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[32942] 【ネタ】川村ヒデオ、英霊になる。(Fate×マスラヲ&レイセン)※超不定期更新。
Name: あんず◆52ff7475 ID:382ed1a1
Date: 2012/05/06 00:29
※ヒデオが英霊になってFateの世界に呼び出される話です。





 煌々と輝く光を見ても、男はただ無表情だった。

 この身はただ一つの魔術回路。呪文を唱え、現れ出るモノをこの世に繋ぎとめるだけでいい。余分な考えなど今は不要。

 手の甲が疼く。この冬木の地において、血で血を洗う戦争に参加できる権利を象徴する右手が。

 自分は、何のためにこの戦争に参加するのか。それは自分自身にも解らない。

 あえて考えるならば、自分に生きる意味があるのか、それを確かめるために。ただ一つの理想を探すために。そう考える。

 だが、本当にそうなのだろうか?

 それすらも解らない。心の中はただただ空っぽ。

 そして光は弾け、轟き。

「―――――、」

 目の前に現れたのはおよそこの場には似つかわしくない、ごく普通の青年。

 黒いスーツにサングラス。片手に持っているのはいわゆる――パソコン? というものなのだろうか。パソコンにしては薄い気もするが。

 しかし、サングラスの下から除く眼光だけは苛烈を通り越して激烈。冷たく冷え切った眼差しはサングラス越しでも人を威圧し、恐れさせる。

「……」

 男は無言のまま軽く会釈。風体や仕草を見るに、日本の英霊? しかしこの現代的な恰好を見るからに近代の英霊だろうか。

 まぁ、名を聞いてみない事には始まらないか。

「……汝の名は」


「―――――川村ヒデオ、と申します」


 ここに男、言峰綺礼の戦争は幕を開けた。

 その果てに待つ本質を、彼含めまだ誰も知らない。





ヒデオが喋らなかった理由=初めて会う人に話しかけられなかったから
良く考えると、時臣師も召喚に立ち会っていそうなものですが……気にしないことにしましょう。
初投稿だったので色々あれだったかもしれませんが、お粗末さまでした。



[32942] 【ネタ】川村ヒデオ、英霊になる。2(Fate×マスラヲ&レイセン)
Name: あんず◆52ff7475 ID:8cd6b4b8
Date: 2012/05/06 00:28
「どういうことなのか、説明を頼むよ。綺礼」

「……恐らく、イレギュラーが発生したと思われます」

 そう答えることしか、言峰綺礼には出来なかった。

 彼自身も驚いたのである。アサシンのサーヴァントは本来、山の翁であるハサン・サッバーハが召喚される。しかし、現れた英霊はどう見てもハサンと呼べるような存在ではなかった。そして彼のクラス名はプロフェット、「預言者」のクラスだというのだ。

 そして真名。「川村ヒデオ」などという英雄は何処を探しても存在しておらず、この世界に彼が存在していた形跡は、一つも無かったのだ。

 故に、彼はこの召喚をイレギュラーだと断じた。

「恐らく、あれは異世界の英霊でしょう。それが何かのきっかけで召喚されてしまった」

 ここと近しい並行世界か、はたまた未来の英霊か、それは言峰には分からなかったが、そう考えればすべてのつじつまは合うのである。

 それを聞いた綺礼の師、遠坂時臣はため息をひとつ。その気持ちも分からなくはない、時臣が綺礼に命じたのは彼の補佐である、そのために綺礼は用途が明確であるアサシンの召喚をしたのだ。現れたのがイレギュラーだと知れば、頭を抱えたくなるのは当然だろう。

 それに、

「……進言しますが、あの英霊を直接戦闘で扱うことはできません。宝具はともかく、ステータスがあまりにも低い」

 そう、彼の英霊……ヒデオを見た時に、言峰は思わず絶句したのだ。そのあまりのステータスの低さに。


【クラス】プロフェット

【マスター】言峰綺礼

【真名】川村 ヒデオ

【性別】男

【身長・体重】中肉中背

【属性】中立・善


【筋力】E 【魔力】E

【耐久】E 【幸運】A-

【敏捷】E 【宝具】E~EX


 使えねぇ。

 まだ時臣はサーヴァントを召喚していない、のでヒデオのステータスが見えないから知らないだろうが、幸運と宝具以外のほとんどが低ステータスだった。一体彼は彼の世界でどのような武勇を刻んだのだろうか、少なくとも、戦闘行為によるものではないのだろう。

「ふむ、彼は今ここに居るのかね?」

「はい」

 そう言った言峰のすぐそばに、突如として現れる影。言うまでも無く霊体化していたヒデオである。人のものではありえない濃密な魔力、それは確かにヒデオがサーヴァントである証しだった。

「…どうも」

 そのまま軽く会釈をする彼の鋭い眼光に、時臣は目を細める。印象だけ見ればアサシンに見えなくもない眼光、というか目つきの悪さ。

 さて、サーヴァントの能力や宝具はともかく、クラスや戦い方を確認するのに手っ取り早いのはやはり武器である。

 セイバーなら剣を、アーチャーなら弓を、ランサーならば槍を、キャスターならば、何らかの魔術的な触媒や杖などを。特徴の無いというかばらばらなバーサーカーでも、見た目の雰囲気で狂気を推し量る事も出来る。アサシンの場合は、暗殺に適した漆黒の投げナイフ、ダークと呼ばれるものを携帯している場合が多い。……もっとも、それを逆手に取り絡め手を行使してくる輩も存在するため、一概にそうとは言えない所が怖い所だが。

 といっても、ヒデオ自体がイレギュラーな召喚のため、普通のクラスに当てはまるかどうかも怪しいわけなのだが。

 そもそも、ヒデオは武器を携帯している様子は欠片もない。あえていうならば召喚されたときに手に持っていたプラスチック製の薄い機械の板ぐらいか。魔術に詳しい分科学に疎い時臣や、一応知ってはいるしある程度使える綺礼でもわからない謎の物体。それが彼の武器なのだろうか。

 ここで未来の知識がある人間、もしくは最先端の工学に関与しているものならば、この物体がいまだかつて人類が到達を試み、成功していないオーバーテクノロジーで作られているという事が分かるかもしれないが、ここに居るメンツではそれは分からない。

 ある程度英霊の観察を終えた時臣は、彼の家の家訓に従い、余裕を持たせながらヒデオに問いかけた。

「君の武器はソレかね?」

「……いえ、正確に言うと、ここ、です」

 抱えていたそれを胸の前に持ってきて、端の方を指さすヒデオ。

 時臣が指差された部分を見る、特に何かが仕込まれているというわけでもなく、いたって普通である。

 もしやからかわれたのか、と思い彼の眼を見るが、ヒデオの目はどう考えても真剣そのもの。むしろこれが冗談だったらこの世のほとんどの事象は冗談で片づけられてしまいそうだ。

 ……もしかしたら、試されているのだろうか。いくらマスターである言峰の師とはいえ、真に敬意を払うべき相手なのかどうかを。

「……プロフェット」

 その意図に気付いたのか、言峰がヒデオに咎めるような視線を送ってくる。

「いや、いいよ綺礼。彼も私達が名を知らないというだけで音に聞こえた英霊だ。ある程度の自尊心は推してはかるべきだろう」

 ここで引き下がるということはすなわち、遠坂の名と、彼の名に傷をつけることである。時臣は誇りを重んじる男だ。ここで逃げるということは彼の誇りが許さない。

(……おそらく、魔術的な意味合いは無いな。それよりももっと、暗号や謎かけ、示唆などの物に近い気がする)

 時臣の魔術師としての腕を試しているのではなく、頭脳や機転などの部分を試しているのか。

 だとすれば、この行動には何らかの意味があるはず。何故そこの角を選んだのか、その直前に取った行動は何か。

 いや、いやいや。もしかしたら、『意味があるように思わせること』が狙いなのか?

 じっくりと熟考し、時臣が出した答えは。

「―――つまり、君の武器は剣や弓のようにわかりやすい物質ではなく、暗示や示唆、心理戦などの交渉術。手に持っているそれはフェイクで、敵の注意をひきつけておくための囮、だね?」

「………、」

 その言葉にヒデオは無言。だが、時臣から目線をそらし、肩を落とすその様子。当たっているのだろう。

 …と、思ったのだが。

「……いえ、そうではなく。何と、言いましょうか」

 時臣が凍った。傍らで見ていた言峰には、そうとしか表現できない。

 ヒデオからしたら、その一言を絞り出すのには多大なる労力を使っただろう。だって、あれほど得意満面に語られて否定をいうのは辛い。しかもヒデオには分からないが時臣は今心の中で誇りとか云々考えてたのだ。ここでポカったら誇りじゃなくて埃である、優雅(笑)である。

「まぁ、つまり、ここ、なのです」

 そしてヒデオが指さすのはやっぱり板の端っこ。

 …もしかして、これは難しく考える必要など無く、ただありのままの表現だったのだろうか。

 つまりは、

「カド、ということ「パソコンは精密機器だと言ってるのにまだ分からんかオンドレはぁああああああああああああ!?」げぶっ」

 どかっ! べきぐしゃーん!! げすっ! がすっ! ごすっ!

「「!?」」

 いきなり虚空から現れた少女がヒデオに拍手すら送りたいほどの華麗なハイキックをお見舞いした後、痛烈なヤクザキック。端的にいえば、かかとの部分で叩きつぶすように。

 いきなり少女が虚空から現れた事、しかも少女が現在進行形でふわふわ浮いている事、英霊であるヒデオが少女のキックで部屋の端っこまで吹き飛ばされた事、言いたいことは山ほどあるが。

 少女の『存在』こそが、もっとも時臣たちを驚かせた要因である。

 と、少女にされるがままだったヒデオがよれよれの状態のまま起き上がり、相変わらずの目つきで少女を睨みつけた(ように時臣たちには見えた)。

「…ウィル、子。いきなり、何を」

「何をじゃありません! いいですかマスター、ウィル子が宿っているのはあのパソコンなのです。もし手荒に扱って誤作動やバグでも起きてしまったらどうするのですか!? マスターはこれから先、ウィル子なしで聖杯戦争を勝ち抜けるというのですかー!」

「……しかし、武器と言えば、これくらいしか」

「パソコン使うくらいだったら拳を使えっ! 今だったら岩の一つや二つは砕けると思うのですよー!!」

「……まさか」

 そのまま漫才じみたやり取りを開始するヒデオと少女、ウィル子だが、時臣たちにはわけが分からない。

 というかあの少女、どう考えても人間ではない。

 浮いているのはまだいい。魔術師ならば浮遊魔術を使える者はいるし、事実時臣も似たような事はできるだろう。

 虚空から現れた事。これに関しては……瞬間移動とは思えないので、超高性能の気配を消す魔術やスキル、もしくは触媒を使っていたと考えよう。

 だがしかし、それでも彼女自身の存在を確証する事にはならないのだ。

 サーヴァントとしてもありえない、濃密過ぎる魔力。魔術師として磨き抜かれた直感が告げる、明らかな異常性。

 あれは、なんだ?

「プロフェット、説明せよ」

「…、わかりました」

 ウィル子に腕ひしぎをかけられ息も絶え絶え、いや腕ひしぎで重傷はないと思うが、痛いものは痛いし。その状態で問いかけられたヒデオは一度疑問を顔に出した後、ウィル子の方を見て得心がいったようで、地面に引き倒されながらも口を開いた。

「彼女は僕の、宝具のようなものです」

「「……は?」」

 今度こそ絶句。宝具、とは生前英霊が持っていた武器や固有の能力、または伝承などが具現化したもの。そのため英霊によって効果や性能はまちまち、常時英霊の肉体にたいして発動するようなものもあるし、分かりやすく武器の形をしているものもある。が、

 少女の形をした宝具?

 意思を持つ宝具、ならばまぁ、あるのではないだろうか、たぶん。それはいいとしよう。だが、少女の形をした、その質まったく別のものが宝具、とは。

 そして少女はくるりと回り、まるでATMの受付嬢のように告げた。

「ウィル子のマスター川村ヒデオの宝具、超愉快型極悪感染ウイルスWill.co21です。にひひっ、よろしくお願いするのですよー」

 無味乾燥な声音から一転、悪戯っ子のような笑みを浮かべたウィル子は少しあたりを見回して、驚愕した。

「こっ、この家…! というか館、電子機器が一つもありません!? どういうことなのですかー!?」

「だから、ウィル子。まだこの時代は君が産まれる前だ」

 しょぼしょぼとしなびていくウィル子に、即座に反応できなかった時臣と言峰。余りにも未知の存在過ぎる。

 そもそも、超愉快型極悪感染ウイルス、とは何なのだろう? 病原菌?

「ああ…、じゃあ今の所マスターの持ってる型落ちパソコンと携帯電話がウィル子の全計算能力ですか……? 酷過ぎるのです…」

「魔力を使うことは」

「一応ある程度はマスターのマスターから貰う魔力と、マスター自身の霊力、空気中の霊子と魔力で何とかなりますけど…、完全ではないのですよー。かつてのウィル子の力には遠く及びません」

「どれくらい弱まった?」

「うーん、聖魔杯でのウィル子の、時期的にはサバゲー開始前の特訓期間後半でしょうか?」

「……そうか。それだけあれば、充分だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいですけどマスター、これからどうやってもスペックは上がらないのですよ? なんせこの世界の電子機器の性能が性能ですから」

「ネットダイブは」

「うーん、まずはパソコン自体のモデムやルーターを作り替えなければなりませんね。まだ光回線もありませんし、処理速度も遅そうなのですよー。でも裏を返せば他の所のマシンスペックが低いという事ですので、ハッキングし放題ですね。にひひ、NASAのサーバーにハッキングでもしかけてみましょうか? 昔のファイルやデータの味が楽しみなのですよー」

「……それは、やめて欲しい」

 ……何をいっているのかは分からない。が、このまま放っておくと看過できない状況になりそうなのはなんとなくわかった言峰と、異世界独自の魔術理論かと考え始める時臣。もでむ? るーたー? さーばー? 専門用語の嵐は少し、この二人には難しすぎたようだ。

 なんせこの時代、携帯電話はアナログが主流である。

「何ともまた、不可思議なサーヴァントが出てきたね。綺礼」

「……はい」

 本当にそう表現するしかないのだった。





【クラス】プロフェット

【マスター】言峰綺礼

【真名】川村 ヒデオ

【性別】男

【身長・体重】中肉中背

【属性】中立・善


【筋力】E 【魔力】E

【耐久】E 【幸運】A-

【敏捷】E 【宝具】E~EX


【クラス別能力】

 予言:F
 ただのハッタリなので予言ではない。


【保有スキル】

 強運:A+
 どのような状況でも最善の選択肢が存在する。

 威圧:C
 凶暴な目つきでの威圧。相手にプレッシャーを与え、行動を抑制させたり、選択を誤らせたりする。

 精霊憑き:EX
 神霊クラスの精霊の加護を持つ。あくまでも加護なので、使役できるわけではない。

 隠蔽:C
 自分に対する情報をある程度錯綜させることができる。これを打ち破るには強い洞察力、もしくは実際の実力を見る必要がある。


【宝具】

 電神の助力(Will.co21)
 ランク:C(変動有り)
 種別:対人宝具
 レンジ:1~99
 切っても切れない絆により電子の神であるウィル子に力を貸してもらえる。基本的には協力的。
 電子の神であるウィル子はその世界にある電子技術にスペックを左右される。





時臣さんは真面目に考え過ぎただけです。
しかし、具現化した神霊が普通にうろうろしてるの見たら魔術師は狂喜乱舞しそうだ。
この作品はあくまでもネタなので、いきなり話が飛んだり行ったり来たりします。たまにまったく関係ないおまけが登場する事もあります。ご了承ください。
お粗末さまでした。



[32942] 【ネタ】川村ヒデオ、英霊になる。3(Fate×マスラヲ&レイセン)+おまけ
Name: あんず◆52ff7475 ID:7b86d93b
Date: 2012/05/06 00:28
 時臣との邂逅を終えたヒデオは、言峰とも離れて一人考えていた。

 なぜ、自分はこの聖杯戦争に呼ばれたのだろうか。

 聖杯戦争とは、つまるところ殺し合いである。殺し合い、ヒデオが最も苦手とする分野。

 叶えたい願いなども無いし、戦いたがる理由も無い。なのにどうして、自分が呼ばれたのだろうか。

 所詮ヒデオは只の一般人だ。いくら裏の世界に足突っ込んでて精霊を味方につけているとは言っても、彼自身はただの人間である。大それた願いなど抱く事も無い、ごく普通の。

《不思議に思うのは分かるけどねヒデオ。まずはどうやって戦うかが必要なんじゃない?》

 あ、ノアレいたのか。

《居たのかって…、酷い言い方ねぇ。折角色々教えてあげようと思ったのに。いらないんならいいわよ、邪魔したわねー》

 いやいやいや、ちょっと待って下さいよ暗黒神さん。居たのかとは言ったけれども帰れとは言ってませんよ。ほら言葉のあやですってお願いだから帰らないでくださいお願いします。

《うふふ、分かればよくってよ》

 …そういえば、他の人はどうしたのだろうか。ほら、どっかの聖銀の精霊とか魔王の娘さんとか。

《エリーゼはいますよマスター。今は出てこないみたいですけど》

《お姉さまは、あれよ。「貴方だけならともかく、何で他の人間を主と呼ばなきゃいけないの?」って、つまるところ、めんどくさかったみたいね。興味が出たら来るんじゃない? その他もね》

 ……なるほど。容易に想像できる。

 とにかく、今の所確かに必要なのは戦力の増強か。といいうよりも、自分で確認してみたステータスが酷過ぎた。これで戦えとか言われても少し無理だ、持っているものと言えばウィル子の感染しているパソコンと、このサングラス……。

《《目からビームッ♪》》

 …否っ。断じて否!

 これは只のサングラスである。

《《嘘っ!?》》

 そもそもの話、魔眼王の伝承に「目から怪光線を出す」というものは存在しない、というかそんなの残ってるわけがないだろう。あんなあからさまなネタ技、もしヒデオが伝承の編纂者ならば絶対に後世に残したくないと思うだろう。

《ネタはネタでも実用性のあるネタ技ですよマスター!!》

《そうよぉ、絶対に面白いのに…》

 そう言われても、無いものは無いからしょうがない。

 そういえばノアレ、何故あの時出てこなかったのかと。なんとなくだが、面白がりの彼女があの場面で出てこないのは少し不思議だった。

《あらヒデオ。あのダンディなオジサマ、いずれは敵になるかもしれないのにそう簡単に手の内をばらしちゃっていいのかしら》

 しかし彼はヒデオのマスターである言峰の協力者、というか言峰が時臣の協力者らしい。いくらなんでも、協力者に話さないというのは無いだろう。

《うふふ、変な所で律儀なのねぇ、ヒデオは。これが殺し合いだってわかってるのに》

 人の命がかかっているからこそ、協力者には全力で協力することは、間違ってはいないと思うのだが。

《……でもマスター、裏切られて殺されたりとかする可能性考えてませんね?》

 え?

《だってぇ、聖杯戦争に勝てるのは結局一組だけなんでしょ? あのオジサマが勝つとしたら、ヒデオは途中で死んでなきゃだめじゃない》

 ……確かに。確かに、そうだ。

 結局のところ、勝ち残るのは一組。ならば、時臣のサーヴァントが生き残るために策を練るならば、他のサーヴァントは遅かれ早かれ脱落しなければならない。

 ならばこそ、利用するだけしていらなくなったら殺すというのが、一番簡単な方法なのではないのだろうか。マスターは令呪という絶対命令権がある、それをつかえば赤子の手をひねるよりも簡単にヒデオは殺されるだろう。

 どうやら自分は、とてつもなく危ない綱渡りをしていたようだ。

 なるほど、あの場面でウィル子しか出てこなかった事、ヒデオにとっては僥倖以外の何物でもない。まだまだ手の内を全てさらしてはいないのだから。

《わかればいいのよ。ふふ、ヒデオが簡単に脱落しちゃったらつまらないものねぇ》

 まぁ、ノアレの行動理由の大半は楽しむためだというのはもう分かってるので何も言わないが。

《あらつまんないの。そこでちゃんとリアクションしてくれないとだめじゃない》

《にひひ、じゃあマスターが絶対にリアクションしざるをえないような事をしてみますかー?》

《それもいいわねぇ。何から始めようかしら?》

 ちょっと待てそこの極悪精霊ニ体、一体何をやらかそうとしている……!?

《じゃあまずはマスターのマスターに協力してもらって》

《教会の方でリサイタル開くとか。ほら、あのオジサマの娘の可愛いツインテのお姫様と一緒に》

《なんか魔法少女とか似合いそうなのですよー》

《似合うというか、………うふふっ》

 小学生ぐらいの少女と共に、教会できゃるきゃるの魔法少女アニメの主題歌を振りつけつきで歌う。

 死ねる。いや、死ぬ。

 ……さようなら、世界。

《始まる前から死のうとしないでくださいマスター!? せめて一曲歌い終わってから!》

《さりげなく歌わせるのは決定事項なのね》





「プロフェット、準備はどうだ」

「順調、と言ったところでしょうか」

「おお、それがこの時代のパソコンですかー……デカッ!? 何でも小さくする日本人にあるまじきデカさ!! その上ありえないほどの低スペック!? これは修正が必要なのですよー…!」

 己が召喚したサーヴァントはとにかく変わり種だということを理解して、とりあえずは好きにさせていたのだが、こうして見ているとむしろザ―ヴァントよりも宝具の少女の方が使えるのではないかと思ってきた。

 まさかパソコンを所望されるとは思わなかったが、頼まれたのならば、それが何かに必要だというのは分かったので、とりあえずは用意したのだが。

「ふむふむ、この時代はこんな仕組みになってるんですねー。無線LANじゃなくて有線じゃないとネットにつなげないのですかー」

「どうにかなるか、ウィル子」

「まかせて下さい」

 そう言った少女がパソコンに、もちろんヒデオが持っているそれとは比べ物にならないが、それに手をかざす。

 空間が、歪んだ。

「……?」

 言峰には何がどうなっているのかはよく分からなかった。ただ、少女が手をかざした時になにか、例えるならばテレビのノイズ、そのような物がパソコン全体を覆い隠した。

 そしてノイズが晴れた所にあったのは、…ヒデオの持っているパソコンとほとんど変わらないそれだった。

「ふー。中身が全然違ったので結局ほとんど組み換えになってしまったのですよー」

「これは、つまり」

「はい、ウィル子の第二のお家です。やっぱり0から作りだすより元があった方が楽なので」

 言峰は教会に属するものだったが、訳あって魔術師である時臣に師事していた。だから、今の一連の出来事がどれだけ異常であるのかもすべて分かる。上手くそれを表現するすべを知らないが。

 ……まぁ、相手は英霊だ、しかも異世界の。それくらいの事ならば出来るのだろう。言峰は考えることを諦めた。どうせ出てくる英霊ほとんどがこんなものなんだろうから、いちいち驚いていてはきりがない。

「カスタム完了……って、まったく役に立たないのですよー!! こうなったらやっぱりハッキングを! NASAのスパコンにハッキング!! ないよりましでしょうきっと!!」

「落ち着けウィル子。犯罪は、いけない事だ」

「このさいそんなこと言ってられるかー! 光回線とはいかないまでもギガ単位のハードディスクが欲しいと思うのは電子精霊の本能なのですよー!!」

 ――またよく分からない会話が始まった。言峰にとっては言葉通り異世界の言語じみた会話だが、二人の間では普通に通るらしい。やはりこの英霊、未来の世界の英霊なのだろうか。

「お、おにょれ……! こうなったら聖杯戦争が終了した暁には、ウィル子の手で大規模なパソコン会社を立ち上げてやるのですよ!!」

「その頃には、僕達はここにいないと思うが」

「はうぁ!? そうだったー!!」

 まぁサーヴァントは聖杯戦争が終了すれば聖杯が何か誤作動でもしない限り消滅するが、それはサーヴァントの道具でもある宝具もしかり。役目を終えれば道具は速やかに消滅し、この世に一切の跡を残さない。

 それより、今この場に来たのはそんな決められきった事ではなく、もっと重要な、それこそこれから先の聖杯戦争の命運を変えるような事を話しに来たのだ。

「時臣師の呼ぶサーヴァントについての情報を開示しに来た」

「……それは、僕が聞いてもいいのでしょうか」

「構わない。もとより時臣師とこちらは協力関係にある。それに、彼の師は己の呼びだすサーヴァントに絶対の自信を持っているのだろう」

 そもそも時臣は元来余裕と自信と誇りを持った人物だ。それは言峰の父と同じたぐいの人間であり、また言峰とは根本的な部分で相いれないたぐいの人間でもある。

 言峰の精神の欠陥は誰にも理解されたことは無く、それゆえ、彼は己の歪みを直視できない。何処に歪みがあるのかも分からないからだ。

「師が呼ぶサーヴァントは、―――ギルガメッシュ。古代メソポタミアのウルクの王、世界最古の英雄だ」

 その言葉を口にした時、ヒデオが一瞬固まったような気がした。





《……、ギルガメッシュ、ねぇ……》

 先ほど、言峰から情報を教えてもらった時にノアレが反応していた。それはヒデオとヒデオに憑いているものにしかわからないが、いつもは面白がりのノアレが悩む様子を見せることは、ヒデオにとっては悪魔のささやき、他にとってはさらなる爆笑の探求に他ならない。まったく残念なことながら。

 だから、ギルガメッシュの言葉を聞いたときにノアレが何か反応して。それを聞いたヒデオが思わず身構えたのもしょうがないと思うのだ。

《ノアレ、どうしたのですかー?》

《うーん、言っちゃっていいのかしらねー。言わない方が面白いかしらねぇ…?》

 なんだなんだなんなんだ。一体何を考えているんだノアレは。

《私の考えてる事なんて一つよ? どうしたらヒデオがより面白くなってくれるか……それだけ♪》

 …思うが、どうしてこのような端末をこちらに送ってきたのだろうか暗黒神。ああ、面白いからですねそうですか。頭の中で笑顔で親指サムズアップする闇が居るような気がして笑えない。流石に世界にさようならとまではいかないけどヒキコモリたいなーと思うのも間違ってはいないと思ってしまうほどに。

《ノアレだったらそのギルガメッシュとかいう英雄知ってそうではありますよね》

《まぁねぇ、これでも世界が誕生した時からある闇だもの。本体の夢の一つにあると思うわよ》

 もしかして、先ほどノアレが悩んでいたのはその夢を話すか話さないかということだろうか。英霊の過去とはすなわち、その英霊を象徴する物語でもある。知ってしまえば色々と対策を立てられそうなものだが……。

《最初っから全部分かってもおもしろくないじゃない。そうねぇ……半分くらいは教えちゃおうかしら》

 まぁ、ノーヒントよりはましだということにしておこう。

《簡単に言うとね、「重度の神様嫌い」よ。そりゃもうL5に勝るとも劣らないレベルの》

 それは…どちらかと言えば自分よりもウィル子たちの方が危険なのではないだろうか。

《まぁ、あの子の伝承に出てくるカミがいろいろはっちゃけてたからねぇ。私はただ見てただけだし》

《みーこさん達以上がどんどこ出てくるんならそれは嫌いになるのですよー…》

 想像してみよう。一瞬で周りを吹き飛ばす核爆発じみた魔法を軽々扱う魔法少女や、地の底からなんでも食べる怪物を呼び起こす妙齢の美女、さらに見た目からしてやばいガイコツや、人を足蹴にしたペンギン(?)に、とてつもない威圧感を持つ鬼、他にも暗黒ゴスロリ小学生や、愉快型極悪電子ウィルス、ツンデレバイオレンス聖銀精霊。そんな存在よりも上がごろごろしていたら、もちろん、性格もさらにえげつなくなって。

 なんか、ほんの一瞬だけ、その会った事も無い英霊の気持ちが分かったような気がした。あくまでも気がしただけだが。

《召喚の際はウィル子たちも立ち会わなければいけないのでしょうかね?》

《オジサマの性格からしてそうなんじゃない?》

 神様嫌いの英霊と、神というか精霊をぞろぞろつけてる自分。見敵必殺、サーチアンドデストロイ? 一歩間違えば死んでしまうのではないだろうか。しかしこの身はサーヴァントであり、中間管理職でもある。上からの命令には逆らえないのである。

 言峰が召喚に立ち会うと言うのであらば、言わずもがな。そこにヒデオがいないという選択肢も……あるにはあるか。他の所へ偵察に行っているとか、そういう可能性も。というかそんなにやばい相手なら逃げちゃっても

《あらヒデオ、そんなつまんない事したら……どうなるかわかるわよねぇ?》

《リサイタルの準備は完了なのですよー》

 ……結局のところ、立ち会うしかないらしい。

《…本当にリサイタル嫌なのね》

《一応人前で歌った事あるんですけどねマスター》

 あれは、ほら、シリアスな展開だったからだと思う。今回のリサイタルはシリアスではなくシリアルだから。

《大丈夫ですよマスター! ウィル子たちが面白おかしくくっついてますから!!》

 なんか、さらに安心できないのだが。





 かくして、英霊は召喚された。

 硝煙の殺し屋の所には、誇り高い騎士王が。

 復讐に駆られる男の元には、後悔を抱えた狂戦士が。

 夢を持った少年の所には、大きな大きな征服王が。

 時が同じではないのだろうが、きっと、他の所にも。

 失敗を知らない男の元には、忠義に焦がれる騎士が。

 哲学の死を求める殺人者の所には、ただ一人を想い続ける狂人が。

 そして、

 今ここに、黄金の甲冑を纏う、世界最古の英雄が降臨する――!





 ……降臨、したのだが。

「お、王よ……!?」

「……、」

「……いきなり、何を」

「に、にははは……」

 棒立ちのヒデオと、冷や汗を流すウィル子のすぐそばの壁。

 無残にも壊され、もはや瀟洒な原形をとどめていないそれは、彼が射出した宝具の力の強さを端的に表していた。

「お待ちください王よ! その者は敵ではなく、味方のサーヴァントで「黙れ」……っ!」

 あの、黄金の甲冑を身にまとったサーヴァント。召喚に間違いがなければ、彼の名はギルガメッシュだろう。

 その彼が、こちらに明らかな敵意、むしろ嫌悪と呼ぶべき何かをぶつけている。それの原因が分からないというわけでは、もちろん無かった。

 ギルガメッシュが先ほどから視線を向けているのは、ヒデオではなくウィル子。神様嫌いはやはり本当らしい。この様子では、隠れているノアレの存在も分かっているのだろうか。

「呼ばれたから王たるこの我が来てやったものを…まさか、このような輩にいきなり会うとは夢にも思わなんだぞ……!」

「な、なんですかなんなのですかー! 会っていきなり攻撃とか、ウィル子たちはRPGのモンスターではないのですよー!!」

「戯けが、オレの視界に映ったこと、それ自体がもはや罪以外の何がある」

「な、なんという暴君理論…! 太古の英霊、恐ろしい子……!!」

 ウィル子、ノリにノっている所悪いが、今ヒデオはうっかりしたら死ぬ所だったのだが。自分にうっかりスキルが無くてこれほどまでにいいと思ったことは無かった、切実に。

「貴様の存在、この我が消し去ってくれる!」

 空間が歪んで、そして展開されるのは大小無数の剣や槍、斧、鎚。国籍などこれっぽっちもそろわない、まさしく世界全ての武器。

 それが明らかな殺意を持って、ヒデオ達の方を向く。

 言峰が右手の甲の礼呪を意識し、ヒデオが霊体化の準備を始めた、その時。

「……令呪により、進言します」

 突如ギルガメッシュの体に走った赤い閃光。それは恐らくは、

「貴様……!」

「我が王よ、どうか、この場は怒りを収めていただきたく……」

 ギルガメッシュに跪く時臣の右手の礼呪が光を放ち、ギルガメッシュの攻撃を押しとどめていた。

「チッ! ……よいか、二度は無い」

「はい」

 時臣に射殺さんばかりの視線を向けるギルガメッシュが、それでも矛を収めたのは、時臣の忠誠の姿勢に報いるためなのか、ただ単に興が乗らなくなっただけなのか。

 ぎろり、と深紅の瞳がこちらを見る。その威圧感は、かつてヒデオが会ってきた人間以外の者たちの視線を思い起こさせるものだった。

「そこな雑種。…フン、貴様がその不愉快極まりないモノを憑けているのか。命が惜しければ、ソレを金輪際我に近づけるでない。虫唾が走る」

 言うだけいって満足したのか、金の魔力の名残を残しながらギルガメッシュは姿を消した。霊体化、だろうか。

「……マスター、予想以上でしたね」

 そうぽつりと告げたウィル子に、ヒデオは何も返すことが出来なかったのだった。





 ところで、先ほどギルガメッシュが射出した剣。あれはどう見ても普通の軌道をとっていればヒデオの頭を打ち抜いていたように感じるが、実際の所、剣はヒデオの髪の毛数本を持っていっただけでヒデオには当たらなかった。

「…ウィル子」

「ウィル子ではありませんよマスター。そもそも、ウィル子にはあれの軌道を変えることができるスペックは備わっていません」

 では、ノアレ?

《私でもないわよ》

 ならば最後の可能性としては。

 それと先ほど、剣が隣を掠めていくという衝撃すぎる出来事に思わず忘れていたが。剣が射出されてすぐ、目の前に現れすぐ消えていった銀の刃は。

《…別に、アンタを助けないと私が現界出来ないから助けただけよ。勘違いしないでよねカス、死ネッ》

 …まぁ、なんというか。相変わらずと言ったところだろうか、エリーゼも。





【宝具】

 闇の端末(闇理ノアレ)
 ランク:B
 種別:対人宝具
 レンジ:1~10
 暗黒神の端末である闇理ノアレの事。宝具事態に意思を持っているために使用は困難。

 聖霊の金属(エリーゼ・ミスリライト)
 ランク:A
 種別:対軍宝具
 レンジ:1~50
 聖銀の精霊、エリーゼ・ミスリライトの力。魔の属性を持つ敵に対してワンランク上の効果を発揮する。



あとがき
エリーゼとノアレはいます。マックルは未定。エルシアは言わずもがな。睡蓮は「先輩がそう簡単に後輩の事情に口出しはせぬのです」との事らしいです。
ギルガメッシュの召喚までを書きましたが、どう考えても神性落ちるほどの神様嫌いが精霊と神様ごろごろくっつけてるヒデオと仲良くは無理そうだなぁと。
実際の所、一番の戦力はエリーゼなんだぜ…?
それと、下からはおまけです。性転換注意!




おまけ

「もしかしたらの聖杯戦争~昼ドラから少女漫画へ~」


 ディルムッド・オディナは愛に生きた男である。

 といっても、それは無理やり選ばされたものであって、彼の本質は忠義の騎士。ただ一人の主に忠節を誓い戦う事を誉れとする、生粋の武人だ。それが何の因果か望まない結末を運命の脚本家に課せられた彼には、一つの望みがあった。

 愛に生きた事を後悔してはいない、けれども、もしもう一度だけやり直せるとするならば、今度こそ主に忠節を誓って生きたい。と。

 そう思ったからこそ、彼はこの聖杯戦争での召喚に応じた。

 騎士として生きる、それだけのために。

 それだけのために、呼ばれたのだったが……。

「……問おう、あなたが私のマスターで……」

「……」

「……、」

「……な」

 ふたり、いる。

 陣の中央に召喚されたディルムッド、ランサーは、視線の先にいる二人の「女性」を、困惑した目で見つめていた。

 一人は、ランサーが呼ばれた部屋の入り口近くで腕を組み、こちらを見つめている端正な容姿をした赤髪の女性。彼女はランサーを穴があくほど見つめているが、生まれついての魔貌により女性に熱烈な好意を抱かれるランサーにとって、居心地の悪いものではあるが、良く見知ったものだ。……悪い事に。

 そしてもう一人、ランサーのすぐ前。つまり陣の近くにいる女性。長い金髪を後ろでまとめ、現れたランサーを唖然として見つめている。見た目から考えると後ろにいる赤髪の女性と同年代のような容姿をしているが、低い身長と幼く見える顔立ちで、こうして見ている分には18、19くらいに見える。

 一体どちらが、自分のマスターなのだろうか。

 どちらも女性なのは、まぁいい。ランサーの時代ならば人々を導く姫君や、勇猛果敢に戦場をかける女騎士もいた。たとえ女性であろうとも、一度主となったならば命をかけて仕えよう。

 だが問題は、どちらが自分の主なのか分からないということだ。サーヴァントとマスターの間にある魔力や令呪は、何でかは知らないがどちらにも感じ取れる。

 二人の顔を交互に見る。……目をそらされた。しかも頬を赤らめていた。このような大々的な儀式を行えるほどの魔術師ならば魅了くらいは抵抗できそうなものだが、本人達が抵抗する気がないというのならばどうしようもない。

「……貴様、が、あのディルムッド・オディナで間違いは、無いか?」

 ランサーの前にいた金髪の女性が、意を決したようにランサーに話しかけてくる。といっても声色は上ずっていたし、時々息が詰まるのか妙なタイミングで言葉が切られたりなどしていたが。

 そしてその言葉を聞き、反射的にランサーは跪いていた。

「はっ、私がランサーのクラスで現界いたしました、ディルムッド・オディナです。……私の主は、貴女でしょうか」

「い、かにも。私こそが聖杯戦争で貴様のマスターを務める、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。こちらは私の友人で協力者のソラウだ。ソラウ、挨拶を………ソラウ?」

 赤髪の女性、ソラウは答えない。ただまるで夢見る乙女のようにランサーの事を見つめている。

「ソラウ、どうしたんだ。……ソラウ!」

「え……あ、ああ。ごめんなさいねケイネス、少し、ボーっとしていたわ」

 金髪の少女、ケイネスの言葉で我に返ったソラウだが、いまだランサーを見つめる瞳には熱が込められていて、恐らくは魔貌の虜になっているのだろうと予想された。

「……ソラウ、君には魔力を担当してもらっているんだ。サーヴァントへの魔力供給に慣れなくて疲れているのだろう。少し休んだらどうだ?」

「…いえ、平気よケイネス。それをいうならケイネスの方だって、召喚で疲れているのではなくて? 休んだ方がいいんじゃないかしら」

「…む、自分のサーヴァントの前で無様な姿を見せるわけにはいかない。心配はいらないよ」

「そうかしら?」

「ああ」

 …なんというか、こう。見た目は友人の安否を心配する優しい友情関係に見えるが、見えない所でバリバリバチバチ火花を散らし合っている感がひしひしと。猫と猫のキャットファイトである。

「あ、の……。つまりは、どちらも私の主ということでよろしいのでしょうか?」

 恐る恐る冷や汗交じりで問いかけたランサーの方を真っ赤な顔をしたケイネスが振り向いた。そうやっていると成人女性のはずなのに妙に子供っぽい。

「!! う、うむ! しかし令呪は私にある、ので私の命令を聞くのだ、ランサー! ソラウも異論はないか?」

「……まぁ、そうね」

「はい、分かりました主。このディルムッド、不肖ながらも努めさせていただきます」

 そういって顔を上げたランサーは、思わず硬直した。

 近い、何が近いって、ソラウが。

 さりげなくランサーと距離を詰めたソラウはそのまま腕を組み、体をすり寄せてくる。女性としては理想的な体に美貌がランサーのすぐ傍にあるが、ランサーはそれで揺らいだりはしない。けれども、流石に女性に詰め寄られれば動揺はするのである。まずい、ややこしい事になる、という危機感で。

「じゃあ、ケイネスは令呪の調整で忙しいでしょう? その間、私がランサーと一緒にいるわ。ね?」

「いや、その。ソラウ様、私は主をお守りするために主の傍に居たいのですが…」

「あら、これから繊細な魔術の調整をしようという時に、サーヴァントのような強大な魔力を持つ存在が近くにいたら誤作動が起きるかもしれないでしょう」

「それは、そうですが……」

 ソラウの言う事ももっともなのだが、彼女がランサーを見つめる瞳の色はとても見覚えがあって、これ以上自分はこの女性の傍にいてはいけないと思うのだ。主に仕えるために現界したのに、主の友人と恋仲になってしまっては本末転倒。まあ、ランサー自体はソラウに心が揺らぐことは無いだろうが、それを周りがどう思うかなのである。

 困り果てたランサーがケイネスの方を見ると、ケイネスは先ほどよりもさらに顔を真っ赤にしてランサーとソラウを見ている。意識していはいないが、イケメンの困り顔は毒。

「あ、ら、らららんさー!」

「! はっ!」

「えー、あー……! き、貴様私の親友に手を出すとは何事だっ! 離れろ!」

「主っ!?」

 びたぁ! と今度はケイネスがソラウが組みついている腕とは正反対の腕にしがみつく。腕に組みつく、のではなく本当にしがみつくというのが正しい、色気も何もあったもんじゃない。

 まずい、非常にまずい。そもそも女性がそう簡単に男に身体を寄せるという事もアレだが、片方の豊満な肉体の感触もアレだがもう片方の服と肋骨の間の柔らかい部分と長い髪の毛からする花のような香りもそれはそれですごく……いやいやいやいや。

 意識しているわけではないのだが、女性が近くにいると反応するのは男としての深層心理である。

 美女二人に組みつかれるというある意味ではとてつもなく羨ましい状況であるランサーだが、これからの事を考えると嫌な予感しかしない。

 ランサーの幸運はほぼ最低値である。


書いてみたはいいものの余りにもラブコメチックかつ自害せよランサーと言いたくなるというかディルムッドもげろと言いたくなるというか両手に花どころの騒ぎじゃねぇというかそのイケメン面張り倒したいと思ってしまったのでただのネタで終わるのだった。

別名 「ケイネスたんの聖杯戦争! ~ディルムッド爆発しろルート~」




[32942] 【ネタ】もしも~だったら【Fate×マスラオレイセン】
Name: あんず◆52ff7475 ID:d380d394
Date: 2013/11/05 21:32
短編ですすみません!




「もしも舞台がEXTRAだったら」


 発展し過ぎた科学は、もはや魔法と区別がつかない。

 それ以前に、この世界は不確かだ。

 0と1で構成されているはず。『ある』か『ない』かの世界で、曖昧な数など存在しない。

 にもかかわらず、そこに存在する確かな不自然。

 心というおよそ数値では計算できず、表わすことのできない存在が、電子の海には漂っている。

 どれだけすぐれたコンピューターであろうとも、感情の類を構成する事は不可能だ。ほかならぬ、人間自身が己を分かっていないのだから。

『……、にはははは…………』

 ならばこそ、人間(ヒト)の思いが作り出した自分は一体何なのだろうか。

 0(ない)か1(ある)かで形造られた海の奥深くにて、楽しげに、そう、『心』の底から楽しげに笑う、人間の信仰の果てにある存在。

 電子の神。

『にひひひひ………、にほははははー!!』

 ――――Will.CO21は活動中です。しばらくお待ちください。

 ――――――ウィルスの存在を確認。迎撃。

 ――――Will.CO21は戦闘中です。しばらくお待ちください。

 ――――――ウィルスの浸食を確認。該当コマンドプログラムより、迎撃ソフトの再構成を開始。

 ――――Will.CO21はムーンセル・オートマトンのメインシステムを美味しく頂きました。Will.CO21はムーンセル・オートマトンのサポートシステムを美味しく頂きました。Will.CO21はムーンセル・オートマトンのサーヴァントシステムを美味しく頂きました。

 ――――――迎撃ソフトの再構成、失敗。障壁突破、被害――――――

 ――――Will.CO21は、SE.RA.PH(セラフ)の指揮権の譲渡を確認しました。

『…………さあ、始めるのですよー!!』





 その日、繰り返していた虚構の日常がはじけ飛んだ。

 万能の願望器である「聖杯」を手に入れるためにこの戦争に参加していた魔術師、ウィザードたち。一時的に記憶を奪われ、偽りの学園生活を送っていた彼ら彼女らの脳に突如走り抜けた、暴力的なまでの衝撃。

 視界が真っ白になり、頭の奥に雷が落ちたような感覚と共に帰って来た自分の記憶。

 壁や床、いたるところに現れる赤い壁。鳴らされるアラーム音。

 極めつけはこれだ。

 「メインシステムの組み換えを行っています。」





「なにこれ……」

 そして、この異常事態の中、混乱しながらも状況を確認した一人の少女がいた。

 名を遠坂凛。

 現実世界では優秀な霊子ハッカーであり、世界を支配するハーウェイ家に対するレジスタンス活動を行っている。

 今回聖杯を求めたのも、ハーウェイ家に対抗するためだった。

 そんな彼女が明らかに察知したのだ、これはおかしい、と。

「いままで何をやっても絶対に深い所に侵入出来なかったのに……今は簡単に入ることができる……。システムのダウン? いえ、もしそんなことになったら私達も現実世界に戻るか死ぬはず……、なのに……」

『…………にひひ……』

「!!」

 彼女ほどの凄腕のハッカーがどれだけの労力を弄しても成す事の出来なかった、ムーンセル・オートマトンのメインシステムへのハッキング。それを行ったものがいる、彼女はそう結論付けた。

 でも一体誰が?

 そこまで考えたときに、凛の脳裏によぎった情報があった。

 元々「彼女」の存在が確認できたのは、2000年かららしい。

 文字どおり21世紀の始まりから、常にその存在を誇示してきた。

 電子の海の中を自由自在に動き回り、神出鬼没で現れてはデータを食い荒らす謎のコンピュータウィルス。しかしその数年後に突如として活動を停止した、一部からは電子オカルトと呼ばれる存在。

 技術が進歩し、人の魂を霊子に変換する事が出来るようになった現代において、彼女は一足先に現れた霊子ハッカーなのではと結論つけられていたが……。

 高度なハッキング技術を持つものほど感じる、電子の世界を漂う大きな何か。それはただの霊子ハッカーが持つものでは決してなく、深淵を知るものほど、より大きな、神秘的と称しての良いほどの存在を感じていた。

『にほほ、にほはははー!』

「ま、さ……か……」

 驚愕のうちに瞠目する。

 大きな魔力のうねり、人ならざるものが顕現する兆候。

 そして現れる。――――過去の英雄たち。

 ――――問おう、汝が我のマスターか?





『さあさあさあさあ! 聖杯戦争のルールの大幅改定!! あーんど! 新ルールの紹介なのですよー!!』

 高らかに、まるで「あの日」のように大会の始まりを宣言する少女。あの時は一参加者として参加していた彼女は、今回は運営者として参加する。

 彼と一緒に見た、あの大会最初の夜。壇上に立ち声を上げる司会者を、精一杯模倣して。電子と霊子を統べる少女は、彼女の決めた彼女のための決まりを謡い挙げた。

『参加資格は“人間とサーヴァントのペアであること”!! 勝負方法“問わず”!! さらに――』

 21世紀を願う神となったのだ。ならばこそ、このような1大イベント、介入しなくて何が神か。

『本大会は、殺害や、それに至る行為を認めてはいないのです!! もしそれを破ったりしたものは厳正なルールのもと強制ログアウトの憂き目にあうので、けっしてそのようなこと行ってはいけないのですよー!!』

 聖と魔が入り混じった、世界平和を願った王の次を決めるあの大会で起きた、最高の奇跡。

 奇跡を起こすことが神の役目ならば、自分はこれに参加している全員に起こすほどでなければ。


『それでは聖杯戦争with聖魔杯バージョン、開幕なのです――!!』





 自分の記憶が思い出せなかった。

 自分の名前ならば思い出せる。×××××、それが自分の名前だ。

 では、自分は何者なのか――?

 そこだけは思い出せない、まるで最初から存在しなかったように。

「……君が、僕を喚んだマスターだろうか」

 目の前に立つ青年は、サーヴァントらしい。サングラスの奥に鋭い目をたたえ、漆黒のスーツを身にまとう彼は、自分が喚びだしたサーヴァントで、この戦いを共に勝ちぬくもの。

 しかし、喚び出した当のマスターが記憶喪失では――。

「……事情はよくわからない。が、右も左もわからないのは、よくあることだ、と思う」

 ……これは慰めてくれているのだろうか。

「……この大会は、勝たなければいけない。勝つこと、勝ち続けること。明確な目的など無くても、前に進まなくてはいけない」

 ……でも、果たしてそれは悪いことだろうか? 彼はそう告げた。

 サーヴァントとマスターの間にある特殊な回線(パス)。それを通じて自分の感情を読んだのだろうか。

 彼の言うことは、たしかに一理ある。

 記憶の無い自分では、記憶のある他の選手達よりも目的に対する意志が弱い。意思の力、それ自体は意味を持たない、けれども、あるのとないのとでは大違いなのだ。

 しかし、それでも勝たなければならない。

 意思の力がどのようなものであれ、負けてしまっては何もかもがおしまいなのだから。

「立ち止まるよりも、進んだ方が何倍もいい。……少なくとも、僕は、そう思う」

 そんな時間はまだないのだから。

 明確な目的や意思は、二の次にしておく。

 それよりもまずは、勝ち続けることだ。

「一緒に、勝とう。マスター」

 そう言って手を差し出してくる彼に、こちらも手を差し出した――。





「ふはぁー、やっぱりシステムへのハッキングは骨が折れたのですよー……。あれ?」

「……ああ、やっぱりここにいたんですね」

「にひひ、ウィル子だってやる時はやるのです。人類を救うためならカミサマは力を貸してもいいのですから」

「――――」

「――これからあなたに見せてあげます」

「人の可能性を、この世界の優しさを。荒廃し、停滞し、枯渇した世界であったとしても、明日を夢見て、未来を見据えて、最善の結果に少しでも近付こうとする、あまねく人の子の素晴らしさを」

「ウィル子たちや、ここ……ムーンセルが力を貸さなくったって、きっと辿りついたであろう、ハッピーエンドに」

「ただの人間が生み出す、今世紀最高の奇跡を、貴方に――」



EXTRAだったらウィル子最強じゃないかとふと思いました。細かい設定はスルーしてください。


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