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[34344] 海鳴の街の神殺し(リリカルなのは×ナイトウィザード)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:4705d4a1
Date: 2015/09/29 17:33
注意

リリカルなのはとナイトウィザードのクロスオーバーです。
なのは及びテスタロッサ親子が魔改造される可能性あり。
改訂版以前とは別物です(前はなのは視点でしたが変更)



Scene-Prelude-



それは遙か古の、とうに忘れられた神話だった。
かつて一柱の神が居た、最初は彼(あるいは彼女)だけが存在していた。
その神は最初に無数の神を作り、そしてそれ等と七つの世界を創造した。
七つの世界の創造の後、神と神が作り出した神達は更に『もう一つの世界』を作った。

七番目の世界に近い八番目の世界、その創造に派遣された神の内、特に三柱の女神が中心と成って創造を行った。

一柱目の神、『空を統べ』自由を愛する女神だ。
狡猾だが迂闊だった、ぽんこつだった。

二柱目の神、一柱目の神に執着と言っていいほどの好意を抱いていた。
迷惑がられる程に付き纏ったと云う。

三柱目の神、巨大な獣の本性を持っていた。
その巨体を持って世界を佳く拓いた、性根は怠惰だったがそれを差し引いても特筆する働きをした。

だが、世界の完成の直前、神と神に生み出された神達は敵対し殺し合った。
その結果最初の神によって神だった者達は滅ぼされるか封印された。

かつて八番目の世界を作ろうとした三柱の女神は戦いの後ばらばらになった。
一柱目の神は魔王と成り、世界を奪うべく奸計を巡らしている。
二柱目の神は魔王ですらない存在と成った、邪悪なる存在として今は封印されている。

そして、三柱目は深い眠りについた。
途中で創造を中断され、その後人の手で完成された世界で、その辺境で微睡みの中を過ごしている。

そこへ残りの二柱の神達、いや神だった者達が訪れたことで物語は始まった。



[34344] 第一話魔王迷宮 シーン1
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:4705d4a1
Date: 2014/12/26 21:40
第一話 魔王迷宮 シーン1


ハンドアウト・NT用

NTは邪悪な神に取り付かれ、あるウィザードによってギリギリでそれから逃れた。
そんな不幸な過去を持つ彼女は怪しい空間を発見し調べに来た、がどうやら唯の迷宮ではないらしい。
何とか仲間と合流し迷宮を突破しなくてはならない。



ぼうぼうと何かが燃えている。

「う……父さ……おかあ……」

痛ましい悲鳴、火と煙、そして深い血だまりの中に少女はいた。
そこは空港で、仕事を終えた父親を迎えに来た。
だが、悲劇は起こった、爆発事故だ。

少女は辺りを見回す、そしてショックを受ける。
辺りは地獄さながらで怪我人だらけだったからだ。
空港にいた人達は爆発で焼かれ、あるいは飛び散った破片に切り裂かれた。
それは少女と共にいた者も同様だ。
母と兄と姉は血を流し倒れている、父は更に酷い。
近くにいた少女を庇い瓦礫に呑まれた、特に足は酷く傷ついている。

他に比べ少女は軽症であった。
だが、到底幸運とは言えない。
悲劇の只中にある少女の心の隙を突くように『悪魔』が囁いたからだ。

『あらあら酷い有様……ねえ、助けてあげようか』

真っ赤な光が現れて、少女に囁きかける。

『代償は貴女の全て、さあどうする?』

少女は手を取ってしまった。
赤い光が少女に纏わりつく、そして少女と光は一体と成った。

『契約成立、そこの連中助けてあげる、そして……あは、貴女は私の物、会いに行くから待っててね、ベルちゃん』

次に起きた時少女は病院にいた。
そこで彼女は驚愕する、まるで奇跡が起きたように私も父も母も兄も姉も皆無事だった。
それどころか、周囲に居た人々も酷い怪我こそしていたが命だけは助かった。
事故の規模に対して不自然なほどの人的被害、死者は無く奇跡だと報道された。

そして、それを喜ぶより先に彼女は絶望する。
自分が人ではない何かに変わりかけていたからだ。
少女は彼女だけがそう見える赤い月の下で怯えた、震えて変化を待つしか無かった。
『彼』に会うまで。

「……奇妙な気配の娘じゃな、人にしては邪気が強すぎる」

少女が人でなくなる恐怖に怯えていた頃だった、少女の前にある人物が訪れた。
『彼は』は少女の誰も気づかなかった変化に気付いた。
だから、少女は縋るように彼に真実を明かした。
契約の全てを話し、すると彼は少女に言ったのだった。

「……ならば抗う術を授けよう、例えば自ら命を断てば恐怖に怯えることは無い。
だがそれでは契約の相手の身には痛くも痒くも無く、次の相手を探すだけだ……ならば己の魔を制し、其奴に抗ってみせよ」

その日から少女の戦いが始まった、自分を器としようとする『邪悪な女神』との戦いだ。

「さあ自分の未来を己の手で掴み取るのだ……我が弟子、龍使い『なのは』よ」



そんな懐かしい夢を10少し前の年頃の少女、なのはは見ていた。

「ふわ、懐かしい夢を見たものじゃ……」

最初は何となく師を真似て、今では慣れてこれ以外の方が難しい口調でなのはは独白する。
体を預けていた硬い物、巨大なガーゴイルの破片から起きる。

「……ああ、こいつとやり合ってたからあんな夢を見たのかもなあ」

倒した後疲れからそのまま仮眠したが、そのせいで懐かしい夢を見たようだ。
なのはは体を伸ばし凝った体を解すと立ち上がった。
周りを見て疲れたように嘆息する。

「いかんな、探索を再開せねば……まだ迷宮の半分も行っとらん(『あの女』と関係無くとも放っておけない)」

そこは不可解な地だった、秘境さながらの険しい自然が続くかと思えば人工の古びた城、果てには近未来風の建物が並ぶ。
共通点等無しに無数の障害が連なった人を迷わせるための物だ。

(……怪しい空間に突っ込んだらこうだものなあ、早まった気もするが無視はできんし)

ここに来て既に数日、なのはは早くここを突破せねばと気合を入れるのだった。

(まあそろそろ『彼女』も来る頃のはずじゃ、ならば道を作るとでも思って頑張るか)

なのはは『ズリズリ』と龍の尾を引きずりながら迷宮の攻略を再開した。




ハンドアウト・高町なのは(龍使い/?)
『高町なのは』はある邪悪な神に取り付かれ、ウィザードの教えでギリギリでそれから逃れた。
そんな不幸な過去を持つ彼女は怪しい空間を発見し調べに来た、がどうやら唯の迷宮ではないらしい。
何とか仲間と合流し迷宮を突破しなくてはならない。



[34344] 魔王迷宮 シーン2
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:4705d4a1
Date: 2014/12/26 21:41
第一話 魔王迷宮 シーン2


ハンドアウト・FT
FTは母の隠す真実を知った、そんな彼女に謎の少女が接触する。
怪しいが母を止めるにはそれに彼女の言葉に乗るしか無い。
怪しみながらも謎の少女に導かれるままにある地へと向かった、奇妙な剣を片手に。
その果てに何が待つかはまだわからない、『母への愛』か『それに似た欲望』か『それ以外の何か』どれを理由に戦うかも。


(はあ……母さんの機嫌が妙に悪いけど、どうしたんだろう?)

大魔導師の娘、フェイト=テスタロッサは母を心配していた。
彼女達が暮らす時の庭園に突然の来訪者が来てから、母の様子が可笑しかった。
そう、鈴鹿と名乗った銀髪の髪の少女が来てから。

「考え直してくれないかしら、プレシアさん?……あの忘れられた地を目指して欲しくないのよ」
「帰りなさい……貴女には関係ないわ、『鈴木』さん?」
「……嫌な間違われ方、命を永らえさせる呼吸法、それを教えた男譲りね」

プレシアに素気無く忠告とやらを跳ね除けられ、鈴鹿は不機嫌そうな顔つきになった。

「ふん、もう良いわ、彼の弟子だから忠告してあげたのに……」

べえっと舌を出した後彼女はプレシアを睨みつけ、敵意を隠さず言った。

「そっちがその気なら貴女は私の敵、折角人間が私の創造を継いで完成させたこの世界、壊すのは惜しいのよ。
師に免じて見逃してあげる、考えを改める猶予……でもそうしないなら……禁忌の地に行く時にまた会いましょう、その時は殺し合いよ」
「……ええ、また会いましょう、蝿の王」

鈴鹿とプレシア、二人は互いを睨みつける。
しばし睨み合った後鈴鹿はどこか妙な視線、まるでプレシアを『哀れむような視線』を送った後何らかの魔法の準備に入る。

「……次は『アリシア』だけでなく自分の命までも失っても知らないわよ」

それだけ言って鈴鹿は姿を消した、残されたプレシアはギリと歯噛みする。

「彼から聞いてたけど……本当に嫌な女、あの人は良く相手できたのもね」
「か、母さん……」
「禁忌の地、アリシア、これらを疑問に思うでしょうけど質問は許さない……部屋に戻りなさい、フェイト」

会話中気になった内容について問いかけようとしたフェイトだったが、先にプレシアに言われ口を噤む。
娘の口を封じたプレシアは不機嫌そうな表情で庭園の地下、彼女だけが行くことを許された研究施設に向かった。
そんな母を怒らせたくなくてフェイトは見送るしか無かった。

「母さん、何であんなに怒ったんだろう(……少し心配だな、唯でさえ病弱なのにあんなに声を荒らげて大丈夫かな)」
「……そうねえ、少し心配ね、あんなんで命を支える『龍使い』の呼吸法が行えるのかしら」
「わっ!?」

独り言に答えが返ってきてフェイトはびっくりした。
転移したと思っていた鈴鹿がそこにいた、どうやら転移の後直ぐ戻ってきたようだ。
驚いているフェイトに鈴鹿が胡散臭く笑いながら話しかける。

「……心配ねえ、彼女を怒らせた私が言えることじゃないけれど」
「し、心配って?」
「彼女は特殊な呼吸法で病を押さえ込んでいるの……あんなに声を荒らげちゃそれは無理でしょう、倒れたりしてね?」

鈴鹿の言葉を聞いてフェイトはぞっとした、彼女は慌てて地下へと急ぐ。
廊下を走り、下り階段を降りる、そして地下の研究施設の前で倒れて荒く息を吐く母に悲鳴を上げた。

「母さん!?」
「ふ、フェイト、どうして?ここには来るなと……」
「……喋っちゃ駄目!」

フェイトは喋ろうとするプレシアを黙らせると魔法(幸い学んでいるミッド式は汎用性が高い)得ではないものの治癒の呪文を唱えた。
だが、戦闘以外は基本程度でこれだけでは幾らか体力が戻るくらいにしかならない。
休ませようと、せめて横になれば少しは楽になるかとフェイトは考えた。
研究施設の閉ざされたドア(プレシアしか開けられない)を攻撃呪文で強引にこじ開ける。

「ごめん、壊すよ、母さん……やっ!」

デバイスはまだ貰っていないがそれでも必死に攻撃呪文、得意の電撃で扉を破る。
研究施設の中に入り、フェイトはベッドらしき物(実際は多分検体等の為の物だろう)にプレシアを横たわらせる。

「……呼吸法、それをすれば大丈夫なんでしょ、そこで息を整えてね、母さん」
「え、ええ……」

プレシアが頷きベッドに体を預けた、これなら大丈夫かなとフェイトは立ち上がる。
そして、何の気無しに周りを見渡して、彼女は後悔する。

「あ、ああ、あれは……」

研究室の中には驚くべき光景、目を疑うような存在が在った。
『自分』と同じ姿、髪の色合いだけが違う少女が溶液に満たされた巨大な容器の中に浮かんでいる。
フェイトは一歩後ずさる、まるで少女を恐れるように。

ガタッ

その一歩分の後退でフェイトは研究室のテーブルを倒してしまった、バサバサとそれで書類が落ちる。

「きゃ、書類が……え、プロジェクトF?アルハザード?」

そこに書かれているのは生命を創りだそうという禁忌の研究と、それでも取り戻せなかった物を得る方法だった。
馴染みの深い母の字、それが一枚の写真に『失敗作』の烙印を刻んでいた。
その写真に写っているのはフェイトだった。

「プロジェクトF……F、フェイト?」

書類には失敗作と判断した理由が書かれている、唯一言『オリジナルの記憶を継いでいない』それだけ書いてあった。
フェイトの体から力が抜ける、フェイトについて書かれた書類が落ちた。
辛うじて別の書類が手に残っている、それにはアルハザードという地への生き方が書かれている。
その世界は次元の底(としか表現できない)に沈み、道を作るのは次元震を起こすしか無い。
同時に、そのリスクも計算され、それには術者の命の保証ができないことと無数の世界を脅かすと書かれていた。

「……何故、来たの、フェイト」
「か、母さんの様子がおかしくて……」
「そう、心配かけたわね……でも、そのせいで貴女は余計な物を見てしまったわ」

呼吸法で無事起きた母がフェイトの額に手を伸ばした。
バチ、そんな音がしてフェイトの意識はゆっくりと沈んでいく。

「記憶を消さないと……準備を終えるまで眠っていなさい、フェイト」



ゆさゆさ

「……起きなさい、大魔導師の娘」
「……違う、母さんの娘は『あの子』だよ」
「いや別にそういう問答はいいの、それより……立ちなさい、見逃すと言ったけど何もしないとも言っていないのはこの為なのに」

自分の部屋、だが手足はバインドの魔法で拘束された状態でフェイトは起きた。
揺すって起こした少女、鈴鹿がフェイトに怪しく囁く。

「いやあ大変な秘密が有ったものね、貴女は彼女に創りだされた存在だった」
「……それがどうしたの」
「このままじゃ記憶を消されてしまうわ、そしてまた前の通り親子の振りをする……あらあら酷い話、同情するわ」

鈴鹿は涙を拭うような態とらしい仕草をした後い、手を軽く振るい魔法陣を作り出す。
それは先ほど見た転移の魔法陣だ。

「ねえ、逃してあげようか?」
「……それで貴女に何の特があるの」
「私は見逃す……プレシアにそう言った、つまり私以外が手を下すなら嘘ではない、貴女がそれでつまり戦力調達ね」

彼女は戦えない、力を消耗できないある理由が存在するからだ(正確には本業に力を優先的に回したい)
だからといってこの八番目の世界が壊れる可能性は放っておけない、この世界でだけは彼女は神でいられるから。
その為に鈴鹿はフェイトの力を欲していた。

「私に母さんと戦う理由なんて……」
「……良いの?放っとけばとんでも無いことに成る。
……沢山の次元が滅ぶかもしれない、『アリシア』が蘇り貴女が無意味な存在に成るかもしれない」

フェイトは断ろうとしたがそれに構わず鈴鹿が続ける。
それは正に悪魔の囁きだった、だがそれはフェイトの心を刺激する。

「……私はどうすればいいの?」
「くす、それを聞くということは決まったようね……それじゃあ今後とも宜しく」

フェイトはコクリと頷いた。
果して彼女が『母に世界滅亡の罪を犯させない』か『自分だけが彼女の娘でいたい』のどちらで決意したかはわからない。
きっと彼女自身にも判断できないだろう、だが確かなことはフェイトがプレシアへの反抗を決意したということだけだ。

「……おっとその前にその窮屈なのを外さないと」

ザシュッ

白刃が閃きフェイトを拘束するバインドを切り裂いた。
鈴鹿の手にいつの間にか巨大な剣が握られていた。
それは大人でも両手で持たなければいけないような剣で、青い宝石が柄に嵌められている。

「はいプレゼント……これで戦いなさい、レプリカだけど大魔導師とやり合える程度の格は有る」

鈴鹿はその剣をフェイトに押し付けた。
すると奇妙なことに羽毛のように重さは感じられず、また昔から使っているかのようにぴたりとフェイトの手に馴染んだ。

「これはある(色々な意味で)有名な男の使う剣のコピー……適当な落とし子に渡そうかと思ったけど貸してあげる」
「……有り難くお借りします、こうなったらデバイスはくれないだろうし」
「ある場所へ転移の魔法陣を用意してある、適当な『戦場』に送ってあげるからそこで戦い方を学びなさい」
「わかりました、その後は?」
「今から送るのはプレシアが行動を起こした時に戦場になる地でも有る……鍛えながら待ってなさい」

鈴鹿にペコと頭を下げた後フェイトは転移する、彼女は辺境の次元世界『地球』そこの極東の地『海鳴』へと飛んだ。
彼女を見送り鈴鹿、いや『大魔王ベール・ゼファー』が何かを堪えるように口を抑えた。
その口の端がそれでも抑え切れないように歪む。

「さあこれで準備は整った、母と子、同門の弟子、管理局と犯罪者……海鳴にて無数の因縁が結ばれる、派手になりそうね」

数カ月後に起きるであろう事件を思い彼女は愉悦に笑うのだった。




ハンドアウト・フェイト=テスタロッサ(魔剣使い)
フェイト=テスタロッサは母の隠す真実を知った、そんな彼女に謎の少女が接触する。
怪しいが母を止めるにはそれに彼女の言葉に乗るしか無い。
怪しみながらも謎の少女に導かれるままにある地へと向かった、奇妙な剣を片手に。
その果てに何が待つかはまだわからない、『母への愛』か『それに似た欲望』か『それ以外の何か』どれを理由に戦うかも。



[34344] 魔王迷宮 シーン3
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:4705d4a1
Date: 2014/12/26 21:42
第一話 魔王迷宮 シーン3


ハンドアウト・K
妖狐Kは高町なのはと共に人知れず魔物と戦ってきた。
だが、高町なのはは今は行方が知れない。
孤軍奮闘でどんどん消耗していくKだったがそんな時ある少女に出会う。
他者の力を引き出す能力を持った少女に協力を請うのだった。

ハンドアウト・A
ちょっとスポーツが出来る程度の少女Aだが実は異能を持っていた。
家で無数の動物と接してきたからか心を通わせ、又その力を引き出すことが出来る。
それを活かし暫く前から行方不明の友人を探すためKと行動を共にしている。





タシタシと獣の爪が地を軽く叩く、獣の健脚が魔物との間合いを一瞬で詰めた。
三メートル程の巨大な狐が爪を振り上げる。
その頭の上に乗っかった赤い髪の強気そうな少女が狐を応援する。
魔物使いと所謂ヒーラーの才能を秘めた少女が鉤爪に力を与えた。

「アリサ、捕まってて!」
「え、ええ……やっちゃって、クオン!」
「うん……ガルルル!」

少女、アリサ=バニングスの声援を受けて、妖狐のクオンが鉤爪を叩きつけた。
ドゴッと重い音を立てて魔物が千切れながら吹き飛んだ。

「……手応え有り、やったよ」
「(ほっ)……戻っていいよ、クオン」
「うん」

ポンと軽い音がしたと思ったら、クオンはアリサより頭一つ低いくらいの狐耳の少女に姿を変えた。

「……ふう、少し疲れた」
「ご苦労様、クオン」

最近日課になっている『魔物の出現』を二人は食い止めた。
数日前なのはとクオンは怪しい空間を見つけそこに見に行った、が無数の魔物の前に逃げるしか無かった。
だが、追いすがる魔物から逃れられたのはクオンだけ、なのはは自ら残り魔物を食い止めている。
けれど時折なのはが相手し切れないのが元の世界にも現れ、クオンは一人で、途中からはアリサの手を借り戦っていた。

「……クオン、体の調子は?」
「うーんとねえ……」

彼女は最初に空間に侵入した時、またその後の一人で戦っていた時の怪我でボロボロだった。
だが、アリサと会い彼女の世話でゆっくりとだが回復していた。
クオンは自分の体を見た後アリサにこくと頷いた。

「……そろそろ私の傷も癒えるよ」
「そう、それじゃあ……なのはを迎えに行こうか」
「うん!」

ボンと音を立ててクオンは再び巨大な狐の姿に変わった。
アリサはその背を伝って頭に上ると、それを待ってクオンが駆け出した。
がその一歩目で、クンとクオンは鼻を鳴らし魔物の匂いに気付く。

「あ、また出た……」
「……もう、折角行こうかって時に、直ぐに片付けて救助に向かうわよ」
「はーい」

なのはに合流したいがその前に魔物を片付けねばならない、二人は先に倒すことにして歩みの先を変える。
タシタシッ、そんな軽い音を立てながらアリサとクオンが目的の場所に到着する。
二人はそこに有った光景驚いた、何故なら無数の魔物が『金の髪に赤い瞳の少女』に切り刻まれていたからだ。

「……あなたは誰?」

アリサは思わず警戒と味方になるかもしれないという期待半々で問いかけた。



(……転移した瞬間包囲とは酷いなあ、剣の切れ味が尋常じゃないから何とか成ったけど)

フェイトはほっと安堵の溜息を吐く。
剣を振るうのは初めてだが幸い彼女は近接戦闘のやり方を学んでいたし、何より魔剣も強力だった。
力任せに振るった型も何もない一撃が魔物を容易く切り裂いたのだ。
鈴鹿が大魔導師と戦えると豪語しただけのことはあるとフェイトは感心した。

「……あなたは誰?」

フェイトが戦い終え安心していた時、彼女に声を掛けたものがいた。
巨大な狐に乗っかった赤い髪の少女がフェイトを訝しげに見ていた。

「狐?でもでかい……ええと私は唯の通りすがり、襲われたから相手しただけ」
「ならここから離れて、最近こういうのが多いのよ……今から元凶を何とかしに行くところだから観光ならその後にね」

声を掛けた少女、アリサはフェイトは一般人ではないと気づきながらも離れるよう警告する。
だが、警告の中にあったある言葉にフェイトは引かれた。

「元凶?……魔物の大本ってこと?」
「ええ、多分ね」
「……それなら私も行かせて、所謂武者修行っていうのかな、そんな感じでさ」
「そんなこと言われても……」

アリサはどう答えようか悩んだ。
味方が増えるのは助かるが初めて会った相手だ、巻き込むのは気が引けるし行き成り会って信用も何もない。
どうしようか彼女が悩み、だがその意味はなかった。
何故なら急激な揺れが三人を襲ったからだ。

『あいつの……』
「え!?」
「な、何……」
『あいつの、ベルの匂い、戻ってきたのか……先に捕まえた『メイ』と一緒に、昔みたいに!』

突如二人と一匹の周囲の空間が割れ、そこから漆黒の鱗に包まれた巨大な尾が飛び出す。
巨大な尾がフェイト達に巻き付いて己の世界に引き釣り込む。
行き成りのことにフェイトも、クオンもアリサもそれに対応できなかった。



『蛇』は笑っていた。
昔のように三人、先に己の世界に入り込んだ『メイ』と今しがた捕まえた『ベル』で馬鹿騒ぎが出来るからだ。
それ等が会ったことの有る別人、匂いの着いただけとは気づかずに。
彼女は長き眠りで微睡んでいて判断ができなかった(偶然己の寝床と外が繋がったのも気づかないほどに)。

『メイ、ベル、昔みたいに一緒に遊んで、騒いで……』

まずは『ベル』の匂いがする少女を捕まえ、次に既にこの世界にいるもう一方を捕まえようと蛇は考えた。
そして、自らの尾による奇襲でそれが成されようとした瞬間だった。

ゴウッ

その次の予定だったもう一方が真横から尾に襲いかかった。

「竜爪、だりゃあっ!」

ザシュッ

『ぎゃん!?』
「……クオンは渡さん、ってアリサ?それにもう一人?」

龍の鉤爪に見立てなのはは両腕を振るった。
蛇の尾が鱗を落としながらのたうち(被害は鱗数枚だが寝起きのダメージで)『蛇』は動揺する。
そこをすかさずなのははフェイト達を奪い取った。
更に素早く迷宮に紛れる、成功を確信し油断していた『蛇』は反応が遅れ彼女を追えなかった。

『あ、ああ!?』

この迷宮は眠る前に作ったもの、長い眠りの間にだいぶ地理が変り『蛇』は把握していない。
これでは追えないと蛇はがっくりした後大きく吠えた。

『むう、こうなったら……しゃああっ!』

『蛇』の咆哮に従い迷宮に住まう魔物達が慌ただしく動き出した。

『あんたら、ベルとメイを私のとこに連れてきな……私の体じゃ潰しちゃうから』

巨大なる蛇、いや七大魔王の一角『怠惰のレビュアータ』は友人との再会を焦がれていた。 



「……やれやれ、あの咆哮は主が動いたようじゃな、魔物どもが騒いでおる」

咆哮と魔物の活発化する気配になのはは億劫そうに肩を落とす。

「クオンが居るのはともかく残り二人は一体?……いやその前に移動じゃな」

急いで場所を変えねばならない。
フェイト達は尾に締め上げられ息も絶え絶えで、魔物に追いつかれてはたまらない。
なのはは蛇ほどではないが『巨大な竜』の体にフェイト達を乗せて動き出した。

(……嫌がらせで『あの女』から奪った力、神と堕神の戦いで奴が入手し更に奪った竜騎士の力がこんな形で役に立つとは)

胴より上は人のまま、だが下半身は巨大な蛇竜でそこに三人を横たえなのはは迷宮の比較的安全な方に向かった。

「……ふん、迷って辺りを彷徨った甲斐があったか」
「う、うう……あ、あなたは?」

そんな時だった、朦朧としていたフェイトが他の二人より早く目を覚ます。
なのはは尾を器用に使って彼女と視線を合わせた。

「む、起きたか、新顔の……私は高町なのは、あの蛇の敵じゃから安心せい。
まあ休んでおけ、癒しの泉に連れて行こう、運が悪けりゃ毒じゃが……」
「それのどこが癒し?「聞くな、そういうものじゃ」……ええとフェイトです、助けてくれて有難うございます」
「礼はいらん、この状況ではまだ何とも言えんしな……我は高町なのは、まあまずは移動が先かな」

後に友となるなのはとフェイトだったがはそんなことを露知らず。
片やペコリと頭を下げ、片や鷹揚に受け取って二人は初めての対面を終えたのだった。



ネクストステージ・Middle1へ続く



放ったらかしてる間にナイトウィザード3が出ちゃいました。
このままではいかんと色々調整し、それに伴い別物になったので原型が残らないほどに全面的に書き直し。

前の奴との大きな変更点はなのはとフェイト、ダブル主人公&サード要素の導入(主にデータ面、時期はNW2)です。
(サードではNW2程役割別じゃないけど)味方はアリサとクオンでカバー、なのはフェイト(攻撃)アリサ&クオン(回復防御)の偏りっ振りですが。
尚蛇の魔王は背景設定がとんでも無いのに出番がないので勿体無いと思ったから、古株そうだし大丈夫かなと。
・・・そんな感じで前のとは色々変えて新生リリカルなのは×NWを書いていきます。



[34344] 魔王迷宮 シーン4
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2014/12/26 21:42
・・・サード版なのにクラスが一つだった、味方側のクラスは以下の物で

PC1 高町なのは 龍使い/落とし子
PC2 フェイト・テスタロッサ 強化人間/魔剣使い
PC3 クオン(久遠でないのは同名キャラの関係) 人狼/聖職者(神社と縁有るし)
PC4 アリサ 大いなる者(元じゃ霊になったし)/魔物使い(サードに無いが他に考えられない)





迷宮、特に異世界の魔物『エミュレーター』が住まう物を『フォートレス』と呼ぶ。
魔力に溢れたそこは自然ではあり得ない構成であることが多い。
魔力を糧に発生した魔物が住まい、密集した魔力が回復作用に、あるいは時に自然の罠となる。

「でまあ、ここが所謂回復ポイントじゃ……但し運悪ければ毒になるから気をつけるように」
「……運って、どう気をつけろと?」

心配そうなフェイトとアリサを安心させるように、なのはは回復作用のある湧き水を手ですくった。

「なあに、そう滅多ことじゃ毒には……ごふっ、、行き成りファンブルじゃと!?」
「ちょ、ちょっと話が違うんだけど!?」「これって罠でしょ、絶対!?」

口に含んだ瞬間なのはが悶絶し、フェイト達は真っ青な顔になった。
でも、恐る恐る飲むと平気だったので、多分なのはがツイていなかったのだろう。



第一話 魔王迷宮 シーン4



波乱含みだった避難場所、だがフォートレスはそういう要素だけではない。
高密度の魔力が実体を持つ魔物を発生させ、彼らは魔力を糧に繁殖する。
そういった魔物がなのは達を目指し向かっていた。

キイキイ

甲高く鳴きながら山羊の頭に背からコウモリの羽を生やした魔物の群れが辺りを散策する。
下位の悪魔であるレッサデーモン、それなりの(とはいえ人を遥かに超える)魔力と生命力を持つ尖兵的な魔物だ。

「……とはいえ、待つだけというのも退屈じゃしな」

ドスンと、彼らのど真ん中に巨大な物体が落ちた。
悪魔たちは面食らいつつも各々攻撃魔法をその物体に放った。
だがその瞬間白と黒、光と闇を暗示させるようなの翼で自身を包んだそれが動き出す、悪魔の中心で閉じていた翼を広げた。
翼の一振りが悪魔たちの魔法を一瞬で吹き飛ばし、更に続けざまに反撃に移る。

「そうれ、我流じゃが……奥義『九頭竜』!」

広げた翼の隙間から羽と同じ白と黒に別れた鱗、そして現れた勝ち気そうな少女が叫んだ。
彼女は思い切り振り回す、それが衝撃破を生み出し悪魔を薙ぎ払った。

「ぎいっ!?」
「ふん、先手は譲ったがこの技は攻防一体じゃ……吹っ飛べ!」

レッサーデーモンはまるで『多頭の竜』が襲われたかのように全身をズタズタにされ、更に空中に放り投げられる。
慌てて背の翼で体勢を立て直そうとした悪魔だがその瞬間追撃の凶刃が叩き込まれた。

「……フェイト嬢、今じゃ!」
「は、はい……行きます!」

フェイトがなのはの叫びに頷く、彼女の蛇の尾を足場に跳躍した。
飛び上がった彼女は『地が有るが如く』足元を踏みしめる。
彼女はデバイスを持たず殆ど魔法を使えない、が限定的ではあるが全く使えない訳でもない。
重力を緩和させ、彼女は全力で謎の少女『鈴鹿』から授けられた刃を振りかぶる。

「はあっ!」

そして、フェイトは気合の一声と共にそれを横薙ぎにする。
彼女が使えるのは精々杖か鎌(貰う予定だったデバイスがそうだった)だが、長物であるから剣に部分的にだがその技術を活かせる。
長物、所謂ポールウェポンの基本的な使い方の一つである『薙ぎ払い』は剣でも威力を遺憾なく発揮した。

ザシュッ

『ギイ!?』

刃が大きく弧を描く、それは空中にかち上げられ身動きできない悪魔達を両断した。
その身を二つに分かたれた悪魔は粒子に変わり、唯数個の宝石を残し消滅する。

「ふう……」
「……よしよし、プラーナ塊ゲットじゃ、拾って戻ろう」

ほっと倒せたことに安堵するフェイトに対し、なのはは慣れているので特に何も思わない。
素早く悪魔の遺留物を回収し、再び翼を閉じると頭の上にフェイトを乗せて回復ポイントに帰還する。

「あれ、何で防御形態に?」
「あ、これには龍使い的に重要な意味があるんで……」
「……重要な意味?」
「白と黒のツートンカラー、ふわふわの羽、拳法着やチャイナドレスに続く龍使いのフォーマル……『ペンギン』じゃ!」
「へ、へえ、そうなんだ……(な、何か違うような?)」

師の冗談を鵜呑みにしたなのはの言い分に、フェイトはウィザードを知らず突っ込もうにも突っ込めない。
頻りに首を傾げる彼女を乗せた、ドでかい毛玉がフォートレスを我が物顔で進んでいった。



「うう、ちょっと早くベルとメイを連れて来なさいよー!」
「ぎいっ!?」

斥候の全滅の報告に巨大な蛇、レビュアータはビタンビタンと尻尾を苛立たしげに振りながら怒った。
その様子に高位の悪魔ですら怯える。

「むむむ、こうなったら私自ら出るしか……」

レビュアータは頼りにならない眷属に見切りを付けた、その言葉に悪魔たちが慌てふためいた。
何故なら彼女の巨体、そして圧倒的なパワーではフォートレスまで壊れかねないからだ。
だが、止めようにも主であるから制止し難く、それに彼女の怒りを買いたくはない。
彼らがグズグズしている間にもレビュアータが立ち上がり、だが突然そこに『怪しくも凛とした声』が掛けられる。

「短気なのはどうかと思いますよ、レビュアータ」
「ああん、私に文句でも……」

レビュアータが睨んだ瞬間、その大蛇の頭部に『緑の龍鱗』に包まれた拳が叩き込まれた。

ドゴッ

「ぎゃん!?」
「……何時まで微睡んでいるの、落ち着きなさい、この万年寝ぼすけ!」

妙齢の美女、白衣を着た女がぷんぷん怒る。
が、怒ろうとして止めた、拳が寝ぼけていたレビュアータの油断もあって良いところに入ったらしい。
ズウンと彼女は地響き立てて地に沈み、それを見て白衣の女性が慌てる。

「あ、やば、や、やり過ぎてしまったかしら……ま、まあ構いませんよね、この人なら直ぐ起きるでしょうし」

でも、相手のタフさをよく知っている女性は直ぐにまいっかと言うのだった。

「ああでも、困ったわ……面白そうな死者の噂が無いか聞きに来たのに伸びてしまうとは」

趣味の『死者探し』その情報がないかこの世界を良く知るレビュアータを訪れた。
すると何故か暴れててこれでは話しにならないとぶん殴ったが、その結果伸びてしまい女性は困り果てる。

「……ええと、そこのアークデーモン、何があったか説明!」
「ぎっ!?……きいきいきい!」
「……へえ、魔王の匂い、それでテンションが上ってると……でもこの寝坊助の言葉じゃ信用出来ませんね。
…………良し、私が見に行きましょう、この寝坊助とは長い付き合いだし、古代神のこいつには世話になりましたしね」

キイキイキイキイ!

鱗持ちだからかレビュアータと親交のある魔王が協力を申し出、それに悪魔たちが喝采を叫ぶ。
だが、その内心で魔王は悪巧みをするのだった。

(……面白そうなら死体にしてコレクションにしよっと、魂だけこいつに渡せば文句は言わないでしょう)

死者を操る魔王、邪竜『ブンブン=ヌー』が笑う、その冒涜的魔力がなのはとフェイト達に襲いかかろうとしていた。




今回はもう一話あります



[34344] 魔王迷宮 シーン5
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2014/12/26 21:43
第一話 魔王迷宮 シーン5



悪魔の群れを倒し周囲の安全を確保したなのは達はフォートレスの中心に向かっていた。
その最中なのははゆっくりと語り始める。

「ウィザードとは何か、多少大雑把にだが話しておこう……侵魔と戦う以上は知っておくべきだ」

なのはは巨大な狐、クオンの背に乗るフェイトとアリサに多少噛み砕いて説明する。

「……例えばだ、お伽話で悪いドラゴンとか悪魔とかが暴れているとする。
そういった話では兵士や騎士は大体無力で、なのに流れ者にすぎない『勇気ある若者』が解決する……変だと思わないか?」
「ええと、お話の都合ってことじゃ……」
「まあそうかもしれんが、こうとも考えられる……竜や悪魔が普通ではなく、それを倒した者も普通ではなかった」
「……うーん、何というか曖昧な話ね」
「常識的な存在とそうでない存在、それ等は言葉以上に違う……科学は非科学に通じない、不可視の壁が存在すると思え。
……正しく次元の違う存在である侵魔を倒すため、自らも常識の外にある力で立ち向かう、それがウィザードじゃ」

人の思念は世界を始め色々な物に影響を与える、違う存在だと思えばそう思った相手には何も届かない。
だから、常識外の存在である浸魔には普通の手段では対抗できない。
だが、そんな相手に対抗手段を持つ存在が居る、それがウィザードだ(但し別世界の言い方で、なのはが流用しただけだが)
あるウィザードは魔法という分野に眼を付けそれで侵魔に対抗した。
あるウィザードは特殊な剣を操りその力を引き出して侵魔を切り裂いた。
あるウィザードは科学で強化した身体能力と技術の粋を集めた銃器で浸魔を撃ち砕いた。
そして、あるウィザードは鍛え抜いた体と研ぎ澄まされた技で侵魔を打倒した。

「つまり毒をもって毒を制す、そういう話……まあその毒の入手法で別れるけど、最初からそういう存在か後から成ったか」

クオンが前者で、邪悪な存在に取り憑かれたなのはが後者だ、クオンとの接触で異能を自覚したアリサも後者である。

「うーむ、わかったような……」
「……そうでないような?」
「要は対抗手段を持つということ、それだけわかっていれば十分……(そう私のような事情が無ければそれで良い)」

後ろ暗い、いや真っ黒その物の事情を持つなのはは苦々しい表情になった。
考えるだけで『ある女』に取り憑かれた過去に腹が立つ。
とはいえ師に教わった気の扱いで憑依に抗っているから、取り付いた方も同じような事を思っているだろう。
ある程度なのはと一体化しているからその抵抗によりその本体までに影響がある。
なのはの心が折れない限り封印の外に干渉できず、もし自滅覚悟で魔力を暴走させれば相手にそれなりの被害が有るだろう。

(……いざと成ればこの身を、いやこの魂すらも焼き尽くし『奴』に痛い目見せてやる)
「あのさ、何かシリアスな空気出してるとこ悪いんだけど……」

そんな風に覚悟を決めていたなのはにおずおずとアリサが話しかける。
クオンと並んで移動するでっかい毛玉、白と黒の羽毛の塊に突っ込んだ。

「その……何というかファンシーな格好で言っても、シリアスには成り切れないんだけど」
「はあ、わかっとらんなあ……これは龍使いのフォーマルであるペンギンの似姿で、必死にゲン担ぎしてるというのに」
『……いや、全然意味がわかんない』

アリサだけでなくフェイトやクオンもなのはに突っ込み、彼女は無理解を嘆くように肩を竦める。
どうやら本人なりの拘りがあるようだが傍から見ればコスプレもどきで、多分三人が理解することはないだろう。
やれやれと、まるで自分が被害者のように肩を竦めた彼女は自分が話を逸らしたことを忘れ話を戻そうとする。

「おっとウィザードについてだったな、まあ先ほど行ったように侵魔に対抗手段を持つ存在だ。
そういう意味ではアリサもウィザードということに成る、まあ力の媒介であるクオンが居てこそだが……その辺注意しろよ」
「……わかってるわよ、私一人じゃ無力だし絶対に離れないわ」
「ならば良い、この地の攻略には戦力が居る、クオンを援護するのじゃ(そして事終われば全て忘れ一般人に、まあ後か)」

あくまで戦力として扱うのはこの非常時だけと思っているなのははそれを口に仕掛け、まだ早いと慌てて止める。
そんな友人を巻き込みたくない、ある意味自分のことは諦めている彼女の気等露知らず、アリサはフェイトに問いかける。

「そういえば話が中断したけどさ、貴女は何なの?」
「……え、アリサの知り合いじゃなかったのか、見た限り戦い慣れてたから同行したけど」

アリサの言葉になのはは思わず固まった、知らずに侵魔と戦わせてしまい焦った。
だが、フェイトはアリサの疑問、なのはの混乱を他所にそれを助長するようなことを言い出した。

「ああ、私はその……ある目的のために強くなりたくて、まあ武者修行ってことで」
「……ちょ、まっ、全然話がわからん、そんなん言われてもどうしろと!?」

戸惑ったなのははフェイトに順番に聞いていく。

「ええと、とりあえず質問じゃ、目的は分かったがどこから来たのかの?」
「えと、時の庭園、次元座標は確か……」
「……ま、待て、もしや次元世界の住人か!師から存在は聞いていたが何でここに居るんじゃ!?」
「……え、だから武者修行」
「そういう意味じゃないって……」

知識には有るが会うことは無いと思っていた存在になのはは混乱する。
それに、彼女が次元世界の(つまり第八世界の)存在なら、何故第7世界の武器を持っているのかわからない。

「……そ、その剣はどこで手に入れた?」
「貰った、鈴鹿って人から……」
「そんな名の友人がいるがあれは一応一般人……すずか、とはどんな人物じゃ?」
「銀髪で、青い紺の制服にポンチョを着てた」
「……へ、へえ、銀髪に、制服に、ポンチョかあ(あれ、聞き覚えが……)」

フェイトの口から語られた魔剣の出処、その特徴になのはが凍り付く。

「……や、厄介事だ、それも飛びっきりの!?」
「きゃ、い、いきなり叫んでどうしたの?」
「叫びたくも成る、お主の状況は多分思ってるより酷いぞ……ぶっちゃけこのフォートレスが可愛く思えるくらいにな!?」

なのはは本気で悲鳴を上げた、師から聞いた『ある魔王』の特徴と一致したからだ。
そして、その悲鳴に同意の声『怪しくも凛とした』女性の言葉が掛けられた。

「彼女、この世界でも知り合いが多いのね……ええ、厄介事であるのは同意するわ、何であれが大公なのかしら」
「……っ、誰だ!?」

なのは達の真後ろからその声は聞こえた、彼女達の誰もが気付けなかった。
慌てて、なのはは振り向き、そこへバチバチと電光を迸らせた『深緑の龍鱗に包まれた拳』が叩き込まれる。
背後を取った女性、ブンブン=ヌーの龍使いとしての技量はなのはを遥かに超えていた。

ドガアッ

「……雷竜、はっ!」
「があっ!?」

雷光を纏った拳は咄嗟に翳した翼の防御を軽々と突破し、なのはは悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
女性は次に誰を狙おうかと残る三人を見回し、そこへフェイトが斬りかかる。

ズバッ

ゴトリと龍鱗に包まれた腕が『ずれた』と思うとゆっくりと滑り落ちた。

「……あらやるわね、流石はあの愉快犯に目を付けられただけのことはある」

少しだけブンブン=ヌーは驚いたようだ。
フェイトの斬撃は恐ろしい物で、まるで雷光を操る彼女が『憎み全てを賭けてでも倒したかったか』のように鋭く重かった。
だが、更に追撃しようとしたフェイトだったが、そこで彼女は口から血を吐き倒れた。

「もう一度……え、う、ごふ!?」
「……でも使いこなせていないようね、生命の刃の反動で自滅か」

つまらなそうにフェイトを見ながら、ブンブン=ヌーはパチンと指を鳴らす。
一瞬で巨大な魔法陣が形成される。
三つの魔法陣が雷竜で吹き飛んだなのは、魔剣の反動で倒れたフェイト、フォローしようとしたアリサとクオンを包んだ。

「こ、これは!?」
「悪いけど分断し順番に片付けていきましょう、さあ気功から爆功で増幅してと……」

龍使いの固有の技がプラーナ(万物を構成するエネルギーであり生命の根源)が異常なまでに活性化する。
ブンブン=ヌーの魔法陣から放たれる眩い輝きが辺りを覆い尽くした。

魔王にして邪悪なる竜ブンブン=ヌーはその魔手を伸ばす、それが『ある大魔王』にとって好都合だとも知らずに。




「あはは、もう最高ね、まさかあのネクロフィリアまで来るなんて……レビュアータの前に慣らすことが出来そう」

世界の果てまでも映すことの出来る魔法のコンパクト、それはブンブン=ヌーの行動をしっかり捉えていた。
彼女の姿に銀髪の少女、鈴鹿いや『大魔王ベール=ゼファー』は優しく微笑んだ。

「試練を前にして、初めてその人の器がわかる……試金石に成ってもらうわ、ブンブン=ヌー。
……神だった頃の私でいられるこの世界、その運命を託す相手をしっかり見定めなくちゃいけないしね」

ふふと魔王らしからぬ慈愛に満ちた表情で笑う、彼女は何かを待ち侘びるようにじっと待つのだった。





次回に続く。
正直NWセカンドはデータ的に大人しく、はっちゃけてる(バランス悪いと思う人もいるでしょうが)サードがかなり楽しい。
・・・何か無印NWに戻ったような気分、ネタが色々浮かびます。



[34344] 魔王迷宮 シーン6
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:95c1e11f
Date: 2014/12/26 21:44
第一話 魔王迷宮 シーン6



漆黒の空間、遥か古に神が創りだした牢獄で怨嗟の声が響く。

「……中々上手くいかないなあ」

『かつて神だったある存在』は大魔王ベール=ゼファーに再び会う為の器を求めていた。
ベール=ゼファーと共に創造神の軍勢に挑み敗北した後封印され離れ離れになってしまったが全く諦めていない。
だが神の封印から自由になることは困難で、代わりに彼女は現世に用意した器に自分自身を移すことを思いついた。

「あーあ、いい方法だと思ったんだけどな。
選んだ器の意思が無駄に強いし……もう片方は手間が掛る上適当な相手がいないし」

『かつて神だったある存在』は二つの方法で器となる肉体を手に入れようとしていた。
一つが高町なのはという少女を対象にした現時点で進めている計画である。
封印されながらも相性の良さそうな人間を見つけるため他の世界を監視し続けていた。
そして、偶然にもかつて自分がベール=ゼファーと共に創った世界でその少女を発見する。

「ベルちゃんと一緒に創った世界で見つけるなんて……これぞ運命!
……だと思ったのになあ……なのはってばあんなに嫌がる事なんて無いじゃん」

人として最上級の潜在的魔力を秘めるなのはは『かつて神だったある存在』の新たな肉体として考える限り最高の物だった。
『かつて神だったある存在』は少女が自分を受け入れるような状況を狙い接触する。
魂の一部でも移せれば、内から乗っ取ることが出来れば少女の存在の全てを手に入れられると考えた。
その筈だったが、その途中で契約の結果何が起きるか気づいたなのはに全力で抵抗されてしまった。

「あの変な女、なのはに余計なこと教えちゃってさ。
むかつく、その上あいつ何かベルちゃんと知り合いっぽいし……妬ましい!」

嫌な予感を感じて早く少女を乗っ取るべく内側から取り込もうとした。
自分のプラーナの一部を少女に送り込み内側から乗っ取ろうとしたのだがそこで問題が起きた。
龍使いである女性はプラーナ制御を得意とし、その技術をなのはが学び、更に自分となのはの相性が良かった事も災いした。
相性の良さを逆に利用され送り込んだプラーナの制御を、その使い方を学んだなのはに奪われてしまったのだ。
その上にかつての戦いで『創造神の側の兵』から奪ったプラーナまでもが、なのはに奪われその力になっていた。
『かつて神だったある存在』がなのはを不用意に刺激すれば彼女は全力で抵抗するだろう。
その力は神を殺す為の力で『かつて神だったある存在』にとっても厄介だ、彼女は慎重に機を伺う事を余儀なくされたのだった。

「ああもう最悪だよ!
プラーナを取られるし『神殺しの戦闘生物』にどんどん近付いてるしで踏んだり蹴ったり!」

なのはの年齢とその秘められた力からいってこれから更に強化されるだろう。
少女の力がこのまま上がっていけば計画は崩れる事になり兼ねない。

「……もう一方の計画、こっちはどうしようかな」

『かつて神だったある存在』が現世で活動するもう一つの計画は新しい体を作るというものだ。
但し、それには複雑な手順が要る、そして、それを行う協力者も必要だ。
第一世界に存在する野望を持つ者や外法の使い手に接触し知識を与える関係上、その世界の人間が望ましい。
だが、それが条件を厳しくしている。

「こっちは急いでいないけど、適当なのが中々見つからないし。
人間で同属を裏切っても動じない奴……好意を持った相手と生き別れたとかそういう理由があるといいかな」

『冥刻王』という異名を持つ彼女からしたら時の流れなど無意味であり、時間を賭けて探すことは特に問題ではない。
だが、条件に合う人間を見つけても新たな器の創造という作業には途方も無い時間が掛かる。
完璧にこなされるかは彼女にとっても賭けであった。

「何とかあの子の体が手に入れば何も問題ない、でもなのはってば気が強いし生意気だし……人間の癖に、人間の癖に!
でも待っててね、ベルちゃん……私諦めない、絶対にあなたに会いに行くから」

『かつて神だったある存在』は夢見るような瞳でベール=ゼファーにとって迷惑極まりない宣言をした。

「なのはの意志の源は家族や友達、そういう人達への想い。
……でも、私が負けない、私のベルちゃんへの愛はそれよりずっと強いんだから」

『かつて神だったある存在』はその感情が愛というには少しばかり不純でどす黒く濁った物だということに気づいていない。
彼女のベール=ゼファーへの想いは執着を超え既に狂気といえるほどのものだった。

「……懸念があるとしたらなのはに奪われた『あれ』か」

『かつて神だったある存在』が少しだけ心配そうに呟く。
彼女は他者の力を奪う能力を持っていた、それで創造神との戦いの際に相手の戦力を奪いその身に取り込んだ。
だが、その中で最も強力な存在のプラーナを、なのはが『かつて神だったある存在』に抗った時に奪われたのだ。

(『聖竜騎士』のプラーナ、あの『神殺しの化け物』の力……使いこなせるとしたらかなりの脅威になるね)



ブンブン=ヌーが笑う。

「……ふふ、さあ魔法陣が完成するわよ」

腰辺り迄に伸びた長い髪と怜悧な瞳、そして化身を使わせた際に良く使う白衣、それらが合わさり理知的な雰囲気を持つ。
だが、中身はそれに反して彼女は魔王でも屈指の武闘派だ。
その力の一端である龍使い特有のプラーナ増強により、魔法陣が完成しようとしていた。
それはなのは達をフォートレスへ散り散りにするだろう。

「さあ転移しなさ……」
「私を……私と竜達を舐めるなあっ!」
「……何っ!?」

そう、魔法陣が完成すればなのは達は分断されただろう、だがそうは成らなかった。
なのはが吠えた、ブンブン=ヌーの一撃で倒れていた彼女はその体勢のまま拳を振るう。
『白と黒の鱗』に覆われた拳が地を叩き、轟音を響かせる。

「龍、その身臥せるは機を伺う為に……臥竜、だりゃあっ!」

ダンッ

プラーナを纏う拳が衝撃を巻き起こす。
一瞬辺りが揺れた後それは治まり、今度は距離を置いて再び地を揺らす。
拳打による衝撃の伝播、バキンと音を立ててクオン達を捕える魔法陣が砕けた。

「行け、クオン!」
『承知……アリサ、捕まって』
「うん!」

アリサがコクと頷く、彼女を乗せたままクオンが駈け出した。
勢い付けてフェイトの魔法陣に肩からぶつかり、衝撃で魔法陣が僅かに亀裂が入った。

「魔法陣が……だ、脱出を」

それを見てフェイトが立ち上がる、剣を支えにするもまだ足元がおぼつかない彼女にアリサが手を差し伸ばす。

「フェイト、手を伸ばして!」
「は、はい!」

慌てて立ち上がったフェイトの手をアリサが取る、そのまま引き寄せクオンの背に乗せる。

「ちっ、それならもう一度魔法陣を……」
「……させるかあっ!」

ブンブン=ヌーが指揮者のように腕を振るい魔法陣を展開し、そうはさせじとなのはが先のクオンのように肩からぶつかっていった。
だが、ブンブン=ヌーが残った左腕を煩わしそうに一払いする。

バキッ

翡翠色の鱗に包まれた左手になのはは弾き飛ばされる。

「ぐおっ!?」
「……邪魔よ、お嬢ちゃん」
「くっ、ならば……」

シュルリ

吹き飛ばされたなのはは素早く背後から竜の尾を伸ばし、ブンブン=ヌーの首に巻きつかせた。

ギリギリギリ

「龍の尾で絞め落とし……」
「残念、その程度こそばゆいわ……手負いでは無理ってことよ、さっきの一撃が限界」

伏龍による遠距離攻撃でなのはは力を果たしていて、ブンブン=ヌーは締め付けようとする尾に構わず魔法陣を展開する。
再び展開された魔法陣が眩く輝く、まず一つがなのはを囲い更にもう一つが合流したフェイト達を包み込んだ。

「……今度こそ転移を完了させる、これで散り散りよ」
「ならば……そちらの思惑の一部でも潰させてもらうぞ!」

なのはがチラリとクオンの方に視線をやった、コクと彼女は頷く。

「クオン、我を癒やせ!」
『了解、りんびょーとーしゃ……霊気よ、なのはの傷を塞いで!』

神社に縁持つ彼女の術がなのはの体を癒やした。
力を取り戻したなのはは龍の尾に力を込め、魔法陣に気を取られていたブンブン=ヌーを引き寄せる。
なのはは長い尾で捉えたブンブン=ヌーを魔法陣に引き釣り込み、更に魔法陣に強引に魔力を流し込んで転移先を改竄する。

「なっ、何をする気!?」
「貴様も来い、但し『トラップゾーン』にな……クオン、二人と連携し何とか切り抜けて!」
『うん、なのはも気をつけて!』

ヒュッ

二人がそう言葉を交わし、次の瞬間完成した魔法陣がなのは達とブンブン=ヌーを転移させた。



妙に荒れ果てた大地になのはとブンブン=ヌーが現れる。
自立型砲台の残骸が無数に転がるその一角で、ブンブン=ヌーはなのはを睨みつけた。

「余計な手間、掛けてくれるわね」
「……おや、怒らしてしまったかのう」

ブン

「おっと……」

その目は冷たく、なのははぞっとして慌てて尾を解いて体を引いた。
一瞬遅れ、ブンブン=ヌーの左手がなのはは一瞬前まで居た空間を引き裂く。

「ちっ……まあ良い、物言わぬ肉体に変えて私のコレクションにしてやる」

ブンブン=ヌーの片腕はフェイトに落とされていたがその威圧感は全く衰えていなかった。

「そいつはごめんじゃな、あの三人と合流せねばならんのだから……」
「ふん、あっちにはフォートレスの魔物、それに私の眷属も行かせてある……直ぐに会わせてあげる、但し私のコレクションとして」
「……そうか、ならば尚更負けられん、ある程度食い下がればあっちが楽になる」

ブンブン=ヌーの言葉を聞いたなのはは彼女を睨み返す。
魔王を前にし、しかし彼女は臆していない。
それはある意味当然で、何故ならもっと邪悪なる存在を知るからだ。
スウとなのはは息を大きく吸った、そして切札を一つ明かす。

「魔王が相手とて、奴から奪いしこの力ならば……」

ボウっとなのはを中心に炎が燃え上がる。
それは彼女を覆い尽くし更に火力を増して天を衝くほどの火柱と成った。

「……さあ全力全開で行こうか、第五世界の守護者よ!」

バシュと内から炎が弾け、白と黒の鱗に包まれた巨大な龍が炎から出現する。
その身は所謂堕ちた竜とされるワームに近く胴から下は蛇に似て、だが力強く太い腕と鋭い鉤爪を持つ。
巨龍、なのはは頭を掲げブンブン=ヌーを見下ろし、意味ありげに辺りを見やって笑う。
行き成りブンブン=ヌーが見上げる程の巨体を地に叩きつけ、その衝撃で辺りの魔導砲台が再起動した。

ドドドッ

無数の弾丸が放たれ、なのはとブンブン=ヌー諸共に降り注いだ。

「……くっ、無差別砲撃!?」
「技量の差は龍の力と……トラップ郡で埋める、砲撃は当然こちらにも来るがそれより相手の集中を削いておかねば……」

鱗で耐えながらなのはは弾丸の雨を突き進み、ブンブン=ヌーへとその牙と爪で襲いかかった。



グルル

転移した先でクオンが辺りを睨みながら唸った。
アリサは訝しげにしながら問いかけると、クオンは答え注意を促す。

「クオン?」
『……囲まれてるよ』

キイキイと鳴きながらフェイトが既に戦ったのと同種の悪魔が二人と一匹を包囲する。
それを率いるのは真っ黒な体毛の痩せた犬と、猛禽の頭と翼に獅子の胴体を持つ巨大な魔獣だ。
二体の獣が唸ると悪魔たちは臨戦態勢を取った。

「悪魔が沢山、それに黒い犬に……創作とかでよく見るグリフォン?」
「……狐さん、私の傷は癒せる?」
『わかった、少し待って』

クオンは九字を切り、それに合わせ仄かな輝きがフェイトを包む。
魔剣の反動で傷めつけられた体が回復し、フェイトは立ち上がりゆっくりと悪魔たちへと歩き出す。

『ま、待って、回復したばかりで無茶は!?』
「ちょ、ちょっと、もう少し休まないと……」
「……大丈夫、この程度切り抜けられないようじゃあの人は止められないから」

ダッと二人の静止を振り切って彼女は駈け出した。
その動きに寧ろ悪魔たちの方が虚を突かれ、それを逃さずフェイトの剣が手近な一体を両断する。

ザシュッ

『ぎいっ!?』
「全部切って、切り続けて、そうしていけばきっと私は……」

ツウっと口の端から零れた赤い何かで言葉が止まる。
手の甲でそれを拭ったフェイトは魔剣を構え直し、悪魔たちに向かっていった。
顔を見合わせ、クオンとアリサも慌ててフェイトを追いかけた。



転移先を三箇所から二箇所に変更。
なのはvsブンブン=ヌー、フェイト&アリサクオンvs犬とグリフォンその他で。



[34344] 魔王迷宮 シーン7
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:95c1e11f
Date: 2014/12/26 21:44
第一話 魔王迷宮 シーン7



ブウンッ

「まずは……先制じゃ!」

魔導砲台の砲撃が飛び交う中、なのははそれを突っ切り龍の尾の一撃を振り下ろした。
前からは太い尾、それ以外からは魔導砲台の砲撃がブンブン=ヌーに襲いかかる。

「……人間風情がっ」
「何!?」

だが、龍の尾から伝わるのは異様に軽い手応えと、白衣の切れ端『だけ』がその場に残るのみ。
やや深いスリットの拳法着姿になったブンブン=ヌーが跳躍し高所からなのはを見下ろす。
フェイトに切られていない方の左手を変形させ鉤爪を生やすと、それを横薙ぎにして衝撃破による牽制を放った。

「まず遠当てでけん制する……刃竜!」
「……ぐっ!?」

なのはは鋼鉄より強固な龍鱗で防ぐも、衝撃波に圧され蹈鞴を踏んだ。
そこへ跳躍から一気に落下しながらの本命の一撃が放たれる。

「……そこだっ、雷竜!」
「ぐおおっ……」

バチィッ

紫電纏い火花散る拳がなのはに叩きこまれた。
降下の勢いも加わった一撃がなのはを吹き飛ばし、彼女は周囲の砲台を巻き込みフォートレスに勢い良く叩きつけられる。
タンと音を立てブンブン=ヌーが地に降り立つのと、ブワとなのはが吹き飛んだことで土煙が舞うのは同時だった。

「あら?やり過ぎたかしら、バラバラじゃコレクションに成らないのだけど……」
「……それは、余計な心配じゃ!」

土煙を裂いて巨大な龍が頭を掲げる。
なのはは『ある邪神』から奪った竜のプラーナを全開にし、グワと頬まで裂けた大口を開き牙を剥く。
ギロとブンブン=ヌーを睨むと、なのははその牙を禍々しく輝かせながら一気に相手に迫らせた。

ギュオオッ

「……ちっ、冗談じゃないわ、龍に食われるなんて魔竜の名折れよ」

慌ててブンブン=ヌーが飛び退る、直前まで彼女がいた空間を空振りし牙がガチンと鳴った。

「不発か……だが本命は次からじゃ!」

後退した彼女の着地を狙い、なのはが更に攻撃する。
彼女は龍の巨体を撓ませ全身に力を貯めると、ブンブン=ヌーに勢い良く体当たりを仕掛けた。

「うあっ、体勢が崩れ……」
「……そこだ、九天一流の気の一打を受けろ!」

咄嗟に龍の左手で受けるも完全には防げずブンブンがたたらを踏む。
そこを狙いなのはは龍鱗に包まれた両の腕を振るった。
ボウっと激しく燃え上がる炎を纏わせ、連続して叩き込まれる。

ドガガッ

「龍炎、とりゃああっ!」
「ぐうっ……でも、こちらとて魔王一柱の誇りがある、迅竜!」

炎を纏った拳に胴を受けてブンブン=ヌーが吹き飛ばされ、が彼女はその体勢から反撃してみせた。

ガンッ

「くっ!?(……やはり技量差は大きいか!?)」

お返しのつもりか、なのはの胴辺りが手刀で切り裂かれる。

ガキン

「……うぐ、ここは仕切り直しじゃ!」

散った龍鱗を見てなのはは間合いを取り直すことにした、素早く龍の尾をブンブン=ヌーに伸ばす。
シュルと彼女の胴に巻きつけると、勢い良く振り回した。

「吹き飛べ!」
「ぐっ……」
「……でもって、火気厳禁じゃ、気をつけろよ!」
「何?」

ゴオオッ

「小細工を……」

ブンブン=ヌーが叩きつけられたその場所は魔導砲台の砲口が中心する場所だった。
四方から砲撃が行われ、ブンブン=ヌーはなのはに毒づきながらそれをかわす。

「……ふう、危ない危ない」
「当たらんか、だがここ何日かのフォートレス生活で砲撃タイミングは覚えた……今の如く利用出来る、技量差は補えよう」
「ちっ、地の利はそちらか……全く厄介なことね」

技量ならブンブン=ヌーが遥かに上、だがそれ以外の条件でなのははそれを埋め彼女に食い下がる。

「……行くぞ、貴様も『あの女』のように我が糧にしてくれる!」
「生意気言うのね、人間……それでこそコレクションのし甲斐が有るわ!」

二人は微妙な均衡状態中で打ち合い、相手を屈服させるべくその技を奮った。



一方別の場所に転移したフェイト達はブンブン=ヌーの眷属たちと戦っていた。
その戦いは黒い魔獣のぞっとするような咆哮で幕を開けた。

ウォオオォォォン

数mの巨体とそれに合わぬ痩せ細った黒い猟犬が甲高く鳴き、それを耳にしたフェイトは凍り付いたように動けなくなった。

「くっ、体が動かな……」

心を縛り付ける邪悪な咆哮がフェイトを封じ、すかさず彼女を引き裂くべく悪魔達が飛びかかる。
慌ててアリサとクオンはフェイトをフォローに走る。

「まずい……クオン、行って!」
『うん!』

鋭い獣の爪が悪魔の攻撃を払い除け、更にクオンは素早く九字を切りフェイトを癒やす。

『でも応急処置、まだ動いちゃ……』
「……十分、ありがとう、私行くね」
「ちょ、ちょっと!?」

ブンブン=ヌーと戦った時の魔剣の反動と咆哮による呪縛、それらが幾らか薄れたフェイトは静止を振り切って前に出た。
当然悪魔の攻撃が集中するがフェイトは全く動じなかった。
行き成り光が彼女を包んだと思うと、その姿が黒いレオタードとマントに変わった。

「デバイス無しじゃ攻撃や高起動は無理でも……バリアジャケットくらいなら」
「えっ?変わった!?」
『……クオンの知らない魔法?』

カキン

「ぎっ!?」
「……甘いよ!」

マントの一払いが悪魔たちの攻撃を弾く、更にそこへ魔剣による一閃が放たれた。

「なぎ払う……やああっ!」

ザシュッ

刃が横に向け、それが振り抜かれたと思うと悪魔はバタバタと倒れていく。

「さあ次の相手に……っ!?」

フェイトが次の標的を探そうと辺りを見た瞬間その頭上に影が射した。
ブンブン=ヌーの眷属であるグリフォンが猛禽の嘴、更に獅子の爪を繰り出す。

ガアアアアッ

「……きゃっ!?」

嘴が頭に、爪は胴、フェイトが咄嗟に嘴だけは顔を背けてかわしたが爪は避けきれず受けてしまった。
先程のようにマントを翳すも獅子の鉤爪はそれを容易く裂き、黒い装束をその上から赤に染める。
平行して三筋の裂傷が彼女の体に刻まれ、更にグリフォンに続き黒い猟犬も追い打ちを掛ける。

ウォオオォォォン

「う、うあ……」

二度目の咆哮がフェイトの動きを止め、そこへ黒い猟犬とグリフォンが襲いかかった。

「不味い、援護を……」
『止めて、金髪の子!』

アリサがフェイトを助けようとし、だがクオンはそうでなくフェイトへの制止の声を掛けた。

「クオン?」
『……それは駄目!』
「問題無い、この魔剣なら……」

フェイトは痺れる手で剣を掲げ、魔獣でなく自分の体を見た。

ヒュバッ

剣が彼女自身の体を斜めに切り裂く。
麻痺で弱々しく浅く切る程度だがその痛みは気付けとなった、体が動くようになったフェイトは剣を更に振るう。

ヒュッ

左手を利き手で無い方を彼女は斬りつける。
その傷から零れ落ちた血が魔剣に吸い寄せられるように集まった。

ヒュッ
ヒュッ

更に彼女は数回更に自分の体を切り裂く、その痛みによる刺激が麻痺を完全に破る。
そして、流れ出た血は魔剣の刃を染めた。

「生命の刃……」

血に濡れた刀身が禍々しく輝いた。

「……から、なぎ払いへ!」

フェイトは魔剣を大きく振りかぶると、それを全力で薙ぎ払った。
ブツンと、呆気無く玩具のように猟犬の首が落ちる。
それより巨大なグリフォンは首に食い込んだ程度で済むも、それでも激痛に身を捩った。

ギャアアアアッ

「私の、邪魔をしないで!」

だが、フェイトは冷たい目で見た後容赦無く止めを刺す。
素手で刃を押す、当然それで掌が裂けるもその血が刃に更なる力を与えた。

ブツン

「……負けられない、あの人を止めるまでは」

グリフォンも又その首を落とされた。

「……行こうか、ええとアリサにクオンだったね」
「そ、それより傷は!?」
「大丈夫、痛いけど……後に引くものじゃないから」

フェイトは何でもないような顔でそう言った。
痛くない筈は無いのに、本気でそう思ってる様子の彼女にアリサとクオンが戸惑う。
どこか狂気を感じさせる戦いぶりに、二人が何か言おうとした時フォートレスが揺れた。

「ちょっと今のは幾らなんでも……きゃっ!?」
「何?」
『……フォートレスが揺れてる?』



(……魔獣達が倒されたですって!これは不味いか?)

魔獣の消滅を感じ取ったブンブン=ヌーは焦りを覚える。
彼女の鉤爪に吹き飛ばされながら、なのはは拳を通じそれに気付いた。

「ふむ、どうやら三人の方は何とかやったようだな?」
「ええ、そのようね、貴女で手一杯でなければ援護をやったのだけど……せめて貴女だけでも倒させてもらうわ」
「……そうは行かない!」

ゴウッ

ブンブン=ヌーは魔獣の敗北を取り戻そうと、なのははそれに突け入るべく、双方プラーナを活性化する。
二人は同時に活性化したプラーナを身に纏わせた。

『地(天)龍功!』

なのはは味方との合流も視野に鎧のように纏う地龍功を、ブンブン=ヌーはあくまで打倒を狙い拳に集中する天龍功を行う。
二人はそれぞれ攻防を強化すると同時に間合いを詰めた。

「うおおおおっ、押し潰す!」
「……その巨躯、ぶち抜いてあげるわ!」

龍の巨体を活かし全身でぶつかっていくなのは、それを見上げながらも奥せず拳による一撃必殺を狙うブンブン=ヌー。
だがその決着は、天より降り注ぐ流星によって着くことは無かった。

『……スターフォールダウン!』

嵐の如き勢いで数十の石礫が天から堕ち、衝突寸前のなのはとブンブン=ヌーを纏めて吹き飛ばした。



(あ、やべ、見てるだけのつもりだったのについ手が出ちゃった)

魔法の鏡で覗き見していたベール=ゼファーは殆ど無意識に攻撃してしまった。
戦いを見るうちどんどん興奮していって、それに従うままに彼女は大技を撃ってしまった。

「……うん、私は悪くない、あいつらが暴れて私をワクワクさせたのが悪い」

色々棚に上げた彼女は少し考え転移する、その顔は反省せず寧ろ開き直っていた。



流星に打ち据えられた龍が砕けた、正確にはその身を覆う龍鱗が内から弾けた。

「……誰だか知らんがやってくれる」

辛うじて流星に耐えたなのはが毒づく、防御を強化する地龍功でなくば不味かった。
そう、眼下で半身を流星に砕かれたブンブン=ヌーのように。

「攻防の強化、思わぬところでその差がでたな……我ながら妙な時にツイているな」

呆れつつも呑気にする時間はない。
言う間も更なる流星が落ちてくる、なのはは二対4枚の翼、人と闇の力関係を現すかのような白一枚黒三枚の翼を広げる。
それを羽ばたかせ、彼女は流星の隙間を縫うようにこの場を去っていった。

「この魔力、は、ベール=ゼファー、奴は何を考えて……」

最後にその耳に、流星の第二陣に残る半身を砕かれるブンブン=ヌーの恨み言を耳にしながら。



「……さてレビュアータ?」
「ふわ?」

ペチン

「起きなさい、寝坊助(……こうなったら直に試しましょう、賭けるものを考えれば少し厳し目にね」

結界の最奥、ブンブン=ヌーに伸されたレビュアータにベール=ゼファーはデコピンして起こす。
寝ぼけ眼で起き出した巨大な蛇にベール=ゼファーは囁きかけた。

「起きた?……私の新しい友人と遊びに行きましょう、昔のようにね」
「……うん、行く!」
(魔王的に遊び=戦闘、うん嘘じゃない)

大魔王ベール=ゼファーと魔王蛇レビュアータは一人と一頭連れ立って、なのは達を試すべく向かった。



ブンブン=ヌーはここで退場&ベル乱入、次回から一話クライマックス。

コメント返信
神聖騎士団様・・・確かにペンギンは魔鎧ですがNWならネタを書くべきと思いああしました(代わりを思いつくまで保留かな?)



[34344] 魔王迷宮 シーン8(第一話・完結)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:8810ea16
Date: 2014/12/26 21:46
「……命を顧みない戦いぶりか」
「うん、正直見てられなくて……何とか止められないかな、なのは?」
「確かにそれは良くないのはわかるが(……私も『あの女』相手なら同じことするかも、それで何と言えと)」

迷宮で数少ない安全な場所、前に来た回復地点で合流した四人は何が起きてもいいように休んでいた。
その最中アリサがフェイトの無茶な戦いについて、なのはに相談する。
けれど、割と他人事ではないというか、何か言える立場ではなく困ってしまった。

「うーむ、確かに何かすべきだろうけど」
「お願い、正直この状況で一杯一杯で……なのははこういうのに慣れてみるみたいだしさ」
「……わかった、少し話してみよう」

この手の異常事態に慣れているせいで思わぬことを頼まれてしまった。
苦笑しながらなのはは自分の体を癒やすフェイトに話しかける。

「のう、フェイト嬢……あー、何というか大分無茶したらしいな?」
「……あれは必要なことだった」
「それにしたって程度が有ると、私は思うのだがな」
「それじゃあの人には届かないから……」

とりあえず注意してみると反応は素っ気なく、これではまた同じことを彼女はやるだろう。
何とか思い止まらせたいなのはは更にフェイトに言うがどうにも反応が芳しくない。

「……せめて魔剣による生命力の転化は抑えて欲しいのだが」
「でもそんな温い戦いじゃ強くなれない、私はその為に『彼女』の誘いに……」
「彼女……そうだ、その剣を渡した女のことが聞きたかった、私の予想が正しいなら大変なことに成る!」
「なのはさん、急に一体……」

ブンブン=ヌーの乱入で中断された問いかけをもう一度した。
なのははフェイトから聞いた情報で思い浮かんだ存在について話す。
焦った表情で『彼女』について説明した。

「予想があっていればそれは最悪の相手だ……大魔王『ベール=ゼファー』、何を仕出かすかわからんぞ」
「……そうだとしても、私にはこの剣が必要なの」
「駄目だ、その剣を振るうことが恐らくベール=ゼファーにとって何らかの得となる……奴の策に利用されているだけだ!」
「だけど、私はあの人を止めないと……例えそれで私とあの人が……」

そこで初めてフェイトの言葉が詰まる、何と続けようとしたのか分かる前にその瞬間は来た。
行き成り誰か、この場の四人の誰でもない相手から、どこかからかうような言葉が掛けられた。

「大分私好みの精神状況になってきているようね、それなら……もう一押しかしら?」
「皆、跳べ、来るぞ!」

その瞬間地を裂き巨大な黒い蛇が現れた、頭の辺りで銀の何かが見えた気がした。



第一話 魔王迷宮 シーン8



「はあい、久しぶりねえ、フェイト」
「貴方はあの時の……」
「楽しそうだから来ちゃった……フェイト・テスタロッサ、私自ら試してあげるわ」
「くっ、最悪の予想が当たったか……それにしても、蝿の王が直々にとはな」

なのはは四枚の翼で、フェイトは魔法で、クオンはアリサを獣化し咥え崩落を駆け抜けてかわした。
その様子を楽しそうに見ながら銀髪の少女が話しかけた。
嫌そうな顔をなのははしていた、彼女は顔を引き攣らせている。
イヤイヤな様子でベール=ゼファーに問いかける。

「この世界は神の手から離れた世界……何しに来た?」
「……ええ、この世界は人の物、だからこそ壊れてほしくないのよ……その為に選ばれたのが彼女よ」
「フェイト嬢か?」
「そう、私自身動くけれど師を通じた情報の分勝敗は五分……残りを埋めるのは私以外の何かが必要なの」

自分のことを師を通じて魔女に知られているだろうから。
また世界を壊さないように戦うので全力は出せず、それでは情報による不利を覆せない。
それ故に不足分を埋めるのには自分以外の力、フェイトの力がいると考えていた。
まず鍛えるべくこの世界に送り込み蛇と戦わせたが、どうせならと彼女は自分自身で揉んでやることにしたのだ。

「その剣、正確にはオリジナルの持ち主は戦いの中で強くなった、それに習う……レビュアータ、行きなさい!」

ベール=ゼファーの言葉に蛇が従い動き出す、蛇は天を衝くほどの巨体を伸ばし四人の方へと突進する。
慌てて、なのははプラーナを全開にし竜の形態になるとその行く手を阻もうとする。

「くっ、竜化、更に天竜こ……」
「……レビュアータ、止めなさい」

両腕には爪、背に翼、胴から下は蛇に近い竜に変じたなのははレビュアータに殴りかかろうとし、それをもう一人のレビュアータが阻んだ。
ベール=ゼファーが僅かに横に移すと、そこには寝間着姿の少女が立っていた。
その少女は寝ぼけ眼をシパシパさせながらなのはをビッと指差す。

「わかったよ、ベル……そうれ、ぐるぐるー!」

グラリ

「……ぐっ、天地が歪む?」
「彼女は何時も夢の中にいた、そしてそれに順応した……夢の儚さ、虚ろさを現実に反映出来るの、分体と実体化した夢の同時限界もそれよ」

ズズンとなのはが崩れ落ちる。
直接魔力を内部に送り込まれ並行感覚を揺さぶられたのだ。
実体化させた夢がなのはの体勢を崩し、そこへ分体の大蛇が突進する。

「キシャアアッ!」
「ぐあっ!?」

ズゴシャアッ

軽々となのはを跳ね飛ばし、レビュアータは更に勢いを止めずフェイトの方へ襲いかかった。
だが、フェイトは見上げるほどの大蛇に対し自ら向かっていく。
彼女は突進の寸前大地に魔剣を突き立て、刃を盾にいや壁のようにする。

「金剛剣!」
「キシャアアッ!」

ズガアッ

轟音が響き、だが魔剣は撓りながらもフェイトを守った。

「……っ、反撃だよ!」

衝撃に顔を歪めながらも立ち上がった。
防御の為に突き立てた魔剣を引き抜くと、彼女は振りかぶり思い切り魔剣を叩きつける。

「なぎ払って……」
「おっと、させないわよ……斥力障壁」

ガギン

だが、直撃の瞬間ベール=ゼファーが魔力によって空間を歪ませた。
それは壁となって魔剣を弾く。

「くうっ、それなら生命の刃で……」
「おっと、今度はこっちの番でしょ……ディヴァイン……」

剣を引いて、もう一度フェイトが攻撃しようとした所へベール=ゼファーが仕掛けた。
空を滑すように彼女の体が浮き上がり、フェイトの目前へと出た。
ギュワッとその掌に光が集束する。

「させん、迅り……」
「だめー、ぐるぐるー!」

慌ててなのはが背後から襲い掛かるも、レビュアータの実体化させた夢がそれを阻止する。

グラリ

「ぐおっ……」
「キシャアアッ!」

ドゴッ

「うおっ!?」

先ほどと同じような結果となった、夢に体勢を崩されそこを分体の蛇が追撃する。
彼女は大蛇の尾に跳ね飛ばされ、それを悠々を見ながらベール=ゼファーは光を放つ。

「コロナ・ザ・ラン……」
「駄目……クオン!」
「ウウッ……グルル、ガアッ!」

その瞬間咆哮が響く、クオンの魔力を込めた咆哮がベール=ゼファーの体を縛る。

「うっ、魔力が……獣の殺気、それを凝縮させた呪いか……」

集中を見出され掌の輝きが散っていく、攻撃を邪魔されたベール=ゼファーは慌てて後退する。
しかし、それを彼女は見逃さなかった。
フェイトがデバイス無し故の不格好な飛行ながらも飛び、魔王を追いかける。
彼女は魔剣に手を滑らせ傷つけながら攻撃態勢に入った。

「貴女が何を企んでいようと私は……あの人に会うんだ!」
「……フェイト!?」
「生命の刃、行けっ!」
「ちっ、させるか……斥力場よ!」

魔剣と空間の歪みがぶつかる、ギリギリ押し合う刃と歪みの壁が押し合った。

「あ、ベルが……ぐるぐ『させるかあっ!』……邪魔しないでよ、ならそっちを先に……」

レビュアータが援護しようとし、だがそうはさせじとなのは達がそれに割って入る。
なのはが蛇を抑え、クオンとアリサが実体化した夢を抑えこもうとした。

「分体、止めて」
「キシャアアッ!」
「……くっ、ならば龍炎だ!」
「シャッ!?」

慌ててレビュアータがなのはを太い尾で巻きつけ、対してなのははその体勢から自らに炎を纏わせ反撃する。
大蛇が苦悶の声を上げ、更に分体だけでなく実体化した夢にまで炎が襲いかかった。

ボウッ

「うっ、ここにいちゃ巻き添えに……」

トン

咄嗟にレビュアータの夢は大蛇の頭から飛び降りるがそこへ何かが襲いかかった。

「そこだっ、クオン!」
「ぐるる!」

ドゴッ

「うわっ、狐がこっちに……これじゃ援護できない!?」

彼女が吹き飛ぶ、クオンが体当たりを掛けたのだ。
吹き飛ばされた彼女をクオンは更に追いかける、これでは夢は妨害が出来ない。

「レビュアータが止められた?……嫌な流れね」
「気を逸らしてる暇なんて……無いでしょ!」
(ちっ、考え事してるのに……)

眼下の光景に一瞬ベール=ゼファーが動揺し、すかさずフェイトはそこへ力を込めて剣を振り下ろす。
空間の歪みを引き裂き、刃がベール=ゼファーに迫る。

「これで……」

ガギィン

「えっ!?」
「……ふん、どっかでやった気がするわね、こういうことを」

だが魔剣は止まった、ベール=ゼファーが握る光の刃に弾かれたのだ。
彼女は魔力を収束し刃にするとそれを構える。

「そうねえ、追い込んだ方が必死になるでしょうし……手足の一つ程度、落としておこうかしら」
(うっ、来る!?)

慌ててフェイトが身構え、がビュっと音がしたと思うと手首を浅くだが斬られた。

「うあっ……」
「ほらほら次よ!」

サディステックな笑みを浮かべながらベール=ゼファーは激しく刃を振るう。
ビュッと音が鳴る、今度は足を斬られて更にもう一度鳴ったと思うと一度目と逆の腕を切りつけられる。
フェイトの体に切り落とされる程ではないが無視できない痛みが連続し走った。
まるで甚振るようにベール=ゼファーは相手の四肢を連続して切りつけていった。

「……さあ、そろそろ腕の一つも切り落としてあげる!」

言って彼女は大きく振りかぶり、それを見たフェイトもまた剣を構えた。
それはどう見てもベール=ゼファーの攻撃に防御を捨てて合わせる動きだ。
が、技量で劣る以上それを成すには捨て身しかない、彼女は明らかに攻撃後を考えていない前傾姿勢をとった。

ググッ

「私はこんなところで……」
(捨て身か、それも魔剣使いの戦い方の一つではある……まあ急拵えだしこれで完成とするか)

ベール=ゼファーは内心で及第点とした。
戦う内自らの戦闘スタイルを見出すのが普通だが急場では多少歪むのも仕方ない。
それに正統派とは違うがこれも又良しとベール=ゼファーは考えた。
何故なら格上のプレシアにぶつけるなら攻撃面が尤も重要で、ならば捨て身からの高い攻撃力は最適とも言える。

(そうね、まあ合格としましょう……なら後戻りできないよう利き腕以外は落としておこうかしら)

迷わせないために、刺客として完成させるためにベール=ゼファーは光の刃を握る手に力を込める。
彼女はフェイトを強くさせ、それ以外を捨てさせようと彼女は刃を振り下ろす。

ギュオオッ

「これで貴女は完成する……はあっ!」

同時にフェイトは最短距離での刺突、つまり迎撃を全く考えていない一撃を放った。

ヒュッ

「私は母さんにまた……やああっ!」

二人の刃が交差し、互いを切り裂こうとした。

ドンッ

「……すまんが邪魔させてもらう、気に入らない結果に成りそうだからな」
『なっ、何を!?』

刃が互いを切り裂いたはずだった、間になのはが割り込まなければの話だが。
彼女は翼の一つをフェイトに伸ばし、そっと彼女が魔剣を持つ手を包んで止めた。
更に残りの三枚の翼で自分とフェイトを包むと、光の刃の前に重ね翳した。

「九頭竜……だりゃあっ!」
「ぐあっ!?」

ドガアアッ

そして、魔力の刃と触れる瞬間に行き成り翼を広げ、衝撃破でベール=ゼファーを吹き飛ばす。
吹き飛ばされながらベール=ゼファーは混乱する。
蛇をどうやってかわしたのかと、そちらを見て驚いた。

「ぐるる……」
「あわわ、私の分体が燃えちゃう……捨てた龍の体が燃えてるし、狐が邪魔するし……」

なのはは龍の体を捨てて拘束から逃れ、更に体の残骸を爆破し追撃の邪魔をした。
その上クオンに殺気を叩きつけられレビュアータは動けず、炎に呑まれかけている。

「……寝起きでぼけてて見事に後手後手ね、もう世話が焼けるわ」

はあと溜息を吐いてベール=ゼファーはレビュアータの援護に向かった。
空間を歪め炎から逃れさせ、その間になのは達はフェイトと合流する。

(ちっ、寝坊すけの世話で邪魔できない、体勢を立て直されるか……まあ違う完成形でも駄目ってわけじゃないし見守ろうかしら)

ベール=ゼファーが仲間を助けながらちらと様子を窺う、なのはがフェイトの手を握り立たせたところだった。

「全く無茶をしたものだな、捨て身というのは感心できないな」
「ああするしか無かった、勝つには……ここを生き延びるには……」
「……命もリソースか、それはわからないでもない」

なのはも自分と因縁のある相手と会えば同じことをする可能性がある、だがその上でなのははフェイトを睨み言った。

「だが駄目だ、そのやり方では何も残らない……自分と相手の、二人分の死体が残るだけではないか」
「……でも、それでも止められる、あの人を」
「いや違う、命を切り売りして、最後に完全に命を捨てて……そんなことは間違っている」

なのははフェイトの胸元を掴み引き寄せると、強く言い放った。

「先の言い分を聞くに、あの人とは大事な人でこれからなにか大層なことをしでかそうとしているのだろうが……
……だからといってそれを止めて、何も残らなければ悲劇に変わらない……一つの悲劇を止める為なら別の悲劇でも良いというのか!?」
「……悲劇だとしても犠牲は少ない」
「数の問題ではない、この世界に悲劇は有り触れてる……だが、それに迎合するなと言っている!」

自分のことも、家族に起きたこともそうだった、そしてそれを覆すためにある魔物に狙われていることもそうだ。
だが、それを諦めては何にも成らない。
少なくとも龍使いの技を知ってなのはは抵抗を考え、それで初めて道が開けた。

「私も何れ巨大なる魔と争うだろう、だが生を諦めん、足掻いてやるさ……フェイト嬢も諦めるな、何か別の方法があるはずだ!」

なのはは信じていた、希望はあると、悲劇だからで済ませず方法を探せば何かしら見つかると。
だから、そういう考えもあるのだとフェイトに訴える。

「考えを止めるな、それでは……誰かに利用されるだけだ!」
「……会ったばかりでしょ、私と貴女は……何でそんな必死に?」
「それでも戦友さ、情も湧く……死んで欲しくない、そしてそういう者が居る限り少し考えて欲しいな。
……それにあの人とやらを止めたいにしても命を捨てて後悔しないか?心残りはないか?」

ピクとフェイトは僅かに動揺する、少しだけそれが浮かぶ、ポツリとそれを口にした。

「……狼」
「ぬ?」
「ある世界で野生の狼と仲良くなったの、使い魔にしようかって悩んで……するかどうかはともかくもう一度会いたいかな」
「ならば……捨て身は控えて欲しい、一度やれば癖になりそうだからな」

こくとフェイトは深く頷いた、彼女は今まで張り詰めっぱなしだった少しだけ緩める。
今までそうでしかなかったが初めて余裕ができた。
フェイトは立ち上がり自然体で剣を取り、なのはも片手だけを変異させ隣に立つ。

「……では片付けようか、捨て身以外のやり方で勝った方がこちらの後味は良いしな」
「うん、そうするよ……貴女のような良い人、優しい人にそういう思いはさせたくないから」

もしかしたら初めて会ったかもしれない人種で、そんな人を苦しめること等したくない。
それは勝手過ぎる、もしかしたら怒りを抱いた母よりも。
二人は頷くと剣と拳を構え、ベール=ゼファーとレビュアータの方を向いた。

「……こういうことに成ったよ、ベルさん」
「すまんね、そちらの予定を変えさせてもらったぞ、大魔王」
「……まあこれでも良いわ、攻撃面では劣るも粘り強いでしょう」
「ふん、何を考えてるやら……まあいい、潰させて貰おう、合わせろよ、フェイト嬢!」
「はい!」
「クオン、アリサ、一瞬でいいから動きを止めてくれ、それで奴らを潰す!」
『了解!』

クオン達の援護射撃を受けながら二人は飛び出す。
なのはは燃える拳を突き出し、フェイトは輝く白刃を振り被る。

「……天竜功、そして……龍炎から龍舞じゃ!」
「はああっ、三千世界の剣!」

二人はプラーナを輝かせ、最後にして最大の攻撃を放った。

「ごめん、レビ、貧乏くじだ」「ううん、遊べて楽しかったよ、ベル」

爆音が響き、魔王たちは完膚なきまでの蹂躙され、そして敗北した。



そんな光景がベール=ゼファーのコンパクトに浮かぶ。
それは過去に起きた情景を映し、ベルの腹心に見せた。

「……以上が第八で起きたことよ、リオン」
「ベル、何ともはしょりましたね」
「だってまだ序章だもの……」

ベール=ゼファーは苦笑しながら肩を竦めた。
知りたがりのリオンとして気になるがそれも、別の事が気になった。

「ベル、ならば何故フェイト・テスタロッサが『そこ』に居るのです?」

彼女の背後には再生力を強める溶液に浸かるフェイトの姿、治められる前に重症だったのか意識はない。

「ああ、これはその後ね……結界の戦いで私は倒され、レビュアータも鎮圧された。
彼女は私に誘われたからとそれだけで済み、そもそもの原因である結界の境界を強めた後迷宮に篭ったわ」
「ふむ、それで?」
「この子はその後龍使い達と別れて……プレシアに戦いを挑んだの、刺し違えようとしたの」

はてとリオンは首を傾げた、命を捨てるようなことはしないと決めたはずだ。

「違うのよ、リオン……この子は自分と母のような存在が三人のような善良な人間に迷惑をかけてはいけないと思ったの」

それは抱き始めた希望を遥かに超える思いだった、そして結果が知られなければいいと考えた。
すなわち死体が見つからず、死の真実に繋がる情報が出なければいいと。

「敢て言えば薬が効きすぎた、龍使いの言葉は響きすぎてしまったの……眩しく、だから絶対飛び火させてはいけないとね」

そう考えたフェイトはまず悔いだった狼に会い、使い魔とした。
但し、自分が死ねば使い魔も死ぬので細工をした後に。

「使い魔化した狼はプレシアの拠点の中枢を破壊後転移で離脱……第八の有力勢力である管理局に行ったわ。
人造魔術師計画の情報と引き換えに延命処置を望んだ、これなら管理局にも得で……プレシアの同類への対策にもなるから」

自分と同じ存在を出さないことをフェイトは望んだ、そして後事を管理局に任せ彼女は決戦に挑んだ。

「……といっても決戦はさして長くもない、拠点中枢の破壊で虚数空間に落ちかかっていたから」
「人間では生き延びられませんね……成る程虚数空間の制御にプレシアの手が割かれ、その瞬間を狙った」
「そういうこと……勿論その後は虚数空間に二人共落ちるから実質的な自殺ね」

だが、そこでベール=ゼファーは彼女に珍しく同情するような表情をした。
何故ならフェイトの思いは遂げられなかったからだ。

「フェイトは相手の力量を知らなかった、精々地球であった龍使いと同程度と思い……それでは不足だった」
「……ならばやはり返り討ち?」
「いいえ、彼女の自分達だけで決着させるという戦意はかなりの物で……捨て身以上に凄かった、相手の守りは突破したわ。
……でも、奪ったのは片腕だけ、そこでお終いよ」

ぽいとベール=ゼファーはフェイトとともに回収したらしいプレシアの右腕を放る。

「反撃の拳打で魔力の源、リンカーコアを砕かれ……彼女はそのまま虚数空間に落ちたわ」
「……プレシアは?」
「大魔導師の力量は中々ね、無事逃げ……今は転移を繰り返し居場所はわからない、私でも手が出せないわ。
……少し気になるのは幾つかのポッドと共に消えたこと、フェイトの『予備』が存在するかもしれない」

結局はプレシアが動き出すのを待つしか無い、当初の計画通りに。
彼女は数カ月後ジュエルシードを狙うだろう。

「……ベル、この子はどうします?」
「再生を待ち解放……そうね、あの龍使いに引き渡しましょう、何か良い影響を与えてくれるかもしれない。
……リオン=グンタ侯爵、私は暫く第八世界で幾つかの計画を並行し進める、その間ウィザード打倒を任せていいかしら?」
「承りました、ベール=ゼファー……女神だった頃の残滓が見え隠れする貴女は嫌いではないもの」

恭しく一礼する、ベール=ゼファーのこういう甘さは嫌いじゃない(だから共に居て、荒野の魔王にも慕われてるのだろう)

「ベール=ゼファー、話の中で出た……レビュアータ、ブンブン=ヌーはどうします?」
「レビは放っとくわ、動かし難いから寝させておく……死体マニアの方はこれを土産に機嫌を取っておこうかしら」

プレシアの肩手を持ってベルは答える、一部でも死体マニアの彼女は欲しがるだろう。
それで隕石を叩き落としたのを誤魔化した後適当に宥め機嫌を取り利用すればいい。
フェイトとなのはへの試練に使えばいいと彼女は考えていた。

「ま、第八世界で暴れてもらいましょう、本番のプレシア襲撃に合わせ鍛える……多分私では殺すしか出来ないから」

魔王では守ることは出来ずそれ以上が出来るのは人間だけ、だから二人の希望の前に立ち塞がる試練と成ろうとしていた。
ベルは彼女らしからぬ真摯な表情で『世界を守る計画』を組み立て始めた。




第二話『呪い』に続く




とりあえず一話完結です、次は少し場を変えて話を展開します。
サードで幾つか能力等のデータが変り、または消えました・・・戦闘の後半にがっつりそういうのが有って泣く泣く消去。
・・・新しいリプレイ出ればイメージし易いんだけどなあ。



[34344] 幕間 呪い1
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:8810ea16
Date: 2014/12/26 21:47
幕間 呪い



ドゴンと破砕音がフォートレスに響く、龍鱗に包まれた拳に打たれ壁が砕け散る。
それをやったのはなのはだ、彼女は誰かへの怒りを拳に込めて放ち続けた。

「どいつも、こいつもっ……」

更に破砕音が響く、彼女が思うのは再び会ったフェイトのことだ。
フェイトをベール=ゼファーの手紙と共に託され、事情を聞き今はアリサの所に休ませている。
彼女から聞いた情報になのはは怒った。
そうして八つ当りするようにレビュアータの迷宮に来たのだ。

「子供に何て物を背負わせる……何考えているんだよ、全く!」

フェイトから聞いたプレシアの野望、そしてベール=ゼファーの計画になのはは怒っていた。
彼女が背負ってしまった(背負わされた)その荷は余りにも重すぎる。
その腹立ちを解消しようと何度も何度もフォートレスの壁を殴り、そんななのはに恐る恐る子狐姿のクオンが聞く。

「くうん……」
「え、何じゃ、クオン……何時まで八つ当たりしてるんだって?……この不満を出し切るまでだ!」

なのはは怒りつつもそれを見せては唯でさえ憔悴するフェイトに悪影響で、だから一旦吐き出してしまおうと兎に角暴れる。
が、なのはに対しクオン以外から注意の言葉が掛けられた。

「だからって、暴れても怒りが収まるのは一時だろうに……」
「ちっ、魔王蛇か」

パジャマ姿の少女が寝ぼけ眼を擦りながらなのはにクレームを入れる。

「そうそう、お前さん等にボコられた可哀想な蛇さ……荒れてるね、ちょっち五月蝿いよ、友似の人の子」
「良いから黙ってフォートレス最奥で寝ていろ、貴様もそれが望みだろ、『怠惰』?
……というか誰と間違えているかは聞かん、がその呼び名は止めろ、それは何時か越える相手だ」
「……そう、まあ今のあの子には興味ないからそうしよう、多分神でなくいや『魔』ですら無いだろうから」

なのはの八つ当たりで起きたのかレビュアータ(正確にはその端末)が出てきた。
なのは達に敗北し、主犯でないことと結界の不安定化が態とでないから見逃すことにした。
また腐っても魔王の中でも特に協力な『七罪』の一角であり、なのはとしても刺激したくないから放置にした。
正直言えば二度と会いたくない相手だがレビュアータの方は違うらしい、彼女は微妙に不機嫌そうにしながら話しかけてきた。

「……ここで暴れられたら寝れないっての、外でやってよ」
「外ではやれん、ここなら壊しても問題無いだろうし……」
「いや、直すのは私と眷属達なんだけど……」

なのはに邪険にされレビュアータは顔を顰め、彼女は少しだけ真面目な目付きになってめげずに続ける。
その言葉に、思わぬ内容の言葉になのはは手を止めた。

「暴れても何にも成らないよ、何せその激情は簡単には消えないし……消さなくてもいいもんだ」
「何じゃと?」
「……そもそも人ってのは複雑でね、一過性の怒りなら唯の興奮か熱狂からだが。
でもその怒りは情からだ、そういう善性からの物は残した方がいい……怒りの心は大体が非生産的な結果に繋がるがお前さんのは別だろう」

顰め面に僅かな好意を滲ませながら、レビュアータはなのはに笑いかけながら言った。

「人間は神より弱いけど甘いから……偶に面白いことをしてくれる、あんたも多分そっち側だ」
「……まるで、人を良く知っている風じゃな?」
「これでも長生きしててね……そういう訳だからその怒りは取っときな、そんでベルにでもぶつけると良い。
……それとその怒りがどこからか、その根の部分の情は見せてもいいと思うがね」

どこか楽しむような、気を利かすような表情を彼女はなのはに向ける、にいと笑ってこう言うのだった。

「フェイトってことに遠慮せずぶつかってみろ……案ずるより生むが易し、人間ってのは結構タフに出来ている。
まああれだ……騙されたと思ってやってみな、少しだけ五月蝿いのは我慢してやる」

言うだけ言って彼女は踵を返す、その時見えた横顔に何故かなのはは母性的なものを感じた。
優しい視線と優しい笑み、人を想う女神が居るとしたらこういう表情なのではと思わせる物だった。

「……ふん、前回の暴れっぷりとどちらが本性なのやら?」
「くうん?」
「もう暴れんよ、クオン……悪いがひとっ走り行って、フェイトを連れてきて欲しい」

なのはは僅かに考えこんだ後クオンにそう頼む、どこか開き直ったような顔をしていた。



暴れて壊したフォートレスの一角で、なのはは腕を組み待ちながら考える。

(……私が知るフェイト嬢の姿は然程多くない、ならば『その中』で『最も印象的な物』を信じても構うまい)

浮かぶのは捨て身を止めて立ち直ったフェイトの姿だ。
それが最も印象が強い、だからなのはは信じて行動することにした。

「信じるぞ、変わらないことを……」

なのはが決断しそう独りごちた時だ、近づいてくる気配があった。
タシタシタシと爪がフォートレスの石床を蹴る音がする、クオンがフェイトを連れてきたのだろう。

「来たか、フェイト嬢」
「なのはさん?」
「……離れておれ、クオン」

クオンから降りたフェイトの前になのはは立ち、更にクオンは下がらせる。
そして、真剣な表情でフェイトに話しかけた。

「フェイト嬢、ベール=ゼファーからの書状で大体のことは知っている……母親が企んでいることとかな」
「……ごめんなさい」
「何故謝る、フェイト嬢が何かしたわけではあるまい?」
「止められなかったから……もしかしたら石が落ちるのはこの世界かもしれない、そうでなくてもどこかの世界が滅ぶかもしれない」

フェイトが泣きそうな顔で謝る、止めたくて、でも止められなかったことを彼女は悔やんでいた。
だが、なのはが欲しいのはそういう言葉ではない。

「違うな、フェイト嬢……私が聞きたいのはそれではない」
「なのはさん?」

訝しむフェイトに見えるようになのはは拳を握った。
なのはの表情にある戦意に気づきフェイトは咄嗟に魔剣を抜く、だがわけが分からず戸惑っている。
そこに構わずなのはは拳打を放つ。

「謝辞など聞きとうはない、大事なのは……まだ折れていないかじゃ、龍炎!」
「きゃっ、何を!?」

魔剣の腹を盾のようにしフェイトは自分を守る、が爆炎に圧され数歩蹈鞴を踏んだ。
フェイトは信じられないとなのはを見る。

「な、なのはさん、何で!?」
「……フェイト嬢の力が居ると思ったからさ、プレシアとやらを止めるのにな」
「母さんを?」
「そうだ!でなくばどこかの世界が滅ぶのだろう?……それがここだろうとそうでなかろうと関係無い。
私は当然止めに行くが一人では手が余る、相方を都合せねばならん……その候補のお主が潰れてないか、試したいのじゃ!」

慌てた様子で離れて見ていたクオンが止めようとする、がなのはは指を鳴らすとその前に光の壁が現れた。
フォートレスに元々有った攻勢結界だ。

「動くな、クオン」
「ぐるる!」
「……必要なことだ、そして何時かやらねばならんことでもある、黒焦げになるから動くんじゃないぞ」

怒った様子で唸り声を上げたクオンに警告すると、なのはは開いた間合いを再度詰める。
大きく振りかぶった後拳をフェイトへ突き出した。

「打たれるままか、フェイト嬢!?」
「わ、私は……」
「私は?その続き何だ!?」
「私は、あの人にもう一度……」
「ならばどうする!?」
「う、うわああっ!」

ブンと刃が風を切る、フェイトは叫びと共に半ば反射的に魔剣を振るった。
拳の届く距離の外から白刃が煌めき、それはなのはの肩へ叩きこまれる。

ガギン

しかし弾かれた、刃の当たったそこは服が破れその箇所から『白と黒の龍鱗』が見える。
龍鱗がフェイトの打ち込みを弾いたのだ、恐るべき強度で鱗に僅かの損傷もない。

「意気は良し、が……足らん!」

まだ足りないと、これでは相棒足り得ないとなのはは言い捨て、突き出しかけていた拳を最度動かす。
慌てて先ほどと同じようにフェイトは剣で防ごうとし、その瞬間バチと何かが弾ける音がした。
なのはは雷光を纏わせた拳を叩き込む。

「防御だけでは勝てんぞ……雷竜!」
「きゃっ!?」

拳に纏わせた雷光が防御を浸透しフェイトの体を貫く。
ガクと膝を着いたフェイトを見て、なのはは睨み叫んだ。

「その程度か、立て……プレシアは私と同じ技を使うのだろう?ならばこれで倒れるようでは話にならん!」

そして、同時になのはだけで勝てないであろう理由、同じ技を使うならそれはアドバンテージに成らない。
龍使いであることに加えて相手は大魔導師なのだから。

(こちらと互角か下と思う程楽観的ではない、技は上と考えその上で大魔導師だ……こちらに任務で来た師と会ったかはさておくとし……)

『次世代ウィザード用兵器』のデータ集めにデバイスを調べていた師と会った可能性も一応有る、がそれはこの場で考えることではない。
同門かそうではないか、重要だがそれよりもフェイトの今を確かめるのが先だ。

「恐らくプレシアに最も『近い』そして最も『近づいた』のはフェイト嬢……ならその事実、因縁が最後に勝負を別けるかもしれない」

戦いは実力だけで決まるものではない、人の心が生む何らかの要因がそれを超えることも有る。
なのははフェイトにそれを求めていた。
そして、彼女のこれからを考えればその方がいいとも思っていた。

「フェイト嬢、お主は一度敗北した……が、それで終わりか!?」
「違う!」
「ならばどうする……母に会って、そしてその後は!?」
「止める!その後どうするかはまだ決まっていないけど……」

そこでフェイトは逡巡し、だけどちょっとだけなのはは声音を緩める。

「その迷いを悪くは言わんよ、人の命の問題だからな。
がそれはその時考えることで、今はそれ以前のことだ、まだ折れてないことを……自身の行動で、その剣で、魔剣の齎す『呪い』で示せ!」
「……わかった、行くよ!」

コクとなのはの言葉にフェイトは頷く。
一度信じた、戦友と読んでくれた人が何かを試そうとしている、ならば答えねばと心に決めた。
そして、それが母に辿り着くのに無駄になるとも思わなかった。

「はあああっ、魔剣よ……三千世界の剣!」

フェイトは腰溜めに構えた魔剣を大きく振るい、その刃縁に沿って空間が裂けてそこから無数の刃が打ち出される。
更にフェイトは射出された刃に混じって駆けるとなのはに斬りかかった。

「来い、フェイト嬢」
「言われなくても……行っけええええ!」
「良き気合だ、ならば応えよう……九頭竜!」

ニッと笑ってなのはは手刀を振り上げた、フェイトの全力に彼女も応えるために。

「更に、気功……否、爆功である!」

ボウと掲げた掌が輝く、活性化したプラーナによる物だ。
そして、なのはは全力で腕を振り下す。
その瞬間ゴウっと空間が揺れる、鋭さと重さを兼ね備えた一撃の創りだす衝撃波だ。
それは無数の刃と、フェイト自身までもを容易く吹き飛ばした。

「あ、ああっ!?」
「……終わりか、フェイト嬢……ならばここまでよ!」

フェイトが背から勢い良く石床に叩きつけられた、がなのはは容赦なくそこへと走る。
ぐっと握った拳を全力で振り被った。

「……終わりか、もう諦めるのか!?」
「ま、まだ、私は……」

言葉だけでフェイトは叫び返す、が体は意思について行かない。
だけど、フェイトはまだ終わらないと、諦めてたまるかと必死に体を動かそうとする。
何故なら、これが母に敗北した瞬間と重なったからだ。

(私は母さんに負けた、全力でも届かなかった……全力の先が、その上での一太刀が要る!)

そう全力など当然で、必要なのはその先にある限界の更に先だ。
運良く拾った命を再戦に、勝利に繋げるためにフェイトは魔剣を強く握った。
その時だった、フェイトの意思に従い彼女のプラーナが燃え上がる。
なのは等に比べれば些細と言っていい活性化だ、だがフェイトが起こした初めてのそれに反応するように魔剣が唸りを上げた。

(……魔剣よ、応えて!)

魔剣の刀身がフェイトのプラーナの輝きを受ける、それを受けて刃が照り返し同じ輝きを纏った。
その瞬間フェイトの体にかつて感じたことのない活力が宿る。

(これなら……)
「おう、来るか!?」
「……うん、行くよ、なのはさん!」

宣言と共にギュンと彼女が加速する、一瞬でなのはの目前に現れた。
いや正確には速さだけではなくなのはの動きを読んで拳を掻い潜ったのだ。
その精度、心を読んだかのような動きをなのはは知っていた。

「ぬう、これは……サトリか!?」
「魔剣が教えてくれた、こうすれば……やああっ!」
「……ぬ、この軌道は刀拳魔断、それに死点打ちか!?」

ギュオオオッ

「ぐおっ、魔剣の力、ここで引き出すか……」

刃の先端が生き物のように巧みに動く。
攻撃の起点である剣や拳に杖を砕く変幻自在の剣と、防御の隙間を打ち抜く精妙なる剣技が合わさる。
チッとなのはの肩口の鱗が弾け飛び、ツウとそこから血が滴り落ちる。

「サトリに刀拳魔断、死点打ちまでか……」

拳を解いてなのはは傷を押さえた、そして体を震わせる。
何故か彼女は殺気を消して俯き、と思うと行き成りなのははバッと顔を上げてフェイトに笑いかけた。

「見事だ、フェイト嬢!」
「な、なのはさん、それじゃあ!?」
「難癖つけよう等出来ん一撃だった……お主こそプレシアに届き得る刃よ!」
「や、やったあ!」
「……ふん、この体育会系共め」
『あ、ごめん、クオン』

なのはは満面の笑みで合格を告げてフェイトも笑い、呆れたように忘れられていたクオンが愚痴る、この扱いに彼女とて切れていた。



「ぐおおっ、獣の殺意込みの咆哮連打された、クオンには悪いことしたがやり過ぎだろう……」
「いや当然の結果だろう、人の子よ」
「……魔王蛇か、また文句かい?」
「心配だよ、その傷のな……」

フェイトを認めた後、少し前まで寝てたのに無理させるなとクオンに怒られまた獣化し彼女を連れてった後、残されたなのはの体を気遣う。
何故なら、フェイトの魔剣の性質が問題だからだ。

「腑抜けた一刀は弾かれただろうが……が最後のは違うだろ?何せあれは……」
「ああ、『神殺し』だ」
「ベルと私を、古代神をあの子は斬った、それ故にあの剣はその性質を獲得した……神造生物たる竜のプラーナを持つ身にはキツイでしょ」
「……ふん、痛いが直ぐに治るさ、それにこの痛みはフェイト嬢への期待だからかな……悪い気はせん」

ずきずきと痛むこの傷もフェイトへの心強さに繋がる、だからなのはは肩を撫でながら笑みを浮かべていた。
魔剣による『呪い』と言っていいその痛み、傷の深さがフェイトの持つ可能性そのものに感じられた。

「それにしても……」
「どうしたよ、人の子?」
「いや面白いと思ってな、竜は神殺しの神造生物で、あの魔剣も神殺し……」
「成る程、贅沢なことだ……でも、大魔導師とやらを相手取るには良い箔付けかもな」
「……全くだ、これなら少しは勝負に成るだろうよ」

なのはとレビュアータはククッと面白そうに笑った。
二人の神殺し、いい感じにハッタリが聞いているなと、そういうのも理外の部分で何か役に立つかもしれないと思って笑った。




幕間一、終わり。
とりあえずジュエルシード編を前に短編的なものを・・・
後Asへの伏線も短編で書いてく予定。

・・・コメント返信 神聖騎士団様・寧ろ精神面はなのはの方が危なかったりするかも、中にあかんのが憑いてるし。



[34344] 呪い2&次章・序
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f9be622
Date: 2016/04/15 18:58
海鳴でも屈指の豪邸『バニングス』邸、そこに一人の見習いメイドが新しく入った。
慣れないメイド服で洗い物や掃除の手伝いをする少女の名はフェイトと言った。

「……鮫島さん、洗ったお皿はどこに?」
「ああ、後で乾燥機に入れるので纏めておいてください」
「はーい」

彼女は『屋敷の主人の一人娘』の仲介でここに済むことことに成ったのだが、世話になりっぱなしでは行けないと自ら手伝うことにした。
初めてで多少ぎこちないながら、進んで家の仕事を手伝う彼女は屋敷に好意的に受け入れられている。
このことにアリサやなのははほっとした。
が、一見問題なさ気なフェイトの新生活に一つだけ例外と成るものが存在した。

「フェイト、いる?」
「うんいるよー、何、アリサ?」
「『あいつ』、最近様子が可笑しかったのよ、様子見ついでに探してきてくれない?」
「……行ってくる」

時々彼女はとても疲れた様子で何処かへ向かう、何故か『布に包まれた棒状の物』を手にして。
彼女の新生活、その唯一の悩みは一人の友人に関係した。

「ふう、フォートレスの一角を魔王蛇に借りれて幸いじゃ……ちょいと弄って要塞化するか」
「こら、何物騒なことしてるの!?」
「げげ、フェイト!?」
「……いい加減にしなさい、なのはっ!」

魔剣によるアッパースイング(情けで剣の腹だが)を受けてなのはが吹き飛ぶ。
彼女のもう一つの仕事にして悩みの種、それはなのはという破天荒な人物への突っ込みである。



『……はて、何でこうなったのか……』

事の始まりはフォートレスでの他愛のない会話だった。
キンと爪と刃が火花を散らす、二人は再会以来時々手合わせしている。
数度やり合った後二人は殆ど同時に膝を付く、今回は引き分けのようだ。

「……ふう、ここまでだな、フェイト嬢」
「くうっ、駄目だ、勝てなかったー!」
「それはこちらの台詞じゃよ……先輩としてのメンツが有る、勝ち越したいところだが」
「やだよ、対等でいたいもん、だから負けないから!」

強気の様子で言い放つフェイトになのはは笑みを浮かべる、以前のような危なっかしさが無いからだ。

「対等か、では共に強くなれるよう頑張ろうな」
「うん、お互いに……あ、そうだ」
「む、どうした、フェイト嬢?」
「……その、フェイト嬢っていうのやめて欲しいかなって、仲間で友達でしょ?」
「ふむ、ならばこれからはフェイトで……ならば、そっちも『さん』は要らないぞ」
「うん、宜しく、なのは!」

こうして二人はお互いの呼び方を変えた、フォートレスに緩やかな空気が漂う。
が、その空気はなのはの発言で変わった。

「そうだ、折角じゃし強くなるために合宿と行かんか、フォートレスに篭って訓練漬けはどうじゃ?」
「……あの、なのは、学校とかは?」
「今は春休み、問題ない」
「そう、それなら……うん?待って?……課題とか有るんじゃないの」

フェイトは疑問を覚える、学校に通った経験はないがそういうものだと知識に有るので問いかける。
するとなのはは胸を張って答えた。

「問題ない、最終日にまとめてやればいいのじゃ……それが長期休暇の醍醐味というものだ!」
「……な訳有るかあっ!」
「ごふっ!?」

開き直ったなのはにフェイトは反射的に魔剣を振るう、腹の打撃とはいえ神殺しの一撃でなのはは吹っ飛んだ。
フェイトのなのはへの突っ込み一号である。
この時以来彼女に突っ込みを入れるのがフェイトの仕事と成った。



例えば、苦手な『国語』の宿題から逃げた現実逃避気味の彼女に。

「フェイト、一緒に国語の課題を片付ける約束だったんだけど……逃げたみたいだから連れてきて」
「……行ってきます」
「ふはは、フォートレスの要塞化は順調だ……見ておれ、大魔王共!」
「……さぼるな、なのはっ!」
「ごふっ!?」

例えば、苦手な『古文』の宿題から逃げた現実逃避気味の彼女に。

「……フェイト、一緒に古文の課題を(以下略)」
「…………行ってきます」
「ふはは、レビュアータとの練習試合は為になる……見ておれ、大魔王共!」
「だからっ!……さぼるなっ!」
「ごふっ!?」

例えば、苦手な『歴史』の宿題から逃げた現実逃避気味の彼女に。

「…………フェイト、一緒に歴史(以下略)」
「はあ……」
「ふはは、今日は体力をつけるべくフォートレス走破訓練を……」
「さぼるなって言ってるだろー!」
「ごふっ!?」

こうして何時の間にやらフェイトはなのはの世話係と成った。
そして、そうする間になのはへの遠慮、またプレシアとの別れ以来時々見せる憂いの表情が消えていった。

「ふっ、これも我が計算のうち……以前より大分元気になっただろう!」
「嘘つけっ!」
「ごふっ!?」

今日も今日とてフェイトの突っ込みでなのはが吹っ飛ぶ。
一応元気が出たのは確かだが、同時にフェイトが溜息を吐くことも多くなったのは気のせいではないだろう。
というか唯の苦労人化の可能性の方が高いが。



さて、計算かそうでないかは兎も角フェイトは大分元気になった。
なのはが馬鹿をやることで思い詰めがちなフェイトを変えたのは確かだ。
が、それは良いことばかりではない、ある日ちょっとした悲劇が起きる。

「きゃ、きゃああっ!」
「あ、やべ、外で竜化状態での水練やってたら人に見つかってしまった……」
「く、食わんといてー!?」
「ううむ、魔物が居るからとフォートレスでの水練を断念するのではなかった、というか一応隠蔽型の結界張ったんだがなあ」

運悪く龍の姿を、『潜在的にかなりの魔力を持つ少女』に見つかってしまった。
止むを得ずなのはは軽く脅かすことにした、このことを喋らないように。
怯える少女を見下ろし軽く凄む。

「がおー、我はこの川の主である……誰かに言ったら祟るぞー!」
「ひ、ひい、言いません!」
「……うむ、これで良し!」

いいやそんな訳はなかった、そして傍目からどう見えるかをなのはは気づかなかった。
具体的に偶々近くに来ていたフェイトがこの光景を見てしまった。

「何してるのさ、この馬鹿なのはあっ!」
「ごふっ!?」

口封じの瞬間を、唯脅かしていると思ったフェイトは怒りの突っ込みを入れる。
魔剣の一撃を受け、なのははズズンと没む。

「ふう、全くもう……ほら大丈夫?」

なのはを黙らせたフェイトはにっこり笑って少女に笑いかける、がフェイトもまた傍からどう見えるかを失念した。
巨大な竜を殴り倒す、間違いなく軽いショッキング映像だった。

「ひ、ひええ!?」
「え、あれ?」
「……そりゃあ自分の姿を見てみい、どう考えても『女修羅』じゃぞ」
「うっさい、誰のせいだ!」
「ごふっ!?」

もう一度フェイトはなのはを殴り倒し、涙目の『濃い目の茶髪の』の少女を宥めようとする。

この時なのはもフェイトも『茶髪の少女』も誰も知らなかった。
三人が無二の親友にして戦友に成ることを。



最初の出会いは余りにも温度差が有った、が同時にそれが元でほんの少し良い方向にも向かうこととなる(尤も少し先のことだが)



・・・幕間『呪い・二』


次元世界のどこかで、初老の男性が密かにある計画を推し進めていた。

「アリア、ロッテ……『書』はどうなっている?」

男性は周囲の立体映像を見ながら背後に控える二つの気配に、自分の使い魔に問いかけた。
二人の、獣の如きしなやかさと力強さを感じさせる二人の女性がそれに答えた。

「『書』に選ばれた少女が交通事故に遭い……幸い軽症だったので既に入院。
但し、両親の方は重症、昏睡中です……近日中がヤマかと」
「……あの世界の技術じゃ多分無理じゃないかな」
「そうか……ある意味、好都合か?」

告げられた残酷な事実に男性は同じく残酷な内容の答えを返した。

「あの少女には気の毒だが一人の方がこっちにとって都合がいい……『書』を封印する為なら手段は選ばん。
アリア、ロッテ、私達が少女の今後の状況をコントロールできるように、誰も干渉できず常に私達の監視下にあるようにするんだ」

男性には人並みの良心があった、孤独な少女を哀れに思っていた。
だが、それ以上に優先する思いがあった、彼は悪人ではないが善人とも言い難かった。
ある危険なロストロギア、それを完全に封印する為なら彼は他人の命を犠牲にする事を厭わないだろう。

「全ては、あれを……闇の書を封印するためだ」
『はい、お父様!』

使い魔は頷き、男性の望み通りの状況になるように書類の偽造に向った。
残された男性は物憂げに周囲の立体像を見やる。
映像の一つに黒い装丁の本が写っている、男性はそれを憎憎しげに見ていた。



「……つまり、ご両親の為にお守りが欲しかったと」
「は、はい、だから食べないで、見逃して。
戻らなあか、戻らなくちゃいけないんです」
「だから、別に食べないから」

チャキッ

「やめい、構えるな、フェイト!」

その気は無いと尾を小刻みに振りながらお守り二つ大事そうに持った少女の話を聞く。
話を聞くと、彼女達は交通事故に遭ったそうだ。
数日で入院できた少女に対し二人は大怪我を負い今も目覚めないとの事だった。
その上、見舞いから帰る途中数日が峠になると聞いてしまったらしく神社までお参りし、その帰りにここに来たらしい。

「ううむ、このような話を聞いては……」
「なのは、何とかならない?」
「……暫し待て」

少女の話を聞いたなのはは少し考えた後、念を凝らし自らが持つ力を引き出す。
フェイトに言われるまでもなく見殺しには出来ない。

こつん

竜が尾を数度振るう。
少女の頭の上に鱗が二枚落ちた。
そては白く淡く輝いていた。

「あいたって、何やこれ、鱗?」
「白竜の癒し……その鱗に治癒の力を込めた。
それをお守りと共に両親の元へ届けよ、少しはマシだろう……それやるんで我のことは秘密な」
(……ふふっ、何だかんだお人好しだね、なのはは)

それを聞いて再び泣き出した少女を苦心しながら何とか宥める。
そして、別れ際に自分の事を内緒にしてくれと頼んで、なのはとフェイトは少女を見送った。



それから数日が経った頃だった。
なのはは再びその池にその身を横たえ、フェイトはその頭の上を陣取り。少女のことを気にしていた。

「……どうなっただろう?」
「助かるといいんだけど……」

少女がどうなったかについて思いを寄せる。
あの鱗、癒しの力を込めたプラーナの結晶があっても確実に助かるわけではない。
精々失われ消えていく生命力の数割を贖う程度だろう。
考えても答えが出ずそれでも気になっていた竜は近付く気配を捉えそれが例の少女だと気付き一瞬躊躇った後聞いた。

「……あれからどうなった?」
「……ありがとう、本当にありがとうございます」
「ならば、二人は!」
「あの鱗のおかげで助かりました、お医者さんも奇跡だって……」
「そうか、それはよかった」
「やったあ!」

なのはとフェイト安心し、ほっと息を吐いて笑みを浮かべる。
その後何度も礼を言う少女に自分達は大した事をしていないと止める。

(……この力が戦い以外の、人助けの役に立つとはな)

特に鱗が無ければなのはは真っ赤になっていただろう。
表面上は落ち着いたように見せながら少女の今後を聞く。
昏睡状態から復帰したが少女の親の怪我が完治するのはまだ先らしい。

「……二人とは暫く離れ離れになるみたいや、おじさんがいい病院を紹介してくれてなあ」
『……おじさん?』
「グレアムおじさん……外国の大きな病院なら二人の怪我は良くなるって」
「それまでの間、お主はどうなる?」
「一人で暮らせるの?」
「家事とかは家族で分担してたから少しは……だから、多分一人でも特に問題はあらへん。
お金とかはグレアムおじさんが何とかしてくれるらしいし」
「そのおじさんがどういう人柄か知らぬが親切すぎて怪しいんだけど……」
「まさか、ロリ……おじさんとやらが何かしたら私達に教えよ」
「へ、何でや?
「いいから何かあったら言え、わかったな?」
「……ようわからんけど、わかった……」

なのはは自分と因縁のある某冥魔王を知るだけに、その手の倒錯的趣味の持ち主の恐ろしさを知っている。
だから(もしかしたら善意で援助してくれているかもしれないが)グレアムおじさんとやらに関して念を入れておいた。
世の中には小さい女の子にしか興味を持てない人種がいてそのグレアムおじさんとやらが同類ではないとは限らないから。

「ああ、そうや……この鱗返すわ、全部これのおかげや」
「……役立ったならいい。
いや、待て……お主から良くないものを感じる、片方持っていけ、常に離すなよ」
「何や、良くないものって?」
「言葉にはし難いが……プラーナ、生命力に乱れている気がする。
心労や看病疲れの可能性もあるが念のため渡しておこう」
「えーと、何から何までありがとうございます」
「構わん、私のプラーナが何かの助けになるなら幸いだ」

少女から感覚的なものでしかないが奇妙な事に気づき、なのはは再び癒しの力を込めた鱗を渡した。
何度も礼を言い頭を下げる少女をむず痒い気持ちに耐えながらボロが出ない内にさっさと切り上げる事にする。

「……そういえば、今更だがお主の名を聞いていなかったな」
「……そういや、あー、ほんまやった」
「私はそうだな……ヌシで構わんだろう、この川の主ってことで」
「私は説明が面倒だし付き人一号で」
「……今考えたんちゃうんか?」
「少し訳ありだ、その内改めて名乗るから許してくれ」

行き成り人の姿を見せても少女を驚かせるだけだとなのはとフェイトは思った。
だから、適当な名前を教えて後で必要なら名乗ればいいということにしておいた。

「はあ、ようわからんが訳ありならしょうがないな。
……それはともかく八神はやてや……よろしくな、ヌシさんに付き人ちゃん」

ちょっと呆れたように笑いながら少女、はやてはなのはに名乗る。
又会うと約束し手を振りながら(竜は手の代わりに尾を振った)なのは達とはやては別れた。



「……例の少女の両親が生き延びるというのは予想外だったな。
だが、治療のために国外の病院へと移る……これで問題はあるまい」
「はい、お父様、その通りかと……最初の予定通り、あの少女一人で生活するように仕向ける事は可能です。
幸いというか少女がある程度家事をこなせるので外部の人間の出入りは避けられます」
「そうか、それならこちらの予定は変わらないな」

男性は背後の女性からの報告に満足げに頷いた。
そうした後、何か無数の数字が書かれた一枚の書類を手に取った。
それには少女の写真が添えられ少女に何か異変が起きている事を示していた。

「……これは本当なのか?」
「はい、闇の書によるリンカーコアへの負荷が確かに……」
「あの子、気付いていないけど大分進行してるね」

家族との別れ、それに続けて少女に新たな苦難が襲いかかっていた。
男性は少女を哀れに思ったがそういった感情を自らがするべき事のために押し殺し自分達の目的を優先する。

「(許してくれ、書を止めるためだ)……アリア、ロッテ、監視体制を強化しろ。
特に彼女の家とその周辺を重点的に、だ」
「お父様、情報の秘匿のためサーチャーの使用は最小限に抑える事になります。
その場合、彼女が外出した際の監視等に問題が出ますが?」
「……ふむ、その位は構わないだろう、魔法技術無き世界で我等の手に余る事態が起きる事は考えにくい。
さっき言った通り彼女と彼女の周りから目を離さなければ何の問題もあるまい」
「では、その通りに進めます」



「はやて、私が言ったものは持ってきたな?」
「持ってきたで、ヌシさん、この変な本を見てほしいんや」
「……どうだ、フェイト?」
「うん、強い魔力を感じるよ」

なのは達とはやてはその後も時々会い話したりしていた。
それから、暫くしてはやての体に異変が起こった。
彼女の半身が麻痺しそれが段々と悪化していったのだ。
今のはやては杖の助けが無ければ動けなかった、更に悪化した場合車椅子の世話になるだろう。

「この本が怪しいのだな?確かに奇妙な気配を感じるが……」
「気付くと家にあったんや……黒いし変な文字書いてあるし、気味悪くて……」

医者も原因がわからない彼女の体の異常、二人は彼女の周辺に何かあると考えた。
彼女に何か由来不明の、得体の知れない物が無いかと聞いたところこの本の事を思い出したのだ。

「なあ、ヌシさんに付き人ちゃん、この本が私の体となんか関係あるんか?」
「ふむ、暫し待て」
「……なのは、どうするの?」
「調べるのも面倒だし……」

なのははその巨大な竜の頭を持ち上げ、黒い本を器用にくわえ持ち上げた

ばくん

「え?」

もぐもぐ

「ちょ、ヌシさん!?何してはるんや、そんな怪しいもの食べたらあかんって!」
「もう、面倒くさいから聖竜騎士の力で消滅させてしまおうかと」
「……あー、やっぱりやったかあ」
「ちょ、何で付き人ちゃん、そんな落ち着いてるの?何時もこうなん!?」

いきなり本を飲み込み租借するという唐突な行動にはやてが叫び声を上げた。
一方フェイトはなのはならこの位やるかなと思ったので落ち着いている。
慌てて止めようとするはやてを無視し、なのはは元凶らしきものを消すという乱暴極まりない行動を取った。

『……けて』
「ヌシさん、何か聞こえなかったか?」
「はて、ここにいるのは私とフェイトとはやてだけだが……」
「でも、確かに……」
「あ、待って、なのは……私にも聞こえる!」

その時三人は何かの声を聞いた。
彼女達は慌てて周囲を見回すが誰もいない。

『……たす……けて』
「ヌシさんの方から聞こえるんやけど?」

がり

『ぎゃ!』

なのははその牙に何か引っかかるものがあった。
奇妙な歯ごたえがした後、悲鳴がして何者かの声が聞こえなくなった。

「……静かになったな?」
「……ていうか、ヌシさんの口の中や無いかな?」
「……かもしれぬな」
「ヌシさん、ぺってするんや、早く!」
「こ、こっちの方が早い、魔剣よ!」
「ごふっ!?」
「ちょっ、付き人ちゃん!?」

フェイトの一撃で黒い本の咀嚼が中断される、衝撃でなのはは慌てて何者かを吐き出した。
現れたのは黒い翼を生やした銀髪の女性、全身に無数の傷を負って血を流し気を失っている。
彼女は気を失いながらも黒い本を持っていて、それは竜の牙によってその表面に大きな傷が付き内側まで裂けていた。

「……あーあ、ぼろぼろやん、可哀想や無いか、ヌシさん」
「すまん……その女性が持っているのはあの本か?」
「ロストロギアなら、何らかの保護機構が有ってもおかしくないと思うよ、なのは」
「成程な、フェイト……そやつがそれか?」
「多分ね……出現時に租借に巻き込まれたようだけど」
「……運が悪い女じゃのう」

なのはが、いや三人が女性に同情する。
女性は朦朧としながらぶつぶつと言葉を漏らす。

「ぐああ、書のシステムに致命的エラー発生……き、騎士よ、これ以上の被害を止めるべく現れよ!」

シーン

「……あ、あれ?」
「何も現れんが……」
「き、騎士達よ、どうし……システムのエラーで実体化できない?後魔力が足りない?
えっ、頑張れ?……ちょっと待って、私一人でどうしろと!?」
「……何ていうか踏んだり蹴ったりじゃな」
「なのは、言っておくけど貴女のせいだからね、この壊し屋」
「いやこれが正解じゃろう、良き者を傷つけるのは悪じゃが……悪しき物を壊すのは良きことである」

どうやら推定呪いの大元はなのはの牙で力を失ったらしい。
ふんすと胸を張るように、頭を上げたなのはははやてに女性を示し、こう言った。

「はやてよ、その女の世話をしてやれ、今後またその書が悪させんとは限らん……その時のことを考え味方に引き込んでやれい」
「まあ、構へんけど……私の持ち物から出たなら放っておく訳にはいかないし」
「うむ、また何かあれば訪ねるがいい(……これなら叔父さんが変態でも何とかなるか)」



「あー管制人格が助けを呼んでるが……どうする、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ?」
『……どうせまた相転移砲ぶっぱだろうし放っとけば?』

書のデータの中の仮想空間、そこに4人の人影が集まり対応を話し合う。
といっても、システムの不調で完成させようと言う強迫観念に欠けているので皆やる気なさげだ。

「……だよなあ、システムのダメージを理由にボイコットするか」
「それでいいんじゃね?」

代表者らしき桃色の髪の長身の女性が理由をでっち上げ、姿形は最年少の騎士が面倒臭げでそれでいいと答える。
その小柄な騎士は周りを見渡し、現状への認識を口にする。

「正直今の主は一般人みたいだしな、書の完成は私らの目的でそれに主ってだけで巻き込む訳には行かないだろ」
「つまり……ヴィータは管制人格の要請受け入れには反対か?」
「ああ……つっても『消極的な反対』だな、今まで懲りずに暴れて管理局に消し飛ばされたが……流石に疲れちまった。
見た感じ力を欲してないようだし……この機にもう終ってもいいだろ、誰も損せず万々歳だ」

少女、ヴィータは後悔の言葉を口にした、
システムの不調ゆえに許された感情の吐露、姿に合う精神を持つ彼女だからこその正直な言葉だ。
そんなヴィータに対し、その脇の二人、柔和そうな女性と唯一の男性がやや冷静な意見を口にした。

「私はヴィータ程には……唯主の従僕である騎士としての役割、それを果たすにも状況で変わると思うのです」
「シャマルに同じ、我等は主の為に力を振るえばいい、今までは書にそれが向いていたがな……」
『マスターが望めば癒しの力を振るう(守護し盾となる)、それだけで良い』

今はまだ召喚されていないから役割に従う理由はないと、癒し手と守護獣は静観する。
ヴィータに比べ機能的な観念から動かない事を決めた。

「ふむ、消極的反対が一、反対ではないが静観が二か……」
「シグナムは?」

三人の判断を纏め女性、将であるシグナムはむうと唸る。
ヴィータは彼女はどうするのだろうかと疑問に思った。
騎士らしく意固地だから書に味方する可能性も有るし、逆に騎士として今までの無秩序な生き方をよく思っていない可能性もある。

「……私は管制人格の要請に『否』と答えよう」
「反対ってことか、どうやら私より積極的な……」
「ああ、我等のやり方では何も為せず……ならばこれも時勢と思い、潔く終わろう。
それに……味方につくならあっちの方が面白そうだ、竜に剣士か、正に英雄譚が如くだ」

ふっとシグナムはヴィータ以上の反対意見と、それに加えて花咲くような笑みを浮かべて凄く物騒なことを言い放った。
一人だけ書に従わない理由があっちに行きたいから、そしてあっちで戦いたいと言う時点でかなり終わってる。

「ほんとお前頭の中の端から端までベルカだな……何で私らのリーダーなんだか、創造主に一言物申してえ……」
「そう褒めるな、照れてしまうだろ」
『違えよ、このヒャッハー系バーサーカーニート』

三人の大いに呆れが混じった突込みが将に集中し、彼女はその理由がわからずきょとんと首を傾げた。



「何だと、管制人格が……馬鹿な、そんな事が有り得るはず……」
「私達も同じ事を思いました……ですが事実です、お父様」

初老の男性は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
動揺する男性だが報告した二人も同じ意見だったのでその気持ちは良くわかった。

「それだけでなく、書に無数の傷が……何があったかは……」
「……やっぱり、外に注意するべきだったかも……」

男性もそうすべきだったと後悔するがもう遅い。
暫く考え込んだ後二人に聞いた。

「…………管制人格はどうしている」
「書の持ち主と行動を共にしています、今のところ書を完成させようという行動は取っていません」
「それと関係しているかはわからないけど今はあの子の身の回りの世話を……後、病院で調べたら体は安定してて」
「何、リンカーコアへの影響が止まったのか!?」
「……はい、負荷は収まっていました、体の麻痺とそれで萎えた四肢は直ぐには戻りませんが……」
「……計画は一時中断する」
『お父様!?』
「状況の変化、その理由がわからん事にはどうしようもない。
監視体制をそのままにしておけ……管制人格に気付かれないように注意しろ」

男性は頭を抱え、ふらつきながらもやっとそう言った。
そして、その後心労だろうか、ばたりと倒れた。

「……アリア、ロッテ、後は頼んだ」
『お父様!?』

バタン

こうして暗躍する男、『ギル・グレアム』はなのはの暴挙の余波によってぶっ倒れた、奇しくも齧られた闇の書に並ぶ衝撃だろう。
彼の調子が戻るまで暗躍者達の魔の手は止まるだろう。
なのはの行動は意外なところにまで広がり、偶然ながら後の展開を大きく変えたのだ。



ドゴン

今日もまたフォートレスに轟音が響く。

「はあ、しゃっ、どりゃあ……本番前の最終チェックじゃっ!」
「ねえ、うっさいんだけど人の子……」

フォートレスの壁を元気に殴り続けるなのはに、夢を派遣してレビュアータがクレームを入れた。

「……ならば貴様の眷属を寄越せ、代わりに殴るから」
「止めてっ、うちの子虐めないでマジで……」

あくまで目的はトレーニングであり、唯では止めたくないなのはは代わりに条件を出す。
しかし、フォートレスの破壊以上に聞けない内容だった。
下手すればレビュアータの眷属達が全滅しかねないし。

「あ、ああそうだ……少しだけ手を止めて私と話をしようよ、人の子」
「うん?どうしたの急に?」
「最近来てなかっただろ、少し気になってさ……」

このまま暴れられるよりはマシだとレビュアータは世間話の方向に誘導した。

「人の子よ、お前の周りで最近何か有ったかなあって……ちょっと興味があるな」
「……うーむ、結構あるのう」

問われ彼女は話し始めた、自分と友人達の話を。



第二話 魔王遊戯 シーン0~Prelude



「まあ新しい友人が出来た、もしかしたら……此方側かもしれない」
「へえ……」

なのはは奇妙な出会い方ををした新しい友だち、はやてのことを言った。
気の利くいい子だし、なのは達も生活面で色々有る彼女を放って置けず折を見て会いに行っている。

「まあおまけが居るが……そのおまけも悪人ではないからな、何せ落ち着いてまずやったことが後悔なのだから」



その時のことは、いきなりの号泣はまだ記憶に新しい。
騎士が呼べず詰んだと悟った管制人格と名乗った女は諦観と、何故か安堵を浮かべて説明し始めた。

「……あなたは書に選ばれ主として認識されています。
体の異常は恐らく書とあなたを結ぶ契約、それが主から抽出される魔力が原因ではないかと……」
「私が主……それなのに勝手に魔力吸い取ったと」
「……明らかに呪われてないか、この本」
「……そうかもしれません」
「……それはどういう意味だ?」
「データを失い記憶が定かではありませんが……本来記録するためだけにあった書を悪用した契約者がいました。
書に記録されたそれ単体では唯のデータでしかない魔法に目を付け……それを破壊のために力を発揮できるように改竄したのです」

長い年月の間複数の契約者の手を渡った書には膨大な魔法が記録されていた。
だが、その時の主にとって魔法が記録されていただけでは不満だった、唯の歴史的価値ある資料でしかなかったからだ。

「書と騎士達の性質を変え主に絶対的な力を与える呪われた魔導書へと変貌させました。
……最もその主は限界を超えた力によって自滅しましたが……」
「ああ、予想付いたぞ……その迷惑な奴のおかげで未だ呪われたままか」
「その通りです……新たな書の持ち主に騎士達は力を与えると、記憶を書き換えられ最初からそうあるものだと言います。
……それを信じた主となった者達は書を完成させるため魔力を持つ者を襲いそれを奪っていった」
「獲物となった者は全力で抵抗するだろうな……魔力を持つ者達が徒党を組み先んじて攻めてくる事もあり得よう」
「はい、特に書と同じ起源を持つベルカの血を引く者達や元々書のような危険な存在を封印している管理局と言う組織が……」
「お主と騎士とやらを止めると……」
「はい……全ては書と私達のせいです」

書によって命を失った者達、歴代の主や魔力を奪われた被害者の事を考え管制人格は俯いた。
だが、なのはは罪悪感に囚われた管制人格の言葉を鼻で笑い切って捨てる。
まるで『毒』にしか成らない力に縋ってしまった迂闊さこそ唾棄すべきかのように。

「ふん、人には領分がある……絶対的な力等というものを求めた者達が命を落としたのは自業自得だ。
分を弁えないからそうなるんだ、そんな物に縋るから……」

まるでそういう事をする者達を『誰か』と重ねるように静かに怒った。
そうしてそこまで言ってなのはは首を下げて管制人格と目線を合わせた。
牙の苦痛を思い出し身を竦めた管制人格だがその目にある温かさに気付き逃げずに押し留まった。

「単に今までの主が愚かだっただけだ……が、今お主と共におる者は違う、だから安心しろ」

そう言われた管制人格は恐る恐るだが新たな主であるはやてを見た。

「はやて、力とやらが欲しいか?」
「いらんよ……ていうかさっきの話を聞いたら尚更なあ」
「そういうわけだ……その年で絶対的な力など求めるほど捻くれていたりはせんだろう。
金やら生活必需品は『おじさん』が用立てる、現状に不満がなければ書は使わん……奪われる魔力も書が壊れればましの筈だ、違うか?」
「確かに契約の部分にバグが……」

最初に受けた損傷によってはやてとの繋がりが希薄になっていた。
全くの偶然だったがそれは幸運だった。
それにより魔力のこれ以上の徴収は無くなった。
更に管制人格を実体化させる分には今日までの分を消費しているので自信の行動は主には何の影響もない。
しかも、魔力不足で書を攻撃され騎士を呼べ無かった事も幸いだった。
記憶を書き換えられた彼女達がここにいれば波乱は免れなかっただろう。

「まあ偶然とはいえ折角得た機会だ、活かすと良い……どうやらお主は現界が安定しているしな」
「……力を使わなければ消えはしないでしょう、微妙にだが主から力が流れ込んできていますが……」

魔法を使えば数日で消えるだろうがそれさえなければ暫く管制人格は実体化していられるだろう。
それを聞いてなのはは竜故に解り難いが笑ったようだ。

「……喜べ、はやて」
「何がや、ヌシさん?」
「『おじさん』の援助があっても何かと物入りだろう。
色々節約せねばならないだろうお主にとって金が掛からず自分の言う事を聞く者は貴重ではないか?」
「あー、何となく言いたいことはわかった」
「というわけだ、管制人格よ。
はやてと共に暮らすのはどうだ……はやてがいやといえば違うのを考えるが……」

なのはの言葉に驚き思わず管制人格は固まるが、はやては微笑みながら答えた。

「私は別にかまへんよ、暫く一人だからそっちの方が楽しそうや。
……それに戦い続きで大変やったろうからな」
「あ、主、何を言って!?」

はやての言葉に戸惑う管制人格をなのはが追撃する。

「今まで苦労した分楽しめばいいだろう?
それにな……気が引けるというなら身の回りの世話と、それに護衛を頼みたい」

『おじさん』に対する疑いを持っている竜はまだ管制人格の方がましだろうと思いそう言った。

「話は決まったな、そうすると……管制人格と呼ぶのは少し味気なくないか、はやて?」
「……そうやな、素敵な名前考えたるから待っとき?」

再び管制人格が俯く、だがそれははやてを心配させぬように涙を隠すためだ。

「ところで、この手のマジックアイテムの類には修復機能を持っている物も存在する」
「確かに書にはその機能が……」

それに気付いたのか、なのはが話を変えた。
その内容に管制人格は涙を拭いどうするかを考える。
頭を抱えた彼女に対し軽く言ってのける。

「……もっと壊してしまえばいい」
「え!?」

竜の尾を跳ね上げ管制人格が抱えていた書を高々と舞い上げる。

「持ち主に害を与える部分は既に壊れたようだ。
……次はそれを直す部分を壊すだけだ、一瞬だから耐えろよ」

空中で器用にキャッチした書になのは思い切り牙を突きたてた。

がり
べき
ばきん

書はエラーを起こし管制人格に危機を知らせる、それは一瞬で途絶えるものの書と繋がる管制人格は余りの激痛に暫し悶絶するのだった。
そして、同情の視線のはやてに背を擦られ蹲る彼女になのはは深々と傷を刻んだ闇の書を放る。

ぺいっ

「ほれ、それなら早々悪さは出来まい……何か『データ』が牙に引っかかったがこれは駄賃代わりに貰うぞ、使い道が有るやもしれんしな」
「……も、もう勝手にして下さい、ごふっ!?」



「……いやいや泣かせたの、人の子じゃんか」
「まあな、そこを言われると弱い、因みにいつまでも管制人格というのも味気ないんで……はやてが思いつくまで仮の名をくれてやった。
……泣き顔から天気を連想し『レイン』とな」

はやてが真の名を思いつくまでの当座の名、まあ余り違う語感の名前を着けられたら困るだろうから近い物にしようと言っていた。
雨、彼女の人々を犠牲にしてしまった悲しみからの涙がはやてとの生活で癒える頃には決まるはずだ。
雨天を晴らすその名前はきっと素敵な物に成る。

「それ以来仲良くやっているよ、特にフェイトがな……レインとはある意味同郷だから」
「……ああ地球外出身者か」
「うむ、それに足の萎えたはやても放っておけず、まあ書の停止でそれも少しずつ戻っているが……二人の相手を甲斐甲斐しくやっているよ」

はやて達は少しすまなそうだったが、なのはとしてはフェイトも(戦い以外の)張り合いが有るようなので悪くは思っていない。
少なくとも母との執着で剣を振るだけの生活よりは余程良い。

「ああいう弱味は私じゃ見せられん、そして気を常に張っていては壊れかねんし……」

だから、はやてとレインという戦いに直接関わらない存在はフェイトには貴重だ。

「……先に戦友になってしまった私では唯の友達は些か辛いものがある」

気のいいはやて達は世話を焼くフェイトに申し訳思っているだろうが、そういう気の良さを持つ人と接することは大いに意味がある。
この後の戦いできっとフェイトの力になるとなのはは思っている。
思い出が勝ちたいという意思に、彼女の強さの厚みに繋がる筈だから。

「まあこの辺りだな、最近あったことって……」
「相変わらず人の子は波瀾万丈のようだね」
「……そうじゃな、正直疲れるから程々が良いのだが」

本気でそう思い、大きく肩を竦めたなのはだったが、そこへ現れた来訪者が彼女の望みを断つ。
先に気づいたレビュアータが示した。

「…………どうやらそういう訳にはいかないようだよ、人の子」
「何がじゃ?」
「ほれ、あっちを見な」
「あっちって……げっ!?」

露骨になのはは迷惑そうな顔をした、その視線の先に白銀の髪の少女が転移し出現する。

「……はあい、いい話を持ってきた、龍使いのお嬢さん」
「…………何用かな、ベール=ゼファー」
「『本番』が始まる前に……プレシアと一戦やり合ってかない?」

正しく悪魔の囁きだった。



「目標『輸送船』船体後部の倉庫……行きなさい、サンダーレイジ!」

轟音が次元の境に響く、黒衣の女性魔導師が機械式の義手に握った禍々しい杖から雷光を放った。
フェイトの母にしてなのはの標的であるプレシアだ。

「うわあっ!?」

気付き輸送船を守ろうとした民族衣装の少年が悲鳴を上げる。
自分と船をシールドで守るもプレシアの攻撃で絶え間ない衝撃に晒され、限界が近づいていた。

「次で壊せるか……サンダーレイ「させんよ!」……ちっ、何奴!?」

背後からその声は聞こえた、慌てて振り抜いた彼女に強烈な拳打が放たれる。
ベール=ゼファーに転移させられたなのはだ。

「ぬりゃあ!」
「シールド展開!」

ガッ

「ちっ!?」

咄嗟にプレシアが張ったシールドが拳を防ぐ、ギリギリと軋むそれ越しに二人は睨み合った。

「あら管理局じゃないわね……誰かしら」
「お初にお目にかかるな、我は高町なのは……そなたの娘の友である」
「……娘、ああそういえば一人捨てたのが居たわね」
「…………挑発なら無駄と言っておく、既に気は昂ぶっているのでな」

プレシアが何を言おうと言われたなのはに影響はない、これ以上ないほどに戦意は高まっているから。

(……恐らくこれ程の機会は早々無い、ならば全力で打つのみだ!)

相手は格上だが、唯一の理であるこっちの情報の欠如を活かせる遭遇戦だ。
彼女の拳が輝く、ボッと灼熱の炎を纏った。

「会って早速だが……腹に風穴拵えて、ぶっ潰れてしまえ!」

ガギン

しかし、赤の拳打はプレシアの体の数センチ手前で停止した。
よくよく見れば彼女の張ったシールドが淡い青の色を帯びている。

「ぬ?」
「やはりフェイトは龍使いと会ってたか……残念だったわね、これは耐火性を強化した者よ、血迷って襲ってきた時知ってたようだったから」

龍使いなら炎か雷光を多用する、後者なら自分も使うから自力で対処できるので炎対策を念頭に準備していた。
それがプレシアを救った。

「不運ね、奇襲のようだけど……なら絶対に知られるべきじゃなかった」

哀れんだ後プレシアは反撃に杖を振り被る、この無謀なる挑戦者にその贖いをさせるべく。
だが、その瞬間なのははニッと笑った。
彼女は炎を纏う拳を開く、その爪の先は異様に長く鋭い。

「……ならば龍ではなく竜ではどうだ?」

明らかに人ではない爪牙が振るわれ、プレシアのシールドを一瞬で突き破る。

パキンッ

「これを、貴様は知るまい……万物を穿つもの、神像生物の一撃である!」

ザシュッ

「ぐああっ、馬鹿な、私の防御が……」
「……これは楔である、枷である、本戦を前にハンデを負うがいい」

プレシアの知らない技、龍使いの系譜にない技が彼女の胴を貫く。
咄嗟に体を捻り急所を外させたが深々と突き刺さり、更に炎で焼いていく。

「成る程、唯のガキじゃないってことね、でも……」

不覚を悟った彼女は驚き、だがそれでも己の目的を果たそうとする。
竜の爪に貫かながら手刀を振るう。
それはプレシア自身へ放たれ、彼女のデバイスを砕いた。

バキッ

「ぬう、何を!?」
「……直ぐに分かるわ」

ゴゴゴッ

デバイス、正確にはそれに溜められた魔力が暴走し、彼女らのいる空間が急速に歪み始めた。
それはまず巨大なものから影響を受け始める。
船が揺らぎ、先程までのプレシアの攻撃でダメージの有った後部コンテナに穴が開いた。
そこから21の輝きが溢れ落ちる。

「……何、あれは!?」
「ジュエルシード、私の希望よ……そして退くわ、『レヴィ』!」

彼女がそう叫んだ瞬間だった、ヒュッとその背後にフェイトに似た少女(用紙は全く同じで髪の色のみが違う)が出現する。

「マスター、ここは危ない、逃げよう」
「ええ、速く出ましょう、私を連れてって、レヴィ!」
「はい、マスター!」
「……そういう訳よ、ここでの入手は諦める、落ちた先で会いましょう」

ヒュッと出現を逆回しにしたかのようにプレシアとレヴィと呼ばれた少女が消えた。
残ったなのはは最後の言葉から滲み出る殺意に、僅かな恐怖とそれ以上の戦意を燃やす。

「ああまた会おう、大魔導師……さて、我も行かねばな」

宣言してなのはも次の行動に移る、船を守っていた少年がそこから落ちようとしているからだ。
なのはは二対四枚、白一枚黒三枚の翼を羽ばたかせる。

「そこの船、救助は呼んだか!?」
「は、はい」
「……ならば揺れの範囲から出すぞ、後は救助をゆっくり待て」

なのはは竜の尾を形成し、それを船に叩きつけ強引に動かし始めた。
何度も叩く内に少しずつ船が動いていく。
そうしていると何を考えたか船にいた少年がなのはに近づいた。

「あの……」
「む、何じゃ、船の奥に居れ」
「いえ、それは船員の方々だけで……それよりさっきの話からして貴方は石を追うのでしょ。
あれは僕の一族が発掘したものなんです……何かある前に止めたい、手伝わせて下さい!」
「……船を守っていたシールドの主、ならばディフェンダーには成るか……来い、扱き使うがそれでもいいならな!」

コクと頷く民族衣装の少年がなのはの手を取る、送り出した船を見送った後なのはと少年はジュエルシードを追った。



その夜豪邸、バニングス亭でメイド見習いの仕事中のフェイトが手を止めた。

「フェイト?」
「……来る」

気付き問いかけたアリサに彼女は言葉少なに答え、空を指差す。
二一の青い流星が駆けていった。
そして、流星を追うように桜色の輝きもすうっと落ちる。

「……始まったのね、フェイト」
「うん、私の……ううん、私達の戦いが始まったよ」

彼女は断りを入れて着替えると、布包みの剣を背負い夜の街へと走りだした。
『希望の石』をめぐる戦いがついに始まったのだ。



魔王遊戯シーン1へ続く。
・・・プレシアはアニメ一期より出番多目です、今回一寸出たレヴィはもう一人のアリシアとして登場(リニスがパートナーかな?)

以下コメント返信

黒様
一応大丈夫、この後はっちゃける予定ですから・・・単に今まで短編だったからですし。

神聖騎士団様
正確には無印とAs編を混ぜて書いていきます、だからプレシアの出番が遅くなることはないのでご安心を(寧ろ早まるかも)



[34344] 魔王遊戯・一章『暴走』シーン1
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/08/23 21:53
二十一の青い輝きが落ちていく、その先にあるのは蒼い星だ。
そして、僅かに遅れて桜色の光が二十一の光の後を追っていた。

(ちっ、薄々予想してたがやはり地球か、情報元は予知持ちの魔王が二柱程思い至るが……ビブリオマニアなら怖いな)

後続の輝きの中心でなのはは二対四枚、人魔の関係性そのままの白一つに黒三つの翼を羽ばたかせる。
ベール=ゼファーと知識と膨大な魔力を併せ持つ『某秘密侯爵』の関係への警戒に一瞬思考が逸れるも、慌てて集中し直す。
ジュエルシードとの距離を詰めねばと彼女は大きく翼を広げた。

「……ユーノだったか、飛ばすぞ、落ちるなよ!」
「はい、僕は大丈夫です、だから気にせずに……」

龍鱗に覆われた尾に捕まっていたユーノが少し苦しそうにしながらも言う。
無茶させていること、それでも心配させないように振る舞う彼に一度頭を下げた後、なのはは四枚の翼を一打ちする。

ゴウッ

まるで放たれた弾丸のように彼女は加速、一気に距離を詰めてジュエルシードの一つに肉薄する。

「まずは一つめ、確実に確保する……」
「……封印するならデバイス、レイジングハートを使って!」

急加速に苦しげにしながらも咄嗟にユーノが赤い宝石を手渡す。
なのはの手に渡ったそれは一瞬光った後巨大な杖に変わった。

「へえ、これが次元世界の杖か」
『Hello、Iam……』
「……英語は好かん、日本語か修行時代に渡った中国語で頼む」
『……スクライア渡航記録に検出、言語変換可能……レイジングハートです、封印は受け持つので魔力の集中をお願いします』
「うむ、任せたぞ……魔力か、まあフェイトのようにやればいいかな」

なのはに言われ直ぐ様日本語に切り替えたデバイス、レイジングハートはなのはに封印魔法の使用を促した。
コクとなのはは頷き、フェイトの見様見真似ながら集中する。
彼女の体が桜色に輝き、それはまず手に、更にそれを伝ってレイジングハートに纏わりつく。

「……これでどうだ?」
『問題ありません……封印、行けます!』
「おう、ならば……だりゃあ!」

レイジングハートの言葉に頷き、なのはは思い切り彼女を振り被る。
そして、手近なジュエルシードへと叩きつけた、カッと閃光が弾ける。

ゴゴゴッ

振り下ろした瞬間レイジングハートがタイミングを合わせて封印魔法を発動、拡散した魔力がジュエルシードを包み込んだ。
それは狙った一つだけでなく、その近くにあった二つのジュエルシードを巻き込み、その機能を凍結させた。

「良しっ!」
『……予想以上の魔力です、おかげで複数の封印を確認しました』
「凄い……はっ、でなくて封印をしたならデバイスに格納を、杖で触れて!」
「おっと……そうだな、確保して次を……」

ドゴオッ

「ぐあっ!?」

が、その瞬間『邪悪なる竜』が動いた、なのは達の背後、ジュエルシードに注意が向いていた瞬間攻撃を受ける。

『襲撃、魔力は検知せず……純粋な物理的衝撃波と推測!』
「くっ、攻撃だと、一体何者の……いやそれより、ジュエルシードが!?」

なのはが辺りを見て絶句する、確保しようとした三つのジュエルシードが衝撃の余波で落下を再開したのだ。
二人と一機は慌てて追おうとしたがその瞬間魔力の壁が地球と彼女等を隔てた。
壁はバチバチと帯電している、慌ててなのはは翼を広げ急停止、黒焦げをギリギリで逃れた。

「ちっ、結界だと……」
『魔力反応有り、更なる襲撃です!』

キイキイキイ

驚いたところに更なる異変、甲高く泣きながら猛禽類の頭部と翼、四肢の体躯を持つ魔獣であるグリフォンの群れが襲い掛かる。
無数のグリフォンはなのは達の周囲を牽制するように飛び回った。

「グリフォン?……ならば、これはまさか……」
「ええ、そう……私よ、生意気な子竜ちゃん?」
「その声はやはり……」

更にそこに誂うような声、なのはが慌ててその方を見れば一際大きなグリフォンの背に女が一人立っていた。
まるで『何か悪臭』を隠すかのような薬品の匂いのする白衣を着た、肉感的な女性だ。
だが、なのははその女が人でないことを知っている、その本性が邪悪なる竜であることも。

「……ブンブン=ヌー!」

なのはが忌々しげに叫び、その声にブンブン=ヌーは痩せた手をひらひらとさせた。

「ほら見て……大魔導師の腕よ、良いでしょう、この結界もこの腕の魔力によるものよ」
「ちっ、死体狂いの邪竜、聞きしに勝る悪趣味さじゃな!」
「あらあら酷い言い草、この腕と貴方はこれから同じになるのにねえ……」
「何?」
「……そう、私のコレクションの仲間にね!」

ブンブン=ヌーは言い放ち拳撃で衝撃波を打ち込んだ。
咄嗟になのはも衝撃波で相殺するも、直ぐにブンブン=ヌーの追撃が来た。

ドガアッ

二発目の衝撃波の相殺は間に合わず、なのはは体勢を崩した。

「くっ……」
「さあその体……頂くわよ!」

三度衝撃波が放たれれ、なのはは不自然な体勢ながらも防御姿勢を取る。
翼を自分の体に巻きつけた、プラーナを錬れず自分へのダメージは難しいがせめてユーノは守ろうと。

ボウッ

が、突如なのはの体から炎が迸った。

「何っ!」
「これは一体……」

炎は蛇のようにうねりながら衝撃波を弾いた。
攻撃を防がれたブンブン=ヌーが、いやなのはすら驚く。

「な、何じゃ!?」
「龍炎……じゃない?いや相手にも意外な……」
『……ルカ騎士としてはこちらに味方するかな』

ボウッと再び炎が燃え上がる、それは人型を、甲冑を着込んだ女性の姿を取った。

『やあ、高町なのは殿……初めまして』

深々と女性はなのはに向かって一礼した。

「貴女は?」
『……例の本の関係者、ああ念の為言うが齧ったのは恨んでない、寧ろ呪われたままの起動を防ぎ、ありがとう』

本体である書を壊したことを恨まれていると思ったが逆に感謝された。
最初嘘かとなのはは思ったが違うらしい、繋がっていることで相手の感情が伝わってきた。

『私は騎士として作られた、だからそう有るべきだ……正直今までが恥ずかしい、やり直す機会をくれた君に感謝しているんだ』
「……それ故の助力か、ならばこれで貸し借り無しだ」

なのはの言葉に頷くと炎は僅かに考え込んだ、その後笑いながら地球を指す。
その意味に気付いたなのははこくと頷く、背のユーノに話しかける。

「……彼女と共に地球に行け、ユーノ、レイジングハート!」
「なのはさん、何を……」

『炎』の言葉になのはは頷き、素早く杖をユーノに返すと、尾で彼を飛ばした。
ユーノが地球へ、当然結界があるが触れる寸前なのはの拳打が起こした衝撃波が僅かに穴を開ける。
彼は炎と共に結界の穴を通って地球へ落ちていった。

「なのはさん!?」
「私の仲間に……フェイトに会え、金の髪に赤き瞳の少女、不釣り合いな大剣を持つから見ればわかるはず。
そして共にジュエルシードを止めろ、これからを考えればフェイトにもデバイスは要るしな」

ゆっくりと地球へ落ちていくユーノへ言伝を頼んだ後彼女はブンブン=ヌーへと飛んだ。
その突進を阻止しようと無数のグリフォンが飛び掛かるが、突如なのはの体を赤く輝く、ボウっと炎が噴き出し燃え盛った。
そして、次の瞬間それを内から裂いて、白と黒の斑の鱗に包まれた巨竜が出現する。

「完全竜化……邪魔だあっ!」

竜、なのはは吠えて両腕を振り回す。
先端から生えた、死神の鎌を彷彿とさせる十の鉤爪が周囲の魔獣をズタズタにし、更にその場で大きく振るい衝撃波を放つ。

ザシュッ

衝撃波は群れの中心へ飛ぶ、頭部を砕かれた魔獣が悲鳴を上げた。
ギリギリで跳んだブンブン=ヌーが困ったように言った。

「ギイッ!?」
「あら、私の乗騎が……」
「……ちっ、避けたか、だが次は貴様じゃ!」
「ふふ、それは……こちらの台詞だ、クソガキが!」

なのはは舌打ちした後ブンブン=ヌーへと飛翔し、それに対し相手も構える。
ブンブン=ヌーは『翠の龍鱗の腕』と『雷を纏う大魔導師の腕』で迎え撃つ。

『滅びろ、そして……私の糧となれ(その骸を我が蔵に!』

ドゴオッ

地球近海、次元の狭間で竜(龍)が激突した。



シーン1



タッタッタッ

軽い足音が響いた、人気のない公園にメイド服の少女が長い棒状の布包みを手に現れた。

「……着いた、ここだ!」

布包みを持った少女、なのはの仲間であり地球を託されたフェイトが辺りを油断なく見渡す。
来る途中彼女はここに『三つの輝き』が落ちたのを見ていた。
二十一の内明らかに弱々しいそれが確かにここにある筈で、まず何らかの異常のあったそれを止めに来たのだ。

ジャキ

「魔剣よ、出番だ……来る!」

フェイトが布を剥ぎ取りバスタードソードを握る、と同時に禍々しい気配を感じ取った。
異形の獣、不定形の青い輝きを強引に実体化した存在がフェイトに飛びかかり、が読んでいた彼女は迎撃する。

「……甘い、はっ!」
「ギッ!?」

ヒュパッ

魔剣の横薙ぎが突進してきた異形、ジュエルシードの暴走体の足を払うように放たれ、それを地に落とす。
その時だ、直ぐ様更に二つの気配がフェイトに飛びかかった。
一体目を囮にした攻撃、左右からの挟撃がフェイトを狙う。

「いや遅い!……回避行動、そして金剛剣!」

しかし、フェイトに油断は無かった、集中を切らさなかった彼女は素早く挟み撃ちに反応する。
すっと体を逸らすだけで片方を避け、もう片方の攻撃は魔剣の腹で弾く。

『ぎっ!?』
「……その程度で私は倒せない、もっとずっと強い人と戦わないといけないから」

言いながらフェイトはグルリと三体の暴走体を見渡し睨む、怯えた様子で暴走体が後退った。
それを見ながらフェイトはバリアジャケットを展開、デバイス無しで少し手間取ったが怯えた相手は妨害できなかった。

「(案外動きが鈍いか、いやこれは……)封印されかけてるようだけど、なのはかな?」

よく観察すると暴走体はその機能が凍結しかかってていた、尤もある意味では問題とも言える。
何故な不完全な封印であり、時間が経てば完全な状態になるからだ。
相手の状態に気づいたフェイトはどうしようかと少し悩む、倒すだけじゃ駄目だからだ。

「倒すだけならこのままやればいい、多分そんなに時間はかからない、でも封印はデバイス無しじゃ……」
「……それならこのデバイスを使うんだ!君の魔力は僕よりずっと多いからやれるはず!」

フェイトが困り果てた瞬間だった、頭上から真紅の宝石は放られた。
ユーノと炎の人型が到着したのだ。
フェイトの手の中で宝石は一瞬激しく輝いた後巨大な杖に、その真の姿に変わる。

「これは……」
「スクライアのデバイスであるレイジングハート、君のことはなのはって人から聞いた……頼む、その三体の封印を!」
『……魔力探知の結果、前使用者と同等と判断、私を使用しての封印をお願いします』
「……わかった、色々聞きたいけど任せて!」

頭上から降りてきたボロボロの民族衣装の少年、ユーノの言葉に良く知る人物の名を聴いたフェイトは一瞬の逡巡もなく頷く。
魔剣を片手持ちに持ち替えると、空いた利き腕でレイジングハートを握った。

『……ふむ、こちらはこれで何とか成るかな』
「なら僕はなのはさんの方に行きます、貴女は念の為あの子に着いていて!」

フェイトにレイジングハートを託した後ユーノは再び転移する。
炎の人型は頷き、この場を任された。

ボウッ

『……ほら逃げろ逃げろ』

彼女は散発的に炎を放ち、暴走体を牽制する。
その間にフェイトとレイジングハートは戦闘準備を整える。

『……フェイト、何かご要求は?』
「うーん、少し大振りかな、フレームサイズの変更お願い」

再びレイジングハートは輝き、次の瞬間片手で持てる短杖(ショートワンド)に変化する。
フェイトは使い易くなったレイジングハートを一度振るって手に馴染ませると、逆の手で握った魔剣を地に突き立てた。

ゴゴゴッ

その瞬間フェイトを中心に大地が揺れた、衝撃が辺りへ放たれる、その源は足元であり突き刺した剣からだ。

「封印前に動けないようにしよう、ここはなのはの流儀で行く……サトリからの一網打尽だよ」

魔剣と同調し、その瞬間フェイトの動きは常より速く、常より強く、何より異常な程の精度だ。
その変化があって初めて可能と成った一撃が三体の暴走体全てに襲いかかる。

ゴウッ

『ギイッ!?』
「切り刻め、私の魔剣……そして封印、行くよ!」

彼女の足元から広がり、地下から吹き出した『衝撃波』による『なぎ払い』、一瞬で三体の暴走体はズタズタに引き裂いた。
暴走体はその体積の大半を吹き飛ばされ、大元であるジュエルシードが露出する。
すかさずフェイトは片手で持てるように成ったレイジングハートを高々と翳す。

『ジュエルシード……三機、同時封印!』

フェイトとレイジングハートの言葉が唱和する。
黄金の輝きが辺りを数秒包み、それが収まったと思うとそこには暴走体の姿は既に無かった。

「……手応えありだよ」
『ええ、封印確認……お見事です!』

カランカランと三つのジュエルシードが落ちる、既にそれからは青の輝きは見えない。
エネルギー源である本体の露出、つまり外部からの干渉を防げない状態での封印の効果は覿面だった。

「良し、これで……何、この魔力は?」

フェイトは素早くそれ等をレイジングハート内部に回収すると、行き成り力の激突を感じ空を見上げる。
すると、空が、いや次元の境が裂けていた。
そこから二頭の竜、竜化したなのはと本性を表したブンブン=ヌーの姿が見えた、戦いの余波による空間破壊だ。

「なのは!?」

フェイトが悲鳴を上げた、何故ならなのはとブンブン=ヌーは互いに首元に深く牙を突き立てていたからだ。
そこへ、念話が、なのはからの途切れ途切れの声が届く。
幸運にも僅かに相手の牙はなのはの急所から外れていた、応援に間に合ったユーノのバインドが僅かに外させたのだ。

『は、はあ、ぎりぎり間に合った……』
『彼のお陰で何とか勝てた、がこの状況は少し悪い……フェイト、頼みがある、聞いてくれ』

彼女は痛みに苦しみながら勝ち誇った様子でノイズ掛かった言葉を放つ。

「なのは、今助けに……」
『ああそれは無駄のようだ、フェイト……戻る余力がない、少しばかり気が急き、前のめりに成っていたらしい……
此奴を引き裂きそこで限界だ、恐らくどこか異世界に落ちる……出来るだけ早く戻るからそれまで海鳴を頼む』
「……そ、そんな!?」
『はは、どうやら勝負にのめり込み過ぎた……ユーノは少しはマシな場所に落とす、上手く合流せよ』

ブツンと言い終えると同時に念話は途切れ、空間の裂け目も消えていく。
フェイトは思わず悲鳴を上げかけ、だけどそれでは心配させるだけだとコクと力強く頷く。

「……わかった、任せて、なのは!」

その言葉が届いたか、消滅しかかった空間の裂け目の先で、なのはがニイと笑みを浮かべた。
そして、ガギンという牙の擦れ合う音と、もう一頭の竜の断末魔が空間の途絶の瞬間響く。

『……空間の完全な断絶を確認、向こうの状況は不明です』
「良いよ、レイジングハート、それ以上はもう良い……なのはは戻るって言ったから、それまで戦うだけだ……行こう、二人共」

言いながらも僅かに心配で涙ぐみ、だけど交わした言葉を嘘にしたくないフェイトは何とか平静を保つ。
レイジングハートと炎の人型に声を掛けると一旦拠点であるアリサの屋敷へと先導する。

「……私は負けないよ、守ってみせるから、なのは」

去り際一瞬空を、なのはの消えた場所を見上げて呟いた後、フェイトは直ぐに歩みを再開する。
彼女の胸にもう一つの、母への執着と並ぶ約束が強く刻まれる。
それはとても重く感じられ、だけど何故か悪い気はしなかった。



喉元を食い千切られた竜が落ちていく、それを見下ろしながらなのははユーノに謝った。
戦いの余波で辺りは不安定だ、遠からず自分もユーノもどこかに吹き飛ばされるだろう。

「すまんな、ユーノ……私を助けたせいで割りを食わせた」
「いいえ、なのはさんは舟の時に、それにあの竜に襲われた時僕を助けてくれました」
「ふむ、恩を返したということか、律儀だな……なのはで良い、多分歳は変わらないから」
「……なのは、この後は?」

ユーノの問いになのはは数秒考え込んだ。

「……このままどこかに落ちるわけにはいかんな」

ザシュッ

行き成り彼女は鉤爪を振るった、白い翼が根本から引き裂かれる。
そして、それでユーノを包んだ。

「なのは、何を!?」
「その中から世界間の移動、その負荷を耐えられよう……それにプラーナの一部を渡してある、ある意味私の分身さ」

白い翼は溶けるように崩れた後小さな白い龍の姿を取る。
龍はユーノを守るようにその体に纏わりつく。

『グル、任せて』
「ああ、ちゃんと届けてくれよ……その為の道は今作る!」

ザシュッ

更になのはは鉤爪をもう一度振るう、空間が裂け僅かに見えた地球の方へユーノと白龍を押し出した。

上手く着地しろよ、そしてフェイトの元へ向かうのだ!」
「……わかった、任せてくれ、なのは!」

向こうの世界でユーノが頷き叫び返す。
それになのははニヤリと笑った所で、空間は限界に達し滅茶苦茶になっていく。
ノイズのように乱れた先でなのはは世界に届けとばかりに吠えた。

『敗けるなよ、フェイト、ユーノ、それにアリサ達も……相手が人でも神でも!』




三つのジュエルシードはユーノ登場時の一個目、なのは初戦の相手の二個目、二日目の犬の暴走体の3つ目ですね。
で、ここで一端なのはは退場、暫くフェイト主人公で話を進めます。
原作のなのはと入れ替わった形かな・・・闇の書関係の伏線はどうしようか、いくつか考えてあるが。

返信・神聖騎士団様・・・あ牙についてたのは騎士関係とだけ、理由はまあ近々明かすけど結構単純、でも騎士を勘違いしてるかも



[34344] 一章『暴走』シーン2
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/08/23 21:54
シーン2



夜の海鳴をフェイトが歩く、片手にデバイスを持ち、後ろにベルカ騎士の成れの果てを連れて。

ビーッ

「……何!?」

バニングス邸への帰路を行く三人だがその道中突如レイジングハートが警告した。

『フェイト、魔力反応有り!……結界です!』
「何だって!?」

変化は一瞬だった、無数の雷が円状に落ちたと思うと壁を作り出す。
バチバチと成る雷光の壁がフェイト達を包み込んだ。
そこへ更に無数の影が転移する、武装化された傀儡兵だ。

ガガガッ

四方からの砲撃、慌ててフェイト達は散ってかわした。

「これは……襲撃?」
「ほう、事件が良くも続くものだ」

フェイトは驚き、炎の人型は同じく驚きつつも呑気そうに感心する。
二人は足を止めず傀儡兵の攻撃を回避する。
すると、彼等の動きが突然変わる、彼等は二手に別れフェイト達を分断し始めた。

「むっ、これは……フェイト、気をつけろ、各個撃破が目的かもしれん!」
「わかってる、そっちも気をつけて!」

騎士の忠告に頷くとフェイトは剣とデバイスを握り絞める。
彼女は自分を見つめる視線に気づいた、それはどこか迷いを抱いたまま近づく。
ザッと傀儡兵が道を開け、そこから外套で顔も体も隠した人物が現れた。

「傀儡を指揮してるのは貴方?」
「……チェーンバインド!」
「くっ、問答無用か!?」

乱入者はフェイトの問いかけを無視し拘束呪文を唱えた。
咄嗟にフェイトは魔剣でそれを切り払う、鎖が粉々に砕け散った。

「……行け、傀儡兵、更にシューター射出!」

光弾が放たれた、それは弧を描き包囲するようにしながらフェイトへ襲いかかる。
フェイトは素早く剣の腹で弾き返す、が直ぐに再加速し光弾がフェイトを狙い、更に続くように傀儡兵が突進してきた。

「レイジングハート、こっちもシューター!」
『了解、迎撃します!』

ドガガガッ

ショートワンドの形態に変化したレイジングハートが激しく輝く。
先端から放たれた金色の光がシューターを迎え撃つ、相手は咄嗟に軌道を変えたがフェイトもそれを読んで動きを合わせた。
カッと閃光が輝く、ドガンという音と共に双方の光弾は相殺し合い消滅した。

「良し、これなら……はあっ!」

ダンッ

フェイトが地を蹴る、一気に加速し自分を包囲しようとした傀儡兵達の横を駆け抜けた。
そして、背後を取ると見もせずにそこへ魔剣を振るう。

「……纏めて薙ぎ払うよ、やっ!」

ザシュッ

白刃が煌めき弧を描く、傀儡兵の集団は振り向こうとし掛けた中途半端な体勢で斬り裂かれる。
彼等の体は斜めにずれ落ち、完全に離れて地に落下すると同時に爆散する。

ドガンッ

「く、傀儡兵が……」
「……次は貴方だ」

相手は同様し、だがそれに構わずフェイトは再び動き出した。
爆炎と散乱する破片の中で彼女は魔剣を構え直す。
上段に構えた後そのまま力強く振り下ろす、なのは等が良くやるやり方だ。

「衝撃波で牽制する、はあっ!」
「……ちっ、傀儡兵、庇え!」

ヒュバッ

振り下ろされた刃に添って不可視の斬撃が放たれ、素早く間に割り込んだ傀儡兵が両断される。
次の瞬間傀儡兵が爆散し、粉塵がフェイトを相手から隠した。

「しまっ……」
「遅い、はあっ!」

気勢は上から聞こえた、爆炎で視界が曖昧になった瞬間フェイトは飛んで頭上から仕掛けたのだ。

ガギィン

「プロテクション、強度最大!」
「……ちっ、防がれたか、だけど!」

虚を突かれた外套の敵指揮官は展開した魔力障壁で斬撃を防ぐ、が咄嗟の事で魔力の練りが甘い。
斬撃の圧力に押され軋んだ、ゆっくりと刃が近づく。

ギギギッ

「後少し、もう少しで突破出来る!」

このままでは防げないと思った敵指揮官は素早く魔力障壁に更なる魔力を流した、暴走しそれは弾ける。

「さ、させない……ブレイク!」

ドゴオッ

フェイトは後退しながらレイジングハートに叫ぶ。

「……ちっ、レイジングハート、シールドを!」
『了解!』

カッと金色の光が輝く、光の壁が展開され魔力障壁の破片を弾き飛ばした。
だが、フェイトはそれで安心せず跳んだ、壁を足場に一気に駆け上がる。
その一秒足らず後に拳が壁を砕いた。

ドガン

「バリアブレイク!……外したか」

シールドを拳の一撃で砕いた敵指揮官と、跳んでそれをかわしたフェイトが天と地で互いを睨んだ。
フェイトは姿勢制御で浮遊するとゆっくりと降下する、反撃にでるつもりだ。
そうはさせじと敵指揮官が先に動いた、両手をばっと突き出し別々の魔法を発動する。

「……シューター、それにチェーンバインド!」

ガガガッ
ジャラララ

しかし、フェイトはその同時攻撃に落ち着いて対処する。
シューターを魔剣を盾に凌ぎながら、僅かに遅れて迫るバインドを睨み、レイジングハートに魔力を託した。

「レイジングハート、シューター撃って!」
『了解、軌道計算……GO!』

ガンッ

撃ち出されたシューターがバインドに命中する、軌道を逸らされバインドが明後日の方向へ行った。
更にフェイトはシューターを引き戻す、自分の周りを漂っていた敵のシューターと相殺させた。

ドガガガッ

周囲で魔力が四散し、それを確認した後フェイトは魔剣をバインドに向けた。

「更にもう一撃……はっ!」

ザシュッ

フェイトはシューターの衝撃で動きの鈍いバインドを切り裂くと、次にそれを真下に向ける。
制御し抑えていた重力を戻すと、急降下しながら敵指揮官に斬りかかった。

(来るか!?)

相手は素早く魔力を練り魔力障壁を張る、だがフェイトは構わず魔剣を振るう。

「……はああっ!」

ズバアッ

魔剣が振り切られ、それに一瞬遅れて障壁が砕け散った。

ガシャン

「ば、馬鹿な、貴女がここまでやるなんて……」

砕け粒子と成って散っていく障壁を、驚愕の眼で見ながら敵指揮官は後退る。
その人物、彼女は苦悶の声を漏らしながらがくりと膝を着いた。
ハラリと外套が割れ、白衣に似た白い機能性重視の服の女性の姿が露わと成った。
ポタポタとその胸は斜めに斬られ血を流していた。

「ここまでだよ、リニス」
「……もしかして気付いてました」
「うん、魔法の使い方と……バインド重視で、私を捕獲しようとしてたから」
「迂闊でしたね……くっ、出来れば生け捕りにしたかったのだけど」

胴の傷を押さえてリニスがフラフラと立ち上がる、だが彼女が何かする前にフェイトが魔剣を首に添えた。
相手の動きを止めたフェイトは少し迷った後直ぐにそれを降ろす。

「……行って」
「フェイト?」
「貴女は私に良くしてくれた、だから殺さない……戻って、母さんに言って、絶対止めるって」
「……わかりました」

コクと頷き、リニスは転移の魔法陣を展開する。
それが発動する寸前フェイトに請うように言った。

「……フェイト、私が口添えします、貴女も戻ってくれませんか」
「ううん、そうはいかない、この街で友達ができた……恩返しがしたいし、守るって約束もしたから」
「そうですか、それでは仕方ありませんね……その友達によろしくと、伝えて下さい」

説得の言葉を跳ね除けられリニスは悲しそうな顔をする、だけど友達の下りで僅かに笑みを浮かべた。
彼女は一言真剣な表情で言った後転移した。

「フェイト、貴女には妹がいます、レヴィという……彼女に気をつけて、あれは完全なる戦闘人形です」
「……関係ない、母さんに行くまでの壁と成るなら切るだけだ」

フッと強気で、それでいて捨鉢な笑みを浮かべてフェイトは答えた。

「レイジングハート、戻ろう……それとあっちの女騎士さんも」

フェイトは待機状態のレイジングハートをポケットに仕舞い、向こうで傀儡を全滅させた炎の人型と合流すると歩みを再開する。
ジュエルシード三つ、リニスに勝利という結果を携え帰路へ着く。
彼女の、そして海鳴の戦い、その一日目はこうして終わった。




「ふむ、初日にしては中々の成果か……私も傀儡とはいえ肩慣らしも出来たし」

炎の人型、騎士であり今はそうでない存在が地下フォートレスの壁に寄っかかって呟く。
彼女、シグナムは明日からの戦いの予感に激しく燃えた。

「ふふ、本当に高町殿について良かったな……民を守る、世界を守る、魔力を奪い続けるよりも余程上等だ」

騎士冥利に尽きる、それだけで彼女にとっては命を掛けるのは十分だ。
そういう風に作られ、だけど歪んだ生がなのはによって正された。
ならば思う存分騎士であり続けようと彼女は決意し、それを実行しようとしていた。

「……となると何とかこの体を安定させたいところだな、フォートレスでリハビリでもするか、適当に悪魔を小突いて回って」
「止めろ、ほんと止めて……うちの眷属共を虐めんな!」

シグナムの洒落にならない言葉に突っ込みを入れた者が居た。
フォートレスの支配者であるレビュアータ、その意識体だ、慌てた様子で止める。

「……良いではないか、沢山居るんだし」
「巫山戯んな、経験値扱いか、もっとデーモン共を愛せよ!」

涙目で訴えるレビュアータにシグナムはやれやれといった感じで肩を竦めた。

「仕方ないなあ、止めておこう……全く魔王で元女神の癖に器が小さいことだ」
「あ、何その言い方、何か私が我儘言ってるみたいじゃん!?」

ムキーとレビュアータが憤り、すまんすまんとシグナムがお座なりに謝る。
そんな風に二人がコントやっている時だった、フォートレスに電子音が響いた。

「この音は?」
「人の子に貸してやった一角からだ、殆ど物置みたいなもんだが……待って、アポート試す」

レビュアータが小さな魔法陣を描くと、そこから何かが浮かび上がる。
喧しく成るそれは一基の携帯端末だった。

「あ、第八の0-Phoneだったか……次元間通信機だね、多分人の子の物だろうが」
「ほう、だが何故高町殿の番号を、いやまさか……貸せ!」

慌ててシグナムは端末を奪い取って、通話ボタンを押し耳に当てる。

「……もしもし?」
『お、通じたのう……ベルカ騎士さんの、ええっと……』
「シグナムだ、高町殿……無事だったか!」

ノイズ掛かっているがその声を間違えようはない、ブンブン=ヌーとの戦いの後行方不明のなのはの声だ。

『ああそこそこ元気にやってる……近くに落ちれたから割と早く戻れそうだ、それまでフェイトを助けて貰えるか?』
「承知、高町殿には書を止めて貰った借りが有る……任せろ、全力で援護しよう!」
『……ありがとう、ちょっと今手が離せないから切るがまた連絡する、暫くそっちは頼むのじゃ』

ブツと着信時と同じく唐突に切れる、手が離せないという言葉が気になるが何とか無事のようだ。
シグナムは恩人の無事にホッと安堵した。

「ふう、安心した、これで遠慮無く戦える……頼まれた以上はしっかりテスタロッサを助けねば……」

シグナムは拳を握り朧な炎を立ち上らせる、それは彼女の闘志そのままのように思えた。
彼女もフェイト同様なのはの帰還までこの地を守ろうと強く決心した。
闇の書の元他者を害し続けてきた騎士がこの日解き放たれた、今までどおり戦う為に、今度は人と世界守る為に。



グルル
グルル
グルル
グルル

なのはが四方からの殺気立った視線から目を逸し、シグナムとの会話を反芻する。
周りをちらと見ると森、更に遠くに建物(何かの宿泊施設だ)郊外の温泉地だろう、気合を入れねばと彼女は自分に言い聞かせる。

「……ふう、通話終了、いやあ安心した」
「そう、それは良かった……ところで暴走体『四体』に囲まれて、ちょっと手が離せない程度ってのは見栄張り過ぎじゃない?」
「ふっ、私は先輩でな、弱音を吐くと色んな物が台無しになるんだよ」

一メートル程の子竜、分身のなのはがユーノの肩で開き直った。
落下の衝撃で一体、それとの戦闘の余波で周囲のジュエルシードまで暴走したが、この手の修羅場に慣れっこなので平気な顔だ。
もっとも共に戦うユーノからすれば彼女の余裕は信じられないものだろうが。

「……で、そんだけ余裕あるってことは何か考えが?」
「九頭竜で延々と反撃、極限まで削れば弱体化した魔力でも封印出来よう……九頭竜しくじったら防いでくれ」
「じ、地道だなあ」

予想以上に地味かつハードなことを要求されたユーノが肩を落とした。
だが、なのはは白い鱗に覆われた胸を張って余裕綽々で言い切る。

「はんっ、この程度で落ちるならプレシアの相手等出来んさ……そらユーノも根性出せい!」
「ええい、こうなりゃ自棄だ、バインド連打あ!」

超精神論、体育会系の発言にユーノは頭を抱える、彼は涙目で拘束呪文を放った。

「おう、その意気だ、頑張るのじゃ!」
「……畜生、あっちに残ればよかった!」

なのはとユーノは馬鹿げてる程の戦力差のある相手に立ち向かう。
双方の精神状態は大分違うが、というかなのはが雑なだけだが。

「ま流石に特攻はせん……各個撃破、封印まで行かずとも暴走までの時間稼ぎで構わん、そうしたら適当にヒット&アウェイかな」
「それでも無茶だと思うけど!?」
「ええい、五月蝿い、プラーナ全力で……」

キシャアアッ
ドゴオォン

「……行くぞっ、この程度の局面乗り切れんではどの道勝てんだろうからな!」

そんなユーノの悲鳴を聞き流しながら、なのはは翼と腕の鉤爪を広げる、彼女にとってのこの先を占う前哨戦が始まった。




リニスと少し話した後フェイトによるジュエルシード回収開始、海鳴は彼女に頑張ってもらいます。
一方で弱体化したなのはとユーノがピンチですが・・・まあそっちはそっちで何とかするでしょう。

返信・・・神聖騎士団様、もう種明かしになったけどシグナムですね(戦闘狂と恩返しの間)まあ騎士らしいんじゃないかなあと。



[34344] 一章『暴走』シーン3
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/08/23 21:54
闇の中異形が蠢く、獲物を待って舌舐めずりする。

ギチ、ギチギチギチ

彼等は一つであり群体でもあった。
ある者は動く白骨死体であるスケルトンを、ある者は不透明の人型ゴーストを、あるいはそれ以外のアンデッドをの姿をしている。
そういう古典的姿以外にも、動く人体模型や生きた青銅像、忙しなく目が動く油絵といった、学校の噂染みた怪異も居る。

『ア、アア……イ……シイ……ホシイ』

彼等は人の集まる場所で、そこを行き来する人の思念が作り出した半人工的魔物だ。
例えば魔が住まうような土地ではその『力』が残留し、時折こういった存在が生まれる。

『サムイ、サムイ……ヒト、ノ……チガ、ニクガ……ホシイ、ホシイヨウ』

物の肌、あるいは物ですら無い肌を持つ彼等は等しくそれを欲した。
唯の思考ノイズ、カスのような残骸の彼等は持たぬ物を本能で求め、奪ってでも確固たる実体を手に入れようと動き出す。
だが、そこへ立ち塞がる者が居た、龍鱗を纏うその手に激しく燃える炎を灯して。

「……魔力を感じて調べに来てみれば、なんだこれは?」

観察するも答えは出ず、だから『彼女』は実力行使に出た。
十も超えていない少女が真っ赤な炎を纏う拳を突き出して、異形達に言い放つ。

「寒いなら温めてやろうか……まあ血も肉もやれない、やれるのは炎だけだが」

ボウッ

「龍炎、とりゃあっ!」
『ぎ、ぎああ……』

少女を中心に炎が弾け、異形の群れを縦に蒸発させながら分断する。
炎で開いた道を突破し相手の中心で二度目の放熱、それを二対の四枚、白一枚黒三枚の翼の羽ばたきで拡散させて一気に焼き払う。
後に残るは灰の山、その中心で彼女は訝しんだ。

「魔物か、何でこの街に……」

まだ齢7歳、小学生に上ったばかりの高町なのはが小首を傾げる、『思念の魔物化の大元である神』を知るのはこれから数年後だ。



シーン3



館の掃除をしていた執事がそれに気付いた、主の娘に用意した弁当箱だ。

「……おやお忘れとは、困りました」

困った彼に『車椅子の友人』と話していたメイド見習いの少女(今日は仕事がなかった)が気になった様子で聞いた。

「どうしました、鮫島さん?」
「アリサ様がご昼食を忘れたようでして……」

執事の言葉に少し考えた後メイド見習いの少女が言った。

「それなら私が届けますね」
「宜しいので?」
「はい、この後はやてと図書館に行こうかなって……アリサにお弁当届けてから、図書館へ行きます」

メイド見習いの少女の言葉に執事が感謝の笑みを浮かべる。
彼から主の娘の為のお弁当と、ついでにメイド見習いとその友人の昼食を受け取って、メイド見習いの少女は学校に向かった。
銀髪の名無しの女性を連れ、キイキイと音のする車椅子(体の麻痺は治まったが長距離移動は杖は辛い)を押しながら。
こうして、フェイト・テスタロッサ初めての学校体験が始まった。



『学校か、人が多いということは……レイジングハート、念の為にサーチお願い』
『了解しました、ジュエルシードが思念に反応する以上当然ですね』

弁当箱片手に小学校に向かうフェイトがふと思い立ってポケットのレイジングハートに念話で頼む。
それに彼女は快く頷く、共に封印し、その後リニスとも共闘したことで大分打ち解けていた。
テスタロッサという性、船を襲ったプレシアとの関係には驚いたが必死に集める姿を見ているので疑ってはいない。

(……それに、ミス高町に頼まれましたし)

またそれ以外にもフェイトを助ける理由もある。
フェイトの前に自分を使い、ジュエルシードを止めた勇気ある少女の頼み事をレイジングハートは果たそうとしていた。
デバイス『レイジングハート』、デバイスの癖に人臭く義理堅い彼女によって約束はしっかり守られてた。



キンコーンカンコン

授業の終わりを告げる鐘が鳴った、午前最後の授業だ。
『行方不明の少女』の為にその分のノートを取っていたアリサはやっと忘れ物に気づき口元を押える。

「あちゃ、やばい……」
「アリサちゃん?」
「お弁当忘れた……昨日、うちのメイドの子がボロボロで帰って忙しくて、今朝も色々と余裕無かったから」

帰ってきたフェイトに驚き、事情を聞いて再び驚き、落ち着いた時既に真夜中だった。
おかげで翌日の朝も、つまりは今朝もアリサは何時もより余裕がなく、慌ただしく家を出て行くことになった。
そのせいですっかり弁当箱を鞄に入れ忘れてしまったようだ。

「……あーどうしよ」
「私の分分けようか?」
「すずか、いや流石にそれは……」

友人とはいえ頼るのも悪い、かといってアリサにはいい案は浮かばない。
さてどうしようかと彼女が唸った時だ。
教室のドアが開き、金の何かが見えた、珍しく美しい髪だ、更にメイド服で目立つことこの上ない。

「フェイト?」
「忘れ物だよ、アリサ」

頭に子狐片手に弁当箱のフェイトが手を振る、その後ろではやてとレイン(なのはが管制人格の泣く姿に付けた名)も。



「どうもフェイト・テスタロッサです、メイド見習いやってます」
「月村すずか、よろしくね」

同席し、ついでに執事に用意してもらった昼食を食べながら挨拶した。

「はやてだったね、なのはの知り合いだっけ?」
「……ヌシさんの方の姿しか知らへんけどな」
「ふうん、昨日までなら会えたんだけどねえ、ちょっとタイミング悪かったね……」

アリサがなのは不在に残念がる、こういう時間は多い方が楽しいが肝心の彼女はどっかへ吹っ飛んだ。
無茶する彼女の出来るだけ早い期間をアリサは祈った。
一応体調不良で入院と学校に言ったし、家族も久遠の暗示で信じさせたがボロが出るかもしれないので速く戻るに越した事はない。
後何よりフェイトの精神的安定の意味でも。

(フェイトって真面目っていうか、余裕が無いから……なのはならその辺支えられるんだけど)

心中でアリサは大きく溜め息を吐いた。
フェイトという少女は強いが脆い、そういう複雑さを心配してしまう。
そして、早速その一端が目に見える形で出る、フェイトが何かにハッと気づき立ち上がる。

「あ、ああっとちょっと用を思い出したから出るね……アリサ、『探しもの』が見つかるかもしれない、見てくる」

彼女の服のポケットで真っ赤な宝石が『何かを知らせる』ようにピカピカと光る。
お茶を一杯貰って口の中のものを片付けると、フェイトは一直線に外に飛び出した。
アリサは小さく溜息を吐くと狐の姿でお稲荷を齧る久遠を見た。
こくと頷く久遠、更に異常事態に気付いたはやてがレインを見た。

「……何や、例の本みたいな事情か、手伝ってやってな、レイン」
「はい、マスター」

はやてに頷きレインが立ち上がる、彼女は久遠をその手に抱くとフェイトを追った。

(……やれやれ本当に危なっかしい、私らだけにフォローさせてないで速く戻って来なさいよ、なのは)

フェイトとそれを追う久遠達を見送り、アリサは今は居ない自分とフェイトの居ない友人に怒った。




ギイ、ギイギイギイ

闇の中異形が蠢く、『神殺しの炎』で焼かれた異形の一欠片程の切れ端が『青い石』の力で再生した者達だ。
生きる人体模型や青銅像等の代表的怪談の中心である特殊教科用の教室に集まり群れている。
といっても教室に入れば彼等と会える訳ではない、正確にはそれを模した異空間だ。
そこで休み傷を癒やす、既に七割程回復し全快と同時に表に出て生者を襲うだろう。

ザシュッ

が、その時は来ない、人間臭いデバイスが反応を感知、それを知って昼食を中座した少女によって。

「結界か……まあどうでもいいや、中の奴ら毎片付けよう」
『了解です』

結界を突破したフェイトが問答無用で仕掛けた。
結界を切った勢いのまま衝撃波を放ち手近な魔物を狙う、不意打ち故にスケルトンが衝撃波を受けて体を歪ませた。

ドゴャアッ

「……まず一体」
『お見事!』

虚を突かれたスケルトンが一瞬で砕け散り、更にその隣のゴーストに衝撃波に続いて円錐状の先端を持つ紐が縫うように跳ぶ。

シュルリ

「何故かレーヴァテインが使えない……仕方ない、クラールヴィントで良いや、これだけプログラムから再生っと」

首を傾げながらレインがその手でワイヤー型のデバイスを振るった、円錐状の先端が高速で加速し伸びた。
不透明の体を持つゴーストに何重にも巻きつき動きを封じた。
足掻くもびくともしない、そしてそれは致命的な隙となる。

「……クラールヴィントでは牽制が精々、今のうちに!」
「わかった、攻撃は任せて……はあっ!」

そこへフェイトの追撃、鋭い刺突が亡霊の頭を貫き消滅させる。

「……さあ次は?」

フェイトが剣を引き抜き周りに問う、あっという間に仲間二体倒された異形たちが動揺する。
だが、それでも生者への敵意で直ぐに体勢を立て直しフェイト達へと向かっていった。

「ウウッ……ガルル!」

しかし、その抵抗はレインの肩に乗る子狐、久遠の一声で止まった。
たったそれだけの咆哮で異形達は魂を一掴みされたかのように凍りつく。
トンと久遠がレインの方から降りて獣化、三メートル程もある巨獣に変わると腕を、その先に生えた鉤爪を一振りする。
動きの止まった魔物たちは良い的だ、しかも巨体による攻撃範囲の変化で全てが間合いのうちにある。

「こん、皆纏めて……やっ!」

ズバアッ

切り刻まれながら魔物達が吹き飛ぶ、辛うじて動き抵抗しようとする生き残りも居るがその抵抗は無意味だ。
何故ならそこへフェイトが魔剣を振り被りながら真直ぐに走っていったからだ。
その反動と共に巨大な魔剣が高速で振るわれる、ギュオと風を切る音がした。

「その隙は逃さない、薙ぎ払う……はあっ!」

ズバアッ

白刃が一閃される、半円を描き振るわれた魔剣は軌道に存在する全ての異形を断ち切った。
ガラガラと人体模型の内蔵、青銅の破片、油絵の額縁等が教室にけたたましく落ちる。

「レイジングハート、ジュエルシードの反応は?さっきのは魔力の余波で動く雑魚だと思うけど……」
『再度サーチします、少々お待ちを……反応あり、こちらに接近中、注意して!』

レイジングハートが反応に気づき注意する、それと殆ど同時に異界が揺れた。
既にデバイスの探知能力無しでもわかる程の魔力の接近に気づく。

ゴゴゴッ

『……来ます!』

空間中を軋ませながら巨大な何かが現れる。
不定形の体は以前フェイトが見た暴走体と同じ、だがそこかしこから学校の怪談で語られる怪異の特徴が見える。
ゲル状の体から突き出た人体模型や青銅像の頭部、音楽家の肖像画、保健室の白骨像の全てがフェイトを睨む。
その非現実的光景は心の弱い者なら一瞬で正気を失っただろう。

「むう、少し気持ち悪いな、でも……」

そして、暴走体が突撃を敢行する、自身の不気味なその様体で隙を作りすかさずそこを突こうとした。

「でも、なのはが一声吠えた方がずっと怖いけど……金剛剣!」

が、フェイトは慣れた様子で剣の腹を盾にし、暴走体の突進がピタリと止められた。

「えいっ!」

バキィン

『ギアア!?』
「良し、反撃だ!」

フェイトが落ち着いた表情ででその場で魔剣を一閃、無造作に振るった一撃が暴走体が吹き飛ばす。
吹き飛んだ暴走体が体制を立直す前にフェイトは魔剣を振るう。
衝撃波が倒れた暴走体を更にふっ飛ばした、ギャッと情けなく鳴いた。
仰向けの体勢で暴走体が呆然と呻く。

『ギアア、ナ、ナゼ……』
「もっと怖いのを知ってるからね、母親と友人……まあこいつは気持ち悪いだけだ」

自分の知る強敵たち、プレシアやなのはに比べれば問題に成るのは見掛けくらいだ。
フェイトは相手に軽く言って魔剣を突き付ける。
その雄々しい姿に暴走体は動揺したように身動ぐ、まるで泣き喚くように叫んだ、何かへの恐怖が語られた。

『イヤダ、サムイ……アツイ!アツイノハイヤダ!……『龍の女』ニヤラレテ、ヤットヨミガエッタノニ』
「……あー、なのはかなあ、これはやっぱり」

相手の聞き苦しい悲鳴に一瞬フェイトは顔を顰め、だけどそこで出た名前にあることを思いつく。
彼女は暴走体に問い掛けた、イイ笑みで。
今はいない彼女と自分の差、それを調べる、これからこの街を守って戦う為にも。

「ねえ、一つ聞きたいんだけど……『これから私が放つ一撃』と『なのはの拳打』どっちが痛いかなあ?」

フェイトがプラーナで眩く輝く剣を突き付けながら聞いた。
その輝きに、あるいは相手の言葉を恐れるように暴走体が体を震わせる。
だが、フェイトは無視して続ける。

「折角だし試してみよう……さあ行くよ、答えてね?」
『ギ、ギギ、イヤダアア』

ギラリと輝く眼光に、暴走体が暴れながら逃げ出そうとした。
踵を返し、同時に触手を辺り構わず振り回す。
だが、その必死の抵抗は無意味に終わる、フェイトに注意が行き過ぎたせいで彼女以外への対応が遅れた、致命的なまでに。

「クラールヴィント、行って!」

レインの手から伸びたワイヤーが暴走体の触手に絡みつく、空中で引き合いピタリと止まる。

「逃がさない……グルルッ!」

更に久遠が睨んだ後吠える、暴走体はまるで体が凍りついたように動きが止まった。
迎撃は出来ず、逃げることも出来ない。
後はフェイトの最後の仕上げが残るのみ、彼女は雄々しく吠えて駆けた。

「行くよ、はああっ……まずは死点打ちだ!」

フェイトが踏込み、真っ直ぐに勢い良く魔剣を突き出す。

ザシュッ

『グアアッ!?』
「手応え有り、だけど更にここから……」

深々と刺さった魔剣に確かな感触、それを証明するように暴走体が体を大きく震わせる。
魔剣は相手の構造から脆弱な箇所を見抜き正確に貫いていた、そしてそこでフェイトは魔力変換で激しく放電する。
彼女の言うとおりここからなのだ。

「まだだよ、エンチャント……マジックアタック、ブレード!」

バチバチバチィ

剣を伝播し、紫電が切っ先へ。
そこから暴走体のうちに走り、そこから一気に放出される。
ボンと暴走体の胴が膨れ上がったと思うと弾け、一気に蒸発した。
相手は粉々に四散、砕け残った破片も大半が炭化し、それも直ぐに粒子と成って散っていく。

『撃破確認……お見事です』

後に残ったのは相手の居た場所にコツンと転がり落ちたジュエルシードだけだった。
それを見たフェイトは少し困ったように笑った。

「……あ、しまった、どっちが上か聞き損ねちゃった」
『あー、一撃で消滅させてしまいましたものね……』
「ま、まあ勝ったから良いか……答えが出なかったのは少し残念だけど、同じ相手を倒せたんだからそう弱くはないでしょ多分」

苦笑しながらレイジングハートでジュエルシードに触れる、回収終了だ。
全てを終えたのを確認したフェイトは仲間達へ振り返って言った。

「良し、帰ろうか、久遠、レインさん……お腹ペコペコだよ」
『……あれだけ暴れて平常運転だなあ』

フェイトの戦い振りとそれに似合わない普通な言動に、久遠にレイン、更にレイジングハートにまで呆れたのだった。



「……まあまあかな、それなりに期待出来そう」

赤い月の下で少女が感心したように唸る、その手に持つ手鏡がフェイト達の戦いをしっかり映していた。
彼女は美しく、更に奇妙な神々しさと禍々しさを併せ持っていた。
年齢は五か六歳位、黒髪で左右を青いリボンで結びどこか人形めいた所がある。

「そろそろもう一人のフェイト、レヴィが来る……その前に一戦やって、今のフェイトを試したいところだけど」

そこまで言った所で少女が難しい表情に成った。
自分の体を見てがっくりと肩を落とす、見ての通り非力な体だが彼女にとってはこれが精一杯なのだ。

「でも『まだ本番じゃない』、だから……現身はこの体が、『ベアトリス』が限界、ちょっと工夫しないと」

まだまだ前哨戦で、少しでも力は温存したかった。
かといって無視も難しい、今のフェイトを知る必要がある。
だから少女は自分の手を、いやそこにある『青い石』を見て意味深に笑う。

「ふふ、ジュエルシード、ここに落ちたのは一つではないのよ、フェイト……これを使おうか、そして少し派手にしてみましょう」

悪戯っぽく笑ってからジュエルシードを仕舞うと少女は転移した、不吉な言葉だけを残して。
裏会の進行、そしてフェイトとの再会が近づいていた。



その頃郊外で一つの決着が近づいていた。

「ようし、これで最後じゃ……九頭竜!」

アバター(竜の力を分離した思念体)のなのはが大きく翼を広げ、一打ちする。

ドゴオ

「……ユーノ、今だ、やれ!」
「任せて、やあっ!」

なのはが翼で暴走体の突進を弾き、更に至近距離からの衝撃波で返り討ちにする。
動きの止まった暴走体をユーノがバインドで雁字搦めにした。
縛られた暴走体、これ以外にも既に三体の暴走体がバインドに巻かれている。

「ふう、何とか成るもんだね」
「ま、時間は掛かったが……純戦闘型と援護特化、組めばこんなもんさ」

流石に消耗し力なく座り込んだユーノに、その肩に止またなのはが頷く。
戦いは凡そ半日に及んだ。
時には交代で休憩してまでの連戦の末に全暴走体が鎮圧される。
なのはは誇るように自分の翼を広げた。

「はは、我を褒めていいぞ」
「……まあ頑張ったのは確かか、うん見事なもんだ」

ユーノの苦笑気味ながらの賛辞を受けたなのはは意気揚々と胸を張った。

「あれじゃな、戦いに重要なのは数ではない……竹槍で重戦車は落とせんよ、それが四本有ろうと」

ゴゴゴッ

そうやって、なのはが勝ち誇った時だった。
異様な音がして辺りが揺れた。
二人は戸惑う、まるで空間自体が軋んだようにも感じられる。

「うわっ!?」
「何じゃ……」

なのはとユーノが慌ててあたりを見回す。
そして、目の前で起きた事態に同時に凍りついた。

ウゾゾゾッ

ジュエルシードの暴走体がその不定形の体を崩し、バインドの間から這い出て、更に四体全てが一箇所に集まったのだ。
四体の暴走体は絡まりあい一つに成りその質量、そして魔力までも四倍となった。

「なのは、さっきの竹槍云々だがけど…それが太さ十メートル会って長さが百メートルだったら?」
「……ちょっと不味いかもしれんのう、一本に減ったが質が違いすぎる」

なのはとユーノは冷汗を流して『それ』を『見上げる』。
二人の前で百メートル近い巨体の暴走体が吠え、それだけでこの空間が揺れる。
流石のなのはも顔を引き攣らせ、それでも鉤爪と刃を一振りした後構える。

「やるしかないが……すまん、フェイト、帰るのが遅れるかもしれん」
「……いやそもそも帰れるの、僕等?」
「ええい、先輩として駄目でした、では顔向けが出来ん……根性で、意地でも帰るのだ!」
「それどう考えても精神論だよね!ここでそういうのはどうかと思うんだけど!?」

なのはは動揺するユーノを引張って突っ込む、ドップラー効果で響く悲鳴は戦闘の音で掻き消え龍と暴走体の咆哮が森中に響いた。



学校にはジュエルシードが複数落下、一つはフェイトが、もう一つは謎の少女が・・・さあどうなるか?
裏界の魔王の影が近づきつつ次回へ。
あ、なのは達は連戦です。

以下コメント返信

神聖騎士団様
答えはなのはもシグナムも暴れたいから、拳士と剣士という差はあれ実力を思うだけ振るうのは悪い気分じゃないのでしょう。
その上自分の故郷を守る&恩返しという理由も有るし。

ユーなの好き様
ユーノはまあ貧乏クジですが何だかんだ真面目だから頑張ってくれるはず、主人公の戦友という立ち位置は美味しいか。



[34344] 一章『暴走』シーン4
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/08/23 21:55
「……海鳴が心配だな」

巨大なジュエルシードの暴走体をあしらっていたなのはがボソと呟く。

「なのは、気持ちはわかるけど……他所を心配する余裕なんて僕らには無いだろうに」
「ううむ、まあそうなのだが……」

耳聡く聞きつけたユーノが苦言を呈し、なのはが言い訳する。
彼女には幾つかの心配事が有った、プレシアと同等かそれ以上に危険かもしれない存在に関係した心配事が。

「とりあえずこのままではおちおち喋れん、小技を試すか……受けろ、風竜の力を!」

高々と片翼が掲げられる、なのははアバターを構成する魔力を増幅し一気に解放した。
アバターは趣味で竜を象っている訳ではない、しっかりとした機能性を持ち上手く扱えば竜の超自然的な力を再現できる。
それを証明するように大気が歪んでいく。
翼の一打ちで暴風が発生し、暴走体の巨躯を翻弄し始めた。

「流石にこの体、アバターにも慣れたのでな……吹き飛べっ!」

ゴウッ

暴走体が水平方向に飛んだ、ガンガンとバウンドしながら吹き飛んでいった彼は結界にぶつかりやっと止まる。
その衝撃は流石に堪えたか暴走体が震え悶絶する。
今なら問題ないかとなのははユーノに懸念について言った。

「あちらにはプレシア以外にも魔王が居る……そのことが心配だ」
「魔王?」
「……我等に襲い掛かった竜、その同類じゃ」

なのはの言葉にユーノが驚く、彼は慌てて問い掛けた。
その気持はなのはにもよくわかる、彼女は苦々しげな表情で答える。

「待って、あれ以外にも居るの!?」
「ああ、三柱程な……まあブンブン=ヌーは消耗したから暫く動かんだろう、魔王蛇も何もしなければ寝惚けてるだけだが……」

この二柱は現状問題ない、だが最後の魔王はかなり問題だった。
魔王の中で特に気紛れな存在で、現状黙っているとは到底思えなかった。
嫌そうな表情でなのははその存在を口にする。

「大魔王ベール=ゼファー、プレシアとは敵対こそしているが……到底味方とは思えないな」

正直今直ぐ海鳴に向かいたいが暴走体はまだその力に陰りは見えない。
なのはは起き上がろうとする相手を恨めしく見ながら戦いに集中する、まずここを何とかしなくては援軍どころではない。

(……向こうが心配だ、あの気紛れな魔王がフェイトを放っておくとは思えん)

彼女の懸念は当たっていた、大魔王が本性を露わにしようとしていたのだ。



「うふふ、フェイトには何をぶつけようかしら……やっぱりゴーレムかな、基本だし」
「……リオン、ベルが不気味なんだけど?」
「しっ、離れて、ポンコツが感染るわよ、アゼル……」

裏界のベール=ゼファーの居城で彼女は何やら悪巧みをし始める。
それを見ていたベルの友人、アゼルが困惑し、同じく友人であるリオン=グンタが手を引き離れさせる。
アゼルは魔王にしては破格な程に純粋なので影響を受けて欲しくなかった。

「うふふ、どんなゴーレムが良いかしらね……装甲を強化、いえ軽量化してチャンバラさせてもいいし」
「……何あれ?」
「何時ものポンコツ」

物凄い勢いで図面、刺客の設計図を引き始めるベール=ゼファーにアゼル達は少し引いた。

「それにしても……ゴーレム?」
「ああ知らなかったんでしたっけ、仲良くなったの最近だし……あの子、実はゴーレム使い、あ高レベルの相手は上級デーモンか」

首を傾げるアゼルにリオンが説明する。
裏界トップだったルー=サイファーが一時失脚し、その残党を配下にした後のベールーゼファーはそれ等を主に動かしていた。
だが、そうなる前の、単独で動いていたベール=ゼファーはゴーレムを主力にウィザードと戦っていた。
強敵が相手ならデーモンを、それでも倒せないなら自分で行くがまずゴーレムを差し向けるのが常だった。

「うふふ、ロマン砲も欲しいわね、後合体機構も……うーん、ちょっと欲張ってみるかな」
「……リオン、あれは?」
「唯のポンコツです、見て見ぬふりをしなさい」

物騒かつ愉快なことを言い始めたベール=ゼファーから一歩離れる、よくわからない拘りに完全に引いていた。



シーン4



「……フェイト、敵だよ!」

アリサの屋敷で居たフェイトに久遠が厳しい表情で注意した。
慌ててフェイトが辺りを見渡す。
すると、ある方向から奇妙な魔力を感じる。

「久遠?……魔力?でも魔導師じゃない、だとしたら……」
『行きますか、フェイト?』
「うん、放っては置けない、何なのか確認しないとね」
「……気になる、私も行くよ」

フェイトはワンド(短杖)形態のレイジングハートを腰の帯に差すと立ち上がる、魔力の方へ向かうことにしたのだ。
その肩に子狐に変じた久遠が乗っかり同行する。
彼女に小さく頭を下げた後フェイトは魔力の方へ向かう。
その場所は然程遠くなく、そして隠す気もないようで魔導師なら気付ける程度の最低限の遮蔽性の結界が有った。

「……誘われてるみたいだね」
『どうされますか?』
「行くよ、この街のことはなのはに頼まれている……バリアジャケットお願いね」

体の動きを妨げない黒のスーツと同じ色の外套を纏うと、フェイトは結界の中へ足を踏み出した。
入った時は暗闇、だが数歩目の辺りでカッと四方から発光し結界内が照らしだされる。

「ご丁寧なことだね……」
「フェイト、魔物の臭いがする、気をつけて」
「……レディース・アンド・ジェントルメン、ようこそ我が領域へ」
「誰っ!?」

急な光に手を翳し影を作ってフェイトが歩いて行くと、声が掛けられた。
声は幼い、フェイトより、いや下手すれば久遠よりも幼いかもしれない。
そちらを見ると『額辺りで切り揃えた黒髪』に『黒いドレス』の少女が立っていた、その後ろに布を被された巨大な人型も。

「……貴女は?」
「ベアトリス、ここの支配者……」
「態々こんな結界を作って何をしたいの?」
「目的は秘密、まあ私のことは謎の美少女とでも……でも何をしたいかは直ぐわかる、出番だよ、究極戦闘ゴーレム『バアル』!」

バサリと後ろの巨人が布を剥ぎ己の姿を露わにする。
そこには身の丈一〇メートル程で大木のように分厚く逞しい巨躯と、同じように力強い四肢を持つ巨大な鉄巨人が居た。
それは腕を掲げファイティングポーズを取った、すると激しく動く内部機構が唸りを上げゴゴゴッと異様な音を立て始めた。

ガオオオォン

高まった出力が鉄の体を軋ませ、その音はまるで咆哮のようだった。

「フェイト・テスタロッサ、我がゴーレム達と戦ってもらう」
「ええい、こんなの予想外だけど……何が相手だとしても……」
「……慌てるな、ゴーレム『達』と言っただろう」
「何っ!?」
「来い、空陸海、サポート用ゴーレムよ!」

ベアトリスと名乗った少女が三つの魔法陣を展開する、そこから三体の動物型ゴーレムが飛び出した。
一つは鷹を模し羽撃きながら空を舞う。
一つは狼を模し大地を蹴り素早く掛ける。
最後の一つは大蛇を模し、シュルシュルと滑るように這い回る。

「そして……合体!」
『何!?』

ダンッと鉄巨人が地を蹴り飛んだ。
それに続けて狼型のゴーレムが着地点へ走る、その頭部が分離しバアルの右腕に接合され鋭い牙を剥いた。
そして鉄巨人自体は残った狼の胴体の上へ、腰からジョイントが展開して合体、狼型ゴーレムを四足とする。

ガキイイィン

巨人は牙を持つ狼の頭部を装備し格闘力を、残った狼の体と合体したことで走破能力を手に入れた。

「まだよ、合体シークエンス第二段階!」

シュルリと今度は蛇型のゴーレムが前へ出た。
素早く体を起こし鉄巨人に巻き付くと鱗を逆立てる、剣山のように鋭く尖ったそれは凶悪なフォルムと成った。
次に頭部が頚椎部から分離する、狼型とは逆に鉄巨人の左手へ、鎌首上げて大きく顎を開いた。

ガキイイィン

鉄巨人は剣山の如き蛇の胴体の鱗によって耐久力を、分離した蛇の大顎で何者をも逃さない迎撃能力を手に入れた。
後残るは最後の一体である鷹型ゴーレムだ、それにより空戦と空爆能力を手に入れることになる。

「そして……最終段階!」
「……長い、サンダースマッシャー!」

ドゴオォ

が、この手のロマンを知らない、というかこういう世界に着いていけなかったフェイトは空気を読まず先制攻撃した。
雷光に打たれブスブスと音を立てながら鷹型ゴーレムが不時着する。
一秒後ドゴンと爆散、『光の結界』を咄嗟に張ったベアトリスと名乗る少女はこの光景に悲鳴を上げた。

「ああ、空戦型が!?」

この世の終わりかのように大袈裟に嘆く彼女に構わず、フェイトはレイジングハートと話す。

「うん、良し……サンダースマッシャーは撃てるみたいだね、レイジングハート」
『単なる砲撃ならば……ですがこれ以上の魔法は私が保ちません、電撃や炎熱といった魔力変換は基本的に専用パーツが必要です。
耐電性や耐火性、それ等がなければ大規模の魔力変換は行えません』
「通常型デバイスではさっきのサンダースマッシャーまでってことか……うん、わかった、少しずつ戦い方を探っていこう」

流れというか成り行きで組んだがフェイトとレイジングハートでジュエルシードを集めるしかない。
彼女達は慎重に出来ることと出来ないことを考える。
が、無視された形となったベアトリスが目を吊り上げて怒った。

「ちょっと、禁断の合体破りしておいて……何勝手にそっちで話進めてるのよ!」
「いやそんなこと言われても……」

そもそもロマン合体した方が悪いと思ってるフェイトはゲンナリした。
ハアと嘆息した後彼女はベアトリスに言い返した、相手の正体に踏み込む形で。

「……ていうか転移させたのは虚の属性、光の結界は天の属性の魔法じゃなかった?」
「ぎくっ!?」
「虚に天の魔法……貴女、ベール=ゼファーでしょ」
「ぎくぎくっ!?」

ベアトリスは動揺し激しく仰け反った、その反応が最早答えだった。
フェイトは目の前のロマン魔王に大いに呆れ、何こいつ的な視線を送った。

「ねえ、ベール=ゼファー……何がしたいの?」
「え、誰それ、そんな美少女魔王知らないなあ……」
「知らない魔王の性別を何で知ってるの?」
「……ええい、行きなさい、口封じよ、バアル!」
「……多分前回みたいに私を鍛えに来たんだろうに、もう本末転倒ってレベルじゃないなあ」

当初の目的を忘れてテンパった自称ベアトリスが鉄巨人に指示を出す。
ダンッと地を蹴り鉄巨人が突進する。
狼の四肢によるチャージが数十メートルの距離を一瞬で詰めた。
フェイトの真上から前肢、狼の足の一つを振り上げる。

ガオオオォン

踏込み駈けるその体の軋みが咆哮のように聞こえた、慌ててフェイトは魔剣にプラーナを纏わせる。

「来る……金剛剣!」

ガギィン

轟音が響く、激しく火花を散らせながら魔剣が鉄の足を逸らす。
だが、安心している間等はフェイトには無かった。

ガオオオォン

「くっ、二発目っ……」

鉄巨人が狼の頭部を装着した右腕を振り被ったからだ。
その口から伸びた凶悪な牙がギラと輝く、そして高速で振り下ろされた。

ギュオンッ

狼の牙が大気を斬り異様な音を経てた、だが突然それは急停止する。

「グルルッ」

ギギッ

妖気を乗せた一声がゴーレムに異常を発生させたのだ。

「久遠、ありがとう!」
「止められるのは一瞬だけ、乗って!」

巨大な妖狐に姿を変えた久遠はフェイトを背に乗せて後方に飛び退る。

ドゴオォ

それに僅かに遅れて鉄巨人の右腕が振り下ろされた。
狼の牙が大地を割る、ピシピシと広範囲に亀裂を入れた。

「くっ、何てパワー、巨体は伊達じゃないということか……」
『フェイト、守っていてるばかりでは不利です、反撃を!』
「……わかってる、はあっ!」

頷きフェイトが魔剣を振るう、だがガギィンという音がしたに終わる。
剣山のような鱗が更に伸び魔剣を弾いたのだ。

「くっ!?」

慌ててフェイトは二撃目の為に魔剣を引き戻そうとした。

ガオオオォン

「何!?」

だが、鉄巨人が妨害する。
左腕の蛇の顎を開き、ガッシリと魔剣の刀身を噛み止めたのだ。
慌てて剣を引くフェイトだが幾ら力を込めても動かない。

「う、魔剣が……」
「ふふ、甘いわね、右の狼の牙は攻撃……左の蛇の牙は敵の拘束担当よ!」

自称ベアトリスが勝ち誇りながら鉄巨人に指示を出す。

「さあそして……右の拳打の二撃目、行きなさい」

ガオオオォン

この言葉に従い鉄巨人が右腕を振り被る、左で押さえている間に攻撃用の右を叩き込むつもりだ。

「そ、それなら……久遠!」
「了解……ガルルッ!」

フェイトの言葉に久遠が頷き吠える、妖狐の妖力を乗せた咆哮が相手の内部機構を一瞬停止させる。
それで右腕が振り下ろす途中で止まり、僅かに拘束も緩んだからフェイトは直ぐに引き抜き魔剣を取り戻す。

「久遠!」
「うん、離れるよ、捕まってて!」

この間にと久遠が数メートル程飛び退った。

「まず間合いを取って……フェイト、ここは魔法で」
「わかってる、この距離じゃ不利……シューター、行って!」
『サポートします!』

ガガガッ

金色の光弾が一度散開し、包囲しながら再度集めって鉄巨人へ迫る。
しかし、自称ベアトリスは余裕を崩さず、久遠の咆哮の硬直から立ち直った巨人に支持した。

「ふっ、甘いわ……レーザー、放て!」

ガオオオォン

ガキンと頭部が展開する、そこには『青い宝石』が無数の管に繋がれた状態で埋め込まれていた。
それがカッと輝いた。

ビイィイ

放たれたのは青い色の閃光、鉄巨人は頭を素早く回し自分を包囲するシューターへ。
グルリと尾を引いて殆ど360度に乱射、フェイトの放ったシューターを撃ち落とす。
だが、フェイトにはそれより気にすることが有った、青い石を見ていた。

「ジュエルシード!?」
「ふふ、エネルギー源よ、欲しいの?……欲しければ取ってみなさい」

主が挑発し、その僕は応えるようにレーザーを放った。

ガオオオォン

「くうっ、調子に乗って……久遠、かわして!」
「グル!」

乱射された青い閃光を久遠が縫うように走り抜ける。

「……フェイト、どうする?」
「接近して、何とか死点打ちを狙ってみる」
「了解!」

タッタッと軽やかに左右にステップを踏みながら久遠が駈けていく。
鉄巨人が狼の四肢で対抗しようとしたが、行き成り方向転換されて横へ向けられた。

「遅くはないけど、小回りはこっちが上……フェイト!」
「うん、任せて……死点打ち、やあっ!」

ヒュバッ

すれ違い様にフェイトは魔剣を突く。
それが向くのは鱗が無い僅かな隙間、切っ先が鉄巨人の胴体を斜めに斬りつける。
だが、鉄巨人は切られながらも左腕を振るった、蛇の大口で捕まえようとする。

「うっ、浅かったか……いやまだだ、捕まるわけには行かない!」

顔を顰めながらもフェイトは魔剣を再度突き出す。

ザシュッ

今度は左の肩へ、魔剣の先端が関節を抉り一瞬相手の攻撃が止まった。

「久遠、今のうちに離れて!」
「グルッ!」

ダンッと地を強く蹴って久遠が後退する。
十メートル程一気に間合いを取り直し、フェイトと久遠は鉄巨人を忌々しそうに見る。
相手は脇腹と肩に火花を散らしながらも悠然とファイティングポーズを取った。

「うっ、まだ……頑丈だね」
「……グルル、ちょっと厄介」
「ちょっとどころじゃ無いかも、死点打ちは集中力が要る、後何度使えるか……」

大技にはそれ相応の代償(コスト)が存在する。
相手の死角を貫く死点打ちは正にそれであり、続けて何度も出来ることではない。
が、今までの有効打は死点打ちの二度だけ、唯の攻撃では蛇の鱗に弾かれてしまう。

「うーん、久遠の速度と妨害能力が有るから負けないにしても……余り消耗すると後に響きそう。
……何か切っ掛けが、この硬直した流れを変える何かが有れば……」

そんなことを考えた時それは起きた、何というかこういう美味しい場面に間に合った者が居た。

ボッ

「邪魔させて貰うぞ!」

火球が結界を破って落ちる、いやその中に人影が在った。

「な、何!?」
「ふ、何かと言われたら……騎士である!」

ボウッ

その体に激しく炎を燃やし、淡い桜色の髪の女性が現れた。
頑丈そうながら動き易さにも気を使った白い甲冑を装備し、正しく騎士を具現化したような女性だ。
彼女は拳を握り戦意を露わに鉄巨神を見下ろした。

「騎士として……この大戦、見逃せんな」
「あ、あれはあの時の……」
「烈火の……いや今は唯の騎士としてシグナム、参る!」

そう言うと彼女は鉄巨人へ飛翔、全身から炎を激しく噴出する。

ゴゴゴッ

「はあっ、喰らえ!」

燃え盛る炎を集中させた拳を引いて、一部を加速に使いながら一気に突き出す。

ドゴオォ

灼熱の拳打が鉄巨人の胴体へ打ち込まれた。
この不意打ちに反応できなかった鉄巨人がグラリと押され後退る。

ガオオオォン

軋む装甲が立てた音は悲鳴のようだった。

「ふっ、良い反応をしてくれる……久しいな、フェイト・テスタロッサ」
「貴女はあの時の……シグナムさんでしたね、どうしてここに?」
「高町殿に借りが有ってな、君の戦いは彼女の戦いで、君の勝利も彼女の勝利……助力させてもらう」
「ありがとう!」
「ふっ、それは高町殿に……では行こうか」

二人は並んで立つと鉄巨人を見上げる。
彼女達の目はギラと輝く、シグナムという援軍にフェイトの戦意は燃え、シグナムもなのはへの恩返しなので当然燃えていた。

「くっ、ここで援軍ですって、だけど……バアル、やりなさい!」

ギギギッガガガッギガッガギッ

「バアル?」

が、バアルの反応が可笑しかった、慌ててベアトリスがそちらを見ると彼は全身から煙を吹いていた。
全身から異音を発しながら痙攣する鉄巨人は明らかに異常が発生している。
痛々しい姿にベアトリスは悲鳴を上げた。

「バ、バアル!?」
「む?さっきの私の一撃が効いたか……だがカートリッジが素寒貧だから大技は使えん、あれは唯の炎熱変換による攻撃だぞ」
「そうなると……魔力性の攻撃だから?」
「あ、しまった、所詮ゴーレムだった……」

あっとベアトリスが口元を押える、物理攻撃には難攻不落だが魔力攻撃には紙装甲というゴーレムの特徴をすっかり忘れていた。
シューター程度ならレーザー乱射で対応できるがベルカ騎士の攻撃は流石にきつかったらしい。

「へえ、魔力攻撃かあ……魔剣よ、エンチャント!」
「さてならば私は炎で」
「ぎゃあっ、弱点狙いなんてズルいわよ!」
「五月蝿い、そのジュエルシードは貰うよ!」
「以下同文」

フェイト達は容赦なく相手の弱点を突く、ここに来て流れは完全に彼女達の方に行っていた。
慌ててベアトリスは近寄らせまいと鉄巨人に迎撃を命じた。

「バアル、近寄らせるな!」

ギギッギギギッ

「ちっ、リミッター解除、出力最大よ!」

ギギッ
ガオオオォン

体を軋ませながらバアルが頭部装甲を展開、そこに輝くジュエルシードが閃光を放とうとする。

「……させない、ガルルッ!」

フェイトとシグナムを乗せて地を駆けながら久遠が吠える。
三度彼女の咆哮が鉄巨人を凍りつかせ、その間に久遠は一気に鉄巨人の懐へ飛び込んだ。
そして、その背からフェイト達が颯爽と飛び降り、雷光と炎を迸らせる。

「弱点の魔力攻撃を……喰らえ!」
「これで倒れるがいい!」
「くっ、左で迎撃しなさい、バアル!」

ガオオオォン

リミッター無しによる過剰出力で硬直を脱した巨人が左腕を掲げた。

「ふっ、甘いな、ベアトリスとやら……先までのテスタロッサの戦いは無駄ではないぞ」

バキンッ

だが、死点打ちで抉られた左腕は過剰出力に耐えられず脱落する。
シグナムはフェイトの戦いに感心の笑みを、対してベアトリスは驚愕に顔を歪めた。
そして、そこへ決着の一撃が放たれる。

「行くよ……やあっ!」
「……続こう、はっ!」

雷光を纏った魔剣がやや右の上段から左下へ、燃え盛る手刀が左の上段から右下へ、フェイトとシグナムの攻撃の軌道が交差する。
ズズッとゆっくりと鉄巨人の体がずれる。

ドスン

「馬鹿な、バアルが……」

四つに分たれ彼は音を立て地に沈んだ。

「……私達の勝ちだね、ベール=ゼファー」

フェイトが落ちた頭部からジュエルシードを分断後デバイスに収納し、悔しがる大魔王に言った。

「ふ、ふん、そっちの勝ちだって?……こ、今回は貴女を鍛えに来ただけだもん、だから負けてないもん!」
「嘘つけ、明らかにテンパッて落としに来たじゃないの」
「芝居に緊張感を出す芝居、テンパッてない!……ここは引いてあげる、覚えてなさい!」

そんなことを喚きながらベール=ゼファーは踵を返した。
バッとジュエルシードを取り外されたゴーレムの頭部を奪い取り、魔法陣を展開するとそこへ飛び込み転移した。

「覚えてろよ、次はもっともっと強いゴーレムを用意するわ!」

ヒュンッ

捨て台詞を最後に消えた彼女に、残されたフェイト達は苦笑するしかなかった。

「何というか典型的な捨て台詞だね」
『……何というか嵐のような御人でした』
「……帰ろう、何か疲れた、まあジュエルシードが手に入ったし良いかな」
「ふふ、お疲れ様、テスタロッサ……私もフォートレスに戻るか」
「うん、シグナムさん、それじゃ……」

魔王のロマンに振り回された疲れと勝利の喜びを手にフェイトは帰路へ着いた。
対ベール=ゼファー製ゴーレム、その初戦はこうして彼女の勝利に終わる。

(……何だろう、こう嫌な予感がする)

殆ど週イチで敗因を改良しては新ゴーレムに襲撃されるとこの時点では気づいていなかった、彼女の苦難の日々が始まっていた。



おまけ

「うふふ、見てなさい、次は対魔装甲で……」
「それで重くなって粗大ゴミに成るに一万ペリカ」
「……ならブースターを増設して補うわ」
「何かの拍子で、燃料が自爆に……はらたいらさんに千点……」
「シャラップ、リオン、アゼル」
『はーい』




シーン4完、少しポンコツ様との因縁を強めてみた・・・
ベール=ゼファーがゴーレム使いというのは作者の知る限りで、彼女関係のシナリオに高確率でゴーレムが敵として居たから。
これは公式で明言されたわけでないので違うかもしれませんが・・・
まあゴーレム主力だったのは確かなはず、ああでも昔だけかも(2ndは結構バラバラ、3dは部下任せ多めか?)



[34344] 一章『暴走』シーン5
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/08/23 21:55
シーン5



「また?」
「ああまただな」
『そのようですね』

バリアジャケットを着たフェイト、それにシグナムとレイジングハートが呆然と呟く。
彼女達は海鳴市内で不審な魔力を感知し調べに来ていた、そして『それ』と出会った、いや再会したのだ。

ガオオオォン

鉄巨人が勇ましく吠えた、前回で懲りたか今度は三体のサポートユニットが合体済みだ。

「またお前か……」

フェイトが頭を抱える、嫌々ながら辺りを見ると鉄巨人の肩の一人の少女が立っていた。
彼女は鉄巨人の右肩で無駄に偉そうにしている。
更に、ガコンという音がしたと思うと、少女と逆の位置に背部からせり上がった砲台が固定された。
それは頭部のジュエルシードとコネクターで繋がっていた、エネルギー源はそれのようだ。

「まずは……デモンストレーションかしら」

ギュインギュイン

フェイト達に見せつけるように、鉄巨人はエネルギーチャージを開始する。
砲口に青い輝きが瞬く、それは段々と輝きを増していった。

「ふ、ふふ……見るがいい、新生バアル……バアル・マーク2の力を!」

肩の少女、ベールもとい自称ベアトリスの言葉に頷き鉄巨人が構える。
少女が言ったデモンストレーションの通りに、砲口はフェイト達ではなく空を向いている。
合体済みの四足獣の四肢はバーニアを吹かし、今回初お目見えとなる猛禽の翼を広げ制動を取る。
彼が完全な砲撃体勢を取ったのを確認しベアトリス(自称)は興奮で頬を赤らめて宣言した。

「放て!」

ギュインギュイン
ギュオオッ

砲口から無駄に広く厚い光の線が伸びる、それは真っ直ぐに天へと伸びていった。
ジュバアアッとその熱で雲が水分消し飛ばされながら散る、数秒程で砲撃は止まるがその後にはポッカリと雲に大穴が空いていた。

「ああっ、雲が……光が空を切り裂いたように!」
『何てエネルギー量……次元航行艦の主砲に匹敵します!』
「……あっ、こっちの技術使ってあるからあれ非殺傷、だから安心してね」

フェイト達は流石に顔を引き攣らせて絶句する、というかロマン砲まで持ち出す相手に呆れた。
ベアトリス(自称)は安心させるように補足したがそれは何の慰めにも成らない。
非殺傷設定、魔力ダメージの純衝撃化は人体に傷を負わせないが痛い物は痛いのだ。

「はーはっは、どうマーク2の力は!?」
「大人気なさすぎるよ、推定千歳……今度は既に合体済みとか、大砲が追加されてるとかさ」

フェイトが思わず愚痴り、それにベアトリス(自称)は寧ろ気を良くした。
彼女は更に楽しむべく鉄巨人に指示を出す。

「ふっ、良い顔ね……さあお楽しみのお時間よ」

ガオオオォン

「前回の雪辱よ、バアルマーク2、コンバットモード!」
「……もう最初私を試すつもりだったとか忘れてるんだろうなあ」

鉄巨人が吠えて両腕を高々と掲げ、フェイト達は顔を引き攣らせながら構える。
そして、徐ろに鉄巨人はスイッと全身のバーニアと猛禽の翼で空に浮かんだ。
更に、ピタリと彼は止まった。

「……何で止まったの?」
「え、砲撃の反動対策だけど?火力凄いけど反動も有るから安全装置的な?」
「へえ、そう……刀拳魔断!」
「あっ、ちょ、カウント減らすな!?」

とりあえずフェイトは衝撃波を打ち込んだ、しかも肩の砲付近に。
慌てて庇って鉄巨人はバランスを崩し砲撃体勢を解く。
どう考えても大砲は撃てないし、明らかな隙だった。

「……ふむ、ならこの内に」
「げ、今度は騎士が」
「燃えろ!」

当然歴戦の騎士であるシグナムはこの隙を逃さなかった。
すかさず飛び込み、炎を灯した手甲で殴りつける。

ドゴオォ

轟音が響いた、ベアトリスが悲鳴を上げ、唐突にそれが途切れる。

「ああバアル……何て言うと思ったか!?」

ニヤリと笑った彼女は鉄巨人に、鈍く輝く追加装甲で炎を受け止めた彼を指し示す。

「舐めるな、対策済みだ」
「何だと!?」
「あれは耐魔力コーティング、前回のようには行かないわよ!!」

部分的にだが装備されたそれが前回の決め手だった魔力攻撃を防いだ。
ベアトリス(自称)はニヤニヤ笑いながら説明する、まるでアニメ二期の新型主役ロボットの性能を誇る開発者のように。

「まあ付加は不完全、全身だと重くて動けないから各所への装備に留めたが……これなら前回のようには行かないわよ!」
「そう、それなら……シグナムさん、レイジングハートを使って、射撃と炎による連続攻撃だよ!」
『イエッサー!』
「……へ?」

が、フェイトがレイジングハートをシグナムに投げ渡したのを見て、ベアトリスの笑みは凍りついた。

「ミッド式か、慣れていないんだが……細かい制御は任せて良いか?」
『ええ、それで』
「では……シューター、撃て」
「ば、バアル、ガードを!」

シューターが立て続けに放たれる。
慌てて防御を指示する声に従い、鉄巨人が素早く追加装甲を全面に押し出す。
装甲で何とか弾く衝撃でも鉄巨人は体勢を大きく崩した。

『ちっ、手応えが無いですね、でも……』
「ああ、シューターは弾かれたが……これで私の方はフリーだ!」

そこへ炎を灯した手甲の一撃、全力でシグナムが鉄巨神をぶん殴る。
彼は咄嗟に追加装甲で押さえようとしたが、一瞬間に合わず胴を強打された。

ドゴオォ
オォン

胴を陥没させたバアルの体が軋む、まるで弱々しい悲鳴のようで肩に必死に捕まるベアトリスが動揺し叫ぶ。

「バアル!?」
「おい、まだだぞ」
「何?」
「……レイジングハート!」
『ええっ、任せて!』

だがシグナムとレイジングハートは容赦しない。
共になのはからフェイトを任された者同士であり、それを裏切らない為に全力で障害に向かっていく。
後方に吹き飛んだ鉄巨神は隙だらけだ、すかさずそこへ追撃のシューターが放たれた。

「行け、魔力は存分に使え!」
『おお感謝を……次は私の番です、シューター射出!』

ドガガガッ

堰を切った濁流のように閃光が走る、鉄巨人は連続する衝撃に体を揺さぶられた。

「は、反撃よ、バアル……背部バスターランチャー、砲撃シークエンス開始!」
「……させないよ、刀拳魔断!」
「ぎゃあ、またカウントが!?」

慌てて後方に飛んだ後肩の大砲を構えたが、後ろで機を伺っていたフェイトが阻止する。
素早く魔剣を振るい衝撃を大砲付近へと放った。
照準が乱れ、更には砲を動かすケーブルが数本千切れ、射撃を強引に中断させた。

「更に刀拳魔断……まだ終わりじゃないよ!」

もう一度衝撃波で時間を稼いだ後フェイトは地を蹴る。
そこへシグナムが借りていたレイジングハートを返す、フェイトはフワと飛んで巨人に突撃、シグナムもそれに続いた。

「テスタロッサ、レイジングハートを!」
『ここらで決めましょう』
「うん、サンダースマッシャー準備……同時に行くよ、シグナムさん」
「おうっ、任せろ!」

鉄巨神目掛け飛翔するフェイト達に、ベアトリス(自称)は焦った表情で巨人に指示を出した。

「ええい、もう大砲は良いっ、格闘で迎撃しなさい!」

この言葉に、鉄巨人は左右の狼と蛇の頭部から牙を伸ばし殴りかかった。

ガギィン

甲高い音がした、何かが弾け砕け散った。
地面へと落ちていくそれは鉄巨人の牙で、シグナムが突き出した両の拳の装甲に圧し折られたものだ。

「……え?」
「近接戦闘に切り替えたのは悪くない……が運が無かったな、この距離は得意なんだ」
「ば、馬鹿な、バアルの拳撃を止めただと!?」
「一足一刀、この間合いは騎士のものだ、残念だったな」

シグナムがニイっと好戦的な表情に成る、彼女は迎撃の瞬間素早くフェイトを下がらせると自分の手甲で迎え撃ったのだ。
ベルカ騎士の騎士甲冑はミッドのバリアジャケットを凌駕する、彼女の近接戦闘技能が合わさればこのとおりだ。
そして、迎撃をし損なった巨人へフェイトが飛ぶ。

「はっ、刀拳魔断……そして、更に」

すれ違い様に巨人の四肢を切りつけ体勢を崩す。
更にm彼女はそのまま背後に抜けると素早く反転しレイジングハートを構え巨人の背へ突きつけた。

「雷光よ、貫け!」
「……合わせよう、燃えろ!」

背後から雷光が、迎撃の後再度前進したシグナムの炎も同時に前から襲いかかる。
青白い雷光と真紅の炎に挟まれた鉄巨人は一瞬で胴体部分を吹き飛ばされた。
風穴の空いた胴から炎が全身、合体部分にまで連鎖すると一気に炎に包まれる。

ガオオオォオン

最後に鉄巨人は苦しげに身動いで装甲が響かせた音は断末魔のようだった。

「ああっ、バアル!?」

咄嗟に肩から飛んで爆炎を避けたベアトリスが悲鳴を上げた。

「う、ううっ、こんなのって無いわよ」
「おい、テスタロッサ、ベアトリスとやらの様子が……あれ泣いてないか、やり過ぎたか?」
「いや少し不味いかも、このパターンは……」

ベアトリスが行き成り顔を上げると両腕をバッと広げる。
左で爆散後落下するジュエルシードを、右で同じく落ちてきた装甲の一つを掴む。
キッと眦を釣り上げたその表情には怒りが有った。

「あっちゃあ……」
「うおっ、装甲板を」
「バアル、貴方の仇は私が取ってやるわ!」
「……暴発か、面倒くさいことに成った」
『鍛錬目的っての、もうどこにも有りませんねえ……』

呆れるフェイト達に構わず、ベアトリスが装甲板を振り被りながら飛翔する。
当初の目的であるフェイトの力試し云々は最早遥か彼方だった。

「うおおっ、リベンジバアルスマッシュ!」
「装甲で殴ってるだけでしょうに……」

ガキィン

呆れながらもフェイトは魔剣で振り下ろされた装甲板を弾く、防御の技である金剛剣だ。

「ちいっ、防いだか、だけど……それには集中力が居る、続けては出来ないでしょう、はあっ!」
「何、きゃっ!?」

ドガッ

ベアトリスは人外故の体力で強引に装甲板を引き戻すと再度叩き付ける。
衝撃を受けきれずバリアジャケットの外套がボロボロに、フェイト自身にもダメージが有ったか額から僅かに血を流していた。

「くっ、しまった、読まれたか……」
『ああ、フェイト!?』
「テスタロッサ!」

慌ててシグナムがフォローしようとしたが、目敏くベアトリスがその邪魔とフェイトへの追撃を同時に行う。
一旦装甲板を真上に放ると、両手に魔力を集中する。
すると空間が歪曲し恐るべき質量、破壊力を発した。

「邪魔するな、ダブル……ディストーションブラスト!」

そして歪めた力場が解放される、片方はフェイトへ、もう片方は援護に向かうシグナムへ。

「ぐっ、重力攻撃か、これでは向こうの援護に……フェイトを守れ、レイジングハート!」
『……フェイト、魔力勝手に使わせてもらいます、プロテクション!』

シグナムは歪曲した重力場に吹き飛ばされ、がその指示に素早く従ったレイジングハートはフェイトを重力から守った。
だが、重力場とレイジングハートの障壁が相殺した瞬間ベアトリスが装甲板で殴りかかった。
既に先程の一撃でボロボロのフェイトには満足に対応出来ないだろう、彼女は笑みを浮かべる。

「甘い、今度こそ止めよ……ファイナルバアルスマッシュ!」
「さ、させるかあっ!」

だが、意外なことにフェイトが反撃した、痛みで満足に動かない体に活を入れ気合で魔剣を振るう。
普段の鋭さ等残っていない魔剣がフラフラと揺れながらベアトリスへ、彼女は逆に意表を突かれ切っ先を受けた。

チッ

肩口を掠める程度のそれに驚きつつもベアトリスは攻撃を再開する。

「掠った?……でもこの程度じゃ止められないわ、当たりなさい!」
「……それはこっちのセリフだ!」

ブウン

「え?」

振り下ろした装甲板が虚しく空を切る、先ほどまでそこに居た筈のフェイトが消えていた。
ダメージで動けなかった筈の彼女はそこから数メートル離れた所に居た。
ベアトリスは意外そうに首を傾げた。

「あれ、動けるの?」
「私はあの程度じゃ止められない……」
「その体でよく動く、でも……アルティメットバアルスマッシュ!」

どうせもう限界だろうと、先程の反撃と回避で体は限界だとベアトリスは考えた。
止めを刺そうと彼女は装甲板を叩き付ける。

ブウンッ

「……え?」

そして、再び空を裂く、また避けられたことに彼女は驚愕した。

「なっ、何で!?」
「……止められないって言ったでしょ、やあっ!」
「ぐっ!?……何で魔剣使いの紙装甲、いや豆腐、それも絹ごし豆腐の防御力で動ける!?」
「……答えは簡単、よく見てみなよ」

何時の間にか魔剣がボウっと輝く、切っ先に纏わりつく鮮血、ベアトリスのプラーナが魔剣の光に分解される。
それは攻勢の魔力から、その対極である治癒の魔力に変換され魔剣を通じてフェイトの体へ流れ込んでいく。
この現象にベアトリスは思い至る物が有った。

「ああっ、それ……霊波斬!?」
「正解、切った相手の生命力を還元する……そっちには掠った程度でも、反撃の時点でダメージは半分治ってる」

フェイトが額を拭う、すると傷はもう殆ど塞がっているのがわかる。
彼女は魔剣をしっかり握り、戦意を露わにベアトリスに突き付けた。
魔剣で得た活力によって彼女は二度の回避を為した、ならば当然反撃だって出来る。

「くっ、だからって……まだ貴女が勝った訳じゃない、ディストーションブラスト!」
「……ええ、だからこれから勝ちに行くのよ、サンダースマッシャー!」
『軌道予測……相殺します!』

咄嗟にベアトリスは歪ませた力場を放つ、だが読んでいたフェイトはレイジングハートから放った砲撃で相殺する。
両者が互いの中心で弾け、眩い閃光が辺りを照らす。

「うっ、目が……」

ベアトリスは怯み、しかし読んでいたフェイトを剣を掲げ光を遮ると、素早く無駄なくベアトリスより一瞬早く攻撃態勢を移った。

「貰うよ、そのジュエルシード……はあっ、霊波斬!」
「うっ、ぐあっ!?」

フェイトは魔剣を水平方向に払う。
それで、ジュエルシードを持つ右手と装甲板を持つ左手が切り落とされる。
素早くフェイトはジュエルシードを奪うと、レイジングハートと共にシグナムに一旦預けた。

「シグナムさん、レイジングハートとジュエルシードを!」
「ああ預かった、こちらで封印しておく」
『お手数をおかけます……フェイトは?』
「私は……当然止めを刺す、さっき勝つに行くって言ったしね」

霊波斬で体の傷を完全に治しながら彼女は魔剣を振り被る。
そして、限界まで体を捻って力を貯めた後一気に振り下ろした。

ギュオッ

「これで……止めだ、はああっ!」
「ぐわああっ!?」

振り下ろされたベアトリスの体を切り裂く、頭頂から股下まで正確に両断した。
そのまま落ちていくベアトリスだったが断面の見えた切られた両腕を素早く動かし、それを呪文の代わりにして魔法陣を展開した。
下方、地面すれすれに展開されたその魔法陣に、落ちていくベアトリスの両方が落ちると一瞬輝いた後消えた。

「魔法陣?……転移かな」
「タフな相手だ、気配は……無いな、完全に退いたか」
『……ですがジュエルシードは手に入りました、これで六個目です』

相手の逃げ足に呆れるもフェイトはレイジングハートに、彼女に収納された一つ増えた青い石に笑みを浮かべる。

「ふう、六個か、まあ順調かな……これから邪魔が入るだろうけど」
「さっきのがまた来るだろう……それにテスタロッサの古巣の連中だな」
「うん、どうやら妹が居るらしい……それが来れば確実に奪い合いだ、収集ペースは下がるだろうね」
『……三つ巴までに幾つか集めておきたいところですね』
「……まあそれでも悪くないかな、現時点ではだけどね」

勝利と、僅かな懸念に複雑な表情に成るもフェイトはレイジングハートを懐に仕舞うと笑う。
どの道楽な戦いではない、だけど今は順調だからと。

(……私は頑張ってるよ、だから安心してね、なのは)

心中でフェイトは友であり恩人である人へ言った。




シーン5完、そろそろ序盤も終りか。
今回も某魔王は無駄にロマン重視・・・後半実力行使に出たけど。
まあそれは兎も角フェイトの入手ジュエルシードは今回で六個目、プレシア陣営が動く前にどれだけ数稼げるかって感じですかね?

以下コメント返信
神聖騎士団様
ええ無駄にロマン溢れてます、まあこういうのは寧ろ友人のリオンな気がしますが・・・類友て感じで似たようなことやるかなと。
といってもこういうのが理解できないフェイトにはいい迷惑ですが(一応報酬有りで迷惑料でトントン?)



[34344] 一章『暴走』シーン6
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:55
シーン6



月下の月匣(魔王の作った閉鎖空間)に哄笑が響き渡った。
その中で広がる光景に、月匣に気づいて調べに来たフェイトとその手に握られたレイジングハートは頭が痛くなっていた。

「あーはっは、ご機嫌麗しゅう、非ロマン主義者共」
「……ああうん、数日ぶりだね、ベー「ベアトリス!」……ベアトリス」
「良いか、非ロマン主義者共……今日こそロマンが勝つのだ!」
『またか!?』

一人と一機が同時に悲鳴を上げた。
心底嫌そうな悲鳴だった。

「ふふふ、今日のバアルは一味違うわ……来なさい、バアルマークスリー!」

ベアトリスがその名を呼んだ瞬間何かが現れる。
空中で光学迷彩と共に待機していた鉄の人形が、その姿を露わにしながら降下してきた。
だが、何時もの叫び、ガオオオォンという咆哮が鳴らなかった。

ズズンッ

重く、だけど前回よりも小さな音と共に着地したそれは本当の意味で人の形をしていた。

「これこそバアル改の改型……ヒューマノイドタイプのボディに換装した新生バアルよ!」
「……pipipi、目標を確認、これより戦闘モードへ以降します」

それは黒髪に豪奢なドレスの少女、正確には髪に見える特殊繊維の放熱機をリボンで結び、耐魔装甲で形成したドレスを纏う。
体の各所から金属製パーツが覗き明らかにゴーレムの一種であることはわかる。
唯その身長、いや全長は一メートル少しの完全な人型、ベアトリスとほぼ同じ容姿を持っていた。

「アバルを修復及び改造してた時に私は気づいた……あれ女の子型ってロマンじゃねと、それに小回りいいから性能も良さげだと」
「……あーそういう方向行っちゃったのか」
『いやずれてるずれてる……ああ今更か』

誇らしげに(無い)胸を張って新型バアルを説明するベアトリスは満足げだ、フェイト達はそれをジト目で見ていた。

「このバアルマークスリー、いやメカベアトリス……メカトリスが貴方達を倒すのよ」
「……語呂いいなあ」
「pipipi、イエッサー、メカトリスは完璧です!」

メカトリスがプシューと排気しながら腕を構えた。

「それに今回は人口頭脳も特別よ!」
「……というと?」
「手段を選ばず効率的に勝利を、目的達成を目指す自立型回路、通称……悪心回路を搭載しているのよ!」

そんな物騒なことを言った瞬間だった、メカトリスが行き成りベアトリスへ手を伸ばす。

「悪心回路に従い我、メカトリスは……勝利の工程の障害となる者を排除します」

ムンズ

頭を鷲掴みにされたベアトリスが目を丸くする。

「……えっ?」
「『自由過ぎる上司』を障害と判断……排除します!」
「えっ、ちょ!?」
「メカトリスコレダー!」

バチバチバチィ

「ぐわああ!?」

接触状態からの電撃、本来フェイトに対向する為に追加された武器が創造主自身を襲う。
ガクリと倒れた彼女を小脇に抱えたメカトリスは次にフェイト達を見た。

「な、何っ、仲間割れ!?」
「……いいや違います、勝利を求めての行動です……フェイト=テスタロッサ、ジュエルシードを賭けて勝負を挑みます」

彼女は自分の胸部装甲を開き、そこに嵌め込まれたジュエルシードをを見せ付けた。

「我が動力源、ジュエルシードが欲しければ……挑戦を受けろ」
「態々言われずとも……」
「pipi、慌ててはいけません……戦場はここじゃない、来い、ランドユニット!」

メカトリスが叫んだ瞬間地面が、フェイト達の真下辺りが揺れた。
慌ててフェイトが飛び退いた瞬間閃光が迸る。

ズドンッ

地下から天へ、前回見た砲撃が一瞬前までフェイトが居た場所を貫いた。

ダッ

更に大穴から鋼鉄の四足獣が飛び出すとメカトリスの隣に立った。

「新手?」
「……pipi、いいえ、あれは準備の完了を知らせに来たのです」
「……準備だって?」
「その穴は海鳴地下に広がるフォートレス……魔王蛇の領域に繋がっています」

バッと地下の大穴を指し示しすとメカトリスは宣言する。

「あの地を既に要塞化済みです……ジュエルシードが欲しければそれを攻略し、その奥で待つ我を倒してみなさい」
「何を、貴女を黙って行かせるとでも……」
「……pipi、対策も考えてあります、来い、シーユニット!」

シュルシュルと地を這いながら新手が現れる。
大蛇を模したゴーレムがフェイトの背後から襲いかかる。

ドゴオォ

「くうっ……」
「pipi、私に気を取られましたね」

前方のメカトリスに気を取られていたフェイトはその背を強かに打たれた。
彼女が体勢を崩し動けない間にメカトリス達は大穴へ飛び込んだ。
飛んだ先には猛禽型のゴーレムが潜んでいて、それはメカトリス達を載せてゆっくりと降下していく。

「行こう、エアーユニット……フェイト=テスタロッサ、3つの物を賭けて勝負しよう」
「……三つ?」
「一つ目、ジュエルシード……二つ目、プレシアと敵対するベール=ゼファーという戦力、か弱い分身といえ虜では全力は出せない。
そして最後に……全く無関係な民という人質です、見過ごせないでしょう?」

メカトリスは大蛇型ゴーレムを、いや正確にはその尾に捕えられた少女を見せた。
通りすがりと思しき人物、フェイトと『同じくらいの年齢』の『水色の髪』の少女だ。

「ま、待て!」
「……断る、解放して欲しければ我を倒せ……ジュエルシードにベルの分身、それにこの少女、これ等三つは勝利の報酬だ」

言うだけ言って、メカトリスはフェイトの制止の言葉を無視し降下する、直ぐに彼女の姿は完全に消えた。
慌てて穴の近くまで寄ったフェイトだが、飛び込もうとした彼女をレイジングハートが止める。

「くっ、追わないと!」
『駄目です、フェイト……確実に罠があります、しっかり準備しないと』
「で、でも……『フェイト!』……わかったよ、まず久遠やシグナムさんのところに行く」

レイジングハートの一喝にフェイトは渋々飛び込もうとしたのを止める、彼女は行き先を変え仲間のもとを目指した。

「ああもう、三つの人質か……ベアトリスに関しては複雑だけど、何とか奪わないと……」

ジュエルシードは当然手に入れたい、もうそろそろ『妹』が何時来ても可笑しくないので所在の知れない分を埋めるのは重要だ。
癪だがベアトリスも助ける必要がある、今は敵でもプレシアとの戦いは一応共闘できるからだ(分身喪失は弱体化に繋がりかねない)
何より人質に成った『通りすがりらしき少女』は絶対に開放しなければならない。

「……私達の戦いに巻き込んでしまったんだ、助けなきゃ!」
『はい、何としても……犠牲を出す訳には行きませんね』



(うーん、新鮮だ、ヒロイン気分っていうの?……僕は単に戦場の下調べに来たのに)

その頃人質の筈の少女は呑気そうに笑っていた。
水色の髪のツインテール、フェイトと同じくらいの年齢で、不可思議なことにその容姿すらも殆ど等しくする少女だった。

(あれが『姉』か、何時か会うだろうなとは思ったけど……何とも不思議な形で会ったもんだなあ)

何時でも逃げられるからと流れに任せ、人質となったがこれは案外悪くないかと彼女は思っていた。

(でもまあ人質ってことは……戦場を間近で見れる、特等席で彼女の戦いを見させてもらおうか、後で役に立つだろうし)

小さく少女、レヴィ=テスタロッサは微笑んだ。




ポンコツがやっぱりやらかした、そんな話・・・もう一話あります。



[34344] 一章『暴走』シーン7
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:56
『……とまあそういう事情で我等はフォートレス攻略に向かうことになった』
「何とまあ……」

次元間通信機『〇Phone』で話を聞いたなのはは大いに呆れる。
アバターである(実体化させた魔力の器)小龍の体を器用に操り、尾で端末を操作する彼女が一瞬唖然とした。
隣のユーノ、毛布(近くの民宿の拝借品)で夏の羽虫から逃れていたユーノもぽかんとした表情だった。

「ええと……シグナムは襲われなかったか?」
『……君が改造した空間にも襲撃が来た、慌てて一旦退いてバニングス殿の屋敷に行ったところで事情を聞いたよ』
「そうか、あそこも壊されるな、戻ったら直さねば……まあフェイトと合流の優先は良しだ、そのまま助けてやってくれ」
『ああ、任せてくれ』

端末越しに力強い返事が返る、これなら期待できそうだとなのはは思った。

「ところ……でジュエルシードの収集はどう?フォートレス攻略で増えるのじゃろ?」
『いやそれは直接テスタロッサと話せばいいと思うのだが、高町殿』
「……目ぼしい成果無くて話せるか、そちらで戦友が頑張ってるというのに」
「……テスタロッサの方も格好のつく数が手に入るまで合わせる顔がないと言うし、貴方方は妙なとこで遠慮というか意地を張るな。
まあ切磋琢磨というか、唯の友でなく戦友的とでも言うのか……奇妙な関係だ』

どちらも相手を気にしながら、仲間に誇れる成果が出るまで直接話し難いらしい。
間に挟まれたシグナムは、面倒臭い関係だと嘆息する。

『テスタロッサの元には現状六つ、初日に三つで学校で一つ、ベアトリスとやらからの報酬で二つだ』
「ほう、大したもんじゃ……フォートレスの分で三分の一か、いいペースだな」
『ああそうだな……だが海鳴の外、海や郊外に落ちたものも有るだろう、探索効率の落ちるそれを考えたら安心は出来ないよ』
「……郊外か、そちらは私の方で何とかなるかもしれん、上手く行けば四つ程回収できる、そちらと合わせれば総数の半分だな。
何とか回収するから、上手くいくよう期待していてくれ」

それだけ言うとなのはは通話を切った、隣のユーノがそれまで以上に呆れた顔に成ていた。

「……四っつが手に入るか、まだその途中だろうに大きく出たもんだね」
「あちらはあちらで問題が有るんじゃ……こっちで何とかするしか無いだろ?」

なのはは鎌首上げてある方向を睨む、そこには巨大な結界が在った。
結界の本来の機能である防御はなく檻としての機能を持った結界が。

「そろそろ暴走体が回復し動き出す頃だ……削るぞ、ユーノ」
「了解だ、なのは……何とか削るペースを上げられれば封印できるんだけどね」
「……難しいな、今の私はプラーナを半分に割った存在、それ故非力だからのう」

だからどうしたって長期戦に成らざるを得ない、一息に封印できないなら何度も仕掛け削っていかなければならないのだ。
唯問題は暴走体が総数四つのジュエルシードから成るということだ。
当然その魔力量は単独時より桁違いに多くなっている、だから二人は苦戦を強いられていた。

「まあ攻防一体の九頭龍なら負けはせん……ユーノ、気合を入れろ、その数故に苦戦してるが逆に言えば報酬も大きいということだ」
「わかってるよ、ここで四つ取れば後が楽になる……行こうか」
「ああ、向うも、フェイト達も頑張ってるのだしな……」

なのはの言葉でユーノも覚悟を決めた表情に成った。
二人はもう数度目と成る暴走体との戦いに向かう、海鳴で戦うフェイト達に報いる為に。



シーン7



「……さて私達はこれからフォートレス攻略に向かう訳だけど」

フェイトは人数を集めて再び大穴の前にやってきた。
彼女は何故か微妙な表情で視線をあちらこちらに向ける。

「とりあえず点呼」
「一、騎士シグナムだ」
「二、アリサ=バニングスよ」
「三、久遠だよ」
「はーい、四……魔王フェウス=モールです、所属派閥の上司であるベール=ゼファー様に行けって言われましたー」

いつの間にか混じっていた糸目の女性がマイペースに言った。
彼女に向かって一同一斉に言い放つ。

『帰れ、裏界に帰れ!』
「えー、そんなー、そしたらベール=ゼファー様に怒られるんですよー!?」

チャキとフェイトに魔剣を突きつけられ、フェウスは涙目で叫んだ。

「ほ、ほら、分身とはいえ魔力を消費しているのは変わらないんでしょ、だから取り返してこいって……」
「……傍迷惑な、ていうか元凶の癖に被害者ってのがややこしいね」

はあとフェイトは大きく嘆息した。
ベール=ゼファーは唯でさえ分身を派遣し、更に分身を出せば魔力消費が跳ね上がるから部下を出したのだろう。
そういう意味では涙目で参加を希望するフェウスも又被害者だった(しかもベルと違って本当の意味で)

「……で貴女は何が出来るの?」
「よくぞ聞いてくれました、私は夢使い……空間を歪ませ、あるいはこじ開けることが出来ます」
「まあ役に立つかな、フォートレスのショートカットとか……」

ここで派遣されただけに最良と思える能力だ。
この言葉にフェウスは誇らしげに胸を張った。

「ふ、ふふ、どうです、役に立つでしょう、人間達よ」
「……良し、それじゃあ行こうか、勿論貴女が先頭で」
「え?」

ぽかんとするフェウスにフェイトは魔剣を突き付けた。

「ショートカットやいざという時避難出来る、先頭しか無いでしょう……それに人外だから一番タフだし罠に引っかかっても大丈夫」
「え、いやあの……」
「テスタロッサの言葉は正しい、異議なし」
『異議なし』
「……シクシク、わかりましたー」

糸目のせいでわかり難いが悲しげな表情で彼女は先頭に立った。
そして、その後ろをフェイトとその手に握られたレイジングハート、甲冑を纏ったシグナム、アリサを背に乗せた久遠が続く。
三人と一頭と一機と一柱による珍道中が始まった。



キシャアアッ

「誰だあっ……この私、魔王蛇レビュアータの眠りを邪魔するのは!?」

そして、直ぐに珍道中が終わろうとしていた。

『……え?』

フォートレスに踏み込んで、直ぐにそれは来た。
何故か怒り狂ったレビュアータが暴れているのだ。
辺りには大蛇型のゴーレムの破片が転がっている、フェウスが青い顔で推測する。

「ま、不味いです!」
「フェウス=モール……これは?」
「同じ蛇であるあれで縄張りに侵入、レビュアータの闘争心を刺激したのだと思われます……今の奴は本能のまま荒れ狂う獣です!」
「つまり刺客ということ、説得は……あの怒り様じゃ無理だね、皆逃げるよ!」
『り、了解!』

フェウスが手近な壁に手をやると魔力で強引に道を開き、一同はそこに飛び込む。
フェイト達は慌てて暴れまわるレビュアータから逃げ出した。
だが、レビュアータは蛇の縦に割れた眼でギロと睨むと壁を壊し追い始める。

「うわわ、追ってきた!?」
「そりゃ獣ですし動く者を追うでしょう、まあかといって動かなくても荒れ狂う奴の巨躯に巻き込まれるわけですが」
「……冷静に言ってる場合じゃないだろ、何か奴を止めるか気を逸らす手段は!?」
「前者はないですが……後者なら単に誰か囮にすれば、他の者は逃げられると思いますが……」
『囮か……』
「あ、あれ、何故皆さん私の方を!?」

一同の視線がフェウスが集中し、彼女は青ざめた顔に成った。
この珍道中に欠けが出るのはそう遠くないことかもしれない。

「じいっ、分かれ道無いかな」
「ちょ、止めて、囮の算段考えないで!?」
「キシャアア、逃げるんじゃない!」
「ひいっ、後ろからも……」

フォートレス中に糸目魔王の悲鳴が響いていた、もう完璧涙目だった。




次回からフォートレス編が本格開始。
人質の少女が怪しいこと考えてますが・・・まあ出番はまだ先です。

以下コメント返信・・・ブーステッドマン厨様、やはり攻防判り易い魔剣使いが出てしまいます、唯メジャーな幻想舞踏やらは書く予定です。



[34344] 一章『暴走』シーン8
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:56
天を衝く程の巨大な『蛇』は怒っていた、ギロと眼光輝かせる。

「……我が眠りを邪魔する者は誰であろうと……許さんっ!」

最初に来たのは『蛇形のゴーレム』だ、それに襲撃され返り討ちにした所で四人と一頭の侵入者が現れた。
本来なら『蛇』は冷静に彼女達と接し話せただろう。
だが、ゴーレムの襲撃で怒っていてそうしなかった。
既にその怒りは心頭に達し、寧ろそれをぶつける対象としたのだ。

「シャアア、ぶっ潰れろっ!」
「……くっ、魔剣よ!」
「装甲で受け止める、貴様も来い、糸目!」
「ええい、わかりましたよ!」

ガギィン

『蛇』の突進を侵入者のうち三人、魔剣を構えた金髪の少女と甲冑を着た女性騎士、それに引きずられた防御魔法を唱える糸目の魔王が防ぐ。
攻撃を止められた『蛇』はギロリと睨みつけた。

「……手間を掛けさせてくれる、なら趣向を変えるかね」

彼女は言うとその鎌首を擡げて大きく息を吸い込む。
その大顎の内部でぎゅっと不可視の何かが圧縮されていく。
そして、『蛇』はそれを吹き付けた。
ブワアッと薄灰色の煙が吹き出す、糸目の魔王が焦った様子で警告した。

「シャアア、搦手なら……どうだい!?」
「不味い、あれに触れては駄目、あれは夢使いの……」

だが警告は僅かに遅く、薄灰色の煙が侵入者達を飲み込む。
そして、その瞬間フェイト達はグラリと視界が揺れた。

「……シャアッ、それは『夢』の欠片さ、その果てへと沈んじまいな!」

『蛇』、魔王蛇レビュアータは神代の戦争後眠りの中にいた、その内に彼女は夢の中に適応しそれを現実に反映させられるように成った。
それは世界を書き変え、人々を偽りの夢幻世界の中に落とす。
夢とは本来限られた時間の中で見る幻、だがそれが長時間ならば心を捉える牢獄と成り得るのだ。

「くくく、心地よき微睡みの中で……永遠に揺蕩うがいい!」



pipipi

「……あれ?」

電子音で目覚めたフェイトは首を傾げた。
時間は朝7時過ぎ、何か夢を見ていたような気がする、自分が寝ていたのは机の上で、そこに突っ伏して寝ていたようだ。
机にはPCが一つ、付きっぱなしでNW・ネットワーク板という画面が映っていた。

「……ゲーム、の夢?」

何か釈然としない感じがした、ふとパソコンの画面に一通のメールが入っている。
それを開くと短い文面が出てきた。

「……『フェイトちゃんが寝落ちしたのでパーティー解散します、また来週なの。ByN.T』か、うーん?」

文を読んで、特に『名前』で釈然としない気持ちが更に強くなった。
そんな風に彼女は奇妙な戸惑いを覚えていた時だった、ガチャと彼女の部屋に入る者が居た。

「フェイト、起きてるかしら」
「……母さん?」

その人を見た時フェイトは何故かあり得ないと感じた。
咄嗟に腰元の『何か』に手を伸ばそうとし、がそこには何もなく彼女の手は空振りする。
空を切る感触に彼女はとても大きな違和感、それと心細さを覚えた。
この謎の感覚に戸惑うフェイトに構わず、『その人』フェイトの母であるプレシアは優しく声をかける。

「ああやっと起きたのね、ご飯出来てるから食べちゃいなさい」
「……うん、わかったよ、母さん」

彼女に促され台所へ、用意された朝食(何故か中華料理)の並んだテーブルの前へ。
そこで気づく、玄関の方が慌ただしかった。

「……声?」
「ああ、『アリシア』と『レヴィ』よ……不思議な顔をしてどうしたの、貴女の姉妹じゃない」
「……うん、そうだったね」
『行ってきます、母さん、フェイト(お姉ちゃん)!』

元気に行って学校へ向かう二人、姉であるアリシアと妹のレヴィを見送った。
それを認識すると色々な情報がストンと入ってくる、双子の姉のアリシアは病弱で、また一年遅れで学校の小等部にレヴィと共に通っていると。
そのことを今は中等部のフェイトは残念に思っていることも。

「……うーん?」

その筈なのだが何故かフェイトは首を傾げてしまう。

「ほらほら早く食べちゃいなさい、中等部は少し余裕が有るけど……それでも遅れちゃうわよ」
「う、うん、わかった……」

さっきより強い口調で促され、フェイトは慌てて朝食を平らげる。
ピリ辛に味付けされた料理を少し苦戦しながら食べ終えた時外から声がかけられた。

「あらギリギリか、来たわよ……なのはさん達ね」
「……え?」

その名前を聞いた瞬間途轍もなく大きな違和感を覚えた、今までで最大の物だ。
フェイトは恐る恐る玄関に行って扉を開ける。
そこにツインテールの少女、どこにでも居るような少女が立っていた。

「あ、おはようなの、フェイトちゃん……学校、一緒に行こう?」
「チェンジ」
「即答!?」

『無いなあ』と最初に思い、その次に『あ、これ幻だ』と気づいた、彼女はもう一度持っている筈の『何か』に手を伸ばす。
最初より強く疑問に思ったからだろうか、今度はそれを手に取ることが出来た。
フェイトはガシリと『青い宝玉の埋め込まれた魔剣』を掴んだ、青い輝きが広がりバアッと辺りを包む。
その輝きは一瞬で世界を、虚構の檻を包み込み上書きしていく。

パリン

そんな音を最後に『夢』は砕け散った。



「馬鹿な、夢から自力で抜けただと!?」

寝起きでチカチカする視界には驚愕する蛇、その驚きは何よりの目覚ましとなった。
少しぎこちない体を起こしたフェイトはフワと欠伸した後あたりを見回す。
自分の近くにはまだスヤスヤと夢の中の子狐と魔王、それと前方で無事だった騎士と赤髪の少女がレビュアータを食い止めていた。

「ちっ、遮二無二突進してくる、既に剣の間合いではないな……だが私は高町殿と共に在ったのだ、龍炎!」
「うう、防御呪文は一応なのはから教わったけど……気休め程度に思って下さい、シグナムさん!」

シグナムがなのは譲りの紅い拳打をレビュアータに叩き込み、それをアリサが使い慣れてない防御呪文で援護している。

「……レイジングハート、説明!」
『あ、フェイト、起きたのですね……ええと、シグナムは糸目の魔王を盾にして、アリサは久遠が庇ってくれたから眠らずに済んだのです』

どうやら彼女達の犠牲(強引から自発的かという差はあるが)によって二人は無事だったらしい。

『よく起きれましたね、フェイト』
「……ちょっとショッキングな映像が有って(……いや違うか、私が知らないだけであれが本当の姿なのかな?)」

多分あれこそが自然ななのはだったのだろう、何となくフェイトはそう思った。
『ウィザードであろうと無理をしていないなのは』を見て、戦場であったからそれしか知らないフェイトは逆に夢だと確信出来たのだ。

「まあ良いや、それよりも……大技で押し返す、前衛達はレビュアータ止めれる?」
「……任せて、シグナムさんも合わせて!」
「ふむ、良かろう……まず準備か、『竜息』」

フェイトの言葉に直ぐに二人は頷いた、アリサが魔力を振り絞りシグナムは呼吸を整え次の攻撃に準備する。

「……行きます、ヴァニシング!」
「ぐっ、体が……力が抜ける!?」

アリサが翳した手から魔力が拡散しレビュアータの体に纏わりつく、それはほんの一瞬だが牙や尾から攻撃力を奪い去る。
そして、それにより彼女の攻撃を凌いだシグナムは両腕を握る。
グッと両手を合わせるとバチと紫電が瞬く、彼女はニッと笑った。

「こちらは専門ではないが……まあこれが一番有効だろう、喰らえ、雷竜!」

ドゴンッ

握った拳が鉄槌のようにレビュアータの鼻先に打ち込まれ、そこから広がった雷光が彼女を内部から焼いていく。
ジュッと焦げ臭い匂いが漂い、更に痛ましい悲鳴が響いた。

「ぐおっ、私の装甲が抜かれた、だと……」

グラリとレビュアータの巨躯がよろめく。

『フェイト、今だ!』
「うん、ありがとう、後は……任せて、三千世界の剣!」

ヒュッ

フェイトは剣を横に払う、その軌道に合わせて世界が揺らめきそこから無数の刃が放たれた。

ズドドドドッ

刃が降り注ぎレビュアータの鱗がバキンと割れる。
一陣目が終われば二陣目の刃、それは鱗の亀裂を貫きレビュアータの肉を貫く。
そして、三陣目の刃が放たれる、ザクザクと先程刻みつけた傷を更に深く抉った。

「手応えはあった……どうだ!」
「ぐおっ、これは流石に……」

レビュアータは悲鳴を上げると慌てて尾を撓らせる。
ドスンとその場に尾を叩きつけ、土煙を舞い上げると、それに乗じて後方に飛び退く。

「ここは仕切り治すしかない……覚えてなよ!」

そう言い捨てて、彼女は一睨みした後一目散に逃げ去った。

「……ふう、酷い目にあった、フォートレスに入って早々消耗したね」
「今のうちにこちらも体勢を立て直さないと……近くに高町殿の拠点がある、少し休もう」
「ああ何か色々運んだり弄ってたりしてたとこね……行きましょう、他よりマシだろうし」

はあと安堵の溜息を付いた後一同は眠る久遠とフェウスを揺すりながら次の行動を決める。
フェイト達は一時の避難場所としてのなのはの隠れ家への移動を決めた。
寝ぼけ眼の魔王を引き摺るシグナムの先導で彼女達は隠れ家に向かう。

「……まさか、なのはの気紛れが役に立つなんて」
「いや全くね」

まだ調子悪そうな久遠を支えて歩くフェイトとアリサは顔を見合わせて苦笑した。




多分素のなのははフェイトにとってはショッキング映像・・・もう一話あります。



[34344] 一章『暴走』シーン9
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:57
「ふふ、レビュアータを超えてきたか、良いぞ、それでこそ……」

フォートレス最深部で鋼鉄の少女が満足そうに笑う。
ベール=ゼファーが送り出した殺人人形の『メカベアトリス』だ。

「我が役目はあの者達の力を引き出すこと、これはその試練である」

彼女の背後で鎖でグルグル巻き(暴れるから)にされたベアトリス、それとこちらは無抵抗なので足に鎖を嵌めただけの水色の髪の少女が居た。

「畜生、人形の癖に、楽しみやがって……」
「……早く終わらないかなあ(……出来るならフェイトの戦いを直に見たいし)」
「オリジナルは五月蝿い、悪心回路を入れた自分を恨め……そっちのは全てが終われば解放する、待っていろ」

人質達に声を掛けた後メカベアトリスはマップを確認してニッと笑った、機械とは思えぬ邪悪さだった。

「おや、レビュアータはまだ諦めてないか……彼女の再襲撃、どう凌ぐ?」

彼女は二度目の戦いに期待する、それは彼女好みなのだ、大本と同じで。
フォートレスの攻防は新たな局面に行こうとしていた。



魔王遊戯 シーン9



「こちらだ、少し奇妙な場所だが驚くなよ(……何せヤンデレに乗っ取られた時の為の拘束兼自爆用だからな)」

シグナムはフェイト達をフォートレス内のなのはの拠点に案内する、勿論後半は言える訳もなく心中で言っただけだが。
辿り着いたそこには大きなスペースが広がり、無数の機器が雑多に転がっている。
地雷に魔導機雷、自律浮遊爆弾や自爆機能付き魔導生物その他様々な危険物が自個主張する。

「……ええと、爆発物ばっかりなんだけど」

フェイトは辺りを見て呆れ顔に成った。

「まあ軽く説明しよう……フォートレスから掘り起こした地雷に、トラップゾーンから持ってきた魔導機雷、鹵獲した巡回用の自律爆弾だ」
「……やっぱり全部爆発物だ!」

案の定全て爆発物でフェイトは呆れてしまった。
どうやらこれ等はなのはがフォートレス中から掻き集めたもののようだ。
よくもまあ日常生活をこなしながらここまでと、フェイトは呆れるやら怒るやら複雑なことを思ってしまう。

「なのはったら、他にすることがあっただろうに……」
「いやまあ彼女にも訳があるのだろうさ(……ヤンデレ対策や自決用なんて誰にも言えないだろうし)」

絶句するフェイト達にシグナムは誤魔化しながらフォローする。
質の悪い相手に取り憑かれてるので仕方ないとも思う、まあ言うように他の方法もあるだろうが。

「まあフォートレス付近ではワンアクションで手元に引っ張れる、この数なら使い捨ての爆弾でもそれなりの戦力に成る……怒ってやるな」
「うーん、確かに実用性、戦闘パターンを増やすっていうのは有るか……」

納得したようなそうでないような複雑そうなフェイト達にシグナムは苦笑し、その後爆発物とは別の一角を探る。
そこから仕舞ってあった数本の瓶を持ってくる。

「ええと……ああ、有ったあった、非常時用のポーション類だ」
「……こういう準備はいいんだよなあ、だから怒り難い」

単純に体を癒やす物から精神やプラーナに作用する物まで、様々なポーションがフェイト達に配られる。
これに、彼女はむうと唸り怒りを(少しだけだが)抑えた。

「まあ手加減してやれ、テスタロッサ……さてこれで一段落つけるな」
「ええ、これなら立て直せそうですね」

クピクピと似が甘い珍妙な味の瓶の中身を飲み干すと、一同ははあと安堵の溜息を付く。
いきなりのレビュアータとの戦闘は予想外の消費をさせられてしまった。
だが、この休息で幾らか余裕を取り戻せた。

「ふう、落ち着けたけど……なのはが戻ってきたらやっぱりお説教だ、隠れ家にしても物騒過ぎる」
「はは、まあ当然の反応だな」
「格闘バカだけじゃなくて爆弾魔にでもなる気かっての……」
「既に放火魔っぽいがな……」

フェイト達は和気藹々と話し合った、その内容はなのはへの愚痴だが。
彼女が戻ってきたら一波乱は避けられないようだ。

『……あっ、魔力反応有り、まだ少し離れていますがあの蛇です』
「まあ仕方ありません、夢使いは他者の思念を拾うのが上手い……あれは魔王でも有数の夢使いですし」

が、そんな時間は短かった、割と呆気無く彼女達の歓談は終わりを迎える。
レイジングハートとフェウス=モールがレビュアータの接近を告げる。
一行はやれやれといった様子で顔を見合わせた。

「休憩は終わりかな、行かないと」
「ああそろそろ出るかな……そこの魔王、お前も夢使いなら感知能力は高いはず、奥までどの程度の距離だ?」
「……少々お待ちを」

フェウスは手を合わせ静かに意識を集中する、そして数十秒後ある方向を指さした。

「逃げる間にある程度まで来ていたようです、最深部はあちらで……またブロックを1つ2つ行けば辿り着けます」
「ふむ……となると、我等の選択肢は大きく分けて二つか」
「レビュアータを倒してから向かうか、彼女が来る前に奥に行く」

そう、選べるのはそれしかないように思える。
が、もう一つ選択肢はあった、二つのうち一つ目に近いものだ。
フェウス以外の三人と一頭と一機はボソリと同時に呟いた。

「それと……」
「はい?」
『……誰かを囮にする』
「……え、え?……えっ!?」

フェウスは青褪める、他の者達の視線がおや丁度いいとばかりに彼女へと集中していた。



ズズズッ

「さあ見つけたぞ、覚悟はいいかあ!?」

ドゴンと壁を破ってレビュアータが現れた。
巨大な蛇の胴体をくねらせながら突っ込んできた彼女はフェウスモールを見下ろす。
だが、そこで彼女はここにフェウスだけしか居ないことに不思議そうな様子に成った。

「お前だけか、他はどうした?」
「……ふふ、わかっていましたよ、私は貧乏籤引くんだろなって」

フェウスは答えず、唯ぎゅっと杖を両手で握った。
それは魔術的補助とかでなく、打撃の為の持ち方で、そのことをレビュアータは訝しんだ。

「お前、何を……」
「直ぐにわかります……そう、今直ぐに!」

グワとフェウスは杖を振り被る、そしてそのままそれを足元に叩きつけた。
杖の行く先には丸い球体、フォートレスに仕掛けてあった地雷が有った。

「……私、全て終わったら休暇取るんだ」
「ちょ、それ死亡フラ……」

ドガッ

打撃の衝撃で地雷が起動、カッと閃光を伴って爆発する。
そして、それは周囲の、円状に並べてあった他の爆発物にまで広がって巻き込んで爆発する。
殆ど同時にこの場の爆発物全てが弾けていく。

ズドドドドッ
ドゴンッ

「……あ、駄目だ、こりゃ逃げられん」

爆炎に揉みくちゃにされたレビュアータはそんなことを思い、それを最後に頭上から降ってきた破片に飲み込まれその姿は見えなくなった。



「あーあ……レビュアータはぺちゃんこ、捨て駒使って突破したか」

メカベアトリスはフォートレスの破片に消えた蛇に大きく嘆息する。
突破はある程度織り込み済みだが、押しかけて来た魔王の犠牲だけでレビュアータを抜けたのは予想外だ。
実質おまけで戦力的被害は無く、道の割り出しで夢使いの仕事はしたようだ物だ、ベストと言っていいだろう。

「ちぇ、実質相手に損害は無し、こりゃ私の方が大変そうだ……やれやれこりゃかなり気合い入れないと」

苦笑の後拳をぐっと握り、バチバチと放電し始めた。

「……難題だ、だがゴーレム冥利に尽きるね」

どう見ても言葉と裏腹に、メカベアトリスはやる気に成っていた。
彼女は後ろの人質を下級エミュレーターに下げさせると、空陸援護ゴーレムだけを連れて前に出た。

「……人質だけ、もう暫くそうしてて……直ぐに役目は終わるから」
「ちっ、生意気、敗けちまえ」
「まあ終るならいいや(……さあデータ収集だ)」

彼女達を安全圏まで放し、それを確認した上で狼型のゴーレムに乗って更に頭上に猛禽型を旋回させる。

「……これで良し、さあ来い、フェイト=テスタロッサ!」

メカベアトリスが叫んだ瞬間壁の一つが円形に裂かれ、崩れると同時に金髪の少女を先頭に乱入者が現れる。
現れたのはフェウスモールの犠牲でレビュアータを突破したフェイト達だ。
彼女は魔剣を突きつけてベアトリスに言い放った。

「見つけた、ベアトリスの偽物……ジュエルシード、それに人質達、渡してもらおうか!」
「……ならば勝ってみせろ、そうしたら渡してやろう」
「……その言葉、後悔するなよ」

双方相手を睨んだ後得物を構え、同時に動き出す。
フェイトとゴーレムの三度目の戦いが幕を開けた。




約一名の尊い犠牲(但し強制)のより最深部に到着、次回ゴーレム編後半です。
まあ妹が本格参戦する前の今までの決算的話ですね。

以下コメント返信
神聖騎士団様
まあ詰めの甘さがベル様のチャームポイントだと思うし、後非創造物の反逆もお約束かなと思って。
・・・確かにこいつら行動がそっくりです、特に傍迷惑さ。

筆友様
いやどう出すか悩んだのですが・・・戦場で会った方が敵同士と考えたら自然だし、後レヴィはフェイトより戦闘狂っぽいのでこんな感じで。



[34344] 一章『暴走』シーン10
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:57
シーン10



フェイト達とメカベアトリスにゴーレム二体、彼女達の睨み合いは数秒続く。
そして、均衡を破ったのはベアトリスの叫びだった。

「スカイユニット、空爆よ!」

ガオオォン

猛禽型のゴーレムが翼を広げて舞い上がり、胴体から展開した砲塔を向ける。
が、その砲撃が放たれることは無かった。
その眼前に現れた女騎士が、鎧をパージして身軽に成ったシグナムがゴーレムの眼前に現れたのだ。
ニヤリとインなーのみの彼女がやや物騒な笑みを浮かべた。

「なっ、何……向うの方が早い!?」
「アーマーパージ……ってな、本来が防御の技だが、身軽ならこちらが早いようだな?」
「……ちっ、スカイユニット、空爆はいいから先にそいつを!」

ガオオォン

「おっと、こちらに来た……はは、しまった、これではこの間合いでは剣が使えん、仕方ないから高町譲りの技で相手しよう」

鋭い爪で掴みかかるゴーレムにシグナムは少しも恐れずに向かっていく、その両手はボウッと激しく燃えていた。
寧ろ徒手というやや不利をも楽しんでいる様子の彼女はフェイトに叫ぶ。

「テスタロッサ、私はこの鳥と遊んでるから、そっちはそっちでリーダーを潰しておけ!」
「……は、はあ、わかった、それじゃ頑張って?(……何だか楽しそうだ、戦闘狂?)

微妙な表情で見送ってから、フェイトは魔剣を構える。
ベアトリスは僅かに動揺する、猛禽型ゴーレムの対地攻撃で先制するつもりだったのだ。
とはいえ向こうはシグナムに掛り切りで、もう自分で何とかするしか無い。
彼女は止むを得ず、まだ剣の間合いの外のうちにと両腕を打ち出した。
基部とワイヤーで繋がれ、掌からバチバチと紫電が瞬く。

「ちっ、ならばせめて先手を……ダブルコレダー!」
「衝撃波だ、行けっ……それに金剛剣も!」

しかしフェイトは動じない、相手がゴーレムとわかっているからこういった仕掛けも予想済みだ。
片方は衝撃波で軌道を変えて、残りは魔剣の刀身の腹で弾いた。

「くっ、防がれたか……だが出鼻は挫いた、次はお前の番だ、ランドユニット!」

が、ベアトリスもあれだけで勝てるとは最初から思っていない、防御させ猶予を作るのが目的だ。
その間に彼女は狼型のゴーレムの背に乗ると駆けさせる。
だが、行き成り前には出させない、まず一度クルと弧を描くように走らせた。

「距離を取った……遠距離攻撃?」
「違う、あれは……助走!」

最初に十数歩程加速に使った、そして行き成り最高速で突進を仕掛ける。
先に気づいたのは同じ四足獣の体を持つ久遠だ。
彼女は素早く獣化し、三メートル程の巨大な狐に変ずると背を見せてフェイトとアリサを促す

「乗って、フェイト、アリサ!」
「……久遠、頼むね」
「良し、走って!」

素早く背につかませると彼女はドンと跳躍、突進し牙を振りかざしたゴーレムの攻撃をかわした。
だが、ゴーレムは更に爪をその場で払った。
ズガンと爆音がして、フォートレスの床が砕けて散弾と成って久遠達に迫った。

「くっ、魔剣で……」
「待って、それは攻撃に……あれは私が」

再び魔剣で弾こうとしたフェイトをアリサの手が制した。
彼女は手を翳し、緊張した表情でぎこちなく呪文を唱える。
カッと輝き、光の壁が形成される。

「……させない、防げ!」
『アリサ!?』
「……破片は私が何とかする、攻撃を!」
「うん、わかった!」

アリサに促されフェイトは攻撃に専念、まず久遠に着地後横から回りこむようにして接近させる。

「久遠、近寄れる?」
「……やってみる」

慎重に距離を測りゆっくりと魔剣を構えるフェイトに、ベアトリスは苛立たしげに足元へ叫ぶ。

「ちっ、吹き飛ばせ!」

狼型のゴーレムが急接近し、慌てて久遠が後ろへ飛び退った。

「グル!?」
「……もう一度だ!」
「甘い、今度はこっち……ガルル!」

今度は久遠が僅かに速い、スタと危なげなく着地の咆哮がゴーレムの動きを止める。
魔力を込めた咆哮は実態に影響する程強力な拘束と成って動きを封じる、追撃の途中でゴーレムはピタと凍りついた。

「くっ、体勢を建て直せ、ランドユニット」
「……遅い!」

更に久遠は報復に出た。
グッと体を弛めた後その力を解放、ズドンと弾丸さながらにぶつかっていく。
疾風の如き勢いが破壊力を産み、自分より遥かに大きいゴーレムを数歩後退させた。
それにより相手の体勢が崩れる。

「ぐあっ!?」

慌ててゴーレムの上のベアトリスが手をついて支えるが、それは明らかな隙だ。
フェイトはすかさず魔剣を振り被った。
まだ距離はある、だが彼女の持つ魔剣なら遠当て程度は問題ない。

ギュオッ

唸りを上げて空間が歪んだ。

「魔剣よ……喰らえっ、衝撃波だよ」
「くっ、回避が間に合わない、だけど……コレダーシールド!」

咄嗟にベアトリスは自分に向かう破壊力の波に手を翳す、掌中が激しく瞬き雷光を発した。
バチィという音と共に衝撃波が弾き飛ばされた。

「弾いた!?」
「……前回前々回のデータのおかげ、それに腕部のコレダーは攻防一体だ」
「なら、読めない攻撃を……」
「おおっと、何をするかわからないが……今度はこっちからだ」

フェイトが何かを思いついたようだが、ソレを実行に移すより早くベアトリス達は動いた。
ゴーレムによる再度の突進、牙と爪がギラと輝く。

「久遠、跳んで!」
「グル!」

ブウンッ

だが、それ等は虚しく空を切った、久遠が一瞬早く跳躍したのだ。
勿論ゴーレムは追撃に爪を振るう。
けれどそれも届かず、跳ね上げたフォートレスの残骸も当たらない。
既に見ていた久遠がより高く跳んだからだ。

「ちっ、なら私が……ダブルコレダー!」
「……させない、金剛剣!」
「私も……障壁、防いで!」

続けてベアトリスが両腕を射出するがそれはフェイトとアリサが対処した。
片方を刀身を盾にするようにしては時期、もう片方は光の壁によって防がれる。
それを見たベアトリスは腕を引き戻しながら悔しそうに唸る。

「……むう、防御担当が二人か」
「魔剣使いは攻撃だけじゃないよ」
「後なのはに習った結界もね!」

ニヤリとなのはの教えが役立ったことを驚きつつ、アリサはフェイトに攻撃を促した。

「フェイト、撃って!」
「え、でも、また防がれるよ、アリサ?」
「大丈夫、考えがあるから」
「……わかった!」

頷いてフェイトは魔剣を振るい、衝撃波を放つ。
単純な繰り返しにベアトリスは訝しみながらコレダーで弾き、が次の瞬間球状の魔力を喰らい仰け反った。

ドゴッ

「おわっ!?」
「なのはだけど、結界以外にも……こういうのも教わったわ、マジックボール!」

諸に食らって目を白黒させる相手にアリサはニッと笑う。
勿論不慣れな技でダメー位は然程無いだろう、だが動揺させるので十分だった。
フェイトは久遠に反撃を頼んだ。
クルと久遠が反転し一旦間合いをとった後走り出す。

「怯んだ?……久遠、乗騎の方を崩して」
「了解、しっかり捕まってて!」
「くっ、迎え撃て、ランドユニット!」
「おっと、悪いけど力比べのつもりはない……ガルル!」

距離が詰まる、だが接近し接触する寸前魔力を込めた咆哮を放った。
ピタリと向こうの動きが止まる。
しかし、勢いが付いていた相手は止まり切れず、フラリとよろけた。

「……よろけたね、隙有りだ」
「ぐっ、ランドユニット、急いで体勢を」
「遅い、グルルッ!」

急加速からの突進、ズドンと肩からぶつかってゴーレムを吹っ飛ばす。
ガオオとフォートレスの壁に叩きつけられ、ゴーレムが弱々しく鳴いた。
だが、それで終わりではなかった。

「久遠、四肢はこっちで受け持つ、貴女は頭を抑えて!」
「承知!」

四肢を抑えるように光の壁が形成され、頭部と胴を久遠が踏みつける。
そして、フェイトが跳んだ。

『行って、フェイト!』
「うん、後は任せて……はあっ!」

跳躍し頭上から急襲する、振り被った刃がギラと輝いた。

「くっ、だけど何度やっても私のコレダーは……貫けない、コレダーシールド!」

ベアトリスは僅かに顔を顰め、だが当然攻防一体の腕部機構で迎撃しようとする。
バチィと音を立てて球状の電光が鉄壁の盾と成った。
が、それに触れる寸前魔剣がピタと止まる、フェイトが手を添えて複雑に力を込めていた。

(斬撃を急に止めた?いやこれは……)

内心訝しみ、だが次の瞬間ベアトリスは驚愕する。

「(甘いよ、硬いならそれ以外を狙う……)喰らえ、霞刃!」
「な、ぐおっ……」

ヒュッと小刻みに刃が揺れ、雷球を避けるように振るわれる。
防御を抜けて胴を浅くだが切った。
動揺したベアトリスは焦りながら間合いを撮り直そうとしたが、そこへフェイトが力強い踏み込みで再度迫った。

「もう一度……霞刃、切り裂け!!」

今度は横薙ぎ、魔剣はブレながら弧を描いた。

「ま、不味い、その軌道は……」

ベアトリスはギョッとし下がろうとしたが間に合わない。
連続して二度の破砕音が響いた。
そして、彼女の両腕が火花を切り裂かれ散らす、切り落とされる程ではないが腕部機構が中枢まで完全に絶たれていた。

「……これで、盾は使えないでしょ!」
「ぐっ、コレダー使用不可能……やってくれる!」

ベアトリスは悔しそうに顔を顰め、何かを決意した表情で上へと叫んだ。

「だが、いい気になるなよ……スカイユニット、あれを出せ!」

ガオオォン

猛禽型ゴーレムが装甲を展開、内部から巨大な砲塔がせり上がった。
腕部機構を失った主に変わりの武器を渡すつもりだ。
だが、そうはさせじとシグナムが向かい、がそれを見たベアトリスは冷徹に指示を下す。

「ちっ、そうはさせ「リミッター解除せよ!」何!?」

一瞬で動力が全開になり楊炎が揺らめく、猛禽型ゴーレムはその身を焼きながらシグナムを体当たりで弾き飛ばした。
そして、体を捻って砲塔を落下させると自身はシグナムへ逆に向かっていく。

「ぐおっ……」
「シグナムさん!?」
「わ、私はいい、集中しろ!」

シグナムは救援に来ようとしたフェイトを制した、何故なら眼下ではベアトリスが砲をキャッチしたからだ。
それを見たゴーレムは役目は終わったとばかりにシグナムに執拗に突進する。

「……そのまま押さえておけ!」
「くっ、使い捨てる気か、これでは向うの援護が……フェイト、すまないが、自力で何とかしてくれ!」

頭上でシグナムの手は埋まった、更にベアトリスは狼型ゴーレムにも指示を下す。
同じように動力を全開にさせて、押さえ込もうとするアリサ達を逆に妨害させた。

「ランドユニット、そのままそいつ等を止めておけ……そしてフェイトは?」

これでベアトリスとフェイト以外は動けない。
チラとフェイトを見ると彼女も覚悟した表情で魔剣を構えた。
フェイトは孤立したことに僅かに緊張し、そんな自分を叱咤するように叫んだ。

「一対一がお望み?……ならやってやる、叩き切ってやるよ!」
「ふふっ、元気があって宜しい……では最後の試練だ、行くぞ!」

チャキと自分より大きな大砲を担いだベアトリスは軽々と振り回し、フェイトへ照準する。

「……行くぞ、シュート!」
「(防御は無理か、ならプラーナ全開……)見えるっ、回避だ!」

ニッと笑って彼女は引鉄が引き、砲口から莫大な魔力がばら撒かれる。
だが、射撃前のベアトリスの一瞬の体の強張りからフェイトは完全にタイミングを読んだ、素早く踏み切り高く跳んだ。

「む、手応えが……上か!?」

慌ててベアトリスが砲を上に向ける、しかし既にフェイトは降下と同時に振り被っていた。

「はあっ!」
「ちっ、バーニア点火……当たるものか!」

ガチャンとベアトリスの背が展開しブワと火を噴く、フェイトを飛び越すようにして斬撃をかわした。
慌ててフェイトは首にかけていたレイジングハートに叫んだ。

「……空戦だ、どうする!?」
「乗った、叩き落とす……レイジングハート!」
『了解、サポートします……勝ちましょう、フェイト』
「当然!」

直ぐ様フェイトはバリアジャケットを展開、Gや酸素重力といった飛行による負荷全般を耐えれるようにすると飛翔する。
フワと浮かぶ上がった彼女がベアトリスに並んだ。
二人は高高度で睨み合った。
フェイトは魔剣を、ベアトリスは大砲を同時に突きつける。

「今は二人、だが降りれるのは一人……わかっているな、フェイト?」
「ええ、だから……貴女を切って、ゆっくり降りることにしよう。
……それじゃあ行くよ、メカベアトリス……勝負だ!」
「ふっ……来い、貴様の力を見せてみろ!」

言い交わし次の瞬間ドガンドガンと轟音が続けて響く、ベール=ゼファーの(今はゴーレムのベアトリスの)最終試練が始まった。




試験的にちょっと汎用の能力を使ってみた(ファーストセカンド諸々ごっちゃなのは気にしないように)結構面白いのあるもんだなあと今更思う。
とりあえず相手が『身長よりでかい銃』というNW的鉄板装備になった所で次回に続く。

コメント返信
神聖騎士団様
フェウスモールはアニメのほぼ捨て駒な活躍が頭に残ってて・・・やっぱ途中で落ちるかなあと、ええ最後まで残るのが想像できなかったんです。
回復ファンブル、一回はやったかも・・・魔剣使いで多分属性も素早く器用だが不運な風、NW的にあかん・・・もしくは宝石で打ち消しか?



[34344] 一章『暴走』シーン11
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/08/23 21:57
ガオォオ

フォートレスに二重に巨獣の咆哮が響く。
対するアリサに久遠、シグナムは顔を顰めた。

「久遠、崩して」
「ガルル!」
「今っ、魔力障壁で……」

ドゴン

押さえ込まれた状態で牙を剥く狼型ゴーレムを久遠が凌ぎ、アリサが光の壁で止めた。
頭上では猛禽型がシグナムに襲い掛かるが、彼女は炎を纏う拳で対抗する。

「……ちっ、いい加減離れろ、鉄屑が……龍炎!」

啄ばもうとしてきたゴーレムの顔面を強打し押し返す、がそれでもゴーレムは暴れ回りシグナムを止めようとする。

「……バニングス、久遠、こちらはもう少し掛かるがそっちはどうだ!?」
「ご、ごめんなさい、まだ行けそうにないです」
「くうん、こいつが邪魔で……」
「むう、フェイトに任せるしかないか」

ゴーレムの足掻きで応援に行けず、完全に仕留めるまで相手するしかない。。
三人(あるいは二人と一匹)はそれぞれフェイトを心配して見るしかなかった。
そして、そのフェイトは一人でも果敢に戦っていた。

「……レイジングハート!」
『了解、加速します!』

いや彼女だけではなかった、一機味方が存在した。
一瞬フェイトの周囲が歪んで見えたと思うと重力や空気抵抗といった枷から開放される。

ギュオン

フェイトの姿が行き成り掻き消え、そう見えた瞬間ベアトリスの頭上に現れた。
彼女は魔剣を振りかぶると力強く叩きつけ、更にその途中で軌道を揺らすようにして撹乱する。

「はあっ、霞刃!」

チチッ

咄嗟に回避行動を取ったがベアトリスは避け切れない、胴を掠め火花が散った。
苦悶の声を上げて仰け反り、だがバーニアを吹かしてすぐさま体勢を立て直す。
そして、雄雄しく唸る砲口を掲げた。

「くうっ、だが……バスター、シュート!」

閃光が迸り、真っ直ぐにフェイトへと走った。
だが、着弾の瞬間彼女の体が淡く光った。
カッと光を帯びたと思うと、行き成りぶれるように消えた。

「甘いよ、ベアトリス!」
「……避けた、プラーナ強化か!?」

次に現れたのは数メートル程横、ベアトリスは舌打ちし火器を操作する。
バシュッと軽い音の後砲口が開き、幾つかの方向へ凶悪な光が伸びた。

「ちっ……ならばスプレッドだ!」
「避けられない?なら……金剛剣!」

威力を削って複数発の閃光が打ち込まれた。
一発目を避けたらその方向を狙って二発め三発め、フェイトは回避を諦め防御の為に魔剣を翳す。

ギュワッ

閃光を真正面から両断し、そのまま突き進んだ。

「散弾の中を!?」
「このまま、懐へ飛び込んで……はあっ!」
「くう、ならば……」

懐に飛び込まれたベアトリスは慌てて砲を向ける、システムを先程の状態に戻すと素早く狙いを付けた。
振り下ろされる魔剣と砲口がピタと合う。

「ふっ、遠間のみと思うな、通常モード……シュート!」
「きゃっ!?」

僅かにベアトリスの引き金が早かった、フェイトが吹き飛ばされる。
しかし、その後の動きはフェイトが早い。
咄嗟に張った光の壁、レイジングハートの防御によってダメージを逃れた彼女は一瞬で体勢を立て直した。
そして、最小限の構えで素早く魔剣を構える。

「喰らえ、衝撃波だ……はあああっ!」
「ぬう、もう一度スプレッドで!」

今度は引き金が間に合わず迎撃できない、放たれた衝撃波にベアトリスは拡散状態で射撃する。

「くっ、相殺……同時攻撃で威力が削られたか」
「……そういうことのようだね」

これは相殺に終わる、轟音が響き爆炎が一つ起きただけだった。
フェイトとベアトリスは共に顔を顰め、その後同時に相手の武器に手を伸ばす。
殆ど同時に二人は相手の剣、砲を手で押さえた。
彼女達はその状態で相手をギロと睨んだ。

「……ふん、主の情報より余裕が見えるな、フェイト=テスタロッサ」
「おかげさまで、戦い慣れたから……」

その言葉の通りフェイトには余裕が見えた、少し考えた後ベアトリスは試すような目つきになった。

「……ふむ、なら精神面はどうかな?」

彼女はどこか怪しげな笑みを浮かべてフェイトに問いかけた。

「フェイト=テスタロッサ、一つ疑問がある……貴様はこの後どうする気だ?」
「この後?……貴方を倒し、リニスと妹に備える、二人を倒したら母さんだ……そして止める、世界を犠牲にはさせない」

それはなのはと会って強く思ったことだ、彼女に色々助けられた、だから絶対裏切らない。
実際返した答えに迷いはない、少なくともベアトリスの目にはそう映った。
だけど、試練を与える者として彼女はそれに満足せず続けた。

「それに何の意味がある?子を救おうとする母を否定するか?」
「……まあ、確かにこれ自体に意味は無いかもしれない、単なる拘りと言われたら否定はできないな」

少しだけ自身なさそうに、だけどその割りに落ち着いてフェイトはベアトリスの問いに答える。

「でも……あっちはどう思ってるか知らないけど私には大事な母さんなんだ、罪人に成ってほしくない」

それはある意味開き直った、向こうの事情を無視した答えだった。
だけど、強くそう思っていた、心の底から母を止めたいと彼女は思っていた。
更にそれだけではない、違う形でそうする理由がある。

「それに、自分を救う為に稀代の犯罪者に成るなんて……本当の娘が可哀想でしょう」

ある意味自分を代わりと認めた上で、フェイトは本当のプレシアの娘の為にも戦うといった。
何故ならその事実は変わらない、そしてとても大きな借りが有るからだ。

「ほう、この期に及んで『オジリナル』のことを考えるか?」
「……そりゃ彼女が居ないと私はそもそも存在しないし、そうでなくても『彼女』はお姉さんだから」

今既にプレシア抜きで大事なことがあるから、だから自分が二人目と認めた上で行動すると彼女は決めた。

「あの人と親子に戻れる可能性は低いけど……それはそれとして止める、私があの人を罪人にしたくなくて、本当の娘にとっても悲しいことだから」

もう元の関係に戻れないとしても、そんなの関係無しにプレシアを止めようと思っている。
その上で母とその本当の娘にも何かしてあげたかった。
だが、世界は犠牲に等出来ない、けどせめて母を白いままで娘と、姉と共にいさせたかった。

「……その気概はまあ悪くない、だが実際格上の相手とどう戦う?」

それ以上の問いをベアトリスは止めた、意思の硬さを問うには十分だ。
次に自信を、どの程度覚悟があるかを聞いた。
すると、意味深な言葉が帰った。

「ただ全力で戦うだけ……勝つまで挑むよ、それにジュエルシードの数だけ挑戦の機会はある」

ベアトリスは一瞬意味がわからず首を傾げ、続きで思わず呆れた。

「二十一の争奪戦の内一回でいい、この刃を母さんに届かせてみる!」
「……身も蓋も無いな」

ジュエルシードをプレシアが求める数だけ戦うチャンスはある、その数だけ挑める、そうフェイトは言ったのだった。
最悪でも二十敗までして良くそこまでで一度勝てばいい。
何とも開きなった言葉だった。

「だが一度敵に回った以上プレシアは手加減しない、二十一回戦うまでもなく最初の数回で倒れるのでは?」
「ま、叩きのめされてボロボロになるかもしれない……でもそういう体の痛みより、折れてしまった方が苦しそうでしょ?
だから何度でも挑むよ、あの人を止めるまで何度でも」

それは痛みより怖い物、折れた後の自分を恐ろしく思うフェイトの心からの言葉だった。
友を、世話になった人を、そこに住む人達を見捨て、更には母の最期にすら関われない、考えるだけで恐ろしい想像だった。
だからこそフェイトは一片の迷いもなく母に挑むことを決意し、その決意に『不屈』の名を持つ者が嬉しそうに(声音だけだが)全力で乗った。

『正に、不屈ですね……フェイト、見事な覚悟です、その想いに私も賭けましょう』
「……ありがとう、レイジングハート」

胸元で全力で手伝うと明滅しながら訴えた人間臭いデバイスに、フェイトは心から感謝の言葉をかける。
ここに、なのは以外のもう一機の仲間がフェイトに出来た。
そのことに明るく笑うフェイトに、ベアトリスは苦笑してしまう。

「ふん、主と最初会った時と大分違う、向う見ずだった貴様がこうまで変わるか……」

ふっとベアトリスが安堵の笑みを浮かべた。
彼女は二つの問いをして、そのどちらも満足できるものだった。
後は最後に確かめるだけだ。

「ああ、これは問題ない、精神面に口を挟むのはもういい……では最後の試練だ、私を倒してみろ」
「結局……それなの、ベアトリス?」
「ま壁だからな……さあ超えてみろ、フェイト=テスタロッサ」
「……わかった、貴方に勝ってベルにも見せてやる、私の今の力を!」

結局力付くの様で、フェイトは呆れながら魔剣を構える。
だけど、直ぐに真剣な表情になった、ベアトリスに、いや大魔王に見せ付ける為に剣を握り締める。
並列砲台をベアトリスが保持して照準し、フェイトは刀身の腹を盾の様に翳して真っ直ぐに踏み込んだ。

「さあ、超えてみせろ……スプレッド、シュート!」
「……ああ、超えるよ、金剛剣!」

バアッと閃光がばら撒かれ、フェイトが強引に左右に割るようにして突破する。
勿論そんな無茶な突破では閃光を防ぎきれず、飛沫のように散る光がフェイトの体を傷つけ、だけど戦意で痛みを耐え切って前進する。
だが、彼女が辿り着く前にベアトリスが銃のモードを切り替えた。

「ちっ、通常モード……バスターシュート!」

拡散する光が今度は収束して放たれる、だが空を地面のように蹴ってフェイトが跳んだ。

「甘い、プラーナ……加速!」
『飛行サポートします!』

プラーナによる敏捷力の強化と魔法を使った飛翔、その二つで空間を蹂躙していく光を越えた。
フェイトはそのままベアトリスの頭上を飛び越え、背後から反転して切りかかった。

「くっ、後ろを取られ……」
「魔剣よ、私に力を……はああっ!」

体を捻り、全身全霊の力で魔剣を振り抜く。
背から脇腹に抜けるまで切られて火花が散った、ベアトリスが苦悶の声を上げる。
だが、素早く振り向いて損傷等気にしていない様子で大砲を向けようとした。

「ぐああっ……だ、だが、まだ撃てるぞ!」
「……それは、こっちもだよ!」

だが、一度攻撃しても尚フェイトが速かった。
銃を突きつけるよりも早く魔剣が振り被られた。

「フェイト、まさかそれは……」
「そう、サトリだ……それだけじゃない!」

超集中からの先読み、相手の思考どころか数秒先までの未来さえ読んだ超精度の動作が二連撃を成した。
その上彼女の生命力を刃に乗せて、さっき以上の力が感じられた。

「生命の刃だと……馬鹿な、拡散弾のダメージがあるのに!?」
「よく見て、治ってるでしょ……さっきのは霊破斬だよ、そしてここからだ!」

更に打ち込みもまた完璧だった、最初の攻防で掠めた装甲の亀裂を正確に狙っている。
針を通すような精度で魔剣の切っ先が僅かな傷へ。

「ぐお……速い、それにさっきより狙いが鋭い!?」
「……死点打ちだ、やああっ!」

ザシュッ

「……見事、これなら試練等必要無かったか」

魔剣に胴を串刺しにされたベアトリスが苦笑する、バチバチと全身から火を噴いている彼女はふら付きながら後退した。
この火が機体中枢、ジュエルシードに届く前にそれを自ら抉り出す。
それをフェイトに放った後彼女はばたりとフォートレスに倒れこんだ。
そして、負け惜しみなしに勝者に賛辞を送った。

「貴様の勝ちだ、フェイト=テスタロッサ……又会おう、次は主と共に味方もしれんが」

ドンと最後に一際火を噴いて、彼女は十数の焼けた金属塊となって散った。

「はあはあ勝ったよね、アリサ達の方は……うん、大丈夫か」

向こうを見れば狼と猛禽形のゴーレムが同じように爆散したところだ。
安心したところへ、とても軽い足音が近くでした。
いつの間にか現れたベアトリス、ゴーレムでない本当のベアトリスが爆発後から何かを回収する。
制御用のチップのように見える、記憶回路だろう。

「ええ、お見事……中々の戦いだったわ」
「ベール=ゼファー!?」
「貴方のお陰で拘束が解けた、感謝する……この借りは次の時に返すわ、修理した後暴走しないよう再調整した『この子』と共に」

何とも言い難い、有り難くも無い礼を言って、彼女は転移しその姿は消えた。
見送ったフェイトは疲れたように嘆息する。

「やれやれ……迷惑な奴等、でもあれで貴重な味方だから困る」
『いや全くで……フェイト、付き合う相手を考えたら?』
「……あっちから来るからなあ」

最後にもう一度だけフェイトは大きく溜息を吐く、この縁は切れないようだ。



そして、もう一つだけ、彼女に気づかず新たな縁が出来た。

「助けてくれてありがとう……フェイトお姉さん」

暗示で誤魔化した水色の髪の少女を、借りりているという宿に送った時にその少女はそう言って礼を言った。
この時『フェイトが名乗ってない』のにフェイトと呼んだ事にフェイトやアリサ達は(戦い終わり油断もあって)気づけなかった。
ちょっとだけ後で後悔することになる、またフェイトと似た容姿なのにも注意するべきだった(一二歳程の年齢差で繋がらなかった)
ニヤリと笑う少女はまるでチェシャ猫のようだった。




・・・これにてフォートレス編完です。
次はこのままフェイト視点かなのはの方に行くか?どうしようかな。
前者ならレヴィ再登場、後者なら弱体化したなのはに援軍というか救済要素・・・まあ多分後者か、フェイト視点続いたし。

以下コメント返信・・・神聖騎士団様・メカは一応真面目ですよ、精神面でも試練課したし・・・戦闘は今まで使った能力の総決算、纏めたら思ったより魔剣が攻防共に強かった。



[34344] 一章『暴走』シーン12
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/08/23 21:59
『彼女』は騎士だった。
だが、今もそうあろうとは少しも思っていない。
同輩である騎士であり将でもある女性とは違い、然程好戦的ではないし騎士であることに誇りがある訳でもない。
例えば主に会わずに消えても(つまり騎士の責任を果たせずとも)それはそれで仕方ないとも思っていた。

『彼女』は今までの生き方を後悔していた、消極的ではあるが終わりを望んでいたとも言える。
ずっと一緒だった闇の書と一緒に消えようという気持ちも少しあった、それの行った凶行を直にやった者としての最低限の責任だとも。
そう考えて彼女は『ある少女』が闇の書の一部を食らった際に自ら飛び込んだ。
何故か将が来たがどうせ戦闘目的とスルーに決めた(呆れつつらしい気もした)まあ何れ飛び出すから見送ればと考えた(実際そうなったし)

『彼女』にとって今日までの日々は猶予期間、牢で処刑台が出来るのを待つ、ただそれだけの時間に過ぎなかった。
自分の生存に対して然程頓着していなかった。
他の騎士には役目が有る、将は好戦的なのが珠の傷だが騎士を纏められるのは彼女だけだというのも確かだ。
他の二名(一人と一匹)もそれぞれ護衛や戦闘以外の大体をこなせる、戦いしか出来ない自分とは違うのだ。
そう考えれば残る理由はなく、『ついで』程度だが長い付き合いである書と消えてやろうと思った。

が、『彼女』の考えは改められることと成る。
将を見送って残った時に『それ』が現れ、その存在を理解したら捨て鉢な気持ちは呆気なく消える、長年の得物である『槌』を持つ手にも力が入る。
どうせ自分は汚れ役でそれが一つ増えた程度と、『今までの分』を込めて『その存在』を殴ることにした。

『彼女』は黒い異形を、本来現れるはずのない『闇の書の防衛システム』を憎々しげに見下ろす。
さあ消える前の一仕事と、彼女は意気込んで獲物を取ったのだった。



シーン12



ドゴオッ

「ふむ、今の手応えは……」
「きしゃあっ!?」

戦いが始まってから何度目の攻撃だったか、なのはが全身から放つ炎を受けて暴走体が揺らいだ。
明らかに怯んで下る姿に、なのはは相手の限界が近いことを悟った。

「……止めと行こうか、はああっ」

なのはは全身からプラーナを放出、蛇や竜の混じったような中途半端な姿から人へと戻った。
その名残、堅牢な鱗に包まれた、両の拳を握ると大きく振り被った。
ボッと両腕の先が燃え上がり、辺りを赤に染め上げる。

「龍炎、更に竜舞……とりゃあ!」
「がっ、ぐぎゃあああっ!?」

ガンガンと二度轟音が響き、その後ゆっくりと暴走体が地に崩れ落ちる。
悲痛な叫びを上げながら暴走体は倒れ、自分の体を見て更に絶叫する。
咄嗟に拳をガードした触手は焼き切られ、それでも止められずその胴体に二つの大穴を拵えていた。

(長引いたな、何とかプラーナ消れの前に決着が付けられた……やれやれ分体でやる戦ではなかったか)

なのはは自分の手を、ゆっくりと光の粒と成って散っていく指先を見て顔を顰めた。
彼女本人は邪龍ブンブン=ヌーとの戦いでどこかに漂流し、今の彼女はプラーナの破片に意識を写した分体にすぎない。
完全時より出力の劣る体での戦いは難儀で、またそんな状態での戦闘はかなり堪えていて幾らかの休憩が居るだろう。
一瞬直ぐに海鳴に戻れないことに頭痛を覚えかけ、だが今は残心、それよりも確実な止めをと意識を締め直す。

「……スクライア、表皮を引き剥がしジュエルシードを露出させるぞ!」
「わかりました!」

なのははユーノを連れて、地に伏せる暴走体へ近づいていく。
止めを刺し、更にその体の中のジュエルシードを封印しようとした。
慌てた様子で向うは抵抗し始める、ビュンビュンと不定形な触手を無茶苦茶に振るった。

「甘い、九頭竜!」

なのはが素早く手刀を振るい、その軌跡に沿って攻撃が止まる。
大半はフェイントだった、なのはは落ち着いて本命を衝撃波で弾いた。
一瞬圧倒されたように暴走体は身動いだが、直ぐに自らが起き上がり、巨躯を活かした突進を仕掛けた。

「悪足掻きだな、もういっちょ……九頭竜!」

ガギィンッ

「ギイッ!?」
「……そこで寝ていろ」

これも衝撃波で迎え撃つ、暴走体は突進の時以上に勢い良く相手は跳ね返される
再び地面に倒れた相手を冷たく見据えて、ゆっくりと歩いていく。
彼女に油断はなかった、暴走体の一挙手一投足を見つめ如何なる動きにも対応できる体勢だった。

ギュワッ

「うっ、何が!?」

だが、暴走体以外で起きた異変には対応できなかった、彼女自身に起きた異変は全く予想外だった。
その影から滲み出るように『巨大な黒い蛇』が現れて暴走体へ体を伸ばす。
暴走体も何かを感じたか、腕を蛇に伸ばす、二つが結びついた瞬間状況は一変した。
行き成り視界、その全てを『黒』一色が染めた。

ズガガガガッ

「ぬわっ!?」
「ほ、砲撃!?」

辺りへと魔力弾が滅茶苦茶に飛んだ。
なのははユーノを抱えて飛び退る、それを魔力弾が追ってきたのでなのはは慌てて背に竜の翼を展開した。
白と黒の翼を一打ちして一気に距離を離す。
しかし、一発至近弾が来て、ユーノの障壁を貫通したそれを、なのはは咄嗟に拳で弾こうとする。

「バリアブレイク!?……不味い、来ます!」
「別の技だろうがな……私が防ぐ、はっ!」

バキンという音がした、タイミングよく拳を振り抜き魔力弾を弾いた。
が、代償に手の甲の部分の鱗が割れた。
零れ落ちる赤い血になのはは顔を顰め、だがそんな場合ではないと焼き塞いでから『変貌』した暴走体を睨んだ。

「痛っ、やってくれる……そうか、一緒に持って来てしまったか」

視線の先で黒い何かが蠢く、『多重障壁』を纏った『黒い蛇のような集合体』だ。
相手から感じる力は二つ、どちらもなのはは知っていた。

「ジュエルシード……それに闇の書、私に分解される前にお礼周りって感じ?」

なのはは睨みながら後悔した、軽い気持ちで書を取り込んだことに対してだ。
彼女は書を二つに裂いて悪質な方を取り込んだ、それは特に歪んでいた部分で、主達の残留思念と言ってもいい。
力を得ようとして罪を犯し続けた者達の無念、悪循環の果てに書を性質を悪化させた元凶といえる存在だった。
単体だったら唯の汚れだ、だがジュエルシードとの接触で借りの器(一応暴走体と変わらない、幾らか頑丈だろうが)を得てしまった。

「これは不味いかな、ジュエルシード……『思念』に反応するジュエルシード、例外はないか……負の思念だけに大分歪んでいるけど」

ハアと彼女は大きく嘆息し、己の運の無さを嘆いた。
放っておけば何れ分解される物が意外な形で出たと(まあ更に深い部分、自分の奥底に抑え付けた『ヤンデレ』が出ない分マシといえばマシだが)

「ちっ、何れ消える等と、悠長に考え過ぎたか……さて今の私でどこまでやれるか」

なのはは引き攣り顔で拳を握る、本調子と程遠く以前の小さな龍の姿でやっと安定する有り様だ。
今も刻一刻とプラーナの減り行く体で戦うと成れば流石に平静では居られない。

「……だが引けん、そもそも言っても詮無きことだったが」

ぽたりと一通冷や汗を流し、それでも拳を腰溜めに構えた。
少しでもプラーナを温存する為に翼と腕の鉤爪を消す、龍使いの技だけでやるしかないだろう。

『辛そうだな、恩人……助っ人は要るかい?私にとってもそいつは放っておけないし……』
「……むっ、誰だ!?」

なのはと闇の書が動こうとした瞬間声が響いた。
それは勝ち気そうな少女の声で、どこか苦々しい声音だった。
ガギンと金属の触れ合う音がした、変形しながら突如目の前に出現した鉄槌を虚空から伸びた腕が掴みとる。
細い女の腕だ、なのはの体から散り行くプラーナが集まってそれを形作っていた。

「……喰らいな、ラケーテンハンマー!」

ドゴォン

次の瞬間鉄槌が振り抜かれ、突進しようと前傾姿勢だった闇の書はそのせいで反応が遅れて打たれた。
折り重なって張られた障壁が鉄槌と競り合いギシギシという音を立てた。

「……ちっ、殴れりゃスッとしたんだろうけどなあ」

舌打ちし『彼女』が鉄槌を引いて飛び退く、クルリと回転しながらなのはの方へと飛んだ。

「あれは騎士でも管制人格でもないな、言う成れば単なる防衛機構……自我すら無いシステム……闇の書の歪みが作った、防衛システムってとこか?」

真っ黒で無骨なスーツに赤い髪の少女が隣に降り立った、無造作に肩に担ぐように鉄槌を持っていた。
彼女はにいっと悪戯っぽい(どこか皮肉げでもある)笑みをなのはに向ける。

「手を貸すよ、恩人……目の前のあれ、知らない相手でもないしね」
「……貴方も騎士か?」
「ああ、鉄槌の騎士『ヴィータ』……バトルマニアの同僚さ、あいつが心配でついてきたんだが……
まさか、そこで闇の書とやり合うことになるってのは少し予想外だったね」

この言葉になのはは一瞬だけふむと考え込んだ、何か相手の表情から意味深な物を感じた。
何か捨て鉢というか危なっかしさが有る、が援軍が心強いのも確かだ。
だから、なのはは並び立って拳を構える。

「……助太刀感謝する……スクライア、後ろで援護を!」
「あ、ああっ!」
「受け入れてくれてありがとうよ、恩人……さあやろうか、諦めの悪い……闇の書退治だ!」
「おうっ、速攻をかける……遅れるなよ!」

炎を纏ってなのはが、それに並んで鉄槌を構えた騎士が駆け、やや距離を取ってユーノが追う。
迎え撃つは闇の書、その防衛機構が黒蛇の顎を開き獰猛に吠える。
ジュエルシード暴走体、そして出現した書の防衛システムとの決戦が始まった。

(……私が止める、それがずっと一緒だった私のせめてもの……)

ヴィータが黒い巨躯を睨んだ。
闇の書、ジュエルシードの魔力で実体を拵えたベルカの遺産、負の遺産が咆哮する。

「ガアアッ!」
「諦め悪いぞ、闇の書!」

彼は吠えて、辺りへ無茶苦茶に魔力弾をばら撒いた。
皮肉げに笑って少女、ヴィータが障壁を張りながら前へ出た。
真紅の壁が光弾を弾いていく、がそこへ撓る肉の鞭が飛んだ。

「ギッ!?……ガアアッ!」
「……それも、効くかよ!」

ガギィンッ

ヴィータが両腕を振るい、障壁を破った触手を弾き飛ばした。
右手の鉄槌、更にいつの間にか握られた、鞘に収められたままの剣によって。

「アイゼン、と身内が忘れてったの……こんだけ有るんだ、力押しの突破は無理と思いな!」

そう言って彼女はニヤリと笑い、二振りの武器を交差させる。
構え意識を深く集中する。

「……で反撃、技を借りるぞ、恩人!」

ボウッ

両腕に握った武器に真紅の炎を灯る、龍使いの炎だ。
ヴィータは笑みを浮かべて突進、闇の書の残滓の眼前へ飛び込むと、両腕を勢い良く振り抜いた。

「おらっ……吹っ飛べっ!」

ドガアァッ

直撃の瞬間炎は爆ぜて、漆黒の巨躯を吹き飛ばした。

「ギイッ!?」
「良し、スカッとした!……まだまだ行くぞ!」

笑って騎士は喝采を叫ぶ、この乱入者の戦いからなのはとユーノは深い因縁、万感の思いを感じた。

「燃えとるな、唯の敵ではないか……」
「何か事情が有りそうだね……それにしてもこんな隠し球を持ってるとは……」
「……知らない内に居着いていた相手だがな、まあ義理堅さには感謝ってとこか」

シグナムと言いヴィータと言い、なのははそう簡単に返せそうにない恩が出来たと思った(向こうもそう言うだろうが)
彼女は苦笑しながら息を整え、純白の鱗を一つ作り出し胸元に掻き抱くようにする。
古代竜の力の一つ、かつて『ある少女』を助けた力で自分を回復させた。

「……ふう、まあこれで戦える、我らも行くか」
「ああ、押し切ろう!」

二人は頷くとヴィータを追う、長き戦いの終わりが近づいていた。



「ギシャアアアッ」
「いい加減落ちろ、闇の書……ベルカ戦線ならともかく、時代遅れなんだよ!」
「……ギッ、ギイイッ!」

ガガッ
ガギィン

ヴィータと闇の書の残滓が激しく打ち合う、鉄槌と納刀状態の魔剣、無数の触手が絶え間なく振り回される。
ヴィータは障壁、あるいは武器の片方で防ぎながら、龍使いの炎と打撃を積極的に狙う。
一方で闇の書はその体躯に相応しい耐久で凌ぎ、そこから力任せに反撃する。

「はっ、砕けちまえ……はあっ!」

ドガアッ

「ギッ!?」
「……で、更に追加だ!」

勢い付けてヴィータは振り下ろした、更に彼女は武器を相手の体に押し付けた念じる。

ボウッ

「燃え尽きな!」
「ガアッ!?」

彼女は隙を逃さず追撃へ、至近距離から龍使いの炎を噴射した。
爆発的に膨れ上がった炎が闇の書の残滓を襲う。
赤が黒を飲んだ、胴を焦がし触手を燃え散らせる。

「……シャアアッ!」

が、数百を経た呪いは唯では消えず、滅茶苦茶に体を揺らし魔力を放射、火から逃れた触手も滅茶苦茶に振り回した。

ドガッ

「ぐおっ!?」

ヴィータが防御するも仰け反る、魔力の放射は障壁で、触手は武器で弾くも小柄な体では衝撃に耐えられない。
踏み留まれず彼女は後退、相手の勢いを利用しながら飛び退った。

「……ちぇっ、足掻きやがるな」
「まあ当然だろう……あれは殆ど怨霊よ、簡単に止まるとは思えん」

その時先行するヴィータになのはが追いつく、彼女は闇の書を複雑そうな表情で見た。

「怨……何だって?」
「闇の書のことは聞いておる、悪意ある術者によって改変されし魔導書……が、力を求めたにしては攻撃的過ぎる。
恐らくはそれに加えて……その次以降の犠牲者、死したマスター達の思念が歪めたと見た」

なのはは闇の書の残滓を、いやそれを動かす何か、残留思念というべき物を睨んだ。

「器物とて長い時を過ぎれば命を持つ……魔導書、それも人と融合するなら必然だろう」
「……犠牲者の、あー何つうか悔いとか絶望とかが動かしてる?」
「間違ってはおらんが、犠牲者か……それはどうだかな」

なのははヴィータの言葉に頷かなかった、少なくとも二つの味方がある。

「……悪意ある書に取り憑かれる、その時点では被害者だ……が負の感情が残留思念として次の主を苛む、それでは加害者だろう」

なのはは闇の書を冷たく見下ろした、彼女は跳躍し勢い良く脚を振り上げる。
否定の意思を込めて、渾身の跳び蹴りを叩き込んだ。

ドゴオッ

「過去は同情する、だが今のあれは……認めん!」

なのはは吠えると書に飛びつき、馬乗りになって竜爪で締めあげた。

「ギ、ギッ!?」
「そりゃあ哀れな命、丁重に弔い手を合わせようとも思う……だが、ここまで歪むと成るとな……
叩くしかあるまい、同情とは別に……死者に遠慮し、その仲間入りをする気はない」

冷たい目で見据え、なのはは睨みながら叫んだ。
その後僅かに『違う』色がその目に映る。

「『彼』に助けられなければ私もああなっただろう、だから尚更……否定させてもらう!
……ここで止めねば奴等は罪を重ねる、止めるのがせめてしてやれること……」

彼女はそう言うと有ったかもしれない自分の末路を振り払い、相手を締める両腕に力を込めた。
そこに炎を灯し、更にプラーナを供給、そして勢い良く爆ぜさせた。

「やああっ、龍炎!」

ドゴオッ

炎がその大半を焼き尽くす、爆炎に煽られながら闇の書の残滓が高々と宙を舞った。
吹き飛ぶ死者を複雑そうな目で見た後彼女はヴィータに問うた。

「さて、かつて『あれ』と共に在った貴方はどうする?
……私が止める、それは第三者故の傲慢かも知れぬ……がヴィータ、貴方にはその資格があるだろう」
「……当然止めるさ、誰にも渡さない」
「ならば止めを……この場は譲ってやる」
「すまん、有りがたく……」

一度小さく頭を下げて、ヴィータが飛んだ、決意の表情で武器を振り被った。



(……私が止める、止めないと)

ヴィータが叫びながら両腕を振り抜く。
炎を纏ったデバイス、鉄槌と納刀状態の騎士剣が闇の書の残滓を削っていく。
向こうの体躯、威容はまだ陰りはない、だが少しずつ力が弱っていくのが判る。
そもそも『彼ら』に勝ち目はなかった、今の主と切り離された時点で機能の大半は使えない。
それでも戦ったのはなのはの評した『怨念』という性質故に。

(あいつはどうやっても止まらない……怨念だったか、何百年も積み重ねてきた負の心だから)

無様で不格好で諦めが悪くて、なにより可哀想だった。
だから止めてやらないと、そうヴィータは思った。

「もう、もう終わろうよ……はあっ!」

ドガガガッ

二振りの連打が相手の巨躯を削っていく。
『彼』は再生しようとしたが、火で傷を塞がれ出来なかった。
ヴィータは打撃で抉り、火で封じる、それを繰り返す。

「……やあああっ!」

ガガガガガガッ

連撃で瞬く間に削っていく、一気に相手の体積を減らす。
そして、コアが姿を見せた。
あれを砕けば全て終わる、ヴィータが跳んだ。

「終わりにしよう、闇の書」

転生の機能は闇の書本体が合ってこそ、切り離された部分にしか過ぎない『彼ら』に既に対抗の手はない。
後は砕けばいい、だけどヴィータはそこで僅かに考えこんだ。

「……でもまあ、一人くらいはな……アイゼン、お前は残れ、私は行くけど」

パッと彼女はその場で武器、自分と仲間のデバイスを放った。
そして、自分だけでコアの元へ行くと、炎を纏いコアを軽く抱く。

「責任の取り方に相応しいかは知らないけど……私も行く、少なくとも一人よりはマシだ」

ヴィータはともに行くことを、殉じることを選び炎の出力を上げる。
共に燃え尽きる、彼女はそれを選んだ、彼らとずっと一緒にいて、その騎士だったから。

「……仲間には適当に言っといてくれ、後シグナムには程々になって」

後ろをチラと見て手を一振り、その後彼女は炎を最大出力で放った。

ボウッ

「これで、闇の書は終わりだ……案外地味だったな」
「全くだな、だが後味が悪いのはどうかなあ?」
「……え?」

なのはの声がした、声は直ぐ後ろからだった。
彼女は竜の翼を体に巻きつかせるようにし、その耐久で強引に炎を突っ切っていた。

「向こう見ずな戦いが気になってな、正解だったか……完全竜化!」
「……えっ、ちょ!?」

グワ
ゴクンッ

巨大な龍が顕現し、その大顎がヴィータとコアを飲み込んだ。



なのはがアイゼンを手に独りごと、正確には飲み込んだ少女へ話しかける。

「ふっ、否定はするが消滅させると言ってない……貴様はもう時代遅れだと、やり方が間違ってて変えねば痛い目を見ると……それを思い知らせればいいのだ」

戦乱時ならともかく無節操に攻撃する闇の書は論外だ、だが問答無用で消す気もなかった。
要は誰かが見張り、間違いを正せばいい。
それは彼女であり、ヴィータでもある。

「……自暴自棄の前にそれをやってくれんか?万が一理性を取り戻せば……少しは闇の書の犠牲者も救われるから」

なのはが言うと、不満気にだが内部のヴィータが頷いた。
余りに乱暴な止め方が気になるが、闇の書を救うという方向性は悪くないように思ったようだ。
だが、牽制のつもりか、ヴィータが念話を送った。

(……一応従ってやる、だが一向に理性が戻らないなら私は同じことをする……次は止めるよ)

それだけ言って彼女は沈黙する、なのはは厄介だなと小さく苦笑した。

(頑固な、いやそれが騎士か……妙な拾い物をしたかもしれん、注意せねば……)

軽い気持ちで拾ったが、後で『問題』に発展し、あるいは『意外な強敵』に成るかもしれない。
なのはは少しだけ後悔した。
だが、今更撤回できず、騎士と闇の書の残滓を奥にしまい込む。

(やれやれ、見捨てるよりはマシだとは思うが……まあ人間性の発露で死んだのなら、その時はその時か)

少し考え、その後彼女はニカッと笑った、それもまたウィザードらしいと思った。

「己を貫く、それも一興……最後まで行けば立派な道じゃろう」

開き直りのようなことを言って彼女は笑った。
その後グッと『拳』を握る、『人の体』を確かめるように動かす。
それは普段の彼女と比べ、やや小さい、容姿も幼気で髪も赤みがかっている。

「ヴィータのプラーナで拵えたが……まあ悪くはなかろう、これで一応戦える……魔王とも大魔導師とも」

決意の表情でなのはは空を見上げた、その輝きは白い普段通りのものだ。
だが、何れ赤に染まる時があるだろう。

「次の戦いが待ってる……ユーノ、二三日休んだら海鳴へ」
「ああ、フェイトさんだったか、無事だといいが……」
「……心配いらんさ、そうそう負けんよ……ま、滅多な相手以外、そういうのが居そうだから行かねばならんけどな」

なのはとユーノは頷いて市街を、海鳴の方を見た。
今は休むのが先決だが状況的に向かわねばらない、二人は仲間を心配しその無事を祈った。
こうして、彼女達の戦いは辛うじて勝利で終わり、僅かな安寧の時が来た、本当に僅かだけれど。




郊外の戦い、これにて完結です・・・闇の書編の序章とも言えます。
・・・実は重要なのはヴィータに関するフラグ立てですがね。
まあそれは追々わかるとして・・・とりあえず視点を一旦海鳴、再びフェイト中心となります。



[34344] 魔王遊戯・二章『遺産』シーン1
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/08/31 20:15

魔王遊戯・二章『遺産』シーン1



ピピー
ワーワー

「……こういうのよくわからないけど、まあ偶にはいいかな」

フォートレスの戦いから数日後、フェイト達は地元チーム同士のサッカーの試合を観戦していた。
その時の疲れで暫く家に篭っていた彼女をアリサが気にして誘ったのだ。
そんな応援中のフェイト達だが(アリサやすずか程熱心に見てはいないが)ピクと何かに気づき警告した者達が居る。

『これは……』
「……レイジングハート、久遠?」

念話、疑問に満ちた思念にフェイトが首を傾げた。

『監視……でしょうか?』
「こん!(誰か見てる……)」

レイジングハートと久遠、それぞれ科学的、あるいは野生の直感で『自分達へ向く視線』に気づいたのだった。



丁度同時刻、ジュエルシードを探し当てなく街を彷徨う二人組が近くに来ていた。

「ねえ、リニス、あれ……」
「フェイトか……この距離、気づかれたかも」

フェイトの妹であるレヴィが相手に気付いた。
彼女から見て川を挟んで反対側、球技の試合を見学しているようだ。

「……ばれると面倒ですね、離れましょう」
「そうだね、リニス」

二人は頷き合い離れることにした、存在には気づかれてるようだが幸い場所の特定まで至っていない。
ゆっくりと踵を返し、向こうの死角の位置まで行って足を止めた。

「ふー、少し焦りました……」
「でもばれなくてよかったよ、探索を再開しよう」
「はい、そうしましょう……レヴィ、エリアサーチを」
「了解、バルフィカス、サーチ開始!」

魔法を使ってもばれない程度の距離を取ったのを確認し少女はジュエルシードの反応を探った。

「あ、あれ、ジュエルシードが動いてる!?」
「……誰か拾った奴がいるということでしょうか、困りましたね」
「……封印もされてないし多分フェイト達じゃない。
拾ったのは人とは限らないけど、でも、人間が持ってるのは不味いかも……」

ジュエルシードの性質を考えたら確定ではないが誰かに拾われた可能性があるのは問題だ。
他の生物と違って複雑な思考能力を持つ持つ人によって暴走が起きた場合、それは遥かに大規模な物になると注意されていた。
レヴィとリニスは慌てて移動するジュエルシードの反応を追っていった。
その途中でリニス、獣を素体とした使い魔故の感覚で向こうに気づいた、同様にジュエルシードを追っているようだ。

「彼女達の気配……どっちが先につくか、際どいですね」
「うーん……リニス、足止めできる」
「……やってみましょう、でも長くは無理です」

レヴィとフェイトは相容れない、プレシアを巡って戦うのは避けられないだろう。
だが今はレヴィはジュエルシードを優先したいと考えた。
少し考えた後リニスは頷き、彼女から離れてフェイトの方へ向かった。

「頼む、少しでいいから!」
「承知……そっちも気をつけてね、レヴィ」

二人は最後に頷き合い、互いの目標へと向かっていった。
そこでレヴィは驚くべき光景に出くわした。
予想外と言っていい、そこには既に滅びた文明『ベルカ』の遺産を継ぐ少女が先についていたのだ。



ピカピカ輝く青い石を手に、はやては途方に暮れた。

「これ、どうしようか?」
「……考えてなかったんですか、主?」

外に行く時は何時も付いてる(半身麻痺が治まってきてるが少しぎこちない)女性、レイン(まだ思いついてないのだ)が呆れた。
というのも当然で、はやては殆ど考えなしにジュエルシードを追っていたからだ。
偶然彼女も外出中に試合に気づき観戦(アリサ達が応援するのと逆側だが)そこで試合終了時ジュエルシードを持つ男女に気づいた。
フェイト達が集めていると知っているからはやては慌てて追って、何とか頼み込んで譲りうけることが出来たのだ。

「……いや放っとけんなって思ったらつい……」
「もう、無茶で……主、危ない!」

ジャララッ

はやてとレイン、主従二人(石を持っていた二人は既に離れていた)が話していると、そこに光り輝く鎖が伸びた。
反射的に隣の主を押して庇うも、レインが鎖、バインドに捉えられる。
それが伸びるのは大剣型デバイスを手にした水色の髪の少女だ。

「な、何や!?」
「くあ、に、逃げ……」
「……先客か、でも関係ない、ジュエルシードを渡してもらおうか」
「ああっ!?」

大剣を手に凄む少女、レヴィの鋭い視線にはやてがその身を縮める。
だが、恩人の片割れであるフェイトが集めてると知るから必死に首を横に振り、壁に成るかのようにジュエルシードを抱きかかえる。

「嫌や、フェイトちゃんに渡さんと……」
「……ちっ、あの人も友達が多いなあ、だが僕はそれを集めないと……」

レインの高速を維持しながらレヴィが近づく、はやてがぎゅっとジュエルシードを掻き抱く。
するとパアッと青い光が瞬く、激しく輝いて辺りへ放たれた。
ジュエルシードの発動、はやての恐怖や反発といった感情に反応したのだ。
『彼女から湧き上がった』得体のしれない『黒い魔力』までもがそれを後押しする。

「だ、駄目!」
「おい、止めろ、ジュエルシードが……」

レヴィは慌てて止めようとするも、その手は僅かに届かず、またデバイスによる封印も間に合わなかった。
チカチカと数度瞬いた後光が膨れ上がって青い光の柱と成った。

パアアッ

『うわあっ!?』

青い輝きが辺りを照らしていく。
はやてとレヴィ、それにやや離れた所で戦うフェイト達までをも、ジュエルシードの輝きは飲み込んだ。
そして世界が歪んだ、限定的ではあるが奇跡の魔力が海鳴の地に『在り得ざる世界』を作り出したのだ。



玉座が有った、『王』はそこに座している、左右には人影が『白髪の美しい女性』(気を失っているが)を羽交い締めにしていた。

「……さあ再起の時だ、だが『お前達』はまだ出るなよ?」

ヒュッと杖が風を切る、『王』が『十字架の形の錫杖』を振るったのだ。
それに合わせて『王』の周囲に影が現れる。
無数の影が何もない空間に湧き出るように、ギイギイと鳴きながら隊列を組んだ。
現れたのは皆異形、人型は居らず獣や不定形の姿で、魔獣幻獣といったものばかりが集まっていた。

「ちっ、今まで書に集められたコアの再分配と実体化……だが人は作れんか、容量を食い過ぎてしまう。
……ま、下手に呼び出して反抗されるよりマシと思うか」

『王』は異形達を見て舌打ちし、その後考え直して現状で十分と考え直す。
ジュエルシードとの接触、ここまで来れたのはイレギュラーの果てで、贅沢は言えないと思うことにした。
正しくこの状況はイレギュラーの果て、『書』の主がジュエルシードに窮地からの脱出を願い、『書』の悪性部分の切れ端も僅かな力を絞って便乗した。

「……ギリギリだった、書の機能を数パーセント程に活性化……だがここまで確固たる形を得られれば後はどうとでも成る」

そういう奇跡のような偶然の中『王』は現れた、ならば今することは今得られた自由を後に活かすことだ。

「……眷属よ、散るのだ、そしてこの地を満たせ」

彼女は周りを固める眷属に『この世界に相応しくない者達』への警戒を指示した。
それに従い、異形達は駆け出していく。
暫し見送って、残された『王』は邪悪に笑った。

「さあ始めよう、我らが新たなる戦い……そうだ、まだ終われん、あの竜さえ居なければまだ……」

彼女が皮肉げに笑う、その時脳裏に浮かぶのは『竜』に良いように切り分かたれた屈辱の瞬間、ケチはその時から始まった。
けどそいつは今は居ない、動くのは今しかない。
そうして前のように『知識と力の集積』をする、彼女にとってそれは何にも勝る目的だった。

「……終わってたまるか、『闇』は消えぬぞ」

『王』が宣言した、四騎士でもなければ管制人格でもない、だがそれ等よりも『書』に近しい存在が『奇跡の石』というイレギュラーにより目覚めたのだった。



サアアッ

ゆっくりと少女が世界に降下した、風に煽られ金髪が棚引いた。

「……これは一体、ジュエルシード、それとも?」

少女、フェイトは青い光を見て直ぐ様底へ向かった、それにより異常に巻き込まれたがリニスを突破できたとも言える。
彼女は魔剣を手に油断なく辺りを見回す。
そこは奇妙としか言いようのない場所だ、様々な世界、文明からなる建物や遺跡がグチャグチャに混じっていた。
まるで『複数の意思』がジュエルシードに干渉したかのようだ。

「何が起きてるの……レイジングハート?」
『……暫しお待ちを、サーチします』

小首を傾げた彼女の懐で赤い宝玉、レイジングハートが数度発光する。
フェイトの魔力を頂いて広範囲を探知する。

『これは……フェイト、構えて、敵意と魔力反応です!』
「……くっ、行き成りか!?」

警告を聞いて咄嗟にフェイトは跳躍し、それに一瞬遅れ魔力弾が降り注いだ。
周りの建物を砕いて、異形達が現れる。
ゴーレムや傀儡兵に近い人工物、更にそれらを率いて赤い表皮の巨大な獣が現れた。

『あれは赤竜か、召喚等で比較的よく喚ばれる物ですが……』
「……でも、この魔力、ジュエルシード?それに何か混ざってるよ!」

フェイトは感じる気配にぎょっとしながら魔剣を構える、辺りの建物を壁にしながら巧みに包囲を避けた。

『……フェイト、どうしますか?反撃かそれとも?』
「……先が見えないから温存重視、霊波斬で回復しながら攻める、そっちはジャケットの維持を!」

行動方針を素早く決めて、フェイトとレイジングハートは襲い来る異形達を迎え撃った。
だが、その時フェイトは奇妙な感覚を覚えた。

(何だろう、視線?誰かが私を見てる……でも単なる敵意じゃない、それにどこかであったような・・・)



「……ああやっぱり居たか、姉でありもう一人の……リニス、降ろしていいよ」

猫の使い魔を肩を借り、建物の上から『目的』を探していたレヴィは確認し終えて使い魔から降りた。
彼女はデバイス、バルフィニカスを手にうーんと手を組んで考え出す。

「……何でこうなったんだろ、でもチャンスかな」
「レヴィ、それは?」
「フェイトと会う、そしてジュエルシードを奪う……マスター・プレシアの命令は果たさないとね」

その言葉を聞いたリニスは一瞬顔を顰める、プレシアの名を呼んだ瞬間レヴィの表情が消えた。
それはまるで人でなく人形じみたものだった。
フェイトと違い彼女は自分が作られたと自覚している、その上プレシアへの忠誠を機械的に刻まれているのだ。
彼女は絶対にプレシアを裏切らない、それがリニスには悲しかった。

「……リニス、どうしたの?」
「いえ……」

その様子に気づきレヴィが問いかける、表情が戻っている。
やり難いとリニスは心中でだけ思った。
クルクルと変わる顔に性質、この少女とどう接すべきかリニスは決めあぐねていた。

「……で、仕掛けるとしてどのように?」
「……まあ今直ぐじゃない、三つ巴は面倒だし……タイミングを見て、仕掛けようか」

この空間を作った者が気になった、下手にフェイトと戦って漁夫の利、いや一網打尽にされるのはごめんとレヴィはリニスを連れて歩き出す。
姉妹にしてある意味同一人物、その接触はまだ少し先だ。




・・・というわけでストーリは新展開へ、唐突に思えるかもしれませんがフェイトとなのは双方の手が丁度空いちゃうので・・・
返信・神聖騎士団様・・・実は闇の書がらみの事件は終わってませんでした、海鳴にそのまま繋がります(幕間のはやての話はこの為、大分掛かりましたが)



[34344] 魔王遊戯・二章『遺産』シーン2
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/08/31 20:16
「……何故こんなことに」

機能性重視の黒スーツ、シグナムが嘆息した。
その理由は主に二つ、自分達の主であるはやてとジュエルシードの接触、そしてそれを伝えた存在だ。

「ピーガガ、センサーに感あり……ここが異界との接点と思われる」
「……魔王ベール=ゼファー、一応この世界では味方ではあるが」

ベール=ゼファーの使いとして自分を呼び出した鋼の人形、メカベアトリス(あるいは単にメカトリス)を見て彼女は大きく溜め息を吐いた。
相手が一応この世界とジュエルシードに関しては味方なのはわかっている。
それでも数度の戦いを経た上ではやはり警戒してしまう、が向こうは気にしない。

「座標割り出し終了、転送する……どうした?」
「いや……(主には変えられんか)……やってくれ」
「了解した」

彼女は一瞬躊躇った後開き直り、メカトリスがこじ開けた異世界への強化に飛び込んだのだった。

「蛇が出るか鬼が出るか、さて……」



「ちっ、これは……烈火の将、来るか」

『王』が創りだした領域への侵入者に気づき、舌打ちした。

(我自身は動けん、乗っ取った『本当の主』がまだ……ならばここは……)

一瞬腕を組み考え込む、ジュエルシードの発動時彼女は何とか実体化した。
その際融合騎の設計を参考にし、闇の書を再生する場合障害となるであろう少女、八神はやての体を乗っ取っていた。
今彼女は深い眠りに付いている、だが何の拍子に目覚め抵抗するかわかったものではない。
その危険性を無視できず、『王』は自分の左右を見た。

「……ふむ、ここの状況、それに彼我の戦力差……これしかないか」

右手側にはしっかりとした人影、左は揺れる『人手すらない影』、片方は安定しもう片方は未だ不安定だ。
暫し見比べ、その後彼女は右手側に声を掛けた。

「……星光の破壊者、行け」
「了解……出番です、ルシフェリオン」

王の言葉に頷き、唯一の騎士がフワと浮かび上がる。
なのはと同じ顔、鏡写しのような姿、唯纏った装束だけ黒い少女が飛び立った。



結界の突入直後、シグナムとメカトリスは並んで飛びながら周囲を見渡した。

「ふん、継ぎ接ぎの地、それに奥に城か」
「……シグナム、まずどこに向かう?」
「やはり一番奥の……」

ドガガッ

「シグナム、避けろ!」
『……シューター、追え』

彼女の目的ははやての救出、それに最も沿うであろう行動を選ぼうとした瞬間攻撃が来た。
無数の誘導弾がシグナム達に襲いかかる。
二人は反射的に左右に散って躱し、だが追撃がしつこく来た。

『……シューター、追い続けろ』
「くっ、行き成りか……龍炎!」
「……落とすぞ、コレダー!」

シグナムは炎を灯した拳で払い、同じようにメカトリスも迎撃する。
が、その瞬間誘導弾を囮に周囲に光、キラと光り輝く鎖の束がジャラと音を立てた。

「……ピガ?」
「不味っ、避けろ、メカトリス!」

それは完全なる不意打ちで、その技術をよく知るシグナムは辛うじて反応するもメカトリスは一瞬対応が遅れた。
ジャラリと彼女の体にバインドが何重にも巻き付く。
更にそこへ追撃、黒い影が出現し、『魔力とは違う輝き』を纏わせた杖を振るった。

「……龍牙、はあっ!」
「ピガッ!?」

大上段からの一撃に叩き落とされ、メカとリスが煙を吹きながら継ぎ接ぎの大地に落下する。
そして、黒い影は無力化したメカトリスからシグナムに視線を移し、『龍使いの技で強化された杖』を突き付けた。

「……目標確認、騎士『シグナム』を打倒します」
「ちっ、それは高町殿の……そうか、牙で割いた瞬間『コア』にデータを取られたか」

シグナムは思い切り顔を顰め、だが頭痛を堪えて拳を、炎に包まれた両の拳を構える。

「だが……高町殿のデッドコピーにそれがやれるかな?」
「『王』の命令です、必ず達成します」
「ふん、王とは大きく出た、ではここを突破し……其奴に会うとするかな!?」
「……させない、落ちろ裏切り者!」

ヒュバッ

『はああっ!』

ガギィン

二人は同時に間合いを詰め仕掛ける、ルーツを同じくするが異なる性質の者達が異界の空で衝突した。



魔王遊戯・二章『遺産』シーン2



(……シグナムさんの魔力?となると片付けて合流するか……)

そんなことを考えながら結界をフェイトが駆ける、すると頭上から空戦型の魔獣が牙を剥いた。

キシャアアッ

が、寸前でその牙は弾かれた、フェイトが魔剣の腹で弾き更に反動で振り被る。

「甘い、金剛……霞刃、やあっ!」

魔剣を風が切る、数度ブレて小刻みに揺れる刃が魔獣を引き裂く。
翼を失い落下したそいつに、更にフェイトは横薙ぎを放ち首を跳ねた。

「邪魔っ!」

ギイアァッ

悲鳴を上げて魔獣が消滅する、魔力だけで作ったと見てわかるそれにフェイトは(少しだけしていた)手加減を辞めた。

「作り物か、なら……次はどいつ!?」

ジャキンッ

フェイトは周囲の魔獣に一喝、一振りして血を払った刃で威嚇する。
その姿に圧倒されて、魔獣がビクと震えて後退った。

「崩れた?なら……遠当て、衝撃波だっ!」

ブウンッ
ザシュ

すかさずフェイトは魔剣を肩に担ぎ、そこから勢い良く一閃した。
数体の魔獣がバラバラに引き裂かれ、更に相手に陣形が乱れる。
フェイトはニッと笑い、行き成り前へと踏み込んだ。

ドンッ

「更に崩す……なぎ払う、やああっ!」

ズドンッ

『ギアッ!?』
「ふう、雑魚はだいたいこれで……」

魔獣のど真ん中に飛び込んだ彼女は刃を一戦、水平方向への大振りの一撃が彼等を寸断した。
魔剣の血を払いながらフェイトは無造作に魔獣の残りを蹴散らし、その奥を見上げる。

「後は……」
「ガルルッ」
「……赤竜、こいつか」

それは巨大な竜、他と違い戦意を保っていた。

「ま、少しはやりそうだけど……なのはの方が全然怖い、来い!」

チャキッ

「グル、ガルルッ!」
「……遅い!」

ドンッ

フェイトは挑発するように笑うと刃を突き付け、答えるように竜が尾を撓らせた。
だが、フェイトは軽やかに跳躍すると、一気に尾を飛び越した。

「……ガル!」
「……無駄だ」

竜は動揺するも大顎を開き、空中のフェイトを貫き引き裂こうとした。

ガッ

「弾く、金剛剣……」

ガギィンッ

寸前で甲高い音、魔剣の一閃が牙を受け止め弾いた。
そして、フェイトは魔剣を構え直し、跳躍の勢いを乗せて振り下ろす。

「落ちろ、はああっ!」

ザシュッ

気迫の叫びとともに刃が一閃、鮮血が舞い上がった。
赤竜の首筋に深々と魔剣が食い込む。
それでも赤竜は苦しみながら反撃するも、フェイトは容赦なく止めを刺しに行く。

「ガッ、グル……」
「しぶとい、でも……生命の刃、持ってけ!」

フェイトが魔剣の縁に掌を滑らせ、血を滴らせた。

ズドンッ

魔剣は強化され、跳ね上がった殺傷力が竜の体を抉る。
一秒も立たずに赤竜の首が飛んだ。

「ふうう、大物落とせたか……霊波斬を使っておきたいね」

消滅していく竜からフェイトは視線を周囲へ、懐のデバイスも警戒する。

『……敵対象、全ての排除を確認しました』
「うん……魔力使っていいから、サーチお願いね、レイジングハート」
『了解、警戒モードに入ります』

魔法による探知網が広がり、これで幾らか安心できる。
レイジングハートに一旦任せ、フェイトはどうするか考えた。

「少し休んで、奥に行くかシグナムさんと合流を……」

そう考えた時だった、幼い、だが傲慢な声が響いた。

『おおっとそうはさせんぞ、追加だ、行けいっ!』
「……何っ!?」

慌ててフェイトは空を見上げ、その瞬間そこは歪み切り裂かれていた。



ヒュッと『王』が黒い十字杖を振り上げた。

「……眷属よ、赤竜を中心に隊列を組め……波状攻撃で、消耗させるのだ!」

彼女の言葉に従い、魔獣達がわらわらと彼女の転移陣に群がっていく。
その先に繋がるのは当然フェイトの元だ。
王の為に、闇の書復活の為に、彼等は捨て身の攻勢に出た。

「はははっ、そうだ、コアを握るは我……我等の為に戦うのだ!」

『王』が傲慢に笑った。

「……させない!」

が、その瞬間銀髪の女性、管制人格が叫んだ

「何っ!?」
「そうはさせません……闇の書は止めてみせる!」

魔力が束ねられ数本の槍へ、彼女はそれに石化の力を込める。
狙うは自分を羽交い締めにする魔力、自分ギリギリへ打ち込んで彼等を物言わぬ石像に変えた。

「貴様、何時起きて……」
「……貴方が魔力を使う度に余剰魔力が流れ込んだ、元が同じだと忘れましたか!?」

戒めから抜け出した管制人格が跳躍し、王が作り出した転移用魔法陣へ飛び込んだ。
その時一瞬はやてを見て、決意の表情で叫んだ。

「主は必ず取り戻す……待っていなさい」
「ちっ、管制人格如きがよく言う……止めよ」

舌打ちし彼女は周囲に叫ぶ、それに従い待機中の魔獣が飛びかかる。
が、管制人格が跳び込むのと殆ど同時に、転移陣から放たれた衝撃波が彼等を切り裂いた。

「これは……フェイトさんか!」
『急いで、早く!』
「……はいっ!」

そうして管制人格が完全に消える、僅かに魔獣の爪牙は届かず逆に切り刻まれる。
王は切り飛ばされた破片を咄嗟に杖で払い落とし、その後八つ当たり気味に床を蹴った。

ダンッ

苛立たしげに唸ると彼女は周囲へ号令した。

「ぬうっ、やってくれる……一隊を残して外へ行け、管制人格を追うのだ!」

再構成した転移用魔法陣で魔獣を派遣、そして残った彼女は苦々しい顔で歯噛みする。

「……小娘に管制人格、許さぬぞ」

彼女はチラと左側を、ここに残した戦力の中で最も強力な存在を見た。
ザワザワと揺れる影、絶え間なく表面組織を変化していく。
それは正しく彼女の切り札、この地に存在したある存在を模倣したものだった。

「高町なのは、我がこうも無様を晒す元凶……完成すればある意味皮肉か」

王の隣で歪な影、半人半竜の人型がゆっくりと変化し完成していく。
それその物ではないし魔力的に完全な別物、だが構造を模したことで機能自体はある程度似通ったものに成るだろう。

「……破壊者が奴の技の再現なら、これは力……聖竜騎士だったか、役に立ってくれよ?」

王がニヤリと傲慢に、だが呆れるような皮肉っぽい笑みを浮かべた、彼女の暴走はまだ終わらない。





とりあえず結界内は大きく分けて二つ・・・フェイトとリインvs竜とかその他、上でシグナムvs破壊者というかんじです。
まあフェイトの後をレヴィとリニスがつけてるんですが割愛・・・王の左側のは大分オリジナルに成るかな?

以下コメント返信
神聖騎士団様
ええはい、無印中でAsネタをやるのはその時から考えてました、闇の書を軸にしてまあ敵味方派手に暴れてもらいます。
実はなのはの帰還は少し先になってしまいます、今海鳴にいる面子に目立ってもらおうかと・・・

JJ様
ええ、妹キャラと判明したディアーチェですね、あのキャラを敵にしたの勿体なかったかも・・・でもポジション的に他が厳しいか頑張ってもらいましょう。



[34344] 魔王遊戯・二章『遺産』シーン3
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/09/29 17:35
「はあはあ、流石に魔力が……」
「リインさん、大丈夫!?」

銀髪の女性が荒く息を吐き、フェイトがそれを心配する。
彼女を庇ってその体、傷の有無を問いかける。
その言葉に女性、レインは『王』が掛けたバインドを砕きながら言った。

「な、何とか……主はこの空間の最奥部、あの城です!」
「わかった、赤竜は適当に捌いて……早く助けに行こう!」

フェイトは力強く頷き、竜の吐息を風車のように回した魔剣で弾く。
そして、すかさず刃を一閃し、赤竜を中心に衝撃波を叩き込んだ。

「衝撃波だ、喰らえ……はあっ!」

ザシュッ

『ギイッ!?』
「良し、怯んだ!なら……」

魔剣による遠当てが竜とその周囲の魔物を切り裂く、彼等が怯んだのを見てフェイト達は走り出した。

「今だ、走って!」
「はい!」

フェイトがレインの手を引いて城へと走った。
当然魔物達は追おうとしたが、その出鼻を挫くようにフェイトは魔剣を小刻みに振るう。

『フェイト、包囲網が……左右に一度ずつ!』
「わかった……邪魔だよ!」

ヒュバ
ズドッ

『ギ、ギッ……』

機械故の計算力で追手を読んだレイジングハートの指示に従い、フェイトは牽制に衝撃波を放つ。
行く手を阻むように放たれた斬撃が魔物の四肢を断ち切った。

「よし、このまま離脱……」
『……気をつけて、竜が来ます!』
「うっ、不味っ……」

が、衝撃波を突っ切って何匹かの赤竜が魔物を蹴散らし、突進してきた。
攻撃直後のフェイトに妨害の余力はない。
これが彼女だけなら迎撃できただろうが、隣には満身創痍のレインが居る。
咄嗟に彼女だけでも庇おうと背後に押しやった。

「下がって!」
「フェイトさん!?」
「……魔剣使いの装甲が紙でも一撃じゃ落ちない、多分だけど」

自分でも情けないことを言ってると思いつつ、フェイトはレインを庇った。
竜達がその爪牙を振り被り、フェイトはせめてもと魔剣で急所を守る。

ピシャン

が、その瞬間雷鳴が轟き、フェイトは呆けた表情で黒焦げの竜を見上げた。

『……え?』

呆然とフェイト達二人は竜が散華するのを見た。
突如湧いた雷雲(その徴候はなかったのに)、そこから降った雷光が竜達を貫いたのだ。
フェイトはそれに見覚えがあった。

「今のは天候操作……あの術式、私やリニスが使うのと似てる?」
『……フェイト?』
「……ううん、考えるのは後だ、行こう(……何のつもりかしら無いけど、感謝するよ、『妹』)」

フェイトは会ったこともないその存在に心中でだけ礼を言い、レインの手を引いて逃走を再開した。
幸いというか、敵は先程の雷撃で混乱している。
内心かなり複雑な心境だったが、フェイトはレインと共に魔物から逃げ切ったのだった。



「あ、やべ……つい手が出ちゃった」

そして、建物の影(戦闘の余波で殆ど廃墟だが)潜んでいた水色の髪の少女が気まずそうな顔だ

「……『レヴィ』、考えなしにも程があるでしょ」
「いや、私としちゃ『姉』との決着はつけたいが……それ以外の、巻き添えを出すのはどうにもね。
何より……友達を助けに行く所に仕掛けるのも空気が読めてないし」

アハハと誤魔化すように笑った後その少女、レヴィと呼ばれた娘は大剣型のデバイスを構えた。

「悪いね、余計なことをしてさ、リニス……でもういっこ謝るよ、魔物が気づいたみたい」
「やれやれ、本当に余計なことを……さっさと片付けましょうか」

二人は言い合いを止めて背中合わせで(リニスは聞こえみがしに溜め息をついたが)包囲する魔物を睨む。
邪魔者と判断したか殺気立つ彼等にそれぞれの得物、剣と拳を構えた。

「……ええと、そうだ、準備運動にいいんじゃないかな?」
「はあ、もっとマシな言い訳しなさい……行くわよ、油断しないで」
「わかってらい……出番だぞ、バルフィニカス!」

戦闘狂なのかレヴィはニッと笑い、対してリニスは顰めっ面で、魔物達に向かって走り出す。
こうして完全なる偶然で戦いが始まった。
彼女達にも『王』にも得る物無き戦いだが。



魔王遊戯・二章『遺産』シーン3



廃墟の影で赤い燐光が瞬く、レイジングハートだ。

『索敵開始、広域サーチ……二人以外の魔力反応無し、逃げ切りました』
「ふうう、やっと一息つける……」

彼女は自分を握るフェイトに言った、何とか魔物を振り切ったことと告げ二人を安心させる。
それによりフェイトとレインは疲れた様子で近くの壁にもたれ掛かった。

「……酷い事になったね、ここで闇の書がしゃしゃり出てくるなんて」
「申し訳ありません、不覚でした……主は『王』と名乗るプログラムに囚われています」
「むう、不味いなあ、はやてはあっち側で……しかもジュエルシードまでなんて……」

避難から暫し後、説明を受けたフェイトは大きく嘆息する。
ジュエルシードをそれに劣らない程厄介な書が手に入れて、しかも人質まで居るのだ。
またこの奇妙な空間、この場が向こうのデータの再現だとして、相手がデータから戦力を都合してくる可能性は高い。
フェイトは数秒ガクと肩を落とし、だが直ぐに開き直った様子で言い放った。

「……とはいえ諦める訳にはいかない、なのはが戻るまで海鳴はこっちの責任、それにはやても友達だもんね。
『王』もそれが用意してるだろう『何者か』も……皆、この刃で両断してやる」

責任と友情と、幾つかの感情と共に力強く、彼女は魔剣を掲げて宣言したのだった。

「おお、何という雄々しきお言葉……感謝します、フェイト!」
「ピピ、全くだ、嘗てのデータと比べ逞しくなった……これなら期待できそうだ」
「……い、いや、大袈裟だって二人共……二人?」
『……え、あれ、一人多いような』

フェイト達二人と一機は慌てて周囲を見て、そこに勝手に加わった黒い影に気付く。
いつの間にかそこに混じって、ゴシックドレスに文字通りの鉄面皮の少女が居た。
その存在のことをフェイト達はよく知っている、但し敵としてだが。

『……メカのベアトリス!?』
「ピピ、どうも……暇人連れて援軍に来ました、尤も敵に撃墜されてそのシグナムとははぐれたが」

ザッと蒸気吹いて敬礼し、装甲に焦げ目と亀裂の入った鋼鉄の少女が呆ける三人に説明する。
そして、返事も待たずに一方的に、気ままな主のベール=ゼファーさながらに言っ放った。

「逆に言えば……シグナムが敵戦力を止めてるということ、『本丸』に仕掛ける頃合いでは?」
「……この子はいきなり来てまた無茶なことを」
「だが長引かせたくないだろう?……『魔物以外の勢力』がそれと争っている、それで敵の手が分かれるし、『第三勢力』より先に動く必要があるのでは?」
「はあ、急だけどわかった……ま、そうだね、一々覚悟なんてする必要もないし」

フェイトはその日数度目の、最大の貯め息を吐いてから魔剣を担いで歩き出す。
苦笑気味に、自分でもどうかなと思うことを言いながら。

「そう、覚悟なんて今更……蝿と蛇相手になのはと共に戦った。
それ以来、何だかんだ私も……その影響を受けちゃってるみたい……」
「……ふっ、重畳といったところか、では行こうか『第九』の守護者よ」

その歩みは力強く雄々しく、それに鉄の娘は思わず賛辞にも皮肉のにも聞こえる言葉を掛けた。



ドガシャアッ

閉鎖空間の最奥部、古めかしいベルカ様式の城塞を破って三人の少女が踏み込んだ。
玄関部に集まっていた魔物、それに主の指示を中継するサーチャーがビクつく。

「ダイナミック……入城!」
「……単なる不法侵入でしょ」
『ぬおっ、いきなり来おった!戦力が手薄になったら直ぐこれか!?』

サーチャーの向こうで『王』が絶句する気配が届いた。
だが、フェイト達が律儀に相手する理由もない、三人は構わず走り出す。
幸いというか奇襲で魔物の動きは鈍い、それに敵の幹部も押えられている。

「……シグナムさんには感謝だ、あの張り切りようなら一人でも大丈夫かな」

城塞のぶっ壊れた壁からピンクの髪がチラと見え、その影、シグナムはフェイト達にビッと親指を立てた。
直ぐ『なのはに似たプログラム』と殴り合い離れるが、あ心配するだけ無駄だと思える程頼もしい物だった。

「……うん、任せればいいや、心配して損したよ」

ちょっと溜息付きつつフェイト達は城塞の中を突き進む。
目指すは中心一つ、当然魔物が妨害しようとしたがその前に人型が立ち塞がった。

「おおっと、そうは行かせん……コレダー展開、最大出力!」

ベアトリスは両腕の装甲を露出、そこから伸長した電極を限界出力まで高めて起動した。

「ダブルコレダー……フルパワー!」

ドガアッ

『ギイッ!?』
「ピピ、私が相手だ……来るがいい、虚ろなる魔物モドキよ!」

ニヤリと主そっくりに邪悪に笑って、彼女は殿に立ったのだった。
そして、先を行くフェイトとリインに叫び、二人も叫び返した。

「テスタロッサ、魔物共は止めておいてやる……しくじるなよ!?」
「ふんっ、言われなくても……一応感謝する、貴女も派遣してくれたあいつもね」
「……感謝します、直ぐに王とやらを止めますから」

彼女一人をそこに残し、フェイトとレインは城塞の中を駆けていく。
奇襲故に魔物の配備は出来てないようで障害はない(推定『妹』にも送ってるのだろう)

「ここか……行くよ、レイジングハート!」
『はい、何時でも!』

幸運も味方し、フェイト達は豪奢な扉、中心まで辿り着いた。

「目的はまずはやてと王の切り離し、ジュエルシードも……でもまずは先制だ、覚悟っ!」

ヒュッ
ズドン

フェイトは宣戦布告と共に魔剣を振るい、衝撃波で扉を砕きそれどころか奥にいる王へ先制する。
だが、それはヴェールの如き黒い壁に、それも四枚重なった高出力の結界に阻まれた。

ガギィン

「……ちぇ、届かずか」
「甘いな、こっちは戦闘特化のベルカだぞ……それに『こいつ』も間に合った」

彼女の足元から影が飛び出す、漆黒の魔獣が王を背に乗せ四方十数メートル程の広間の天井すれすれまで飛んだ。
その異形の魔物は大きさこそ二三メートル、魔物としては大型とはいえないが、それ以上にフェイトには無視できない特徴を持っていた。
形態で見れば竜に似ている、だがそれにしては華奢とも無駄がないともいえた。

「竜?でもそれにしては……」
「亜竜『ワイバーン』、竜に比べ格が幾らか落ちる……所謂その出来そこない、『あの女』への復讐の道具としてはうってつけだ」

彼女の言葉と同時に影は翼を広げる、四肢こそ貧弱だがそれに対して異様なまでに翼が大きい。
そして、それに並ぶくらい全体と不釣り合いに大きな箇所があった。
そいつは禍々しく形状の尾を伸ばした。

「もう一つ特徴がある……その尾には大棘があるという、格上の竜をも脅かすという棘が」

尾の先端が輝く、それは根本に宝石の嵌め込まれた大剣に似ていた。

「……私の、魔剣?」
「優れた戦闘力を持つならば、それは自然と戦闘に効率的なデザインになるということ……ならば形質を真似れば幾らか近づけるさ。
……『あの女』と『その連れ』、この復讐を遂げるには模倣するのが手っ取り早かろう?」

王はニヤと笑い、その後けしかけるように亜竜の背を軽く叩き合図を出した。

「ふっ、叩き潰せっ!」

キシャアアッ

再展開された四重の結界と共にそれは急降下し、フェイトの頭上で体を捻ってその尾を振り回す。
結界の僅かな隙間から剣の尾が飛び出し、不規則に揺れながら襲いかかった。

「魔剣が相手とは……アナタの出番はまだ、レインさんは下がって!」
「フェイトさん!?……くっ、了解しました、気をつけて」

はやてと王の切り離し時には頼るがそれまで温存したい、そう考えたフェイトはレインを背後に押しやると同時に魔剣を構える。
ギィンっという音と共に、金剛石の如き魔剣の防御が竜の尾を弾いた。

「よし、止められない程じゃ……」
「……ふっ、甘いぞ、撹乱せよ!」

ヒュバッ

が次の瞬間亜竜が狂った様に暴れた、その動きで更に剣の尾は激しく不規則に揺れる。
上下左右に揺れ揺れに揺れて、巧みに弧を描いたそれはフェイトの魔剣の掻い潜る。

「うっ、不味……」

すかさず王は悪意の笑みを浮かべ亜竜に指示を下した。

「ふっ、今だな……そらっ、穿け!」

ガギィンッ

「……なんてね」
「……何?」

が、黄金の輝きがそれを弾いた。
いつの間にかフェイトの左腕に、剣を持たないそこに鋼鉄の手甲が装着されていた。
肘に沿うように金の魔力光が集まり、それで形成された刃が弾いたのだ。
手甲の中心に赤い宝石が嵌め込まれ、自分の存在を示すように輝いている。

「……甘いんだよ、魔剣一本で戦い抜けると思う程傲慢じゃなくてね!」

ヒュッ
ズドンッ

至近距離からの衝撃波と魔力の炸裂が王と亜竜を吹き飛ばす。

「ぐっ……」
「ギイッ!?」

更にそこへ追撃、フェイトが跳躍し魔剣と『もう一つの刃』を振るう。

ガギィンッ

「ぬう……結界強度、最大!」

そのまま飛び越し、すれ違い様の一撃は四重の結界に防がれる。
だが、王と亜竜が衝撃で怯んでる間にフェイト達は体勢を整え終えていた。
フェイトは王達の頭上、天井に逆さに立つと魔剣を構えた。
一人と一頭を見上げ(向こうから見下ろし)からかうように言った。

「残念、こっちも色々戦い方を探ってたんだ……レイジングハートと一緒にね」
『空戦時の制動スタビライザー……かつ近接用サブウェポンにして非常の際の装甲板、まあ上手く行ったか』

フェイトとレイジングハートはしてやったりと言いたげにして、その後王へと冷たく言い放った。

「そういう訳でね、速度も上がって手数は倍……」
『精々必死に、頑張って……耐えてみなさい!』
「……まだじゃ、迎え撃て、亜竜!」

これ以上ないほど冷たく告げて、彼女達は青と金の刃と共に降下する。
それを王達は迎え撃ち、フェイト達と王の戦いはついに本格的に開戦する。

ガギィンッ

「……くう、あの女どころかその連れ等に」
「オマケ扱いは心外だ……私となのはは仲間で対等、甘く見ないで!」

意地の叫びが城塞に響き渡り、書の復活を巡る戦いはこうして佳境へと入ったのだった。





・・・まあ前回逃げてからと妹の乱入、合流後情報交換、でボスの所に行くまでの話ってところですかね。
フェイト&レイジングハートVSディアーチェ&飛竜、そんな感じでクライマックス開始です。

以下コメント返信
神聖騎士団様
いやなのはとフェイトを真似した『竜モドキ』を出すのでフェイトでも大丈夫かなと、まあディアーチェがなのはを恨む描写はそういう意味もありますが。

サinコサin様
ええとなのはが戻ればその辺緩和すると思います、まあそれまでは・・・レイジングハートの口出しがあるからということで。



[34344] シーン4
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f1df67ac
Date: 2015/10/19 18:30
異形の結界上空、烈火の将、シグナムと王の唯一の従者が睨み合う。

「来い、狂ったプログラムめ」
「抜かせ、裏切り者……ルシェフェリオン、シューター放てっ!」
「……小癪なことを」

デバイスを振り回した星光の破壊者が光弾を連続して打ち出す。
ヒュンヒュンと光弾が飛び回る、だがシグナムは僅かも動じず真直ぐに飛翔した。

ガギィンッ

「……腕部装甲展開、突破する!」

彼女は両腕に白い装甲を纏い、それで光弾を払いながら一気に加速、間合いを詰めて行った。

「ちっ、騎士の割に荒っぽい……この世界に染まった!?」
「ふむ、それもあるかもしれないが……」

慌てて破壊者は引こうとするが、最短距離をきたシグナムはそれを許さない。
彼女はそのまま相手の懐に飛び込み、炎を灯した拳打を振り被った。

「怒っているのだよ、今更闇の書と聞いてはな!」

シュボ
ドガガガガッ

「故に全力で……叩き潰す、ファイエル!」
「ぐっ、端末のプレグラム風情が……」

怒りの叫びとともに左右のラッシュが放たれ、破壊者は杖の柄を小刻みに動かし何とか受ける。
だが、彼女の方もやられっ放しではなく、相手以上の怒りで顔を歪めて反撃する。

「言ってくれるわね、騎士……だが我等とて、いや『闇の書』とて言い分は有る!」
「……ぬうっ、ならば言ってみろ!」

叫びと同時に力任せに石突きを叩きつけ、ラッシュの僅かな隙間に割り込む。
シグナムが僅かに引き、すかさず追いながら星光の破壊者は言い放つ。

「引けないの……自意識を得た貴様等と違って、書は変われないのよ!」

そう叫び、怒り、そして強迫観念じみた自棄にも見える感情がその表情に宿る。
それを込めて、星光の破壊者は打撃を叩き込む。

「わかってたまるか……貴様等、書からとうに離れた、半ばスタンドアローンの存在等に!」

ガギィンッ

腕を交差し受けるが押され、更に下がったシグナムに星光の破壊者は叫ぶ。

「ぐおっ、何を!?」
「書に有るのは唯一つ……情報の蓄積という役目のみ、今更捨てられない!」

そして、彼女は己の目的を、いや蘇った書の存在理由を口にした。

「……ベルカは滅んだ、永遠なんて無いと書は知った、ならせめて……命は無理でもそれが在った証だけでも!」

そこに有るのは呪われた書等というレッテルとはかけ離れた純粋な思い、それを胸に抱いて破壊者は宣言した。

「それだけでも……未来に残す、その為に書は存在する!」
「……そうか、あくまで『記録』する『道具』か」
「……何が悪い、それが我等の存在する理由よ」

その宣言に同情すら覚え、シグナムは思わず憐憫の表情を浮かべた。
だが、それを余計なお世話と言いたげに睨み、破壊者も杖を構えた。
騎士はここに来てやっと気付く、相手にもまた譲れぬ信念と理想が有るのだと。



シーン4



「……ふっ、着いてこれる!?」
「追えい、竜よ」

ヒュンヒュンと剣士と竜が空を舞う。
二者は打ち合い、魔剣と尾の刃で火花散らしながら何度も交差する。

チチッ

「ううむ、これは……」

フェイトは真正面から受けず、受け流すようにする。
魔剣と変形したレイジングハート、二つの刃で最小限に受けると、彼女はジッと向うの刃の軌跡を見つめていた。
その観察するような目が気になって、『王』は嫌な感じを覚えた。

「ふむ……」
「……消極的ではないか、娘」
「なら、そっちから崩してみれば?」
「……ちっ、良いだろう、言われずともそうしてやる!」

だが、『たかが人』のからかうような言葉が許せず、王である彼女は竜をけしかける。
そして、その傲慢さに浮かされるままに言葉を、星光の破壊者と同じ旨の言葉を口にしていった。

「邪魔するな、人も世界も……儚いのだ!だから残す、いや残さねばならないのだ!」

彼女の敵意に応じて竜が攻め、その尾を躱しながらフェイトは言葉を受け止める。

「……ご高説だけど、その割に犠牲が大きくない?」
「ああそうだな、人の手を経ていくうちに歪み、攻撃的には成ったが……だがそれでも譲れん。
知識は宝よ、今は失われたな……集め続けて、それを守ることの何が悪い?」

彼女はそこで一瞬言葉を切り、目を瞑ってある過去を思い返す。
それが書を語る上で、時代背景からして大事なものだ。
そのルーツは惨劇であり、そこで逃れた書が何故必要となったかである。

「古代ベルカ、隆盛を極めた文明でも滅びた……だが人は、ベルカの民は残ったのだ」

国も文明も滅び、だが人々は転々に各次元世界に生き延びている。
書の過剰と思える戦力に転生能力、何故そこまで残す必要性があるかといえばそれ以外に存在しない。

「……我等が溜め込んだ知識、何れ彼等の手で……失われし栄華への復興に繋がってくれると信じて、その為に行動して何が悪い!?」
「……でも、そういう風に使われてはいなかったようだけど?」
「ああ確かに嘗ての主共は道を違えた、溜めし知を……己の為に使いたいと、知を力に転化し混乱を齎した。
力の有無はそれなりに財力、権力に繋り得る、スマートでないが……まあ、気持ちは理解できなくもないか」

ならば用途が違うとフェイトが口を挟めば、王は主にその責を求めた。
もっともそれが全てとも言わないが。

「だから……書は悪くないと?」
「いやそうは言わんよ、書は傲慢な者達の理想的な道具、そういう意味では恐れ忌避される理由もわかる。
……だが、だからといってその全てまで否定されるのは納得がいかんのだよ」

書にも一部の責任を認め、だがその上で、それでも王は正当性を叫んだ。

「今までの犠牲者……前の主にも、コアを狙われた魔術師にも、巻き込まれし者達にも悪くは思っている。
……しかし、今更やり方は変えられん、失われし知識を溜め込んだまま消えられん……」

彼女は過去を悔い、犠牲者に詫びて、けれど依然そのやり方を貫くことを宣言する。

「そうだ、書の性質が邪悪でも……知識を集め、そして守ることまではそうだとは言わせん!」

力強く王は宣言する、そのあり方を変えることはなく、書を完成させると言い切った。
そして、その激情のままに竜に攻めさせる。

「……勝手過ぎる!今を生きる命と、引き替えにか!?」
「今を生きる者達、お前等は命と知を一緒にするなと言うだろう……だがな、知とは命の成れの果て、我からすれば同質で同列、重要性がわからんか!?」
「くっ、この頑固者……」

ドゴオッ
ガギィン

フェイトの糾弾の言葉に王は叫び返し、それに合わせ竜が尾の刃を払う。
防御毎に弾き、吹き飛んだフェイトに王は自分に誓うように言い放った。

「……故に我等は消えぬ、行動も変えぬ……唯繋ぐのだ、知識を相応しき者の手に渡す日まで」

彼女は力強く、傲慢と感じるほどに強く言い放った。
だが、フェイトはそれを拒絶する、彼女は直ぐ様体勢を立て直し刃を構え直す。

「……でも、貴女は大切なことを忘れてる」

ギリッと刃を持つ手に力を込めると、加速し一気に相手の懐に跳び込む。

「使うのはあくまで、欲を持つ人だ……弾け、金剛」

ガギィンッ

「ぐあっ!?」
「……その前提がある限り、認めないよ」

邪魔っけな尾を払い除け、彼女は更に斬りかかる。
慌てて王は竜に高度を上げさせるが、それに反応し追いながらフェイトは問いかける。

「例え良き理由でも……残した者が相応しい形で使ってくれると何故言い切れる!?」

まず最初に書を歪めた者と同類の可能性、それが再度現れる懸念を。
更に、別の可能性についても口にする。

「そして、その知識が……人の隠した欲を刺激しないとどうして言い切れる……
……知識は人を歪ませることもある、『娘』を求めた母が狂ったように!」

少なくとも彼女の母はそうだった、その『方法』さえ無ければ娘の死を悼んだまま終われただろう。
想像するに悲しいが、それでも狂わずにはいられた筈だ。
なまじ蘇生の可能性があったからこそ罪を犯した、そういう風に知識の人を狂わせるのだとフェイトは厳しく指摘する。

「その二つの可能性、それ等が僅かでもある限り書の存在を認めることは出来ない」
「それを恐れて……未来の栄華を捨てるか!?」
「……その未来は不確定、でも示した二つは実際に起きている!」

王の言葉にフェイトはそれ以上に犠牲が出ると返し、一気に加速し飛翔する。
一瞬で飛竜を一気に追い越し、その頭上を取った。
王が追わせようとするがそれは出来ない、すれ違い様にレイジングハートで切っていたから。

ズバアッ

『……まず一撃、さあやりなさい、フェイト!』
「うん、行くよ……貴女の言う失われし過去を、今に、未来に繋ぐ……確かに聞くにはいい。
でも、だけどね……断じて、それで未来を閉ざされることが在ってはならない!」

そして魔剣が振り下ろされ、バキンバキンと黒い障壁を粉砕する。
その刃は一時は単なる金属の輝き、更に別の一時は非物理的輝きを放っていた。

「無駄だ……フィジカルアタック、マジックアタック……交互に行く!」
「くっ、魔力に物理、両極ということか!?」

慌てて王は竜を動かすも、それが防御に翳した尾の刃ごと魔剣が叩き割った。

バギンッ

「ぬうっ!?」
「……このまま、落ちろ!」

ザシュッ

更にフェイトは魔剣を振るう、そのまま振り抜いて片翼を切り落とした。
落下する飛竜を見下ろし、フェイトは魔剣を担いだ状態でゆっくりと追いかける。

「そのリスクが残っている以上……ここで斬るしか無い、書が歪んでいなければ違ったかもしれないけど」

トンと王の目の前に降り立ち、彼女は何時でも斬撃を放てるようにしながら在ったかもしれない、だが現時点では限りなく低い可能性を口にする。

「監督者、知識の委ね先を選び、正当を見守る……貴女はそう成れたのかも、でも書の歪みの影響を受けているのでしょう?」
「……故に我は監督者には成れない、だから斬ると?」
「ええ、その役をするには……理性的でなければならない、書と共に暴れるようじゃ問題外だよ」

少なくとも王では、いや書が今のままでは無理だと冷たく指摘し、それから彼女は剣を振り被る。

「書が歪んでいる以上、その理想は実らぬ徒花……新たな犠牲が出る前に摘ませて貰う!」

そのまま彼女は踏み込み魔剣を突き出す、それは飛竜の胴を深々と穿ち、信じられないといった顔で王が叫んだ。

「くっ、そういう貴様も……貴様も我等と同類だろう!高町の記憶を覗いたぞ、その命とて過去の遺産から生まれただろうに……」
「……だからこそ、私は『受け入れてくれた』彼女の世界を壊す側に回らない……同類だという貴女達にもそれをさせない!」

その存在を最初になのはが受け入れてくれた、だからそのことに行動で応えると。
フェイトは誓うように王の言葉の否定と敵対を叫んだ。

「……度し難い自己犠牲だ、小娘が悟ったように……ならばそれに殉じてしまえ!」

王は籠絡は無理だと悟り竜をけしかける、彼はその鱗に包まれた体で魔剣を捉えたまま反撃に出た。
魔剣を肉で咥え込み、相手の動きを封じて牙と片翼を叩きつける。

「……まだ、来るか!?」
「竜よ、仕留めろ!」

グワッ
ゴウウ

だが、その瞬間フェイトはニッと笑い、魔剣を手放しタンと飛び退く。

ブウンッ

「……甘い、もう『覚えた』!」
「何!?」

彼女スレスレの位置を牙と翼が過ぎる、それをフェイトは落ち着いた顔で見ていた。

「ふふっ、その反応速度、体格に稼働域……十分に見たからね!」
「貴様、あの視線、気になってはいたが……観察か、それで読み切ったと!?」
「……出来損ないでも竜だもの、念を入れるさ」

なのはを思いながら彼女は苦笑し、その後間合いを詰め直す。
魔剣に飛びつき、引き抜くのが無理ならと力を込めて押し込む。

ズブブ

更に彼女は逆側の刃、レイジングハートも突進に合わせ振り抜く。

ザシュ

二つの刃を受けて、飛竜が身悶える。

ギイイイイッ

彼が苦悶の声を上げ、王が慌てて叱咤する。
だが、フェイトは構わず魔剣に意識を集中し、プラーナを練った。

「ぬう、竜よ、しっかりせよ!?」
「……体勢を整えろって?そんな間は与えないよ!」
『……フェイト、今です、畳み掛けて!』

ダメージで拘束が緩み、解放された魔剣をフェイトが引き抜く。
素早くその先端で弧を描き、空間を歪ませた。
中ではギラギラと無数の刃が煌めいている。

「……三千世界の剣」
「ぬうう、よ、避け……」
「遅い、穿て!」

ズガガガガッ

千を超える魔剣が着弾して、巨大なる竜の体を針山に変えた。

「……さて、人が逃げれる程度の隙間は空けたが……」

が、フェイトの顔はやや暗い、空を見上げる。
そこに有る影に大きく嘆息した。

「……ちぇ、仕留め損ねたか」
「はあはあはあっ、やってくれたな」

王を背に乗せて、半身の無い竜が無事な翼と千切れた翼で何とか浮かんでいる、咄嗟に己の体を引き裂き刃を躱したのだ。
はやてを案じ手を抜いたことが裏目に出た。

「ふっ、甘いなあ、小娘」
「やれやれ、諦めの悪い……」

王の言葉にフェイトは自嘲気味に笑い、だけど後悔はしていないと前向きな表情で剣を構える。
が、一方で王もまた笑う、準備が整ったといいたげに。

「そう、我は……諦めが悪いのさ、そして……目覚めよ、竜よ!」

王が竜の背を蹴る、すると彼は身震いの後ギンっと鱗を逆立てる。
まるで剣山のようで、全てがフェイトの魔剣と並ぶ程肥大化していた。

「観察と貴様は言ったな?……こちらとそうさ!その戦い方覚えさせてもらったぞ!」
「……生意気、人の真似の癖に」

目には目とばかりに、魔剣使いに刃で対抗する、そんな飛竜の変貌にフェイトは嫌そうな顔をする。
だが、直ぐに彼女でニッと笑い返して、ある方向を指差してみせた。

「でも、切り札が有るのはこっちもさ、あれを……三千世界の剣、その後を見ろ!」

するとそこには空間の裂け目、消え残っているそれに王と竜が訝しむ。
が、直ぐにその意味がわかる。
ギロと巨大な、縦に割れた『蛇の目』が覗いたからだ。

「本当は頼りたくないけど、今はなのはも居ないし……一つ手伝ってくれないかな、魔王蛇?」
『……良かろう、『夢』程度ならば派遣してもいいかな』

そこから黒が、漆黒の大蛇が飛び出す、ゆらりと鎌首擡げて天頂に吠えた。

『キシャアアッ……敵は何処だ、相手してやるよ!』
「落ち着いて、あそこ……爬虫類同士、仲良くやりなよ」

トンとその頭に飛び乗り、フェイトが飛竜を示す、黒い蛇はニッと口の端を歪めて楽しそうに笑う。

『くくっ、いいだろう……遊び甲斐、それに食い甲斐がありそうだ』
「……それは良かった、そして……切り札、『その二』だ!」

やる気に成ってくれたレビュアータに苦笑し、その後フェイトはレイジングハートを、杖の形状に戻した彼女を天に放る。
すると、その隣に降り立った『白い影』がそれを掴みとった。

「……騎士の統制者、管制人格……戦闘センスもそれなりに有るでしょ」
「ええ、やってみましょう、『観察』出来たから……貴女の動きに合わせられるはず!」
「ふふっ、つまりはね……ずっと観察してたのは私と貴女だけじゃないんだよ、王様?」
「……ぬううっ、どいつもこいつも……我が前に立ち塞がるか」

フェイトと管制人格が並び、王と飛竜をギロリと睨んだ。
二人は魔王蛇の上で魔剣とレイジングハートを構えた。

『……さあ潔く、このまま消えろ、闇の書!』

書の結果に守護者達の叫びが響く、段々と、決着が近づいていた。




・・・という訳で敵方の竜の変貌、レビュアータ&リィン(まだ違うけど)の参戦で一旦切ります。
二~三話で闇の書編は一段落かな、まあ一部因縁は引きそうだけど。

感想返し・・・神聖騎士団様・ええと複雑なのは確か、正確に言うなら友人への負けず嫌い&留守を守ろうと必死といったところでしょうか。



[34344] 二章『遺産』シーン5
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/30 19:30
二章『遺産』シーン5



「……主を、はやてを返せ!」
「来るか、管制人格……」

銀髪の女二人、美女と美少女の違いはあれどどこか似て、自由となった管制人格と『はやての体』に顕現した『書』の残留データが激突する。
管制人格、当座はレインと呼ばれてる女が借りたレイジングハートを、王を名乗る残留データが十字杖を振り翳す。

「今行きます、少し待ってて……ラグナロク!」
「させるか、ディアボリック・エミッション!」

ズドガアァ
ドゴンッ

やや色彩の異なる暗色の魔力塊二つが空中でぶつかって、それは殆ど互角で相殺し合う。
勢い良く二つは弾けて、派手に爆炎を巻き上げた。

『ちいっ!?』

その光景に二人は舌打ちする、だがその理由は異なっていた。
レインは家族を速く助けたいという焦りから、そして相手は炎が視界を埋めたことに関してだ。
果たしてそれは的中し、ボッと何かが炎を突き破り『王』と竜達へ襲いかかった。

「……シャアアアッ、咀嚼と行こうか!」
「ちいっ、やはり……躱せ、眷属よ」

黒い鱗の大蛇、魔王『レビュアータ』が牙を剥いて、慌てて王は竜を羽ばたかせる。

バサリッ
ブウン

「……よし、このまま上に回り込め、そこで次の砲撃で……」

竜に高度を上げさせてギリギリ躱し、そこから上を取りつつ鴨打ちと王は企んだ。
が、そうしようとした瞬間、レビュアータは首を引き戻すと同時に尾を伸ばす。

ユラア

尾の先が怪しく弧を描いて、それが王たちを幻惑し数秒硬直させた。

「……おいおい正面突破だけじゃないぞ、私は……『夢使い』だ、小細工もそこそこな?」
「ぐっ、撹乱か、し、しっかりせい!?」

王はふらつきながら杖を支えに立って、また乗騎の竜にも一喝し立ち直らせる。
けど、その僅かな停滞で、レインと同じ位はやてを助けたい少女には十分だ。

ダンッ

「……行くよ、はああっ、『霞刃』!」

勢い良く大蛇の頭から跳躍し、フェイトが魔剣を『揺らしながら』振り抜いた。
ススッと数度軌道を変え、白刃が竜の背に立つイレギュラデータに襲いかかる。

ザシュッ
ガギィン

フェイントを交えた斬撃が十字杖の突き出た一角を落とし、その機能の幾らかを文字通り削いだ

「ぬうっ、やる……だが我を、いや友は切れぬか小娘!?」
「こっちは取り戻すのが目的だからね」
「ふん、甘いな、その甘さが命取りになるぞ?」
「……甘くて結構、でもそれでも……私達が勝つ!」

王が直接狙わなかったことを、その周りくどい戦いをあざ笑い、だがフェイトは少しも迷ってない様子で言い返した。
その上勝つと言い切って、彼女は魔剣を腰溜めに構える。
対する王も竜に刃の翼を掲げさせた。

「そうさ、勝って……直ぐに彼女を取り戻す」
「ふんっ、言ってるがいい……迎え撃て!」

フェイトと竜が同時に前へ、魔剣と二つの翼、三つの刃が火花を立ててぶつかる。

ガギィンッ

魔剣の大上段の一撃を翼が交差して受けて、甲高い音が成った。
だが、その瞬間龍の背に乗る王がニヤリと笑った。

「竜よ、今こそ全ての力で……痛覚遮断、生命力を出し切るつもりで行け!」

そう彼女が言った瞬間竜が体を一瞬強張らせ、その後ミチミチと膨れ上がる。
唯でさえ魔剣に半身を落とされて傷だらけで、だというのに更に力を引き絞る。
彼は胴から下、断面から血と腹わたを落としながら、ゴウっと駆けて捨て身の突進を仕掛けた。

「なっ、使い潰す気!?」
「おうよ、また作ればいいからな……潰せ!」

まるで弾丸の如き後先考えない特攻で、全身刃を隆起させながら巨大な竜がフェイトへ襲いかかった。

「くうっ、どこまでやれるか?金剛……」

至近距離で躱せそうになくて、せめて最小限に防ごうとフェイトは魔剣を盾にしようとした。
しかし、そこへ予想外の、フェイトにとって『いい意味』で予想外が起きた。
サアと視界の端に銀が走った。

「フェイトさん、私も居ますよ!」
「管制人格さん!?」
「私だって彼女の記憶がある、食われかけた時に記憶を覗いた……はああっ、竜の牙を!」
『……一度だけです』
「あ、ごめん……」

握られていたレイジングハートに魔力が纏わりついて、強度を底上げしてから魔剣に並んで突き出された。

ガギィンッ

魔剣とデバイス、交差した二つが竜の突進を押し止めた。

「何いっ!?」
「まあ、予想外だったけど良いか……レインさん、続いて!」
「はいっ、接近戦を仕掛けます!」

ちょっと苦笑してフェイトが跳んで、それに続いて管制人格もレイジングハートを手に跳躍する。
一気に竜の背を飛び越えて、二人は王を左右から封じようとする。

「くっ、眷属よ、打ち落として……」
「……おおっと、それは駄目さ」

慌てて王が竜に迎撃させようとしたが、その瞬間黒い何かが揺れた。

ユラア

「今度は効くだろ、さっきの無茶な突進……死にかけならな」

ユラユラとレビュアータが尾を揺らして竜を止めて、その後行き成り尾を伸ばし彼を絡めとる。
死にかけの体のそいつを締めあげながら、レビュアータが上の二人に叫んだ。

「くくっ、相手するって言ったろ……ま、ノルマだし」
「くっ、また貴様か、地下の主!?」
「……そこの死にかけは相手しておいてやる、二人で大将をやりな!」
『おうっ!』

レビュアータに竜を任せ、フェイトとレインは王に襲いかかる。
まず左右から、その挟撃に慌てて王は上に飛んだ。

ダンッ

「ええい、二対一、それに片方は純正剣士だと……だが、我とて負けられぬ!」

空中で彼女は吠えるとググと体捻らせて、特大サイズの魔力球を手に集める。
それを振り被り、勢い良く上から叩き込む。
ブワと広がった黒い光が頭上を一瞬で埋め尽くした。

「行くぞ、魔力最大……ディアボリック・エミッション!」
「ちいっ、あれは不味い……回避するよ!」

慌ててフェイトは隣のレインを引っ掴み、彼女を構えたまま横に飛ぶ。
その直ぐ次の瞬間黒色の魔力が弾け、ズドンッと爆ぜる。

「ふん、避けるか……だが、ならばこういうのはどうだ!」

ブワッ

一瞬王は顔を顰め、だが直ぐに気を取り直して掛けた十字を振り翳した。
今度は小規模の魔力をいくつも並べる、光の槍を規則正しく整列させた。

「手数重視、それにあれは……石化か!?」
「そういうことだ、ミストルティン・マルチ……シューッ」

ギギと光槍の群れが引き絞られ、打ち出されようとした。
が、その瞬間ガクンと王の体が凍りついたように固まる。

「ュートッ……ぐっ、何が!?」

彼女の体が震え、時折銀の髪が波打って、僅かに黒が混じる。
それははやて本来の色、王がぎょっとした表情で体を見た。

「これは……」
「……さっぉ自分を狙わなかったのを甘いといったね、でもね……はやてだって戦ってたんだよ、優しいあの子が……」
「他人に攻撃魔法を使えるとでも!?」
「ちいっ、マスターの抵抗だと……」

殆ど無意識の、他人を踏みつけることへの忌避感が王の体を重く縛り付ける。
まるで四肢が鉛のようになったようで、その上収束した魔力も一気に四散する。
バラバラと光槍が消えていって、王は焦った表情で取り込んだその体を制御しようとした。

「ま、まだだぞ、ミストルティン……行けえっ!」

大半が散って、だが意地で維持した半分程を再び収束させて落とす。
ギュンと勢い良く落ちるそれはすべてが正確にフェイト達を狙う。

「……ふふっ、はやても頑張ってくれてる、なら……後は私で十分だ!」

だが、ニッとフェイトが(どこか恩人そっくりに)笑って、魔剣を構えた。
そして、一直線に自分に光槍へと振り被る。
すると突如その体がブレて、加速した。

「魔剣と、それを操る魔剣使いの技、それには……こういう使い方もある、サトリ!」

彼女が魔剣を振り抜いて、流麗なその剣舞でキンと光槍の一部が払われる。
更にその一薙ぎの反動で切り返し、それが続く光槍を撃ち落とし、そのまま三度目の切り返しへ。

ガギィンッ
ガギィンッ
ガギィンッ

極限状態の集中力で『全て』を読み切って、当然と言える程笑う彼女の前で光槍の残骸がバラと散った。

「何だと!?」
「魔剣使いは攻防一体……甘く見たのはそっちだよ!」

ニッと驚く王に笑って、その後フェイトはスッと横に跳んで『一人と一機』に叫ぶ。

「レインさん、レイジングハート!」
『承知!』

ダッとレインがフェイトの横を駆け抜けて、その手に握られたレイジングハートも宝玉をキラと輝かせる。
二人共に戦意は十分で、それをこの瞬間遺憾なく発揮する。

『ミス・レイン……何時でも!』
「はいっ……返します、ミストルティン!」

ヒュバッ
パキン

「ぬうっ、シュベルトが!?」

走りながら打ち出された光槍が王の十字杖に突き刺さり、何とか彼女はそれを手放すも灰の石塊に変わる。
更にそれで終わりではなかった、レインが王の眼前に滑りこんでレイジングハートをグワと振り被る。
その先端に収束した影色の魔力が刃を形つくった。

「……主は切りません、ですが……」

そして、ブンと振り抜き、それははやての体を素通りする。
だが、次の瞬間それに重なっていた王の体が二つに『裂けた』。

ブツリ

「……う、あっ?」
「主と一体化していた……但し、抵抗されるまでは、主が否定すれば『ズレる』のは必然!」

二人は分たれ、気を失ったはやての体が傾いてレインの手へ、そして『半ば透き通った』王が一人そこに佇んでいた。
レインははやてを大事に抱え、その後王をギロと睨みつける。
ジャキと魔力の刃を形成したレイジングハートを突きつける。

「そして、一人なら……容赦する必要はない!」
「くっ……」
「私達の勝ちだ、残骸よ」

気圧されて王が一歩後退る、だがそこで追い詰められていた筈の彼女が笑った。
チラと何処かを見て、諦めた『託すような』笑みを浮かべる。

「そうだな、私の負けだ……『私』はな」
「何?」

ズバアッ

どこからか打ち込まれた衝撃波が王を切り裂いた。

「なっ、何で!?」
「がふっ、これでいい……星光よ」

王はニヤリと笑って、その後そこへバインドの鎖が伸びる。
それは消えいく王を貫いて、光の塊、『リンカーコア』を引き釣りだした。
ジャララと鎖が引かれて上へ、そこに浮かぶボロボロの少女の手へ。
その少女はフェイト達の恩人に、なのはに似ていた。

『なのは!?』
「そのコピーです、最大の敵ですからね……以後よろしく」
「シグナムさんと戦ってたはずじゃ?」
「……王と主を離したのは不味かったですね、それで空間が不安定化し……『将』と『機械人形』は一足先に通常空間へ戻されましたのですよ」

そういうと彼女は鎖を再び放つ、それは漆黒の大蛇に食いつかれその質量を大分減らした竜をも貫いた。
そこから先ほどと同じように引き戻されて、竜のコアが王に続いて彼女の手に収まった。

「さあ、これで……我等が失ったものは何もない、まだ戦えます!」

なのはと同じ顔の女がニイと笑い、その後王の方のコアを見て首を傾げた。

「……あら『UD』が居ませんね、成程主に預けたと、確かに向うも悪くはしないでしょうが。
まあいいでしょう、お姉さんぶる王が見せた珍しい甘さ……見逃してあげますよ」

ぶつくさ言って、その後彼女はフェイト達に一礼した。

「……という訳で、次からは私が主導し悪巧みしていきます、その時お会いしましょう」
「ちっ、そう聞いてここを行かせるとでも!?」
「ふむ、ですが……言ったでしょう、空間が不安定化したと」

バギンバギンッ

『うあっ!?』

まるでそう計ったように(実際そうかもしれないが)世界を作っていた壁が崩れ出し、追おうとしたフェイト達の足を鈍らせた。
その間に彼女は悠々と転送準備を整え、最後に己が敵達に言い放った。

「私は王程甘くもないし、回りくどくもない……全力で叩き潰してあげますからね」
「ちっ、何度でも来い、もう一人と同じように勝ってやる!」
「闇の書はもう終わったんです、復活などさせません!」
「……楽しみにしてますよ、ではまた今度」

星光の破壊者が言うだけ言って、それにフェイト達も言い返して、この場の戦いはフェイト達の勝利で決着した。
闇の書の復活は今回は成らず、だが禍根は残って、それで終わった。



「あーあ、収穫なし……でも、あそこで姉貴に挑むのも空気読めてないしねえ」

だらけた様子でフェイトと同じ顔、色彩の異なる髪の少女が海鳴の空を飛ぶ。
愚痴りながら空に浮かぶ彼女は三人目のアリシアであり、フェイトへの視覚であるレヴィだ。

「……プレシアが怒りますよ」
「ああそうだね、どうしよっか……言い訳ないかなあ」

レヴィと護衛のリニスはそんな風に困った顔をして、するとそれを耳聡く聞きつけた者が居た。
青い目が目の前に行き成り現れて、二つのコアを抱えた破壊者がにこりと笑いかけた。

「どうも」
『うわっ!?』
「ならば、私を理由にするというのはどうです、お嬢さん?……この形をした女の敵でしょう?」
「面白いことを言うね、お客さん……敵の敵は味方、とは言わないが態々敵にするのも面倒か。
……来なよ、うちの拠点に案内してやる、そこで条件でも詰めようか」
「レヴィ!?」
「……情報、欲しいだろ、あっちは実際戦ったようだし」
「……では行きましょう、まあ上手くやりましょうね」

星光の破壊者側は単純に戦力不足で、レヴィ達は実際に戦った相手の情報目当てで。
微妙に利益重視で、だけど二つの戦力がうわっぺらだけかも知れない同盟を結ぶ。

「僕はレヴィ……母さんの邪魔をしない限り、あんたは斬らないでいてあげる」
「あらあり難い、私は星光の……いやシュテルです、よろしくレヴィさん」

こうして、海鳴の守護者二人とそれぞれ同じ顔の敵が組んだのだった。



・・・良し、時間かかってしまいましたが(台詞再現にゲーム版やり直してて長引いた・・・)何とか書の復活編、この後放浪編へ。
次は組んだ二者の悪巧みや、アニメのイベント(少しアレンジしつつ)等・・・それに、なのはもそろそろ戻すか。
因みに新キャラは敵味方の戦力バランスを取るのが主ですが、それ以外にも多少ネタを仕込・・・ちょっとオリ要素かな。

・・・感想返し
神聖騎士団様
ええ、言い過ぎたなくらいは思うかも、でもなのはの敵なので・・・ちょっと依存してるフェイトは多分容赦しないかな。

フィー☆様
・・・だってあの人(?)達は言動が一々主大好きぷりが伝わってね・・・後作者がデバイス萌えなのもあるかも。



[34344] 二章『遺産』シーン6
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f9be622
Date: 2016/03/21 19:46
二章『遺産』シーン6



ぎいと『町内を巡るバス』の扉が開いた。
二人の少女が久々の海鳴を並んで歩く、『茶と赤の間』くらいの髪色の娘がダルそうに、そして桃色の髪の女性がその手を引く。

トボトボトボ
グイグイ

「あー、流石に……連戦だと億劫で仕方ないなあ」
「ほら、シャンとする……もう少しだから、高町殿」

不完全な体でジュエルシード暴走体、それに書の防衛システムに立ち向かったなのはが面倒そうに伸びをする。
それに苦笑しつつ、迎えに出た桃の髪の女(着替えにバス代とか諸々持っていった)シグナムが小首を捻る。
彼女は目の前の恩人、その赤い色彩の髪を懐かしむように見て問うた。

「……ヴィータ、分離できるんだよな?」
「ああ、それは問題ない……丸呑みして力を間借りしているだけ、出し入れは容易いよ」
「そうか、良かった……にしても大分頑張ったようだ、後で褒めてやらねばな」

フッと安堵し、それから仲間の奮闘に彼女は微笑んだ。

「さて、久々の海鳴……速く無事な姿を見せてやらないと」
「……良かったね、なのは」

帰郷に喜んだなのはに、チョロチョロと足元辺りを動き回る毛玉、変身したユーノが微笑みかけた(魔力対策である)
彼の言葉にああと頷き、それからなのははぐっと拳を握る。

「それと……私の街で勝手する馬鹿共も許せないしな」
「全く気が早いぞ、高町殿」
「そうだよ、今はまず帰ってのことを……」

彼女がやる気になって、それに二人が呆れる。
そんな三人が海鳴の街をゆっくり歩き、がそこで『真紅の光』が唐突に頭上で輝いた。
煌々と禍々しく輝く『赤い月』が。

「……おいおい、まさか」
『ほら、なのは(高町殿)が言うから』

なのはが嫌そうに空を見上げ、それにユーノとシグナムがジト目を送る。
三人は警戒しながら周囲を見渡せば、辺りから色彩がすっぽりと抜けてモノクロに近い、また物音一つしない町並みが広がっている。
明らかに月匣(エミュレーターの扱う異界)である。

「ふう、早速か……」
「ええ、そうよ、お嬢さん」

小さくなのはが嘆息した瞬間、フッと空に影が刺す。
バサバサと翼を羽撃かせグリフォンの群れが、そして先頭の背に『新緑のチャイナドレスの女』が一人。

「はあい、そろそろ収穫時と思ってね……コレクションに入れてあげるわ、ヤンチャなお嬢さん?」
「……はああ、言っていろ、ネクロマニアが」

女が笑ってそれから構える、片腕には本性である翠の鱗の龍爪を、もう片方は『大魔導師』のデバイスを。
なのははもう一度嘆息し、それから頭上の魔王『ブンブン・ヌー』を睨んだ。

「私は忙しい、何より戻らねば……叩き潰して土産話の種にしてくれる」
「はっ、言ってなさい……俗世での最後の言葉がそれと心得よ!」

なのはが飛び上がり、ブンブン・ヌーが手勢を連れて降下する。
彼女達の再戦(フォートレスを入れれば三度目)が始まった。

「やれやれ、高町殿は敵が多過ぎる……我等も行くぞ、小動物!」
「ユーノです、ベルカ騎士さん……援護は任せて!」

慌ててユーノ達も追って、海鳴郊外の月匣の戦いはその熱を増していく。

「ここで落ちて貰うぞ、邪龍」
「いいえ、それは貴女よ、子竜」
『……天竜功、はあっ!』

カッと、攻勢に活性化したプラーナが二重になって輝いた。



ポカポカとした陽光の中、『猫屋敷』で四人の少女と一匹の小動物が寛ぐ。

「……キュウン」
「あらどうしたの、久遠?」

一匹の子狐、変身状態の久遠が、猫から逃げるべくアリサの肩に飛び乗り、そこで『妙な匂い』に小首を傾げた。
が、すぐに『臭いが完全に何処かへ行って』気のせいだと思った。

(魔物の匂い……あれ、もう消えた、勘違いだったか)

フルフル

月匣の中だったから気づけなかった。
何でもないとアリサに言って、それから彼女のくれたクッキーの欠片を齧った。

「美味しい?……ふふ、何か久々ね」
「誘ってくれて有難う、すずか」
「良いの、それに皆疲れてるようだし……しっかり楽しんでってね」
『うん!』

唯一なのは達の事情を知らない友人が、だが理由があるのだろうとせめてと企画したらしい。
その心遣いは有り難く、フェイトとアリサは思わずペコと頭を下げた。

「それに……」

クピクピ
サクサクッ

「……美味しいわあ、私も誘ってくれて有りがとな」
「ええ、はやてちゃんも楽しんでね」

更に気を利かせ、なのはを介しての友人(本人も図書館で偶に席を共にするが)まで誘っていた。
誘われたショートの髪の少女『八神はやて』が紅茶とクッキーに舌鼓を打った。

「ふふっ、いつか話してくれればいいから……さ、御馳走まだまだ有るからね」
「アンタには頭上がらないわ、後なのはにも言っとく……」

最近のアリサの様子を疑問に思い、だけど訳が有るのだろうと聞かず、ただ休ませようと言う思いが一行の心を和ませていた。

ピシャンッ

が、そんな暖かな席に『雷鳴』が響いた。

「……っ!?」
「あら、雷?……でも晴れてるわね」

唯一人事情を知らない彼女が首傾げ、が残り三人と一匹はあちゃあという顔をする。
雷鳴に遅れ、僅かに『フェイトによく似た魔力』まで余り離れてない場所から感じられる。

「ご、ご馳走様……す、少し庭を散歩してくる、腹ごなしというか……」
「あ、なら久遠も一緒に……歩き回りたいみたいだから」

フェイトが出来る限りの笑みで立ち上がり、それにアリサが友人の誤魔化しに残りつつ子狐を付けさせる。
ソット、はやてもさり気なく携帯を弄った。

ボソッ

「……レインと外で合流して」
「有り難……い、行ってくるね」

携帯、メールで呼び出した彼女と外で待ち合わせることにし、フェイトと久遠が足早に駆け出す。

「あっそうだ、すずか」
「うん、なあに?」

短時間だが、和やかな席がその心に暖かなものが齎してくれた。
だから走り際に彼女はペコリと頭を下げた。

「最高の気分だよ、有り難っ!」
「ええと、どういたしまして……」

戦いの前なのにどこか笑いたくなる、万人の援軍が共にいるかのような気持ちでフェイトは走っていった。

(……続きのためにも負けられないな、頑張らなくちゃね!)

『不満』敢て上げるなら『一人』居ないことくらいだった。
そんなことを思いながら、彼女は友人の家の庭へ。
そこでレインと合流し、そして驚くべき物を見る。

「……ああ、来たね」
「ええ、やるしか無いか」
「ふんっ……」

そこには三つの影、まずフェイトに似た容姿の水色の髪、それに縦に割れた獣の目の使い魔、最後に『恩人に似た容姿』の少女(只髪を後ろに雑に括っていた)が。
三人はフェイト達をどこか複雑そうな様子で待ち構えている。
その中で、フェイトに似た少女が子猫とジュエルシードを見せつける。

「丁度良かった、ほら……ジュエルシードとそれを暴走させた子、こっちだけ受け取りな」
「おっと……ああ、取られたかあ」

ポイッと子猫が放られる、ジュエルシードと融合し、それからあちらに分離させられた子猫をフェイトは受け取ってから慌てて離れへ寝かせる。
それから、『相手の容姿』に少し戸惑いつつ、彼女に武器を突きつけた。

ジャキンッ

魔王から譲られた魔剣が突きつけられる、その時フルと一瞬先端が揺れた。

「……貴女が『もう一人』ね?」
「そっ、僕はレヴィ……レヴィ・テスタロッサ、まあ宜しくね、お姉さん?」

答えて少女が、レヴィが『二つの宝玉』を嵌めた手甲を構え、バチィと両腕に紫電が瞬く。

「……片方、見覚えが有るね」
「ああ、右のバルディッシュはお姉さんが持つ予定だったっけ……で、逆が新しく作った『僕の』、まあやろうか?」

ジャキンッと向うがそう言った瞬間手首から刃が伸長し展開される。
刃を交差させ構えたレヴィ、隣で複雑そうな顔で爪を伸ばすリニスを横目に、『なのはに似た少女』も『十字杖』を構え火を灯した。

「将にルシフェリオンは折られたが……代りは有る、行きますよ!」

シュボッ

「……偽物、貴女もやる気?」
「勿論です、魔剣使い……龍炎よ、焼き尽くせ!」
「ふん、そっちこそ……私の電撃で焼いてやる!」

少女、シュテルに対抗するように、フェイトもレイジングハートを片手に持って雷光を纏わせた。
そんな準備万端な彼女の横で、人型に成った久遠と黒い騎士甲冑を展開したレインもまた構えた。
三人と三人、彼女達はゆっくりと相手の隙を伺い、それから同時に走り出した。

「母さんの手駒に書の残滓、纏めて……ここで倒すよ!」
「コンッ、りょーかいっ!」
「了解です、今日こそ書を止める!」
「……ふんっ、そう上手くいくかな、お姉さん?」
「く、戦いたくないが……援護します、レヴィ!」
「さて、始めますか(総取りと行きたいがさて……)」

ダン
ガギィンッ

守る為に戦う者とその目的の為に戦う者、二つの勢力はこうしてぶつかり合った。
否定するように牙を剥き合い、ゆっくりと『因縁』が重なっていくのだった。





・・・戦闘開始早々になんですがここで次回へ。
いや、色々伏線とかもあるので長引いちゃって・・・とりあえず海鳴と郊外、二つの戦いを平行して書いていきます。

コメント返信
神聖騎士団様・ええ、問題児同士で引き合ったようです、まあ敵が同じですから・・・まあ『悪いことばかりじゃないけど』その辺は次回以降で。



[34344] 二章『遺産』シーン7
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f9be622
Date: 2016/04/15 19:00
『海』を巨大な船が行く。
その先に待つのは『青い世界』。
それを見た『黒服の少年』が『柔和そうな士官服の女性』にホッとした顔で話しかけた。

「……ジュエルシードの暴走被害は抑えられてるようですね、艦長」
「ええ、そうね、クロノ執務官……」

船の名は『アースラ』、その艦橋でリンディ・ハラオウンとその息子クロノがある『石』について話し合っていた。
二人の後ろで唯一私服の女性、『狼の特徴を持つ女性』もそれに加わる。
『大魔導師の情報』を手土産に管理局に保護を求めた女性だ。

「……フェイト、あそこに居るんだよね」
「恐らくね、アルフさん……生きてるのは確かで、あっちが平和ならそれは戦ってる可能性が高いということ」
「一応君の生存維持の準備したけど無駄になったね、良いことだけど」

主と命を共有する彼女が無事である(局がその為の専用設備を拵えたが使わず仕舞いだった)から生きているのは確定のフェイトは向こうにいるのは確実といっていい。
彼等の今回の任務はジュエルシードの回収だけでなく、フェイトの救助も含まれている。
更に言えば彼女と接触し、何らかの追加情報を手に『大魔導師』に備えるのも視野に入っていた。

「……転移準備、通称『地球』の成層圏に『飛びます』!」
『了解!』

道は恐らく長く厳しく、だが(異世界人という意味で)同胞である『大魔導師』の暴走を止めるべく彼等は動き出す。
まずは道の一歩目を踏み出そうとする。

「アースラ、発し……」

が、そこで『紫電』が走った、『大魔導師』は見逃さなかったのだ。

『艦長、魔力反応有り……迎撃間に合いません、衝撃に備えて!』
「まさか……プレシアか、このタイミングで!?」

警告音が鳴ってオペレーターが叫び、次の瞬間轟音が響いた。
アースラの左舷を超圧縮した雷光が貫く。

バチバチィ
ドゴンッ

「くうっ、消化を急いで!」
「何人か来い、システムを復旧する……」

リンディが対処を命じ、またクロノが部下と共に被害部のリカバリーに向かおうとする。
しかし、リンディがそれに待ったを掛けると別区域を指差す。

「いえ、ここは……貴方は『個人用ポート』へ、アルフさんと何人かを見繕って地球へ!」
「っ、確かにこれは足止めか……了解しました、艦長!」

『これ』が『地球への渡航妨害』と読んだリンディの指示に従い、クロノは狼の使い魔と部下数人を連れて転移装置へ向かう。
ビッと敬礼し、彼は艦の後処理に残る母に全力を尽くすと誓った。

「プレシア・テスタロッサ、何とかあの世界に留めてみます……気をつけて、母さん」
「……そっちこそね、クロノ……互いに全力を尽くしましょう」

二人は一瞬視線を交わし、それからそれぞれの役目を果たすべく行動し始めた。



バチバチと鳴る杖を手に、妙齢の黒いドレスの女が難しそうに唸る。

「……ふうむ、動力はまだ生きてる……個人単位なら転移出来るか」

妨害は成功したが、完全に動きを封じられた訳ではない。
さりとて『これ以上の妨害』は彼女が補足される可能性が高くなる。
ここはこれが限度だろうと、残念そうな表情で杖を仕舞い、その拍子『ガシャ』と『金属の義手』が鳴った。

「……完全武装した艦が来るよりマシ、と思うしか無いか……出来るなら、先回りしたいところだけど?」

この場でやれることはやれた、そう考えたドレスの女は次の行動に。
奇しくも管理局局員と同じように、青い星を見上げた。

「さて行くか、ここからは時間との勝負になる……今度こそ、『あの子』を救うのよ!」

罪人にして大魔導師、プレシアが決意と共に叫ぶ。



二章『遺産』シーン7



郊外の月匣、なのは達と魔王『ブンブン=ヌー』、そして自動人形ベアトリスが睨み合った。

「うーん、向うはどう出るかな?」
「攻めるか迎え撃つか、さて……」

一同は相手の様子を伺い、その中で先ず動いたのはある勢力。
本来なら『余計』である筈のベアトリスだった。

PiPiPi

「面倒だ……」

彼女は『機械』らしからぬ事を言い出した。

「……ああ面倒、細々とした計算等洒落臭い……」
『えっ?』

ジャキンジャキンジャキンッ

「みんな纏めて……ふっ飛ばしてやる!」

彼女はその全身から銃火器を展開し、碌に狙いもせずにぶっ放した。

ドガガガッ

「中身はどこかの蝿似か……防御して、ユーノにシグナム!」
「眷属達よ、防いで……一隊、あちらへ向かって!」

光弾がスコールのように勢い良く降り注ぎ、なのは達もブンブン=ヌー達も当然それへの対処をする。
回避し、あるいは防ぎ、それからブンブン=ヌーが麾下のグリフォンの群れを向かわせる。

PiPiPi

「……甘い、な」

数匹の鷹頭の獅子が跳びかかり、が『それこそ』ベアトリスの目的だった。
腕部に内蔵した『端子』をスパークさせると、その電極を射出してグリフォン達の頭部に突き立てる。

バチィッ

『がああっ!?』
「……アイハブ、コントロール!」

ギョロリと彼等は白目を剥いて、それからグルリと空中で反転する。
怒りの形相、明らかに正気を失ったグリフォンが『ベアトリス以外』の勢力へと羽ばたいていった。

「貴様、我が眷属を……」
「ふっ、貰うぞ……喰らい合え!」
「……乱戦狙い、傍迷惑だな!?」

暴走し向かってくるグリフォン、ブンブン=ヌーは慌てて同じ眷属に迎え撃たせる。
なのはもまた仲間達に警戒を促した。

「ユーノ、後方で援護を……シグナム、単独で前線へ、それと『返す』ぞ!」
「り、了解!」
「……おお、私の得物か」

なのはは人型に戻ったユーノを下がらせ、またシグナムには好きにさせる。
その時に彼女には『宝石の嵌め込まれた長剣』を投げ渡す。
シグナムが久々の愛器を手に、強気な笑みを浮かべた。

「レヴァンテイン、久しいな……やるぞ!」
『YESSIR!』

彼女は本当の武器を手に笑って、魔獣の群れへと飛翔する。

「ふふっ、元気な御仁だ……さて、私もやろうか!」

そして、なのはもまたデバイスを、『その身の基盤とした少女の槌』を引き抜く。
三つの形態を持つ大槌を、通常形態で構える。
不思議となのはの手に、体の構成を賄うヴィータのプラーナの影響か、(あるいは当然のごとく)良く馴染んだ。

「仮の主では不満だろうが……行こうか、アイゼン」
『……Yah』

少しだけ不満げに、展開し終えた彼を手になのはは苦笑しながら振り被る。
ブンと彼を思い切り投擲し、更に自身は魔王の元へ。
バサリと『借り物』の赤い翼を一打ちし、ベアトリスに集中するブンブン=ヌーへと飛んだ。

「私を無視するとは良い度胸……構って欲しいな、魔王!」
「……っ、ややこしい所で!?」

ガギィンッ

なのはが拳打を放ち、反射的に向うは肘で弾く。
が、それで僅かに後退した所で、向うは『背後』から衝撃を受けた。

ドンッ

「ぐっ、何が……」
「ピガーピガー!?」
「人形、それに……デバイス!?」

それは高速回転するアイゼンに弾き飛ばされたベアトリス、それがぶつけられて魔王が体勢を崩す。
なのははデバイス、反転し戻ってきたアイゼンをキャッチし、ビッと揉みくちゃの一柱と一機に突きつけた。

「乱戦なんて面倒でね、大将戦……さあ削り合おう!」
「ちっ、まあいい……タイマンは望む所よ!」
「ピガガッ、こ、これは予想外!?」

ドガア
ガギィンッ

この言葉に、ブンブン=ヌーは好戦的な笑みを浮かべて拳を握り、ベアトリスは困惑した様子でそれでも近接兵装を振るう。
結界内の人知れぬ戦いは三勢力の『中核』の激突から始まった。



一方で海鳴市街、外と違い幾らかシンプルな戦いだった。

「……まずは一当て、動きを見させてもらうよ、妹!」

フェイトが三人、特にもうひとりの自分といえるレヴィを睨んで杖、レイジングハートを向ける。

『フェイト、砲撃の場合帯電性が間に合いません、魔力変換は程々に……』
「わかってる、そろそろ対策考えないとね……バスター、GO!」

ズドンッ

カッと金の閃光が走る、それは真っ直ぐに伸びたと思うと行き成り水平方向へ。
スウと一文字に線を引くように、レヴィ達へ放たれる。

「……散って、リニス、シュテル!」
『はいっ!』

ヒュッ

三人は素早く同時に四方に散る。
レヴィは横に回り込むように、リニスは山猫の本性を露わにし身を低くし駆けて、シュテルは同胞から引き継いだ『黒い翼』で上空へ。
ギリギリまで引きつけて三人は躱し、直後閃光が地を払い轟音と共に土煙を巻き上げた。

ドガンッ

余波だけが虚しく広がり、フェイトとレイジングハートは残念そうに向うを見る。

「……と、流石に真正面は無理か」
『ええ、フェイト……来ます!』

そう警告するようにレイジングハートが言った瞬間、三方向から向うの反撃が来た。
まずは回り込むような弧月の機動で、レヴィが『二刀』で斬りかかる。

ガギィンッ

咄嗟に、フェイトは魔剣を割り込ませる。

「……っと、護法剣と」

一瞬レヴィは残念そうにし、がその左右を抜くように二つの影が飛び出す。

「ちぇ、でも……行って、二人共!」
「おっと、甘いよ……久遠、リインさん!」

ガギィンッ

しかし、こちらも同様に二つの影、久遠とレインがフェイトのフォローに。
半獣形態の久遠がリニスの爪を牙で食い止め、黒い外套姿のレインがシュテルの錫杖の打撃を弾く。

「フウウッ」
「……狐か、体力のある狼よりはマシですが」
「行かせませんよ、書の残滓め」
「ふん、管制人格か、余計な手間を……」

獣同士と因縁の二人が、ギロリとフェイト達の左右で睨み合う。

「……ガウッ!」
「レヴィを守る、それがプレシアの命……」

ヒュバ
ザシュッ

久遠が牙と鉤爪を振るえば、リニスもまた牙と鉤爪でやり返す。
それは人では出来ない戦い方、妖狐と山猫の使い魔の間で『赤』が絶え間なく跳ねて、だが互いにそれに酔うように更に激しさを増す。
獣達の戦いはどこか痛々しさ恐ろしさを感じさせた。

「……滅べ、騎士モドキ!」
「ソチラがな、バグに汚染された管制人格め!」

ドゴオ
ズドンッ

反対側ではレインとシュテルが激しく削り合う。
互いに魔力を込めた拳、魔力を纏わせた杖をぶつけ合い、装甲を砕きながら只管打撃を繰り返す。
嘗ての書の中核と今の管理者、書の在り方を悔う女と、書に殉じる少女は互いを認めない。
その全てを否定するように、二人は激しく一撃一撃を打ち込み続けた。

「やってるね……私達も始めようか、レヴィ」
「そうだね、フェイトお姉さん?」

そして、フェイトとレヴィもまた睨み合い、そこでふとフェイトは相手の両腕の刃を気にした。

「……その刃は?」
「『バルディッシュ』と『バルフィニカス』……前者は貴女が使う筈だった物で、後者は僕用の新しい奴だよ」
「そう、因果だね……いや今更かな」

もし何も無ければ、プレシアの元に居れば振っただろう武器に、フェイトは少し複雑そうにし。
だけどそれから、どこか開き直ったように『今の相棒』達を構え直す。

「今は魔剣と……貴女が居る、行こうか、レイジングハート!」
『了解です、フェイト!』
「……じゃあ、武器に関しても比べようか!」

ガギィンッ

一度ギロと睨んで、それから間合いを取り直し得物を叩きつけ合う。
フェイトは右の魔剣を力任せに振るい、左のレイジングハートを魔力纏わせロッド(短杖)として小刻みに打ち付ける。
レヴィは斧に似た刃のバルディッシュを手斧のように力で、左のバルフィニカスは片手剣の形態で速度を重視し薙ぐ。

『はあああっ!』

ガギィンッ
ガギィンッ

二人の目の前で四つの武器が、柔と剛、力と速さ、それぞれ使い分けながらぶつかり合った。
腕力と魔力と技量、そして意地を張り合うかの如き戦いが始まった。



そして、地下の『月匣』の底で『二人の少女』が楽しげに笑う。
『手鏡型』の魔道具は二箇所の戦いを映していた。

「……やってるわね」
「そうだね、ベル」

『ポンチョ』に『学生服』の少女が戦いの行方を興味津々に、それに『パジャマ姿』の少女が相槌を打つ。
嘗てこの世界を作った二柱の元女神、ベール=ゼファーとレビュアータが殆ど酒の肴気分に気楽に見てた。

「……ベル、どっちが勝つと思う?」
「ふむ、それは……」

レビュアータに問われ、そこでふとベール=ゼファーが口籠る。

「……『まだ早い』と思うわ」

彼女は少し考えてから、意味深に笑った。

「まだ『人』が揃っていない……この一連の一件、登場人物が出揃ってからが『本番』だろうからね」
「そっか、じゃあ……それを大人しく待とうかねえ」

もしかしたら、この二人だけが『先』を見通しているのかもしれない。





・・・戦闘開始てところで(ちょっと別場面書きたいし)一旦切ります、視点変更が多いとややこしくて仕方ない・・・
一部顔見世なのに進まないというか中途半端でごめんなさい・・・次回は幾らか進む予定。

以下コメント返信
神聖騎士団様・とりあえず二刀流は演出的にもデータ的にもメリハリ有って好きです。が実はまだ先が・・・最終形態はかなりロマン型で受け入れられるか心配です・・・



[34344] 二章『遺産』シーン8
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/06/19 17:45
二章『遺産』シーン8



ガギィンッ
ガギィンッ

結界内で気迫の叫びと剣戟の音が響いた。

『はあああっ!』

ガギィンッ

鏡写しのような二人、髪の色だけが違う剣士達が武器を振るう。
金髪の少女、フェイトは魔剣と魔力を纏わせたレイジングハートで、水色の髪の少女、レヴィは手斧と片手剣に変形させたデバイスで激しく斬り合った。

ガギィンッ
ガギィンッ

『ちいっ、隙が中々……』

数度刃が打ち合って火花が散る、二人はこれでは長引くかと同時に下がった。
間合いを取り直し、まず先に動いたのはレヴィだった。

「リニス、シュテル、切り込むから……援護!」
『了解!』

二刀を腰溜めにして加速の体勢へ、同時に別の戦場で戦う仲間も構える。
が、フェイトは小さく鼻を鳴らしただけだった。

「ふんっ、甘いよ……甘く見たね、私の仲間を!」
「……何?」

フェイトは遠距離から仕掛けようとする山猫の使い魔とベルカの生き残りを無視した。
何故なら、それを阻む物が居るから。

ザッ

『させない!』
「むう……」
「くっ!?」

無口な妖狐が激しい殺気を叩きつけて、未だ名無しの管制人格が四重障壁を展開する。
殺気がリニスを縛り、また障壁が狙撃に集中していたシュテルを弾き飛ばした。

『うあっ!?』
「……ありがと二人共、じゃあ今度はこっちだよ!」
「……うっ、不味っ!?」

仲間が妨害を阻止し、続いてフェイトが動く。
援護を見越していたレヴィは一瞬反応が遅れ、そこへフェイトが加速し一気に踏み込んだ。
その魔剣の切っ先が妖しく弧を描く。

「……霞刃、はああっ!」
「ぐっ!?」

ガギィンッ

フェイントからの一閃に、レヴィがガードに掲げた二刀毎つんのめるように後ずさる。
バランスを崩した彼女が慌てて立て直そうとし、がその瞬間フェイトは魔剣と逆の手を前に突き出す。
ギラギラとレイジングハートが黄金の魔力光で輝いた。

『チャージ完了……何時でもどうぞ!』
「……行けっ、レイジングハート!」

雷光を纏めたような砲撃がレヴィに一直線に伸び、直後大きく爆ぜた。

『……む?』

がレイジングハートが戸惑う、僅かに炎の中に『黒』、『ジャケットの破片』が混じって見えた。
だがそれだけ、直後バリアジャケットの一部喪失と引き換えに、砲撃を逃れたレヴィが反撃に移る。

「今度はこっちだ……ジャケット急速崩壊、ブレイク!」
『バリアジャケットで受けたか……フェイト、来ます!』

ズドンッ

バリアジャケットの破片全てが同時に燃え上がり、そして一斉に弾ける。
砲撃の余熱を上書きするように、直後先程と同規模の爆炎が巻き上がる。
すかさずレヴィは火中のフェイトに斬りかかろうとした。

「ようし、これで……」
「……これで、何だと言うの?」
「……え?」

ガギィンッ

そして、その寸前で突き出された魔剣がレヴィを弾き飛ばした。
ゆっくりと、『漆黒の外套』でその身を包んだフェイトは爆炎を裂いて現れる。

「くっ、手が痺れ……」
「小細工だね、でも……そのままやり返されることを考えないとね?」
「ず、ずるい……でなくて迎撃、バルディッシュ、バルフィニカス!」
「……こっちも再チャージ済み、レイジングハート!」

ズドンッ

レヴィの二刀とフェイトの杖、そこから放たれた三条の雷光が交差して盛大に炸裂する。
一瞬姉妹を完全に炎が飲んで、一秒後両極から体を煤けさせた二人が飛び出した。

「……金剛剣、ギリギリか」
「危なっ、ジャケットがボロボロだよ……」

フェイトの持つ剣には二つの焦げ跡、一方でレヴィはジャケットの大部分を失い殆どインナーのみ。
互いの被害を見比べたレヴィが悔しそうに顔を顰める。

「くうう、こっちは魔力を使ったのに……リニス、シュテル、駄目そう、手伝って!」
『……了解です』

二人は不承不承、リニスは迷いながら、シュテルは唐突な言葉に苦笑しながら目の前の二人に背を向ける。

「……狐さん、この場はお開きということで」
「(素の能力は同じでも経験の差までは、か)……失礼します!」

当然これには妖狐も管制人格も追撃しようとし、がリニス達は構わず強引に合流を目指す。
数度背を強かに打たれて、それと引き換えに距離を開けると二人は同時に『広範囲』に効果を発する魔法を発動する。

『広域結界……展開!』

円周上に光の幕が広がり、フェイト達と久遠達を分断した。

「……集中攻撃、まず私か」
「ええ、そちらの最大戦力なので……レヴィ、シュテルさん、結界は私が維持します!」

リニスが結界の維持に集中し、彼女は久遠達を止めてる間に残りの二人も動く。
レヴィとシュテルがフェイトの前に立ち塞がった。

「お姉さん、僕だけじゃ無理そうだから……二対一で行くよ」
「……悪いけど手加減はしません、お覚悟を」
「……負けないよ、来いっ」

二対一で、だけどフェイトは動じずにただ構える。
大魔導師と評される母を敵にした時点で、簡単な戦いばかりではないと既に心底わかっている。
だから然程動揺せず、同時に『思い切った』手も打てる。

「レイジングハート、行くよ」
『……了解、合わせます!』

そうフェイトは相棒にいうと、グワと『肩に担いで』それから魔力を纏わせる。

「魔力コート!」
「え?」

向うでレヴィ達がぽかんという顔をした次の瞬間、フェイトは体を捻ってレイジングハートを振り被った。
そして、全身のバネを活かして叩きつけるようにして投擲する。

ゴウッ

「……行けええっ!」
『プ、プロテクション!?』

金色に輝くデバイスが勢い良く飛んで、レヴィとシュテルは慌てて障壁を重ねる。

ガギィンッ

『うおっ!?』

障壁越しの衝撃で顔が引き攣る、一瞬ギシと軋むも障壁がレイジングハートを弾く。
が、くるくると跳ね上がった彼女が空中でピタと止まる。

「……まだだっ、チェーンバインド!」

ジャララッ

何時の間にか絡まっていたバインドで軌道を変え、再びレヴィ達の元へ。
蛇の如のたうつように、一件不規則に、だが回避を封じるように計算しきった軌道。
回転するレイジングハートは黄金の円盤となって、レヴィ達に弧を描きながら襲い掛かった。

ガギィンッ

「レヴィさん、こっちは私が……不味っ、来ます!?」

咄嗟に、大型の得物を持つシュテルが割って入りレイジングハートを弾く。
しかし、その瞬間レイジングハートに続いて『黒い影』が駆けた。

「お姉さんか!?」
「正解、行くよ!」

フェイトが透かさず突っ込む、レイジングハートでもう一人を牽制しながらレヴィに斬りかかる。
シュテルが慌てて妨害しようとするも、黄金の円盤が周囲を旋回し阻んだ。

『行かせません!』
「むう、邪魔な……」

それでシュテルの手が埋まり、その間にフェイトは一気に相手を間合いに捉えた。

「妹とて容赦はしない……はああっ!」
「それは……こっちの台詞だいっ!」

ガギィンッ

突進の勢いのままにフェイトが魔剣を振るい、レヴィが反射的に右手のバルディッシュで払う。
彼女は衝撃で痺れる右手に顔を顰め、だがそれでも左のバルフィ二カスで切り返そうとする。

「反撃、うりゃああ!」

彼女は迎撃に振るった動作そのまま反動とし、一瞬で体の重心を移行する。
ブンと大気を切って、左の刃が振り抜かれる。

ギャリリィッ

そして、針のような繊細な刃が火花を散らしながら逸らした。

「……甘いよ」
「え?」

『割り込む』かのように出現した細剣がバルフィニカスを防ぐ、それは突如裂けた空間から引き抜かれた刃だ。
フェイトは魔剣と逆の手に握った細剣を軽く払って笑った。

「……ファストアタック、残念だったね」

ニヤリと笑うと一瞬目を細める、ユラリとデバイスを弾き終えた細剣が揺れた。

ギュオンッ

「今度はこっち……続けて、ジャストアタック!」
「うあっ!?」

チッと刃が煌めき頬を掠める、レヴィのほんの一瞬の動揺をフェイトは見逃さなかった。
速度に加えて精度、最短距離を正確に抜ける刺突にレヴィが慌てて後退する。

「……弱気になったね、今っ!」

だが、その慎重さこそがフェイトにとって狙い目だった。
彼女細剣を手放して両手で、『魔剣の根本』を傷つくことに構わず握りしめる。
ツウと鮮血が流れ、それが滑り落ちた瞬間魔剣の刀身が唸りを上げる。

「うっ、生命力の転化!?」
「正解、命の刃……行くよ!」

敵を分断したのは各個撃破のため、そして向うを焦らせてそこに反撃するため、最高のタイミングで魔剣が振るわれる。

「この距離なら外さない、崩す……やああっ!」
「プ、プロテク……うわあっ!?」

ガギィンッ

反射的に張った障壁を一瞬で砕き、そのまま刃は引き攣り顔で下がるレヴィを追って放たれる。
最短距離を駆け抜けた刃が彼女の眼前へ。

「……駄目!」

ヒュバッ

その寸前で、旋回するレイジングハートをシュテルがジャケット犠牲に抜けて立ち塞がった。

「そ、そうはさせない……」
「シュテルさん!?」
「……『陣』よ!」

彼女は十字杖の先端を揺らし、弧が描かれてそれがカッと輝く。
瞬時に円陣がそこに出現し、巨大な大顎を持つ魔獣が現れる。
ある少女の対策に用意した、その性質の一部を写し取った有翼の巨竜がグワと牙を剥いた。

「召喚陣固定……噛み砕け、『偽竜(ワイバーン)』!」

前回のダメージで不完全な竜、それ故に極力温存したかったそれをシュテルは躊躇なく切る。
ここで自勢力を削られるよりはマシと、そう考えての行動だ。
が、それに対しフェイトが見せたのは予想外の反応だった。

「……来たか、それを待っていた!」

二イイッ

彼女は好戦的に笑った、牙を剥いて襲いかかる竜を落ちついた表情で見上げる。
僅かに剣を引き、しかしそれを振るわない。
その代わりに、横をチラと見た、そこに『黄金』が輝く。

「レイジングハート!」
『了解!』

ギュオンッ

旋回から一転一直線に妙に人間臭いデバイスが飛び、フェイトはそれを足場に『真横』に飛んだ。
ガギィンとその直後、竜の顎が何を捉えられずに閉じられる。

「危なくなれば竜を出す……それも読んでる!」

ヒュバッ

真横に飛んだフェイトは飛行魔法の応用で急制動、更にそこから反転する。
殆ど直角に近い軌道で回り込んで、竜と背中合わせの位置へ、そしてそこで肩越しに刃を突き出す。

「ダメージついでに……体力も貰う、霊破斬!」

バギィッ

竜の巨躯に魔剣を深々と突き立て、それから真横に振るって竜鱗を叩き割る。
同時に『霊体』を引き裂いて魔剣に取り込ませ、すかさず自身の体力に還元させた。

ドズッ

そして相手の体力を奪ったと思えば、直ぐ様左手に剣を突き立てた、ギラと魔剣の刃が禍々しく輝く。

「……命の刃、更にこのまま薙ぎ払う!」
「うっ、不味……」

ズバアアッ

『きゃああっ!?』

白刃が鋭く弧月を描いた、命を喰らい強化された一閃がレヴィとシュテルを吹き飛ばす。
バギンとデバイスと十字杖が砕け、裂傷を負ったその手が真っ赤に染まる。

ボタタッ

「くっ、ここまで傷が……」
「このままでは不利、下がって……」
「……させない!」

慌てて二人は後退し仕切り治そうとし、だがフェイトはそうはさせじと一気に間合いを詰める。

「ここで落とす、三千……」

ヒュッと魔剣の切っ先で空間を割り裂く。
バララと小振りの魔剣が群れを為して湧き出て、その全てがレヴィ達に向いた。
彼女自身と眷属の魔剣に寄る同時攻撃、フェイトは止めを刺そうとした。

「世界の……っ!?」

ピシャンッ

が、射出の直前『紫色』の雷光が落ちた、フェイトが咄嗟にバリアジャケットで受けながら足を止める。
慌てて周りを見渡し、ぎょっとした表情で空を見上げる。
チカチカと『数条の光』が接近と離脱を繰り返すのが見えた。

「うっ、この魔力は……」

その中で特に強い光は紫色のそれで、その魔力光の『何者か』が先の雷光を落としたのは明白だ。
他の光は敵のようで紫の光を包囲している。
が、接近と離脱の行程を繰り返す度に着実に蹴散らされていく。
最後に『二条の光』、『どこかで見覚えのある橙』と暗色のが残った。

(ああ『来て』しまったか、でも向うのあれは……)

フェイトがその誰かを確定する前に、対立する三つの光が降下する。
まず紫が落ちて、ズドンと余波で結界が震えた。

ドガアアっ

『うあっ!?』

絶大な魔力の持ち主の乱入に、フェイト達もレヴィ達も動じざるを得ず後退る。
追撃を諦めたフェイトに直ぐ様久遠達が、後退したレヴィとシュテルに結界を放棄したリニスが、それぞれ合流する。
一同はそこで『乱入者』を見て目を剥いた。
『金属の義手』『黒いドレス』の妙齢の女がフェイト達の前に立ち塞がるように現れた。

『母さん!?』
「……ふん、こちらは劣勢か、経験差は埋められないようね」

彼女はジロリと辺りを、『娘』とその仲間と、フェイト達を見比べて不機嫌そうな顔をする。
それに僅かに遅れ、冷静そうな黒衣の少年と『狼』の使い魔が左右降り立つ。

「くっ、合流されたか……」
「だが……無事みたいだね、フェイト!」
「……局の執務官、それにアルフ!?」

フェイトが味方に成り得る存在と、そして心配していた友の姿に目を見開く。
だが、それを喜ぶ間もなく、プレシアがゆらりと構える。
ジャリと足を引いて半身に構え、その拳を腰溜めに構え、だけどただ構えただけだというのにそれだけで空気が凍った。

「一応ジュエルシードはレヴィ……でも『人形』といい局といい面倒ねえ」
「不味いっ、構えて、えとそっちも!」

母の、大魔導師の構えに、その殺気に一瞬怯んで、だけどフェイトが慌てて注意の言葉を叫ぶ。
臆しかけた自身を叱咤し、彼女は同じく戦意を維持していた執務官達と共に攻撃を仕掛けた。

「執務官?」
「……援護する!」
「あたしもだよ!」
「なら……大技行きます、続いてっ!」

ヒュッとフェイトが言いながら魔剣の切っ先で空間を裂く、そこから飛び出した魔剣がプレシアを包囲する。
先程放てず仕舞いだった切札、それと同時に自ら切り込み、また執務官と使い魔も合わせて動く。

ダンッ

魔剣の雨が降り注ぎ、それと時間差で三人が飛び込んだ。

「三千世界の剣……更に、直で!」
「……合わせる、ゼロ距離から砲撃を!」
「……バリアブレイク、一か八かだ!」

まずは全方向から打ち出される魔剣、そして三方向からのそれぞれの一撃が放たれようとした。

ヒュッ
ガギィン

『龍使い』の『奥義』が発動しなければ。

「……甘いわ、『九頭竜』」

先手を取った、そう三人が思った瞬間『風』が吹いた。
プレシアが両腕を軽く揺らめかせる。
生身の腕を下から上へ、手刀で天に切り上げるように振るい、続けて金属製の義手を真横に、首を落とすように横に薙ぐ。
剣呑な指先の軌跡が交差し、そしてドンと大気が断末魔を上げるように荒れ狂った。

「衝撃波よ、引き裂け……多頭竜の大顎が如く!」

ズドンッ

二条の衝撃波が交差と同時に弾け、更に広範囲に薄く鋭く広がった。
まずバキバキと魔剣の雨を食い千切り、それから突撃を掛けたフェイト達までも飲み込もうとする。

「焦ったようね、一網打尽よ!」
『しまっ……』

勝負をかけたことが裏目に出た、衝撃を魔剣やデバイスや爪で受けるも押し返される。
ギリと軋んで更に押されてって、三人は顔を大きく引き攣らせた。

「ふふっ、終りよ、残念だけど……」
『……まだだっ、逸るでない!』

その瞬間だった、ドンと空で『紅炎』は弾けた。
ゴウッと世界が震えた、その音は『龍の咆吼』のようだった。

「あら、まだ何か……」
「……見つけたぞ、姉弟子っ!」
「……っ、何時かの!?」

空には『重なった大きな影』、『巨竜』がチャイナドレスの女と鋼の少女に挟撃し貫かれている。
だが、その竜は『抜け殻』、自身を囮に女と少女を『咬み合わせていた』。
女の拳打が少女の胴を、少女の仕込みの発電端子が女の腹を、そして『両者の首』を『横合い回り混んでいた少女』の『竜爪』がしっかり捉えていた。

「くっ、馬鹿な、私達を誘って……」
「相打ちさせた、竜化は囮!?」
「……然り、悪いが……本命はあの女である、去ねいっ!」

ボンッ

「まあ、これで良い……(裏界の獣共はユーノにシグナムに任せるとして……)」

急所で直に炎が弾け、二人は首を失い肉片を(金属片)をばら撒きながら残った体で裏界に逃げ去る。
僅かな体の欠片を残して消え去る二人をつまらなそうに見送ると、なのははは魔女を見下ろした。

「ふん、端役との決着は後だ……折角、敵の総大将が居るのだからな!」

フワと浮かび上がって、それから頭を下に足を上に反転する、ボッと足先から火を瞬かせると彼女は一気に加速した。

「覚悟じゃ、姉弟子いっ!」

ビュウ
ギュオンッ

勢いよく降下し、直前で体を転回、炎を纏わせた渾身の浴びせ蹴りを叩きつけた。

「……龍炎、だりゃああ!」
「ちいいっ、九頭竜!」

ドゴオォ
ガギィンッ

轟音が響いた、フェイト達の攻撃に『赤い月と同じ色の炎』が追加される。
四人の攻撃とプレシアの『九頭竜』は一瞬拮抗し、だがその次の瞬間一気に圧倒した。

ドガアアアッ
バギィン

爆音が鳴って、そしてそれに混じって破砕音が響く。
バラバラと金属の破片が、破片『だけ』が地に落ちた。

「義手の、なら……プレシア、逃げるか!?」

着地したなのはが慌てて空を見上げ、そこにリニスに支えられるようにしているプレシアを見つける。
義手を失い、だが既に使い魔によって『転移』の魔法陣が準備し終えている。
加えてその前にはレヴィとシュテル、妨害は不可で、大魔導師が引き攣り気味に笑った。

「やれやれ、戦力を削りたかったのだけど……ジュエルシードだけで満足しましょう」
「……大魔導師等と大層な肩書持ちが、小娘を前に逃げるか!?」
「……ええ、小娘相手に逃げるわ、だってこちらはピークを過ぎてる、正直長期戦は不利だもの」

半ば挑発の言葉を受け流し、それから彼女は二イイッとなのはに笑いかける。

「そこの人形はレヴィ達総掛かりなら十分やれる、でも貴女は私が相手する必要がありそうね……師には悪いけど次は容赦しないわ、お嬢さん」
「ふん、言うなおい……だが、こちらとて負けぬぞ、姉弟子よ」

微笑みながら、だが冷たい目で大魔導師が見下ろし、それに対しギロとなのはは睨み返す。
更にフェイトもなのはに並び、キッと母を睨んだ。
三人は火花を散らし合い、それから『宣言』した。

「小娘共、今までの邪魔立ての報いは高いわよ……その首洗って待っていることね!」
「抜かせ、ロートル……その余裕面、長く続くと思うなよ!」
「……私も居る、母さんの望み通りには活かせないから!」

一瞬睨み合って、それから別れる。
使い魔の転移でプレシアが消えて、そして残ったなのはちフェイトは不完全燃焼気味の顔を見合わせる。

「ふむ、久々の再開だが……悔しいな、まだ届かずだ」
「うん、でも……次は勝とうね、なのは」

二人はコクと頷き合い、それからボロボロのクロノ、そして上で蹴散らされてから合流しようとする管理局員を見渡す。

「……どうやら敵の敵、一応は味方かな」
「うん、これからのこと話し合わない?」
『あ、ああ……』

ちょっと圧倒され気味の様子で彼等は頷いた。
ジュエルシードを巡る戦いは一旦お開きとなり、『世界の守護者』と『次元の守護者』の会合が始まろうとしていた。



・・・魔王遊戯、三章『未来』に続く




味方合流、及び管理局の先遣隊到着というところで次回・・・次は会話メインかなあ?
因みに今までの一章は発端、二章は過去というか諸々の因縁・・・次の三章(十話前後)でそれ等が一応の解決となるはず(無印とA`s編の要素をぶち込む感じかな?)

以下コメント返信
神聖騎士団様
プレシアは暴れるだけ暴れて、妹弟子登場で分が悪くなったのでさっさと帰りました・・・一見諦め早いですがプレシア側で初のJS獲得ですので。
そういう意味では初黒星であり又次からが本番とも言えます、お互いにある意味探り終了とでもいうか・・・

夜型人間様
まあ所謂同属性マッチアップ的な?因縁付け程度ですが・・・浮いてるなのはですが海鳴代表という意味での参戦です。


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