※本文はFate/stay night [Réalta Nua]より幾つか内容を引用しています。
激しくネタバレを含みますので、お読みになる方はどうかお気を付け下さい。
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プロローグ~急~「Red’s」00/
――――しゃらん、という華麗な音。
……その光。その音だけは一生涯忘れまい。
戦いを告げた鈴の音。
無骨な鎧さえ美しく響かせた、彼女の姿を。
「――――問おう。貴方が、私のマスターか」
言葉は鮮明に。
映像が摩耗していく代わりに、今も、克明に刻んでいる。
「召喚に従い参上した。
これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。――――ここに、契約は完了した」
……そう、契約は完了した。
彼女が彼を主と選んだように。
彼も彼女の助けになると誓ったのだ。
おそらくは一秒すらなかった光景。
されど。
その姿ならば、たとえ地獄に落ちようと、鮮明に思い返す事ができる。
――――今は忘れ去った蒼光の下。金砂のような髪が、月の光に濡れていた。
――――昔の話をしよう。
或る聖杯を巡る、たった十五日ほどの、彼と彼女の物語。
……戦争が起きたのだ。
国と国が戦う戦争ではなく、人と人が戦う戦争。
といっても、いがみ合っていたのはたったの七人だけだ。
それなら戦争なんてお題目は似合わないのだけれど、その戦う人々が魔術師であるなら話は別である。
派閥の違う七人の魔術師たちはよくわからない理由で競い始め、よくわからない方法で殺し合った。
その一人に、少年の姿はあった。彼は偶然、魔術師たちの戦争を目撃し、否応なしに凄惨な殺し合いに巻き込まれた。
少年は魔術師の夜を駆け抜ける。その傍らには剣であることを誓った少女の姿。
二人は出会い、共に夜を駆け抜け、最後まで抱いた誓いを違えることなく――――。
『貴方に揺るぎのない信頼と敬愛を。
王としての私ではなく。
何も守れなかった
少女だけど、最後に、全霊をもって貴方の剣になりましょう――――』
朝日が昇る。
止んでいた風が立ち始める。
永遠とも思える黄金。
その中で、
「最後に、一つだけ伝えないと」
強く、意思の籠もった声で彼女は言った。
振り向いた姿。
彼女はまっすぐな瞳で、後悔のない声で、
「シロウ――――貴方を、愛している」
そんな言葉を、口にした。
――――長い旅だった。
かけられた時間も、かかげられた理想も、かなえようとした人生も、何かと厄介だったからだろう。
どれほどの道を歩こうと、行程はわずかとも縮まらない。
休まず、諦めず、迷わずに、まなじりを強く絞り。
長い道を、歩いていた。
『――――体は、剣で出来ている。』
誓った言葉と守るべき理想があった。
その為なら何を失っても構わなかった。
人に裏切られても、自分さえ裏切らなければ次があると信じ。
嘆く事もなく、傷つく素振りも見せないのなら。
『――――血潮は鉄で、心は硝子。』
他人から見れば、血の通わない機械と同じ。
都合のいい存在だから、いいように使われた。
周りから見ればそれだけの道具。
けれど、機械にだって守るべき理想があったから、都合のいい道具でもいいと受け入れた。
『――――幾たびの戦場を越えて不敗。
ただの一度も敗走はなく。
ただの一度も理解されない。』
誰に言うべき事でもない。
その手で救えず、その手で殺めた者が多くなればなるほど、理想を口にする事はできなくなる。
残された道は、ただ頑なに、最期まで守り通す事だけだった。
その、結果が。
かつて夢見ていた理想など一度も果たせず、はた迷惑なだけの、愚者の戯れ言だったとしても。
『――――彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う。』
希望と失望は抱き合わせで現れる。
気高い理想はくたびれた義務になり、ついには薄汚れた執着に変わり果てた。
永遠不滅の物などない。
いかに隆盛を誇った名機であれ、使えば使うだけ衰えていく。
それは機械も肉体も、精神ですら同じ事。
あらゆるものは摩耗していく。
何かを見る度に色あせていく。
故に、ある事柄を苦しいとすら思わなかった心も、何年かの繰り返しの末に気付くだろう。
おまえの行為には意味があっても。
おまえ自体は最後まで無価値だと。
『――――故に、その生涯に意味は無く。』
でも、満足のいく人生でした。
【Fate/stay night [Réalta Nua]より】
……本当に?
01/士郎
絞首台に立つこの首に、ぞろりとした荒縄がかけられた。
見渡せば、憎悪に満ちた数え切れないほどの目が俺を見ていた。誰もが言う。死ね、と。怨嗟を唱えた。お前のせいだ、と。
ああ、いいだろう。それでお前たちの気が済むのなら、お前たちが少しでも救われるというのなら、俺はお前たちの全ての怨嗟をこの身に引き受けてやろう。
それが俺が今生でおこなえる最期の正義の味方としての役割なのだから。
ただ、少し。封印指定を科されたこの身を狙う、魔術師たちの幾つかの欲にぎらつく視線が煩わしかった。
なに。いざとなればこの命が潰えたと同時に魔力を暴走させて、我が身を剣鱗で崩壊させてやれば良いだけの話だ。魔術師どものモルモットなどぞっとしない。
見上げれば赤い空。黄昏色の光景は、自身の心象風景の空にも似てどこかもの悲しく。
いよいよ、死刑執行の時間が近づいている。
此処まで至る道に後悔は、ない。死後、俺の魂は《世界》との契約によって英霊の座へと召されるだろう。そこから先、霊長の守護者として永遠に隷属されることになる。だが、それは俺が望んだ道だ。生前の俺は多くの命を救ってきたが、それでもわずかにこぼれ落ちる者たちを救う事は終ぞできなかった。全ての者を救う事はできない。しかし、人間の身では届く事はない
奇跡でも、きっと英霊と呼ばれる存在にまで至れば不可能を可能にしてしまえるに違いない。
今度こそ誰も取りこぼすことなく、全てを救い出すことができるのだ。
だから俺は喜んで逝こう。
踏み出す足は比喩ではなく黄泉路へと続く道。
生と死の境界を踏み越えて。
刹那の間、ふと、脳裏に懐かしい光景が浮かびあがった。
それは遠く、いつか見た光景。今ではもう、擦り切れて摩耗した映像に成り果ててしまったけれど。あの日々の思いはこの色あせた生涯の中で、今なお残る鮮やかな記憶なのだった。
妹分だった少女と、姉代わりだった冬木の虎。白い少女。きんのあくま。あかいあくま。どこまでも騒々しく、そしてこの俺をして楽しいと感じさせてくれた懐かしい家族たち。
ああ、未練といえば。この伽藍堂の身体にも一つだけ。
そんな思いが残っていたのかも知れない。
こんな不甲斐ない自分をずっと気にしてくれていた彼女たち。
願わくば、俺がいなくなったとしても彼女たちが笑って過ごせますように、と。
気付けば、大切な彼女たちの幸せを最後まで見届けることができなかったのが、未練と言えば未練なのか。
――――でも、まあ。今更なのだろう。
判決は下された。ギシリ、鈍く音を立てて、足下の床が外される。一瞬の浮遊感。落下にともなう疾走は短く。首にかけられた荒縄が衝撃をともない慣性を殺す。圧迫される気道。全体重が荒縄の一点に集約されて、強烈な負荷が頸椎に食い込んでいく。視界は暗転。苦しいとろくに思う暇も無い。慌ただしい意識の明滅。これが、死というものなのか。一瞬が永遠に引き延ばされる。俺が、終わろうとしている。
だから、なのだろうか。本当に、今更だったけれど。懐かしい、夢を見た。
――――しゃらん、という華麗な音。
その光。その音だけは一生涯忘れまい。
無骨な鎧さえ美しく響かせた、彼女の姿を。
『――――問おう。貴方が、私のマスターか』
言葉は鮮明に。
摩耗していたはずの映像の中、奇跡のように克明に思い浮かべることができる。
『召喚に従い参上した。
これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。 ここに、契約は完了した』
……そう、契約は完了した。
彼女が俺を主と選んだように。
俺も彼女の助けになると誓ったのだ。
おそらくは一秒すらなかった光景。
されど。
その姿ならば、たとえ地獄に落ちようと、鮮明に思い返す事ができる。
――――そんな有り得ない夢を見た。
……はずだった。
視界の隅に銀光が走り、次いでブツンという何かが切れたような音と同時に体が新たな浮遊感に包まれる。
体が地面に叩きつけられる衝撃。されど、致命傷になるはずの頸椎の損傷は軽微で。圧迫されていた気道も解放されて、体は生存本能に従って喉を必死に震わせて空気を貪った。
死にかけていた脳に血液と酸素が供給されてようやく。
俺はどうにか正常な思考を取り戻し、周囲を確認する余裕ができた。
結論から先に言えば、まったくもって理解不能だった。
まず視界に入ったのは倒壊した絞首台。支柱は鋭利な切り口で切断されていた。もはや用を為さなくなった絞首台の残骸の下、俺は無様に尻餅をついて呆然としていたわけだ。
驚いたのはそれだけじゃない。いいや、初めからこの目が機能を取り戻した瞬間から、ずっと釘付けだったのだ。ただ、目の前に広がる光景を頭が理解を拒んでいただけ。なぜ、どうして。
――――彼女が、ここにいる!
夢にまで見た金砂の髪と。彼女を象徴する青い衣。
無骨な鎧は新品同然のように傷一つ無く。その手には、眩く輝く黄金の……!
「
約束された勝利の剣――――――――――――ッ!」
黄昏色を吹き飛ばす、あの日見た朝焼けにも似た黄金色の光。
ああ、間違いない。夢じゃあ、ない。彼女こそ間違いなく――――。
「せい、ばー?」
あの日、共に夜を駆け抜けた騎士王が、今目の前にいる!
「シロウ……。逢いたかった!」
抱きついた勢いで押し倒される。もう二度と離さないとでもいうように、彼女は俺の胸に顔を埋めて離さなかった。ああ、もう本当に。さっぱり訳が分からないけれど。
でも、今彼女が俺の胸の中にいることだけは現実だ。
いや、それとも俺は実はもう死んでいて、これは末期に夢見た都合の良い妄想なのか?
でもたとえ夢だとしても。妄想の中だとしても。
もう一度、彼女をこの腕の中に抱き留める事ができたというのなら――――こんなに、嬉しいことはない。
「あー、ゴホン。感動の再会の途中で悪いけれどお二人さん、ちょっとばかり状況ってものを考えてくれないかしらね?」
なんて、呆れたような言葉に俺たち二人は凍り付いた。
ブリキの玩具じみた動きで声のした方向を振り向けば、これまた信じられない人物の姿を見つけて驚いた。
「なっ。お前、まさかキャスターかっ!?」
そう、そこにいたのはかつてセイバーと共に駆け抜けた夜で対峙したサーヴァントの一人。キャスターのクラスを持つ英霊だったのだ。
02/アルトリア
彼女と行動を共にして早一週間。大概の神秘を経験してきた私をして驚きの連続でした。
彼女、私の新たなマスターである遠坂凛。初めて会った時から比べれば、随分と大人びた姿に変わっています。一見、年齢不詳の妙齢の美女の姿に、この私をして気圧されるプレッシャー。得体の知れない雰囲気とでも申しましょうか。おそらくはこれが魔法使いの貫禄というものなのでしょう。
確かに彼女はあの聖杯戦争の時分から既に優秀な魔術師としての資質を見せつけていました。
しかしそれはあくまでも優秀な《魔術師》の範疇を出ない域でした。あの聖杯戦争以降、いったい何があったのか。私が夢の中で見ていた晩年のシロウの傍らには彼女の姿を見つけることはできませんでした。いえ、魔術の師匠として数年、シロウへと教示していた姿は見かけたこともあるのですが。それほどは印象に残らないものでした。
それが今や第二魔法を使いこなす《魔法使い》として、私の傍らでその力を存分に振るっている。その力は恐ろしいことに平行世界を渡り歩き、時空間すら越えて異界である妖精郷にすら至り。更には私の望みを叶える為に、こうして私が夢の中で見た彼の最期の場面にまで干渉しようとしている。
これが、魔法使いというものなのか。これほどの力ならば、かつて《月の王》が魔法によって滅ぼされたというのも頷ける話でした。
彼が立たされる絞首台を取り巻く民衆たち。その誰もが瞳に昏い怨嗟を湛えていました。
そんな光景に、私の胸が痛む。彼はただ人を救いたかっただけなのに。どうしてこんなことになったのか。けれど隣にいる魔女は私に悲嘆に沈むことを許さない。
「フン。しょげてる暇なんて無いわよ。さっさとあの馬鹿を助けて、こんな世界からオサラバするんだからね」
そうだ。もはや王の責務から解き放たれた私にも、そして魔術協会から封印指定を受けている彼にもこの世界での居場所はどこにもない。それに私は魔女と契約を交わしたのだ。
彼ともう一度出逢うその為に。魔女の使い魔として側に在り続けると。
凛が何事か呟けば、いつの間にか紫色のフードを被った魔術師の姿がそこにはあった。
それはいつか見たキャスターの姿を彷彿とさせる変装だった。
「凛、その姿は?」
「ん? ああ、コレ。変装の一つでもしないと《この世界の
遠坂凛》に迷惑がかかるでしょ」
何とも用意周到なことだ。だとしてもキャスターの姿というのは些か悪趣味のような気がします。
私が呆れた視線を向けていると、凛はフードの下で視線を厳しくして決行を告げた。
「始まったわ。計画通りに遠慮無く派手にやりなさい」
「了解しました。マスターもお気をつけて」
絞首台から歓声が上がる。彼が立つ絞首台から床が外され、その体が宙に投げ出されたのだ。数秒も待たず、彼の身は息絶える事になるだろう。いつか見た夢の通りに。
しかし。
この身は此処に在る。夢ではなく確かな実体として。伸ばせば手が届くのだ。
故に、目の前の不快な運命を覆そう。我が剣は、ただそれだけの望みの為に今ここに在るのだから!
魔力放出に伴い一足を持って駆け抜ける。50メートルの距離が一瞬で縮まり、歓声を上げる民衆の頭上を飛び越えて、私の体は絞首台に吊られる彼の側へと馳せ参じた。勢いを止めることなく手に持つ白銀を一閃させる。勢いが付きすぎて、彼を吊す縄だけでなく絞首台の支柱まで切断したような気がするが、構うまい。早々に崩れ落ちる絞首台の残骸を避け、私は地面に落下した彼の安否を確かめた。……よかった。激しく咳き込んではいるが、命に別状はなさそうだ。ならばもう、遠慮はいるまい。計画通り全力で!
「
約束された勝利の剣――――――――――――ッ!」
聖剣の一撃が黄昏の空を断ち斬った。
03/凛
セイバーの宝具は相変わらず派手ねー。お陰様で踊らされていた民衆たちも蜘蛛の子を散らすように逃げていったわ。士郎が逃げられなかった理由の一つにコレがある。魔術協会はおそらく民衆を人質兼盾にすることによって、下手すれば英雄クラスの戦闘力を保有する士郎が反抗する事を封じていたのだろう。まあそれもセイバーの宝具で威圧したお陰で、今やゴーストタウンもかくやといった有様になっているけれどね。
これで遠慮無く魔法をぶっ放せるし。セイバーが放出した魔力量の大きさに、監視していた魔術師たちが軒並みびびって逃げ出してくれたのは有難い誤算だったわ。
何にしろ逃げ出すのは今。そこでいちゃつくお二人さんに、気は進まないけれど一声掛けるとしましょうか。
「あー、ゴホン。感動の再会の途中で悪いけれどお二人さん、ちょっとばかり状況ってものを考えてくれないかしらね?」
「なっ。お前、まさかキャスターかっ!?」
なんてことをおっしゃってくれやがりますか、コンチクショウ。いや、まあ今の変装した私の姿を見ればそう勘違いするのも無理はないですけれどね。ええ。でもね? 自分の師匠の声ぐらいちょっとは覚えていろってのよ!
「ぐぼっ」
気がつけばベアなナックルが飛び出していました。いやはや、私もまだまだ若いというべきか。
「ぐぅ、この震脚の効いた抉り込むような拳の威力……も、もしかしてお前、遠坂か!?」
拳の威力で私だと気がつくなんて、いったいどんな判断基準をしているのやら。……これはもう、一度じっくりと躾をしてやる必要がありそうね。
とりあえず、今は色々と時間が足りない。躾は帰ってするとして、私はガクブルと震える衛宮クンからバツの悪そうな顔をしているアルトリアへと目を向けた。
「すみません、凛。私とした事が自制が効きませんでした」
「構わないわよ。一日千秋で待ち続けて来た再会が、ようやく叶ったんだから。本当はもっとゆっくりお二人には時間をあげたいのだけれど、今は我慢をしてちょうだい。監視していた魔術師たちは都合良く退いてくれたけど、それでもあまり時間に余裕はない。私たちが本格的に《士郎》に干渉を始めた以上、いつ《世界》が動き始めるかわからないわ」
「ちょっ、待ってくれ遠坂! なんでセイバーがここにいるんだっ。それに封印指定を受けた俺なんかを助ければ、下手をすれば遠坂だって魔術協会から狙われることになるぞ!」
ああ、もう! 本当に時間がないっていうのにっ。
この馬鹿はついさっきまで自分が死にかけていたというのに、もう自分以外の誰かを心配しているのか。……いや、これが《エミヤシロウ》という人間の根本であり在り方。ほんと、今更ね。
納得のいく説明を要求する! なんて随分懐かしい衛宮士郎だった表情を見せている赤い男に向かって、私は第二魔法の術式展開をしながら答えてやった。
「まず一つ。《この世界の》遠坂凛が魔術協会に狙われることはないわ。ここにいる私は平行世界、別の可能性により分岐した確率世界から来た私よ。この世界の遠坂凛がこの場にいない以上、彼女が魔術協会から狙われる理由はない」
まあ、それでも疑いの目ぐらいは向けられるでしょうけれどね。でも長年トラウマだった男の命を救ってやるのだ。素直でないあの
女には多少の苦労はしてもらいましょう。
一方、士郎といえば私の持つ宝石剣の七色に輝きに目を奪われていた。
「それは、まさか宝石剣? なら本当に遠坂に危険はないのか……。いや、それよりもっ。平行世界の遠坂は第二魔法に至ったんだな。本物の、魔法使いになれたのか……」
何やら感慨深そうな顔をしてくれちゃって。や、しみじみとおめでとうなんて言われると、その、照れる。いやっ、そんな場合でもなくてっ!
私は赤くなった顔をフードで隠して咳払い一つ、空気を変えて説明を続けた。
「つ、次に、セイバーよ。今の彼女はサーヴァントじゃない。私が妖精郷まで出向いて連れ出した、正真正銘のアーサー王よ。もちろん士郎も知ってる、あの《聖杯戦争の記憶》を残したかつて英霊だった少女よ」
そう、今のセイバーはサーヴァントじゃない、肉体を持つ一人の少女だ。一応、私と使い魔の契約を結んでいるけれど、それはあくまで私との魔術的、霊的なラインを構築しているに過ぎない。聖剣の鞘の効力で復活した今のセイバーに、聖杯戦争時のような魔力供給は必要ない。逆に呼吸するだけで魔力を精製できる魔力炉を体内に持つセイバーから、私の方へと魔力を供給してもらうくらいだ。
私の簡略な説明にまたも二人が見つめ合う。お互い頬を赤らめてモジモジモジモジ……って、あーっ、鬱陶しい!
「いちゃつくのは後にしなさい! とりあえず状況はわかったわね。私たちは士郎、アンタを助けに来たの。ちなみに拒否は認めないわ! 《世界》との契約なんて反故にして、キッチリカッチリ十全に! アンタを救い出して魅せるんだからね!」
「待て! 待て待て待てっ。どうして遠坂が俺と《世界》との契約を知ってるんだ! それに《世界》との契約は俺が決めた事だ。今度こそ、俺は本物の《正義の味方》になるんだよ!」
先ほどの浮ついた空気もどこへやら。いつか見た赤い英霊の面影を濃く覗かせる表情で、衛宮士郎は私と相対する。
……なるほど。《理想》を妨げる者はたとえ
遠坂といえども斬り捨てる、か。
ふ、ふふ……。それでこそエミヤシロウよ。おもしろい。どの平行世界の遠坂凛でさえ、エミヤシロウを完全に屈服させる事はできなかった。だからこそ、私は挑むのだ。この私の手で、エミヤシロウを本物の正義の味方へと完成させる。それが根源の渦にまで手が届き、第二魔法すら手に入れた遠坂凛が次に目指す目的。
遠坂凛は
衛宮士郎を打倒する!
さて、まずは手始め。目の前の馬鹿に現実というものを教えてあげるとしましょうか。
「衛宮クン。残念だけど《世界》と契約をしたところで貴方は正義の味方にはなれないわ。
確かに英雄にはなれるでしょう。でも、決して《エミヤシロウが目指した正義の味方》にはなれないのよ。どうして私にわかるのかって? 簡単よ。私がすでに別の平行世界において《世界》と契約をした衛宮士郎の末路を目にしているからよ」
そう、私は平行世界において数多くのエミヤシロウの結末を見届けてきた。そしてその誰一人として、彼が理想としていた正義の味方になることができた者はいなかったのだ。中でも《世界》と契約したエミヤシロウの末路は悲惨なものだった。格の低い英霊、守護者。《世界》の奴隷としていいように扱われ、望まぬ殺戮の業を背負わされ、結果、その魂までも摩耗し擦り切れて。多くのエミヤシロウは壊れていった。そう、いつしか自分自身の消滅すらも願うほどに。
私の言葉に士郎が顔を青くして俯いている。淡々と説明してやった守護者と呼ばれる者の実態に、セイバーですら戸惑いを隠せないでいた。
「安心なさい。士郎はもう《世界》との契約を済ましているみたいだけれども、私がいる。この魔法使い遠坂凛が、アンタを《世界》の手が届かない場所まで逃がしてあげるわ」
「遠坂……おまえ」
まあ、対価はキッチリ頂きますけれどね? 声には出さずに口の中でこっそり呟く。
ええ、もちろん。セイバー共々、私の従者としてこき使ってあげるわよ。クックック。
っと、イカンイカン。私がトリップしてどうする。……よし。平行世界へのアンカー打ち込み終了。転移術式構築完了。宝石剣、起動開始。でも……少しばかり遅かったか。
「リン!」
「遠坂!」
「……わかってる。来るか、《抑止力》」
地鳴りが響く。ゆっくりと、次第に大きくなっていく。
《世界》と契約を結んだ衛宮士郎を別の世界へと逃がす。それはある意味《世界》との契約を反故にする行為。つまり《世界》への反逆だ。
魔法使いという反則的存在が《世界》の定めた運命に干渉する以上、遅かれ早かれ抑止の力が働くとは思っていたけれど。
霊長である人類の滅びに関わらない以上、アラヤの抑止、カウンター・ガーディアンたる守護者は動かない。だとすれば動かせるのは星の抑止力たるガイア側の存在だけ。
《世界》の理を乱す者として討伐に来るのは、果たして。最悪は《ガイアの怪物》だが、アレは黒の姫君の側からは離れまい。
現役の英雄二人に魔法使い一人を加えた大戦力。《世界》が用意した相手とは……。
「う、うちゅうかいじゅうだ……」
体長40メートル前後。青と白の正体不明っぽいトンデモ外皮に覆われた、それは一見にして蜘蛛のような不思議存在。
地中より現れたソレは緑輝く炎じみたものを噴き出して、大地そのものをおぞましくも美しい水晶渓谷へと塗り替えていく。その様はまるで異界風景。何処とも知れない異世界に迷い込んだように私たちに錯覚させた。
「り、リンっ。な、何ですか何なんですかアレは! あのような存在、幻想が現存していた私がいた時代ですら見た事はありません!」
「これは……なんだ。アイツ、もしかして周囲の空間そのものを改竄しているのか? だとしたらこれは、固有結界!?」
「士郎、こっちも固有結界を展開しなさいっ。さっさとする!
……アレは《侵食固有結界・水晶渓谷》。死徒二十七祖は第五位ORTの能力よ!」
「待て、遠坂。死徒二十七祖だって? あれが、吸血種だってのか!?」
「しかも悪い事に、アレはアリストテレス。その天体に住まうものたちの中で最強の一体とされるモノ――――アルティメットワンよ。
星の意思の代弁者であり、その星全ての生命体を殲滅できる能力を有している。最悪どころか、反則的な相手よ!」
タイプ・マアキュリー=
ORT。
かつて大師父と平行世界を旅していた時、人類が死滅したという世界で見かけた超越存在。他にも数体のアリストテレスタイプがいたけれど、この世界でこの時代で見かけるとは想像もつかなかった。っていうか、どうして他星系のアルティメットワンがこんなところに出張っているのよ!
がーっ、と吼えるも目の前の現実は変わらない。抑止力は悠然と威容を放ち続けている。
ならば、乗り越えるしかないだろう。おそらくこれが《世界》を打倒するということなのだ。
セイバーが聖剣の力を解放をする。本日二度目。だが、肉体を取り戻したセイバー、いやアルトリアに真名解放の制限はない。それでも。おそらくアレには足止め程度にでもなればいいほうだろう。それだけアレは規格外。下手すれば白の姫君でさえ太刀打ちできない正真正銘の化け物なのだから。
大師父ですら出遭ったならば逃げろと忠告してきた超越存在。でも、月のアルティメットワンは大師父が確かに下したのだ。ならばその弟子の私が出来ないなんて誰が決めた。
「
約束された勝利の剣――――――――――――ッ!」
天を切り裂く光の斬撃がORTの巨体を包み込む。なんて、トンデモ外皮!?
聖剣の真名解放の直撃を受けて、傷一つ負っちゃいない。それでも光の圧力に押されて、ジリジリと後ろへと下がっていく。アルトリアが頑張ってくれているけれど、もってあと数十秒。
アルトリアが肩で息をして膝を着くのと同時、赤い背中が魔術の発動を宣言する!
「
So as I pray, unlimited blade works.――――(その体は、きっと剣で出来ていた)」
水晶色に輝く異界風景を、錬鉄の英雄が抱える心象風景が塗り潰していく。
それは燃え盛る炎と、空間に回る巨大な歯車。一面に広がる荒野には無限にも思える数え切れないほどの剣が突き立つ《剣の丘》があった。
「これが、シロウ……貴方の世界なのですか……」
呆然としたアルトリアの声が聞こえる。さて、士郎の生涯を夢として盗み見ていたと言っていたアルトリアだ。この心象風景のことも初見ではないのだろうけれど、やっぱり直に見るとショックが強かったんでしょうね。
これで相手の固有結界を一時的にでも押さえる事ができれば御の字だけど。でも、撃破にはとても至らない。エクスカリバーを使ってさえ傷一つ与える事ができなかった相手だ。いくら数多の宝具すら抱える士郎の固有結界といえど、アレの打倒には届かないだろう。
ならば、その仕上げは私がする。
懐から取り出したのは黒い銃身。ハンドガンタイプの材質不明の概念武装。
かの狂気、魔術の三大部門であるアトラス院が生み出した七大兵器の一つ。コレのレプリカとされるモノは対象の寿命に比例した毒素を発揮する《天寿》の概念武装だったとされているけど。オリジナルであるこの黒い銃身が秘める真の力を私は理解していない。
ただ、とある平行世界における人類が死滅した遙かな未来において、この銃身は一体のアリストテレスタイプを一撃の下に死に貶めたのだという。もとは狙撃銃だったのを私が色々と改造して今の造形にしたけれど。平行世界の最後の人間種より譲り受けたこの一品。そこに込められている概念はきっと、目の前の超越存在を打倒する。
「遠坂、来るぞ!」
「わかってる。セイバー、最高の防御を」
「承知。――――
全て遠き理想郷!」
アルトリアが保有する絶対一の防御が展開される。そこに打ち込まれる呆れるほど巨大な一本の脚。破城槌じみたその一撃をアルトリアが展開した聖剣の鞘の加護が受け止めた。
私と士郎はちゃっかりと展開した宝具の影に隠れて難をやり過ごしていた。
吹き荒れる暴虐の嵐。されど、騎士王の掲げた理想は揺るぎもしない。私はその影で密かに黒い銃身を握る。そんな私に、士郎はどうするのか視線で問うてきた。
私が持つこの概念武装の射程は短い。携帯性を考慮してハンドガンタイプに改造したのが仇になった。
けれど!
「この距離なら早々外しはしないわッ。――――シュート、ブラック・バレル!」
聖剣の鞘が展開する黄金色の障壁の影から身を乗り出して、私は躊躇無く黒い銃身のトリガーを引いた。
ブラック・バレルの銃口から放たれたのは一発の弾丸。あの巨大なうちゅうかいじゅうに比べればそれはまさしく豆粒に等しく。
それでも聖剣の鞘の加護に侵攻を阻まれていた脚の一本へと、狙い違わず突き刺さった。
『■■■■■■■■――――――――――――――――ッ』
人間の聴覚には理解できない金切り音。強いて言うならば、不快なフルートの音色にも似ておぞましく。
打ち込まれた一発の銃弾にどれだけの効果があったのか、蜘蛛の化け物は悲鳴を上げて身悶えていた。
ブヅリ、トカゲの尻尾切りよろしく銃弾が撃ち込まれた脚の一本を付け根から切り離し、うちゅうかいじゅうは逃げるように地面に潜って私たちの前から姿を消した。
士郎の固有結界が崩れる。なんて、デタラメ。最後の最後であのうちゅうかいじゅう、力業で固有結界を破壊して逃げ出しやがった。
強引に固有結界を破られた影響か、士郎が片膝をついて頭痛に悩まされている。そんな彼をセイバーが甲斐甲斐しく支えていた。
なんにしろ、これでひとまずは時間を稼げただろう。あの一撃でアリストテレスを倒せたとは思わないけれど、それなりの痛手は与えられたはずだ。
次の抑止力が発動する前に、さっさとこの世界からオサラバしよう。《
ガイアの怪物》とか《
朱い月》なんかが出てきた日には目も当てられない。
待機状態だった第二魔法の術式に火を入れて、平行世界移動の準備を進める。
……ああ、そうだ。これだけは言っておかなくっちゃね。
セイバーの手を借りてようやく立ち上がった赤い男――――セイギノミカタ、衛宮士郎へと向き直る。
相対は決意を持って。誓約と共に言の葉にする。
「衛宮士郎 貴方の理想は決して叶う事はない。なぜなら、根本が間違っているのだから。目標へと辿る道筋から間違っている以上、貴方は《
衛宮士郎が目指す理想》には辿り着けない」
「……それは、どういうことだ」
軋むような声。激しい頭痛に苛まれているのだろう、それでも彼は、正義の味方を目指し続けてきた錬鉄の英雄は私の言葉へと食いついてきた。
私はフードの下でうっすらと微笑すら浮かべていて。うわ、なんか楽しい。……悪に義憤し善を笑う、なんて大師父の在り方が感染っちゃったのかしら?
さて、ここからが正念場。
朽ちた剣を私好みに鍛え直す為に、一つ楔を打ち込んでおきましょう。
「簡単よ。正義の味方とは《少数を切り捨て大多数を救う》なんて在り方じゃない。ましてや《全てを救う》そんな有り得もしない理想を掲げるべき存在ではないのよ。
そら、貴方が今まで目指してきたものはその方向性からして間違っている以上、衛宮士郎が《セイギノミカタ》という理想に辿り着けないのはもはや道理。矛盾なんて最初からなかった。ただ、貴方が間違いに気づけなかったというだけなのよ」
「違う! 誰かを救うことに間違いなんてない! たとえ、誰にも理解されなくてもっ。綺麗だと憧れたんだ! 自分もあんな風になれたらと。あの時感じた思いに間違いなんて、決して、ない」
赤い男が叫んだ。その声の、いいえ、思いの大きさに、彼を隣で支えていたセイバーが驚いている。
ああ、これが衛宮切嗣がエミヤシロウに残した呪いか。数多の平行世界への観測で知ったエミヤシロウを名乗る者たちが抱える全ての行動原理。
――――誰もが幸せでありますように。
《正義の味方》を目指していた衛宮切嗣が思っていた、叶うはずもない夢。
呪いは根深く、強固だ。でも逆に、ここがウィークポイントでもある。
呪いの骨子がここにあるのなら。
それさえ解呪できれば、鋼のようなアイツの生き方にも少しはつけ込む隙ができる。
「ええ、そうでしょうね。私も貴方が感じたという思いまで否定しようとは思わないわ。
けどね。
そもそも衛宮クン、貴方の正義はいったい《誰》の為の正義なのかしら?
誰を救うか、何を救うかも定まらない、そんなものはやっぱり正義の味方とは呼べないわ。
だって士郎の中には誰かを救いたいという《
理想》しかなくて、貴方自身が心から救いたいと思う《
誰か》が存在しないのだから。
貴方は確かに《傑出した救い手》ではあるけれど、それでも、それだけでは《正義の味方》には絶対になれない」
……思えば。エミヤシロウが自身の意思で唯一《
誰か》の味方になると決断した相手は、平行世界での私の妹だけだったか。
そう、私は羨ましかったのかも知れない。数多の平行世界の
遠坂凛ができなかったことを成し遂げてしまった妹のことが。きっと、その事実を認めたくなかったのだろう、この私は。
「衛宮クン、最後に一つ教えてあげる。
《少数を切り捨て大多数を救う》、それは《英雄》とか《守護者》と呼ばれるモノの在り方よ。そして《全てを救う》なんて《有り得ない理想》を実現出来るモノがいるとしたら、人はソレをきっとこう呼ぶでしょうね。《神》か《救世主》と、ね」
なんてお説教をしている間に魔法の準備が整った。あとはもう、コマンド一つで平行世界への転移は完了する。だけどまあ、ここまで言ったんだ。最後の一押し、仕込んでおくとしましょうか。
「……誰かが言っていたわ。悪人とは悪い事をする人。そして悪党とは《百人を救う為に九十九人を平気で切り捨てられる人》。そして正義の味方とは《一人を救ける為に九十九人を死なせる覚悟がある人》らしいわよ? 私もこの考えには賛成ね。正義の味方っていうのはね、きっと《味方をすると決めた誰かの為に最後の最期まで頑張れる人》のことを言うと思うのよ」
「………………」
だからこそ、今までのエミヤシロウの在り方では正義の味方には成り得ない、と。私は彼の人生を切り捨てた。
もちろん、私の考えが絶対というわけではないけれど。私の考えに間違いはないなんて口にするほど傲慢ではないけれど。
それでも、エミヤシロウの結末を識っている私は、今の衛宮士郎の在り方が間違っていると断言できる。結局、彼自身が最後の最期で自らの理想を否定していたのだから。
「俺は……間違っていたのか?」
「そうね。貴方の行為に間違いはなかった。けれど、貴方の在り方が間違っていただけ」
「俺は、爺さんの夢を、叶えることはできないのか?」
「そうね。貴方のお爺さんの夢がどんなものかは知らないけれど。でも、きっと届かないのでしょうね」
「……俺は、もう、正義の味方にはなれないのか?」
「いいえ、それは違う。だって、貴方は、士郎はまだ生きているのだから。今までの道程では届かなかったけれど、これから歩み出す新しい道程で正義の味方を目指せばいい。
私は、その為に来たのだから。士郎を世界からの運命から解き放つ為に。士郎を本当の正義の味方にしてあげる為に。だから。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
第二魔法の導きに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝、無限の剣を従えし錬鉄の英雄、
世界の軛より解き放たれよ、正義を目指す魔術使いよ――――!!」
誓約の言葉に魔術的効力はない。これはあくまで遠坂凛と衛宮士郎の契約の宣誓に過ぎないからだ。
だけど、彼がこれから私と共に歩くことを選ぶというのなら、この宣誓は私たちにとって必要な儀式となるだろう。
ここが区切り。彼が新しい正義の味方を目指す為の。そして私たちの新しい物語を始める為の。
「衛宮士郎の名に懸け誓いを受ける……!
貴方を我が主として認めよう、遠坂、凛――――!」
ここに新たな誓約はなった。誓いは此処に。今度こそ本当にこの世界に思い残す事はない。
発動する第二魔法。宝石剣が七色の光を放って私たち三人を包み込む。平行世界への転移が始まる。
そういえば、ふと思った。興が乗って随分話し込んでしまったけれど《世界》からの干渉が何もなかったなぁ、と。
近場に動かせる抑止の力が無かったのか。はたまた、おとなしくこの世界から去ろうとする私たちに手を出すまでもないと考えたのか。
どちらにしろもう遅い。魔法は発動した。いかな《世界》とて、この状況からは手出しできまい。まあ、すでに《何か》仕掛けられていたとしたら話は別だが。………………ん?
この日、とある確率分岐世界より三人の英雄が姿を消した。
《世界》との契約を反故した英雄、衛宮士郎。
《幻想》を振り切り、正史を破綻させた王、アルトリア=ペンドラゴン。
《魔法》を操り、《世界》の理とすら堂々と敵対する魔女、遠坂凛。
始まりは一人の少女。本来ならばどの確率分岐世界においても決して魔法には至る事はなかったはずの突然変異。
彼女が魔法を手に入れた時、数多くの正史が逸史に貶められた。狂い始めた運命。ガイア側の守護者すら敗れた今、破綻し始めた《世界》の理を正す為に抑止の力はある決断を下す。
彼の魔女並び、魔女が干渉した運命もろともをこの《世界》から追放することを。
平行世界ですらない、何処とも知れぬ完全な《異世界》へと。
《世界》は彼の魔女の
呪いを利用して、魔法を失敗させてこの《世界》からの追放を成功させた。
此処にこの《世界》における彼女たちの物語は終わりを告げた。
そして、新たに産声を上げる彼女たちの物語が始まりを告げる。
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あとがき
プロローグ完結編です。
世界や抑止、第二魔法に対する設定は、独自考察が多分に含まれていますので気をつけて下さい。
士郎君の歪みについてですが、もちろんこの程度ですっぱり治るなら苦労しません。後の伏線程度になればなー、という程度の遠坂さんのお説教でした。
凛姐さんの士郎に向けた最後の台詞は、ジオブリの某男性平社員からの台詞の引用でした。まあ、Heaven's Feelルートで桜のこともありますし、あながち間違ってない、一つの正解だとは思います。
それでは次回からはいよいよ本編。もう一つの物語とクロスオーバーしていきます。