前書きとごあいさつ皆さまの作品を読んでいて、久しぶりに自分でも書いてみたいと思いました。東方とリリカルのクロス作品が少ないなと思い、こんな内容になりました。拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。諸注意として・当SSはリリカルなのはと東方のクロスとなっています。・ちょっととらハ設定も含みます。・ストーリーはリリカルベースに進みます。・設定上、なのはが魔改造されていて、オリキャラとして娘がでてきます。・同じく設定上、リリカル世界では限りなく最強キャラになります。・基本力押しで解決します。・それゆえ、強引な展開、ご都合主義ばかりです。・リリカルベースなのにどちらかといえば明るくないです。むしろ暗めに淡々と進みます。・独自設定やオリジナル設定が含まれています。以上の注意点が気にならないという心の広いお方に読んでいただけますと幸いです。
『誰か、力を貸して…。魔法の力を――』誰かの声が聞こえる。私はその声に呼ばれるように、導かれるようにその声の下に向かっていた。―――やめて。向かわないで!! なんだか他のどこかから声も聞こえた気がしたが、それでも私は向かっていて。現場に到着すると、何やら道が破壊されていて………。わけのわからないお化けみたいなものがいた。「来て…、くれたの?」声の方を見ると、昼間、傷ついて倒れていたのを見つけて病院に預けたフェレットがいた。このフェレットはしゃべるみたいだ。この子も妖怪だったのかな?(妖怪? 何言ってるんだろう、私) フェレットが言うにはこれは魔法の力が暴走して出来た化け物で、私にはそれを封印する力があるらしい。私は説明に従い、魔法の杖を準備した。封印の為に立ち向かおうとしている。―――まだ間に合うの。そこから逃げて。 ………また、何か聞こえたが無視する。私は化け物を封印しようと立ち向かい、そして―――。「次元震が―――」 フェレットのそんな言葉を最後に私、高町なのははその場から消えていた。 「懐かしい夢を見たの」 だいぶ昔の夢をみたみたい。今の私の始まりの時の夢を。「逃げてか。 あの時逃げていたら違う未来もあったのかもしれないね。もう今さらだけど」 あの後は本当に大変だった。突然周りの景色が変わって。それでも暴走を続けている化け物を魔法の杖、レイジングハートに従って封印して。漸く一息つけたと思っても周りには何もなくて、今いる場所が分からなくて。不安で泣いていた記憶がある。たまたまそこを通りがかった人に助けられなければ私はそこで死んでいたかもしれない。「その時からの付き合いだよね、輝夜」私はそう言って、隣で寝ていた輝夜に声をかける。「一週間眠っていて、やっと起きたと思ったらいきなりそれ? まあ、蓬莱人に死はないけど、これでも多少は心配したのよ? それにあなたは少し特殊だし」 あの時通りがかった人が輝夜の保護者で、輝夜が私に興味を持ったため一緒に暮らしていた。おかげで生活は何とか出来たけど、いろいろ大変だった。生活が落ち着いて状況を把握していくにつれて、私はどうやら過去に跳ばされたらしい事を理解した。街並みなど、明らかに現代ではなかったし。「一週間? 今までそんな事なかったけど」「なのはの娘の桜も同じでずっと寝ているわ。 もっとも、あなたが目覚めたのなら、あの子も目覚めているかもしれないけど」 過去に来ていると予想してから、私は何とか未来に帰る方法を探した。ただ、力も何もない状態で探しに行っても無駄だと思ったから、魔法や霊力の扱い方を学んでいた。数年がたち、それなりに力がついてきた。年齢も現代なら中学に通っているくらいにまで成長した。それでも私は変身魔法で当時の姿をとり続けていた。思えば、現代を忘れたくなかったのかもしれない。そんな時、輝夜が月から迎えが来ると言いだした。おとぎ話のかぐや姫じゃあるまいし。おとぎ話が実在するなら、私も未来に帰る方法に一つ心あたりが合っただけに、安易に信じることができなかった。貴族やら何やらからの求婚に追われておかしくなったと思った。そんなに求婚が嫌なら私と同じく姿を偽れば良かったのに。「あの子もそんな状況だったの? 大丈夫なの?」「あの子はあなたと違って、不死じゃない。種族、魔法使い。だから念の為、永琳についてもらっているから安心して」 結論から言うと、輝夜は本当にかぐや姫で、月から迎えが来ることは事実だった。おとぎ話が実在することが証明された。もっとも、輝夜は迎えに来たはずの永琳と共に他の使者を殲滅していた。なぜか私も協力することになったが………。私の知ってるかぐや姫とちがう。まあ、手伝ったお礼に蓬莱の薬とかいうものをもらったけど。もらってしまったけど。薬を渡すとともに私が未来からやってきた事情をしる輝夜は一つの提案をしてきた。曰く、未来に戻る方法がないのであればそれまで生き続ければいいのではないか、これを飲めばそれが可能なのだと。当時の私はその薬が不死になる薬だとも思わず、輝夜なりの励ましであると思い何も考えずにその薬を口にし、不死の蓬莱人になった。それがどういう事なのかも理解せずに。変身魔法で小学生当時の姿の時に使用したためかなぜか中学生の姿と小学生の姿を使い分けられる異常な状況になっていたけど。「じゃ、様子を見に行かないと。 いくら月の頭脳と言われる永琳でも原因不明は荷が重いかもしれないの」「本当になのははあの娘のことになると心配性ね…」「仕方ないの。あの娘は私の生きる希望なの」「蓬莱人が何を言ってるんだか…」 蓬莱人になって、死ぬことがなくなった私はおとぎ話の場所を探すために輝夜と別行動をとることにした。輝夜たちは安住が出来る地を。私は魔法の杖、レイジングハートからの情報の死者蘇生や時間遡航が出来るおとぎ話の地をそれぞれ目指すことにした。そこを探して、100年ほど、もっとかもしれないが、次元世界と言われる様々な世界を旅してまわったが情報のひとかけらも見つけることができなかった。仕方なく、自分で研究しようと当時の研究者を集めて開いた地がおとぎ話と同じ名を名のっていたのは何の皮肉かと思いもしたが。もっとも、もうその地はない。研究者が私のクローンを作成し始め、生まれたクローンを実験の名のもとに非道な行いをしていたから。私が魔法、霊力それぞれを使って全力で滅ぼした。もう時間遡航は諦めて、そのクローンの唯一の生き残りと一緒に地球に帰ってきた。たぶん、地理的には現代で私が住んでいたあたりに住居を構えた。私はその娘に桜と名づけ、なれない子育てを必死にしていた。桜は、私と同じ時を生きたいと必死になって種族魔法使いになった。身体年齢はちょうど成人を迎えたくらいだから、普段小学生の姿をしているわたしと並ぶと桜が母親のように見えるけど、それでも私を凄く慕ってくれている娘だ。しばらくの間その地で妖怪退治などで暮らしていたら気づいたら祀られていた。私ように社も作られた。「何も知らなかった私に蓬莱の薬を差し出したくせによく言うの」「多少は悪かったと思っているわ」「多少なの?! 月を奪うなんて大それた異変を起こした人は言うことが違うの。異変解決の為に駆り出された身になってほしいの」「それは言わないで。そのことは散々スキマ妖怪に注意を受けていたわ」 社をたてられ、祀られた私たちは多少のやりづらさは感じながら、しばらくそこで暮らしていた。しかしそれでも世代が何代も変わってくるといつまでも存在している私たちに対して恐れだし、拒絶するようになってきた。ちょうどそんな時だった。私たちの前の空間が突然割れ、スキマ妖怪・八雲紫が現れ私たちを幻想の住む郷、幻想郷に誘ったのは。私たちのような、徐々に人々に忘れられていく存在が集まっている郷。私たちはそこへ移住することを決めた。この地の守護も気になってはいたが、時々見に来られるということで、納得することにした。「あら? 月の人間はまた異変を起こすつもりかしら?」「紫なの? 相変わらず突然出てくるの」「旧友が目覚めたのですもの。 様子ぐらい見に来るわ。それに頼みたいこともあるし」「このスキマ妖怪は相変わらず何を考えているのやら。なのはも良く付き合うわね?」「紫にはいろいろ世話にはなっているからね。厄介ごとも多い気がするけど。ただ、今は桜の様子を先に確認したいの」「あら? 今までの依頼ではそれほど苦労しなかったのではなくて? 桜はもう目覚めていたから先に簡単に説明をしておいたわ。それに今回のことはきっとなのはが解決しなければならない事ですのよ?」 幻想郷に移住をした私たちは漸く平穏を手に入れられたのかもしれない。しかし、人外が普通に生活している土地。当然トラブルが絶えなかったが、そこは私たち親子と紫、そして博麗の巫女が解決をしていった。ただ、紫と博麗の巫女は幻想郷内のトラブルを優先して解決するが私たちは幻想郷外の世界の存続を揺るがしかねないトラブルの解決まで請け負うことになったが。それは幻想郷が結界をはり、外の世界と隔離された後でも変わらず、私たちはトラブル解決に奔走させられた。おかげで、というべきか私たちは幻想郷内で生活をしながら外の世界への移動も比較的自由に行う事が出来た。「スキマ妖怪。それはどういう事?」「あら、月の姫も気になるかしら? でもなのはは察しているのではなくて?」「それは私たちがここ一週間眠っていたことと関係があるの?」「そうかもしれないし、違うかもしれない。ただ一つ言えるのは、昨夜大きな魔力反応がおこり世界が壊れかけた事とこの時代の高町なのはが消えた事くらいかしら」「…そっか。どこぞの吸血鬼にも言われていたけど運命を変えることは難しいことなの………」「おそらくなのは達親子が眠っていたのは、存在が確定しなかったせいね。この時代のなのはが消えることで…、いえ、過去へ移動することであなた達が存在することが確定した。なのは、あなたは歴史を改変しようとしていたのでしょう?」「そうなの、なのは?」 外の世界の異変を解決していくたびに私は思っていた。徐々に発展していき私の知っているそれに近づいていく文明。学校で習った歴史の通りに進んでいく世界。変えたい歴史、変えたい過去があり、先を知っている私にはそれが出来るのではないか?例えば高町なのはが過去に移動しない歴史もあってもいいのではないか?その時に私や、私に関わった全てがどうなるかわからないが、それでも捨てきれない希望の一つではあった。「私にも良く分からないの。でも、私が現代で普通に時を過ごす運命があってもいいかもしれないとは考えていたの」「なのは…」 輝夜が気遣ってくれる。今私はどんな表情をしているのだろう?「歴史の改変は新たに一つの世界を作り出すことと同じようなもの。そんな大それたことは私の身には重すぎたってことなの」「なのはが何を考え、どう動こうとしていたかはわかりませんしそれをとがめるようなことはしません。しかし、今現在外の世界がその魔法関係の事情で危機に瀕していることは確かな事。なのは、行ってくれるわね?」「スキマ妖怪!! あなたはなのはの事を知った上でそんな事を言うの?」 輝夜が紫にかみついている。紫は相変わらずだ。でも今はその態度がありがたい。「わかったの、紫。詳しい事を聞かせてほしいの。桜と一緒にいつも通り解決してくるの」「なのははそれでいいの?!」 輝夜は口ではあまり言ってこないが私の事情をとても気にしてくれている。蓬莱人にした事も。「いいも悪いもないの。それが私の仕事なの」「それじゃあ、桜をまじいて詳しい事を話します。それと、しばらくぶりに実家にでも帰ったらどうかしら? 今この世界で生きているなのははあなただけよ?」 紫がいたずらな表情でいってくる。これでも気にしてくれているのかもしれない。「…まずは異変を解決してから考えるの。それはもう諦めていたものだから」「そう…」 紫も輝夜もそれ以上は何も言わなかった。 こうして私と桜は外の世界、私の生まれた街である海鳴市へと異変解決の為向かう事になった。今の私になるきっかけである異変。何も思い入れがないと言えば嘘になる。それでも、いつも通り解決していけばいい。ただ漠然とそう考えていた。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「なかなか見つからないの…」 私たちが海鳴市に来てから数日がたった。一応住居は紫がマンションを用意してくれていて生活には問題はなかった。紫とレイジングハートの話では、今回の異変の原因となっているのはジュエルシードと言われる宝石で、全部で21個あるらしい。調査を開始してすぐに、犬に取りついていたそれを一つとその他にもいくつかは封印することができたが、その後はなかなか見つける事が出来なかった。見つけさえすれば私でも桜でも簡単に封印出来るっていうのに。「仕方ありませんよ、母さま。普段はただの宝石のように何の反応も示しませんし」 桜とともに街を歩く。一応この地で祀られていた事もあったから二人とも巫女服だ。見た目は子供の私と、大人の桜。クローンというだけあって桜は私にそっくりだから、親子には見られるかもしれないが、どちらが親に見られているのやら。「それもそうなの。意外と長引きそうな依頼なの…」「二人で別れて別々に探した方が効率が良いのでは?」 桜がもっともな事を言ってくるが。「それはだめなの。私がこの格好で一人で居ると世間が黙っていないの…」 子供が昼間から街をふらふらしていたら警察のお世話になる。「それでしたら変化を解けば…」 呆れながら桜が言ってくる。でも、それでも今の小学生の姿から中学生程度に変わるだけ。きっと何の解決にもならない。「それでも変わらないの。今日は休日みたいだから、一人で歩いていても平気だとは思うけど、たまには親子二人でのんびり外を散策するのもいいかもしれないの」「母さまがそう言うのでしたら私は構いません」「まあ、次に見つけたら桜が封印をお願いね? レイジングハートもよろしく」 そう言って桜の方に視線を向ける。その胸元にある宝石は魔法の杖の待機状態。不死の私よりも桜に持たせていた方が何かと安心だ。もっとも、自分で作成した魔法ばかりを使っていて、それを使うことはほとんどないが。私たちの使う力と、レイジングハートの使う力だと系統が違うみたい。「わかりました」『了解しました』 桜とレイジングハートがそれぞれ答えてくれる。レイジングハートは念話でだが、長い年月を共にしているだけあって、日本語もすっかりうまくなったものだ。「でも、焦っても仕方ないみたいなの。それよりもうすぐお昼だけど桜は何か食べたいものはある?」 せっかく外の世界に出ているんだし、桜には楽しんでもらいたい私はそう聞いてみたところ、「それでしたら、母さま。このお店に行ってみたいです。この街にあるみたいですし」いつのまにか雑誌を手に入れていた雑誌を開いて私に見せてくる。「…翠屋? なんか聞きおぼえがあるの…。有名な店なの?」 なんだか引っかかる。聞いたことがあるような、ないような。ひどく懐かしいような。「さあ? それは母さまの方が詳しいのでは? ずっと昔とはいえ暮らしていたのですからその時に聞いていたとしてもおかしくないですし」 昔ねえ?…あ、そっか。思い出した。「そこ、私の両親が経営しているところなの。意識していないと昔の事は忘れてしまうの。でも懐かしいの」私たちはまだ、海鳴りに来てから家族に会いに行っていない。「あら? それはちょうど良かったじゃないですか? 私もごあいさつしなきゃいけませんし。母さまも久しぶりにご両親にお会いしたらどうでしょうか?」 桜は乗り気だが私はそこまででもない。家族に会うことはだいぶ前に諦めていた事だから。「…私にとっては1000年ぶり位かしら? もう今さらな気もするの」「それでもせっかくですし。食事のついでにでもお話出来たら嬉しいです」「桜がそう言うなら…」 すっかりその気になった桜とともに私たちは翠屋へと向かうことにした。
翠屋に向かっていた私たちだが、予想外の光景、ある意味想定してしかるべき光景を目にしていた。すなわち「臨時休業ですか?せっかく楽しみにしてきましたのに。――そこの人。この店はよくお休みするのですか?」 桜が残念そうに言う。休日の昼時にも関わらず、お店が閉まっていた。せっかく来たのにと悔しいのか通りがかりの人に何か知らないか聞いている。「いきなり何だよ? ってか巫女服?」通行人は戸惑っている。それはそうよね。「いいから答えなさい。何か知らないのですか?」 相変わらず桜は身内以外には厳しい。「…知らねえよ?! いや、噂でなら聞いたけど」「それでいいから教えなさい、役立たず」「役立たずってなんだよ?! え? 俺が悪いの?!」 …本当に容赦ない。ノリのいい人で助かった。しかし、このままではさすがにどうかと思い仲裁に入る。「桜、その辺にしておくの。そこの人が何かの役に立つと考えている事自体が失礼なことなの。これでも必死に生きているんだから許してあげるの」「親子そろって容赦ね―な!? …もういいよ、とりあえず噂の話な。最近何かと物騒な話が多くてな。突然道が崩壊していたり、この先にある動物病院も軽く崩壊したし。いい迷惑だよ。休業しているのはそれの次の日からだから何か関係があるのかもしれない。他にも、最近行方不明になった女の子が居てそれがここの経営者の娘だって話もある。まあ、どちらにせよただの噂だから―――」「だいたいもうわかった」「少しは役に立ったみたいですね? もういいですよ」「本当に失礼な奴らだな?!」 何か叫んでいる通行人を無視して、私たちはその場を後にする。しかし、娘が行方不明か。どう考えても私の事だね。ということは私は捜索されているわけで…。良く今まで見つからなかったものだ。それでも一応、両親に顔を出しておいた方がいいのかもしれないが…。「母さま、予定が狂ってしまいましたね。どうしますか?」 桜の言っているどうするとは、私の両親に対しても含まれているのだろう。「どうもしないの。他でご飯を食べて、捜索の続きをするの」「それでいいのですか? 昔はあんなに会いたがって―――」「どうもしない」「…わかりました」 桜が不服そうにしているが、気にしないことにして捜索の続きをすべく進路をとった。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 昼食をとって午前と同じく捜索を続けていたが、やはりというべきかなかなか進展しなかった。発動さえしてくれればすぐに見つかるのだが…。そう考えていると―――「母さま、これは!」「漸くみつけたの。………発動前に見つけられるのが本当は良かったのかもしれないけど、とりあえず現場に向かうよ。とっとと封印する」 散々歩き回っても見つからなかったが、発動してくれた事により、魔力反応を捉える事が出来た。私たちは急いで現場に急行する。発動を願っていはしたが、一応この地を守っていた過去がある。被害は望むところではない。空を飛べれば早いのだが、今の時間だと目立ってしまう。…でもまあ、今さらか。止める桜を無視して私は空へと上がって行った。「これはまた、凄い光景ですね」 私に続いて飛んでやってきた桜がそう言うが無理もない。現場に到着した私たちが目にしたのは街中を荒らしている巨大な樹木であった。「そうね。早く発動の中心を探さないと被害が余計に広がる。急いだ方がいいわね」「とりあえず結界を展開して空間を隔離します。一般人の被害を食い止めないといけないですね」「そうしてちょうだい。桜に頼もうと思ったけど、今回も私が封印するわ。私の守護した地でなめた真似をしてくれたお礼はしておかないと」 被害の拡大を食い止めるために桜が結界を展開してくれた。これで、元凶であるジュエルシードと私たちだけの空間の出来上がり。…のはずだったんだけど。 周りの目を気にしなくて良くなった私は、再び空へと舞い上がり発動の中心と思われる方へ飛んでいく。これだけ反応が強ければすぐにわかったが、その途中で面白いものを見つけた。「ちょっと! これ何なんだよ?! 突然木が襲ってきたかと思えば、今度は周りから人が消えるし! しゃべるフェレットはいるし!! どうなってんの?!」「その事は後で説明しますから、今は僕の後ろに隠れてください!」「小動物に守られてるって、どういうことなの?! 変な親子に絡まれるし、今日は厄日か?!」「いいから言う事を聞いてください。今の僕では狭い範囲を守るだけで精一杯なんです!」 意外と余裕がありそうに騒いでいるのは先ほど翠屋の前で話を聞いた通行人。その通行人を襲ってくる木から防御魔法か何かで守っているのは、忘れられないあのフェレット。私は一度中心を目指すのをやめその場に降り立つ。「通行人、変な親子って誰の事?」「うわ!? また出た?! ってか空飛んでなかった?!」「君はあの時の。無事だったん―――」 フェレットが何か言おうとしていたが「フェレットは黙ってその通行人を守っていなさい!」 フェレットを睨みつけながらそう言う。しゃべらせてなんかあげない。このフェレットがあの時私を呼ばなければこんな私になる事はなかった。とても許すことはできない。それは逆恨みかもしれないしそうでないかもしれない。それでも私には割り切る事が出来なかった。「通行人は素直にそれの後ろで素直に守られていなさい。あれは私が何とかしてくるから」「なんかキャラ違くないか?! ってかあれをどうにか出来るの?」「うるさいわね。いいからここにいて。あれをどうにかするのが私の仕事よ」 通行人は相変わらず余裕があるみたい。危機感がないのかしら?「あれをどうにかするって、危険すぎる!!」 危険すぎるか。それは十分すぎるほど知っている。それにこいつは何を言うんだろう。あの時は何も知らない私を呼び寄せておいて、今さらそれを言うのか。感情の高ぶりを抑えられない。「さっきもいった。フェレットは黙っていて! あの暴走に巻き込まれて、私がどれだけ苦労したか知らないあなたに何かを言う資格はない! 今はその通行人もいるし見逃すけど、本当なら殺してやりたい。通行人を守り切ったら、すぐに消えてちょうだい。次に顔を見たら自分を抑えられる自信がないから」 殺気をフェレットに向けて言うとおとなしくなる。心なしか顔色も悪いようだ。…フェレットの顔色なんてわからないけど。「殺すとか穏やかじゃないね。君は何者だい?」 通行人が突然まじめな顔でそう問いかけてくる。私が何者か?「それを知ってどうする、人間?」「最初に見かけたとき気づいたが、雰囲気が知り合いと似ていてね。少し気になっただけ」 こいつ、猫を被っていたのか?危機感がないのではなくて異常に慣れていたのかもしれない。「まあいいわ。私は高町なのは。この地の守り神。守護者。外の世界の番人。好きに呼べばいい」「守り神ね。聞いたことがあるけど本当に居たんだ? それじゃあ、あれは任せてもいいかな? 俺には荷が重すぎる」 聞いたことがあるか。そっちの関係者なのかもしれない。まあいい。「最初からそう言っているわ。あなたはここでおとなしくしていればいい」「わかったわかった。任せるよ。それとフェレットの事だが―――」「それはあなたには関係のない話よ」 その会話を最後に私は暴走の中心へと再び向かって行った。 その後、暴走の中心をみつけた私はあっさりと封印を施しジュエルシードを回収。桜と合流して自宅へと帰ってきた。「暴走の中心に小学生くらいの男女がいたの。人間を媒介にすると凄い力を発揮するって聞いていたけど、規模はともかく大した力じゃなかったの」「母さまが相手ですからね。その子たちに怪我はさせなかったのですか?」 私を何だと思っているのか。そんなにひどくない。「そんなへまはしないの。普通に遠距離から霊撃を撃ったら簡単に封印出来たの。能力を使うまでもなかったの」「まあ、母さまの能力は反則とまではいかなくともなかなか凶悪ですからね」「桜、さっきから少し厳しくない?」「母さまが隠し事をしているからではないでしょうか?」 隠し事とは、結界内での出会いの事だろう。隠していたわけではないが。「…見ていたの?」「ええ。結界を張るだけでやることも他になかったもので」「そっか。見ていたらわかったと思うけど、通行人がいたの」「それは知っています。確か母さまは珍しく自分の名前まで教えられていましたね。多少こっちの世界にも理解のある人間のようでしたが。でもそれだけではないですよね?」 桜がききたいのはもう一つの出会いののようだ。「…フェレットがいた。私が過去へ跳ばされた日に出会った。私はやっぱり割り切れないよ。過去に跳んだ事でいい事も確かにあったし、今は桜もいる。だけど、それでも考えてしまうのよ。普通にこの時代で生活することが出来ていたらって。どうしても恨んでしまう。殺してやりたいとも思ってしまう。長く生きていてもそれだけ。この感情は抑えきれなかったのよ」 自嘲気味にそう言う。過去に跳んだことで出来た絆も確かにあるし、そうでなければ桜は生まれる事はなかった。それでも、何もなく過ごせていた自分を想像したことは何度もある。こんな体にもならなかっただろうし、悲しい経験も今よりも少なかったのではないか。そんな風に考えていると「母さまの好きにしていいのではないでしょうか? 母さまは蓬莱人で、神としてまつられた事はあっても、結局のところもとは人間です。妖怪とは違う感性も持っていますし、それを否定することはできないと思います」「でも…」「それにどんな事になっても私は母さまの味方ですよ?」 桜がそう言ってくれる。この娘はいつも私を助けてくれる。この娘がいなければ生きることに絶望していたかもしれない。…これではどちらが親かわからない。「ありがとう、桜」 そう言って桜に抱きつく。 次にフェレットに会ったときにどうなるかなんてわからない。今度は本当に感情を抑えきれないかもしれない。けど、その時はその時で。今は何も考えずにこの娘のぬくもりを感じていようと思った。
「今日は捜索を休憩にするの」「…唐突にどうしたのですか? また、暴走したら被害が広がりますよ?」 樹木の暴走体を封印した次の日の朝、私は桜にそう提案した。旅行雑誌を桜にみせる。「暴走したら距離が合ってもわかるから問題ないの。それに毎日探しても見つからないってことは、探す範囲が狭かったのかもしれないの。休息と気分転換、ついでにジュエルシードがあったらいいな位の気持ちで旅行に行くの」「本音の部分は隠して下さい。…でもいいかもしれませんね。温泉ですか?」「そうなの。ここからそんなに離れていないし。きっと、私には休息が必要なの」「自分で言うことでもないと思いますが。わかりました。早速予約を入れてきますね?平日ですからきっとすいてるでしょうし」 そう言って予約の電話をしに桜が席を立った。でも、実際茶化して言ってはいるけど私には少し気持ちの整理の時間が必要だった。昨日の私の状態を見ていた桜も口ではああ言っているがわかってくれている。それに今回の依頼は別に時間制限があるわけではから少しくらいならいいと思うし。「予約は済みましたよ。やはりすいていました」「それじゃあ、用意をして早速向かうの」 そうして、気分転換に私たちは小旅行に向かった。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「やっぱり街中だとなかなか見つからないの」「散々歩き回りましたからね」 小旅行を二人で楽しんだ翌日、私たちは相変わらず街中を捜索していた。「やっぱり探す場所が悪いの」「だからと言ってまた旅行へ行こうとしてもだめですよ?」「そう言うけど、結局旅先で一つ見つけることが出来たの。博麗の巫女ほどではないけど私の勘もなかなかのものなの」「確かにそうですけど…」 旅先で森を散策している時微弱な反応を捉え、暴走前のジュエルシードを一つ確保することができた。もっとも、旅館の人が私をみて何かを言っていたようであったが。そのあたりは桜が対応してくれたため、何を言われていたのかは詳しく知らない。「道にないのなら、どこかの敷地内にあるの。具体的にはこの屋敷が怪しいの」 ちょうど目の前にある、大きめの家を指してそう言う。これだけ敷地があれば一つくらい落ちていてもおかしくない。…かもしれない。「はあ、もういいです。母さま、なかなかみつからないからって、少し飽きてきていませんか?」 何をいうんだ。確かに昼間ずっと探し続けて。今はもう少し日が落ちてきてはいるが、そんな事は…、少ししかない。「…そんなことないの」「どうやって中を捜索するんですか?」「当然、こっそり入ってこっそり探すの」 そのまま、空に跳びあがる。「ちょっと、母さま! はあ、私は一応事情を話してきますね」「無駄だと思うけど、一応お願いするの」 桜がそう言っていたが、私はそのまま塀を越えて、敷地内に飛びこんでいった」 結論から言うと、暴走前のジュエルシードを見つけることは出来た。出来たのだが「ちょっと、何なの!? 最近の一般家庭はこんなに迎撃機能を付けるのがふつうなの?!」 ちょっとあり得ない状況に陥っていた。たまたま、入ったその場にあったジュエルシードを封印。そのまま、もう一つくらい落ちていないか捜索しようとしたら、警備システムだか何だかに感知され、そのまま迎撃システムシステムが作動したらしい。「実弾とか、あり得ないの!? ここは日本だったはずなの! あう。痛いの…」 最初は非殺傷のゴム弾。気づいたら、無数の実弾の銃口がこちらを向いていた。必死に避けてはいるが、さすがに全てを避けきれるわけでもなく何発かすでにあたっている。すでに血まみれである。私は妖怪ほど堅くないし、桜ほど防御を固めていない。どうせすぐに回復するけど、痛いものは痛い。空に上がればこの程度は避けるのは出来るし、魔法や霊気で迎撃することも考えたが、監視カメラにみられている今はそれも得策とは言えない。私は必死になって逃げ続けた。『あう。ちょっと…、あり得ないくらい警備が激しいんだけど、桜の方は問題ない?』 桜が心配になり、念話を送ってみた。その間も何発か被弾している。『こちらも少し問題が。よくわからない人間?と、少しあり得ない動きをする人間。それと良く分からないメイド二人と交戦しています』『大丈夫なの? 痛!! 怪我はない?!』『この程度なら全く問題はありませんが。むしろ母さまの方こそ平気なのですか? そちらから凄い音が聞こえてくるのですが』『私はこの程度慣れているから。でも、とりあえず合流するよ。今はどこ?』『屋敷の外ですよ。庭と言うんでしょうか』『わかった。そこに向かうよ』 そこまで念話で会話して、私は屋敷の方向へかけた。次々に被弾し、傷だらけになるがもう気にしなかった。ひたすらまっすぐに向かう。あの娘に何かあったらと思うと、自分の傷を気にしている余裕はなかった。そして「桜!! 大丈夫??」 漸く桜を肉眼で捉えることが出来た。見ると、4人の男女と対峙している。相手は銃や小太刀を持っている。すぐに駆けつけ、横に並び立つ。「ちょっと、母さま! 傷だらけじゃないですか?!」「そんな事はいい。桜は怪我はない?」「今程度の相手でしたら問題ないとさっきも言いましたのに…。そんな傷だらけになって―――」「それでも心配だったの!!」 確かに今の私はひどい格好だ。桜とお揃いの、白を基調とした巫女服は穴だらけで、傷だらけで、私の流した血で真っ赤に染まっている。私自身もまだ、傷が治りきっていないため、そこかしこから血を流し続けている。小学生の姿だと、傷の直りが遅いのは相変わらずのようだ。相手も私の姿に驚いているのか、動きが止まっている。「それで、どういう状況? 確か桜は事情を説明しに―――」「なのは!!」「なのはちゃん!!」「はい?」 私が桜に状況を聞こうとすると、突然相手の男女に名前をよばれた。直後、小太刀を持った男が鬼気迫る表情でこちらへかけてきた。ちょっと、ほんとあり得ない速度がでているんだけど…。まあ、確かに早いけど、私に見えるって事は桜にも見えるってことで「無駄だと言いましたよ」 すかさず桜が迎撃。迫ってきた男に蹴りを一撃。桜は魔法使いだがなぜか体術も得意で。ほんとになんでだろう。男は何とか防ごうとしたみたいだが、それでもダメージを受けているのか、もとの位置まで後退している。確かにこの程度の相手なら桜が如何にかなるはずもないかと、漸く感情に少し余裕が出てきた。でも、「どういう状況なのよ」 相手の男は悲壮な表情。女は蒼白で、何か取り返しのつかない事をしてしまったかのようで。メイドの二人は、一人は冷静にこちらを見やり、片方はおろおろしている。「さあ、わかりません。言いがかりを付けられましたのでそれに答えていましたら。気づいたらこんな状況でした」「そうなの? そこのメイド、桜に何を言った?」 相手の中で一番冷静そうなメイドに聞いてみるが、「なのはちゃん、そんな事より早く病院へ!!」 蒼白な表情をした女がそう叫んでくる。そう言えば私は血だらけで、まだ治っていないところもあったか。「必要ない。それより状況を―――」「ふざけてる場合か!! 早く治療しないと間に合わなくなる!!」 今度は悲壮な表情の男が叫んでくる。今にも泣きだしそうだ。間に合わないって何に?あー、普通なら致命傷か。私は空を仰ぎ見る。もう夕方か。夕飯は何を作ろうか。など、現実逃避ぎみにいると「なのはちゃん!」 いつの間にやら相手に加わっていた少女がこちらをみて叫ぶ。叫んでそのまま泣き出してしまった。「桜、私は空気を読んで死んだ方がいいの?」「さあ。相手が勝手に盛り上がっているだけですし。ほっとけばよいのでは?」「…帰ろうか」「そうですね」 そう言ってその場を後にしようとすると、「なのは、いいから言う事をきけ! こっちへ来い! そいつは危険だ!」「なのは様、早くしないと取り返しがつかない事になります!」 そう言って男が牽制してくる。冷静な方のメイドもそれに加わってくる。だから、直りは少し遅いけどほっといても直るし。それに、さっきから思っていた事だけど。「さっきから私の名前を軽々しく口にしているけど、あなた達は誰? それに傷の事なら問題ない」 結局のところ、相手が何を言っていても知らない相手から言われていては不気味でしかない。名前を知られている事もある。私がそう言うと、相手にさらに困惑が広がった。「何を言っているんだ? その傷で問題ないはずがないだろ!」 男がなおもそう言ってくる。心配してくれているのはわかるが…。「いいから質問に答えなさい」少しだけ、守り神をしていたころ威厳を出して言ってみる。「高町恭也だ。行方不明になっている間に兄の顔を忘れたのか? それとも忘れさせられたのか?」 そう言って桜を睨んでくるが。…たかまちきょうや?「あー、うん。そんな名の兄が確かにいたわ。桜は何もしてないから睨むのをやめなさい」 桜が睨まれて可哀そうだ。…おびえるわけもなく、臨戦態勢に入っているけど。「母さま。この人間の言うことは本当ですか?」「名前を偽ってもしょうがないし、本当でしょ。私の兄がきょうやだったのは確かだし」「そうですか。それでしたらごあいさつをしなければいけませんね」 やっと桜の方は警戒を解いた。そして「高町なのはの娘の桜です。はじめまして、叔父様」 ただでさえ、混乱気味の場へ、綺麗な笑顔とともに自己紹介が行われた。さらに広がる混乱。私は再び空を仰ぎ見る。綺麗な夕日だ…。さあ、どうやってこの場を収めようか。
なんでこんなことになったのか。どこで選択を間違えたのか。自分の行動の結果なのか。広がる光景にめまいがする。私は自問する。今私ははっきり絶望を感じている。目の前の人間が何か言っているが、何も耳に入ってこない。『母さま! しっかりして下さい!』 隣にいる桜が念話で言ってくるが、今の私にはそれどころではなかった。すなわち、「さて、高町さん。あいさつは?」「みなさん、心配掛けてスミマセンデシタ。私は元気です」「それと桜さん?」「はい。今日からお世話になります、高町桜と言います。なのはちゃんとは親戚です。ちょっと所用でなのはちゃんと一緒に時々休むことになると思いますが、よろしくお願いします」 なぜか、以前通っていた学校の教室に私はいた。小学生姿に変化した桜がいる事がせめてもの救いだが。もっとも、桜はどことなく楽しそうではあるが。一応私、研究職についていた事もあるのに。…ほんとなんでこんなことになってしまったのだろう。 あの後、混乱から回復する事もなく、それでも私の傷だらけの状態を鑑みたのか、治療もかねて場所を屋内に移すことになった。複雑な状況だと勝手に察したらしく、かかりつけの医者を呼びだしていた。今だ直り切っていないとはいえ、ほっとけば直ると言う私の言葉は無視されベッドに寝かされた。応急的な治療を行おうとメイド達がどこかへかけて行った。桜も助けてくれず、あげく「母さまはいつも無茶をしすぎです。以前、吸血鬼の妹、フランドールの相手を任せた時はびっくりしましたよ。あそこまでボロボロになるなんて。ほんとにいつも私に心配ばかりかけすぎです」 との発言で、さらなる混乱を招いていた。「まあ、あの時は、なぜか殺し合いに発展していたの」でも、あの時は仕方がなかった。相手が悪かったとしか言いようがない。「母さまがルールを守らなくてどうするんですか」 ルールとはスペルカードの事だろうか。確かにその通りだし、実際あの時は「痛かったの。久しぶりに本気を出したの。フランはいつか泣かすべきなの」 本気で殺し合いをしてお互い傷だらけなのに、フランは楽しそうにしていた。「何を言っているんですか。それに、本気を出すにしても出し方があるはずです」「…昔はそんな事ばかりだったじゃない?」「それもそうなのですが…」当事者同士でしかわからない内容の会話をしていると、メイドが戻ってきて治療が始まったが、「傷がほとんど治っている?」「だから言ったの。ほっとけば直るの」 そのころには、治療をするべき傷がほとんどなくなっていた。「なのはちゃん、さっきの会話も含めてこれはどういうことなの?」「なのは、娘とはどういうことなんだ? それに、散々心配をかけて、今までどこにいたんだ?!」 兄らしき人間と女が聞いてくる。ちょうどいい。「私も、聞きたい事があったの。でも、このまま話を続けるの?」私はベッドに横にされている状態だし。「…それもそうね。場所を移しましょうか」「母さま、新しい着替えです」 女(どうやらこの屋敷の主人のようだ)に言われて場所を移すことになった。その際、桜がレイジングハートから新しい巫女服を出してくれた。「ありがとう、桜」 そう言って着替えを終えた私は移動することにした。 場所を移して。「さて、聞きたい事はあるのだけど、とりあえず全員名を名乗りなさい」 何故だかある、大きな机の片側に私と桜。対面には恭也と女と少女が座っている。メイドの二人は女の背後に控えている。「さっきも言ったが、何を言っているんだ? まさか本当に忘れているのか?」 恭也が言ってくるが…。「あいにくそんな昔の事は覚えていないわ」 実際、未来に帰ろうとしていた時期は昔の事も必死に覚えていようとしたが、諦めてからはどんどん忘れていった。「昔って。行方不明になってからそんなにたっていないだろ! やはりそこのわけのわからない事を言う女に何かされたんだな!」 恭也がかってに盛り上がって桜に敵意を向けてくる。「私の娘を馬鹿にするような発言は許さない!」 私がそう言うと、黙ってしまった。「恭也、やめなさい。さて、自己紹介ね。私は月村忍。隣にいるのが妹のすずかで後ろにいるのがメイドのノエルとファリンよ。こっちが恭也であなたの兄なのだけど」 女(忍というらしい)がそう言って自己紹介してくる。一見、素直に答えてくれているように見えるが―――「私は高町なのは。こっちが娘の桜よ。それと小娘。その魔眼をひっこめなさい。正直煩わしい。………桜、抑えなさい」 忍はおとなしくしているように見えてずっと私たちに魔眼を向けていた。これくらいなら簡単にレジスト出来るが、相手は驚いている。桜はまたしても臨戦態勢に移行しようとしていたため、抑えてもらうことにした。「ですが、母さま! …わかりました。しかし、これは、魔力ですか? 少し、妖力も混ざっている? あなたは妖怪か何かですか?」 桜がそういう。すずかは震えており、忍はこちらを警戒してはいるが、魔眼はやめたようだ。しかし、桜の言うことは私も気になっていた。恭也以外人間の気配がしない。忍とすずかからは人外の気配が。メイド二人については良く分からないが。これはめんどくさいことになったかもしれない。外の世界の妖怪の斡旋は紫の仕事なのに。「妖怪ね。そう言われると少しショックだわ。私たちはそんな幻想の産物ではなくて―――」「お姉ちゃん?! 何を言うつもり?!」忍が話し始めたが、すずかがそれを遮る。しかし、妖怪が幻想の産物か。なかなかうまい事を言う。本人にその気はないのかもしれないが。「すずか。もう魔眼のこともばれちゃっているし、黙っていても仕方ないわ」「でも!! なのはちゃんもいるんだよ!!」 何やら言い争っているが「すずかといいましたか? これでは話が進みません。少し黙っていて下さい」 桜がそう言うとおとなしくなった。「あまりすずかを怖がらせないでちょうだい。話の続きだけど、私たちは自分たちの事を夜の一族と呼んでいるわ」「夜の一族?」 聞いた事のない種族だ。「そう。人よりも優れた回復力に知能、運動能力、それと人によっては私の魔眼のような特殊能力をもつ。その代わりに定期的に人の血を飲まなければならないの。でもそれだけよ。別に私たちに血を吸われて者が同じ体質になる事もないし、そもそもほとんどを輸血パックで賄っているしね」「吸血鬼ということですか?」 桜は、私とフランドールの一件以来吸血鬼に対して良い感情を持っていない。「そう捉えてもらっても構わないわ。もっとも別に日の光にあたると灰になるなんてことはないけどね」「なのはちゃん、わかった? 私は吸血鬼で、化け物なんだよ…」 ずっと黙っていたすずかが突然自嘲気味にそう呟くが「割とどうでもいいわ。それにしても、…すずか。羽根はどうやって隠してあるの?」 私たちに気づかれないレベルで隠してあるのだろうか。「え? どうでもいい? え? 羽根なんて生えてないよ…」 どうやらないらしい。「能力は? 忍の方は運命を操る程度の能力ですずかはありとあらゆるものを破壊する程度の能力だったりしない?」 吸血鬼の姉妹と言ったらこの能力が真っ先に浮かぶ。「なんだそれは。程度ってレベルじゃないだろう…」「なのはちゃん、何を言っているの? そんな反則じみた力なんてあるはずないわ。私たちには魔眼がせいぜいよ」 恭也が何か呟いていたが、気にせず忍が答えてくる。すずかはまだ混乱中のようだ。「そ。ならいいわ。全然化け物じゃないじゃない」「そうですね。これでしたら妖精の方が強い位かもしれませんね」「そうね。たまに変に強い奴もいるしね。これだったら外にいても問題ないわね」 私たちがそうやって納得していると「ずっと気になっていたのだけど。なのはちゃんは吸血鬼に知り合いでもいるの?恭也は聞いたことは?」「いや、ないな。それこそ行方不明の間に知り合ったとしか思えないが。…なあ、なのは。お前は何をしていたんだ? 大体そこの桜を娘というが、お前はまだ小学生だろ?」 向こうも気になっていたのか、ここぞとばかりに聞いてくる。「何をしていたか? それを聞いてどうする?」 少し威圧してみるが「兄が妹の心配をするのは当然だろ!」 それでも恭也はひかずに食いついてきた。「母さま。話して差し上げたらいいのでは?」 桜も相手を援護しているか。まあいい。「わかった。長くなるし、疑問も出るだろうけどまずは最後まで聞いてちょうだい。………かぐや姫って知ってる?」 そう言って、私はここに至るまでの長い歴史を話出した。 今私たちがやるべき事も含め、全てを話終えた。到底信じる事が出来ない、荒唐無稽なはなしではあるが、事実であるから仕方がない。「時間遡航に不老不死と妖怪。魔法や霊力に次元世界にクローンね。どれも信じられないわ」 忍がそう言ってくる。「別に信じてもらわなければならないわけでもないからいいけど。証拠でも見せればいいの?魔法か霊力でも使ってみようか? それとも、その小太刀で私を切ってみる?」 そうして、恭也に眼を向ける。「冗談でもそんな事を言うんじゃない!」 恭也が怒ってそう言ってくる。「別に冗談ってわけじゃないけど。桜にやらせようか?」「ふざけるんじゃない!」 そんな事を言われても困るのだが。「じゃあ、霊力でいいか。桜も」 そう言って手のひらを上に向け、そこに簡単に霊弾を作り出す。桜も同じく霊弾を作り出していた。「まだ、半信半疑のようですね。どうしますか?」「うーん。桜、それの威力をまして私に撃ってちょうだい」「私に母さまを傷つけろと?」「どうせ直るんだしいいじゃない」「そうですけど」 しぶる桜をどう説得しようと思案していると恭也から声がかかった。「わかった。信じるからやめてくれ」 見ると忍たちも頷いている。私たちは霊弾をけした。「それで、信じたもらえたところで私からも質問。なんで桜を襲ったの?」 漸く本題を切り出せた。昔の知り合いだからと言って娘に手を出されて黙っているわけにはいかない。「それは―――」 恭也が話した内容はこうだった。私が行方不明になり、警察に捜索願をだした。それだけでなく、知り合いにも捜索を頼んだ。しかし、どちらからも見つけたという報告はあれどもなぜか誰も保護をすることはできなかった。その時の話を聞いても皆、記憶があいまいで、理由もわからなかった。ただ、巫女服姿の女性と一緒に街を歩いていた事は覚えていたようで、ついでに以前小旅行で言った旅館からの情報も含めて、私はその女性に騙されて連れまわされていると思ったそうだ。何かしらの方法で捜索をごまかしつつ。ただ、私その女性がそっくりなのは気にはなったようだが。「ふーん。普通に街を歩いていただけなのに。桜は何かした?」「いいえ。特には何も。旅館の際は言いがかりを付けられましたので、ただ旅行を楽しんでいるだけだと説明はしましたが」「あの時の話はそんな事だったの? 言ってくれれば良かったのに」「いえ、あの程度で母さまの手を煩わせるのもどうかと思いましたので」 やっぱり桜は気遣いのできる優しい良い娘だ。そうやって娘の優しさに喜んでいると、「でも、そうなると不思議ね。あなた達は何もしていないのに、私たちは誰もなのはちゃんを保護できなかったのはなんで?」「知らないわ。このスキマに聞いてみればいい」 そう言って自分の後ろを指差す。そちらに目をむけると、うっすらと空間に亀裂が見える。「あらなのは、気がついていましたの?」「ここまであからさまならさすがに気がつくわ」 そこに全員の視線が集まったころ、うっすらとしていた空間の亀裂がぱっくりと割れ、中から女性が現れた。幻想郷の管理人、妖怪の賢者、八雲紫だ。桜が少し警戒している。「それでしたらもう少し行動も改めて頂きませんと」「うるさいわね。いつも通りでしょ?」 そう、いつも通りに私は外の異変を解決しにきただけ。解決したらまた、幻想の世界に戻る存在。「あらあら…。その様子では、せっかくの家族の再会もあまり意味はなかったのかしら?」「何を考えているのか知らないけど、余計なお世話よ」それに今さらだしね。そう言えば、恭也や忍、すずか達は突然現れた紫に驚いて言葉も出ないようで、私たちのやり取りを黙って伺っている。桜は口をはさまず私に任せているようだ。「まあ、いいでしょう。でもなのは?少ししゃべりすぎではなくて?それにもう少し自制してもらわないと困りますわ。今回、私がどれだけフォローに回ったか」「…それは、悪いと思っているわ。次からはもう少し気をつけるわ」「信じられません。私もなのはにかかりきりになっているわけにもいきませんし」 そう言って、紫は恭也をみる。何とも言えない胡散臭い笑みを浮かべている。…なんだかいやな予感がする。「もういいでしょ、紫」「よくはありません。そうね、なのは。あなたはこの異変解決の間実家に帰りなさい」 はあ?なにを言っているんだろうこの妖怪は。「当然学校にも通ってもらいます。それくらいさせないとなのはは反省しないでしょうから」「ちょっと! 馬鹿な事を言わないでよ?! 今さら戻ってどうしろと?」「反論は受け付けません。せっかくですし、桜も一緒に学校へ行ったらいいのではないのかしら?」 そう言ってどんどん話を進めて行ってしまう。…桜は少し乗り気の用で嬉しそうにしている。「それになのはもこの生活で少し昔を思い出せばいいのではなくて? 私たちの時間はとても長いのですから少し位の寄り道も構わない筈ですわ」 そう言う紫の表情はどこまでも優しげで…。「…わかったの」 私にはそう言うだけで精一杯だった。その後、私がかなり変わってしまった事もあり、家でのフォローを恭也に、学校でのフォローをすずかにそれぞれ託し、紫は幻想郷へ帰って行った。 実家に帰ってからも、家族には今までどうしていたのか、同年代に化けた私にそっくりな桜をみてその子は誰だ?などなど、様々な質問が私にされた。私の顔を見るなり泣き出したり心から安堵の表情を浮かべたりと大忙しであったが、紫にも念を押されていたため、真実は話さずにはぐらかしていた。とりあえず月村の関係で色々あったと、どう考えても無理があるが納得させ、桜を親戚ということにしてもらい…。これだけで普段の異変解決の何倍も疲れた事は間違いなかった。 そして、今私は教室の中で桜のあいさつを終えた横で考える。あの時なぜ紫の言葉にうなずいてしまったのか。一時の気の迷いにちがいない。さて、これからどうしようか。でも、そんな事よりとりあえず今は、泣きそうな表情でこちらにかけてくる金髪の少女をどうやり過ごそうか考える方が先のようだ。