると言うのだ。


「しかし、何年か前の手紙なんだろ?そんなもん一枚で同盟の破棄とかまで行くのか?」

「なるわね、愛を始祖に誓うって事は二つの人間に愛を持つって事だもの、それも始祖に誓ったなんて事が分かったら十分な理由になっちゃうわよ」

「まるでヤクザの因縁付けみてーだな」

光太郎は少々うんざりした感じで話したが、この任務は遂行させねばならない、何故なら失敗は新たな戦乱を呼ぶ事になるのだから。

そもそも、トリステインがゲルマニアとの同盟を結ぶのは、レコン・キスタと呼ばれるクーデター一派が原因らしいのだ、そのレコン・キスタはアルビオンの王家に反旗を翻し戦争を仕掛けた、当初は数も少なかったのだが今では王側が劣勢に立たせれているそうなのだ。

そしてレコン・キスタはだらしが無い貴族達を一つに纏めて、聖地を目指すとかほざいているらしい。

それが本当ならばアルビオンを制覇したら、次に狙われるのは地理的にも軍事力的にもトリステインという事になる、そしてそれが現実になれば、今のトリステインではまず勝ち目が無いらしい。

そのためにゲルマニアとの同盟を結び、軍事力を強化しレコン・キスタへのけん制にするのだそうだ。

無論同盟が成功すればレコン・キスタ側は非常にマズイ話しである、その為に同盟を破棄させる手段が存在するのならば必死になって探すだろう。だが今は現実にあるのだ、恋文という物が。


光太郎は走りながら思っていた、元々ゼウスは全ての人の平和を守るために設立された組織、例え異世界だろうとも戦火が広がり涙を流す人が増える事はさせたくない、それを阻止する為に自分の力を使う事にためらいは無いが問題はその後だ、もしレコン・キスタが本気で世界に喧嘩を売るつもりならば、同盟を結んだとしても戦争は起こるだろう、そうなったら広がった軍事力同士がぶつかれば更なる被害が出るのは必然と言える。

それだけは如何しても避けたいと思う、以前にもゼウスはアポロン率いるネオ・アクシズとジオンとの戦争を止める事が出来なかった。

無論あれはタイミング的にも介入出来る余地は無かったのだが、それでも戦争によって一つの国がほぼ滅んだのだ、アポロンは非常にモラルのある戦い方をしていた男で、一般人への被害やその後の保障を徹底させていたがそれでも被害は大きく出たのだ。

そのレコン・キスタとやらがどれ程の組織だろうとも、あのアポロン以上に人を気遣う戦いを仕掛けるとは思えない、なので光太郎は最悪の場合は一人でも戦う決意をしたのだった。

その光太郎の決意を知ってか知らずかルイズは話しかけてきた。


「ねぇコータロー」

「ん?どうした?」

「これから行く場所はとっても危険な場所なのよ、なにせ戦場のど真ん中に行くんだから」


光太郎はルイズの話しを静かに聞く。


「いくら姫様のため、トリステインのため、って言ったってあんたには元々関係無い事情に巻き込んだ事になるわ」


ルイズの声のトーンは低いが強い思いが伝わってくる。


「凄くずうずうしいんだけどね、今の私はどんなに頑張っても普通のメイジ以下の存在なのよ、だから姫様の願いに答えるためには、あんたの力を使わなきゃ叶えられないの」

「ルイズ……」

「だからお願い、力を貸して……私も役に立つのか分からないけど、安全なところで一人で居るなんて事はしないわ」


ルイズは少し目に涙を浮かべながら、そう話した、立派に貴族になりたい、その想いを強くあるがどれだけ自分を過大評価しても普通のメイジ以下なのは分かり切っている。
その自分の能力を覆せる力を使い魔の光太郎は持っている、使い魔の力は主の力と言っても、光太郎は人間なのだ、それに頼り切るのは忍びない。
だが今はそれに頼るしか無いのだ、悔しさと申し訳なさが入り混じったルイズの素直な気持ちだった。


そのルイズの言葉に光太郎は笑みを浮かべ答える。

「ありがとうよ、だけどなお前はもう十分に役に立ってるぜ」

「……なんで?」

「正義の味方ってのはな、自分を信じてくれる人がいれば100倍のパワーを発揮する生き物なんだよ、お前の覚悟と俺を頼ってくれた想いは、十分に勇気をくれたさ」

ちょっと照れくさそうに光太郎はそう話した、そして、「一人で戦う……何を思ってたんだろうな、こんなに近くに素敵な仲間が居たってのに、随分薄情になったもんだ」

と先ほどまでの決意にちょっと追加し、このツンケンしているが立派なご主人様には危ない目にあわせらないと思うのだった。



〇〇〇〇〇〇〇



ルイズに頼みごとをして数時間後、アンリエッタの学院内での宿舎にて

アンリエッタは頼んだ物のやはり心配であった、ルイズは信頼の置ける友人であるが戦闘力に関しては言い方は悪いが信用は出来ない、あのフーケを退けたと言う平民の使い魔は本当ならば強いのだろうがそれでも心配なのだ、彼女は死地に友を送ったのだ、それで平然として居られるほど彼女は達観してはいない。

なので誰か彼女達へのサポートを送りたかった、しかし事が事なだけに信頼と腕の立つ者を選別せねばならない。

「……そうだわ!!」

アンリエッタは頭に浮かんだ人物に助けを求めるために、枢機卿であるマザリーニを呼んだ。

「お呼びでしょうか」

「夜分遅くに申し訳ないのだけれど、魔法衛士隊のワルド子爵を呼んでいただけるかしら」

ワルド子爵とは、トリステイン王国の魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長を務める男であり、エリート中のエリートで魔法の腕は風のスクウェアである。

彼は腕も立ち人望も有る、しかも全男子のメイジの憧れでもある魔法衛士の隊長ともなれば信用も出来るであろう、アンリエッタは良い人選だと思い呼んだのだが、思いもよらない言葉が帰って来た。

「……殿下……その非常に言いにくいのですが…………」

「どうしたのかしら?」

「ワルド子爵は何者かに襲われ重傷を負っています」

何者かに襲われ重傷!?それは聞き捨てならない言葉だった、下の人間のケガやイザコザ程度は国のトップである自分に話が来ない事は多々あるが、仮にも魔法衛士の隊長が襲われたのならば報告くらいはするべきだろう。


「なぜ黙っていたのですか!!」

「いえ、あの……ワルド子爵を発見した者の報告によりますと、あのレコン・キスタと繋がりが有るという証拠をいくつも倒れている子爵のそばに置いておかれていたとかで」


レコン・キスタとの繋がりがあった!!?もしそれが本当ならばとんでもない裏切り行為だ、アンリエッタの頭が真っ白になっていくが続けてマザリーニは話す。

「残念ながらワルド子爵を襲った人間については全く分からないのですが、その証拠品がかなり信憑性の高い物で事実確認を急いでいたために報告が遅れました」

「…………そう……ね」

「しかし一つだけ犯人の物と思われるカードが置いてありました、子爵の胸の上に……その、それがこれなのですが……」

それを渡されたアンリエッタは、もう完全に思考を停止していた。


【この者、祖国を裏切る破廉恥貴族故、成敗】


とカードには書かれていた



[34621] 潜入アルビオン編 2
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2012/09/18 18:11
ルイズの案内で光太郎はアクロバッターを走らせる、目指す場所はラ・ロシェールという町だ、浮遊大陸アルビオンに向かうためには、空を渡る船に乗る必要がある、ラ・ロシェールは港町でアルビオンに近いためにそこへ向かったのだった。

「ん?……この道どっかで通ったよーな……」

「何?来た事あるの?」

「んーどうだったかな……まぁ思い出せないならしょうがねーさ」

そんな会話をしながら数十分後、学院からならば馬で二日近くかかる距離だったが、道中特に問題も無く二人はラ・ロシェールに到着したのだった。


「おー石で出来た家か……こりゃすげーな」

光太郎は町の光景に見惚れていた、高層ビルや近未来的な建物はエルピスには多くあるが、トリステインの建物はそれとは違った良さがある。

学院の塔や調度品はとても品のある物であったし、魔法っぽい事を色々していたゴルゴムの連中のオドロオロドしい住処と違い、豪華だがいやらしさを出さない場所であった。

その学院とは違うがこの町も素晴らしい風景であった。

遠くからでも見える大きな木は、ユグドラシルの枯れ木でそこに幾つもの船が入っている、石をくりぬき作った家々は趣を感じさせる。


「コータロー、あんまりキョロキョロしないの」


と辺りを見学していた光太郎はルイズに注意をされる、だが仕方が無いだろう、誰だって初めて見る風景には関心を引かれる物だ、しかもこんなファンタジー丸出しの美しい町を見てはキョロキョロ見回すのも無理もなかった。

「ああ、悪い悪い」

光太郎はルイズの注意を受けて大人しくする、そして二人は船着き場へ向かう、まずはいつアルビオンへ向かう船が出るのかを知っておかねばならない、この世界にはしっかりとした運航表という物は存在しない、特にアルビオンへ行くとなると出航時間は非常に曖昧になる。

何故ならアルビオンは空中に浮遊しているだけでなく、ゆっくりとだが移動もしている、なので船を出す時は燃料の節約その他もろもろの理由でアルビオンが近い方が良い、だから船の出る時間は最適の時に出すのが基本となり、下手をするとアルビオンに向かう船が無くて一日二日ここで足止めを食らう事になるかも知れないのだ。

がだ今回は運が良かった、丁度今から出向する船が有ると言うのだ、いきなり夜に支度をさせられ出てきた甲斐が有ったと言う物だ。

二人はホッと胸をなで下ろし、貴族が乗るのには少々質が悪いが、貨物船に乗せてもらう事に成功したのだった。



そして貨物船の中で二人は今回の行動を煮詰め始めた。


「まずは、その王権派ってのに会わねーとな」

「そうなのよね、今はどれだけ劣勢なのか分からないけど、拠点は少なくとも残っているはずだから、そこが分かればいいのだけれど……」

「だけど仮に分かっても、簡単には入れて貰えなさそうだな」

「どうしてよ?」

「だって戦争中なんだぜ、いきなりトリステインの使者です、って怪しい奴二人が来たって相手してもらえるかわからないだろ?」

光太郎は前にゼウスで世界中を飛び回っていた事を思い出した、ゼウスは非常に有名であり権力も強く、ゼウスと言うだけで様々な便宜を図ってくれる事が多かった、だがそんなゼウスでも立場が微妙な位置に居る組織等はかかわりを持ちたくないと言われたり、非協力的な者だって割と居たのだ。

町を襲っているテロリストを退治します、とかなら簡単に許可が下りたし、警官達も協力してくれた。

だが今回はゼウスの名前も、共通で使える権力も存在しない、それがこういう時にどれだけ不利な事かはいくら光太郎とは言え想像するのは難しくなかった。



「勝手に潜入するのもどうかと思うしな、それにやるのは久々だし」



一応ゼウスの時には、様々な場所に侵入し任務を行う事が多かったが、その殆どが正面突破ばかりであり、隠密行動など本当に数えるほどしかやってなかったのだ、まぁガンダムにウルトラマンに仮面ライダーという、惑星エルピスの正義の味方博覧会状態なゼウスに目立つなという方が難しいのだが。

だが今回はIDの偽造とかはやらなくても良いのでその辺はありがたかった。


「あーあ全身タイツ着てイーイー言ってりゃ怪しまれ無い組織なら、潜入するのは楽勝なんだけどな」

「何よそれ……そんな奴ら居る訳無いでしょ……」


ルイズは呆れたように答えるが、しかし光太郎は非常に真面目に返す。


「俺たちはそんな奴らと長年戦ってたんだけどな、ほら、前に話したショッカーって奴ら、あれの下っ端の格好がそんなのだったんだよ」


「……それ本当に悪の秘密結社なの?」


「悪の組織なのは間違い無いんだけど、秘密結社、って部分は今思えば微妙だなぁ、これ見よがしに見張りは立てるし、人員整理でクビにされて他の秘密結社に再就職した奴はいるし……何よりもショッカーって名前はライダー大陸の人間ならガキでも知ってるくらい知名度があったぜ」


光太郎の言っていることは事実である、ショッカーの戦闘員と思わしき者が見張りに立っていて、そこから秘密基地が分かった事などが何回かあった、しかも本郷先輩がかつて対処した事件には、とある人が釣りをしていたらいきなり、湖から怪人が現れて


「貴様!!ここがショッカーの秘密基地と知ってのことか!!!」


とか言って釣り人を殺害し、そこから怪しいと事件が発覚し、基地が見つかるという何とも何処かネジが抜けてるような所があるのがショッカーなのだ。

だが通常配備の軍隊のMS程度の装備では、ショッカーには対抗出来ないくらいに戦闘能力は高いので一般人にも軍隊にも恐れられているのは本当の事である。

それに世界征服を目的としているので、恐怖の代名詞として有名になるのなら逆に良いと思っている部分も結構あり、ライダー大陸の悪の秘密結社は名前を広めたがるという矛盾した状況になっていたりもする。

ちょっと脱線したがルイズは話しを戻す、実は姫様に身分を証明する書留とウェールズへの手紙を貰い、ついでに路銀にすれば良いと水のルビーと呼ばれる、指輪も渡されていた。

なので場所さえ分かれば自分たちの事は分かって貰えると光太郎に告げ、アルビオンに着くまでの間に二人は仮眠を取るのだった。





そして数時間後、二人を乗せた船はアルビオンを目視出来る距離にまで近づいたのだった。


「……すげぇ」


ルイズに起こされ、窓からアルビオンを見た光太郎は一言そう言って黙っていた。

雲の隙間から現れた巨大な陸地、その陸地から川でもあるのだろう、いくつもの水が滴り落ち霧となって行く、その光景はまるで天国と見紛うほどの美しさであり、別名、白の国と言われる所以で有った。


そのまま船は港へ到着し二人は下船する、すると何やら辺りが騒がしい、何が有ったのか聞くと思いもよらぬ答えが返ってきた。


「へぇ何でも少し前に、大きな戦闘があった用でして……」


この船は商船であり、火の秘薬である硫黄を積んでおり、戦争中のこの国へ売りに来たのだが、無駄になってしまったかもと追加で言っていたが、二人はそれどころじゃなかった。

「コータロー!!」

「ああ、急ぐぜ!!」

アクロバッターに乗って、二人は急いでその戦闘が有ったという場所へ向かうのだった。



〇〇〇〇〇〇〇



光太郎たちがアルビオンに着く数時間前の事、ここはアルビオンの城の一つニューカッセル城、ここにアルビオンの現政権である王権派が在住している。

本来は首都ロンディニウムにある、王城ハヴィランド宮殿にいるべき王権派なのだが、敗戦に次ぐ敗戦で
人員は減り撤退戦を繰り返し、今はここにいる非戦闘員を含め1000にも満たない数が戦力の全てであった。

そしてその内で戦える者など500も居ないだろう、そんな絶望が漂う状況の中で王権派の貴族達は最後の夜を楽しんでいた。


周囲をレコン・キスタに包囲され、しかも敵の兵力は五万を超え空中戦力の戦艦も幾つも見える、王権派に残った物はイーグル号という船一つであり、この船には翌日に非戦闘員を乗せて脱出させる予定なので、実質的にはもう一つも船は残っていないことになる。

そしてレコン・キスタ側から翌朝に総攻撃を仕掛けるとの通告があったのだ、アルビオンの現国王のジェームズ一世は、今日まで自分に付いてきてくれた全ての者に感謝をし、暇を与えると言って逃がそうとしたのだが、戦闘員たる貴族達は王を見捨てることを良しとせずに、皆で残ることを決意したのだった。

そして彼らは最後の夜を楽しみ、貴族の誇りを恥知らずどもに見せてやろうでは無いか、と士気を高めていた。

その光景にジェームズ一世も皇太子であるウェールズ・テューダーも、笑みを浮かべながら貴族達の最後の晩餐に参加していたが、その時に異変は起こった。


いきなりギターの音が鳴り響き、若干……音の外れた歌が聞こえてきて、一人の男が現れる。


「招待状は持っていないが、パーティーに参加させて貰おうか」


帽子を被り黒い服に身を包んだ男がそう言うと、周りの貴族達はその男を取り囲み杖を抜く、ここに居るのは敗北し続けたと言えど、幾つもの激戦を生き残った強者である。
そんな連中に取り囲まれているというのに、男は余裕の態度を崩さなかった。


「貴様……何者だ!!どうやってここまで来たというのだ!!!」

「ふっ短期は損気だぜ、俺の用件は一つだけさ」


男はそう言うと、少し溜めて口を開ける


「お前達の敵を倒しに来た」


いきなりの発言に周囲はざわつく、敵?敵とは何だ?敵ならば外に居るレコン・キスタの事では無いのか?と困惑の表情を浮かべる。

すると男は背負っているギターケースに手を突っ込む。


「分かっているな、デルフ」

「おおよ、任せときな、ダンナ!!」


そう言った瞬間にいきなり手を抜き取る、すると手には本の剣を握っており、制止する暇も無く投げつけたのだ、そしてその先にはジェームズ一世が居たのだった。

〇〇〇〇〇〇〇


光太郎とルイズは戦闘が有ったと言う場所へ向かっていた、その最中にはまだ数日も経っていないだろうという、戦場特有の被害が至る所にあり、それを見て気分が悪くなっていた。

不幸中の幸いと言うかまだ放置された死体などには出会ってないが、初めて戦場を見るルイズにはそれでも刺激が強すぎる光景には間違い無い。

一応彼女もオーク鬼などの人間に被害をもたらす亜人の駆除などは、実家で聞いているし見たこともあるが、人と人の戦場というのはそれとは違う酷さがある、出来ることならばこんな場所にルイズを連れてきたくは無かった光太郎だが、彼女でなければ身分の証明が出来ないし、何より先ほどの彼女の覚悟を踏みにじることになる、なので周りの警戒もしっかりしている光太郎であった。

すると光太郎は、速度を落としゆっくり停車する。


「どうしたの?」

「……誰か居るな、悪いがルイズちょっとそこに居てくれ」


一応念のために、と言って、一本の銀色で赤い取っ手が付いている棒を持ち出して一人で前に歩き出した、すると行き成り彼に向かって幾つもの矢が飛んできたのだった。



[34621] 潜入アルビオン編 3
Name: バドー◆38e6d11a ID:fe00d42f
Date: 2012/09/27 03:35
光太郎に向かって幾つもの矢が飛んでくる、その光景にルイズは思わず息を飲むが、光太郎は持っていった、棒を振り回し矢をたたき落とす、良く見ると光太郎の左手のルーンが光り輝いていた。


以前に武器の様な物を持つと、体が軽くなり持っている物の使用用途が分かると言う事があった、これは何なのか?とルイズに聞くと、例えば猫とかを使い魔にした時に人語を理解すること等があるので、何か特殊能力が追加されたのではないのだろうかという事だ。

そしてガンダールヴという使い魔については良く分からないが、伝説の内容から察するに、武器を持つと能力を発揮するのではないか、という結論に至るのだった。

そしてそれから色々と実験をした結果、太い木の枝とかは鈍器に分類されそうだが駄目で、学院の衛兵から借りた刀とかは大丈夫だった、つまりは凶器にはなりえても、武器として生まれた物でなければ効果は出ないと言う事で実験は終了した。


そして今の彼が持っている棒は、紛れも無く武器として生まれた物だ。


「随分なご挨拶だな、隠れてねぇで出てきやがれ!!」


光太郎がそう叫ぶが反応は無い、それは当然だろう、放った矢を全て棒で叩き落とした男の前に馬鹿正直に出てくるはずもない。


「……出てこねぇつもりなら」


そういうと光太郎は取っ手の部分についているH、S、R、LのボタンのLを押す、すると棒が一気に伸び10M程になる。


「俺が叩き出してやるぜ!!」


光太郎はそれを勢いよく振り回す、すると周りにある岩や木を薙ぎ払う。

彼の持っている棒の名前はライドル、仮面ライダーXの代名詞とも言える武器である、なぜ彼がこれを持っているかというと、話は海底都市を襲ったテロリストの事件にまで遡る。

そのテロリストの主犯であるアポロガイストというゴッドの幹部の男がバリアーを張っていた、そのバリアーは強力で光太郎達の攻撃が全て防がれてしまうほどであった。
そのバリアーを突破するために、仮面ライダーXの全エネルギーをライドルに集約して放ち、バリアーをオーバーフローさせるという作戦を行ったのだ。

その時のどさくさで実は返しそびれていたのだ、そしてついでに返しに行こうと思い持っていたのだが、その最中にルイズに召喚されたのだ。


Xこと神 敬介には悪いが、返すのは遅れそうですと、心の中で謝る光太郎であった。


そしてこのライドルという武器は使い勝手が良い、様々な形態に変化させられるのもさることながら現在の状況において最も都合がいいのが、強力な武器であると同時に殺傷能力を抑えられる点がすぐれている。

本気で殴りかかれば怪人の頭を叩き割る、ライドル脳天割りも出来るほどの頑丈さを備えているが、それはライダーの力を利用したからこそ発揮出来る威力であり、上手く使いこなせば、ただの固い棒というレベルにまで威力を下げた扱いが出来るのだ。

RXのリボルケイン等では武器自体が既にとんでもない殺傷能力を持っているので、光太郎にとって身近に持ててしかも強力なライドルの存在はありがたかった。

振り回したライドルによって隠れていた物を破壊され、十数人の人間が居たのが分かる、すると我先にと様々な方向に逃げていく、光太郎はその中の一人を追いかけ捕まえる、本来なら全員捕まえたいところだが、あまりルイズから離れるのもどうかと思い、捕まえた一人の男を引きずり戻ってくる。

ルイズも本来で有ればライドルについて聞きたいところなのだが、光太郎のことなので便利な武器の一つでも持っているのだろうし、今はそれどころでは無いと理解はしているが、後で聞こうと思ったのだった。


「さぁ何で俺たちを襲いやがった!!吐かねぇと、どたまかち割って脳みそストローでチューチューするぞこらぁ!!!」


胸倉を掴みグラグラ揺らしながら質問をする光太郎、少々お子様には聞かせられないセリフだが頭に血が上った時の彼は大体こんな感じである。まぁケツの穴から手を突っ込んで奥歯ガタガタいわせちゃる、というのと同様に昔によく使われていた脅し文句であるだけなのだが、女の子を前にして言うセリフでは無いのは間違いない。


「ほ、本当に理由はねぇんだよ!!貴族派の連中のとこで雇われてたんだが、ちょいと不都合があって元の家業に戻ってたんだよ……」

「へぇつまり元の稼業ってのは?」

「盗賊とかでしょうね」


ルイズの盗賊という言葉に、ピクッと反応し掴んでいる腕に力が入る光太郎、それに伴い汗をダラダラ流しながら怯えている男。

ちなみにゼウスはテロリストなどに対し、逮捕だけでなく処刑の権限も与えられている、無論この世界で元の権限もくそも無いのだが、人攫いに盗みと非人道的な事をしまくっているであろう盗賊をそのまま見逃すほど愚かではない。

光太郎達が彼の処置について考えていると、彼がつぶやき始めた


「ちくしょう……銀色の悪魔といい、赤い仮面の奴といい運がねぇぜ…………」

「銀色の悪魔?それに赤い仮面?おいちょっと詳しく教えろ」


それについて話し出す、アルビオンでの内戦はもう結構な時間が経過しているのだが、戦局が完全に傾いたのは割と最近の話しで、それから可笑しな噂を耳にするようになったのだとか。

戦場という特異な空間では、恐怖やストレスなどで現実味の無い噂などが広まったりするのは良くある話しなのだが、銀色の悪魔という話しは実際に被害があった話しだというのだ。


現在のレコン・キスタには金目的の傭兵なども多く参加しており、少し統制がとれていないような部隊だと元々の家業に走る者もいる、それは盗賊行為、考えてみれば起こりえる話なのだが、貴族の住んでいる場所を攻め落とせば当然金目の物が手に入る、だが毎度毎度落とせるとは限らないし、そういう美味しい場面に居れなかった者だっている。

そういう者たちが傭兵としての正規の報酬以外に欲をかけば一般人を襲うことになる、しかも既にそこを納めているはずの敵を倒した後にやるので、自分たちを退治する邪魔者がいない状態で安全に事をなせるのだ。

そんな問題ばかり起こしていたら、組織としても成り立たなそうなものだが、既に数万以上に膨れ上がった寄せ集め軍団を速やかに完全管理するのは難しい、そしてそんな奴らが噂の発信源となったのだ。

その内容とは、とある部隊が森に入った後に全滅したというのだ、生き残った人間から得た情報だと
銀色の体に赤く光る剣を持った悪魔に出会ったというのだ。

始めは何を言っているのかと思ったが、20人程度いた人間が全滅したとあっては流石に無視することは出来ない、だがすぐ先に王権派との決戦が控えていたために不干渉ということで決着させたのだ。


「それが銀色の悪魔の噂さ、本当に悪魔かどうかはしらねぇが、そいつのせいで人数が減っちまったから、前線に回されちまったしな」

「……銀色に赤い剣……まさかな」

話しを聞いて思い浮かぶ一人の男、最も多く戦った最強の宿敵であると同時に最も親しい友であった男の姿が頭をよぎる。


「どうしたのコータロー?」

「ん?……ああちょっと考え事をな、んで赤い仮面の方は?」

「……そいつのせいで大変な目にあったぜ」

それは数時間前のことであった、話では500以下程度の戦力しかなく、レコン・キスタ側の総兵力は五万以上、兵力差は100倍以上という勝ち戦どころか虐殺にしかならないであろうという、ニューカッセル城の戦いでそれは起こった。

空中には戦艦、城の周りは大量の兵隊が包囲、逃げ道を完全に封鎖した状態で突入をしたのだが、ニューカッセル城の中は異様な状況であった。

人の気配はまるで無くまるで廃墟の様であった、そもそも部隊が突入しようとしていた時に抵抗が無かった時点でおかしいのだが、それよりももっと異常な光景に出くわしたのだった。

城の広間にたどり着いた時に部隊は息を飲んだ、周りに横たわる死体の山、しかも全てが腕がへし折れていたり体が異様な方向に曲がっていたりした、オーク鬼などに殴られてもここまで酷くはならないだろうと言うような有様であった。

そしてそんな地獄の様な広間にそいつは居た、赤い仮面に緑色の目、白と緑を基調とした体、虫を思わせるその存在は広場の真ん中で佇んでいた。


「……まだいたのか…………」


それがそう呟く、そして少し屈みこんだかと思うと、とんでもない速度で蹴りが飛んできたのだ、幸いにして人には当たらなかったが壁に大穴が空き土煙が舞う、そしてその穴から出てくる男。

傭兵達は持っている武器で襲いかかり、魔法が使える者は魔法を使い攻撃を仕掛けるが、武器はへし折られ魔法は避けられていく、傭兵達は恐怖に駆られ逃げ出す者も出始めた。




「それでだ……俺も逃げ出した口なんだが、、急に城の中から竜巻が起こってよぉ、城をボロボロにしやがったのさ」


「それで……生き残った人はいたの?」


「さぁな、突入した奴らは大体平気だったみてぇだが、元々中に居た王権派の連中はどれくらい生き残ってたのかはさっぱりだ、あれじゃあ全滅してても可笑しくねぇよ、あいつのせいで俺達の報酬もパーさ」

その返答にルイズは押し黙ってしまうが、光太郎はさっきの銀色の悪魔以上に驚いていた。


「赤い仮面に竜巻……先輩もこっちに?…………でも先輩がそんな事する訳……」

「どうしたのよブツブツ言って?」

「なぁ……ひょっとしたらその赤い仮面ってのは俺の知り合いかもしれねぇ」

「じゃ、俺はこれで……」


光太郎がルイズに話している隙に逃げようとしたのだが、見逃すはずも無く、ライドルで頭を殴り気絶させる。


「コイツはどうするか……こんな状況じゃぁどこに持っていけばいいんだか……」

「そうね、だけど私たちも任務の最中だから連れては行けないわ」


二人はやむおえず、という感じで男の服を縛り上げ、「こいつは盗賊です」と札を用意しそのまま置いていった、そしてアクロバッターでは目立つので二人は歩いてニューカッセル城を取りあえずの目的地とした、現在分かっている唯一の情報なのだ、もう遅いかも知れないが少しでも進展が有るのならば行くしかないと思ったのだった。

この男の言う事を信じるのであれば、王権派の生き残りはもう居ないだろう、そしてもしその場所にウェールズ皇太子が居たのならば状況は最悪だ、まぁ手紙もウェールズごと無くなったのならば都合が良いといえばそれまでなのだが、そんな非情な事を思えるほど二人は達観していなかったし、それに状況を確認せずに帰る訳にもいかない。


「ねぇコータロー、さっき言ってた知り合いかもってどういう事よ?」

歩きながらルイズは光太郎に話しかける、先ほどから気になっていたのだ、王権派を襲い全滅させた男が光太郎の知っている人だと言うのだからそれは当然である。


「……出来れば間違いであって欲しいんだ……赤い仮面で緑と白の体って言うと、俺の先輩に丁度一人そんな人が居るんだ」

「先輩?ひょっとしてカメンライダーの先輩?」

「ああ、その先輩の名前は、風見志郎、仮面ライダー三番目の男で、仮面ライダーV3に変身する、世界一を世界一持っている人なんだ」

「世界一を世界一持っている?」

「そうだな、ちょっと説明するか」

光太郎は風見志郎の事について話す、力と技を兼ね備えた超人で、一時期ゼウスと行動を共にした事もあったが、もうこいつ一人でいいんじゃないかな、と思えるほどの実力を披露した男、そして様々な特技を持っており、何かを自慢すると必ずそれ以上の実力を持っている多芸を絵に描いた様な人なのだ。


「手品の達人、吹き矢の達人、槍の達人、剣の達人、アメフトの達人、俺の聞いたとこだともっと多くの達人を相手にして勝ってきたらしい」

「……す、凄い人ね」

「ああ、だけどそんな凄い人でも大事な親友を守れなかったらしいんだ」


V3の親友、飛鳥五郎、彼はデストロンに殺された、それ以降風見志郎は復讐にとらわれて恨みを晴らすためだけに戦い続けたのだ。


「それで、最後に仇をうってどこかに行っちまったんだ、だからひょっとしたらこっちに来ていたのかも知れないけど……でもいくら先輩が変わっちまったってそんな虐殺なんかするなんて思えないんだよ……」


光太郎の声にはいつもの張りが無い、行方が分からない先輩に会えるかも知れないというのは嬉しいのだが、それ以上にこの事件はショックが大きい。


「事情は分かったわ、なら益々目的を果たさなきゃいけないわね」

「ルイズ……」

「もし姫様の想い人を殺したのならそいつは許せないわよ、だけどねそうと決まった訳じゃないし、あんたが信用している先輩なんでしょ?だったら理由があるかも知れないし、情報が足りない今で判断は出来ないわ、だから急いで調べましょ」


ルイズは光太郎を元気づけるために笑顔で話しかける、今まで光太郎にはお世話に成りっぱなしだったのでこういう時だけでも力になりたかったのだ、それを見た光太郎は目をパチクリさせて


「お前……そんな顔で笑えるんだな……」

「ちょっと!!人が慰めてるのに感想はそれなの!!!」


光太郎と出会ってからもうそれなりに時間が経つが、ルイズの笑みを見たのは初めてであった、無論全く笑わないと言う訳で無い、一緒に生活をしていれば「面白そう」とかそんなプラスの感情の顔は見る事が出来るし、微笑は見た事があるが、こんな笑みを見た事は無かったのだった、そしてそれだけに効果は抜群だった。


「悪い悪い、ちょっと驚いただけさ、ありがとうよ、確かにクヨクヨしている場合じゃねーな」


光太郎は顔をパンッっと叩き、首を振って気持ちを入れ直す、ご主人さまに心配をかけちまったな、と苦笑する。

「それとさ、時間が有ったら銀色の悪魔の方も調べてもいいか?」

「何よそっちも先輩なわけ?」

「いや、こっちは違うんだ、でももし本物だったら有る意味で先輩よりも大変だ」

光太郎は出来ればこちらとも会いたかった、何故なら銀色の悪魔は彼の人生で最も深くかかわった人物なのだから。



[34621] 潜入アルビオン編 4
Name: バドー◆38e6d11a ID:fe00d42f
Date: 2012/10/04 09:12
「先輩よりももっと大変?」

「そうなんだけどな、でも今は時間がねぇから後でで良いんだけどさ……」

ルイズの問いに少々バツが悪そうに返す光太郎、もし銀色の悪魔が自分の思っている奴だったとしたら、どう説明すればいいのか悩む、彼と光太郎の因縁、彼らを襲った悲劇、どれをとっても軽々しく話せる内容では無いし出来る事なら言いたく無い事でもある。

五万年に一度に選ばれた世紀王の二人、ブラックサンとシャドームーン

創世王等というくそったれな存在に運命を弄ばれた自分と兄弟同然のように育ってきた親友、創世王を倒しても決して戻る事の無かった自分達、色々な事が頭をよぎるがまずは任務をやらねばならない。

光太郎がうんうん唸っているとルイズの方から話かける。


「まぁ言いたく無いなら聞かないわよ、それよりも任務の方を何とかしなくちゃ」


少々不機嫌になりながらもルイズは光太郎の事を察し話を切り替えてくれた、それに感謝しこれからの事を話しながら二人は歩を進めていった。

盗賊の話からすると、ニューカッスル城近辺にはまだ多くの人間がいるだろう、赤い仮面のせいで混乱があったとしても、状況の確認をせずに部隊を撤退させる訳が無い、最低でも王と皇太子の死体くらいは捜すだろう、そして戦闘があってからまだ数時間だとすれば探索を打ち切るにはまだ早すぎる、なので城に近づくにつれて慎重になる必要があった。


ここからが潜入の本番だ、そして難易度は非常に高い、もしアルビオンの王権派が生きていたとしても、数千数万単位の人間が探している中で、そいつらよりも先にしかも二人で捜索しているのを見つからずに出会わねばならない、単純に考えてもそれは難しいを通り越し無理というものだ。だがそれでもやらなければならない。


「まだ城は見えねぇけどそろそろ気をつけないとな」


そう言って光太郎はルイズの方をちらりと見る、今更だが自分達は非常に目立つ、光太郎はこの世界では殆ど見ない黒髪に黒い瞳に革ジャンにジーパンだ、ルイズはピンク色の長髪に貴族ですと言わんばかりの格好である、マントに学院の制服である、光太郎は珍しい格好をしている平民、ルイズは戦場に居るのが似つかわしく無い貴族の女の子、これでは目立つなという方が無理な話だ。

どこかでローブでも調達してくればよかったかと考えている時に


「動くな!!」

と後ろから声が聞こえた、しまったと思い後ろを振り向いた、そしてその場に居たのは


「か、風見先輩……」

「ふっ、やはりお前だったか光太郎、さっきのは軽いジョークだ流してくれ」


と自分たちよりもはるかに目立つ、黒い服に帽子に赤いシャツでギターケースを背負っている風見志郎がそこにいた。




「やっぱり先輩もこっちに来てたんですね!!」

「それはこっちのセリフだ、まさかお前もここに居るとは思わなかったぞ」


光太郎は志郎に近づき笑顔で話しかける、嬉しさの余り少々興奮気味で忘れているが聞かねばならない事がある、それを切り出したのはルイズだ。


「コータロー、その人がさっき言ってた先輩なわけ?」

「ああ、そうだぜ」

「そう、じゃあいきなりでなんだけど、あんたがアルビオン王権派を襲ったって本当なの?」

ルイズは少し怯えながらも強気の口調で話す、もしそれが本当だったのならば少なく見積もっても数百の貴族が立ち向かっても、目の前の男に歯が立たなかった事になる、ならば自分の事を殺すことなど造作も無い事だろう、だが姫様からの大事な任務を前にして弱気になる訳にはいかなかった、そのルイズの言葉を聞いて志郎はキョトンとした顔をしたが、すぐに態度を改めて答える。


「失礼ながらレディ、貴方様のお名前は?」


先ほどまで光太郎にやっていた様な言葉使いでは無く、まるで一流の執事の様な態度でルイズに話しかける、その変貌ぶりに少々戸惑ってしまったがルイズは名乗りを上げる。


「ルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」


ルイズの名乗りを聞きピクッと眉を動かす志郎、


「ヴァリエール……もしかいたしますとトリステインの公爵家のご令嬢で?」


何でそんな人物と光太郎が一緒にいるんだ?と光太郎に聞く志郎、そしてそれについて簡単に説明をするのだった。


「なるほど、使い魔として呼ばれた訳か、ならそんなやんごとなき身分のレディと光太郎が一緒に居ても不思議じゃないな。」

「質問には答えたわよ、だから今度はこっちの質問に答えなさいよ!!」

「ふっ分かった分かった、先に結論から言うと、俺は城を壊したが王権派の連中は全員無事だ」


その返答に二人はホッとする、しかしそうなると盗賊の話と食い違いが出てくる、城に突入したら死体の山があったはずだ、それはどういう事だろう、と志郎に聞くと


「なるほど、噂が良い感じに広まっているな、ならば動く好機かもしれないな」

「どういう事なのよ?」

「そうだな、まず俺が城に行った時の事から話すか」

困惑する二人を前に、志郎は説明を始めるのだった。



〇〇〇〇〇〇〇

「分かっているな、デルフ」

「おおよ、任せときな、ダンナ!!」

ギターケースから取り出した剣を王に向かって投げつける志郎、そしてその剣は制止する事も叶わず王の胸へと突き刺さったのだ。


「貴様ぁ!!許さん!!!!」


幾人もの貴族が杖を取り出し構える、だが志郎はそんな状態であっても話しを続ける。


「ふっ良く見てみろよ、お前たちの王様の姿をな……なぁ何で剣が刺さっているのに血が出て無いんだ?」


その言葉を聞き貴族達は王の方を見る、すると確かに血が出ていない、そして王自身も戸惑っていた。


「こ、これは……一体、なぜ痛みを感じぬ?……なんだ身体じゅうを巡るこの悪寒は……」

「それは既にあんたが死んでいるからさ」

その言葉に周りはざわつく、だがそんな事は無視するかのように志郎は王に近づき話を進める。


「生憎と俺もまだどんな代物を使っているのか分かっていないのだが、連中は人を操るマジック・アイテムを手に入れているらしい、生きている者は心を操られ、死んでいる者は遺体を生きているかのように動かされるようだ、お前たちにも見に覚えは無いか?」


そう言われてみれば思い当たる節はいくつかある、現王権に不満を持ち反旗を翻す貴族とているだろうが、ここまで一気に裏切る者がいるだろうか、そうそれはあり得ないくらいに。

そして死体を操ると言う方も、兵士たちからの噂話程度ならば聞き覚えがある事なのだ、矢が刺さっても魔法で身を焼かれても止まらぬ不死身の敵がいると。

「そして王様よ、あんたも操られていたのさ、死体になってだけどな、自覚も出来ない状態で作戦の立案や配備なんかを王が決めて、裏でレコン・キスタが知っている、これでは勝てないのも道理だ、そして今のあんたはその刺さっている剣、名前はデルフリンガー、こいつは魔法を吸収する能力がある、こいつに刺された事で一時的に体の感覚が戻ってきているんだろう」


「おいおいダンナ、ネタばらしを簡単にするなよ」


と剣が刺さっている状態で話しだす、このデルフリンガーと言うのはインテリジェンスソードと言う意識をもった、マジック・ウェポンである。



「そんな馬鹿な……では朕は自ら国を滅ぼしたとでも言うのか……」

「残酷な事だが事実だ、操られていたとはいえな……だから最初に言わせて貰ったのさ、お前達の敵を倒しに来たってな」


志郎は帽子を深く被り周りを見据える、そして広場の人間全てに聞こえるように語りだす。


「酷い話だ、王のために死ね、と言えば離れていく者もいただろうが、自分に従う部下達を心から愛している王だったからこそ、忠誠を尽くす立派な貴族は残った訳だ、そしてその忠誠心を利用して反旗を翻しそうな危険人物を纏めて一掃できる、自分で言ってても胸糞悪くなる作戦だな」


レコン・キスタはそれほどまでに卑劣な事を仕掛けていると話す、ここで命を張って戦う事こそが既に相手の望む事であり、華々しく散ってやろうではないかという先ほどまでの意気込みや矜持が全て踏みにじられた様な感覚に全ての貴族達は陥っていた。

王が逃げてくれ、と遠まわしに言ってくれたと言うのに、忠義を尽くすためにあえて王の命令を無視しこの場に残った貴族全ての想いと誇りを侮辱されたのだ、これでは死んでも死にきれぬというものだ。

すると王がいきなり胸に刺さった剣を抜き、貴族達の前に歩き出す、元々かなりの高齢であり足元もおぼつかなくなっていた王だったが、しっかりと歩を進める。


「この王に今日まで従ってくれたお前たちに命令する、この王の最後の命令だ」


「今度は、聞こえぬとか言わさぬぞ、奴らは卑劣を通り越し悪鬼の様な事を平気で行ってきた、そして朕もその下劣非道な行為の道具と化していた、すまぬこれでは無能を通り越し疫病神よ」


自重気味に話す王であったが、その姿は自分たちが信じ従ってきた王の姿であった、周りの貴族達は目に涙を浮かべながら最後の言葉を聴き逃すまいと王を見据える。


「頼む、この疫病神の王のためにこれ以上犠牲を出さないでくれ、どれだけ屈辱だろうとも、生恥を曝そうとも生き延びてくれ、奴らが我らを完全に消す事が望みならばそれを防ぐ事が一矢報いることにもなろう」


その言葉に周りは押し黙ってしまう、王の命令には従いたい、だが敵の策略により死体として動かされてきた王を見捨てて自分達だけで生き延びるのは、それも耐えがたい事であった。


「どうした!!聞こえなかったとは言わさぬと言ったではないか!!!」


その周りの反応を見て王は一括する、そして貴族達は次々に杖を取りだして空に掲げる。


「「「杖に掛けて!!」」」


その光景を見て王は笑みを浮かべる、そして今度はウェールズの方に歩み寄る。


「父上……」


本来で有れば息子とはいえ、このような場であれば、父では無く王と呼ばなければならないのだが、急に力が抜けたようにもたれかかったので思わず父と呼んでしまったのだ。

「むぅ、どうやら時間が無いようだ、先ほどまで感じていた悪寒が消えていく、いや……悪寒すら無くなっていく…………これが命が無くなるということなのだろうな……」

その言葉に思わず息を飲む、だが王は話し続ける。

「すまぬな、内乱を収められるどころか、王の責務を果たせぬまま朽ちる事になってしまった……残った者達をたの……む……ぞ……」

そう言い残し王はウェールズの腕の中で息を引き取った、その光景に周りの人間達はとうとうこらえきれずに頬から涙がこぼれ落ちる、そして少し申し訳なさそうに志郎は口を開く。


「感傷に浸らせてやりたいのは山々なんだがな、王の命令じゃないが俺もあんたらに死なれるとまずいんでね、さっそくで悪いが少し動いて貰いたい」


〇〇〇〇〇〇〇

「と、いう訳で俺はその後に王権派達を逃がすための芝居を打ったのさ」

「芝居?」

「ああ、何せ兵力差は100倍以上と言ってもニューカッスル城に残っている戦力は全員メイジ、5万対数百人と言えば少なく思えるが、数百人のメイジの集団と言えば強力な戦力な訳だろう?そんなのが生き残っていると分かったらどうなる?」

「それは……探し出すでしょうね、どんな事をしても」

「ああその通りだ、しかも別の国へ亡命したと分かればそれが戦争を仕掛ける口実にもなりかねない、もっとも奴らの事だから難癖つけて戦いを仕掛けたがるだろうが、それを早める要因は少ない方が良い、だから俺は全員が死んだ事に見せかける事にしたのさ、こいつでな」

と言って志郎は一体の人形の様な物を取りだす、それを見て光太郎は首をかしげるが、ルイズは何となくだがそれの正体に気が付いた。

「それって……ひょっとしてスキルニル?」

「御名答、その通り」

スキルニルとは人とそっくりな人形になるマジック・アイテムである、使用方法は対象者の血をスキルニルに染み込ませる事で発動する、そっくりな人形になると言っても動かない人形では無く、動くし喋りもする、もっともディテクト・マジック等を使えばばれてしまうのだが、逆に言えばそのような探知魔法を使用しなければれない、というほどの精度で人に化けれる代物なのだ。


「こいつで、偽物をいくつも作りそれを死体に見せかける、そして敵さんに目撃させて追っ払った後に、証拠を調べられない様に俺が城をふっ飛ばして芝居は完了と言うわけだ。」

「逆ダブルタイフーンでも使えば一発って訳ですね」

逆ダブルタイフーンとはV3の必殺技で強力な風を発生させるものだ、しかしその反面一回使用すれば3時間は変身不可能になるという両刃の剣でもある、だが確かにその威力を持ってすれば城を消し飛ばすくらし造作も無い事だろう。

二人の会話に少し突っ込みたくなったルイズであったが、城を吹き飛ばすくらいなら出来るかも知れないと思ってしまっている辺りもう思考が若干ずれ始めている。まぁ風の使い手ならば身内に一人それくらいの事が出来そうな人が居るのだがそこは控えておく。


「俺は王権派の人間に生き延びて貰いたいと話したが、いきなりやってきた俺を信用してもらうのは少々難しい、なにせ俺は王に引導を渡しちまった男だからな、だから信用してもらうためにちょっと手土産を持っていくことにしたのさ」

「手土産って何を持っていくんですか?」

「あそこに浮かんでいる船だ」

「ふねぇ!?あんたまさか乗り込んで奪う気なの!!」

そうだ、と志郎は頷く、

「信用して貰うのには行動が一番だ、今は王権派の皆は城の地下に居る」


ニューカッスル城の地下には秘密の地下通路が存在する、そこには船が停泊出来るようになっており、それが有ったからこそ、イーグル号という船1隻だけだが保持出来ていたといえる。

現在は城とそこから地下へ通じる道ごと志郎がぶっ飛ばしたために、地上からそこへ行く術は無い、だが船が停泊している場所にいれば、そこへ到達できる術は無いのだから最高の避難場所と言える。


「既に非戦闘員を乗せてイーグル号は出発した、だから俺はあいつらに逃げ道を用意する、と約束してそこに残って貰ったのさ、結構骨だったが王の最後の命令である、生き延びてくれという言葉が無かったらきつかったな」

「だけど先輩……奪うのはなんとかなると思いますけど、あんなの動かせるんですか?」

「ああ問題無い、俺にかかればあれくらいどうにでもなる、それに光太郎、お前を見つけられたのは嬉しい誤算だ、お前が居ればより安全に船を持って行ける、それにお前たちも王権派に用があるんだろう?ついでだから手伝ってくれないか?」

その言葉にちょっと悩むが、元々ウェールズには合わないといけないので光太郎とルイズは承諾したのだった。

狙う船は城を包囲している艦体の中でも比較的小さい物を狙った、欲を言えば最も大きく旗艦であるレキシントン号と言う船を狙いたい物だが、時間がかかりすぎるのでそれは出来ない。

「まずは船を占拠しなけりゃならん、それは俺がどうにでも出来る、だから光太郎お前は……」

と光太郎に作戦を告げ、志郎は船に行く準備をする、ごそごそと胸から何か人形の様な物を取りだした、するとそれは瞬く間に大きくなり、龍の様な物へと変貌する。

「これは?」

「ガーゴイルって奴でな、中々便利だぞ」

そう言うと志郎はガーゴイルに飛び乗り、じゃあ後は話した通りに頼む、と言って空へと昇っていった。


「あんたもそうだけど、先輩もかなり無茶苦茶ね、一人で船を奪いに行くなんて……」

「無茶苦茶で悪かったな、でも良かった風見先輩に会えて……」


二人は少し笑みをこぼしながら話す、心配ごとが無くなったので緊張が解けるのは無理もなかった、だが今の彼は気付いていなかったが、実は風見志郎もとんでもない事に巻き込まれているのだ。


ガーゴイルに跨り船へ近付いていく志郎、彼の被る帽子の下の額からは光太郎の左手と似たルーンが光っていたのだった。



[34621] 影月の行方
Name: バドー◆38e6d11a ID:fe00d42f
Date: 2012/12/15 21:49
「畜生……なんだってんだ!!」

一人の男が悪態をつきながら森の中を走っていく、当初の予定ではこの男と仲間たちで近隣の村でも襲い金品を奪うつもりだったのだが、突如として目の前に現れた一体の悪魔によって仲間達は全滅したのだ、正確には全滅したところは見ていないのだが、こちらの攻撃を全て受けてなお傷一つ付か無かった上に軽く剣を振るっただけで大地が避けたような衝撃が襲ったのだ、何人生きているのかは分からないがあの悪魔につかまったら生きてはいないだろう、その為に全員がバラバラになって逃げ出したのだ。

ガチャガチャと重い金属音を響かせながら一つの影が動き出す、その影は手には鋭く光る赤い剣を持ち全身を覆う銀色の姿と緑色の目をしていた。

「まったく、どこの世界にもこういう輩はいるものなのだな」

その影はそう呟くと銀色の悪魔から普通の人間に姿を戻し森の奥へ歩いて行った、しばらく彼が歩くと小さな家が見えてくる、一応ここは村なのだがあまりに小規模な上に居るのは子供とまだ少女と言える年齢の子だけなので、孤児院とでも言った方が正しいのかもしれない、彼がその家の中に入ると声をかけられた。

「あ、お帰りなさい、どこへ行ってたの?」

「軽い散歩だ、気にしなくていい」

無愛想にそう言うと彼は自分の寝床へ歩いて行った、その行動にいつも通りだなと思いつつも少女は安心していた、いつも何処かへ消えてしまいそうな感じがあるこの人がちゃんと帰ってきてくれたのだから。

彼は横になり天井を見ながら考え事をする。

「(ここへ着いてからもうそれなりに時間が経つ……私のやるべき事とはいったいなんなのだ)」

三人目の異邦人銀色の悪魔ことシャドームーン、秋月信彦はそんな事を思いながらこの世界にやってきた時の事を思い出していた。




今から数ヶ月前、ゼウス達にシャドームーンは敗れ後はアポロンを残すのみとなり傷ついた体でその結果を待っていた。

そして激しい戦闘の音が静まったと思うと突如として巻き起こる揺れ、この時点で何となく理解はしていたゼウスが勝利し自分たちは完全に敗北したのだと。
足を引きずりながらシャドームーンは決戦の地へ歩みを進める、そこには仮面が割れて素顔を見せているアポロン総帥こと、ギリアム・イェーガーがいた。

「アポロン総帥……」

「ああシャドームーンか……強かったよゼウスは」

アポロン要塞は現実世界にあるビルの中に作られた特殊な空間、それを維持していたコアであるXNガイストが無くなったために崩壊が始まったのだ。

「すまないな、お前たちの忠誠を裏切る形になってしまった」

申し訳ないと謝罪の言葉を言うがアポロンは満足している様な顔をしていた、彼には未来をみる能力があった、それにより惑星エルヒスには破滅の未来が訪れる事を知ってしまったのだ。
そしてその未来を変えるために組織を作り上げ様々な作戦を行った、だがその為に多くの血が流れ犠牲も出た、それでも怪獣、怪人、モビルスーツ、ありとあらゆる強力な力と異常な物が数多く内包するフラスコの実験の世界を救うために進んで行った。

だがそれをゼウスが打ち破ったのだ、自分の悪行だけでなく暗雲に満ちた世界の命運ごと、倒された今だからこそ断言できる、甘いと言える理想を本気で守ろうと命をかけた彼らだからこそ世界を救う力と成りえたのだと。

だから全てを安心して託せる、そう思えたのだ。

「いえ……アポロン総統についてきた全ての者は後悔など微塵もありません」

シャドームーンも数奇な運命に翻弄された人間の一人だが、最後にはアポロンの思想に惚れこみ彼の元に付く事を決めたのだ、その結果が敗北と消滅だったとしても後悔は無い。

辺り一面にひびが入り本格的に崩壊が始まった、もうあまり時間は無いだろう、それでもシャドームーンはその場から動かずにいた、もう脱出する時間も無いのだろうが動かないと言う事はここで共に消えると言う事を選んだという事だ。

しかしその想いに対してアポロンはシャドームーンに語りかける。

「……どうやらまだお前にはやる事があるようだ」

するとアポロンは手をかざし次元転移の力をシャドームーンに放つ

「アポロン総帥!!」

「俺には見えたよ……本来の道とは違うお前の未来が…………」

そう言うとアポロンはゼウス達を脱出させたようにシャドームーンにも次元転移を施したのだった、そしてこれで終わりかと思っていたら再び未来の姿が見えたのだった。

「ふっ……俺にもまだやる事があるようだな、光太郎、ダン、アムロ、もう二度と会えないかも知れない、それに俺はここに戻ってくることも無いだろう、だが祈っているぞお前たちの未来を…………」

そう言うと彼の姿は透けていった、彼の惑星エルピスに置ける役目は終わったのかもしれない、だがそれと同時に新しい過酷な旅が始まったのだ、数十年以上の時間をかけた様々な次元を巡る旅が……



アポロンに次元転移をされ次元の狭間を漂っていると突如として光の鏡の様な物が現れ自分を飲みこんでいった。



「私はいったい……助かったのか……」


光に飲み込まれた先にはアポロン要塞とは全く違う光景であった、森の奥なのだろうか周りには木々が生い茂りその先には小さな小屋が見える、そして目の前に一人の少女がいた。
年は16~18程度だろうか金色の長髪に整った顔立ちにピンと伸びた耳があった、その少女は何やらおどおどして自分の方を見ている。

それに対してシャドームーンは今の状況を簡単に考えてみる、詳しい事は分からないが恐らく空間転移してこの場所に来たのだろうと判断出来る、そしていきなりシャドームーンの姿を見ては驚くのも無理はないだろうと思うのだったが、自分の手を見た見た時に自分の方が驚いてしまった、何故ならそれは手甲の様な手では無く人間の手だったからだ。


「馬鹿な!!なぜ…………」


思わず声を上げて今度は自分の顔を触ってみる、するとそれはシルバーガードに覆われた金属の様な感触では無く、普通の皮膚の感触だった、つまり戻ってしまっているのだ、創世王候補、世紀王シャドームーンでは無くただの一人の人間だったころの秋月信彦の姿に。

急に大声を上げた信彦に目の前の少女は思わず話しかける。

「だ、大丈夫ですか……どこか痛くなったりしてませんか?」

「いや……大丈夫だ」

声をかけられ少しどもりながらも返事をする、色々ありすぎて頭の中は混乱しきっているが取りあえずは情報を得なければならないと思い会話を試みる。

「それよりも、すまないがここは何大陸の何処なのか教えてくれないか?」

「えっと、アルビオン大陸のウエストウッド村ってところですけど」

それを聞いて信彦は少し考え込む、ウエストウッド村というのが聞いた事が無いのは仕方がない、市以下の小さな村の事など全て覚えている訳では無いのだから、だが問題はアルビオン大陸という単語の方だ、惑星エルピスで大陸と名の付く物は三つ、ライダー大陸、ウルトラ大陸、ガンダム大陸でありそれ以外の大陸は存在しない、それによって判断出来るのはここが異世界の可能性があると言う事だ。

目の前の少女が惑星エルピスの人間で嘘をついているなら、存在しない町や村程度の嘘は付いても流石に有りもしない大陸の名前は言わないだろう。

加えて異次元の住人や宇宙人の存在は既に周知されている事であり、先ほどアポロンによって転移されたのだ、ここがエルピス以外の異世界という可能性はあり得ると判断出来たのだ。

わずかに得られた情報から信彦が考え込んでいると今度は少女の方が信彦に質問をしてきた。

「あの、怖くないんですか?」         

少女はそう問いかけてくる、それに対して首をかしげながら返答をする、

「・・・何を怖がればいいんだ?」   

目の前の少女に対しては怖がる要素が全くといっていいほどない、敵意を向けているわけでもなく武器を持っている訳でもない、加えて見た目もただの人間に見える、強いて言えば耳が尖っている程度な物だがそれも恐怖の対象にはならない。そんなことで一々驚いていたら部下が全員アウトであるし、同僚の異次元超人ヤプールなどみた日には失神してしまうだろう。

※参考資料、皮膚を剥いだ様な顔をカプセルに入れた白いスーツのトランプ男、ジェネラル・シャドウ
       十の顔が岩に埋め込まれた十面鬼ゴルゴス
       強力なクローを持ったカラスの化物カイザーグロウ
       ミイラの様なゾンビの様なイメージを起こし真っ白な体にヒビの入ったジャミラ
       火炎を吐き禍々しい配色をしているバードン

などなど怪人、怪獣と言うだけあって恐怖の象徴の様な存在ばかりである
 
しかも巨大モビルアーマー、α・アジールや先ほどの様な凶悪な怪獣怪人がグロス単位で徘徊している上に、どこか生物の体内を連想してしまう本拠地アポロン要塞に比べれば、この場所目の前の少女など普通の一言で片付けられる。

信彦は頭の中に次々に浮かぶ部下と同僚の姿を思い浮かべながら、本当に何を怖がれば良いのか分からないといった感じで少女の方を見ている。

質問をした少女ことティファニア・ウエストウッドの方も戸惑っていた。

彼女はちょっと込み合った事情からこの辺鄙な村で生活をしている、その込み合った事情とは色々あるがまず第一の問題として自分がエルフの血を引いている事が挙げられる。

この世界の人間にとってエルフは恐怖の象徴と言っても過言ではない、自分は純粋なエルフでは無く人間とエルフの間に生まれたハーフエルフだが、エルフの特徴とも言えるとがった耳を見ただけで、普通の人は恐れてしまうのを知っている。

それ故にどうしても中々外に出る機会は少なく世間の事に疎くなってしまう、今の生活不満が有る訳では無いのだが少し変わるきっかけが欲しくて使い魔を召喚したのだった。

「我が名はティファニア・ウエストウッド。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ」

そのルーンを唱えて出てきたのが人間の男性だったのだから、ある意味で信彦以上の驚きがあっただろう。

片方はなぜ怖がるのか疑問に思い、片方はなぜ怖がらないのか疑問に思う、

それが信彦とティファニアの最初の出会いだった。



「(あれからもう数カ月か……)」


数か月前まで世界の命運をかけて戦い、そのさらに前は宿敵の男と戦っていた、それから比べたら今の生活は穏やかの一言だ、そのさらに前の宿敵が親友だったころの様な普通の日常と同じ様な。

その居心地の良さにここで骨を埋めるのも悪く無ないかもしれないという思いが少し、ほんの少し思ってしまうほどに。

ゴルゴムによって歪められた創世王への渇望も殆ど残っていない、アポロン総統の理想を実現するために戦う必要ももう無い。
今の自分には縛る物も突き動かす物も何一つ無いのだ、だからこそ悪く無いそんな思考をしてしまう。

「馬鹿馬鹿しい」

そう呟き意識を手放して行った、しかしもう少し先の話になるが彼もまたこの世界に大きくかかわる事になるのだった。



[34621] 潜入アルビオン編 5
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2013/03/20 13:42
「まだ見つからないのかね?」

「申し訳ありません、現在は瓦礫の撤去や逃走した者などの確認で作業が大幅に遅れております」

「まぁ構わない予想外の事が起きたとはいえ被害は少ないし王達との戦いは終わったのだ」

黒い帽子を被りカールした髪型の男が一人の兵士に話す、彼の名前はオリヴァー・クロムウェル、レコン・キスタの長である、元々はブリミル教の司教の一人にすぎなかったのだが貴族派達をまとめ上げこの内乱を起こした人物でもある。

「しかし赤い仮面の男か、噂に上がっていた銀色の悪魔といいもう噂で片づけられんかな」

「だと思われます、初めは盗賊上がりの者たちの戯言かと流されていましたが、実際に見た者が多く目の前で城を破壊されたのでは信じない訳にはいかないでしょう」

その話を聞き、ふむ、と頷きながらクロムウェルは考えるようなそぶりを見せる。

「おいおい共に戦ってくれた同士の事をあまり悪く言わないで上げたまえ、まぁその男が王たちを倒してしまったのは残念だが起こってしまった事よりもこれからの事を考えるとしよう」

「やはり我々で首級を上げねば……」

そう言う兵の言葉をさえぎりクロムウェルは話す。

「いや、そう言う事では無い、先ほどの残念と言う意味はな……王たちとも仲直りをしたかたったのだよ」

「仲直りですか?」

「そうだ、本当に残念な事だが戦いが起こってしまい、この様な事になってしまったが、一度死んでしまった後ならばそんな事も気にせずに仲良くなれると思うのだ」

普通ならばこの様な事を言われれば何を言っているんだと思うだろうが、この言葉の意味を兵達は理解している。

「なるほど、虚無の力でございますね」

虚無の系統、始祖ブリミルが使ったとされる失われた系統、水、風、土、火、この四つのいずれにも属さぬと言われているが詳しい事は伝えられていない、いや正確に言えば残っていないと言うのが正しい。
それをクロムウェルは使えると言うのだ、しかも噂だけでは無い、何度かレコン・キスタの者たちはその虚無の魔法の奇跡を見ているのだ。


「そう言う事なのだよ、しかしそれはともかくとして、そろそろワルド子爵から連絡があっても良いと思うのだが」

「そちらの方も残念ながら……」

「まぁ彼も王宮に仕えている魔法衛士の隊長なのだ、動くのに手間取っているのかもしれないな」


ワルド子爵に頼んでいたのは、トリステインとゲルマニアとの連合を破棄させるための手段である。
そして彼の報告からするとウェールズとアンリエッタは恋仲にあったとの事だったので、その方向から何かないか探らせていたのだが、そろそろ一時連絡がくるはずなのだ、レコン・キスタとアルビオン現王権との情勢は知っているはずなので、流石にアルビオンが落とされた後まで連絡をよこさないと言う事は無いだろう。

まだまだ気になる事はあるが戦い事態はレコン・キスタ側の勝利で終わっている、今の作業も所詮は余計な犠牲をださないための処理と確認に過ぎないのだ。

ちなみに彼らがワルド子爵は既に赤い仮面によってボコボコにされた上に、トリステインの王宮にしょっ引かれていると言う事を知るのはもう少し先の事になるのだった。


そして噂に上がっている赤い仮面のV3こと風見志郎は、ガーゴイルに乗り船の近くまで寄りは腕を横に構え力を込める。

「変身……V3!!!」

その掛け声と共に船に向かって飛び立つ志郎、腰には二つの風車のあるベルト、ダブルタイフーンが浮かび体を変化させ、力と技を兼ね備えた仮面ライダーV3へと変身を完了させる。


「な、なんだお前は!!」


いきなり甲板に現れたV3を見て驚く乗組員達、それを無視するかのようにV3何かを空中に飛ばすとそのまま駆け抜けて行く、船というのは大砲などで弾幕を張れるので近付くのは非常に困難だが、一度中に入られると対処するのは難しい。
なぜなら大威力の魔法でもぶっ放して火災等が起きれば全滅の危機になる、水の上に浮く船ならば逃げられない事も無いかも知れないがここは空なのだ、船を動かす大部分の人員は平民なのでメイジの様にフライで空を飛べないために船のダメージは即全滅に繋がりかねない。

なので大体は船に乗り込まれてしまう前に敵を叩かねばならないのだが、一騎しか居なかったので発見と対処が遅れてしまったのだ。

しかもこの一騎は平民が白兵戦で倒すのはほぼ不可能なレベルの一騎なのだ、乗りこまれた時点で詰んでいるとすら言える。

V3は襲いかかってくる敵を細心の注意を払いながら、当て身などで気絶させながら進んでいく、生身の人間相手にするのは、ある意味で怪人を相手にする以上にやりたくない事なのだ。


「(さて、操舵室は・・・あそこか)」

V3は先ほど空中に飛ばしたV3ホッパーからこの船の情報を読み取る、このV3ホッパーは怪人の能力などを図る事が出来る他に地形や内部構造を調べる事の出来る優れ物なのだ、これによって周囲の状況や狙う船を探していた時に光太郎を発見したのだった。

そこまで大きなサイズでは無いとはいえ戦艦は戦艦、数十人ではきかない数の乗組員がいる、全員を倒すだけならばそこまで時間はかからないが、問題はこれをウィールズ達の元へ持って帰らねばならないと言う事だ。

だがV3には一人でそれをどうにか出来る術があったのだった。


「操舵室、機関室、人員……良し動かせるな」


V3は幾つかのガーゴイルを取り出し命令する、例え船の操舵が出来たとしても一人では船を動かす事は出来ない、そこで自分の思い通りに動かせるガーゴイルの出番と言うわけだ。

V3はガーゴイルに指示を出し自分は操舵室に向かう、そしてたどり着くと素早く動きそこに居た船員たちを気絶させる。

そして船内全域に聞こえるように伝声官を使い放送するのだった。




そしてV3が戦艦に乗り込んで十数分が経ち船体は当初の位置からずれていく、少し高度が下がり方向転換をしている、これは乗りこむ前に言っていた合図でもある。




「おっ、どうやら上手く行ったみたいだな」

「でもどうやって乗り込むのよ」

「まぁ見てなって、へん……しん!!」

光太郎はRXへと姿を変えルイズを脇に抱える。いきなり抱えられ反論しようとするが、その暇は無かった。

「しっかり捕まってろよ」

「え?きゃああああああ!!」

RXは膝を曲げ空に浮かぶ戦艦に向かい大ジャンプをする、RXは垂直飛びで60Mジャンプする事が出来るのだ。

そして自身のジャンプが最高点に達した時に、ライドルをロープモードにし戦艦に引っ掛け見事に着地する。

「とうちゃ~く、痛って!!なんだよ」

「うううう、うるさい馬鹿!!飛ぶなら飛ぶって言いなさいよ!!!」

RXに抱えられたまま顔をポコポコ殴るルイズ、彼女は少し涙目になっている、そりゃあそうだろう、60Mと言えば20階のビル程度の高さがあるのだ、それを脇に抱えられて飛ばれては怖いに決まっている。

しかもフライ等の呪文がメイジにはあるとはいえ、自分で飛ぶのをコントロール出来る状態で無くこんな事をされてはこうなるのもしょうがないだろう。尤も彼女はフライが使えないので余り関係無いが。


「あー悪かった悪かった、それよりも取りあえずは操舵室に行かないとな」

「反省して無いわね……ま、まぁいいわ今はやらなきゃいけない事があるものね」

一回深呼吸をして息を整える、色々な事が一気に起こって混乱しそうになるが、なんとか心を落ち着かせ二人は操舵室に向かうのだった。




一方その頃、レコン・キスタ側の方も異変に気付いていた。いきなり戦艦の一隻が動いたのだから当然と言えば当然だ。

「どうした!!あの艦からは連絡が無いのか!!」

「どうなっている、動けと命令はしていないぞ」

と状況が分からずに将兵達が騒いでいると。

「報告いたします!!今あの戦艦に乗っていた龍騎士からの情報です」

と慌てた様子で伝令役の男が入ってくる。

「先ほど赤い仮面の男に、館内に侵入され操舵室を占拠されたとの事で、しかも奴は堂々と伝声管を使い、戦艦は貰って行くと宣言した模様、乗組員はまだ何割か中に残っていますがいかがしましょう」

そう報告され、しばしの沈黙の後一人の男が声を荒げる。


「ただちに航空戦力で追いかけさせろ、最悪の場合は撃ち落としても構わん!!」

そう命令しすぐさま兵に伝えられるのだった。




最悪の場合は落としても構わない、そう言われたがその最悪はもう既に来ていると言ってもいい。

殆どの船は停船状態な上に、今から船を動かして追いかけてもその前に目標を失ってしまうのは目に見えていた。

ならば幾つか素早く動ける龍騎士を何騎か先行させ砲撃を開始しながら近付く、もはや落とす気で動かねば逃がしてしまう様な状況だったのだ。

「砲撃用意、撃て!!」

奪われた戦艦目掛け大砲を発射する、ある程度距離があるために全て命中させるのは難しいが、幾つかは船に直撃するコースを飛ぶ。

しかし直撃する前に船の甲板から謎の光が放たれ、弾は撃墜されてしまったのだった。

「ば、馬鹿な……一体なにが」








「まったく先輩も人使いが荒いぜ」

甲板にいるのはロボライダーに変身したRXである、先ほどの大砲を打ち落したのは、ロボライダーの専用武器のボルティックシューターによる狙撃だ、V3が船に乗りこむ前に光太郎に頼んでいたのは船の護衛だった。
移動し始めた船を敵とみなして攻撃しようとしてもすぐに船で追いかけるのは難しい、当初は竜騎士などが追いかけてくるだろうと思い念のために配置していたのだが、砲撃という落とす気満々の攻撃がくることとなり、RXを置いていなければ下手をすれば撃墜されていたかもしれないので、用意というのは周到にやっておくものだ。

「光太郎、10時の方向からも来るぞ注意してくれ」

「了解!!」

返事をした後にロボライダーはボソッと呟く。


「しかしまだこっちには人が乗っているってのに撃ってくるなんてな……」


戦艦を強奪しておいて言うのも何だがと思いつつもロボライダーは思う、戦争と言うのは政治の延長であり、不特定多数の人間に被害が及ぶテロとは違うのはある程度は理解している。

だがこの内戦の理由が、【現王権を打倒し貴族を纏め聖地を目指す】と言うのもならば、もう既に体勢は決している。

そして彼らの戦争の行動理由からは、この内戦の勝利だけでは終わらず、次の戦争を仕掛けようとしているのは分かり切っている。

ならばこれ以上の犠牲を出さず、戦争が起こるのを回避出来るのならば、今の自分の力を振るう事に戸惑いは無い。

そしてその犠牲を出さずと言うのは、レコン・キスタ側に付いている人間達の事も入っている。

「さて、かかって来な、俺は手ごわいぜ」

ロボライダーは気合を込めてそう宣言するのだった。


操舵室の方からは直接甲板は見えないが、砲弾を全て打ち落しているロボライダーの活躍は分かっていた。

途中砲弾だけでなく、龍騎士もやってくる事態となったが、ボルティックシューターによって翼等にダメージを与え、戦艦に乗りこまれないようにしていた。

例え乗りこまれても数匹の龍程度でロボライダーを抑えるのは難しいだろうが。

流石に体勢が決したこの状態で、こんな奇襲を受けては多くの追撃は出せず、一度振り切ればそこまで難しく無くウェールズのところまでは行けるだろう。


船はスピードを上げニューカッスル城の地下にある、秘密の場所まで近づく。

「光太郎、取りあえず今は追撃は無さそうだ、一旦戻ってきてくれ」

操舵室から光太郎にそう指示を出す、その後に操舵室に待機していたルイズにV3は話かける。

「ではルイズ嬢、そろそろ王子様との御対面だ、心の準備は良いかな?」

「だ、大丈夫よ」

ルイズはちょっと噛みながらだがV3に返答する、やはり一国の王子に会うのはトリステイン有数の大貴族の娘とはいえ緊張はする。

それを知ってか知らずかV3は話かける。

「ふっ一応アドバイスしておこうか、何が来ても驚くなよ、何が来てもな」

そう含みのある言い方をされて首をかしげるルイズだったが、その意味を考える暇も無く光太郎が戻ってくる。

「お勤め御苦労、光太郎」

「おかえりコータロー」

「ただいまっと、これからやっと王子様ってのに会うんだな」

「そうだ、今からあそこの洞窟に入るぞ」

そう言うと船を洞窟に停泊させる、そしてウェールズ達に挨拶しようと意気揚々と船を降りた三人の前に立っていたのは……




いかつい空族の方々だった。



[34621] 潜入アルビオン編 6
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2013/04/03 18:24
「え……っと…………」

思わず言葉に詰まるルイズであった、船から降りる前に色々と考えていた、挨拶や話の切り出し方等が全て吹っ飛び硬直している。

何せ目の前に立っていたのはアルビオンの王権派の貴族達でなく、へっへっへ、とか、ひゃっはー、とか言いそうな、いかにもという感じの連中だったのだから。

すると固まっている、ルイズの横から志郎が前に出て空族達に挨拶する。


「宣言した通り船は持って来たぜ、これで上手く脱出出来るだろう」

「まさか本当に持って来るとはね、いやはや何もかも規格外といった感じだな」


空族のリーダーと思わしき人物に、気軽に話しかける志郎を見て、フリーズしていた頭を解凍したルイズは口を開く。


「な、何なのよこいつらは!!ここに残っているっていう王権派の人達はどうしたのよ!!!」


「ふっ一応先に言っただろう、何が来ても驚くなってな」


少し意地の悪い笑みを浮かべ、ルイズに返答をする志郎であった。


「すまないがこちらの方々は?」


志郎と話していた男がそう聞いてくる、海賊映画にでも出てきそうなイメージの服を着て、長い髭を生やしている見た目に反して、丁寧な喋り方をしている。


「トリステインからの使者だそうだ、ウェールズ殿」


そう言われピクッとルイズが反応する、そして数秒時間がたった後に光太郎が口を開く。


「な、なぁウェールズって確か……」

「え、ええ……」

「取りあえず話は船の中で、今は大丈夫だが余り長居していると見つかるかもしれないんでな」


ややあってその場に居た人間が全員乗りこむ、そして船の中にいた敵の乗組員も全員一か所に集め、素早く行動する。

先ほどまでは船が勝手に動いたために、逃げ出す手段の無かった者や戦う術の無かった者が何人か隠れているかもしれないので、それの調査も行ったのだった。

上へ下へドタバタ動き回り船を完全に占拠するにはそう時間はかからないだろう。

そしてここは操舵室、中に居るのは光太郎とルイズと志郎、そして先ほどの男と老いた男が一人。


「先ほどは話の途中で失礼した、改めて名乗らせて貰おう、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーと、こっちは古くから王家に仕えてくれている」

「パリーと申します」


一礼をし自己紹介をした後に話を続ける。


「この格好では信じて貰えぬのも無理は無い、だが今はこの船を奪ったのは空族と言う事にするために変装をしているのだ」


そちらに居る彼の提案でね、と最後に付け加え話を志郎に振る、すると志郎は補足の説明をするように話す。


「元々は相手側の補給線を絶つために、空族まがいの戦法を取っていたらしいからな、船を一隻奪うのは少々大胆だが、内戦による治安の悪化を狙った悪党の仕業、って事にしておいた方が都合が良いだろう、俺も謎の赤い仮面の男で有名になったしな、ついでに利用しておいた」


と言い放ちルイズ達に続けて説明する。


「レコン・キスタの連中はアルビオン内を平定させれば、恐らく次の戦争を仕掛けるだろう、それがどれだけの時間でどんな様に仕掛けるのかは分からないが、今はまずは生き延びる事だ」

「なぁ先輩、やっぱり戦争は起こっちまうのかな……」


志郎の話しが終わったのを見て、そう光太郎は話す、正直に言って聞いた話しだけだがレコン・キスタとか言う連中のやっている事は、ネオ・アクシズの時の様な乱暴さを感じている。

だがこれ以上の犠牲は出したくないとも思っており、幾ら相手が理不尽に近い行動を取っていたとしても、悪の秘密結社とは違う訳で出来る事なら戦いたくは無い。

テロリスト相手に好戦的に戦ってきた光太郎ではあるが、血を見ずに済むのであればそれにこした事は無いのだ。


「恐らく……いやまず間違いなく仕掛けてくるだろうな、もしあいつらの言っている聖地を目指す、とか言うのが本当ならばアルビオンを落として得た戦力、物資だけじゃ足りないからな。兵站の補給の当てや安全な行軍の道を確保するためには、もう一つは国を確保しなけりゃならんだろう。しかも戦いに行くので同盟国になり支援しろ、なんて要請を他の国に言ってそれが通る訳がない」


なぜなら既に【情けない王権】と定義してアルビオンを滅ぼしているのだから、いつその定義が自分の国になるのか分からない奴らを支援など出来る訳がない。

その言葉を聞いて場が静まる、言いだしっぺの光太郎ですら暗い表情をしている。

だがそこで終わる風見志郎では無かった。


「だからと言って何もしないでいる訳じゃ無い、アルビオンが落ちたのを見てこれから各国々は動き出すだろう、それの成り行きによっては戦争を仕掛ける事を諦める事だってある、無論それは理想論だが俺は俺なりに回避出来る手を打つつもりでいる」


その一手がこの人達の救出だからな。そう締めくくり話を再びウェールズ達に向ける。


「そう言う訳でね、本来ならば我々は例え散ってでも最後まで抵抗するつもりでいた、だが亡き国王の意思とこれからの事を思い、生き恥をさらす事になろうとも逃げ延びて行動する道を選んだのだ」


例えこの地に返り咲く事は無くとも出来る事はあるはずだ、そして最悪戦争が起こったら傭兵となってでも守るべき物のために戦うつもりさ。

そうウェールズは決意を持って語り続けて話す。


「これでこちら側の事は大体伝えられたな、では今度はそちら側の事の用件をお聞きしたい」

「はい、実は……」


やや緊張しながらもルイズはこれまでの経緯を簡単に説明し、ウェールズにアンリエッタから受け取った手紙を渡す。中身を確認するとウェールズは目を閉じ数秒間そうしていたかと思うと口を開く。


「そうかアンリエッタが……分かった少し待っていてくれ」


ウェールズは持ち込んでいた荷物から小さな宝箱を取りだし蓋を開ける、すると中にはボロボロになった手紙が一つ入っており、それをルイズ達に渡す。


「宝物でね、これがその手紙だ」

「確かに受け取りました」


ルイズはそれを丁寧に受け取り下がる。


「トリステインとゲルマニアの同盟、上手くいけば直接の戦闘は回避出来るかもしれないな」

「はい、あの……アンリエッタ様には…………」


ルイズは遠まわしになりながらもウェールズに尋ねる、愛している人の生存、それほど嬉しい報告は無い、だからこそ伝えても構わないかどうか聞いたのだが返ってきた返事は。


「大使殿には申し訳ないが、生死不明と言う事にしておいて貰えないだろうか」


という物だった。


「今はあの叛徒どもにも我らの生死はつかめていない、万が一にも情報は漏れない方が良い、それと……」

愛した人の邪魔になるやもしれないからな、と少し悲しそうに呟いたのだった。




「上手く脱出出来たのならば、我々は暫くの間各地に散らばり動くとするよ、色々と世話になったな大使殿達」


船の運航準備が完了しいよいよ出発となった時に言われ深々と一礼をするルイズ達、志郎はV3ホッパーを使い周囲を調べ安全を確認し合図を出す。


「今からアルビオンからトリステイン行きの船は暫くは出ないだろう、途中まで一緒に居たら後はガーゴイルで送ってやる」


と志郎に言われ同行する事となった。

その後はなんとか敵にも見つからず、船は無事にアルビオンを離れる事が出来たのだった、そして光太郎とルイズを乗せたガーゴイルはラ・ロシェール付近で光太郎達を降ろし去って行った。


色々と不安の多く残った旅であったが、取りあえず姫様からの任務は完遂した事で胸をなで下ろすルイズ、そしてそれを思ってか光太郎はルイズに話仕掛ける。


「まっ先輩が居るからあの人達は大丈夫さ、んで……姫様に報告しに行くか」

「そうね……ってアクロバッターを置いてきちゃったじゃない!!」

「ん?ああ、大丈夫だあいつは呼べば来るから」


光太郎はそう言うとアクロバッターを呼ぶ、しかし流石に距離があるのためすぐには来れない様だ、そしてその間に軽く話をする二人。


「やっぱり助けられちゃったわね」

「どっちかって言うと先輩の方が活躍してるけどな」


そうね、と相槌を打ちルイズは話す。


「ねぇコータロー……もし戦争になったらあんたはどうするの」

「さてな、どっちが悪いとかどっちが酷いとか、そんなのは分からねぇけど、理不尽な暴力が襲いかかるってんなら、相手が誰であっても殴ってでも止めてやるさ」

「殴ってでも止めるって……まぁあんたらしいわ」

「おうよ」


暫くしアクロバッターが到着し二人は報告すべく、アクロバッターを走らせるのだった。





数日後。






アルビオンから遠く離れた始祖ブリミルの子孫が興した国の一つガリア王国。

総人口が1500万人を超えるハルケギニア最大の国であり、領土、軍事力、魔法技術、ありとあらゆる分野で繁栄している大国である。

そのガリア王国の王都リュティスにある王城ヴェルサイテイル宮殿に一人の男、風見志郎が侵入していた。

本来ならばコソコソする必要は無いのだろうが、深夜に来た上にあまり人に知られたくない内容の話をしに来たので知られないのならその方が良い。

迷うことなく城内を進んでいき一つの部屋の中に入る。

その部屋には大きなジオラマが一つ置いてあった、そのジオラマはハルケギニア全土を模しており、ガリアやトリステインなどの国だけでなく、空に浮かぶアルビオンやラグドリアン湖など細部にわたって再現されているだけでなく、戦艦や兵隊の駒など多くの備品が置かれている。
そのジオラマの前に一人の男が座り駒を眺めたり紙を見ながら何か唸っている、その男は開いた扉の方を見ると侵入者を歓迎する。


「おおシロウよ、良く帰ってきたな」


かなり大げさに手を広げ嬉しそうに声をかけるこの男こそ、大国ガリアの現国王であるジョゼフ一世である。


「いやいや今回は自信があったのだがな、まさかチェックメイト寸前に盤上から逃がすとは、これでは如何に駒を進めても王を取る事は出来ぬではないか」


今回もしてやられたと言うがその顔には悔しさは無く、むしろ楽しんでいるとすら言える。


「やられたのはこっちの方だ、妙なマジック・アイテムを使ったとはいえ、ここまで短時間で国を潰すなんてな……」

「ふはははは、何を言うキングを生き残らせたのではないか、王さえ残っていれば逆転の目はある、まだまだゲームの決着はついていない、余はまた勝ちを逃したのだ、いやはやシロウお前は本当に手強い指し手よ」


笑いながらそう話しジョゼフはジオラマの方に歩いて行く。


「ふふふ、この状況では暫くは動く訳にはいかぬか?いやいや臆病風に吹かれてはゲームは面白く無くなってしまうかな?」


ああでもないこうでもないと、まるで悪戯を考えている子供の様な無邪気さを見せながらジョゼフは考え込む。

そして暫くすると、決まったぞ、と大きな声で叫びジオラマのトリステインの場所まで行き、手元にあるダイスを振る。


「ふむ、この場所でこの目となると……ほうほうそうなるか、ならばアレを動かさねばなるまいか」


このジオラマは実はジオラマでは無い、ハルケギニア全土を模った巨大なゲームの盤面なのだ。


「さて、次の一局はどのような結果になるかな?」


そのジョゼフの問いに志郎は自身満々に返答する。


「決まっている、俺の勝ちだ」


ガリア国王ジョゼフ一世と仮面ライダーV3風見志郎は今一つのゲームで戦っている。

このゲームには明確な終わりは存在しない、どちらかが次の手を打てなくなった時に自然と終焉を迎えるようになる。

片方は世界を地獄に向かわせるべくゲームを進め、片方はそれを阻止するためにゲームを進める。

なぜ彼らがこの戦いをするようになったのか話すには、光太郎がこちらの世界に来るよりもかなり前の話になる。



[34621] 力と技の風の参加
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2013/04/04 02:45

ゼウス達がアポロンとの決着を迎えようとしていた最中に、惑星エルピスのどこかにある荒野の崖の上で、仮面ライダーV3こと風見志郎はギターを奏でながら思いに耽っていた。

宿敵であった悪の組織デストロンを壊滅させ、親友の仇を討つことに成功した。

だが彼の心は晴れることはなかった、V3の力を得る前は父と母と妹を守る事が出来なかった、そして力を得ても大切な親友、飛鳥五郎を守れなかった、偉大なる先輩から受け継いだ力と技を持ってしても、自分の身近な大切なものは手から滑り落ちて行ったのだ。

復讐は何も生まない、それを理解して彼はその道に走っていった、正義の為に戦った仮面ライダーの力で怒りと恨みを晴らしたのだ、結果としては悪の組織を滅ぼしたので、平和の役には立っていた、だが復讐という不の行為に力を使い、それを果たし終えた後に自分はどう生きるべきかを悩んでいたのだ。


「悩みか……まだまだ俺には人間らしいところが残っているじゃないか」


少し自重気味に話しギターを片付け、愛車であるバイク、ハリケーンに跨り荒野を駆ける。

暫く走っていると突如として鏡の様な物が目の前に現れ、志郎はそれに飲み込まれたのだった。


その鏡の様な物に飲み込まれたと思ったら目の前には、先ほどまで走っていた荒野では無く宮殿の様な室内が広がっていた。

いきなり別の場所に転移してしまったので、流石に驚いたがそこは風見志郎、必要以上には動揺せず辺りを見渡す。

すると自分のすぐ後ろから声が掛けられた。


「これは中々面白い物が現れたな」


その声に反応し後ろを振り向く志郎、そこには一人の男が立っていた、年は30過ぎ程度といったところであろうか、青い髪と髭が特徴的なその男は荘厳なマントを着けており、その下の格好も中世の貴族を思わせるような洋服を着ている。


「面白い物ねぇ、という事はあんたが犯人ってことでいいのかな?」


取りあえずその男に語りかける志郎、今の自分の状況は良く分からないが、勝手に別の場所に転移されたのだ、警戒は必要だが情報は欲しい、どんな返事が返ってくるにせよ探らねばならない。

だがそんな志郎の思惑をよそに男は何か疑問に思ったのか首を傾げ。


「犯人?貴様は自分の意思で召喚に応じたのではないのか?」

「召喚?」


目の前の男はジョゼフと言い、サモン・サーヴァントなる物を行ったのだという。
サモン・サーヴァントは自分と相性の良い使い魔の前にゲートが現れ、使い魔は自分の意思でそこをくぐるかどうか決めるのだそうだ。

まぁ余は魔法が使えぬ無能王であるからな例外があるかも知れぬ、と付け加えて話された。

何故俺を呼んだのかと言う質問に対しても、暇つぶしに使い魔を呼んだだけの事と言われ、それ以上の事は分からなかった。


「まぁ大体の事は分かった、でだ、俺はあんたの使い魔とやらにならなきゃならないのか?」


そうジョゼフに質問するが返答は意外な物であった。


「いや、勝手に呼んでしまったのだ帰りたければ帰って構わんぞ」


とどうでもよさそうに言われたのだ。

先ほどまでは楽しそうに話していたというのに、一気に興味が失せたような態度を取られたのだ。
その態度の変化に少し思うところがあったが帰ってもいいと言われたのならば、別に気にせず帰ればいいのだ、そう思い部屋を後にしようと思うと部屋に誰かが入って来た。

どうやらここのメイドなのだろうか、トレーには飲み物と軽食が置かれている。

メイドは志郎を見て動きが止まるが、ジョゼフが客だ気にするなと言いティーカップ二つに紅茶を入れさせメイドを後にさせた。


「まぁ急に呼んで帰れと言うのも失礼だな、少し休んでいくといい」

「ならお言葉に甘えさせてもらうとしよう」


志郎はテーブルに座り、紅茶を口に付けようとした瞬間に手を止めた。


「どうしたのかな」

「ここの国はミルクの代わりに随分と変わった物を入れるんだな」


志郎はティーカップをテーブルに置いて話を続ける。


「随分と良い茶葉を使っているな、飲めば死ぬほど美味いんだろうな」


その志郎の答えに先ほどまでつまらなそうにしていたジョゼフが、興味が湧いたように話をしてくる。


「ほう、確かにこれは死ぬほど美味いだろうな」

「ああ、美味すぎて床をのた打ち回りそうなくらいな」


軽口を言い合った後に空気が固まる。数秒お互いに黙っているとジョゼフが笑みを見せ話しだした。


「いやいや、たまに有るのだよ、頼んでもいないと言うのに隠し味を入れる不届き者がな」

「分かっているのに客にそれを薦める、あんたも十分不届き者だと思うがな」


志郎の答えにジョゼフはさらに気分が良さそうに話を続ける、先ほどまでとは打って変わり親しい友人相手の様に饒舌になっている。


「余が不届き者?面と向かいそのような事を言われたのは流石に初めてだぞ」


裏では王位を奪った不埒物や無能王、色々と言われているのにな、と続けて話してくる。
よほど志郎が不届き者と言ったのが壺に入ったのか、会話が弾み聞くものが聞いたら卒倒しそうな話題がボロボロ出てくる。

しかも使い魔は一度呼んだ物が死なない限り新しいのを呼べないので、ついでに死んで貰おうかと思っていたと正直に話したりしている。

ぶっちゃけた話題にも程がある、だがその回答に志郎は不快感を出さずに話に付き合っている、彼としてもジョゼフの様なタイプの人間に出会うのは、初めてなのである程度興味があったのだろう。

ジョゼフの方も自分に対して、包み隠さずに色々話してくる志郎の様な者も、人生において初めての相手だったのかもしれない。


「ふふふ、久しぶりにいい時間を過ごせた、ここ数年会話が楽しかったと思うことなど無かったのでな」

「そりゃ光栄だ」


色々と話を聞いていて志郎は考え込む、ハルケギニア、ガリア、など聞いた事の無い単語が出てくる、最初方の話題に魔法と言う単語が出てきた時も少し疑問があったが、超能力者や改造人間や呪術者がいるのだから、魔法使いくらいいてもおかしくは無いか、程度に聞いていたのだが、どうも当初思っていた事と違うようだ。

するとまるで狙ったかのようにジョゼフが話を振ってくる。


「ところで……おお、そう言えばまだ名も聞いていなかったな」

「そうだったな、風見志郎だ、いや、こっちの言い方だとシロウ・カザミかな」

「ふむ、シロウか、あまり聞かぬ名前だな、でシロウよ貴様は何処から来たのだ?」

「ライダー大陸からだ聞いたことあるか?」


聞いた事のない場所だと返される、そして志郎自身も何となくだが考えている以上に、やっかいな場所に来てしまったのだなと思うのだった。


一通り話し合いが終わると夜も更けてきた、ジョゼフは楽しませてくれた礼に泊って行け、と言われ志郎は案内される、そこは本来で有ればかなりの身分の者でしか入れない様な場所なのだが、くつろいでいくと良いとまで言われたのでそこは遠慮なくする志郎であった。

ベッドに横になり窓から空を見上げると、空に浮かぶのは二つの月、どこからどう見ても惑星エルピスの天体では無い。

ふぅと一つため息をつき、これからどうするのか考えるのだった。



志郎がハルケギニアに呼ばれてから数日が経過し、彼はある程度の情報と居場所を得ていた。

まずは惑星エルピスとは違う場所、恐らくは異世界だろうと言う事と、この世界の大まかな文化を把握していた。


次元を隔てる術が一般的なのかそうでないのか、まずはこの世界の常識を知っていないと調査もくそも無い。
かつてやっていた探偵業のスキルが役に立っていたのだった。


そして調べれば調べるほど元の世界への帰還は絶望的だった。この世界は科学技術は殆ど発展しておらず
代わりに魔法の技術が発達していると言う事が分かったので、取りあえずどんな魔法があるのか聞いてみたり、それとなく遠まわしに探りをいれたが、次元転移が一般的などころか、意味すら通じないような有様だった。


幸いな事に自分の身分は、ハルケギニアより遠い所から来た旅人で、ジョゼフが気に入り入城を許されたと言う事にして貰ったので、特に騒ぎを起こさずに済んだ。

それに色々聞くのも、こちら側の常識がまだ把握しきれておらず、申し訳ないが教えて欲しいと言えば、王の客人という立場もあり、そこまで怪しまれずに動く事が出来る。

普通は貴族でも何でもない者が城を歩くなどまずあり得ないが、そこは色々と陰口を叩かれる無能王のする事、特に深い意味など無い戯れだろうと思われていたのも割と自由に動ける手助けとなった。


「しかし文化も文字も全く違うってのに、言葉が通じるってのも変な話だな」


志郎は書庫内にてそう呟いていた。これから色々と動くと言うのに文字も読めないのは不便だと思い、文字を教えて貰い書庫の中にある本を読みふけっていた。

彼は語学力などに関しても、かなりの自信がある。
まぁIQ600もある本郷猛には少々劣るかも知れないが、それでも一般人とは比較にならないほど優秀だ。

やろうと思えば難解な宇宙語すら分かるだろう、必死にジャンプしたりジェスチャーしたりせずとも伝わるくらいに。

そして読んだ本から得た事によって、地理、歴史、魔法の基本、等の知識を得て今に至るのだった。


大体やるべき事をやり、部屋に戻ろうとすると、最初に召喚された部屋にてジョゼフが何やらやっているのが見えた。それは巨大なジオラマの様な物の前で何かを動かしていたのだ。

気になり気配を消しこっそりと侵入すると、すぐさまジョゼフが声を掛けてきた。


「こそこそせずとも堂々と入ってくればよかろう」

「おっと気付かれたか、その注意力良いセンしてるぜ」


王様なんか止めて探偵業でもやってみるかい?と軽口を言いながらも、志郎は内心で驚いていた。はっきり言って多少の油断はあったとはいえ、自分が気配を消して入って来たというのに見破られたのだ、それは十分に驚嘆に値する能力の高さと言える。


「ふむ、それも悪くないかもしれぬが……シロウよ王のいる所に勝手に入るのは不届き者では無いかな?」


そういい返すジョゼフ、この間の不届き者と言った時のお返しだろうか、ニヤリと良い顔をしている。
確かに言う通りなのでそこは潔く。


「おっしゃる通りで王様、処罰は何なりと」


と頭を下げた志郎であった。

その答えを聞きジョゼフはくっくっくと笑いだす。

「お前は本当にとらえどころのない奴よ、媚びもせず恐れもせず堂々とある」

駒の一つに欲しいくらいだな、と言って再びジオラマの前に行き、何やら配置を動かしている。


「お誉めに預り至極光栄でございます、っとそれはさておいてそのジオラマは何だ?」

「ああ、これか一人遊びのゲームの盤面よ」


盤面に近づき説明をするジョゼフ、何でも自分の遊びのために特別に作らせた物だと言う、元々は深い読み会い等が出来るチェス等が好きだったのだが、自分が強くなりすぎて相手が居なくなってしまったのだと。


「それで自分相手に自分が打つなどの事もやった物だ」


と少し声のトーンを下げて話したと思うと、今度は声を大きく上げ語りだす。


「そこでこれを思いついたのだ、これにはハルケギニア全土が再現されていてな、国との交渉事や戦闘行為等を、自分が考えるだけでなく、その他の不確実な事がダイスを振って行動するなど、イレギュラーな部分が多くあり中々奥深いゲームとなっているのだ」


ジョゼフの言葉を聞き志郎はTRPGの様な物か、と判断する。


「しかし随分と大がかりな上に大変だな、ゲームどころかあんたは本当に政治の頂点にいるんだろ?」

「ふふふ、そうだな……まぁ見ているといい」


ジョゼフはダイスを振り用意していた紙を見る、そして暫く考え事をしていると、誰かを寄越すように伝えた、すると少し老いた男が入ってきてジョゼフから命令が下る。


「例の権を実行に移す、そのように伝えろ」


そう言われ男は下がる。その光景に何か異様な物を感じ志郎はジョゼフに何をしたのかと尋ねる、すると。


「見ていただろう?ゲームの結果を実行させるように言っただけの事だ」


その言葉を聞き志郎は珍しく焦った様な口調で言い放つ。


「まさか……このゲームってのは」

「その通り、どうだ面白いだろう、ハルケギニア全土が舞台のゲームなのだ」


そう言われ背筋に冷たい物が走る、ハルケギニア最大の国力を持った国家の頂点がゲームで国を動かしている。
その余りにも異様な行動には、流石の志郎といえど何も感じない訳にはいかなかった。

そして嫌な予感を感じつつも、志郎は話しを聞くために口を開く。


「……なぁゲームと言うからには終わりがあるんだろう?このゲームの終点は何処にあるんだ?」

「ああ、そうだなこのゲームの終わりは……」


世界の破滅だ。



そう言いきったジョゼフを前にして、志郎は考えを巡らせる。

世界の破滅、と言ったと言う事は世界征服とかが目的ではなく、自身を含めての崩壊という意味だ。

つまり何かをなし得るのが目的では無い、だが世界を破滅させたい理由があると言う事になる。

この男の言動を見ている限り世界に恨みがある訳でもなさそうだ、数日間のつき合いだが何となくそれくらいは分かる。

ではなぜ世界を滅ぼしたいのか、その答えが考えても出てこない、なので志郎は正面からその理由を探るべく口を開く。


「世界の破滅か、なぁそれをやって何を得たいんだ?」

「何を得るかだと?」

「ゲームクリアにはご褒美が付き物だろう」

そう志郎に言われ、ジョゼフは迷う事無く返答する。


「何を得るかというかな、無くしてしまった物を取り返したいのだ」

「無くしてしまった物?」

「ああ、悲しいとはどういう事なのかをな」


楽しいと言うのは理解できる、興奮し気分が乗り自然と笑みが浮かぶ、それは分かるし今も楽しみはある。


「だがどうにも悲しいと言うのが分からなくなってな、大事な物を失えば、大切な人が居なくなれば、思い出せるんじゃないかと思った訳だ」


淡々としながらもジョゼフは想いの内を話していく。


「だがどうにもそれが出来ん、何をやっても後悔の念すら浮かばない、だから全部無くせば全部失えば全部地獄に落とせば、それが思い出せるんじゃないかと思ったのだ」


だが全部地獄に行くとしても楽しみながらやろうと思いこのゲームを思いついたのだ。

と締めくくられる。

それを聞いて志郎は自分と同じく、この男も何処か壊れている、と思った。

悪の秘密結社に何もかも全て奪われた自分は、復讐、という一個の感情に縛られて生きてきた。

この男は、悲しい、という感情を思い出したくてそれに縛られて生きている。


違いはあれど何か壊れたと言う意味ではそう変わり無い。


ジョゼフの言葉を最後まで聞いた志郎は思いがけない言葉を口にする。


「なぁガリアの王よ、俺もゲームに参加させて貰えないかな」

「ほぉ以外だな、普通はこんな話しを聞いたら逃げ出すと思うのだが」

「普通はな……だが俺もあんたも普通じゃないさ」


不敵な笑みを見せ志郎はジョゼフに向き合う。

「あんたは全部地獄に落とせば悲しみを思い出せるかもと言った、だが今のままじゃそれは無理だ……何故なら、あんたはこの世界に執着が無いからだ」

「執着が無い?」

「そうだ、人は無くしたくないから、離れたくないから、守るために力を発揮し必死になる、だからこそ失えば悲しみがやってくるんだ。初めから地獄に落としたいと願っている状態じゃ例え成功しても、こんな物かってレベルで終わっちまうぜ」


「ならばどうすれば良いのだ?」


志郎の話しに聞き入っているジョゼフ、彼がここまで人の話しに執着したのはいつ以来だろうか。


「俺はお前がやろうとする悲劇を全て食い止めよう、お前が生み出そうとする悲しみを無くすために動こう、俺はお前のゲームの最大のイレギュラーとなってやる」

「そうすればこの世界に執着が生まれると言いたいのか」

「その通りだ、俺ならばあんたに上手くいかない葛藤、成功した喜び、それら全てを与えてやれる。そうすれば成功しても失敗してもあんたは無くした感情を取り戻せるはずだ」

自身満々にそう言いきる志郎そしてさらに追撃を行う。

「しかし俺自身の腕を何も見せずにゲームの重要な駒になるか、信用しろ言うのも無理な話……そこで」

志郎は部屋にあったチェス盤を指差し、こう続ける。

「受けてみないか俺の挑戦を」

かなり無礼な言い方だがジョゼフは怒るどころか、興味深そうに志郎の言葉を聞き続け返答する。

「ほぉ面白い、余と一局指すと申すか、だが余は手強いぞ」

「ふっ確かに強いと言い切れるほどの実力はあるだろうが……」

そう言葉を途中で区切り帽子を親指で軽く上に挙げいつものセリフを言う。


「この世界じゃあ二番目だ」

「ならば一番は誰だと言うのだ?」


そのジョゼフの返答に待っていましたと言わんばかりに、口笛を吹き、チッチッチと指を振り、俺だよと言わんばかりに自分を指差す。

いかなる相手にも不敵に笑う事が出来るほどこの男は強いのだ。



「スティールメイト……引き分けだなもう一局やるか?」

「ふふふ、望むところよ」


チェスには無数の棋譜があれど、駒と駒の動きと性能は一緒であり、指し手の優劣こそが勝敗を分ける。
二人は何度も何度も対局を行った。

正面からの力押し、伏兵、搦め手、捨て身、ありとあらゆる高度な戦術を使い合っても決着はつかず、どちらも最後の最後でチェックメイトまで届かない。


「ふっやるじゃないか、まさかここまで引き分けが続くなんてな」


何度目かの対局の後に志郎がそう呟く、そしてさらに話を開く。


「完全勝利するつもりだったのに、これじゃ格好がつかないな、だがこれで実力は分かってもらえたかな?」

「盤面の実力はな」

「ふっならば次は俺自身の純粋な【力】をお見せしようか」


ドラゴン退治でもしてな、と言ったのだった。

ガリアに限らず国には様々な依頼が舞い込んでくる、治水などの土木関係から亜人退治まで様々な物がある。
大体はその領地を納めている貴族がどうにかするのだが、亜人退治や凶悪な幻獣などが居た場合には、軍の出動も要請しなければならない場合も多い。
つまり国に依頼された何かの退治の依頼は、腕の立つ軍人を必要とする、というのが最低ラインなレベルの依頼であり、実力を測るには申し分無い事だとも言える。

そして志郎が言ったのは、竜の退治、本来であれば一個小隊以上、物によってはさらなる人数を動員する様な任務であり、それを一人でやってのけようと言ったのだった。

その志郎の宣言を聞きジョゼフは腹を抱えて笑いだした。暫くしてその笑いが収まると。


「面白い、シロウお前の挑戦を受けよう」


と答えたのだった。




もしジョゼフが悪の組織の首領とかであったのならば、早々にここで締めあげれば問題は無い、だがこの男は曲がりなりにも一国の王なのだ、1500万人の人間が住む国の王が居なくなれば、それは大問題となり人々は混乱するだろう。

だがそれ以上に問題なのは、万が一この男がこのまま死ねば、娘を次の王へと担ぐものと、亡きシャルルの忘れ形見を次の王へと担ぐものとの、全面的な争いが起こるのはほぼ確定事項と言ってもいい。

ハルケギニア一の大国であるガリアが一枚岩で無い、それが志郎にしてみれば最も厄介な防御手段だったのだ。

この男が会えて自分の周りを盤石にしないのは、自分の死すらも地獄を作れる手段として見ているからなのかもしれない。

例えこの男のゲームを止めたとしても、止めた代償にもっと大きな戦争の引き金になっては元も子も無いのだ。

だからこそゲームに参加しジョゼフを諦めさせるしか、志郎には手段が無かったのだ。




見事に志郎は竜を退治し、ゲームの参加権を受け取る事に成功した。そして何も身分が無いのでは不便であろうと言う事で、公式には存在しない騎士団である、北花壇警護騎士団に参加し、コードネームをケン・ハヤカワと言う名前で動ける様にして貰ったのだった。





騎士団の略章を片手に志郎は語る。


「正義も未来も否定した俺が、よりにもよって違う世界で平和を勝ち取るために動くことになるとはな、だが悪くは無い、復讐に生きた自分が悲しみを忘れてしまった王と戦う、その先はきっと困難だろう、だが必ずやり遂げてみせるなぜなら俺は……」

仮面ライダーV3だからだ。


それが決意を込めた、仮面ライダーV3、虚無の使い魔の一つ、ミョズニトニルンとなった男の戦いの初めだった。



[34621] 事の報告と再びの日常へ
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2013/04/09 12:54
アクロバッターに跨りトリステインの王都である、トリスタニアに向かう光太郎とルイズ。

アンリエッタからの任務である、【手紙の回収】は問題なく成功し、加えて言わないでくれと言われたが、ウェールズ達も生存し無事に脱出出来た。

これは100%の成功どころかそれ以上のプラスの事であり、本来であれば諸手を挙げて喜ぶべき事なのだろうがルイズの顔はあまりすぐれない。

「なんだ?疲れたんだったら少し休むか?」

「……大丈夫よ」

気分が悪くなったらすぐに言えよ、と光太郎は気を使いながら走る。実際にルイズは疲れていると言えば疲れているが、体力的な事よりも別の意味で疲弊していたのだった。

その原因については慣れない事を多く行い疲労がたまっているのだろうと、光太郎は判断しなるべく早く休ませてあげたいと思いながら、目的地であるトリステインの王都トリスタニアへ急ぐのだった。


「おっ見えてきたなあれが目的地か?」

「ええ、あれがトリスタニアよ」

「んじゃさっそく姫様の所に行くとしますか、一応アクロバッターはここに置いておくか」


トリスタニアはトリステインでも最も大きな都市であるが、その道幅は5Mほどしかない。これは交通道路に比べれば、非常に狭いと言わざるを得ないが、車などこの世界では通る訳無いのでそこまで困る事は無いのだろう。

暫く歩くと目的地である城に到着する、すると衛兵が近付いてきて何の用件だと聞いてくる。

本来王族の住む場所へ、事前の通知も無くやってくればいくら貴族とはいえ警戒はされるのは当然だろう。だがルイズは自分の名、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを名乗り姫様からの頼まれごとを完遂したので取り次いで貰えるように言う。

ヴァリエール、その単語を聞き少々お待ち下さいと言われ、数分待たされた後に城への入場を許されたのだった。

通された待合室だがそこは王の住む場所、多くの上流階級の人間が来る事から、下手なホテルのロイヤルスィートですら比較にならないのではないか、という具合に洒落た部屋であった。

暫くして姫様の準備が出来たので、来るように言われルイズが行こうとすると光太郎は動こうとしなかった。


「どうしたのよ?さっさと行くわよ」

「あ~なんだどうしても行かなきゃだめか?」


何故か渋る光太郎に理由を尋ねると。


「だってよ、どうせ長い話しに堅苦しい礼儀がどうこうしなきゃいけないんだろ?別嬪さんには会いたいけどそれは勘弁願いたいかな~って」

「なに言ってるのよ!!それに任務を成功させたのは、あんたのおかげなんだから一緒に行かないでどうするのよ!!!」


別に下心が有って任務に言った訳ではないが、普通は王族に頼まれた任務を成功させたのならば、お誉めの言葉だっていただけるだろう。それはどんな勲章にも勝る名誉な事であり、貴族で無くともその意味は分かるだろう。

だが光太郎からすれば、助けてくれ、という声に答えるのは至極当然の事であり、感謝されれば嬉しいが恩着せがましくするつもりは無い。

怪獣、怪人、テロリスト、それらがひしめき合っている場所に単身突っ込んで任務を遂行しろ、と言われていた時だって、少し愚痴っただけで承諾したこの男には、今更仰々しく感謝されるとなると逆にむずがゆくなってしまうのだ。

だが関係者である光太郎をここに待たせて置く訳にはいかず、結局は一緒に行く事となったのだった。




「ああ、ルイズ良く無事で……」

アンリエッタはルイズ達に向かって歩み寄り、手を握って無事を喜ぶ、涙目になりながら少し震えている、彼女は心の底から友達の帰還を喜んでいるようだ。


「気が気で無かったのよ、貴方達の援護に腕の立つ者を行かせようと思ったのだけれど、魔法衛士隊のワルド子爵が何者かに襲われて……」

「え?ワルド様が!!」


いきなりの報告にルイズは驚き思わず叫んでしまう。


「知り合いなのか?そのワルド様っての」


光太郎がそう聞くと少し言いにくそうにしている、だがそれを言う前にアンリエッタが話を続ける。


「でも良かったわ、ワルド子爵はレコン・キスタと繋がりがあったらしいの、もし一緒に行っていたらどうなっていたか……」


その裏切り行為が発覚したゴタゴタで、貴方達の援護をさせる者を選定出来なかったのよ。と締めくくられる。

ルイズはその話しを聞いて完全に固まっている。寝耳に水な話しにも程があると言う物だ。

固まっているルイズを見て光太郎は、知り合いがスパイだったなんてショックだろうなと思い、何か声をかけようとするが、今度は光太郎が固まる事になる。


「襲った犯人は分かっていないのだけれど、この者、祖国を裏切る破廉恥貴族故、成敗なんてカードに書いてあって……」


その言葉を聞き、ダラダラと汗を流し固まる光太郎、そんな事をしでかす人物は異世界広しと言えどあの人しかいない。

きっとあんたの腕、この世界じゃあ二番目だ。とか言いながらボコボコにぶちのめしたのだろう。

風見先輩なにやってんだよ……とは口が裂けても言えないのであった。


二人は完全に固まってしまったが、任務についての報告はしなければならない。

ルイズはなんとか体と頭を動かし事の顛末を話す。ウェールズ達が生きている事を隠しての報告となると色々とねつ造しなければならないところがあり、少しだが心が痛む。

内容はアルビオンに到着した時には、もう既に最後の居城であるニューカッスル城は陥落しており、生き残りはいるのかどうかは不明であったこと。そしてレコン・キスタ側の方もウェールズ達の生死をつかめておらず、今だ探している最中だと思われるということ。

そして自分達も捜索していたのだが、残念な事に安否は確認出来ず、その過程で手紙を発見出来たという事にしたのだ。


「そう……ありがとうルイズ、そして使い魔さん」


ウェールズが死亡したと確定した訳ではないが、その状況からして助かっている見込みはほぼ無いだろうと思ったのか、やはり声に張りが無くなっている。

その顔を見て無事を教えてあげたいと思うが、約束をたがえる訳にはいかない。

するとアンリエッタはもう一度ルイズに歩み寄り、手を握って涙を流す。


「……生きて帰ってきてくれて…………本当に、本当にありがとう、私は最愛の人のために信じられる数少ない人を失うところだった……」


今のトリステインは非常に不安定だ、王の不在、次期国王となるべき者の拒否、そのため枢機卿であるマザリーニが上と下を動き回り、なんとかこの国は保たれていると言える。

だがそのせいで逆に王族の権威は失墜し、以前の様に心からの忠誠を誓う貴族も少なくなっている。

その上にトリステインが誇る魔法衛士からの裏切り者が出る始末、つまり今のアンリエッタにとって信じる事の出来る人間というのは本当に貴重で必要な存在なのだ。

それを愛する人が亡くなった場所に向かわせてしまった事が、ルイズ本人の口から聞いて後悔と安堵が入り混じり、思わず感情が溢れてしまったのだろう。


「恥ずかしいところを見せてしまったわね……」

「いえ……そこまで私の事を思ってくださってくれたとは……」


しばしの時間の後にそう話す二人、非常に良いシーンなのだが、後ろで思わず貰い泣きをしている男が居るせいでかなり台無しである。


その後、回収した手紙と預っていた水のルビーを渡し部屋を出ようとしたのだが、アンリエッタから何か報酬を渡したいとの事で、水のルビーは持っているように言われ、使い魔である光太郎にも礼には答えるべきだと言って手の甲を出したのだ。

それを見てルイズはかなり動揺しているが、光太郎は頭に?マークを浮かべている。


そういえば光太郎は平民だったと思い出し、ルイズはどういう事なのか説明する。


そしてアンリエッタにも平民故に礼儀が乏しいので申し訳ありませんと謝罪し、アンリエッタは特に不快になった様子も無く微笑んでいる。

それで再び手の甲を出したのだが、光太郎は申し訳なさそうに。


「いや、その……姫様には悪いけどそれは出来ねぇ……」


その台詞を聞き今度こそ、説教をかまそうとしたルイズであった。敬愛と忠誠に報いる手の甲への口づけ、それは非常に名誉ある事であり断るなど首が飛ばされても文句は言えない様な事だ。

普段の光太郎であったなら、こんな美人相手だったら迷わずやるところであっただろうが、しっかりと説明をされた以上は彼としても譲れない。


「忠誠は誓えない、俺はゼウスのメンバーだから」


光太郎は使い魔品評会の時に説明した通り、東方からやって来たという事になっているので、異世界の事は言わずにゼウスの事を説明する。

惑星エルピスでの国の垣根を超えて人々のために戦う戦士達、どんな障害があろうとも最大級の平和を勝ち取るために過ごしたあの仲間達との日々は、仮面ライダーである事と同じくらいに誇りに思っている事だ。

今はルイズの使い魔として生活している光太郎だが、一つの国に忠誠を誓うとなるとやはり話は違う。
一つの勢力に肩入れしすぎると言う事は、時としてやはり弊害を生む。もう既にレコン・キスタに被害を出し、姫様の依頼を叶えている時点で今更な気もするが、一応は戦争の回避とこれ以上の犠牲を出さないためにした事であって、この国の利益のために戦った訳ではない。


「だから俺は他の何かに忠誠を誓う訳にはいかないんだ、それを分かって欲しい……」


その光太郎の話を聞いて押し黙ってしまう二人、特にルイズは複雑な顔をしている、ややあってアンリエッタは笑みをこぼし口を開く。本来であればかなりの不敬であるはずの行為なのだが心証は逆に上がっていた。


「心根を隠さず話していただいてありがとうございます。そこまでの想いがあるのでしたら私の方が失礼をしたようですね」

「いや!!その……」


頭を下げて謝罪され思わず慌ててしまう光太郎だったが止めずに話を続ける。

普通は王族の前では、例え思っている事と逆の事でも頭を垂れ肯定するのが殆どなのだ、それを不敬と知りながらも曲げられない純粋な想いを口にする、それがどれだけ出来ぬ事なのかは良く分かっている。


この瞬間に光太郎はアンリエッタにとって信用足る存在の一人となったのだった。ルイズの使い魔という前提があったとはいえ、言うべき事も言わず右往左往するばかりの宮廷の者たちよりも、昨日今日あった様な光太郎の方が信が置けると言うのも皮肉な話だが。


「あ、えっと、その、なんだ……だけどもし理不尽な暴力が襲いかかってくるってんなら、その時はいくらでも力を貸すぜ」


となんとか頭を下げるのを止めさせようと光太郎は必死になっていた。とっさに言ってしまった事だったがこれは一応本心なので問題は無い。

ではその時が来ましたらこの非力な姫に力を貸して下さいな。と言われ会談は幕を閉じたのだった。



城での会談を終え外に出た二人、そこでルイズはようやく口を開く。


「ねぇコータロー」

「どうした?」

「あんたは今わたしの使い魔をやってるけどそれはどうなのよ……」

先ほどの忠誠~うんぬんの事を言っているのだろう、光太郎の言っていた事をそのままとらえるのなら、こうやって使い魔をしている事だってまずいはずだ。だがその答えは簡単に返ってきた。


「別に関係ねぇよ、これは一人の女の子を守る役目ってだけだろ?」

「でも……」

「それにお前は良い奴だって分かってるしな、これが有っても無くても守るべき大切な奴だって俺は思ってるんだぜ」

一緒に居る奴、学院のクラスメート、教師、メイド、厨房の人達、少しいけ好かない奴だっているが、それでも日常を平和に生きている皆を守ろうと思う気持ちには変わりがない、さっきの忠誠どーこーとはちょっと違うさと光太郎は笑顔で答えるのだった。

光太郎の答えにルイズは安心したが、その反面別の感情がルイズの中に少し生まれていた。


それは自覚出来るほどの大きな物ではないが、嫉妬、という感情だった。


彼のおかげで彼女を取り巻く環境は劇的に変化した。

フーケから破壊の杖を取り返す事に成功した。

自分を馬鹿にしていた連中はもう殆ど何も言わなくなった。

いつも苦痛しか生まなかった生活の全てに居心地のいい時間と言う物が出来た。

初めて家族以外の他人に心を開くという事が出来た。

そして初めて誰かに頼られた願いを叶えてくれた。


自分の居場所を作ってくれて、道を切り開いてくれた光太郎には、感謝してもしきれないほどの恩がある。


だがそのあまりにも凄い力を持った光太郎に対して、自分は釣り合う主なのかと言われれば疑問が残る。

そして先ほどの光太郎のアンリエッタに対しての行為は、貴族の礼節や名誉とは違うかも知れないが、一人の人間の有り方としてはとても高潔な物に見えたのだ。

思えばアルビオンから帰って来た時にした、【戦争になったらどうするの?】という質問にたいしても、彼は変わらずにまっすぐな想いを見せた。


きっと彼は知らない人が涙を流していた、そんな理由だけでも命を掛けて戦いに行く事が出来るのだろう。

それが自分に無い物全てを光太郎が持っている様で悔しかった。

今はまだほんの小さな種火だが、これがどうなるのかはもう少し先の事になるのだった。





二人が無事に学院に戻り、その日は流石に疲れていたのでそのまま就寝し朝を迎えた。

ルイズはいつも通りに授業に出ている、そして光太郎はマキ割りや仕事の手伝いが無い間は、適当に訓練をしたりしているのだが、今日は部屋にこもり何やら弄っている。


「メインタームアクセス……と、ちゃんと反応はしてくれたか…………えーっと生き残っているのは……も、ある、あれも…………よし、オッケーこれで大体使えるな」


腕時計の様な物に対してブツブツ言っている光太郎は、はたから見ていると少々不気味であるが、調整には音声認識が必要なのでしょうがない。


「ま、一回やってみたかったっちゃみたかったんだけど、出来れば使う様な機会は無い方がいいんだけどな」


そう言うと光太郎は外を見る、太陽の位置からすると、時間にすると午後三時前後と言ったところであろうか。


「おっと、もうこんな時間か」


光太郎は調整を一旦中止し、とある場所へ向かうのだった。


ヴェストリの広場、以前に光太郎が決闘をした場所で今度はギーシュとの対戦を行っていた。

それは以前の惚れ薬騒動の時に約束していた訓練である。光太郎自身も運動するだけのトレーニングよりも、こういった実戦訓練の様な物の方が体がなまらずに済むし、ギーシュの腕も上がるので悪くない話しであった。

観戦者にはルイズ、キュルケ、タバサそしてモンモランシーが居る。

初めは訓練する当人たちだけだったのだが、いつしかルイズが加わり、今ではこの通り四人に増えている。

特にタバサに至っては、混ぜて貰いたいとも言って来ている。そんな中でギーシュは自分の戦乙女達に命令を下す。


光太郎を中心に複数の青銅のゴーレムワルキューレが周りを囲む、そしてギーシュの命令の元、複数での攻撃を仕掛ける。

前後左右で同時攻撃、残ったワルキューレは棒を構えていて、光太郎が逃げた場所へ追撃を仕掛けるつもりのようだ。


「よっと、甘いぜ!!」


ライドルを使い棒高跳びの選手の様にジャンプする光太郎、そのまま前のいたワルキューレの頭を踏みさらに大きくジャンプする。

そのまま構えていたワルキューレすら飛び超え、一気にギーシュの所まで詰め寄り、そのまま喉元にライドルを突き付ける。


「ふぅ……まいったよ」


と何度目かになる光太郎との訓練は終わったのだった。


「いやぁ本当に強いね君は、今回こそはあれを出せようと思っていたのだけどね」

「へっ確かに最初よりは随分強くなったが、まだまだRXになるほどじゃないな」

実際にギーシュのゴーレム操作の腕は光太郎と出会う前よりも上達している。速度、連携、戦術、どれも格上の存在である光太郎を倒そうと努力を続けた結果得た物だ。

やはり数多くの実戦を経験している光太郎から得られる物は多いのか、それを実感できているほどにギーシュはこの特訓を有意義な物だと感じている。


しかしゴーレムの技術は上がったとはいえ、こと戦闘になればまだまだ甘い部分がある。例えばゴーレムが突破されれば反撃の手段が無いと言うのが今のところ致命的だ。

いくらゴーレムが強くてもそれを操る術者が倒されれば意味は無い、なので相手を近づけさせない技術を延ばすべきか、はたまた接近用の術を身につけるべきか、色々と課題はあるものだ。

だが光太郎の評価は悪くなく、恐らく同数勝負をした場合ショッカー初期の戦闘員よりは強いのではないだろうか、というところまでは成長しているのだった。


「お疲れ様」

そう言って飲み物や軽食を用意してくれている女性陣、初めは光太郎が上手く特訓の相手を出来るのか少し心配で見に来ていたのだが、それは杞憂で済んだようだ。

光太郎は11番目のライダーで序列的には一番の後輩だ。別に先輩達に不満がある訳ではないが、そこはやはり体育会系の男、後輩は欲しかったりする。

ライダーではないが一緒に特訓し上達していく光景を見るのは、思いのほか楽しく光太郎自身もそれなりに良い先輩の様な感じでのつき合いが出来ているのだ。


そんな中で光太郎はそろそろ特訓に新しい段階を加えるべきかと考え始める。

流石にライダークラスの肉弾戦をさせる気は無いが、やはり多少はスタミナやタフさ加減も身に着けさせた方がいいとも思う、そこで

「(今度おやっさんから鍛えて貰った特訓メニューをやらせてみるか?)」

と少し思った時にギーシュから声が掛けられる。


「しかし君は特訓でさらに強くなったと言っていたけど、どんな特訓をしてきたんだい?」


「そーだな、懐かしいなぁ先輩達にしごかれて、おやっさんに鍛えられて……」


と初めは微笑ましく懐かしい過去の思い出を語っていたのだが。

「崖から岩を落とされてそれを拳で砕けとか……」


と、この辺りからじょじょに顔が苦悶の表情になって行く。


「戦い始めの時に負けかけて帰ってきたら特訓だって言われた時に……」


とても最初は懐かしい日々を話していたとは思えないような口調になり、額には脂汗が浮かんでいる。


そもそも仮面ライダーは敵に苦戦したら特訓して強くなる、と言うのがもはや常識と言っていいほどに定着している。

しかもその特訓の内容は苦戦した敵を破るための物なので、必然より過酷な物になって行く。

そして冷静に考えてみれば、敵からのダメージ<特訓の過酷さ と言う様な式が成り立つのではないかと錯覚してしまう様な状態に陥っていた。

途中で話を止め苦虫を噛み潰したような表情になり、目を閉じて唸り出した光太郎を見て思わず。

「もういいから!!」

と皆が叫び、ハッと我に返った光太郎は、

「うん止めよう」

と実にさわやかな顔で宣言し、ギーシュにライダー式特訓をさせない事を固く誓ったのだった。



[34621] 渦巻く戦意
Name: バドー◆38e6d11a ID:45a37c2e
Date: 2013/04/17 02:52
神聖アルビオン共和国。

アルビオンの王権を打倒したレコン・キスタが新たに名乗りを上げた国。

ニューカッスル城での最終戦にて多少のゴタゴタはあったが、体裁を整えもはやレコン・キスタは一つの国として機能するようになっていた。クーデターに成功したとはいえ、短時間でここまで容易く内戦をしていた国をまとめ上げたのは脅威と言えるだろう。

そのアルビオンの長である、オリヴァー・クロムウェルによって闘技場の様な場所に高官達が集められていた。なんでも我らの力を天下に轟かせるものとの事だ。

つい最近も既存の軍艦の射程を凌駕する、新型の大砲やレキシントン号と言う戦艦を筆頭に、強力な兵器を充実させてきたと言うのに、さらになにを見せようと言うのだろうか、集められた者達は興味と若干の恐怖を覚えながらも待っていた。

するとその闘技場に何かが現れる、それは一体の巨人、厚い鎧を全身に着込み既存のゴーレムよりもはるかに強そうなイメージだ。

「あれが我らの新しい兵士、名をヨルムンガンドと言う」

と後ろからクロムウェルが現れそう説明する。

「ではその力をお見せしよう」

そうすると幾つかの大砲とゴーレムが出てくる、つまり模擬戦を見せようと言うのだ。

初め、その言葉と共に大砲が轟音を放ちヨルムンガンドを狙う、四方から撃たれ煙が立ち込める、これでは如何に堅牢なゴーレムと言えどもただでは済まない、そう誰もが思っていた。

だが煙が晴れるとそこには、致命傷はおろか傷一つ付いていない状態の巨人が佇んでいた。

それだけでも十分に驚いたが、次の瞬間にヨルムンガンドはゴーレムに向かって駆け出した。そう駆けだしたのだ、基本的にゴーレムは巨大であればある程にその動きは緩慢になる、それは重量が増加するのだから当然と言えば当然だが、このゴーレムは人間級とまでいかなくとも、それに準ずるような機敏さを見せつけたのだ。

そして拳を叩きこむと、一撃でゴーレムは粉々に打ち砕かれた。強く早く固い、単純な暴力だがそれは見る者を圧倒するほどの性能を秘めていたのだ。恐ろしさすら感じるほどに、ここにいた全員がその力を思い知らされているとクロムウェルはさらに演説を続ける。


「どうかな同志たちよ新たなる兵士の力は、無論一体だけでは無い、兵士と言うからにはそれなりの数を用意するつもりだ。」

つまりこの暴悪な力を持った巨人の兵団を作ろうと言うのだ。だがそれで終わりという訳では無かった。

「だがお見せしたかったのはこれだけでは無いぞ、兵士にはそれを束ねる長が必要だとは思わないかね?今度はその長をお見せしよう」


彼らは思い知らされる事となる、先ほどまでヨルムンガンドを悪魔のごとき力を持った巨人と思っていたのに、それは間違いであるとこの次に出てきた長こそが真の悪魔であると。








一方トリステインも戦闘の準備を進めていた。

無論攻撃に出るための準備で無く、防衛のための軍備の再編成と言う意味である。今回の手紙の奪還任務の成功にてゲルマニアとの同盟は上手く行きそうではあるが、同盟してくれたので全て任せます、では話にならない。

万が一にも先手を打たれた場合の対処も必要であるし、その場合には援軍が到着した時に持たせるための術が一切なければ瞬く間に占領されてしまうだろう。


だが国の財政には余裕は無く、上の方に君臨し国を守るためにいるはずの貴族達の動きは緩慢だ。


「姫の婚姻が間近に迫った中でこんな事をしていては不敬に当たりませぬか?」

「申し訳ありませぬが、転ばぬ先の杖は大事ですが、杖を用意するためにやせ細っては元も子もありませぬ」


等と言いアンリエッタやマザリーニの動きも空しく、後手に回っていたのだった。

特に杖を用意するためにやせ細っては、等と言う貴族にはアンリエッタも嫌悪感を隠せずにはいられなかった。物証は無いが彼らが非合法の手段で私腹を肥やしているのは分かっている。

彼らをやせ細らせれば防衛費は賄えるのだろうが、いなくなれば国の運営が成り立た無いのも事実であり、頭の痛い問題であった。


アンリエッタが今回の事で国の事に積極的になってくれたのは、数少ないプラス要因では有るが、それでも戦争のいろはも知らぬ娘一人では、これから国の舵を取って行くのは難しい。


今この国は本当に誰かが立ちあがらなければ崩れてしまう、そんな危機的状況なのだ。だが立つにふさわしい人間はいないのかもしれない。言いようの無い不安がトリステインに渦巻いていた。



そんな状況のトリステインに捕まっている一人の男がいた。そうワルド子爵こと、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。

風のスクウェアで魔法衛士隊の隊長を務め、実力、器量、礼節、どれも兼ね備えた彼は隊内では勿論の事、王侯貴族達からも信頼を得ていた男であった。

しかし彼にはとある目的があった。その目的は今のトリステインに仕えているだけでは、達成できずさらなる力が必要だったのだ。

その為に祖国を裏切る様な真似までしてレコン・キスタに入ったのだ。周囲の人間には痕跡を残さずに上手くやっていた、そう奴が来るまでは。


アンリエッタがゲルマニアに訪問しその護衛を任された魔法衛士隊、当然その中にもワルドは入っていた。ゲルマニアの滞在中は特に問題も起きず、無事にトリステインの領内に帰ってこれた時に事件は起こった。


休憩を行っていた時に、その奴が接触してきたのだ。


ギターを片手に若干音の外れた歌を歌い、目の前に現れた男。ご存じ風見志郎だ。


「夜分遅くに失礼、ワルド子爵……いや間諜殿」


第一声がそれだ、すぐさまワルドは警戒し杖を取りだす。



「おいおい、俺は取りあえずは争う気は無いんだが」


「……いきなりそんな事を言われたら警戒するのは当然だと思うのだがね」



杖を構え厳戒態勢をしているというのに、余裕綽々と言った顔で緊張感すら見せずにしている、志郎を見て不気味さすら感じるが、怖気づいてはいられない。

間諜殿と言った事から察するに、自分の事はばれていると判断するべきであり、しかもこんな言い方をするという事はレコン・キスタの人間という訳でもなさそうだ。


杖を握る手に力が入りいつでも戦闘を行える状態にする。見たところメイジではなさそうだが、何の用意もせずに自分の前に立つ男が居る訳が無いと思い油断はしない。



「まぁ警戒するのは当然だな、杖は構えたままでも良いから少し話を聞いてくれるとありがたいんだがね」


ワルドの思惑など関係無しに志郎は用件を伝える、単刀直入に言えばトリステインに再び戻れ、正確に言えばレコン・キスタを見限れば何処へ行っても構わないと言う事だった。


「あいつらには確かに力はある、だが聖地へ行くとなるなら話は別だ。お前さんの望みは叶わんぜ」


その言葉にピクリと反応するが、ワルドはその瞬間をもって志郎を敵と断定した。何故自分の事をここまで分かっているのかは分からないが、真の目的を知られた上にそれを妨害しようと言うなら排除するしかない。

しかも今は曲りなりにも魔法衛士隊にいる身分、レコン・キスタと通じているのをばらされる訳にはいかない。


ワルドは魔法を詠唱し志郎に襲いかかった。






数十秒後、そこには杖をへし折られ全身をボコボコにされたワルドが転がっていた。




突如として姿を変えた目の前の男に倒され、薄れ行く意識の中でワルドは、


「た…えに……る」


と何かを言われた後に気を失った。



次に目覚めた時には、生活に支障を起こさない程度に治療されていたが牢獄の中だった。

聞いた話によればどうやらあの後に、自分が裏でレコン・キスタに通じていた証拠等を突き付けられたらしく、治療を済ませた後にここにぶちこまれたようだ。

つまり詰みだ、恐らくは処刑、良くても永久に重労働を課せられる監獄行きと言ったところか。



「泣けてくるな、閃光のワルドともあろうものの結末がこんなのとはね……」



そう呟くとコツコツと足音が聞こえてくる、自分の処刑方法でも決まったのだろうかと思っていると。



「祖国を裏切ったんだ、これくらいのリスクは承知していたんじゃないか?」



自分をこんな目にあわせた張本人である、キザったらしい男が入ってきたのだった。


「御機嫌よう気分はいかがかな?」

「おかげ様で最悪だ、君のせいで僕はこんな目に会っているのだからね」


ここはちゃんとした監獄では無いとはいえ、そう易々と入ってこれるような場所では無いのに、目の前の男はちょっと散歩でも行くかのような軽さでここに侵入している。

その事に対して何か言いたかったが、この男は底が知れない、たった一回の戦闘と少しの会話だけだったが、自分よりも格上と認めざるを得ない存在である事は分かっていた。

きっと何を突っ込んでも無駄だろうと思い、せっかくなので皮肉の一つでも言ってやろうかと思っていたのだ。

だがそれを言う前に志郎から思いもよらぬ提案をされる。


「気分最悪のところ申し訳ないが、外に出たくないかなワルド子爵?」


それは意外な台詞だった、だが驚いている暇も無く彼は続けて話す。


「元々勧誘に来たんだけどな、戦闘になっちまったからこうさせて貰っている」



何でも彼は戦争を止めるために、そして起こってしまった場合に被害を減らすために仲間を集めているのだと言う。


「君は僕よりも遥かに強い、なのに僕の協力がいるのか?」


それは確かな疑問であった、力は言うまでも無く自分の事を調べ上げる諜報能力、どれも非常に高い技能を持っているのだろう。だがその台詞を聞いた志郎はフッと笑い。


「確かに俺は強い、だが俺は万の戦力に勝つ事は出来ても、万の兵士全てを止められる訳じゃない」


と自身満々に答え、仲間の必要性を唱えたのだった。



「と言う訳だ、はっきり言って交渉の余地も無い状態に叩き落として協力しろ、というのはかなり乱暴なのは分かっているがこっちも切羽詰まってるんでね」


何せ断ったらこのまま連行される運命なのだ、確かに断ると言う選択肢は無いだろう。だが、


「出してくれる、と言うのは魅力的な提案だ。だが僕は聖地に向かわねばならない、それが叶わないならばここに居ても出てもあまり変わらないぞ」


それは本心でもあり探りを入れるための台詞でもある。どのような反応を返してくるのかワルドは見ていた。


「そうだな、今すぐと言う訳にはいかないが、事が済めば俺が聖地に連れてってやろう」


と実にあっさりワルドの条件を飲んだのだった。


「やけにあっさり言うな……君は分かっているのか?砂漠にはエルフがいる、そう易々と行ける訳が……」

「疑問に思うのはごもっとも、俺にその力が無いと思ったら見限って貰っても一行に構わない、レコン・キスタに戻るのもまぁ良いだろう」


そう言って針金の様な物を出し鍵をあっさり開ける、探偵はこれくらい出来て当然、と言わんばかりにあっさりとだ。


「取りあえず外に出ようじゃないか、これは手土産の様な物だ、断ったら殺すとか如何にも三流悪党が言いそうな事はしないと約束しよう」


そう言われては取りあえずは従うのが得策だろう、ここに居ては未来は無いのだから。


こうして力と技の風はまた裏で色々と動いていたのだった。



[34621] 影月の行方 2
Name: バドー◆38e6d11a ID:754b17cc
Date: 2013/04/30 03:20
彼女ミス・ロングビルこと、土くれのフーケは今アルビオンに来ていた。

破壊の杖の奪取に失敗した後も魔法学院の秘書を続けていた彼女は、少々の暇を貰い故郷に戻ってきていたのだ。

なおミス・ロングビルも土くれのフーケも彼女の本名では無い。本当の名前はマチルダ・オブ・サウスゴータと言う。彼女は昔はアルビオンの貴族の一人だったのだが、とある事情があり家を潰され貴族の名を捨てる事となったのだ。

それはハーフエルフの娘であるティファニアが大きく関係している。

この地ではエルフと言うのは恐怖の対象であると同時に、迫害の対象とも言えるのだ。ティファニアは母がエルフで父親がモード大公と言う貴族との間に生まれた経緯を持つ。

モード大公はアルビオンの王、ジェームズ一世の弟であり位の高い貴族で、その大公がエルフの娘を愛し妾とした事が問題となり、そこに仕えていたマチルダの家も取り潰しの憂目にあったのだ。


原因はエルフである彼女の母親であり、それを愛したモード大公のせいでもあると言えるのかもしれないが、別にマチルダは二人を恨んではいない。たまたま愛した人がエルフだった、ただそれだけの事ではないか、それを周りの貴族達が罵り蔑み全てを破壊した。恨んでいるのはアルビオンの王、そしてその空気を作りだした貴族達なのだ。

そして今マチルダはティファニアと何人かの子供達で孤児院を作り、そこでひっそりと暮らさせている。彼女が頼れる人間は今自分しかいないのだ、その決意と生活費を稼ぎ、ついでに恨みも晴らすために、貴族相手に高価なマジックアイテムを盗む盗賊稼業をやっていたのだった。



そんな訳で魔法学院に秘書として潜入したのだが、結果は知っての通りRXの活躍によって失敗したのだった。だが魔法学院の秘書はそれなりに良い給料を貰えるので、次のターゲットを見つけるまでは辞めずにいたのだ。


しかしここで厄介な事が起こった、それはアルビオンでの内争だ。

あんな小さな村をわざわざ襲う奴など、いるか分からないが万が一と言う事も有る。なんとか帰りたかったのだがその事を知った時、既にアルビオンにわたる手段は無くなっており、向こうの情勢が落ち着くまで待っているしかなかったのだ。

本当は伝書フクロウでも飛ばせればよかったのだが、フクロウの中継地点には既に網が張られていると知り、万が一にもティファニアの事がばれる訳には行かない。

なのでようやっと落ち着き、幾つか船が行き来出来るまでになったこの時期に、アルビオンに戻ってきたのだった。


そして急いでこの場所まで来たのだが……


「貴様何者だ……」


と見知らぬ男に叩き伏せられ、紅い剣を突き付けられているのだった。




なぜこうなっているのかと言うと、話は少し前に遡る。







「シャドーの兄ちゃん飯だぞー」


一人の子供がシャドームーンこと、秋月信彦に声をかける。

信彦はサタンサーベルを振るい木材を用意していた。一応収入はマチルダからの仕送りがメインなのだが、それだけに頼っていると万が一滞った場合には大変な事になってしまう。

その為に材木を用意し売ったり作物を育てたりするのだが、16~7程度のティファニアが一番の年長で他は10にも満たない、子供ばかりのこの場所では力仕事は中々酷だ。

そこにふっと沸いた20過ぎ働き盛りの青年、これはもう任せるしかないだろう。信彦としても一宿一飯の恩が有る以上何もしない訳には行かない。

宿と飯の恩を返す、そんな当たり前で人間的な考え方、そんな事が再び出来るようになったのは、今まで歩いてきた道から考えれば奇跡と言えるだろう。


ゴルゴムの呪縛、アポロンの野望への心酔、これらが無くなったからこそ彼は日常に戻れたのかもしれない。


だがまぁ、世紀王の証であるサタンサーベルをノコギリ代わりに使われては、きっと草葉の陰で創世王は泣いているだろう。

しかしサタンサーベルの切れ味は凄まじく、その威力たるやロボライダーですら直撃すれば無事にはすまない程なのだ。そんな切れ味にかかれば木など豆腐を切るよりも容易いだろう。


「分かった」


軽く一言だけ返事をし信彦は作業を止める。

いたって健康的な一般人の生活をするようになってからかなりの時間が立つ。一体アポロンの言っていた、やるべき事とは何なのだろうか、そんな事を思いつつも今の生活はそれなりに気に入っている。それを壊す奴に制裁を加える程度には。


「……少し遅れると言っておいてくれ」


「え~なんでだよ?」


「お客さんが来たようだ」


そう言うと信彦は森の方へ向かう、一応の警戒のためだ。やれやれ静かに飯も食えん、そう思いながら歩いていたがふと思った。


「(襲われて静かに飯が食えない?私はそれ以上の事をしていたのに?おいおい、何を思っているシャドームーンよ)」


日常を襲ってくる敵が鬱陶しい、食事の時間や睡眠時間を不規則にする野暮な客はいない方が良い、私などまさにその敵ではないかと自分で思う。

しかも彼はそれ以上の悪と言っても良い、彼は彼なりの正義が有りアポロンに協力していたが、人々の日常を破壊し奪い、多くの涙と血を流させた事は間違いない。

そんな自分が平和を壊す奴を排除しようと思っている、自分で自分の心境の変化を今まじまじと感じていた。


「随分と穏やかにそして丸くなったものだ……」


これではまるであの男のようではないか、と思いながらそう自嘲気味に呟く。


こちらの世界に呼ばれ、行く場所が無いのならいると良いと言われ、力仕事を手伝い、子供の面倒を見て、一日を終える。

もう二度と戻る事は無いと思っていた日常がここには有った。だがもしもう一度あの黒い太陽の前に立ったとしたら、もう一度戦いの場に戻る日が来たとしたら、今の自分はどう動くのか分からなくなっていた。


だが今は取りあえずはこの場所を壊したくは無い、そう思い客を出迎えるために歩を進めるのだった。


数分後にこちらに向かってくる影が見えた。迷い無くこちらに来ていることから、まず間違いなくここが目的地なのだろう。


先手必勝、いくら自分の力に自身があると言っても余計な抵抗をされると面倒なので、一気に詰め寄り拘束する。

こちらの世界に来て魔法という物を食らってみたが今のところ、そこまでの脅威と言える威力の物には出会っていない。

だがひょっとすれば一兆度の炎や物理攻撃を全て無効化するバリア、もしかすれば力を奪い取る魔法が無いとは限らない。

分からないというのはどんな敵が相手でも嫌な物だ、尤も元の世界でもこちらの世界でも彼を前にして、脅威と言える存在など数えるほどしか無いのも事実であるが。



ローブを羽織っていたために詳しい武装は分からなかったが、そこまでの体格ではなかったため、一気に詰め寄り組み伏せ。


「貴様何者だ……」


と尋ねるのだった。







「いきなりレディを押し倒すなんてせっかちだねぇ」


「シャドーさんも悪気がなかったのは分かるけど、そのもう少し」


「……すまなかった」



数分後に心配になって様子を見にきたティファニアによって、事態は何とか収まった。

自分が組み伏せていた客が、まさかここの大恩人であるマチルダだと知らせれ、非常に気まずい思いをしていた信彦であった。もし後少しでも彼女が到着するのが遅かったなら、少し乱暴な手でも使って追い出していたかもしれない辺り冷や汗が出る。

そしてティファニアが何故信彦がここに居るのかを話してくれたので、見知らぬ男が大事な妹分のところに居ると言うかなりマズイ状況に対してもなんとか理解を示してくれた。

あの男との対決の時とは違った意味での緊張感を味わい、はっきり言ってこの数十分は生きている心地がしなかった。


だがこのやり取りで少し思い出してしまった事がある。顔も雰囲気もまるで違うが、置いてきてしまった日常の中に居る一人の女。



そう言えばあいつを怒らせた時もこんな感じだった。少しの間意識を飛ばしていたら。


「ちょっと質問してもいいかい?」


とマチルダに言われる。ティファニアを外に出し、二人だけの状態にして何の質問かと思っていると。


「あんた、何もしてないだろうね」


かなり怖い顔でそう言われたのだった。


何もしていない、恐らくティファニアに手を出していないかと言う事だろう。年頃の娘の横に成人男性がいれば心配するのはやはり当然だろう。

まるで母親の様だな、と未婚の女性に対してかなり失礼な事を思いながら信彦は言われた質問に答える。


「安心しろまだキスもしていない」


ある意味で核弾頭級の爆弾発言だった。


実際のところは、使い魔として召喚されたと既に説明をしていたので、その時にコントラクト・サーヴァント、つまりはキスはしていませんよ、と説明したつもりだったのだが、この答え方は聞き様によっては非常にマズイ返しだった。


その後で小屋が大変な事になったのだが、それはまた別の話。





だがもうじきこの世界は大きく荒れる事となる。






「神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる」

「神の右手はヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空」

「神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す」

「そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……」



6000年前の虚無の使い魔達を記す歌。これはとある本に書かれている記述である。その本に別の歌が新たに浮かんでいた。





「神の左手はガンダールヴ。お調子者な神の盾、光り輝く杖を持ち、三つの姿を持つ頼もしき守護者」

「神の右手はヴィンダールヴ。道に弱い風の化身、二つのネコを肩に乗せ、世界を駆けるは風のごとく」

「神の頭脳はミョズニトニルン。術を究めし風来坊、あらゆる知識と究めし術で、いかなる強敵の上をゆく」

「神の……は……………。闇夜に輝く影の月、紅く光る剣を持ち放つ雷は全てを滅す」



[34621] 太陽の子とゼロ 亀裂
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2013/12/20 13:02
ここは惑星エルピスでもハルケギニアでも無い異世界。

銀色と紺色の二つの機動兵器が戦っていた。


「さぁ決着つけてやるぜ!!」

「やれやれ相変わらずですね」


銀色の機体は翼を広げ空を舞い剣で切りかかり、紺色の機体も自分の剣で受ける。

自慢の速度を利用した一撃を軽く受け止める、紺色の機体に思わず舌打ちをするが、ある程度は予測できていたことだ。自分の乗っている機体も高性能を通り越し、非常識といえる力を持っているが、相手も負けず劣らずの機体なのだ。

魔法と科学を併せ持った風の魔装機神サイバスター。

世界を一日で滅ぼす事も可能と言わしめた超兵器グランゾン。



サイバスターの必殺技であるコスモノヴァと、グランゾンの主兵装であるブラックホールクラスター。
この二つの打ち合いによって生じた余波によって、周囲は既に荒野と化している。


サイバスターは持ち主のプラーナ、いわゆる生命力とか気と呼ばれる物を使い技を発動するために、あまり連続しての高威力の技は、搭乗者の命も危うくしてしまう。

一方でグランゾンの方も余波の影響か、ブラックホールクラスラーを発射してこず、小競り合いが続いていたのだが、どうやらグランゾンの方が先に攻撃の態勢が整ったようだ。


胸部が展開し黒い球体が表れ。、それを見たサイバスターの搭乗者である、マサキ・アンドーは顔をしかめる。

「ちっもう撃てるのかよ」

「どうするにゃマサキ!!」

「一か八かだ、突っ込む!!!」


マサキはサイバスターを、鳥形の高機動形態であるサイバードへと変形させ、攻撃が来る前に突っ込む事を選んだ。


「アァカッシックバスタァアアア!!」


以前は火の鳥を飛ばす技だったのだが、その炎を身に纏い突撃する技になり、それをグランゾンを目指し最高速で突撃を仕掛ける。

だが僅かにグランゾンの方が早かったようだ。

万物を飲み込む黒球が大きく膨れ上がり、サイバスターに襲いかかる。










炎の鳥と黒球がぶつかり合った後に残っていたものは、グランゾン一体だけであった。


「……おかしいですね」

「何が可笑しいんで?見事に決まったんじゃ?」


グランゾンの搭乗者であるシュウ・シラカワが呟く。グランゾンのパワーは自分も良く知っているが、いくら何でもあのサイバスターが塵一つ無くなっているのはおかしい。

そして何よりも。


「経験値が入っていません」


まさか戦闘中に迷子にでもなったのだろうか、と突拍子もないことを考えてしまう。
そんな訳無いだろうとは思うが、その可能性を捨て切れないあたり、奴の方向音痴は規格外なのだ。








場所は変わってここはハルケギニアのとある場所で事件が起こっていた。

その事件の内容は以下の通りである。


不死鳥現る?

今朝未明ロマリア宗教庁が破壊されるという事件が起きた。

突如として大きな爆音と共に建物が崩壊し、中から火を帯びた鳥が空へと飛び去っていき、その際に数人の神官が怪我を負った。幸いにして死者は出なかったようだが重傷を負った者もいたようだ。

炎を纏ったと言う事から初めは火龍などの仕業ではと思われていたが、形状や速さからその可能性は低いとされ、目撃者の証言から伝説の不死鳥ではとも言われている。

実際に被害にあった人間からは何も聞けなかったが、引き続き詳細な情報を求めて調査をしたいと思う。














「お主に一つ聞いておこうかの」

「この世は科学で全て解明できると思うかの?」

はい

いいえ ←






「なんだったんだ今の夢……」


光太郎は少々ボサボサになった頭を掻きながら呟く。街を歩いていたら何故か民家の中に入り、中にいた老人からこんな質問をされるという夢を見たのだ。

そして取りあえず「いいえ」を選んで見たところで目が覚めたのだ。


「なーんか見覚えある光景だったよーな……まっいっか」


髪を軽くとかし身だしなみを整え部屋を出る。


朝食を取りルイズが授業に向かった後は、学校の作業の手伝い、放課後にギーシュ達との訓練等を行い、少々の自由時間を過ごして眠りにつく。

これが大体の光太郎の一日だ、もしかしたら戦争が起こるかもと言われていたが、今のところは日常に変化は無い。


アルビオンから戻ってきてから起こった変化と言えば、ギーシュの訓練と数人の女子の観戦、それと最近ではタバサと言う女の子が模擬戦をしてみないか、と言ったくらいのものだ。

自分の周りだけ見れば概ね平和だ。出来る事ならこのまま何も起こらずにいてほしい、と思う光太郎であった。




光太郎が外に出て歩いていると、広場の方で何やら光りすぐさま響き渡る爆音。思わず耳を押さえ広場の方を見る。


「っつ……またか」

そう毎度おなじみのルイズの爆発だ。中心地にルイズがいて爆発で起きた煙を吸い込んだのか、ケホケホと軽く咳をして。


「軽く失敗しちゃったわ」


と言っている。それに対して、何が軽くだ、これだからゼロは、など様々なヤジが飛んでいる。これもまぁなれた光景なのだが、失敗に対して罵りをしているのを見るのは、あまり気分のいいものではない。


以前に自分を含めてルイズを馬鹿にしてきた、風使いをボコボコにしたように自分が介入すれば多少はましになるのかもしれない。


だが彼女自身がそれを望まないだろう。彼女のプライドの高さもあるが、この状況を打破するのは自分自身の魔法の成功が最も効果的なのが分かっているからだ。

それにプライドだけでなく、ルイズがどれだけ頑張っているのかも知っている。


だがこっちの世界に来てそれなりに時間が経つが、ルイズが爆発以外の現象を起こしているのはついぞ見ていない。


ちょっと杖を構えて一口放てば爆発を起こせる。こういう攻撃魔法と割り切ってしまえば、十分な特技と言えるだろう。
恐らく全力で放てばロボライダー状態の自分にも、洒落にならないダメージを与えられると思うので、立派な戦闘技術なのだがそれを言ったところで彼女の心は晴れないだろう。

勉強が出来なくても他の物が有れば良い、運動が出来なくても何か夢中になれる物が有れば良い。


そんな普通の学校のような話をしてやりたいが、ここでの魔法の価値観はただの特技というだけで無い事は、彼女からも聞かれているし光太郎も何となく分かっている。

手助け出来る事が有れば何でもするつもりだが、生憎と魔法は門外漢、相談程度しか出来ないのが現状なのだ。


その事にすこし歯がゆさを感じながら、後で広場に出来たクレーターを直すべく、スコップなどをを取りに行くのだった。




暫く経ち今日の授業が終わり、ルイズが広場に戻るとそこには光太郎がせっせと穴を埋めていた。


「あっコータロー」


「よぉお疲れさん」


穴を埋めているのに、鼻歌交じりにほってぇほってぇ、またほってぇなど言いながら、なれた手付きで手を動かしている。

以前にもルイズが教室を吹き飛ばした時にも、片づけを手伝った事が有り、主人の後始末も日課の一つになりかけている。

爆発の罰として、魔法は使わずに片付けるようにと教師に言われているが、どっちにしろ魔法で片付けなど出来無いので必然手作業となる。魔法を使えば別の意味で片付くのでそれは仕方ないだろう。


普通だったらてめぇのケツはてめぇで拭きな、とでも言うところだが、女の子一人に重労働をさせるのは酷であるし、彼女の努力を知っている身としては、放っておくのは忍びない。そんな訳で手伝っているのだ。


いつもより若干暗い感じがするために、しばらく何も話さずにせっせと作業をしていたがふいにルイズが口を開く。


「ねぇコータロー」

「ん?どうした」

「あんたはさ、文句とか無いの?」



私の尻拭いばかりさせて、そう言っているのが分かった光太郎は軽く


「別に気にしてねーよ」


と返す、別に気を使った訳でも無く本当に気にしていないのでいつもの調子は変わらない。だがルイズの暗い雰囲気は変わらずに話し続ける。


「あんたは変わらないわよね、私も変わらないわ、全くね……」


その言葉を聴いて光太郎は一旦作業を止めてルイズの方を向く、するとルイズは搾り出すかのように口を開く。


「私はね……普通になりたかったのよ」


ポツリポツリと思っていた事を口にしていく、とても大きな願いという訳でも無く、ただ当たり前の事が当たり前にこなせるようになりたい、そんな小さな想い。


血筋的に言えば王族に限りなく近い貴族中の大貴族、それなのに魔法は失敗してばかり。初歩のコモンマジックも出来ず自分の系統すら分からない。


物を浮かせようとレビテーションを唱えれば対象が爆発。

火を起こそうとすれば爆発。

風を起こそうとすれば爆発。

水を操ろうとすれば入れ物ごと木っ端微塵。

錬金をして物質を変えようとすれば対象がこの世から消え去る始末。


唯一の成功は南 光太郎、仮面ライダーブラックRXを呼んだこと。


成果としては唯一にして最高の成果だろう、何も出来ない自分の代わりに何でもしてくれるのだから。

だがその成功から自分は何一つ変わっていない、それがどうしようも無く悔しかった。




一度悩みを出してしまったらもう止まらなかった。元々本当の感情を他人に伝えるのが苦手であるし、信じて物を相談できる人間もほとんど居なかった。そのために本来であれば言わないような事でもつい言ってしまう。


いつも強がっていた、彼女が見たことも無いような弱さを出している。それに若干戸惑いつつも何か声をかけるべきだ、そう頭の中で思うが声が出せない。

先輩やおやっさんの様に、悩んだら特訓だという脳筋的なライダー解決を適用する訳にも行かず、どうすればいいのか固まっていた。


だがそれが悪かったのかもしれない、最初は自分への苛立ちで話していたのに、それが言い終わると前からほんの少しでも思っていたような僻みなども出て行く。



「あんたは良いわよね、そんな力があってさ」


そうそれは光太郎の心と力に対する物だ。


普段の言葉使いや態度で思われにくいが、彼はとても高潔な精神を持っている。

国防の一端を担う自分の父や規律に厳しい母は誇りに思っているし、二人とも胸を張って貴族と言える人だとも思っている。
国を思い様々な物を背負う責任、それはとても重く気高い物だろう、時には命を懸けねばならぬほどに。
だが彼はきっと誰かが悲しむのを見たくないとか、そんな小さな理由だとしても、見ず知らずの人間であっても命を掛け戦う事が出来るのだ。


命知らずでも過信している訳でも無く、誰もが持っているような正義感でそれを貫く力を持って。


それなのに彼は、少し調子に乗る事はあっても威張り散らしたりしない。

まるで物語に登場する勇者の様な力と心だ、もし自分が彼と同じ様な力、この場合魔法の才能でも良いが、それを持ったとして威張らずにいられるだろうか、罵倒してきた人間に仕返ししないと言い切れるだろうか。

自分に味方して状況を良くしてくれる人、そんな人なのに、そんな人が近くに居たせいでより自分がみじめに思えてしまう。

そんな事を考えているせいで光太郎にちょっと八つ当たりじみた事を言ってしまったのだ。


そして言ってしまう最大級の禁句を。


「私は違うのあんたみたいに、運良くそんな誇れる物なんか持っていないの!!」










「おい……てめぇ今なんて言った」


光太郎がそう言った瞬間に周りの温度が数度下がった気がした。そう錯覚してしまうほどに彼の声は低く怒気が混ざっていた。



以前に彼が怒っているのは見た事がある、だがそれとは次元が違うレベルの怒りだ。

そのあまりの変化に思わずヒッと声をもらし息を飲む。




仮面ライダーの事は話しているがダークな部分は、光太郎が意図的に隠していたために彼女は知る由も無いのだが、彼女の台詞は地雷なんて生易しい物では無い。

勝手に人でない体にされ、親友と殺し合う事になり、親の様に思っていた人が消えた、忌まわしき出来事。

普通に考えれば精神の一つや二つ崩壊しても不思議でない過酷な人生。

それでも彼が潰れなかったのは持ち前の強さもあるが、自分と同じ様な事を受けてなお必死に生きていた先輩が居てくれたから、世紀王ブラックサンでない、南 光太郎と見てくれた人たちが居たから、自分は仮面ライダーブラックとして生きてこれたのだ。

平和な日常が消え去り、戦いが日常となっても、生きてこれたのはそんな支えが有ったからだ。

それを「運よくそんな力を持って」など言われては思わず怒ってしまうのもある意味では当然とも言えた。




「な、何よ!!」


「なんて言ったんだ、そう聞いてるんだよクソガキ!!」


「クソガキ……うっさいバカ!!もう知らない!!!」


涙を流しながらルイズはその場から走り去っていった。


彼女としては悪気があった訳では無い、だが自分が弱みを見せて話した反応がこれでは感情的に返してしまうのも無理は無い。



追いかけずにその場で少し立っていると光太郎の方も頭はちょっとは冷えてくる。

ついつい怒鳴ってしまったが、そう言えば先輩がショッカーに拉致され改造されたとか、そんな暗い話しはして無かったと思いだし、やっちまったなぁと思いながら頭を抱える。



自分達の体の事を知らないの状態なのだし、少し言いすぎてしまうことだってあるだろう。





「あーもー……はぁ」

ため息をつき頭をガシガシと掻いてため息を吐く、元々怒りの沸点が低い彼だったが、流石にこれは不味かったと反省し、


「こりゃ謝った方が良いよなぁ、でもなんて言えばいいか……」


と悩みだす。

怒鳴った事に対しては謝ろうと思うが、ルイズが言ってしまった事については知らないとは言え、流石にそのまま流せるような軽いことでは無い。

そこまで強く責めるつもりは無いのだが、自分たちのデリケートな問題だけにどうやって切り出せば良いか悩む。


しばらく時間を置いたほうが良いのかも知れない。そう考えながら唸っていると、誰かがこっちに近づいてくる。



「ん?」


「コータローあなたに頼みたいことがある」



それは青い髪が特徴的な少女、雪風のタバサであった。







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更新が遅れてすみませんでした。

PCが壊れたり書き溜めが吹っ飛んだりで、当初予定していた道筋の部分が大分曖昧になり遅れてしまいました。

今はメモ用紙などを持って漫画喫茶などから投稿しているので、また時間がかかるかも知れません。

重ね重ね申し訳ありありませんでした。






[34621] 太陽の子と雪風
Name: バドー◆38e6d11a ID:2b822b9e
Date: 2014/01/05 13:37
タバサに頼みがあると言われた。さっきの事があったので少し声のトーンを落としながら、光太郎は取りあえず何の頼みか聞く。

口数が少なく、あまり自分から声を掛けてこない彼女なので若干驚くが、この学院の中では親しい人間の一人なのであまり無碍には出来ない。

そう言えば以前に模擬戦がどうのこうの言っていたので、その事かとも思ったがそうでは無いようだ。


「実は国から仕事を頼まれた」


何でも彼女は国からの依頼があり、要約するとラグドリアン湖が増水し困っているのでどうにかしろ、と言われたそうだ。

普通の増水だったら治水工事やら避難誘導やらするのだろうが、湖の増水は精霊が起こしている事らしく原因が割れている以上、精霊に頼むか倒すかするしかないそうだ。


「湖だったらモンモンの奴が交渉役になったんだろ、そっちに頼めばいいんじゃないのか?」


前にモンモランシーと一緒に惚れ薬の解除薬の材料調達のために、精霊に会いに行った時に彼女の家と言うか彼女自身だけだが交渉役に戻れたはずだ。

国からの依頼だったのなら、タバサで無く彼女に来るべき話では無いのかと、光太郎は尋ねたのだ。


「私はこの国の人間では無い、ガリア、他国の人間」


と返される。

そう言えば彼女は留学生とか言っていたなと思い出し、なんで他国の人間がこの国の湖の事に口を出すのかと聞けば、ラグドリアン湖はガリアとトリステインの国境に存在し、双方に管理と言うか監視と言うかしている者がいる。

それ故にガリア側からの依頼を学友とはいえ、堂々と他国の貴族に頼むのは難しいし、交渉が出来ない場合に最悪は精霊を倒す事もしなければならない。


それは流石に避けたいので光太郎に頼んだと言うわけだ。


光太郎によってモンモランシーが交渉役になったのは知っていたので、彼ならば精霊の話し合いの場を設けるのには失敗しないだろう。彼もルイズの使い魔である以上、トリステインの者というか物というかそう言う立場なので問題が無いとは言い切れないが、一人の人間としてルイズも見ている以上、他国の貴族に頼むよりは波風は立たないだろう。


「ん、そーだな……」


「無論タダとは言わない、報酬は国から貰う分を折半で構わない」


「いや、そう言う訳じゃないんだが」


少し光太郎は悩む、別にタバサの頼みを断る道理は無いのだが、問題はルイズの方だ。謝りに行くのは確定事項だがタイミングがある。

出来れば早くにこの問題は解決したいのだが、今スグに行った場合に門前払いを食らいそうだ。彼女は悪い人間では無いのだが、癇癪を起こすと聞く耳持たないところが有る。


謝りに部屋に入った瞬間に爆破などという事にもなりかねない。


そしてどう謝りに行くのかも中々難しい、冷静になればなるほど先ほどの自分の返しは、ルイズから見れば理不尽に怒られたと思うのでは無いのかとも思えてくる。

やはりここは少し落ち着いてから話に言った方がいいかもしれない、結局そう判断し時間を置くついでに同行する事に決めたのだった。


「まぁいいぜ、いつ行くんだ?」


「出来れば早い方が良い、そちらが大丈夫ならすぐにでも移動したい」



準備が出来次第に出発すると決めて二人はいったん別れるのだった。




準備と言っても馬車で移動するのなら、往復でそれなりの時間がかかる距離であるが、光太郎とタバサには高速の移動手段がある。その為に普通の旅の様な用意は必要無い。なので数分程度で仕度は済む。


一応彼の拠点はルイズの部屋では無く、平民用の宿舎なのでこういう時にルイズに会わずに済むので好都合でもあった。

そして軽く手荷物を持ち、アクロバッターを押して待ち合わせ場所の校門へ向かう、すると目の前には見慣れた顔の一人がこちらに声をかけてくる。


「あら、何処か行くの?」


キュルケであった。



「ああ、ちょっとタバサと一緒にな」


「へぇデートかしら隅に置けないわね」


くすくすと少し意地の悪い笑みを浮かべるキュルケ、彼女自身そうでは無いだろうと思っているが、親友の貴重な男女の関わり?なので弄らずにはいられない微熱であった。一緒に居ればもうちょっと突っ込めただろうにと少し残念に思いながら。


「そんなもんじゃねぇさ、仕事の手伝いだってよ」


「仕事の手伝いねぇ」


デートと言う甘酸っぱい展開では無いが、自分以外に積極的に関わり頼るのは良い変化だと思い笑みを浮かべる。まぁ他人に頼ると言うよりは、使える物は何でも使うと言う感じが一番しっくりくる表現なのだろうが、誰かに頼っている事には変わり無いので、そこはご愛敬。


ある意味でルイズ以上に交友関係が希薄な彼女なので、どんな理由であれ他者との繋がりが増えると言うのは喜ばしい事だ。



「大体あんな子供に手を出すほど落ちぶれちゃいねぇよ」


その一言にピシッとヒビが入った様な音がする、先ほどは一緒にいた方が面白そうだと思ったが、前言撤回居無くて良かった。



「……あのねコータロー、一応あの子16よ」


「はっはっは、んな馬鹿な、どう見たってルイズと同じかそれより少し下くらいだろ」



ついでに彼のご主人様にも飛び火しているが、いくら恋愛事に疎く興味が無さそうな彼女とはいえ、堂々と年齢より下に見えるとの発言の上に女好きから恋愛対象外です、と言われれば気を悪くするどころの騒ぎじゃないだろう。

それで大丈夫なほど達観していたら色々な意味で終わっている。


ついでに言えば、光太郎はタバサが自分に好意がある事は分かっている。しかしそれは男女の好意では無く、ヒーローに憧れる子供の目という表現が一番近い。


キラキラした純粋な目で光太郎や先輩ライダー達に近付いてくる子供は数多く居た。その中で恥ずかしいのか照れくさいのか、ちょっと遠くで様子だけチラチラ見てくる子と言うのも割と居て、彼女の雰囲気はそれに近い。

模擬戦がどうこうと言い出したのは、単純にRXが見たかったために、ギーシュでは変身しないので名乗り出た、という可能性も無いとは断言できない。


光太郎の中で、ルイズとタバサは美少女にカテゴライズされているが、その手の話をするなら少なくとも後4~5年は必要だと思っているのだ。


キュルケはそんな光太郎の発言で珍しく頭痛がしたため、額を中指と親指でほぐしていると、光太郎から話を変えられる。


「ああ、そうだ実はルイズの事なんだが実は喧嘩しちまってな」

「喧嘩?貴方達にしては珍しいわね」


いつもは喧嘩と言うか、光太郎が爆破されて終わりになるのがお決まりのパターンであるし、最近はその爆破もあまり見ていない。


「売り言葉に買い言葉って言うか……その後で謝りに行きたいんだけどよ、少し俺が言いすぎちまってな、まぁだから見かけたら声掛けといてくれないか」



一緒に来て謝ってくれと言う訳ではないが、それでも少し面倒な役割だ。だが直接謝りに行く前にワンクッションが有った方がやりやすいので、手を合わせて頭を下げながら頼む光太郎だった。










キュルケと別れて数分、光太郎はタバサとの待ち合わせ場所である校門に着いていた。



「おっいたいた」



普段であれば移動の足は自分のアクロバッターであるが、今日は珍しく後ろに乗せなくても移動手段がある相手だった。

そこに居たのは大きさが6メートル程の青い竜、彼女の使い魔であるシルフィードであった。初めて出会ったのはゴーレム騒ぎの時で何回か光太郎も見ているが、何度見ても立派な物だと思う。


緑の目を輝かせ、きゅいーと鳴き声を挙げ実に嬉しそうに光太郎に頬ずりをしてくる。



「はは、相変わらず可愛いなこいつ」


ドラゴンっぽいと言うのなら怪人、怪獣と大量に相手をしていたが懐いてくるのは珍しかった。それにそんな外見の相手はほぼ全てが敵意どころか殺意満々で襲いかかってくるし、悠長に観察して居られる状況じゃ無かったのも事実。



仲間が経験したのなら、ウルトラ大陸にあった怪獣博物館が強いて言えばそんな悠長に見ていた時間だったのかもしれないが、結局博物館の中に居た剥製が本物にすり替えられていて、怪獣大進撃を室内でやる羽目になったらしいし、実質的に無かったと言っても良い。


まぁ自分にも一応怪人の味方で恩人が居ると言えばいるが、奴が喋り出したらライダーパンチからのライダーキックをぶちかます自信があるので、あまり会いたいとも言えない。


「そろそろ離れて、準備は良い?」


自身の使い魔を軽く杖で小突き光太郎から離れさせる。頭を殴られ少し涙目になりながらシルフィードは離れ、体をしゃがませる。


タバサはシルフィードの上に乗り、光太郎はアクロバッターに跨る。最高速度ではアクロバッターの方が上回っているのだが、一応普通の人間を乗せてそんな速度を出せ無い。なのでタバサには自分のペースで好きに飛んで貰い、自分は追いかけるから大丈夫だとタバサに言ってある。その時に若干残念そうな顔をしていたのは秘密である。




「では出発」

 




風竜の速度はハルケギニア全土を見回しても追いつける物は中々居ない、空戦能力と言う意味では対抗できる存在は居るが最高速に乗った場合100キロ近い速度を出せるので、ある意味それは当然と言えた。

空を飛んでいれば障害物など無くまっすぐ目的地に向かえるので、実際に出す速度以上に早く到着出来る。

しかし今その下を難なく走って追いつく存在が居る。悪路も何のそのアクロバッターの本領発揮である。タバサは時折下を確認するがその必要がまるで無いのを実証していた。

力強く走りながらも何処か優雅ささえ感じるバイクという乗り物、やはりあっちに乗るべきだったかもしれないと少し思いながら彼女は目的地を目指していた。



そんなこんなで数時間後に一行は目的地であるラグドリアン湖に到着したのだった。すると水がボコボコと音を立て水柱を挙げ形をなして行く。



「どうしたのだコウタロウ」


水の精霊である。光太郎は呼ぶ手間が省けたと思いながら口を開く。


「ああ、一つ頼みがあってな、水を増やすの止めてくれないか?」


周りに被害があって大変らしいんだ。とタバサから聞いていた事を話し頼む光太郎。


「って訳なんだ」

「ふむ、止める事自体は別に構わんが」

「おっ良いのか」


思いのほかすんなりと行きそうで光太郎は安堵するが、だが、と水の精霊は続ける。


何でも結構前に盗まれた指輪を取り戻すために増水しているとの事だ、水を増やし続ければいつしか盗まれた指輪の元までたどり着けるだろうとの事で何とも気の長い話だ。


「だったら俺に頼めば良かったのによ、前にも言っただろ出来る事ならするってよ」

「人間と我の時間の感覚は違う、時間が掛かるだけで解決出来ると言うのなら我にとっては問題にはならない」


つまりは水の精霊にとっての問題というのは、火急の物で自身じゃ解決できない事のみと言うことになる。
それって頼みごとってほぼ無くなるんじゃないのか、と思ったのだがそれは秘密である。


「まぁとにかく、その盗まれた指輪を取り返してくればいいんだろ?だから増水を止めてくれないか」


「……分かった、お前の事だ信用しよう、時間はいつでも構わん見つけたらここに持ってきてくれればいい、秘宝の名は、アンドバリの指輪」


秘宝について説明をする水の精霊、その秘宝の力は、死者に偽りの命を与える事が出来るという物で、生きている者も操る事が出来ると言う恐ろしい秘宝であった。


「悪用しか出来なさそうな秘宝だな」

「確かに、時間によって死を迎える者にとっては甘美な響きなのやもしれぬ」


光太郎はやっかいな物を盗まれたと思いながらも、必ず取り戻す事を心に誓ったのだった。この時に前に先輩が言っていた事を思い出せたのなら面倒事が増える事は無かったのだが……




「ありがとう、おかげで早く済んだ」

「おう、これくらいならお安い御用さ」

「だけど……」


これで指輪の奪還という余計な事を背負ってしまった、と言いたいのだろう、彼女の声はどことなく低い。そんな事を光太郎は感じとったのか、笑みを浮かべながら。


「なーに、気にすんなって、誰かがやらなくちゃいけないんだ、それがたまたま俺だったってだけさ」


そう言うがまだ彼女の顔は浮かばない、なので光太郎は話しを続ける。


「子供が難しい事考えんな、こんなもん迷惑の内に入らねぇけど、大人に頼って迷惑かけたって誰も文句言わねぇよ」


余計な仕事をする羽目になった負担よりも、女の子が暗い顔をしている方が負担になる。そういう訳で彼女は守るべき子供である、だから気にせずに頼れ、と言ったのだ


その台詞に少し唖然としながらも、『子供』扱いされた事が少し嬉しかった。一体いつ以来だろう、誰かが自分の事をそう扱ってくれたのは。父親が亡くなったその日からだろうか、母親が自分の事を分からなくなった日からだろうか、非力な子供で居られなくなったのは。

彼女には少し特殊な事情がある、自分の親友にもまだ詳しく話して無い事だが、彼女は他人に弱みすら見せられない状況にあるのだ。

しかし目の前の彼はトライアングルのメイジ、という事を知ってなお自分の事を守られるべき子供だと言っているのだ。そして過信でも何でも無く彼には力がある。

だからだろうかこんな事を言ってしまったのは。


「だったら……」

「ん?」

「だったら助けてと言ったら助けてくれる?」


その言葉を聞き、光太郎は自信を持って答える。


「ああ、いつだって助けに行くさ」







タバサは国に報告をしなければならない、との事なのでそのまま現地解散となった。光太郎は背筋を伸ばし深呼吸をして。


「さて、ご主人様に何て言ってあやまりゃいいかな……」


と帰路にの末に待ち受ける最大の強敵にどう対処するか悩むのだった。



[34621] 暗躍V3組
Name: バドー◆38e6d11a ID:f9a5c4e1
Date: 2014/01/30 15:58
ガリアの王都リュティスにある、宮殿の一つプチ・トロワ。

ここは国王であるジョゼフの居城である、グラン・トロワとは少し離れた場所に存在している小宮殿であるが、薄桃色の大理石で作られグラン・トロワには、少々劣るものの華麗な美しさを誇っている。

そのプチ・トロワの謁見室に居る一人の女性。

年は17か18歳くらいできらめく様な蒼色をした長髪に瑠璃色の瞳、彼女の名前は、イザベラ・ド・ガリア。ガリア現国王であるジョゼフ一世の娘であり、このプチ・トロワの主でありガリアの騎士団の一つの長でもある。


ガリアには東西南北にそれぞれに花の名前を冠した騎士団が存在している。その中で北の騎士団は公式には存在していないとされている。

それはガリアの裏の顔、暗部の作戦が多いために在籍している者ですら互いの素性も知らないのだ。そこまで秘匿性が高く重要な組織である「ガリア北花壇警護騎士団」それが彼女が指揮している騎士団である。



その彼女には疲労の色が浮かんでいる。王族でありそのような立場のため、それなりに多忙な身なのだが、仕事の疲れというよりも精神面で疲れていると言うのが正しい。


イザベラは軽く溜息を吐き、メイドに命令をする。


「あいつを呼……」

「何か御用でお姫様?」


「……もう突っ込むのも疲れたから、用件だけとっとと言うわ、ハヤカワ」


呼ぼうと思った瞬間に部屋の隅から現れる男、仮面ライダーV3、風見志郎。現在の彼女の手駒の中でもトップクラスに優秀な存在であるが、彼女の疲れの原因でもある男である。

イザベラは一枚の封筒をメイドから志郎に渡させる。


「これは?」

「中身は知らないわ、見ずにそのまま渡せですって」


イザベラはやや投げやりにそう告げる、彼女の言い方からして差出人は聞かずとも分かる。王族でありしかも国王の娘に命令出来る人間など一人しかいない。

志郎は中身を確認すると、把握したと言った後に紙を燃やす。

軽く指で弾いただけで自然に紙が燃えたというのに、イザベラも周りの人間も驚きもしない。彼のやることで一々驚いていたら切りがない。悪い意味でも良い意味でも志郎のやらかす事にはもう慣れていた。





初対面の時でもう既に彼女の常識は壊されている。





彼女がいつもの通り仕事をこなしていたところに父親から命令を受けた。その内容は簡潔に、


「今から送る男を北花壇警護騎士団に入れろ、好きにして構わん」


との事。

いきなりで驚いたが父親との関係は希薄であったために、仕事上の事とは言え自分に関わってくれると言うのは思うところがある。

外部の人間をいきなり騎士団に入れろと言うかなり無茶な命令だが、命令には従わなければならない、どんな奴がくるのかと思っていたら来た男が。


ギターケースを背負いテンガロンハットを被った男、風見志郎である。


この時点で怪しさ全開を通り越し、限界突破をしているが仕事はせねばならない。本来この騎士団は存在していないはずの騎士団であるために、基本はコードネームというか番号で呼ぶのが通例でる。

だがそれを束ねる者が素性を知らないと言う訳にはいかない、入団させろとしか言われていないので、素性を聞いたところ。


「そうだな……ケン・ハヤカワとでも呼んでくれ」


という始末。恐らくも何も偽名で確定だろう。本来で有ればここまで怪しい男は傭兵でも使いたくないところだが、父親の国王の推薦なので蹴る事は出来ない。


そこで元々成体の火竜討伐の依頼が来ていたので、それを一人で行かせると言う横暴どころか、死んで来い、と言っている様な依頼を差し向けたのだ。



任務中の戦死というので有れば別段怪しくも無いし、もし任務の過酷さに逃亡でもしてくれたら音の字、父親も文句は言わないだろう、内容については後で適当に誤魔化して報告しておけば良い。

しかし火竜をそのまま放置していると言うのは問題がある、なので後でちゃんとした討伐隊を向かわせねばならない。
普段ならばあの人形にでも指示を出して苦労するのを見るのだが、二回連続で一人のみ送りつけるというのもよろしく無い。仕事に支障をきたさないレベルならばいくらでも嫌がらせは行うところだが、仕事を疎かにしては本末転倒である。


余計な人間を抱え込まされた上に仕事も増えたので、非常に腹立たしいが何時までも苛立ってサボっている訳にもいかない。

そんな訳で派遣出来る騎士を選び出すのと他の作業を行っていたら数時間が経過した。すると志郎が再び入ってくる。

イザベラは顔をしかめながら口を開く。


「お前、まだ行ってなかったのかい?無理だと言うのなら」


「討伐が完了したので、その報告に来たんだが?」



数秒彼女の時間が止まった。今彼はなんと言ったのか?討伐が完了した?と言われた事の意味は分かるのだが、理解が追い付かない。彼女のフリーズを軽く流し士郎は続けて話す。

「一応証拠も持ってきて置いた、後で確認しておいてくれ」

何でも火竜の首を持って来たらしく、流石にここに持ち込むのは気が引けたらしいので兵士に預けてあるとのこと、さらに。


「ついでに近隣に起きた被害を纏めておいた、建物と家畜が被害に有ったが幸いにも人的被害は無し、この分なら特にメイジの派遣を依頼してくる程でも無いだろうな、詳しくはその紙に書いてある」



と既に報告書まで纏めてきていたので唖然とするしかない。火竜の討伐と被害の調査を行い報告書を書く、これを数時間でやられたら誰もがそんな反応になるだろう。

しかもそれに移動時間も入っているのだから、ひょっとすると討伐時間は数分にも満たないのかもしれない。


何故ならば。


「手書きの報告書なんぞ久々に書いて疲れた」


などとほざいているので、奴の中では文字を書いている労力の方が討伐を上回っている可能性がある。ここまでされたのならば認めない訳には行かない。止まった頭を必死に動かし彼女は士郎の入団を認めたのだった。





という訳で戦闘だけでなく事務処理まで有能なのだが、彼女を疲れさせている要因があるのだ。


彼女は時折暇つぶしと称してメイド等に無理難題を吹っかけてみたりすることもある。彼女も国王が無能王等と言われるのと同様に魔法がそこまで得意ではない。それで裏では自分も色々と言われているのは知っている。それの気を紛らわせるためかこんなことをする。


そんな時どこからともなく現れ。


「では、姫様のため僭越ながら一つ芸を披露しましょう」

と言い出し何処にでもある様な6面のサイコロを幾つか取り出す。調べてみてくれと言われディテクトマジックや手で触ってみても特に異常は無く間違いなく普通のサイコロだった。



それを彼は無造作に上に放り投げると、サイコロはまるで意思があるかのように積み重なって行った。その光景に周囲は唖然としている。

ただサイコロが重なっただけなら、凄い一発芸程度で済むかもしれないがそこは特技で世界一を自称すると男のする事。

サイコロは、斜めに立っているのだ、数字の書いてある面が下にあるのではなく、角で斜めに立ちその上に投げたサイコロが全て斜めに重なっているのだ。

近付いて軽く指で小突くと、サイコロは転がり落ちて仕掛けが無い事をアピールする。


「お気に召したでしょうか?」



これを皮切りに本当に様々な特技を披露した。ついでに誰かが何かを自慢すると、

「あんたやるねぇ、だがその腕……この世界じゃあ二番目だ」

の決め台詞と共に全てを上回る行動をするのだ。


それがあまりにも種類が多すぎる上に、不必要なところまで有能なので精神的に参るのだ。



例えば姫様の暗殺を行おうとした暗殺者を雇いましたなど午後のティータイムを楽しんでいたと時に、忽然と現われて言われた時には思わず吐き出すところだった。



さらには目の前に連れてこられ、今後ともよろしくと頭を下げられた時は考えるのを放棄しかけたくらいだ。


しかし正体を誰も知らない一流の暗殺者が自分の手駒になるのは、とても強力なカードになるし、狙われる事も無くなったと言うのは喜ばしい事なのには変わりは無い。そう変わりは無いのだ。


毎度毎度この様に驚いてはもう切りが無いので、ある程度スルーする術を身に着けた、精神の磨耗と引き換えに。






「次のゲームのお誘いか……手の早いことだ」




志郎はプチ・トロワから退城した後そう呟き宿泊していた宿に戻る。するとそこには人は誰もいないのに声がかけられる。


「おお、旦那お疲れ」

「ああ、ただいま」


それは一本の古びた剣、柄の部分がガシャガシャと動き、まるで口の様なしぐさを見せる、インテリジェンスソードのデルフリンガーだ。

志郎はジョゼフとのゲームに参加した後に、各地を動き回り情報収集を主な活動としていた。各国のパワーや有力な貴族、知っておけば有益となる物はいくらでもある。


その活動中にトリステインの武器屋にて彼を発見したのだ。


トリスタニアの裏路地にあるその店に入ったのは本当に偶然だったのだ、ガンダムやウルトラマン、はてはライダーの武器すら扱い、どこにでも出張してくるアナハイムの様な物とは違いがあるかな、という単純な好奇心で入店する。


「いらっしゃい」


店主はこちらに挨拶すると、視線をまた元の場所に戻す。志郎を見て貴族どころか傭兵でも無いだろうと思ったのか、押し売りの様な事はしてこない。


志郎は周りを見渡すと、斧、剣、槍、と様々な武器は置いてあるが、どれも一般人が持てる武具の域を出ていない。まぁ比較対象が、ビームサーベルやヒートホーク等と比べられたら仕方ないと言えば仕方ない。

特にめぼしい物は無いか、と判断し店を出ようとすると一本の剣が目に入る。それは店に置いておくにしては錆び付いており、手入れも碌にされていないのでないかという剣。


だがそれには妙に気になる、志郎はそれを手にとって見ると。


「なんだい?俺っちになんかようかい、みょーな格好の旦那」


と声が掛けられたのだった。


「デルフ!!お客様に失礼な事は言うな!!!」


あまりこちらに興味を示さなかった店主であるが、流石に客に向かって妙な格好等と言うのは見過ごせない。
なので止めに入ったのだが志郎を見るとブツブツと独り言を言っている。


「魔法吸収……なるほど、これが俺の力か」

「あの、何かありまして?」


すると志郎は店主の方に向き直り、


「気に行った、これをくれ」


と言うのだった。


「え、いや良いんですかい?こんな奴ですぜ?」


元々口が悪く客に対しても変わらない厄介者だったので、売れると言うのならありがたいが、この状況でなぜ購買意欲が湧いたのか分からなかったのでこんな返事をしてしまう。だが、


「何を言ってるんだ?俺はこんな名剣見た事無いぞ」

「おー旦那分かってるね、目利きが出来る客は久々ってもんだ」


と志郎はボロ剣をべた褒めしデルフもそれに乗る。そんなこんなで彼はデルフリンガーを手に入れたのだった。




「しかし旦那は相変わらず色々やってるねぇ、ここまで他芸なやつぁ結構長い事剣やってるが見た事ねぇや」


「まぁな、そしてその色々はまだこれからやるんだがな」


士郎はそう言うと、デルフを連れて待ち合わせている場所へ向かうのだった。



数時間後、伝書鳩ならぬ伝書フクロウにて連絡を取り合った仲間達が集まっていた。


元魔法衛士隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド

アルビオン皇太子、ウェールズ・テューダー

ガリアの暗殺者、地下水


三人と合流した士郎は宿に入り、個室にてサイレントを掛け外部に音が漏れないようにし密談を始める。


「さてここで集まって貰った訳だが」

「いや相当なメンツだね」

「暗殺者に一国の皇太子に魔法衛士の隊長、ここには居ませんが多数のメイジと中々にに強力な戦力の一団ですな」


良くもまぁここまで節操無く集めた物ですなと、仮面とローブで正体が良く掴めない暗殺者がそう答える、恐らくその寄せ集め集団の筆頭であろう言葉に周囲は苦笑いするが、本当に寄せ集め軍団なので否定は出来ない。





悪の組織と戦っていた志郎だが、組織を率いて行動する事になるとは思わなかった。別に世界征服を企んでいる訳でも悪どい事をするつもりも無いが、こう黒幕っぽい立場にいるとどうも変な笑いをしたくなったりする。

ほんの少しだが秘密結社を作りたがる奴が、ライダー大陸で多い理由が分かった気がする。




「でだ、一応俺は出来るなら他国との戦争は起きる前に止めたいところなんだが無理そうか?」


「すぐに戦闘を仕掛けるかは分からないが、そう遠く無い内に何らかの行動はするだろうね」


「次に奴らが攻めるとすれば、ほぼトリステインだろう……トリステインが空軍でアルビオン自体を包囲して空輸を絶つ戦法が取れれば、アルビオンは行動を起こす事はまず出来んだろうが、そこまで一団となった動きは出来ないだろう」


元仕えていた国ながら情けない事だがね、とワルドは締めくくる。


「そこまで腐ってるのか?国ってのは多かれ少なかれ悪ってのを孕む物だが、いくらなんでも自分の国が滅ぶ危機なら被害がくるだろうに」



「それがそれでも動きそうに無いんだよ、あの国はね……」




「国王の不在、多くの権限を持つ貴族の腐敗と寝返り、本当に国としての体裁を保っているのが奇跡だな」



「戦力は掻き集めればそこそこの物はあるよ、魔法衛士隊以外にも国防のために有力な貴族は戦力を持っているし、ヴァリエールを筆頭として国に忠誠を心から誓っている大貴族も多いのも事実だ」


一同は会話を進めていく、とっととクロムウェルを倒しに向かったほうが早いような気がするが、今はアルビオンの内戦が終わったばかり、政権が変わり混乱していた現状も少し落ちついてきたところでの行動は不味い。

ただ倒すだけなら今すぐにでも出来るかもしれ無いが、まだどうやって人を操っていたのかが解っていない。

それに今は紛れも無く国家元首、襲いに行ってはただのテロリストも同然、いずれウェールズには復権してもらうつもりだがタイミングがある。


「こちらからも一つ、新しい魔法兵器とやらを作っているそうで」


地下水が調べてきた内容を言う、それはヨルムンガルドに関する事であった。


「大きさ重量、どれをとっても移動には不向きな代物だな、使う風石に維持費、何もかも馬鹿にならん」


防衛線に配備したり陸続きの場所と言うのなら分かるが、空輸するとなるととんでもなく金がかかる。それをしてでも使うと言う事はすなわち、そんな事をしてでも十分に採算が取れる力を持っていると言う事だ。





「後は銀色の悪魔か、嫌な事に心当たりがある、ヨルムンガルドとやらよりも本物だったらやっかいなんだがな」


「それほどまでに脅威なのかい?」


「そうだな……一対一なら勝てる保証は無いな」


「規格外の君がかい?にわかには信じられないな」


「ああ、だからこそ俺が直接調べに行く必要がある」




彼らの会議にて一つ出てこなかった存在がある。

それが想定以上の脅威である事はまだ知る由も無かった。かつての仲間達を苦しめた存在を。



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