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[32932] 【ネタ】魔闘少女リリカルマスターなのは(Gガンダム×リリカルなのは)
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2016/02/28 14:17

 はじめまして、滝川剛という者です。某所でのガンダム全面規制を受けて、此方に来ました。加筆修正を加えた方をちまちまと投稿します。
 まだまだ未熟なので、至らぬ点をご指摘下さればありがたいです。それを糧に精進したいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 このお話は、TSもの、ギャグものです。内容は、もしも高町なのはの前世がマスターアジアで、尚且つ記憶を持っていたならです。
翠屋次女『高町なのは』マスターの記憶を持った彼女が、魔法渦巻く世界で、ガンダム・ザ・ならぬ、エース・ザ・エース東西南北中央不敗スーパーなのは目指して、リリカル世界に多大な迷惑を掛けるお話です。
 漫画超級! の設定が入っており、一部今川作品ネタがあります。キャラ崩壊、東方不敗()なのでご注意下さい。それでは第1話をどうぞ。

※どうしても感想返しの書き込みが出来なかったので、代わりにこちらで感想を下さった皆様にお礼を述べさせて貰います。




 第1話 師匠転生すの巻



 地平線から燃えるような朝日が顔を出し、熾烈な闘いを終えた海岸を暖かく照らしていた。その眩い光に照らされ、今一人の男が息を引き取ろうとしていた。『東方不敗・マスターアジア』である。
 愛弟子であるドモン・カッシュの腕の中、マスターアジアは燃える朝日を眩しそうに見詰めた。

「……美しいな……ドモン……」

 生きて日の目を見るのはこれで最期であろう。ドモンもそれは判っている。その両眼から溢れる涙を堪えながらも応えた。

「ハイッ、とても美しゅうございます」

 マスターアジアは頷くと朝日に向かい、涙に濡れた目を見開いた。最後の力を振り絞る。ドモンもそれを察し2人は同時に叫んだ。

「流派 東方不敗は!?」

 ドモンは溢れる涙のまま同じく朝日に向かい、

「王者の風よっ!」

 マスターも涙を溢れさせ叫ぶ。

「全……新……!」

「系列!」

 ドモンの叫びにマスターは、残り滓のような最期の力を込めて拳を握り締めドモンと共に叫んだ。

「天破侠乱っ! 見よ! 東方は赤く燃えているうううっっっ!!」

 数奇な運命に翻弄された、師匠と弟子の最期のやり取りであった。マスターアジアは満足だった。それを最期にその手が力無く落ち、その目は静かに閉じられた。

「師匠おおおおぉぉぉっっ!!」

 ドモンの慟哭が辺りに響き渡る。マスターの死を悼むように海猫が乱舞し、波は猛り海岸を強く打った。
 愛弟子ドモン・カッシュに抱かれ赤く燃える東方の下、マスターアジアはその波乱の生涯を閉じた。その表情は安らかであった……


 






 マスターはふと、温かい温もりの中を漂っているような感覚に気付いた。



 妙な感じだった。目覚めているような、目覚めていないような曖昧な感覚。身体はタールの中に沈んだように、言う事を聞かない……



 思考もままならない。ただ温かさと、優しさが周りに溢れている気がした。そう思ったのも束の間、再び意識が薄れて行く……


 ひどく眠かった……


 その状況が長く続く……


 永遠にも感じられる時の流れ。それでも少しづつだが意識が明確になりつつあった……

 そしてある日、ようやく意識がいくらか明確になった。




 此処は…… ?


 マスターは目を開く。見慣れない部屋の中に居るらしい。

 これが……死後の世界……地獄と言うものか……

 そんな事を思う。今までの所業から当然だと思った。すると突然、巨大な女の顔が、ずいっとばかりに視界を埋め尽くした。

 何だ? このモビルファイター張りに巨大な女は!?

 信じられない程大きな女が間近に迫っている。マスターアジアは危険を感じ、とっさに女から離れようとする。しかし身体は思うように動かないままだった。

 ぬうう…… 死んだこの身では、満足に動く事もままならぬのか……?

 それでも動かぬ身体にムチ打って立ち上がろうとする。おぼつかないながらも、直ぐ近くに有った柱のような物を掴む。ヨロヨロだが身体を起こし、立ち上がる。その時妙なものが目に入った。

 何と!?

 柱を掴む紅葉のような小さな手、それは紛れもなく赤子の手であった。柱と思ったものは、ベビーベッドの柵であったのだ。訳が解らないマスターはいきなり抱き上げられていた。先程の巨大な女だ。

「見て見て なのはが捕まり立ちしたわよ」

「おうっ、可愛いなあ、なのはお父さんだぞおおっ」

 さらに巨大な男が現れ、満面の笑みを浮かべてマスターの頬っぺたをむにむに撫でる。

「私にも抱かせてよおっ」

「美由希あんまりはしゃぐと、なのはがビックリするだろ」

 更に巨大な子供の兄妹がこちらを見上げているのが見えた。女達が大きいのではない。マスターが小さいのだ。

「何だとおおおおっ!?」

 そこでやっとマスターアジアは自分が赤ん坊になっている事に気付き驚愕した。ちなみに叫んだつもりだったが、小さな口から出たのは、ダアダアであった。

 東方不敗マスターアジア、本名シュウジ・クロス。元『シャッフル同盟』にして最強の『キング・オブ・ハート』の称号を持っていた男は、何故か別世界地球の高町家次女、『高町なのは』として再びこの世に生を受けたのである。
 それも前世の記憶を持ったまま……






 どうやら今まで意識がハッキリしなかったのは、赤ん坊の脳故だったようだ。状況を把握したマスターは、ベビーベッドに寝かせられながらも考える。

 これも……前世の悪行の報いか……

 もう観念するしか無かった。何故こうなったかは解らないが、高町なのはとしてやって行くしか無さそうである。赤ん坊の身ではどうしようも無い。

 何か意味が有るのかもしれんな……

 ちんまい腕で腕組みをする。さっぱり似合わないと言うか、愚図ってるようにしか見えない。それは置いておいて、

 これも自然の摂理か……まさしく輪廻転生なり!

 赤ちゃんでもやはりマスターである。こんな時でも直ぐに持ち直した。こうして、元東方不敗マスターアジアこと高町なのはは、この世界で一からやり直す事を決意した。マスターらしい器の大きさである。

 細かい事を気にしていたら、素手でモビルスーツは碎けないのだ。

 そしていささか早いと言うか早すぎるが、9年近い歳月が過ぎていた。












 まだ少し空気が冷たい春先の朝。ようやく暖かくなって来た朝日が室内を柔らかく照らしていた。高町家の食卓である。
 テーブルに着き新聞を読んでいる渋めの中年男性は、高町家経営の喫茶店『翠屋』のマスターでマスターの父……では無く、なのはの父親士郎さんである。
 そしてキッチンで朝食の支度に勤しんでいる、優しげで綺麗な女性は、なのはの母親桃子さんだ。喫茶翠屋のパティシエでもある。

「お腹空いたあっ」

「何だ美由希、だらしないぞ」

 賑やかに入って来たのはなのはの兄で、士郎父さん似の整った顔立ちの大学生恭也兄さんと、姉で眼鏡っ子の可愛らしい高校生美由紀姉さんである。自宅に有る道場で、朝稽古を終えて来たところだ。
 高町家は代々剣術家の家系でもあるので、2人共鍛練を欠かさない。

「あら なのははまだかしら?」

 桃子母さんが今だ姿を見えない末娘の事を聞いた時、

「おはようございます、父上母上、兄上姉上、今日も良い天気で何より ぬわっはっはっ」

 可愛らしい少女の声で、えらく爺くさいと言うか時代錯誤な挨拶が朝の高町家に響いた。声質と言葉使いがまったく合っていない。ハッキリ言って違和感有りまくりである。

 姿を現したのは、白い制服を着た小学生の可愛らしい少女であった。茶色がかった髪をおさげにし、ピンク色のリボンを着けているこの少女『高町なのは』こそ、転生したマスターアジアの成長した姿である。

 なのはの喋り方にみんな慣れっこなのか、家族みんなで普通に挨拶を返す。士郎父さんは新聞を置くと、愛娘に尋ねていた。

「おはようなのは、今朝も早くから出ていたね 今日もジョギングかい?」

「左様です、朝の張り詰めた空気が心地好い、これも早起きの賜物でしょう……」

 しみじみと小学生とは思えないと言うか、ジョギングから戻った元気なおじいちゃんのような返事をするなのはであった。



 ペロリと朝食を平らげ、なのはは鞄を背負い学校に行く準備を整えた。どうでもいい駄情報だが、その動作一つ一つに無駄が無い。流れるような動きである。

「それでは学校に行くので、しばしの間さらば!」

「行ってらっしゃい、車に気を付けるのよ」

「心配無用、母上!」

 声を掛ける桃子母さんに、なのはは自信満々に笑いながら靴を履くと、おさげ髪を揺らして猛烈なスピードで走り出した。何か走る足の動きが見えない。桃子母さんはその後ろ姿を見送りながら、

「すっかりあれで固定されちゃったわねえ……やっぱりあまり構ってあげられなかったせい……?」

 深いため息を吐くのだった。

 小学校に入学したなのは、その小学生とは思えない言動と、堂々とした態度とで、着いたあだ名が『じいさん少女』ともう一つ、『師匠』であったと言う……







 さて……朝の通学路である。

 通勤のサラリーマンや学生が行き交う中を、通学中のなのはは疾風の如く駆け抜ける。目にも留まらぬスピードで、人々の間をぬってスイスイ進んでいた。何故か腕組みで。今日も朝から全力全開のようだ。しかし学校の方角とは逆のようだが……

 しばらく行くと、前方から通学に使っているバスがやって来た。なのはは悪戯っぽい笑みを浮かべると、通りすがり様にバスの上へと、ひらりと飛び乗った。
 腕組みをしながら屋根の上に立ち、おさげ髪とスカートをなびかせて、気持ち良さそうに風に吹かれる。

(フフフ……こうしておると、『風雲再起』の背に乗って、大地を駆けたのを思い出すのお……)

 などと弟子にして愛馬の事を思い出し、感慨に耽りながらその小さな背に哀愁を漂わせるなのはだった。

 そのバスの後部座席に、2人の少女が座っていた。なのはと同じ白い制服を着ている。外国人の勝ち気そうな少女『アリサ・バニングス』と、カチューシャを着けた大人しそうな少女『月村すずか』である。

 いつものバス停でなのはが乗り込んで来ないのを見て、アリサはため息を吐いた。バスの天井に視線を向けると、おもむろに窓を開け上に向かって叫んだ。

「なのは! またアンタ屋根に乗ってるわね、迷惑だから降りなさい!!」

 屋根の上で、王者の風ならぬ朝の風を楽しんでいたなのはは苦笑を浮かべた。その様子は、孫にたしなめられるご老人のようである。
 なのはは仕方無く次の停留所で屋根から降り、バスにちゃんと乗り込んだ。アリサ達の所へ向かう。

「まったく……なのははロクな事をしないわね……」

 アリサは隣に座るなのはに、さも呆れたように文句を言うが、口元は笑っている。いい加減馴れているようだ。

「なのはちゃん、おはよう……」

 すずかは微笑んで挨拶する。なのはもニコリとし挨拶を返す。

「ウムッ、アリサもすずかもおはよう、今日も良い天気で何よりだ」

「なのはは相変わらず、爺くさいわね……」

 なのはは気さくに2人と話している。アリサとすずかは友人である。小学年の時に、ある事件が元で仲良くなったのだ。片や前世を合わせると大体58歳、片や9歳の少女達人は世代を越えて、妙な友情で結ばれていた。
 まあ……なのはからすると、孫の相手をしているのに近いかもしれないが。アリサとすずかは、この異様なまでに頼りになる同級生に良く懐いているのである。





 私立聖祥大附属小学校。なのは達が通う学校である。所謂名門校と言うヤツだ。其処で他の生徒に混じって授業を受けるなのはの姿が有る。
 元々博識で教養も高く、本来なら授業を聞き流してもいいのだが、元居た世界より数百年は過去で別世界らしいこの地球は色々と興味深く、楽しんで授業を受けているのである。
 本人は普通を装っているが全然隠しきれておらず、クラスの同級生達からは『なのは師匠』と慕われていた。

 体育の授業。今日はドッジボールのようだ。その中で、異様に気合いの入っている2人の少女が居た。1人はなのは、もう1人はすずかである。チームが別れた少女達はニヤリと笑い合う。

「なのはちゃん、今日は負けないよ!」

 普段大人しいすずかにしては、珍しく気合いが入りまくっている。

「フフフ……抜かしおるわ、すずかよ全力で掛かって来い 儂が全て受け止めて見せようぞ!」

 体操着ブルマに着替えたなのはは、可愛らしい外見に似合わず腕組みで不敵に笑う。とっても偉そうであった。

ピイッ~ッ!

 ゲーム開始の笛が高らかに体育舘に響き渡る。それと同時になのはとすずかは叫んだ。

「行くぞ、すずかあっ! ドッジボールファイトォッ レディィッ!」

「ゴオオオオッ!!」

 その瞬間、コートは戦場と化した。

「うぎゃあああっ!?」

「キャアアアアッ!」

「あべしっ!?」

「ひでぶっ!!」

 次々と悲鳴が上がる。約2名の投げ合う、凶器と化したボールによってあっという間にコート上の人数が減ると言うか、吹っ飛ばされて行く。

「なのはちゃん 今日こそアウトにして見せるよっ!」

 約2名の片割れ、すずかが人間とは思えないスピードでコートを疾走しながら叫ぶ。

「フハハハハ すずかよ、お前に儂が倒せるとでも思っておるのか!?」

 そしてもう1方の片割れ、なのはは腕組みをしながら上半身のみの動きで、ボールをひょいひょい避け高笑いする。

「ええいいっ!」

 すずかの超スピードボールが、なのは側チームに襲い掛かった。パッコーンと快音を響かせてアウトになるなのは側の同級生達。アウトになった子供達は、ボールがぶつかった箇所を擦りながらも外野に着く。

 流石に2人共、手加減をするくらいの良識は有ったようだ。下手をすると死人が出そうなので一安心である。

 さて……以前より遥かに劣るとは言え、なのはと渡り合えるすずかだが。実は彼女、特殊な一族の末裔で、常人を遥かに上回る身体能力を持っているのだ。
 以前はその事で悩んだ時もあったのだが、人間の身で常識外れのなのはを見て、

(私って思ったより大した事なかったんだ。だってなのはちゃん凄いし!)

 とダイナミックに勘違いし今では特に身体能力を隠してもいない。なのはが居るので誰も気にしない。しかしなのはを人類のカテゴリーに入れていいものか悩む所であるが……
 しかしすずかにしてみれば、自分が全力でぶつかっても勝てない程の相手が居るのは嬉しいのだろう。

 さて戦況だが……なのはと同じチームでまだ生き残っていたアリサは、すずかの球をおでこにパッコーンと受けてしまった。こぼれ球が上空に上がる。

「儂に任せておけい! アウトになどさせん!」

 なのははボールを追い、米つきバッタのように飛び上がった。軽く5メートルは跳んでいる。空中でボールをキャッチすると、素早くすずかを狙ってボールを投げ付けた。唸りを上げて飛ぶボール。すずかは避けず微かに笑みを浮かべ、

「なのはちゃん手加減したね、それが命取りだよ!」

 彼女はボールの勢いに逆らわず、ふわりと右手でボールを包み力のベクトルを変えてやる。相手の力をそっくり返してやるのだ。更にすずか自身のパワーも上乗せし、まだ着地前のなのはに向かって手加減無しで投げ付けた。

「でええええええいぃぃっ!!」

 なのはピンチである。ボールはドギュルルルッという擬音がピッタリな勢いで彼女に迫る。当たったら普通に死にそうだ。すずかは拳を握り締め勝利を確信し叫んだ。

「なのはちゃん、空中だと何処にも逃げられないよ! 私の勝ちだああぁぁっ!!」

 何かキャラが変わっているというかノリが変である。なのはに悪い意味で影響を受けてしまっているようだ。

「甘いわぁ! すずかぁぁっ!!」

 なのはが吼えた。その右手が闇色の光を放つ。

「ダァクネス、フィンガアァァッ!!」

 輝く右手が真っ向からボールをガッチリと受け止めていた。摩擦熱で焦げたような臭いが辺りに漂う。

「ふははははっ! なっちゃいない……なっちゃいないぞすずかぁぁっ!!」

 すると、高笑いするなのはの右手のボールがダークネスフィンガーのパワーに耐えきれず、ポンッと破裂した。破片が炎に包まれてパラパラとコートに落ちる。

 ピピ~ッ!

 審判の先生の笛の音が響き渡った。

「高町さんアウト!」

「何と!?」

 ようやくコートに着地したなのはは愕然とした顔をする。

「ボールの破片が落ちたから高町さんはアウトね……次はボールを破裂させないようにっ」

 何時もこんな光景を見慣れている先生は至って普通に注意した。周りの同級生達も、今日は師匠の負けかあ~、今日の賭け俺の勝ち、給食のプリンも~らい、などと慣れたものである。この世界も中々おおらからしい。そんな中なのはは右手を見詰め、

「まだ『気』のコントロールが甘いのう……これでは人間に使ったら、頭が西瓜の如く砕けてしまうわい……」

 などと恐ろしい事をぶつぶつ呟いている。恐ろしい小学生であった。そんななのはを見てすずかはクスリと笑う。

(なのはちゃん、また強くなってるね……あの頃よりずっと……)

 彼女には、なのはが今のゲームでも力をセーブしていたのが良く判っていた。本気を出したらとても敵うまい。

 あの頃……それは小学1年生の時……なのは、すずか、アリサが仲良くなった切っ掛けのある事件の事である……

つづく


一応Gガン流に嘘次回予告を。

皆さんお待ちかねええっ! なのはに襲い掛かる凶悪の武装集団に、血に飢えた剣鬼! それらになのはは敢然と立ち向かうのです! 幼き身で果たして闘い抜く事が出来るのでしょうか? なのはの雄叫びが轟くのです!!

魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠色々と爆発してみるの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥゥッ!!













[32932] 第2話 師匠色々と爆発してみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/05/13 00:06
※感想書き込みが出来ないので、次回予告後にお礼や質問の答えなどを書いておきますので。





第2話 師匠色々と爆発してみるの巻


 小学1年生の時であった……

 海鳴市郊外の廃工場で、アリサ・バニングスと月村すずかは、猿ぐつわに両手足を縛られて、コンクリートの床に転がされていた。
 学校帰りにアリサは黒づくめの男達に拉致され、車で此処まで連れて来られたのだ。
 アリサの両親は大金持ちな上、やり手の実業家で敵が多い。本来ならもの騒ぎな事をしでかす輩は先手を取って手を出せない状況に落とし込んでいるのだが、今回はトチ狂った敵対勢力が彼女を誘拐させたらしい。

 すずかは巻き添えを食ったのだ。たまたま帰る方向が一緒で、運悪くアリサの誘拐を目撃してしまい、口封じで一緒に連れて来られてしまったのだ。
 人間離れした身体能力を持つすずかだが、まだ小学1年生、拳銃を突き付けられ恐怖ですくんでしまうのも無理はない。

 古びて閑散とした工場内で、今2人の目前には数十人に及ぶ男達が、各自武器を持って警戒にあたっていた。バニングス家に嗅ぎ付けられた時の用心であろう。
 全員明らかに暴力のプロであり、隙の無い身のこなしをしている。その中で、リーダー各らしいサングラスの男がアリサに近付き、

「恨むんなら親を恨む事だな……まずはお前の耳を切り取って家に送り付ける……そうすれば、言う事を聞く気にもなるだろう……」

 男は特に凄むでも脅す口調でも無く、淡々とアリサにこれからの予定を喋って聴かせた。逆に抑えた言葉はリアルに感じられ恐ろしい。

 アリサは内心怖くて泣いてしまいそうだったが、プライドがそれを許さなかった。恐怖を堪え男を睨み付ける。しかし哀しい程に無意味な行為でもあった。

「中田さん……こっちの餓鬼はどうしますか……?」

 部下の男が、怯えた瞳を向けるすずかを指差した。名前をアリサ達の前で呼ぶという事は、2人共生かして帰すつもりが無いのは明らかだ。中田はサングラス越しに酷薄そうな目ですずかを見ると、

「面倒だ……さっさと片付けて、死体処理業者にでも任せろ……」

 部下の男は頷くと、懐から黒光りするオートマチックの銃を取り出し、銃口をすずかに向けた。少女は涙を浮かべ、逃れようと必死で身をよじる。

「……もが……! ……もがが……っ!」

 アリサは止めさせようと必死でもがくが、猿ぐつわを噛まされ手足を縛られてはどうしようも無かった。例え抜け出せたとしても何の役にも立たないが、気が強く傲慢なところがあるアリサだが、自分の巻き添えで人が死ぬのは耐えられなかった。

「嬢ちゃん……運が悪かったな……」

 男はすずかの額に突き付けた銃の引き金を引こうとする。その時だった。

「待たぬか! この外道どもがあっ!!」

 場にまったくそぐわない、可愛らしい少女の声が廃工場に響き渡った。全員が一斉に声のした方向を見る。そこにはスクラップの上に腕組みして立つ、白い制服を着たおさげの少女が不敵に一同を見下ろしていた。

 もちろん『高町なのは』である。ドオオンッ! という擬音がピッタリな感じで、やたらめったら偉そうだ。

「何だ? あの偉そうな餓鬼は!?」

「何か妙に迫力があるぞっ!?」

 思わぬ珍入者に男達は困惑しているようだ。見張りも居た筈なのに、まんまと入り込まれたのだから。

 なのはは帰り道で偶然車で連れ去られるアリサ達を見掛け、急いで追って来たのである。二度目だが、もちろん走ってである。
 隙を見て助けるつもりであったが、すずかのピンチに飛び出して来たのだ。一方アリサは、現れたなのはを見て唖然としていた。

(アイツ……爺さん少女、高町なのは? 何考えてんのよ? 今の状況判ってんの? 頭おかしいんじゃないの!?)

 アリサの当然すぎる心配をよそに、なのははギロリと本人は睨みを効かせたつもりで男達を睨み付け、

「幼子を拐かし、あまつさえ殺そうなどとは……悪党の儂が言う事では無いが、断じて許さん! 貴様ら全員叩き潰してくれるわあっ!!」

 と、偉そうな幼子は何故か拳を交差させ、高らかに宣戦布告し一気にジャンプした。その姿が突如空中に消え失せてしまう。

「ばっ、馬鹿な? 消えた!?」

 男達はざわめいて辺りを見回す。その時アリサとすずかの前に居た男達の目の前に、突如としてなのはが現れた。あまりの速さに瞬間移動でもしたように見えたのだ。

「儂は此処だあっ!!」

 爺さん言葉で喋る少女は空中で、独楽と言うかベイブレードのように回転し、遠心力で男達をぶっ飛ばした。ペットボトルロケットの如く相手達は勢いよく吹っ飛び、壁に叩き付けられる。

 唖然とするアリサ達の前で、なのはは制服の赤いリボンをシュルリと引き抜くと、目にも留まらぬ速さで一閃した。

「!?」

 すると2人を縛っていた猿ぐつわに縄が一度に切断される。

「アンタ……」

 もの凄く非常識なものを見て、上手く言葉が出ないアリサを、なのはは怒鳴り付けた。

「死にたくなくば、物陰に隠れておれいっ!」

 アリサは非常識少女のデカイ態度に一瞬ムッとするが、それどころでは無いと思い直し、近くのドラム缶の陰に走った。すずかも慌てて後に続く。

「この餓鬼、化け物か!? クソッ、撃てえいっ!」

 中田の指示に、男達は一斉に拳銃をなのはに向けた。桃子母さんが見たら失神ものの光景である。パァン、パァン、パァン、と乾いた音を立て、鉛の弾丸がなのはに襲い掛かった。
 しかしなのはは不敵に笑い、先程のリボン螺旋を描くように勢いよく振り回す。何か長さが元より遥かに長い気がするが、突っ込んだら負けだと思われる。きっと『気』のせいだ。

「甘いわあっ!!」

 なのはは遅い来る弾丸を、『気』を込めたリボンで全て叩き落としていた。その勢いで近場の男達を次々とリボンでなぎ倒す。前世での得意技『マスタークロス』だ!

「うわあっ? 何だこの餓鬼、妖怪かあっ!?」

 大概な言われようである。無理も無いが……非常識極まりない光景に男達は明らかにびびっている。なのはは高らかに吼えた。

「雑魚共があっ! 一気に叩き潰してくれるわあっ!!」

 左手を突き出した『流派東方不敗』の構えを取る。

「超級っ、覇王、電影弾ッッ!」

 叫ぶなのはの背後に稲妻が走った? 超級覇王電影弾と書き文字も出たような気がするが、目の錯覚であろう……

 なのはの体が、光る竜巻のようなものに包まれていた。回転によって辺りの埃が巻き上がる。どういう理屈かは知らないが、頭を残して体だけすごく回っているらしい。

(うわっ? 何か頭だけ出てる? 光るてるてる坊主?)

 アリサのツッコミはともかく、てるてる……では無く、『気』の塊と化したなのはは、本人だけは雄々しいつもりで叫んだ。

「でいやあああああああああああ~っ!!」

 子供が絶叫してるようにしか聞こえない気合いはともかく、なのはは物凄い勢いで男達に突撃する。あまりの変さに逃げ惑う男達の中に、回転なのはは突っ込んだ。

(スットライークッ!)

 アリサとすずかが思わず声を出したくなる程に、男達はボーリングの玉にぶっ飛ばされるピンのように、パッコーンと見事に宙を舞った。男達を文字どおり薙ぎ倒したなのはは空中に舞い上がり、纏っていた『気』を解くと、流派東方不敗の構えを決め、

「爆発っ!!」

 その瞬間男達は、体のどこかがポンッと爆発し、一斉に倒れ込んで動かなくなった。一応死んではいないようだが……
 それを見ていたアリサとすずかは、

(な、何が爆発したんだろう……?)

 と思ったが、ロクでもない説明を聞かされる気がしたのでスルーする事にした。

 誘拐犯達は殆ど全滅したようだ。アリサとすずかは、倒れている男達の中に立つ非常識少女を茫然と見ていた。無理も無いが……すると突然なのははグラリと傾き、倒れそうになってしまった。

「ちょっ、ちょっとアンタ、どうしたのよ?」

 2人はなのはに駆け寄っていた。彼女は何とか体勢を立て直したが、汗をかき辛そうである。怪我は無いようだが。なのはは苦笑いを浮かべ、

「ふふふ……6歳児にはまだ早かったようだな……母上に叱られてしまうわい……」

 どうやら幼子の体では色々無理があったようだ。リボンを見ると、あちこち穴が空いてる。マスタークロスもまだまだ不完全らしい。その時容易ならざる気配をなのはは感じ取った。

「やるぅじゃねえかあ……小娘ぇ~っ?」

 人を食ったような声が響く。視線をやると、白鞘の日本刀を肩に載せた鋭い目付きの中年男がゆらりと佇んでいた。妖気漂う剣鬼という形容がピッタリだ。

「離れておれ……」

 なのははアリサとすずかを退らせ、中年男に対峙する。男は白鞘をゆっくり抜き、ギラつく刃をなのはに向け、

「小娘ぇ~、妙な技を使うなあ……? 俺は若本流斬殺剣、穴子規夫……俺の剣は弾丸より速いぞぉ……いざ勝……?」

「ダァァクネス、フィンガアアアアッ!!(只のアイアンクローである)」

「あぎょべごげべへえええっ!?」

 穴子規夫は、なのはの強烈極まりないアイアンクローを顔面に食らい、コンクリートの床に叩き付けられた。床に亀裂が入り陥没するくらいの勢いである。ダークネスフィンガーで無くとも馬鹿力で叩き付けられてはひとたまりも無い。

「お前は阿呆なのか!? さっさと掛かって来んかあっ!!」

 吐き捨てるなのはだった。実に容赦ない。

「……やるな……フグ田君……」

 訳の解らない言葉を残すと、穴子規夫(46歳、独身)は動かなくなった。アリサとすずかは、コイツ何しに出て来たんだ? と心の中で突っ込まずにはいられなかった。

 それはともかく、力を使い果たしたのか、なのははガックリと床に膝を着いてしまう。2人が再び駆け寄ろうとした時、倒れていたリーダーの中田が不意に起き上がった。拳銃をなのはの背中に向ける。本人はまだ気付いていない。

 6歳のなのはは、まだ技のキレも甘かったらしい。なのはが撃たれる! そう思った2人の体は自然に動いていた。アリサは中田の前に両手を広げて立ち塞がっていた。夢中だった。それはすずかも同じ。

「えええいいっ!」

 最大スピードで飛び出すと、中田に力の限り体当たりをぶちかます。小さな体でもその一撃は強烈で、中田は床に仰向けに倒れた。すずかも勢い余って床に転がってしまう。
 たが中田は直ぐに起き上がり、すずかに拳銃を向けた。

「こっ、このクソ餓鬼があっ!!」

 怒り狂う中田が引き金を引こうとした時、拳銃は一瞬で跳ね上げられていた。

「ひっ!?」

 中田は恐怖に声を上げる。いつの間にか彼の直ぐ側に、なのはが立っていた。なのはは、アリサとすずかにニッコリと笑い掛け、

「よくぞ勇気を振り絞ったな幼子達よ……この高町なのは深く感じ入ったぞ……」

 そして立ち尽くす中田にはニンマリと笑い掛けた。少女の顔に関わらず、その表情は悪魔のように見えた。

「ひっ!?」

「でりゃあああああッ!!」

 中田が恐怖で悲鳴を上げる前に、なのはの痛烈な蹴りが炸裂した。その体は真上にすっ飛び、頭から天井にめり込んだ。てるてる坊主のようにブランブラン天井からぶら下がり、そのまま意識を失った。

「ふっ……」

 なのははようやく戦闘態勢を解く。体の節々が痛い。まだまだ修行の道程は長そうである。そこにアリサとすずかがやって来た。アリサはすずかに、「アンタやるじゃないの、只のオドオドお嬢さんかと思ってたのに」などと話し掛けている。
 なのはの前に来るとまず、すずかが、

「……ありがとう……なのはちゃんって、凄いんだね」

 もじもじしながらも、しっかりと頭を下げ感謝した。アリサは決まりが悪そうだったが、気を取り直したようで、

「おっ、お陰で……助かったわよ……一応お礼は言っておくわ……!」

 ツンデレ乙という感じだが、やはり怖かったのだろう。アリサもすずかもカタカタ震えている。そんな2人の肩を、なのははガッチリと掴んでいた。

「よくぞ今まで耐えたのう……儂の前でだけは泣けい!!」

 何故かなのはの方が泣いている。怖かったとかでは無くアリサ達の勇気に感動したらしい。

「儂の前でだけは、泣くがよい! 幼子達よ!!」

 お前も幼子だろう? とツッコミたかったが、安心感となのはのノリに釣られて、ドモンのように大泣きしてしまうアリサとすずかであった。

 こうしてお互い危機を共に乗り越えた者同士。なのは、アリサ、すずかの3人は男の友情ならぬ、戦友の絆みたいなものを結んだのである。

 後にアリサは言う……

「今まで、他人の言う事を聞いたりするのは負けだと思ってたけど……なのは見てたら、そんな小さい事どうでもよくなったわ……世の中広いわねえ……」

 と解脱したみたいに、しみじみと語っていたそうな……


つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 闇夜に潜む異形の影、街に死の気配が漂い、恐ろしい事件が起ころうとしているのです! 赤き宝石を持った獣と出会う時、なのはは果てしなき闘いの道へと誘われるのです!

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠調理法で悩むの巻』にレディィィッ、ゴォォオウゥッ!!







※ご感想ありがとうございます。
まだまだ理不尽になりますので。兄さんは妹がどんなでも可愛いので大丈夫です。別の生命体みたいなもんですし。
今現在のなのはのスペックは次回いくらか出ますので。まだまだマスター時の足下にも及びませんよ。これからも修行あるのみなのです。
次回もがんばります。ご感想ありがとうございました。



[32932] 第3話 師匠調理法で悩むの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/05/24 20:44


 さて皆さん……世の中にはそのまま食べられないものが多く存在します……河豚を最初に食べた人物など尊敬に値するでしょう……人間は古来から、その持ち前の知恵であらゆるものを食材として来たのです! それは誇るべきものなのでしょう!
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




「破ぁぁっ!!」

 早朝……人気の無い朽ち果てた神社に、やかま……凄まじくも可愛らしい気合いが響き渡った。
 元マスターアジアこと、高町なのはその人である。ただ今修行の真っ最中のようだ。
 家族には朝のジョギングなどと説明しているが、そんな生易しいものでは無いのは、皆さんご想像の通りである。
 リアルに考えれば、マスターアジアの記憶を持った少女に過ぎないなのはは、1から鍛える必要が有るので、更に幼き頃より密かに修行を続けて来たのである。
 まずは¨軽く¨準備運動で、正拳突き100000回だ。ものすごいパンチの嵐。突きと言うより、マシンガンの連射のようになっている。拳の形をした……
 そして桃子母さんが見たら間違い無く卒倒しそうな『流派東方不敗』の凄まじい修行に今日も励むのである。

(ふふふ……生まれ変わっても修行とは……儂も骨の髄まで武道家よのう……)

 なのははそんな事を思い笑みを浮かべながら、お猿さんのように木々を飛び回り、大岩に嵐のような拳のラッシュを叩き込む。

「破ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ガガガッ……と削岩機のような音が響き、見る見る岩に亀裂が入ると、ついには粉々に砕け散った。恐るべき光景である。端で見ている者が居れば、小学生の少女が笑いながらとんでもない事をしているので、自分の頭を疑いたくなりそうだ。それでも本人は納得が行かないらしい。

「ぬう~以前に比べればまだまだ……今はせいぜい銃弾を弾き、大岩を砕くのがやっと……これでは『石破天驚拳』はおろか『超級覇王日輪弾』も撃てはせん……」

 自分の拳を見詰めて難しい表情をするなのはである。順当に人間のカテゴリーから外れて行っている気がするが……彼女はこの平和? な日本で何を目指しているのだろうか?

 さて……こんな感じで朝から文字通り全力全開のなのはであるが、 少々元気が無いらしい。何処が? と言われそうな少女は微妙な表情で首を捻り、

「……どうも昨日は夢見が悪かったわい……」

 などと呟いた。『乱にあっても平常心』例え何億もの『デスアーミー』に囲まれようと、朝までぐっすりの彼女にしては珍しい事である。

「まあ……良いか!」

 早々に気分を切り替えたなのはは、崩れ掛けの石段をひょいひょい降りて行く。降りきった所で顔見知りの姿を見付けた。初老の威風堂々とした、紋付き袴の男性である。散歩の途中のようだ。

「これは源二郎殿、お早いですな」

「これはなのは君、君も早いな……」

 偉そうな小学生に御老人は笑って応えた。よく朝の修行の帰りに顔を会わせるので、自然と話すようになったのである。なのはは御老人に一目置いているらしく丁寧な調子で、

「本日はどちらまで?」

「今日は大阪まで行って来る、中々大変だよ……長旅は疲れるからね……」

 などと冗談めかして言っているが、その眼光は戦いに赴く者特有の鋭いものであった。何をしている人物なのかはよく知らないが、それだけは判るなのはは静かに頷き、

「ご健闘を……」

「ありがとうなのは君、おっと、秘書が捜しに来おった、それではな」

 御老人は片手を挙げると、遠くでキョロキョロ辺りを見回している若い男性の元へと歩いて行った。

「あれも武人よ……」

 なのはは神妙な様子で腕組みして、その後ろ姿を見送る。ふと大阪城が心配な気がしたが、それも良し! と30キロばかりの道程を走って家に帰った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 放課後、なのはは塾に行くアリサとすずかと別れ、1人道を歩いていた。さすがになのはには塾は必要ない。走って家に帰ろうと、一歩脚を踏み出したその時である。

(……助……けて……)

 突然弱々しい声が響いた。耳で聴いたのでは無く、直接頭の中に聞こえて来る声だった。

「ぬう……? これは面妖な……」

 なのはは辺りを見回してみる。声はどうやら公園の方から聴こえて来た気がした。直接頭の中に響いたので方向も何も無いが、何となく気配が感じられる。好奇心に駆られ気配のする方向に向かってみる事にした。

 広い公園である。中には雑木林も有り、気配はそちらからするようだ。細い林道を進むと、道の真ん中に何かが落ちていた。物ではなくフェレットによく似た小動物だった。

 亜麻色の毛並みに、首に赤い宝石のような丸い石を着けている。ぐったりとして動かない。怪我をしているようだった。

「むう……?」

 なのはは訝しそうにその生き物を見下ろす。そのフェレットに似た小動物。『ユーノ』と言う名前の彼は人の気配を感じ目を開けた。

(……僕の声が……聴こえた人が……居たのか……?)

 視線の先には、茶色掛かった髪をおさげにした可愛らしい少女が居た。次の瞬間ユーノは、首筋を捕まれぶら下げられていた。

(……た……助かった……のか……?)

 持ち方が少々気になったが、ホッと胸を撫で下ろした時、少女の自分を見る目がとてつもなく怪しくなった。ユーノは凄まじく悪い予感を感じた。そして少女はニタリと嫌な笑いを浮かべ、

「ふふふ……美味そうなイタチよのう……久々にギアナ高地を思い出して、野性味あふれる丸焼きと洒落混もうか……? 前に母上に叱られて以来、なかなか口に出来なんだ」

(はいぃいいいいィィっ!?)

 ユーノは自分の耳を疑った。と言うか、なのはは前に止められるようなモノを食べようとしたらしい。一体何を食べようとしたのであろう?
 それはともかく、なのはは脂汗を掻くフェレットもどきを舐めるように観察しながら実に楽しそうに微笑し、

「いや……待てよ……? その前に臭みを取らんといかんかったな……取り合えず毛皮を丁重に剥いで、果物と一緒に土の中に1週間程埋めるか、内臓を綺麗に取って開いて煙で燻して燻製にするか……悩み所だな……」

 事細かいリアルな調理プランにユーノは震え上がった。このままでは文字通り美味しく食べられてしまう。最悪な人間に拾われてしまったらしい。ユーノは最後の力を振り絞って少女、なのはに語り掛けた。

《や……止めて下さい……僕死んでませんから……食べないでぇ……っ!》

 そこまで言ったところで、傷の傷みと疲労で意識を失ってしまった。

「何と? このイタチ口を利きおった!?」

 ふにゃっと気を失ったユーノを見て、流石になのはは驚いたようだが直ぐにニヤリと笑い、

「ふふふ……面白い、喋るイタチか……この世界もなかなかに不思議な事があると見える……」

 気絶した小動物を抱えてテクテク歩き出した。残念そうに舌打ちしたのはやはり食べたかったからのようである。



ーーーーーーーーーーーー



 夕食時の高町家食卓である。桃子母さんの自慢料理を前に、家族全員が席に着いていた。そこで士郎父さんが雄叫びを上げている。

「うおおおおおっ! なのはが初めて子供らしいお願いをっっ!!」

 感動し過ぎて感涙している。他のみんなもほっこりした顔をしていた。何故こうなったかと言うと、あの後なのははフェレット(ユーノ)を動物病院に連れて行き、一晩預ける事になった。

 そして夕食の席で、フェレットをしばらく家で預かれないかとみんなにお願いしたのである。なのはは普段からあんな感じなので、おねだりもワガママも言った事が無い。
 それで士郎父さんは感涙し、桃子母さんも恭也兄さんも美由希姉さんも感激して、二つ返事でOKを貰ったのである。家族の予想以上の反応になのはは、

(父上、母上、兄上、姉上っ! こんな儂故、子供らしく無くて済まなんだ!!)

 少々申し訳なくなり、なのはは心の中で密かに哭くのである。そんな感じで、とても暑苦し……温かな空気に満たされる高町家の食卓であった……





 自分の部屋に戻ったなのはは、ベッドに腰掛けフウ……と一息吐いた。ちなみに部屋は渋好みのシンプルなものだ。しかし可愛いもの大好きな桃子母さんに無理矢理押し付けられた、ぬいぐるみや小物類に徐々に侵食されつつある。

(フェレットの方は明日になってからだな……さて……風呂の前に夜の修行にでも行って来るか……)

 立ち上がると抜け出す用意を始める。流石にこの時間帯に外に出しては貰えないので、夜の修行は家を抜け出す事にしているのだ。
 隠して置いたスニーカーを取り出した時である。妙な感覚と、キイインという耳障りな音が頭に響いた。それと同時に、

《……聞こえますか……? 僕の声が聞こえますか……?》

 頭の中に直接響いて来る声。何だかおっかなビックリな調子である。なのははその声に思い当たった。

(これは……昨夜の夢や昼間の声と同じものだな? あのフェレットが喋っておるのか……?)

 非常識な状況だが、なのはは動じず冷静に状況を分析する。声は更に続けて、

《聞いて下さい……僕の声が聞こえる貴女……お願いです、僕に力を貸して下さい……! 時間が……危険がもう……! でも食べな……》

 そこで声は電源が切れたようにプツリと聞こえなくなってしまった。最後の部分はきっと食べるのは勘弁して下さいと言いたかったのだろう。昼間の事は相当トラウマになったようだ。食われ掛ければ当然である。

 それは置いといて、どうやら動物病院に居るフェレットに何か大変な事が起こったらしい。なのはは戦闘的な笑みを浮かべた。武道家の本能が加速する。

「面白い!!」

 一度決めたら即行動である。スニーカーを履き上着を羽織ると、なのはは窓から外に飛び出した。おさげ髪がフワリと宙に揺れる。

(ふははははっ! 待っておれ! 儂が行くまでくたばるでないぞ!)

 少女は民家の屋根を音も無くピョンピョン跳び、凄まじい速さで動物病院へと向かった。


つづく




 皆さんお待ちかねええっ! 危機に陥るユーノを救う為、なのはは命を賭けておぞましい怪物に挑むのです! しかし恐るべき化け物を前になのはは絶体絶命の危機に? その時ユーノはなのはに偉大なる力を与えるのです!

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠ビックリするの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想書き込みが出来ないので感想返しです。

銀河連峰様、現時点では、まだまだサイ・サイシーにも及びませんよ。これからです。

空の下様、正直フェイト逃げて! 状態ですね。弟子入りは一応まだ内緒で。桃子母さんの勘違い? に関しては後で出てきますよ。

ヴィクセン様、味皇様気付いて貰えましたか。良かった誰も気付かなかったら淋しいと思ってました。超級覇王はモビルファイターだと、気力発生装置のせいでオーラが人の顔を浮き上がらせるみたいな説は読んだ事がありますね。実際はどうなんでしょう?誤字報告ありがとうございました。修正しておきました。十万回です。確かにどっちでも違和感は無いですね。

トネ様、砕けるでしょうね。スカさんも色々大変な目に遭いそうです。

Real様、確かに魔法要らないですね。次回その辺りが……

selgey様、降臨してしまいました。加筆です。元々後で出そうと思ってましたので理想郷バージョンにて登場です。

風帝改様、現時点ではアレンビーレベルまではまだまだですね。修正分は出来るだけ早く上げたいとは思ってますよ。

一匹狼様、ある意味恐るべき男ですから。(笑)怪傑味〇巾とかやらかしてくれるかも? 封印もGガン流かもです。







[32932] 第4話 師匠ビックリするの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/05/29 21:32
 

 平凡な小学3年生だった筈の儂、高町なのはに訪れた突然の事態。
 渡されたのは赤き宝石、手にしたのは魔法の力。出逢いが導く必然が光を放って動き出す!
 今闘いの時は来たり! 魔法と日常が交差する時、果てしなき闘いの道が開く! 魔闘少女リリカルマスターなのはレディィィッ、ゴォオオウゥッ!! 

※なのは第2話の冒頭ナレーションと比べると頭の悪さが引き立ちます。





 その時ユーノは危機に陥っていた。

 動物病院で手厚い治療を受け、ゲージの中に居たユーノをいきなり襲撃する黒い影。無人の病院の壁をぶち抜いて、真っ赤に爛々と光る目をした得たいの知れない怪物が彼に迫る。

 辛うじてゲージから脱出したユーノは、屋外に逃げ出した。怪物は壁の破片や機具を撒き散らし、不気味な唸り声を上げながら、弾丸じみた動きで小さな姿を追う。
 明らかに怪物の方が速い。追い付かれる! ユーノがもう駄目だと思ったその時だった。

「はあっ!!」

 天から声が降って来ると同時に、彼のすぐ横に人が降り立った。ユーノはビックリしてその人物を見上げる。

「ふふふ……何やら厄介な事になっておるようだな……?」

 隣に腕組みして、とても偉そうに立っていたのは『高町なのは』その人である。
 ユーノが声を掛けようとした時、黒い怪物が2人目掛けて突っ込んで来た。まるで暴走トラックのような勢いだ。
 なのははとっさにユーノの首筋をひっ掴み、素早く横に跳んだ。あまりのスピードに彼はグエッと声を漏らす。目標を見失った怪物は、勢い余って庭の大木をなぎ倒し地面に突っ込んだ。
 木の破片が飛び散り土煙がもうもうと上がる。凄まじい力であった。暴走トラックどころかショベルカー並みである。

 怪物は地面に深く突っ込み過ぎたのか、直ぐには襲って来ずうねうね蠢いている。油断無く様子を窺うなのはに、ぶら下げられたままのユーノは、

「来てくれたんだ……」

「ふっ……やはり儂を呼んでおったのは、お前であったか……」

 なのはは不敵に笑うとユーノを離してやる。怪物を前にしてもさっぱり驚いていない。これしきの事で驚くような高町なのはでは無いのだ。
 そんなやり取りをしている内に、怪物は2本の触手をわさわさ蠢かせ再び動き出し始めた。ユーノは慌てて、

「一旦逃げよう!」

 となのはに言ったのだが、少女はクワッと大きな目を見開き、

「馬鹿者があっ! 武道家たる者敵に背を見せるなど、死んだも同じぞ!!」

 思いっきり怒られてしまった。何なんだこの子は? と思ったが、多分敵の恐ろしさを知らないのだろうと思った。普通の人間がアイツに勝てる訳が無い。このままでは2人共やられてしまう。

(僕の声を聴いたこの子なら……!)

 決心したユーノは首に着けていた赤い宝石を咥えると、戦う気満々のなのはを見上げ、

「それなら僕の力を使って、君には資質が有る、これを……」

 なのはは怪訝な顔をするが、ユーノの真剣な眼差しに赤い宝石を受け取った。妙な感触が感じられる。

「温かい……資質……? 力だと……?」

「そう……僕の力を、魔法の力を!」

 ユーノは眉をひそめる少女にしっかりと頷き掛けた。するとなのは、さも可笑しそうに、

「ぬわっはっはっ! この儂に力を貸すと抜かしおるか? しかも魔法とな? 面白いどうすれば良い?」

 豪快? に笑うなのはは興味が湧いたらしい。口調に面白がる調子がある。ユーノは、ずいぶんさばさばしてるなとは思ったが、下手に怖がられるよりはいいと思い、

「じゃあ……それを手にして目を閉じて、心を澄ませて僕の言う通り繰り返して」

「良かろう……」

 なのはは言われた通り宝石を握り締め目を閉じた。何か楽しそうである。一方ユーノは気が気では無い。早くしないと怪物が襲って来る。

「行くよ……我、使命を受けし者なり……契約の元力を解き放て……」

「フム……我、使命を受けし者なり……契約の元力を解き放て……」

 ユーノに続いてなのはもその通り唱える。手の中の宝石が、ドクンッと脈打った。ユーノは更に詠唱を続ける。

「風は空に……星は天に……そして不屈の心はこの胸に……」

「風は空に……星は天破侠乱っ!」

(あれ……?)

 ユーノが首を捻る間も無く。

「見よ! 東方は赤く燃えているぅっ! 『レイジング・ハート』セェェットアァァップ!!」

(あれえええぇっ!? 途中から思いっきりおかしくなってないかあっ!?)

 思いっきりつられてしまったユーノはたいへん焦った。今の呪文は『インテリジェンスデバイス』と言う、人工知能を搭載した魔法を制御するデバイスを起動させる為のものだ。起動させられなければ、なのはの潜在魔力を引き出せないと思ったのだが……

《Standby.ready.set.up》

 なのはの持つ赤い宝石から、女性を模した合成音声が響いた。何故か起動に成功したらしい。それと共に強烈な光の柱が天を貫いた。なのはの手の中で赤い宝石レイジング・ハートが眩い光を放っている。

「す……凄い魔力だ……」

 ユーノは魔法光の強さから、なのはの予想を遥かに超える潜在能力を知り驚いた。こんなに強い魔力の持ち主は滅多に居ない。これは行けると、不思議そうに光を見ているなのはに、

「落ち着い……てはいるみたいだね? イメージして、君の魔法を制御する魔法の杖の姿を、君の身を守る強い衣服の姿を!」

「フム……力の制御に衣服だな……?」

 なのはは頭の中でその2つをしっかりと思い浮かべた。既に決まっている。自分の身を守る服はアレであると。

「良し、これだあぁぁっ!!」

 その瞬間なのはの身体は、凄まじい雷状の桃色の光に包まれていた。

(あれえぇっ? おかしいなあ……起動時はもっと幻想的なものだった筈だけど……?)

 首を捻るユーノを他所に、とっても漢らしい光の中レイジング・ハートは形を変えて行く。『マスターガンダム』の腕を思わせる金色の籠手として、なのはの右腕に装着された。

「杖でも何でも無い!?」

 ユーノのツッコミは置いといて、なのはの身体に魔法で精製された防護服『バリアジャケット』が装着されて行く。
 紫色の上着に腰に巻かれた白い布。その姿はマスターアジアの衣服を思わせるものだった。
 肩口が膨らんでいたり、あちこち装飾が付いて少々ゴージャスっぽいが、明らかにマスターアジアが着ていた服をイメージしたものだ。思わずビシイッと片足立ちの、流派東方不敗の構えを決めるなのはである。

「成功だ……」

 ユーノがなのはの変身した姿を満足そうに見上げると、何故か彼女は非常に焦っていた。珍しい事である。

「な……何だこれはああぁぁぁぁっ!?」

 驚愕してなのはは叫んだ。ユーノはやはり無理をしていたのかと思い、落ち着かせようと声を掛ける。

「大丈夫だよマスター認証は成功したんだ、驚くのは無理無いけど、これがが魔法の……」

「何故下がスカートになっておるのだあぁああっ!?」

「はい……?」

 自分の台詞を途中で遮ったなのはの魂の叫びに、ユーノは訳が解らず小さな首をまたしても捻る。
 彼女の姿を良く見ると一見マスターアジアっぽい衣服だが、下がスカート仕様になっていた。しかもあまり裾が長くない。有り体に言うとミニスカートである。

(何と言う事だ! 母上の侵食率がここまでとは!)

 珍しく動揺するなのはは、今までの桃子母さんとの様々なやり取りを思い出してガックリ来た。可愛いもの大好きな桃子母さん……

 嫌がるなのはに、小さな頃からスカートやら可愛い服を、こっちの方が可愛いわ! と無理矢理着せられ続け、更なる可愛いもの攻撃のせいで一部刷り込まれてしまったらしい。ある種洗脳に近い。なのはの強靭な意思が無ければ既に陥落していたであろう。

 そうこうしている内に怪物は戦闘態勢を整え、一気に上空に飛び上がった。なのはとユーノ目掛け一直線に落ちて来る。まるで巨大な鉄球だ。

「来ます!」

 警告するユーノだが、なのはは目の前で『デビルガンダム』を破壊された時のように茫然としたままだ。何か儂のデビ……いや、戦闘服が……などと呟いている。そんな事お構い無しに怪物は迫って来た。

「破ァァァッ!!」

 危機に敏感に反応したなのはの、強烈極まりない蹴りがカウンターで怪物に炸裂した。怪物は爆発したように飛び散った。周りの壁に肉片が突き刺さって穴だらけになり、電柱がへし折れて周囲は酷い有り様である。そんな中ユーノは口をあんぐり開けて唖然としていた。

(えええぇっ!? 今魔法使ってないよねえっ!?)

 ユーノの驚きを他所に、なのはは何でも無いように腕組みして立っている。やはり偉そうだ。

「まったく……9年も女子として過ごすと、色々と染まってしまうのう……」

 ちょっとため息を吐いてしまうなのはだった。その目線の先で、バラバラになった怪物が見る見る内に1つに集まり元の姿に戻って行く。不死身らしい。通常の攻撃では倒せないのだろうか?

 再生した怪物は唸り声を上げ、身体に生えている触手を弾丸のように繰り出して来た。それを見てユーノは再び、

「攻撃や防御の基本魔法は、心に念じるだけで発動します、より大きな力を使うには……」

 と指示を飛ばそうとしたのだが……

「ふははははっ! 遅いわあっ! なっちゃいない、なっちゃいないぞぉ!!」

 なのはは腕組みしながら、上半身の動きのみで楽々と触手の攻撃を避けていた。ついでに目も瞑ってドヤ顔である。
 ユーノは他にも思念体だとか、完全停止させるには魔法が必要だとか言うのだが、なのはは彼の話を全然聞いていない。

「行くぞ!」

 攻撃を全てかわしたなのはは、蚤(ノミ)の如く宙に飛び上がった。腰に巻かれた白い布を一気に引き抜くと、布は生き物のように空に綺麗な螺旋を描く。

「雑魚があっ! ぬああああぁっ!!」

 怪物は繰り出された桃色の光の帯にがんじ絡めにされた。黒い異形は不気味な叫びを辺りに響かせもがくが、ビクともしないらしい。
 それは魔法の拘束技バインドかと思ったら、『マスタークロス』だった。マスタークロスが容赦無く、ぎりぎりと怪物を締め上げる。

「ふはははっ! 止めだ、ダァクネス!」

 怪物に向かって突撃するなのはの右手が闇色の光を放つ。何故かユーノはこの時、何処からともなく勇壮な音楽が聴こえた気がするが、空耳だと思った。

「フィンガァアアアァッ!!」

 怪物の顔? になのはの右手が砕け散れい! とばかりに叩き込まれ闇色の光がスパークする。

「爆発っ!!」

 気合い一閃と共に怪物は光の粒子となり、跡形も無く消え去った。アスファルトにふわりと着地したなのははフウ……と軽く息を吐き一言、

「何か……魔法とは何時もと大して変わらんのう……」

「いや! それ魔法でも何でも無いですから! アンタ本当に人間ですかあああぁっ!?」

 ユーノの絶叫に近いツッコミの声が静かな夜に響き渡った……

つづく



 皆さんお待ちかねええっ! ユーノと共に怪物達と闘う事を決意したなのはは、修羅の戦いに身を投じるのです! 出るか必殺の技! そして海鳴の地に降り立つ人物とは? 
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠探し物をするの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!








※感想返しです。

七詩那奈無様〉フェイトは可哀想な事に原作のままです。

にゃんEX様〉仕方ないかと思われます。(笑)

コイサ様〉次回ジュエルシードがどうなるか解りますよ。

プチ魔王様〉その内現れたりするかもしれません?

風帝改様〉Gガン世界の人は、大抵の事では驚かないかと思われます。

魅月様〉女脳に桃子母さんの侵食、かなり洒落になってないと思いますが、全て気合いで耐え抜きこれくらいで済んでおります。

Real様、あああ様〉その辺はまだ秘密と言う事で。

読者B様〉次回封印? するかもです。

zzz様〉取り合えず雑魚がは口癖かもしれません?

銀河連峰様〉気合いと根性で行けます。漫画でも言って、レインが呆れてました。

トネ様〉ドモンあたりでない限り当たりません? 防御も気合いでぶち抜きました。でもまだそこまで強くないのでどうなる事やらです。
縮図様〉それは良かったです。最近中の人が爺さん言葉少女を演じらるのが多いので想像しやすいかもしれません? 果たしてなのはが穏やかな生活を送れるかはアレですが、はやては肩の代わりにハリセンで人を叩くかもしれません?

良様〉あちらの良様と同じですかね? 違っていたらすいません。復活しました。次回ミニ初登場の回ですよ。






[32932] 第5話 師匠探し物をするの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/06/23 22:42


 さて皆さん……世の中には何事にも程度と言うものが有ります……どんな事でも限度を超えると害になってしまうのです……過ぎたるは及ばざるが如し……しかし世の中には無理が通れば道理が引っ込むと言う言葉も有ります……高町なのははどうなのか……? それはこれからの歴史が決めてくれるでしょう……今は見守ろうではありませんか!

それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





 さて……場面は前回のユーノのツッコミ直後である。世の不条理を前にして何かとても疲れた彼は、グッタリと路上に座り込んでいた。
 なのはは不敵に腕組みをして、怪物が消えた辺りを見下ろしている。

 ユーノの頭は混乱しまくりであった。さっきの怪物は『ジュエルシード』が暴走した為発生した思念体である。魔法を使わなければ停止させる事は不可能な筈が、目の前の少女が力ずくで消し去ってしまったのだ。信じられない事であった。

 まあ……『DG細胞』をもその強靭な意思で支配していた元マスターのなのはなら、気合いで何とかしたと思って置こう。考えても無駄な気がする。

「むっ……?」

 その時なのはの目に光るものが入った。青く輝く宝石らしい物だ。何気なく拾おうと手を伸ばす少女を見てユーノはビックリし、

「駄目だよ! 素手で触ったら危ない!!」

 しかしなのはは制止を聞かず、むんずとばかりに宝石を掴んでしまった。

「わあああああァッ!? だから素手で触っちゃ駄目だったらあっ! 早く封印を!!」

 大慌てで止めるユーノに、なのははニヤリと笑い掛け、

「心配は無用ぞ! これが災いの元か! ダァァクネス、フィンガァァァッ!!」

 なのはの右手が闇色に輝くと、青い宝石『ジュエルシード』は砕け散ってしまった。粉々である。綺麗な青い欠片が飛び散り闇に映えた。

「ぎゃああぁああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!?」

ユーノは処刑される寸前のように、絶望的な悲鳴を上げていた。なのはは良し! とばかりに、

「ふんっ、何かは知らんが、儂に戦いを挑もうなど片腹痛いわ!」

「ななななななっ……何て事してくれてんですか! アンタはあああああぁっ!?」

 ユーノはもう涙目と言うか、涙で前が良く見えないよ状態である。『ジュエルシード』を素手で砕くなんて何処の変態……では無く何処の化け物だと戦慄した。

「何か……不味かったかのう……?」

「不味かったも何も、僕はその『ジュエルシード』を集めに来たんですよ!? 壊しちゃってどーすんですかあっ!? って、アンタ何で破壊出来るんですかあっ!?」

 キョトンとするなのはに、ユーノは半泣きで抗議である。なのはは腕組みのまま、

「それは済まなんだ……この高町なのはが謝る!」

 ちっとも悪びれない態度で、とても偉そうに謝罪するのであった。本人はちゃんと謝っているつもりらしい。





 滅茶苦茶になった現場からトンズラかましたなのはは、ユーノを連れて家に帰っていた。流石にユーノの事を黙っている訳にも行かないので、敢えて玄関から堂々と帰宅である。
 やっぱり夜の外出を怒られてしまったが仕方が無い。もっともユーノが可愛いのと、珍しいなのはの我が儘で家族は甘かったが……

 可愛いもの大好きな桃子母さんは悶絶し、みんなに可愛い可愛いで揉みくちゃにされたユーノはグッタリである。なのははそんな彼を肩に乗せ部屋に戻る。階段を昇りながらふとなのはは、

「そう言えば、お前の名を聞いておらなんだな……? 儂は高町なのは、前世の記憶を持つ、ごく普通の小学3年生だ」

 なのはの自己紹介に色々ツッコミたかったユーノだが、色んな意味で疲れていたので、取り合えず名乗る。

「……スクライアは部族名だから……ユーノが名前です……」

「そうかユーノか、よろしく頼むぞ? 儂の事はなのはで良い! この高町なのはが許す!」

「はあ……」

 どこまでも偉そうな少女であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日……なのはは学校の授業を受けつつ、自宅に居るユーノから大体の事情を聞いていた。
 身に付けているペンダント状の『レイジング・ハート』を補助に、思念通話なるもので頭の中での会話が出来るのでたいへん便利である。やっと魔法が役に立ってホッとするユーノだった。

《ほう……ユーノは別世界からやって来た魔法使い、魔導師ファイターで、『ジュエルシード』なる魔法の石を探して、この世界にやって来たのだな……? 》

《そうなんだ……アレを掘り出してしまったのは僕だから……って、魔導師ファイター? 何勝手に変な呼び方してるの!?》

 妙な名称を付けられ焦るユーノだが、なのはは気に入ったらしい。それはともかく、

《ふむ……『ジュエルシード』は願いを叶えてくれる魔法の石とは名ばかり、まともに願いを叶えた試しが無い、役立たずの危険なだけの代物なのだな……?》

《見も蓋も無いけど……その通りだよ……》

 ユーノの苦笑いが伝わって来るようである。実際掘り出してから調べたのだが、まるで役に立ちそうに無いと結果が出ていた。

《そんな物か21個……輸送中の事故でこの辺りに散らばりおったのか……》

 なのははノートをとりながら難しい顔をする。

《うん……この世界には迷惑な話だけど……》

《掘り出してしまったユーノは、己が手でヘマを償おうとやって来て、2個集めたところで無様に返り討ちに遭い、儂に助けを求めたのだな……?》

《本当に見も蓋も無い言い方だけど……その通りだよ……》

 少々しょんぼり気味のユーノを元気付けるようになのは、

「そう言う事ならば、この高町なのはが力を貸してやろう! 己が手でケリを付けようとは気に入ったぞ!」

《……いや……その……僕の魔力が戻る間だけでいいんです……》

 昨晩のトラウマが抜けきっていないユーノは力無く返事をする。
 なのはがジュエルシードが変化したモンスターを倒してくれたので、(ついでにジュエルシードまで壊してくれたが……)残った魔力で怪我を治す事は出来た。

 しかし魔力が回復するまではもう少し時間が掛かるので、その間協力してくれるのはありがたいが、どうもこの常識はずれの少女に全部任せると、何をやらかすか分からない。

《ふっ……儂が『ジュエルシード』を壊してしまったからのう……償いをせねばな……》

《それは別にいいけど……なのはは本当に人間なのかい……?》

 もっともな疑問だが、なのはは心外だとばかりに、

《儂はごく普通の小学3年生だと言っておろうが、しかし良い修行になりそうだ、怪物相手なら思う存分『流派東方不敗』を使えるというものよ、ぬわっはっはっはっ!》

《……そうなんだ……》

 ユーノはなのはの愉しげな高笑いの念話を聞いて、人生に疲れたオッチャンのように深々とため息を吐いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 学校も終わりアリサ、すずかと別れたなのはは、ユーノと念話で連絡を取りながら、車を追い抜く位の物凄いスピードで街中を駆けていた。何故なら『ジュエルシード』が発動したらしい反応を捉えたからである。

 ユーノとは現場前で合流した。其処は近所の高台に在る神社である。なのははユーノを肩に乗せ、凄まじいスピードで石段を駆け登る。途中で面倒くさくなったのか一気にジャンプした。振り落とされそうになりユーノは必死でしがみ付く。

「あれか!?」

 石段の最上段にズザザアッと靴底を削って着地したなのはは、赤い鳥居の向こうに異形の姿を見付ける。虎よりも遥かに大きな体、あちこちから刺のような突起物が突き出し、目が複数有る四つ足の犬のような怪物だ。
 なのはの肩から降りたユーノは怪物を見て息を呑む。

「他の生物を取り込んでいる……実態がある分手強くなってる!」

「大丈夫だ、任せておけい!」

 なのはは片足立ちの流派東方不敗の構えを取る。ユーノは怖いもの知らずの少女を見上げ、

「起動のパスワードを!」

「うむ! 流派東方不敗は! 王者の風よ!」

「最初っから違う!?」

 ユーノが思わず突っ込んだ時である。

《Standby.ready.set.up》

 女性を模した合成音声が響き、何でかレイジング・ハートが起動した。桃色の雷に包まれると、レイジング・ハートが籠手として右腕に装着され、見る間に防護服バリアジャケットがなのはの身体に装着される。

(パスワードが全っ然違うのに、レイジング・ハートを起動させた? 間違い無い、この子凄い才能を持っている!)

 ユーノが改めてなのはの才能に驚いていると、

「ぬわああああっ!!」

 飛び掛かって来た怪物に、なのはの強烈な蹴りが炸裂し、その巨体がきりもみ回転して吹っ飛んだ。

(持ってるだけで、全っ然使ってないけど……)

ユーノはなのはにボコられる怪物を見て、顔を引きつらせた。もちろん魔法など欠片も使っていない。魔法無しで怪物を翻弄している。
 なのははニヤリと笑うと、右手を前に掲げ円を描く。描かれた軌跡に梵字が浮かぶ。

「試してみるか! 魔法を併せれば『秘技! 十二王方牌、大車併っ』!!」

 宙に浮かんだ梵字から現れ出でる影。

「うわあっ!? 何だああっ!?」

 ユーノはビックリして声を上げる。現れたのは7人の『小さいなのは』達であった。ミニチュアサイズの同じく紫のバリアジャケット姿のなのは達である。
 そのミニなのは達がなのなの言いながら、ミサイルみたいに勢い良く怪物に激突し体を次々と撃ち抜いた。悲鳴を上げて怪物は消え去ってしまう。

「帰山笑紅塵っ!」

 なのはの掛け声に、怪物を粉砕したミニなのは達は、なのは本人に戻って行く。本来なら『マスターガンダム』に搭乗した時の技であるが、どうやら魔法を混ぜて使えるようだ。
 怪物が消滅した後にはクンクン鳴いている子犬の姿と、青く輝く『ジュエルシード』があった。

「良かった……壊れてない……」

 ユーノはジュエルシードの無事を確認して、胸を撫で下ろす。本人は魔法と言っているがすこぶる怪しい技なので、また壊されたらと心配だったのである。

「うむ! 十二王方牌大車併、成功だ!」

 なのはは腕組みで満足そうに頷いた。ユーノをひょいとつまみ上げ、

「ユーノよ、この調子で全て集めてくれようぞ!」

「お手柔らかにお願いするよ……」

 ユーノはぶら下げられながら、ピョコンと頭を下げた。壊されさえしなければ、これほど頼りになる人間は居ないのである。








 それからのなのはは、空いている時間を利用して『ジュエルシード』集めに駆け回った。今日も夜に家を抜け出して、学校に潜んでいたジュエルシードモンスターを、文字通りダークネスフィンガーで叩き潰して来た所だ。
 夜の街を屋根から屋根へと飛び移り、自宅へ向かうなのはとユーノである。ユーノは連日の探索に励むなのはの身体を気にして、

「なのは、疲れてないかい……?」

「たわけ……儂がこの程度で参るような鍛え方をしておる訳無かろうが、ぬわっはっはっ!!」

 ユーノの心配を吹き飛ばすように、まったく堪えていないなのはは本人は豪快なつもりで笑う。今日も全力全開である。
 これで計4個の『ジュエルシード』を集める事が出来た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 次の日の日曜日である。
 なのはとユーノはビルの屋上に立って、街を唖然と見下ろしていた。正確には唖然としていたのはユーノだけであるが、見下ろす街が酷い事になっていた。
 馬鹿デカい大樹が市街地をごっそり飲み込んで生えており、街はジャングルに覆われたような有り様である。

「これはまた……豪快な事になっておるのう……」

 既にバリアジャケット姿のなのはは、腕組みしながら感心している。

「多分……人間が発動させちゃったんだ……強い意思を持った者が願いを込めて発動させた時、『ジュエルシード』は1番強い力を発揮する……」

 なのはの隣でユーノは状況を説明する。
 2人は朝から探索に出掛けていた。今日は士郎父さんがオーナーをしているサッカーチームの試合の日だったのだが、探索を優先したのである。士郎父さんは凹んでいたという……
 そんな時に街中で反応が有ったのて駆け付けると、この有り様だったのである。なのはは広範囲に拡がる大樹を観察し、

「ユーノよ……このような時はどうすれば良い? まだ日輪弾や天驚拳が使えぬ今、流石にアレを吹き飛ばすのはまだ無理……」

 じゃあ何れは吹き飛ばせるようになるのか……と空恐ろしくなるユーノだが、敢えて考えないようにし、

「封印には接近しないと駄目だ……元となっている部分を見付けないと……でも、これだけ広い範囲に伝わっちゃうと、どうやって探したら……」

 ユーノは頭を捻る。しかしなのはの目が鋭く輝いた。

「儂に任せておけいっ!」

 言うが早いが、なのはは眼を閉じる。意識を集中し研ぎ澄ました感覚で『気』が集まっている部分を探っているのだ。

「其処かあっ!」

 異常に『気』が高い箇所を発見したなのはは、レイジング・ハートの籠手が装着されている右手を前に突き出した。

「魔法を試してみるとするか!」

《Yes master》

 何だかとっても嬉しそうにレイジング・ハートは応える。今までジュエルシードの封印しかしていないので嬉しいのだろうか。

(おおっ! 今度こそまともな魔法を!)

 ユーノは刮目する。その目の前でなのはの右腕に桃色に光るリングが現れ、鳥の羽根のような光が展開された。

(物凄い魔力だ……やっぱりこの子凄い魔法の才能を持ってる!)

 改めて桁違いの魔力に息を呑むユーノの前で、なのはは叫んだ。

「行けええええええいっ!!」

 その瞬間、眩い桃色の光が大樹目掛けて発射された。ユーノはそれを見て思わず叫んでいた。

「手ぇっ!?」

 それは光で出来た拳であった。桃色の光が人の握り拳となって飛んで行く。石破天驚拳に似ているが、大きさが天驚拳の半分以下である。それでも充分デカイが……
 あんぐり口を開きっ放しのユーノの見ている前で、デカイ拳はとんでもない勢いで大樹に炸裂した。幹に大きな手形がベチーンと張り付き、その手形に『殲』の文字が刻まれる。拳の一撃を食らった大樹は見る見る崩壊して行く。

「うむ! 名付けて星光殲滅っ! スターライトブレイカー!!」

「なのは……それ本当に魔法なんだろうね……?」

 不信感たっぷりにツッコミを入れるユーノを他所に、大樹は綺麗サッパリ崩れ落ちた。2人の元に、青く輝く『ジュエルシード』がゆっくりと浮遊して来る。それをレイジング・ハートで受け取ろうとした時。

 『ジュエルシード』はパキンと澄んだ音を立てて、真っ二つに割れてしまった。ユーノは目が点になり、真っ白になってしまった。

「どうやら……力み過ぎたらしいのう……ぬわっはっはっはっ!!」

「うわあああああああぁぁっ! またぁっ!? 笑って誤魔化すなああああっ!!」

 なのはの高笑いと、ユーノの絶叫が廃墟と化した街にほわんほわん響き渡った……







 その頃海鳴市に足を踏み入れる、2人の少女の姿があった。
 金髪の髪をツインテールにした、なのはと同い年程の少女と、オレンジがかった髪の野性的な16歳程の少女である。

「フェイト、もう始まっているみたいだね……?」

 フェイトと呼ばれた少女はコクりと頷き、

「出遅れたみたいだけど……これ以上は……」

 紅い瞳に固い決意を秘めて空を見上げた。空はどんよりと不吉に曇っていた。



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! なのはとユーノの前に、謎の魔導師ファイターが現れるのです! 必殺の技を繰り出す少女になのはは勝てるのでしょうか!? 月村邸を戦場に変え、2人の少女の激闘が始まるのです!

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠拳で語るの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!









※感想返しです。

Real様〉GLOK様〉果たして何個残る事やら…な感じです。

ta様〉スバルはなるかもです。レイハさんは基本が金色ですからね。流石にハイパーモードまでの道程は遠いのです。

風帝改様〉アレンビーもドモンやサイ・サイシーとやりあってましたからね。まだ及びません。キラルならあの大木真っ二つにしそうですね。

hydrangea様〉トネ様〉逃げる訳にもいかないのが、あの二人の哀しい所です。(笑)

マルサ様〉その辺りは今後の展開で。

銀河連峰様〉まだ最初の辺りですから、燃え上がれの方ですね。一部デビルガンダムが暴れる時の曲という設も有ります。

彼岸様〉加筆修正を加えていますが、基本展開は一緒です。次回はあの人が……

良様〉チビ達来ました。ユーノの受難が始まります。(笑)

ヴィクセン様〉ジュエルシード、取り合えず気合いで粉々にしたという事で。確かに一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれません。後でその件で誰かに怒られるかもです。



[32932] 第6話 師匠拳で語るの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/06/25 02:37


 平凡な小学3年生だった筈の儂、高町なのはに訪れた突然の事態。受け取ったのは不屈の心。手にしたのは魔法の力なり! 魔法が導くその出会いは、運命と言う名の必然。会うべくして人は出会うのだ!
 魔闘少女リリカルマスターなのは、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




 その日の朝、竹中巡査長(43)は困惑していた。夜勤を終えバイクで派出所から本署へと向かっている最中に妙なものを見掛けたからである。

 道路の端に立っている電信柱の上に、子供が立っているらしいのだ。どうやって登ったのか見当も付かない。小学生らしい子供は外国人らしい。金髪が朝日を反射してキラリと光るのが見えた。
 風も吹いているというのに、微動だにせず電柱に腕組みして立っている。ともかく危ないと思った竹中巡査長はバイクから降り、

「おーい! 動くなよ、今助けを呼んで来るからなあっ!」

 元気付けようと呼び掛けた時、不意に子供は電柱から飛び降りた。思わず声を上げた竹中巡査長の目の前で、飛び降りた筈の子供の姿がかき消す消えた。地面に落ちた訳でも無い。最初から居なかったかのように子供の姿は消えていた。
 狐に摘ままれたような気分で辺りを見回す竹中巡査長の耳に、微かに子供、少女の偉そうな笑い声が聴こえた気がした。

「疲れてるのか……?」

 竹中巡査長はそう判断する。夜勤明けで何かを見間違えたのだろうと自分に言い聞かせた。

「そうだ……あんな変な格好をした子供が、電柱から飛び降りて消えたなんて、何処の笑い話だ……」

 竹中巡査長は、消える前に見えた気がした子供の派手な姿を思い出して苦笑を浮かべた。あまりにも馬鹿馬鹿しい。気分を切り替えてバイクに跨がった巡査長は、何事も無かったかのように本署へと向かった。


ーーーーーーーーーーーー


 今日はすずかの自宅『月村家』に、恭也兄さんとユーノと共に遊びにやって来たなのはである。当然アリサも呼ばれていて一足先に来ている。
 両親が実業家のアリサの家も大きく立派だが、月村家も非常に大きく立派である。西洋館というヤツだ。
 庭の敷地は、格差社会を嫌と言う程思い知らされる程度にはただっ広く、木々が生い茂りちょっとした森のようである。
 月村の家は古くから伝わる名家なのだ。色々いわく付きらしいが……

 広い庭を通って玄関のインターフォンを鳴らすと、重厚な扉を開け薄紫色の髪をした凛々しい美人のメイドさんが出迎えてくれた。

「恭也様……なのはお嬢様……いらっしゃいませ」

 なのはは挨拶をしながら背中に背負っているリュックから頭を出したユーノに念話で教えてやる。

《ユーノよ、月村家のメイド長のノエル殿だ》

《お世話する人が居るなんて、お金持ちなんだねえ……》

 メイドの大体のところを聞き、感心するユーノになのはは、

《腕が立つので、前は良く手合わせをして貰っておったのだが……最近は付き合ってくれなくなってのう……》

《へぇ~っ、なのはと手合わせなんて凄い人だね……》

 ユーノは驚いて、屋敷を案内するノエルさんの姿を感心して見詰めた。やはりこの世界の人々はみんな凄いのだろうかと思う。

《何でも遺失工学なる技術で造られた、自動人形だそうだ》

《この世界も色々有るんだね……》

 ユーノは更に感心した。一見彼が住んでいる管理世界より技術は遅れて見えるが、中々侮れない世界らしい。
 なのはは『モビルファイター』やアンドロイドが普通に存在し、スペースコロニーが宇宙に浮かぶ世界の記憶が有るので驚く事でも無い。
 それはともかく、なのはは実に残念そうな表情をし、

《以前に手合わせした時、追い詰められたノエル殿が、反射的にロケットパンチを飛ばしてしまってな……儂もつい、ロケットパンチを粉々にして以来、手合わせ禁止になってしまったのだ……》

《やっぱり……なのはが一番大概だよね……》

《ふふふ……ユーノよ、あまり誉めるでない》

《……そういう考えの出来るなのはって幸せだよね……》

 ユーノは、やっぱり目の前の少女が一番非常識なのだなあ……と深く溜め息を吐いた。





 大きく立派なリビングで月村家の人々と、先に来ていたアリサが迎えてくれる。それに沢山の猫達。
 その中で、すずかが大きくなったらこんな風になるのではないかという感じの、物静かな風情のロングヘアーの美女が高町兄妹を迎える。すずかの姉『月村忍』さんだ。
 なのはを見る目が少々複雑なのは、この非常識な少女のせいで実は自分達『夜の一族』は大した事無いのでは……? と最近存在意義が揺らいでいるかららしい。

 ちなみに恭也兄さんと忍さんは、いわゆるいい仲なのである。2人は早々に忍さんの自室に引っ込んだ。邪魔するのは野暮と言うものであろう。

 なのははお茶を頂き(玉露茶)ユーノを紹介すると、早速アリサとすずかに可愛い可愛いで揉みくちゃされてしまった。更には周りの猫達もじわじわと近付いて来る。ひしひしと身の危険を感じるユーノであった。




 そんなこんなで庭先に移動し、オープンテラスで世間話(内容は聞かない方が良かった類いの話である)などをしていたなのはは、感じた覚えの有る『気』を捉えハッとした。

《なのは!》

 同じく異常に気付いたユーノが念話で呼び掛ける。

《うむ、直ぐ近くのようだな……》

 猫達から逃れてテーブルの上に避難していたユーノと目を合わせた。

《どうするの……?》

 ユーノの問いに、なのはは強敵を前にしたように不敵に笑い、

《行くぞ、『流派東方不敗』に、闘いから逃げの字は無い!》

 そう言い放つと眼光鋭く、すっくとばかりに立ち上がった。







 適当な言い訳をし、月村家のだだっ広い森のような庭に足を踏み入れたなのはとユーノは、『ジュエルシード』を探していた。その最中、なのはは『気』の異常な乱れを感じ立ち止まる。

「発動しおったか!?」

「此処じゃ人目が有り過ぎる、結界を作らなきゃ!」

 ユーノは魔法を使い、月村家の敷地をすっぽり覆うくらいの異相空間を作り出した。これなら周りへの被害も無い上に、外部の人間には中で何が起こっても感知する事は出来ない。彼の得意な魔法である。

 するとなのは達の直ぐ近くで、眩い光が辺りを照らした。振り向くと……

「にゃあああっ」

 バカでかい大きさになった子猫がヌウッとそびえ立っていた。象より大きいが子猫である。首に鈴が付いている。すずかの家の子猫だ。

「……」

 ユーノは呆気に取られてしまった。巨大子猫は地面を揺らして、ノッシノッシ無邪気に庭を歩き回っている。

「あれは……?」

 やっぱり動じてないなのはの質問に、気を取り直したユーノは答える。

「多分……あの子猫の大きくなりたいという願いが、正しく叶えられたんじゃないかな……?」

「なるほど……可愛いものではないか、ぬわっはっはっはっ!」

「いやっ、デカ過ぎでしょうアレは!?」

 ユーノは微笑ましそうに巨大子猫を見上げるなのはに突っ込んだ。それもそうかと少女は腕組みをし、

「確かにな……流石にあの大きさだと、すずかも食費が大変だろうて……」

「いや……確かにそうだろうけど……そういう問題じゃなくて、色々迷惑だから早く元に戻してやろうよ」

 もっともなのでなのはは頷くと、

「うむ、判った! 儂に任せておけい! 『不屈の闘志』よ、儂の戦闘服を!」

《My name is Raising Heart》(私の名前はレイジングハートです)

 レイジングハートが抗議の声を上げた時である。突如金色の光が巨大子猫を襲った。

「にゃあああっ!?」

 悲鳴を上げ、巨大子猫はよろけてしまう。なのはとユーノは咄嗟に光が飛んで来る方向を見るが姿が見えない。かなりの遠距離からの攻撃のようだ。

「これは魔法の光……? そんな……」

 驚くユーノを尻目に、光は更に巨大子猫を襲う。それを見てなのはは、再びレイジングハートに呼び掛けた。

「風雲再起よぉっ!」

《My name is Raising heart!》(私の名前はレイジングハートです!)

 レイジングハートは、終いには原形すら留めていない呼び名に抗議しながらも、バリアジャケットを精製する。
 紫色のバリアジャケット姿になったなのはは、周りの木々を蹴って高くジャンプし巨大子猫の背に飛び乗った。軽く数メートルは飛び上がっている。それを見て改めてユーノは、

「そろそろ驚かないと思ってたけど……なのはに魔法必要無いよねえ!?」

 と、何処の誰とも知れない人達に向かって、同意の返事を求めるのであった。

 一方、ふわふわの背中に飛び乗ったなのはは、遅い来る金色の光の槍の前に敢然と立ち向かう。

「小癪なああっ!」

 なのははバリアジャケットの腰布を一気に解くと、『マスタークロス』で金色の槍をことごとく叩き落とす。すると攻撃主は埒が開かないと見たのか、巨大子猫の足元に攻撃の矛先を向けた。ひっくり返すつもりなのだ。

「にゃあああっ」

 相手の狙い通り巨大子猫はバランスを崩し、地響きを立てて倒れてしまった。なのはは素早く背中から離れ、数メートルの高さをものともせず地面にふわりと着地する。その瞳がギラリと光った。

「其処だあっ!!」

 マスタークロスが鋭い刃と化し、空間を一閃する。

 丁度その時、先程の攻撃の主は一気に飛行魔法で接近し、なのはの近くの大木の枝に降り立とうとしていた。

(あれ……?)

 降り立った筈の木の枝がすぽーんと無くなっていた。なのはのマスタークロスが、絶妙のタイミングで足元の枝を根元から切断したからである。不覚にも攻撃主はそのまま地面に落下し、お尻をひどく打ってしまった。

「~~~~~っ……!」

 なのはの前で尻餅を着いて懸命に痛みを堪えているのは、なのはと同い年ぐらいの少女だった。長い金髪をツインテールにし黒い衣装を纏い、これまた黒い杖のようなものを持っている。
 ユーノは痛そうだな……と心の中で同情してしまった。

 何とか痛みが引いたらしい少女はヨロヨロと立ち上がる。ちょっと涙目なのは見なかった事にしてあげよう。少女はなのはを見詰め、

「……魔導師……? ロストロギアの探索者か……」

 あまり感情を感じさせない声で呟くが、さっきの事が有るのでとっても締まらない。それでもユーノは口振りなどから、少女が自分と同じ世界から来た人間だと見当は付いた。『ジュエルシード』の正体も知っているようだ。
 ユーノはなのはを見た。ヤル気満々である。これはいけないと思い、

「なのは、撃って来たのはその子かもしれないけど、まず話し合おうよ」

「それもそうだな!」

 なのははしっかり頷くと、流派東方不敗独特の片足立ちの構えをとった。ユーノは慌てて、

「いや、だからまず話し合いを……」

「武道家たるもの、拳で語り合うまでよ!」

「色々と駄目だこの人!!」

 ユーノが頭を抱える中、金髪の少女も手にした黒い杖、デバイスを構える。その先端部分が変型すると、金色の光の刃が形成された。光の大鎌と言ったところである。どの道向こうも闘り合う気らしい。

「ロストロギア『ジュエルシード』……申し訳ないけど頂いて行きます……」

 言うが早いが、金髪の少女はデバイスを振り上げて、凄まじい速度でなのはに襲い掛かって来た。早く鋭い一撃が足元を刈るように迫る。

「!?」

 少女が大鎌の斬撃を繰り出した時、なのはの姿は消えていた。そんな馬鹿なと少女が辺りを見回そうとした時、

「儂は此処だあっ!」

 頭上から声がした。慌てて少女が頭を上げると、空振りした大鎌の刃先に腕組みして此方を見下ろしているなのはの姿が在った。少女の腕にはデバイスの重さ以外何も感じられない。まるで体重がゼロになったようだ。

「くっ……!」

 少女はなのはを振り落とそうとデバイスを振り回す。しかし……

「小賢しい!」

 なのはは腕組みをしたまま飛び上がり、軽やかに宙を舞う。余裕である。しかし少女も虚仮にされっ放しで黙ってはいなかった。デバイスを大きく振りかぶる。

《Arc saber》

「んんっ!」

 少女が低い気合いと共に大鎌を振ると、金色の刃先が三日月型のブーメランとなって、まだ空中を舞うなのはに襲い掛かった。

「ぬうっ!?」

 なのはがブーメランを打ち落とそうと向かい合った時、そのブーメランが爆発を起こした。爆弾のような使い方も出来るらしい。

「なのはぁっ!?」

 ユーノは焦って叫んだ。爆発の中に消えるなのは。金髪の少女は並の使い手ではない。しかし心配は無用だった。爆煙の中から、右手を闇色に光らせた無傷の格闘少女が姿を現す。
 レイジングハートが防御魔法を発動させる間も無く、爆発の衝撃を『ダークネスフィンガー』で打ち消してしまったのだ。

「くっ……!」

 少女は眉をひそめるとデバイスを構え、再びなのはに斬り掛かる。全力攻撃だ。

「来るか! ならばあっ!」

 なのはも応! とばかりに迎え撃つ。空中で少女の一撃と、なのはの一撃が交差した。

「流派東方不敗! 光輝唸掌ぉぉっ!!」

 なのはの強烈な掌底打ちがデバイスの一撃を跳ね返し、見事少女のボディーに叩き込まれた。

「きゅうううぅぅぅぅ~~~っ!?」

 一撃を食らった少女は、きりもみ状に回転しながら綺麗な放物線を空に描き、真っ逆さまに地面に激突した。何か頭が地面にめり込み、足を逆ハの字に開いてピクピク痙攣している。まるで犬〇家の一族の死体みたいであった。

「む……惨い……」

 ユーノは心から少女に同情してしまった。そこに腕組みをしたなのはが歩み寄る。逆さまのままの少女を痛ましそうに見下ろし、

「こ奴の一撃一撃から哀しみが伝わって来おったわ……これが拳で語るという事よ……」

「……その割に容赦無いと言うか……殴り倒しただけに見えるんだけど……」

 ユーノが疑り深そうに、なのはをジト目で見上げた時だった。いきなり何かがなのは達目掛けて投げ付けられた。

「何奴!?」

 なのははユーノをひっ掴むと、その場所を飛び退いた。投げ付けられたものは地面や木の樹にカカッと音を立てて突き刺さると、爆発を起こし大量の煙を辺りに撒き散らす。

 その煙の中、金髪の少女『フェイト・テスタロッサ』は辛うじて立ち上がった。咄嗟に防御魔法を張ってダメージを最小限に抑えたのだ。それでも頭に見事なたんこぶが出来ていた。

(何だか解らないけど……今の内に……)

 フェイトは大きなたんこぶを擦りながらも煙の中を走る。お尻も痛かったが我慢して走った。


 爆煙を逃れて風上に移動していたなのはとユーノは、煙の中に光が見えるのに気付く。それに子猫の声。

「あ奴……」

 なのはが煙が晴れた空を見上げると、頭に大きなたんこぶをこさえ、お尻を擦る金髪の少女が飛んで行く。ハッキリ言ってとってもカッコ悪い。だがなのはは、

「ふふふ……手加減したとは言え、あれで倒れなんだか……良い根性をしておるのう……」

 その後ろ姿を嬉しそうに見送った。飛行魔法を一度も試していない彼女では、レイジングハートの補助があってもとても追えない。ユーノは元のサイズに戻りちょこちょこ歩いている子猫を見てため息を吐き、

「あのどさくさに紛れて、まんまとジュエルシードを持って行かれちゃったね……」

「ふふふ……この高町なのはを出し抜くとはのう……」

 なのはは笑みを浮かべながら、地面に突き刺さっている投げ付けられたものを手に取った。何かの刃物らしいが、爆発したせいで元の形が解らない。

(何者だ……? この儂に気付かせる事なく、不意打ちを仕掛けるとは……面白い面白いぞ、ふははははっ!)

 ユーノは凶悪な笑みを可愛らしい顔に浮かべるなのはを見て、背筋が寒くなる気がした。

(な……なのはが怖いっ!)

 高町なのはは嬉しそうに、その可愛らしい指をごきごき鳴らすのであった。


つづく




 皆さんお待ちかねええっ! なのはの前に現れる謎の獣耳少女とは? 再び激突する2人の魔法少女。山中を血の海に変え死闘を繰り広げるのです! 果たしてファイトの行方は? そしてなのはを襲う危機とは?

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠温泉に行くの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想返しです。

大鳥様〉果たしてアルフの運命やいかになのです。襲撃者は一応まだ内緒にしておきますが、他にも刃物を爆発させる人が居たり……しかしチンクは色々とおかしな事になるかもしれません? なのはに御神流の件は後で理由が出たりします。

一匹犬様〉バレバレですが、Gガン本編のように気付かないふりをしてあげてください。(笑)

elta様〉クロスもの好きでそちら方面はまったく書けないので大丈夫です。

Real様〉元々このネタは、なのはとマスターは同じタイプの人間では? と思ったのがきっかけだったので、実はやってる事は大して変わらなかったりします。(笑)

彼岸様〉迷惑も倍以上になりますからね……ユーノはツッコミでストレス解消しているのかもしれません?

風帝改様〉フェイトはこれからも萌えとは反対方向に突き進むかもしれません? このお話はシリアス要素皆無ですから、これからもなのはは周りに迷惑を掛けまくります。

良様〉犬〇家第一号なフェイトでした。萌えとか無いので基本容赦無しですね。そして次回は奴が……

虎様〉そうなったら違う意味で管理局が終りそうな気がします。(笑)果たして何人残れるやら……ユーノは修行こそしませんが、こう巻き込まれまくっていると、凄くタフになってしまうかもしれません。






[32932] 第7話 師匠温泉に行くの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/07/06 23:45


 さて皆さん……なのはの前に現れた謎の少女フェイト。彼女の出現はなのはに何をもたらすのでしょう? そして暗躍する謎の人物は果たして敵か味方か? なのはの闘志は真っ赤に燃え上がるのです!
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 見事な晴天であった。五月晴れと言う言葉がピッタリの気持ちの良い青空だ。日本国内はいわゆるゴールデンウィークの真っ只中である。そんな中を、なのは達を乗せた車が走っていた。

 なのはの実家喫茶『翠屋』は年中無休の、何時でも掛かって来んかあ! な漢らしい店であるが、連休の時は店員さんに任せて、ちょっとした家族旅行に出掛け、戦士の休息を取ったりするのだ。(なのは談)

 今回は高町家の他に、アリサにすずか、月村家からは忍さんにメイド長のノエルさん、同じくメイドのファリンさんが一緒である。
 旅行先は海鳴市の山の方に在る温泉郷だ。海鳴は何でも揃っているのである。宿泊先は老舗の温泉旅館で、周囲を緑に囲まれた風情豊かな所である。

 アリサとすずかは子供らしく、旅館の大きな池を悠々と泳ぐ鯉などを見てはしゃいでいて微笑ましい。なのはは森林浴をするお年寄りのように、しみじみとマイナスイオンなんぞを満喫していた。
 その際、ガンダムファイトで荒れ果てておらん自然は良い……などと呟いているようだ。まあ……それはともかく、温泉旅館に来たからにはまずは温泉である。

 早速温泉に入ろうという事になり、士朗父さんや恭也兄さんに着いて行こうとしたユーノは、なのはにとっ捕まっていた。

「なのは……僕は一応男だから、男湯に行きたいんだけど……」

 首筋を掴まれてぶら下げられているユーノは拒否するが、バスタオル一枚のなのはは神妙な顔をすると、

「ユーノよ……9年間女子として過ごして来て、色々と諦めた事も有る……」

「前に聞いた、前世の拳法使いだった男の人の記憶が有るんだっけ?」

「うむ……今まで温泉や銭湯に行った時は、出来るだけ父上達と入るようにして来た……家族はともかく、他の女性と風呂に入るのは抵抗があるのだ……」

「大変なんだね……」

 ユーノはいい加減ぶら下げるのは止めて欲しいなあ……と思いながらも少々同情してしまう。前世の記憶が有るというのも大変だなと思った。記憶が無かったら意外と普通の少女だったかもしれない。多分……


「と言う訳だユーノよ、共にこの気不味さを分け合おうではないか!」

 ユーノはギョッとしてなのはの神妙な顔を見上げた。

「なななな何でそうなるの? 僕だって嫌だよおっ!」

 逃げ出そうとするが、素早く察したなのはにガッチリと抱き抱えられてしまった。

「今回はアリサとすずかも来ておるから逃げようが無い、友と入らんなど母上が許してくれんのだ!」

「なのはあぁぁ~っ、早くいらっしゃああぁぁいぃぃぃ……っ」

 先に入っている桃子母さんの呼ぶ声が、不吉に脱衣場に木霊した。ユーノはあくまで逃げようとじたばた胸の中でもがく。

「嫌だあぁあっ! このまま流されると、淫獣だの何だの後ろ指指される気がする!!」

「大丈夫だ! ここまで抵抗したのだ、皆もきっと判ってくれよう!」

「いい加減メタ発言が過ぎて来たけど……そうかな……?」

「だと良いな!」

「うわああぁっ! やっぱり離してぇぇぇっ!!」

 無理矢理浴室に連れて行かれるユーノは、なのはの身体柔らかい……などと思ってしまう自分を恨めしく思った……





 という訳で結局女湯に連れて行かれたユーノは、今度はアリサにとっ捕まり、全身くまなく洗われる羽目になった。更に逃げないようになのはに抱きすくめられ、もうユーノは色んな意味でグロッキーである。風呂から上がったなのはの肩にグッタリ突っ伏していた。

 なのははアリサ、すずかと共に浴衣に着替えて、旅館の中を探索と洒落こんでいた。すると廊下を歩くなのは達の前に立ち塞がる人影が有った。

「はあ~い、おチビちゃん達~っ」

 見ると浴衣を着た16、7歳程のオレンジがかった髪の少女が、なのは達を嫌な感じで見下ろしていた。えらくナイスバディーなお姉さんである。お姉さんはふっと小馬鹿にしたように笑うと、なのはにズイッと歩み寄り、

「君かね……? ウチの子をアレしてくれたのは……?」

 品定めするようになのはの顔を間近で覗き込む。明確な敵意が感じられる。敵意が有るのはなのはだけらしい。本人は平然としているが……お姉さんは更に少女の瞳をガン見し、

「あんまり賢そうでもないし……強そう……」

 そこまで言った所で言葉がピタリと止まった。お姉さんの全身から脂汗がダラダラ出ていた。彼女の野生の勘が恐ろしい程の危険を知らせていたのである。

(この子……ヤバい!?)

「娘御よ、どうした? 顔色が良くない……」

 固まってしまったお姉さんになのはは声を掛ける。ハッとした相手は物凄くビビった様子で後ずさると、

「ごごごごめんごめん、し……知っている子に良く似てたから間違えちまったよ、ごごごごめんねえ~っ!」

 たいへん焦った感じで謝ると、凄い勢いで廊下を走り去った。ポカンとしていたアリサとすずかだが、

「何あれ……? 昼間から酔っぱらい?」

「凄く慌ててたね……」

 不審そうに走り去った方向を見る。不審者にしか見えなかった。

「恐らく……我慢ならぬ事でもあって羽目を外し過ぎたのであろう……多目に見てやろうではないか……」

 なのはは慈愛の籠った温かな眼差しで、お姉さんに心の中で頑張るのだぞ……とエールを送るのであった。ちなみにユーノは、まだなのはの肩で凹んだままである。



 逃げ出したあのお姉さんは、落ち込んだ様子で旅館の隅っこにしゃがみ込み込んでいた。何か壁を向いてぶつぶつ独り喋っている。危ない人ではなく、思念通話を使って誰かと会話をしているのだ。

《フェイトォ~、ヤバいよあの子ォ~、関わらない方がいいよ~》

《そういう訳には行かないよアルフ……》

 通話の相手『フェイト・テスタロッサ』は、旅館から離れた森の中で泣き言を言うお姉さん『アルフ』をたしなめる。

《こっちは進展……次の『ジュエルシード』の位置はだいぶ特定出来たから、今夜には確保出来ると思う……夜に落ち合おう……》

《分かったよフェイト……アタシ頑張るよ!》

 アルフは先程感じた恐怖を振り払うように、自らに気合いを入れるのだった。


ーーーーーーーーーー


 夜も更け時刻は真夜中近くになっていた。夜空には見事な満月が浮かび、絶好のサテライトキャノン日和である。
 なのは達子供は先に寝かされ、大人達は宴会の真っ最中であった。少し混ざりたい気がするなのはだが、どう考えても怒られるだけなので仕方無く寝ようとした時だった。

「む……?」

 魔力では無く『気』の乱れを感じ取り跳ね起きる。以前に感知したものと同じだった。

「なのは!」

 ユーノも気付いて声を掛けて来る。それは近くで『ジュエルシード』が発動した時の反応であった。



 温泉郷より幾分奥に入った場所に綺麗な小川が在る。その川に架けられたこじんまりとした橋の上で、フェイトとアルフは『ジュエルシード』の封印作業に励んでいた。川の中から青い光の柱が天に向かって伸びている。
 フェイトはアルフにサポートして貰い、問題無く『ジュエルシード』の封印に成功した。

「2つ目……」

 青い宝石がフェイトの、人工知能搭載のインテリジェンスデバイス『バルディッシュ』のコア部分に吸い込まれるように収納される。作業を終え彼女が一息吐いた時背後から声がした。

「また逢ったのう……」

 ギョッとして振り返ると、ユーノを肩に乗せバリアジャケット姿のなのはが、腕組みして橋の欄干に立っていた。

「い……何時の間に……!?」

 フェイトは直ぐにバルディッシュを構える。

「うわっ! 出たね!!」

 少々腰が引けているが、アルフはフェイトを庇ってなのはの前に立ち塞がった。

「ふっ……貴様はその娘御の仲間であったか……」

 なのはは不敵に笑うと欄干から飛び降りた。その肩からユーノも飛び降りフェイト達を見据え、

「『ジュエルシード』をどうする気なんだ? それは危険なものなんだ!」

 危険性を訴えるユーノであるが、フェイトもアルフも聞く耳持たないといった感じである。歯噛みするユーノの隣のなのはは一歩踏み出し、

「ユーノよ……所詮は武道家同士……拳で語り合うしか道は無い!」

 クワッとばかりに言い切る高町なのは9歳である。苛烈であった。ユーノは呆れて、

「いや……武道家なのはなのはだけでしょう? 話し合いくらいはしようよ」

「たわけがぁ! 形は違えど向こうもファイターぞ! そこの娘よ、流派東方不敗、高町なのは! 貴様は!?」

 何か魔導師とガンダムファイターを同じものと捉えているらしい。迷惑な話である。

「本当になのはは話し合う気ゼロだよね……」

 ユーノはため息を吐くしかない。そんな苦労人を他所に、なのはは独特の片足立ちでフェイト達に構えるのである。

「フェイト・テスタロッサ……」

 フェイトもバルディッシュを構えて静かに名乗った。けっこう律儀らしい。しかしアルフが前に出てなのは達を睨み付ける。

「そうは行かないよ! フェイトはアタシが守る!!」

 その姿が少女からオレンジ色の毛並みをした、大型の狼へと変化する。中々にショックな変化であった。鋭い牙が月明かりをギラリと反射する。

「アイツ……あの子の使い魔だ!」

「使い魔……?」

 ユーノの言葉の意味が解らないなのはに答えるように、狼アルフは牙を剥き出し、

「そうさ……アタシはこの子に造って貰った魔法生命……製作者の魔力で生きる代わり、命と力の全てを賭けて守ってあげるんだ!!」

 雄々しく吠えるアルフだが、尻尾が思いっきり下に巻いていた。内心恐ろしくて仕方無いのだ。無理も無い。獣は本来自分より強いものとは戦わないのが普通なのだ。だが彼女はフェイトへの想いで恐怖を隅に追いやった。その気迫は本能をも凌駕した。

「先に帰ってて、直ぐに追い付くから!」

 アルフはそう言い残すと、なのはに向かい凄まじいばかりの勢いで飛び出した。場合によっては相討ち覚悟の突進だ。

「アルフ!?」

 フェイトは止めようと叫ぶ。だがアルフは構わず、牙を剥き猛然と襲い掛かった。まるでオレンジ色の弾丸のようであった。主の為に命を賭けるその姿は崇高で美しかった。

ゴンッッッ★☆!!

 なのはの拳骨がアルフの頭に降り下ろされ、彼女は橋にのしイカの如くベタ~ンッと叩き付けられていた。

「いっ、痛ああ~いっ!!」

 アルフは頭に大きなタンコブをこさえ、涙目で頭を押さえる。とても痛そうであった。色々と台無しである。

「アルフ!」

 アルフを庇って前に出るフェイトはバルディッシュを電光の大鎌サイスフォームに変形させる。

「さあ! 次々と掛かって来んかあっ!!」

 挑発しておいでおいでするなのはに向かい、フェイトは最大スピードで飛び出した。得意の高速戦闘で、なのはの周りを目にも留まらぬスピードで飛び回り背後に回る。

(がら空き……!)

 その小さな背中に鎌を一気に降り下ろす。フェイトは勝利を確信した。この動きには並の魔導師では反応すら出来まい。しかし……

「!?」

 フェイトは驚愕してしまった。降り下ろされたバルディッシュの刃をなのはは、後ろも見ずに指2本だけで受け止めていたからである。人外少女はニヤリと笑うと、

「悪くは無いが……この高町なのはを倒すには、まだまだ足らぬわあぁっ!!」

 バルディッシュをむんずと掴むと、フェイトを思いっきり投げ飛ばした。馬鹿力で投げられては堪らない。フェイトはヒュルル~と夜空を自分がアークセイバーのように飛ばされてしまう。

「フェイトォォッ!?」

 タンコブを擦るアルフが悲鳴に近い声を上げた。フェイトは何とか態勢を立て直し、空中に静止すると周りに魔力スフィアを形成する。彼女の得意魔法フォトンランサーの発射態勢だ。

「ならアタシも!」

 アルフも同様にフォトンランサーの発動に入る。次の瞬間2人から同時に、無数の電光の槍がなのは目掛けて発射された。

「なのはぁぁっ!!」

 ユーノはなのはに駆け寄ろうと飛び出した。流石のなのはも同時攻撃は危ないと思ったのだ。フォトンランサーの雨がなのはに迫る。しかし少女は動かず、空中に円を描くように右手を回す。前面に梵字が浮かび上がった。

「小賢しい……ならば流派東方不敗が奥義、十二王方牌ぃっ!」

 光る梵字から7人のミニなのはが、なのなの言いながら一斉に飛び出した。

「!?」

「ななな何だいアレは!?」

 見た事も無い訳の解らない技にフェイトとアルフは驚くが、本番はこれからである。

「大車併ぃぃぃっ!!」

 飛び出したミニなのは達が渦を巻いて1つに集まり、凄まじい竜巻と化した。電光の槍の雨を吹き飛ばし、更にフェイト達を直撃する。

「うあああぁぁっ!?」

「わあああああああぁぁっっ!!」

 ミニ達が巻き起こした竜巻に巻き込まれ、チボデー達のようにフェイトとアルフは吹き飛ばされてしまった。ミニなのは達はナリは可愛いが凶悪である。
  大地に叩き付けられてしまった2人は直ぐには動けない。そこに不敵な笑みを浮かべて、なのははゆっくりと歩み寄る。フェイト達にはその姿が悪魔のように見えたと言う……

「ここまでのようだな……ならばそろそろ止めを刺してくれるわあっ!!」

 なのはの暴れッぷりに固まっていたユーノは、その様子を見て、

(なのはの方が悪い人に見える……!?)

 などと思ってしまった。勿論自覚の無いなのはは腰布を解き、マスタークロスの態勢を取る。

「死ねえいっ!!」

「いやっ! 殺しちゃ駄目でしょう!?」

「勢いで言ってみただけだ!」

 ユーノのツッコミに律儀に返事をしながらなのはは、マスタークロスを食らわそうと腕を振り上げる。フェイト達は絶体絶命だ。その時である。

「そうはさせんぞ! 高町なのは!!」

「ぬうっ!?」

 なのはは声のした頭上の大木を見上げた。其処には布をひるがえす人影が! 今まで忍者のように風景と同じ模様の布を被り潜んでいたらしい。
 その人物は両腕に装着した籠手型のデバイスからブレードを展開し、なのはに鋭い斬撃を降り下ろす。なのははマスタークロスで一撃を受け止めた。

(出来る! こ奴何者!?)

 なのははその研ぎ澄まされた技に驚きつつも、マスタークロスを寄り合わせた剣で反撃する。だがその人物は素早く後方に跳んで攻撃をかわし、フェイト達を庇うように前に降り立った。

「フハハハハハハッ!」

 腰に手を当て高らかに笑うのは、額にV字飾りの付いたけったいな覆面を被り、トゲ付きのカーキ色の軍服を着たなのは達より年下らしい少女だった。覆面から覗く赤い瞳に長い金髪が目を引く。

「私の名は『シュバルツ・シュベスター』! ネ……ミッドチルダのガン……魔導師ファイターだ! 覚えておいて貰おう!!」

 ユーノはそのけったいな覆面少女、シュバルツ・シュベスターと色々噛みながら名乗る人物を見て思う。

(この子……なのはと同じノリ!? って言うか……魔導師ファイターって広まって来てるのか……? やだなあ……)

 これから先、とっても不吉な予感を覚えるユーノであった。

つづく


 皆さんお待ちかねええっ! なのはの前に立ち塞がる謎の覆面ファイターはいったい何者なのでしょうか? あの男と同じ技を繰り出す少女の前になのはは地にまみれてしまうのでしょうか? そして覆面ファイターがフェイトに授ける秘策とは?
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠とりあえず突っ込んでおくの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想返しです。

半田様〉誤字報告ありがとうございます。直しておきましたので。
taka様〉ドモンは……A's編のお楽しみと言う事で。スバルはなるでしょう。
ro様〉一気読みありがとうございます。避けるよりひどくなるかもです。
zzz様〉来てしまいました。スカさん違う意味で酷い目に遭うかもです。
彼岸様〉ドモンのその時の反応を書くのが楽しみだったりします。厳しい批評を糧にして、エタらないようがんばります。最初に考え付いた時、stsのネタまで思い付いているので。
ヴィクセン様〉名前でバレバレですね。(笑)
虎様〉愉快な事になるかもです。どこぞのアホの子より……
Real様〉暑苦しいのもですが、色々かますかもしれません?
トネ様〉ドモンはA's編で。ユーノは何気にラノベ主人公ポジションかもしれないと思ったりです。
良様〉誰なんでしょう?(笑)ミニ達は何気に順レギュラーですからね。
通りすがり様〉ありがとうございます。確認してびっくりしました。直しておきましたので。スマフォ投稿なのでたまにバグってしまう事があります。
風帝改様〉来てしまいました。(笑)
大鳥様〉その辺りは今後の展開で。アルフは燃えました。
銀河連峰様〉素手で倒してましたね。ゴジラも何とかしそうで怖いです。(笑)ユーノはツッコミますよ。



[32932] 第8話 師匠取り合えずつっこんでおくの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/10/25 20:59

さて皆さん……世の中には思わぬ出会いがあるものです。それが良き出会いとなるか災いをもたらすかは運次第……いえ、本人次第なのかもしれません。何事も気合いと根性次第の少女の明日はどちらなのでしょう?

それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 青白く輝く満月に照らされ、なのはと『シュバルツ・シュベスター』と名乗る覆面少女は睨み合っていた。互いに凄まじい闘気である。
 なのははけったいな覆面少女を見てデジャブを感じていた。

(以前にも似たような事が有った……と言うより……もしや……?)

 思い当たったなのはは、独特の片足立ちの構えを取り、

「シュバルツとやら! その格好といい、その技のキレといい何者だ貴様!? 『シュバルツ・ブルーダー』と関係があった者か!?」

「高町なのは貴様こそ何者だ!? 何故『流派東方不敗』の技が使えるのだ!?」

 シュバルツは両腕のブレードを構え、これまた独特の片足立ちで逆に聞き返して来た。そこでポーズを取ったままのなのはは、ある考えに思い至った。

(ま……まさか……?)

 自分の身に起こった事を改めて思い起こす。覆面少女も妙な目付きになっていた。姿形こそ違うが……

「まさか貴様! シュバルツ・ブルーダー本人なのか!?」

 なのはの鋭い? 指摘にシュバルツはハッとした様子で、

「貴様こそ、その喋り方といい不遜な態度、もしや東方不敗マスターアジアなのか!?」

 さすがの2人も唖然とし、お互いの変わり果てた姿を見合ったまま固まってしまった。端から見ていると、少女2人が片足立ちで固まっているので微笑ましい光景にしか見えない。
 3秒程そのままの姿勢が続いたが……

(まあ……そのような事も有るな……!)

 両方共細かい事は気にしない事にしたらしい。恐るべきアバウ……おおらかさである。なったものは仕方無いの理屈のようだ。
 シュバルツは誤魔化すように、コホンと可愛らしい咳払いをし、

「何の事だ……? 私は見ての通りの通りすがりのゲルマン忍者で、只のネオドイツの女……そのような者は知らんな……」

「シュバルツ……貴様先程ミッドチルダの魔導師ファイターと言っておらんかったか……?」

 なのはは疑り深いジト目で痛い所を突くが、シュバルツはすっ惚けるつもりらしく、

「そんな事はどうでもいい!!」

「良くないわあっ! このたわけ者っ! シュバルツ以外にそんな怪しい者が居ってたまるかあっ!!」

(おおっ? あのなのはがつっこんだ、あの子とんでもないぞ!!)

 ユーノはそのやり取りを見て違った意味で驚いた。シュバルツは動じず、

「そんな事に気を取られている場合か!? 行くぞおっ、高町なのは!!」

 両腕のブレード……と言うか、シュピーゲルブレードを振りかざし、目にも留まらぬスピードでなのはに迫る。

「誤魔化しおってっ!」

 なのはは棒状にしたマスタークロスで迎え撃つ。硬いもの同士がぶつかり合う鋭い音を上げ、激突するマスタークロスとシュピーゲルブレード。互いに力を籠める。2人のパワー比べになっていた。

(シュバルツめ……儂より小さな身体で何というパワーだ!)

 なのはの方が押され気味だ。覆面越しにシュバルツは不敵に笑う。

(あの……ほとんど人間辞めてますのなのはと互角に戦うなんて、あの子化け物か!?)

 ユーノは競り合う2人を見て、すごく失礼な感想を思い浮かべた。無理も無いが……
 一方シュバルツは、なのはと競り合いながらも、フェイト達に向かって叫ぶ。

「何をしているフェイト! 早く今の内に『ジュエルシード』を持って逃げろ!!」

 ようやく立ち上がったフェイトは訳が解らず困惑し、

「でも……あなたは一体……?」

「そんな事はどうでもいい……早く!!」

 今の所は味方らしいと判断したフェイト達は、シュバルツの話に乗ってみる事にした。

「分かった……」

「何処の誰かは知らないけど助かったよ!」

 覆面少女に礼を言うと、2人はユーノが追い縋る前に一目散に撤退した。なのはは舌打ちし、

「シュバルツ! 貴様どういうつもりだ!?」

 マスタークロスに力を込めながらなのはは怒鳴る。シュバルツも負けじとブレードに力を込め、

「フフフ……東方腐敗……いや……今は高町なのはだったな? 元々我らは敵同士、こうなっても何ら不思議ではない!!」

「字が違っておるわいたわけが! しかし……確かにな面白い! 貴様とはまだ決着が着いておらなんだ、ケリを着けてくれようぞ!!」

 なのはは言うが早いが、マスタークロスを布状に戻し、シュバルツを絡め取ろうと繰り出した。

「しまった!?」

 白い布が生き物のように、その小さな身体をがんじ絡めにする。しかし、

「ぬうっ!?」

 なのはは声を漏らす。突如シュバルツの姿が消え失せてしまった。マスタークロスに縛られているのは、木の切れっぱしだった。

「変わり身!?」

 辺りを見回すなのはの頭上から高笑いが響く。

「フハハハッ! 私は此処だあっ!!」

 なのはの頭上数メートルまで飛び上がっていたシュバルツは、クナイ型の武器『メッサーグランツ』を立て続けに投擲する。

「小癪なっ!」

 なのはも負けてはいない。マスタークロスを扇風機の如く高速回転させ跳ね返す。弾かれたメッサーグランツが爆発しユーノは爆風に巻き込まれそうになった。

「やるな高町なのは! その年でよくぞそこまで修行したものだ!」

「ぬかせ! この一撃を受けてみるがよい!」

 なのはも高く飛び上がり右手を構える。それを察したシュバルツは、2本のブレードを頭の上でガッチリと交差させた。

(何か訳の解らないノリになって来た~? もはや魔法でも何でも無い!)

 呆れるユーノの視線の先で、なのはの右手が闇色の光を放つ。シュバルツはブレードを翳したままの態勢で、独楽のように高速回転を始めた。
 周囲に大風を巻き起こして、人間台風と化すシュバルツ。この態勢は!

(うわああああっ! 魔導師ファイターとか言っといて、あの子も全っ然魔法使ってないしぃっ!!)

 ユーノは、シュバルツの巻き起こした大風に吹き飛ばされそうになり、必死で近場の木にしがみ付くが……今吹き飛ばされたようた。
 木の葉のように飛ばされるユーノの横で、2人の魔法少女? が空中で激突する。

「ダァァクネス、フィンガァァァッ!!」

「シュツルム・ウント・ドランクウゥンンッッ!!」

「うおおおっ!?」

 人間台風と化したシュバルツに、ダークネスフィンガーが見事に弾かれた。吹き飛ばされてしまうなのは。

「なのはが競り負けたあっ!? 嘘だろうっ!!」

 大風に飛ばされるながら驚愕するユーノだが、その前に自分の身を何とかした方がいい。あれええ~っ、と叫びながらユーノの小さな姿は、森の中に飛ばされる見えなくなってしまった。

 吹き飛ばされてしまったなのはは、空中で態勢を立て直し地面に着地した。直ぐにシュバルツの方に向き直るが姿が見当たらない。

「何処へ行きおったシュバルツ! 逃げるつもりかぁっ!?」

 するとシュバルツの声だけが響き渡った。

「フフハハハハッ! 高町なのはよ、フェイト達はもう充分遠くに逃げた頃、もう用は無い、また会おう高町なのは!!」

「おのれシュバルツ! 相変わらず忌々しい奴よ!!」

 怒鳴るなのはだが、それっきり声は聴こえず森は元の静寂を取り戻した。まったく気配も感じられない。もう遠くへ去ってしまったようだ。

 シュバルツの技の余波で飛ばされていたユーノは、やっとの思いでなのはの元に戻って来た。ヨレヨレである。仁王立ちのなのはに、

「ふう……死ぬかと思った……なのは、あの子知り合いなのかい……?」

「ふふふ……前から何かと因縁の有る奴よ」

 なのはは苦笑いを浮かべ、シュバルツが消えたとおぼしき方向を見詰め、

「次はこうは行かんぞシュバルツ! 今度は決着を着けてくれる!!」

 眼光鋭く? 言い放つとヨレヨレのユーノを肩に乗せ、旅館へと帰って行った。その背に落ち込んだ様子は無い。かつての強敵の出現に、却って高揚しているようだ。

 ユーノはなのはの肩で色んな意味でグッタリしながら、

(絶対なのは、『ジュエルシード』の事忘れてるよね……)

 深く深くためを吐くのだった。



ーーーーーーーーーーーー



 あれから数日が経過していた。此処は海鳴市の隣に位置する遠見市の住宅街である。その中に一際背の高い、家賃を聞くのが怖い高級マンションが建っていた。

 フェイト達2人の、この世界での隠れ家である。ただっ広い電気も点けていない暗い部屋で、フェイトは疲れた身体をベッドに横たえていた。顔色が悪い。

 そこに心配そうにアルフが入って来た。ベッド脇の小さなテーブルに載っている、ほとんど手付かずの食事のトレイを見付げ、

「また食べてない……駄目だよ食べなきゃ?」

 身を案じる使い魔の少女にフェイトは気だるそうに身を起こし、

「……少しだけど食べたよ……大丈夫……」

 そうは言うが、本当に少ししか口にしていない。精神的に余裕が無いのだろう。身を起こしたフェイトは出掛ける支度を始める。

「そろそろ行こうか……あんまり母さんを待たせたくないし……」

 休憩もそこそこだ。アルフは心配で堪らなかった。

「アタシはフェイトが心配なの、広域探査魔法はかなり体力使うのに、フェイトったらロクに食べないし休まない……その傷だって軽くは無いんだよ……」

 フェイトの肩に、何かで打たれたような傷跡が見える。しかし彼女は薄く笑い、

「平気だよ……私強いから……」

 そう強がって見せたその時だった。

「甘いぞフェイトッ!!」

 何か子供が無理して、偉そうにしているような声が暗い室内に響いた。

「だっ、誰だ!?」

 アルフは咄嗟にフェイトの前に立ち怒鳴る。感覚の鋭い獣人の彼女にもまったく気配を感じる事が出来なかった。

「フフフ…私だよ……」

 声が聴こえる方を見上げると、腕組みをした覆面少女が天井から逆さに立っていた。その無駄に芝居がかった登場に、ちょっと引き気味のフェイトだったが、その覆面に思い当たる。

「あなたはあの時の……?」

「そう……シュバルツ・シュベスターだ!」

 シュバルツは金髪をなびかせ、ひらりとフェイト達の前に降り立った。

「何だいアンタは? いつの間に入り込んだ? どうやって此処が!?」

 アルフは警戒心を露に問い質すが、

「そんな事はどうでもいい!!」

 シュバルツは偉そうに腕組みのままクワッと言い切る。いや……立派に不法浸入だろうと2人は思ったが、覆面ちびっ子の妙な迫力に呑まれてしまっていた。
 見てくれは小さな少女で微笑ましいのだが、覆面をしているのですごく変だ。

「フフフ……奴高町なのはとは、いささか因縁が有ってな……すれでフェイト・テスタロッサ、お前に高町なのはの攻略法を教えに来たのだ」

「何言ってるんだい! 次は絶対にフェイトは負けないよ!」

 アルフはムキになって食って掛かるが、シュバルツはギロリと2人を睨み、

「はっきり言おう! 今のお前達の闘い方では勝てん! ムキになっても勝てぬものは勝てぬわ!」

 はっきりと指摘され、黙りこんでしまう2人。確かに過去いいようにやられただけである。
 シュバルツはどんよりと落ち込んでしまっているフェイトに向かい、カッと目を見開き、

「だが高町なのはには、まだ付け入る隙が有る!」

「あの子に隙……?」

 フェイトは思わず身を乗り出していた。話に興味を示した少女にシュバルツは、

「そう……見る限り、今の奴は以前より遥かに劣る、更に魔法を覚えてまだ日が浅いらしく、飛ぶ事や砲撃魔法にまだ慣れていない……」

「それなら……!」

 何を言いたいのか理解したフェイトは表情を僅かに変えた。

「そうだ! 近接戦闘は避け空中戦に誘い込み、遠距離から砲撃魔法を撃ち込みまくってやるのだ! 日本流に言うと『下手な魔法も数撃ちゃ当たる作戦』だ!!」

(もっとマシな名前は無かったのかい……?)

 アルフは思ったが、フェイトはやる気になっているので黙っておく事にした。なのはへの連戦連敗は、彼女にとっても思う所があるのだろう。

 ついでにシュバルツの、なのはが以前より遥かに劣るという言葉が気になったが、思いっきり戦意を無くすような話を聞かされる気がして黙っておく。

 話は戻ってシュバルツはフェイトをジロリと見て、

「しかし問題はフェイト、お前自身だ!」

「私……?」

 フェイトはいきなりのダメ出しにビックリしてしまうが、シュバルツは容赦無い。

「そうだ! ロクに食事もしない休まないだとおっ!? フェイトよお前闘いを舐めているのか!? そんな事で『ジュエルシード』を全て集めようなど無理の一言ぉぉっ!!」

 根が素直なフェイトは、ガアアアンと衝撃を受けている。アルフはこのちびっ子無駄にテンション高いな……とは思ったが、言っている事はもっともなのでまたしても黙っておく事にする。

「そうだ最後まで闘い抜くには体力だ!!」

 シュバルツはそう断言すると、何処から出して来たのか山盛りの料理が盛られたお盆をフェイトの前に置いた。ホカホカの炊き込みご飯やら熱々の煮物やら実に美味しそうである。

 いつの間に用意したとか、自称ネオドイツの女なのに何故日本食? などという疑問はきっと禁句なのであろう。

 それはともかくシュバルツはほとんど手付かずの食事のトレイに目をやり、

「そんなインスタントとは違い、私が作ったスタミナ料理だ! 沢山食べて力を付けるのだフェイト・テスタロッサ!!」

「分かった……食べるよ……! こんな事じゃ『ジュエルシード』集めも満足に出来ない!」

 決心したフェイトは勇んで料理を食べ始める。何気に美味しい。

「そうだフェイト、お前は成長期だ! どんどん食べろ! お代わりもタップリ有るぞ!」

 シュバルツは何処からともなく出したお鍋から、少なくなったお皿に次々と料理を盛ってやる。

「どうしたどうしたぁっ! そんなチマチマした食べ方では高町なのはは倒せんぞおっ!!」

「そうだよフェイト!」

 シュバルツとアルフの激が飛ぶ。アルフは覆面ちびっ子にツッコミたかったが、フェイトがちゃんと食事を採っているのを見て、まずは応援したくなった。

 フェイトもシュバルツの料理が美味しい事もあり、頑張って食べ続ける。しかし……3人共少々調子に乗り過ぎたようである。

 1時間後……


「うう~~……」

 青い顔でお腹を押さえ、ベッドに苦しそうに横たわるフェイトの姿があった。それを見守るシュバルツとアルフ。

「食わせ過ぎたか……フフハハハハッ!!」

「笑って誤魔化すなあ! 覆面ちびっ子ぉっ!!」

 アルフは半泣きでシュバルツを怒鳴り付けるのだった。

 フェイト・テスタロッサは食べ過ぎでお腹を壊しました……


つづく


皆さんお待ちかねええっ! 高町なのはの苦悩とは? そんななのはを助けるべく2人の友が立ち上がるのです! これが友情の証し!!

魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠悩むの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。遅くなりました。

ぱ様>A's編から登場となりますよ。

銀河連峰様>本編では決着着いてませんでしたからね。2人共脳が子供なので、少々おバカになってます。

ヴィクセン様>死んだ人が出て来てます。シャッフルのメンバーが出ても果たして常識ポジになるのでしょうか?(笑)

トネ様>成長は早いでしょうが、いかんせんまだ体が子供ですから、破壊力は仕方無いかと。でも修行すると大幅にレベルアップするかもです。

虎様>気合いさえ有れば何とかなるのです。(笑)

zzz様>でも油断すると足を挫いたりするのがご愛敬でしょうか。(笑)黄金に輝いたり出来るようになるにはまだ掛かります。

poo様>此方に引っ越して来ました。よろしくお願いします。

real様>ヤバいのです。(笑)東方不敗()ですがよろしくお願いします。

オリヴィエ様>お久しぶりです。此方に引っ越していました。取り合えずシュバルツが味方に居るので心強いかも…? グランゾンや師匠達に苦しめられたので良く分かります。(笑)フェイトは逞しくなるかもです。






[32932] 第9話 師匠ボ~とするの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/11/09 16:05
さて皆さん……意外なる人物との再会に様々な謎……その中で苦悩するなのは一体どうするのでしょうか? そんな時頼りになるものとは?
それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠ボ~とするの巻


 温泉街の死闘から数日後……今日も小学校に律儀に通う、元東方不敗マスターアジアこと高町なのはは、授業中にも関わらずボ~としていた。
 どれくらいボ~としているかと言うと……

「ちょっ、ちょっとなのは……手……! 手ぇっ!」

 アリサの押し殺し気味の声が入って来た。ようやく気付いたなのはは、

「手……?」

 自分の手を見てみると、両利きなので左手は鉛筆を握っているが、(戦闘は右で)机に着いていた右手が闇色に輝き、机にミシミシと亀裂を作るくらいにボ~としていた。

 あっ……今机が砕け散った……





「何やってるのよなのはは? 授業中に『ダークネスフィンガー』かましてどーすんのよっ!」

 アリサに怒られてしまった。勿論既に先生にもしっかり怒られている。怒るだけで済むのは、皆毒されてしまっているからのようだ……

「ぬわっはっはっ! つい考え事をしておってな!」

 なのはは本人だけは豪快に笑っているつもりで、心配そうなアリサとすずかの背中をバンバン叩く。2人はバカ力で叩かれ噎せた。
 明らかに笑って誤魔化している友人を見て、アリサとすずかは妙な顔をするのだった。





 さて……自宅に帰ったなのはは、部屋で机に向かい宿題を始めたが、やはりまだボ~としていた。二度目になるが、どれくらいボ~としているかと言うと、無意識に『十二王方牌・大車併』を繰り出すくらいである。

 なのはから飛び出した『ミニなのは』達は、攻撃目標を指示されていなかったので、取り合えず手近で心配そうに見ていたユーノに襲い掛かって行った。

「なのお~っ!」×7

「ぎゃああああぁぁぁっ!?」

 ミニなのは達にそれぞれ首、前脚、後ろ脚、背骨、尻尾を関節技でガッチリ極められたユーノは、絞め殺される仔豚のような悲鳴を上げた。

「痛だだだだだっ! なのはぁっ、たた助けてええぇっ! 腕が足が尻尾があっ! 背骨が砕けるううぅっ!!」

「ぬっ……?」

 そこでなのはは、ようやくユーノが死にそうになっているのに気付いた。

「おお、済まぬユーノ、帰山笑紅塵」

 ミニなのは達は獲物を殺れなくて残念なのか、舌打ちしながらへロヘロのユーノを離し、渋々なのはの元へ戻って行った。

「ぬわっはっはっ! 済まぬユーノよ、いささかボンヤリとしていたようだな!」

 高笑いするなのはに、ガタガタの身を起こしたユーノは、

「……なのは……君がボ~とすると周りが危険だから頼むから止めて……似合わないし……それに何か今、綺麗なお花畑が見えた気が……」

 危うく臨死体験をする所だったので抗議の声を上げた。なのはがボ~とする度にこんな調子では、ユーノは近々お星様になってしまいそうである。

「それで……なのはは何でボ~としてるんだい……? 理由も解らず戦うのは嫌だなんて間違っても言わないよね……?」

 取り合えず聞いて置いた。聞いてみただけだが……
 無論そんな気は毛ほども無いなのはは、腕組みをして昔を懐かしむように遠くを見詰め、

「……ふむ……実はな……」

 何かを言い掛けた時、下から桃子母さんの呼ぶ声がした。

「なのは~っ、アリサちゃんとすずかちゃんが来てくれてるわよぉっ!」

「アリサとすずか……?」

 こんな時間に何事かとなのはは席を立った。





「さあ! なのは言いなさい、あんた柄にも無く悩んでるんでしょ!?」

 なのはの部屋に通されたアリサは、入るなりズバリ問い詰めて来た。すずかも頷き、

「なのはちゃん……私達じゃあんまり力になれないかもしれないけど……話を聞くくらいは出来るよ……?」

 真剣な顔でなのはを見詰める。ユーノはそんな2人の少女を見上げ、

(2人共いい子達だなあ……なのはを心配して来てくれたんだ……女の子同士の友情か……)

 ほっこりした気持ちになっているとアリサとすずかは、なのはの手をガッシリと握り、

「私達は互いに死線を越えて来た仲じゃないの! 水くさいわよなのは!!」

「そうだよなのはちゃん! カチコミ掛けるなら何時でも付き合うから!」

 2人の言葉に感極まったなのははアリサとすずかの手をしっかりと握り返した。

「済まぬアリサ、すずか! この高町なのは、2人の想い確かに受け取ったぞ!!」

 女の友情と言うより、とっても漢らしい友情であった。アリサもすずかも悪い意味で、なのはからの影響をしっかり受けているようである。

(想像とまるで違う……て言うか、この2人将来大丈夫かあっ!?)

 ユーノは昔の少年漫画のように拳を合わせ、背後に燃え盛る炎が見えそうな感じの3人の少女達を見て少々引いた。




 落ち着いた所でなのははアリサとすずかを前に、腕組みをして目を瞑っている。これから悩みを打ち明けようと言うのだろう。そんな少女を見てユーノは、

(なのはの悩みって何だろう……? ひょっとして実は魔法の事で悩んでたのかな……? 知り合いらしい子も出て来たし……でもこの世界じゃあ人に言える事じゃないだろうし……)

 心配して様々な考えが浮かぶ。そしてなのははおもむろに目を開けると、側に居るユーノをビシッと指差し、

「実はな……其処に居るユーノは、実は異世界から来た喋るフェレットで、魔法の石を取り戻しに来たのだ……! そして儂はその手伝いで魔法少女をやっておる!!」

(嘘ぉぉっ!? 豪快にバラしてどーすんのぉっ!)

 ユーノはその場でスラィデイング気味に、思いっきりズザザァッとばかりにズッコケてしまった。余韻もへったくれも無い。

 なのはは結局アリサとすずかに全部話してしまった。包み隠さずである。今ユーノはアリサにとっ捕まり、「喋ってみなさあい」と揉みくちゃにされている所である。ユーノはもうパニくってアワアワだ。
 そんなアリサに元凶のなのはは微笑ましそうに微笑し、

「はははっ、アリサよ……魔力が無いと聞き取れんらしいぞ」

「なあんだ……詰まらないわねえ……」

 アリサはブーたれてユーノの小さな体を持ち上げる。ユーノはヘロヘロ状態ながら、ドングリのような瞳をなのはに向け、

「なのはぁ~っ、普通こう言う事は秘密にするんじゃないのお!?」

「何故だ? 心配する友に話さんというのは良くなかろう?」

 なのはは全く悪びれない。こんな事なら最初に秘密にするように言っておけば良かったと思うユーノであった。




「しっかし……なのはも凄い人生送ってるわねえ……前世で拳法使いのおじさんで、巨大ロボットに乗って人類抹殺しようとしたり、生まれ変わって今度は魔法少女か……」

「凄いよ、流石なのはちゃんだね……」

 アリサとすずかは特に抵抗無く受け入れている。既になのはの前世まで聞いているようだ。ユーノは思い知った。

(なのはの事を知っていると、大概の事は驚かなくなるんだな……って人類抹殺って何!?)

 何か凄くもの騒ぎな単語が普通に会話の中に出て来た気がしたが、聞かなかった事にするユーノであった……

 脱線気味ながらも3人の少女達の相談は続く。一通りの話を聞いたアリサは深刻な顔で、

「それで……その『フェイト』って子を見ると、昔の弟子を思い出して仕方無い訳ね……?」

「……初めてドモンに会った時を思い出すわい……あの寂しそうな目をな……」

 アリサの問い掛けになのはは頷く。全然見た目に似合っていないが……あだ名がじいさん少女はギアナ高地で道に迷い、ピューマに1人立ち向かおうとしていたドモンを思い出し顔を綻ばせた。

(何なんだ……この訳の解らない会話は……?)

 ユーノはもはや別次元に跳んだ会話に小さな頭を捻る。それでも一応結論は出たようだ。3人で考えた末に出た結論とは……

「アリサ、すずかよ……ようやく合点が行ったわ! ぬわっはっはっ!!」

 なのはは晴れ晴れとした表情で高笑いし、勢い良く立ち上がるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日。海鳴市ビル街上空は雷雲に覆われ、あちこちで派手に雷が落ちていた。フェイトの魔法雷である。これで『ジュエルシード』を強制発動させて探し出そうという、少々荒っぽい作戦であった。

 雷の光に照らされる中、ビルの屋上で下界を見下ろす2人の少女の姿が在る。アルフと腹痛から復活したフェイトだ。
 流石に食わせ過ぎを反省したシュバルツが小瓶を取り出し、

「これを飲むがいい! ゲルマン流『正〇丸』これで腹痛など立ちどころに治る!」

 などと臭い~っ、と嫌がるフェイトに無理矢理飲ませたお陰で復活した。
 ちなみにシュバルツのゲルマン流〇露丸に突っ込める程、こちらの文化が分かって無い2人は、ゲルマン流の薬は良く効くなと素直に思ったと言う。これにツッコミが入るのは、関西弁少女の登場を待つしかなかろう。

 駄情報はこれくらいにして、フェイトとアルフの表情が険しくなる。街中に結界が張られて行く。なのは達が嗅ぎ付けたのだ。

「来たね……」

 アルフは吹き出して来る冷や汗を拭う。それと同時に、発動した『ジュエルシード』の青白い光の柱が天を貫いた。その光を目指し1人の少女が爆走して来る。
 ユーノを肩に乗せたバリアジャケット姿のなのはである。平気で車より速そうだ。肩にしがみ付いているユーノは叫んだ。

「なのは、あの子達より先に封印を! 今度は壊さないように加減と言うか『流派東方不敗』は駄目だからね!」

「判っておるわあっ! 不屈の闘志『レイジングハート』よおっ!!」

《canon mode》(砲撃形態)

 日本語とミッド語で意味がダブっているが、一応ちゃんと名前を呼んでもらえたので素直に応じるレイジングハートである。右腕に桃色の光のリングが形成された。フェイトもビルの屋上から飛び降りると、バルデイッシュを構え砲撃態勢に入る。

「美しき破壊者ディバインバスタアァァッ!!」

「サンダーレイジ……!」

 桃色と金色の魔法光がほぼ同時に青白く輝く『ジュエルシード』に炸裂すると、光の柱は消え封印状態となった。
 なのはは上空の緊張の面持ちのフェイトを見上げながら、ゆっくりと歩を進める。しっかりとフェイトの目を見据え、

「フェイト・テスタロッサよ……お前には見所がある。儂もまだまだ修行中の身だが、どうだ、共に最強を目指さぬか!?」

「……?」

 フェイトにはなのはが何を言っているのか解らない。なのはは彼女の困惑など構わず続け、まるでドモンを見守るような優しき笑みを浮かべ、

「お前の……師匠になりたいのだ!!」

 たいへん偉そうに宣言した。だが真剣である。

「うわあ……本当に言ったよ……」

 ユーノは呆れ顔である。アリサとすずかとの相談の結果、「ならば、いっその事弟子にしてしまおう!!」と言う結論に達してしまったのである。実に単純明快である。

 さて……なのはからのスカウトの誘いを受けたフェイトは不覚にもドキリとしてしまうが、

「フェイト何をしてるんだい! 『ジュエルシード』を集めるんだろ!?」

 アルフの叫びにハッとしたフェイトは、バルデイッシュを構え直すと高く空に飛び上がる。なのはは不敵に笑い、

「成る程……弟子にしたくば、まずは倒してみよとの事だな……? ならば『流派東方不敗』の真髄得と見るがいい!!」

(やっぱりぶっ飛ばすんだね……)

 想像通りになった現状を見てユーノは、やはりなのはに平和的な解決は無理なのだあ……と、この世界に来てから増えたため息を吐いた。

 さて、なのははフェイト目掛けてジャンプしようとすると、フェイトは空かさず『フォトンランサー』を連続して撃ち込んだ。降り注ぐ金色の槍の雨。

「小癪なあっ!」

 なのはは軽々と槍の雨をかわし飛び上がると、更にビルの壁面を蹴ってフェイトに迫ろうとする。だがフェイトはまともにやり合わず、更に高度を取って砲撃魔法を撃ち込んで来た。

「ほう……そう来たか……良い判断だ。ならば不屈の闘志レイジングハートよおっ!」

《Yes master》

 なのはの呼び掛けに反応し、彼女の背中に『マスターガンダム』を思わせる2枚の光の翼が現れる。高町なのはの魔法での初飛行だ。

「行けいっ!!」

 気合いと共に、まるでバーニアを噴かすようにぶっ飛んで、宙に浮かぶフェイトに肉迫するなのはだったが……

「ぬおっ? バランスがモビルファイターとは違う!?」

 思いっきりフェイトを通り越してしまった。どうも推進剤を噴射して飛ぶのと、魔法での重力制御とでは勝手が違う。なのはは空中で逆さまになってしまった。
 ユーノは(このままではスカートが!)などと思ってしまったが、それはともかくフェイトは、

(今だ……!)

 隙あり! とばかりに、連続して再度フォトンランサーを発射する。

「これしきぃっ!」

 なのはは逆さまのまま腕を振り、マスタークロスで金色の槍を叩き落とす。やっとこさ姿勢を立て直したなのはの目に、地上に浮かぶ『ジュエルシード』に向かって降下するフェイトの姿が映った。
 なのはを空中に誘い出して、その間に確保するつもりだったのだ。

「逃がしはせんぞ!」

 なのはは慣れない飛行魔法を解除してしまった。当然その体は下に向かって落ちて行く。

「うわあ? なのは、そんな高さで解除なんて危ない!」

 高度が有りすぎる。ユーノが真っ青……になったかは毛皮で判らないが、ともかく焦って叫んだが……

「嘘……!?」

 落ちる筈のなのはを見て、フェイトはギョッと目を見開いた。何故ならなのはがそのまま、ビルの壁面を物凄い勢いでダカダカ駆け降りて行くではないか。もちろん魔法など欠片も使っていない。

「はああああぁぁぁっ!」

 物理法則や魔法も含めて、色んなものを無視して少女は『ジュエルシード』目掛けて走る。

(くっ……!)

 フェイトも負けじと飛行速度を上げた。ほぼ同時に『ジュエルシード』を挟み、レイジングハートとバルデイッシュがガッチリと打ち合わされる。なのはが押し勝つかと思われたその時、

「ぬっ!?」

「!?」

 打ち合わされた互いのデバイスに亀裂が入った。2人の膨大な魔力が『ジュエルシード』に注ぎ込まれ、再び発動してしまったのだ。

 凄まじい衝撃波と共に、光の柱が天を貫いた。先程とは比べ物にならない規模だ。衝撃で吹っ飛ばされるなのはとフェイト。空間がビリビリと震えたが……

「これしきぃっ!」

 なのはは咄嗟に『ダークネスフィンガー』で衝撃波を防ぎながら、発動している『ジュエルシード』に向かって走る。フェイトは一旦距離を取ったので出遅れてしまった。

「今一度封印してくれるわぁっ!!」

 なのはの手が光る宝石に掛かろうとした時だ。不意に小型の竜巻が巻き起こった。

「そうはさせんぞ! 高町なのは!!」

 中から現れ出でたのは、神出鬼没の覆面ちびっ子こと『シュバルツ・シュベスター』である。覆面ちびっ子は腕の『シュピーゲルブレード』を振り上げ、此方に向かって来た。『ジュエルシード』を間に対峙する2人。

「小癪なあっ! ダァァクネス!」

「シュピーゲル!」

 なのはの右手が闇色に輝き、シュバルツのブレードが閃光を放つ。

「フィンガアァァァッ!!」

「ブレェェエドォッ!!」

 ダークネスフィンガーとシュピーゲルブレードが『ジュエルシード』を挟んで、真っ向から激突しスパークする。どちらも一歩も引かない。

「うおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」

 2人の魔法? 少女は吼える。青白く輝く『ジュエルシード』が更に輝きを増し、空間が軋むように震えた。

「これは……次元震? 大変だ! なのは危ない!!」

 ユーノは予期せぬ事態に焦って叫ぶ。しかし全く話を聞いていない格闘……魔法少女2人は、

「これしきいいいぃぃっ!!」

 なのはとシュバルツの雄叫びが見事にユニゾンし炎と燃えた。2人の『気』が爆発的に増大し渦を巻く。その時、

パキィィィンッ

 何かが砕け散る澄んだ音がした。

「あっ……?」

 なのはとシュバルツは同時に気の抜けた声を漏らす。気が付くと光の柱と次元震は綺麗サッパリ収まっていた。 ついでに『ジュエルシード』も粉々に砕け散っていた……

「アンタら何やってんだあああぁぁっ!!」

 固唾を呑んで今まで様子を見ていたユーノとアルフの叫び声が、これまた見事にユニゾンしていた。


つづく


皆さんお待ちかねええっ! なのはの前に現れる新たな勢力とは? 謎の黒衣の少年が現れる時、物語は新たな段階へと進むのです。魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠うっかりするの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




※感想返しです。

虎様>なのははギャグキャラ扱いなので、比べようが無い感じですね。アラレちゃんとケンシロウを比べるようなもんですか?

風帝改様>ジュエルシードも凄いんだか凄くないんだか良く解らないんですよね。後でガジェットに使われてたり!?Gジェネはやった事が無いので偶然ですが、ダークネスフィンガーでツインバスターライフルを……流石師匠ですね。

トネ様>このお話だとGガン世界の人は超人と言うより、ギャグ漫画のボケか変態にあたります。非常識な事をやってはツッコミを入れられます。

land様>ジュエルシードはノリで壊されてしまうのです。全ては気合いで?

良様>ミニ達に任せると周りに無差別攻撃する恐れがあるので、任せない方が無難です。特にユーノが……








[32932] 第10話 師匠うっかりするの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2012/12/15 01:57
 さて皆さん……なのはの前に現れる謎の影……彼等は一体何者なのでしょうか? なのは達を包囲する武装集団。この危機に高町なのはは如何に戦い抜くのでありましょう!?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 粉々に砕け散り綺麗な光の粒子となって消えて行く『ジュエルシード』を見て、フェイトの目が点だけになっていた。
 ユーノと息の合ったツッコミをしたアルフは、半泣きでシュバルツに詰め寄る。

「アンタ何してくれてんだい!? 何で壊せるんだよ! って、それより壊してどーすんのさあ!!」

「一番焦っているのは、この私だ!!」

 シュバルツはクワッとばかりに目を見開き叫んだ。気のせいか、逆ギレして誤魔化そうとしているような……

「ぬわっはっはっはっ! つい熱くなってしまったわい!」

 なのはは腕組みで、ひたすら似合わぬ高笑いである。此方はあんまり気にしてない……

「何かやらかす気がしたんだよ、こんちくしょおおおっ!!」

 この状況にユーノは、天を仰いで絶叫していた。なのはと同類と思われる覆面ちびっ子が現れた時点で、とっても嫌な予感がしていたのである。フェイトは驚きを通り越して放心していた。

(『ジュエルシード』が……母さん……)

 思わず泣きそうになってしまう。そんな彼女の肩をポンと叩く者があった。

「フェイトよ……」

 振り向くと、神妙な顔をしたなのはである。

「これを持って行くがよい……」

 そう言うと、おもむろに右腕の『レイジングハート』から『ジュエルシード』を取り出しフェイトに放り投げた。以前に集めていた内の1個である。

「……えっ……?」

 受け取ったフェイトは唖然としてしまう。訳が解らなかった。

「やるなああああぁっ!!」

 ユーノはまたしても絶叫するが、まったく聞いていないなのはは、コホンと本人に自覚は無い可愛らしい咳払いをし、

「今回はフェイトに免じてやる……今日は退いてやろう!」

「ちょっと、なのはぁっ!?」

 なのはは抗議の声を上げるユーノをヒョイと摘み上げ、微笑むときびすを返して去って行ってしまった。
 フェイトはポカーンとして、妙に哀愁を感じさせる小さな背中を見送るしな無い。シュバルツもその後ろ姿に目をやり、

「フッ……高町なのは……そういう所は変わっていないようだな……」

 なのはがマスター時代、『ドモン』と敵対しながらも甘い所があったのを思い出しフッと苦笑する。子供が無理して大人ぶっているようだが……

「そう言うアンタは、少しは反省しなっ」

 アルフがツッコミを入れて来るが、シュバルツは相変わらずの調子で、

「フハハハッ! さらばだ2人共、また会おう!」

 捨て台詞を残すと、蚤のようにジャンプし姿を消した。

「馬鹿ぁっ! もう来るなぁっ!!」

 アルフはシュバルツが消えた方向に向かって怒鳴るのであった……



ーーーーーーーーーーーー



 次の日の朝。フェイトとアルフは、拠点にしている高級マンションの屋上に立っていた。今まで手に入れた『ジュエルシード』を渡す為と報告の為、自分達の本拠地に向かうのである。
 フェイトが『バルディッシュ』を掲げ次元座標を詠唱すると、2人は金色の光と共に転移する。
 しかしフェイト達は気付かなかった。2人の背後に潜む者が約1名居た事に……





 フェイト達が着いた先は、薄暗い高次元空間に浮かぶ巨大な次元航行船であった。『時の庭園』と名付けられた、異形の丘を丸ごと改造したものである。
 その一室『玉座の間』に呼び出されたフェイトは、俯いて肩を落とし立っていた。

「たったの4つ……これはあまりに酷いわ……」

 彼女の前に立つ、濃い紫色のマントを羽織った中年女性『プレシア・テスタロッサ』はジロリと娘を見据える。

「私はアナタに21個の『ジュエルシード』を集めるように言った筈よ……母さんの研究にはとうしてもアレが必要なの……」

「はい……ご免なさい母さん……」

 フェイトは俯いたまま、消え入りそうな声で謝るしか無かった。プレシアは持っていた杖を鞭に変化させて、フェイトを冷たい眼で見下ろし、

「残念だわフェイト……私はアナタを叱らなくちゃいけない……!」

 プレシアの眼が狂気を帯びた。





 静まり返った庭園に、仕切りに何かを打つ音が響き渡る。それに聞こえて来る少女の苦し気な声。フェイトが母プレシアに鞭で折檻を受けているのだ。
 締め出しを食らったアルフは、扉の前で耳を塞いで踞っていた。無力感が襲う。聴こえて来るフェイトの声が痛ましい。

「……何なんだよ……一体何なんだよ! あんまりじゃないか……!!」

 悔しがるアルフだったが、ふと折檻の音に混じって別の物音が聴こえた気がして顔を上げた。見ると近くの柱の陰から黒いものが覗いている。

「……?」

 不審に思い近付いて覗き込んだアルフは、ビックリして素っ頓狂な声を上げた。

「フェイトォッ!?」

 其処には床に仰向けに寝かされ、スースー寝息を立てて熟睡しているフェイトの姿があった。掛け布団の代わりと言った感じで、見覚えのあるカーキ色の軍服が掛けられている。
 訳が分からないアルフだったが、取り合えずフェイトを揺すってみた。

「フェイト起きとくれ、フェイト!」

「……んん~……もう無理だよ……もう食べられない……」

 寝惚けてベタな寝言を言っている。シュバルツのご飯を食べ過ぎて、お腹を壊した時の事でも夢に出て来たらしい。しばらくしてフェイトは目を開けた。

「……えっ……? 何で此処に……? ついさっき母さんにお仕置きよってぶら下げられた筈なのに……」

 フェイトも訳が分からず、辺りをキョロキョロ見回した。狐に摘まれたような気分である。アルフは其処で重要な事に気付いた。

「……じゃあ……今あの女に折檻されてるのって……誰だい……?」

 まだ鞭が人の身体を打つ音が聴こえている。フェイトとそっくりな悲鳴もまだ聴こえるが、良く良く聞いてみると悲鳴と言うより、痛みを堪える漢らしいもののようだった。「ぬお!」とか「ぬうう!」とか聞こえる。

 しばらくして折檻の音が止んだ。フェイトとアルフはプレシアが出て行ったのを確認すると、玉座の間にそっと入ってみる。
 部屋を見回すと部屋の中央に、全身痣だらけの少女が倒れていた。うつ伏せになって顔は見えないが、フェイトと同じ金髪の少女である。
 恐る恐る少女に近寄ろうとした時、不意にアルフが持って来ていた軍服がバサリと広がり2人の視界を覆った。

「!?」

「なっ!?」

 フェイトとアルフは一瞬視界を塞がれて慌てる。だがそれも一瞬の事。カーキ色の布が取り払われると、聞き覚えのある高笑いが木霊した。

「フハハハッ! 甘いぞフェイト、アルフ!」

 其処には覆面ちびっ子こと、シュバルツ・シュベスターが軍服を纏い腕組みして立っていた。

「アンタ……何時の間に……?」

 驚くアルフにシュバルツは、目を閉じて覆面越しにフッと笑い、

「少し此処に用事が有ってな……お前達にくっ付いて邪魔させてもらったのだ」

「……用事って何なの……? 此処は秘密の場所なんだよ……」

 あっさり庭園に来られてしまい警戒心を露にするフェイト達だが、シュバルツは悪びれた様子も無く、

「心配は無用だ……用が終われば直ぐに出て行く。この場所の事も他言はせん!」

 そこまで偉そうに言った時、不意にシュバルツは顔をしかめてよろけた。アルフはハッとして、

「アンタ……まさかフェイトの身代わりに!?」

 シュバルツは直ぐ様体勢を立て直し、手を貸そうとするアルフを断ると、

「フッ……変わり身の術を少しやってみたかっただけの事……そんな事より、か……あの人は何時からああなった……?」

 その真剣な眼差しに、フェイトは寂しそうな陰を瞳に浮かべ、

「……4年前くらい前から……私が事故に遭った後からだよ……シュバルツは母さんを知ってるの……?」

「少しな……しかし4年前だと……?」

 シュバルツは不審そうに呟き考え込むが、何か思い付いたように顔を上げ、

「邪魔したな、さらばだフェイト・テスタロッサ、アルフよ、また逢おう!」

 お暇の台詞と共に、その小さな身体が木枯らしのような渦巻きに包まれると、かき消すようにこの場から姿を消した。シュバルツが消え去った跡をしばらく見ていたアルフは思う。

(アイツ……フェイトの味方なのは本当らしいね……)

 痛みを堪えて強がるシュバルツの姿に、胡散臭いと疑っていた考えを改めるのだったが、今までのやらかしっぷりも思い出し、微妙な表情で唸るのであった。





 フェイト達と別れたシュバルツは、物音1つしない寂寞とした庭園内を足音を立てず、影のように静かに進んでいた。
 あちこち歩いている内に隠し扉を発見した。何かの研究室のようだ。部屋の中に入ったシュバルツは、ハッとし声を漏らしていた。

「そう言う事か……」

 彼女の前には、液体に満たされた円筒形の大きなカプセルが置かれており、その中に金髪をた揺らせたフェイトそっくりの5歳程の少女の遺体が浮かんでいた。
 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 『海鳴臨海公園』そこから眺める沈む夕日が『流派東方不敗』に相応しいと、なのはお気に入りの場所である。
 その公園上空にて高町なのはと、フェイト・テスタロッサは再び向かい合っていた。公園には人っ子一人居ない。結界が張られているのだ。
 2人の横には、たった今封印したばかりの『ジュエルシード』が淡い青い光を発して浮かんでいる。
 ついさっき、公園の木と融合して怪物になった所を、なのはとフェイトで寄ってたかってボコボコにして封印したのだ。ご愁傷さまである。

 向かい合う2人の魔法少女を見守るのは、ユーノと狼アルフだ。姿は見えないが、シュバルツも何処かで見ている筈である。
 なのははいくらか飛行魔法に慣れて来たようで、桃色のラウンドシールド型の2枚の光の羽根で空に危なげ無く浮かんでいた。

「『ジュエルシード』は譲れないから……」

 フェイトは緊張で表情を固くし、バルディッシュを構え宣言する。脂汗が流れた。なのはは不敵っぽい笑みを浮かべ、空中で『流派東方不敗』の構えをとり、

「儂はフェイトを弟子にしたいだけだ。儂が勝ったら弟子の話を考えるのだぞ!」

 フェイトはピクリと眉をひそめる。それが合図だったかのように2人は同時に動いていた。
 なのはは右腕のレイジングハートを繰り出し、フェイトはバルディッシュを振り上げる。2人が激突しようとした瞬間だった。突如閃光と共に光る魔方陣が現れ、その中から黒衣の少年が出現した。

 少年は2人のデバイスを同時に掴み「ストップだ!」と制止の警告を出して止めさせるつもりだった。少年はシュミレート通りデバイスを掴もうと手を伸ばし、

「ス……」

 まで言い掛けた。金髪少女のデバイスを掴み、おさげ少女の右腕を掴んだと思った左手がスカッと空を握る。

(あれ……?)

 ハッとした時既に遅し。おさげ少女の姿が幾つもの残像を残し、凄まじい勢いで少年に突っ込んで来た。

「酔舞再現江湖・デッドリーウェイイブゥッ!!」

 なのはの凶器と化した一撃が、少年にパッカーンとものの見事に炸裂してしまった。

「きゅうううううううぅぅぅぅっ!?」

 黒衣の少年は凄い勢いできりもみ回転し、空に美しい放物線を描いてドボ~ンッと海に真っ逆さまに落下した。2本の足だけが海面に突き出て、何かピクピク痙攣している。

(うわあ……犬〇家の一族……スケ〇ヨ被害者第2号……)

 ユーノは数日前にテレビで観た探偵映画を思い出し、少年に心から同情してしまった。

「いかん!」

 なのははたいへん焦った様子で痙攣する少年の元に降り立った。

「たわけが! いきなりファイトの最中に割って入る奴があるか! うっかり本気で当ててしまったではないか! ガンダムファイターは急には止まれんと言うことわざを知らんのか!?」

 ユーノはガンダムファイターってどんな凶器だよ!? とツッコミたくなった。実際あの人達を見れば納得する筈である。それはともかく、なのはは少年の足を掴んで陸に引っ張り揚げた。

「どうだい、なのは……?」

 ユーノは引き揚げられた少年の元に駆け付け容態を聞いてみると、なのはは深刻な顔をし、

「息をしておらんな……」

「ええ~っ!?」

 ユーノは叫び声を上げた。ギャグのこの話で人が死ぬのかとメタな事を考え焦るが、なのはは慌てず少年の胸に手を当て、

「まだ間に合う! はあああっ!!」

 人外凶器少女は掌から『気』を発し、ドムッとばかりに心臓に打ち込んだ。一種の心臓マッサージである。

「ゲボッゲボッ!」

 少年はしこたま飲んでいた海水を吐き出して蘇生した。しばらくして意識を取り戻し、なのはに抱き起こされた少年はボ~と顔を上げた。

「……何か……綺麗な花畑がある川の向こうで……死んだ父さんを見たような……」

 などとブツブツ言っている。ユーノは自分も良くミニなのは達にやられた時、そんな光景を見た気がするなと思う。なのはは臨死体験から生還した少年の肩を優しく叩き、

「危ない所であったぞ……儂が居らなんだら死んでいた所だ……次からはファイトの最中に飛び込むなどという無謀な行動は止める事だ……」

「……はあ……どうもすいません……次からは気を付けます……」

 まだボンヤリしている少年は素直に頷いた。

「いや……やったのもなのはでしょうが……」

 ユーノは乾いた笑みを浮かべて、取り合えず突っ込んでおく。その時である。多数の気配がいきなり現れ、男達の叫び声がした。

「『時空管理局』だ! 抵抗を止めて執務官を解放しろ!!」

 ユーノが慌てて周りを見ると、バリアジャケットを纏い杖状のデバイスを構えた数十人の男達に囲まれていた。転移魔法だろう。

「時空管理局! この子執務官だったのか!?」

 ユーノは脂汗を流して後退る。彼は時空管理局が何か知っているようだ。だがなのははズイッとばかりに前に出る。

「何奴……儂に武器を向けて、只で済むと思っておるのか……?」

 なのはは不敵に嗤う。執務官を一撃で倒す映像を見ていた局員達はビビり気味だ。見てくれが普通の少女なのがまた不気味に感じられるが、

「て、抵抗するか!?」

 一斉にデバイスをなのはに向ける。エライ事になったとユーノは固まってしまった。しかしなのはは余裕である。カッと大きな目を見開き、

「闘る気か! ならば流派東方不敗が奥義、十二王方牌ぃっ!」

「ちょっと待て、ストップだ! 皆止めるんだ!!」

 ようやく正気に戻った黒衣の少年が慌てて止めようとするが、臨戦態勢に入って全く話を聞いてないなのはは、前面に光る梵字を浮かべた。手遅れである。

「大車併ぃぃぃっ!!」

「なの~っ!」「なの~っ!」「なの~っ!」「なの~っ!」「なの~っ!」「なの~っ!」「なのぉ~っ!!」

 ミニなのは達が凶器と化して局員達に襲い掛かった。ミニ達は1つに寄り集まり凶暴な竜巻となる。

「わあああああっ!?」

「ななな何だこりゃあ!?」

「いやあああっ! こっち来んな、うぎゃああああっ!、」

「あべし!!」

「アウチ!!」

 局員達のあられもない悲鳴が上がり、ミニなのは竜巻に吹っ飛ばされ壊れた玩具のように宙を舞わされる。
 黒衣の少年『クロノ・ハラオウン執務官』は、全滅した局員達の中に仁王立ちの少女を見て青ざめた。その姿は正しく悪魔。ちなみにユーノは離れた場所で頭を抱えていた。

「ふん……他愛もない奴等よ……」

 なのはは鼻で笑ってバリアジャケットの埃を払う。あれだけの局員とやり合って傷1つ負ってない少女に、クロノは正直脅威を覚えるが、逃げる訳にもいかないので恐る恐る、

「い……色々行き違いがあったようだけど……時空管理局・執務官クロノ・ハラオウンだ。事情を話して貰えると助かるんだが……?」

 あの子勇気あるなあ……とユーノが感心していると、

「抜かったわ、あ奴等が居らん!」

 急になのはが叫んでいた。クロノは思わず後退りする。ユーノもハッとして辺りを見回すと、フェイト達の姿は何処にも無い。どさくさ紛れに『ジュエルシード』を持ってとんずらしたようだ。

「ぬわっはっはっ! 今回は仕方無かろう、危うくうっかりクロノをあの世に送る所だったからのう!」

 なのはは豪快? に笑ってクロノの背中をバンバン叩く。

(僕はうっかりであの世逝きになる所だったのか……?)

 今更ながら冷や汗をかく少年執務官は、なのはの馬鹿力に噎せながら、何もかも投げ捨てて帰りたくなったという。



つづく



皆さんお待ちかねええっ! なのはに接触する謎の組織時空管理局。その正体は? 只者では無い管理局提督となのはの火花散らす駆け引きが嵐を呼ぶのです!
魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠語るの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!






※感想返しです。

虎様>取り合えず将来、管理局〇〇の白い悪魔とか呼ばれるかもしれません?

迷ひ猫様>そういう時は、中の人が偶にじいさん言葉少女を演じてられるのでそれを見れば少しは緩和されるかもしれません。でも私も良く侵食されます。

トネ様>一見管理局要らなそうですが、クロノ活躍したりするかもです。でも死にそうになるかもしれませんが……

良様>高町先生!と呼ばれる日があるかもです。呼ばれるくらいの歳になったら色々暴れた末に東方先生!になっているかもです。

ガタ震様>たとえフェイトと声が同じでも金髪でも謎の人なのです。Gガンの誰かさんが明らかにバレバレだったように、気付かないふりをしてあげて下さい。


八王夜様>ちなみに7番目が一番凶悪なので、一人だけテンションが他より高かったりします。今後ますます狂暴化して行くのです。でも実は世渡り上手です。





[32932] 第11話 師匠騙…語るの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/01/17 21:50
 さて皆さん……世の中駆け引きと言うものが重用だという事はご存知でしょう……
 汚職政治家が検察相手にしたり、オレオレ詐偽で如何に相手を騙すかなど様々です。今回なのはは海千山千の切れ者と己の存在を賭けて火花を散らす頭脳戦を繰り広げるのです。その結果は如何に?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!

 師匠騙…語るの巻


 次元の海と呼ばれる、次元世界と次元世界との狭間の異空間に、二又に分かれた船首をした宇宙船のような船が留まっていた。
 『時空管理局』通称『海』と呼ばれる『本局』所属の次元航行船『アースラ』である。

 そのアースラの転移ポートから、とても偉そうな少女がフェレットと黒髪の少年を引き連れて出て来た。勿論前世がマスターアジアこと、高町なのはである。後ろの1人と1匹はクロノとユーノだ。
 実際はクロノがなのはとユーノを連れて来たのだが、なのはが偉そうなのでそう見えてしまう。

 転移ポート室を出ると、SFチックな長い通路が続いている。

「此方に……」

 クロノは先に立ってなのは達を案内するが、内心少々不安だった。なのはの異様なまでの戦闘能力を警戒しているのである。
 あの後この船の艦長でもある母から、なのは達を案内するように言われ向こうも応じたので、アースラまで連れて来たのだ。
 武装局員達は気絶させられただけで話が通じない相手でも無いようなので、下手に敵に回すより話し合いで何とかしようと艦長は判断したのだろう。
 万が一暴れられても艦の防御システムと、武装局員総掛かりで制圧も出来ると踏んだのだろうが……
 そんなクロノの心の内を他所に、なのはは興味深そうに艦内を見回し、ユーノに念話で聞いてみる。

《ユーノよ……此処は?》

《時空管理局の次元航行船の中だね……別世界の記憶があるなのはなら分かると思うけど、幾つも存在する次元世界……その次元世界の狭間を移動する為の船だよ》

 後ろをちょこちょこ歩くユーノは同じく念話で説明した。なのはは納得したようにフム……と頷くと、

《時空管理局とは、如何なるものだ……?》

《簡単に言うと……それぞれの世界に干渉し合うような出来事を管理しているのが、彼ら時空管理局。なのは達の世界の警察みたいなものだよ》

《ふむ……》

 なのはは大体の所は理解したようだ。元々数百年後の別世界の記憶と知識があり、博識だった彼女は理解も早い。もっとも脳が子供なせいでノリでつい動いてしまう事が多いようだが……
 それはもとかく、なのははひどく真剣な表情を浮かべ前を行くクロノに声を掛けた。

「クロノよ……」

「なっ、何かな?」

 急に声を掛けられたクロノは、恐る恐るながら振り返った。少々声が上擦っている。明らかに自分より年下だと判っているのだが、妙な迫力に押され気味だ。なのはは納得行かなそうに眉をしかめ、

「時空管理局という名前にはセンスが無い! 時空シャッフル同盟か、時空魔導師ファイター協会が良いと思うが、このように変えられんか?」

 ふざけてなどいない。大真面目に言っているようだった。クロノもユーノも、(うわあ……そのセンスもどうよ……?)とものすごく言いたかったが、この事に関してツッコミを入れると問答無用で気合いを入れられそうなので、

「……い、いや……僕が付けた訳じゃ無いし、名称を変えられる程偉くも無いから……」

 クロノは背中に変な汗を掻きながらも、当たり障りの無い返事をしておいた。ふと、もし偉くなったら彼女がとても良い笑顔を浮かべてやって来そうな気がした……
 取り合えず諦めてくれたようだったのでホッと胸を撫で下ろす。そこでなのはがまだバリアジャケット姿だった事に気付き、

「何時までもその格好も窮屈だね……バリアジャケットとデバイスを解除しても平気だよ?」

「良かろう……」

 なのはは光に包まれ、元の小学校の白い制服姿に戻った。クロノにしてみれば、戦闘態勢を解いてくれたのでひと安心である。
 しかしなのはがバリアジャケットを着ているのは、服を汚して桃子母さんに叱られない為で、戦闘力はあまり、ほとんど変わらないのである。
 それを知らないクロノは安心したのか、床のユーノにも声を掛けた。

「君も元の姿に戻っても良いんじゃないか?」

「ああっ、そう言えばそうですね、ずっとこの姿でいたから忘れてました」

 2人の会話に訝しげな顔で首を傾げるなのはの傍らで、ユーノの小さな体が急に眩い光を放った。

「これは……?」

 思わぬ事態に驚くなのはの前で、ユーノの姿が変化して行く。見る見る膨れ上がり、その姿がなのはと同い年くらいの少年の姿に変わ……

「おのれ何奴!? 十二王方牌、大車併っ!!」

「うぎゃあああああああぁぁぁっ!?」

 亜麻色の髪をなびかせ立ち上がろうとした少年ユーノの、悲痛な悲鳴が通路に木霊した。飛び出したミニなのは達が「なのぉっ!」とばかりに襲い掛かり、少年ユーノの五体をひっ掴んで通路の壁にビターンッと磔にしてしまった。

「ちょ、ちょっとおっ!? なのは僕だよ、ユーノだよぉ~っ!」

 磔状態のユーノは必死で訴え掛けた。このままでは命が危ない。なのははジロリと疑わしい目で少年を見上げた。

「ユーノだと……?」

「な、なのはにこの姿を見せるのは2回目だよね~?」

 ミニなのは達の殺意満々の目に泣きそうになりながらも、一生懸命説明するユーノである。なのははその喋り方や雰囲気から本人だと認めたようで、

「最初からフェレットだったわい! たわけが、最初に言っておかんか、どこぞの妖怪変化かと思ったぞ! 帰山笑紅塵!」

 帰還命令に仕方無くといった感じでミニ達はユーノを放した。戻る前にユーノを振り返ると、一斉に首を指でかっ斬る仕草をして見せ渋々なのはの元へ帰って行った。
 床に落下し尻餅を着いたユーノはそれを見て青くなる。

(アイツら僕を狙っている! ほとんど使い魔じゃないかあっ? 何かどんどん凶悪化してるぞ!!)

 自我が芽生えほとんど独立した生き物である。脂汗を流すユーノと、ちょっとだけ決まりが悪そうに腕組みするなのはにクロノが声を掛ける。

「き……君達の間で、何か見解の相違でも……?」

 ユーノがため息を吐きながらクロノを見ると、顔面蒼白な少年執務官の姿が在った。数歩ばかり後退りしているが、誰が彼を責められようか。数歩で耐えた彼の忍耐を誉めるべきである。




 何やかんやあったが、目的の部屋に着いたようだ。クロノはなのは達を促し部屋の中に入り声を掛けた。

「艦長……来てもらいました」

「む……?」

 部屋に足を踏み入れたなのはは思わず声を漏らしていた。SFのような部屋の中が『和』ティストだったからである。
 盆栽が沢山並べられ満開の桜の木まで置いてあった。カコーンと澄んだ音を立てる獅子落としまである室内は、日本庭園のようである。ただ間違った知識で思い付くだけの日本風のものを並べたようにゴチャゴチャしているが……

 部屋の中央に茶道で言う野外でのお茶会『のだて』の道具一式がセッティングされている。その紅い敷物に、緑色の長い髪をポニーテールに括った美女が正座で出迎えた。女性は優しくなのは達に微笑み掛け、

「大変だったわね……私は時空管理局所属、アースラ艦長『リンディ・ハラオウン』です」

 若く見えるが、艦長という事はそれなりの歳なのだろうか? なのはは臆せず一歩前に踏み出すと、胸の前で拳を平手に当て、

「儂は『流派東方不敗』高町なのは、無敵を目指す拳法家です」

 拳法家特有の挨拶をする。ユーノも慌てて後に続き、

「僕はユーノ・スクライアと言います」

 挨拶しながら、(大変だったのはクロノの方ですよ……)などと思った。リンディ艦長はなのはの自己紹介に少し怪訝な顔をしたが、直ぐにニッコリ笑い2人に座るように進めた。





「そうですか……あの『ロストロギア』『ジュエルシード』を発掘したのはあなたでしたか……」

 一通りの事情をユーノから聞いたリンディ艦長は納得したように頷きを繰り返している。

「それで僕が回収しようと……」

 ユーノは目を伏せた。1人でやって来て結局周りに迷惑を掛けてしまったと落ち込んでしまった。クロノはそんなユーノを怒ったように見据え、

「だけどそれは、同時に無謀でもある……!」

「まあ……そう言うなクロノよ……男児たるもの退く訳には行かぬ時もあるものよ……」

 プロの視点から無謀を指摘する執務官に、なのはは見事な正座で抹茶を嗜みながら静かに擁護した。少し顔をしかめる。小学生のお子様味覚にはまだ早かったようだ。

(何なんだ……? この子は……)

 クロノはどう見ても小学生の少女なのに、異様なまでの威厳と風格を漂わせるなのはに気圧される。どうも調子が出なかった。戦闘力が強いだけの子供というだけでは無い気がした。


 話しは戻り、リンディ艦長は『ロストロギア』や『ジュエルシード』について説明してくれた。
 ロストロギアは異常な程科学や技術が発達し過ぎた結果、滅んでしまった次元世界の遺産の総称で、ものによっては世界を滅ぼしかねない危険なものであると言う。

「成る程……今考えてみると『デビルガンダム』も似たようなものだったかもしれんのう……」

 感慨深く頷きながら甘い和菓子を口に運び、抹茶の苦味を中和させるなのはであった。リンディとクロノは訳が解らない。怪訝な顔をしながらもクロノが更に説明してくれる。

「『ジュエルシード』は次元干渉型の高エネルギー結晶体……複数個集めて発動させれば『次元震』はおろか、最悪『次元断層』を引き起こして次元世界の1つや2つ簡単に消滅させてしまう……」

 ユーノがゴクリと唾を飲み込むと、和菓子を食べ終えたなのはがポツリと、

「そんなにもの騒ぎな物かのう……? あっさり壊れおったが……」

「はっ……?」

 なのはが漏らした台詞にクロノは妙な顔をした。そこでふと思い出したようで、

「そう言えば……此方で次元震を確認した時……妙な消え方を……まるで無理矢理消し飛ばしたような……ま……まさか……?」

「だから儂が叩き壊したと言っておろう……?」

 なのはは平然と言い放った。フォローの為ユーノが乾いた笑みを浮かべて説明する。

「……あの……残念ながら本当です……ガンダムファイターという人達は色々おかし……いや、とんでもなくて……」

「ええええっ!? どどどどうやって!?」

 リンディ艦長とクロノの声が綺麗にハモる。流石親心息がピッタリである。なのはは不敵に笑い、

「無論この拳と気合いでよ! 『流派東方不敗』に砕けぬものなど無い!!」

 雄々しく? 可愛らしい拳を掲げて見せた。背後に燃え盛る炎が見えた気がするが、クロノは目の錯覚だと思った。

(気合いで砕けたら苦労は要らない、この子本当に何者!?)

 絶句するリンディ艦長とクロノだが、深く追究するだけ無駄なような気がするのは何故だろう。クロノは青ざめて何かぶつぶつ呟いているが、どうもタフらしいリンディ艦長は気を取り直し、

「気合いの事はともかく……二度とやってはいけませんよ? 下手をしたら爆発やとんでもない事になるかもしれませんから!」

 叱られてしまった。だが爆発させるのが得意な少女は、どこ吹く風で抹茶に再び挑戦している。クロノはこれ以上関わり合いになると、もっととんでもない迷惑を掛けられるような気がした。
 リンディ艦長は高ぶった気を落ち着ける為に抹茶を飲もうと手を伸ばす。何故か茶釜の横に置いてあった砂糖壷から砂糖をすくい抹茶に入れようとする。
 日本かぶれなのだがお茶の苦味がちょっと苦手で、砂糖を入れて飲んでいるのである。それを見たなのはは鋭く声を発していた。

「待たれよ、リンディ殿!」

「な……何? なのはさん……」

 キョトンと小首を傾げるリンディ艦長に、なのははすくった山盛り砂糖に視線をやり、

「リンディ殿……もしやその砂糖をお茶に入れるつもりではありませぬか……?」

「ちょっと苦味が苦手で……」

 テヘッと恥ずかしそうに笑う艦長を見て、なのはは「なっちゃいない、なっちゃいない」とばかりに頭を振った。

「無理をするからそういう事になってしまうのです……良いですかな? 茶の心はもてなしの心! すなわちもてなす側ともてなされる側との命を賭けた真剣勝負!!」

「そこまでのものだったなんて!」

 ガ~ンと衝撃を受ける今年30うん歳のリンディ・ハラオウン提督であった。

「その真剣勝負の場にて茶に砂糖を入れるなど、戦いの場において敵に背を向け敗けを認めるに等しき事! 喫茶翠屋の娘として敢えて言わせていただく!!」

 なのはの勝手な解釈と言いたい所だが、食べ物が美味しいと巨大化して大阪城を破壊したり、カツ丼が光ったりする世界ではあながち間違いでも無いのが恐ろしい所である。知り合いのあの御老人あたりの影響かもしれない。

「Oh! ジャパニーズ茶道!」

 などと始まり、30分程自然との調和だの、茶道の成り立ちなどを暑……熱く語り、感激したリンディ艦長とのお茶談義の場と化してしまった……

「それだとなのはさん……苦味が苦手ならどうしたらいいのかしらね……?」

「最初から無理をせず、煎茶から始められるのが良いでしょうな……煎茶道なるものも存在します……これがリンディ殿の茶道家ファイターとしての第一歩となりましょう!」

 やけに的確なアドバイスを、要らぬ煽りと共に熱く語る高町なのは9歳であった。

(凄まじくどうでもいい話だ……今までの真面目なやり取りが……)

 ユーノは脱線してしまった状況に、深々とため息を吐いた。今のでまた1つ彼の幸せが逃げたのかもしれない。流石にお茶談義に我慢出来なくなったクロノが口を挟む。

「母さ……艦長っ! 話が思いっきり逸れてます!」

「あらご免なさい、なのはさんのお話があんまり為になるものだから、ついね……?」

 照れ隠しでオホホと笑うリンディ艦長であった。何気にノリがいい人である。コホンと咳払いをした艦長さんは改めてなのはとユーノを見ると、

「『ロストロギア』は然るべき手続きをもって、然るべき場所に保管しなければいけません……そう言う訳なので、これより『ジュエルシード』の回収は私達が担当します」

 言い方こそ柔らかかったが、それは手を引けとの明確な宣告だった。ユーノは思わず拳を握り締めていた。向こうが言っている事が正しいのは分かっている。
 しかし、ハイそうですかとなるには納得いかない気持ちが強かった。そんなユーノに追い討ちを掛けるようにクロノが、

「君達は今回の事は忘れて、それぞれの道に戻るといい……専門家に任せるのが一番なんだ……」

 もっともな意見だった。だがなのはがそう簡単に引き下がるとは思えない。ユーノは隣の偉そうな少女の出方を見る。なのはは茶碗を置くと静かに口を開いた。

「そう言う事ならば……そちらに任せよう……」

「なのは!?」

 意外な返事にユーノは驚いた。絶対に引き下がらないと思っていたからだ。ポカンとするユーノを横目に、なのはは神妙な顔で、

「ならば……此方が持っている『ジュエルシード』を渡そう……色々あって1つしか無いがな……」

(えっ? 1つ……? 確かこっちは2つ持ってる筈……)

 ユーノは不思議に思った。リンディ艦長は少し残念そうだが、クロノはとても安堵の表情を浮かべ、

「それじゃあ……後はあの金髪の子達の事を知っていたら教えて貰いたいんだが……?」

 なのはは神妙な顔のまま、腕組みしてクロノを見上げ、

「あ奴の名は……『ファイト・デストラップ』……女装させられている男児だ……親のせいであのような格好をさせられている……髪は染められて顔も整形で塗りたくり原型を留めておらん……その内自分が女児と思い込んでしまった哀れな子供よ……」

「えっ? そうなのかい? 酷いな……」

 なのはは本当に痛ましそうである。内容はともかく迫真の演技だ。とても大嘘を吐いているようには見えない。そうとは知らないクロノは信じたようで、同情が入り交じった顔をした。

(なのはぁっ!?)

 とんでもない出鱈目を言い出したなのはにビックリするユーノだが、彼女が此方に一瞬ニヤリと笑い掛けたのを見て察した。高町なのはは、管理局を出し抜くつもりなのだと……






「くしゅんっ!」

 その頃まんまと『ジュエルシード』を手に入れマンションに辿り着いていたファイトは、ベタにくしゃみをしていた。
 ふと何処かであまりにもあんまりな噂をされている気がして、とても嫌な感じを覚えたという……


つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 管理局を出し抜くなのはの秘策とは? アースラを徘徊する謎の影。クロノの運命や如何に!? そしてフェイトは再戦に向け闘志を燃やすのです!
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠すっとぼけるの巻』と良いお年をに、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

トネ様>細かい事は気にするな!と高笑いでしょう。大体出て来るのは漢女ばっかりですから。そうなると管理局が違った意味でオワタに。(笑)

zzz様>レジアスちゃんにとって、果たして良いのか悪いのか…(笑)変態管理局に……

2520様>ギャグなのでその傾向が強いです。





[32932] 第12話 師匠すっとぼけるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/04/03 21:12
 さて皆さん……なのはは時空管理局を見事出し抜く事が出来るのでしょうか? 彼女の秘策とは一体何なのでしょう。そして打倒なのはを目指すフェイトの闘志は真っ赤に燃え上がるのです!
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!

 師匠すっとぼけるの巻



 赤く燃える太陽(残念ながら西日、夕日である)に照らされた海鳴臨海公園に、なのはとユーノは立っていた。
 『アースラ』の転移ポートで元の場所に帰してもらったのである。

「それで……なのははこれからどうするんだい……?」

 少年の姿のユーノは、腕組みして夕日を眺めている偉そうな少女に訊ねてみる。管理局を出し抜く気満々のなのはが正直不安だった。いくら腕っぷしが強くとも、それだけでどうにかなるとは思えない。だが当のなのはは特に気負いも無いようで、

「ユーノは『ジュエルシード』を悪用されたくは無い、そうだな……?」

「うん……」

 ユーノは力無く頷く。発掘してしまった身としては、リンディ艦長の言う通りにするのは納得が行かないのも事実だ。だが管理局の言う事が正しいのも判る。頭と感情が相反している。正直どうしたらいいのか迷っていた。なのははそんなユーノをビシィッとばかりに指差し、

「今更引き下がるのは納得が行かんのだろう? いや、お前の中の『男』が許さん筈……そうだな!?」

「なのはは逃げ場が無くなるような事を言うね……」

 ユーノは有無を言わさぬド直球のなのはの島本節に冷や汗をかいてしまうが、キッと表情を引き締め、

「判ったよなのは……今更逃げたくない、最後まで付き合うよ!」

「良くぞ言ったユーノよ! 男児たるものそうでなくてはいかん!!」

 なのははニッコリと笑みを浮かべ満足げに頷いた。ユーノは不覚にもその笑みにドキリとしてしまう。
 無駄に可愛いのは困るなあ……とユーノは思った。見てくれだけは同い年の美少女なので、リアクションにとても困る時がある。

 そんなユーノの複雑なおとこ心などお構い無しに、なのはは腕を無駄にガッチリ前でクロスさせ、

「儂らが取るべき手段は1つ! 管理局に先んじてフェイトと『ジュエルシード』両方を確保するのだ。これぞ一挙両得なり!」

 自信たっぷりである。ユーノは苦笑するしか無い。色々難しそうではあるが、なのはが言うとやれそうな気がするのは何故だろう。しかしそれはともかく、気掛かりな事を聞いてみる。

「それで……『ジュエルシード』を餌にあの子達と交渉するんだよね……でも悪い事に使うつもりだったら? あの子達はともかく、誰かやらせている人間が別に居そうに思えるんだけど……」

 欲しがっているのは多分別の人間なのではとユーノは直感していた。フェイト達には自分達が使いたいという気持ちが感じられなかったのだ。
 なのははどう猛(っぽい)な笑みを浮かべ、見かけだけは可愛らしい拳をグイッと示して見せ、

「その時は、黒幕を叩き潰してやれば良いだけの事よ!」

 とっても判り易い、彼女らしいシンプルな答えであった。その時になったらなのはは全く容赦しないであろう。悲惨な目に遭わされる相手の姿が目に浮かぶようであった。
 それはいいのだが問題はまだある。ユーノは更に心配を口にした。

「でも……簡単には行かないと思うよ……管理局の船には色んなセンサーとか最新鋭の探知機器が装備されてる筈だし、出し抜けるかなあ……?」

「心配は無用だ、細工はりゅうりゅう……これを見よ!」

 突如なのはの身体から、ニョキニョキッと小さな影達が湧い……もとい出現した。言わずと知れたミニなのは達である。

「うわっ、出たあっ!!」

 ユーノは思わず後退ってしまった。本当に無理も無い。ミニなのは達はあどけない顔に凶悪な笑みを浮かべ、獲物……ユーノを舐め回すように視線を送る。たじたじになっていると、

「ふふふ……ユーノよ、良く見てみよ……」

「えっ……?」

 なのはの言葉に恐る恐る彼女の肩にたむろっているミニ達を良く観察してみると……

「あれ? 1ぴ……1人足りない!?」

 ギロリとミニ達に睨まれ、ユーノは慌てて訂正しておく。確か7人居た筈のミニなのは達が、6人しか居ない事に気付いた。
 以前に身体の7ヶ所(尻尾含む)を関節技で極められて、あの世を垣間見たユーノが間違える筈が無い。

「ま……まさか……」

「ぬわっはっはっ! そのまさかよ!」

 どうやらミニ達の1人をアースラに残して来たようだ。あの凶悪なミニがアースラに。スパイか破壊工作員代わりと言う事のようだ。クロノの事がとっても心配になった。

「兵法とはいたずらに兵力をぶつけるだけのものに非ず! 相手を撹乱し勝てる状況を作り出すものなり!!」

 なのははテンション高く語ると、赤く燃える太陽を見詰め、

「さあ、これから忙しくなるぞ! 見事管理局を出し抜いてくれよう! 見よユーノ! 東方は赤く燃えている!!」

 沈む夕日に向かって力強く拳を向けるのであった。勿論西日なのは判っているが、ノリが大事と言う訳である。西方だと締まらない。





 場所は変わり、此処は次元の狭間に係留中のアースラ、モニタールームである。

「凄いや……どっちもAAAクラスの魔導師だよ~っ!」

 16歳になるショートカットの少女、アースラオペレーター主任『エイミィ・リミエッタ』は、計測中のなのはとフェイトの魔力数値を見て、感嘆の声を上げた。隣で同じく計測画面を見ていたクロノは複雑な表情である。
 なのはとフェイトの魔力は相当なものらしい。エイミィは改めて録画画像の中で暴れまわるなのはを見て、

「この紫の服の子、ほとんど魔力を使ってないんだよね……? 一体何の力なんだろクロノ君……?」

 聞いたものの、武装局員達に襲い掛かるミニなのは達の暴れっぷりに、「うっはあ~、何これえ~っ」などと楽しそうに声を上げる。クロノはため息を吐くと、

「……『流派東方不敗』と言う、この世界の『シューティングアーツ』みたいなものらしい……此処にはあんなのがざらに居るんだろうか……? まだ幼い女の子まであんな実力を……」

 流石にクロノも背筋が寒くなるような気がした。実際の所『流派東方不敗』が使えるのは、この世界でなのは1人なのだが色々勘違いしてしまっているようだ。エイミィは深刻な顔のクロノに、ニンマリ悪戯っぽい笑みを向け、

「クロノ君の好みっぽい、可愛い子なんだけどね?」

「おおお恐ろしい事言わないでくれえっ! 僕は危うく死ぬ所だったんだぞおおっ!!」

 クロノはほとんど涙目で絶叫していた。うっかり息の根を止められてしまいそうになった身としては無理も無い。好みだろうが何だろうがトラウマになったようだ。

「アハハハッ、ごめんごめん」

「まったく……」

 ぶーたれるクロノが何気無く視線を落とした時、何か小さな人影が視界の墨を掠めたような気がした。

「……?」

 キョロキョロと辺りを見渡すが何も見付からない。

「クロノ君どうしたの?」

「いや……何でも無い……気のせいだろう……」

 疲れているなと少年執務官は頭を振る。色々非常識な経験をしたせいだろう。今日は早く休んでおこうと思うクロノであった。

 そんな彼を物陰からジッと見詰め、邪悪な笑みを浮かべるミニなのはの姿が在った……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その夜、夜景の光が射し込む暗い部屋で、フェイトはソファーにガックリと倒れ伏していた。その表情は暗くて良く見えない。その横に寄り添うようにアルフが見守っている。

「フェイトォ……」

 アルフは心配そうに横たわる主人に声を掛けた。フェイトは少し苦し気に優しい使い魔の少女を見上げ、

「……大丈夫だよ……」

 儚げに弱々しい笑みを浮かべて見せると、

「甘いぞフェイト! たかが食休みで何を雰囲気を出している!!」

 少女の声が響いたかと思うと、室内に小さな竜巻が巻き起こった。その中から腕組みをした覆面ちびっ子が姿を現す。シュバルツ・シュベスター参上だ。
 フェイトはただお腹いっぱいで食休みしていただけである。ちなみに彼女は今日何もしていない。シュバルツはあれ以来フェイト達の食事を作りに、何処からともなく現れるようになっていた。
 フェイト達も『時の庭園』での一件から、シュバルツを何となく信用するようになっていたのである。

「時空管理局が出て来たようだな……?」

 シュバルツの偉そうな言葉に、アルフは深刻な顔でフェイトを見る。

「管理局まで出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ……」

「……大丈夫だよ……」

 フェイトはお腹を擦りながら、よっこらしょと身を起こした。そろそろお腹もこなれたらしい。何だか悲壮感の欠片も無い……
 勿論キチンと『ジュエルシード』探索を続けているが、シュバルツの食事と最低限の休息を義務付けられているので体調は万全である。顔色がたいへん良い。シュバルツは覆面越しにフッと笑い、

「心配するな……管理局は私が引き受けよう……」

 心強い言葉だった。確かになのはと互角以上の戦闘能力を持つシュバルツの申し出は有りがたい。覆面ちびっ子はそこまで言った所で一旦言葉を切り、フェイトを改めて見ると、

「何なら、高町なのはも私が引き受けてもいいが……?」

「あの子は私が……!」

 フェイトは思わず声を上げていた。このまま敗けっぱなしは嫌だった。

(そんな事をしたら……きっとあの子に呆れられる……)

 それだけは我慢出来なかった。敗けたくない。初めて湧き上がる想いだった。そんな彼女の表情を見たシュバルツは満足げに笑い、

「良く言ったフェイト・テスタロッサ! 高町なのはにお前の力を見せ付けてやるのだ!!」

 シュバルツの暑くる……熱い激励を受けフェイトはコクリと力強く頷く。アルフは微妙な顔をシュバルツに向け、

「何か目的がズレて来てないかい……? まずは『ジュエルシード』集めだろ……?」

 たしなめるつもりで文句を言ってみたが、シュバルツはクワッとばかりに大きな目を見開き、

「そんな事はどうでもいい!!」

「良かないわ! この覆面ちびっ子ぉっ!!」

 シュバルツの身も蓋も無い即答に、アルフはマッハの速度でツッコミを入れていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 次の日……小学校になのはの姿は無かった。ホームルームで担任の女先生は、

「そう言う訳で、高町さんはご家庭の事情で何日か学校をお休みするそうです。でも病気や怪我は高町さんにはまず有り得ませんし、不幸があった訳でも無いので全く心配ありません」

 言葉通り先生は全く心配していない様子で欠席理由を話した。同級生達も「師匠だからなあ……」「山に修行にでも行ったんじゃね?」などと言った調子である。
 そんな中、アリサとすずかはポツンと空いている親友の机を見て、ニヤリと笑い合う。事情は2人共知っているのだ。
 フェイトを追う為に家族に理由を話したなのはは、取り合えず融通の利くすずかの家を拠点に動く事にしたのである。アリサもすずかもバックアップする気満々であった。





「良いぞユーノ! 後は任せい! 雑魚が叩き潰してくれるわあっ!!」

 人気の無い森にじじ臭い言葉使いの少女の声が木霊した。声の主、高町なのはは、ユーノのチェーンバインドに拘束された鳥型モンスターに、右腕の『レイジングハート』を向けた。その掌から闇色の光弾が次々と飛び出し、怪鳥に炸裂する。
 なのはの新魔法かと思いきや、『ダークネスフィンガー』の応用技『ダークネスショット』である。
 魔法をプラス? する事により、『マスターガンダム』の技も使えるようになったようだ。また一歩人間凶器いや……人外凶器に近付いた高町なのはである。
 なのはは絶叫を上げる怪鳥に、間髪入れず右手を翳して突っ込んだ。

「ダァァクネス、フィンガァァァッ!!」

 怪鳥の顔面に、なのはの右手が砕けよとばかりに叩き込まれた。苦し気に喚く鳥さん。勿論なのはが放す訳も無く、止めの一言を叫ぶ。

「爆ぅ発ぅっ!!」

 怪鳥は閃光を放って爆発し、光の粒子となって砕け散った。怪鳥が消えた場所から飛び去って行く青い小鳥と、青く輝く『ジュエルシード』が現れる。なのははレイジングハートで無事確保した。この間に要した時間はわずか5秒。

(流石にあれだけ壊すと、加減が分かるんだな……)

 いち早く退避していたユーノは、ホッと胸を撫で下ろした。転移魔法で此処までなのはを連れて来て早速これである。中々ハードだ。

「ユーノよ、そろそろクロノ達が来る頃だ」

 息1つ乱していないなのははバリアジャケットを解除し、ジャケットにスカートの私服姿になると、レイジングハートを木陰に隠して置いた。
 少ししてから地面に魔方陣が浮かんだかと思うと、クロノ以下数名の武装局員が現れた。
 クロノは腕組みして立つ偉そうな少女の姿を見てギョッとしてしまう。

「なっ、何故君達が此処に?」

「ふっ……たまたま修行に人気の無い場所に来た所で、偶然にも『ジュエルシード』の『気』を捉えてな……来てみたが既に誰も居らなんだ……一足遅かったようだ……」

 しれっと大嘘をぬかすなのはである。クロノは少々怪しんだ。念の為にこっそりデバイスの有無をスキャンしてみたが持っていない。どうやら本当に偶然らしいと思った。
 それに『ジュエルシード』の反応はアースラが最初に捉えている。魔法素人のなのはと、探知機器も何も持っていない民間人のユーノが先回り出来るとは考えにくい。
 ただ妙な事があった。反応をキャッチしてクロノ達が現場に向かおうとした時、機械トラブルで探知機器の電源が落ちてしまった。お陰で数十秒程全てのモニターとセンサーが麻痺し、到着が遅れてしまったのである。

(偶然なんだろうか……?)

 首を捻るクロノに、なのはは実に残念そうな顔を見せ、

「クロノよ挫けるでないぞ、これに負けず精進せよ! ぬわっはっはっはっ!!」

 高笑いして少年執務官の背中をバンバン叩いて激励すると、ユーノを引き連れてさっさっと帰ってしまった。ぬけぬけとはこういうのを言うのだろう。なのはは歩きながらニヤリと悪い笑いを浮かべ、

「どうやら儂の分身が上手くやったようだな……ユーノよこれが流派東方不敗が兵法よ」

(うわあ……)

 アースラに潜り込んでいるミニなのはが色々と工作をしたらしい。ユーノはアースラの中を人知れず徘徊し、凶悪な嗤い声を上げるミニなのはの姿を思い浮かべてゾッとした。
 それと強く思ったのは、(なのはを敵に回すのだけは絶体に避けよう!)という事だった。

 さて話を戻して状況を説明すると、ミニなのははアースラの機械に細工を施し状況を本体であるなのはにまず伝えた。それを受けたなのはユーノの転移魔法で先回りに成功し、機械トラブルの間に全てを終らせたと言う訳である。
 ユーノは何で次元空間の狭間に係留しているアースラの中のミニなのはと連絡が取れるのか疑問に思ったが、きっと「流派東方不敗に不可能は無い!」の一言で片付けられそうなので聞かなかった。
 ただどうしても気になったのは、「なのなの」しか喋れないミニとどうやって細かい意志疎通をしているのかという事だった……



つづく



 皆さんお待ちかねえっ! 哀しき宿命を乗り越えて戦うファイト。それを影から見守るなのはなのです。度重なるアクシデントに疑問を感じた執務官の行動は? ミニなのは大ピンチに陥ってしまうのでしょうか?
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠見てるだけの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

虎様>拳で語るしか無い不器用な者たちなのです。後は気合いで。(笑)

hh様>誤字報告ありがとうございます。完全に誤字です。修正しておきます。

良様>理想郷復活したみたいですね。それではそろそろ再開しようかと思います。前の分を全部上げて続きを書きたいものですが、書き直しは結構挫けそうになりますね。


オリヴィエ様>此方だとなのは達に関わるとかえって事態が悪化する恐れが多分にあるので、まともな事にはならないと思います。(汗)本当にこれで良かったんですかあ?で呆れつつ読んでおいてください。そちらはまともに頑張ってくださいね。





[32932] 第13話 師匠見てるだけの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/05/17 20:13
 さて皆さん……本当にお待たせしました。再開です。
 少年執務官は遂に謎の覆面少女と合間見えるのです。共に譲れぬ者同士、死闘の行方は? そして少年はあまりの過酷な運命に心の中で涙するのです。
 少女達は古の館で策謀を巡らし、闇に生きる頭首は戦慄と共に野獣の群れに魂の慟哭を聞くのです。なのはの取る行動とは?
 それでは魔導師ファイト、レディィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠見てるだけの巻



「うわあっ!?」

「ぐはっ!!」

 武装局員達の悲鳴が森の中に木霊する。『ジュエルシード』確保に出動した局員達に、金髪の少女と橙色の毛並みの狼が猛然と襲い掛かった。フェイトとアルフである。
 横取りする為の襲撃だ。あっという間に蹴散らされる局員達。流石に2人共強い。全員のしてしまい、フェイトが宙に浮かぶ『ジュエルシード』に手を掛けようとした時、

「そこまでだ!!」

 凜とした少年の声が響いた。魔方陣と共に現れる黒衣の少年、クロノ執務官である。フェイトとアルフは戦闘態勢で対峙する。
 前回は現れて直ぐに、なのはにぶっ飛ばされていたので実力の程は不明だが、油断は禁物な気がした。
 一撃でやられたのは相手が悪過ぎなので、参考にはならないだろう。自分達も今までコテンパンにやられて来たのだから。

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。抵抗は止めるんだ!」

 クロノは杖型デバイスS2Uを構える。フェイトはその隙の無さに身を引き締めた。一流の魔導師だと直観するが、退く訳には行かない。『バルディッシュ』を構えて臨戦態勢だ。アルフも少女の姿となり拳を構える。
 しかしクロノはそこで両手を広げ、真剣な眼差しで2人を見やり、

「目を覚ますんだ! そんな事は間違っている!!」

 とても真摯に呼び掛けて来た。ひどく同情されているような感じがする。そう言えば武装局員達と戦っている時も、皆やけに生暖かい目で此方を見ていたようだった。
 何か判らないが、とっても失礼でムカつく方面で見られている気がする。フェイトとアルフが不審に思っていると、クロノが必死で呼び掛けて来た。

「目を覚ませ! 今ならまだ引き返せる! 性別の壁なんて越えなくてもいいんだ!!」

「は……?」

 フェイトは相手が何を言ってるのか判らない。アルフが訳の判らなさに苛立ち、

「何訳の判んない事言ってんだい!? 性別がどうしたって? アタシらが男にでも見えるってのかい!?」

「そうだ! ファイト・デストラップ! 君は男なんだ! 現実から目を背けては駄目だ!!」

「ええっっ!?」

「なっ!?」

 返って来たとんでも発言に、フェイトとアルフは素っ頓狂な声を上げてしまう。名前までゴツくなっている。クロノは思いっきり、なのはの出鱈目情報を真に受けていた。
 生半可な嘘であったら見抜いていただろうが、こんな馬鹿馬鹿しい嘘をさも本当のように自信たっぷりで吐く、前世マスターな少女にすっかり信じ込まされている。
 すっかり女装の変態少年にされてしまったフェイトは、ちょっと涙目でアルフを振り返り、

「……アルフ……私って男の子に見えるのかな……?」

「そ、そんな事ある訳無いだろ! フェイトは何処から見ても立派な女の子だよ!」

 アルフは地の底まで沈みそうに凹み掛ける主人を元気付けるが、流石にいじけてしまいたくなるフェイトであった。アルフはぶち切れてクロノをギロリと睨み付け、

「言うに事欠いて、何で滅茶苦茶な事を~……アンタ命が惜しくないみたいだねえっ!?」

 怒りのあまり牙を剥いて、怒りのたけをぶつけてやろうとした時である。

「フフハハハハッ! 其処までだ!!」

 とっても聞き覚えのある、無駄に偉そうなちびっ子の声が辺りに響き渡った。クロノがギョッとして声のした方を見ると、近くの小さな沼から突然水柱が勢い良く吹き上がった。

「何だあっ!?」

 驚くクロノ。何故ならば水柱の上に、腕組みしたとても偉そうな覆面少女が立っているではないか。無駄に芝居がかった派手な演出。覆面ちびっ子参上である。

「なっ、何なんだ君は!?」

 クロノは水柱の上のちびっ子に呼び掛けながらも、内心嫌な予感を覚えた。とある少女と同じノリを感じ取ったからである。

 シュバルツは10メートル近くある水柱からヒョイと飛び降りて、クロノの前に音も無く着地すると、腰に手を当てグイッと胸を張り、

「フフハハハハッ! 私の名はシュバルツ・シュベスター! ネオベルカの魔導師ファイターだ、覚えておいて貰おう!!」

 この間はネオミッドだの、ネオドイツだの言ってた気がするが、まあ管理局のクロノにネオドイツだの言っても解らないだろう。しかし子供が背伸びしているようで微笑ましいのは本人には内緒だ。一方のクロノは顔をしかめ、

「……何だよネオベルカって……? 魔導師ファイター? 君はふざけているのか?」

 もちろんネオベルカも、魔導師ファイターも聞いた事も無い。クロノは突っ込んでみるが、

「私は何時でも本気だ!!」

 シュバルツは心外だとばかりに即答である。これが素の反応なのだ。今こそクロノは、嫌な予感の理由に思い当たらない訳には行かなかった。否考えたくなかったと言った方が正しい。

(この覆面ちびっ子、なのはって子と感じがソックリだ! まさか同類!?)

 彼の中ではなのはは、猛獣か恐竜と似たようなポジションらしい。思わず後退りしそうになるが、仕事なのでそういう訳にも行かない。勤め人は辛いのだ。

「どっ、何処の誰かは知らないが、彼等は危険な事をしてるんだ。済まないが退いてくれないか……?」

 シュバルツは、クロノの言葉を腕組みして黙って聞いていたが、静かに首を振るとカッと目を見開いた。

「そう言う訳にもいかん! 何故ならばこの不幸なオカマ2人は私の弟達だからだ!!」

「ちょっと待てええええええいっ!!」

 アルフが電光の速さでツッコミを入れていた。何時の間にかフェイトとセットでオカマにされている。堪ったものでは無い。すると、

《今は私に合わせろアルフ!》

 シュバルツが2人に念話を送って来た。青くなるフェイトの代わりに、アルフがプリプリ怒りながら、

《どう言う事だよ!?》

《恐らく管理局に出鱈目を吹き込んだのは高町なのはだろう……お前達の素性がバレないようにな……だからそれに乗り、今はこのまま通すのだ!》

 えええ~っ? となってしまうフェイトとアルフ。いくら素性を隠す為とは言え、精神的ダメージがキツ過ぎる。シュバルツは2人の乙女心など一個だにせずクロノに向かい、

「そう言う訳だ……済まんなクロノ・ハラオウンよ!」

 言うが早いが、疾風の如く襲い掛かった。強烈な蹴りが飛ぶ。
 クロノはどう見ても、フェイト達より年下にしか見えないシュバルツにツッコミを入れたかったが、そんな余裕は吹っ飛んでいた。

 このままではやられる。ゾクリとする攻撃に危険を感じ、反射的に砲撃魔法を放っていた。青い光を放つ魔力のナイフが、超至近距離から高速でシュバルツに撃ち込まれる。

『非殺傷設定』が掛かっているので怪我をしたりはしない筈だが、当たれば魔力ダメージでしばらく身動き一つ取れなくなる。このタイミングでは高ランク魔導師でも避けきれまい。しかし!

「なっ!?」

 クロノは仰天して目を見張った。シュバルツは数メートルの距離から放たれた弾丸並みの速さの攻撃を、軽く体を振っただけでことごとくかわしてしまったのである。
 まあ、マッハの速度の弾丸を素手で掴む、蹴り落とすなどの反射神経は、ガンダムファイターの最低条件と言えなくも無い。

「そんな馬鹿なあっ!?」

 人間の反応速度何それ美味しいの? な反応に青くなると同時に、不意にシュバルツの姿が消え失せてしまった。遮蔽物は近くに無い。本当に煙のように消えてしまったのだ。

「 何処へ消えたんだ!?」

 デバイスのセンサーにも反応は無い。フェイト達も唖然としている。だが近くに居る筈。クロノは油断無く周囲を見渡した。

(来る……次に当たる時が勝負だ!)

 クロノは全神経を周囲の気配を感知に向ける。無限にも感じる時間が過ぎ、一筋の汗が額を伝う。刹那の一瞬、その足元の影に紅い瞳の2つの目が!

「フハハハッ! 私は此処だあっ!!」

 クロノの影の中から、シュバルツが金髪を振り乱して、飛び魚みたく勢い良く飛び出して来た。ゲルマン忍法『影隠れの術』である。

 魔法系にも無機物に潜ったり出来るものがあるが、それならセンサーに反応する。反応しない影隠れの術の原理は不明だ。ゲルマン忍法だからなあ……とでも思っておこう。

「えええええっ!?」

 驚くクロノに向かってシュバルツは、組み合わせた両手をチューリップみたくパカッと開いた。その掌から金属製のネットが投網の如く広がり、少年執務官を絡め捕る。ネットが全身に絡み付き動けなくなってしまった。
 ゲルマン忍法『アイアンネット』である。

「フフフ……済まんな……しばらくそうして居てくれ……」

 もがくクロノを残しシュバルツがフェイト達を見ると、2人共ブツブツ言いながら地面に座り込んでいじけていた。色んなものが傷付いたらしい。

 その後シュバルツに(無理矢理)宥められたフェイト達は、『ジュエルシード』を奪ってこの場を立ち去って行った。その背中はせっかく目的を果たしたと言うのに、とても落ち込んでいたと言う……


 その間クロノは、アイアンネットから脱出しようと懸命にもがいていた。『ガンダムシュピーゲル』に喧嘩を売ってのされた『シャイニングガンダム』状態である。

「何だこれ!? バインドかと思ったら、金属製の網じゃないか! 重い~っ!」

 四苦八苦の末、魔法でネットを破って脱出に成功した。クロノはゼエゼエ息を吐き、

「あの子……こんな重いもの、どうやって持ち歩いてたんだ……?」

 尤もな疑問を浮かべるが、ゲルマン忍法に言うだけ無駄と言うものであろう。クロノはデバイス変型の理屈に違いないと自分を納得させる。
 その一部始終を偉そうに見てるだけの人物が居る事にクロノは気付いていなかった。
 小動物を肩に乗せ、腕組みしておさげを風になびかせる少女、高町なのはである。離れた位置に在る高い杉の木の天辺に立ち、様子をずっと見ていたのだ。
 見ているだけなのに、悪のボスがふんぞり返って嘲笑うように見えるのは、きっと気のせいだと思いたい。

「今回は少し出遅れたようだな……」

 なのはは不遜に下界を見下ろし呟いた。フェレット姿のユーノは、風で飛ばされないように彼女の肩にしがみ付きながら、

「今日はミニにやらせなかったのかい?」

「あまり連続してやらせると、流石に怪しまれよう……何事にも限度がある。もう少し『ジュエルシード』を集めておきたいでな……」

 ユーノは存在自体が限度を超えている人物が言うか? などという事は今は置いといて、

「交渉にはもう少し必要って訳だね? 流石なのはは悪ど……老獪だね……」

 高町なのは恐ろしい子! とうっかり本音を漏らしそうになりながらも誉めておいた。

「ぬわっはっはっ! これぞ『流派東方不敗』兵法よ! 引き際を心得ぬ者は自ずと身を滅ぼすなりだ!」

 木の天辺で豪快? に高笑いするなのはである。ユーノはあんまり彼女が体を揺らして笑うので落っこちそうになった。

「さて、今日の所は退くぞユーノ!」

 ユーノのユの字を言い終わるか終わらないかで、なのはは一気に杉の木から飛び降りる。ユーノは着いて行けず、小さな体が宙を木の葉のように舞った。



ーーーーーーーーー



 月村家

 月村家の現頭主、月村忍さんは外出先から自宅に戻って来ていた。
 メイド長のノエルさんに迎えられ、一息吐こうとお茶を頼んだ所で少女達のコロコロ笑う声が耳に入った。
 1人はなのはと直ぐ判る。少女の可愛らしい声質を台無しにする、ぬわっはっはっな高笑い間違い無い。

「ああ……今日はアリサちゃんも来てるのね?」

「はい……先程いらっしゃって、今すずかお嬢様となのはお嬢様と御一緒にお話されておいでです……」

「そうなの、じゃあ少し顔を出して来ないとね」

 忍さんは、楽しそうな笑い声が漏れて来る応接室に向かった。
 理由は細かく聞いていないが、なのはが月村家に数日泊まっている筈なのに姿を見ない。ついでに何をしているのか聞こうと思った。
 忍さんの耳に、なのは達の会話が途切れ途切れに入って来る。

「……クロノ君……て言うんだ……」

「……それでなのはは……と……したい訳ね……」

「……とか……したいものだが……」

 忍さんは思わず頬を緩めた。男の子の話題で盛り上がるなんて3人ともやっぱり女の子ね、などと微笑ましくなる。忍さんはノックするとにこやかにドアを開け、

「いらっしゃいアリサちゃん、なのはちゃんはちっとも姿が見えなかったじゃない? みんな楽しそうに何をお話しているの?」

 声を掛けると、テーブルでお茶を飲みつつ談笑していた3人の少女は一斉に挨拶を返した。すずかはにこやかに姉に笑い掛け、

「うんっ……クロノ君て子がいい手駒になりそうだから、皆でどう誘導して利用するか考えてたの……こう言うの兵法って言うんだよね?」

 忍さんはその場で絶句してしまった。危うくダイナミックにズッコケる所だ。
 しかし今の妹の発言でハッキリした。突っ込んだ理由は聞かない方がいいと言う事を。すずかは少々興奮したように微笑んで、

「なのはちゃんの兵法は凄いよ……悪い親戚の人達がまたちょっかい掛けて来ても、『流派東方不敗、八卦の陣』で返り討ちだよお姉ちゃん」

「そっ……そうなの……?」

 忍さんは表情を引きつらせる。妹の行く末がとっても心配になった。
 固まる姉を他所にすずかはテーブルに戻る。アリサも至って普通にすずかの話に頷いている。末期であった。

 額を伝う汗を拭う忍さんは、何か動いた気がしてテーブルの上に視線を向けた。その目にフェレット姿のユーノを椅子代わりに、ビスケットをハムスターみたいに一生懸命かじる妙な生命体が映る。ミニなのは達だ。

(えっ!? 何? この小さななのはちゃん達は!?)

 ハッと辺りを見渡すと、部屋にたむろしている猫のお腹に潜り込んでスヤスヤ寝ている奴や、アリサとすずかによじ登っている奴まで居る。
 しかし2人共普通に構ってやったり、お菓子をあげて頭を撫でたりしていた。
 忍さんはきっと今日は疲れているんだと思う事にして、早々に寝る事にしたそうな……

 ちなみにミニ達の椅子代わりにされているユーノは、すずか達に襲い掛からない彼女達を見て、

(この世渡り上手共があっ!!)

 と叫びたかったが命が惜しかったので、心の中だけで叫んだのである。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 それから10日余りが経過した。次元の狭間に浮かぶアースラの休憩室で
、クロノは1人ため息を吐いていた。結果が思わしくないからである。
 あれからアースラでは探査機器の調子が思わしくなく、フェイト達と謎の覆面少女に『ジュエルシード』2つを奪われてしまった。此方が回収出来たのは1つだけである。
 残りの反応があった分も先を越されたらしい。散々な結果だとクロノは、またため息を吐いた。実は他の先を越された分の『ジュエルシード』は全てなのはが持っているのだが……

 クロノは色々と現状について考えてみた。どうにも腑に落ちない。
 彼は優秀である。伊達に14歳で執務官をやっている訳では無いのだ。状況に不自然なものを感じたのである。
 時たまではあるが、度重なる機器の故障に何度かの先越され、これが意味するものは……

「何者かが、アースラに入り込んでいる!?」

 クロノはそう推理し結論した。思い立ったら即決。直ちにエイミィに連絡し、アースラ全クルーに通達させる。艦内にエイミィの警戒指示が響いた。

《非常警戒態勢! 全クルーに告ぐ、何者かが艦内に侵入の可能性あり、武装局員は徹底的に艦内の捜索を行ってください!》

 直ちに武装局員達はデバイスを携えて捜索に掛かる。アースラ内は上へ下への大騒ぎとなった。
 遂に侵入がバレてしまったミニなのは3号は、追い詰められ捕らえられてしまうのであろうか?



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 包囲網に追い詰められて行くミニの運命は如何に? そして嵐吹き荒れる海上にて、フェイトは命を賭けて強大な敵に立ち向かって行くのです! それを敢えて見守るなのはは、身を斬るような心の痛みに絶え彼女を激励するのです。その祈りはフェイトに届くのでしょうか?

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠気合いを入れてみるの巻』にレディィッ、ゴォオオウゥッ!!






※感想返しです。遅くなりました。

いいい様>なのはの巧みな?嘘に乗せられてしまうクロノ君でした。流派東方不敗口車です。ドモンを騙している時の要領ですね。

虎様>クロノ君にはまだまだ試練が待っているのです。出番があるので良しと思ってもらいましょう。

ddi様>闇の書辺りはまだ子供なんでアレですが、ナンバーズが出る辺りには石破使える筈なんで詰みそうです。しかし恐るべき強敵が出ますんで、バランス取れるかもです。まあでもギャグなんで、そっちでも構わないかもしれませんが。

あずにゃん顔面粉砕機様>丁度始めた少し後で、田村さんが爺さん口調のヒロインを2人もやっていたので、スゴく助かった覚えがあります。「チェリオ!」「呪うぞ!」とか。

ハゲネ様>ありがとうございます。お待たせしてすいません。私用でちょっと放置してましたが、コンスタントに続きを書ければと思います。

トネ様>ナンバーズの辺りは恐るべき強敵が現れるのです。闇の書の時はあの人が出たり色々あるので、楽勝とは行かないかもです。やっぱりギャグですけど。

撃震307様>最初~伝と付けようと思ったんですが、似たようなタイトルが有ったのと、語呂が良かったので今のに決めました。最初は魔法武闘伝リリカルマスターなのはでした。(笑)





[32932] 第14話 師匠気合いを入れてみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/06/15 13:06
さて皆さん……人には退けない場面というものが有ります。その場のノリに流されてしまうと言うのが正しいのかもしれません。場合によっては身を滅ぼしかねないのがノリと言うものなのです。
フェイト・テスタロッサも今更後へは退けない地獄道を行き、クロノ・ハラオウンは猟犬の如く敵を追い詰めて行くのです。2人の運命や如何に?

それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


師匠気合いを入れてみるの巻



 次元空間に係留中の次元航行船『アースラ』は今、てんやわんやの大騒ぎであった。侵入者を捜して、武装局員達が艦内をしらみ潰しに調べて回っている所である。
 リンディ艦長はブリッジに詰めて状況を見守り、エイミィ達オペレーター は艦内センサーで侵入者を捜そうと躍起になっているが、今だ発見には至っていない。
 そんな中クロノは、侵入者の姿を求めて艦内を駆けずり回っていた。年若い執務官は、捜索を続けながら考えを巡らす。

(一体何者が入り込んだんだ……? 最近アースラに入った部外者はあの2人だけの筈だが……センサーでも反応を捉えられない……余程高性能な結界魔法を装備しているとすると、素人の2人には難しいが……?)

 なのはとユーノを疑ってみるが、そんな装備を魔法素人のなのはと、民間人のユーノが持っているとは考え辛かった。

(でも……あの子色々と非常識だからなあ……疑わしいのも事実だけど、ちょっと弱いな……下手に疑うより侵入者を捕らえた方がハッキリするか……)

 クロノは似合わぬ高笑いする少女を思い出し、少しげんなりした顔をするが思考を切り替え捜索に集中する。
 しかしクロノ達を嘲笑うように、再びアースラを機械トラブルが襲った。







 同じ頃、海鳴市沖合い上空に、フェイトと少女形態のアルフの姿があった。空には黒々とした雷雲が広がり、海上には金色の巨大な魔法陣が浮かんでいる。
 どういう状況かと言うと、残りの『ジュエルシード』が海中に有ると踏んだフェイトは、魔力を片っ端から撃ち込んで強制発動させ位置を特定、纏めてゲットする魂胆なのである。
 シュバルツが協力してくれる今、管理局相手にあまり焦らなくても良さそうなものなのだが……

(フェイト……こんな無理しなくても……)

 アルフは大規模魔法に集中しているフェイトをサポートしながら、心配してそう思ってしまう。
 フェイトにしてみれば、管理局に『ジュエルシード』をかなり回収されてしまったと思い焦っているのだ。実際の所先を越しているのはなのはなのだが、それを知らないので勘違いしているのである。
 勘違いはしていても、無論なのはの存在は気にしている。フェイトはあの人外凶器少女が、必ずまた現れると確信していた。どの道時間を掛けるだけ不利だと、フェイトは一発勝負に出たのである。

「はああああああぁぁっ!」

 彼女の気合いと共に、無数の魔法雷が海面に撃ち込まれた。魔力を受け震える海に青白い光が浮き上がって来たかと思うと、6つの光の柱が一気に点を貫いた。

「見付けた……!」

 肩で息をするフェイト。この魔法は規模からして相当に魔力を消耗してしまうようだ。
 息つく暇も無く6つの光がグネグネと大蛇のようにのた打ち、海水で出来た竜巻に変化して行く。『ジュエルシード』が暴走を始めたのだ。
 本番はこれからである。今までの暴走体とは桁が違う。フェイトとアルフは決死の思いで身構えた。



 その様子を離れた場所の空に浮かび、偉そうに腕組みして見ている者が居る。紫色のバリアジャケットに風になびくおさげ髪、高町なのはだ。それに少年姿のユーノも一緒である。

「派手にやっておるな……」

 なのははドモンの試合を見守るような眼差しで、フェイト達の戦いを見詰めている。ユーノは暴走体に立ち向かう2人を見て、

「一度に6個も? 無茶だ個人で出せる魔力量を超えているよ、このままじゃ2人が危ない!」

 人が良いので本気で心配してしまう。フェイト達に暴走体が襲い掛かっていた。凄まじいエネルギー。2人は翻弄され苦戦し防戦一方だ。なのはは微動だにせずフェイト達を静かに見詰め、

「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言う……儂もそれに習うとしよう……」

「……放って置けないとか、間違っても言わないんだね……」

 なのはが引用したことわざの意味は正確には解らなかったが、何となく意味を察する事は出来たユーノは顔色を無くす。ハードである。なのはは再びフェイト達を見やり、

「儂はフェイトが何処までやれるかを見たい、何でも手を貸しておったら成長など望めんのだ!!」

「……厳しいんだね……」

 ユーノはため息を吐いた。言っている事は正しいと思うが、なのはの基準に照らしていたら命が幾つあっても足りない気がする。
 そんな事を言ってる内にもフェイトは戦っていた。迫る巨大な暴走体に『バルディッシュ』を電光の鎌に変えて立ち向かうが、跳ね飛ばされ海中に叩き込まれてしまう。

「フェイトッ! フェイトォォッ!!」

 助けに向かおうとするアルフも、他の暴走体に絡み付かれ動けなくされてしまう。フェイトは追撃を逃れて海上に飛び上がる事が出来たが、魔力がもう限界のようだった。
 バルディッシュの刃が電池切れしたように明滅し、彼女も消耗して呼吸が乱れ動きが明らかに鈍っている。このままではフェイト達がやられるのは時間の問題だった。

「このままじゃ、2人共危ないよ!!」

 ユーノはもう我慢出来なくなり、自分だけでも助けに行こうとすると、なのはがズイッと前に出た。

「慌てるでない……行くとするかユーノよ」

「なのは!」

 ユーノは何だかんだ言ってもなのはは優しいなと感激し、飛び出して行く少女の後に続くのだった。





 アラーム音が鳴り響くアースラの通路を、クロノはひたすら駆けていた。侵入がバレた事を察した敵は、開き直ったとばかりにセンサー類の配線を大っぴらに切ってしまったらしい。駆け付ける最中だ。
 近場に居た武装局員達が既に到着している筈。上手く行けばもう捕縛されたかもしれない。
 しかし駆け付けたクロノは、床に転がっている局員達を見付けた。まさか殺されているのではと思ったが、全員頭にたんこぶをこさえて気絶させられているだけである。
 のびている局員を起こして聞いてみたが、一瞬で倒されたらしく襲撃者の姿は見ていなかった。辺りを見回してみたが、もう逃げ去った後のようで影も形も無い。まずは修理班を呼んでおく。
 クロノは焦りを隠せない。今アースラはセンサー類の修理が終わるまで目隠しをされたも同前なのだ。今襲われでもしたら……

(クソッ! 何処に隠れているんだ!?)

 焦る気持ちを鎮め、見落としが無いか頭の中を整理する。これで取り乱すようでは執務官は勤まらないのだ。流石である。
 ふと後1つ捜していない場所に思い当たった。自分の部屋である。灯台もと暗しと言うが、まずは行ってみなければならない。

 クロノは早速自室に向かった。用心して扉の横で一旦様子を伺うが、これでは中の様子が分からない。

(一気に踏み込んでやる!)

 デバイスを構え部屋に飛び込んだ。それと同時に周囲を警戒する。攻撃して来る者は無かった。此処にも居ないのだろうか。しかしセンサーが感知して点く筈の部屋の灯りが点かず中は薄暗い。怪しかった。

 油断なく奥に進む足下でカサリと音がした。見るとゴミが辺りに散らばっている。通路の灯りがに照らし出されたのは、クラナガンでしか売っていない、ゲイツ製菓のゲッちゃん酢漬けイカの空き袋だった。

(楽しみにしてたのに……んっ?)

 地味に凹むクロノの耳に物音が入った。奥のベッドの辺りから、カサコソ音が聞こえて来る。目を凝らすとベッドの上に何かが蠢き、一心不乱にゲッちゃん酢漬けイカを貪っていた。

「動くなっ!!」

 クロノは何者かにデバイス向けて叫んだ。するとその何かはギラリと目を光らせ、

「……のぉぉっ!」

 奇声を上げると、凄まじいばかりのスピードで向かって来た。クロノは捕縛魔法を繰り出して捕らえようとするが、そいつはネズミのようなすばしっこさでバインドをかわすと、クロノの股下を潜り抜け部屋の外へと逃げ出してしまう。

 見ると枕カバーと言うか、枕カバーにくるまった小さな何かである。一瞬動物でも紛れ込んだかと思ったが、

(誰かの使い魔か、変身魔法!?)

 その可能性が大きいと判断したクロノは、犯人で間違いないと直ぐに後を追う。SF的な通路を逃げる枕カバーに、それを追う黒衣の少年。シュールな光景であった。
 必死の追いかけっこをしている内に、枕カバーの逃走方向から足音が響く。クロノからの連絡を受けた武装局員達も駆け付けて来たのだ。挟み撃ちの格好である。

「そいつを捕まえるんだ!!」

 クロノの指示に武装局員達は、チョロチョロ走る枕カバーに飛び掛かった。だが枕カバーはゴムボールみたいに壁やら天井をピョンピョン跳ね回り、大きさに合わない破壊力を発揮して局員達を蹴散らして行く。

「何て奴だ!」

 クロノは再び捕縛魔法を繰り出した。だが敵はさる者、敏感に察知してかわすと小猿みたいな動きで逃走を続ける。後を追うクロノは、枕カバーの逃走方向に思い当たった。

(あっちは転移ポートがある、それで逃げるつもりか? 逃がすかあっ!!)

 少年執務官は枕カバー(ミニなのは)に追い付こうと猛然とダッシュをかけた。





 フェイトは肩で荒く息を吐いた。もう限界だ。魔力はほとんど残っておらず、飛行しているのがやっとだった。もちろん暴走体はそんな事はお構いなし。止めとばかりにフェイトに迫る巨大な竜巻。絶体絶命だ。ギリッと歯を食い縛った時、

「何を弱気になっておるかああっ!!」

 爺くさい言葉使いの少女の声が響き渡った。ハッとしたフェイトが声のした方向を見上げると、腕組みして宙に浮かぶ無駄に偉そうななのはの姿が在った。

「フェイトの邪魔をするなあああっ!!」

 捕らわれていたアルフは力付くで暴走体から脱出し、怒りの形相でなのはに殴り掛かろうとする。

「待ってくれ!!」

 その前にユーノが飛び出し、魔法障壁でアルフを押し止めた。

「僕達は戦いに来たんじゃない! 今は『ジュエルシード』を止めないと融合して手が付けられない状態になってしまうよ!!」

 必死で呼び掛ける。その真摯な叫びにアルフの手が止まった。確かに今争っている暇など無い。
 一方なのはは迫る暴走体もどこ吹く風で、息も絶え絶えのフェイトにカッと大きな目を見開いた。

「喝っっ!! そこまでかあっ! 貴様の力はその程度なのかあっ!? あれしきの敵に打ち勝てんで何とする! 立てえぃっ! 立ってみせえいっ!!」

 魂の激励である。フェイトは思わずバルディッシュを強く握り締めていた。そこまで言われては奮い立たない訳には行かない。
 なのはにみっともない様を晒すのだけは嫌だった。すると今度は海面から水柱が勢い良く噴き出したではないか。

「その通り! 甘いぞフェイト!!」

 水柱の上に立つ覆面ちびっ子、シュバルツ参上である。此方も助けもせずに、フェイト達を陰で見守っていたようだ。なのははニヤリとシュバルツを見下ろし、

「ふっ……シュバルツよ……珍しく意見が合うではないか……」

「フッ……」

 不敵に笑うなのはに、シュバルツも覆面越しに苦笑を浮かべると、フェイトに向かって此方もクワッとばかりに目を見開き、

「フェイト・テスタロッサよ! 此処で挫けてどうする! ジュエルシードを集めるのだろう!? 行くのだフェイト! お前の秘めたる力を高町なのはに見せてやるのだ!!」

「私は……私は母さんの為にも諦めない!!」

 フェイトは覚醒したように吼えた。ウムと頷くなのはとシュバルツは、後押しで同時に叫んだ。

「行け! フェイトォッ!!」

 魂の激励の後押しを受け、フェイトは勢い良く愛機バルディッシュを構えた。何でも出来そうな気がする。ユーノは、本当に激励だけで行かないんだ……とは思う。
 それはともかく黒衣の魔法少女は、荒れ狂う暴走体を気迫の籠った目で睨み付けると飛び出して行った。

「はあああああああぁぁっ!!」

 ユーノもアルフも思わず拳を握り締める。敢然と立ち向かう少女の姿は一枚の絵のように荘厳に見えた。フェイトはバルディッシュを思いきり振りかぶる。渾身の一撃が暴走体に見事に叩き込まれ……

べしいっ☆★

「あうっ?」

 たかと思ったら、逆に一撃ですぽ~んっと吹っ飛ばされ、パアンッと見事な音を立てて海に墜ちた。飛び込みで失敗した時のように、思いっきりお腹を打ってしまったのである。
 フェイトは水死体のようにプカリと海に浮かんでしまった。勢いだけでは無理だったようである。

「わあああっ! フェイトォォッ!?」

 アルフが慌てて降下して溺れそうな主を引き上げた。フェイトは弱々しい笑みを浮かべ、

「……平気だよ……」

 などと強がりをほざくが顔面もモロに打ったので、鼻血が出ていてとっても締まらなかった。美少女もへったくれもない。

(フェイトォ……すっかり天然ボケキャラが板に着いて来てるよ……)

 などと思ってしまったが、優しい使い魔の少女は口には出さない。
 さて……なのははその様子を見て、とても不思議そうに首を傾げた。

「おかしいのう……? あの勢いならば行けると思ったのだが……」

「ウム……スーパーモードが発動して反撃の流れなのだが……修行が足りなかったようだ、残念だ……」

 シュバルツも同意して、さも残念そうに首を振る。

「残念なのは、アンタらの常識と頭の中だああっ!!」

 ユーノは力の限り声を振り絞ってツッコミを入れていた。駄目だコイツら早く何とかしないとである。するとなのはは意外そうな顔をし、

「ユーノよ何を言っておるのだ? 人間は無限の可能性を秘めておる、魂の炎を燃やせば砕けぬものなど無い!」

 自信たっぷりに拳を握り締め断言した。シュバルツもウムと頷いている。

「魔力が気合いで回復したら誰も苦労しないよ! 頼むからなのは達の常識で判断しないでくれ! 命が幾つあっても足りないから!!」

 ユーノは自覚ゼロの気合い少女達に、立て続けにツッコミを入れてゼエゼエ息を吐いた。ツッコミが追い付かない。このまま放って置くと他人も同じ事をやれると思って、どえらい迷惑を掛けかねない。明らかに手遅れな気もしたが……
 案の定なのはとシュバルツは顔を見合わせて、

「何と不便な……」

「明鏡止水なら行けるのではないか?」

 などとほざいている。駄目だいまいち分かってないと思ったユーノは更に文句を付けようとすると、ふと後ろを見て顔面蒼白になった。

「大変だあっ!!」

 こんな事をやっている間に6つの暴走体が1つに融合し、更に巨大な海水の竜巻と化して迫っていた。

「うわあっ!? 本当に手が付けられなくなってるぅっ!!」

 見事なまでに状況が悪化している。ユーノは、本当にこの2人何しに出て来たんだと頭を抱えた。するとやっぱり動じていないなのが敢然と飛び出し、

「 馬鹿者があっ! 男児たるものこれしきの事で動じるでない! シュバルツ手を貸せえいっ!!」

「仕方あるまい! 長引くと管理局が嗅ぎ付ける!!」

 シュバルツは即答し、2人は揃って荒れ狂う暴走体に向かう。

「儂の分身がしばらく時間を稼いでおるが、そろそろ限界だ! 手早く片付ける、遅れを取るなよシュバルツ!!」

「言われるまでも無い! そちらこそ遅れを取るなよ高町なのはぁっ!!」

「抜かしおる!!」

 2人に超巨大な竜巻と化した暴走体が襲い掛かって来た。なのはとシュバルツは、瞬間移動でもするようにあちこちをシュバッ、シュバッと巧みに攻撃を避ける。

「儂は此処だあっ!!」

「何処を狙っている!!」

 全く攻撃が当たらない。閃きと集中でも纏めてかけているようだ。なのはは腰布を解き、シュバルツは両腕の『シュピーゲルブレード』を振りかざし突進する。

「ぬわあああっ!!」

「はあっ!!」

 声質はともかく、勇ましい掛け声と共に2人の斬撃が暴走体を切り裂いた。しかしあまりの巨大さに海水の塊では効果は薄い。

「チマチマ攻撃してもらちが開かん! 同時に行くぞシュバルツ!!」

「応っ! 行くぞ高町なのは!!」

 なのははバレエダンサーのように両手を広げて片足を上げ、シュバルツはシュピーゲルブレードを展開したままガッチリと両手を組み合わせる。ユーノはその光景にとてもデジャブを感じずにはいられなかった。

「こ……この流れは……」

 ユーノがハッとすると同時に、なのはとシュバルツが叫んだ。

「超級覇王!!」

「シュツルム・ウントッ!!」

 何故か走る稲妻をバックに、なのはの体が頭を残して猛回転する『気』の塊に包まれ、シュバルツの体が独楽の如く高速回転を始め、辺りに大風が吹き荒れる。

「わあああっ! ちょっと待ったああっ!!」

 この流れは大抵何かやらかす時である。ユーノは慌てて制止しようとするが時既に遅し。やっぱり全く話を聞いてない2人は止めだとばかりに、

「電・影・弾っ!!」

「ドランクゥゥンッッッ!!」

 『気』の塊と化したなのはと高速回転する人間独楽シュバルツが、とんでもない勢いで超巨大暴走体にぶち当たった。凄まじい閃光と轟音が響き渡る。
 激突したなのはは上空に舞い上がり、お馴染み『流派東方不敗』のポーズをビシッと決めた。

「爆発っ!!」

 その瞬間、暴走体は大爆発を起こして跡形も無く吹き飛んでしまった。ちなみにシュバルツは、ブレードを構えて水面に立ちキメポーズである。
 爆発が収まる中、ユーノは『ジュエルシード』が無事なのかとても心配だった。あの人外少女達は前にもやらかしているので、とても不安だ。

 余波の薄煙の中、爆発の中心部になのはとシュバルツが近寄って行く。その様子をアルフも抱き抱えられたフェイトも心配そうに見守っている。
 魔法少女?2人は其処で何やら唸っているようだったが、ユーノ達に振り返ると爽やかな笑顔を浮かべ、

「喜べ! 『ジュエルシード』は無事だ! ぬわっはっはっ!!」

 シュバルツも満足げに頷き、回収した『ジュエルシード』を示して見せた。

「見ろ、3個も無事に残っているぞ! フフハハハハッ!!」

 ユーノ、フェイト、アルフの3人は真っ白になっていた。あまりにも堂々と言われたので一瞬意味が解らなかったのである。もうしばらくして、したくはなかったが現実を理解した。

「「阿呆かあああっ!! 結局3個も壊してるじゃないかあっ!? アンタら頼むからもう帰れええええっっっ!!」」

 ユーノとアルフの魂のツッコミが炸裂した時である。突如その一帯を、凄まじいまでの落雷が襲った。
 それはまるで、この馬鹿者共があっ!! と言わんばかりの怒りの落雷であったそうな……


つづく



皆さんお待ちかねええっ! 突如として降り注ぐ落雷。それは戦いへの前奏曲なのです。無数の鋼の大軍団の包囲。なのははいかにして立ち向かうのでしょうか? そしてクロノの運命は? そして現れる者とは!?

魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠突入すの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




※感想返しです。

いいい様>3個残ったらいい方だと言うことで。(酷)ミニなのは達はジョジョのセックスピストルズと一緒で、ご飯を食べさせないと働きません。攻撃力が高いので迷惑度はGより遥かに上なのです。

トネ様>しかしプレシアにも奥の手が有るかもしれませんよ。原作ではなのはと直接対決は無かったですが、これだと……

与作様>魂の炎を燃やせば砕けぬもの無しだそうなので。確かにフェイトそんなんてもろリアル系ですよね。それでも立ち向かうフェイトそんなのです。

ルファイト様>取り合えずジュエルシード『の』受難は終わりますが、他が……(汗)

zzz様>Gガン世界の常識がデフォの2人なので他は迷惑極まりないのです。ユーノのツッコミを聞いても、他の人も修行すれば大丈夫だろうと思っているのです。明鏡止水がデフォになったらフッケバインなんて直ぐ捕まってしまいますねえ。

ddi様>このお話しだとGガン勢は最強と言うより、常識を無視するボケの変態達ポジなのです。プレシアママン大激怒。怒りの進撃が始まるかもしれません?

三振王様>一気読みありがとうございます。シュバルツバレバレですが、気付かぬ振りをしてあげてください。(笑)確かにレヴィ達ならノリノリそうですね。おばかなお話しですが、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです。






[32932] 第15話 師匠突入すの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/07/07 19:32
 さて皆さん……突如としてなのは達を襲った落雷の嵐。それは壮絶な戦いへのゴングなのです。自ら死地に向かうなのはとユーノは如何にして戦い抜くのでしょうか? そしてクロノの運命は?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!

 師匠突入すの巻



 突如なのは達を襲った紫の光を放つ落雷。それは凄まじいばかりに荒れ狂った。
 丁度此処一帯に、落雷の爆撃と言った感じでビカビカ落ちている。次元跳躍型の砲撃魔法だ。
 その攻撃は次元空間に係留中の『アースラ』にも襲い掛かっていた。ただでさえミニなのはのせいで大騒ぎだった艦内は、混乱しまくっている。

「何だ!?」

 枕カバーにくるまった正体不明の敵(ミニなのは)を追っていたクロノは、砲撃の衝撃に足を取られてしまう。
 その隙に枕カバーは武装転移ポートにチョロンと駆け込んだ。ポートが起動している。破壊工作の合間に操作をマスターしていたらしい。

「逃がすかああっ!!」

 クロノも後を追ってポートに飛び込み、器用にパネル操作していた枕カバーに掴み掛かる。

「……のおおっ!!」

 しかし枕カバーは巧みにクロノの手をすり抜け、最後のスイッチをポチッとなと押した。それとほぼ同時に光が2人を包み込んだ。

「しまった!?」

 時既に遅くクロノと枕カバー(ミニなのは)は、眩い光の中にあっという間に消えてしまった。





 さて……話は戻って、凄まじい魔法砲撃の中なのはは……

「儂は此所だあっ!!」

 などと腕組みで降り注ぐ落雷をひょいひょいかわしていた。ユーノもあたふたしながらも何とか避ける。
 一方のフェイトとアルフにとっては、最悪のタイミングであった。フェイトは大規模魔法で消耗していて咄嗟に動けない。アルフもそんなフェイトを抱えていて逃げ遅れてしまった。

「母さん……?」

 何かを察したフェイトが呟いた時、一際大きな落雷が2人を襲った。直撃コースである。

「何をボサッとしておる!!」

「危ない!!」

 なのはとシュバルツが飛び込んで来て、2人を思いっきり突き飛ばした。危ない所であった。
 ところが馬鹿力で押されたフェイトとアルフはピョ~ンと跳ばされ、タイミング悪く別の落雷に見事に直撃を食らってしまった。

「「うぎゃああああああぁぁぁぁっ!?」」

 2人の悲鳴が仲良く潮風に乗って辺りに響き渡る。

「「あっ……」」

 なのはとシュバルツは揃って頭を掻くが、とても良い笑顔を浮かべ、(片方は覆面越しに)

「危ない所であったな……」

「ウム……あれしきで済んで良かった……」

「アンタら頼むから、少しは反省してくれええええっ!!」

 ユーノは落雷に右往左往しながらも、律儀にツッコミを入れる。ナイスツッコミ根性であった。
 ヒュルル~と海に落下して行くフェイトとアルフ。流石に助けに行こうとしたなのはとシュバルツに、一際強力な落雷がまた落ちて来た。

「母さん……?」

 シュバルツはハッとして、ついさっき誰かさんが漏らした台詞と同じ台詞を呟いた。一瞬動きが止まってしまう。

「シュバルツ、何を呆けておる!!」

 なのはの叱咤に我に帰ったシュバルツは、寸での所で落雷を避けたが……

「シュバルツ……貴様……」

 なのははシュバルツを見て、思わず声を漏らしていた。砲撃の余波で覆面が裂け、ハラリとドイツ国旗配色の覆面の切れ端が海風に舞う。

「お……お前その顔は!?」

 露になった覆面ちびっ子の素顔を見て、なのはは思いっきりデシャヴを感じた。似たような状況が前に……
 ユーノは気になって素顔を見ようとするが、シュバルツは直ぐに服の裾で顔を隠してしまったので見そびれた。
 なのはは覆面が破けて、只のちびっ子になったシュバルツを少々ウンザリしたように見て、

「……あれか……? また前と同じきょ……」

「ええいっ、言うなあっ!! 例え読んでる方々にバレバレだろうと、まだ秘密にするのがお約束というものだ!!」

 シュバルツは思いっきりのメタ発言で、なのはの言葉を遮る。まだ隠し通すつもりらしい。例え明らかに声が一緒だとか、Edのキャストが一緒だとかは見なかった事にするのが正しいようだ。

「そんな事はどうでもいい!!」

 シュバルツは全てをこれで通せる捨て台詞を残し、金髪をひるがえして海に落ちて行くフェイト達の元に降下して行く。それを呆れ半分で見ていたなのはは、上空に異常を感じ取り顔を上げた。

「ぬっ?」

 降り注ぐ落雷の中、宙に浮かんだままの『ジュエルシード』とフェイト達の真上にそれぞれに、光る魔方陣が浮かび上がっていた。

「あれは転移魔法だ!」

 ユーノが察して声を上げる。このどさくさに紛れて『ジュエルシード』とフェイト達両方を回収するつもりらしい。するとなのははニヤリと笑い、

「行くぞユーノ!」

「えっ? なのはどうするつもり……わああっ!?」

 言うが早いが、なのははユーノの襟首をむんずとひっ掴み、位置的に近い『ジュエルシード』を転移しようとしている魔方陣ゲートに向かって飛び出した。

「決まっておろう! このままフェイト達の本拠地に乗り込むのよぉっ!!」

 なのはのとってもシンプルな答えに、ユーノは青くなった。

「まっ待ってよなのは! 何処に出るかも分からないのに、転移魔法に強引に割り込むなんて無茶苦茶だあっ!!」

 デリケートな空間転移魔法に割り込むのは、どう考えても危険行為である。まともな魔導師ならまずやらないのだが……

「たわけがあっ! 虎穴に入らねば虎児を得ず! 危険を冒さずにして何を得られようぞ!!」

 喝! とばかりのなのはである。

「危険も何も無理だあっ! 離してくれええええっ!!」

「無理を通して道理を叩き壊すが『流派東方不敗』なり! これしき気合いで何とでもなる!!」

 なのはは、あらゆる物理法則を根底から無視する根性論をぶち上げる。多分Gガン世界の自然法則なのであろう。

「分かったよおっ! もうヤケクソだああっ! なのはに非常識に賭けるよおっ!!」

 観念した半泣きのユーノは、少しでも影響を減らそうとフェレットモードになってなのはの肩にしがみ付いた。ゲートはもう閉じ掛けている。なのはは更に速度を上げた。
 すると今度はなのは達の前に、いきなり別の魔方陣が現れた。其処から飛び出して来る黒衣の少年とちっさい者。
 枕カバーを頭に被せられて懸命に外そうとしているクロノと、それを押さえ付けているミニなのはであった。

「わあああっ!? ぶつかるううううっ!!」

 突入コースに割り込んで来たクロノ達。このままでは激突してしまう。ユーノは毛を逆立てて悲鳴を上げた。なのははギラリと、鋭いような気がしないでもない笑みを浮かべ、

「問題無い! 儂の兵法の内よおおっ!!」

 暴れているクロノを殆ど激突する勢いでひっ掴む。クロノは『グハアッ!?』と衝撃で声を上げて動かなくなり、ミニなのはは『なのお~っ』となのはの体に戻った。
 その間にも『ジュエルシード』がゲートに吸い込まれる。このままでは間に合いそうに無いが、

「ぬわあああああぁぁぁぁぁ~ぁぁぁっ!!」

 ドップラー現象を起こし、猛スピードのなのはは衝撃波を上げてゲートの中に強引に突入した。殆ど特攻である。
 本当に無理矢理気味に、なのは達は狭いゲートの中に吸い込まれ消え失せた。
 何だか閉まる寸前のゲートを、なのはが殴って広げた気がするが、きっと目の錯覚であろう……








 稲妻が走り、暗雲のような渦がとぐろを巻く高次元空間に浮かぶ、巨大な異形の大地。丘を丸ごと改造した巨大次元航行船『時の庭園』である。
 その転移ポートの前に、いかにも悪の女幹部然とした派手な格好の女性が立っていた。フェイトの母親『プレシア・テスタロッサ』である。
 見守る前でポートが光り輝き、気絶しているフェイトとアルフが転移されて来た。そしてほぼ同時に『ジュエルシード』が転移されて来るが、ついでに数名の人影がポート内にドサリと投げ出された。

「なっ何っ!?」

 予想外の事に驚いて、プレシアは思わず後退る。ポートに投げ出されたのは、なのはとユーノ、それに頭に枕カバーを被せられ動かないクロノであった。
 流石になのはも目を回して、尻餅を着いてしまっている。何はともあれ、気合いで無事目的地に着いたようだ。

「ぬうう……着いたのか……?」

 なのははクラクラする頭を振り顔を上げた。ユーノも投げ出された床から体を起こし、打ったお尻を擦る。

「痛ててて……」

 ふと隣を見ると、頭に枕カバーを被せられたクロノが、思いっきりなのはのお尻の下敷きになって伸びていた。訳も判らない内に連れて来られた上にこの有り様。彼に取っては災難であるが……

(そう言えば……これも策の内とか言ってたけど……)

 ユーノが、ゲート突入前になのはが言っていた事を思い出すが、尋常ならざる気配を感じて周りを見ると……

「いっ!?」

 ギョッとしてしまう。何故なら西洋の鎧騎士に似た3メートルくらいはある巨人達に、周りをグルリと囲まれているではないか。機械の兵士傀儡兵だ。その中央に立つ女性、プレシア・テスタロッサは冷たい眼差しでなのは達を見下ろし、

「あなた達は何者なの……?」

 感情を感じさせない声で、訳の判らない珍入者達を問い質して来た。傀儡兵達は槍や剣を構え、何時でも攻撃出来る態勢である。返答次第ではただではおかんと言う事であろう。中々に最悪な状況だった。
 しかしなのはは軽く頭を振ると、周りの状況をまるで気にせず悠々と立ち上がり、

「お初にお目に掛かる、儂は『流派東方不敗』高町なのは! 無敵を目指す拳法家です。フェイトの母上とお見受けする!」

 掌に拳を合わせ、拳法家独特の挨拶で高らかに名乗った。
 プレシアは少女のあまりにも堂々とした態度に、少々気圧されたようだったが眉を寄せ、

「その拳法家が此処に何の用なの……? これは明らかに不法侵入よ……どんな目に遭っても文句は言えないわね……」

 その眼が寒気を覚える程に狂気を帯びる。だがなのはは狂気の眼差しを、そよ風のように軽く受け止め、

「故あって無断で上がり込んだ非礼は謝罪しましょう……許されよ。これも貴女に是非話を聞いて貰いたいが故……」

 プレシアは不審感全開な顔をする。本拠地にまんまと来られてしまったのだから無理も無い。
 それに加え目の前の少女が『ジュエルシード』を、妙な覆面少女と共に破壊してしまう様子はモニターしている。得体の知れない事この上無かった。
 なのはは直ぐにでも攻撃命令を出しそうなプレシアの目を、しっかり見据え、

「話とは他でも無い、フェイト・テスタロッサ、娘御を儂の弟子に迎えたい……如何であろう?」

「はっ……?」

 プレシアは首を捻った。なのはが何を言っているのか理解出来なかったのである。いや意味自体は分かるが、本拠地に乗り込んで来て、剣を突き付けられながらそんな話をするのが解らないのだ。
 やっぱりなのはは気にした風も無く、

「娘さんには才能がある……修行を積めば何れ『流派東方不敗』の屈強な拳法家となるでしょう……如何かな?」

「……その話を信じろと……? 信用出来ないわね……それにそれで此方に何の得があると言うの……?」

 プレシアは疑念の眼を向ける。やはり全く信じてないようだ。固唾を呑んで2人のやり取りを見ていたユーノは、そうだよな……と思う。
 なのはの言っている事は全部心の底からの本音なのだが、他から見ると胡散臭い事この上無い。尤も彼女もそんな事は百も承知なのか、ニンマリと人を食ったような笑みを浮かべ、

「そう言われると思ってな……これを……」

 枕カバーを被せられたまま、床に伸びているクロノを指差し、

「こ奴は時空管理局の執務官なる者です……そちらと敵対していたようなので捕らえておいたもの。色々と取り引きに使えると思いましてな……」

 ユーノは青くなり、プレシアは管理局の名を聞いて表情を険しくする。なのはは心配無用とばかりに笑って見せ、

「勿論デバイスは既に捨ててあります。管理局に発見される事も無ければ、暴れられる事もありません……これで少しは信用されようか?」

「……」

 プレシアは無言でクロノをセンサーで調べてみる。言う通りデバイスは持っておらず、発信器の類いも無い。確かに嘘を吐いてはいないと判断するが、まだ疑わしそうだ。
 ユーノはなのはがどうする気なのか解らず気が気では無い。なのは澄まし顔で、右腕の『レイジングハート』をおもむろに掲げて見せ、

「では……此方は既に5つ『ジュエルシード』を確保していると言ったら何とします……?」

「!!」

 プレシアの表情が明らかに変わった。歓喜に震えるように肩を小刻みに揺らし、物騒な表情でなのはを見下ろし、

「所詮は子供ね……だったらアナタから『ジュエルシード』を取り上げればいいだけの話よねぇっ!?」

 その声に従い、傀儡兵達が一斉に一歩前に踏み出し、なのはに剣をピタリと突き付ける。不敵な少女は腕組みして涼しい顔だ。ユーノが嫌な汗をかいた時、

「待って母さん!!」

 フェイトの声が響いた。見ると意識を取り戻したフェイトが、アルフと共に立ち上がっている。プレシアに向かい、

「そんな事をしたら、その子は『ジュエルシード』を壊してしまいます……! 盾に使うつもりです!」

「うっ……」

 プレシアはなのはの暴れっぷりを思い出しハッとした。信じ難いが、あれだけ見せ付けられては信じるしかない。

「ふふふ……良い判断だぞフェイト……」

 なのはは教え子を誉めるような調子で微笑する。その通りで、此方も最初から取り引きに使うつもりで集めて来たのである。フェイトは無言の母に必死に頼む。

「母さんお願い、私にやらせて下さい! 必ず『ジュエルシード』を無傷で手に入れてみせます!」

 プレシアは妙な顔をして、そんなフェイトを見ている。しばらく考え込んでいたが、

「……いいわ……やってみなさい……ただし必ずよ……大魔導師プレシア・テスタロッサの娘に失敗は許されないわ!」

「はいっ!」

 フェイトは勢い込んで返事をする。普段大人しい彼女にしては珍しかった。そんな娘を見てプレシアはボソリと、

(…………もこういうノリが好きだったわね……)

 誰にも聞こえないように呟いていた。それに気付かないフェイトは振り向いて、腕組みしているなのはの前に敢然と立ち、

「あなたに1対1の勝負を申し込む……勝った方が相手の言う事を何でも聞く。あなたの言う条件で決着を着けよう!」

「面白い! その魔導師ファイト受けて立とうぞ!!」

 なのはは愉しそうに即答する。フェイトは偉そうな少女の真っ正面に立ち、キッと目線を合わせた。
 火花が散りそうな睨み合いである。2人の背後に稲妻が走り、対峙する龍と猛虎が見えた……ような気がするくらいの気迫であった。
 ユーノは少女達の闘志に、ゴクリと唾を飲み込む。ちなみに伸びているクロノの枕カバー下の顔は、何故か幸せそうであったと言う……



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! ジュエルシードを賭けて激突する、なのはとフェイト2人の魔法少女。フェイトは如何になのはに立ち向かうのでしょうか!? そしてクロノは反撃の時を牙を研いで待つのです!

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠腕を奮うの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想返しです。

パルメ様>気付かないふりをしてあげてください。フェイトとアレをやるまでは隠すつもりなのです。

荒覇吐様>中の人が最近そういう系の役を良くやってらっしゃるので、前よりイメージしやすくなりました。プレシア母さんはこれからが本番なのです。ユーノのツッコミは最後まで続くのです。貴重なツッコミ役ですから、出番は減らないですよ。フェイトの将来はこれからで。ニコニコ調べてみすね。執筆がんばります。

いいい様>ダレなんでしょうね……(棒読み)プレシア母さんも病気ですからねえ。その辺りは言うかもしれません。

魅月様>ミニなのは達から逃げ回ったり、なのはに付き合っている内に著しく危機回避能力が上がっているユーノでした。このまま行けば魔導師では敵う者は居なくなるかもしれません?

トネ様、ぱ様>なのはにもまだ不馴れな所もあり、前よりかなり弱体化しているので、フェイトは例の下手な魔法も数打ちゃ当たる作戦で挑みます。フェイトに感情移入して読むといいのです。

zzz様>その作戦だと今のなのはは負けてしまうかもしれませんね。何だかんだ言ってもまだ子供の身体ですから。

ななん様>なのはに付き合ってるのと、ミニなのは達の襲撃から逃げているので危機回避能力が異常に上がっているユーノでした。まあそれ以前に、原作であれに当たっているのアースラを除けば、フェイトだけなんですよね。広域魔法で正確性は無いだけかもしれません。

パン様>関西弁の子はすごく逞しくなってしまうかもしれません。ユーノに負けじとツッコミ思案に? とある人物本人のせいで……闇の書は違った意味で大変な事になりますよ。

kira様>言われてみれば…

jtgma様>フェイトにドモンの魂は宿ったりはしてないですが、A's編から本人が出てしまうかもしれません。ヴォルケンリッターは違う意味で大変な事に……

イマラ様>此方に来ていました。せっかくネタがSTSまで有るので、チマチマと続きを書いて行きたいと思います。お付き合い頂ければ嬉しいです。




[32932] 第16話 師匠腕を奮うの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/09/30 10:54
 さて皆さん……遂に時の庭園に入り込んだなのは達は、これから如何に動いて行くのでしょうか? 各自が想いと決意を新たにし、決戦の火蓋は切って落とされるのです。
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠腕を奮うの巻



 『時空管理局』執務官クロノ・ハラオウンは、ぽかーんとしていた。
 目が覚めたら、自分が何処か知らない場所に閉じ込められているのだから当たり前である。最後に覚えているのは、ふんわりと良い香りのする柔らかな感触だけだ。

「……何が……どうなってるんだ……?」

 クロノは辺りを見回してみる。ゴツゴツした岩肌にポッカリ空いた穴の中のようだ。入り口にあたる部分には魔法障壁が張られている。
 元在ったものに加工を施した、簡易式の牢獄という所である。当然のようにデバイスも無い。取り上げられたのだろうと思った。

(何はともあれ、早く此処から脱出してデバイスを取り返さないと!)

 クロノは混乱から立ち直り、己のすべき事を冷静に判断する。注意深く脱出の隙が無いか周りを調べ始めた。若くして数々の事件や実戦を経験して来た彼は、こんな状況でも判断能力は損なわれたりしないのだ。
 チェックした結果、岩部分は頑丈な上障壁部分にも脱け出せそうな隙間は無い。デバイス抜きでは厳しいようだ。
 どうしたものかと頭を捻っていると、人の足音とガチャンガチャンという金属音が聴こえる。誰か来たらしい。身構えるクロノの前に現れたのは……

「ふふふ……良いザマだな管理局よ……」

「君は!?」

 可愛らしいが偉そうな爺くさい言葉使い、食事のトレイらしき物を持った高町なのはである。肩にはフェレット形態のユーノがちょこんと乗っている。そして2人の後ろには、3メートルは有りそうな鎧の機械兵士、傀儡兵が巨大な剣を携えて着いて来ていた。
 なのはに捕らえられたのかと思い、体を緊張させるクロノだったが、直ぐに傀儡兵がなのは達を監視している事に気付いた。

《その通りだクロノよ》

「!?」

 クロノの頭の中になのはの声が響く。彼女が思念通話で話し掛けて来たのだ。

《儂らも監視されておる……こちらの言う事に合わせておけ……向こうは儂がお前を捕らえたと思っておる》

 クロノは取り合えずなのはの言う通り、『何故こんな真似を?』などと敵対する素振りを見せながら念話を送る。

《一体何がどうなっているんだ? 何故君達が……?》

《うむ……実はあの『ファイト・デストラップ』めに、以前の事で恨まれてあたようでな……改めて勝負を挑まれ、奴らの本拠地に連れて来られたのよ。不意に転移させられ、多勢に無勢ではどうしようもなかった……》

 ヌケヌケと大嘘を吐く高町なのは9歳である。あまりに堂々としているので、レッドな嘘とは夢にも思わないクロノは同情し、

《そうか……それは災難だったね……済まない、僕達がもっと早く対応していれば……でも僕は何故此処に?》

 なのはは表面上はクロノに、『いいザマだな管理局よ、これは武士の情け、大人しくしておれ』などと悪い台詞を吐きながらトレイを見せる。炒め物や炒飯などが盛られている。

《奴らが妨害目的でアースラにスパイを送り込んでいたらしい……どうやらクロノはそ奴の脱出に巻き込まれたようだな……一緒に此処に転移してしまったのだ。あのままだとお前の身が危なかったのでな、儂が奴らを信用させる為に、敢えて捕らえたふりをした訳だ……》

《そんな事が……感謝するよ……》

 思いっきり真に受けた少年執務官は、素直にお礼を言う。念話を一緒に聞いていたユーノは、引きつった笑みを浮かべた。

(……騙されてる……騙されてるよクロノ……君の災難は全部なのはのせいなんだよ……)

 もの凄く良心が痛んだが、なのはは至って平常運転である。老獪?な少女は、牢獄の隙間からトレイを中に入れ、

《こうなっては仕方あるまい……明日ファイトとの魔導師ファイトを行う事になっておる、その隙にお前のデバイスを取り返してやろう。今は機会を待つのだ》

《だがそれでは君が……》

《気にする事は無い……長居すると怪しまれる、ここは儂に任せておくが良い……》

 今の状況でそう言われては、クロノは黙るしか無い。クルリと踵を返したなのはは立ち去りながら、

《安心せい、その料理は儂が作ったものだ、魔導師ファイトの時まで逃げない限り、少しは自由にさせてくれたでな。さあ食え! そして大きく一人前……いや、英気を養っておくが良い》

 振り返らず、偉そうな彼女は奥へと消えて行った。



 なのは達が立ち去った後、クロノはひどくお腹が空いていたせいも有り、なのはが置いていった料理を口にしてみる。庭園に有った有り合わせの材料で作った四川料理である。

「何だ? 凄く美味い!」

 一口食べて美味しさに驚いた。流石は元マスターアジアが腕を奮っただけの事はあり、料理はお手のものである。あっという間に平らげてしまっていた。


 一方、振り向いて遠のくクロノの姿を、同情の眼差しで見るユーノは念話でなのはに尋ねてみる。

《クロノを一体どうする気なんだい?》

《ふふふ……あ奴は腕が立つ……現時点ではフェイトも敵うまい……色々と役に立ってもらうのだ、駒として!》

(鬼だ……鬼が居る!!)

 それが目的で連れて来たらしい。青くなるユーノになのはは、ニンマリ悪い笑みを浮かべて見せ、

《日本のことわざにこの様なものがある……『立っている者は親でも使え』だ。ぬわっはっはっ!》

 念話で高笑いする。ユーノはクロノの無事を心から祈るのであった。






 ファイト……ではなく、フェイトの自室である。彼女はベッドに座り込んで、静かに目を閉じていた。
 愛機『バルディッシュ』から送信される戦闘データを元に、頭の中で仮想戦闘を行っているのである。
 なのはとの決戦は明日という事になった。大規模魔法を使用したフェイトに、即日ファイトは不利であろうと、なのはからの提案である。アルフは仮想戦闘に集中する主人を心配そうに見守っている。

 それからしばらくの時が過ぎ、ふとアルフは自分の影に違和感を感じ首を傾げた。影が勝手に動いているような気がしたのである。
 何だろう? と目を凝らすと、突如影の中からニョキッと頭が出て来た。

「わあっ!?」

 びっくりして声を上げるアルフの影から、腕組みした覆面ちびっ子がデロンッと現れる。シュバルツ・シュベスター見参であった。

「調子はどうだ? フェイト・テスタロッサよ……」

「シュバルツ……?」

 丁度仮想訓練を終えたフェイトが気付いて顔を上げる。アルフは口を尖らせて、

「まったく……普通に出て来れないのかい……? アンタの出方は心臓に悪いんだよ……」

 ぶつぶつ文句を言うが、シュバルツはどこ吹く風だ。これが彼女にとっての普通なので、何故文句を言われるかピンと来てないのである。フェイトは馴れてしまったのか特に気にせず、

「アルフとバルディッシュとで考えた、『下手な魔法も数撃ちゃ当たる作戦』が上手く行けば……」

 静かに気迫の籠った返事をする。アルフは作戦名は変えた方がいいと言ったのだが、フェイトは何故か気に入ったようでこのままである。

「ウム、そうか……心せよフェイト・テスタロッサ!」

 シュバルツは満足げに頷いた。フェイトは待機状態のバルディッシュを掌に載せ、

「母さんの為にも必ず勝ってみせる……! バルディッシュと一緒に……」

 愛機を労うように擦るフェイトを見てシュバルツはふと、

「大事にしているのだな……」

「うん……『リニス』が私の為に遺してくれたものだから……」

 フェイトは懐かしむように遠くを見詰めた。アルフもその名前が懐かしいのか、ほっこりと笑みを浮かべている。

「リニス……」

 シュバルツはその名前に心当たりが有るのか、懐かしげにポツリと呟いた。フェイトはそれに気付かず、

「私の魔法の先生で、母さんの使い魔だったんだ……」

 彼女にとっては先生である上に、もう1人の母親も同然だった。シュバルツは悼むように両眼を閉じ、

「ならば……バルディッシュは、リニスの分身だな……?」

「……そうだね……」

 フェイトは愛機を胸に抱き微笑んだ。シュバルツは湿っぽくなった場の雰囲気を、消し飛ばさんばかりの勢いでカッと目を見開き、

「バルディッシュはリニスの分身、すなわちフェイト、お前とリニス、バルディッシュは三位一体と言う事だ! リニスもお前の戦いを何時までも見守ってくれているぞ!!」

 両拳を腰でガッチリ握り締め、絶叫せんばかりの派手なポーズ付きで力説する。

「三位……一体……?」

「要するに、3人で1人と言う意味だ!」

 どこぞの鉢巻き男と同じような発想だがそれは置いといて……シュバルツの説明で意味を何となく理解したフェイトは、強く頷くと明後日の方向を見上げ、

「リニス……私必ず勝ってみせるよ!」

「その意気だ、フェイト・テスタロッサ!!」

 シュバルツもフェイトと同じ明後日の方向を見上げ、ビシィッと何も無い空間を指差すのであった。
 気のせいか、呆れ顔をした猫耳の女の人がため息を吐く幻が見えた気がするが、きっと幻覚であろう。
 アルフは2人のやり取りを見てポツリと、

「……いい話なんだろうけど……何でこう暑苦しくなるんだろうねえ……?」







ーーーーーーーーーーーー






 決戦の時は来た。なのはとフェイトはバリアジャケットを纏い、海に浮かぶ広大な島で向かい合っていた。島の周囲には朽ち果てた高層ビル群が海面から上部を覗かせ、朽ちた姿を晒している。
 此処には全く生き物の気配が無い。2人の立っている島は、ゴツゴツした崖や岩が目立つ天然の要塞のようだ。何か『ランタオ島』にそっくりな気がするのに加え、沈んだビル街は『ネオ・ホンコン』っぽい。
 その様子を少し離れた廃ビルの屋上で、少年姿のユーノとアルフが固唾を飲んで見守っていた。するといきなり2人の傍らから、

「訓練用の戦闘空間か……擬似空間に訓練用のレイヤー建造物……誰にも見付からず、どんなに壊しても大丈夫という訳か……」

 声が響く。2人が驚いて見ると、周りと同じ景色の色の布を被ったシュバルツが、腕組みして横に立っていた。

「君はシュバルツ・シュベスター! やっぱりこの子達の仲間だったのか!?」

 ユーノは、こそ泥みたいに身を隠している覆面ちびっ子に問うが、

「そんな事はどうでもいいっ!!」

 見も蓋も無く一喝されてしまった。アルフはたじろぐユーノの肩をポンと叩き、

「……あれは口癖みたいなもんだから……」

「はあ……」

 敵に気を使われてしまった。気の抜けた返事をするユーノを尻目にシュバルツは、対峙する人外少女と魔法少女を腕組みしてじっと見詰める。

「正しくルール無用のデスマッチ……フェイト・テスタロッサよ、どう闘う……?」

 いかにも通じていそうに呟くのだったが、布を頭から被ったままなので、少々おマヌケである。一応身を隠しているようだ。
 ユーノは一言言ってやりたかったが、問答無用で訳の判らない説教を聞かせられる気がしたので止めておいたのは賢明か……


 さて……フェイトはバルディッシュを両手で構え半身になる。何時でも始められる態勢だ。

(母さんの為にも……必ず勝って『ジュエルシード』を手に入れる……!)

 悲壮なまでの決意で闘いに挑むフェイトに対し、なのははごく自然体で不敵に笑みを浮かべ、

「フェイトよ死ぬ気で掛かって来い! お前の全力見せてみよ! 儂が全て受け止めようぞ!!」

 右腕のキング・オブ・ハー……では無く、『レイジングハート』をグイッと前に突き出す。そして2人は正面から睨み合った。空気がピリピリする程の緊張感が辺りを支配する。陰と陽が交差する刹那の瞬間、なのはは高らかに声を上げた。

「行くぞぉっ! 魔導師ファイト、レディィィッ……」

「ゴオオオォォッ!!」

 ファイトが釣られて叫ぶ。2人の闘いが始まった。

 何処からともなく『ゴッドフィンガー』を繰り出す時のBGMが、聴こえて来るような気がするが幻聴であろう。

 金色の光が空に向かって弾丸の如く飛び上がる。それを追って急上昇する桃色の光。2つの光が高速でぶつかり合いながら空を舞う。
 金色の光、フェイトから無数の電光の槍が射ち出され、桃色の光、なのはを襲う。ジグザグに飛んで『フォトンランサー』をかわすなのは。外れた槍が爆発を起こし、巻き添えで廃ビルが崩れ落ち岩礁が砕け散る。
 まるで2匹のミニ怪獣が暴れているようだ。フェイトは徹底して遠距離からの砲撃魔法を繰り出す。マシンガンどころか、ガトリング砲のような連射である。しかし……

「ぬわああああっ!!」

 その凄まじい連射を、なのはは避けもせず正面から受け止め、ことごとく拳で跳ね返す。砲撃の僅かな間隙を突き、組み合おうとしないフェイトを追って、バーニアを噴かすように飛び出した。
 しかしフェイトは巧みに空中で急停止し、上昇に移る。勢い余ったなのはは追い抜く形になり、背後を取られてしまった。
 背後に回ったフェイトは空かさず、フォトンランサーの連射をなのはに撃ち込む。
 Gガンダムの実況中継風だと、

『ああ~っと! やはり空中戦ではフェイト・テスタロッサが有利なようです! 徹底して自分の得意分野で闘うつもりなのでしょう! 高町なのはこのまま追い詰められてしまうのでしょうか!?』

 と言ったところである。それはともかく、フェイトの執拗な攻撃が続く。

「甘いわあっ!!」

 それでも動じないなのはは、レイジングハートの右腕の一振りでランサー軽々と殴り飛ばした。

(くっ……やっぱりそう簡単には行かないか……)

 フェイトは反撃を警戒し距離を取ろうとする。しかしそこに襲い来る闇色の光弾。なのはの『ダークネスショット』である。

「はあああっ!!」

 フェイトはバルディッシュをサイスフォーム、電光の鎌に変型させ、辛うじて光弾を切り裂いた。魔力爆発なのか微妙な爆発が辺りを覆う。爆煙に紛れてフェイトは、更に距離を取ると煙の中から声が響く。

「さあ! 次々と掛かって来んかあっ!!」

 なのはが両手で手招きしている。その姿が少女にも関わらず妙に怖い。フェイトはキッとなのはを見据え、愛機を大きく振りかぶり構えた。

(やっぱり恐ろしく強い……接近戦だと絶対に勝ち目は無い……砲撃魔法? は有るし、こんな短期間で飛行魔法も格段にレベルアップしてる……でも!)

 黒い魔法少女はバルディッシュを槍のような突撃形態に変え、最大スピードで突っ込んだ。

(負ける訳には行かないんだ!)

 スピードなら負けないと、一撃離脱戦法に出たのだ。バルディッシュの鋭い切っ先がなのはに打ち込まれるが……

「っ……!」

 フェイトはギリッと歯噛みした。最大速度で繰り出したバルディッシュの切っ先を、なのはの左手がガッチリ掴んでいる。完全に見切られていた。

「良い一撃だ……だがまだまだだ……繰り出す攻撃の1つ1つに己の魂を込めるのだ……」

 人外少女は歯を食い縛る金髪少女を真っ直ぐに見据え、

「さればそれは、己の魂を伝える道具となる!!」

「えっ……?」

 その言葉に何か感じるものがあるフェイトだったが、言うだけ言ったなのはは容赦無く、バルディッシュごとフェイトを思いっきり投げ飛ばしてしまった……





「いくらあの子が凄い魔導師でも、なのはに勝てる訳がない……」

 現時点までの戦況を見て、ユーノは素直な感想を呟いた。高町なのはという少女の人外っぷりは、嫌と言う程見て来ている。安心して見ていられると言うものだが……

「フフフ……果たしてそうかな……?」

 布を被ったまま腕組みしているシュバルツが聞き留めて、話し掛けて来た。ユーノは覆面少女の態度に疑問を感じ、

「どう言う意味だい? なのはの事を前から知っているなら、この戦いは無謀だと思わないのかい?」

 するとシュバルツはフッと鼻で笑い、

「確かに高町なのはは強い……だが今の奴は以前に比べて遥かに劣る上に、明らかにまともに攻撃を受け過ぎている……」

「そう言えば……魔法防御も、得意の『マスタークロス』も全然使ってない?」

 ユーノはここまでのなのはの闘いを思い返した。確かになのはは、敢えて避けていないように思える。シュバルツはギロリとユーノを見やり、

「おそらく言葉通り……フェイトの全てを受け止めるつもりなのだろう……だが今の小さな子供の体でどこまで保つかな? それが命取りにならないと果たして言えるか!?」

 問答無用のデカイ態度と圧迫感に、ユーノはちょっと後退る。どうやらこの覆面少女は、その辺りも計算しているようだ。

(後はお前次第だ……やれるか? フェイト・テスタロッサ!!)

 シュバルツはドモンのガンダムファイトを見守るように、戦況に再び目を向けた。






 投げ飛ばされたフェイトは、空中で姿勢を整え再びなのはと距離を取って対峙する。しかしかなり消耗してきていた。
 これまで砲撃魔法を撃ちまくり、休み無くトリッキーな高速飛行を続けて来たのだ。消耗して当然だったが、なのははまだピンピンしている。鍛え方が違うのである。

(でも……こっちの狙いには気付いてない筈……)

 フェイトは汗でグリップが甘くなるバルディッシュを握り直す。しかしそれは、ほんの僅かな隙になっていた。それを見逃すなのはでは無い。

「はっ!?」

 フェイトが気付いた時にはもう遅い。一瞬で間合いを詰めたなのはが目前に迫っていた。

「ダァァクネスッ、フィンガアアアアッ!!」

 闇色に輝く左手が迫る。フェイトは咄嗟に防御魔法を前面に張り巡らすが、一撃で防御を砕かれ廃ビルに叩き付けられてしまった。

「かはっ……!」

 壁をぶち抜き、背中を強打して呻くフェイト。薄れて行く意識の中、

(……もう少しなのに……やっぱり私じゃ勝てない……の……?)

 そんな弱い考えが頭をよぎった時だ。

「馬鹿者があっ! 何をしておる!? お前の力はその程度のものかあっ!!」

 可愛らしい怒鳴り声が耳に突き刺さった。意識が鮮明になる。上空に浮かぶなのはだ。仁王立ちで、瓦礫に埋もれているフェイトに更に叫ぶ。

「足を踏ん張り腰を入れんかあっ! そんな事では小娘の儂1人倒せんぞ! 立ていっ! 立ってみせええいいっ!!」

 それを聞いたフェイトは心の奥底から湧き出る熱いものを感じる。その両眼にカッと光が灯った。

「勝つんだ……勝って母さんの所へ、帰るんだああああっ!!」

 雄叫びと共に瓦礫を跳ね除け、不死鳥の如く飛び上がった。そしてバルディッシュを勢い良く振り上げる。すると彼女の周囲に次々と金色の球体が現れた。魔力スフィアである。
 どんどん増えて行くその数は優に1000を超え、フェイトの背後で半円を描くように展開された。彼女の最後の切り札にして、最強の破壊力の砲撃魔法『フォトンランサー・ファランクスシフト』である。

「ふふふ……面白い……それがお前の全力と言う訳か……?」

 なのはが拳を構えた時、突如としてブロック状の物体が彼女の四肢を拘束していた。魔力を利用した拘束魔法『バインド』だ。

「これは……?」

 不思議そうにバインドを見るなのはの小さな体を、更にブロック状のバインドが拘束して行く。

「設置型のバインド!? それにアレは……って、しまったなのははまだ一度もバインドを見た事も使った事も無い!」

 ユーノは意外な穴に思い当たり、シュバルツとアルフが居るにも関わらず声を出してしまった。あまりに本人が人外過ぎて、教えるのを忘れていたのである。覆面越しにニヤリとするシュバルツ。

 なのはを拘束するブロック状バインドは10個以上。ダンボールでも着込んでいるようだ。だがそれだけでは終わらない。周囲の廃ビルから魔力の鎖『チェーンバインド』が伸び、なのはをがんじ搦めにして完全に空中に固定してしまった。
 猛獣どころか、ほぼ怪獣扱いである。もう本人は顔くらいしか見えない。

「ちょっ!? いくら何でもあれだけのバインドを戦いながら設置出来る訳が無い! まさか……」

 ユーノは隣で不敵に佇んでいるシュバルツを睨み付けた。

「戦いの前から、あらかじめ罠を張っていたんだな? 機械とかも使ってるな!? 卑怯だぞ!!」

 シュバルツは悪びれるでも無く、

「高町なのはは、これしきの策に文句など言わん! 敵の本拠地でのファイトだ、彼方も承知の上だろう!!」

 確かに……なのはなら逆に誉めそうである。ユーノは何も言えなくなってしまった。

(なのは……本当に大丈夫なのかい……?)

 空中に磔にされているなのはを見上げる。いくら彼女でも脱出は難しいだろう。不吉な予感を抑える事が出来なかった。






「……ごめん……開始前に色々と仕掛けてた……機械も使ってる……卑怯かな……? でもあなたに勝つにはこれくらいしないと勝てない……」

 フェイトは罪悪感を感じながらも、淡々と事実を述べる。ほとんど顔しか出てないなのはは、にこやかに笑い、

「己に有利な戦場を作り出す……兵法の基本なり、むしろ良く考えたと誉めてやろう! この一瞬の為の今までの闘いぶりも中々だったぞ」

「これで終わりにするよ……」

 フェイトが返事の代わりに最後通告を突き付ける。それと同時に、周囲の魔力スフィアが発射態勢を整え、一斉に激しくスパークを起こす。

「来いフェイト! お前の魂の一撃、しかと儂に見せてみよおおおっ!!」

 なのははもがく事すらせず、真っ向から叫んだ。フェイトはそれに応えるように、バルディッシュを更に高く掲げる。

「ファランクス……撃ち砕けええええっ!!」

 バルディッシュが降り下ろされると共に、1000を超える電光の槍の一斉砲火が、動けないなのは目掛けて発射された。



つづく




 皆さんお待ちかねえええっ! 絶体絶命のなのはの運命は!? 出るか日輪の拳!?そして遂にクロノが……燃えるクロノ・ハラオウンなのです!
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠此処は儂に任せて先に行けと言ってみるの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

パルメ様>どの道負けたら弟子決定ですからね。嫌々か喜んでかどうなるか……

zzz様>師匠だと年齢のせいは関係無さそうな気もしますね。(笑)病気が無ければ80とかになっても衰えそうにない。スカさんは違った意味で大変になるかもです。勿論シリアス要素など皆無で。

ペン・ギン様>それはありがとうございます。最近滞り気味ですいません。ひょっとして、以前夜天の方にも感想を書いて頂いた方でしょうか。ツッコミパワー、はやても入りますよ。(笑)ティアナは間違いなくツッコミ枠ですね。

良様>フェイトの運命や烏賊に!? なのです。ろくでもない事にしかならないの確定かもしれません。次回は多忙で続きは10月半ばくらいからですね。







[32932] 第17話 師匠此処は任せて先に行けと言ってみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2013/12/02 01:55
 さて皆さん……なのはとフェイト、2人の魔法少女の対決は遂に決着を見るのです。絶体絶命のなのはは一体どうフェイトの技に立ち向かうのでしょうか? そして囚われのクロノは?

それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



師匠此処は任せて先に行けと言ってみるの巻




 怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙駑駕怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙独蛾怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙怒牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙ッッッッッッッッ!!!!

 電光の槍『フォトンランサー・ファランクスシフト』が耳をつんざく轟音を上げて、空中に拘束されているなのはに迫る!

《It protection》(防御します)

「無用だ、レイジング・ハートよ!!」

《This is nonsense master》(無茶です、マスター)

 レイジング・ハートの警告は、砲撃の轟音にかき消されてしまった。金色の凶器がなのはに降り注ぐ。正に叩き付ける電光の嵐!
 天地に響かんばかりの破壊音が轟く。ファランクスシフトの余波で、廃ビルやランタオ島もどきの一部が抉れて吹き飛んだ。金色の槍の掃射はそれでもまだ止まなかった。ファランクスシフトと爆煙でなのはがどうなっているのか判らない。
 フェイトは掃射を続けながら、止めとばかりに片手を挙げ何かを掴むように手を開く。その掌に長さ十数メートルはある巨大な電光の槍が形成された。特大級のフォトンランサーだ。

「スパァァクッ!」

 フェイトはありったけの力を込めて、止めの一撃を勢い良く発射した。特大の金色の槍は衝撃波で辺りを巻き込みながら、音速を超える速度で爆煙の中に炸裂した。

「エンド……!」

 フェイトの締めの台詞と共に、なのはの居た筈の場所は一瞬目映い光を放ち特大級の大爆発を起こした。

「なのはああああっ!?」

 ユーノの悲痛な叫び声が爆音にかき消された。あまりの威力に、周囲の廃ビルのレイヤーが崩壊を起こして崩れ去る。海上には巨大な煙がもうもうと上がっていた。消耗したフェイトは息も荒く立ち上る爆煙を見詰め、

(……全部……直撃した……いくらあの子でも……ひとたまりも無い筈……)

 そう思いながらも、油断なくなのはが居る辺りを探っている時だ。

「えっ!?」

 フェイトが首筋にザワリと悪寒を感じると同時だった。不意に身体を強力な力で拘束されて身動き出来なくなっていた。

(バインドッ? 何時の間に!?)

 逆にバインドを仕掛けられたと言うのか? その辺りも警戒はしていた。魔力反応は無かった筈だ。慌てて自分の身体に目をやると……

「なの!」「なの!」「なの!」「なの!」「なの!」「なの!」「なのぉ~っ!!」(訳・捕まえたなの、この羽虫があ~っなのっ!!)

「ひゃあああああああああああ~っ!?」

 フェイトは思わず悲鳴を上げてしまった。7ひ……いや7人の『ミニなのは』達が、やな感じの笑顔で悪霊みたいに彼女の身体を押さえ付けているではないか!

「ふふふ……」

 含み笑いと共に、爆煙の中から腕組みしたなのはが現れる。ほとんど無傷だ。

「これが儂のバインドよおおっ!!」

「それバインドじゃないいっ! 魔法ですらないいいいぃぃっ!!」

 律儀にツッコミを入れたユーノだったが、ホッと胸を撫で下ろした。

「……良かった……でも、あの攻撃の中よく無事だったな……とっさに防御魔法を使ったんだな……あの攻撃に耐え抜くなんて、やっぱりなのはの魔力は凄いや……」

「甘いぞユーノ! 何処に目を付けている!? 魂の伝え合いに高町なのはがそんな無粋な真似をするものか!!」

 何故かシュバルツに叱られてしまった。少しムッとしたユーノは反論したくなり、

「無粋も何も……防御魔法無しだったら、今の攻撃で確実にやられてるよ、他にどんな方法があるって言うんだ?」

「フッ……明白な事だ……」

 覆面ちびっ子は、甘い甘いぞユーノとばかりに偉そうに目を閉じ、

「高町なのはは、あの攻撃を全て『殺して受けた』のだ!!」

「はっ……?」

 訳が判らず不審そうな眼差しを向けるユーノに、シュバルツは憐れむような視線を向け返した。

「いいか……高町なのはは攻撃が当たる瞬間に全身の力を抜き、己の身体をクッションのように変えて全ての攻撃に耐えたのだ……単純な事ではないか? 例えるなら激流は流れる小枝を折る事が出来ないの理屈だ!!」

「ああ成る程……それなら納得する……訳あるかああぁっ!!」

 ユーノは新たに、ノリツッコミをマスターしたようだ。

「何そのとんでも理屈!? そんな無茶苦茶な理屈で納得出来る訳ないだろっ! 何その『こんな簡単な事も判らないのか?』的な態度、そんな事出来たら魔法も苦労も要らないよ!!」

 ユーノの言う事は正しい。シュバルツの言っている理屈は、生身でマシンガンの掃射にはこうすれば耐えられるよ的なレベルのインチキ理論にしか聞こえない。真に受けてやったら間違いなく死ぬであろう。
 嵐のようなツッコミを入れるユーノに、シュバルツはまたしてもムカつく鼻先笑いをすると、空に傲然と浮くなのはを指差した。

「お前の攻撃全て殺して受けたのだあっ! ぬわっはっはっはっ!!」

「その通りかよおおおっ!!」

 高笑いして種明かしするなのはに、ユーノは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。猛烈に頭が違う意味で痛い。

(そうだった……なのはに常識を求める事自体間違いだった……)

 あの理屈……ガンダムファイターの間では常識らしい。ガンダムには乗っていたが、それでミサイルを全弾受けていたアメリカン男もいるのである。またしてもGガン世界の不条理さに頭を抱えているユーノを流し、なのはは叫んだ。

「フェイトの魂しかと受け取った! ならば儂も今の最強の技で応えてくれよう!!」

 目を閉じ右手を前に掲げ深く息を吸い込む。なのはの小さな身体に魔力では無く『気』が満ちて行く。それに伴い掲げた右掌に目映い光が発生して行くではないか!
 悪霊に取り憑かれたように身動き出来ないフェイトの前に、強烈極まりない光が輝く。実際に熱さを感じる程のエネルギーだ。

「あれはまさか……噂に聞くあの技か!? 高町なのは、そのレベルにまで達していたか!!」

 シュバルツは驚きと感心が入り交じった声を、テンション高く上げる。ユーノは思わず息を呑んだ。そうしている内にその光が頂点に達した時、なのはの大きな目がクワッと見開かれた。発射態勢が整ったのだ。

「受けてみよ、フェイト!!」

 前に繰り出された掌が目映い太陽の如く輝いた。

「超級覇王っ! 日輪弾!!」

 強烈な光、気弾が裂帛の気合いと共に射ち出された。周囲のレイヤー建造物を分解させながら、凄まじいスピードでフェイトに迫る!
 『超級覇王日輪弾』とは、『流派東方不敗』奥義『石波天驚拳』が完成する前のマスターアジア最大の技である。その威力は気弾による超高熱で、ガンダムを蒸発させる程の威力を持っているのだ!
 どういう理屈か? 考えるだけ無駄だと思われる。そういうものだと思って頂くしかない。そんな技を前にフェイトは、

「あなたも耐えたんだ、受けて立つ! 私だって負けない!!」

 果敢にも真っ向から受けるつもりだ。前面に何重にも重ねた防御魔法を張り巡らす。

「その意気や良し!!」

 なのはは笑う。次の瞬間気弾と魔法障壁が正面からぶつかり合った。フェイトの防御が超高熱の光を弾くと思われたがっ!

「ひゃあああああああああああああぁぁぁぁっ!?」

 ガラスのように全障壁を粉々に砕かれ、フェイトは超高熱の光の中に消えてしまった。

「フェイトォォォォォッ!?」

 アルフの悲鳴が響いた。強烈な光の余波を受け、ランタオ島もどきが周りの海水と一緒に蒸発してしまった。まるで太陽が地上に降り立ったかのようであった。もうもうと水蒸気が上がり視界を悪くする。
 さっきから周囲の被害が大き過ぎるのは、擬似空間のプログラムが崩壊しているせいではあるが、現実でも相当な威力であろう。アルフは青くなって助けに向かおうとするするが、シュバルツは光の中央を指差し、

「心配無用だアルフ! あれを見ろ!」

 見ると晴れて来た水蒸気の中より、フェイトを抱えたなのはの姿が現れる。アルフはホッとし、

「フェイト無事だった……ああああ~っ!?」

 喜びの声を上げようとしたが、素っとんきょうな声を上げてしまった。何故なら、なのはにお姫さま抱っこされているフェイトは、煤で真っ黒な上、頭がチリチリ金髪アフロヘアー、おまけに口から煙突みたいに煙を吹いていた。最早コントである……

「よっ……容赦無いなあなのはは……あはは……あれじゃあ超級覇王日輪弾じゃなくて、超級覇王アフロ弾だね……」

 流石に今のなのはでは、ガンダムを蒸発させる程の力はまだ無いようだ。フェイトの色々台無しな姿に、ユーノは渇いた笑い声を上げるしか無い。
 ふと気付くと、なのは達の周りに小さな影が見える。ミニなのは達だ。どうやら巻き添えを食ったらしく、7人全員真っ黒けで頭がアフロになっていた。

「ぷっ……!」

 ユーノはその姿を見て思わず吹き出してしまったが、ミニなのは達は耳敏く聞き付け、

「なのっ!」「なのっ!」「なのっ!」「なのっ!」「なのっ!」「なのっ!」「なのっ!」「なのおおおっ!!」(嗤ったなの! 死なすなのぉっ!!)

 怒ったスズメバチ如く一斉にユーノに襲い掛かった。

「地獄耳ぃぃっ!? ぎゃああああああぃぁぁぁっ!?」

 ユーノがアフロミニ達にビルから逆さ釣りにされていると、不意に擬似空間が解除されて行く。気が付くと元の『時の庭園』内部に戻っていた。ユーノは逆さ釣りから解放と言うか、床にベチンッと投げ出される。

「痛たたた……」

 腰を擦るユーノは、何か気配を感じて顔を上げると……

「わわわわっ!?」

 ギョッとしてしまった。庭園に戻ったユーノとなのはを待っていたのは、傀儡兵の大群であった。最初に見た時より遥かに多い。おまけに身長が6メートル以上ある巨大なタイプやら、肩に大砲らしきものを背負ったタイプまで居る。

「ふふん……やはりこう来たか……」

 なのはは涼しい顔である。そんな不敵な少女の前に空間モニターが現れ、冷徹な表情のプレシアの顔が映し出された。ちなみにシュバルツはちゃっかり姿を消している。

《お遊びは終わりよ……さあ……あなたが持っている『ジュエルシード』を渡して貰いましょうか……?》

「断ると言ったら、何とする……?」

 明らかに恫喝するプレシアに対し、なのはは相変わらずの腕組みスタイルで偉そうに応える。すると大魔導師は厭な笑みを浮かべ、

《子供にも判るように教えてあげるわ……渡さなければ命は無いって事よ!》

 狂気を含んだ肥と共に、傀儡兵達が一斉に剣や槍をなのはに向ける。

「なのは……不味いよ……」

 ユーノは周りを見て冷や汗を流すが、なのははどこ吹く風で平然としている。ふとユーノは、足元で何かがチョロチョロと駆け去って行く気配を感じた。

(ミニなのは達か?)

 反撃するつもりかと足元を見てみるが既に姿は無い。小ささを利用して何処かへ行ってしまったようだ。
 だがそれに気を取られている暇は無かった。傀儡兵が近付いて来る。その時だ。辛うじて復活したフェイトがモニターの前に飛び出していた。

「待って母さん! ごめんなさい……負けてしまって……でもこんな卑怯な事は……」

 期待に応えられなかったのは正直居たたまれなかったが、約束を破るのはフェアでないと思ったのだ。プレシアの命令は絶対の筈のフェイトにしては珍しい。なのはとの闘いで感じるものが有ったのかもしれない。まだアフロだが。
 モニターのプレシアは冷たい目でフェイトを見るが、慌てたように顔を逸らした。吹きそうになったような気がする。コントのような黒焦げアフロがやばかったのかもしれない。

「コホンッ……もういいわ……」

 何とか態勢を整えたらしいプレシアは冷たく呟き、腕組みするなのはをジロリと見やると、

「それよりどうするの……? 大人しく『ジュエルシード』を渡すの? 渡さないの?」

 最後通告だ。もう容赦はしまい。するとなのはは怯えたように下を向き肩を震わせてしまう。プレシアは所詮は子供ねとニタリとした時、突然爆発するような高笑いが響いた。

「ぬわっはっはっはっ! 残念だったなプレシアよ! 儂は『ジュエルシード』を持ってはおらん!!」

 ガバッと顔を上げたなのはだ。モニター越しにプレシアに向かって豪快? に言い放つ。肩を震わせていたのは笑いたいのを堪えていたからのようだ。

《だ……騙したの……!?》

 プレシアは明らかにキレる寸前に見えた。こういうタイプはキレると恐い。と言うか今も凄く恐い。

「いや、騙してはおらん……こんな事も有ろうかと『ジュエルシード』はあの管理局の小僧に持たせてある!」

 なのはは得意気にぬかすが、もちろん真っ赤な嘘である。『ジュエルシード』は右腕のレイジング・ハートの中だ。

(うわあ……やっぱりクロノに押し付ける気だ……)

 ドン引きなユーノだが、なのははいけしゃあしゃあと、

「今頃脱出して、この中で大暴れを始めている頃だろうて、ぬわっはっはっはっ!!」

《謀ったわね! 傀儡兵! 管理局の小僧から『ジュエルシード』を奪うのよ!!》

 怒りまくるプレシアの命令に、なのは達を取り囲んでいる連中とは別に待機していた残り全機は、次々とクロノの元に転移を開始した。






 その頃牢屋の中でクロノは床にじっと座り込み、なのはの言う機会を静かに待っていた。エネルギーを溜め込んでいざとなったら爆発させる為だ。この辺りやはり肝が座っている。すると此方に向かって来る小さな足音を聞き付けた。

「誰だ!?」

 警戒して声を出すが相手の姿が見えない。キョロキョロ辺りを見回すと、

「なの~っ!」「なの~っ!」

 聞き覚えのある可愛らしい声がした。クロノが下を覗いてみると、杖状のデバイスをえっちらおっちら運んで来たミニなのは2人の姿が在った。

「あっ、僕のS2U!?」

《どうやら無事届いたようだな?》

 受け取るとほぼ同時になのはからの念話が入って来た。クロノのデバイスは『時の庭園』に乗り込んだ時のどさくさに紛れ、ミニなのは達を使って隠しておいたのである。

「その偉そ……その声はなのは君だね?」

 可愛らしい声とまったく合っていない爺さん喋り、間違いようが無い。

《ふふふ……なのはで良い、この高町なのはが許す!》

《それは……どうも……》

 相変わらずの物言いに表情を引きつらせるクロノだが、牢屋の隙間からデバイスを受け取るとそんなものは吹き飛んだ。反撃の時は来た。

《感謝するよ!》

 言うが早いがS2Uを起動させ、牢屋の魔法障壁を砲撃魔法で破壊し外へ出た。

《状況はどうなっているんだい?》

 クロノは辺りを警戒しながら念話を送る。受け取ったなのはは神妙な顔をし、

《うむ……今ファイト達と闘っている最中だ。奴らの親玉はクロノが居る場所から左手に行った所の奥に居る! 雑魚共は儂が引き受けた、行くが良い!!》

《君達は大丈夫なのか?》

《案ずるでない……このままでは物量に圧倒されようぞ。敵の頭を叩くのは兵法の初歩の初歩。行けえいっ、クロノ・ハラオウン! 此処は儂に任せて先に行けいっ!!》

《済まない! 必ず首謀者を押さえて助けに行く!!》

 なのはの熱い台詞にまんまと乗せられたと言うか奮い立ったクロノは、教えてもらった方向に猛然と駆け出した。もちろん出鱈目である。
 雄叫びを上げて走り去るクロノの後ろ姿を、ミニなのは達が腰布をハンカチのように振って、お達者で~とばかりに見送るのであった。

 走るクロノの前に次々と光る魔方陣が現れる。転移されて来た傀儡兵軍団だ。凄い数である。

「うおおおおおっ! 退けえええいっ!!」

 少年執務官は敵の群れに敢然と飛び込み、雄々しく吼えるであった。





 さて……一方の鬼畜なのはは、クロノが思惑通り乗ってくれたので満足げに笑みを浮かべた。クロノとのやり取りを聞かされていたユーノは冷や汗をかきかき念話で、

《クロノ大丈夫かな……?》

《心配するでない、奴にはそれだけの実力がある! これで敵の戦力を分散する事が出来た!》

《でもなのはの実力なら……》

 ユーノの疑問になのはは残念そうに首を振って見せ、

《儂とて子供な上まだまだ修行中の身……雑魚共に体力を使ってはプレシアに当たる前に力尽きてしまうだろう! 儂はクロノの実力を買ったのだ!!》

 ものは言いようだが、今の自分の戦力を冷静に判断した結果らしい。意外と真剣ななのはにユーノは少し考えを改めた。しかしそこでなのははコホンッと可愛らしい咳払いをし、

「まあ……クロノは少々死にそうになるかもしれんが、魂の炎を燃やし尽くせば死にはせんだろう……」

 すまし顔でぬけぬけと呟いた。

(鬼だ! やっぱりなのはは鬼だあっ!!)

 ユーノは年若い執務官の無事を心から祈るであったが、此方もかなり不味い状況である。傀儡兵達が武器を手に迫って来ていた。


つづく


皆さんお待ちかねえっ! 時の庭園を舞台に始まる死闘! そして明らかになるフェイトの悲痛な秘密とは!? その時なのはの怒りが爆発するのです!
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠怒るの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!






※感想返しです。

パルメ様>理不尽はまだまだ続くのです。被害者も雪ダルマ式に増えて行くでしょう。肉体的より精神的な被害者が……

いいい様>ミサイル受けてそれで済むのが恐ろしい所です。でもウッカリすると足を挫いたりするのが面白い所ですね。(笑)なのはもそのレベルまで達しております。クロノ……出番も活躍もしていますが、どんどん嵌まって行っております。頑張れクロノなのです。
プレシア母さん、人間切羽詰まっていると、思わぬ不意討ちに弱いと思うのです。あそこでコントみたいな黒焦げフェイトが顔を出したので不覚を取りました。(笑)

ペン・ギン様>やはりそうでしたか。此方にもご感想ありがとうございます。
此方のユーノ、新八ポジですね。(笑)お陰でこの先も出番は減らないですが、本人にとっては災難です。ミニ達の攻撃にもめげずツッコミ担当を頑張って貰いましょう。
クロノはなのはに実力を買われてしまったばかりに、こんな目に遭っております。迷惑以外の何物でも無いですけど……
ユーノとクロノ、彼らのようなツッコミが居ないと収拾が付かなくなるので頑張って貰いましょう。関西弁の子はハリセン片手に奮闘するかもです。ティアナ……容易に迷惑を被る姿が浮かびます。絶対原作みたいにはならないでしょう。色んな意味で……

ユイ様>ユーノは出番が減らない代わりに、どんどんどつぼに嵌まって行きますよ。今後間違いなく巻き添えで最前線で敵に囲まれる事になるでしょう。無限書庫……果たして彼は平穏に其処に納まる事が出来るかどうか……(笑)

カカコ様>過ぎた評価ありがとうございます。そう言っていただけると書いた甲斐がありました。これからも非常識になのは師匠は暴れますので。クロノ君も頑張ります。(笑)







[32932] 第18話 師匠怒るの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/01/19 17:25
 さて皆さん……遂に明かされるテスタロッサ家の悲劇……フェイトの残酷なまでの秘密とは一体何なのでしょうか?
 その時高町なのはは運命の残酷さに拳を震わせるのです。そして独り大群に挑むクロノの運命は? 時の庭園は今嵐に見舞われるのです!

 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠怒るの巻



「うおおおおおおおおおぉぉっ!!」

 時の庭園に響くクロノの雄叫び。傀儡兵の群れに青色の砲撃魔法が炸裂する。
 鋼鉄のボディーを撃ち抜かれ、崩れ落ちる傀儡兵。しかし敵は多い。巨大な剣や槍を振るい、クロノを叩き潰そうと迫って来た。だが少年執務官は一歩も退かない。少女の口車……もとい、激励に奮い立った男の子は踏ん張るのである。

『此処は任せて先に行け』

 この黄金のキーワードは、何時の時代も少年の内なる魂を熱く燃やすのだ。中身は置いといて、言ったのが美少女なら尚更である。

「退けええええええぃっ!!」

 クロノは襲い来る傀儡兵をなぎ倒して、ひたすら前進する。その目に豪奢な造りのドアが映る。なのはから教わった辺りだ。

(あそこか!? 首謀者の居る場所は!!)

 他は行き止まりで他に部屋は無い。間違いないとクロノは思った。直ぐ足許まで攻め込まれ、焦って戦力を投入して決たのだと判断する。
 黒衣の少年は駆ける。手向かう敵を破壊し、素早い動きで巨大な傀儡兵を翻弄する。流石は若くして執務官を勤めるだけあり、大した腕前だ。それでも敵の数は非常に多い。

(体力も魔力も保たない……首謀者を押さえて、こいつらを停止させないと!)

 クロノはドア前に立っている一団に、連続して砲撃魔法を叩き込んだ。何体かが破壊され、敵の包囲に穴が開く。その中をクロノは破片を蹴散らしながらドアに走った。
 駆けながら砲撃魔法ブレイズ・キャノンをドアに撃ち込み破壊する。その勢いのまま、スライディング気味に部屋の中に飛び込みデバイスを構える。アクション映画の主人公さながらだ。

「ここまでだ! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! 抵抗は止めて大人しく……?」

 勇ましい名乗りが途中でピタリと止まった。何故ならば……

「えっ!?」

 クロノは思わず口をあんぐりと開けてしまった。その部屋は簡潔に言うと『トイレ』であった。
 無駄に広く豪勢な造りだが、何処からどう見ても、これ以上無い程見事にトイレであった。大事でも無い事ですが、一応2回言いました。
 唖然と立ち尽くすクロノの後ろから、派手な音が響く。傀儡兵達がトイレの壁を破壊して迫って来たのだ。逃げ道がなくなってしまった。此処に飛び込んだ事で、却ってピンチに陥ってしまったようである。その時クロノの頭に、ある疑惑が浮かんできていた。

(まさか……僕は最初からなのはという子に乗せられていたんじゃ……?)

 まるで出鱈目だった敵の情報、そしてアースラで追い掛けた枕カバーとミニなのは達が重なる。どうしても疑惑が頭をもたげた。だがゆっくり考える暇は無かった。
 肩に2門の大砲を装備した、ガンキャノンのような大型傀儡兵が大砲を向けてくる。他の傀儡兵もゴツい武器を構えて、じりじりと此方に迫って来る。クロノは少し泣きたくなった……







 なのはとユーノに迫る傀儡兵の軍団。ユーノは思わず後退るが、負けるかと気力を振り絞り、キッとモニターのプレシアを見据えた。男の子なのである。

「一体ジュエルシードを何に使うつもりなんだ!?」

 質問にプレシアは、ニヤリと狂気の笑みを浮かべる。完全に優位に立ったと思っているのである。

《……教えてあげるわ……伝説の都『アルハザード』に辿り着く為よ!》

「アルハザード!?」

 ユーノは驚いて声を上げた。アルハザードという言葉に聞き覚えがあるのだ。意味が判らないなのはは首を捻る。

「ガンダムアルハザード……?」

「いや、ガンダムは付かないからね? 僕達の世界に伝わっている伝説の都だよ。禁断の秘術が眠っていて、どんな不可能も可能に出来る都……おとぎ話の類いなんだけどね……」

 ツッコミつつ、なのはに説明していると、

《アルハザードは実在するわ!!》

 耳聡く聞き付けたプレシアに怒鳴られてしまった。感情が激した大魔導師は、一瞬フェイトに目をやり何かを操作する。するともう1つ空間モニターが現れた。

「あっ……!?」

 フェイトは映し出された画面を見て目を見張ってしまう。それは円筒型のカプセルの中に浮かんでいる、フェイトと瓜二つの少女の遺体であった。年齢は少し下に見えるが、正にフェイトそのものに見える。訳が判らず唖然とする娘にプレシアは、

《……私の本当の娘……『アリシア』……この子を蘇らせる為には、アルハザードの力が必要なのよ!!》

 狂気の口調で言い放った。息を呑むユーノ。尋常ならざる母の様子に立ち尽くすフェイトに、プレシアは冷たい視線を向ける。

《……もういいわ……終わりにする……この子を亡くしてからの暗鬱な日々も……偽者を娘として扱うのも……聞いていてフェイト……? あなたの事よ!!》

「!!」

 フェイトの顔から血の気が引き蒼白になる。ひどく厭な予感がした。

「やはりな……」

 ユーノが声に振り向くと、隠れていたシュバルツが煙と共に姿を現していた。なのはは眉をひそめ、

「シュバルツよ、どういう事だ?」

 シュバルツは沈痛な様子で、モニターのアリシアの遺体を見上げ、

「此処に辿り着く為に色々と調べた……彼女プレシアは、事故で娘を亡くした後『プロジェクトF』なる研究を続け、死者の復活を成そうとしていた……フェイトはその研究で造り出されたアリシアのクローンだったのだ……」

「成る程……以前のシュバルツと同じようなものだな……?」

 なのはは特に驚いた様子も無く頷いた。この時ユーノは、なのは達の会話の意味は分からなかったが、何故か猛烈に、一緒にするな! と叫びたく衝動に駈られた。
 それはともかく、プレシアは再びフェイトに冷たい視線を送り、

《せっかくあの子の記憶をあげたのに……そっくりなのは見た目だけ……役立たずでちっとも使えない私のお人形……》

 プレシアの低い残酷な言葉だけが庭園に木霊する。

《あの子は何時も私に優しかったわ……あの子はフハハハッと何時も高笑いして、私が落ち込んでいても『そんな事はどうでもいい!』と励ましてくれた……》

 アリシアの人となりがどんどんおかしくなる。どんな奴だよそれ!? とユーノはツッコミを入れたくなった。しかしそれ以前に、そういう人間を良く見知っている気がしたと言うか、直ぐ近くに居る人間の特徴と非常に似ていると思った。
 それでもプレシア本人は大真面目で、容赦無く言葉を続け、

《フェイト……やっぱりあなたはアリシアの偽者よ……せっかくアリシアの記憶もあなたじゃ駄目だった……》

 ユーノは思った。そんな奴に似なくて良かったねと。それよりひょっとして、此処は笑う所なのかとまで思ってしまうのを誰が責められよう。

《アリシアを蘇らせる間に私が慰みに使うだけのお人形……だからあなたはもう要らないわ……何処へなりと消えなさい!》

 アリシアの人となりはともかく、はっきりとした残酷なまでの拒絶であった。フェイトはガクリと膝を着き、絶望の声を上げた。

「……私は偽者……だからキャラが薄いんだ……!」

「フェイト、落ち込むところ違う!?」

 心配して駆け寄ろうとしたアルフは、フェイトの変な方向への落ち込み方に、思わずズッコケてしまった。
 今まで散々なのはにぶっ飛ばされたり、シュバルツの暑苦……熱い指導を受け続けたりで、本当なら生きる希望を失いないかねない所が、変な意味で逞しくなっていたようである。
 ユーノは思った。残酷な事実の発覚で、とても悲惨な状況の筈なのに、何でコントみたいになっているんだろうと。ここはやはり笑う所なのだろうかと真剣に悩んでいると、

「止めぬかあっ! このたわけ者があっ!! 我が子に何と言う事を! 待っておれ、今直ぐ貴様に目にもの見せてくれるわあっ!!」

 なのはがモニターのプレシアを怒鳴り付けた。背後に炎が見えそうな程激怒している。少女の怒りに、周りの空気が怯えたようにビリビリと震えた。ユーノはその迫力に後退る。なのはが本気で怒ったのを見たのは初めてだ。
 しかしモニター越しで凄まじさが判らないのか、プレシアは狂ったように笑い、

「吠えるがいいわ! そいつらを全て突破して私の元に辿り着けたら、相手をしてあげてもいいわ、アハハハハハッ!!」

 言うだけ言うと、空間モニターはプツンと切れてしまった。それと同時に、傀儡兵軍団は一斉に武器を振り上げなのはに襲い掛かる。

「雑魚があっ!」

 対する人外少女は、3メートル以上はある傀儡兵達の突撃に怯む事なく、仁王立ちでバリアジャケット腰に巻いている白い布をシュルリと引き抜いた。得意技の『マスタークロス』!

「ぬわああああっ!!」

 可愛らしい雄叫びと共に、布が生き物のように自在に動く。鋭利な刃物と化した布が、迫る傀儡兵を大根の如く切断した。
 綺麗に輪切りになった機械兵の体がゴロゴロ転がる中、魔法少女? は敵の中央に飛び込んで行く。その小さな体を叩き潰さんと、巨大な戦斧が降り下ろされる。なのはは素手でその一撃をガッチリと受け止めた。

「モビルスーツに比べれば微温いわあっ!!」

 戦斧をひっ掴んで、数トンは有りそうな傀儡兵をぶん投げる。投げ飛ばされた傀儡兵は猛スピードで他の傀儡兵に激突し、鋼鉄のボディーがひしゃげて纏めて砕け散った。

「ぬわああああっ!!」

 なのはの勢いは止まらない。本当に怒っているのだ。疾風の如く駆ける彼女の前面に、光る梵字が浮かび上がる。

「流派東方不敗が奥義! 十二王方牌、大車併っっ!!」

「なのおっ!!」「なのおっ!!」「なのおっ!!」「なのおっ!!」「なのおっ!!」「なのおっ!!」「なななのおぉぉぉっ!!!」

 なのはの怒りに呼応して、何時もより五割増し気合いが入っているミニなのは達は弾丸のように飛び出し、傀儡兵をオモチャのように次々と破壊して行く。無茶苦茶な光景である。
 9歳の女の子が3メートル以上あるロボットの群れを、素手で破壊する光景はシュールを通り越してギャグですらあった。
 尤もマスター時代、素手で十数メートルのモビルスーツを破壊したり、レールガンを素手で受け止めたりしていたので、あまり驚く事では無いと思った人はもう毒されてます。

「す……凄い……なのはがあんなに怒るなんて……」

 ユーノはなのはの人外な暴れっぷりよりも、怒りの凄まじさに驚いていた。何が起ころうと余裕で高笑いしているイメージだったからである。

「フッ……高町なのはらしいと言えるかもしれんな……」

 シュバルツは荒れ狂うなのはを見て呟いた。怪訝な顔をするユーノに、

「高町なのはは前世で愛弟子を裏切り人類抹殺を企て、散々弟子を苦しめて来た……プレシアに以前の自分を見たのだろう……」

「はあ……」

 ユーノは若干引きつつも返事をする。まともに聞かされると正直リアクションに困るが、物騒な内容に目を瞑れば納得は行く。

(なのはにも色々有ったんだだな……)

 などと、しんみりした気持ちになっていると、

「あだっ!?」

 十二王方牌の後も暴れまくっていたミニなのはの巻き添えで、頭に飛び蹴りを食らった。

「なのなのなのなのなのなのっ!!」(訳・ボサッとしてるんじゃないなの! チョロチョロしてると潰すなの!!)

 ミニはプンスカ怒って捨て台詞を残して飛び去って行く。「前言撤回だあっ!」とオデコを押さえて涙目のユーノを他所に、なのはは止めとばかりに、

「雑魚にこれ以上かまけている暇は無い! 一気に叩き潰してくれるわあぁっ!!」

 両手を広げ片足立ちのポーズをとる。バレエダンサーみたいに見えるのは気のせいである。

「超級っ覇王っ! 電・影・弾んんっ!!」

 なのはの背後に稲妻が走る。書き文字まで見える何時もの幻覚らしいが、今日はやけにハッキリ見えた。

「ぬわああああああああああああぁぁぁぁっ!!」

 輝く『気』の塊を纏い、高速回転する一個の弾丸と化したなのはは、傀儡兵の群れに超スピードで突撃する。鋼鉄の兵士が草刈りでもされるようにバッタバッタとなぎ倒された。
 上空に舞い上がったなのはは『気』を解除し、流派東方不敗のお馴染みのポーズをビシィッと決める。

「ばぁくぅはぁつぅっ!!」

 掛け声と同時に数十は居た傀儡兵は連鎖反応を起こすように粉々に爆砕し、スクラップの山と化した。爆煙の中に仁王立ちの少女の姿は、正しく悪魔の如しである。
 一通りの敵を片付けたなのはは、床に手を着いて悔し涙を流すフェイトにツカツカと歩み寄った。涙で顔をクシャクシャにしている少女の前に片膝を着くと……

「フェイトよ……お前は何だ……?」

「……?」

「何だと問うておる! 応えよフェイト!!」

 なのはの問答無用の迫力に押され、フェイトはおずおずと口を開いた。

「……キャラが薄い……アリシアの偽者……」

「馬鹿者がああああっ!!」

 次の瞬間フェイトは、なのはの内角に抉り込む強烈なパンチを食らい、パッコーンと見事に吹っ飛ばされた。

「へぶえっ!?」

 数メートルは飛ばされ、床にのしカエルのように叩き付けられてしまう。清々しい程全く容赦が無い。どうやらなのはの前ではおちおち落ち込んでいる暇も無いようだ。

「何すんだああっ!!」

 怒ったアルフが止めに向かおうとするのを、シュバルツは押し留める。黙って見ていろと言う事らしい。なのはは頭にタンコブをこさえて涙目のフェイトにカッと目を見開き、

「お前はフェイトであろう!? 儂の見込んだのはアリシアなどでは無い! フェイト・テスタロッサお前だ! 良いかあっ!!」

 フェイトは目を白黒させている。なのはは今度は静かに、

「それだけは言っておく……後はどうするかはお前次第だ……儂はこれからお前の母上と対決してくる……」

「……母……さんと……」

 ボソリと呟くフェイト。なのはは静かに立ち上がり、

「もう1つ言っておこう……最初に出会った時からお前はファイターで、一人前の漢女(おとめ)であったぞ!!」

 暖かな微笑みを浮かべると、フェイトに背を向け歩き出した。立ち尽くしていたユーノを見ると、

「ユーノよ、儂は行く、お前はどうする? 闘う意思は有るか?」

「覚悟は出来てるよ!」

 即答していた。別になのはに釣られた訳では無いが、自分には最後まで見届ける義務が有るとユーノは決心していた。

「良い答えだ! そこで『ユーノ・スクライアお供します』と続けば、言う事は無いぞ? ぬわっはっはっはっ! 良し儂に続けえいっ!!」

 なのは愉しげにユーノの肩をバンッと叩くと、何故かクラウチングスタートの態勢を取ってから猛然と駆け出した。ユーノは肩を擦りながら後に続く。アルフに助け起こされたフェイトは、その後ろ姿を無言で見詰めていた。





 なのははただっ広い庭園の中を疾走する。ユーノはとても着いて行けないので、飛行魔法で何とか後を着いて行く。

「なのは、プレシアの居場所は分かるのかい?」

「昨晩我が分身達で探らせている。大体の見当は付いておる!」

 流石に抜かりが無い。すると2人に音も無く追い付いて来る影が1つ。

「シュバルツか……」

 なのは達の横を、金髪をなびかせて疾走する覆面ちびっ子の姿が在った。

「此処は私に任せて貰おう!」

 手出し無用と言いたいのだろう。なのははシュバルツを一瞥し、

「シュバルツ……お前の正体は言うまでもなく見当が付いておる。説得を試みるつもりか……?」

 覆面少女は、言うまでもなくの部分は敢えてスルーし、

「……そうだ……今あの人を止められるのは私だけだろう……」

「恐らくそれでは、フェイトとプレシアの問題の解決にはならぬぞ!」

 なのはは鋭く言い放つ。自覚があるのかシュバルツは押し黙ってしまった。するとなのはは、

「儂に任せておけ……お前達カッシュ家には借りがあったな……」

 ひどく真剣な目でシュバルツに語り掛ける。ユーノが見た事も無い表情だった。明日は槍ならぬガンダムでも降って来そうである。シュバルツはしばらく黙っていたが、

「……分かった……高町なのは任せたぞ!」

 感慨深そうに承知した。感じ入るものがあったらしい。しかしユーノは戦いならもとかく、どうしようも無いのではと思い、

「なのは……どうするつもりなんだい……?」

 何時もとノリが違うなのはに違和感を感じて聞いてみると、

「無論これで語るまで!!」

 見た目だけは可愛らしい凶悪な拳を、何時ものように力強く掲げるのであった。
 ユーノは、ああ……やっぱり何が有ってもなのははなのはなのだな……と解脱したように悟った顔をしていると、不意に時の庭園を謎の振動が襲った。

「この揺れは一体!?」

 ユーノは尋常ではない異常に辺りを見回した。地震とはまた違った揺れである。まるで此処を含めた空間全てが揺れているようだ。シュバルツは思い当たったらしくハッとして、

「まさか『ジュエルシード』を発動させたのか!?」

 その推察は当たっていた。この揺れは『ジュエルシード』により引き起こされた『次元震』の前触れであった。




 その頃のクロノ

 トイレに追い詰められたクロノに、大型傀儡兵の大砲が容赦なく発射された。少年執務官は思いっきり横に跳んだ。今居た場所が吹っ飛び大穴が開く。
 爆煙と瓦礫の中、クロノは砲撃魔法を無茶苦茶に乱射してどうにか包囲を突破する。しかし敵は続々と繰り出されて来る。中々洒落にならない状況だ。全部なのはのせいである。クロノは愛機を構えて、敵の大群を睨んだ。

「世界はこんな筈じゃ無かった事ばっかり過ぎだああっ! こんちくしょおおおおおおお~っ!!」

 庭園中に響き渡る魂の叫び。少年は敵の大群にやけクソ気味で突入するのであった……

つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 遂に激突するなのはとプレシア。庭園そのものの力を振るう大魔導師の猛攻になのはは立ち向かう事が出来るのでしょうか!? そしてフェイトの出す答えとは!?
 今年最後の更新、皆さん良いお年を! 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠やらかすの巻(前編)』と新年にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想返しです。

いいい様>果たしてそのままでいられるかどうか……(笑)シュバルツのその辺りは後で出てきますので。クロノこれを言わせたいが為に連れてきたのです。(笑)

ペン・ギン様>アリシア妙な事になっております。(笑)ユーノは非常にリアクションに困っていました。世界観が違う故のズレです。笑ってたら酷い事になっていたかもしれません。ツッコミ細胞持ちです。(笑)
クロノお陰で色んな意味で目立っていると思います。本人は死ぬ程大変ですが。
プレシア母さんの恐るべき戦闘力は次回明らかになるかもしれません? クロノ視点で書いたらそんな感じになるでしょう。(笑)
遅れたので、改めましてあけましておめでとうございます。

パルメ様>ネオドイツ代表にならなくても、激戦を潜り抜ける事になるかもしれませんよ。これからのフェイトの成長にご期待?ください。






[32932] 第19話 師匠やらかすの巻(前編)
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/02/17 13:32
 さて皆さん……時の庭園での闘いも終盤。遂になのははプレシアとの決戦に挑むのです。己の全存在と命を駈けて激突する2人の魔導師ファイトの行方は? そして絶望の淵に沈むフェイトは!?

 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



師匠やらかすの巻(前編)



 プレシアの頭上に、青い9つの光が妖しく輝いていた。『ジュエルシード』が発動しているのである。次元震を起こすつもりなのだ。
 なのはの非常識な戦闘能力を目の当たりにし、更にはクロノの脱出で管理局に嗅ぎ付けられたと思い込んでしまい、追い詰められ賭けに出たのである。
 プレシアは『ジュエルシード』と、『アリシア』の遺体の入ったカプセルと共に『時の庭園』最深部の部屋に居た。其処は朽ち果てた巨木や、巨大な岩石がオブジェのように置かれた薄暗い広大な部屋だ。
 床のあちこちの裂け目から異様な空間が覗いている。次元震の影響で発生した『虚数空間』と呼ばれるものだ。プレシアはアリシアのカプセルを愛おしそうに撫で、

「もう少しよアリシア……もうすぐ失った時間を……全て取り戻せるわ……ぐっ!?」

 突然プレシアは口許を押さえて激しく咳き込んでしまった。床に倒れそうになりながらも、カプセルにもたれて辛うじて持ち堪える。その掌にはベッタリと赤黒い血が着いていた。

「……まだ……まだよ……」

 プレシアは口許の血を拭い、ギロリと血走った目で発動する『ジュエルシード』を見上げた。

「来るなら来なさい……! 邪魔するものは全て叩き潰してあげるわ……!!」

 狂気に満ちた叫びが。獣の咆哮のごとく庭園に木霊した。







 不気味に揺れ動く庭園内を、なのは達3人はひたすら駆ける。ただっ広く赤い非常灯に照らされる通路を疾走しながら、なのはは床の裂け目から覗く空間に目を止め、

「何だ… ?このDG細胞のようなものは……?」

「これは虚数空間だ、高町なのは。この中では飛行魔法もあらゆる魔法が一切発動しない。もし落ちたら重力の底まで落下し、二度と上がって来れん死の空間だ」

 シュバルツが偉そうながらも、親切に説明してくれた。思わずゾッとするユーノだが、なのはとシュバルツはと言うと……

「それでは儂らにはあまり関係無いな……」

「ウム……どうとでもなるだろう。先を急ぐか……」

(いやっ、何とかなるのはアンタ達だけだからね!?)

 ユーノは心の中でのみツッコミを入れておいた。言っても無駄のような気がしたからである。何とかなってしまう覆面ちびっ子は周りを見回し、

「しかし不味いな……この勢いだと次元震どころか、次元断層が起きるぞ……」

「次元断層だと……? それが起きるとどうなると言うのだ?」

 なのはの問いにシュバルツは、覆面越しに表情を曇らせ、

「周りの世界は次元断層の巻き添えで、消滅してしまうだろう……」

「儂よりスケールが大きいのう……」

「いやっ、そんな事言ってる場合じゃないって!」

 ユーノは違う方に反応しているなのはに一応突っ込んでおくが、事態は最悪らしい。

「『ジュエルシード』9個で次元断層を起こすには足りない筈だが……どうやら此処の駆動炉の力で足りない分を補っているらしいな……」

 シュバルツは瞬時に状況を把握したようだ。流石は元科学……は言わないお約束である。

「ならば……まずは駆動炉を止めた方が良さそうだな……?」

 それを聞いてなのはは、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。






「何だって!? 次元断層!?」

 なのはからの念話を受けたクロノは、思わず声を上げていた。
 彼は何とか傀儡兵を片付けて、残骸の中にへたり込んでいる所である。バリアジャケットはあちこちが裂け、肩でゼエゼエ息をしている。かなり消耗していた。無理も無い。

《どう言う事なんだ!? それは本当なんだろうね……?》

 さっきの件もあるので、とても疑わしそうなクロノだが……

《先程は済まなんだ……儂もまんまと敵に騙されてしまってな……不覚であった。この高町なのはが謝る!》

 と相変わらず謝っているように聞こえない言葉で謝罪するなのはである。クロノは正直信用出来なかった。しかし次元断層が起こりそうだと聞いては、管理局としては放って置く事は出来ない。仕方無く、

《それで僕は駆動炉を止めればいいんだね?》

《その通り、今度は確かだ。頼むクロノ・ハラオウン……今頼れるのはお前だけだ! 東方不敗(予定)高町なのはが頼む! 此方は任せろ!》

《分かった……此方は僕に任せてくれ……》

 クロノは疲れた体に鞭打って、なのはに指示された場所に急ぐ。疑わしくても、またしてもなのはに乗せられた形である。騙されているのでは? と疑ってはいても、動かざるえないように誘導されてしまうのが『流派東方不敗兵法』の恐ろしいところである。

 生き残りの傀儡兵の間をすり抜け、クロノは目的地に辿り着いた。赤く輝く巨大なドーム型の魔力駆動炉が、異様な振動を起こしている。勿論駆動炉を守っている傀儡兵の軍団が多数待ち構えていた。

(僕だけ辛い作戦な気がするのは、気のせいだよな!?)

 クロノはまたしても泣きたいような気分になるのであった……







 なのは達がプレシアの元に向かった後、フェイトはまだ床に手を着いてガックリと項垂れていた。アルフは心配して、その小さな肩を支えていた。

「フェイト……」

 何と言ったら良いのか判らなかったが、何でも良いから慰めの言葉を掛けようとした時、不意にフェイトはガバッとばかりに顔を上げた。そして勢い良く立ち上がったではないか。

「アルフ行くよ、母さんの所に……!」

「フェイト……?」

 アルフはいきなりの主人の復活に唖然としてしまう。フェイトは今まで一度も見た事も無い、しっかりとした決意の表情を浮かべ、

「あの人は最初から私に真っ直ぐ向き合ってくれた……アリシアの代わりじゃない、この私を見込んでくれた……何度も弟子になれって、見込みが有るって呼び掛けてくれた……何度も何度も……」

「フェイト……」

 アルフはフェイトの心中を察した。非常識なのは置いといて、フェイト自身を認めてくれたのは確かになのはである。

「生きていたいと思ったのは、母さんに認めて欲しいからだった……それ以外に生きる意味なんて無いと思ってた……」

 フェイトの独白は止まらない。今まで押さえ付けられていたものが溢れ出たのか……

「でも今は違う! ここで逃げたらファイターじゃない! あの人に笑われる! 私の……私達の全てはまだ始まってもいない、そうだよねアルフ!?」

「うっ、うんっ、そその通りだよ……」

 フェイトの開き直ったような復活っぷりに、アルフは内心冷や汗をかきながらコクコク頷くしか無い。

「私は母さんと拳で語り合い、あの人の弟子になって強くなる! 行くよアルフ、バルディッシュ! このまま終わってたまるかあああっ!!」

(フェイトが……フェイトが暑苦しくなった!?)

 明らかになのは達に悪影響を受けてしまった主人に、使い魔の少女は表情を引きつらせる。しかしそれも良いのではないかと思った。
 たまにはこういうノリも悪くは無い。悲しみに暮れているより余程良いではないか。何時もだとなのは達のようになってしまうが、今は素直にフェイトの復活を喜ぼうとアルフは笑って見せ、

「判ったよフェイト! アタシはフェイトの使い魔だ。何処へでも着いて行くよ!」

《Yes.sar》

 バルディッシュも応える。頼もしい返事に頷き、フェイトはプレシアの元に向かうべく疾風の如く駆け出した。







 振動が激しくなる中、発動した『ジュエルシード』が激しく光を放っていた。

「後もう少し……」

 その様子をプレシアが憔悴の色を濃くして見詰めていると、轟音と共に壁が吹き飛ばされた。破壊された分厚い壁の破片が飛び散る。

「プレシア・テスタロッサ! 高町なのはが約束通り来てやったぞ!」

 粉塵が舞う中、可愛らしいが偉そうな言葉使いの声が響く。なのはにシュバルツ、ユーノがぶち抜かれた穴から現れた。シュバルツは前に出ようとするなのはを一旦制し、

「プレシア・テスタロッサ……1つ聞いておきたい……」

 鋭いと本人だけは思っている声で語り掛ける。プレシアは不審そうに眉をひそめた。見覚えの無い侵入者だった事ともう1つ、何処かで会ったような懐かしさを感じたのだ。シュバルツは一瞬視線を落とすが改めてプレシアを見据え、

「失われし都『アルハザード』……其処に眠る秘術は存在するかどうかも曖昧なただの伝説、そんなものに全てを賭けると言うのか……?」

「違うわ! 『アルハザード』への道は次元の狭間に在る! 時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落して行く輝き……道は確かに其処に在る!!」

 シュバルツの問いに、プレシアは目に狂気の光を湛えて断言した。最早後戻りするつもりは無いのだ。

「まったく……お主は儂に似ておるな……」

 なのはは苦笑混じりに呟くと、大魔導師の前に立ち塞がった。

「目的の為なら手段を選ばん……しかしそれで何とする? 失った時間と犯した過ちを取り戻すと抜かしおるか……?」

「そうよ……私は取り戻す……私とアリシアの過去と未来を……!」

 プレシアは歪んだ笑みを浮かべた。天を仰ぐように両手を広げ、

「そうよ……取り戻すのよ……こんな筈じゃなかった世界の全てを! アハハハハハッ!!」

 狂気の哄笑を響かせる。止めるつもりなど更々無い。何をしても目的を果たすつもりなのだ。そこに一喝が響いた。

「馬鹿者があああぁぁっ!!」

 なのはが吼えた。その気迫に空気がびりびりと、怯えたように震えた。

「そんな都合の良いものがあってたまるかあっ! 何が失われし都だ。何が禁断の秘術よ! 在ったとしても所詮は人間の作ったものであろう!?」

「なっ……何を……?」

 プレシアは燃え盛る憎しみを込めてなのはを睨む。並の人間なら魔導師問わず、思わず後退る程の眼光だ。しかしそれで怯むような、元東方不敗マスターな高町なのはではない。負けじとその大きな目に気迫を込め、

「痛みをもたらさぬものに何の意味が有る!? そんな便利なものが有ったならば、人生などただのゲームぞ! やり直しの効く過去など無意味極まりないわあっ!!」

 自分に言い聞かせるような、異様に説得力のある言葉であった。一瞬だけ頷き掛けたプレシアは、小娘のクセにと歯噛みし、自らを奮い立たせるように叫ぶ。

「ならば、その理屈で私を倒してみなさい!!」

 着ていた黒マントをバサリと脱ぎ捨てた。戦闘態勢だ。

「魔力ランクSSの力見せてあげるわ! あなたがどんなに強くとも、この大魔導師プレシア・テスタロッサに勝てるかしら!!」

 その体に膨大な量の魔力が溢れていた。全身に魔力を纏い、紫色の魔法光がオーラの如くプレシアを輝かせる。

「これは……? 何て魔力だ!」

 桁違いの魔力に驚くユーノに、シュバルツはハッと思い当たったようで、

「高町なのはを倒す為に、一時的に暴走状態の駆動炉の魔力を自分に流しているのか!? これでは高町なのはは、この庭園そのものと闘うに等しいぞ!」

 シュバルツの解説にユーノは息を呑んだ。滅茶苦茶な手だが、あのなのはを倒すにはそれくらい必要なのかもしれない。

「面白い! ならば勝負の2文字をもって教えてくれよう!」

 なのはは独特の片足立ちで構えた。プレシアも魔法発動の動作を行い臨戦態勢だ。なのはは叫ぶ。闘いのゴングを。

「魔導師ファイト、レディィィッ……」

「ゴオオオオオォォッ!!」

 応とばかりに応えたプレシアの返しと同時に、なのはは大魔導師に弾丸の如く飛び出した。

「破ぁぁぁっ!」

 なのはの鋭い蹴りが飛ぶ。しかしプレシアの張り巡らした、強固な魔法障壁に阻まれてしまう。恐ろしく硬い防御だ。

「す……凄い! なのはの攻撃を防ぐなんて!」

 少年漫画の解説脇役のように驚くユーノの目の前で、プレシアの周りに魔力スフィアが形成させる。フェイトと同じ『フォトンランサー』電光の槍が連続して射ち出された。

「何のぉっ!」

 なのはは『マスタークロス』でフォトンランサーを跳ね返すが、威力がフェイトとは桁違いだ。マスタークロスが押されている。
 連続して食らうと危ないと判断したなのはは、ランサーの着弾の衝撃を利用し後方に跳ぶ。プレシアは空かさず追撃を掛ける。

「逃がしはしないわ! 時の庭園砲ぉっ!!」

 ユーノはネーミングセンスダサっ! と思ったが、シュバルツは真剣な眼差しで、

「むうっ……何とストレートで恐ろしい名称よ……」

 などと言っている。ああ……あんたらにとってはそうなのね……とユーノは思う。ネーミングセンスとは裏腹に、凄まじい威力の魔力電撃がなのはに降り注ぐ。
 以前海鳴湾沖で使用した次元跳躍砲撃と同じものだが、威力は桁違いである。次元断層発生を遅らせてでも、なのは1人を倒す為に駆動炉の全魔力を使っているのだ。

「ぬわっ!?」

 流石のなのはも受け止めきれず、吹き飛ばされ壁に亀裂が入る程に叩き付けられてしまった。

「なのはあっ!?」

「高町なのは!」

 ユーノとシュバルツの叫びが庭園中に木霊した。


 丁度そちらに向かって走っていたフェイトとアルフの耳に、その叫び声が入って来た。聞き覚えのあるシュバルツ達の声だと、急いで部屋に飛び込んだ2人の目に映ったのは、プレシアの砲撃魔法を受けて防戦一方のなのはの姿であった。
 対面には魔力をそこら中に撒き散らし、紫色の光を放つプレシアが仁王立ちしている。その姿はプレシア版スーパーモードと言ったところである。

「母さんがこんなに強かったなんて……」

 フェイトは鬼のように猛攻を加えるプレシアに驚いた。凄まじいばかりの砲撃で、部屋が崩壊して行く。なのはは先程から避けてばかりである。

「おかしい……あの人はもっと強い筈……いくら母さんが強くても……どうして反撃しないの……?」

 フェイトは違和感に疑問を口にする。するとシュバルツが頷き、

「フェイト・テスタロッサ良く気付いたな……そう、高町なのははどんなに強くとも、今はまだ9歳の少女に過ぎんと言う事だ!」

「それはどう言う事だい!?」

 なのはのピンチに、ユーノは焦って質問する。シュバルツは眉をしかめてなのはを見、

「フェイトとの魔導師ファイトに、今の身では過ぎた技『超級覇王日輪弾』の使用、更には傀儡兵との連戦で限界が近いのだ。所詮は子供の体力だ……」

「そんな……」

 ユーノは顔色を無くす。今まであまりの無敵っぷりに考えた事も無かったが、なのにも子供故の弱点があったのだ。

「アハハハハハッ! 食らいなさいっ!!」

 プレシアは狂ったように笑い声を上げ、再び時の庭園砲を放つ。紫色の落雷が連続してなのはに襲い掛かった。



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 絶体絶命のなのはに勝機はあるのでしょうか!? そして断絶した母子は!? しかし例えボロボロになろうとも、高町なのはは立ち上がるのです。その時……?
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠やらかすの巻(後編)』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

ff様>悪い意味で進化してしまいました。(笑)アルフはこの時こんな事を思ってしまった事を後悔する事になるでしょう。虚数空間、果たして……でも師匠達ある程度クルクル回って飛んでましたから……(汗)

マキナ様>クロノは原作通り結婚して出世しますが、たまに来て無理難題を吹っ掛けて来る人達に悩まされるかもです。

さけ様>恐ろしいのです。(笑)ダサいとか言うと怒りを買います。

弍参様>プレシア母さん、ノリがGガンになってきております。誰かの影響で……お陰でセンスが……(汗)

いいい様>拳で存分に語り合う事となってしまうでしょう。クロノはまだ頑張ります。何しろ原作の傀儡兵の殆どを1人で相手にする羽目に……

ペン・ギン様>目覚めてしまいました。(笑)クロノを信用したからこそ任せたのは嘘では無いのです。実力は本物でさからね。本人の負担を考えなければ……(汗)任される方はたまったものでは有りません。
プレシア母さん暴走中です。時の庭園砲は恐ろしい名称なのです。(笑)マサルやステカセ状態ななのは師匠でした。こればっかりは時間を掛けて成長しないといけませんからねえ。
取り敢えずプレシア母さんは無理してます。生前の師匠と同じですね。ユーノが口に出していた場合、間違いなくユーノに飛んできます。庭園砲すごく真面目に考えたのです。原作ではなのはと対決しなかったプレシア母さんですが、存分に暴れてもらいましょう。

パルメ様>代用どころでは無くなるほど酷……雄々しく進化するでしょう?

ハゲネ様>グランドマスターガンダム状態ですね。エネルギーはプレシアの所でも、傀儡兵が一杯ですから全然楽じゃなかったりします。(笑)
前の所ではA's編の途中までやってました。あの男とか、色々酷い事になっておりますので。想像の斜め下展開目指してがんばります。




[32932] 第20話 師匠やらかすの巻(後編)
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/03/08 21:47
 さて皆さん……言葉というものが在ります。人は言葉で意志を伝え合い社会を形成して来たのです。しかし言葉には限界があります。己の心の内を完全に伝える事は難しいのです。ささいな言葉のすれ違いから壊れてしまうものも多いのです。
 言葉だけでは伝わらないもの、言ってみれば魂。熱き血潮の叫びを伝えるものとは? それは高町なのはという少女の生き様から感じ取れるかもしれません。
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠やらかすの巻(後編)


 紫の稲妻が一斉になのはを襲う。それは魔力炉を利用した凄まじいものだ。そのパワーは巨大な次元航行船『アースラ』にもダメージを与えた程である。
 まともに食らっては、いくら人外凶器少女でも危うい。プレシアは勝ち誇って哄笑を上げた。

「アハハハハハハハハァッ! 死になさい!!」

「たわけが……!」

 砲撃をギリギリのところで避けながら、なのはは怒りの表情を浮かべる。プレシアは完全に勝利を確信していた。

「アリシアの為、此処であなたは死ぬのよおおおっ!!」

「喝っっ! 目を覚まさんか、この愚か者があっ!!」

 なのはは吼えた。声質のせいで腰砕け気味だが、妙に迫力だけはある。怒れる元マスターな少女は、狂気の大魔導師をビシィッと指差した。

「プレシア・テスタロッサ! お前は間違っておる! フェイトも同じお前の遺伝子より産まれた娘、言わばアリシアの妹! それを忘れてアリシアの再生など愚の骨頂ぉぉっ!! と我が弟子なら言うであろうよ……」

 怒濤の勢いで叫ぶと、フッと自嘲の笑みを浮かべた。自分が弟子に言われた事を引用したのが少し可笑しく、感慨深かったようだ。

「な……何ですってぇ~っ!?」

 プレシアは怒りのあまり、鬼の如き形相になっている。なのはは怯まず一歩前に踏み出し、

「第一それでもしアリシアが蘇ったところで何とする!? 自分の為に母がこんなことをしでかしたと知れば、まともでいられると思っておるのか!? アリシアはそれ程薄情な人間なのか!? 答えてみよプレシア・テスタロッサァァァッ!!」

「黙りなさあいいいいっ!!」

 図星を突かれ逆上して我を忘れたプレシアは、最大出力で時の庭園砲を放つ。なのはの周囲全てを埋め尽くす、紫色の電撃の包囲陣。逃げる空間など全く無い!

「死ねえええええっ! 時の庭園砲マキシマムゥッ!!」

 迫る電撃の嵐。なのはは右腕を繰り出し、気合いで防ごうとする。だがいくら何でも無茶だった。危ないとユーノが思わず目を瞑ろうとした時である。女性の声を模した合成音声が響いた。

《protection》

 なのはの目の前に桃色の魔方陣が展開され、魔法雷を受け止めていた。『レイジングハート』が自らの判断で防御魔法を発動させたのだ。

《Let me hep him.The master is tired.l want to be helpful for you》
(私にもお手伝いさせてください、マスターは消耗しています。私は貴女の役に立ちたいのです)

「うむっ! レイジングハートよ良く言った! それでこそ儂の愛機よ!」

 なのはは誇らしげに頷いた。レイジングハートは魔法に慣れていないなのはに代わり、魔力をコントロールし砲撃魔法を防ぐ。
 なのはが潜在的に膨大な魔力を持っているだけあって、その魔法障壁の防御は硬い。即死レベルの攻撃に良く耐えていた。しかしジリジリと押されている。防御魔法も長くは保ちそうにない。
 いくらなのはの魔力が膨大でも、魔力炉に勝てる訳がない。やはり時の庭園そのものには勝てないのか!?

「これしきいいいいぃぃっ!!」

 吼えるなのは。その目がカッと獣の如く鋭く光を放った。

「ぬわああああああああぁぁぁぁっ!!」

 すると見よ! 雄叫びに呼応するように、なのはの右拳の甲に光り輝く紋様が浮かび上がったではないか!
 その紋様、否、紋章はハートの形をしていた! そこに刻まれている文字は!? シュバルツは紅い瞳を見開いて叫んでいた。

「おおっ! あれこそは『キング・オブ・ハート』の紋章! 高町なのははこの世界のシャッフル同盟に選ばれたのだああっ!!」

「何だよ、それえええっ!?」

 ユーノは力の限り突っ込んでいた。もう訳が判らないよ状態である。最早魔法少女とは、ベクトルが明後日の方に吹っ飛んでいる。そんなユーノにシュバルツが親切に、

「遥かに過ぎ去った昔から、戦いの秩序を受け継ぎ守る者……それがシャッフル同盟だ!!」

 だが聞いてもやっぱり意味が解らなかった。それはどう考えても説明になってない。てか、何処の世界にもあるものなのか? とユーノは違う意味で怖くなるが、そんな事はどうでもいいとばかりに、なのはの右手が燃え上がった。

「はああああああああああああっ!!」

 キング・オブ・ハートの紋章が煌めき、右手の一振りで電撃は全て爆散消滅していた。

「ばっ、馬鹿なあああっ!?」

 プレシアは唖然としてしまう。この少女は魔力炉から直接供給されている、膨大な魔力を見事に跳ね返してしまったのだから。

「目を覚ませ! プレシア・テスタロッサよおっ!!」

 なのはは右拳を翳す。紋章が再びピキョ~ンとばかりに赤い光を放つ。

「儂のこの手が唸りを上げる! 炎と燃えて全てを砕く!!」

 キング・オブ・ハートの紋章が更に輝きを増し、右手が太陽の如く光を放った。なのはは炎と燃える右手を振りかざし、プレシアに一気に迫る!

「灼熱! サァンシャイン、フィンガアアアアッ!!」

「跳ね返してあげるわあああっ!!」

 プレシアは防御魔法に魔力炉の全パワーを集中させた。展開された魔法障壁がなのはに向かって拡大して行く。正面から隙間なく壁が押し寄せるようであった。障壁でサンシャインフィンガーごとなのはを押し潰すつもりなのだ。
 サンシャインフィンガーと、魔法障壁が真っ向から激突し目も眩む閃光が走った。

「きゃああああぁぁぁっ!?」

 プレシアは絶叫を上げる。なのはの右手が、魔法障壁を木っ端微塵に打ち砕いていた。衝撃で大魔導師はバンジーのゴムで引っ張られるように吹き飛ばされ、クレーターを作る程壁に叩き付けられた。

「ぐはぁっ……!?」

 叩き付けられたプレシアはズルリと床に落下する。これまでかと思いきや、彼女は執念で立ち上がろうと両足に力を込めた。

「……ま……まだよ……! 私は……負ける訳には……ガハッ!?」

 突然プレシアは激しく咳き込み、口から大量の血を吐いていた。サンシャインフィンガーで内蔵をやられた訳ではない。その血はどす黒かった。

「プレシア……?」

 なのははプレシアの状態に直ぐに思い当たった。自分の時と同じであると。

「お主……病に……」

「そんな事どうでもいいわっ!!」

 プレシアは口許を拭いシュバルツ張りに叫ぶと、なのはを物凄い形相で睨み付ける。病に侵された体に、無理矢理魔力炉のエネルギーを流して闘っていたのだ。最早体はボロボロにも関わらず、まだ戦う気であった。

「たわけが! まだ分からぬか!? ならばこの拳で教えてくれる!!」

 なのはもう許さんとばかりに拳を握り締め、鬼神の如くプレシアに迫る。その体がぶれて見えた。この態勢は……

「酔舞、再現江湖……」

「待ってくださああいっ!」

 残像を残す程の速さで迫るなのはの前に、両手を広げたフェイトが飛び出していた。彼女に当たる!

「デッドリーウェィブッ!!」

 ゴスッ☆ゴキッ★

 鈍い音が2つばかり鳴り響いた。案の定寸前で攻撃を止めるなどという事は全然無い。プレシアとフェイトは仲良く頭にたん瘤をこさえて、潰された蛙のように床に転がった。

(やるんじゃないかと思ったけど……本当にやらかしたよ……こういう場合寸前で止めようよ……)

 ユーノは顔を引きつらせた。本来なら感動の場面になる所が台無しだ。やはりガンダムファイターは、急には止まれなかったようである。
 それでも一応手加減はしていたのか、2人はヨロヨロと身を起こした。プレシアは若干涙目で頭を擦りながらも、隣のフェイトに、

「……何のつもり……? 言った筈よ……消えなさいと……」

 にべも無いプレシアに、フェイトはしっかりとその目を見据える。今まで一度も無かった事だ。そして頭にたん瘤をこさえたまま静かに口を開く。

「私は母さんの娘です……」

「何なの……今更……?」

 忌々しそうに吐き捨てるプレシアに、フェイトはゆっくりと首を振り、

「子供が親を助けるのに、理由など要りましょうか……?」

 漢らしい太い笑みを浮かべた。ノリが明らかにおかしい。誰ですかアナタは? 状態である。プレシアは明らかに戸惑った。
 だが戸惑っている場合では無かった。2人の前に悪魔の如くなのはがそびえ立つ。その右手が今度は闇色に輝いた。

「良い度胸だなフェイトよ……ならばお前から、なぶり殺しにしてくれるわあっ!!」

「ちょっ!? なのはあっ!?」

 ユーノは焦って叫ぶ。しかしなのはに止める気配は無い。無茶苦茶である。ついに見境を無くしたのか高町なのは!?
 駆け寄ろうとするアルフも間に合わない。なのはの死の右手が2人に降り下ろされる。

「死ねいっ! ダークネス、フィンガアアアァァッ!!」

 思わず目を閉じるフェイト。凄まじいばかりの破壊音が部屋に轟いた。

「……?」

 何故か衝撃が来ない。恐る恐る目を開けたフェイトの目に映ったものは、自分を庇ってなのはの前に身を投げ出したプレシアの姿だった。
 なのはのダークネスフィンガーは、プレシアの目前の床に打ち込まれ、床にビッシリと亀裂が入っている。
 なのはは床から手を引き抜いて身を起こし、満足げに笑みを浮かべた。

「それで良い……」

 プレシアは自分の行動に気付き、ガックリと放心して床に踞ってしまった。

「なっ……何故私は……?」

「それは母だからよ……本当は判っておったのだろう……?」

 なのはの言葉にプレシアは、床に踞ったまま頭を抱えていた。

「私は……」

 そんなプレシアにシュバルツが歩み寄る。踞る彼女を哀しげに見下ろし、

「プレシア・テスタロッサよ……娘の……アリシアが言っていた事を思い出せ……」

「……言っていた事……?」

 プレシアはヨロヨロと顔を上げる。何か思い当たる気がした。

「そうだ……何か娘にせがまれたことが無かったか……?」

「……!」

 その言葉でプレシアは思い出した。あれは確か、忙しい仕事の合間にやっと取れた休日を利用し、アリシアとピクニックに行った時の事……
 一緒に居てあげられない事を謝るプレシアに、アリシアは高笑いして言っていた言葉……

「それならば妹が欲しい! 猪突猛進で単純な、手の掛かる馬鹿な妹が、フフハハハハッ!!」

 忘れていた、やけに具体的な言葉が蘇った。何故忘れていたのだろうとプレシアは思う。
 何て事は無い。自分はアリシアの妹を、もう1人の娘を作った、それだけの話だったのである。偽者など最初から何処にも居なかった。そんな単純な事に気付けなかったのかと。

「母さん!」

「……フェイト……」

 プレシアの顔から、凶相がごっそりと抜け落ちていた。しかしフェイトの顔をまともに見る事が出来ない。すると、

「何をグスグズしておる!!」

 なのはが背中を押すように怒鳴った。だが、プレシアはやはり娘の顔を見れない。

「……私が今更母親顔なんて……」

 今まで自分がしてきた事を思い返し、罪悪感で動けなくなっていた。なのはは彼女に優しく笑い掛け、

「フェイトの母上はプレシア殿だけだ……間違えたなら、これから正せば良い……それが出来るのも母だけぞ……? それでも自分が許せぬと言うのであれば……フェイトよ語ってやれぃっ!!」

「はいっ!」

 フェイトは威勢良く応えると、ポロポロと涙を流す母の前に立った。やはりプレシアは、娘の顔をまともに見られず項垂れ、

「フェイト……私は……」

「母さん、私はフェイト・テスタロッサ! あなたの娘です! うおりゃあああああっ!!」

「へぶええっ!?」

 フェイトの内角にえぐり込む右ストレートが、綺麗にプレシアに決まった。顔面にまともに貰い床に吹っ飛ぶ。唖然としてぷっくり腫れ上がった頬を押さえる母に、フェイトは晴れ晴れと笑い掛けた。

「これでおあいこだよ、母さん……」

 色々手遅れ……いや見事な漢女(おとめ)の笑みであった。プレシアは涙腺を決壊させ、

「フェイト、あなたは娘よ! 間違いなく私の娘よおおおおっ!!」

「母さああああんっ!!」

 2人はガッシリと抱き合った。二昔くらい前の少年漫画のような光景だが、それは母と子が分かり合えた瞬間であった。

「えっ? 今ので良いの!? 強引じゃないかなあ……?」

 ユーノはこの暑苦しい流れに少々引いてしまうが、なのははフッと微笑し、

「時には言葉よりも、拳が心を語る事がある……フェイトはああする事で、母を許すと伝えたのだ……」

「そういうものかなあ……?」

 ユーノは首を捻りながらも、無理矢理気味に自分を納得させる事にした。気にしてたらきりが無いと言うか、ツッコミが追い付かない。

「でも……何だかんだ言ってもなのはは凄いなあ……スゴく……ものすごく強引なやり方な気はするけど、しっかり決着を着けた……拳もたまには良いのかな……?」

「ぬわっはっはっ! ユーノもようやく分かったか!」

 なのはは豪快? に笑い声を上げた。シュバルツは相変わらず偉そうに腕組みだが、満足そうに分かり合えた母子を眺めている。アルフはフェイトとプレシアが和解した事自体は嬉しかったが、これで良かったのだろうかと微妙顔である。
 そんなほっこり? した空気の中、次元震が収まってきていた。どうやらクロノが動力炉の封印に成功したらしい。きっと死に掛けてるんだろうな……とユーノは思ったが、

(でも良かった……これで全部終わった……)

 感慨深く、これまでの日々を思い返した時である。不意に床から不吉な音が響いた。同時に部屋が不気味に振動する。

「何だ……?」

 反射的に床を見ると、先程ダークネスフィンガーを打ち込んだ場所から、部屋中に蜘蛛の巣状の亀裂が広がっていた。
 あっ? と声を出す間も無く、次の瞬間床がすぽーんと抜け、風呂の底が抜けるようにガラガラと一気に崩壊した。

「何だこりゃあああああぁぁぁぁっ!?」

 ユーノは落下しながら悲鳴を上げた。虚数空間の影響で、もう飛行魔法はおろか何の魔法も発動しない。

「不覚!」

 シュバルツはプレシア達を助けようとして、逃げそびれてしまっている。同様のなのはは落ちながら、やっぱり偉そうに高笑いし、

「ぬわっはっはっ! 少々力み過ぎたらしい、儂もまだまだよのおっ!」

「前言撤回! やっぱり拳は駄目で、なのははただのウッカリさんだああああぁぁぁぁぁ~っ……」

 今更な事をユーノは叫びながら落ちて行く。全員虚数空間に落ちてしまいました。




 では無く続きます。



 皆さんお待ちかねええっ! 恐るべき死の空間に落ちてしまったなのは達。果たして脱出の手段はあるのでしょうか? 危機に陥るなのは達の前に現れる謎の都とは? 更なる危機が襲い掛かるのです。絶体絶命の中、なのはは遂にある決心をするのです!

 魔闘少女リリカルマスターなのは、『師匠呼んでみるの巻』にレディィィッゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

パルメ様>ユーノは残念ながら染まれなかったようです。染まれたら楽になったのに?

虎様>犠牲になってしまったようです。(笑)しかし彼の受難はまだまだ続くのです。

ff様>取り敢えず関西弁の子は引き込まれるかもしれません。まああの技はまず出るでしょう。(笑)

いいい様>最早誰やねんアンタ状態になってきたフェイトです。これからの彼女を生暖かく見守ってやってください。

ペン・ギン様>会わせたら最悪のような気がしますね。(笑)レイハさん
心意気はプレシア母さんで台無しですね。(笑)プレシア母さん狂気と熱血補正で無理が祟りました。フェイトは最早手遅れです。取り敢えずバルデイッシュを背負ってハチマキでもするかもです。(笑)
最後にやらかした師匠でした。でも全然ピンチに見えないのは仕様です。ユーノは大ピンチですけど。(笑)
マキシマム、そういえばあちらもマキシマムでしたね。庭園砲は七種類のバリエーションがあります。←嘘
フェイトの将来は果たして……(汗)





[32932] 第21話 師匠呼んでみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/03/25 20:00
 さて皆さん……不幸な事故により、一度落ちたら助からぬ死の虚数空間に落ちてしまったなのは達。その前に姿を現す死の街の正体は?
 追い詰められて行くなのはは絶体絶命の危機に陥ってしまうのです。高町なのはの運命は!?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 師匠呼んでみるの巻


 白くうねる虚数空間を、なのは達は何処までも落下して行く。まるで白い闇の中を果てしなく流されて行くようであった。

(ああ……もう駄目だ……スクライアの皆サヨウナラ……短い人生だったなあ……)

 ユーノは無限にも思える墜落の感覚の中、色々なものが頭の中を走馬灯のように駆け巡り観念していた。
 落下速度が増し意識が遠退いて行く。ユーノの意識は暗黒に呑み込まれようとしていたが……

「成る程……これが虚数空間か……中々面妖で面白い所ではないか?」

「ウム……科学者として実に面白い。虚数空間に落ちて生きて帰った者はいないからな。本当に魔法が効かんぞ、フフハハハッ!」

 約2名が場にそぐわない会話をしている者達がいた。言うまでも無く、なのはとシュバルツである。ユーノは正気に還った。

「あんたら余裕だなあっ!?」

「どーすんのさ、この状況を!?」

 相当不味い所か絶望的な状況の中、律儀に突っ込むユーノとアルフである。すると、

「ふっ……慌てるでない……これしきの事で気を乱すなど、二流のするの事よ……」

「己の心を研ぎ澄ますのだ。さればおのずと道は拓ける!」

 何時もと同じノリのなのはとシュバルツである。ユーノはそれ以前の問題として、なのはに頼むから反省してくれと心の底から思った。
 なのはとシュバルツは、それぞれ気絶しているフェイトとプレシアを抱えているが、全く危機感が無い。と言うか、物見遊山にでも来たかのように、落ちながらアチコチ見物していた。余裕である。
 ユーノは自分達だけあたふたしているのが馬鹿らしくなるが、勿論正常なのは彼の方である。その時だ。

「何か在るぞ!」

 なのはが声を発した。虚数空間に何か在るとはどういう事であろう。ユーノが彼女の視線の先を辿ると……

「あれはっ!?」

 思わず自分の目を疑った。だが見間違いでも幻でも無い。何と虚数空間に、巨大な都が浮かんでいるではないか。

「ま……まさか……幻の都『アルハザード』……!?」

 ユーノは興奮して眼下に広がる大都市を見下ろした。古代都市のように、石造りの巨大な建造物がそびえ立っているのが見える。遺跡発掘を生業にしているスクライア一族のユーノにしてみれば、とんでもない発見である。スクライアでなくとも世紀の大発見であろう。

「良しっ、では彼処に行ってみるとするか……皆私に掴まるのだ!」

 シュバルツが提案する。このままだとアルハザードらしき浮遊都市の横を抜けて更に落ちてしまう。飛行魔法も何も発動しないが、シュバルツには関係無いのだろう。
 まだ気絶しているフェイトとプレシアを皆で抱え、全員で覆面ちびっ子に掴まった。シュバルツは『アイアンネット』を射出する。蜘蛛の巣状の鎖がとんでもなく長く伸び、都市の外壁の一部に引っ掛かる。
 ユーノはこんな物何処に仕舞ってたんだと思ったが、今はゲルマン忍法に感謝である。

 何やかんやで謎の浮遊都市に降り立つ事が出来た。ユーノは興味深く辺りを見回してみる。
 石造りの高層建造物が建ち並ぶ都市部を、これまた石造りの高い壁が囲んでいる。一見遺跡のようだが、まったく古びていない。外壁も壁越しに見える建造物も昨日造られたように真新しく見えた。
 材質も単なる石では無さそうだ。見た事も無い光沢を放ち、しっかり磨きあげられたようであった。意識を取り戻したプレシアも、

「まさか……アルハザードなの……?」

 驚いて巨大な都を見上げている。せっかく来たのだからアリシアを生き返らせると言い出しそうだが、特にそんな様子は無い。

「何だろう……これは……?」

 都を観察して歩き回っていたユーノは、一枚岩で造られた扉で出来た門を見付けた。巨大な扉だ。巨人でも出入り出来そうである。入り口であろう。その扉の横に文字が彫られているのに気付いた。

「これは……古代文字か……? 何とか読めるかな……?」

 ユーノは今まで培ってきた知識を総動員して、文字の解読を始める。遺跡発掘を生業にするスクライアの本領発揮である。

「ええと……此処は……人が持つには……過ぎた力の……聖地……アル……ハザード……やっぱり『アルハザード』なんだ!」

 興奮のあまり声を弾ませた。何とか解読出来そうである。ユーノは引き続き文字に目を走らせる。

「え~と……警告……此処は禁断の場所……何人たりとも……立ち入ってはならない……?」

 警告文に思えた。ユーノが文字解答で頭を悩ませている横で、なのはとシュバルツが何やら話し込んでいる。

「なる程な……それなら可能かもしれん……」

「ウム……今考えられる手段はそれしか有るまい……」

 などと話し合っていたが纏まったらしく、2人は門の正面に立った。一方ユーノは、

「ふむふむ……侵入せし者には……死の鉄槌がくだるであろう……身の程知らずの……愚者に死有れ……? これって入ったら問答無用で攻撃されるって事……? なのはっ、中には入らない方が良いよ!」

 物騒極まりない警告文を読み解き注意を促そうとすると、耳をつんざくデカイ破壊音が響いた。巨大な石の扉が砕け散っていく。
 なのはとシュバルツの揃って繰り出した拳が、扉を粉々に砕いたところであった。

「わあああっ!? ちょっと待ったああっ!!」

 舞い上がる粉塵の中ユーノは慌てて叫ぶが、時既に遅し。やっぱり話を全く聞いてないなのはは仁王立ちで、

「誰か居るかあっ!? 居ったら応えて貰いたい! 儂は『流派東方不敗』の拳士、高町なのは! 是非話がしたい!!」

 大声で呼んでみる。ポッカリ空いた入り口から覗く街並みに、なのはの声だけが木霊した。
 人気は全く無い。応える者も無い。どうやら誰も住んでいないようだ。既に死に絶えたか放棄されたのであろうか。ユーノはホッと胸を撫で下ろした。

(良かったあ……侵入者には、何らかの防衛機構か罠でも有るのかと思ったけど、取り越し苦労だったみたいだ……)

 その間にもなのはとシュバルツは門を潜り、ズカズカと我が物顔で中に踏み入って行く。
 あの2人に恐怖心とか有るんだろうか? とユーノは今更ながら呆れた。プレシア母さんはフェイトとアルフに肩を貸して貰い、複雑な表情で街並みを見渡している。その時であった。

「気を付けいっ! 何かがやって来おるぞ!」

 なのはが、本人だけは鋭いつもりの可愛らしい声で警告を発した。気配を察知したらしい。同じく察知したシュバルツは街を見据える。ユーノ達の耳にも妙な音が聴こえてきた。

「あれは……?」

 フェイトは音の出所を聞き付け前方を見る。静かで人気の無かった街のあちこちから、微かな機械音と風を切る音が聴こえる。

「何だあれは!?」

 ユーノが声を上げるのと同時に、街の至るところから無数の奇妙な物体が、多脚を忙しく動かして這い出して来るではないか。
 機械で昆虫を歪に再現したような奇妙な姿をし、蟹のような多脚の脚部に一対の鋭い大鎌を両手に装備している機械群であった。
 しばらく後に『ガジェットドローンⅣ型』と呼ばれる事になる機体と似通っていたが、勿論今のなのは達が知るよしも無い。
 ワラワラと出て来たガジェット群は、あっという間にその数を増やし、なのは達の前に立ち塞がる。その数は軽く千を超えていた。

「うわあ……やっぱりこう言う事だったのか……」

 青くなるユーノを他所に、なのはとシュバルツは怯まずズイッとばかりに前に踏み出した。ガジェット群は反応し、一斉にギラギラした大鎌を構える。

「ふふん……大した出迎えよのう……」

「余程中に入られたくないと見える……」

 大群を相手に何処吹く風の2人である。それぞれ得意の構えを取り、ガジェット群に向かおうとした時だ。不意に上空に光り輝く者が現れたではないか。
 天使のような白い衣を纏い、七色に輝く12枚の翼を持つ、金色の髪をなびかせた非人間的なまでに美しい女性であった。

「此処に住まう者か……?」

 なのはの問いに女性は、感情が感じられない紅玉のような瞳で全員を見下ろし、

《我は『アルハザード』の『守り人』なり……うぬらのような愚者を消し去る為に存在する者……アルハザードの実在を知った者は何人たりも生かして帰す訳にはいかん……》

 どうやら口封じをするつもりのようだ。『アルハザード』の実在は秘密なのだろう。守り人は死刑宣告を静かに告げる。

《不運を呪うが良い……うぬらには此処で死んで……?》

「「「「「「「なのおぉっ!!」」」」」」」(訳・すかしてるんじゃないなのっ! この悪趣味派手派手カラスがなのっ!!)

《ひでぶっ!?》

 最後まで言い終わらない内に女性・守り人さんは、突如現れた『ミニなのは』達にぶっ飛ばされ、地面にゴチ~ンッと墜落した。頭に7つばかりタン瘤をこさえてピクピク痙攣している。

「貴様は阿呆なのか!? 能書きを垂れている暇があったら、さっさと掛かって来んかあっ!!」

 タン瘤を押さえて涙目の守り人さんに、なのははポポ~ンッと小気味良く怒鳴った。シュバルツも軽蔑したように、

「愚かな……ファイターに口先で語ろうなど、片腹痛いわ!!」

 ため息を吐くユーノは、相も変わらず拳語りな少女2人に一応、

「いや……そもそも語ってないし……今のタイミングで殴りかかるなのはも大概だよ……?」

「何言ってるの! あんなの駄目だよ! 自分でファイトを申し込んでおいて油断するなんて、魔導師ファイター失格だよ!!」

 ツッコミを入れるユーノは、何故かフェイトに怒られてしまった。鼻息も荒く力説する金髪少女に、ユーノは乾いた笑みを浮かべ、

「君も色々……手遅れのようだね……?」

「ありがとう! 流石あの人の使い魔だね、判ってる!」

 とても良い笑顔で返す。

「言っとくけど、誉めてないからね!? てか僕は使い魔じゃ無いから!!」

 ユーノのツッコミも、今のフェイトはどこ吹く風である。ふと彼女の後ろを見るとアルフが引きつった顔をし、プレシア母さんは温かい眼差しでフェイトを見守っていた。
 何かサムズアップまでしている。どうやら親バカを通り越して、バカ親に進化したようだ。それはともかく、ぶっ飛ばされてしまった守り人さんは、

《こ……このゴミクズ共があ~っ! よくも……よくも守り人たる私に手を挙げたなあ~っ!!》

 さっきまでの冷酷さは何処へやら、ぶちギレて怒りの声を上げた。涙目なのと頭のタン瘤は見なかった事にしてあげよう。

《掛かれぃっ、守護の兵達よ! ゴミクズ共を1匹たりとも生かして帰すなあっ!!》

 ガジェット群はぶちキレた守り人さんの命令の元大鎌を振り上げ、怒涛の勢いで襲い掛かって来た。まるで街そのものが押し寄せて来るような錯覚を覚える程の大群である。
 迎え撃つなのはとシュバルツの隣に、フェイトも駆け付けた。

「私もお手伝いします! アルフ、母さんをお願い!」

「虚数空間では魔法は使えんのではないのか?」

 なのはは不思議に思うが、フェイトは手を掲げて見せる。その手に電光がスパークした。

「アルハザードの中だと魔法が使えるみたいです」

 シュバルツはなる程と辺りを見回し、

「フム……此処には特殊なフィールドが張られているようだ。『アルハザード』も主に魔力を使っているのだろう……」

「そんな訳で行きます!」

 言うが早いがフェイトは『バルディッシュ』を起動させ、得意の『フォトンランサー』をガジェット群に撃ち込んだ。

「えっ!?」

 フェイトは結果を見て唖然としてしまう。放たれた電光の槍がガジェットに当たる直前に、分解されかき消えてしまったのだ。プレシアはその現象を見て、

「『A・M・F』!? この機械はアンチ・マギリング・フィールドを装備しているらしいわ、魔法がキャンセルされてしまう、気を付けて!」

 敵の機能を見破った。伊達に研究部門で大魔導師と呼ばれていた訳ではないようだ。だがそれは敵だけ魔法が使え、此方の魔法は一切通用しないと言う事だが……

「ならば儂らに!」

「問題無い!」

 2人の魔法? 少女の拳が唸りを上げ、襲い来るガジェットをオモチャのように吹き飛ばした。

「はあっ!」

 シュバルツはガジェットの破片の中、額のV字形の飾りをブーメランのように投げ付ける。飾りは鋭利な刃物と化し、ガジェットの金属ボディーを次々と両断して行く。

「雑魚がああっ!!」

 なのはの繰り出す掌底打ちに、ガジェットがスクラップになって辺りに飛び散った。

「高町なのは、お前は消耗している! 斬り込みは私に任せろ!」

 シュバルツは疾風の如く駆けながら叫ぶと、両腕のデバイスに装備されているブレードを展開する。そして両腕をガッシリと頭の上で組み合わせ、独楽のように高速回転を始める。必殺技の態勢だ。

「シュツルム・ウントッ・ドランクンッッッッッッ!!」

 人間竜巻となったシュバルツは、ガジェット群の中に躍り込む。竜巻に巻き込まれたガジェットは吹き飛ばされ建物に激突爆発し、残りはバラバラに砕け散り、派手に破片をバラ蒔いた。
 張り切っているのか、何時もより多く回っております状態である。

《無効化フィールドが効かないだと? おのれええ~っ、怪しげな術を使いおって、何者だ!?》

 守り人さんは整った顔を鬼みたいな形相にして悔しがった。永く生きて来た守り人さんだったが、こんなおかしな連中を見た事が無い。
 魔力も重火器も無しでガジェットを破壊出来る者などいなかった。ガジェットの装甲は並の攻撃にはビクともしないにも関わらずだ。
 ユーノは『ガンダムファイターと言う、スゴく非常識な人達ですよ』と教えてあげたくなったが、なのは達に怒鳴られる気がしたので止めておいた。

 それでもガジェット群は『デスアーミー』の如く続々と湧き出して来る。シュバルツは獅子奮迅の暴れっぷりだ。ゲルマン忍法が火を吹く。『メッサーグランツ』が敵を突き刺し、『シュピーゲル・ブレード』が煌めく。
 なのはも派手な技こそ使えないようだが、非常識な身体能力とバカ力でガジェット群を破壊する。一見なのは達有利に見えるが、上空に退避して戦況を眺めていた守り人さんは、ニヤリと厭な笑みを浮かべた。

《フフフ……中々やるようだがそこまでだな……アルハザードには無限に守護兵を生産する事が可能なのだ! 何れお前達は力尽きる、それに守護兵はこれだけでは無いぞぉっ!!》

 守り人のヒステリックな声と共に轟音が響き、石造りの建造物を中から砕いて、Ⅳ型を遥かに上回る大きさのガジェット群が現れた。

「な……何て大きさだ!」

 ユーノは唖然と、全長十数メートルはある巨大ガジェット群を見上げた。その姿は金属製の異形の甲虫のようだ。流石は『アルハザード』色んなものが出て来る。

「いかん!!」

 シュバルツはハッとした。後方に退がっていたプレシア母さん達の方に、巨大ガジェットの一機が轟音を立てて迫っていた。頭部にあたる部分が青白く輝く。熱光線を放つつもりだ。

「させんっ!」

 シュバルツは小型ガジェットを蹴散らして、テスタロッサ家の前に素早く降り立つと、石造りの床を手で叩く。すると石のブロックがガバッとばかりに捲り上がり、熱光線からプレシア母さん達を守った。
 ゲルマン忍法、畳み返しの術である。ドイツに畳みが有るのか? というツッコミは自動的にスルーされます。
 熱光線でブロックが破壊され熔解し砕け散る。破片が降り注ぐ中、プレシア母さんは目前の少女を見て呟いていた。

「……やっぱり……あなたは……」

 爆風でシュバルツの覆面がほとんど脱げ掛けている。その下にはフェイトと瓜二つの顔が在った。そっくりだが、フェイトより何歳か年下に見える。

「はっ!?」

 シュバルツは慌てて脱げ掛けの覆面を被り直し、

「そんな事はどうでもいいっ! 今は退がっているんだ!」

 少々焦っているシュバルツの後ろに、もう一機巨大ガジェットが迫っていた。

「シュバルツ! 何を呆けておる!?」

 なのはが間に割り込み、関節部を狙って『マスタークロス』を打ち込んだ。関節をやられ地響きを上げて倒れ込む巨大ガジェット。今のなのはの体力ではこれが目一杯である。
 それでもガジェット群の数は更に増していた。いくら破壊してもきりが無い。シュバルツの隣に降り立ったなのはは背中合わせになり、

「シュバルツよ……このままでは何れ力尽きよう……」

「ウム……お互いまだ子供の身……私の身体は機械を埋め込まれ強化されてはいるが、7歳相当の身ではそうは保たん……」

 シュバルツも流石に消耗しているようだ。と言うか、何気に重要な事を言った気がするが、気にしてないなのははスルーである。
 上空の守り人さんは、勝ち誇った顔で此方を見下ろしている。自滅するのを待っているのだ。そうなるのは時間の問題であろう。

「そこで儂に考えがある!」

 なのはは右腕の『レイジングハート』を掲げ、不敵な笑みを浮かべた。真紅のコア部分から青く輝く宝石が現れる。今までこっそり集めて来た『ジュエルシード』だ。

「なる程な……願いを叶えるものとしては欠陥品だが、強靭な精神力で支配すれば『アレ』を此処には呼び出すくらいは出来るかもしれんな……」

 シュバルツは察して覆面越しにニヤリと笑う。なのはは真剣な目で青い宝石を示し、

「確実に成功する保証は無いが、それでも良いか?」

「フフハハハッ! 見くびるなよ高町なのは!!」

「ふっ……そう言うと思ったぞ……」

 なのはは満足げに頷くと、『ジュエルシード』を素手で掴む。シュバルツも宝石をなのはと共に、しっかりと握った。2人の魔力? を注入された『ジュエルシード』が鋭い光を放つ。

「なのは、何をするつもりなんだ!?」

 ユーノがそれに気付いて声を掛けるが、なのはは振り向きもせず、

「離れておれ!」

 一声注意を促し、シュバルツと共に『ジュエルシード』を握り締め、力の限り叫ぶ。互いに久方振りの!

「ぬああああああぁぁっ!!」

「ガンダァァァムゥゥゥゥッ!!」

 なのはを包むようにマスタークロスが螺旋を描き、シュバルツの指がパチィィンッと鳴らされた。それに呼応して『ジュエルシード』が更に青く輝き、2人の背後の床が激しく光を放つ。

「何だああぁぁっ!?」

 ユーノは色々慣れたつもりだったが、これには驚愕と嫌な予感とで声を上げていた。光の中から2つの巨大な影が湧き出すように現れたではないか!
 1つは黒を基調としたボディー、2本の角を生やした頭部に、背中に巨大な真紅の翼を持つ巨人。
 もう1つはヘルメット状の頭部、黒と白のコントラストのボディーに、両腕にシュバルツと同じ一対のゴツいブレードを装備した巨人。
 仁王立ちするなのはとシュバルツの背後に、分身の如くそびえ立つ2体の巨人……否『モビルファイター』は、2人のかつての愛機『マスターガンダム』と『ガンダムシュピーゲル』!!

 ガンダム呼んじゃいました……




つづく



 皆さんお待ちかねえええっ! 時空を超えて現れたマスターガンダムとガンダムシュピーゲル! なのは達はアルハザード相手にガンダムファイトを挑むのです! 果たして……
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠割ってみるの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!








※感想返しです。

魅月様>守り人さん涙目ですね。ユーノは今後大体そんな目で見られるでしょう。(笑)望んでないのに、サバイバリティーが凄いアップしてますし。

ななん様>もっとやり過ぎて酷い事になるかもしれません。(笑)

ペン・ギン様>闇の書さんは果たして……(汗)騎士達があの有り様ですし。あいつも居ますし。(大汗)3期……斜め下展開なのは間違いないかと。
フェイトはもう駄目です。(笑)ユーノはアルフに手伝って貰いましょう。
クロノの消息は果たして……(オイ
ガンダム来てしまいました。フェイト専用モビルファイター、ライトニングガンダムみたいだと尤もらしいかもです。デスサイズもそれっぽいですけどね。(笑)

いいい様>ガンダム乗らなくても良い説がありますね。(笑)どれだけなんだか……(汗)まあ今は子供ですからね。相手には最悪でしょうが。

ご都合主義様>細々と更新しておりました。もす少しで無印も終ります。ドモンまでもうちょっとお待ちください。一応オチまで決めてあるので、何とか完結目指したいと思います。

虎様>無双と言うより、変態が来た状態が一番近いです。迷惑度は1+1=3600くらいになります。

ff様>与えてはいけないものの、最もたるものですね。アルハザード、普通だったらまず負けないんでしょうが。相手がアレですから。

パタパタ様>前にまどか☆マギカで、全員ガンダムファイターのネタを考えた事があります。魔法少女(物理)











 



[32932] 第22話 師匠割ってみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/04/02 18:15
 さて皆さん! 危機に陥ったなのは達は、何とジュエルシードを使い、かつての愛機マスターガンダムとガンダムシュピーゲルを呼び出したのです!
なのはとシュバルツは、アルハザードに対し敢然と闘いを挑むのです!
 それでは魔導……いえ、ガンダムファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 師匠割ってみるの巻



 数年前・ミッドチルダ某所

 此処は人気の無い山中に作られた、ある組織の秘密研究所である。簡単に言うと、大掛かりな犯罪組織の息が掛かった非合法な研究所だ。

 研究の目的は武器の開発や、戦闘サイボーグ『戦闘機人 』の開発である。その施設の一室に、青い髪をした2人の幼い少女が閉じ込められていた。
 少女達は何も無い寒々とした部屋に、ポツンと一つ置かれた鉄パイプ製の粗末なベッドに、身を寄せあってうずくまっている。
 2人は戦闘機人と呼ばれる、サイボーグのプロトタイプとして開発された少女達だった。
 来る日も来る日も実験と検査の毎日、名前すら無い。タイプ01、02と製造番号だけが、彼女達に与えられたものだった。

 そんな生きているか死んでいるのか、判らない日々が続いていたある日の事だった。
 01と呼ばれる長い髪の年上の少女は、周りが騒がしい事に気が付いた。怖がるショートカットの年下の少女、02を抱き締めてやりながら周りの様子を窺ってみる。
 研究所の科学者達や護衛の魔導師達が、慌てふためいているようだった。あちこちで爆発音も聞こえる。

「他の研究所から脱走した、タイプ00が何で此処に!? 」

「あの大魔導師の娘の流出遺伝子で作られたヤツか!? 何 で!?」

「判らん!最後の通信では、何年も大人しかった00が急に 「これ位成長すれば貴様ら外道共に用は無い」とか言って、妙な覆面を被って暴れ出したそうだ! 何で00はあんな力 を!?」

 そんな会話が聞こえて来た。少女には意味が良く解らなかったが、何者かが研究所に襲撃を掛けて来たらしい。激しい破壊音が響き、砲撃魔法らしき音も聞こえる。

「うぎゃあああ~っ!!」

「うわあ~っ!こっちに来るなあ!!」

「たっ、助けてくれええ~っ!」

 研究所の護衛魔導師達の悲鳴が聞こえて来る。どうやら一方的にやられているらしい。 少女は悲鳴と破壊音に混じって、何か変な笑い声を聞いた気がした。
 次の瞬間一際大きな音が響く。まるで室内で竜巻でも発生したかのように、研究所が大きく揺らいだ。
 衝撃で壁に亀裂が入り、頑丈な部屋の扉が弾け飛んだ。 幾つかの悲鳴が聞こえた後、人の足音が近付いて来るのを少女01は察知した。 襲撃者が部屋の中に入って来たようだ。
 研究所は、さっきまでの騒ぎが嘘のように静まり返っている。どうやら全滅してしまったらしい。 少女は近付いて来る人影を前に、年下の少女を庇うように抱き締めた。
 幾ら戦闘機人のプロトタイプでも、まだ幼い2人には満足に戦う力は無い。足音が迫る。年下の少女は震えてしが みついたままだ。
 殺される! と少女は02を抱き締め、思わず目を瞑っていた。その時、

「安心しろ。私は味方だ!」

 少女の可愛らしい声に似つかわしくない、偉そうな言葉遣いの声が響いた。少女が驚いて顔を上げると、妙ちくりんな覆面をした金髪の少女が、腕組みしてとっても偉そうに立っていた。




 時空管理局所属の女性陸戦魔導師『クイント・ナカジマ 』は、通報を受け他の局員と共に、秘密研究所に駆け付けていた。 研究者や、護衛魔導師は全員のびており、研究所は滅茶苦茶に破壊されている。現場検証の中クイントは、保護した少女2人に話を聞いてみる事にした。
 年下の少女は人見知りなのか、年上の少女の後ろに隠れていて、話を聞くのは無理そうである。 一方年上の少女は、気丈にクイントの目をしっかりと見て一言、

「覆面格好良かったです!」

 目をキラキラさせて言った。

「覆…面……?」

 クイントは訳が解らず、抜けた声を出ていた。




***********




『マスターガンダム』に、『ガンダムシュピーゲル』それぞれの機体腹部のコックピットハッチが、ガシュッとばかりに開く。なのはとシュバルツはノミの如く跳ね、その小さな姿がコックピット内に消えた。
 ここは脳内BGMで、シャイニングフィンガーの時の音楽を流すといいかもしれません。

 モビルトレースシステムが起動を開始する。 全〇な姿でコックピット中央に立つ2人(お察し下さい )に、薄いゴム状の膜を張ったリングが降下し、粘着製の膜が物凄い圧力で少女の体にぎゅるぎゅると張り付いて行く。
 その圧力は、普通の子供に耐えられるものではない。 しかし2人の人外少女には関係ないようだが、幾分少女達に悩ましげな苦悶の表情が浮かぶのはお約束である。
 少女の細い肢体に、各種センサーが組み込まれたスーツが巻き付くように、ピッタリと装着された。
 なのはは紫色の少女の肢体がくっきり見える、ファイティングスーツである。 胸に日の丸をあしらった姿は、かつての愛機『ヤマトガ ンダム』に乗っていた時と同じデザインだ。
 今の体型ではとてもマスターの時の服は着れないので、代わりという訳だ。

「ふふふ……ガンダムか……久しいのお……」

 なのはは懐かしげにコックピット内を見渡し、染々と呟いた。

《フッ……全くだな……》

 シュバルツは以前と同じ、ドイツ国旗を思わせる3色を基調としたファイティングスーツを眺め、感慨深そうだ。
 全システムが起動し、全方位モニターが周囲の景色を映し出す。2機のガンダムのメインカメラに火が灯り、唸りを上げるように全機能が起動を開始した。

『はあああっ!!』

『オオオオッ!!』

 2人の熱い気合いと共に、マスターガンダムは機体を慣らすように、流派東方不敗の演舞を無駄に華麗に舞う。
 ガンダムシュピーゲルも負けじと両の腕をジャキィンとばかりに力強く振る。無駄に迫力と闘気が湧き上がる。
 その動きは正に人間そのもの。モビルトレースシステムは、完全にガンダムファイターの動きをトレースする。

《な……何なのだ……?それは一体……?》

 守り人さんは唖然として、2体のガンダムを見た。こんなおかしな光景は見た事が無い。 なのは……否マスターガンダムは、その巨大な拳を突き出し、

『ふっふっふっ……そう……これが高町なのはのもう一つの姿 ……マスターガンダムだ!!』

『フフハハハ……ガンダムシュピーゲル見参……!』

 ガンダムシュピーゲルは凄まじく偉そうに腕組みして、高らかに名乗る。その光景にフェイトは、

「格好いい……!」

 と目をキラキラさせて見入っていた。隣を見ると、似たような感じでプレシアもガンダムを見上げ、

「美しいわ……!」

 などと感嘆の声を上げている。この親子もう駄目だ! と ユーノは思った。 アルフは後ろで頭を抱えて、ブツブツ何か言っている。 色々と着いて行けないらしい。

《こけおどしだ! 殉滅せよ守護の兵達よおおっ!!》

 守り人さんの指令の元、大小様々なガジェット群が雪崩の如く2体のガンダムに襲い掛かった。 それに合わせ、なのはとシュバルツは吼える。

『相手としては物足りんが久々だ! ガンダムファイト、レ ディィィッ……!』

『ゴォオオウゥッ!!』

 それを合図に2体のガンダムはバーニアを爆発的に噴かすと、 吹っ飛ぶような勢いで同時に飛び出した。
 一瞬にしてガジェット群が木の葉のように宙を舞う。次々と爆発音が轟き、破片が派手に飛び散った。
 マスターガンダムの腕部から光る布状の物体が飛び出し、迫り来るガジェット群を一斉に蹴散らしたのである。ガ ンダム版『マスタークロス』だ!

 ガンダムシュピーゲルが腕のブレードを一閃させると、十数メートルの巨大ガジェット群が、ボディーを真っ二つに叩っ斬られて吹っ飛んだ。
 たちまち千機近いガジェットが、一山幾らのスクラップの山と化す。ガジェットは、2体のガンダムに触れる事すら出来ない。
 しかしガジェットも新たな機体が続々と湧き出して来た 。どうやら無限にガジェットを生産し続けられるというのは、ハッタリではないようだが……

『雑魚がああっ!!』

『笑止っ!!』

 2体のガンダムはまったく怯まない所か、鬼神の如くガジェット群を蹴散らし行く。途中トラップが発動したらしく、2体のガンダムに次々と魔法陣が展開された。
 それは現行の魔法を遥かに超えた、空間ごと対象物を破砕する魔法や、高重力で相手を押し潰す魔法などの恐るべき魔法であった。人や機械が察知出来る攻撃では無い。アルハザードは伊達では無いのだ。
 しかしなのは達は楽々と、発動前にヒョイヒョイとかわしてしまう。守り人さんは、切れ長の目を丸くして驚愕した。

《そんな馬鹿なっ!? 何故かわせる!? 人間やセンサーで避けられる代物では無いぞぉっ!?》

 マスターガンダムとガンダムシュピーゲルは、ガジェット群を蹴散らしながら律儀に、

『たわけがあっ!こんなグズな攻撃が『流派東方不敗』 に通じると思ったか!?』

『明鏡止水の心だ!!』

 などと、答えになってない答えを返しておく。まともに考えても無駄なのである。ガンダムファイターだからなあ ……としか言いようが無い。
 何と言うか、お話にもならなかった。ユーノは暴れまわるガンダムを見て、爽快感よりも、

(これは酷い!!)

 と思った。もはや「魔法少女? それはどんな食べ物ですか?」状態である。ベクトルが明後日の方向どころか、異次元までぶっ飛んでいた。

『どうした! どうした! どうしたああぁっ!!』

 ガンダムシュピーゲルは、ガジェットを『アイアンネッ ト』で纏めて絡め取り、網に掛かった大漁のイワシのようになったガジェットを、ブンブン振り回し地面に叩き付ける。
 ガジェット群は粉々に砕け大爆発を起こし、盛大な火柱がアルハザードに上がった。

『流派東方不敗が奥義! 十二王方牌・大車併っ!!』

『なのっ!!』『なのっ!!』『なのっ!!』『なのっ! !』『なのっ!!』『なのっ!!』『なのぉぉっ!!』

 マスターガンダムが前面に展開した梵字の陣から、何故かマスターガンダムの格好をしたミニなのは達が一斉に飛び出す 。
 本来なら、ミニサイズのマスターガンダムが飛び出すのだが、どうやら桃子母さんの侵食が、こんな所にまで影響を及ぼしたらしい。
 子供がコスプレしてるようにしか見えないが、元がマスターガンダムなので普通にデカい!
 マスターなミニなのは達は、ミサイルの如くガジェット群に突っ込み、楽しそうに笑声を上げ破壊の限りを尽くす 。

 もうメチャクチャであった。大暴れどころではない。蹂躙を通り越して、最早ギャグだった。笑うしかない。
 ユーノは何時ものノリで、アレに巻き添えを食うと本当に死にそうなので、マスターなミニ達に見つからないように素早く隠れた。

 数万機程を片付けたところで、なのははシュバルツに呼び掛ける。

『一機一機に構っていてもしょうがない! シュバルツ手を貸せぃ! まとめて奴らを吹き飛ばす!!』

『フッ、アレをやる気だな? 承知!!』

 察したシュバルツはニヤリと即答する。さすがは闘いの極みに通じた者同士、即席の連携でも息はピッタリだ。

『超級ぅっ、覇王っ!』

『ゲルマン電影弾っっっ!!』

 なのはが叫び、シュバルツが続く。何処からともなく稲妻が走り、なのはの周りにクッキリと『超級覇王ゲルマン 電影弾』の書き文字が見えた。
 毎度毎度だが、本当に幻覚なのだろうか? とユーノは冷や汗をかく。だがまだ甘かった。
 マスターガンダムのボディーが光る『気』の塊に包まれ 、ギュルギュル回り始めたのも、まあいいだろう。ユーノも見慣れた『超級覇王電影弾』である。だが問題は!

「何でガンダムの顔が、なのはの顔になってるんだああっ !?」

 ユーノは思いっきりツッコミを入れていた。此処で入れずに何処に入れると言うのか。 回転する『気』の塊の中央に浮かぶ顔は、マスターガンダムのゴツイ顔では無く、どう見ても高町なのは本人の顔であった。
 フェイトは、なのはなマスターガンダムを尊敬の眼差しで見上げ、

「凄い! これはきっとあの子がガンダムで、ガンダムがあの子という事だよ!!」

「君は黙ってなさい!」

 ユーノはどこぞの武力介入な人ばりに、上手い事言ったとドヤ顔の、阿呆の子になりかけている少女に突っ込んで おく。

「これは……興味深いわ! メモメモ……ゴファッ!」

 プレシアは懐から端末を出して、何か書き込み始めている 。血を吐きながら……

「アンタはアレをメモって、どうする気なんですか!? 無理すんな! あああっ! ツッコミが追い付かないいっ!!」

 とユーノが頭を抱えている前で、そんな事はどうでもい い! とばかりに、なのはは叫ぶ。

『撃てえいっ!シュバルツ!!』

『そぉりゃああああああぁぁっっ!!』

 こちらも、そんな事はどうでもいい!! とばかりに、ガ ンダムシュピーゲルは、集中した『気』を、なのはなマスターガンダムの尻に撃ち込んだ。

『ぬわああああああああああっ!!』

 シュピーゲルのパワーで打ち出された、なのはなマスターガンダムは、凄まじい勢いでピンボールのように敵の大群に突っ込んだ。

 怒牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙牙っ !!

 ガジェット群を蹴散らして、マスターガンダムは一直線にアルハザードを突っ切った。その様はデスアーミーを蹴散らすが如く。
 次々と無数の爆発が起こる中、宙に舞い上がったマスターガンダムは、空中で何時もの構えをビシイッと決め叫ぶ 。

『爆発っ!!』

 掛け声と同時だった。マスターガンダムの突撃した場所を中心に、凄まじいばかりの爆発が起こった。爆発は導火線のように直進し、誘爆して次々とガジェット群を巻き込んで行く。

「わわわあぁっ!?」

 ユーノ達は爆発の振動に足を取られて倒れそうになった。だがそれだけでは終わらない。
 アルハザードが揺れ動いている。不気味な軋み音が都中を駆け巡った。『超級覇王ゲルマン電影弾』の炸裂した破壊線から、地面にバックリと亀裂が走って行く。

《止めてええええっ!?》

 守り人さんの悲痛な絶叫が聞こえた気がしたが、ユーノ達はそれどころでは無い。更に地面が大きく揺れ、立っていられなくなったユーノ達は、亀裂の無い場所まで退避してやり過ごす。
 もうもうと粉塵と爆煙が立ち込める中、揺れがようやく収まった。視界も開けて来る。

「ふう……何時も以上にはた迷惑な………」

 迷惑度が千倍くらいになっている。ユーノはため息を吐くと、滅茶苦茶になっているアルハザードを見回した。被害の程度は判らないが、ガジェット群は全滅しているようである。動いているものは一つも無い。

 見上げると煙の中、物凄く偉そうに腕組みしてそびえ立っている、マスターガンダムとガンダムシュピーゲルの姿があった。
 そのボディーには、傷一つ付いていない。こちらの方が悪い方に見えるのは気のせいだと思いたい……

《いやああああああああああああああぁぁぁっ!?》

 その時守り人さんの、身も世も無い悲痛な叫びが響いた 。 叫び声がした方を見ると、巨大な亀裂の前で守り人さんが地面にへたり込んで頭を抱えている。
 亀裂を良く見て見ると、亀裂から向こう側と此方が妙に離れていた。割れた地面から虚数空間が覗いている。
 アルハザードが真っ二つ…いや勢い余って、四つに割れ ていました…



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 遂に死闘の末アルハザードを征したなのは達。しかしなのははそこで戦いの虚しさを語るのです。
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠良い事を言ってみるの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!






※感想返しです。

ff様>チートと言うより、はた迷惑な人達でした。(笑)神秘の都が台無しです。協力すると大変迷惑ですね。フェイト専用ガンダム……まずは修行ですね。下手な腕だと、アッガイやボールにされますから。(笑)

いいい様>この母子もう駄目です。(笑)話が進めば進む程はっちゃけてしまうでしょう。

ペン・ギン様>リリカルマジカル(物理)と言う事で。(笑)クイントさん、果たしてこのお話でシリアスがあるかどうか……(汗)自重しろは正しく誉め言葉ですね。(笑)
取り敢えずハリセン持った関西弁少女も頑張るのです。クロノの受難もまだ続きます。師匠とシュバルツを相手にするのは凄い嫌ですよね。だって聞いただけで逃げたくなるじゃないですか。(笑)
今後の展開は……ギャグな事もありますが、まだまだ変態た……では無く恐るべき強敵達が待っていますよ。
ヴィヴォオに関しては、お察しくださいですね。(笑)幕間でライバルの関係者らしい人が出てますし。酷い事に……(汗)3人確かに色んな意味で被害者ですね。

ハゲネ様>笑って頂けると舞い上がります。その辺最初書いた時、勘違いしてましたね。本体が活動停止すると、全てのDG細胞が停止するようで。
それで考え直すと、今回呼び寄せたガンダム達はまだデビルガンダムが倒される前の時のガンダムで、今はまだDG細胞が残っている状態。暫くして呼び寄せた世界のデビルガンダムが倒されると、活動を停止すると言う事で。





[32932] 第23話 師匠いい事を言ってみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/04/18 17:23

 さて皆さん……世の中には土下座というものがあります。 心からの謝罪、許しを乞う場合の最上ランクの形態と言えましょう。 他にもジャンピングや、スライディングとか焼きとかも有りますが、それは置いておきます。

 世の中土下座を武器に、世間の荒海を渡っている強かな人も居ますが、土下座がごめんなさいという意思を伝えるのには最強という事には、あまり反対意見は無い筈です。人は理解を超えたものに畏怖を抱いた時、自然その姿勢をとるのです。正に命恋(いのちごい)
 それでは魔導師ファイト、レディィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠いい事を言ってみるの巻



《すいませんでしたああっ! 勘弁して下さいぃぃっ!!》

 守り人さんは床に頭を擦り着け、ガタガタ震えながらなのは達に懸命に謝っていた。綺麗な三角形を描いた見事な土下座である。

 アルハザードに土下座の習慣は無いと思うが、守り人さんの本能的なものが自然この形態を取らせていた。

 その様子をガンダムから降り立ったなのはとシュバルツは、相変わらずと言うかデフォルトというか、偉そうに腕組みして見下ろしている。 ユーノは守り人さんを同情の眼差で見て、

(あの暴れっぷりを見せられちゃあなあ……)

 同情を禁じ得なかった。周りを見ると、おびただしい数のガジェットの残骸が転がり、街は見るも無惨に滅茶苦茶である。
 ついでにアルハザードが4つに割れて、とても悲惨で哀れな事になっていた。
 さっきの『超級覇王ゲルマン電影弾』で、生産施設も破壊されてしまったらしく、ガジェットも出て来ない。幻の都が台無しであった。
 無限に敵が生産されるなら、大元ごと潰せば良いの強引極まりない理屈である。もう相手が悪かったとしか言いようが無い。

「顔を上げい……守り人とやら……」

 なのはは静かに、土下座している守り人さんに声を掛けた。

「儂らも無駄な争いは避けたかったのだが……身を守る為、やむを得ず闘っただけだ……争うのは本意では無い」

「なのは……それ説得力ゼロもいい所だよ……」

 ユーノはとてもそうは見えない少女に、明後日の方向を見ながらツッコミを入れておく。 シュバルツも相変わらずの腕組みで、

「フッ……武道家とは本来、拳を交えなければ判り合えない不器用な者達なのだ……」

「それでこの有り様!? どんだけ不器用なんですかアンタら!!」

 もはや災害レベルの不器用者達に、ユーノは律儀にツッコミを入れるが顔が赤いようだ。

「ところでユーノよ、先程から何故此方を見ないのだ?」

 それに気付いたなのはは、明後日の方向を向いてツッコミを入れているユーノを不審に思って声を掛けた。

「ななな何でも無いよ…?」

 ユーノは慌てて否定するが怪しい。そんな少年の顔をなのはは、ずずいっと覗き込み、

「顔が赤いぞ? 熱でも有るのではないか?」

「ほっ、本当に何でも無いからっ!」

 慌ててユーノは、なのはから目を逸らした。彼は非常に困っていた。問題はなのはとシュバルツの格好である。

 ファイティングスーツというものは、非常に薄い。少女の肢体が丸分かりである。オトコの子としては目のやり場に困るのである。本人に自覚が無いので質が悪い。

「ふっ…おかしな奴よ…」

 あくまで顔を逸らすユーノを? という表情で首を傾げるなのはだが、特に気にもせずに守り人さんに向き直ると、

「此処アルハザードは、禁断の秘術が眠る都と聞いたが本当か……?」

《はあ……一応今の管理世界より遥かに優れた技術が有りま すけど……》

 守り人さんは顔を上げ、ビクビクしながら応える。相当びびっているようだ。本当に無理も無いが……

「ならば、死んだ人間を蘇らせる事は出来るのか?」

《いえ……幾ら何でもそんな事は出来ません……本人の記憶を持った同じク ローンは作れますけど、死んだ人間本人を生き返らせる事は出来ません……》

 なのはは目を閉じて、ふむふむと納得して頷き、

「そうであろうな……プレシア殿そういう事だそうだ……」

 話を振られたプレシアはハッとするが、静かに横に首を振り、

「もういいのよ……」

 微笑んでフェイトの肩に手を置くと、腕組みしているシュバルツに懐かしげな視線を向けた。やはりバレバレだったようである。

「ならば、この女性の病気を治す事は出来るか?」

 なのははプレシアをずいっと指した。 ハッとするプレシアと、顔を青ざめさせるフェイトを余所に、守り人さんはプレシアをジッと見つめる。彼女の体をスキャンしているようだ。しばらく何やらぶつぶつ言っていたが再び顔を上げ、

《だいぶお悪いようですが、その程度なら簡単に治せます……》

「ふむ、では頼めるな……? この高町なのはが頼む……」

 背後に、ズゴゴゴゴ……! という書き文字が見えそうな頼み方であった。 どう見ても頼んでいるというより、恫喝しているようにしか見えないなのはに、守り人さんは平伏して、

「ぜぜぜ是非やらせて下さいいいっ! 全力で治させて下さいいいっ!」

 これを断ったり変な真似をしたら、どんな目に遭わされるか知れたものではない。 守り人さんは床に頭を擦り着けながら、こんな事なら最初に大人しく話を聞いておけば良かったと思った。

「母さん!」

 いきなり母親の病気の事を聞いて不安だったフェイトは 、嬉しさのあまりプレシアにしがみついていた。プレシアは呆気に取られている。不治の病と医者に告げられてから、自分の身の事は諦めていたからだ。

「本当にありがとう……あなたが居なかったらどうなっていたか……」

 プレシアは自然なのはに頭を下げていた。フェイトと同い年くらいの少女に頭を下げる事に、何の躊躇いも感じなかった。この異様なまでに偉そうで非常識な少女には、そうさせるだけのものが有るというか、前世がマスターアジアなので無理も無い。

 ユーノは治療の為守り人さんに着いて行く(見張りのミニなのは付き)プレシアと、付き添うフェイト達を見送りながらホッと息を吐いた。
 めでたしめでたしの筈なのだが、ここまで辿り着くのにどれだけ被害が出た事かと、ユーノは今までの事を思い返し更にため息を吐く。

 そんな事はまったく気にしていないななのはは、隣で目を細めてプレシアを見送る覆面少女に、

「名乗らんのかシュバルツよ……?」

「フッ……母さんにはお見通しのようだ、今更必要あるまい……今は2人の時間が必要だ……それにマスクを取ってしまったら、只のアリシアになってしまうではないか!」

 シュバルツというキャラに愛着が有るらしい。

「なのは……前々から気になってたんだけど……その子って…… ?」

 ユーノはさすがにもう聞いてもいい頃合いっぽかったので、シュバルツの正体を聞いてみる事にした。なのははフムと頷いて、

「元『キョウジ・カッシュ』で『シュバルツ・ブルーダー 』で、フェイトの姉『アリシア・テスタロッサ』に生まれ変わり、更にシュバルツ・シュべスターとして蘇ったアリシアだ」

「ややこしいっ!?」

 何か色々とゴチャゴチャしていた……

「しかしシュバルツ、お前に一つ言っておきたい事が有る……」

 なのはは神妙な顔で声を掛けた。

「何だ? 高町なのは」

 なのははシュバルツの覆面をじーっと見て、

「何を事故如きで死んでおるか! このたわけ者があっ! お前がアッサリ死ぬからこんな事になったのではないかあっ! 修行でもサボっておったのか!?」

「仕方なかろう! 記憶が蘇ったのは、この体になった時だ! アリシアの時は只の子供だったのだぞ! せいぜい性格が同じぐらいなものだ!!」

 性格だけ同じ……それも何か嫌だなあ……と思うユーノであった。さぞかし濃い子供だった事であろう。シュバルツは咳払いすると真剣な眼差しで、

「しかし……いささか都合良くは有る……以前の体は魔力も無かった……今は戦闘機人の体といい、まるで以前のシュバルツ・ブルーダーのようではないか……?」

 自分の体を改め見て疑問を浮かべた。なのはも少し考え込み、

「確かにな……儂らがこの世界に生まれ変わったのも、偶然では無いのかもしれん……」

 何やら根幹に関係する、真面目な話になったようであるがなのはは、

「まあ……なるようになるであろう。何か有るにしても、それまでに『東西南北中央不敗スーパーなのは』でも目指して修行に励むとするか、ぬわっはっはっはっ!!」

「フッ……確かにくよくよ考えるより、今は己を鍛えるべき時期だろうな……こちらも遅れは取らんぞ高町なのは! フフ ハハハハッ!!」

 さすがはアバウ……豪快な2人である。前向きと言うか、大して気にしていない。勿論それなりに考えがあるのだろうが、ユーノにはそう思えない。

「いやっ! かなり重要そうなんですけど!? 少しは気にしようよ!!」

 高らかに笑い合うなのはとシュバルツに注意を呼び掛けるが、やっぱり2人は全く話を聞いていない。 ユーノはやれやれと肩を竦めながらふと、

(何だか、この先猛烈に悪い予感がするなあ……)

 などと、どこぞのサザエさん頭の人のような予感を覚えるのであった。

 そんな事をやってる間に、治療を終えたプレシア達が帰って来るのが見えた。流石はアルハザード、大したものだ。今回は単に相手が酷……悪すぎたのは異存の無い所であろう。




「それでは世話になったな……」

 なのはは、まだ畏まっている守り人さんに声を掛けた。

《あのう……アルハザードの事は秘密という事で、お願いしたいのですが……?》

 世話をしたというより、脅されたと言うのが正しい守り人さんは、おずおずと頼み込んだ。するとなのはは優しい笑みを浮かべ、

「ふっ……分かっておる……過ぎたる力は身を滅ぼす……本来此処は人が触れるべき場所では無いのであろう……人は力に群がるもの……誰にも利用されず、静かに虚数空間で眠るが良い……」

「今更いい事言っても手遅れだよなのは……」

 ユーノは廃墟と化したアルハザードを指差して、強引に良い話に纏めようとしている人外少女に突っ込んでおくのであった。





『行くぞ!』

 マスターガンダムに乗り込んだなのはは、背中のラウンドシールドをガションガションと閉じて、マントを羽織ったような長距離飛行形態を取った。
 ユーノやフェイト達は、マスターガンダムとシュピーゲルのコックピットに、それぞれ乗せて貰っている。

『それではさらばだ、達者で暮らせよ!』

 マスターガンダムはシュピーゲルを背中に掴まらせると、バーニアを噴かし轟音を上げて一気に虚数空間へと飛び立った。魔法もへったくれも無いガンダムに、虚数空間は無意味である。

 バーニアの噴煙の軌跡を虚数空間に描いて、マスターガンダムとシュピーゲルは見えなくなった。それを見送る守り人さんは居なくなったのを幸いに、

《二度と来んなああっ! 阿呆おおおおおおおっ!!》

 と廃墟になったアルハザードで1人悪態を吐いた時、守り人さんの頭に狙いすましたように上から破片が落ちて来た。

 ゴス☆★

 直撃を食らい、たん瘤をこさえ涙目でしゃがみ込む守り人さんの耳に「なの~っ!」という台詞が聞こえた気がした。地獄耳なのである。




******



 ボロボロのクロノ・ハラオウンはヨロヨロ歩きながら 、なのは達の闘いがあった玉座の間に辛うじて辿り着いていた。何とか残りの傀儡兵を倒して封印を完了したのである。
 原作で皆でやった事を、たった1人でやり遂げる羽目になったクロノは誇ってもいい。本人は死ぬ程辛そうだが……
 次元震は収まったが、ジュエルシード暴走の余波で、虚数空間が時の庭園を飲み込みつつある。崩壊が始まっていた。不気味な異音があちこちから上がり、次々と天井が崩落している。

「まさか……みんな虚数空間に墜ちたんじゃ……?」

 クロノは床が崩落してしまっている部屋を見て顔を青ざめさせるが、なのはがピンチに陥る場面がどうしても想像出来ない。

「例え墜ちたとしても、あの子だと自力で這い上がって来そうなんだよな……」

 そう呟きながら虚数空間を覗き込んだクロノの目に、妙なものが映った。

「なっ、何だあっ!?」

 驚く間も無く妙な物体は超スピードで上昇し、巨大な影が爆音と衝撃波を伴って現れた。

「わあああああああっ!?」

 疲れきっていたクロノは衝撃波に飛ばされ、柱の角に頭をぶつけて意識を失ってしまった。



ーーーーーーーーーーー



「うん~……?」

 クロノは柔らかい感触の中目を覚ました。以前にもこんな感触を味わった事が有った気がした。目を開けると、ぼんやりと少女の顔が見える。なのはであった。

「なのは……君……?」

 そこでようやくクロノは崩壊する庭園の中、自分がなのはにお姫様抱っこされて運ばれている事に気付く。 隣には心配そうにこちらを覗き込んでいるユーノの姿も有る。

「なのは君、おっ、降ろしてくれえ!」

 年下の少女にお姫様抱っこ、なかなかにこっ恥ずかしい様である。クロノは身じろぎして降ろして貰おうとしたが、体力と魔力の限界を超えた体は悲しい程言う事を聞かなかった。 なのははそんなクロノに温かい眼差しを向け、

「良く頑張ったなクロノよ……恥じる事は無い、力の限り闘ったのだ。今は休んでおるが良い……」

 異様なまでの安心感とその笑顔に、不覚にもクロノはドキリとしてしまった。

(違う! 僕は断じてドキドキなんかしてないぞ!!)

 少年は高鳴る鼓動を必死で否定する。思春期のオトコの子は色々と複雑なのだ。 無駄に美少女なのがまたキツイ。

 そんなクロノの葛藤というか悶絶を余所に、3人は時の庭園の外壁に出ると丁度クロノに通信が入った。

《クロノ君聞こえる?》

 エイミィの声である。3人の上空にアースラの銀色に輝くの船体が見えた。次元震を感知して駆け付けて来てくれたようだ。

 こうしてなのは達は、崩壊する庭園から無事脱出する事が出来た。残りのジュエルシードをなのはから渡され、甚大な迷惑と被害を出して事件は無事? 解決したのである。





 さて……シュバルツとフェイト達はどうしたかと言うと……


 日曜日の午前10時を回った頃、月村家当主・月村忍さんは目を覚ました。
 昨晩は少々夜更かしをしてしまい、起きるのがこんな時間になってしまったのである。
 暖かな日差しが射し込むテラスで、ノエルさんに遅いモーニングティーを入れて貰う。
 優雅に紅茶の香りを楽しんでいた忍さんは、ふと木々が生い茂る庭に目をやった瞬間、飲んでいた紅茶をブバッと吹いていた。

 何故ならば庭に、巨大ロボットが2機ドド~ンとそびえ立っていたからである。マスターガンダムと、ガンダムシュピ ーゲルだ。庭にそんなものが在ったら普通に驚く。

「ちょちょちょっとおっ!? ノエル? 何? 何なのよアレはあっ!?」

 パニクる忍さんに、ノエルさんは偉そうなガンダム2体に視線を向け、

「ああ……あれは、なのはお嬢様の専用機で、マスターガンダムと言うそうです。 今朝方、なのはお嬢様の紹介の方々が一緒にお出でになりまして、お部屋の方に案内しました…… ガンダムは流石になのはお嬢様の御自宅に置けないので、しばらく置かさせて欲しいそうです……」

「そ……そうなの……さすがなのはちゃんね……専用の巨大ロボットを持ってたんだ……」

 忍さんはゴツイガンダムを見て、呆れたように感想を洩らした。 未来の義姉としては、妹が何処を目指しているのか少し心配になる。

「ロボットでは無く、モビルファイターと言うそうです……」

「モビルファイター……」

 あくまで冷静なメイド長の説明を聞く忍さんの目が、キラーンと怪しく光る。どうやら技術者魂に火が灯ってしまったようであった。



つづく



 皆さんお待ちかねえっ! なのはの魂の報告書に心を揺さぶられ、言葉を無くすクロノ。そして全てが終わりフェイトはある決意を胸になのはの元を訪れるのです。果たしてその結末は?
 魔闘少女リリカルマスターなのは。無印編最終話『師匠赤く燃える東方に照らされてみるの巻』にレディィッ、ゴォオオウゥッ!!








※感想返しです。

いいい様>東西南北スーパーなのはとなってくれるわっ!ななのはでした。嫌な予感しかしないのがみそです。(笑)マッド覚醒です。ツッコミの人が減っていくような気がします。

虎様>こんな変態共だと思わなかったのです。ご愁傷さまでしたという事で。最近の設定だと、ゴッドは実はドモンの親父さん設計という事が明らかになりました。とんでもブラックボックスが付いているらしいので大丈夫かと。マスターガンダムはDG細胞で大丈夫なのかと思ってます。

Reiji様>ありがとうございます。味皇覚まさやら色々増えております。皆さんの予想斜め下のこれは酷い最低SSを目指したいものです。

ぱ様>ありがとうございます。正しく有り難い誉め言葉であります。

ペン・ギン様>守り人さんは復興指示で大変です。(笑)ユーノはこれからもこの調子で、最後まで頑張って貰います。本人はすごく迷惑だと思いますが。(笑)
ユーノは出来れば女性として見たくは無いでしょうが、見てくれは良いので困りものなのです。
強引に良い話に纏めようとするなのはでした。守り人さん的にはスゴく納得行かないでしょうけど。悪態を吐きたくなるというものです。
プレシア母さん、マッドです。取りあえずフェイトのアレを造ろうとするかと。今更なシュバルツの正体でした。誰一人驚かないでしょう。(笑)フェイトとあのやり取りをする為に取っておいていると思われます。
クロノ、原作で皆でやった事を一人でやり遂げました。本人的には死にそうになりましたが。なのはの容姿はクロノの好みどストライクらしいので、困るでしょう。(笑)
時の庭園が無くなってしまったので、庭園砲は撃てないでしょうが、代わりに変なものを持ち出すかもしれせん。守り人さんの復興記、涙無くしては読めないでしょう。(笑)

パルメ様>不器用にも程がある幼女達でした。Gガン本編も……(汗)

ff様>でも何事も無かったように、その防壁を突破して来るなのは達の姿が浮かびます。(笑)

魅月様>取り敢えず資金調達と時間が要ると思われます。まあ流出してもなのは達に勝てるとは思えない罠ですね。結局乗っている人間次第ですし。闇の書は誰かさんのお陰でひどいパワーアップしてしまうかもしれません?

八王夜様>言われて見れば……他は萌えと程遠い燃えばっかりですし。イメージ的には、リインフォースの元になった人格みたいな感じなので、金髪のリインな感じですから以外と萌えキャラかもしれません。



[32932] 第24話 師匠紅く燃える東方に照らされてみるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/05/04 18:54
 さて皆さん……長らくの死闘を終えたなのはの胸に去来するもとのは? そして2人の少女達は互いの気持ちをぶつけ合うのです。力の限り。
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠紅く燃える東方に照らされてみるの巻


 それはかつての親子同士の、美しくも哀しい闘いであった……

 儂こと高町なのはの目前で、『ファイト・デストラップ 』と、彼にジュエルシードを集めさせていた黒幕、父『ヴラッディア・デストラップ』が対峙していた。
 ヴラッディアは天を突くような巨漢で、筋骨隆々の恐るべき魔導師である。 ユーノが言うには、確実にSSランクの力を持っているらしい。その気迫は大気を歪め、儂をも後退るらせる程だ。

 何故このような事になったのか? ファイトは、父親であるヴラッディアの真の目的を知り、更に儂との拳での語り合いにより真の魔導師ファイター魂に目覚め、遂に父親に刃向かう事を決意したのである。

 父の目的は、ジュエルシードで次元震を起こしてアルハザードに渡り、禁断の秘術で亡くなった妻、ファイトの母親を甦らせる事であった。
 妻の面影を求めるあまり、息子を色々改造し女装までさせたのである。痛ましい事だ。

 ちなみに儂の友人が、ファイトの母上の幼き頃に瓜二つだった為モデルとしたらしい。とても迷惑していた。
 儂とユーノが見守る中、激怒したファイトとヴラッディアとの最後の闘いが始まった。狂気に包まれた父親は、怒りの形相でファイトを指差した。

「親に刃向かおうというのか!? この馬鹿息子があっ!! 」

「うるさあいっ!! アンタとはもう親でも無ければ子でも無い! 俺はアンタのオモチャじゃないんだ! 俺はアンタを倒す!!」

 ファイトは負けじと父親に向かって怒鳴った。色々と腹に据えかねていたのだろう。男児として当然であろう。

「聞き分けの無い馬鹿息子がぁ! ならば躾(しつけ)の一文字を持って思い知らせてくれる! 魔導師ファイト、レディィ…!」

「ゴォオウゥゥッ!!」

 宿命の親子は、雄叫びを上げてぶつかり合った。拳と拳が交差し、魔法が唸りを上げた。父子の激闘は凄まじいものであった。正に死闘! 一進一退の攻防が続く。しかしファイトは徐々に押されつつあった。
 SSクラスの力に加え、凄まじき父の執念。遂に追い詰められたファイトに、ヴラッディアの止めの一撃が振り下ろされようとした時だった。

「うおっ? 貴様は!?」

 ヴラッディアは驚愕していた。何と覆面をした少女が、 彼を後ろから羽交い締めにしていたのだ。

「久し振りだな父さん!!」

「貴様はアルティメット!? 生きていたのか!?」

 驚愕の事実。何と覆面少女の正体は、死んだと聞かされていたファイトの兄、アルティメットであったのだ。
 儂が聞いたところによると、ファイトより先に改造を受けたアルティメットは、手術に失敗し死んだ筈だった。
 しかし弟の為執念で蘇り儂の知人から修行を受け、陰ながらファイトを助けていたようだ。兄の愛の深さ故であろう。

「さあファイトよ! 私ごと親父を撃てぇぇぇっっ!!」

「そんな事出来ないよ兄さあああんっ!!」

 泣き言を抜かすファイトを叱咤するように、アルティメットは叫んだ。

「やるんだファイト! 父親の罪は、我ら息子が着けるしかない!! 私の命は残り少ない! やるんだファイトォォォォ ッ!!」

 驚愕の事実であった。アルティメットは手術の失敗で、そう長くは生きられなかったのだ。何と言う残酷な運命であろうか?
 涙ながらに叫ぶ兄の必死の叫びに、ファイトは覚悟を決めてデバイスを構えた。その両目からは兄と同じく熱い涙が流れ落ちる。

「兄さあああああんっっっ!!」

「止めろぉっ! ファイト貴様、実の父と兄をその手で殺めるつもりかああぁっ!?」

 見苦しく足掻くヴラッディアに、ファイトが放った渾身の一撃は、兄ごとブラドを貫いていた。

「私の夢がああああああああぁぁぁっっっ!!」

 世にもおぞましい断末魔を上げてブラッディアは崩れ落ち、兄アルティメットは微笑んで逝った。
 その時2人の戦闘と次元震で、部屋の床が一気に崩れ落ちて来た。父も兄も、何もかもが虚数空間へと墜ちて行く。
 ファイトは、墜ちそうになっていた儂とユーノを庇い、 父と兄の後を追うように虚数空間へと墜ちて行った。最期にファイトは、

「ありがとう……君の拳は忘れない……」

 それだけを言い残した。後には残されたジュエルシードが宙に浮いている以外に、何一つ残ってはいなかった。全ては虚数空間へと消え去ってしまった。
 これが父親の妄執に振りまわされ果てた、哀れな、否、己の宿命に殉じ戦い抜いた少年達の誇り高き最期であった。
 儂こと高町なのはは、少年の最期に心打たれ黙祷を捧げた。

 報告書No.104281

 作成者・第97管理外世界在住・民間協力者 高町なのは





「…………」

 クロノは何処から突っ込めばいいか解らない報告書を読んで、顔を思いっ切り引きつらせた。
 次元航行船アースラのミーティング・ルームである。席に座るクロノの前には相変わらず偉そうななのはと、 困ったように苦笑いを浮かべるユーノの姿があった。
 あれからアースラに戻ったクロノは、怪我こそ掠り傷だったものの、体力と魔力の限界を超えぶっ倒れてしまった。
 死んだように一晩眠り続けたクロノは、フラフラながらもようやく起き出し、今し方なのはが提出した報告書を読み終わったところである。しかしその内容に猛烈に頭が痛くなった。
 頭を抱えるクロノを見て、なのはは心配そうに、

「どうかしたかクロノよ……? 頭でも痛むのか? まだ疲れが抜けておらぬようだな……無理も有るまいて……」

 本気で言っている。この報告書はもちろんねつ造ではあるが、なのははふざけて書いた訳では無い。彼女なりに大真面目に考えたものである。
 尤ももGガン世界の真面目であるのが最大の問題なのだが……

 ユーノはひたすらバレないように、愛想笑いを浮かべて誤魔化すしか無い。 クロノは報告書から顔を上げて、なのはをジト目で見詰め、

「……なのは君……これは……その……本当なのかい……?」

「ふっふっふ……驚くのも無理は無かろう……信じられんのも無理は無かろう! だがこれは事実だ! この高町なのはが見たままの事実よぉっ!! 哀れな少年の命を賭けた闘いの記録だ! 心するが良い!!」

 なのはは自信満々で言い切った。問答無用である。その異様なまでの勢いに呑まれたクロノは目を白黒させて、

「はあ……」

 と言うしか無かった。無理矢理押し切られた形である。酷い話だ。
 クロノはため息を吐くと改めて報告書を見て、これを上層部に信じさせなくてはならないのか……と思うと、胃が痛くなるのだった。





 さて、今回の事件に多大なる迷……貢献をしたという事で、なのはとユーノには感謝状が送られる事になった。
 考えてみれば今回なのはは、単に好き勝手に暴れまわり管理局を利用しただけなので、ユーノはとっても申し訳ない気持ちで一杯である。
 一方のなのはは、まったく気にした様子は無く、澄まし顔でリンディ提督から感謝状を受け取るのであった。




 感謝状を受け取った後、なのはとユーノはリンディさんに誘われ、アースラの食堂で食事をご馳走になっていた。
 なのはは行儀良くテキパキと食事を採っているが、良く見ると既に数人分の量を平然と平らげている。 リンディさんは、その見事な食べっぷりを微笑ましく眺めながら、

「次元震の余波はもう直ぐ収まるわ、此処からなのはさん達の世界になら、明日には戻れると思う」

「左様ですかリンディ殿……助かります」

 なのはは食後のお茶をゆったりと味わいながらお礼を述べる。リンディさんは、隣でまだ食べているユーノに、

「ただ……ミッドチルダ方面の航路は空間が安定しないの……しばらく時間が掛かるみたい……」

「そうですか……」

 ユーノは困ったように表情を曇らせた。つまり彼は、元の世界にしばらく帰れないという事である。 空間が安定するまで場合によっては、数ヶ月から半年掛かる場合もあるらしい。

「まあ……その……ウチの部族は遺跡を探して流浪している人ばっかりですから、急いで帰る必要も無いと言ったら無いんですが……」

 中々スクライアも、フリーダムな一族のようである。 しかしアースラにずっとお世話になる訳にもいかない。どうしようかと唸るユーノになのはは笑みを浮かべ、

「心配するな、ならば家に居れば良い、今まで通り!」

「なのは良いの?」

 申し訳なさそうなユーノに、なのはは豪快? に笑い掛け、

「ぬわっはっはっ! 何を遠慮しておるか、好きなだけ家に居れば良い! この高町なのはが許す!」

 と、まだ扶養家族のクセに偉そうに断言する。

「じゃあ……その……お世話になります……」

 照れくさいながらも、ユーノは感謝して頭を下げた。 常識が無いとか、理不尽だとか色々問題は有るが、何だかんだ言っても根はいい人だとユーノは思った。

「うむ……」

 頷くなのはに感謝しながら、ユーノは食事に戻ろうとトレイに向き直ると……

「「「「「「「なの~っ」」」」」」」(クックッ……たっぷり可愛がってあげるなの)

「げえっ!?」

 ユーノは思わず変な声を上げてしまった。何時の間にか7人のミニなのは達が、ユーノの食事を貪り食っている。そしてニヤリと全員で、ユーノに向かって悪い笑みを浮かべた。

「あら可愛らしいわね、なのはさんの使い魔? これ食べる ?」

 ツボに入ったらしいリンディさんは、ハムスターに餌をあげるように、ミニ達にご飯を食べさせている。 相変わらず世渡りが上手いミニ達だが、ユーノは顔色を青ざめさせていた。

(しまったああっ! この悪魔共の事をすっかり忘れてた!! )

 己の迂闊さを呪うが、後の祭りであった。果たしてユーノは生き延びる事が出来るだろうか……




 そして次の日、なのはとユーノはリンディさんとクロノ、エイミィに見送られ転移ポートに居た。

「それじゃ、今回は本当にありがとう」

「きょ……協力に感謝します……」

 名残惜しそうなリンディさんと、若干複雑な表情のクロノの感謝の言葉になのはは会釈し、

「うむ……クロノも良く闘い抜いた……これからも精進するのだぞ?」

 相変わらず偉そうだが、彼女なりに誉めているようである。

「なのはさん何時でも遊びに来てね? 次に会う時までにせめて、煎茶を砂糖無しで飲めるようになるから」

「うむ、リンディ殿の健闘を祈っておりますぞ。それではクロノ、エイミィよ、また逢おうぞ!」

 なのはの挨拶が終わると同時に、2人は光に包まれ消え転送された。なのは達を見送った後、クロノは深々とため息を吐く。

(ともかく疲れる子だったなあ……もう逢う事も無いだろう……)

 肩の荷を降ろしてそう思うクロノだが、半年後再び人外少女達と関わる羽 目になるのを、まだ知る由も無い。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 あれから1週間が過ぎていた。ドタバタも落ち着き、プレシアも完全に回復していた。 そろそろ住む所や、色々と準備をしようかというところである。
 そんなある日の早朝。まだ陽は昇っておらず、微かに東の空が明るいくらいで、辺りはまだ薄暗い時間帯である 。
 その薄闇の中を、街を見下ろす高台の展望台目指して、急な崖を物凄いスピードで駆け上がる、小さな人影があった。その身のこなしは、重力何それ美味しいの? 状態である 。

「はああああああああああっ!!」

「わああああっ!? 落ちる! 落ちるううぅぅっ!!」

「ぬわっはっはっ! ユーノよ振り落とされるでないぞ!! 」

早朝 トレーニング中のなのはと、フェレット姿で必死に彼女の肩にしがみ付いているユーノであった。なのはは朝っぱらから、相変わらず無駄にテンションが高い。今日も全力全開である。

 あっという間に天辺の小さな桜台展望台に着いたなのはは、深く深呼吸をし朝の澄んだ大気を味わった。地面に降りたユーノは、冷や汗をかきながらもやれやれとため息を吐いている。
 そんな中数人の草を踏む足音が、静かな展望台に響いた 。

「お主らか……」

 なのはは意外そうに声を掛けた。朝もやの中から近付いて来るのは、フェイトにシュバルツ、少女の姿のアルフの3人であった。



 紅き朝日が昇る中、なのはとフェイトは無言で向かい合っていた。 ユーノ達3人は、少し離れた場所で2人を見守っている形だ。

「こんな朝早くどうしたんだい?」

 ユーノは隣で腕組みしているシュバルツに、小声で聞いてみた。

「フッ……フェイトなりに心を決めたという事だ……」

 覆面ちびっ子は相変わらず、何もかも判っていると言う風に目を閉じる。

「まあ……アタシはフェイトに着いて行くだけなんだけどね… …あははは……」

 アルフは乾いた笑いを上げた。明後日の方向に行こうとしている主の行く末が不安らしい。
 まあ3人のそれぞれの想いは置いておいて……なのはは腕組みをして、静かに紅く燃える東方の太陽にその身を照らされながら、

「フェイトよ……用というのは何だ……?」

 フェイトは照れたように、もじもじしていたが意を決して顔を上げ、

「返事をする為です……」

「む……?」

 きょとんとするなのはに、フェイトはしっかりと偉そうな少女の目を見据え、

「あなたが言ってくれた言葉……師匠になりたいって……」

「ほお……」

 なのはは意外そうな顔をする。向こうから言い出すとは思っていなかったようだ。フェイトは拳を握り締め、

「私に出来るなら……私でいいならって……あなたみたいに強くなりたい……拳で自分を表現出来る強い武闘家になりたいって……」

 しかしそこで少女は、自信無さげに俯いて視線を落とした。

「だけど私……どうしたらいいか解らないんです……だから教えて欲しいんです……どうしたら弟子になれるのか……」

 本当に解らないのだろう。静かなので離れた場所のユーノ達にも、2人の会話が聞こえて来た。そりゃそうだろ、とユーノは思う。普通は知る訳も無い。
 するとなのはは、ドモンに倒される寸前の時のように温かな笑みを浮かべ、

「簡単な事だ……至極簡単な事よ……」

 顔を上げるフェイトに、なのははクワッとばかりに大きな目を見開いた。

「師匠と呼べばよい! 力の限り叫べば良い! 儂は流派東方不敗、高町なのは!!」

 フェイトは少し迷っていたが、照れたように一言。

「師匠……」

「声が小さいっっ!!」

 なのはの腰くだけ気味の可愛らしい声の駄目出しに、フェイトは拳を握り締めると、顔を真っ赤にして、

「師匠っ!!」

「まだまだあっ!!」

「師匠おおおおおっ!!」

 フェイトは力の限り、近所迷惑なくらいの勢いで叫んだ。驚いたように雀が飛び立って行く。
 ユーノはこの流派は、師匠をテンション高く呼ばなければならない決まりでも有るのかと思うが、ドモンを見る限りそうらしい。

「それで良い……」

 なのはは満足げに笑みを浮かべ、フェイトの目前にグイッと可愛らしい拳を突き出した。

「これより、フェイト・テスタロッサを我が『流派東方不敗』に、正式な弟子として迎え入れる! 拳を打ち合わせながら、儂の言う通りに続けるのだ。儂もまだまだ未熟の身、共に切磋琢磨し遥かな高みを目指そうぞ!!」

「はいっ、師匠っ!」

 一通り手順を聞いたフェイトは、同い年の師匠に合わせて拳を突き出した。なのはは最初の一声を叫ぶ。

「応えろフェイトォッ! 流派東方不敗は!?」

「おっ、王者の風よ!」

 フェイトは打ち出された拳に、自らの想いを込めるように拳をぶつけて行く。なのははそれに合わせ、ゆっくりと拳を繰り出す。

「全新!」

「系列!」

「「天破侠乱!!」」

 慣れて来たのか、フェイトの拳の速度が上がって来た。 それに合わせ、なのはの拳の速度も上がって行く。

「「見よ! 東方は赤く燃えているううぅぅっっ!!!」」

 締めの拳がガッチリと打ち合わされた。

(な……何か、2人の背後に燃え盛る炎が……?)

 ユーノがまた幻覚が見えると目を擦った時、フェイトの体がバビュンッと宙に舞った。

「しまった? 力を入れ過ぎた!?」

 なのはは慌てて駆け出した。ついつい嬉しさのあまり、力が入り過ぎてしまったようである。
 フェイトはきりもみ回転で、空に綺麗な放物線を描いて吹っ飛びながら、

「ありがとうございまぁす! 師匠おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ……っ!!」

 と叫んで鼻血を噴きながら、彼女は至福の表情であった 。

「フェイトォォォォォォォッ!?」

 アルフも慌てて駆け出した。シュバルツは満足げ吹っ飛ぶフェイトを見上げ、

「ナイスガッツだぞフェイト!」

 と手遅れの妹の成長を喜ぶのである。ユーノは朝日に照らされる、なのは達を見て、

「駄目だこりゃあ……」

 誰とも知らない人達に目線を向け、肩を竦めるのであった。

 こうしていずれ『東方不敗・高町なのは』と呼ばれる事となる少女は、フェイト・テスタロッサを3番目の弟子として向かい入れたのである。

 この恐るべき師弟はこれから、どのような闘いを繰り広げるのでありましょうか? 魔闘少女リリカルマスターなのは、無印編閉幕です。


つづく



おまけ

 吹っ飛ばされたフェイトは、あの後しぶとく飛んで戻って来た。実にタフになったものである。
 鼻血を垂らしたままのフェイトを見て、なのはは三つ編みを結わえていたリボンを解き、鼻血を拭ってやる。 フェイトは申し訳なさそうに鼻血をリボ ンで押さえ、

「洗って返……いえ、記念にこのリボンを下さい! 必ずこれを師匠のように扱ってみせます!」

「ふむっ……良い覚悟だ……」

 微笑むなのはにフェイトはふと思い付いて、ツインテールに髪を結わえていた自分の黒いリボンを外し、

「代わりと言っては何ですが……これを……」

 二本のリボンをなのはに差し出した。なのはは快く、

「うむ……貰っておこう……しかし二つは多いな……」

 なのはは何時も一つしかリボンを使っていない。苦笑する師匠にフェイトは、

「それならこうすればいいんです、ちょっと良いですか……?」

「構わぬが……?」

 了解を貰ったフェイトは、なのはの後ろに回ると髪をちょちょいと結んでやる。

「どうでしょう……?」

 ツインテールに髪を結ばれたなのはは、原作と同じ髪型になっておりました。
 それを見たユーノは、不覚にもどぎまぎしてしまったとかしなかったとか。



 皆さんお待ちかねええっ! 日常に潜む罠。最強を目指す少女には、平穏の二文字など無いと言うのでしょうか? けだものの眼が、獣の牙が突き立つのです。
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠危うしの巻』に、レデ ィィィッ、ゴォオウゥッ!!






※感想返しです。

いいい様>捏造報告書でした。クロノの中ではいまだオカマ扱いです。然り気無く?報告書の中に似てるけど別人の友人がいると入っているのがミソです。中の人の声が潰れそうになっても気合いで何とか。

パルメ様>これからフェイトの人外への道がスタートです。誰得なんでしょう。

ペン・ギン様>クロノの苦労は全部なのはのせいですね。クロノの受難はまた半年後に。色々増えてますし、苦労する事でしょう。でも良い事もあるかもしれません? リンディさん意外と全てを呑み込んいて、結果オーライと思っているかも。
ユーノの運命は……でも著しくサバイバリティーが上がっているので、大丈夫かもしれません?
フェイトはもう駄目です。(笑)生暖かく見守ってやってください。ドモンのようになるまで。(エッ?)プレシア母さん、感染被害者ではあるかもしれません。(笑)

虎様>けだもの、その通りだったりします。果たしてユーノの運命は……ティアナとスバル、ティアナが凄い嫌そうな顔をしているのが目に浮かぶようです。(笑)

秋馬様>そう言えばそれくらいでしたね。後で平均年齢を知って、目を疑いました。本人では無いですが、27設定でも良いかもしれませんね。





[32932] 第25話 幕間 師匠危うしの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/05/24 09:58

 さて皆さん……死闘を制し日常へと帰還したなのは。しかしその日常にこそ危機は潜んでいるものなのです。世の中押されただけで、角に頭をぶつけて死んでしまう人がいたり、その罪を見破られて何故か崖っぷちに逃げて、洗いざらい白状した挙げ句崖から落ちる犯人もいるご時世。ゆめゆめ油断せぬに越した事は無いのです。
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 師匠危うしの巻



「ヘエエ~ッ……これがガンダムねえ……」

 アリサは月村家の庭にデンとそびえ立つ、『マスターガンダム』と『ガンダムシュピーゲル』の黒光りする巨体を見上げて、驚き半分呆れ半分で声を上げた。

「凄いよねえ……」

 すずかも感嘆の声を洩らす。ここまでぶっ飛ばれると、いっそ清々しいものがある。2体のガンダムは、月村家の木々が生い茂るだだっ広い庭に、無駄に偉そうに鎮座していた。

「ふむ……儂の以前乗っていた愛機だ……放って置くのも忍びないのでな……持って来たのだ」

 マスターガンダムの開いたコックピットハッチに立つなのはは、今日も偉そうである。

「で……忍さんは、何やってるの……?」

 アリサは、ガンダムの足元で叩いたり触ったりして、ウハウハ状態の忍さんを指差した。隣で恭也兄さんが一生懸命宥めている。

「恭也これは凄いものなのよ! 恭也だって最初ボーっと見上げてたじゃない?」

「いや……何か見てたら……任務了解とか言いたくなる衝動が… …」

 などと言う物騒な会話が聞こえて来た。恭也兄さんくれぐれも、自爆しないで貰いたいものである。

「あはは……お姉ちゃんの事は気にしないでね……?」

 すずかは笑顔を浮かべ、華麗にスルーした。 小ネタは置いといて……マスターガンダムのコックピットを興味深そうに覗く、フェレット姿のユーノは気になり、

「で……なのは、これどうする気だい……?」

 確かに一介? の小学生が所有するには 、過ぎる程過ぎた代物である。なのはは改めて愛機を見上げ、

「シュバルツが『DG細胞』のプログラムを治してくれるそうだ……何れ呼び出した世界の『デビルガンダム』が破壊されれば機能を停止するだろうが、それまでは儂の精神力でDG細胞の増殖、進化を抑えておる状態だからな……」

「ふ~ん……それをやらないと、どうなるんだい?」

 すると質問したユーノの周りの機械類が、生き物のようにぐねぐねと蠢きき出した。

「わああああっ!?」

 ユーノの悲鳴が上がった。蠢く機械類は触手となり、ユーノの小さな体をグルグルに絡め取ってしまう。

「このようにコントロールを離れると、無差別に生物、無機物を問わず襲って来るから気を付けるのだぞ?」

 にこやかに笑うなのはは、たいへん良い笑顔である。しかし一体どれ程の精神力があれば、DG細胞を屈服させられるのだろうか。そちらの方が恐ろしい。

「最初に言ってよ! 触手が! 触手があっ! いやああああっ!?」

 触手にがんじがらめにされたユーノは、あられも無い悲鳴を上げた。

 そんな事をやっている間に、フェイトとアルフが此方にやって来るのが見えた。

「あっ、あの子がフェイト?」

 その姿を見付けたアリサは、隣のすずかに聞いてみた。

「うん、お母さんの調子が良くなるまで離れで付き添ってたから、私もチラッと顔を見たくらいなんだけどね……」

「ならば、2人に紹介せんとのう」

 声が降って来るのと同時で、すずか達の隣にグッタリしたユーノを肩に乗せたなのはが、音も無く降り立った。

「おはようございます! 師匠っ!!」

 やって来て開口一番。拳を平手に当てた拳法家独特の挨拶を元気良くする、誰ですかアンタ? 状態のフェイトである。
 後ろでアルフが、何とも言えない微妙な笑いを浮かべていた。主人が色々変わり過ぎて、付いて行けない所があるようだ。

「うむ、今日も良い朝だ!」

 なのははナチュラルに偉そうに応えると、

「紹介しよう、儂の弟子になったフェイト・テスタロッサ と、その使い魔アルフだ! 2人は儂の戦友で同級生の、アリサ・バニングスに、月村すずかだ!」

 4人にそれぞれを武道家らしくシンプルに紹介する。

「その言い方だと、アタシも弟子に入っているように聞こえるんだけど?」

 焦るアルフを余所に、アリサとすずかはにこやかに笑って、

「よろしくねフェイト、アルフさん。アリサです。アルフさんとは前に温泉で逢ってますよね?」

「すずかです……フェイトちゃん、アルフさんよろしくお願いします……」

「こっ……こちらこそ、よろしくお願いします! アリサ殿、すずか殿、師匠の戦友の方々でしたか……精一杯師匠の弟子としてがんばります!」

「アハハ……あの時はどうも……よろしくねっ? アリサ、すずか 」

 フランクな挨拶をするアルフに、フェイトは慌てて、

「駄目だよアルフ、師匠の戦友の方々にそんな挨拶は……」

 生真面目にアルフをたしなめるフェイトに、なのはも戦友2人も苦笑を浮かべた。なのはは仕方の無い奴と言う風に苦笑し、

「そうしゃちほこばる事は無い……儂とフェイトは師匠と弟子以前に、拳を交えた戦友でもある……アリサとすずかも対等の友人と思うが良い……のうアリサ 、すずかよ?」

「堅っ苦しいのは無しよ。アリサでいいから、よろしくねフェイト」

「私もすずかでいいよ……これからよろしくね?」

 手を差し出して来た2人の手を、フェイトはガッチリと掴んだ。 微笑ましい光景の筈なのだが、ようやくショックから立ち直ったユーノの目には、微笑ましいと言うより戦慄を覚える光景であった。

 自己紹介も済んだところで、なのはは張り切っているフェイトに、

「フェイトよ……プレシア殿のお加減はどうだ?」

「ハイ師匠、それならばあちらに……」

 フェイトの示した方向に全員が振り向くと、忍さんと一緒になってガンダムを弄くり回している、ウハウハ状態のプレシア母さんの姿があった。何故か忍さんとガッチリ握手している。意気投合したらしい。治って早々飛ばし過ぎだろうとユーノは思う。この人もう駄目だとも。

「まずは娘の為に、新しく専用ガンダムを造りたいんですよ」

「月村家にも是非一枚噛ませて下さい!」

 などという会話が聞こえて来た。あの人は一体何を目指しているのだろう、とユーノが思っていると、何時の間にかアリサがその輪の中に入っていた。

「そういう事でしたら、バニングスも一枚噛ませて頂きたいですわ、おば様。私はアリサ・バニングスと言います」

 などとちゃっかり交渉に入っていた。耳聡く話を聞いていたらしい。

「ふっ……流石はアリサよ……」

「抜け目無いわねえ……」

 末恐ろしい友人である。なのはとすずかは、そんなアリサを暖かい目で見守っている。まともな小学生は此処にはいないようだ。

「流石は師匠の戦友……何という嗅覚とフットワーク!」

 フェイトは世の中は広いと、しきりに関心している。参考にはしない方が良いと思われるが、今の彼女には今更であろう。なのははすずかを示して、

「ちなみにすずかは魔法抜きなら、フェイトも敵わぬ程の身体能力を持っておる」

「そ……それは凄いです!」

 感心するフェイトに、すずかは年相応に照れくさそう頬を染め、

「そんなに大した事無いけど……なのはちゃん以外には、そうそう遅れは取らないよ?」

 一瞬背筋が寒くなるような凄味のある笑みを浮かべた。ユーノは、なのはの友達は本人も含めて、あらゆる意味で将来が恐ろしいと改めて思う。

 そんなほのぼの? したやり取りをしていると、すぐ傍で突如として小型の竜巻が巻き起こった。

「フフハハハハッ!」

 子供が無理して渋がっているような声が轟いた。その竜巻の中から、腕組みした覆面ちびっ子が現れる。
 相変わらずの無駄に派手な登場。アリシ……では無く、シュバルツ・シュベスターである。

「フッ……アリサ・バニングスに、月村すずかだな……? シュバル・シュベスターだ、覚えておいて貰おう!」

 なのはに負けず劣らず偉そうに自己紹介するシュバルツに、すずかは微笑んで、

「あっ……なのはちゃんから聞いてます……確かアリシ……もが っ?」

 本名を言い掛けたすずかの口に、何故かバームクーヘンが、ズボッと投げ込まれた。 シュバルツが手裏剣のように、お菓子を投げつけたのである。バームクーヘンは一応こだわりらしい。地味に手作りで美味かった。

「私はネオ・ドイツの魔導師ファイター! シュバルツ・シュベスターだ!!」

「ふはひ……モグモグ……」

 顔をヌッと近付け、言い聞かせるように話すシュバルツの目が、色々と訴え掛けていたので、すずかはバームクーヘンをモグモグ食べながら頷く。面倒くさい人だなあ……とユーノは今更ながら思った。

「アリサ・バニングスよ、よろしくね?」

 向こうを切り上げて戻って来たアリサは、シュバルツに挨拶し右手を差し出した。

「シュバルツ・シュベスターだ……」

 握手するシュバルツにアリサは、とても良いスマイルを向けた。技術提供に関して、覆面ちびっ子に話を着けるのが一番と既に見当を着けているのである。本当に抜け目無い。
 残り一名の濃い自己紹介も終わったところで、なのははフェイトに、

「ところでフェイトよ……住む所が決まったそうだな?」

「ハイっ師匠、後でご挨拶に伺います!」

 フェイトはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。




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 数日後の土曜日、喫茶翠屋

 なのはの今日の予定は、家の喫茶翠屋のお手伝いである。人外少女がどう手伝っているのか興味があったユーノは、フェレット姿でコッソリと窓から店内の様子を伺っていた 。

(あっ、なのはだ)

 ユーノは思わず窓ににじり寄っていた。そこには翠屋のエプロンを着けた、可愛らしいなのはの姿が在った。相変わらず見てくれだけは無駄に可愛い。偉そうながらも、くるくると隙の無い動きで、店の中を飛び回っている。流石はなのはと言うところか……

 だが偶に「馬鹿者があ!」とか「たわけが!」とか言う声が聞こえて来る。そう言われている客は、全部変な男性客ばかりだった。
 偉そうで可愛らしい少女が接客をしてくれると口コミで評判になり、変な客が偶に来るのである。
 なのはタンハアハア……僕を罵って、みたいな変な客は士郎父さんが“丁重“にお帰り願っていた。(お察し下さい)
 分かっていないなのはは、最近妙な輩が来るなくらいにしか思っていないようだ。
 なる程とユーノは思う。なのはは確かに格闘家としては隙は無いのだろう。だが少女としては隙だらけであった 。
 今だ前世の記憶を引きずっているどころか、前世の力を取り戻そうとしているなのはには、今自分が女だという自覚に乏しい。あくまで我が道を全力全開で駆け抜けている少女なのだ 。

 見ていると色々危ういのである。今も桃子母さんに(無理矢理)履かされているミニスカートで、お客さんが落としてしまったフォークを腰を屈めて取ろうとしている。

 なのは危ない! そのままでは色々と見えてしまう!! 念話で注意しなくては!

 ユーノはそう思った。思ったのだか、哀しいかな。注意する前についつい視線がそっちに向いてしまう。
 今まであんな短いバリアジャケットのスカートで暴れていたにも関わらず、チラリとも中が見えた事が無い。深夜アニメならクレームが来て、ディスクの売り上げが落ちそうである。

(駄目だ!)

 ユーノは頭をぷるぷる振り目を逸らした。そろそろそちら方面に興味が湧く年頃とは言え、彼は淫獣では無く誠実な少年だった。温泉の時も必死で目を瞑っていたのである。
 深呼吸して気分を落ち着かせると、なのはに念話を送ろうとしたその時……

「何してるの……? ユーノ………」

 凄まじい殺気をはらんだ声が後ろから聞こえて来た。凍り付きそうな程に声の温度が低い。恐る恐る振り向くと、怖い笑顔を浮かべているフェイトの顔が間近に在った。
 後ろには街のど真ん中にも関わらず、堂々と覆面姿のシュバルツとプレシア、それに子犬の姿のアルフが居る。

「アルフ~?」

「はいよっ!」

 フェイトの言葉に従い、アルフが鋭い牙の生えた口をガッと開けた。

「まっ、待ってよ、僕は別に……」

 窓ガラスにじりじりと追い詰められたユーノは、何とかフェイトをなだ宥めようとするが状況が悪過ぎる。
 アルフは何だかんだで彼女の使い魔であるし、第一こういう場合女子は絶対同性の味方にまわるのだ。
 プレシア母さんは子供同士のじゃれ合いだと思って、微笑ましそうに見てるだけである。シュバルツは仕方無い奴とばかりに目を閉じ、ユーノは地味にムカついた。
 そんな訳で孤立無援になった少年に、アルフは牙をカチカチ鳴らしながら近付き、

「いや……食い入るようにスカートの中を覗こうとしてちゃねえ……?」

 どうやら最初から全部見られていたようである。全ては誤解で誘惑に打ち勝ったのは認めて貰えないらしい。観念しなとばかりにアルフが、ポーンとユーノ目掛けてジャンプした。

「キュキュ~ンッッッ!!」

 フェレットユーノの、もう何度目になるか解らない悲痛な叫びが辺りに響き渡るのであった。





「そんな訳でこれからご近所になります。娘共々よろしくお願いします……」

 ド派手な衣装から、インテリ然とした服装にチェンジしたプレシア母さんは、士郎父さんと桃子母さんに深々と頭を下げている。

「いえいえ、こちらこそ」

「どうぞご贔屓に……娘共々もよろしくお願いします」

 アルフも居るので、外のオープンカフェにフェイト達を案内するなのはの耳に、そんな会話が聞こえて来た。プレシア母さんが、士郎父さんと桃子母さんに引っ越しの挨拶をしているのである。
 なのははフェイト達にジュースとケーキを持って行ってやり、隣の席に腰掛けた。

「どうやら、住む場所も決まったようだな……?」

「はいっ、直ぐ近所の家を買えましたので、何時でもお迎えに来れます!」

 フェイトは嬉しそうに頬を染めて報告する。シュバルツはジュースをストローで飲みながら(覆面したまま…)続けて、

「ガンダムの方は家の庭に大きなダミー倉庫、格納庫兼、研究所を建てているどころだ……機材を揃えたら、早速ガンダムの改修に入る……」

 月村とバニングスが全面協力した結果である。資金を出して貰う代わりに、天災……天才科学者であるシュバルツが、数百年後の技術を提供した訳だ。
 OS機器の技術一つ取っても今の技術の比では無い。莫大な利益になるだろう。世の中ギブアンド・テイクと言う訳である。

「ふむ……済まぬなシュバルツ……後はフェイトの学校か……? 」

「転校手続きは済んだので、来週には師匠と同じ学校に通学出来ます」

 ワクワクして声を弾ませるフェイトに、なのはは満足げに頷くと、カッと大きな目を見開き、

「それでは明日の早朝から、『流派東方不敗』の修行を開始する! 心せよフェイト!!」

「ハイッ、師匠ぉっ!」

 なのははフェイトの竹を割ったような元気の良い返事に目を細める。そこでふと、 足元の子犬アルフが、フェレットユーノをくわえてぶら下 げているのに気付いた。

「アルフよ、ユーノがどうかしたか……?」

「ああ……コレですか……?」

 フェイトはアルフからユーノを受け取り、首筋を無造作に掴んでぶら下げる。お尻にクッキリと、アルフの歯形が付 いていた。

「師匠をやましい目で見ていたので……少しお仕置きをしておきました……」

「ん……?」

 キリッと言わんばかりのフェイトの返事に、なのは訳が解らず首を捻った。ユーノはぶら下げられたまま、しょんぼりするしか無い。そんなユーノにシュバルツが一言。

「ユーノよ……明鏡止水の心だ!」

「意味が解らないよ……」

 ユーノは取り敢えずツッコミを入れた後、止めを刺された気がして、ガックリと項垂れるのであった。



つづく



 皆さんお待ちかねえっ! 場所は変わり、デビルガンダムが地球を呑み込まんとする最終決戦。シャッフル同盟の仲間達とデビルガンダムの胎内に突入したドモン達の前に現れる者とは? ドモンの魂の叫びが宇宙空間に響くのです!
 魔闘少女リリカルマスターなのは番外編『希望の未来へレディゴーしたかったドモン』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!







※感想返しです。

[虎様>頑張ったのに、誰にも認めて貰えないユーノでした。(涙)

八王夜様>なのはがちょっと危機に遭うと、巻き添えで危うくなるのは仕様ですね。(笑)

いいい様>ちなみに生まれて初めて恭也兄さんが口にした言葉は、お前を殺すだったりするかもしれません。(笑)何故か過去形になっているユーノ。大丈夫、今でも誠実ですよ。



[32932] 番外編 希望の未来へレディーゴーしたかったドモン
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/07/06 07:11


 さて皆さん…今『デビルガンダム』との最終決戦が始ま ろうとしています。 地球をも飲み込まんとするデビルガンダムに、地球は滅亡の危機を迎えているのです。
 それに挑むは『ゴッドガンダム』を駆る『ドモン・カッシュ』こと『キング・オブ・ハート』を中心にした、若き『シャッフル同盟』の5人なのです。
 『チボデー・クロケット』『サイ・サイシー』『ジョル ジュド・サンド』『アルゴ・ガルスキー』共に熱い友情で結び付いた仲間達。

 全ての黒幕『ウルベ』により、デビルガンダムの生体コアにされてしまった『レイン』を救う為、5機のガンダムはデビルガ ンダムの胎内に突入しました。
 待ち受けていたウルベの『グランドマスターガンダム 』の猛攻に耐え、魂の炎を燃やした『シャッフル同盟拳』 でこれを見事撃破。その最中チボデー達とはぐれたドモンは1人、レインの元へ向かうのです。

 しかしグランドマスターガンダムは復活し、心臓部に辿り着いたドモンの前には、最終形態と化したデビルガンダムが立ち塞がります。
 そしてそれを操るのは、罪の意識からドモンから遠ざかろうとするレインだったのです。
 ドモンはこの事態にどう立ち向かって行くのでしょうか? それでは皆さんご一緒に! 魔導師ファイト、レディィィ ッ、ゴォオウゥッ!! おや……?


 希望の未来へレディーゴーしたかったドモン


 ゴッドガンダムの前にそびえ立つ、凶悪なデビルガンダム最終形態。中に取り込まれたレインは、ドモンの呼び掛けに全く応えなかった……

「そ…そんな…此処まで来て、最後の敵がお前だなんて……勝てる訳なんて無いよ……勝てる訳無いっ!!」

 ドモンは絶望感で力無く、コックピットに膝を着いてしまう。レインに応える兆しは無い。彼女と闘う、まして傷付ける事など出来なかった。しかしそこに……

「ドモン……」

 少女の声が聞こえて来た。ドモンの周りを小さな妖精の様な者、勇気付けるように飛んでいる。その姿はアレン……

 次の瞬間ベシイッ! という音がしたかと思うと、潰される少女の「グエッ!?」という声が聞こえて来た気がした。不審に思った時、

「ドモンよ! 何をグズグズしておるかあっ!!」

 叱咤する声が響いた。ドモンはその独特のノリにハッとし、

(こ…この感じは…ま、まさか師匠っ!?)

 顔を上げたドモンの目前に不敵に腕組みして立つは、マスターアジアとは似ても似つかない、ドモンより年下と思しき美女であった。
 紫色の服を纏い、腰に白い布、茶色がかったロングヘアーを後ろでおさげにし黒いリボンをしている。ドモンは美女をポカンと見上げ、

(可愛いいな……)

 などと思ってしまうが、今はそれどころでは無いと慌てて首をブンブン振り、

「あ……あんたは誰だ……?」

 美女『高町なのは』(19歳バージョ、色々バインバインである)はクワッ! とばかりに目を見開くと、拳を突き出し叫んだ。

「応えろドモンッ! 流派東方不敗は!?」

 ドモンは自然に反応していた。緩んでいた鉢巻を、無意識にギュッと締め直し立ち上がると拳を繰り出していた。

「王者の風よ!!」

「全身!!」

「勁烈っ!!」

 なのはのマシンガンの様な突きが跳ぶ。ついでに胸も揺れております。ゴッドガンダムのコックピット内なので、システムが壊れないか少しハラハラものである。

「天破狂乱!!」

 負けじとドモンも嵐の如く突きを繰り出す。拳の一突き毎に、懐かしい感覚が脳裏に蘇った。

「見よ! 東方は赤く燃えているうぅぅっっ!!」

 2人の背後で、無駄に熱く燃え盛る炎。ドモンは確信した。この闘気 、技のキレ。信じ難いが……

「ま……まさか……師匠なの……ですか……?」

「ふっ……久しいなドモンよ……」

 なのはは再び腕組みし、唖然とするドモンを見上げた。哀しい事にドモンより全然背が低いので仕方無い。それより久しいも何も、ドモンはほんの数日前に、師匠を見送ったばかりなのだが……

 ついでに何時の間に、ゴッドガンダムのコックピットに入っていたのだろう? とか言うのは禁句なのである。

《何言ってんだジャパニーズ!?》

《そのお美しいレディーがマスターアジアの訳が無いでしょう!?》

《兄貴色ボケしたのか? レイン姉ちゃんに怒られるぞ!! 》

 呆けているドモンに、チボデーとジョルジュ、サイ・サ イシーの叱咤する声が飛んだ。するとなのははモニターの若きシャッフル達に、

「五月蝿あいっ!! 儂はこうして此処に居る。何の不思議が有ろうか! ボロボロにやられたのを忘れおったか!? ひよっ子シャッフル共っ!!」

 有無を言わさぬ滅茶苦茶な理屈と、どう聞いてもマスターアジアとは程遠い女性の声はともかく、その身体から凄まじい闘気が発っせられた。離れている筈のチボデー達にまで、その『気』はビリビリと伝わって来る。

「まさしく……この『気』は……」

 アルゴの厳つい額から、一筋の冷や汗が流れ落ちた。

「東方不敗・マスターアジアァァッ!?」

 4人の素っ頓狂な声が見事にハモった。さすがに大抵の事では動じない彼らでも、これにはビックリしてしまったようだ。 なのはは呆然とするシャッフル同盟達に、

「ぬわっはっはっ! 久しいな、若きシャッフルの小僧共よ!!」

 と明らかに自分も若い美女は偉そうに高笑いした。態度と外見がまったく一致していないのは大きくなっても変わらないようだ。 チボデーは頭を抱えて絶叫していた。

「ジーザス! こいつは一体何の冗談だ!?」

「しっかし……何げに美人のお姉さんだなあ……馬鹿弟子とか言われたいかも……」

 エロ餓鬼のサイ・サイシーは鼻の下が伸びている。ジョルジュはこめかみをピクピクさせて、

「マリア・ルイーゼ様……」

 とコックピット内の女主人の写真を仰ぎ、アルゴは絶句して一言も発しない。元々無口か。そんな事をやってる間に、再生したグランドマスターガンダムが迫っていた。

「シット! しまった!?」

 なのはに気を取られ、全員の反応が遅れてしまった。グランドマスターガンダムの巨大な脚部が、シャッフル同盟を踏み潰そうとした時!

『なの~っ!』『なの~っ!』『なの~っ!』『なの~っ!』『なの~っ!』『なの~っ!』『なのぉぉ~っ!!』

 黒い7つの影がグランドマスターガンダムに、餓えたサメの如く襲い掛かった。影は巨大な竜巻と化し、その巨体を一瞬でスクラップの山にしてしまう。

「正しくあの技は『十二王方牌・大車併』!? やはりマスターなのか!?」

 ジョルジュは叫ぶ。一度食らった事がある身として見間違える訳が……

「何だ……あの物体は……?」

 アルゴは目をゴシゴシ擦った。凄く変なものが見えた気がする。だが残念ながら、見間違いでは無かった。
 其処に偉そうに腕組みして浮かんでいるのは、マスターガンダムの格好をしたミニなのは達であった。

「「「「オーマイガッッ!?」」」」

 チボデーに釣られてシャッフル同盟は、全員揃って悲鳴を上げていた。





「どうしたドモン、何をグズグズしておる! 貴様のグズはまだ治っておらんのかあっ!?」

 なのはは目前のデビルガンダムを指差し悪態を突くが、それはドモンを叱咤激励する為である。
 捨てられた子犬のように自分を見上げるドモンに、なのはは苦笑すると目前のデビルガンダムを見上げ、

「あの娘は自分の父親がお前を不幸な目に遭わせてしまった……それを己の罪と思い定めてしまっておる……」

「そんな……レインは何一つ悪くないのに……どうしたら…… ?」

 途方に暮れるドモンに向かい、なのはは拳をズズイとばかりに突き出し、

「想いを届かせるには、お前の正直な魂の一言をぶつけるしかないっ! 漢として、1人の武道家として、己のありったけで魂の言葉を、拳の代わりにぶつけるのだドモンッ!!」

「魂の言葉……」

 しばらく考えていたドモンだが思い当たったらしく、その目に力強い光が灯ったようだった。両の脚をしっかりと踏み締める。

「判ったようだな……?」

「はいっ師匠っ!」

 決意を固めしっかりと返事をする弟子を見て、なのはは満足そうに微笑んだ。見てくれは違っても、その眼差しは弟子を見守る温かな師匠のそれであった。

 ドモンはコックピットハッチを開き、ゴッドガンダムの外に出た。その隣でなのはは腕組みして、弟子の告白を見守る。
 ドモンは何もかも吹っ切ったような晴れやかな表情で、目前のデビルガンダムに正面から対峙した。

「レインッッッ!!」

 ドモンは叫んだ。デビルガンダムに向かって力の限り叫んだ。己の全身全霊を懸けて。

「レエェェイインッッ! 俺はお師匠が好きだあああっ…………あっ…?」

 どうしようも無い程の、取り返しのつかない静寂が辺りを包んだ。ドモンは脂汗をダラダラと掻いて、後ろのなのはを振り返り、

「ど……どうしましょう師匠……思いっ切り、言い間違えてしまいました……」

 なのはのインパクトがあまりに強く、お前と言おうとしてお師匠とウッカリ叫んでしまったようである。 何だかんだで、かなりテンパっていたようである。しかしこのタイミングは最悪であった。

「だからお前は阿呆なのだああっ!!」

 なのはは呆れ顔でドモンを怒鳴りつけた。馬鹿弟子はあたふたするしか無い。ある意味修羅場であった。

 さて当のレイン・デビルガンダムは、凄まじい殺気を発した。何か身体中がメリメリと音を立て、角やら牙が生えて来ている。凶悪さが十割増しぐらいになってしまっていた。

《ドモォォォォォォォン~ッッ!やっぱりそういう事だっ たのねぇぇぇぇぇぇぇっ!?》

 デビルガンダムの中から、地獄から響いて来るようなレ インの声がする。『レイン・デビルガンダム』は、牙をガ チガチと剥き出し、

《怪しい怪しいと前から思っていたのよ……やっぱりマスターアジアとそう言う関係だったのねぇぇぇぇっ!? しかも実は女!? それで十年間も2人っきりでぇぇぇぇぇっ!!》

「落ち着けレイン! 俺にも何が何だかサッパリ……それにどう見ても俺より年下だから計算が合わな……」

「問答無用ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 レイン・デビルガンダムが巨大な鉄の拳を振り上げた。もう逆上しまくって、ドモンの話なんか聞いちゃいない。なのはは涼しい顔で、真っ青になっているドモンを見据えると、

「ドモンよ……お前はもう立派な一人前の漢……キング・オブ・ハートよ……」

「し……師匠……?」

「儂がお前に教える事はもう何も無い! さらばだドモンよ! 達者で暮らせよ!!」

 そう言い残すと、ポーンとガンダムからさっさと飛び降りて行った。独り取り残されたドモンは慌てて、

「ちょっ、ちょっと待って下さい師匠ぉぉっ!? この状況で俺を置いて行く気ですかあっ!? それはあんまりです! !」

 なのははあくまで偉そうに、悠々とこの場から去りながら、ドモンを背中越しに振り返り、

「ふっ……ドモンよ……これもまた修行の内……この修羅場を見事切り抜けてみせよ! お前ならやれる! さらばだドモン!  ぬわっはっはっ!!」

 堂々と高笑いしながらなのはは去って行った。もう後ろ姿が見えない。一体何しに出て来たのだろうか?  なのは師匠はGガン世界でも迷惑だったようである……

「いや……そんな事言われても……」

 置いてけぼりにされたドモンは、もう途方に暮れるしかない。焦って色々考えても何も思い付かず、現実逃避しかける迷える武道家だが……

《ドモォォォォォンッッッッッ~!!》

 背後から無気味な声が響いた。恐る恐る振り向いたドモンの目に、デビルガンダムの巨大な拳が映る。 次の瞬間レインデビルガンダムの強烈極まりないどころでは無いパンチが、パコ~ンッとばかりにドモンに炸裂した。

「ぎゃべらああああっ!!」

 ドモンはきりもみ回転して弾丸のように吹っ飛び、巨大デビルガンダムの外壁を突き破って宇宙に放り出された……

(苦しい……息が出来ない……っ)

 そんな当たり前以前の事を思うドモンの耳に、微かな声が何処からともなく聞こえて来た。






ドモン……




起きて……



「ドモン……?」

 自分を呼ぶ声にドモンは目を開けた。目の前には心配そうに此方を覗き込む、レインの顔が在った。

「うわあっ! 許してくれレイン! 本当に間違えただけだったんだあっ!?」

 とっさに平謝りするドモンに、レインは訳が判らず首を傾げる。

「何寝ぼけてるのドモン……? 準備が出来たから、ゴッドガ ンダムの調整に入るわよ?」

「えっ……?」

 そこでようやくドモンは今の状況を思い出した。 此処はスペースコロニー『ネオジャパン』で、ゴッドガンダムの整備ドッグ。今日は久々の、ゴッドガンダムに搭乗しての動作テストの日だ。
 呼び出されたドモンは、待ち時間の間にソファーでウトウト居眠りをしていたらしい。

「凄く寝ぼけてたわよ、一体どんな悪い夢を見てたの?」

 苦笑するレイン。ドモンは今見た夢を思い出そうとするが……

「……お……思い出せない……だがひどく恐ろしい夢を見た気がする……」

 しきりに首を捻るドモンの手を、ペロリと舐める者が居る。雪のように白い毛並みの逞しい馬『風雲再起』であった。

「風雲再起……済まん気にするな……思い出せないところをみると、大した夢じゃなかったんだろう……」

 ドモンは笑って、風雲再起の脂気の少なくなって来た背を撫でてやる。

(あれから数年……お前も師匠が亡くなられてから、めっきり老けたな……)

 兄弟子にあたる白馬の瞳を見ながらドモンは、少し淋しげに呟いた。
 今日は風雲再起も『モビルホース』に搭乗する事になっている。マスターアジアの形見として持って持ち帰り、改造を施したものだ。

(多分今回が風雲再起の最後の搭乗になるだろうな……)

 ドモンは寂しさを感じたが、ならばしっかりと風雲再起の最後の勇姿を、目に焼き付けて置こうと思うのだった。それが兄弟子へのせめてもの敬意だ。

 準備が完了し、ドモンはゴッドガンダムの前に立った。 久々の搭乗である。ドモンと共に決勝大会を戦い抜いた戦友だ。トリコロールカラーの雄々しい機体である。

 ドモンはコックピットハッチを開け、ゴッドガンダムに乗り込んだ。身体に張り付く、ファイティングスーツの締め付けが懐かしい。メインカメラに灯が灯り、武者を思わせる白い機体が唸りを上げた。

「トウッ!!」

人機一体となったドモンとゴッドガンダムは、雄々しき気合いと共に両拳を引き、ガッチリと構えた。ゴッドガンダムの顔が、ドモンの顔に見えた気がするのは言うまでもない。

 ウォーミングアップを終えたゴッドガンダムはバーニアを噴かし、ハッチから宇宙空間へと勢い良く飛び出した。
 続いて風雲再起が搭乗した一角の角を持つ、巨大な白い機械の馬『モビルホース』が後に続く。その時であった。

「何だ!?」

 ドモンの右手の甲に『キング・オブ・ハート』の紋章が浮かび上がっていた。凄まじい赤い光を発している。

「紋章が? 一体……どうしたんだ!?」

 次の瞬間、紋章の輝きに呼応するように、目の前の宇宙空間がグニャリと歪んで行くではないか。

「あれは……? うわあああっ!?」

 空間の歪みは巨大な渦となり、ゴッドガンダムを吸い寄せる。まるで巨大な掃除機のようだ。

《ドモンッ!?》

 異常を察知したレインが呼び掛けるが、ゴッドガンダムは脱出出来ない。バーニアを全開に噴かしても、ゆっくりと渦に吸い寄せられて行く。絶対絶命であった。しかしドモンは不敵に笑い、

「これしきぃぃっ! 激流に呑み込まれそうになった時と同じだ! 脱出する為に敢えて中心に飛び込み活路を開く!! 」

 ゴッドガンダムは全身のバーニアを全開にし、敢えて歪みに突っ込んだが……

《ドモンッ! それって只の自殺行為なんじゃ……?》

「そんな事は無い! 身を捨ててこそ浮かぶ瀬も有りだ!! 」

 ドモンはレインのツッコミにそう返すものの、少しミスったかな? などと頼りない事を思ってしまう。
 何か却って状況が悪くなっていた。機体が言う事を聞かなくなって来ている。 意地を張っても仕方が無い。ドモンは『スーパーモード 』を発動させ、渦から脱出しようとするが、

(待てよ……紋章が輝いているという事は、俺を何処かに導こうとしているのか……? ならば!)

 ドモンはその場で即決した。何が待ち受けているかは解らないが、シャッフルとしてやるべき事が有るのかもしれない。それがキング・オブ・ハートの紋章を受け継いだ者の使命なのだ。

「まずは行ってみる! 後の事は……その後の事だあーっ!! どおりゃああああっ!!」

 ゴッドガンダムは渦に抗うのを止め、一気に渦の中心に飛び込んで行く。

《ドモンッ!?》

 レインが慌てて通信を送るが、ドモンは画面のレインに不敵に笑い掛け、

《レイン紋章が導いてるから、ちょっと行って来る!!》

《ええ~っ!? ちょっと即決し過ぎよドモンッ! あんな怪しいもの、どんな危険があるか解らないわ!!》

「男児たるもの命ギリギリの局面にこそ、漢が磨かれる!  望むところだぁっ!!」

「わああっ! マスターと同じような事を!? もう何を言っても話し損状態だわっ!!」

 レインの呆れ声ももう届かない。ゴッドガンダムの姿がまともに渦の中に吸い込まれた。風雲再起も後を追って、渦の中にモビルホースを突っ込ませる。

「うおおおおおおおおおっ! 想像以上にキツイィィッ!? 」

 ドモンは激しい渦に翻弄され、ちょっと後悔しながら意識を失ったのだった。行く手に待ち受けるものも知らず……



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 流派東方不敗の修行に励むフェイトなのです。高町家の恐るべき秘密とは? なのはは親の愛にただ涙するのです。

 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠げんなりするの巻』に、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




※遅くなりました。感想返しです。

ご都合主義様>番外編でした。参戦フラグですね。ドモンの活躍?を待っていてやってください。

いいい様>こちらは夢オチでしたが、なのは師匠やミニ達は残念ながら夢ではないので、ドモンは一体……






[32932] 第26話 師匠げんなりするの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/07/27 18:19


 さて皆さん……世の中前世の記憶を持っていると自称する人達がたまにいます。何故か皆ケ〇ディ大統領だったり、天草四郎だったり有名所ばかりですね。たまには西郷隆盛の飼っていた犬が食べた魚に、寄生していた寄生虫だったくらい有っても良いと思うのです。
 前世の記憶を持つ高町なのはの軌跡とは……?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



 師匠げんなりするの巻



「はあああああああっっ!!」

 山深い森の中に、少女の無駄に気合いの入った叫び声が響き渡った。

「まだまだぁっ! 気合いを入れんかフェイトォォッ!!」

 更に偉そうな少女の声が響いて来る。それに伴い大木が次々と倒れて行き、大岩が粉々に砕け散る。まるで森の中を小型の台風が荒れ狂っているようであった。

「ひゃああああああああっ!!」

 金髪の髪をツインテールにした黒い服の少女が、叫び声を上げながらぶっ飛ばされたように宙を舞う。ついでに小さな小動物、フェレットが巻き添えを食って飛ばされていた。

 何だかエライ事になっている。その台風の中心は1人の少女である。紫のバリアジャケット姿の『高町なのは』だ。吹っ飛んだのは、『フェイト・テスタロッサ』であった。
 アシストとして、周りをミニなのは達がギュンギュン飛び回っている。もちろん巻き添えを食ったのはユーノであった。

 此処は海鳴市都市部から離れた、人が立ち入れない程険しい山の中である。只今フェイトの修行の真っ最中と言うわけだ。修行開始から既に一週間が経っている。

 その凄まじい修行内容を、フェレット姿のユーノと、少女の姿のアルフが冷や汗を垂らして見守っており、その最中ユーノは巻き添えを食ってしまったようだ。

 次々とミニ達が転がす落石を避けながら、険しい崖を飛行魔法無しで駆け上がり、巨木の天辺でバランスを取りながら『気』を練る特訓。更に滝に打たれながら、落ちて来る流木をかわす特訓。

 フェイトは最初から上手く行く筈も無く。崖から転げ落ち、木の上ではバランスを崩してアワワとなり、滝から流されたりして、なかなか愉快な事になっていた 。それでも根性で立ち上がるのは見上げたものであった。





「良しっ、今日はこれまで!」

「ありがとう……ございました……」

 日も落ち掛ける中、息も絶え絶えで頭を下げたフェイトは、力尽きたようにその場に倒れ込んでいた。 あお向けに寝っ転がり、ゼエゼエ言っている。アルフが駆け寄って水筒のスポーツドリンクを飲ませてやった。

「ぷはあ~っ」

 フェイトは生き返ったように息を吐いた。アルフから受け取ったタオルで汗を拭いて一息吐く。

「どうだフェイトよ……修行はキツイか……?」

 汗一つかいていないなのはは微笑んで、へたばっている弟子に尋ねた。

「確かにキツイですが……自分がいかに修行が足りないか思い知らされました……やっぱり師匠は凄いです!」

 フェイトは爽やかな笑顔を浮かべて返事をする。もう末期だ。アルフはそんな主人を見て、複雑そうに引きつった笑顔をした。
 修行内容は殺す気か!? くらいな勢いだが、本人は何だかんだで楽しそうだ。充実しているのだろう。

 方向性は大きく間違っているような気がしないでもないが、以前のように俯いているよりはいいかと、アルフは自分に言い聞かせた。 と言うか、そうでも思わないとやってられない。

 まあ…修行内容も、なのはは子供に教えるなりに加減しているようである。最初フェイトの体が壊れるまで、無茶苦茶な修行をさせられるかと思ったが、そこまで酷くは無かった。
 何気に教えるのが上手い。格闘経験の全く無い、ど素人のお坊っちゃんだった当時10歳のドモンを、一人前に鍛え上げただけの事はある。

 今日の修行が終わり、和やかな空気が流れる中、全身ずぶ濡れになったフェレットユーノが、トボトボ歩いて帰って来た。

「どうしたユーノよ……? 何処に行っておったのだ。何かボロボロになっておるぞ?」

「ミニ達の巻き添えを食ったんだよ……ぶっ飛ばされた挙げ句、川には落ちるし、熊には追っ掛けられるし……死ぬかと思ったよ……」

 ユーノは恨みがましい目で、ニタニタ笑っているミニ達を見てため息を吐く。 修行中になのは達の半径百メートル以内には、金輪際近付くまいと堅く心に誓うユーノであった。

「しかし……フェイトは元々魔導師としてリニス殿に訓練を受けていたお陰で、飲み込みが早い……儂などよりよっぽど 良いわ。ぬわっはっはっ!」

 なのはは上機嫌で高笑いである。フェイトは意外そうな顔をした。

「えっ? 師匠より? そんな……信じられません!」

 とても最もな疑問だが、なのはは苦笑いして自分の体を見下ろし、

「前の体ならともかく……今の体は運動神経が鈍くてな……ここまで鍛え上げるのにも苦労したものよ……」

 目を閉じ、しみじみと修行の日々を思い出すなのはである。相当苦労したようだ。
 実際運動神経が鈍かったのは、なのはの潜在的に秘めた膨大な魔力のせいで、バランスが悪かったせいらしいが、今となってはあまり関係ないと言うか死に設定と言うやつであろう。

「ああっ、修行前に聞いた前世の記憶が有るって話ですね ? 流石は師匠、女に過去有りって訳ですね……?」

 妙な納得をするフェイトに、ユーノは(それはちょっと違うだろう……)と思ったが、自分も最初に聞いた時、大して驚かなかったのを思い出した。と言うか、本人が余りにも非常識なので、そんな理由でも無いと納得出来ない。

(そう言えば……)

 ユーノはこの間の事を思い出した。丁度フェイトを追う為に、しばらく家を空ける事を桃子母さんに話した時の事だ。その時ユーノもフェレットの姿で其処に居たので、やり取りを良く覚えている。
 その時はユーノたっての頼みで、魔法とユーノの正体は伏せ(放って置くとバラしまくるので)言えるだけの事を桃子母さんに伝えたのである。

「そのような次第で、最後までやらせて貰いたいのです母上……」

 リビングに緊張感が漂った。どんなに腕が立っても、まだ扶養家族の小学生には親の承諾が必要である。深々と頭を下げるなのはに、桃子母さんは優しく微笑んだ。

「なのはは一度決めたら、絶対曲げないもんね…… なのはが会ったその女の子と、もう一度話をして一緒に強くなろう、弟子にならないかって言いたいんでしょう…… ?」

「何故それを……?」

 なのはは珍しくギョッとしたようである。

「前に聞いた事ちゃんと覚えているわよ……前世の事……」

 桃子母さんは悪戯っぽく娘に笑って見せた。

 既になのはは家族に、自分が『東方不敗マスターアジア 』と言う武道家だった事は、言葉が話せるようになった時に話している。

 その時、弱冠2歳のなのはは、まだおぼつかない小さな足を踏ん張って、高町家の人々を見上げていた。 2歳児のなのは、まだミニなのは達のように小さい身で胸を精一杯張り、

「わちは、とうほーふはい、ますたああじあというものでちゅ…… よくわからにゅうちに、このいえのむちゅめに、うまれかわっちてちまったのでしゅ……」

 気味が悪いと放り出される覚悟の、高町なのは2歳児であったが……

「うおおおっ! 凄い! ウチの子には前世の記憶が有るのかあっ!!」

 当時まだSPやってた士郎父さんが、感激してなのはを抱き上げて高い高いした。なのはは目が回る回る。

「きゃああっ、舌っ足らずで儂言葉がまた可愛いわあ!」

 桃子母さんも、士郎父さんからなのはを受け取り、却ってもみくちゃにされた。 高町家というか、海鳴市自体が色々と摩訶不思議な所なので、生まれ変わり位大した事が無いらしい。只の親馬鹿かもしれないが。

「ちちうえ……ははうえ……このとーほうふはい、ますたああじあ、ふかくかんちゃちます……」

 感極まって頭を下げるちびっ子なのはに桃子母さんは、メッとばかりに顔を近付けた。

「駄目よ……前世はどうあれ、今のあなたは高町なのは……ますたああじあじゃ無いのよ……?」

「はあ……」

 まだ踏ん切りが着かない様子のなのはに、士郎父さんは姿勢を低くして娘と同じ目線を取り、慈しむように頭に手を掛けて、

「そうだぞ……前世の記憶が有っても、今はウチの娘なんだ ……人には輪廻転生と言うものが有るから、父さん達だって誰かの生まれ変わりかもしれないんだ……なのははたまたまそれを覚えていた、それだけの事さ…… 」

「ちちうえ……」

 士郎父さんの温かな言葉に、高町なのは2歳の瞳に光るものが見えた気がするが、心の汗と言う事で見なかった事にしてあげよう。

 そのやり取りを傍らで聞いていた、恭也兄さんと美由希姉さんが、

「そう言えば俺も、何かデカいロボットに乗って、「お前を殺す」とか、「任務了解」みたいな台詞を言ってた覚えが……」

「あっ、私は操られて恋人裏切った挙げ句、俺がなんたらだが口癖の白いロボットに撃ち落とされた気がするんだけど……」

 などと神妙な顔で言い出した。さすが兄妹である。恐らく2人の最初の発した言葉は、「お前を殺す」に「ライルー」だと思われる。
 ユーノはその話をなのはから聞いた時(なのはで3人目? 高町家恐るべし!)と思ったものだ。

 などと言う心暖まる? やり取りが有って、現在に至るのである。
 なのはは家族に心配掛けまいと『流派東方不敗』の修行をコッソリやっていたのがバレていて、意外そうだ。

「隠れて修行していたのは知ってたわよ……勿論お父さんも……」

「父上まで……」

「本当はお父さん、なのはに『御神流剣術』を継いで欲しかったみたいだけど……なのはには、なのはの流派が有るから、好きにさせようって……」

 流石に御神流の一流の剣士。士郎父さんにはお見通しだったようである。 流派東方不敗の拳士としての、なのはを尊重してくれたのだ。 桃子母さんはそこで、済まなそうに表情を曇らせる。

「やっぱり……お父さんが怪我でゴタゴタして、あまり構ってあげられなかったから……なのはとしては前世の記憶に縋るしか無かったのよね……? ごめんね、なのは……」

「いや、これは儂が好きでやっている事ゆえ、母上達のせいではありませんぞ?」

 謝る桃子母さんになのはは、慌ててフォローを入れた。ユーノはまあそうだろうな……と思う。なのはは例え構って貰っていたとしても、修行は絶対しているに決まっているのだから。
 気のせいか例え前世の記憶が無くても、似たような感じになる気がしないでもない。
 拳の代わりに砲撃みたいな……などと考えた時、誰か来るような気がして、慌てて思考を断ち切った。
 ユーノはさて置き、気を取り直して桃子母さんは、なのはの頭を優しく撫でてやり、

「じゃあ行ってらっしゃい、後悔しないように……お父さんとお兄ちゃんは、私がちゃんと説得しといたげる」

 士郎父さんも恭也兄さんも、心配など全く要らなそうななのはに、過保護気味な所が有るのだ。桃子母さんの助けは是非必要である。

「母上……この高町なのは、深く感謝します……」

 気付かなかった親の愛を感じ、なのははひたすら感謝するのであった。

 ユーノは2人のやり取りを聞いて、(いい話だ……)と感動していたのだが、不意に桃子母さんはとっても良い笑顔を浮かべ、

「その代わり嫌がらないで、これを着てね?」

 何処から出して来たのか、可愛らしいスカートやら、フリフリの服を取り出して楽しそうに笑う。

「いやもうね~、駅前に出来たお店で可愛いお洋服が沢山売ってたのよ。きっとなのはに似合うと思って、い~っぱい買って来たからね?」

 何処から出して来るのか、次々と可愛らしい服を出して来る桃子母さんは、もうウキウキ状態でテンションMAXである。
 ユーノは見た。この世の終わりのように、げんなりするなのはを。島本調の一枚イラストのようである。一番恐るべしは、なのはの母さん! とユーノは思ったものである。

 フェイトも特に驚いてはいない。今更と言う感じである。汚染……いや、すっかり適応しているようだ。2人の話を聞いていたアルフはふと、何かを思い出したように手を叩き、

「あれ…? そう言えば、シュバルツがなのはの事を知ってたって事は……?」

 どうやら前にシュバルツが、なのはの事を知っていると言っていたのを思い出したようだ。

「ねえユーノ、シュバルツって何者だい……?」

「ああ…それはね……いっ!?」

 ユーノが何の気無しに答えようとした時である。彼の影の中から、にょきっとばかりに覆面頭が出て来た。シュバルツである。
 相変わらず心臓に悪い出方をする。ちょうどユーノの真下に現れたので、死角になってアルフから見えない。それに頭半分だけ出ているので地味に怖 い。
 ビックリして声を上げそうになるユーノの頭に、シュバルツの念話が響いた。

《ユーノ・スクライアよ……要らぬ事を話す口は、災いを呼ぶぞ……?》

 完っ全に脅しであった。まだフェイト達には隠す気らしい。

《は……っ、はいいっ!》

 ユーノはくびり殺されそうな気がして、即座に返事をしておく。その様子をなのはだけが気付いて、苦笑いを浮かべていた。




「それではフェイトよ。明後日から学校だ。明日はゆっくり休み、体の疲れを癒やしておくがいい!」

「ハイっ師匠っ! ありがとうございました! 沢山食べてしっかり寝ておきます!!」

 元気良く応えるフェイトに、なのはは拳を突き出し叫ぶ 。

「流派東方不敗は!?」

「王者の風よ!!」

 以下略

 挨拶を終え、転移魔法を使い自宅に帰るフェイト達を見送ったなのはは、ユーノをヒョイと肩に乗せると、

「良しユーノよ、我らも帰るぞ! しっかり掴まっておれ! 晩メシを食べたら、飛行訓練だ。指導を頼むぞ!!」

 頼むぞの部分を発する前に、疾風の如く駆け出した。風圧でユーノの小さな体が宙に浮く。
 ちなみに自宅まで数十キロあるが、なのはは問題ないとばかりに駆けて行く。あっという間にその姿は見えなくなった。相変わらず全力全開である。


ーーーーーーーーーーー


 その夜のテスタロッサ家。

「母さんお代わり!」

 食卓でアルフ顔負けの食欲で、ご飯をもりもり食べまくっているフェイトの姿が有った。完全に薄幸少女の欠片も無い……それを微笑ましく見守るプレシア母さんとシュバルツである。
 ひとしきり今日有った事を母さんとシュバルツに話し、食べるだけ食べてしまうと、気絶するようにその場でバタンと寝てしまった。
 苦笑してプレシア母さんはフェイトを抱いて、寝室のベッドに寝かしてやる。フェイトの寝顔は幸せそうだ。この調子で行くと、将来色んな所がとっても育ちまくりそうである。


ーーーーーーーーーーー


 数日後、聖詳大附属小学校

「流派東方不敗・高町なのは師匠の3番弟子! フェイト・ テスタロッサ! 最強目指してがんばります!!」

 教室にフェイトの威勢の良い挨拶が響き渡った。拳を平手に打ち付けて挨拶するフェイトは、満足げに頷くなのはに向けて頭を下げる。

 後に聖詳大附属の5大魔女の1人に数えられる事になる少女の、これが最初の挨拶であった。
 それを教室の窓から、感涙してこっそり見ている、バカ親と覆面のバカ姉の姿が有ったと言う……



つづく


 皆さんお待ちかねえっ! 行く手を阻む無数の敵。異世界でなのは達を待つ者達とは? 覇王の拳が輝く時、レイジングハートが宙を飛ぶのです!
 魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠おのぼりさんになるの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!



※感想返しです。

あああ様>いいはなしでした。←棒読み。なのはでなかったら、既に洗脳ではなく、感化されてしまったと思われます。



[32932] 第27話 師匠おのぼりさんになるの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/08/13 20:13


 さて皆さん……人間初めて行く所とは、色々な想いが浮かぶと言うものです。不安や期待、それもまた良いものです。人生のスパイスかもしれません。高町なのはは未知の世界で、どのような想いに駈られるのでしょうか。
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!


 師匠おのぼりさんになるの巻



そこだフェイトッ!気合いを入れんかあっ!!」

「ハイッ師匠ぉぉっ!!」

 土曜日の早朝。此処はなのはが良く修行に来る、桜台展望台である。 朝っぱらからやかま……テンション高く声を張り上げ、拳を交えている2人の少女。高町なのはとフェイト・テスタロッサだ。
 早朝トレーニングの真っ最中である。季節は既に夏に入 っていた。何だかんだで、フェイトが修行を開始してから、数ヶ月近くが過ぎている。

 なのはの指導に付いて拳を繰り出すフェイトは、変な感じに様になって来ていた。 額にドモンの鉢巻のように巻いている白い布は、なのはから貰ったリボンである。
 手遅れと言うか何と言うか、もう頭の天辺から爪先まで、『流派東方不 敗』に浸っている感じである。 気のせいか最近妙に雰囲気が、ふてぶてしくなって来たような気がしないでもない。

 それをフェレットユーノと一緒に見守る少女姿のアルフは、主人が違う意味で遠くなって行く気がした。 最近フェイトは何気に、アルフと格闘訓練をしても引けを取らなくなって来ている。 野獣の筋力を持つアルフとである。恐るべし流派東方不敗であった。

「そうだ! 掌に『気』を集中させるのだ! 元来人間の『気 』は、全て手のひらに集まるように出来ておる!」

「ハイッ、師匠ぉっ! 覇っ! 破っ! 刃ぁっ!!」

 素直なフェイトは、掌を次々と繰り出して大木をガンガ ン叩く。大木がユラユラ揺らいだ。

「いいぞ、その呼吸だ! これが流派東方不敗の初歩『光輝唸掌』なり! これを極めて行けば、何れお前なりの『フィンガー』に至る!!」

「フィンガー? 師匠の『ダークネス・フィンガー』のような技が私にも……? がんばります!!」

 フェイトは紅い目をキラキラ輝かせる。ウットリして何か思い浮かべているようだ。 大方フィンガーを繰り出す時の、決めセリフなどを妄想してしまったのだろう。

「馬鹿者! 集中を乱すでない!!」

「もっ、申し訳ありません!」

 こんな調子である。ユーノはふと、管理世界で行われている『インターミドル・チャンピオンシップ』なる、10代少年少女の魔法戦技大会を思い出した。 なのはが出場したら色んな意味で終わるだろうな……と思っていると、

「フッ……甘いぞユーノ!」

「わあっ!?」

 いきなり耳元で偉そうな声が響き、ビックリしたユーノは飛び上がってしまった。 後ろに腕組みして立っているのは、またしても覆面ちびっ子シュバルツ・シュベスターその人である。

「フフハハハッ! ユーノ・スクライア! こうも簡単に後ろを取られていては、命が幾つ有っても足りんぞ!」

「いや……僕はアナタ達のような、変た……武道家じゃ無いから……」

「今何か言い掛けなかったか……?」

「気のせいです!」

 ウッカリ本音を洩らし掛けたユーノは慌てて惚けておく。しかしこの覆面ちびっ子は、自分を驚かす為にワザとやってるんじゃないかとユーノは疑った。

「あっ、シュバルツ?」

「シュバルツか……今日はどうした?」

 朝の修行を終えたなのはとフェイトが、此方にトコトコ やって来る。シュバルツはなのはを見ると、意外な事を言い出した。

「これから用事が有ってな……『ミッドチルダ』まで行って来るのだが、興味が有るなら付き合わんか?」

「ほう……ミッドチルダとな……?」

 なのはは興味津々で身を乗り出した。中心世界でもある第1世界ミッドチルダ。元々博識で、色々な事に興味を持つ彼女が、次元世界に興味を持たない筈がない。 そこでユーノがちんまい手をきゅっと上げた。

「それなら、僕が案内出来るよ。前に何度も行ってるから 」

「ほう……それは良い……頼もしいではないか」

 張り切って案内役を買って出るユーノに、なのはは目を細めた。その後ろでフェイトが悔しそうな顔をしている。彼女のミッドへの知識はそれほどでも無いので、ユーノにいい所を取られたと悔しがっているのだろう。
 そんな訳で、一行はミッドチルダに行く事になった。何となく違法な気がするが、ユーノもすっかり忘れていた……



ーーーーーーーーーーー



「うわああっ? こっちに来るなあっ!!」

 少年ユーノは迫り来る砲撃魔法から、魔法障壁を張り巡らして無効化する。危ない所であった。
 ユーノの正面には、デバイスを構えた魔導師達が大勢居る。みんな殺気立っていた。その時ユーノの背後から飛び出す少女2人。

「行くぞおっフェイトッ! 付いて来い!!」

「フェイト・テスタロッサ、お供します!!」

 障壁を張るユーノの頭上を飛び越えて、バリアジャケット姿のなのはとフェイトが狼の如く魔導師達に襲い掛かる。

「雑魚があっ!」

「はあああっ!」

 なのはとフェイトの掌底打ちの前に、魔導師達はことごとく床とキスをする羽目になった。流石である。
 なのははともかく、フェイトも素手の戦いが板に付いて来たようだ。もちろんまだ修行数ヶ月の彼女では、素手だけではまだキツイ。魔法との併用になるが、明らかに以前とは格段に腕を上げていた。

 だが敵も次々と増援を繰り出して来たようだ。魔導師やら、傀儡兵タイプのロボット兵が砲撃を掛けて来る。

「で……何でこんな事になってるんだあっ!?」

 飛び交う砲撃の中、ユーノは必死でアラーム音が鳴り響く通路を逃げながら、隣で腕組みして走るシュバルツを問い質す。

「寝ぼけた事を……見て判らんか? 敵の真っ只中だが……それがどうかしたのか?」

「だから何で僕らがミッドに来て早々に、敵とやらの真っ只中に居る羽目になってんだあっ!?」

 ちょっと涙目で叫ぶユーノにシュバルツは、はて? という感じで首を捻る。

「この会社は母さんが以前勤めていた会社だ……母さんに危険な実験を強行させ、更に安全義務を怠り、前の事故……すなわち私が死ぬ原因を作り、更に事故の責任を母さんになすり付けた、いわゆるブラック企業というヤツだ!」

「はあ……」

「そんな訳で、フェイト達の移住の偽ぞ……申請ついでに、不正の証拠を掴んでやろうと殴り込みに来た訳だ。解ったかユーノ・スクライアよ!」

「ああ……なる程ね……」

 さも当たり前のようにぬかす覆面ちびっ子に、ユーノは叫んでいた。

「なんて言うかあっ! そういう事は先に言ってくれええええっ!!」

「そういえば言ってなかったか……? まあ……わざわざ言う程の事でも無かったからな、フフハハ!!」

 シュバルツは背後からの砲撃をヒョイヒョイ避けながら、涼しげにそうぬかした。

「フフハハじゃないっ! 頼むから、アンタらの基準でものを考えるのは、止めてくれえええっ!!」

 ユーノ・スクライア魂の叫びである。ちなみに後ろの方では、

「ぬわああああああっ!!」

「はあいいいいっ!!」

 などと、しんがりのなのはとフェイトが荒れ狂っている。 警備連中を蹴散らす2人が、例の片足立ちのポーズを揃って決めている様を見て、ユーノが吹きそうになったのは内緒だ。
 アルフも成り行き上指をくわえている訳にもいかず、こんちくしょおおっ! とばかりに暴れている。

 数分後……警備連中を全て倒し本社が半壊する中、なのは達は悠々と中央コンピューター室に乗り込んでいた。

 シュバルツは、端末を目にも止まらぬ速さで操作し、不正の証拠データなどをコンピューターから吸い上げ、ご丁寧に管理局とマスコミに送信している。あれだけの警備で守っていただけあり、実情は真っ黒くろすけであった。

「さて……では、引き上げるとするか……フェイトよ、まだ『 気』の読みが甘いぞ!」

「ハイッ師匠ぉっ!」

 暑苦しく反省会の2人は置いといて、ユーノはふと気になった事をシュバルツに聞いてみる。

「そういえば……何で着いて早々侵入がバレてるんだい? シュバルツなら、気付かれないように侵入出来たんじゃないの……?」

「何を言っている。こういった事は、大抵発覚するものだ……私は以前ネオホンコンの奥深くに潜入した時も、バレた事が有る……今となってはいい思い出だが……まあ、そのせいで我が弟ドモンが私と間違われて、命を狙われる羽目になったがな……フフハハ!」

 高笑いする覆面ちびっ子にユーノは思わず叫んでた。

「全っ然っ駄目じゃないかあっ! アンタ何もかもがスパイに全く向いてないよ!!」

 覆面で派手派手で目立つゲルマン忍者に、今更ながらのツッコミをするのであった……



ーーーーーーーーーーー



「うむ……此処が『ミッドチルダ』か…」

 なのはは、興味深く辺りを見回した。相変わらずデフォで偉そうだが、やはり物珍しいらしい。ミッドチルダの街中である。近未来的な建物が立ち並び 、人々が行き交っていた。人や生活はそんなに変わらないようだ。

 会社を一つ潰し、とんずらこいて来た後、何食わぬ顔でミッド観光と洒落込んでいるなのは達である。

「どうしたユーノよ……?」

 なのははげんなり顔で、後ろをとぼとぼ歩くユーノを見て声を掛けた。

「いや……何でミッドに来た早々、僕は生死ギリギリの危機に晒されているのかなあ……なんて思ってね……」

 ユーノは乾いた笑みを浮かべる。出来ればなのはの、「 此処がミッドチルダか……」のくだりは、着いて最初に聞きたかった気がする。死にそうになった後に聞くのは、何かが決定的に間違っている気がした。アルフもやれやれ顔だ。
 なのはは一戦交えて来たばかりだというのにタフである。その足取りに隙は無い。 フェイトも、『流派東方不敗』の修行に比べれば、大した事が無かったのか元気である。

「腹が減ったな……メシでも食うか!」

「ハイッ、師匠ぉっ!」

 2人共こんな感じである。こちとら緊張感が取れず、まだ食欲が湧かないというのに……だがなのはは、そんなユーノの肩をバンバン叩き、

「良しユーノ、メシだ! 何か美味い店に案内せい! ユーノも闘いの後は沢山食わぬと、大きくなれんぞ? ぬわっはっはっ!」

 豪快極まりない少女につられ、ユーノはとりあえず記憶に有るデカ盛り店にでも連れて行こうと思った。 どいつもこいつも沢山食べそうである。虚ろな目をして いたアルフも、メシと聞いて目を輝かせた。


**


「これはぁっ! 美味いぞおおおぉぉぉっ!!」

 店に入ると、目と口から光線のようなものを発して雄叫びを上げる男が居た。紋付き袴の眼光鋭い御老人である。その店が壊れそうな程の異様なテンションに周りの客が引いていた。
 ユーノもどん引きしてしまう。御老人の迫力は無駄に凄まじかった。するとなのははその御老人に覚えがあったようで、

「これは源二郎殿。お久し振りです」

「おうっ、なのは君ではないか……? 奇遇だな」

 なのはの知り合いの、あの大阪城を壊しそうな御老人であった。一緒に見覚えのある、若い秘書らしき男性も居る。
 なのはにミッドチルダでの知り合いが居る筈が無い。何故と混乱するユーノになのはは、元からの知り合いである事を説明してやる。

「へえ……向こうでの知り合い……偶然だねぇ……って、ちょっと待って! 何でなのはの知り合いがミッドチルダに居るのさ!?」

 当然の疑問である。気軽に来れる所でも無いだろう。すると源二郎さんはカカカッと豪快に高笑いした。

「美味いものが有れば、私は何処にでも赴くのだよ! フアッハッハッハッ!!」

「見事だ……何にも勝る理由だな……」

 シュバルツはしきりに感心している。ユーノも何故か、その言葉だけで強引に納得させられてしまった。この御老人にとって、それが全てなのであろう。細かい事は考えても無駄な気がした。



 店員さんを戦慄させる量を平らげ、まだ異様なテンションで料理を食べている源二郎さんに別れを告げると、なのは達は店を出た。満足したのか、なのはもシュバルツも上機嫌である。
 覆面ちびっ子は覆面のままでどうやって食べているのか、ユーノは結局見切る事が出来なかった。凄くどうでもいい事だが……
 フェイトやプレシアのデータを偽造……申請に行くシュバ ルツと一旦別れ、一行はミッドを散策して歩く事にする。

 あちこち見て回っている内になのははふと、とある建物に目を留めた。かなり大きめの建物で、中から気合いの入った叫び声や、何やら打ち合うような音が聞こえて来る。

「ユーノよ……アレは……?」

 ユーノは、なのはの見ている方に視線をやった。

「ああ…『ストライクアーツ』の道場だよ。確かミッドで一番競技人口が多い、打撃による徒手格闘技術で……」

 説明していると、こつ然となのはの姿が消えていた。

「あれ……? なのはは何処に?」

 キョロキョロするユーノに、フェイトはニヤリとすると道場を指差した。

「師匠なら、あそこに行ったよ。流石お目が早い!」

 駆け出すフェイトに着いて、道場に向かったユーノの耳に聞こえて来る台詞。

「流派東方不敗・高町なのは! 一番強い者と一手立ち会いたい!」

 偉そうな少女の声。案の定なのはが道場に上がり込んでいる。完全に道場破りである。
 腕組みして、道場の真ん中にふんぞり立つ少女の周りを、強面のゴツイあんちゃん達が取り囲んでいた。総勢で70人くらいは居そうである。
 その中の1人、角刈りの厳つい顔にゴツイ筋肉の大男が前に踏み出した。

「嬢ちゃん……此処は、管理局員の指導も行っている、実戦本位の道場だ……腕自慢のお子さまがやっている、お遊びとは違っ……!?」

「ダァクネス、フィンガアアァァッ!!」

 得意げに話していた角刈りの顔面に、なのはの強烈極まりない一撃が決まり、顔面を掴まれたまま床に叩き付けられた。 床が砕け角刈りは床に突き刺さったまま気絶している。惨い。案の定であった。

「師範代っっ!?」

「うおお! かつてミッドの大会で優勝した事もある師範代が? この餓鬼ぃっ! いきなり何しやがる!?」

 分かり易い説明をしながらいきり立つ弟子達の前で、なのはは目に怒気を込めた。

「たわけがぁっ! 敵の目前にして気を抜き、ベラベラぬかす馬鹿が何処におるかあっ! なっとらん、なっとらんぞ貴様らぁっ! !」

 なのはの気迫に一瞬弟子達は怯むが、残念ながら彼らの実力では、目の前の少女がどれだけ化け物かが判らなかった。

「師範代の仇っ!」

「無事で帰すなあっ!!」

 怒り狂って、一斉になのはに襲い掛かって来た。卑怯とは言うまい。こういう場合道場破りを無傷で帰したら、道場の看板に傷が付く。道場破りをするような人間も、それは覚悟の上なのだ。これで卑怯と言うようなヤツは頭が平和なのである。
 だがなのはの場合、頭が常時乱世なのでそんな事は全く無い。嬉々として掌を繰り出し、瞬く間に男達を蹴散らす 。

「あひょお~っ!」

「ぐはあっ!?」

 一瞬で10人程が吹っ飛ばされて、道場の壁に纏めてめり込んでいた。ざわめく弟子達。

「さあ、次々と掛かって来んかあっ!」

 両手で小馬鹿にしたように、おいでおいでと手招きする少女に、ブチ切れた男達は怒号を上げて飛び掛かる。その横合いから近場の男達を殴り倒し、突っ込んで来る者が居た。

「師匠ぉっ、私にも闘らせて下さい!」

 拳を構えてなのはの隣に立って闘うのは、無論フェイトである。

「だああっ! もうっ、どいつもこいつも掛かって来な!」

 アルフも主人が出ていては、見てるだけという訳にもいかず、またしてもヤケクソで暴れている。
 もう道場内は悲鳴が飛び交い、ぶっ飛ばされた人間が次々と宙を飛ぶ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。その最中ユーノは付き合ってられないと、表に出ようとしていたが……

「アイツも仲間だぞ!」

「やっちまえ!!」

 見境が無くなった弟子達が、ユーノにも殴り掛かって来た。

「わあああっ、ちょっと待って下さい!!」

 ユーノは慌てて魔法障壁で男達を弾き飛ばし、ダッシュで逃げる。

「何で僕はミッドくんだりまで来て、こんな目にばっかり遭ってるんだあああっ!?」

 勘弁してくれとばかりに叫んでいたが、楽にストライク・アーツの猛者達を吹っ飛ばせるようになってる自分が地味に嫌である。なのは達やミニなのは達に比べるとどうと言う事は無いので仕方無い。
 とりあえず危機を脱し一息吐いていると、道場の入り口で暴れているなのはを、ジッと見ている女性が居る。まだ若い妙なバイザーで目元を覆った女性は、次々と男達が壁に頭から突っ込むカオスなその様子を静かに見ていた。

「あなたは……? 此処に居ると危ないですよ」

 道場の男達と同じには見えなかったユーノは、善意で女性に注意を促す。

「少年……『覇王』たるこの私に、心配は無用だ……しかし、噂を聞いて手合わせをと思って来てみれば、面白い事になっているな……」

 女性は微かに笑う。すると生き残りの男達が、目敏く見付けて襲い掛かって来た。

「危ないっ!!」

 ユーノは叫ぶが女性は動じず、右手を静かに掲げていた。闘気が目に見えるような迫力だ。

「覇王……断空拳」

鋭い拳が炸裂し、男達が纏めて吹っ飛んだ。女性は碧銀の髪をなびかせ、拳を掲げたまま、

「ふっ……『カイザーアーツ』に敵など……」

ゴオンッ☆★

「へげえっ!?」

 不敵な笑みを浮かべようとした時、飛来して来た何かに頭を強打されて、床にぶっ倒れてしまった。

「痛たたたたっ!?」

 頭に大きなたんこぶを作って呻いている女性に、ユーノは同情の眼差しで注意した。

「だから危ないって、言ったじゃないですか……駄目ですよ。暴れてるなのはの近くに寄るのは自殺行為です……」

 ユーノがぶつかって来た物を見ると、籠手の形の『レイ ジング・ハート』であった。流れ弾ならぬ、流れデバイスである。

《the master please do not givemeup》(マスター私を投げないで下さい!)

 レイジング・ハートが怒っている。そりゃあそうだろう。普通デバイスを投げつける、あんぽんたん魔導師が居る訳が無い。

「ぬわっはっはっ! 済まん済まん『ディスタント・クラッシャー』のつもりで、ついな! 許すが良い!」

 ちなみにディスタント・クラッシャーとは『マスターガンダム』の両腕に装備されている、有線式のロケットパンチのようなものである。
 道場生を全て伸してしまったなのはは悠々と歩いて来て、レイジング・ハートを右腕に着け直した。その時に床に転がって、たんこぶを押さえて呻いてい る女性に気付いた。

「ユーノよ、この娘御どうかしたのか……?」

 やった張本人は自覚が無い。女性はムカついたのか、怒りを顕にしてなのはを睨み付ける。が……

 その額から、ダラダラと大量の冷や汗が流れ落ちる。格闘家としての本能が叫んでいた。この子供はヤバい! と。女性は悔しそうに立ち上がると、なのはを見下ろした。

「わっ、私を倒しただけでいい気にならない事よ! 私は覇王の記憶も、資質も最低ラインしか受け継いでいない、言わば最弱!」

 なのはは、女性がいきなり訳の解らない事を言い出したので、不審そうに首を捻った。

 ユーノは最近読んだ、なのはの世界の少年漫画に出て来る、一番最初にやられる敵幹部みたいだな……と思う。

「見ているがいい! 覇王の悲願はいずれ他の一族の者が果たす! 流派東方不敗、しかと覚えたぞ!!」

 捨て台詞を残すと女性は、あっという間に走り去って行ってしまった。

「ユーノよ……何だ、あの娘御は……? 暑くなってくると、おかしなのが湧いて来るのう……」

「僕も良く解らない……何なんだろうねあの人……?」

 ユーノも可愛そうな人を見る目で、女性の後ろ姿を見送るのだった。 ちなみにこの件で色々と因縁が出来てしまったのだが、それはまた別のお話である。



ーーーーーーーーーー



 しばらくの後。本局執務室で書類整理をしていたクロノの元に、エイミィが お茶を持って来た。 礼を言ってお茶を飲むクロノに、エイミィはふと思い出したように、

「ねえねえ、クロノ君知ってる? アレクトロ社が、違法実験とか、不正や汚職がみんな表沙汰になって潰れたって……あの会社あんなにあこぎな事やってたんだねぇ……」

「僕も聞いてるよ……以前の、魔力炉の事故も当時の研究主任は悪くは無いのに、責任を全て押し付けたらしいしね……」

 クロノは感慨深く呟いた。エイミィは真面目くさった顔で人差し指を翳し、

「そういえばその会社……内部告発があったその日に本社ビルが倒れちゃったんだって……何が有ったんだろうね……?」

「物騒な話だな……テロかな……? ミッドも物騒になったものだ……」

 クロノは何故かうすら寒いものを覚え、思わず身震いしてしまうのであった。


 その頃プレシア母さん……

「素晴らしいわ! モビル・トレースシステムゥゥッ!!」

 ガンダムの内部構造を調べて、テンションを上げていた ……



つづく


 皆さんお待ちかねええっ! なのはの前に現れる懐かしきものとは? そしてなのははある決断を求められるのです。そして響き渡る雄叫びとは?
魔闘少女リリカルマスターなのは『師匠決断すの巻』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!





※感想返しです。

いいい様>vividで出るか定かでは無いですが、アインハルトのお母さんかもしれません?多分一族の中で何人かは居たと思われます。ユーノ周りが化け物ばかりなんで、地味にパワーアップしてます。本人は凄く嫌でしょうけど。(笑)

パルメ様>取り敢えずご飯前の軽い運動のつもりだったのです。すっかり仲間にされているユーノなので、これくらい普通だろうと思われてます。

通りすがった様>すいません偽名でも何でもなく、単なる誤字です(汗)修正しておきましたので。誤字報告ありがとうございます。

[ふぉ様> さあ、果たしてフェイトのガンダムはどのようになるのか。今のプレシア母さんだときっと……







[32932] 第28話 師匠決断すの巻
Name: 滝川剛◆ba09ba38 ID:ecaff867
Date: 2014/08/31 13:47
 さて皆さん……人生には決断と言うものが有ります。今日の昼御飯をカツ丼にするか、魚介豚骨つけ麺にするかから、人生を左右するような重大なものまで様々な決断が有るでしょう。人は日々決断で生きていると言えるです。高町なのはに突き付けられる決断とは何なのでしょうか?
 それでは魔導師ファイト、レディィィッ、ゴォオオウゥッ!!

 師匠決断すの巻


 さて…フェイトがなのはの元で修行を始めてから、半年近くが過ぎていた。最初はまったく着いて行けずズタボロになっていたものだが、何とか様になって来たようである。
 白い鉢巻を締めマントをなびかせて、『バルディッシュ 』を日本刀のように背負っている姿は、どこぞの馬鹿弟子のようだ……
 元の薄幸少女ファンの方々に、嘆き悲しまれそうな魔改造では無く……成長っぷりであった。
 今日の修行を終えたフェイトは、拳を平手に当てなのはにペコリと頭を下げる。

「師匠っ! ご指導ありがとうございましたぁっ!!」

「ウム……今日の突きは中々だったぞ、その調子だフェイトよ!」

 なのはは満足げに微笑んで、弟子の成長を喜んでいる。

「ありがとうございます!!」

 非常にやかま……熱いやり取りをする、見た目同い年の師匠と弟子であった。

 ひと息吐いたフェイトは、フェレット姿のユーノを認めると、ズンズンと歩み寄って来た。妙な迫力に正直少しびびってしまうユーノに、フェイトは質問を投げ掛けた。

「ユーノは家に帰らなくて大丈夫なの……?」

「あ……っ」

 ユーノは今更ながら、帰るのをすっかり忘れていた事を思い出した。なのはに魔法などを教えていたせいもある。
 たまにミニなのは達から襲撃をかけられるくらいなのを除けば(それもキツそうだが)居心地が良いのでつい、ズルズルと高町家に居座り続けていた。
 なのはに引き留められた事も有り居候を続けているが、 こんなんじゃいけないかな、などとユーノが思っていると、フェイトが怖い笑みを浮かべた。

「まさかとは思うけど……一つ屋根の下をいい事に、師匠にやましい事をしようとしたら、判ってるよね……?」

 その紅い瞳の瞳孔が開いていた。なまじ美少女なだけにやけに怖い。

「そっ、そんな命知らずな事考えてないよぉっ!?」

 殺気溢れるフェイトに、ユーノは思わず後退りしてしまう。変な意味で逞しくなって来ていた。方向性が妙な方に行っている気がしないでもない。
 なのはに助けを求めようとユーノがフェイトから顔を逸らした時である。視界に妙な物が入った。

「何だ……アレ……?」

 空に何かが煌めいたかと思うと、妙な物体が見えた。かなり大きな物のようである。

「ま……まさか……?」

 ユーノは凄まじく嫌な予感を感じた。その物体は一直線にユーノ達の居る場所目掛けて、凄い勢いで墜ちて来るではないか!

「わああああああっ!?」

 ユーノは慌てて駆け出していた。なのは以下全員も素早く逃げ出している。そのまるで巨大な台座のような形をした物体は、轟音を上げて森に落下して来た。 なのははその物体を見て、驚いたように目を見張ていった。

「ま……まさか……あれは!?」

「師匠あれをご存知なんですか!?」

 フェイトは駆けながら、隣を疾るなのはに尋ねてみる。

「あれは……」

 なのはが説明しようと口を開くと同時だった。耳をつんざく激突音を上げて地面を抉って盛大に墜落した。大木がなぎ倒され、土砂が派手に舞い上がる。ついでにユ ーノの小さな体も宙を舞っていた。逃げ遅れたようである。
 地面に半ばめり込んで停止した物体は、明らかに巨大な機械であった。 白く塗装された表面に、ゴツゴツした台座のような形をしている。

「やはりモビルホースッ!!」

 なのはは叫ぶと物体に駆け寄っていた。そうこの機械は『風雲再起』が乗る『モビルホース』が変形した大気圏突破用ポッドであった。
 なのはは表面に辿り着くと、慣れた手つきでカバーを開けパネルを操作する。すると大きめのハッチがガシュッと開き、なのはは躊躇無く中に入って行った。

「師匠ぉっ!?」

 ポカンとしていたフェイトだったが、慌てて後を追い巨大なモビルホースに向かう。丁度その時、墜落の巻き添えを食ったユーノがヨロヨロと戻って来た。
 今まで色々な目に遭って来た彼は、サバイバリティーが著しく上昇しており、今回も何とか無事である。本人は複雑かもしれないが……
 フェイトの後を追おうとしていたアルフに追い付いた。

「なのはがあの中に入ったのかい……?」

「ああっ、なのはにしちゃあ珍しくビックリしてたみたいだけど……」

 アルフも首を傾げている。この場合妙な物が墜ちて来た事より、ビックリするなのはの方が大ごとに感じるのは、間違いでは無い気がするのは何故だろう。
 ポッドに近寄った2人は、既にハッチから中に入ったフェイトの後を追い、中に入ってみた。広めの通路を通って奥に入ると、なのはの必死な叫び声がする。ただ事ではない様子だ。

「風雲再起ぃっ! しっかりせんかあっ!!」

 開けた場所に出たユーノの達の前に、グッタリとした白馬の首を抱えて呼び掛けるなのはの姿があった。
 必死に呼び掛けるなのはの表情は、全員が一度も見た事が無い悲痛なものだった。白馬の口から血が流れている 。
 墜落の際に重傷を負ってしまったのだ。あの激突では無理も無い。明らかに手遅れだった。素人目にもそれが判る。

「師匠……この方は……?」

 フェイトはなのはと風雲再起を見詰め、恐る恐る尋ねてみた。師匠とこの白馬に深い絆を感じたからだ。

「儂の一番弟子の風雲再起だ……」

 一番弟子が何で馬!? とつっこむ雰囲気ではなかった。哀しげに白馬を撫でるなのはに、一番弟子はヨロヨロと顔を上げる。 彼には変わり果てた、かつての師匠が判るようだ。
 そんな2人を痛ましそうに見ていたフェイトだが、ふと何かを思い付いたようで、

「師匠……助ける手段が一つだけ有ります!」

「何だと……?」

 なのはは顔を上げた。アルフもなる程と頷く。ユーノも思い当たった。 フェイトはなのはの目を、ひどく真剣に見詰めた。

「兄弟子を師匠の使い魔にするのです!」

「使い魔とな……?」

 まだ魔法の全てを把握していないなのはは、キョトンとしている。フェイトはアルフを示す。

「ハイ……契約を結び、師匠の魔力で兄弟子を使い魔にするのです。そうすれば兄弟子は師匠の魔力で新たな命を得ます。アルフも同じように私と契約して、使い魔になりました!」

「アタシは群れからも見捨てられて、死ぬだけだった所をフェイトの使い魔になって新しい命を貰ったんだ……」

 アルフは懐かしむように目を細めた。フェイトが居なければ、彼女は既にこの世に居ない。なのははしばし黙ると虫の息の風雲再起の鼻面を撫で、静かに語り掛け始める。

「風雲再起よ……」

 小さな師匠の呼び掛けに、風雲再起はその黒ぐろとした瞳を向けた。

「このまま御仏の元に行くか……? それとも儂とまた……共に闘いの道を行くか……?」

「ブヒヒ~ン…!」

 風雲再起は問われるまでも無いと言うように、最期の力を振り絞りいなないた。流石はマスターアジアの一番弟子。地獄までお供しますという意思表示だ。その魂のいななきに、なのはの心は決まった。

「判った風雲再起よ! 今再び共に行こうぞ! フェイト頼む !!」

「では急いで家に戻りましょう。母さんの設備があれば可能です! アルフ、ユーノ手伝って!」

 フェイトは背中のバルディッシュを引き抜いて起動させると、転移魔法を発動させた。


* *


 テスタロッサ家の秘密研究所。整備ドックに改修中の『 マスターガンダム』と『ガンダム・シュピーゲル』の2体が、内部メカを剥き出しにしてそびえ立っている。

「うおっ? お前は風雲再起っ!?」

 その前でプレシア母さんに『気力発生装置』の説明をしていたシュバルツは、4人掛かりで運び込まれた、瀕死の風雲再起を見て流石に驚いたようだ。

「母さん、シュバルツ、兄弟子を魔力供給装置に!」

 察したプレシア母さんとシュバルツは、直ぐに機械類の セットを始めた。 既にあらかたの機材などはミッドなどから仕入れ、設備は整っている。 風雲再起は装置に寝かされ、なのはも使い魔を造る際の魔力供給のやり方を教わった。

「じゃあ……行くわね……? なのはさん……」

「何時でも!」

 プレシア母さんの指示になのはは、円形の魔力供給装置の上に寝かされている風雲再起に意識を集中する。 その右手の甲に『キング・オブ・ハート』の紋章が浮かび上がった。

「風雲再起よおっ! 今再び立ち上がるのだ!!」

 なのはの体から、目も眩むような桃色の魔法光がほとばしる。 固唾を飲んでその様子を見守っていたユーノ達は、その眩しさに思わず目を庇った。相変わらず凄まじい魔力量である。(ほとんど宝の持ち腐れ状態だが)

「おっかしいわねえ……使い魔を造るのって、こんなに派手だったかしら……?」

 プレシア母さんが不思議そうに呟くのと同時に、魔力が風船のように一気に弾けた。その圧力にフェイト達は数歩後退る。なのはは一歩も退がらず、風雲再起の身体が光に包まれて行くのを見守っていた。

「成功だわ……」

 プレシア母さんは測定器の結果をチェックして、会心の笑みを浮かべる。光となった風雲再起の形が変わって行く。その形は人の姿を取りつつあった。そして光の中風雲再起は叫ぶ!

「ぶるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 雄々しいと言うか、凄まじく濃い男性の声が秘密研究所に響いた。 ユーノは最近テレビで聞いた、す〇らない話や、サ〇エさんの旦那さんの同僚の声に良く似てるなと思う。
 光の中から細身ながらも鍛え上げられた体躯の、二十代後半程の不敵な面構えをした全裸の男性が姿を現した。

「師匠ぉっ! お久しゅうございますっっ!!」

 拳を掌に当て濃ゆく挨拶をする立派なもみ上げ男は、 目の前の小さな少女に丁寧に頭を下げた。凄く違和感の有る光景である。

「久しいな風雲再起よ……」

「師匠……再びお会い出来る日が来ようとは、この風雲再起感激を止められませんっっっ!!」

「風雲再起よぉっ!!」

 なのはは不敵な笑みを浮かべ、拳を繰り出し叫ぶ。

「応えろ、風雲再起ぃっ! 流派東方不敗は!?」

「王者の風よぉぉっっ!!」

 風雲再起も待っていたとばかりに拳を繰り出し応える。流派東方不敗の挨拶が飛び交う。 拳を交える少女な師匠と兄貴は、実に楽しげであった。そして最後に拳が打ち合わされると、燃え盛る炎が吹き上がるようである。
 挨拶を終えた風雲再起は、感極まって膝を着いていた。

「師匠と直接この挨拶が出来るとは思いませんでしたぁぁ っ!!」

「儂もだ! 風雲再起ぃっ!!」

 風雲再起はガッシリと小さな師匠を抱き締め、なのはも感極まって一番弟子をハグしてやる。

「良かったですね師匠……」

「フッ……良いものを見せて貰った……」

 フェイトとシュバルツは感動しているようである。 確かに話だけ聞けば感動的な話なのだが、全裸のあんちゃんが小学生の少女を抱き締めている様は、犯罪以外の何物でもなかった。

「あのう~……盛り上がっている所悪いんだけど……?」

 アルフが恐る恐ると言った感じで手を上げる。

「何だい嬢ちゃん……? 師匠と弟子の感動の再会に、水差すような野暮はいけねえぜ……?」

 ニヤリと兄貴な笑みを浮かべる戴そ……風雲再起にアルフはげんなりした顔をし、

「何か着てくれないかい……? 一応此処は女性がほとんどなんだけど……」

 たいへん最もな意見であった。プレシア母さんも目のやり場に困り、ゲフンゲフンと咳払いをしている。

「ハッハッハッ、こいつは失礼した! デカイモノを晒しち まったな、馬だけにぃぃっ!!」

(親父ギャグ!?)

 なのはを抱えて高笑いする全裸な漢のノリに、ユーノはタジタジである。こんな濃い使い魔を見た事は無い。 何と言うか……一言で表すのなら『兄貴』であった。

「さてと……ばりあじゃけっととやらは……」

 なのはを放した風雲再起の体が光に包まれる。一通りの知識は既になのはの魔力と共に、頭に入っているようだ。光が収まると、風雲再起はバリアジャケットを纏っていた。白い頭巾を被り、昔の中国の武将のような服装である 。
 赤い布を肩に掛けて胸辺りで結び、腰には大きな瓢箪( ひょうたん)をぶら下げいた。癖なのか片目を瞑る風雲再起は、初めての人間の身体を試すように、腕を振ったりしている。
 更に瓢箪の口を開け、中のものを飲むと火を噴いたり、手のひらや足の裏から、何か噴射したりしていた。

 本当に魔法かアレ……? と不審そうに見ていたユーノは、ふと殺気を感じた。日常的にその感覚を味わっている彼が間違う筈が無い。見るとミニなのは達が、何時の間にか現れていた。こいつら最近、呼ばなくても勝手に現れるのである。
 ミニ達は揃って宙に浮かび、腕組みして風雲再起を見下ろした。完全にガンを付けている。

「「「「「「「なのなのなの~っ…!」」」」」」」(訳 ・おうおうっ、新入りのクセに、デカイ面してんじゃないなの!)

 風雲再起の周りをなのなの言いながらまとわり付く。羽虫ようで、スゴくうざったい。

「やかましいっっ!! ぶるああぁぁぁぁぁっ!!」

 面倒くさくなったのか風雲再起は、喝っ! とばかりに身を乗り出し吼えた。凄まじい迫力である。ひたすら濃い。ミニ達はそのあまりの迫力に一斉に退いてしまった。声にびびったのかもしれない。

「「「「「「「なのなのなのなの……」」」」」」」(訳・ 失礼しましたなの…兄貴と呼ばせて下さいなの……)

 ミニ達は一斉に、綺麗に揃って頭を下げていた。いっそ潔いくらいである。

(変わり身早っ! この世渡り上手共……)

 ユーノは相変わらずのミニ達の調子の良さに今更のように呆れた。だが呆れている場合では無いようだった。風雲再起がズイッとユーノに歩み寄って来たのだ。

「おうっ、お前がユーノだな……?」

 ギロリと睨むと、如何にも兄貴と言う感じで話し掛けてくる。

「は……はいっ、ユーノ・スクライアです……」

 兄貴なノリに押されながらも、何とか自己紹介する。風雲再起はニヤリと笑うと、

「同じ使い魔同士、よろしく頼むぜユーノ!」

「いやっ、僕使い魔じゃ無いですから!!」

 フェイトに続いてをとんでもない誤解をしている兄貴に、慌てて訂正しようとしする。

「馬鹿やろうぅぅっっっっっ!!」

 思いっ切り一喝されてしまった。風雲再起はガバッとばかりにユーノの首を抱える。

「いいか……大さ……ユーノ……使い魔だからって、卑下するこたあねえ……俺達は元マスターアジアこと、高町なのはの使い魔だ! 胸張って行け! なあ、お前らもそう思うだろう!?」

「「「「「「「なのなのなのなのなの!」」」」」」」( 訳・流石は兄貴なの、いい事言うなの!)

 ミニ達が応っ! と揃って応える。ユーノは勘弁してくれと青くなる。それを見て風雲再起は、悪戯小僧のようにニヤリと笑みを浮かべた。

「ハッハッハッ、冗談だ! 大体の所はもう頭に入ってるよぉっ。おめえ師匠の魔法の先生らしいじゃねえか!? 大したもんだ。よろしく頼むぜ大作ぅっ!!」

 豪快に笑ってユーノの肩をバンバン叩いた。ユーノはむせながらも、

「よ……よろしくお願いします……ってさっきから大作って誰ですかあっ!? 僕ユーノですよ!!」

「馬鹿やろうぅっ! 男が細けえ事気にすんな! ハッハッハッ!!」

 風雲再起はツッコミに高笑いする。話が解らない人? では無いようだが、いい加減マイペースだ。するとフェイトが緊張した様子で風雲再起に歩み寄った。

「お初にお目にかかります! 新しく師匠の弟子になった、 フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします!!」

 初の対面であがっているらしく、顔を小猿のように真っ赤にして拳を手に当てて挨拶する。

「おうっ、こりゃあまた可愛い弟、妹弟子が出来たもんだ。よろしくなフェイト、ハッハッハッ!」

 目を細めてフェイトの頭をクシャクシャに撫でてやる。こうしてなのはの元に、新たなる仲間が増えたのであった。
 ユーノはその光景を見て、一体この人達は何処を目指しているのだろう……と思わずにはいられなかった……



ーーーーーーーーーーー



 次の日の朝。アリサとすずかは登校の為、何時ものバスに乗り込んでいた。アリサは友人2人が、何時も乗って来る筈のバス停から乗って来ないのを見て、ため息を吐く。

「またあの2人は屋根の上に乗っているのね……」

「そうみたいだねえ……」

 すずかは仕方無いとばかりに微笑んだ。なのはだけならともかくフェイトも真似をして、最近バスの屋根に上がるようになってしまっている。
 お陰で最近この近辺で、走るバスの屋根で腕組みして立っている、2人組みの小学生の幽霊が朝っぱらから出ると噂になっていた。 アリサは一言言ってやるべくバスの窓を開けた。

「コラッ、2人共降りなさいっ!!」

 威勢良く怒鳴ると、金髪頭が逆さまにピョコンと降りて来た。案の定フェイトである。

「おはようアリサ!」

 シュタッと片手を上げて、逆さまのまま挨拶するフェイトにアリサは苦笑するしかない。

「まったく……フェイトは変な所ばっかり真似して……なのはは?」

「師匠なら、ほら……」

 フェイトが後ろを指差した。釣られて2人が後ろを見ようとすると、何処からともなくパカッパカッという軽快な音が聞こえて来る。

「何? この音……?」

 アリサが不審に思って窓から頭を出そうとすると……

「アリサよ、おはよう、良い天気だな!」

 腕組みしたなのはの顔が目の前に在った。何故自分と同じぐらいの身長のなのはの顔が、バスに乗っている自分と同じ位置なのか?
 答えは簡単、なのははたてがみをなびかせて道路を疾走する、逞しい白馬の背にふんぞり返って立っていたからである。

「馬あぁぁぁっ!?」

 流石のアリサも素っ頓狂な声を上げてしまう。

「なのはちゃん、その乗り方危なくない……?」

 すずかが妙な所に突っ込んでいた。この乗り方にツッコミを入れた人間は初めてかもしれない……





「で……このお馬さんは、なのはの弟子で使い魔な訳ね…… ?」

「もう何でも有りだねえ……」

 学校近くのバス停に降りたアリサとすずかは、風雲再起の逞しい馬体を見上げて、感心だか呆れてるんだか分からない声を上げている。

「風雲再起だ、よろしく頼む……」

 なのはは風雲再起の背中の鞍に立ったまま紹介した。馬の上なので、何時もの五割り増し偉そうである。

「それはいいんだけど……学校に馬登校ってどうなのよ……? 」

 的確な疑問だが、風雲再起がブヒヒ~ンッといななくと、その姿が兄貴な人間の姿に変化した。 なのははその肩の上で、腕組みしたままふんぞり返って いる。
 おおっ! と変身に驚いているアリサとすずかに、風雲再起は片目を瞑って兄貴な笑みを浮かべて見せる。

「孃ちゃん達……なら、こうすりゃ問題なかろう……?」

 そして腕組みしたなのはを肩に乗せたまま、威風堂々と学校の正門に向かった。眼光鋭い妙な格好をした男が、少女を肩に乗せて学校に入って行く。 ええ……それはもう堂々と……

 不審者として、通報されますた……



つづく



 皆さんお待ちかねええっ! 孤独な車椅子の少女に次々と訪れる驚異の出来事。呪われた魔導書と少女の儚い絆の物語が始まるのです! そして少女の前に愛機と共に降り立つは、そうあの男その人! 果たして物語の行方はどうなってしまうのでしょうか!?
 魔闘少女リリカルマスターなのはA's編『ドモンやらかすの巻(前編)』にレディィィッ、ゴォオオウゥッ!!




※感想返しです。

GEBO様>既にそれで先の話を考えているので、変更は出来ませんので。

ペン・ギン様> フェイトはもう駄目なようです。ユーノが精神崩壊するとツッコミが居なくなるので、しぶとくツッコミ役に励んで貰うとしましょう。(笑)
り、エリオとキャロ、義母がこんな事になってるんで、もうお察しください状態ですね。(笑)風雲再起、ザフィーラもですが、ドモンも居ますからね。
はやては泣く前にハリセン振り回すかもしれませんが。
ティアナはこんなのに教わりたくないだろうな……で。(笑)ユーノは勿論紳士です。でも正体がバレたら、父さんや兄さんに無理矢理押し付けられそうではあります。(笑)

アラスカ様> なのはは衝撃波は放ちませんが、別に衝撃波を放つ人が出るかもしれません?

いいい様>ザフィーラ、全然影が薄くならないかもしれませんよ。



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