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[31820] 【習作】タイトル未定【デビサバ世界→ライドウ世界、オリ主】
Name: パプリカ◆2377acef ID:c67a2a8b
Date: 2012/03/09 18:17
デビルサバイバー1,2とライドウシリーズを用いた二次創作です。
漫画版のライドウが終わってしまってなんとなく寂しく思って書いてしまいました。
デビサバは1,2を同じ世界としている他、全員生き残りという原作では有り得ない終り方をした設定です。
その他、都合による原作との差異もあり得ます。
ゲームのプレイがかなり前なので、キャラが少しおかしいかもしれませんが、そこは見逃すか感想で指摘してくれるとありがたいです。


デビサバは基本的に主人公が戦える為の下地としてのみで、本編はライドウ世界です。
主人公は最強ではないですけど、それなりには強いです。



[31820] 第0話 油断はフラグです
Name: パプリカ◆2377acef ID:c67a2a8b
Date: 2012/03/09 18:18
さて、我が人生を振り返ってみると中々に数奇なものであると思える。

まず、第一の転機は中学卒業時に東京に行ったことだろう。
北海道で生きている俺が秋葉原へ行ってみたいと思ったのが間違いだったのか。
いや、その後の事を考えるのならば正解だったとも言えるが、少なくともその時は失敗だった。

何故かいきなり自衛隊により東京が封鎖され、訳も分からぬまま帰れなくなったのはまだいい。
問題なのはその後『悪魔』なんて非現実的なものがリアルに表れて人を襲いだしたことだ。
逃げ惑った先に、落ちているCOMP(コミュニケーションプレイヤー (Communication Player) の略で、メール・ブラウザ機能を持った携帯ゲーム機)を拾ったのもまずかった。
まさかCOMPから悪魔召喚プログラムなんてものが起動して、出てきた悪魔に襲われるなんて誰が思うのか。
死に物狂いで戦って、倒した悪魔が仲魔になってくれたことだけが唯一の救い。
その後COMPのおかげで表示される余命の恐怖と戦いながら、これまたCOMPの機能のデビルオークションで仲魔を増やし、邪教の館.exeで仲魔を合体させて強化してと兎に角必死に戦った。

悪魔がいるところで封鎖なんてされている現状で、人々の精神が正常に保つわけが無く、COMPを持つ悪魔使いは傍若無人に暴れまわる輩と人々を守ろうと戦う二派にほぼ別れた。
COMPを持たない人は搾取されるか逃げ惑うか、翔門会なんていう怪しい宗教団体の参加に入るかというところ。
かくいう俺は宗教なんか怖くて入らなかったのと、それなりに強いと自負できる仲魔たちのおかげで心に余裕があったので特に人を襲うことも無かった。
逆に、誰かを守って自分も生きるという程には余裕が無かったため、基本的に一人で行動してその日その日を生きていた。
一回だけミスして『あ、これは死んだ』と思った瞬間もあったのだが、その時は黒くてでっかいジャックフロスト(後にジャアクフロストと判明)が何故か助けてくれた。

そんなこんなで日々生きていると、ある日とんでもない力を感じた。
力を感じるなんて言ってる時点で、俺も大分おかしな領域に足を踏み入れているとは思うが、何が起こっているのかと様子見にダッシュ。
辿り着いてみれば、そこには数名の悪魔使い達といつかお世話になったジャアクフロストが一体の悪魔と戦闘中。
力の元はその一体の悪魔らしく、いつかの恩返しと飛び込み参戦したまでは良かった。

正直、甘く見ていたと言っていいだろう。
悪魔使い全員がかなりの実力者なのは一目で分かったし、ジャアクフロストが強いのも知っていた。
どんなに強いと言っても相手は一体。負けることは有り得ないと思って参戦した。

ところがどっこい、この悪魔『大いなる闇』はそんなレベルでは無かった。
もう何をどうしたかなんて覚えてないが、兎に角必死に吸魔とメディアラハンばっか使って死なないように頑張ったことしか覚えてない。
それどころか、猫の耳のような形状のヘッドフォンを付けた少年が最後の一撃を入れた瞬間に緊張の糸が切れて視界はブラックアウト。
意識が戻った時には自衛隊の救助テントの中で、封鎖も終わっていた。
COMPから仲魔も召喚出来ないし、おかしな夢でも見ていたんじゃないかと思ったくらいだ。
世間には違法研究施設のガス漏れが原因の集団催眠による幻覚であったと政府より正式な発表があったのだが、そんな与太話を当事者であるにも関わらず信じたくなるほどには夢みたいな体験だった。
無駄に鍛えられた反射神経と実戦経験が幻じゃなかったと証言しているわけだが、物的証拠も無い以上そんなことを言ってもアホの子かガスにやられたとしか世間様は思わない。
実際、事件から暫くはそういうことを騒いでる人はいたが、ニュースでは脳やら精神の専門家が見当違いの発言をするだけで、それを誰もが信じていた。

時間と共に東京集団ガス幻覚事件はオカルト雑誌の端に乗る程度の扱いとなっていった。
俺としても背中合わせに戦った相棒たちに会えないのは寂しかったが、正直危険なことは御免なので退屈で幸せな毎日を満喫していた。



そんなこんなでそれから三年。
友達から紹介された死に顔動画なんて趣味の悪い者に面白半分に登録したのが失敗だったか。
まあ正確には死に顔動画では無く『ニカイア』という携帯サイトで、登録すると友人の死に様が動画で配信されるなんていう代物だ。
こういうオカルト的なものは信じてなかったんだけど、これがなんと本物だった。
しかもこういう実在するオカルトってのは悪魔と関係があるお決まりなのか、これまた過去のCOMPと同じく悪魔召喚機能を備えていたのだ。
しかし、まあ、今回に関してはこれのおかげで助かった。
模擬試験が終えて友人と帰宅中、ニカイアから友人の死に顔動画が送られてきたのだ。しかも友人にも俺の死に顔動画が。
おまけに場所は現在地で、ビルが倒れてきて潰されているなんて言う悪趣味なもの。
気味悪がる友人と対象に、過去の経験からか嫌な予感がビンビンな俺は今すぐダッシュで移動しようとしたのだが時すでに遅し。
地面がぐらりと揺れたかと思ったら、動画通りにビルが倒れてきやがった。
二度目の死ぬ予感に震える俺にティコりん(ニカイアのナビゲーター。バニーガールっぽい服装の女性でとても可愛い)が『クズっちは生きたい?』なんて聞いてくるんで生きたいと即答。
その瞬間ニカイアから飛び出してきたのは過去の仲魔のモーショボーとジャックフロスト。
マハザンダインでビルを吹き飛ばし、ブフダインで氷の檻を作って瓦礫から助けてくれた。
命が助かった安堵と再会の感動で二体を抱きしめる俺は何も悪くないと思う。
『暑苦しいホー!』とか『なんだろうこの気持ち・・・。殺意?』なんていう二体に心が折れそうになったのも悪くないと思う。

そんな横で友人がオバリオンに追い掛け回されているのを見て、最初から仲魔がいない人はこうなるのね、と妙に懐かしい気持ちになりながらさっくり倒し、友人と二人助かった喜びを分かち合った。
友人には東京での体験を冗談半分に聞かせていたおかげで、実はあれ実話なんです、の一言で仲魔については終わらせて現状把握に移行した。
ここら辺は嬉しくないが経験が生きた形となった。

そして、過去の経験から行くと契約に失敗した悪魔が暴れだすという結論に至るのだが、これが今回はシャレにならん。
前回は一定範囲で広まった改造COMPが原因だったが、今回に至っては携帯サイトである。
悪魔が日本中、最悪世界中で暴れまわっていることは想像に難くない。

しかも今回は地震のせいか交通機関は麻痺。電気ガス水道もヤバいという最悪の状況だ。
これまた過去の経験から速攻で倒壊したコンビニに向かい、悪いとは思うものの食品飲料を持てるだけ確保し、方針も何もないので家へ向かった。
向かったのだが、例の如く自衛隊員につかまり市民はどこどこへ避難しろと言われたので、大人しく従いそこで家族を探した。
友人は家族がいたのだが、俺は見つからず、少々ネガティブな気持ちになりながら二日が経過したときにそれは起こった。

ネビロスとかいう悪魔が人間狩りをしにやって来たのだ。

自衛隊員と黄色い制服の良く分からん奴らが挑んでいくものの悉く返り討ち。
それどころか、死体を操られて周りの人を襲ってくると言う意味不明ぶりである。
正直、真っ先に逃げ出したかったのだが、友人の家族には御年95歳のおじいちゃんがいたため、逃げると言う選択肢は取れず、仲魔を召喚して迎撃に向かった。
俺の他にも挑む人はいるのだが、仲魔も本人も弱すぎた。
まあ、周りの人が弱いと言うよりも過去の戦いを曲がりなりにもソロプレイで生き残った俺と、相手のネビロスが強いのだが。
過去の戦いでもこいつクラスの悪魔はそうそういなかった。
そんなこんなで久々に命を賭して戦って、ヒイヒイ言いながらも撃退に成功。

その時からなんと俺は英雄と呼ばれだした。
同時に人生初のモテ期が来たのだが、俺が鼻の下を伸ばすとモーショボーが背中をゲシゲシ蹴ってくるので大人の階段は登れなかった。
モーショボーが邪魔するのは自身が愛を知らぬまま死んでしまった幼い少女の霊だからと思われる。
悪魔というのは自己中心的であるが、自分が愛を知らないからと言って他人の愛を邪魔するのはやめて欲しい。
まあ、あの環境と状況でのモテに愛があるかは非常に疑問ではあるが。
その後はネビロス程強い奴が現れることも無く、雑魚を蹴散らし誰かが異常事態を解決してくれるのをちやほやされながら待っていた。

そんなこんなで浮かれているのが悪かったのか。
思い返せば東京以来、油断したり調子に乗るというのは悪いことが起きるフラグであったのだろう。

今度はべリアルとかいう悪魔が狩りにやってきた。
ネビロス同様、他の野良悪魔が何それ美味しいの?というレベルの大悪魔である。
当然のように自衛隊員は役に立たず、黄色い制服の人達はべリアルに近づく間もなく灰になっていく。
アホみたいな攻撃射程にビビりまくる俺だが、『大いなる闇』のメギドラダインに比べれば楽勝だと自分に言い聞かせ、炎に強い仲魔と突貫。
近づいてしまえばネビロス同様、攻撃バリエーションは多くない上に対策も取りやすかったため終始有利に進めて撃退に成功。
俺強えーっと内心叫んでガッツポーズ。今回も乗り切ったぜ!!と大いに安堵の息を吐いた。

重ねて言うが、油断や慢心はフラグである。

良い汗かいたと額を拭った俺が見たのは、どこぞから飛んできた極太ビームと、それを喰らって落ちてくる謎の巨大飛行物体であった。
落下地点が俺の真上、ということは無かったのだが、走って一時間もかからないであろう場所にそれは落ちた。
地面が揺れた。巨大な質量の落下による衝撃。立ち続けることなど不可能で、尻餅をついた俺が見たのは落下地点から巻き上がる土埃と、毒々しい赤紫色の煙だった。

何処からどう見ても有害にしか思えない煙が、まるで津波のように押し寄せる様はまさに悪夢と呼ぶにふさわしい。
煙相手に逃げ場は無い。走って逃げれるほど甘くもない。
視界が紫で染まったところで、俺の意識は途切れた。


次に俺が気が付いたときには煙は霧散していた。
どうやら留まるタイプの毒ガスでは無いらしく、しばらく時間が経過すれば人体に影響が出ない程度には薄まるようだ。
ちなみになぜ助かったのかというと、呆然とする俺と違い仲魔は迅速に行動しており、ヒホ君が俺と自身を氷漬けにした為だ。
冷凍冬眠とか映画では見ることがあるが、リアルに体験するとは思わなかった。
普通に冷やして出来るモノとは思わないが、そこは悪魔の業の恐るべきところということか。
ちなみに、俺は基本的に同じ悪魔は一体しか仲魔に居ないし名前は種族名で呼ぶのだが、ヒー君、ホー君、ヒホ君は別である。
最初の頃、兎に角仲魔が欲しかった時にジャックフロストが三体かぶったので名前で呼ぶことにしたのだ。
今なら別にニックネームで呼ぶ必要はないのだが、ずっとそう呼んできたので今更である。

そんなこんなで助かった俺は、ひとしきり命の有難味をかみしめた後、友のいる避難区域がどうなったかと思い至り、全力で駆け抜けた。
そこで目にした光景は……詳しくは語るまい。人生最大のトラウマが爆誕したとだけは言っておく。

誰も居なくなった北海道で、どうしたらいいか分からなくなった俺は、ふらふらとした足取りで、墜落した謎の物体へ向かって行った。
空っぽになった頭には復讐とかといった、具体的な動機は存在していなかったような気がするが、兎に角アレを殲滅してやろうと思ったのだ。

そして辿り着いてみれば、既に何名かの悪魔使いが交戦中だった。
敵、『アリオトコア』は毒素をばら撒いて抵抗するが、寝癖頭の少年が何かを設置するとそれら全てが霧散した。
俺はこれ幸いと乱入し、万魔の乱舞をぶち込んでコアを粉砕した。

戦闘が終了し、彼らと話をするとジプスとかいう国家機関とそれに協力している民間人ということが判明。
今回の事件について自分より情報があると言うことで、自分も東京までついていくこととした。
ちなみに移動方法はターミナルとかいう瞬間移動装置である。科学力パネェっす。


そうして東京で話を聞いてみたところ、敵は北斗七星にちなんだ名前を持つセプテントリオンとかいう謎の物体。
セプテントリオンは日本を守る結界の要である塔を破壊しにやってくる。
世界は『無』に浸食されていっている。

正直、ふぁんたじー過ぎて良く意味が分からないのだが、非常にまずい事態なのは分かった。
ただまあ、彼らはセプテントリオンを何体も倒しているらしく、彼らに協力すればどうになかなるだろうと思って協力することにした。

そして次の日の夜。
此処までにも色々な出来事が滅茶苦茶あったのだがそれはさて置き、大変な状況になった。
セプテントリオンの親玉にポラリスとかいうのがいるらしいのだが、そいつは『天の玉座』とかいういわゆる神様の立場にいるらしい。
天の玉座につく者はあらゆる平行世界を管理する義務と権利を得、アカシックレコードとやらを弄ることも出来るとか。
世界崩壊が始まった最初の衝撃はポラリスの攻撃で、それを結界で防がれたことによりセプテントリオンを送り込んだらしい。

しかしながら、世界を破棄するというポラリスの決定はこのままでは不可避であるため、もうこの世界は終わるのだとか。
そこでポラリスに直談判し、新しい世界の形を示すことによって世界を修正しようと言う方向に行ったのだが問題はそこからだ。
新しい世界をどんな世界にするかで、『力が全て』『人類皆平等』『他の道を考えよう』の三派閥に別れてしまったのだ。

最初に聞いただけなら『人類皆平等』に賛成なのだが、詳しく聞いてみると正し過ぎると言うかなんというか、なんだか少し違うのだ。
『力が全て』なんていうカオスルートも勘弁なので、『他の道を考えよう』に同意したいトコロなのだが、リーダーが頼りなくて勝てる気がしない。
勝ち馬に乗りたいが、息苦しい世界も嫌なので何処に行こうかと悩んでいると、目の前に例の寝癖頭の少年と『憂う者』と名乗るいろんな意味で謎の白髪少年が歩いて行った。
ちなみにこの憂う者の事を俺は心の中でカヲル君と呼んでいる。何故かと言うとポイからだ。

二人を呼びとめて話を聞いてみると、二人はポラリスを倒してカヲル君を天の玉座に据えることでポラリスに関与されない新世界を作るのだとか。
意見としても最高だし、この二人が負ける気もしないので俺もこの二人についていくことにした。
しかしながら、カヲル君は寝癖少年には輝く者と呼ぶくせに、なぜ俺の事は照らす者というのか。
導くような強さは無いが、支え助ける優しい光だ、とかそれは褒めてるのか貶してるのかどっちなのか。

明日に備えて早めの就寝に入る前にカヲル君に聞いときたいことがあったので聞いてみた。
三年前、一緒に大いなる闇と戦った彼らはどうしてるのかと。正直、あれだけの強さを持った彼らがこの場に居ないのが不思議だった。
するとカヲル君はベルの王となりアカシャの輪から外れた彼は、数少ないポラリスの裁定に影響されない存在であり、仲間と仲魔と一緒にポラリスの攻撃から世界を守っているのだとか。
確かに良く考えてみれば、ポラリス自体の攻撃が最初の一回で終わるわけがないのだ。
しかしながらベルの王とかアカシャとか意味不明な単語が出たけど、神様みたいな存在の攻撃を防ぎ続けているってあのネコ耳ヘッドフォンはやはりただ者じゃなかった。

そんなこんなで、他の派閥を倒して説得してを繰り返し振り返ってみれば結局全員いるという状況。
まあ、戦力が多いに越したことは無いのでこちらとしては嬉しい限り。
後はポラリスを倒すだけである…と言いたいトコロだったのだが…。


気晴らしで一人で散歩している時に、べリアルとネビロスを引き連れてアリスとかいう幼女が襲ってきたのだ。
二人から話を聞いて興味が湧いたから友達になってとのことだが、この幼女のいう友達とは死人らしい。マジ勘弁だ。
べリアルもネビロスも一体でヒーヒー言っていたのに、二体いるなんて勝てるわけがない。
これなんて無理ゲーと絶望しかけたところに、俺の死に顔動画を見たらしい寝癖少年が参戦。
なんとたった一人でべリアルとネビロスを抑えてくれて、俺は幼女とタイマンを張ることに。
あの二人さえいなければと意気揚々とヒー君とホー君を召喚し挑んだところ、『死んでくれる?』の一言と同時にヒー君とホー君が戦線離脱、俺も大ダメージを受けた。
―ぅゎょぅι゛ょっょぃ
最悪なのは油断が過ぎて携帯が飛ばされた為に新しい召喚が出来なくなったこと。
死の香り漂う中、妖しい微笑みを浮かべながら近づいてくるアリスを必死に説得。
結局、死んでからも友達だから生きてる内も友達で、という正しく悪魔に魂を売り渡す結果で落ち着いた。
死後の就職先が決まってしまった絶望感と、生きている実感に涙が止まらなかった。


そしてまた色々あったものの、ポラリスの元へ辿り着きラストバトル。
変身してパワーアップはするものの、正直大いなる闇やアリスに比べたら大したことが無い強さだった。
あと少しでハッピーエンド!と調子をこいた。
そう、こいてしまった。フラグである。

正面から殴りかかっていた俺がポラリスの異常に気付いたときには遅かった。
グイングインと明らかにヤバい攻撃をするチャージ音が轟いたので、全力で後退したものの相手の射程は直線無限。
まさかのマップ兵器に驚愕しながらも全ての力を防御に回して、ポラリスの攻撃が終わるのを必死に耐える。
攻撃が収まり、耐えきったと安堵の息を漏らすのと浮遊感を感じたのは同時。
気付けば吹き飛ばされており、足元には何もなく、俺はどことも知れぬ次元の闇へと落ちていった。





そして現在。
暫くぽけーっとした後、周りを見てみるとそこは路地裏。
生きていることは感謝するが、見える景色はなんだかおかしい。
人は皆着物を着ているし、さっきなんて牛車が走って行った。

「ここ、何処よ?てかさ、なんで」

異常事態はそれだけでは終わらない。

「縮んでんの?」

ダボダボになった服を引きづりながら、俺は呟いた。






時は大正8年。
俺の知る歴史では有り得なかった、大正20年での大立ち回りへの始まりであった。




[31820] 第1話 参上
Name: パプリカ◆2377acef ID:c67a2a8b
Date: 2012/04/09 18:11
視線が痛い。
自意識過剰とかではなく、確実に注目を浴びている。
原因は間違いなく俺の格好。
周りの人々が時代錯誤な服装で、自分だけが近代的だからという理由ならばまだ救いがあるが、現実はそうではない。

今の格好はまさかのダッフルコートのみ。
ズボンも下着も無しの裸コートという、職務質問されたら問答無用言い訳不可の変質者確定コースである。
俺だってこんな恰好は嫌なのだが、5歳程度の肉体では物理的に無理だったのだ。
コートだって普通に着れなかったので、余った部分は折り返してるし巻きつけてるしと無理やりである。
ポケットに入っている携帯がやけに重く感じられた。

「でも、じっとしてても変わらないからなぁー」

居た堪れない気持ちを払いのけるためにそう口にする。
動いたって何かが変わるかというと正直微妙なのだが、動かないとやってられないのもまた心情。
目的地も手掛かりも無くふらふらと彷徨いながら、お上りさんのように景色を眺める。
道路はコンクリで固められておらず、通る車は人力か牛車だけ。道行く人々は服装も髪型もなんとなく昔っぽい。
総評は良く言えばモダンであり、悪く言えば古臭い。

「喋ってるのは日本語だから外国では無いんだろうけど…一昔前を題材にした映画とかじゃないと見ない光景だな。まさかタイムスリップ?」

本来ならば笑い飛ばしてしまいそうな考えだが、ここ最近は悪魔から神様の座なんていうふぁんたじーのオンパレードだったので、あながち有り得ない話では無いとも思える。

「もう少し歩いて何か見つからなかったらどうしッ!?」
「きゃっ!」

独り言を呟きながらキョロキョロしていた為、注意力が散漫だったのが悪かったのだろう、ベタな事に前方から来た人とぶつかってしまった。
尻餅をつきつつ前をぶつかった相手を見ると、それは今の自分の肉体年齢と同じか、少し上程度の少女だった。
着物に詳しくない俺でも一目で分かるぐらいに高級そうな服と、雪のように白い長髪が印象的だ。

「いつつ、すんま」
「無礼者!しっかり前を見て歩かぬか!!」
「むっ、あんただって見てなかったからぶつかったんだろ。お互い様だ」
「なっ!?」

素直に謝ろうと思った所に、喧嘩腰な口調で文句を言われるとついつい頭に来てしまい大人げない言葉で返してしまった。
少女は絶句して暫く口を開けていたが、ふんっと鼻息荒く顔を叛けると地面にペタペタと手をつき始めた。
何をしているのか良く分からず、尻餅をついた姿勢のまま暫く観察していると、その動きが酷い近視の人が眼鏡を探すしぐさに酷似していることに気づく。
周りを見てみると、ぶつかった時に落としたのか木製の杖が落ちている。

「君、もしかして目が?」
「悪かったな。前を見る目は持っておらぬわ」

少女は拗ねたようにそう口にした。




「なんで俺がこんなこと・・・」
「お主が言い出したのではないか。それともなんだ?『悪かった。出来る事なら何でもする』と言ったのは虚言か?」
「いや、そこは否定しないけど。俺もここら辺知らないし」
「構わぬ。お主のような無礼者とまたぶつかる程度は避けれるだろう。それだけでも杖よりは役に立つ」
「まだ言いますか」

現在俺は少女と一緒に街を巡っている。
少女の杖を持っていない方の手はダッフルコートの裾を掴んでいて、要するに俺の役目は盲導犬だ。
俺一人でも目立つことこの上なかったのに、白髪の盲目少女とのコンビになったことで注目度は更に倍。
少女としては目が見えないから気付かないかもしれないが、俺としては胃が痛いことこの上ない。
唯一の救いはゆっくりと歩き回っている少女が何処か楽しそうな事位か。
別に何かをしているわけでも無くただフラフラと歩き回っているだけなのに、耳を立てて音を拾う少女は時々微かに微笑むのだ。



「それにしても主の服は珍妙よな。形状が良く分からぬ」

ふらふらと歩きわまわり、休憩がてら茶屋の店先の椅子に腰かけての何気ない会話。
他の客が来たらのきますから、と店員に謝罪の言葉をかけて座ったのだが、何故か蓬団子とお茶が出てきた。
人情味在り過ぎる。現代日本では有り得ないね。

「それは聞かないでくれると助かります、ホント」
「なんとも不可思議な手触りだが、渡来品か?」
「多分。札見ないと絶対じゃないけど、国産じゃなくてメイドインチャイナだったと思われ」
「めいどいんちゃいな?知らぬ国よ」
「あぁ、中国製って意味ね」
「ふむ。異国の言葉を使いよるし、服も渡来の物。帝都におりながら帝都を詳しく知らぬと言うし、もしやお主最近来たばかりの渡来人か?」
「帝都?」
「大日本帝国が帝都だ。自分がどこにおるのかも知らなんだのか?」

本当の事を言った場合、頭のオカシイ奴と思われること請け合いなのでなんともやりにくい会話の中、重要な単語を拾うことが出来た。
大日本帝国というのは昔の日本の国号で、帝都は今で言う東京のことだったはず。過去に来たと言う説がかなり有力になってしまった。

「ところでさ、今の年号って分かる?」
「大正8年だが・・・。お主本当に渡来人か?」
「いやいや、日本人だけど。って何してんの」

少女は訝しげに眉を曲げるとこちらの体をペタペタと触り始め、首から上に至ると陶器の出来を調べるような指使いで指を這わせ始めた。

「目が見えんからな、指で造形を測っておる。渡来人は造形が違うと聞くからな」
「だから俺は日本人だと」
「・・・普通の童子と変わらんな。つまらん」
「やかましいわ」

あと少しで成年だった身としては童子と言われるのはなんとも遺憾である。
今の体が体なので否定できないが、遺憾なのである。大切なので二回言うのだ。
そんな邪険な態度を取ったと言うのに、何が嬉しいのか少女はくすりと微笑んだ。

「え、今の笑うところ?」
「なに、主の不躾な態度が新鮮でな」
「ホントやかましいわ」
「私は『媛(ひめ)』と呼ばれる身でな。何、皇族という意味では無いぞ。良いとこの令嬢程度に思ってくれたらいい。ただ普通の家では無くてな」
「え、何語りだしてるの。ちょっとやめて。経験上こういう流れってメンドクサイ事に繋がるから」
「不躾が過ぎるわ!乙女の語りを聞く程度の男気をみせい!」
「さっきは不躾が新鮮とか言ったくせに。てか、乙女何処?見えない」
「こやつ…!まあよい。私が年上のお姉さんとしての余裕を見せてやるわ。兎に角、私の家は普通で無くてな」
「あ、続けるんだ」
「私は大事な大事な媛故な、大切に扱われておる。だがそれは撫子に蝶よ花よと接するのとは違う。価値ある骨董品に接するのと同じ、者では無く物としての扱いよ」

誰もかれもが少女に必要以上に接することは無く、万が一があってはならぬと部屋の外に出ることも、他の子と遊ぶことも許されない。
だから俺の態度が新鮮で、嬉しかったのだと少女は言う。
もしこの話を元の時代で、普通の生活をしていた時に聞いたら色々と思うところがあったのかもしれないが、生憎この時の俺は自分の事でいっぱいいっぱいで、漫画やゲームでありそうな身の上、程度にしか思わなかった。
だから返した言葉は同情でも何でもない、じゃあどうして今一人でいるのか、という素朴な疑問だった。
それに対して、少女は口の端を釣り上げて酷く悪そうな笑みを浮かべた。

「まさか宿の二階の窓から逃げるとは思うまい。気付いた時にはさぞ慌てただろうな。いや、今も慌てて探しておるだろう」
「なんともはや。意外と君やるね」
「裂夜だ」
「ん?」
「君では無い。裂夜だ」

少女がおもむろに立ち上がる。その時になってなんだ名前か、と遅れて頭が理解した。

「そろそろ気付かれて迎えが来るころだ。一度逃げたのだ、次からはより監視は厳重になるだろう」

見えない目で街並みを見回しながら、なんでも無い事のように裂夜は言う。

「最初で最後だったが、生涯に一度でも自由に歩くことが出来て良かった。私に人として接してくれる人と会えてよかった」

だから、その言葉にどれだけの思いが込められているのか俺には分からない。

「だから、証として私の名を覚えておいてくれ。だから、私にもお前の―ッ!?」

ただ一つ俺が思うのは

「これは、異界…!!」

やっぱりメンドクサイ事になったじゃないかと言うやるせなさだった。




「はぁはぁ、もう、走れ、ぬ」
「やかましい!死にたくなければ走れ!」
「む、りだ。はぁ、走った、ことなど、はぁ、数える、ほど、しか」
「それでも走れ!」

裂夜の手を引っ張って走る俺もキツイのだから、運動不足この上ない裂夜は相当なものだろう。
自分でも無茶を言っているのは分かるのだが、デッド・オア・ランなんだから選択肢は一つだけだ。

『ひもじぃよ゛ぉー』
『ご馳走だぁー』

振り返らなくても聞こえてくる声がだんだん大きくなることで状況の悪化は理解できる。
だが解決策が無い。今のところ逃げるくらいしか手が無いのだ。

周りの人が忽然と消え、少女曰く『異界』とやらに引きづりこまれた後、代わりに現れたのはガキの群れだった。
悪魔である。また悪魔である。悪いことは全部悪魔のせいである。
ここまで来ると彼女がいないのも、ワンシーズンにインフルエンザAB両方にかかったのも悪魔のせいじゃないかと思えてくる。

「きゃっ!!」

そんな馬鹿な事を考えて自分を誤魔化していたのだが、限界だったのだろう、裂夜がこけた。
何かに躓いたのか足がもつれたのか、原因は分からない。だが、疲労が溜まった盲目の少女がいずれこうなることは分かり切っていた。
言葉を交わすことも無く、少女を無理やり背にのせて、俺は再び逃亡を開始した。
自分より長身の子を背負ってのそれは、お世辞にも走っていると言えるものでは無く、下手をすれば歩くよりも遅かった。

「私に、構う、な。お前。だけで、も」

裂夜の言葉を無視して逃げる。
この行動は裂夜を助けたいというヒーロー然としたものでは無く、こんなところで一人きりになる方が怖かったのだ。
そもそも出口があるかどうかもわからないのに、俺一人でどうしろというのか。
自分でも情けないとは思うが、そこは俺だっていっぱいいっぱいなのだ。勘弁してほしい。



『MAGの山だぁー』
『喰えばひもじぐなぐなるがぁ?』

走っていても差は縮まっていたのだ。
そんな速度で逃げていれば追いつかれるのも必然だった。
追いつかれたのは十字路の真ん中で、最悪な事に全方位完全封鎖。
俺は裂夜を下し、意味があるかどうかも分からない威嚇を全方位に放ちながら腰だめに構えていた。
それをあざ笑うかのように、ガキ共はじりじりと包囲を狭めてくる。

『ひゃっはー。我慢できねぇー』

そんな中、一体のガキが飛び出してきた。

「男は度胸!!」

裂夜しか見ていなかったのだろう。
俺の蹴りはそのガキを見事に捉え――

『『『悪魔は酔狂ーーー!!』』』

続くガキの群れに、何度目か分からない死を覚悟した。




その瞬間、世界から色が消えた。

時が止まるようなこの感覚には覚えがある。
そう、始めてニカイアが起動したあの瞬間だ。

『やっほー!お久ー。ティコりんだよ!クズっちも元気そうで嬉しいよ。ま、このままじゃ後数秒でぶっ殺されるけどね~☆』

記憶の正しさを証明するかのように、ニカイアが自動で起動して懐かしい声が響いた。

『今までずっとこっち用に調整してたんだけど、終わったからこれからはまたナビしてあげれるよ。嬉しい?ねえ、嬉しい?』
「調整?それってつまり召喚アプリが使えるようになったってこと?」
『それについては私から話そう』

ブン、と音がしてティコりんの姿が消える。代わりに現れたのはカヲル君こと憂う者だった。
ちなみに、セプテントリオンとしての名前はアルコルで彼自身が名乗った名前はアル・サダクである。

『まずは感謝を。君の力もあって輝く者はポラリスを御し、私は天の玉座につくことが出来た。新世界の想像も終えたよ』
「そうか。良かった」

自分がドロップアウトする前から随分優勢だったし、負けるとは思ってなかったけど、それでも勝ったと聞くと安心する。
今の今まで忘れていたなんてことは無いです。ホントダヨ?

『続いて謝罪を。エライに継がれるはずだった天の玉座に私が順応しきっていない。世界の想像に力を削がれ過ぎてしまって、君を新世界に移動させる程に力を得るにはもう暫く時間がかかる』
「あー、人間なら無理な領域な話だったんだろ。サダクのせいじゃないから気にしないで。けどどれくらいかかる予定?」
『そうだね。君たち人間でいうところで千年くらいだろうか』
「ブッ!!ちょっ、おま」
『・・・?あぁ、そうか。君達人間の寿命は長くて百余年だったね。そうなるとすまない。私には君をその世界から移動させることが出来ない』
「ははは・・・」

意図せずして乾いた笑いが出てしまうのも仕方がないと言うものだろう。
過去の世界に骨を埋めることが決定してしまったのだ。現代人としては色々寂しいのは理解してもらえると思う。
と、ここで疑問が湧いた。カヲル君が世界を創造したということは、此処は過元の世界とは完全に別物ということにならないか?
少しの間自分で考えるものの、当然答えが出るわけもなく此処って過去じゃないの?とカヲル君に直球で質問する。

『そうだね。厳密には君のいた世界とは別物だよ。数多の平行世界の一つになるわけだけど、君がどうしてそこにいるのか詳しく聞くかい?』
「是非ヨロシク」
『君はポラリスとの戦いのさなか、ズルワーンを冠する回廊へと極めて不安定に堕ちてしまった。普通ならそのまま時間と情報、空間の嵐に揉まれて消え去るところなのだが』
『はいはい!そこはティコりんのおかげだよ!』

ブン、とまた音がして今度はサダクからティコりんへと切り替わった。

『召喚アプリって世界と世界をまたいでの情報転送技術じゃん?それを応用してー、ぐっちゃぐっしゃになっていくクズっちの情報をかき集めてー、世界を超えてから実体化させたのだ☆』
「それはまた・・・」

自分がバラバラになっていただなんてこと想像しただけで吐きそうだ。
なるべく想像しないようにしようと決心する。

『ちょっと集めきれなくて小っちゃくなっちゃったけど別に良いよね。じゃあ、あのお方に代わるからまったね。ハブ・ア・ナイスた~★』

とてつもなく軽いのりで子供になった理由が判明した。
今の俺の体は残り物の寄せ集めらしい。それって大丈夫なんだろうか。

「内臓の一つ二つ無くなってたりしないだろうな・・・」
『それは心配しなくてもいい。照らす者のバイタルは正常を示している』
「それは良かっ」
『だが、弊害が無いわけでは無い』
「え゛?」

そんな心配を何時の間にかチェンジしていたカヲル君がすぐさま否定してくれた。
それに安堵しかけた瞬間に、そうはさせまいと狙ったかのようなタイミングで言われた言葉に思わず間抜けな声を上げてしまった。

『生命活動に支障があるわけでは無いけれど、能力値は相応にダウンしている。それに伴って召喚やスキルが以前のようには行かなくなるだろう』

カヲル君曰く、召喚アプリは持ち主のおおまかな力量を読みとって、御し切れると判断されたものだけを召喚可能としているらしい。
どんなに仲の良い悪魔でも、悪魔の性質上いつ気まぐれを起こすかも分からないので、この制限の解除は許可できない。
魔法や耐性と言ったスキルは悪魔の力をプログラムで再現し、それを人の使われてない部分にインストールすることで使用可能とする技術らしいのだが、インストールするには相応のスペックが必要で、同時装着数に制限があるのはその空きスペースの容量の問題らしい。
そして能力の下がった俺では強力な悪魔は召喚できず、スキルも付けれない。
なにそれオワタ。

「いやいやいや、制限なんか良いから。此処で死んだら同じだから」
『大丈夫。手段は用意している。規模を縮小されても良いからと分霊を提供してくれる悪魔たちがいる』
「・・・?どう意味?」
『君も日本人なら分社は知っているだろう?それをアプリで再現すると考えてくれていい。君に御せる程度に力を抑えた分身を召喚するんだ。この方法なら常に君の実力相応の悪魔として召喚できる』
「おぉー」
『本来悪魔はプライドが高く、力を割こうとはしないんだけどね。そこは君と悪魔たちが紡いだ絆だろう。誇ってもいい。そしてこれが分霊としての召喚に応じてくれる仲魔のリストだ』
「おぉ。ヒー君、ホー君、モーショボーもか。ヒホ君はいないのねって、あれ?」

見せて貰ったリストには馴染の仲魔たちがのっていた。
だが、約一名、仲魔にした覚えがない奴がいるのは何故か。
瞬きしても目を擦ってもリストは変わらない。どうやら見間違えではないようだ。

「・・・どうしてこの名前が?仲魔にした覚えが無いんだけど」
『友達、と聞いているが・・・?』
「あぁ、分かった。分からないけど良い。分かったから」

カヲル君の何言ってんのコイツ、みたな空気を流してもっとも長く戦った二体を選択する。
最後の一体はなるべく視界にも入れない。

『了解した。もう少し詳しい話は後でしよう。この意識の加速空間は長居すると人には良くないからね』
「今更!?そういうはもっと早く言ってよ!?」
『次はそうするよ。では、検討を祈る。オツカレチャン』




カオル君の姿が消えると同時、時の流れが元に戻る。
そうなると当然目の前にはガキがおり、その口は今にも俺を喰らおうとしている。
だが、俺にもう恐怖は無い。あるのはどうにかなると言う安心感と信頼だけだ。

「召喚!ヒー君!」

召喚と同時に放たれた回し蹴りが目の前のガキを纏めて吹き飛ばす。

「悪の栄えたタメシはないんだホー!!」

現れたのは黒と白の特撮スーツに身を包んだフロスト、フロストエース。

「召喚!ホー君!」

召喚と同時に放たれた拳が少女に近づこうとしていたガキを殴り飛ばし、後続のガキを巻き添えにして吹き飛ばす。

「お前たちにはヒールが足りないホー!」

現れたのは普通のジャックフロストの二倍はあろうかと言う黒いフロスト、ジャアクフロスト。

勝てる。レベルダウンしていても、この二体とならガキの群れなど敵ではない。
だから良いだろう。この展開は勝ちフラグだ。今ぐらいは調子に乗っても良いはずだ。
気分の高揚そのままに、ポカンと口を開けてこちらを見据える裂夜に誇る様に口にする。

「悪魔使い『葛葉 来道』参上!!」























「ライドウ、だと?」

ガキの群れの外から、そんな声が聞こえた。




☆おまけ★
主人公のステータス変動

LV 86 → 6
力 19 → 3
魔 30 → 8
体 24 → 4
速 29 → 7
運 3 → 4



[31820] 第2話 誤解
Name: パプリカ◆2377acef ID:c67a2a8b
Date: 2012/04/10 23:32
更新遅くなって大変申し訳ありません。
リアルが忙しくて、ちまちま書いていたらこんなにかかりました。
読んでいただける方は気長に見守ってくれると有難いです。
では言い訳はこれぐらいにして本編をどうぞ。










元高校三年生『葛葉 来道』。
読みはクズノハでは無くクズハであるが、彼は正真正銘のクズノハの末裔である。
意外かもしれないが、そこに実はただの同性でした、なんていうオチはつかない。
だが、彼はデビルサマナーの一族なのか、と聞かれればそれは否である。

彼の生きた時代は、多くの世界がそうあるように大正は15年で終っている。
そしてそれはデビルサマナーとしての葛葉一族が終わった年でもあった。
原因は峰津院家の急激な成長に伴う、退魔技術の向上である。
元はヤタガラスを構成する一角に過ぎなかった峰津院家はサダクとの接触に成功し、その力を飛躍的に高めた。
悪魔召喚技術向上によってサマナーに求められる能力水準は下がり、龍脈を用いた結界によって悪魔の脅威自体が激減した。
多くのサマナーと高度な退魔技術を得た峰津院家は次第にヤタガラスでの発言権を増し、終にはヤタガラスそのものを取り込んだ。
峰津院家率いる国家機関―後のジプス―の出現は同時に他の退魔組織、勢力の解散をも意味していた。

ブラウン管テレビが、フロッピーディスクが、旧ゲーム機が新世代の登場と共に姿を消したように、葛葉もまたその必要を無くしたのだ。
行き場を無くした者や、力や家名への執着が強過ぎる者といったごく一部の物がダークサマナーとなったが、多くの者はその結果を受け入れた。
初めから危険な事に関わりたくなかった者、普通の生活に憧れる者、より安全となった世界を喜ぶ者が大半を占めていたからだ。
葛葉は社会の歯車の一部となるべく普通の社会へと溶け込んでいき、一部の者は個人として退魔を続けることとした。

来道の家は前者であり、既に秘伝は失われ、デビルサマナーであったことさえ伝わってはいない。
名前の由来は彼が生れる前に、名付けを悩みに悩んだ親が家財をひっくり返した時に見つけた書物に、偉大な先祖としてライドウの名が記されていたから、といったげん担ぎである。
そこに深い意味は無く、戦国武将を先祖に持つ者がその武将の名をあやかった名を付けられるのと変わらないことであった。
なお、実力主義を目指していたはずの峰津院大和が北海道の英雄と言われた来道を、アリオトの時に北海道ごと切り捨てようとしたのは、古き体制の象徴の一つである『葛葉』を嫌ったためである。

もし来道がその名の由来を知っていれば少しは今の状況も………違っていたかは非常に怪しい。








「ライドウ、だと?」

ヒー君とホー君の出現によって訪れた静寂にその声は良く響いた。
自然、ガキを含む全員が声のした方角を注視する。

カラン、カランと音を立て、異界の霧の奥から現れたのは男だった。
中年と言うには若く、青年と言うには老けている、恐らく年は30代前半から中頃か。
ボサボサの寝癖、というよりも不衛生なイメージの髪。目つきは鋭いと言うよりも悪い。下駄と黒いマントを羽織った、見るからに悪そうな男だった。
総合して受けるイメージはチンピラ。ただ、異界なんぞで平気な顔をしている時点で明らかにただのチンピラでは無い。

「誰だ?」

ヒー君、ホー君と共に警戒を最大限に高め男を睨みつける。
男はこちらの問いに答える気が無いのか、軽く周りを見回した後、鼻で笑って口を開いた。

「媛が脱走した、なんてことで駆り出されたが面白いことになってるじゃねえか。見たことも無い小童が見た子も無い悪魔を従えライドウを騙るか。十三代目がこんなチンチクリンだなんてのは聞いたことが無いがな」
「騙る?」
「今更撤回は無しだぜクソガキ。お前の本当の名前もどういった理由で媛を浚ったかにも興味はねえ。取りあえず、嘘つきには仕置きをしねえとな」

男はそう言ってマントから管のようなものを一つ取り出した。
騙るとか十三代目とか意味不明な単語が聞こえたけれど、今はそんなことよりも男の挙動に集中する方が大事である。

「召喚。オルトロス」
『ワオーン!』

言葉の通り、管から緑色の光と共に姿を現したのは双頭の魔犬オルトロス。
炎と打撃が得意な悪魔である。

『サマナーが二人も!!』
『撤退だー!!』

同時、今まで静観を貫いていたガキ達は慌てふためき我先にと逃げ出していった。

「誰だ、と聞いたな。俺は『黒犬(ブラックドッグ)』媒堅(ばいけん)だ。くく、聞いたことぐらいあるだろう?」

完全に見下した様子で名乗りを上げる媒堅。
確かに、オルトロスは単純な能力比較でみると今の俺たちではかなり厳しい。
だが―――

「見たことない悪魔だが、ジャックフロストの亜種と見た。感じる力も大きくは無い。ならば、オルトロスに勝てる道理は無いだろう?」

―――舐めている。
これ以上に無いほどに舐めている。
元々ジャックフロストだったのは確かだけど、そもそもオルトロスだって氷に弱いのだ。

チラッと二体に目配せをする。

『ヒー君、ブフダイン出来る?』
『出来るけど魔力が足りない分縮小するホー。今のはブフじゃない、ブフダインだ。になるホー』
『何その逆魔王』
『オイラなら今のはアギじゃない、アギダインだ。が出来るホー。より近いホー』
『いやいや、何張り合ってんのホー君。しかも根本的に逆なのは変わらないから。じゃあ、フォーメーションJで』
『『了解、だホー』』

アイコンタクトでの会話。この間僅か3秒である。

「ヒー君、媒堅って知ってる?」
「知らないホー。売店なら知ってるんだホー」
「ホー君は?」
「知らないホー。そもそも本当に有名な奴は『聞いたことあるだろう?』なんて言わないホー」
「なんだ、『自称』有名人か」

そもそもこの世界の裏の人間など俺たちが知っているわけないのだが、

「小僧!!」
「GO!!」

挑発には丁度いい。
唾を吐いて媒堅が叫んだのと同時、俺たちはホー君(ジャアクフロスト)、ヒー君(フロストエース)、俺の順番で媒堅に向かって縦一直線に走り出す。
正面からはホー君の巨体によって俺とヒー君の姿は見えないだろう。

「ちぃ!オルトロス!アギラオ」
『オォン』

叫んだ一瞬によってオルトロスへの指示が僅かに遅れるが、流石にそれでも俺たちの接敵よりも媒堅の攻撃の方が遥かに速い。
オルトロスの首の一つが鎌首を上げ、高温の炎を吐き出した。
が、

「効かないんだホー!」
「なにぃ!?」

炎はホー君に傷一つ付けること無く霧散する。
予想外の出来事に驚愕する媒堅。

「とおっ!だ、ホー!!」

続いて、ヒー君が突然高らかに跳躍した。
ヒーローとしての跳躍力か、実にホー君を軽々と超える大ジャンプである。

「オルトロス、もう一度アギラオだ!」
『ガウ!』

先程炎を吐き出した方とは違う、もう一つの口から放たれる再びのアギラオ。
それはジャンプの頂点に達したヒー君に正確に命中する。
が、

「無駄だホー!!」
「なにぃ!?」

それは再び弾かれる。
そう、ヒー君もホー君もフロストでありながら炎を苦手としない異例種なのである。
再度、三下のような叫びをあげる媒堅。そして両方の頭を使用したオルトロスは再度の行動を直ぐには取れない。
俺は一度のジャンプでホー君の肩に、もう一度で頭、そして丁度いいタイミングで降りてきたヒー君を使って三段ジャンプ。

「「オイラ達を踏み台にしたホー!!」」

このフォーメーションを組んだ時お決まりの台詞と、オルトロスを飛び越えた俺の飛び蹴りが媒堅の顎を打ち抜くのは同時だった。

「がぁっ」

子供の一撃とはいえ、体重を乗せた蹴りである。大の男とはいえ耐えきれるものでは無い。
とはいえ、崩れ落ちる媒堅を悠長に眺めている余裕はない。オルトロスに普通に殴りかかられるとまずいのだ。
俺はさっと媒堅の背後に回ると、両手を首に回し気道と脈を確保した。

「オルトロス動くな!動くとこいつがどうなっても知らんぞ!」
『…グルルルル』

基本ソロプレイの俺にとっては、度々勝ち目が薄い戦いというのが存在した。
実力をつけてからはそういうことは減って行ったが、そういう時に取る戦術がこれである。
サマナーと戦う時、相手の悪魔が強いのならばサマナーを倒してしまうのが最も手っ取り早いのだ。
悪魔との契約上、悪魔よりサマナーの方が能力的には強いことは多いが、人は厄介な耐性を持ってない事が多いし、何より急所が分かりやすい。
特にこういった傲慢なサマナーには非常に有効である。

「子供と思って油断したなアホゥが!こちとら修羅場は何度も通ってんのよ!!」

二度に渡るピンチを華麗にスルーした俺のテンションはかなりハイ。
計画通り、という笑みが自然と零れるのも致しかたないだろう。

「油断大敵ってね!!」

そう、調子に乗っていたのだ。
こりもせずに調子に乗っていたのだ。

「確かに。だがそれはヤングにも言えたセオリーだ」
「え゛」

そっと首に添えられた手に嫌な汗が流れる。
もうこれはアレか。
俺が調子に乗って悪いことが起こるというこのフレーズは、ヒーロー物の変身シーンやデジタルなモンスターの進化シーンと同じで毎回あるということか。
というか、こいつ一体何者か。
話しかけられるまで全然気付けなかった。
そっと下げた視線に映る手の皺具合から老人であることは分かるが、それ以外は全く不明。
添えられた手がしっかりと急所を確保しながらも本当に優しく触れる程度に留まっているのが逆に怖い。

目線をオルトロスと対峙している二体に戻すと、二体は俺の後ろを指さしていた。
一体なんぞと思いながらも、首を傾げることも出来ない現状に心の中で涙する。

「「来道、後ろ後ろ!ホー」」
「遅いわ!?」

このタイミングでその台詞はフラグですらない。

「人質を取るなんて卑怯だホー!」
「ヒールの風上にも置けない奴だホー!」
「いや、今さっき俺達もやったからね?てか、現在進行形だからね?その言葉両刃の剣だからね?」

ボケ続ける二体と俺のやり取りに思うところがあったのか、背後の何者かはふむ、と一つ頷いた。

「私は十七代目葛葉ゲイリンだ。ヤングは何代目葛葉ライドウのセオリーか?」
「はい?いやいや、さっきも思ったけど、うちは別に何代目とか無いですから。歌舞伎みたいに名前なんて継いでないですから。後クズノハじゃなくてクズハです」
「ふむ……」

老人、葛葉ゲイリンはもう一度頷くと辺りを見回し。

「取りあえず、媛に事情を聴くプロセスを提案する」

怒涛の展開の連続に、ポカンとしたままの裂夜を見てそう言った。








「誤解で喧嘩売られたら世話無いわ」
「お前が紛らわしい名前なのが悪いんじゃねえか」
「あ゛?子供に負けた弱小が何言ってんですか?」
「あ゛?お前なんか俺のチェルノボグにかかれば一瞬でおしまいよ!」

・・・・・・

「「やんのかゴラァ!!」」
「二人とも静かにするプロセスだ」
「「…ちっ」」

車内で口喧嘩を繰り広げる俺と媒堅を、ゲイリンが仲裁する。
先程から何度も繰り返されてきた光景である。

あの後、裂夜に誤解を解いて貰った俺は詳しい事情聴取を受けることになった。
助けてあげた悪魔使い→そうですかはいさよなら。の流れに至らなかったのは俺が名前以外の一切を答えられなかったことに起因する。
最初の何処の所属しているのかという質問に、どこにも所属していないと答えた時点で空気がおかしくなったのでその時点で回答は間違っていた気がする。
服について聞かれても苦笑いしか返せなかったし、歳についても5歳くらいと答えてしまった。くらいってなんだと自分でも思う。
これで所持金も拠点も行く当てもないと答えた時には三人ともになんとも胡散臭そうな視線を貰ったものだ。
視線と言えば、悪魔使いとしての技術は誰から学んだのかと聞かれ、我流と答えた時のゲイリンの眼は本気で怖かった。
ほんの一瞬だけだったけれども、ビビってちびりそうになると言うのを初めて体験した。
このタイプの恐怖は命の危機で感じる恐怖とはまた別物だった。

そして、自分でいうのもなんだが滅茶苦茶胡散臭い俺を取りあえずつれていって彼らの所属している組織のヤタガラスに報告しようって話になった。
正直、悪魔関係の組織にはあまり関わりたくなかったのだが、ゲイリンさんが悪いようにはしないと約束してくれたので承諾した。
無一文の子供の身としては他の選択は無かったともいえる。決して、実力があったり将来有望な者ならば良い待遇で扱われる可能性が高いと言う言葉につられたわけでは無いクマー。
なお、語れなかったが怪しい子供である俺を連れて行くなんて選択肢をゲイリンが取れたのは人が良いと言うだけでは無く、俺が何をしてもどうにかできる確信があるからだろう。
実際、こっちもこの人相手にどうにかできる自信は全くない。

そして、一先ずゲイリンと媒堅の仕事である裂夜の護送を完了させるために移動を開始することになった。
裂夜はイナバという土地から帝都になんらかの用事で来ていたらしく、その用事が終わっていざ帰ろうと言うその日に脱走したらしい。
よって、この後彼女をイナバまで無事に送り届ければ任務完了となり、その後俺をどうするかの指示を仰ぐのだとか。

この時代の移動に用意されたのが車と言うあたりに組織としての力を感じる。
しかも前に一台、後ろに一台と、この裂夜の乗る車を挟んで合計三台の移動である。
この車に乗っているのは見知らぬ運転手、助手席に媒堅、後部座席に左から俺、裂夜、ゲイリンである。
この裂夜の配置を見るに、ゲイリンは俺の脅威よりもあるかもしれない敵襲の脅威の方が高いと踏んだことが読める。

余談であるが、異界はあっさりと抜け出すことが出来た。
どうやら異界に引き留める要因(あの場合はガキ)さえ排除すれば異界から出るのは意志さえあればそう難しくないのだとか。

今回の一件、結果だけを見れば寝床と今後の生活もどうにかなりそうという、俺にしては上々の出来であると言える。
故に今目の前にある問題は一つだけだ。勿論媒堅と険悪だということなんかではない。

「…そろそろ機嫌直しませんか?」
「知らぬ。そもそも私は不機嫌ではないわ」
「いや、どうみてもご立腹ですが」
「怒っておらぬ」
「いや、怒ってるでしょ?」
「怒っておらぬ」
「絶対怒ってるって」
「怒っておらぬと言っておろうが!!」
「キレてる?」
「キレてな…き、きれ?」

異界から戻ってきてからというもの、なんだか裂夜が不機嫌なのだ。
口では怒っていないと言いながらもずっとそっぽを向いて目というか顔も合わせてくれない。
ファーストコンタクト以外は仲良くしたつもりだし、一応命の恩人でもあるはずなので機嫌を損ねる理由が分からない。
好感度イベントみたいなのも発生していたから嫌われてはいなかったはずだし、戦闘行動後から異界から戻るまで話もしていないので嫌われる理由が皆無である。

「――ん?」

ふむ、と思考していると唐突に違和感。
違和感であるが、同時に慣れ親しんだこの感覚は――

「――召喚!?」
「正解でーす」

正解を告げる声と同時に視界が赤紫一色に染まり、膝からずっしりと重みが来た。
何が起こったのか分からなかったのは一瞬ならば、何が起こったのか理解するのも一瞬だった。

「モーショボー!?ちょ、おま、何勝手に出てきてんの!?」
「だって来道が女の子の気持ち全然分かってないんだもん。それに私だって召喚に応じてあげるって言ったのにあの二体を召喚するし!!私の方が先に来道の仲魔になったのに!!」
「共に戦った時間はあの二体が最長だし、耐性的に優秀だからしかたないってか重い!普通に俺よりお前の方が大きいし重いからね!?しかも髪がチクチク刺さる!痛ッ、地味に痛ッ」
「もー!!女の子に重いとか言ったらダメなんだからね!ホントに来道はでりかしーに欠けるんだから!!」
「人の膝の上でジタバタなんてするのはもっと駄目だからね!?尾てい骨グリグリ痛いから!不思議髪がより凶悪に刺さるから!!」
「あ、裂夜ちゃん。私モーショボー。今後ともヨロシク」
「ナチュラルに無視!?」

突然の出来事に、さっきまで『私怒ってます』な顔と態度をとっていた裂夜がポカンとした間抜けな表情で口をパクパクさせていた。
推測するに、召喚の驚きとモーショボーと俺の掛け合い、更には自己紹介と様々な予想外が起こり過ぎて頭の中で色んな言葉が溢れているのだろう。
俺も東京で初めて悪魔と出会ったときはそんな感じで何を言っていいのか分からずパクパクさせたものだ。

「よ、よろしく?」

結果として裂夜がとった対応は疑問交じりのよろしくだった。
それにしても怒ったりシリアスだったりポカンだったり忙しい奴である。
特にポカンなんてそうそうそんな機会あるものでもないというのに既に二回も見ている。
両方とも俺が原因だという突っ込みはこのさい無視である。

「裂夜ちゃんはねー、来道のことを特別に思って自分の事を話したのに来道が悪魔使いだーってことをギリギリまで隠していたのを怒ってるのよ」
「なっ!?ち、違う!!」
「じゃあなんで怒ってるの?」

動揺を露わに否定の声を上げる裂夜に対して、可愛らしく小首を傾げながら問い返すモーショボー。
しかし俺は知っている。
モーショボーの内心はあんなに可愛らしいモノでないという事を。
あいつは生粋の悪戯好きのいじめっ子であるからして、口角を釣り上げてニヤニヤとしていることは確定的に明らかである。
そして忘れてはいけない。
今でも俺の上に座っているという事を。

「そ、それは……と、兎に角違う!いや、そもそも私は怒ってなどいない!」
「…成程」
「来道!何が成程だ!違うんだからな!!」

裂夜の言とモーショボーの配置については置いておくとして、そう言われると納得がいく。
友達だと思ってた奴から『え?俺とお前友達だったの?』と言われるようなショックを受けたのだろう。
実際にそんな経験は無いが、想像しただけで凄まじく嫌である。裂夜の境遇からすると友達なんていないのだろうし。
唯一友達になれたかと思った相手は自分のことを何とも思っていなかった。その心境はいかがなものか。
とはいえギリギリまで隠していたのではなくてギリギリまで召喚出来なかったのだが、流石にそれを言う訳にはいかない。

「いやさ、俺も悪魔使いっての隠してたんじゃなくてさ。ほら、そんなこと言いふらすもんじゃないだろ?裂夜が悪魔について知ってるなんて知らなかったし」
「…私が異界と口にした時点で気付いたであろうに」

異界なんてものを俺が知らんわ。

「その時は既に話せる状態じゃなかっただろ?すぐに仲魔を召喚しなかったのだってちょっと前に戦ったのが原因でちょっと力が足りなかったんだよ」
「……本当だな?嘘じゃないな?」
「じっちゃ、じゃなくて俺の名にかけて」
「…なら許す」

許しの言葉もそっぽを向きながらだったが、これは照れ隠しだと思う。怒ってたことを認めたことにもなるわけだし。

しかし、今回の勝手に召喚は本気でビビった。
何が一番ビビったって召喚そのものではなく、召喚の気配がしたと同時にさり気無い動作でゲイリンが懐に手を入れたことだ。
極めて自然なその動作で一体何に手を触れたのかなんて怖くて聞けないが、まさか本当に入れただけということは無いだろう。

「……ゲイリンさん、流石ですね」
「それほどでも無いセオリーだ」

確認の意味を込めた鎌かけにノンタイムで返答。
やっぱりという確信とモーショボーが悪戯でも変な事をしていたらと思うと嫌な汗がじんわりと背中を伝うのを感じた。
とりあえず何が嬉しいのか俺の上で小刻みに左右に揺れる馬鹿鳥を送還しよう。




車での移動もはや五日。
補給と休憩を挟んでいるとはいえ流石にこれはしんどい。
順調に進んでいるらしいので後二日もすれば目的地にたどり着くと言われても後二日、という思いよりもまだ二日という思いの方が強い。
道がしっかり整備されていて、高速道路があって至る所にガソリンスタンドがあった現代なら一日二日でついたんじゃないかと思う。

そして現在は今夜の宿であるキャンプを張り終えての食事中である。
近くに村も街も無いらしいので、山道で車を止めてそのまま野宿と相成ったのだ。
これは今日に限ったことでは無く、帝都を離れてからと言うものビックリするぐらいの田舎道ばかりを通っている為に毎日だ。
安全を優先するためにヤタガラスの管理下にある秘境を経由しているのからこんなことになっているらしい。

焚火を中心に俺、裂夜、媒堅が座っており、ゲイリンは少しだけ離れた木に寄りかかって警戒中。
媒堅とゲイリンは同時に食事をすることは無く、必ずどちらかはいつでも動けるようにしている。
他の人達は周りを警戒していたり、もう一つの焚火を囲んでこちらと同じく食事中である。

「ははっ、悪いな媒堅。今夜も俺の勝ちだ」
「ぐぬぬぬ」

今日も媒堅とおかずをかけたジャンケン勝負をして見事に勝利。コイツ俺より運悪いんじゃなかろうか。
これがこの時代の平均なのかは知らないが、御握りと肉や魚の干物と言ったや保存食にその場で取れた山菜といった味気ないメニューでおかずである肉や魚を取られるのはかなりきつい。
一回だけ負けたけれど、白米だけの飯とか体にも心にも栄養が足りなさ過ぎる。
何度も白米オンリーの晩飯を食いながらも勝負を続ける媒堅はある意味凄いと心の中だけで称賛する。

「裂夜、袖に米粒ついてる」
「ん、何処だ?」
「左じゃなくて右ね。違う違うもっと右。今度は行き過ぎ」
「分からぬ。来道とってくれ」
「はいはい」

裂夜との仲も良好である。
目が見えないとは思えない位器用な裂夜だけれど、流石に限度はあるらしく所々フォローがいる。
その手間のかかり具合が何ともアレで、まるで妹が出来たような気分になる。肉体的には裂夜の方が年上なんだけど。

「ソーリー申し上げる。少し席を外すプロセスだ」

トイレにでも行きたくなったのか、ゲイリンが媒堅に声を欠けて森の奥へと消えていき、媒堅は無言でゲイリンのいた場所へと移動した。
俺にあっさりと負けた媒堅だが、案外仕事は出来る男のようだ。媒堅の仲魔であるチェルノボグとやらも見せて貰ったが、中々に強い悪魔だった。
あの時オルトロスでは無くチェルノボグを出されていたらどうしようもなかったかも知れない。

「そしてどうしてそこにいる」
「何が?」

何時の間にやらさっきまで媒堅がいた場所に腰を下ろしているモーショボー。
こっちに来るまでは勝手に出てくることなんてなかったのに、と頭を痛める俺だった。






「お待ちしておりました十七代目葛葉ゲイリン」

ゲイリンが『夜闇を飛ぶ鴉』を追った先に居たのは黒い服を纏った女だった。
見る人が見ればそれがヤタガラスの使いであることが分かるだろう。

「本日お呼び出ししたのは他でもありません。葛葉来道を名乗る少年について分かったことがあります」
「それには先日入手した来道の毛髪と関係が?」
「はい。Dr.ヴィクトルの生命探究の副産物として、身体の一部を検査することで血縁関係の有無を調べることが出来るというものがあります。そしてその結果、『葛葉来道』は間違いなくクズノハの一族であるということが判明しました」
「―――」

ゲイリンとしても可能性の一つとして予測はしていたのか。
息を飲みはしたが、それ以上の反応は見せなかった。

「我々で調べた結果、葛葉の一族に『来道』なる子は当然のことながら存在していませんでした。それどころかヤタガラスの情報網をもってしても来道と思わしきサマナーの目撃情報すらありませんでした」
「……」
「新種の悪魔を使い、幼くして二体の悪魔を同時に使役するというだけで相当目立つにも関わらずです。これは悪魔だけでなく対サマナーの心得まであるという事にも矛盾します」

鬼才の神童と謳われてもおかしくない、と言う使者であるが、悪魔の使役に関してはアプリ頼りであるし、年齢も外見とは一致しないというのが真実である。

「これらの情報からヤタガラスは『そんなサマナーなど存在するわけがない』と判断しました」
「しかし確かに来道は存在するプロセスだ。悪魔が化けているわけでもなく、確かに人として存在している」
「はい。そこで我々は別の方向から考えました。葛葉の一族でライドウを冠しながらもライドウの持つ意味を知らず、我流で悪魔を使役する幼くして一流のサマナー。この条件にあてはまる者が一人だけ存在します」
「そんな者が?」
「初代ライドウです」
「なっ!?」

流石に予想していなかったのか、ゲイリンは初めて誰にも分かる驚愕を露わにした。
それも当然だろう。過去の人物を現代に持ってくるだけでも相当だが、人物が人物である。

「初代ライドウがなんらかの理由で時を越えてやってきた。そう考えれば最初の疑問も納得がいきますし、供倶璃の媛の来道が場所も時代も知らないようだったという証言にも一致します」
「しかし時を超えるなど、それはあまりにも……」
「ゲイリンの言いたいことは分かります。しかし、このような条件を満たす者が他に存在することの方がよほど信じがたいことです。初代ライドウに関しては本人が多くを語らないこともあって謎なところが多いですし、時を司さどる神と何かがあったということも有り得ます」
「ふむ」
「結論を言います。超国家機関ヤタガラスは葛葉来道を暫定的に初代ライドウであるものとし、ヤタガラス直属サマナー候補として組織に組み込みます。それにつきましてゲイリンには―――」

多くを語らなかった、ではなく語らないと言ったところにヤタガラスと葛葉を合わせても極一部のものしか知らないある情報のヒントがあるのだが、ゲイリンは気付かなかった。
普段のゲイリンならば気付けたのかもしれないが、この時ばかりは驚愕と与えられる任務への注意が勝っていたのだ。





「モーショボーはどうやって来道と出会ったのだ?」
「私はねー来道に800マッカで買われたの」
「……何?」
「私はそんなに安い女じゃない!せめてもう少しだけちょうだいって言ったのに来道は断ったのよ!酷い男でしょ!」
「…来道。どういうことだ?」
「いやいやいや違うからね!?間違ってないけど違うから!?決して卑猥な意味ではってモーショボーてめえ裂夜の目が見えないからって何堂々とニヤニヤしてやがる!」
「そんな酷い!裂夜ちゃんの目が見えないからって私を悪女にしようとするなんて!私と(御霊を)合体したことだってあるくせに!!」
「ちょ、おまっ」
「来道?」
「誤解だーーーーーーーーーー!!」

とんでもない誤解を受けていることなど知る由もない来道であった。




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