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[33608] 【一発ネタ】ゼロミン【ゼロの使い魔】
Name: しらが◆08de7a47 ID:fd36d8f1
Date: 2014/07/13 13:05
まえがき

ハーメルンに転載しました

@@@@@@

 爆発、爆発、また爆発。

 衆人環視のもと、一人失敗を気にせず杖を振り続けるものがいた。爆破のたびに舞い散る粉塵が、空を曇らせ周囲に暗く影を落としている。
 魔法を失敗しているのは鮮やかなピンクブロンドの小柄な女生徒、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・アヴァリエールだ。彼女は数回、数十回の失敗にも負けず、歯を食いしばって杖を振り続ける。
 匹夫の勇だと笑う者もいる。だが、女生徒はそれでも諦めることはなかった。
 家名のため、そしてひいては自身のため。
 貴族である自分を守るために、ここで引くわけには行かなかった。

 杖を振る度に起こる爆発、それはルイズが「ゼロ」たる代名詞、爆発魔法。通称、失敗魔法。
 だが、本来この魔法は間違っても失敗などというべきものではなかった。
 途轍もない破壊力、防御無視の特殊能力、同じ爆発魔法よりも遥かにコストパフォーマンスの良い魔法。誰もがこぞってその魔法を習いにきたがる夢の魔法なのだ。
 と言っても自身の意志によって制御できないそれは、どのように言い繕っても「失敗」の範囲に収まることは明白だった。
 魔法によって「貴し」としているこの世界において、「貴族」であるというのに魔法が使えないということは致命的を通り越して、もはや破滅的だ。

 今、ルイズが必死に魔法を唱えているのもそのためだ。今までは座学の成績によって身を立ててきたが、今日行われている使い魔召喚は進級における重要な査定事項だ。
 どのような使い魔が出るかによって二年からのカリキュラムを考えるため、それもしかたのないことだがこの試験は彼女にとってあまりにも酷だった。
 この使い魔召喚に成功しなければ、魔法学院を留年、いやそもそもそのような汚名を被った時点で彼女の退学は確定しているだろう。
 仮に学園がそのような処置を取らなくとも、彼女の家から強制的に連れ戻され、適当な婚約者とすぐにでも結婚させられる。
 公爵という尊い血統は彼女の身を守る盾となるが、時と場合によっては彼女の一生を縛る鎖だ。
 おまけに、今公爵家には男児がいない。
 三人いる子供も全員女子。
 長女が婚約しているとはいえ、彼女と結婚すれば公爵家と強いパイプが出来る。そして、彼女にはそれ以上の価値はない。必要なのは彼女の血と胎なのだから。
 故郷であった公爵家ですら半ばいじめのような出来事が起きたのだ。そこから離れ、見ず知らずの家となればその後の展開は容易に想像できる。

 だからこそ、彼女は杖を振るう。
 ここでの失敗は、終わりを意味する。
 終わるわけにはいかないのだ。
 ここでなんか終わりたくはないのだ。
 陰りがさした青空は、爆破のたびにその影を深くしていく。

 杖を振る。
 凄まじい爆発音が響く。
 ごっそりと体中の力が抜けるのを感じた。立っているのも辛くなる。めまいがする。魔法の使いすぎによる精神力の摩耗が原因だろう。
 それだけ力を消費した分期待が大きくなる。
 しかし、それを裏切るように煙が晴れた先にあったのはクレーターがひとつだけ。

「・・・ミス・ヴァリエール。そろそろ、終わりにしましょう」

 後ろから担当の先生が躊躇いがちに声をかけてきた。
 彼女の事情を知っているのだろう、その声には僅かな覚悟とルイズのみを案じる不安が滲んでいる。
 このまま止めることがルイズのためになるというわけではないが、それでも教師としてこれ以上の生徒の無理を見過ごすわけには行かなかった。

 失笑が広場に広がっていく。
 血筋だけで貴族である偽物たちに笑われている。
 本当は腹の底から罵りたかった。お前たちに何がわかるのかと。ただただ平民から絞り上げた財を貪るだけの愚物が何をほざくのかと。
 同時に、天に慟哭したかった。
 真の貴族が何たるかを弁えている自分が、どうしてあの偽物たちに負けるのだと。

「・・・あと、一回、あと一回だけお願いします!」
「しかし」

 言いよどむ教師。
 彼の立場からすればこれ以上は容認することはできない。公爵家の子女を、例え授業であろうとも気絶するまで魔法を使わせたとなれば彼の監督責任が問われる。
 ここ一番で自身の邪魔をする血に、僅かな苛立ちを覚えたが今そんなことに精神を向ける余裕はかけらもない。
 もう一度、直角に頭を下げて教師に頼み込んだ。

「お願いしますっ!!最後のチャンスを!」

 顔を上げ、真摯な眼差しで教師を見る。
 この教師に嘘は無駄。
 下手に装っても見抜かれる。

「あと一回だけなら大丈夫です!ですから!」
「・・・」

 一回分の精神力が残っているのは本当だ。
 契約のぶんの精神力を残さず、この一度に全力をつぎ込む。
 仮に気絶したとしても、明日改めて契約すればいいだけのこと。

 瞳を閉じ、暫し黙考した末担当の教師は厳かに頷いた。

「ありがとうございます!」
「ただし、この一度だけ。約束してくださいね」
「はい!」

 どうせ、この一回で気絶する。
 やりたくとも出来ないのだ。

 とにかく、許可が降りたならばルイズがやることは一つだ。
 ルーンを唱え、杖を振る。
 残った精神力を片っ端から杖に流しこみ、偽ることのない本心をぶちまける。
 もともと使い魔召喚とは自身と最も相性のいい生物を召喚する魔法。
 自身の願いに、そして資質に納得したもがゲートを通り、契約をすると伝えられている。
 だとするならば、わざわざ形式張った呪文にこだわらず、全てをなげうって訴えかければいいだけだ。
 それが彼女の呪文になるはずだ。
 瞳を閉じ、外界の余計な情報を断つ。聴覚は集中していればかってに閉じる。触覚も杖を持つ手以外はいらない。

「宇宙のどこかにいる私の下僕よ!力強く、美しく、生命力にあふれた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えなさい!」

 タイミングを合わせ、精神力をつぎ込み、渾身の力で杖を振った。

 閃光が起こる。凄まじいエネルギーが発生、収束、そして開放された。
 小型の太陽のような凄まじい光量と熱量、それらによって齎された爆発はもはや『爆発』などという範疇に収まらぬ、凄まじい破壊の散布。
 学院の壁が揺れ、塔が揺れ、地面を穿ち、空を裂く。
 とっさに張った担任教師の魔法によって生徒たちの安全は確保されたが、彼らに与えた衝撃は凄まじいものだった。
 スクエア、いやオクタゴンクラスの大魔法に匹敵する失敗魔法。自身の扱う魔法とは階梯の違うモノ。あれを魔法と呼んでも良いのかという僅かな疑問が浮かんだほどだ。

「ミス・ヴァリエール!大丈夫ですか!?」

 普段温厚な教師が叫んだ。
 冷静沈着な彼に似合わず狼狽し、魔法の壁を取り払いすぐにルイズへと駆け寄った。
 彼女の失敗魔法で怪我を負うことがないという事は周知のことだったが、先の爆発は今までとは格が違った。何かしらの不具合が起きても何ら不思議ではない。
 あの時止めておけばよかったと、歯を食いしばった。しかし、ルイズのあの気迫を前にして自分では止めることが出来ないことは、自身がよく知っていた。

 ルイズへと駆け寄る教師。
 彼女は倒れ、地面に附していた。先の魔法で精神力を摩耗しきって気絶してしまっていたのだ。
 細く、そして当時のように白い首へと指を当てる。柔らかな肌からは、心臓の鼓動が静かに伝わってきた。
 直ぐに他の部分の検査に移る。素人の生兵法のようなものだが、それでも最低限の確認を行うぐらいの知識は持っていた。
 脈も特に以上はなく、呼吸も規則正しく行われ、顔色も健常そのもの。ほっと息をついたが、未だに予断が許さぬ状況であることには変わりがなかった。

 この際、彼は自身の監督責任が問われようと気にしないつもりであった。
 それよりも、彼女が渾身の力で使った魔法の行方。彼女の将来を決める魔法のほうが、中年教師である自身の進退よりも重要だ。

 もくもくと立ち込める土煙。
 魔法がもたらしたダメージは学院全体に及んでいるだろう。それだけの破壊力があったため、視界が晴れぬほどの土煙で済んでよかったと、心のそこから安堵していた。
 もし今視界を塞いでいるのが土煙ではなく火炎の類であったとしたら、間違いなくこの場にいた全員の命はなかったのだから。

 魔法を使い、軽い風を巻き起こす。そよ風が煙を攫い、学院の外へと走り去る。
 それに応じて晴れていく視界。
 爆心地と思わしき場所は、大きく抉れ、そこが今自分が立っている場所と同じく平面であったとは思えない。
 クレーターを慎重に覗きこむ。
 仮に何かが召喚されていた場合、それが自身へ襲い掛かってくる可能性があるためだ。ルイズの性格から、そのような凶暴な生物が召喚されるとは思えないが、主への忠誠心から牙をむく生物ならば十分考えられる。
 完全に煙が晴れ、穴の奥そこまで見渡せるようになった時、それは姿を表した。

「なっ・・・これは・・・」

 確かにルイズは召喚に成功していた。だが、それが彼女が望むものである可能性は、低かった。
 教師の口から漏れた声には、困惑、そして絶望が滲んでいた。

00000

 ルイズが目を覚ました時、まっさきに目に入ったのは白い天井だった。

「・・・保健、室?っ!?わ、私!」

 記憶をたどり、自身が最後に何をしていたかを思い出した時、ルイズは思わず体を跳ねあげた。が、何処から吹いてきた優しい風が彼女の体をベットへとおし倒す。
 ぽすりと気が抜けそうなほど優しく倒されると、その後は不思議と体に力が入らなくなった。
 まるで真綿で締め付けられたような、やわらかな拘束。思考が混乱の極みに達し、いうことの聞かない体を無理やり動かそうとした時、保健室の扉がガラリと開いた。

 出てきたのは、呆れた顔をした翁、オールド・オスマン学院長。
 豊かな白髭を撫で抑え、普段スケベな妄想で歪んでいる表情は今厳しい先達としての顔になっている。
 鋭い眼差しに含まれた、僅かな非難の色を感じ取ったルイズは抵抗をやめ身を竦ませた。

「落ち着きなさい。ミス・ヴァリエール。君は精神力の摩耗で気絶しておったのじゃぞ。そんなに急に動いたりするでない。もう暫し寝ておきなさい」
「が、学院長、で、ですが・・・」
「安心しなさい。使い魔の召喚には成功したぞ。あとは契約のみじゃ。じゃが、今お主には肝心の精神力が足らん。もうしばし、休んでおきなさい」

 そういって、杖を一振りすると霧のような白煙がルイズの顔を覆った。
 その白煙は静かに、そして巧みに彼女を眠りへ誘うと朝霧のように消えていった。

「・・・コルベルン君。入っても良いぞ」
「コルベールです、オールド・オスマン。それにしても、見事なお手並みですね」
「ワシを誰じゃと思っておる。海千山千の生きた歴史、オールド・オスマンじゃぞ。コルコル君」
「・・・今回は、私の監督不行き届きです。いかなる処罰も覚悟しております。ですから、ミス・ヴァリエールの進級だけは認めていただけないでしょうか」

 オスマンのボケをスルーし、無理やりシリアス路線に入れたコルベール。
 ボケを無視されたのがきに食わなかったのか、それともコルベールの言い分に納得行かなかったのか、オスマンの眉間に僅かにし皺がよる。
 オスマンは数秒考えこむと、肺のそこから息を吐いた。

「ミス・ヴァリエールは召喚には成功しておるじゃろ。今回の進級で必要なのは、カリキュラムを組むための最低限の属性把握だけじゃ。それに、公爵家からも手紙が来ておる。ほれ」

 そういって適当に投げ渡されたのは、公爵家の家紋が記された手紙。
 間違ってもそのような扱いをしていいシロモノではないが、オスマンにとっては面倒なのかどうでもいいことなのか、投げ渡した手紙を忌々しげに睨んでいる。
 慌てて受け取ったコルベールは、些かその対応の仕方に疑問を覚えたが、とりあえず手紙を読むことにした。
 豪華な装飾のなされた手紙を開けると、見事な達筆で書かれた手紙。内容を把握するためだけなので、ある程度を流し読みしていくと、コルベールの顔色がだんだんと悪くなっていく。

「こ、これは・・・」
「全く、若造めが熱り立ちおってからに」

 手紙にはまず定型文から成る挨拶、そしてルイズの学園生活を気にする旨、ルイズの手紙から察しられた学園の状況、教育の現場として学院の現状を査察する必要があるとかどうのこうの、学院長及び教職員の職務態度、等など。
 そして最後には、公爵があまりに力が込められたためか、若干破けかかった一文。

『合理的な判断を』

 どう好意的に解釈しても脅しだった。
 顔色なくしたコルベールは手紙をどうすればいいのか迷い、とりあえずは学院長へとかえした。苦々しく受け取った学院長は杖の一振りで手紙を灰に。

「ま、一応ミス・ヴァリエールは召喚には成功しておるのじゃ。屁理屈こねくり回した末にわざわざ公爵に屈しましたと公言する必要がないだけマシじゃろ」
「は、ははは・・・そうですね・・・」
「といっても、彼女が気絶したのはいただけん。また手紙が来て監督責任がどうのこうの言われるからのう。仕方ないので、コルパッゲ君には召喚の経緯を公爵へと説明してもらってこようかの。それで監督不行き届きの件はチャラじゃ」
「なっ!?」

 驚くコルベールだが、反論をする前にオスマンが言葉をつないだ。

「ちょうど君には休暇が溜まっておったし、公爵領には興味深い資料があるとか言ってたような記憶もあるし、最後に『烈風』殿が普段の『お礼』を言いたいのでズラスベール君を呼んでくれたまえと脅しっ・・・ごほん、お願いされておっての」
「・・・」

 顔色が青を通り越し、白になった。
 頭部の毛髪の無さも相まって、その様は滑稽な坊主といったところだろうか。
 最後につぶやかれた『烈風』の文字は、少なくともトリステイン及び周辺諸国にとってはエルフと同類の恐怖の象徴だ。それ直々に呼ばれる、というのは良い事とは想像しがたい。

 ちなみに、件の『烈風』は本当にただ娘に対して差別意識を持たずにいてくれたコルベールにお礼をしたいだけだったのだが、そこら辺は過去の所業からくる自業自得というような。

「・・・まぁ、生きて帰れたらトリスタニアで酒でも奢ってやるわい」
「出来れば、本か何かがいいですね・・・」

 枯れた男二人は眠れる美少女を前にして、死にそうな表情で会話を続けた。

00000

 結局ルイズが起床したのは、翌日のことだった。
 体力自体は半日で回復していたが、摩耗した精神力はそうはいかず、起きては寝てを数度繰り返すこととなった。
 後半、もはや寝ることがきつくなったルイズは保健室の教師に頼んで『スリープ・クラウド』を使ってもらうほどだった。

 そしていま、ルイズは使い魔召喚を行った広場にいる。
 周囲に生徒はいない。他の生徒達は自分の使い魔とのコミュニケーションを取るため、ほぼ自習となっているのだ。
 ついでに言うと、担当もコルベール。彼にはルイズが召喚した使い魔の詳細を公爵に伝えるというミッションがあるため、それと彼の趣味の一端、使い魔のルーン収集が目的でもあった。

 クレーターだらけだった広場は一日で直っていた。土属性の教員たちが総出で修復したのだ。若干、自尊心の高めな先生がいたせいで、ところどころ趣味の悪い装飾がされているのはご愛嬌。
 中心に一つ、放置されたクレーターがあった。その半径は数メイルあり、底を見るためにはもう少し近寄らねばならないほどだ。
 そこに、ルイズが召喚した使い魔がいる。

「・・・いきます」
「安心しなさい、ミス・ヴァリエール。一応、猛獣のたぐいでないことは確認済みですから」

 慎重に歩を進める。
 召喚された使い魔は稀に召喚者に対して牙をむく場合があるという。気性の荒い獣であったり、彼らからすれば『甘噛』のレベルであったりするのだが、やられる方は正直言って溜まったものではない。
 召喚に成功した場合は、落ち着いて、慎重に近づき、召喚されたものを荒立てないようにする。
 何度も読んだ教本に、赤文字で書かれていたことからその重要性が伺える。過去において、使い魔召喚で死んでしまった生徒がいるのだから、それもしかたのないことなのだろう。

 自然に喉が鳴る。
 乾いた口には飲み込む唾など殆どないが、それでも生理的になってしまう。
 心臓は痛いほどに脈打っている。爆発してしまうのではないかと疑ってしまうほどだ。

「ふっ・・・!」

 決意を改め、歩を進める。
 一歩一歩、慎重に穴へと近づいていくと、ようやく底が見えるところまで達した。
 ゆっくりとその穴を覗き込めば、壁面には地層が見て取れる。

 そして、ルイズの視界に使い魔の姿が写った。

「え・・・」

 現れたのは、3つの香炉のようなもの。
 茶色い表面で今にも朽ち果ててしまいそうなそれは、ただ静かに穴の底で佇んでいた。
 主を待つように。

 困惑した表情でコルベールの方を向くルイズ。
 瞳には動揺と恐怖。
 自分が使い魔召喚に失敗したのか、言わずともそう語りかけてくるのがわかった。

「・・・大丈夫です。事前に『ディテクト・マジック』で魔法生物のたぐいであることは確認済みです。おそらく、休眠状態なのか、卵なのか・・・。詳しくはわかりませんが、ミス・ヴァリエールが『コントラクト・サーヴァント』を行えばある程度の謎は解明されるでしょう」

 優しく語りかけるコルベールに、ルイズは心に蔓延っていた不安の雲のが貼れるのを感じた。

 そして改めて自分の召喚したものたちをみる。
 地の底で静かに佇む彼ら。

 意を決し、穴のそこへと駆け下りた。
 魔法の使えない彼女では多少きつい下り坂であったが、そこはうまく手をつきバランスを取ることによって、滑り台を滑るようにおりていった。

「すごい・・・」

 上から見るのとは違い、こうして降りてみると彼らの大きさがわかる。
 胴回りは巨木のように大きい。仮にこれが卵だとすると、中から出てくるのは一体何なのだろうか。
 恐る恐る手を伸ばし、表面を撫でる。それは実に不思議な感触だった。陶器のように固く、しかし人肌のように滑らかで温もりがある。

「・・・我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、使い魔となせ」

 万感の思いを込め、ルーンを唱えた。
 口づけを三回。
 3つある香炉のような彼らに愛おしく、そして感謝を込めて『コントラクト・サーヴァント』を行った。

 次の瞬間、彼らが輝き、色を変えた。
 一つは赤に。火炎を固め作り上げたかのような情熱的な赤。
 一つは青に。ラグドリアン湖の精霊が祝福したような清らかな青。
 一つは黄色に。雷光と閃光を混ぜ合わせたような刹那的な黄色。

「な!これは!?」
「と、とんだぁ!?」

 3つの香炉はその尖った先端に花を咲かせ、穴の底から飛び立った。力強い回転は空気をかき分け、空へとその身を持ち上げる。
 そして、平たい地面へとたどり着くと、今度は長い足を生やして大地に屹立した。

「こ、コルベール先生!これは!?」
「わ、わかりません!私もこんな生物は初めて見ます!東方の生き物でしょうか・・・?」

 混乱する二人。
 慌てて穴の底からはい出たルイズは、驚愕に目を見開くコルベールの隣についた。
 二人が見つめている間に、3つの香炉は再び花弁を回転させた。
 飛ぶ時とは違い、何かを行うために勢いをつけているのか、その体は宙に浮くことはなかった。

 そして、回転が十分に溜まった頃、花弁の中央から何かが飛び散った。
 光を受けながらキラキラと煌くそれは、種。
 ゆっくりと風を受けて静かに地面に根を下ろすと、すごい勢いで成長し始めた。
 芽吹いたのは双葉の芽ではなく、単子葉の孤高の芽。

「・・・これが、私の使い魔・・・?マンドラゴラの、変異種かしら?」
「限界まで成長したマンドラゴラ、でしょうか。あのような状態に変化するというのは聞いたことがありませんが、種の成長速度から幻獣、もしくはそれに類する魔法生物であることはたしかでしょうね」

 会話を続ける二人。
 奏している内に、やがて芽は大きい蕾をつけた。

「つ、蕾!?もう!?先生!もしかして、あれが無限に増えんですか!」

 だとするならば、大変なことだ。
 強力な生命力かつ高速成長というのは下手をすればここら一体があの植物で埋め尽くされる可能性もある。
 そうなればあっという間に大陸は植物で覆われ、農業は多大なダメージを負うだろう。
 さすがのコルベールもこの急成長には驚き、慌てて学院長を呼びに行った。

 一人残されたルイズ。
 自身がとんでもないものを召喚してしまったのかという罪悪感に苛まれ、どうして自分はこうもついていないのかと罵りたい気分だった。
 呆然としているうちにも、植物は成長を続ける。
 既に蕾は花開き、白く美しい大輪を咲かせている。
 再び種を蒔くの文字間の問題だろう。
 だったら、これ以上触れる前に主自ら引導を渡すのも、主の役目というものだ。

「これは、自分が巻いた種よ・・・だったら、私がかたをつける!」

 杖を掲げる。
 ルーンを唱え、精神力をつぎ込み、花を咲かせる植物へと向かって振り下ろした。

「微塵に消えろぉー!!」

 物騒な言葉とストレスと共に振り下ろされた杖。
 が、爆発は香炉と地面の中間点で発生した。
 しかし、大気を震わす爆発だ。その衝撃だけで地面は揺れ、そして抉れる。そして軟弱な植物ぐらいなら欠片も残さず消し飛ばせる。
 その自身があったからこそ、ルイズは外してもそこまで焦らなかった。
 渾身の力で召喚した使い魔を、その日で殺す日が来ようとは。
 毎日真摯に祈りを捧げたブリミルはどうして私に答えてくれないのだろうと、思わず呪いたくなった。

 だが、結果は彼女の期待とは違い、斜め上方向にぶっ飛んだ。

ーーーーつぁーい
ーーーーへっほー
ーーーーぷみん
ーーーーへっほー
ーーーーぷみん

「え?」
「お、オールド・オスマンここですって、え?」
「なんじゃ、これは?」

 目の前には、赤い体をした小人たち。
 頭部には真っ白い大輪を咲かせ、背伸びのような動作をとっている。

 現場に到着したコルベールとオスマンもこの状況は理解できなかった。
 説明を求めるようにルイズの方を見つめるも、当の本人もくびをぶんぶんふって知らないという。

「ば、爆破したら、あれが出てきたんです」
「なんと・・・自律行動するマンドラゴラ、とな」
「実に珍しいですが・・・ミス・ヴァリエール、体調に変化は?」
「え、あ、大丈夫です」

 真剣な眼差しでルイズを見てくるコルベール。
 困惑しながらも、問題ないと伝えるとそれでも足りないのか『ディテクト・マジック』の使用許可もとってきた。
 その剣幕に押され、とりあえず了承したルイズ。
 対するコルベールは検査を終えると、ほっと一息ついた。

「・・・ミス・ヴァリエール、確認ですが、叫び声は聞いていないですね?」
「あの、なんか可愛い鳴き声な、ら・・・」

 そこで、ルイズの思考が停止した。

 マンドラゴラの叫び声を聞くと、死ぬ

 平民すら知っている常識だ。
 目の前のあれがマンドラゴラだとすると、自分は危うく死んでしまうところだったのだろうか。
 少なくともそれぐらいの危険を犯したことは確かであった。

 自分がどういうことをしたか、そしてどうなりかけたかを理解したルイズは膝から力が抜け地面にへたり込んでしまった。

 その時だった。
 ぽすりとルイズが地面にへたり込んだ時の音に、彼らが反応した。
 くるりとルイズたちを見る顔には口はなく、目と鼻がついているだけだった。
 奇妙奇抜という域を通り越し、生理的嫌悪を催すその表情にコルベールとオスマンの二人はすぐに臨戦体制に入った。
 一匹が気がつくと全員が気がつくまではそうかからなかった。

 そして、ルイズめがけて走りだす。

「っ!!『フレイム・ボール』!!」
「『フレイム・ストーム』」

 すぐさま魔法を放つ二人。
 炎の弾丸と竜巻が五匹の小人をと飲み込んだ。
 断末魔すら上げる暇なく、一瞬のうちにして炎の海に飲み込まれた五匹。

 しかし、断末魔が上がらなかったのは、暇がなかったからではなかった。

「なっ!?」
「なんじゃと!?」

 炎のカーテンをくぐり抜けた小さな人影。無傷で現れた五匹の小人に二人は思わず目をむいた。
 新たに魔法を紡ごうにも、時間はなく。
 隙を付かれた二人を抜くと、五匹はへたり込むルイズめがけて飛びかかった。

「きゃぁぁーあーあーあー・・・?」

 とっさに腕で顔を防御したルイズ。
 しかし、何時まで経っても襲ってこない痛みに疑問を覚え、ゆっくりと顔を上げた。
 そこには誰もいない。
 あの悪魔のような五匹の小人の姿はどこにもない。
 ただ気になるところがあるとすれば、オスマンとコルベールの二人が呆然とこちらを眺めていることだ。

「ど、どうしたんですか?」
「み、ミス・ヴァリエール・・・後ろを」
「・・・」

 そう言われ、ゆっくりと振り向く。

ーーーーつぁーい

 声を上げたのは、一匹。
 しかし、いるのは五匹。
 先ほどの、赤い小人だった。

 そこからの行動は早かった。
 すぐさま体を跳ね上げると、全速力で彼らから逃げた。
 しかし、彼らはどこまでもついていく。
 逃げている内に学院を一周してしまったが、その間にも常に離れずくっついていた。
 逃走劇が終わったのは一時間後だったが、結局彼らは行き一つ切らさずにルイズへとついていっていた。

 眺めているだけだったコルベールが、とりあえず落ち着いたと思わしきルイズへと近づいていく。
 それでも五匹は反応すらせず、ただただルイズの後ろへとついているだけだった。

「・・・ミス・ヴァリエール。どうやら契約は成功していたようですね」
「・・・・・・」
「と、とにかく、進級おめでとうございます」

 それだけ言うと、コルベールはいそいそと学院へと戻っていった。
 その後ろ姿には、とにかく厄介事には関わりたくねーという意志がありありと見えていた。

 広場には、ルイズと小人。

「あんた、私の使い魔なの?」
ーーーーひゃっほー
「・・・あんた何者」
ーーーーつぁーい
「・・・・・・よろしく」
ーーーーつぁーい

 肉体的疲労、そして精神的疲労に身を任せ、そのまま地面に倒れた。

 その後、香炉のようなものに運ばれそうになったルイズは全力で抵抗し、学院のなかへと逃げていった。

00000

「ピク、ミン、ですって?」
「ええ、ミス・ヴァリエールは知らなかったのですか?」

 黒髪のメイド、シエスタはさも事も無げにいった。

 少し時間は戻る。
 あのあとルイズは謎の香炉に運び込まれそうになった。
 それを死ぬ気で振り切って、あの小人ーーーーシエスタいわくピクミンから逃げ出した。ちなみに美味しいらしい。
 しかし、逃げ出したルイズの後をピクミンはずっとつけてくる。唯一彼らが急な段差が無理だということはわかったが、それは自分にも無理だということがわかったので、結局あまり意味はなかった。
 どうにかこうにかピクミンを引き離すすべを模索していたところ、通りかかったシエスタはピクミンを見かけると徐に一匹掴みあげ、

むしゃり

そして

『おいしっ!』

 と、いった。
 それを見たルイズは恐怖と混乱から固まり、ピクミンがルイズの使い魔だと知ったシエスタも恐怖から固まった。
 ついでに、なぜルイズが固まったかと補足すると、マンドラゴラは基本薬の材料になるが、それは身に秘めた猛毒に薬効成分があるからである。魔法的な処置を行い、毒成分を薄め薬効成分にまで高めるにはそれ相応の時間がかかり、仮にシエスタが凄腕メイジであったとしても、あの一瞬で解毒できるようなものではないと知っていたからだ。
 つまり、即座に吐血して死ぬシエスタを幻視したためである。
 謝罪に謝罪を重ねるシエスタを何とかなだめ、どうやらピクミンについて知っていることを話してもらった。

 曰く、ピクミンとはタルブ村の珍味で、本当に、極稀にしか取れないマンドラゴラの一種らしい。
 そのくせ体に毒はなく、生でも食べられ、サラダにすれば正しく至高、神の味。
 種類によっては火が通らなかったりするピクミンもいるので、基本的に生で食べるらしい。

「ですから、村から出ると知っている人が極端に少なくて・・・」
「そうなの、ね」
「でも、どうしてここにいるんですか?オニヨンは基本的に森から出ないはずなんですし、サモン・サーヴァントで呼んだにしては傷んでないし」
「オニヨン?それに痛むって?」

 再びシエスタの口から気になるワードが飛びだした。
 説明を要求するように聞き返すと、シエスタは快くそれを引き受けた。

「ピクミンの巣のようなものです。ピクミンはそれからあんまり離れられないんです。離れると色が落ちて、味も落ちてしまうんですよ。それにオニヨンはどの様にできるかはわからないんですが、警戒心が強く、人が近づくと空に逃げるし、森の奥深くから出てこないはずなんですけど」
「・・・もしかして、そのオニヨンって」

 嫌な予感。
 警鐘を鳴らす本能に従って、ルイズは自身が召喚したものの形状を細かくシエスタへと説明した。
 ピクミンが発生するまでのことを話すとシエスタはびっくりして口を両手で覆った。

「す、す、すごいですよ!ミス・ヴァリエール!オニヨンを3つも召喚したって!本当ですか!?うわー!さすが公爵家ですね!!」
「そ、そんなにすごいのかしら?」

 大絶賛し興奮するシエスタに、ルイズの心境は複雑だった。
 なにせまず見た目がまずい、その上怖い。
 どこへ行ってもついてくるというのは、使い魔として実に優秀な能力かもしれない。だが無表情、そして時折歌を歌うなど、奇妙な行動が多い。
 おまけにこの五匹、トリステインが誇る最高の魔法使いであるオールド・オスマンの一撃をしのぎ、火のスペシャリストであるコルベールの炎の海でもダメージを与えることがかなわなかったのだ。
 ルイズからすると、心強いがその分、知識不足からくる恐怖のほうが大きかった。

 そんなルイズの心境をよそに、シエスタはさらに爆弾を突き落とした。

「すごいですよ!それにピクミンって集まるととっても強くて、ピクミンの群れが火竜を狩ることもあるんですよ!!」
「か、かりゅっ!?」

 変な声を出してしまったことを、ルイズはこの際気にしなかった。
 なにせ、火竜である。そこいらの獣とは一線を画する魔法生物。気性の穏やかな風竜とは違い、常に争っているような凶暴な生物だ。
 その火竜が巣食う火竜山脈は危険地帯に認定されるほどなのだ。
 それらを食い物にするという。
 思わず顔がひきつった。

「こいつらが・・・この見た目で・・・」
「赤ピクミンですね。だから火では燃やせないんですよ」
「・・・へー、赤ピクミン・・・」
「ええ、みずみずしさと、仄かな甘味が特徴です」

 にこりと笑って付け加えられたワンポイントは、正直あまり嬉しくなかった。
 くたりと地面に両手をつくルイズに、何を慌てたのか、食べかけのピクミンを『食べますか』などと聞いてきた。
 全力で遠慮して、すぐさま姿勢を正した。

「・・・とにかく、この、えーっと」
「赤ピクミン」
「そう、赤ピクミンを食べたことは不問とするわ。だけど、これからも色々とピクミンについて教えるように。交換条件よ」
「はい!あ、そうでした。食べてしまった分のピクミン、増やしておきましょうか?」

 そして、ピタリとルイズの動きが止まった。
 ちょうど華麗な後ろ姿を見せつけようとしていたところであり、若干不恰好になってしまった。
 ぎぎぎぎと、油の切れたブリキ人形のように、ゆっくりと後ろを振り向く。
 にっこり笑うシエスタを視界に収めると、もう一度、ルイズの今後の学園生活に関わる重要なことを聞き返した。

「・・・増える、の?」
「ええ、増えますよ」
「ど、どうやって」
「ご飯を食べて」

 ぐるんと後ろにいるピクミンを見る。
 その顔には目と鼻しかない。
 先ほど仲間が一匹食べられたというのに、悲憐の感情すら浮かんでいない。

 もう一度よく見る。

 口はない。

「・・・ご飯を食べて、増えるのよね」
「ええ、ご飯を食べて増えます」
「・・・」

 背中から脇、葉っぱの後ろまでよく確認したが、ピクミンに口らしきものはない。
 根っこすらない。
 一体どうやって食べるというのか、ルイズの脳内は疑問で溢れかえってきた。

「では、ミス・ヴァリエール。非常に申し訳ないのですが、オニヨンのところまで案内してくれませんか?」
「え、あ、オニオンね。わかったわ」

 とにかく、これ以上考えても無駄だと悟ったルイズは、諦めてシエスタを案内することにした。
 シエスタはというと、いつの間に取り出したのか、今日の料理で使うとおもわれる鶏を一匹手に持っていた。
 肉食、肉食なの!?という恐怖と疑問が湧きい出そうになったが、それらを全力で抑えこみオニヨンに向かって早足で駆け出す。

 そして、ルイズが召喚をこなった広場までついた。
 クレーターはいつの間にか消されており、広場には綺麗な平面と草原が広がっている。
 そこに屹立するのは、赤、青、黄色の3つのオニヨン。
 太陽の光を受けらんらんと花を回しているオニヨンだが、今ではルイズにとって頭痛の種でしかない。

「うわー!こんなにオニヨンに近づいたの、私初めてです!本当に3つも召喚していたんですね!!」
「えぇ、まぁ」
「では、失礼して」

 そう言ってシエスタは、赤いオニオンの真下へと歩いていった。
 下からオニヨンの位置を何度か確認すると、手に持っていた鶏を地面にそっとおいた。
 そして早足でオニヨンの下から離れると、ルイズの元へと歩いていった。

「・・・ねえ、何してるのあれ」
「もう少し待ってください。私も初めて見るんですけど・・・おかしーなー。おじいさんに聞いたときは、これで大丈夫だって言ってたのに」

 ぶつぶつと独り言をつぶやくシエスタを放置し、とりあえず現状を見守ることにした。
 変化が現れたのは、意外と直ぐだった。
 3つのオニヨンが身動ぎするように、軽く震えるとその中心から淡い光がこぼれだした。
 陽の光をそのまま照射しているような、やわらかな光。
 その幻想的な光景に一瞬見とれたルイズだが、それに隠された真実を見逃すことはなかった。

「・・・え?」

 鶏が、浮いた。
 光を照射された鶏が、中に浮いたのだ。
 そして、ふわふわとオニヨンに向かって上昇していく。ぎこちない上昇であり、何かの拍子に落下してしまいそうな危うさだ。
 だが、確実に、ゆっくりとだがオニヨンに向かっていく。

 そして、

「あ、よかった。元気がなかっただけなんですねー」

 吸い込んだ。

 次に、

「あー、すごーい!本当に回ってるー!」

 花が回り

「きゃー!すごい!見ました!ミス・ヴァリエール!種が出ましたよ!」

 種が出た。

 無言。
 ルイズには何があったのかよく理解できなかったが、自分が何をされそうになったかはよく理解できた。
 歳相応にはしゃいでいるシエスタは、ルイズの変化に気が付かず嬉々として説明をし始めた。

「ピクミンはですね!ああやってオニヨンに獲物を渡して、増殖するんですよ!おじいさんはオニヨンの数倍もある火竜を飲み込む姿を見たそうですよ!」
「・・・」

 ルイズは無言でピクミンを見る。
 相変わらずの無表情。
 口はなく、耳もなく、双眸と歪な鼻があるだけだ。表情など作れやしない。
 だが、見間違いであろうが、一瞬だけ。

ーーーーひゃーい

 笑っているように見えた。

「きゃぁぁぁ!!」
「え、あ、ちょ!ミス・ヴァリエール!どこに行くんですかー!」

 待ってくださいと叫ぶシエスタをよそに、ルイズは自身を追いかけるピクミンから全速力で逃げ出した。

 一つ、シエスタもルイズも気が付かないことがあった。

 彼女を追いかけるピクミンの左手に、奇妙なルーンが浮かんでいることに。
 それも、一匹だけでなく残った四匹全てに刻まれていることに。
 未だに地に眠る他のピクミンにも特徴的なルーンが刻まれていることに。

 彼女たちは、気が付かなかった。


ーーーーーーーーーー
気がついたらいい具合まで書いていたので投稿

なんか昔思いついたネタだったけど、誰かがやっていたらすみませんm(_ _)m

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誤字修正7/2



[33608] 後日談
Name: しらが◆08de7a47 ID:88f41ce1
Date: 2012/07/02 13:16

反響が予想外だったので急いで書き上げました
タイトル通り、後日談的な話

ーーーーーーー

 ルイズがピクミンを召喚して、十一日目。
 光陰矢の如しというが、召喚してから今までとは時間の流れ方が少し違っていた。
 それまでのルイズの生活といえば、魔法実践以外から成績を維持するため、空いた時間のほとんどを予復習に時間につぎ込んでいた。暇さえあればルーンのおさらいを行い、杖の振り方を工夫し、精神力を扱うための簡単な練習を行なう。
 だがどれも成果を挙げなかった上、学校では孤立。唯一話しかけてくるものといえば、仇敵である国境隣のツェプルストーのみ。
 緩やかに心は削られ、人目を忍んで涙を浮かべた数は数え切れない。
 
 だが、サモン・サーヴァントを成功してから、ルイズの生活は一変した。
 ピクミンという初めて見る生物の世話をするため、その対処は手探り状態。判らないことがある度、シエスタに泣きつき助言を請う。
 最初の一週間はまさに怒涛の日々。気を抜いてうたた寝すると、ピクミンにオニヨンへと運ばれそうになり、一度はあの謎の光線の一歩手前まで来ていたこともあった。
 ピクミンとともに過ごした生活は、一人で過ごした時間より、数倍の密度で時は流れていた。

 また今まで一度たりとも成功したことのなかった魔法、それを成功したということは、ルイズの精神に僅かな余裕を与えた。
 張り詰めた糸のような雰囲気はガラリと変わり、ルイズ本来の鷹揚で貴族然とした態度へと戻っていた。
 貴族らしいといっても、そこいらにいる凡俗な貴族ではなく、凛々しく毅然とした、他を圧倒し魅了する『貴さ』だ。
 奇しくも、その佇まいは『烈風』と恐れられた母譲りのもの。

 変わったのは、何も彼女の雰囲気だけではない。
 平民、主にメイドたちを筆頭に人気が高騰したのだ。
 ルイズはもともと人形のように美しい容姿をしている。体型の分を差し引いても、彼女が学年五指に入る美少女であるのは明確。
 同学年の男たちは嫌煙する気の強い眼差しも、心に余裕のできたためだろうか、いつもより柔らかになっていた。
 そしてシエスタと交流を交わしていくうちに、彼女の人となりが平民たちに噂として流れ、それはまわりまわって学院の生徒たちへと伝わる。
 時折物珍しいピクミンについて話を聞いてくる生徒も現れ出し、気がつけば、彼女は笑っていることが増えていた。
 そのせいでなのか何なのか、仇敵ツェプルストーは異様に余計に元気になり、喧嘩をする数もうなぎのぼりで増えていく。そのことにルイズは首を傾げ、そしてより鬱陶しくなった旨をシエスタへと愚痴ったが、シエスタはそれをくすりと笑うだけ。

 一番大変だったことといえば、やはりピクミンの世話だ。

 彼らは日が沈むと慌ててオニヨンに逃げ込む。何かに怯えるように、何かから逃げ出すように、オニヨン目掛けて走りだすのだ。
 一度、四匹の赤ピクミンを学院の中に引き連れて散歩していたことがあった。その時、窓から差し込む夕日を見たピクミンは尻に火がついたように暴れだすと、一直線に窓から飛び降りオニヨンへと帰っていったことがあった。
 慌てたのはルイズも一緒だった。
 すぐにシエスタの元へと駆け込むと、彼女は笑いながらピクミンは夜を怖がると教えてくれた。
 その理由はシエスタも分からないらしいが、村ではピクミンを見つけることが出来るのは決まって昼間だと話してくれた。
 近くにいたコルベールはその理由について、おそらく夜行性の動物から身を守るためだろうと語った。得意げに、誰も頼んでいないのに滔々と語りだすコルベールには、ルイズとシエスタの二人も辟易としていた。

 そんな体験の中でも、一番の大事といえば他のピクミンを引きぬいた時だった。
 赤ピクミンの時同様、ルイズは爆発を利用して青と黄色のオニヨンからもピクミンを引きぬいた。
 出てきたのは、口のついたピクミンと、長い耳を持ったピクミンだった。
 事情を知らない生徒は耳を持ったピクミンを見ると、叫び声を上げて逃げ出していった。騒動は連鎖し、噂には尾ひれがつき、あっという間に広場に『エルフがいる』という誤解が広がった。
 ハルキゲニアにおいて、エルフとは恐怖の象徴。そして同時に打倒すべきブリミルの敵とされている。サハラの奥地に住んでいる彼らは、人がちょっかいを出さない限りは常に引きこもっている鎖国的な一族だ。
 そんな彼らが敵視され恐怖されるのは、ブリミル教の敵でありブリミル教の聖地を占領しているということと、先住魔法という非常に強力な魔法を使うためだ。

 その討伐を行うため格属性を代表する教師に加え、オスマンまで出てくる羽目になったこの騒動だったが、結局美味しそうに黄色のピクミンを食べるシエスタの姿によって無事解決した。

 ルイズにとって針の筵だった学院生活は、ピクミンの召喚を切っ掛けに着々と変わっていた。

00000

 それは、よく晴れた日のことだ。
 日差しが降り注ぐ広場に、長机と椅子を2つ並べてある。

 座っているのは、ルイズとコルベール。
 そして二人の前にはシエスタがメイド服で、やや緊張した面持ちで立っていた。傍らにはコルベールから借りたと思われる黒板とチョーク。足元には並々と水の入ったバケツが複数個。
 机の上には赤、青、黄色の三色のピクミン。行儀よく座っているが、ときおり楽しそうに歌を歌っている。
 がっちがっちに固まったシエスタとは対極的に、こんな状況でも楽しそうに歌う彼ら。鼻歌のような歌声は、心地良いそよ風に乗って広場全体へと運ばれていく。

 一小節の区切りがついた頃だろうか、シエスタがとうとう動き出した。
 いつも浮かべている優しげな笑は鳴りを潜め、代わりに無理やり作り上げられたらしき、引きつった笑みが浮かぶ。

「で、では、はじめさせて頂きます」
『お願いします』

 ペコリと頭を下げたシエスタに続き、ルイズとコルベールが軽く頭を下げた。
 ほぼ九十度で頭を下げたためか、垂れ下がった前髪を軽く整えると、深呼吸をして口を開いた。

「本日僭越ながら教鞭をとらせて頂きます、シエスタと申します。な、何かわからないことがあれば、どうぞ、どうぞきにせずに仰ってください!浅学非才のみでありますが、鋭意努力させて頂きますっ!!」
「・・・とりあえず、そのぐだぐだな敬語やめなさいよ」

 呆れた表情でそう告げたルイズに、シエスタはその一言で泣きそうな顔になった。
 普段ルイズと楽しそうに談笑するというのに、一体何が不安でそうなるのか、ルイズには甚だ疑問だった。

「で、ですが!貴族様相手に教鞭をとるなんて、わたし、わたしぃ・・・!」
「別に不敬罪で罰したりしないわよ。この学院の中で一番ピクミンに詳しいのはあんた。それでそのあんたに教えを請いたのは私。だったらあんたはもっと堂々としなさい」
「そうですよ。タルブの辺境に住むという魔法生物ピクミン。学院の書庫をひっくり返してもなかった時は本当に驚きましたよ。少なくとも数万エキュー。あなたの知識にはそれだけの価値があるのですよ」

 方や面倒くさそうに、方や仰々しく。
 純正平民のシエスタにとって、畏怖の象徴である貴族に教鞭をとるなど、自分が魔法を使うぐらいあり得ない自体だった。
 おまけに公爵家子女と学院一の火の教師。
 通常ならば平民であるシエスタに対し、優しげな言葉をかけてくるなど滅多にありえない。おまけに、こうして『教鞭をとる』と言うことは、一時的にではあるが彼らより優位に立つということだ。
 位が上がれば上がるほど、歴史があればあるほど、貴族というものは体面を非常に重視する。そしてルイズは貴族の中でも最高位の『公爵』。
 彼女でなくとも、たじろぎ混乱するのはしかたのないことだった。

 いつまでもうじうじあわあわとするシエスタに、いい加減我慢の限界だったルイズが卓上の赤ピクミンを投げつける。
 べちっといい音を鳴らし、ピクミンがシエスタの顔に張り付いた。
 あわや窒息、焦ったシエスタはぱたぱたと手足を振り回し、べりっとピクミンを引き剥がした。

「ひ、ひどいですよ、ミス・ヴァリエール!苦しいじゃないですかっ」
「そうそう、その調子でいいから、さっさとやりましょう」

 にこり、笑いかけてきたルイズを見て、シエスタは自分がはめられたことに気がついた。
 結局暫くはもじもじと抵抗してきたが、ルイズの鋭い眼光に決意を固め、ようやく講義を開始した。

 まず手に取ったのは、先ほどルイズが投げつけてきた赤ピクミン。
 ぐっと頭部から花に至る茎?の部分を掴むと机に乗せた。

「えーっと、これが御存知の通り、赤ピクミンです。仄かな甘味が特徴で、ついでに燃えません。ですがーーーー」

 普通『ついで』が逆だろ、心のなかで突っ込んだルイズだったが、ようやく話しだしたシエスタに水を指すのもあれだったので、そのツッコミはグッと飲み込んだ。

 一度喋りだしてエンジンが入ったのか、先ほどの姿からは想像付かないぐらいに、滑らかにそして素早く動いた。
 取り出したのは、包丁。
 何をするのかは想像するに易かったが、それを言葉にする前にシエスタはそれを実行。
 振り上げられた包丁は、まるで何かに導かれるように、ピクミンの首を綺麗に両断した。
 跳ね飛んだ体液がルイズの頬とコルベールの頭部に跳ねる。
 さすがのコルベールも何が起きたかわからなかったのか、頭部についた液体を触って呆然としていた。

「ーーーーこのように簡単に切れます」
「あ、あ、あ、あんた何やってんのよ!?」
「えっ!あ、す、すみません!丸かじりのほうが良かったですか!?」
「っー!!そういうことじゃーーーー」

 と、そこまで叫んだルイズだったが、シエスタの表情を見て停止。
 彼女の表情が、まるでこの世の終わりのような顔をしていたからだ。

 平民にとって、貴族を怒らせるということは死を意味する。不敬を働いたという名目で、王都トリスタニアでは毎年多くの平民が切り捨てられているのだ。
 魔法学院に務める彼女たちにとってもそれは同義であり、また女性であれば適当な理由で手篭めにされることもある。
 それだけの差が、ルイズとシエスタの間に横たわっているのだ。
 よく思い出してみれば、シエスタはルイズと普段談笑する時も丁寧に言葉を選んでいた。例え親密になったとしても、その間にある溝というものは決して埋まらないものなのだ。

 泣きそうな、いや、半分泣いているシエスタを前に、ルイズは喉元までせり上がってきた罵声を飲み込んだ。

「ーーーー、な、なんでもないわ。急に起こって悪かったわね。続けて」
「は、は、はい・・・。あ、そ、そうだ。これ、どうぞ・・・」

 いつの間にか、細かく切りそろえられてスティック状になったピクミン。
 震える手で差し出してきたシエスタに、ルイズの思考は罵声を上げた。

 いや何故切った、というか何で食べるんだ!

 叫びたかったが、当然出来ない。やったら泣かれる。
 それをずいっと目の前に持ってこられた時、ルイズは平民と貴族の間にある理不尽を感じ取った気がした。
 おまけに、引きつった表情、それをシエスタは感じ取っている。
 過去に聞いた話しだったが、平民にとって貴族の機嫌を察知するのは必須技能だという。ちょっとした事で、無礼討ちに合わないため、双方気分を害さないためメイドや貴族に仕えるものは、まず最初に覚えさせられるという。
 その時はそのような慣習があったのかと感心したものだったが、今では何でそんなもの作ったんだと全力で詰りたかった。

 全精神力を持って、顔面の筋肉を制御。石像と化す顔をイメージ。表情が一ミリも動かないようにして、ゆっくりとシエスタの方を向く。
 彼女は既に泣き顔。泣くまでの秒読み、つまり詰み。
 無理して笑顔を作り出すと、震える手を根性で押さえつけ、切りそろえられたスティックに手を伸ばした。

「あ、ありがとう。気が利くわね!」
「そ、そんな!とんでもありませんっ!あ、コルベール先生もどうぞ」
「え、ちょ、え?」

 甘いですよ、そう付け加えたシエスタの顔が、悪魔に見えた。
 さすがに躊躇い断ろうとしたコルベールだが、主に右方向から飛んでくる殺気によってそれを行うことは出来なかった。
 もっといえば、その殺気が、雰囲気が、先日会いに行ってきた『烈風』殿にそっくりだったということもある。さしもの火のスペシャリスト、コルベールと言えども『烈風』の相手は無理だったということだ。

 震える手で、それを一本掴んだコルベールを見届けると、ルイズは自身の手にある赤いスティックを見つめた。
 何とかならないものかと、一旦視線をシエスタの方へと向けるがーーーーその後、全力で後悔した。
 どうやらスティックにされたのは、頭部のようだった。その証拠にシエスタの手元には、首のない赤ピクミン、そして切り落とされた葉っぱ。

 正直、吐かなかった自分を褒めてやりたかったルイズだった。

 改めてシエスタを見る。絶対に、間違っても、視線を下に落とさないようにして。
 ニコニコ笑顔の彼女は、きっとルイズがピクミンを食べて絶賛する姿を想像しているに違いなかった。
 だってピクミンを丸齧りするときの彼女の顔と言ったら、それはもう本当に『美味しい』という顔をしているのだから。全員引いていたが。

 自然に喉が鳴る。
 この感覚を最近味わったような気もしたが、それとは全く原因であることは確かだった。

 意を決して、赤いスティックを口に運ぶ。
 まず、最初に感じ取ったのはしゃきっとした食感。みずみずしいと言っていたが、本当にそうだった。最も近いものといえば、採れたての梨だ。
 次に、口腔全体にふんわりと広がった優しい甘み。すっきりとした甘みだが、それは果実というより冬野菜を食べた時の甘みに近かった。飲み込んでしまえば、口の中に全く残らない不思議な甘み。

 最後に口に残ったものを綺麗に飲み込んむと、ルイズの口から偽りのない言葉が漏れた。

「・・・納得いかないわ・・・」
「・・・私もです・・・」

 実に、実に、納得がいかなかった。
 欠片でも『美味しい』思ってしまった自分がいることに、二人は本当に悔しがった。
 小首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべるシエスタ。きっと彼女は絶賛の声が聞きたかったのだろうが、残念ながらどれだけ美味しかろうと、二人がそのような声を上げることはないと断言できる。

 とりあえず、手元にあったスティックをすべて食べきると、二人はシエスタに対し説明を続けるように要求した。

 次、シエスタが手にとったのは、黄ピクミンだ。
 件のエルフ騒動の下手人であり、学院生徒が最も警戒するピクミンの一種。
 ルイズもこいつには散々な目に合わされているため、正直なところ首を切られるのはこいつのほうが良かったと思っていた。ちょこっとだけだが。

「この子は、黄ピクミンといいます。特徴はレモンのような酸味です。あと、他のピクミンより器用で、時々武器を使ったりもします。今は手元に何もないので、実践はできませんけどね」

 ちなみに包丁はルイズがちゃんと回収していた。
 これ以上惨殺死体を生産するのは彼女も望んではいないからだ。
 心なしか、彼女の手元にいるピクミンも、安堵の表情を浮かべているようにも見えた。

 しかし、シエスタはルイズの斜め上を行く。

 もう一匹、いつの間にか青ピクミンを手に取っていたシエスタ。
 茎を掴まれ持ち上げられた彼らは、抵抗できずにぷらぷら宙に浮いている。

「で、この子は青ピクミン。特徴はハーブのような香りと苦味です。あと、他のピクミンと違って水の中で呼吸できます」

 ほら

 そういって、シエスタは二匹のピクミンを別々のバケツの中へと突っ込んだ。
 ぱしゃんと水が二人のところまで跳ねる。青ピクミンの方は特に問題無さげに、むしろ気持ちよさそうに水の中に浸かっている。そのうち歌まで歌いそうだ。

 しかし、黄ピクミンの方は違った。
 暴れている。
 全力で抵抗している。
 手足をばたつかせ、シエスタの手を振りほどこうとしているが、さすがに学院の雑事で鍛えあげられた彼女の膂力からは逃げられないようだ。
 抵抗するピクミンをよそに、シエスタは説明を続ける。

ーーーーわーわーわー

「このように、青ピクミンは大丈夫なのですが、他のピクミンは溺れてしまうのです」

ーーーーわーわー・・・

「青ピクミンは、ほら、顔にあるエラの部分で呼吸します。ぱくぱくしているところです」

ーーーーわー・・・・・

「気をつけないといけないのが、青以外のピクミンは長時間水に浸かっていると溺れてしまうんです」

 こんな風に。

 そして、遂に抵抗をやめ、水面に浮いたピクミンをにこりと指さした。
 指の先までピクリとも動かないピクミンを見て、二人は固まっていた。
 ルイズには何が起こったかがわからなかった。先ほどの斬首と違い、一瞬の出来事ではなかったため止めれたはずだった。だが、その分余計に苦しむピクミンの姿と、そしてそれを躊躇なく行うシエスタの姿に思考が停止してしまっていた。

 固まる二人を見て、シエスタは「さすが貴族、静かに聞いていらっしゃる」と勘違い。
 にこりと微笑むと、再び説明を開始。
 というより、調理を開始。

「黄ピクミンを美味しく食べる時のコツは」

 首を掴んだ。
 ピクミンをつかむ彼女の健康的な腕は、よくよく見ればうっすら筋肉が見える。適度に鍛えられた彼女の腕が、その力を発揮せんと血流を流し込まれ、陶磁の肌に青く筋が浮かぶ。
 そして、1.2倍ほどに膨れ上がった時、彼女の腕が拗られた。ぱきっと、何かが折れる音がしたかと思うと、机の上に黄色い汁が飛び散る。
 勢いが強すぎたためか、シエスタの顔と服にもその汁が跳ね、黄色いシミを作り出していた。
 煩わしそうに表情をゆがめたが、唇に飛び跳ねていた汁を舌で舐めとると、嬉しそうに、そして美味しそうに、純真無垢な笑顔を浮かべた。

「こうやって、溺死させたあと、今は包丁がないからこうやって捻じ切りますが、首を落とします。で、切り口を整えた後、こうやってキュウリの灰汁取りみたいに切り口同士を」
「ストップストップストップストーーーーップ!!」

 意識が現世に戻ってきたルイズは、まず真っ先にシエスタの手からピクミンを取り上げた。二つに分かれたピクミンを視界に入れないようにしつつ、とにかくシエスタからピクミンを遠ざけた。
 同じく意識が戻ったコルベールも、水に入っていた青ピクミンを避難させる。

 荒ぶる呼吸を整えると、ルイズは静かに、そして力強くシエスタへと言い聞かせた。

「と、とにかく、今日は調理法じゃなくて、ピクミンの生態に、生態について教えてちょうだい。いい、生態についてよ」
「は、はぁ・・・わかりました」

 名残惜しげにピクミンをみるシエスタ。
 ルイズはとにかく彼女の視界にそれを入れてはいけないと思い、自分の体の後ろへと隠した。それをみて、一体何をどう勘違いしたのか知らないが、シエスタはくすりと笑った。

「大丈夫ですよ。美味しく調理しますし、元々ピクミンはミス・ヴァリエールの使い魔なんですから」
「・・・ええ、またの今度にお願いするわ」

 いろいろと言いたいことがあったが、今それは放置。心の奥底に鍵をかけて封印する。
 今激高してしまえば、シエスタはきっとショックでまたうじうじ状態に逆戻り。そうなれば貴重なピクミンについての話が聞けなくなるし、今のシエスタとの良好な関係を崩したくないという気持ちもあった。

 手に持ったピクミンを一体どうしようかと、迷っていると、シエスタがあわてて声をかけてきた。

「ミス・ヴァリエール!早くしないと痛んじゃいますよ!」
「え、何が?」
「ピクミンです!あー!」

 シエスタの叫び声が響く。
 それとほぼ同時に、ルイズが両手で持っていたピクミンの感触がかわった。先ほどまでは瑞々しい大根のような感触だったのだが、叫び声を契機に一気に萎びて行くのを感じ取った。

「ひぃっ!?」

 思わず投げ捨ててしまったが、それが視界に入ったとき衝撃のあまり言葉を失った。
 二つに分かれた黄ピクミン。その体は色あせ、萎み、瞬く間に朽ちていく。
 死体が高速で朽ちていく様は、思春期の少女には厳しかったのだろう。尻餅をついて、半ば茫然自失としている。
 それをみていたコルベールもルイズと同じく、目を見開いて驚いている。
 が、凄惨な光景に言葉を発せずにいるルイズに対し、シエスタはというと実に残念そうな表情でそれをみていた。
 最も近い物で言えばスーパーの安売りを逃した主婦のような。

 地面に両手をつき、頭部を項垂れさせるシエスタ。
 すべてを絞り出したかのような呟きは、風に乗ってルイズの耳元まで届いた。

「あ・・・あ・・・勿体、ない・・・」
「・・・あんたそれ以外にないの?」

 もはや驚きを通り越して呆れしか出てこないルイズ。
 もうこの際、ピクミンの謎生態よりも彼女の脳内がどうなっているかが本気で不安になってきた。

「・・・とにかく、講義を再開しましょうよ」
「あ、はい」

 立ち直りが早いこと、すぐに立ち上がったシエスタはエプロンにつした誇りを払うと、軽く咳払い。
 学院生活で培った凛とした佇まいは、貴族であるルイズから見ても素晴らしいものだった。
 引き締められた表情には、自身が今二人に対して教鞭をとるという誇りが宿っている。
 真剣な表情で口を開いたシエスタに、ルイズでさえ自然と背筋が伸びた。

「では、気を取り直しまして。青ピクミンの調理法ですが」
「違うわよ!!」

 溜まりに溜まった鬱憤は、とうとう破裂したのであった。

00000

 ルイズは昼食を取るため一旦講義を中断していた。
 色々ためになる部分もあったが、9割ほどはピクミンの調理法だった。解説のたびに首をもがれるピクミン達に、ルイズのSAN値はガリガリと削られる。
 自分の使い魔をそのように扱われることに、彼女も思う所はあったのだが、それが食用であり正しい用途で使用されているためなかなか強く言えなかった。

 おまけに。

 抗議すると「何を言っているんだろうか」と真剣に悩まれる。
 ピクミンを取り上げると「わかってますよ」と笑われる。
 そしてブチ切れると泣いて土下座してくる。

「・・・疲れたわ・・・」

 彼女の心からの一言だった。

 疲れた。精神的疲労が半端ない講義。だが、講義を進め、知識を深めていくと、彼女の中に一つのある確信が出来上がった。
 後ろを向くと、今も健気に自分についてくる小さな使い魔。
 歌いながら楽しそうについてくるその様子からは、先程仲間を惨殺されていたとは思えないほどだ。
 とてとてと規則的に動くピクミン。軍隊さながらの行軍。ガラス玉のような眼。

 誰が見ても、彼らに感情があるとは思えないだろう。
 コルベールでさえも、彼らには感情がないだろうと推測していた。
 動物であればなんであれ、死への恐怖というものが存在する。それが見えないピクミンは、恐らく意識がないのかそれとも彼らがオニヨンの子球の亜種である可能性が高いという。
 子球であるとするならば、彼らが死を恐れない理由もある。いくらでも変えの効く、身代わりのようなものだ。
 意識がないのならば更に簡単だ。単純にオニヨンが餌を確保するための触腕のようなものと考えれば良い。
 コルベールはそう語り、あまり気にする必要なはないと言っていた。
 歌の類は仲間同士の位置確認。所々見られる人間臭い動作は体の動作確認。餌を求めて走り回るのは、それが彼ら本来の仕事だから。

 しかし。

「・・・あんたら、違うわよね」

 ピクミンを召喚してから、時折ルイズは不思議な夢をみるようになった。
 それは、ピクミンが生存競争における最底辺であった頃の記憶。ただただ食べられ、日々怯え、ひたすら種の存続だけを願っていた時代。
 とうとう限界まで狩り尽くされ、絶滅が目の前まで迫っていた時、彼らの前に現れた『彼』。

 『彼』はピクミンを巧みに操り、敵を狩り、数を増やし、彼らに生存するすべを教えてくれた。
 個では呆れるほどに脆い彼らに、群という力の形態を授け、ピクミン達に星の覇を与えてくれた。
 『彼』が故郷へ帰る時、ピクミン一匹一匹は心のそこから感謝し、そして決意していた。自分たちをここまで育ててくれた『彼』に、自分たち栄華を授けてくれた『彼』に、次会う機会があるとするならば、再び『彼』に力を貸そうと。
 返しきれぬ恩を、僅かばかり返そうと。

 彼らの瞳がガラス玉のようなのは、決して感情がないからではない。どこまでも純粋無垢だからだ。
 彼らが死を恐れないのは、その死が無駄でないことを知り、その死が主に必要だと確信しているからだ。
 歌を歌うのは位置確認のためではなく、光を喜び、風と戯れ、水に感謝を捧げ、そして死にゆく仲間に弔いを上げるためだ。

「力強く、美しく、生命力にあふれた、ね・・・」

 確かに、サモン・サーヴァントはルイズに答えたようだ。
 この世のどこを探しても、彼らほど力強いものはいない。
 彼らほど美しいものはいない。

 それがわかっていたが故に、ルイズにとってはとてつもない負担だった。
 きっと彼らは重ねているのだ。『彼』とルイズを。
 『彼』はピクミン達に星の覇という最高の褒美を与えた。ピクミンを指揮する『彼』が、百%の善意でやったとは思えない。それでもその働きに見合う報酬を与えたのだ。
 だが、ルイズにはいったい何ができる。
 再び戦争の起こりそうな時代になったとはいえ、ルイズが彼らにできることはあまりにも少ない。
 貴族である自身が戦争に行くのには何の躊躇いもないが、ただ使い魔であるピクミンはルイズが行くとすれば強制的に来ることに成る。そしてピクミンは都合のいい死兵として大量に消費されるだろう。
 減った分は死体によって、数は増やせる。むしろ減った時よりも増えるだろう。だが彼らがただ数を増やすために、召喚に応じたとはとても思えないのだ。
 きっと、何かを感じて召喚に応じたのだ。自身が『彼』に並び立つような英傑のたぐいであるとは思っていない。だが、そうでなければ、一体何で召喚に応じたのかルイズにはわからなかった。

 彼らは喋らず、ただ見つめてくる。
 沈黙を保ったまま、雄弁に語りかけてくる。
 だが、ルイズには彼らの望みがわからない。わからないまま、彼らから全幅の信頼をおかれているのだ。死すらも恐れないぐらいの。

 時折、無性に叫びたくなる。
 重すぎる信頼、純真な思い、それらすべてを思春期の少女が背負うのは無理があるというもの。
 余人であるならば悩みすらしないだろうし、そもそも、ピクミンの本質にすら気が付かない。

 しかしルイズはそれに気が付き、知ってしまっている。そして彼女はそれを無下には出来ない。
 良くも悪くも、心の優しい彼女は自身にすがる存在を無下には出来ない。期待には応えるべく努力し、嘆願は真摯に聞き届け、心のなかにある彼女の律を決して曲げようとはしない。
 それ故に、限界まで悩み、努力し、奔走する。力の及ぶ限り諦めようとしないし、幾千の民を守るためならば彼女は命すら捧げる。

 ルイズは今も背中を追いかけてくる使い魔を見た。
 いつもどおり歌を歌っている。その表情からは何も読み取れない。

 彼らは何を望んでいるのだろうか。彼らは何を待っているのだろうか。
 一体自分に何ができるのだろうか。彼らに応えることは出来るのだろうか。
 自分では決して及び付かぬであろう『彼』のように、ピクミン達に感謝される存在になれるのだろうか。

 戦争は近い。
 きっとピクミンは大勢死ぬだろう。
 その時彼らは何を思うのだろう。
 憎しみ、恨み、後悔。
 その何れかに違いない。

「・・・いつでも、逃げていいんだからね」

 返事が帰ってくるとは思えない。だがそれでも言わずにはいられなかった。
 『ゼロ』と罵られる自身の召喚に応じてくれただけで、もう十分。
 そっと、頭部についた白の大輪を撫ぜる。柔らかく、芳しい香りを放つそれは、ルイズに撫でられると嬉しそうにぴょんと跳ねた。

ーーーーよぉー!
「あいたっ!!」

 突然、大きく声を上げたピクミンは、ルイズの足を払った。
 勢い良く尻餅をついてしまい、衝撃が背骨から頭部まで走り抜ける。痛みと驚きで痺れる体を無理やり起こすと、おもいっきりピクミンを睨みつけてやった。
 帰ってきたのは、無言の圧力。初めて明確に感じ取ったのは彼らの感情。その迫力に気圧されたじろいでいると、急に近くの茂みがわさわさとなりだした。

「えっ!?ちょ、何やってんのよ!?」

 すると、どこから湧いてきたのだろうか。
 わらわらとピクミンの大群が押し寄せてきた。赤、青、黄色の群れ。召喚してからいつの間にここまで増えたのだろうか。思わずルイズの表情が引きつった。
 彼らは我よ我よとルイズを掴みにかかる。そして、普段からは想像できない勢いで、走りだした。
 手足をばたつかせ抵抗するルイズだったが、十を超えるピクミンの前には無駄な抵抗だった。

 突如抵抗するルイズに、やわらかな光が降り注いだ。
 赤みがかったその光に見覚えがあったルイズは、反射で上空を見上げた。
 そこにあったのは、いつも少し離れたところから見ていたオニヨン。初めて下から見上げるその光景に圧倒されるも、それがもたらす事実に彼女は凍りついた。

「ちょ、だめ!お願い!食べないで!!」

 本気で叫んでも、ルイズの願いは届かなかった。
 全身を光が覆うと、彼女の体がふわりと浮かぶ。
 もはや、死ぬまで秒読みだろう。病に苦しむ姉より先に死ぬことになるとは思わなかった。

 どんどん近づいてくるオニヨン。
 光が次第に強くなり、浮遊感はまして行く。

 近づき近づき、そして完全に彼女の体が入ろうとした時、ルイズは故郷に住まう家族に謝った。
 厳しいが実は優しい姉に、常に厳しかった母に、子煩悩で鬱陶しかった父に、いつもやわらかな笑みを浮かべていた姉に。

「皆!先立つ不幸をお許しくださ、い”!?」

 がんっと、凄まじい衝撃が頭部に響いた。
 ついで、浮遊感が消え去り、背中から盛大に地面にたたきつけられた。
 肺の空気を根こそぎ吐き出し、背骨に走った激痛に体を丸める。突然の出来事に思考は混迷、とにかく今はただこの痛みをどうにかして欲しかった。

 痛みと衝撃からもがき苦しんでいるルイズ。すると、いきなり右腕が誰かに引っ張られた。
 見るまでもない。ピクミンだ。
 口のある青ピクミンの表情は、どこか喜色に染まっており、他のピクミンも今までの無表情が嘘のように笑っているのが感じられた。
 痛みのあまり抵抗できない自身を引きずり、オニヨンの外まで連れてこられた。

「あ、あんたら一体」

 文句の一つも言ってやろうと思った時、ピクミンの花による一撃が彼女を襲った。
 淑女にあるまじき声を上げ、こんどこそはとっちめてやろうと思い攻撃態勢をとったが、そのとき漸く彼女は異変に気がついた。
 ピクミンが全てオニヨンの上を見上げている。
 釣られてルイズも見上げた時、オニヨンの花が唸りを上げて回り始めた。

 周囲に光の鱗粉をまき散らしながら、種を吹く時とは違い、どこか意気込んでいるような。
 そして、数秒たった時、それは起こった。

 小さな種がオニヨンから吹き出したかと思うと、それは地面に落ちることなく空へと駆け上がっていく。重力に逆らい、何かを目指すその種は上空数メイルほど上がると、唐突に爆ぜた。

 空に光の大輪が咲く。色鮮やかな複数種類の鱗粉は幻想的な光景を描く。降り注ぐ光の欠片はルイズを祝福するように明滅し、それを浴びるピクミンも楽しそうに動き回っている。
 世界のどの様な花が、今この光景に勝てるというのだろうか。それほどの美しさが、この光景にはあった。
 オニヨンを囲むピクミン達は子供のようにはしゃぎ、皆が声を揃えて歌を歌っている。
 呆然としていたルイズの右手を、ピクミンが優しく掴んだ。

「・・・何よあんたら、励ましてんの?」
ーーーーひょーい
「・・・もしかして、最初の時もこれを見せようとして?」
ーーーーひゃーい
「・・・ばっかじゃないの」
ーーーーひゃっほーい

 思い思いに踊り歌うピクミン達。
 ルイズの心に立ち込めていた暗雲はいつの間にか晴れ、広場には清々しいほど気持ちのよい風が吹いていた。
 騒ぎを聞きつけた生徒たちが、広場へと集結してきた。その尽くはピクミンに捕まると、先ほどのルイズのようにオニヨンへと連れて行かれる。

 連続的にあげられる光の花。
 その花は暫く消えることなく空へと上がり続け、ピクミン達の歌声は絶えることなく響き続けた。





 後の世に、伝説が生まれる

 『虚無』のルイズとガンダールブの軍勢

 戦場において無敵を誇り、世を平和へと導いた者たち

 エルフとの講和をも成し遂げ、ハルキゲニアの破滅を回避した英雄

 彼女の死後、彼女に仕えていたピクミンは、どこかへと消えてしまったという

 彼女の墓は彼女きっての希望でタルブの森の中に立てられた

 そしていまでも、タルブの森の中では、時折楽しそうな歌声が響くという


終わり


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